ミミズと竜 (321)
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プロローグ

 

 

 一目惚れだった。

 

 

 

 

 

 絶対に届かない貴方に恋をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みも終わり皆が憂鬱な学校の始まりを感じられる9月の日の事。

 俺はその人に出会った。

 あの時のことを覚えている。

 確かその日は全校集会があったと思う。

 それ以外は、いつもと何も変わらない日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝から、難しい話を延々と聞かされる。

 

 

 

 

 全校集会とは、校長先生の有難いお言葉や部活での成績を称えたりとするとても眠くなる様な式である。

 

 

 

 

 俺はその有り難い話を適当に聞いていた。

 出来れば俺も話の内容を理解したいのだが、眠気のせいで話の内容が耳から抜けて行っていた。

 

 

 

 この現象はよく授業中にもなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな眠気マックスの俺は、この時こう思っていた。

 なんで朝からやるんだよって。

 集会のせいで布団にいる時間が減ってしまった。

 よく、クラスメイト達から俺寝てない自慢を耳にするのだが、今は俺もその自慢大会に入りたい気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、もし布団があれば俺は秒で眠るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこの時。

 どうでもいい、生徒会の話をされても俺はちゃんと聞いていなかった。

 

 

 

 

 

 この学園は優秀な人材が生徒会に選ばれるらしい。

 生徒会長は選挙の様な物で決めて、他の役職は生徒会長が直々に任命する様だ。

 この学園で優秀と評されるのは、大層凄い事なんだろうと俺は思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう此処は、私立秀知院学園。

 小中高一貫で、偏差値77前後のエリート学校。

 かつては貴族や優秀な人材を育成していた学校だ。

 

 

 今現在も貴族、政治家の子供、頭がいい生徒、多くの優秀な人材が通っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな秀才学校に俺も通っている。

 

 

 だが、俺が優秀だと言われたらそれは嘘になる。

 

 

 

 

 

 俺はこの学園に外部の中学から入学した、一般生徒だ。

 家柄も良くなく、勉強も出来る訳ではない。

 言わばこの学園からしたら、普通以下の存在だ。

 

 

 

 

 そんな凡人の俺がこの学園に入れたのは部活での推薦からだった。

 幼い頃からしていたスポーツだったので、割といい成績を残していた。

 

 

 だから推薦を貰えたと思う。

 

 

 

 まぁ、上には上がいるのだが。

 

 

 

 

 

 

 そんな俺はその部活が好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 好きな物で推薦を貰えたのだ、当時は結構嬉しかった。

 俺の家は金銭面の余裕はなく進路に困っていた。

 その時に推薦をくれたのがこの学園だった。

 金銭面の援助も手堅く、俺に断る理由なんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 それに俺が好きなもので推薦をくれたのだ、さっきも言った様に当時は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、それも入学前での話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠くて、思考回路が回らない俺はそんなどうでもいい思い出に浸かっていた。

 

 

 

 

 

 俺は大きな欠伸をしながら、壇上で喋っている先生を見た。

 

 

 

 

 

 まだ、生徒会の話をしていた。

 そんな時間がもうどれくらい経っただろうか。

 俺の体感的には、もう2時間くらいの感覚だった。

 

 

 

 

 だが時計を見ると、まだ40分ぐらいしか針は進んでいなかった。

 

 

 

 

 やはり、楽しくない時間が長いというのは本当らしい。

 この様な体験はきついバイトの時でもなる。

 それと授業中とか。

 

 

 

 

 

 うん、辞めよう。

 上げるときりがない事に俺は気づいた。

 

 

 

 でも、そんな時間もそろそろ終わりだ。

 

 

 俺の脳は、嫌で仕方ない授業の終了時間を全て記憶済みだ。

 こんな事を覚えるのなら、英語の単語でも覚える方が有意義なんだろう。

 

 

 

 

 でも英語の単語が覚えにくいのが悪いと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな理不尽な考えをしながら、俺は体育館の時計を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして物の数秒で、何処の学校でも聞けそうなチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 だが、まだ先生は話を続けていた。

 

 

 

 うん。いるよね時間オーバーしがちな先生。

 

 

 

 

 

 

 俺がその先生に耳を傾けると、まだ生徒会の件だった。

 

 

 

 

 

 それ程この学園の生徒会は重要らしい。

 みんなの投票で決まるのだから、その生徒会長はもう生徒の中では頂点だろう。

 

 

 

 

 

 そして、それを決める選挙は今月の9月にあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 その話を最後に先生は壇上から降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、先生の解散の指示を受けてからは周りは煩くなっていた。

 

 

 

 聞くところによると、やはり生徒会の事だった。

 みな、選挙に行くらしい。

 誰に投票しようかワイワイなっている。

 この学園の大イベントだと、見てわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな大イベントに俺は欠席する事にした。

 正直言って、生徒会とかどうでもいい。

 そんな事の為に睡眠時間を割きたくない。

 現に今もバイト明けの俺は疲れていた。

 

 

 

 

 

 少しみんなより遅く俺はパイプ椅子から立ち上がり、大量にいる生徒の背中を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は教室に向かう廊下でこんな事を思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会なんて俺とは住む世界が違いすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集会を終え、皆が教室につき様々な生徒がいる。

 

 

 

 友達と会話するものや、帰りの支度をする生徒、机に突っ伏し寝る生徒。

 

 

 かく言う俺はと言うと、帰りの支度を終え机に突っ伏して寝る生徒である。

 

 

 

 普通なら友達と会話したりするのだろう。

 だが、俺はこの学園で友人と呼べる存在が1人もいない。

 今も悲しく1人で睡眠タイムだ。

 そんな俺をクラスメイト達が白い目で見てるのを、見なくてもわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、俺はこの学校で浮いている。

 なぜかと言うと、俺は外部の中学校から入学してきた生徒だからだ。

 この私立秀知院学園はエレベーター式の一貫校。

 名家の子供や政治家の子供、様々な有能な人材が揃う輝かしい学園である。

 さっきも言った様に、俺はこの学園に部活での推薦で入学した。

 

 

 

 

 これを聞くだけなら普通に聞こえるが、この学園にもヒエラルキーという物が存在する。

 

 

 

 

 

 中途入学からのものを混院と呼び、初等部からいる生徒は純院と呼ばれている。

 

 

 

 よそ者の混院は、汚れがない純院の者達にあまりいい目で見ららない。

 

 

 

 当然よそ者の俺もその混院の1人だ。

 

 

 

 

 

「あいつなんで学校来てんの?」

 

「ぼっち」

 

「貧乏人がこの学校来んなよ」

 

 

 

 

 

 

 混院の俺はよく差別される。

 そんな俺に友達1人もいる訳もなく、当然教室にも居場所が無い。

 

 

 

 そして、今も純院のクラスメイト達に悪口を言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな悪口がうるさい。

 

 

 

 

 悪口以上の事をされた事もあった。

 俺が特に何かした訳でも無い。

 それでも俺は責められる。

 きっとコイツらは、弱い者虐めが大好きなんだろう。

 だが、そんな事も今は慣れた。

 

 

 

 

 

 この時間も俺が我慢したらいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し我慢したらいいだけだ。

 俺がそう思った矢先、チャイムが鳴った。

 今日は何故だか、授業終了のチャイムに救われたばかりだった。

 多分、授業終了時間は覚えて損は無いはずだ。

 

 

 

 

 

 多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はチャイムを聞き終えた後、急いで帰りの支度をし居心地が悪い教室を後にした。

 

 

 

 

 

 そしていつもの日課をしに放課後のグランドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は、まだ夏の香りがする9月の下旬にしては少し涼しい日だった。

 

 

 俺はいつもの日課となっている練習をしにグランドに向かった。

 いつもと変わらない日常。

 グランドからも見える下校をしている生徒達は帰りどっかに寄って行 こうかなどの楽しそうな談笑などが聞こえてくる。

 俺はそんな事には気に留めずいつも通りの事をする。

 

 

 

 

 

 足に力をいれ、全力でボールを蹴る。

 

 

 今はフォームとかどうでもいい。

 

 それよりこの溜まった鬱憤を晴らすのが先だ。

 

 

 

 

 全力でボールを蹴ったせいか、呼吸が乱れる。

 

 

 

 

 

 そうして思い出すさっきのクラスメイト達を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、うぜー 。

 なんだあのような見下した目は。

 親が偉かったら自分も偉いのかよ。

 と、心の中でアイツらの悪口を言う。

 

 

 

 

 

 

 

 今の俺は後悔していた。

 絶対入る高校間違えたと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は嬉しかった。

 この好きなサッカーでの推薦だったし。

 金銭面の援助も手堅い。

 

 

 

 

 最初は嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 だが実際入学してみたらどうだ?

 全てを家柄や財力などで見られる。

 

 

 そんな事を思っていると余計に腹が立ってくる。

 

 

 

 

 

 部活でも俺は待遇が悪い。

 練習ですら混院の俺ははぶられる。

 当然、試合なんて出してもらえる訳が無い。

 

 

 顧問や先生は地位の高い子供達が怖いのか何もしてくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこの時だけ、愚痴を言うのは許して欲しい。

 

 

 

 

 俺はそう思って、おもいっきりゴールに向かってボールを蹴った。

 

 

 

「クソが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボールはゴールから大きく外れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方の午後6時頃綺麗な夕日が見える頃、このぐらいになると少し肌寒い。

 そろそろ暗くなってきて視界が見えづらくなってくる。

恐らく大半の生徒はもう帰路につき、校舎には生徒の気配がほぼない。

 もう残っている生徒は、部活をしている生徒と生徒会などの役員と変わり者の自分だろうと思い。

 自分も帰ろうとした時にふと視線を感じた。グランドのわきから感じる視線に目をやると、そこには人が立っていた。

 

 

 

 立っている場所がちょうど夕日の影になっておりその人物は見にくいが多分、女子生徒だと思う。

 

 

 そんな事を考えているとその人物は声をかけてきた。

 

 

 

「それ楽しいの?」と、彼女はそう言ってきた。

 

 

 

 

 俺は練習を見られていたのかと思い少し気恥ずかしくなった。

 1人でひたすらボールを蹴っている所を見られたのだ。

 普通だったら友人やらと練習する物だ。

 それに何本かゴールを外してしまう時もあった。

 

 

 

 俺は、「楽しいですよ」とそう返した。

 

 

 

「そう、もう遅いから早く帰るのね」

 

 

 

 

 

 

 と、名も知らない女子生徒にそう言われた。

 

 

 確かに今はもう遅い。とっくに大半の生徒はもう帰っている。

 

 

 だが、俺はそんな言葉に余計なお世話だと感じた。

 そんな小さな事でも言われてしまうのかと、俺が何時に帰ろうがお前達に関係はない。

 俺はそう思った。

 此処にいる生徒達は嫌いだ。

 プライドが高く何でも自分を下に見てくる。

 家柄が良く、混院の俺によく冷たい言葉をかけてくる。

 それにさっきのクラスメイト達の事を思い出し、彼女に少し強くあたってしまった。

 

 

 

「言われなくてももう帰る所ですよ」

 

 

「そう、気を付けて帰るのね」

 

 

 

 

 と、返された。

 その返しに自分は尚更イラついてしまった。

 自分には1ミリも興味のないようなそんな声。

 

 

 

「では、さようなら」

 

 

 

 俺はそう言いもうめどくさくなったので、早々に支度をして帰ろうとした。

 

 

 

 その時近づいてくる人影があった。

 

 

 

「かぐや様、帰りの支度が整いました」

 

 

 

 

 

 

 近づいてくる人影は派手な女子生徒だった。

 

 

 

 俺はその顔に見覚えがあった。

 

 

 練習をして、放課後帰りが遅い俺は彼女を校舎で見かけた事があった。

 

 

 ただ、互いに名前も知らない。

 今日初めて顔を見合わせた。

 

 

 

 俺と金髪の彼女はそんな関係だ。

 

 

 

 

 

 

 俺が彼女を見ていると、

 

 

「えぇ」

 

 

 かぐやと呼ばれる女子生徒ははそう返していた。

 

 

 

 

 

 金髪の女子が俺に気づくと、

 

 

「あなたは?」と呟いていた。

 

 

「早坂、行くわよ」

 

 

 

 

 

 かぐやと呼ばれる女子は、俺に背を向け早坂と言う生徒と共に去ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、俺はかぐやと言う名前に少し聞き覚えがあった。

クラスの奴らがよく口に出していたのを思い出した。

 

 

 だがそんな事はどうでもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺も帰ろう。

 帰りの支度を終え校門の方え歩き出す。

 校門の方に彼女達がいるので近くを通り過ぎる。

 

 

 

 だがかぐやと呼ばれる女子は、俺に振り向きながらこう言ってきた。

 

 

 

 

「貴方、練習頑張るのね。」

 

 

 

 

 さっきとは違い距離が近いため顔が鮮明に見える。

 

 

 

 俺と彼女の目が合う。

 その瞬間俺は目を奪われていた。

 初対面の相手の瞳を何故だか、俺は離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時の俺は彼女に見惚れていた。

 美しい黒髪。

 宝石のような綺麗な赤い瞳。

 鈴のように美しい声色。

 

 

 

 

 何より一際目立つのは大きなオーラだった、他者を寄せ付けない。

 誰にも負けない心の強さのような物を感じた。

 

 

 

 

 そして彼女は俺の目をしっかり見てくれて、応援までしてくれた。

 

 

 この学校に入って、初めての経験だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度して2人は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女達が去って行った後に、顔の熱に気付いた。

 

 

 そして熱は冷めるどころか、どんどん熱くなってきた。

 

 

 

 

 

 こんな経験初めてだった。

 

 

 

 一瞬で全てを魅せられてしまった。

 

 

 生まれて初めて恋に落ちた。

 

 

 

 

 

これが初めて四宮かぐやとの出会いだった。

 

 



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1話

 

 四宮かぐや

 

 総資産200兆円を越えるという。

 四宮グールプの本家本流総師四宮雁庵の娘。

 正真正銘のご令嬢。どの分野でも良い成績を残す文武両道の天才。

 

 

 それがあの日出会った彼女であった。

 

そんな完璧超人の彼女に俺は恋をした。

 

 

 

 

 

 

 俺と真反対の存在。

 そしてこの学園でも彼女は有名人だ。

 彼女が廊下を通れば、黄色い声が聞こえたりする。

 それによくクラスメイト達が噂話をしている。

 

 テストは学年1位など。

 体育でも良い成績を残したなど。

 容姿端麗など。

 川で溺れている生徒を助けたなど。

 

 彼女の噂話は後を絶たない。

 

 

 この学園で友達も知り合いもいないのにすぐに情報を得られた。

 

 彼女はそれだけ有名なのだ。

 

 

 そんな彼女がモテないわけがない。

 何回も告白現場を見たとか。

 学園の有名貴族が彼女を狙っているとか。

 こっちの話もなくならないほどよく耳にする。

 

 

 

「貴方、練習頑張るのね」

 あの日そう言われただけだった。

 それからは全くと言って接点がない。

 時折、廊下など集会の時に目をするが声をかけられない状況である。

 

 

 

 まぁ、向こうからしたら俺はただのモブ生徒に過ぎない。

 

 家柄もいいわけではない。

 勉強やスポーツが出来るわけでもない。

 

 彼女に好意を抱いている数多い生徒に過ぎない。

 

 

 それでも俺は彼女に惚れていた。

 

 

 

 

 それも1度会話した程度だ

 自分でも単純だと思う。

 でもあの日言われた言葉が嬉しかった。

 この学園で初めて優しくされたと思った。

 彼女にとっては何気なく適当に言った言葉だったと思う。

 それだけで俺は救われた。

 憂鬱でめんどくさい学校も彼女を見れた日には元気が出てくる。

 

 

 

 

 自分で言っててキモいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 10月、夏の香りは姿を消してそろそろ寒いと思う季節。

 

 俺はいつもどおり放課後1人で練習をしていた。

 サッカー部の練習がないわけではない。

 だがあんな中で練習したくはない。

 スパイクを捨てられたり、練習中わざと足を踏んできたり。

 財布がなくなっている事もしょっちゅうある。

 あんな中でやるより1人でやった方がマシだ。

 

 

 いつも通りの練習をする。

 こうしている時が1番楽しい。

 

 

 

 

 午後5時半頃もうこの頃になると、辺りは暗くなり始める。

 バイトもあるしそろそろ帰ろうとしていた時、あの日事を思い出す。

 あれから1ヶ月はたっている。

 もう1度あの人に会いたい。

 

「あの日みたいに居ないかな」

 

 そんな幻想を口にする。

 まぁいるわけもない。向こうはもう忘れているかもしれない。それでも彼女に会いたい。

 

 

 そんな時、声が聞こえた。

 

「貴方、楽しそうにボールを蹴るのね」

 

 

 振り返ってみるとそこには彼女がたっていた。

 

 俺は声をかけらた嬉しさでいっぱいだった。

 ニヤニヤしないように必死に顔を作る。

 

 

「はい、サッカー好きなんですよ」

 

 と俺は真顔で言った。多分顔がニヤニヤしてたと思う。

 

 

「そう。貴方確か1ヶ月ぐらい前もここでボールを蹴っていましたよね?」

 

 彼女はそう言ってきた。

 嬉しかった。

 あの時の事を覚えててくれていた。

 

 

「はい。暇さえあればここで練習してるんです」

 

「そう」

 

 会話が途切れ、微妙な空気が流れる。

 

 何か話のネタを考えねば。

 だというのにこういう時は何も浮かばない。

 

 

 沈黙が流れる。

 

「もう暗いし早く帰るのね」

 

「はい」

 

 ダメだ何も思い浮かばない。

 彼女が歩き出そうとした時。

 俺は

 

「名前教えて下さい!」

 そう叫んだ。

 

 彼女は一瞬ポカーンとした顔し。

 

「四宮かぐやよ、多分貴方と同じ学年。」

 

 

 何やってんだ俺と自分で思った。

 名前はもう知ってるし、もっと他にも聞く事あっただろ。

 

 

 彼女は俺の顔を見て

 

「貴方の名前は?」

 

 と言ってきた。

「1年の川田 優斗です」

 

「そう、川田くんもう暗いし早く帰りなさい。」

 

 

 そう言って彼女は帰って行った。

 

 

 グランドに1人だけになる。

 俺も帰り準備をしようそう思った。

 

 

 

 

 ……でも駄目だ平然を保てない。

 四宮さんが声をかけてくれた。

 名前を聞いてきてくれた。

 社交辞令みたいな感覚だったかもしれない。

 でも嬉しい、嬉しい事には変わらない。

 いや超嬉しかった。

 しかも1ヶ月前の事を覚えててくれた。

 俺はテンション上げつつ帰りの支度をしていく。

 

 

 こんな日は家でゆっくりしたいと思う。

 俺は携帯取り時間を確認した。

 時刻は6時を回っていた。

 

 あっ、バイトあったんだ。

 

 

 

 俺はマッハでバイトへ向かった。

 

 

 

 

 

 バイトを終え自宅へ帰宅する。

 今日は色々なことがあった。

 ゆっくり休みたい。

 そんな時母さんがこんな事を言ってきた。

 

「なんか良いことでもあった?」と

 

 

 俺はニヤニヤしながらこう返した

 

「何もなかった」とそう返すと。

 

  後ろで母さんがうるさくなっていた。

 だが俺はそれを無視し布団へダイブ。

 今日は疲れた、もう寝よう。

 色々な事があった。

 でもこんな日も案外悪くないと感じた。

 

 

 俺はそこで睡魔に負けた。

 



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2話

 火曜日

 

 俺はこの曜日が嫌いだ。

 人によっては好きな曜日や嫌いな曜日があると思う。そんな中で俺は火曜日が1番嫌いだ。

 何故かと言うと。

 自分でもイマイチ分からない。

 土日休みの終わりの月曜日も嫌いだ。

 でも火曜日の方が嫌いだ。

 月曜日は前日が休みだから少し楽な気持ちがある。だが火曜日はどうだ?憂鬱な月曜日が始まり、バイトなどの疲れもある。それに火曜日の明日も明後日も学校がある。

 そう考えるだけで気分が下がる。

 どれだけ夏休みがありがたかったか実感する。

 そんな中で自分が1番好きな曜日は放課後の金曜日だったりする。

 この日は1週間頑張ったと実感できる。

 それに2日間も学校に行かなくてすむ。

 

 

 まぁバイトがあるので休みなんて感じないが。

 

 

 それに火曜日が嫌いな理由はもう1つある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっちボール行ったぞ!

 

 へい!パス!パス!

 

 詰めろ!詰めろ!

 

 様々な声が聞こえる。

 

 そうこの曜日は部活の全体練習があるから嫌いなのだ。

 

 そんな俺はみんながミニゲームをしている時もただグランドを走ってるだけだ

 

 いや、いつから俺は陸上部になったんだよ。

 

 

 あー、ボール蹴りてぇ。

 

 そんな事を考えてグランドを走っている。

 てか今何周目だ?走り過ぎて、数えるのを忘れていた。

 

 もう無理だ、休憩したい。喉が全力で水を欲している。

 

 駄目だ死ぬ。

 

 だがそんな時でも俺に休憩は許されない。

 

 顧問はお前は走ってるだけなんだからもっと頑張れ! などほざいている。

 

 こっちも走るより普通の練習したいわ。

 

 だが顧問は練習の許可をくれない。

 この学校の先生は少数であるが俺みたいな外部生を差別する輩もいる。

 顧問もその一人だ。

 だから全体練習の許可をくれない。

 まぁ参加した所でハブられるだけだが。

 

 全体! 集合!

 

 顧問が叫ぶ。

 

 こうゆう時は俺も行かなければいけない。

 行かないと、ぐちぐち説教されるからだ。

 

 理不尽すぎる。

 俺は駆け足で顧問の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習が終わり部室で着替えている時。

 2年の高木と目があった。

 その取り巻きもこちらニヤニヤしながらこっちを見ている。

 俺はそれだけで何かを感じ。

 またか、と感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は部活が終わった後、高木達に体育館裏に呼び出されていた。

 ここにいるのが可愛い女子だったら少しは期待できただろう。

 だがそんな期待は虚しく、ここにいるのはいかにもチャラそうな男4人だった。

 

 

「お前なんで部活来てんの?」

 

 高木が詰め寄ってくる。

 

「いや、俺もサッカー部なんで」

 

 苦笑いしながら返す。

 

 

「そうか、お前も立派な部員だもんな」

 

高木がニヤニヤしながら言ってくる。

 

「そんなお前に頼みがあるんだわ」

 

「何ですか?」

 

「俺ら今、全員金ねぇんだわ」

 

「そうですか」

 

 俺がそう返すと。

 高木は俺の胸ぐらを掴んできた。

 

「それだけで分かれよ」

 

 俺は顔を殴られていた。

 

 涙が出るぐらい痛い。

 

 そして取り巻きどもも寄ってくる。

 腹や腰などを蹴られる。

 

 痛い。

 痛い。

 だが肉体的な痛みよりも精神的痛みの方が大きい。

 こんな事はこれが初めてではない。

 今までも今もされるがままにされている。

 自分も憎い。

 だが反抗したら怖い。

 相手は4人いる。歯向かった所ですぐボコられて終わりだろう。

 それに相手はみな名家の子供達だ。

 何をされるか分からない。

 

 よくフィクションなのでは主人公が歯向い、いい話の流れになるなどなるが。

 現実はそう甘くない。

 

「もう部活来んなよ」

 

「貧乏人が」

 

 そんな笑い声が聞こえてくる。

 

 あぁ、うるさい。

 今日ももう少ししたら相手も気がすむだろう。

 

 

 

 あともう少し我慢したらいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度して高木達は気がすんだのか帰って行った。

 

 

「あーあ、また財布取られたわ」

 

 アイツらは金持ちだ。

 金欠なんて嘘に決まっている。

 貧乏人の俺の財布に入っている額なんてたかが知れてる。

 逆に俺がアイツらの財布を取りたいぐらいだ。

 1人でぼやく。

 てかいい家の子供がこんな事してていいのか?日本の未来が不安である。

 そんな事を考えていると。

 昨日の事を思い出す。

 

「今日も会えねーかなぁ」

 

 そんな事を口にする。

 まぁ無理だろう。

 あの人と俺では住む世界が違うのだ。

 

 制服についた汚れを払い。

 散らばった荷物の整理をする。

 携帯で自分の顔を確認すると見事に、傷だらけであった。

 気分は最悪である。

 しかもまだ午後からの授業が残っている。

 最悪である。

 いくら汚れを払ったからとは言え。

 顔や体は傷だらけだ。

 クラスメイト達の嫌な顔が浮かぶ。

 

「最悪だ」

 

 しかも今日は弁当を持ってきていない。

 だが財布はない。

 俺はポケットを探り小銭がないか探した。

 僅かな希望抱き見つかったのは137円。

 

「昼飯どうしよう」

 

 こんな時でも腹の虫はおさまらない。

 

 しかもここの購買は高い。

 さすが秀知院である。

 仕方ない自販機で水だけ買おう。

 俺は近くの自販機に向かった。

 

 

 

 

 

 

 もう少しで昼休みが終わる。

 

 教室に戻る際に保健室によった。

 保健室には誰もいなかったので自分で傷の手当てをした。

 勝手にガーゼなどを拝借したが別にいいだろう。

 しかもこれは自分でおった怪我ではない。

 文句を言うなら2年の高木に言ってくれ。

 

 

 教室に入る。

 その瞬間クラスメイト達が俺の方を見た。

 まぁそりゃそうだろ。

 顔中傷だらけで制服も汚れている俺を見たら。

 心配してくれるクラスメイトは誰一人いない。

 俺は自分の席に着いた。

 

「見てあれやばくない?」

 

「汚ねぇ、これだから混院は」

 

「よくあんなんで教室入れたよね」

 

 そんな声が聞こえる。

 

 うるさい。

 煩い。

 五月蝿い。

 

 もう黙っておいてほしい。

 俺がお前らに何したんだよ。

 別に迷惑をかけてるわけでもない。

 

 

 けど俺が我慢したらいいだけだ。

 こんなの今日が初めてじゃない。

 我慢したらいいだけ。

 

 

 チャイムが鳴る

 俺はその後いつも通り授業を受けた。

 

 

 

 

 

 放課後、俺は逃げるようにグランドへ向かった。

 

 

 ボールをおもいっきり蹴る。

 今日の鬱憤ばらしだ。

 やっぱりこうしてる時が1番楽しい。

 

 

 ふと昨日の事を思い出す。

 昨日は楽しかった。

 高校に入学して一番楽しかったかもしれない。

 だが今日は散々な日だった。

 やはり神様見ているという事なんだろう。

 いい日があれば今日みたいな最悪な日もある。

 こんな日は何か良いことが欲しい。

 こんな気持ちを抱いてしまう。

 今日も会えないかと。

 でも会ってどうする?

 こんな俺だ、向こうにとっては眼中にない。

 しかもイジメ受けているなんて知られたならもっと会えなくてなるかもしれない。

 

 

 

 いや、しかしなんで俺はあの人に会えると思っている?

 さっきも言ったが俺と四宮さんでは住む世界が違う。

 

 そう例えるなら。

 ミミズと竜。

 形は似ているがそれ以外全く違う。

 

 竜は強い。

 そして大きい

 ミミズなんて小さくて弱い生き物は眼中にないだろう。

 

 

 

 

 俺と彼女はそんな関係だ。

 

 

 

 

 

 だがそれでも俺は四宮さんに恋をした。

 届かないって分かってる。

 それでも俺は……

 

 

 

 

 

 

 一旦落ち着こう。こんな事を考えてもらちがあかない。

 ボールを蹴っていれば気持ちも落ち着くだろう。

 俺はボールを蹴ろうして助走を付けようと思った時に視線を感じた。

 

 

 

 デジャブだ。

 このような経験を最近よくする。

 だがその視線が彼女のことを思い出す。

 四宮さんだったらいいなと期待しつつその視線の方え目をやった。

 そうすると一つの人影があった。

 その人影はこっちに近づいてきてこう言ってきた。

 

 

 

「サッカー上手ですね!」

 

 

 誰だ? 全く見覚えのない。

 ピンクの髪にデカリボンをつけている。

 

「えっと、ありがとう」

 

 俺は少し困りながらそう返した。

 

 

 

「サッカー部ですか?」

 

 

「一応、そうだけど」

 

 

 俺は少し返答に困りつつそう返した。

 

 

「だから上手なんですね私全然できなくて」

 

 彼女はそう言ってきた。

 確か今、体育の授業はフットサルだったと思う。

 

 

「確か、今体育でフットサルやってるよな」

 

 

「はい、私下手で皆んなの足引っ張っててだからちょっとでも練習しようと思って」

 

 

 彼女はそう言って手に持っていたボールを蹴った。

 

 

 多分少し離れたゴールに向かって蹴ったんだろう。

 だがボールは明後日の方向に飛んで行った。

 うん、これは重症だ。

 

 

「もしよかったら少し教えてくれませんか?」

 

 

 彼女は本気で悩んでいそうだった。

 俺は少し悩んだ後。

 

 

「いいぞ、でもあんまり期待しないでくれ」

 

 

「はい!ありがとうございます」

 

 

 彼女はそう言ってペコと頭を下げてきた。

 俺は困惑した。

 この学校で俺にこんな感じで接してくる奴は彼女ぐらいだろう。

 それもそうか、彼女は何も俺の事を知らない。混院だと言う事とか。

 

 

 

 

「俺は1年の川田優斗。君の名前は?」

 

 

「1年生の藤原千花です!川田君よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話

 水曜日。

 

 

 俺はこの曜日が嫌いだ。

 学校が始まり、3日目。

 週の真ん中と言うこともあり。

 なかなか疲れが取れないそんな曜日。

 そしてまだ2日間も学校がある。

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ何が言いたいかと俺は金曜日以外の平日は全て嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 午前の授業と言うものは退屈でとても眠気を誘う物だ。

 脳が完全に目覚めきっていないからか授業への集中できない。

 教師が文字を黒板に書き何かを教えているがそれすら何かかも分からない。

 

 

 

 てか、今なんの授業をしているかすら定かではない。

 

 

 教師の話を聞き。

 これが多分数学の授業だと言うのかを分かった。

 だがこれが数学の授業と知っていても教師が言っている事を理解出来ない。

 数字やアルファベットの式が黒板に書かれている。

 

 

 なんだこれは教師の言うことが尚更理解出来ない。

 俺は時折思うのだが。

 数学なんだから数字だけでやってくれと。

 アルファベットや何か分からない文字を出されると頭が追いつかない。

 中学での復習なら俺も多分いけると思う。

 

 

 だがこれはそんな優しい問題ではない。

 多分大学レベルの問題だと思う。

 そんな問題を俺みたいな凡人が解けるはずもなく。

 ただ黒板の問題をぼーっと眺めている。

 だが周りの生徒を見てみるとノートにすらすら文字を書いている。

 

 いや、お前ら天才かよ。

 よくこんな問題が解けるなと内心思う。

 俺も頑張って解こうと思い必死に解こうと思うが1問も解けない。

 こんな話が数学だけではない。

 国語だってそうだ。

 使っている言語が同じ日本語だと言うのに俺はまるで違う言語だと感じる。

 まぁそれもそのはずか此処は私立秀知院学園。

 偏差値77前後のエリート学校。

 そんな学校の問題が解けないのは俺が凡人だからと言う理由じゃないと思う。

 此処に通う生徒は天才だ。

 俺とは生まれてすぐから違う。

 

 

 

 

 

 俺は思う。

 やはり来る学校を間違えたと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前の授業が終わり昼休み。

 俺はこの時間が好きだ。

 退屈な授業がなくやっと一人になれる。

 浮いている俺は当然教室で昼飯を食うのではなく。

 誰もいない体育館辺りのベンチで飯を食う。

 此処の場所は最高だ。

 煩い生徒達は誰一人おらず。

 風の通りもいい。

 だが今は10月少し寒い。

 本当は暖房の付いた教室で食べたいがぼっちの俺は教室に居場所がなく、此処で一人寂しく飯を食う。

 

 

 

 昼休みが始まって20分が経っていた。

 一人の俺は誰とも喋らず飯を食うから食べ終わりのが早い。

 俺は弁当食い終わり片付けをしている。

 我ながら今日の弁当は上手く作れた。

 やはり卵焼きに砂糖を少し入れると甘くてとても美味い。

 関西では砂糖ではなくダシを入れ少ししょっぱめに作る人の方が多いらしい。

 俺は甘めが好きななので砂糖を入れてるが。

 そんなどうでもいい事を考えているとふと昨日の事を思い出す。

 

 

 

「1年生の藤原千花です」

 

 

 昨日、喋りかけてきた女子はそう言った。

 彼女にサッカー教えると言った俺は少し後悔をしていた。

 

 

 

 彼女は

 

「明日も、このグランドにいますか?」

 

 と聞いてきて俺はこう返していた。

 

 

「明日もいるぞ」と

 

 

 彼女は笑顔を向けてこう言ってきた。

 

 

「じゃあ、明日から教えて下さい!」

 

 彼女はそう言ってもう遅いので解散にしましょうと言っていた。

俺は

 

「あぁ」と返した。

 

 

「明日の放課後で大丈夫ですか?」

 

 

「大丈夫だ」

 

 

 彼女は「分かりました」と言って帰って行っ

た。

 

 

 それが昨日の出来事。

 俺は少しいや後悔していた。

 藤原は本当に悩んでいて俺に教えを頼んできたので俺は流されるように返事をしてしまった。

 藤原は俺の事を何も知らない。

 多分俺の事を知るのも時間の問題だろう。

 俺はそうなるのが嫌だ。

 今日、彼女に会って申し訳ないが教える件は断ろう。

 それが一番正しい。

 彼女も俺との悪い噂なんて立って欲しくないと思うし。

 てか今日絶対来るのか?それすら信用出来ない。

 俺を知っていてでのイタズラだったかもしれない。

 でもそれは確証が無いが、ないと思った。

 彼女は俺に本物に申し訳なさそうに頼んできた。そして俺に頭まで下げたのだ。

 そんな彼女がそんな事をするか?

 まだ一日しか会っていない彼女を何故か信用している自分がいた。

 

 

 予鈴のチャイムが鳴った。

 今から午後の授業だ。

 俺は脳を整理して教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹が満たせれとても眠い午後の授業が終わった。

 午後の授業も全く分からなかった。

 俺、進学出来んのかなぁと本気で悩みつつグランドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 放課後、彼女はいなかった。

 それもそうか俺は何を期待していたのだろう。

 少ししか喋っていない彼女に期待していた。

 他の奴とは違う。

 藤原は俺の事を普通に見てくれていると思っていた。

 それはただの勘違いだったようだ。

 俺はそんな気持ちをよそにして練習をし始めていた。

 

 

 

 

 

 

 午後4時半。

 俺は今日は早めに切り上げようと思い帰りの支度をしていた。

 もう秋だとういう事もあり寒い。

 もう少しで本当に2年生だ。

 でも単位がやばい。

 めんどくさくて欠席している時もあるし勉強も全く分からない。

 自分でも勉強をしているがレベルが違いすぎて授業に追いつかない。

 やはりこの放課後の時間も勉強に当ててた方がいいだろう。

 俺はそんな事を考えていると校舎の方からこっちに走ってくる生徒がいた。

 

 

 

「すみません! 遅れました」

 

 

 走ってくる生徒は藤原だった。

 多分全力で走ってきたのであろう肩で息をしている。

 

 

 

「部活があって、遅れました」

 

 彼女は息を整えそう言ってきた。

 

 

「いや、こっちも悪いちゃんと時間を伝えていなかった」

 

 

 てか部活入ってたのか。

 それなら遅れるのは当然だ。

 

 

「なんの部活入ってんの?」

 

 

 俺は純粋に気になり藤原に聞いていた。

 

 

「テーブルゲーム部です。楽しいですよ!」

 

 

 俺はそんな部活あるのかと思った。

 てかテーブルゲームって何すんの?トランプとかUNOとかか?

 俺がそんな事を考えていると。

 

 

「まだ時間ありますか?」

 

 

「全然、大丈夫だぞ」

 

 

 バイトがあるがせっかく藤原が来てくれたのだこっちを優先しよう。

 

 

 

「じゃあ、今日はお願いします」

 

 

「あぁ、それじゃあ早速やろうか」

 

 

 俺はそう言って。

 藤原との練習を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度時間たち暗くなり始めた頃。

 俺と藤原は練習終え駄弁っていた。

 

 

 

「難しいですねー、サッカーって」

 

 

 藤原がそう言う。

 

 

「そうだな、今でもよくミスるよ」

 

 

「でも、川田くんの教えが良くてだいぶ上手くなりました」

 

 

 藤原がそう言ってリフティングをしようとするが、3回目でボールは転がっていった。

 そうすると彼女はボールを追いかけ、ボール楽しい!と言っている。

 これでは人間がボールを使ってるのではなくボールが人間を使って遊んでるようにしか見えなかった。

 

 

 

「いや、藤原が俺の説明をちゃんと聞いてくれるから上手くなったと思うぞ」

 

 

 体育での授業という事もありそんな真面目には教えていない。

 ある程度ボールを触ったら慣れると言うものだ。

 これで普通にパス回しなどは出来るだろう。

 それに藤原は俺の説明を熱心に聞き練習してくれた。

 

 

 

「そんな事ないですよ川田君、説明上手でしたよ」

 

 

「それじゃあそうゆう事にしとく、ありがとう」

 

 

 褒められて嬉しくなった。

 

 

「お礼を言うのはこっちの方ですよ、有難うございます!」

 

 

 藤原が笑顔で言ってきた。

 やっぱり短時間だけで藤原がどんな奴か少し分かった。

 こいつは優しい奴だなと理解出来た。

 

 

 

「体育で、良くなってたらいいな」

 

 

「絶対、良くなってますよ! 川田君が教えてくれたから」

 

 

 時計の針は6時前を指していた。

 もう辺りは暗い。

 そろそろ解散した方がいいだろう。

 

 

「もう遅いし、解散にしよう」

 

 

「そうですねー」

 

 

 帰りの支度をする。

 バイトがあったがもう仕方ない。

 それに今日は楽しかった。

 久しぶりにこんなに人と喋ったかもしれない。

 

 

 

「川田君、よかったら連絡先交換しませんか?」

 

 

 藤原がそう言ってくる。

 えっ、今なんて言った?連絡先交換?

 それって友達がよくするあの?

 それって普通、友達とするもんじゃ…

 

 

 

「えっ、いいのか?」

 

 

「全然良いですよ! むしろ交換するの嫌でした?」

 

 

 

 断る理由もない。

 でもいいのか俺で?。

 

 

 

「それって普通、友達とするもんじゃ」

 

 

「えっ、私達もう友達じゃないですか?」

 

 

 えっ、そうなのか?

 コレはもう友達なのか友達出来た事ないから分からない。

 

 

 

「わかった、俺で良かったら交換するぞ」

 

 

「はい! 交換しましょう」

 

 

 でもどうしよう。

 やり方が分からない。

 

 

「ごめん、やり方分からないしやってくれない?」

 

 

 俺はそう言って藤原に携帯を渡した。

 藤原は一瞬驚いた顔をして、何やら俺と自分の携帯をいじっていた。

 

 

「はい、これで出来ました。」

 

 

「ありがとう」

 

 

 俺の連絡帳には母さん以外に藤原千花という連絡が増えていた。

 

 

 

「けどよく普通に女子に携帯渡せますね」

 

 

 藤原がニヤニヤしながら言っている。

 

 

「仕方ないだろ、やり方わからないんだから」

 

 

 俺は少し恥ずかしかったので強く返した。

 そして携帯の時計を見た。

 時刻は6時過ぎを指していた。

 空は薄暗くはなく真っ暗になっていた。

 流石にそろそろ帰らないとまずい。

 

 

「藤原、もう流石に暗いし帰ろう」

 

 

「そうですね、今日は有難うございました」

 

 

「うん、俺は自転車あっちだしここで」

 

 

「分かりました、それじゃあ」

 

 

 彼女はそう言って帰って行った。

 

 

 

 

 空はもう真っ暗だ。

 いつも放課後練習している俺も此処まで学校に居たのは初めてかもしれない。

 時間はあっという間ににすぎて行った。

 楽しい時間はすぐ終わると言うのは本当らしい。

 俺も帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に着く。

 母さんに今日も言われた。

 何かいい事でもあったのかと。

 俺は何も無かったと返し自室に入った。

 そして連絡帳に増えた連絡先を見る。

 

 顔がニヤける。

 高校に入って初めて出来た友達だった。

 するとメッセージが来ていた。

 

 

 

 藤原「今日は有難うございました!」

 

 と可愛い絵文字が付けられたメッセージが届いていた。

 

 

 

「こっこそありがとう。もう寝るわおやすみ」とメッセージを返した。

 

 

 

 

 

 

 俺はそこで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話

 早起きは三文の徳と言う言葉がある。

 

 

 俺はその言葉を今まで余り深く考えてはこなかった。

 確かに早起きをしたら何かをする時間が増えるし健康にもいい。

 だがそれは理解出来るが早起きと言う物は難しい。

 バイトなどで多忙な日々を送っている俺は1日の睡眠ではなかなか疲れが取れない。

 だから朝は眠くあと5分と言う状況が多々ある。

 だがそれでも俺は平均的な学生よりかは早起きだと思う。

 それもそのはずだ。

 

 

 家から秀知院まで距離があるため必然的に朝は早く動かなければならない。

 それと俺はよく弁当を作る。

 店で買うよりこうした方が金がかからない。

 たまに寝坊して忘れたりするが。

 これが俺が早起きをしている理由だ。

 本当はあと5分寝たいと言う願望がある。いや、本当はあと5時間ほど寝たい。

 だが家が遠いんだから文句は言ってられない。

 他の生徒達は家の車で通学したり、タクシーで来ている生徒もいる。

 少数であるが俺みたいな自転車通学の物もいるだろう。

 そんな生徒を見たら敬礼したくなるほどだ。

 てかタクシー通学ってなんだよ年間を通したら馬鹿にならない程の金額になると思う。

 まぁそんな馬鹿みたいな金額も余裕で払えるのだろう。

 羨ましい限りである。

 

 

 そんな俺だが今日は寝坊してしまった。

 時計を見るともう8時を回っていた。

 俺は急ぎ支度をし家を出た。

 弁当はないが仕方がない。

 俺は全速力でペダルを漕ぎ学校え向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前の授業を終え昼休み。

 俺はいつも昼食を取っているベンチに向かった。

 目的地に着いたのはいいのだが今日は昼飯がない。

 学校の外の近くのコンビニでも行けばいいのだがコンビニの物価とは高いものだ。

 それに今は金欠だ腹は減ったが我慢しよう。

 この時俺は後悔する何故早起きしなかったのだろうと。

 やはり早起きは三文の徳と言うのは本当らしい。

 今度から気をつけよう。

 

 

 俺はそう思い眠いので目を閉じた。

 

 ぐうぅぅぅと腹の音が出る。

 それもそうか今日は急いでいたので朝食も取れていない。

 だがそんな時でも腹の虫は収まらない。

 

 

「腹減ったな」

 

 

 俺はそんな言葉を口にする。

 仕方がない金はないが背に腹は変えられない。

 俺はそう思い近くのコンビニに向かおうとした。

 だがその時、俺を呼ぶ声がした。

 

 

 

「あれ、川田君?」

 

 俺を呼び止めていたのは藤原だった。

 藤原は俺の方え寄って来てこう言ってきた。

 

 

「こんな所で何してるんですか?」

 

 

「昼飯を取ろうとしていた所だ」

 

 

「そんなんですねー、でも此処寒くありませんか?」

 

 

 彼女がそう言ってきた。

 それもそのはずだ今はもう12月だ。

 寒いを通り越して寒すぎる。

 本当は暖房の付いた教室で食べたい。

 

 

 それに俺はもう12月かとそう思い返していた。

 俺と藤原が出会ってもう2ヶ月近く経っていた。

 彼女との関係は多分友達と言っていいだろう。

 あの練習の後でも、彼女からメールをくれたり放課後もグランドで駄弁ったりと、俺と彼女の関係は思いの外良好だった。

 

 

 

「教室じゃ少し居心地が悪いだ」

 

 

「そうですか。」

 

 彼女は何も言ってこない。

 こういう時、彼女は有難い。

 俺の嫌な事を聞かないでくれる。

 そうすると藤原はこう言ってきた。

 

「もし良ければ、一緒に食べませんか?」

 

 

 彼女の手には弁当袋がある。

 多分、友達と食べる予定だったのが無くなったのだろう。

 俺はそう思い。

 特に断る理由もないので

 

「別にいいぞ」と返した。

 

 彼女は笑顔を見せこう言ってきた。

 

 

「有難う御座います、あれでも川田君何も待ってませんね」

 

 

「あぁ、いつももなら弁当を持ってくるんだが今日は忘れた」

 

 

「そんなんですねー」

 

 

「だから今から何か買ってくるつもりだ」

 

 

 俺はそう言いコンビニに向かおうとした。

 そんな俺を藤原は

 

 

「もし良かったら、私のお弁当分けましょうか?」

 

 そう言ってきた。

 

 

「えっ、いいのか?」

 

 

「はい、今日は少しお手伝いさんが多く作り過ぎてしまって」

 

 俺は少し迷ってしまった。

 藤原の提案はとても魅力的だ。

 それに言い方は悪いがお金がかからない。

 ドケチの俺は少しでも金を使いたくは無い。

 藤原が金銭を要求してきたら勿論払うが。

 俺は考え

 

 

「悪い、藤原は少し分けてもらって大丈夫か?」

 

 

「大丈夫ですよ〜、それに私もこの量は食べきれなかったので」

 

 

「ごめん、有り難う」

 

 

「いえいえ、これも人助けだと思って」

 

 

 そう言われて悪い気はしない。

 俺は藤原の提案に甘えさせてもらう事にした。

 

 

「でも悪い、俺箸とかないぞ」

 

 

「あー、別に私と同じので大丈夫ですよ」

 

 

 彼女は少し考えそう返してきた。

 俺は悪いと思ったが彼女からの許可はくれたし大丈夫だろうと思った。

 藤原が弁当を出して蓋のを方へ具を分けてくれる。

 形は悪いが今の俺に取り皿なんて物は無い。俺はそれを受け取った。

 

 

 弁当が目に入る。

 その弁当は思いの外普通だった。

 卵焼きがありその他のおかずも俺がよく作るおかずだった。

 藤原の家の事は余り知らないが確か父親が政治家だと彼女から聞いていた。

 そんな家庭でも弁当は普通だった。

 俺はもっと豪華な物を食べていると勝手に思い込んでいた。

 

 

「有り難う、美味そうだな」

 

 

「はい、美味しいですよ」

 

 

 藤原がニコニコしながら言ってくる。

 俺は藤原には悪いが箸を受け取りまず卵焼きを食べた。

 

 

「美味いな!」

 

 

「そうでしょうー、砂糖がいっぱい入ってて美味しいですよね」

 

 

 俺は素直に美味いと思った。

 形も崩れてなく、卵も焼き過ぎで硬く無い。

 絶妙な火加減で作られたんだなぁと感心しつつ。

 他のおかずにも手をやった。

 そのおかずも美味い。

 何というか庶民が作った物とは違うようなそんな味だ。

 流石プロだなと思い。

 ばくばくと他の具財を口に入れ楽しむ。

 どのおかずも美味かった。

 

 

「ご馳走様藤原、本当に助かった」

 

 

「いえいえ、こっちこそ助かりました〜」

 

 

 彼女と出会って2ヶ月その間に彼女の事を少しは理解出来たと思う。

 藤原は優しい。

 こんな時でも助けてくれる。

 やはり持つべきものは友人だと思った。

 たまに可笑しな言動をするが。

 そんな藤原だが生徒会の書記に在籍しており帰りの遅い俺ともよく帰りの時間が被りたまに一緒に帰ったりもしている。

 

 そんな藤原の存在もあってか最近の学校は楽しい。

 それに最近は前よりかは他の生徒が俺への態度が少し変わった。

 その理由はイマイチ分からないが、多分新しく就任した生徒会長に理由があるだと思う。

 

 

 

 

 新しく就任した生徒会長の名は白銀御行。

 頭脳明晰で学問での成績が非常に優秀。

 それに加え日頃からの模範的な立ち振る舞いで生徒達から尊敬されている。

 更に驚くのは彼が外部からの入学してきた混院だと言うこと。

 この学園で混院と言うのはそれだけでヒエラルキーが低い。

 そんな中白銀御行と言う男はこの学園、生徒のトップ。

 生徒会長と言う称号を手に入れたのだ。

 それはさぞかし凄い事だろう。

 そんな彼が生徒会長だと言うのを最近知った。

 9月の選挙の時に着任したらしいが俺はその式に欠席していた。

 最初は混院だと言うことに評価は悪かったらしい。

 だがそれも今は昔の話。

 今では、その話はなく着々と評価を高めっていっている。

 

 俺がそんな事を考えていると藤原が喋りかけてきた。

 

 

 

「寒いですね〜」

 

 

「そうだな、我慢の出来なかったら先に帰っててもいいぞ」

 

 

 俺は彼女に無理矢理付き合わせている事を理解し先に帰るのを促した。

 

 

「いえ、川田君と喋れるなら我慢出来ますよ」

 

 

 藤原は時折このような言葉を言ってくる。

 俺をからかっているのかその心はよく分からない。

 

 

「あんまりそう言う事、言うなよ」

 

 

「あれぇ? 照れてるんですか?」

 

 藤原がニヤニヤしながら言ってくる。

 この2ヶ月で藤原の事を知れたが時折彼女はこの様に俺を弄ってくる。

 

 

「照れてない」

 

 

「顔赤いですよ〜?」

 

 

 藤原がニヤニヤしている。

 ムカつく。

 出会って頃の藤原はあんなに礼儀正しかったのに。

 今ではそのような影はない。

 まじで書記の初期設定である。

 

 

 ふと時計を見る。

 昼休みが始まり大分経っていた。

 もうそろそろ予鈴が鳴るだろう。

 

 

「藤原、そろそろ予鈴が鳴る片付けをしよう」

 

 

「そうですね」

 

 

 今日は藤原に大きな借りが出来た。

 何か出来る事は無いかと藤原に聞いてみた。

 

 

 

「藤原、今日は助かっただから何かお礼をしたい」

 

 

「うーん」

 

 藤原は悩んでいた。

 

 

「何でもいいぞ、俺が出来る事なら」

 

 

「何でもですか?」

 

 

 あっ、此れは地雷を踏んだ。

 絶対面倒な事を言ってくるに違いない。

 

 

「じゃあ「キーンコーンカーンコーン」

 

 

 藤原が何か言おうとしたが予鈴のチャイムと重なった。

 

 

「うーん、仕方ないですね、今日もグランドに居ますか?」

 

 

「あぁ、いるぞ」

 

 

「分かりました、ではその時に言います」

 

 

 藤原はそう言い去って行った。

 俺も教室に戻ろう。

 まだ面倒な授業が残っている。

 予鈴が鳴ったのもあり俺は少し足早に教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 俺は教室に戻り授業の準備をしている時に一件、メールが届いている事に気付いた。

 

 

 藤原「午後からの授業も頑張って下さい放課後楽しみにしときます」

 

 

 

 と、藤原からのメールだった。

 俺はそんな優しいメールに感謝しつつ午後からの授業への喝を入れた。

 



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5話

 俺は放課後グランドに向かった。

 

 最近はバイトや勉強の時間などあり、あまり練習が出来ていなかった。

 勉強の時間が増えたが、少し前の期末テストでは結果は散々だった。

 勉強をしていたのでなんとか赤点は免れたがそれでもギリギリだった。

 

 この学校ではテストの点数が上位50名のものは学校の掲示板に張り出される。

 そんな中に当然俺の名前はなく。

 この学園でトップ50人の名前が掲載されていた。

 ただでさえ生徒が優秀なこの学園でトップ50な訳だ周りの天才とは一際違う。

 一桁辺りの順位から500点の近くの点数を持つ生徒もいた。

 

 そんな中でも目立つのはやはり1位と2位のものだ。

 

 1位の成績を持つのは白銀御行。

 この学校の生徒会長だ。

 彼は混院にも関わらずテスト点数1位を記録している。

 やはりこの学校の生徒会長なだけあって他の生徒達とは違う。

 全国模試でもその実力を発揮しているらしい。

 流石だ、としか言いようがない。

 この学園で1位を取る難しさは途方もないと思う。

 

 やはり彼は天才なのだ。

 それに同じ混院と言う事から尊敬出来る。

 

 

 

 そんな1位の点数に食らいつくのは2位の四宮かぐや。

 生徒会副会長にして四宮グールプの娘。

 この学園のヒエラルキートップに君臨する彼女がやはり凡才な訳がない。

 1位の白銀会長と負けず劣らずのその点数がそれを物語っている。

 この2人はやはり他の者達より別次元だ。

 

 

 

 そんな2人だが最近はこんな話をよく耳にする。

 

 2人は付き合ってるとか、

 

 いい関係だとか、

 

 生徒会室で仲良く喋っているとか。

 

 

 他の生徒や俺の目から見ても2人はお似合いだった。

 そんな話になるのは当たり前の事だろう。

 この学園では2人を見て拝み始めるものまでいる。

 それは少し引いてしまうが、それほど2人はお似合いだった。

 最近は四宮さんに告白する生徒達も減ってきてるらしい。

 それもそうだ白銀会長と言う完璧な人がいるのだ。

 他の男なんて喋る雑草程度だろう。

 

 

 そんな俺だが未だに四宮さんに好意を持っている。

 告白でもしたら勿論、秒殺するだろう。

 やっぱりあの時に名前ではなくメアド交換でも頼めばよかったのかもしれない。

 まぁ、奇跡的に交換出来ても関係が絶対進展しないと思うが。

 もういっそ告白でもして気持ちを楽にしようか、そうしたら楽になれるというものだ。

 だがそれも意気地がない俺は出来ていない。

 告白出来る男子は勇者なのか。

 その部分だけは尊敬出来る。

 俺にもその勇気があればなぁと思いながら練習していると藤原がやって来た。

 

 

 

 あぁ、確か今日は彼女に何かお礼をしなければいけない日だった。

昼は彼女に助けられた。

 多分、あのまま授業していたら空腹で死んでたと思う。

 

 藤原マジ天使。

 俺は藤原を心の中で感謝していると彼女が喋りかけてきた。

 

 

 

「すみません、遅くなりました〜」

 

 

 そう言えば彼女は生徒会に属している。

 こんな時に彼女が遅くなるのは仕方がない事だろう。

 それに藤原は部活にも入っている。

 生徒会にも属して、部活にも入るのは凄く大変な事だと思う。

 それでも彼女は俺よりテストの点数がいい。

 やはり流石、生徒会と言う事だろう。

 今度、勉強を教えてもらおうかと思ったりもしたがそれは彼女に迷惑だろう。

 忙しい藤原だ、俺に割く時間なんて使いたくはないだろう。

 今日だって俺が何かしたいと言ったから、無理矢理付き合ってくれているかもしれない。

 俺はそんな事を考え藤原に返した。

 

 

 

「いや、俺も今来たところだ今日は生徒会か?」

 

 

「そうなんです、最近は忙しくて」

 

 

「大変だな、それに部活もあるだろう?」

 

 

「部活は楽しいから大丈夫です! それに生徒会も大変ですけど皆んな優しくて楽しいですよ〜」

 

 

 彼女はそう言った。

 彼女のこういうポジティブな所は凄いと思う。

 俺なんてバイトなんか嫌で嫌で仕方がない。

 

 

 

「もし良かったら、川田君も生徒会入りませんか?」

 

 

 藤原がそんなぶっ飛んだ事を言ってきた。

 俺が生徒会にでも入ってみろ、皆んなの足を絶対引っ張ると思う。

 でも生徒会には四宮さんがいる。

 少しは近づけるかもしれない。

 俺はそんな淡い妄想をした。

 

 

「いや、辞めとくよオレが入った所で皆んなの足を引っ張るかもしれないし」

 

 

「そうですか?川田君、結構優秀だと思いますよ」

 

 

 

 と、藤原が嬉しい事を言ってきた。

 俺は彼女から少し買われているらしい。

 まぁ社交辞令だと思うが。

 

 

 

「川田君はもう少し自分に自信を持った方が良いですよ」

 

 

「ありがとう、その言葉で自信を持てた」

 

 

「そうですか」

 

 

 彼女の言葉は嬉しいが、自分の事は自分が一番知っている。

 俺は昔から自分に自信を持てない。

 何故かは分からないが。

 人間なんてそう簡単に変われるものじゃない。

 俺はそんな自分が嫌いだが。

 俺はその話を一旦区切って彼女に今日の目的を聞いた。

 

 

「藤原、昼言ってた事なんか決まったか?」

 

 

「うーん」

 

 

 藤原はこめかみに手をやった。

 

 

 

「意外と難しいですねー」

 

 

「何でもいいぞ」

 

 

 オレがそう言うと藤原が面白い事を言ってきた。

 

 

 

「じゃ、聞きますけど川田君は何でもいいって言われて何をお願いしますか?」

 

 

 そう言われるとなかなか困る事だった。

 何でもか……俺が今、藤原してほしい事は勉強を教えてほしい事だった。

 そんな願いも藤原が言ったら俺は何も出来ない。

 藤原が俺より頭がいいからだ。

 やっぱり意外と困る事だった。

 何でもか……やはり俺も男だ少しはやましい気持ちになる。

 そんな下品な考えは辞め俺はこう返した。

 

 

「すまん、結構困る事だったなぁ」

 

 

「そうですね〜」

 

 

 でも俺は藤原に何かしてやりたい、日頃から色々して貰っている。

 俺は頭を悩ませ考えていると藤原が言ってきた。

 

 

「川田君、お腹減っていますか?」

 

 

 時計の時刻は5時を指していた。

 夜ご飯にしては早い時間。

 だが今日の俺は腹が減っていた。

 昼の藤原の弁当を分けてもらってから何も食べてない。

 何か買いに行く時間はあったが金欠で何も買っていない。

 今日は節約の日だと、我慢していた。

 

 

「この後、ご飯でも行きませんか?」

 

 

「いいぞ、でもそんなんでいいのか?」

 

 

「はい、むしろ日頃から感謝していますから」

 

 

 藤原の言葉に感謝した。

 それに今日は珍しくバイトがない。

 藤原の願いはちょうど良かった。

 彼女は少しまだ学校に用事があり、俺も帰りの支度をしないといけなかったので最終的に校門で待ち合わせることにした。

 

 

 駐輪場で自転車の出し校門に向かった。

 先にもう藤原が付いていた。

 

 

「ごめん、待ったか?」

 

 

「いえ、今来た所ですよ〜」

 

 

 笑顔で彼女は言った。

 だが藤原の手は寒さで赤くなっていた。

 もう12月だ、寒いのは当たり前だ。

 藤原に気を使わせてしまっただろうと思い。

 俺は心の中で謝罪しつつ鞄の中を漁った。

 探していた物を取り出し藤原に渡した。

 

 

「寒いだろう、貸してやるよ」

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

 彼女はそう言ったが俺は無理矢理手渡した。

 渡したものは手袋だ。

 俺が節約のために作った手作りだ。

 だがこれが難しいものでなかなかうまく作れなかった。

 完成図では手の甲に犬の顔を作りたかったが、完成した物は犬なのか猫なのか分からない微妙な動物の顔だった。

 

 

 

「可愛い兎ですね〜」

 

 

 彼女がそう言う。

 母さんに見せた所、猫だといったが藤原は兎に見えるらしい。

 これが人との価値観の違いだろうか。

 そう考えると人間は面白い。

 まぁ俺は絶対犬に見えるが

 大事な事なのでもう一度言うがこれは犬だ。

 

 

 

「まぁ、犬のつもりで作ったんだけど」

 

 

「これ川田君が作ったんですか?」

 

 

「あぁ、完成図とだいぶ違うが」

 

 

「凄いですね!」

 

 藤原が目を輝かせて言う。

 

 

「今度、作り方教えようか?」

 

 

「本当ですか?今度教えて下さい」

 

 

 俺達はそんな会話をしながら校門を出た。

 さてこれから何処へ向かうのだろう。

 藤原はご飯を食べに行こうと言った。

 なんやかんや言っても藤原もこの学園通うお嬢様だ。

 この学園に通う生徒がどんな外食をするのかを分からない。

 それこそ高級フレンチやらキャビアなど名前が言いづらい物を食べに行くかもしれない。

 俺は一瞬、財布と相談し覚悟を決めた。

 日頃からお世話になっている藤原からの誘いだ。

 ここは俺が奢ろう。

 金欠だがもう何でもこい、俺はそう意気込んでいた。

 

 

「で、結局どこへ行くんだ?」

 

 

「もう決まっています、川田君好き嫌いとかってありますか?」

 

 

 藤原、俺を舐めるな好き嫌いどころか腹に膨れるものなら何でも食う。

 虫とかそんなのは例外だが。

 

 

「ないぞ、てか何でも食える」

 

 

「そうですか〜、じゃ大丈夫ですね」

 

 

 藤原がそう言った。

 だが、高級食材と言う物はかなりゲテモノが多いと思う。

 フォアグラだってあれもそうだ。

 俺はそんな事を考えていた。

 でももう決心を決めたのだ何でもこい。

 今の俺は腹ペコだ何でも食う。

 

 

「でも、川田君自転車ですね」

 

 

「そうだな」

 

 

 自転車を引いて藤原と並んで歩くのは歩道では幅を取る。

 それに俺が1人だけ自転車に乗るのも違う気がする。

 

 

「私、少しやってみたい事があって」

 

 

 嫌な予感がした。

 この流れは大体予想がつく。

 俺は予想が外れる事を期待して藤原に聞いてみた。

 

 

「なんだ?」

 

 

「自転車の二人乗りですねー」

 

 

「やらないぞ」

 

 

「えぇー1度でいいからやってみたいです」

 

 

 藤原が不満そうな声を出す。

 俺は2人乗りをした事がなかった。

 そもそも乗せるような人も居なかったためだ。

 2人乗りは結構バランス力がいると言う。

 それに2人乗り自体犯罪だ。

 

 

「2人乗りは犯罪だぞ」

 

 

「それでもいいからやってみたいです」

 

 

 おい、藤原それでいいのか?

 お前政治家の娘じゃないのかよ。

 犯罪ガン無視じゃないか。

 

 

「それにちょっと憧れてたんです私、家が厳しいので友達とそんな事した事なくて」

 

 

 藤原は悲しそうな目でそう言った。

 そんな顔をされたら断りづらい。

 それに藤原にはいつもお世話になっている。

 これぐらい恩返ししてもいいだろう。

 

 

「わかったよ、特別だぞ」

 

 

 藤原はパァと顔をして

 

 

「ありがとうございます!」と、言ってきた。

 

 藤原が自転車の後ろに乗る。

 後ろにも体重が来る。

 ここで転けたりしたらカッコ悪い。

 俺は何とか踏み止まりペダルを漕ぎだした。

 

 

 

 

「重くないですか?」

 

 

「あぁ、重いぞ綿毛みたいに重い」

 

 

 藤原が心配そうにそう言ってきた。

 最初は2人乗りをした事がなかったため難しかったが。

 少し時間が経った今は違う。

 それに藤原は重くないかと心配してきたがそれも問題ない。

 むしろスーパーなのでまとめ買いした食材とかの方が重い。

 貧乏学生を舐めるな。

 

 

「それって、重いか軽いか分からないですけど」

 

 

「すまん、めちゃくちゃ軽いぞ」

 

 

 俺がそう言うと。

 彼女は納得したのか嬉しそうに言ってきた。

 

 

「ならよかったです」

 

 

「あぁ」

 

 

 俺は慣れ始めたのでペダルの速度を上げた。

 

 

 

「少し飛ばすぞ」

 

 一気に速度が上がった。

 この道が交通量が少ない裏道で助かった。

 多分、通りなどで走ってたらこうはいかなかっただろう。

 

 

「早いです!」

 

 

 藤原が楽しいに言う。

 彼女が楽しかったらそれでいいだろう。

 

 

 

 

 

 俺は藤原が言う目的地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6話

 ついたのはラーメン屋だった。

 

 

 昔からありそうな少し小汚い個人店だった。

 庶民の俺でも入りやすそうな店で助かった。

 

 

「ここで食べるのか?」

 

 

「はい、私ラーメン好きなんです。」

 

 

 藤原がそう言う。

 

 意外だった。

 俺はもう少し小洒落た店に行くかと勘違いしていた。

 俺と藤原は店に入った。

 

 

 入った瞬間に美味しそうな匂いが鼻に入ってきた。

 ラーメンを食べるのはいつぶりぐらいだろうと思いながら俺達は席についた。

 

 

「よく来るのか?」

 

 

「たまにですね〜」

 

 

 藤原がそう言う。

 ここを1人で来るのは中々、勇気がいると思う。

 店内もザ・昭和のラーメン店みたいな感じだ。

 

 

「少し意外だったわ、藤原もこういう店来るんだな」

 

 

「そうですか?よくファミレスとかも行きますよ〜」

 

 

 俺は勘違いしていたらしい。

 あそこに通っている生徒達も意外と俺と同じような物を食べているんだと思った。

 

 俺は藤原と同じラーメンを頼んだ。

 麺の種類にバリカタという存在があるのを今日知った。

 

 香ばしい匂いが俺を誘う。

 腹ペコだ。

 今の俺はラーメン3杯ぐらい行けそうな状態だ。

 

 流石にそれは言い過ぎだが。

 

 

「お腹空きましたね」

 

 

「そうだな、もうぺこぺこだよ」

 

 

「ふふ、ここのラーメンは美味しいので期待していいですよ」

 

 

 藤原が太鼓判押すのだから間違いないだろう。

 俺は期待しつつラーメンの到着を待った。

 

 

 来たのはオーソドックスな博多ラーメンだった。

 シンプルで美味そうだった。

 俺は麺を啜った。

 バリカタという事もあり麺が硬いが汁につければふやけて美味くなる。

 チャーシューも柔らかくとても美味い。

 俺は久しぶりに食べたラーメンに感動しつつ箸を進めた。

 

 ふと、ラーメンに夢中になっていた俺は藤原の方に視線をやった。

 

 藤原も俺と同じで美味そうにラーメンを食っていた。

 だが食い方が俺とは違った。

 レンゲに麺と汁と具材を入れ、出来上がった小さなラーメンを幸せそうな啜る。

 

 そうあれはミニラーメンと呼ばれる、食べ方だった。

 そうかだから藤原はバリカタと言う麺を頼んだのか。

 レンゲに入れた汁に麺を付ければ程良くほぐれ美味くなる。

 それに自分の好きな具材を一気に食べる事が出来る。

 

 藤原はやはり食える側だったのか。

 一見素人ぽく見えるが、彼女は食う事に慣れたプロという事が素人の俺にも理解出来た。

 

 

 俺も彼女の食べ方を真似て食べてみるとまた違った美味しさをわかった。

 

 

「ここ滅茶苦茶、美味いな。」

 

 

「そうでしょ! 川田君を連れてきて正解でした〜」

 

 

 藤原が嬉しそうに言う。

 そんな顔されたらこっちも嬉しくなる。

 そして藤原は凄く美味そうに食べる。

 こんな幸せそうに食べてくれたら、作った方は本望だろう。

 そんな彼女を見ていると、不思議に思ったのか藤原が

 

 

「どうかしましたか?」

 

 と言ってきた。

 

 

 

「いや、美味しそうに食べるなぁと思って」

 

 

 藤原は顔を赤くをしてこう言ってきた。

 

 

 

「そんな顔してました!?」

 

 

「してたぞ、こっちまで嬉しくなりそうなくらい」

 

 

 藤原が照れている。

 最近は弄られっぱなしだったからちょっと仕返しが出来た。

 俺も幸せな気分になっていると藤原がニヤニヤしながら携帯を見せてきた。

 

 

「そう言う、川田君も美味しいに食べてましたよ!」

 

 

 携帯に写っていたのは美味そうにラーメンを食う俺の顔だった。

 

 

「いつの間に撮ったんだよ」

 

 油断も隙もない。

 こんな顔している写真だからいつまでも弄られるに違いない。

 

 

「隙を見せた方が悪いんですよ!」

 

 

 藤原がそんな暴論を言ってくる。

 クソ、俺も藤原が食べている時の写真撮っとけば良かったと後悔した。

 それから俺達は楽しく会話しながらラーメンを食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして俺達は店を出た。

 会計は俺が払った。藤原はいいと言ってくれたが俺が無理矢理払った。

 何かお礼をしたかったのもあるし、それに意外と安かった。

 もっと高級な場所に連れていかれたら、こうもなってないだろう。

 

 

「今日はありがとう」

 

 

「いえいえ、こちらこそご馳走様です」

 

 

 藤原が笑顔で言ってくる。

 やっぱり藤原の笑顔は何故かこっちも嬉しくなる。

 俺は少し照れながらこう返した。

 

 

「何かお礼をしたかったしさ、けどこんなんで大丈夫か?」

 

 

「はい、楽しかったし大丈夫です」

 

 

「俺も楽しかった」

 

 

 それに久しぶりの美味いラーメンも食べれた。腹も膨れ幸せな気分になっていた。

 空はもう真っ暗になっていた。

 時計の針はもう20時を指していた。

 

 

「もう遅いし送るぞ」

 

 彼女が迷惑じゃなけばの話だが

 

 

「じゃあ、近くまでお願いします」

 

 

 藤原が当然のように俺の自転車の荷台に腰を下ろす。

 

 

「いやいや、もうやらないぞ」

 

 

 俺がそう言うと。

 

 

「私、門限があって急いで帰らないと。」

 

 

 藤原がニヤニヤしながら言ってくる。

 クソ、やっぱり歩いて帰るより二人乗りの方が早い。

 

 

「今回だけだぞ」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 藤原が太陽な笑顔を見せてきた。

 そんな顔をされたら断れないだろう。

 

 俺はペダルに足をやった。

 

 

 

 

 

 

 

 藤原を送って、俺は自宅に帰ってきた。

 

 母さんが今日も言ってきた。

 何かいい事であったかと。

 俺は「あったよ」と返して布団にダイブした。

 母さんが後ろでうるさくなっていたが無視をした。

 

 携帯のメーセッジに1枚の写真が送られて来ているのがわかった。

「また、行きましょう!」と、藤原からだった。

 写真はさっき見せてきた俺の写真だった。

 いつか絶対写真を消してやろうと思い俺はそこで睡魔に負けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから4ヶ月、春が来ていた。

 俺と藤原が2年生に進級していた。

 あれから俺達は普通に仲良くし楽しい毎日を送っていた。

 最近は藤原が忙しく会えていなかったが、今でも放課後会ったりもするし、休日遊んだりもする藤原との関係はまだこれからも続いていくだろう。

 

 

 他に一つ何かあるとしたら俺は部活を辞めた。

 もともと楽しく出来れば良かったし毎回、無理矢理行っていたもんだ。辞めて後悔はしていない。

 それにバイトや勉強に時間を分けれるのだこれで良かっただろう。

 

 

 まぁ、それでも進級は危うかったが。

 藤原は多分、余裕だっただろう。

 俺は何とか必死に勉強して進級出来た。

 人間やれば何とかなるんだろう。

 

 俺はそんな事を考えて授業を受けていた。

 

 

 

 

 

 放課後グランドに向かった。

 今でもこれは続けている。

 正直、言って俺はまだ部活での未練があるのかもしれない。

 だから俺はもうする事ないサッカーの練習を続けている。

 まぁ、もう辞めてしまったのだから何も言えないが。

 するとグランドの傍から視線を感じた。

 今日も藤原と帰る約束をしていたから藤原だろう。

 俺はその視線に目をやった。

 

 

 

 その視線は藤原ではなかった。

 

 

 

 黒髪を後ろに束ね赤い瞳をしている四宮さんが視線の正体だった。

 四宮さんはあの時よりも少し親しみやすい感じだった。

 あの頃はまだ髪を下ろし少し近寄り難いオーラがあった。

 そんな彼女も今は生徒会としての力を発揮しつつ生徒会長、白銀御行

を支えている。

 

 

 俺は四宮さんと初めて会った日から、半年以上たっているんだなぁと思い返していた。

 そしてまだ告白も出来ていない。

 

 

 そんな彼女が目の前にいる。

 何をしているのだろう?

 そんな事を考えていると彼女が喋りかけてきた。

 

 

 

「貴方、川田君ですね?」

 

 

 彼女はまだ俺の事を覚えていた。

 俺は嬉しくなりつつこう返した。

 

 

 

「そうですよ」

 

 

「そう、よく藤原さんが口に出していたから。」

 

 

 そういう事か、藤原は四宮さんと同じ生徒会だった。

 それによく藤原はも四宮さんとは仲がいいと言う。

 俺の事で何か聞いて無意識に覚えていたのだろう。

 

 

「藤原が、俺の事で何か言うんですか?」

 

 俺は純粋に疑問だったので聞いてみた。

 

 

 

「ええ、よく口にしてるわ川田君は優秀とか」

 

 

 四宮さんが少し笑いながら言った。

 その笑みに見惚れるつつ俺は嬉しくなった。

 

 

「そんな事言ってんのかあいつ、けど悪口も多いでしょう?」

 

 

 俺も笑いながら言った。

 

 

「そんな事はないわよ、けど貴方といる時の藤原さんきっと楽しいでしょうね」

 

 

 四宮さんがそう言ってきた。

 藤原が楽しいならこっちも嬉しいが、俺も藤原といる時は楽しい。

 その時チャイムが鳴った。

 17時を回っていた。

 

 

「私はもう帰ります、貴方も早めに帰りなさい」

 

 

 そう言って四宮さんは帰って行った。

 

 俺は帰りの支度をし校門で藤原を待つ事にした。

 今日は久しぶりに四宮さんと喋れた。

 まぁ何も進展はなかったが、それでも彼女と喋れたのだ嬉しくない訳がない。

 

 

 

 すると藤原がやって来た。

「何かいい事でもありました?」と、聞かれた。

 お前は俺の母さんかと思いながら俺はこう返した。

 

 

「あったぞ」と

 

 横で藤原がうるさくなっていたが、無視をして俺達は帰路についた。

 

 

 

 

 



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7話

4月の事。

 

 

昼休み。

俺はいつものベストポジションで昼飯をとっていた。

此処には俺以外の生徒はおらず少々寂しい場所だが、俺にはぴったりだ。

 

 

4月の風が涼しい。

やはり春と言うのは気持ちがいい。

今の季節では、教室のエアコンが憎くないぐらいだ。

やはり、飯は1人でゆっくり食うのが一番だ。

教室にいるクラスメイト達にも教えたいぐらいだ。

だが、1人で食べるのはやはり寂しい。

俺がぼーっと空を眺めていると、2羽の小鳥達が木にとまっていた。

 

 

2羽は互いの羽を共に毛繕いしたり、小さな鳴き声で喋ったりしていた。

チッ、鳥までリア充かよ。

2羽達は1人の俺への当て付けかのようにイチャイチャしている。

俺はイラついたので、スーパーで買った激安食パンをちぎり、近くに捨ててやった。

すると、2羽は食パンを加えて飛んで行ってしまった。

 

 

現金な奴らめ。

 

 

リア充で思い出したのだが、俺は冬が一番嫌いだ。

寒くて動く気力が奪われる。

それに、クリスマスシーズンと事もあってか町中、カップルだらけだ。

そんな連中を見たら俺は苛立ちを覚え、家の炬燵で涙を流す。

彼奴らは、一人で炬燵とみかんの魅力を分からないらしい。

そんな連中を見て俺は優越感に浸かっている。

けっして、強がりではない。

彼奴らに少しも嫉妬している訳ではない。

 

 

もう一度言うが、決して嫉妬してる訳ではない。

 

 

 

「リア充滅びねぇかなぁ」

 

と、ぼそっと呟いた。

さっきの鳥達の鳴き声が聞こえた。

負け犬の俺を嘲笑うようだった。

 

 

 

「あれ、川田君?」

 

 

そんな惨めな心象に浸かっていると、俺を呼ぶ藤原の声がした。

こんな寂しい場所だが、藤原がいたらもう寂しくないだろう。

 

 

「よお、藤原。」

 

 

俺がそう返すと藤原が「オッス!」と返してきた。

 

辞めろ、可愛いだろうが。

 

 

「今日も此処で食べてるんですね」

 

 

「あぁ、風が気持ちいいぞ」

 

 

藤原が当然のように俺の横に座った。

「気持ちいいですね〜」と風でなびく髪を抑え言っている。

 

コイツ、喋らなければ可愛いのにっと、藤原の横顔を見て失礼な事を考える。

 

 

「今日はお弁当じゃないですね」

 

 

「作るのもめんどいしな。それに今日は食パンが安かった。」

 

 

俺は、半額60円!という値札が付いた5枚入り食パンを藤原に見せた。

もちろう、ジャムもバターもない。

そんな俺の食事情を見た藤原は、哀れみの目を俺に見せてきた。

 

辞めろ、そんな目で俺を見るんじゃない。

それに、何も付けない食パンも美味いぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

今日はバイトがあるので、早めに帰ろうとしていた。

部活を辞めた俺のバイト事情は、ブッラク社員のようなスケジュールだ。

最近、俺は過労死しないかと母さんに心配される程だ。

まぁ、若いのでまだ大丈夫だろう。

そんな重い話を軽く考え、俺は駐輪場の自転車を出していた。

すると駐輪場近くの自販機の前に見覚えのある顔があった。

 

不治ワラちゃん、今日二度めのエンカントだった。

 

 

「何、やってんだ?」

 

 

俺は藤原に声をかけた。

ビクッと彼女の肩が震えた気がした。

 

藤原は俺の声に驚き俺の顔を見た。

 

 

「びっくりしましたよ、川田君。」

 

 

辞めろそんな顔されたら傷ついて泣くから。

 

 

「川田君、影薄いですもんねー」

 

 

藤原がトドメを刺して来た。

笑顔で言ってるから、冗談だと信じたい。

まぁ、冗談だとしても俺の心はもうズタボロだが。

 

 

「それで、藤原何しての?」

 

俺はもう耐えきれなかったので、元の話に戻す事にした。

 

 

「部活のみんなにパシらされてるです。」

 

 

藤原がわざとそうな、泣き演技をして言ってきた。

 

大方、じゃん負けだろう。

だがそれは良いとして。

部員分の飲み物を運ぶのは少し辛いだろう。

 

 

「運ぶのは手伝おうか?」

 

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 

俺の申し出は却下された。

彼女が大丈夫と言っているのだから、大丈夫だろう。

だが、藤原はこんな提案をしてきた。

 

 

「川田君、ゲームしませんか?」

 

 

「ゲーム?」

 

 

何のことだろう?

すると彼女はわざとらしく、ジュースが飲みたいと言ってきた。

俺はそうゆう事かと理解出来た。

 

 

「俺、別にジュース飲みたい訳じゃないけど。」

 

 

「負けるのが怖いですか?」

 

 

と、藤原が安い挑発をしてきた。

誰がそんな挑発にのるか。

まぁでも、さっきの事もあるしこの勝負受けて立とう。

 

 

「いいぞ、絶対買って高いジュースを奢ってもらうから。」

 

 

「性格悪」と、藤原が嘆いていたが勝負には絶対負けられない。

俺を馬鹿にした事、後悔させてやる。

 

 

「けど、何のゲームで勝負するんだ?」

 

 

此処にはトランプやオセロなどもない。

一体、どんなゲームをするのだろう。

もし、じゃんけんで勝負だとしたら俺に勝率は無いだろう。

俺はじゃんけんが死ぬ程弱い。

 

 

俺がそんな事を考えていると、藤原は何か決めたのかゲーム名を言ってきた。

 

 

「NGワードゲームで決めましょう。」

 

 

「NGワードゲーム?」

 

 

「はい、相手に言わせたい言葉を紙に書いて相手が言ったら勝ちと言うゲームです。」

 

 

初めて聞いたゲームだった。

だが、ルールを聞いても簡単そうだった。

これなら俺でもやれるだろう。

 

 

「それで決めよう。」

 

俺の闘志は燃え滾っていた。

たとえ、藤原が相手でも容赦しない。

 

 

藤原がポケットに入っていた、メモ帳を一枚千切り、ペンをくれた。

 

 

「これに書いて下さい。それで私と川田君が書いたNGワードを交換しましょう。」

 

 

 

「貰った紙は見たらダメですよ〜」と藤原がルールを教えてくれた。

俺は貰った紙にNGワードを考えていた。

だが、これが難しい。

このゲームは相手が普段から使っている言葉を書いて方が圧倒的有利。

いかに俺が藤原を理解しているかが試されるゲームだ。

 

 

何だ?藤原が普段からよく喋っている言葉は。

藤原は基本、敬語で喋る。

此処は妥協に、〜ですとか〜しましたとかの言葉が無難だろう。

いや、でも待て。

このゲームは藤原から提案してきた物。

何らかの策はあるはずだ。

それに敬語と言うのは普段からの予想が付きやすく、もしかしたら口調を変えてくるかもしれない。

俺は攻めに出る事にした。

 

 

「書けたぞ。」

 

 

「私も書けました。」

 

 

互いのNGワードを交換する。

俺が書いてNGワードは川田だ。

藤原は俺の事を君付けで呼ぶ。

口調を変えてくるかもしれないと思ったからの策だ。

勿論、藤原が書いたNGワードは分からない。

このゲームは相手を誘導するのが鍵。

 

 

さぁ、どう来る藤原?

先に仕掛けたのは藤原だった。

 

 

 

 

「今から、バイトですか?」

 

 

クソ、俺の予想が外れた。

だが俺がNGワードに誘導したらいいだけの事。

いや、待って。

藤原から呼び捨てにされるのは中々難しいぞ。

彼女は基本、敬語。

それに今まで呼び捨てにされた事もない。

 

 

 

これ、無理ゲーじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

すると藤原は何か思い出すような顔をした。

 

 

 

「私、ついさっき川田君を職員室まで連れてくるようにって先生からお願いされました。」

 

 

「えっ、マジ?」

 

 

「はい、先生から藤原、川田を呼んで来いって〜」

 

 

 

 

マジかよ今からバイトがあるのに。

これは急いで、職員室に寄らなければまたグチグチ煩いだろう。

 

 

それと

 

 

「ドーンだ!藤原!」

 

 

「えっ、」

 

 

藤原は驚いた顔をした。

多分、職員室の呼び出しが無かったら負けてただろう。

この時だけ少し感謝した。

 

 

「紙、見てみ。」

 

 

そこには川田と書かれていた。

 

 

「負けました。」

 

 

藤原が落ち込むように倒れこんだ。

唇を噛み、悔しそうにしている。

俺は気持ちが良かった。

いつも藤原に負けているようなもんだ。

 

 

こんな時は、何か飲み物でも飲みたくなる。

今は都合がいい事に目の前に自販機がある。

俺は財布から小銭を出し、缶コーヒーを買おうとした。

だが俺は間違えてミルクティーを買ってしまった。

 

 

 

「間違えて買ってしまった。藤原、ミルクティーいるか?」

 

 

 

藤原は笑顔でこう言ってきた。

 

 

 

「川田君、わざとらしいですよ」

 

 

「いらなかったらいいぞ」

 

 

「いえ、ありがとうございます」

 

 

藤原は俺の手のミルクティーを受け取った。

それと俺が持っていたNGワードを藤原に返した。

結局、藤原が書いたワードは分からなかった。

俺は藤原が書いたNGワードが気になった。

 

 

「藤原は何て書いたんだ?」

 

 

彼女はまた一層、笑顔を輝かせた。

そして人差し指を口の前に立てこう言ってきた。

 

 

「秘密ですよ。」

 

 

「何でだよ、」

 

 

「秘密な物は秘密ですよ〜」

 

 

彼女がはぐらかす様に言ってくる。

ますます気になる。

そして、そこでチャイムが鳴った。

 

 

あっ、ヤベー

 

 

「藤原、飲み物大丈夫か?」

 

 

「大丈夫ですよ、それに川田君バイトもあるんですから急いでください。」

 

 

 

 

悪いが藤原の言葉に甘えよう。

それにマジで時間がやばい、俺は急いで藤原と別れめんどくさい職員室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風の様に彼は去って行った。

本当はジュースでも奢ってあげたかったが、時間がないのでは仕方がない。

 

 

 

4月の風が心地いい。

そして綺麗な夕日も見えてくる。

私は少し、その夕日を見ていた。

そしてさっきの事を思い出す。

 

 

「藤原は何て書いたんだ?」

 

 

 

聞かれたが秘密な物は秘密だ。

そして彼から返して貰った紙を見る。

そこにはさっき、私が書いた文字が何変化も無く書かれていた。

このNGワードがいつか彼に届くだろうか。

それはまだ分からない。

 

 

 

 

 

 

 

4月だが少し肌寒い。

私は彼から貰った、ミルクティーを口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「川田君、ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

彼から貰ったミルクティーはとても甘く温かった。

 



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8話

 恋。

 

 

 それはある特定の人物に強く惹かれ相手の事を強く思い心が苦しくなる物だと思う。

 恋なんて俺はするはずが無いと思っていた。

 フィクションとか創作物のおとぎ話だと思い、今までそう生きてきた。

 

 

 

 

 そんな俺はあの人に恋をした。

 一目惚れとかドラマかよと、今でも馬鹿馬鹿しく思う。

 それでも俺はあの気高く強い竜に恋をした。

 いつか届きたいと思うが俺と四宮さんでは、天と地ほどの差だろう。

 

 

 

 

 

 

 それでも届かない俺は貴方に恋をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 

 俺はいつも通りの場所で藤原と飯を食い、駄弁っていた。

 

 春の日差しが気持ちいい。

 バイト明けの体に染みる。

 それに腹が満ちて、眠気が襲ってくる。

 もう、ニートになりたい。

 

 

 

 もうこのまま寝てしまおう。

 俺は目を閉じた。駄目だもう数秒で睡魔に殺されるだろう。

 そんな俺を隣のピンク髪は許さなかった。

 そして耳元でこう言ってきた。

 

 

 

「午後からの、授業があるので寝たら駄目ですよ」

 

 

「藤原、今の俺はもう止められないぞ。もう寝る」

 

 

 それこそ、隕石でも降ってこない限り俺は起きないだろう。

 

 

 

 

「ペス、もう俺は疲れたよ」

 

 

 今の俺はあの有名アニメの最終回のようだった。

 藤原の家で飼っている、可愛いペスの横で昇天したい。

 

 

 

 もう駄目だ、アーメン。

 

 

 

 

「まだ、逝くのは早いですよー」

 

 

 と、藤原が俺の肩を揺らしてくる。

 普段は天使の藤原が悪魔に見える。

 

 

 

「今度、うまい棒上げるから寝かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 藤原は、安っ!と愚痴を言う。

 馬鹿野郎。うまい棒美味いだろう。

 最近は俺のご飯のお供だぞ。

 

 

 

 余談だが、俺はたこ焼き味が一番好きだ。

 

 

 

 

 

 すると藤原は急に大人しくなった。

 やはりうまい棒の魅力に負けたのだろう。

 これで気持ちよく、安眠出来る。

 俺は安心し再び目を閉じた。

 

 

 駄目だ、もう落ちる。俺は数秒で睡魔に負けた所で右耳から生暖かい風がやって来た。

 俺はその風に驚いた。

 

 

 

 

「お前、何してるんだよ!」

 

 

 

 藤原は自分の息を俺の耳にかけて来たのだ。

 

 

 マジで、焦った。

 俺はあの感覚にぞわぞわしつつ藤原の顔を見た。

 

 

 その顔は、満面の笑みだった。

 

 

 

 

 コイツ、マジで頭大丈夫か?

 

 

 

 

 

 

「でも、目が覚めたでしょう?」

 

 

「おかげさまでな」

 

 

 

 俺は鬱憤ばらしに自販機で買った缶コーヒーを飲み込んだ。

 

 

 駄目だ、クソ不味い。

 だがこれが一番目が覚める。

 舌には、まだ化学兵器みたいな苦味が残っている。

 

 

 

 俺がその苦味に顔を歪めていると、藤原はまた笑い始めた。

 

 

 

 クソ、誰のおかげでこうなったんだか。

 

 

 

 ある程度してから、藤原はまた違う顔をしてきた。

 眉間に皺を寄せて俺の顔をじーっと見てくる。

 そして、何か解ったのか顔をアッ! とした。

 

 

 

 

「前から、誰かに似てると思ってましたけど川田君、会長に似てますね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤原は今、何と言った?

 会長と似ている。

 会長と言うのはあの白銀会長の事だろうか。

 もしそうだとしたら、何処が似ているのだろう。

 

 

 

 

 

「何処がだよ」

 

 

 

「目元もそっくりなんですけど。何と言うか、雰囲気も似てるんです」

 

 

 

 

 

 藤原が「目元のクマとかそっくりです!」とか、言っていた。

 何故かそんな言葉に俺は腹が立った。

 

 

 

「俺と白銀会長じゃあ、比べ物にならないだろう」

 

 

「そうですか?川田君は会長が持ってない、良い所がありますよ」

 

 

 

 藤原がそう言ってくる。

 俺の良い所?

 そんなの、白銀会長に比べたらクソみたいなもんだ。

 それに俺は頭も良くない。家柄も悪い、そして混院だ。

 何処が似ているのだろう。

 

 

 

 

 俺は考えるのがめんどくなって藤原より先に校舎に戻ろうとした。

 

 

 

 

「何で怒ってるんですか?」

 

 

 

 と、藤原が当然の反応をしてくる。

 何故、俺は苛ついているのだろう。

 理由がわからない。

 

 

 

「怒ってねぇよ」

 

 

 俺は優しい藤原に強く当たった。

 

 

 

「何か気に触る事をしたなら謝ります。ごめんなさい。」

 

 

 

 藤原の優しさが痛い。

 だがこの苛立ちは治らなかった。

 

 

 

 

「悪い。先に戻るわ」

 

 

 

 

 

 

 俺は藤原の呼び止めを無視して校舎に入った。

 

 

 

 

 此処からでは見えなかったが藤原が哀しそうにしてるのが痛い程分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎に戻り、俺は廊下を歩いていた。

 

 

「似てるんです」

 

 

 藤原の言葉が脳に焼き付く。

 

 

 消えろ。消えろ。消えろ。

 

 

 だがその言葉が忘れられない。

 そしてその言葉に無性に腹が立つ。

 

 

 

 

 俺と白銀会長が似てる?

 馬鹿馬鹿しい。

 俺とあの人では天と地程の差がある。

 似てる訳が無い。

 其れこそ、俺は四宮さんと同じくらい会長と差があるだろう。

 

 

 その事実にまた苛立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は奥から歩いてくる生徒2人にやっと気づいた。

 よく見ると、近くの生徒達がヒソヒソ話していた。

 当然、歩いてくる2人を俺も確認出来る。

 その2人の人物を知らない生徒はこの学園には居ないだろう。

 

 

 

 

 

 白銀御行と四宮かぐや。

 

 

 

 

 この学園の生徒会長と副会長。

 圧倒的な空気がこの場を支配する。

 

 

 

 お似合いだとか、

 神々しいとか、

 2人は付き合ってる、とかの言葉が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして2人は歩いて行った。

 何処が、俺と似ているのだろう。

 白銀会長と四宮さんはお似合いだ。

 四宮さんの横に立つのはやはり白銀会長だろう。

 そんな事実を思い知らせれてもこんな感情が湧き上がったてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 辞めろ。

 この感情は俺みたいな奴が抱いたら駄目だ。

 

 

 

 収まれ。

 消えろ。

 こんな感情、消えてしまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下にはさっきの騒がしさが嘘みたいに静まり返っていた。

 廊下には1人の俺がいる。

 この世界で俺以外いないようだった。

 

 

 

「絶対、届かない」ボソッと呟く。

 

 

 

 頼むから……消えてくれ。

 それでも黒い感情は消えない。

 

 

 

 

 

 そして俺はさっきの藤原の事を思い出した。

 

 

 

 

 

「ごめんなぁ、藤原」

 

 

 

 

 

 外はさっきの天気が嘘みたいに雨が降っていた。

 俺の心象のようだった。

 いや、この雨は今の藤原の心だろう。

 

 

 

 

 俺は奥歯を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 口の中はまだ苦い味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室。

 

 

 そこでは2人の天才達が会話をしていた。

 

 

 

 

「何やら、私達噂されてるみたいですね。私達が交際してるとか」

 

 

 

「そう言う年頃なのだろう。聞き流せばいい」

 

 

 

「ふふ、そういう物ですか」

 

 

「それと、四宮さっき廊下で知り合いでもいたか?目線が動いていたぞ」

 

 

「ええ、知り合いがいた気がしたんですけど」

 

 

「その知り合いは見つかったのか?」

 

 

「いえ、見つけたら声でも掛けようと思っていたのですが、見つからなかったです。」

 

 

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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9話

 嫉妬。

 

 

 

 

 この感情は、自分より優れている物や、恵まれれた人に対して送る感情だと思う。

 普通に生きてきたなら、誰しも1度は抱いた事のある感情だと思う。

 

 

 

 

 俺も生きてきて、この感情を持った事が何度もある。

 

 なんで、アイツは俺よりサッカーが上手いんだろうとか、

 

 なんで、みんな俺より家が裕福なんだろうとか、

 

 の嫉妬は抱いた事がある。

 

 

 

 

 

 

 だが、今回の嫉妬は俺が、今まで生きてきた中で一番小さい物だった。

 

 

 

 なんだよ、好きな人とお似合いの人を見て嫉妬とか、小学生の方がもっと賢いぞ。

 と思い、してしまった事に後悔する。

 そして俺は今回、大切な人を傷つけてしまった。

 

 

 

「ごめんな、藤原」

 

 

 

 と、俺は自室の布団の上で嘆く。

 藤原は何も悪くないのにあの時、俺に謝った。

 俺はその時の事を思い出して、更に後悔する。

 

 

 

 

 

 明日、謝ろう。

 全部、俺が悪いのだ。

 それに1度で駄目なら、10回、謝ろう。

 

 

 

 

 

 

 俺はそう思い、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、朝。

 俺はいつも通り、朝の準備をして学校に向かった。

 何故だか、体が重かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 

 俺はグランドにいた。

 いつもなら、藤原は来るのだが、今日は来なかった。

 

 

 その次の日も。

 その次の日も。

 

 

 藤原は来なかった。

 俺は大事な失敗をした事に今、気付いた。

 もう、俺は藤原に会えないかと思った。

 家のリビングで頭を悩ませていると、母さんが喋りかけてきた。

 

 

 

「何か、あったの?」

 

 

 と、母さんが言ってきた。

 俺は話す事を迷ったが、その事を喋る事にした。

 母さんが俺の話を聞くと 、

 

「それは、アンタが悪い」と言ってきた。

 

 

 そして、こう付け足してきた。

 

 

 

「アンタ、自分が悪いと思ってても、行動に移してないじゃない」

 

 

 

 と、言われた。

 図星だった。

 別にグランドで待たなくても、藤原に携帯で電話するとか、藤原のクラスに行くなど、選択肢はいっぱいあった。

 

 

 だが、俺は行動に移せていなかった。

 俺は、多分怖いのだろう。

 

 

 

 もし、電話をかけて無視されたらどうしよう。

 教室に会いに行って、居なかったらどうしよう。

 

 

 そんな小さな事に怯えていた。

 藤原は俺に優秀だと言ってくれた。

 けど、そんな俺は謝りにも行けない、弱い俺だった。

 

 

 

 

 こんな俺の何処が、白銀会長に似ているのだろう。

 

 そんな、ネガテイブ思考に浸かっていると、母さんは俺の目を見てこう言ってきた。

 

 

 

「けど、私がこう言っても、最終的に決めるのは自分だよ」

 

 

「それに」と続けてきた。

 

 

 

「最近のアンタ、楽しそうだったじゃない。

多分、その子のお陰だよ」

 

 

 

 

「そうかな」と俺が言うと

 

 

 

「そうだよ、部活を辞めて、心配してたけど。その子のお陰で楽しそうだったよ」

 

 

 

 母さんがそう言うと、キッチンの方に歩いて行った。

 

 

 多分、この後はお前次第と言う事だろう。

 母さんは、最近の俺を楽しそうだったと言った。

 

 

 

 そうだ。

 最近の俺は、学校が楽しかった。

 大好きな、サッカーを辞めても楽しかった。

 

 

 それは藤原が居てくれたからだ。

 そんな、大切な友達に会えなくなるのが辛かった。

 

 

 

 

 

 

 そして俺は決心を固めた。

 

 

 

「母さん、ありがとう。明日謝りに行くよ」

 

 

 

 母さんは「そう」と言った。

 

 

 そして母さんは

 

 

 

「アンタ、今日は家で食べていきなさい。久しぶりに、ご飯作るから」

 

 

 

 

 そう言ってきた。

 

 

 

「家で食うよ。何か手伝おうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 俺達はその後、2人で夕飯を取った。

 久しぶりに食べた、母さんの料理は美味かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤原さん、いる?」

 

 

 近くの生徒にそう聞いた。

 

 

 俺は翌日、藤原のクラスに足を運んでいた。

 俺がそう言うと、近くの生徒達が俺を見てくる。

 そして、ひそひそ話をしていた。

 

 

 

 何だよ、アイツ。

 藤原さんとどういう関係?

 

 

 

 

 そんな声が聞こえた。

 此処に来るのが、怖かった訳じゃない。

 俺は、この学校の生徒達が嫌いだ。

 自分を見下したような目で見てくる。

 そして、今もそのような目で見てくる。

 だが、近くに居た生徒は優しく教えてくれた。

 

 

 

「多分、もう帰ったんじゃないかな」

 

 

 

 俺はその言葉に感謝して。

 急いで、校舎を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎を出た後。

 俺は思いつくような場所をひたすら走っていた。

 

 

 中庭にグランド。

 そこに藤原は居なかった。

 俺は、今日はもう帰ったんじゃないかと思い焦っていた。

 

 

 さっきから藤原に電話を掛けているが俺の安いスマホは、何故だか繋がりが悪い。

 

 

 

 

 

 俺は最後の頼みで駐輪場に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息が上がる。

 5月の暑さを実感して、俺は駐輪場についた。

 

 

 

 

 駐輪場の自販機の前に藤原は居た。

 俺は勇気を出して、藤原に近づいた。

 

 

 

「藤わ」

 

 

 俺が声を掛ける前に藤原は喋り出した。

 

 

 

 

「じゃんけん、しませんか?」

 

 

 急な事を言ってきた。

 俺は意味がわからなかったが、藤原はもう始めていた。

 

 

 

 

 俺は急いで、パーを出した。

 藤原が出したのは、チョキだった。

 

 

 

「なぁ、藤原」

 

 

 俺は謝ろうとしたが、藤原の言葉で遮られてしまった。

 

 

 

「勝ったら、ジュース飲みたくなりますね」

 

 

 そう言って藤原は、自販機で缶コーヒーを買った。

 

 

 

 

「これ、間違えて買ってしまったから、川田君に上げますね」

 

 

 

 藤原が俺の手に缶コーヒーを乗せた。

 俺はそれを受け取り、こう言った。

 

 

 

「ありがとう。けどそれ、わざとらしいな」

 

 

 

 俺は藤原から貰った、缶コーヒーを飲み決意を固めた。

 

 

 

 

「ごめん、藤原」

 

 

 

 俺がそう言うと、藤原はクスクス笑い出した。

 

 そして、

 

 

「別にいいですよ」

 

 と、言ってくれた。

 そして携帯を見て、更に笑い出した。

 

 

 

「何回もかけ過ぎですよ〜」

 

 

 俺はその言葉に顔が赤くなった。

 

 

 

「仕方ないだろ、今日はもう帰ったと思ったし」

 

 

 俺は顔を逸らしながらそう言った。

 

 

 

「それだけ、私に会いたかったんですか?」

 

 

 藤原がニヤニヤしながら、顔を近づけてくる。

 

 

 だが、俺はその顔を逸らさないで見た。

 そして藤原の目を見て喋り出した。

 

 

 

「あぁ、藤原に会いたかった。藤原に会えない日は滅茶苦茶辛かった」

 

 

 そしてこう付け足した。

 

 

 

「だから、本当にごめん、藤原」

 

 

 

 

 藤原の目を見て、頭を下げた。

 何故だか、目が熱くなった。

 俺は知らない間に涙を流していた。

 すると、藤原はハンカチをくれた。

 

 

 

「大丈夫ですよ。それに私もごめんなさい」

 

 

 

 藤原は悪くないのに、頭を下げてくれた。

 

 

 

 

「いや、俺が全部悪い」

 

 

 俺がそう言うと、藤原は俺の顔を見て少し、怒りの顔をした。

 

 

 

「それ、辞めてく下さい」

 

 

「ごめん」

 

 

「川田君、今日は謝ってばかりですね」

 

 

 

 藤原がまた笑い出した。

 やはり、藤原の笑顔は何故だかこっちまで嬉しくなる。

 俺もそこで、笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人で笑った時間がどれくらい続いただろう。

 不思議と今の俺は、さっきみたいな感情は消えていた。

 すると、藤原は俺の目を見て言ってきた。

 

 

 

「川田君が、ずっとグランドに居たのも気付いてました。それなのに私は、先に帰ったりしてました」

 

 

 

 

 

「今日だって、もう帰ろうとしてました」

 

 

 そして藤原は

 

 

「だから、ごめんなさい」

 

 

 謝ってきた。

 

 

「いや、こっちが全面的に悪い。ごめん」

 

 

「川田君、こういう時は両方悪いでいいんです」

 

 

「でも、」

 

 

 

すると、藤原は右手を出してきた。

 

 

 

「これで、この話も終わりです。もっと楽しい話をしましょう」

 

 

「そうだな。藤原、ありがとう」

 

 

 

 俺はその右手を握った。

 そして、藤原は自分の小指と俺の小指を絡ませ、

 

 

「約束破ったら、針千本飲ます〜」

 

 

 と言ってきた。

 

 

 

 

「あぁ、その時は針千本、飲むよ」

 

 

「約束ですよ?」

 

 

 

 俺達はその後、いつも通り、楽しく会話し帰路につこうとしていた。

 

 

「藤原、悪い。今日は先に帰っといてくれ。」

 

 

 俺がそう言うと、藤原は

 

「用事ですか?」と聞いてきた。

 

 

 

 

「あぁ、大きい用事を済ましてくる」

 

 

 

 俺はそう言い、藤原と別れた。

 

 

 

 

 そして俺は、藤原から貰ったコーヒーを一気に飲んだ。

 すると、頭が痛くなった。多分、カフェインの効果だろう。

 だが、不思議と気分は悪くなかった。

 多分、藤原から勇気を貰ったからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその勇気を盾にして、竜に会いに目的地へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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10話

 恋愛は好きなった方が負けだと、誰かが言った。

 

 

 

 

 

 もしそうだとしたら俺は負けなんかじゃ無くきっと、惨敗しているだろう。

 俺は言葉に出来ないぐらいに、あの人に惹かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一目見た日から彼女の事を好きになった。

 好きになった理由は基本、曖昧だと言うが俺ははっきりした理由がわかった。

 

 

 

 

 まず一つ目、俺は彼女の顔が好みだった。

 そんな屑みたいな理由だが、どうか許してほしい。

 正に俺の理想な顔だった。

 

 

 

 綺麗な黒髪。

 意志の強そうな赤い瞳。

 

 

 彼女の目を見た時。

 一瞬で俺の世界は奪われた。

 

 

 

 

 

 そして二つ目。

 

 心の強さに憧れた。

 俺は心が弱い。

 そうだから、俺は彼女に惚れたのだろう。

 何を言われても動じ無く、物事を真っ直ぐに見ている。

 

 

 彼女は世界中の人に何を言われてもきっと動じない、と思うぐらいに強そうだった。

 

 

 

 

 流石にそれは、彼女に失礼か。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えていると、グランドについた。

 

 

 

 

 俺は少し久しくなった練習をした。

 

 

 

 ボールを地面に置き。

 そして、助走をつけボールを思いっきり蹴った。

 

 

 

 

 

 何時も蹴る場所より、少し離れて蹴ったが、ボールは理想なコースに飛びゴールに入った。

 

 

 

 俺は、やってみるんだなぁと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、何本蹴っただろう。

 途中から数えていなかった。

 空はもう綺麗な夕日が出ていた。

 

 

 

 あの日も、こんな感じだったと思う。

 俺がそう思い返していると、何処からか小さな拍手が聞こえた。

 

 

 

「全部、入っていましたね」

 

 

 

 グランドの脇に彼女はいた。

 一人でパチパチと、手を鳴らしていた。

 いつもは会えない、四宮さんがそこに立っていた。

 だが、俺は今日はなんとなく会える気がしていた。

 そして、俺はその言葉に返した。

 

 

 

 

「今日は、調子がいいみたいです」

 

 

 

 

 俺は、小さく笑いそう言った。

 すると、彼女も少し笑ってくれた。

 俺がその顔に見惚れていると、彼女はこう言ってきた。

 

 

 

「最近、川田君見かけなかったから。久しぶりですね」

 

 

 

「はい、最近は少しサボりがちで」

 

 

 

 

 彼女が嬉しい事を言ってくれた。

 俺の事を気に掛けてくれていた。

 俺は嬉しさで顔をニヤつけていると、彼女はまた笑った。

 

 

 何故だか、今日の四宮さんはよく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空は、夕日が消え暗くなっていた。

 俺達は、その後も色々な事を喋っていた。

 初めて四宮さんとこんな話した気がする。

 

 

 

 俺はこの時間が永遠に続けばいいな、と言う理想を抱く。

 

 

 

 だが、時間は残酷で別れの時がきた。

 

 

「もう、遅いので私は帰ります。川田君も練習、ほどほどにしなさい」

 

 

 彼女がそう言って、足を進めようとした。

 

 

 

 俺はそんな彼女を呼び止めた。

 

 

 

 

「どうしたんですか?」と、彼女が俺の顔を見て言ってくる。

 

 

 

 

 

 

 俺は彼女の目を見て喋り出した。

 

 

 今から言うのは全部、俺の戯言だ。

 

 

 

 

「大事な話があるんです」

 

 

 

 緊張で声が裏返りそうになる。

 心臓も、張り裂けそうだった。

 

 

 

 俺は前に、告白できる奴は尊敬できると言ったが、撤回しよう。

 こんな勇気がいる事をできるのだ、彼等は勇者なんだろう。

 

 

「あの……」

 

 

 

 俺は言葉に詰まらせていた。

 そんな自分が情けなかった。

 やはり、俺は怖いのだ。

 この想いは、絶対届かないと理解していた。

 

 

 していたが、俺は少し期待していたのかもしれない。

 

 

 

 もしかしたら付き合えるかもしれない。そんな、気色の悪い事を想像する。

 けど、許して欲しい。

 誰だって、好きな人と結ばれたい。

 もし、恋愛に勝ち負けがあったとしても、俺は負けてもいい。

 例え負けたとしても結ばれたい。

 

 

 

 俺が手を引っ張っるなんてカッコイイ事は言えない。

 むしろ、弱い俺だから手を引っ張って欲しい。

 その関係が対等じゃ無くてもいい。

 

 

 

 俺は彼女より下でいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 悪い癖のネガテイブ衝動に駆られる。

 この癖はもう一生治らないだろう。

 沈黙がどれくらい続いただろう。

 俺は下を見て、黙っているだけだった。

 情けない時間が続いたせいか、彼女の様子が気になった。

 

 

 そして、俺は彼女の顔を見た。

 

 

 

 

 

 彼女の顔は、無表情だった。

 一見、冷たそうな顔だが、俺の目を離さず見てくる。

 さっきから俺は逸らしてばかりの目を彼女は、離さず見てくる。

 その赤い瞳に、凍りつかせらそうだ。

 

 

 

 だが、俺はその瞳を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきから、何してるだ俺。

 自分の不甲斐なさに嫌気がさす。

 もう、みっともないところは見せられない。

 そして、俺は喋り出した。

 

 

 

「四宮さん」

 

 

 

 沈黙が返答だった。

 

 

 

 

「四宮かぐやさん」

 

 

 

 

 勇気を出せ。

 もう、今日で決着を決めるんだろう。

 それに思い出せ、大切な友達が俺に言ってくれた事を。

 

 

「もっと、自信を持って下さい」

 

 

 

 俺は藤原からの言葉を思い出し、覚悟を決めた。

 

 

 

 

「四宮かぐやさん、貴方の事が好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 静寂の世界が俺達を包んだ。

 けど、さっきみたいな情けなさはなかった。

 

 

 

 そして俺は四宮さんの顔を見た。

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 

 彼女はさっきと、変わらない表情でそう言って「それじゃあ。」と言って去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランドに1人残される。

 さっきの幸せな世界が嘘みたいだ。

 結果はわかりきっていた。

 それでも、この気持ちに決着が付いたのだ。

 心は軽くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 それでも、少し目から涙が出た。

 その涙は拭いても拭いても出てきた。

 人間、本当に悲しかったら小さく泣くらしい。

 

 

 

 

 俺はボールを蹴った。

 

 

 

 

 

 ボールはゴールから大きく外れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきみたいに、入れよ。」

 

 

 

 

 

 俺はその後、大きく泣いた。



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最終話


これでラストです。


 ある日の事。

 

 

 

 

 俺は藤原に手を握られ廊下を歩いていた。

 

 

 どうしてこうなった。と俺は思う。

 周りの生徒が俺達の事を見て、ヒソヒソ話っている。

 羞恥心が凄い。俺は子供かよ、と思っていた。

 

 

 

「藤原、恥ずかしいだけど」

 

 

 

 俺がそう言うと、藤原は足を止めずに言ってきた。

 

 

 

 

「私も恥ずかしいですけど、こうでもしないと川田君逃げますよね?」

 

 

 

 

 図星だった。

 この状況になったのは俺に理由があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部活にもう一回入りたい」

 

 

 

 

 俺は入部届けを手にして、藤原にそう言っていた。

 ついさっきの事だ。

 昼休みに藤原と弁当を食べている時に、俺はそう打ち明けた。

 

 

 

 藤原がどうして一回辞めたサッカー部に戻りたいのかを聞いてきた。

 

 そうだ。俺はもう部活を辞めている。

 

 だが、心の底には後悔が残っていた。

 サッカーは俺にきっかけをくれたのだ。

 この学校は嫌いだが、俺に入学する機会をくれた。

 学校の学費が高く、行き先を迷っていた俺にサッカーは希望をくれた。

 そして俺は、サッカーが好きだった。

 続けてきて、後悔なんてした事がなかった。

 

 

 

 

 俺はそんな物を中途半端に投げ出していた。

 

 

 

 

 

 

 勿論、ここの部活は嫌いだ。

 全員ではないが、俺の事を差別してくる奴が多い。

 前までの俺はそういう輩しか知らなくて、何で此処に来たのだろうという後悔などがあった。

 

 

 けど、今は違う。

 俺の事を対等に見てくれる人がいた。

 俺の友達になってくれる人もいた。

 2人以外にも、俺に優しくしてくる人もいる。

 

 

 だから、俺は部活に戻ろうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 部員がなんだ。

 顧問がうざい。

 練習をさしてくれない。

 

 

 そんな小さな理由で俺は逃げまわっていた。

 だがあの日、あの人に振られてから決心がついた。

 俺もあの人の様に強くなろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今の俺は入部届けを職員室に出しに行く途中だ。

 恥ずかしい話だが、俺は藤原について来て欲しいと頼んだ。

 それを藤原は快く受け取ってくれたのが、今の現状である。

 恥ずかしい。17にもなって俺は職員室に一人で行けないのか。

 さっき藤原が言った事だが、多分俺1人だったら逃げだしているだろう。

 

 

 

 

 

 

 けど、今は藤原がいる。

 俺の前に立ち、目的地にまで引っ張ってくれている。

 もう一度言うが、とても情けなかった。

 

 

 

「藤原」

 

 

 

 俺がそう言って、藤原の横に立った。

 すると藤原は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「でも、手は握ってるんですね」

 

 

「怖いからな」

 

 

 

 

 もう周りの奴らなんて気にならなかった。

 そうして、俺達は目的地についた。

 心臓の鼓動が速くなった。

 それに汗も大量に吹き出てきた。

 

 

 

 もし、高木達に殴られたらどうしよう。

 

 練習が出来なかったらどうしよう。

 

 みんな俺の事を変な目で見てきたらどうしよう。

 

 

 

 

 そんな嫌な考えに支配される。

 俺は藤原の手を強く握った。

 

 

 

「川田君、手汗凄いですね」

 

 

 

 女子にそう言われた。

 つい最近出来た、トラウマランキングの2位に入りそうだった。

 まぁ、1位の方が遥かに辛かったが。

 

 

 

 

「ごめん。嫌なら、手でも洗ってきてくれ」

 

 

 

 

 俺がそう言うと、藤原は強く手を握り返してきた。

 

 

 

 

「別に嫌じゃないですよ。けど、そろそろ覚悟を決めて下さい」

 

 

 

 

 

 藤原が俺の目を離さずそう言ってきた。

 そんな、かっこいい問いに俺は答えた。

 

 

 

 

「あぁ、行ってくる」

 

 

 

 

 俺がそう言って、藤原の手を離した。

 

 

 

 

「親鳥の気持ちって、こんな感じなんですかね」

 

 

「お前は俺の母さんか」

 

 

 

 

 俺は親鳥と別れ職員室の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職員室の独特な匂いを感じる。

 書類、コーヒーの匂いが混じった様な匂いだ。

 匂いだけ言ったら、俺は此処が好きだ。

 まぁ、匂いだけの話だが。

 

 

 

 入って間もなく、近くの先生が俺の学年クラスなどを聞いてきた。

 俺はそれを適当に答え、顧問の席まで行った。

 幸いな事に職員室に顧問は居てくれた。

 近くまで寄ってきた俺を顧問は睨んだ。

 だが、今の俺にはそんな攻撃は効かない。

 

 

 

 藤原に「目付き悪いですね〜」と、言われた俺の目で顧問を睨み、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「入部届けです」

 

 

 

 

 

 

 

 俺はそれを、顧問の机に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが先週あった事。

 そして、今の俺は部活の部室にいた。

 多くの部員がユニフォームなどに着替えている。

 俺も制服を脱ぎ、ユニフォームを着ていた。

 

 

 

 戻ってきたのか。と、俺は感傷に浸かっていた。

 期間としてはそれ程長くないが、俺は懐かしく感じていた。

 部室に入る時に、部員にチラチラ見られ何やら言われたりした。

 そして今も、何か言われている。

 

 

 

「変わってるよな」

 

「辞めたんじゃなかったけ?」

 

「もう2年だぞ」

 

 

 

 

 そんな声が聞こえる。

 だが、今の俺にはそんな言葉は気にならなかった。

 俺は少しでも強くなれたのだろうか?

 そんな事を考える。

 それに、嬉しい事に3年の高木達はもう部活を引退していた。

 するとチャイムが鳴った。

 部活の開始時間だ。

 さっきまで、喋っていた奴らが急いで部室を出て行く。

 そんな部員達を眺め、俺は最後に部室を出た。

 

 

 

 

 

「なぁ」

 

 

 

 もう1人残っていた奴が喋りかけてきた。

 何か、めんどくさい事を言われるのだろうか。

 俺はその声に適当に答えた。

 

 

 

 

「何だよ?」

 

 

 

 すると、そいつは俺の方へ寄って来てこう言ってきた。

 

 

 

「今日のペア練、俺とやらね?」

 

 

 

 そいつは俺にそう言ってきた。

 多分、今日のペア練習の事だろう。

 何故俺を指名したがわからないが。

 すると、そいつは続けてきた。

 

 

 

「確か川田だろう? 1年の頃から別メニューしてた」

 

 

「別メニュー?」

 

 

 

 

 俺は疑問だったので、聞き返した。

 

 

 

 

「そう。怪我明けで別メニューしてたんだろう?それで今日から復帰だよな?」

 

 

 

 

 そいつはそんな可笑しな勘違いをしていた。

 俺はそれに、笑うのが我慢出来なかった。

 

 

 

 俺が腹を抱えて笑っていると「何だよ?」とそいつは聞いてきた。

 

 

 

 

 

「あぁ、ずっと大きな怪我をしてた」

 

 

 

 

 

 

 俺は笑いながらそう返して、そいつと部室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、2年生の秋が来ていた。

 

 

 

 2年生ももう終わり。進路の話が頻繁に出てくる。

 それに昨日は三者面談があった。

 母さんは、将来はお前に任せるなんて大雑把な事を言う。

 そんな大雑把に言われているが、俺の進路はもう決まっている。

 この学校に入った頃からもう決めていた。

 俺は母さんと担任にその決意を伝えて、その日の話は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 

 

 

 俺は藤原と、いつもの場所で昼飯を取っていた。

 適当な事を駄弁っていると、話は昨日の三者面談になった。

 

 

 

 

「川田君はもう、進路は決めてますか?」

 

 

「あぁ。プロを目指そうと思ってる」

 

 

 

 

 俺がそう答えると、藤原は「そうですか」と言った。

 俺は聞かれたこともあり、藤原の進路が気になった。

 

 

 

「藤原は決まってるのか?」

 

 

「はい、総理大臣になろうと思います」

 

 

「そうか。藤原ならなれるだろう」

 

 

 

 何故だか藤原ならなれそうな気がした。

 何故だかわからないが。

 

 

 

「冗談ですよ〜」

 

 

「何だ、冗談か」

 

 

 

 

 

 

 すると少しの間、沈黙が続いた。

 

 

 

「川田君の中で私はどんな存在なんですか?」

 

 

「ピンク髪のヤベー奴」

 

 

 

 

 俺がそう答えると、頬を叩かれた。

 綺麗な平手打ちだった。

 まだ平手打ちで助かった。

 これが綺麗な右ストレートだったら、俺は多分死んでいただろう。

 まぁ、ヤベー奴と言ったのは少々失礼だっただろう。

 それに、藤原は俺の大切な友達だ。

 これは俺が悪いだろう。

 けど、叩く事ないだろう。

 父さんにも叩かれた事ないのに!

 

 

 

 俺がそんなどうでもいい事を考えていると、藤原が俺に聞いてきた。

 

 

 

 

「部活はどうですか?」

 

 

「意外にも順調にやれてるよ。それに友達も出来た」

 

 

 

 

 

 部活は俺が思ってたより順調だった。

 俺と毎回ペアを組んでくれる奴もいる。

 顧問が俺に小言を言っても、そいつが庇ってくれたりする。

 まぁ、いつも余計な事を言ってくる時もあるが。

 女、女、女、とそいつはうるさい。

 たまに合コンなどにも誘われる。

 ここさえ直せば、完璧な筈なのに。

 それに俺は最近ふられたのだ。

 そんな奴に新しい恋なんて見つかる訳ないだろう。

 

 

 

 そんな色恋沙汰な事を考えていると、藤原がぶっ飛んだ事を言ってきた。

 

 

 

 

「川田君、好きな人いますか?」

 

 

 何を言ってくるんだ、コイツは。

 つい最近無様に敗戦したのだ。

 皆、俺の古傷を弄るのが好きらしい。

 俺は傷に痛まされながら、こう答えた。

 

 

 

「今はいないぞ」

 

 

「そうですか」

 

 

 

 

 

 

 藤原がそう言ってから、少し間が出来た。

 居心地の悪い、空気が流れる。

 俺は地雷を踏んだのかと思い後悔した。

 だって、今はいないんだから仕方ないじゃない。

 

 

 

 

「私の事、好きですか?」

 

 

 

 先に、藤原が喋った。

 

 

 

「私の事、好きですか?」と、藤原は俺に質問してきた。

 そんなの答えは決まっている。

 前もそして今も藤原は俺に優しくしてくれてる。

 何度も言うが、藤原は俺の大切な友達だ。

 そんな奴の事が嫌いな訳がない。

 俺は質問の答えを言った。

 

 

 

 

 

「好きだぞ。いや、大好きかもしれん」

 

 

 

 

 

 流石に大好きはキモかったか?

 もしそうだとしたら、数秒前の俺を殺したい。

 俺が発言の恥ずかしさに悶えていると、藤原が静かになっていた。

 やはり、キモかったのかもしれない。

 俺が発言を取り消そうと口を開いたところで、藤原が先に口を開いた。

 

 

 

 

「それは友達として? それとも、異性としてですか?」

 

 

 そんなものも答えは決まっている。

 

 

 

「両方」

 

 

 

 俺はそう言った。

 我ながら最低な事を言った。

 

 すると藤原は一度溜息を吐き、綺麗な右ストレートを打ってきた。

 

 

 

 

 

 

 あっ、これは死んだわ。

 俺は直感でそう思い、遺言を考えた。

 数秒で、遺言は決まった。

 俺はそれを心の中で思った。

 

 

 

「ごめんな、藤原」

 

 

 

 

 そう思い、0.1秒。

 俺の頬に右ストレートが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、お前はどうすんの?」

 

 

 

 一度死んでから、放課後。

 

 

 

 部活を終えた俺は部室で着替えていた。

 今日も顧問がうざかったが、もう慣れた事だった。

 俺はそれを適当に受け流し、部室にいた。

 そして、隣で着替えているそいつは主語がない事を俺に言ってきた。

 

 

 

 

「なんの話?」

 

 

 

 

 俺がそう言うと、そいつは腹立つ顔をしてきた。

 今度、藤原に右ストレートの打ち方教えてもらうかなぁと、考えた。

 それより先に彼女の機嫌を取らなければいけないが。

 俺がどうやって謝ろうか考えていると、そいつは口を開いた。

 

 

 

「進路だよ、進路。お前はどうすんの?」

 

 

 

 昼、藤原としていた話をそいつは言ってきた。

 これが可愛い藤原なら俺も素直に答えたのだが、俺はコイツに答えるのがめんどくさかった。

 

 

 

「一応プロ目指して、頑張るつもり」

 

 

 

 

 俺がそう言うと、そいつはまた腹立つ顔をしてきた。

 ニヤニヤしてさっきよりうざかった。

 

 

 

 

「俺より下手なお前が?」

 

 

 

 

 痛い事を言われた。

 俺も、推薦を貰えた身だ。

 その辺の同世代よりは上手いと思う。

 けど、コイツは違った。

 遥かに俺より上手かった。

 だが俺はそいつの目を見てこう答えた。

 

 

 

 

「でも、絶対なる。プロからの勧誘が無くても地道に頑張る」

 

 

 俺がそう言うと、そいつも俺の目を見て言ってきた。

 

 

 

 

「じゃあ、先に待ってるわ」

 

 

 

 そいつらしく上から目線で言ってきた。

 まぁ、コイツもまだオファーなどがないのだが。

 

 

 

「お前もまだ、オファーないだろ」

 

 

「時代が俺についてきてないだけだ」

 

 

 

 

 

 髪をなびかせ、そんな気持ち悪い事を言っている。

 コイツのこういうポジティブな所は、俺も見習わなければならないかもしれない。

 ポジティブ過ぎるのも考え物だが。

 

 

 そしてまた、超が付くほどのポジティブ発言をしてきた。

 

 

 

「プロになったら、俺が得点王で川田がアシスト王な」

 

 

 

 そいつは無邪気な笑顔でそう言ってきた。

 10代ルーキーがなれるわけ無いだろう。

 俺はそう思ったが、何故だかポジティブな気持ちになった。

 

 

 

 

「いや俺、点取る方だし」

 

 

「同じFWだけど、お前は無理だろ」

 

 

 

 

「だから、俺にボール預ければいいんだよ」と、上から目線で言ってきた。

 

 

 くそ、グゥの音も出ない。

 いつか俺はコイツに追いつけるだろうか。

 いやそんな気持ちではダメだ。

 追いつくのでは無く、追い抜こう。

 

 

 俺はそう決心した。

 

 

 

 

「この後、飯行かね?」

 

 

 

 ユニフォームから制服に着替えたそいつは俺を誘ってきた。

 

 

 

 

「すまん、今日は予定あるんだ」

 

 

 

 俺がそう言うと「じゃあ、今度奢れよ」と、ふざけた事言っていた。

 馬鹿野郎。今じゃ、バイトの数も減らしてるんだぞ。

 道端に5円でも落ちてろ、俺は間違いなくそれを拾うだろう。

 そんな下衆なことを考えていると、そいつはまたニヤニヤしてきた。

 

 

 何だよお前は。ニヤニヤ症候群か?

 そんな病気ないとは思うが。

 いや、意外とありそう。

 今度調べてみよう。

 俺が一人で結論づけていると、そいつも自分の意見を言ってきた。

 

 

 

 

「いいな、彼女持ちは」

 

 

「藤原は彼女じゃないぞ」

 

 

 

 

 コイツの言う事は、だいたい予想出来る。

 多分、頭の中はサッカー1割、女9割だろう。

 そしてもう一度言うが、藤原は俺の彼女じゃない。

 藤原に失礼だろう。

 それに、この後の予定もいつも通りの1人練習だ。

 何故だかこれは毎日やらないと気がすまない。

 

 

 

 

「この後は1人で悲しく練習だわ」

 

 

「俺も付き合おうか?」

 

 

 

 

 やはりコイツは女好きの屑ではなかった。

 部活で疲れているのに、俺の練習に付き合おうとしてくれた。

 やっぱり持つのは友達と言う事だろう。

 

 

 

 

「だから藤原って子、紹介して」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前言撤回しよう。

 やはりコイツは女好きの屑だった。

 

 

 

 そして俺はコイツと藤原を絶対に会わせないようにしようと決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は女好きのあいつと別れグランドにいた。

 

 

 

 

 そして、いつもの練習をする。

 もうこれは俺の中で習慣になっていた。

 それこそ、歯を磨くと同じくらいだ。

 どうでもいい事だが眠い時の歯磨きマジで拷問。

 

 

 

 

 

 

 俺は歯磨きの苦痛に悩まされながら、ボールを蹴った。

 

 

 

 

 ボールはゴールに綺麗に入った。

 

 

 

 

 簡単だなと思った俺は、少しゴールから距離を離してみた。

 1年の頃はこの距離が凄く遠く感じた。

 だが、今は違う。

 これも綺麗に入るだろう。

 そしてこれが入ったら、藤原に謝ろう。

 俺は助走をつけボールを蹴ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその時、視線を感じた。

 デジャブだ。

 俺はこれから、後何回この経験するだろうか。

 そんな事を考えていた。

 

 

 そして始めに感じた視線を思い出していた。

 

 

 

 

「もう1年か」

 

 

 

 

 あの出会いから1年経っていた。

 楽しい時間があっという間に過ぎるのは本当らしい。

 この1年、俺は色々なことを経験したと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人を好きになった事のない俺は四宮さんを好きになった。

 初めての経験だった。

 

 

 人を好きになると俺の世界は変わった。

 他人の事が知らない俺は貴方を知ろうと努力した。

 友達もいない学校で耳を立て、噂話を沢山聞いた。

 みんな、貴方を褒めていた。

 悪口も聞いた事がなかった。

 

 

 

 だから俺は完璧な貴方に惹かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もかも足りないミミズは竜に恋をした。

 

 

 

 

 土の中の世界しか知らない俺に広い世界を教えてくれた。

 人を好きになる理由をくれた。

 何も持っていない、俺とは反対で貴方は全てを持っていた。

 

 

 

 だから笑える話だと思う。

 

 

 

 例えるなら、下民と貴族、ミミズと竜、月とスッポン。

 

 

 どの存在も目標には届かないと思う。

 下等なミミズが竜を目指した結果なんて分かっていた。

 それでも俺は後悔しなかった。

 幸いな事に綺麗さっぱり振られたのだ、清々しい気持ちだった。

 それでも、許して欲しい。

 今でも思い出す。

 あの日の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 絶対に届かない四宮さんを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその視線に目をやった。

 そこには藤原が立っていた。

 

 

 

 

「一緒に帰りませんか?」

 

 

 

 

 膨れつっらで藤原は言ってきた。

 やっぱり、昼の事を怒っているのだろうか。

 何とかして機嫌を取らねば。

 

 

 

「あぁ今、藤原に連絡しようとしてたとこだ」

 

 

「本当ですか?」

 

 

 

 

 嘘はバレなければ嘘じゃないのだ。

 そんな最低な嘘を吐いた俺を藤原は蔑むような目で見てきた。

 辞めろ、俺泣くぞ。

 

 

 

 

「なぁ、帰り飯でも食わない?俺が奢るから」

 

 

 飯で釣る作戦だ。

 藤原は食べるのが好きだ。

 これで機嫌を直して欲しいが。

 

 

 

 

「ラーメン、食べたいです」

 

 

 

 

 小声で藤原はそう言った。

 ちょうど俺も腹が減っていたので、我ながら良い案だったと思う。

 それに藤原との飯なら大歓迎だ。アイツの誘いは断ったが。

 今日は俺が気持ちよく奢ろう。

 財布のHPは0に等しいが。

 

 

 

 そして俺は、頭をペコっと下げて藤原に謝罪した。

 

 

 

 

「ごめん。藤原」

 

 

「頭を上げてください。別に私怒ってないですよ」

 

 

 

 

 藤原が優しくそう言ってくれた。

 だが、俺の気がすまなかった。

 

 

 

「でも、ごめん藤原」

 

 

 

 すると藤原は溜息を吐いた。

 そして、右手を差し出してきた。

 

 

 

「川田君、今日も謝ってばっかですね。でもこれでチャラにしましょう」

 

 

 

「そうだな。ありがとう藤原」

 

 

 

 

 俺は藤原の右手を取った。

 そして藤原は笑顔になった。

 

 

 

「やっぱりごめんより、ありがとうが聞きたいです。」

 

 

 

 

 

 

「日頃の感謝を私に伝えて下さい。」そう言ってきた。

 藤原の気分を害したのは俺だ。

 それで気が済まななら。

 

 

 

 

 

「いつもありがとう藤原。藤原がいてくれて俺は幸せだ。」

 

 

「本当ですか?」

 

 

「本当だ。感謝してる」

 

 

 

 

 

 すると、藤原は俺に背を向け「私はちょろいので、それで許してあげます」と藤原からの許しを得た。

 

 

 

 

 

 そして藤原は先に校門に走って行った。

 

 

 

 

 

「待ってくれよ!」

 

 

 

 

 俺がそう叫ぶも藤原は走って行った。

 俺も急いで片付けよう。

 また機嫌が崩れたら最悪だ。

 

 

 

 

 

 マッハで片付けをし校門に向かおうとした時、俺は足を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の場所から綺麗な夕日が見えた。

 その光景に俺は見覚えがあった。

 この光景を見たのは、いつだっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、あの時か。

 俺は思い出した。

 あの日、あの人に出合った日もこんな綺麗な夕日だったと思う。

 夕日に照らされたあの人は美しかった。

 そんな夕日に俺は今照らされていた。

 そしてふと、顔から水が垂れてきた。

 

 

 

 

 

 

「何だよこれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 拭いても、拭いてもその水は止まらなかった。

 これじゃあ、俺が泣いてるみたいじゃないか。

 

 

 

 

 何の感情も浮かばないのにその涙は止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダッセーな俺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人生で一番泣いた日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ミミズと竜これにて完です!



ここまで読んで頂き有難う御座いました。
初投稿という事で、至らない所が大量にありました笑(誤字の多さや連載の仕方)
それでも、完結に持って行けたのは嬉しく思います!



まずこの小説を書こうと思ったきっかけは、原作のかぐや様は告らせたい二巻を読み返していた時です。
第11話で、かぐやは会長の事をミミズと評していた言葉が気になり、かぐやには到底かなわないミミズってどんな生徒だろう?と思い、川田という生徒を作りました。



川田はネガティブで卑屈で何もない男です。
一時期、好きだったサッカーも逃げるほどです。
けど、そんなミミズが竜に惹かれる話を作りたかったです。
結局、川田の恋は叶わなかったですが。




個人的に思うのですが、かぐやの横はやっぱり白銀会長が一番お似合いだと思います。
それこそ、弱いミミズが太刀打ち出来ない程。笑
会長は欠点も沢山ありますが、優秀な所の方が多いです。
やっぱり、かぐやの横は会長が一番です。


それでも川田は、かぐやを通じて少しでも成長出来たと思います。


まだ、語りたい事は沢山ありますがこの辺にしときます。













そして最後に、、この作品のヒロイン藤原じゃね?



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もし、四宮かぐやと付き合ったら。



10話からのIFです。



四宮かぐやさんのキャラ崩壊があるので閲覧注意です。


 

 

 

「四宮かぐやさん、貴方の事が好きです。」

 

 

 

 

 

綺麗な夕日が見えるこの時間に俺は、四宮さんにそんな言葉を吐いていた。

 

 

 

 

 

本当に今の俺はどうかしてると思う。

届かないって理解してるのに、こんな愚行が出来るのは俺が馬鹿だからだろう。

いや、馬鹿なんて言葉じゃ言い表せないぐらい愚図だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな自分を責める時間がどれくらい続いただろう。

 

 

 

 

 

 

俺の言葉を聞いた四宮さんは黙っていた。

少し、下を向いた状態で。

やはりキモかったのだろうか?

もしそうだとしたら、そう言って欲しい。

それで綺麗に終われるなら万々歳だ。

 

 

 

まぁ、もしそうなったら死ぬ程泣くが。

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、沈黙続けていた四宮さんが口を開いた。

あぁ、これで本当に終わるんだなぁと俺は思った。

後悔は死ぬ程あり、未練が綺麗さっぱり無くなるなんて事はないだろう。

 

 

 

 

そんな女々しい俺が、思ってもいなかった言葉が四宮さんの口から出た。

 

 

 

 

 

 

「私の事、好きなんですか?」

 

 

 

 

 

 

四宮さんのその言葉にこう返したくなった。

 

 

 

そりゃ、死ぬ程大好きですよ。

貴方の事を思うと、心が幸せになる。

貴方の事を一目見れた日は元気が湧いてくる。

他にも数え切れない程、貴方の事が好きだ。

きっと俺は、貴方の良さなら朝まで語れるだろう。

 

 

 

だが、今1番言いたい言葉は

 

 

 

 

 

「俺は四宮さんの事が大好きです。」

 

 

 

 

 

俺は彼女の瞳を見て、まっすぐにそう伝えた。

キモいだったり、ダサいなんて物はもう気にしない。

多分これが最後なのだ。

俺と四宮さんが接する機会は。

だから、後悔なんて後にしよう。

でも後で死ぬ程後悔しよう。

もし10年経ったら、思い出して後悔しよう。

俺みたいな奴が貴方の事を好きになってしまった事に、後悔しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして最後に死ぬ程感謝しよう。

後悔して感謝しよう。

俺のこの思いは、絶対に届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、四宮さん綺麗にふってくれ。

 

 

告白してるのにふってくれなんて可笑しな頼みだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、付き合ってみます私達?」

 

 

 

「お願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺はその時の答えに、死ぬ程後悔しよう。

 

 

 

何度でも後悔しよう。

この後悔は絶対に忘れないように胸に刻み込もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対等じゃない俺だから。後悔しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 

 

俺はため息をついていた。

 

 

 

 

 

今は12月。

吐いた息が白くなり、何事も動くのがめんどくさいそんな季節だ。

そんなめんどくさがりな俺は学校の中庭にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りがざわざわしてうるさい。

此処にいるのは、俺と同じの学年生全員。

中庭は、人がゴミのようにいた。

俺もそのゴミの1人だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、先生が中庭の掲示板に何か紙を張り出した。

まぁ此処にいる生徒達で、その張り紙が分からない奴なんていないだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

そう今此処は、つい最近あった期末テストの結果が張り出される場所だった。

だから皆此処に集まっていた。

人の多さが、徹夜明けの俺にはうざい。

 

 

 

 

早くテストの結果を見て帰ろう。

俺はそう思い、張り紙に自分の名前を探した。

 

 

 

 

 

 

 

川田 優斗 47位、と自分の名前があった。

 

 

 

 

 

 

順位が張り出される50位内には入れた。

それに、べべの50位ではなく47位だ。

俺の下に3人もいるのだ。これは誇っていい事なんだろう。

 

 

 

だが、気分が優れないのは何故だ?

目標の50位とは違く、47位だ。

数ヶ月前の俺を思い出してみろ、天と地ぐらいの差はあるだろう。

 

 

 

まぁ、この数ヶ月地獄だったが。

睡眠不足で倒れたのも1回ではない。

ペンに血が滲んだ事もあった。苦痛すぎて泣いた事もあった。

 

 

 

 

 

その思いでやって、47位。

 

 

 

 

 

俺の下には、沢山生徒がいる。

俺を見下していた奴らにも勝てただろう。

だが、上には上がいる。

俺の名前の上にはまだ、数十人もの生徒がいた。

 

 

 

 

その中でのトップ10位は目立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、白銀会長が一位か。」

 

 

「50位内に入れるだけ凄いよ。」

 

 

「四宮さんも流石だなぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌な現実を見てた俺に、その辺にいた生徒の声が俺の耳に入った。

 

 

今の俺はその2人の名前が聞きたくなかった。

 

 

 

 

 

 

1位 白銀御行

 

 

2位 四宮かぐや

 

 

 

 

張り紙の一位と二位は代わり映えしないようだ。

この1年見慣れた光景がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

「流石だな。」

 

 

 

 

 

 

俺は無意識に呟いていた。

やはり、この2人は他の生徒達よりも違う。圧倒的な天才だ。

いつか俺は2人の天才に追いつけるだろうか。

全くその絵が浮かばない。

でもいつか追いつこう。

 

 

 

 

 

 

いや、こんな気持ちでは駄目だ。

今日から勉強時間をもっと増やそう。

人間、少しでも睡眠してたら死ねはしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それに、早く彼女と対等になろう。

彼女の為なら俺は、何だってする。

 

 

 

 

 

 

 

 

届かない貴方に届いてしまった俺だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みだったので、俺は中庭から退散して昼飯を取ろうと思い教室に戻ろうとした。

その時に俺の名前を呼ぶ声がしたのだが、多分気のせいだろう。

友達なんていない俺だ。

絶対、俺の勘違いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、でも1人だけいたな。

俺に優しくてくれて、笑顔が似合っていた奴が。

もう、数ヶ月会っていないが。

 

 

 

 

 

 

「川田君。」

 

 

 

 

また、聞こえた。

 

 

 

 

「川田君?」

 

 

 

 

 

これで3度目だ。

そろそろ、俺の体はヤバイらしい。

昼飯は辞めて少し寝よう。

そうしたらまた、2日間寝ずに頑張ろう。

だが、まだ空耳はきこえてくる。

うるさいと思ったのだが、その声に俺は不思議な気持ちになった。

何処かで聞いたことのある声だ。

でも、それが俺の友達だったとしても無視しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間の無駄だ。

俺がそう思い、足を速めた。

これで付いてこないだろ。

だが俺は腕を掴まれた。それも、かなりな力で。

俺は文句を言おうと思い、その腕の持ち主を見た。

その人物はやはり俺の大事な友達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ、捕まえましたよ川田君。」

 

 

 

「…藤原?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月ぶりの友達との再会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

 

 

 

俺は藤原と体育館辺りのベンチで昼飯を取っていた。

此処に来たのも、久しぶりな気がする。

最近の俺は寝不足で、動くのがめんどくさく、大嫌いな教室で飯を食っていた。

嫌いな教室だが、暖房も付いてあり机も椅子もある。

勉強や睡眠にはもってこいな場所だった。

それこそ、このベンチの存在を忘れる程だ。

 

 

 

 

そんな久しい場所で、俺は藤原と昼飯を取っていた。

 

 

 

 

「川田君、今日は弁当じゃないんですか?」

 

 

「いや、もう最近は何も作ってない。」

 

 

 

 

 

俺はそう言って、自販機で買った缶コーヒーを藤原に見せた。

やはり眠い時はカフェインに限る。

これで、放課後のバイトも頑張れるだろう。

 

 

 

 

 

「私の弁当分けましょうか?」

 

 

 

 

藤原が優しい事を言ってくれた。

前の俺だったら、間違いなく恵んでもらっていただろう。

けど、今の俺は冷たく返してしまった。

 

 

 

 

「ごめん。食欲無いんだわ。」

 

 

「そうですか。」

 

 

 

 

 

 

嫌な空気が流れた。

こんな時、俺はどうしたらいいのだろうか?

前の俺ならどうにか出来ていたのだろか。

わからない。

だが、そんな事よりも眠いとしか考えられない自分が憎い。

駄目だ。今の状態では藤原と喋れない。

 

 

 

 

 

「すまん。藤原帰るわ。」

 

 

 

 

ごめんな藤原。

俺はこうしてる時間よりも、何かしてる方が絶対いい。

凡人以下な俺だ。

死に物狂いで、努力しないと駄目だ。

俺は四宮さんと早く対等にならないと。

あの日、手を差し伸べてくれたのだから俺も答えたい。

 

 

 

 

 

俺はベンチを立ち、校舎に戻ろうとした所で藤原に制服の裾を優しく摘まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少しだけ、駄目ですか?」

 

 

「ぐっ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辞めろ。

そんな可愛い事されるから、変な声出たじゃないか。

 

 

 

 

 

 

「いいぞ。久しぶりに藤原会えて嬉しいし。」

 

 

「久しぶりって、私何回も川田君に電話しましたよ?」

 

 

「あー」

 

 

 

 

 

 

 

 

それは俺が悪かった。

中古で買った、俺のクソ雑魚激安スマホ今故障していた。

電源も数ヶ月付いていない。

まぁ、友達なんていない俺のスマホは誰からも連絡はこないのだが。

母さんだって、携帯得意じゃないし。

藤原が何回も連絡してくれてたなら、申し訳ない事をした。

 

 

 

 

 

「ごめん。今、携帯故障してて。」

 

 

 

 

 

 

俺はそう言って、藤原に画面がバキバキに入ったスマホを見せた。

 

スマホの画面って知らない間にヒビいってるよね。

 

 

 

 

 

 

藤原は俺のスマホを見て、「これは駄目ですねー」と言った。

 

 

 

 

 

今までありがとう。中古スマホ君。

もう今度からはガラケーで十分だろう。

 

 

 

俺がそんな事を考えていると

 

 

 

 

「川田君、隈すごいですね。余計目付き悪いです。」

 

 

 

 

 

結構気にしている事を藤原が言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「最近、あんまり寝れてないからな。」

 

 

 

 

 

そう言った俺は、大きな欠伸が出た。

俺が大きな欠伸を終えると、横の藤原も大きな欠伸をしていた。

女子がするような可愛らしい欠伸ではなかった。

どうでもいい事だが、欠伸は何故人にうつるのだろうか?

ハゲ親父が俺の目の前で欠伸をしたら、俺も間違いなく欠伸をしてるだろう。

そんなどうでもいい事が無性に気になった。

ネットで調べよう。

俺はそう思い、ポケットに入っているスマホを取り出した。

 

 

 

 

 

あっ、今スマホ壊れてるんだった。

寝不足のせいか、今の俺は脳が回っていなかった。

 

 

 

 

 

 

「それと痩せました?」

 

 

「最近、あんまり食べてないからな。」

 

 

 

 

 

 

俺がそう言うと、口に卵焼きを押し込まれた。

これがトマトなら俺はブチギレていただろう。

俺はトマトが嫌いだ。

体にはめちゃくちゃ良いのだが。

あの食感と汁がどうしても無理だった。

今、口の中にあるのは美味しい卵焼きだが。

俺はその卵焼きを飲み込んで、藤原にこう言った。

 

 

 

 

 

 

「心配しなくても大丈夫だぞ。ちゃんと食べてるし。」

 

 

 

 

俺は藤原に嘘をついた。

 

 

 

 

「今日は多く作りすぎたみたいで、私この量は少し食べれないです。」

 

 

 

 

 

 

クソ、そう言われたら断り辛い。

それに藤原の弁当は美味い。

腹ペコの俺は我慢出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「ごめん。少し貰っていいか?」

 

 

「いいですよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スマイルを頼んだ覚えがないが、俺は藤原から美味いおかずといい笑顔を貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「川田君、少し変わりましたね。」

 

 

 

 

 

藤原から貰ったおかずを食べ終え、俺達は適当に喋っていた。

変わったと、藤原が今言ってきたがその言葉に俺は嬉しくなった。

そうだ。俺は変わる為に努力してるのだ。

次のテストは20位以内に入ろう。

そうやって変わっていけば俺は対等になれるのだ。

 

 

 

 

 

それが、どんなに苦痛でも俺が努力する。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか、凄く疲れて見えます。」

 

 

「あぁ。凄く疲れてる。」

 

 

 

 

 

 

 

藤原が心配そうな目で俺を見てくる。

 

 

藤原は優しい。

俺がこんな無茶をしたら、強引にでも止めてくるだろう。

だから俺は藤原と距離をとった。

 

 

 

 

 

それが正しいと思って。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、彼女が出来たら変わりますね?」

 

 

 

 

 

 

藤原がニヤニヤしながら言ってくる。

やっぱり、気付いていたか。

それか四宮さんに直接聞いたんだろう。

藤原と四宮さんは同じ生徒会だ。

接点も多いだろう。

俺は藤原にこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「四宮さんは天才だから、俺が変わらないと。」

 

 

 

 

 

 

藤原がまたニヤニヤして、茶化してくる。

お前は男子中学生か。

俺はそれを適当に受け流した。

すると藤原は嘘泣きをし、こんな事を言ってきた。

 

 

 

 

 

「1人の私は悲しいですよ!」

 

 

「ごめん。今度俺が時間出来たら遊びに行こう。」

 

 

「約束ですよ?」

 

 

「あぁ。約束だ。」

 

 

 

 

 

 

俺と藤原はそう約束した。

だが、俺に時間なんて物はあるのだろうか。

1分1秒無駄にしたくない。

それにそろそろ、昼休みが終わる。

 

 

 

 

 

 

楽しい時間はやはりすぐ終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも川田君が思ってる程、かぐやさんも強く無いかも知れませんよ?」

 

 

 

 

 

そして、藤原がこう付け足してきた

 

 

 

「それに意外と可愛い所もあるんですよ。」

 

 

 

 

 

 

俺はその言葉に興味を抱いた。

いつか、俺も可愛い四宮さんも見てみたい。

可愛い四宮さんを想像しようとしたが、俺は辞めた。

俺が知っているあの人は、全てがかっこよかったから、そんなとこ想像出来なかった。

 

 

 

 

彼女に欠点なんてないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

俺がそんな事思っていると、藤原がベンチを立ちこう言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、絶対に幸せにして下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

藤原が笑顔でそう言ってきた。

いつもと変わらない良い笑顔だったが、何故だか藤原の顔が凄く悲しく見えた。

 

 

辞めてくれ。俺はそんな顔の藤原を見たくない。

 

 

 

 

 

けど今、藤原に言われたのだ

 

 

 

 

「絶対に幸せにして下さい」

 

 

 

 

 

と、俺はその願いを絶対に叶えよう。

 

 

 

 

 

届いてしまった俺だから必ず叶えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が必ずあの人を追い越そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

 

 

俺はグランドにいた。

俺と四宮さんが会う時は、必ず此処からだ。

別に会う約束なんてしていないが、四宮さんは必ず此処に来ていた。

 

 

 

 

 

俺と四宮は、あの日から付き合い始めた。

 

 

 

 

 

 

友達と言えば嘘になるが。

交際してるとも言えない関係だと思う。

あの日、四宮さんが俺の告白を承諾してくれた理由は今でもわからない。

けど、それでいいのだ。

彼女が手を差し伸べてくれたのだ、いつか俺はその手を引っ張ろう。

この生活を続けていたら必ず追い付ける。

それがどれだけ辛かろうが関係ない。

 

 

 

 

 

 

俺が頑張ったらいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先についていた俺は、暇だったのでグランドにあるゴールに目が行った。

少し前まで散々見てきたゴールがそこにはあった。

だが、今の俺は見るのが久しぶりだった。

もう数ヶ月、ボールを蹴っていない。

毎日あんだけ蹴っていたのに。

今は勉強で忙しく、ボールを蹴る時間なんて無かった。

最初の頃はサッカーをしたいと、欲求があった。

 

 

 

 

 

でも、今はそんな物は無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

俺はあの人の為なら好きな物まで捨てれるらしい。

 

 

 

 

 

そして俺はもう一度ゴールを見た。

よく見ると、ゴールの横にボールが転がっていた。

そのボールは空気が抜けていて、いたる所もボロボロだった。

 

 

 

その見覚えのあるボールは、風でこっちに寄ってきた。

 

そして、俺のすぐ側にピタッと止まった。

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。」

 

 

 

何故だか、俺は無性に苛ついた。

 

 

 

 

 

そして俺は思いっきりそのボールを蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

ボールは適当に飛んで行き、俺の所に2度と戻ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗に外れたわね。」

 

 

 

 

 

 

後ろから四宮さんの声が聞こえた。

俺が知らない間についていたらしい。

いるなら声を掛けて欲しかった。

 

 

 

 

 

「ゴール狙った訳じゃないですよ。」

 

 

「本当?」

 

 

 

 

 

クソ、恥ずかしい所見せてしまった。

 

 

俺が赤面していると、四宮さんはクスクス笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テスト、47位だったじゃない。頑張ったわね。」

 

 

「四宮さんと会長に比べたら、まだまだですよ。」

 

 

「そうね。でも50位以内でも十分凄いと思いますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

四宮さんが褒めてくれた。

もっと頑張らないと。

俺がそう思った所で、四宮さんが俺の目を見てきた。

 

 

 

 

 

 

「でも、無理は禁物ですよ。川田君、目の隈酷くなってるわよ。」

 

 

 

 

 

四宮さんがそう言い、俺の目の下をつねってきた。

 

 

 

うん。痛いけどご褒美だ。

 

 

 

 

「痛いですよ。」

 

 

「じゃあ、約束しなさい。無理はしないって」

 

 

「はい。約束します。」

 

 

 

 

 

 

俺がそう言うと、四宮さんは許してくれた。

痛さのせいか眠気は消えていた。

これで、この後のバイトも頑張れる。

 

 

 

 

 

「俺、そろそろ行きます。」

 

 

「これからバイト?」

 

 

「はい。」

 

 

 

 

すると四宮さんはため息をついた。

多分、無理をするなと言ったすぐの事だったからだと思う。

 

 

 

藤原や四宮さんにも心配されるとは、俺の体は予想以上にボロボロらしい。

だが、このボロボロさは何故か心地が良い。

ついに俺も可笑しくなったらしい。

これが努力中毒という物か。

けど、まだ俺の努力は足りない。

この先、もっと隈は酷くなるだろう。

 

 

 

 

 

 

「絶対に無理はしちゃ駄目よ。それと、今度勉強でも教えましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

四宮さんがそんな提案をしてきた。

その申し出は有り難いが、俺なんかの為に時間を使って欲しくはない。

四宮さんは天才だ。

俺の気遣いなんて、余計なお世話だろう。

だが、そんな天才でも勝てない存在がいる。

 

 

 

 

 

 

白銀会長。

天才の先を行く天才。

彼女も会長の背中を追いかけている。

俺はその2人を必死に追いかけているが。

 

 

 

 

 

 

「時間がある時でいいですよ。」

 

 

「最近、時間があるからそう言ったのよ。」

 

 

 

それならもう、お言葉に甘えよう。

 

 

 

 

「じゃあ、今度お願いします。」

 

 

「私、厳しいですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

四宮さんが笑顔でそう言った。

藤原の笑顔は眩しいが、四宮さんの笑顔はいつも少々怖い。

俺は固唾を飲み込みこう言った。

 

 

 

 

 

 

「お手柔らかに頼みます。」

 

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

また、四宮さんが笑った。

うん。訂正しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の笑顔はめちゃくちゃ怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先に帰った彼を見送って、私は早坂と喋っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼、最近寝てませんよ。」

 

 

「そうね。」

 

 

 

 

私が短くそう言うと、早坂はまだ喋り足りないのかこう続けてきた。

 

 

 

 

 

「今日だって、ボロボロでバイトに向かったんですよ。止めはしないんですか?」

 

 

 

「私が止めたって彼、絶対に辞めないわよ。」

 

 

「そうですか。」

 

 

 

 

 

私がそう言うと早坂は納得したのか、少しの間大人しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

2人で迎えの車を待って数分。

その間に私と早坂は何も喋らなかった。

別に、早坂は喋る方ではない。

こんな事は初めてではなかった。

けど、私は今の空気が少し嫌だった。

 

 

 

 

 

そんな、空気を壊してくれるように迎えの車がきた。

 

 

 

 

 

私はその車に乗ろうとした所で、早坂にこんな事を聞かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かぐや様。杞憂かもしれませんが、後悔していませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔、、それは何の後悔だろう?

白銀会長の事だろうか。

もしそうだとしたらそんな物は無い。

私は考えて川田君に決めた。

これはあの日、告白された事での同情では無い。

 

 

 

 

 

 

彼は私が持っていない何かを持っている気がした。

彼に惹かれて、川田君を選んだ。

 

 

 

 

 

だから

 

 

 

 

 

「後悔なんて無いわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は早坂の目を見てそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイトを終え、俺は自宅に戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

家に入った俺は自室の布団に直行した。

母さんが手ぐらい洗えと言ってくるが、もう今は限界だ。

明日、洗うからゆるしてくれ。

俺はそう思い部屋の時計を見た。

 

 

 

 

 

 

時計の針は午前0時を指していた。

これが昼の12時だったら良かっただろう。

だが現実は無情で、今は午前0時だった。

それに明日も平日だ。

地獄の様な日々がまだ続いて行く。

俺はそれを自傷気味に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてさっき、母さんから言われた言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

「今、アンタ辛くないのか?」

 

 

 

 

 

 

やはり周りの人達は俺を見てそんな事を言ってくる。

 

 

 

藤原も四宮さんも母さんも。

 

 

 

 

 

 

どうだろう。今の俺は辛いのかもしれない。

けどこの答えは俺が出した答えだ。

今更、後戻りなんて出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから。

 

 

1年、10年後この答えが正しかったって言える様にしよう。

その為に努力しよう。

 

 

 

 

四宮さんと対等になる為に頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺は自室に貼った張り紙を見た。

 

 

 

 

 

 

『四宮さんを引っ張って行ける男になる。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな高い理想を胸に刻み、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ふられてもバットエンド。

付き合ってもバットエンド風。



どっちも救いがないじゃないか(呆れ)
はい、ここまで読んで頂きありがとうございます!
まぁ川田はこういうめんどくさい奴ですよ。
付き合えたのも、川田はかぐやの同情だと思っています。

そんなかぐや大好き人間です。


かぐや大好き力で言えば会長も負けてないですが笑
最初から川田は、会長の超絶ネガティブ版として作りました。
基本的に川田は絶対にかぐやに届かないと思っています。
届いたとしてもそれ歪だと思います。


だって、かぐやの横はやっぱり白銀会長が一番だと思います!
この話は何だよってなるんですが笑




最後にここまで読んで頂きありがとうございます!
これからもこんな形として、数話投稿するかもしれないです。
その時は、またおもんない話投稿してるなと思い読んで頂いたら幸いです。


語りた事は沢山ありますが、ここまでにしときます!



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もし生徒会に入ったら

 私立周知院学園は名門校である。偏差値は75を超えのその記録は全国トップ。この学園で教わる勉学、社交性等の教育については文句のつけようのない程のものであり校舎などは少し古いがそれは清く大事な名残でありその歴史は戦時中まで遡るほどである。この学校については理解出来ただろう。

 

 なら生徒はどうだ。となるのは当然。周知院学園にも数多くの生徒がいる。そのほとんどが資産家の息子、プロスポーツ選手の息子、はたまた政治家の息子などのエリートが在籍している。

 エスカレーター式の周知院は初等部からなり彼らのほとんどがそこからいる古参者が大半。あとは途中入学、編入してくる外部者も数少なく存在する。種からいる生徒を【純院】。余所者を【混院】と呼び、スクールカーストも存在している。

 

 ──────これはそんな天才、秀才達が集う周知院学園に在籍している一生徒の小さな話である。

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「地図研究会の部費が足りないと苦情が来ています。他の部活からの部費を回しましょうか」

「わかった。石上会計。その線で進めよう。サッカー部の部費から支出しよう」

 俺が今ここにいる部屋、生徒会室には自身含め六人がいる。男、三人に女、三人。先程から繰り広げられている石上優会計と白銀御幸会長の話でなんとなく察しはつくだろう。生徒会室に存在する6名の人間、そうそれすなわち俺らは生徒会役員なのだ。生徒会の仕事は多岐に存在し生徒のお悩み相談から各部活動の部費の調整管理等、教員、生徒の要望、苦情も受け付けている。

「藤原書記、書類の提出は捗っているか?」

「ばっちぐーです。けど先の行事の事とかははわかりませんねー」

 間延びした敬語が空間にこだまする。今の発言は藤原千花。生徒会書記担当の発言。2人の話を聞く限り業務になんの支障もないらしい。白銀会長がそれを聞き仕事を進めて行く。

「伊井野監査は石上会計のサポート、2人で話を進めて欲しい。藤原書記もそのまま続けてくれ。……四宮副会長。悪いが俺の仕事を手伝って欲しい」

「はい、会長。そのことですがここの書類に不備がありました」

 各々、動いているようだ。必要最低限の言葉で己の仕事をしている。この風景を見ると心から尊敬出来る。自分も頑張らなくては。

「白銀会長。自分は各部活動の挨拶、委員会の方に行ってきます」

「わかった。川田広報はサッカー部の部費について頼む」

「わかりました。行ってきます」

 肩に勲章を付け生徒会の扉を開く。俺は肩に付けたそれを見て嬉しくなる。自分が生徒会の一員であることその誇りを目で見て確かめられるからだ。

「川田君! 帰りにタピオカミルクティーお願いします!」

「うわー、仕事に行く川田先輩をパシるとか藤原先輩鬼すっね」

「そうだぞ。藤原書記」

 藤原書記の可愛い注文と石上会計と白銀会長の気遣い胸に沁みます。藤原、後で一緒に買いに行こ。

「別にいいぞ。間違って暑いコンポタ買うかもだけど」

「あっ、それ冬に飲みたくなるやつ。先輩じゃ藤原先輩には暑いお汁粉頼みます」

「川田先輩。石上にそれ買ってきてあげて下さい。飲みたそうなので」

 相変わらず伊井野監査は石上会計に厳しい。とう言うかお互いがちょっかいかけてる気がする。同じ一年同士だし生徒会にも属してるから仲良くやって欲しいけど。それは本人達の問題か。

「君達、作業に集中してくれ。それに川田広報は仕事に行くんだぞ」

「大丈夫ですよ。皆んなは何飲みたい?」

 それでは元気に行ってきます。ついでにパシリと。藤原め許さん。可愛いから許すけど。

「……四宮さんは何か要りますか?」

「いえ、お気遣いなさらず。川田君が帰ってきたらコーヒーでも淹れますね」

「ありがとうございます」

 扉を閉め切る寸前こちら見る皆んなが見えた。

「お土産期待してますね川田君」

「帰り荷物とか重いんで手伝います」

「気を付けて行ってきて下さい」

「笑いが頼む川田広報」

「行ってらっしゃい川田君」

 大切な人達で大事な場所に少しの間別れを告げた。

「行ってきます」

────────────────────────────────────

 環境が変われば人の生活は変わりそれは性格まで影響する。例としてこの男をあげよう。男の名前は川田優斗。【黒暗】と書いてブラックアウトと読むとかそんなパンチが効いた名前じゃないし名前からわかるように彼はごくごく普通の高校生だ。そんな彼の日常が変わったのはつい最近のこと。彼の高校生生活は細かなところを除けば学校への往復と部活動に勤しむ程度だった。そこに生徒会と言う項目が一つ増えた。生徒会役員と言う名簿、立場上から彼の環境はその一つで大きく変わった。影の無い一般生徒から彼はこの周知院学園生徒会役員と言った名誉と高いヒエラルキーを獲得したのだ。

 

 【環境が人を変える】と言っただろう。ここは一つ変化した男の日常を見てみよう。────────────────────────────────────

「報告は以上です。何か生徒会への要望はありますか」

「……いやない」

 俺は自分の仕事をまっとうする。の精神よろしく社畜の構えを持った俺は強いのだった。……ブラック企業で勤める会社員ってこんな感じなのかな。と考える。仕事で来た俺を迎えるのはサッカー部、顧問と部員達だった。そんな彼らから向けられる視線はお世辞を付けても良いとは言えないものだった。嫉妬、疑心、怪異、例えるならその類だろう。一言で言えば居心地が悪い。早く帰りたい。

「その、なんだ、お前変わったよな」

 うわずった男の野太い声。出来れば耳心地が良い女の子の声だったらどれだけ嬉しかっただろう。でもここは現実で目の前には食パンを食べた女の子も空から降ってくる子もいなかった。いるのは男男男。ここはそんなむさ苦しいサッカー部部室。おいそこ辞めろお前のパンツなんて見たくない。部室だから仕方ないか。と思考を止め踵を返した。

「あー、そうですかね。毎日忙しくて考えてもいなかったです」

 顧問からの問いっぽい言葉に返しこう付け加えるのだった。

「もし俺が変わったなら貴方達のおかげですよ」

「そう、か」

 腐っても高校生。ここでやじをあげたり努声をあげる者はいなかった。でも視線の圧は上がった。言ってしまった言葉はなくならない。なら後悔するより笑った方が良いだろう。

「ではこれで。今後とも生徒会をよろしくお願いします」

 心で思う。ざまあみろ。──────────────────────────────

「サッカー部ってなんでリア充多いですかね」

「あーなんでだろうな。世界で人気だから……とか?」

「川田先輩、そうかもです。日本だけでも競技人口400万人越え、世界では二番目に人がやってるスポーツですからね」

「なるほど。ありがとう優。詳しいな」

「いえいえ、ググっただけです。で話を戻すと、何故サッカー部は彼女持ちが多いんでしょうか。やっぱりあの身体ですか。引き締まった下半身と持久力があるからってこれだから女性は。僕はね別にサッカー部に彼女持ちが多いことに何も思いません。でもそれなら他の部活、生徒会とかの委員はどうなんですかね!? コンピュータ部だってタイピング力が鍛えられますし卓球だって筋肉は付きます。会計だって計算できますよ! あー…………彼女欲しい」

「結局、石上君は本音を言うための建前が欲しかっただけですね」

 廊下は歩くは俺、優、藤原の三人。手に持つのはペットボトルとか缶のジュースと飲料水。生徒会全員分と考えると相当な量だしそれなりの値段になった。そんな大層な物を俺一人で抱えて来れるはずもなくヘルプに二人が来てくれたのだった。

「コーラにタピオカ。熱、藤原先輩これほんとに飲むんですか」

「乙女に二言はありません。私はそこらにいるインスタ女子と違って出された食料は死ぬ気で食べます」

「……でもコンポタって季節感バグりますね」

「だな」

 優がそう言うから手から汗が出てきた。コンポタは寒い日に限る。パッケージを見て最近飲んでいないなとか思ったのは他所に俺の勝利品はスポドリ。

「で、ぶっちゃけどうですか先輩。サッカー部ってモテますか」

 隣に並ぶ可愛い後輩が膝でつついてくる。軽いノリで答えて良いかわからない質問に少し悩む。

「ぶっちゃけるとモテる……かも? そうゆう話を聞くし彼女さんがいる人も相対的に多いじゃないか」

「あーそうですか。わかりました。これからは彼女税を取りましょう。子供が産まれたら何かとお金がいりますしその練習です」

「流石会計。お金にがめつい。それにその理屈は正当じゃない気がする」

「正当? 何を言ってるんですか川田先輩。持つべく人は持たない人へ。強者が弱者を支えるのは優しさです。だからですね───」

 優が早口で捲し立てる。彼のその情熱と性格で彼女がいないのは不思議だ。もったいない良い男なのに。あっ男の俺にそんな評価されても優は不満か。廊下に三人。横に女子一人。彼女はこの話にどう思っているんだろう。

「優、藤原はどう? 一応女子だし俺よりは力になれそうな気がする」

「そうですね〜。石上君がモテないのはその早口とうざったい前髪もあるかもしれませんね。それから言葉だけで行動に移せていない石上君は口だけ人──────」

「ありがとう藤原。石上が泣いてる」

 あーめん優。撃墜石上号。女子からの評価がキツすぎる。こんなん俺でも泣くわ。何故だ優は……辞めよう今言えば優への慰めみたいになってしまう。そこで気になる事が出来た藤原は可愛いしモテる。彼女の恋愛事情や体験談を気になるのは自然だろう。それに藤原は腐っても女の子だ優の力になるかもしれない。

「藤原はどう? モテるし可愛い。俺よりそうゆう話好きだろ」

「石上君。こうゆうところですよ。相手を指名し褒める。それに最後に好きと言う単語も付け加えるのがポイントです」

「そうですね。無自覚系って現実にもいるんですね。天然とも言える。でもこれって相手にも一定の好意を持ってないと出来ない芸当ですよ」

「石上君、お汁粉あげますね」

 こらこら、藤原が悪ふざしてる。優も「熱っつ!」と見事なリアクション。でもさっき言ったことは本当なんだけどな。藤原は可愛いし優しいまるでマ──────「熱い!?」

「えへへ、隙あり」

 前言撤回。やはり藤原千花は藤原なのである。さっきまでの男心返して。首元に熱々ココアはもはやいじめだ。なんだこのホットのバリエーションは。なんだか

「さっきから熱い! 暑すぎる!」

「……同感」

「石上君、コンポタとお汁粉とココアあげますねー」

 藤原が豊富な飲料を手渡して行く。それを優が優しく……受け取る訳がなくもう押し付け合いが始まっていた。自分で買っただろう。悪ふざけも程々にとここで学んだ。二人が爆弾を押し付け合っている今がチャンス。

「早い者が勝ちってことで! 生徒会室まで先に着いたほうが勝ちで!」

「卑怯者! ……もう走ってますね。川田君急いで後を追いましょう!」

「わかった。藤原、三つとも頂戴。持つよ。まあ負けないけど」

「……そうゆうところですよ。でもそれとこれとは勝負は別。べべは一気飲みで確定です」

 装備に冬の三大神器が揃い俺達は血で血を争う戦争(ホットの押し付け合い)が今、──────幕を開けた!

──────────────────────────────

「あれだけ廊下を走るなと言ったのになんで守れないですか!」

「まったく、川田の手伝いに頼んだのに二人が疲れてどうする」

 三人で激しい運動をして汗を纏った俺達は生徒会室でミコと白銀会長に仲良く怒られた。廊下は歩く物だと胸に刻んでおこうと思う。

「川田君。コーヒー淹れましたよ」

 にっこり笑う四宮さん。その笑顔は魅力的で怖かった。

「この季節にホットはなしで」

 

 



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