ペルソナの世界でCOD (O.K.O)
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第1話

「くそっ……なんだこいつら。そこら中にうようよしてやがる」

 

肩に自らの得物であるICR-7、腰周りにはコンバットナイフ、iPadのような情報端末、そして9-BANGというフラッシュグレネード(閃光弾)を引っ提げた完全武装の状態で俺、福良英二は悪態をつく。

俺の視線の先には、騎士のような風貌をしたフルメタルの2メートル以上ある馬鹿でかい巨体が動いていた。

んー、どっかで見たことあるような……。

何か見つかるとまずい気がするので身を隠しつつ、どこかも分からない室内を移動する。

てか、数多すぎんだろ。そろそろ見つかってもおかしく……って、またもう一体いやがった!

しかし、気づいた瞬間にはもう遅く、俺とそいつは向き合った形となった。

 

「くそっ、目が合っちまった」

 

俺は()()()に自分の存在が気づかれたのを悟る。

 

「何者だ。排除する」

 

そいつは俺に近づくと同時に、騎士のような風貌から、ハロウィンに出てくるようなかぼちゃ頭に姿を変え、火球を放った。

 

「っ?!おいおい、一体どうなってんだよこの世界は!!」

 

「死ね」

 

「くっ!すまんが殺らせてもらうぞ」

 

俺はダッシュとショートスライディングで火球を避けると同時にADS(銃のサイトを覗き込んだ状態)を早めるためジャンピングする。

 

「ぶっつけ本番だが、ゲームの感覚と同じ!やることは一緒だ!」

 

そうして20メートルほど離れた場所から近づいてくる()()()の頭に自らの得物の照準を合わせた。

 

「くらいな!」

 

そうして俺は引き金を引くと、乾いた発砲音がフルオートにより断続的に鳴り響く。

 

「ぐはっ、、?!」

 

「悪ぃな、こちとら殺られる前に殺るしかないんでね。とりあえずこの趣味の悪い場所から脱出しねぇと」

 

俺は標的が消滅したのを確認し、再び走り出す。

 

---そもそも、俺がこのような状態になったのは20分ほど前に遡る必要がある。

どっから説明すべきか……とりあえず俺は死んだ、はずだった。不運な交通事故ってやつだ。享年20。人生何があるかわかったもんじゃない。

まあ特段自分の生に未練があった訳でもなく、死ぬ寸前にこれといった後悔もなかった。

1つ頭をよぎったこととして、ゲームをもっとしたかったということだ。特に、あるゲームをもっと極めたかった。

 

「CoDBO4」、大人気FPS、CoD(コールオブデューティー)シリーズの1作だ。

オンライン対戦によるマルチプレイ型のゲームで、プレイヤーのエイム力、立ち回り、状況判断能力等々の純粋な実力が求められるゲームだ。

俺はこのゲームが大好きで、自分で言ってはなんだがかなりの実力があったと思う。もう少しで日本代表に選ばれるところまで来ていて、ほんとにあと少しという所でお亡くなりになった次第だ。唯一、それだけが心残りではあったりする。

 

そんなゲーマーだった俺な訳だが……そう。死んだはずだった。

しかし、何故か意識が戻り、目を開けると応接室のような部屋の中にいた。

全く持って意味がわからない、最初は誰かに拉致されたかと思ったがここに捨ておく意味もわからないし、何より交通事故の記憶がフラッシュバックした。

数分戸惑っていると、俺は自分の近くにiPadのような情報端末が落ちていることに気づいた。

俺はそれを手に取り、電源を付けた。するとこんなメッセージが表示された。

 

--カスタムクラスを選択してください--

 

目が点になるってのはこういうことかと思った。画面をスワイプするとそこには俺にとっては見慣れたような画面が続いていた。

 

カスタム1

メインウェポン:ICR-7(中長距離に特化した安定性のあるAR)

アタッチメント:グリップ(武器の反動を抑える)、グリップⅡ(武器の反動をさらに抑える)、クイックドロー(ADSまでの時間を短縮)

サブウェポン:コンバットナイフ(切れ味の鋭いナイフ。近距離の敵に大ダメージ)

ギア:スティムショット(回復量の向上。また、回復再使用までの時間を軽減)

装備:特殊装備(使用スタイルにより変化)

PARK1:スカベンジャー(敵の死骸から弾を入手可能)

PARK2:デクスタリティ(乗り越え、登り、スライディング、武器切替が加速。ジャンプまたは乗り越え中の武器の精度が向上)

PARK3:ゴースト(敵の監視モニター、監視センサーに感知されなくなる)

 

俺は唖然とした。所々効果が若干違うところもあるがこれはまさしく、俺があのCoDBO4で設定したクラス選択画面そのものだったからだ。

ちなみにクラス選択とは、マルチプレイによる他プレイヤーと対戦する前に自らの装備を決める段階のことで、ここで自分の使いたい武器や性能を決める。

他にもカスタム2、カスタム3と続いていたが、とりあえず俺はこのカスタム1を選択した。

するとここでまた俺は驚愕した。なんてったって実際にカスタム1の装備を身にまとっていたのだ。俺の肩にはあのICR-7が引っ提げられていた。

ずっしりとした銃の重みを感じつつも何故か体にだるさは感じない。

しかし、まだ俺の驚愕はそこで終わらない。

手に持っていた情報端末に更なるメッセージが表示された。

 

--使用スタイルを選択してください--

 

俺は頭の中にはてなマークが浮かんでいたが、次の瞬間その意味を理解すると、驚きで声も出なくなった。

画面にはCoDBO4ではお馴染みのスペシャリスト達、AJAX、NOMAD、BATTERYといったキャラクター達が表示されていた。

ゲームにおけるCoDBO4では、カスタムクラス選択で自分の武器を決め、スペシャリスト選択という様々な特殊装備や特殊武器を持ったキャラクターから1人を選択し、そのキャラクターのスタイルに合った戦い方をしていく。

今、眼前の情報端末に表示されているのは、ゲームにおけるスペシャリスト選択に当たるのであろう。

俺は驚きで唖然としつつもAJAXというスキンヘッドで強靭な肉体を持つキャラクターを選択した。

すると容姿こそは変わらなかった(これは何気に安心した)が、腰にはAJAX固有の特殊装備である閃光弾、9-BANGが追加で装備され、情報端末の画面が切り替わり、「MISSION START」という表示から固有武器「バリスティックシールド使用不可」というような表示に切り替わった。

 

……ツッコミどころ満載でしかないが、とりあえずゲームにおいて固有武器は試合開始から一定時間が経つ、もしくは多くの敵を倒すと使用できるようになったが、果たして……。

ていうかMISSION STARTってなんだよ……。マジでそれを説明してくれ……。

理不尽極まりない現状に不満と不安しかないが、考えても仕方が無いので、一旦そこで思考を切りかえ情報端末も腰にしまう。

 

そうして俺は驚愕に驚愕を重ねつつ、じっとしているわけにもいかないので部屋を出て、現状に至るのだが……。

 

「マジでどういうことだよ……。あいつ、いきなり変身したかと思ったら魔法みたいなので炎ぶっ飛ばすわ、危うく死にかけるわ、俺も俺でCoDと同じ動きができるわ、意味わかんねぇ……。それにミッションってなんだよ、俺死んだんじゃなかったのかよ……」

 

もうこれはあれですか?転生ってやつですか?

そうだとしてもいきなり死にかけて笑えないんですけど……。

 

「はぁ……実際にCoDBO4と同じ装備ができて同じ動きができるのも嬉しいけど、やっぱり死にたくはねぇよ。……ってか、そう言えばスコアストリークは……っ?!」

 

そう言って俺は腰にしまった情報端末に手をかけようとすると、奥の広間にて男子高校生らしき2人が先程のフルメタルの騎士らに囲まれている姿が見えた。

 

「おいおいマジか……ありゃヤベぇだろ……」

 

どう見てもあの二人、普通の一般人だ。あの騎士のやつら、初見の俺に対しても殺す気で攻撃してきやがった。あの二人も……。

 

「っ?!」

 

そうしていると、1人の騎士が金髪の高校生に手に持っていた盾をぶつけ気絶させた。もう1人の高校生も同じように気絶させられ、騎士に担がれる。

 

「……さすがに見逃せないでしょ。でもどうする、アタッチメントにサプレッサーはついていない……。さっきは一体一だから何とかなったが多対一はまずい。……っ?!」

 

どうにかして2人を助ける算段をつけようとしていると、俺は騎士に担がれた1人の黒髪眼鏡の高校生を見て本日何度目ともわからない驚愕をする。

 

「まじかよ……あいつは……、、そういやさっきのかぼちゃ頭の化け物もアニメで見たことがある……。まさかこの世界、ペルソナ5……なのか?」

 

俺はこの世界が何なのかを悟った。



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第2話

「後をつけたはいいが、これからどうする。ペルソナ5の世界と言ってもそんな詳しい攻略法とか覚えてねぇぞ」

 

俺は男子高校生2人を担いだ騎士達の後をつけ、地下へと進んだ。

豪華で煌びやかな地上フロアと比べ、地下は囚人を収容する監獄のような造りになっていた。

なぜ俺がこの世界をペルソナ5だと認識することが出来たのか、それは俺にペルソナ5のプレイ経験があったからだ。といってもプレイしたのはかなり前のことで、しかもそれほど入れ込んでやっていなかったため記憶はかなり薄れ、ほとんど使い物にはならない。そのため原作知識無双、ということが出来ず俺は慎重になっていた。

こんなことならもう1回プレイしとくべきだった……。

 

そんなことを考えていると騎士が気絶した2人をある牢屋に投げ入れ、牢の鍵をかけた。鍵をかけた騎士は何やらどこかへ行ってしまった。

 

「こんなとこで主人公が死ぬわけないと思うが、ほっとく訳にも行かねぇよな……」

 

俺は騎士が去った後、2人がいる牢屋へと向かい音が響かないほどの大きさで鉄格子を叩いた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ん……いてぇ!」

 

俺の問いかけに金髪君の方が先に目を覚ました。ちなみに名前は忘れた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「うっせぇ!あんにゃろいきなり、、ってあんた誰だ?!」

 

「しっ!静かにしろ!……あの騎士がどこにいるとも分からない」

 

「お、おう……すまねぇ。てか、何で銃なんか持ってんだよ……。ひょっとして、あんた奴らの仲間か?!」

 

「いや、そうじゃない。たまたま連れ去られたのを見てほっとけなかった」

 

「へー……あ、そうだ!いきなりで申し訳ねぇんだけど、この扉の鍵外してくれね?!」

 

そう言って金髪君が懇願してくる。

そうしたいのは山々なんだが……。

 

「悪い、鍵を持ってないんだ。さっき閉めてたやつがいたからそいつから取ってくる。それまでにそっちの黒髪君を起こしておいて欲しい」

 

「と、取ってくるって言ったってよ……どうやって……」

 

いや、まあそりゃ……拳で?

 

「まあ多分大丈夫。んじゃ、そういうことで」

 

「お、おい!」

 

そうして俺は金髪君の呼びかけを無視し、さっきの騎士が歩いていった方向に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、なんなんだよ一体!」

 

得体の知れぬ人物が去った後、金髪君こと坂本竜司は現在置かれた状況に苛立ちを隠せずにいた。

それも致し方ないであろう。転校生と共に学校に繋がるいつもの道を歩いていたはずが、見たことも無い城へと行き着き、中に入ると気味悪い騎士たちに侵入者呼ばわりされ、こうして牢に閉じ込められているのだから。

 

「あの騎士共、いきなり殴りやがって!それにさっきのあいつは一体……」

 

竜司は先程の銃を引っさげた人物を思い返す。

明らかに一般人、とは言い難かった。竜司は数秒考えたような素振りを見せる。

 

「全っ然わかんねぇ……。あー!くそ!今はあいつの言う通り、()()()を起こすしかねぇってことかよ」

 

竜司は近くで気絶している転校生の肩を持ち揺さぶった。

 

「起きろ、おい!」

 

そうして転校生、雨宮蓮は目覚めた。そんな蓮を心配するように竜司は声をかける。

 

「大丈夫か?」

 

「ここは……?」

 

「知るか……俺もさっき目覚めたばっかだ」

 

そこで竜司は蓮に対して、現状と銃を所持した人物のことを話す。

 

「そんな人が……」

 

「あぁ、今はそいつに頼るしかねぇ。ここん中に牢屋を脱出できそうなものもねぇしな。早く来てくれねぇとヤベぇ……っ!何の音だ?」

 

竜司と蓮は互いに顔を見合わせる。

何かガシャン、ガシャンという金属音が2人のいる牢屋に近づいてきていた。

竜司は一瞬、先程の武装者が戻ってきたのかと期待した表情を浮かべたが音の主はフルメタルの騎士であった。

 

「喜べ。貴様らの処刑が決まった。罪状は[不法侵入]、よって死刑に処す。貴様らは死を持ってカモシダ様の糧となれるのだ」

 

「はぁ?!!一体どういうことだ?!」

 

竜司は思わずそう声を上げ、蓮は無言で額に冷や汗を浮かべる。

すると騎士の後ろからもう1人、はだかの王様というようなガタイのいい男が現れた。

 

「フッフッフッ……そういうことだお前ら」

 

「お前は鴨志田?!」

 

竜司は自分の通う学校、秀尽学園の先生である鴨志田卓(かもしだ すぐる)の登場に驚きを隠せない。

 

「どんなこそ泥が俺の城に忍び込んだかと思えば坂本、お前だったのか。1人じゃ無理と踏んで仲間を連れてきたか」

 

「一体何を言ってやがる!こりゃどういうことだよ?!」

 

「フッ……喚いても無駄だ。これから貴様らは死を持って自分たちの罪を償うのだからな。お前ら、こいつらを連れ出せ!」

 

鴨志田がそう言うと、騎士数人が牢の鍵を開け2人を連れ出そうとする。

竜司はここにいてはまずいと感じ取り、牢が空いたのを見て逃げ出そうとした。

 

「おい転校生、こいつらマジだ!早く逃げ……がぁ?!」

 

「なっ?!大丈夫か?!」

 

しかし、その瞬間騎士の1人が竜司に盾を容赦なくぶつけ逃亡を阻止した。

 

「はっはっは!貴様らは終わりなんだよ!ほら連れてけ!」

 

「くっ……やめろ!」

 

蓮は抵抗しようとするも、すぐさま騎士に抑えられる。

 

「無駄だ無駄だ!逆らおうとするものは排除する!」

 

「くそっ……!」

 

蓮は己の無力さに嘆き、そして怒った。本当にここで終わりなのか、何も出来ずに終わるのか?そう自分に問いかけた。

その時、男の声が蓮の頭の中に響く。

 

「契約だ」

 

その瞬間、牢の中で青色の炎が巻き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた!」

 

俺の視線の先には牢の鍵を持つ騎士がいた。

よし、奴は俺に背を向け歩いている。これなら……。

俺はなるべく音を立てないよう騎士の背後に近づき、腰に装備したコンバットナイフを引き抜いた。

 

「む?何者だ?!」

 

しかし、さすがに足音が聞こえたのか途中で騎士に気づかれる。

俺は構わず首元に飛びつくと、いきなりのことで面食らったのか騎士は無防備になった。

そうしてナイフが刃こぼれしないよう甲冑で守りきれていない首の関節部分に刃を入れ、力強く引き抜いた。

 

「ふっ!」

 

「ぐふっ……」

 

騎士は呻き声を上げると同時に間もなく消滅した。

 

「人間じゃないからか……あんまり罪悪感は感じねぇな」

 

俺は騎士が持っていた鍵を手に取り、腰のポーチへとしまう。

 

「今のやつ、まだ意表をつけたから良かったが手馴れのやつなら危なかった。PARK3にデッドサイレンスをつけると気づかれにくくなるのか?」

 

デッドサイレンスはCoDBO4において、自分自身の足音を最小限にできるPARKである。これと武器のアタッチメントにサプレッサーをつけることで隠密性に優れた立ち回りをすることができた。

このペルソナ5の世界でどのような効果を発揮するのか未知数なところではあるが……。

 

「今は急がねぇとな」

 

牢屋に囚われた2人のことが最優先だ。PARK効果の確認はまた後でもできるだろう。

俺は周りに注意を払いつつ、二人の待つ牢屋へと向かった。

 

 

そうして無事、騎士に見つからず牢屋へとたどり着いたのだが、何か騒がしい。

 

「あれは……そうか!黒髪君、このタイミングでペルソナを使えるようになったのか」

 

牢の中では、制服とは打って変わって、黒のマントと赤い手袋をはめた黒髪君が、仮面のような顔と大きな黒い翼が特徴的なペルソナを使役し、騎士もといカボチャのシャドウを蹂躙している姿があった。

 

「奪え!アルセーヌ!」

 

黒髪君がそう指示を出すと、アルセーヌと呼ばれたペルソナが赤黒い光を発する魔法によりカボチャを一瞬で消滅させた。

 

「すげぇな……圧倒的じゃねえか。これは俺は要らなさそう……でもないな」

 

「いい気になるなよ貴様ら!この鴨志田の城において勝手はさせん!いけお前ら!」

 

俺の目には、鴨志田と名乗る男が後ろに控えさせていた騎士3人もといカボチャ3体を黒髪君に対峙させる姿が映っていた。

 

「一斉に攻撃しろ!」

 

「くっ……!」

 

いくらペルソナが覚醒したといっても、まだ使いこなせるはずもないよな。それに……。

 

「1体3は不公平だ」

 

俺は自分の得物であるICR-7の照準をすぐさま合わせ、立て続けにフルオートで発砲する。

その放った銃弾は全て、カボチャの頭部それぞれに命中した。

 

「「「ぐはぁっ?!!」」」

 

「なっ?!」

 

自分の配下達が一瞬で殺られたことに鴨志田は驚いている。

 

「腐っても日本代表(仮)のエイム力を舐めるなよ」

 

そうして俺はシャドウ達を消滅させ、スコープから目を離すのだった。

 

 



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第3話

「さっきはありがとう。本当に助かった」

 

「大したことじゃない、気にするな。俺は福良英二、ええっと……」

 

「雨宮蓮、蓮でいい」

 

「蓮ね、りょーかい。俺も英二で大丈夫」

 

「よろしく英二」

 

「だぁぁぁぁ!何さらっと自己紹介してんだよ?!こっちは聞きてぇことが山ほどあるのによ!!」

 

先程の戦闘から程なくして、黒髪君こと蓮、金髪君、俺の3人は監獄のようなこの場所から脱出するため脱出経路を探っていた。

鴨志田の方は隙を見て、蓮と金髪君が牢から脱出した際に、逆に鴨志田を牢に閉じ込めたみたいだ。

しかし安心はできない。今頃鴨志田の騎士達が牢の鍵を開けているだろう。早くここから逃げないと。

 

「その気持ちは分かるけど今は逃げないとだろ?ええっと……」

 

「坂本竜司だ、竜司でいい。確かにそうかもしれねぇけど、気になって仕方ねぇんだよ。まだ英二の方は分かる、その装備は気になるけどまだ現実的だし。味方……なんだよな?」

 

「まあそうだな。気づいたらここにいた。脱出するって意味なら同じ仲間だ」

 

なんでここにいるのかは俺が1番聞きてぇ。

 

「そうか……。さっきもそうだけど、銃の扱いに慣れてるみてぇだし頼りにしてる」

 

「はは……あんまり期待はしないでくれ」

 

そんなに真っ直ぐな瞳で見られても困る……。たまたま敵が弱かったからどうにかなっただけなんだ……。

そうして竜司は俺から視線を外し、そのまま蓮へと向ける。

 

「それよりも転校生!いや蓮か、さっきのは一体なんだよ?!急に変身したと思ったら仮面のやつが出てくるし、今は今で普通の格好に戻ってるし……」

 

金髪君こと竜司の言う通り、今蓮の姿は先程の黒のマントから最初の高校生らしい制服に戻っていた。

 

「それが俺にも分からない……気づいたらああなっていたんだ」

 

「無自覚ってことか……なんなんだよさっきから、マジで訳わかんねぇ!」

 

竜司は頭をかかえる。

なるほど、無自覚で咄嗟にペルソナを覚醒させたってことか。

命懸けの状況で一発逆転……さすが主人公だな。

 

「とりあえずこっから出ねぇとなんともならねぇだろ。ほら早いとこ出口を見つけて「おい、お前ら!」……え?」

 

なんだ今の声?敵か?

俺は咄嗟にICR-7を構えた。

 

「そこの金髪とくせっ毛と武装したやつ!こっちだこっち!」

 

「な、なんだ?!」

 

あー、そう言えばこんなヤツいたなぁ……。

俺はそいつを見るとICR-7を再び肩にかけ直した。

声の主の方向を見ると、二本足で立つ黒猫のような生物がそこにいた。

そいつは騎士に捕まったのか、牢屋に囚われている。

 

「お前ら、そこに鍵があるだろ?すまん、ここから出してくれ」

 

「猫……?」

 

「猫じゃねぇ!」

 

蓮がそいつの風貌を見て思わずそう呟くと、そいつは真っ先に否定する。

いやいや、猫だろ。

 

「お前、どう見たって敵じゃん」

 

「なんでここに捕まってるやつが敵なんだよ!んなわけあるか!」

 

そんな時、向こうの方で騎士が叫ぶ声が聞こえる。

 

「見つけたぞ!待て貴様ら!」

 

「うわっ!もう来やがった!くそっ、どっから出れんだよ!」

 

「お前ら、出口を探してるのか?出してくれれば案内するぞ!捕まって処刑は嫌だろ?」

 

お?それは結構いいんじゃないか?ウィン・ウィンの関係だしな。

 

「本当か……?」

 

「嘘じゃねぇ!本当だって!」

 

「貴様ら!大人しくしとけ!」

 

騎士達は残り50メートル程まで迫っていた。

おいおい、もうすぐそこじゃねぇか……。いずれにせよ戦闘は避けられねぇな。

 

「蓮、鍵を頼む。俺が時間を稼ぐ」

 

「おい英二!」

 

俺は竜司の声を流し、ICR-7の照準を一体の騎士に合わせた。

相手は走っていてエイムを合わせにくいが、俺も動きに合わせて微調整する。

 

「くらえ」

 

そうして俺は引き金を引いた。乾いた発砲音とともに発射された銃弾は立て続けに3発、相手の頭部に命中する。ヘッドショットだ。

 

「ぐはっ?!」

 

「ナイト、抹殺」

 

「うぉぉ!すげぇ!」

 

「やるなあいつ!あんな遠い敵を撃ち抜くなんて抜群の射撃センスじゃないか!」

 

騎士が一体消滅すると同時に竜司と猫が感嘆の声を上げる。

そんな時、カチャリという音がする。

 

「よし、空いたぞ」

 

「お、サンキュー。やっぱりシャバの空気は美味いぜ」

 

おいおい、言うてる場合かて。

呑気な猫にため息をつきそうになるが、俺はそのまま二体目に照準を合わせ、発砲する。

 

「ぐっ……」

 

「おぉ!英二ナイス!」

 

よし、2体目も消滅。周りも若干怯んでるな。

だが、それでも騎士はまだいる。数で押し込まれるとまずい……。

そんなことを考えていると意気揚々と猫が声を上げた。

 

「お前、見所あるな。そんなお前に免じて吾輩の力も見せてやろう。いでよ、ゾロ!」

 

そう言うと猫はゾロと呼ばれる剣士のようなペルソナを呼び出した。

 

「でけぇな」

 

「お前も変なやつ出せるのかよ!?」

 

「変なやつとはなんだ!吾輩のペルソナ、とくと見せてやる。行けゾロ!」

 

猫がそう言うと、ゾロは騎士に対し剣を振る。

すると風のような魔法が発生したと思ったら騎士は消滅した。

 

「す、すげぇ……」

 

「ふふん」

 

猫は竜司の感嘆の声にこれ以上ないドヤ顔をかましている。

俺は何気なく蓮の方を見ると、先程の戦闘時の黒いマントを羽織った姿に変わっていた。

 

「蓮も変身してるのか」

 

後ろには仮面をつけたペルソナが待機している。

 

「おぉ!お前ペルソナを出せたのか!」

 

「ペルソナ……?」

 

蓮の疑問に猫が答える。

 

「なんだ、知らないのか?ペルソナってのは自分自身の化身みたいなもんだ。こいつがペルソナを呼び出す時、仮面を剥がしたの見たろ?」

 

へぇ、そうなのか。

 

「人は誰しも心に仮面を被って生きている。そいつを自覚し、自ら剥がすことで……」

 

「お、おい!来たぞ!」

 

くそっ、敵のやつ大事な説明の時に空気読めよ。

俺が再び照準を合わせようとすると、猫に止められた。

 

「一旦待ってくれ。こいつのペルソナの力を見たい」

 

「あー……わかった」

 

「蓮、やってやれー!」

 

そうして蓮が騎士と対峙する。騎士は自らの姿を変え、ピーターパンに出てきそうな妖精になった。

 

「なんか弱そうだな」

 

「いや、これが本来の姿、シャドウも迎撃体制だ。お前を殺すために本気になったってことだ!支援してやるから死ぬ気で戦え!」

 

「分かった。奪え、アルセーヌ!」

 

そうして2、3回攻防があったものの猫の支援により、蓮はなんとか残りの敵を迎撃した。

 

「お前、やるじゃねぇか。ペルソナの力も中々のもんだ」

 

猫が蓮のことを褒めていると、蓮は再度制服の姿に戻った。

 

「うぉっ、また戻っちまった……」

 

「力の扱いが、まだ完全じゃないようだな。あの姿がそう簡単に解けるはずがない」

 

「へぇそんなもんか……。てか、早く出口行こうぜ!」

 

「竜司の言う通り、また次の敵が来る前に早く行こう。猫、案内してくれ」

 

「だから猫じゃねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして猫(名前はモルガナというらしい)の案内の元、なんとか地上フロア、そして出口(通気口)にたどり着くことができた。

途中秀尽学園の体操服を着た生徒が囚われていたり、騎士と出くわし戦闘になったり、といったハプニングがあったが何とかここまで来ることができた。

 

「よし、着いたぞ。この通気口が外に繋がってる」

 

「ありがとなモルガナ、じゃあ出ようぜ」

 

「いや、吾輩はここでやることがある。ここでお別れだ」

 

「そうか……ここまでありがとう」

 

「何かしこまってんだよ蓮。いいってことよ。ほら行け!」

 

蓮と竜司は頷き、先に通気口へと入った。

 

「ほら、英二も行け!」

 

「あぁ、その前に……ちょっと試したいことがあってな」

 

「試す??」

 

俺は腰から情報端末を取り出すと、画面右に表示されたゲージが溜まりステルス機のようなアイコンが黄色に光っているのを確認した。

 

「こいつはやはり……」

 

俺は黄色に光ったアイコンをタップした。

 

<UAVとのデータリンクを開始>

 

その瞬間、端末の画面には多数の赤点が表示された。

 

「英二、何やってんだ?早くしねぇと……その赤点はなんだ?」

 

モルガナも気になったのか、情報端末を覗き込む。

 

「これか?恐らく……敵の位置だろう」

 

「え?!そんなのが分かるのか?!」

 

UAV、CoDBO4におけるスコアストリークの一つだ。

スコアストリークとは、ゲームにおいてデス(死ぬこと)せずに敵を連続キル(殺すこと)していくとポイントが溜まり、そのポイントを使って発動させることのできるシステムだ。

UAVは発動させるとマップ上に敵の位置が赤点として表示されるようになるスコアストリークであり、その利便性は初心者から上級者まで幅広く使われるほどだ。

ちなみにUAVの欄の上にはあと二つ、スコアストリークが表示されているが、ポイントが足りず使用できないという意味で今は暗く表示されている。

 

「英二、お前ペルソナを使えるわけじゃないのか?」

 

「あぁ、そうだな。俺は生身だ」

 

「そうなのか……それはすげぇけど、一体どういうことだ……」

 

モルガナが何やら頭を悩ませているが、俺は知りたいことが知れた。ここから退散することにしよう。

 

「モルガナ、俺ももう行くわ」

 

「あ!英二!射撃センスと言い、その能力……お前の力が必要になるかもしれない。また会った時はよろしくな!」

 

「あぁ、そんときはよろしく」

 

生きるか死ぬかのこんな世界もう来たくねぇけど……。

そう言って俺は通気口の中に入った。

 

「蓮と竜司と英二か……。あの3人は使えそうだ。特に蓮と英二だな。蓮はペルソナ使いとしてかなり使える。しかし、英二は一体どういうことだ。抜群な射撃センスに加え、ペルソナ使いでもないのにあの能力……聞いたこともない……得体がしれねぇが、力を借りることになるかもしれねぇ」

 

帰り際、モルガナが何やら呟いていたが俺の耳には届かなかった。



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第4話

俺、蓮、竜司の3人はモルガナに教わった通気口から城の外へと出ることに成功し、城門を出た。

すると頭がぐらついたような感覚に襲われ、気づくと周りの風景はThe都会、という感じの街並みに変わっていた。

 

「おいおい、さっきまでのはマジでなんだったんだよ……。あれ?英二の格好も変わってるぞ」

 

竜司に指摘され、俺も自分の服装が先程までの武装した格好ではなく、死ぬ直前に着ていた普段着に変わっていることに気づいた。

 

「どういうことだ……。完全に武装が……いや、全部じゃねぇな」

 

俺は腰に装着された情報端末に気づき、自分の考えを否定する。

そんな中、蓮が慌てたように竜司に話しかける。

 

「竜司!時間……」

 

「げっ!もう昼かよ!」

 

「そうか、2人は学校なのか」

 

「あれ?英二は学校じゃないのか?見たところ同年代と思ってたんだが」

 

「ん?俺は20歳だぞ。あ、今まで通りタメでお願い」

 

「年上かよ?!」

 

そういや言ってなかったな。

 

「俺らは学校に行くけど、英二はこれからどうする?」

 

んー、そうなんだよなぁ。大学通ってたけど、ここじゃその大学もないだろうし。かといって行く宛てもないし……。あれ?これって詰んでる?

 

「あー……ちょっとこの辺知らない土地だから散策しようと思う」

 

「え、家とかどこにあるんだ?」

 

「……ちょっと親とかいなくてな」

 

「す、すまん」

 

あ、竜司に気を使わせたかこれは。

 

「なら、ここに行くといいかも。何かしら助けてくれるかもしれない」

 

蓮はそう言って[ルブラン]と書かれた名刺を手に取る。

 

「俺が居候させてもらってる場所だ。俺も世話になったばかりの身だが、色々助けてもらった」

 

「あ、ありがとう」

 

「あの世界で色々助けてもらった。お互い様だ」

 

蓮……さすがイケメン主人公だ。

 

「よし、じゃあ俺ら学校行くわ!マジで色々ありがとな、助かった」

 

「また英二とは会う気がする。その時はよろしく」

 

そう言って2人は走って学校へと向かった。

 

「蓮と竜司、いい奴らだな。さて、俺もお言葉に甘えてルブランに行くとするか。ルブランの場所は……」

 

そこで俺は重大な事実に気づく。

ルブランの最寄り駅は[四軒茶屋駅]、そしてここは[蒼山一丁目駅]、当然電車を使って移動することになるが……。

 

「あれ?俺金とか持ってなくね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……疲れた。校長も無理難題を押し付けないでほしいわね。今日は頑張ったし、ちょっと良いものでも食べようかな」

 

放課後、秀尽学園の生徒会長である新島真は渋谷のショッピングモールを訪れていた。

大学受験に向け対策を重ねつつ、生徒会長として学校の問題を次々解決していくことから、生徒のみならず教師陣からも頼りにされているThe優等生である。

 

「ちょっと高いけど、ここで美味しいものでも買っていこっと」

 

そう言って彼女はショッピングモール内の高級スーパーに足を踏み入れる。

 

「どれも美味しそう……どれにしようかしら」

 

「お客様、こちらなど如何でしょう?甘辛いタレが絡み合ってとてもオススメですよ」

 

ショーウィンドウの中にある惣菜に表情筋をゆるめながらカゴを持って歩みを進めていると、店員にオススメを紹介された。

 

「へぇ……とっても美味しそうです。じゃあこれにしよっかな」

 

「ありがとうございます。ではこちらで……え、新島真……?」

 

「え……?」

 

何故かその店員は、自分の名前を口ずさんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょ、なんでここに新島真がいるんだよ!

あ、もう放課後の時間か……ってここ学生が来るようなスーパーじゃねぇよ!

俺、福良英二は高級スーパー内で声をかけた人物が自分の見知った人物であったことに驚きを隠せない。

 

そもそも、俺が何故ここで働いているのかに話を戻そう。

俺は蓮と竜司、2人と別れた後に金がないことに気づくと同時に、まず今日を生きるのに精一杯であることにも気づいた。

何せ近くの駅に行く金もないんだ、飯代などあるはずもない。

そこで俺はまず日払いのバイトを探そうという結論に至った。だが、蒼山一丁目駅付近には何もなかったので仕方なく、隣町の渋谷まで歩いて移動することにした。

そこで見つけたのがこのショッピングモール内の高級スーパーだ。日払いに加え、[高級]スーパーってことでバイト代もそこそこ良かった。また、人が足りていなかったのか即採用だったのも大きい。

俺は意気揚々としてバイトに取り組んだ。今も取り組んでいるはずだった、のに……ここに新島真が現れるとは予想外も予想外だ。

なんで新島真のことを覚えているかだって?綺麗で可愛い人の名前を忘れるわけねぇだろ。

そういう訳で現状に至るのだが……。

 

「すみません、何故私の名前を知っているのですか?」

 

それは綺麗で……じゃなくて。

 

「秀尽学園の生徒会長をされてますよね?それで少し……」

 

「え?あなた秀尽の生徒?」

 

「いや、秀尽の生徒に知り合いがいて、それであなたの名前を少し……」

 

おいおい、口からでまかせも過ぎるな俺。

 

「そういうことですか……。いや、でもおかしいです。名前だけならともかく顔を見て名前を呟きましたよね?」

 

す、鋭い……。やっぱり頭いいな……って褒めてる場合じゃねぇ!

こうなったら……竜司、名前借りるぞ。

 

「えっと、坂本竜司君ってご存知ですかね?彼と少し面識があって、彼に写真を」

 

「あー、2年の問題児君ね。彼と関わるのは程々にしておいた方がいいですよ。色々問題起こしてるみたいだし」

 

そうなのか?ゲームでもそうだが、何か良い奴だったと思う。

 

「ご忠告どうも」

 

「何か流されたような気がするけど……。まあいいわ。じゃあ、これもらえます?」

 

新島真には俺の言い分を納得してもらえたようで俺が勧めた惣菜を買ってスーパーを出ていった。

 

「あぶねぇ……心臓に悪いぞ」

 

口は災いの元だな。今後気をつけよう。

 

こうして俺は初日バイトをハプニングに苛まれつつも乗り越えた。

時刻は現在22時、バイトをするまではルブランに行こうと思ってたけど、よくよく考えれば他所に迷惑かけるわけにも行かねぇよな。

お金も少しはあるわけだし、ネカフェにでも泊まろう。

そうして寝床が決まり、疲れた体を癒そうと思ったのに時である。

 

<ピコン>

 

腰に装着された端末から通知音のようなものが聞こえた。

俺は腰から端末を取り外し、画面を表示すると次のようなメッセージが入っていた。

 

<MISSION完遂期限:残り20日>

 

「おいおい……だからMISSIONってなんだよ」

 

そこを教えてくれよ、そう思いつつMISSIONの文字を何気なくタップする。

するとMISSIONの詳細が表示された。

 

「なんだ、出るのかよ……えーなになに」

 

<カモシダパレスの攻略>

 

「これってどう考えてもあの世界の攻略だよな……。ゲームもそうだったし。あー、結局あの世界に戻らないと行けねぇのかよ」

 

生死をかけてあの世界を攻略する、俺にとっては憂鬱でしかなかった。

だが、やってやるしかない。幸い敵はそれほど強くなかった。ヘッドショットでダメージを与えていけば倒せることも分かった。

 

「くそっ……やってやるよ。となれば本気で挑んでやる、その前に……この端末で色々確認しねぇとな」

 

俺はそうしてクラス選択画面を表示した。



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