魔を断つ仮面、ここにあり (ルルー)
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迷い込むは黒の街

 どこかの宇宙(そら)で、人を狂わすフルートを吹くものがいる。

 

 その者、悪である。

 その者、無貌である。

 その者、人を宝物のように愛すれど、漆黒の悪意を持って踏みにじるものである。

 

 この者を人は、邪神とよんでいる。

 

 

 そして今この瞬間、その時折に乗じて黒と白の立ち位置ころりころりと変えるこの邪神が、とある人間に目を付けた。

 

 人間。

 それは平凡である。

 人より何かに優れるというわけでもない、だが何かに劣るという者ではなく、ただただ創作物が好きな者である。

 この者が目を付けている星、地球に生きる人類の中でもありふれた人種の一人である。

 

 邪神に異変が生じる。

 おぞましい魔笛を吹かしながらも蠢く触手は別の個所に禍々しい口を生み出し、そこから何かを発し始めた。

 

「■■■■」

 

 発されたもの、それは呪文であった。

 摩訶不思議、複雑怪奇な単語の羅列である。

 この単語を一つでも理解してしまえば、人間はまともに生きてはいけないだろう。

 そして、時間にして十秒も満たない時間で生み出される物があった。

 

――それは、一冊の本だった。

 

 時計の歯車が装飾された革表紙の本、タイトルの部分には『仮面黙示録』と書かれており、ゆったりと邪神の前に宙に浮かんでいる。

 そして、次の瞬間には跡形もなく消え去っていた。

 

 邪神が白痴の王へと捧げる魔音が響く、薄氷の上に立つ宇宙(そら)は、何時消えてしまうのかと戦々恐々と自身を広げていた。

 逃げるように、救いを求めるように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだってんだよ一体!?」

 

 そう叫びながら、誰もいない黒い街を走る青年は、怪物に襲われていた。

 蝙蝠のような羽、牛のような角に長い尻尾、皮膚は黒々とした光沢を放っている。

 なぜこうなったのか、青年は自問する。

 

(俺はただ本を買いに行っただけなのに)

 

 思い出すは朝のこと、ふと好きな作品のノベライズ版が発売されるということを思い出し、意気揚々と近くの書店へと向かい目当ての本を手に入れたその帰り道に突如として襲われ、今に至る。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 時間にして五分ほどたった頃、段々と青年の息が上がり始め足どりはだんだんと遅くなっていく。

 そしてついにはその足を止めてしまい座り込んでしまった

 青年の津核に怪物が着陸すると、ゆっくりと青年の方へ足を動かし始めた。

 

「来るな……来るなぁ!?」

 

 歩み寄ってくる怪物に、青年は半狂乱になりに叫びだすが、怪物はそんなこと気にも留めずにしっかりとした足取りで変わらず迫る。

 

(なんで……なんで俺がこんな目に……)

 

 青年は自問する。

 何か悪いことでもしたのだろうか、取り返しのつかないことでもしでかしてしまったのだろうか、たとえそうなのだとしてもこれはないだろう。

 

 報復によるものならよかった。 理由がわかるからだ。

 自己によるものならよかった。 運が悪かったのだとあきらめがつくからだ。

 

 だが、()()()()()()()()()()()など、どう納得すればいいのだろうか。

 

 納得できるわけがない、納得できるはずがない、まだ自分は生きていたいのだと、心からも魂からも願っている。

 

「うああああああああ」

 

 そう思った時にはもう、行動に移していた。

 持っていた本を投げ捨てこぶしを握って怪物へと走り出す、振りかぶった拳は怪物へと吸い込まれるように飛んでいく……だが

 

(殴った感覚がない……?)

 

怪物に触れた個所から感じる謎の感覚、まるでゴムの塊を殴ったかのような感触に思わず止まってしまう。

 

「■■■!」

 

 その隙を逃す怪物ではなかった。

 怪物は黒い足で青年を蹴り飛ばし、近くにあったコンビニエンスストアへ叩きこむ。

 

「ぐぁっ!?」

 

 青年体はまるでボールのように飛んでいき、砕けたガラスと共に商品棚を大きく倒しながら店内に倒れ込んでしまった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 肩で息をする青年の体には多くのガラス片が突き刺さっており、体から多くの血が流れ始めていた。

 怪物は飛んでいった獲物めがけてまた歩みす。

 

 

「もう……ダメなのか……」

 

 諦めの言葉が青年の口からこぼれだす。

 

「こんな理不尽に……何の抵抗もできずに死んじまうのか……」

 

 ガラスを砕く音がし始めた。

 

「こんな……ところで……」

 

 怪物の顔が見えた。

 

「諦めて……」

 

 怪物の手が青年の頭へと伸ばされる。

 

「諦めてたまるか!」

 

 青年がそう叫んだ時だった。

 どこからか青年のもとに一冊の本が、怪物を弾き飛ばした。

 

「は?」

 

 呆ける青年をよそに、宙に浮かぶ本から大量のページがあふれ出す。

 あふれ出したページは集まっていき、人型を形作ると一人のマフラーを身に着けた男性に姿を変えた。

 男性は青年へと向くと口を開く。

「生きたいかい?」

 

「え」

 

「生き残りたいかと聞いているんだ。 私にはそれを成すだけの力がある」

 

 急な問いかけに、驚きながらもなんとか思考を回す。

 (選択肢は二つだ。一つは怪物に殺される、二つ目は本から現れたこの人に従う。 生き残るなら……)

 

 青年は決心すると、叫んだ。

 

「生きたい! 俺はまだ満足できるだけ人生を歩んじゃいない!」

 

「了解した。 では君の名前を教えてくれないかい? ()()()()()()()()()

 

 魔王、突如として出てきた不穏な単語に驚くが、なりふり構ってはいられないと叫ぶ。

 

逢魔 刻(おうま とき)だ! 」

 

「よろしい、ではこれにて契約はなされた!」

 

 瞬間、男性の体が再びページへと崩れる。

 崩れたページが刻へと向かっていき包み込む、そしてページの波が晴れると、刻の姿が変わっていた。

 体は黒いラバースーツのような物に包まれ、体の至る所に回転する歯車が装飾されていた。

 

「なっなんじゃこりゃあああああ!?」

 

 驚愕の声を叫ぶ刻、その傍らにはデフォルメされ手のひらサイズにまで縮んだ先ほどの男性が浮かんでいた。

 男性は、驚く刻を置いて高々と声を張り上げた。

 

「祝え! これなるは仮面戦士を記録する魔導書『仮面黙示録』と契約を果たし、邪悪なるものを打倒す偉大なる人の守護者。 その名も魔を断つ戦士(仮面ライダー) ここに誕生の瞬間である!」

 



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黒の街での戦い、そして

「ここら辺のはずなんだが……」

 

 百貨店や飲食店が立ち並ぶ商店街。

 そこに、学校からの帰路に着く学生や仕事帰りの会社員たちなどという日常の光景には似つかわしくない怪しい動きをしたスーツの女の姿があった。

 手には何やら振り子のような物を垂らしており、ぶつぶつと小声でつぶやいていることもあってか怪しさをさらに倍増させている。

 

「ダウジングが狂ってきてやがる……はあ、しゃーないか」

 

 女はやれやれという風に振り子を内ポケットへとしまうと、夕日に陰り始めた商店街の裏路地を見た。

 

「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 女は手に持っていた鞄から、一冊の古ぼけた本を取り出し開く。

 ふと周囲を見て見れば女のいる周囲からは人の気配が薄なってきており、まるで()()()()()()()()()のかと錯覚してしまいそうな光景と化していた。

 

「よっし、いきますか!」

 

 女がそう言うと、触れもしていない本のページがめくられ始めた。

 パラリパラリと乾いた音を立てながら捲られていき、ページはある場所で止まった。

 記載される文字列は暗黒の記録の一つ、そして女の口から紡がれる詠唱によって現れるは魔術師の剣にして杖であるモノ。

 

『バルザイの偃月刀!』

 

 女はバルザイの偃月刀に、闇が深まる場所。 少し前とある青年が迷い込んだ黒い街へと足を踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祝え! これなるは仮面戦士を記録する魔導書『仮面黙示録』と契約を果たし、邪悪なるものを打倒す偉大なる人の守護者。 その名も魔を断つ戦士(仮面ライダー) ここに誕生の瞬間である!」

 

 刻の傍らに浮かぶデフォルメされたマフラーの男の声が、黒の街へと響いた。

 

「おっおいどうなってるんだこれ!? 俺どうなってんの!?」

 

「落ち着き給え我が魔王。 ただ変身しただけじゃないか」

 

「変身?」

 

「ああそうさ。時折罪なき人々を襲う闇のモノたちを影ながら救う仮面の戦士、君は今それになっている……と無駄口を叩いている場合じゃないようだ」

 

「え」

 

 マフラーの男が刻の前方へと指をさす、それにつられて顔を向けて見れば、そこには先ほど吹き飛ばされた怪物が立ち上がり、今にもこちらに攻撃を仕掛けようとしている瞬間だった。

 

「ぐっ」

 

 認識した瞬間にはもう手遅れ、もろに攻撃を受けて刻はまた吹き飛ばされてしまった。

 

「いっ……たくない?」

 

「それはそうだろう、今、君の身体能力や耐久力は人のそれを軽く超えている。 オリンピック選手何て目じゃないくらいにね」

 

「そうなのか? なら」

 

 刻は立ち上がりこぶしを握り締める、力強く地面を蹴ると怪物へに向かって走り出した。

 その走りは先ほど殴りかかったときとは比べのにもならない程の速度を出しており、容易く怪物の懐に入り込むと、拳を叩きつけた。

 

「■■■!?」

 

 怪物はなすすべもなく、先ほどの刻と同じように吹き飛ばされると、ビルの壁を突き破り崩れた瓦礫に生き埋めになった。

 

「こういうこともできるってわけか……ざまぁみろってんだ」 

 

 刻が先ほどの仕返しと倒せたと思い、喜んでいると、マフラーの男が真剣な表情で告げる。

 

「仕返しが成功して喜んでいる所悪いが我が魔王」

 

「ん、なに?」

 

「どうやらまだ倒せてはいない様だ」

 

 瞬間、瓦礫が吹き飛んだ。

 そこには、黒い血液のような液体を流しながら立ち上がる怪物の姿があった。

 

「マジかよ……なら今度こそ」

 

 刻が再びこぶしを握り、怪物に殴りかかろうとした時だった。

 

「いやまて、何か様子がおかしい」

 

 マフラーの男に止められ怪物を見れば、怪物の頭部に当たる部分が縦に裂け鋭い歯が剥き出しになっていた。

 

「■■■■■■■!」

 

 開いた口より、身の毛もたつような声が滲みだす。

 

――それは、世界を犯す言葉の羅列。

 

 暗黒の者どもが扱う、正気を狂気へと変えてしまう神話言語(ブラックワード)

 

「なんだ!?」

 

 空より、無数の羽音が刻の耳に届いた。

 見上げれば、怪物の群れが空を覆いつくすほどの数が飛び交っていた。

 

「多!?」

 

 驚きに目を見張るが、怪物の詠唱は止まらない。

 

「■■■■!!」

 

 突如、空を飛ぶ怪物たちが詠唱をしていた怪物に食らいついた。

 

「なんだ、仲間割れか?」

 

 共食いを繰り返す怪物たちの体ははだんだんと巨大化していき、そして一体になる頃にはの四階建てのビルほどの大きさまで巨大化してしまった。

 

「おいおいおいおい、何だよこれ!?」

 

「ふむ、共食いによる同一化、といったところか」

 

「関心してる場合かよ!」

 

「なあに、この程度、我が魔王にとっては何の問題もないさ」

 

「こんなの相手にどうしろってんだよ」

 

「その答えは、もうすでにご存じのはずだ」

 

 

 

 その瞬間、刻の脳裏にとある映像が走った。

 

――それは、どこかの記憶

 

『なんか、行ける気がする!』

 

――それは、二十番目の戦士の記録

 

『俺の将来の夢は、王様になること』

 

――最高最善を謳う、時の王者(仮面ライダージオウ)の姿。

 

 

 

 

 

 

 映像が途切れるとともに、刻の口より呪文が走る。

 

「これ成るは、偉大なる時の王者の一撃!」

 

『術式起動――終焉の時(フィニッシュタイム)

 

 現れるは無数のキックの文字。

 文字は怪物を囲うと、その動きを拘束、あふれ出る膨大な魔力は刻の足へと収束されていく。

 

「はっ!」

 

 刻が大きくジャンプし怪物の上を取った。

 

「はああああああ!」

 

 そして、怪物との間に現れた連なるキックの文字を通って怪物に強大な威力の蹴りを叩きこみ、そして怪物の体を貫通し地面へと着地した。

 

「こんどこそやった……か?」

 

「ああ、当然の勝利だ」

 

「そうか……って視界が遠く」

 

 そういうと、刻は地面に倒れ変身も解けてしまい気絶してしまった。

 

「おやおや、初の実戦で緊張の糸が切れてしまったか……さて、どうしたものか」

 

 マフラーの男は元のサイズに戻ると、刻を抱えて空を見た。

 空はいつの間にか元に戻っており、月夜の光が彼らを照らしていた。




次回予告?

『ここは……?』

目覚めるは見知らぬの事務所

『私はこの町でしがない探偵をやっている者だ』

そこで出会う謎の女性

『双子……風……ベェストマァッチ……』

そして現れる謎の敵!
一体どうなる刻の人生!

次回 その女、魔導探偵


※作品の内容は突如変更になるかもしれません


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