リリカルな超次元蹴球 (平丸)
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ぷろーろーぐ

去年くらいにイナズマイレブンのアニメが始まって、それと大体同じ位にワールドカップがあった(多分)時に思いつきで書いた話です。

悪い癖でいつも起承転結の転まで書いて投げてしまうので、一年あって一章も進んでないです。

取り敢えず投げてみたら何か変わるかなと思い投げます。

酷い文章ですがお願いします!


ぷろーろーぐ

 

ごく普通の日々を過ごしていた一人の青年が、ある時ふと眠りから目覚めると白い空間に立っていた。

 

なぜか、天を仰ぐ形で。

 

『…知らない天井だ、

 

 

 

 

って言いたかったけど、その天井が見えないけんですが、ここ何処だよ。』

 

横になり眠っていた筈だというのに、気付けば立っていた。

其れだけでも奇妙だと言うのに、更に良く分からない真っ白な空間に移動していたのだ。

青年がそう呟くのも無理のない話であった。

 

 

『……何にも無いなぁ』

青年は周囲の観察に回した。

辺り一面、ただ真っ白な地面が続いている。

人工物はおろか、 生物さえも一切存在しない。

幾らかの時間を掛け、そう結論づけた青年は取り敢えずこの場から離れる事にした。

周囲を見回せば地平線すら見えない真っ白な空間だ。

一体どれだけ歩けば良いのだろうかと考えると、中々に足が前に出なくなる。

数秒の苦悩の後、何とか一歩目を踏み出したそんな時だ。

青年の真後ろから、声が聞こえた。

 

『こらこら、何処に行こうとしているんじゃ。』

『っ!?』

反射的に後ろを振り向こうとする前に、青年は心臓を素手で掴まれた様な感覚を感じた。

周囲を見回し、誰もいない事は何度も確認していた筈だ。

幻聴だ、背後にヒトなんている訳がない。

体の反射に一瞬遅れながらも、そう自身に言い聞かせようとした。

 

しかし時既に遅く幻聴だと思いたかった声は、本物であった。

振り向いた青年の視界の先には、青色のTシャツの上に白の布を巻き付けている奇妙な老人が立っていた。

 

『 』

青年は、心臓が口から飛び出しそうになった。

老人は、そんな青年を見て愉しげな表情を見せていた。

『ふむ、中々に良い表情じゃ。最近の若者は、この空間に来たと思えば転生できるものだと思っとるかならのう………突如真後ろから現れて驚かしてやろうと思ってもワシを見たら神だと理解してあぁだこうだ、言ってくる様になったのは何故なのじゃろうか………』

 

『………』

目の前の老人が何か話しているのは思考が停止しかけている青年でも理解できた。

しかし一体老人が何を呟いてるのは理解出来ないまま、硬直し続けるしかなかった。

 

 

『ホントに何処で間違ったのかのぅ……やはり、何処かから漏れている様な気がしてならん。……さっさと、無くして仕舞えば良いんじゃが………おっと、すまんかったなお前さんさっさと本題に入るとするか。』

『 』

『ふむ、思考が停止しとるのう、さっさと起きんか。』

 

老人は、青年の額に人差し指を置く。

何をしたのかは分からないが、次の瞬間には青年の硬直状態が解放されていた。

 

『え………っと、誰?』

止まっていた水の流れが、一気に流れようとするかの様に青年の思考速度は、一時的に上昇した。

スッと、目の前の状況が頭に入り脳内で整理された後に今取るべき最善手を選択した結果の言葉であった。

 

『ワシか?ワシは神じゃよ、多分』

青年の問い掛けに老人は、笑顔でそう答えた。

『多分神って……』

笑顔で曖昧に答える神に青年は冷たい視線を送りながら呟く。

青年の冷たい視線を潜り抜けるように老人はスルーして言葉を続けた。

 

『多分なんじゃよ多分。お主らヒトが思っとる様な神は存在せん。ただ、お主らよりもずっと上位の生命体は多々おって 、創造主と言った様な存在もおるんじゃよ。』

さも当然だと言うかの様な説明をする老人。

青年は何だか良く分からない話になって来たので取り敢えず理解してるよ感を出す反応だけ示した。

 

『ヘーソウナンダァ、知らなかったー。凄いですーカミサマー』

『……お主、理解してる?』

『全然』

『おいっ!神との対話が出来る貴重なシーンなのじゃぞ!!基本的な事を言ったら始めの一話でしか現れない様な、ちょー珍しいシーンなんじゃ!!!もうちょっと、理解しようとせんかい!!』

 

又もや理解出来ない事を言い出したカミサマ(仮)。

青年は説明を聞いたとしてもどうせ分からないと判断し話を進めて貰う事にした。

 

『それより、そんな凄いカミサマ(仮)が何で、私の前に現れたのでしょうか?』

『お主面倒臭くなって、話を切り上げ様としとるな……まぁ良いか。先ず初めにお主が疑問に感じていた事を話してやろう。………お主を此処に詠んだのはわしじゃ。』

 

驚いたじゃろうと良いたげなドヤ顔をするカミサマ。

とても重要な事を口にしたと神は思っているのだろう。

青年は、そんな神を前にして真顔であった。

 

『いや…そりゃ、そうでしょ。この場にいるのはカミサマ(仮)しかいないんだし、カミサマ以外ありえないっすよ。』

『……もうちょっと、驚いくれても良いんじゃないのか?』

青年の慈悲のない言葉に、老人は哀しそうな顔を作る。

 

始めにワシを見た時の顔は良かったんじゃがなあ…可笑しい、鎮魂の術が効きすぎたのか?等と神はブツクサと呟き始めた。

 

このまま目の前の老人に合わさて会話をしていれば何時迄も前に進まない。

そう判断した青年は、強引にでも話を進めようとした。

一応とは言え神と名乗る存在であるのだ。

少しぐらい尊敬の意を込めて、会話をすれば気持ちよく話が進むだろうと考えて話し掛けた。

 

『あのカミサマ、要点だけ掻い摘んで願いします話が進まないです』

『ん?……おぉ、すまんな。つい、考え事に吹けていたわ。では、話を続けるとするか。お主は、死んだのじゃ。と言うよりかは、 ワシが殺してしもうた。』

『は?』

『いやーすまんのぅ。つい熱中してサッカーの日本代表を応援していたんだけどのぅ……中々優勝せんから思わず強めの言葉で文句を言っていたら、お主のいた世界にとんでもない雷鳴を空から振り落としていたんじゃよ。』

『は?(怒り)』

『何でこう何十年もやっていると言うのにベスト8までしか行かないのかのぅ。』

 

青年の怒りが混ざった言葉に対して聞いてないフリをして神は話を続ける。

『良くあるじゃろう?二十何年応援し続けていると言うのに全く優勝する気配の無い球団をいずれ勝つと応援するんじゃが、どうしても負けがこむと、つい、いつになったら勝つんじゃ!と大声で吐き捨ててしまうようなもんじゃ。』

『いやっ日本代表って何だよ!アンタ其れで俺殺すとかふざけんな!!初めて見た時に何でこのオッさん青いTシャツ身に付けてるのかと思ったら、それユニフォームかよ!!その上に布切れを巻いてるから違和感しか感じなかったわ!!!』

『いや〜本当すまんかったの…ってお主何故ワシのユニフォームを破こうとするんじゃっ!!やめいっ!!色々とプレミアムもんなんじゃぞっ!!』

『うっさいわ!!!』

神が身につけている青いTシャツが原因で殺されたのだと分かると青年の怒りが収まらない。

相手は、カミサマ(仮)である。

もし襲い掛かったとしても返り討ちにあう可能性があると冷静に青年は判断した。

責めてもの報いだと怒りを込めながら身につけている衣服を破り裂こうと老人の衣服に手を当てた。

その瞬間だった。

『まぁ【待て】ヒトの種よ。』

『っ!?』

青年は、老人の冷たい言葉を耳にした。

そう頭で理解した時には、既に身体の自由が奪われていた。

 

老人は、青年の手を一瞥すると離れた。

『やれやれ、最近の若者は喧嘩っ早い……と思ったがそうでもないな。いつの時代も人はそうやって、勝てもしない存在に手を出そうとする』

『……っ。』

『まぁ、お主はちょっと違うようだったがのぅ………おっとそうだった、さっさと話を終わらせたいんだったなぁ。本題に入るとするか。お主何処でいきたい?』

 

……いきたい?

青年は、神の言葉に違和感を感じた。

しかし、青年にはその理由を言及する事は不可能だった。

 

『………』

無言の圧力。

青年の出来る精一杯の抵抗であった。

『おっと、今は喋る事も不可能か………まぁ良い。俺が勝手に決めさせて貰おう。お前さん、超次元サッカーってのは知ってるか?とある次元先の日本代表がいるんじゃがな。その世界では少年サッカーとは言え、世界を相手にして優勝までしたのだ。凄いよなっ!だから思ったのじゃ。これからの次元世界は、全部超次元サッカーにしたら日本代表優勝し放題じゃ!!という事で、お主にはその次元世界で使っていた技を全部使えるようにしてやるから、来世を終えたら感想を頼むぞ!』

 

カミは、何処からともなく幾らかの光の玉を生み出した。

動けない青年の胸元に近づけると何の抵抗もなく青年の中へと浸透していく。

 

『っ。』

青年は自身の胸の中へと入り込んでいった玉を見つめるだけしか出来ない。

イヤな程に冷静な自分の精神が、目前で起きた事象が非侵襲的であると認識している。

それが、途轍もなく気持ち悪かった。

 

『それじゃあ……【逝ってこい】次は長生きするんじゃぞ』

青年は、神の言葉を耳にした。

神の言葉に凡人なる青年は、耳を傾け他に取るべき術は何処にもなかった。

 

 

 

『っ……… 。』

 

 

徐々に薄れていく意識の中。

最後に青年が目にした神は、何処か笑っている様に見えた。

 




あざした!


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1話

お願いします!


2

目を覚ますと其処には知らない天井があった。

此れは今度こそあのテンプレ台詞を口にするしか無いと俺は目を光らせた。

 

『 …… ……あぅぁー 』

 

無理でした。

と言うか呂律が回らず言葉にすらならなかった。

どうしてですかねぇ。

 

うん、分からん。

考えても仕方がないので考える事を止めた俺は、取り敢えず身体を起こそうとした……

あれ?起きれないんだけど……なんで?

 

 

又もや、分からない事が起きた。

本当に今日は、よく分からない事が多発するけど何なのだろう。

どうでも言い様な理由で死に至り、訳の分からない世界に来たかと思えば、 そこから俺を殺したとか言う神が現れて此れですか(泣)

しょーじき、もうついて行けないっす……

思わず、ため息をつきたくなるが出ないので諦めるしかなかった。

 

あの時のカミ様(仮)の言葉から考えると、次元世界とか言う元の世界とは違う世界へ来たのかも知れない。

だけど、それが真実である証拠は何処にも無い。

 

そもそも神と名乗り不思議な力を使えたという事で、あの場では取り敢えずカミ様(仮)としていたが本当にアレは神なのだろうか。

神様っぽい、なんか凄そうなオーラが全く感じられなかった。

 

確かに、あの時カミ様(仮)は俺に対して理解出来ない様な力を使って来た。

俺の額を触れたと思えば、止まっていた俺の思考を冷静な物へと変化させたのだ。

普段の俺なら、あの状況であの様な行動を取れる訳がない。

だからこそ、違和感が凄かった。

 

そして、それよりも異常だと思ったのはあの時の言葉だ。

たった一言呟いただけでカミ様(仮)は、俺の自由を奪った。

 

此れがどれだけヤバイ事なのか。

考えなくても分かることだった。

 

 

『………』

 

……其れにしても身体が全く動かない状態下だと言うのに冷静でいられる自分が恐ろしい。

未だアイツが俺に施した術(という事にする)が解けてないのだろうか。

……となると、 此れよりも後にかけられたアイツの【待て】という言葉が未だに解けていない可能性が出てきた。

 

 

そんな風に今の現状を何と無く把握していると、気が抜けたのか睡魔に襲われた。

本来ならば、 全く安心出来る状態ではないので眠くなる訳がない。

もっと焦るべきだとは思ったのだが、 何故かこの時の俺は睡眠欲にかられた。

 

全く動けない今の俺には出来る事が無い。

そんな理由をつけて一眠り、つきたくなった。

 

体は、動かない。

だと言うのに、 生理的な身体の動きは例外となるのだろう。

瞼だけは自分の意思で落ちていく。

まるで、他人事の様に視界が閉ざされるのを待つ。

光を遮断する迄にかかった時間はとても短かかった。

 

今眠ろうとするのは間違えている。

その事は十分に理解しながら 睡魔と戦った……のだが、ほんの数秒後には眠る事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

……………あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。

時計が視界に無いので全く分からない。

ただよく寝たなぁと言う、感想を抱ける満足感だけは十分にある。

そう言う事なのだとは、理解が出来た。

 

『 ……其れにしても、良く寝る子ねぇ。』

 

………目を覚ましてから気付かないフリをしていたが、女性らしき声が真上から聞こえる。

身体が言う事を聞いてくれないので、誰が話しているのかは良く分からなかった。

 

今俺は、ゆらゆらと身体を揺らされている。

ふと目を覚ますと浮遊感があったのだが、どうやら俺はこの女性の手によって宙に浮いている様だった。

 

しかし、どうやって俺は宙に浮いているのだろうか。

身長2メートルある長身だとは口が裂けても言え無いが、それでもそこそこの身長はある。

そんな俺を女性の手で浮かばせようとするのに必要な腕力とは一体どれ程のモノなのか。

そして、そんな腕力を持つ女性が俺を抱き抱えているのかと考えると、何か俺の身が不味いような気がした。

 

それから数分もの間、浮遊感を楽しんでいるとようやく俺の身体が動き始めた。

瞼を上げ、瞳に光を入れる。

……焦点が合わない。

だけど、女性だと思える様な影が目前にある事だけは分かった。

 

良かった…どんな女子レスラーに身体を持ち上げられて空中技をかけられるのかと不安だったけど大丈夫そうだ。

 

 

あれ?

じゃあ何で普通に持ち上げられてんの………あ、もしかして。

 

俺は、ちょっとだけ動く様になっていた身体を動かして自身の手を見て………びびった。

 

俺の体が縮んでいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

はい、どうも。

あれから、早いもので三年が経ちました。

初耳かと思うんで、自己紹介でもしときましょう、松風 守です。

前世の名前とは、違うんで初めは鈍い反応ひか出来なかったんですが、ソロソロ慣れて来ました。

俺の体が縮んでいると気がついた時期は本当に、大変でした。

何せ、死ぬ前の状態で違う世界に飛んだのだと思っていたのだから、

少年期に至るまでの数年間を赤ん坊で過ごさないといけないと知った時は涙もんでした。

何がキツイかって言うともうやる事なす事ぜんふがキツかった。

トイレも自分のタイミングで行けないし。

食べ物は、母乳で全く美味しくないし。

基本的に両親に監視されてる中で、へんな行動を取れば君が悪がられるので眠る事しかやる事が無かった。

 

あれは、もう味わいたくない。

本当にそう思う。

 

だが、それも今日で終わりを迎える事となった。

何があったって?

いいだろう教えてあげようじゃないかっ!

この世界に来てから苦節3年。

遂に俺は、親の監視から外れる事に成功したのだ。

やったぜ!

3歳と言えば自我がしっかりして来る年頃なので、それっぽく演技をするのは難しかったが其れにはもう慣れた。

そりゃあ、始めは抵抗がなかったと言えば嘘になる。

だが、人間その気になれば何とかなる物だった。

 

 

今、俺は音の鳴るスニーカーでペタペタ変な音を立てながら初めて一人で外出している。

何処へ行くのかと言うと、その辺の茂みの中だった。

茂みに入る理由としては、ある事をする為に身を隠したかったのだ。

茂みの中である事をすると言うと、エロい事を考える様な奴もいるかもしれないがそんな事はなかった。

残念だったな、ショタコンども(ドヤ顔)

 

 

………え?誰がお前なんて見て、興奮するかだって?

自惚れるな?

それぐらい分かってるから、マジレスはやめて下さい。

マジレスなんてされると僕の可愛い子供心が傷ついちゃいますぅ〜

 

冗談っ、冗談だから!プラウザバックしようとしないでっ!!

軽いジョークだから!

話も元に戻すから、もう少し時間を下さいお願いします(土下座)。

 

 

 

はいっ!!そういう事で、何か色々やっていたら茂みに着きました。

茂みに入る前に俺は、念の為に周囲を確認した。

 

よし、誰もいない。

確認終えて一気に茂み中へ入る。

……草がこそばゆい。

けど、我慢だ。我慢。

 

今から俺がする事はバレたらマズイかも知れないのだ。

少しぐらいの不快感には目を閉じよう。

俺は、そう自分に言い聞かせて頭を空にした。

 

今からしようとしている事は、元いた世界ではありえない必殺技の試し打ちだ。

正直に言うと出来る確証は無い。

たけどもし出来たら、カッコ良い(小並感)ので打てる事を願って試してみる事にしたのだった。

 

この世界に来る前にカミサマ(仮)はこんな単語を口にしていた。

 

【超次元サッカー】

【必殺技】と。

 

この二つで思い浮かぶ物は、一つしかない。

そうイナズマイレブンというゲームタイトルだ。

色々と説明を省くが簡単に言うと、とんでも技を使いながらサッカーをする少年達の青春活劇を描いたゲームだ。

 

その中の主人公、円堂守が使っている知名度の高いつ【ゴッドハンド】と言う技がある。

俺は、今からこの技を使ってみようとしていた。

 

家の中で一人になる事は、何度もあったから試そうと思えば今迄でも試せた。

だけど、もし必殺技が打てたとして、そんなものを家で使って仕舞えば、家の中を破壊しかねないと思うと怖かったから試してこなかったのだ。

 

 

しかし、実際に使ってみようと思うと純粋な疑問が浮かんで来てしまう。

 

『………本当に、使えるのかなぁ?』

 

思わず呟いてしまったが当たり前の疑問だった。

カミサマ(仮)のとんでもパワーは、実際に目の当たりにしたから否定しない。

……否定しないけど、凡人の俺にそれが使えるとは、どうしても思えなかったのだ。

 

だけど反対に、必殺技は使えると言っているもう一人の僕もいた。

俺には、元々イナズマイレブンと言うゲームの知識は無いはずだった。

無かった筈だと言うのに今の俺の頭の中には、数々の必殺技の詳細と打ち方が繊細に浮かで来ているのだ。

 

恐らく、あのカミサマ(仮)が何かしたのだろう。

だからこそ、打てる可能性も高いと感じていた。

 

 

『……よし、 打ってみるか 』

色々と悩んだ結果。

俺は頭に浮かんだゴッドハンドの使い方を取り敢えず試してみる事にした。

もし出なかったら出なかったで、必殺技が本当に打てるのだと信じている可愛そうな子供になるだけだ。

そう結論づけたのだった。

 

……確か、心臓に溜めた気を右手に込めて前に突き出すんだよな。

俺は、胸に手を当て、心臓で気を作ろうとして諦めた。

 

 

『気ってなんだよ…… 』

当たり前の疑問だった。

気なんていう、非科学だと言われている様な謎エネルギーの精製の仕方なんて、凡人の俺が知っている訳がなかった。

 

冷静になると馬鹿らしく感じる。

胸に当てていた手も離す事にした。

『あほらし。ゴッドハンド何てどうやって使うんだよ 』

わざわざ、母親にオネダリして一人になってした事が打てもしない必殺技の練習とか痛すぎる。

我ながら悲しくなってくる。

 

時間も無駄だし茂みから出て、その辺をプラプラしよう。

暗くなる前には帰ると言う約束をしているからあまり時間もない。

俺は、サッサと茂みから出る為に身長よりも若干高い雑草を掻き分けて進もうと両手を前に突き出した。

 

その時だ、

右手に淡い青色のオーラの様な物が纏わり付いたかと思うと一瞬で俺の手の十倍位大きな手に変化した。

 

『ふぁ!? 』

何が起きたのか、理解できなかった。

ただ頭にある【ゴッドハンド】がそっくりそのままの形で目の前に存在している事だけは、分かった。

 

『マジで、出たし…… 気ってこんな簡単に出るもんなのね 』

 

勉強になります、本当にありがとございました。

あまり、必殺技が打てて嬉しいとは思わなかったのでそんな適当な感想を抱くことしかなかった。

ただ打てる事は確認出来たのでサッサと茂みから出ていこうと思っていたのだが、問題が発生した。

 

『此れ、 どうやったら消えるのですかねぇ…… 』

 

全くゴッドハンドが全然消えないのだ(泣)

何なの此れ、いつになったらら消えんのよ!?

もうかれこれ1分ぐらい維持され続けてるんですが、サッカーボールでも止めないと消えないの?

サッカーで使用する必殺技なので用法容量を守って使わないと行けないのかと思い周囲を見周しサッカーボールを探すが見つかるわけがなかった。

 

このまま行くと門限に間に合わない可能性がありえてきた。

コレは、まずい。

今まで、手の掛かる少し可哀想な子供で通っているのに更にやらかしてしまうのか!

 

俺は、必死に右手を振るった。

まるで近くに飛ぶ虫を払うかの様に古い続けた。

そんな時だ、ゴッドハンドが少しだけ小さくなっている事に気がついた。

 

 

『ゴッドハンドェェ……』

まさか草と当たるだけで消耗するとは……

一体何処が神の手なのか。

紙の手って言った方がまだ納得してしまいそうだった。

だけど、今の俺には好都合だった。

ようは、草にゴッドハンドを接触させ続けていれば何れ消え去るのだ。

此処まで分かれば、暗くなる前迄に家へ帰る事が可能になる。

俺は、必死に気を纏い肥大した右手を振り続けるのだった。

 

 

 

 

3分後、俺は肩で息をしながら右手を見ながら呟いた。

 

『はぁ、はぁっ………全然消えないんだけど、何でぇ? 』

 

視界には、初めと比べると多少は小さくなった右手がある。

しかし、小さくなったと言っても10倍の大きさだった右手が9倍くらいになった変化しか見られなかった。

単純計算で後27分あれば消す事はできる。

だけどそれは、体力的にも時間的(此れから遊びに行く事が前提)にも効率が悪かった。

 

『はぁ、はぁ……何がダメなんだろう?』

 

俺は、息を整えながら頭の中にあるイナズマイレブン の知識を思い出そうとする。

 

……うん、ダメだ。

さっぱり分からん。

だってあの世界、適当と言って良いのか異次元的と言うべきなのか分からない不思議理論で必殺技を編み出したりするから、まず何を基準にすれば良いのかさえも検討がつかなかった。

 

『……そう言えば、必殺技が消える時っていつのタイミングだったかなぁ。アレ?大体任意のタイミングで消せてる様な気がするんだけど…………』

 

脳内の知識を思い出す度にドツボにはまっている様な気がして来た。

 

……まず、このゴッドハンドって成功したのかって事を考えよう。

大分、適当にやったら出来ちゃったけど、其れがいけなかったのかもしれない。

 

……いや、まぁ分かんないけど。

一応ね?

必殺技が失敗したと仮定しよう。

もし必殺技を失敗していたらどうなるのかを思い出してみよう。

……大体皆、吹っ飛んだり倒れたりしてたよなぁ。

 

うん、無いな。

試したく無いし、次だ次っ!!

 

俺は、この案は無かった事にして他の案を考える事にした。

 

 

……そう言えば、上手く必殺技が出たとしても任意で必殺技を終わらせる以外に消える場面はとても良くあった。

 

そう、必殺技の打ち合い時だ。

必殺技を打ち合うとどちらか片方の必殺技は消える光景が俺の知識の中にも多々あった。

二つの必殺技の打ち合いがあった時に消えるのは、威力の弱い必殺だった筈だ。

 

何故威力の弱い必殺技が消えてしまうのか。

恐らくだが、必殺技にも熱量(エネルギー)の様な物を保持しているのだと思う。

それぞれの必殺技には、大小様々なエネルギーが内包している。

それらが衝突などしてエネルギーが消耗する事で先に形を維持するのが不可能になった必殺技が消えるのだろう。

 

 

この推測に至った俺の行動は早かった。

要は、ゴッドハンドが持っている熱量を消耗させれば良いのだ。

やる事は、さっきと一緒で他の物質などに接触させるだけだ。

だけど、其れをやっていては時間がかかるので効率が悪い。

 

此れらの事を頭に入れた上で俺は、ゴッドハンドが付与された右手を全力で地面に叩きつけた。

『【ゴッドハンド】!! 』

叫んだのには、特に理由は無い。

ただ、せっかく必殺技が出たのに何もせず終わるのは悲しかったから叫んだだけだった。

 

ドンっ!!

必殺技の口上が終わると同時に地面と接触した土煙が上がった。

視界が冴えぎられる中で、勢いが止まらないゴッドハンド辺りからズズズズッ!メギッ!!ポキッ、と心地よい感覚が帰って来る。

時間にすると大体2秒くらい味わっているとプツリと無くなったのが分かった。

 

土煙をあげるエネルギーが消え去り、宙に舞っていた砂や埃が再度地に伏せて行く。

視界がクリアになり、目の前にあったのは大きな手の形をしたクレーターだった。

 

流石必殺技と言うべきなのかは、分からないがかなりの熱量を持っていたのだろう。

感覚では、少し硬い粘土を潰しているぐらいだったのに、此処までの威力とは……

流石カミサマ(仮)が押し付けてくれた能力だと、他人事の様に思いながら俺は、茂みから這い出ようとした。

何も考えず、草を掻き分ける為に両手を前に出すと、何か違和感を感じた。

 

その違和感に嫌な予感を感じ始め、何故か泣きベソをかきながら必死にその理由を模索していると気が付いてしまった事があった。

 

………右手が曲がってはいけない方向に曲がり骨が肘から突き出ているのだ。

人間不思議な物で、ケガを認識している時していない時では痛みの感じ方が違ってくる。

この不思議現象が徐々に起き始め、ジワジワと痛みが込み上げて来るのが分かった。

このまま行くとトンデモナイ痛みが襲って来る事を本能的に理解した俺にできる事は、二つしかなかった。

 

『マッ、ママァァァァアアアッ!!!』

 

激痛になって襲って来る痛みに俺は、泣叫びながら必死に帰路を辿るのだった。

 

 

 

 

 

 

其れからの事を簡単に言うと『経った30分外に出ただけで何があったのよ!!』と怒られ、全治半年の大怪我が治った後も数年間は一人で遊びに出る事を禁止されるのだった。

 

そして、必殺技の事は全て忘れて普通に生きる事を決心したのだった。




あざした!


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2話

お願いしやす


まさかの、ゴッドハンド事件から半年が経った。

漸く完治と言えるぐらいに迄治ったのじゃ無いか、そう思った矢先の事だった。

『おきろ、 起きるんじゃ………… おーい、 おきろ!!』

 

…… 聞き覚えのある声が聞こえる。

何処だっただろうか。

薄っすらとする意識の中。

脳内でゆっくりとだが思考が始まっていく。

脳内で何かを思い出そうとしていた。

 

少しの間、微睡みで身体が心地よい感覚に犯されながらも、何となく思考を続けていった。

どれくらいの時間がたったのかは分からない。

ぼーっとしながらも少しずつ頭を動かしていく。

そうして、 出てきた結論は一つだった。

 

『……此れは、 夢か 』

『滅茶苦茶待たせて結局出た結論は、それか!! 儂じゃ儂っ!神さま(仮)じゃ!! 』

俺の言葉に続いて、神さま(仮)が叫んだ。

何故か、息を荒げている神を見て、俺は冷静に話しかけた。

 

『神さま(仮)? ……あぁ、アンタか、何かようですか?』

『何かようですかじゃ無いわっ!! お主、折角儂が力を与えてやったと言うのに、まだ一回しか使ってないでは無いかっ!! どう言う事だっ!!! 』

『力? …… ああ、あれね。 ってそう言えば忘れてた! アンタが無理矢理押し付けた奴、一回使っただけで右腕が複雑骨折した挙句に骨が肉を抉って外に出て酷い目にあったんだけど、どうなってるんだよっ!!』

夢の中だからか、直ぐに思い出せなかったが、この件については、いつか文句を言おうとしていたのだ。

『っ、ナンジャと!?どう言う事じゃ!?』

『うるさいっ! 取り敢えず数十発殴らせろっ!』

何故か、驚いた顔をする神さま(仮)。

その顔を見て身体に入る力が一段と強くなった。

……思ったよりも、治りが早くて良かった。

これで思いっきり殴る事が出来る。

俺は、右手で握り拳を作り神さま(仮)に飛びかかろうとしたが、

 

 

又もや身体が動かなくなった。

『少し【落ち着け】 話が出来ん。』

どうやら、また神様が力を使った様だった。

前と同じで全く身体が動かなくなったのかと、思ったが、違った様で口だけは動く。

取り敢えず俺は、殴る事を諦めて文句を言う事だけに専念するのだった。

 

『落ち着けって言われたって、アンタにこの恨みが分かるかっ! 折角、一人で外に出られる様になったと思った矢先に、あんな酷い目にあったからお母さんに滅茶苦茶怒られて、一人にするとする危なかっしいって精神年齢23歳の俺が言われて外に出して貰えなくなったんだぞっ!! この何とも言えない情け無い気持ちがアンタにわかるかっ!? 』

 

隣の家のお嬢さんの方がしっかりしてる何て言われた時の俺の悲しみが分かるだろうか。

分からないだろうな、神だからねっ!!

 

『おっ、おう、 なんかすまなんだ 』

俺の気迫呑まれた神さま(仮)が若干引き気味に謝罪をするが、逆に悲しくなって来た。

『謝るなよぉ…… 自分で言ってて何か悲しいじゃん…… 』

『いや本当に、すまんかった。 』

 

 

 

 

 

 

『『…………』』

変な空気が流れる。

お互いに、気まずいのか言葉が出なかった。

文句も言い終えた俺には、此処にいる意味が無い。

それならさっさと、家で眠りにつきたい。

そう思った俺は、神さまに一言かけて帰る事にした。

 

『じゃ、言う事は言ったんで帰りますね。サッサと術でもかけて帰らせて下さい 』

俺がそう言うと神様がなんかよく分からない術を掛ける準備を始める。

『お、おう…… なんかすまんかったな。 【帰..

って 待て、ワシの用事が終わってない! 』

 

何かを思い出した神様。

術を中断して近づいた。

神さまの用事って言うのが、嫌な予感しかし無かった。

『……用事ってなんですか。俺には、無いんですが?』

『まあ、そうかもしれないがのう…… 一応、聞かせてくれ、 お主 一度使っただけで骨が折れたと言っていたが其れは本当か? 』

『……嘘だったら、こんなに怒んないですよ 』

『ふむぅ…… おかしな話だのう 』

『おかしな話って、あんたが無理矢理渡したものじゃないですか…… 』

『いや、まぁそうなんじゃがのう…… そんな力はまだ出ない筈なんじゃけど…… まぁ良い、少しだけ出力を下げておく 』

 

神はそう言うと、 掌を俺に向けると神の手が青白く光り輝き始めた。

これぞ、本当のゴッドハンドやぁ〜と馬鹿な事を考えた瞬間だった。

何て表現すれば良いのか分からない、嫌な感覚が胸に冷たく走った。

 

『っ…… 何を』

一瞬で身体中の汗腺から冷汗が噴き出した。

まるで、心臓の中側に氷水をぶち込まれた様な感覚だった。

力が入らない。

立つ事が難しく地面に座り込み、 睨む事しか出来なかった。

 

神が俺の上に立ち、俺が神の下に座り込む。

自然と神が、 俺を見下す様な形となっていた。

 

『…… 』

神が、ただ俺を見ているだけだと言うのに、手に入る力が強くなっていた。

『っ …… 』

『そう、 睨むな。 お前に渡した力と魂が癒着し過ぎている所為で、 出力を下げた時にお前の魂に影響が出ただけじゃ。』

『魂に影響って…… 』

言葉の響きだけで、悪い物にしか感じられない。

 

『何、一過性性のもんじゃ…… 出力も下げたしこれで思う存分使う事が出来るぞ 』

『いや…… もう使わない、って決め..

 

『使え、 使いこなせ、 さまなくば死ぬぞ 』

 

言葉を遮って、 神がそう言った。

仮にも神からの宣告だ。

思わず、同じ言葉を呟いていた。

 

『…… 死、 ぬ? 』

『ああそうじゃ、使わぬと死ぬ …… っと言っても、 可能性が高いって話だがな 』

『高いって…… 大災害かなんかでも起こるって事です?』

『まあ、間違いじゃないのぅ』

『えっ? 』

間違いじゃないのかよ。

何それ、怖い。

早くあの町から逃げないと。

一瞬でそう判断した俺は、神様にその情報について伺おう事にした。

何時、何処で災害が起こるのかを知らないと逃げる事も難しい。

此処は、もう神様の皺げた足裏だって舐めて聞くしかない。

俺は、神様の足元に近づきながら訪ねた。

 

『あの、何時頃、 どの辺りで起きるのでしょうかぁ…… 』

今の俺は一応、 可愛い子供の形をしている。

涙目で頼んだら、ワンチャンあるんちゃうのかと思いながら、目に涙を潤ませる努力だけは頑張った。

 

『気持ち悪っ! 』

帰って来た言葉とは、神のモノとは、思えない言葉だった。

『おい、そこまで言う事無いでしょう 一応、可愛い子供だぞ今の俺は 』

思わず、そう言ってしまった俺は悪く無い筈だ。

『前のお主を知っている者からすれば、気持ち悪いわ。 何じゃその儂に媚び諂っているかの様な態度は』

『災害で死ぬかもしれない未来が待ってるって、言われたら誰だってプライド売ってでもその情報を聞こうとするでしょ! 普通!! 何だよその反応、アンタの汚い足を舐めてでも情報を得てやろうと思った気も失せたよ…… 』

『お主、 そこまでしようとしてたのか……』

 

真上で俺を見下ろしていた、神が数歩後ろへ下がった。

神の足の裏は、意外にも綺麗だった。

 

 

『最近死んだばっかなんですよ?流石にもうちょっと生きたいですよ』

『まぁ……そりゃそうじゃろうなぁ』

思う所があるのか、神さま(仮)はさっと目線をそらした。

 

『で、何時頃、何処で其れは、起きるんですか? もっと言えば、何処に逃げたら助かるんです?』

『逃げ場など無いぞ』

『………… は? 』

『訳が分からないだろうが言っておこう。 そいつは、放置しておくと世界中をも滅ぼす。 常人や、お主の世界の科学力では話にならん程の化け物が6年後に現れるんじゃよ』

『化け物?…… 大災害なんじゃ』

『似た様な物じゃよ 。見た目は普通なんじゃが地を割き、空を破り、亜空間を生み多くの人間を闇へと吸い込む……そんなモノ、災害と言わずしてなんて言う 』

 

神の言葉に息を呑むしかなかった。

そして同時に何故、俺をこんな世界に送り込んだのかと言う疑問を感じていた。

 

そもそもだ、何故そんな化け物がはびこる様な世界に俺を送ったのかと言う話だ。

超次元サッカーを流行らせたいって言うだけならば、前にいた俺の世界に俺を生き返らせれば早かったはずなのだ。

それなのに、神様は俺をわざわざこの様な世界に送り込んだのだ。

意味が無いとは思えなかった。

 

『何で、そんな世界に俺を…… 』

『いやぁ……すまん。 超次元サッカーが出来そうな世界へ適当に送ったら凄まじい世界じゃったんじゃよーー許せ』

 

何か凄い適当だった。

もっと俺に不思議な力があって、俺じゃ無いと倒さない敵を倒して貰おうとしてあの世界に送った説が良かったが、そんなモノは全く無い様だった。

 

『許せるかっ! 何で仮にも神様のアンタの不手際で二度も殺されないといけないんだよっ!! くそ、やっぱり一度殴らせろっ!!!』

 

実はなんか俺、 凄かった説が否定され又もやコイツのミスかと思うと、怒りで力がみなぎって来た。

俺は、勢いよく立ち上がり【熱血パンチ】を打ち込もうとした瞬間だった。

 

 

何度目か分からない硬直状態にされていた。

うん、そろそろ学ぼう。

毎度毎度このパターンだわ。

 

少し反省をしている俺の前に神がやって来る。

憎めない笑みを浮かべて神は、口を開いた。

 

『まぁ、そう言う事じゃから、技を磨け。 大体5年後にそいつはやって来る。 覚悟だけはしておけ 』

『10の子供に何言ってるの!? 一人でそんな奴を倒せって? アンタ、世界観間違えるって!!無理無理、大体イナズマイレブン そんな話じゃないよ!??』

『そこは、安心せい。神様パワーで出力を上げて超次元技を本物の超次元技にしてやる』

『それ、やったらまた骨折れるわっ!!』

『まぁ、お主に似た様な奴らが何人かおるそうだから、一緒にやってれば何とかなるさ☆ ガンバ!!』

 

其れが、神の最後の言葉だった。

 

 

 

 

目を覚ますと背中がとても冷たかった。

身体中汗塗れで気持ち悪い。

時計を見ると、まだ日も登らない様な時間帯だった。

こんな時間に起きてもする事がない。

何時もならば二度寝をするのだが、今日はその気にならなかった。

布団から、上半身だけを起こして治った腕をみる。

 

神様(仮)は、技を磨けと言っていた。

磨かなければ、きっと死ぬのだろう。

思わずため息が溢れてしまう。

『はぁ……やるしかないのかなぁ?』

 

このままでは死ぬと聞かされた。

だが、逆に技を磨けば死なない可能性もあるのだろう。

そう思うと、やるしか無かった。

少しだけ嫌な予感がしてしまうが、 神様(仮)は出力を抑えたと言っていた。

布団から立ち上がり、部屋を去り階段を降りる。

物音を出さない様に一階へと降り、 庭へと繋がるリビングの窓を開けて外へ出た。

『…… もうちょっと、離れるか』

あの神の言葉を鵜呑みにしていたら、酷い目に合う様な感じがした俺は、家を離れ隣の山へと入り込んだ。

一応、人の土地である。

だけど山の持ち主と面識がない事は無いので、きっとバレても不法侵入には、ならない筈だ。

そう思いながら、山奥へと侵入し、視線が無い事を確認して半年ぶりに必殺技を発動した。

『【爆裂パンチ】っ!!』

何と無く、拳に炎が纏うようなイメージをし、気だと思う力のうねりを両手の拳に送り込んだ。

 

拳が熱い。

まるで拳の中の血が沸騰しているかの様な感覚があった。

俺は、一本の木の前に立ち力強く踏み込んだ。

 

『……』

多分これで何発も殴れば爆裂パンチになるんだろうけど、また骨が折れそうで怖かった。

優しく木に拳を当てれば良いのだろうが、それでは本当に出力が下がったのかが分からない。

しっかりと、殴ったとしても身体に負担が無い事を確認しなければ前に進まない。

進まないと言うよりは、進みたくなかった。

 

 

 

 

拳を開いたり閉じたりしながら、悩んだ。

 

あの神、 全く信用ならないからなぁ。

出力を下げたとか言ってたけど、蓋開けて見たら変わらずポックリ逝ってしまう未来が見えるんだけど。

でも、 さっさと使い方を学ばないと、 何かしらないけど災害に殺されるって脅されちゃったし……

使わないと死ぬのか。

使わなくても骨がまた死ぬのか……

 

 

『……やめようかな』

 

気付けば、こんな独り言が出ていた。

 

俺は、この言葉をかき消す様に頭を振るいポジティブに考えて自身に言い聞かせてみる事にした。

 

俺は、拳に蠢く熱く轟く衝動を全て木にぶつけた。

一発目の拳で木の芯を打ち抜き、間を空けず二発目の拳で芯を中心として穴を広げる。

右拳を前に出し、0コンマ何秒の世界で左拳を遅れて前に突き出す。

後に突き出した拳が目標の障害物と接触させる前には、先に突き出した拳を抜き再び突き出した。

 

三発四発……十発と衝動に任せて殴り続け、最後には木を真っ二つにした。

 

『おぉ…… すげぇ(小並感)』

小学生以下の僕では、これ以上の感想は出てこなかった。

当たり前の話だけど、とてもじゃないが5歳児が繰り出した拳とは思えない破壊力。

まさか俺が、 伝説の5歳児だったのか……

などと馬鹿な事を考えながら両拳をふと視界に入れると血に塗れていた。

 

両の手は木屑と言って良いのかは分からない様な木片が突き刺さっていた。

大半の木片は、数ミリ程度の木片が食い込んでいる程度だが、何個かの木片は拳を貫通していた。

 

『 』

 

痛みなんかを感じる前に、目の前の光景が衝撃的過ぎて一瞬思考が止まった。

冷静さを取り戻した後、 取り敢えず一本貫通している木片を口で抜いて見た。

 

 

 

思っていたよりも、大量の血が吹き出る。

血を止めるために慌てて、無事(?)な方の手で止血しようとするけど無事(?)な方の血と危険な方の血が滲み合う。

元から出ていた血が凄過ぎて止血できているのか出血しているのかが最早分からなかった。

 

取り敢えず分かった事は俺一人じゃこれはもうどうする事もできないという事だった。

 

だから俺は、取り敢えずこう叫びながら帰路を辿るのだった。

『タスケテェェ、ママァ〜〜!!』

 

 

 

 

敷地中に、仕掛けている防犯カメラから侵入が現れたと分かり、侵入者の動きを監視していた者がいた。

その者は土地の当主であり、少女か大人の其れへと変貌したばかりだの瑞々しく麗しい女性であった。

彼女は、 即座に侵入者を排除するべく用意していた対抗策を投じようとした所で危険視していた手の者では無い事に気が付いた。

侵入の存在は、一応の面識のある人間だった。

彼女の妹と同い年の少年で、 偶に良く分からない奇行に走る5歳児と言う様な印象があった少年だ。

大人しい性格の妹と奇行な少年の仲は良くも悪くもなかった。

しかし、思っていたよりも少年の精神年齢は5歳児の中では高い為、 彼女から見ると妹と仲良く内気な妹とも仲良くしてくれそうな人間だと思い好感度は比較的に高かった。

 

こんな夜中に出歩いて今度は一体何をしでかすのだろうか。

気付けば張り詰めた空気感は何処かへと消え去り、彼女は楽しげに少年を観察しようとしていた。

 

少年が爆裂パンチ!っと叫んでいるのを聞き、

戦隊モノか何かのワザなのかな?と可愛い者を見る目で眺めていた。

 

少年は、技名を挙げた踏み込み動きを止めたのを見て彼女は、どうしたのかと思っていると、可笑しな事を言い始めた。

 

 

 

『シュレディンガーの猫があるだろう?

あれは、箱の中に死んだ猫か生きている猫かという半分の確率が箱の蓋をあけるまでこの世の中に存在するという事だ(多分)

つまりだ! 俺が今から目の前の木に爆裂パンチを仕掛けた時に、 俺の骨が折れる可能性はちょうど半分!

そう50%!!

大体の確率で折れない!!

 

つまり、俺の骨が折れる可能性はゼロだ!!(洗脳)

行けっ!【爆裂パンチ】っ!!』

 

何かに焦りながら、早口で独り言を呟く少年を見て、あの子は何を言っているのだろうと思いながら頭の片隅で、それっぽいけどシュレディンガーの猫はそんなのでは無いよとツッコミを入れた。

5歳児がそんな言葉を知ってい事に対して、また少しだけ少年の奇行的評価が斜め上に上がっていた時だった。

 

ズンっ!!と、拳が木の芯を打ち抜いた音がした。

まさかと思いながらも少年を見ると、彼女の目で薄っすらと映る速度で拳を突き出し続けていた。

その光景に驚きながら、少年が拳を突き出していた目標物を目に入れた彼女は、更に驚愕する事になるのだった。

 

 

 

『タスケテェェ、ママァ〜〜!!』

 

……棒読みで叫ぶ少年の声は、ネタにしか感じられない。

結構な……いや、重症にしか見えない傷を負っていると言うのに、それでも何処か余裕の見える彼の行動が奇行に見えるのだろうなぁ、と彼女は結論づけながらも、折られた木からは視線を外す事は無かった。




あざした


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3話 駄作の主人公ついに原作の主人公と出会う。

お願いします!


あの、血の熱血パンチ事件から2ヶ月ぐらいがたった。

急いで家に帰り、マザーに病院へ連れて行けと言った時のマザーは恐ろしかった。

 

マザーは、 電気は消して眠る人間なので部屋の中は闇に包まれている。

だというのに、 何故かマザーの整った顔だけはハッキリと見えた。

何を言ってるのか理解できないだろうが安心してほしい。

 

僕も分かってないから。

まぁ、きっと俺みたいな転生特典持ちなんだよと自分に言い聞かせた。

俺みたいな転生特典持ちなら、どうせまともに使えないゴミ恩恵だから、怖くないわ!

そんな感じでマザーに対する恐怖心を和らげようとする事しか俺には出来なかった。

 

しかし実際は闇に蠢くダークマザーに対して、蛇に睨まれた蛙の様に気づけば思考さえもが止まっていた。

これ以上、 マザーを怒らせてはいけないと子供に備えられたシックスセンスの様な衝動にかられたのだろう。

 

『まもる? ……………何でそんな怪我をしているの?……… 』

『いや、これは…………

 

 

 

寝て起きたらこうな……ッテタンダヨーママー』

『何言ってるの?まもる。この家は、確かに木造建築だけど…… まもるの力で壊れるほど弱く作ってる訳ないじゃない。 あなた、こんな夜遅くに勝手に出歩いたわね? 』

『いや、此れは……』

 

地球を守る為だなんて言葉を続けようとしたが、そんな事を言える訳が無かった。

 

『勝手に行動したら駄目だと行ったわよね? 何で、 約束を破ったの?』

『いや、その………… なんか、すいません』

『良いのよ、まもる。 私との約束は破っても。だけど、罰は必要よね?取り敢えずその怪我が治るまでは 外出禁止。それと、私の目の届く範囲以外に行ってはダメよ』

『え……』

『はい、じゃあさっさと病院に行きましょうか。お母さんは眠いわ 』

 

こんな会話の結果。

病院に行き医者から全治2ヶ月との言葉を受けてしまい俺は二ヶ月の間何もすることが出来なかった。

それから本当に二ヶ月の間は監視され続けた。

当然神様との約束は、全く果たされている訳がなかった。

 

 

 

ここまで立て続けに怪我をしすぎた俺は、流石に親に怪しまれるか呪われた子なのでは無いのかと判断されて捨てられる可能性が微レ存だったので必死に5歳児を演じ切った。

その甲斐あってか、捨てられる事もなく怪我が完治したので外出も許可された。

 

つまり、また超次元技の練習が出来てしまうのだった。

 

この二ヶ月の間に俺は、考えた。

考えて一つの結論に至った。

それは、物理系統の超次元技には、俺の身体が耐えられないという事だった。

初めは、 作用反作用の法則が働いた為に、力を加えた向きと反対方向にある自身にも同じ力が加わってしまい大怪我をした。

これにより神様(仮)は出力を抑えたみたいだけど、結局浅くはない傷を負ってしまった。

 

たった2回しか使っては無いが、超次元技と俺の身体が合っていない事は、このたった二回でハッキリと理解できた。

 

だから、この二ヶ月の間。

俺は別の方向性にかけるしか無いと思い、 新たな可能性を見出した。

 

其れが、ペンギンだった。

皇帝ペンギンという必殺技がある。

この技は、転生特典としてある超次元技の知識からでも理解が出来ない必殺技だった。

 

何故、ペンギンを呼び出せ。

何故、ペンギンを添えたサッカーボールを一緒にシュートするだけで強い技が打てるのだろうか。

全く分からなかった。

 

マトモに技が出せないのだから、知識ぐらいはしっかりとしたモノを寄越せと神に言いたくなったが、 逆に俺は其処に可能性を感じていた。

 

ペンギンと共に技を発動するだけで必殺技が使えるのならば、ペンギンだけで攻撃させてもそこそこの攻撃力は得られるのじゃないのか、と。

此れを考えた時、俺はじぶんが天才かと思った。

 

幸い色んなペンギン技がある事は知識の中にある。

だから全員を呼び出して俺の代わりに攻撃して貰えれば、一切俺に害がない。

 

つまり怪我をしない、母さんに怒られる事もない!!(此処重要)

 

 

 

そんなこんなで俺は、何時もの裏山に来ていた。

人が寄ってくることもなく、人目を気にすることもない、人の土地に勝ってに侵入していた。

バレる事は無いだろうけど、そんなに長居をするのは宜しくない。

俺は、 多大な期待を込めてさっさと皇帝ペンギンを呼び出してみる事にした……

 

『来いっ!!皇帝ペンギン2号!!!』

 

指で輪っかを作り口笛を吹こうとする。

そんな特殊技術は持ち合わせてないので、空気が掠れた様な音しか出なかった。

 

失敗したか?…… そう一瞬思ったが、結果だけ言えば召喚に成功した。

 

地面の下から可愛らしく、ひょっこっと頭を覗かせるペンギンがいた。

ぴょこんと、地面から這い上がると腹に三日月のマークが入ったペンギンが一体俺の目の前にいた。

 

……俺から、よく分からない生き物が出て来た。

何か、 不思議な感動を覚えた。

だけど一つ、 不思議な点があった。

皇帝ペンギン2号はペンギンを五体召喚するシュート技だ。

ペンギンが四体足りないのだ。

俺は、何処かに隠れているだろうと探したが、全く見つからなかった。

 

『ええーと、他の子達は?』

『……ぺっ(おまえ程度の人間の為に、俺たちが全員出て来るわけねえだろうが)!!』

 

……なんか、そんなニュアンスが含まれてそうな感じでペンギンは地面に唾を吐いた。

 

『……』

何だこのペンギン、見れば見るほどふてぶてしかった。

ペンギンは、どこからか長細い魚を一匹取り出すと嘴で加えると俺を見た。

 

『ぺっ(おい、其処の出来そこない火ぐらい付けないか)』

『えぇ……』

 

俺は、ペンギンの鳴き声を聞き思わずそう呟いていた。

何故か、ペしか言ってない筈だというのにペンギンの言っている言葉が手に取れてわかる。

そのせいで余計にペンギンの俺を見下している事がよく分かった。

 

興味のない事だろうけど、生前の俺は他人から見下されやすかった。

そこまで、胸を張って生きていける様な人間ではない事は理解していたから前世では、当然の事だと自分に言い聞かせていた。

 

 

だけど今は違う。

俺は、生まれ変わったのだ。

初めから舐められていたら、 学生生活の初めで失敗した様な感じで暗いものになる(実話談)

何かもう、そんな感じになりかけているけど未だ修正は効く年齢なのだ。

 

それに、神に変な力を譲渡もされている。

その力で良く分からないけど、 とてもやばい(語彙力)災害を何とかしろみたいな事を言われたのだし、少しぐらい胸を張って生きても良いじゃないか。

ある意味、 この世界を守れコールを受けたみたいな物……じゃないけど、 捉えようによってはそう取れなくも無い様な事も無くないのだ。

俺は、 目の前にいる偉そうな青色の鶏冠をもつペンギンの前に立つ。

ペンギンが目の前に立った俺に対してメンチを切ってくる。

……ペンギンだとは思えない、殺気を感じる。

やっぱり文句を言うのは止めようと思ったが、自分の出した動物に舐められるのもいけないので、重い口を開いた。

 

『おい、ペンギン……お前は俺が生み出した存在なんだから、少しは主人を敬……』

『……ぺっ!!』

『………』

 

強気で言った瞬間に叩かれた。

まさか文句を言い終わる前に叩かれるとは……

思わず思考が停止してしまう。

 

『……はっ!、おいペンギン!! お前なぁ、俺は主』

『ぺ!!』

 

……又もや言い切る前に、ペチンッ!!と叩かれた。

 

『ぺ(中途半端にさえも力を扱えていない癖に、何が主人だ、 笑わせるなよ坊主)。』

 

そして、今度はペンギンの方からそんなニュアンスが含まれた【ぺ】を受ける。

 

これには、流石の俺もキレた。

『おい、ペンギン。……口の使い方には気をつけろ』

『……』

 

俺の雰囲気が変わった事に気がついたのか、 ペンギンは、 俺を睨み返す。

ペンギンが俺を見ているのを確認し、分かる様にゴットハンドの準備を始めた。

 

又もや、怪我してしまうのではないかと思うかもしれないが安心して欲しい。

俺はこの二ヶ月である技術を習得したのだ。

その技術とは、必殺技を発動だけさせてそのまま放置していると気付けば溜めていた気が何処かに霧散する技術(白目)だった。

 

……まさか放置していれば、何れ消えるとは思わなかった。

この事に気付いていれば始めの大怪我はしなかったのじゃないかと考えた時に悲しくなるので俺は技術を習得したのだと自分にいい聞かせていた。

 

この技術を使い、俺はペンギンを少しビビらせようとしていた。

一応、言っておくが絶対に打たない。

撃ってしまった瞬間、俺の拳が逝ってしまうからだ。

 

何となく拳に気を流すと光輝く。

 

『誰が、中途半端にしか使えない坊主だって?(真実)それが、本当かどうか、今から見せてやるよ!!(大嘘)ゴッドぉおお、ハンド!!』

 

言葉と共に、拳をペンギンに勢いよく前に出す。

決してペンギンには当たらないが、 この技の迫力が分かるようにギリギリの距離まで手を突き出した。

 

それを目にしたペンギンの目がほんの一瞬変化した。

もう遅いと、ニヤリと笑みを浮かべながらオーラの様なモノを掌に纏らせる。

本来の掌の十数倍に大きくなった掌は、強く空を切り、 風圧で ファサッとペンギンの鶏冠が強く揺れさせた。

 

これで、何となくこの必殺技の威力を感じてもらえただろう。

そう思いながらドヤ顔でペンギンを見た。

 

『…………』

 

全くペンギンは全くびびっていなかった。

ビビらないどころか、溜息さえも幻聴で聞こえて来るような気がした。

 

何で、こいつはこの光輝く拳を見てビビらないんだ!!

酷く焦った。

 

これが当たったら、骨の数本では済まない覚悟をしなければならないんだぞ?

まさかこいつ訓練されたペンギンなのか!?

そんな事を考えれば、考えるほどにペンギンが怖くなる。

 

……そしてそれ以上に発動してしまった腕をペンギンに突き出している事が恐怖以外の何物でもなかった。

 

『……』

『……』

 

嫌な沈黙が続く。

光を纏った掌のオーラが消え去るまで何もできない俺。

対してその拳を見つめ続けるペンギン。

最早、俺の命運はペンギンが握っていると言えた。

少しでもペンギンがこの腕に何かしようとして触れて仕舞えば、俺の腕は終わってしまう。

 

……なんで、こんなどうでも良い事にムキになって必殺技を発動したんだよ、おれぇ。

こんな、少し目付きの悪いただの鳥類相手に何故ムキになったんだよ……

 

俺は、そう後悔しながら最悪ペンギンに土下座を行う事も辞さない覚悟でいると拳の光が沈み始めた。

光の量から見て、あと数秒くらいすれば無事に必殺技が消えてくれる。

俺は、ホッとしながらペンギンから離れようとした時だった。

 

『…ぺっ!!』

 

ペンギンが俺に前蹴りを放ってきたのが目に見えた。

 

……いや、少し違った。

ペンギンが前蹴りをしていると気づいた時。

尋常ではない威力の蹴りの衝撃を食らわされていた。

ペンギンの蹴りと触れた部分は、もう少しで、光が消えそうだったゴッドハンドを付与した拳だった。

力負けした拳は俺を置いて上へと飛んでいく。

地につけていた脚は地面と離れ、気づけば空高く浮いていた。

何を言っているか分からないだろうが、俺が一番分からなかった。

 

『ぇ.』

 

これ以上の言葉は出ず、何もできないまま、俺は空中旅行を楽しむことになるのだった。

 

 

 

『ぺ(やれやれ、とんだ雑魚に呼ばれてしまったものだぜ)』

 

右足を軽く引き摺りながらペンギンは、山から離れていくのだけが小さく見えた。

声なんか聞こえないのに、何かそんなニュアンスが含まれた言葉を耳に入れながら俺は、ロケ○ト団の気分で何処かへと飛ばされるのだった。

 

 

……嫌な感じとは言わなかった。

其れだけは、言っておこうと思う。

 

 

 

 

 

 

海が鳴る町。

こんな噂が流れるようになり、この町がそう呼ばれる様になったのかは分からないが、 そういう事だとしよう。

この町には公園があった。

 

公園には、一般的に児童用の遊具とする物が幾らか並んでいる。

そんな遊具の一つ、振り子を参考にして作られた形のブランコに一人の少女が揺られていた。

少女を振り子とし、 流れに任せて力を込めると振り子の揺られる角度も大きくなっていった。

振り子が揺れると、繋いでいる鎖が軋み嫌な音を鳴らしている。

不快な音を耳に入れながら。

ゆらゆらと揺れていると振り子の動きが徐々に小さくなっていく。

 

ただの遊具に対して思う事ではないが、生産性は無く寧ろ不快でしかない行為であった。

少女は、子供ながらそう考えていた。

 

まるでこのブランコと同じ様に現状を変える為の努力をしたとしても結局、無駄に終わる。

また、無駄に終わらなかったとしても、少女が何かをしてしまったが為に、誰かを不快にしてしまうのではないか。

頭の良い少女は、 自身の無力さを味わい自身の思いを殺し続ける。

これが最も誰にも迷惑をかけずにいられる最適解なのだと結論づけて、日々を過ごしていた。

 

空を見ると薄っすらと暗い。

今日も一日が終わる。

私は、また一日 一人で過ごす事が出来た。

 

そう、思いながら空を仰ぐと心まで暗くなりそうになる。

雨は降っていない。

だというのに、自然と目から雫が零れ落ちそうになる。

 

少女は、ただ茫然と空を仰ぎながら遊具に揺られる事しか出来なかった。

 

 

 

そんな少女から少し離れた位置に一人の少年がいた。

髪色は、茶髪。

憶測でしかないが、おそらく少女と同じくらいの年齢だと思わされた。

 

『…………幼女時代のなのはぁ、 はぁはぁ、』

 

少年の顔の造りは異常と言えるほどに整っている。

しかし、今の少年にはそれが無く不気味な笑みを浮かべていた。

 

『………いま、 行けばぁ なのはと、

 

 

 

ぐへへへぇ…… 』

 

何かの覚悟を決めた少年。

少年は、少女へとゆっくりと足を進め始めた。

 

一歩足を前へ進むほどに、少年の口から無意識で溢れる吐息は粗いものとなって行った。

 

もしも、少年が少年では無く汚いおっさんであったのであれば、とてつもなく危ない状況だったのであろう。

 

しかし、少年は少年で美少年ですらあってしまった。

それ故に、 日が沈み周囲が暗い現状であっても不思議と絵になっていた。

今の少年の行動を目にした人間達は恐らく、 気のある少女に話しかけようとする少年に見えていたのだろう。

 

そう人間達は、だ。

 

『ペッ!!』

息の荒かった少年は、 背後からそんな鳴き声がが聞こえた。

しかし少年は、その鳴き声に対して一切反応をせず少年の小さな肩に手を伸ばそうとした瞬間だった。

 

『はぁはぁなのはぁ…ぐぺえっ!??』

 

少年は、真横からとてつもない衝撃を受けた。

何があったのかと思い、衝撃の元となったであろう方向に視線を送ろうとした所で気づいてしまった。

少年は、空を飛んでいたのだった。

 

『いやーな、かーんじー!???』

 

少年は、 何故だか分からないがこの言葉を使いたくなり錯乱しながらもそう叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

『ぺ (ロリコン野郎が、 気持ち悪い顔して少女に近づくんじゃねぇよ) 。』

 

太刀魚を片手で握るペンギンは、そう吐き捨てた。

 

『…… 』

背後から変な声が聞こえた少女は、音のする方へと振り返りペンギンを目にした。

ペンギンは、 太刀魚をまるで煙草の様に口にしていた。

少女は、 目の前にいるペンギンを見て口を開く事しか出来なかった。

 

何故、ペンギンがこんな所に此処にいるのか。

何故、 太刀魚の先に火をつけていないのに煙が出ているのか。

何故、知らない少年が空を舞っているのか。

 

少女は本来ならばありえないであろう光景達を前にした為に、その様な反応しか出来なかったのだった。

 

 

『ぺ (おい、ツインテールの少女よそんな顔をしてどうしたんだ? なにかあるんだったら話して見な) 』

『……へ? 』

 

訳の分からない光景を前にして放心状態となった少女。

そんな少女に対して口にしたペンギンの声に少女は、 まともな反応を返す事が出来なかった。

本当の事を言えば、ペンギンの鳴き声の意味が分からなかっただけなのかも知れない。

 

ペンギンも、それを知ってか知らないかは分からないがそれ以上何も言わず少女へ歩み寄ろうとした。

 

少女が座っているブランコの椅子は二つある。

ペンギンは、空いているブランコの椅子に腰を掛けようとした時だった。

 

 

『ようやく見つけたぞ!! ペンギンっ!!!』

 

虫網を持ったボロボロの少年がそう叫ぶんだのだった。

 

 

 

 

 

『ようやく見つけたぞ!! ペンギンっ!!!』

 

召喚したペンギンによって強制空中旅行を楽しまされて俺は危うく、二度目の死に至りかけた。

しかし、 落下中に運良く大きな木に引っかかったおかげで生き続ける事が出来た。

神さまに感謝をしたくなったたけど、 神様(仮)には感謝を捧げたくなったので諦めた。

 

それから何とか木から降りた俺は、今日はもう疲れたから帰る事にした。

家への帰路をとぼとぼと辿りながら、 強制空中旅行をさせてくれやがったペンギンの事を思い出していた。

何であんなペンギンを召喚してしまったのか。

良く考えれば分かる事だけど、まともに使える力をあの神様(仮)が

渡す訳がなかったのだ。

なんで、気付かなかったのか、 後悔しか無かった。

危うく死ぬ所だった。

あんなペンギンを野放しにしてたら、死人が出かねない。

 

そう思いながら歩いていると一つの嫌な考えが浮かんだ。

俺は、無意識に足を止めていた。

 

このまま放置してペンギンが人を殺せば、 召喚した俺にまで殺人罪に問われてしまうんじゃね?

そんな考えが脳裏をよぎった。

 

『…………』

俺は、背中に冷や汗を浮かべて、ペンギンを捕まえるべく走り回るのだった。

 

 

 

一度家に帰り、 いつも一人でいるが友達と虫取りをして欲しいと言う母親の想いから購入された長期間放置していた虫網を装備して走り回った。

戦闘力ではあいつには敵わない。

だけど、 捕まえるだけなのできっと大丈夫、

捕獲力も上がった筈なので、これで捕まえれるだろう。

 

そう考えて虫網を片手に必死に探し回った俺は、漸くペンギンを見つける事に成功したのだがこの状況はとても不味かった。

 

凶暴なペンギンが少女の隣にいるなんて、 不味い以外の何物でもない。

この儘では、 放し飼いにしていた犬が子供を傷付けたという様なニュースになってしまうじゃないか。

焦った俺は、 まずペンギンの注意を俺に引きつける事にした。

 

『おい、ペンギン!それ以上その少女に近づくんじゃないぞ!! ……長い髪を二つに分けて絞った其処の女の子っ、絶対に奴を怒らすなよぉ……本当に、本当にお願いしますね!? 怪我しちゃったら俺のせいになっちゃうからぁ……』

『え?……あ、はい 』

長い髪を二つに分けてライトサイドとレフトサイドに分けて縛りつけた(髪型の名前が分からない)少女の了承は取れた。

 

『ぺぇ?( おいおい、この俺が女を傷付ける様な奴に見えるのかぁ?) 』

何を言っているのかは対して分からないが、 取り敢えず俺に注意を引きつける事には正解した様だった。

 

『おい、ペンギン……さっきのは、怖かった怖かったぞ!!ーー』

 

もうさっさとコイツを捕まえて帰りたかった俺は、虫網を握るに直して走り出した。

『……』

 

走り近づく俺をペンギンは、 ただ見つめていた。

これをチャンスだと思った俺は、ペンギン目掛けて 虫網を振り下ろした。

それでもペンギンは、動かない。

虫網を振り下ろした俺は、勝った!と確信した。

 

確信してしまったのだった。

これが死亡フラグだとは知らずに。

 

……虫網にペンギンが入りかけた時だった。

『っ!』

ペンギンが目を見開き、虫網の棒の部分を手刀を繰り出した、次の瞬間。

バキッ!と言う、 嫌な音を耳にした。

 

『へっ!?』

 

…………まさか、そんな訳はないだろう。

網と棒の部分が二つに割かれて空を舞っているが、きっと気の所為だろう。

そう思いたかったが次の瞬間には、俺の眉間はペンギンの右腕に捕まえられていた。

 

……ああ、これはオワッタ。

そう感じた時には、虫網は無残な姿になり次は俺の番だった(絶望)

 

『ちょちょちょっ、ちょっと待とうか。 話し合おう。一応ね?俺が召喚したんだしね? ペンギンの主人じゃないですかぁ〜〜』

『ぺ(俺の主人を名乗るのならば、最低でももう少し使いこなせなければな。)』

『……つまり?』

『……ぺ』

ペンギンがそう鳴いた。

なんて言っているのかは分からなかった。

だけど、 意味だけは分かった。

決死の覚悟でペンギンの手から離れようとする。

しかし、 抵抗虚しく俺の眉間からゴリゴリと骨が軋んだ。

『いっ!?? ぎゃぁぁぁぁぁぁっっだ!?!ら

????、!?』

 

 

 

 

少年がペンギンの手によって倒された後の事。

倒れた少年をペンギンが引きずりながら公園を出ていこうとする。

そんなシュールな光景を目にした少女は、

 

『……変なの』

と冷静に呟きながらも、何処か少しだけ微笑んでいる様に見えた。




あざした!


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4話

お願いしますす


5

ペンギンに気絶させられた俺は気付けば家で眠っていた。

『知っている天……そんな事よりも、 あのペンギン!この儘じゃ本当に殺人罪で酷い目にあわされてしまう!!』

 

ペンギンの事を思い出し部屋を出る。

急いで玄関へと行こうとした。

しかし、そんな俺を止める人がいた。

 

『守?こんな夜遅くに何処へ行くつもりなの?』

 

長い黒髪がふさぁと、揺れているお母様だった。

 

『……母さん? ごめん!早く捕まえないと不味いんだよ!!』

『捕まえるって何のこと?』

『ペンギンだよ!ペンギン!!』

『ペンギン?……あぁ、この子の事ね』

『この子って……え?』

 

母さんが、 居間から見覚えしかないペンギンを連れてきた。

 

『気絶して、 倒れた貴方を此処まで連れて来てくれたのよ。後で、 お礼を言っておきなさい』

『え?いや、もともと其奴が…』

『ぺ!』

ペンギンが俺の頬を叩いた。

ぺちんっと、可愛らしい音を立てる。

どうやら、可愛らしいのは音だけの様で沈む様な痛みで俺を黙らせた。

 

『……ありがとう、ございます』

 

いやいや、そう言うと母親が満足したかの様に頷いた。

『はい。それじゃあ、夕御飯を食べましょうか! 』

『は、はーい』

『ぺ』

 

こうして、なんか知らないうちに、ペンギンの確保は無事に成功し、 罪に問われる心配も無くなったのだった。

 

夕飯を食べながら隙を見る。

早くペンギンを何とかして俺の中に戻さなければなぁと考えている時だった。

 

『今日からこの子も家族の一員になったから仲良くね?』

『……』

とんでも無い言葉を耳にしてしまった。

飲んでいた味噌汁が全て口から垂れ流しになる。

 

『もうっ、いい歳なんだから綺麗に食べなさい。ほら、今日から来たこの子なんかお茶碗に付いている米粒もお箸で取って食べてるのよ?しっかりしなさい!』

 

母さんはそう注意すると、テーブル拭きで俺の拭き出したモノを掃除し始めた。

 

いやお母さん、 ペンギンは先ず俺たちと同じご飯を食べないです。

ついでに言うと何でコイツ、箸なんて使えるんだよ。

そうツッコミたくなったが俺は、考えるのをやめるのだった。

 

『……はい』

 

 

 

 

 

○・○・○・○・○・○

 

あれから早いもので、一ヶ月ぐらいが経った。

未だにペンギンは消える事なく、家でたむろしたり、勝手に外に出て色々していた。

 

とりあえず、そのうち来る災害に対抗する為に必殺技を練習していた時だった。

 

突然、身体に異変が起きた。

たった一回、 ゴットハンドを発動しただけで目眩が起きたのだ。

こんな事は 今までなかったが、たまにはそんな日もあるのだろう。

そう思い、日を開けて同じように超次元技を発動すると、前よりも疲労感が強くあらわれた。

今はまだ大丈夫だろう。

だけどこれが続くとそのうち倒れるのではないかと危惧した。

 

そんなこんなで俺は、 色々試行錯誤している時に新たな技術を習得した。

 

それは、超次元技を使う時に出てくる気の様なモノ目に纏わせるというものだった。

 

何となくやってみたら、いつもと違うモノが見えた。

此れは来た!と久々の天才的な発想をしてしまった自分に恐怖を感じながら気を纏わせた目で身体を見た。

 

そこで俺は、自分の胸からそこそこの太さのオレンジ色の紐のような物が伸び出ているのを見つけた。

何だ此れはと、 紐の終着点を探していると紐はペンギンと繋がっていた。

 

 

良く分からないが恐らくこのラインで奴へエネルギーを供給しているのだろうと察した。

そして何とかしないとこの儘、エネルギーを 吸われ続けて干からびて死に至る所まで察した俺は、ペンギン駆除作戦を開いた。

 

一人では、ラチが明かないという事で同士を集って見た結果。

二人の同士と出会う事が出来た。

 

二人目は、 不破 当麻 6歳

彼は、何か知らないけど関西弁の女の子が好きなそうだ。

そんな子がこの町に来る事から分からないけど、彼は来るかも分からない関西弁の少女と仲良くなりたいからという理由だけで関西弁の漫才を練習していた。

そんな時に散歩?をしていたペンギンに目をつけられてしまい、『ぺ( 何だその、 つまらない漫才だ)』

と言われて、吹っ飛ばされた悲しい過去を持つ。

 

 

三人目は、兵藤 ススム 5歳

毎日公園にいる大きく二つに分けて絞った髪をアタッチメントの如くライトサイドとレフトサイドにドッキングさせている少女を見て、はあはあと息を荒げて近づくと毎度毎度ペンギンにぶっ飛ばされている、かわいそうな被害者だ。

その為に彼は意中の少女を遠目で眺める事しか出来ず、持て余した愛情により常時暇さえあればストーキング行為を行っていた。

 

ペンギンが悪いとはいえ、 こんなヤバイ少年を同士にして良いのか。

一瞬そんな考えがよぎったが、その考えは投げ捨てた。

 

それは、彼にすごい特技があるからだ。

その特技とは、 十秒ごとに身体能力が二倍になっていくモノらしい。

得意げにそう言う彼の特技を目にした時には驚いた。

 

身体能力が十秒毎に二倍になると言うので、取り敢えず五十メートル走を走ってみると確かに最後の方は、飛び抜けて足が速いのだ。

何度やっても五十メートル走の最後だけべらぼうに早くなるので計測してみると

 

俺、9秒

ススム 、10.7秒

当麻、 7.9 秒

多少誤差はあるが、大体そんなタイムであった。

何度やっても変わらないので変わらないので俺たちが可愛そうな目で見ていると

 

『次は500メートル走を走ろう!!』

 

と言うので、いやいや走ってみると確かに早かった。

 

はじめの50メートルまでは俺たちの圧勝。

しかし、100メートルからは、凄かった。

ススムは、俺たちが75メートル付近を走っている時には既に100メートルを超えていた。

そして俺たちが100メートルを走っている時に更に加速された。

俺たち二人がススムの速さを実感したので走るのをやめていると更に速度が加速される。

このままいくと世界記録でも更新するんじゃねえの?

などと話していると、マジでやばい事になった。

急にススムは、動きを止めたかと思うと倒れたのだ。

どうしたのかと思い近づくと、ススムは身体を痙攣させて目を見開き倒れているではないか。

 

俺たちは、慌てて救急車を叫び呼んでみるがいくら呼んでも来る事は無かった。

飛んで来るのは大人達の可哀想な視線だけだった。

そんな時だ。

頭の良さそうな金髪の美少女が近づいて来ると、持っていた携帯電話で救急車を呼んでくれたのだ。

何で、同い年くらいのこんな少女が携帯なんて大人アイテムを持ち歩いてるんだと見つめていると、

『さっきから、ジロジロ見てるけど喧嘩売ってんの?』

と拳で抵抗しないと行けなくなりそうだったから目を逸らす事で危機を回避したのだった。

 

救急車が来るまでの間、その少女に何があったのかと聞かれたので身体能力が八倍になったと思ったら倒れたと言うと

『そんな事有るわけないじゃない!』

と怒られたので、

『すいません』

と俺が謝るともう一人の同士が、一応此れは本当の事なんやでと言うと信じては無いだろうがと言ってくれた。

 

取り敢えず、 救急車が来るまで暇なのでこれをネタに少女と話していると少女は、

『多分だけど、人間は本来出せる身体能力の15 %しか出せないようになってるけど、其れが身体能力が八倍になって100%を超えた時点で、身体が悲鳴をあげたとかじゃないの?』

と言った。

 

俺たちは、コイツ天才だ!と脳裏に電流が走ったのを今でも忘れられない。

 

 

其れから、一ヶ月ぐらい二人でペンギンを追い出すべく色々と頑張ってみるが出来なかった。

 

動物なので、冷たい所に放置し続けると冬眠するんじゃね?とやって見たが鳥類は冬眠しないという事実を知ってしまった時は、絶望した。

 

ペンギンなので、魚を餌にして遠い海にまで放逐してやろうと思った俺達は、魚屋に魚を降ろしている漁師の船まで連れて行けば魚に目を釣られて漁師のペットになるだろうと思って見たけどダメだった。

後で考えて気づいたのだが、 うちの家では魚何て太刀魚をタバコみたいに加えるだけだった。

というか、殆ど俺と同じ料理食べていた。

 

そんなこんなで色々やって見たが、俺達のペンギン駆除大作戦は失敗ばかりであった。

 

もう、あれは無理だな。

作戦は中止だ。

いいか此れは、逃げる訳じゃないんだ。

勇気があるからこそできる断念、 なのだと言い聞かせた俺達二人は、 ペンギン駆除大作戦を終えようとしていた。

 

 

 

 

そんなある日の事、

母さんからこんな言葉をかけられた。

『守〜この回覧板をお隣の月村さんの所にまで持っていって〜〜』

『嫌です』

 

俺は、即答した。

母さんは、とてもいい笑顔で

『持って言って〜』

とだけ言われた。

 

『いや、母さん。お隣って、 言っても小さい山一つ分離れてんだけど!?あの家まで行くの子供の僕では体力的に苦しいです!』

 

実際には、そこまでじゃないが行きたく無かったのでそう言って見たのが失敗だったのだろう。

母さんは、笑顔を貼り付けたまま闇のような気迫を俺に飛ばして来た。

 

『……良いから、行け 。』

『分かりました、ランニングシューズに履き替えて山一つぐらい超えて見せますぜ!母上!』

『あっ、…… 』

何か怖く感じる母親から離れる為に、 家から飛んで逃げた。

何か母さんが言っていたが、聞こえないふりをして月村家を急いだ。

『あの子…… 回覧板、 忘れていっちゃったけど、 直ぐに気付くかなぁ』

 

そんな事を母親は言っていたのだが、 俺は全く気づく事なく月村家の玄関まで走るのだった。

 

月村家とは、お隣さんである。

と言えば否定はしないが、 月村宅まで行こうと思えば、子供の足では十五分ぐらいかかる。

これで、本当にお隣さんと言って良いのだろうか。

考えれば考える程に、行きたくなくなるので取り敢えず走った。

そして、当然疲れた。

 

『……』

 

黙って歩いていると、 デッカい黒塗りの高級車っぽい車が俺を通り越していく。

月村家までは一本道でつく。

だから、何とかして乗せて貰えれば歩かず済むのになぁと眺めていると視界から消えていった。

 

 

『車欲しいなぁ…… 』

5歳児が言う言葉じゃないそんな言葉を呟きながら俺は、黙々と目的地まで歩くのだった。




ありがどうございました


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5話

オネシャス



あれから何とか月村宅へ辿り着いた。

月村邸の正門は、誰でも入って来て良いよーと言っているかの様に車が入れるぐらいに空いていた。

此処で子供ならば、開いてるんだし入ればいいかーと考えるのだろう。

しかし、訓練された大人の精神をもつ俺はそんな失礼な事はしなかった。

月村邸の正門に付いているインターフォンを鳴らした。

 

正門という事は、他にも門があるのか。

一体どんだけ、この家は広いんだよと思いながら、返答を待っているが待てど暮らせど帰ってこない。

 

何時もならば、綺麗なメイドさん姉妹が直ぐに出てくれるというのにどうなっているんだ!

これは、メイドさんが業務放棄しているに違いない!!

今度会った時に、注意してやる などと一体何様なんだよと思える様な馬鹿な事を考えながら待っていたが、 一向に返事が来なかった。

 

『……流石に長ない?』

 

インターフォンを慣らしてから五分は確実に待った。

それでも応答が返って来ないと言うことは、多分誰もいないのだろう。

と結論づけた俺は、ガバガバに開いている正門

を抜けて入る事にした。

 

……これでは子供と一緒じゃないかだって?

其処は、考えちゃダメだ。

わかるだろう?…………わかれや。

 

 

月村邸には何度も入った事がある。

回覧板を出したり、回覧板を出したり、回覧板を出したりする時によく屋敷には訪れていた。

これは、全て母さんの陰謀だった。

自分で言いたくないのだが俺は、良く大怪我をする。

一応は、幼稚園などの児童施設には所属しているけど入院、家での療養が多過ぎて通っていなかった。

同い年の人間が集まる施設に通っていないと言うことは、まず知り合いが出来にくい。

その為に、 5歳児になっても友達と言える子供がいなかった。

 

この事に気付いてしまった母さんは、どうにかして友達を作らせようとしていた。

そして、 その時に母さんが注目したのが月村家の次女の存在だった。

隣の家に住む、同い年の子供でしかも 女の子、つまり幼馴染。

多分、 この様な方程式によって俺は良く 月村家の次女と顔を合わせる様な状況にさせられているのだと思う。

 

しかし、 母さんもアホだ。

これだけ顔を合わせていれば、 少しぐらい仲良くなっているとか思っているのかもしれないがそんな訳が無いのだ。

 

だって俺、妹さんの名前すら知らないし。

 

 

 

 

門を超えて、 何度か歩いた道を歩く。

目線の先に、見覚えのある黒い車が家の前に止まっていた。

というか、 さっきの車だった。

 

そこそこの回数 この家に訪れているが見た事の無い車だ。

逆説的に来客の車だと分かった。

 

『さっき出なかったのは、 この車の持ち主の相手でもしてるのかなぁ』

 

何回か、インターフォンを鳴らせちゃったけど悪い事したかも。

そりゃあ、 こんな車の持ち主の相手をするんなら 返事も返せないか。

俺は心の中で謝罪をし、月村邸の大きな扉の持ち手の部分に回覧板を掛けようとした……

 

 

 

『そういや、 何も持ってきて無いじゃん ……俺』

 

掛けたかったけど、物理的に無理だった。

ここまで、来たのに全て無駄に終わるとは……

 

『また来ないといけないのか……』

ちょっとした絶望を感じた瞬間だった。

また、一往復しないと行けないのか……

道草せずに帰ろう。

そう思い、月村邸に背を向け用とした時だ。

 

『…… 忍っ、次までに覚悟をきめておけっ!!その機械どもを含め、全ての財産を俺に譲渡するのか、それとも。お前達の全てをこのワシに奪われるのか』

 

乱暴に扉を開ける音。

同時に、 高そうな服を身に付けたおっさんが家から出て来たのだった。

 

 

 




あざしな


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6話

お願いします


『…… 忍っ、次までに覚悟をきめておけっ!!その機械どもを含め、全ての財産を俺に譲渡するのか、それとも。お前達の全てをこのワシに奪われるのか』

 

 

『……………』

ヤバそうなお話を聞いてしまった。

どういう話の流れでそうなったのかは分からない。

だけど聞いてはいけない話だという事だけは馬鹿にも分かった。

きっと大きな屋敷を持つ金持ちだから色々とやばい事に絡んでいるのだろう。

 

そんな事よりも早く逃げないと……

一瞬だけ、 背後を見る。

高そうな服を身に付けたオッさん。

そしてその背後に胸をさらけ出したファンキーな銀髪のイケメンがいる。

 

イケメンは、俺の事に気づいたみたいだけど。

おっさんの方は、 まだ家の中を向いているみたいだ。

 

これは、まだ逃げれる。

 

なんか知らない、俺の生存本能が刺激された様な気がした。

今なら、 必殺技が使えそうな気がする(確信

 

気を練り、下半身を主に纏わせる。

本当は、 もっと色々あるんだろうけど、きっと適当で大丈夫だ。

俺は、 この必殺技の名前を叫んだ。

 

『疾風ダッシュッ!!』

 

力強く、前へ足を踏み出す。

地を砕くイメージで地を踏み込んだ。

それがいけなかったのだろう。

 

地を踏み込む音とは、思えない音が鳴った様な気がした。

今までの経験則から嫌な音だと察する事ができた。

 

いや、まさかそんな筈は無いだろう。

そう思いながら、後脚を蹴り出すが前へ進む事はなかった。

視線を下ろすとすぐに分かった。

初めに出した足が地面深くに埋まっていたのだ。

 

『……』

 

またこれかよ……

 

俺は逃げる事を諦め溜息をつく。

埋まってしまった足を引っこ抜く事にした。

 

『そこのガキ、 何でここいにいるんだ!』

俺に気づいたおっさんが、背後から叫ぶ

当たり前といえば、当たり前の反応だった。

 

『あー、すいません……回覧板届けに来たんですけど、幾ら鳴らしても返答が帰って来ないんで玄関に掛けて帰ろうとしただけなんです』

『……それは、 何処にあるんだ?』

『忘れました』

『そんなのが、儂に通用すると思ったか!!』

 

…………全部、本当の事しか言っていないというのに何故か怒られた。

まぁ、流石にこの返答は信じられないかもしれないとは俺も思う。

でも、本当の事なんだししょうがないじゃないか。

そう言いたいが、 おっさんの顔を見て諦めた。

話を聞いてくれそうな、人相をしていない。

 

仕方がないので、子供らしく泣いてみる事にした。

一応、向こうは大の大人だ。

泣けば、 少しぐらいは動揺して信じてくれるかもしれない。

そう思い目元に両手を当て泣き真似をした。

『うゎあぁん、 ほんどーのごどなのにぃ……じんじでぐれな、

『うるさい餓鬼だ、黙れ!!!』

 

おっさんの鋭く尖った革靴が、俺の腹部に突き刺さる。

まさか、子供にケリを入れて来るとは思っても見なかった。

 

『っぐふ!?』

 

大人の力に勝てるわけがなく、前のめり倒れた。

というか、人よりも若干強い気がした。

今まで味わってきた経験から察するに多分

母親>ペンギン> >>おっさん>ペンギン駆除隊

こんな感じの力関係だろう。

うん、良く考えれば大した事ないな。

 

少し倒れていると、腹の痛みが弱くなる。

腹よりも埋まっている足の方が怖かった事もあり、直ぐに気にならなくなった。

 

それにしてもこれが大人のする諸行なのか。

おっさんの顔が腹立つので、やり返してやろうかと思ったが諦めた。

此処は、大人しくしていた方が良い。

本能的にそう思った俺は気絶したフリをする事にした。

 

『何してるのよ! 』

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

誰なのかは直ぐに分かった。

何度か、あった事のあるこの家の主人だった。

 

ドタドタと足音が聞こえる。

聞こえたと思えば月村家の主人は俺の元にまで来ていた。

主人は、倒れている俺を起き上がらせようとする。

その拍子に、埋まっている足が曲がっちゃいけない方向に力が掛かった。

 

『〜〜いっ!??』

俺の漏らした声に驚いた主人。

彼女は直ぐに俺が漏らした声の理由に気がつき手を離した。

 

『守君!?大丈……ひどい足が地面に埋まってる何て……』

『すずかと同じくらいの子供じゃない。貴方には、血も涙もないの!? 』

 

 

 

……殆ど、自分でやったとは言えない雰囲気だ。

というか、月村家のお姉さんの隣にいる桃色の美人さんはどちら様?

 

容姿からみて年は恐らく月村姉の少し上ぐらい。

多分成人したかしていないかぐらいだろう。

今迄見た事のない、美人に心を揺さぶられる。

この言い方だと、あれだけど実際に俺は美人のお姉さんの言葉に動揺を隠せなかった。

 

頼むから、これ以上何があったのかをおっさんに、問わないでください。

この状況で自滅したなんて言ったら笑いもんになる。

これ以上、変な噂を持ちたくないのだ。

 

道を歩いているだけで 『あの子よあの子、疾風ダッシュ!何て叫びながら一歩目を踏み出した瞬間に出した足が地面に抉り込んだ子供は……』何て言われて可愛そうな目を向けられたくなかった。

 

母さんに、『買い物行っただけなのに、貴方の奇行の噂を聞かされて私、恥ずかしかったわ……』

何てこれ以上、言われたくないのだ(強調)

 

笑いたければ、笑えよ……

 

 

『ふんっ、知らないフリをしても無駄だ。そうか、分かったぞ! わざわざ儂を貶めるために雇った傭兵なんだろうそいつは?……運が無かったな、儂にせめてもの抵抗をしようとしていたのだろうが、コイツもお前達の運命は、同じだよ』

『この子まで巻き込むのはやめなさい! 関係無いって言ってるじゃない!! 私達の事も全く知らないただの子供よ……傭兵なんて訳ないじゃ無い!!』

『……』

 

……気付けば傭兵になっていた。

大人しく話を聞いていただけなのに、一体何故?

話の流れもよく分かんないまま、 不味そうな方向へと話が飛んでいっている。

これは、流石に否定しないと不味そうだ。

早く何とかしないと……

 

俺は、 何とかしてただの一般人だと分かって貰える方法を考えた。

 

よし、 靴でも舐めに行くか。

 

そう思い、行動に出ようとした。

埋まっている足を掘り起こし始めた。

しかし悲しい事に、俺の頑張りは無駄に終わるのだった。

 

『ふん。 ならばさっさとお前達の全てを儂らに寄越せば良いだけの事では無いか、儂は月村家の全ての遺産、そして遊には……お前の妹をな』

『貴方達に…… 渡せるわけないじゃない』

『話にならんな、忍。 もう少しだけ時間をくれてやろう、其れまでにどれを捨てるのかを決めておけ。 儂も数少ない同族を皆殺しにするのは心が痛いから、 のぅ』

『っ……』

 

お姉さんは、おっさんの言葉に対しての返答を口にはしなかった。

お姉さんは、ただおっさんを睨みつけていた。

……身体を震わせながら、 下唇を噛みながら。

 

おっさんは、お姉さんの様子を愉しそうに眺める。

眺め、満足したのか車の中へと戻って行った。

そして、後ろのイケメンも車へと戻って行くのだと思っていたが、何故か俺達に近づいてきた。

 

『なぁ、お前 一応聞いておくがすずかのボーイフレンドか何かか?』

『……?』

何を言ってるのかよく分からない。

ただ一つ分かっているのは、何故かイケメンが俺を睨んでいる事だった。

 

『……無視とは、良い根性をしてるな。まぁいい、聞く気がないのかも知れないが一つ忠告しておく。 すずかは俺の物だ、 もし俺の物に手を出そうとするのならば…… 死を持って償えよ 』

『……』

 

なぜ、俺にこんな話をするのだろうか。

 

チラリと、訳を知ってそうな美人のお姉さん達を見る。

 

『『……っ、』』

二人とも、 何も言わず睨んでいた。

聞くに聞けない殺伐とした雰囲気だ。

取り敢えず、俺も睨んで見ようかと思いイケメンを見る。

 

怒り、興奮しているのか血走ったかの様に目が赤くなっていた。

 

うん、これは睨まない方が良い。

本能で察した俺は目を向けない事にした。

 

 

しばらくするとイケメンは、俺達から離れた。

足音だけを聞いていると車の中へと入っていった様だ。

バタンッと、車のドアが閉まる音を合図に車が動く。

車が動きだし、エンジン音が聞こえなくなるまで誰も動こうとはしなかった。

 

 

 

『……ごめんね、 まもるくん。大丈夫......な訳ないよね』

月村家のお姉さんが、 口を開くまでにかけた時間は短くはなかった。

 

『まもるくん…… で、良いのよね? ごめんなさい、 私が悪いの忍を責めてあげないでちょうだい』

月村家のお姉さん……もとい、忍さんの言葉の後に、 桃色のお姉さんはそう言った。

 

 

ただ回覧板を届けに来ただけだなのに、何があったらこうなるのだろうか。

会話の流れから会話の意味まで殆ど理解が出来なかった。

 

一つずつ話を整理して行こう

そうしないと俺の頭では理解が追い付かない。

 

そうして俺は、まず初めに終わらせなければならない要件を思い出した。

その要件を解決する為に、 目の前の二人に切り出すのだった。

 

『……取り敢えず、回覧板一回帰って持ってきますね。 』




ありがとうございました


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