まおうの作り方 (もっち~!)
しおりを挟む

国外追放

主な登場人物

ギルバート・ゴールドウィング/ギル・バートン
オリ主。先代勇者の次男。天職は未だなく、大神殿の書庫でお手伝いをしていた。選民主義者により、旧魔王城のある島に島流しにされた。

フレデリック・ゴールドウィング
ギルの兄で天職は大賢者。

システィ・ゴールドウィング
ギルの姉で天職は聖女。

ティア・ゴールドウィング
ギルの妹で天職は勇者。

ロック・ゴールドウィング
ギルの弟で天職は剣聖。

ローゼンタール・ゴールドウィング
ギルの父で、先代の勇者。

ロッテル・ゴールドウィング
ギルの母で先代の大賢者

ハンフリー・ホリック
ホリック王国の王。先代のタンク。

マイケル・ホリック
ギルの友人で、ホリック王国の王子。天職は剣士。

メアリー・ホリック
マイケルの妹で天職は聖女。

メリー・ホリック
マイケルの妹で天職は大賢者。

マリー・ホリック
マイケルの妹で天職は聖騎士。

アルバート
騎士団長

ルーシー
天職が悪魔の女性。

ガブ
天職が天使の女性。

ルナ
白髪のウサ耳族の女性。天職はバーサーカー。

ムート
紅髪の龍人族の女性。天職はバーサーカー。







---ギルバート・ゴールドウィング---

 

我が家の朝は慌ただしい。特に、遠征の日は特にである。

 

「ギル!起きている?」

 

姉のシスティの声で目覚めた。全身に柔らかい感触がある。横を見ると、妹のティアが抱きついて寝ていた。

 

「はぁ~。ティア、あんた15歳なんだから、ギルと添い寝は止めなさいよ!」

 

「うにゃ~…えっ?お姉ちゃんには言われたくない!17歳にもなって、お兄ちゃんとお風呂ってあり得ないでしょ?聖女見習いって、異性と肌を合わせちゃダメなんじゃない?」

 

「ギルはギルで、異性じゃないもん!」

 

姉と妹の僕の取り合い。遠征の朝の日課のような。この二人のブラコンは病的であると思う。

 

「ギル!朝飯を頼むよ」

 

兄のフレデリックに言われた。

 

「今、準備します」

 

「兄ちゃん、剣の手入れ頼めるかな?」

 

弟のロックに頼まれた。

 

「メシの準備が出来たら、やっておく。ティアも剣を出して置いて」

 

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

我が家は7人一家である。7人中、僕を除いて、全員が生まれながらの天職持ちである。父さんは勇者、母さんは大賢者として、先代の勇者パーティーで活躍し、その功績で公爵の爵位を授かった父さん。兄のフレデリックと姉のシスティは双子で、妹のティアと弟のロックも双子である。

 

父さんはお城に勤め、母さんは学校に勤めている。兄弟姉妹達はそれぞれの天職専門の学校に通っているのだが、この街では天職の無い者は学校へは通えない。なので、僕は知り合いの神殿長様により、大神殿でお手伝いをしている。

 

天職専門学校では、月に1度、1週間の予定で遠征という名の演習をしている。来たるべき時に向けて、次世代の勇者パーティーを作り上げるの目的らしい。

 

食事を終え、兄弟姉妹達が遠征へと旅立って行き、僕は大神殿へと向かった。

 

「よぉ、ギル坊」

 

顔見知りの門番さんに声を掛けられた。

 

「おはようございます」

 

受付で出金簿に印をいれてもらい、書庫へと向かう。僕の仕事は、大量にある書物の整理である。天職は無いが、『言語マスター』というスキルを持っている。これは、いかなる言語も読み書き出来るスキルだそうだ。その為、今では使われない言語の書物の内容を、この国の言葉に書き換えて、探し易く本棚に配置していくのが、僕の専門業務になった。

 

「ギル、今日も精が出るなぁ」

 

神殿長様が、お昼のお弁当を持って来てくれた。

 

「天職が無いんですから、この位しかお役に立てませんよ」

 

「ギルの天職は司書だといいなぁ。まぁ、こればっかりは、発現するまでのお楽しみだけどな」

 

僕に対して笑顔を絶やさない神殿長様。

 

「はい。発現する、その時を楽しみにしてます」

 

受け取ったお弁当を食べ、また仕事を再開する。そして、今日の就業時間が終わり、受付へと向かう。今日、翻訳出来た書物のリストを提出する為である。

 

「ギル、ちょっと、いいかな?」

 

貴族院の法制局長であるハルバート卿に声を掛けられた。貴族院とは、この国の政策を決める組織であり、法制局は法律を決める機関である。

 

「なんでしょうか?」

 

「ちょっと、来てくれるか?」

 

「はい」

 

ハルバート卿と、倉庫のような場所に入ると、急に意識がなくなった。

 

 

意識が戻ると、知らない場所にいた。そこは砂浜であった。ホリック王国は海に面してはいないのに、砂浜にいた。どうして?周囲を見回すと、地平線しか見えない。他の島も行き交う船すら見えない。ここはどこなんだろう?どうして、ここにいるんだ?身の回りをチェックすると、姉から貰った剣が無い。友人からもらった護符が無い。そもそも服も財布も無く、下着姿だった。まるで、追い剥ぎにあったみたいだ。

 

まず、波打ち際を歩いて行く。地平線以外に何か見えないかを確かめる為だ。1時間ほど歩いたが、地平線しか見えない。脳裏に世界地図を浮かべた。周囲に島の無い場所…大陸の周辺には無い。そうなると、大陸から離れた場所ってことだ。なんで、そんな場所にいるんだ?思い当たる節は、僕に天職が無いことかな。

 

貴族院の貴族達は、選民主義の方が多く、天職の無い者は下民とさげすんでいた。噂では、天職の無い者は大罪人で島流しの刑に処されると、聞いたことがある。僕は国外追放の上、島流しにされたのだろうか?

 

そうだ。食料を見つけないと。海に入り、魚を捕まえてみる。海の中は、様々な生き物がいた。どれも素手では難しい感じである。陸に一旦上がり、銛の代わりになりそうな物を探すことにした。

 

 

 

---マイケル・ホリック---

 

夜になり、城内が慌ただしくなっていく。何事かと、訊いてみると、

 

「王子殿下、それが、ギルバート様が大神殿内で神隠しに遭われたそうなんです」

 

っと。ギルバートは、俺の友人で、先代勇者の息子である。

 

「神隠し?誘拐か?」

 

「わかりません」

 

事情を訊きに、父である王に話を聞きに行く。玉間では、既に話を聞いたおか、妹達が心配そうな表情で、椅子に座っていた。俺には三つ子の妹がいる。上からメアリー、メリー、マリーである。3人とも、俺と同様にギルバートと仲が良い。

 

「どんな状況だ?」

 

メアリーに訊いた。

 

「お兄様…焼却炉から、ギルの衣服の燃えかすが見つかったそうです」

 

メアリーの頬を大粒の涙がこぼれ落ちていく。

 

「暗殺か?そうなると、選民主義の貴族連中か?」

 

ギルバートは天職を持っていない。先代勇者の子供で唯一持っていない。他の4人は、勇者パーティーに入れるような天職持ちばかりなのに…先代勇者の顔に泥を塗る愚か者と、陰口をたたかれていたギルバート。持っていなくてもいいじゃないか。俺達王族の誰もがギルバートを暖かい目で見守っているんだから。

 

ギルバートは特異な者であった。天職が無いのに、様々なスキルや特技、能力を持っていたのだ。大賢者のスキルである『言語マスター』、剣聖の特技である『一刀両断』、聖女の能力である『癒やし』など、天職が無くても、役立てる異能力者であった。その為、天職持ちの兄弟姉妹や、俺や俺の妹達に、スキル習得のアドバイスなどをしてくれていた。

 

そんな彼が、暗殺って?天職無しの異能力者は、選民主義者にとって異物だったのだろうか?

 

「犯人がわかりました」

 

騎士団長のアルバートが入って来た。

 

「ハルバート卿が、ギルの愛剣と、姫殿下様がギルに差し上げた護符を持っていました」

 

ギルバートの愛剣は、聖女であるシスティからのプレゼントで、聖女の剣と呼ばれている聖剣である。

 

「で、ギルはどこにいるのだ?!」

 

父がアルバートに訊いた。皆、アルバートの言葉を、待っている。

 

「黒魔術の『強制転移』でサタンキャッスルへ飛ばしたそうです」

 

静まる玉間。サタンキャッスル…魔王城のある島で、禁足地に指定されている死の島である。島の周囲10キロのラインには強力な結界が張られており、何人たり出入りが出来無いようにされている。

 

「空間系の『強制転移』で、結界に干渉せずに、送り込んだそうです」

 

妹達が号泣し始めた。ギルバートは死んだのと同じであると理解したのであろう。救出することは絶望的である。まして、無人の魔王城があるだけで、文明など存在しない。集落なども無い。生き物もたぶん、いないはずだ。

 

「ギルぅぅぅぅ~」

 

ギルの父親の叫び声が玉間に響いた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仲間

---ギルバート・ゴールドウィング---

 

森の中で、廃墟のようなお城を見つけた。誰かのお城のようだけど、誰もいないようだ。取り敢えず、住処をゲット出来た。パントリーらしき倉庫を見つけ、何かの干し肉を大量にゲット出来た。これで、当面、飢えは無いだろう。更にお城を探検すると、武器庫や書庫を見つけた。武器庫には銅や鋼の剣や槍、弓矢などが多数ある。密閉されていたのか、錆びていないし。ラッキーである。これで、海の生き物をゲットできそうだし。

 

書庫には、悪魔語や天使語、神格文字の書物が保存されていた。これは、ヒマつぶしに持ってこいである。孤島でスローライフもいいなぁ。天職が無くても自由に生きるって、いいよなぁ。街では、肩身の狭い思いで、潰されそうだったし。1日中、一人で書庫にいたので、孤独感も気にならないしなぁ。

 

孤島での暮らしは、思ったより快適である。食材は海から得られる。塩も海水から採れる。飲料水は湧き水が湧き出るポイントを見つけたし、食べられる木の実も発見したし。難点は、話し相手がいないことと、人肌が恋しいことかな。自宅にいた頃は、妹のティアが毎晩添い寝をしていたし、姉が一緒にお風呂にはいってくれた。でも、ここでは僕一人である。そんな僕には贅沢な悩みかもしれない。

 

或る日、書庫で、『召喚術』という書物を見つけた。読んでみると、意外に簡単な方法なんだけど、そこに至るまでの行程が難しそうである。召喚したい者と契約すれば、召喚出来るようになるようだけど、契約するまでが大変だ。まず、見つけて、会話しないとダメなようだ。この島に契約出来る者っているのかな?

 

もう1冊、『転移術』という書物を見つけた。これを覚えれば、他の街に行けるかもしれない。これも方法自体は簡単であるが、転移先を指定するのに、座標という物が必要になるらしい。これの算出方法は、極めて面倒なようだ。だけど、他の街に行きたい気持ちが強く、時間も有り余る程あるので、これを極めてみようと思う。

 

が、3日ほど、極めようと頑張ったが、煮詰まった。ここにある地図では、転移先の座標を割り出すのは困難なようである。煮詰まったので、城内探検をして、気晴らしをしてみることにした。

 

お城は広く、まだまだ見ていない場所がたくさん有る。生活する上で、必要な場所は見つけているので、不便さは無い。城内の図面を書きながら探索すると、隠し部屋らしき空間が多数あるようだった。そのうちの1つにチャレンジを始めた。どこから、入るのだろうか?パズルを解くような感覚で、凝り固まった脳ミソが解放されていく。あぁ…そうか!この壁って寄せ木細工の要領で動かせばいいのかな?壁の一カ所に妙な隙間を見つけた。音を立てて崩れていく壁。そこには、壁に刺さった剣が一振りあった。これって、抜くと英雄になるとか、何かの封印が解けるとかかな?

 

剣の前でしばし考える。英雄になるか、良くない物の封印を解くのか、大バクチに思えたのだ。まぁ、抜いてから考えるか。剣の束を掴み、引き抜いてみた。

 

コトン!

 

引き抜くと同時に、天井から鞘が落ちて来た。剣身は真っ黒である。素材は何だろうか?見た事の無い素材なんだろうな。

 

「その剣はダークマターで出来ているのよ」

 

僕以外がいない室内に、知らない女性の声がした。声のする方に振り向くと、二人の女性が立っていた。銀髪でボーイシュな女性と、金髪でふくよかな女性である。なんか、良くない物の封印を解いたのかな?

 

「ダークマターって?」

 

知らない素材について、訊いてみた。

 

「暗黒物資って言ってね、質量は持つけど、光学的に直接観測できないのよ」

 

よくわからない説明である。重さはあるが見えない素材なのか?いや、見えているんだど…

 

「斬られたことさえもわからない、そんな剣よ。別名、真なる魔王の証よ」

 

「真なる魔王って?」

 

「人間族が言う魔王って、魔法使いの王であったり、魔物の王であったり、魔獣の王であったり、悪魔の王であったりするんだけど、真なる魔王は、種族の王では無く、魔王って種族って言えばいいかな。一応、神様の末席になるんだけど」

 

魔王って魔王って種族なのか…

 

「で、あなた達は?」

 

今更ながらであるが、名前を訊いてみた。

 

「私はルーシーよ」

 

銀髪の女性が名乗った。

 

「私はガブよ」

 

金髪の女性が名乗った。

 

「僕はギルバート・ゴールドウィングです」

 

「えっ?君の名前はギル・バートンよ」

 

あれ?なんで?

 

「黒魔導師に、島流しの刑を食らったでしょ?その時に、本名は消されたのよ。そして、その剣を引き抜き、ネームドになったのよ、ギル」

 

ギルバート・ゴールドウィングは死んで、僕は転生したのかな?

 

「転生ではないの。君のギルバート・ゴールドウィングとしての記録がロストしただけよ。殺しの出来無い場所だったんじゃないかな?」

 

あぁ~、大神殿にいたからか。あそこでは如何なる殺生は禁止されている。

 

「君、魔法が使えないの?」

 

ルーシーに訊かれた。

 

「まだ天職が無いから…魔力は微々たる物だし」

 

魔力が無くても生きて行ける。

 

『ステイタスビュー』

 

ガブが何かの術を発動させた。目の前に僕の現在のステイタスが表示されていく。

 

『氏名:ギル・バートン 天職:不明 種族:人間

所持スキル 一刀両断、瞬動、転移、召喚、強奪、解体、錬成、修復、蘇生

所持能力 言語マスター、癒やし、不可視

使役 無し』

 

所持スキルがやたらに増えていた。あれ?

 

「天職が無いのに、スキルが多いんだねぇ」

 

ガブが、僕のステイタスを食い入るように見つめている。

 

「そうか…ここの書庫の神格文字の書物を読んだのかな」

 

頷く僕。

 

「あれは読むだけで、スキルがマスターできちゃうんだよ」

 

そんな御利益のある書物だったのか。

 

「でも、使えないんです。転移なんか、座標の算出が出来無いし、召喚は契約出来無いし」

 

「転移は行ったことのある街やランドマークな場所なら行けるよ」

 

あれ?そんなこと、書いてあったかな?

 

「口伝で習うことも、発動条件のうちだし」

 

なるほど。

 

「召喚は、実際に会わないと無理だけどね」

 

「で、あなた達は何者なんですか?」

 

「え?今更、そこを訊くの?」

 

笑っている二人の女性。

 

「私たちは、君のナビゲートピクシーのような存在。迷える子羊を導く役目なのよ」

 

「導く?どこにですか?」

 

「まだ発現しない君の天職へ…」

 

天職無しだと、こんな美人な女性達がアシストしてくれる特典なのだろうか?

 

こうして、僕は仲間を得たらしい。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会 Part1

---ギル・バートン---

 

「この剣を抜いた者に課せられる呪いとして、毎日深夜0時になると、このお城に強制転移するの」

 

ルーシーから、僕が受けた呪いの説明が為された。

 

「まぁ、呪いの効果はそれだけだから、ここに永住するのであれば、問題は無いわよ」

 

そうなると、日帰り旅行しか出来無いのか。

 

「そんなことから、別名シンデレラの剣とも呼ばれているわ」

 

僕の愛剣には、色々な別名があるようだ。黒剣とも呼ばれているらしい。

 

「どこかの街の冒険者ギルドで登録して、冒険者をしながら、色々な経験をしてね」

 

と、ガブ。ここに引きこもるのはダメらしい。天職を得るには、様々な経験が必要になるようだ。

 

「天職無しでもいいんだけど…」

 

「ダメよ。天職は得なさいね」

 

ルーシーから、きつい声が飛んできた。天職無しはダメらしい。最悪、天職が一般人でも良いそうだけど。天職が無く死ぬと、天国にも地獄にも行けないと脅された。僕的には浮遊霊とか地縛霊でも良いのだけどね。

 

「来る日に向けて、精進しなさいね」

 

それは、勇者パーティーに入れるようになれってことか?

 

「それだけの才能を持って、天職無しはあり得ないわよ」

 

勿体ないって事かぁ。

 

 

王都へ転移してみた。王都では、誰かの葬式をしている。王様や、マイケルや、メアリー達王族の皆様が、喪服を着ている。父さん、母さん、兄弟姉妹までも喪服である。誰か知り合いが亡くなったのか?

 

「ギルバートの葬式じゃないの?」

 

ルーシーが妙なことを言う。僕は生きているんだけど…

 

「だから、記録が消えているの。それは死んだに等しいことよ」

 

納得出来ないけど、僕は死んだことになったようだ。

 

「彼の死は無駄にしない。彼の死を教訓に、選民意識を改革し、このような悲劇の再発を防ごうではないか」

 

王様の声が響き渡る。拡声の術だろうか?

 

「さぁ、隣の町へ移動するわよ」

 

辻馬車に乗り、隣の町へ移動をした。一度行かないと、転移先に出来無いから、なるべく多くの町に行く必要があるそうだ。毎回、王都に転移しても、冒険者ギルドは王都には無いからだ。

 

夕方近くに、隣町のミューラーの町に到着した。その足で、冒険者ギルドで冒険者登録をした。こうして、僕はGクラスの冒険者になった。

 

翌日、朝早くにミューラーの町へ転移して、クエストをこなしていく。僕の場合、日にちを挟んだクエストは、基本出来無いから、時間との勝負になるようだ。その日のうちにクリア出来るクエストを見極める事が大事だそうだ。まぁ、0時になって強制転移して、また転移するれば、問題は少ないらしい。

 

Gクラスだとお使いクエストしか無く、2ヶ月ほどでFクラスに昇格出来た。これで、討伐クエストが受けられるらしい。

 

「パーティーを組んだ方がいいかな」

 

ガブがアドバイスをくれた。基本、ガブとルーシーはクエストに参加しない。Aクラス程度の討伐で無いと、相手にならない位強いそうだ。

 

「そうね。今後のことも考えて、奴隷でも買う?」

 

ルーシーが提案をしてきた。奴隷を買う?

 

「ギルの秘密を守る為、見ず知らずの仲間を作るより、奴隷の方がいいと思うのよ」

 

深夜0時の強制転移の呪いの件ですね。

 

ルーシーの案内で奴隷商の元へ向かった。向かった先はルシファード帝国。悪魔、魔人、堕天使などが共存する悪魔王が統べる帝国である。ここがルーシーの生まれ故郷らしい。そして、案内された先の奴隷商は、ルーシーの顔を見ると、血の気が失せていく。

 

「これはこれは、ルシフ…」

 

「あぁ、今はルーシーと名乗っているから。間違えるなよ!」

 

奴隷商の言葉を途中で遮り、ガンリキで黙らせるルーシー。なんか、スゴイ。

 

「あ…あの…ルーシー様、どのような奴隷が、ご要り用ですか」

 

ルーシーは上客なのか?奴隷商が下手に出ている。

 

「戦えるかわいい亜人の女性なんだが…」

 

「ちょっと、お待ちください…」

 

奴隷商はリストに目を通し、奥へと下がり、数名の女性を連れて戻って来た。

 

「現在は、この程度です。お気に召す娘がいれば、幸いです」

 

目の前には、ウサ耳族、ネコ耳族、虎人族、龍人族の女性が並んでいる。ルーシーが、ステイタスを吟味をし、

 

「ギル、ウサ耳と龍人のどちらが良い?」

 

2択にしてくれた。白髪のウサ耳族の子は15歳くらいに見える。割とボリューミーな胸が印象的で、紅髪の龍人族の子は10歳くらいに見える。幼子の部類である。長考する僕。

 

「わかった。この二人をもらう。手続きをしてくれ」

 

決められない僕をみて、二人共手に入れるようだ。

 

「はつ!分かりました。至急、奴隷紋を作成します」

 

彼女達の胸元に、魔方陣を転写し、その中心に僕の血を垂らす。

 

「これで、この二人はギルの奴隷だ。好きに使え!」

 

って、ルーシー。次に武器屋に行き、ウサ耳の子にはナイフとハンマー、龍人の子にはナックルを買い、お城に戻った。そういえば、お金はルーシーが払ってくれたのか?

 

「で、名前は?」

 

また、名前を聞き忘れていた。

 

「私は、ルナです」

 

ウサ耳の子が名乗った。兎だけに月なのか。

 

「私は…ムートです」

 

龍人の子が名乗った。バハムートに変身出来るのかな?

 

「因み、二人共天職はバーサーカーだよ」

 

小悪魔的な笑みを浮かべるルーシー。二人とも狂乱戦士なのか。う~ん…

 

「きっと、盾になってくれるわよ」

 

盾って…そんな使い方はしたくない。

 

 

翌日から三人で討伐クエストをこなしていく。Fランクだと、コボルド、ゴブリン辺りが主流のようだ。どちらも知能があり、侮れないFランクキラーであるが、黒剣のキレ味がサイコーである。『一刀両断』をすると、後方の相手までも斬れてしまうし、なによりも、ルナとムートの火力がスゴイ。二人とも打撃タイプであるが、次々に敵を潰していく。

 

1ヶ月ほどで、Eランクになれた。ダンジョンクエストはDランク以上なので、地道にコボルド、ゴブリン退治をこなしていく。そんな或る日、俺は知り合いに見つかってしまった。

 

「お兄ちゃん…生きていたの?」

 

固まる僕。抱きつく妹のティア。なんで、こんな場所にいるんだ?天職勇者がゴブリン退治って、あり得ない。

 

「なんで、ここにいるんだ?」

 

一人で来たのか、周囲には妹のパーティーメンバーはいない。

 

「ゴブリンハイロード退治…」

 

ゴブリンハイロードは、ゴブリンの上位種族で、広域魔法が使える強敵である。

 

「お兄ちゃん…どうして、帰って来てくれないの?」

 

僕に抱きつき、離れないティア。

 

「妹さんですか?」

 

ルナに訊かれ、頷く。

 

「私と同じくらいの妹さんが居るとは…」

 

ムートが呟いた。見た目は同じくらいであるが、龍人族のムートは100歳を軽く超えているらしい。それに対し、ティアはまだ15歳である。

 

「お兄ちゃん!ねぇ、一緒に生きたい。勇者になんかならないでいい。だから、一緒に暮らしたい」

 

頬を重ねて来たティア。ブラコンが重病レベルの妹、長年生き別れた感じの末の再会なのだろう。

 

「だけど…」

 

「口答えは許さない!」

 

って、唇を重ねて来た。身体を重ねてくる前に、決断しないと危険かもしれない。ティアの両頬を手の平で優しく包み、僕から離した。ティアの舌が僕の口の中から、名残惜しそうに出てきた。実の兄にディープキスって何?ブラコンをこじらせすぎだろうに。

 

「わかった。家に連れ帰る。だから、もう暴走はするな」

 

「うん♪」

 

こうして、僕は将来の勇者の芽を摘んで帰宅した。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会 Part2

---マイケル・ホリック---

 

天職勇者のティア・ゴールドウィングが消息を絶った。隣町のゴブリンハイロード退治のクエストを受け、そのまま消えたらしい。

 

「まさか、ティアがやられるとは思えないが…」

 

アルバートが父である王に報告をしている。

 

「何か事情があるのかもしれないな。ギルバートの件絡みかもしれぬ。極秘に捜査をしてくれないか」

 

「はっ、わかりました」

 

ギルバートが消え、仲の良かったゴールドウィング家の者達は、殺気立っているようだ。そんな中での、ティアの行方不明だ。何かを見つけて、深入りしたのだろうか?

 

 

 

 

---ギル・バートン---

 

ティアは相変わらず、僕と添い寝をしている。朝目覚めるとティアの柔らかい肉体の感触で、間違いを犯しそうになる。毎朝がスリリングになってきた。

 

「こんなにかわいい奴隷がいるの、実の妹さんと…おかしいですよ」

 

って、ルナが吠えている。

 

「まぁ、ルナもムートも性奴隷にする気は無いから」

 

「その心遣いに感謝はいたしますが、実の妹さんと…」

 

「誤解しないでくれ、ティアとは交わってはいない」

 

「お兄ちゃん、私はいつでもオーケーだよ」

 

兄の心妹知らずか。間違いを起こす気満々の妹。頭が痛い。只でさえ、天職勇者の道から遠ざけた、罪悪感もあるのに。

 

「私も冒険者登録したい。ティア・バートンを名乗ればいいのかな?」

 

まぁ、天職勇者では、冒険者になれない。勇者専門の学校へ行けって話になるからだ。

 

「そうなるとステイタスを改ざんしないとダメか?どうかな?ねぇ、ルーシー」

 

困った時のルーシー頼りである。天職が天使であるガブは、犯罪まがい行為には手を貸してくれないのだ。

 

「可能だよ。ステイタスを二重にするんだ。表ステイタスに改ざんステイタスを置き、裏ステイタスには本来のステイタスを置くんだよ」

 

『ステイタスリライト』と唱え、ティアのステイタスを改ざんしてくれた。

 

「天職は無しだ。天職の偽造は出来無いからな」

 

無しには出来るらしい。

 

「これで、お兄ちゃんと一緒に戦える」

 

基本、ティアもバーサーカー系である。パーティー全員、バーサーカー系って危なくないのか?

 

「Dランクになったら、魔法職を入れます。Eランクまで、バーサーカーで大丈夫なはずですよ」

 

と、ガブ。なら少し安心である。まぁ、ティアも多少は魔法を使えるので安心であるけど。

 

 

王都の隣町では、また知り合いに再会してしまうかもしれない。なので、ルシファード帝国との国境近くにある町の冒険者ギルドで登録をした。ランクはホリック王国内で共通なので、ティアだけGランクでのスタートになった。まぁ、すぐに追いつくだろうけど。他国との国境近くと言うことで、魔物討伐クエストが豊富にある。隣国はルシファード帝国であることも大きい。悪魔王が国のトップの国だし、凶暴な魔物が、追い立てられて、ホリック王国内に逃げ込んでくるそうだ。

 

「お兄ちゃん、ドラゴン退治にしようよ」

 

ティアが提案をしてきた。

 

「ムートはドラゴン相手で平気か?」

 

龍人族だと抵抗があるのか、訊いておく。

 

「問題無いです。ボコります」

 

ボコる気満々の女性3名。う~ん、これにするか。受付で、クエストを申し込んだ。空飛ぶ相手は初めてだが、どうにかなるのかな?という心配を余所に、『一刀両断』で、ドラゴンの羽を切り落としていく僕とティア。ティアも『一刀両断』が使えるのだ。地面に落ちたドラゴンは、バーサーカーコンビが、頭部を潰していく。討伐の証拠は、ドラゴンの尻尾の先なので、頭部が潰れても問題は少ない。

 

「お兄ちゃん、お肉は貰って帰ろうね」

 

そう言えば、ドラゴンのテールスープが好きだったなぁ、ティアは…

 

「ご主人様、胸肉を希望します」

 

ウサ耳のくせに肉食のルナも要望を出して来た。さすがに、ドラゴン系亜人であるムートは食べないらしい。

 

予定討伐数を超えた頃、遠くから助けを求める声が聞こえてきた。

 

「聞こえたか?」

 

仲間の三人の女性達が頷いた。救援ポイントはランクアップポイントとして、とても大きい。全員で声がした方へ駆け寄っていく。声のした現場では、邪龍が人を頭から食べていた。戦っているパーティーは魔法を撃ち込んでいるが、効いていないように見える。

 

「お願いです。手を貸して…え?!ギル?ティア?」

 

へ?救援先で知り合いに出会ってしまった。ティアはスルーして、邪龍の羽を切り落としていく。

 

「って、ことは、これって勇者パーティーか?」

 

「うん…」

 

僕を見て、違う意味で安心したのか、脱力をしている天職聖女の姉システィ。戦場を見つめても、ティア以外、聖剣持ちが戦っているようには見えない。

 

「天職勇者は?」

 

「喰われた…邪龍を甘く見過ぎていたのよ、あのクソ勇者は…」

 

邪龍はドラゴンでも弱い部類に入る。弱いといっても、攻撃力だけだ。防御力に関して言えば、ドラゴンカテゴリーではトップクラスに入る程、しぶとい上、攻撃では無く捕食に走る傾向にある。

 

「きゃ~!」

 

魔法を放った魔法使いを頭からかぶりついている邪龍。その顔面にハンマーを叩きつけるルナ。魔法使いごと潰されていく邪龍の頭部。ティアは、地面に落ちている邪龍の尻尾を斬り落としていく。こいつら、尻尾でバランスを取っているので、無くなると、立てないのだった。

 

参戦してしばらくすると、邪龍の群れは殲滅出来たようだ。ルナが尻尾の先だけを斬り落とし、回収していく。こいつらは、喰っても美味しく無いとティアが断言していた。

 

「助かったわ、ギル…」

 

姉のパーティーは確か6名だったが、生き残れたのは姉だけのようだ。姉は仲間の遺品になりそうな物を拾っていく。

 

「あれ?お姉ちゃん?」

 

今更であるが、ティアが姉を認識した。

 

「そうか、遠征パーティーだったのか。なんか、弱くない?」

 

「バーサーカー4人パーティーと比べちゃだめだよ、お兄ちゃん」

 

僕達のパーティーは攻撃は最大の防御であり、作戦は殲滅せよという、完全に戦闘狂チームである。あれこれと難しい作戦を立てて、邪龍を侮るパーティーと比べてはいけない。

 

「ねぇ、ギル…私もギルのパーティーに入れて。聖女にならないでいいの。ギルと一緒にいたいの!」

 

って、姉が僕を押し倒した。忘れていた。姉も病的なブラコンであったことを…激しく僕を求める姉。そんな姉の首筋に、ティアの手刀が落とされ、姉の意識は狩られた。

 

「お兄ちゃんは私の物。お姉ちゃんにはあげない!」

 

「ご主人様のご兄弟は、ブラコンばかりですか?」

 

ティアと姉を醒めた目で見ているルナ。

 

「否定はしない…取り敢えず、ギルドへ行こう。救援ポイントを貰わないと…」

 

5人で冒険者ギルドへ向かった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会 Part3

五人でお城に戻る途中、王都に立ち寄った。家から持って来たい物があると、姉が言うのだ。

 

「はい、これ」

 

姉から手渡された一振りの剣。これって、以前の愛剣では無いか。

 

「この剣は、ギルに使って貰いたいの」

 

城に戻り、久しぶりに素振りをしてみた。手の平に、昔のような馴染む感覚が蘇って来た。そうなると、二刀流を視野に入れないとダメかな?黒剣の切れ味は最高である。取り回し感は聖女の剣の方が良い。

 

「ティア、二刀流を教えてくれないか?」

 

剣士系である勇者様に訊いてみた。

 

「無理…お兄ちゃんの方が剣技は上だもん」

 

それは、僕に出来無いことは、出来無いってことか…

 

「そうなると、剣聖に習うかな」

 

「ロックも無理だよ。お兄ちゃんの弟子でしょ?」

 

あぁ、確かに…僕が剣技をロックとティアに教えたような気がする。

 

「習うより、慣れてみれば?」

 

って、ルーシー。

 

「書庫に参考書があるかもしれないですよ」

 

と、ガブ。その手があるか。僕は書庫に探しに行った。

 

 

 

---マイケル・ホリック---

 

勇者パーティーの1つが、聖女を残して全滅したそうだ。その聖女は、ギルの姉のシスティらしい。偶然、近くにいた冒険者パーティーに救助されたそうなのだが、その後の消息は途絶えたと言う。

 

ギルが消え、ティアが消え、そして今度はシスティが消えた。先代勇者に恨みを持つ魔王軍の残党の仕業ではと、王都内では噂が囁かれていた。

 

「お兄様はどう思いますか?」

 

妹のメアリーに訊かれた。

 

「ギルの件は選民主義者の犯行だ。問題はティアだな。勇者が簡単にやられたり、捕まったりはしないと思う」

 

「ルシファード帝国との国境近くの町で、消息が消えたシスティは?」

 

「聖女だし、悪魔にはやられないと思うが、帝国内に拉致されたとなると、厄介だな」

 

悪魔王は準魔王と呼ばれ、それなりの強さを持っている。その上、一国の長である。叩くとなると、戦争になってしまう。魔王相手なら勇者パーティーに分があるが、国相手では分が悪い。

 

「父の話では、違う勇者パーティーに消息を捜査して貰うそうだ。その報告次第だろうな」

 

ギルバート…アイツは無事だろうか?貴族院では、魔王復活の為の生け贄にされたのではと推測されているが…

 

 

 

---フレデリック・ゴールドウィング---

 

消息不明になった愚妹の為に、国境近くの町に着いた。

 

「フレディーさん、どうしますか??」

 

勇者に訊かれた。

 

「まず、町の人に聞き込みだな」

 

「じゃ、俺達は、周辺で狩りをしてきますね。聞き込みとか、勇者の仕事では無いですからね」

 

勇者は、剣士、魔法使い、僧侶、格闘家を連れて、狩りへと向かった。残った俺が雑用をしろってことか?俺のパーティーの勇者は、仕切り屋タイプである。戦闘力はそこそこであるが、適材適所がモットーであるらしい。そんな彼にとって、俺は目の上のたんこぶであり、ジャマな存在のようだ。

 

歳上で、先代勇者の長男であり、天職が大賢者である俺に、ライバル心すらむき出しにしているし。勇者と大賢者では分野が違い、同じ土俵では比べられないのだが、そういうことを考慮せず、総合力評価をしたがる。困ったヤツだ。

 

聞き込みかぁ~。酒場かギルドがセオリーだな。まず、ギルドへ向かった。入ってすぐに、クエスト掲示板に視線が向く。国境近くである為か、討伐系のクエストが多いようだ。帝国から逃げ出し、王国内で暴れる魔物が多いのだろうな。

 

その時、俺は失念していた。最近、愚妹のパーティーが全滅していたことを、すっかりと忘れていたのだ。

 

ギルド内にある喫茶スペースを見る。こういう場所で、どのクエストにするか、パーティーで相談することが多いのだ。だが、1組のパーティーしかいなかった。コイツらに情報でも貰うかな。

 

「なぁ、ちょっと、話を訊いてもいいか?」

 

「へ?フレディじゃないの?何してんの?」

 

俺達の探し人が目の前にいた。

 

「システィ…なんで、ここにいるんだ?」

 

「へへへ、今冒険者として、生きているんだよ」

 

愚妹が嬉しそうに言う。聖女なのに、冒険者だって?いやいや、聖女は冒険者になれない。冒険者登録出来無い天職には、勇者は勿論、聖女、大賢者、剣豪、剣聖など、勇者パーティーに組み込むべき天職があるのだ。

 

って、言うか…ギルとティアまでいるし。俺は白昼夢を見ているのか?

 

「あれ?兄さん、どうしたの?」

 

どうしたのって、俺が訊きたい。

 

「ギル…お前、生きていたのか…なんで、帰って来ないんだ?」

 

「う~ん。ここじゃ、話しにくいな。今日は、ここまでにして、帰るか」

 

「うん、帰ろうよ、お兄ちゃん」

 

もの凄く嬉しそうなティア。どういうことだ?俺はギル達に付いていくと、光の渦に囲まれて、知らない場所に転移していた。

 

「転移魔法か?」

 

「転移術だよ。僕には魔力が無いからね」

 

ギル…お前は一体、天職は何になったんだ?転移系のスキル持ちって、聞いたことが無い。転移魔法であれば、大賢者は勿論、勇者が覚えられるはずだが。

 

「ギル、お前の天職は何になったんだ?」

 

「まだ決まっていないんだよ。経験値が足り無いらしいよ」

 

苦笑いしているギル。

 

「で、ここはどこだ?」

 

「お城の中だよ。お城を住居として使っているんだ。呪いを受けてね、この城から離れて暮らせないみたいなんだよ」

 

城?たしか、ギルは強制転移で、サタンキャッスルに飛ばされたんだよな…って、ここは魔王城かっ!

 

ティアもシスティも、他の仲間達も装備をはずし、部屋着に着替えていた。妹達も、ここで暮らしているのか…おいおい…勇者と聖女が魔王城で暮らすって、ダメなんじゃないか?

 

「兄さんもここで暮らさない?」

 

ギルからの誘い。俺は無意識の内に頷いてしまった。

 

「兄さんの部屋は、好きな空き部屋を使ってね。書庫の本は、基本的に持ち出し禁止だよ」

 

魔王の書庫があるのか。それは興味があるなぁ。俺は、ギル達と暮らすことにした。その時、俺の脳裏から、俺のパーティーメンバーのことがすっかりと抜け落ちていた。

 

 

翌日、あの町に転移すると、俺のパーティーメンバー達が見当たらなかった。宿に泊まった記録すらない。まさか、俺を放置して、違う町に行ったのか?今回の案件では経験値は稼げないしなぁ。アイツなら、やりかねない。上昇志向が強いし。

 

「兄さんはフレディ・バートンっていうGクラス冒険者で登録してあるからね。姉さんはFクラスに昇格していて、ティアと僕はDクラスなんだよ」

 

ステイタスの複数所有が出来るとは…あのルーシーって女性は、何者なんだ?ギルのナビゲートピクシーと言っていたが、種族はなんだろうか?俺の知らない魔法を知っているようだし。人間では無いのは確かである。

 

って…ティアとシスティのブラコンは暴走気味のようだ。自宅の時のように、ティアはギルと添い寝をし、システィはギルと入浴をしている。俺の付けいる隙が無い。

 

「今日の目玉は…また邪龍が出たようだな。これにする?」

 

ギルがクエストの相談をし始めた。邪龍…ちょっと待て!そんなヤツが出るのか?Aクラス級では無いのか。いや、特S級指定されていてもおかしく無い。それほど、邪龍は倒すのが困難な魔物である。

 

「美味しく無いんだけど…」

 

ティアは喰うことが前提なのか?

 

「昇格ポイントも高いし、いいんじゃない?」

 

って、システィ。簡単に決断できる相手ではないぞ。

 

「じゃ、決定だね。兄さん、今日の獲物は邪龍だよ」

 

って、笑顔で言うギル。このパーティーって、最強の勇者パーティーになるのか?

 

「ティアのジョブって、なんだ?」

 

「ボクはバーサーカーだよ。お姉ちゃんはアークプリーストで、お兄ちゃんもバーサーカーなんだよ」

 

楽しそうに説明をするティア。

 

「ついたパーティー名は、ブレインマッスルだって…」

 

システィが苦笑いしている。ブレインマッスルだと?『脳筋』ってことか…とても、勇者パーティーと呼べるメンバーでは無いらしい。

 

「バーサーカーが4人で、アークプリーストが一人…で、兄さんのアークウィザードが加入で、希望通り、魔法使いの補填が出来たし」

 

ギルが嬉しそうに話している。そして、狩り場へと向かった。狩り場は森の中にある広場のような場所だった。

 

「ここが邪龍達のエサ場だよ。ドラゴン以外の気配を感じると、狩りに来るんだ。ほら!来たよ」

 

空にドラゴンの群れがこっちに向かって飛んでくるようだ。

 

「ギル、作戦は?」

 

「殲滅することだよ、兄さん」

 

それは目的であって、作戦では…などと考えていると、目の前では次々に邪龍が地面に落ちてきている。ギルとティアの二人が『一刀両断』を連発して、邪龍の羽を使えなくしていた。落ちて来た邪龍達は、ギルの仲間達の打撃で、次々に頭部を粉砕されていく。その戦い方は手慣れているようだ。

 

 

 

---マイケル・ホリック---

 

システィの捜索をしに行った、パーティーのメンバー全員が行方不明になったそうだ。その中には天職大賢者のフレデリック・ゴールドウィングも含まれていた。これでゴールドウィング家の子供はロック・ゴールドウィングだけになってしまった。

 

「どう思う?」

 

父が、ギルバートの父に訊いた。

 

「魔王が復活したのか?それならば、納得がいく。真面な勇者パーティーで無いと、魔王は倒せないからな」

 

噂通り、ギルバートは生け贄になって、魔王が復活したのだろうか?

 

「俺と彼女とロックで、サタンキャッスルに行こうと思う」

 

先代勇者、先代大賢者、そして、剣聖見習いか…

 

「待て!その戦力じゃダメだ。盾役の騎士、回復専門のアークプリースト、火力重視のアークウィザードが必要だ」

 

先代の騎士は父だったらしい。

 

「アークプリーストとアークウィザードって、現在いるのか?」

 

「全国のギルドに調査を依頼してある。見つかり次第、同行を打診しようと思う。だから、少し待て」

 

ギルバートの、その後の調査は決定らしい。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思い違い

---ロック・ゴールドウィング---

 

両親と共に、サタンキャッスル島に向かっている。同行メンバーとして、他のギルド所属のアークプリースト、アークウィザードの2名が同行している。サタンキャッスル島のの周囲には出入りを制限する結界で囲っている為、出入りの為のドアと呼ばれる結界を操作して、上陸するそうだ。

 

これで、兄ちゃんと会える。どんな形であれ、兄ちゃんと会えるのである。最悪、遺骨を拾うだけになるかもしれない。覚悟はしている。俺も、両親も。

 

アークプリースト、アークウィザードの二人は、正体を晒したく無いと理由で仮面を着けていた。先代勇者に協力して、害が及ぶのを防ぐ為らしい。

 

ドアに対して、母が呪文を行使し、いよいよ魔の領域へと侵入した。事前に想像していたのと違い、穏やかな海が広がっていた。

 

「穏やか過ぎる。魔王は復活していないのか?」

 

父達が魔王退治に来た時は、もっと荒れていたそうだ。空をカモメの集団が、暢気に飛び交っているし。海も空も風も穏やかであった。

 

島に近づき、碇を降ろして、小舟で上陸するそうだ。この島は遠浅らしく、座礁する危険があるらしい。そして…上陸。綺麗な砂浜が広がっていた。魔物の気配をまるで感じ無い。もしかしたら、兄ちゃんは生き延びているかもしれない。

 

記憶を頼りに城を目指す父。30分ほど歩くと、城の前に出た。城の扉は手を掛けると、すんなりと開いた。

 

「臨戦態勢を取ってくれ」

 

父から指示が飛んできた。俺と父は剣を手にして構える。が、魔物や魔族の気配を感じない。

 

「復活はしていないようだな」

 

城の中に足を踏み入れた父。その時、何かの気配を感じ、剣と剣がぶつかり合う音が響いた。

 

「呼び鈴をならさずに入るって、空き巣と同じじゃないか!」

 

はぁ?魔王城って、呼び鈴があるのか…

 

「えっ!ギルなのか?」

 

攻撃してきた者の顔を確認して、父がうめくように声を出した。

 

「僕はギル・バートンだ!黒魔術を食らい、既に親子の縁は切れている」

 

父と激しく打ち合う兄ちゃん?

 

「ロックの相手は、ボクがする」

 

えっ!いきなりティアが俺に斬りかかってきた。剣を交える俺。母は、呆気に取られ、誰かに制圧されている。背後にいたアークウィザードとアークプリーストの姿は消えているし…ワナだったのか?

 

剣聖である俺がティアに押されている。先代とはいえ勇者である父は、兄ちゃんに押されているし。どういうことだ?

 

「ギル!どういうことだ?」

 

父の怒声が飛んだ。

 

「空き巣まがいをする者に、怒りを感じたまでです」

 

呼び鈴を鳴らさなかったことに、激怒している兄ちゃん。

 

「なんで、ティアがいるんだ?」

 

父の怒声は、俺の相手にも飛んだ。

 

「お兄ちゃん無しの生活なんか無理だもん」

 

って、いつの間にか、目の前にはシス姉、フレ兄がいるし…

 

「どういうことだ!」

 

父は、兄ちゃんから距離を取った。

 

 

 

---ギル・バートン---

 

元父親とは言え、呼び鈴を鳴らさずに、家に入るとは…許せる行為では無い。

 

「何しに来たんだ?」

 

「魔王の復活を確認しに来た!」

 

魔王の復活?はて?

 

「この家には魔王なんていない。だから、出て行ってくれないかな?」

 

元父と、元弟の剣先が僕達に向いている。兄さんは元母に対し、牽制しているようだ。

 

「ギル…一緒に帰ろう」

 

「帰れない。呪いを受けていて、どこにいようと、深夜0時には、ここに強制転移してしまう。だから、もう、ここでしか暮らせない」

 

「ティア…システィ…フレディ…お前達は帰れるんだろ?」

 

僕への説得をあっさりあきらめ、他の兄妹に狙いを変えた元父。まぁ、天職なしの僕なんか、要らないもんな。

 

「「「拒否!」」」

 

速攻で拒否する兄妹達。

 

「ローゼンタール・ゴールドウィング、ロッテル・ゴールドウィングよ。久しぶりだな」

 

いきなり、ルーシーさんが元両親に声を掛けた。

 

 

 

---ローゼンタール・ゴールドウィング----

 

同行してきたアークウィザードが仮面を外しながら、声を掛けてきた。なんだって…コイツ…

 

「どうしたのさ?もう遠い記憶で覚えていないかな?」

 

忘れない…コイツのことは絶対に…

 

「ルシファー!」

 

あの時、準魔王であるコイツは屠り損ねた。なんで、ギル達の傍にいるんだ?

 

「覚えていてくれたか。まぁ、今はルーシーと名乗っているんだよ」

 

今この場で屠りたいが、ティアとギルに、ルシファー、システィ、フレディ相手では、無理である。

 

「なぁ、今日はゆっくりと話が出来そうだな。リビングで話でもするか?ギル、それでいいか?」

 

ルシファーの言葉に頷くギル。洗脳されたのか?

 

「洗脳?されていないよ。ルーシーさんは、僕の先生だもの」

 

笑顔で答えたギル。心が読めるのか?

 

 

大広間に、大きなテーブルがあり、皆で腰掛けた。ギルの仲間が、紅茶や珈琲を入れ、サーブしてくれた。

 

「ローゼンタールよ、天職の意味を知っているか?」

 

いきなり、妙な事を言うルシファー。

 

「天から与えられるジョブだ。それがどうした?」

 

「それは違う」

 

ギルが、反論してきた。

 

「天職とは、目標なんだって」

 

「目標?」

 

「そう…神が生まれた子のステイタスの伸び代を考えて、努力した結果を見せているにすぎない」

 

新たな説を唱えるギル。天職無しのギルらしい考えではあるが。

 

「証拠はあるのか?」

 

「うん。有るよ。この本に書かれているんだ」

 

1冊の書物をメイドさんが持って来てくれた。そのメイドさんの顔を見て驚く、私と妻…

 

「ガブリエル様…どうして、ここに?」

 

神の使いである熾天使であるガブリエル様であった。現役勇者だった頃、何度かお会いしていた。

 

「愚問ですよ。あなた方人間は誤解をしている。魔王は悪神ではなく、神の末席ですの」

 

熾天使様からのお言葉に、衝撃を受けた私達。魔王って、神だったのか…

 

「人間って言うのは、なにか目的が無いと、努力をしない生き物です。ですから、神の末席に居る者が、魔王となり、人間達に、努力、研鑽をさせる為に、存在しているのです」

 

え…教会の教えてと違う。

 

「教会?あれは、人間の作り上げたシステム。作った者の都合の悪い教えは無くし、都合の良い事だけを説いているにすぎない。現に、その書物を読めないでしょ?」

 

手渡された書物に目を通すが、知らない言語体系で書かれていた。

 

「ソレは、神が使う神格言語で書かれている、真実の書物です。本来は、神、天使、悪魔だけしか読めませんが、ギルは言語マスターのスキルがあるので読めるのです。その書物が、私達の教本です。それを読めない者が、聖典を書けると思いますか?」

 

人間に理解の出来無い文字…神官であっても読めないのだろう。

 

「ちょっと待ってください。何故、悪魔が読めるんですか?」

 

「悪魔は天使の末席です。神に仕えるのが天使であり、魔王に使えるのが悪魔なだけで、天使も悪魔もジョブの一種なんですよ」

 

熾天使様から、衝撃の真実が語られた。じゃ、私達は、命を削り、なんで悪魔や魔王と戦うんだ…

 

「のうのうと生かさない為の神からの試練です」

 

笑顔で言い切る熾天使様。

 

「天職が無いギルは、神に選ばれた存在です。努力次第で、なんのジョブにもなれるんです。天使だったり、悪魔だったり、魔王だったりね」

 

まさか、次代の魔王候補はギルなのか…ギルは生け贄では無く、覚醒待ちなのか?この場で切り捨てるべきか?

 

「ローゼンタールよ!ギルは、お前達に殺させない。私達が護るからね」

 

ルシファー、熾天使様だけでなく、ティア、システィ、フレディからも殺気が漂い始めた。この戦力相手だと、勇者チームが3つくらい必要か?

 

「ローゼンタールよ、戦力を読み違えているぞ。準魔王は全員転生している。まだ覚醒はしていないが、戦力的には、申し分無いくらいだよ」

 

魔王の配下には準魔王と呼ばれる悪魔王、魔獣王、魔物王、魔龍王、魔法使いの王などがいた。

 

「その知識も違うわよ。天使長、精霊王っていう正義の味方も、実は準魔王なんですからね」

 

笑顔であるが目が笑っていない熾天使様の口から、真実が語られていた。まさか、強力な味方であり、魔王討伐に欠かせない戦力である天使長様、精霊王様までもが、準魔王と言うのか…

 

「人間達は、思い違いをしている。激しくなっ!ギルのことを蔑む?それ自体が、間違っているんだよ」

 

勝ち誇ったような表情のルシファーが笑った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。