歴史はヒーローになれるのか (おたま)
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幼年編
男の子は風邪を引いた


決して屈するな。決して、決して、決して!

ウィンストン・チャーチル





  

本を読んでいる男の子がいる。

 

外からはけたたましい鳴き声がする。

 

外はとても暑い。太陽が赤く照り付け、コンクリートが反射して黒色のなかにキラキラ輝いている。

外を歩いていたら10分も経たずにイラついてしまうだろう。

 

 

その男の子はまだ5歳。

いつもなら幼稚園に行っているが、その日は熱が出てた。

 

医者が言うには只の風邪らしいがもう3日間経っており、夏風邪にしか思えない。両親は心配しどちらも3日休んでいる。

だが、今両親はいない。いや正確にはその部屋にはいない。母は買い物に行き、父は昼寝をしていた。呑気なものである。

 

男の子は本を読んでいる。

 

本は歴史の本。彼の父親は歴史が好きで、沢山の歴史の本を持っている。男の子は余りにも暇なのでなんでもいいから、暇つぶしの為に本を読むことにした。

 

父に「おとうさん。ほんがよみたい。」と言ったら、父は「興味を持ってくれた!」と喜び、小学生の歴史のマンガを貸した。

 

その後喜び疲れ父は寝た。子供よりも子供っぽいのだ。

 

マンガの最初のページには、主要な歴史人物がのっている。

だが、そのマンガにはルビがふられていなかった。

勿論、5才児が漢字を分かるわけがない。そして、カタカナもわからない。

平仮名が分かるだけでも、とても頭の良い子だと思うが。

 

なので男の子は、絵や写真だけを見ることにした。本の中では皆、父が仕事に行くときと同じ服を着ている人だらけだ。

なかにはネクタイではなく、蝶ネクタイの人もいる。

その写真は小太りの男が葉巻を吸いながら、笑顔でピースサインをしている。

 

だが何人かは、学生服みたいな服装をしていた。

 

その中の写真には、髪を七三分けにし、髭が海苔の様に四角い。顔も父より年を重ねていた。それに学生服なのにネクタイをしている妙な男がいた。

男の子は学生服をテレビでしか見たことしかないが、学生服は名前の通り学生が着るものだ。

 

因みに、男の子の言う学生服とは学ランの事である。

 

男の子は”ヘンなの”と思いながらページを進める。ページをめくった瞬間、後ろから声が聞こえた。

 

「ここはどこだ?」

 

野太い声だ。男の子は振り返った。

 

その男は大人なのに小さかった。

きっと180cmある父と並ぶと、シルクハットがあるお陰で身長が同じに見えるだろう。

その男は、スーツ姿だがネクタイではなく、蝶ネクタイをしていた。

有名な探偵の赤色ではなく、黒色だ。

 

彼の顔はまるでブルドックのようだった。闘争心にあふれて、頑固な顔をしている.

目もまた、ギラギラと輝いており、まるで”闘犬”の様だ。

 

左手には葉巻をしっかり握りしめ、右手にはステッキを持っていた。

 

男の子はその時は気づかなかったが、前のページにそのブルドックの様な男がのっていたのだ。男の子は読めなかったが、その本にはこう書かれていた。

 

『ナチスドイツの侵略から6年間イギリスを守り続け、鉄のカーテンを宣言した国を愛するブルドッグ』

 

“”元英国首相 ウィンストン・チャーチル""

 

 

と書いていた。

 

 

 

 

可笑しい。

 

私は何故立っている。私はベットの上だったはずだ。それに家族がいて、医者もいた。治ったのか?

分からない。

なんで私は服を着ているんだ?それにステッキや葉巻はなんだ?寝る前は病院服で葉巻も吸わせてくれなかったのに。

それよりもここは何処だ?記憶にないぞ。なんだあの黒く四角く薄いものは。あんなの見たことがないぞ。

 

「ここはどこだ?」

 

ふと下をみる。子供だ。服からして男の子だろう。顔は丸く、平べったい。アジア人だろう。本の文字はなんだ?アルファベットではない。漢字か?漢字だけでなく他にも文字がある?

 

このままじゃ何もわからない。話しかけてみようか。

 

「君、申し訳ないがここは何処かわかるかね?」

 

男の子は答えない。突然男の子はソファの後ろに隠れようとした。

 

「おいおい。どこに行くのかね?私は怪しくないよ」

 

「・・・しらない人とはおはなしちゃいけなんだよ」

 

男の子は答えた、英語だ。ここはイギリスのアジア人の家庭とかか?

 

それならなぜ英語じゃない本を読んでいる?・・・分からないことがたくさんだ。

 

「私は怪しくないよ。大丈夫だ。有名だよ私は。自分でいうのもなんだがな。

私はチャーチル。ウィンストン・チャーチルだ。知らない?これでも我が国の首相をしてたんだ。ずいぶん昔だがね。街頭のテレビで見たことはないかい?

もう君は私を知らなくはないよ。さあ、名前をいってごらん。」

 

 

男の子はしゃべろうとする。

だが、その言葉は打ち消された。ドンと、廊下から音がした。何かが落ちた音だ。

 

男の子は見に行こうとする。

 

「大丈夫だ。待ってなさい。私が見てくるよ。ついでにトイレに行ってこよう。あー・・トイレは何処かね?」

 

「ドアを出てすぐ右だよ」

 

チャーチルはお礼を言うと、ドアまで歩き、ステッキを手首に掛け、葉巻を口にくわえると、ドアを開けようとドアノブに手を伸ばした。

 

だか、ドアはチャーチルはドアノブに手をかける前に開いた。

 

そう。開けたのではなく、開いたのだ。チャーチルは驚愕した。葉巻が口から落ちる。

 

だってその男は20年前に死んだのだ。

 

地下壕で自殺したはずだ。愛犬のシェパードと愛人とともに。

 

そこにいたのは、ちょび髭で、七三分け。目は意志が固そうな目をしている。だがその目の奥には、狂気を感じるのだ。

しわが濃く、鷲の紋章がある軍帽をかぶり、軍服を着ている。

その軍服の胸の部分には、鉄十字のバッチが付いている。

左腕にはあの悪名高き鍵十字(ハーケンクロイツ)が付いている。

 

この男もまた、男の子が読んでいた本に載っている。

 

『世界に戦火をばら撒いた演説の天才で世界一の独裁者。』

 

””総統(ヒューラー)アドルフ・ヒトラー””




永遠の争いが人類を強くし、永遠の平和が人類を弱くするのだ

 アドルフ・ヒトラー


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男の子は少し怖がっている

勇気がなければ、他のすべての資質は意味をなさない。

ウィンストン・チャーチル


ぼくは、カゼを引いている。アタマがボーっとして、フワフワしてる。もう3日も、ようちえんを休んでる。外であそびたいな。

 

3日ずぅーとねていたから、もうねるのにもあきちゃった。しょうがないから、おとうさんがたくさんもっている、ごほんでもよもうかな。

 

おとうさんから、ほんをもらった。うれしそうにかしてくれた。そのあとすぐにねちゃった。

 

ほんをみる。ページをめくる。

 

おとうさんと同じふく。なんでだろ?お父さんとおしごと同じなのかな?

 

でも、おとうさんとはちがうネクタイだ。テレビに出でいる、メガネの子みたいなちょうちょ。でもかおは、おじさんでそれにちょっと太ってる。へんなの

 

なかにはテレビで見る、大きいボタンがあるふくをきている人もいる。あのふくはみんな、おにいさんがきているのに、なんでおじさんがきているんだろう。

 

のりを、おかおにはっている男の人もいる。へんなの。

 

ページをめくる。

 

「ここはどこだ」

 

ぼくは今、へんなおじさんと二人っきりで、いっしょにいる。おじさんをみる。ぼくよりも、すごくおおきいけど、おとうさんよりかはおおきくない。

 

「君、申し訳ないがここは何処かわかるかね?」

 

ここはどこ?ここはぼくのいえだ。でもなんでこのおじさんはここにいるんだろう。

おとうさんのともだちかな?でもおとうさんとのやくそく。しらないひとはおはなししちゃいけないんだ。

 

「・・・しらない人とはおはなしちゃいけなんだよ」

 

そう。だめなんだ。

 

「私は怪しくないよ。大丈夫だ。有名だよ私は。自分でいうのもなんだがな。

私はチャーチル。ウィンストン・チャーチルだ。知らない?これでも我が国の首相をしてたんだ。ずいぶん昔だがね。街頭のテレビで見たことはないかい?

もう君は私を知らなくはないよ。さあ、名前をいってごらん。」

 

たしかにそうだ。ぼくはもうおじさんをしってる。

 

バン!!

 

 

びっくりした。なんだろう?おとうさんがころんだのかな?みにいこうかな?

 

 

「大丈夫だ。待ってなさい。私が見てくるよ。ついでにトイレに行ってこよう。あー・・トイレは何処かね?」

 

トイレはだいじ!おもらしはもうしない。

 

 

「ドアを出てすぐ右だよ」

 

「ありがとう」ほめられた。ぼくはよいこだ。

 

 

 

 

 

「貴様何故ここにいる!!貴様は死んでいはずだろう!!」

目の前の小男が、ドイツ語で叫びながらステッキを振りかぶり大声で叫ぶ。

 

私にもわからない。あの暗く汚い地下壕で私は愛犬のブロンディを無理やり毒殺させ、私は、愛人と共に拳銃自殺をしたはずだ。それに私はスーツ姿で自殺したはずだ。何故軍服姿になっているのだろうか。

やかましい禿げ頭の男を見る。此奴がなぜここにいる。

 

此奴は私がせっかく同じアングロサクソン系だから協力していこうと言っていたのに、この禿野郎は最初から我々を敵とみなし、1932年の夏から口撃してきた。この糞野郎ではなく、エドワード・ウッドが英国首相になっていたら、アシカ作戦を発動させ英国を粉砕し、戦争は我々が勝っていたはずなのに!!忌々しいブルドックめ!

 

「チャーチル!貴様こそなぜここにいる!我々のSS大隊が貴様を拉致してきたのか!ざまあみろだな!!貴様はユダヤ人じゃないが、収容所送りにしてやる!!ヨーゼフ・メンゲレのところに送りモルモットだ!!!」

 

「煩い!!私が!貴様の無能なナチズムの狂信者共に捕えるわけがないだろう!!貴様こそ我々の優秀なSASに捕まったんじゃないのか!?ソビエトに送ってやるぞ!!一生貴様はシベリア送りだ!!私はソビエトは大っ嫌いだが今だけはソビエト連邦があってよかったと思っているぞ!!」

 

「チャーチル!!貴様はもう収容所送りはやめだ!今すぐ銃殺刑だ!!」

 

「やってみろヒトラー!!銃殺されるのは貴様だ!!」

 

するとどうだろう。チャーチルとヒトラーの後ろに、人が形成されていく。

チャーチルの後ろには、スターリング・サブマシンガンを持つ、茶色の軍服を着た軍人が姿を現し、

ヒトラーの後ろにはStG44を持ち、黒い軍服の軍人が姿を現した。

 

どちらも3人。

 

一触即発

 

 




ヨーゼフ・メンゲレ:ドイツの医師、ナチス親衛隊 (SS) 将校。
 
第二次世界大戦中にアウシュヴィッツで勤務し、収容所の囚人を用いて人体実験を行った。
ヨーゼフは実験対象である人をモルモットと呼び、有害物質や病原菌を注射する、血液を大量に抜く、熱湯に入れて麻酔なしで手術をする、死に至るまで凍らせる、生きたまま解剖するなど、囚人達に倫理観に大きく外れた実験を繰り返した。

要するにマッドサイエンティストだ。

平和は剣によってのみ守られる

アドルフ・ヒトラー


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男の子はあやされている

勇気とは、起立して声に出すことである。勇気とはまた、着席して耳を傾けることでもある。

ウィンストン・チャーチル


 

 男の子は泣いた。そりゃあ、知らないオッサン二人が日本語で怒鳴りまくり、果てには父よりもデカく銃を持った男達が突然現れ銃口を向き合わせていたら、訳も分からず泣いてしまうだろう。

 

 だが、そこで危機的な状況は終わった。

 

 後ろで銃口を向けていた軍人が、スゥ・・・と消える。幽霊のように。

 

 さっきまで頭に血が上って、マグマのように赤くなっていた頬が、段々と白くなるのを二人は感じた。

 

 この子を泣き止ませなければ。

 

 思考がそれだけになる。

 彼らにはもう、目の前のいけすかない男を殺すことよりも、今ここで泣いている男の子を泣き止ませることに集中していた。

 

 

 面白い光景だろう。

 

 スーツ姿の男と軍服を着ている二人の男が、一人の男の子をあやしているのだ。

 

片方はイギリスの由緒あるマールバラ公爵の家系で英国首相になった男。

 

もう片方はオーストリアで生まれ、己の才能でドイツ総統にまで上り詰めた男だ。

 

 この二人は、何百万の兵士を一言で戦地に向かわせることができたが、小さい男の子を、あやすことができない。

 

面白い光景である。

 

 

 

 

 何故この子は泣き止まないのだ!!私はこんなに長く泣いたことはなかったぞ!

 

「おい!チャーチル!何故泣き止まない!!貴様は子供がいただろう!早く泣き止ませろ!」

 

「煩い!私が泣き止まらせる訳がないだろう!それに子供が赤ん坊のころは、全て妻か乳母にやらせていた!私には無理だ!」

 

失望した。こんな奴に私は負けたのか・・・。ヒトラーは思った。

 

というか何故この男はドイツ語でしゃべっているのだ。私は英語すらわからないと思われているのか?

 

自分が情けなく思えてきた・・・。

 

いや、クヨクヨしても仕方がない。私は人間だ。モノを使うのが人間だ。

 

周りを見渡すと本がある。

アルファベットではない。漢字だ。中国語か?いや違う。

ほかにも文字がある。これは・・・平仮名というやつではないのか?ヒムラ―が読んでいた日本語の本の文字と同じではないか!!

 

表紙は私だ。私が絵で描かれているぞ。他にも目の前の男や、ムッソリーニや、あの名前も言うのも忌々しい、筆髭野郎もいる!!

 

なんだこの本は?

 

ここはどこだ?

 

なんだあの黒く四角く薄いものは。あんなの見たことがないぞ。

 

「ここは、どこだ?」

 

「呆けている暇があるなら、手伝え!ちょび髭!!」

 

「煩い!!!」

 

 

 

 

隣の部屋から怒鳴り声が響く。

 

なんだ?

 

父は閉じていた瞼をひらいた。

 

耳を傾けると、明らかに日本語ではない言葉で怒鳴りあい、そして、息子の泣き声まで聞こえるではないか。

 

父は慌てた。そりゃあ慌てる。

 

強盗?それともヴィランか??

 

 父は無個性である。母は個性はあるが、その個性は文字をコピーする個性である。日常生活においては非常に便利な能力だが、今の状況ではまるで役に立たない。

 

間違いなく負けると思う。だが息子が誰かに泣かされているのだ。

 

父として、倒さなくては。

 

近くにあった折り畳み式の傘と、目に入ると痛い殺虫スプレーを持ち、闘うことにした。

 

警察や妻に電話をかけることはしなかった。頭の中からすっかり抜け落ちていたのだ。

 

ドタドタと計画性のない頭で考える。多分だが息子を泣かしている糞野郎は二人だろう。

 

 だったら、ドアを開けた瞬間に一人の顔にむけて、スプレーを浴びせ、そのもう一人をこの傘カリバーで一刀両断すればいい。

 

 

 

ドアを開ける。

 

父は叫び声をあげながら、近くにいた本をみていたちょび髭の男に、スプレーを浴びせた。悶絶している。目に入っているのだろう。

 

「Meine Augen tun wehーー! ?(目が痛いーー! ?)」

 

転げまわっている。

 

息子と向き合っていたハゲは

 

「It ’s a reward. Hitler! He knows you're a bad guy! ! !(ざまあみろ、ヒトラー!彼もお前が悪人だってわかっているぞ!!!)」

 

となどと言っている。

 

因みに父は、何を言っているのかは、わかっていない。

 

ハゲが言っている間に、傘カリバーの封印を解くために柄を長くし、敵と向き合う。

 

それを見ていたハゲは、ステッキをまるでレイピアのように構え、父と向き合う。

 

父は相手をよく見る。相手のハゲは自分よりも小さい。

だが、佇まいは洗練されている。よく見ると、ネクタイではなく蝶ネクタイだ。顔もブルドックみたいだ。

 

まるでチャーチル・・・チャーチル??

 

父は話す。

 

「お、お前は誰だ?何が目的だ??」

 

チャーチル擬きは答える。

 

「Why are you here? Why did you spray Hitler?(お前は何故ここにいる。なぜ、ヒトラーにスプレーをかけた?)」

 

話が通じないのだ。

 

これでは全く意味がない。

 

そうすると、息子がチャーチル擬きの後ろから、ひょっこり顔を出した。

目が合った瞬間に

 

「パパーー!!」

 

と叫び泣きながらこちらに駆け寄ってきた。

 

父は抱きしめる。

 

「大丈夫か?ケガはないか?」

 

息子はコクンと傾く。

 

チャーチルと痛みが引いてきたヒトラーは同時に言う。

 

「「Daddy?」「Vater?」((お父さん?))」」

 




傘カリバー:父が息子の危機によって生み出された、緊急用決戦兵器。柄を伸ばすことで封印が解除され、なんかかっこよくなる(イメージ)。切れ味は全くない。最近開きづらくなってきた。


自己をあらゆる武器で守ろうとしない制度は、事実上自己を放棄している

アドルフ・ヒトラー


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男の子は通訳をする

先を見すぎてはいけない。運命の糸は一度に一本しかつかめないのだ。

ウィンストン・チャーチル


「「Daddy?」「 Vater?」((お父さん?))」」

 

二人はびっくりした。あの子供の父親か?

なら、なんでヒトラーは殺虫スプレーを掛けられ、チャーチルは小さい傘で脅されている?

 

聡明な二人だ。すぐに原因が分かった。私たちは不法侵入している。

 

そう分かった瞬間チャーチルは手をあげ、降伏勧告をした。

 

男の子の父は、世界で初めてイギリスに勝った人物となった。

 

因みにヒトラーは、喋るくらいには回復したがまだ目は痛く悶絶している。

 

 

 

十分程たった。

 

父はトイレへ行き、見張りは男の子に頼んでいる。

 

チャーチルとヒトラーは縛られている。

 

正確には、椅子に座らせられ手足を括りつけられている。

縛っている素材はガムテープである。

 

ヒトラーは小声でしゃべる。

「チャーチル!なぜ我々は縛られているのだ!!訳が分からんぞ!!」

 

「そりゃあ、我々があの家主の家に不法侵入してしまったからだろう。我々は、犯罪者だ。」

 

「何を言っているチャーチル!我々は国のトップだぞ。お前は英国首相で、私はドイツ総統だぞ!揉み消せるだろ!」

 

「お前はドイツ総統かもしれないが、私は違う。それは20年前だ。今はただのくたびれた老人だ。」

 

「何を言っている!?今は1945年だろ!お前は英国首相だろ!1965年な訳がない!!」

 

ヒトラーはガタガタ椅子をゆすりながら激怒している。

チャーチルは落ち着き、何かを考えているようだ。

 

トコトコと男の子が近づいてきた。

 

「おじさんたちなんでここにいるの」

 

「我々にも分からん。」

 

「のりのおじさん。なんでわからないの。」

 

「ノリとはなんだ?分からないものは分からないのだ。」

 

「海苔ってのはあれだ、お前のチョビ髭だよ。」

 

「だから、ノリとはなんだ!?私の髭は、ガスマスクに入るようにしたのだ。決してそのノリとやらではない!!」

 

 父がトイレから帰ってきた。

 

「お前、この人たちの言葉が分かるのか?」

 

「わかるよ」

 

「じゃあさ、この人たちが誰か聞いてくれ。」

 

「おじさんたちだれなの?」

 

「私はウィンストン・チャーチル。イギリスの海軍大臣と首相を務めたんだ。」

 

「私はアドルフ・ヒトラー。国家社会主義ドイツ労働者党の党首にして、ドイツ総統である。」

 

父は驚愕した。息子が日本語で話したら、英語とドイツ語で返してきた。

 

父はなんとなくだが、言っている言語が分かった。

 

父からしたらこうだった。

 

「おじさんたちだれなの?」

 

「I ’m Winston Churchill. I served as Prime Minister with the British Navy Minister」

 

「Ich bin adolf hitler Er ist der Labour Party Präsident und Präsident der Deutschen Sozialistischen Partei.」

 

である。そりゃあ、驚愕する。

 

 

息子が帰ってきた。どうだった?と聞くと、どうゆうことだろう。

 

ウィンストン・チャーチルとアドルフ・ヒトラーというのだ。

 

 確かに見た目はそっくりである。10人中9人がきっと同じ事を言うだろう。だが、何故彼らがいるのか?

 

もう100年以上たっているのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は驚愕した。男の子の父から説明をされた。

 

男の子が通訳をしてくれた。そのおかげでヒーロも警察も呼ばないですんだ。

 

さっきも言ったが、二人は驚愕した。

 

そりゃあそうだろう。

 

1945年から100年以上たっているらしいのだ。

 

 世界も非常に変わった。もうソビエトもない。代わりに中国が台頭している。祖国は欧州連合を作り、ロシア連邦に対抗している。

 

 兵器も変わっている。もう人が行進し、侵略に行く時代ではない。機械が銃を持ち、弾を打つのだ。

 

 そして最も変わったことは、人である。

今、世界の総人口の80%が何らかの超能力を持っている。その能力の事を”個性”とよぶらしい。

 

 ヒトラーは驚愕した。いや今までも驚愕していたが、あの黒く四角く薄いものは、最新型のテレビらしい。

世界は進歩していた。もう新聞を読む時代ではない。しかもラジオで聞く時代でもない。テレビで見る時代である。

 

 何よりも驚愕したのは”個性”だ。

個性というのは新しい価値観だ。宗教観でも民族観でもない個性観である。

 

だが、同時に喜んだ。

 

 もしかしてだが、個性が現れた理由は人類の脳の奥底にあった秘められた能力、なのかもしないと考えたのだ。

 

だが違った。

 

どうやら個性持ちは所謂、新人類らしい。足の小指の関節が新人類はないらしいのだ。

 

 ヒトラーはもっと喜んだ。

なぜならヒトラーは人類を昇華させ、宇宙へ行こうとしていたのだから。

もともとヒトラーは、優秀なアーリヤ、アングロサクソン、ゲルマン民族の優秀なDNAを純潔に保ち、優秀な人間のみで宇宙に植民地を持とうという野望が、心の奥底で存在していた。

 

 ヒトラーは考えた。個性持ちという新人類がいるのだから、人類のDNAは昇華している。人類は成長し続けられる。可能性を見たと喜んだ。

 

 きっとこのままいったら、宗教もなくなり、民族もなくなるであろう。残ったとしても、それは非常に多い1つが残ると考えている。だから、残る宗教はキリスト教で、残る民族は地球民族である。

 

ヒトラーは思った。あの忌々しい、ユダヤ人もあの便所の掃き溜めの様な劣等民族、スラブ人もいなくなるであろう。と狂喜した。

 

因みにチャーチルは横で縛られながら、喜ぶちょび髭を見てドン引きしていた。

 

 

チャーチルはヒトラーを見てドン引きしながらも思った。

 

彼らの名前はなんなんだろうか?

私は男の子に聞いたが、クッソたれのヒトラーのせいできけていなかった。

なのでチャーチルは聞くことにしたのだ。

 

「すまない。そこの君」

 

「なに?」

 

「聞くのを忘れていたが、君の名前は何かね?」

 

男の子は口を開く。

 

その時である。

 

玄関があるであろう方向から

 

ただいまー!!

 

という声がした。

 

男の子は「おかあさんだー!」と言いながら、トコトコ走っていく。

 

チャーチルは軽くため息を吐いた。

 




黒く四角く薄いもの:黒く四角く薄いものの正体は、デジタルテレビである。1873年 イギリスで明暗を電気の強弱に変えて遠方に伝えるテレビジョンの開発が始まったのだ。その後、1929年 英国放送協会(BBC)がテレビ実験放送開始。1953年 米国でNTSC方式のカラーテレビ放送規格の成立した。今もテレビは発展している。人類の進歩を垣間見れるよい機械でもある。


エリートの中のさらに強者だけが生き残るのだ、その試練の中でたとえ我が民族が滅びても、私は涙しないだろう。それがその民族の運命なのだから

アドルフ・ヒトラー


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男の子は開放する

悲観主義者はあらゆる機会の中に問題を見いだす。楽観主義者はあらゆる問題の中に機会を見いだす。

ウィンストン・チャーチル


ただいまー

 

どうやら、あの男の子の母親が帰ってきたようだ。

 

私が名前を聞こうとすると邪魔が入るな。ちょび髭にでも聞いてもらうか?

 

「あら!何?この状況?なんで縛られているの?というか、誰?」

 

よし、懐柔だ。何事もコツコツとだ。

 

「Excuse me, ladies. I think I'm bound and have suspicious eyes, but listen to me.(失礼、ご婦人。縛られていて怪訝な目をしてしまうと思うが、私の話を聞いてくれ。)」

 

「あら?英語かしら。what? You can listen to as many stories as you want. What do you want to say?(何?話はいくらでも聞けるわ。何が言いたいの?)」

 

おお!男の子以外にまともな人間と話ができる!とりあえず、このテープを取ってもらわなければ。

 

「Oh! Do you understand English! ! Was good! ! My name is Winston Churchill. The reason for being tied up is that the house has been trespassed.(おお!英語が分かるのか!!よかった!!私の名前はウィンストン・チャーチルと言う。縛られている理由はこの家に不法侵入をしてしまったからだ。)」

 

「Oh dear! Why did you do that? It looks like your clothes aren't poverty ...(まあ!なんでそんなことをしてしまったの?あなたの服装からは貧困とは無縁そうだけど・・・)」

 

「To be honest, I don't know. Before coming here, he was being treated in Kensington, England. I was here when I realized. It's hard to believe, but I only know that. Please believe me.(それは正直なところ、私にも分からないのだ。ここに来る前はイギリスのケンジントンで療養中だったのだ。気が付いたら、此処にいたのだ。信じるのは難しいが私は其れしかわからないのだ。どうか信じてほしい。)」

 

ご婦人が怪訝な表情でこちらを見る。

そうしていると男の子がやってきた。

母は男の子を見る。

 

「おかあさん。このひとはわるい人じゃないよ。しゅしょーをしていたんだって。しんじてあげて。」

 

目線を男の子に合わせる。

 

「・・・分かった。あなたを信じるわ」

 

男の子のあたまを撫でる。気持ちよさそうに目を細めている。

 

「I believe in you. Speaking of which, who is the next man? Who are you?'ve seen it somewhere ...(この子に免じて、あなたを信じます。そういえば、隣の男性は?誰なのかしら?どこかで見たことあるような・・・)

 

「It's okay. This guy next to me does n’t have to worry about it. Please keep this.(大丈夫です。私の隣にいる此奴は、気にしなくて大丈夫です。どうかこのままで。)」

 

「That's right. . . I understand.(そっそう・・・分かったわ。)」

 

今ヒトラーは人類の進化に興奮しており、話しなんぞ1ミリも聞いていない。呑気なものである。

 

 

 

いまおかあさんは、よるごはんのじゅんびをしている

 

ぼくはテレビをみている。となりのハゲのおじさんは、目をキラキラにしてテレビをじっとみている。

 

「おじさん。なんでそんなにじ~っとみているの?」

 

「おじさんじゃなくて、チャーチル。ウィンストン・チャーチルだ。ウィンストンでも、チャーチルでも好きなほうで呼ぶといい。・・・テレビってのはすごいな。綺麗だ。私がイギリスにいたころはね、白黒だったんだ。ここまで綺麗なものを見れるのは凄く羨ましいよ」

 

「いまテレビ、みてんじゃん。へんなの」

 

チャーチルおじさんは、ははは。とわらっている。

 

さっきぼくがおしえたんだ。ここはにほんだって。チャーチルおじさんに。

 

チャーチルおじさんが

 

「日本のどこだい?」

 

といってきたけど、わからないから、しらないっていったんだ。

 

そうしたら、へんなかおでわらってた。なんでだろう。

 

そうしていたら、ノリのおじさんがぼくにむかって、さけんできたんだ。

 

「おい!なんであのハゲが解かれていて、自分は解かれていないんだ!開放してくれ!!」

 

だって。

 

しょうがないから、ソファでねてたおとうさんをおこして、

 

「ノリのおじさん、たすけてあげて」

 

そういうと、おとうさんはさっきのおかあさんみたいにへんなかおをして、といてくれたんだ。

 

ノリのおじさんが笑顔で

 

「坊や。有難う。これで自由の身だ。感謝してもし切れないよ。私が祖国ドイツに帰ったら、坊やを招待して、二級鉄十字章を送ろう。勿論沢山のプリンと、ケーキも一緒だ。あと、ナチス・ドイツが生み出した、コーラに勝る飲み物である、ファンタグレープも沢山飲ませてあげよう。後、私はノリのおじさんではない。アドルフ・ヒトラーだ。ヒトラーおじさんとでも呼びたまえ。」

 

プリン! ケーキ!ファンタも大好き!!でも、てつなんちゃらはいらないや。

 

たくさんほめられた。うれしいな。

 

 

 

 

まだ眠い頭で考える。息子は「ノリのおじさん、たすけてあげて」と言ってきた。

 

息子の頼みだ。叶えてやりたい。

だが、開放する人間は・・・

 

あの、アドルフ・ヒトラーだぞ。

 

アドルフ・ヒトラー。

 

 オーストリアで生まれ、ウィーンに上京。そこで日雇いの仕事をして生活していた。我が闘争によると、この日雇い労働の時、同僚にユダヤ人思想を教えられたという。

 

 その後、第一次世界大戦が勃発。ヒトラーはドイツ帝国に兵役志願。フランス兵を捕える等の功績と伝令兵としての勤務ぶりを評価され、6回受勲している。

 

 終戦後、ドイツ労働者党に入党。そしてヒトラーは頭角を現し国家社会主義ドイツ労働者党に改称。党首へ。

 

 党首になって二年後、その、一年前にムッソリーニによって行われていた、ローマ進軍に倣いミュンヘン一揆を実行。だが、失敗する。

 

 罪状は二年間の投獄である。投獄中に書いた本が、前述の『我が闘争』である。

 

釈放後、ヒトラーの演説に市民が共感。どんどんと党の支持者は増大し、世界恐慌が起こる。

ヒトラーは、当時の与党があるドイツ中央党を痛烈に批判。さらに支持者が膨れ上がる。

 

 そして1932年、ドイツ国内での大統領選挙で第一党へ。ヒトラー内閣が1933年にできた。

 

 その後独裁体制を敷き、軍備を増強。

 

 1936年当時非武装地域であった、ラインラントへ進軍。

 

 1938年大ドイツ主義を掲げていた、ヒトラーは同じドイツ語圏であるオーストリアでアンシュルス国民投票を開催。

オーストリアを平和裏に併合。

 

 その後チェコスロバキアに対し、ドイツ人が多い地域である、ズデーテンランドを要求。

イギリス、フランス、ドイツ、イタリアによるミュンヘン会談により、チェコスロバキアはズデーテンランドを割譲。

 因みに、ミュンヘン会談では、チェコスロバキアは参加できなかった。可哀想である。

 

そのチェコスロバキアを解体。チェコを併合。スロバキアを傀儡国として独立した。

 

その後、リトアニアのメーメル、ポーランドのダンツィヒを要求.

メーメルは割譲されたが、ダンツィヒは拒否。

 

ドイツはポーランドに宣戦布告。その後イギリス、フランスがドイツに宣戦布告。

 

第二次世界大戦が勃発した。

 

 

思考をもどす。

 

まあ、一回ヒトラーに勝ったしぃ、妻に新しいをスプレーを買いに行ってもらったしぃ、また勝てるだろ!

 

ヒトラーは二度負けてるしぃ。

 

それに息子にいい顔したいしぃ♪。

 

開放するとヒトラーは息子のところに行きなんか喋ってた。

 

俺も、ヒトラーとしゃべりたい!!色々聞きたいのに・・・。

 

 

ちくしょう

 




私は『説得』よって、全てを作り出した

アドルフ・ヒトラー


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男の子は寝ている

愉快なことを理解できない人間に、世の中の深刻な事柄がわかるはずがない。

ウィンストン・チャーチル


 今時刻は22時だ。

男の子は今日は疲れたのか20時には船を漕いでおり、21時には布団の中だった。

 

今、リビングでチャーチルとヒトラーは椅子に座っている。向かい側には男の子の両親がいる。

無言である。誰も話さない。

 

と言っても、父は言葉が分からない。母には黙っていろと言われ落ち込んでいる。哀れである。

 

ヒトラーはまだ感傷に浸っていた。呑気なものである。

 

母とチャーチルは頭の中で整理をしている。

 

考えていることは同じだ。

 

何故此処にいるのか。何故突然現れたのか。

 

「I thought, wasn't I summoned by his “personality”?(考えたのだが、私は彼の”個性”によって召喚されたのではないのかね?)」

 

チャーチルは口を開けた。

 

考えれば、すぐに出る結論だが、チャーチルにとっては、到底認めたくない真実であった。

 

だってそうだろう。その仮説が正しければ、チャーチルとヒトラーはもう死んでいて、男の子の助けがなければ、この世界に出ることすらできない。

 

 それに、もしかしてだが、男の子は20時にはもう眠そうであった。

 

 いつもなら9時くらいにああなるらしい。泣きつかれたかもしれないが、それでも一時間も早く船を漕ぐなど、疲れている証拠である。

 

 チャーチルは男の子を心配していた。我々のせいで疲弊しているのだとすれば、それは悲しいことだと思った。

 

 わたしは存外子供が好きらしい。今日初めてチャーチルは実感した。

 

「That may be ... but ... Does that really happen?(それは・・・そうかもしれませんが・・・。本当にそんなことが起こるのでしょうか?)」

 

「I do not understand at all. But I ’m Winston Churchill. I was hospitalized in 1965. But now it is 2XXX. For me it is a far future. If the time machine that H. G. Wells thought of was developed, I would have been a sick clothes, not a suit.(私は全くわかりません。ですが私はウィンストン・チャーチルです。私は1965年に入院していたのです。ですが今は、2XXXです。私にとってははるかに未来です。H・G・ウェルズが考えたタイムマシンが開発されたのであれば、私はスーツ姿ではなく、病衣でしたでしょう。)」

 

母はなるほどと思った。同時に彼は聡明で教養がしっかりとあることが分かった。

 

母は考える。

 

ウィンストン・チャーチル。

 

 

第7代マールバラ公爵ジョン・ウィンストン・スペンサー=チャーチルの三男で、サンドハースト王立陸軍士官学校で軽騎兵連隊に所属し、様々な戦場を観戦、指揮し、武功を重ねた。

第一次世界大戦では、海軍大臣に就任。だが、第一次世界大戦でのチャーチルが指揮した戦い。ガリポリの戦いでは大敗北を喫した。

 

その後保守党の政治家として、与党を痛烈に批判。

 

その後ヒトラーが台頭。ユダヤ人の評価が分かれ、1932年からヒトラーを批判。

 

その後、第二次世界大戦が勃発。

 

前首相のネヴィル・チェンバレンから英国首相を引き継ぎナチス・ドイツと互角の戦いを繰り広げた。

 

 

夫からの受け売りであるが、これだけでもわかる。彼は英雄だ。息子が、彼を召喚したのは夫の影響も少しはあるかもと考えた。

 

隣にいるアドルフ・ヒトラーは恐ろしい。歴史に疎い私でも分かる。

 

彼らはライバル関係で、居るだけで双方にとって抑止力になる存在だ。

 

全てが真逆の男たち。出身も身分も思想も。すべてが違う。

 

だからこそ、彼らが召喚されたのかもしれない。

それに、もしかして他にも召喚できる人がいるかもしれない。チャーチルと、ヒトラーだけでは、類似点がない。他にもスターリンや、ド・ゴール。東条も召喚できるかも。

 

母は深く決心した。

 

絶対に歴史の本は息子には読ませないと。

 

「Apropos Churchill. Wie hast du das gemacht Dieser britische Soldat(そういえば、チャーチル。おまえはどうやってだした?あのイギリス兵どもを。)」

 

ヒトラーが突然多分ドイツ語であろう言語でしゃべる。

 

母は英語しかわかないから、?しか浮かばなかったのだ。

 

 

 

ヒトラーは感傷に浸りながら考えた。

 

そういえば、あの坊やの個性はなんなのだろうか。

 

我々がここに現れたから、我々が坊やの個性なのか。それだと他にも召喚できるかもしれん。ムッソリーニや、ホルティを召喚し、隣に座っている男を打倒しなくては・・・。

 

ん?そういえば、坊やが泣く前、我々は兵士を出した。あれはどうやって出したのか?

 

・・・分からない。

 

 

「Apropos Churchill. Wie hast du das gemacht Dieser britische Soldat(そういえば、チャーチル。おまえはどうやってだした?あのイギリス兵どもを。)」

 

「Ah···. can not understand. At that time, my emotions were high. Isn't that the effect or something?(あー・・・。分からん。あの時は感情が高ぶっていたからな。その効果か何かじゃないのか?)」

 

「Excuse me. Churchill. What does Hitler say? I don't know Germany.(すいません。チャーチルさん。ヒトラーさんは何と言っているのでしょうか?私ドイツが分からないので。)」

 

「What are you talking about? He will be speaking in English.(何を言っているのだご婦人。彼は英語でしゃべっておるだろう。)」

 

「え?」

 

「Hmm?」

 

夜は長くなりそうだ。

 

 

 




命は弱さを許さない

アドルフ・ヒトラー


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男の子は熟睡している

もし、戦線と銃後が真剣に事に当たれば、今年中の先が見える。来年には、敵を覆すことができる。諸君ありがとう。

バーナード・モントゴメリー


日曜の午前1時。四人で席に着いてから三時間。ようやく整理がついてきた。

 

父は、机に突っ伏して寝ている。

 

母は、息子の熱が下がって熟睡できると安心していた。

 

眠い頭で整理する。どうやら彼らは、息子の個性で召喚されたようだ。

召喚される条件は、息子が興味を持ったからだと推測できる。

 

言語は、召喚された者同士でしっかりとコミュニケーションをとれるらしい。

自分の国の言語で変換されるらしい。

 

息子も同じで召喚した人と、分け隔てなく話せる。

 

さっきヒトラーが言っていた兵士の事だが、出ろ!っと念じれば出た。何人出せるかは不明。のちに調査が必要だ。

 

著名な兵士や士官は出るのだろうか?と質問したら

チャーチルは、バーナード・モントゴメリー。

ヒトラーはハインツ・グデーリアン。

を召喚した。

 

二人とも、召喚され非常に困惑していた。

 

モントゴメリーは茶色の軍服で、帽子はベレー帽。ジャングル柄のスカーフをし、顔は老齢を重ねているが、目はギラギラで、いかにも”戦士”という顔つきをしていた。

 

グデーリアンは、黒色の軍服で、帽子はヒトラーと同じ鷲の紋章がある軍帽だ。コートを羽織り、首元には騎士鉄十字章受章者の勲章が付いている。

顔は年齢の割には非常に若々しい。目はたれ目だが、刃のように鋭い。いかにも”騎士”という顔付をしていた。

 

彼らは双方を見ると、即座に拳銃を構える。

 

どちらも、年は70を超えているが、それでも普通の軍人よりもはるかに早くハンドガンを構えた。

 

「貴様何故ここにいる。戦争が終わってから何年たっていると思っているんだ!」

 

「貴様こそ、なぜ私に銃を向ける!話し合う気があるなら、銃を下ろしたらどうだ!!」

 

チャーチルとヒトラーはため息をついた。まるでさっきの我々ではないか。

 

どうにかして、チャーチルとヒトラーは二人を落ち着かせる。

 

銃を構えるのをやめたが、視線は常に敵を見ている。完全にWW2中に戻っているのだ。

 

二人は説明した。ここは2XXX年だと、個性という超能力があり、ヒーローやヴィランがいると。まるでベッタベタなアメコミのようだ。

 

だが、彼らは信じるしかなかった。こんな訳も分からないところにおり、死んだ筈の首相や総統が目の前にいるのだ。それに、今の私たちは軍人だ。

軍服で、勲章を身に纏っている。

 

上司の命令が守れないのなら、潔く死ね。

 

二人はこれを深く信じていた。

 

戻り方はわかるか?と、聞くと二人とも何となくだが分かると答えた。

 

チャーチルとヒトラーもよく考えたら、戻り方がなんとなく分かったのだ。

色々なことがありすぎて、そこまで思考が行きつかなかったのだ。

 

じゃあ戻ればいいと思い、戻った。

 

 

母は驚いた。本当に突然現れ、銃を向けあった。それに何度か話をしていたら、

突然4人とも消えたのだ。幽霊のように。フッと消えたのだ。

 

分からな過ぎて、寝室に向かった。ヒトラーの座っていた椅子にかかっていた、コートを夫の肩にかけてから。

 

因みに男の子が朝起きたら、チャーチルとヒトラーがまた出てきた。

 

母は生まれてから一番深いため息を吐き、父はグーグル翻訳で『サインをもらいたいのですがよろしいでしょうか』と英語とドイツ語で検索をしていた。呑気なものである。




厚い皮膚より速い足

ハインツ・グデーリアン


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男の子は勉強している

事前にあわてふためいて、あとは悠然と構えているほうが、事前に悠然と構えていて、事が起こった時にあわてふためくよりも、利口な場合がある。

ウィンストン・チャーチル


一か月たった。

 

チャーチルとヒトラーのサイン色紙は、額縁に入って寝室に飾られている。

 

父は凄くうれしかった。

 

チャーチルとヒトラーは相も変わらず家にいる。

 

チャーチルは日本語の勉強をしており、平仮名は覚えた。あとはカタカナと、漢字だ。勤勉である。

 

ヒトラーは、レーニン像やスターリン像が下ろされ、ソビエト連邦が崩壊する映像を見ながら、爆笑していた。悪趣味である。

 

それにチャーチルは家の手伝いもしている。

動けることがうれしいのだと言っていた。彼の死因は確か脳卒中だった筈だ。

半身がマヒして動けなくなるのだ。とっても辛かったであろう。

 

最初は四苦八苦していた。だってそうだろう。

 

上級貴族の生まれなのだから、家事など一度もしたことがない。

 

掃除洗濯はできるようになった。今は、母の卵焼きを目で見て覚えようと必死である。本当に勤勉である。

 

ヒトラーは寝ているか、インターネットでドイツ語のサイトを見て研究している。何の研究かは、分からない。見せてくれないのだ。

 

妻はヒトラーに怒り心頭である。

 

あと一週間もこのままだと追い出されそうだ。

追い出されそうになった時、きっと逆切れし、グデーリアンを出すだろう。

出したところでグデーリアンは、ヒトラーを助けないであろう。哀れである。

 

ヒトラーは、考えていた。

それは、日本語を喋ることである。チャーチルは書け、喋れることを目標にしているが、ヒトラーは喋れることだけを目標にしている。

彼が言うには、二つの事を同時にするのは非効率だと、意味がないと言っていた。

 

イギリスと戦いながら、ソビエト連邦と戦った奴が何を言うと、父は思った。

 

そして、あのちょび髭は息子に秘密裏に歴史の本を読ませているのだ。どちらも日本語が分からないから、絵のみだが。

 

俺が読ませてほしいわ。

 

どうやら、ヒトラーはほかの人を召喚したいようだ。

 

だが、息子は興味がなさそうだ。

 

俺も召喚したい人はたくさんいるわ。

 

カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイムとか、ムスタファ・ケマル・アタテュルクとか。

 

私は基本、結構マイナー好きなのだ。

 

息子は幼稚園児だ。カタカナをだいぶ覚えたと言っていた。

もしかしてだが、チャーチルとヒトラーが居るから、英語やドイツ語も覚えられるかもしれん。

 

後、俺も歴史の本を見せて、マンネンヘイムを召喚してもらわねば。

 

 

 

そう。私、アドルフ・ヒトラーは、あの坊やに早くムッソリーニを召喚してもらい、あのブルドックを粉砕しなければならない!

彼に早くナチズムを継承させなければ。

 

彼は未来のラインハルト・ハイドリヒにも、ヨーゼフ・ゲッベルスにもなれる逸材である。

 

その為にもムッソリーニを召喚せねば。

 

だがどうすればいい。

どうすれば興味を持ってくれる。演説の時の変顔か?どや顔か?それとも乗馬の映像か?

いや、彼の演説は素晴らしい。演説を見せればきっと、興味を持ってくれるかもしれん。

 

そうして考えていたら、ふと、疑問に思った。

 

坊やの名前はなんなのだろう。

 

忘れていた。一か月あったのに。

 

聞かなければ。人は名前で個性が決まるのだ。

 

ジークフリートなら勇猛で、フリードリッヒなら聡明で、ヴィルヘルムなら、厳格であろう。

 

私はそう考える。

 

坊やはいた。どうやら、チャーチルとカタカナとやらの練習をしている。

というかカタカナとは何なのだ。何故日本語は三つの文字がある。非効率的ではないか。私は効率を信仰している。

だから私はあの時ソビエトに侵攻したし、ユダヤ人を滅亡させるために、人体実験しながらガス室に送ったのだ。

 

父が聞いたら、ソビエトと戦いながらアメリカに宣戦布告した男が何をバカなことを言っているのだと言うだろう。

 

「坊や、お勉強中わるいね。申し訳ないが、忘れていたことがある。今聞いてもいいのだろうか?」

 

「なに?」

 

「名前を今まで聞いていなかったよ。名前を教えてくれ。」

 

 

 

チャーチルは勉強をしている、男の子と共に。カタカナはもうすぐ覚えられそうだ。

 

これで、男の子に歴史の本を読み聞かせれば、興味を持ってくれるかもしれん。はやく、ドゴールを召喚してもらい、ヒトラーを抹殺しなければ。

 

彼は、クレメント・アトリーにもなれるし、ヒュー・ダウディングにもなれる。素晴らしく才能ある子供だ。

 

彼は勉強している。幼稚園でもらったプリントらしい。名前の欄には漢字で名前が書いている。

なんて書いてるかは分からん。

なんて書いているのかを聞けば、すぐに分かることだが、邪魔が入るのだ。

今まで10回ほど聞いたが、一度も聞けたためしがない。

 

名前とはその人の、人となりが分かるのだ。

 

アーサーなら勇猛で、エドワードなら聡明で。クロムウェルなら厳格だろう。

 

私はそう思う。

 

 

ちょび髭が来た。話したいことがあるらしい。

 

「名前を今まで聞いていなかったよ。名前を教えてくれ。」

 

チャーチルは周りを見渡す。いつも邪魔が入るのだ。

 

此奴が言えば、分かるかもしれん。

 

「そうだったな。私も聞いたことがなかった。私にも聞かせてくれ。君の名前を」

 

男の子は答える。

 

「ぼくの名前は、おおいし てんま だよ。」

 

 

 

 

彼らには漢字が分からなかった。

 

だが、私たちには分かる手段が有った。

 

幼稚園のプリントである。

 

大歴 伝馬

 

個性:”歴史”




我々は敵を絶滅する。根こそぎに、容赦なく、断固として。

アドルフ・ヒトラー


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少年編
少年は体を鍛えている


主人として誇りを持って行動せよ。行動は君自身のものである


シャルル・ド・ゴール


彼らが名前を教えてもらってから、5年の歳月がたった。

 

伝馬は10歳になった。

 

彼が5歳の頃から、状況は非常に変わった。

 

まず、奇妙な同居人が増えたのである。

彼らは本物のチャーチルとヒトラーだ。

その後、ムッソリーニやシャルル・ド・ゴールも増えた。

彼らも本物である。

 

しかも、それは伝馬の個性である。

 

伝馬の個性について、分かったことがある。

彼が召喚できるのは、なくなった歴史上の人物でしっかりと書物に詳細が記載されていて、写真があり、そして、彼が興味を持ったら召喚できることが分かった。

 

しかも国のトップのみだ。

 

そして国のトップは当時率いていた兵士・士官、を召喚できる。それに、兵士・士官には、銃火器を所持している。

 

もし、歩兵を召喚したのであれば、装備は、小銃・手榴弾・スコップ・双眼鏡などである。

勿論必要な分の弾も、持っている。

 

砲兵を召喚したのであればでっかい火砲と、歩兵と同じ装備を持った兵士が召喚される。

 

戦車兵なら、戦車ごと召喚される。装備は歩兵と同じだ。

 

人数は、今はどうやっても50人位が限界らしい。疲れすぎて寝てしまう。

 

兵士の召喚持続時間は訳1日位だ。

 

体力が向上すれば、もっと時間が伸び、増えるかもしれない。

 

 

彼は、4人の国のトップから5歳の頭では到底分からない事を教えられた。

 

民主主義がどうたら。ユダヤ人がどうたら。共産主義がどうたら。ファシズムが何たら。

 

全く分からないことばっかりだ。分からな過ぎて、泣きそうであった。

 

そうしていたら怒られた。怒った人物は母である。

 

怒った母は非常に恐ろしく、ソビエトの赤い津波よりも恐ろしかった。

 

なので、政治の話は禁止された。イデオロギー論など以ての外である。

 

政治家の道は閉ざされた。じゃあ、次の道は軍人の道である。

 

6歳になった瞬間、伝馬は混乱した。

突然人を紹介されたのである。

その人とは、デビッド・スターリングとルイ・ナポレオン。そしてオットー・スコルツェニーの三人だ。

 

デビッド・スターリングはイギリス人で茶色の軍服でコートを羽織り、軍帽には羽に矢が描かれている紋章が付いている。この中では、一番普通の人であろう。良い意味で、だ。

 

彼は、イギリスの特殊部隊である特殊空挺部隊。通称SASの創設者である。

 

先を見ることができ、人材を正確に配備させることができる。

 

ルイ・ナポレオンは通称ナポレオン6世。

 

フランス人で、紺色の軍服を着ており、胸にはレジオンドヌール勲章をつけ、顔は黒髪碧眼の美男。髪の毛は短く刈り込み、目は鋭く光っている。

 

かのナポレオン・ボナパルトの子孫であり、フランス帝位の請求者であった。彼は偽名を使い、フランス外人部隊に入った。フランス降伏後、外人部隊が解散されたが、彼は諦めなかった。

レジスタンスに入り、終戦まで戦い抜いた男である。その期間6年。常に最前線で戦い続けた。

 

生粋の愛国者であり、最強の王族だ。

 

兵士として非常に強く、聡明で、生き残りにたけている。ゲリラ戦にもってこいの人物である。

 

オットー・スコルツェニーは『ヨーロッパで最も危険な男』と呼ばれている。

 

黒色の軍服を身に纏い、首には騎士鉄十字章受章者をつけている。

だが彼の一番の特徴は顔であろう。彼の頬には、ざっくりと、深い刀傷が刻まれている。髪をオールバックし、温和そうな表情を常にしているが、目はとても冷たい。

目を見たら、畏怖をしてしまうだろう。

 

失脚して幽閉されていたムッソリーニを救出する作戦の指揮を執り、救出。

 

その後密かにソ連との講和を策していたハンガリー摂政ホルティ・ミクローシュの息子ニコラスを誘拐して摂政を辞任させ。降伏を取り消された。

 

その後、アメリカ軍に偽装した部隊の指揮を命られ、潜入。

一部の兵士は捕らえられたが、スコルツェニーが指示した嘘の自白によって「部隊がパリを襲撃し、最高司令官のアイゼンハワーを誘拐または暗殺しようとしている」との嘘の噂を広めた。アメリカ軍の警備は強化され、アイゼンハワーは何週間も司令部に閉じこめられることとなった。

 

要するに化け物である。

 

3人とも各部門のプロ中のプロである。

 

スターリングは指揮を。ナポレオンは兵士としての能力と市街地戦での戦闘を。スコルツェニーは、現場指揮を専門に教えた。

 

伝馬はとてもかわいそうな男の子である。

6歳からこんなに恐ろしい人たちが、訓練の教官なのである。

 

勿論、母は怒った。毎回ケガをして帰ってくるのだ。

 

問い詰めたら、訓練をしていると聞いた。

内容は、個性の能力の向上。ランニングや、筋トレ、サバイバル能力や足の音を出さない等の、ステルス能力の向上。ディフェンドゥー、サイレント・キリングなどの格闘戦術。

他にも、銃剣術や、様々な銃の整備、撃ち方。狙い方。捧げ銃などの敬礼の仕方。

 

其の他諸々・・・。

 

大体の訓練は、全て、実戦形式であり、もはや軍隊よりも酷い。

 

6歳で受ける訓練ではないと怒った。というか、6歳が訓練などするかと怒った。

 

父が説得し、「明日俺も訓練を受けてくるよ。その後から考えてくれ。」といった。

 

その夜。父と伝馬は帰ってきた。

 

なんで説得したかって?それは、伝説的な三人から教わってみたいと心の底から思ったからである。

 

父はまるでぼろ雑巾みたいにボロボロになって帰ってきた。

 

次の日は会社を休んだ。

 

母親は激怒した。そりゃあ、激怒する。

 

実の息子が、父親がぼろ雑巾くらいになるくらいの仕打ちを毎日受けているということになるからだ。

 

だが、彼はピンピンしていた。子供の体力恐るべきである。

それか、彼の体が慣れてしまったからなのかもしれない。6歳でムキムキかもしれない。母は卒倒しそうになるが、ギリギリで耐える。

 

そして、母は辞めさせるように説得を始めた。だが、無理であった。彼らは、プロであり、全て正論だ。正しく、筋が通っている。

 

母は言いくるめられしまった。すべて、スターリングが説得した。流石戦場で上司を言い負かして特殊部隊を設立した男である。

 

だが、母も負けてはいなかった。せめて、一週間に一回にしてくれといったのだ。

 

交渉は成立した。

 

それから2年間。しっかりと休憩しながらも、鍛え上げられている。

 

彼は、8歳の時点で、敵地のど真ん中からでも生存できる技能と、1週間無人島で生活ができる能力がある。

 

才能があったのだ。恐ろしい男の子である。

 

彼の弱点はあるとしたら、経験不足であろう。

 

8歳からは、これに併用して、指揮の仕方を教わっている。スターリングやスコルツェニーだけではない。

 

モントゴメリーからは、防衛戦術を、グデーリアンからは、攻撃戦術を。

 

他にも教わっている。

 

ヒトラーとムッソリーニからは、コミュニケーション能力と、演説のやり方を。

そして、チャーチルとドゴールからは決して折れない心を教わっている。

 

子供がやることではない。

 

もう彼は戦い専門の何でも屋になってしまった。彼の天職は独裁者か、元帥クラスの士官だろう。それか、007クラスのスパイだ。

 

 

 

 

そんな彼は、今、小学校の課外活動で遠い、ある山にハイキングに来ている。

 

どうやらほかの小学校もハイキングに来ており、校長同士の企画で一緒に山を登ろうという企画なのだ。

 

隣には、別の学校の男の子が立っている。

 

彼の髪の毛は紅白で彩られ、左目にはやけどの跡があり、それに目の色が違う。

 

話しかけても、反応しない。彼は無表情に前を見ている。いや、只ボーっとしているだけであろう。

 

 

 

 

出発の笛が鳴る。さあ、行くか。




羊として100年生きるくらいなら、ライオンとして1日だけ生きるほうが良い

ベニート・ムッソリーニ


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少年は競い合っている

力や知性ではなく、地道な努力こそが能力を解き放つ鍵である

ウィンストン・チャーチル


今、僕が登っている山は標高300メートル位でなだらかな、初心者用の山らしい。

 

昨日オットーさんが教えてくれた。少年なら、すぐに登れてしまうと言っていた。

 

山に登って1時間くらいたつ。今は1つ目の休憩ポイントだ。

皆すごく疲れていて、水をがぶ飲みしている。

 

僕はなんともない。

 

汗はかいたが、疲れは特にないし。

正直言ってこの位の山であれば、一回も休まずに登れると思う。

 

そして、僕の隣には、同じように全く疲れていない男の子がいる。

名前は轟焦凍と言うらしい。

 

凄くかっこいい名前だ。

 

珍しく、髪の毛の色が紅白に分かれている。縁起がよさそうだ。

 

しかも、目の色も分かれている。かっこいい。

そして、左目にはやけどの跡があった。痛そうだ。

 

僕も気を付けなければならない。

 

そんなことを考えていたら休憩の終わりの笛が鳴った。

 

 

 

 

「先生。大丈夫でしょうか?」

 

若い先生は言った。何が?と返せば、

 

「今、ネットで見たのですが、ここらへんで殺人事件が起こったらしいです。私心配で・・・」

 

「大丈夫ですよ。生徒と先生もしっかりと、固まって動きますし、ヒーローも巡回している。心配はありません。」

 

「わかりました・・・」

 

 

 

 

 笛の音がなった。生徒や先生方は歩かなければならない。生徒がブーイングを言う。

 

そりゃそうだ。

上り坂をぶっ通しで歩いて、ようやく心待ちにしていた休みが、たったの5分だ。

 

それに笛を持っている先生は体育の先生だ。

 

この伝馬がいる小学校では、体育だけ専門の先生が、授業を行うのだ。

 

生徒は思った。

ふざけるんじゃない。僕たちは、先生の様な体力を持っていないのだ。と。

 

他の先生方は思った。

ふざけるんじゃあない!!こちとら、もう足腰が限界なんじゃ!!!せめてあと5分休ませろや!!!と。

 

皆はこの思いを目で必死に訴える。

 

だが、体育の先生は何処吹く風だ。

まったくの非難の目に気づいていない。

 

このハイキングは地獄になるかもしれないと。3人を除いて思った。

 

 

手遅れである。

 

 

 

 

休憩から1時間立った。

 

さて、さっき3人を除いてと書いたが、その3人とは誰か分かるがろうか。

 

体育の教師。

 

轟焦凍。

 

大歴伝馬。

 

の三人である。

 

彼らはどんどん先へ進む。

先生や生徒が無断で休憩しても構わず、どんどんと進む。

 

彼らは、もはやライバル関係だ。

 

誰が一番に山頂にたどり着いて、昼飯を食べ終わるか。

意地を抱え、足を踏みしめる。

 

この3人は割と疲れていた。

 

突然、体育の教師は禁断の戦法に出る。

 

 

なんと走り出したのだ。

 

 

二人はびっくりした。

そこまでして、勝ちたいのか。

 

伝馬は心の中で罵倒を浴びせる。

 

轟は素直にドン引きしている。

 

二人は顔を見合わせる。

 

しょうがないから、自分たちで頑張ろうと意見が一致したのだ。

因みに二人とも、後退の二文字はない。あの体育教師に一泡吹かせたいのだ。

 

二人で歩いていく。

 

そうすると、分かれ道だ。

 

右か左か。分からないので、棒倒しで決めた。

 

左だ。

 

彼らは、左へ進む。

 

実は、この山はゲームではないが、難易度設定ができる。

右に行ったら、直線ルート、左に行ったら、急がば回れルート。

 

 

ハイキング競争は、体育教師が一位になった。

 

 

 

急がば回れルートは山をぐるぐる回るルートだ。

 

直線ルートよりも、長さが3倍になる。

しかも、殆ど人が行かないルートであるため、舗装などもお粗末であった。

 

だからだろうか。

 

男がいる。道端で穴を掘っている。深さは1メートルにもなる。その中にドサッと、何かを入れた。

 

男は道を戻る。

 

二人がいる方向に。




あの無駄口ききの、飲んだくれのチャーチルめ、奴が全人生で成し遂げた事などあるか?偽りの標本め。第一級の不精者め

アドルフ・ヒトラー


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少年は闘った

勝利は、もっとも忍耐強い人にもたらされる。

ナポレオン・ボナパルト


クソっクソォ!!」

なんで俺は、こんなところで、こんな奴を埋めているんだ!!ふざけんじゃねえ!!

これも全て、このヤロウのセイだ!!

コイツが、あんな事をしてくれなきゃよかったんだ!!

「畜生ォ!!」

 

穴を掘り終わったぞぉ!!さっさとこの糞野郎入れて逃げなきゃあならねえ!!

 

んん?

 

なんだァ?ガキがいるぞぉ?

 

もしかしてぇ、見られたのかぁ!!?

 

やばい!!?ヤバいぞぉ!!?

 

殺さなくては!!絶対に殺さなくては!!

 

じゃねえと、俺には明日がねえ!!

 

 

 

 

なんか穴掘っている人がいる。

 

「なんだあれ?」

 

「何やってるんだろうね。」

 

よく観察する。穴を掘っている。深そうだ。腰まで穴の中だ。

凄く怒っている。何故だろう。

 

掘っているのは男だ。父位にデカい。

 

何かを入れたぞ。でっかく黒いバックだ。

 

こっちを見た。焦っているようだ。何かまずいことでもあるのか?

 

 

!!!!

 

あの感じは、不味い!!知っている!!この感じを知っている!!

 

「轟君!!逃げろ!!!」

 

瞬間。あの男が物凄いスピードで走る。体が、段々と変わっていく。

 

足はバッタの様に、人間が曲がってはいけないほうに変形していく。

 

腕の肘から、まるでカマキリのような刃がニョキニョキと腕の中から出てゆき、手の甲からは、ハチの針のような、鋭い針が出てくる。

 

口から下にはアリのような、ハサミのような歯に代わっていく。

 

身体全体はカブトムシのような装甲に変わっていった。

 

もはや、人間ではない。

 

アメリカのB級ホラーサスペンスのような、恐ろしい昆虫人間だ。

 

「テメエらミチマったなぁ・・・!!殺しタクハなかったが・・・。コロスしかねえぇよなぁ!!!!」

 

顎をカチカチと鳴らしながら喋る。

 

そうか。あれが、(ヴィラン)か。

 

あんなにも恐ろしいのか。敵とは。敵はこんなにも恐ろしいのか。

 

ヴィランが目の前に突進してくる。体が動かない。

 

今まで、訓練をしてきたのに動かない。思考がまとまらない。

 

クソ!!動け!!今までやってきたことを思い出せ!!

 

何のために、おじさんたちが教えてくれていたんだ。

 

 

 

 

咄嗟にライフルを取り出す。

 

Gewehr 98だ。ドイツ帝国で製造された、ボルトアクション式小銃である。装弾数は5発。銃口には銃剣が付いている。

 

だが、遅かった。

 

銃を放とうとした時、すでに目の間ににいたのだ。

だが、銃剣が付いているので、男の胸に刺さった。

 

 

いや、違う。刺さったのではない。

挟んでいるのだ。男の顎が剣を挟んでいるのだ。

 

バキッと銃剣が折れた。

 

 

折れた瞬間伝馬は、身をかがめ、銃を放つ。

 

一発・二発。

銃声が誰もいない道にこだまする。

 

だが、効かない。

 

人並みに大きくなった、カブトムシの装甲はどれぐらいになるのだろう。

 

きっと火砲を浴びせないと、装甲は破れないだろう。

 

「ぐわっ!!」

 

首をつかまれた。

 

必死にもがく。だが、力が違いすぎる。

 

正に大人と子供。いや、人間と虫くらいの差があるであろう。

 

個性とはそれほどもまでに、凶悪で強力なのだ。

 

ヴィランは笑う。凶悪に笑う。

 

「お前、何をするんだ!!」

 

隣で見ていた轟は、咄嗟に、氷をヴィランに浴びせた。

 

もしかしてだが、伝馬に当たってしまうかもしれないが、そんなことは考えられなかった。

 

目の前の新しい友人を救いたかったのだ。

 

だが、避けられる。

 

さっきは記してはいなかったが、ヴィランの目は複眼になっている。トンボのように。

 

トンボの複眼は、全てが見えるという。そう。上下左右前後すべて見えているのだ。

 

奇襲は通用しない。

 

轟は蹴り上げられ、上がったところを、ジャストに首をつかまれたのだ。

 

二人とも、首をつかまれていた。

 

実は、男が走ってきたときから、30秒も経っていない。

 

早すぎる決着であった。

 

ヴィランは、二人を穴に投げた。

 

どうやら、バッグと共に二人を埋めるらしい。

 

スコップで、土を二人に浴びせる。

 

 

 

 

 

意識が朦朧としてきた。

 

俺は、このハイキングはあまり乗り気ではなかった。意味があるとは到底思えなかった。

 

早く終わらないかと最初から思っていたら、他校の奴が話しかけてきた。

 

別に今日だけなんだから、別に話さなくてもいいだろう。

 

と、思っていたが、なんだコイツは。ずっと話しかけてくる。

 

天気が良いだの、何処の小学校なのかとか、とにかく喧しい。

 

しょうがないから付き合うことにした。名前を教えたり、個性の事とか。

 

だいぶ話してしまった。何故か、いろいろ話してしまうのだ。

 

何故だろうか。

 

そうしていたら、後続はいなくなっていた。

 

気づいたら三人だけだった。

 

そうしていて、歩いていたら先生は突然走っていった。

 

ガキかよ。

 

そうして、コイツの提案の棒倒しで、分かれ道の方向を決めることにした。

 

それが、間違いだったんだ。

まさかあんなやつがいるなんて。

 

コイツはあの男を見た瞬間、逃げろ!と言った。俺は頭が真っ白になって、動けなくなってしまった。

 

そうしていたら、バンと大きな音がした。

ハッとして、ヴィランを見ると、もう目の前にいて、隣の奴が、上にいたんだ。

 

首を絞められていた。

 

助けなくては。そう思った。

 

目の前の新しい友人を救いたかった。

 

だが、無理だった。

 

体が動かない。

 

もう、だ・・っめか・。

 

 

 

 

轟の意識が止まる、ほんの少し前。ヴィランを吹っ飛ばした男がいた。

 

「もう大丈夫!」

 

 

「何故って?」

 

 

 

「 私 が 来 た ! ! 」

その男の服は赤と青と黄色、そして白のスーツを着ている。

まるでアメリカのスーパーマンのようだ。

 

筋肉隆々で常に笑顔。

これがヒーロー。という見た目だ。

 

そう。みんな知っているヒーローがここに来てくれた。

 

今、山を歩いている小学生のリュックの中にヒーロー辞典が入っていた。

最初のページに書いてある。大々的に二面で紹介されている。

 

『人気ナンバー1ヒーロー。ナチュラルボーンヒーロー。平和の象徴。』

 

オールマイト

 

子供を助けるためにただいま参上!!




偉人なくして偉業はない。そして偉大になろうと決意した人物だけが偉人となるのだ。

シャルル・ド・ゴール


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少年は夢を見つけた

世の中で、最もよい組み合わせは力と慈悲、最も悪い組み合わせは弱さと争いである。

ウィンストン・チャーチル


「 私 が 来 た ! ! 」

 

クソォ!!クソクソクソォ!!!

 

ナンで、オールマイトがココにいるんだよぉ!!

 

「何ンンンで、オールまイトがココにいるんダダダヨォ!!!」

 

「おいおい、私はヒーローだ。困った人がいたら助けるんだ!!それがヒーローだろ!!!」

 

チクショウ!!チクショウ!!!ヤるしかネエェ!!!!

 

 

 

 

 

拳が交差する。ヴィランと、ヒーローが殴り合っているのだ。

 

拳圧が凄まじく、あたりの木や草花は台風が来た様に揺らいでいる。

 

ヒーローとヴィランが殴り合っている。ヴィランの手の甲には、ハチの様な針があるのだ。

 

だが、ヒーローはその針に当たらないように、拳を合わしている。凄まじい技量だ。

 

もはや、視認ができない。誰にも見えないほどの速さ。凄まじいラッシュだ。

 

だが褒めるべきはヴィランであろう。

 

ヴィランは、自分の身体能力だけでヒーローと渡り合っているのだ。だが、それまでである。

 

殴り合いながらも、ヴィランの甲虫の鎧は、パキパキと割れ始めている。

 

衝撃に耐えられないのだ。ヒーローのパンチは甲虫の鎧を確実に蝕んでいった。

 

波状攻撃には耐えられないのだ。

 

ヴィランは焦っていた。ラッシュをしていれば、いずれ負ける。どうする。と考えていた。

 

そうだ。オールマイトはヒーローだ。そうヒーローなんだ。

弱きを助け強きを挫く。そおゆう生き方をずっとしてきた男だ。

 

人質だ。

 

人質がいれば、オールマイトは攻撃できないと考えた。

 

だから、満身の力を籠め、叫んだ。その声は非常に五月蠅く、思わずオールマイトは、耳を塞いでしまった。

 

その間に少年を一人、取った。

 

紅白ではない、もう一人のほうをだ。

 

そう。大歴 伝馬である。

 

伝馬を左手で抱え、右手の針でいつでも殺せるぞと、脅す。

 

ヴィランは言う。

 

「コのままオオ、オマエが、オレををを殴っテくるののデアレバ、コのガキをコロスゾ!!」

 

 

 

 

 

 

ん?なんだ、何があった?宙に浮いている?いや抱えられている?

 

あぁ、思い出した。

 

僕は死にそうなんだ。そうか。捕まっているんだ。

鋭く尖った針が目の前にある。なんだ?

あぁ、オールマイトだ。テレビで何度も見た。

 

ヒーローだ。

 

ヒトラーおじさんは、オールマイトは人類の希望だと言っていた。超人社会での国家以上の抑止力だと言っていた。言っている意味は分からないが。

 

まあいいや。今は脱出しなければ、オールマイトは僕のせいで動けていない。

 

どうやら1メートルくらいの後方には穴がある。

 

そこに轟君がいるだろう。

 

なら、やることは一つだ。

 

 

 

 

 

伝馬は、ころころと、何かを後ろに落とした。ヴィランの後ろである。

 

ヴィランは気づかない。それどころじゃないからだ。

 

後ろから、衝撃と爆発音がする。

 

何かの破片がパチパチと甲虫の鎧を叩く。

 

手榴弾を落としたのだ。

 

瞬間、彼はジャックナイフを個性で持ち出し、腕に刺した。

 

ヒビの間をナイフは突き抜けたのだ。

 

ヴィランはたまらず、伝馬を離す。

 

だが、伝馬はオールマイトの方向には走らない。

 

友人が居るからだ。穴の中に入り、轟を担ぎ上げ、逃げようとする。

 

だが、それをヴィランが見過すはずもなかった。

 

「ママママててテヤやこのクソガキィィ!!!!!」

 

ヴィランが肉薄する。

 

 

「行かせない!!!!!!」

 

オールマイトがそれを止める。

 

ヴィランがオールマイトを殴る。

 

だが、躱された。

 

オールマイトが、ヴィランを殴る。

 

ヴィランの体制が崩れた。

 

「残念だ!!!君くらいの個性なら、ヒーローになってもよかったのに!!!!」

オールマイトが、ヴィランを殴る殴る殴る。

 

何発撃ったのだろうか。もう100発入ったのかもしれない。

 

ヴィランの甲虫の鎧は沢山のヒビが入った。

 

オールマイトは笑顔で拳を握りしめる。

 

笑顔とは、ヒーローの象徴である。

 

希望を与える、温かい行為だ。

 

TEXAS・・・SMAAAAASH!!!!

 

ヴィランの鎧は砕かれ、吹っ飛んだ。

 

 

 

 

伝馬は理解した。

 

ヒトラーがオールマイトは人類の希望だと言っていた理由が分かった。

 

温かい。笑顔で安心できる。

 

ヒトラーの演説は、何かを下に下げ、あの人よりかはましと思わせる戦術が使われている。

 

だからこそ、人々は、ヒトラーを信じ、安心した。

 

だが、オールマイトはどうだろう。常にヒーロー然としていて、笑顔は安心できる。

国会で演説をし、ニュースで見るよりも、早く、何倍も安心できるのだ。

 

誰も卑下にしない。

 

公平なのだ。オールマイトは。

 

ヒーローは、抑止力である。素晴らしく温かい行為である。

 

伝馬は、尊敬した。そして、憧れた。

 

僕も、ヒーローになって、だれかを笑顔にしたいと、心の底から思ったのだ。

 

 

将来の道は決まった。

 

 

因みにその後、オールマイトに猛烈に怒られ、先生にも怒られ、両親にも怒られた。

 

だが、彼は嬉しそうであった。

 

だってそうだろう。

 

決して曲がらぬ、素晴らしく、温かいができたのだから。




人々が思考しないことは、政府にとっては幸いだ。

アドルフ・ヒトラー


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少年は決心した

格好から入るってのも大切な事だぜ少年少女!!自覚するのだ!!今日から自分は…ヒーローなんだと!!さあ!!始めようか有精卵共!!

オールマイト


戦いは終わった。

 

もう夕方だ。

 

先生方に、こっぴどくしかられ反省したが、体育の教師の言葉には、反感しか持てなかった。

 

周りには、救急車や、警察の車両ばかりだ。ヴィランはしっかりと確保され、今は護送車の中だ。

 

大歴と轟は一緒にいる。大歴は、たいしたケガはしていない。首を絞められて穴に投げ込まれただけだ。

 

轟のほうは、バッタのような足で、腹を蹴られたのだ。打撲だけですんだのは、ラッキーだった。

 

「少年たち!無事でよかったな。だがもうあんな無茶をしてはいけない!特に大歴少年!ヴィランに捕まった時の行動。あれは非常に危険だ!!これからはやめなさい。」

 

「はい・・・すみません・・・。」

 

「だが、あの行動のおかげで私はヴィランを倒すことができた。・・・ありがとう。」

 

「いえ、そんな・・・。僕は何もできませんでした。」

 

「そんなことはないよ。大歴少年。君はまだ10歳だ。ここまでできる子供はそうはいなだろう。自信を持ちたまえ。」

 

「はい・・・。ありがとうございます。」

 

「それに、轟少年。君は大歴少年を助けようとしたらしいな!素晴らしいじゃないか!!持つべきものは友人だね!!!」

 

「はあ・・・。ありがとうございます。」

 

「OK,OK.It's COOL!!HAHAHAHA!・・・そういえば、君はエンデヴァーの息子さんなんだって。」

 

「まあ、一応。」

 

「じゃあ君は将来、ヒーローになるのかな?」

 

「あいつからはそう言われました。ヒーローになれって。」

 

「そ、そうなんだ・・・。(父親の事をあいつ呼ばわり・・・?)」

 

オールマイトは咳をした。

 

「大歴少年!君はヒーローになりたいとは、思わないのかい?」

 

「なりたいと思います。ですが・・・。」

 

「ですが、何かね?」

 

「オールマイトの個性は、如何にもヒーローって感じですが、僕のは全く違います。僕の個性は、正直、悪者の個性です。銃を取り出して撃ったり、人を召喚して、簡単に人を殺める事ができてしまいます・・・。そんな個性を持っているのに、ヒーローになれるのでしょうか・・・。」

 

そうだ。その通りだ。彼は彼自身の個性をよく理解していた。

 

伝馬の個性。其れは歴史である。

 

彼の個性には条件がある。召喚される人は、もう死んでいて、しっかりとその生涯や人格が表記されており、写真がある。写真は鮮明に人物の顔が写っており、何よりも全身が写っていなければならない。

その条件が合うのは、1900年からの人々であろう。

 

その時代の著名な人物。文化人では、チャップリンやココシャネルなどがいるが、その世紀で活躍した人物のほとんどが、政治家か、軍人であろう。

 

1900年は20世紀である。

 

20世紀は戦争の世紀と呼ばれている。私は異論はない。みんなが納得するであろう。

前半は、二つの世界大戦が起こり、その後も、冷戦が行われた。ソビエトが崩壊し冷戦が終わったのは、1991年である。

何度も、世界崩壊の危機があったのだ。

何度も、文明破壊の危機がありながら、人類はそれを乗り越えた。

 

だが、沢山の人が死んだのだ。

 

第一次世界大戦では、戦死者1600万人。二次大戦では、8500万人と言われているのだ。

 

伝馬は、死ね。と命令をした人々を召喚できる。

それは、10歳の子にはどれだけ重荷であろうか。

彼は、彼の一言で、何百万の兵士を呼び出し、人を殺せるのだ。

何千万も。

 

彼はヒーローの道をあきらめていた。こんな個性がなっていい職業だとは、とても思わなかったのだ。

 

彼は怖いのだ。自らの技量が。自らの個性が。堪らなく、恐ろしいのである。

 

だからこそ、チャーチルとヒトラーは彼を政治家か、軍人にさせようとしたのだ。

そうすれば、彼は、きっと適任だと思うだろうと。そう彼らは思ったのだ。

 

優しさである。

 

だが、優しさだけではない。彼らは彼のおじさんである前に、政治家なのだ。

自分のイデオロギーを信仰している。

だからこそ、彼らは伝馬にイデオロギーを教え、政治家か、軍人にさせ、自分たちの理想の国を形成させようとしているのだ。

 

 

オールマイトは、人を召喚する。という所に引っかかったが、聞かなかった。空気を読んだのである。

 

「大歴少年。私の個性だって、すぐに人を殺せるんだ。それに、どんな個性をしていても夢はでっかくだ!!それに君は、まだ何にでもなれるんだ!!夢をでっかく持ちたまえ!!」

 

「君は・・・ヒーローになれる!!!!

 

 

 

 

ヒーローになれる!!!!

 

衝撃だった。こんな個性を持っている僕も、ヒーローになれるのか。

歴史という。この正義にも悪にもなれる個性。

何万人殺したと思っているのだ。

僕に様々なことを教えてくれるおじさん達は、いったい何万人殺したと思っているんだ。

 

戦争だったのだ。仕方がないだろう。

だが、人を殺しているのだ。ヴィランなんかよりも沢山。

 

それに僕は、彼らに命令を与える個性だ。

彼らは一体、何万人の兵士を率いることができるんだ。

 

僕が命令するだけで、全世界と戦争できる個性だぞ。

僕は、僕は・・・本当にいいのか?なれるのか?ヒーローに・・・。

 

オールマイトが、肩をつかむ。そして抱きしめながらやさしく話してくれた。

 

「大丈夫さ。もし君がヴィランになっても私が止めに行くよ。大丈夫だ。だから、君は君の夢を貫けばいいんだ。」

 

泣きそうだ。今までたまっていた何かが、吐き出されそうだ。

 

「僕は。僕は、ヒーローになりたいです。諦めていた夢だけど、僕は、ヒーローになりたい!!」

 

「そうか!!良かった!!!じゃあ雄英高校に行きなさい。そこでなら、ヒーローとしての基礎をしっかりと、教えてもらえるよ!!」

 

それに、私の母校だしね。と言いながらオールマイトは笑った。

 

オールマイトの笑い。何故かとても安心できる。

 

「轟少年!!君も、ヒーローになりたいと思っていたら、是非とも、雄英高校にいきなさい!!歓迎してくれるよ。」

 

「考えておきます。」

 

「FO~ 手厳しいねぇ!!」

 

 

 

その後、雄英でまた会うことを約束し、轟の父である、エンデヴァーが迎えに来て帰っていった。

 

 

 

その後、伝馬の両親が迎えに来た。すごく怒られた。だが、にやけ顔で聞いていた。

 

なんでそんな危ないことをしてしまったの!と母が聞くと「考えるよりも先に、体が動いていたんだ。」と答え

 

父には、なんでそんなに笑顔なんだ?と聞かれた。

伝馬は答える。

 

「夢ができたんだ。」

 

「何の夢だ?」

 

 

 

ヒーローに僕はなりたい!!

 

 

 

どうやら、チャーチルとヒトラーの野望は、砕かれたようだ。

 




新しい人材を育てたい。退廃と堕落がはびこる時代から、我々ドイツ民族の未来を救うために、未来のドイツを担うものは、しなやかであらねばならない。しなやかさと、鋼の強さを

アドルフ・ヒトラー


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少年は頑張っている。

一人の人間の死は悲劇だが、数百万の人間の死は統計上の数字でしかない

ヨシフ・スターリン


戦いから、2年経った。

彼は、ヒーローになるため、今まで以上に頑張っている。

 

チャーチルとド・ゴールは、ヒーローになると伝馬の言葉を聞いた時、非常に驚いた。本当にいいのか?と心配した。だが、決意は固かった。

 

チャーチルとド・ゴールは納得し、彼らがヒーロになるために協力を惜しまないと、約束した。

 

三国協商である。

 

ヒトラーとムッソリーニは、ならそれでよい。と言っていた。だいぶ、あっさりしている。

それもそうだろう。

 

ヒトラーの目的は殆ど、達成されているのである。

一つ目は、ユダヤ人とスラブ人の、民族粛清である。

 

このままいけば、何時かは居なくなるであろう。

 

二つ目は、大ドイツ帝国の繁栄である。だが、その目的もほとんど達成されていた。

 

欧州連合はドイツ連邦が主導で、管理・運営している。

これは最早、ドイツ第四帝国であると、ヒトラーは思っていた。

 

ムッソリーニは、もともと伝馬を政治家の道に導くのは、反対であった。ムッソリーニは最後には、腹心や国民に裏切られてしまった人物である。

おじさんと慕ってくれていた、彼をいばらの道に引き込むのは抵抗感があった。

だからこそ、反対なのだ。

 

三国同盟である。

 

ベニート・ムッソリーニ。イタリアの政治家。

 

ムッソリーニは若い頃、スイスへ放浪。その時に、ウラジミール・レーニンや、レフ・トロツキーと出会い、様々な議論を行う。

 

この時、ムッソリーニの思想である、ファシズムの土台ができたといわれている。

その後、第一次世界大戦が勃発。第11狙撃兵連隊第33大隊に配属され、厳寒のアルプスで塹壕戦や山岳戦を経験した。

 

その後、自らで考えた、新主義である、ファシズムの政党であるファシスト党を興した。党の支持者が増えると、1921年ムッソリーニはローマ進軍を行い、イタリア連立政権を打倒。

 

その後、イタリア総帥となり、経済改革、警察国家化、ローマ法王との和睦。様々な改革を施した。

 

ナチス・ドイツと同盟。第二次世界大戦に参戦。

 

だが、負けてしまった。連合国が捕らえ、幽閉され、その後、救出された。

救出したのが、オットー・スコルツェニーである。

 

その後、パルチザンがムッソリーニを捕縛した後、ミラノで、愛人と一緒に吊られた。

 

個人的には、20世紀のなかでも屈指の政治家であり、軍人であった。

 

彼らも、ヒーロになるために協力を惜しまないと、約束した。

 

そしてヒトラーはヒーローになることを決めた伝馬に対して、あるノートを渡した。

ドイツ語で書かれたノートにはこう書かれていた。

 

『Heldennotizen für die Zukunft(将来のためのヒーローノート)』

である。

 

彼は、伝馬が5歳児の頃から、インターネットで探し、書き留めていた。

彼がヒーローになるときに参考になるように。

彼が、政治家や軍人になった時、しっかりとヒーローを利用できるように。

 

ようやく役に立つと言っていた。

 

だが、問題があった。

 

彼は召喚できた人とは、喋れる。

別の言語でも喋ることができるのだ。だが、文字はどうだろうか。

実は分からないのだ。

 

 

読めないのだ。

 

 

ヒトラーは、こけた。

 

 

 

大歴一家が、寝静まったころ、リビングだけは、電気がついていた。

 

椅子に座っているのは、スーツや軍服を着た男たちである。

 

ウィンストン・チャーチル、アドルフ・ヒトラー、シャルル・ド・ゴール、ムッソリーニ。

 

そしてこの二年で召喚された。ヨシフ・スターリンと東條英機。そしてフランクリン・ルーズベルトが、座っている。

 

ムッソリーニは、緑色の軍服を纏っており、腰には軍刀を差している。

軍帽をかぶっており、まるでコサックのような、長い軍帽だ。正面には金色の鷲の紋章が、デカデカと、ついている。顔は、ケツ顎で、ハゲだ。だが、侮ることなかれ。

目は、此処いる七人の中で、最も太陽のように輝いている。

 

シャルル・ド・ゴールは、193cmと言う、巨大な身長を誇っている。軍服は、オリーブのような色をしており、軍帽は、円筒形の胴に天井が水平なっている。ケピ帽という、奴だ。そして、植物の模様が施されている。

そして目は、たれ目だ。だが、しっかりと先を見据えている。

 

ヨシフ・スターリンは、白色の軍服を纏っている。右手には、常にたばこのパイプを持っている。顔は、筆髭がよく目立つ。

そして目は、非常にドロドロと黒々としていて、恐ろしい。まるで誰も信じてはいないような目だ。

 

東條英機は、緑の軍服を纏っており、胸には、数えきれないほどの勲章が、飾られている。そして、腰には彼が日本人と言う象徴。日本刀が差されており、軍帽をかぶっている。正面には、星が、施されている。

顔は、眼鏡をしており、髭を生やしている。眼鏡に隠れてよく見えないが、目はギラギラと、物事をよく観察している。彼の目を一言で表すのであれば”武人"であろう。

 

フランクリン・ルーズベルトは、青色のスーツ姿だ。そして、黒色の外套をかぶっている。そして、一番の特徴は、車イスな点であろう。だが、それでも誇り高く、前を見据えている。

目は青く輝いている。まるで自由の篝火のようだ。

 

そして、彼らの前にはホワイトボードがあり、こう書かれていた。

 

 

第32回 大歴伝馬の個性を使う戦い方。

 

と、日本語で書かれていた。

 

その下には、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロシア語で書かれている。

 

だが、まず最初に、各国の総兵力を紹介せねば。

 

因みに、正確な数は、分からない。

私には把握ができないのだ。

 

これは、陸軍、海軍、空軍の総兵力である。

あと、軍艦、戦車、航空機などの火器備蓄は記載しない。

 

軍総兵力。

 

ドイツ軍:約700万。

 

アメリカ軍:約800万。

 

イギリス軍:約600万。

 

フランス軍:約550万。

 

イタリア軍:約350万。

 

赤軍(ソビエト軍):約2200万。

 

日本軍:約700万。

 

 

総兵力:約5900万人。

 

 

本当に世界と戦える戦力である。

 

彼が召喚できる人数の合計は、多くても1万人が限界だ。

 

持続時間も1日が限界であろう。そして疲労して、すぐに寝てしまう。

 

其れでも凄まじい。

 

 

そして、ホワイトボードの下には、ドクトリンの選択と書いてある。

 

ドクトリンとは、軍隊の戦闘教義。

作戦・戦闘における軍隊部隊の基本的な運用思想である。

 

難しい話であるので、大まかに4つに分けて考えることにしよう。

 

機動戦、火力優勢、大規模戦闘計画、大量突撃に4つだ。

 

機動戦ドクトリン:戦車や自動車を使い、敵を短時間に包囲。殲滅するドクトリン。採用した国は、ナチス・ドイツ。

 

火力優勢ドクトリン:大規模な事前砲撃で、敵を粉砕するドクトリン。採用した国は、アメリカ合衆国。

 

大規模戦闘計画ドクトリン:念密な計画を立て、全て予定通りに敵を打倒するドクトリン。採用した国は、大英帝国、フランス国第三共和政、大日本帝国、イタリア王国である。

 

大量突撃ドクトリン:たくさんの兵を肉弾として敵を突破し、一気に撃滅するドクトリン。採用した国は、ソビエト連邦。

 

この中から決めることになる。

 

議論は、紛糾した。

 

スターリンが、「人が多いのだから、突撃でいいだろ。」と言えば、チャーチルが、「あの子の体を考えろ」と言う。

 

ルーズベルトが、「なら、事前砲撃で吹っ飛ばせばいい」と言ったら、ド・ゴールが、「周りの被害を考えろ。」と言う。

 

ムッソリーニが、「入念な準備をして、確実にヴィランを倒せばいいだろ。」と言えば、東條が、「ヴィランは局所的に表れる。いちいち準備してたら間に合わぬよ。」と言う。

 

ヒトラーが「戦車で、全てをひき殺せばいいのだ。」と言えば、全員で「殺してはダメだろう」と言う。

 

ヒトラーは激怒した。

 

 

今回も議論は決着がつかなかった。

 

正に、会議は踊る。されど進まず。

 

だが、新しい課題が見えた。

 

今更ではあるが、ヴィランを殺してはいけないのだ。

 

彼らは頭を抱える。一番の難題である。

 

 

まずは其れを第一に考えなくては。

 

 

 

彼らの心労は絶えない。




ある方法を選んで試すことは常識である。もし失敗しても素直に認めて別の方法を試そう。しかし何にもまして、何かをすることが大事だ。

フランクリン・ルーズベルト




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青年編
青年はさらに体を鍛えている


我々の目的は、勝利、この二字であります。あらゆる犠牲を払い、あらゆる辛苦に耐え、いかに長く苦しい道程であろうとも、戦い抜き勝ち抜くこと、これであります。

ウィンストン・チャーチル 


あれから三年経った。

 

もう伝馬は、男の子や、少年と呼ばれる年齢ではない。青年となったのだ。

 

彼は、中学3年生である。

ずっとヒーローになるために邁進している。

 

個性の能力を伸ばし、自らの体や技能を鍛えている。

 

きっと10歳の時のヴィランとまた対峙したら、そこそこ闘えるようになったであろう。

 

彼の個性の先生は、年を重ねるごとに増え、厳しさは増していった。

 

新しい先生となったのは、四人。

各国から一人ずつである。

 

イタリア王国からは、ジョヴァンニ・メッセ。ソビエト連邦からは、ヴァシリ・ザイツェフ。アメリカ合衆国からは、チャールズ・ケリー 。大日本帝国からは、舩坂弘だ。

 

そうそうたるメンツであろう。

 

父は興奮しながら、サイン用紙とマッキーペンを持ちながら近づくほど、ビックネームだらけだ。

 

その前に、彼らの容姿や特徴を説明しなければならない。

 

ジョヴァンニ・メッセは、ムッソリーニと同じで、緑色の軍服を纏っている。肩からベルトを巻いている。

軍帽をかぶっており、その軍帽は高い円筒形の帽子である。シャコー帽と言うやつだ。そして、正面には、ムッソリーニ同様、金色の鷲が、付いている。

顔はイタリア人らしく、彫りが深い。

 

ジョヴァンニ・メッセはイタリア王国の軍人及び政治家。

 

彼は指揮官だが、だれよりも判断能力が突出しているのである。

彼は、ソビエト戦線で、イタリア軍を偵察部隊として起用し、逐一敵を見つけたらドイツ軍に報告し、撃退させながら戦線を広げ、ソビエトの大地に深く進んだ。

 

所謂、イタリア流電撃戦である。

 

ジョバンニは、今自分ができることを見つけ、それを最大限活用することができた。

ヒーロでは、非常に大事な事であろう。

 

 

ヴァシリ・ザイツェフは茶色の軍服に身を纏い、茶色の外套を羽織っている。

軍帽はロシア帽で、コサックのような見た目に加え、耳元まで温かいように毛皮が追加されている。

顔は、無精ひげを生やしている。目は鋭い。説明するとしたら、”狩人”であろう。

 

彼は、スターリングラード戦で、活躍したスナイパー兵である。

一般的なモシン・ナガン・ライフルで32人のドイツ兵を倒した。

そして、ザイツェフは廃墟に設けた狙撃兵訓練学校で28人の兵士を狙撃手として育成し、結果として3,000人以上のドイツ兵が戦死したと云われている。

 

教育者としても、スナイパー兵としても、非常に熟練した兵士である。

 

 

チャールズ・ケリーは、茶色の軍服を纏い、胸には、陸軍名誉勲章をつけている。そして、ヘルメットをかぶっている。

顔は、普通のアメリカ人のようだ。そして、目は好奇心がふつふつを表れているような、まるで、子供のような目をしている。

 

だが、侮ることは絶対にしてはいけない。

 

彼の別名は、『コマンド―・ケリー』『戦争に愛された男』

 

この男は、ケリーはイタリアの南部のアルタヴィッラ近郊でドイツ国防軍の攻撃に晒されていた弾薬集積所の防衛に参加することになる。

彼は一晩中、倉庫内に立て篭もって抵抗を続けた。

撤退命令が下されると、彼は自ら、殿軍に志願し、追い詰められながらもドイツ兵の足止めを続けた。

 

ライフルが熱で焼けるまで撃ち続け、マシンガンが焼けるまで撃ち続け、バズーカを弾が集積所からなくなるまで撃ち続け、外に出て、対戦車砲で撃ち続けた。

弾薬集積所内を駆け回っては武器を探し、BARやトミーガンを撃ちまくった。

そして、アメリカの陸軍の中で最高位の勲章。陸軍名誉勲章を大統領から授与された。

 

化け物である。

化け物以外の感想が出てこないのである。

 

彼は何が必要かや、何が効果的か。瞬間に判断し実行出来る。後は、クレイジーさ。であろう。

 

 

舩坂弘は、カーキ色の軍服を纏っている。軍帽は、戦闘帽をかぶっている。見た目はベースボールキャップと言ったほうが分かりやすいのではないだろうか。

顔は、典型的な日本人顔だ。目は、温和そうだが、目の奥には、生きるという意思が燃え広がっているように感じられる。

 

彼は、生存に特化している。

彼の異名は『不死身の分隊長』だ。

 

舩坂は、パラオ・アンガウル島での戦いに参加し、戦場で米軍の攻勢の前に、左大腿部に裂傷を負う。米軍の銃火の中に数時間放置された。だが、まだ生きていた。

 

船坂は、重傷を負っていても、拳銃の3連射で米兵を倒したり、左足と両腕を負傷した状態で、銃剣で1人刺し、短機関銃を手にしていたもう1人に投げて顎部に突き刺すなど、奮戦を続けていた。

 

舩坂は、死ぬ前にせめて敵将に一矢報いんと、米軍司令部への単身斬り込み、肉弾自爆を決意する。

 

手榴弾6発を身体にくくりつけ、拳銃1丁を持って、数夜這い続けることにより、前哨陣地を突破し、4日目には米軍指揮所テント群に、20メートルの地点にまで潜入していた。この時までに、負傷は戦闘初日から数えて大小24箇所に及んでいた。

 

また、長い間匍匐(ほふく)していたため、肘や足は服が擦り切れてボロボロになっており、さらに連日の戦闘による火傷と全身20箇所に食い込んだ砲弾の破片によって、さながら幽鬼か亡霊のようであったという。

 

舩坂は指揮官が、指揮所テントに集まる時を狙い、待ち構えていたのである。

 

舩坂は、ジープが続々と司令部に乗り付けるのを見、右手に手榴弾の安全栓を抜いて握り締め、左手に拳銃を持ち、全力を絞り出し、立ち上がった。

 

だが、失敗してしまった。

 

手榴弾の信管を叩こうとした瞬間、左頸部を撃たれて昏倒し、戦死と判断されたのだ。

 

だが、彼は生きていた。

 

起きた瞬間、周囲の医療器具を壊し、銃口を自分の身体を押し付け俺を殺せ!!と暴れ回った。

 

 

これだけでもわかるであろう。

 

正に、不死身。正に、日本兵の体現である。

 

彼は、生存する能力にたけ、根性があり、頭もよい。

 

全てが戦いに特化しているのだ。

 

 

彼らは、各自が戦闘のプロであり、特化しているものがある。

 

こんな、化け物たちに教わっているのだ。強くならないわけがない。

 

彼らの長所・能力・技能を吸収すると、一体どれだけ強くなるのだろう。

 

 

だが、もっと訓練が厳しくなったのである。

 

 

勿論、母は怒った。毎回ケガをして帰ってくるのだ。帰ってきた瞬間、玄関で寝てしまうのだ。

そして、見てしまった。手や足には沢山の傷跡があり、血がにじんでいるのを。

 

 

 

母は激怒した。

必ず「あの人の心がない、鬼のような軍人達を、除かなければならぬ」と決意した。

母には、ヒーロに必要な身体能力や頭脳が、どれだけ必要かなど、全く分からぬ。

母は、市役所職員である。書類をコピーし、夫と息子と楽しく暮して来た。

 

だがどうだ。彼が個性を発現してからは、ケガばかりである。一週間に一回は必ずケガをしているのだ。

 

だが、血が出るくらいではなかったし、何よりも彼の個性自体が、狙われやすいのである。

世界のシンパが必要とするもの。其れは指導者である。

その指導者を、出せる能力が狙われるのは当然である。

だからこそ、彼を鍛えるのはしょうがないと思っていたし、どうにか容認したのだ。

一週間に一回ということで妥協をしたのだ。

 

だがどうだ。

確かに一週間に一回だ。それに、年を重ねるごとに訓練が厳しくなるのも当然だと思う。

 

だが、血が出ているのだ。やり過ぎだ。本当にやり過ぎなのだ。

 

これ以上、母的には、もう無理だ。怖いのだ。恐ろしいのだ。

 

帰ってくるたび心配になる。ケガだらけだ。

手足を見ると、小さいが大量に傷跡がある。これ以上は作らせたくない。これ以上は見たくない。

 

だから交渉をした、訓練官7人に加え、各国のトップ7人と。

 

勝てるわけがない。

彼らとは、全てが違う。

男の価値観、命の価値観。軍人としての価値観。今の平和な世の中とは全く違う。

 

それに加えて、口のうまさも違う。

母は論争をしたことがない。平和に生活をし、結婚をし、子をもうけた。ただの一人の母親である。

 

だが彼らはどうだ。

小さい頃から、論弁を研究し、論争を重ね、人に議論で打ち勝ち、今の地位を築き上げた。

 

論争の専門家だ。

 

勝てるわけがない。

 

だが負けなかった。

気迫や今まで、全力で勉強した英語の知識、東條と船坂以外の日本語の技量不足さ。

 

全てが、母のアドバンテージになった。

 

だが、彼らは言った。

伝馬は、”オールマイトのような、人を安心させることができるヒーローになりたい”と。

”その為には、どんな試練にも打ち勝つ”と。

 

彼は、彼らの前で言ったのだ。と。

 

これは、彼が夢を叶える為の、試練だと。

 

じゃあ、やり過ぎと思う訓練だけはやめてくれと。だから訓練内容を教えろ。と

母は言う。

 

訓練内容は、元々の個性の能力の向上。ランニングや、筋トレ、サバイバル能力や足の音を出さない等の、ステルス能力の向上。サイレント・キリングなどの格闘戦術。

他にも、銃剣術や、様々な銃の整備、撃ち方。狙い方。捧げ銃などの敬礼の仕方。

 

それに、加え

 

遠くからのスナイパーでの狙い方。

痛みに耐える、耐拷問訓練。

双眼鏡の見方、使い方。

判断力を増加させる、対多数訓練。

その辺にあるものを使い、自分の姿を隠す方法。

虫を食べる。調理する。

 

其の他諸々・・・。

 

母は激怒した。何倍も激怒した。

必ず「あの人の心がない、悪鬼羅刹のような、男どもを除かなければならぬ」と決心した。

 

母は怒った。もう訳も分からないほど激怒した。

 

母の怒り様は、もはや人間ではない。彼女こそ鬼であった。

 

14人は、鋼の心を持つ猛者だ。

 

だが、怖気た。

今だけは子供の時に戻った時のような感覚だった。恐ろしかった。どんな時よりも恐ろしかった。

 

赤い津波どころではない。核爆発クラスの恐怖である。

いや、隕石クラスに匹敵する。

 

 

訓練は何倍も緩和された。

 

 




生まれつき傷が治りやすい体質であったことに助けられたようだ

舩坂弘


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青年は宣言した

凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時である。風に流されている時ではない。

ウィンストン・チャーチル


大歴一家が寝静まったころ、リビングだけは、電気がついていた。

 

椅子に座っているのは、スーツや軍服を着た男たちである。

 

ウィンストン・チャーチル、アドルフ・ヒトラー、シャルル・ド・ゴール、ムッソリーニ。

ヨシフ・スターリンと東條英機。そしてフランクリン・ルーズベルトが座っている。

 

ホワイトボードには、いつものごとく、こう書かれていた。

 

第68回 大歴伝馬の個性を使う戦い方

 

と、日本語で書かれていた。

 

その下には、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロシア語で書かれている。

 

まだ、続いていた。

 

ウィーン会議並みのグダグダである。

 

今回の議題はどうやら、各国の軍集団としての役割らしい。

 

その前に、彼の個性に分かったことがある。

 

彼は、軍人と政治家しか召喚出来ないのだ。

以前彼は、小学生の時、図工の宿題を教えてもらうために、ピカソを召喚しようとした。

贅沢すぎる人物を、宿題のためだけに召喚しようとしたのだ。

父が聞いたら気絶してしまうであろう。

 

だが、召喚出来なかった。それどころか、芸術家全般や歌手。今は亡き芸能人も召喚出来なかった。

 

なので、一つの仮説を立てた。

最初に召喚した人の、ジャンルしか召喚出来ないという仮説だ。

チャーチルは、政治家・軍人である。

 

 

 

其れしか召喚出来なかったのだ。

残念無念である。

 

 

 

話を戻そう。

各国家の役割を決めようとしていた。

確かにこの行為は、理にかなっている。

各軍が勝手に動いては、軍隊の意味がない。

 

日本はもう決まっているようだ。

救助、交渉、誘導の人命救助を優先にやるらしい。

そりゃそうだ。

 

ここは、日本だ。日本語を話せる人が救助をしなければ、かえって不安にさせてしまうだろう。

 

他の軍隊はどうするか、各国の特徴を整理してみよう。

 

個人的な見識である。異論は大いに認める。

 

イギリス軍:特に海と空に優れており、誉ある『ロイヤルネイビー』と、ドイツ軍との空戦『バトル・オブ・ブリテン』は有名であろう。陸軍は、元々が島国なので、規模は少ない。

有名な戦車は、チャーチル歩兵戦車。有名な戦闘機は、スピットファイア。有名な戦艦は、ウォースパイト 。

 

ドイツ国防軍:特に陸軍が優れており、フランスを1か月半で攻め落とし、独ソ戦でモスクワ目前まで迫ったのは、素直に称賛されるものであろう。

戦車、戦闘機、火器、全てにおいて平均以上。海軍以外は、トップクラスであろう。

有名な戦車は、VI号戦車 ティーガーI 。有名な戦闘機は、メッサーシュミット Bf109。有名な戦艦は、ビスマルク。

 

イタリア軍:特に海が優れている。だがそれ以外は、正直な所弱い。

資源がない。工業力がない。人がいない。

この七国の中では一番弱い。

だが、軍人の練度は高い。もともと警察国家だったから、軍人も相応の練度があった。

騎兵部隊や山岳部隊は、突出している。

有名な戦車は、P40。有名な戦闘機はフィアット CR.32。有名な戦艦はローマ。

 

フランス軍:防御線や、市街地戦に優れている。ドイツ国境に作られた、マジノ線は非常に有名であろう。マジノ線は、当時最強の防御力があり、最先端の要塞群であった。真面目に突撃をしてくれば、敵を一瞬で粉砕できたであろう。迂回されたら、元も子もないが。

レジスタンスは、非常に練度が高くあきらめない。個人的には、ノルマンディが終わった後、連合軍が陣地を作れた理由は、フランス全土でレジスタンスが、発生したお陰だと思っている。海と空はついで。

有名な戦車は、ルノー R35。有名な戦闘機は、MB.150。有名な戦艦は、リシュリュー。

 

アメリカ軍:資源、人、工業力。全てを持っている化け物。全てがトップクラス。

アメリカ軍だけいればいいんじゃないかな。

有名な戦車は、シャーマン戦車。有名な戦闘機は、P-51 マスタング。有名な戦艦は、ミズーリ。

 

赤軍(ソビエト軍):畑から人が取れる。陸はアメリカ以上。海は、大体旧型。空は普通に強い。

有名な戦車は、T-34。有名な戦闘機は、La-7。有名な戦艦は、オクチャブリスカヤ・レヴォリューツィヤ(十月革命)。

 

日本軍:全体的にバランスはとれている。工業力の低さを、工夫と練度でカバーしようとしていた。だから、練度は最強。陸軍は、強い部類。海軍も強い。空軍?ありませんよ。

有名な戦車は、九七式中戦車。有名な戦闘機は、零式艦上戦闘機。有名な戦艦は、大和。

 

 

陸軍順位:アメリカ=ソ連>ドイツ>日本>フランス=イギリス>イタリア。

 

海軍順位:アメリカ>イギリス>日本>フランス=イタリア>ドイツ>ソ連。

 

空軍順位:アメリカ>ドイツ>イギリス>ソ連=日本>フランス>イタリア。

 

異論は大いに認める。

 

彼らの議論は、紛糾を極めた。

 

 

そもそも役割とは何ぞやと、勝手に七つの派閥みたいに、勝手にやればいいではないかと。勿論統制は守り、伝馬の指示には従うが。

 

ここでの役割は、基本的に優先してやらなければならない事項である。

 

日本軍で例えよう。

日本軍は、戦闘に参加できるし、戦車を使ってもいいし、大和の46cm主砲で攻撃をしてもよい。

だが、それをする前に、ヴィランの被害にあった被害者を救助、救助の交渉、市民の誘導を終わらせなければ、戦闘には参加できない。

と言うことである。

 

役割は、大まかに7つ。

 

攻撃

 

防御

 

偵察

 

機動

 

救助

 

治安維持

 

遊撃

の7つである。

 

役割を説明せねばならない。

 

攻撃:その名の通り、ヴィランの相手をする役割である。

それゆえに被害も多いし、大量の装備をしながら、しっかりと準備をしなくてはならない。

 

防御:救助された被害者や、伝馬、チャーチルなどの各国のトップを守る役割である。

責任は重大である。防御に優れており、練度も高くないといけない。

 

偵察:ヴィランを見つけたり、被害者を発見する役割。

早く統制が取れ、練度も高くないといけない。

 

機動:戦車や機械化歩兵で、敵を包囲・撹乱する役割。

戦車に強く、柔軟な発想が必要となる。

 

救助:その名の通り、救助、交渉、誘導の人命救助を行う役割。

安心させながら、早く物事を行わなければならない。

 

治安維持:その名の通り、治安を維持する。警察が来る前まで、周りの治安を維持しながらヴィランを見張る。

優雅に、秩序を持っていなくてはならない。

 

遊撃:各役割の応援。臨機応変に対応し、支援する。

様々なことができなくてはならない。

 

この役割は結構早く決まった。

 

攻撃は、最も破壊力が多く、被害を少なく、敵を倒せる軍隊が最もよい。

そんな軍は、アメリカ軍しかいないであろう。

 

防御は、この中に一国だけ、もともと防御戦略で戦闘計画を構成していた軍がある。

フランス軍だ。

 

偵察は、早い戦車で技量が高いと、とても良い。

これに答えられるのは、もともと警察国家で全体的に技量が高く、とても速い豆戦車。C.V.33カルロ・ヴェローチェ=快速戦車がある、イタリア軍だ。

 

機動はこの中で戦車が最も有名で、威風堂々としている国は一つだけである。

ドイツ軍だ。

 

救助は、前述のとおり、唯一日本語が公用語である、日本軍が担当する。

 

治安維持は、秩序がなくてはならない。最も統制が取れているのは、大英帝国である。

 

遊撃は、全体的に兵が多い、ソビエト連邦が担当することとなった。

 

そして、伝馬の体力上昇によって、10000人から、15000人まで、耐えられる様になった。

 

だが、彼等が闇雲に召喚してしまったら、すぐに15000人を超えてしまうてあろう。

 

だから、各国家の上限人数を設定することとなった。

 

 

だが、その前に個性”歴史”の召喚の仕方を紹介しなければ。

 

まず、伝馬が、チャーチルやヒトラーなどの各国のトップを召喚する。

トップは勝手に出ることも自由に歩くこともできる。

そして、彼ら、国のトップが大将~少尉の士官を召喚。そして、士官が大尉~少尉などの尉官を召喚。そして尉官が曹長~伍長などの下士官を、下士官は兵長~二等兵の兵士を召喚する。

トップは、もちろんすべての軍人を召喚できる。伝馬はトップしか召喚出来ない。

 

軍隊と同じだ。

 

 

話を戻そう。何度も話がそれてしまい、申し訳ない。

 

兵は、攻勢を担当する、アメリカ・ドイツ・ソ連が3000人ずつを上限とし、その次に、イギリス・日本が2000人ずつ、イタリア・フランスが1000人配備された。

 

 

軍隊の準備は、大体が整った。

 

ドクトリンは、もうあきらめた。

各国の役割が終われば、勝手にヴィランを止めるために戦う。作戦はもちろん決めるが。

 

正に諸各国連合軍のようだ。

 

そして、最後の議論。

 

彼らの名称だ。

いちいちイギリス軍とか、赤軍とかいうと、だれの個性か全く分からないであろう。

だから統一する名前を決めることとなった。

 

 

『対ヴィラン戦闘協定列強諸各国軍団』(Army Corps of Strong Powers)

 

通称ACSPとなった。

 

 

 

彼、大歴伝馬は、15歳。受験期である。

身長は175cmとなり、父の身長に段々と近ずいてきた。

筋肉は、良い感じに鍛えられ、今風に言うと細マッチョだ。

 

彼は、オールマイトに紹介された高校。 雄英高校に受験をすることに決めた。

 

そして、受験の前日。

 

一番気が立つときにチャーチルから「20時に市民体育館の裏口に来てくれ。」と言われていた。

 

一番気が立っているときだ。

伝馬は、”なんで今呼ぶんだよ・・・”と、少し怒りながら、あずき色のジャージで体育館の裏側に行った。

 

裏側には、チャーチルがいた。スーツ姿ではない、燕尾服だ。どこで調達してきたのだろう。

 

チャーチルは、伝馬の手を引き、歩いていく。

 

歩いていると、衣裳部屋で、大礼服を着せられた。

大礼服(たいれいふく)は、明治時代から太平洋戦争の終戦まで使用されていた、日本におけるエンパイア・スタイルの宮廷服。いわゆる「大日本帝国の服装」における最上級の正装である。

 

近代の王族が着用するような宮廷服で、漆黒である。所々に美しい金の装飾があり、肩からは、紅白の美しい帯をかけている。胸の左右には、大きい、学生服のようなボタンがある。美しい、紅白のベルトもしている。

ズボンはシンプルで、黒い。

腰には、フランス式のサーベルの様な軍刀を差している。柄は黒い。鍔で、手や指を保護している。鍔の色は、金色だ。刀身は銀色に輝いている。鞘は、黒いが、花のような装飾があり、色は金色だ。

 

彼の高身長や、細いががっちりとした体つきで、とても様になっている。

 

伝馬は、”こんなに美しい服を纏うのだから、なんか凄いところに送られるのではないか”と、戦々恐々としていた。

 

そして、階段をあがれと、言われ階段を上がる。後ろからは、チャーチルが付いてくる。

 

階段を上がったら、そこには、赤絨毯が広がっていた。その先には、書見台があり、各国のトップが一堂に直立している。ルーズベルトは車いすだが。

チャーチルは進めと言った。

 

そして進んでいくと、ラッパの音がする。いや、ビューグルだ。First Callと呼ばれている短い曲を奏でた後、オー!!と声がした後、曲が奏でられた。

 

エドワード・エルガーが作曲した行進曲「威風堂々」だ。

軍楽隊が奏でるのに合わせて、様々な軍服を着た軍人が敬礼しながら、伝馬を見る。

 

伝馬は歩く。後ろからは、チャーチルが付いていく。

 

伝馬の足は震えていた。

 

そりゃあそうだろう。ただの中学生が突然こんなところで、まるでテレビみたいなことをやっているのだ。

 

だが、彼は強い。

震えながらも、一歩一歩確実に、堅実に歩いていく。

 

この強さに、皆が惹かれたのかもしれない。

 

曲調が静かになるころに、書見台の前まで来た。

 

伝馬は周りを見渡すと、様々な軍服を着た男達が立っている。胸につけられた勲章は、キラキラと輝いており、少し眩しい。

 

書見台には、本が置いてある。

本には、文章が書かれていた。

 

台本だ。

 

それには要約すると、ヒーローになるために、一生懸命頑張ると書かれていた。

 

だが、彼は、それを読んだ後、台本道理に読むのではなく、自分の言葉で話した。

 

覚悟は決まった。

 

『私、大歴伝馬は、ヒーロになりたい。私は自らの夢を叶えたい。

なのであなた方の力が必要だ。私は、あなた方が居なければ、只の無個性の人間だ。私は、あなた方がいるお陰で、ヒーローになれる。

だが決して、あなた方だけを頼ることは絶対にしない。私は貴方がたと共に戦う。町でヴィランと戦う。平原で戦う。森で戦う。丘で海岸で海で雪原で戦う。

我々は日々成長し、増す。

自信と力とをもって、空でも戦うのだ。

私は、皆を助ける。皆だ!みんな平等だ。ヒーローだって、市民だって、悪党だって、皆を助け、共に戦う。

私は、断じて夢をあきらめない!!私は、決してあきらめない!!!だから、ついてきてほしい。

そして、私の為に、今!!あなた方がいる!!何万という、歴戦の勇士が、私のために残ってくれているのだ!!

たとえもし、このようなことを私は信じないが、私が、幾つもの挫折を体験し、ヒーローと言う夢をあきらめそうになっても、あなた方が隣にいて、共に戦ってくれれば、諦めず戦い続られるであろう。ヒーローになるまで。世界が我々の存在を視認するまで。』

 

身ぶり手振り、自分のおもちゃを見せつけるように、楽しそうに話す。

だが声には、やり遂げるという意思が、ふつふつと燃え広がっているようだ。

目は、キリッとし、どこかのブルドックみたいに闘争心があふれている。

 

話し終わった後は、静かだった。誰も何も発しない。

”やってしまったか?”

と、伝馬はビクビクしたが、すぐに、やらかしていないということが、しっかりと分かったのだ。

 

そこにいるすべての人は敬礼をしていたのだ。士官は、美しい挙手の敬礼を、一般の兵は、一糸乱れぬ捧げ銃を。

 

伝馬は敬礼をすると、皆、直立した。

 

チャーチルは思った。

私はこれをやる。だからついてきてくれと、言っているだけなのに。

何故だろう。付いて行きたくなるのだ。

こう彼に言いたい。

言われなくても、私は君に付いて行くよ。どこまでも、君が望むところまで。地獄に進軍するなら、我々、ACSPは地獄の底で、ミノス王と一戦交えよう。と。

 

ヒトラーは思った。

私の演説の技を、殆ど盗んでいる。流石、チャーチルと私が見込んだ男だ。だが、ナチズムを継承させられなかったのは残念だ。もし、ナチズムを継承し、この技量で、ナチズムの演説を国際連合の真ん中ですれば、クーデターの一つや二つは、その日のうちに起こるであろうと。

どこまでも行こう。少年が夢を叶えても共に歩もう。と。

 

伝馬は帰っていく。今度は一人だ。しっかりと赤絨毯を踏みしめ、前を見据えている。

音楽がまた奏でられる。

 

伝馬はその曲を知らなかった。それは仕様がない。この曲は有名ではない。

 

曲は、ジョン・フィリップ・スーザの「忠誠」だ。

 

言葉はいらない。それを曲だけで証明した。

 

雄英高校受験まで、あと12時間。

 

士気は最高。

 

いつでもこい。




問題なく勝つことは単なる勝利だが、多くの苦労をして勝つことは歴史を作る。

アドルフ・ヒトラー


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青年は試験を受ける

じっくり考えろ。しかし、行動する時が来たなら、考えるのをやめて、進め。

ナポレオン・ボナパルト


伝馬は、雄英高校に来た。

 

受験をする為である。

 

校門を見る。

 

そして歩いていく。

 

後ろからは五月蠅い声で、デクだかなんだが言っている。怖い人もいるようだ。

 

 

筆記試験が終わった。

 

100年以上前とはいえ、エリートぞろいだ。勿論、勉強も教えてもらっていた。

筆記は大丈夫であろう。

 

 

 

 

「今日は俺のライヴにようこそー!!!」

 

教壇の前にいるのは、プレゼント・マイク。

「ボイスヒーロー」の肩書きを持つプロヒーローだ。

全身黒ずくめで、黒い革ジャンを羽織っている。襟を立て過ぎだ。

髪の毛は金髪で立っており、まるでインコのようだ。

サングラスをしており、首のあたりには、四角い機械を装着している。

 

返事が来ることを期待していたプレゼント・マイクは、返事が来なく悲しそうだ。

 

しかし、めげていないようだ。

 

「受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!」

 

 

皆は受験に来ている。

 

それは、人生で初めての的確な試練だ。

 

私も苦労をした。

 

 

伝馬の前の席のもじゃもじゃがプレゼント・マイクについて、ボソボソと独り言を言っている。

隣の人が注意をしていた。さっきの怒声に似ている。

 

プレゼント・マイクが、実技試験の説明をしている。

 

実技試験は10分間の【模擬市街地演習】のようだ。

 

演習会場にて、ポイントが振り分けられている”仮想敵”を行動不能にしてポイントを稼ぐ方法になっている。

仮想敵は3種類。それぞれの、「攻略難易度」に応じてポイントを設けてある。

 

「質問よろしいでしょうか!」

 

突然声が響く。その声は、堂々としている。いかにも、真面目って声だ。

 

「プリントには四種の敵が記載されています!誤載であれば、日本最高峰たる雄英に於いて恥ずべき痴態!我々受験者は、規範となるヒーローのご指導を求め!この場に座しているのです!」

 

確かにそうだ。

4種類プリントに載っている。

 

「ついでにそこの縮れ毛の君!先程からボソボソと・・・物見遊山のつもりなら即刻、ここから去り給え!」

 

どうやら、伝馬の前の子を注意した。

喋っている彼は非常に固く、ド真面目のようだ。

注意された前の子も「すいません」と謝って、周囲にくすくすと笑われている。

 

「オーケー、オーケー。受験番号7111君、ナイスお便りサンキューな!」

四種目の敵は0P!!そいつはいわばお邪魔虫。各演習場に一体!所狭しと大暴れしているギミックよ!倒せない事は無いが、倒しても意味はない。リスナーには上手く避ける事をオススメするぜ?」

 

ひょうきんにプレゼント・マイクは答える。

 

真面目な青年は、お礼を言い、着席した。

 

「他に質問があるリスナーはいるか?・・・いないなら、俺からは以上だ。最後に、リスナーへ、我が校から校訓をプレゼントするとしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った・・・。『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』だと!」

 

「更に向こうへ――”Plus Ultra”!!それでは皆、良い受難を」

 

”知っているさ”。と伝馬は思った。

 

ナポレオンの子孫に、直々に兵としての技術を、9年間教わっているのだ。ナポレオン・ボナパルトの事を知らないはずがない。

 

それに彼の周りには、沢山の苦難にまみれた人生を、送った人たちが何万といる。

 

戦死した者。命令した者。生き残った者。英雄として表彰された者。戦犯として裁かれた者。

 

受難を受ける覚悟は、すでに出来上がっている。

 

此処にいる誰よりも、遥かに。

 

 

 

小豆色のジャージに着替え、バスに乗り下って行けばそこには街があった。

 

現代日本の街並みだ。いや、どちらかと言えば、都市であろう。ビルが何個も建っている。

此処まで試験に力を入れた雄英に、伝馬は驚嘆した。

 

「はいスタート!・・・どうした!?実戦にカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れ!賽は投げられてんぞぉ!?」

 

プレゼント・マイクからのスタートの合図を聞いた受験生たちが、一斉に街へと走り込んでいく。

 

伝馬は「はいスタート!」の時点で走っていたのだ。

 

何度も、”実戦ではだれも合図しないぞ!!”と、

ルイ・ナポレオンに言われていたからだ。

 

彼はとある場所を見つけようと走った。

 

その途中には、当然のように仮想敵が現れた。1P。早いが、脆い。

 

彼はすぐにロシアで開発、製造された、モシン・ナガンM1891/30を取り出し、仮想敵の赤いカメラに突き刺す。

その後、弾を2発撃ちこんだ。

 

それだけで、1Pは機能を停止させた。

 

だが、気が抜けない。伝馬は走る。目的の場所まで。

 

1分ほど走ったであろうか。目的の場所にたどり着いた。

その場所は公園である。

開けており、余計なものがなく軍事拠点を作るのに適している。

すぐさま七人のトップを召喚する。どんどんと彼らが兵を召喚していく。

 

10秒ほどで、1000人の兵がそろった。

 

戦車や、航空機、火砲は後で召喚する。

 

アメリカ軍、200名。イギリス軍、30名。フランス軍、100名。ドイツ軍、200名。イタリア軍、150名。ソビエト軍、200名。日本軍、120名。

 

公園に並び直立している。

 

彼らの前には司令官がいる。

 

階級に関係なく、その軍一の名将である。

 

イギリス軍の前には、バーナード・モントゴメリー 。

 

ドイツ軍の前には、ハインツ・グデーリアン。

   

イタリア軍の前には、ジョヴァンニ・メッセ。

  

フランス軍の前には、ジャン・ド ラトル・ド・タシニー

  

アメリカ軍の前には、ジョージ・パットン。

  

ソビエト軍の前には、ゲオルギー・ジューコフ。 

 

日本軍の前には、山下 奉文。

 

 

 

ジャンは、オリーブ色の軍服を着ている。そしてド・ゴールと同じ軍帽を被っている。違う点は、柄だ。柄は、4つの星が付けられている。

 

常に笑っている。優しそうなお爺さんだ。

 

だが、目を見てみろ。まるで”老獪”の様だ。常に思案し、効率よい戦い方を考えているようだ。

 

 

パットンの見た目は個性的だ。黒の軍服。金の装飾があり、まるで近代の軍服のようだ。ズボンはカーキー色をしている。ベルトはボクシングのベルトをそのまま小さくみたいだ。

目は、燃えている。自分で言っているように、骨の髄から、”軍人”なのであろう。

 

 

ジューコフは、青い軍服を着ている。胸には大量の勲章が付いている。

顔は、けつ顎で、眉毛が凛々しい。

目は、スターリンほどではないが、ドロドロとしている。

ソビエトは恐ろしい。

 

 

山下の軍服は、緑色だ。そして、胸には勲章が付いている。そして、日本軍人の象徴。日本刀を差している。

頭は坊主だ。顔つきは典型的な日本人顔だ。

目は、猛然と獲物に飛び掛かろうとしている、虎のように爛爛としている。

 

皆、歴史に名を残す名将である。

 

伝馬は敬礼をした。そこにいる千人の軍人が、一糸乱れぬ敬礼を返す。

 

『話は省略します。時間が短いから。各々の奮戦を期待します。』

 

そう伝馬が言った瞬間、千人が自らの役割を果たすために、行動をし始めている。

 

アメリカ軍は、戦車を召喚しながら前進を始めている。

 

イギリス軍は、ロボットがいつ来てもいいように公園の入り口で見張っている。

 

フランス軍は、フェンスの上に鉄条網を設置し、土嚢を積みながら、フェンスの間に機関銃を配備している。

 

ドイツ軍は、ティーガーなどの戦車に乗り込み、前進を始めていた。

 

イタリア軍は、C.V.33に乗り込み、突っ走っている。

 

ソビエト軍は、兵士を戦車の上に載らせ、前進している。様々なところに狙撃兵を配備させる予定だ。

 

日本軍は、兵士のための救護基地を作り試験生の為の救護所を作っている。

 

 

準備は整った。

 

 




一頭の狼に率いられた百頭の羊の群れは、一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れにまさる。

ナポレオン・ボナパルト 


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青年たちは闘っている

たとえ生死の境にあって、気持ちが極度に張りつめている時でさえも、他人の人生を思いやり、人類を支配する法則とは何であるかを考えてみるとすれば、必ず何らかの報酬が返ってくる。

ウィンストン・チャーチル


残り7分。

 

ロボットに謎のプラグが挿入され、突然、壊れた。

 

その個性を使っている人物は、三白眼のボブカットの女の子で、名前を耳郎響香という。

 

耳朗は、倒した後、周りを見渡した。

そして困惑した。

 

自分の隣を茶色く、四角い乗り物?が爆走しているのだ。CV33だ。それも沢山。

 

中からは、「È il migliore !!! ! ! È tutto italiano! ! ! Fino in fondo! ! ! ! Vai avanti! ! Vai avanti! ! ! !(最高だ!!!もっと、ガンガン飛ばせぇ!!!イタリア万歳!!!総帥万歳!!!!進め!!進め!!!!)」

 

などと聞こえる。

勿論、耳朗は何を言っているのかは全く分からない。

 

なにあれ?と思っていると、今度は、緑と黄色と黒の迷彩色で、ドでかい戦車がこちらへ走ってきた。

 

砲は、太く長い。ヘンシェル型砲塔と言う種類だ。前部には、小さい砲も取り付けられている。

二つのキャタピラで大地を踏みしめ、この戦車が通った後には亀裂が走っていた。

 

ティーガーIIだ。

 

この戦車を見たアメリカ軍は「キング・タイガー」と呼び、イギリス軍は「ロイヤル・タイガー」とあだ名した。

 

正に、戦車の王であろう。

 

仮想敵かと耳朗は思ったが、違う。

なぜなら、中から音楽がするからだ。

 

音楽には詳しい彼女ではあるが、その曲は知らなかった。

だが戦車が好きな諸君であれば知っているであろう。

 

その曲は、ルイスカリートと言われている、漁師のメロディが採用されている軍歌。

1993年まで、曲の使用を停止されていた曲である。

その曲はまさしく、戦車の威風堂々な立ち振る舞いを、見事に再現している。

 

その題名は『パンツァー・リート』

日本語に訳すと、戦車の歌。である。

 

足で鉄の床を踏み、リズムをとっているのが聞こえる。

 

Ob's stürmt oder schneit, Ob die Sonne uns lacht(嵐も雪も 、太陽燦々たる)

 

仮想敵が現れる。

 

ティーガーIIを視認し、”ブッ殺ス!!”

なんぞと、息まき、突撃してくる。

 

Der Tag glühend heißOder eiskalt die Nacht(灼熱の日も 凍てつく夜も )

 

ティーガーⅡは仮想敵に照準を合わせる。

 

estaubt sind die Gesichter,Doch froh ist unser Sinn(顔が埃に塗れんとも 陽気なり我等が心 )

 

仮想敵が前面を殴るが、全く効いていないようだ。全く、凹みもない。

 

Es braust unser PanzerIm Sturmwind dahin(驀進するは我等が戦車 暴風の只中を)

 

砲が轟音を鳴らしながら、仮想敵を貫く。そして、何もなかったのように前進を続け、仮想敵はキャタピラに巻き込まれ、金属の破片となった。

 

耳朗は唖然として、ぼーっと見ていると、多種多様なブゥウウウン・・・。

という音が辺りからしてくるではないか。

 

ふと、上を見る。

 

飛行機が何機も飛び交っているはないか。

 

日の丸みたいなものが翼に描かれている機体。

黒い十字が描かれている機体。

丸の中に点が描かれた機体。

 

多種多様だ。

 

ここは、本当に試験会場なの?と耳朗は思った。

 

当然の疑問である。

 

 

 

私は今Ju 87 シュトゥーカに乗っている。戦争中、私がずっと乗り続けた機体だ。

だが、私の機体には、37mm対戦車機関砲が付いている。だから、カノーネンフォーゲルと、呼ばれた。

 

色は、緑と、黒。シュトゥーカの翼はまるでカモメの様だ。

全体的に太く、ガッシリとした武骨なフォルムだ。

足が常に出ている。私のかわいい愛機だ。

この機体は複座で、後ろには私の相棒が乗っている。

 

「なあ!ガーデルマン!!今、何個ロボットをつぶしたんだったか?」

 

「今は、たぶん8機です。・・・てかあなたが倒したのですから、自分で覚えておいてくださいよ。」

 

「おお!!すまんな!!・・・また一機見つけたぞ!!」

 

ハンドルを前に傾け、急降下する。

 

急降下をしていきながら、シュトゥーカから、ラッパのようなサイレンが鳴り響く。

 

ああ・・・懐かしい。この音を俺は何万回も聞いたんだ。今はあのくそったれの赤軍も今は味方だ。

 

心地よいGをこの身で受けながら。感傷に浸る。

 

今だ!

 

37mm対戦車機関砲を撃ち、離脱する。

仮想敵は吹っ飛んだ。

 

ああ!!楽しいぞ!!!

 

 

 

バレルロールをしている機体の中からは、笑い声が聞こえる。

その声は、悪魔か魔王か。

 

鈍重な機体を、まるで我が身の様に操る男。

その男は、ソ連戦車500両以上と800台以上の車両を撃破し、ソビエトから多額の懸賞金を受け、優先的に狙われるも。何度も生還し、戦車を撃破し続けた。

 

『ソ連人民最大の敵』

 

”ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”

 

 

 

残り6分

 

 

伝馬は、今、M3ハーフトラックの上にいる。軍事基地で待機しようと思っていたのだが、感情が高ぶってしまい、アメリカ軍に相乗りし戦場に赴いた。

 

伝馬には、殆ど活躍の場はない。

敵を視認した瞬間、後ろにいるアメリカの戦車、M4中戦車 シャーマンが撃破してしまうのだ。

 

シャーマンは、片方が傾いている台形のような形をしている。青がかった緑色だ。デカい砲の下には、白い丸の中に星がある紋章が見える。

 

そう。活躍の場がないのだ。

 

これは試験だ。軍隊が、仮想敵相手に蹂躙しているが、伝馬自身が活躍できなければ、もしかしてだが、合格できないかもしれないのだ。

 

伝馬は焦った。焦りに焦った。

 

急に、ドシン。ドシン。と謎の音がする。

 

瞬間、マンションよりもデカい、ロボットが現れた。

 

0pの仮想敵だ。伝馬は視認した瞬間、パンツァーファウストを二丁召喚し、撃つ。

 

1pくらいであれば、一発で倒せるのだが、0pの仮想敵には全く通じていないようだ。

 

さあ。決戦だ。

 

 

 

軍事拠点では、受験生のケガに応急手当を施している日本兵の姿を見ながら、嘆息したウィンストン・チャーチルは無線機からの応答を聞いていた。

 

『G9ポイントに0p仮想敵襲来。伝馬も一緒にいる。至急応援を要請する!』

 

とチャーチルは、その方向を見ると、マンションより高いロボットが見えた。

それほどまでに巨大なのだ。

 

「どうするチャーチル。私は軍人になったことがないから分からん。君の指揮に従おう。」

 

車いすの男はこう言った。

 

フランクリン・ルーズベルト アメリカの政治家。

 

民主党出身の第32代大統領。

ラジオを通じて、国民との対話を重視した初めての大統領で、アメリカ政治史上で唯一4選された大統領である。

彼の政権下でのニューディール政策と、二次世界大戦への参戦による戦時経済は、アメリカ合衆国の経済を、世界恐慌のどん底から回復させたと評価されている。

 

 

「ああ。私に考えがある。とってもおもしろいぞ。きっとみんな、度肝を抜かれるだろう。」

 

ムッソリーニが歩いてくる。

 

「ほう。どんなのだ。俺にも教えてくれよ。」

 

「いや、分らないほうがおもしろい。しっかりと考えてくれたまえ。」

 

「じゃあ、ヒントをくれよ。何もないんじゃ、分るもんも分かんねえからな。」

 

「私にも教えてくれ。単純に気になるんだ。」

 

「私は、元海軍大臣だ。それが、ヒントだ。」

 

 

 

 

残り5分。

 

其処の会場にいた人は、皆驚愕したであろう。

 

何故なら、空からデカい船が落ちてきたのだ。

地面が割れ、最下部が地面に食い込む。

このままでは倒れてしまうが、それをビル群が受けとめた。

 

因みに、しっかりとイギリス軍が避難をさせ、受験生の被害はゼロだ。 

 

なぜ船と分かるのか?

下が、赤いからだ。それぐらいしか判別のしようがない。それぐらい巨大なのだ。

 

 

その船は、全長195.3 m。 幅は31.7m 。

 

主砲は、38.1cm(42口径)MkI連装砲 4基。

 

美しいダズル迷彩を施されているその艦は、大英帝国の礎を築いた女王の名を有しており、その名は今、客船に使われている。

 

その船は、第一次世界大戦から使われており、チャーチルが指揮した戦い。『ガリポリの戦い』にも参加していた。

その後、第二次世界大戦では、イタリア軍の攻撃で大破したが、一命をとりとめ、終戦まで生き残った艦。

 

その船の名前は、”クイーン・エリザベス”

 

誉あるロイヤルネイビーが誇る偉大な戦艦である。

 

 

 

クイーン・エリザベスは、0pの仮想敵に向け、照準を構える。

 

0pの仮想敵は、クイーン・エリザベスに向かって歩く。

 

チャーチルは、受話器を手にしながら、獰猛な顔をしているであろう。横にいる二人の白人も、きっと獰猛な顔な顔をしているのであろう。

 

何故わからないかは、ロボットと、クイーン・エリザベスの陰に隠れて見えないからだ。

だが、分かる。顔の下には、口が三日月状になっている。そして、目は爛爛と光っている。

治療を受けている受験生が、見なくてよかった。間違いなく、恐怖で漏らしてしまうであろう。

 

 

 

残り4分。

 

受話器の向こう側からの、装填完了の言葉を楽しみにしながら待っている。

 

ああ、楽しい!!こんな戦争久しぶりだ。北アフリカから枢軸を追い出した時、以来ではないだろうか。

早く来い。早く撃ちたい。ムッソリーニも、ルーズベルトも笑っている。楽しいよな。

戦争は楽しい。銃の音、エンジン音。鳴り止まぬ砲火。これこそ戦争だ。

 

向こうでヒトラーが、レーダー提督相手に怒鳴っている。私もやりたいと言っているらしい。頑張ってレーダー提督が諫めているようだ。

 

まるで子供だな。

 

『装填。完了しました!!何時でも指示を。早く撃ちたい!!!』

向こう側の男が、弾んだ声で言う。

 

まあ待て。チャーチルは静止した。

 

今も0pはクイーン・エリザベスに向かって歩いている。

 

500m位ではないだろうか。

 

残り3分。

 

300mだ。チャーチルは、楽しさを隠せないように言った。

 

「撃て」

 

今日一番の雷鳴のような大きな音がした。クイーン・エリザベスの砲からは、黒煙が出ている。

 

合計8個の砲弾が0p仮想敵に向かって飛んでいく。

 

まるで流星のようだ。

 

仮想敵に着弾する。その音はまるで地割れのような。

 

手足がバラバラになりながら、0pが斃れる。

 

それを見ていた軍人は。各国の言葉で盛り上がっている。

 

士気はまた上がった。

 

残り2分。

 

ドイツ軍は、ティーガーなどで、敵を粉砕している。

 

イギリス軍は、もう我慢できなくなったのか、チャーチル歩兵戦車で前進をしている。

 

フランス軍は、向かってくる仮想敵を機関銃や、火砲で撃滅している。

 

イタリア軍は、CV33でタタタと機関銃で攻撃しながら、煽っている。

 

アメリカ軍は、シャーマンや、大量の火器で仮想敵を葬る。

 

日本軍は、受験生を救出をしながら、東條自身が前に出て、突撃をかましている。

東條が1pを日本刀で一刀両断していた。

 

ソビエト軍は、戦車の上の狙撃兵が、的確にカメラを壊し、KV-2が、仮想敵を爆殺している。

 

残り1分。

 

伝馬は、アメリカ軍と別れ、一人で仮想敵相手に、無双している。

ライフルで倒し、手榴弾で爆発させ、パンツァーファウストでチリにしていく。

何人かを救護所へ誘導もしている。

 

試験は終わった。

 

伝馬は、合計27体。ポイントでは38ポイント。伝馬だけの戦果である。

 

蹂躙は終わった。

 




自分を過大評価するものを過小評価するな
フランクリン・ルーズベルト


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青年は一時安心する

人救けした人間を排斥しちまうヒーロー科などあってたまるかって話しだよ!!
きれい事!? 上等さ!! 命を賭してきれい事実践するお仕事だ!!

オールマイト



試験を見ていた教師陣は困惑した。

 

試験をしていたはずなのにいつのまにか戦争になっていたからだ。

個性の持ち主はわかっている。

 

大歴伝馬。個性”歴史”。

 

最初は?となった。

 

だが、今年から教師として赴任してきたオールマイトが偶然知っており、如何やら銃を出したり、手榴弾を出す能力と教師一同は説明されていた。

 

個性を説明されたなのだが・・・。

 

なんだこの個性は。

 

彼は誰よりも走り始めた。そしてロボットを探すことよりも、何かを探していた。

これだけで、分る。彼の練度は非常に高いのだろう。

その途中で出会ったロボットも瞬殺していた。

公園を見つけた瞬間。どうゆうことだろう。

 

なんか、沢山の人が召喚されたのだ。

社会の勉強に出てきた人も多い。

 

根津校長は思った。”成程。これが歴史か。”と

 

根津の個性は、ハイスペック。人間以上の頭脳。

を持つネズミなのか犬なのか熊なのかよくわからない生物だ。

 

彼は前述の通り、人よりも頭がよい。

だからこそ、大歴の持つ個性の危険性が一瞬でわかったのであろう。

 

彼の個性は、世界と戦争ができる能力なのだ。

彼の個性は、危険なイデオロギーを持っている人物たちを、一か所に集めることが可能な個性だ。

彼は、思想的に危険な国家が歓迎する個性なのだ。

共産主義・全体主義・国家主義・イスラム原理主義。

彼らの主義の根底となった偉人をも召喚ができる。

危険だ。危険すぎる。日本だけでは対処できない。国際連合が本腰を入れないと、倒せない人物となってしまうだろう。

 

その青年は、今この高校にヒーローになりたいと思い、受験に来てくれた。

 

彼がヴィランとなるよりも、政治家になるよりも、軍人となるよりも、革命家になるよりも、ヒーローを選んでくれたのだ。

 

だから、この青年を絶対に入れなければならぬ。と根津は決心した。

 

今年は、優秀なものが多く、常の40名には収まりきらない。

奇数になってしまうが、才能を殺すのは教師として、最も恥ずべき行為だ。

今回は仕方がないだろう。

 

などと、根津が思っている間に教師たちは、阿鼻叫喚であった。

 

オールマイトに、「話が違うじゃないか!!」と詰め寄るもの。

ただ唖然とするもの。

ドン引きするもの。

 

色々である。

戦艦がふってきたときなんぞ、これは夢だと思うヒーローもいたであろう。

 

それと同時に恐ろしい個性だと。

皆が理解していた。この個性は、とても強力だと。

ヒーローであり、教師でもある彼らは辺りにある、監視カメラでしっかりと見ていた。

教科書に必ず乗る英傑たちを。

 

チャーチル・ヒトラー・ルーズベルト・ムッソリーニ・スターリン・東條の顔を。

監視カメラを見てニヤッと笑う顔を。

ヒーロー達は、ぞわっとした。

彼らの目は、思想犯に似ていた・・・だが、目の鋭さが違う。質が違うのだ。

 

そりゃあそうだろう。

 

思想犯として、最上級。ナポレオンクラスであろう。

 

国民を煽動し、戦争の道に走らせた男達だ。

あるものは選挙で、あるものはクーデターで。戦争に誘った。

 

彼らの一言で何百万の人が扇動され命を落とした。

 

きっと、人々の平穏を守るヒーローにとっては、「最強のヴィラン」のような目をしていたのであろう。

 

それが7人もいる。絶望だ。だが希望がある。

 

個性の持ち主が、ヒーローになりたいという、夢を持っていてくれたからだ。

これを僥倖と言わずなんという。

 

そんなヒーローの中に興味を向けている男がいる。

それは、ボサボサの黒髪で無精髭。目は赤く頻繁に目薬を差している。ドライアイなのだろう。

その男の名前は、相澤消太。

 

個性を消す個性である。

 

 

 

あの試験から、一週間が経った。

 

伝馬は、学校の宿題をリビングでやっている。

 

それの姿を見ているのは、白い軍服を着ている筆髭の男。

 

ヨシフ・スターリンである。

 

ソビエト連邦の政治家、軍人。

 

グルジアで生まれ、神学校に進学。だが、マルクス主義を学び、神学校自体に疑問を持ち、司祭叙任を目前にしながら授業料不足を理由に退校。

 

その後、ロシア社会民主労働党に入党。

 

そして第一次世界大戦が勃発。

 

ロシア国内で内戦が勃発。赤軍の政治将校として、活躍した。

その後、政争に参加し、トロツキーを追放する。

大粛清をしながら、独裁体制を構築した。

そして、独ソ戦に突入。3000万人の死者を出しながらも勝利した。

その後、冷戦となり、1953年。脳卒中となり死亡した。

 

彼がソビエトの指導者になるのは必然だったのだろう。

ソビエトの中でも髄を抜いたリアリストであり、最も先を見通せた政治家であった。

 

 

スターリンは、元々子供好きである。そんな男が頑張っている子供を見たら、応援したくなるであろう。

 

スターリンは、伝馬を見ると、まるで孫のような感覚だった。

見届けたく、助言や応援をしたくなるような、そんな少年だと思った。

それになぜか近くにいると安心する。彼は死後、妻がいた時と同じような安心の寄る辺を見つけのだ。

 

そうして、宿題をしていると。

父が外から、ドタドタと走ってきた。何かを持ちながら。

 

父が「これ!!ッこれ!!!」

 

と言いながら、持っているものを差し出した。

 

それは手紙のようだ。丁寧に封をしてしてある。そして、脇には”雄英高等高校”と書かれている。

 

伝馬は震えた。大礼服で演説した時より足が震えた。

 

初めての合格発表である。

私も震えた。

 

リビングで封を開ける。そこには、手紙とチップが封入されていた。

 

チップを手に持つ。その瞬間、映像が投影された。

 

「私が投影された!!」

 

なんと、オールマイトの姿が投影されたのだ。父がなんか騒いでいる。

 

伝馬にとっては実に5年ぶりである。これは再会と言えるのだろうか。

と言うか何故オールマイトが投影されたのだろう。

 

「久しぶりだな大歴少年!!!早速で悪いがまずは合格か、不合格かを最初に発表しよう。」

 

父の喉が鳴った。

 

「君は・・・”合格”だ!!筆記はちゃんと合格範囲だったしね。」

 

父の歓喜の叫び声が聞こえる。向かいにいるスターリンもどこか安堵しているようだ。

 

「実技では38ポイント。文句ない。とても高い得点だ。だが・・・」

 

だが?

 

「君の個性の人たちは、少々やり過ぎた。なんか軍隊召喚してるし、前代未聞だよ。こんな個性。5年前に言ってくれよ。いろんな先生から質問攻めにされたんだ。とっても怖かったよ・・・」

 

「君の個性で召喚された人たちは、あまりにも仮想敵を撃破し過ぎた。正直に言うと、君の総合のポイントは500を超える。」

 

「だが、それは君の手柄ではない。君が召喚した人々の手柄だ。だから、君のポイントは38ポイントだ。これをまずは理解をしてほしい。」

 

”当たり前だ。私の手柄とはこれっぽちも思っていない。もともと彼らが居なければ、此処で雄英高校を受けに行っていないだろう。”と思っている。

 

「後、実はもう一つ判断基準がある。それは”救助ポイント”!!ヒーロはヴィランと戦うのが仕事だが、もっと大事なのは人々に”安心”を与えることだよ!!綺麗事上等!!綺麗事を実践するお仕事さ!!そして、君は人を誘導し、召喚した人たちが作った拠点で治療を受けさせていただろう!!だから、もちろん君も、この救助ポイントが適用される!!」

 

「君の救助ポイント”は24ポイント!!総合ポイントは62ポイントだ!!」

 

「来いよ、大歴少年」

 

オールマイトが、投影されている画像の中で手を差し出している。

 

「雄英が君のヒーローアカデミアだ」

 

 

「ああ、あともう一つあるんだ。君の個性の詳細が知りたいから、再来週の日曜。申し訳ないんだけど雄英に来てくれ。服は中学の学生服でいいからね。よろしく頼むよ!!」

 

と、オールマイトが笑って投影が終わった。

 

父は号泣している。

 

スターリンは、どこか安心したようだ。

 

伝馬も安心しイスにべたッと座っている。

 

そして、伝馬は思った。”あれ?やりすぎた?”と。

 

そして再来週には、足を震えさせながら雄英の門をくぐり、また思うことになる。

 

大変そうだ。




投票する者は何も決定できない。投票を集計する者がすべてを決定する。

ヨシフ・スターリン


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青年説明を受ける

日系人よ異邦の国の為に尽くせ

東條英機



二週間後。伝馬は雄英にきていた。

 

隣には、東條がいる。

他の6人は、用事があるらしい。いったい何をやっているのだろうか。

 

校門の前には、ボサボサな髪をしている男と、よくわからないネズミが立っている。

 

「やあ!君が大歴伝馬君だね!!」

なんと、ネズミが喋った。

 

二人は少し驚きながら、答える。

 

「はい。大歴伝馬です。」

 

「そして・・・。東條さんだね…」

 

「はっ。東條であります。本日は呼ばれてはおりませぬが、我々の代表として付いて行くことに相成りました。本日はよろしくお願いいたします。」

 

 

東條英機。日本の陸軍軍人、政治家。

 

父は陸軍中将の東條英教。

 

若い頃から軍人を志し、陸軍士官学校に入校。

1935年(昭和10年)9月21日には、大陸に渡り、関東憲兵隊司令官・関東局警務部長に就任。

1938年(昭和13年)5月、、陸軍次官、陸軍航空本部長に就く。

1940年(昭和15年)7月22日から第2次近衛内閣、第3次近衛内閣の陸軍大臣を務めた。

そして、1941年。内閣総理大臣となり、アメリカに宣戦布告。

終戦後、A級戦犯として死刑にされた。

 

「私は、根津、雄英高校学校の校長さ!!よろしく頼むよ!!」

 

「相沢です。よろしくお願いします・・・。」

 

四人は、あいさつを終えると、学校の中に案内された。

 

 

 

伝馬と東條は応接室へ案内され、応答をすることとなった。

伝馬は座ったが東條は、椅子の前で立ったままだ。

 

「申し訳ないが話をする前に、私たちの疑問に答えていただきたい。」

 

東條が、言った。

 

「なぜ私たちの軍隊が獲得した点を、伝馬の得点に加えない。私たちは伝馬の個性だぞ。」

 

「それは、君たちが危険だからさ。」

”何故?我々はただの個性だ、彼の手柄になるだろう。”と東條が言う。

 

「確かに君たちは彼の個性さ。大歴君のほかにも、個性で生き物を操ったり、自分で物事を考えるモンスターを体から出す個性もある。

だが、君たちは政治家として生きて来ただろ?それに君たちにはしっかりと考える頭があるから、勝手に出てこれるのかもしれないよ。まあ、今は何とも言えないけどね。」

 

「君以外の人がココにいないのが証拠だね。」と根津は得意げにに話す。

 

「勝手に現世に出られるのであれば、君たちは人間と同じさ!」

 

「なぜ人間と同じなのか?我々は百年前に死んでいるのだぞ?」

 

「だからこそ、君たちは個性なのか、人間なのかを判別しなきゃいけない。君たちが個性と分かれば、君たちのポイントは大歴君に加算される。逆に君たちが人間なのであれば、大歴君の個性ではなく人間として今後は扱うよ。その時はもちろんポイントは加算されないよ。」

 

「ではどうやって?個性を消せる個性でもあるというのか?」

 

「あるよ。じゃないと、彼をここに呼んだ意味がない。」

 

と言いながら、根津は隣の相沢を指さした。

 

「彼の名前は、相澤消太。個性は『抹消』さ!「抹消ヒーローイレイザーヘッド」として活躍している!!」

 

 

 

相沢はもともと、彼の個性に興味があった。

彼の個性はどうやら軍隊を出す能力だ。最初に7人出してから、ネズミ算的に増えていったから、きっと7人の男たちが出したのだろう。

私の個性で彼らをどれだけ消せるのだろうか。

少しだけだが、興味が出た。

だから、根津校長の誘いに乗ったのだ。

 

 

相沢、いや。イレイザーヘッドは個性を発動する。

其れを見た瞬間、東條も軍人を召喚する。

 

召喚した瞬間。周りの軍人が居なくなった。嫌、抹消されたのだろう。

 

だが一人だけ、抹消されていない。東條だ。東條だけ抹消されていない。

全く分からないが、彼は消えていなかった。

 

「貴様何をした!!!」

 

東條は軍刀を持ち威嚇する。

 

伝馬が必死に止めている。

 

「まあ、理由はわからないが君は抹消できなかったのさ。」

 

「質問にはちゃんと答えろぉ!!」

 

日本刀で根津を切り裂こうとするが、包帯のような布に止められる。

 

「落ち着け、おっさん。」

 

「オッサンではなぁい!!!」

 

落ち着かせるのにずいぶんと時間がかかった。

 

 

「なぜ消えないかは、雄英でゆっくりと探せばいいさ。」

 

ボロボロになった応接室では、とりあえずまとめに入ろうとしていた。

 

「あと、君たち七人は、彼が雄英にいるときは絶対に、雄英にいなくてはならないよ。」

 

「何故?私たちは、個性ではないから別にいいだろう。」

この男、言っていることが真逆になっている。したたかな男だ。

 

「私たちがポイントを元々入れなかった理由は、君たちが危険だからだ。さっきの個性化の抹消は、いざと言うときに止められるか否かの実験だよ。

君たちを個性と認めてしまったら、いつでも君たちは軍隊を召喚できるようになってしまうからさ。そしてその責任は、もし彼らの独断だったとしても、大歴君の責任になってしまうからね。」

 

彼らの目はまるで思想犯のような目だった。そんな人々が好き勝手に個性を使ったら一体どうなってしまうのだろうか。ディストピアのような世界になってしまうだろう。

 

「それでもお前たちは、ヒーローの免許を取ったら、いつでも召喚できるようになってしまうがな。延命処置みたいなものだ。そして大歴。お前、個性を扱えられていないじゃないか。よく雄英に合格できたな。」

 

そう。普通ならこんな個性、ヒーローにはなれない。圧倒的にヴィラン向きの個性だ。見た目などではない。中身の部分がだ。

これらは、1億人近くに達するまで殺し合いをやめなかった人々だ。そんな人達がヒーローになる倫理観を持っているのだろうか・・・

きっとヒーローになりたいという夢は、彼にとっては非常に重く、険しいものだろう。

 

だからこそ、雄英に合格ができたのも事実。危険すぎるから味方に引き入れたいという理由もあるだろう。

 

だから、この相沢は反対しない。事実、伝馬の個性は制御できていない。ヒーローにはなれないと思うが、此処で合格できなくてヴィランになったほうが、もっと悍ましいことになるからあえて反対しなかった。

 

「あぁ、大歴の担任は俺になる予定だ。その間に個性を制御できるようにしやる。何かこいつらが問題を起こしたりしたら、退学だからな。覚悟しておけ。

 

そう。彼は、自分で伝馬の教師になると志願したのだ。個性をしっかりと制御できるようにするために。彼を世間の風評に負けない立派なヒーローにするために。

今回は、東條に個性を使ったが、今度は大歴に使ってみるか。東條が消えるかもしれないしな。

 

 

後、1か月。1か月たてば、新生活が始まる。彼は、ようやくヒーローへの一歩を踏みしめることができるのだ。

彼らの風評をましにするため。軍隊の評判をよくするため。

 

そして、伝馬自身の夢を叶える為。やることは実に多い。

 

大変であろう。




日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽を、覆していくのがヒーロー

相澤消太


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青年は入学する

政治家は心にもないことを口にするのが常なので、それを真に受ける人がいるとびっくりする。

シャルル・ド・ゴール


雄英に行ったその夜。

 

大歴一家が寝静まったころ、リビングだけは、電気がついていた。

 

椅子に座っているのは、スーツや軍服を着た男たちである。

 

ウィンストン・チャーチル、アドルフ・ヒトラー、シャルル・ド・ゴール、ムッソリーニ。

ヨシフ・スターリンと東條英機。そしてフランクリン・ルーズベルトが座っている。

 

ホワイトボードにはこう書かれていた。

 

第1回対雄英高校教師陣融和作戦会議

と。

 

ド・ゴールは考える。

 

シャルル・ド・ゴール:フランスの軍人、政治家。

 

中学校を卒業後、、サン・シール陸軍士官学校に入学。卒業後、歩兵第33連隊に陸軍少尉として配属された。

 

第一次世界大戦では大尉としてドイツ軍と戦い、1916年にはヴェルダン戦で部隊を指揮した。この時に、従来の戦術では無く、戦車などを使う電撃戦を重要視していた。

 

第二次世界大戦が勃発し、ドイツ軍のフランス侵攻が始まった。「マジノ線」をドイツ軍は機動力のある装甲部隊で迂回し、フランス軍はわずか1か月間で敗北。

 

そして、イギリスに亡命。ロンドンに亡命政府「自由フランス」を結成し、BBCラジオを通じて、対独抗戦の継続とヴィシー政権への抵抗をフランス国民に呼びかけた

 

そして、レジスタンス組織を指揮。戦勝国となる。

 

終戦後。国民からの指示で、大統領に。第五共和制が始まったのだ。

 

1970年11月に解離性大動脈瘤破裂により79歳で死去した。

 

彼が居なければ、フランスは降伏したままで、戦勝国にはなれなかったであろう。WW1終了後、誰よりも戦術の改革に積極で先を見据えていた。文句なしの名将であろう。

 

ド・ゴールは考える。

 

今回の会議は毛色が違う。

なぜか、それはヒーローが我々を危険といったからだ。要するに仮想敵と宣言したようなものだからだ。

 

自衛隊も、アメリカ軍も、双方を制圧する戦闘計画はある。ここで考えるの当然の事であろう。

 

だが、同時に我々がヒーローを攻撃ができないと言う事が分かっているからだ。伝馬はヒーローになりたいのだ。

だから、我々も気を付けないといけない。

 

そして、彼らは雄英の中に居ろという。「雄英の中では個性を使ってもよい。」と言うことなのだろう。監視しようとしているのだ。我々7人を。

 

そして、根津と相澤の矛盾。それは、何かほころびがあるか、意見が違うのか、教師としての矜持か、上からの圧か・・・今はまだわからない。

 

それか、我々の脅威度に関して、いまだ決定していないと言う事か。

 

それなら今のうちに貢献し、少しでも敵対の可能性を減らしたほうが得策であろう。

 

 

 

伝馬は今雄英の制服を着て、校門の前に立つ。今は8時。

まだまだ時間はある。雄英を見て回ろうかな?

 

いつの間にかヒトラーが隣りにいた

 

「初めての場所についたのであれば、何をする?机に突っ伏しているのか?そんな事は決して、してはいけないのだ。いいか?まずは、探索だ。」

 

そう言って、早歩きでスタスタと歩いていく。伝馬は付いて行った。

 

ちゃんと、教室にカバンを置いてから。

 

大体を見終わった伝馬は、教室に戻っていく。

 

”ヒトラーはまだ見るところがある。”と言い速足に歩いて行った。

 

廊下のには、ボサボサ頭の子が歩いてくる。1年であろうか。

 

 

 

 

ぼくは今、雄英に来ている。

来て分かったことがある。雄英はとても広い。僕の教室になる1-Aがどこにあるのかが全くわからない。

向こうに制服を着た大人びた人がいる。三年生かな?彼なら1-Aを分かるかもしれない。

「あ、あの1-Aってどこか分りますか?」

 

身長はかっちゃんと同じくらいかな?体格はがっしりしている。顔は、整っており、黒髪で黒目だ。髪の毛は、短く整っている、シンプルなショートヘアだ。目は大きく鋭いが話しかけると笑顔を浮かべ、温和そうだ。

 

「分かるよ。君は一年生かい?」

 

優しく話しかけてくる。なんだか、安心するような・・・少し変な感じだ。

 

「は、はい!」

 

「私も一年生なんだ。1-Aなんだろ?私もだ。」

 

い?い、一年?

 

「えぇ。は、はい。って、え?」

 

「私は大歴伝馬だ。よろしく頼むよ。」

 

「は、はい。僕は緑谷出久って言います。よろしくお願いします!」

 

「おいおい。同級生なんだから、かしこまらないでくれよ。」

 

一年生なんだ。三年生かと思った。纏っている空気が同年代の子より落ち着いている。

一緒に歩いていると、いろいろ聞いてくる。”いい天気だね。”とか。”出身は何処?”とか”ヒーローは誰が好き?”とか。

そんな話をしていると、1-Aに着いた。ドアが凄くデカい。

「これがバリアフリーか。」

 

「そうだな。」

声に出てた。・・・恥ずかしぃ。

 

あの受験から選ばれた人たち。怖い人たちとは別のクラスがいいなぁ・・・

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者型に申し訳ないと思わないか!?」

 

「思わねーよ。てめー、どこ中だよ端役が!」

 

2トップ!!

 

 

 

 

なんか怖い人たちが二人いる。あの人の声は、なんか受験の時デク!!とか言っていた人じゃないか?そして、あの眼鏡の人は受験の時、隣にいる緑谷君を注意していた人か?

 

怖い人たちが二人もいるじゃないか。私の高校生活大丈夫か?

 

「ボ・・・俺は私立聡明中学校出身 飯田天哉だ。」

 

頭のとても良いエリートじゃないか。

 

「聡明~~~~!?くそエリートじゃねえかブッ殺し甲斐がありそうだな」

 

口が悪いな。

 

「ブッコロシガイ!?君ひどいな。本当にヒーロー志望か!?」

 

「まあまあ。君たち少し落ち着きたまえ。高校生諸子。最初から喧嘩なんぞしてないで仲よくしたらどうだね。私が若い頃は・・・」

 

「んだぁこのおっさん。おい!!ちょび髭野郎!!なんだテメェ!」

 

なんで、ヒトラーさんがココにいる?

 

「人の話は最後まで聞くものだよ。ツンツン頭君。それは、彼の個性だからだよ。」

指をさすんじゃない。

 

「あ゛ぁ!!誰の事をツンツン頭君だって!?」

やっぱり怖い人だ。殴られる前に離さなければ。

 

「すまない。ほら、ヒトラーさん。早く出て行ってくれ。ほらほら。」

 

「押すな、押すなよ伝馬君。分かったから出ていくって。これでも私はドイt・・・」

扉を閉める。

 

ふう。

 

ん?みんなの視線がこっちに。

 

「申し訳ない、うちのが粗相をしてしまったようで。」

 

「彼はいったい誰なんだ。どこかで見たことが・・・」

 

「いいや。別にいいよ。気にしなくても。」

少し強気に言う。

 

「そ、そうか。じゃあ気を取り直して・・・。俺は私立聡明中学の・・・」

 

「大丈夫。途中まで聞いていたからな。私は、大歴伝馬だよろしく。そして隣の彼が・・・。」

 

「僕は緑谷。よろしく飯田君。」

 

「緑谷君・・・。君は、あの実技試験の構造に気づいていたのだな。俺は気づけなかった・・・。君を見誤っていたよ!!悔しいが君のほうが上手だったみたいだ。」

 

なんか緑谷君が慌てている。実技試験の構造・・・?救助ポイントかな?なんか凄い事をしたのだろうか。

 

 

「あ!そのモサモサ頭は!!地味目の!!」

彼女は、緑谷君を知っている様だ。

 

 

なんかさっきから場違い感が凄い。

パンチがどうだったとか言っている。

もしかして、パンチで倒したのだろうか。すごいな。私じゃあできんぞ。

 

なんかすごく緑谷君が照れている。初心(うぶ)なのか。

私もそうだが。

 

 

「お友達ごっこしたいならよそへ行け。」

 

何あれ?

 

「ここは・・・。ヒーロー科だぞ。」

 

 

 

『なんか!!!いるぅぅ!!!』




神は臆病な民族を原則として自由にして下さらぬ

アドルフ・ヒトラー


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青年は説明を受ける

成功があがりでもなければ、失敗が終わりでもない。肝心なのは、続ける勇気である。

ウィンストン・チャーチル


彼らは驚いていた。突然教室の前に、寝袋に入っている男が居るからだ。

その男は髪はボサボサ。黒ずくめで白いマフラーのようなものをしている。

我々はその人物を知っているが、彼ら生徒はまだ知らない。

 

「ハイ。静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね。」

妙な男はどうやら、相当の合理主義らしい。

私としては無駄にこそ、発展があると思うが、まあ人それぞれであろう。

 

続けて男が話す。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね。」

 

如何やら男は彼らの担任らしい。雄英はこんな妙な男を教師にするのだから、とっても自由なシステムなのだろう。

 

相澤が寝袋の中から、ごそごそと何かを取り出そうとしている。

 

「早速だが、体操服(コレ)来て、グラウンドに出ろ。」

寝袋の中はどうなっているのだろうか。

気になるところだ。

 

入学式などはしないのだろうか。

いや、此処は雄英高校のヒーロー科。

日本での最高峰だ。

そんな他の高校と同じことはしないのだろう。

 

 

 

 

今の私達は体育服だ。と言う事は体を動かすということなのだろう。

学校の初めにやる体育は一つだ。

 

「相澤先生。私たちが校庭にいるのは、体力を測るためですか?」

 

「いや、少し違う。今君たちにやってもらうのは、個性把握テストだ。」

 

『個性把握・・・テストォ!?』

 

成程。私たちは今まで一度も個性を使った身体測定をやった事がない。

相澤先生は、今の限界を教えたいのだろう。

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

さっき、緑谷君と話していた女子が質問するが、時間がないと足蹴にする。

 

「雄英は”自由”な校風が売り文句。そしてそれは”先生側”もまた然り。」

 

と言う事は、入学式をしているクラスもあるのだろうか。

そして、相澤先生は話す。

やる種目は、ソフトボール投げ・立ち幅跳び・50m走・持久走・握力・反復横跳び・上体起こし。そして、長座体前屈。らしい。

 

「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何mだった。」

 

「67m。」

あの怖そうな人は、爆豪と言うのか。名前も怖そうだな。

67mか。私は72m位だったかな。手榴弾の投擲練習もしていたから、その練習がなければ負けていた。

そして、彼は個性を使ってボール投げをするらしい。

 

「思いっきりな。」

相澤先生がそう言うと、彼が投げる準備をする。

 

「んじゃまぁ・・・。死ねえ!!!

そう言った瞬間凄い爆音、爆風と共に、炎が彼の上を包んだ。そして、ボールは、上へ飛んでいく。まるで、ロケット砲のようだ。

というか、彼の掛け声は恐ろしすぎないだろうか。死ねって。

 

「まず、自分の「最大限」を知る。」

相澤先生が計測器を見ながら言う。

 

「それが、ヒーローの素地を形成する合理的手段。」

そして、それには705.2mと書かれていた。

 

「700mだと。あの個性は非常にいいな。爆破か。あの個性があれば、爆薬筒はいらないな。」

 

隣を見ると。チャーチルが出ていた。

 

 

伝馬は後ろにいたため、チャーチルが出たことは周りの生徒は気づいていない。勿論教師は気づいているが。

 

チャーチルは、考える。

彼の個性は非常に目立つ、ヒーローにはうってつけの個性だ。それに戦争にも使える。あの個性があれば、防壁なんぞすぐに爆破され、意味がなくなる。と

唯一の救いどころは、射程が短いところか。

個性がある世界。やはり、ドクトリンを一度最初から考えるべきだ。と

 

「なんだこれ!!すげー面白そう!」

「705mってマジかよ。」

「”個性”思いっきり使えるんだ!!流石ヒーロー科!!」

 

と生徒たちは言っている。

 

 

それは非常に危ないことだ。とチャーチルは思った。

彼らは、個性が当たり前だと思っている。

幼少期から持っているから当たり前なのだが、彼らはわかっていない。

個性というその力がどれだけ恐ろしいかを。

人をすぐに殺せるその能力。まあ、それはこの高校で学ぶからいいだろう。

 

 

相澤が話す。

「・・・面白そうか。・・・。ヒーローになるための三年間。そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう。」

 

はあああ!?

 

 

 

相澤の言葉について、伝馬は考える。

 

相澤先生の言葉が本当だとすれば、この中の誰かは退学となってしまう。それは余りにも酷じゃないか。ヴィランルート真っ逆さまではないか。

これが、東條さんと共に来ていた時の言葉の正体か。

 

だが、何かが違う。

 

私の周りには、嘘つきばかりだ。その嘘つきたちは、嘘が上手だ。何人もの人を戦争の狂気に、言葉だけで導いた人ばかりだからだ。

本当の事を言っている時の口調と、嘘を言っている時の口調は、何となくだが分かる。

 

相澤先生のあの口調は打算だ。まるで、必死に全力を出させるための言葉だ。私の勘があっているのであれば、先生の言葉は嘘であろう。

 

どちらにしろ私は全力を出すだけだ。ここで退学なんぞしたら、10年の苦労が水の泡となる。

 

頑張らなければ。

 

 

 

 

因みにヒトラーは、なぜか入学式の式場で、来賓席に座りながらA組が来るのを待っている。

 

今日はA組は来ない。無駄骨である。




退路を自ら断つとき、人はより容易に、より果敢に戦う

アドルフ・ヒトラー


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青年はテストを受ける 

アンケートは、10月6日の23時で終了し、結果は追加しない。に決定しました。125人の方々。誠にありがとうございました。これからもこの小説を宜しくお願いします!!

不利は一方の側にだけあるものではない。

ウィンストン・チャーチル


「最下位除籍って…?入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…。理不尽すぎる!!」

 

麗日お茶子が必死に反論を言う。

 

「自然災害・・・、大事故・・・、身勝手なヴィランたち・・・。いつどこから来るか渡らない厄災。日本は理不尽(ピンチ)にまみれてる。」

 

相澤が優しく諭すように答える。

 

「そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。”Plus Ultra”さ。」

 

「全力で乗り越えてこい。」

 

相澤の演説は、彼らにとって、大きな意味となった。今自分の不幸を悲観している暇はない。目の前の障害を乗り越えようとしている。

 

 

 

 

第1種目:50m走

 

因みにちゃんと番号順で行われる。

 

1番:青山優雅。2番:芦戸三奈。

 

チャーチルは困惑している。

金髪の彼は一体何をしているのだ。彼の隣の女子はトーマス・パークが使用した、クラウチングスタートしている。個性が、役に立たないのであれば最適解だ。だが、彼はどうだ。ゴールに背を向けている。いったい何をするのだろうか。

 

「フフ・・・。皆工夫が足りないよ。」

 

相澤が合図を言う。いや、そのまま走るのか。それじゃあ、まるで映画のチャップリンみたいだ。

 

「”個性"を使っていいってのは、こういう事さ!!

 

合図とともに、金髪の彼が装着している、ベルトからビームが出たではないか。

だが、すぐに彼は落ちた。落ちたそしてまたビームを出す。

一体何をしたいんだ。

 

「5秒43!!」

 

「5秒51!!」

中々に速いではないか。

 

「一秒以上射出するとおなか。壊しちゃうんだよね。」

 

そ、そうか。

 

 

3番:蛙吹梅雨。4番:飯田天哉。

 

「3秒04!」

 

ほう。とても速いな。開始してすぐではないか。

ふくらはぎから、炎が出ていた。彼の個性はエンジンか?なんだか、管がレシプロエンジンの様だ。

 

「5秒58。」

 

あのカエルの女子もなかなかではないか。彼の記録で、目移りしてしまうが。

 

5番:麗日お茶子。6番:大歴伝馬。

 

伝馬は隣の彼女と話しているぞ。いけ、口説け。

話し終わったら彼女は靴や服を故意的に触っている。伝馬が何か粗相をしたのだろうか。

 

だめだぞ伝馬。

ジョン・ブルたる者。いかなる時も優雅たれだ。

 

 

 

私は、今50m走を走るためにいる。そうしていたら隣の彼女は、私へ話しかけてきた。

 

「デク君と一緒にいた人だよね。私、麗日お茶子。よろしく!!」

 

「ああ。私は大歴伝馬だ。これからよろしく頼むよ。」

 

「うん!よろしくね!!」

 

やはり、とても明るい子だな。私にもそれぐらいの明るさが欲しい。

 

さあ。走るか。

 

 

 

スタート!と言う言葉と共に二人は同時に走る。麗日はさっき靴や、服を触り、重さをなくしている。

 

だが、最初から速さが全く違う。伝馬のほうが圧倒的に速いのだ。麗日との差を大きく広げた。

 

「5秒79!!」

 

「7秒15!!」

 

伝馬は5秒79だ。

彼は何も個性を使っていない。彼は無個性の人類の中では、トップクラスの脚力を持っているのだ。

 

その後、着々と続いて、行われてる。

 

第二種目:握力

 

伝馬の握力は、64Kgwだった。

 

「540キロて!!あんたゴリラ!?タコか!!」

「タコってエロイよね・・・。」

などと、隣では言っている。思春期である。

 

第三種目、4種目と着々と過ぎていった。

 

因みに、立ち幅跳びは313cm。反復横跳びは74回だった。

 

 

チャーチルが笑顔で、相澤に話しかけた。

 

「やあ、先生。今更だが、伝馬の事を宜しく頼むよ。」

 

「それは、私の生徒なので、ちゃんと指導しますよ。まあ、此処で居なくなるかもしれませんが。」

 

「いや、誰もいなくならないね。東條が言っていたが、君は、合理主義者ではないか。そんな君が入学初日で、落とす訳がない。」

 

「はあ、何故そんな確信があるのですか。」

 

「だって君は合理主義者ではないか。そんな君が、良く分らない生徒を我武者羅に退学させるわけがない。それに、君には、我々と同じ匂いがする。扇動者の匂いがする。」

 

「何を言っているか分りませんね。まあ、見ていてください。貴方の勘が本当か、試してあげますよ。」

 

「ああ、宜しく頼むよ。君。」

 

チャーチルは少しにやけている。彼の反応を楽しんでいる様子だ。相澤は無表情だが。

 

 

第5種目:ボール投げ。

 

伝馬の記録は、74mだった。去年よりも伸びたようだ。

 

麗日は、”セイ!!”と軽い掛け声と共に、投げる。すぐに落ち来ると思ったが、フワ~~と中々に落ちない。皆が眺めるていると、計測器から、結果が出ていた。

 

「∞」だ。

 

「∞!!?すげぇ!!無限が出たぞーー!!!」

 

クラスの皆が歓声を上げる。

 

だが。一人ドキドキハラハラしている生徒がいた。

 

”緑谷出久”である。

 

彼は、今まで突出した記録を残していない。なので最下位の可能性が最も高いのは彼だ。

 

伝馬もこの体育測定では、無個性みたいなものだが素の能力が高い為、常に10位前後を記録している。

 

(ダメだこれ!すぐ出来るような簡単な話じゃない!皆・・・一つは大記録を出しているのに・・・!!残りは持久走、上体起こし、長座体前屈・・・。もう後がない・・・。)

 

(このままだと・・・。僕が最下位・・・。)

 

 

 

私は、飯田君と麗日君ともにボール投げを見ている。

 

確か、麗日君は体育測定前に、パンチが凄かったと言っていたが、彼は、大丈夫なのだろうか。

 

「緑谷君はこのままだとマズいぞ・・・。」

飯田君が心配そうに言う。

 

「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」

爆豪君が、大声で言う。

 

「無個性!?彼が入学式に何をなしたか知らんのか!?」

 

「は?」「そうだ。緑谷君は何をしたんだ。教えてくれないか?」

爆豪君と被ってしまった。

 

「おい!この野郎!!被せてくんじゃねえ!!!」

 

「まあまあ、落ち着いてくれよ。他意はないんだ。」

「あぁ!!!?」

 

「大歴君。彼は、」

緑谷君が投げようとする。

 

「一撃で0p仮想敵を倒したんだ。」

 

「46m。」

相澤先生の声が聞こえる。

 

何やら、緑谷君が手を見ている。個性が発動しなかったのだろうか。

 

「”個性”を消した。つくづくあの入試は・・・、合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学できてしまう。」

成程。あの時にやったように個性を消したのか。

 

緑谷君は目を見開き驚いている。

「消した・・・!!あのゴーグル・・・。そうか・・・!」

 

「視ただけで人の”個性”を抹消する”個性”!!抹消ヒーローイレイザー・ヘッド!!!」

 

凄いな。私は、雄英に来た時に初めて知ったぞ。

 

周りの人たちも、ざわざわ知っているか、話し合っているようだ。

 

相澤先生が緑谷をマフラーのようなもので、引き寄せコソコソ話している。

一体何を話しているのだろうか。

 

「彼が心配?僕はね・・・。全っ然。」

「指導を受けていたようだが。」

「除籍宣告だろ。」

などと、様々な憶測が飛び交っている。一人毛色が違うが。

 

緑谷君がSMASH!!を言いながら、ボールを投げた。

飛ぶ距離は、さっきの爆豪君に匹敵する。すごいな。確かに0pの仮想敵を倒したというのは信じていなかったわけではないが、本当の様だ。

 

相澤先生の計測器には、705.3mと記されている。

 

「先生・・・。まだ・・・。動けます。」

 

 

彼の退学はありえなさそうだ。




昔、暑苦しいヒーローが、大災害から一人で千人以上を救い出すという伝説を創った。同じ蛮勇でも…おまえのは一人を救けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久、おまえの“力”じゃヒーローにはなれないよ

相澤消太


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青年は一日を終える

正直であることは立派なこと。しかし正しくあることも大事だ。

ウィンストン・チャーチル


緑谷は、見事にボールを彼方へ飛ばした。

 

だが、彼のその強力なパワーに体は付いてこられない。彼の右手の人差し指は赤黒くなっていた。

 

どう見ても、重症だ。

 

「やっとヒーローらしい記録出したよー。」

彼の記録に喜ぶ者。

 

「指が膨れ上がっているぞ。入試の件といい・・・。おかしな個性だ・・・。」

その代償に戦慄する者。

 

「スマートじゃないよね。」

キラキラしている者。

 

そして、驚くもの。

 

その驚いていた者は、突然、個性の力で右手を爆破しながら緑谷に爆走していた。

 

爆豪である。

 

「どーいうことだ!!こら!!ワケを言え!!デク!!てめぇ!!」

憤怒の表情で、飛んでくる。

 

緑谷は叫んでいる。当然だろう。怖すぎる。

 

「んぐぇ!!」

 

だが、その猛進は止められた。包帯が爆豪を止めたのだ。

 

「ぐっ・・・。んだ、この布。固っ・・・!!」

 

相澤だ。

ギチチチ・・・。という恐ろしい音が鳴りながら相澤が静かに話す。

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ【捕縛武器】だ。ったく。何度も”個性”を使わすなよ・・・。」

「俺はドライアイなんだ。」

 

目を充血させながらしゃべる。

 

『”個性”すごいのにもったいない!!』

 

「時間がもったいない。次。準備しろ。」

 

相澤が、歩いていく。

 

 

 

「指、大丈夫?」

 

麗日が心配そうに、緑谷へ問いかける。

 

「あ・・・。うん・・・・。」

 

明らかに痛そうだが、平気だと言う。どこからどう見てもやせ我慢だ。

 

「だが、ずっとそのままだと痛いし、このまま気に掛けるのも、辛いだろう。効くかはわからないが、応急処置だけはしよう。」

 

伝馬が緑谷の赤く腫れた指に応急処置を施していく。医療キットに入っているものでだ。

その手際はすさまじく、すぐに処置は完了した。

 

「あ、ありがとう。大歴君。」

 

「どういたしまして。緑谷君。だが、いつもこんなケガをしていたら周りの人たちも気が気ではないだろう。」

 

「う、うん。ごめんね。心配させて。」

 

「大丈夫だ。君が心配だしな。私もだが、しっかり制御をしていかなくてはな。さ、行こう。皆行ってしまった。」

 

「うん!」

 

そして、全種目が終了した。

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明時間の無駄なので一括開示する。」

 

皆、祈っている。そりゃそうだ。高校生活一日目でヒーローの夢が潰えるなんて考えたくもない。

 

「ちなみに除籍はウソな。」

 

『!?』

 

「君らの最大限を引き出す。合理的虚偽。」

 

『はーーーーー!!!!??』

 

「あんなのウソに決まってるじゃない・・・。ちょっと考えればわかりますわ・・・。」

ポニーテールの女子が大声で叫ぶ人を見ながら言う。

 

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから目ェ通しとけ。」

相澤が去りながら言う。

「緑谷。リカバリーガール(ばあさん)のとこ行って、治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ。」

 

皆ポカーンとしている。

脳がフリーズしているのだ。しょうがないことだろう。

 

因みに伝馬は8位だった。そして緑谷は21位である。

 

 

伝馬は教室に帰る途中、一人の青年が気になっていた。

その青年は、髪が紅白に彩られており縁起がよさそうで、目はオッドアイで中二病心がくすぐられる。

 

そう。轟焦凍である。

 

伝馬は、興奮していた。5年ぶりに再会した友だ。

話しかけたいところではあるが、”もし忘れていたらどうしよう”という気持ちのせいで、話かけられずにいた。

そして伝馬は思い出す。

”そういえば、轟君に名前を言うのを忘れていたな。”

すごいミスである。

 

尚更、伝馬は彼に話しかけなくてはならない。彼は伝馬を知らない。いや、知らなくはないのだが、名前を知らないから、彼は伝馬に話しかけられないのだ。

 

轟は、教室に帰る途中一人の青年が気になっていた。

その青年は、ガタイがよく、黒髪、黒目でどこにでもいそうな青年。だが、なぜか大人びており、どこか年上の印象を与える青年。

 

そう。大歴伝馬である。

 

轟は、悩んでいた。5年前にあった友人にどこか似ている。もしそうだとしたら、5年ぶりに再会したであろう友だ。

話しかけたいのだが、本当にその友人だったかの確証がつかめない。オールマイトの勧めで雄英に来たものの、ここの競争率は異常で、本当に入れたかという所は非常に確率が少ないので、「なあ、あんた。前にあったことないか?」なんぞ言ったら、「いや、知らないなあ。」と帰ってきそうなので、話しかけずらいのだ。

そして、轟は思い出そうとする。

”あれ、あいつの名前なんだっけ”

元々伝えられていないから、知っているはずもない。

 

教室に帰る間、轟は必死に思い出そうとする。

 

なんだか、コントのようだ。

 

 

 

「相澤くんのウソつき!」

 

オールマイトが、相澤に言う。

 

「オールマイトさん・・・。見てたんですね・・・。暇なんですか?」

気怠そうに答える。

 

「「合理的虚偽」て!!エイプリルフールは一週間前に終わってるぜ。君は去年の一年生人クラス全員除籍処分にしている。」

 

「ほう。それは本当かね?中々にドでかいことをする人なのだね。先生は。」

オールマイトがびっくりしたように声のした方向を見る。相澤は見ようともしない。

チャーチルだ。

 

「あ、あなたは一体?」

 

「あぁ。すまない。オールマイト先生。少し相澤先生と話したいのだが・・・。よいかね?」

 

「え、ええ。構いませんが・・・。(先生・・・。なんかいい響き。)」

チャーチルは、オールマイトに会釈をすると、相澤に話しかけた。

 

「相澤先生。そんなことをしていたのか。いやはや、ビックリだ。見込みがないからかね?ヒーローになっても稼げなさそうだ。と思ったからかね?それとも、ヒーローと言う夢を半端に追いかけさせるのが嫌なのかね。」

 

「まあ、割とあっていますよ。半端に夢を追わせることほど残酷なものはない。」

 

「君は、とても良い教育者だね。そんな君が、あんなデメリットがある個性を退学にしないわけがない。それに、ボール投げの時に、話していたのは事実上の除籍処分ではなかったのかね?もしそうだとしたら、取り消した理由はあの青年に、ヒーローの可能性を相澤先生は感じたのだな。結構いいところあるじゃないか。」

 

チャーチルが笑みを浮かべながら話す。

 

「もし私がそう思っていても、見込みがないと判断したらいつでも切り捨てます。」

そういうと、足速に去っていく。

 

「いや、済まなかったね。オールマイト先生。あぁ、知っているかもしれないが、私の名前は、ウィンストン・チャーチルだ。よろしく頼む。」

 

「は、はい。宜しくお願いします。(言いたい事全て言われてしまった・・・。)」

 

じゃ。と、言いながら、チャーチルは体育館に向かう。そこには待ちぼうけしているヒトラーが居るだろう。

 

何をしに行くって?煽りに行くに決まっているだろう。

 

体育館にチャーチルが入り、少し経つと、オッサン二人の怒号が飛んだ。相変わらずである。

 

 

 

放課後。 私は緑谷君と、飯田君とともに歩いている。結局轟君には話しかけられなかった。まだ初日だ。機会はいくらでもある。

しかし、嘘だと思っていたが、相澤先生のあの言葉には、はらはらしたな。まだまだ観察が足りないな。精進せねば。

 

「しかし、相澤先生にはやられたよ。俺は「これが最高峰!」とか思ってしまった!教師がウソで鼓舞するとは・・・。」

 

成程。飯田君は、怖いのではなく、真面目過ぎるだけなのだな。少し安心した。

 

「そうだな飯田君。それで皆、いつも以上の力を出していたと思うぞ。私がそうだからな。」

 

「おーい!お三方!駅まで?待ってー!」

 

お、麗日君じゃないか。

 

「君は(むげん)女子!!」

 

無限女子。

 

「麗日お茶子です!えっと飯田天哉くんに、大歴伝馬くん。それと、緑谷・・・デクくんだよね!!」

 

「デク!!?」

そりゃあ、驚くな。それは悪口だろう。

 

「え?だってテストの時、爆豪って人が。「デク!!てめぇ!!」って。」

 

「あの・・・。本名は出久で・・・。デクはかっちゃんがバカにして・・・。」

緑谷君が焦ったように訂正する。

 

「蔑称か。」

 

「そうだろうな。」

 

「えー!?そうなんだ!!ごめん!!」

 

「でも「デク」って・・・。「頑張れ!!」って感じで。なんか好きだ私。」

 

「デクです。」

 

「緑谷くん!!」

飯田君が驚いている。

 

 

「緑谷君、本当にそれでいいのか・・・。」

 

「浅いぞ!!蔑称なんだろ!?」

 

「コペルニクス的転回・・・。」

 

「コぺ?」

 

これで、初めての雄英の一日が終わった。

これから、辛いことは沢山あるだろう。だが、ここにいる皆は、ヒーローになるために邁進する。私も遅れないように気をつけなくては。

 

 

 

「どうしたヒトラー!!そんな所でボーっとして。木偶人形にでもなったのか!?」

 

「なんだチャーチル!何故ここにいる!!帰れ!!私はここにいてもよい権利を根津校長にもらっているのだ。」

 

「なんでいるのだ。まさか、伝馬が来るとでも思っているのか?はッ。外を見ればよかったな!!」

 

「何故だ。」

 

「彼は、教師の意向により、クラス全員で体育テストをやっていたぞ。お前は何処にいても役に立たないな!!」

 

「貴様ぁ!!聞いておれば調子づきよって!!」

身を乗り出しながらヒトラーが食って掛かる。

 

「なんだ!!やるのか!!いいぞかかって来い。もう一度やるか!?戦争を!!」

 

「おお!!やろうじゃないか!!今度こそ貴様はモルモットだ!!」

 

「やってみろ、ちょび髭野郎!!」

 

先生方が諫めるのに、30分かかった。

 

教師方の苦労は絶えない。




思弁ばかりが十分で、理性が不十分であってはならない。

ニコラウス・コペルニクス


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青年は受け取る

人々を笑顔で救い出す“平和の象徴”は決して悪に屈してはいけないんだ私が笑うのはヒーローの重圧そして内に湧く恐怖から己を欺く為さ

オールマイト



「んじゃ次の英文のうち間違っているのは?」

 

プレゼントマイクがいつもとは違う落ち着いた様子で話す。

 

彼らは、雄英にいる。

 

二日目である。他の高校とは違い、二日目からもう授業があり、しかも午後もある。

流石雄英。他とは違う。

 

午前は必修科目・英語等の普通の授業を行う。

 

「おらエヴィバディヘンズアップ。盛り上がれー!!!!」

 

実に普通の授業で実につまらない。らしい。

 

それもそのはず。後ろには、授業参観宜しく、ルーズヴェルトと、チャーチルが見ているからだ。

 

英語圏に住んでいた人たちが英語の授業を見ている。

ミスってしまったらすぐに指摘されてしまい、教師としての権威がなくなってしまう。

教師はガチガチだろう。

 

因みに1-Aの生徒は、もちろん気づいている。だが彼らにとっては、雄英の関係者のように見える。なので、生徒達は誰だ?と、思いながらもスルーしている。

伝馬は嫌な汗が出ていただろう。

 

多分だが、彼らが見ていなくても、授業は普通につまらないだろう。

 

 

 

そして、昼には大食堂で一流の料理を安価でいただける。

そして、調理はクックヒーロー ランチラッシュが行っている。

 

「すまないが、調理の君。まだ足りないんだ。追加で、メンチカツ定食を4つ作ってくれないか。」

 

そう料理の追加を頼むのは、黒の海軍軍服を纏い、胸には勲章メダルを沢山つけている。

そして、老齢の顔つきをしており、目はたれ目である。

だが、目からは、誇りが感じられる。

 

大日本海軍中将 山口多聞である。通称は『人殺し多聞』。

 

彼は、大飯ぐらいである。

戦艦大和に招かれた際、大和自慢のフランス料理のフルコースを平らげて「美味いが量が少ねぇ」と苦言を呈した程である。

 

そんな彼は、メンチカツ定食をもう14食平らげている。途中、主食10食位から、パンに変えていたが、結局白米に戻って平らげている。

 

凄まじいものである。

 

伝馬の財布が心配だ。

 

因みに、ランチラッシュは楽しそうにメンチカツを作っている。

 

「白米に落ち着くよね。最終的に!!」

 

 

 

そして、午後の授業は、クラスの皆が待ちに待っていた授業だ。世界史Aではない。

 

ヒーロー基礎学である。

 

ドアから、大きな声がする。

 

「わーたーしーが!!普通にドアから来た!!!」

 

HAHAHAHAと言う笑い声と共になんと、オールマイトが赤と青、そして銀色のヒーロースーツを纏ってやってきた。

 

「オールマイトだ・・・!!すげえや。本当に先生やっているんだな・・・!!!!」

 

銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ・・・!画風が違いすげて鳥肌が・・・」

 

生徒が感嘆の声を漏らす。

 

そして、オールマイトが授業の説明を始めた。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ!!単位数も最も多いぞ。早速だが、今日はコレ!!戦闘訓練!!!」

”BATTLE”という、カードを持ちながら言う。

 

 

「戦闘・・・訓練・・・!」

 

その言葉に、わくわくする者。ドキドキする者。キラキラする者。

様々な心境だ。

 

「そしてそいつに伴って・・・こちら!!!!」

 

!?

 

「入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」沿ってあつらえた・・・。」

 

戦闘服(コスチューム)!!!」

 

「おおお!!!」

皆のテンションは有頂天である。

 

「着替えたら順次”グラウンド・β”に集まるんだ!!」

 

『はい!!!』

 

 

 

今、1-Aは、着替えて”グラウンド・β”にいる。

 

「恰好から入るってのも大事な事だぜ少年少女!!自覚するのだ!!!!今日から自分は・・・」

 

ヒーローなんだと!!

 

 

皆、思い思いの戦闘服(コスチューム)を纏っている。

鎧のような服。ロボットのような服。

如何にも、ヒーロー!!という感じの服装ばかりでとても格好いい。

 

そしてまた、大歴伝馬もまたいる。

 

彼の服装は、軍服だ。

グレーのフランス式のコート状の軍服。ボタンはダブルブレスト式になっている。所々に金と赤の装飾が施されている。

ライディングパンツのズボングレーだ。そして、黒のブーツを履いている。

ブーツを履いているので、ズボンの上の部分はブカブカだ。縄で足を靴と共に縛っている。

手には、滑り止めのための白の手袋をしている。

黒のベルトをしており、その脇には、ポーチがある。ベルト通しには、各国の7つのドックタグが一か所に掛けられている。

そして、軍刀が二本差されており、一つはフランス式のサーベルの様な軍刀を差している。柄は黒い。鍔で、手や指を保護している。鍔の色は、金色だ。刀身は銀色に輝いている。鞘は、黒いが、花のような装飾があり、色は金色だ。

そう。大礼服時の軍刀だ。

そして、日本刀の脇差を差している。鞘と柄が茶色であり、刀身は、銀色で光り輝いている。

ケピ帽を被り、色は、軍服に合わせたのか、黒色だ。

黒色のマフラーで口元を隠している。

 

七か国の軍服の特徴を合わせたような戦闘服(コスチューム)だ。アンバランスに見えるが、整っている。

 

 

「さあ!!始めようか。有精卵ども!!」




私は間違っているが、世間はもっと間違っている

アドルフ・ヒトラー


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青年は観戦する

”「頑張れ!!」って感じのデク”だ!!

緑谷出久


「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」

オールマイトが大きな声で言う。

皆、オールマイトの方向を見ており、考え深いそうな顔つきをしている。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

白いロボットの様なヒーロースーツを着ている飯田が質問する。

 

「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での()()()()訓練さ!!(ヴィラン)退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば、屋内のほうが凶悪(ヴィラン)出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売・・・。このヒーロー飽和社会。真に賢しい(ヴィラン)屋内(やみ)にひそむ!!」

 

確かに屋内の戦闘では、元々いる防衛側のほうがはるかに有利だ。ゲリラやレジスタンスは常に屋内に隠れ、局所で攻撃している。

 

「君らにはこれから「(ヴィラン)組」と「ヒーロー組」に分かれて、2対2の奥内戦を行ってもらう。だが、このクラスは奇数なので必然的に一人余ってしまう。だから、余った人は好きな人と、ペアを組んで、終わるのが速かったチームと対決してもらう。役職は逆になるぞ!!ヒーローだったチームは、(ヴィラン)に。(ヴィラン)だったチームはヒーローに!ヒーローは連戦が多い。経戦能力も必要だぞ!!」

 

「基礎訓練もなしに?」

カエルの個性を持つ、蛙吹梅雨が言う。

 

「その基礎を知るための実践さ!ただし、今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ。」

そう、オールマイトが言うと、生徒から授業への質問がなされる。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

落ち着いて質問を投げかける者。

 

「ブッ飛ばしてもいいんすか」

楽しそうに震えながら言う者。

 

「また、相澤先生みたいな除籍とかあるんですか・・・・?」

不安そうに言う者。

 

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいのですか」

しっかりとした口調で投げかける者。

 

「このマントヤバくない?」

キラキラしている者。

 

「んんん~~~~聖徳太子ィィ!!!」

 

「いいかい!?状況設定は、「(ヴィラン)」がアジトに「核兵器」をかくしていて、「ヒーロー」それを処理しようとしている!」

 

『設定アメリカンだな!』

 

「「ヒーロー」は制限時間内に「(ヴィラン)」を捕まえるか、「核兵器」を回収すること。」

「「(ヴィラン)」は制限時間まで「核兵器」を守るか「ヒーロー」を捕まえる事。」

オールマイトがカンペを読みながら、説明をする。

 

「コンビ及び、対戦相手はくじだ!」

 

「適当なのですか!?」

飯田が驚く。

 

「プロは、他事務所のヒーローと急増チームとピックアップする事が多いし、そういう事じゃないかな・・・。」

 

「そうか・・・!先を見据えた計らい・・・。失礼いたしました!」

 

如何やら、緑谷の説明(深読み)に、飯田は納得したようだ。

 

「いいよ!!早くやろ!!」

 

因みに、オールマイトはそこまで考えていない。くじでいいか。という安価な考えである。

 

そして、くじの結果が下記である。

 

Aチーム:緑谷出久。麗日お茶子。

Bチーム:轟焦凍。障子目蔵。

Cチーム:八百万百。峰田実。

Dチーム:爆豪勝己。飯田天哉。

Eチーム:芦戸三奈。青山優雅。

Fチーム:口田甲司。砂藤力道。

Gチーム:上鳴電気。耳郎響香。

Hチーム:蛙吹梅雨。常闇踏陰。

Iチーム:尾白猿夫。葉隠透。

Jチーム:瀬呂範太。切島鋭児郎。

余り:大歴伝馬。

 

である。

 

悲しきかな。余ってしまった伝馬は少し悲しい気分になっている。

 

「大歴君。大丈夫だよ。お、落ち込まないで。それにメリットもちゃ、ちゃんとあるし!!」

緑谷が優しく慰める。

 

「ああ。大丈夫さ。これのおかげで皆の個性を把握し、運用ができるってものだ。」

元気よく言ってはいるが、なんかボッチという感覚があり、少し悲しい伝馬であった。

 

「続いて最初の対戦相手は、こいつらだ!!」

 

「Aコンビが「ヒーロー」!!Dコンビが、「(ヴィラン)」だ!!」

なんと、因縁の二人が闘うこととなった。

 

「先に(ヴィラン)チームは先に入ってセッティングを!5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。他のものはモニターで観察するぞ!飯田少年、爆豪少年は(ヴィラン)の思考をよく学ぶように!これはほぼ実戦!ケガを恐れず思いっきりな!度が過ぎたら、中断するけど・・・。」

 

静かに彼らは、オールマイトの話を聞いている。友とは何か。試されるのかもしれない。

 

 

ビルの地下室には、モニタールームがある。そこで、訓練をみんなで見るのだ。声は聞こえないが。

 

「さぁ君たちも考えてみるんだぞ!」

 

 

そして、伝馬は見る。彼らの戦いを。

 

ヒーロー側である緑谷と、麗日は如何やら、窓からの侵入ルートのようだ。

そして、道を歩く。屋内なので、非常に死角が多い。

角を曲がろうとしたとき、爆豪が飛び出した。

 

「いきなり奇襲!!!」

頭が目立つ、峰田実が驚く。

 

そして、爆破。ビルの耐久なんぞ知らんと、ドでかい爆発をする。

 

緑谷のマスクの半分が、なくなっている。寸前で避けたのか、掠めたのか。

何れにせよ、直撃していたら、危なかった。

 

「いい判断だ。双方、しっかりと考えられている。」

伝馬が、感心したように言う。

 

「爆豪スッゲェ!!奇襲なんて、男らしくねえ!!」

赤ずくめの、男らしい青年。切島鋭児郎が興奮した様子で言う。

 

「奇襲も戦略!彼らは今、実戦の最中なんだぜ!」

オールマイトが、そう答える。

 

「緑君。良く避けられたな!」

左右を見渡しながら、ピンクの肌をしている、女子の芦戸三奈が言う。

 

「爆豪が行った!!」

金髪のチャラ男のような青年。上鳴電気が言う。

 

爆豪が走る。そして、右手でまた爆破をしようとした。

が、その右腕を緑谷がホールドし、見事な一本背負いをしたのである。ドッという、鈍い音が聞こえてくる様だ。

 

そして、緑谷が何かを叫び、爆豪がそれに対して、怒り狂っている。

 

「アイツなに話してんだ?定点カメラで音声がないとわかんねえな。」

そう切島が言うと、オールマイトがやはり答える。

 

「小型無線でコンビと話しているのさ!持ち物はプラス建物の見取り図。そして、この確保テープ!コレを相手に巻き付けた時点で、「捕らえた」証明となる!!」

 

「制限時間は15分以内で、「核」の場所は「ヒーロー」に知らされていなんですよね?」

 

「YES!」

 

「ヒーロー側が圧倒的に不利ですね、コレ。」

と、芦戸が言う。

 

「相澤君にも言われたろ?アレだよ。せーの!

 

「Plus U「あ ムッシュ。爆豪が!」」

 

オールマイトは、言葉を発した青山を見る。なんだか不服そうだ。

 

そして、訓練は進んだ。

 

緑谷は身を隠した。

上では麗日と、飯田の一騎打ちが行われている。どちらも有効打がなく、膠着しているようだ。

 

そして、爆豪がヒーロースーツで増大した、爆破で緑谷を攻撃した。

 

当たったら、確実に死ぬ。そんな爆発であった。

 

ドオォォォ!!!!!

 

彼らは闘う。己のプライドの為に、憧れに勝つ為に。

 

双方、幼馴染に向かって拳を振り上げる。

彼らは、殴り合いをするのかと思ったが、違う。

 

緑谷が、爆豪に拳を当てずアッパーをして、衝撃破を作ったのだ。

 

上の階では、衝撃で床が壊れ、その瓦礫群を麗日が個性で軽々と持ち、飯田に浴びせた。

 

そして、飯田が瓦礫に引き付けられている間に、麗日が核に抱き着いて勝利条件は達成された。

 

「ヒーロー・・・、ヒーローチーム・・・。WI----N!!

 

「負けたほうがほぼ無傷で、勝ったほうが倒れてら・・・。」

 

「勝負に負けて、試合に勝ったというところか。」

 

「訓練だけど。」

 

 

 

 

そして、戻ってきた彼らの講評が始まった。

 

「まあ、つっても。今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」

 

「なな!!」

飯田が驚いている。

 

「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」

蛙吹が質問する。

 

「何故だろうな~~~?分かる人!!?」

 

「ハイ。オールマイト先生。」

 

「それは、飯田さんが一番状況設定に順応して居たから。爆豪さんの行動は、戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程先生が言っていた通り、屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね。麗日さんは中盤の気のゆるみ。そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを「核」として扱っていたら、あんな危険な行為できませんわ。」

 

その通りだ。彼女が言っていることに私が付け足す事柄はない。

 

「相手への対策をこなし且つ、”「核」の争奪”をきちんと想定していたからこそ、打算は対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは「訓練」と言う甘えから生じた。反則のようなものですわ。」

 

飯田がジーンと、感激している。八百万への好感度爆上がりであろう。

 

彼女の評価を聞いて思ったのは、”「核」の争奪”が目的だが、安全なところにヒーローが核を送るにはヴィランを最初にどうにかするしかない。ビルを出るときの輸送中に教われたら元も子もないからだ。この訓練は、ヴィランを同じ場所に引き付け、捕まえるか、その一点であろう。と私は考えた。

 

そして、クラスのみんなはシーンとしている。

 

「ま・・・まあ、飯田少年もまた固すぎる節が有ったりするわけだが・・・、まあ・・・正解だよ。くぅ・・・。(思ったより言われた。)」

オールマイトが震えながら、サムズアップをする。

 

「常に、下学上達!一意専心に励まねば、トップヒーローに等なれませんので。」

 

きっぱりと言い張った彼女は、ポニーテールの大和撫子の八百万百。推薦入学者である。

 

因みに、下学上達とは、手近なところから学び始めて、次第に進歩向上してゆくこと。で、一意専心とはほかのことを考えずその事だけに心を集中すること。である。

 

見習いたいものである。

 

 

第二訓練は、ヒーロー側の轟焦凍と、障子目蔵のBチーム。

(ヴィラン)側の尾白猿夫と、葉隠透のIチーム。

 

だが、この訓練は、すぐに終わった。なんと、轟の個性でビルごと凍らせたのだ。

そして、核に手を当て、Bチームの勝利に終わった。

 

そして、訓練は続く。各々が自らの個性を使い、勝利しようと一進一退の攻防を見せた。

 

 

最後の第5戦が終わった後、いよいよ伝馬の出番である。

 

「よし!大歴少年。君の出番だ。君は誰をペアとして選ぶんだね?」

 

「はい。私は葉隠さんをペアとして、選びます。」

葉隠は驚いている。

 

「分かった。じゃあ、Kチームは大歴伝馬。葉隠透ペアだ!!そして・・・。彼らと戦うペアは、Bチームだ!前回はヒーローチームだったので、今回はヴィランのほうに行ってもらうぞ!」

轟と、障子は驚いていない様子だ。自分たちがやると分かっていたのではないだろうか。

 

「轟少年!頼むから、あんなビル全体を凍らせないでくれ。寒くてたまらないよ・・・。」

 

「善処はします。」

 

「うん。さあ、Bチームは先に入ってセッティングをしてくれ。Kチームは5分後だぞ。」

 

4人は、”はい!”と返事をして、作戦会議をしていく。

 

「なんで私を選んだの?ほかに強い人は沢山いるけど・・・?」

葉隠が疑問をぶつける。

 

「いや。君じゃないと、ダメだ。君のおかげで戦いやすくなる。」

 

「?」

 

「まあ、見ておいてくれ。君を活躍させてやる。」

 

伝馬は三日月の様と笑う。少しだが、彼らの笑い方に似て来たのではではないだろうか。

 

彼らは、オールマイトに勧められこの雄英に来た。そして、今はオールマイトの指示で二人は闘う。はてさて、どうなるのか。

 

私ににも分からない。




俺はぁ…至極悪いぞぉお。

飯田天哉


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青年は訓練を受ける

我ゆくも またこの土地に かへり来ん 國に報ゆる ことの足らねば

東條英機


今、彼らは地下室で最後の訓練を見ている。

 

「そういえば、あいつの個性って何なんだ?」

切島が疑問を言う。

 

「大歴君の”個性”は歴史だよ。切島少年。」

オールマイトが答える。

 

「”歴史”っていうのは、どおいう事なんすか。」

上鳴がオールマイトに言う。

 

「私も良くは知らないんだが・・・。歴史上の人物を出せたり、銃火器を召喚できる能力らしい。」

 

「私から説明しようではないか。」

突然後ろから、声がする。このクラスの誰でもなく、先生方でもない。

 

その男は、緑色の軍服を纏い、眼鏡をかけている男。

そう東條である。

 

「オールマイト殿。確りと伝馬の許可を頂いております。自己紹介が遅れておりました。私は、日本陸軍大将。東條英機であります。今後とも宜しくお願い致します。」

 

”よ、よろしくおねがいします・・・。”

と、返事が来る。

 

「早速でありますが、伝馬の”個性”の説明をしようと思います。伝馬の”個性”は歴史であります。彼の個性は、歴史上の英雄を召喚することができます。そして、歴史の人物は、過去に彼に従った人物、兵士達を召喚し闘うことができます。皆伝馬の命令で動きますので心配はいりません。」

 

「質問をしてよろしいでしょうか!!」

そう言ったのは、飯田である。

 

「なんだね。そこの白いロボットみたいな君。」

 

「飯田天哉です!!」

 

「そうか。飯田君。質問はなんだね?」

 

「はい!!先程、歴史の人物を召喚できる言っておりましたが、どの様な人物を召喚できるのでしょうか。卑弥呼や中大兄皇子等の人物も召喚できるのしょうか。」

 

「良い質問だね。人物は、主に政治家・軍人らしい。そして国の実質的なトップのみだ。そして、卑弥呼等の人物は召喚出来ない。彼の召喚には条件があり、鮮明に写真が残っていなくてはならない。以前、写真があった近藤勇を召喚しようとしていたが、できなかったよ。」

 

「成程・・・。ありがとうございます!」

 

「簡潔に纏めますとこれが、歴史であります。他にも、いろいろありますが伝馬の戦い方を見ていただければ、何となくでありますがご理解いただけると存じます。」

 

そう東條がいうと、モニターを見る。そして、それに釣られて、皆もモニターを見た。

そして、見た画面には、一階に司令部を作る軍隊の姿であった。

 

 

最初に言っておくが、銃は実弾ではなく、ゴム弾だ。雄英側が訓練なので、人数分を用意してくれた。雄英様様である。

 

今回の軍団は、フランス軍、ドイツ軍のコマンド―部隊で行われる。

 

フランス外国人部隊:16名。第502SS猟兵大隊:9名。ヒーロー候補2名の、計27名で行われる。

 

なので、26人分の銃が支給された。

 

1部隊は、4名編成。隊長・衛生・機関銃・通信である。

 

個性持ちは決して、油断してはならないという判断である。

 

まず、フランス外国人部隊と伝馬の17名が一階を制圧。HQを作り、4人とド・ゴールとヒトラーを残し伝馬含め13名が、上へ上がって行っている。

 

そして、二階・三階へと昇って行っている。しっかりと制圧してからだ。

 

アイコンタクトと指差しのみで会話をし、非常に静かに速く制圧をしていく。

 

3分しかたっていないが、1階から3階までを制圧した。

ここまで、彼らは一言も発していない。見事なものだ。

 

そして、四階には二人がいた。そう轟と、障子である。

 

その前に、このビルの間取りの説明をしなければならない。

このビルは、5階建てで、屋上がある。

間取りは、ヰ状に廊下がある。そして、階の真ん中にエレベーターがあり、その右上に階段がある。

 

いかなる特殊部隊であろうと、完全に足音を消せるわけがない。障子目蔵の個性は複製腕だ。肩から生えた2対の触手の先端に、自身の体の器官を複製できる。

 

彼の耳にかかれば、どんなに小さい音でも聴くことができるだろう。

 

そして、外国人部隊は、すぐさま姿勢を伏せにし、FM mle1924/29軽機関銃を構えた。

 

すぐさま、轟は氷の壁を一面に作り、二人が隠れた瞬間。

 

ズダダダダ!!シュウゥ・・・。

 

という、機関銃の音が鳴り響き続ける。音が非常に大きく、障子の高性能な耳は効力を発揮しなくなってしまった。機関銃の音しか聞こえない。

目の前で大声で発しなければ、他人の声が聞こえないのだ。

 

外国人部隊は、今階段で機関銃を撃っている。彼らの右には階段があるが、氷の防壁は、逆L字型になっており、階段ががっちり埋められている。

そっちに集中したからだろうか。

階段側の逆側。部屋があるほうには、氷の壁はない。

 

16人のうちの4人が部屋側に行き、十字砲火を浴びせようとする。

 

だが、彼らも雄英生である。すぐにその動きを察知し、轟がエレベーターの下のほうの廊下に氷の壁を作ろうと走る。

 

その時に、氷の壁の向こう側から、ズダダダ!!の音のほかに、ボォォォーーー!という音が聞こえた瞬間。氷の壁から、炎が噴き出した。

 

M1/M2火炎放射器である。

 

因みに、これは持ち込んだ実物である。

個性持ちにとっては、火系統の個性の人は多い。心配はいらないであろう。

 

すぐに轟が、壁を補強しに行くが炎が氷を貫通する。

 

障子は階段に退避したが、轟は、エレベーターの前。

 

メインホールで分断された。

 

 

実は、機関銃で牽制をし続けているのには、しっかりと目的がある。

彼らに銃を当てようとは、毛頭考えていない。

 

何故か?それは音を消すためである。

 

 

機関銃の煩い音が鳴り始めてから1分ほど経った頃か。

 

ビルの上空にはブンブンブンと言う音がする。

 

障子は微かにだがその音が聞こえたので、5階に上る直前。

 

横から、バァリィン!と、ガラスが割れた音がした。

 

猟兵部隊である。

 

 

猟兵部隊が突入する少し前、葉隠は上空にいた。いや、ヘリコプターの上にいる。

ヘリコプターの名前はフォッケ・アハゲリス Fa 223 。通称はドラッヘである。

 

オットー・スコルツェニー率いる、第502SS猟兵大隊の8名と葉隠の計10名が乗っている。

 

「ひえー!高いよー!」

葉隠がおびえるが、周りのドイツ人は笑っている。

 

「大丈夫だよお嬢さん。このヘリはあのビルにちゃんと降下できるし、我々がしっかりと護衛をするからね。君の作戦目的は、核に触ること。もし敵がいれば、後ろからテープを巻き付けるんだ。」

オットーが笑顔で言う。

 

「それって、大丈夫?弾とか当たらない?私透明だし。」

だが、不安そうだ。そりゃそうだ。

銃を持っている人がいる。それだけで怖い。

 

「大丈夫さ。お嬢さんは手袋しているし、我々はプロだ。生徒には絶対に当てないよ。これでも我々は、精鋭だからね!」

笑顔で顔に傷があるオッサンが大丈夫と言うのだ。信じられない。

 

「ほらぁ。貴方が言うともっと心配させちゃいますよ。顔の傷をちゃんと治してから行ってくださいよ。」

金髪の陽気な若者が言う。

 

「これは、学生時代の傷だ。関係はないだろよ。」

 

「それでもですよ。この子の顔は絶対にひきつってますって。ごめんね。お嬢さん。このおじさんが怖くてね。」

そういうと、そこにいるみんなが笑った。

 

”黙れ!”とオットーは言うが、顔は笑顔だ。

 

(まあ、信じてやるか!!)

と、葉隠はそう思った。

 

 

そして、屋上にヘリコプターが着陸し、なぜかこのビルには屋上への階段がないので、ビルの屋上からロープで降下し、5階の中に入った。

 

 

そして、4階。

 

轟は、機関銃の十字砲火を氷の壁で耐え忍んでいる。

 

念の為に言っておくが、彼らは轟に当てようとは1㎜も思っていない。全て、氷の厚いところ狙い、牽制している。

 

『こちらHQ。状況はどうか。どうぞ。』

通信兵が持っている無線から、声が聞こえる。

 

「こちら伝馬。今、Tと交戦中。予定通りに機関銃で牽制中。どうぞ。」

 

『了解。オットーが上で、Sと交戦中。Sの個性は強力なり。葉隠取り付く暇なし。援護を要請する。どうぞ。』

 

「了解。8名を上に行かせる。Tは私に任せてくれ。」

 

『了解。20秒後、作戦開始。オーバー。』

 

そして、階段の氷を溶かし、8名を上へ行かせた。

 

今4階にいるのは、回り込んだ4名と、階段に伝馬を含め5名である。

 

 

5階では、猟兵部隊9名と、葉隠が戦闘をしていた。

 

因みに葉隠は、オットーの背に乗り入った。ガラスを割った後に入ったので、ケガはしていない。

オットーは紳士である。

 

彼らと障子は死ぬほどに相性が悪い。

 

純粋なフィジカルには、彼らは勝てないのだ。

 

彼らは、銃を撃つがまるで効いていない。ゴム弾だからだ。

ゴム弾でも十分に殺傷揚力があるが、障子は怯みもしない。

恐るべきだ。

 

障子は身体能力で、隠れ撃ちする猟兵部隊を追いかけながら、核を守っている。

隙がないのだ。

 

そして、下から、外人部隊が8名上がってきた。

その光景に、障子は驚く。

 

「何。轟が負けたのか・・・?数が少ない。動けなくしているのか?」

 

と、障子が思案したところをオットーは見逃さなかった。

 

障子が目を離した後、スッと、音を出さずに走り出し、その勢いで足払いをした。

そして、倒れそうな障子の胸を、持っていたStG44 の持ち手で殴り、首を抑え鎮圧しようとした。

 

「お嬢さん!テープで・・・!?」

 

だが、そこで倒れたのは障子ではなかった。オットーである。

 

障子は持ち前のフィジカルのみで、この苛烈な攻撃を耐え複製腕でオットーを倒したのだ。

 

実はその間に彼らの後ろに回り込んでいた者がいる。

そう、葉隠である。

 

「その手を離せーー!」

と、テープを持ちながら、ぐるぐる回転する。

 

そう。テープを巻き付けたのだ。障子は無力化された。

 

そして、葉隠が核を触る。

 

勝利はヒーローチームに終わった。




7つの炎の手榴弾

フランス外国人部隊エンブレム


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青年は訓練を終えた

一切の書かれたもののうち、 私はただその人がその血をもって書いたものだけを愛する。

フリードリヒ・ニーチェ


『ヒーローチーム!WIN!!』

 

オールマイトからの終了のアナウンスが聞こえる。

 

そうか。葉隠さん、やってくれたか。

オットーさんたちが付いていたから心配いらないと思っていたが、かなり苦戦したらしい。

10対1で互角とは。

障子君はとても強いな。

 

 

「なあ、お前。前にどこかで会ったことなかったか。」

轟君に話しかけられた。

 

なんだ、覚えていたのか。いや、今思い出してくれたのか?まあ良いか。少し嬉しいな。

 

「ああ。小学生の頃に行ったハイキングで会ったよ。」

 

「やっぱりか。」

 

「あの時に自己紹介をするのを忘れていたから、今するよ。大歴伝馬だ。よろしく頼む。」

 

「ああ。分かった。それと・・・」

 

「あー!!大歴君いたー!!何やっていたんだよ!こっちは大変だったんだよ!!」

葉隠さんが上から降りてきた。

 

「大丈夫だったか。オットーさんはどうした?」

 

「今、上で障子君の手当てしてるよ!!障子君、別にケガしてないって言っているのに。自分のケガの方がヒドイのに、構わずしているんだよ!!早く来て!!」

そう言って、葉隠は伝馬の手を取り、上階へ行く。

 

 

 

 

闘っている伝馬の顔はまさに特殊部隊のような、冷徹な目であった。

 

だがどうだ。

 

終わった後は、高校の顔に戻り、笑顔はとても優しそうだ。ギャップがあり過ぎるのだ。

 

そして、モニタールームに戻り、オールマイトのまとめに入った。

 

「よし!帰ってきたな。早速だが、今回のベストは障子少年だ!」

 

「何故ですか?俺は何も出来ませんでした。」

障子が驚く。

 

「それは、君が一番状況を理解し、動けていたからだ。葉隠少女達が突入してきたとき、よく動けていた。10対1の状況で、モノを守りながら動くのはそう簡単な事じゃない。称賛されるべきだよ。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「大歴君は訓練のテンポを一気に握った点は良かったが、核があるところで銃を撃ち過ぎだ。あの行為は、とっても危険だ。轟君だからよかったが、ほかの子たちなら危なかったかもしれない。ヒーローは人命優先!分かったね。」

 

「はい。すみません。」

 

「だが、君の制圧方法は実に的を得ていた、見事だよ。今回の授業の中で、最も効率よく制圧したね。これからも頑張ってくれ。」

 

「はい。」

 

「轟少年。君は、氷で防壁を作るのはとても良い発想だ。だが、回り込まれるときに階段に逃げていれば、もっとヒーローチームは苦戦していただろう。もっと周りを見渡した方がいいね。君は、もっと伸びるよ。頑張りたまえ。」

 

「分かりました。」

 

「葉隠少女は自分の個性をうまく利用した。とても良い戦い方だ。今後ともその調子で頑張ってくれ」

 

「はい!頑張ります!!」

 

「うん!とても良い返事だ。これで今回の授業は終わりだ!お疲れさん!!緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし、真摯に取り組んだ!!初めての訓練にしちゃ皆、上出来だったぜ!」

 

「相澤先生の後でこんなまっとうな授業・・・。何か拍子抜けと言うか・・・。」

蛙吹が不安そうに言う。

 

「まっとうな授業もまた、私たちの自由さ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室におかえり!!」

そう言ったら、オールマイトが爆走しすぐに姿が見えなくなった。

 

「?急いでるなオールマイト・・・。かっけぇ。」

峰田が言った。

 

 

 

彼らは、着替えて放課後になった。

 

だが、帰らない。

 

誰が言ったか緑谷を待とう。と全会一致したからである。

 

「なあ、大歴だよな。お前の個性すげえな。あ、俺は切島鋭次郎だ!よろしくな!!」

切島が話しかけた。

 

「ああ。切島君だな。よろしく頼むよ。」

 

「だけどよぉ。お前の個性は何か、数の暴力みたいで男らしくねえよな。」

 

「まあ、そうだな。でも、私たちは無個性みたいなものだから、数にでも頼らなきゃ君たちには勝てないよ。」

 

「そうか。なんか悪い事言っちまったな。なんかゴメンな。」

 

「大丈夫だ。君の個性は凄いよな。確か硬化だったか。戦闘では、矢面に立てる立派な能力だよ。先鋒は戦の華だな。」

 

「だけど、目立たねんだよな。地味だし。」

少ししょぼんとしている。

 

「そんな事はない、私が保証しよう。私は君の戦いをモニターで見て、少し憧れたよ。あんな王道な個性、私が欲しいぐらいだ。」

 

「おう。なんかありがとな!!」

 

そんなことを話していると、緑谷が帰ってきた。

 

「おお緑谷来た!!おつかれ!!」

と、言いながら、緑谷の方へ歩いて行った。

 

「おお。伝馬じゃないか。まだ帰ってなかったのかね。」

そう言ってきたのは、ヒトラーだ。

 

「ヒトラーさん。何でここにいるのですか。」

 

「いや、以前探索していただろう。雄英は広いからまだ見て回っていたのだよ。最後に教室を見て回ってたら、今ちょうど緑谷君にあったのでね。ご一緒させてもらってたのだ。」

 

 

時間は少し遡る。まだ緑谷が保健室にいるとき。いや、もっと正確に言うとオールマイトが保健室に入ってきたときだ。

 

「入学間もないってのにもう()()()だよ!?なんで止めてやらなかった。オールマイト!!!」

 

と、オールマイトに説教をしているのは、この保健室の保険医である、リカバリーガールだ。

 

「申し訳ございません、リカバリーガール・・・。」

 

オールマイトはシュンとしている。だが、その姿はオールマイトではない。やせこけ、服はダボダボ。ドクロのような形相をしている。

 

「私に謝ってどうするの!?」

 

「疲労困憊の上、昨日の強打!一気に治癒もしてやれない!応急手当はしたから、点滴全部入ったら、日をまたいで少しずつ活性化していくしかないさね!」

 

そう。緑谷は連日のように骨を折り、肉を断っている。この生活を続ければ非常に危険なことになるだろう。今はぐっすり寝ている。安静にしておくのが最善である。

 

「全く・・・”力”を渡した愛弟子だからって、甘やかすんじゃないよ!」

 

「返す言葉もありません・・・。彼の気持ちを組んでやりたいと・・・、躊躇しました。して・・・。その・・・あまり大きな声で、ワン・フォー・オールのことを話すのはどうか・・・・」

 

実は、オールマイトの個性は、ワン・フォー・オールと言う。この個性は、己の力を次の者に引き継ぎ、力を育てていく”個性”だ。何代という人々が継承されていった個性。

少なくとも、私はつないでいく尊さは理解しているつもりである。

王族の血は、長く継承されることで初めて神秘性が出る。護られるべきものだ。

それは血でも能力でも、意志でも変わらない。

 

「ほう。オールマイトの個性はワン・フォー・オールと言うのかね。おや、その姿。本当にオールマイトか?」

 

そう話していると、突然ドアがガラガラと開き、ちょび髭の男が現れた。そう、ヒトラーである。

 

「え、え、い、いや。ち、違いますよ。こんなガイコツがオールマイトな訳がないでしょう!」

オールマイトはごまかそうとするが、明らかにキョドッている。

 

「ですが、なぜそのオールマイトの衣装を着ているのですかな?」

 

「え、そ、それは・・・。そう!私は、オールマイトのファンなのでこの衣装をしているのです!」

 

「ほう。なら何故雄英の保健室でオールマイトのコスプレをしているのですかな?それになんでそんなにダボダボな・・・。」

 

そ、それはぁ・・・。と、言い訳を考えているがもう無理そうだ。

 

「もう無理さ。ありのままを話すしかないよ、オールマイト。」

 

「そんな!リカバリーガール!って、あ。」

 

「やはり、オールマイトなのか。大丈夫だ。私は君のファンなので別に言わないよ。誰にもね。知ってしまったものの義務として、君に起こった事柄をこの私、アドルフ・ヒトラーに話してくれたまえ。」

 

「他言は決してしてはいけませんよ・・・?」

 

「無論だ。その危険性については理解をしているつもりだ。」

 

そう、ヒトラーが言うとオールマイトが覚悟を決めたのか、淡々と自らの個性とこの姿について話し始めた。

 

要するに、この姿になってしまったのは5年前に強敵と戦い、その時のケガでこのような姿になってしまったらしい。

 

「分かった。やはりこのことは決して他言できないな。君は()()だから、()だから。」

ヒトラーが重々しく言う。

 

「ええ。なのでくれぐれも言わないよう重ねてよろしくします。」

 

それからヒトラーは保健室に居続け緑谷が起きた後、オールマイトの事を知ったと説明をし、教室に共に戻った次第である。

 

その後、クラスのみんなと軽く自己紹介をして、各々の家へ帰った。

 

そして、その数日後、彼らは思い知ることとなる。真に賢しい(ヴィラン)の恐怖を。

 




私は支配者ではない。指導者である。

アドルフ・ヒトラー


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青年は敵に会う

さらばなり 苔の下にて われ待たん 大和島根に 花薫るとき

東條英機


翌日

 

1-Aでは学級委員長を決めており、当初は緑谷が委員長になったが、最終的には飯田がなった。

因みに、副委員長は八百万である。

後ろには、書記長が見ていた。

 

どうでもいいが、私は委員長というと、赤いアレを思い出す。歴史好きのダメなところである。

 

 

そして午後の授業、ヒーロー基礎学である。担任は相澤だ。

 

「今日はヒーロー基礎学だが・・・災害水難何でもござれ。

 

人命救助訓練(レスキューくんれん)だ!!」

 

RESCUEと書かれているカードを持ちながら話す。

 

「レスキュー・・・今回も大変そうだな。」

 

「ねー!」

 

「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」

 

「水なら私の独壇場、ケロケロ。」

と、盛り上がっている。

 

「おい。まだ途中。」

 

シーーーン

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。以上、準備開始。」

 

救助、それが起きるのは災害である。災害は決して人力では止められない。母なる大地の大いなる試練だ。

 

だが、我々は無力ではない。対策をしていざと言うときには、人々が動く。災害時に動く人々でこの国でもっとも有名な人々は、自衛隊であろう。

 

軍隊は戦争をするものではあるが、その前に自国民を守り、国を守護する者達である。

軍隊の最も気高き姿は、軍事パレードをしている時であるが、最も輝いている姿は救助のときであろう。

 

 

そして、バスが来た。”飯田が番号順に二列で並ぼう!”と呼び掛けている。

委員長たる責任ゆえか。

 

だが、それは意味をなさない。何故なら、三方シートだったからである。

 

「こういうタイプだった。くそう!!!」

 

猛烈に悔やんでいる。椅子に座っているのに、体育座りの如くだ。

 

飯田の向こうには緑谷がいる。悔やんでいる飯田を見て、苦笑いだ。

 

そして、緑谷の隣にいる蛙吹が緑谷へ話しかけた。

 

「私思ったことを何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん。」

 

「あ!?ハイ!?蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの”個性”オールマイトに似てる。」

 

「!!!! そそそそうかな!?いや、でも、僕はその、えー」

 

と、明らかに狼狽えている。何故なら、緑谷出久はオールマイトの”個性”である、ワン・フォー・オールの継承者なのである。

このことは、絶対に秘密とオールマイトから言われているので、彼は決してそれを、ばれてはいけないのである。だからこんなにも狼狽えるのだ。

 

そうして、狼狽えて居る緑谷に助け舟が出された。切島である。

 

「待てよ、梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねえぞ。似て非なるあれだぜ。しかし、増強系のシンプルな”個性”はいいな!派手でできることが多い。」

 

「その通りだ。ヒーローはやはり、オールマイトの様な正々堂々なほうが格好いいからな。」

伝馬も切島の言葉に賛同する。

 

「そんなことないよ。二人ともすごいかっこいいよ。プロにも十分通用する”個性”だよ。」

緑谷が言う。

 

「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてえなとこあるぜ!?」

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み。」

「でもおなか壊しちゃのはヨクナイね!」

青山が言った瞬間に芦戸が肩を叩きながらそう言った。

 

青山は恨めしそうに芦戸を見る。

 

「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪。後、大歴もだな。」

 

「そうか。なんか照れるな。」

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ。」

 

「んだとコラ出すわ!!」

と、爆豪が身を乗り出して怒った。蛙吹はそれを見ると”ホラ”と指を差した。

その間にいる切島はいつ爆破が飛んでくるか分からないので、冷や汗もんだ。

 

「この付き合いの浅さで、すでにクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげえよ。」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ!殺すぞ!!」

 

爆豪を煽る、上鳴とさらに怒る爆豪。

 

賑やかで高校生らしく、とても良い。

 

そんなこんなで訓練場に到着したのである。

 

「すっげー!!USJかよ!!?」

と、歓声が飛ぶ。そこは訓練場とは思えない。一種のテーマパークの様である。

 

そんなことを喋っていると、まるで、宇宙服のような服を着た人が話す。

「水難事故・土砂災害・家事・・・、etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も・・・ウソの災害や事故ルーム(USJ)!!」

 

『USJだった!!』

 

「スペースヒーロー「13号」だ!災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

と、緑谷が即座に解説する。

 

「わー!私好きなの13号!」

麗日がうれしそうに答える。

 

「13号。オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが。」

相澤が13号に小声で聞く。

 

「先輩、それが・・・、通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでいます。」

 

そう、オールマイトの個性には、実は時間制限がある。最近、衰えた証拠でもある。だからこそ、継承者を探していたのだろう。

 

「不合理の極みだなオイ。(まあ・・・、念のための警戒態勢・・・。)仕方ない、始めるか。」

 

「えー、始める前にお小言を一つ、二つ・・・、三つ、四つ・・・。」

 

『増える・・・。』

 

「皆さんご存じだと思いますが、僕の”個性”は”ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。」

 

「その“個性”で、どんな災害から人をを救い上げるんですよね。」

緑谷が言う。その隣で麗日が首が取れる勢いでコクコクと頷く。

 

「ええ・・・。しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう”個性”がいるがいるでしょう。超人社会は”個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば、容易に人を殺せる”いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないでください。相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では・・・心機一転!人命の為に”個性”をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな。」

 

『13号!カッコイイ!!』

 

 

「以上!ご清聴ありがとうございました。」

と13号が礼をする。

 

”ステキ―!”や”ブラボ―!!ブラーボー!!”と歓声が聞こえ、拍手喝采である。

 

「そんじゃあ、まずは・・・」

と、相澤が指示を言おうとした瞬間、後ろから、ズ・・ズズ・・ズ・・、と音がする。

 

振り向いた瞬間災厄が訪れた。顔に手を付けている男。嫌、全身に手を付けている珍妙な男は、ズズと言っている黒い霧の様な物から出てきた。遠くからでもわかる。アイツは常人とは何かが違うと。目は何かを恨んでいるような、それでいて純粋でよく分からないからこそ恐ろしい。

 

「一かたまりになって動くな!13号!!生徒を守れ!」

 

”え?”と皆困惑している。

 

希しくも、命を救える訓練時間に彼らの前に現れた。

 

黒い靄から出てくるのは、マスクの男・皮を紡ぎ合わせて作った服を着た男・恐竜のような男、蛇のような女・脳が飛び出ている男。多種様々だ。

統一感がなく、それが逆に恐ろしい。

 

「なんだありゃ!?また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」

切島が言った瞬間、相澤が戦闘用ゴーグルをかけながらこう言った。

 

「動くな!あれは、(ヴィラン)だ!!!!」

 

彼らは今理解した。プロが何と戦っているのか。何と向き合っているのか。其れは、途方もない悪意。

敵を今知ったのだ。

 

「東條さん!!」

と、伝馬が叫んだ瞬間。

 

『応!!』と、声と共に後ろから前に出て、土嚢を積み、九九式軽機関銃を持ち陣地作成を始めたのは山下奉文率いる、第18師団、国軍最強の師団である。その中の精鋭50人が召喚された。

 

一触即発

 




終戦直後に、多くの日本軍将校が自決してしまったから、
誰かが責任をとって死刑にならないといかんのだろう。

山下奉文


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青年は敵と戦う

われらここに励みて国安らかなり。

陸上自衛隊 第七師団


「やはり、先日のはクソ共の仕業だったか。」

 

実は午前中に、なんと不法侵入が起こったのである。オールマイトを取材したいマスコミの暴走であったが、普通は侵入しようとしてもできないのである。

何故か?それは雄英セキュリティーは世界トップレベルだからだ。学生所や、通行許可IDがないと、センサーが作動し雄英から問答無用に追い出されるのだ。

 

どんな者でも決して入れないのだが、しかし彼らは入れた。許可証があったのでは?とまず最初に思うのだが、もしそうだったらセンサーは反応しないであろう。

 

(ヴィラン)ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎりぞ!」

切島が驚いたように言う。

そりゃそうだ、雄英はヒーローの卵を養育する学校である。

そんなところに殴り込みに来る(ヴィラン)は本気で卵を殺そうとしているか、只の脳無しであろう。

 

「先生、侵入者用センサーは!」

八百万が言う。前述のセンサーの事を言っているのだろう。何故、あの敵《ヴィラン》達は引っ掛からないのだろうか。

 

「もちろんありますが・・・。」

 

「ふむ・・・、センサーが反応しないと言う事ならば、敵側にそういう個性持ちがいるのか。他の所にも(ヴィラン)がいるのだろうかどちらにせよ、校舎から離れているここで、小人数(クラス)の時間割、計画的な犯行だ。用意周到に画策された奇襲だ。目的はなんだ・・・?」

伝馬がそういった。

 

「今はそれを考えている時間はない!13号は避難開始!学校に連絡を試せ!センサーの対策も頭にある敵《ヴィラン》だ。電波系の"個性(ヤツ)"が妨害している可能性もある。上鳴、おまえも”個性”で連絡試せ。伝馬も無線機とかでも通信を試みろ。」

 

相澤が出した指示に”ッス!””了解”と答える。

 

そして、相澤が彼の武器である、包帯を首に巻いている。どうやら戦いに行くようだ。

 

「相澤先生。機関銃の援護を必要でありますか。」

東條が言う。

 

「いいですけど、殺しては絶対にダメですよ。牽制だけです。」

 

”分かっているとも。”と東條が言い、山下が手を挙げた瞬間カチッと、機関銃群の安全装置を外す音がした。

 

「先生は!?一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら”個性”を消すって言っても!!イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は・・・。」

と、緑谷が声を荒げて相澤を止めに行くが、それを遮るように言った。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号!任せたぞ。」

 

そう相澤、いやイレイザーヘッドが言った瞬間、飛び出した。

 

「射撃隊いくぞぉ!」

「情報じゃ、13号とオールマイトだけじゃなかったか!?ありゃあ誰だ!?」

「知らねぇ!!が、一人で正面突っ込んでくるとは」

 

「大まぬけ!!!」

 

と、(ヴィラン)がイレイザーヘッドに向けて、個性で射撃をしようとする。だが、弾が出ない、イレイザーヘッドの”個性”抹消の効果である。

 

「あれ?出ね・・・」

と間抜けな事を発した瞬間、彼らの周りを白い包帯が包囲した。

彼らがそれを視認した瞬間、隣の(ヴィラン)とまるで巴の様に頭を強烈に合わせ、意識が沈んだ。

 

「ばかやろう!!あいつは見ただけで”個性”を消すっつう、イレイザーヘッドだ!!」

 

「消す~!?へっへっへ、俺らみてえな異形型のも消してくれるのかぁ!?」

と言いながら走ってくるのは、四つ腕があり、肌が石の様に凝り固まっている(ヴィラン)だ。

 

「いや、無理だ。発動系や変形系に限る。」

そう言いながらイレイザーヘッドが四つ腕の(ヴィラン)の連打を全て避けながら、顔面を殴る。

 

殴られ、体制が崩れた四つ腕の(ヴィラン)の足を包帯で掴む。

「おまえらみたいな奴のうまみは統計的に」

 

そして、後ろから、奇襲をしに来た覆面の(ヴィラン)を避け、すぐに蹴りを放った。

覆面の(ヴィラン)が後ろにいる(ヴィラン)の所まで後ずさる。

「近接戦闘で発揮される事が多い。」

 

そう言った瞬間、イレイザーヘッドが包帯で掴んでいた四つ腕の(ヴィラン)を覆面の(ヴィラン)がいるところに投げた。

 

「だから、その辺の()()はしている。」

 

イレイザーヘッドの後ろでは、(ヴィラン)が四つ腕の(ヴィラン)の下敷きになっている。

 

未だ沢山の敵《ヴィラン》が健在だ。イレイザーヘッドを包囲し出方を窺っている。

 

そして、イレイザーヘッドの周りにはダダダダダダ・・・ダダダダダダという音と共に、オレンジの線が迸った。

 

機関銃である。

敵《ヴィラン》達を牽制するように、イレイザーヘッドを守るように円を描いている。

 

だが機関銃は必ずしも円を描くわけではない。まるで視力検査の円の様に一部が抜けている。

イレイザーヘッドはその抜けているところから(ヴィラン)を攻撃している。

息ぴったりだ。

 

敵《ヴィラン》達はイレイザーヘッドの個性と目線がどこを向いているか分からないように作られたゴーグル、そして日本軍の機関銃牽制で近づけない。

完全にヒーローが優勢である。

 

 

そして1-Aでは避難する準備を進めている。

 

「すごい・・・・。初めて一緒に戦うのに息ぴったりじゃないか。多対一こそ先生の得意分野だったんだ。」

緑谷が感心したように言う。

 

「分析してる場合じゃない!早く避難を!!」

飯田が急かす。

 

「させませんよ。」

13号率いる1-Aの前に黒い霧が行方を遮った。

 

「初めまして、我々は(ヴィラン)連合。せんえつながら・・・この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただたいたのは、平和の象徴、オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして。本来ならば、ここにオールマイトいらしゃっるハズ・・・ですが、何か変更あったのでしょうか?まあ・・・それとは関係なく・・・私の役目はコレ。」

 

と、言った瞬間、後ろから伝馬、切島と爆豪が飛び出て、後ろから霧に一〇〇式機関短銃を撃ち、硬化した腕で殴りに行き、大爆発が起きた。

 

BOOOOM!

 

「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」

と、切島が少し荒げて言う。

 

だが、効いていない。

「危ない、危ない・・・そう・・・生徒といえど、優秀な金の卵。」

 

「ダメだ!どきなさい、二人とも!」

人差し指をカポっと開け、何時でもブラックホールを出せる状態の13号が焦ったように言う。

 

そういった瞬間、黒い霧が1-Aの周りを包み込んだ。

 

「散らして」

すぐに察知して、後ろに避ける者

「嬲り」

一つに固まり、耐える者

「殺す。」

他のクラスメートを庇う者、抱え逃げる者

 

「皆!!」




敵機は目で見るんじゃありません。感じるもんです

岩本徹三


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