能力を高める程度の能力 (絶望先生と東方と涼宮が好きな人)
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Episode1:プロローグ

他にも連載してる作品がいくつかありますが、しばらくはこの作品メインで連載していく予定です。


「えっ? 私が今まで出会った中で恐ろしいと思った妖怪?」

 

 幻想郷の管理人こと、八雲紫は、非常に驚いたらしく頓狂な声を出した。

 

「そうだぜ!」

 

 霧雨魔理沙はいつものように無遠慮に、それでいて気さくに、紫に問いかけた。

 

「なぜそんなことを?」

「だって紫は最強の妖怪だろ? その紫が恐れた妖怪も最強に違いないぜ! 最強の妖怪を知ることができれば、私の成長にも何かしらの糧になるかと思ってな!」

「成長ねぇ……」

 

 成長、その言葉から連想する妖怪がいたそうで。

 

「一人、いたわね。正確には妖怪だから一匹かしら? まあどちらにせよ、とんでもない奴だったわね」

「ほぉ、その名は?」

 

 紫は躊躇うようなそぶりを一瞬見せたが、別に構わないと思ったのかその名前を出す。

 

「その妖怪の名前は……養成凶化(ようせいきょうか)

「ようせいきょうか? 強いのか、その妖怪?」

 

 名前だけ聞くとなんとも言えないが、紫の表情を見るに、適当に言ってるとは思えなかった。

 

「強いなんてもんじゃないわよ」

「そんなに、か?」

「ええ、とても、とても…………弱い」

「はっ?」

 

 思わず魔理沙も頓狂な声を出してしまった。

 

「弱い……のか……?」

「ええ」

「じゃあ何が怖いんだよ、全然恐ろしいとは思えないぜ?」

「逆よ魔理沙」

「へっ?」

「弱いから強くなれるのよ。ああ……思い出すだけで恐ろしい!」

「??」

 

 弱いから強くなれる。

 その言葉は努力を重ね必死に霊夢に追いつこうとしてる魔理沙にとって、力強い言葉ではあったが、その言葉の真に示唆する意味には到底気付かぬ魔理沙であった。

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 一方、ここは地底のとある所。

 

「ふふ〜〜ん、ふふ〜〜ん♪」

 

 無意識に暗い洞窟をスキップで進んでる少女が一人。

 古明地こいしである。

 

「ってあれ? ここどこ?」

 

 今日も彼女は、自分でも分からず変な場所へ辿り着く。

 そこは、普通の妖怪や人間ならば、入ろうとも思えない地底の奥の奥の洞窟……。

 

「ん、あれは?」

 

 目の前には、なんか大きな岩。

 札が貼ってある? 

 "何か"を封印しているのだろうか。

 そして、強大な力を感じるのである……この封印から。

 

「この封印……気になるなぁ……」

 

 普段のこいしならば、そんなの気にせず帰るところだが、この封印に関しては、無性に気になるのである。無意識のくせに。

 

「封印してある"何か"からは強い力を感じないのに……封印からはすごく力を感じる。労力に合わないわ! なんでこんな力もない奴に、こんな強い封印をかけたのかしら?」

 

 強い封印。

 どんな妖怪もこれを解くことはできないだろう。

 正確には、封印を解けるだろうが封印を解く気にはなれないだろう、だ。

 これを封印した賢者は考えた。

 どんなに強い封印を施しても、いずれこの封印は開け放たれてしまう。ならば、封印を解く気にさせない呪いをかければいいのだ、と。

 

 だが。無意識には関係なかった。

 

「ペラッ! ってね!」

 

 封印が解けてしまった。

 その岩の中から一人の少女が現れる。

 赤色の髪にさっぱりとした服装。腕にはオシャレなシュシュのようなものがあった。何より特徴的なのはその薄ら笑いから見え隠れする八重歯……強いはずがないのに、強そうに見える。

 

「なるほど……君が私の封印を?」

 

 その"何か"はこいしに話しかける。

 

「うん!」

「ほぉ。それはそれはありがたいね。ところで君の名前は?」

「私? 私はね、古明地こいしって言うの!」

「古明地こいし。良い名前だ。ところで、君は無意識を操る程度の能力を持ってるんだね」

「そうだよ! ……ってあれ? 私、あなたに能力のこと教えたっけ?」

「教えたんじゃないのかなぁ、無意識に」

「そっか! 無意識に!」

「うんうん」

 

 すっかりこいしは彼女と打ち解けたようで。

 続けてその得体の知れない少女は話を続けた。

 

「それにしても本当に助かった。封印を解いてくれて」

「どういたしまして! でもこの封印、解くの全然大変じゃなかったよ? 強力な力で封印されてるはずなのに、なんでかなぁ?」

「この封印は精神に影響を与える方に力をかけているらしい。まあ無意識には効かなかったらしいが」

「なるほど〜!」

「ところで助けてくれた君には是非お礼がしたい、プレゼントをしてもいいかな?」

「プレゼント? いいの!? やった、やった!」

「そうだ。無意識を操る程度の能力を強化してあげよう」

 

 その瞬間、こいしの姿はもう彼女にも見えなくなった。

 きっと、これからも、誰にも見られることはないだろう。

 

「ふふふ……八雲紫……。私は最弱最恐の妖怪、養成凶化だ!! 帰ってきたぞ! この幻想郷にぃぃ!!」

 




次回は地霊殿が大変なことになります。


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Episode2:あっけない崩壊

地霊殿は厄介な妖怪ばかりがいる場所……。
しかし、厄介者同士ならばどうなるのでしょうか。


「最近見てないなぁ……こいし……」

 

 ため息をつきながら妹のことを想ってるこのシスコンこと、地霊殿の主は、古明地さとりである。

 最近姿を見せない古明地こいしが心配らしい。

 彼女は『心を読む程度の能力』を持ち、その厄介さからか多くの妖怪に嫌われている。だからこそ、こんな辛気臭い地底にいるのだが。

 

 トントン

 

「はい、どうぞ。……お燐かしら?」

 

 しかし。

 扉が開いた瞬間、さとりは絶句する。

 

「やあ館主さん……? 初めまして。養成凶化と言います」

 

 養成凶化は決して背が高いわけじゃない。

 さとりよりは少し高いが、お燐ほどではない。

 そんな彼女が肩に背負っているのは、血まみれのお燐であった。

 

「えっ……あっ……え、え、はっ?」

 

 もう一度言おう、血まみれのお燐であった。

 自分よりもでかい妖怪を肩に背負っていることもさながら、その妖怪は決して強いオーラを放ってはいない……にもかかわらず、お燐を血まみれにしている。

 何者なんだろうか、こいつは……! 

 

「お、お燐!?」

「言っておくけどもね」

「!」

「こいつをこんな血まみれにしたのは私じゃないよ。血まみれになっていたのを、私がここに連れてきてやったのさ」

「……それは本当なの?」

「おいおい。何のための能力だよ」

「あっ」

 

 さとりは自分の能力を思い出した。

 心を読み取る。

 そして、嘘ではないことを知る。

 

「そ、そうだったのですね……疑ってしまいました……申し訳ありません……。ではお燐をこちらに。早く治療しないと……」

「まあ」

 

 彼女はボソッと言葉を放った。

 その瞬間、さとりは見た。

 凶器にも満ちたその満面の笑顔を。

 

「彼女を血まみれにしたのは、私の能力ですがね」

 

 さらにその瞬間、音が静まった。

 何もないように静かになった。

 ここは地底……それでいて地霊殿。もともと静かなことには変わりないのだが、さとりにとっては、それはとてつもない違和感だった。

 

「心の声が聞こえない……?」

 

 そう。目の前の少女の心の声が聞こえなくなったのである。

 

「彼女……お燐と言いましたっけ? 彼女は『死体を持ち去る程度の能力』をお持ちで。どちらかというと、怨霊を操れる方が彼女のメインの能力だと思うのですが、今回はあえてそちらの方を利用させてもらいました」

「死体を持ち去る程度の能力……それをどう使ったんですかね?」

「拡大解釈。いや、能力を()()()()()もらいました。死体を持ち去るためには死体が必要なので、死体を作る程度の能力になったわけです」

「へえ……それはなんとも恐ろしい能力ですが……」

 

 お燐のこと。

 目の前の得体の知れない化け物のこと。

 そして、今、自分が奴の心を読み取れないこと。

 あらゆることがさとりを焦らせた。

 完全パニック状態である。

 しかし、敵にそれを悟られてしまえば、それこそ負け戦。

 あくまで冷静に、冷静に、対応する。

 

「だけど彼女、死体を集めるのは好きだけど、妖怪に殺された死体には全く興味がないらしくてね。死体を作る程度の能力を手にしても、それを周りに使おうとしなかったのです」

「…………」

 

 そうだ。確かお燐はそうだった。

 彼女はそもそも私利私欲のために命を奪うような妖怪ではない。

 あくまで、死体となってしまった者を集めるのだ。

 手段と目的を履き違える子ではない。

 

「でも私が彼女の能力を増長、高めてしまったがために、死体を作りたい衝動に駆られてしまった。周りを巻き込みたくない気持ちがある一方でね」

「…………何が言いたいのかしら?」

「まあ、つまりね」

 

 一呼吸してから、彼女は鋭い目つきでさとりを見つめた。

 瞳は青? いや蒼色で、思わず吸い込まれそうになる色だったが、目をそらすことでなんとかさとりは気を保った。

 だが、次に紡いだ言葉によって、さとりの理性はあっけなく、崩壊する。

 

「周りを巻き込まず死体を作りたい彼女は、自分で自分の首にナイフを刺したのさ。その返り血でこんな血まみれになっちゃって……悲しいねぇ」

「!?」

「…………そんな驚いた顔でこちらを見るなよ、えっと館主さん? もしくは心を読もうとしてる? 無理無理。心を読んだところでもう遅いよ」

「それはどういうことですかっ!」

 

 さとりは怒りに狂っていた。

 お燐が血まみれなだけではなく、死んでたことが発覚した。

 そして、イマイチ仕組みは分からないものの、お燐を自殺に追い込んだのはどうやらこの悪魔らしい。

 それだけで、殺す理由に十分だった。

 

「トラウマを抉りに抉って、内側から壊してやる。決してあなたを許しはしない!」

「声に出てるぞ、悟り妖怪。まあ、そろそろ解放されるはずだ」

「解放……!?」

 

 師匠の実験からどうにか逃れられないものだろうか……。

 このままじゃいずれ死んじゃうに決まってる! 

 

「!?」

 

 今なら咲夜さんも忙しそうだし昼寝してもバレないかな? 

 あれ? 目の前にナイフ? 

 

「…………幻想郷中の心の声が聞こえて?」

 

 幽々子様は食べ過ぎですよ〜! 

 吸引力の変わらない胃袋ですよ全く! 

 

「ま、ま、待って! お、お願い……!! 頭の中に入ってこないで!? このままじゃ……!」

 

 幻想郷中の心の声がさとりの頭の中に入ってくる。

 その数はなんとも莫大で、さとりの脳の容量を遥かに超えていた。

 

「一瞬心の声が聞こえなくなったのは、私の能力によってお前の能力を高めたからだ。強大な能力を発揮するには溜めが要る。それを無意識に体が行なっていたんだろう」

「うっ……そ……そ、そんな……!」

「今は耐えられているがしばらく経てば脳の容量を遥かに超える情報量に、体じゃなく心が壊れる。意識がなくなるか……ろくに話せないくらい狂ってしまうか……まあそのどちらかだろうな」

「た、たす……」

「おいおい。まさか『助けて』なんて言わないよな? この子の仇を取るんじゃないのか?」

「ぐ……!」

 

 さとりはその場に倒れる。

 このまま目覚めないのか……また、仮に目覚めたところで会話できる状態なのか……それはまだ、誰にも分からない。

 

「素晴らしい力を持ってる奴は私に勝てないのさ。その力ゆえに」

 

 ♢ ♢ ♢

 

 これは少し前のこと。

 封印が解けて復活した最弱最恐の妖怪、養成凶化は驚いていた。

 

「地底は何もないところだと思ってたけど、まさか私が封印されてる間にこんなに発展してるとはなぁ……! 驚いた!」

 

 次に彼女は己の()()()()を高めた。

 そして、少なくともこの地底にいるあらゆる妖怪の能力を把握することに成功する。

 

「なるほど〜なるほど〜。さっきの無意識の子もそうだけど、この地底というところには変わった妖怪がたくさんいるもんだ。考えるに一番タチが悪いのはあの館にいる悟り妖怪だろうか? 私の次の手を全て読まれるとなると厄介だ。先に潰しておこう」

 

 凶化は鬼も恐れない。

 そもそも、彼女は強い妖怪ではないから、鬼に目をつけられることもない。

 この地底から抜け出そうとしても案外何事もなく成功するだろう。

 ただ、凶化の能力を把握したら最後、そんな野良妖怪のような扱いはできなくなる。どう考えても、彼女の能力は化け物だからだ。

 

「だからこそ、悟り妖怪は先に潰さなきゃならない。もし悟り妖怪に騒がれでもしたら、簡単にここからは抜け出せなくなるだろうからな」

 

 こうして、彼女は決意した。

 悟り妖怪を殺すことを。

 

 そして、今に至る。




次は紅魔館です。
ちなみにお空は妖怪の山にある間欠泉地下センターにいるため、ご主人様とお燐のピンチを知りません。
こいしはどうなってしまったのでしょうか……。無意識といえど、今までは頑張れば姿を捉えることができましたし、こいし自身も自分の意志で行動してた節はありました。ですが、今はもう完全無意識。もう古明地こいしという自我すら消えてるかもしれません。


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