神殺しin―――ハイスクールD×D (ノムリ)
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やってきました異世界

「やってくれたな、アイーシャ夫人め」

 服についた土を払い落としながら現在、俺が置かれている状況の元凶であるカンピオーネの一人アイーシャ夫人に向かって文句を漏らす。

 アイーシャ夫人の権能の一つ『妖精郷の通廊』の制御不可能な発動によって門に吸い込まれ、吐き出されてみれば、空は紫色の俺の居た世界とは絶対に違う異世界。

「権能は……使えるみたいだな」

 自分の中に意識を集中すると権能があることは感じられる。ならヘルメスから簒奪した『自由な旅(フリー・アドベンチャー)』で帰れるか。

 『自由な旅』はヘルメスの旅の守護神という側面を強くしたものでアイーシャ夫人の『妖精郷の通廊』と似て空間の移動が出来る、とはいえ、なにかと制限があって使い勝手は悪いけど。

 

 

 

 当てもなく適当の歩いていると横からいきなり衝撃が襲い、顔に慣れた感触が当たる。

「ご、ごめんにゃ!」

 体に乗っていた人物が俺の上から降りる頭には猫耳、腰からは二本の尻尾が伸びているのが分かる。

 ……やっぱり異世界ですか、そうですか。

 あ~、と頭に手を当てていると猫耳少女は自分のせいで怪我をしたのかと心配して俺の顔を覗き込んでくる。

「えっと、大丈夫かにゃ?それより私、逃げないといけにゃいの」

「見つけだぞ、はぐれ悪魔の黒歌!」

「にゃ!?」

 黒歌という少女が走ってきた方向からスーツにも似た服を着ている男が三人やってきた。

「おい冥界に人間が居るぞ、どうする」

「どうせ迷い込んだんだろ、殺しておけ」

「そうだな、どうせ人間如き殺したところで」

 っは?三下の癖になんつった。

「…ごめん、巻き込んじゃって、私が囮になるからその間に逃げて!」

 俺と男たちの間に入るように立ち、戦おうとする黒歌。

「なあ、黒歌つったっけ、お前さ人間界みたいな人間が住む世界の行き方とかさ分かる?」

「え?あ、分かるにゃ」

 なら好都合、寧ろ俺の方が恩を売るべきだ。

「なら道案内頼むわ、代わりにそこの三下は俺が倒すから」

 立ち上がり、権能を使う為の聖句を口にする。

「《滅びの時は来た、穢れし世界。混沌をもって全てを無に帰す。この牙、この爪は世界を殺す、我は獣なり》」

 右腕は黒と赤の入り交じったオーラに覆われ、人のものから人ならざるもの、鋭利な爪に逆立つように立つ刺は獣の毛にも見えるものへと変貌を遂げ、それを見た黒歌と男たちは驚愕する。

「神器か!」

 神器?この世界には神器っていうもんがあるのか、まあ、あとで聞けばいいだけの話か。

「悪いね、俺の方もピンチなんだわ。というわけでくたばれ、てか大人数で女一人を追うなんてどうだよ」

「貴様には関係ないことだ、何よりそんな良い女を逃がすわけないだろ」

「そうだ、鎖に繋いで死ぬまで犯し続けてやるさ」

 ……こいつ等はクズだわ、なら殺しても問題ないか。

「もういいよ、黙れ」

 権能により強化した体で地面を全力で蹴り移動する。

 反応おっそ!これは権能使う必要もなかったかもな。腕を大きく振りかぶって一人を殴り飛ばし、二人目を軽く拳を握って押しつぶす、三人目は蹴り飛ばすと木の幹を破って向こう側に飛んで行った。

「やり過ぎたか」

「…強すぎるにゃ」

 ずるずると足から力が抜けて地面にお尻を付ける黒歌。

「そんじゃ、約束通り道案内頼むよ。また敵が来たら対処してやるからさ」 

 

 

 

@ @ @

 

 

「へぇ~、悪魔、天使、堕天使は戦争で滅びそうなのか、にしてドラゴン二体に滅ぼされそうなんてザコだな。俺の世界の悪魔、天使とかなら簡単に殺しそうだけど」

「神殺しの涼が言うと身も蓋もないにゃ」

 黒猫の姿へと変身した状態で俺の肩に乗る黒歌と会話しながら当てもなく雪山を歩いてく。

 無事、冥界から権能を使って人間界に来たのはいいが、出た先が何処かの雪山。

 元来、『自由な旅』は目的地に目印となるアンカーをセットしておいて使うものだ。それを黒歌の意識と俺の意識を接続して間接的にアンカーをセットした結果、人間界には来れたけどどこか分からない場所に出ることになった。

 流石に露出の多い服に耐えかねて黒歌は猫の姿になって俺の体温で暖を取っている。

 

「にしても神器も持たない人間が神殺しするなんて世界は不思議だにゃ」

「俺からしたらへっぽこ三大勢力に驚きだね。一応、悪魔やら天使の権能もあるってのに…こっちで神を殺しても権能は期待できないな。そういえば体の調子はどうだ悪魔の駒を取り除いた違和感とか」

「すこぶる健康にゃ。それに涼の権能って便利にゃ、腕が獣になったり、転移したり、悪魔の駒を摘出できたり」

「腕が獣になったのは、黙示録の獣の『混沌獣(ケイオス・ビースト)』、転移したのはヘルメスの『自由な旅(フリー・アドベンチャー)』、悪魔の駒を摘出したのはプロメテウスの『盗みの極意(ルール・スティール)』だな。他にも人類の作った武器なら何でも作り出せたり、破壊神の槍とか、忠誠を誓う人物に俺の加護を与えたり、結構数はあるぞ。なにせ、過去に飛ばされて神殺しをしたこともあったからな」

 懐かしい、と言っても数か月前の話だけど、月の神トートと戦った時にトートが自滅覚悟で俺を掴み一緒に時間の狭間に飛び込んで過去の日本で戦って運よく権能が手に入って、『自由な旅』との合わせ技で何とか元の時代に帰ってこれた。

「でも、何でこっちに歩いているにゃ?」

「直感かな、なんかこっちな気がするんだよ。にしてもこれからマジでどうしようか、住む場所も、お金も財布に入っている6500円しかない」

「……野良猫生活は勘弁にゃ―――そうにゃ!涼は強いんだからはぐれ悪魔を狩って賞金で生活すればいいにゃ」

「賞金稼ぎか……今は一円でも多く欲しいところだからな、悪いと分かっていてもピンチの時は権能を使わせてもらうか。最悪、戸籍とかは魅了の効果のある権能で乗り切るとしよう!」

 雪山を進みながら二人で正確には一人と一匹でこれからの事を相談していく。

 ある程度の危機はカンピオーネの体の前では軽く済むし、カンピオーネの万能ボディに感謝しておくとしよう。

 

「くんくん…変な匂いがするにゃ」

 変な匂い?肩に乗っている黒歌が鼻をピクピクさせる。

「確かに匂う、自然の物とは違う匂いだ」

 匂いを辿って歩いていくとあったのは人口の建物。パッとみでは教会にも見えなくもないが人の気配はしない、その代わりするのはまつろわぬ神との戦いの中で感じ取った死の気配。

 行かなくてもいいかもしれない、けれど俺の直感が行けと言っている。

「行くのかにゃ?」

「行ってみる、何かあったら権能で転移するから離れるなよ」

 一歩を踏み入れ、ゆっくりと進んでいく。

 中には教会だったようで十字架や聖書、瓶の入った液体は黒歌が聖水だと説明してくれた。適当に部屋を覗けば、小さいサイズの神父の服があるから多分孤児院か、施設だったんだろうと思っていた子供の死体の山を見つけるまでは。

 床に血が染み出している様子はない、毒かなんかだろ。

 

「教会って人を助けるもんだと思ってけど、こっちの教会は人体実験するんだな」

 しゃがみ床に倒れる子供の手に触れると既に体温はなく。分かるのは逃げる為に出口に繋がる通路へ這ってでも進もうとしていた、生きようとしていたことくらいだ。

「はぁ~、何でかね胸がモヤモヤするのは」

「それは人だからだと思うよ涼」

 もしこの場に犯人が居たら俺は躊躇なく最も残酷な死を与えることができる権能を発動して犯人を殺したことだろう、いや死すら許さなかったかもしれない。

 数秒が過ぎ、帰ろうとしたとき死体の山の一部が僅かに動いた。

 黒歌を肩から降ろし、急いで死体を丁寧に且つ迅速に動かすと、重なる死体に庇われる体制で僅かに呼吸のある少女がいた。

「息があるにゃ!?」

「ああ、結構ギリギリだけど権能でなら一気に治せる《正と死を隔てし森は、狭間の森。人も獣も等しく癒しを与えし場所》」

 ケルヌンノスの権能の聖句を唱えて発動。俺を中心に緑豊かな森は生み出されると暖かい日の光が降り注ぐいてくる。

 降り注ぐのは治癒の力を宿した光。顔色の悪かった少女の顔はみるみるうちに良くなっていく、呼吸も安定して眠っているのと大差ない状態にまで戻った。

 

「これで一安心だな」

「あとは意識が戻るまで安静にしておくにゃ」

「雪山なんて冷える場所じゃダメだ、神速を使って一気に下山する。黒歌乗れ《雷光こそ我が通る証、轟く雷鳴と共に敵を侵略せし敵を退けよ。輝く雷を持って打ち破れ》

 雷神トールの権能『雷神の鎚激(トール・ハンマー)』を発動する。

 本来ならトールの武器ミョルニルを使えるだけの権能だけど、『混沌獣』で作り出したヤギと合わせる事でトールの乗る戦車タングリスニとタングニョーストを俺の体内に生み出し雷を身に纏い神速を得ることが出来る。

 体に纏う蒼雷。

 少女をお姫様抱っこで抱え、黒歌も少女のお腹の上で丸くなった。

 バチィ!という雷鳴を轟かせ、教会の中を抜けた。

 



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新しい名前

 神速を使い五分と掛からず山を下り。ホテルを見つけて部屋を取ろうとしたはいいが、残念ながら持っているのは日本の通貨。国は分からずとも日本ではないことは確かだ。急ぎで銀行に走ろうとしたところ、店主であるおばちゃんが金は要らないよと無償で部屋を貸してくれた。

 少女をベッドに寝かせて、おばちゃんが昼の残りだと言って渡してきたスープを食べながら黒歌と話していた。

「はぐ!にしてもこの子どうするにゃ」

 黒歌は猫の姿のまま、スープに入っていたお肉をほぐしたものを食べながらベッドで眠る少女に視線を移す。

「見つけちゃったんだからしゃーないだろ」

「好奇心は猫を殺すっていうから厄介事にならないと良いにゃ」

 そもそもあの施設はなんだったんだ。

「教会だから悪魔祓い(エクソシスト)を育てる施設兼教会だったのかもしれないにゃ」

 悪魔祓い?それってあれか、映画とかに出てくる悪魔を斬ったり、撃ったりするそういうバトったりするタイプの悪魔祓いかと聞くと黒歌はコクリと頷いた。

 育成する施設がどうやったらあの地獄絵図を作り出すんだか。

 子供の死体だけじゃなくて大人の死体があるか、血痕があったなら種族間の争いがあったと思えるけどそんなものは無かった。使われたのは毒、普通に考えて何かヤバイことをして知ってしまった子供の口封じだろう。

「悪魔、天使、堕天使がいて。教会は悪魔祓いで。しかも教会の関係者は腐ってる可能性が高いと……俺の世界の方が難易度高いけど、こっちの世界は難易度低めのクソゲーかよ」

 スープを飲み干して空になった器を机に置く。

「どっちにしろはぐれ悪魔を狩って金を稼ぐにしても、何処かで情報を手に入れる必要があるな。黒歌はどうする俺は勝手知ったる日本へと渡ろうかと思ってるんだけど、日本なら教会も少なそうだしこの子にとっても良いだろ」

「私は涼についていくにゃ、妹も探さないといけないし」

「妹?ってああ、この前言ってたな白音だっけか。いいさ、裏関係の酒場なら情報は色々と入ってくるだろ。互いに持ちつ持たれつってことで今後ともよろしく」

「にゃん」

 俺が握手するように手を差し出すと黒歌は手の代わりに尻尾を差し出してきた。周りから見ると俺が黒猫の尻尾をいじっているようにしか見えないけど。

 

 

 おばちゃんに空になったスープのお椀を返しに行き、帰ってくると少女は目を覚ましたようで上半身を起こして膝の上で黒歌を撫でていた。

「あ、えっと、その……」

「お帰り涼、起きたみたいにゃ」

「見れば分かるわ」

 しまったな水でも貰ってこれば良かったな。

 椅子を動かしてベッドの近くに移動させる。

「俺は神無月涼、そっちが黒歌な」

「えっとイシルスです、それで私は死んだはずじゃ……」

 今までの経緯を軽く説明するとどうも俺と黒歌の憶測は合っていたらしい。正確にはあの施設は聖剣使いを育てる施設で、研究者が言うには自分たちは失敗作だったそうだ。つまり、彼女たちは口封じに殺され、彼女は運よく俺が駆け付けた時まで息があったということだ。

 涙を流すイシルスにカッコよくハンカチでも渡してやりたいところなのだが、そんなものはないので水を貰いに行くついでにおばちゃんにタオルを貰ってきた。

「水とこれタオルね」

「ぐす…ありがとうございます」

 差し出してコップとタオルを受け取ろうとイシルスが両手を伸ばそうとすると左手は前に出たが右手だけは出てこない正確には動いてすらいなかった。

「え……なんで…」

 自分の意思では全く動かない右手を見る。

「吸った毒の後遺症かもしれない。体内の毒は俺の能力で治癒したけど多分、その前に吸い込んだ毒の影響だ。使ったのはあくまで傷なんかを治すもので千切れた腕や死は消せないから」

「いえ、命が助けてもらったのに文句は言えません」

 左手で右手をさすりながら自分に言い聞かせているようにも見える。

 

「さて、早速で悪いけどこれからの話をしようか」

「これからですか…」

「俺と黒歌は金が無いから日本に渡って、はぐれ悪魔を狩って賞金稼ぎをする。君はどうする俺たちと一緒に行くか、このまま残るか。と言ってもこのまま留まるとあの施設を確認しに関係者が来るかもしれないどっちにしろ動かざるを得ないけどな」

 目を瞑り、数十秒考えると俺の目を金色の瞳でしっかりと見て口を開いた。

「私はあの時、あの場所で一回死にました。だから、此処に居る私は二度目の私です。救われた命の分だけ貴方に恩返しをします、連れて行ってください」

 その目には決意と覚悟が見て取れた。

「そうか。でも、日本に行く前に君に友達のお墓を作ってあげないとな」

「……はい!」

 その後、イシルスの友達のお墓を作り、イシルス自身がナイフで木の板に友達の名前を刻んでいくと自分の名前も書き加えた。

「私は…イシルスは死んだ。聖剣使いになれなくても、命の恩人である主の剣として騎士として仕える為に生きていく。涼さん、私に新しい名前をください」

「…名前か……セレナなんてどうだ」

「セレナ…はい、いい名前ですね!」

 

 

 

@ @ @

 

 三人で日本へと渡り、予定通り俺ははぐれ悪魔を狩る賞金稼ぎとして活動。その最中にはぐれ悪魔が持っていたアイルランド民話の魔法剣のクラウ・ソラスを手に入れ。俺の権能の効果によって形状を義手に変え、動かすことのできなくなっていたセレナの右腕の代わりとした。

 数週間ほどはぎこちない動きをしていたけど、本来の腕と変わらず動けるようになってからはセレナが俺の仕事を手伝ってくれるようになった。

 

 手の中から生み出された光の剣を振り下ろし、迫りくる魔法の弾を切り伏せる。

 クラウ・ソラスを素材として作った義手はセレナの意思に沿って手から光を光の剣を生み出す。聖剣使いとして育てられていたセレナの剣の技術は実戦でも通じるレベルだ。黒歌にも手伝ってもらうのも悪くないが、いまだはぐれ悪魔として登録されたままの黒歌を実践に連れ立つのはリスクが高い。

 

「涼さん、終わりました!」

 いい笑顔で手を振ってくる。

 セレナの足元に転がる意識を失ったはぐれ悪魔たち。

 決してはぐれ悪魔が弱いわけじゃない、寧ろ首にかけられている賞金も上位に入るほど高い。セレナはそれを一人で蹴散らした。

「まさか此処までアレスの権能と相性がいいとは思わなかった」

 軍神アレスから簒奪した権能『共に戦場に立つ(ハート・オブ・ウォー)』は俺を主として他人を部下とする、偽りなき忠誠を俺に誓えばそいつは眷属となり、加護と祝福が与えられる。相性にもよるが俺の所持する権能の能力を限定的に使用することだってできる。

 セレナはそこまでいってないけど、戦士としての力には加護が掛かってるみたいだ。そうじゃなきゃ岩を光剣のひと振りで切り裂けはしないと思う…てか思いたい。こりゃ~とんでもない拾いもんをしたかもな。

「そういえばあの手紙どうするつもりですか」

「ああ、あれね」

 ポケットから取り出した封筒。

 宛先人……ではなく宛先神か、なんせ日本神話の神天照大神から送られてきた手紙だからな。多分、日本に入った時点でバレてたんだろう。

「これから日本で生きていくなら無視するわけにはいかないだろ」

 手紙には所謂、話したい事があるので高天原に来てほしい、という内容だった。多分、日本も三大勢力との関係に色々問題があるんだと思う、なにせ予想していた以上に日本にははぐれ悪魔が多い。結構好き勝手にやってるみたいだ。

 最悪、俺は日本から出ていくからセレナと黒歌は保護してくれるといいけど。

 

 



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京都で会談

 手紙に書かれていた場所である寺の鳥居を潜るとさっきまで人の話し声が聞こえていた観光地とは打って変わって物静かな場所。

 灰色の景色に建物ですら現代のものから一昔前の和風建築にと変わっている。

「…結界の一種か」

「此処は裏京都にゃ」

「裏京都ですか?」

「裏京都は妖怪が主の生活する京都にゃ」

 確かに外よりも肌に感じる魔力濃度が濃い、多分、妖怪とから最も住みやすい環境になってるんだろう。

「来たようじゃの」

 コツコツ、と石畳の上で下駄を鳴らしながら歩いてきた金髪の女性。腰から伸びる九つの尻尾に金色の着物を黒歌のように胸が見えるように着崩した着方。後ろには烏の顔の人、妖怪の烏天狗と呼ばれる者たち。

「アンタが案内役ってことでいいのか?」

「ああ、妾は八坂。裏京都を束ねておる。お主たちの事は天照様から聞いておるわ、神無月涼との会談をするから案内するようにとな」

 こっちじゃと道を先に進む八坂の後ろをついていくとあちこちから視線が注がれているのが感覚で分かる。恐怖、畏怖、興味、色んな視線が俺へと向けられている。

 和風の建物に入り、部屋に案内されると茶と羊羹を出された。

「なんか普通ですね」

「てっきり難癖付けて襲ってくるかと思ってた」

「二人は京都の妖怪を何だと思ってるにゃ!?」

 怒る黒歌をほっといて羊羹を一口大に切って口に運ぶ。やっぱり洋菓子も良いけど、和菓子も旨い。セレナも気に入ったようだし。

 顔を横に向けると羊羹を食べて、緑茶を啜ってはぁ~と和んでいる。

 

「準備が整いました、神無月様のみ此方へ」

 戸を開けて声を掛けてきたのは八坂ではなく妖怪でもない普通の人間の巫女だ。

「え!私たちは行けないんですか!?」

「はい、天照様からお一人のみで来るようにと仰せつかっております」

 二人は不満とばかりにお使いの巫女に視線を送っているが、彼女に何を言ったってしかたがない。

「はいよ、それじゃ二人は待機ってことで。何かあったら連絡してくれ」

 心配そうに俺を見送るのを置いて、俺は巫女についていくと此処ですと障子の前に案内された。

「此方から高天原に繋がっております」

 そう告げて巫女も何処かへ行ってしまった。

「戦うことにならないと良いけど」

 障子を開けるとそこは部屋ではない。雲の上だろうか、床も畳ですらない足が何かに触れている感触はあるのに柔らかい。何とも不思議な感覚。

 進んでいくとあったのは首を上に上げなくては見ることの出来ない巨大な鳥居。

「こりゃ~、圧巻だ」

 鳥居の向こうは白く光って何があるのか分からない。

 覚悟を決めて鳥居潜った。

 

「よく参った」

 眩む目を開いてみればそこは一室。

 机もなく窓もなく。あるのは藁で組まれて座布団だけ。中心に置かれて一つ座布団の周りに日本の神々が円形に囲むように座っている。

 

「えっと、どうもでいいのかな」

「構わん、座ると良い」

「それじゃ遠慮なく」

 普通なら正座して座るべきなんだろうけど、ここで下手に出ると良いように使われかねない。

「さて、まずは其方の事を聞きたい。神格をその身に宿す理由をな」

 やっぱり、分かるのか。まつろわぬ神も見ただけでカンピオーネと分かったし、天照の言う神格が関係してるのかもな。

「そんじゃ、まずは俺自身の事からってことで」

 俺がカンピオーネになったこと、他のカンピオーネの権能によってこの異世界へとやってきたこと、冥界で黒歌に出会い悪魔の駒を抜き取ったこと、偶然見つけた教会で行われていた聖剣使いの人体実験の被検体を保護したこと、現在は日本で賞金稼ぎとして活動していることを包み隠さず話した。

 

 

 

 

「……そうか、異世界で人と神は戦っているのか」

 天照は人と神が戦っていることに顔を歪めているが、軍神のタケミカヅチ、スサノオは神と肩を並べて戦える人間が居る事を喜んでいるようにも見える。

「まあ、こっちの世界の事じゃないんだ気にしなくてもいいだろ、それより日本に滞在することは許可貰えるかな」

「それは問題ない。お主のお陰で日本内のはぐれ悪魔による被害が減って寧ろ助かっておるわ。三大勢力の被害は日本でも多い、悪魔は人間だけでなく妖怪にも、堕天使は神器を持って生まれたからと殺され、人を守る天使ですらも悪魔祓いを育てるという理由で才ある者が攫われることもある」

「アイツら好き勝手やってんな、滅ぼしちゃダメなのかよ」

「日本神話の間でもその話は幾たびも上がった。だが、我らは争いを是とはしない、とは言え民が傷付けられるのみ我慢ならん。そこでお主に白羽の矢が立ったというわけだ。実力もあり、妖怪の黒歌と聖剣計画の被害者の少女も連れているそれだけで一目見る価値はある」

「そいつは高評価をどうも、それで俺は何をすれば?」

「三大勢力と協力しろとは言わん、我らも恨みが無いわけではない。ただ民が傷つく危険が迫る時守ってやって欲しい。ただそれだけだ」

 俺の世界の神とは全く違う。これなら敵対する理由も無いな。

「俺は俺の身内を守るだけさ、その時に周りに被害が出そうな時はそっちに連絡でも入れるってことで」

「それで構わん。アイツらは連絡もせんからな」

 ……三大勢力よ、よく今まで滅ぼされなかったな。

「そうなれば、妖怪の統領の八坂と話をしておいておくように言っておく、陰陽師関連からも人を出すようにも言っておく」

 これで一応は一安心だな、とはいえ、黒歌みたいな同意なしで転生悪魔にされる件も少なくない。その辺は俺の力でなんとかするしかないか。

 

 高天原を出て黒歌とセレナが待っている部屋の障子を開けようとすると中からセレナと誰かが会話する声が聞こえてきた。

「そうか、セレナはその涼という男が好きなのか」

「そうですね。私を助けてくれて、名前もくれて優しくて強い人です」

「いいな、私もそんな男と会ってみたいのお」

 セレナは前よりも明るくなって良いことなんだけど、すっごい入り辛い。

「それは高評価どうも」

 聞こえてないフリをして障子を開ける。

「りょ、涼さん!もももう、歓談はよろしいんですか!?」

 耳まで真っ赤にして話を聞かれてないか、慌てているセレナ。

「あ、涼お帰りにゃ」

 机にべた~と突っ伏してくつろいでいる黒歌。

「おおむね、成功って感じかな。敵対はせず、三大勢力と対するときは協力するってことになった」

「それはいい傾向にゃ」

「それでそちらのお嬢ちゃんは?」

 セレナの膝の上に座って話している巫女服を着た金髪の少女。

「八坂の娘の九重にゃ、涼が出て行った少し後に遊びにきたにゃ」

「そうか、俺は神無月涼だ。多分、何度か此処にも顔を出すことになるからよろしくな」

「うむ、よろしくなのじゃ!」

 

 

 

@ @ @

 

 

 天照との会談を終えて、セレナが京都を見たいというので二人で京都観光に行くこととなった。因みに黒歌は八坂と気づいたら酒盛りを始めていた。

「見てください!金色、金色ですよ!」

 元気にはしゃいでいるセレナを見て観光に来たお年寄りは微笑ましい笑顔で彼女を見ている。

 あそこまではしゃがれると金閣寺よりもセレナに目が行ってしまう。

「涼さん!次は清水、清水寺に行きましょ」

 手を引いて前を歩くセレナ。

 出会ってすぐはあまり無理した笑顔だったけど最近は普通に笑うようになった。

「どうかしましたか?」

「いや、今日も可愛いなと思ってさ」

「ふぇ!?」

 頭に手を置いて撫でると顔を赤くしながらも抵抗することなく撫でを受け入れる。甘える猫のように俺の手に自分から頭を擦り付けてくるあたりが可愛らしい。

 ……周りの男からの視線が地味に痛いな。そうでなくてもセレナは外国人で目立って、外見も可愛らしい。

「行こうか」

「あ、あの!」

「どうした?」

「て、手を繋ぎたいです!」

「いいぞ、はい」

 手を差し出すとお菓子を貰ったこどもみたいに目を輝かせて両手で俺の手を取った。

 セレナよ、両手で手を取ったらお前はどうやって前を見る気だ。

「えへへ」

 嬉しそう笑うセレナの手を握り、手を引っ張って進む。

 セレナの行きたいと言っていた清水寺に着くとやっぱり制服を着た修学旅行の学生が観光客に交じっている。

「清水寺って此処から飛び降りてたって本当なんですか?」

「本当らしいぞ、傘を持って飛び降りると恋が叶うって話もあったくらいだしな」

 へ~、とセレナは木製の手すりから下を覗き込んでいる。

「お前なら無傷で着地しそうなもんだけどな」

「流石に無理がありますよ。着地で擦り傷くらいは出来ますって」

 その程度で済むのか、俺の権能のせいでチート臭くなってきたな。

「それよりも、近くに美味しい和菓子と抹茶が飲めるところがあるって八坂さんに聞きましたから行きましょう!」

 

 

 

 

「にっっが~い!」

 茶碗の中に入っている甘くない寧ろ本来の味である苦みに悶えているセレナ。

 あむっ!と花の形の和菓子を頬張りあま~い!と和んでいるがいまだ茶碗の中にはたっぷりの抹茶が残っている。

「抹茶は苦いもんだ。和菓子を先に食べてその甘さで苦い抹茶を飲んで苦さを味わうもんだ」

「え……なんでこんな苦いのに、もっと苦くして味合わないといけないんですか」

 そんな、唖然とした顔をせんでも。

 ほら、隣に座っているおばちゃんが笑ってるじゃないか。

「…しかも、和菓子食べちゃったから残りは抹茶しかない……」

「はぁ~、これやるから最後に食べろよ」

「ありがとうございます、涼さん。こく……苦い、やっぱり苦いです!」

 くぅ~、と体をくねらせて全身で苦いを表現しているセレナは何とも珍妙な生物である。周りのおばちゃん達はそんなセレナを見て笑っている。

 結構、美味しいと思うけどな。

 茶碗に入った抹茶を口に含むと独特な苦さが口に広がる。

「涼さんは苦くないんですか」

「俺はこの苦さは嫌いじゃないかな、抹茶味は好きだし」

「涼さんは好きですが、この苦さは好きになれないです」

 セレナはうむ~と言いながら残った抹茶を飲み干し、渡した和菓子を美味しそう食べている。

 いきなり好きなんて言うから、おばちゃん達からあらやだみたいな顔しながら俺を見てくるじゃねえか。

「全く、そういうことを言われると恥ずいだろ」

「いいんですよ、好きなものは好きなんですから」

 ふふ、と笑っている顔はいつも子供っぽい癖に何処か大人っぽく見えた。

 

 




次回から原作に入る予定です。
エクスカリバー編から始める予定ですが、もしかしたらちょっと変わるかもしれないです。


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打倒コカビエル

「また拾ってきたんですか、涼さん」

「またとはなんだ、またとは。しかも今回は拾ったんじゃない保護しただけだ」

 ソファの上で意識を失っているのは教会の悪魔祓いの紫藤 イリナという少女。

 腕や脚には包帯が巻かれ、着ていた黒い全身タイツみたいな防御力ゼロな装備は破れていて着ていても意味はなさそうだったので、セレナのシャツを代わりに着せている。

 事の発端は堕天使の幹部コカビエル、教会の所持するエクスカリバーを盗み出したことから始まった。教会は二人の聖剣使いを派遣し、この地を領地とか言っちゃってる悪魔のリアス・グレモリーと接触して正式に聖剣を取り返す話を付けた……らしい。

 日本神話にこの話は事件当初から耳に入っていたが、一度たりとも天使陣営からも、堕天使陣営からも、悪魔陣営からも、謝罪もなければ連絡すら入ってこなかった。

 アイツらはアホなのか、人の土地に入って領地とか言っちゃってるくせに、何も言ってこないからって問題が起こっても自分たちで解決すれば丸く収まるとか思ってんのか。

「最悪、堕天使と悪魔を綺麗に一掃して片付けるのもありか」

 こっちで長いこと戦って分かったことだけど、どうもこの世界は俺のいた世界よりも根本的に強さというレベルが低い、カンピオーネ一人で世界を一人で滅ぼせるくらいに。

 俺があんまり暴れると世界が壊れちまう。

「主。天照様から連絡から入ったよ。天使からは謝罪と保護した悪魔祓いの一時的な保護を、堕天使からは、今回の一件は堕天使の総意ではなくコカビエルの独断であり、最悪殺害してもいいってさ。悪魔に関しては言い訳を並べて話が進まないので無視で頼む、だってさ」

 隣の部屋からリビングに入ってきた巫女姿の少女―――倉橋灯巳(ひみ)

 天照との会談で話した陰陽師を送るという話で彼女が送られてきた。術、結界を得意とし後衛に優れている。いまだ、はぐれ悪魔認定が解けていない黒歌を仕事に連れて行く事が簡単に出来ない以上ありがたい。それにどうも彼女は家とは上手くいってなかったみたいだしな。

「そっか、ならコカビエルだけ潰し、その後に悪魔の大元を引っ張り出すのが手っ取り早い」

 三大勢力で一番悪魔が面倒だな。プライドは高い癖に他の種族を転生させないと生存できないポンコツ種族め。

 

「黒歌は留守番な、妹は助けるから心配するなよ」

「にゃ~、悪いけど任せるにゃ」

 魔王の妹のリアスの眷属に黒歌の妹の白音はいる。きっとリアスは黒歌の顔を知っているから知られるのは良くない。

「セレナ、灯巳、準備できたか?」

「はい、出来てます」

「こっちも出来てるよ、主」

 セレナは義手の調子を確かめ、灯巳は結界を使うのに使い呪符の入ったケースがついたベルトと数珠を腕につけて身に着けていた。

 

 

 

@ @ @

 

 駒王町には悪魔が立てた学園があり、そこには多くの悪魔が通っている。

 正直、その話を聞いた時はお前らどうやって学校なんて建てた、と独り言を言ってしまった。

 

 そんな学園に今夜は一般人に視認できない術で結界が張られ、中ではコカビエルとリアスと眷属、教会から派遣された聖剣使いのゼノヴィアが戦っている。

 家から学園まで家屋の屋根を足場にして飛び越えていく。

 

「あ~、ソーナ・シトリーで合ってるか」

「……誰ですか、貴方たちは」

 眷属たちと協力して学園全体を覆う大きな結界を張っているソーナ・シトリー。

「その状態じゃ話も出来ないか。灯巳、結界を肩代わりしてやれ」

「りょ~かい!ほいっと」

 灯巳がベルトにつけたケースを開けて呪符を飛ばすと呪符は空中に静止して、結界を構成していく。

 ソーナ・シトリーと眷属たちは自分たちでなんとか確立していた結界を一人で苦も無くやってのける灯巳に驚きながら俺の目の前に降りてきた。

「これで話が出来るな。俺は日本神話の使いでやってきた、堕天使のコカビエルを潰すのを頼まれてな」

「何故、いまになって……」

「理由は簡単、天使も、堕天使も、悪魔も人の土地で問題が起こっても連絡を入れてこないからこっちは後手に回るしかないんだよ。数十分前に抗議の連絡いれたらやっと事情を説明したってわけさ」

彼女も頭に手を当てて頭痛が痛いみたいなリアクションを取る。

「それじゃ、俺らも介入させてもらうからな」

「おい、後からやってきてデカい顔すんなよ!」

 ソーナ・シトリーに匙と呼ばれる男は俺に突っかかってくると周りに止められる前にその首に光の剣が突きつけられた。

「涼さんに近づかないでください、悪魔風情が」

「セレナ、下ろせ」

 すっ、と不満ながら光剣を下ろすセレナ。

 

「悪かったね悪魔くん。あんまり話してると中が大変になりそうだからお喋りはその後ってことで。灯巳!俺とセレナが結界を通れるようにしてくれ」

 結界を作って暇になっている灯巳に声を掛けると、もう出来てるよ!と頭の上で〇を作って大丈夫のアクションを返してくる。 

「すまないけどソーナ・シトリー、魔王が来たら事情の説明を頼むよ」

 

 

 

 

 

 結界を通り抜けて中に入ると校庭の上空にはコカビエル。隅っこの方ではバルパーが教会から盗み出したエクスカリバーを使った何か術式を組んでいた。

 

「ほう、新しい奴が来たか」

「セレナ、お前はあっちの聖剣使いと悪魔の眷属を助けてやれ」

 はい、とセレナはすたすたと歩いていった。

「……どなたかしら」

「え!部長も知らないんですか」

「初めまして、今回は日本神話の使いとしてやってきた。本業は賞金稼ぎだ」

 コカビエルが眉に皺を寄せて厄介なのが来たという表情をしている。

「それはご苦労なことだ、っな!」

 生み出した光の槍を躊躇なく俺に向かって投げてくるコカビエル。

 今代の赤龍帝の兵藤一誠があぶねえ!と叫んで俺を助けようとするがそんなものは必要ない。

「全く躊躇なく投げたな」

 飛んできた光の槍を左手を『混沌獣』で変化して掴み取る。

「マジかよ、掴み取った」

「人間にしては随分と変わった能力だな、神器か」

「お前らみたいなのと戦うんだから、これくらいあっても文句言われないだろ」

 掴んでいた光の槍を握りつぶし。『混沌獣』による四肢の獣化をして、戦うための状態に移る。

「貴方とあっちの子は今は味方と思っていいのかしら」

「構わないよ、敵の敵は味方ってやつだ。とはいえ、コレが終わったらアンタには日本で領地云々を言っていることで日本神話から抗議の話があるから大変だろうけどな」

 なんですって!?と騒ぐリアス・グレモリーに標的に飛んできた光の槍を叩き落す。

 こいつ等……戦闘中に敵から気をそらし過ぎだろ。

「戦闘中に敵から目を離すな、あと赤龍帝!」

「え、あ、はい!」

「お前は全力を出すのに時間が掛かるんだから、会話の最中でも隙を見つけたら力を貯めるようにしろ」

つってもコカビエルの方もこっちより、向こうの方が気になっているみたいだけどな。

 リアス・グレモリーと眷属たちが騎士(ナイト)の木場祐斗とエクスカリバーの方に視線を向ける。

 

 

 

 

 セレナと同じ聖剣計画の生き残りの木場が持つ『魔剣創造(ソード・バース)』の禁手『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔の相反する二つの属性を融合させて聖魔剣を作り出した。

「やっぱりイザイヤはすごいですね」

「何故、君がその名を……もしかしてイシルスなのかい…」

「お久しぶりです。今は涼さんにセレナの名前を頂きました」

「貴様もそいつと同じ聖剣計画の生き残りか」

 バルパーは目を細めてセレナを舐めるように観察する。

「積もる話は後程。いまはあの模造聖剣を壊すことからです」

 右手に光剣を生み出し握る。

「……どういうことだ、模造聖剣とは!」

 セレナが声の聞こえる方に顔を向けると青髪に一部緑のメッシュが入った特徴的な髪色の全身タイツ姿の悪魔祓いゼノヴィアが肩に破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)を担ぎゆっくりと近づいてくる。

「そこの博士も知らなかったみたいですね。そもそもエクスカリバーとは星、つまり地球の地脈、別名龍脈から力を吸い上げて剣という形にした物。使い手こそ人間ですが、持ち主は星か、星から生まれる疑似生命体の精霊です。仮に折れたところで元の地脈に戻せば元通りになる。なにより正式なエクスカリバーはアーサー王の命令で円卓の騎士のベディヴィエールが湖の精霊に返還し、その後、エクスカリバーが地上で確認された経歴は存在しません。私たちが直接、聞きに行ったところエクスカリバーは精霊が所持していました」

「待て、ならばこれは……このエクスカリバーはなんだというんだ!」

 バルパーはさっき自分の口でエクスカリバーと言っていたそれを掴み、剣に目を落とす。

「だから模造聖剣だと言っているでしょ、神ヤハウェが神器を作ったように聖剣エクスカリバーを真似て作った偽物です」

 この場で俺とセレナしか知らない真実を彼女は躊躇なく赤裸々に語った。

 にしても、珍しいなアイツが怒るなんて。やっぱり友の仇であるバルパーを目の前にして我慢できなくなったかな。まあ、いいさ、少しくらい自分の我儘を通すくらいが俺に忠義すぎるアイツには丁度良い。

「イザ、じゃなかった、木場、ゼノヴィア。こっちも待ってあげる時間はありません。あれを壊すなら一気に行きますよ」

「昔の引っ込み思案の君とは随分と違うね」

「そうか、偽物なのか……だが、どっちにしろ私はあれを回収しなくてはいけないのでね」

「クソ、フリード!これを使って奴らを細切れにしてしまえ」

「はいはい、聖剣だろうが、模造聖剣だろうが俺っちに関係ありしぇ~ん。敵を切り刻めればそれでいいんだよ!」

 ゼノヴィアの口にする詠唱と共に空間に出来た魔法陣から露出してのはエクカリバーにも並ぶ聖剣の一つデュランダル。

 光の剣、聖魔剣、聖剣と相対するのは神が作った模造聖剣の折れた破片から作られた未完成の模造聖剣。

 これは話にならん戦いだな。てか、セレナのクラウ・ソラスをフルで使えば次元と一緒に対象を切り裂ける、戦いにすらならん。

 

「所詮は折れた聖剣。このデュランダルの相手ではない!」

 ゼノヴィアがデュランダルを振り下ろすとフリードは模造聖剣の力で高速移動することで攻撃を避け、刀身を透明にして鞭にように伸ばし振るった。

 能力としては結構ありだよな。高速移動は攻撃と回避、透明にするってことは間合いを図らせないように、加えて、形状も自由なら剣以外にも、槍や盾にだって出来る。武器は優れていても使い手が二流じゃダメだな。

 ありゃ、決着ついちゃった。

 木場の一撃で模造聖剣は粉々に砕かれ、セレナの一閃がフリードの体を傷つけた。

「何故、模造とはいえ聖剣だぞ……こうも易々と。そうか!聖と魔のバランスが崩れていれば聖魔剣という特異な現象も起こる。戦争で魔王だけではなく、っか!」

 一人で何かの答えに至ったバルパーを貫く光の槍。

 誰も予想しなかった展開、仲間であるコカビルがまさかバルパーにとどめを刺すとは。

「バルパー。お前は優秀だった。そこに思考が至ったのも優れていたからだろう」

 コカビエルの浮かべる笑みは酷く歪んでいる。

 

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで貴様らはよく戦うものだ」

「……どういうこと」

 リアスは怪訝そうな口調でコカビエルに聞くと、まるで秘密を話す子供のように高笑いしながら口にした。

「フハハ、フハハハハハハ!そのままの意味さ。三つ巴の戦争で四大魔王だけでなく神も死んだのさ!」

 高笑いしながら天使陣営が是が非で守ってきた秘密を暴露した。

 それを聞いた俺とセレナを除いて全員が唖然としている。特に教会の使いであるゼノヴィアと元シスターのアーシアは特にショックが大きいようだ。

 

「あんまり時間を掛けるわけにもいかないか、リアス・グレモリー 悪いけどコカビエルはこっちで片付ける」

「待ちなさい!ここは私の領地よ。私が、キャ!」

 後ろで叫ぶ声が聞こえるがそんな事を気にする必要もない。

「《雷光こそ我が通る証、轟く雷鳴と共に我らが国を侵略せし敵を退けよ。輝く雷を持って打ち破れ》」

 聖句を唱えトールの権能を発動し、『混沌獣』と『雷神の鎚撃』の掛け合わせによって短時間の神速を取得。神速によってコカビエルの背後に回り込む。

「悪いけど、時間を掛けるつもりはないんだ」

 鱗のように変化させて右腕に『雷神の鎚撃』によって出現したミョルニルを腕に宿し拳を振り殺す。

 ドゴン!という人を鈍器で殴った時とは違う音を立てて、コカビエルを地面へと叩き落す。地面はクレーターが出来たように窪み、砂煙が舞う。

「…はぁ、はぁ、くそ!人間風情が!?舐めるな!」

 頭から血を流し、空中に居る俺を睨みつけるコカビエル。

「……しぶといな、なら雷を追加してやるよ」

 『混沌獣』の力は動物や神獣を再現すること。

 蛇や獅子、山羊、猪など多くの動物は象徴や現象をイメージされる。神獣はその中でも神話や伝説で語られる存在。

 雷という現象ならば山羊やインディオ伝承に登場するサンダーバード。その鳴き声は雷になり、目の光は稲光になるとされたという。

 その二匹の獣の力を束ねれば雷を掌握できる。

 二匹の獣の力を使い雷を生み出し、ミョルニルを宿す右腕からバチバチと音を立てて蒼雷が迸る。ミョルニルは普通に、使えば鈍器。雷を与えてやれば雷鎚ミョルニルへと昇華する。

「落ちろ」

 右腕をコカビエルに向けると巨大な落雷が落ちた。

 それは神の裁き。

 自然現象の中で人が恐れる現象の一つ。

 それを目の当たりにすれば神話体系で雷に属する神が頂点に立っているのも理解出来るだろう。

「――――ッ!!!」

 雷鳴に交じって誰にも届かないコカビエルの悲鳴は消えた。

 閃光が晴れた校庭には、落雷によって生じた熱で地面からは湯気が上がり。地面には焦げているが虫の息のコカビエルが転がっていた。

 

「…なん、だよ…あれ…」

 一誠は言葉を失った。

 オカルト部の副部長 姫島朱乃も雷を得意とする。何度も目にし過去にはライザーとのゲームでは体育館を一撃で破壊することもあった、それを容易に超える威力を誇る雷の一撃を目の前にした。

『相棒、気を付けろ。奴からは神格を感じる、恐らく奴は神を殺している』

「はぁ!?神を殺してるってなんだよドライグ」

『そのままの意味だ、人間の身で神を殺したんだろうさ。まあ、俺もそんな人間を見たことはないがな』

「赤い龍が言う通りですよ」

 ドライグと叫ぶように会話していた一誠に声を掛けたのはセレナだ。

「涼さんは正真正銘の神殺し。複数の神を倒しその力を簒奪した人間という種の頂点です。加えて、神器も無しですから正直人間なのか疑いますよ」

「…人が神を殺すなんて……それも神滅具(ロンギヌス)すら使わずに…」

 一誠たちには涼の姿は人間というより人の形をしたバケモノにしか見えなかった。

 

 

 

 静まった空気を破ったのはガラスが割れたような音を立てて砕かれた結界の音。

 空から降りてくる全身に白い鎧を纏った人物。

 上空から校庭を見下ろし、地面に転がるコカビエルの近くに降りる。

「苦労して結界を破壊したのはいいが、もう終わっているようだな。これは……生きているのか」

「あ~、わりぃ半殺しにするつもりだったんだけど、予想してたより弱くてな」

 やっぱり威力強すぎたか。あっちの世界だと天使やら堕天使もまつろわぬ神として出現すると他の神と変わらない強さだから大丈夫だと思ってたけど、どうもダメみたいだ。

 

「まあいい、どうも今日はアザゼルからコカビエルが生きていたら回収して来いと言われているだけだ。最初は生きていたらなんて疑問に思ったが、確かに死んでいておかしく、いや、寧ろ生かされているというべきか」

 そう言うと地面に転がっているコカビエルを抱えて飛び上がる。

 

『無視か、白いの』

 誰もが声の元に視線を向けるとそれは一誠に左手の甲だった。

 あれが赤龍帝ドライグの声ってことか。意識はあるんだな。

 

『なんだ起きていたのか赤いの』

『まぁな、宿主がまだ弱いからな』

『それにお互い様だ。俺もお前も今は戦い以外の興味があるようだしな』

 それ聞くと俺に視線を向けてくる白い鎧、いや白龍皇というべきか。

『まあいいさ、俺たちは戦う運命だ』

 

「フッ……宿敵くんはまだまだだが、君はどうも違うようだ。戦える時を楽しみにしているぞ!」

 白龍皇は結界に開けた穴から飛び去って行った。

 なんかドニみたいや奴だったな。

 

 ゆっくりと地面に降りると、セレナがこっちに走ってきた。

「終わりましたね」

「そうだな。にしても、コカビエルがあのレベルじゃ神と戦っても権能とかは期待できそうにないな」

「……ちょっといいかしら」

 あ~、そういえば一番面倒なのが残っていたんだっけ。

「今回の助けには感謝するわ」

 なんでなんもやってないのに上から目線なんだか。

「いいよ、別に俺はアンタらが失敗して町が消えると困るし、日本神話からの要請で戦っただけだ。その辺はまた追々話そうや」

「…そうね」

 

 適当に話を区切って帰ろうとしていると灯巳と外で待機していたソーナ・シトリーと眷属もやってきた。

「あ~るじ!」

 走ってくると俺の首に抱き着いてくる灯巳。

「巫女服のカワイ子ちゃん!」

 巫女服姿の灯巳に鼻の舌を伸ばす、一誠を見て。

「悪いけど私は主に全てを捧げてるので変態はお断りです!」

 ブッブー!と腕で×が作って拒否する灯巳。

「それよりも聞いてよ!白龍皇が私の結界を破ったんだよ!何あれ触るだけでパワーが半分になるとかどんなチート!」

 一人騒ぐ灯巳。

 よっぽど結界を壊されたのが気に入らなかったんだろうな。

 

「積もる話もあるでしょうが片付けが先です」

 騒ぐ灯巳の声もソーナ・シトリーの鶴の一声で収まった。

 周りを見れば、消滅した一部の校舎、ぽっかりと空いたクレーターが多数、最後に融解した地面。

「急ぎでやれば登校時間までには何とかなるでしょう」

「なら、私たちも手伝うわ」

「いえ、学校の管理が生徒会の仕事です。なにより途中から結界は灯巳さんが肩代わりしてくれてましたからこれくらいはしないと」

 ソーナが灯巳に目を向けるとブイ!とピースをソーナに送っている。

 俺が居ない間に随分と仲良くなったもんだ。

 

「悪いけど俺は帰らせてもらうよ、日本神話の方に事の顛末を話さないといけないし。ああ、あと教会から派遣された聖剣使いの片方を保護してるから模造聖剣の破片を持たせて教会に返しておくぞ。あっちも報告やら必要だろ。そんじゃ、またそのうちな」

 セレナと灯巳を抱え、翼を広げて空に舞い上がる。

 

「てっきり、あの場で悪魔を殺すかと思ったよ」

 灯巳が俺の顔を見ながらそう口にする。

「リアス・グレモリーの方はまあ、上から目線だったけど。ソーナ・シトリーの方は真面目って感じだしな。まずは日本神話の話を片付けて、転生悪魔の件を魔王に何とかさせる。それでも動かないっていうなら戦争でもするさ。俺は身内を守るだけだ」

「その身内がドンドン増えているのは涼さんのせいでは」

 セレナの言う通り。

 はぐれ悪魔と戦ったり、堕天使と戦ったりしているうちに、神器もって生まれてしまった人間や黒歌と同じように無理やり転生悪魔、種族を理由に教会から狙われていた奴を保護しているうちに俺の元には一個勢力が誕生してしまった。

 まるであっちの世界で俺がヴォバン侯爵の被害者を保護したことで秘密結社が誕生したみたいにだ。やっぱり癖っていうか性格は変わらないってことかね。




書いてたら長くなりました。


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転校生

 賞金稼ぎで稼いだ金をつぎ込んで建てた一軒家。

 数日前までは俺、黒歌、セレナ、灯巳の四人暮らしだったが、コカビエルの一件で現場に居たゼノヴィアと黒歌の遠視の術で見ていたイリナは運悪く神が死んでいることを知ってしまった。二人揃って教会を追放。住所不定無職になった状態で日本に帰ってきた二人を見つけてしまい、結局、捨て犬を拾うかのように家に連れ帰ってしまった。

 

「ゼノヴィア、力任せに振り回さないしっかりと敵を見て!イリナも攻撃が軽いです、腕だけで振らずに体重を乗せて!」

 朝食の前の軽い運動と言って、庭でセレナがゼノヴィアとイリナに剣の指導をしている。灯巳と黒歌はキッチンで二人仲良く朝食を作っている、俺はというとやることもないのでニュースを聞き流ししながら庭で練習する三人を眺めている。

 

 ジャージ姿で汗を流す三人。

 こうも剣を見ていると脳裏に剣王ことサルバトーレ・ドニと戦った時のことが蘇ってくる。名前の通り全てを斬る魔剣に無敵みたいな防御力。文字通り最強の剣と最強の盾を携えてカンピオーネだった。

 

「他のカンピオーネがこっちに来たら本当に世界が滅ぶよな」

 ないであろう可能性に頭を悩ませていると後頭部に柔らかい感触が突然やってきた。

「難しい顔してどしたにゃ?」

「ん~、もし俺以外の神殺しがやってきたらどうしようかと思ってな」

 背中に抱き着いてくる黒歌に聞くと、俺の力を何度も目にしている黒歌はどうしようもないと適当に返事を返してきた。

 確かにそうだな。起こってもいないことに悩むのも無駄なことか。

「よいしょっと」

 背中に体重を掛けてきている黒歌を前に移動させて、抱きしめる。

「どうしたにゃ急に」

「別にいいだろ、偶にはさ」

 女性特有の柔らかさと甘える猫のように顔を擦りつけてくる黒歌の頭を撫でて、耳の裏を指先で掻いてやると気持ちよさそうにしている。

「ちょっと!黒歌!一人で主とイチャイチャしないでください、ずるいよ!」

 両手にスクランブルエッグとサラダの乗った皿を持ちながら俺と黒歌を見て灯巳が叫ぶ。その声を聞いて、セレナにゼノヴィアとイリナも俺たちをジッと見ている。

 

「涼は黒歌たちと付き合っているのか?」

「違うわよ、ゼノヴィア。これはハーレムよ!ハーレム!」

「なら、私たちもそのハーレムとやらに入れるのか」

「ちょっと、何言っているのゼノヴィア!?」

 イリナはゼノヴィアの肩を掴んで前後に揺らしながら、チラチラと俺を見てくる。

「だが、イリナ。私たちは今まで全てを神に捧げてきたが、いまは自由の身。禁じられてきたことだった恋愛なども出来る。ならば恩人であり、私たちを拾ってくれた涼は優良物件というやつではないのか」

 恥じらうことなくズバズバとイリナに言うゼノヴィアに周りはコイツやるな、と思い。イリナは年頃の乙女らしく顔を赤くしてあわあわしている。

 

「俺としては夜にお前らが来ても受け入れるけどな、もう三人は抱いたし」

 そう黒歌も、セレナも、灯巳も、既に抱いている。

 いまでは夜に一緒のベッドで寝ているくらいだ。いまになって二人増えたところで夜の行為に支障はない。流石はカンピオーネの体力、あっちの体力もすさまじい。

 

「朝からアホな話してないで朝食食べないと学校に遅れるよ。今日から高校生なんだから!」

 

 

 

@ @ @

 

 

「なんで貴方たちが転校してくるのよ!」

 バン!とリアス・グレモリーは立ち上がり机を叩き、机の上に乗せられているティーカップが揺れて姫島朱乃の入れた紅茶が零れそうになる。

「俺らは未成年で学校に通っている歳なんだ、学校に通うのは当たり前だろ」

 隣に座るソーナ・シトリーに注意されて、渋々ながらソファに腰を下ろす。

 俺、セレナ、灯巳、イリナ、ゼノヴィアは本日駒王学園の生徒となり、全員揃って運良くなのか一誠のクラスとなった。まさか同じクラスになるとは思っていなかったから最初は驚いたものだ。

 放課後に予想していたとおり、グレモリーとシトリーに呼び出された俺たちは逆らうことなく着いていくと予想していたことを言われたわけだ。

 

「そういう意味じゃないわ。どうやって学校に転校の手続きをしたのよ」

「学校なんだ教育員会の方に手続きすれば簡単にな」

 いくら悪魔が関係していると言っても所詮は学校。

 隅から隅まで悪魔の目が入っているわけじゃない、生徒会長のシトリーならもしかしたら教師から転校として俺らの資料が渡ることはあってもグレモリーの方に渡ることはまずない。そもそも悪魔の上層部に俺の名前はまだ伝わってないはずだからな。なにせ町が吹っ飛ぶかもしれないっていうのに魔王にも連絡を入れようとしないんだ、報告、連絡、相談がちゃんと出来るなんて思ってない。

 

「そもそも此処は日本だぞ、悪魔の勝手がまかり通るわけないだろ」

「なんですって!此処は私の領地よ!」

「いつ、誰が決めたんだよ。そもそも此処は日本神話の領地だろ。悪魔に日本を貸し出したなんて話は聞いてない。日本にアメリカがやってきて、此処は俺の領地だ、とか言うか? 言うわねえだろうが、お前らはテロリストでもなりに来たのか」

「おい!さっきから聞いてれば勝手なこと言いやがって部長が領地だって言ってんだろ!」

 後ろに控えてきた一誠が怒鳴ってくるが、それと同時に隣に座るセレナが体に力を入れているのが分かる。仮に声ではなく神器を出していたなら腕が飛んでたな。

「だからさ、そもそも貸し出してないんだよ。お前らがただやってきて勝手に言ってるだけだろ、誰がそれを認めるんだよ。現に、日本神話が魔王に抗議を送ったらそっちはだんまりを決め込んでる」

「……リアス、これに関しては私たちも一度確認を取るべきです。下手をすれば戦争にまでなりかねない」

「ちょっとソーナ!コイツの言っていることを認めるって言うの!?」

「確認するだけです。もし彼の言っていることが正しかったら私たちは殺されても文句は言えない立場ですよ」

 ソーナに言葉にリアスも口ごもる。

 だろうな、自分たちが苦戦していたコカビエルを簡単に倒すような相手と戦うなんて御免だろうさ。

「すいませんが私たちも上と確認する時間を貰えないでしょうか」

「構わない。というか俺にとってはどうでもいいんだよ」

「……どうでもいいとは?」

「俺は日本神話と協力。同盟と言ってもいい、仲間ってわけじゃない。俺は俺の組織を従えてる。必要があれは悪魔だろうが、天使だろうが、堕天使だろうが戦争するってことさ。今回の件で俺の実力も分かりやすく示したしな」

 俺の言葉に二人が警戒すると後ろに並んでいる眷属たちも一斉に構えるが、その前にセレナが背後に複数の光剣を生み出し、灯巳も護符を構えている。

 やろうと思えば、二人だけで此処に居る全員を相手にすることなんて簡単だ。それだけの訓練と実戦を積んできた。

 実戦は訓練の数倍の経験値を得られる。彼等には圧倒的に実戦の経験が足りてない。

 

「リアス。どっちにしろ彼いえ、彼等と敵対するには軽率すぎます」

「………そうね」

 紅茶を飲んで自分を落ち着かせようとしている二人。

「話は終わったな、そんじゃ俺らは帰らせてもらう。行くぞお前ら」

 四人を引き連れてオカルト部の部室を出る。学園を出て、家に向かって変えている途中。

「よかったんですか」

「何がだ」

 隣を歩くセレナは俺を見上げなら聞いてきた。

「もし、悪魔と敵対することがあったら……」

「大丈夫だろ、俺もお前らも居る。それに俺の元にいるやつの大半は三大勢力の被害者ばっかりだし、アイツらは自分たちが他の神話勢力からどれだけ疎まれているか分かってない」

 自分たちの起こした戦争で勝手に数が少なくなって、滅びない為に人間以外にも多くの種族に手を出している。悪魔が一番だけど、天使は人間の人体実験やら教信者を増やすために子供を無理やり悪魔祓いにすることだってある、堕天使は神器を持っている人間を殺してる。

 アイツらは人間が自分たちに牙を向くとは思ってない。種族としては確かに優れているかもしれない、それでも人間がいつまでも弱者の地位に甘んじているわけない。いつの日か。誰かが、アイツらの喉笛に牙を突き立てる日が必ず来る。

「進歩しない種族に未来なんて無いってことだ」

  

 

 

 

 日が沈み、夜になると家を訪ねてきたのは堕天使の総督アザゼルだ。

「よお、お前がコカビエルを倒した人間か」

 玄関を開けるとおっさんが立っていた。

「合ってるよ、なんだ?わざわざ自分たちの不始末をつけた人間に礼でも言いに来たのか?」

 念のためにいつでも権能を発動して攻撃できる体制に入ると、流石に気づかれ。

「おいおい、そう警戒するなよ。お前の言った通り、不始末の礼を言いに来たのと今度ある三大勢力の会談に出席してくれって言いに来たんだ」

 会談ね……どうせくだらないことを話し合うだろうな。でも、俺たちの存在のアピールと警告にはうってつけの場所か。

「会談の参加は了解だ、コカビエルの一件は日本神話からの要請だったからあっちに礼を言ってくれ」

「そっちにはもう済ませたよ。死ぬほど小言を言われてけどな……これからも顔を合わせることになると思うと」

 とほほ、と肩をすぼめているが、よくいままで滅ぼされなかったなこんなのが総督で。俺なら躊躇なく滅ぼすわ。

「それに関しちゃ、俺には関係ないから愚痴は身内に零してくれ。それで悪いけどさもう用が無いから帰ってくんね、俺はこれから夜の時間なんだ」

「なんだ、夜の営みか?」

 からかうように言ってくるが正解だ。

 二人増えて、合計で五人の相手を一人でしないといけないがカンピオーネの体力と回復力はどうも戦闘だけじゃなくてそっちの方にも作用しているらしい。

「良くわかったな」

「からかったのに真顔で返されたぜ、からかいがいのない奴だ。しゃ~ねぇ、お暇しますか」

 そう言って黒い翼を広げて夜の空へと消えていったアザゼル。

 悪くない人間…じゃなかった堕天使だけど、あんな感じじゃ外交には向かないか。

 まあ、敵にならないことを祈っておくよ。

 さて、夜はこれからだ、美味しく二人の初めてを頂くとしますか。



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授業参観

 転校から数週間。

 学校生活に慣れ、俺、セレナ、灯巳、ゼノヴィア、イリナはクラスにも馴染み。友人も出来た。

 本日は学園イベントの一つ授業参観当日。

 親が学校にやってきて授業風景を見るイベント。小学生ならともかく高校生になると生徒は嬉しさよりも気恥ずかしさが先に出る。

「最悪だ、両親が授業を見に来るなんて」

 そう隣で壁にもたれながら呟く一誠。

 一誠とはまあ、それなりに話が合う、というか、女子生徒の方が総合的に多いこの学園では男子友達というのは貴重なので上手く話しを合わせて輪に加わっている。

「あ~、ドンマイ。でもいいじゃねえか親が居るだけでも幸せってもんだ」

「涼は両親居ないのか?」

「色々あるんだ、俺と戦うことになった時、聞かない方が良かったとならない為に聞かない方がいいと思うぞ」

 悪い、と言って気軽に聞いてきたことを後悔しているらしい。流石に異世界から来ましたとは教室で言うわけにはいかない。そもそも元の世でも両親なんてまつろわぬ神に殺されて生きてないから同じようなものだけど。

「ねえねえ、神無月に聞きたいことがあるんだけどいいかな」

 俺と一誠が話しているとやってきのは同じクラスの桐生藍華。橙色の髪に、三つ編みの眼鏡というラノベに出てきそうな外見だが、内面は学園で有名な変態三人組こと一誠、松田、元浜と変わらないほどのエロ方面の知識とネタを持っている。

 まあ、セレナたちとも仲良くしてくれてるみたいだから邪険には出来ないが。

「なにかあったのか」

「昨日、ゼノヴィアっちとイリナを抱いたってほんと?」

 桐生の言葉を聞いた生徒は凍った。といか流石は年頃の高校生。松田と元浜だけでなく、近くで立ち話をしていた女子も地味にこっちを見て聞き耳を立てている。

「ほんとだ、補正するなら、セレナ、灯巳ともう一人も居れて五人抱いたから6Pだな。それがどうかしたか?」

「……恥ずかしがらずによく言えたわね、アンタ」

「何に恥ずかしがる必要がある。俺はアイツらを好きだし、愛してる。気持ちは言葉にしないと相手には伝わらないんだぞ。性行為だって愛情表現の一種でもあるだろ」

 キャー!と叫ぶ女子グループと涙を滝のように流す変態三人組。

「おま、おま!涼!お前マジか!?一度に五人も抱くってマジか!」

「なんだよ、お前だってアーシアとかリアス・グレモリーとか居るだろ……え、何、お前まだ童貞のままなのか」

「そうだよ!俺なんて部長のおっぱいを触っただけだよ!」

 あんなにスキンシップしてるからもうしてるかの思ってた、違うのかよ。悪魔は寿命が長いからその辺が遅いのかな。でもアーシア・アルジェントは人間から悪魔になったって言ってたしな。

「ドンマイ、あれだな。お前からも何か行動起こすべきじゃね。好きだとか、服を褒めたりするべきだ。女の子はそういう所に気を使うし」

「そういう所が大切なのか!」

 叫ぶ一誠、と俺の話を聞いていたのかセレナたちは顔を赤くして女子グループに問い詰められていた。

 あれに俺が入り込む余地は無いので眺めておくことにしよう。

 

 

@ @ @

 

 

 英語の授業なのに粘土をこねるという意味わからない授業の中でなぜか一誠の作ったリアス・グレモリーの裸体の銅像みたいなものを巡ったオークションが開催されて、授業は無事に終わり。教室に居ても休めないので人があまり通らない廊下で休んでいると男子数人が体育館に走っていく。

 何かあるのかと聞いてみると、体育館で魔女っ娘の撮影があると急いでいた。

 暇なので行ってみると本当に壇上の上でミニスカの魔女っ娘がポーズを取って男子たちが携帯で写真を撮っていた。

 授業参観にコスプレイヤーというアンマッチ。あれは身内だったら恥ずかしくて学校に来れなくなるな。

「涼も来てたのか」

 出入口近くで眺めていると一誠たちオカルト部一同がやってきた。

「ああ、暇だったしな。にしても授業参観にコスプレイヤーとは此処は何とも変な学校だ」

 一誠たちの続いて体育館にやってきたのは生徒会の一人でありソーナ・シトリーの眷属の匙だ。撮影をしていた男子たちを帰らせて魔女っ娘にそんな服装で来ないで欲しいと注意していると。

「何しているんですか、匙!」

 匙に叱咤を浴びせながら体育館に入ってきたソーナの方に全員の視線が行くと。驚くことに魔女っ娘はソーナの名前を呼んだ。

「あ!ソーナたん☆」

「お姉様!?」

 魔女っ娘の身内がまさかソーナだったとはご苦労なこって。

「どうしたの、折角のお姉様との再会なのだからもっと喜んでくれてもいいと思うの!」

 普通、姉が魔女っ娘のコスプレの姿で自分の前に現れてら喜ぶ前に正気を疑うのが先だろう。これ以上、此処にいると面倒に巻き込まれそうだから一足先に帰らせてもらうか。にしてもあれが四大魔王の一人セラフォルー・レヴィアタンか、正直あれがトップかと思うとドン引きだ。

 

 

 

 

 全ての授業が終わり、帰ろうとしていると近寄ってきた男性。それが普通の人間なら気にしないが髪が紅色ならば話は別だ。

「やあ、君が神無月涼くんだね」

「リアス・グレモリーの身内で強い奴って言ったら魔王のサーゼクス・ルシファーだな」

「やっぱり知っていたか」

「当たり前だ。賞金稼ぎは情報が重要なんだ」

 そうかい、と納得した様子で頷いている。

「それでやっぱり会談に参加してほしいって話か」

「ああ、アザゼルから話を聞いているらしいけど一応、声を掛けておくのが礼儀だと思ってね」

「そりゃどうも」

 その礼儀を少しでも他の種族、陣営に回さないと悪魔は戦争に真っ逆さまだってのに呑気なもんだ。強くても自分たちを客観的に見れないっていうのはどうかと思うけどね。まあ、神殺しとして好き勝手やっている俺が言えた義理じゃないか。

 

「コカビエルの一件では本当に助かったよ」

「別にいいよ。俺は自分の為に戦っただけで助けようとしたわけじゃない、勝手に助かっただけだろ。にしても、あんたただの悪魔じゃないな。リアス・グレモリーやソーナ・シトリーたちは勿論、レヴィアタンに比べても気配が強すぎる」

 カンピオーネが直感的にまつろわぬ神を見つけるのと同じように、相手が強いか弱いかも直感で理解できる。サーゼクス・ルシファーは気配を抑えているが強い部類だ。でもカンピオーネやまつろわぬ神相手じゃ良くても遊び相手ってところか。

「まさか気づかれるとはね」

「別に言いふらすこともしないから気にしなくていいよ、それよりあんたの身内が待ってるぞ」

 俺とサーゼクス・ルシファーの会話をずっと見守っているリアスと一誠たちに視線を向ける。

「そのようだね、会談の日時が決まったら連絡を入れるよ」

「あぁ、頼む」

 リーアたん!とリアスの元へ歩いていくサーゼクスを見送り、小さく独り言を呟いた。

「魔王の中でも恐らく一番強くてあのレベルか。本気だしたら世界滅ぼせちゃうよな。奥の手の『破壊の投擲(ワールド・カタストロフィ)』なんて使ったら本当に世界が終わるぞ」

 改めてカンピオーネの持つ権能の強さに驚きながら、黒歌の待つ家へと帰る。




そういえば、皆さん的に作品のラストは三大勢力と仲良くか、一部の勢力滅ぼして終わるのか、分かりやすく全面戦争どれがお好みですか?

作者は全面戦争?(というなの主人公の戯れ)になるんじゃね?と書きながら思っています


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会談

 本日、学園で行われる会談に向けて準備を進めていく。スーツは持ってないから制服で行くということとなった。

 セレナ、灯巳、イリナ、ゼノヴィアは制服、黒歌はいつもの着崩した黒い着物を着ている。

「全員、準備できました。仮に戦争することになっても大丈夫です」

「まあ、戦闘にならないことを願うばかりだよ。なっても負けることないけどな」

 さて、行きますか。問題が起こらないことを祈ろう。

 

 

 

 

 

 会談の行われる部屋に入ると既に三大勢力は揃っていた。

「来たか」

 机に肘をついているアザゼルが俺たちがやってきたのを見て体を起こす。

「な!はぐれ悪魔の黒歌!?なぜ彼女がここに」

 黒歌の姿を見て警戒する悪魔陣営

「彼女の事を聞いてもいいかな」

「聞いてもいいけど、その話は長くなるから先に小さい案件から片付けて行こうや」

 空いている席に座るとセレナたちは背後で護衛として待機している

 席に座っている全員を見ていくと一人あったことない人物がいる。十二枚の金色に光る翼が生えており頭には光の輪、見るからに天使ですと言わんばかりの外見をしている。

「本題に入る前に自己紹介をさせてもらいましょう。私は熾天使(セラフ)のミカエルと申します」

「天使のまとめ役ってわけか」

 立ち上がり一礼してくるミカエルに後ろでイリナとゼノヴィアが驚いているが、こっちもやっぱり実力はそこそこか。

 

「まずはコカビエルの一件から。そこの神無月涼の手によってあっけなく解決した件だな」

 ニヤニヤしながら俺も見てくるアザゼルとサーゼクスとミカエルその他は俺の口から何か聞きたいことがあるようだ。

「お前、なんで戦いに介入したんだ」

「日本神話からの依頼があったのと俺がこの町に住んでるからだ。吹っ飛んだら困るんだよ。たかが堕天使のくだらないお遊び程度でな」

 ふん、とふんぞり返って椅子に座るとサーゼクスやミカエルは苦笑いしている。

「それで君の力は神器によるものなのかい」

 やっぱり探りを入れてきたか。

「いや、違う。あれは権能だ」

「権能だぁあ?それは神が持つようなもんじゃないのか」

「そうだよ。神を殺して奪い取った。簒奪したと言っても良いな」

「待て待て、お前は神を殺したって言うのか」

「別に話してやる義理はないけど、言っておかないと面倒になりそうだから俺の話をしてやる。俺は異世界から来たんだ」

「異世界なんて、涼!お前はラノベの主人公かなんかかよ!」

 いいタイミングでツッコミを入れてくる一誠。

「当たらずとも遠からずって感じだ。俺は元居た世界でまつろわぬ神、神話から出て地上に出現した神を殺したんだ。その時に神殺しになって、それから何柱かの神と戦って勝って、偶に権能を手に入れたってわけだ。神殺し以外にも、魔王とかエピメテウスの落とし子、愚者の申し子とも呼ばれる。偶に強すぎて歩く天災とか、理不尽が服着て歩いているとか言われるな」

「それは……何とも…」

 リアクションに困っているミカエル。

「それでそんな神殺しが何でこっちに来ちまったんだ」

「別に来たかったわけじゃねえよ。カンピオーネの一人が持つ権能に巻き込まれて、気づけばこっちの世界に居たわけだ」

 

「私からも聞きたいんですが、その権能というのはいくつ持っているんですか」

「それは答えられない、権能は俺にとっても切り札だからな」

「涼くん、君いや神殺しからしたらこの世界はどれだけの強さかな。君の実力ならこの世界でどこまでいける」

「それは答えるだけ無駄だよ」

「何故だい?」

「だって、この場所で俺と対等に戦える奴なんて存在してない。サーゼクス、あんたが本気で戦って遊び相手になる位だ。正直、本気で戦うと世界は崩壊する。てか、世界を滅ぼせる権能は持ってるから望むなら滅ぼすことも出来るけど」 

 

 会談に立ち会った全員が同時に唖然とした。

 サーゼクスの実力は三大勢力でもトップクラスそれが遊び相手程度となれば、一人で種族を滅ぼせる実力を目の前の青年は持っていることにある。

 

「そりゃ~随分とぶっ飛んだ事だ」

「コカビエルの話から俺の話になってきてるな、アザゼル話を戻せ。それで白龍皇が回収したコカビエルはどうなったんだ」

「ああ、アイツならコキュートスの中で氷漬けだ。もう出てくることはないさ」

「あっそ、まあ、あの強さで戦争じゃ子供のお遊戯にしかならないだろ」

「お前のレベルで語るなよ、コカビエルだって結構強い方なんだぜ」

「あの位ならセレナたちでも簡単に倒せる。俺に忠義を誓う限り、部下には権能による加護と祝福が与えられる。そこらの奴とは一線を凌駕するさ。それこそ十人も集まれば一種族と戦争しても負けないくらいにに強くなる」

 軍神アレスの権能『共に戦場に立つ』の加護は個人によって能力が異なるけど、祝福は全員同じ効果だ。その効果は人間としての限界を突破する。つまり軍神と肩を並べて共に人間が戦場に立つために強くなり続けるというわけだ。どの種族にも天才や種族としての限界は訪れるそれを祝福によって超えられる。セレナや灯巳が人間でありながら別段特別でもない武器で強いのはそう言うわけだ。

 

「まさに神殺しの軍勢というべきものですね」

「否定はしないね」

 軍神は文字通り”軍”戦争に出る兵士たちを指した言葉だ、俺の部下たちを神殺しの軍勢と表現するのは文字通りだな。

 

 

 

 話が進み三大勢力は無事、和平を結ぶことになった。

「その和平を結ぶに置いて考えなければならないのが赤龍帝、白龍皇の存在だな。とりあえずお前らの意見が聞きたい…ヴァーリ」

「俺は強い奴と戦えればそれでいい」 

 おい、しれっと俺を見るんじゃねえよ、戦闘狂。

 まあ、あのレベルならドニとかみたいに苦労しなくて済むか。でもなあんまり本気出すと殺しちゃうよな、弱すぎて。

「赤龍帝、お前はどうなんだ?」

「っえ!?いきなりそんな話を振られても!?」

「じゃあ噛み砕いて説明してやろう。兵藤 一誠、戦争してたらリアス・グレモリーは抱けないぞ?」

「和平でお願いします!!」

 欲望に忠実な奴。

「では涼くん、君も和平に賛同を」

「悪いけど拒否する」

「……理由を聞いていいかな」

「寧ろこっちが聞きたいね。あれだけ好き勝手にやってるアンタらが、他の勢力に敵視されてないなんて思ってんのかよ。セレナ、渡してやれ」

「はい、こちらをどうぞ」

 セレナが鞄から取り出したのは紙の束。

 それを三大勢力のトップに投げて渡す。ペラペラと捲って内容を確認する三大勢力のトップたちは次第に顔色が悪くなっていく。

「それにはアンタらがやってきたあれやこれやの悪事が諸々書いてある。俺が賞金稼ぎとして動きながら集めたものや、日本神話なんか他の勢力から渡された物。中には被害者本人からの情報もある。分かるか、アンタらは和平がどうとか、そういう所には居ないんだよ。他の勢力に滅ぼされるかどうかってところに居んの。一番ヤバイのは悪魔だな、なにせ日本神話でも滅ぼすかって話が上がる位だ。よっぽど好き勝手してんだろ、っとサーゼクス、これを返しておく」

 セレナから渡されて鞄から出した大きく膨らんだ布生地の袋を投げ渡す。受け取ったサーゼクスは中に中身を取り出すと出てきたのはいまの悪魔を支える『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』。他種族を悪魔へと転生させる魔王特性のチェスの駒をしたそれは他種族の間では忌み嫌われる物となっている。

「これは何かな」

「貴族悪魔に無理やり転生悪魔にされて所謂、被害者たちから抜き取った悪魔の駒だ」

「どうやって……悪魔の駒は神器と一緒で魂にまで干渉する。一度使えば抜き取るなんて不可能なはず」

 悪魔の駒の見ながら驚くサーゼクス。

 

「権能って便利だよな。黒歌含めて、俺の部下の大半は三大勢力の被害者だから和平なんて組まない。俺はアンタら微塵も信用してない。諦めろ、今までのツケが回ってきただけだ」

 椅子に踏ん反りかえって座っていると三大勢力のトップではなく、一番に声を上げたのは壁際に立っていた一誠だった。

 

「ふざけんじゃねえ!好き勝手言いやがって!」

「そりゃ~言うさ、言えるだけの強さがあるんだ」

「それでは脅迫や脅しと変わらないではありませんか」

 顔こそ笑顔のままだが、ミカエルの言葉からは俺を責めるような雰囲気を感じる。

「脅迫してんだから当たり前だろ。人間に頼らなきゃ生きていけないのに、人間を知る努力も、協力する行動もしてこなかったんだ。滅びそうだから和平を組もうだの、こっちからしたら勝手にしてくれって感じだ。そもそもお前ら和平をしてもメリットなんて微塵もないしな」

「……流石に返す言葉もないな」

 顔に手を当てて頭痛でも我慢するようにリアクションを取るアザゼル。組織の長として少なからず思い当たる伏しがあるのだろう。

 

「これだけは言っておく、俺の身内に手を出した奴は悪魔だろうが、天使だろうが、堕天使だろうが、ドラゴンだろうが、神だろうが、相手が何であったとしても殺す」 

 高密度の殺気を放つと各陣営のトップは身構えるが、壁際に立つリアスたちは強すぎる殺気に体が言うことを聞かないようだ。

 

「それとイリナとゼノヴィア、黒歌のはぐれの取り消しを頼む」

「分かりました、天界側は二人の取り消しを受け入れましょう。システムを維持する為とはいえ信仰が厚い信徒とは皮肉ですね」

 

「私としてはこの資料だけではなんとも……少しだけでいい時間をくれないか」

「……わかった、ただし期限は一週間だ。それ以上は待たない」

「分かった」

 流石に脅しが効いたのか。

 これで会談も終わりに、と椅子にもたれると同時に学園全体を結界が囲まれ、時間が止まった。

 はぁ~、やっぱり問題が起きないわけないか、あっちに居た頃もどっか行くたびにトラブルに巻き込まれていたんだ。こっちでもそれは変わらずか。

 



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裏切りの白い龍

時間停止か。

疑似神速は出来るけど時間操作は出来ないからちょっと羨ましいな。

「敵襲みたいだな、お前ら動けるか?」

「問題ないです、一定の実力が無いと強制的に停止されるみたいですね。一部動けない者たちがいるようですから」

 悪魔の陣営を見ると生徒会組が見事に固まっている。

 後ろで待機しているセレナたちは流石に固まってはいなかった。恐らく、イリナとゼノヴィアはセレナの朝稽古が無かったら危なかっただろうけど。

「ハーフ吸血鬼の『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』を強制的に暴走させたたんだろう」

 流石は神器オタクのアザゼル。周りを少し観察しただけで原因を特定した。

「そのハーフ吸血鬼に護衛とかはついてないのか」

「……旧校舎に待機させておいたの。小猫をつけておいたのだけど………」

 言いにくそうにリアスが答えると、妹の名前が出たことで黒歌がピクリ、と反応。視線を向けると言葉にはしないが行く、と目が訴えてくる。

「好きにしろ」

 小さく告げると術を使って一人速やかに旧校舎へと転移して消えていった。

 

「涼さん、私たちはどうしますか?」

「黒歌が旧校舎を終わらせたら適当に相手して帰る」

 とはいえ、時間停止に乗じてローブ姿の魔術師たちが大量転移で空から現れた。

現れた魔術師たちに警戒してるってことは三大勢力とは無関係の第三者の差し金ってことか。

「ちっ。来るんじゃねえかと思ってたが、本当に来やがったぜ」

「アザゼル、ミカエル。まず結界を。妹達の学び舎を傷つけるのは忍びない」

「そうですね。和平を結んだというのに、その場を破壊されれては顔が立ちませんからね」

 三大勢力のトップたちが校庭に出ると、各自結界を張ったり、魔力の塊を飛ばして手あたり次第に魔術師たちを撃ち落としていく。

 それに伴って、木場や姫島も同じように魔術師を倒す為に飛び出していく。

「セレナ、イリナ、ゼノヴィア、お前らも魔術師を狩ってこい。灯巳はこのままこっちで待機」

「了解です。イリナ、ゼノヴィア、二人合わせて私より撃破数が少なかったら罰ゲームですよ」

 それを聞いた二人は大慌てで武器を取り出して駆けていく。セレナと言えば慣れて手付きで光剣を生み出して二人の後に続いた。

 

「アザゼル、和平を組むことなった今だからこそ聞きたいのだが、神器を集めて、何をしようとしている?」

 サーゼクスが隣に立つアザゼルに質問すると。

「備えていたのさ」

「備えていた?」

禍の団(カオス・ブリゲード)だ」

 そんな名前の調査担当から聞いたっけ。派閥に分かれてテロリストが集まて出来たテロ集団だったか。正直、どうでもよすぎて報告書流し読みしてた。

 なんだっけ、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスだったか、なんかそんな名前のが組織のトップしてたよな。神も恐れたとか言うけど、ドラゴン以下の神って寧ろ神の方に興味が湧いてくる。

「ごきげんよう、現魔王」

 地面に描かれた魔法陣から出てきた眼鏡をつけた褐色の人物。気配は悪魔だが、サーゼクスと隣に立つレヴィアタンを睨みつける。

「主、あれって一応、魔王の血筋なんだよね。それにしては魔力がしょぼすぎない?」

「灯巳。あれはな、いい血が流れていれば自分TUEEEE!!な悪魔なんだ。悪魔は大抵そうだしな。あれは死ぬまで直らんさ」

 二人で自分たちは関係ないとばかりに話していると魔力の弾が放たれ。灯巳が慣れて手付きで護符を投げると護符は空中に固定され、障壁を生み出し容易に魔力の弾を防いだ。

 

「人間如きが真のレヴィアタンの血筋である私を愚弄しますか!」

 攻撃を防がれているのに自分が優位になっていると疑わず、強気で出てくるレヴィアタン。

「サーゼクス、あの獲物は俺がもらうぞ」

「……カテレア、投降する気はないかい」

「えぇ、サーゼクス。貴方は良き魔王ですが、最高の魔王では無い!魔王として君臨するのは我々です!」 

 高らかに宣言するレヴィアタン。

「灯巳、お前は此処に待機だ《滅びの時は来た。穢れし世界。混沌ををもって全てを無に帰す。この牙、この爪は世界を殺す、我は獣なり》」

 聖句を唱えると右手に黒と赤のオーラが生まれ人の頭を握りつぶせる巨大な腕が構成。禍々しいオーラを身に纏い立つ姿は他人から見ればバケモノそのものだ。

 

「さぁ、久しぶりに狩りと洒落こもうか!」

 地面を蹴り、凄まじい瞬発力を発揮してカテレア目掛けて突撃する。

 流石に人間を見下していたカレテアも迫りくるバケモノに恐怖して本能的に術を使って地から飛んだ。元いた場所に獣の腕が振り下ろされると地面が抉れ、鋭利な爪は地面に突き刺さっている。硬い地面が抉れる威力が仮に人に振り下ろされたのならどうなるかは想像に難くない。

 

「おいおい、見下している人間の攻撃を避けるなよ」

「人間ですって、バケモノの間違いでしょ!」」

 宙に浮かぶカテレアを追う為に一対に翼を生やして空に上がると迫る俺を見て、恐怖に顔を浮かべながら逃げながら魔法の弾を撃ってくる。

「そんなんじゃ落ちるわけないだろ」

 右腕で魔法の弾を防ぎながら徐々に距離を縮めていくと一層、顔は恐怖に歪む。

 生きてからいままで一度も味わったの事ない恐怖。

 人間という種を狩る側だったカテレアは生まれて初めて狩られる側。弱者の恐怖を味わっていた。

「ありえない!ありえない!この真なる魔王の血筋が人間如きに!」

「弱すぎ、少しは向かってこいっての……もういいや」

 進むことを辞めると、カレテアも距離を取り。俺が何をしようとしているのかと警戒してする。

 獣の腕となっている右腕をカテレアに向けると形を砲へと変えた。手の平にぽっかりと穴が開いているような形となり、見るからに何かが放たれる見た目をしている。

 照準をカテレアに合わせると静かに砲の準備が行われていく。

 コカビエルの時には『混沌獣』は雷を生み出す為に山羊とサンダーバードを具現し、今回具現したもは”ミイデラゴミムシ”、”イルカ”。

 ミイデラゴミムシは過酸化水素とヒドロキノンを酵素と酸化還元反応を起こすことにより、高温高圧の水蒸気とベンゾキノンを含む摂氏100度にもなる超高温のガスを噴射する。

 イルカは仲間とのコミュニケーションを音を使って行う。

「チャージ!………発射!」

 拡散して噴出される超高温のガスを音響によって範囲の制御と振動による衝撃。広い範囲で放たれるガスは限定して放たれ、虫の姿で摂氏100度の超高温のガスは権能の力によって能力は底上げされ文字通り、高熱のビームと化す。

 

「――――――ッ!」

 一瞬にして高熱のビームにによって全身を包まれてカテレアは瞬間的に皮膚を焼かれ、肉を焼かれ、骨を焼かれた。それは時間にして3秒。悲鳴も、熱も、痛みも感じる時間もなくカテレアは溶けた。

「生物番組で見た虫の能力から作ってみたけど結構ありだな」

 カテレアは真面目に作った形状変化ではなく、お遊びで作られて形状変化のテストとして使われ肉片も残さずに溶けた。

 

「うっわ、えげつねぇ威力だな。悪魔が溶けたぞ」

「そういえば、主、昨日の夜。特殊能力を持つ生物を紹介する番組みてたからその辺から着想を得たんじゃないかな。主のあれは生物とか幻獣をサンプリングして自由に組み合わせるものだから多分、その辺のをまぜたんだよ」

 何を混ざたかは知らないけど、と付け加えて欠伸をしながら降りてくる涼の元へと駆け寄る灯巳。

「自由に組み合わせるってチートかよ……チートか」

 アザゼルは灯巳の適当な解説を聞いて観察する。

 獣の腕を生やし、翼を生やし、果てには高熱のビームを撃つ。文字通りサンプリングして、自由に組み合わせればほぼ無限に手札を増やし続けられる。

 

「あれはヤバイ。高熱のビーム(あんなもの)を連射されたら本当に全滅するぞ」

 巫女姿の灯巳とイチャイチャしている涼の姿は何処にでもいるラブラブカップルに見えるが、その正体は種族を一人で滅ぼせるバケモノなど冗談ではない。

「サーゼクス、ミカエル。冗談抜きでアイツを怒らせると滅ぶぞ」

「そのようですね」

「あぁ、一番ヤバイのは悪魔だ。少しでも彼の機嫌を取ることに動くとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 無事、黒歌といつの間に転移していた一誠とグレモリーが小猫とハーフ吸血鬼の男の娘を取り戻し帰ってくると俺に向かって飛んでくる飛行物体が一つ。凄まじい速度だが、対処できないほどでもないので殴ろうかと準備すると直前にセレナが割って入り、光剣で飛行物体ことヴァーリが俺を攻撃するのを防いだ。

「どういうつもりですか白龍皇。返答次第によってはその首、斬り落としますよ」

 光剣を構え直し問いただすセレナ。

「やっぱり、裏切り者はお前かヴァーリ」

「悪いなアザゼル。アース神族と戦ってみないかと言われてね、禍の団の誘いを承ける事にした。こっちの方が強い奴と戦えそうなんでね」

 おい、そこで俺を見てくるな。

「折角だ、神殺し神無月涼。俺と戦ってくれないか」

 口ではそういうわりには仮に拒否したとしても向かってくる気満々だ。

「お前のライバルはそこ居る一誠だろ」

「おい、涼!お前戦いたくないからって俺を売るなよ!」

「おいおい、一誠。実戦は訓練の数倍の経験を得られるんだ。三大勢力が和平したから世界が平和になって戦わなくても良くなるなんて思うなよ。失いたくないものがあるなら自分で守るしかない、どっちにしろお前は赤龍帝だ、白龍皇とは戦う以外に選択肢なんてない。というか面倒だから前がやれ」

「良い事言っておいて結局、面倒なだけかよ!?」

「やはり兵藤一誠と戦ってから君と戦うしかないようだが、彼は戦う気が無いらしい。ならこういうのはどうだい?君は復讐者となるんだ。俺が君の両親を殺し、そうすれば俺との間にある実力差は少しは埋まるだろう」

 まるで子供が遊びでも提案するように軽口で両親を殺すと口にしたヴァーリ。

 

「……ふざけんじゃねーーー!!」

 大きな咆哮と共に一誠は赤龍の鎧を身に纏った。

 赤と白の激闘は開始された。

 



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王の都

 一誠とヴァーリの戦いは一方的なヴァーリの勝利で終わるかと思っていたけど、一誠がミカエルから譲られたアスカロンに貯めた倍化の力を譲渡することで龍殺しの力を強化。龍殺しの強化された力は一誠の足りない実力を埋めるのに一役買っている。

 

「Half Dimension!」

 空に上がり。両手を広げたヴァーリが掛け声と共に技を発動すると空間に歪みが生じていく。

 

「なんだあれ?」

「あれは物体だろうと空間だろうとなんだって半分にしちまう反則みたいな技だ」

 アザゼルに聞いてみると、分かりやすく解説してくれた。 

 半分ね、消し去れるわけじゃないのか。それでも便利だよな、使いようによっては結構使える。

「それで一誠はその半分にするのに対抗する技なんてなくね?いまだってアンタの道具で無理やり禁手を使ってる状態だろ」

 アザゼルは大声で一誠に呼びかけるといきなりこのままだとリアスたちの胸が半分になると叫びやがった。

 確かに、何でも半分にするなら胸も半分になるけどさ、それを聞いてパワーアップするってどうよ。

「……主、変態がいるよ」

「流石にあれには引きますね」

「だな、俺もドン引きだ」

 セレナと灯巳と話しながら流石に胸が小さくなるで強くなる一誠に変態のレベルにドン引きしていると一誠と殴り合っている。

 なんとも泥臭い戦いだが、俺もまつろわぬ神と戦う時はどんな手でも使ってきたから結構、こっちのほうが好きだな。レベルとしては子供の喧嘩くらいだけど。

 一誠との戦いにテンションが上がってきたのか。俺が聖句を口にするのと同じようにヴァーリが小さく何かを口ずさむ。

 

 

「我、目覚めるは覇の理に全てを奪われし二天龍なり」

『待て、ヴァーリ!覇龍は早すぎる!』

 背中の白い翼からヴァーリの行おうとしてる覇龍というものを辞めるように諭す声。その主は一誠の左腕に宿る赤き龍”ドライグ”と対を成す白き龍”アルビオン”だ。

 アルビオンの注意も聞かずに技を発動しようとしていると結界を突き破って入ってきた人物が一人。

 

「ヴァーリ迎えにきたぜ!」

「美猴か、余計なことを」

「ヴァン神族と戦るから戻ってこいってさ」

 サーフボードにのるように雲に乗っている美猴という人物。肩には赤い棒を担ぎ、もう片手でヴァーリを抱えて飛んでいく。

「誰だあれ」

「美猴。西遊記でいうクソ猿だ」

「孫悟空!?」

 アザゼルと一誠の会話を聞いてもう一度上を見上げると既に二人の姿は無く逃げ切られたみたいだ。

 奇襲やら裏切りやらあったものの会談は無事?に終了となり、三大勢力は和平を俺は脅しをして終わりとなった。

 

 

 

 

@ @ @

 

 

 会談でサーゼクスたちに脅しのかいあってか、黒歌のはぐれ認定も解けて晴れて自由の身になった黒歌は家のリビングで正座をしていた。

「………白音、足痛いにゃ」

「ダメです」

「…しろ」

「ダメです」

 俺が悪魔に渡した報告書を読み、黒歌に会うために家を訪ねてきた小猫こと白音。

 黒歌との仲直りは終わったものの、白音との怒りは収まることなくこうして黒歌は反省中なわけだ、正座で。

 その姿はイラズラが母親にバレた娘にしか見えず、何処か微笑ましく思えてしまう。

「仲がいいな、全く。俺もイリナたちを向こうで待たせてあるからもう行くよ」

「涼先輩は何処かに出掛けるんですか?」

首を傾げて聞いてくる小猫に黒歌が答えた。

「今日は涼の支配する都市に行くにゃ。涼の元に集まった人間とか、人外とかが皆が住んでる都市。この世界で一番安全な場所にゃ」

「あの、私も付いていっていいですか」

「いいけど、黒歌と一緒に行動してくれよ、あと、靴持ってきな」

はい!と元気よく返事をする小猫と正座のし過ぎで脚が痺れて生まれたての子鹿みたいになっている黒歌を連れて権能を発動すると三人を包むように光の膜が生まれて視界は光に包まれ、転移された。

 

 俺を権能によって生み出した(みやこ)月の都(ムーン・ホールド)』へと。

 

 視界を塗りつぶす光が消え、ゆっくりと瞼を開けると視界に広がっていたのは人の活気に溢れる声が聞こえてくる町。

 顔を動かして周り見れば現代よりも少し文化レベルは下がっているが寧ろ、石畳の地面や道の左右に露店が出ている夕景がゲームで出てくるようにな町にも見えて真新しいを彷彿とさせる。

 

「……すごいです。本当に都ですね」

「ああ、俺の身内は全員がここに住んでる。出るのは簡単だけど、入るには俺の許可が必要なんだ。まあ、都市に入る以前に見つけること自体が難しんだけどね」

 

『月の都』と名付けているが存在するのは生と死の境界であるアストラル界。

 曖昧であるアストラル界に都市を築くことなど不可能に近い。『月の都』は都を作るだけじゃない、人が住むのに困らないだけのいくつかの効果を持っているからこそアストラル界なんて本来人が住むどころか存在すること自体が厳しい環境でもこうして笑って過ごすことが出来る。

 

「さあ、眺めてるだけじゃつまらないだろ、行くぞ」

「はい!」

「ゴーにゃ!」

 

 二つの柱に囲まれ円形に敷き詰められた石畳みの上、それこそ正しくゲームに出てくる町から町へと転移する為に設置されるようなゲートっぽい雰囲気のある場所から踏み出し、神殺しを王と主と崇めた者たち住まう都へと。

 

 

 

@ @ @

 

 

小猫side

 

 目的の場所に向けて歩くこと数分。

 小猫は彼が涼先輩が此処に住む人たちにどれだけ慕われているかを知った。

 道を歩いているだけで買い物しているおばちゃんには元気かい?と言われ、露店の店主には並べられている商品の中から今朝入った一番良いもんだ!と笑顔で手渡してくる。果てには小さな女の子が白い花を編んで輪っかにしたものを恥じらいながらどうぞと言って、頭に乗せている。既に頭には輪、首にはネックレス、手には食べ物と花束。いまだに目的地までは遠いというのに既に涼先輩の両手は埋まってしまっている。

 それだけじゃない、都にいるのは人間だけじゃないことに小猫は驚いた。天使、堕天使、悪魔、妖怪もいれば、吸血鬼。そして誰もが分け隔てなく楽しく喋り、子供も種族なんて関係なく友達として走り回っている。

 その光景は少し前まで種族同士で争っていた三大勢力を嘲笑う光景にしか小猫は思えない。

 誰も迫害なんてしていない、互いを理解して、尊重して、手を取り合って生きている。種族同士が協力して生きる、理想が此処に体現されていた。

 

 それが出来るのは恐らくこの世界で目の前を歩くこの人だけだ。

 涼先輩は誰よりも強いと信頼して、命を預けられる。涼先輩が守って、皆が支えて、誰もが自分をじゃない誰かの為に動いている。自己利益なんて欲深いことなんて思ってないからこうして種族関係なく都が作れるんだ。

 

 悪魔には絶対にありえないことだ、と経験からそう思えてしまう。

「白音も此処に住んだらきっと幸せにゃ」

「……黒歌姉様は涼先輩と一緒に居て幸せですか?」

「幸せにゃ。愛してくれるし、何があっても守ってくれるにゃ。でも普通の男の子みたいに弱さも見せてくれて信頼されてるって感じる時が一番うれしいにゃ」

 その顔はアーシアさんがイッセー先輩に見せる顔にそっくり。恋する女の子の顔。少し羨ましいと思いながらも分かる。彼には無意識に引き付けられる自分がいるから。

 強さに憧れるけれど、それだけじゃない。懐の深さというか、器の大きさに惚れてしまう。繕うこともせず、ありのままを見て、ありのままを見せてくれる。

 家を訪ねた私を特に警戒もせずに家に入れてくれたのは強さへの自信かと思ったけど違った。黒歌姉様の妹だからと無償で信頼していたから。

 

「…黒歌姉様、もしライバルになったら容赦しませんからね」

「久しぶりに再会した妹からライバル宣言されたにゃ!」

「お喋りしてないで行くぞ二人とも。あんまりのんびりしていると荷物が両手じゃ収まらなくなっちまう」

 体のあちこちに花を身に着けている涼先輩が私たちに声を掛けて、私たちは笑いながら少しだけ足を速めた。

 

 

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 部屋に入るなり全身を一斉に襲い掛かってくる強烈な熱量。真夏の外なんかとは比較にならない

 炉の中に燃える炎を熱が部屋全体を支配している。

 薪が燃え、高熱を放ち。日常では味わうことのない高温の空気と鉄の叩かれる音。どれもが今の現代社会では遠のいた光景だ、それでもこの場所では生活を支える大切な一部。他の勢力から援助を受けない涼たちにとってゼロから全てを作るほかない。現にこの町の家や食べ物も全てが自分たちで作ったものだ。

 

「涼先輩、此処は?」

「見ての通り鍛冶場だ。部下たちの持つ武器やら日用品を制作してる場所。今日はイリナの武器が出来たからって連絡が入ってな」

 

 炉の前には短い脚の椅子に座って剣の形になりつつある真っ赤な鉄の塊を金鎚で叩いている少女の姿がそこにはある。タンクトップに厚手のズボンという女の癖に色気もない姿だが、その姿に誰もが目を奪われる職人の姿がある。

「マルテット」

「ん?あぁ、アンタか。刀ならイリナに渡したよ。いま裏庭でセレナと試してるとこ。……始めて見る顔だね」

「黒歌の妹の小猫ちゃんだよ。」

「初めまして、えっと…」

「あぁ、マルテットだ。苗字はないから好きに名前で呼んでな。武器が欲しくなったら言ってくれ好きな物作ってやるよ。特に剣は一級品が出来るぞ」

 叩いていた剣を冷水に浸して急激に冷やし、取り出したそれは小猫にとって見慣れた剣だった。

「魔剣、ですか」

「あぁ、魔剣創造(ソード・バース)私が持っている神器だ。これのせいで堕天使に狙われてたんだが、今は持って生まれてことを感謝してる。なんて言ったってこれのお陰で戦えない私は皆の役に立てるからな」

 布で水気の取られて魔剣は薄い青色の刀身が部屋の僅かな光を反射して輝く。

 魔剣創造や聖剣創造の創造系神器は総じて、質の悪さを量や属性によって補う。マルテットはそれを量を捨て、質と属性を突き詰めることで伝説とされる魔剣にすら劣らない一級品の魔剣を生み出す。それを一流の剣士が使ったならば、まさに鬼に金棒という言葉がぴったりだ。

 因みに、セレナの義手を作ったのも彼女である。

 

 

「イリナたちは裏庭で武器の試し切りしてるよ、こっちだ」

 奥に進んでいくとあちこちに職人の姿がある。

 巨大な鎧を整備していたり、三人がかりで誰が使うんだと思えるほどの巨大な大剣を動く回転している砥ぎ石で削っている。

 大量生産ではなく一つ一つ、手間と丹精込めて作られていく武器たち。

 簡易な木製の扉を抜け、裏庭に出るとそこではゼノヴィアとイリナがいつものように斬り合う姿があった。

「いい感じだな」

「ええ、この刀は手に馴染むわ!」

 ゼノヴィアの手には聖剣デュランダル。

 イリナの手にはその聖剣と刃を交えようとも欠けることなく姿を保つ薄紫色の刀身の刀。

「イリナは剣より刀の方が使い慣れていたからな。刀にしておいた」

 マルテットの言う通り、イリナの手にはどことなく剣にも見える鞘や装飾だが、反り返った刀身や剣には無い柄巻が武器にはあるのが見える。

「作った魔剣を刀にするのはなかなか苦労したけど、伝説の聖剣と斬り合っても折れないんだ。いい結果だ」

 ゼノヴィアの全力の振り下ろしを受けてもイリナの刀は難なくその攻撃を受け、素早く斬り返す。

 試し切りも終わったのか、二人は武器を下ろす。

 

「マルテットさん!最高だ!デュランダルと斬り合っても折れないし、寧ろ、刃を交えても刃も欠けない!」

「当たり前だ。お前専用の刀だからな名前は”ユカリ”。切れ味と耐久度に特化した属性の魔剣を四本も溶かして一本にしたんだ聖剣にも負けない一級品だ」

 それはまた豪華。

 マルテットの魔剣は本物の剣を作る様に一本一本時間を掛ける、それを四本も溶かして一本にするなんて本来なら絶対にしない。

 

「イリナ、アンタはきっと涼たちと一緒に前線で戦うことになる。もし刀が折れても気にするな、一番にアンタの命を考えろ。折れても何本だって作ってやる、刀と違ってお前の命に代えはきかないんだからな」

 イリナの目を見つめてしっかりと伝えるマルテット。

 マルテットは職人だ。

 戦場に出られず、戦えもしない。けれど職人にとっては鍛冶場が戦場だ。

 戦場に出る者たちが命を預ける武器を作るのに、手を抜かない。戦場に出られない自分たちが彼らに出来るのはそれだけだからと。

  



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静かな日常

 涼は久しぶりの都での仕事を。

 セレナ、イリナ、ゼノヴィアはこれから仲間になる者たちとの顔合わせに。黒歌と小猫は観光に向かって行った。

 

「黒歌たちも一緒に行けたらよかったですけど、久しぶりに再会した二人に水を差すのも悪いですからね」

 セレナはまた機会もありますよね、と片手に露店で串肉を焼いていたおじさんから無料でもらったお肉を食べながら道を歩いていく。

「セレナ、何処に向かってるの?」

「あむ!特に当ても無いですよ。基本は一緒に戦うかもしれないメンバーの顔合わせですね。知っておいて損はないでしょ」

「確かにな、実戦でいきなり顔合わせするよりも一度くらいは自己紹介くらいしておきたいものだ」

 

 たわいないお喋りをしながら到着した建物は三人に取って懐かしく思えてしまう外観をしたものだ。

「教会?」

「教会だな」

「十字架はないので、正しくは教会に似た建物が正解ですね」

 慣れた様子で左右に開く扉を開けて中に入って行くセレナに続き、イリナとゼノヴィアも恐る恐る足を踏み入れる。中は見慣れた教会だが本来十字架がある場所には何も無く、代わりに魔剣が台座に深く突き刺さり、その前にはシスターの服を着た女性が一人膝をつき祈っている姿が見えた。

 

「クローチェ」

 セレナはシスターの女性の名前を呼ぶと、女性な音もたてずに立ち上がり振り向く。

「あら、セレナ。お二人は初めましてね」

「イリナよ」

「ゼノヴィアだ」

 うふふ、と笑うクローチェにイリナとゼノヴィアは釘付けになってしまった、クローチェの動きに合わせて揺れる大きな胸にだ。自分たちよりも一回り大きく柔らかそうで笑顔を絶やさないクローチェと相まって、少し前まで教会に仕えていた二人からしたらその姿は聖母にしか見えないからだ。

 

「クローチェ・ベロニカよ。孤児院で先生をしているの、お二人も働きたくなったら遠慮なく言ってね」

 クローチェの案内で孤児院を見て回る事になった三人。

 中の作りも教会と似ているが、十字架に短剣。蝋燭やライトの代わりに光る結晶が壁に埋め込まれている。

「あのクローチェさん。孤児院なのに何でシスターの服を着てるんですか?」

「私は元シスターだもの。仕事をしている時に運悪く聖書の神が死んでいることを知っちゃて、追放されて途方に暮れてる時に涼様に会ったの」

 涼様と祈るように胸元で手を組むクローチェ。

「えっとクローチェ…さんは涼を信仰しているのか?」

「いいえ、別に神の代わりというわけではありません。私は自分の目で見えない神なんて最初から信じていませんでしたから。教会で育ちましたがいくら祈っても救いを与えてくれない神なんて物心ついて数年で興味は失せました。私はあの人を敬愛してるだけですから」

 しっかりとした意思を宿した目が三人を射貫く。

「でも出来るなら、イジめて欲しいです♡」

「イリナ、ゼノヴィア。この人はちゃんとしてるけどポンコツなんです」

「これはえっとマゾだね」

「これがマゾか」

 三人の声なんて耳に入らず、涼様♡と口にしてクネクネしているクローチェ。

 イリナとゼノヴィアのクローチェへの印象は聖母からちょっと変態な優しい人にチェンジすることとなった。

 

 

 

 

 裏庭に出ると孤児院ということは孤児ということだろう。

 子供たちは好き勝手に走り回っている。

 クローチェとセレナからしたら見慣れて光景でも、イリナとゼノヴィアからしたらそうでもない。

 何せ、走り回っている子供たちが人間、天使、堕天使、悪魔、他にも人狼や吸血鬼など種族関係なく一緒に遊んでいるのだから。

 

「此処では種族なんて関係ないんですよ、子供は子供。ただそれだけです」

 もし種族の間の問題が無くなればいま目の前にある光景が当たり前になることだろう。

 けれどそれは幻想。

 三大勢力だけではなく、人間以外の大半の種族が人間を見下している。

「皆、楽しそうだね」

「ああ、此処だけは楽園に見えてくるよ」

「あらあら、上手い表現ね。でも間違ってないかも。この都の住民は三大勢力絡みで被害にあった人物ばかりだもの。そんな人たちからしたら此処は最後の砦だもの」

 

 イリナとゼノヴィアにはその言葉は心に突き刺さった。

 教会に仕え悪魔祓いとして活動してきた中ではぐれ悪魔を斬ってきた。その中には望まず転生悪魔にされた元人間も居ただろう。人間として生きて死にたいと願った者たちが居ただろう。そんな者たちの助けを求める声も聞かず、自分たちは斬り捨ててきた。

 神の救いと称して命を奪ってきた。

 教会という狭い世界から外に出て、色んな人と言葉を交わし、世界を見て気づいた。

 教会は確かに人間をはぐれ悪魔の手から助けてはいるが、人間を救ってはいない。ただ危険を排除しているだけ。

 

「イリナ。私はこの景色を守りたい。涼の元で剣士として戦いたい」

「そうね、ゼノヴィア。私たちは世界を知らな過ぎた。祈るだけで誰も助けてくれない神様よりも人の手の方が確実よ。誰かじゃない私たちが動かなくちゃね」

 

 二人が改めて決意を固める姿をセレナとクローチェは新しく加わった同胞を見て嬉しそうに微笑む。

 別に強制もしない。無理強いもしない。これが正しいだの、正義だのと口にする気もない。それでも救われる命がある、救われる者がいるのは確かだ。

 居もしない神に祈るより、世界を良くするのは人間の行動一つで十分なのだから。

 

 

 

 

 

 

@ @ @

 

 

 セレナたちと別れた黒歌と小猫は都を歩きながら軽い観光をしていた。

 市場を見て回れば新鮮や果物や野菜、どうやっているのかは分からないが魚さえも並び。中には日本のお店ではあまり置いてないものも置かれている。

「すごいです、テレビでしか見たことないものも置いてあります」

「此処は種族も人種も関係なく住んでるから、食べ物もそれに合わせて人間界から苗を持ってきてこっちで栽培してるにゃ」

 二人で色んなものを物色しながら歩き進めていると、小猫の鼻を刺激する甘い香りが漂ってくる。

「あら、黒歌ちゃん!」

 白いエプロン姿に少し太った体形の強きなお母さんという雰囲気漂う女性がお店の奥から元気な声を上げてやってきた

「久しぶりにゃ、おばちゃん」

「あらま~小さくて可愛い子連れて」

「塔城小猫と言います、黒歌姉様の妹です」

「…そう、妹ちゃん見つかったのね。なら今日はお祝いだね!」

 強引に手を引かれ、席に着くなりおばちゃんは注文する暇もなく次々に料理を運んでくる。あっという間にテーブルは料理で埋め尽くされ、お腹いっぱいお食べ!とおばちゃんは言ってまたお店の奥に引っ込んでしまう。

 黒歌はまたなのにゃ、という顔をしているがその顔は記憶に微かに残る、亡き母の影を見るように優しい目をしていることに、小猫は気づきながらも何も言わずに料理を口に運ぶ。

 二人が食べ進めること数十分。

 やっと机の上から料理は無くなり、二人はおばちゃんが持ってきた紅茶にたっぷりのミルクと砂糖を入れて食後のデザートのプリンを口にしている。

 

「甘いにゃ!」

「甘いですね」

「よくあれだけ食べたね、残ったら持って帰れるように器も用意しておいたんだけどね!」

 そう言って、大笑いしているおばちゃん。

 黒歌と小猫からしたら先に言っておいて欲しかったというのが本音だ。出された料理を残すのは気が引けるから食べないわけにもいかず。お腹いっぱいになって予定だった観光をするには少々、お腹が重すぎる。

 

「黒歌ちゃん、王様は元気にしてるかい」

「うん、元気にゃ」

「そうかい、王様には私たち、皆が助けてもらったからね」

「皆ですか?」

「あら、知らないのかい。都に住んでいる住人は、皆が王様に助けられたり人間界で普通に暮らせないから移住していたんだよ。私たちもそうさ、娘が神器を持って生まれてきてね。中学生になってすぐに堕天使に襲われてる所を王様が助けてくれたんだ。その時に神器や三大勢力のことも説明されて都に移り住まないかと誘われたのさ。都には同じような人が沢山いる、だから皆、手を取り合うのさ」

 神器を持てば人間という輪では生きづらい。

 中には神器を持っているというだけで迫害され、中には親でありながら子を捨てる者もいる。

 そんな者たちが生きる場所が神無月涼が支配するこの都というわけだ。

「そうなんですか。だから皆、あんなに仲が良いんですね」

「そうさ、私たちは王様に返せない大きな恩があるんだよ」

 おばちゃんは笑いながらそう言った。

 王に救われ、王を支える事を選んだ民。それこそがこの都を作っている。

 

  

 

@ @ @

 

 

 

 『月の都(ムーン・ホールド)』の中心に建つ大きな城。

 都の要であり、都の重役が仕事を行う重要拠点。その一室で机に積み上げられた書類の山に埋もれている、涼。

「終わんね~」

 涼が人間界で行動をしていた間にあった報告書からこれから行われる事業の報告書。様々な種類の報告書が束になっている。それを一枚、一枚目を通していく。 

 

 えっと、なに、畑でオレンジを栽培。そういえば、前におっさんたちが果物を栽培してみせるとか言ってたな。あれマジだったのか。

 確かに、『月の都』に大きさの限界はなく、やろうと思えば世界中の土地の環境を再現することもできる。勿論、条件とか必要だけど。

 それとは別に、書類以外にも面倒事が目の前に居る。

 ソファに座ってスコーンと齧りながらミルクティーを飲んでいる少女―――オーフィス。

 どうやって『月の都』を見つけたのか、どうやって張ってある結界に察知されずに侵入したのかは全く不明。全力で戦って勝てはするけど、十中八九この都は粉々になる。長年かけて作ってきたんだ。そう簡単に壊されちゃたまったもんじゃない。

「それで、どんなご用件で」

「強い人間、グレートレッドを倒す為に手伝う」

 グレートレッドって時空の狭間を飛び回ってる特大の龍だっけか。居るってのは知ってるけど、場所が場所だから見にも行けないし、手を出さなければ被害が無いから完全に無視してた。

 オーフィスを何でかその、グレートレッドを倒したいと。

「それならお前の下っ端の禍の団がいるだろ」

「あれは蛇が欲しくて集まっただけ、グレートレッドを倒す気ない」

 ……無限の龍神を使おうなんて禍の団も命知らずだな。

「悪いけど、俺にもやることがあるんだ。てかさ、なんでグレートレッドを倒すんだ?」

「我、求めるは静寂」

 静寂?ってことは静かな場所ってことか。別にそんなもの探せば深海とか宇宙とかいくらでも。

「ふ~ん、よく分かんないけど、俺は手伝えない。やることが腐るほどあるんでね。どうせ暇なら、都の観光でもすればいんじゃね」

「観光?」

「お前が食ってるそれも都で作ったもんだよ」

 自分が手に持ってもきゅもきゅと頬張っているスコーンに視線を落とす、オーフィス。どうも龍神様はお菓子がお気に召したご様子。

「美味なるもの、他にも沢山」

 これ餌付け、いけるんじゃね。

 こっち側に引き込めるんじゃね。

 とは言え、街を見に行かせるにしろ一人ってわけにもいかない。お目付け役が必要だな。

 机に端に置いてあるハンドベルを手に取り、チリリンと鳴らすと部屋に入ってくるメイド。

「お呼びでしょうか」

 彼女は城の料理、掃除などの雑用を任されているメイドの一人。

「彼女の案内をジャッカルズの誰かにさせてくれ」

「分かりました」

 ジャッカルズ―――俺の部下の中で強い上位六人が所属する部隊。一般の兵士を引き連れる隊長として戦うこともある。

 セレナや灯巳、クローチェが所属していて、イリナとゼノヴィアはまだそこまでは届かない。

「此方ですオーフィス様」

「うん」

 メイドの後の続いて部屋を出ていく、オーフィスを見送り、報告書に目を落とす。都の外にある施設に禍の団の一派”英雄派”という奴らが訪ねてきたそうだ。

 その時は戦闘にならなかったけど、次は戦闘になるかもしれない。

 アホな三大勢力だけでもやることが多いってのに、禍の団のバカ共の相手もしないといけないのかよ。

 ボスのオーフィスは精神が子供すぎて、ボスと言うより、戦力を集める旗としてしか使われてない。頭を潰せば無くなるかと思ってけど禍の団は全部を潰さないと終わらないか。

「全く、やることばっかり増えてくる」

 ティーカップを手に取り、中に入ったコーヒーを飲み干すと口いっぱいに苦みが広がる。

 リセットした頭でまた新しい報告書へと目を通していく。

 



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影の使い

 学生に取って一年に一回だけの一大イベント夏休み。

 約一か月にも及ぶ長期休みは学生が朝から夜まで自由に行動できる数少ない時間だ。

 ある者は、彼氏、彼女と一緒に過ごし、ある者は、遠方へと旅行へ、ある者は、実家へと帰省する。

 

「俺たちは部長と一緒に冥界への帰省に同行することになったよ。お前はどうなんだ」

「俺は……何もないな。組織としての仕事はこの前、終わらせてきたし、そもそも実家がこっちの世界に存在してない」

 教室で一誠と窓際の壁にもたれ、二人で夏休みの予定について話していた。

 一応は三大勢力と和平を結んでいない俺だが、一誠とは友人関係を継続。魔王たちからしても、俺と個人の関係にある、イッセーを通して何かと情報を知りたいので無下にするようなことはしてこなかった。

 

「まあ、夏の醍醐味である、海水浴と夏祭りでも満喫しようかね」

「クソ!リアルハーレム野郎め!水着と浴衣を堪能するつもりか!」

 何を言うか、一誠よ。コスプレなんぞ頼めばなんだって着てくれるわ!てか、灯巳なんて家なら基本が巫女服だし、黒歌も着物だしはだけて胸が半分ほど見えてるけど。

 

「一誠。一応は忠告しておく」

「……なんだよ改まって」

「仲間を、家族を失いたくきゃ、強くなれ。三大勢力が和平を結んだことで、『禍の団』を含めて世界中の組織が動き出す。俺の時もそうだ。弱かった、訓練が足りなかったなんて理由で負けたら後悔するぞ」

「随分と重い言葉だな」

「言ってなかったか。俺がカンピオーネになったのは、まつろわぬ神を殺したからだけどな。まつろわぬ神を殺した理由は、そいつが俺の両親を食ったからだ」

「はっ!?」

「俺を庇って食われる両親を見て、俺のタガは外れた。自分が食われることを理解した上で、俺はまつろわぬ神と殺し合いをした。結果、俺も下半身を食いちぎられたけど、ギリギリで勝って蘇ったってわけだ」

 俺の話を聞いて、予想以上の重い話に絶句している、一誠。

 だろうな、そもそも、両親が死んだなんて話をこんな軽くするわけがないけど、しておいてやるべきだ。一誠の両親はまだ生きてる、けれど、コイツは自分の家族に迫るである危険を理解してない。戦うって意味を理解してない、心の何処かで甘さがある。

 

「忠告はしたぞ。これで何か問題が起こっても、俺に八つ当たりはしないでくれよ」

「……俺は甘いって言いたいんだろ」

 理解しているご様子だ。

 

「おいイッセー!夏休み、海水浴場と夏祭りに行くぞ!」

「そうだ、ナンパするなら定番の場所だからな!」

 松田と元浜が肩を組んで近づいてきた。

 どうも二人は夏休みに、イッセーと三人でナンパへと繰り出す気満々らしい。

 

 セレナ、灯巳、アーシア、桐生たちのグループの会話に耳を傾けてみるとどうも初めての夏休みの過ごし方を、桐生によってレクチャーされているようだ。

 

「いい、夏は学校も無くて朝から晩まで一緒に居られるんだから。隙を見つけてアタックしなきゃ駄目よ!」

「はい!分かりました、桐生さん」

「私たちもアタックするべきでしょうか」

「いや、私たちは既にアタックして、寧ろアタックされてるから。どうせ海も、祭りも行くんだし。そんな事よりも、夜をどうするか考えたほうがいいじゃん。どんな水着を着ようかな~」

 どうもあっちはあっちで、盛り上がってるようだ。

 夏休みの間に事件でも起きないことを願うばかりだな……無理だろうけど。

 

 

 

 

 

「若手悪魔の会合への招待状、ね」

 学校が終わり帰ろうとしている時に、リアス・グレモリーからお呼びがかかりオカルト部に行くと、一通の手紙を渡された。

 中の内容は、今度、冥界で若手悪魔たちの会合があり、それに参加してほしいというものだ。

 魔王たちからすると、自分たちの事を知ってもらい敵対しないようにしたいというわけだ。分かりやすいパターンに出てきたな。

 今のところ、天使と堕天使からの伝達は無し。

 サーゼクスも、レヴィアタンも強さに関しては、この世界基準で言うなら問題ない。けれど、強さが=王としての素質に直結するかと言えばそうじゃない。

 どれだけ強くとも王として、民を従えるに足る技量が無ければ話にならない、逆に弱くても、従えるだけのカリスマ性があれば問題ないともいえる。結局は、魔王は戦闘に関しては良くても、王としては問題外ってことだ。

「お兄様から是非とも参加して欲しいそうよ」

「どうしますか、涼さん」

「どっちでもいんじゃない?どうせまともな展開にはならないでしょ」

 灯巳、そういうのは口に出さないもんなんだよ。

 

「おいおい、陰陽師嬢ちゃん。そういうのは思っても口に出さないでくれよ」

 声をした方を一斉に一誠たちが振り向くと、リアス・グレモリーがいつも座っている椅子に腰を下ろしている、アザゼル。

「いつの間に!?」

「お前らまだ甘いな。涼たちは気づいていたぞ」

 気配を消した程度で見つからないと思ってるのなら、甘く見過ぎだ。

 俺の視線を受けてニヤリと笑う、アザゼル。

 若干、腹立つな。アザゼルは駒王学園の教師としてやってきた。話ではオカルト部の顧問になり、これからの戦闘の為に訓練を教える立場になるそうだ。

そんなことを味方でもない、俺には話して良いのかと聞くと、少しでも自分たちの良いところをアピールして敵対しない関係に持ち込みたいそうだ。それを、口にしちゃってる時点でどうかと思うけどな。

 

「これは貰っておく、こっちも禍の団関連で動かないといけないからな」

「そっちは何か、禍の団について掴んだか」

「オーフィスに会った」

「はぁ!?」

「グレートレッドを倒すのに手を貸せと言われた」

「……お前はそれを受け入れたのか」

「いや、今のところは、俺の組織が基地にしている場所で食い物で釣ってる、どうなるかは知らん」

「知らんて、お前な」

「俺は、オーフィス相手でも勝てるだろうが、お前らは違うんだろ」

オーフィスはこの世界でも上位に入る強さ、それも単体でだ。三大勢力含め、他の神話勢力でも、相手取るのは困難らしい。

オーフィス含め、今は不安要素がありまくりだ。こっちも色々と準備しないとな。

例えば、戦争の準備とかな。

 

 

 

 招待状に従ってやってきた冥界。

 若手悪魔の会合は今日から数日後にある、俺たちは魔王、恐らく、サーゼクスの思惑だろう。観光をしてもらって少しでも、関係を保ちないだろう。

「本来なら魔王である、お姉様が案内するはずだったのですが……ごめんなさい」

 ソーナは頭を下げる。

 彼女の言う通り。本来なら組織の長である、俺の案内を貴族とはいえ、ソーナがするはずはない。彼女の姉、セラフォルー・レヴィアタンが案内をするはずだったけど、人間界にある。魔女っ娘のイベントに参加するべく置手紙を残してドタキャン。

 他の魔王も若手悪魔の会合に向けて、手一杯ということで、顔見知りのソーナが抜擢された。

 というか押し付けられた。誰だって一人で一種族を相手取れる奴に街の観光案内なんてしたくないだろう。

「気にするな、授業参観と和平会談の時点で性格は大体察してる」

「…うぅ…ごめんなさい」

「さて、護衛二人のセレナと灯巳は知り合いだから自己紹介もしなくていいし、気楽だろ」

「ソーナ先輩!甘いもの、甘いもの食べたい!」

 ソーナの手の手を取り、一番前を歩く、灯巳。

 灯巳とソーナは学校でも仲が良い。

 互いに姉の居る妹の立場ということもあって妹ならではの悩みや苦労。コカビエルの一件で結界を展開している間に、お喋りをしていた二人は、俺の知らない間に友達という関係を築いていた。

 手を繋いで歩く二人の姿を見ていると、本当の姉妹のようだ。

 灯巳は姉というか、実家とはうまくいってない。それでも幼い時に仲の良かった姉というものを求め、ソーナにその姿を重ねているのかもしれない。

 どんな理由があっても、仲が良いのはいいことだ。

「私たちも行きましょう」

「ああ、行くよ。情報収集を頼む」

 視線を落とし、不自然に動く自分の影に向かってつま先でノックして歩き出した。

 

 

 

 シトリー領を四人で観光していると、やはり、ソーナは有名らしく。すれ違う人が後ろを振り返ることが多々あり。そんな事に慣れているのか、ソーナは気にすることなく進んでいく。

 野菜や果物は人間界の物と似ているけど、串焼きの素材がミノタウロスだとは、食べたいと思えるものじゃなかなかった。

 

「カルチャーショックだ」

「……人間からすれば確かにショックでしょうね、灯巳さんは気に留めず食べてましたけど」

「そいつに常識を問うな」

「なんですと!私だって常識くらいあります。それに加工してあれば牛肉もミノタウロスの肉も一緒の肉でしょ!食べて美味しければ問題なし!」

 ニッシッシ、と笑う、灯巳。

 当ても無く歩き回って丁度いい時間になってということで、見かけてカフェに入り三時のおやつタイムに入った、俺たち。

 セレナ、灯巳、ソーナは紅茶とケーキセットを、俺はコーヒーを注文してのんびりとしている。

 

「ちょっと、お手洗いに」

 カップに半分ほどコーヒーを残して、席を立ち。トイレに入る。

 誰も居ない事と監視系の魔術が無いことを確認して、天井のライトに照らされ、生まれた自分の影をつま先でノックをする。

「出ていいぞ、朱柘(しゅざく)

 俺の影を不自然に盛り上がり、本来、形なんで存在しない影が人型へと形を変えていき、数十秒後には影は人になった。

「はい、マスター」

 顔を上げることなく下を向いてままの、黒髪にフードつきのコートを着て、頭にはフードを被っている少年―――朱柘(しゅざく)

 彼は元、転生悪魔。

 神器を持っていたことを理由に、貴族悪魔に家族を人質に取られ、強引に転生悪魔にされ。俺が転生悪魔から人間に戻せるという噂を聞きつけて、俺の元にやってきた。

 『盗みの極意』で転生悪魔から人間に戻った、朱柘は家族の元に戻り。家族を月の都に引っ越して、そのまま、俺に仕えてくれている。

「情報収集の成果を聞きたい」

「はい、シトリー領は比較的平和ですが、他の領地では地下で人間を扱ったオークションや幼い子供を娼婦とする店もいくつか発見しました」

 やっぱりか。魔王は役立たず。いや、期待なんてしてなかったけど、少しは良くなるんじゃないかと思ったけど無理だったか。

「分かった、お前は継続、情報収集を頼む。『闇夜の暗殺者(ナイト・アサシン)』があるとはいえ、気を抜くなよ。危険があればすぐに撤退しろ」

「了解しました」

 そう言って、俺の影へと潜っていった、朱柘。

 朱柘の生まれ持った神器『闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』は影を操る防御系の神器だったけど、俺に仕え、偵察、潜入などの仕事をしているうちに亜種の禁手『闇夜の暗殺者』を発現。影の中に潜り、繋がる影へと移動したり、影での拘束や攻撃など。防御寄りの神器は幅広く使えるようになっていた。

 恐らく、『共に戦場に立つ』の祝福の効果が後押しをしたんだと思われる。

 俺の組織が情報という重要なもので他の組織に負けないのは、朱柘と朱柘が率いる隠密部隊あってこそだ。

「若手悪魔の会合は、悪魔の大元が勢ぞろい。叩けば埃どころか、ゴミの山が出てきそうだ」

 はぁ、とため息を吐きながら、これでまた悪魔を滅ぼす理由が増えてことに頭を悩ませながら、トイレから出ていく。

 



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宣戦布告

 本日開催の若手悪魔の会合に参加するために控え室制服で出席するのもありなんだけど、万が一戦闘になったときの為に用意はしておくべきだ。

 学校の制服から着替えていのは、マルテット率いる技術者たちの黒を基調としたオーダーメイドの戦闘服。制服で出席しても良かったけど、万が一戦闘になった時と一応は格好をつける為に着替えておく。

 

 俺の物は、カンピオーネの魔術無効化のせいで、他の人のように魔術による補助が出来ないけど、代わりに素材自体が特殊な物で出来ている。マルテットの『魔剣創造』で生み出された防御特化の魔剣を糸状に加工して、それを服の形に編み込んでいる。手間だけなら一番かかってる。

シャツに着替えてズボンを履き、コートを羽織る、靴も革靴じゃなくて軍人が使うブーツで長時間、立っても悪路を走っても疲れにくい。まさに至れり尽くせりの一式になっている。

 

鏡で調節を終え、後ろを振り替えると着替え終わった、セレナと灯巳それと影の中から片手だけを出してグッ!と親指を立てている、朱柘。

 

 セレナは右腕の義手の動きを邪魔しないように右肩部分だけがノースリーブになっている、下はシンプルのパンツ。

 灯巳はいつも通りの巫女服なんだけど、上は白いのに、下は黒で下駄の代わりにブーツという変わった組み合わせ。本人の希望で巫女服になったらしい。

 朱柘に関しては、常に戦闘服を着ているし、そもそも今回の会合には参加してないことになってる。

戦闘にならない限りは、姿を見せることはない。

 

「そんじゃ、行こうか」

 扉を開けて控え室を出る事には、セレナ、灯巳の顔からは笑顔は消え、朱柘は影の中で息を殺した。

 

 

 

 周囲の悪魔から向けられるいくつもの視線。

 悪意、敵意、興味、嘲笑の視線ばかり、大半が、俺たちを下に見てる。

 やっぱり、こいつ等は理解してない、自分たちが全滅というものの目の前に立っていることを。

 こりゃー、冗談抜きで戦争になるかもな。そもそも貴族主義の悪魔が変われるとは思ってなかったけど、期待するだけ無駄か。

 

「貴殿が異世界からやってきた神殺しか」

 腕を組んだ状態で壁に寄りかかっている黒髪の短髪の男。何よりも服の上からでも分かる鍛えられた筋肉からくる威圧。

 悪魔なのは確か……だけど、異様だ、魔力を感じない。

 カンピオーネの感覚は敏感に周囲の変化を感じ取る。それは対人においても発揮される、それに、この男は引っかからない……あ、そっか、最初から空っぽなんだ、持って無いから感じないんだ。

 

「合ってるよ……アンタ、魔力を持ってないんだな」

「ッ!顔を合わせただけでバレるとは、貴殿を見くびっていたようだ。俺はサイラオーグ・バアル」

 バアル、リアス・グレモリーの母親の実家で『滅びの力』を持つ一家だって報告書にあったな。

「神無月涼だ。やっぱり、アンタは魔力を持ってないのか」

 サイラオーグから差し出された手を掴み、握手を交わす。

 その間も、コイツは、俺から目をそらさない。鍛錬で身に着けて精神力か。

 手繋いでる、コイツには伝わってるはずだ、俺の存在という圧力が、それでも、彼は手を解かない。

「試すようなことして済まないね」

「いや、俺も、貴殿のような存在を身近に感じることが出来て良かった」

 握手を解き、俺の存在を噛みしめるように頷く、サイラオーグ。

 

「……まるでドニみたいだな」

「ドニ?」

 知らぬ名前を聞いて、聞き返してくる、サイラオーグに説明する。

「俺と同じ神殺しで、アンタと同じ魔力を持たない奴だよ。剣一本で神を殺して”最強の騎士”と呼ばれるようになった戦闘狂さ。俺は何十回も戦ってるけど、負けはしてないけど、勝ったのも片手で数えるほどだ」

「ハッハッハ!そうか!異世界には俺と同じような体質で神殺しを成す人間もいるのか!ふむ、ならば俺も精進してもっと高みを目指すとしよう」

 ドニの話を聞いて大笑いしながらも、ヒーロー番組に感動する子供のような目をしている。

 彼が仮に、一般の悪魔だったら、多少苦労する程度で生きてこれたはずだ、けれど、彼は貴族。魔力が無いということは悪魔の強さを支える基礎を丸ごと無いということ、悪魔がいるスタートラインに、コイツは立っていない。

 

「涼さん、流石に一度会場を見ておいたほうが…」

「おっと、そうだったな、セレナ。緊急時抜け出す下見もしておかないとな。サイラオーグも会合に出席するだろ、一緒に行こう」

「ああ、同行しよう、貴殿と話すのはなかなか楽しいからな」

 

 

 サイラオーグと世間話をしながら会合が行われる会場に到着し、会場に入ってみれば聞こえてくる騒がしい怒鳴り声が二つ。

 内容こそ良く分からないけど、どうも顔に刺青が入った男のヤンキーが眼鏡をかけた女性に喧嘩を吹っかけているようにしか見えない。

「会合の場で喧嘩とは馬鹿らしい…」

 頭に手を当てて、首を振る、サイラオーグ。

 どうも、ヤンキーの方はTPOというものとは無縁そうだ。

 サイラオーグは会合は始まるまで外で待ってると出て行った、俺はセレナと灯巳と一緒に会場の下見をして時間を潰す。

 

「朱柘…」

「はい、マスター」

 壁に寄りかかり、独り言のように小さく呟くと影の中にいる、朱柘は返事を返してきた。

「サイラオーグについて調べろ。経歴、家柄、家族構成、特技、全てに至るまで部下に調べさせろ。アイツは気に入った、悪魔を滅ぼすなら残しておいてもいいかもしれない」

「了解しました、すぐに部下たちに調べさせます」

 そう言って、俺の影から別の影に移動して行った。

 ソーナ・シトリー、サイラオーグ・バアル、今のところ、悪魔を滅ぼすにしても残しておいても良いと思えるのはこのくらいか。眷属はいいとしても貴族の大半は戦争になったら血が途絶えることになるな。

 

 一人でどうやって冥界を攻め落とすかを考えていると、俺に向かってテーブルが飛んできた。

 避けるのも、壊すのも余裕だけど、俺は動かない。既に、セレナが光の剣を右手に握り、前に出ているから邪魔にならないようにだ。

 

 包丁で豆腐でも斬るみたいテーブルを真っ二つ。

 左右に分かれてテーブルは俺より一メートルほど離れて壁へと突っ込んだ。

「ありがとな」

 ペコリと頭を下げると、さっきまでいた俺の隣へと戻る、セレナ。

 セレナから目を離し、テーブルが飛んでくる原因となった二人、刺青ヤンキーのゼファードル・グラシャラボラスと眼鏡をかけた女性のシーグヴァイラ・アガレスはいまだにくだらない喧嘩を続けていた。

 むしろ悪化している。

 周りに用意されていたテーブルや椅子は破壊されている。いまだに全員が揃ってないとはいえ、片付けと用意に会場を担当している悪魔たちはご苦労なことだ。

 変にいちゃもんを付けられても困るので無視していると、リアス一行と帰ってきた、サイラオーグに食ってかかった、ゼファードルは顔面に一撃をくらい壁へとめりこみ気絶、あっけなく喧嘩は終わることになった。

 あんなヤンキーがこれからの一家の当主になんてなったら家が滅ぶな。周りの悪魔たちも止めないし、これじゃ、種族が腐るのも納得だな。

 

「失礼、君が神無月涼さんですか」

 ローブを着て爽やかな笑顔を浮かべた青年がゆっくりとこっちに歩いてくる。

「ああ、アンタは初めましてだな」

「僕は、ディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。会合前に自己紹介だけでもと思いまして」

「そいつはありがたい、悪魔には個性的な奴が多いみたいだからな」

「ゼファードルを基準にしないで頂きたいものです。本来の次期当主が旧魔王派によって暗殺されたため、代用として彼が次期当主候補としてこの場に出席してに過ぎません」

「なるほど、現悪魔と旧悪魔は同じ悪魔でも仲が悪いのか」

 まあ、知ってたけどな。

 旧悪魔はコカビエルみたいに戦争狂が多いらしい。というか、自分たち悪魔が最強の種族だと信じて疑ってない。その考えは現悪魔の重役や貴族にも残っている。

「そろそろ、若手悪魔たちが揃いそうですね、君も参加するのでしょ、会合に」

「その為にお呼ばれしたんだからな」

「そうですか。では、後程」

 爽やかな笑顔で眷属たちの元に戻っていった、ディオドラ。

 

「あの人、胡散臭いね」

 灯巳は帰っていく、ディオドラに聞こえない声で呟いた。

「ああ、見事な作り笑顔だな、アイツは旧悪魔と繋がってるって隠密部隊の報告にもあった」

 現悪魔は内側は腐ってるようだ。

「お前らも気を付けろよ、アイツは信心深い奴を陥れることに悦楽を感じる変態野郎だ」

「私たちの身内で神を信じる人なんて居ないと思うよ」

 確かにそうだった。

 十分ほどして、若手悪魔たちが揃ったことで会合は開始された。

 大きな机を囲むように若手悪魔、魔王、老人、そして、俺が席に着く。

 若手悪魔のソーナ、サイラオーグ、リアス、ディオドラに関しては顔合わせは済ませてある。ゼファードルは、サイラオーグに喧嘩を売って一発KOされて退室、シーグヴァイラに関しては良く知らないし、調べてもロボットオタクというくだらない情報しか出てこなかった。

 魔王は、サーゼクス、セラフォルーは自己紹介済み、残りの二人の、アジュカ・ベルゼブブとファルビウム・アスモデウスは表に出てくる事がほぼ無いから自己紹介どころは初めて見る。

 けれど、アジュカ・ベルゼブブには関しては戦争になったら確実に殺す必要がある。なにせクソッタレアイテム『悪魔の駒』の開発者だ。仮に悪魔との戦争に勝っても、コイツが生き残っていたらまた面倒事を起こす。

 

「よくぞ集まってくれた、次世代を若き悪魔たちよ。この場を設けたのは一度、この顔合わせで互いの存在の確認、更には将来を競う者の存在を認知するためだ。それと一人、特別ゲストがいる。彼は、この前あった悪魔、天使、堕天使の和平会議にも参加していた、人間代表の神無月涼くんだ」

 サーゼクスが、俺の紹介をすると、大半の悪魔が、俺を人間ということで下に見ている、特にそれが強いのか老人たちだ。

 

「っは、人間風情を悪魔と同じテーブルに着かせるとは、魔王様はお優しいことだ」

 笑う、老人と周囲にいる悪魔たち。

 俺が笑われたことで、動き出そうとするセレナを手で制し、静かに、抑えていた力を表に出す。

「…黙れ、三下」

 会場が、空間が軋む。

 会場に居る者たちを襲うのは、圧力のようなプレッシャー。

 中には泡を吹いて倒れる者、意識を失う者もいる。

 魔王は耐えているが、若手悪魔たちは徐々に顔を青くなり。

 老人たちは既に全盛を過ぎた体には、俺の存在という圧力は毒のようだ。

「……神無月くん、そろそろ抑えてくれないか。これでは話が続けられそうにない」

 慣れた感覚で蓋を閉じるイメージで存在を抑えると、周囲の軋みは消えた。

 それでもすぐに動ける者は限られる、中には意識を失ったものを引きずって会場を出ていく悪魔もいる。

 

 サーゼクスは咳払いをして、話を再開した。

「彼の実力が証明できたところで話を始めよう」

 老人たちは、いまだ息は荒いけど、若手悪魔たちはプライドなのか、意識を持ち直したみたいだ。

 今ので全力の一割なのに、この影響か。セレナと灯巳ですら涼しい顔しているのに…。こいつ等どんだけ戦闘から離れてるんだか。 

 俺が一人で溜息をついていると、サーゼクスの話は先に進んでいた。

「君たちは家柄も実力も共に申し分ない。だからこそ、デビュー前に互いに競い合い、力を高めてもらいたいと考えている」

「我々、若手悪魔もいずれは禍の団との戦に投入されるのでしょうか?」

 サイラオーグが挙手して、サーゼクスに質問をすると、首を横に振りながら否定する。

「私達としては、できるだけ君たちを戦に巻き込みたくはないと思っている」

「なぜです? この場にはテロ組織と戦い、生きて帰った者達もいます。我らとて悪魔の一端を担うもの。冥界のため、尽力を尽くしたいと―――」

 サーゼクスの戦闘には参加させないという言葉に、食って掛かる、サイラオーグ。

 焦ってるのか、他の若手悪魔よりも強くなるためか、それとも別の目的があるのやら。

 内情に関しては、詳しく調べてないのが今になって仇になったか。 

 

「サイラオーグ。君のその勇気は認めよう。しかし、無謀だ。なにより、君達ほどの有望な若手を失うのは冥界にとって大きな損失となるだろう。理解してほしい。君達は我々にとって宝なのだ。だからこそ、じっくりと段階を踏んで成長してほしいと思っている」

 まだ、何か言いたそうな顔をしているが、渋々ながら納得した様子で分かりましたと言って、サイラオーグは静かになった。

 

 

 サーゼクスが進行役を務め、若手悪魔たちで行われるレーティングゲームのトーナメントをするらしく。その説明だ。

 理由は、若手悪魔の実力を互いに知ること、それぞれの実力を冥界に認知してもらうことらしいけど、若手悪魔たちには話していない理由はいくつかある。

 一つが、他の神話勢力に対するアピール。俺たちの若者たちはこれだけの強さを持ってるぞって大会というステージで知らしめるためのもの。

 三大勢力はいままで、悪魔、天使、堕天使の三つでもめていたのが、いまは外にも目を向けなくてはいけなくなった。それに『禍の団』のこともある。

「さて、長話に付き合わせてしまって申し訳なかった。なに、それだけ君達に夢を見ているのだよ。最後に君たちの目標を聞かせてくれないだろうか?」

 サーゼクスの問に若手悪魔たちは一人ずつ答えていく。

 

「俺は魔王になることが夢です」

 サイラオーグは腕を組み、どっしりと構えたまま躊躇うことなく言いきった。

「大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」

 また、老人が口を挟んでくる。

 チラ、と喋った、老人に目を向けると、不自然にそっぽを向く。

 そんなに、人間風情と言っていた、俺が怖いのか、腰抜けが。

「俺が魔王になるに相応しいと冥界の民が感じれば、そうなるでしょう」

 老人の嫌味に当たり前だ、と言わんばかりに答える、サイラオーグ。

 肝が据わってるというか、大体というか、随分と図太い精神の持ち主だな。

「私はグレモリーの次期当主として生き、レーティングゲームの覇者となる。それが現在の、近い未来の目標ですわ」

 次に答えたのが、リアス。

 これに関しては、想定の範囲内だな。

 レーティングゲームという悪魔の間の戦いのお遊戯。

 少し前にあった、ライザー・フェニックスとの戦いがどうも、彼女の中では随分と苦い思い出らしい。

 次に順番が回って来たのは、ソーナ。

 

「私の目標は冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

「レーティングゲームを学ぶ学校ならば、すでにあるはずだが?」

 また余分な口を出してきた、老人。

 てか、レーティングゲームを教える学校なんて必要なのか、親とか兄弟でも歳が数十歳離れてるんだから教えてやればいいのに。

「それは上級悪魔や特例の悪魔のための学校です。私が建てたいのは平民、下級悪魔、転生悪魔、全ての悪魔が平等に学ぶことのできる学校です」

 ……悪魔ってやっぱり良く分からんな、一部の悪魔にしか教えないなら学校の意味ないじゃん。それなら、部活みたいなものでも作るくらいで十分じゃん、わざわざ、学校を作るなら全部の悪魔に教えた方が効率的だし、将来的に悪魔の発展に繋がるのに。

 

「「「ハハハハハハハハハハッ!!」」」

 大口を開けて大笑いする、老人共。

「なるほど! 夢見る乙女と言うわけですな! これは傑作だ!」

「若いというのは実に良い! しかし、シトリー家の次期当主よ、ここがデビュー前の顔合わせの場で良かったというものだ」

 現在の冥界は変革の真っ最中。

 人間が奴隷制度を廃止したように、貴族という身分が消えたように。その最中、比較的若い悪魔に取って上級、下級という区別、差別は薄くても、相手は老人。頭は凝り固まった面倒な連中だ。ソーナも適当に流せばいいものを。

「ソーナ・シトリー殿。そのような施設を作っては伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰すことになりますぞ?いくら悪魔の世界が変革期に入っているとは言え、たかだか下級悪魔に教えるなどと……」

 その考えが今の悪魔の現状を生み出したっていうのに、理解してんのかね。いつまでも自分たちが偉いとでも思ってんか。

 

「くだらねぇ」

「なに?何か言ったかね、人間」

「くだらねぇって言ったんだよ。老害共」

 俺が面と向かって老害と口にすると、老人たちは顔を真っ赤にして机を叩きながら文句を言ってくる。

「たかが人間風情が!」

「我ら悪魔と同じテーブルに着くだけでも汚らわしいというのに!もう我慢ならん、これでもくらうがいい!」

 手の平に魔力の弾を生み出し、俺に向かって撃ちだそうとして老人の動きは止まった。

 固まったまま動かない老人の背後には、セレナが立ち、片手には光剣が握られている。

「涼さんへの愚弄は許しません」

 セレナが老人の肩に手を置くと、ズルリと老人の頭部は首から滑り落ち、机の上を転がる。

 

「な、なんということを!」

「貴様ら正気か!」

 文句を言って、俺に魔力の弾を撃ってくるけど、そもそも、俺にそんな攻撃は効かないし。俺に当たる前に、灯巳の作った結界によって防がれる。

 俺は椅子に座ったまま、欠伸をしている。

「絵にかいたような老害だな。老兵は自らその席を若者に譲るが、老害がいつまでもしがみつく」

 ガタと、椅子から立ち上がり、灯巳に結界を解除するように指示を出す。

 

「サーゼクス、これが現実だ。お前らは進歩なんてしてないんだよ。さて、丁度良いから、宣言させてもうよ。俺と俺の組織『獣群師団』は現時刻を持って、三大勢力に宣戦布告する!」

 

「「「っな」」」

 俺の大声は会場全体に響き。戦争することなんて想定してすらいなかった、悪魔たちは驚愕の顔を浮かべる。

 

「どういうことだい、涼くん。なぜ宣戦布告なんて」

「冥界を見ている間に、俺の部下に冥界を調べさせたんだ。和平会議からお前らが良くなったかどうかをな。まあ、一切期待してなかったけど、見事に何もしてなかったな。人間やら他種族を商品にしたオークションに、奴隷にとまさにこの世のゴミを集めたみたいだったよ。そうだな、滅ぶと考えるのが嫌ならこう考えればいい、ツケを払うと」

「ツケ?一体何のツケだい」

「今まで無関係な人間を殺し、弄んできたツケだ。気にするな、俺の部下たちは喜んで三大勢力を滅ぼすことに手を貸してくれる。セレナ、灯巳行くぞ、もう此処に用は無い」

「はい」

「は~い!」

 二人連れて会場を出ようとすると予想していた通り会場を警備していた悪魔たちが、俺を取り囲み。正面には、一誠が立つ。

 

「どういうことだよ、涼!なんで宣戦布告なんて!」

「一誠、お前は考えたことがあるか、悪魔に無理やり転生悪魔にされた奴の気持ちが、家族を目の前で笑いながら悪魔に殺された気持ちが。もう、人間が悪魔を許容するのは無理なんだよ。手を取り合って行こうだ?そんなの出来るわけないだろ。お前は自分の家族が悪魔に殺されても仕方なかったで済ませられるのか、松田や元浜が殺されても許せるのか」

「そ、それは……」

「それは許容できるって言うなら掛かってくると良い。出来ないって言うのなら邪魔するな。俺は、お前らにツケを払わせるだけだ」

 何も言わず、何も出来ず、俯いたままの、一誠の隣を素通りして、俺は会場を出て行った。

 こうして、若手悪魔の会合を切っ掛けに始まった世界を巻き込む戦争が始まった。




というわけで本格的に戦争が始まります。
一応は、悪魔も全滅させるわけではなく、一部(ソーナやらサイラオーグやら)を残す予定です。比較手にまともな人物だけを。

それと原作知ってる人でいいので
ヴァレリー・ツェペシュについて教えてください。一応、吸血鬼について書こうとも思ったのですが、小説もってないので


因みに戦闘服は「ブレイクブレイド」の軍服をイメージしてます。


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戦争の準備

 涼たちが冥界で若手悪魔の会合に参加している間に、涼率いる『獣群師団』は密かに動いていた。

 涼の命令で単独で同盟を結ぶために北欧の地まで足を運んだ執事服の純潔悪魔―――グリューヌ・グラシャラボラス。暗殺されたと、言われているグラシャラボラス家の次期当主候補だった男だ。

 

「まさか外交に純血悪魔が来るとは思ってなかったのう」

 ソファに深く腰を掛けて隻眼の老人という外見からはイメージ出来ない北欧神話の頂点―――オーディンと傍に護衛として仕えるワルキューレの一人―――ロスヴァイセ。

「我が主である涼様の支配する国を見て、悪魔がどれだけ腐っているかを知りました。丁度『禍の団』に暗殺され死にかけたことを利用、死亡したことにして、現在は、涼様の守護者を務めております」

「ほほほ、若い悪魔の中にも現実を見る悪魔が居たか」

 オーディンから見ても、いや、世界の神話勢力から見ても三大勢力がどれだけクズと見られているかが、その一言で理解できてしまう。

 

「それで、涼様との同盟の件ですが」

「そうだのう、お主の主の力量が見ぬうちは分からぬからのう。早計には決められぬ」

 要は、グリューヌの主である、異世界の神殺し神無月涼に合わせろと言っているのだ。

「はい、涼様より、もし会いたい、という話になった場合、日本での話し合いの場を設けると、仰せつかっております。勿論、日本神話より日本への立ち入りも受諾済みですので問題ありません」

「手が早いの、いや、元から日本神話とは同盟関係だったか」

「正確には、協力体勢だったのが、涼様が表に出るようになってから正式に同盟関係となりました。なにより、日本の巫女の一人が涼様の伴侶ですので」

「伴侶とな!お主の主も若いのにやるのう、ところで、お主、嫁はおらんのか?」

「はい、何分悪魔は結婚は遅く、私も次期当主となる予定だった身。容易に婚約者を決めるわけにもいかず」

「なんなら、このロスヴァイセなんてどうじゃ?少し面倒な性格だな、料理も旨いし、事務仕事も出来るぞ」

「ちょ!?何しれっと人の人のことを嫁がせようとしてんるですか、オーディン様!」

同盟の話からいきなり、自分の婚約の話になったことで慌てて話に参加する、ロスヴァイセ。

「なんじゃ、お主の好みに合う男じゃろ、身分、立場、そして時代を背負う人間の王の側近、収入は安定しておる。一体どこに文句があると言うのじゃ?」

 オーディンとロスヴァイセの軽い口喧嘩を聞きながら、出されて紅茶を味わうグリューヌも中々、肝が据わっている。

 

 

@ @ @

 

 

 俺は護衛を付けず裏京都を訪れていた。

 いつもなら誰かを護衛に着ける所なんだけど、セレナたちは今度行く海水浴や夏祭りに必要な水着や浴衣を買いに出かけているので、陣中見舞いをかねて、三大勢力に対しての宣戦布告の件を話にやって来ている。

 

「あっつ」

 新幹線から降りると冷房の効いた車内から一気に蒸し暑い空気が押し寄せてくる。改札を抜け、京都駅の外に出るとそれほど混んでは居ないけど夏休みだ。観光客も少なからず居る。

 

「待っておったのじゃ、涼」

 京都駅で案内人として裏京都が寄こしたのは九重だったみたいだ。

 金髪にいつもの巫女服は流石に目立つ。

「久しぶり、九重」

 頭に手を置いて、わしゃわしゃと撫でると気持ちよさそうに目を細める。

「お駄賃に冷たいものでも奢ってやるから、道案内は頼むよ」

「任せるのじゃ!」

 流石にこのクソ暑い中で待っていたんだそれぐらいのご褒美があってもいいだろう。

 俺の手を握り、早くいくぞ!と急かす姿は可愛らしい。

 

 表京都にも裏京都の住人である八坂の顔を利く老舗がいくつかありらしく、九重が食べたいと選んだのはかき氷。

「いらっしゃい、あら九重ちゃん!」

「おばあちゃん!来たのじゃ!」

 結構なお年寄りのおばあちゃん店員だ。

「お兄ちゃんとは初めましてだね」

「どうも、二人なんですけど、席空いてますか?」

「空いてるよ」

 スタスタ、と慣れた様子でお店の奥に歩いていく九重についていくと座敷の個室に案内された。どうも特等席みたいなものらしい。

「好きなの頼めよ、九重」

「なんでもいいのじゃな?」

「いいぞ、お金は俺が出してやるからな」

 メニューを開き、書かれている商品と写真を見ながら睨めっこしている。

「俺は宇治金時のかき氷かな」

「……九重はイチゴのかき氷がいいのじゃ」

「おばあちゃん、宇治金時のかき氷とイチゴのかき氷をお願い」

「あいよ、ちょっと待っとりなさい」

 おばあちゃんに注文して、五分もすると器に山になった氷にたっぷり抹茶とイチゴの実を使ったソースのかかったかき氷が運ばれてきた。

「写真より大きく感じるな」

 スプーンで氷の山を崩さないように掬い上げ、一口。抹茶の苦みと風味に舌の上ですぐに溶けてなくなる氷を味わう。流石はお一つ850円もするだけはある、贅沢してでも食べたくなる味だ。

 横を見るとん~♪と美味しそうにイチゴのかき氷を頬張る九重。

 

「涼は抹茶が食べられるとは大人じゃの」

「九重は食べられないのか?」

「抹茶は苦いから苦手じゃ、イチゴはいいぞ甘酸っぱいてな、ほれ、あーん!」

 イチゴのソースがたっぷりとついた部分を掬い上げると、俺に向かってスプーンを差し出してくる。九重はニヤリ、と笑い俺が照れるとでも思っているのだろうが、残念ながらこの程度では照れない。セレナたちと一緒に暮らしているんだあ~ん程度毎日起こる。

 躊躇なく俺が食べると、なっ!と驚きいたと思えばじーっ、と使ったスプーンを見つめたと思えば、パクとかき氷も掬っていないのに口に含んだ。

 ……九重が前の灯巳と同じことをしてる。

 見なかったことにしよう、そうしよう。

 現実から目を背けて、目の前の宇治金時のかき氷に現実逃避することにした。

「旨い」

 

 

 

 かき氷を食べ終え、本来の目的の裏京都の統領八坂の元を訪れていた。

 

 和室で八坂の一対一でも対話。

 九重も参加したかったようだけど、大事な話と言われてしょんぼりしながら自室の戻って行った。

「久しいな、涼殿」

「久しぶり、悪いねあんまり顔を出してやれなくて、それに宣戦布告の件も迷惑かけたな」

「いいや、灯巳から若手悪魔の会合で、もしかしたら主がキレるかもしれない、と定期報告が入ってましたから」

 灯巳の奴、そんな事を報告してたのか。

 事実、キレたんだけどな。俺にも我慢の限界というものがあるんだ、仕方ない。

「八坂はそれについてどう思ってる?」

「個人としては、賛成だ。流石にこれ以上妖怪たちにも被害が及ぶのは困る」

 やっぱり、人間だけじゃなくて、妖怪の方にも被害が出てたか。

「まあ、もう宣戦布告しちゃったからなどうしようもないけどな」

 はは、と笑って誤魔化しておく。

「確かに、それに貴方なら何とかしてくれそうに思える」

 随分と信頼されているみたいだな。

 確かに、そうでなきゃ、俺の案内を娘の九重にやらせるわけないか。

 

「八坂たち妖怪は陰陽師たちと協力は出来るのか?」

「その辺りは天照様からお達しがあった、京都を、人間界を守る為に協力せよ、とな。それに妖怪と陰陽師が争っていたのは昔の話、いまでは陰陽師たちは妖怪を退治する気概など薄れている。妖怪でも陰陽師と戦った経験があるのは大妖怪の一部だけだ問題ない」

「ならいいか。京都には、灯巳のお姉さんがいるから」

 灯巳のお姉さんの名前は倉橋恵巳(えみ)。灯巳は随分と苦手意識を持っているらしくあまり話したがらないから詳しく知らないけど、天才だと聞いている。

「……あの子、ね」

「どんな人なのか知ってるのか?」

「天才と呼ばれるけど、正確には異常に効率が良いだけ。普通の人が一の行動で一の経験を得るのなら、あの子は一の行動で十の経験を得る為に自分の得意な分野に置き換えて理解する、けれど、普通の人には努力が見えないから天才と言われてしまう」

 努力が結果を隠してるってわけか、それはなんとも言葉にしずらいな。

 努力が結果を出すから、出してしまうから誰にも、努力を褒められない。褒められるのは結果だけ。

 灯巳は、そんな姉と比べられるのを嫌って実家に寄り付かないのか。

「一度、話してみるかな」

「なら、屋敷に呼んでおくとしよう。顔合わせくらいはした方がいいだろうからな」

「すまないが頼むよ」

 八坂に灯巳の姉、恵巳と会う算段をつけてもらうことになった。

 

 

 夕食は予想通り和食だったけど、見事に大騒ぎ。

 酒が入った妖怪たちはどんちゃん騒ぎ。加えて、八坂が迫ってくるからたまったもんじゃない。他の妖怪たちも止めるどころか、押し倒せ!と煽る始末だ。

「くそ、アイツら頭おかしいだろ!」

 這いずるように酔っぱらった八坂たちから逃げ出し、縁側に座っていると庭にある影から人が出てきた。最初は妖怪かと持ったけど、違う、なにせ灯巳と同じように巫女服を着ているからだ。

 

「初めまして涼くん、あたしは恵巳。灯巳ちゃんのお姉ちゃんだよ」

 姿が月明かりで照らされて姿は灯巳を少し大人っぽくして、何処か子供っぽい笑顔に潜む冷徹さを足し、首と手首に数珠で出来たネックレスとブレスレットを身に着け、袖を切りノースリーブにした巫女服に黒塗りの下駄を履いて、下駄を除けば見れば動きやすそうに見える、けれど、それよりも感じるのは、灯巳と段違いの殺気の濃度。

 濃い、決して、灯巳のから殺気を感じたことが無いわけでもないし、薄いわけでもない、けれど、灯巳の陰陽術は結界を得意とする防御よりの術を得意とすることもあって敵を攻撃することも少ない必然殺気も少ない。寧ろ、殺気を読む方が、灯巳の仕事だ。

 恵巳の殺気は攻撃する、今から倒す、殺すというのが丸わかりの殺気だ。

分かりやすく言う、恵巳は俺を敵として認識して、相手している。

 

「えっと、どうも、神無月涼だ」

「うんうん、灯巳ちゃんの夫がハーレム野郎だって、聞いてたけど顔合わせはオーケーって感じかな。隣、失礼するね」

 流れるような足運びで近づき、隣に腰を下ろす、恵巳。

「灯巳ちゃんの事を聞きたくてね……あの子、元気にしてる?」

少しずつ収まっていく殺気。

 

「元気だな」

「そう、元気なのね、あの子実家だと、あたしのせいで扱いが雑いから」

「みたいだな、今日も一緒に行くかって聞いたら、行かないって言われたし。そもそも京都にすら来たがらない。」

「でしょうね。あの子はあたしが苦手で、あたしはあの子だ大事だから分かっているから近づかない。余計に傷つけるだけだから」

 自分を苦手としている妹が大事で傷ついてほしくないから近づかない姉と、比べられるのが辛くて、誰からも認めてもらえないのが辛くて、一緒に居ることが苦痛に感じてしまうから、姉が悪くないと分かっていても一緒に居られない妹。

 ほんと、不器用な姉妹だ。というか環境が悪いのか。

「ねえ、灯巳ちゃんを抱いた?」

「…抱いた」

「抱いちゃったんだ…まあ、それはいいのよ。それよりも、これから戦争するんでしょ。あの子を傷つけたら、あたしが貴方を殺すからね」

 まるで遊びに誘うように、さらりと殺す宣言をしてきた。

 殺されるなんて思って思わないけど、なんだから命でじゃなくて、魂とか精神的な何かを奪われそう感じがする、不気味な怖さがあるな。

「傷つけるつもりもないし、傷つけさせるともりもない!それで結婚式とかさ招待したら出てくれるの?」

「出るに決まってるじゃない!あの子の、ウエディングドレス見たいもの!きっと綺麗なんでしょうね。あと、灯巳ちゃんが産む子供の名前も考えなくちゃ!あ~、早く実家というか、口先だけのジジイとババア死なないかな~」

 おい!いま凄い、怖い事言ったぞ!

 え、と俺が顔を向けると、恵巳は当たり前じゃないという顔をしている。

「あたしにとってはクズの親戚や自分の子を愚図呼ばわりする両親なんてゴミも同然なのよ。殺すと面倒から生かしておいてあげてるだけ、いや、戦争になれば上手く始末できるか?ありだな、ゴタゴタが起これば上手く暗殺とか出切るか?」

 …灯巳、お前の姉は悪魔より恐ろしいかもしれない…。

……そして、俺はこの人がどうも苦手なようだ。面倒とか、怖いとかじゃない。ただただ苦手だ。



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水着購入

 涼が京都に出張している間、セレナ、灯巳、黒歌、イリナ、ゼノヴィア女子陣は涼との夏休みを過ごすために必要な物を買う為に近所の大型複合ショッピングモールに訪れていた。

「おぉぉ!凄いな!これがショッピングモールというものか!」

 エントランスから見える吹き抜けるような高い天井を見上げながら、五人の中で一番テンションが上がっているゼノヴィア。

「ゼノヴィアは来たこと無いんですか?」

「私たちは悪魔祓いだったから、基本は教会の中だし。俗世に染まらないようにって自由行動なんてほとんどなかったもの」

「…悪魔祓いって結構面倒臭いんだね」

「灯巳、容赦ないにゃ」

 アハハ、と苦笑いする、黒歌。

 いつもの学生服や部屋着とは違う、おしゃれした私服を着て店内を進む。

 五人に注がれている視線に気づかずに、いや、気づいても気にしない。五人は既に一人の男を愛しているから。

「それで最初は何を見に行く?」

「最初は水着です。涼さんから海水浴に行くのに必要な水着を買っておくようにと言われてます。お店があるなら浴衣も買っておくようにと。どうも、涼さんは宣戦布告しておきながら夏休みをリア充バリに満喫するつもりのようです」

数日前に行われた、涼の三大勢力への宣戦布告。そんなことをしておきながら、夏休みを満喫する気満々である。

 

「水着か、着たことないな」

「私はそもそも海水浴なんて理由で外出できないしね」

「私も無いかな。海は悪霊とかを祓いに行った程度」

ゼノヴィアもイリナは悪魔祓い故に海水浴どころか、年頃の女の子が行くようなお店になど行けるわけもなく、灯巳も、京都の陰陽師の家。遊んでいる暇があるなら術の鍛練をしろ、と言われる始末。

「私と黒歌は行ったことありますよね、はぐれ悪魔狩りついでに少しだけですが遊んだことがありましたが、流石に泳ぐまでは出来ませんでした」

結局、五人居て誰一人としてまともな海水浴をしたことがない。

 

そもそも日常とかけ離れた生活をしている五人だ、普通の女の子が思い出に残せるようなことをやろうにもそれなりの準備と時間が必要になる。

 

「さて、お喋りもこの辺で各自自分の水着を見つけてきてください!」

セレナの宣言によってバラバラに店内の散策を始めた。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 元悪魔祓いタッグのイリナとゼノヴィアは二人で並べられた水着を物色していく。

 

「ん~、涼くんはやっぱり露出の度の高い水着がいいのかな?」

「なら、これか?」

 ゼノヴィアが陳列されて中から手に取ったのは、イリナの言った通りの露出の多い水着の中でも上位にに位置する露出度の高い水着“マイクロビキニ”。

「な、なにそれ、もう布ないじゃん、紐じゃん!」

「これなら、涼も見てくれるだろう」

「駄目でしょ!涼くんには見てもらえるだろうけど、それはちょっと着れないよ。もっと普通のでいいのよ」

 マイクロビキニを元あった場所に戻すと新しい水着を探し始めた。ゼノヴィアのおバカさに呆れながら、自分がまともな水着を彼女に選ぶことを決意した、イリナであった。

 

「大丈夫かしら、ゼノヴィア。少し脳筋なところがあるから」

 別の水着を求めて店内を歩いて行った、ゼノヴィアのことを不安に思いながら、自分が使う水着を探していくが、見た目が気に入っても、気に入った色じゃなかったり、またその逆だったりしてなかなか好みの水着が見つからない。

 

「これ、かな」

 イリナが手に取ったのは黄色を基調にしたビキニだった。

 一般的なビキニと同じくらいの露出で、ハイビスカス模様がデザインされ可愛らしい。

「これ、これにしよっと。試着しなくちゃ」

 水着を持って試着室に行くと、勢いよく開いた試着室のカーテン。中に立っていたのは、ゼノヴィアそれもマイクロビキニを試着した姿でだ。

「……それ着たの」

「うむ、これは流石に心許ないな」

「それは外で着れないでしょ」

「そうみたいだな、涼とする時に取っておこう。海水浴にはこっちを着ていくつもりだ」

 ゼノヴィアの片手に握られている青を基調とした無柄のビキニを、イリナに見せつけるように前に出す。

 マイクロビキニを海水浴に持っていくと言わなくて良かった、と思いながら、イリナも試着室に入って行った。

 

 服を脱ぎ、下着を外すと脇腹や胸にある、涼が京都に出かける前日に交わった時に、俺の物だと言わんばかりに着けていったキスマークを指でなぞる。

 服を着れば見えない場所に気を使って付けてたが、鏡に映る自分の体あるキスマークを見る度に、自分がどれだけ愛されているかを実感し、自然と顔がにやけてしまう。

「涼くん、大丈夫かな」

 護衛もつけずに京都へ向かった、涼の事を密かに思う。

 もしかしたら、危険な目に合ってないか、今頃、禍の団に襲われて一人で戦っているんじゃないか。自分がいまだ勝てない、セレナが足元にも及ばない、涼の心配をするのはどうかと思うけれど、心配しない、というのは別の話だ。

 誰だって、愛する人が怪我をするのは、許せない。目に見えず、触れられない、“愛”というものは、そういうものだ、と教会の“悪魔祓い”からただの“女”になってから初めて知った。

 

「帰ってきたら、まだ抱いてもらわなきゃ!」

 試着室の中で一人ガッツポーズを取る、イリナ。

「イリナ?水着は試着できたのか?」

「ッ!、ゼノヴィア!御免、もうちょっと」

 突然、カーテン越しに聞こえてくるゼノヴィアの声、ビクッ!と肩を震わせて、反射的に胸を両手で隠す。急いで足元に置いてかった黄色の水着を手に取り、身に着ける。

「もう開けてもいいよ、ゼノヴィア」

 開いたカーテンの先に立っている、ゼノヴィアがイリナの水着姿を見て、似合うな、とありきたりな言葉を口にする。

「うん!ありがと。それじゃこれを買うよ!ゼノヴィア一緒に水着見せて、涼君に褒めてもらおうね!」

 試着室から飛び出し、ゼノヴィアに抱き着きながら此処には居ない仕える主であり愛する人が褒めてくれるのを願うイリナだった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 セレナ、灯巳、黒歌は三人で水着を見て周っていた。

 

「んにゃ~、尻尾を出す穴が空いてる水着はないにゃ」

「あるわけないよ!てか、海水浴場で耳と尻尾なんて出さないでよ!」

「大丈夫ですよ、黒歌もそれくらいの常識は持ってますよ」

 ビキニの下の水着のお尻部分を眺めて、穴が無いと言う黒歌に、ツッコミを入れる灯巳とそれを宥めるセレナ。三人で長い間、共に時間を過ごしてきたからこそ、誰が何を言いたのか、何をしたいのか理解できる。

「でも涼は尻尾好きにゃよ」

「知ってるよ!行為する時だっていつも出しっぱなしだし、偶に尻尾をシゴいたりしてんじゃん」

「あれをすると涼は可愛く鳴くから好きにゃ。灯巳だって脇とかする癖に」

「んな!なんで知ってるのよ!」

「二人とも流石にその会話を外でするのは、ちょっとどうかと思いますよ……」

 誰が聞いているか分からないお店の中でするには、卑猥な話をする二人を叱りつけるセレナ。

 二人はごめん、と言いながらも反省している様子はない。

「やっぱろビキニでしょうか。でも、私は義手も問題もありますし…」

「セレナの義手って海水、大丈夫なの?」

 いまも店内のライトに照らされて鈍い銀色を反射しているセレナのクラウ・ソラス製の義手。いままでも雨を浴びたり、敵の魔法によって生み出された水の攻撃を受けたりしてきたことはあるが、普通の水と海水は全くの別物だ。

「いえ、海水に行くときは防海水性の専用義手に付け替えていきますので、でも見た目や色がどうしても肌色にはできません。別に、涼さんに見られるのは気にしません。もう裸も見られていますから。けれど私が原因で、涼さんが変な目で見られるのはちょっと……」

「大丈夫でしょ、主ならその程度のこと気にしないよ。それよりも私たちが気にするべきは着ていく水着と海でナンパされた時の対処法だよ!」

「ナンパなんて金的でもすれば良いにゃ、でも私は水着のサイズがあまりないにゃ」

 サイズ…という言葉にセレナと灯巳は自分の胸に視線を向ける。

 セレナは大きいとは言わないが、年頃にはそれなりにある方だ。

 灯巳に関しては遺伝も関係しているのか服の上から触っても少し膨らみがあると分かる程度しかない。対して、黒歌の胸は着崩さない着物が着れないほど大きく、歩く度にたぷん!と効果音が聞こえるほどに揺れ、すれ違う男たちの目は胸に吸い寄せられる。

「……牛乳め、もげろ!」

 灯巳は恨めしそうに、黒歌の胸を睨みながら、水着を選ぶ。

「セレナと灯巳も、涼に揉んでもらったり、吸ってもらったりしたら大きくなるかもしれにゃよ」

 フフフ♪、とニヤニヤしながら黒歌が言うと、セレナはそんな方法が!と真に受け。灯巳はそれで大きくなったら苦労しない!と叫ぶ。

 

「そういえば黒歌は妹はどうするの?」

 灯巳はっふ、と思い出した黒歌の妹である小猫の事を聞いた。

 数日前に涼がした宣戦布告。リアス・グレモリーの眷属として悪魔として生活している彼女にもいずれ危険が及ぶだろう。むしろ、姉が敵対組織にいるというだけで裏切り者扱いされかねない。

「それに関しては、説得してこっち陣営に来たもらうしかないにゃ」 

 苦い顔をしながら答える黒歌。直接説得しに行くにも、いま冥界に足を踏み入れるのは自殺行為、何より変に行けば涼にも迷惑をかけてしまう。

「心配ないかと思いますよ。そんなすぐに武力を使った戦争をするわけでもなく、経済や食料など直接命を奪わず相手を屈服させる方法なんていくらでもあります。何より涼さんが小猫さんの事を放置するとは考えにくいです」

「確かに」

 貪欲さ、という意味では涼は随一だ。

 欲しいものは欲しいだけ、邪魔をするなら神でも殺す。それは涼のスタンスだ。その結果三大勢力との戦争なわけだが。

「心配なら一回しっかりと話しておくべきかと。冥界に潜入出来る人物は何人かいますので」

「ん~、そうするにゃ!あ!この水着良い感じにゃ!」

 手に取ったのは紫色のビキニタイプの水着。それも他のタイプに比べて布の面背が少なく、黒歌の胸を覆い隠すことが出来るとは思えない。

 セレナと灯巳は絶対にサイズが…と思うも、黒歌は気に入ったらしく早々に試着室に入って行ってしまった。

「私たちも決めましょうか」

「そうだね」

 二人もイリナとゼノヴィアを待たせては悪いと急ぎ試着する水着を探していく。

「これが良いかな」

 灯巳が手に取ったのは胸元にワンポイントの大きなリボンが付いたビキニタイプの水着。

「セレナには、コレが似合うんじゃない?」

 灯巳が試着室に向かおうとした瞬間、視界の端で捉えた白色のビキニタイプの水着。胸はシンプルなだが、下の水着にはスカートのように短いフリルが付いている。派手な物を好まないセレナにはこの位が似合うと直感した灯巳は、セレナの返事も聞かずに押し付けた。

「えあ、ありがとうございます」

「ほら、試着室行くよ。絶対似合うから大丈夫!」

 戸惑うセレナの背を押しながら一つしか相手いない試着室に二人で入る灯巳とセレナ。

「え!?一緒の試着室に入るんですか!?」

「いいでしょ、裸なんていつも見てるんだし。そもそも試着室他に空いてないし!レッツゴー!」

 たかが水着を買うだけ、されど水着を買うだけ。

 二人が入った試着室の中からは度々、セレナの叫び声と嬌声が聞こえてきた。

 着替えるセレナを弄り、水着姿のセレナを弄り倒した灯巳は良い笑顔で試着室から出てくると中には、顔を真っ赤にしたセレナがとぼとぼ、と出てきた。

 

 無事五人の涼を悩殺する水着購入を終わり。

 来るべき海水浴に向けての準備は整った。

 

 



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海水浴

 夏休みと言えば、海やキャンプ、夏祭りに出かけるのが定番、というわけでやってきた海水浴。

 と、言っても流石に夏休みに海に行こうものならアホみたいな人混みで泳ぐことなんてほぼ不可能ということで『月の都』の端っこにある海に来る。此処なら他人が入ってくることもなく、自由に泳げるし誰かが荷物を見ておく必要もない。

 そもそも、俺たちが居る海水浴場は、基本『月の都』に住んでいる人も利用できない場所だ。開発した武器の試験運用、技のテストなど行う軍用関係の浜辺だ。勿論、住人が夏を満喫できるようにそれようの海水浴場も作られ、そっちには海の家も出ている。

 砂浜にビニールシートを敷いてパラソルを立てる、見るからに定番の光景。

 ビニールシートの上に腰を下ろし持ってきたクーラーボックスから冷えたお茶のペットボトルを取り出し喉を潤わせ、水着に着替えに行ったセレナたちを待つ。

 都会の海に比べれば田舎の海は比較的空いている。

 それでも

「お待たせしました、涼さん!」

「主!どう私の水着!」

「涼どうかにゃ?」

「似合ってるかな、涼くん!」

「涼、どうだろうか?」

 水着姿になったセレナ、灯巳、黒歌、イリナ、ゼノヴィアが水着に着替えて戻ってきたようだ。

 白色にビキニの水着に下の方にはスカートのように短いフリルがあしらわれた水着を着たセレナ。

 胸元に大きなリボンが飾られた赤色のビキニ水着を着た灯巳。

 大きな胸が零れてしまいそうなほど面積の小さい紫色の水着を着た黒歌。

 黄色の生地に白色のハイビスカス模様がランダムで配置されたビキニを着たイリナ。

 バンドゥビキニという谷間の部分だけが一部だけが空きシンプルながらもセクシーさがある青色の水着を着たゼノヴィア。

 五人それぞれがチョイスしてきた水着を俺に見せる為に横一列に並んだ。

 美少女が五人も揃えば勿論、周りの男たちの視線も集める。中には彼女と一緒に来たんだろう、隣の女の子に頬を引っ張られている男もいる。

 

「皆、似合うな!俺はいま世界中の男の中で一番の贅沢を味わっている気がする!」

 現に周りの男から女の子を五人も侍らせていることで嫉妬の視線を四方八方から受けているけど、そんなことも気にならないほど目の前の光景に釘付けになっている。

 

「にして、熱いですね」

 青空に輝く太陽を見上げなら首筋を流れる汗を拭うセレナ。

「『月の都』の天気情報は基本は日本に設定してあるからな、日本が夏ならこっちも夏になる。俺の権能だから好き勝手に弄れはするけど毎回調節するのは面倒だから設定しっぱなしのままだ。だから人間界で雨が降ればこっちも雨が降る」

「へぇ~、結構便利な権能だね」

 イリナの言う通り便利な権能だ。現に場所によって世界各地の温度・湿度・天候を再現することで世界中の植物を育て、陸と海では養殖が行われている。つまり、しようと思えば年中海水浴を楽しむことも出来るということだ。と、言っても一年に何回も海で泳ぎたくなるわけじゃないけど。

「というわけで、行くよセレナ!泳ぐぞ~!」

「えっ!ちょっと!」

 灯巳はセレナの手を取ると全力ダッシュで海へと走り出していった。

「ゼノヴィア、私たちも泳ご!」

「そうだな、人生初の海水浴を満喫するとしよう」

 イリナとゼノヴィアも仲良く海に向かって行った。

「涼は泳がないのかにゃ?」

「少しゆっくりしたらな泳ぐさ」

 ビニールシートで横になり、はぁ~、と息を吐き出し。今日の今朝方新幹線で帰ってきたそのまま海に来たのはいいけど、流石に疲れた。

 目を瞑りゆっくりしているとしゅるり、という布が擦れる音を勝手に耳が拾う。

「涼、サンオイル塗って欲しいにゃ」

 黒歌の声に反応して目を開くと胸をさらけ出した黒歌が横で膝をつき座っている。体を動かす度にたわわに実った胸が揺れる。

「念のために聞くけど何処に?」

 体を起こしながら聞くと。

 全身!と言いながら、ビニールシートに横になる黒歌。シミ一つ、傷一つない綺麗な背中。好奇心で指先でスゥー、と背中をなぞると、ビクッ!と震える。

「涼!くすぐったいにゃ」

「背中がエロいから仕方ない、しかも上から見ると胸が潰れて横からはみ出してるし」

 黒歌の大きな胸が自重で潰れて、脇の辺りからはみ出して見えているのが絶妙にエロい。

 サンオイルを手に出し。両手で擦って温める、ほんのり温かくなってくらいで黒歌の背中に両手についたサンオイルを塗り込んでいく。綺麗な背中は撫でるように滑り、上から徐々にお尻に向かって下りていく。

「んぅ…くぅ…ぁ」

 背中を撫でる度に聞こえてくる甘い声。

 あの、黒歌さん、辞めてもらっていいですか。流石に俺も男なんでそんな声出されると…。

 背中、腰をサンオイルを塗り終わり、ついにお尻にたどり着いた。躊躇うこともなく水着の下に手を入れて揉む様にお尻にもしっかりサンオイルを塗り込んでいく。尻尾の周りもくすぐるように指先で塗り込みくすぐったいのかそれとも心地いいのか、サンオイルを塗っている手に尻尾が甘えるように絡みついてくる。

 柔らかいお尻を堪能してのちに、次は太ももにサンオイルを塗っていく。

「にゃふふ!くすぐったいにゃ……ねぇ、涼」

「ん?なんだ」

「白音の事にゃ」

「助けに行きたい?」

 数秒ほど黙った黒歌。

 小猫は黒歌にとって唯一の血の繋がった家族。元はと言えば彼女が追われる立場になったのは妹を救う為だ。

「助けには行きたいにゃ、でも、それが原因で涼たちに迷惑はかけたくもにゃい……」

「気にしなくてもその為の作戦は練ってある。今度、リアス・グレモリーとディオドラ・アスタロトのレーティングゲームがある。隠密部隊から情報だと旧魔王派もその時に仕掛けるらしい。後手に回るけど、俺たちも便乗して一度力を示すには丁度いい祭りごとだろ。その時に、小猫を説得してくるといい。出来るかどうかはお前次第だけどな」

 無理やり連れて帰ってくるっていう手段も取れなくもないけど、多分小猫の件は大丈夫だろう。月の都という種族共生という夢物語が実現した場所を見せてある。

 それに三大勢力に未来が無い事くらい多少学のある奴なら分かることだ。まあ、それを受け入れず。大丈夫だと思っている奴もきっと多いだろうけど。

 既に俺の率いる獣群師団と三大勢力の戦争は禍の団やいくつかの神話勢力を巻き込む様に大きな渦のように広がってきている。現に、日本神話とは同盟を。北欧神話とは今度話し合いの場が設けられる。

 それに対して、悪魔はレーティングゲームなんて戦争の遊戯に興じて戦争の準備はしていない。天使と堕天使も目立った動きはなし。確かに俺たちも表立って動いていない、けれど、戦争は=武力で決まるわけじゃない。他の組織・種族との協力、自組織の財力、自組織と相手組織の食料問題、土地や環境など多くの要素が戦争では絡み合う。

「分かったにゃ。絶対に連れてきた見せるにゃ」

 思わず体を起こし、俺の目を見つめる黒歌……上半身裸で。

「あー!!黒歌がおっぱいで主を誘惑してる!」

 タイミング悪く戻ってきた灯巳が上半身裸の黒歌を見て大騒ぎ。灯巳が急に戻ってきたことを疑問に思ったセレナも追って戻ってきてしまい。

 灯巳はと言えば、黒歌に対抗するべく上下とも水着を脱ぎだした。

「ちょっと、灯巳さん!誰かに見られたらどうするんですか!?」

 横でいきなり水着から全裸になった灯巳に驚きながら慌てて、鞄からタオルを引っ張り出すセレナ。

「だいじょーぶ!結界で浜辺を囲ったから外からは誰にも見えないし、声も漏れないもん!だから青姦もヤり放題!」

「何を言ってるんですか!はしたない!男女の営みというものは部屋でやるものです!ほら水着を。水着を着てください!」

 灯巳とセレナの大騒ぎを聞きつけて結局、イリナとゼノヴィアも戻ってきた。

「…イリナ、青姦とはなんだ?」

「え!え~と、それはね~、何かな~?私は分からないな~、あはは…」

 どうもイリナは意味を知っているらしいが、流石に説明をするのは憚られるようだ。

「黒歌、お前もさっさと水着を着ろ、灯巳もだ。全く、俺も泳ぎたいからな」

 五人を置いて海に走り出し水泳選手のように飛び込み、全身を包み込む海水のひんやりと冷たさが体の熱っぽさを打ち消す。

 海中での活動は人間の体じゃ限界がすぐにくる。息を止めたまま素早く体を『混沌獣』の力で作り替える。

 首に鰓を生み出し肺呼吸から海水から酸素を取り入れられる鰓呼吸に呼吸法を変え、水中を泳ぎやすいよう手足の指に間に水搔きが生み出される。

 人間にとって水中は不自由であっても『混沌獣』を使えば、どんな場所にも適応できる。

 海中の深い場所で上を見上げると太陽の日差しが海に降り注ぎ、キラキラと海中を乱反射して幻想的な景色を生み出す。

 のんびりとしていると、上からどぼん!と五人が海に飛び込んできた。

 海中を魚のように泳ぎ回り、首にある鰓を見たイリナはごぱ!と口から特大の泡を吐き出して狂いそうに海上に戻って行った。

 

「え、涼くん何その姿」

 俺の首に出来た鰓を指さして驚くイリナ。

 そういえば、こういう使い方は見せたことなかったっけ。

「便利なもんだろ、地球上の大抵の場所は適応できるんだ」

「偶にはいいですね、涼さん。私も久しぶりに人魚になりたいです」

 珍しくノリ気のセレナが自分の唇を差し出してくる

 俺は躊躇なく、セレナと唇を重ねる。

 俺とセレナの行動のイリナやゼノヴィアは?の浮かべながら見ていると数秒後にはその変化に気づいたらしい。

「…セレナの足が……」

 イリナとゼノヴィアの視線先にあったのは、本来二本あるはずの人間の脚ではなく。人間界では伝説として語られる魚の下半身、人魚の姿だ。

「鰓も作ったからちゃんと呼吸も出来るだろ」

 今したのは、一時的に『混沌獣』の合成効果を他人に付加するというものだ。時間にしても十分程度。戦闘にはあまり役立たないけど移動位には使える。付加するには、術を掛けるのと同じように口移しか、俺の血肉を対象が体内に取り込むの二通りしかない。

 

「権能ってほんとチートよね」

 呆れながらも海中を呼吸も気にせず一切の抵抗なく泳ぎ回るセレナの姿を食い入るように見るイリナ。

「主、私も人魚する!」

 そう言って、俺の唇を奪う灯巳。

 相変わらず強引なことだ。

 セレナと同じように『混沌獣』の付加を灯巳にする。

 数秒で灯巳も同じように人魚の姿に変わり、セレナと同じように海中を泳ぎに行った。

「それじゃ私もするにゃ」

 灯巳と同じく一切の躊躇いなく俺の唇を奪って行った黒歌。

「じゃあ、次は私の番だな」

 俺の頬に手を当てて、優しく唇を重ねるゼノヴィア。

 三人は付き合いが長い分、人前でキスをしても気にもしない。その辺りゼノヴィアも一緒らしい。

 唇を離す頃には、ゼノヴィアも人魚の姿に変わり。慣れないながらも上手く体を動かして泳いで行った。

 イリナには急にキスとというのは、難易度が高いらしいけど一人だけ置いていくわけにもいかない。

「ちょっと心のじゅん、んっ!」

 戸惑っているイリナの唇を奪い、『混沌獣』の付加を与える。

 最初は驚いていたけど受け入れた。

 少しして人魚の姿に変わったイリナ。

「凄い……絵本の中みたい!おわ!?」

「ほら、行くぞ。最初は難しいから慣れるまで手を引いてやる」

 自分が人魚になったことに驚いているイリナの手を引いて泳ぎだす。

「ほんとに泳いでるよ!涼くん!」

 リアクションが昔、セレナが最初に人魚になった時の同じだ。やっぱり女の子が人魚とか、お姫様とか憧れるもんなのかね~。

 慣れてきたのか徐々に泳ぐのが早くなってきたイリナ。手を離すとイリナはすいすいと、沖の方で泳ぎ回っているセレナたちの元に向かっていく。

 沖の方に出れば人間界の海と同様にサンゴ礁や魚が泳ぎまわり自然の海の景色を見る事ができる。

 イルカのように海面を飛び跳ねているセレナ、灯巳。

 魚の群れと並んで泳ぐ黒歌、イリナ、ゼノヴィア。

 各々が好きなように泳ぎ回っていると、あっという間に十分が過ぎ去った。

 人魚の姿から元の人間の姿に戻った後は、俺がイルカの姿に変身にして、セレナと灯巳を背に乗せて泳ぎまわった。

 昼食の事も忘れて年相応に思う存分遊び回った。

 

 

「あ゛~もう無理、動けない」

「そうだな、私も無理だ」

 海水浴なんて初めてのイリナとゼノヴィアは全力で遊び倒し、鯨に変身した俺の背中の上で横になって日向ぼっこしている。

 セレナ、灯巳、黒歌はまた人魚に変身して泳ぎ回っている。

「どうだった人魚になった感想は?」

「凄かった!涼くんあんなこともできたんだね!」

「ああ、確かに凄い。あれなら水中戦も苦戦せずに戦える」

「ゼノヴィア…こういう時くらい戦いの事なんて言わないでよ」

 楽しんでくれたのなら連れてきたかいがあるってもんだ。

 悪魔祓いだった、イリナとゼノヴィアは今まであんまり子供らしい時間なんて過ごせてないだろうからな。出来るだけそういう時間を過ごさせてやりたい、戦争に巻き込んだ、俺が言うのは可笑しいかもしれないけど、それでもだ。

「涼くん」

「ん?」

「次は夏祭りに行きたい!」

「そうだな、みんなの浴衣姿は楽しみにしているよ」

 戦争をしようっていうのに呑気なものだけど、俺はこれで良い。

 これが、俺の守ると決めたものだから。



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北欧の主神との会談

 神殺し神無月涼とアースガルズの主神を務めるオーディンとの会談が人間界にある『獣群師団』の仕事を行う為にと購入したオフィスビルの会議室で行われていた。

 会議室の中には、俺と前に顔を合わせたグリューヌ、京都に連絡する為に灯巳が同席。相手は、オーディンと護衛のロスヴァイセの二人。

 

「自分の目で見るまで信じられなかったが、本当にお主は神を殺しているようじゃな。体から神格が漏れ出ているのう」

 不敵そうに笑うオーディンの横で戦争にでもなるんじゃないかと思ったのか慌てだすロスヴァイセ。

 

「そう言っておいただろ。で、同盟は組んでくれるのか、くれないのかどっちなんだよ」

「勿論、受けるぞ。今は被害が無くともいずれは北欧神話にも影響が出るであろうからな」

 オーディンの話では北欧では目立った被害が出てないらしい。その一つの理由が、悪魔が人間界で主な活動としている日本から離れているかららしい。ただそれは悪魔の被害が少ないというだけで三大勢力からの被害が少ないというわけじゃないらしい。

 北欧で最も被害が多いのは天使陣営に属する教会の人攫いや人体実験と保管してあった武器の盗難だそうだ。

 魔帝剣グラム、バルムンク、ノートゥング、ディルヴィング、ダインスレイブなどの英雄が持っていた魔剣の類が盗み出され、魔帝剣グラムを扱える「真の英雄シグルドの末裔」を生み出すことが目的のシグルド機関という人体実験の研究も存在していたそうだ。

 どうも天使陣営は教会関係者の管理と神ヤハウェが作ったシステムとやらを守るのが人間の命を好き勝手に弄り回すことよりも大事らしい。

 これじゃ、三大勢力で一番まともなのが堕天使ってことにならないか、それもどんぐりの背比べだけどな。

 

「そうか。良かった、流石に北欧と敵対は疲れるからな」

「ほう、無理だとは言わないようじゃのぅ」

 生意気だ、というよりは戦うのも面白い、という顔をしているオーディン。

 こっちの神も戦いが無くて退屈でもしているみたいだ。

「神殺しだからな、無理とは言わないさ」

「お主と剣を交えるもの悪くはないが、それは次回に取っておくとしよう。それよりもじゃ、どうもロキの奴めが良からぬことを考えているようでな」

「ロキ?北欧神話で有名な他の神々にちょっかいを出した、っていう悪神ロキか?」

「それであっとるよ。どうも、儂がお主と他の神話と同盟を組むのを良く思っていないようでの、加えて、動き出した三大勢力にもちょっかいを出そうとしているようでな」

 なんとも傍迷惑な話だ。

 神話のトリックスターは、北欧神話のロキが最も有名だが、日本ではスサノオ、ギリシャではプロメテウスが該当する。時に悪事を働くが、その行動は結果的に良い結果を生むとされ。特に人間の文明を進歩させたり、進化を促すということもある。トリックスターは文化英雄とも結びつけられることも多く、これのイメージは人間に火を与え、生活を豊かにプロメテイウスが一番イメージしやすいだろう。

 つまり、トリックスターは悪事や盗みを働くと同時に良い結果も運び。良くも悪くも現状に大きなうねりをもたらす。簡単に言うと引っかき回すというわけだ。それがどんな結果を引く起こすかは、まさに神のみぞ知るというところだ。

 

「正直、武力で解決できる問題なら楽でいいけど、他の物になると行き当たりばったりだな。最悪、起きたことを利用して、損以上の得を手に入れるしかないか」

「ふむ、なかなか前向きな考えかたじゃの悪くない」

 関心、とばかりに頷くオーディン。

「それともう一つ。いま多くの勢力を騒がせている『禍の団』についてじゃ。お主は『禍の団』についてどれほど知っておる?」

「どれほどっていくつもの派閥が集まって一応は組織として機能しているって事と、トップがオーフィスって事くらいだけど?探ってはいるけど、あれやこれや、とやることが多すぎて手が回らないんだよ」

「その通り。あの無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)と畏れられるオーフィスがトップである事は勿論。派閥に別れていることでそれぞれが別の目的で動いているからな。結局は組織を余すことなく潰さねば終わらぬ。そして組織の中でも警戒すべきは“英雄派”じゃろうな」

 

 英雄派?と聞き返すと、オーディンは頷き説明を進めた。

「英雄派のリーダーは神滅具の『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』を有しておる」

 神滅具の中で最上位とされる、神をも貫く絶対にして最強の神器、それが『黄昏の聖槍』。聖剣と同じ「聖なる武器」の一種で、悪魔など魔に属する者には絶大な力を誇る。魔王クラスであっても聖槍の一撃は致命傷となると言われている。一部では神滅具で最も強いと言う人物もいるほどだ。

「それだけではない、神滅具の『絶霧(ディメンション・ロスト))』と『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の所持者も所属しておる」

 神滅具の三つが一集団に揃っているのか。俺が相手のするのは楽勝。セレナたちでも問題なし。ただ、裏京都やら神話勢力にとっては重要な問題か。

 

「面倒なこって」

 悪態をつきながら机の上に置いたあったカップを手に取り、コーヒーを喉に流し込む。

 苦さが頭を曇らせていた悩みを晴らし。そして何よりも仲間にした者たちへの信頼があるからこそ、こうしてのんびり構えていられる。

 

「俺の方は目立った被害は出てないな。そもそも本部が簡単に行こうとしても行けないから大丈夫だろう。そのうち俺らの所にもやってきそうだな」

 英雄派…か。『禍の団』についてはもう少し詳しく調べておく必要がありそうだな。

 残ったコーヒーを流し込み、これから取るべき行動を決めていく。神殺しとしてであると同時に、組織の長としての取るべき行動を。

 

 

 

 オーディンたちが帰った後、近所のケーキ屋で買ってきておいたケーキと紅茶を並べて三時のおやつタイムと洒落こんでいた。

「食えないじいさんだったな」

 フォークで一口サイズの切ったショートケーキを口に放り込みながらそう口にする。

「そうですね、流石は北欧勢力の主神。同盟を組みながら一手を打ってきましたね」

 グリューヌは頷き、同意しながら紅茶の入ったカップを傾ける。

「一手?」

 灯巳は理解してないらしくイチゴを頬張りながら首を傾げた。

「ロキの件ですよ。身内が暴れている事を先に知らせることで、此方に被害があっても自分たちは悪くないと言い訳出来るようにしながら賠償などを求めても払うのは最小で抑えられるようにしてきました」

 そう、グリューヌの言う通り。

 仮に、ロキが俺たちの手を出してきて撃退したとしても北欧から賠償金なりを取れなくなった。こっちはロキと戦えば、神を倒せるという宣伝という得を得ても、土地への被害、戦力の公開の損が生まれる。

 なにより、組織を動かすには金は重要な割合を占めている。

 食料、武器、家や街を作るための資材など『獣群師団』も人間界で購入して運び込むこともある。『月の都』は確かに森林、鉱石、養殖など人間界で行われている大半の事業を行ることは出来るが時間にも、人手にも限界があり、それを解決するのがお金だ。

 すごく分かりやすく言うなら『獣群師団』は自給自足する反面、資金が少ないのだ。

 今までは日本神話や裏京都と食料や特産物との商売をしてきた資金と、俺やセレナたちがはぐれ悪魔狩りや日本神話からの依頼で貯めたお金を切り崩してきたけど、それにも限界がある。

 その事をオーディンは調べ、先に儂たちは賠償金は払わんぞ、と先手を打ってきたわけだ。

「魔王とか、天使の長とか、堕天使の長がへっぽこ過ぎたけど、流石は神だな。一筋縄じゃいかないか」

 ショートケーキに乗っかっているイチゴをフォークで突き刺し、齧る。口に広がり甘酸っぱさが広がり、少しついた生クリームが良い感じの甘さが甘さを引き立たせる。

「灯巳、日本での仕事が終わったら『月の都』でイリナとゼノヴィアの訓練の様子を見てきてくれ」

 イリナとゼノヴィアは夏休みに『月の都』で強化訓練の真っ最中だ。

 ゼノヴィアはセレナとマンツーマンで剣の稽古。

 イリナは武器は刀一本で行くことを選んだから『月の都』に居た刀使いの李安の元に稽古に行っている。ただ、李安は少し浮世離れした性格で『月の都』にある岸壁のばっかりの山に普段は引きこもっていて、俺の命令以外だと下りてくることがない。何度か部下の剣士が弟子入りしようしたけど稽古の内容と山での生活の苛烈さに一か月もせずに断念していた。

 イリナは、何日持つのやら。

 最初は行かせるつもりは無かったけど、刀を使っていくことを決めた以上剣使いよりも刀使いに教えも貰った方が身になる。

 剣は力で斬り、刀は技で斬る。

 他にも重さや長さ、両刃と片刃、その違いは繰り出す技の違いにも体の動かし方にも出てくる。

 イリナが前に使っていた擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)なら刀と剣を自由に使い分けることも出来るけど、今はマルテットの鍛えたユカリがある。

 なにより、今まで肩を並べてきたゼノヴィアには、自分にピッタリのセレナという師匠が居るから成長は著しい。

 だから、イリナは自分で師匠となってくれるかもしれない人物に会いに行った。

 親友に、戦友に、相棒に置いて行かれない為に。

 行かせないという選択肢もあったけど、決意を固めたあの目を見ちゃったら行くな、なんて言えなくなった。

 李安に山から下りてきた教えてやれって命令すればするだろうけど、それじゃ駄目だとイリナ自身がそれを良しとはしなかった。

 強くなって帰ってくる事を祈っておこう。

「分かった!あむ!」

 ショートケーキの最後の一口を頬張り笑顔のまま頷く灯巳。

 



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訓練

 灯巳は、涼の命令で『月の都』で訓練に励んでいるであろう、イリナとゼノヴィアの様子を見に行く為に市場の中を抜けていた。

 『月の都』は本拠地となる城と城下町を中心に円形に都市が広がり、中心から外に行けば行くほど自然が増え、人の手がついていない場所が増えていく。

 イリナは李安のいる山に行っているので、先に近いゼノヴィアに会いに行くこと灯巳は選んだ。

 

「やってますね~」

 ガァン!ギィン!と剣同士がぶつかり合う音が人気のない広場に響く。

 此処は、城下町から離れた訓練所。多少暴れた程度じゃ影響はなく、そもそも城下町に住んでいる住人は訓練所にはあまり近寄らないようにと通達がなされている、と言っても訓練所には小さな宿泊施設という最低限の生活必需品しか置かれていない時点でやってくる人などいないのがだ。

 舗装すらされていない道を抜けた建物があるだけの訓練所。そこにはジャージ姿の二人が居た。

 ブロードソード型の光剣を右手に握りセレナは、ゼノヴィアの振り下ろすデュランダルを光剣の刀身で受け流し、刃落とした光剣で胴体を一閃。衝撃に耐えきれずに漫画ように吹っ飛びゴロゴロと転がって行ったゼノヴィア。

 

 ジャージを砂まみれにしてデュランダルを杖の代わりにして不格好ながらも立ち上がるゼノヴィア。

 セレナも休憩は挟むつもりはらしく、ブロードソード型の光の剣を短剣の形に変えて、ゼノヴィアに向かて投げた。

 剣士弱点と言えば、遠距離攻撃とイメージがされやすいが正確には、遠距離攻撃と暗殺者が弱点だ。

 遠距離攻撃は剣のリーチ外からの一方的な攻撃。暗殺者は罠を張り、ヒット&アウェイを基本とした戦い方、相手が嫌がることをとことんして追い詰め最後に確実に仕留める。

 立て続けに短剣型の光の剣をゼノヴィアに投げるセレナ。一方、ゼノヴィアはデュランダルの幅のある刀身を盾にして短剣を防ぎ、傷を受けない代わりにその場から動くことが出来なくなってしまった。

 

「ゼノヴィア言ったはずです。デュランダルはその強度と幅の刀身は時として盾になりますが、それは緊急時のみに使うこと。今のは横に転がって初撃も短剣を避け、体勢を立て直すのが正解です!」

「うわ~スパルタ……セレナに戦いの基本を教えたのって、主だったもんな。主、勝ては良いってタイプだから手段は選ばないし。サルバトーレ・ドニ?だったっけ、剣を使うカンピオーネと戦ってきたから剣士をどう崩したらいいかって思考錯誤してたみたいだからそれ全部使ってセレナ鍛えたらしいし」

 

 涼の戦い方と言えば、カンピオーネの本能を『混沌獣』で強化、身体も状況に応じて陸・海・空に対応しながら時には、武器や防具を作り出し戦う。臨機応変の反面、決め手に欠ける部分を『雷神の鎚激』の火力でカバーしている。

 セレナの師匠は涼であり、涼は剣士の戦う姿をサルバトーレ・ドニから見て学習していた。

 そもそも、カンピオーネと一般の剣士が同じ位置には立つことなど叶うわけがないが、セレナは涼について行くべく弱音を吐くことなく努力と試行錯誤を続けて今では光の剣の形を使い分け、投擲や矢のように飛ばすことで遠距離攻撃も取得している。それは師匠である涼の臨機応変な対応の高さ参考にしたからこそ遠距離攻撃も身に着けた。

 涼が自分で自分の戦い方を見出したように、セレナも自分で自分の戦い方を見出した。

「灯巳が来たことですし一旦休憩にしましょう、ゼノヴィアいつまでも転がってないで水分補給しなさい」

「…は、はい、あ、あとでちゃんと水分、とりますので…はぁ」

 訓練が一段落したことで構えていたデュランダルを下ろし、地面に倒れこんだゼノヴィア。

 ゼノヴィアを放っておいた、外で訓練を見ていた灯巳を手招きする。

 とことこ、とスポーツボトルに口をつけて水分を補給するセレナの元に駆け寄る灯巳。

「涼さんから連絡がありました、灯巳さんを様子見に寄こすと」

「そうなんだよ、それでゼノヴィアの訓練の成果は?」

 二人して、地面に倒れて荒い呼吸を必死に整えようとしているゼノヴィアを眺める。

「ゼノヴィアは力押しで戦うタイプだったのでまずは技量を付けさせようかと。重く太い剣でも―――速くしなやかに操るの重要です。彼女はそれが出来ていない、それではデュランダルの特性である「すべて」を斬れる能力は半分も活かせません。現に、私がデュランダルを借りて使った時には正式な使い手ではないのにかかわらず、空間を断ち切ることが出来ました」

 それは貴方が可笑しいだけだよ、と灯巳は心の中で呟いた。

 いくら聖剣使いとして育てられていたとしても、セレナはゼノヴィアと同じ天然物の聖剣使いと言ってもデュランダルを扱えるほどではない。

 ゲームで言うなら、装備レベルが足りないとようなものだ。

 ゼノヴィアの方は、装備は出来ても本来の強さが発揮しきれない。なら出来るようにレベルアップをすればいいだけの話だ。

「ゼノヴィア!いつまで寝てるんです!さっさと訓練を再開しますよ」

 スポーツボトルを机に置き、椅子に座って水分補給していたゼノヴィアに叫ぶ。

 ゼノヴィアは慌ててスポーツボトルを置き、椅子て立てかけてあったデュランダルに手を伸ばしていた。

「やっぱりスパルタだ」

 夏休みの大半を訓練に次ぎ込むであろうゼノヴィアに心の中で合掌しながら、イリナの様子を見に行くべく登山を開始した。

 

 

@ @ @

 

 

「よっ!ほっ!」

 手付かずの山道を岩を足場にジャンプして進んでいく。

 山に山道など存在はせず、こうして道なき道を進んで行く他ない。

 普通なら袖と丈の長い動くには向かない巫女装束に下駄で激しい動きなど出来るわけもないが、そもそも灯巳の身に着けている巫女装束が一般のそれを同じものなわけもなく。動きやすいようにあれやこれやと工夫が凝らされている。

 山の中腹辺りまで登ると、手作り感のある小さな小屋が立っていた。

「李安ー!」

 ノックもせずに小屋の扉を開けると中には囲炉裏を囲み、湯飲みで茶を啜っている李愛が居た。

 少しボサっとした黒髪にツリ目、黒い着物を着て、灯巳が小屋に入ってきたことを気づきながら文句を言うこともしない。

「あれ?イリナが来ていると思ったけど」

「アイツなら山に体力と筋肉作りがてら今日の晩ご飯の山菜取りに行かせている」

「……それって後半の方がメインでは?」

「アイツは技術はあるが、体力と細い剣で重量のある攻撃が無かったからな。まずは体作りをしない事には話にならん」

 そう言ってずずず、と茶を啜る李愛。

 灯巳は剣やら刀やらの事をはからっきしなので、李安がそう言っているならそうなのだろうと納得して上がり込み、勝手に台所に置いてあった湯飲みを持ってきた囲炉裏の火の近くに置いてあったやかんからお茶を注ぐ。

「ずぅー、にっが!」

「薬草を煎じて作っているからな、体にはいいぞ。慣れると苦さが癖になる」

 

 ジジイだ、と思いながら我慢して薬草茶を胃に流し込む。コーヒーとは違う苦みが口一杯に広がるが、緑茶をよく飲む灯巳からすれば確かに悪くないものだった。

 二人で会話もなく茶を啜っていると、外でガタガタ、と物音が聞こえてきた。戸を開けたのは勿論、イリナだったが、いつもの姿とは大分異なった姿だった。 

「た、ただいま、戻りましたぁ…あれ、灯巳が居る」

 ツインテールに枝と落ち葉を絡ませ、ジャージを泥だらけに汚しキノコや筍、薬草を詰め込んだ竹で編まれた籠を背負って汗だくのイリナだ。

 李安は湯飲みを置いて立ち上がり、イリナから籠を受け取り。イリナは溜めてあった水で顔についた汚れを落としている。

 

「どう見ても、晩ご飯の山菜を取りに行ってしくじったようにか見えないけど?」

「やっぱり?そう見えるけど、結構体力使うんだよねこれがさ。道の無い山の中を移動しないといけないし、山菜が増えるごとに重心移動にも気を使わないといけなくて、しかも、偶に猪とか熊も出るんだもの気配を消して、察知するのも気に付けたよ!」

「それだけ聞くと、十分訓練にはなっているみたいだね」

「そうだね、山菜取りから早く帰ってくると李安さんが刀の稽古してくれるの!まだ一本も取れてないけどね、でも強くなっているのが分かるよ。自分がどれだけ聖剣に頼っていたのかも分かった」

 

 イリナは壁に立て掛けてあった刀のユカリを見つめながらそう言う。

 僅か二週間の稽古でイリナは多くのものを見て、経験した。自分より強い刀の使い手。しなやかな刀の動き、軽い足さばき、細い刀で岩を断ち切り、突進してくる獣を容易く切り伏せた、時には片足だけで岩の上に立ち刀を振るった姿も見た。同じ武器を使っているのに自分の数倍も、数十倍も強い使い手の姿。

 それはイリナが自分を弱いと自覚させるのに容易いものだったらしい。

 

「これだけあれば十分か、毒キノコも紛れてるが判別しろってのもまだ無理か。イリナ、刀を持て、相手をしてやる」

「やった!すぐに用意します!」

 壁に立て掛けていたユカリを掴み、イリナは外に飛び出し。灯巳も成長具合を見る為に後を追った。

 木刀を持つ李安とユカリを持つイリナは向かい合っていた。

 

 夏の暑くなった空気がひんやりと冷たく感じ、張り詰めた糸のように二人の間を緊張が走る。

 イリナは冷や汗を一筋流し、李安と言えばリラックスした状態で木刀を構える。

「頭で考えるのもいいが、偶には体で動けよ」

「ハッ!」

 少し前の動きとは比較にならないほど素早く、無駄な力を入れて刀を振らず、木刀で受け流がされれば素早く体勢を立て直し斬り返す。

「動きは良くなってきたな、だが、甘い」

 斬り返しを木刀の柄頭で弾いた。

「あんな方法で弾くとか、相変わらず人間離れしてるな~」

 灯巳は前にも、李安のこの技を見たことがあった。まだ李安が、涼の部下となる前セレナと一騎打ちをした時に振り下ろされた光の剣を刀の柄頭で弾いたことがあった。他にも漫画で出てきそうな刀で銃弾ならぬ魔法の弾を斬ったりなどセレナと同じように人間離れしている。

 若干、呆れ顔をしながら灯巳はイリナの練習風景を眺めた。

 イリナが一方的に攻めるだけかと思えば、隙を見て李安も反撃する。その一撃が当たればイリナは行動不能になるのは確実な威力を持っていた。

 

 一振りで骨を砕き、一突きで木を貫通する。それだけの威力を李安は刀一本で生み出す。

「イリナ、刀は防御には向かない。俺の様に受け流すか、躱すかを咄嗟に判断しろ。剣客が戦場で得物を失うのは自殺に等しい」

「ぐぅ!…はい!」

 地面を転がることで、李安の刀を躱し。ジャージを一層、砂で汚しながらそれでも立ち上がるイリナ。

「イリナも熱血だね、私も訓練しないと追いつかれちゃうかな」

 訓練する友人に姿を見て、久々に自分を訓練する意欲を掻き立てられて灯巳。

 

 



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絡み合った思惑・1

「それじゃ、準備は良いか?」

「問題なしにゃ!」

「問題ありません」

 俺が行くと、返事を返す、黒歌とグリューヌ。

 

 今から行くのは冥界。

 それもリアスとディオドラのレーティングゲームの真っ最中に乗り込む。

 ディオドラは調べで『禍の団』と繋がっているのが分かり、ついでに黒歌が小猫をこちら側に引き込み、グリューヌには黒歌の護衛に行ってもらい、俺一人で三大勢力に実力を示す。

 

「じゃあ行くか」

 三人で転移魔法陣を区切り、冥界へと渡った。

 

 紫色の空に人工の大地。

 悪魔の興じるレーティングゲームの為に築かれた結界の中に足を踏み入れた三人。

 もちろん、管理している悪魔からは三人が侵入してきたことはすぐ分かるだろう、むしろ分かってもらわなくては困る。

 

「それじゃ、また後でにゃ!」

「主もお気をつけて」

 そう言い、二人は目的の小猫の元へ向かった。

 

 すでに『禍の団』の攻撃は始まっているらしく、上空では魔力や光が飛び交っている。

「俺もかますとするか。《滅びの時は来た。穢れし世界。混沌ををもって全てを無に帰す。この牙、この爪は世界を殺す、我は獣なり》」

 背から一対の黒と赤を混じる翼を生み、空を翔ける。

 無作為に襲いかかってくる悪魔、堕天使を両手足を獣に変化させて片っ端から殴り飛ばしていく。

 

「お前まで来ているなんてな『禍の団』と協力でもしてるのか?」

「まさか、少し便乗しようと思ってね」

 面倒なのが来た、とばかりに俺の顔を見るアザゼル。その背には十二枚の黒い翼が伸びていた。

 

「お前、随分と同盟を結んでるみたいだな」

「ああ、三大勢力の不人気もあって、こっちの同盟は順調さ。この前も北欧と同盟が結べたからな」

「チッ!あのジジイやっぱり、もう手を組んでたのか」

涼の宣戦布告を受けて、アザゼルは知り合いであるオーディンに同盟の声を掛けたが考えておく、という返事以来音沙汰が無い。それそうだ、先に涼との同盟を組んでいた。なにより、三大勢力と同盟するよりも、『獣群師団』と同盟を組んだ方がよっぽどメリットがある。

 

「お喋りはここまでにして始めるか。この戦いも中継されているだろうから他の勢力へのアピールになる」

「便利に使ってくれやがるぜ!」

アザゼルが取り出し掲げたのは、紫色の宝玉が埋め込まれた黄金の短剣。

 

「これは『堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)閃光槍(・スピア)』つってな。俺の研究の成果の一つだ」

 握られて『堕天龍の閃光槍』を掲げ、口にした。

「禁手!『堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)の鎧(・アナザー・アーマー)』ってところか」

 光がアザゼルの全身を包み、収まった光の中から出てきたアザゼルは、黄金の全身鎧に所々に紫の宝玉が埋め込まれた姿。

 それは和平会議で見た『赤龍帝(ブーステッド・ギア)の鎧(・スケイルメイル)』と『白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(・スケイルメイル)』に酷似し、色や形状が多少異なる程度だ。

「へぇー、少しは面白いのもってんじゃん!」

 

 

 

 

@ @ @

 

 

 黒歌が灯巳から教えてもらった隠密の術で、自身とグリューヌの姿を消し。二人はリアス一行を追っていた。

 グリューヌは先を走る、黒歌に質問を投げかけた。

「それでどういう作戦ですか?」 

「私の術で少しの間だけ白音だけを分断するから、その間だけ他の相手しておいてほしいにゃ」

「その程度なら問題ありません。リアスとも少しばかり私も話したいと思っていた所ですから」

 手の中にいくつもの魔法陣を生み出し、組み合わせて自分が望む効果を発動するように組み替えていく。

 

  

 二人がリアス一行に追いついて頃には、既に元シスターや元聖女だったディオドラの眷属たちは無力化、新しく入った一誠たちとも因縁深いフリードも、木場の聖魔剣の二刀流によって討ち果たし。 

 ディオドラによって攫われたアーシアを助けるべくリアス、朱乃、木場、小猫、ギャスパー、一誠の七人はディオドラの待つ最深部まで駆け足で進んでいた。

 

 

 玉座が触手ように、アーシアの四肢に絡みつき。

 その前で立つ、ディオドラ。

 

「ディオドラ!アーシアを返してもらうぜ!」

 部屋に叫びながら入っていく、一誠。

 それに続いて、部屋に入ってくるオカルト部の部員たち。

 

「やあ、此処まで来れないとかと思ってよ。折角だ、初夜は赤龍帝の目の前で犯すってのも悪くないかと思ってね、手はまだ出してないよ」

 いつかのイケメンスマイルとは打って変わって、悪役らしい笑みを浮かべる、ディオドラ。

 

「ディオドラ!」

 左手に宿った『赤龍帝の籠手』の緑の宝玉から緑の光が漏れる。

 

 

「悪い横やり入れさせてもらうにゃ!起動しにゃさい!」

 天井から飛び下りた黒歌とグリューヌ。

 空中で地面に向かって、ルービックキューブのように立方体型に複数の魔法陣が組み合った、特定の対象と自分を指定場所に強制転移させる魔法を投げつけた。

 魔法は地面に触れて瞬間起動。

 数秒で手の平サイズから部屋全体を包み込むサイズに巨大化。

 指定して通り、黒歌と小猫のみを指定の場所へ転移。現場には、飛び入り参加してきたグリューヌが残り、地面に着地していた。

 

 

 

「グリューヌ・グラシャラボラス!?」

 リアスは、死んだと報告され人物が生きて自分の目の前に現れて事に驚きを隠せなかったが、その場にも同じく驚いている人物がいた。

 

「ば、バカな!?貴様が何で生きている!お前は『禍の団』の旧魔王派の手によって暗殺されたはずだ!?」

 ディオドラは、リアス以上に驚愕したいた。

 それも、そのはずだ、グリューヌの暗殺を企て、作戦を考え、命令したのはディオドラだったから。

 旧魔王派に入った直後、組織での立場を確立し、聖女やシスターが泣き叫ぶ中で犯す、という欲求を満たす為にはそれなりの立場が必要になると考えたディオドラは、グラシャラボラス家の次期当主であるグリューヌの暗殺し、首を差し出すことを考えつき、実行した。

 

「ええ、確かにいい作戦でした。ですが、貴方程度に私が負けるとでも?たかが、多少魔法に長けた程度で?笑わせないでくださいよ」

 ハハ、と呆れた様子で、ディオドラを笑う、グリューヌ。

 ギリ、と歯軋りするディオドラ。

 

「グリューヌ、久しぶりね」

「ええ、本当に久しぶりです、リアス」

「挨拶なんてこの際、どうでもいいわ。貴方、さっきの話だと暗殺されたらしいじゃない、どうやって生き残ったのよ」

 そう、ディオドラ含め、全員が疑問に思った。

 魔王の口からも、ディオドラの口からも、本人の口からも、暗殺されてと言われているにも関わらず、いま目の前に生きてい立っているのは何故か。

 

「普通の暗殺者なら死亡したどうかを確かめたりするでしょうが、プライドの高い純血悪魔や旧魔王は相手を殺したかどうかなど一々、確認しない。それだけです」

 

「そう、それじゃあ、貴方が黒歌と一緒に行動しているということは、神無月涼と共に行動している、ということでいいのかしら?」

「合っていますが、正確ではありません。私は、我が主―――涼様に仕えているのです」

 

 純血悪魔が人間に仕える、なんて事が悪魔の老人に知れ渡れば分かりやすく、グラシャラボラス家の質は落ちた、とでも口にするだろう。

 

「アンタは純血悪魔なんだろ!なんで、涼の部下になんかに!」

 一誠は、若手悪魔の会合で、悪魔の上層部が人間をどれだけ見下しているかを知った。

 

「寧ろ、何故という問いたいのは私の方ですよ、リアス、赤龍帝」

「どういうことかしら?」

「プライドだけが高くて、絶滅という道を自分から走る悪魔。他者を見下す癖に、自分たちが優れている者を見れば足を引っ張る、なんともくだらない種族です。私は、魔王としての役目を果たさない兄を反面教師として、視野を広くして生きてきました。冥界の影を見つめ、他種族を観察し。悪魔がどれだけプライドだけの種族なのかを、その度に理解して。そんな時に、旧魔王の暗殺に遭い、いっそのこと死んでしまうのもありか、と思った時に涼様に出会いました。あの方は、種族など関係ない。悪魔も、天使も、堕天使も、人間も、世界中の種族が、あの方の前では平等だ。そして助け合って生きている。まさに、平和という言葉が体現されたように」

 

 純血悪魔という枠に置いて、グリューヌは異端と断じられるだろう。

 それでも、グリューヌは幼少期に一人で悪魔の行ってきた悪行を知り、それを悪とした時点で純血悪魔としての道は絶たれていた。

 人間を道具のように売り買いをして、要らない玩具を捨てるように眷属を捨て、当たり前のように眷属にするのに、家族を人質にして強要する。

 人間を見て知った、国が違く手も、言葉が通じなくても手を取る素晴らしさを。

 それが、どうだ、自分たちの種族を維持する為に、外から人を攫い。転生悪魔としたのに地位と権力は与えない。

  

「それが貴方の選んだ道なのね」

「ええ、冥界に居ては、グラシャラボラス家を継いでは、望むことが出来ない未来です。いつか貴方は言っていましたね。自分をリアス・グレモリーとしてではなく、リアスとして見てくれる人と結婚したいと」

 

「ええ、言ったわ。それが何かしら?」

「その話を聞いた時、思ったんですよ。グレモリー家を捨て、魔王の妹という席を捨てる、覚悟がないのに、求めるのかと」

「おい!結局、アンタは何が言いたいんだよ!」

 一誠はリアスの話が出た途端、口を挟んでくる。

「捨てる覚悟もないのに、求めるだけなら子供でも出来る、ということですよ。まあ、貴方に言っても詮無きこと―――お喋りは、この辺にしましょうか」

 その言葉と雰囲気を感じ取り、一誠たちが構えるのと同じように、手の平に卓球の球くらいの魔法の弾を作り出した、グリューヌ。

 



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絡み合った思惑・2

 

 

 黒歌の魔法によって別の場所『月の都』の会議室に二人は転移されていた。

「……黒歌姉様」

「白音、迎えに来たにゃ」

 二人は机と椅子があるだけの一室で向かい合い立っていた。

 

「もう、涼は悪魔を、三大勢力を敵と定めたにゃ」

「…そう、ですね。確かに戦争をするだけの理由を三大勢力は作り出しました」

 

 涼が宣戦布告をしたのちに、種族の未来を見据えた者たちは闇に葬られていた三大勢力の過去の行いを洗い出していた。

 

 自分たちに従わない者は虐殺し、無理やり従属させ。政治的な相手には、人質を使い、賄賂を渡さない者には濡れ衣を着せて、時には自分たちの悪事を擦り付けて殺してきた。

 

「私……最初は、宣戦布告を理解できませんでしたが多くを知って理解しました。三大勢力はもう戻れない所まで来てしまったんですね」

 

 一度悪に手を染めたなら、ブレーキは軽くなり。二度、三度の繰り返され、三大勢力の悪事は、もう見て見ぬふりをすることなど出来ない所まで来てしまっている。

 今までの行動を反省し、心を入れ替えて生きていく、など今の三大勢力にはもう出来ない。

 親から子へ、また子へと洗脳の様に他種族を虐げる事を教育してきた教えはもう消せない。

 戦争が終わった時、新しい魔王が生まれて時、和平が組まれて時、行動するタイミングはいくらでもあった。それを自分たちで捨て、大丈夫だろう、という希望的観測に結果を委ねた結果が、異世界との神殺しの戦争だ。

 

「うん、涼が…世界が三大勢力を悪としたにゃ。もう戦争以外の道なんて無いにゃ」

 黒歌は、戦争を行う事を反対していない。

 自分が、妹を守る為にはぐれ悪魔とされ、数年間心配して過ごしてきた過去があり。似た境遇の人も多く見てきた。

 三大勢力があり続ける限り、負の連鎖は止まらない。

「私は、どうするべきなんですか」

 姉である黒歌について行くということは、上層部に殺されかけた自分を救ってくれたリアスとグレモリー一家を裏切る事となり、リアスたちの元に戻るということは、黒歌とは敵となり十中八九、涼の力と《獣群師団》よって悪魔の一人として滅ぼされることだろう。

 

「白音…悪いけど、私は白音に嫌われても連れて行くにゃ」

 

 黒歌は、もう決意をしている。

 例え、二度と姉と呼ばれなくとも。一生、恨まれ、何と言われようとも今、妹を見捨てるくらいなら此処で行動を起こし、白音()を助けると。

 

 小猫は迷いながら、差し出された黒歌()の手を取った。

「私は、悪魔が正しいとは思えませんが、涼先輩が正義だと言う事出来ません」

 他種族を虐げる事を悦とした悪魔とそれらを敵と定め。悪も、罪も、関係なく全てを等しく滅ぼすと決めた涼。

 

 

 小猫(白音)は選んだ。

「だから私の正しいと思えることをします」

 

「…そうかにゃ」

 少し悲しそうな顔をする黒歌。

 

「……だから、私は行動します。何が正しくて、何が正しくないのか、悪魔の傍に居たままじゃ見えない景色を見に行きます」

 

「…いいと思うにゃ」

 

「私は……涼先輩の傍で、黒歌姉様の傍で世界を見ようと思います」

 

「…うん、どんな理由でもいいにゃ、白音が帰ってきてくれるにゃら」

 ぐす、と鼻を鳴らしながら二人っきりの会議室で静かに相手を抱きしめ、そこに居るという存在を確かめあった。

 

 

 

@ @ @

 アザゼルの身に纏った『堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)の閃光槍(・スピア)』を禁手した『堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)の鎧(・アナザー・アーマー)』という全身鎧。

 天使や堕天使という種族が使う光の力で作られた先端が二又に別れた槍を片手に近接戦をしてくる。

 俺はそれを両腕を変化させた獣の腕で防ぎ、隙を見つければ攻撃をするを繰り返し、全身鎧を観察し続けた。

 

「全身鎧か、強いドラゴンの禁手は全身鎧じゃないと駄目っていう決まりでもあるのかねえ」

 

 ドラゴンの一番最初のモチーフは蛇だと言われている。

 全身を覆う強固な鱗は蛇、四肢は獅子、翼は蝙蝠からだと言われている。それは人間が恐怖し恐れた獣を掛け合わされて想像されたのがドラゴンだからだ。その中でも特に蛇。爬虫類がドラゴンの特性を締める部分は大きい。

 ドラゴンのに連なる上位の神器の禁手が全身鎧なのは、恐らく龍の全身を覆う鱗から来ているのだろう。

 

 翼を羽ばたき旋回して体勢を立て直す。

 見た感じ、『赤龍帝(ブーステッド・ギア)の鎧(・スケイルメイル)』や『白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(・スケイルメイル)』にあるような特殊な能力があるわけじゃないらしい。

 

「鎧なだけあって、防御は勿論、核になってる“「黄金龍君」ファーブニル”の力もある程度、上乗せされているのか」

 現に、中級堕天使程度なら一撃でノックアウトする獣の腕の攻撃をまともに食らっても、アザゼルはピンピンしている。

 

「おうともさ、コイツはただ鎧を着ただけじゃねえ、パワーアップもするってことだ!」

 振り下ろされる光の槍を躱し、脚をすぐさま腕と同様の獣の脚に変えて蹴りを叩き込むとガン!という音が響く。

 脚を離し距離を取ると蹴りが当たった、肩の部分には罅が広がっている。

 

「おいおい、蹴り一発で罅が入るとかありかよ!」

 堕天使龍の鎧に入った罅を指でなぞり、一撃で自信作の人口神器に罅を入れられて事にショックと想定以上の力を持つ涼に驚愕しながら鎧の罅を修正していく。

 

「……これは予想以上にヤバイな」

「そういう、アンタは予想していたくらいの強さだな。まだコカビエルに使った権能も使ってないのに」

 マジかよ、と頭を抱えるアザゼル。

 正直、『雷神の鎚激(トール・ハンマー)』を使う必要も現状はないか。

 

「なあ、前から聞きたかったんだけどよぉ。なんでお前は俺たちに宣戦布告した?」

「は?」

 何言ってんだ、コイツ?

 

「悪魔が人間を好き勝手に使ってるのは分かる、だが、堕天使や天使は悪魔ほど酷くはない、まだやり直せると俺は思っているんだがなぁ……そこの所、お前はどうなんだ?」

 

「……ああ、確かに悪魔に比べれば、天使と堕天使は可愛い位だろうな。だけどさ、お前、そこの言葉を堕天使に家族を殺されて奴に言えるのか。自分の子供を殺された親に、親を殺された子供に、ただ神器を持っていながらも家族と幸せに暮らしていた家族を全員を殺し笑っている奴らが、俺たちは心を入れ替えて生きていきます、だから手を取り合って生きて行きましょう!なんて言ってきて信用するか?その手を取るか?俺は無理だね」

 

 『月の都』にはそんな奴らが沢山居る。確かに天使や堕天使、悪魔も少なからず住んでいるけど、それは自分たちを理解し、相手を尊重しているから一緒に暮らしていけているだけだ。

 自分たちが悪いと理解せずに、いや、もしかしたらしているかもしれない。それでも死にたくないなんて我儘が通用するわけないだろ。

 

「お前は、人工神器(そんなもの)なんて作ってる暇があったなら、なんで部下の堕天使を監視しなかった、コカビエルの件だってそうだ。あれはお前の戦友だろ、なら、お前が隣に立ち、友として掛けるべき言葉もあったはずだ。最初に不穏な動きを見せた時点で止める事だって出来たはずだ。結局、堕天使の総督なんて名前だけのお飾りってことだろ。その癖、危なくなれば仲良くしましょうだ、そういうのはな、自分のやるべき仕事をしている奴だけが口にして良いんだよ!」

 

「全く、返す言葉もないぜ」

 コカビエルの一件は、アザゼルにとっても思う所があったらしい。

 

「だが、何と言われようと俺は部下たちを守ってやらなくちゃいけねえ」

「それでいんじゃね、俺はその上で滅ぼすだけだ」

 

 言葉は交わした。

 そして、和解という道は閉ざされた。

 なら、後は戦うのみ。

 

 両者が構え、此処からが本番だと言わんばかりに空気は張り詰めるなかで入った横やり。

 

「空気くらい読めよ」

 空中に展開された魔法陣から姿を現したのは黒色の長髪に、貴族風の衣装を着用した男。

 

「俺は真のアスモデウスの血を引く者クルゼレイ・アスモデウス!」

 アスモデウスってことは旧魔王派の一人か。

 

「首謀者の一人がご登場ってわけだ」

「堕天使の総督よ、悪いが私の相手はお前ではない。そこに人間の小僧だ!」

 わざわざ、俺の事を指さして名指ししてくる。

 

「俺?お前のことなんて知らないけど」

「真なる魔王派として、カテレア・レヴィアタンの敵討ちをさせてもらう。このオーフィスの力を利用することで、俺たちはこの世界を滅ぼし、新たな悪魔の世界を作り出す!」

 手の平を見せつけるように前に突き出すと、手の平には二匹の蛇が互いの尾を噛み、∞のマークになった魔法陣が展開されている。

 オーフィスの蛇つまりドーピングか。それって、ドーピングしないと自分は強くありません、って言ってるようなもんじゃん。

 …はぁ~、折角、アザゼルといい感じに戦いが始まるって所だったのに出てきたのがこんなザコとかマジかよ

 

「良かったじゃねえか、神無月涼。名指しの指名だぜ」

 いつの間にか『堕天龍の鎧』も解除され、元の短剣のような形に戻っている。

 完全に戦う気なしか。

 

「うるせぇ。まあ、ついでだオーフィスの魔力も消しておくか」

 クルゼレイに向かって右手を伸ばし、獣の腕から形を変化させる。

 人差し指から小指までの四本の指は一体となり、親指は横に広がり、指の腹から歯が飛び出す。

 

 その形状は、口いや“顎”と呼ぶべきものだ。

 

「『混沌獣・顎』」

 右腕そのものが何かの生物になったように上顎と下顎が呼吸するかのように動く。

「また凄まじいものが出たな」

 和平会談で涼が見せた、高熱のビームを発射した腕とは違う、そこにあるだけで捕食者という存在を感じさせるものだ。

 

「っく!化け物め!」

 クルゼレイは、俺の腕を睨みつけてくる。

 

「これでも食らえ!

 飛んできたのはただの魔力の弾。

 狙いも甘い魔力弾の嵐を躱し、当たりそうなものは右腕の顎で食っていく。

 

「なぜだ!?なぜ、オーフィスの力を使っても勝てぬ!」

 

 『混沌獣・顎』のモデルにしたのは、“フェンリル”、その特性は“捕食”。神話において軍神テュールの腕を食い、最後には、オーディンを噛み殺したと言われている。つまり、顎そのものがフェンリルの顎そのものであり、対象が何であっても捕食するのだ。ただ、食って、食って、食い尽くす。

 右腕を振りかぶると『混沌獣・顎』は鰐の顎の如く上下に大きく広がり―――顎の奥の視認出来ない暗闇が全ての等しく飲み込み、クルゼレイという悪魔の欠片も残さず捕食した。

 

 『混沌獣・顎』が閉じた場所には、最初からクルゼレイ・アスモデウスなど居なかったように、何も残ってはいない。

 

「マジかよ、旧悪魔が一撃か」

 アザゼルは、クルゼレイが一撃で殺されて事を受け入れられなかった。

 確かに、彼は、涼に比べれば弱い、だが、こうもあっさりと殺されるほど弱いわけではないが、結果は一撃。

 仮にあそこに立っていたのが、自分だったら自分は生きているだろうか、そんな事を思わずにはいられなかった。

 

「これは出遅れてしまったようだね」

 

 新しく描かれて魔法陣から姿を現したのは、魔王サーゼクス・ルシファーだ。

 

「来たのか、サーゼクス」

「ああ、アザゼル。クルゼレイ・アスモデスウの魔力が感知されたから魔王の役目を果たすべく来たんだが……」

 

「いま、食われたところだぜ」

 

 そう言いながら、俺の事を見てくる、アザゼル。

 

「そのようだね。やあ、神無月涼君」

「ああ、サーゼクス・ルシファー」

 

 形だけの挨拶を交わしそれ以上の会話は無かった。

 

「戦争以外の選択肢はないのかい」

「無理だろうよ、悪魔がいまから、人間と共存を選んでも、俺たちはそれを受け入れられない。今までにやってきたことのツケをまとめて払えるとは思えないだろ」

 

「確かに…君の言う通りかもしれない、三大勢力が他の神話勢力に協力を求めても、誰もが良い顔はしなかった」

 魔王として外交の矢面になっているサーゼクス・ルシファーやセラフォルー・レヴィアタンはその兆候を目の当たりにしているのだろう。

 日本神話は勿論、北欧は既に、俺と手を組み。

 エジプトやインド、ギリシャなどはまだ答えを出してはいないが悪魔とはあまり友好とは言えない。

 個々人で見れば多少はあるだろうが組織としては、悪魔に、三大勢力に手を貸そうとする組織は残念ながら無いに等しい。

  

「だが、それを受け入れるわけにもいかない」

 空間に出現した「滅びの力」の魔力の弾は、クルゼレイとは比較にならない威力を「滅びの力」を宿した攻撃だ。

  素早く左腕を盾の代わりとして撃ち込まれた魔力弾を防ぐと、魔力弾は腕に触れて瞬間、弾けて消えてなくなり、俺の腕に傷を与えることは出来なかった。

 

「流石にこれでは倒せないか」

「みたいだな」

 

 いくら「滅びの力」と言ってのカンピオーネの魔術、呪術の無効化を突破するのは難しいらしい、いや権能が腕を覆っている時点で、鎧を身に纏っているようなものだ、その上から攻撃を与えてもダメージを与えるには程遠いか。

 

 右腕を獣の腕に変えて戦う準備をすると。アザゼルの手の中にある『堕天龍の閃光槍』の柄頭に取り付けられたファーブニルの宝玉が反応するように輝く。

 

「お前、自身が姿を出すとはな、“無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス”」

 サーゼクスとアザゼルの視線の先には空中に腰を掛けるような体勢で浮かんでいる、オーフィスの姿があった。

  

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 

「くそ!オーフィスの蛇を使ってもこれだけ差があるのか!」

 ディオドラの魔力の弾をオレンジ色の六角形が無数に接続して生み出された魔力の盾で防ぎ、ディオドラはオーフィスの蛇を使った上でも魔力で作られてだけの盾を破る事が出来ないこと、つまり、グリューヌより自分は劣っているという現実を受け入れられず叫ぶ。

 

 グリューヌは兄のファルビウムと同様に「絶対的な防御」の魔力を宿しているがその戦い方は大きく違っている。

 ファルビウムは、受けた攻撃を魔力に変換して溜め込んだ魔力を一気に解放してカウンターを食らわせる、という絶対的な防御力にものを言わせた後手の攻撃。

 

 対して、グリューヌは同じ「絶対的な防御」の魔力を持ちながらカウンターではなく、防御力と同時に攻撃力を求めた。

 カウンターとはつまり、相手から攻撃されなくては攻撃出来ないということ。必ず攻撃が相手よりも後でなくては発動出来ない。それでは、相手が自分の防御を破る攻撃をしてきた時、自分が死亡することになる、現に、主である涼と手合わせした時には「絶対的な防御」の魔力は容易に破られた。

 

「防御が=盾だけだと思わないことです!」

 「絶対的な防御」の魔力とは盾であり鎧にもなる魔力だ。

 そこで、グリューヌは考えた。

 人間の作った武器、銃の弾丸があれほど威力があるのは、弾は軽いが速いからだ。ならば、盾や鎧の硬質つまり硬度、硬さを持つ魔力の弾を弾丸の速度で撃ちだしたらどうなるか、と。

 弾丸は、軽いが速い。

 魔力の弾は、硬くて重くてそして速い。

 

 グリューヌの周囲を漂い意思に従って弾となり放たれた卓球の球ほどの大きさの魔力の弾は、ディオドラの魔力を紙切れの様に貫通して背後の石の壁に穴をあけた。

 

「ば、バカな!」

「いうなれば、私の攻撃は鉄球を飛ばしているようなもの。手の平サイズの大きさにもなれば悪魔を殺すのに十分な威力を発揮する」

 

 グリューヌの魔力で生まれた球体はその大きさを一回り肥大化させ、卓球の球のサイズからボーリングのボールほどの大きさに変わった、つまり大きさは重さに直結し、重さは威力になる、ということだ。

 

「この僕が、お前のような奴に負けるはずないんだよ!」

 盾のように展開していた魔力を消し去り、すべての魔力を攻撃に変えた、ディオドラ。

「一つ良いことを教えてあげます……私は、貴方の事が昔から大っ嫌いだった」

 

「知るかそんなこと!」

 ディオドラは死にたくない一心で、全身全霊の魔力をビームように発射し、グリューヌは指を動かすだけでボーリングの球ほどの魔力の塊を撃ち出した。

 

 結果は分かりきっていたことだ。

 グリューヌの魔力は速度と威力は勿論、それ自体が「絶対的な防御」の魔力だ。盾そのものが飛んでいくようなもの破壊するのは難しく威力も高い、食らいたくなければ避けるのが取るべき行動だった。

 

 オレンジ色の魔力の塊を腹に打ち込まれ、石の柱に埋め込まれてオブジェクトなった、ディオドラ。

 意識は微かにあるようだが、もはや戦うなどという選択肢は取れそうにない。

 

「つ、つえー!一撃であれかよ!」

「ええ、私が知っているグリューヌはあそこまで強くは無かったわ、ファルビウム・アスモデウス様同様にカウンターをメインとして戦い方だったのだけど、攻撃活用するだけでこれだけの威力があったなんて…」

 

「リアス。ディオドラ(これ)の対処は任せます」

 石の柱から落ち、床に転がるディオドラを指さす。

 

「それは任せてもらっていいわ。それよりも小猫を何処に連れて行ったの!」

「それに関しては知らないという事しか出来ない、黒歌が彼女を説得すると言っていましたからどうなるかはわかりません」

 

「な!小猫が貴方達についていくなんてそんな事があるはずないでしょ!」

「それを決めるのは貴女ではなく、彼女ですよ。彼女の家族を引き裂いたのも元は悪魔です」

「…っく、それは…そうだけど」

「眷属を信じるのも王であり、眷属のよりよい未来を与えてあげるのも王だと思いますが。それよりも囚われている彼女を助けたらどうですか?」

 

 玉座を改造した謎の装置に囚われていた、アーシアは一誠の洋服崩壊(ドレス・ブレイク)によって救出され、既に居ない神に祈りを捧げていた。

 

 

 その時―――上空から降り注いだ光の柱。

 

 

 アーシア本人も一誠たちも反応出来ない中で、その場にいた唯一人が迅速で動いていた。

 アーシアと光の柱の間にドーム状に展開されたオレンジ色の魔力の障壁。

 障壁が光を弾く。

 周囲に弾かれた光が飛び散るが光の柱が収まると、頭を抑えたアーシアの無事な姿だった。

 

「何が!アーシア!無事かアーシア!」

 突然の出来事に一同戸惑い、一誠はアーシアの名を叫びながら走って近寄る。

「大丈夫です、イッセーさん」

 よかった、と言いながら障壁越しにアーシアの無事を確かめた一誠は膝をつく。

 

「グリューヌ…ありがと」

「これは古い友人への手向けです」

 パチン、と指を鳴らすと障壁は解除された。

 

「そ、そんな馬鹿な……確かに協力すれば、アーシア・アルジェントを僕にくれると」

 

「そんなもの嘘に決まっているだろう、そうすればお前が言う通りに行動すると思ったからだ」

 上空に展開された魔法陣から軽鎧に茶色の長髪の男が姿を現した。

 

「何者!?」

 

「忌々しき魔王の妹と弟もいるか。真の魔王ベルゼブブの正当なる後継者“シャルバ・ベルゼブブ”。グリューヌ・グラシャラボラスめ生きていたか」

 

「ええ、貴方たち程度に負けるなんて、我が主の顔に泥を塗ることになりますから。作戦でもなければ負けるわけないじゃありませんか」

 

「シャルバ!助けてくれ」

「しゃべるな、愚か者め」

 アーシアにも使われた光の柱が身動きの取れない、ディオドラにも振り下ろされた。

 

 悪魔に取って光はどれだけの鍛錬を積もうとも弱点だ。いくら強くオーフィスの蛇を使っているとしても数秒と耐えられない。

 光の柱に飲まれた、ディオドラは叫び声と共に肉片も残らずの光の中に溶けていった。

 

「一応は部下でしょうに、躊躇なしですか」

「そもそも、真の血統が旧などと呼ばれること自体が間違っている、それに貴様の抹殺もまともに行いないような者、生かしておく価値もない」

 

 あっさりと仲間を斬り捨て、自ら手を下すという行動に一誠たちは理解できなかった。

 それほど、血が大事なのかと。

 

「さて、サーゼクスの妹君には死んでもらわねば、なにより、グリューヌ!貴様のような人間風情に付き従う純潔悪魔にもな!」

 

 シャルバの身に纏うオーラが膨れ上がった。

 

 アーシアを抱きしめている一誠やリアスたちはその強大さにたじろぐが、グリューヌだけは違った。

 

「人間風情というのは、我が主―――涼様のことですか?」

 

「当たり前だ!何が異世界の魔王だ!神殺しだ!人間風情が悪魔を滅ぼすだと?笑わせるな、人間は悪魔に使われるだけの家畜に過ぎん。これから始まる新世界には、あのような者も、人間も、お前のような偽物の悪魔も必要ない!」

 

「―――わかりました。もう喋らなくて結構ですよ」

 

 その瞬間、宙に浮かんでいたシャルバは地面に押しつぶされた。

 

「がぁあああ!?」

 

 シャルバの体は上からオレンジ色の魔力の障壁によって抑えつけられ、地面とサンドされている。

 メキメキッ!と神殿の床に罅が入っていく。

 

「な、舐めるなぁあああああ!」

 オレンジ色の障壁を打ち消し立ち上がった、シャルバ。

 

「血だ、血だとくだらない。魔王となりたいのなら、魔王らしい行いをすればいいものを」

 

 グリューヌは、ディオドラにも使ったボーリングの球の大きさの魔力の塊を四つ作り出し撃ち出された。

 

「っく!この程度!」

 シャルバは手から光の柱を撃ち、迫りくるオレンジ色の魔力の塊を狙っていくが光が魔力の塊を飲み込んでも魔力の塊は進み続け、グリューヌが敵と指定した、シャルバを狙い続ける。

 

「がぁあ!ぐぅう!」

 

 シャルバの体はくの字に曲がり、ドゴン、という鈍器が振り下ろされたような鈍い音が響く。

 

「馬鹿な……なぜ、貴様ごときに真なる魔王の血筋である、私が!」

 

「そんな分かりきったことを。それは、貴方が弱いからですよ。ただそれだけ」

 

 その言葉は、シャルバの怒りを一瞬で頂点に至らせた。

 

 シャルバは右手の中に光の力を集め始めた。

「嬲り殺しにしてやろうと思っていたが、貴様など一片も残さずに消し飛ばしてくれる!」

 

 集められて光の力が、グリューヌに向かって放たれた。

 

「悪魔である以上、光の力には耐えられない!」

 

 完全に勝った気でいる、シャルバの予想に反して、グリューヌは極太の光の力を「絶対的な防御」の魔力で作った障壁ですべての光を吸収して魔力に変換していく。

 

「な!光を全て吸収しているだと!」

 

「我が主を貶す者が存在する価値などありません」

 光の力を魔力に変換して手に入れて魔力の全てをビームのようにして放った。

 

 光の力に全力を出したシャルバに迫りくる魔力のビームを防ぐ手立てはなかった。

「私が、真なる魔王たるこの私がぁああああああ!!」

 

 その言葉も全てが飲み込まれて消えていった。

 

「さて、本来なら足止めだけのはずでしたが、まあいいでしょう」

 パン、パン、と執事服についた砂埃を払い落としながら耳元に、黒歌相手に通信用の魔法陣を展開して会話をしている。

 

「……そうですか、分かりました。リアス、塔城 小猫いえ、白音と呼ぶべきでしょう。彼女は黒歌と共に生きて行くそうです」

 

「そんな、ありえないわ!」

 グリューヌの言葉を、リアスは受け入れられなかった。

 確かに、彼女が姉の黒歌と別れる原因を作ったのは悪魔だ、だが、彼女は自分の元で心の傷は癒えた。

 

「言ったはずです、眷属のよりよい未来を良き王ならば選ばせてあげるべきだと。では、私も行かせていただきましょう、ごきげんよう」

 

 一礼して、グリューヌは魔法陣の中に消えていった。

 



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