うちの指揮官には謎が多い (社畜のきなこ餅)
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謎が謎を呼ぶ指揮官
いないかもしれない、しかし確かにその不思議指揮官はここにいるのだ(強弁】
ソレはある日の、いつも通りの昼下がり。
L85A1が訓練中にジャムり倒したり、G11が適当にほっぽり出していた弾薬を湿気らせたりと言った多少の事件を、生真面目なWA2000が報告書をまとめ指揮官を訪ねた時の事である。
「指揮官、報告があるんだけど……あら?」
勝手知ったるとばかりに、用事があろうとなかろうと頻繁に訪れている指揮官の部屋をノック後ノータイムで扉を開けてみれば。
そこにいたのは、指揮官が転寝してる時に良く使用しているソファの上で微睡んでいるGr G41しか居なかった。
はて、と首を傾げるWA2000。
彼女は何もノープランで報告に来たわけではなく、それとなく他の人形達に指揮官がどこにいるか確認した上で部屋にやってきたのである。
しかし、扉ならぬ蓋を開けてみればそこに居たのは狐のような耳が特徴的なGr G41。シュレディンガーの猫ならぬシュレディンガーの指揮官状態と言えるのかもしれない。
されどもこのまま呆けていても埒が明かないと彼女は気を取り直すと、むにゃむにゃと気持ちよさそうに寝言を呟いているGr G41を揺すり……。
「むにゃ、ご主人様……? なんだ、ちがうのかぁ……むにゃ」
「露骨すぎるわねアンタ……いいから起きなさいっての」
寝ぼけ眼を開いたG41は期待に目を輝かせながら、目の前にいるWA2000を視認すると一瞬でその瞳に失望を浮かべて二度寝に入ろうとする。
ご主人様ならぬ指揮官至上主義じみた人形は彼女以外にも何人もいる部隊であるが、その中でもとりわけ露骨な態度を隠そうとしない彼女にWA2000は口元をヒクつかせながら再度揺り起こす。
「むー……で、なに?」
「指揮官どこに行ったか知らない? 他の子からは部屋にいるって聞いてたんだけどさ」
くぁ、と欠伸をしながら佇まいを正し不機嫌そうに膨れっ面で見つめてくるG41をスルーしつつ、WA2000は目的の人物である指揮官の行方を尋ねる。
なんせ彼女自身も報告にかこつけて、指揮官に甘えようとしたのに盛大に肩透かしを食らったのだから必死である。当人は決して認めようとしないが。
「知らないー、けど。わたしを撫で撫でしながら、古戦場がー古戦場がーってうめくように呟いてたよ?」
「古戦場……? どこかの戦場跡で問題でもあったのかしら……」
行き違いになったのかしら、とWA2000は溜息と共に自己完結するとG41に一言詫びを入れて部屋を後にする。
そんな彼女の寝ぼけ眼で見送りながら、G41はふと首を傾げた。
「そーいえば、ご主人様いつおへやから出たのかな?」
自分がお昼寝するまで頭を撫でてくれていた指揮官が、どのタイミングで部屋から出たのか感知できなかったG41は不思議そうに呟く。
普段は指揮官の身辺警護と言う名目で傍に纏わりついているG41であるが、その我儘を押し通せる程度には功績も能力も十分なG41。
当然、感覚機能も相応に優れているのだが……そんな自分にすら指揮官が部屋を出た時を感知できなかったことに、疑問を感じる。
「まぁいっか」
自身は主人と定めた指揮官の忠実な銃、それだけでいいとG41は結論づけると指揮官の匂いが染み付いたソファに再度横になって幸せそうに転寝を再開するのであった。
指揮官のデスク上に放置されている、中身が空になった赤く透き通る瓶に気付く事もなく。
そしてまた、別の日。
任務上の都合により指揮官もまた前線へ赴いていた時の事であるが、鉄血兵らの不意打ちを食らった時の事。
遮蔽物が碌にない、その中で受ける集中砲火は絶望を告げるものでしかなかった。普通ならば。
「指揮官!頭を低く……え? 何掘ってるの?塹壕? 間に合うワケ……え?」
せめて指揮官を逃がそうとダミー人形達を壁にし……自身を囮にしてでも指揮官を逃がそうと決意しながら振り向いた、UMP45が見た指揮官の姿は。
スコップで一心不乱に地面を掘り返している姿であった、常識で考えれば錯乱しているとしか思えないその光景であるも……思わず呆けるUMP45の目の前で見る見るうちに土が掘られていく。
「凄いね指揮官!45姉もはやくはやく!」
「9!アンタいつの間に真っ先に潜り込んでるのよ!!」
昔取った杵柄だ、などと誇らしげに笑う指揮官の背後には真っ先に即席塹壕へ飛び込んだと思しき妹分、UMP9がひょっこりを顔を出して姉貴分のUMP45を手招きしている。
何だかものすごく納得いかない、私の覚悟なんだったのなどと不完全燃焼を抱きつつUMP45もまた深さ1mほどの塹壕へと飛び込む。
「何でスコップやツルハシに斧を持ってるか不思議だったけど、こういうのに備えてたんだね指揮官!」
「ずっと不思議だったんだけどね……え? 昔からの習性で持ってないと無性に落ち着かない? 指揮官、前はどんな仕事してたのよ……」
頭上を鉄血兵らが放った銃弾が通り過ぎているも、若干弛緩した空気の中呑気にパンをかじる指揮官はお前らも食っておけと二人へパンを差し出す。
差し出された二人はと言えば、妹分の方はいつものにこにこ笑顔で受け取り無邪気に齧り始め、姉貴分の方もまた釈然としない表情ながらも受け取ってはむはむと食み始める。
その後、不意打ちを仕掛けてきた鉄血兵らは特に悲劇もハプニングもなく蹴散らされるのであった。
「いやー、どうなるかと思ったけど指揮官のおかげで何とかなったね45姉!」
「うん、まぁ、そうね……え? 匠がいたら危なかった? 何それ……全身緑で自爆する不思議生物? そんなE.L.I.D発症者聞いたことないわよ」
更にまた別の日。
ドンパチも喧騒もないとある日の事である。
「あ、指揮官様じゃないですか。花壇を整備されてるんですか?」
データとして撃ち込み終わった作戦報告書を詰めた段ボール箱を抱えたカリーナが発見したのは、基地の中庭の片隅にある花壇を整備している指揮官であった。
AUGを含めた人形が花壇を手入れしている姿は時折見かけていたが、この場所で指揮官を目撃したのは初めてだったので彼女は思わず声をかけたのである。
「とある知り合いから種を譲ってもらったけど、植える場所がないし増やしてる。ああ、なるほど……」
見かけるたびに花壇が増えていたのは、今も黙々と花壇を整備している指揮官が原因だったのかと地味に疑問に感じていたことが氷解して思わずカリーナは頷く。
そして、世界に汚染が広がり植物の種すら入手が難しい時代にも関わらず花の種類が増えていた理由も判明して二重にスッキリなカリーナである。
「この前増えてたお花を調べたら、ビオラっていうお花でしたけど……今度は何を植えられるんですか? え? ヒガンバナ?」
なんだか物騒な名前ですねー、などと呟きつつこの際だから色んな花を教えてもらおうと想い、カリーナは段ボール箱を下ろすと手近なベンチへと腰掛ける。
「折角だから色々教えて頂けます? わーい、ありがとうございます指揮官様!」
黙々とレンガを積み上げ、植物に応じた土壌を整えていく指揮官を楽しそうに眺めつつカリーナは視線を巡らせると。
目についた花を指差し、指揮官へと尋ねていく。
「アレは……マンリョウって言うんですね、あちらは……ナデシコ、そして向こうはクリスマスローズって言うんですね」
カリーナが指差して尋ねて見れば、指揮官は即座に答えては簡単な花について教授していく。
「しかし凄いですよね、こんな色んなお花……え? 少し特別な種だからこうも育てられるだけで、通常はもっと大変なんですか?」
ちなみにその種の出所は……とカリーナは聞こうとするも、指揮官はあいまいに笑ってはぐらかす。
そこをなんとか、とカリーナはベンチから立ち上がり屈んで作業を続けている指揮官に背中から抱き着いて、耳元で囁いておねだりをする。が次の瞬間。
カリーナの背筋を氷柱で刺し貫いたかのような悪寒が奔り、悪寒の出所へ向けて錆び付いたような動きで顔を巡らせてみると。
いつの間にか作られていた中庭のため池に生い茂っていた、オオオニハスが異様な存在感を発揮していた。
その異様な存在感に、カリーナは斧を携え……にっこり笑顔を浮かべと獲物を刈り取る狩人がごとき瞳をしている美女を幻視してしまう。
その後しばらくカリーナは中庭に近寄ろうとしなかったらしい。
『TIPS.指揮官マル秘情報』
着てる服の傾向によって性格が変わるらしい。
噂によると、タキシードを着込むとダンスパートナーも含めてエスコートを完璧にこなす人物になるらしい。
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千年戦争指揮官オンライン
なんか更にやりたい放題してしまったのと、捏造フルスロットルだけどまぁ是非もないよね!
のんびり陽気が降り注ぐ穏やかな昼下がり。
大規模な作戦が一端落ち着いたこともあり、基地では人間も人形も思い思いに過ごしていた時の事。
「入るわよ指揮官……何してるのかしら? 指揮官」
目の下に入れた涙のタトゥーが特徴的な戦術人形、HK416がちょっとした用事を携えて扉を開いてみると。
指揮官が何やらデスクの上に樹脂製と思われる細かなパーツを広げて、何かを組み立てていた。
ついでにHK416の視界の隅に、G41が定位置となっているソファの上で一緒に爆睡しているG11に抱き枕にされながら魘されていたがそちらについては、意図的に見えないフリをした。
「プラモデル? ふふっ、子供っぽい趣味もあるのね指揮官……」
配属されたばかりならいざ知らず、彼女もまた指揮官に対しての好感度は最早ストップ高。たまに指揮官がやらかす奇行すらも好意的に解釈してしまう手遅れな人形の一人である。
そんな彼女に微笑みかけられながら、ヅダを組み上げていると指揮官は応えると黙々とプラモデルの組み立てを再開する。
「結構変わったデザインのロボットね、このヅダ……かしら? どんなロボットなの?」
指揮官が熱中している事も手伝い、見た事のないロボットに興味を示したHK416はデスクに腰かけながら指揮官の手元を覗き込む。ついでに意図的に胸元を緩めてみるが指揮官はアウトオブ眼中であった。
「ジオン公国の主力機種のコンペに負けた、悲運の高性能機? ……そう」
長々と語りたそうに指揮官は口を開きかけるも、何かを思い直し非常に簡素な解説でお茶を濁す。
なおこの世界には某御大は降臨していないので御大に纏わる一連の作品は影も形も存在していなかったりする。
「ねぇ指揮官、完成したら私にも見せ……え? もう一箱あるから作ってみるか? ……ふふ、完璧な私に相応しい仕上がりを見せてあげるわ」
自分のような経歴を持つロボットの存在に興味を持ち、話を持ち掛ければ返って来た思わぬ言葉にHK416は一瞬目を見開いて驚くとすぐに柔らかい微笑みを浮かべ。
創作世界では悲運だった子を、せめて私の手でもっと完璧に仕上げて見せると豪語して見せた。
そして、後日。
指揮官御手製のヅダと、HK416御手製のヅダが並ぶのを二人で眺めていた時の昼下がり。
「ZZやジ・O、ユニコーンなんてヅダの敵じゃない……? 何のことかわからないけども、そうね。この子は何者にも負けたりなんかしないわ」
珍しく呪詛めいた呟きを漏らす指揮官の言葉にきょとんとするHK416であるも、指揮官へ体重を預けながら自信を持って応えるのであった。
その日の指揮官はどこかへ出かけており、帰って来た際にはモスグリーンのまるで宇宙服のような薄いスーツに身を包み、変わった形状のフルフェイスヘルメットを小脇に抱えて居たりもしたが。
幸か不幸か、その日はその件について突っ込みを入れる人物は不在なのであった。
そしてまた別の日の事。
経験を積みダミーリンクにて制御できるキャパシティが増えたSPASを伴った指揮官は、人形製造の場へと足を運んでいた。
この指揮官はそれほど無駄遣いをしない傾向にある故、製造用の資材にはそこそこ余裕のある……筈であったのだが。
「IDWだにゃ!」
「IDWだにゃ!!」
「IDWだにゃ!!!」
まさかのジェットストリームIDWに、指揮官は思わず膝から崩れ落ちていた。
崩れ落ちる指揮官を心配そうに出来上がったばかりのIDW達が囲み、にゃーにゃー慰め……慰められた指揮官は膝を震わせながらなんとか立ち上がる。
思わず気まずそうにしていたIDW三連星であるが、彼女達に罪が無い故指揮官は気を取り直すと彼女達の案内を手近な所で見守っていたスオミに託す。
「あ、あの指揮官。わたしは今の人数でも十分やれますから……」
製造的にも運用的にも大食いな事、ついでに体重増加も気にするお年頃の人形なSPASは苦笑いを浮かべながら指揮官を気遣うも。
「え?もう後に引けない? あのー指揮官、それってギャンブルで全部失い系の思考になってません……?」
コレはカリーナさんを呼んで無理やり止めるべき?いやでもカリーナさん呼ぶと彼女があの手この手で資源買わせて加速するかも、などという思考がSPASの電脳を駆け巡る。
そんな具合に逡巡している間に指揮官は泣きの一回の資源を準備し、人形製造契約を投入する……瞬間何かを思い出したかのように固まり、懐をごそごそと音を立ててまさぐりだす。
「指揮官、ソレは一体……?」
指揮官が取り出したのは青く透き通る、まるで女性を象ったかのような結晶体であった。
その結晶体はSPASの電脳にすら感じ取れるほどの神々しさに満ちており、羽根を広げたかのように見えるソレは女神じみた空気すら発していた。
「神聖結晶、ですか? なんだか凄く貴重そうなんですが……え、五個も入れちゃうんですか? というか、大丈夫なんですか!?」
SPASの叫びと制止もどこ吹く風とばかりに、製造装置に5個の神聖結晶を指揮官は放り込むと人形製造契約を投入。
柏手を打ち、一心不乱に神様仏様アイギス様などと祈り始めた指揮官の鬼気迫る様子に、SPASが思わず後退ったりしてる中……。
本来ならばありえない光が辺りを包み、一瞬だけ薄い羽衣のような衣装に身を包んだ6枚羽の女神らしき女性が見えたかと思えば、次の瞬間には新たなSPASの製造が完了していた。
「え? え……? え……?!」
目をぱちくりした後、手で自らの目を擦った後二度見して今の一瞬の間に起きた現象にSPASが思わず驚きの声を上げる。
しかし指揮官はと言えば、渾身のガッツポーズに夢中でそれどころで無いのであった。
──王子──王子、今回は特別ですよ──
何か幻聴がSPASの電脳にも聞こえたような気がしたが、彼女自身のメンタルケアの問題により彼女は聞こえなかった事にしたのは言うまでもない。
今回の元ネタ:ガンダムオンライン、千年戦争アイギス
『TIPS.指揮官マル秘情報2』
ふらりと居なくなっては帰ってくるが、帰ってきたときは大体消臭剤の匂いがしている。
たまに消しきれない女の匂いや花の匂いもするらしい。
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艦隊指揮官アリーナ
ハンターさんの口調と台詞に難儀したが、私は謝らない!!
とある日の事、平和でもなんでもない日。
様々な諸事情と事故が起きた事により。
「何度も辛酸を味わわせてくれた部隊の指揮官を捕獲できるとは、狩りの成果としては十分だな」
現在進行形にて、ぐるぐる巻きな蓑虫状態にて指揮官は一人ハンターの目の前で宙吊りにされていた。
縄抜けしようともがいているのか、振り子運動がごとく左右に揺れているのが微妙に哀愁を誘う有様であるも、鉄血工造のエリート人形であるハンターにとっては嗜虐心を湧き上がらせる結果に終わるのみであった。
なお現在地はどこぞの放棄された廃墟の一室である。
「くくく、どうしてやろうか。このまま連れ帰って情報を吐かせるのも悪くないが……」
舌なめずりをしながら、もがき続ける指揮官へ視線を送るハンター。
そんな視線を向けられた指揮官は、このまま好きにさせてなるモノかと必死にもがく、が……ダメ!
「……何? ぴっちりスーツを着せた上に感度三千倍にするつもりだろ。だと? お前は何を言っているのだ」
対魔忍みたいに、対魔忍みたいに!などと叫びながら宙づり状態で振り子運動を繰り返す指揮官。
そんな指揮官へ、頭がおかしい何かを見るような視線をハンターは向ける……こいつここで射殺しておくべきかとまでハンターが電脳を巡らせる間にも指揮官の発言は続く。
「さらには触手を嗾けた上に、〇〇で××な……?! な、な……何を言っている?!」
良い子どころか悪い子もドン引きな事を口走りながらもがき続ける指揮官の発言内容に、思わず後退るハンター。多分彼女は悪くない。
「やらないのかですって? やるわけがないだろうがそんなこと!!」
白い肌を羞恥で紅潮させ、きょとんとした様子の指揮官へ向かってハンターは吼える。
冷酷無慈悲な狩人として構築された彼女は、初心だったらしい。
「捕えた人形の電脳弄るぐらいだし、捕まえた人間にも相応に酷い事するだろう……? 否定はしないが酷い事のベクトルが違う!!」
どうせ捕まえた人形の電脳を弄って××な事や△△な事させてんだろー、正直に言えよー。などとぬかしながら振り子運動を繰り返す指揮官にどす黒い殺意を抱くハンター。多分彼女は間違っていない。
そもそもが女性メンタルな人形所帯である鉄血工造陣営にとって、戦闘には不要な事もあり少々デリケートな話題なのだ。
そんなワケで、ある意味において理解不能なナマモノめいた指揮官から一瞬であろうと目を離したハンターを、誰が責められようか。
「……もうここで始末しておくか、代理人もきっと許してくれるだろう」
据わった目を蓑虫指揮官へ向けるハンター、しかしそこに宙吊りにされている筈の指揮官は影も形も存在しておらず。
さっきまでぶら下がっていた名残である、揺れた荒縄だけがそこに残っていた。
「……あ、あの人間めぇぇぇぇぇ!!」
狩人たる自分をコケにし倒した末に縄抜け逃亡をやらかした指揮官への怒りがハンターの電脳を駆け巡り、冷静さを欠いたまま咆哮を上げ指揮官を捕えていた部屋をハンターは飛び出して行く。
荒々しい足音が遠ざかっていく部屋、やがて訪れる静寂。
そして、壁から現れる指揮官。 なんとこの指揮官、咄嗟に懐から取り出した壁面に似た色の布を取り出して壁に隠れていたのである。
何とか窮地を脱したと冷や汗を拭い、さっきまで自分を縛っていたロープを回収すると部屋の窓から垂らして脱出経路の確保をし始めた。
そしてロープを伝い下りようとしたところで、指揮官の背後から声がかけられる。
「なるほど、私の冷静さを奪ったうえで偽装していたのだな」
背後からの声に、そっと背後を振り返る指揮官。
そこにいたのは、透明な笑顔を浮かべたハンター。
わっはっはっは、と互いに呑気かつ朗らかに笑った後。高速で指揮官へ銃口を向けハンターが発砲、指揮官は紙一重で窓の外へ脱出成功。
その後、指揮官がハンターから逃げおおせるのに半日ほどの時間を必要としたらしい。
指揮官がハンターからの逃避行を繰り広げてからの後日。
捕獲された切っ掛けが呑気に前線へホイホイ出歩いていた事が原因でもあった事により、基地にて謹慎処分じみた扱いを受けていた日の事である。
多種多様な人形が配備されている基地であるが、戦術補佐用途としての妖精……ドローンもまた複数配備されていたりする。
妖精格納庫は勿論のこと、人形達の宿舎にてふよふよと浮かんでたり妖精と己を信じているAI同士がおしゃべりに興じているのだが……。
「もっきゅもっきゅ……あれー? あんな妖精配備されてたかなぁ?」
お気に入りのチョコバーを頬張るFNCが、見慣れない妖精が宿舎をウロチョロしていた事に気付く。
その妖精は、旧時代に運転免許証を手に入れたばかりの運転手が車輛へ張り付けるマーク、かつて若葉マークと呼ばれたソレが張り付けられた帽子を被っており。
何故かはわからないが、その小さな手で猫と思しきナマモノの前脚を掴みだらーんとぶら下げていた。
「変わった妖精だなー、どんな支援してくれるんだろ?」
チョコバーを食べ終わりハンカチで口の周りを拭いつつ、変わり者の妖精からFNCは視線を外す。
そしてふと気付く、あの人形ドローンが近くにないどころか両足で歩いていなかった? と。
まさかそんななどと考えながら先ほどの妖精を見直すFNC、しかし既にそこにさっきまでいた筈の変わり者の妖精らしき存在は影も形も見当たらなかった。
「…………うん、見間違いだよね。この前指揮官が行方不明になった時忙しくてごはん食べれなかったから、疲れてるのかなー」
誰に言うでもなく、自分以外誰も居ない宿舎の部屋で薄ら寒い何かを押し隠そうと一際明るくFNCは言い放つ。
そうだ見間違いだそうに違いない、そう己の電脳に言い聞かせてチョコバーの包装を屑籠へ捨てようと立ち上がり、テーブルの上に座ってラーメンを美味しそうに啜ってる妖精を見て今日のご飯はラーメンもいいなー。なんて考えて。
「……えぇ?!」
捨てようとしていた包装紙を握り潰しながら、ドローンも確かにそこに居たラーメンをすする妖精を二度見するFNC。
しかし、やはりと言うかさっき見かけた変わり者の帽子をかぶった妖精と同様に、そこには影も形も居なかった。
目を見開き、冷や汗を流しながら足音を殺してゆっくりと宿舎の扉へとFNCは歩を進め。
扉へ到達した瞬間蹴破る勢いで扉を開け放つと、半泣きで指揮官を呼びながらFNCは走り去っていくのであった。
その後FNCはひょっこりと曲がり角の向こうから現れた指揮官を発見、目に涙を浮かべながら抱き着いて己が感じた恐怖を必死に訴える。
訴えられたG&Kの正式採用制服とは違う白い軍服を身に纏った指揮官は、困ったように笑いながらあやすようにFNCを撫で続けるのであった。
今回の元ネタ:対魔忍アサギ 決戦アリーナ、艦隊これくしょん
『TIPS.指揮官マル秘情報3』
指揮官は懐から割といろんなものを取り出したり取り出さなかったりする。
たまに変なものを出す、変じゃないものも出す。
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