このすばの① この素晴らしい月夜に祝杯を! (Cero8902)
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1話

ここはアクセルの屋敷の中。そこには、いつものようにあの駄目神の泣き声が響いていた。

 

「なんでよおぉ!私何も悪いことしてないじゃない!」

「何言ってんだこの駄女神っ!お前せっかく今日の夜のために買ってきた高級酒勝手に飲みやがって!」

「ああっ!今駄女神って言った!!私は正真正銘の水の女神よ!」

 

こいつ、勝手に酒盗み飲んどきながら何言ってやがる。

 

「まあまあ、そのくらいにしといてあげましょうよ。今から私が買い直してきますから」

 

めぐみんがそう言ってくるが

 

「お前、自分で買ってきて、どさくさに紛れて飲むつもりだろ」

「そ、そんなつもりはな、ない…こともないです…」

「やっぱそうじゃねえか!」

 

ダメだ、こいつら。

 

俺はまだ問題発言をしていないやつの方を見る。

 

「おい、お前が買ってこい、ダクネス。お前はまだ問題起こしてないだろ」

「ま、まだとは失敬な!私は今まで問題など起こしたことなどない……と思います…」

 

俺の視線を受け、後半が尻すぼみになるダクネス。

まあ、何はともあれ今はダクネスに頼むしかないか。そんなことを考えていると

 

「そんなに言うならカズマが買って来たらどうですか?」

 

めぐみんがそんな馬鹿な事を言ってくる。

 

「それは無理だ。俺は今日は外に出ないと決めてるからな。行くならめぐみん以外のどっちかが行け」

 

そう言うと3人がジト目で見てきて

 

「カズマったらホントにクズニートよね。なんかこれに怒られてるのがすごく恥ずかしいんですけど」

 

おい。

 

「やっぱりカズマはクズ人間だな……まあ、それこそ私の理想に近いのだが…」

 

こいつの理想の男と同じにするな。

 

「さすがカスマと言ったところでしょうか」

 

めぐみんまで。

みんな酷い。俺はアクアに説教をしてたんじゃなかったのか。

なんで俺が心に傷を負わなきゃならないんだ…

 

「おい、なんで俺がそんなこと言われなきゃいけないんだ。悪いのはアクアだろ。」

「だから何で私が悪いのよ!あのお酒を飲んだのはこの屋敷にいる幽霊の女の子よ!」

「そんなわけないだろ。お前、誤魔化すの下手すぎだぞ」

「嘘じゃないわよ!」

 

そう言いながらまたアクアがわぁわぁ喚き出した。

また振り出しに戻ってしまった。

ああ、もう。

 

「おいアクア。もうお前でいいから酒とかシャワシャワとか適当に買ってこい」

 

そう言って仕方がなくアクアに頼む。

 

「しょうがないわねぇ!買ってきてあげるわよヒキニート!感謝しなさい!」

「ヒキニート言うな」

 

こいつ、誰のせいで買いに行く羽目になっているのかわかってるのか。

 

調子に乗っているアクアに仕方なくお金を渡すと、アクアはご機嫌で屋敷を出ていこうとして……

 

玄関で躓いて転んだ。

 

そして涙目でプルプルしながらこっちをチラリと見てから逃げるように屋敷を出ていった。

本当はあいつ、芸人の神様なんじゃないだろうか。

 

さて、なぜ酒の話をしていたかと言うと、それはお月見をするためだ。

 

今夜は秋の風物詩である大きな満月。なので、お月見のついでに今日は飲み明かそうと考えていたのだ。

そして、お月見と言えばそう、月見団子。

という訳で

 

「よし、じゃあ俺らは団子を作るぞ」

「わかりました。お手伝いします」

「私もやるぞ」

 

そう言って俺達は団子を作りに取り掛かっまた。

 

 

その夜、空には巨大な月が明るく光っていた。

俺達はベランダに机を置いて団子を食べ、酒やシャワシャワを飲みながら月を見ていた。

 

「綺麗だな。こんなにいい月は中々見られないぞ。」

「そうですね…ああっ!なんで私には飲ませてくれないんですか!私にも飲ませてください!」

 

酒を取り上げられためぐみんがダクネスと一戦交えてる。

 

「どうしても飲ませてくれないんですね。いいでしょう。この手は使いたくなかったのですが……黒よくり黒く闇より…」

「おい!詠唱はやめろ!!この屋敷吹き飛ばす気か!」

 

本当に心臓に悪い。

 

「だってカズマ!ダクネスがお酒を飲ませてくれないんです!カズマも何か言っやってください!」

 

俺はめぐみんを一目みて

 

「だってなぁ、お前、体はまだ子供じゃ……」

「おい、私の体のどこが子供なのか聞こうじゃないか」

 

めぐみんが俺に今にも飛びかかりそうな体勢で言ってきた。

 

「お前、どこって言われてもなぁ…」

 

そう言って胸の当たりに視線を向けていると、めぐみんが

 

「その喧嘩、買おうじゃないか!」

 

そんな事を言って俺に飛びかかってきた。

 

「おい!や、やめろ!痛い痛い!!」

 

こいつ、本当は素手で闘った方が強いんじゃ…

 

「辞めませんよ!お酒飲ませてくれるまで辞めませんよ!」

 

そう言って俺の首を絞めてくる。

 

「め~ぐみん、やめてあげましょうよぉ~。カズマさんの貧弱なステータスじゃ死んじゃうわよぉ~」

 

こいつ!

 

……というか、既に出来上がってやがる。

 

「死んだらアクアが蘇生してくださいね!」

 

そんな物騒なことをめぐみんが口走ってきた。

 

「ちょ、お前マジで殺す気じゃねぇか!く、首が締まる!」

 

しばらくして、ようやく手を離しためぐみんはテーブルの端っこで大人しくジュースをちゅるちゅると飲みだした。

 

「ま、まあ今日は羽目を外して飲み明かそうじゃないか。」

 

ダクネスが柄にもなく言ってくる。

こいつ、こういうイベントが珍しいからテンション上がってるのか。それとも風邪でも引いてんのか。

 

「そうよ!じやんじゃんのむわよぉ~!」

 

そう言って俺達は月を見ながら団子を食べ、飲み明かした。

 

もちろん、めぐみんはジュースだが。

 

 

月が真上を通り過ぎた頃、俺たちはと言うと…

 

めぐみんを除いて酔い潰れてその場で眠っていた。

 

「はぁ、全くこの人達は」

 

めぐみんはそう言って眠っているダクネスを起こそうとして、ふと、起こすのを辞める。

その代わりに屋敷の中から毛布を持ってきて、椅子の上で寝ているダクネスと、床で眠りこけているアクアに毛布をかける。

 

もちろんカズマにも毛布を掛けようと――

してそれを辞める。そして

 

「カズマ、カズマ。起きてください」

 

そう言って優しく語りかけ、起こしてくる。

 

「ううっ、なんだよ、めぐみん。今日はもう寝たいんだが」

「いいから起きてください。私だけお酒を飲ませてくれなかったのに、みんな酔いつぶれて先に眠るのは酷いじゃないですか」

 

ううっ、それを言われると罪悪感が…

仕方がなくよろよろと起き上がり、ベランダの手すりに背中を預ける。

めぐみんもその隣で手すりに腕を置き、大きな満月を見上げる。

 

月の光がめぐみんの黒く滑らかな髪にあたり艶やかに輝き、透き通った白い肌が魅力的に…

 

「「……」」

 

え、何?この沈黙。何この雰囲気。

 

ってか、月の光のせいかめぐみんに見惚れてしまっていた。

そんなことを思っているとはつゆ知らず、めぐみんが沈黙を破り俺に話しかけてきた。

 

「……カズマ、今夜は月が綺麗ですね」

「っ!!!」

 

なんでいきなりそんな恥ずかしいことをしれっと言うのかこの娘は!

 

「どうしたのですか?なんか顔が紅い気がするのですが。」

「よ、酔ったせいじゃないか?」

 

そう言って何とか誤魔化した。そ、そうだよな。この世界の住人のめぐみんがこの言葉の他の意味を知ってるはずないよな。

少し落ち着きを取り戻した俺とめぐみんは再び黙り込む。

 

「「……」」

 

静かな月夜の中で鈴虫のような音だけが響き渡っていた。

 

「……カズマ、カズマ」

「な、何デスカ?」

 

少し緊張で声が上ずってしまった。

 

「……私は今、みんなとこんな楽しい日々を過ごせて、とても幸せです。もうみんな無しでは生きていけないくらいです」

「そ、そこまで言うか?」

 

そう言っておきながらも今では俺もなんだかんだ言ってコイツらなしでの生活は考えられない。

 

「はい。今まで、私には爆裂魔法しかありませんでした。」

 

……今もだけどな。

と、少し思ってしまったが口には出さない。

 

「……カズマ、『今もだけどな』とか思いましたよね?」

 

おっと、どうやら顔に出ていたらしい。

めぐみんは、はぁーとため息をついたあと続けた。

 

「そうじゃなくて、私の大切なもの、好きなものの話ですよ」

「わかってるよ」

 

と、返しておく。ほ、本当に分かってたからな。

 

「でも、今は好きな人が、大切な人がいっぱい出来ました。ダクネスも、アクアも、アクセルの街の冒険者たちも。それもこれもカズマのおかげです」

 

と俺にめぐみんはサラッと恥ずかしいことを言ってきた。まぁ嬉しいけどさ。

そんなことを考えてる中、めぐみんが放った次の一言で俺の思考は完全に停止してしまった。

 

「カズマには感謝しています。私に爆裂道を歩ませてくれた事。こんな素敵な仲間のいるパーティーに残らせてくれた事。いつもなんだかんだ言って最後には私たちをを助けてくれる事。私は…。私はそんなあなたが大好きです。」

 

めぐみんは頬を赤く染め、月の光を浴びてより一層眼を紅く輝かせながら。

しかも、しっかりとこっちを見て。

 

思考が停止していたせいで、しばらく黙り込んでいると、アクアの羽衣をかじっていたちょむすけが鳴いたのを聞き、ようやく俺の思考能力が戻ってきた。

 

えっ、めっちゃ恥ずかしんですけど!そりゃ嬉しいんだけど!感動したけども!それ以上にめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!!

 

俺はめぐみんから顔を背けながら

 

「お、おう。あ、ありがとな。嬉しいよ」

 

俺は何とか言葉を振り絞った。

しかし、それに続き

 

「わ、私はちゃんと気持ちを伝えましたよ。今度はカズマの番です」

 

さらなる爆裂発言をしてきた。

 

「や、やだよ!さすがに恥ずいって!」

 

そう言うとめぐみんが

 

「私だけ言うのはずるいじゃないですか!私が勇気を出して言ったんですからカズマも私のことどう思っているかぐらい言ってくださいよ!」

 

お前が勝手に言ってきたんだろ…

 

「そ、それに、カズマの口から『好きだ』って聞きたいのですよ…」

 

めぐみんは顔を一層紅く染め、そんなことを言ってきた。

 

恥ずかしいぃ!!いわれてるこっちがはずかしいって!!!

 

……あと可愛い。

 

で、でも、あんな嬉しい事言って貰ったんだから、俺が言わない訳にもなぁ。一応、友達以上恋人未満の関係だしなぁ。でもなぁ。

 

そう思って悩んでいると、さっきの会話のことを思い出し、こんな時にぴったりなセリフが浮かんできた。

 

「しょうがねぇなぁー。俺も言ってやるよ」

 

俺がそう言うと、めぐみんは嬉しそうに、恥ずかしそうに、期待するかのように俯きながらもじもじとしだした。

そんなめぐみんに俺は……

 

 

 

― 今夜は月が綺麗だな ―

 

 

 

そう言って、俺はその場から離れて屋敷の中に戻って行った。

 

当のめぐみんはと言うと、一瞬キョトンとしてから、ふと我に返って

 

「私のことどう思ってるかが聞きたかったんですよ!月の話は今してないですっ!さっきは言ってくれるって言ったじゃないですか!カズマの嘘つき!」

 

などと言って俺の背中に叫んでくる。

俺はちゃんと伝えたんだけどなぁ。

 

俺は立ち止まって後ろを向き

 

「そう思うのはお前が無知なだけだ。まぁ、いつかはこの意味が分かるはずだろ。いつかは」

「おい、紅魔族随一の天才の我を無知呼ばわりするとは喧嘩を売っているのですか!」

 

そんな事を喚いているめぐみんに背を向け、はいはいと言いながら、俺は再び前を向いて俺の部屋に向かって歩き出した。

 

 

ああぁ!恥ずかしがった!

 

 

次の日の朝、ダクネスはと言うと……

風邪を引いていた。

そう、俺とめぐみんで盛り上がってしまって中に入れずに置いてきてしまったからだ。

というか、その前からやけにテンション高かったのはこれのせいだったのか?

 

「済まないなカズマ。めぐみん。看病してもらって。大変だろうからもういいぞ。」

 

そう言ってくるダクネスの言葉が俺の心にチクチクと刺さ…

 

「そ、その、なんというか、風邪を引くってのはこんな感じなのだな。これはまたこれで…」

 

らなかった。もうこのまま放置しようかと悩んでいると、めぐみんが

 

「ダメですよダクネス。ダクネスも大事な仲間なのですから。病気での死はリザレクションでも生き返れないのですから」

 

と、ダクネスに語りかけた。

 

「めぐみん…」

 

ダクネスはそう言って感動していた。いい話しだ…

 

しかし、また空気を読めないあの駄女神が

 

「まぁ、昨日部屋で寝てたそこの2人が私たちを起こしてくれていれば風邪なんか引かなかったんですけどね」

 

そう言われて俺とめぐみんは顔を逸らす。

 

ふと、俺はめぐみんに

 

「なぁ、めぐみん。昨日俺しか起こさなかったのってもしかして、わざわざ俺にあの事を言うため…」

 

と、途中まで言ったところで

 

「違います!違いますから!」

 

と言って顔を紅くして遮ってきた。

それを見たダクネスは

 

「めぐみん、顔が紅いがどうした?あと、あの事って言うのは?」

 

と焦っているめぐみんに尋ねた。

そのめぐみんはさらに焦って

 

「ななな、何でもないです!き、気にしないでください!!」

 

と言ってオロオロし始めた。それを見た俺はダクネスとアクアに

 

「あのな、昨日の夜、めぐみんが俺に…」

 

「わあぁ!わああぁ!」

昨日のことを話そうとした俺の口をめぐみんがを必死に抑えて叫び出した。

それを見たアクアは

 

「ははーん。さてはめぐみん、昨日の夜に何か恥ずかしいことでも言ったんでしょ?」

 

こいつ、こういう時だけは鋭い。

 

「ち、違いますよ。さ、さあ、ダクネスの風邪もすぐ治るでしょうし、治ったらまた冒険にでも行きましょうか!我が爆裂魔法でどんな敵でも消し飛ばして差し上げましょう!そのために今から、ゆんゆんを捕まえて魔法の特訓をしてきます!」

 

めぐみんはそう言ってくるりと後ろを向き顔を紅くしたままそそくさと出て行ってしまった。

 

「何だったのだ?」

 

とダクネスが不思議そうにめぐみんを見送っていた。アクアは

 

「さあ、どうしたのかしら。それよりも早く朝ごはん食べましょうよ」

 

と言いながらも、ゼル帝を撫でることに夢中になっていた。

 

「まぁ、恥ずかしがってるだけだから、すぐに帰ってくるだろ」

 

俺はそう言ってと4人分の朝食の準備を始めた。

 

 

 

が……

 

結局、めぐみんは夕食の時まで屋敷に帰ってくることは無かった。

 

~完~

 



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