召喚勇者な賢者様、女神(嫁)と勇者の仲間になる (ケツアゴ)
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召喚勇者な賢者様、女神(嫁)と勇者の仲間になる

 一切の不浄を取り払ったかの様な荘厳なる神殿にて私は女神の前に跪いていた。炎の如き赤い髪と褐色の肌を持ち、芸術品を思わせる触れる事を躊躇う美しさよりも戦士の凛々しさが際立った女神の名はシルヴィナ。最高神の末娘であり、私と共に旅をした仲間の一人です。

 

「皆、よくぞ世界を救ってくれたな。本当に感謝する」

 

 女神の言葉に私と仲間達は畏まる。さて、此処で私も名を名乗りましょう。私は平泉己龍、勇者としてこの世界に召喚された高校生……でした。既に私は二十二歳、更に訂正するならば私は平泉己龍の魂と肉体をコピーして召喚した存在なので本人は地球で暮らしています。

 

 人が住む七色世界と神の住む無色の世界の計八つの世界からなるこの世界、レイヴァルトは一定周期で全ての世界から悪の気が淀みとなって一つの世界に溜まり、それが魔王率いる魔族になるのです。それに対抗する為に別の世界で順番に勇者となる者が生まれる筈なのですが、何分これが最初の試みだったらしく不手際があって幼い頃に事故で死んでしまい、やむなく異世界の同一人物をコピーして呼び寄せた、それが私が存在する理由です。

 

「申し訳無い。だが、この世界を救ってはくれまいか。その暁には願いを叶えよう」

 

「……私が此処に存在するのは確かですし、魔族が力を強めれば危ないのでしょう? なら、引き受けさせて頂きます」

 

 この召喚事態が無茶だったらしく力を大幅に失った女神シルヴィナ様と私は世界を渡り歩き、仲間を増やして遂に世界を救ったのです。

 

 亡国の王子であるイーリヤは剣を得意とする活発な少年ながら王族としての教育も受けているので知識や教養を役立ててくれました。彼の願いは祖国復興の支援。あくまでも自らの力で民を呼び戻さなければ自分の後の代に響くからとの事です。

 

 猫の獣人であるナターシャは攪乱系の魔法と短剣を得意とする軽戦士。お金持ちになりたいと言っていますが、出身であるスラムの子供達にちゃんとした暮らしと教育を受けさせたいと知っています。

 

 ドワーフの僧侶であるガンダスの回復魔法には何度も助けられました。彼は自らの願いはなく、その分、魔王を倒した後の復興の支援を願うとの事。

 

 時にいがみ合った事も有りますが私にとって掛け替えのない仲間達。家族同然の間柄です。

 

「では、キリュウ。お前の願いを言ってくれ。力も戻った事だし、何でも叶えてやろう」

 

 そして今、私の番がやって来ました。

 

 

 

 

 

「シルヴィナ様……私と結婚して下さい」

 

「ふぁっ!? いやいやいやっ!? お前、正気かっ!?」

 

 一目会った時から私は彼女に心奪われ、共に旅をする事で更に惹かれて行った。相手が女神である以上、これが最後のチャンスと差し出した手。それを前にした彼女は顔を真っ赤にして慌てている。

 

 ああ、何と美しい。この姿は私が初めて好きだと言った時に初めて目にしましたっけ。気高く振る舞う姿も、実は可愛い服や甘い物が好きだけど威厳を気にして興味無いと言いながらも幸せそうにケーキを食べていた所も、私が目を瞑って考え事をしているのを寝ていると勘違いして、私がお前に愛していると伝えたらどう反応するのだろうな、と言った後で慌てて駆け出した様な所も、割れた腹筋を実は気にしている所も、料理下手なのが嫌で影で練習している所も……おや? ああ、声に出ていましたか。指輪を選ぶ時に三人にも注意されたのですが、愛する方について考えたら口に出してしまう癖は治りませんね。

 

「……私で良いのだな? あの王女やら巫女みたいに私よりも可憐だったり色気が有る者達が好意を寄せているというのに……」

 

 どうやら私が本気だとは伝わったらしいのですが、戦士としての美しさが強い事を未だに気にしていらっしゃる様子。彼女達に出会った時、男はあの様なのが好みなのか? 等と訊かれたので私は貴女様が好みです、と答えましたっけ。

 

「私は貴女が良い。貴女しか考えられないのです」

 

「……後悔するなよ? 裏切ったら地の果てまで追い詰めて八つ裂きにしてやるからな」

 

「ええ、当然です。貴女を裏切った私に生きる価値など存在しないのですから。そんな私が世界一美しい貴女に殺して頂けるなど光栄の極みです」

 

「……馬鹿者め。その時は私も後を追うからな。精々私を自害させぬ事だ」

 

 シルヴィア様は私が見慣れた照れ顔(目を逸らして耳まで真っ赤にして、直ぐにそっぽを向く)をした後で私の頬に触れてキスをしてくださった。

 

 こうして勇者の……私の冒険はハッピーエンドを迎えて終わりました。この後、舅である最高神に祝いとして不老不死を戴いたり、仲間が滅びた祖国を復興させたけど一悶着あったりと大変でしたが……私は世界一の幸せ者です。

 

 

 

 さてさて、それではハッピーエンドのその後に続くとしましょうか。ゲームや映画で例えるなら続編という奴です。何せ世界は動き続けるのですから……。

 

 

 

 

 

 

「……おい、起きろ。起きぬか」

 

 微睡みの中、肩を揺さぶられて目を覚ませば愛しい妻がエプロン姿で顔をのぞき込んでいる。思わず首に手を回して引き寄せれば少し驚きながらも抵抗せずお早うのキスに応じてくれた。ああ、何万回繰り返せどこの幸福に飽きる事は無い。続いて腰に手を回した時、伝わって来たのは服ではなく肌の感触。

 

「裸エプロンですか」

 

「……わざわざ口にするな、恥ずかしいではないか」

 

 思えばシルヴィア様……いえ、シルヴィアが私より早く起きるのは珍しい。毎晩の様にベッドの中で甘えて来ますからね。それで起きたら激しくし過ぎて足腰が立たないと頬を膨らまして文句を言って来るのですから。昨夜は私に乗った状態で激しく動いた後、背後から獣みたいに~と甘え声を出して来たのですよね。仕事中とギャップが有りすぎて可愛い……おっと、口に出していたらしい。

 

「……色魔、スケベ、変態め。これから少し忙しくなるからと思っていたが……お預けだ」

 

「おや、それは手痛い。……そうですか。そんな時期ですか……」

 

 どうやら私の重要な仕事の時期らしい。新たな魔王の誕生に合わせて新たな勇者が誕生し、影響を受けた世界を偉業を成し遂げながら回る事で封印の楔となる。そんな勇者と選ばれし仲間達にアドバイス等の手助けをする賢者、それが私の役割です。

 

 戦いなど無用の世界から来て戦いを経験したり、自分の無力に打ちひしがれる後輩をフォローし、世界を再び平和へと導く。それが私に課せられた役目。非常に光栄な仕事ですが、通信装置で何時連絡が入るか分からないので忙しい。

 

 

 

「では、最高神ミリアス様に会いに行く前に……」

 

「こらっ! 無理矢理引き寄せるなぁ……」

 

 口では怒っていますけど、シルヴィアの方が力が強いので抵抗は楽な筈ですけどね? 少なくても簡単に組み伏せられる様な真似はしない。つまり抵抗は演技だと、そういう事です。

 

 

 

 

 

 

「やあ、よく来たね。早速だけど勇者の覚醒について問題が発生した」

 

 無色世界クーリアスに建てた屋敷は森の中にある。この森は七色世界に存在する特殊な木に開いた穴をどの世界からも此方が遮蔽しなければ来ることが出きるのです(但し来た世界以外には行けないのですけど)。そんな森から抜ければ何時の間にか豪奢な謁見の間にて最高神ミリアス様の前に転移している。

 

 くたびれたシャツにGパンという非常にラフな姿でだらけた座り方から威厳は感じられませんが相手は神々の王で舅ですし平伏しておきましょう。

 

「またですか……」

 

「うん、また不具合。酒飲みながら調整するもんじゃないねぇ。これで六人目だけど毎回何かしらの問題が発生するんだからさ」

 

 本当に凄い方なのかと疑いたくなるが凄い方だ。因みに仲間が一人欠けていたり、勇者専用装備が行方不明だったりと私が毎回フォローしている。候補には挙がっていたけど選ばれなかった人を捜したり、不眠不休で新しい装備を作ったり、シルヴィアが今朝の態度を取るのも納得な有様ですよ。

 

「それで今回は? まさか勇者が居ないって事では……」

 

「いや、居る。ちゃんと身元がハッキリしているんだけどさ……未だ十歳な上に仲間に選ばれた子達は生まれ出なかったり赤ん坊だったりするんだよね。あっ! 一人は大人だよ。九十歳で少しボケが入っているけど杖さえあれば歩けるから」

 

 

 

 

 

 

 

「……それで私にどうしろと?」

 

 もう開いた口が塞がりません。神が介入し過ぎたら悪影響だからと無理難題を押し付けられては来ましたが、今回はどうなるのやら……

 

 

 

 

 

 

 

「流石に今回は拙いし、俺の権限を使って君とシルヴィアを勇者の仲間に再設定するよ。シルヴィアの神としての力は封じるけどね。じゃあ、ガンバ!」

 

 親指を立ててウインクする舅の顔に拳を叩き付けたいと本気で思ったのは久し振りですよ……。

 




なろうでも別のオリジナルやってます ハーメルンでは少し遅れて投稿中


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