浦女探偵 (梨蘭@仮面バンドライバー)
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登場人物設定集(随時更新)

黒澤探偵部

 

小原鞠莉/仮面ライダーW

 

翔太郎ポジ。浦の星女学院3年生兼理事長。父親がアメリカでホテルチェーンを経営しており、家は浦女の近くに別荘を構えている。

Wのボディサイド(ファングジョーカーの場合ソウルサイド)であり、所持メモリはジョーカー、メタル、トリガー。

 

松浦果南/仮面ライダーW

 

フィリップポジ。浦の星女学院3年生。両親はダイビングショップを営んでいる。とある事が原因で脳に地球の記憶を取り込んでしまい、組織に身を狙われている。その為浦女から遠く離れた自宅にはあまり帰れておらず、鞠莉の別荘で寝食を共にしている。

地球(ほし)の本棚という地球の全ての情報を有したデータベースで検索や閲覧が可能。

Wのソウルサイド(ファングジョーカーの場合ボディサイド)であり、所持メモリはサイクロン、ヒート、ルナ。

 

黒澤ダイヤ/仮面ライダースカル

 

特に決まったポジションはなし。浦の星女学院3年生。黒澤探偵部の部長や生徒会長も務めている。剛の娘であり、ルビィの姉。

琴や茶道、日本舞踊などといった日本の習い事を得意としている。

死人還り事件以降、剛の遺したソフト帽とロストドライバー、スカルメモリを使い、剛の遺志を継いで仮面ライダースカルに変身するようになった。

 

黒澤ルビィ

 

亜樹子ポジ。浦の星女学院1年生。剛の娘であり、ダイヤの妹。人見知りなど恥ずかしがりな面もあるが、メンタルの強さは人一倍。

依頼人の為ならどんな事にでも全力で奮起するが、少し暴走気味になってしまう事も。

 

黒澤剛/仮面ライダースカル

 

荘吉ポジ。44歳。黒澤探偵部を創った本人。浦の星女学院の前身校・内浦高校の教員であり、浦の星女学院に変わった後も特別顧問として指導をしていた。

果南を助け出す際に鞠莉と組織の巨大工場に潜入するが、鞠莉が勝手な行動をしてしまった為、凶弾に倒れ命を落としてしまう。

名前の由来はダイヤモンドの和名である金剛石の剛から。イメージCVは森川智之。

 

 

内浦イレギュラーズ

 

高海千歌

 

エリザベスポジ。浦の星女学院2年生。梨子とスクールアイドルグループ『Aqours』で活動しており、作詞を担当している。

家は旅館を経営しており、みかんが大好物。彼女の純粋な性格もあってか、1度それが原因で騙されオレンジメモリを使ってしまった事も。

 

桜内梨子

 

クイーンポジ。浦の星女学院2年生。千歌とスクールアイドルグループ『Aqours』で活動しており、作曲と編曲を担当している。

ピアノが得意。1年前の大会でスランプになってしまい、その年の大会では鍵盤に触れる事ができなかった。海の音を探す為、東京の高校から浦女に転校して来た。

 

小泉花陽

 

ウォッチャマンポジ。16歳。町についての情報に詳しく顔も広い、自称カリスマオタク。アイドルが好きであり、AqoursやA‐RISE、Saint Snowの大ファン。自分の好きな事を話し出すと止まらない。

 

津島善子

 

サンタちゃんポジ。浦の星女学院1年生。自らを堕天使ヨハネと称し、中二病な発言が多い。

動画サイトやSNSではそこそこ有名であり、フォロワーやチャンネル登録者は10万人を超えている。その人脈を活かしネットで情報収集を行ったり、動画解析等の技術で鞠莉達のサポートをする。

昔から運が悪く、綺羅家の謎を突き止めようと淡島に上陸したところダイヤモンド・ドーパントに宝石泥棒と勘違いされ拉致されてしまうが、鞠莉達に助けられた。

 

国木田花丸

 

特に決まったポジションはなし。浦の星女学院1年生。ルビィとは中学からの親友で、善子とは幼稚園からの幼馴染である。語尾に『ずら』をつけて会話する。

実家が寺である為電子機器やネットには疎いが、怪現象の知識は豊富。

内浦イレギュラーズの中で唯一Wの正体を知っている人物でもある。

 

 

その他

 

天王寺璃奈

 

16歳。感情を表に出す事が苦手で、普段から『璃奈ちゃんボード』と呼ばれるモニターマスクを着用している。

静岡県内を歩き回っているという謎の多い人物。

 

ディライト

 

シュラウドポジ。曜にアクセルドライバー等のアイテムを渡した謎の女性。外国人のような話し方が特徴的だが…?

 

 

沼津警察署

 

園田海未

 

刃野・真倉刑事ポジ。沼津警察の刑事。家は網元の名家であり、弓道などの武道を得意とする。手を抜く事を許さない真面目な性格であり、困難な事件も解決に導こうとする努力家。

 

渡辺曜/仮面ライダーアクセル

 

照井ポジ。17歳ながら沼津警察の警視という肩書きを持っている。

1年前に従姉妹の月と両親をWのメモリの持ち主に殺され、悲しみに暮れていたがディライトからアクセルメモリとアクセルドライバー、エンジンブレードとビートルフォンの4つのアイテムを渡され、仮面ライダーアクセルに変身する。

 

 

綺羅家・ガイアメモリ流通組織UTXとその関係者

 

綺羅ツバサ/テラー・ドーパント

 

琉兵衛ポジ。淡島の領有者であり、表向きの顔はあわしまマリンパークの館長。ガイアメモリ流通を取り仕切っており、絶大な権力を誇る。ドーパントとしての力は未知数である。"新世界"を創る事が目的のようだが…

 

優木あんじゅ/タブー・ドーパント

 

冴子ポジ。表向きの顔は淡島のホテル『Saint A-RISE』の社長。

いつも笑顔を振りまいているが、自分に都合の悪い物事は容赦なく切り捨て、目的の為なら手段を選ばない冷酷な面も併せ持つ。

何故かツバサを倒そうと目論んでおり、同じ目的を掲げて行動していることりと協力関係を結んだ。

 

統堂英玲奈/ナスカ・ドーパント

 

霧彦ポジ。表向きの顔はアイドルグループ『A-RISE』の元メンバー。ガイアメモリのバイヤーであり、UTXには聖良と理亞の2人より少し早く加入している。

鞠莉をライバル視しており、彼女を倒す事を目論んで何度も戦闘を仕掛けたが、自らの過ちに気づき最終的に鞠莉達と共闘する。最期は鞠莉を助けるべくあんじゅと戦うも、ナスカメモリの毒素に身体を蝕まれて動けなくなった隙を突かれ、殺害されてしまった。

 

鹿角聖良/スミロドン・ドーパント

 

特に決まったポジションはなし。表向きではアイドルグループ『Saint Snow』として活動している。ガイアメモリの売り上げ成績を認められ、妹の理亞と綺羅家に加入する。しっかり者で人当たりが良い。常に周りを見て行動し目的遂行の為に忠実に働く。理亞を貶めようとした輩を粛清したり、助言をするなど妹思いな一面も。

ガイアメモリを使ったフェイク映像による騒動に巻き込まれたり理亞がバイオレンスに襲われて以来、ガイアメモリを使う事が正しいのかどうか悩み始めている。

 

鹿角理亞/クレイドール・ドーパント

 

若菜ポジ。表向きではアイドルグループ『Saint Snow』として活動している。ガイアメモリの売り上げ成績を認められ、姉の聖良と綺羅家に加入する。聖良と正反対で少し無愛想な性格で、ファンの見ていないところでは事あるごとに舌打ちをし、表裏が激しかったが、ルビィとの出会いで以前より穏やかな性格になる。また、ガイアメモリを使ったフェイク映像による騒動に巻き込まれたりバイオレンスに襲われるという経験をして以来、ガイアメモリを使う事が正しいのかどうか悩み始めている。

 

南ことり/ウェザー・ドーパント

 

井坂ポジ。曜の家族と従姉妹の月を殺害した張本人。ウェザーメモリの能力を試すべく他にも多くの人々を殺害してきた事が判明し、警察から指名手配犯として追われる事になった。

ドーパントやガイアメモリの研究を行っており、ドライバーの改造も難なくこなしてしまう。また、ガイアメモリの複数使用の為に自身の身体を改造してしまう程の異常な執着心を持っている事からツバサからは危険視されており、聖良と理亞からは嫌悪感を抱かれている。

ツバサを倒しテラーメモリを手に入れる事を目論んでいるようだが、現時点で動機は不明。



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第1章
#1 Hの風/2人で1人の探偵


pixivで現在連載中のラブライブ×仮面ライダーWのパロディ小説です。かなまりのイメージカラーがサイクロンジョーカーというだけの軽い理由で執筆したものです。
他のAqoursメンバー、μ'sや虹ヶ咲のメンバーも出てくるので次回以降もお楽しみに!


内浦にある学校・浦の星女学院高校。

その学校の体育館のある一室で、1人の女子生徒が書類を片付けていた。

その部屋には「黒澤探偵部」と書かれたプレートが飾ってある。

 

「まったく、鞠莉さんと果南さんはこんなに書類を出しっぱなしにして…解決済みの依頼はファイルに綴じとけとあれほど言ったのに」

 

そう文句をこぼしている女子生徒の名は黒澤ダイヤ。彼女は浦の星女学院の生徒会長でもあり、黒澤探偵部の部長でもある。

黒澤探偵部とは、浦の星女学院や内浦をより良い町にする為、当時浦女の前身校・内浦高校の教員であったダイヤの父によって何十年も前に作られた部活である。黒澤探偵部には現在3人の部員が所属しており、1人がダイヤ。そのうち2人は現在、依頼解決の為外出中だ。

 

「ふぅ…やっと机の上が片付いて来ましたわ…あら?これは…」

 

ダイヤの視線の先には、埃をかぶったグレーのアタッシュケースが隠されるようにして棚に置いてあった。

中を開けると、赤と銀でデザインされた機械が3つと、黒いUSBメモリのようなものが入っていた。USBメモリには、骸骨の絵と『SKULL』の文字が。

 

「変な機械ですね。鞠莉さんか果南さんの物かしら?そうでなければ処分してしまいましょうか…」

 

そう呟きながらアタッシュケースを手に取ろうとした瞬間、部室の扉が開く音がした。

悪事を働いているという訳ではなかったが、触れてはいけない物に触れてしまったかもしれないと感じたダイヤは慌ててアタッシュケースを棚の陰へと隠すのだった。

 

「もう!鞠莉が鍵落としたとか言って何回も探したのに結局ポッケに入ってたってどういう事なのさ!」

 

「Sorry果南~、お詫びのhugをしてあげるから~」

 

「ちょ、訴えるよ!?」

 

黒澤探偵部に2人の女子生徒が入って来た。青髪を1つに結わえた少女が松浦果南、金髪の外国人のような喋り方をする少女が小原鞠莉だ。

 

「2人とも何をしていたのですか!生徒会の仕事が終わって久々に来てみたら、書類は散らかってるわ2人はいないわで1人で片付けたのですよ!?」

 

「ゴメンゴメン、2年生の子が血相変えて部室の鍵失くしたって依頼に来たもんだからさ、急いでたらこうなっちゃったんだよ」

 

「でも、無事に見つかって良かったわね♪」

 

「『良かったわね♪』じゃないよ!本来ならすぐに終わるはずだったのに、鞠莉が突然鍵失くすから大変だったんだよ?」

 

「で、失くしたと思ったら私のPocketの中に入っていたの~!しまったのすっかり忘れてたわ~」

 

「笑ってる場合かっ!」

 

そのような漫才?を繰り広げる鞠莉と果南。ダイヤは呆れて頭を抱えながらため息をついた。

 

「あの…黒澤探偵部の部室ってこちらかしら…?」

 

「その通り!私達は黒澤探偵部ですわ!」

 

「依頼なら何でも受けちゃうよ!」

 

「そして光の如く、事件を解決に導くわ~!!」

 

「ありがとう!それで依頼なんだけど、マリカ…私の友達の一之瀬マリカが数日前から失踪しているの!探してもらえませんか?」

 

依頼人の名前は永山みなみ。彼女からの依頼は、数日前に失踪した友人の一之瀬マリカを探して欲しいとの事だった。

 

「Oh!こういう依頼を待っていたのよ!本格的で楽しそうね!」

 

「鞠莉さん!そんな事を言っている場合ではありませんわ!!今すぐ探しに行かなくては!」

 

「じゃ、私はいつも通り校内で情報を集めとくよ!」

 

「頼みましたわよ!果南さん」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それにしても、まさかこんな依頼が来るなんて思ってもいませんでしたわ」

 

「本当ね~、でもそれだけ私達が有名になったという事よ♪」

 

「ですね。依頼人の期待には応えなくてはなりませんわ。絶対解決しましょう」

 

「ダイヤ!あそこから煙が上がっているわ!」

 

「何かあったみたいですね。一応調べてみましょう!」

 

ダイヤと鞠莉は煙が上がっている現場へと走る。ダイヤと鞠莉の目に入って来たのは、陥没した道路であった。

 

「凄いですわね。陥没にしては酷すぎますわ」

 

「道路が溶けてるわ。結構な熱で陥没したみたいね」

 

「えぇ、これほど奇妙な陥没の仕方は見たことがありません。この高熱が何処から来たのかも謎ですね…」

 

そう言いながら、黒髪の女性が鞠莉達に近づいてくる。静岡県警の園田海未だ。

 

「あら、園田刑事ではありませんか」

 

「もしかして、ダイヤですか?黒澤探偵部の」

 

「その通りですわ。園田刑事も見た事がないのであれば、黒澤探偵部も現場での捜査はお手上げですわね」

 

「2人も見たと思いますが、地盤が溶けています。カフェの目の前なので、カフェに恨みがあるのでしょうか…」

 

「カフェの前で陥没…?そういえばダイヤ、これに似た事件が県内でも最近起こらなかったかしら?」

 

「確か、喫茶店の近くで起きた事件でしたよね。沼津で既に3件以上発生してると…」

 

「そうです。そちらの方も調査しているのですが、依然として未解決のままです。これだけ不自然な事件となると…」

 

「ドーパントかしら?」

 

「ドーパント?って…最近静岡に頻繁に出没する怪物の事ですか?」

 

「Yes, ひとまず果南に連絡するわ。ガイアメモリを特定しなくては」

 

「ガイアメモリ?鞠莉さん、ガイアメモリとは…」

 

現場から離れたダイヤと鞠莉は、学校で聞き込みを行なっている果南に電話をかけようとする。その時であった。

 

「鞠莉さん!!何ですのあの怪物は!!」

 

ダイヤが指差す先には、炎を身にまとった異形の怪物がいた。怪物は火の玉をこちらに飛ばして来る。

 

「あれがドーパントよ!私達が事件をSearchしているのを嗅ぎつけたみたいね。口封じに私達を殺すつもりだわ!」

 

「それは不味いですわ!早く逃げないと…キャアッ!」

 

「これを使うわ!ダイヤ、私にしっかり掴まって!」

 

\スパイダー!/

 

そう言って鞠莉は黄色のUSBメモリを取り出し、腕時計に差し込む。すると、腕時計から蜘蛛のようなものが出て、電柱に絡みつく。

 

「えぇ!?何ですのそれ!?」

 

「さぁ、行くわよ~!」

 

「ま、鞠莉さん!!す、スピードが速すぎますわ!!」

 

ドーパントの攻撃を躱しながら、鞠莉とダイヤは学校の方へ戻った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なるほど、そういう事なのですね」

 

ドーパントを撒き、探偵部の部室に戻った鞠莉とダイヤは、果南と共に情報を整理していた。

そして、ダイヤはドーパントやガイアメモリの存在について知らなかった為、鞠莉と果南が2人で説明するのであった。

 

「この骨のような形をした物がガイアメモリよ。これを体に挿した人間はドーパント…さっき私達が見た怪物にChangeするの」

 

「そんな危ない物が流出していたなんて…しかも、お二人の1年の時の休学がガイアメモリの調査だったなんて」

 

「私はダイヤも知ってると思ってたんだけど…師匠から何も聞いてなかったんだ」

 

「父は連絡が取れないまま亡くなってしまったので…ドーパントの事も噂としか思っていませんでしたし」

 

「それより果南、メモリの名前はわかったかしら?」

 

「バッチリだよ。メモリ名はMAGMA(マグマ)。ここ数日でかなりの喫茶店やカフェの近くの地盤が溶かされてるから、相当恨みがあるんだろうね。ただ、次に狙われそうな場所がどうしても出てこないんだ」

 

「OK. とりあえず、もう一度場所を調べましょう。『地球(ほし)の本棚』に入れるかしら?」

 

「りょーかい…っと」

 

鞠莉の指示に従い、果南は腕を開きながら目を閉じる。

 

「鞠莉さん、地球の本棚とは…」

 

「果南はちょいと複雑な事情があってね、EarthのMemoriesが脳内に詰まってるのよ。詳しい話はまたいつかね」

 

「じゃ、検索はじめよっか。キーワードは?」

 

「最初のキーワードが『一之瀬マリカ』次に『喫茶店』」

 

果南がキーワードを入力していくと、真っ白な空間に風が吹く。風は一部の本棚を遠ざけ、数が減っていく。

 

「んー、本が減らないなぁ…」

 

「何かキーワードになりそうな物があればいいけど…そうね…さっきダイヤが『沼津の喫茶店』と言っていたから、ダメ元で『沼津市』を追加して欲しいわ」

 

『Numazu city』という単語が果南の目の前に出現すると全ての本棚が風で遠ざかり、目の前には一冊の本が残った。

 

「お、絞れた!やるじゃん鞠莉!」

 

「果南さん、マグマ・ドーパントの目的は?」

 

「マグマの正体もわかったよ。マグマ・ドーパントは失踪している一之瀬マリカ。彼女は内浦の和菓子喫茶『ひまわり』でバイトしているんだけど、『ひまわり』は市内の喫茶店が増えた事により客数が減る傾向にあるみたい。おそらくこれ以上お客さんが減らないよう、他の喫茶店を襲っていたのかもね。しかも経営者とその孫が今回の依頼人であるみなみさんだから…」

 

「みなみとOwnerを悲しませない為に今回の事件を引き起こした、という事かしら」

 

「うん。そう考えられるかも」

 

「いかなる理由があったとしても、やってはいけない事がありますわ!これ以上被害を増やさない為にもすぐマリカさんを確保しましょう!」

 

「それで、次に狙われそうな場所は『茶房 鹿角』だと思う。今回の事件が起きたところに近いからね」

 

「なら明日、そこの喫茶店に向かうわよ!」

 

 

 

その夜、淡島にある建物のレストランに5人の少女達が集まっていた。

 

「遅くなりました!渋滞にはまってしまって…」

 

「チッ…ごめんなさい」

 

「聖良、理亞、遅かったじゃないか」

 

「ずーっと待っていたのよ?退屈すぎてスクフェス始めちゃうところだったわ」

 

「まぁ、来てくれたのなら構わないわ。あなた達に大切な物を渡さなくてはならないからね」

 

\テラー!/

 

ショートヘアの少女、綺羅ツバサはガイアメモリをガイアドライバーへ挿入する。すると、彼女の姿は頭部の青い装飾が特徴的なドーパント、テラー・ドーパントへ姿を変えた。

 

「式の時間か。楽しみだな」

 

「いい式にしましょう?」

 

\ナスカ!/

\タブー!/

 

隣にいる2人の少女、統堂英玲奈と優木あんじゅもガイアドライバーを装着し、青い騎士のような姿の怪人、ナスカ・ドーパントと芋虫のような下半身の不気味な女性の怪人、タブー・ドーパントに変身する。

 

「ゴールドメモリ…私達の使うガイアメモリは他のメモリよりもパワーが強いの。コネクタを介しても一般人なら死ぬ。けど、このドライバーを使えば必要なパワーのみを抽出し、身体に影響を与えること無くドーパントに変身できるわ。最も、力を使いこなせればの話だけど」

 

「ガイアメモリの売り上げは私達がトップです。メモリを知り尽くした私達ならば使いこなせます。そうよね?理亞?」

 

「姉様、もちろん。メモリを受け取りましょう」

 

「聖良にはこっちが適合しそうだな」

 

「なら、理亞さんにはこちらのメモリが相応しそうね」

 

「私は英玲奈さんの勧め通り、これで構いません」

 

「私も姉様がいいなら。異論はない」

 

「使うメモリも決まったみたいね。これから宜しく、聖良さんに理亞さん」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、鞠莉は『茶房 鹿角』の近くで待ち伏せていた一之瀬マリカを追い詰めていた。

 

「あなたがマリカかしら?そんなCrazyな事はやめて、メモリをこちらに渡しなさい」

 

「何?邪魔しようっての?ならば燃えちゃえ!」\マグマ!/

 

しかしマリカは簡単に応じず、左腕にあるコネクタにガイアメモリを差し込み、マグマ・ドーパントに変身した。

 

「さぁ、行くわよ果南!」

 

「OK!鞠莉!」

 

鞠莉はポケットから赤と銀の機械を取り出し腰に当てると、その機械は腰に巻き付きベルトとなった。

同時に、果南の腰にも同じ物が出現した。

 

「果南さん、そのベルトって…」

 

「まぁ見てなって!」

 

そして2人は緑と黒のガイアメモリを出す。そのメモリは、昨日ダイヤが見たメモリによく似ていた。

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

果南がサイクロンメモリをベルト…もといダブルドライバーのスロットに差す。サイクロンメモリは何処かに消え、果南は意識を失ったかのように倒れた。

 

「…えっ?果南さん!?」

 

一方、消えたサイクロンメモリは鞠莉のダブルドライバーに転送され、鞠莉は転送されたサイクロンメモリとジョーカーメモリを差し込み、開いた。

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

強い風が吹くのと同時に、鞠莉の身体は緑と黒の何かに姿を変えた。

 

「あんたは…!」

 

「私は…いえ、私達は仮面ライダーW」

 

『2人で1人の探偵だよ』

 

 

「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」




<次回予告>

果南「ティーレックスメモリとの適合率が高く、一之瀬マリカを殺した犯人。それは…」

鞠莉「私達がSearchしたらAnswerが見つかったのよ」

鞠莉「あなたの事は私が…いえ、私達が止めてみせるわ!力を貸して!相棒!」

果南・鞠莉「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

次回 Hの風/あなたの罪を数えなさい


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#2 Hの風/あなたの罪を数えなさい

浦女探偵 第2話です。前回の続きとなっております。
ラストで出てくる黒澤剛はダイヤさんのお父さんという設定です。荘吉おやっさんのポジなので今後もしかしたら…?


「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

 

鞠莉が姿を変えた緑と黒の戦士は仮面ライダーWと名乗った。その目の前には溶岩を纏った怪物、マグマ・ドーパントがいた。

 

「もうっ!邪魔しないでって言ってんじゃん!」

 

「あなたを止めるためならいくらでも邪魔して見せるわ!」

 

マグマは怒りをぶつけるかの如くWに襲いかかるが、Wはそれを華麗な動きで躱し顔の辺りに強烈なキックをお見舞いする。

 

『鞠莉、この子どうやらメモリの力を使いこなせていないみたいだよ。全く手応えがないもん』

 

Wの右側の目が発光し、果南の声がする。そう、果南の意識はサイクロンメモリと共に鞠莉の身体に融合し、2人で1人の仮面ライダーになっているのだ。

 

「むしろそれで助かったわ。マグマと聞くとDangerousな言葉だけど、使いこなせていなければこちらに勝ち目は十分あるわね!」

 

『さ、早くキメちゃおうよ」

 

「さっきからバカにしてんじゃ…ないよっ!」

 

マグマはそう叫ぶと火球を発射する。あまりにも威力があった為、近くの地面は溶け、Wも思わず怯んでしまう。

 

「Oh!!使いこなせていないとは言ったものの、威力はかなり高いわ!」

 

『オマケに近づきづらいとなると…これはこっちのメモリのが良さそうだね!』

 

\ルナ!/

\ルナ!ジョーカー!/

 

果南がサイクロンメモリを抜き、代わりにルナメモリを右側のスロットに挿すと、Wの右側の緑だった方は黄色に変わる。さらに、右手がゴムのように伸び、火球を跳ね返す。

火球はマグマにぶつかり、Wは伸びた腕をそのまま鞭のように叩きつけた。

 

「果南~、まだメモリ変えなくてもよかったんじゃない?」

 

『早く終わらせたいからね。それより鞠莉、どうしようか?』

 

「もちろんメモリブレイクよ!メモリ変えたばかりで申し訳ないけど、元に戻すわね♪」

 

『りょーかいっ!』

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

Wは再びルナメモリを抜き、サイクロンメモリに戻す。Wの右側が緑に変わると、今度はジョーカーメモリを引き抜き、腰にあるマキシマムスロットに挿した。

 

\ジョーカー!マキシマムドライブ!/

 

メモリの音に合わせ、Wの身体は突風を纏い宙に浮く。マキシマムスロットのボタンを押すと、Wの身体は2つに分かれた。

 

「「ジョーカーエクストリーム!!」」

 

「キャァァァッ!!」

 

Wのマキシマムドライブはマグマに直撃し、そのまま爆発が起きた。

煙の中からはマリカが変身解除された状態で姿を現し、右腕からはマグマメモリが飛び出す。メモリは地面に落ちると、そのままパリンと音を立てて壊れた。

 

「ふぅ、これで事件解決ね!気を失ってるみたいだし、あとはPoliceに場所を伝えて帰りましょうか」

 

鞠莉がダブルドライバーに手をかけて変身を解除しようとした瞬間、突如地面が揺れだした。

 

「今度は何!?」

 

『鞠莉!下から何か来るよ!!』

 

Wの足元からは大きなティラノサウルスのような頭を持ったドーパントが姿を現した。マグマと比べるとかなりの大きさだ。

 

「こっちもメモリブレイクする必要があるわ!ここはリボルギャリーを呼びましょう!」

 

鞠莉はスタッグフォンを操作し、リボルギャリーを呼び出す。

 

 

 

その頃、浦の星女学院の理事長室ではダイヤが果南を起こそうとしていた。

果南の意識は鞠莉に同化している為、意味はないのだが。

 

「果南さん!大丈夫ですか?何があったんですの?返事をして下さい!」

 

すると突然理事長室の床が開き、ダイヤと果南の身体が落ちる。

 

「ピギャッ!?鞠莉さん!!学校にこんな物を造るなんてぶっぶーですわ…ってアァァァァァ!!動き出しましたわぁぁぁぁっ!!」

 

ダイヤが落ちたのはリボルギャリーの中であり、鞠莉は理事長室の地下深くに格納庫を隠していたのだ。

ダイヤと果南の身体を乗せたリボルギャリーは猛スピードで発進した。リボルギャリーはWの元へ数分もかからない内に到着し、ティラノサウルスのドーパントを吹き飛ばした。

 

「来たわ!」

 

しかしドーパントはこれでは怯まず、リボルギャリーに大きな頭を叩きつけた。その勢いもあってか、リボルギャリーはひっくり返ってしまう。

 

「ピギャァァァッ!あなたもう少し優しくぶつかれませんの!?というか何か半分こな怪人もいるじゃないですか!」

 

半分こな怪人とはWの事だ。ドーパントは方向を変え、Wに襲いかかる。

ドーパントの動きを見た鞠莉は、スタッグフォンを操作しリボルギャリーを動かす。

 

 

一方、その様子を少し遠くから見つめる2人の少女が。

 

「まずいわ理亞!お店が破壊されてしまう!」

 

「チッ!アイツ、巨大化できるからって調子に乗って!!姉様、片付けましょう!」

 

「えぇ」

 

\スミロドン!/

\クレイドール!/

 

聖良と理亞がガイアドライバーにメモリを挿すと、猫のようなドーパントと陶器の人形のようなドーパントに姿を変えた。2人はガイアメモリ流通組織・UTXの新しい幹部でもあるが、Wとドーパントが戦っている『茶房 鹿角』の娘でもあるのだ。

 

「一般ドーパントの分際で私達の家を壊さないで!!」

 

理亞の変身したクレイドール・ドーパントは左腕から光弾を放ち、ティラノサウルスのドーパントに攻撃する。

 

「あら?まだドーパントがいるの?」

 

『味方…?なんでティラノサウルスの方に攻撃してるのかわかんないけど…』

 

クレイドールの攻撃を食らったティラノサウルスのドーパントは、勝ち目がないと思ったのか気を失ったマリカを咥えて地下に消えて行った。

 

「Stop!待ちなさい!」

 

「チッ、逃げられた…」

 

「でもお店は破壊されずに済んだわ。帰りましょう、理亞」

 

スミロドンとクレイドールもその場から姿を消し、鞠莉も変身を解除する。

 

「あっ!果南さんやっと起きましたわ!」

 

「あいたたた…もうダイヤ、身体しっかり守っといてよ…頭ぶつけてるじゃん」

 

「な、何の事ですの?」

 

「Sorryダイヤ、急に呼び出してゴメンね!てへぺろ♪」

 

「『てへぺろ♪』じゃありませんわぁぁ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「参りましたね…余計面倒な事になってしまいましたわ」

 

「犯人はてっきりマリカだけだと思ってたけど、まさか共犯だったなんてね」

 

理事長室の地下にあるリボルギャリーの格納庫に戻った3人は、ティラノサウルスのドーパントについて作戦会議をしていた。

 

「メモリ名の検索が終わったよ。メモリはT-REX(ティーレックス)で間違えないかも。あとは犯人を絞り込むだけだよ」

 

メモリ名の検索を終えた果南が鞠莉とダイヤに話しかける。

ティーレックス。一般的にティラノサウルスと呼ばれるその恐竜は、現在知られている限りで史上最大級の肉食恐竜の一つに数えられ、約300万年もの間頂点に君臨した恐竜だ。その為、映画では脅威の象徴や最強の恐竜として描かれる事も多い。

 

「メモリの詳細を見る感じだと、あれは巨大化できる特性を持っていて元の姿は普通のドーパントと何ら変わりないサイズだよ。あとは犯人との相性次第ってところかな」

 

「あのBig bodyになる前にメモリブレイクする必要がありそうね。パワーに特化したメタルは欠かせないわ」

 

メタルというのはWのボディサイド…すなわち左側の部分の色を変え、Wのパワーや防御を上げるガイアメモリだ。

 

「それよりまずは犯人ですわ。もう一度…えー、何とかの本棚に…」

 

「地球の本棚よ、ダイヤ」

 

「それですわ。それで犯人を見つけましょう」

 

果南は意識を集中させ、地球の本棚の中へと入る。果南が目を開くと、たくさんの本棚が風のように動いた。

 

「検索を始めるよ。キーワードは?」

 

「まずは『ティーレックスメモリ』『喫茶店襲撃』『沼津市』…」

 

鞠莉がキーワードを果南に指示し、順調に検索を進める。しかし、その途中で点けておいたラジオからとんでもないニュースが耳に入る。

 

<速報です。先程静岡県の伊豆・三津シーパラダイス近くの海に、女子高生の遺体が浮かんでいるのが発見されました。遺体となって見つかったのは、現在行方不明となっている一之瀬マリカさんという事が判明しました。警察は事件と事故の両面で…>

 

「鞠莉さん、今の聴きましたか?」

 

「えぇ、おそらく共犯のティーレックスが口封じに殺害したのね。果南、キーワード追加よ。『一之瀬マリカ』」

 

「よし、絞れたよ」

 

ラジオから流れて来たのは、先程までマグマ・ドーパントに変身していた一之瀬マリカの死亡ニュースだった。

ニュースが話題を変えたのと同時に、検索を終えた果南が地球の本棚から出てくる。

 

「ティーレックスメモリとの適合率が高く、一之瀬マリカを殺した犯人。それは…」

 

果南は近くのホワイトボードに犯人の名前を書き込む。ホワイトボードには、『Minami Nagayama』の文字が。今回の事件の依頼者だ。

 

「事件を整理すると…」

 

「Stop果南。それはちゃんと彼女の口から聞くわ。今すぐ彼女の元に向かいましょう!」

 

「そっか…わかったよ。こっちはまだやる事があるから、後で合流しよ」

 

「では鞠莉さん、私達はみなみさんのところへ行きましょう」

 

果南は格納庫に残り、鞠莉とダイヤはみなみの元に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「来てくれたのね。みなみ」

 

三津海水浴場。そこで待っていたみなみの元に、鞠莉とダイヤが姿を現す。

 

「小原さん…マリカが…マリカがっ…!」

 

「泣かないで。私達がSearchしたらAnswerが見つかったのよ」

 

鞠莉がそう言うと、後ろからスタッグフォンが飛び出す。スタッグフォンは鞠莉の真横をすり抜け、みなみの鞄を切り裂く。鞄の中からは財布や携帯、そしてティーレックスメモリが出て来た。

 

「こんなマネはしたくなかったけど、それがAnswerよ。あなたが一之瀬マリカを殺したのね」

 

「あっ!違うのこれは!」

 

「もう言い逃れはできませんわ。素直に話して下さい」

 

「…そう。私達はね、他の喫茶店が許せなかったの」

 

しばらくの沈黙の後、みなみは口を開く。

 

「おばあちゃんがね、喫茶店をやってるの。でも現代の若い人はみんな『古い味だ』って他の喫茶店にばかり行くようになった…それが許せなかった」

 

「そこでバイトしていたマリカとあなたは、ガイアメモリに手を出したのね」

 

「他の喫茶店さえ潰してしまえば、私達のところにお客さんが来てくれると思ったの。でもマリカはメモリを使ってすぐにおかしくなった。学校まで休んで行方を眩ましたの。だからあなた達の元を訪れてマリカを探してもらった」

 

「ですが、マリカさんが見つかるという事はあなたがガイアメモリを使う事がバレるという事でもある。だから自分が罪を被りたくなくてマリカさんも殺した…という事ですよね?」

 

「悪気はなかったの!仮面ライダーとマリカの戦いを見たその場の思いつきで、気づいたら…お願い。もうしないから見逃して」

 

「そうは行かないよ。あなたはもう罪を犯したんだから」

 

鞠莉が口を開いた瞬間、突然後ろから声がした。振り返ると、ハードボイルダーから降りた果南がこちらに近づいて来た。

 

「結局自分が可愛かったんでしょ?いずれバレそうになったら仮面ライダーごと殺すつもりだった。その場の思いつきなんて嘘だよ。それに…」

 

「そんな事で何年の付き合いの友達を躊躇いなく殺してしまうぐらいだから、あなたの内心じゃマリカはそれくらいの存在なのよ。そんなのは友達じゃないし、メモリ絡みじゃなくてもきっとあなたはマリカを裏切ったと思うわ」

 

「作り物の涙なんて要らないよ。こっちには全部お見通しだから」

 

「罪を償うのよみなみ。警察ももう来るわ」

 

鞠莉と果南が横にはけると、遠くから数台のパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 

「さぁ、みなみさん。メモリを渡して下さい」

 

ダイヤがみなみの元に歩み寄ろうとする。しかし、みなみはダイヤの手を振り払った。

 

「あなた達、血も涙もないのね。もういいわ。それならここでみんな死んでもらうから」

 

\ティーレックス!/

 

「ッ!やめっ…キャァッ!」

 

みなみはティーレックスメモリを肩のコネクタに挿すと、衝撃波が巻き起こり鞠莉達を吹き飛ばす。

そして、みなみはティーレックス・ドーパントへと姿を変えた。

 

「グワァァァァッ!!」

 

ティーレックスの咆哮に周囲の物は吹き飛ばされる。その咆哮は近くを走っていた小型トラックでさえ軽く吹き飛ばしてしまう。

ティーレックスは自身の咆哮で壊れた近くの建物の瓦礫を身に纏い、先程Wと戦った巨大な姿のビッグ・ティーレックスに姿を変えた。

 

「もうメモリの力に呑まれてるね。平和に解決するのは無理だとわかってたけど」

 

「みんな食ってあげるわ!あなた達もおばあちゃんをバカにした奴らも!」

 

「あなたの事は私が…いえ、私達が止めてみせるわ!力を貸して!相棒(果南)!」

 

「言われなくてもわかってるよ。ダイヤ、私の身体お願いね」

 

「はい?」

 

鞠莉は腰にダブルドライバーを装着する。それと同時に果南の腰にもダブルドライバーが出現した。2人はガイアメモリを構え、スイッチを押す。

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

果南がサイクロンメモリを右側のスロットに挿す。サイクロンメモリは鞠莉のドライバーの右スロットに転送され、ジョーカーメモリと同時にスロットに挿し込み開くと、強い風が鞠莉を取り囲み、Wに姿を変えた。

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

「えぇ!?鞠莉さんがあの半分こ怪人だったのですか!?」

 

『私もいるけどね。あと、ぼーっとしてると身体ぶつけるよ』

 

果南の意識は完全に鞠莉と一体化し、抜け殻となった身体をダイヤが慌てて落ちないようにキャッチする。

 

「ほっ!そういう仕組みなのですね。理解しましたわ!」

 

「ダイヤは安全な場所に隠れてて!ここは私達に任せて!」

 

「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

 

Wは左腕をティーレックスに向けて決め台詞を放つ。決め台詞を受けたティーレックスはWに襲いかかり、頭部を叩きつけようとしてきた。

 

『正面突破ってやつかなん?だったらこっちも攻めるよ!』\

 

ヒート!/

\ヒート!ジョーカー!/

 

右側の色が赤に変化したWは右腕に炎を纏い、襲いかかってきたティーレックスの頭部を数発殴る。しかし、頭が大きい事もあってかなかなかダメージを与えられない。

 

「なかなかしぶといのね。メタルに変えましょうか」

 

\メタル!/

\ヒート!メタル!/

 

Wの左側が銀色に変化する。さらに、Wは背中に背負った長い棒のような武器・メタルシャフトを手に取り、炎を纏いながら攻撃する。1発目を叩き込んだ時、ティーレックスが頭を引っ込めた。先程より効いているようだ。

 

『攻撃に特化したヒートメタルにしといて正解だったね。ゾクゾクするよ』

 

しかし、ティーレックスの攻撃はそれだけではなかった。身体からスクラップをWに向けて発射したのだ。メタルはパワーと引き換えにスピードがダウンしてしまうので、避けきる事ができず直撃してしまう。

 

「キャッ!向こうも戦法を変えてきたわね…果南ならどうする?」

 

『スピードが出ないなら乗り物で補えばいいと思うなぁ。ハードボイルダーをタービュラーユニットに付け替えて弱点の頭を狙おっか』

 

果南がスタッグフォンを操作するとリボルギャリーが到着する。Wはハードボイルダーに乗り、車体後部を赤のユニットに付け替える。空中戦に適したバイク・ハードタービュラーの完成だ。ハードタービュラーが空高く飛ぶと、Wはティーレックスのスクラップ攻撃を避けながら頭部にメタルシャフトを叩きつけた。

 

『よし、このままメモリブレイクするよ!2人で息を合わせるよ、鞠莉』

 

「では、Finishと行くわよ~!」

 

鞠莉はドライバーからメタルメモリを抜き、メタルシャフトのスロットに挿し込む。

 

\メタル!マキシマムドライブ!/

 

メタルシャフトは高熱の炎を纏い、Wはティーレックスに特攻して行く。ヒートメタルのマキシマムドライブだ。

 

「「メタルブランディング!!」」

 

ティーレックスは最後の反撃と言わんばかりにスクラップを飛ばすが、全て避けられてしまい、メタルブランディングを頭部に食らってしまった。

ティーレックスの身体は大きく爆発を起こすと、変身解除したみなみが砂浜に落ちて行く。Wはメモリを真っ先にルナとジョーカーに変え、みなみの身体を支える。肩からはティーレックスメモリが飛び出し、そのまま空中で砕け散った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Report (報告書)

 

Minami went to the police. Marika died. I pray for her compensating for a crime as it is.

I think that the heart that has been warped has made this case. I felt that I had to think about a bond taking advantage of this.

(みなみは警察、マリカは帰らぬ人となった。私はこのまま彼女が罪を償う事を祈っている。

今回の事件は歪んだ心が作ってしまったものだと思う。私もこれを機に絆について考える必要があると感じた)

 

「お、報告書作ってるんだ。読ませてよ」

 

「OK.こんな感じでどうかしら?」

 

果南は鞠莉がパソコンに打ち込んだ英文の報告書を読む。その間、鞠莉はメモリのバイヤーについて考える。

 

 

 

というのも事件解決後、鞠莉はとある人物に聞き込みをしていたからだ。

 

『あ、鞠莉ちゃん。待ってたよ』

 

『Hello花陽、頼んでいた情報について何かわかったってホント?』

 

『何でも目撃情報らしいんだけどね、永山さんと一之瀬さんが2人でバイヤーからガイアメモリを購入するのを見た人がいるって』

 

彼女の名は小泉花陽。ネットの情報に詳しい(自称)カリスマオタクである。

 

『そのバイヤーがどんな人とかはわかったの?』

 

『なんか逆光で顔はよく見えなかったらしいんだけど、長いストレートの髪をした女の人だったみたいだよ』

 

メモリを配っているのが誰なのかはまだわからないが、鞠莉は早く正体を掴みそれを止めたいと思うのであった。

 

 

 

(このTownは私の大切な場所。メモリで辛い思いをしている人を私が助けなきゃ。あんな事ももう起こさないように…ね)

 

鞠莉は目を閉じる。フラッシュバックするのは、ダイヤの父・(たけし)が凶弾に倒れる光景。大切な師匠を奪った組織への憎しみや悲しみは消える事はなく、彼が戻ってくる事もない。

だったらせめて、今を生きる人に同じような思いをして欲しくない。その為に鞠莉は戦い続けているのだから…

 

「ねぇ鞠莉、読んでて思ったんだけどさ、この私ってところを私 "達" って複数形に変えて欲しいなぁ。というかここは絶対複数形であるべきだよ」

 

「あら、確かにそうね♪何と言っても私達は2人で1人の探偵で仮面ライダーだもの♪」

 

「ちょ、鞠莉苦しいって…てかさりげなく胸触るなって言ってるじゃん!」

 

「あら?バレちゃった?」

 

「気づかない方がおかしいから!訴えるよ!?」

 

「果南~!そんな事言わないでよ〜、私の事好きな癖に♪」

 

「もうそれ以上やるな~!ホント警察呼ぶからね!?」

 

「お二人共静かにしなさい!!他の部の人がみんな見ていますわよ!!」

 

黒澤探偵部の部室に、3人の賑やかな声が響くのであった。




<次回予告>

果南「なんか最近、この学校の2年生の子が転校生の子と2人でスクールアイドル?っていうの始めたらしいよ」

???「千歌ちゃんがおかしくなっちゃったんです!」

ダイヤ「あなた、確か千歌さんとこの前生徒会に来た転校生の…」

???「あ~美味しい!最高にいい気分だなぁ♪」

ナスカ「その身体、真っ二つに引き裂いてやろう」

鞠莉「あなたに負ける訳にはいかないわ!」

次回 Fなアイドル/禁断の果実


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#3 Fなアイドル/禁断の果実

禁断の果実にオレンジ…鎧武がチラつく第3話です。
ちかりこ初登場です。準レギュラーなので今後もちょくちょく出てきます。


桜が咲く時期となった4月の第2土曜日。この日も黒澤探偵部の部室には3人の姿が。

 

「鞠莉さん、果南さん、おはようございます」

 

「あらダイヤ!シャイニー♪」

 

「おはようダイヤ。その手に持ってるのは何?」

 

「親戚の方から頂いたみかんですわ。お二人もどうです?」

 

「Oh! I love orange!!喜んで頂くわ!」

 

「私も貰おうかなぁ。あっ、それより2人共聞いた?」

 

「何をです?」

 

「なんか最近、この学校の2年生の子が転校生の子と2人でスクールアイドル?っていうの始めたらしいよ」

 

「そういえば最近屋上から声が聞こえてくるわね。One,Two,Three,Fourって」

 

「あっ!!なんか聞き覚えがあるかと思いきやあの方ですの!?まったく、私はまだ部として認めていないというのに…」

 

「ダイヤ、何か知ってるの?」

 

ダイヤの話曰く、最近過疎化などによって生徒が少なくなっている浦の星女学院の入学希望者を増やそうと2年生の高海千歌という生徒が、転校生とスクールアイドルを始めたいと創部申請に来たらしい。当のダイヤは部員不足で承認しなかったらしいのだが。

 

「School idol!?良いじゃない!何故承認しなかったの?」

 

「部員が5人集まらなければ認める訳にはいきませんわ。それに2年生になって始めるのは遅いでしょう」

 

「え~!私なら真っ先に承認したわよ?」

 

「鞠莉さんはいつも先の事を見据えなさすぎですわ!もっと…」

 

ダイヤは『計画を立てて行動して下さい!』と言おうとしたが、鞠莉が体育館の方のドアを見た事で言うのをやめ、そちらを振り返った。

外には浦女の制服を来たロングヘアの女子生徒が。

 

「あの、黒澤探偵部の皆さん!助けて下さい!」

 

「お、依頼人?どうしたの?そんなに慌てて」

 

「ち、千歌ちゃんがおかしくなっちゃったんです!」

 

「あなた…確か千歌さんとこの前生徒会室に来た転校生の…」

 

「桜内梨子です…それより大変なんです!とにかくこっちへ!」

 

「大事件の予感ね。行きましょう2人とも」

 

梨子に連れられ、屋上に向かった鞠莉達は1人の蜜柑色の髪をした少女がダンスを練習しているのが目に入った。

 

「あれがチカっち?別に普通じゃないかしら?」

 

「チカっちって…鞠莉さん、勝手にあだ名を付けないでください…」

 

「やっぱそう見えますよね?でも、しばらく練習を見てて下さい…」

 

4人の人影に気づいたのか、千歌が梨子達の元へ近づいてくる。

 

「あ~!梨子ちゃん遅いよぉ!…ってダイヤさんもいるじゃないですか!」

 

「千歌さん?どういうことですの?私はスクールアイドルを許可した覚えは…」

 

「まぁまぁダイヤ、それより私はスクールアイドルの練習が見てみたいなぁ。何か1曲踊ってよ」

 

果南は説教をしようとするダイヤを落ち着かせ、千歌達にダンスをするように頼んだ。

その申し出を受け入れた千歌と梨子は自分達で作ったらしいオリジナル曲を踊り始めた。2人とも始めたばかりでところどころダンスが拙い部分もあったが、むしろ始めたばかりにしてはかなりできている方であった。

 

「2人とも、なかなか練習しているのですね。遊び半分だと期待はしていませんでしたが…」

 

「スクールアイドル…なかなか興味深いなぁ~、ゾクゾクするよ」

 

「So good!!」

 

「やったぁ!3年生に褒められた!」

 

「この調子で頑張りましょ、千歌ちゃん!じゃあ休憩にしようか」

 

「は~い!」

 

千歌の返事と同時に梨子が鞠莉達の元へ近づいてくる。そして耳元でこっそりと、

 

「これで様子がおかしいのがわかると思うので、見ていて下さい」

 

と耳打ちしてきた。

すると、千歌は鞄の中から溢れる程のみかんを取り出し美味しそうに食べ始めた。

 

「千歌ちゃんがおかしいっていうのはあれの事なんです」

 

しかし、鞠莉達は頭にクエスチョンマークが浮かぶだけであった。無理もない。目の前にいるのは、みかんを食べている少女でおかしいところは特になさそうだったからだ。

 

「あれがおかしいのですか?千歌さんは単にみかんが好きなだけではないのですか?確かに量は多いような気もしますが…」

 

「私も最初はそう思ってたんですけど、2日前から急にあんな感じになっちゃって…前からみかんは好きだったけど1個か2個ぐらいしか食べてなかったんです」

 

「みかんにハマっただけじゃないの?」

 

「みんなに相談しても、理事長と同じで『ハマっただけじゃない?』って言って信じてくれなくて、黒澤探偵部の皆さんならわかってくれるかなぁと思って依頼に来たんですけど、気のせいなのかな…」

 

「ん?何処からかみかんの匂いが!ちょっと見てこよう!」

 

突然、千歌がみかんの匂いを嗅ぎつけたらしく屋上から校舎の中にいなくなってしまう。

あとを追うと、黒澤探偵部の部室に行き着いた。そこで鞠莉達が目撃したのは、ダイヤの持ってきたみかんを平らげる千歌の姿であった。食べた数は、既に20個以上は軽く超えていた。

 

「ちょっと!わざわざここまで来てみかんを食べなくてもよくないですか!?もう殆ど残ってないじゃないですか!!」

 

「え~!だって食べたいんだからいいじゃないですか~!みかん返して下さい!」

 

「これは私が親戚から頂いた物です!これ以上はぶっぶーですわ!!」

 

その様子を見て、鞠莉はようやくこの状況に疑問を持った。

 

「確かにおかしいわね。鞄の中にまだあれだけ残っていたのに部室のみかんまで食べてしまうなんて」

 

「しかも食べたいから、って理由だけでここまでするんだもん。普通の高校生ならそれくらいの善悪の区別は付けられるはずだよね」

 

「やっぱり気のせいじゃないですよね?実は、昨日千歌ちゃんの家に泊まったんですけど…」

 

そう言って梨子は自らのスマートフォンに保存してあった写真を鞠莉達に見せる。そこには美味しそうにみかんを頬張る千歌の姿があった。隣では姉とおぼしきショートヘアの女性が呆れた顔をして白米を口にしている。そして、ここで2人は更におかしな事に気づく。

 

「これ、周りにあるのは夜ご飯のおかずだよね?お姉さんがまだご飯を食べてるのに、千歌だけこんなにみかんを食べてるなんて」

 

梨子曰く、昨日も千歌の姉がご飯を用意したらしいのだが千歌は要らないと断り、代わりにみかんを多く食べていたらしい。ちなみにその時に飲んでいた物も、みかんジュースだったそうだ。

 

「まさかとは思うけど…チカっち、ガイアメモリでも使ってるのではないかしら?」

 

「ガイアメモリ?」

 

「えぇ、もしかしたらその副作用で理性がおかしくなりかけている可能性があるわ」

 

「ガイアメモリって言うのはこの気持ち悪い形のUSBメモリみたいなやつだよ。闇社会で違法取引されている危ない物なんだよ」

 

「ん?そういえばこの前千歌ちゃんがこれに似たようなのを…」

 

梨子が何か言いかけた瞬間、突然ダイヤの身体がこちらに飛んで来た。千歌が突き飛ばしたらしい。

 

「もう!じゃあいいですよ!これでみかんの補給をしますから!」

 

千歌が取り出したのは赤い色のガイアメモリだった。メモリには切り開いたみかんのような絵が描かれている。

 

「やっぱり!チカっちはドーパントだったのね!」

 

\オレンジ!/

 

オレンジメモリを起動させると、千歌の右頬にコネクタが浮かび上がった。

千歌はそこにガイアメモリを挿し、オレンジ・ドーパントに姿を変えた。オレンジ・ドーパントは身体がみかんのように丸くなっており、頭にはみかんのヘタがついたオレンジ色の帽子を被っている。

 

「あ~美味しい!最高にいい気分だなぁ♪」

 

「そんな…千歌ちゃんがみかんの怪物になっちゃった…」

 

「鞠莉、ダイヤ、行こう!」

 

「すみません…梨子さんはここで待っていて下さい。すぐに戻りますので」

 

3人は千歌が出て行った方に向かう。

グラウンドに出て誰もいないのを確認した後、鞠莉はダブルドライバーを装着、そして果南と共にガイアメモリを構える。

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

「ほっ!果南さんキャッチ成功ですわ!」

 

鞠莉と果南はWに変身し、オレンジの姿を探した。すると、校舎裏の坂を登って行くオレンジを発見した。

 

「見つけたよ、鞠莉!」

 

「逃がさないわ!」

 

\トリガー!/

\サイクロン!トリガー!/

 

Wがトリガーメモリをドライバーに挿すと、左側の色が青に変わる。胸元にはトリガーマグナムが出現し、オレンジに向けて風を纏った弾丸を発射する。

 

「痛い痛い!痛いよぉ!」

 

「速攻でキメてあげるわ!これでも食らいなさい!」

 

\サイクロン!マキシマムドライブ!/

 

「「トリガーエアロバスター!!」」

 

弾がオレンジに放たれた瞬間、何処からか青い弾丸が飛んで来て、エアロバスターを相殺してしまう。

すると、横からナスカ・ドーパントが現れ、手に持っていたブレードでWを切り裂く。

 

「キャッ!あなたは何者!?」

 

「早く逃げた方がいい。メモリをブレイクされてしまうよ」

 

「あ、ありがとう!」

 

「待ちなさ…ッ!」

 

「悪いが彼女の元には行かせない」

 

「邪魔をしないで!」

 

『鞠莉、こいつメモリドライバーをしてる。組織の幹部だよ』

 

果南が指した方を見ると、ナスカの腰にはガンメタリックのような色をしたドライバーが着いていた。UTXの幹部がメモリを安全に使用する為に装着するガイアドライバーだ。

 

「初めまして、かな?仮面ライダー。今君を初めて見たが、私がここまで倒したいと思ったのは君が初めてだ。その身体、真っ二つに引き裂いてやろう」

 

「面白い事言ってくれるわね!やれるものならやってみなさい!」

 

『鞠莉、さっきも言ったけど相手は組織の幹部だよ。気をつけて!』

 

「わかってるわ!これに変えるわ!」

 

\ヒート!/

\メタル!/

 

\ヒート!メタル!/

 

Wは赤と銀に色を変え、ナスカの攻撃を受け止める。ナスカはブレードを縦に振りWを切り裂こうとするが、Wも負けじとメタルシャフトでナスカの攻撃を受け止める。

 

「なかなかやるようだな。流石仮面ライダーだ。だが、そのメモリでは私のスピードについていけないぞ」

 

ナスカはWの一瞬の隙を突き、メタルシャフトを弾くと腹部をブレードで2,3回切り裂いた。ナスカはスピードに秀でている為、スピードの落ちるメタルでは相性が悪かった。ナスカのスピードに着いていけないWは、その攻撃に弾き飛ばされてしまう。

 

「くっ!果南、私に考えがあるの!少しDangerousだけど付き合ってもらえるかしら?」

 

『なんか嫌な予感するんだけど…乗ったよ!』

 

ナスカは地上絵のような翼を展開し、空からW目がけてブレードを振り下ろす。しかしWはそれを受け止め、メタルメモリをドライバーから抜いた。

 

\トリガー!/

\ヒート!トリガー!/

 

「何っ…?」

 

「この町はあなた達の物じゃないわ!」

 

ヒートトリガーとなったWはナスカの腹部にマグナムの銃口を向け、炎を纏った弾丸を連射した。弾丸をもろに浴びたナスカはその場で爆発を起こす。

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

『もう…こんな事だろうと思った…鞠莉ったら無茶するんだから…』

 

ヒートトリガーは相性が良すぎて強くなりすぎてしまうあまり、火力が最も高く不安定で危険な為、トリガー系のフォームの中では逆に使いづらいデメリットを持つ。

そのまま果南は意識を失い、Wは変身が維持できず解除されてしまう。

 

「はぁ…今日はもう身体が限界だわ。ゆっくり休まないと…」

 

鞠莉はよろよろとした足取りで学校へ戻って行った。

 

 

 

その夜、淡島にある巨大な屋敷では4人の少女がいつものように食事をしていた。談笑していると、英玲奈が中に入ってくる。

 

「只今戻った。すまない」

 

「お帰りなさい。遅かったじゃない、英玲奈」

 

「あぁ、仮面ライダーと戦ってきた」

 

「どうだったの?仮面ライダーは倒せたの?」

 

「ダメだったよ。むしろ逆にやられてしまった」

 

「あら、そうなの?だらしないわよ英玲奈」

 

「すまないあんじゅ。だが久々に倒しがいがある相手に出会えた気がする。次までに訓練を積んでおくよ」

 

「期待してるわよ英玲奈。いい報告を待っているわ」

 

「私達より先に綺羅家に加入したのにそのザマじゃ勝てないんじゃないの?普通にダメだった事を報告してる時点でおかしいと思うけど」

 

「理亞、年上よ。口の利き方に気をつけなさい」

 

「チッ。ごめんなさい、姉様」

 

「そうだな。これでは聖良と理亞に示しがつかないと反省している。善処しよう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、鞠莉は千歌の家である旅館を訪れていた。どうやら家には帰っているらしい。中に入ろうとすると、旅館の横側で1人の少女が2階の部屋を覗いているのを目撃した。

 

「あなた?そこで何をしているの?」

 

鞠莉が話しかけたのは浦の星女学院の制服を着た少女だった。何処と無く千歌に似ているが、髪色や目が僅かに暗めだ。

 

「チカっち…じゃないわね。誰なの?」

 

「あ、理事長。私は2年の支倉かさねと言います。って、理事長だからご存知ですよね」

 

「そういえばそんな生徒もいたわね。チカっちにあまりにも似てたから間違えてしまったわ」

 

鞠莉は浦の星女学院の3年生でもある。鞠莉の父親と浦女の前理事長は昔から交流があり、毎年多額の寄付をしている事から今年の春より忙しい父の代わりに鞠莉が理事長に指名されたのだ。その為鞠莉は生徒をある程度把握しているが、かさねと千歌は身内でないにもかかわらずよく似た容姿をしている為気づかなかった。

 

「よく似てるって言われるんです。他人の空似って言うのかなこういうの」

 

「それで、かさねはどうしてここに?」

 

「高海さんが2日前から朝から晩までみかんばかり食べていて心配になったので様子を見に来たんです。昨日も会長と揉めてたし…」

 

「私も聞いたわ。でも大丈夫!実は黒澤探偵部に依頼が来たのだけど、このマリーがいるからには心配いりません!ちゃんと解決してみせるわ♪」

 

「そっか、理事長は黒澤探偵部の部員でもありましたね。じゃあ、頑張って下さい」

 

そう言ってかさねは旅館から去って行った。すると、入れ違いに隣の家から梨子が現れた。

 

「あの…千歌ちゃんの事なんですけど…まだ解決してないんですか?」

 

「Sorry, 昨日仮面ライダーが援護に来たのだけど、別の敵に邪魔されてチカっちには逃げられてしまったの」

 

鞠莉は自分達が仮面ライダーという事を知られないよう、昨日の事を伝える。

 

「そうなんですか…私、千歌ちゃんに出会ってスクールアイドルを始めて…この1週間あっという間だったんですけど、ここまで楽しいと思った事はなかったんです」

 

そう言って梨子は自分の過去を語り始める。梨子は東京の音楽が有名な高校でピアノに打ち込んでいたのだが、去年からスランプに陥ってしまい、その年の大会では鍵盤さえ触れられずに終わってしまったらしい。

そこで海の音を探すべく、梨子はこの内浦に引っ越して来たのだ。この町に来てすぐに千歌と出会い、自分の輝きをいつか見つけられるようにスクールアイドルを始め、辛かった気持ちも少しずつ変わっていったと言う。

 

「私を変えてくれて感謝してるんです。私にとって大切な友達なんです…千歌ちゃんはみかんの味を味わってるだけって言ってて、多分悪い事は何もしてないと思うんです。でもこのままじゃ何か取り返しがつかない事をしちゃうんじゃないかって心配で…だからっ!千歌ちゃんを…元に戻してくれませんか…?」

 

「もちろんよ。言われなくてもそうするつもり。仮面ライダーほど力はないかもしれないけど、探偵としてベストを尽くすわ」

 

「ありがとうございます…理事長…」

 

「No,No. マリーでいいわ。私は理事長である前に生徒だから。みんなと分かり合いたいと思っているの」

 

「じゃあ、鞠莉さん。申し訳ないけど、千歌ちゃんをお願いします…」

 

梨子の言葉に鞠莉は笑顔を見せながら頷いた。

 

「ねぇ梨子、1つ確認したいのだけどチカっちって結構純粋そうよね?ガイアメモリを上手くチカっちから奪いたいのだけど…ほら、みかんで引き付けてTrapに嵌めるとかできないかなぁと思ったのよ」

 

「まぁ…確かに結構騙されやすそうですけど…」

 

「騙されやすそう…?梨子!!あなた賢いわ!!Very cleverよ!!」

 

「鞠莉さん?」

 

「まだ予想でしかないけど、私の中で1つAnswerが出たわ!ありがとう梨子!」

 

鞠莉はそう言うと、どこかへ走り去って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ダイヤさんが謝りたくてみかんをくれるって言うから来たのに…まだかなぁ」

 

その日の16:00、千歌はダイヤに呼び出され、学校のグラウンドでダイヤを待っていた。しばらく待っていると、校舎の方の階段からダイヤが降りてくる。

 

「千歌さん、こっちです。来てもらっても大丈夫ですか?」

 

「あ、ダイヤさん!来てたんですね!今行きます!」

 

千歌がダイヤに近づこうとした瞬間、コウモリのようなカメラが千歌の目の前に現れ、強烈なフラッシュを千歌に浴びせた。

 

「うわっ!?眩しい!!」

 

その隙にダイヤは千歌の履いているズボンのポケットからオレンジメモリを抜き取り、後ろにいた鞠莉に向かって投げた。

 

「ダイヤ、バットショットもよくやってくれたわね!Congratulationよ!」

 

バットショットというのは、先程のコウモリ型のカメラの名前だ。

これらはメモリガジェットと呼び、ギジメモリをセットする事で自動で変形し動いてくれる便利な機械である。メモリガジェットはバットショット以外にも、鞠莉が腕に身につけているスパイダーショックやリボルギャリーの操作に使うスタッグフォンを所持している。

ちなみに、普通の携帯電話やカメラ、腕時計としても使用可能だ。

 

「相変わらず手荒なマネだけど、しょうがないよね」

 

「あ!理事長!それ返して下さい!みかんが食べられなくなっちゃう!」

 

「そういう訳にはいきません!これは私が預かります!これは危ない物なのよ?」

 

「千歌としてはみかんの味をいつでも味わえるから使っていたい物かもしれないけど、ある意味それって依存症みたいなもんだよ」

 

「ガイアメモリは麻薬と同じなの。しかもそのメモリは力が強いから、あまり使用し過ぎると死ぬわよ?せっかくSchool idolを始めたのにできなくなってもいいの?」

 

千歌はその言葉にハッとなり黙り込む。鞠莉と果南の後ろには、心配そうな顔で千歌を見つめる梨子の姿が。

 

「あなたは自分のエゴの為にそうやって彼女から未来の可能性を奪おうとした。それは許される事じゃないわよ…かさね?」

 

「もう逃げられないよ?いい加減出てきなよ」

 

その言葉に、後ろから1人の女子生徒が歩いて来る。それは、鞠莉が朝出会った2年生の支倉かさねだった。

梨子もそれは予想できなかったらしく、驚いたのか目を見開いている。

 

「支倉さん?どういう事なの?メモリ持ってるのは千歌ちゃんじゃ…」

 

「確かにメモリを持ってるのはチカっちよ。でもそれは"騙された"から。彼女に」

 

「騙された?」

 

「さっき梨子と会う前に彼女と話したのよ。その時にかさねはこう言ったの。『2日前から朝から晩までみかんばかり食べていた』とね。おかしいと思わない?学校で姿を見る昼間ならともかく、朝と夜も食べている事を知っているのは不自然よ」

 

「梨子ちゃんは一昨日、千歌の家に泊まったから知っていてもおかしくない。それは千歌を常に見ている人しかわからないはず。それ以外で知ってる人がいるとしたら、梨子ちゃんが相談した千歌の友達だろうけど、みんな『ハマっただけ』だと信じていなかったみたいだし」

 

「確かに…そういえば私、支倉さんには千歌ちゃんの事相談してない…」

 

「あなたはずっとチカっちを観察していたのよ。だから昨日ダイヤとチカっちが揉めていたのも知っていた。観察する事でメモリの効果も確かめていたんでしょう?」

 

「そんな!そうだったの!?かさねちゃん!!」

 

「バレちゃったか。そうだよ!私はアンタが大嫌いなの!勉強もできないしおっちょこちょいな癖に私に似たような見た目してて!自分がバカにされてるみたいで嫌だったの!」

 

そう声を荒らげながら、かさねはメモリの入手経緯を語り始めた。

 

「5日前の放課後にね、長い髪の女が私にガイアメモリを勧めてきたんだ。その時にたまたま選んだオレンジメモリが『効果が強いメモリだ』って言われたから、これを使って人生めちゃくちゃにしてやろうと思った。だから『プレゼントしたい人がいる』って女からコネクタってのを打ち込む機械を借りて、次の日に『これを使えばみかんがいつでも食べれる』って嘘吹き込んで打ってやったんだよ!バカだよねこの子!こんなくだらない嘘に騙されるんだから!!」

 

「けど残念ね。チカっちとオレンジメモリは適合率が他の人と比べて高く、メモリの力もコントロールできていたから罪も犯さなかったし、すぐに死ぬ事もなかった」

 

「オレンジメモリについて検索した結果、毒性が強いから体質が合わなきゃ3~4日ほどで死亡してしまう上、オマケに依存性も高い。千歌と相性が良かったから多少の暴走だけで済んだけど、もし相性が悪ければ、気づくのが遅れてたら取り返しのつかない事になってたよ」

 

「私、そんな危ない事してたんだ…騙されて…」

 

「でももう大丈夫よチカっち。このメモリさえ壊してしまえば、あなたは暴走する事はなくなるわ。だから安心してSchool idolを続けて♪」

 

「ありがとう…ごめんなさい、みんな…」

 

「かさねさん、違法に販売された物を購入し、他の人に配るのは犯罪ですわ。自首して罪を償って下さい」

 

「…よ」

 

「えっ?」

 

「嫌って言ってんのよ!!」

 

かさねは叫ぶとポケットからガイアメモリを取り出す。そのメモリはオレンジメモリとは打って変わって紫色をしていた。

 

「なっ!?もう1本メモリを!?」

 

「万が一に備えてもう1つ買っといて良かったぁ…ようやくこれを挿せる!」

 

\アノマロカリス!/

 

かさねは首にメモリを挿入し、アノマロカリス・ドーパントに変身した。

 

「こうなったら直接アンタを殺してあげるよ!」

 

「やめてっ!」

 

「邪魔しないでよ桜内さんッ!!」

 

アノマロカリスは千歌を殺そうとするが、梨子が千歌を庇った為失敗した。

梨子はアノマロカリスのパンチを腹部に食らい、気を失ってしまった。

 

「梨子ちゃん!しっかりして!」

 

「次はアンタだよッ!!」

 

「ヤバっ!スタッグお願い!」

 

\ヒート!/

\ヒート!マキシマムドライブ!/

 

果南はスタッグフォンにヒートメモリを挿し込むと、スタッグフォンは炎を纏いアノマロカリスに突撃した。

メモリガジェットはWのメモリを使う事で、そのメモリの属性に合わせたマキシマムドライブを発動する事もできるのだ。

 

「もう!鬱陶しい!」

 

アノマロカリスは口から歯のような弾丸を出し、スタッグフォンを地面に落とすと千歌の腹部を強く殴り気絶させた。

 

「チカっち!!」

 

「大丈夫、気を失っているだけです」

 

「とりあえず高海千歌はこれくらいで勘弁してあげる。まずは先輩達を片付けてからゆっくり殺してあーげよっ!」

 

「片付けられものなら片付けてみなさい!行くわよ果南!」

 

「りょーかいっ!」

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

鞠莉と果南もガイアメモリを構え、Wに変身した。

 

「へ~、まさか先輩達が仮面ライダーだったんだぁ…殺しがいがあるよ」

 

「その通りよ。チカっちを助ける為、あなたに負ける訳にはいかないわ!」

 

「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

 

「ふふふ、強がりもいつまで続くかな?」

 

アノマロカリスはWに飛びかかるが、Wには軽々と避けられてしまい、パンチで学校の外へ吹き飛ばされてしまう。

 

「このメモリは水の中が強いって言ったかな?やってみよ!」

 

アノマロカリスはWに弾丸を浴びせると坂を猛スピードで下り、海の方へ逃げて行った。

 

「逃がさないわよ!」

 

Wはハードボイルダーに乗り、アノマロカリスを追いかける。坂を下りきった先にリボルギャリーが現れ、逃げて来たアノマロカリスを海の方へ吹き飛ばした。

そのままアノマロカリスは巨大化し、ビッグ・アノマロカリスになると、追いかけて来たWに先程より大きな弾丸を放つ。

 

『海の敵にはハードスプラッシャーで攻撃しないとね』

 

リボルギャリーに乗ったハードボイルダーは、車体後部を黄色のユニットに付け替えてハードスプラッシャーとなった。ハードスプラッシャーは水中戦に適したバイクだ。

 

『メモリはこの組み合わせが狙いやすい。アイツに最も効果的だよ』

 

\ルナ!/

\トリガー!/

 

\ルナ!トリガー!/

 

Wは黄色と青に色が変わり、ルナトリガーになった。トリガー系フォームでは最もバランスの良い組み合わせだ。Wはトリガーマグナムで銃撃し、アノマロカリスも弾丸を発射するも、Wが撃った弾は変幻自在に方向を変えアノマロカリスの発射した弾丸を全て撃ち落としてしまった。さらに、当たらなかった弾はアノマロカリスに命中する。アノマロカリスがそれを避けようとしても、ホーミング弾はアノマロカリスを追尾し命中してしまう。

アノマロカリスが怯んだ隙に、Wはトリガーマグナムにトリガーメモリをセットする。

 

\トリガー!マキシマムドライブ!/

 

「「トリガーフルバースト!!」」

 

トリガーマグナムから放たれたエネルギー弾は分裂し、アノマロカリスを撃ち抜いた。

アノマロカリスはかさねの姿に戻り、海に落ちてしまうが、Wが腕を伸ばした事でかさねも無事に救出された。かさねの首からはアノマロカリスメモリが排出され、海の中に落ちたのと同時に砕けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Report(報告書)

 

Riko woke up with Chikatchi safely,

The orangememory broke through, too. Dia accepted School idol activity, and two people made a start as School idol. We want to support them who shine from now on.

And I fought against the executive of the organization. I have known the toughness of the organization, but we never lose. To keep the smile of the person of the town.

(チカっちと梨子は無事に目を覚まし、オレンジメモリもブレイクされた。ダイヤもスクールアイドル活動を認め、2人はスクールアイドルとしてスタートを切った。私達はこれから輝く彼女達を応援していきたいと思う。

そして、組織の幹部とも戦った。組織の手強さを知ってしまったが、私達は町の人の笑顔を守る為に絶対に負けない)

 

「まったく、『ダイヤもスクールアイドル活動を認め』って書いてありますが、あれは鞠莉さんが勝手に部として承認してしまったからでしょう?」

 

「いいじゃない♪実際あの子達のPerformanceは悪いものではなかったでしょ?それに、ダイヤだってノリノリだったじゃない」

 

「そんな事はありません!!…まぁ、良いパフォーマンスだったのは否定しませんが…」

 

「なら応援してあげようよ。ていうか、私達もアイドルやっちゃう?探偵でアイドルで仮面ライダーって面白くない?」

 

「That's great!私達もスクールアイドル部に入部しちゃいましょ♪」

 

「やりませんわ!!」

 

「失礼します」

 

「失礼しま~す」

 

「あら、チカっちに梨子じゃない♪また依頼?」

 

「この前のお礼に来たんです!助けてもらっちゃったし!本当にありがとうございます♪」

 

「それで、もし良ければなんですけど…私達ももし協力できる事があったら言って下さいね?スクールアイドルなので黒澤探偵部には入れないけど、できる限りお手伝いします!」

 

「それはありがたいよ。私達だけじゃ上手くいかない事もあるし」

 

「あっ!みかんだ!いただきま~す!」

 

「おや?おかしいですわね…メモリブレイクしたのに効果が残ってますわ」

 

「もう大丈夫ですよ!むしろ食べ過ぎて飽きちゃったのでしばらくは2日に1個で十分です♪」

 

「ならいいのですが…また騙されないように気をつけて下さいね?」

 

「はーい!」

 

「あと、来週の日曜日にこの学校の体育館でファーストライブをやる予定なので…良ければ見に来て下さいね?」

 

「ホント?楽しみだなぁ。探偵部の3人で見に行くよ♪」

 

「ありがとう!じゃあ練習行こ!梨子ちゃん!」

 

「そうね!失礼しました」

 

そう部室から出て行く千歌と梨子。鞠莉からはそんな2人の姿がとても楽しそうに見えるのだった。

そして、その後方ではとんでもない威圧感が漂っている。

 

「鞠莉さん…?私は体育館で初ライブをするなんて聞いていませんわよ…?」

 

「あら?言った気がするような?気のせいかしら?」

 

「勝手に承認するのもいい加減にして下さい!鞠莉さんは理事長である前に生徒でもあるのですから見本としてしっかりして頂かないと困ります!大体この前だって…」

 

ダイヤが鞠莉に説教をしている姿を見て、果南は僅かに苦笑いを浮かべるのであった。




<次回予告>

ルビィ「今日から黒澤探偵部に入部しました、黒澤ルビィです!よろしくお願いします!」

???「善子ちゃんが入学式から学校に来なくなっちゃって…」

英玲奈「仮面ライダーだったのか」

あんじゅ「倒しましょ、英玲奈」

ツバサ「本当に騒がしいわね…いい迷惑だわ」

鞠莉「1度でダメならもう1度やるだけよ!」

次回 Dの誘惑/新たな仲間


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#4 Dの誘惑/新たな仲間

ルビィちゃん加入、そして黒澤ダイヤと宝石のダイヤモンドとダイヤモンドのドーパントと3つもダイヤモンドに関する単語がありちょっと読みづらい4話です。


「きょ、今日から黒澤探偵部に入部しました、黒澤ルビィです!よろしくお願いします!」

 

ある日の放課後、黒澤探偵部に1人の新入生が入部した。彼女は黒澤ルビィ。今年から浦の星女学院に入学した1年生で、ダイヤの妹だ。

 

「ルビィ!超久しぶりじゃない~!見ないうちにCuteになったわね♪」

 

「えへへ…そんな事ないよ、鞠莉ちゃん」

 

「2人共、今日からルビィをよろしくお願いしますね」

 

「Of course!頑張りましょ!」

 

「がんばルビィ!」

 

「じゃあ、ルビィちゃんには黒澤探偵部マニュアルを渡しておかないとね。ここにWの秘密とか、探偵としての心得が書かれてるから、なくさないようにちゃんと持っててね」

 

そう言って果南は少し厚めの冊子をルビィに手渡す。創部当初から新入生に必ず配っている、黒澤探偵部オリジナルの本だ。

 

「それにしても、今年は部員1人だけですか…まぁ1人も入らないよりはいいですが…」

 

ダイヤの視線の先には、大量に余っている黒澤探偵部マニュアルが。毎年新入生がたくさん入った時の為に多めに作っているのだが、近年は少子化で生徒が減っている事が原因なのか、必ず余ってしまう。

 

「2年生は部員がいないもんね~、千歌達が入ってくれたら嬉しいんだけど、スクールアイドルとの両立は大変だよね」

 

「そうよねぇ。他のStudentsも協力はしてくれるんだけど、入りたいとはまた別問題って事なのかしら?」

 

「ルビィ、本当に申し訳ないのですが他の1年生を何人か勧誘してくれませんか?もし部活に入っていない人がいたらできるだけ黒澤探偵部に入部して欲しいのですが…」

 

「ぅゅ!何人か声かけてみるね♪あ、そういえばルビィの友達が今日依頼に来るらしいんだけど…」

 

「失礼します。ルビィちゃん、いますか?」

 

部室のドアが開くと、茶髪の特徴的な喋り方の少女がひょっこり顔を出す。

 

「あ、花丸ちゃん!黒澤探偵部へようこそ!」

 

「あなたがルビィのお友達ですか?いつもルビィがお世話になっています。キレイな方ですわね」

 

「あ、お姉さんのダイヤさんでしたっけ?そんな事ないずら…じゃなかった、ないです」

 

「それで、花丸は何の依頼で来たの?」

 

「あ、あの、善子ちゃんが入学式から学校に来なくなっちゃって…」

 

「善子ちゃんって、津島さんの事?確か、自己紹介の時に失敗?しちゃって帰っちゃったよね。今も学校来てないし…」

 

「あー、高校デビューしようとして失敗しちゃった感じ?それで家に引きこもっちゃったから力を貸して学校に行かせたいというのが依頼かなん?」

 

「いえ、この前家にノートを届けに行ったんですけど家にも帰ってないらしくて…幼稚園が同じだったんですけど、マルは何か他に原因があるんじゃないかと思ったんです」

 

「入学式で自己紹介に失敗して勢いで帰ってしまったから、親御さんにも合わせる顔がなくて家出してしまった可能性はないのですか?」

 

「流石にそこまでメンタルは弱くないと思います。善子ちゃんのお母さんに聞いたら、ゆーちゅーぶ?って動画アプリの生放送で気になるのを見つけたらしいずら。なんか質問コーナーみたいな感じだったらしくて、1つ気になる質問があって…」

 

「これかしら?『堕天使ヨハネのリトルデーモンの為のOfficialチャンネル』の『チャンネル登録者2万人記念!堕天使が答える禁断の質問LIVE』っていう動画かしら?」

 

「あ、多分それです」

 

鞠莉はURLをクリックし、動画を再生した。しばらく見ていると、気になる質問が。

 

<では次の質問に行くわよ。リトルデーモン・シャム猫からの質問よ。『ヨハネ様、こんにちは。ヨハネ様は今沼津を住処としているようですが、淡島のSaint A-RISEというホテルの近くに綺羅家という家があり、その家が謎に包まれていると聞いたのですが、何かご存知ですか?』なるほどねぇ…ごめんなさい。私は生憎その噂を聞いた事がないの。でも何だか面白そうね。そのうち淡島に堕天して調べてみるわ♪じゃあ次の質問に…>

 

一通りその質問を聞き終えた鞠莉達は、原因は綺羅家という家にあるのではないかと睨む。

 

「マルの予想でしかないんですが、もしかしたら善子ちゃんはここで行方不明になってしまったんじゃないかって思うんです。えっと、つまり消えてしまった善子ちゃんを探して欲しい、というのがマルの依頼です」

 

「綺羅家で大まかに検索したのだけど、掲示板にこんな記事を見つけたわ」

 

鞠莉がサイトを開く。そのサイトには、怪しい内容が書き込まれていた。

 

「『俺あそこ泊まったけど、寂れたかのように人の出入りする気配がなかったぞ』」

 

「『わかるわかる。門が堅く閉ざされてて一般人が入れないようになってるらしい』」

 

「『そのホテルでバイトしてた事あるんだけど、綺羅家にこっそり忍び込もうとしたら先輩に見つかって物凄い剣幕で注意されたよ。従業員の一部と家の人以外は立入禁止って言われた』ですって。怪しいですわね」

 

「とりあえず、善子を見てないか淡島に聞き込みに行く必要があるわね。さっきの話を聞く感じだと、理由はわからないけど家には入れないから綺羅家が関与している可能性は薄いと思うの。もしかしたら別の人間に誘拐された可能性もあるわ」

 

「確かに。チャンネル登録してる人の数も多いから、もしかしたらアンチの犯行とかかもしれないね。人気者にアンチは付き物だし」

 

「園田刑事にも一応連絡しておきますわ。協力して下さるかもしれません」

 

「安心して、花丸。善子は私達黒澤探偵部がきっと見つけてみせるわ」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

花丸は深々とお辞儀をした。その様子を見たルビィは一瞬不安そうな顔をしたが、すぐに何か覚悟を決めたかのような表情に変わった。

この時のルビィが何を考えているのか、花丸はおろか鞠莉達3人も気づいていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、鞠莉とダイヤは淡島に向かい善子や怪しい人間の目撃情報を集めていた。果南は学校で部活中の生徒に聞き込みや地球の本棚で検索をしていた。

しかしどちらも有益な情報を得る事ができず、捜索は難航していた。

 

「ダイヤ!何か良い情報はあったかしら?」

 

「ダメですわ。善子さんの事は誰も目撃していないみたいです」

 

「そうよね。入学式から時間がだいぶ経ってしまったのも原因ね」

 

「となるとやはり…」

 

ダイヤはホテルの近くに立っている大きな屋敷を見る。もしかしたら綺羅家の中にいるはずだと感じたからだ。

 

「鞠莉さんはさっき家に入れないから綺羅家は関係ないと言いましたよね?私は逆に家に入れないからこそ、あの家の者が善子さんを連れ去った可能性があると思っています」

 

「そういう捉え方もあるわね。綺羅家に行ってみましょう」

 

 

 

一方綺羅家の屋敷。外からあんじゅが戻って来たところだった。

 

「ねぇ、外が騒がしかったけど何が起きてるの?まさか私達がガイアメモリを流通させている事がバレちゃったのかしら?」

 

「それはないわ。静岡県内に工場を幾つも隠し持ってるから製造や流通が知られる事はないし、ホテルの人間にも言わないよう口止めしているもの」

 

「淡島で行方不明の女子高生がいて、その捜索をしているみたいです。私も先程警察から聞き込みを受けました」

 

その時、外の様子を見に行っていた聖良も屋敷の中に戻って来た。

 

「あなたの事は信じているけど、ボロを出していないわよね?メモリの事は話してない?」

 

「大丈夫です。行方不明者を見たかどうかしか聞かれていないので」

 

「ならいいわ。仮に警察が私達に疑いをかけたとしても、行方不明となった女子高生はここにはいない。そもそも一般人を入れてメモリの事がバレたらまずいじゃない」

 

「何も気にする必要はなさそうね。理亞さんと英玲奈が戻って来ていないのが気になるけど…」

 

理亞と英玲奈の安否を心配するあんじゅ。

その頃、屋敷の外には鞠莉とダイヤが到着していた。

 

「本当に大きなHomeね。私の家と同じくらいあるわ」

 

「ホテル経営者ですし、長女の綺羅ツバサは人気アイドル『A-RISE』のリーダーですもの。淡島という小さな島を丸々所有していて当然でしょう」

 

ダイヤの話曰く、綺羅は淡島の全てを領有している一家で、淡島にある水族館やホテルなども綺羅家が経営している。綺羅家の両親は既に他界しており、残った長女のツバサが島の所有権を引き継ぎ淡島全体を管理しているという。

更に、ツバサは『A-RISE』というアイドルグループを結成し活動もしている為、静岡で彼女の存在を知らない人間はいない。

 

「そこの君達」

 

鞠莉とダイヤが話していると、英玲奈が2人に話しかけてきた。

 

「あなた、A-RISEの英玲奈さん!?まさかこんな所でお会い出来るとは光栄ですわ!サインをして頂きたいのです!」

 

「あぁ、ファンの子達か。てっきり不審者かと思ったよ」

 

英玲奈は手際よく色紙にサインを書き込み、ダイヤに返却する。

 

「ところで英玲奈さん、この家の中ってどうなっているかご存知ですか?」

 

「すまない。関係者以外に話す事はできないんだ。基本入れるのは水族館とホテルの一部のスタッフだけで、それ以外の人が入るにはツバサの許可が必要だ」

 

「まさかとは思うけど、この中に行方不明の女子高生が誘拐されている可能性はないわよね?綺羅家の話を聞く感じおかしな評判しか聞かないけど」

 

「ちょっと鞠莉さん」

 

「関係者以外立入禁止の家には基本人を入れる事はない。かといって誰かを拉致する必要もない。A‐RISEとしてあってはならない事だからな」

 

「そう。なら警察に疑われないようせいぜい気をつけて。私にはあなた達が怪しいようにしか見えないけれど。アイドル活動に支障をきたさないようにね」

 

「フッ。面白い子だな、君は」

 

英玲奈はそう言うと門の鍵を開け、屋敷の中へと入って行った。先程の会話で、ダイヤは英玲奈と鞠莉の間にライバル心のようなものが芽生えてしまったと頭を抱える。

 

「鞠莉さん…初対面なのだからもう少し発言に気を遣って下さい」

 

「話し方に少しイラッとしたのよね。気をつけるわ」

 

「まぁ怪しいという点では私も同感ですわ。周りに手がかりがないかもう少し調べてみましょう」

 

「あっ、お姉ちゃん…」

 

「ルビィに花丸さん!?どうしてここに?」

 

声のした方を見ると、屋敷の門の向こうにルビィと花丸の姿があった。

2人は制服ではなく、メイド服を着ている。

 

「Wao!!2人共よく屋敷に入れたわね!ツバサから許可もらえたの?」

 

「あ、実は無断で潜入しちゃって…先輩メイドさんに鍵忘れて入れなくなったって説明したら入れたんだ」

 

「何をやってるんですか!花丸さんまで巻き込んで…バレてしまったらどうなるかわからないのですよ?」

 

「あ、マルはルビィちゃんについて来ただけで…」

 

「ゴメンねお姉ちゃん。でもルビィ、花丸ちゃんが困ってるのに放っておけないよ。ルビィにも手伝わせて」

 

「まだ入部したばかりの1年生が潜入捜査なんて危険ですわ!今すぐ戻って来なさい!」

 

「危ないのはもちろんわかってる!でもルビィが頑張らなきゃ花丸ちゃんも安心できないし、津島さんも助けられないよ!」

 

「ルビィちゃん!待つずら!」

 

「ルビィ!花丸さん!…まったく」

 

ルビィは1分1秒でも善子を見つけ出したいが為に、危険を冒してまで綺羅家に潜入してしまったのだ。ダイヤの静止を無視し、ルビィと花丸は屋敷の中へと消えてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうしよう…あんな事言っちゃったけど無事に津島さんを助けられるかな…?助けられてもお姉ちゃんにあとで怒られちゃいそう…」

 

「でももう後戻りはできないずら。めぼしい所を探して善子ちゃんがいなかったら諦めよう」

 

「そうだね。でも花丸ちゃん、着いて来ちゃって大丈夫なの?探偵部じゃないんだし、待っていても…」

 

「それはできないずら。マルと善子ちゃんは仲良しだし、ルビィちゃんが1人で行く方が危ないし」

 

「ちょっと!あんた達誰?ここの人間じゃないでしょ!」

 

ルビィと花丸が話していると、屋敷の中に入って来た理亞と鉢合わせしてしまう。

 

「もしかして、『Saint Snow』の理亞ちゃん?凄い!綺羅家の人だったんだ!いつも応援してるよ!」

 

「チッ、そんな事どうでもいいから質問に答えなさいよ!あんた達は誰って聞いてるでしょ!?」

 

「あ、ごめんなさい!えっと、ルビィ…じゃなかった、私達はここで1日バイトさせてもらってるんだ!」

 

「そうずら!オラ…マル達は決して怪しい者じゃないずら!」

 

「バイトなんてあるんだ、知らなかった。バイトだからってくれぐれもおかしな事だけはしないで。分かった?」

 

「ぅゅ…じゃなかった、はい!」

 

理亞はバイトだと信じたのか、何も言わずその場から去っていった。

ルビィと花丸はこっそりあとを追い、理亞が2階の方へ向かったのを確認すると、再び善子を探す為に1階の探索を始めた。

 

「ん?今誰かいたずら!」

 

「花丸ちゃん、どうしたの?」

 

ルビィが何かを見つけた花丸のあとを追うと、透明な宝石のドーパントが部屋に入ろうとしていたのを目撃した。

 

「誰!?」

 

「あれは宝石の妖怪!?未来ずら〜!」

 

「わわわ花丸ちゃん!あれはドーパントって言って、ガイアメモリで変身した怪物なんだよ!逃げなきゃ!」

 

「見たわね!バラされる前に殺してあげるわ!」

 

ドーパントはルビィと花丸に宝石を飛ばす。ルビィと花丸はその攻撃を避け、ホテルの連絡通路へ走り出した。

 

 

 

一方、まだ屋敷の近くを歩いていた鞠莉は攻撃音に気づきダブルドライバーを装着する。

ダブルドライバーを装着すると鞠莉と果南の意識が繋がる為、電話を使わずに会話する事が可能になるのだ。

 

「果南!連絡通路の辺りから変な音がするの!花丸とルビィが襲われてるかもしれないわ!」

 

『え?あの2人屋敷に入れたの…って言ってる場合じゃないよね。ちょっと待って!』

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

鞠莉もジョーカーメモリを起動させ、2本のメモリをドライバーに挿し展開した。

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

鞠莉はWに変身し、連絡通路の方へ走る。連絡通路でドーパントに追いかけられている花丸とルビィを見つけ、ドーパントに攻撃する。

 

「アウチ!硬い身体のドーパントね!」

 

「凄いずら!仮面ライダーも来たずらよ、ルビィちゃん!」

 

「鞠莉ちゃ…仮面ライダーさん、来てくれてありがとう!」

 

「2人共もう大丈夫よ。今のうちに逃げて!」

 

「行こう花丸ちゃん!」

 

Wがドーパントを引きつける間に、花丸とルビィはホテルの方へ走り出した。

 

『透明な宝石のドーパント…メモリはDIAMOND(ダイヤモンド)かな?』

 

「何だかダイヤが使いそうなメモリね。ダイヤの頭よりも硬かったわ」

 

「何訳のわからない事を!ハッ!」

 

ダイヤモンド・ドーパントは指から宝石を飛ばす。Wは宝石を躱し、メモリをヒートとトリガーに変える。

 

\ヒート!/

\トリガー!/

 

\ヒート!トリガー!/

 

赤と青に変わったWは、トリガーマグナムから火炎弾を撃つ。ヒートとトリガーは火力が高い組み合わせの為、ダイヤモンドにはよく効いていた。

 

「さ、さっさとメモリブレイクしちゃいましょ!」

 

『ヒートジョーカーのマキシマムでブレイクしようか。ダイヤモンドって意外に割れやすいからね、メタルを使うまでもないよ』

 

\ジョーカー!/

 

\ヒート!ジョーカー!/

 

鞠莉はメモリをジョーカーに戻し、すぐさまマキシマムスロットにジョーカーメモリを挿す。

 

\ジョーカー!マキシマムドライブ!/

 

「「ジョーカーグレネード!!」」

 

Wは2つに分かれ、手に赤と紫の炎を纏って連続パンチを食らわせる。

しかし、ダイヤモンドは思ったよりも硬度があり、多少ヒビが入ったのみでメモリブレイクには至らなかった。

 

『メモリブレイクできなかった。しぶといなぁ。まぁ、普通のダイヤモンドと同じな訳ないか』

 

「1度でダメならもう1度やるだけよ!今度こそ決めるわ!」

 

Wはマキシマムスロットのボタンを押そうとするが、ダイヤモンドは身体から宝石を飛ばしてWを怯ませ姿を消した。

Wも変身を解除し、ホテルの方へ向かう。ホテルの扉の方では、ルビィと花丸が話していた。

 

「あれ?理事長さん!どうしてここから来たんですか?」

 

「マリーでいいわ。連絡通路から大きい音がしたから駆けつけたのよ。それにしても、綺羅家も一般人を立入禁止にしてるのに警備が随分と緩いわね」

 

「ルビィ!鞠莉さんも花丸さんもこんな所に!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「もう、2人共無茶しすぎで…向こうから足音が聞こえますわ!ここではバレてしまうので場所を移動しましょう」

 

鞠莉達は関係者に見つからないよう、連絡通路からフロントに場所を移して先程あった事をダイヤに話した。

 

「ダイヤモンドのドーパント、ですか…綺羅家の人間ではなく、彼女が善子さんの行方を知ってそうですわね」

 

「そうなのよ〜、ダイヤの頭よりも硬いドーパントでメモリブレイクできなかったのよ。あと1〜2発ぐらい食らわせないとダメかもしれないわ」

 

「なるほど…って!私の頭より硬いってどういう意味ですか!!」

 

「というか…ルビィは津島さんがあのドーパントに変身してると思うんだよね」

 

「Why?何故そう思ったの?」

 

ルビィの予想だと、善子は護身と戦闘力の獲得を目的にダイヤモンドメモリを購入したのではないか、との事。

しかし…

 

「でもなんでマル達を殺そうとしたんだろう。善子ちゃんはそんな悪い事しないずら」

 

花丸が言うには、善子は名前に善という漢字がついている通り、いい子であり悪い事は一切しないというのだ。

 

「善子さんの事はよく知りませんが…花丸さんの話を聞く限り嘘は言っていなさそうですし、全く犯人の目星がつきませんね」

 

「ねぇ、今日はお洒落な服装の人が多いね。何かやってるのかな?」

 

「『綺羅家ダイヤモンド展示会』ですって。凄く高そうね…でも小原家にあるプラチナの原石だって負けていないわ!」

 

「あぁ…もしかしたら連絡通路の警備が薄かったのは今日が展示会だからかもしれませんね。先程の足音はこのダイヤモンドを運んでいたのでしょう」

 

鞠莉の指差す先には、ショーケースに入ったダイヤモンドが沢山並んでいた。一般人はともかく、普通のホテル経営者が買えるほどの量ではない。

 

「もし善子ちゃんがドーパントだとしたら、このダイヤモンドを盗む為にガイアメモリを手に入れたという事もありえるんでしょうか…」

 

「でも善子は綺羅家のMysteryを追ってここまで来たはずよ。違うと思うわ。まぁ、潜入したら行き当たりばったりで見つけたというPatternもありそうだけど…」

 

「キャァァッ!!」

 

突如、後ろ側から悲鳴が響き渡る。悲鳴のした方を見ると、ダイヤモンド・ドーパントがショーケースのダイヤモンドを全て盗み逃げようとするところだった。

 

「そのダイヤは綺羅家の物よ!こちらに渡しなさい!」

 

「黙れ!このダイヤモンドは全て私のモノよ!返す訳にはいかないわ!それと…」

 

ダイヤモンドは鞠莉の隙を見てルビィと花丸の方へ走り、2人を気絶させた。

 

「あなた!ルビィと花丸さんに何をするつもりですの!?」

 

「私のダイヤを盗もうとした罰として、この子達もダイヤに変えてやるのよ!返して欲しければ私の隠れ家へ来なさい!」

 

ダイヤモンドは気を失ったルビィと花丸を抱え、どこかへ去ってしまった。

 

「まずいですわね…隠れ家の場所もわかりませんし」

 

「ひたすら探すしかないけれど…2人を放っておくわけにはいかないわ!二手に分かれて探しましょう!」

 

鞠莉とダイヤはホテルから出ると、ダイヤモンドの隠れ家を探す為に二手に分かれた。鞠莉はドライバーを装着し果南に呼びかける。

 

「果南!ルビィと花丸が連れ去られたの!変身よ!」

 

しばらく走ると、サイクロンメモリが転送されて来た。鞠莉はジョーカーメモリと共にそれをドライバーに挿し込み、Wに変身した。

その様子を遠くから見る、2人の人影が。英玲奈とあんじゅだ。

 

「あれはさっきの…仮面ライダーだったのか」

 

「仮面ライダーと一般ドーパントがこの島を騒がせているのね。倒しましょ、英玲奈」

 

\タブー!/

\ナスカ!/

 

英玲奈とあんじゅはドライバーにメモリを挿し、ナスカ・ドーパントとタブー・ドーパントに姿を変えた。

タブーは指から赤い光弾を出すと、Wに向けてそれを発射した。

 

「キャッ!あなたはビギンズナイトの!」

 

「お久しぶり、仮面ライダーさん。私の怖さ、忘れちゃった訳ではないわよね?」

 

「ここで決着をつけよう。私達が君を倒してみせる」

 

「今はあなた達に用はないの!」

 

\トリガー!/

\サイクロン!トリガー!/

 

Wはタブーの放つ光弾をトリガーマグナムで迎え撃つ。しかし、横からはナスカが攻撃してきて上手く戦えない。

 

『こりゃメタルの方が良さそうだね。弾に気を取られがちになっちゃうよ』

 

\メタル!/

\サイクロン!メタル!/

 

「タービュラーに乗って来てよかったわ。そっちも呼ぶわね!」

 

Wはナスカとタブーの攻撃を受け止めつつ、ハードタービュラーを呼び出し風でタブーを吹き飛ばす。Wはそのままハードタービュラーに飛び乗り、その場から飛び去る。

タブーは光弾を飛ばしハードタービュラーを墜落させようとするが、搭載された魚雷に全て相殺されてしまい、Wには逃げられてしまった。

 

「逃げられてしまったか…ガッ!?あんじゅ、何をする!?」

 

ナスカは突然何者から攻撃を受ける。ナスカに攻撃したのは、なんとタブーだった。

 

「英玲奈、あなたがもう少し追い詰めていれば逃げられなかったのよ?それでもナスカメモリの持ち主なの?」

 

ナスカは攻撃のダメージで変身を解除されてしまう。英玲奈は立ち上がるもその場でよろけてしまう。

同じく変身解除したあんじゅは英玲奈に見向きもせず、屋敷へ去って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルビィ!花丸さん!何処にいるんですか!?」

 

ダイヤは淡島神社の中でルビィと花丸を探していた。本堂の近くを通りかかると、本堂の斜め後ろ側に少し古びた洋風の建物があるのに気づく。

 

「まさか、ここが…?」

 

ダイヤは恐る恐る扉を開け、中に入る。中は薄暗く、瓦礫の山となっていた。

 

「ルビィ…?花丸さん…?」

 

「あーあ、誰か来たと思ったらバレちゃった〜」

 

奥からエコーのかかったような女性の声がする。ダイヤは奥に走ると、大きな部屋にたどり着く。そこには十字架に張り付けられたルビィと花丸、そしてお団子ヘアの少女の姿があった。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ルビィ!花丸さん!そしてこの人は…」

 

「ダイヤさん!この子が善子ちゃんです!善子ちゃんはやっぱりドーパントじゃなかったずら!」

 

「人質は黙ってなさい!…それにしてもあなた、ダイヤという名前なのね。私よりダイヤモンドが相応しそうな名前してて…許せない!」

 

ダイヤモンドはダイヤに襲いかかる。ダイヤも応戦するが、ドーパントに人間がかなう訳もなく、突き飛ばされてしまう。ダイヤモンドは十字架にダイヤを張り付けてしまい、誰も抵抗できなくなってしまった。

 

「アッハハハ!いい気分だわ!もう私の邪魔をする者は誰もいない!アンタ達もダイヤに変えてこのまま世界中のダイヤを私の物にしてやるわ!まずはアンタからッ!」

 

ダイヤモンドは花丸に光線を浴びせようとする。しかし、後ろから何者かの銃撃が命中しそれは防がれる。

 

「グッ!!誰なの!?」

 

「みんなお待たせ!助けに来たわよ」

 

「鞠莉さん!」

 

部屋にはサイクロントリガーにフォームチェンジしたWが入って来た。

 

\メタル!/

\サイクロン!メタル!/

 

Wはメモリをメタルに変え、メタルシャフトでダイヤモンドを殴る。ダイヤモンドが向こうに転げた隙に、Wは十字架に張り付けられたルビィ達を助け出した。

 

「もう大丈夫よ。善子を連れて逃げて!」

 

「させないわよッ!!」

 

「ずらっ!?」

 

ダイヤモンドは花丸を捕らえ、再び光線を浴びせようと試みる。しかしそれは、横からの攻撃によりまたもや失敗してしまう。なんと、ルビィが部屋に落ちていた鉄パイプをダイヤモンドに叩きつけたのだ。

 

「る、ルビィの依頼人に…触っちゃダメっ!!」

 

「ルビィ…」

 

その姿を見て、ダイヤと鞠莉・果南の3人は驚く。ルビィの姿が、ダイヤと彼女の父である剛と重なったからだ。

 

「よく頑張ったわね、ルビィ!一瞬涙が出そうになっちゃったわ」

 

『ダイヤモンド・ドーパント!簡単に人や物を傷つけた事、絶対許さないよ!』

 

「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

 

Wは決め台詞に合わせダイヤモンドをメタルシャフトで吹き飛ばす。Wとダイヤモンドの姿が遠ざかったのを確認し、ルビィ達は隠れ家を出た。

 

 

 

一方綺羅家の地下深くでは、ツバサがガイアドライバーを装着し佇んでいた。

 

「本当に騒がしいわね…いい迷惑だわ」

 

\テラー!/

 

ツバサがテラーメモリを起動すると、メモリはツバサの手から離れドライバーの挿入口に入っていく。ツバサの身体が浮かぶと、ドス黒いオーラが彼女を包みテラー・ドーパントに姿を変えた。テラーは粘膜のような物質に包まれると、その場から姿を消した。

 

 

 

場面は変わって森の中。そこではWとダイヤモンド・ドーパントが交戦していた。ダイヤモンド・ドーパントはWをダイヤモンドに変えようと光線を浴びせようとするも、途中でエネルギーの流れが断たれてしまう。

 

「な、何で!?どうして光線が出せないの!?」

 

「どうしたの?私をダイヤに変えるんじゃないの?」

 

『多分、あれが原因で光が出せなくなったんだろうね』

 

果南はダイヤモンドの身体の一部を指す。そこは1度目の戦闘でヒートジョーカーのマキシマムドライブを食らった場所であり、そこには大きなヒビが入っていた。

 

『その上ルビィちゃんがあそこを鉄パイプで叩きつけてヒビが広がった。ルビィちゃんが攻撃してくれなかったら能力を封じられなかっただろうね』

 

「ルビィ、本当にいい活躍をしてくれたわね!頼りになる仲間だわ!」

 

\メタル!マキシマムドライブ!/

 

Wはメタルメモリをメタルシャフトに挿す。メタルシャフトは緑色の風を纏い、Wは回転しながらメタルシャフトを連続で叩き込む。

 

「「メタルツイスター!!」」

 

ダイヤモンドの身体のヒビはさらに広がるが、まだメモリブレイクには至らなかった。

しかし、ダイヤモンドは確実にダメージを受けており、立っているのがやっとの状態になっていた。

 

『1度でダメならもう1度、だよね?鞠莉!』

 

「そうね!それでもダメなら何発でもいくわ!」

 

\ヒート!/

\ヒート!メタル!/

 

Wはメモリを変え、ヒートメタルにチェンジする。すぐにメタルメモリをドライバーから抜き、メタルシャフトにメモリをセットする。

 

\メタル!マキシマムドライブ!/

 

「「メタルブランディング!!」」

 

Wは炎を纏ったメタルシャフトをダイヤモンドに叩きつけた。ダイヤモンドの身体は大きな音を立てて割れ、爆散した。

煙の中からは、砕けたダイヤモンドメモリとホテルの制服を着た女が姿を表した。

 

『やっと終わった…本当に手間のかかるドーパントだったね』

 

「そうね。さ、戻りましょうか」

 

Wが女を抱えその場から立ち去ろうとすると、突如粘膜状の物質が辺りを覆い尽くした。

 

「フフフフフ…」

 

「誰なの!?」

 

Wが笑い声のした方を見ると、禍々しいオーラを纏ったテラー・ドーパントが立っていた。

 

『これヤバいかも!逃げよう、鞠莉!』

 

「そうね!ここは退きましょう!」

 

Wはハードタービュラーを呼び出し、一目散にその場から飛び去った。

淡島神社に辿り着くと、そこには逃げて来たダイヤ達とホテルの従業員や一般の客と思われる人達が階段を降りて行くのが見えた。

 

「ダイヤ!今の人達は?」

 

「鞠莉さん!ドーパントを倒したんですね!あの方々はおそらくドーパントに姿を変えられてしまったのでしょう。隠れ家から突然出てきましたわ」

 

Wは変身を解除し、鞠莉の姿になる。

 

「えぇ!?鞠莉さんが仮面ライダーだったんですか!?未来ずらー…」

 

「ともかく無事で良かったです。善子さんや行方不明の方も見つかりましたし、あとは警察に任せましょう」

 

「えぇ、そうね」

 

鞠莉は先程の黒いオーラを纏ったドーパントの姿を思い出す。同じ事を考えていたのか、まだ意識の繋がっていた果南が話しかけてくる。

 

『鞠莉、もしかしたら私達は見ちゃったのかもね…敵の根源を』

 

その言葉に鞠莉はそうね、と返し淡島神社をあとにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Report(報告書)

 

The woman of the dopant is arrested, Peace came again in the island.

So that Yoshiko who woke up says, It seemed to be attacked by sudden dopant when I worked outskirts of the Kira home. Probably woman would misunderstand it when Yoshiko came to steal a diamond. I thought that the attachment for her diamond was terrible.

And I was able to watch the activity of the Ruby this time, too. Her figure reminds of a Takeshi, I realized a connection of the blood some other time.

(ドーパントの女は逮捕され、島に再び平穏が訪れた。

目を覚ました善子が言うには、綺羅家の周辺を歩いていたら突然ドーパントに襲われたらしい。おそらく女は善子がダイヤモンドを盗みに来たのだと勘違いしたのだろう。彼女のダイヤモンドに対する執着心は恐ろしいものだと思った。

そして、今回はルビィの活躍も見る事ができた。彼女の姿は剛を思い出させ、血の繋がりを改めて実感した)

 

「それにしても、今回のルビィは本当に大活躍だったわね。あれがなかったら勝てなかったかもしれないわ」

 

「えへへ、ありがとう鞠莉ちゃん!これからもがんばルビィしちゃうね♪」

 

「ですが!くれぐれも無茶はしないように!花丸さんがついて来たとはいえ、あれは依頼人を危険に晒しかねないです!以後気をつけて下さい!」

 

「あっ…ごめんなさい、お姉ちゃん…」

 

「まぁ、ルビィの成長が見られて良かったと思っていますわ。本当にありがとう、ルビィ」

 

ルビィはダイヤの言葉に嬉しそうな顔をする。鞠莉はその光景を見て、いつか父親の事を伝えないと、と思うのであった。

 

「それにしても善子ちゃん、ここに何しに来たの?まさか入部希望?」

 

「ヨハネよ。んな訳ないでしょ、この魔眼がある限り、私に見えない真実なんて存在しないのですから。ギラン」

 

「クラスの子と話している時にまたドジっちゃったずら♪それで恥ずかしくて探偵部の部室に…」

 

「お〜い!!バラすなずら丸!!」

 

「そういえば善子さん、綺羅家については何かわかりましたの?」

 

「だからヨハネよ。上陸して早々あのドーパントに捕まって何もわからなかったわ。これからまたゆっくり調べていくから待っていなさい、このヨハネの魔眼にかかれば綺羅家など…」

 

「また堕天使出ちゃってるずらよ」

 

「べ、別にここなら堕天使でもいいのよ!私はこの後復帰記念生放送があるから帰るわよ、ずら丸!」

 

「それじゃあ失礼しました〜、ルビィちゃん、皆さん、今回は本当にありがとう。これからも頑張って下さい♪」

 

花丸の言葉に、鞠莉達は頷くのだった。




<次回予告>

???「遥ちゃん… 妹を探してくれませんか?」

果南「死者が生き返る、か…そんなのありえないよ!!」

デス「私の名はデス。死の世界を司る神」

???「変身…」

\スカル!/

ルビィ「あれって、お父さんだよね…?」

鞠莉「お願いやめて剛!」

果南『師匠はあの時死んだんだよ!?』

次回 Wのはじまり/蘇る記憶


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#5 Wのはじまり/蘇る記憶

ビギンズナイト編前編。虹ヶ咲より彼方ちゃんとしずくちゃんが登場します。ダイヤさんとルビィちゃんのお父さんである剛の名前の由来は金剛石(ダイヤモンドの和名)の剛からです。個人的にCVは森川智之さんのイメージで脳内再生しております。


その日、黒澤探偵部の部室は可愛らしく飾り付けが施され、盛り上がっていた。今日はルビィの入部記念パーティを実施する為、部員はもちろん浦の星女学院の生徒の一部と花陽が集まっていた。

 

「ルビィ、黒澤探偵部入部おめでとう。堕天使からは素敵だけど邪悪なグレープジュースを差し上げましょう」

 

「ありがとう、善子ちゃん!」

 

「それにしても、なんか仰々しい格好ね。それ…」

 

「この服装…いいえ、これが私の本来の姿なのですから」

 

善子はそう言いその場でポーズをとる。その姿を見た梨子は苦笑するしかなかった。

 

「それにしてもダイヤさん、私達もパーティに参加しちゃって大丈夫なんですか?部員でもないのに」

 

「私に至っては生徒ですらないのに…」

 

「全然構いませんわ。みかんやご飯もたくさん用意してありますよ」

 

「ご、ご飯!?パーティに白いご飯は欠かせないですよね!!ダイヤちゃんわかってる!!」

 

「本当ですか!?やったぁ!!」

 

「私のグレープジュースにオレンジはよく合うわよ。大人の味がするわ」

 

いつもとは違い楽しそうな雰囲気の黒澤探偵部。

そんな中、部室のドアを叩く者が。しかし探偵部の部員は誰も気づかず、ドアを何度ノックしても返事がない。ドアを開けると、そこには大声で雑談する千歌達がいた。

 

「あ!お客さんですわ!ルビィ!」

 

「お客さんだよ〜!!」

 

依頼人に最初に気づいたのは黒澤姉妹だった。ルビィは手に持っていたハンドベルを鳴らし、ざわついていた部室を静かにさせた。

 

「あ、すみません。間違えた…」

 

部室に入って来たのは、どこか眠そうな顔をしている女子高生だった。

一同は部室を間違えたと出て行こうとする少女を引き止め声を合わせながら、

 

「「「黒澤探偵部です♪」」」

 

と言うのであった。

 

「おぉ、それなら良かった〜」

 

「すみません。いつもはもっと静かですので…」

 

「Hello, 何の依頼かしら?」

 

「遥ちゃん…妹を探してくれませんか?」

 

「それならこのマリーにお任せを!私は人探しのプロだと自負しているわ!」

 

「実績も豊富なので安心ずら♪」

 

「あ、でも普通の人間じゃないんだけど…大丈夫かな?」

 

「普通の人間じゃない?どういう事?」

 

「遥ちゃん、もう亡くなってるんだよね…」

 

依頼人の名は近江彼方。彼女の妹の遥は今年の2月に交通事故で亡くなっているはずなのだが、彼方は昨日の放課後、学校の音楽室でサクソフォンを吹いている遥を目撃したのだという。

 

「すぐ消えちゃったから単に疲れていたのかもしれないけど…ハッキリさせたい。もしかしたら遥ちゃんのそっくりさんがいるかもしれないし…だから、学校まで来てもらえませんか?確か、吹奏楽部はもうすぐ合奏練習の時間だし…」

 

「…パーティどころじゃなさそうだね。今日は中止」

 

「「えぇ〜!?」」

 

ルビィの言葉に千歌達は残念そうな顔をする。

 

「そんな…ご飯が食べられないなんて…」

 

「せっかく果南ちゃんと仲良くなれるチャンスだったのに〜」

 

「千歌ちゃん、我儘はよくないよ?」

 

「死者が生き返る、か…そんなのありえないよ!!これはなかなか怪事件になりそうだね、鞠莉!」

 

「私はこのTownを知り尽くしているつもりよ。ちゃんと妹さんの正体を掴んでみせるわ!」

 

「マルのお家はお寺だから怪奇現象は得意分野ずら!じいちゃんに聞いてみるね♪」

 

急遽入った依頼。鞠莉と黒澤姉妹は彼方の学校に向かい、果南はリボルギャリーの格納庫で地球の本棚に入り検索、千歌と梨子、花陽と善子は街と浦女で聞き込み、花丸は帰宅しそれぞれが怪現象について調べる事となった。

彼方の学校に到着した鞠莉達は吹奏楽部の顧問から許可を取り、練習風景を見学していた。

 

「それじゃあまず、基礎練習から。1、2、3…」

 

顧問のカウントに合わせ、部員が楽器の音を鳴らし始める。

鞠莉は後ろから遥の所属していたサクソフォンパートの様子を見ていたが、遥のように髪を2つに結わえた女子生徒や、似たような顔の生徒はいなかった。

 

「ここにはいなさそうね。もしかしたらこの学校の似たような生徒と勘違いしたのかしら?」

 

「そうだね。部活に入らなくても楽器を持っている人はいると思うし、部活が終わった後に音楽室を借りて吹いてたのかもしれないね」

 

「他の部活動風景も見た方がよさそうですね。おそらくハードな部は可能性が低いと思うので、活動の少ない部から優先的に調べましょう」

 

鞠莉達が音楽室を出た瞬間、ルビィのスマートフォンに着信が入る。花丸だ。

 

『もしもしルビィちゃん?じいちゃんに聞いたらこんな事がわかったずら』

 

花丸が祖父から聞いた話によると、1週間前、学生時代に虐められていた同級生の霊が現れるのでお祓いをして欲しいと頼んで来た女性がいたらしく、花丸の祖父はお祓いをしたらしいのだが、女性が今朝その霊を目撃し再び寺を訪れて来たらしい。また、似たような依頼は女性に限らず他の人からもたくさん寄せられているという。花丸の祖父曰く、何度祓っても祓えず身近な人間の周りに還って来るという事から、この現象は『死人還り(しびとがえ)』と呼ばれているらしい。

鞠莉は花丸から聞いた情報を果南に報告しようと電話をかけた。

 

『死人還り?なるほどねぇ。そんな噂があるんだ』

 

「えぇ、一流の霊媒師も霊力や気配を感じる事ができなくて、除霊がほぼ不可能と言われているらしいの」

 

『でもバカな事を言っちゃ困るよ。当時の事故や遥ちゃんについて検索してみたけど、本にはしっかり死亡した事が書かれていたし葬儀も済んでいる。彼方さんや遺族が他人の事故死と勘違いしている可能性はゼロだよ。考えられるのは見間違えや他人の空似、気のせいだと思うんだよね』

 

他人の空似という言葉に鞠莉は眉をひそめ、以前千歌がオレンジメモリを所持していた時の事を思い出す。千歌にオレンジメモリを渡した支倉かさねが千歌の親族でないのに瓜二つの見た目をしていた事から、他人と見間違えた可能性もあるからだ。実際、かさねは浦女の生徒でありながら理事長である鞠莉が千歌と見間違えてしまうくらい似た容姿をしていた。

 

「とりあえず、花丸に遥のお墓を調べてもらっているわ。私達はまだ彼方の学校にいるから似たような生徒がいないか探してみるわ」

 

鞠莉は電話を切り、遥が生前所属していたクラスへ向かう。窓側にある左端の席には、遥の写真が置かれている。

 

「どなたですか?」

 

ふと、教室の扉の方から誰かの声がする。声のした方を振り返ると、台本を持った髪の長い生徒が立っていた。

 

「あなた、もしかして遥さんのお友達ですか?」

 

「いえ、私はこのクラスではないんです。遥さんの事は全く知らなくて…演劇部の練習にいつもここを使っているだけなんです」

 

彼女は演劇部の桜坂しずく。遥の隣のクラスの生徒であり、彼女とはあまり話した事がないらしい。

 

「一応中学は一緒だったんですけど、遥さんは私と違って友達も多かったので殆ど話した事はないんですよね」

 

「そうなのね。実は私達、亡くなったはずの遥を彼女の姉が目撃したらしくて探しているの。まぁ、他人の可能性が高いけどね」

 

「もしかしてそれって死人還りですか?1週間前から沼津で起きてるって噂の…」

 

「知ってるの?」

 

「クラスメイトの知り合いが亡くなったおばあさんを目撃したと耳に挟んで…一体何なんでしょうね?」

 

これだけ目撃例がある事から、鞠莉達は他人の空似にしては怪しいと思い始めていた。

その時、ルビィのスマートフォンが再び鳴り、花丸からの着信が入る。

その内容は、万が一に備えてお祓いをするので花丸の家に来て欲しいとの事。鞠莉達は花丸の家の寺に向かい、そこで彼方と共に除霊を受けた。

 

「さっきお墓の中を確認したところ、遥さんのお骨はちゃんと中に入っていたずら。生き返ってしまった訳ではないと思うずら」

 

「これで解決しなければ、他人の空似の可能性が高いかもしれませんね。この後はどうしましょうか」

 

「彼方の学校はある程度調べ終えたから、浦女に戻りま…」

 

「どうしたの?鞠莉ちゃん」

 

鞠莉が寺を出ようと外を見た瞬間、遥がこちらを見ながら去って行くのが見えた。

 

「あれって…まさか幽霊!?」

 

「追ってみましょう!!」

 

「花丸さん、万が一に備えてお祖父様を呼んで下さい!私達は遥さんを追いかけますわ!」

 

「了解しましたずら!」

 

鞠莉とルビィ、ダイヤは遥のあとを追い少し広めの通りへ出る。

するとそこで遥の姿は消え、突然空が暗くなる。そして、死神のような何かが姿を現した。

 

「フフフフ…私の名はデス。死の世界を司る神」

 

「そうよね、こういうのは大体ドーパントの仕業よね。行くわよ、果南」

 

「OK!行くよ」

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

鞠莉がサイクロンメモリとジョーカーメモリをダブルドライバーに挿し、展開すると仮面ライダーWに姿を変えた。その際に巻き起こった風にデスは地面に落とされる。

 

「仮面ライダーだったのですね」

 

「町を騒がせていたのはあなたね!許さないわよ!」

 

\ルナ!/

\ルナ!ジョーカー!/

 

Wは腕や足をゴムのように変形させ、デスに攻撃を叩き込む。

 

「その調子ですわ!」

 

「鞠莉ちゃん、頑張って!」

 

Wに追い詰められたデスは形勢不利と見たのか、空を浮遊し再び姿を消してしまった。

 

「あら?消えてしまいましたわ!」

 

「はぁ、このまま放っておいたらまずいわね…」

 

『鞠莉…あれって』

 

鞠莉が変身を解除しようとすると、果南が何かに気づく。果南が見つめる方を見ると、黒いスーツを着た白いソフト帽の男がこちらに近づいていた。

やがてその男は歩くのをやめ、ソフト帽を外し顔を見せた。その正体は…

 

「そんな…どうして…」

 

「あれって、お父さんだよね…?」

 

なんと、2年前に死んだ筈のダイヤとルビィの父、剛が鞠莉達の前に現れたのだ。

 

「剛!?」

 

『鞠莉落ち着いて!そんな事ありえないよ!』

 

「そうよね、ありえないわ!」

 

剛はポケットから黒のガイアメモリを出す。そのガイアメモリは、以前ダイヤが部室で見た物と同じメモリだった。

 

\スカル!/

 

「なっ…?」

 

剛がスカルメモリを起動させると、彼の腰にはダブルドライバーの左側のスロットを外したようなベルト、ロストドライバーが出現した。

 

「変身…」

 

\スカル!/

 

剛がロストドライバーを展開すると彼は骸骨のような仮面ライダー、スカルに姿を変えた。

鞠莉が動揺するのを他所に、スカルはこちらへ襲い掛かって来た。

 

「フッ!ハッ!」

 

Wはスカルに攻撃をする事ができず、もろに攻撃を食らってしまう。無理もない。攻撃してくるのは、彼女達にとって大切な人だからだ。

 

「やめて…お願いやめて剛!」

 

「お父様が仮面ライダーだなんて…」

 

「ルビィ、聞いてないよ…」

 

鞠莉の言葉も無視し、スカルは攻撃を続ける。スカルはトリガーマグナムを黒くペイントしたような武器、スカルマグナムを出しWに銃撃する。

 

\トリガー!/

\ルナ!トリガー!/

 

果南はメモリをトリガーに変え、スカルマグナムから放たれる弾を撃ち返しスカルに攻撃を試みるが、鞠莉に止められてしまう。

 

「やめて果南!!剛に攻撃しないで!!」

 

『冷静になりなよ。あの師匠は本物じゃない』

 

「スカルになったのよ!?本物よ!!」

 

『そんな訳ない!!だってあの時師匠は…』

 

「ダメ!!言わないで!!」

 

『師匠はあの時死んだんだよ!?』

 

その言葉にルビィは目を見開き、ダイヤは俯く。ルビィに至っては剛の死を知らなかった為、その場で涙を一筋流す。

 

\スカル!マキシマムドライブ!/

 

鞠莉達が揉めている間にスカルはメモリをマグナムに装填し、Wに放った。

 

「キャァッ!!」

 

マキシマムドライブの衝撃でWは遠くへ吹き飛ばされ、変身を解除されてしまった。

 

「あっ!!」

 

「鞠莉さん!!」

 

スカルは鞠莉を介抱したダイヤとルビィの前に立ち、変身を解除した。

 

「未熟な人間が勝手な行動をするなと教えたよな鞠莉?お前は進歩がない。探偵失格だ。さっさとやめちまいな」

 

「剛…」

 

「お父様!何故こんな酷い事をするんですか!」

 

「そうだよ!急に攻撃するなんて…」

 

「お前達には関係ない。ルビィ、ダイヤ、同じ目に遭いたくなければお前達も探偵をやめろ。わかったな」

 

「剛!待っ…!うぅっ…」

 

「鞠莉さん!しっかりして下さい!」

 

鞠莉は意識を失い、剛も何処かへ去ってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

淡島のホテル『Saint A-RISE』のレストランでは、パーティが行われておりたくさんの宿泊客が食事を楽しんでいた。ツバサ達も飲み物を飲みつつ、死人還りについて会話をしていた。

 

「沼津を震撼させる死人還り…私のプレゼントしたメモリのせいで大変な事になっているわね」

 

「えぇ、まさかここまで騒ぎになっているとは思いもしませんでした。今度様子を見に行こうと思っています」

 

「仕事じゃなければ私も行きたかった。姉様、帰ったらどんなメモリか教えて」

 

「えぇ、わかったわ」

 

「聖良さんが行くなら私も行こうかしら?退屈しなさそうだわ♪」

 

「話を聞く限りでは面白そうなメモリだな。私も行くよ」

 

「いいじゃない。みんなで行ってらっしゃい?皆さん、今日は来てくれてありがとう!是非楽しんで下さいね!」

 

ツバサの声に合わせ、宿泊客は歓声を上げた。

 

 

 

一方、黒澤探偵部の部室。捜査資料を持った海未が訪ねて来ていた。

 

「こんばんは。参考になりそうな資料を持って来ました…って、何処へ行くんですか?鞠莉」

 

「理事長室よ。仕事があるの。今は1人にさせて」

 

鞠莉はそれ以上は何も言わず、部室から出て行った。

 

「鞠莉、何かあったんですか?」

 

海未が質問するも、ダイヤとルビィは何も答えず黙ったままだ。

 

「…捜査資料、持って来たのでここに置いておきますね」

 

海未は状況を察したのか2人を追及しようとはせず、資料をテーブルの上に置き部室から出て行った。

 

「ねぇ、お姉ちゃんは知っていたの?お父さんの事…」

 

「亡くなった事だけは。ルビィを悲しませたくなくてお母様と黙っていました。ですが何故亡くなったのか詳しくはわからないです」

 

「そっか…」

 

2人の間に再び沈黙が訪れる。すると部室のドアが開き、海未と入れ違いに果南が部室に入って来た。

 

「鞠莉、園田刑事にも情報を頼んでいたんだね」

 

果南が捜査資料を手に取ろうとすると、ルビィが先に捜査資料を持ち立ち上がった。

 

「…調査、再開しない?明日から」

 

「そうね。このまま落ち込んでいても意味がありませんわ。彼方さんが解決を待っていますし」

 

「でも師匠の事は…」

 

「待って!言わなくていいよ果南ちゃん。大切な事は鞠莉ちゃんに直接聞くから」

 

「私の知らない事もしっかり話してもらわないとスッキリしませんわ。でもその前に依頼を解決しないとなりません」

 

ルビィ達の言葉に果南も頷き、その日は解散となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、鞠莉はある場所に向かった。そこは自分の師匠が眠る墓地だ。

黒澤家之墓と彫られたその墓石に水をかけて洗い流し、フラワーショップで買っておいた花を供える。線香に火を着けると、独特な匂いが辺りに広がった。

 

「やっぱりここにいたんだ」

 

鞠莉が横を向くと、果南がそこに立っていた。

 

「果南…どうしてここがわかったの?」

 

「幼馴染の勘ってやつかな」

 

そう言い果南は駐車場の方を指差す。その先には、停められているハードボイルダーがあった。

 

「まだできてないの?ダイヤとルビィちゃんに話す覚悟とか」

 

「まぁ、少し怖いわ。こんな事思ってしまうぐらいだから、やっぱり私に探偵なんて無理なのかもしれないわ。剛の言う通りよ」

 

鞠莉は自嘲するように苦笑いする。そんな鞠莉に果南は近づき、そのままハグをする。

 

「考え過ぎだよ。思い出しなよ、あの日師匠が私達に託した言葉を。そういえばさ、私達が再会した時もこんな風に抱き合ったっけ」

 

「そうだったわね。私達が勝手な行動さえしていなければ、剛は死ななかったかもしれないわね」

 

果南と鞠莉が思い出すのは、Wのはじまりの2年前のあの日…ビギンズナイトの事だ。




<次回予告>

剛「撃っていいのは撃たれる覚悟のあるヤツだけだ…ってな」

果南「これからも罪を数えて共に歩いてくれる?」

鞠莉「私達は黒澤剛の忘れ形見。そして、2人で1人の仮面ライダーよ!」

ダイヤ「変身…ですわ!」

\スカル!/

次回 Wのはじまり/ビギンズナイト


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#6 Wのはじまり/ビギンズナイト

Wの誕生秘話が明らかになるビギンズナイト後編。ダイヤさんがお父さんからスカルを継承します。ディケイドと大ショッカーは出てきません。


2年前の春。剛と鞠莉は、組織に囚われてしまった果南を救出すべく組織の巨大なガイアメモリ流通工場へ潜入していた。

 

「いいか鞠莉。敵はこの工場の中で果南の力を使い、ガイアメモリの製造を効率的に進めようとしている。彼女を助け出すのは俺の知人の依頼でもあり、俺達にとっての義務だ」

 

「今の果南はEarthのmemoriesを頭脳に取り込んでしまったから、このままだとその力を悪用されてしまうという事?」

 

「その通りだ。見つかるのも時間の問題だ、警戒しろよ」

 

「Of course!私も力になるわ!」

 

原因は不明だが、果南は組織によって地球の記憶を取り込んでしまったのだという。ガイアメモリは地球の記憶を内包する為、強い記憶の力があるほど製造の効率が上がり複製の難しいメモリも容易に複製できるようになるのだ。

剛と鞠莉がしばらく進むと警報音が鳴り、工作員が声を上げながら慌ただしく走り回る音が響き渡った。

 

「大人しく出て来たらどうかしら?今なら命だけは助けてあげるわ」

 

同時に頭上からは落ち着いた女性の声がする。鞠莉が声のした方を見ると、タブー・ドーパントが空を浮遊しながら自分達を探していた。

 

「Wao…Monsterだわ」

 

「鞠莉、俺が奴らを退けるからここでじっとしていろ。絶対に動くなよ」

 

剛は少し強めの口調で忠告すると、近くの階段を登り敵陣へ踏み込んで行った。鞠莉も視界の開けた場所からその様子を観察する。

剛は向かってくる工作員を次々と返り討ちにしていった。階段の手すりを利用し腹にキックを食らわせ階段から落としたり、素早く懐に潜り込みパンチを入れるなど、剛の戦闘力はかなり高いものだった。上で待ち受けていた工作員も軽々と蹴散らし、攻撃を華麗に避けながら顔に強烈な飛び蹴りを叩き込んだ。

 

\マスカレイド!/

 

やがて工作員は勝ち目がないと思ったのか、マスカレイド・ドーパントに姿を変え剛を取り囲んだ。

 

「こそ泥にしてはやるじゃない。惚れちゃったわ♪でもこれで終わりと思うと…残念だわ」

 

タブーは言葉とは裏腹に残念そうな素振りも見せず、手から光弾を出した。

 

「こんな言葉を知ってるか、レディ。撃っていいのは撃たれる覚悟のあるヤツだけだ…ってな」

 

「なっ?」

 

彼女を前にしても動じない剛に、タブーは逆に動揺してしまう。

 

「ガイアメモリを探偵業に使いたくはなかったんだが、やむを得ないか…」

 

剛は呟くと、腰にロストドライバーを装着し被っていたソフト帽を外す。

 

「ロストドライバー!?何故貴方が!!」

 

「さぁな…」

 

\スカル!/

 

剛はタブーの質問に答えず、スカルメモリをドライバーに挿入し開いた。

 

\スカル!/

 

「変身…」

 

仮面ライダースカルに変身した剛は再びソフト帽を被り直す。彼の着用する白のソフト帽は彼の愛用している物であり、被ったままだと一緒に変身してしまう為一度外してから変身し被り直すようにしているのだ。

 

「さぁ、お前の罪を…数えろ」

 

スカルはタブーに右手を出し台詞を決める。台詞を言い終わったのと同じタイミングで、マスカレイドはスカルに襲いかかる。マスカレイドの急襲にスカルは怯む事なく攻撃を躱し、強烈な一撃を叩き込む。

2体のマスカレイドの動きを封じた事により隙ができてしまい、タブーの光弾を受けてしまいそうになった。光弾はギリギリでソフト帽を掠め、帽子に僅かに傷をつくった。タブーは手から光弾を次々繰り出し、スカルはそれをスカルマグナムの弾で撃ち返していく。その様子を鞠莉は下から目撃し、驚愕していた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

すると、後ろから何者かが走り去る音がした。工作員と思い警戒すると、その走っていた人影は果南である事がわかった。手には少し大きめのアタッシュケースが抱えられている。

 

「果南!待って、果南!」

 

鞠莉は果南のあとを追ってしまった。それは同時に、剛の言いつけを破る事でもあった。

 

「果南!見つけたわ!」

 

「鞠莉!?会いたかった!」

 

ようやく2人は再会できた。再会を喜び合い、2人はその場で涙を流しながら抱き合う。

 

「師匠は一緒じゃないの?」

 

「敵を退けようとBattleしているの。ビックリしたわ。剛、ガイアメモリとドライバーを使って変身したんだもの」

 

「そっか、急に警報音がしたのは鞠莉達が侵入したからなんだね。私は工作員が出て行った隙に逃げて来たんだよ。あ、そうそう!ドライバーで思い出したんだけど凄い物を盗んで来たよ!」

 

そう得意気に果南はアタッシュケースを開け、鞠莉に中身を見せる。アタッシュケースの中には先程剛が持っていた物と同じドライバーが2つと、そのドライバーにもう1つスロットを付けたようなドライバーが1つ、そして緑、赤、黄、黒、透明、青の色をした6本のガイアメモリが入っていた。そのガイアメモリはドーパントに変身する為の化石のような形状のメモリとは正反対で、クリスタルのようなデザインをしていた。

 

「凄いんだよこれ!なんか私の為のドライバーらしくて、これの装着者は私と一体化できて同時に2本のメモリが使える。私の知識を超越した究極の超人が生まれるんだよ!!」

 

「そ、そうなのね。なんかDevilみたいだったわ、果南」

 

「地球の記憶を取り込んだからかなぁ。こういうの見るとゾクゾクしちゃって」

 

「鞠莉!何処にいる!」

 

そこへ、戦いを終えた剛が走って来る。

 

「剛!果南を助ける事が…」

 

剛は鞠莉の言葉を遮り、頬にビンタをした。鞠莉の頬は赤く腫れ、乾いた音が響いた。

 

「師匠!?急に何を…!」

 

「バカかお前は。何故言われた通りにしなかった…!」

 

「言われた通り?何のこ…」

 

鞠莉はその言葉にハッとし、剛の言葉を思い出す。自分が彼からの言いつけを破ってしまった事にようやく気づいたのだ。

 

「で、でも果南は助けられたじゃ…」

 

「そういう問題ではない。お前はまだ探偵として未熟な人間なんだぞ。このような危険な場でこそ任務云々関係なく俺に従うべきだ。勝手な行動をするな」

 

その後、鞠莉達は結局工作員に見つかってしまった。

剛は身を挺して鞠莉と果南を守ろうとしたが…背後からの凶弾に倒れて致命傷を負ってしまった。

 

「剛ッ!!」

 

「がはっ…鞠莉、俺の事は置いて果南と逃げろ。黒澤探偵部を頼んだぞ」

 

「嫌だよ!師匠、そんな事言わないでよ!」

 

「果南、お前は地球の記憶を脳に秘めているんだろう?その頭脳を活かして鞠莉をサポートしろ」

 

「師匠…うぅっ…」

 

果南にはロストドライバーとスカルメモリを。

 

「鞠莉、お前の町を愛する気持ちは本物だろう?俺の分まで町を守れ。そして、町を泣かす奴らを許すな…」

 

「やめて…まだ私は未熟な人間なのよ?私にはまだ無理よッ!!」

 

「2人の力さえ合わせりゃ何とかなるさ…あとは頼んだぞ…」

 

鞠莉には自身の愛用の帽子を渡す。剛は微笑むと、そのまま息を引き取った。

 

「剛…剛ぃぃぃっ!!」

 

鞠莉は大粒の涙を流し剛の名を呼び叫んだ。その時床に大きな穴が開き、タブー・ドーパントが現れた。

そこで鞠莉と果南は初めてWに変身した。強い風が周りに吹き荒れ、ヘリが激突する。それにより、工場は一瞬で火の海と化した。

 

「何よこれ…私どうなってしまったの?」

 

『まだ仕組みがわかってないみたいだね、鞠莉』

 

「わからないわ。一体何が…キャアッ!!」

 

工場が崩壊し出し、Wは足の踏みどころがなく落ちてしまった。抜け殻となった果南と剛の身体もそこから落下する。そこへどこからともなく恐竜のロボットが現れ、果南と剛の身体を支える。

やがて完全に床が抜け、Wは風の力で着地する。その近くでは恐竜のロボット、ファングメモリが鳴き声を上げWを見上げていた。果南はなるほどと呟き、ファングに近づくとサイクロンメモリをドライバーから抜き変身を解除した。何故か挙がっている右手に、鞠莉は困惑の色を隠せない。

 

「えっ?本当に何なの?」

 

「変わるよ鞠莉、2人でここから逃げよう」

 

果南が手を出すと、ファングは果南の手に乗る。果南はそれをメモリに変形させ、起動スイッチを押した。

 

\ファング!/

 

「変身!」

 

すると、鞠莉のドライバーに残っていたジョーカーメモリが果南のドライバーの左スロットに転送され、鞠莉は意識を失い倒れた。果南は転送されて来たジョーカーメモリとファングメモリを挿し、ドライバーを展開した。

 

\ファング!ジョーカー!/

 

果南の身体は白と黒の風に包まれ、Wに姿を変えた。その身体はところどころ鋭くなっている。

仮面ライダーW ファングジョーカー。

その姿は果南の身体をボディサイドとして変身し、W基本形態のサイクロンジョーカーよりも攻撃やスピードが格段に上がった形態だ。

 

「ガァァァァァァァ!!」

 

Wはその場で大きな咆哮を上げ、暴れ狂った。Wは咆哮に気づき近づいて来たマスカレイドを獣の如く蹴散らして行く。

 

\アームファング!/

 

Wがファングメモリの角を1回押すと、右腕からは白い刃が生えた。Wはその刃でマスカレイドを次々と切り裂いて行く。

 

「何?あの力…」

 

「ガァァァァッ!!」

 

タブーはWの力に驚愕し、その場から撤退を試みる。しかし既に手遅れだった。Wの目は既にタブーの姿を捉えている。

 

\ショルダーファング!/

 

ファングメモリの角を2回押すと、今度は肩に白い刃が出現した。Wはそれをブーメランのように投げ、マスカレイドの大軍を全て切り裂いた。

 

「キャアッ!ぐっ…」

 

刃はタブーの右肩にも命中し、大きなダメージを与えた。タブーが撤退したのを確認したWは鞠莉と剛の身体を抱え、工場から脱出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「鞠莉も私にも罪がある。私の罪は流されるがままにガイアメモリを作り町を泣かせた事。鞠莉の罪は勝手な行動をした事。罪は消える事はないから抱えて生きて行くしかないんだよ」

 

「もしかしてあなた、私にそれを思い出させる為に?」

 

「鞠莉、1つ質問をするよ。これからも罪を数えて共に歩いてくれる?」

 

「そうよね、すっかり忘れていたわ。依頼人の為に依頼はしっかりと解決する事、これ以上誰かを泣かせない事…思い出させてくれてありがとう、果南。こちらこそ、これからもよろしくね!」

 

鞠莉は果南の手を握り、頷いた。2人は人目のつかない場所へ移動し、地球の本棚で検索を始めた。

 

「さぁ、検索を始めるよ。キーワードは?」

 

「まずは『死人還り』『近江遥』」

 

「そこまではもう終わってるよ。でもこれ以上本が減らないんだよね」

 

「海未の持って来た捜査資料に何か手掛かりがないかしら?」

 

鞠莉は昨日海未が置いて行った資料に目を通す。死人の出現場所や目撃者に特に共通している点は見られなかった。しかし、目撃時間をよく見るとどれも時間が18時頃になっているのに気づいた。

 

「果南、キーワード追加よ。キーワードは『18:00』」

 

果南がその時間をキーワードに追加すると、本棚が一気に減っていった。果南の目の前には一冊の本が残っている。

 

「ビンゴだよ。絞れた」

 

その本の表紙には『Act』と書かれている。

 

「『演じる』という本だったよ。今から1週間後の日曜日に彼方さんの学校で演劇部の舞台があって、その公演のテーマの1つに『死者』というワードがあるらしいよ」

 

「まさか…」

 

鞠莉は学校で演劇部の少女・桜坂しずくに会った事を思い出した。しずくこそが死人還りの元凶であり、ドーパントの正体だったのだ。

 

「さぁ、行きましょう果南」

 

「…うん、そうだね」

 

果南は一瞬違和感を感じるも、鞠莉とハードボイルダーに乗り走り出す。

走行中、果南のスタッグフォンにルビィからの着信が入る。

 

『演劇部のしずくちゃんが彼方さんと一緒にいるよ!』

 

『場所は彼方さんの学校の体育館ですわ!』

 

「了解!鞠莉、急ごう!」

 

「スピードUPするわ!しっかり掴まってて、果南♪」

 

 

 

「準備があるのでここで待っていて下さい」

 

一方、体育館ではしずくに連れられた彼方がアリーナに入ろうとしていた。しずくがアリーナに入ると、彼方の後ろの扉が開く。ルビィとダイヤが中に入って来たのだ。

 

「あっ、ダイヤちゃんにルビィちゃん…」

 

「彼方さん…どうして連絡くれなかったの?」

 

「逃げましょう、あの人はドーパントですよ?」

 

「それでもいい。しずくちゃんが普通の人間じゃないのは分かるけど、このまま遥ちゃんと静かに暮らせるなら彼方ちゃんは…」

 

「何を言ってるんですか!死んでしまった人は帰って来ないんですよ?」

 

「なんか騒がしいと思ったら…私の正体、知ってしまったんですね」

 

ダイヤの言葉に彼方が戸惑ったような表情を見せた瞬間、アリーナの扉が開きしずくが姿を現した。しずくは3人を半ば強制的にアリーナの中に入れ、怪しげな笑みを浮かべながら話す。

 

「今からここで素敵な舞台が幕を開けます。最愛の人と再会し、永遠にその人の夢を見続ける…素晴らしいと思いませんか?それに、皆さんには今は亡き大切な人がいる…妹さんとお父さんの夢を、ずーっと見続けてください」

 

そう言い、しずくは橙色のガイアメモリを構える。その時、2体のスタッグフォンが飛び出ししずくにぶつかった。

 

「そこまでよ、桜坂しずくさん…いえ、デス・ドーパント!」

 

「仮面ライダーですか。邪魔をするのなら…まずはあなた達から片付けます」

 

しずくは笑いながらメモリを右腕のコネクタに挿す。その瞬間しずくの姿は消え、ステージ袖から剛が姿を現す。

 

「今度は加減しないぞ、鞠莉」

 

\スカル!/

 

「変身…」

 

\スカル!/

 

剛はスカルに変身し、彼方に近づく。鞠莉は彼方を守る為にスカルの目の前に立った。

 

「鞠莉、そこをどけ」

 

「剛!この子は私の依頼人よ」

 

「それがどうした。またお前は俺の命令に背くのか。また俺を殺したいのか」

 

鞠莉はその言葉に反応し、スカルから目を逸らす。

 

「ダメだよ鞠莉ちゃん!聞いちゃダメ!」

 

「鞠莉…」

 

鞠莉は黙ったまま目を閉じている。やがて覚悟を決めたようにゆっくりと目を開け、スカルに近づく。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「ぐっ…?」

 

突然の事に、果南達は驚き目を見開く。鞠莉がスカルを殴ったのだ。

鞠莉は鋭い眼光でスカルを睨みつける。

 

「私はあなたを殺してしまった事、絶対に忘れるつもりはないわ。未熟でもいい、罪を抱えて生き続ける。あなたの教えを守る。それを邪魔するのがあなただとしても、私は絶対に探偵を辞めない!本当のあなたが教えてくれた言葉があるから!」

 

『そんなっ!?何なんですか、あなたは!?』

 

スカルは何も言わず、代わりに動揺したデスの声が響く。鞠莉は笑みを浮かべ、それに答える。

 

「私…いえ、私達は黒澤剛の忘れ形見。そして、2人で1人の仮面ライダーよ!行くわよ、果南!」

 

\ジョーカー!/

 

「鞠莉…うん!」

 

\サイクロン!/

 

過去を乗り越えた鞠莉には、もう何も恐れるものはなかった。果南もその思いに答えるよう、メモリを起動する。それを見たダイヤとルビィも目を合わせながら微笑み合う。

 

「「変身!!」」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

Wはスカルにキックをお見舞し、外へと戦いの場を移す。鞠莉は剛に対する迷いを捨て去る事ができた為、いつもより強いパワーを発揮している。

 

「ルビィ、行きましょう!」

 

「彼方さんは安全な場所に隠れててね!よいしょっ!」

 

ダイヤは果南の身体を背負ったルビィと共にWの元へ向かう。

外へ出ると、既にWはスカルを追い詰めていた。

 

「鞠莉…俺がどうなってもいいのか?」

 

\ヒート!ジョーカー!/

 

鞠莉はスカルの言葉に耳を傾けず、メモリをヒートに変え炎を纏った拳でスカルを殴る。スカルは吹き飛び、変身を解除される。

しかし、本来ならば変身を解除されると剛が姿を現すはずが、何故かそこにいたのはしずくであった。

 

「えっ?剛じゃない?」

 

『まさか…』

 

しずくは電撃の走ったメモリを手にし、再び右腕にメモリを挿しデス・ドーパントに変身した。しかし、メモリが発した音声は『デス』ではなかった。

 

\ダミー!/

 

「ダミー?どういう事?」

 

『やっぱりね。どうもメモリ名が本と一致しないと思ったよ。DはDEATH(デス)のDじゃなくてDUMMY(ダミー)のDだったんだ』

 

果南が先程覚えた違和感は、本の内容とメモリ名の相違だった。しずくは死者"を生き返らせた"のではなく、死者"に変身"していたのだ。

 

\トリガー!/

\ヒート!トリガー!/

 

Wはメモリをトリガーに変え、トリガーマグナムから炎の弾を撃つ。弾はダミーに全て命中し、デス・ドーパントの変身も解かれる。中から出てきたのは、グレーの人型のドーパントだった。あまりにも特徴のない姿だった為、ルビィとダイヤも思わず驚いてしまう。

 

「ピギ!?あれが正体!?」

 

「ハッキリ言って弱そう、ですわ…」

 

「確かにそう見えるかもしれません。でもこのメモリは他人の記憶を読み取る事ができ、どんな姿にもなれるんです!」

 

ダミーは一拍置き、話を続ける。

 

「私は1週間前、舞台で死者の役を演じる事が決まりました。でも中々イメージが掴めなくて…そんな時にこのメモリを手に入れて、死者に変身してみたら不思議と気持ちが落ち着いて…」

 

「あなたはそれでいいかもしれません。ですが、私はあなたに父を汚されてとても腹立たしいと思っていますわ!」

 

ダミーメモリを手に入れた口実を聞いたダイヤは痺れを切らし、胸の内に秘めた怒りを吐き出した。

 

「これをあなたに化かされた人達が知ったら誰もが同じ事を思うはずです!鞠莉さんと果南さんの思いも踏み躙って…あなただけは絶対に許しませんわ!」

 

ダイヤは腰に何かを装着する。ダイヤの腰に巻かれた物を見て、果南と鞠莉は驚いた。

 

『ダイヤ、それって…!』

 

「剛のロストドライバー…」

 

「すみません。お父様とお二人の戦いを見た時に部室に同じ物があったのを思い出して…こっそり持ち出してしまいました」

 

ダイヤは少し照れくさそうに左手に持っていた帽子を見る。剛の白いソフト帽だ。

 

「お父様みたいに上手く戦えないかもしれませんが…私も手伝いますわ!」

 

「ダイヤ…ありがとう!」

 

ダイヤは右手に黒のガイアメモリを構え、スイッチを押す。

 

\スカル!/

 

「変身…ですわ!」

 

\スカル!/

 

ダイヤの姿はスカルになり、帽子を被った。Wの隣に並ぶスカル。鞠莉と果南はその姿を横から見て、剛の面影を感じていた。

 

「行きましょう。鞠莉さん、果南さん…お父様」

 

『じゃ、一緒に決め台詞言ってよ♪』

 

「「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!!」」」

 

2人はトリガーマグナムとスカルマグナムを取り出し、ダミーに射撃した。

 

 

 

\タブー!/

\ナスカ!/

\スミロドン!/

 

一方、4人の戦場へあんじゅ、英玲奈、聖良の3人が近づいていた。3人はメモリを構え、ドーパントに変身した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Wとスカル、ダミーの戦いはWとスカルが優勢だった。2対1というのもあったが、3人の精神状態も極めて良好だったからだ。

 

「このままメモリブレイクしましょう!やり方はわかる?」

 

「バッチリと覚えていますわ!2人で決めま…キャアッ!」

 

「ダイヤッ!?」

 

スカルがメモリをマグナムに挿そうとした瞬間、スカルに青と赤の光弾が命中し、Wは金色の何かに切り裂かれた。

 

「もしかして、あなた方は…!」

 

ダミーの周りにはタブー、ナスカ、スミロドンの3体のドーパントが立っていた。

 

「ダミーメモリの能力は素晴らしい能力なので、助けてあげましょう」

 

「感謝するんだな」

 

「あら…Wだけでなくスカルもいるなんて。私が戦った方ではなさそうだけど…とにかく決着をつけましょう、仮面ライダー」

 

『幹部も来るなんて面倒だなぁ…ダイヤはダミーをお願い!幹部は私達の方が戦えるから!』

 

「わかりましたわ!そちらは頼みます!」

 

スカルはダミーを追いかけ、Wは幹部達と対峙する。

 

\ルナ!/

\ルナ!トリガー!/

 

Wはメモリをルナに変え、トリガーマグナムからホーミング弾を放つ。弾はタブーの光弾を相殺する。ナスカはブレードでそれを切り、躱しながらWの方へ向かい、スミロドンは弾を全て避けWの体を爪で切り裂いた。

 

『こいつ、ルナトリガーの追尾弾も躱しちゃうなんて。相当なスピードだなぁ』

 

「ネコ科の動物の身体能力が高いのはご存知でしょう?このメモリは身体能力を大幅に強化してくれるんですよ」

 

『なるほどねぇ。近距離と遠距離、こっちの方が対応しやすいかなん?』

 

\メタル!/

\ルナ!メタル!/

 

Wは黄色と銀の姿・ルナメタルにチェンジし、メタルシャフトを伸ばし攻撃する。メタルシャフトは遠くにいるタブーの方まで伸び、光弾を出す隙をつくらない。かつ接近戦の得意なナスカとスミロドンも近づけさせなかった。ナスカもスミロドンも、シャフトの攻撃を防ぐのに精一杯だった。

Wはメタルシャフトを大きく振り、ナスカとスミロドンを弾き飛ばす。

 

「さぁて、Cleaning Timeよ!」

 

\メタル!マキシマムドライブ!/

 

Wがメタルメモリをシャフトに挿し、それを振り回しながら金色の輪を描く。

 

「「メタルイリュージョン!!」」

 

Wは輪を飛ばすが、タブー達はそれを避けた。メタルイリュージョンはダミーに命中しそうになるが、あと少しというところで当たらなかった。

 

『まとめてメモリブレイクしたかったけど、そこまでヤワじゃないか』

 

「このままじゃ…あれに!」

 

ダミーは走っていたトラックのタイヤを見て、それに化け逃げ去る。

 

「逃げ出すなんて…恩というものを知らないんですね」

 

「まずいですわ!逃げられてしまいます!」

 

「追いましょう!ダイヤのバイクもあるわよ♪」

 

鞠莉はスカルボイルダーを呼び出し、ダミーを追いかけた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Wとスカルはタイヤに化けたダミーに追いつく。ダミーはそれに気づきスピードを上げるも、横からのリボルギャリーの突進により元の姿に戻ってしまう。

 

「くっ…あなた達にはわからないでしょう!?重要な役を任されたプレッシャーなんて!!私がどんな思いで頑張っているかわかるんですか!?」

 

『確かにわからないよ。私達はあなたじゃないもん』

 

「でも、亡くなった方との大切な思い出を汚していい理由にはなりません!メモリで手に入れた力はあなたが自ら手に入れた力ではありませんわ!」

 

「本当に好きな事なら、自分の手で掴むのよ!」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

Wとスカルは、マキシマムスロットにメモリを挿す。

 

\ジョーカー!マキシマムドライブ!/

\スカル!マキシマムドライブ!/

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「「ジョーカーエクストリーム!!」」

 

「はぁぁっ!!」

 

冷静さを失ったダミーはWとスカルに向かって行く。しかし、Wのジョーカーエクストリームとスカルのライダーキックを食らったダミーは、変身を解除される。しずくの右腕からはダミーメモリが排出され、地面に落ちたメモリはパリンと音を立て壊れた。スカルは崩れ落ちるしずくの身体を支え、優しく言葉をかける。

 

「メモリを手にしてでも、あなたは演劇と向き合いたかったのでしょう?それなら大丈夫です。罪を数え、一度立ち止まってみて下さい。そして罪を償ったら、前に進んで下さい」

 

しずくはその言葉に笑みを浮かべながら涙を流し、意識を失った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Report(報告書)

 

After a case, Kanata said.

"Thank you everybody. Kanata-chan wanted to value a memory with genuine Haruka-chan like everybody."

I wanted to value the words that he who was genuine gave. Because Takeshi lives among us.

(事件の後、彼方は言った。

 

「みんな、ありがとう。彼方ちゃんはみんなのように、本物の遥ちゃんとの思い出を大切にしたいと思います」

 

私も本物の彼がくれた言葉を大切にしたいと思う。剛は私達の中で生きているのだから)

 

鞠莉はダイヤとルビィの方を見る。戦いの後、果南と鞠莉はビギンズナイトでの出来事を話した。ダイヤとルビィは果南と鞠莉を許し、結果的に関係を深める事ができたのだ。

ダイヤとルビィは花陽、善子、花丸と仲良さげに談笑していた。鞠莉はその様子を見て微笑んだ。

 

「善子ちゃん、衣装にこれ付けてみたらどうかな?優しい堕天使さん♪」

 

「ちょっとやめなさいよ!私はクールでダークな堕天使なの…って、ずら丸も私のお団子にキャンディを刺すな!キュートにするな!」

 

「キュートは正義ずらよ、善子ちゃん♪」

 

「それより千歌ちゃんと梨子ちゃんはまだかなぁ…私は白いご飯を食べたくてウズウズしています…!」

 

「皆さ〜ん!今からAqoursのスペシャルライブをやるので、ステージ前に集合っ♪」

 

「ルビィちゃん、私達にも入部をお祝いさせて欲しいな♪」

 

部室のドアが開き、千歌と梨子が顔を出す。2人はスクールアイドルの可愛らしい衣装に身を包んでいた。

 

「鞠莉さん、私ライブなんて聞いて…いえ、今日はやめておきましょうか。鞠莉さん、ライブをやるそうなので果南さんを呼んで来て下さい」

 

「OK!かな〜ん♪」

 

鞠莉は興味深そうに花壇を見る果南に声をかける為、外に出た。




<次回予告>

ルビィ「恐竜のロボットが…」

果南「ファングが私の元に戻って来たんだよ…!」

海未「仮面ライダーと名乗る怪人が銀行を襲撃するという事件が起きたそうなんです!!」

ツバサ「ねぇあんじゅ、私達は何かしら?」

果南「地獄の底まで私と相乗りして、鞠莉!」

\ファング!ジョーカー!/

次回 覚醒するK/失われた光


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#7 覚醒するK/失われた光

ファングジョーカー本格登場な7話です。
pixivの方は現在14話まで投稿されているので、今の所ストックは残り半分となります。それから受験も近い為、一旦キリのいいこの回で更新をストップさせて頂きます。受験に合格次第、更新を再開していく予定でいます。勝手ではありますが宜しくお願いします。


果南は走っていた。何処かわかりもしない真っ暗な空間の中を、1人で走り続けていた。あてもなく、ただひたすらに。

どれくらい走っただろうか。1つの小さな白い光が見え、そこには笑顔でこちらに手を振る金髪の少女のシルエットが。

小原鞠莉。戦いや探偵業を共にする果南の大切な親友だ。果南はただ手を振り続ける鞠莉の元へと駆け寄る。

しかし、突如として何者かの姿が鞠莉のシルエットを切り裂いた。鞠莉のシルエットは紙のようにバラバラになってしまい、目の前の光もそれに応えるかのように消えた。

突然の事に果南が戸惑うと、目の前には仮面ライダーWが立っていた。だがその姿は、本来の緑と黒のWではない。目の前に立つWは白と黒の姿をしており、身体は刃のように鋭くなっていた。

 

「ガァァァァァァァッ!!」

 

その咆哮と共に周囲は炎に包まれ、白と黒のWは野獣の如く暴れ回った。何もない空間で、ただひたすらに。

その姿を見た果南はただ恐怖に震えているだけだった。かつての記憶がフラッシュバックし、激しい頭痛が彼女を襲った。あの日の事をずっと忘れられない。

果南は自分が自分でなくなってしまう恐怖を知っている。何故なら、向こうで暴れている白と黒のWは自分自身だからだ。

 

「ウァァァァァァッ!!」

 

果南の耳にはWの激しい悲痛な叫び声が響くだけだった。

 

 

 

「果南!大丈夫?」

 

「はっ!!?はぁ…夢かぁ…」

 

果南は保健室のベッドで目を覚ます。ゆっくりと身体を起こすと、そこには鞠莉とダイヤ、ルビィの姿があった。先程見ていた光景は夢だったのだ。

 

「まったく、熱があるのに学校に来るなんてぶっぶーですわよ?」

 

「熱、38℃もあって凄くうなされてたし…」

 

「バレーの授業をしていたら急に果南が倒れて…ビックリしたわ」

 

「ゴメン、探偵部の事もあるし休んじゃいけないと思って。でもそんなに体調悪くないし…」

 

「探偵部が大事なのはわかりますが、今は休んで下さい。養護教諭の先生も1日ゆっくりすれば治ると仰っていました」

 

「そこまで重症じゃなくて良かったわ。ポカリ買って来るからちょっと待っててね」

 

「ありがと…心配かけちゃってゴメンね」

 

鞠莉はスポーツドリンクを買う為、自動販売機コーナーへ向かった。

ダイヤは冷蔵庫から冷却シートを取り出し、果南に渡そうとする。その時、ベットの下にファングがいるのに気づいた。

 

「ん?果南さん、この恐竜のロボットは新しいメモリガジェットですか?ずっと果南さんの方を見てますが…」

 

「っ!?やだ!!こっち来ないでッ!!」

 

「果南ちゃん!?」

 

果南は起き上がり、ファングに向けて枕を投げつけた。それだけでなくかけていた布団を蹴り飛ばし、机の上の本やティッシュ箱、椅子を使ってファングを必死に追い払おうとする。

まるで何かに取り憑かれたかのような果南の行動に驚き、ダイヤは慌てて果南を制止した。

 

「やめなさい果南さん!落ち着いて下さい!」

 

「ダイヤ!?どうしたの!?」

 

丁度スポーツドリンクを買って来た鞠莉が保健室に戻って来た。鞠莉は散らかった保健室を見て、思わず驚愕する。

 

「鞠莉ちゃん!えっと、恐竜のロボットが…」

 

「恐竜のロボットがベッドの下にいて、それを見た瞬間果南さんが急に暴れ出して…」

 

「恐竜のロボット?まさか…」

 

「そうだよ鞠莉、ファングが私の元に戻って来たんだよ…!もう嫌だよッ!!見たくないよアイツなんか!!」

 

「果南さん!!落ち着きなさいと言っているでしょう!?風邪も酷くなりますわよ!!」

 

ダイヤが声を荒らげる果南を落ち着かせる一方、ルビィはファングについて鞠莉に尋ねた。

 

「ねぇ鞠莉ちゃん、ファングって何?」

 

「ファングというのは…簡単に言ってしまえばWの第7のメモリ。サイクロンやジョーカーと言ったメモリと違い、メモリ自体が意思を持っているの」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後、部室で鞠莉はダイヤとルビィにファングメモリについての説明をした。果南はファングの名前を出すだけで冷静さを欠いてしまうので、保健室で寝かせている。

 

「ファングは果南をボディサイドとして変身するの。ビギンズナイトの話をした時には言わなかったんだけど、あの日1度だけ私達はファングを使って変身した。だけどあのメモリを使った瞬間、果南の中の何かが壊れた…獣のように暴れ続けたの」

 

「鞠莉さんは果南さんの暴走を止められなかったのですか?」

 

「ファングの力の大きさが原因で、Wの力がコントロールできなかったの。別荘に帰って目が覚めた時に、果南が普段見せないようなFaceでファングを追い払ってるのを見て…この力は使ってはいけないと思った」

 

「じゃあ、果南ちゃんがファングさんを嫌いなのは、自分が暴走しちゃうから怖いって事なのかな…?」

 

「Yes. あのメモリは果南の自我まで奪ってしまうほどの力を持ったメモリなの。だからこれからはファングという言葉を果南の前で出さないで欲しい。ファングがなくても私達は今のままで十分戦えるわ」

 

「ですが、だとしたら何故ファングは今になって戻って来たのでしょうか…」

 

ファングはビギンズナイトの日以来、2年の間ずっと姿を見せなかったのだ。そのファングが再び現れたのには何か理由があるのだろうか。

そんな事を考えていると、鞠莉のスタッグフォンが鳴り出した。海未からの着信だ。

 

「もしもし?海未じゃない。どうしたの?」

 

『鞠莉ですか!?仮面ライダーと名乗る怪人が銀行を襲撃するという事件が起きたそうなんです!!どういう事なのか調べてもらえませんか!?』

 

「何よそれ…わかったわ!すぐ調べてみるわね!」

 

「何かあったの?」

 

「仮面ライダーと名乗る怪人が市内の銀行を襲って大金を盗んで行ったらしいの。ダイヤ、何か知らないわよね?」

 

「私は何もしていませんわよ!?まさかとは思いますが鞠莉さんではないですわよね!?」

 

「No,No!!私な訳ないでしょうダイヤ!今日は授業だから変身できないし!」

 

「そうですよね…私達の名前を使ってこんな事をするなんて許せませんわ!今すぐその汚らわしい偽物を探しましょう!」

 

鞠莉とダイヤは仮面ライダーを名乗る怪人を探すべくバイクを走らせる。鞠莉が偽物を探していると、奇妙な姿をした赤とグレーのドーパントが現金輸送車を襲っているのを発見した。

 

\ジョーカー!/

 

「アイツね!果南、風邪引いてる中悪いけど肩貸して!」

 

『ん…?ドーパントでも出たの?ちょっと待って』

 

すると、鞠莉のドライバーにサイクロンメモリが転送されて来た。

鞠莉はジョーカーメモリと共にサイクロンメモリをドライバーに挿し、Wに変身した。

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

「あ?なんだテメェは?」

 

「仮面ライダーよ!でも私達はあなたみたいな悪人じゃないわ!」

 

「ほぅ、お前が本物か…邪魔すんな!」

 

ドーパントは左手の機関銃からミサイルを発射してきた。Wは機関銃から放たれる連続ミサイルの攻撃により上手く前に進めない。

 

『こっちで行こっか』

 

\トリガー!/

\サイクロン!トリガー!/

 

果南はトリガーにメモリをチェンジし、ミサイルをトリガーマグナムの弾で迎え撃つ。そこへ、ドーパントの持つトランシーバーに着信が入る。

 

『よく聞いてアームズさん、いい作戦を思いついたの。ここは一旦引いて』

 

「そうかい、わかったよ」

 

アームズと呼ばれたドーパントは指示通りバイクのスピードを上げ、Wが追って来ないように煙幕弾を放ち、どこかへ去って行った。

 

「逃げたようね…何が目的なのかしら?」

 

『ん?これは…あのドーパントが落として行った弾かなん?何かの手掛かりになるかも』

 

 

 

一方綺羅家では、聖良と理亞がラジオの収録に向かうところだった。

 

「では、行ってきます」

 

「行ってきます」

 

「気をつけてね。それにしても楽しみね、あんじゅ。試験とはいえ全国で『RADIO A-RISE』が放送されるんだから」

 

「そうね。アイドルとして頑張って来た甲斐があったわね」

 

「けど、ガイアメモリの方はどうなっているのかしら?そろそろ新しいメモリも増やしたいと思っているのよ」

 

「ごめんなさい。その計画も進めているところなの」

 

「ならいいけど…ねぇあんじゅ、私達は何かしら?」

 

「っ…!」

 

その言葉により、部屋の空気が冷たくなる。ツバサの怪しげな笑みを見たあんじゅの背中には、言葉にできない恐怖が走っている。

 

「…地球に選ばれた、新たな歴史の創世者。そうでしょう?」

 

「よくわかっているじゃない。流石同士だわ。ところで、さっきは誰に連絡をしていたの?まさか彼氏ができた、とかではないわよね?」

 

「ふふっ、まさか。私が配ったメモリの使用者よ。私達の邪魔をする仮面ライダーを潰す為に従ってもらってるの。まぁ、使用者は一応男性なんだけど」

 

先程アームズと話していたのはあんじゅだったのだ。彼女はとある目的を達成する為、彼と組んで仮面ライダーを倒そうとしていた。

 

「そう…仮面ライダーの実力は未だ未知数。油断してヘマをしないようにね。あと、恋愛関係に発展しないように」

 

「ならないわよ。それじゃあ、私も出かけてくるわね」

 

あんじゅはそう言い部屋を出た。

部屋の外ではあんじゅに話があったのか、英玲奈が待っていた。

 

「英玲奈、何の用?」

 

「君が危ない男と関わっているのではないかと心配になってね。アームズのメモリだろう?購入者を調べた結果、傷害事件を犯したという前科を持つ凶悪犯だ。大丈夫なのか?」

 

「心配してくれなくても結構よ。それを分かった上で私はメモリを渡しているし、万が一裏切ったなら彼も消すだけ。そういう英玲奈こそ最近の戦いぶりは何なの?不調なのかしら?」

 

「彼女達はなかなか頭が切れるからな。予想外の行動をしてくるから面白いよ」

 

「はぁ…呑気な事を吐いてられるのも今のうちよ。私達の大切な物を取り戻す為にもっと尽力して欲しいわ」

 

あんじゅは呆れたように溜息をつくと、そのまま屋敷を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、果南もすっかり回復しアームズの居場所について調べる事になった。

メモリ名も特定し、あとは彼の居場所を調べるだけだ。

 

「あと一押しかな。何かキーワードはない?」

 

「そうね…あいつの落として行った弾を調べれば何かわかるはずよ。それにしても変な形ねぇこれ」

 

「なんかこれ…りんごみたいな形してる?」

 

「ルビィ、真面目に考えなさい。こうしているうちにまた他の場所が襲われるかもしれませんよ?犯人は前科があるので放っておけません」

 

「いや、りんご…案外キーワードになるかもしれない。入れてみるよ」

 

果南はりんごをキーワードに入れ検索する。すると本棚が風で遠ざかり、手元に1冊の本が残った。

 

「犯人の場所がわかったよ」

 

アームズの潜伏場所は裾野市郊外にある『電化製品店Apple』という建物の跡地だった。

鞠莉達はその場へ向かい、男と対峙する。

 

「もう観念しなさい!メモリを捨てて罪を償うのよ」

 

「無理だな!メモリ捨てるくらいなら人間なんかやめてやるよ!」

 

\アームズ!/

 

男は左目の近くにあるコネクタにメモリを挿し、アームズ・ドーパントに変身した。

 

「果南、変身よ!」

 

「もちろん!」

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

鞠莉と果南もWに変身し、アームズに向かって行く。アームズは昨日と同様に機関銃を装備し、Wに攻撃する。

 

\ヒート!トリガー!/

 

「ヒートトリガーのSuper powerをお見舞いしてあげるわ!」

 

Wは銃撃を避けつつ、火炎弾をアームズに向けて撃つ。火力の高い弾をまともに食らったアームズは数メートル後ろに吹き飛んだ。

 

\ヒート!ジョーカー!/

 

「ここまでよ!ハァッ!」

 

「それはこっちの台詞だよ!」

 

Wはメモリをジョーカーに変え、アームズに近づく。しかしその瞬間、アームズの左手は機関銃から大きな剣に変わり、Wの身体を切り裂いた。

 

「キャアッ!?武器が変わった!?」

 

『左手の武器を自在に変えられるのか…アームズの名を持つのに相応しいね』

 

Wは剣を受け止め反撃体制に入る。Wは炎を纏ったキックをアームズに仕掛けるも、右手に持っていた大きな盾に防がれてしまう。さらにその盾は剣としても使う事ができ、Wは2つの剣の攻撃に追い詰められ形成が逆転してしまった。

 

「ふぅ…そろそろ潮時かな」

 

アームズが手を挙げると、物陰からマスカレイド・ドーパントの大軍が現れ、ルビィを人質にとってしまう。

 

「マスカレイド!?組織と結託していたのね!」

 

「ピギィ!!お姉ちゃん!!」

 

「ルビィ!今助けます!」

 

\スカル!/

 

ダイヤはスカルメモリを起動させるも、背後にいたマスカレイドからの攻撃によりメモリを落としてしまった。

アームズはスカルメモリを拾うと左手を再び機関銃に変え、ルビィに銃を向ける。

 

「やめなさい!ルビィに何をするつもりですの!?」

 

「おい、Wの右側!変身を解除して大人しく俺の元に来い!そうすればこの女は解放してやる」

 

『やっぱり、狙いは私なんだね』

 

あんじゅが立てた作戦は、アームズにわざと銃弾を残させる事で鞠莉達にこの場所を調べさせて罠に嵌め、果南を捕らえるというものだった。

理由は不明だが、果南はビギンズナイトで組織に捕まって以来追われ身となっているのだ。

 

「果南、メモリをルナに変えてルビィを助けるわよ」

 

『だね。それならアームズにもかなり有効だと思う』

 

果南がヒートメモリをドライバーから抜く。その動きを見逃さなかったアームズは、ドライバーに向け銃撃する。

 

「果南さん!!」

 

『えっ?』

 

ダイヤがアームズの動きに気づき果南に呼びかけるが、ダブルドライバーの右側のスロットは先程の銃撃で銀の塊に覆われてしまい、ソウルサイドのメモリチェンジが不可能になってしまった。

 

『!?しまっ…』

 

「これで終わりだ!!」

 

「キャアッ!!」

 

アームズはWに強烈なミサイルを放ち、変身を解除させてしまった。

鞠莉のドライバーの右スロットは隙間なく完全に塞がれてしまっており、Wに変身する事ができなくなってしまった。

 

「ハッハッハッハッ!!これでお前らは変身できない!!さぁ、俺についてくる覚悟はできたかい?右側サンよぉ…?」

 

「…わかった。みんなを助けてくれるんでしょ?なら…」

 

「ダメ果南ちゃん!ルビィの事はいいから逃げて!」

 

「何言ってるのさ!殺されるかもしれないんだよ!?」

 

「果南ちゃんが捕まっちゃうよりはいいよ!こっちには鞠莉ちゃんもお姉ちゃんもいるから大丈夫だよ!」

 

「私達は変身できません。ですがこの状況は必ずどうにかします!だから早く!」

 

「そうよ果南逃げなさい!あなたの力を悪用してTownを泣かせてしまうよりはこれがBestな方法よ!ついて行ったら私達の仲もそれまでと思いなさい!!」

 

(…必ず助けに行くから。だから待ってて、3人共)

 

果南は鞠莉達の説得によりアームズについて行くのをやめ、リボルギャリーを呼び出した。

 

「待て!逃がすかよ!」

 

アームズは弾を連続発射するが、果南はそれを全て避けリボルギャリーに乗り込んだ。果南を乗せたリボルギャリーは猛スピードで発進し、学校へと走り去った。

 

「チクショウ、アイツになんて説明すりゃいいんだよ…まぁいい。人質もたくさんいるしな。右側は何もできないからこのまま諦めてもらうしかなさそうだ」

 

「果南が何もできない?どうかしら?私もダイヤもルビィも果南を信じてるわ。きっと何か策を見つけて私達の元に来てくれるはずよ」

 

その様子をあんじゅは陰から観察していた。あんじゅは自身の計画した作戦の失敗に苛立ちを隠せない。

 

「手緩すぎるわ…逃げる前にすぐ捕まえてしまえばよかったのに!これだから男は役に立たない…!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

部室に戻った果南は1人で頭を抱えていた。スパイダーショックやバットショットは鞠莉が持っており、果南の手元にあるガジェットはスタッグフォンのみだった。スタッグフォンにサイクロン、ヒート、ルナを挿す事により発動するマキシマムドライブでは火力不足どころかメモリブレイクは不可能だ。当然ながら、リボルギャリーやハードボイルダーなどのビークルではドーパントに対抗する事ができない。

 

「これだけじゃアームズには敵わない。何か他の物があれば…」

 

その時、何かが鳴く声を耳にする。足元を見ると、ファングが果南の方を見上げぴょんぴょんと跳ねていた。

 

「何しに来たの!?来るなっ!!」

 

果南は机の上にあった本やパソコンを投げつけ、ファングを追い払おうとする。しかし、ファングが何かを訴えかけているのに気づいたのか、物を投げつける手を止めた。

 

「そうだ…ファングなら私をボディとして変身できる。鞠莉のドライバーが無効化されていても、私のドライバーは無事だから…」

 

果南はファングに手を伸ばそうとするが、ビギンズナイトの出来事を思い出してしまい手が動かせなかった。自身が暴走してしまう恐怖の方が勝ってしまったのだ。

 

「失礼します。ダイヤさん、いますか?」

 

果南がしばらく動けないでいると、部室にダイヤを探しに来た梨子が入って来た。梨子の気配を察知したファングはどこかへ去って行く。

 

「梨子ちゃん。ダイヤなら鞠莉とルビィちゃんと外出してるよ。事件が起こったんだ」

 

「そうなんですか…海開きの事で相談があって来たんだけど、どうしよう…」

 

「とりあえず、ダイヤなら当分戻らないよ。週明けの方がいいかも」

 

「わかりました。また来ますね」

 

「待って梨子ちゃん」

 

「…はい?」

 

果南は出て行こうとする梨子を引き止める。勢いで引き止めてしまった為、何を話せばいいかわからず口ごもってしまう。果南はぎこちない口調ながらも、梨子にある問いかけをする。

 

「今回の事件さ、凄く大変な事件なんだよね。鞠莉達もどうしようもない状況で私の力が必要なんだけど、過去のトラウマが原因で1歩踏み出せないんだ。そんな時、梨子ちゃんならどうする?」

 

梨子は少し考え込むような仕草をしながら果南の質問に答える。

 

「大切な人を信じ、勇気を出してやってみる…かな。けど、昔の私じゃ行動も起こさずすぐに諦めていたと思います」

 

「どういう事?」

 

「果南さんには話してないですよね。私、ピアノをやってるんです。去年まで音楽が有名な東京の高校にいたんですけど、みんなの期待に応えなきゃってどこか追い詰められてて、楽しく弾けなくて…その年のコンクールは頭が真っ白になっちゃって鍵盤さえ触れませんでした」

 

「そっか、梨子ちゃんも向こうで色々あったんだね」

 

「ピアノばかりやってたから友達もできなくて、誰にも悩みを打ち明けられなかったんです。それでも鍵盤に触ろうとしたけど、結局コンクールのトラウマがフラッシュバックしちゃって手が動きませんでした」

 

果南は先程ファングに手を伸ばそうとしたが、結局手が動かなかった事を思い出した。梨子の話がその時の状況に似ていたからだ。

 

「それで海の音を探す為に内浦に転校して来たんです。そしたら千歌ちゃんと出会いました。千歌ちゃんはスクールアイドルに憧れていて、真っ直ぐに夢を語っていました。何にも囚われずひたすらに…」

 

果南は梨子の目をじっと見ながら真剣に話を聞いている。梨子はさらに言葉を続けた。

 

「スクールアイドルには私も誘われたんです。最初は本気でやってる千歌ちゃんに失礼だと思って断ってました。でも千歌ちゃんは『笑顔になれたらまた弾けばいい、みんなを笑顔にできるのはとっても素敵な事だ』って言ってくれて…私も輝きたいと思いスクールアイドルを始めました。苦労する事もあったけど、0から1を目指して努力するうちに私も笑顔になれたんです…って、なんか全然関係ない話になっちゃいましたね」

 

「いいよ、続けて」

 

「話をまとめると、ピアノの事で悩んでいた私は千歌ちゃんとスクールアイドルを始めて、自分でも輝けるんだって…ずっと忘れていた事を思い出せた気がします。今なら逃げていた事にも向き合えるんじゃないかって思えるんです」

 

「千歌との出会いで、梨子ちゃんは変われたと思ってるんだね」

 

「はい。だから今年もコンクールに出るつもりです。勇気は私の胸にあるんだって教えてくれた千歌ちゃんを信じて挑戦してみます。果南さんも鞠莉さん達の事を信じれば、きっと少しでも前に進めると思いますよ」

 

果南は自分が組織について行こうとする時、みんなはそれを止めてくれた。その上鞠莉には『私達の仲もそれまでと思え』と言われたのを思い出した。きっと鞠莉は自分を信じているから、親友を超えた存在と思っているからこそあのように言ってくれた。そう確信した果南の中で、1つの覚悟が決まる。

 

「よし、答えが出たよ。ありがとう、梨子ちゃん」

 

「本当ですか?全然力になれないかもって思ってたんですけど、それならよかったです」

 

梨子はお互いに頑張りましょう、と手を振りながら部室を後にした。そこへファングが再び現れ、鳴きながら果南を見上げている。果南が手を差し出すと、ファングは手に飛び乗った。

 

「みんな、信じてくれてありがとう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、男のアジトではダイヤと鞠莉がロープに巻かれ宙吊りにされていた。結局、鞠莉とダイヤは生身でマスカレイド達に立ち向かったものの、歯が立たずそのまま捕まってしまったのだ。2人の足元にはアームズの能力で生成した無数の針が生えており、ルビィはダイヤと鞠莉が落ちないように必死でロープを掴んでいた。その手は血が滲んでおり、真っ赤になっていた。

 

「ルビィ、もう無理しないで。そんな怪我をしてまで私を助ける必要はありません。私より鞠莉さんを優先して下さい。16年間不甲斐ない私と一緒に過ごしてくれてありがとうございます」

 

「何言ってるのよダイヤ!ルビィ、私じゃなくてダイヤを助けて!あなたの大切な姉なんでしょう?」

 

「2人共何言ってるの!?ルビィ嫌だよ!そんな事言わないで3人で一緒に帰ろうよ!」

 

「いい絵だなぁ!絆を感じるぜ…」

 

しかし、ルビィは長時間ロープを掴んでいる為体力も既に限界を迎えていた。腕や身体の痛みがピークに達し、ルビィの手からロープがするりと抜ける。ダイヤと鞠莉は死を覚悟した…

 

「…?私、生きてますわ」

 

「ダイヤ、あれ!」

 

鞠莉が頭上を見上げると、そこにはダイヤのロープを咥え、鞠莉のロープを踏みながら支えているファングの姿があった。すると広い空間にバイクのエンジン音が響き渡る。果南がハードボイルダーに乗って助けに来たのだ。

ハードボイルダーは3体のマスカレイドを吹き飛ばし、そのまま停止する。

 

「来たか!ようやくついてくる気になったようだなぁ!!」

 

「残念だけど違うよ。私は鞠莉達を助けに来た。そうやっていつまでも私を舐めていていいの?私はもう、あなたがどうなっても知らないよ」

 

「果南!!まさかファングを使うつもりなの!?」

 

「覚悟ならできてるよ。ダイヤと鞠莉が命懸けで戦ったんだから、私も戦うしかない。私を信じてくれたみんなを裏切りたくない!その為なら私は…自分が自分じゃなくなっても構わない!だから地獄の底まで私と相乗りして、鞠莉!」

 

「果南さん…」

 

「来て、ファング!」

 

果南の呼びかけに反応したファングは支えていた鞠莉とダイヤをルビィの方へ飛ばし、果南の手に着地する。

 

「あのメモリ…まさか!」

 

陰から観察していたあんじゅも見覚えのあるガジェットに動揺する。ファングはビギンズナイトの時、彼女を追い詰めたメモリだからだ。

 

\ファング!/

 

果南がファングをメモリに変形させ起動スイッチを押すと、腰にドライバーが出現する。それと同時に、鞠莉のドライバーに残っていたジョーカーメモリが果南のドライバーの左スロットへと転送された。果南は迷いなくジョーカーメモリを挿し込む。

 

「ダメっ!!果南!!」

 

「変身!!」

 

果南はファングメモリを右スロットに挿し込み、ドライバーを展開する。

 

\ファング!ジョーカー!/

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

果南が叫んだのと同時に、鞠莉はルビィの膝の上に倒れた。それは鞠莉の意識が果南と完全に一体化した事を意味していた。

白い風と衝撃波が巻き起こり、果南の身体は白と黒のW・ファングジョーカーに姿を変えた。

 

「果南ちゃんの身体が、本当にWになっちゃった…」

 

「グルァァァァァァァッ!!」

 

Wは雄叫びを上げると、襲いかかって来たマスカレイドの大軍を次々と圧倒していく。その動きは、まさに"野獣"そのものだ。

 

「あれがファングの力…凄いですわ」

 

\アームファング!/

 

Wがファングメモリの角を1回押すと、右腕に白い刃が出現する。

マスカレイドはWに切り裂かれ爆発四散した。Wと戦う前に70体ほどいたマスカレイドは半分以上が倒されてしまった。

 

「何だよあれ!俺聞いてねーぞ!?このままじゃやべぇ!」

 

\ショルダーファング!/

 

今度はファングメモリの角を2回押す。肩から白い刃が生え、Wはそれをブーメランのように投げつけマスカレイドを消し去っていく。全てのマスカレイドが消滅したのを見たアームズはその場から逃走しようとするが、Wの投げたショルダーファングの攻撃をまともに食らってしまい逃げられなかった。

動けないアームズにWは強烈なパンチやキックなどを叩き込む。一撃があまりにも重く、アームズはかなりダメージを受けていた。

 

『果南落ち着いて!流石にやりすぎよ!』

 

「ガァァァァッ!」

 

鞠莉は果南を止めようとするが、果南は完全に自我を失って暴走している為言葉が届かない。

アームズはルビィの元へ走り出し、そのまま人質にとってしまう。

 

「オイ!俺を殺したらこいつも死ぬぞ!仲間を捨てるかその力を捨てるか選べ!」

 

「なんて卑怯なマネを!果南さんやめて下さい!ルビィだけは傷つけないで!」

 

「ウゥ…?ガァァッ!」

 

\アームファング!/

 

Wの動きが一瞬止まる。しかしすぐにアームズの元へ走り出し、腕の刃でルビィもろともアームズを切り裂こうとしていた。

 

「果南ちゃんストップ!!」

 

「おやめなさい果南さん!!」

 

『やめて果南!!お願い!!お願いだからッ!!』

 

「アァァァァァァァッ!!」

 

鞠莉達の言葉も届かず暴走する果南はとうとうルビィに近づき、首を刎ねようとしていた。

 

『やめてぇぇぇぇっ!!』

 

鞠莉が叫んだ瞬間、意識が何処かに飛ばされる。目を覚ますと、そこは大きな棚が大量に並んでいる空間があった。足元には本がバラバラに散らかっており、辺りは炎に包まれていた。

 

「ここ、まさか地球の本棚…?そうよ!果南はここできっと迷っているんだわ!自分を失う恐怖に怯えながら…」

 

鞠莉は果南を探そうと地球の本棚の中を走り出した。

 

「果南!果南っ!何処にいるの?返事して!」

 

何度も何度も果南の名前を呼びながら彼女の姿を探す。声が枯れるくらい名前を呼び、足も痛くなるほど走り続ける。

どれくらいそれを続けただろうか。鞠莉の目には本が不自然に積み重なった場所が映った。そこに果南がいると確信した鞠莉は、本を掻き分けて果南の姿を探した。ある程度本を退かすと、その中から眠っている果南の顔が見えた。

 

「果南!しっかりして!果南!」

 

「あ…鞠莉。そっか、やっぱ私怖かったんだなぁ。自分を失うのが」

 

「良かった…心配したのよ!?ダイヤもルビィも、私も!!」

 

「えへへ…鞠莉達の事信じてよかったよ。ここに来る前に梨子ちゃんに言われたんだ。『みんなを信じれば前に進める』って。そしたら正解だったよ、鞠莉達も私の事をちゃんと信じてくれていた。ありがとう」

 

「当たり前じゃないっ…!だって私達、2人で1人なのよ?どっちが欠けてもWじゃない。黒澤探偵部だって同じよ!」

 

果南は腕を伸ばし、泣きじゃくる鞠莉の手を取る。そのまま優しく鞠莉を抱きしめると、2人は何かが吹っ切れたかのように涙を流した。

それに合わせるかのように地球の本棚を燃やし尽くしていた炎は消え、元の光を取り戻すのだった。

 

 

 

死んでしまう…そう思い込んでいたルビィは自分が生きている事を確認する。目の前には、先程と雰囲気が変わったWの姿があった。

 

「ルビィちゃん、もう大丈夫だよ」

 

「果南さん!元に戻ったんですね!」

 

「ピギィ…良かったよぉ〜」

 

「何だと!?どういう事だよ!!」

 

「うるさいなぁ…ルビィちゃんを離せ!」

 

「ぐわぁ!」

 

Wはアームズにパンチを浴びせ、いつもの決め台詞を放つ。

 

「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

 

果南はアームファングでアームズを切り裂き、ルビィからアームズを遠ざけた。

アームズは左手を大剣に変えて二刀流でWに攻撃をしかけるが、ファングの力を使いこなせるようになった2人にとって、アームズは強敵ではなかった。

Wは素早い動きで攻撃を躱しながら右腕に攻撃し、アームズが持っていた剣を振り落とす。そのまま懐にパンチを叩き込み、アームズを吹っ飛ばした。

 

「よし、そろそろ仕上げるよ!」

 

『そうね…ファングの必殺技だからファングストライザーよ!一緒に言ってくれる?果南!』

 

「はいはい、ファングストライザーね。わかったよ♪」

 

果南はファングメモリの角を3回押す。それはアームファングやショルダーファングを超える、ファングジョーカーの最強の技だ。

 

\ファング!マキシマムドライブ!/

 

Wの右足には大きな白い刃が生える。Wは高く飛び上がると、水色のオーラを纏いながら回転しアームズを切り裂いた。

 

「「ファングストライザー!!」」

 

「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」

 

男は変身を解除され意識を失うと、アームズメモリもブレイクされた。

果南はアームズが持っていたスカルメモリをダイヤに返し、彼女と鞠莉を拘束していたロープを切断した。

 

「はい、ダイヤ。師匠の形見、絶対離さないでね」

 

「ありがとうございます、果南さん。お役に立てず申し訳ありません」

 

「いいって。結局みんな助かったんだし良かったよ」

 

「これでまた、4人で帰れるね♪」

 

『そうね!学校にCome backしましょう♪でもその前に…あなたを倒してからよ!』

 

鞠莉は陰に隠れているあんじゅの方を見る。このままでは自分が組織の幹部だとバレてしまう、ファングの力に負けメモリブレイクされてしまうと危惧したあんじゅはその場から逃げ出す。

 

「待てっ!ぐっ…」

 

果南があんじゅを追おうとするも、果南はアームズとの戦闘で体力を使い果たしており、そのまま変身を解除されてしまった。

 

「お疲れ様、果南。病み上がりなのに頑張ったわね。ここからは選手交代よ!もう少しだけ付き合って♪」

 

「了解、任せたよ!」

 

鞠莉のドライバーの右スロットを覆っていた銀の塊は、アームズメモリをブレイクした事によりなくなっていた。

果南はサイクロンメモリを出しスイッチを押す。

 

\サイクロン!/

 

「遠く離れた敵にはこっちで行こうかしら?」

 

\トリガー!/

 

「「変身!!」」

 

\サイクロン!トリガー!/

 

風が巻き起こると、鞠莉はWに姿を変える。ルビィは倒れた果南の身体を受け止める。

 

「よいしょっ!2人共、あとちょっとがんばルビィ!だよ♪」

 

「Of course!がんばルビィしちゃうわよ!」

 

Wはハードボイルダーに乗り込み、あんじゅを追う。

 

\タブー!/

 

あんじゅはハードボイルダーのエンジン音を聞き、ガイアドライバーにメモリを挿しタブー・ドーパントに変身する。後ろには既にWが近づいており、トリガーマグナムから放たれる風の弾がタブーを襲う。

タブーは飛び回りながら弾を避け、手から赤い光弾を放った。Wはそれをもろともせず撃ち返す。

 

『空を飛ばれちゃ厄介だなぁ。こっちに変えるよ』

 

\ルナ!/

\ルナ!トリガー!/

 

Wは黄色と青に変わり、追尾弾を放ちながらタブーの光弾を撃ち落とす。

 

\トリガー!マキシマムドライブ!/

 

「「トリガーフルバースト!!」」

 

Wはトリガーマグナムにメモリを挿し、マキシマムドライブを放った。タブーも出せる限りの光弾を出し迎え撃とうとするが、全てを撃ち落とす事ができずエネルギー弾に囲まれる。

そこへ横から青い影が現れ、タブーの危機を救った。タブーが影の正体を確認しようと上を見上げると、そこには自身を介抱するナスカ・ドーパントの姿があった。

 

「英玲奈!私を助けてくれたの?」

 

「あぁ、ようやくナスカの超高速を回得した。これでいつでも君を救える」

 

英玲奈はあんじゅに隠れて特訓を重ねており、ナスカの力をパワーアップさせたのだ。

 

 

 

一方、タブーに逃げられてしまったWは変身を解除しようとするとたまたま捜査で訪れていた海未と遭遇する。

 

「あら、仮面ライダーじゃないですか。今日もお疲れ様です」

 

『お疲れ様。突然で悪いんだけどさ、少し離れたところにある電化製品店の跡地に偽物の仮面ライダーを名乗って銀行を襲っていた犯人が眠っているはずだから、そこに確保に向かってよ』

 

果南がそう告げると、そのままWはハードボイルダーを走らせ去ってしまった。海未はその姿に心を打たれる。

 

「仮面ライダー、やはり素敵です…でも、何故偽物の仮面ライダーがいる事を知ってるんでしょう?」

 

海未は疑問を抱えつつ、パトカーを走らせアームズの男の確保に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

男は逮捕され、偽仮面ライダー事件は終わりを告げた。果南もファングという新たな力を手にしたが、2年間姿を見せなかったファングが現れた事はあまりいい事でないと鞠莉は思った。

一体沼津に何が起ころうとしているのか、一抹の不安を覚えるのであった。

 

「のぉぉぉぉっ!!」

 

鞠莉が部室に向かおうとすると、ダイヤのものと思われる素っ頓狂な叫び声が響き渡る。部室の前にはダイヤの声を聞いたのかバレー部やバスケ部の生徒が集まっていた。

鞠莉は慌てて部室の中へ駆け込むと、そこには床に座り込んだダイヤとそれを心配そうに見つめるルビィ、目を逸らしながら謝る果南の姿があった。

床には無残に壊れた白いパソコンが落ちていた。ダイヤの物だ。鞠莉達がアームズに捕まり、果南が1人で部室に戻って来た時にファングを追い払おうとそのパソコンを投げた結果、壊れてしまったのだ。

 

「お姉ちゃん、大丈夫…?」

 

「生徒総会で使う資料がぁ…最初からになってしまいましたわ…明後日までなのに…修理代、最悪買い替えが必要ですよね…出費が…」

 

「あはは…ゴメン、ファング追い払うのに夢中だったからつい…」

 

「…冷静になれとあれほど言ったでしょうがぁ!!果南さぁん!!」

 

「お、お姉ちゃん!もう謝ってるし許してあげても…」

 

「ホントに申し訳ありませんっ!もうファングは怖くないし力も使いこなせるからこんな事しない!約束するから!何なら資料作るのも手伝うし!ねっ?」

 

「言いましたわね…?」

 

「…あっ」

 

果南は慌てて口を手で覆う。同時に勢いでつい手伝うと言ってしまった自分を呪いたくなった。

 

「言いましたわねぇ!?それなら至急資料作りに向かいますわよ!!ほら早く!!」

 

「え!?ちょ待ってわかったから!!腕引っ張んないで〜!」

 

「あぁ…今度はお姉ちゃんが暴走しちゃった…!どうしよう…」

 

「これは大変な事になりそうね…Fightよ、果南」

 

ルビィはおかしなスイッチの入ってしまったダイヤを見ながらそわそわし、鞠莉はその様子を眺めながら微笑んでいた。

棚の上でファングもその様子を眺め、小さく鳴き声を上げていた。その横には、青いカブトムシのようなガジェットが。鞠莉達がそれに気づくのは、もう少し先の話。




<次回予告>

聖良・理亞 <<Saintプリンセス、特別編!!>>

鞠莉「Oh!!始まったわ〜!!」

聖良「何故こんな映像が…」

理亞「私そんな事言ってない!」

鞠莉「何かの間違いよ!」

???「あいつらさえ消えればあの2人は活躍してくれるはず…!」

理亞「私を怒らせないで!!」

次回 Sプリンセス/大炎上


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#8 Sプリンセス/大炎上

Saint Snow(というより理亞ちゃん)主役回です。2話完結となっております。
今回ゲストのBeautiful Freesiaの2人は、サンシャイン2期9話に登場した理亞ちゃんのクラスメイトに名前を付けて勝手にこちらの方でも出させて頂きました(短い髪の子が麗音、長い髪の子が華蓮です)。
また、今回は仮面ライダーWの本編13、14話にあたるエピソードですが、オリジナリティを重視すべく登場ドーパントやその他諸々の設定も変更しています。
それから受験についてですが、とりあえず推薦入試の方は一段落した(合否はまだ発表されていません)のでゆるーく更新を再開していきますのでよろしくお願いしますm(_ _)m


「鹿角聖良と!」

 

「鹿角理亞の」

 

「「Saintプリンセス!!」」

 

「という事で、本日もお送りしていきたいと思います!30分という短い時間ですが、よろしくお願いします!チャンネルはそのままで♪」

 

『Saint SnowのSaintプリンセス』とは、聖良と理亞がパーソナリティを務める静岡の人気ラジオ番組である。

この番組は週に2回放送されており、ツバサ、あんじゅ、英玲奈がパーソナリティを務める『RADIO A‐RISE』に次いでリスナーの多い番組だ。

 

「では最初のコーナーに参りましょう。『静岡ミステリーズ』本日もたくさんのおたよりが来てますよ!」

 

「それじゃあ1通目。ラジオネーム・CYCLONE菅田さんから。『聖良さん、理亞さん、こんにちは。前回放送から噂されている骸骨男の話ですが、先日彼と仮面ライダーが銀色ののっぺらぼうと戦っているのを目撃しました。彼も正義の味方なんでしょうか?』」

 

「なるほど、もしかしたら彼も沼津の平和を守るヒーローの1人なのかもしれませんね。私達がこうやって安全に過ごせるのも、2人が頑張っているからだと思います」

 

「確かに。仮面ライダーと骸骨男に感謝しないと」

 

「私も仮面ライダーと骸骨男さんに会ってみたいです!これからも頑張って下さい!仮面ライダー♪」

 

「それじゃあ2通目。ラジオネーム・門矢もやしさんから。『先日死人還りという怪奇現象が多発していましたが…』」

 

 

 

「2人共お疲れ〜!今日もよかったよ!」

 

「いえ、そんな事ないですよ。ツバサさんと比べたらまだまだです」

 

「そんな謙遜しないで下さい!お二人のラジオ、私も聴いてましたよ♪聖良さんも理亞ちゃんもとってもステキでした!」

 

番組終了後、聖良がマネージャーと話しているとロングヘアの少女が話しかけて来た。彼女は御堂華蓮(みどうかれん)。静岡でテレビやラジオ、モデル等の活動をしている高校1年の少女であり、『Beautiful Freesia』というユニットのメンバーである。

 

「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとう♪」

 

「それで、確かこの後の予定は…聖良ちゃんがニュース番組のゲストで、理亞ちゃんはこの後はオフかな?聖良ちゃんはもうすぐ時間だし、準備してね」

 

「分かりました。じゃあ理亞、私はまだ仕事があるから気をつけて帰るのよ?」

 

「分かった。姉様も頑張って」

 

聖良は次の仕事準備の為楽屋に、理亞は綺羅家の送迎係が待つ駐車場へ向かって行った。その最中、理亞のあとをつける人影が。

 

「何なの?しつこい!」

 

痺れを切らした理亞が後ろを振り向くと、40代くらいの乱れた髪型をした男が花束を持って立っていた。

 

「あぁ…僕のプリンセス理亞ちゃん!僕と結婚してくれ!絶対幸せにするから!」

 

「こっち来ないで気持ち悪い!誰がアンタみたいなクズと!調子乗んないで!」

 

理亞は近づいて来た男の花束を地面に叩きつけ、中に入っていた手紙を破った。

 

「何だよ…こうなりゃ力ずくで!」

 

\マスカレイド!/

 

男は激昂し、マスカレイド・ドーパントに変身し理亞に抱きつこうとする。理亞はそれを避け、1つ舌打ちをする。

 

「チッ、私を怒らせないで!!」

 

\クレイドール!/

 

理亞はドライバーにメモリを挿し、クレイドール・ドーパントに姿を変える。

 

「理〜亞〜ちゃん♪」

 

「はっ!」

 

クレイドールは近づいて来たマスカレイドを腕から放った光弾で跡形もなく消滅させてしまった。変身を解除した理亞は、舌打ちをすると何事もなかったかのように駐車場へ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2日後。放課後の黒澤探偵部の部室では、鞠莉達がくつろいでいた。

 

「あ〜…暇ですわ」

 

「死人還り騒動からずっと依頼がないもんね。この前の偽ライダー事件も園田刑事からのお願いだったし…お姉ちゃんは生徒会の仕事はないの?」

 

「既に終えてしまいましたわ。果南さんは検索に夢中ですし、鞠莉さんも理事長の…って終わったんですの!?近々大事な集まりがあると言ってましたよね!?」

 

「そんな気分じゃありまセーン!!仕事は夜ちゃんとやるからNo Problem!」

 

「気分の問題じゃないでしょう…」

 

「みんな随分と暇そうだね。私は昨日から『雑草』の検索に夢中だよ。もう全部閲覧しちゃったけど」

 

「雑草?なんで雑草の検索をしていたの?」

 

「この前Saint Snowのラジオでおたよりが来てたじゃん?そこから気になっちゃって」

 

「そうよ!今日は『Saintプリンセス』のSpecialだったわ!ずっと楽しみだったのよね〜」

 

鞠莉は棚からポータブルテレビを出し、電源をつける。

今日放送される『Saintプリンセス』は生中継で静岡県内を巡るという特別な内容となっており、ラジオでなくテレビでの放送となる。

A-RISEの『RADIO A-RISE』とSaint Snowの『Saintプリンセス』はリスナーの多さから全国放送の計画が進んでおり、今回はその試験放送らしい。

 

<鹿角聖良と!>

 

<鹿角理亞の>

 

<<Saintプリンセス、特別編!!>>

 

「Oh!!始まったわ〜!!」

 

<さて、今回の放送はラジオ局を飛び出して生中継で静岡県内を巡ります!しかもなんと、今回は全国放送!理亞、今どんな気持ちですか?>

 

<あ、はい。頑張ってきてよかったと…思ってます>

 

<ふふっ♪どうやら緊張しているみたいですね。私も全国放送という機会を頂けて嬉しく思うのと、少しドキドキしています。ですが、皆さんに楽しんでもらえるように精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!チャンネルは是非、そのままで♪>

 

そこで番組タイトルが表示され、OPとしてSaint Snow1stシングルの曲『SELF CONTROL!!』が流れ始めた。鞠莉とルビィがSNSを見ると、『聖良ちゃん美人すぎるわ〜』や『緊張してるのカワイイ♡』『初々しい』などのつぶやきが多く見られた。

トレンドにも入っており、出だしは順調だ。

 

<最初はこちらの場所にやって参りました!沼津バーガー!!こちらでは地元ならではの新鮮なハンバーガーを食べる事ができます!楽しみですね♪>

 

<そう…ですね。どんなハンバーガーがあるのか気になります。お店の雰囲気も静かそうでいいかも>

 

<では、早速お店の中へ入りましょう。すみません、『Saint SnowのSaintプリンセス』という番組なのですが…>

 

聖良と理亞は店員にアポを取り、店内へと入って行った。店員は店長に確認をしに行き、数分すると許可が降りたらしく、席へと案内された。

 

<無事撮影許可を頂きました。いよいよ食べられます…♪>

 

画面が切り替わり、番組は一旦CMへと移る。先程から鞠莉はスタッグフォンの画面を見ながら何かを入力している。ダイヤが画面を見ると、鞠莉はTwitterで番組の実況をしていた。黒文字で感想が書かれており、文末を『#Saintプリンセス』というハッシュタグで締めている。

 

「なんかツイートの数が凄いですけど…キャンペーンとかありましたっけ?」

 

「それもあるけど、このタグをつけてツイートするとコメントが画面下に流れてくるの。私のコメントを全世界へ発信するのよ〜!!」

 

「節度を持ったツイートをして下さいね?理事長が不適切発言をしたら大問題ですよ?」

 

「大丈夫デス!気をつけるわ♪」

 

「あ!鞠莉ちゃん、お姉ちゃん、始まったよ!」

 

「ん…?何かおかしくない?」

 

CMが終わり番組が再開されると、何やら店内がどよめいている。画面には、店員と理亞が揉めている映像が映し出された。

 

<は?だから何で材料が切れてるの!?私はこれを注文してるんだけど!!取材来てやったんだから出しなさいよ!!>

 

<いやしかしですね…>

 

<理亞!やめなさい!>

 

「え…?何これ…」

 

「何かの間違いよね…?」

 

鞠莉がSNSをチェックすると、『鹿角理亞やべぇww』『妹こんな性格キツかったの!?』『これ炎上じゃね?(笑)』などのつぶやきで溢れていた。

 

 

 

もちろん動揺するのは鞠莉達視聴者だけではない。聖良と理亞や現場にいるスタッフも謎の映像に驚きを隠せなかった。

 

「どういうこと…?何故こんな映像が…」

 

「私そんなこと言ってない!それにカメラも止まってた!こんなの流せる訳ないのに…」

 

そう、テレビで流れた映像はフェイクだった。何者かが映像を捏造し、テレビの電波を乗っ取って放送していたのだ。

 

「今からでも撮り直そう!」

 

「そうしたいんですが、カメラが映りません!」

 

「マイクも不調です!」

 

「電波は未だ復旧しないのか!?」

 

「見て理亞…このツイート、リツイート数が1万超えてる…」

 

「誰がこんな事を…酷すぎる!今のは嘘だって私がつぶやけば…」

 

「ダメよ!証拠もないのに信じてもらえないわ!余計に混乱させるだけよ!」

 

「そんな…!じゃあどうすれば…」

 

早くもSNSやネット掲示板には理亞に対する批判の声が多く上がっており、ネットも混乱していた。

 

 

 

「鞠莉さん!どこへ行くんですか!」

 

「テレビ局よ!テレビであんな事を言うなんてありえないわ!何かの間違いよ!」

 

「ちょっと待って!鞠莉っ!!」

 

果南とダイヤの制止も聞かず、鞠莉は外へ飛び出しハードボイルダーを走らせた。

テレビ局の前では、新聞記者や番組の視聴者とおぼしき人々がマネージャーらしき男性とSaint Snowの2人を取り囲んでいた。あの映像が流れてしまった以上、彼女達は何も話す事ができない。鞠莉は人混みの中に入り、2人に接触する。

 

「Hello,Saint Snowの皆さん。探偵の小原マリーよ。何かあったのか教えてもらえない?」

 

「は?探偵なんか呼んでないし。ちゃんとした捜査もできない貧乏に用はない。さっさと消えて」

 

「Wao,辛辣…」

 

「理亞…!すみません、とりあえずお引き取り頂いてもよろしいですか?お力になって下さるのは嬉しいんですが、まだテレビ局が警察と掛け合っていてお話できないんです」

 

聖良は一礼し理亞と共にテレビ局の中へ入って行った。どうやら警察にも事情を説明しているらしい。

 

「あの…Saint Snowのお二人に何かあったんですか?撮影が終わった後ラジオ局の方がバタバタしていたので」

 

「理亞ちゃんが店員にAngryしているところが放送されてしまったの。それで、あなたは?」

 

「あ、すみません。私は高山麗音(たかやまれいね)と申します。『Beautiful Freesia』というユニットの…」

 

「あぁ、御堂華蓮とラジオやモデルをやってるあのユニットね。一時はA-RISEと並ぶくらい人気だったわね」

 

「よかった、覚えていて。今はSaint Snowの方が人気で見る影もないんですけど…そっか、そんな事が」

 

「でも私は映像が本物だと思えないの。誰かの偽装にしか見えないわ」

 

「どんな発言かわからないですけど、テレビならもう少し気を遣うはずですよね。おかしいとは思います」

 

「麗音〜、こんなところにいたのね」

 

「華蓮。ごめん何も言わずに」

 

「大丈夫よ。こちらの人は?」

 

「探偵の人だよ。確か小原さん、でしたっけ?」

 

「That's right!よろしくね。私はあの映像が怪しいと思って調べているところなの」

 

「なんか大変な事になってますね…。早く解決するといいですね」

 

華蓮はニコリと微笑むと、麗音と共に一礼して去って行った。鞠莉は2人の人当たりの良さに感心した。一方で理亞の本性も知ってしまったが。

Saint Snowの証言がない限り映像がフェイクだという事を判断する事はできない為、映像は本物なのではないかとも疑念が生まれてしまった。それでもフェイクだと信じたい気持ちは強かったが、今後どのように事件が動くのかを待つしかなかった。

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

「っ…申し訳ありません」

 

その夜、綺羅家に戻った聖良と理亞は生放送の際に起きてしまった出来事を話し謝罪していた。

 

「いいのよ。何処からか怪電波が流されていたことと撮影機器が原因不明の動作不能を起こしていたことも判明したんでしょう?謝る必要なんてないわ」

 

「それにしても、随分と面倒なことになってしまったわね…。SNSも未だ荒れているままだし…」

 

あの後、警察の捜査もあってか怪電波が流されたことや撮影機器の動作不良が起きていたことが判明し先程よりは理亞に対する批判は少し落ち着いた。しかし、一部のアンチが『警察しっかりしろ!』『自作自演だろ』などのツイートをしているらしく、などのツイートをしているらしく、完全に騒動が収まった訳ではなかった。

 

「英玲奈、考え込むような顔をしてどうしたの?」

 

「…あっ、いや、何でもない。大丈夫か理亞?」

 

「チッ、別に心配されなくても平気。ツバサさん、今回の事はちゃんと私がどうにかします」

 

「えぇ、あまり無理しないで。発言にも気を遣うようにね。最悪、芸能活動をやめなくてはならなくなるかもしれないわ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ…Saintプリンセスが休止かぁ…もう生き甲斐がないです、私」

 

そう嘆くように花陽が呟く。事件が解決するまでは『RADIO A-RISE』と『Beautiful Freesiaのフローラルラジオ』の放送を1時間ずつ増やすという措置が取られたらしい。

 

「そう落ち込まないで花陽。警察も私達も解決に向けて動いているところよ」

 

「頑張って下さい鞠莉ちゃん。私の生き甲斐はSaint SnowとA-RISEだけなんです…!」

 

「それは大袈裟じゃないかしら?でも頑張るわね♪」

 

鞠莉は花陽と別れ、怪電波の発信源を探し始めた。しかし奇妙だ。県内のみ怪電波が流れてるならば、フェイク映像も静岡のみに放映されるはずだ。県外にも映像が流れている事から、ガイアメモリの能力ではないかと鞠莉は考えていた。すると、スタッグフォンが鳴り出す。海未からの着信だ。

 

『予想通りでした。怪電波は県外の局にも流されていたみたいです』

 

海未が他のテレビ局にコンタクトをとったところ、県内のテレビ局のみならず同時刻に県外のテレビ局の放送電波も乗っ取られていたらしい。

 

『発信源は沼津からだと思われます。しかし範囲があまりにも広すぎる上、昨日の発信源が市内の小学校からなのですが、調べても発信機らしき物は見当たらないんです。もしかして…』

 

「ガイアメモリ犯罪の可能性が高いわね。ドーパントの能力ならば広範囲に流す事も容易いはずよ。何処かに怪しい人間がいるかもしれないわ、近辺をSearchする事ってできるかしら?」

 

『わかりました。やってみます』

 

「理事長!ちょっと来て!」

 

電話を切ろうとした瞬間、善子がこちらへ駆けて来た。

 

「私のマンションの屋上にアンテナの化け物がいて大騒ぎなの!仮面ライダーを呼べる!?」

 

「Really!?分かったわ!!海未、ドーパントが現れたみたい!調査は大丈夫そうよ!」

 

鞠莉は善子のマンションへハードボイルダーを走らせ、ダブルドライバーを装着する。その頃ガレージで検索をしていた果南の腰にもドライバーが出現し、状況を察した果南は鞠莉に呼びかける。

 

『鞠莉、もしかしてドーパント?』

 

「えぇ、変身よ!」

 

\ジョーカー!/

 

『りょーかい。変身!!』

 

\サイクロン!/

 

「変身!!」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

Wの変身が完了したのと同時に、マンションに到着する。リボルギャリーも到着し、ハードボイルダーの後部ユニットをタービュラーユニットに換装させ、Wは屋上に向けて飛ぶ。

屋上には右手にカメラ、左手が電波塔のような形をしたアンテナのドーパントが立っていた。

 

「あんた、仮面ライダーか!?」

 

「その通りよ!あなたがフェイク映像を流したのね?」

 

「あぁそうだ!僕はBeautiful Freesiaの人気を落としたA-RISEとSaint Snowが気に食わないんだよ!あいつらさえ消えればあの2人は活躍してくれるはず…!」

 

「あなたのエゴでSaint Snowの2人とファンが辛い思いをしているのよ!これ以上罪を重ねてはいけません!」

 

\ヒート!/

\ヒート!ジョーカー!/

 

Wは腕に炎を纏い、ドーパントを殴る。英玲奈も隣のマンションからその様子を観察している。

 

「仮面ライダーと…やはりブロードキャスト・ドーパントか。あのドーパントが騒動を起こしたんだな」

 

アンテナのドーパントのメモリは『BROADCAST(ブロードキャスト)』だった。放送の記憶を内包しており、電波ジャック能力を持ったガイアメモリだ。またその能力を利用し放送機器や携帯端末に映像データを送信する事も可能だ。

 

「邪魔をしないでくれ!こちらには時間がないんだ!」

 

そう言いブロードキャストは右手のカメラからフラッシュを放つ。Wは目を眩まされないよう後退し、ジョーカーメモリをマキシマムスロットに挿入した。

 

\ジョーカー!マキシマムドライブ!/

 

「「ジョーカーグレネード!!」」

 

2つに分裂したWは連続パンチを叩き込む。その瞬間、周囲の空間が崩壊し始めた。前方にブロードキャストの姿はない。

 

『なるほどね。周りの空間をカメラで撮影、投影する事で偽の空間を作り出せるって事か』

 

「何処に行ったの!?」

 

ブロードキャストはマンションから飛び降り逃走を試みる。その姿はたまたま通りかかった理亞が目撃していた。

 

「あのカメラ、まさかアイツが?許さない!」

 

\クレイドール!/

 

理亞はクレイドール・ドーパントに姿を変え、飛び降りる最中であったブロードキャストを光弾で撃ち落とした。

 

「理亞…!」

 

「あのドーパントは!」

 

駆けつけたダイヤと遠くから様子を見ている英玲奈もクレイドールの出現に驚愕する。

 

「何なんだお前は!」

 

「黙れ!アンタのせいで番組が無茶苦茶になった!消えろ!」

 

『え、あのドーパントって喫茶店襲撃の時の…何で?』

 

「背中に着いてるの、ドライバーじゃないかしら?組織の幹部ね」

 

クレイドールの背中にはガイアドライバーが装着されていた。何故幹部がここにいるのか、そんな疑問もあったが今はブロードキャストを倒さなくてはならない。Wはハードタービュラーでマンションの下へ降り、ブロードキャストに攻撃する。

 

「邪魔!そこ退いて!」

 

しかし、自分の手でブロードキャストを仕留めたいクレイドールは光弾を放ちWを吹き飛ばす。

 

「っ!待って!あなたが何故このドーパントに攻撃してるの!?」

 

「アンタに関係ない!そいつは私がやるから引っ込んでて!」

 

「何なんだよ…とにかく今のうちに…!」

 

ブロードキャストは左手から電気の光線を放ち、クレイドールに浴びせその場から姿を消した。

まともにそれを食らったクレイドールは身体が崩壊し、粉々になってしまった。

 

「バカな!理亞!」

 

英玲奈は理亞が倒されるという突然の事態を飲み込めず、動揺を隠せなかった。

 

「果南見た!?ドーパントがBreakしたわ!」

 

『見た見た。幹部までやられるなんて…ん?』

 

しかし、Wの足元にあったクレイドールの破片が突然動き出す。その破片は1つに集まって行き、元のクレイドールの形に戻った。

 

「はぁ、油断した。アンタが邪魔するから!あとであのドーパント諸共倒してやるから覚えといて!」

 

『嘘、再生しちゃったよ』

 

クレイドールは自己再生能力を持ち、身体が粉々に砕けてしまっても元通りに復元する事が可能であった。このメモリは他にも重力操作の能力を持っており、天井や壁を歩行する事もできるのだ。

 

「あれがクレイドールの能力か…ほぼ無敵と言っても過言ではないな」

 

英玲奈は屋上から立ち去り、戦闘を見ていたダイヤは変身を解いた鞠莉に近づく。

 

「あの人形みたいなドーパントはなんだったんですの?何故アンテナのドーパントに…」

 

「さぁ…それよりも困ったわ。あのドーパントを放置していたらこの後のA-RISEのRadioまで影響が出てしまうわ」

 

『鞠莉、今から理亞ちゃんのところに行ける?それまでにある程度仮説を立てておくから話したいんだ。場所わかる?』

 

「えぇ、海未がテレビ局にいるからおそらく理亞もいるんじゃないかしら。早急に向かってみるわね」

 

「では私もラジオ局の方へ戻りますわ。引き続き怪しい動きがないか調べてみます」

 

ダイヤはラジオ局、鞠莉はテレビ局へ向かい果南はルビィと雑誌やネットを確認しながらキーワードになりそうな材料を探す。鞠莉はテレビ局へ到着し、聖良と理亞にコンタクトを試みるが…

 

「あなたは昨日の…」

 

「小原マリーよ。理亞ちゃんに話があるんだけど、いるかしら?」

 

「理亞、気分転換して来ると外へ行ったきりずっと戻って来ないんです。何かあったんじゃ…」

 

「まさか…探しに行かないと!」

 

「うわ、何で探偵がいんの?貧乏に用はないって言ったじゃん」

 

鞠莉が理亞を探しに行こうと立ち上がった瞬間、理亞が戻って来た。

理亞は鞠莉を蔑むような目で見つめる。

 

「Oh,理亞ちゃん!無事でよかったわ!」

 

「チッ、だから何でいんのか聞いてんの!『無事でよかったわ!』じゃないから!」

 

「理亞、落ち着いて!小原さんはあなたの事を心配して探しに行こうとしてたのよ?」

 

「あぁそうよ!ねぇ理亞ちゃん、浦の星女学院にある黒澤探偵部ってご存知かしら?」

 

「知らないってそんなの。ここら辺にも探偵なんて仕事あるんだね」

 

「あらそう!なら是非黒澤探偵部へPlease come!私のFriendに天才探偵がいるの!理亞が来るまでにGreatな情報を見つけておくそうだから行ってみて!」

 

「そんな事言われても場所知らないし。ていうか行く気もないから」

 

「私からもお願い理亞!もしかしたら解決に繋がるかもしれないわ」

 

「うっ、姉様がそう言うなら…さっさと場所教えて!あ、別に期待してる訳じゃないから勘違いしないで!」

 

「Thank you理亞ちゃん!場所は内浦の…」

 

鞠莉は理亞に浦女の場所を教え、それを聞いた理亞はどこか仕方なさそうにテレビ局を飛び出したのだった。




<次回予告>

ルビィ「こんにちは!黒澤たんて…って理亞ちゃん!?」

理亞「私は変わりたいと思っていても変われない。どうしたらいいんだろう」

聖良「やるしかないようですね」

理亞 (もうこれは…私には必要ない)

次回 Sプリンセス/本当の私


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#9 Sプリンセス/本当の私

Saint Snow回後編です。理亞ちゃんに心境の変化が…?
この回はルビィちゃんの台詞等々かなり頑張って書いたので是非注目して下さい。


鞠莉とダイヤがテレビ局とラジオ局で調査をしている間、部室ではルビィと果南が雑誌やネットを確認しながらキーワードになりそうな材料を探していた。

 

「インタビュー記事に手がかりになりそうなものはなさそうだよ。ブレイクしたのも最近だし、高校生だから問題になっちゃうような事は言えないんじゃないかな?」

 

「だよねぇ。あのドーパントはBeautiful Freesiaよりも人気のあるA-RISEとSaint Snowが疎ましいんだろうね。つまりそれはSaint Snowが売れた事をよく思っていないって事だから、Saint Snowの評判を落として仕事を減らそうとしたのかも」

 

「確か、Beautiful FreesiaはSaint Snowが人気になる前って凄く人気だったよね」

 

「そうまでしてBeautiful Freesiaをプッシュしたいという事は、犯人はBeautiful Freesiaのファン…いや、仕事が少なくなった事も知ってそうだったから、もしかしたら芸能関係者かもしれないね」

 

「そっか。例えば芸能人Aさんがいるとして、ある時を境にテレビで見かけなくなったけど実は舞台で活躍してましたって事もあるし…そういう細かい事情まで知ってるのは関係者の人っぽいかも」

 

「そういう事。何となくキーワードが揃った気がするから、もう一度そこに重点を置いて検索してみるよ」

 

果南は検索をすべく格納庫へと向かい、部室にはルビィだけが残った。すると部室のドアが開き、誰かが急ぎ足で入って来た。

 

「こんにちは!黒澤たんて…って理亞ちゃん!?」

 

「ちょ、うるさい!生徒にバレたら困るんだけど!」

 

「あ、ご、ごめんなさい…」

 

「ん?アンタ、確か家にバイトに来てたよね?なんか見た事あると思ったら…」

 

「はい、黒澤ルビィと言います…えっと、あれ実は友達を探す為に潜入捜査してて…ほら、前に淡島で行方不明の女子高生がいるって話題になってたでしょ?」

 

「そういえばそんな事もあったっけ。そっか、そうなんだ。ふーん」

 

理亞はあまり興味がなかったのか、そう短く返すとすぐに黙り込んでしまった。しばらく沈黙が訪れ、ルビィはそれに耐えられなくなり話を切り出した。

 

「ね、ねぇ理亞ちゃん…?理亞ちゃんはどうしてここに来たの?探偵の事嫌いって鞠莉ちゃんから聞いたんだけど…」

 

「あの探偵はまた余計な事言って…別に嫌いって訳じゃないけどね。依頼解決の為に頑張ってるのも知ってるし。低予算で活動してるから期待してないだけ。警察みたいに鑑定とかできる訳じゃないし。この部に天才探偵がいるって小原って探偵が言ってたから、ダメ元で来てみた」

 

「天才探偵って果南ちゃんの事だよね?今果南ちゃんは事件に関して調べ物をしてるから、まだ戻って来ないと思うよ」

 

「はぁ?何それタイミング悪っ…まぁいいや、終わるまでここで待ってるから」

 

「あ!じゃあ飲み物淹れるよ。何がいい?」

 

「いらない。ここでその果南?って人の話聞いたらすぐ帰るし。わざわざ時間とってここまで来たんだからちゃんとした情報出してよ?」

 

「ぅゅ!!がんばルビィ!!」

 

「…何それ」

 

ルビィは勢いで頑張る時の台詞を言ってしまった事で、再び部室の中が静まり返った。

 

「ピギィ、いつもの癖で…ごめんなさい」

 

「ぷっ…ふふふ…別に怒ってない。アンタってなかなか面白いね」

 

理亞は縮こまるルビィの姿に笑いを堪えられなくなり、小さく笑みをこぼした。

 

「理亞ちゃんは…さ、Beautiful Freesiaの事はどう思ってるの?聖良さんがどう思ってるか、とかも知ってる?」

 

「私はあの子達の良さがあるからいいと思うけど…姉様はわかんない。まぁ、2人共人当たりはいいから好かれてるんじゃない?何でそんな事聞いたの?」

 

「疑ってるみたいな言い方だけど…もしかしたら聖良さんか理亞ちゃんがBeautiful Freesiaの2人とか関係者に何か言って、人気を落とさせたとかないかなぁって思って…」

 

「私はそんな事してないよ。多分姉様も。ファンが集まって来たのは私達の努力が実を結んだからだと思ってるし。ていうか、もし嫌いだったらちゃんと嫌いって言うし」

 

「ふふっ、だよね!だって理亞ちゃんが良い人だって信じてるから♪」

 

「そ、そんな事ない!急に変な事言わないで!」

 

理亞は頬を赤くさせ、ルビィから目を逸らす。それを見たルビィも、思わず嬉しそうだなぁと微笑んだ。

 

 

 

その頃、地球の本棚では果南が真相に迫りつつあった。

 

「1つ目に『Beautiful Freesia』次に『Saint Snow』『芸能関係者』最後が…『嫉妬』」

 

果南は次々とキーワードを入力していく。果南の目の前に『Jealousy』…日本語で嫉妬という意味の英単語が浮かび上がった瞬間、風により本棚が遠ざかって行く。手元には1冊の本が残り、果南はそれを読む。

 

「よし、全て繋がった。念の為鞠莉から送られてきたフェイク映像のデータも解析してもらわないとね」

 

果南は地球の本棚から出て、誰かに電話をかける。電話の相手は善子であった。

 

『もしもし、果南さん?どうかしたの?』

 

「善子ちゃん?ゴメンね急に。頼みたい事があるんだ。この前流れたSaint Snowの番組のフェイク映像なんだけど…」

 

 

 

果南が検索を進める中、ルビィと理亞は部室で互いに黙り込んでいた。ルビィから『良い人だって信じてる』と言われた理亞は恥ずかしくなり、しばらく話せなくなっていた。

 

「…私ね、昔から人と話すのが苦手なんだ」

 

やがて理亞は深呼吸をすると、ルビィに向き直り話し始めた。

 

「だからつい思ってない事言っちゃったり、仲良くしたいと思っている人にも結局話しかけられなくて…そのせいで結果的に嫌われる事もあるんだ。人付き合いが悪いってね。そんな中であのフェイク映像が全国に流れたから、私を悪い目で見てるアンチが誤解して騒ぎ立ててるんだと思う。私の事なんか何も知らないのに、とか思うんだけど…それは私の普段の態度が良くないからでもあるんだよね」

 

「そんな事…」

 

「いいよ気なんか遣わなくて。姉様は誰とでも分け隔てなく話せるし、明るくて言葉遣いもいいし笑顔も素敵だし…姉妹なのにどうしてこんなに違うんだろう。私は変わりたいと思っていても変われない。どうしたらいいんだろう。ねぇルビィ、ルビィは私の事どう思ってるの?教えて」

 

ルビィはその質問にどう答えていいのかわからず考え込んでしまう。理亞はそんなルビィをただ真剣な眼差しで見つめている。

やがて話す事が決まったルビィは、戸惑いながらも理亞の方へ向き直り自分の思いを打ち明ける。

 

「あの…えっと…いいんじゃないかな?無理に変わろうとしなくても」

 

予想外の答えが返って来たのか、理亞は目を見開く。

 

「だ、だから!包み隠さず言えって言ったじゃん!真面目に答…」

 

「これがルビィの本当の気持ちだよ!!ルビィは誰が何と言っても理亞ちゃんの事応援してるし、悪い子だとも思わない!!今の話を聞いて理亞ちゃんの気持ちが嘘だとか、理亞ちゃんの事嫌いになったなんて思えないもん!!」

 

ルビィは立ち上がり、普段よりも大きな声で自分の思いを理亞に伝える。その迫力に理亞も息を呑んだ。先程のふわふわした雰囲気との違いに驚いたからだ。

 

「今の話を聞いて、ルビィは理亞ちゃんがどんな風に考えてるのかとか、ちゃんとわかったよ?伝わったよ?でも人ってすぐに変わる事はできない。だから少しずつ変わる為の方法を見つけていけばいいんだよ。それが理亞ちゃんらしくていいんじゃないかな。ルビィ、今はそのままでもいいと思う!周りと自分が少しずつ理解できてからでも問題ないよ!理亞ちゃんは聖良さんと同じになろうとしなくていい、理亞ちゃんは胸を張って理亞ちゃんらしくいればいいんだよ!」

 

「私…らしい?姉様と比べちゃダメって事?」

 

「うん!ルビィにもお姉ちゃんがいるけど、お姉ちゃんはルビィみたいに人見知りじゃなくて、言いたい事もはっきり言える。厳しいけど人一倍周りを見ていて優しくて…ルビィもそんなお姉ちゃんみたいになりたいって思っていたけど、自分にどうしてもできない事はできるようにならなくてもいいってわかったの。その分自分にしかできない事を見つけてできるようにしていけばいいんだって。ルビィは探偵を通してそうなりたいって思ったんだ。今の話聞いてからだけど…」

 

伝えたい事は全て伝えたが、理亞は目を伏せたままだ。まずい事を言ってしまっただろうか。そう思ったルビィはつい俯いてしまう。

 

「あの〜…お取り込み中申し訳ないんだけど、入ってもいいかな?」

 

「わっ!?果南ちゃんいつの間に!?」

 

「ルビィちゃんが『本当の気持ちだよ』みたいな事を言った辺りからいたよ。まさか理亞ちゃんが来てるとは思わなかったけど」

 

「もしかして、その人が果南って探偵?」

 

「そうだよ。誰から聞いたの?」

 

「小原って探偵。友達に天才がいるから行くだけ行ってみろって言われてここに来た」

 

「ふふ〜ん、鞠莉も嬉しい事言ってくれるじゃん♪それに、犯人もわかっちゃったし」

 

「え、それ本当?誰なの?」

 

果南は理亞とルビィに地球の本棚で調べた事や犯人の名前、動機などを全て話した。2人はその名前を聞いて驚いていた。特に理亞は犯人が身近で親しい人間だった為、未だ信じられずにいた。

 

「凄い…全く穴がないほど調べられてる。でも…何だか複雑でもあるかな」

 

「あとは犯人を捕まえれば理亞ちゃん達も安心して芸能活動を再開できるけど、気持ちの整理に時間がかかりそうだね。でも犯罪なのには変わりないから、そこだけはわかって欲しい」

 

「うん、わかってる。ちゃんと罪を償って欲しいって思った。ありがとう」

 

理亞は部室を去って行った。果南は理亞が帰ったのを確認し、リボルギャリーに乗るべく格納庫へ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ブロードキャストメモリの購入者は…」

 

綺羅家の屋敷。そこでは英玲奈が聖良からの頼みでメモリの購入者を調べていた。

 

「すみません、この後ラジオもあるのに…」

 

「いいんだ。このままでは状況も変わらないしな、屋敷にも連日人が押し寄せて困るんだよ」

 

\ブロードキャスト!/

 

英玲奈は購入者履歴のページを開き、画面を下にスクロールしていく。

 

「ん?同日の同時刻に同じバイヤーからもう1本別のメモリが購入されている…ブロードキャストと併用する為に2本購入したという事か」

 

英玲奈が購入明細画面を見ると、そこには驚くべき人物の名前が表記されていた。

 

「何という事だ…購入者と使用者は別の人間、しかも…」

 

「誰だったんですか?」

 

聖良はパソコンの画面を横から覗く。そこに書かれていた名前に、彼女も驚いた。

 

「そんな…こんな事って」

 

「私も驚いたよ。だがこれは許される事ではないな」

 

「残念ですが…やるしかないようですね」

 

聖良はスミロドンメモリを握り、外へと出て行った。

 

 

 

その頃、鞠莉は果南に呼び出されラジオ局へ向かった。合流した2人は中へと入って行き、空スタジオの扉を開ける。そこには今回の騒動の"もう1人"の犯人が。

 

「そこまでだよ。メモリをこっちに渡して、高山麗音さん」

 

「What?私達の戦ったドーパントはMenじゃなかったの?」

 

「彼女が持ってるメモリはまた別のメモリだよ。私達の戦ったドーパントのメモリはBROADCAST(ブロードキャスト)、そっちの正体はBeautiful Freesiaのマネージャーで、麗音さんが持っているメモリがCOMPUTER(コンピュータ)。カメラやマイクが原因不明の動作不良を起こしたって園田刑事が言ってたでしょ?でもブロードキャストの能力は電波を乗っ取り、放送機器や携帯端末やPC、タブレットに映像を流す能力でありカメラやマイクを操作不能にする能力までは持ち合わせていないんだ」

 

「あぁ!ブロードキャストがフェイク映像を流している間、本来の映像を後々放送させない為にコンピュータがカメラやマイクに細工をして撮影できないようにしていたのね!」

 

「そうそう。ちなみにこの映像なんだけど、善子ちゃんに解析してもらったら過去に放送された別番組だったよ」

 

そう言い、果南はスタッグフォンの画面を鞠莉に見せる。果南がボタンを操作すると、映像に映る聖良と理亞の姿が2人組の女性レポーターに、店員の顔が困り顔から笑顔に変わった。

 

「まず初めにテレビ局で入手した過去番組の映像をコンピュータの能力で加工する。具体的にはこのリポーターをSaint Snowの2人に挿し替えて表情を変えたり、音声をいじったり…とかだね。カメラやマイクは撮り直しができないように事前に細工をしておいて、最後にブロードキャストの能力で電波をジャックして完成した映像を流す。これが全貌かな」

 

「あなた…そうまでしてSaint Snowを貶めようとするなんて何が目的なの?」

 

「分かるでしょ?何となく。芸能界じゃよくある理由だよ」

 

麗音は幼少期から活動をしており、昔から注目を浴びていた。さらにBeautiful Freesiaとして曲をリリースしたりテレビやラジオに出演するなど快挙を成し、その人気は一時爆発的なものとなった。

 

「でもA-RISEが現れてあっという間にブレイクし、前よりも仕事は減った。その上Saint Snowまで私達よりブレイクして…持ち番組の数やゲスト出演はさらに少なくなった。私達のグループ名『Beautiful Freesia』は『美しき高嶺の花』という意味を持つの。私達はアイドルとして頂点を目指したい。だからマネージャーにも協力してもらって人気のある2つのユニットを潰そうとした。そうすればまた私達に振り向いてくれると思ったから」

 

「…気持ちはよくわかる。でもあなたを応援してくれた人がそれを知ったらきっと悲しむはずよ!あなたはファンの事をもっと考えるべきだった。ファンを大切にできないあなた達はアイドル失格よ!」

 

「うるさいっ!!一般人として生きてきたあなた達に私の気持ちなんてわからないよ!!」

 

\コンピュータ!/

 

麗音は左手の甲にメモリを挿した。彼女は上半身がパソコンのキーボードやCDプレイヤー、顔がモニターのような形をしたドーパント、コンピュータ・ドーパントに姿を変えた。

 

「SNSでツイートして精神的に追い詰めさえすればあの2人は…!ついでにA-RISEも解散に追い込んでやる!!」

 

コンピュータはスタジオに備え付けられたモニターの中へ入り込んだ。

 

「中へ入っちゃったわ!果南、どうするの?」

 

「簡単だよ。ファング来て!」

 

果南がファングを呼ぶと、何処からともなくファングが現れ果南の左手に乗る。

 

「私をボディサイドとして変身するファングジョーカーなら鞠莉の精神ごとこの中に入る事ができる。こういう時、地球の記憶を持っている事が役に立つんだよね」

 

「確かに!サイクロンジョーカーだと果南の精神しか入れないから戦う事もできないわね!逃げられる前に変身しましょ!」

 

「もちろん。あっ、誰か来たらまずいからスタジオの鍵閉めて使用中にしといてね」

 

\ファング!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

\ファング!ジョーカー!/

 

果南の身体は白い風に包まれ、Wに姿を変えた。果南はモニターに手をかざすと、コンピュータの創った電脳空間へと入り込んだ。

 

 

 

一方、浦の星女学院屋上。Beautiful Freesiaのマネージャーである男が佇みメモリを挿そうとしていた。

 

\ブロードキャスト!/

 

「これでA-RISEとSaint Snowを終わらせる。君達の人気もここまでだ…」

 

「そう簡単にはいきませんよ」

 

そこへ、階段を登りながらダイヤが姿を現した。腰にはロストドライバーが装着されている。

 

「残念でしたね。私には頼れる仲間達がいるのであなたの居場所くらい簡単にわかるのですよ?」

 

ラジオ局にいたダイヤは果南から騒動の真相を聞かされ、男を探す最中にルビィから学校に怪しい人間がいる事を知らされて屋上へ来たのだ。

 

「おまけに私の学校で好き勝手されては困ります。生徒会長として許す訳にはいきません!変身、ですわ!」

 

\スカル!/

 

「そうか!僕を止められるなら止めてみるがいい!」

 

ダイヤと男はスカルとブロードキャスト・ドーパントに変身した。

Wもコンピュータを発見し、アームファングで切りかかる。場所は違うが、3人の決め台詞がシンクロした瞬間だった。

 

「「さぁ、」」

 

「あなたの罪を…」

 

「「「数えなさい!」」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お疲れ様でした〜」

 

「お疲れ様です。今日は呼んで頂きありがとうございました♪」

 

仮面ライダーとドーパント達の戦いの火蓋が切って落とされる中、テレビ局では収録を終えた華蓮が楽屋で怪しい笑みを浮かべていた。

 

「そろそろA-RISEのラジオが始まるはずだけど…あの2人は上手くやってるかしら?」

 

「無理だと思うけど。もう犯人が誰かなんてとっくにバレてるよ」

 

「あ、理亞ちゃん。お疲れ様♪犯人って、何の話?」

 

「だからとぼけても無駄。今の独り言も全部聞いてた。あんたが全部この騒動を仕組んでたんでしょ、華蓮?」

 

「…っ。ふふふふっ!」

 

楽屋に入って来た理亞が華蓮を問い詰めると、彼女は観念したとでも言うように笑い出した。

そう、この騒動は華蓮が計画したものであり、彼女こそが騒動の発端でガイアメモリの購入者だったのだ。

 

「何よ!!全部あんた達が悪いんでしょ!?私達よりあとからデビューした癖に私達より人気になって!!どんどん仕事奪ってったじゃない!!」

 

華蓮は理亞の胸ぐらを掴みながら吐き捨てるように怒りの矛先を向ける。言うまでもなく、それは彼女の本性である事を示していた。

 

「私達はアイドルとして1番になるの!それを邪魔する奴はどんな手を使ってでも叩き潰す!!もうあんた達の時代は終わった!さっさと引退したらどう?私達が味わった屈辱をあんた達も味わったら?なんとか言いなさいよ!!」

 

「…私を怒らせないで」

 

\クレイドール!/

 

理亞はドライバーにメモリを挿し、胸ぐらを掴んでいた華蓮を突き飛ばす。椅子にぶつかった華蓮が理亞を睨みつけた時には、理亞の姿は人形の怪物に変わっていた。

 

「嘘…!?」

 

「消えろ…!」

 

「何なのよッ!!この化け物ッ!!」

 

クレイドールは左腕に蓄積したエネルギーを放出しようとする。

その時…

 

『ルビィは誰が何と言っても理亞ちゃんの事応援してるし、悪い子だとも思わない!!今の話を聞いて理亞ちゃんの気持ちが嘘だとか、理亞ちゃんの事嫌いになったなんて思えないもん!!』

 

「っ!!」

 

ふと頭をよぎったのは、先程ルビィにかけられた言葉。

…そうだ。自分は変わりたいと思ってるんだ。

それを思い出したクレイドールはドライバーからメモリを抜き、理亞の姿に戻る。

 

『だから少しずつ変わる為の方法を見つけていけばいいんだよ。それが理亞ちゃんらしくていいんじゃないかな』

 

華蓮をいたぶりたい気持ちを抑えながら、理亞は彼女を睨みつける。それから数拍置き、理亞は楽屋から去って行った。

 

「…はぁ。アハハハッ!あ〜あ、私の事殺してればバレずに済んだのに、バカな子!鹿角理亞は怪物だと公表すれば、Saint Snowは…!」

 

「そこまでするなんて…本当に裏切られた気分です、華蓮さん」

 

華蓮は何処かに電話をかけようとするが、理亞と入れ替わるように入って来た聖良に止められてしまう。聖良は顔こそ笑っているが、その目には怒りの炎がふつふつと燃え上がっている。聖良の迫力に、華蓮は思わずたじろいでしまう。

 

「あなたはSaint Snowを貶めようとした挙句、理亞の正体を知ってしまった。綺羅家にとって不穏分子は生かしておく訳にはいきません。処分します」

 

\スミロドン!/

 

華蓮は近づいてくる聖良に置いてあった花瓶を投げるが、恐怖のあまり外してしまう。華蓮が壁に追い詰められると、聖良はドライバーにメモリを挿し、スミロドン・ドーパントに姿を変えた。

 

「キャアアアアアアッ!!」

 

その空間には、華蓮の断末魔の叫びのみが響き渡った。

 

 

 

一方、電脳空間ではWがコンピュータ・ドーパントを追い詰めていた。Wはアームファングでコンピュータを切り裂こうとするが、コンピュータは身体を粒子化させて逃げ回る。

 

『もう!逃げてばかりじゃ勝負になりませんよ!』

 

「大丈夫だよ。こんな時の為にこれがあるじゃん』

 

\ショルダーファング!/

 

果南はファングの角を2回押し、肩に白い刃を出現させそれを頭上に投げた。

 

「どこに投げてるの?それじゃあ当たらないよ!」

 

「さぁ、どうかなん?」

 

ショルダーファングは空中からコンピュータ目掛けて落下し、それに気づくのが遅れたコンピュータは身体を大きく切り裂かれてしまった。そのままWは後ろへ回り込み、動けないコンピュータを空間の出入口に殴り飛ばす。

 

『Wao!!今のはかなり聞いたんじゃない?』

 

「位置エネルギーは『物体の質量×地球の重力×物体の高さ』運動エネルギーは『1/2×物体の質量×(物体の速度)²』って習ったでしょ?物体の速度が増えると位置エネルギーが運動エネルギーに変わる…つまりこの場合だと空高くから落ちる程威力は高くなるって事。さ、決めよっか」

 

果南は位置エネルギーについて鞠莉に丁寧に解説をし、ファングの角を3回押した。

 

\ファング!マキシマムドライブ!/

 

「「ファングストライザー!!」」

 

Wは水色のオーラを纏い、回転しながらコンピュータを切り裂く。コンピュータはその衝撃で外へ叩き出された。

電脳空間が消滅し、Wも外に出るとそこには元の姿に戻った麗音と砕けたコンピュータメモリが落ちていた。

 

「理亞ちゃん…ごめんなさい…」

 

麗音はそれだけ言い、そのまま意識を失った。

変身を解いた果南は警察に連絡を入れ、鞠莉と共にスタジオをあとにした。

 

 

 

その頃、浦女の屋上でもスカルとブロードキャストの決着が着こうとしていた。

 

「もう諦めなさい。コンピュータメモリも既に果南さん達がブレイクしたはずです」

 

「何ッ!?よくも…お前らッ!!」

 

ブロードキャストは右手のカメラから空間を作り出し逃走しようとするが、その動きは想定内であった。スカルはスカルマグナムでカメラに銃撃し、カメラを破壊した。

 

「能力さえ無効化してしまえばそのメモリを恐れる必要はありません。これで終わりです」

 

「それなら…!」

 

ブロードキャストは左手からクレイドールを粉砕した電気の光線を放つが、スカルは胸部から髑髏のエネルギーを出現させてそれを打ち消し、ブロードキャストごと吹き飛ばした。

そのままスカルはマキシマムスロットにメモリを挿し、髑髏のエネルギーと共に高く飛んだ。

 

\スカル!マキシマムドライブ!/

 

「とおっ!」

 

スカルはマキシマムスロットのボタンを押し、髑髏をブロードキャストに向けて蹴り飛ばした。ブロードキャストは爆散し、男の姿に戻ったのと同時にメモリが排出され、そのまま空中で砕け散った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(高山麗音とBeautiful Freesiaのマネージャーは逮捕された。騒動が解決した事でSaint Snowに対する炎上も完全に収束し、『Saintプリンセス』も放送が再開された。しかし今回の騒動がきっかけとなったのかA-RISEとSaint Snowの番組の全国展開は白紙となってしまった。それに対し色々思う人はいるだろうが、これからも彼女達が活躍してくれる事を私は期待している)

 

<さて、あっという間に終わりの時間となってしまいました。本日もご視聴ありがとうございました♪またお会いしましょう!>

 

「ん〜、今日も面白かったねぇ。にしてもここのところ依頼がなさすぎて活動費がなくなりかけてるよ…」

 

「今回は理亞さん達からお金を頂いてもよろしいのでは?部室にも来てくださりましたし」

 

「けど剛は依頼でない限りMoneyは受け取らなかったから、剛のPolicyは裏切れないわ。でも活動費もカツカツだものね〜、どうしようかしら?」

 

「お父様の信条に基づくのは構いませんが、今回はやむを得ないので頂きましょう」

 

「けどそもそも向こうは払ってくれるかだよ。そこが問題だと思う…」

 

3年生3人はどうすべきか考える。が、いい案は思いつかず一斉にルビィの方を向き、目で『どうすればいい!?』と言うかのように訴える。

 

「ピギ!?えーっと…」

 

ルビィがその視線に困惑していると、スマートフォンに着信が入る。理亞からだ。

実は理亞は部室から去る前、ルビィと連絡先を交換していたのだ。

 

「あ、理亞ちゃんからだ。ちょっとゴメンね!」

 

「いつの間に連絡先を?まぁいいですわ。お金の件聞いて下さいね!?」

 

「ぅゅ!」

 

ルビィは『応答』のアイコンをタップし、電話に出る。

 

『もしもし、ルビィ。今仕事終わったんだけど…』

 

「もしもし理亞ちゃん?ルビィ丁度聞きたい事があったんだ!今活動費が足りなくて困ってるんだけど、依頼金って払えるかな…?あぁでも依頼じゃなくて鞠莉ちゃんが自分から動いたから、嫌なら全然大丈夫だよ!?」

 

『ちょ、落ち着いてよ。お礼はするつもりだから姉様と相談してみる。依頼金かどうかはわかんないけど…あっそれよりさ、今度2人で遊びに行かない?それが言いたくて電話したんだけど…』

 

「いいよ!でも予定合うかな…?探偵部は依頼に備えておかないといけないから休みがないんだよね…」

 

『そっか、じゃあ相談しといて。私もいつが休みの日かまた連絡するから、無理そうだったらいつでも報告して』

 

「うん!わかったよ!じゃあね理亞ちゃん!」

 

『あ、待ってルビィ!最後にもう1つだけ…』

 

「なぁに?」

 

『えっと…その…ありがとう』

 

「ルビィは何もしてないよ…えへへ」

 

『謙遜しなくていいのに…』

 

「ん?何か言った?」

 

『な、何でもない!じゃあ切るよ!』

 

理亞は照れを隠すように電話を切った。同時に綺羅家に到着し、理亞はゴミ捨て場へと歩みを進める。

そこで理亞はクレイドールメモリを取り出した。

 

(もうこれは…私には必要ない)

 

理亞は周りに誰もいないのを確認し、箱の中にメモリを捨てる。自分が自分らしくいる事を誓った理亞の中には、メモリを使うという選択肢はなかった。清々しい表情になった理亞はそのまま自室へと向かった。

 

その様子を陰から目撃していたツバサは捨てられたクレイドールメモリをゴミ箱から拾い、意味ありげに怪しい笑みを浮かべるのであった。




<次回予告>

ルビィ「お待たせ、理亞ちゃん」

ダイヤ「心配なのです、ルビィが」

聖良「陰から様子を見守っていただけです!」

鞠莉「多くの人を巻き込んでしまった事、しっかり反省するのよ!」

次回 R達の休日/ドタバタデート


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#10 R達の休日/ドタバタデート

ハーメルンの方もあっという間に10話です。
今回はオリエピで、理亞ちゃんとルビィちゃんが遊びに行く回となっております(といってもほぼダイヤさん視点ですが)。ドーパントは前回、前々回でリストラされたバイオレンス・ドーパントをこちらで登場させました。


沼津駅のバス停前。そこでツインテールの少女・鹿角理亞がそわそわと落ち着かない様子で立っていた。

慣れない服、慣れないアクセサリー。というのも、最近はロケ等番組撮影の時以外はずっと綺羅家から無償でもらった制服を着用していたからだ。味気のない紺と白の服とは打って変わって、今日の自分の服には水色やピンクなどが華やかに彩色されている。唯一いつも通りなのは、軽い変装の為に着ける伊達メガネだけ。

『鹿角理亞ちゃんですか?』と声をかけられないか、珍しそうな目でこちらを見る人がいないか辺りを見回していると、バスが到着し中から目的の人物が降りて来る。

 

「お待たせ、理亞ちゃん。待った?」

 

バスから降りて来たのは、白いリボンで横に赤い髪を結わえた少し小柄な少女だった。黒澤ルビィ。最近とある事がきっかけで仲良くなった少女だ。

 

「全然待ってないよ。さ、行こっか」

 

「うん!楽しみだね!」

 

ルビィは可愛らしく微笑み、少し先を歩く。その背中を見ながら理亞も歩き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

場所は変わって黒澤探偵部部室。そこでは果南とダイヤが依頼書・報告書をまとめていた。机の上には、ここ最近起きたガイアメモリ関連の事件やその他の依頼の書類が散らばっている。このような書類が整理されず無造作に置かれている原因は、大半は鞠莉の仕業である。本人曰く理事長の仕事や依頼、学業があるので整理している時間がないとの事。

ちなみに張本人である鞠莉は現在出張の為不在である。ルビィも理亞と遊びに行ってしまい、2人しかいない黒澤探偵部はいつもより静かだった。

それもあってか、ダイヤはどこか忙しなく外を見たり落ち着かない様子である。果南は呆れたような顔をし、ダイヤに声をかける。

 

「あの、ダイヤさん?さっきからもじもじしてて気になるんですが」

 

「…えっ!?もじもじなんてしていませんわ!ちゃんと書類をまとめる作業をしてるではありませんか!」

 

「いや、その割に進んでないじゃん。この書類とか日付通りに並んでないし…トイレなら早く行ってきた方がいいよ。我慢してると身体に悪いよ?」

 

「失礼な!お手洗いを我慢してる訳ではありません!…心配なのです、ルビィが」

 

「まだそんな過保護な事言ってるの?ルビィちゃんだってもう子供じゃないんだから大丈夫だって。理亞ちゃんもいるし」

 

「ぶっぶーですわ果南さん!!確かにルビィも成長しています。ですがまだ年齢的には未成年!成人した訳ではありません!おまけに最近の不届き者はすぐ女子高生に声をかけて口説こうとしたり体を触ろうとしたり盗撮したりするのですよ!?これが今世間ではセクハラと呼ばれて問題になっているのはご存知でしょう!?しかもお相手があの理亞さんですし絶対何かトラブルに巻き込まれそうな予感がしてならないのです!!」

 

「流石に考え過ぎじゃないかな…そんな事言ったら少し外出しただけでトラブルだらけだよ。それにここ静岡だから。そういうのは東京で多く起こるものであってこんな場所じゃ滅多に起きないと思うけどなぁ」

 

「考えが甘いですわ!!ほら果南さん、ルビィの様子を見に行きますわよ!トラブルや事件に巻き込まれたら私達が何とかしないと!」

 

「巻き込まれる前提なの!?やめてよ縁起でもない…そんなに心配なら1人で行って来なよ。まだ書類まとまってないし、私が行ったら依頼とか来たら応対する人がいなくなるじゃん」

 

「それはそうですが…そうですわ!なら善子さんや花丸さん、花陽さんに手伝って…」

 

「ダメでしょみんな忙しいんだから。それに私組織から追われてる身だから迂闊に外に出られないんだよ。内浦を出歩くのが精一杯だよ」

 

「確かに、それは危険ですわね…鞠莉さんも出張でWに変身するどころではなさそうですし」

 

「うん、そういう訳だから1人で行ってらっしゃい」

 

ダイヤは渋々1人で沼津へ向かう事になった。しかし、外へ出て突如どうしようもない不安に襲われた。ルビィ達がトラブルに巻き込まれないかもそうだが、いざとなった時に自分が2人を守れるのかどうかも気掛かりであった。

ダイヤはスカルメモリを取り出し、それを見つめる。彼女は鞠莉と果南に比べて戦闘経験も浅く、2人が父のポリシーに基づいて行動しているのと同様に、できるだけガイアメモリの使用を控えたいと考えるのであった。

 

「今は考えていても仕方ないですね。それよりルビィを探さないと」

 

ダイヤはルビィを探すべく駅から離れ、北口の付近にあるショッピングセンターBiViの中へと入る。ルビィが友人と遊ぶ時は大体このショッピングセンターに行く事が多い為、今回もそこにいるのではないかとダイヤは推測した。その予想は見事に的中し、ルビィと理亞はゲームセンターでクレーンゲームを楽しんでいた。筐体の中には、東京にあるテーマパークのキャラクターである青いエイリアンの大きなぬいぐるみがどんと置かれていた。

ダイヤは2人に見つからないよう、ルビィと理亞の遊んでいる筐体の2列後ろにある筐体の陰からその様子を見守っている。

 

「ふぇぇ、また取れなかった…」

 

「大きなぬいぐるみだからって闇雲に体を掴めば取れるものじゃないよ、ちょっと私にやらせて」

 

理亞は100円玉を2枚投入し、横からアームの位置を吟味しつつ①と表記されたボタンを長押しする。理亞は自身の納得のいくと思う位置でボタンから手を離し、②と表記されたボタンを押す。アームはぬいぐるみの体を掴まず、失敗したかに思えた。

しかし、これも理亞の狙い通りであった。アームがタグに引っかかり、そのまま景品出口にぬいぐるみは落ちた。

 

「取れた!!凄いよ理亞ちゃん!」

 

「たまたまだよ。寝転がった体勢だから取れたんだと思う。あ、このぬいぐるみルビィにあげるから持って帰っていいよ」

 

「え?でも理亞ちゃんのお金で取った物だし悪いよ…」

 

「いいの!そこはありがたく受け取ってよ、仕事の給料は殆ど使ってないから心配しないで」

 

「じゃあ…貰うね!ありがとう理亞ちゃん♪」

 

ルビィの感謝の言葉に理亞の顔は赤くなった。その様子を見ていたダイヤも思わず微笑んだ。

ふと目を離すと、1列前の筐体の陰に帽子を深々と被った黒いパーカーの怪しい女性が隠れているのに気づく。まさかこの2人に危害を加えるつもりか。そう思ったダイヤは後ろからそっと近づき、女性の両腕を封じた。

 

「わっ!何するんですか!?」

 

「おだまらっしゃい!2人に聞こえるでしょうが!あなたのような不届き者がいると思いこっそりあとをつけて正解でしたわ。指1本彼女達には触れさせません!」

 

「誤解です!私も妹が心配で陰から様子を見守っていただけです!」

 

「妹?もしかしてあなた…」

 

「私です…鹿角聖良です」

 

ダイヤは鹿角聖良と名乗る女性の両腕の拘束を解き、顔を確認する。それに応じ、女性も掛けていた黒のサングラスを外した。その顔はどう見ても聖良の顔であった。テレビや写真で見かける時はいつもサイドテールだが、今は髪を下ろしている為別人のように見えたのだ。

ダイヤと聖良はそのまま同行する事になり、ルビィと理亞の様子を自動販売機の近くのベンチから眺めていた。ちなみに今、ルビィと理亞はダンスのゲームに夢中だ。

 

「あの、先程は申し訳ありません…聖良さんだと知らずに」

 

「いえ!私も変装が過ぎたのがいけなかったです!先日これと全く同じ服装で自撮りしたんですけど、インスタにアップしたら『不審者みたい』ってコメントがたくさん来たんですよね」

 

「ふふっ、でもそれだけ心配性な姉って事なんでしょうね。私達って」

 

「そうですね」

 

2人は会話をしているうちに笑いが込み上げて来て、思わず笑みをこぼし合いながら世間話で盛り上がった。そんな2人を他所にルビィと理亞はゲームを終え、ゲームセンターから出て行った。

 

「…あれ、理亞達がいない」

 

「…ホントですわ」

 

ダイヤと聖良がそれに気づいたのは、ルビィ達が出て行って8分後くらいである。

2人は一目散にゲームセンターを後にし、息を切らしながらルビィ達の姿を探したのであった。ようやくルビィと理亞の姿を見つけたダイヤと聖良は、2人が雑居ビルの中へと入ろうとするのを目撃した。

 

「はぁ、はぁ…あそこです!すぐに追いましょう…はぁ」

 

「メイドカフェ!?そんな所に入るつもりですの!?」

 

雑居ビルの中には『カフェ ChunChun(・8・)』というメイドカフェがあり、窓からは執事の格好をした男性店員やメイド衣装を着た女性店員が歩き回っているのが見えた。

 

「あんな貧弱そうな男達にルビィを渡してなるものですか!!お嬢様なんて言わせませんわよ!!」

 

ダイヤと聖良はカフェの扉を開き、店内へと入って行った。

…のだが、当の本人達はカフェにはいなかった。ルビィと理亞は3階にあるスマホケースのショップで買い物をしていたのだ。ダイヤと聖良はそれに気づかない。

 

「理亞は…理亞は何処へ…」

 

「おかしいですわね…ちょっとそこのあなた!聞きたい事があるのです!」

 

「は、はい!何でしょうお嬢様?」

 

ダイヤは自分達の座席の近くを歩いていたグレーの髪のサイドテールの店員に話しかける。

 

「ここに赤い髪の女子高生が来店しませんでしたか?」

 

「あとツインテールの女子高生も!その赤髪の人と同い年です!」

 

「えっ?えーっと…あちらのお客様ですか?」

 

ダイヤ達は店員が指した方を見るが、店員が指したのは大学生と思しき2人組の男女だった。

男性の髪には赤いメッシュが入っており、女性は理亞と同じツインテールの髪型をしていた。

 

「ぶっぶーですわぁ!!30秒前に赤い髪の女子高生と言ったでしょう!?よく聞いて下さい!!」

 

「ちょ、ダイヤさん落ち着いて下さい…」

 

「えぇ…じゃあわからないです…ゴメンなさい、許して…くれますか?」

 

「あ、ダイヤさん!いました!」

 

店員の脳トロボイスをスルーし聖良が窓の外を指差す。既に2人はビルから出ており、仲睦まじそうに話しながら歩いていた。

 

「入ったのはカフェじゃなかったんですね…!安心しましたわ…」

 

「このビル、上にスマホケースのショップと眼鏡店があるみたいですね。てっきりこのカフェに行ったのかと…」

 

「という訳で私達は帰らせて頂きますわ!お会計をお願いします!」

 

「…あ、はい!見つかって良かったです♪ではレジの方へお願いします、お嬢様方♪」

 

ダイヤと聖良は慌ててカフェを出て、数メートル先を歩くルビィと理亞の尾行を再開した。

一方ルビィ達は商店街の中へと入り、スマホを見ながら次に行く場所を探していた。

 

「次はどこにしようか?理亞ちゃんは行きたい所ある?」

 

「私は…とりあえずお昼にしたいかな」

 

「そうだね、そろそろお茶にしよっか!ルビィは沼津バーガーに行きたいなぁ…」

 

「プライベートでもよく行くから知り合いもいるし、いい事あるかもね。じゃあ沼津バーガーね」

 

2人は行き先が決まり、沼津バーガーへと足を進めようとしたその時、前にメガネをかけた大柄の男が現れた。

 

「見た事ある子がいると思ったら理亞ちゃんだ!可愛いなぁ…」

 

「知り合い?」

 

「いや、知らない。えっと、もしかしてファンの人ですか?」

 

「そうだよ〜。いやぁ、まさかこんな所で会えるなんて、キミは運命の人なのかなぁ?」

 

「ピギッ…!何か怖い…この人」

 

「ルビィ、大丈夫?何なんですか、あなた…!」

 

「決めたよ理亞ちゃん、今日からキミはボクの物だ!」

 

その言葉と同時に男の右手がすっと動く。男の手には赤いガイアメモリが握られていた。

 

「っ!!ガイアメモリ!?」

 

\バイオレンス!/

 

男は左手の甲にメモリを挿す。すると、彼の体は肥大化した筋肉を持つドーパント、バイオレンス・ドーパントに変わった。

 

「わぁぁ!ドーパントだ!」

 

(この男、完全にメモリに呑まれてる!バイオレンスはパワーも強力だし、逃げないと!)

 

理亞はクレイドールメモリを所持していなかった為、ドーパントに変身する事ができなかった。いや、そもそも理亞にはメモリを使うという選択肢がなかった。仮にメモリを持っていたとしても、ドーパントになるという事はルビィや自分を変えたい気持ちを裏切る事になってしまうからだ。

自分がルビィを逃がさなければと思い、ルビィの手を引いて走り出した。

 

 

 

その異変にはダイヤと聖良も気づいており、ダイヤと聖良の目にはバイオレンスから逃げる妹達の姿が映っていた。

 

「ドーパント…!」

 

「待ってよ〜理亞ちゃん〜」

 

バイオレンスは左手を地面に叩きつけ、高速移動しながら理亞達に近づいて行く。そのスピードに生身の人間が敵うはずもない。アイドル活動で培った体力を持っているとはいえ、理亞の体力は底をつきかけていた。

 

「聖良さん!先にここから逃げて下さい!私は助けを呼んで来ます!」

 

「わかりました!どうかご無事で…!」

 

聖良はダイヤの指示に従い、遠くへと避難する。聖良の姿が見えなくなったのを確認し、ダイヤはロストドライバーを腰に装着する。

 

\スカル!/

 

「変身、ですわ!」

 

\スカル!/

 

「うわぁ仮面ライダーじゃん…何の用さ?」

 

「この2人には指1本触れさせません。今のうちにお逃げなさい」

 

「ありがとうおね…仮面ライダーさん!」

 

「あ、ありがとう…ございます…」

 

「ちょっとぉ、邪魔しないでよ!ボクの理亞ちゃんが行っちゃうじゃん!」

 

スカルに変身したダイヤはバイオレンスの前に立ち塞がり、ルビィと理亞を逃がす。バイオレンスは仕方なさげにスカルに攻撃するが、バイオレンスは身体が大きいドーパントの為スカルに軽々と避けられてしまい逆に蹴りや拳を叩き込まれた。だが…

 

「アイタ〜…あなた身体が硬すぎですわ!」

 

「残念〜、ボクの方が有利だねっと!」

 

バイオレンスは右手をスカルに叩きつける。暴力の記憶を内包したバイオレンスメモリは、使用した人間の攻撃力と防御力を大幅に上げる能力を持っていた。バイオレンスの大きな体格もあり、その一撃はかなり重い。

 

「ぐっ…ならこれで!」

 

スカルはスカルマグナムを取り出し、バイオレンスの体に弾を撃ち込む。今度は物理攻撃よりも効き目はあるようだが、大したダメージは与えられなかった。

同時にバイオレンスとスカルの戦場へ聖良が戻って来る。聖良は彼の態度や先程彼が理亞を襲おうとしたのを思い出し、怒りが込み上げてくるのを感じていた。

 

「あの男…絶対に許さない!」

 

「聖良!無事か?」

 

聖良がガイアドライバーを装着した瞬間、英玲奈がやって来る。

 

「ドーパントが暴れていると聞いてここに来てみたんだ。先程逃げる理亞と友達らしき子も見かけたよ」

 

「私も理亞が心配で尾行していたら、男がバイオレンスメモリを使い理亞に襲い掛かって…お友達と出掛けられるのを楽しみにしていたのにこんな事になるなんて…」

 

「すまない、聖良。こんな事を言ったら怒るかもしれないが…あのメモリを売ったのは私なんだ。『ボクにとって運命の子が欲しい』という理由でメモリを購入したらしいが、その時から危険な人物だとは思っていた。だが偶然とはいえ理亞が狙われるとは私も予測できなかった。本当に申し訳ない」

 

「いえ、仕方ないですよ。あの男は女性なら誰でもいいんだと思います。理亞であろうがなかろうが襲うつもりだったかもしれません」

 

「とにかく原因は全て私にある。今や奴は綺羅家にとっても不穏分子であるとしか言い様がない。責任を持って始末しよう」

 

「私も手伝います。このままでは理亞の身も危ないので」

 

\スミロドン!/

\ナスカ!/

 

聖良と英玲奈はスミロドン・ドーパントとナスカ・ドーパントに姿を変え、バイオレンスに向かって行く。

突如幹部級ドーパントが出現し、バイオレンスに攻撃している事にスカルは戸惑いを隠せない。

 

「どういう事ですの?何故あなた方が…」

 

「邪魔をしないで下さい!」

 

スミロドンは問いかけて来たスカルを爪で切り裂き、ナスカと共に再びバイオレンスに攻撃する。

 

「くっ、硬い…!かなりの防御力ね」

 

「ここは一気に畳み掛けよう、超高速!」

 

ナスカは先日習得したばかりの超高速を使い、肉眼では捉えられないスピードでバイオレンスを切り裂く。バイオレンスはそれに反撃する暇もなく、ただナスカの斬撃を受け続けるだけだった。

 

「なんてスピード…!これがゴールドメモリの力なんですね」

 

「こんなものかな、超高速とはいえどもメモリブレイクまでは不可能か…仮面ライダー、今のうちにトドメを刺すんだ。君達のマキシマムドライブとやらならメモリを砕けるはずだ」

 

「よくわかりませんが…今回ばかりは感謝しますわ!」

 

\スカル!マキシマムドライブ!/

 

スカルはスカルマグナムにメモリを挿し、銃口をバイオレンスに向ける。

スカルのマキシマムドライブ・スカルパニッシャーがマグナムから放たれた瞬間、バイオレンスは球体に姿を変えて飛行しながら逃走してしまった。

 

「逃がしませんわよ!」

 

スカルはスタッグフォンを操作し、スカルボイルダーを呼び出しバイオレンスを追う。

 

「どうしますか?英玲奈さん」

 

「いくら逃げたとはいえ先程の超高速で体力も大幅に消耗しているはずだ。あとは彼女に任せるとしよう」

 

スミロドンとナスカも聖良と英玲奈の姿に戻り、どこかへ去って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その頃、スカルとバイオレンスは熾烈な戦闘を繰り広げていた。バイオレンスは腕から礫を放ち、スカルはそれを躱しながらマグナムで攻撃する。

しかし、バイオレンスは球体化した事で空中戦も可能になった為、スカルマグナムの銃撃が当たらないようにスカルの真後ろへ飛び、礫で攻撃した。その攻撃を浴びたスカルはスカルボイルダー諸共吹き飛ばされてしまった。

 

「もうキミ許さないよ!ボクの邪魔したから殺してやる!」

 

バイオレンスはスカルに向けて再び礫を放とうとする。

 

\ヒート!トリガー!/

 

その時、聞き覚えのあるガイアメモリの音声が鳴り響く。バイオレンスはスカルに向けて放たれた礫と共に火炎弾に撃ち落とされる。

スカルが火炎弾の放たれた方を見上げると、赤と青の戦士がハードタービュラーに乗ってトリガーマグナムをくるくると回していた。仮面ライダーW、小原鞠莉と松浦果南。ここに見参だ。

 

「ダイヤ!待たせてゴメンね♪」

 

「鞠莉さん!用事は終わりましたの?」

 

「えぇ!ドーパントが街を壊してるってNewsになっていたから急いで駆けつけたのよ♪」

 

『さ、さっさとアイツを仕留めよっか。部室で変身しちゃったから誰か来たら困るんだよね』

 

「あなたは理亞ちゃんを襲い、ルビィのDateを邪魔し、その上街も泣かせた。多くの人を巻き込んでしまった事、しっかり反省するのよ!」

 

「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

 

「理亞ちゃんはボクと結ばれる運命なんだぁ!!」

 

「おだまらっしゃい!!あなたみたいな変態男の好きにはさせませんわ!あと鞠莉さんデートとは何ですか!言い方があるでしょう!」

 

『はいはいわかった、説教はあとにしてよね!』

 

バイオレンスは再び球体に姿を変え、逃げながらWに向け礫を発射する。Wはトリガーマグナムでそれを撃ち落とし、バイオレンスを追いながら火炎弾を放つ。

 

『このままじゃ埒が明かない。身体にも負担がかかるし、ルナに変えて確実に当てるよ』

 

\ルナ!/

\ルナ!トリガー!/

 

「ダイヤ!私達がメモリブレイクするからこれでアイツの動きを封じてもらえるかしら?」

 

Wは黄色と青に変化し、鞠莉はスカルにバットショットとスパイダーショックを渡す。それらを受け取ったスカルはギジメモリを挿し、スパイダーショックをスカルマグナムにセットした。

 

\バット!/

\スパイダー!/

 

「了解ですわ!私にお任せを!」

 

バットショットはスコープでバイオレンスに照準を合わせ、正確に当たる位置を示す。スカルはバットショットの画面を見ながらバイオレンスにスカルマグナムを向ける。トリガーを引いた瞬間、スカルマグナムからは黄色い蜘蛛の糸のようなネットが飛び出しバイオレンスを捕らえた。

Wとスカルはメモリガジェットを武器にセットする事により、攻撃にガジェットの能力を付加させる事が可能だ。

 

「うわぁ!何だこれ!」

 

「上手く行きましたわ!今です、鞠莉さん!」

 

「OK!Cleaning Timeよ〜!」

 

ネットにかかったバイオレンスは勢いよく落下していく。その隙にWもスタッグフォンとトリガーメモリをトリガーマグナムにセットする。

 

\スタッグ!/

\トリガー!マキシマムドライブ!/

 

「「トリガースタッグバースト!!」」

 

トリガーマグナムから放たれたクワガタの角のような2つのビームはバイオレンスを挟み込み、撃墜した。

男はそのまま落下していくが、Wが右手を伸ばし足を掴んだ事により転落は免れた。男の左手からはバイオレンスメモリが飛び出し、スカルの手に落ちる前に砕けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ドーパントに襲われるというアクシデントもあったが、ルビィと理亞は鞠莉からドーパントが倒された事を聞き散策を再開した。

2人が最後に訪れたのは、淡島にある水族館・あわしまマリンパークだった。

 

「イルカさん可愛いなぁ〜」

 

「だね。今は私も淡島に住んでるけど、ここにちゃんと来たのは初めてなんだ。今日は色々あったけど、ルビィと出掛けられて嬉しかったよ、ありがとう」

 

「えへへ、また予定が合えば一緒に行こうね♪」

 

鞠莉とダイヤはその様子を見て微笑む。それと同時に、鞠莉とダイヤは大事な事を忘れていたのを思い出す。

 

「そういえば鞠莉さん、理事長の仕事は大丈夫ですか?出張の後だから何かやる事があるのでは…?」

 

「ん?Oh No!ドーパントに気を取られてすっかり忘れていたわ!」

 

「そういえば私も果南さんが1人で書類の整理をしているのを忘れていましたわ!ルビィ達に見つかる前に帰りましょう!」

 

ダイヤと鞠莉はクルーザー乗り場へ向かう。ふと、鞠莉の目にあるものが入りそれを見る。

そこにあったのは、溶岩やティラノサウルスの化石、アノマロカリスのレプリカ、ダイヤモンドの鉱石。一見それらは特に何の変哲もない展示品であったが、これらは今まで鞠莉達が戦って来たドーパントのメモリ名と一致していた。

 

 

『何?邪魔しようっての?ならば燃えちゃえ!』

 

『みんな食ってあげるわ!あなた達もおばあちゃんをバカにした奴らも!』

 

『へ~、まさか先輩達が仮面ライダーだったんだぁ…殺しがいがあるよ』

 

『アンタ達もダイヤに変えてこのまま世界中のダイヤを私の物にしてやるわ!』

 

 

 

 

 

 

「それに興味があるのね。地球に刻まれた記憶というのは素晴らしいものでしょう?」

 

「っ!!」

 

鞠莉が過去を回想していると、後ろにショートヘアの少女が立っていた。

彼女は静岡県民からよく知られた存在であり、鞠莉自身もテレビやポスターなどで見た事があった。

 

「あわしまマリンパーク館長の綺羅ツバサです。A-RISEで活動しているのでご存知だと思いますが」

 

ツバサはごゆっくりどうぞ、と短く告げるとその場から立ち去った。

鞠莉はツバサから言葉では表せない厭な空気を感じていた。彼女の顔は何度も見た事があるはずなのに、1度対面しただけでこんなに不気味さを感じるものなのか。鞠莉の背中にはどろっとした冷や汗が流れていた。

 

「どうしましたの鞠莉さん?早く行きますよ?」

 

「Sorry,今行くわ」

 

鞠莉は得体の知れない感情を拭うかのよう、ダイヤの元へ駆け出した。

 

 

 

それから数時間後。鞠莉と果南、ダイヤの3人はようやく書類の整理を終えてくつろいでいた。ルビィも部室に帰って来て、その日は解散となる。

 

「あ〜ようやく終わった…そう考えるとここ2ヶ月の依頼って結構多いんだね」

 

「この前は依頼がないとか言っていたのにまとめてみると意外とありますよね。普段からしっかり整理しておかないとですね」

 

「そうね〜、でも私にはまだ理事長の仕事が…I'm sleepy」

 

「ん?ルビィ、どうかしましたか?先程からずっと上の空ですが…」

 

「もしかして疲れちゃった?明日から授業始まるし、休んだ方がいいよ」

 

「それもあるけど、1つ気になる事があって…ねぇ鞠莉ちゃん、ガイアメモリって裏社会で取引されてる物なんだよね?みんな普通に知ってるのかな?」

 

「まぁ、そうね。少なくともバイヤーから声かけられたりしない限りは存在を知らないはずだけど…どうしてそんな事聞くの?」

 

「あのね、理亞ちゃんとバイオレンスに襲われた時の事なんだけど…理亞ちゃんが『ガイアメモリ?』って言ってたのを思い出したの。それで、なんで知ってるのかなぁって」

 

ガイアメモリは闇社会という普通なら馴染みのない場所で売買されている物であるとルビィは聞かされていた為、理亞がその存在を知っていた事がずっと引っかかっていたのだ。警察や報道もガイアメモリに関しては一切公表せず、いくら芸能人であろうとも知っている可能性は低いはずだ。

 

「そういえば聖良さんもルビィと理亞さんの尾k…バイオレンスを見た時にたまたま同じ場所に居合わせたのですが、彼女もドーパントという名前を知っていました」

 

「今尾行って言いかけてたし…でも私は理亞ちゃんがここに来た時、ガイアメモリの事は伏せて犯人を話したはず。なのに知ってるというのは確かにおかしいね」

 

ドーパントという名前は『ガイアメモリを使ってドーピングした者』という意味を持ち、その呼称は警察や探偵部、組織絡みの人間が使う呼称であった。一般の人間の間では、ドーパントは普通に『怪物』と呼ばれており、正式名称を知る者は少ない。

 

「彼女達、過去にガイアメモリ犯罪に巻き込まれた事があったりするのかしら?」

 

「でもそんな事が発覚したら騒ぎになるはずですわ。あの2人は姉妹ですし、メモリやドーパントを知ったタイミングは同じでしょうね」

 

「いや、2人の共通点はそれだけじゃないよ。もう1つ有力な共通点がある。それは…」

 

果南の言葉に全員が息を呑む。ゆっくりと果南の口からある名前が出た。

 

「綺羅家だよ」

 

「まさか…」

 

「確証はないけど、綺羅家と組織は何かしら繋がりがあると思うんだ。メモリ絡みとは言われてないけど、この前みたいにネットでおかしな噂も流れてるし、淡島に幹部ドーパントがいたのも説明がつく」

 

「そうですね。Saint Snowのお二人も綺羅家の方ですし、そこでガイアメモリやドーパントを知ったと考えれば辻褄が合いますね…」

 

「だとしても、私は信じたい。彼女達がガイアメモリをばらまいてないって事を」

 

「ハーフボイルドだね。でも私も同感。嫌いじゃないよ、そういう考え」

 

「うん、せっかくできた友達なんだもん。ルビィも信じたいよ」

 

黒澤探偵部の中で、綺羅家と組織は関連があるかもしれないと確信した瞬間であった。

だが彼女達は、それでも聖良と理亞やツバサが流通に加担していないと信じていた。いや、信じるしかないのだ。

いずれ組織の目的や真相を知り、街の人々が笑顔でいられるよう戦う。それが鞠莉達の使命なのだから…




<次回予告>

英玲奈「まさかこんな形で君と会えるとは思っていなかったよ」

???「アタシの妹を探してくれない?」

ルビィ「それ、ガイアメモリ!?」

果南『メモリを使い回してる…!?』

次回 Nは潮風と共に/モルモット・オブ・ガイアメモリ


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#11 Nは潮風と共に/モルモット・オブ・ガイアメモリ

あぁ、とうとう来てしまった…英玲奈さん回前編です。今回も2話完結となっております。
虹ヶ咲より天王寺璃奈ちゃんも初登場です(一応準レギュラー化)。スクスタ配信前に執筆したのでキャラ崩壊してますが大目に見て頂ければ。

最後に理亞ちゃんが先日誕生日を迎えたのでSaint SnowとA-RISEによるおまけコーナーもあります。ちなみにPixiv投稿版は梨子ちゃんとルビィちゃんの誕生日が近かったのでAqoursのおまけとなっております。お時間ある方は是非Pixivの方も覗いて見て下さい!


町外れにある小さな公園。そこではヒートメタルとなったWとナスカ・ドーパントが戦っていた。交わる2つの武器、メタルシャフトとナスカブレードからは戦いの激しさを示す火花が散っている。

 

 

 

今から数分前。疲れがとれないことに悩んでいた鞠莉は花丸の紹介で近所の温泉を紹介してもらい、そこへ行く事になった。だが、鞠莉は落ち着いて過ごすのが苦手な為、長くは沈まずにシャンプーだけをして帰る事にした。その最中に同じくシャンプーをしていた英玲奈(この時点では互いが誰なのか気づいていない)と内浦の話で盛り上がったのだった。

 

「なら沼津ブランドのみかんはわかるかい?最近スクールアイドルのアニメともコラボしたブランドなんだ」

 

「寿太郎みかんでしょ?同じClubのFriendが親戚から貰ったものをよく持って来てくれるのよ♪」

 

「君、なかなか詳しいんだな。なら内浦のマスコットキャラであるうちっちーは知ってるだろう?」

 

「Of course!この街の大人気キャラだもの!勿論知ってるわ!」

 

「そこで質問だ。うちっちーの考案者が誰なのかわかるかい?」

 

「確か、うちっちーって一般公募で決まったキャラに小学生が名前をつけたのよね?でもDesignerまでは私もわからないわ」

 

「実はうちっちーの考案者は私なんだ。小学生の頃に描いたイラストが採用された時は大きな達成感を得たのを覚えているよ」

 

「Wa〜o!!まさかこんな所で会えるなんて凄いわ!」

 

「だろう?実はうちっちーが生まれた際に特別に作ってもらった非売品のストラップがあるんだよ。今度見せてあげよう」

 

「いいの!?ありがたいわ!!ここで会えたのも何だし、あなたのNameを教えてもらえる?」

 

ここで2人はシャンプーを終え、互いの顔を見る。

 

「そうだな。私は…って、君は」

 

「ん?あなた、統堂英玲奈じゃない!」

 

「あの時の探偵か。外へ出るぞ」

 

2人はそのまま公園へ向かう。そこで改めて顔を合わせた英玲奈は煽るように言う。

 

「まさかこんな形で君と会えるとは思っていなかったよ。正義のヒーローだけあって相当街を愛しているんだな、仮面ライダーくん」

 

「っ!何故あなたがそれを!?」

 

「あぁそうか、君にはこちらの姿の方が馴染み深いね」

 

「そのドライバー、まさか!!」

 

英玲奈はガイアドライバーを装着し、一般にバイヤーが販売している物とは違う金色のガイアメモリを見せつけるかのように起動スイッチを押す。

 

\ナスカ!/

 

そして英玲奈は青い騎士のような怪人、ナスカ・ドーパントに姿を変えた。

 

「まさかあなたが幹部だったなんてね。何となく関わりがありそうな気はしていたわ」

 

「その通り。知っていると思うがこれが私の力、ナスカ・ドーパントだ。君も早く変身したまえ」

 

「そちらがそう来るなら仕方ないわね!」

 

「あぁ、待ってくれ。せっかくだからファングジョーカーとやらにでもなってもらおうかな」

 

「もう!Orderが多いのよあなたは!」

 

鞠莉はダブルドライバーを装着し、果南に呼びかける。

 

「行くわよ果南!」

 

\ジョーカー!/

 

しかし、果南から反応はない。

 

「果南?大丈夫〜?」

 

\ジョーカー!ジョーカー!ジョ、ジョ、ジョーカー!/

 

『えっ?あぁごめん、気づかなかった。ファング探しててさ、鞠莉知らないよね?』

 

「そういえばSaint Snowの騒動以来ずっと見てないわね。すぐ見つかりそう?統堂英玲奈がナスカになって挑戦してきたのよ」

 

『ナスカ?英玲奈さんってドーパントなの?』

 

「そうなのよ!組織の青いドーパント!ファングジョーカーになれって言うからこっちに来てもらえない?」

 

『急に言われてもなぁ…ファングはいないからサイクロンにするよ』

 

気だるそうな声が聞こえたのと同時に、ドライバーにサイクロンメモリが転送されて来た。鞠莉もジョーカーメモリを挿し、ドライバーを展開する。

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

「遅くなったわね!始めるわよ!」

 

『ゴメンね〜、ファングが見つからないもんで。あ、こいつのメモリがナスカなんだね…』

 

「そうか。100%の力でないのが残念だが、こちらも手抜きはしない。行くぞ!」

 

 

 

と、そんな訳で今に至る。ヒートメタルはファングジョーカー以外の9つの形態の中では強力なパワーを持つが、ナスカもレベル2に覚醒した事で強化され、攻撃力やスピードが以前よりも高くなっていた。

 

「ちょっと、あなた前よりも強くなってない?」

 

「訓練を積んでメモリをレベルアップさせたからな。前の私とは違うぞ!」

 

『前回とは戦法を変えた方が良さそうだね。サイクロンに戻すよ』

 

\サイクロン!/

\サイクロン!メタル!/

 

「鞠莉ちゃーん!まだいる〜?」

 

果南はメモリを変えるが、長い黒髪の女性が鞠莉を呼んでいるのに気づき構えていたメタルシャフトを下ろす。

それに応じたナスカもドライバーからメモリを抜き、英玲奈の姿に戻った。

 

「フッ、命拾いしたな。今回は見逃してあげよう」

 

「ちょ、待ちなさい…行ってしまったわ」

 

『それより、六日先輩のところに行ってあげなよ』

 

鞠莉は変身を解き、六日と呼ばれた女性の元へ向かう。その女性は鞠莉もよく知る人物であった。彼女は睦月六日(むづきりっか)。浦の星女学院の卒業生であり、ダイヤと生徒会を務めていた為鞠莉は何度か話した事があった。現在は県内の大学で情報学を専攻しているらしい。

 

「六日〜!久しぶりね♪」

 

「鞠莉ちゃんおひさ〜!さっきおばあちゃんから鞠莉ちゃんが銭湯に来たって聞いたから探してたの!」

 

「あら、あの銭湯って六日のGrandmotherが経営してたのね!」

 

「そうそう…って、それどころじゃないのよ!黒澤探偵部に依頼をしたいの!アタシの妹を探してくれない?さっき銭湯でおばあちゃんにも聞いたんだけど、何処にいるか知らないみたいでさ…」

 

三日(みか)の事よね?どうしたのかしら…」

 

「ママやパパと喧嘩した訳でもないし、アタシも何もしてないのよ。突然家出しちゃってさ」

 

「それはまずいわね…OK!黒澤探偵部としてその依頼、しっかり受けさせてもらいます!」

 

「ありがとう!助かる!依頼金は明日渡しに行くからよろしくね!」

 

鞠莉は六日の妹・三日を探して欲しいという依頼を承諾した。この依頼が新たな始まりの前兆である事を、彼女はまだ知らない。

 

 

 

(この前は色々大変だったけど、楽しかったなぁ…またルビィと出掛けたい)

 

その夜。綺羅家では、理亞が先日ルビィと遊んだ時に撮った写真を眺めながら余韻に浸っていた。

 

「理亞、明日は早いからそろそろ寝なさい」

 

「姉様、わかった。それじゃあおやすみなさい、ツバサさん」

 

「待って理亞さん。あなたに話があるの」

 

「はい…?」

 

「この前、ゴミ処理場にクレイドールのメモリが捨てられてるのを見つけたのだけど…」

 

「!!」

 

まさかこんな早い段階で気づかれてしまうとは。ツバサを恐れる理亞は『使いたくないから捨てた』と口にする勇気はなかったので、嘘の口実を作り誤魔化した。

 

「あ、あぁ…仕事帰りに買い食いしたんですけど、そのゴミを捨てる時に間違えてメモリまで捨ててしまったのかもしれません…ずっと探してたんです!」

 

「そう。失くした事を言いづらかったのね?」

 

ツバサを取り巻く雰囲気が冷たいものに変わった気がした。理亞の背筋に厭なものが流れるも、理亞はそれを堪えながら『はい』と答えた。

 

「別に失くしたからって責めたりする気はないわ。ただ、今後もし落とした時はちゃんと私か他の人に伝えて。ガイアメモリは私達の絆だから、大事に持っていてね」

 

「わ、わかりました。気をつけます…」

 

理亞は震える手でクレイドールメモリを受け取った。そのまま『おやすみなさい』と取り繕った笑顔で告げ、少し足早に部屋へと戻るのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、鞠莉と黒澤姉妹は市内を捜索していた。今回は行方不明の人間を探す事が依頼となっている為、優先的に探偵部の活動が認められた(理事長補正で鞠莉が決めたのだが)。

 

「三日、何かあったのかしら?穏やかな子だから家出なんてしなさそうなのに」

 

「それは本人に聞くほかありませんわ!まだ中学1年なのにそのような非行は許されません!しっかり説教しなくては!」

 

「お姉ちゃん、いきなりはダメだよ?怒るのはちゃんと話をしてからにしないと…それに、もしかしたら何らかの事件に巻き込まれちゃった可能性もあるし…」

 

「そうね、おまけに13歳は思春期真っ只中だもの。ダイヤがHeat upしたらあの子もMental Breakされてしまうわ」

 

「うっ、事実なので何も言えませんわ…善処します…」

 

「っと、噂をすれば見つけたわ」

 

鞠莉が指す方には、六日に似た長髪の少女やソフトリーゼントの少年など、5人の中学生がベンチに座っていた。早速鞠莉達は彼らにコンタクトを試みる。

 

「三日、久しぶりね〜。私の事覚えてるかしら?」

 

「あ、鞠莉さん。お久しぶりです。今日は学校はお休みなんですか?」

 

「その言葉そっくりお返ししますわ。あなた達こそ今は学校の時間でしょう?サボって何をしていますの?」

 

「三日、知り合い?つーか母親?」

 

「私をオバサン扱いするつもりですの!?女子高生ですわ!!制服着てるでしょうが!!」

 

「うわ、怖ぇ!何なのオバ…お姉さん!」

 

「今オバサンって言おうとしましたわね!?あなた達が家出してるから私は口煩く…」

 

「お姉ちゃん、ダメだよ」

 

ルビィはダイヤの肩に手を乗せ、ダイヤを制す。空気は一瞬にして静まり返った。

 

「あ〜、どうする?ルビィ」

 

「うーん…笑わせてみるとか?」

 

「何か1発ギャグみたいなのは…」

 

「…だるまさんが」

 

「ん?ダイヤ、何?」

 

「だるまさんがコロンブス!!」

 

「えーっとコロンブスだから…いないいな〜い、バスコ・ダ・ガマ!!」

 

「この納豆、マゼランない~!!」

 

「………」

 

ダイヤを筆頭に謎のギャグを披露し、鞠莉達は少年達の笑いを取ろうとする。

勿論当の彼らはクスリとも笑わず、鞠莉達を白い目で見つめるだけだった。

 

「…あの、アタシ達もう子供じゃないんですけど」

 

「ですよね〜…」

 

「何したいんすか?それよりこれやる方が面白いっすよ!やってみます?」

 

そう言い1人の少年がズボンのポケットから何かを出す。手に握られていたのは赤い色をしたドーパントのガイアメモリだった。

 

「えぇ!?それ、ガイアメモリ!?」

 

「こら!どうしてあなた達がそんな物を持っているの!遊び半分で使っていい物じゃないわよ、お姉さん達に渡しなさい!」

 

「うるさい、黙ってろよ!」

 

\バード!/

 

少年が腕にメモリを挿すと、彼の姿は始祖鳥のようなドーパント、バード・ドーパントに姿を変えた。

 

「あれはバードのメモリ…?何故あの少年が?」

 

そこへ番組撮影の休憩で訪れていた英玲奈が、バード・ドーパントと鞠莉の姿を目撃する。英玲奈は少年の使ったメモリに違和感を抱いていた。

 

「もう!お仕置きしないとわからないようね!」

 

鞠莉もドライバーを装着しジョーカーメモリを取り出そうとするが、バードに捕まってしまった。

 

「果南!ドーパントに捕まってるの!メモリをぉぉVery fast!メモリを送って!」

 

『鞠莉聞いてよ!ファング捕まえようと罠を仕掛けといたら青いカブトムシが掛かってたんだよ!凄くない!?』

 

「それどころじゃないわよぉ!メモリをぉぉぉJet coaster!!」

 

『うわ、何か凄い音聞こえるなぁ。ちょっと待って!』

 

「バードコースターはどうですか金髪のお姉さん?じゃあ落とすよ!さよなら!」

 

「ちょっと!何故私はオバサンで鞠莉さんはお姉さんなんですか!!」

 

「わぁぁぁそんな事言ってる場合じゃないよお姉ちゃん!ピギィィ!!」

 

バードは鞠莉を空高くから落とす。しかしその瞬間、ドライバーにサイクロンメモリが転送されて来た。鞠莉もジョーカーメモリをスロットへ差し込み、ドライバーを展開した。

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

既のところで鞠莉はWに変身し、地面に着地した。ルビィとダイヤも思わず胸を撫で下ろす。

 

「鞠莉さん達が…仮面ライダー?」

 

「うっそぉ!動画撮っとけばよかった…」

 

「そ、それはダメだと思うよ…!」

 

「ダイヤの言う通り、Bad Boyくんにはお説教が必要みたいね!メモリブレイクしてあげるわ!」

 

\ルナ!/

\メタル!/

 

\ルナ!メタル!/

 

Wはルナメタルとなり、メタルシャフトを変形させてバードに叩き込む。しかしその攻撃は、自由自在に飛び回るバードにはなかなか当たらない。

 

『すばしっこいなぁ!じゃあこっちで』

 

\トリガー!/

\ルナ!トリガー!/

 

Wはトリガーマグナムをバードに向けて射撃する。ホーミング弾は逃げるバードに全て命中し、地面に叩き落とした。

 

「ごめんなさい!もう降参するから許して下さい!」

 

バードは腕からメモリを抜き、少年の姿に戻る。少年は近づいて来たWにメモリを渡そうとする。

 

「それでいいのよ。もう使ったらダメよ?」

 

「…な〜んて。虎之助、頼んだ!」

 

バードメモリは後ろにいた虎之助という少年に投げられる。Wはその動きを読めず、メモリは虎之助の手に渡ってしまった。

 

\バード!/

 

「よーし、今度はオレが!」

 

『そんな、メモリを使い回してる…!?』

 

「何故だ…?メモリは1人1本しか使えない筈だ。メモリが改造されてるのか?」

 

ガイアメモリは本来、生体コネクタを介さなければ使用できず、1つのメモリを複数人で使用するのも不可能であった。

 

「懲りない子達ね!それならメモリブレイクして使えなくしてあげるわ!」

 

「ちょっと虎之助!アンタ流石にやりすぎだって![[rb:天 > たかと]]もなんでメモリ渡したのさ!」

 

「別に見てて面白いんだからいいだろ?」

 

「これ以上やったらお互いに怪我しちゃうよ…もうやめようよ…!」

 

2人の少女もまずいと思ったのか、バードにやめるよう促す。しかしバードは聞く耳を持たない。

そんな彼らを見かねた三日が、バードに向けて僅かに目を潤ませながら叫んだ。

 

「やめて!鞠莉さんを傷つけないで!」

 

「三日…お前が言うんじゃしょうがないな、わかったよ」

 

Wもこれ以上の戦闘は無意味だと判断し、変身を解いた。

 

「素直に渡せば見逃してあげるわ。ガイアメモリは薬物と同じ、使っているうちにやめられなくなるわよ。自分が大事だと思うなら私にそれを渡して。わかったわね?」

 

「ちぇっ、もう終わりかよ…つまんねー…行こうぜ三日」

 

バードは元の姿に戻る事はなかった。彼は三日を抱え、何処かへ飛び去って行った。

 

「あ!メモリを渡さないとダメだよ…行っちゃった」

 

「アイツ絶対反省してないですよ。あたしもう危険な事したくないから帰る」

 

「私も…お母さん達に迷惑かけちゃったし…」

 

「…うっ!?あっ、あぁぁぁぁっ!!」

 

その時、天が突然叫び出した。鞠莉達が慌てて駆け寄ると、天は悲痛な顔で腕を押さえていた。そこは彼がメモリを挿した場所であり、焼け爛れたかのような痕ができていた。

天はしばらく苦しんだ後、意識を手放した。

 

「ちょっと!しっかりして下さい!」

 

「天くん!?大丈夫!?」

 

「これヤバいって…救急車呼んで!!」

 

「今かけてる…!あ、もしもし?友達が…」

 

数分後に駆けつけた救急隊員により、天は病院に搬送された。

鞠莉達も医者に事情を説明する為に同行し、治療が終わるまで少女達を見守り続けた。やがて病院には彼らの両親が到着し、鞠莉達は部室へ戻る事にした。

 

「あのバードというメモリ…明らかに普通じゃなかったわ」

 

「確か、ガイアメモリってコネクタをしていないと挿せないんだよね?バードメモリだけ特殊に作られてるのかな?」

 

「そう考えるのが妥当ね。しかも子供にそれが出回ってるなんて…組織の目的は何なのかしら…」

 

「いよいよ牙を向いてきた、という事なんでしょうか…そして果南さんは何処行きましたの!?こんな時に何をしているんだか…」

 

「果南ちゃん、この前からずっとファングさんを探しているよね。Wで1番強いのがファングジョーカーだし、ファングさんがいないとダメなのかも…」

 

「三日と虎之助というBoyは何処かへ行ってしまったし…そういえば、バードメモリは誰の物なのかしら?確か虎之助の腕にもコネクタは無かったような…っ!?まずいわ!!」

 

「どうかしました?」

 

「ガイアメモリは身体が成長していないKidsが使い過ぎると危ないのよ!あの火傷のような痕はそれが症状として現れたんだと思うわ!」

 

「そっか!だからコネクタが無かった天くんはあんな事になっちゃったんだ…!」

 

「こうしてはいられませんわ!!今すぐ2人を探さなくては!!」

 

3人は慌てて部室を飛び出した。

 

 

 

一方、ある工場地帯。そこでは明るい桃色の髪の小柄な少女が白い猫と戯れている。

そこへ、鞠莉からの連絡を受けて三日達を探す海未が通りかかる。

 

「あの、すみません…この2人を探しているんですけど…」

 

「私は見てない。ずっとここではんぺんと遊んでたから」

 

「ん?あなた、もしかして天王寺璃奈さんですか?静岡を歩き回っている事で有名な…」

 

「私の事、知ってるんだ。そう、いかにも私は天王寺璃奈です」

 

少女・天王寺璃奈は足元に置いたスケッチブックを顔の前へと持っていき、海未へと見せる。スケッチブックには(>v<)という顔文字が書かれていた。

 

「あの…それは何ですか?」

 

「これは『璃奈ちゃんボード』って言って、私の感情が書いてある大切な物なんだ」

 

「はぁ…」

 

何の意図でそんな物を作ったのだろうかと海未は思ったが、きっと彼女には事情があるのだろうと思い、あえて何も言わなかった。

 

「ところで、どうしてその中学生を探してるの?」

 

「家出してしまったらしくて。知り合いに探すのを手伝って欲しいと頼まれたんです」

 

「なるほど。中学生か…この時期は色々と悩む時期だし、気持ちは分かるかも。そういう子達、私には精一杯空へ羽ばたこうとする鳥のように見える」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

「多分、その子は大人になりたくて籠の中から抜け出そうと必死になってる。誰にも話せない事があるからこそ、自分だけで同じ志を持つ人と知らない世界へ旅に出る…そういうのはロマンがあって素敵だと思う」

 

「つまり…それは家出を肯定しているという事ですか?申し訳ないですが、あなたの言いたい事がよくわかりません」

 

「どっちかといえばそうなのかも…?でもこういう時、あまり干渉せずに見守る方が正解だと私は思う」

 

海未は何を考えているのかわからない璃奈の発言に少し頭を抱えた。

そんな2人の元へ、三日が慌てた様子でこちらへ駆けて来る。

 

「あなたは鞠莉が探していた…」

 

「逃げて下さい!!ここにいたら危ないです!!」

 

「「えっ?」」

 

海未と璃奈がきょとんとしていると、頭上にバード・ドーパントが出現した。彼はこちらへ向け羽の形をした手裏剣を放ってくる。

 

「鳥人間?あんなの本当にいるんだ!璃奈ちゃんボード、『衝撃の事実!!( °_° )』」

 

「それより逃げないとまずいですよ!」

 

「うん。確かにヤバいかも…逃げよう!」

 

「ちょ、待って下さい!早すぎますy…あらっ!?」

 

思ったより足の速かった璃奈を追いかけようとした海未は、何故かそこに落ちていた空き缶で足を滑らせてしまう。彼女はそのまま頭から転んだ事により、気を失ってしまった。

 

「あれ…?刑事さん気絶してる!」

 

璃奈は慌てて海未を運ぼうとするが、既にバードは視界に璃奈を捉えていた。璃奈に手裏剣が放たれようとしたその時、真上にハードボイルダーに乗った鞠莉が現れ、バードへ突進した。

 

「大丈夫?早く逃げて!」

 

「誰…?でも助かりました。ありがとう」

 

「何だよお姉さん?まだ俺と遊びたいの?」

 

「そうね、そういったところかしら?そのメモリを渡してくれるまでは何度も遊びに付き合ってあげるわよ?」

 

「ふん、こんな面白いもん渡しちゃつまんねーし!絶対渡すもんか!」

 

「そう…なら仕方ないわね」

 

鞠莉はダブルドライバーを装着し、ジョーカーメモリを構えた。

 

「果南、行くわよ!」

 

『ちょっと待って。今そっち着くから』

 

そう果南の声が頭に響いたのと同時に、鞠莉の後ろにリボルギャリーが停車し中から果南が出てくる。

 

「やっほー、ちょっと気になる事があってこっち来ちゃった」

 

「気になる事?」

 

「ファングの居場所だよ。もしかしたら私がピンチになった時、私を守る為に来てくれるんじゃないかと思って」

 

「何だよお前!邪魔すんな!!」

 

バードは果南へ手裏剣を放つが、横から飛び出して来たファングが手裏剣を全て叩き落とし、果南を守った。

 

「よくやったよ、ファング。ほらね鞠莉、私の予想当たったでしょ?」

 

「もう、無茶するわねぇ」

 

「誰かさんに似たからかもね。さ、早くケリつけようよ」

 

「えぇ」\ジョーカー!/

 

\ファング!/

 

「「変身!!」」

 

「倒れる身体は任せルビィ!!」

 

ジョーカーメモリが果南のドライバーに転送され、果南はファングメモリと共にそれをスロットへ挿し込む。

 

\ファング!ジョーカー!/

 

ルビィは果南の後ろへ駆け寄っており、身体をキャッチする体制に入っていた。しかし倒れたのは鞠莉の方であり、目の前にいた果南は白い風に包まれ、Wへと姿を変えた。

 

「あっ…そうだ、鞠莉ちゃんの方だった…」

 

『Oh!!ルビィ!!』

 

「さぁ、」

 

「「あなたの罪を数えなさい!!」」

 

Wは決め台詞に反応し、飛びかかって来たバードを軽くあしらった。そして互いに体勢を立て直すが、反射神経はWの方が高かった。バードはWの拳に吹き飛ばされ、壁へと激突した。

 

「大口叩いてる割には戦闘慣れしてないね。こっちは力を持て余しちゃってるんだけどなぁ」

 

「う、うるせぇ!」

 

引き続きWは攻撃を仕掛けるが、空中戦は不可能だろうと考えたバードは飛行し、それを避けながら手裏剣を放つ。しかし、果南はその動きを予測しており、仮面の下で余裕の笑みを浮かべていた。

 

\ショルダーファング!/

 

「はっ!!」

 

「おっと!どこ投げてんだよ!当たってないぞ〜!」

 

「あれ?君、ブーメランって知らないのかなん?」

 

「は?」

 

Wの方へ戻ってきたショルダーファングはバードを後方から切り裂き、地に叩き落とした。バードがよろよろと立ち上がろうとしている隙に、果南はファングの角を3回押す。

 

\ファング!マキシマムドライブ!/

 

「「ファングストライザー!!」」

 

Wはバードに飛び回し蹴りを食らわせる。白い刃に切り裂かれたバードは爆発し、虎之助の姿に戻った。

 

「くそっ…!」

 

『もうメモリは使えないわよ。ふざけ半分で使って周りに迷惑をかけないで。わかったわね?』

 

鞠莉はメモリを拾おうと踵を返す。しかし、足元に落ちていたバードメモリには破損が一切見られなかった。

 

『Why?メモリブレイクできていない…!?』

 

「そんな。どうなってるのさ、このメモリ…」

 

「うっ!?あっ、あぁぁぁぁっ!!」

 

すると、後ろから虎之助の叫び声が響き渡った。Wは彼に近づき腕を見ると、天と同じように、メモリを挿した場所に焼け爛れた痕が残っていた。

そのまま虎之助は意識を失い、駆けつけたダイヤ達は慌てて彼を介抱する。

 

「虎之助くん!起きて!起きてよ!!ねぇ…」

 

「ルビィ、救急車を!!」

 

「う、うん!!」

 

「虎之助くんが本来の持ち主じゃないからメモリブレイクできなかったのかな…」

 

果南は地面に落ちたバードメモリを見つめながらそう呟く。

彼女曰く、生体コネクタがガイアメモリを使用する為に必要なのは当然だが、それに加えて身体に挿入された物を同時に破壊するにもコネクタが必要になるとの事だ。

通常のガイアメモリは施術で専用のコネクタを打ち込んでユーザーを登録する為、元々複数での使用は不可能である。つまり必然的にコネクタを持つ者のみがそのメモリを使用できる事になるので、仮にドーパント化してもマキシマムドライブさえ発動すれば特別な事をしなくともコネクタごとメモリを破壊する事が可能だ。

しかし今回のバードメモリの場合、メモリそのものが複数人で使用できるように改造されている為、コネクタを介さずともドーパント化が可能になっているという点が異例である。それ故にコネクタの打ち込まれていない虎之助を倒してもメモリはブレイクできなかったのだ。

 

『とりあえず、これは回収しておきましょう。このまま放置しておく訳にはいかないわ』

 

鞠莉はメモリを拾おうとするが、割り込むように現れた英玲奈にメモリを拾われてしまう。

 

「製造ミスか?そもそも何故あんな子供がメモリを持っている?15歳未満の子供は販売対象にはなっていない筈だ」

 

『他人事みたいに言わないで!メモリを作っているのはあなた達でしょう?』

 

「私はメモリを改造するよう指示した覚えはない。そんな事よりも…」

 

\ナスカ!/

 

「その姿がファングジョーカーだろう?君と戦えるチャンスを無駄にする訳にはいかない、ここで倒させてもらう」

 

ナスカ・ドーパントに姿を変えた英玲奈はWにナスカブレードを振り下ろす。Wもそれに応えるようブレードを躱し、ファングの角を1回押してナスカへ切りかかるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

<おまけ>

 

 

聖良「理亞、誕生日…」

 

「「「おめでとう!!」」」

 

理亞「姉様…それにA-RISEの皆さんも、ありがとう…」

 

ツバサ「という事で、今回は本編では敵サイドを務めている私達、A-RISEとSaint Snowがおまけを担当させて頂きます!」

 

英玲奈「ちなみにpixiv投稿版はAqoursによるおまけコーナーとなっている。そちらもチェックしてくれ」

 

あんじゅ「それは前書きで作者が言ったと思うわよ?(笑)」

 

英玲奈「そうなのか?とりあえずそういう事だ。宜しく頼む」

 

ツバサ「って英玲奈、あなた凄くいつも通りに話してるけど次回がどんな話かわかってるの?」

 

聖良「そうですよ!次回で退場なんですよ?」

 

英玲奈「勿論承知している。それに、W本編で霧彦が退場した時点で私の退場も避けられないと思った。だから別に驚いてはいないよ」

 

理亞「メンタルが凄い…これがA-RISEなんだ…」

 

あんじゅ「理亞さん、そう言ってくれるのはありがたいけどこういった所を吸収してはダメよw」

 

英玲奈「まぁその話はさておき…今回と次回は私の最期の出番という事で手を抜かずに演じたつもりだ。どんな結末を迎えるのか、読者には最後まで注目してもらいたい」

 

ツバサ「そうそう、実はW本編から少しアレンジを加えているからちょっと結末が違うのよね。エピローグにはちょっとしたサンシャイン要素も入ってるし」

 

聖良「1章完結という事でラストシーンには…これは言ってはいけませんね」

 

あんじゅ「聖良さんは一体何を言いかけたのかしら?楽しみね♪」

 

英玲奈「それでは理亞、最後に締めを頼む」

 

理亞「私ですか?えっと…それじゃあ、次回もお楽しみに!」

 

A-RISE・Saint Snow「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」




<次回予告>

英玲奈「今まではそれを当たり前のようにしてきたが、間違っているのかもしれない…」

鞠莉「何をするべきかわからないなら、まずはあなたの罪を数えなさい」

クレイドール「自分の気持ちに素直になって、姉様?」

英玲奈「ありがとう、鞠莉…」

次回 Nは潮風と共に/さらば英玲奈よ


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#12 Nは潮風と共に/さらば英玲奈よ

英玲奈さん回後編にして1章ラスト。どのような結末になるのか、最後まで見届けて下さい。


耳をつんざくような音を立て、アームファングとナスカブレードが交ざり合う。Wが白い刃の生えた腕で切りかかると、ナスカはそれを避けブレードでWを切り裂く。

 

「やるねぇ…!ファングなら機動力と攻撃力もサイクロンジョーカーより優れてるし、それなりには有利だと思ったんだけどなぁ。2年前には別の幹部ドーパントを圧倒したくらいだし」

 

「私のナスカは適合率が高いほどレベルが上がっていくメモリなんだ。私の特訓の積み重ねが君と互角に渡り合える要因でもあるんだがな」

 

Wはナスカの懐に入り込み、格闘戦へと持ち込む。

 

\ショルダーファング!/

 

蹴りと拳を叩き込む隙にWは後ろへとショルダーファングを投げ、ナスカを後ろへ後退させる。ショルダーファングがこちらに戻って来るのを確認すると、自分に命中しないよう素早く横へと避けた。

ショルダーファングはナスカに命中し、ナスカはその場でよろよろとしながら立ち上がる。

 

「確かに、なかなかの攻撃力だ。ならば私も本気を出すとしよう!超高速!」

 

その言葉と同時に、ナスカの姿が見えなくなる。何処から攻撃が来るのかを見計らっているうちにも、Wは無慈悲に攻撃を受け続けてしまう。

 

「ぐっ!?何だ…?超高速の負担が身体にかかったのか!?」

 

突如としてナスカの身体に激痛が走り、超高速状態が解除される。

 

\アームファング!/

 

「今がチャンスだ…!はぁぁっ!!」

 

果南はファングの角を押し、腕からアームファングを出現させる。そのまま動けないナスカに腕を振り下ろそうとするのだが…

 

『果南!待って!!』

 

ナスカの首にアームファングが命中するギリギリのところで鞠莉が果南を止める。

 

「何故止めた…!?」

 

『さぁ…あれが目に映ってしまったから、と言えばいいのかしら』

 

鞠莉は掲示板に貼られたポスターを指差す。そこには『豊かな内浦市に!』の文字と共に、内浦のマスコットキャラであるセイウチのキャラクター・うちっちーが描かれていた。

 

『前にあなたと話した時、このTownを愛してるというのがよく伝わって来たの。私はその気持ちに嘘はないと思ってる』

 

「それがどうした。今は関係のない話だろう?」

 

『確かに関係ない。でも1つだけ聞かせて、あなたがガイアメモリを配って笑顔になった人はいる?』

 

「それは…」

 

『そうよね、答えられなくて当然。だっているはずがないもの。強いて言うならメモリを手に入れて目的を成した、遂行しようとした人間が笑顔になった。けどそれは一時的なもの。最終的に私が見たのは使った人間が崩壊していく様子、そして…かけがえのないものを失くした人々の悲しみや涙だったわ』

 

「知った話か!それは購入した者の自業自得だ!全て自分達が引き起こした事だ!私は何もしていないッ!!」

 

『ふざけないで!!それは他の人を棚に上げて自分の罪から逃げているのと同じよ!あなたが何故バイヤーになったのかはわからない。でもあなたがメモリを配った事実は変えられない。それで何もしていないだなんてよく言えたわね!あなたがメモリを配ってなければ…少しでも守られたものがあるかもしれないのよ…?』

 

鞠莉は過去を思い出し、言葉を詰まらせる。

友を助けようとメモリに手を出した一之瀬マリカ。友と共謀して祖母の喫茶店を再び栄えさせようとする為に他のカフェを破壊しようとし、最終的にはその友さえも殺害した永山みなみ。

クラスメイトを自らの手を汚さずに殺害しようとした支倉かさね。

ダイヤモンドの魅力に溺れ、私利私欲の為に数々の人を拉致した淡島のホテルの女。

演劇に真剣に向き合いたい気持ちからメモリに手を出し、死者や遺族の気持ちを弄んでしまった桜坂しずく。

再び売れたいという理由でメモリに手を出し、A-RISEやSaint Snowを解散へ追い込もうとしたBeautiful Freesiaの関係者…

ガイアメモリに手を出した者、そしてそれに関わった事で大切なものを失った、失いかけた人間を鞠莉達はこれまでに幾度となく見てきたのだ。

 

『あなたのやるべき事はガイアメモリのバイヤーじゃなかった。本当に街を愛してるのなら、悩んでいる人に声をかけてあげるのが正しい判断じゃなかったの?今のあなたがしている事は自分の愛してる場所を…自分にとって大切な場所を自分の手で汚してるのと同じじゃない』

 

「っ……」

 

『A-RISEだってそう。あなたはどうしてアイドルをやってるの?』

 

「それは…私の好きな事だからだ。ツバサとあんじゅと出会い、初めてやりたい事だと思えたから!」

 

『それだけ?私は違うと思うわ。少なからず、あなたには自分の音楽を聴いてくれる誰かを楽しませたい気持ちや笑顔にしたい気持ちがあったはずよ。それが伝わったからこそ、あなたが静岡を心から愛してると私は思った』

 

「………」

 

『でもね、本当にあなたのしている事が正しいのか一度考えてみて。自分や仲の良い人とだけ気持ちを共有してもわからない、だからこそもっと他の人について知り、考えるのよ。そして、みんながHappyになる為の方法がわかったらそれがSuccessするように努力する…まぁ、これは私の考えだから全員がそう思ってくれるかどうかはわからないけどね』

 

「君の考えにも一理ある…だが私は自分が何をしたらいいかわからない…!私がしてきた事は変えられない!!もう手遅れだ…!」

 

『英玲奈っ!!』

 

ナスカは翼を広げて飛び去ってしまった。彼女の姿は既に見えなくなっており、2人はその背中を追いかける事もできなかった。

 

「…私には、伝わったよ?」

 

『えっ?』

 

「鞠莉の気持ち。きっと英玲奈さんにも伝わっているんじゃないかな」

 

『ふふっ、そうね。だったらいいけど…』

 

鞠莉も果南の発言に思わず微笑む。同時に鞠莉は、英玲奈にかけた言葉はきっと伝わると信じるのであった。

 

 

 

その頃、Wとナスカの戦場から少し離れた場所では意識不明となった虎之助を三日、ダイヤ、ルビィの3人が見守っていた。

 

「虎之助くん起きて!死んじゃ嫌だよ…!」

 

「三日ちゃん、落ち着いて!もうすぐ救急車も来ると思うから…!」

 

「まだですの…?どうか間に合って下さい…」

 

ルビィはポロポロと涙を流す三日を落ち着かせようと肩をさすっていた。

ふとルビィが三日の左腕を見ると、そこに奇怪な模様があるのを発見する。三日の腕をよく目を凝らしながら見ると、そこにはドーパントのガイアメモリを挿入する為の生体コネクタが打ち込まれていた。

 

「お、お姉ちゃん!三日ちゃんの腕にコネクタが!!」

 

「えっ!?どういう事ですの!?」

 

「ダイヤ、ルビィ?どうかしたの?」

 

丁度同じタイミングで目を覚ました鞠莉は慌てた様子のダイヤとルビィに話を聞く。同時に果南も到着し、三日の腕に打ち込まれたコネクタを見て驚愕した。そう、三日こそがバードメモリの正式な使用者だったのだ。

 

 

 

「ごめんなさい…!もっと早く言ってたら…」

 

「いえ、気づけなかった私達も悪いわ。こちらこそごめんなさい」

 

「三日ちゃん、どうしてあなたの腕にコネクタが…?」

 

「ちょうど2週間前の事なんですけど…」

 

病院のフリースペース。三日は鞠莉達に自身がガイアメモリを手に入れた経緯を話していた。

三日の話曰く、彼女はサッカー部のマネージャーをしていたのだが、積極的に動けずに部員や顧問に迷惑をかけてしまっている自分にコンプレックスを抱いていた。そんな中、2週間前に謎の女からバードのメモリを渡され自分を変えたいと思っていた三日は言われるがままにメモリを受け取ってしまい、そのままコネクタを打ち込まれたのだという。

 

「メモリを手に入れてからは伸び悩んでいた成績も少し上がって、小テストでクラス10位以内に入ったり、苦手な運動も少し克服できるようになったんです。それからしばらくして、天くんと虎之助くん達1年生の部員の何人かに私がガイアメモリを持っている事を知られてしまって…遊び半分で天くんと虎之助くんが私のメモリを使い始めたんですけど、そこから2人があんな風に危ない事をするようになって、流されるままに私や他のマネージャーの子も家出してたんです」

 

「メモリは誰から渡されたの?」

 

「深く帽子を被ってたので顔はわかりませんでした。ただ、髪にウェーブがかかっている女の人だった事は覚えてます」

 

「メモリを渡したのは英玲奈ではなさそうね。メモリが改造された物だという事も知らなかったようだし」

 

「ごめんなさい…私の心が弱かったせいで天くんと虎之助くんがあんな事に…助からなかったらどうしよう…」

 

「大丈夫ですわ三日さん、ガイアメモリはもうあなたの手元にありません。だからあんな事はもう起きませんし、あとはお二人が回復するのを待ちましょう」

 

「じゃあ、帰ろっか。明日は海開きに向けての海水浴場の掃除もあって忙しいし、三日ちゃんも戻って来たから依頼はこれで解決だね」

 

「そういえば、明後日で海開きね。三日、明日から週末だしゆっくり休んで。あなたのParentsと六日も心配してたわ。小原家が責任を持って家まで送るから安心して」

 

鞠莉は車を呼び、三日を家へ送り届けた。果南とルビィ、ダイヤもそのまま帰宅する事になり、この日は解散となった。

 

 

 

一方ホテル『Saint A-RISE』の社長室では、英玲奈が回収したバードメモリをあんじゅへ届けていた。

 

「このガイアメモリなんだが、使い回しが可能になった欠陥品だった。おそらく違法改造か製造過程でのトラブルかもしれない」

 

「それはまずいわね。しかも第二次性徴期の子供が使えば精神汚染や過度の暴走が起こる可能性が高いもの。回収して正解ね」

 

「ガイアメモリは15歳未満の子供の使用を想定して造られていないからな。そういう訳だ、バードメモリの製造ラインに問題がなかったか調べておいてくれないか」

 

「えぇ、わかったわ。それよりも何だか疲れてる顔をしてるわね、大丈夫なの?」

 

「まだナスカの超高速に身体が慣れていないのかもしれない。ここの所訓練も根を詰め過ぎてしまったからな…」

 

「そう…とりあえずは休んだ方がいいわ。もうすぐライブも控えているし、体調は管理しておいて」

 

英玲奈は『あぁ』と短く返し、社長室から退出した。

どこかよろよろとした足取りの英玲奈を見たあんじゅは机に置かれたバードメモリを一瞥し、小さくため息をつくのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日の早朝。三津海水浴場では、海開きに向けた砂浜の清掃活動が浦の星女学院の全校生徒により行われていた。

 

「果南さん、そちらのゴミ袋にはまだ入りそうですか?」

 

「一応入るけどそろそろ枚数が足りなくなってきたかも。鞠莉、ゴミ袋取ってきてくれない?5枚ほどあれば充分だと思う」

 

「OK!ちょっと待ってて!」

 

鞠莉は十千万旅館へゴミ袋を貰いに行こうとしていた。そんな時、1人の女性が少し離れた場所から海を眺めているのが見えた。

 

「英玲奈じゃない。何しに来たの?」

 

「別に君と戦いに来た訳ではない。少し考え事をしていたんだ」

 

「昨日の事かしら?」

 

「私は自分が何をしたいのかわからなくなってしまったんだ。ガイアメモリの力でこの街を変える、なんて最初の頃は言っていたが、君達を含めた静岡県民はそれを望んでいないのではないかと思うようにもなってね」

 

「私の嫌いなものってわかる?私はこの街を…というより静岡を泣かせる悪が本当に嫌いなの。人はみんなHappyにならなければいけない義務があると思っているから尚更ね」

 

「なら、私は既にこの街を泣かせる悪だな。人を唆し、ガイアメモリを売る…今まではそれを当たり前のようにしてきたが、間違っているのかもしれない…」

 

「それに気づけただけでも素晴らしい事よ。私ね、昨日言った事が少なからずあなたには伝わってるんじゃないかって思っていたから」

 

「だが今さら気づいたところで失ったものは戻らない。前にバイオレンス・ドーパントが出現した事があっただろう?あれは私がメモリを売ってしまった事が原因なんだ。そのせいで理亞が友達と遊ぶ時間を奪ってしまったし、沼津市内にも被害が出た。それだけではなく春に起きた喫茶店の襲撃事件も…」

 

「それよ、英玲奈!」

 

「えっ?」

 

「何をするべきかわからないなら、まずはあなたの罪を数えなさい。そのようにしてあなたが奪ってしまったものを少しずつ思い出せばいいのよ。それを糧にして、人間は成長できる。次は間違えてしまわないように、1つ1つ心に刻み込むのよ。間違えたのなら何度だってやり直せばいい。生きている限り、未来はずっと続いているんだから!」

 

「私の罪を…数える…」

 

「剛が…私の亡きTeacherが言ってたの。『罪と向き合った瞬間から新たな未来は始まっている』って」

 

その言葉は、鞠莉が探偵として駆け出しの頃、剛が『Crimeを犯した人は絶対に許されてはいけない』と発言した鞠莉にかけた言葉であった。

どんなに償いきれない事をしたとしても、生きている限り新たな未来は開く事ができる。やり直せるチャンスがある。そのような意味の込められた、鞠莉にとっての大切な言葉だ。

 

「あなたにはこの場所が好きだという気持ちがあるんだからきっと大丈夫。壊してしまった、汚してしまった分だけ今度はあなたが大切なものを守れるようになればいい。あなたは私と立場が違うけど、罪と向き合って誰かの笑顔を守りたいと願う事ができれば、誰だって正義の味方…仮面ライダーになれるわ!」

 

「仮面ライダー…か。君ってハーフボイルドだな。私のイメージする探偵とは違うけれど、嫌いではないよ」

 

「Oh,また言われたわ…私のどこがハーフボイルドなのかしら?でもそう言ってくれるのは嬉しいわ!」

 

「ふっ、そうか」

 

「じゃあ、私はそろそろ清掃活動に戻るわね!『理事長がサボるなんて生徒の模範として正しくありませんわ!』って硬度10に怒られるから♪」

 

英玲奈は硬度10という謎の単語に首を傾げたが、鞠莉が走り去ってしまったのでそれが何なのかは聞けなかった。砂浜を見ると、鞠莉が千歌と梨子に話しかけられており、楽しそうに笑顔を浮かべていた。

 

「私の守るべきものは、あのような眩しい笑顔なのかもな…」

 

英玲奈は鞠莉達を見つめながら僅かな微笑を浮かべるのだった。

 

 

 

「みんなお疲れ様~!お茶淹れました~」

 

「ありがとう、ルビィ。それにしても千歌さんの思いつきにはビックリしますわね」

 

「本当だよね。海開きでミニライブなんて聞いた事ないよ」

 

明日の早朝の海開きの時間にAqoursが三津海水浴場でライブをし、同時にスカイランタンを空へ飛ばすという企画を千歌が発案したらしく、夜にはステージ作りの準備が急遽入る事になった。ちなみにこのライブは、内浦の住民への感謝を伝える事とMVの撮影が目的となっているらしい。

 

「でもAqoursのLiveが見られるなんて凄く嬉しいわ!花陽も誘っておかないと♪」

 

「そうだね!天気も良いみたいだし、楽しみだなぁ…」

 

遠足前のようなワクワクとした雰囲気に包まれた部室。そんな中、鞠莉のスタッグフォンがけたたましい音を鳴らしながら着信を告げる。六日からだ。

 

「もしもし?ゴメンね六日!Reportは海開きが忙しくてまだ書けていないの!もう少しだけ待ってもらえる?」

 

『それどころじゃないのよ!三日のヤツ、また家出しちゃってさ…』

 

「えっ?何があったの?」

 

『しかもなんか様子が普通じゃなかったの!目の焦点が明らかに合ってなくて遠くを見てるみたいで…運動もそんな得意じゃない方だったのに慌てて止めようとしたパパを軽々と蹴り飛ばして、その時にパパも軽く怪我しちゃったの…』

 

鞠莉はまずい状況である事を察した。完全に身体が成長していない人間がガイアメモリを使う事は危険な事であり、メモリの力により急激な運動能力の上昇や理性のコントロールが難しくなるというリスクを伴っていた。

 

『今アタシも三日を探してる!鞠莉ちゃんももし良ければ手伝ってくれない?』

 

「Of Course!!見つけたら連絡するわ!」

 

「何かあったの?もしかして三日ちゃん?」

 

「えぇ、メモリの副作用で暴走症状が出たみたい!探しに行って来るわ!」

 

鞠莉はハードボイルダーを走らせ、三日の捜索に向かった。

 

 

 

一方、綺羅家の屋敷へ戻った英玲奈は自身のガイアメモリの販売記録を見ながら、先程の鞠莉の言葉について考えていた。

 

「私の罪…最早数え切れない程だな。こんな私でも正義の味方とやらになれるんだろうか…」

 

英玲奈は外の空気を吸おうと部屋から出る。すると、自分の見知らぬ扉から出て来たあんじゅが帽子を深く被りながら何処かへ去って行くのが見えた。あんじゅが出て来たのはツバサの部屋の横にあるグレーの重たそうな扉であり、英玲奈は未だにその扉の先に入った事がなかった。

英玲奈はそっと扉を開き、中へと足を進めた。扉の奥には長い螺旋階段があり、地下へと続いているようだった。

階段を下り終えると、巨大なクリーム色の扉が現れた。それを開け中へ進んで行くと、広い洞窟のような場所に辿り着いた。洞窟の中央には1箇所だけ強い光の出ている穴がある。

 

「あら、英玲奈もここに来たのね」

 

英玲奈が穴の中を覗き込むと、いつの間にかツバサが横に立っていた。

 

「ここは地球の記憶と繋がる場所なの。考古学の博士だった父がこの場所を見つけ、研究をする為にこの真上に屋敷を立てたの」

 

「地球の記憶…ガイアメモリのパワーはここから来ているのか」

 

「えぇ、そうよ。ちなみに…私が今興味を持っているのがバードのメモリ。有益なデータを取得できそうなのよね」

 

「だが、あのバードメモリは欠陥品だった。既に私が回収しているから、もう使われる事はない」

 

「あぁ、そういえば英玲奈には言っていなかったわね。あのメモリは欠陥品ではないわ。私が直々に改造したの」

 

「なっ…!?何故そんな事を…?」

 

「メモリのリミッターを解除する事により、複数人での使い回しが可能となる。その上身体の成熟が不完全な第二次性徴期の子供に使用させる事で、メモリはその生命力を奪い取って急速に進化し、上手くいけば友人や知人もそれを使用してくれる…だから通常の倍以上のデータを取得する事ができるようになるのよ」

 

「その後は…使用した人間が死ぬという事か?」

 

「メモリの力に耐え切れず、いずれ身体も限界を迎えるでしょうね。まぁ無理もないわ、身体が完全となった人間が使うのとは話が違うのだから。けど無駄な死にはならないわ。新世界を創る為に必要なものが手に入る訳だし、より強力なガイアメモリを製造する事も可能…彼らは私達UTXに大いに貢献する事になるのよ」

 

「それで…世界を変えられると思っているのか…?」

 

「えっ?」

 

「君はこの街を…静岡を壊そうとしているだけだ!大切な命や時間、場所は1度失ってしまったら元には戻らないんだぞ!?」

 

「それはメモリを手にした者、そのきっかけを作った愚かな人間によるものよ。私達はメモリを売っているだけじゃない。今更何を言ってるの?」

 

「私達がそれを造り、売る事が悲しみの根源となっているというのに気づかないのか!?君にも大切なものがあるんじゃないのか!?もしガイアメモリに君の大切なものを奪われたらどうする!?」

 

「大切なものなんてある訳ないでしょう?この世には価値の無いものばかり。だから私は地球の記憶を秘めた神の子箱…ガイアメモリを使ってこの世界を変えようとしているのよ」

 

「君とは分かり合えないみたいだな…なら君と戦う事になっても、私は君を止める!!」

 

\ナスカ!/

 

英玲奈はガイアドライバーにナスカメモリを挿し、ナスカ・ドーパントに姿を変える。ナスカは一瞬躊躇うもそれを振り払い、ツバサの首にナスカブレードを向けた。

 

 

 

「メモリは何処…?あれがないと私は…」

 

「これを探しているのかしら?」

 

バードメモリを求め、彷徨う三日。彼女はメモリの力に完全に支配されていた。そんな彼女の元へ、帽子を深く被った女が現れた。

 

「早く!私にそれを返して下さい!!」

 

「いい子ね。少し愚かでもあるけれど…」

 

\バード!/

 

帽子を被った女…あんじゅは三日の腕のコネクタにメモリを挿した。三日はバード・ドーパントになり、高笑いをしながら飛び去って行った。

 

 

 

「あら、どういうつもりかしら?仲間に剣を向けるなんて」

 

ツバサはナスカブレードを前にしても、余裕の表情を崩していなかった。

ナスカは声を荒げながらツバサを問い詰める。

 

「バードメモリは何処にある!?」

 

「あんじゅが既に持ち主に返した頃でしょうね。いくらコネクタを持つ人間だとしても所詮、メモリの力に耐え切れる事はできない。持ち主は死ぬわ」

 

「どうすれば彼女を助けられる!?答えろ!!」

 

「身体にダメージを与えないよう、体内のメモリのみを正確に破壊するしか方法はないわ。でもそれを聞いてどうするつもりなの?メモリのみを破壊するなんて不可能よ?」

 

「決まっている!私が…ッ!?がっ…」

 

ナスカの身体に謎の激痛が走る。その痛みは昨日、Wとの戦闘で感じたそれと同じだった。しかし、今起きている激痛はその時と比になるような痛みではなかった。

 

「どうしたの英玲奈?何だか体調が優れないみたいね」

 

「まただ…何だ?これは…うっ!」

 

「ナスカメモリの急激なレベルアップに身体が追いついていないんじゃないかしら?どうやらあなたは超高速の力、レベル2が限界だったようね」

 

「何っ…?」

 

「あなたはもうすぐ死ぬ。ナスカを使いこなせない人間にもう用はないわね…すぐ楽にしてあげるわ」

 

\テラー!/

 

ツバサは黒いオーラを纏い、テラー・ドーパントに姿を変えた。周囲には悪意に満ちた波動が広がり、ナスカに少しずつダメージを与えていく。

 

「ありがとう、今まで私に協力してくれて。仲間がいなくなるのは残念だわ…」

 

「くっ…超高速っ…!」

 

ナスカは力を振り絞り、超高速でその場から逃げ出した。そこへ聖良が扉の向こうから現れ、目の前で起きた事に驚きを隠せずにいた。

 

「これ以上生きていても無意味だというのに…」

 

「ツバサさん、一体何が…」

 

「聖良さん、英玲奈を始末してきなさい」

 

「えっ…?」

 

「彼女は私と志が違ったみたい。さぁ、早く」

 

「ですが…」

 

「早くしなさい。あなたが何かをしたところで私の考えは変わらないわ」

 

「!!…わかりました」

 

英玲奈は自分にアイドルとしての心構えを教えたり、迷っている時には助言してくれた。フェイク映像で炎上してしまった時、理亞がバイオレンスに襲われた時も、彼女は自分がどんな立場に立っていても助けてくれた。そんな大切な人を裏切れる訳がない。そうツバサに言おうとしたが、彼女の威圧に負けた聖良は、やむを得ず従うしかなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

三日を探す鞠莉。沼津市内をくまなく探したが、彼女は見つからなかった。鞠莉が焦燥に駆られていると、何処からともなく爆発音が聞こえ、真上を鳥のような影が飛び去ったのが見えた。

その後を追うと、沼津港の立体駐車場でバード・ドーパントが火球を飛ばしながら人々を襲っていた。

 

「遅かったようね…」

 

鞠莉は周囲の人が遠ざかったのを確認し、ダブルドライバーを装着する。浦女にいた果南の腰にもドライバーが出現し、果南は鞠莉がバードを発見した事を察した。

 

『鞠莉、三日ちゃんが見つかったんだね?』

 

「えぇ、早く止めないと!」

 

\ジョーカー!/

 

\サイクロン!/

 

「「変身!!」」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

『空の敵にはこれだね』

 

果南はスタッグフォンを操作し、リボルギャリーを呼び出す。リボルギャリーが開くと、Wはハードボイルダーのユニットをタービュラーユニットに付け替え、ハードタービュラーへと変化させた。

 

『メモリはこれにして…』

 

\トリガー!/

\サイクロン!トリガー!/

 

続いて果南はボディサイドのメモリをトリガーに変えた。

 

「あはははは!!私と遊んでくれるの?鞠莉さん!!凄く嬉しい!!」

 

「Characterもおかしくなってるわ…メモリの副作用によるものね」

 

『鞠莉、よく見て。さっきと姿が違う』

 

三日の変身したバードは天と虎之助のものと違い、頭部が金属質になっていた。更に腕の鉤爪も巨大化しており、三日とバードメモリの適合率が高い事を示していた。

バードは挑発するように飛び去り、Wもその後を追いながらトリガーマグナムで銃撃する。バードのスピードの速さと風圧もあってか、その攻撃はなかなか当たらない。

 

「当たらないわね…ルナに変えましょう!」

 

『ダメ!それはバードメモリの支配率が高過ぎるからできない!下手に攻撃したら三日ちゃんも死ぬかもしれない!』

 

「そんな!何か方法はないの!?」

 

『わからない…一旦退いて地球の本棚で検索するしかないよ』

 

「でもそうしている内に被害が大きくなってしまうわ!三日の身体も持つかどうか…」

 

「あれ~?もう終わり?じゃあ今度は私が行くよ~!!」

 

バードは鉤爪でWを切り裂く。為す術もない2人はその攻撃を受け続けるだけだった。

 

 

 

一方、淡島にある海軍の桟橋。テラーの攻撃から辛うじて逃げられたナスカは、今度は聖良の変身したスミロドン・ドーパントから攻撃を受けていた。

 

「やめてくれ聖良!君とは戦いたくない!」

 

「それは私もです…でも命令だから仕方ありません!!」

 

反撃できないナスカは、スミロドンを説得するしか方法がなかったが、スミロドンは聞く耳を持たない。

先程テラーから受けたダメージも残っており、猛攻を受け続けたナスカの変身も解かれてしまう。スミロドンはそこで一瞬腕を止めるが、その迷いも捨てて再び英玲奈に向かって行った。

 

「姉様やめて!」

 

「理亞…!これは私のやるべき事なの!あなたには関係ない!」

 

理亞が異変に気づき2人の元へ駆けつけ、スミロドンに攻撃を止めるよう懇願する。しかしツバサへの恐怖心を抑えられないスミロドンに、言葉は届かない。

 

「どうしてもやめないなら…使うしか!」

 

\クレイドール!/

 

理亞はクレイドール・ドーパントに姿を変え、スミロドンに向けて光弾を放った。クレイドールの光弾はスミロドンに命中し、そこでようやく聖良も変身を解く。

 

「ごめんなさい、姉様。私には姉様がやりたくてやってるように見えなかったから…命令とかそんなのどうだっていい。自分がやりたくないと思うなら無理にやらなくていい。自分の気持ちに素直になって、姉様?」

 

「理亞…私は…」

 

いつの間に妹はこんなに成長していたのだろう。そう思った聖良は自分が情けなくなり、何も言わずにその場から立ち去った。

 

「…英玲奈さん、いつもの冷静さが見る影もないね」

 

「助かった、理亞。君には嫌われていると思ったから意外だったよ」

 

「正直に言えば嫌いだったかな。私より歳上の癖に仮面ライダーには負けてばかりだったし。でも…今は不思議とそんな事どうでもいいと思える。それより何かあったの?」

 

「まぁ、目指す方向の違いでツバサと色々あってな…詳しくは知らない方がいい」

 

「そっか…じゃあ深く詮索はしない」

 

「そうしてもらえるとありがたいよ。…理亞、君に聞きたい事があるんだ」

 

「何?」

 

「これまで数え切れない程の大切なものを踏み躙ってきた私に静岡を愛する資格があるんだろうか?静岡を守るなんて虫のいい事を言ってもいいんだろうか?君はどう思う?」

 

「私はいいと思う。やりたいようにやればいいんじゃない?一度でもそうしたいと願ったのなら、それが本当の気持ちだと思う」

 

元の姿に戻った理亞は迷いなくそう答えた。彼女の心に生えていた棘は、もう存在していなかった。

 

「英玲奈さんのしようとしてる事が正しいかどうかはわからない。でも間違えたと思うならいつやり直したって、やりたいと思った事はいつから始めたって構わないと思う。それは他でもない、あなただけが決めた道なんだから」

 

「ふっ、そうか…」

 

「ちょっと、その笑いは何?私をバカにしてるの?」

 

「そんな事はない。ただ、私が最近知り合った子にも同じような事を言われたと思ってな」

 

「そうなんだ。私も自分らしくいる事はこの前出掛けた友達から教えてもらった事でさ、もしかしたら私の友達と英玲奈さんの知り合った人は同じ考えの持ち主なのかもしれないね」

 

2人は軽く笑い合った。英玲奈はそこで自分のやるべき事を思い出し、立ち上がった。

 

「何処行くの?」

 

「街を守る為にやらなければならない事があるんだ」

 

「そっか。行くんだね…」

 

「あぁ、もしかしたら君と会うのはこれが最後になるかもしれない。じゃあ…元気でな、理亞。Saint Snowの活動、頑張ってくれ」

 

英玲奈は振り返らず、そこから去って行った。理亞はその背中を見つめ、彼女と分かり合えた嬉しさと別れの寂しさを感じるのであった。

 

 

 

「あはははっ!!鞠莉さぁん、私ばっかり一方的にやっててつまらないよ~、もっと本気出してよ~!!」

 

Wとバードの戦闘は依然としてバードが優勢だった。迂闊にダメージを与えられない。しかし三日が力尽きるのを待つ訳にもいかない。どうすればいいのか、答えは未だ出ない。いや、考える隙さえそこにはなかった。

 

「キャアアアッ!!」

 

Wはハードタービュラーから三津海水浴場の砂浜へ落とされる。気づけばバードは攻撃態勢に入っており、こちらへ火球を放っていた。

もう三日は助けられないのか…そう諦めかけた時、何処からともなく青い光弾が火球を相殺しWの危機を救った。

 

「諦めるな!大切なものを守る事、君が私に気づかせてくれたじゃないか!」

 

光弾の放たれた先にはナスカ・ドーパントが立っていた。ナスカの身体はメモリの強大なパワーに蝕まれている上にテラーとスミロドンから受けたダメージも残っている為、満身創痍であった。しかし、自分にとって…皆にとって大切な場所を守りたい。その使命感だけがひたすらに彼女を突き動かしていた。

 

「体内のメモリを正確に撃ち抜く。それが彼女を救う唯一の方法だ」

 

「三日を助けられるの?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

『けどそれにはメモリの位置を特定する必要がある。どうやるの?』

 

「私のドライバーとバードメモリを共鳴させる。そこを正確に撃つんだ!」

 

「英玲奈…!ありがとう!」

 

「君に言われた通り、私は自分の罪を数えた。私は…もう間違えない!」

 

ナスカは翼を広げ、バードへと向かって行く。バードは火球を放つが、ナスカはブレードでそれを全て切り裂いた直後に超高速を発動させ、バードの後ろに回り込んだ。バードを捕獲したナスカはドライバーに意識を集中させる。すると、ドライバーと共振したバードの胸が光り、バードメモリが浮かび上がった。

 

「これがメモリの位置だ!撃て!!」

 

「OK!!」

 

『1発で決めてみせるよ』

 

果南はバットショットとトリガーメモリをトリガーマグナムにセットし、バードメモリに照準を合わせる。

 

\バット!/

\トリガー!マキシマムドライブ!/

 

バットショットのスコープがバードメモリを捕捉したのを確認し、Wはトリガーを引く。

 

「「トリガーバットシューティング!!」」

 

「ああああああっ!!」

 

バードは悲鳴を上げながら爆発を起こす。爆煙が晴れると、そこからナスカと彼女に介抱された三日が現れた。同時にバードメモリが三日の腕から排出され、パリンと音を立てながら砕け散った。

 

「やるじゃないか」

 

「私達だけじゃ無理だったわ。ありがとう♪」

 

「…あれ?私、どうしてここに?」

 

「彼女も無事みたいだな」

 

「三日…良かったわ。彼女があなたを助ける為に私を手伝ってくれたの」

 

「…怪人、ですよね?その人」

 

『見た目はそうかもしれないけど、彼女は街を守る正義の味方だよ』

 

「正義の味方…ありがとう、ございます」

 

三日はナスカを見ながら笑顔で感謝の気持ちを口にする。

ナスカもそれに応えようと何かを言おうとするが、突如彼女に赤い光弾が命中し遮られてしまった。

 

「見つけたわ、英玲奈」

 

「あんじゅ…!」

 

三日を助けたのも束の間、今度はタブー・ドーパントが現れた。タブーは手から光弾を作り出し、W達へ飛ばしてくる。

 

「私達の目的を邪魔して…あなたはもう必要ない!ここで死になさい!」

 

「英玲奈、三日を連れて逃げて!私達が戦うわ!」

 

「あぁ、すまない」

 

「待ちなさい!」

 

\ヒート!トリガー!/

 

「Stop!!あなたの相手は私達と言ったはずよ!」

 

「邪魔よ!ハッ!!」

 

『今度こそ決着をつけようか。熱いのをお見舞いしてあげるよ』

 

\トリガー!マキシマムドライブ!/

 

「「トリガーエクスプロージョン!!」」

 

トリガーマグナムからは強力な火炎が放射された。タブーは右手にエネルギーを溜め、光弾で相殺を試みる。しかしWはバードとの戦闘で体力を使い果たしており、変身が解かれてしまう。その為トリガーエクスプロージョンは不完全な状態で途切れてしまい、タブーのメモリブレイクは失敗に終わった。

 

「まずはあなたから…これで終わりよ、仮面ライダーW…!」

 

タブーは右手に溜めた光弾を鞠莉に向けて放とうとする。

 

「っ!このままでは危ない…君は先に逃げるんだ、超高速!!」

 

ナスカは三日の背中を押して逃がした後、超高速を使いながらタブーを切り裂いた。光弾は鞠莉に放たれる事はなく、ナスカによって無事に止められた。

しかし。身体に負担がかかった状態で超高速を多用した彼女の体力は、限界を迎えていた。激しい痛みと共に身体に電撃が走り、ナスカは英玲奈の姿に戻ってしまった。

 

「無事だったか…がはっ!!はぁ…はぁ…」

 

「英玲奈!しっかりして!」

 

「よくもやったわね…!でもこれで終わりよ!」

 

タブーはまだ変身を解かれておらず、彼女は力を振り絞り英玲奈に向けて光弾を放った。

光弾を浴びた英玲奈は…無惨にも数メートル先に吹き飛んだ。

 

「英玲奈ッ!!」

 

ガイアドライバーの制限装置が働いた事により元の姿に戻ったあんじゅは致命傷を負った英玲奈の元へと歩いて行き、懐からナスカメモリを奪い取った。

 

「これは返して貰うわ。UTXの…いえ、私の目的の為に必要なの…さようなら、英玲奈」

 

「優木あんじゅ…あなたも組織の幹部だったのね…!!」

 

「えぇ。次こそは容赦しないわよ、W」

 

あんじゅは踵を返し、海水浴場から去って行った。鞠莉は英玲奈の元へと走り、その身体をゆっくりと抱き起こした。

 

「やっと…やっと仲間になれたと思ったのに…!」

 

「ははっ…まったくだ、私も残念だよ…」

 

「私はあなたと、やりたい事がたくさんあった!!授業を一緒に受けたり、ランチを食べたり、探偵部で果南とダイヤ、ルビィと依頼を解決したり…花陽と海未と善子と花丸、千歌っちと梨子を誘ってあなたの歓迎のパーティがしたかった!!明日の朝、ここでAqoursのライブも一緒に見たかった!!これからだったのに、全部やってないじゃない…!だから死なないで!!死ぬなら私と…私達と最高の思い出を作ってからにしてよ!!」

 

「楽しそうだな…だが、遅かれ早かれいずれはこうなっていたさ…そういえば、君との約束もまだ守ってなかったな…受け取ってくれ…」

 

英玲奈はポケットから何かを取り出し、鞠莉の手に握らせる。鞠莉が手の中の物を見ると、そこには彼女のデザインしたキャラである初代うちっちーと、2代目うちっちーのストラップがあった。

 

「これが前に言っていた非売品のストラップだ。私の分まで大切に持っていてくれ…それと、UTXには気をつけるんだ…あの組織には…君達がまだ知らないメモリや底知れぬ野望が渦巻いている…この街を、頼んだぞ…」

 

「英玲奈っ…」

 

「最期に街を守る正義の味方になれて…君みたいな素敵な友に出会えて、私は幸せだ…ありがとう、鞠莉…」

 

鞠莉の頬には大粒の涙が流れる。英玲奈は笑顔を見せ、最期にこう告げた。

 

「内浦の海に…静岡に吹く風は、本当にいい潮風だな…」

 

英玲奈は鞠莉の膝の上で息を引き取った。そのまま彼女の身体は青い粒子となり、潮風に吹かれながらゆっくりと消滅していった。

少し前に膝の上にあった英玲奈の体温は、もう何処にも残っていない。鞠莉はストラップを握りしめ、声を上げて泣いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Report(報告書)

 

The place where Mika ran is protected safely, Takato and Toranosuke regained consciousness, too.

The request was able to be settled safely, I was not able to save the life of the friend. I have assumed a crime again. However, as for the time when I am depressed, there is not it. I seem to be able to protect an important thing this time, We must follow this town which she loved. We want to fight against evil to let this town cry from now on not to waste her thought.

(三日は走っていたところを無事に保護され、天と虎之助も意識を取り戻した。

依頼は無事に解決できたのだが、友の命を救う事ができなかった。私はまた、罪を背負ってしまったのだ。しかし、落ち込んでいる暇はない。彼女の愛したこの街を私達が守らなければならないのだ。彼女の想いを無駄にしないよう、私達はこれからもこの街を泣かせる悪と戦っていきたい)

 

鞠莉は報告書を書き終え、机の中央に置かれた新聞を自分の方へ引き寄せる。そこには英玲奈が死亡した事、ツバサが彼女の死に伴いA-RISE解散を発表した事が特集されていた。

その記事を読んでいると部室の扉が開き、果南達が中へ入って来る。

 

「鞠莉ちゃん、ステージの設営終わったよ」

 

「そう、お疲れ様」

 

「ところで鞠莉さん、ずっと気になっていたのですが、何故いつも報告書を書いているのですか?依頼人に渡す物は私が作っているので書かなくてもいいのでは?」

 

「そういう訳にはいかないわ。依頼を通して気づく事があるから、私はそれを忘れないよう自分のReportとして残しているの。それに…」

 

そこで鞠莉は鞄に付けられた2匹のうちっちーのストラップを見る。

 

「英玲奈との約束、守らなくちゃいけないから…」

 

「確かに。凄く大切なもの、託されちゃったからね」

 

「そうなんですね…すみません、事情を知らないとはいえ失礼な事を言ってしまいましたわ」

 

「いいのよ。それより、早く行きましょ?」

 

鞠莉達は三津海水浴場へと向かう。既に海岸には人が集まっており、今まさにライブが始まろうとしていた。

 

「皆さん、朝早くから来てくれてありがとうございます!私達は、浦の星女学院スクールアイドル・Aqoursです!」

 

「1曲だけですが、精一杯歌うので最後まで見て下さい!」

 

そこで観客から小さく歓声と拍手が上がった。歓声が収まったのを確認し、千歌は『それから…』と言葉を発しながらランタンの説明をする。

 

「今回はサビ前で皆さんの持っているランタンを空へ飛ばすという企画をやる事にしました!皆さん、是非協力お願いします♪合図はむっちゃんがやってくれるので見逃さないで下さいね?」

 

そこでステージの右下にいる少女がプラカードを上げ、『お願いしまーす!』と元気そうに告げた。

 

「では、早速曲に移りたいと思います。千歌ちゃん」

 

「街の皆さんへの感謝を込めて歌います!聴いて下さい、『夢で夜空を照らしたい』」

 

その言葉と同時に、煌びやかなストリングスの音色がスピーカーから流れる。ギターがメロディを奏で終わるのと同時に梨子と千歌が交互に歌う。

 

「それは階段 それとも扉 夢のかたちは色々あるんだろう」

 

「そして繋がれ」

 

「みんな繋がれ 夜空を照らしに行こう」

 

千歌の歌に合わせ、むつがプラカードを上げて合図をする。鞠莉達と観客はランタンから手を話し、それを空へと解き放った。

 

「それは階段なのか」

 

「それとも扉か」

 

「「確かめたい夢に出会えて」」

 

「よかったねって呟いたよ」

 

曲が終盤へと差し掛かったその時、後ろから静かに潮風が吹き抜けた。その風に乗り、ランタンは空の彼方へと消えていく。

まるで英玲奈が街の平和を願っているみたいだ…鞠莉は風を感じながらそう思った。

 

(英玲奈、私達はあなたの分までこの静岡の平和な風景を守ってみせる。だからずっと見守っていてね…)

 

鞠莉はスタッグフォンを取り出し、空を撮影する。写真の中には、夜明けの空を進む無数のランタンの光が収まっていた。

 

「見て、カブトさん。凄くキレイな景色だよ…」

 

「あ、そのカブトムシ連れて来たんだ」

 

「というか…それメモリガジェットではないのですか?」

 

「えっ?」

 

ルビィが扉を開けてカブトムシの正体を確認しようとすると、カブトムシ型のガジェットはケージの中から飛び去ってしまった。

 

 

 

カブトムシのガジェット…ビートルフォンは沼津警察署の前へと到着し、ある人物の手に収まる。

 

「…嫌な風だなぁ。いつからこうなっちゃったんだろ、この街って」

 

グレーの髪の少女はそう呟き、ビートルフォンからギジメモリを抜き携帯電話へと戻す。

 

「でも、私がこの風を元に戻すんだ…!私だって『仮面ライダー』なんだから!」

 

仮面ライダーと名乗った少女はビートルフォンをポケットにしまい、代わりに赤い色のガイアメモリを取り出す。そのガイアメモリは、UTXの作ったドーパント用のガイアメモリではなく、鞠莉達の持つ物と同じクリスタルの形をしたガイアメモリであった。少女はガイアメモリを空高く投げ、宙を舞ったそれが再び手に収まったのと同時に起動スイッチを押した。

 

\アクセル!/

 

ガイアメモリには、タコメーターで描かれたAのイニシャルが刻まれていた。




<次回予告>

鞠莉「沼津警察署…渡辺曜、でいいのかしら?」

???「第一発見者は隣に住む50代の夫婦の方々です」

曜「あなたなんだね、ディライト!!」

果南『厄介だなぁ。ヒートまで凍結させるなんて』

曜「この時を待ってたよ…この力を使って、あなたを倒す時を!」

\アクセル!/

次回 走り続けるY/アクセル爆誕


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第2章
#13 走り続けるY/アクセル爆誕


さぁ、お待たせしました!いよいよ2号ライダーのアクセルが登場します!変身者は全速前進ヨーソローでお馴染み、渡辺曜ちゃんです!!新キャラも続々登場します。


7月に入り、梅雨も明けて夏らしい気温となった内浦。鞠莉はその日も出張を終え、浦の星女学院へと戻って来た。駐輪場にハードボイルダーを停めると、横にはダイヤのバイクであるスカルボイルダー…の横に青い炎の描かれた赤のバイクが停められているのに気づく。

 

「Cool&Wildなバイクね。生徒の物かしら?でもこの時間帯はどこのClubも終わっている筈だし…」

 

鞠莉はバイクの持ち主を探そうと、校内へ足を踏み入れる。

理事長室の近くを通りかかると、ドアの前でスポーティーな服を着た、グレーのボブカットの少女が扉の前に立っているのを見つけた。

 

「Who?あなた、この学校の生徒じゃないわよね?」

 

「あ、もしかして理事長の小原さん?ゴメンね、勝手に入っちゃって!事務室誰もいなかったからさ…」

 

そう苦笑いをしながら頭を搔く少女。そこで少女は何かを思い出したかのように『あっ』と短く声を漏らした。

 

「そうそう!ねぇ、黒澤探偵部の部室って何処にあるの?依頼に来たんだけど…」

 

少女は依頼人だった。鞠莉は少女を連れて体育館へ向かい、そこにある探偵部の部室へと入室した。部室では、ダイヤとルビィがラジオでニュースを聞いている。

 

<被害者は意識を失った状態で発見されたものの、命に別状はないとの事です。現在、県内では同一犯の犯行と思われる通り魔殺人が発生しており、警察は関連を調査しています>

 

「通り魔かぁ…気をつけないとね、お姉ちゃん」

 

「ここの所物騒ですもんね…あら、おかえりなさい鞠莉さん。その方は?」

 

「依頼人よ。えっと…そういえばあなたの名前って何だったかしら?」

 

「おっと失礼、名前を教えてなかったね。私、こういう者です」

 

少女はポケットから何かを取り出す。その手の中にある物を見て、一同は驚愕した。

 

「それは…警察手帳!?」

 

「る、ルビィ達、とうとう訴えられちゃったんじゃ!?」

 

「あ、別に逮捕しに来た訳じゃないよ。依頼で来たのは本当の話だから」

 

「沼津警察署…渡辺曜、でいいのかしら?」

 

「その通りであります!敬礼っ!!」

 

警察の少女…渡辺曜は人懐っこい笑みを見せるのだった。

 

「それで、曜はどうして依頼に来たの?探偵よりもPoliceの方が地位的には優れてるじゃない」

 

「メモリ絡みと思われる事件が起きたの。海未ちゃんからそういうのに詳しい知り合いがいるって聞いたから探偵部に来たんだ。それで早速本題に入るんだけど、まずはこれを見て欲しいんだ」

 

曜は1枚の写真を取り出す。写真にはアパートの一室が収められていたのだが、その中は凍りついたかのように真っ白に染まっていた。

 

「これ、ありえないでしょ?この部屋を丸ごと凍らせちゃうんだもん」

 

「はい…確かにここまで凍るのは不可解ですわね」

 

「曜が言いたいのはこれがドーパントの能力によるもの、という事かしら?」

 

「そう。推測だけどメモリ名も絞り込めたんだ。おそらくだけどこれは『Wのメモリ』のドーパントの仕業だと思うの」

 

「どうしてWのメモリだと思ったんですか?」

 

「昔、色々あってね…」

 

曜は少し悲しげに目を伏せる。聞いてはいけない事を聞いてしまった、そう思ったルビィは慌てて『ごめんなさい』と謝罪の言葉を口にした。曜は首を横に振り、再び話し始める。

 

「けどさ、あくまでもそれはまだ推測の範囲なんだよね。だからそれを調べて解決に繋がるよう協力して欲しいんだ、『地球の本棚』の力を使ってね」

 

「え?ちょっと、今なんて言ったの?」

 

「地球の本棚でしょ?もしかして間違ってる?」

 

何故曜が地球の本棚の存在を知っているのか。鞠莉の頭は疑問により埋め尽くされたのだった。

 

「いえ、地球の本棚で合っているのですが…そうなるとキーワードが足りませんわ。まずは調査に向かいましょう」

 

鞠莉、ダイヤとルビィ、曜はバイクを走らせ事件のあった現場へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「英玲奈亡き今、あなた達には正式にUTXの中核に入ってもらうわ。Saint Snowの活動も続けて構わないけど、どちらも疎かにしないようにね」

 

聖良と理亞はツバサに連れられ、綺羅家の地下にある洞窟へと訪れていた。

 

「これは地球の記憶が秘められた穴よ。どうかしら?」

 

「此処がガイアメモリのパワーの源にして始まりの場所、なんですね…」

 

「えぇ。それと近日、あなた達にはあんじゅと共にある人物の所へ行って欲しいの」

 

「ある人物?」

 

「ガイアメモリの事を研究している子よ。彼女は私とあんじゅの1個下、17歳の少女なの。他に言う事があるとすれば…かなり強力な力を持ったメモリの持ち主で、掴みどころのない子…かしら。少し危険な子だから注意しておいて」

 

その言葉を聞いた理亞は、途端に身体中の緊張が抑えられなくなった。ツバサが警戒している程なのだから、相当な人物なのだろう。

 

「さて、そろそろ仕事の時間ね…そういう訳だから宜しくね。2人共」

 

ツバサはそう言い、洞窟から去って行った。理亞はスマートフォンの写真をそっと見る。そこには無邪気に笑うルビィの姿があった。画面を横にスクロールすると、先日報道された英玲奈の死亡ニュースで流れた彼女のパフォーマンスの動画が。それを見た理亞の胸に、言葉にできない程の辛い感情が流れてくるのがわかった。

その表情に気づいた聖良は、彼女の肩にそっと手を置き話しかける。

 

「理亞…あなた、もしかしてガイアメモリを使いたくないって思ってる?」

 

「!!」

 

「正直に答えて。お願い」

 

「…使いたくない。ルビィに…友達に本当の自分でいる事、教えてもらったの。それからは使わないように気をつけてる。この前は姉様を止めようとして使っちゃったけど…」

 

「そう…実は私も、ガイアメモリを使う事が本当に正しい事なのか疑問に感じているの」

 

「え、姉様も?」

 

「この前の英玲奈さんの時もそう。あの時はツバサさんに逆らえなくて従ってしまったけど、ツバサさんは躊躇もなく英玲奈さんを殺すよう私に命令した。あんじゅさんは用済みと言って英玲奈さんを殺してしまったし…考えてみたら凄く残酷な事だと思うようになったの」

 

「………」

 

「それに、華蓮さん達がガイアメモリで私達を貶めようとした事、あなたがバイオレンスに襲われた事もあって…ガイアメモリを使った人、知ってしまった人は最後にはみんな壊れてしまったでしょう?私達は世界を変える為にUTXに入ったけど、必要のないものを切り捨てる事で世界が変わるなんて今は思えないわ」

 

「うん…私達、どうしたらいいんだろう」

 

聖良と理亞は過去の出来事を振り返り、UTX…ツバサのしようとしている事が正しい事だと思えなくなっていた。

しかし、自分達では彼女は止められない。どうすればいいのか、思いつきさえしなかった。

 

 

 

一方、鞠莉達は事件のあった現場に到着していた。現場であるアパートは学校から5分程のそう遠くない距離にあり、部屋には『立入禁止』と書かれた黄色のテープが張り巡らされていた。

 

「Wao!!Very Very Coldじゃない!!」

 

「あら、鞠莉達…と曜も来たんですね」

 

「園田刑事、この部屋で何がありましたの?」

 

「えぇ、実は…」

 

海未によると、この部屋の住人である高校生・鬼崎アキラが凍った状態で発見されたらしい。幸いにも彼女は一命を取り留めており、現在は病院で入院しているらしい。

 

「第一発見者は隣に住む50代の夫婦の方々です。夏にもかかわらず隣にまで冷気が来ている事からおかしく思ったのでしょう。ドーパントによる犯罪の可能性が高いかもしれません」

 

「あなたは…」

 

「急にごめんなさい。私は白瀬小雪(しらせこゆき)と申します。先日静岡県内の警察にドーパント対策課が設置されたのですが、私はそこへ配属されたばかりなんです」

 

「小雪は最近、埼玉県警から異動して来たんですよ。頭脳明晰でデスクワークに強いんです」

 

「それだけじゃないんだよ。小雪ちゃんが街をパトロールするようになってから少年の非行事件も凄く減ってるんだ。この前もタバコを吸っていた男子高生を注意したらしいんだけど、小雪ちゃんに注意されてから禁煙頑張ってるんだって」

 

彼女は整った顔立ちをしている為、男性からの人望も高いのだろう。小柄なツインテールの少女は『そんな事ないです』と頭を搔く。

 

「確かにCuteな顔ね♪ところで、ドーパント対策課って?」

 

「ここ数年で横行するガイアメモリ犯罪を取り締まるべく、新たに県内全ての署に設置された課なんです。私はガイアメモリ犯罪によく関わるという理由から無理矢理異動させられて…おまけに小雪や曜といった県外で優秀な業績を持つ方が異動して来たので、少し肩身が狭いんですよね」

 

「あ、私は東京にある警察本部から異動して来たの。こう見えても一応、沼津警察の警視だよ!」

 

「警視!?本当に凄い方なのですね…」

 

海未はそれより、と話を戻し被害者である鬼崎アキラの人間関係の調査結果を報告するのであった。

 

「鬼崎さんの高校に行き、聞き込みを行なったのですが特に人間関係によるトラブルは確認できませんでした。離れて暮らしている家族との関係も良好でしたし…」

 

「ちなみに鬼崎さんは自転車競技部に所属しているそうです。大会成績も良い方なので、他校の生徒が嫉妬によりメモリを使って彼女を襲った可能性が高いかもしれません。園田刑事、渡辺警視、自転車競技部のある県内の高校を調べたので今からそこへ聞き込みをして来ます」

 

「了解であります!頑張ってね!」

 

小雪は事情聴取を行う為、現場から去って行った。鞠莉達も引き続き部屋の中の調査を行なうが、これといって特に気になる点は見られなかった。これでは明らかにキーワードが足りない。

 

「ここには手掛かりはなし、ですわね…どうしましょうか」

 

「ねぇ海未、アキラは今どんな様子なの?」

 

「今は意識も回復しています。話す事くらいならできるかもしれません」

 

「本人に聞くしかなさそうね…病院へ行ってみましょうか」

 

「あ、じゃあ私も行くよ!」

 

鞠莉達と曜はアキラの搬送された病院へバイクを走らせる。病室の場所を確認しようと外から様子を窺っていると、病院の角を怪しい影が横切るのが見えた。

 

「Stay!あなた、何をしようとしているの!?」

 

「くっ、タイミングが悪かったか…私の邪魔をしないで!」

 

怪しい影の正体は案の定ドーパントであった。その身体は雪のように白く、不気味な見た目をしている。

 

「まさか、鬼崎さんを殺そうとしてるんじゃ…!?」

 

「そうはさせないわ!はぁっ!」

 

鞠莉はドーパントへと蹴りかかる。ドーパントは指から冷気を纏った白い霧を出し、鞠莉に浴びせようとする。

 

「もう…何やってんのさ!」

 

進展のない戦いを見かねた曜は何かをバイクから外す。それはかなりの重量を誇るであろう、大きな剣であった。その剣は曜でさえ上手く持ち上げる事ができず、剣はアスファルトの地面に穴を空けた。それを見たダイヤとルビィは、思わず息を呑むのであった。

曜は剣を引き摺りながらドーパントへ向かって行き、持てる力を出しながらそれをドーパントへぶつけようとする。

 

「えぇ!?そのBladeは何!?」

 

「私への質問は禁止!そんな事いいから変身してよ、小原さん!」

 

「な、何故それを知ってるの!?」

 

「だから質問は禁止!早くして!!」

 

「そうね、わかったわ!!」

 

鞠莉はダブルドライバーを装着し、果南へと呼びかける。

 

「果南!ドーパントが出たわ!変身よ!」

 

\ジョーカー!/

 

『鞠莉!今草加せんべいについて検索してた所なんだ、食べたいんだけどネットで頼めるかなん?』

 

「草加せんべいね!あとで注文するから早く変身しましょう!」

 

『ありがと、変身!』

 

\サイクロン!/

 

「変身!」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

鞠莉は身体に風を纏い、Wに姿を変えた。

 

「それが仮面ライダーWなんだね…!緑と黒、噂通りの姿だ!」

 

『あれ、なんか一般人ぽい子いるけど正体バラして平気だったの?』

 

「依頼人よ!何故かわからないけど、私が変身できる事と地球の本棚の事を知ってるみたいなの!」

 

「仮面ライダーだったんだ…何を1人で話してるのっ!?」

 

ドーパントは指から冷気を放ち、Wの右半身にそれを浴びせた。

 

『わっ!そんな事話してる暇じゃなさそうだね…!』

 

果南は自身の手足を見る。Wの右手と右足は白く染まっており、1ミリも動かなかった。おそらくこの能力でアキラを部屋ごと凍らせたのだろう。身動きの取れないWを見たドーパントは、チャンスと言わんばかりにWをタコ殴りにする。

 

「Summerには寒過ぎる冷たさね!熱いのはお好きかしら?」

 

\ヒート!/

\ヒート!ジョーカー!/

 

Wの右半身が赤に変わり、手と足の氷を溶かす。そのままWはドーパントを殴りつけた。2発目の拳が叩きつけられようとした瞬間、ドーパントはそれを避けどこかへ逃走してしまった。

 

「Wait!逃がさないわよ!」

 

Wと曜が近くの建物の角を曲がると、緑色の和服を着た少女が逃げて行くのが見えた。その手の中には青いドーパントメモリが。彼女は既に追いつける距離にはおらず、そのまま遠くへと姿を消した。

 

「あの子が犯人か…もう少しだったのに!」

 

「ん?これは…」

 

鞠莉が足元に視線を落とすと、『綾小路(あやのこうじ)たかまろ』と書かれた落語家の公演ポスターが落ちていた。あの少女が落としたのだろうか、それはわからないが持ち帰る価値はありそうだ。鞠莉は変身を解き、それを回収した後ハードボイルダーに乗り病院をあとにした。

 

 

 

数分後、鞠莉達は浦女の理事長室の横にある『ボイラー室』と書かれた扉を開け、階段を降りて行く。そこはリボルギャリーの格納庫へ続く階段であり、中では果南がホワイトボードに草加せんべいの情報を書き込んでいた。

 

「いらっしゃい。あなたが渡辺警視だね」

 

「紹介するわ。彼女は松浦果南、Wの右側で地球の本棚の持ち主よ」

 

「沼津署の渡辺曜です!曜でも渡辺でも、気軽に呼んでいいよ!」

 

「それじゃあ…曜、犯人の目星がついたって本当?」

 

「あ、言い忘れてたけど私への質問は禁止だよ、果南ちゃん」

 

「曜はQuestionをされるのが嫌いらしいの。なので私が答えるわね!ドーパントのメモリを持った緑色のJapanese Kimonoの少女…おそらくこのポスターと関係があるんじゃないかしら?」

 

「『綾小路たかまろ』…有名な落語家だよね、よくテレビに出てるし」

 

「それじゃあ果南ちゃん、地球の本棚に入ってもらえるかな?私がキーワードを入力するから」

 

果南は意識を集中させ、地球の本棚へ入る。

 

「さぁ、検索始めるよ。キーワードは?」

 

「まずは『綾小路たかまろ』」

 

果南がキーワードを入力すると、風で本棚の数は減っていく。人名という事もあってか、かなり大幅な減少だった。

 

「2つ目に『沼津公演』次は…『親族』『女子高生』」

 

果南の手元には一冊の本が残った。表紙には『Himeno Ayanokoji』の文字が。先程の少女の名前と思われる。

 

「綾小路姫乃(ひめの)、綾小路たかまろの娘らしいね。父親とはバラエティ番組で一緒に出る事が多いらしいよ」

 

「髪型もあの時逃げていたGirlに似てるわね…ドーパントの正体は彼女と見て間違えなさそうだわ」

 

「確かに。あの時私達が見た女の人と同じと見て構わないかも。ところで、どうして曜は地球の本棚を知ってるの?普通は私が地球の記憶にアクセスできるかなんてわからないと思うけど…」

 

「質問は受け付けない、と言いたいところだけどそれぐらいなら教えてもいいかな?みんなの事はこの子に観察してもらってたから、大まかな事は私も把握してるんだ」

 

すると、何処からともなくビートルフォンが飛んで来て曜の手に収まる。

 

「あの時のカブトさんだ!」

 

「やはりガジェットだったんですね」

 

「どうしてあなたがガジェットを?もしかして剛の知り合いなの?」

 

「剛って名前は聞いた事あるけど、関わった事はないかな。これはある人から貰った物なんだ」

 

「なるほどね、納得。話を戻すけど、綾小路たかまろの公演日は明日の夜。リハとかもあるだろうし、もう市内のホテルに泊まってるんじゃないかな」

 

「会場は市民文化センターですから、職員の方に聞けば何処のホテルに宿泊しているのかわかると思いますわ。私とルビィと鞠莉さんで市民文化センターに向かうので、曜さんは何処のホテルでもすぐに向かえるよう市内で待機していて下さい」

 

「ヨーソロー!わかったらすぐ連絡してね!」

 

鞠莉と黒澤姉妹は市民文化センター、曜は市内へと向かった。彼女はバイクを走らせる道中、不思議な気配を感じバイクを停める。気配のした方を見ると、帽子を被った長い茶髪の女性がこちらに向けて指を差していた。女性は赤のロングコートを身に纏っており、黒のサングラスを掛けている。

 

「あなたなんだね、ディライト!!」

 

曜は謎の女性…ディライトに向け、そう叫ぶ。ディライトは曜を差していた指を地面へと下ろし、何かがある事を示す。そこには炎に囲まれたアタッシュケースが。曜がそのアタッシュケースに近づくと炎は消え、カチンとロックの解除された音が鳴り響いた。

 

「これが…!」

 

曜はアタッシュケースを開けると、そこにはバイクのハンドルを模した装置が緩衝材に収まっていた。装置の上部には、ガイアメモリを挿し込むスロットが。

 

「遂に完成したんだね!私のドライバーが…」

 

曜はメモリドライバーと思しき装置を取り出し、ディライトへと語りかける。しかし彼女の姿は既に消えており、そこにはアタッシュケースのみが残されていた。

 

 

 

その頃、時を同じくして鞠莉達は市民文化センターへ到着していた。

 

「そういえば鞠莉ちゃん、鬼崎さんは大丈夫なの?ほっといたらドーパントに襲われちゃうんじゃ…」

 

「それならDon't worry!アキラが犯人に襲われるRiskがあるから、という理由で海未が警察病院に転院させたらしいの。周囲にも警備員を配備してあるそうよ」

 

心配事がなくなったのか、ルビィはよかった、と呟きながら一息ついた。事務室に到着し窓口を覗くと、中には先客がいた。小雪が職員へ聞き込みをしていたのだ。

 

「小雪さん。奇遇ですわね」

 

「こんばんは。探偵部の皆さんも用があるんですか?」

 

「はい。綾小路たかまろさんと姫乃さんが何処に泊まってるのか聞きに来ました」

 

「同じですね。私も園田刑事から姫乃さんが怪しい動きを見せていると聞いたので、彼女に事情聴取を試みようとホテルの場所を聞いていたんです。彼らの宿泊先は『プレジオ沼津』だそうです。私は先に向かいますね」

 

「ありがとうございます、小雪さん!これで曜さんに連絡できるね!」

 

「そうね、今かけてみるわ!」

 

鞠莉はスタッグフォンを取り出し、曜へ電話をかける。数秒後、曜と電話が繋がったので、鞠莉はホテルの場所を伝える。

 

『プレジオ沼津ね!今私がいる場所からだと少し遠いけど…急いでも15分はかかるかな』

 

「事務室に小雪がいて、彼女から宿泊先を聞いたわ。ここからだと大体6分ぐらいで着くそうよ。遅れてもいいからあとで合流しましょう?」

 

『わかったけど…今小雪って言ったよね?どうして小雪ちゃんがホテルの場所を知ってるの?』

 

「海未から姫乃が怪しいと聞いたらしくて、彼女もホテルの場所をStaffに尋ねていたわ」

 

『でもあの時姫乃さんを見たのは私達だけだよね?なんで小雪ちゃんが知ってるんだろう。私、姫乃さんが犯人かもしれないなんて小雪ちゃんにも海未ちゃんにも連絡してないのに』

 

「そうなの?海未が周囲の防犯Cameraを調べて、小雪に姫乃が犯人かもしれないと伝えたんじゃないかしら?アキラもドーパントの襲撃に備えて警察病院へ転院させたみたいだし」

 

『あー、確かに海未ちゃんならするかもしれない。真面目だし…』

 

「そういう訳だから、私達は先にホテルへ向かうわね」

 

鞠莉は電話を切り、ダイヤ達と共にプレジオ沼津へと急いだ。

ホテルへ到着し中へ入ろうとすると、フロントの前にコンビニへ行っていたのか、姫乃が飲み物の入ったビニール袋を手に提げながら現れた。

 

「どなたです?」

 

「Hello,黒澤探偵部の小原マリーよ」

 

「単刀直入にお聞きしますわ。あなた、ガイアメモリを持っていますよね?」

 

「探偵ですか…申し訳ありませんが、警察でもない方々に話す事はありません。明日は父の公演を手伝わなくてはならないので失礼します」

 

「あ!待って!」

 

姫乃はそう言いながら走り去って行く。鞠莉達はあとを追うが、ビルの角を曲がろうとした瞬間に白いドーパントが出現する。鞠莉は冷気を浴びせられる前に後ろへそれを避け、ダブルドライバーを装着した。

 

「果南!」

 

『お、例のドーパントかなん?それじゃあ最初からヒートで攻めよっか』

 

\ヒート!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

\ヒート!ジョーカー!/

 

鞠莉はWに姿を変えた。果南は風の記憶を持つサイクロンは今回のドーパントとの相性が悪いと判断した為、初めからヒートで戦う事にした。

 

「私の事を嗅ぎ回ってるんだね。それならいいよ、自分の砕ける音を聴かせてあげるからッ!!」

 

「面白いExpressionね!ならこちらは自分がBreakする音を聴く前にあなたのメモリをBreakしてあげるわ!」

 

Wは先程の戦闘で効果のあった炎の拳でドーパントを殴りつける。ドーパントも負けじと身体から冷気を放出すると、突然腕の動きが鈍くなってしまった。腕は白く染まっており、凍りかけていたのだ。

 

『うわ、厄介だなぁ。ヒートまで凍結させるなんて』

 

「これではFire Handが使えないわね…こっちにしましょう!」

 

\メタル!/

\ヒート!メタル!/

 

赤と銀になったWは氷が溶け、動くようになった腕を使いながら炎を纏ったメタルシャフトを叩き込んでいく。

 

「邪魔だって言ってるのに…!」

 

ドーパントは指から冷気を出し、今度はWの両足を凍らせた。

 

「キリがないわね!」

 

「鞠莉さん!私も助太刀しますわ!」

 

『ごめん!そうしてもらえると助か…』

 

「そこまでだよ!!」

 

ダイヤがロストドライバーを装着しようとした瞬間、ドーパントの後ろから大剣を引きずった曜が現れた。

 

「あとは私がやるよ。みんなは見ていて」

 

「曜!?何をする気なの!?」

 

「…私への質問は禁止だよ」

 

曜はそう答えながら大剣…エンジンブレードを持ち上げ、地面へ突き刺す。そして、先程ディライトから授かった装置・アクセルドライバーを取り出した。

 

『えっ?あのドライバーは…!!』

 

「あれ、ベルトだよね?仮面ライダーの!」

 

「この時を待ってたよ…この力を使って、あなたを倒す時を!」

 

曜が腹部にアクセルドライバーを当てると、ベルトが出現し腰に装着された。次に曜はポケットから赤のガイアメモリを取り出す。

 

\アクセル!/

 

「変…身っ!!」

 

\アクセル!/

 

曜はスロットにメモリを挿し、ドライバーの右のグリップを捻る。そして、バイクのエンジンのような音声と共に装甲を身体へ纏い、赤の戦士へ変身した。

 

「あなたは…!!」

 

「…仮面ライダー、アクセル」

 

曜の変身したライダー・アクセルは地面に刺してあったエンジンブレードを引き抜いた。

 

 

「全速前進、振り切るよ!」




<次回予告>

アクセル「お前だけは…お前だけは!!」

果南「曜が姫乃さんを見て取り乱した理由は何なんだろうね?」

???『曜ちゃんなら…きっとできるよ…』

アクセル「まずはあなたを止めなくちゃ」

次回 走り続けるY/ライダーの使命


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#14 走り続けるY/ライダーの使命

アクセル編後編。仮面ライダーになった曜はある行動に出る。その行動とは一体?

あ、ちなみにこれでストックがなくなったので今までみたいに毎週投稿ができなくなりました。完成次第アップしますのでしばらくお待ち下さい。


「全速前進、振り切るよ!」

 

赤のライダー・アクセルはドーパントへ向け、そう告げながらエンジンブレードで切りかかる。ドーパントは指から冷気を放出しアクセルの上半身を凍らせるが、仮面の下で曜はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ふふふ、これじゃあ動けないでしょう?」

 

「残念。そんな簡単にいくもんじゃないんだなぁ、これが」

 

アクセルがグリップを捻ると、身体を熱が包み込み、氷を完全に溶かしてしまった。その余熱は後ろにも伝わり、Wの足元の氷さえも溶かしていく。

 

「この剣にはこのメモリを使うんだね…理解したよ!」

 

\エンジン!/

 

アクセルはエンジンブレードにEのイニシャルが描かれたシルバーのギジメモリ・エンジンメモリを挿した。ドーパントは炎を纏ったエンジンブレードに切り裂かれ、車道へと転がる。

 

『凄い戦闘力…!初戦とは思えない!』

 

「ここまで多機能なドライバーだと思ってなかったよ…これなら勝てそう!」

 

「まずい…一旦退いた方が良さそうだね!」

 

ドーパントは地面を凍らせ、スケートの応用で氷の上を滑って逃げて行く。

 

「逃げたわ!追わないと!」

 

「私が行くよ!こんな時はこれかな?」

 

アクセルがドライバーを外すと、身体が突然変形し始めた。変形が完了し地面に着地すると、アクセルはバイクのような姿になっていた。

 

「ピギ!?ルビィ、聞いてない!!」

 

「全速前進!ヨーソロー!!」

 

バイクフォームへと変わったアクセルも氷の床を走りながらドーパントを追う。ドーパントは自分を追ってきた赤のライダーを見て、思わず驚愕した。

 

「なっ…!?バイクにも変形できるの?」

 

「その通りであります!今度は逃がさないよ!」

 

「面白いね!それなら追いついてみなよ!」

 

「あっ!行っちゃった!」

 

「鞠莉さん、果南さん、追いましょう!」

 

「Of course!!」

 

W達もバイクを呼び出し、アクセルとドーパントを一目散に追いかけた。

一方アクセルはビルの壁を走りながらドーパントをチェイスしていた。立体駐車場の中、線路の上へとその追跡は及んでおり、2人はあっという間に狩野川の水面を走っていた。河川敷に辿り着き、ようやくドーパントに追いついたアクセルは前方へと先回りし、足が変形したマフラーから高熱を放出しドーパントに浴びせながら突撃した。

 

「これで終わりだよ!」

 

\アクセル!マキシマムドライブ!/

 

アクセルはドライバー左のクラッチを握った後にグリップを捻り、マキシマムドライブを発動させる。高く跳んだアクセルの右足がドーパントの身体へと叩き込まれる。アクセルのマキシマムドライブ・アクセルグランツァーが炸裂した。

 

「絶望があなたの、ゴールだよ…!」

 

アクセルの言葉と同時に、ドーパントは悲鳴さえ上げることなく砕け散った。同時にあとを追って来たW達も河川敷へ到着する。

 

「終わったのね!」

 

「いや、メモリが落ちてない。今私が倒したのは氷で作った分身だよ」

 

ドーパントのいた場所には氷塊が辺り一面に散らばっていた。そこには変身者とガイアメモリはなかったので、チェイス中に囮として入れ替わったのだろう。

 

「それじゃあ、姫乃さんは何処へ…?」

 

「みんな、あそこ見て!」

 

ルビィの指した方には姫乃がおり、彼女は坂を登って河川敷から去ろうとしていた。手の中にはガイアメモリが大事そうに握られている。

 

「メモリを渡しなさい!」

 

「やっぱりアイツが…逃がさないッ!」

 

Wより先にアクセルが姫乃の方へと走って行った。何故かアクセルはエンジンブレードを腕に構えている。

 

「お前だけは…お前だけは!!」

 

『まさか、変身解除した人を攻撃するつもりじゃ…!?』

 

「曜!待って!」

 

姫乃に追いついたアクセルは、エンジンブレードを彼女に振り下ろそうとしていた。間一髪でWも2人の間へ割り込み、エンジンブレードをメタルシャフトで受け止めた。姫乃はその隙を見逃さず、慌ててその場から逃げて行った。

 

「ふざけないでよ!邪魔するから逃がしちゃったじゃん!!」

 

「それでもドーパントでない状態の人を傷つけようとするのはダメよ!あなたも仮面ライダーなんだからそのくらいはわかるでしょう!?」

 

「うるさいッ!!」

 

\エレクトリック!/

 

アクセルはメタルシャフトを弾き返し、エンジンブレードでWの上半身を切り裂く。身体に電撃が走り、Wの変身は解除されてしまった。しかし、アクセルは鞠莉に対し攻撃をやめようとしない。

 

「渡辺警視!やめなさい!」

 

\スカル!/

 

見かねたダイヤはスカルに姿を変え、スカルマグナムでアクセルの腕に銃撃した。ルビィも鞠莉の前に立ち、彼女を庇った。

 

「やめて、曜さん!鞠莉ちゃんに攻撃しなくても…!」

 

「ダイヤさん、ルビィちゃん…ごめん、やり過ぎた」

 

アクセルはドライバーからメモリを抜き、曜の姿へ戻る。これ以上戦う必要はないと思ったスカルもドライバーからメモリを抜き、変身を解いた。

 

「でも、それで私の気持ちが収まったなんて思わないで。邪魔をするんだったら今度は容赦しないよ」

 

「渡辺警視、どうしてあなたはそこまで…」

 

曜はダイヤの質問に答えず、鞠莉達を睨みつけながら去って行った。

数分後、鞠莉達は探偵部の部室へと戻って来る。部室には果南がおり、何かを考え込むような動作をしていた。

 

「おかえり。大丈夫、鞠莉?」

 

「えぇ…1晩寝れば良くなると思うわ」

 

「なら良かった。それにしても…曜が姫乃さんを見て取り乱した理由は何なんだろうね?」

 

「Wのメモリじゃないかな?昔、何かあったみたいだったし」

 

「そもそもメモリのイニシャルって本当にWなのかな?さっきから何度も検索してるんだけど、氷の能力を持ったWのメモリなんて見つからなかったんだよね」

 

「氷という意味ではないのですが、Winterはどうです?季節そのものを表す単語だったりして…」

 

「私もそれだと思ったんだけど、現時点ではウィンターというメモリは存在しないみたいだよ。検索にヒットしなかった」

 

「そうですか…鞠莉さん、氷に関連したWの単語って他に何かありますか?」

 

氷という意味を持つWの単語…いくら外国人の親を持つ鞠莉であっても、そのような単語は思いつかなかった。

 

「もし、だけど…曜がメモリ名をMistakeしているという可能性はないかしら?」

 

「それは有り得るかも。とりあえず、何故あそこまで曜が今回の犯人に固執するのか気になるから調べてみるよ。あとさ…私は今回の事件の犯人、姫乃さんじゃないと思うよ」

 

「どうして?」

 

「わざわざ公演ポスターなんて残してく必要があったのかなぁと思って。しかもさ、ドーパントの姿なら身体能力が上がるからほぼ確実に逃げられる筈なのに、変身を解いてから逃げようとするなんてデメリット以外の何物でもないじゃん」

 

「そうだね…捕まっちゃうかもしれないのに」

 

「まるで自分を犯人に仕立てあげているかのようで不自然ですわね…」

 

「そこも明日調べてみよっか。今日は鞠莉もお疲れみたいだし、帰って休むのが一番いいと思う」

 

果南の言葉通り、この日は解散する事となった。鞠莉も果南の推測を聞いて引っかかる所があったが、それが何なのかはわからなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、鞠莉はショッピングセンターBiViの前で待ち合わせをしていた。

 

「理事長〜、待った?」

 

「いえ、私もさっき来たばかりよ!あら、花丸もいるのね」

 

鞠莉が待ち合わせしていたのは善子であった。ネットの情報に詳しい彼女なら、何か有力な手掛かりを知ってるのではないかと睨んだからだ。

 

「駅前通ったらたまたま遭遇して…そのまま勝手について来たの」

 

「大好きなミステリー小説の続きが今日発売だったので、売り切れる前に買っておこうと思って…」

 

「で、用件は何?私もゲーマーズに用事あるから手短にお願いしたいんだけど」

 

「この人、知ってるかしら?」

 

鞠莉は昨日、姫乃が落として行ったポスターを見せる。花丸はそれに食いつくように見入っている。

 

「た、たかまろさんの公演会があるの!?行きたいずら!!」

 

「知らなかったの?前からポスター貼ってあったのに…ていうかこの公演今日じゃない。チケットの販売なんかとっくに終わってるわよ」

 

「なっ!?そんな、無念ずら…」

 

「ふふっ♪これが綾小路たかまろなのは知っているようね!それじゃあ、この人の娘…綾小路姫乃は知っているかしら?」

 

「あー、そういえばたかまろさんの密着番組とかでよく出てたかも?顔は忘れちゃったけど…」

 

「え、まさか用件はそれだけ?」

 

「それは確認よ。本当に聞きたいのは最近、この辺りで娘の姫乃を見かけていないかどうかよ」

 

鞠莉は姫乃の写真を2人に見せた。善子は顔をじっくり見たが、知らないらしい。

 

「私は見てないわ。そもそも綾小路たかまろ自体知らないし…」

 

「あ〜!そうそう、この人ずら!」

 

「で、それを聞いてどうするの?ドーパント絡みとかなら花陽に聞いた方がいいと思うけど…」

 

「そうしたいんだけど、まだ花陽はA-RISEが解散したShockから立ち直れていないのよね…」

 

「あー…まぁ結構最近だもの。昨日の生放送でもリトルデーモンが相談コメント送ってきたくらいだし…」

 

「ん?鞠莉ちゃん、もう1回写真見てもいいかな?」

 

「Of course!いいわよ」

 

「何よずら丸、どうしたの?」

 

花丸は何かを思い出したのか、再び姫乃の写真を見せるよう鞠莉に頼んできた。鞠莉がもう一度写真を見せると、花丸はぽん、と手を叩いた。

 

「そういえばマル、昨日この人が誰かと話しているのを見たよ」

 

「Really!?誰か覚えてる!?」

 

「ん〜、小さくて紫色の髪をした警察官みたいな人だったような…時間は17時半ぐらいずら」

 

小雪だ。彼女は姫乃と何かしらの繋がりがあるのだ。鞠莉は咄嗟にそう確信したのだった。

 

「Thank you2人共!私も思い出した事があるから行くわね!それと善子、私の事はマリーでいいからね?」

 

「分かったけど、そっちも私の事ヨハネって呼びなさいよ!?ていうか、私いる必要あったのかしら。証言したのほぼずら丸じゃない」

 

「付き合わせちゃってゴメンね、善子ちゃん」

 

「平気よ…って、さりげなく善子って呼ぶな!私はヨハネじゃい!!」

 

 

 

「ここにいたんだね」

 

「小雪さん…ごめんなさい、私はもうすぐリハーサルに行かないといけないの」

 

鞠莉が善子と別れて1時間後。市内にある小学校のグラウンドでは、姫乃と彼女を探している小雪が遭遇していた。

 

「じゃあいいよ、あまり乱暴な事はしたくなかったけど」

 

小雪は姫乃に掴みかかり、ポケットからガイアメモリを持ち去って行く。姫乃は慌ててあとを追おうとするが、突如として横から曜が飛び出して来た。

 

「あなたは…!」

 

「見つけたよ、綾小路姫乃さん。小雪ちゃんが強行手段に出るくらいだからあなたのやっている事は相当な間違いだという事を自覚して欲しいね」

 

「待って下さい!話を聞い…」

 

「あなたの話なんか聞く必要もないね!」

 

\アクセル!/

 

「変…身っ!」

 

\アクセル!/

 

曜はアクセルに変身し、姫乃へと襲い掛かった。ライダーと一般の人間では身体能力に大きな違いがあるので、何度も攻撃を避け続けた姫乃の体力は今にも尽きそうになっていた。そこへ鞠莉と果南、黒澤姉妹が到着しアクセルを止めるべく2人の元へ走って来た。

 

「曜!やめて!」

 

「鞠莉、私の方が曜を止めるのに向いてる。ここは私にやらせて!」

 

「OK!行くわよ!」

 

\ファング!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

\ファング!ジョーカー!/

 

果南はWに姿を変え、アクセルの元へ走る。まずは姫乃をアクセルから引き離し、アームファングでボディを切り裂いた。

 

「また来たの!?邪魔しないでって言ったじゃん!!」

 

『あなた、今自分がしようとしている事がわかってるの?復讐心だけに囚われて周りが見えなくなってるわよ!』

 

「なっ、どうして私が復讐しようとしている事を知ってるの!?」

 

「勝手ながら曜の過去を調べさせてもらったよ。…曜、両親をドーパントに殺されてるんだよね?だからWのメモリのドーパントにそこまで執着してるんだよ」

 

「地球の本棚か…そう、私は家族と従姉妹の月ちゃんをWのメモリのドーパントに殺されてる。あれは去年の事だよ…」

 

 

 

1年前の夏。曜が東京の警察本部に就職が決まり、それを報告しに内浦の実家へ帰省した時の事だった。

 

『え、表札が凍ってる…?なんで、まだ夏なのに…』

 

家は酷く静まり返っていた。何故か中も物凄く寒く、冷凍庫から冷気だけがそのまま漏れ出したかのようだった。曜がリビングに入ると、既にそこには自分の知っている景色はなかった。ソファーの上には父と母、そして従姉妹の月が凍りついた状態で倒れていたのだ。

 

『ママ!パパ!月ちゃん!!』

 

『ん…曜、ちゃん…』

 

その言葉に反応したのは月であった。既に父と母は息絶えており、もう呼吸をしていなかった。

 

『月ちゃん!何があったの!?』

 

『曜ちゃん…白い怪物が…Wのガイアメモリ…』

 

『Wのメモリ…?何それ、そいつに襲われたの!?とにかく、今すぐ救急車を…』

 

『いいよ…僕、もう無理みたい…だから、さ…曜ちゃんが立派な刑事になってWのメモリの持ち主を捕まえてよ…曜ちゃんなら…きっとできるよ…』

 

『月ちゃん!月ちゃんッ!!』

 

曜が息を引き取った月に触れた瞬間、3人の身体は氷の粒を勢いよく撒き散らしながら崩壊した。目の前で家族が死んだ。曜は絶望し、そこで慟哭するしかなかった。

 

 

 

「それが…曜のビギンズナイトなんだね」

 

「その後だよ。あの女の人…ディライトが現れたのは…」

 

『ディライト?』

 

「私にアクセルメモリとドライバー、このエンジンブレードとビートルフォンを託した女性の名前だよ。誰なのかはわからないけど、私が力を手にできるんだったらそんなのどうでもよかった」

 

『だからあなたはWのメモリのUserに復讐しようと…でもあなたのやり方は間違ってる!自分だけの目的の為に仮面ライダーになったというなら、それは違うわ!仮面ライダーはどんな時も、人々のHopeでなければいけないのよ!』

 

「間違ってるのはみんなだよ!法の番人として悪人を裁くのは当然の事でしょ!?それに、月ちゃん達も自分達を殺した奴を憎んでる!犯人さえいなければ3人は生きてられたのに!未来を奪われて悔しい訳がないじゃん!!」

 

アクセルはWへエンジンブレードを構え、切りかかる。Wはアームファングでそれを受け止め、胸部を蹴り飛ばした。そのままWはアクセルの背後に回り込み、動けないように腕を封じた。

 

「気持ちが乱れてるから本来の力を出せないんだね。落ち着きなよ」

 

『あなたが唯一の家族を失った悲しみもわかるわ。けどあなたは既に警察官としての道を間違えようとしている。復讐なんて家族が望む訳ないわ!』

 

「何がわかるのさ!!あの日あの場所にいた訳でもないのに!!果南ちゃんだってそうだよ!!地球の本棚で人の心まで検索できるの!?私の悲しみがわかるの!?」

 

「無理だよ。それは推測しかできない。だけど今、曜の話を聞けて良かったと思ってる」

 

『えぇ。家族を殺された悲しみや怒りがあなたの原動力になっている事も知る事ができた。あなたの言う通り、勿論全てという訳ではないけどね』

 

「曜さん。あなたから見た私達は、本当に人の痛みを理解できないような人間なのでしょうか?私も鞠莉さん達もこの話を聞いて、心からあなたの悲しみを理解したと思います…いえ、理解しました。これまでガイアメモリで大切なものを失った方々を何人も見てきましたから、わからない筈がありません」

 

「警察学校で教わらなかったの?法の番人なのをいい事に、警察が殺人を犯してもいいのか。犯罪者の心の痛みを知ってあげる事も、警察の使命じゃないの?」

 

「………」

 

アクセルの頭の中には、警察学校で恩師から教わった言葉が走馬灯のように駆け抜けていた。

『罪を憎んで人を憎まず』…恩師は確かにそう言っていた。しかし、復讐しなければ自分の憎しみも悲しみも消えはしない、だったらどうすればいいんだ。アクセルは真っ先にそう思った。

黙り込んだアクセルに近づいたWは変身を解き、果南の姿に戻った。それにより鞠莉の意識も自身の身体へと戻る。ルビィの膝の上からゆっくりと起き上がった鞠莉は、アクセルドライバーからメモリを抜いてアクセルの変身を解き、それを曜の手に握らせた。

 

「『警察になってWのメモリの持ち主を捕まえて。曜ならきっとできる』これはあなたの従姉妹の月が、最期にあなたに告げた言葉。復讐しろなんて一言も言ってないじゃない、きっと死んだあなたのFamilyも、月も、あなたが道を間違える事なんて望んでいないわ」

 

「月ちゃん達は警察として、みんなを守る正義の味方としての曜が見たいと思っているんじゃないかな。だから曜もそれに応えてあげなよ」

 

「ちなみに、そこにいる姫乃さんは犯人ではありません。あなたは自分の勘違いで取り返しのつかない事をしようとしていたのですわ」

 

曜はダイヤの言っている事を理解できなかった。だって、彼女はあの時も現場にいたじゃないか。

 

「犯人じゃない…?でも、あの時もその子はメモリを持って逃げたじゃん!犯人じゃない訳…」

 

「そこがおかしいって気づかない?自分が犯人だってバレたくなかったら、わざわざポスターなんて残していく必要ないじゃん。あそこで変身を解いて逃げた意味もわからない」

 

「そういえば…確かに、そうかもしれない」

 

『驚かないで聞いて、これは私達が地球の本棚で調べた事だから嘘はないわ。ルビィ、曜にメモを見せてあげて』

 

「ぅゅ!地球の本棚はね、こうしているうちにも新しく知識が更新されているんだよ。命が産まれたり、何かが造られたり…そんな1秒1秒の出来事や情報まで細かく本に描かれていってるの」

 

「それなら、Wのメモリの持ち主も…」

 

「あぁ、1つ言っておくとね、氷の能力を持ったWのメモリは存在しなかったよ。そのWのメモリがどんな能力なのか、正しい名前が何なのかはキーワードが足りないから調べられなかったけど、今回の鬼崎さんの事件とは何の関係もない事だけはわかった」

 

「そっか…姫乃さん、ごめんなさい。もう少しであなたを傷つけてしまう所だったよ、私」

 

「いえ、実は私もお話したい事があるんです。まぁ、そこのメモに書いてある事とほぼ被ってしまうかもしれませんが…」

 

姫乃はあの日、鞠莉達の知らない自分に起きた出来事を話す。彼女の話す内容は犯人や動機も、果南の立てた仮説とほぼ一致していた。

犯人が完全に固まった所で、鞠莉達はすぐさま犯人のいる場所を絞り込みそこへ向かうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「今度こそ仕留める…日本の平和の為に…!」

 

「そうはさせないわ。メモリを渡しなさい、小雪」

 

アキラの入院する大学の附属病院。小雪がガイアメモリを挿そうとしたその時、鞠莉達が到着した。

 

「小原さん。よく私がドーパントだって気づきましたね。真っ先に姫乃ちゃんを疑うと思ったのに」

 

「彼女が現場に自分へ直結するかもしれない証拠を残した事が私には不思議だったのよ。怪しいと思ったのは市民文化センターでのあなたの発言と曜の発言が食い違った時かしら。さっきCheckの為に海未にも聞いたけど、『姫乃が犯人かもしれないなんて小雪には言っていない』と言っていたわ」

 

「小雪ちゃん、どうして…?あなたは立派な警察官を目指してたんじゃ…」

 

「だからですよ。私がこの街から…いえ、犯罪をなくす為にこのメモリを使って不届き者を裁いていたんです」

 

私は正義の為にやっている、とでも言うかのように小雪は鼻を鳴らす。自分の行ないを正当化するかのような態度に、曜は憤りを覚えた。

 

「姫乃さんとあなたが知り合いだったのは、たかまろさんがあなたと同じ埼玉県の出身だから。公演ポスターに彼のプロフィールが書かれていたのと、あなたの埼玉県警から異動して来たという話を思い出して確信しましたわ。幼馴染なのでしょう?姫乃さんから聞きましたわ」

 

「はい、確かに姫乃ちゃんは昔からの付き合いです。一昨日の夜、私は家に強盗に押し入ろうとしていた男を見かけたんです。そんな危険な人を放っておいたら危ないので、ドーパントの能力で凍死させました」

 

「そして、あなたは変身を解いた所を偶然通りかかった姫乃さんに見られた。姫乃さんは警察であるあなたを犯罪者にする訳にはいかないから、と自分が身代わりになろうとした。そうでしょ?それならわざわざポスターを残すのも変身を解いて逃げるのも辻褄が合う」

 

姫乃は目を伏せながら首を縦に振った。彼女は小雪が殺人を犯したことを隠蔽する為、自分が犯人である事を示唆すべく鞠莉達の前に姿を見せたりしていたのだ。

 

「友達が身代わりになるなんて冗談じゃないですよ、私にとって姫乃ちゃんは大切な人なんですから。だから私は断ったんですけど、姫乃ちゃんは諦めずに私を探し回ってメモリを使わせないよう、何度も私からメモリを奪った。当然、私もそれを取り返さないといけないから時間をかけて姫乃ちゃんを探しました。この子を探す口実を考えるのも苦労しました」

 

「鬼崎さんに手を出したのはどうしてなんですか!?」

 

「坂道を凄い勢いで何度も下っていて危なかったんですよ。交差点で子連れの女性が通るのをたまに見るので、このままでは事故が起こって危ないと思い注意しました。でもあの女は『大会が近いから練習してる』と言って聞く耳を持たなかった!腹が立ったから殺してやろうと思ったんですよ」

 

「それで鬼崎さんの部屋を調べて殺そうとしたんだ…何もそこまでしなくてもいいのに…」

 

「警察なら殺人や傷害ではなく、警察なりの正しい方法で犯人を裁くのが、道を間違えそうになった方を正しい場所へ導くのが正解ですわ。ガイアメモリに頼るなんてバカな真似はおやめなさい、今すぐこちらにメモリを渡して下さい」

 

「なら、こんな汚れた国にしたバカな犯罪者共に言ってよ!!あんなクズばかりいるから、まともな人々が安心して暮らせなくなってるんだよ!?私は法の番人として正しい事をしているだけ、何も間違ってなんかない!!」

 

「…小雪ちゃん、あなたの事は信頼できる仲間だと思ってたのに。そこまで言うなら戦うしかないね」

 

曜はアクセルドライバーを装着する。小雪もメモリを挿そうとするが、姫乃が彼女の腕を押えてドーパント化を止める。

 

「もうやめて、小雪さん!あなたがこれ以上罪を重ねるのなんて見ていられない!素直にメモリを渡して?罪を償って昔の優しいあなたに戻って!」

 

「うるさいッ!!退いてよ!!散々私の身代わりになろうとした癖に今度は罪を償えですって?あなたみたいな腐った人間を放置する甘い人間がいるから、この街もこの国も、この世界もどんどん汚れていくんだよ!!」

 

小雪は姫乃の腕を払い除け、彼女の頬を殴りつけた。それを見た鞠莉の怒りも有頂天に達し、声を荒らげた。

 

「姫乃は自分が泥を被ろうとしてまであなたを止めようとしたのに、どうしてそんな事を言うのよ!!彼女の想いを聞いてあげようと思わないの!?」

 

「庇えなんて頼んでない!!もういいよ。あなた達には正体も知られちゃったから、口封じに殺してあげるよ!!」

 

小雪はドーパントに姿を変え、鞠莉に冷気を浴びせながら病院の中へ入ろうとする。姫乃はメモリに呑まれてしまった小雪の姿を見て、顔を覆いながら涙を流した。

 

「私がメモリを捨ててれば、今頃こんな事にはならなかったのに…!」

 

「あなたは何も悪くない。これ以上自分を責めないで。小雪を思うHeartはしっかり伝わって来たわ。あなたの分まで私達が小雪を止めてみせる!」

 

鞠莉はダブルドライバーを装着し、果南と共にドーパントを追いかけた。

 

「それじゃあ果南、最初から熱く行きましょ!」

 

\ジョーカー!/

 

「勿論だよ!」

 

\ヒート!/

 

「「変身!!」」

 

\ヒート!ジョーカー!/

 

2人はWに変身し、すぐに炎を纏った拳をドーパントへ浴びせた。ドーパントもWと戦うのは2回目なので、既に対策は練っていた。

 

「もう1回狩野川で勝負だよ!」

 

ドーパントは地面を凍らせ、狩野川へと走り去って行く。Wもハードボイルダーを呼び出し、そのあとを追った。

数分後には狩野川の河川敷に到着し、ドーパントは凍らせた川の水で作った無数の氷柱をWへ撃ち込んだ。

 

\トリガー!/

\ヒート!トリガー!/

 

Wはボディサイドのメモリをトリガーに変え、氷柱をトリガーマグナムで迎え撃つ。しかし氷柱は1人で対処できるほどの数ではなかった。別方向から飛んで来た氷柱に怯んでしまったWは、トリガーマグナムを手から落としてしまう。

 

「自分が砕ける音を聴かせてあげるよッ!!」

 

ドーパントは冷気を纏った拳をWへ叩きつけようとするが、横から何かが飛んで来て逆に吹き飛ばされてしまった。地面にはエンジンブレードが刺さっており、そこにはバイクフォームのアクセルが到着していた。アクセルは元の姿に戻り、エンジンブレードを引き抜いた。

 

「私がいる事も忘れないで欲しいなぁ、3人共!」

 

「渡辺警視…!」

 

「ねぇ、私は法の番人として悪を裁くとか綺麗な事言ってたけど、家族を殺した奴らに復讐する事で頭が一杯で、自分の都合のいいように全て完結させようとしていたよ。道を間違えてるとも知らずにね」

 

「曜…」

 

「そうだよ、考えてみれば私はこの街を昔みたいな素敵な街にする為に仮面ライダーになろうと思ったんだ。思い出させてくれてありがとう、小原さん…ううん、鞠莉ちゃん」

 

『違うよ、曜。答えを出したのはあなた自身。私達は何もしてないって』

 

「そんな謙遜しなくても…とまぁ、その話は後回しだね。まずはあなたを止めなくちゃ、小雪ちゃん。あなたが忘れてしまった正義の味方としての使命、私が思い出させてあげるよ!」

 

「いいでしょう。やれるものならやってみて下さい!」

 

ドーパントは再び川の水を氷柱へと変え、アクセルに一斉砲火を浴びせようとする。

 

\エンジン!/

\スチーム!/

 

アクセルがエンジンメモリの挿さったエンジンブレードのトリガーを引くと、刀身から高温の蒸気が噴出され氷柱を全て溶かし尽くした。

 

\ジェット!/

 

再びトリガーを引くと、今度は切っ先からエネルギーの弾が飛び出しドーパントへ命中した。

 

\エレクトリック!/

 

アクセルはドーパントに近づき、電撃を纏ったエンジンブレードを一方的に叩きつける。空高くドーパントが宙を舞った隙に再びエンジンブレードのトリガーを引くと、先端にエネルギーがチャージされた。

 

\エンジン!マキシマムドライブ!/

 

アクセルがドーパントにエンジンブレードを向けると、先端からはA字型のエネルギーが放出された。エンジンブレードのマキシマムドライブ・エースラッシャーだ。エースラッシャーを受けたドーパントの身体は地面へ叩きつけられた後、大きく爆発を起こした。

 

「絶望があなたの、ゴールだよ…!」

 

爆煙からは変身を解かれた小雪が飛び出して来た。鞠莉もドーパントが倒されたのを確認し、ドライバーからメモリを抜く。

しかし、アクセルはエンジンブレードを手にしたまま、小雪へと距離を縮めて行く。

 

「待って曜!」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

鞠莉はアクセルを止めようと走り出そうとするが、果南がそれを制した。アクセルも小雪の近くに寄ったところでようやく変身を解き、彼女の細い腕に手錠を填めた。

 

「白瀬小雪、殺人及び殺人未遂容疑により逮捕!あなたのゴールは刑務所だよ」

 

小雪は苦虫を噛み潰したような表情をしつつも、何処か吹っ切れたかのように息を1つ吐きながら立ち上がった。河川敷にはダイヤとルビィが呼んだのか、既にパトカーが到着していた。

 

「これでいいんだよね?月ちゃん、パパ、ママ」

 

「3人もきっと綺麗に終わって良かったと思ってるんじゃないかな。仮に小雪さんをここで殺したとしたら、最終的には自分も後悔する事になったと思うよ」

 

「でもルビィ、家族の為にそこまで真剣になれる曜ちゃんって凄いと思う!」

 

「あなたは自分が思うより、人に対する思いやりや優しさを持っていると私は思いますわ。だから今度はその優しさを、他の人にも向けてあげて下さい」

 

「だね!私は刑事で仮面ライダーだもん、家族だけの希望じゃなくて、みんなの為の正義の味方にならなくちゃ!」

 

「Excellentよ曜!その心構えがあれば、きっとこれからHappyな未来を創っていけるわ!」

 

曜はその言葉に、これまでにないくらいの笑顔を見せた。

 

「姫乃ちゃん、さっきは酷い事言ってごめんなさい。あなたが私の事を思う気持ちに気づいてあげられなかった」

 

「いいの。私も友達でありながら、あなたの悩みに気づく事ができなかった。メモリを手にするのだって防げたかもしれないのに」

 

「今度は私、間違えないようにするね。いつか罪を償って、自分から本当に正しい事を伝えられるように頑張りたいと思う」

 

姫乃はぎこちないながらも、無事に小雪と和解する事ができた。小雪もやり直す決意をした後、パトカーから出て来た海未に連行されて行った。

 

「こっちも解決したみたいだし、良かった…」

 

曜は地面に落ちていた小雪のガイアメモリを拾う。ガイアメモリにはIのイニシャルが描かれており、曜の手の中でエラー音を発しながら砕けた。

 

\アイスエイジ…アイ…ジ…ア…/

 

「アイスエイジ?Wじゃないわ」

 

「やっぱりね。道理で検索しても出てこない訳だよ」

 

「小雪ちゃん!去年の夏、私の両親と従姉妹を殺したのはあなたじゃないの?」

 

「何の話ですか?メモリを手に入れたのは1週間前。昨年は埼玉県警で働いてましたし、私には渡辺警視の家族を殺す動機なんてないですよ」

 

「そうだよね。じゃあ、月ちゃん達を殺した真犯人は別にいるんだ…」

 

果南の言う通り、1年前の凍結事件と今回の凍結事件に関連性は一切なかった。一体誰が月と両親を殺したのか。それが判明するのは、まだまだ先になりそうだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Report(報告書)

 

The consecutive freeze cases told the end. After a performance of Takamaro Ayanokoji ended in Himeno, She was arrested on the charge of criminal concealment. Because I committed the crime that koyuki in particular is cruel, some penalties will be given.

But she seemed to refresh determination to start again again. I wish that I want them to open up the new future facing a crime at hand.

And the name of the true criminal and the Gaia memory which killed a family of You still remains unidentified. About them, I want to investigate it sequentially.

(連続凍結事件は終わりを告げた。姫乃も綾小路たかまろの公演が終わった後、犯人隠匿の容疑で逮捕された。特に小雪は残虐な犯罪を犯したので、それなりの刑罰が下されるだろう。

だが、彼女達は再びやり直す決意を新たにしたそうだ。彼女達には目の前の罪と向き合い、新たな未来を切り開いて欲しいと私は願っている。

そして、曜の家族を殺した真犯人とガイアメモリの名前は未だ不明のままだ。それに関しても、引き続き調査を行なっていきたいと思う)

 

「それで曜さん、あなたこんな所にいてもいいのですか?仕事はないのですか?」

 

「あ〜、全然大丈夫ですよ!今日は早く上がらせて貰ったので!」

 

凍結事件以来、曜は黒澤探偵部の部室にも顔を出すようになった。時々運動部の指導もする(鞠莉から認可済み)らしく、彼女は生徒とも打ち解けるのが早かった。恐ろしいコミュニケーション能力である。

そして勿論、文化系運動部と言われる(?)この部の生徒達も、いつの間にか曜と仲良くなっていた。

 

「失礼しま〜すっ!おぉ!曜ちゃん今日もいた!!」

 

「千歌ちゃん!こんにちヨーソロー!!今日もダンスの練習?」

 

「うん!ねぇ曜ちゃん、難しい所があるんだけど教えてもらってもいいかな?」

 

「千歌ちゃん、警察の仕事で曜ちゃんも疲れてるんだからあまり無茶は…」

 

「大丈夫だよ梨子ちゃん!私、体力には自信あるから!じゃあまずはランニングからいくよ!全速前進、ヨーソロー!!」

 

「ヨーソロー!!」

 

「えっ!?千歌ちゃん、曜ちゃん!!待って〜!!」

 

3人は思い思いの声を上げながら部室から飛び出して行く。鞠莉は手を振りながら、彼女達を見送った。

 

「曜ちゃん、千歌ちゃんと梨子ちゃんとは特に仲が良いよね!」

 

「お二人と歳が同じという事もあるのだと思います。インドアな花丸さんや善子さん、花陽さんとも打ち解けられるといいのですが…」

 

「曜のコミュ力なら大丈夫じゃない?今度歓迎パーティでも開いて交流を深めようよ、楽しみだなぁ♪」

 

「Good ideaね!いつにしましょうか?というかもう曜を正式に浦女の生徒か特別教師として…」

 

「くおぉらぁ!勝手に話を進めないで下さい!!ルビィの歓迎パーティだって準備が大変だったじゃありませんか!!ましてやAqoursのライブをやるとなったらPAや照明、バスケ部、バレー部のスケジュール確認など色々な方との兼ね合いもしなくてはいけないのですよ!?あと鞠莉さん!生徒か特別教師にするとは何ですか!!曜さんは沼津警察の警視ですわよ!?警察をやめろとでも…」

 

「もうダイヤ〜、いつものJokeに決まってるじゃない♪そんな真面目に答えないでよ、そうやっていつもマジレスするから硬度10って呼ばれるのよ〜」

 

「そう呼んでいるのはあなただけでしょうがぁ!!」

 

「あわわわわ!お姉ちゃん落ち着いて〜!!」

 

「あはははは…」

 

今日も変わらず、黒澤探偵部は賑やかである。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜。メイド喫茶『ChunChun(・8・)』では、グレーのサイドテールの少女が店内を清掃していた。ある程度床を拭き終えると、扉が開き1人の女性が来店した。

 

「申し訳ありません、本日は閉店の時間なんですよ…あんじゅさん?」

 

「あら、裏の営業はこれからでしょう?」

 

来店してきたのはあんじゅであった。少女は冗談ですよ、と妖しげに微笑みながらあんじゅを奥の部屋へと案内した。

 

(ツバサは警戒していたけど、この掴みどころのない感じが興味深いのよね。ガイアメモリに取り憑かれた怪物・南ことり…)

 

「じゃあ、始めましょう?あんじゅさん」

 

少女…南ことりはあんじゅを見ながら椅子へと腰掛ける。その手には、銀色のドーパントメモリが握られていた。

刻まれたイニシャルは…日差しと雨、雷と竜巻で描かれたWである。

 

 

 

\ウェザー!/




<次回予告>

ことり「人間を超える力に興味はありませんか?」

曜「私でいいなら、協力させて下さい!」

???「これさえあれば怖いものなんてないんだよ!!」

アクセル「私の新しい力…!」

次回 Gな奴、出現/沼津市大捜査線


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#15 Gな奴、出現/沼津市大捜査線

こちらでは1ヶ月振りとなる更新です。受験がひと段落着いたのでバリバリ書いていきたいと思います。
今回は15話、オリエピです!ドーパントはコンセレ風都にラインナップされているメモリのドーパントが登場します。


「はぁ、はぁ…」

 

男は息を切らしながら走っていた。というのも、彼は日々続く拘置所での労働に耐えかね、脱獄を試みたからである。結果としては容易く出られたものの、脱獄が見つからない確率は限りなくゼロである。厳重な警備体制の整った日本の拘置所から脱獄した場合、どう足掻いてもこれは避けて通れる道ではないからだ。

 

<郷田容疑者の足取りは依然として掴めておらず、警察は都内の警備体制を強化し捜索に当たっています。目撃情報等は以下の連絡先へと…>

 

ネットニュースに目を通すと、自分の名前が大きく報道されているのに気づく。とはいえ静岡にいる事はまだ気づかれていないだろう。何処か潜伏できるような所を探し、男…郷田恭二(ごうたきょうじ)は近くにある少し年季の入った家の庭へと入っていく。

 

「何なんだキミは!?」

 

ふと、庭から中年男性と思しき人の声が聞こえ、郷田は慌てて身を隠す。

しかし、それは彼に向けて放たれた言葉ではなかった。死角から様子を伺うと、侍のような白いドーパントが中年男性へと近づいていた。ここからではよく見えないが、手には何かが握られている。

 

「こんなものを打ち込んで何がしたい!警察呼ぶぞ!」

 

「ふふっ、無理ですよ?あなたはもう、ことりのおやつになってしまいましたから♪」

 

\ビーン!/

 

ドーパントは手に持っていた"何か"の音声を鳴らすと、それを男性の腕に挿し込んだ。男性は緑色に光った後、その場で倒れた。

 

「ん〜、やっぱりダメかぁ…このメモリは私の計画には使えそうにないなぁ…」

 

ドーパントは倒れた男性の真上に雨雲を出現させ、そこから赤い雷を落とした。その落雷により、男性は一瞬にして黒く焦げた肉塊へと変貌する。郷田の口からは思わず息が漏れてしまう。

 

「誰ですか?」

 

ドーパントは肉塊を見つめたまま誰かに問いかける。恐らく自分の事だ、気づかれてしまったと察した彼は慌てて立ち去ろうとする。

しかし後方にはいつの間にかグレーのサイドテールの可愛らしい見た目をした少女が立っており、郷田の腕を掴んでいた。それを振り払おうとするが、彼女の力は見かけによらず強かった。

 

「あれ?あなた、拘置所から脱走中の方じゃないですか。静岡にいるなんてビックリしました」

 

「黙れ!!さっさと離せ、殺すぞ!!」

 

「やだなぁ、別に通報したりしませんからご安心を♪ところで…」

 

「何だ?」

 

「人間を超える力に興味はありませんか?」

 

少女…南ことりは紫色のガイアメモリを郷田へと見せつけるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お、美味しい…!」

 

その頃、黒澤探偵部の部室。ルビィ達がコーヒーの入ったカップを見つめながら驚いていた。これらのコーヒーは曜が淹れた物であり、鞠莉やルビィが淹れるそれとは別格と言ってもいい程の味だった。

ちなみに曜はコーヒーを淹れる以外にも料理を得意としており、オム焼きそば…彼女が言うにはヨキソバが特に上手く作れるらしい。

 

「同じ豆を使ってるはずなのに…ここまで違うのはどうしてなのかしら?」

 

「なんか師匠の淹れてくれたコーヒーを思い出すなぁ…」

 

「果南さん、同感ですわ。私も飲んでみた瞬間、お父様の味に近しいと一番初めに思いました」

 

「お父さんもこんな味のコーヒーを…ピギィ、凄いなぁ…」

 

「え?そんなにかなぁ?でもありがとう!今度ヨキソバも作ってあげるね!」

 

「それじゃあ私はシャイ煮をご馳走しようかしら?小原家のTechniqueやGorgeous Foodsを惜しむ事無く使ったマリーの得意料理よ♪」

 

「何それめっちゃ気になる!楽しみにしていますっ!」

 

曜が笑顔で敬礼をした瞬間、ビートルフォンが着信を告げる。画面には『松城俊』の文字が。曜の勤務する沼津署の上司である。

 

「もしもし松城さん?渡辺です!」

 

『渡辺警視?お休みの所悪いね、緊急事態なんだよ!東京の刑務所を脱獄した郷田恭二ってわかるかい?』

 

「あぁ、今逃走中の犯人ですよね?その人がどうかしましたか?」

 

『実は彼が沼津市内で目撃されたとの通報が入ってね、渡辺警視はドーパント対策課だから担当ではない上に今日は休日だと思うけど、君の実績はうちの署でも突出して優れているから郷田容疑者の確保に協力して欲しいんだ。どうかな?』

 

「勿論ですよ!私でいいなら、協力させて下さい!」

 

松城はその言葉に1つ礼を言うと、通話を終了させた。曜もコーヒーを一気に飲み干すと、その場から立ち上がる。

 

「どうしたの?緊急出動命令でも来た?」

 

「拘置所から脱走してる犯人が沼津にいるかもしれないみたい!協力を頼まれたから行ってくるよ!」

 

「あら、それは大変ね!学校に残ってる生徒も早急にHomeに帰さないと!それが終わったら私も犯人を探すのを手伝うわね♪」

 

「ホント!?ありがとう!助かるよ!」

 

生徒に危険が及ぶ可能性があると考えた鞠莉は部活動の中止及び注意喚起、小原家が各家庭に生徒を送り届けるという旨の放送をすべく生徒会室へと向かった。

 

「お姉ちゃん、果南ちゃん、ルビィ達もできる事をやらなきゃ!」

 

「では、ルビィは私と通学路の巡回へ向かいましょう。果南さんはどうします?」

 

「学校の方には先生がいるし、私も鞠莉に同行するよ。万が一の時は状況に応じてファングジョーカーにも変身できるようにしたいからね」

 

「みんなやる事は決まったみたいだね。それじゃあ犯人逮捕に向けて、全速前進、ヨーソロー!」

 

曜の言葉を合図に、全員が探偵部の部室から飛び出した。

 

 

 

その頃、ツバサとあんじゅ、理亞も既にそのニュースを目にしていた。

聖良は現在仕事で外出しており、屋敷にはいない。

 

<ここで速報です。東京拘置所から脱走中の郷田恭二容疑者が、沼津市内で目撃されたとの通報があり、警察が捜索に…>

 

「あら、市内も今頃騒がしいでしょうね」

 

「今日は姉様が仕事…大丈夫かな」

 

「心配しないで理亞さん、聖良さんには連絡を入れておいたから。あと、ことりさんからこの男と接触したと連絡が入ったわ。ガイアメモリをプレゼントしたそうよ」

 

またことりか、理亞はそう思った。あんじゅは夜の遅い時間によく外出をする事が増えた為、ことりの所へと足を運んでいるのだろうと彼女達は気づいていた。それにもかかわらず、当のツバサは黙認している。あんじゅが自身のやるべき事を遂行しているのだと考えているのだろうか。

一方、鹿角姉妹はことりに得体の知れない不気味さのようなものを感じていた。初めて会合した時からあまり良い印象はなく、むしろあんじゅが彼女に会いに行く度に2人は嫌悪感を抱いているくらいだった。

 

「私、あの人ちょっと苦手かも。口を開けばいつもガイアメモリの事ばかりだし」

 

「執着心が強いのでしょうね。マイペースな割にとんでもない子ね」

 

「まぁ、だからこそ利用する価値があると私は思うけど?計画を上手く進める為の良い手駒になるんじゃないかしら」

 

それもそうね、とツバサは何処か満足そうに微笑んだ後、テレビに再び視線を戻す。あんじゅは髪を触りながらその表情を伺い、席から立ち上がった。

 

「何処へ行くの?」

 

「面白そうだから市内へ行こうと思って。郷田恭二がどんなドーパントになるのかも気になるし」

 

「そう。行ってらっしゃい」

 

あんじゅは少し嬉々とした様子で部屋から出て行った。彼女を心配した理亞は、ツバサにそっと声をかける。

 

「ツバサさん、いいんですか?あんじゅさん、最近ずっとあんな感じですけど…」

 

「私達の計画を進めようとしているのなら特に言う事はないわ。ただ、以前も言った通りことりさんは少し危険な子だから、あんじゅの身の安全を保証できるとは言えないけど」

 

ツバサの返答は思ったよりもドライなものであった。それともあまり関心がないのだろうか、顔からは本心が全く読み取れない。彼女の内面に触れる事は禁じられた行為である気がしたので、理亞もそれ以上の詮索はせずテレビの画面へ向き直るのだった。

 

 

 

「よーし、それじゃあ張り切っていきますか!」

 

「えぇ!…そういえば海未は?さっきからパトカーを多く見るけど、海未からは連絡がないわね」

 

「鞠莉、園田刑事はドーパント対策課に異動になったじゃん。今回は逃走犯の確保が目的だからいないと思うよ」

 

「あ、そうね!海未の部署が異動になったの、未だに慣れないわ」

 

鞠莉はてへぺろ、と言いながら舌を出し、果南はそれを呆れながら見つめていた。

一方の曜は少し警戒した様子を見せている。市内には郷田が沼津にいる事を知らない人間もいる為、何が起きるかはわからない。

 

「曜、もしかしてちょっと緊張してる?」

 

「そりゃあね。逃走犯の確保はまだあまり経験がないってのもあるけど、静岡だと一番危惧しなきゃいけない物があるじゃん」

 

「ガイアメモリか…幹部から直接手に入れる事も不可能ではないもんね。三日ちゃんがそうだったように」

 

実際その被害者である六月三日もあんじゅからメモリを渡され、彼女を含めた中学生数人がそれを使って暴走した事もあったくらいだ。改造が施されていないにしても、郷田がメモリを持っている可能性がゼロとは言い切れない。

 

「そうなる前に、私達が全力を尽くして郷田恭二を確保しなくちゃ。警察と探偵だけでなく、仮面ライダーという肩書きもあるし」

 

「You're right. それじゃあ、私と果南は別の場所を探しに行ってみるわ。何かあったら連絡をお願いね」

 

「了解であります!」

 

鞠莉と果南、曜はそこで一旦別れ郷田の捜索を開始した。

 

「えっと、とりあえず何処へ逃げても確保できるように街と街の境目の警備を厳重にして…」

 

犯人はいつ、どのようなルートを通って逃げるのかはわからない。

郷田は沼津市内で目撃情報があったと報道された。このような状況に置かれた時、大体の犯人は一刻も早く捕まってしまうのを防ぐべく街から出るという行動に出る。曜はそれを見越した上で、まずは街と街の境を重点的に警備するという手段に出たのだ。

 

「あ、でもなぁ…歩いて市内を出るのは厳しいか。車がある訳じゃないし、電車とかは捕まる可能性が高まるから乗り物は使わないだろうしなぁ。そうなるとここら辺の警備を厳重にした方がいいかな…でも万が一逃亡を手伝う仲間がいたらそいつらの車に乗せてもらえば逃げられるし、どうしたらいいんだろう…」

 

交通機関を利用し逃走するという事は金銭面でも厳しく、目撃情報を作ってしまう等逮捕される原因にも成りうるので、足を使っての逃走になるはずだ。その分市から抜けるのは困難になる代わり、市内での確保は容易になる。しかしもし協力者がいる場合はそうはいかない。その点での判断がどうしても迷いどころとなってしまっている。

 

「ん〜、とりあえず外側が多めになるようバランス良く分けようかな?市内は鞠莉ちゃん達も探してくれているし、これで問題ないよね」

 

結果、曜は外側に重点を置いて探すよう依頼する事にした。内側にもある程度の数の警察を配備するようにしたが、鞠莉達もいる為外側に比べては少なめだ。

 

 

 

一方曜のいる地点から離れた場所では、彼女の上司である松城が付近の捜索に当たっていた。ショッピングセンターの周辺には警官が数人配備されている。

そんな彼らを路地裏から見つめる2人の影が。ことりと郷田だ。

 

「本当に行っていいのかよ?あんなに警察がいたら確実に捕まるぞ」

 

「まだガイアメモリの力を疑っているんですか?何度も言いますけど、それは神の小箱です。人間を遥かに超える力は強大に秘められているから大丈夫ですよ〜」

 

「ふん、そんな言い方されると余計信用に欠けるな。勝手に通報までしやがって」

 

実は郷田を目撃した事を警察に通報したのはことりであった。彼女曰く、ガイアメモリがある限り警察など虫と同じとの事。

しかしことりは今年で17歳、一般的には高校生である少女が麻薬に近しい物に秀でて詳しいというのも奇妙な事である。こっちは捕まるか捕まらないかの瀬戸際に立たされているというのに、何とも呑気だ。郷田の中にはそのような不信感や苛立ちが存在し、ピークに達しようとしていた。

 

「はぁ…これでも私はガイアメモリの事を研究し尽くしているんです。信頼して下さい」

 

まるで心情を見透かしたかのように、ことりは目を細めてそう言う。掴み所はないが、それでも彼女にかなりの知識や戦闘力がある事は間違いないだろう。自分にそう言い聞かせながら、郷田は立ち上がる。

 

「…分かったよ、素直に使ってみりゃいいんだろ?」

 

「それでいいんですよ、健闘をお祈りしていますね♪」

 

ことりは再び微笑むと、路地裏の奥へと消えて行った。郷田も意を決し、堂々と通りへと歩み出た。

 

「松城警部、容疑者を発見しました!」

 

「本当か?よし、早急に確保しろ!」

 

その言葉と同時に、周囲を巡回していた警官が一斉に向かってくる。だが逃げる必要などない。郷田は囚人服のボタンを1つ開け、首元に打ち込まれたコネクタをさらけ出した。

 

「これさえあれば怖いものなんてないんだよ!!」

 

\ジャイアント!/

 

そしてジャイアントメモリを起動させ、そこへ挿し込む。郷田は地球の記憶を取り込んだ事で巨大化し、ジャイアント・ドーパントへと変貌した。

 

「ドーパントだと…!?」

 

「オォォォッ!!」

 

ジャイアントは近くの建物を破壊し、警官の道筋を塞ぐ。

 

「果南、あれ!」

 

「巨大なドーパントか…郷田恭二じゃないよね?」

 

「とにかく止めないと!行きましょう!」

 

「待って、アイツにはファングで対抗する方がいいかもしれない。ファング来て!」

 

果南はファングを呼び出す。その声に反応し、白い恐竜のガジェットが彼女の左手に収まった。

鞠莉もダブルドライバーを装着し、右手にジョーカーメモリを構える。

 

\ファング!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

\ファング!ジョーカー!/

 

果南の身体は風に包まれ、白と黒のWに姿を変えた。Wは抜け殻となった鞠莉の身体をハードボイルダーと共に車の影に隠した後、ジャイアントの方へ走って行った。

松城の頭上にはジャイアントが破壊した建物の瓦礫が迫っていた。Wはファングの角を2回押してショルダーファングを出現させると高く跳躍し、左手でそれを破壊しつつショルダーファングをジャイアントへ投げつける。

 

「仮面ライダー!」

 

『無事でよかったデース!早く逃げて!』

 

「何だお前らは!?」

 

「仮面ライダーW、2人で1人の探偵だよ。あなたは郷田恭二、でいいのかなん?」

 

「あぁ、俺は自由になりたいんだ!その為なら誰であろうと邪魔はさせねぇ!」

 

『ガイアメモリまで手にするなんて随分とDrop outしたものね!これ以上好きにはさせないわよ!』

 

「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

 

ジャイアントはショルダーファングを叩き落とし、巨大な腕でWを潰そうと試みる。その剛腕により地面は僅かに揺れ、大きくヒビが入った。

 

「こりゃあなかなか強敵だね。さっさと終わらせないと」

 

\アームファング!/

 

Wはジャイアントの攻撃を躱しながらアームファングを出現させ、右腕を切り裂く。ジャイアントも素早く動き回る様子を見ながら隙ができるのを待ち、左手を伸ばすとその手の中に彼女達を捕らえた。

 

「死ねッ!!」

 

ジャイアントはWを握り潰し、そのまま高くから叩き落とす。そのダメージで変身は解かれ、果南の姿に戻ってしまった。

 

「果南!大丈夫!?」

 

「何とか…でも完全に逃げられたよ…」

 

気づけばそこにジャイアントの姿はなかった。郷田もドーパント体から元に戻った後、逃走してしまったのだろう。

 

「ごめん、マキシマムドライブさえ使ってればメモリブレイクできたのに…」

 

「けど簡単にはいかないでしょうね。次はDefenseにも特化したメタルを使った方がいいわ。やっぱりBigなドーパントにはヒートメタルとハードタービュラーの組み合わせが効果的だと思うの」

 

鞠莉がそう考えるのには理由がある。以前、ティーレックス・ドーパントとの戦闘経験があったからだ。ファングの力を手にする前、巨大化したティーレックスに対しヒートメタルとハードタービュラーを組み合わせた戦法で勝つ事ができた為、今回もそれと同様のパターンでいけばメモリブレイクが容易になるだろう。果南もそれに賛同した。

 

「その前に郷田恭二を見つけないと。問題はそこからだよ」

 

鞠莉と果南はハードボイルダーに乗り、再び郷田の捜索へと向かうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「この辺りにはいないかぁ…もう市内から離れてるのかな」

 

鞠莉達が郷田を逃がしてしまってから数分後。曜の方も特に進展はなく、捜索は難航していた。しかし、松城や鞠莉からの連絡により彼がガイアメモリを持っている事、どんな記憶を内包したメモリなのかという事が判明していたので、曜にとってはそれを知れただけでも大きな事であった。

 

「けど困ったなぁ、鞠莉ちゃんと果南ちゃんみたいにメモリを何本も持ってる訳じゃないから対応できるかどうか…」

 

曜の所持するメモリはアクセルだけであり、フォームチェンジ用を持ち合わせていないのがどうしてもネックとなる。ギジメモリも含めればエンジンも存在するが、正直対抗できるかといえば何ともいえない状況であった。ましてや先日仮面ライダーの力を手にしたばかりなので、巨大なドーパントとの戦闘経験など皆無である。

そんなプレッシャーに苛まれていたその時、ビートルフォンがダイヤからの着信を告げた。

 

「もしもし、ダイヤさん?」

 

『もしもし、曜さん?郷田容疑者の足取りは掴めましたか?』

 

「ガイアメモリを持っている事だけはわかったんだけど、対策が見つからなくて困ってるんだよね。足取りも不明のままだし…」

 

『そうですよね、鞠莉さんから連絡が来たのも先程ですから無理もありませんわ。何より、今回のドーパントは巨人の記憶を持つ厄介なメモリですもの。私はスカルしか持っていない上に戦闘経験も少ないので尚更ですわ』

 

「でもそれを言い訳にしちゃいけないよね。みんなが笑顔で過ごせるようにやるべき事はやらないと」

 

『その通りですわ。もし戦闘経験の少ない私達が郷田容疑者に会ったとしても、その時は全力で止めましょう』

 

「だね…なんて、噂をすれば私の近くにそれっぽい人が来たよ」

 

数メートル離れた先には辺りを見回す郷田の姿が。このまま逃がす訳にはいかない。その使命感と共に曜はゆっくりと近づく。

 

「あら、どうやら通話している場合ではなさそうですわね。無事を祈っています」

 

ダイヤとの通信が途切れたのを確認し、歩くスピードを少しずつ上げる。そして郷田の前に立ち塞がった後、警察手帳を彼の目前に突き出した。

 

「郷田恭二容疑者、だよね?あなたを逮捕しに来たよ。メモリを捨てて大人しく投降して下さい」

 

「断る、と言ったら?」

 

「それがあなたの答えか…なら力づくでも逮捕するまでだよ!」

 

\ジャイアント!/

\アクセル!/

 

「変…身っ!!」

 

曜はアクセルドライバーにアクセルメモリを挿し込み、グリップを捻った。郷田も首のコネクタにジャイアントメモリを挿し、ジャイアント・ドーパントに姿を変えた。

 

「警察も仮面ライダーだったのか、めんどくせぇ奴等だ」

 

「それはあなたもね。さてと…全速前進、振り切るとしますか!!」

 

アクセルはエンジンブレードを構え、ジャイアントの元へ駆けて行く。ジャイアントも巨大な拳を振りかざし、アクセルをなぎ払おうとする。

その風圧で彼女は一瞬よろめくが、すぐに体制を立て直す。しかし、既に剛腕は頭上数センチに迫っていた。

 

「っ!?」

 

その時、ジャイアントの腕に火炎弾が撃ち込まれた。空にはハードタービュラーに乗り、バットショットの付いたトリガーマグナムを持つW・ヒートトリガーの姿が。

 

「鞠莉ちゃん!」

 

「残念でした!曜は簡単にやらせないわよ!」

 

『デカいから何処にいるのかバレバレだよ、それとも自首する気にでもなった?』

 

「フン、違うな!俺は自由になるんだ!警察だろうと仮面ライダーだろうと全て潰してやる!!」

 

「言ってくれるじゃない!それならこれを受けてみなさい!」\メタル!/

 

\ヒート!メタル!/

 

Wは赤と銀に変わり、ドライバーから引き抜いたメタルメモリをメタルシャフトへと装填する。

 

\メタル!マキシマムドライブ!/

 

「「メタルブランディング!!」」

 

鞠莉と果南は声を合わせ、炎を纏ったメタルシャフトを手にジャイアントへと飛んで行く。

 

「そんなもん効くと思うか!!」

 

ジャイアントは高くから拳を振り下ろし、Wを撃墜させてしまった。唯一の対抗策と言われていたヒートメタルも、最早ジャイアントの敵ではなかった。

 

『ダメか…!あの腕が厄介だなぁ』

 

同時に果南はメモリブレイクに失敗した原因に気づく。ティーレックスとジャイアントには腕の有無という決定的な違いがあったからだ。

 

「確かに、考えてみればティーレックスをブレイクできたのはAttack Patternが頭を打ちつけるぐらいしかなかったからかもしれないわね。頭だと可動域も小さいけど、腕はそうじゃないから簡単にはいかなそうね。遠距離なら何とかなりそうだけど…」

 

「遠距離…鞠莉ちゃん、トリガーに戻してみたら?それなら…!」

 

『いや、ヒートトリガーのマキシマムだとあの腕でガードされる可能性も考えられるかも。ここはルナトリガーにしよう、他にデカいドーパントだとアノマロカリスもそれで倒したから』

 

「OK!それじゃあルナトリガーで行きましょう!」

 

鞠莉がドライバーに手をかけた瞬間、目の前に何かが現れジャイアントの巨体を吹き飛ばした。

 

「何?果南、リボルギャリー呼んだの?」

 

『私は知らないけど…』

 

「じゃあ一体…」

 

3人がジャイアントを吹き飛ばしたマシンの方を見ると、そこにはリボルギャリーとはまた違った濃い青と黒のマシンがあった。

 

「これ、もしかして…!」

 

同時にアクセルは不思議な気配を感じ、後ろを向く。その視線の先には赤のロングコートと帽子を着用し、黒のサングラスをかけた茶髪の女性・ディライトが。

 

「誰なの?」

 

「ディライトだよ。私にドライバーとメモリ、エンジンブレードを提供してくれた人」

 

『ディライト…前に曜が言ってたね』

 

ディライトは青のマシンを指差す。その動きには、これは彼女が作った物であるという事が示されていた。

 

「私の新しい力…!よし、やってみよう!」

 

「どうやら出番を取られたみたいね」

 

『ま、郷田恭二が捕まるんじゃ何でもいいよ。ここは曜に譲ろう』

 

アクセルはバイクフォームへと変形し、青のマシン…ガンナーAと合体しアクセルガンナーになった。

 

「全速前進!ヨーソロー!!」

 

アクセルガンナーはゆっくりと起き上がったジャイアントに向け、走り出す。ガンナーAの砲台からは弾が放たれ、再びジャイアントを吹き飛ばしたのだった。

 

「威力も十分…このまま振り切るよ!」

 

アクセルの目が青く発光したのと同時に、ガンナーAの砲台が開く。それによりエネルギーがチャージされ、ジャイアントへと強力な必殺のビーム砲が浴びせられた。ジャイアントは大きく爆発を起こし、完全に撃破されたのだった。

 

「やったわ!」

 

煙が晴れ、中からは元の姿に戻った郷田の姿が現れる。同時にジャイアントメモリは地面に落ち、砕け散った。

 

「郷田恭二、逃走未遂罪及びガイアメモリ所持罪により逮捕します!色々と聞かせてもらうよ」

 

変身を解いた曜は手錠を持ち、膝から崩れ落ちた郷田へと近づく。

 

「曜、危ない!!」

 

\ルナ!ジョーカー!/

 

すると突如鞠莉が叫び、腕を伸ばして曜を郷田から遠ざけた。その瞬間、いつの間にか現れていた雲から赤の雷が落ち、郷田を焼き尽くした。先程まで自分がいた場所はその雷により黒く焦げ、郷田は一瞬にしてヒトの原型をとどめていないものへと変化した。

 

「今のって…」

 

「ごめんなさい、曜が限界だったわ…」

 

『秘密保持?となると郷田恭二は幹部から直接メモリを渡されたんだ…』

 

鞠莉達は肉塊に成り果てた郷田の姿を見て、その場で呆然と立ち尽くしている他なかった。

そして近くのビルの屋上からは、あんじゅと白のドーパントが3人の姿を眺めている。

 

「これで良かったんですか?」

 

「良かったのかって…あなたの正体とメモリを渡した事、最悪組織の存在がバレてしまうじゃない」

 

「ふふっ、それもそうですね」

 

白のドーパントは右耳に手を近づけてメモリを抜く。ドーパント体から元の姿に戻ると、メイド服を着た少女が現れた。そのドーパントの変身者はことりであり、彼女は不気味な笑みを浮かべるのだった。

 

「仮面ライダー…面白い子達だなぁ♪いずれことりのおやつにしてあげるから、覚悟して下さいね?」




<次回予告>

千歌「スクコレ静岡の公式サイト見て!!」

ダイヤ「正直下手、ですわね…」

果南「ドームの道化師?」

曜「これ以上変な噂を流すのはやめてもらえないかな?」

次回 嘘つきなL/AI企業と謎の道化師






???「いやそれ児○だよ!!」

???「秘書がいる!それは社長として成功する為の"必勝"法〜!」

???「今のは、秘書と必ず勝つという意味の必勝を掛けた大変面白い…」


そして彼らはまさか…!?
次回を楽しみにし〜ないと!!


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#16 嘘つきなL/AI企業と謎の道化師

以前からちょくちょく書いていたので早くも16話投稿しました。1話完結の予定でしたが、思いの外文章量が多かったので2話に分ける事にしました。
それに伴い、前話の予告を少し訂正しておきました。ちなみに前話最後に予告したスペシャルゲストは今回から登場しています。


「どんな未来かは 誰もまだ知らない

でも楽しくなるはずだよ」

 

「その曲、Aqoursの新曲でしたっけ?」

 

「Yes!!私も行きたかったわ、『静岡SCHOOL IDOL COLLECTION』に」

 

「ルビィもだよ〜、千歌ちゃんと梨子ちゃんが出るイベントだったのに…」

 

「気持ちはわかりますが、私達はいつ依頼が来てもいいように待たなければなりませんわ。チケットも取れなかったですし、探偵業に専念しろという事かもしれませんね…」

 

先日から夏休みに入った浦の星女学院。しかし黒澤探偵部に休みはない。

毎日依頼が来る事はほぼないものの、その少ない依頼こそが貴重なものであるからだ。

 

「そういえばもうThree o'clockね、イベントも終わりそうな時間帯だけど…」

 

「「失礼します!!」」

 

鞠莉が呟くのと同時に、探偵部のドアが開く。入って来たのは千歌と梨子であったが、2人は何故か機嫌が悪そうであった。

 

「あら、千歌さんに梨子さん。スクコレお疲れ様です」

 

「それどころじゃないんだよぉ!!鞠莉ちゃん、スクコレ静岡の公式サイト見て!!」

 

「2人共どうしたの?そんなにAngryしちゃって」

 

鞠莉はパソコンを起動させ、スクコレ静岡のサイトを開く。そこには各グループの順位表が更新されており、Aqoursは2位という結果だった。十分に良い結果の筈だが、何か問題でもあるのだろうか。

 

「2位って凄い!!千歌ちゃん、梨子ちゃん、おめで…」

 

「違うのよルビィちゃん!!私達の順位は関係ないの!!」

 

「ピギィ!?ど、どういう事?」

 

「だ〜か〜ら!!お二人共何をそんなに怒ってますの!?ハッキリして下さい!!」

 

説明をしようとしない千歌達に痺れを切らしたダイヤは2人を一喝した。それにより、ようやく梨子は我に返った。

 

「そ、そうよね。ちゃんと説明しなきゃわからないよね」

 

「ごめんなさい、ついつい気が動転してたよ…えっと、そのランキング1位の『Lalala Lovers』ってグループがどうして1位なのかわからなくて…」

 

「それは彼女達のPerformanceがあなた達より優れていたからじゃないの?」

 

「YouTubeでそのグループ名を検索してみればわかると思うの。多分、スクールアイドルの中では最もパフォーマンスが下手なんじゃないかと…」

 

鞠莉はYouTubeにアップされた『Lalala Lovers』というスクールアイドルのライブ映像を再生した。1位のパフォーマンスだから下手という事はないだろうと思っていたが、その予想はことごとく裏切られる事となった。

彼女達の目に飛び込んで来たのは、確かに上手いとは言えないパフォーマンスであった。歌は音程が取れておらず、ダンスも曲とリズムがズレている。素人が見ても明らかに下手だとわかるものだった。コメント欄も『これは酷い』等の内容が大半であった。

 

「えっと…正直下手、ですわね…」

 

「うん、なんでこれで1位になれたんだろう…?」

 

「会場も批判の声が凄かったんだよ。しかも審査にはあの有名なアイドル型AIのアイニャさん、スワワさん、アリシャさんが参加してるのに」

 

「えぇ!?そうなの!?」

 

「思った以上に凄いイベントですのね…」

 

「AIね…もしかしたら不正プログラムが仕込まれてるんじゃないかなん?」

 

「Wao!!果南いつの間に!」

 

いつの間に部室に入って来たのか、そこにはパソコンを覗き込む果南がいた。

 

「もしかしたら、このグループを応援する人がアイニャさん達にLalala Loversを1位にするように仕組んだのかも。それは彼女達を造った会社しかできない筈だし」

 

「それなら『アイドル型AI 製造会社』で検索…なるほどね、どうやらアイニャ達を造ったのは『飛電インテリジェンス』という企業みたいよ」

 

「飛電インテリジェンスって…確か、スクコレ静岡もその会社が運営してたよね?」

 

「おや、これは怪しい匂いがプンプンと…?」

 

不正プログラムが仕込まれていたと仮定すると、そのような所業ができるのは製造元だけだ。アイドル型AIは飛電インテリジェンスによって開発された為、疑わしいのはどう考えてもその会社である。

 

「そうと決まれば、運営委員に話を聞く必要がありそうね。今から向かいましょう!」

 

「お願い!多分会場の片付けはまだ終わってないと思うよ!」

 

「OK, 飛電インテリジェンスの不正は私達が暴いてみせるわ!!」

 

鞠莉と果南、黒澤姉妹は部室を飛び出した。

 

 

 

数分後、鞠莉達はスクコレ静岡の会場である狩野ドームに到着する。入口には、どこか目つきの悪いスーツの中年男性が立っていた。

 

「何なんだ、君達は?もうイベントは終わっていますけど」

 

「あなたはアン○ャッシュの大嶋さん!?何故こんな所に!?」

 

「いやそれ児○だよ!!しかも私は○嶋じゃなくて福添だ!!」

 

「まぁまぁ落ち着いて下さいよマスゾエさん、私達は黒澤探偵部です。名前の通り、この街の探偵です」

 

「だから福添だよ!!で、探偵が何の用ですか」

 

「イベントの運営委員に話が聞きたいの。このイベントに不正疑惑があるみたいで」

 

「あぁ、なんか騒いでたなぁ…ったく、これも全部あの社長がこんなイベントを企画するからだよ…」

 

福添は『絶対辞めさせてやる』と呟いた後、イベントを企画した社長が中にいる事を鞠莉達に教えた。

 

「ありがとうございます、マキゾエさん!」

 

「いやだから福添だよ!!わざと言ってんだろ!?」

 

福添のツッコミをスルーし、鞠莉達はドームの中へと入る。中には赤のパーカーの上にジャケットを羽織った青年がいた。鞠莉は運営者である社長の行方を尋ねるべく、彼に話しかける。

 

「ちょっといいかしら?飛電インテリジェンスの社長さんに用があるんだけど…」

 

「え、俺の事?」

 

「俺の事って…あなたが社長ですの?」

 

「はい!僕が社長の飛電或人です!」

 

なんと目の前の青年…飛電或人が社長本人だった。彼は童顔である為か、鞠莉達とはあまり年齢が変わらないように見える。

そして、隣には青みがかった目の女性がいる。社長秘書なのだろうか。

 

「初めまして。社長秘書のイズと申します」

 

「ど、どうも…」

 

イズの動きは何処か機械的だ。まさか、彼女もAIなのだろうか。ルビィは或人にその疑問を投げかける。

 

「あの、イズさんってもしかして…」

 

「そう、イズも秘書型のヒューマギアなんだ。イズがいるから、俺も安心して仕事ができるんだよね」

 

そこで何故か或人は大きく目を見開き、声を張り上げた。

 

「秘書がいる!それは社長として成功する為の"必勝"法〜!はいっ!!アルトじゃ〜ないとッ!!」

 

「「「………」」」

 

果南達は驚きと寒気を隠せなかった。

鞠莉だけはクスクスと笑っているが。

 

「今のは、秘書と必ず勝つという意味の必勝を掛けた大変面白い…」

 

「あぁぁ説明しなくていいからぁぁぁ!!」

 

「あの、そんな事よりも今回のイベントについて聞きたい事があるのですが…鞠莉さんもいつまで笑ってますの?」

 

「Oh,Sorry. 私達が聞きたいのはアイドル型AIのアイニャ、スワワ、アリシャについてよ。これらはあなたの会社で造られたAIでしょう?」

 

「そうだけど、あなた達は誰なんですか?」

 

「私達はこの街の探偵よ。AIならHumanよりも正確な審査ができる筈だけど、何故Performanceが下手なグループが1位になったのかを知りたいの。もしかして、あなたが不正Programを仕込んだんじゃ…?」

 

「我が社のアイドル型ヒューマギアのプログラムについて、特にそのようなものは確認できません」

 

AIの言う事なら正確だ、彼女が言うならその通りだとも言える筈がなかった。そこでダイヤが更なる疑念を持ち始めたからだ。

 

「その情報は本当ですの?あなた、秘書がAIなのをいい事に彼女にも不正プログラムを仕込んでいるのでは?」

 

「いやいや!俺は不正プログラムの仕込み方なんて知らないって!!ヒューマギアがどんな仕組みなのかもわからないし!!」

 

「社長でありながらAIの仕組みを知らないとはどういう事ですか!!そんな苦し紛れな言い訳が通じると思ってますの!?」

 

「お、お姉ちゃん!また暴走してるよぉ!」

 

ルビィは或人に掴みかかろうとするダイヤを慌てて止める。同時にイズが何かを思い出したかのように、或人に話しかけた。

 

「或人社長、そろそろ緊急会議の時間です。移動の準備を」

 

「あ、もうそんな時間?ゴメン、俺忙しいからもう行くよ!」

 

「ちょ、お待ちなさい!!」

 

或人とイズは鞠莉達の横を急ぎ足ですり抜けながら去って行く。どうも怪しさは拭えない。

 

「怪しいねぇ…明らかにあれは何かを隠蔽しようとしているよ」

 

「ルビィもそう思う…社長なのにAIの仕組みを知らないなんて変だもん」

 

「そもそも何故あんな若い方が社長ですの!?教養が成っていませんわ!!」

 

「ん〜…彼、そんなに怪しいかしら?」

 

果南と黒澤姉妹が或人を疑う一方、鞠莉だけは彼が本当に不正を働いたのかむしろそちらの方が疑わしかった。

 

「よく知らないけど、ヒューマギア?の開発は開発部がしているんじゃない?仕組みを知らない社長が直々にやるなんて事ある?」

 

「そうだけど、指示した可能性もあるよ?」

 

「それもないと思うわ。そもそもAIの事を知らない人間が不正Programを仕込もうなんて発想に至るかしら?仮にLalala Loversを応援しているとしても、そこまでは考えないでしょう」

 

そこで果南達も考え込んだ。鞠莉の考察にも一理あるからだ。

 

「あれ?鞠莉ちゃん達だ。何してるの?」

 

ふと、前から曜が現れ鞠莉達に話しかけて来た。この時間は警察の仕事をしている筈だが、何かあったのだろうか。

 

「このイベントで不正疑惑があって、それについて調査してるんだ。曜は?」

 

「私は『ドームの道化師』の噂についての調査だよ。聞いた事ない?」

 

「ドームの道化師?」

 

「ここでスクールアイドルのイベントがある度に出没する謎の存在らしいよ。今回も歪な姿をした怪人を見たって通報があったけど、特に被害もなくて動けないから私が個人的に調査する事にしたんだ」

 

「怪しい人影?まさかドーパントとか?」

 

「目撃者の証言によると、顔に針みたいなのが生えてたらしいし可能性はあるよ」

 

「ドゥームの道化師ねぇ…もしそれがドーパントだった場合、不正疑惑と関係があるのかしら?」

 

「とりあえず、一旦部室に戻らない?今あるキーワードで検索してみようよ」

 

「そうですわね、少なくともわかる事はあるかもしれませんし」

 

「私ももう少しだけ調べてみるよ。有力な情報があったら連絡するね!」

 

鞠莉達は浦の星女学院へ戻り、曜は狩野ドームの調査を再開しようとしたその時…

 

「キャアアッ!?」

 

何処からか女性のものと思われる悲鳴が曜の耳に飛び込んできた。角を曲がると、そこには座り込んでいる女性が。

 

「どうかしましたか?」

 

「今そこを不気味な姿の化け物が横切っていたんです…!」

 

「不気味な姿の化け物…まさかドームの道化師?とりあえず、ここから避難して下さい!私がそいつの正体を暴いてみせます!」

 

曜は万が一に備えて女性を逃がす。女性の姿が見えなくなったのと同時にアクセルドライバーを装着し、彼女が見た化け物が何者かを突き止めるべく動き出した。

 

「あれは…!」

 

化け物の通ったと思われる方向へ進むと、前方の数メートル離れた所にはドーパントらしき怪人がいた。あれがここに出没すると噂されているドームの道化師なのだろうか。

 

「逃がさないよ!変…身っ!!」

 

\アクセル!/

 

曜はアクセルに変身、すぐさまバイクフォームに変形し怪人を追いかけた。あまり距離がなかった為か、たった3秒程でその怪人に追いつきそのまま突撃した。

 

「何だ!?滅亡迅雷.netか!?」

 

「滅亡…?なんの事かさっぱりだけど、これ以上変な噂を流すのはやめてもらえないかな?」

 

「こんな所で捕まってたまるか!」

 

怪人の顔にはピノキオを彷彿とさせる長い鼻、身体中には拷問器具や針のような意匠が見られた。何のメモリのドーパントなのかは想像もつかない。

だがそんな事は二の次だ。アクセルは襲いかかって来るドーパントに対しエンジンブレードで応戦した。ドーパントはこれといった武器や能力を持ち合わせていなかった為か、今まで戦った事のあるアイスエイジやジャイアントと比べても遥かに戦闘力が劣っていた。

 

「これで終わりだよ!観念しなさい!」

 

\エンジン!マキシマムドライブ!/

 

アクセルはエンジンブレードのトリガーを引き、Aの文字を描くようにドーパントを切り裂いた。

 

「まずい…『私のメモリが、バラバラに!』」

 

ドーパントは最後の足掻きとでも言うかのように口から針を飛ばす。針はアクセルに刺さったが、特にダメージが入るような攻撃ではなかった。結局、ドーパントはまともに戦う事なく爆散、アクセルの前に敗れたのだった。

 

「よし、メモリを回収して使用者は…っていない!?逃げられちゃったかぁ…」

 

何故かドーパントの変身者はそこにおらず、破損したメモリのみが落ちていた。変身を解いた曜はそれを袋の中に回収し狩野ドームをあとにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「最初のキーワードは『飛電或人』『ドームの道化師』」

 

一方、リボルギャリーの格納庫では果南が地球の本棚に入り飛電インテリジェンスとドームの道化師の関連性について検索を行なっていた。2つのキーワードを入力するが、該当する本はなく周りから全ての本棚が遠ざかってしまった。

 

「ありゃ?ダメか、データがない。じゃあ『飛電或人』のみで検索」

 

『Aruto Hiden』の文字が目の前に浮かび上がり、続けて蛍光イエローの本が現れる。果南はそれを粗方読んだ後、地球の本棚から出てダイヤとルビィに内容を報告した。

 

「飛電或人、生年月日は1997年5月1日。飛電インテリジェンス創業者・飛電是之助の実孫であり、売れないピン芸人アルトとして遊園地で活動していた。現在は祖父の指名により飛電インテリジェンス2代目社長に就任、AIテクノロジーについては勉強中である…との事だよ」

 

「なるほど…AIについて知らないというのはどうやら嘘ではなさそうですわね」

 

「じゃあ、鞠莉ちゃんの言う通り社長さんは白の可能性が高いかもしれないね」

 

「あ、やっぱりここにいたんだ」

 

果南達が話していると、格納庫に曜が入ってくる。

 

「曜さん、ドームの道化師について何か掴めたのですか?」

 

「ドームの道化師はやっぱりドーパントだったよ。もうメモリブレイクも済んでる。まぁ犯人には逃げられちゃったんだけどね…」

 

「そいつが不正審査と何か関係してるかもね。あとはメモリ名を特定し、犯人を逮捕する事だね」

 

「うん。ちなみに、ブレイクしたメモリはこれだよ」

 

曜は先程回収したメモリを果南達に見せるのだが…

 

「…あの、曜さん?私達をからかってます?」

 

「それ、どう見てもガイアメモリじゃないと思う…」

 

どういう事か。疑問に思った曜は袋の中を確認すると、その中には破損したガイアメモリではなく、何故か2つに割れた水ようかんの箱が入っていた。

 

「えっ!?なんでこんなのが…メモリは!?」

 

「いやそれはこっちのセリフですわ!!」

 

ズボンのポケットの中身を探るもメモリは見つからない。確かにメモリはこの手で袋の中に入れた筈だ。

 

「なるほどね。曜、何かそのドーパントとの戦いで気になった事とかない?」

 

「えっと…そういえばメモリブレイクする直前に針みたいな攻撃を受けたような?全く痛みとかは感じなかったんだけど…」

 

「針かぁ…もしかしたらそれが奴の能力かもしれない。幻術かなんかを使うメモリのドーパントだろうね」

 

「となると、ドーパントはまだ倒せていないという事ですか?」

 

「そ、つまり曜はまんまと術に嵌ったという訳」

 

「うわぁ…もっと慎重にならないとなぁ」

 

曜は頭を抱え、自分の詰めの甘さを直すべきだと自覚するのだった。

 

「そういえば鞠莉ちゃんは?」

 

「鞠莉ちゃんはLalala Loversの人達が通う高校に行ってるよ。飛電じゃなくて、メンバーの家族とか生徒・先生が犯人の可能性もあるって」

 

果南達が飛電と不正審査の関連を調べるのに対し、鞠莉は逆に関連性がないと考えていた為、その両面から調査するべく二手に分かれていた。その割に何故数が均等でないのかというと、鞠莉以外全員が飛電が黒という疑惑を持っていたから、というのが理由である。

 

「とりあえず、こっちはこっちで調査を進めるよ。今度のキーワードは『飛電インテリジェンス』で行ってみよう」

 

「了解…って言いたいところだけど、松城さんから早く戻って来いってメール来ちゃったよ。私も仕事の合間に調べてみるね!もしそっちの方で犯人がわかったら海未ちゃんにも報告するから」

 

曜が沼津署に戻り、鞠莉はLalala Loversのメンバーの在学校、果南と黒澤姉妹が地球の本棚やインターネット等を活用しそれぞれ調査に当たるのだった。




<次回予告>

???「私がスクールアイドルなんてやっちゃダメなんです…!」

鞠莉「あなたにとってのアイドルってその程度のものだったの?」

ゼロワン「お前を止められるのはただ1人、俺だ!!」

果南『違う違う、それを言うなら俺"達"、でしょ?』

次回 嘘つきなL/"大好き"を歌え/オレは社長で仮面ライダー


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#17 嘘つきなL/"大好き"を歌え/オレは社長で仮面ライダー

モチベーション上がらなかったり忙しかったりで更新遅れてしまいました。申し訳ありません 
ライアー&ゼロワンコラボ編後編です。戦闘シーンでは『REAL×EYEZ』を流しながら読んでみて下さい。
最後におまけもあるのでお時間あれば是非。


果南達が飛電や曜がブレイクし損ねたメモリについて検索を進めているその頃、鞠莉は『Lalala Lovers』のメンバーが在籍する高校へと足を向けていた。

 

「じゃあ、あなたの家族は無関係なのね?」

 

「はい。パパの仕事場は清水だから会場とは逆方向ですし、ママは高校の同窓会で長野へ帰省してるので…」

 

「ごめんなさい、疑ってしまって。となると、やっぱり飛電のPresidentなのかしら?でもそんな風には見えないのよねぇ…彼の事、果南はもう調べたかしら?」

 

鞠莉はスタッグフォンを取り出し、果南に電話をかける。彼女と繋がったのは一度目の呼出音が鳴り終わる前であり、その時間は電話をかけてから僅か2秒程だった。

 

『もしもし、鞠莉?そっちは何かわかった?』

 

「有力な情報は掴めてないの。ただ、Lalala Loversのメンバー達は勿論だけど家族に明確なアリバイがある事はわかったわ。そうなるとやっぱり飛電の関係者が犯人なのかしら?」

 

『多分ね。かといって社長さんである可能性もなさそうだったよ。地球の本棚で調べたんだけど、ドームの道化師と社長さんは全く無関係だったし』

 

というのも、地球の本棚にあった飛電インテリジェンスの社長・飛電或人の本にはAIテクノロジーに関しての知識が少ないという表記があったからだ。地球の本棚の本には本人の知能についても明確に表記されている為、彼の発言はどう考えても嘘ではない。また、ドームの道化師というキーワードと或人が結びつかなかったのも一因である。

 

『あ、でも社長さんの本には一部ロックがかかってて見られない項目があったんだよね』

 

「Lock?どうして?」

 

『分からない。まぁそれでもドームの道化師とかドーパントの正体である可能性はゼロだと思うよ。これまでドーパントの正体がロックがかかってる所為で見られなかった、なんて事なかったし』

 

「ほら!やっぱり私の言う通りだったでしょ?マリーの推理力をバカにしてはいけないわよ〜果南?」

 

『ふふっ、正直バカにしてるところもあったかも。あ、そういえばドームの道化師もやっぱりドーパントだったよ。曜が戦ってくれたお陰でメモリ名も絞り込めたし』

 

果南によると、曜が戦ったドームの道化師と呼ばれるドーパントのメモリは『[[rb:LIAR > ライアー]]』だそうだ。

 

「Liar…Japaneseでは嘘、という意味よね?」

 

『そうそう。このメモリは攻撃力自体は低いんだけど、使用者が口で言った嘘を針に変えて対象に刺す事で、嘘が正しいものだと思い込ませてしまう厄介な能力を持ってるんだ。それなら正確な審査ができる筈のヒューマギアが何故間違った結果を出したのか、説明もつくし』

 

「『Lalala Loversが1位になる』という嘘の針にStingされた事で、一時的にヒューマギアのプログラムが書き変わってしまったという事ね…おそらくはLalala Loversのファンの犯行かしら」

 

果南が答えようとした瞬間、鞠莉がもたれかかっていた部室のドアが突如として開く。息を切らしながら中に入って来たのは、Lalala Loversのメンバーのうちの1人であった。

 

『今の何の音?』

 

「何かBigな事が起きたのかもしれないわ。ゴメン果南、あとでかけ直すわね!」

 

「ちょっと波絵、ビックリしたじゃん!何なの?」

 

鞠莉は果南との通話を切り、メンバー達の会話に耳を傾けた。

 

「び、ビッグニュースなの!スクコレ静岡…急遽やり直しが決まったって!!」

 

「Really!?スクコレを再開催するって事!?」

 

メンバーの1人…波絵(なみえ)曰く、一部のスクールアイドルや観客から主催の飛電インテリジェンスに批判の問い合わせが殺到した為、先程の緊急会議でスクコレ静岡の再開催が決定したらしい。

 

「じゃあ、もう1回ライブができるって事よね?」

 

「そうだよ!今度こそ私達で本当の1位を目指そうよ!正直不正でトップになっても全然嬉しくないしね!」

 

鞠莉はその会話を聞き、安堵のため息をついた。最初からあまり心配はしていなかったが、もしかしたら『1位になったのに何故やり直すのか』『もう出たくない』と彼女達が言い出してしまうのではないかと思っていたからだ。

 

「よし!そうと決まれば練習だね、詩葉(うたは)ちゃん!」

 

「正直今日のは納得いくパフォーマンスじゃなかったし、せっかくチャンスをもらったんだから挽回しないと!」

 

「2人共その意気デース!!マリーも応援す…」

 

「出場してどうするの?」

 

モチベーションが上がった事によって盛り上がっていた2人の熱気をかき消すよう、今まで黙っていた3人目のメンバーが口を開く。

彼女は桐乃良々(きりのらら)。Lalala Loversのリーダーであり、メンバーで唯一の3年生だ。

 

「だって、出たところで良い結果なんて残せないじゃん…今まで何度も練習して曲も出したけど、SNSでも動画サイトでも、どこ見たって『下手だ』ってコメントばっかだし…」

 

「良々先輩…でもせっかくチャンスをもらえたんだから、私は頑張りたいです!」

 

「そうですよ!1位になれなくても、ここでやれるだけの事をやって明日の本番で全力を出せば…」

 

「無理だよ!!…だって、いつもそうでしょ?頑張ってもいつも期待は裏切られる。私には向いてないの…」

 

「………」

 

「私は歌もダンスも2人より下手。得意な事なんて何もない。元々向いてなかったんだよ…それに、今年でスクールアイドルも終わり。もう友達は部活引退してるし、受験の勉強やらないといけないから…」

 

「良々、別の学校の私が言うのはおかしいかもしれないけど、このチャンスは二度とやって来ない。今年が最後だってわかってるならやらないと絶対に後悔するわよ?」

 

思わず鞠莉もメンバーの会話に入ってしまう。しかし良々は鞠莉の言う事にも耳を傾けず、そのまま言葉を続ける。

 

「好きな気持ちだけで何とかなるものじゃないんです!私がスクールアイドルなんてやっちゃダメなんです…!もし私がスクールアイドルをやってなければ、今回みたいな不正が起きる事も、私達を勝たせようと他の人に迷惑をかける犯人なんていなかったかもしれないのに…スクコレのやり直しなんてしなくても良かったのに…」

 

「やっぱり…良々先輩も不正の事気にしてたんだ…」

 

「なるほど…でも良々、あなたは今『好きな気持ちだけで何とかなるものじゃない』って言ったわね?それって、本当は心の中ではやりたいって思ってるんじゃないの?」

 

「それは…」

 

良々は反論できなかった。確かにスクールアイドルを好きな気持ちは変わらない。しかし、思う以上に現実は厳しかった。

 

「でも…でもこのイベントに出たから、スクールアイドルを始めたからこんなに叩かれてるんですよ!?しかも私達だけじゃなくて、今度は家族とかこの日の為に協力してくれた人達まで…」

 

良々はスマートフォンの画面を鞠莉達に見せる。そこには彼女達を見た目だけで判断し叩く、心ない者の言葉が。しまいには『メンバーの家族や知人が飛電に脅迫の問い合わせをした』『家族や知人、ファンが不正を働いた』という根も葉もない根拠のツイートもあった。

スクコレ静岡で不正という形でトップを飾ってしまった事で、SNSでは自分達だけでなく知人や家族までもが標的にされている。それが彼女にとっては耐えられなかったのだ。

 

「…好きで何が悪いの?」

 

「えっ…?」

 

「好きで何が悪いの?下手だからやったらいけないの?確かにあなたにはスクールアイドルなんて向いてないかもしれない。でも、そんなあなたが辛くても途中で辞めずにここまで続けられたのはどうして?」

 

「……っ」

 

「スクールアイドルが好きだからじゃないの?あなただけじゃなくて、この2人もそうだと思うわ。それとも、2人に辞めるって言えなかったから気を遣って続けてたの?あなたにとってのアイドルってその程度のものだったの?」

 

「それは違う!!違う…私はアイドルが好きで好きで堪らなかった…ライブが上手くいかなくて叩かれるのだってずっと前からだった。でも詩葉ちゃんと波絵ちゃんと、どうすれば私達のライブを楽しんでもらえるか考えて、練習もした…それでもダメだったけど」

 

「ならそれでいいじゃない。他から見てどんなに完成度が低くても、どれだけ酷い事を言われていたとしても、Audienceにあなたの大好きをぶつければいいのよ!これまでだってそうやって乗り越えて来たんでしょ?ネットの声なんて今更気にする必要ないわよ!」

 

「でも、もしまた不正で1位になっちゃったら…犯人、捕まってないんですよね…?」

 

「それも大丈夫♪犯人はスクコレが始まる前に私が…私達が必ず何とかするから、心配する必要はありまセーン!!」

 

その言葉に詩葉と波絵も頷き、良々の前へ歩み出て手を差し伸べた。

 

「鞠莉さんの言う通りですよ〜先輩!実はグループ名の『Lalala Lovers』って、良々先輩が考えたんですよ♪」

 

「そうそう!『大好きな気持ちを歌で届けたい!』って意味なんです♪」

 

「そうなの?じゃあ私が言わなくてもわかってたじゃない♪」

 

「…確かに、初めはわかっていたのかもしれません。でもいつの間にかその気持ちを忘れちゃってた。こんなに簡単な事だったんだ…」

 

良々は詩葉と波絵の手をとり、優しく握りしめた。その表情は先程と比べて清々しいものだった。もう彼女の心を覆い隠していた曇りは、そこに存在しない。

 

「よし、2人共!明日のスクコレに向けて頑張ろう!私達の大好きを精一杯届けよう!」

 

「「はいっ!!」」

 

鞠莉は練習に取りかかる3人の背中を見つめ、優しく微笑みかけるのだった。

同時に、ガイアメモリの力を使って間接的に不正を働いた犯人を捕まえなくてはいけない気持ちにも身が引き締まった…ところで、スタッグフォンが果南からの着信を告げた。

 

『もしもし鞠莉?まだ取り込み中?』

 

「今解決したところよ!もしかして犯人がわかったの?」

 

『おぉ、察しが早いね!『ライアーメモリ』と『Lalala Lovers』と『スクコレ静岡』でバッチリ判明したんだ。犯人の名前は高嶋和則、スクコレの補助スタッフらしいよ』

 

ライアー・ドーパントの正体は高嶋和則という静岡在住の男性だった。

彼は以前からスクールアイドルのファンで、県内で開催されるスクールアイドルのイベントには必ず足を運んでいたらしく、中でも注目していたのがLalala Loversだったそうだ。

 

『でもLalala Loversは彼が思う程人気が出なかった。それどころか叩く人もいたし…きっと気の毒に思ったんだろうね。そんな中でスクコレ静岡の開催を知り、自らは補助スタッフとして参加。メモリを手に入れて彼女達を1位にするよう仕組んだんじゃないかな』

 

「彼女達を応援する気持ちが歪んでしまったという事ね…むしろ良々達はそれを望んでいなかったし、知人や家族まで叩かれる事になってしまったけど」

 

『Lalala Loversのメンバーの事を考えると、このまま野放しにしておく訳にはいかないね。イベントが始まる前にどうにかしないと…』

 

「そうね〜…あっ、いい事思いついたわ!」

 

鞠莉は練習に励む3人に『頑張って』と告げ、部室を後にした。彼女は何を思いついたのだろうか。

 

 

 

その夜、綺羅家では鹿角姉妹がパソコンの画面を真剣な顔で見ていた。彼女達が見ているのはスクコレ静岡のライブ映像であり、画面には花火のプロジェクションマッピングをバックに歌う千歌と梨子の姿が映っていた。

 

「姉様、このAqoursってグループ…友達の学校のスクールアイドルなんだけど、どう思う?」

 

「まだ結成して数ヶ月しか経っていないのにここまでの曲を作れるなんて…私も凄いと思うわ。正直、これでも2位なのが信じられないくらい」

 

「あ、今はその順位は関係ないって。ネットの書き込みとか見た感じ、1位に凄く下手なグループが選ばれて会社側に不正疑惑がかかってるって言われてた。明日イベントをもう1回やり直すみたい」

 

「不正って…そんな事をする人がいるのね。許せません」

 

Aqoursのライブ映像を見終え、理亞がパソコンの電源を落とそうとした瞬間、テーブルに置いていた自身のスマートフォンがブルブルと震え出した。画面には『黒澤ルビィ』の文字が。

 

「もしもし?ルビィ、どうかした?明日の早朝?特に予定ないけど…えっ?そうなんだ、わかった。姉様にも伝えておく。それじゃあ」

 

「今の、理亞のお友達から?私に何か伝えるって言ってなかった?」

 

「姉様は…確か、明日は仕事なかったっけ?」

 

「そうね、私も休みよ。どうして?」

 

理亞はルビィから聞いた話をそのまま聖良に話す。事情を知った聖良は理亞の話に納得したのか、ルビィに再度連絡を入れるよう申し出るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日の早朝、閑散とした静岡市民文化センターの駐車場には一台の車が停車していた。車内からはドームの道化師ことライアー・ドーパントの変身者であり、今回の不正を仕組んだ男・高嶋和則が現れた。彼は慣れた足取りでドームの方へ向かって行く。

 

「わぁぁぁSaint Snowのお二人!!」

 

文化センターの入口付近へ辿り着くと、飛電の社員でもイベント関係者でもない人々の姿。そして、彼らの前方には静岡で名を馳せている有名なアイドルグループ・Saint Snowの2人の姿があった。

 

「本物ずr…本物だ〜!どうしてこんなところにいるんですか?」

 

「こちらでスクコレ静岡が再開催されるという話を耳にしたんです。残念ながら仕事でライブ自体は見られないのですが、せめて会場がどんなものなのか目にしておこうと思って…」

 

「そうなんですね!本物に会えるなんて僕、感激ですぅ!!」

 

「あぁ、その通り。私の魂は浄化され、今にも天に昇ってしまいそうだ…」

 

「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいです!私達は会場の中を見に行くので、これで失礼しますね」

 

「あ、ありがとう…ございます…」

 

聖良と理亞はファンに手を振り、関係者入口の方へ姿を消す。同時に高嶋にとって、これは大きなチャンスでもあった。自分には補助スタッフという肩書きがある為、会場に入る事ができる。本物の有名アイドルグループに接触する事ができるからだ。彼は興奮してその場で盛り上がっているファンを横目で見た後、関係者入口の方へと向かって行った。

 

「はぁぁぁ!!生で見るSaint Snowのお二人、想像より素敵でしたぁ!!」

 

「えぇ、流石は儚き雪の結晶達…もう終わりでいい?犯人も会場に行ったっぽいし」

 

「気づかれなくて良かったずら。ダイヤさんに連絡するね」

 

高嶋が関係者入口へ向かったのを確認したファン…花陽、善子は会話を中断し、花丸はダイヤへ連絡を入れる。そう、花陽達と鹿角姉妹は鞠莉の立てた作戦の協力者であり、犯人を追い詰めるべく早朝から文化センターへと集まっていたのだ。

 

「もしもしダイヤさん?犯人、Saint Snowの2人の後を追って行ったよ」

 

『分かりましたわ、早朝にもかかわらずご協力して下さりありがとうございます。あとは私達にお任せ下さい』

 

「今のところは順調そうだね。でもSaint Snowのお二人に危険が起きないかどうか心配だなぁ…」

 

「大丈夫でしょ、鞠莉が上手く作戦立てたんだから。問題はずら丸!あんた"ずら"って言いかけたでしょ!?下手したらバレてたかもしれないわよ?」

 

「言い直したから大丈夫ずら、多分犯人もそこまで聞いてないだろうし…それに、そう言う善子ちゃんも堕天使丸出しで痛々しかったよ?」

 

「ヨハネ!私は私みたいに下界へ堕ちた同士のマネをしただけよ!」

 

「まぁまぁ…でもみんなお疲れ様♪」

 

花陽達は仲良さそうに話しながら、文化センターを後にするのだった。

 

 

 

一方、聖良と理亞の後を追った高嶋は2人が会場の中へ入って行くのを陰から観察していた。彼女達の姿が見えなくなったタイミングを見計らいながら、入口の前に立つ警備員の元へ向かう。

 

「あなたは…関係者の方ですか?」

 

「はい。補助スタッフの高嶋です」

 

「高嶋様…はい、確認しました。お通り下さい」

 

警備員から入館許可をされた高嶋は鹿角姉妹の後を追った。

当然これも作戦通り。警備員の正体はダイヤであり、高嶋が会場へ入って行ったのを確認した後、無線を使って鞠莉達に話しかけた。

 

「会場に入りましたわ。各自スタンバイをお願いします」

 

その頃、高嶋は鹿角姉妹がトイレから出てきたのを確認していた。2人はそのまま会場である大ホールへと入って行き、彼もその後を追って扉の前に立つ。

 

「まさかこんなところでSaint Snowに会えるとは…今会いに行くよ、2人共」

 

\ライアー!/

 

高嶋はライアー・ドーパントへと姿を変え、大ホールの扉を開ける。ホール内の照明は消えており、聖良と理亞の姿はよく見えない。暗闇の中で2人を探しているその時、突如ステージの中央をスポットライトが明るく照らした。

 

「Hello,Saint Snow!!私はドゥームの道化師よ〜!!」

 

「何だと…?」

 

ライアーが呆気にとられていると、舞台袖からはピエロのような服装をし、顔に奇抜なメイクをした鞠莉が現れた。しかもドームの道化師と名乗っている。

 

「実は私には不思議なPowerがあるの♪良かったらあなた達にもかけてあげましょうか?まぁ、評判はあまり良くないんだけどね〜」

 

「アイツ…!偽物が調子に乗るな!」

 

ライアーはその言葉に憤慨しているが、鞠莉は演技を中断する事なく続ける。

 

「え?どうして評判が悪いのかって?私にも分からないのよ…おかしいと思わない?これ、Lalala Loversの子の連絡先なんだけど、昨日のイベントで1位にしてあげたら余計な事するなって言われちゃったの。私の力ならTopに立つ事だってできるのに勿体ないわよね〜」

 

「貴様、黙って聞いていれば嘘ばかり吹き込んで!1位になったのに嬉しくないだと!?そんな訳が…」

 

「あるのよ。この嘘つき男」

 

鞠莉は被っていた帽子をライアーに投げつけ、メイクを落とす。同時にホールの扉が開き、警備員の帽子を脱ぎ捨てたダイヤとホール内の照明を操作していた曜も現れた。

 

「何なんだお前達は!?」

 

「私達は黒澤探偵部よ。あなたがそのメモリの能力でヒューマギアのプログラムを書き換えた事も全部知っているわ。だからあなたを捕まえるべく、2人に誘い出してもらったのよ」

 

「何…?まさか聖良ちゃんと理亞ちゃんが私を嵌めただと…!?貴様らぁ!!」

 

ライアーは聖良と理亞に襲いかかろうとするが、逆に聖良から足を引っ掛けられ、そのまま腹部に蹴りを入れられてしまった。

 

「あなたはいつから私達がSaint Snowだと錯覚していた?なーんてね」

 

「ぶっぶーです!ルビィ達はSaint Snowじゃありません!本物の2人にこんな危ない事させる訳ないもん!」

 

ライアーが顔を上げると、そこにいたのは聖良と理亞ではなかった。途中から果南とルビィが2人に変装し、本物の鹿角姉妹と入れ替わっていたのだ。

 

「バカな!入口にいたのは間違いなく本物だった筈なのに!」

 

「関係者入口に入るまでは本物だったけど、トイレからは既に私達と入れ替わってたんだよね〜」

 

「あなたがスクールアイドルを好きだという事、そしてSaint Snowのファンである事は調査済みですわ。勝手ながらそれを利用させて頂きました。まんまと引っかかりましたね」

 

「たかが高校生の分際で…よくも私を騙したな!!」

 

「私達は悪を追い詰める為ならどんな事だってするわ、何とでも言いなさい。あなたはLalala Loversの為に善意で嘘をついたんだろうけど、彼女達はそれを望んでいなかった。それどころかリーダーの良々は自分の気持ちに嘘をついてスクールアイドルを辞めようとまでして、罪のない家族や知人までもがネットの悪意に叩かれた…あなたの吐いた嘘で、彼女達は傷ついたのよ!!」

 

「黙れ!!私はただ、頑張っているあの子達を応援したかっただけだ!!」

 

「もう二度と、彼女達を同じ事で苦しませないわ!果南、曜、行きましょう!」

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

\アクセル!/

 

「「変身!!」」

「変…身っ!!」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

\アクセル!/

 

果南と鞠莉、曜はWとアクセルに変身し、ライアーを強く睨みつける。

 

「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!!」」

 

そのまま4人は文化センターの敷地へと出て行き、交戦する。ライアーはWの打撃を受け止めようとするが、能力特化のメモリである為パワーでは敵わず弾き飛ばされる。

 

『やっぱりパワー差はこちらの方が上か…さっさと終わらせないとね』

 

「2人共、知ってると思うけどあのドーパントの針に注意して!食らったら嘘を信じちゃうから!」

 

「OK, 行くわy…」

 

「何だぁ!?イズ、これ何の騒ぎ?」

 

戦闘を再開しようとすると、敷地内に青年の声が響き渡る。対峙するライアーとW、アクセルの元に或人とイズが現れたのだ。

 

「あの人って飛電の…」

 

「あなたは…或人社長!?」

 

『やっぱり社長さんは無関係だったか…鞠莉の言う通りだったね』

 

「過去のデータから声質を検索中…針のある怪人、ライアー・ドーパントがスクコレの補助スタッフである高嶋和則さん、緑と黒の怪人が昨日調査に訪れた探偵のうちの2人と思われます」

 

「Wao!!正体がバレバレデース!!」

 

「邪魔をしないで下さい社長!これもLalala Loversを勝たせてあげる為なんです!」

 

ライアーは勢い余って自身の悪業を口に出してしまう。慌てて口元を押さえるも、或人達に不正疑惑について知られる事となってしまったのだった。

 

「Lalala Loversの為って…あなたがアイニャ達を操って不正をしていたんですか?」

 

「Yes, その通りよ!それで私達は彼が犯人だという事を突き止めたの!」

 

「社長さん、ここは私達に任せて!危ないから逃げた方がいいよ!」

 

「いや、そういう訳にはいかないよ。高嶋さん、俺は社長としてあなたの悪事を許さない!」

 

或人の手には少し大きめの機械が握られていた。彼がそれを腹部に当てると、機械は腰に巻きつきベルトとなった。

 

『あれは…!』

 

「どうしてあなたがメモリドライバーを!?」

 

「でもスロットが付いてない…あのベルト、何なんだろう?」

 

そのベルトにはガイアメモリを装填するスロットが見当たらず、組織の作ったドライバーとはまた別物である事が示されていた。

鞠莉達が驚くのを他所に、或人はバッタの絵が刻まれた蛍光イエローの電子キーを取り出し起動させる。

 

\JUMP!/

\オーソライズ!/

 

電子キー…もといライジングホッパーのプログライズキーがベルト・ゼロワンドライバーに認証されると、宇宙に浮かぶ衛生ゼアから黄色の光が放出され、機械のようなバッタが空から降りて来た。

或人は大きく円を描くように両腕を回し、プログライズキーを展開させて叫ぶ。

 

「変身!」

 

\プログライズ!/

\飛び上がライズ!ライジングホッパー!A jump to the sky turns to a rider kick./

 

プログライズキーがドライバーに挿入されると、或人の身体は黒のスーツに覆われた。更に辺りを跳ね回っていたバッタは光となって身体に吸収され、その上に黄色の鎧を形作った。

 

「Oh, 変身したわ…」

 

「社長さん、一体何者なの?」

 

「俺の名はゼロワン…仮面ライダーゼロワンだ!!」

 

ゼロワンへと変身した或人はそう言いながらWの横に並び、決めポーズをとった。

 

『ゼロワン…電子キーで変身する仮面ライダーか、面白いじゃん!』

 

「よし、それじゃあここはみんなで力を合わせよう!全速前進、ヨーソロー!」

 

4人はライアーへと向かって行く。ゼロワンの加勢により、自身の勝率が低くなってしまった事を悟ったライアーは戦闘を避け、その場から逃げようと試みる。

 

「『秘書型ヒューマギアは滅亡迅雷の仲間だ!』」

 

ライアーはイズがテロリストの仲間という旨の嘘を吐き、ゼロワンに刺そうとするが既のところでアクセルが間に割り込み、エンジンブレードで針を叩き落とされてしまう。

 

「危ない!!」

 

「うおっ!?今の針は!?」

 

『社長さん、アイツが口から出す針に気をつけて!食らうと嘘を信じ込んでしまうから!』

 

「あの針をどうにかしないと…そうだわ!」

 

\メタル!/

\サイクロン!メタル!/

 

「色が変わった!」

 

『鞠莉、どうするの?』

 

「こうするのよ!」

 

\スパイダー!/

 

鞠莉はメタルシャフトにスパイダーショックをセットし、ライアーの口元に向けてそれを振り回す。それが命中すると、ライアーの口には蜘蛛の糸が巻き付かれた。これで能力は使えない。

 

「『口は災いの元』って聞いた事あるかしら?あなたの為にもこれ以上嘘はつかせないわ!」

 

「おのれ…よくもッ!!」

 

ライアーは杖を取り出し、そこから無数の光弾を発射する。一発の威力は弱いものの、弾数が多く4人は近づけなかった。

 

「参ったなぁ…これじゃあキリがないよ」

 

「後ろか真上から攻撃するしかなさそうだなぁ…ん、真上?…空!イズ、トリちゃんを!」

 

「フライングファルコンですね。承知しました!」

 

イズはゼロワンにマゼンタのプログライズキーを投げ渡した。キーには隼が描かれている。

 

\WING!/

\オーソライズ!/

 

フライングファルコンキーがドライバーに認証され、今度は隼が空から舞い降りて来る。ゼロワンはキーを展開し、それを挿し込む。

 

\プログライズ!/

\Fly to the sky!フライングファルコン!Spread your wings and prepare for a force./

 

隼は光と化してゼロワンに融合すると、飛翔能力を手に入れたマゼンタのゼロワン・フライングファルコンへと姿を変えた。

 

「あなたがChangeするなら私達も!」

 

\ルナ!/

\トリガー!/

 

\ルナ!トリガー!/

 

ゼロワンのフォームチェンジに触発されたWも、メモリを変えルナトリガーにチェンジする。

 

『私達が気を引きつける。その隙に曜と社長さんは奴を叩いて!』

 

「了解であります!」

 

「オッケー、任せてくれ!」

 

Wはトリガーマグナムからホーミング弾を撃ち込み、ライアーの放った光弾を相殺する。

その隙にゼロワンは空を飛び、フリーフォールの要領でライアーを空中へ連れ去りながら打撃を叩き込み、地面へと突き落とした。

 

「最後はこれだよっ!」

 

最後に、バイクフォームに変形したアクセルが地面に叩きつけられそうになったライアーに突撃し、遠方まで吹き飛ばす。2人の攻撃を受け、ライアーはふらふらと立ち上がる。

 

「みんな、今のうちに!」

 

\ライジングホッパー!/

\サイクロン!ジョーカー!/

 

「OK, Cleaning Timeよ!」

 

「お前を止められるのはただ1人、俺だ!」

 

『違う違う、それを言うなら俺"達"、でしょ?』

 

「そ、そう!俺達だぁ!!」

 

Wはジョーカーメモリをマキシマムスロットに、ゼロワンはプログライズキーをドライバーに力強く押し込む。

 

\ジョーカー!マキシマムドライブ!/

\ライジングインパクト!/

 

「「ジョーカーエクストリーム!!」」

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

\ライジングインパクト!/

 

Wとゼロワンの必殺技がライアーに炸裂しライアーはその場で爆ぜた後、変身を解かれる。

 

「私がいなければ…あの子達はトップになれないんだぞ…?」

 

「それでいいのよ。良々達は最初のPureな気持ちを取り戻したんだから」

 

高嶋は意識を失い、地に落ちたライアーメモリもそれに反応するように砕け散った。

 

 

 

それから数時間後、曜は海未に連絡を入れ、鞠莉と或人、イズは駆けつけた福添ら社員・スタッフに昨日のイベントで起きた不正の真相を説明するのであった。

その最中、この辺りでは見慣れない『A.I.M.S.』と書かれた車が到着し、中からは海未と黒いスーツを着たパーマの男性が現れた。

 

「皆さん、朝早くからお疲れ様です」

 

「ごきげんよう、園田刑事」

 

「海未ちゃん、おはヨーソロー!その人は?」

 

「え?なんで不破さんがここにいるの!?」

 

「アルト、知り合いなの?」

 

「紹介しますね。彼は『人工知能特務機関A.I.M.S.』隊長の…」

 

「不破諫だ。あんたの秘書に呼ばれてここに来た」

 

「秘書って…イズが呼んだの?」

 

「はい。今回の不正問題の主犯である高嶋和則は、ガイアメモリによってヒューマギアのプログラムを一時的に書き換えました。これは人工知能特別法にも違反している為、A.I.M.S.にも報告させて頂きました」

 

「噂には聞いていたけど、東京の方では人工知能を取り締まる組織もできてたんだね…」

 

「はい、私も先程初めて知りました」

 

不破曰くヒューマギアは全国的には浸透しておらず、現在は東京都内でのみ運用されているらしい。いずれ人類がヒューマギアと共に共存する日も、そう遠くないだろう。

 

「ま、俺はヒューマギアなど無い方が平和だと思うけどな。滅亡迅雷.netとかいうテロリストが出てきた所為でヒューマギアが暴走する事も珍しくないからな」

 

「人工知能が暴走!?ピギィ!!」

 

「なるほど…お二人も苦労しているんですね」

 

「それ、悪いのは滅亡迅雷だろ?俺はそうは思わない。とにかく、俺はヒューマギアが夢のマシンとして認めてもらえるように社長として最善を尽くすよ!」

 

「滅亡迅雷?とか、詳しい事はマリーもよくわからないけど、これだけは言えるわ。社長の仕事、大変だと思うけど頑張ってね!」

 

「勿論!俺には頼れる秘書もいるし、"必勝"してみせる〜!はいっ!!アルトじゃ〜ないとッ!!」

 

「ブッ…」

 

相変わらずギャグが飛び出してくるのは突然だ。不破は口角が不自然に上がってしまわないよう、必死に込み上げてくる爆笑を抑えていた。

そんな彼の様子に気がついた海未は心配そうに声をかける。

 

「不破隊長?具合でも悪いのですか?」

 

「んっ、何でもない。事情聴取に戻るぞ」

 

「えっ!?不破さん、"タイチョー"ブですか!?」

 

「Oh, 不破隊長!しっかり"体調"を整えないとダメよ?」

 

「お二人共、迷惑ですからおやめなさい!それに、もうすぐ本番が始まりますわよ!!」

 

「ちなみに今のはそれぞれ、隊長と身体の調子を表す単語である体調、隊長と大丈夫をかけた大変面白いギャグの豪華2本立てd…」

 

「イズはさりげなくギャグを解説しないでぇぇぇ!!」

 

「そうよ!ギャグの説明はGuiltyデース!!」

 

「だぁから静かにしなさいと言ってるでしょうがぁ!!」

 

「いや、ダイヤが一番うるさいから」

 

「そういうお姉ちゃんも静かにしてよぉ…」

 

「はぁ、鞠莉達は相変わらずですね」

 

「でも、私はあれが鞠莉ちゃん達らしいと思うな〜」

 

「フハハハ…」

 

海未と曜は鞠莉と或人がダイヤに怒鳴られている様子を聞きながら微笑み、一方の不破はギャグ3連発により完全に決壊したのか、僅かな声と共に静かに笑いながら車で去って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「優勝は…浦の星女学院スクールアイドル・Aqours!」

 

スクコレ静岡は何事もなく無事に開催され、最終結果はAqoursの優勝であった。会場は観客の祝福の声や拍手の音で満ちており、誰もがAqoursの優勝を心から祝っていた。

千歌はアイドル型ヒューマギア・アイニャからトロフィーを、梨子はスワワから表彰状を受け取り、観客席に向けてそれを笑顔で掲げるのであった。

 

「千歌ちゃんと梨子ちゃん、やっぱり凄いね!ルビィ感動しちゃったもん」

 

「流石、浦女の期待の星だね!Lalala Loversは残念だったけど…」

 

「でも、きっとあの子達は大丈夫だと思うわ!だって今日のライブ、昨日のライブ映像とは全く違ったもの♪」

 

結局、Lalala Loversは上位3位にランクインする事はなかった。出場者席にいる良々達は一瞬残念そうな顔をするも、すぐに笑顔を取り戻した。

 

「入賞はできなかったけど、私は私達らしく歌う事ができたからそれでいいと思ってるよ。2人は?」

 

「私も同感です!めちゃくちゃ楽しかったし♪」

 

「はい!昨日は歓声なんて全くなかったけど、今日は違った…みんなも楽しんでたし、全力の"大好き"を届けられたから♪」

 

鞠莉の予想通り、3人は落ち込んでいなかった。むしろ入賞できなかった悔しさよりも、その笑顔は達成感で溢れていた。

 

「ありがとうございました!入賞者は席に戻って下さい」

 

上位3組のスクールアイドル達がステージから降りると、舞台袖から壇上へ或人が登壇した。それと同時に、司会を務めるアリシャの口からある言葉が告げられた。

 

「そして、今回はもう1つ…社長特別賞を受賞したグループがありますので、飛電インテリジェンス代表取締役社長の飛電或人より発表させて頂きます」

 

社長特別賞…それは昨日のイベントには存在しなかった賞であり、会場はどよめきの声で溢れていた。

 

「では発表します。今回、社長特別賞に輝いたのは…愛心女子高校スクールアイドル・Lalala Lovers!皆さん、壇上に上がって下さい」

 

突然自分達のグループ名が告げられ、良々達は驚きを隠せなかった。

3人がイズに促されて壇上に上がって来たのを確認し、或人は笑顔を見せながら言った。

 

「社長特別賞、愛心女子高校スクールアイドル・Lalala Lovers。あなた方は『静岡SCHOOL IDOL COLLECTION』において、主催者代表より高い評価を獲得しました。みんなのスクールアイドルが大好きだという気持ちが、最高に伝わってくるライブだったと思う!本当におめでとう!!」

 

「…!ありがとうございます!!」

 

或人から良々に、社長特別賞の賞状が渡される。良々の感謝の言葉に反応した観客は少し間を置き、ホール内へと歓声や拍手を響かせたのだった。

 

「ありがとうございます!Lalala Loversの皆さんは席に戻って下さい…それでは、ここで更に特別企画を用意しました!その名も『あなたもスクールアイドル体験!みんなも歌わ〜ないと!』」

 

更にアリシャの口から告げられたのは、今日限りの特別企画であった。

当然、これは昨日のプログラムには組み込まれていなかった企画である。

 

「こちらですが、16〜18歳までの女子高校生が対象です!体験者には皆さんの好きな曲を1曲選曲し、歌ったり踊ったりして頂くという内容になっております!スクールアイドル関係の部に所属していない女子高生なら誰でも体験可能です!やりたい方いませんか〜?」

 

しかし、手を挙げてる人は誰1人としていなかった。ライブを観賞するのと実際にやるのはまた別問題という事だろうか。

 

「ピギィ!!ルビィ、聞いてない!」

 

「大胆な事を思いつくのですね…まぁ流石にこの様子だとすぐには出てこないと思いますg…」

 

「はい!1人希望者が見つかりました!青い髪のポニーテールの方です!」

 

「…はい!?」

 

青髪のポニーテール…その言葉にまさかと思ったルビィとダイヤ、鞠莉は横に座ってる果南を見た。希望したのは案の定彼女であり、赤いハンカチを勢いよく振り回している。

 

「はーい!!私の右に座ってる2人の子と体験を希望しまーす!!」

 

「右に座ってる2人…Oh!!まさかのマリーとダイヤじゃない!!」

 

「はぁぁぁぁ!?本気ですの!?恥ずかし過ぎますわ!!」

 

「ん〜…でも楽しそうね♪そうと決まれば行きましょ、ダイヤ!」

 

「お姉ちゃん、ドンマイ」

 

「ピギャァァァァァ!!」

 

その後、鞠莉達がステージでアイニャ、スワワ、アリシャの曲…『G線上のシンデレラ』を披露したのはまた別の話である。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

<おまけ>

 

 

或人・鞠莉「どうも〜!」

 

或人「或人と〜」

 

鞠莉「マリーの〜」

 

或人・鞠莉「厳選ギャグ、100連ぱt…」

 

果南「これっ」チョップ

 

或人「いてっ!」

 

鞠莉「アウチ!!」

 

果南「2人共、これはギャグコーナーじゃないよ。真面目にやる!」

 

或人「すみませんでした!!」

 

鞠莉「デース!!」

 

イズ「という事で、今回のおまけは浦女探偵で主役を務める小原鞠莉さんと松浦果南さん、飛電インテリジェンス社長・飛電或人と私、秘書のイズがお送りします」

 

鞠莉「2人共、今回は忙しい中浦女探偵に出てくれてありがとう!ダイヤとルビィ、曜もお礼を言っていたわよ♪」

 

果南「あ、不破さんと福添さんにもよろしく言っといてね」

 

或人「いやいや、こちらこそ浦女探偵に出られて嬉しかったよ!」

 

イズ「それに関連し、読者の皆様が『何故或人社長と私が?』と幾つか疑問に思った点も"あると"思うので、ここで説明させて頂きます」

 

果南「もし読むのが面倒だったらブラウザバックするかあとから読んでも大丈夫だよ。本文も長かったし、ここから長いの読んだら疲れちゃうもんね」

 

イズ「その前に失礼します、言い忘れていました。はい、アルトじゃ〜ないと!」

 

果南「ん?どこかギャグあった?」

 

鞠莉「分かったわ!"或人"と"あると"をかけたのね?」

 

イズ「ご名答です、小原さん」

 

或人「イズがだんだん俺に染まりつつある…」

 

果南「それいつかの放送でも言ってたね。まぁその話は置いといて、早速読者のみんなが疑問に思いそうな事に答えていくよ。まずはこれから!」

 

 

Q1.何故ゼロワンと浦女探偵をコラボさせたの?

 

 

或人「そもそもそこからだよね〜、仮面ライダーはゼロワンだけじゃなくて他にも色々いるもんね」

 

果南「私はゼロワンが現行ライダーだからだと思うんだけど、違うかなん?」

 

イズ「作者の梨蘭さん曰く、それも理由の1つとしてあるそうです。もう1つは『原作キャラを1人ぐらい出してもいいのでは?』との意見を頂いたから、と仰っています」

 

果南「あ〜、そんな感想もあったね。けど浦女探偵はオリジナリティを出したいという作者の意図があるから、本家からはキャラが出てないんだよね」

 

鞠莉「そこで代わりに或人達を登場させたのね?」

 

或人「なるほど…今感想見たけど、作者はその感想に『別の作品からの登場は考えている』って返信してるね。伏線は張ってあったんだ」

 

イズ「では、次の疑問点に移りましょう」

 

 

Q2.ゼロワンサイドの時系列はどうなってるの?

 

 

果南「現時点ではシャイニングアサルトとかメタルクラスタが強化フォームとなってるけど、今回は出てこなかったね」

 

イズ「この疑問に対し、作者は本編とは繋がりのないパラレルだと仰っています」

 

鞠莉「シャイニングホッパーとメタルクラスタのキーを使わなかったのはどうしてなの?」

 

或人「ライアーがそこまで強くないからじゃない?実際、原作でもその頃一番強かったファングジョーカーに変身しないで倒したし。あとは…そもそもどっちも入手前だったとか?」

 

イズ「その通りです、或人社長。今回浦女探偵に登場した私達はシャイニングホッパー及びメタルクラスタホッパーのプログライズキーを所持していないから、だそうです」

 

果南「仮に本編と繋がっているとすると、シャイニングとメタクラ未登場でフライングファルコンは持ってたから4〜6話の間だね。フライングファルコンが奪われるのは6話だし」

 

鞠莉「それじゃあ次にLet's Go!!」

 

 

Q3.先にゼロワンとコラボしたけど、ジオウとのコラボはやらないの?

 

 

果南「そうだ、今これ見て気づいたけど肝心のジオウをすっ飛ばしちゃってるね」

 

鞠莉「でも浦女探偵はEndまで当分あるから、やるにしてもすぐは無理そうね」

 

果南「最後の平成ライダーより先に最初の令和ライダーとコラボしちゃったから、パラレル設定でやるのかなん?」

 

鞠莉「ジオウでW編はなかったから、私達から力を継承するなら的な感じでやりたいわね♪」

 

果南「ハッキリ答えるなら、そっちの方はまだ未定だよ。やるかもしれないし、やらないかもしれないし」

 

或人「一通り答えたけど、予想される疑問は大体この辺りかな?」

 

鞠莉「もしこれ以外で疑問点があったら、感想にどんどん書いて欲しいわ!作者も答えられる限りで答えるそうよ!」

 

※深く考えずに書いた部分もあるので皆さんの納得する解答ができるとは限りません。ご注意下さい。

 

 

鞠莉「さて、それじゃあこの辺りで終わりにしましょうか♪」

 

或人「仮面ライダーゼロワン、毎週日曜朝9時から放送中!宜しく!」

 

鞠莉・果南「「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」」

 

或人・イズ「「アルトじゃ〜ないと!」」

 

鞠莉・果南・或人「「「ばいば〜い!!」」」

 

イズ「またお会いしましょう」フリフリ




<次回予告>

???「人形を追いかけて欲しいの」

海未「人形が動いてますぅぅ!!」

ことり「そのメモリ、素晴らしい能力ですよね〜」

ルビィ「ルビィが何とかしなくちゃ…!」

ダイヤ「放っておけませんわ!」

次回 Pは動き回る/ルビィ、奔走


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#18 Pは動き回る/ルビィ、奔走

お久しぶりです。ストーリー構想を練っていたら遅くなってしまいました。
今回はルビィちゃん主役回前編となります。前回黒澤姉妹メイン回と一部の方には言いましたが、予想以上にルビィ成分が強くなってしまったのでルビィちゃん主役回という事にしました(遠い目)。
登場ドーパントはT2ガイアメモリにも選ばれた人形使いのアイツです。後編もちょこっと書いているので完成次第すぐに投稿します。


「おはようございます!」

 

「おはよう、ルビィちゃん」

 

「あらルビィ、Good Morning!!」

 

8月最初の日。黒い袋を手に持ったルビィが部室に到着し、この日も黒澤探偵部の活動が始まろうとしていた。

 

「あれ、ダイヤは一緒じゃないの?」

 

「お姉ちゃんは生徒会室に書類を取りに行くから遅れてくるって言ってたよ。あと果南ちゃん宛にこんなのが届いてたんだけど…」

 

ルビィは手の中にあった黒い袋を果南に手渡す。果南は『私に?』と首を傾げ、袋をじっくりと見つめている。

 

「差出人の名前が書いてない…何だろうこれ?」

 

「開けてみたら?私も気になるわ」

 

鞠莉に促され、果南は袋の開け口をハサミで切り出す。中からは緑色のギジメモリとパーツ・ネジ等の部品が入った透明のビニール袋、そして白い冊子が入っていた。冊子はメモリガジェットの設計図であり、表紙には『FROG POD』と表記されている。

 

「これ、メモリガジェットよね?どんな機能を持ってるのかしら…」

 

「それは作ってみなきゃわからないよ。よし、早速作ってみようか!鞠莉もついて来て!」

 

「そうね!格納庫にLet's Go!!」

 

「えぇ!?鞠莉ちゃん、果南ちゃん待って…行っちゃった」

 

鞠莉は果南に連れられ、格納庫の方へと行ってしまった。ルビィは部室の中に1人で取り残される。

 

「お姉さん」

 

「ピギャァァァ!?びっくりしたぁ依頼人か…ゴメンね、大きな声出しちゃって!」

 

突然声をかけられ、ルビィは驚いて大声を出してしまう。後ろを振り向くと、金髪を三つ編みで2つに結わえた可愛らしい少女の人形を抱えた小学校低学年くらいの少女がドアの前に立っていた。いつの間に入って来たのだろうか。

 

「お姉さん、お願いがあるの」

 

「お願い?勿論だよ!依頼なら黒澤探偵部に何でも任せルビィ!」

 

「人形を追いかけて欲しいの」

 

「人形を追う…?その手に持ってる子じゃないの?」

 

「違う。人形を追いかけて欲しいの」

 

「えっと、じゃあその人形の特徴とか教えて欲しいな…あ、そうだ!その前にあなたの名前を…」

 

「ルビィ…?」

 

ルビィが少女の対応をしていると、背後のガラス戸から入って来たダイヤが、きょとんとした様子でルビィを見つめていた。

 

「あ、お姉ちゃん!この子、今依頼に来た子なんだけど…」

 

「…何を言ってますの?誰もいないじゃないですか」

 

「えっ…あれ!?」

 

ルビィが目を離した数秒のうちに、少女はその場からいなくなっていた。部室から出て体育館の出口の方を探すも、少女の姿は何処にも見当たらない。

 

「誰と話してましたの?私には誰もいない所に話しかけてるようにしか見えませんでしたが…」

 

「でもいたんだよ!ルビィ、ちゃんと話したもん!」

 

「ルビィ、疲れてるのですか?今日は帰った方が…」

 

「大丈夫!さっきの子がどうして急にいなくなっちゃったのかわからないけど、ここに依頼に来たのは間違いないよ!ルビィが何とかしなくちゃ…!」

 

「ちょっ、ルビィ!?」

 

ルビィは体育館を飛び出し、何処かへ行ってしまった。一体彼女が見た少女は何だったのだろうか。

 

「何だかよくわかりませんが…放っておけませんわ!」

 

ダイヤも必要な荷物を準備し、飛び出して行ったルビィの後を追うのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先月のガイアメモリの売上げ数です」

 

その頃綺羅家では、聖良がツバサにガイアメモリの売上げ記録の報告をしていた。

 

「ありがとう。なるほどね…このメモリ、非常に興味深いわ」

 

「へぇ…どんなメモリなんですか〜?」

 

ツバサがタブレットの画面を見ていると、横から客として訪れていたことりもそれを覗き込んだ。

 

「これは確かに魅力的な能力ですね〜、使用者の思うがままにできちゃうのがいいというか…」

 

「どうやら最近は能力重視のガイアメモリが注目を集めてるようね。上手く使いこなせれば、単純なパワー系のドーパントよりも恐ろしいドーパントになれそうね。理亞さんも見てみる?どんな能力か気になるでしょう?」

 

「…えっ?あ、あぁ…私は大丈夫です。それより今から仕事があるので、行って来ます!」

 

「そう?気をつけてね」

 

「理亞…」

 

理亞は血相を変えて仕事へと向かった。彼女は数ヶ月前にガイアメモリに関する犯罪に巻き込まれて以来、ガイアメモリについて話を振られると、わかりやすく動揺する事が多くなった。ある時には口実を作ったりし、途中で退室してしまう事も珍しくなかった。

聖良は理亞がガイアメモリに対し、恐ろしいという感情を抱いている事を知っている。自身も表には出さないようにしているが、理亞と同様にガイアメモリへの怒りや恐怖を胸に秘めている為、姉として彼女の事を心から心配する日々が続いているのだった。

一方、ずっと黙っていたあんじゅは理亞の出て行った扉を一点に見つめながらため息をつき、ことりは聖良とあんじゅを交互に眺めながら微笑むのだった。

 

 

 

「どうしよう…」

 

そして、先程探偵部を訪れて来た少女の手掛かりを探すべく部室を飛び出したルビィ。勢いで飛び出してしまった為、早速次に何をすればいいかわからず詰んでいた。まぁ当然なのだが。

 

「やっぱり鞠莉ちゃんと果南ちゃんに相談すべきだったかなぁ…でもガジェットを作ってるから邪魔になっちゃうし、お姉ちゃんはあの感じだと話しても納得してくれなそうだし…」

 

「嘘じゃないんだ!信じて下さい!」

 

「そんなのどう考えても有り得ないですよ…正直に話して下さい」

 

「僕は正直に話してますよ!!」

 

「まぁまぁ落ち着いて…」

 

ルビィが悩みながら住宅街を歩いていると、サイレンを鳴らしながら救急車が横を走り去って行く。その近くの一軒家には曜と海未、そして一人の男性が彼女達から事情聴取を受けていた。

 

「曜ちゃん、園田刑事さん!お疲れ様です!」

 

「ルビィちゃん、おはヨーソロー!1人で何してるの?鞠莉ちゃん達は?」

 

「えっと、探偵部に依頼が入ったんだ。鞠莉ちゃん達は今色々と忙しくてルビィが1人で調査してるの。曜ちゃん達は事件の事情聴取?」

 

「はい。信じられないと思いますが…こちらの男性、息子さんが変な人形に襲われて階段から転落したと供述してるんです。人形が勝手に動くなんて、そんな話ある訳ないですよね」

 

「変な人形に…ん?あっ!!」

 

もしかしたらあの少女の言う人形とこの事件は何か関係があるかもしれない。ルビィは情報が見つかったと確信するのだった。

 

「あの!実はルビィが調査してる依頼も人形についてなんです!人形を追いかけて欲しいって、小さな女の子から依頼が…」

 

「そうなのかい!?ほら刑事さん、やはり見間違いでも何でもないですよ!この子の元にもそれっぽい依頼が来てるって!」

 

「ルビィも人形についての調査を?驚きました、思わぬところで繋がっていたなんて…」

 

「つまり目的は同じって事だね!ルビィちゃん、パトカーに乗って!私達もその人形を一緒に探すよ♪」

 

「ちょ、曜!?いくら知り合いでもそれは上からの指示なしに…」

 

「大丈夫だって!ほらルビィちゃん、早く早く!」

 

「ピギィ!警察の皆さん、恐れ入ります!」

 

ルビィは海未と曜と共にパトカーに乗り込み、少年を襲った人形の捜索を始めるのだった。

 

 

 

一方、ダイヤは飛び出してしまったルビィを探すべく住宅街を歩き回っていた。ちなみに本人は気づいていないが、ルビィとは反対方向に向かっている。

 

「ルビィは何処へ行ってしまったのでしょうか…ここの所忙しかったですし、無理してるのでは…」

 

「うわぁぁ!!誰か助けて!!」

 

すると、手前の家から少年らしき声が聞こえて来た。異変を感じたダイヤがそこへ近づくと、声を上げたであろう少年が2階の窓から真っ逆さまに落ちている途中だった。

 

「まずいですわ!!」

 

\スカル!/

 

ダイヤはスカルに変身し、少年を無事に救出する。

 

「大丈夫ですか?何がありましたの?」

 

「急に変な人形が家に入って来て…ほら、あれ!」

 

少年が2階の方を指差すと、窓からは不気味な茶髪の少女の人形がケタケタと笑いながら飛び降りて来た。口からは鋭利な歯が生えており、目は充血したかのように赤く染まっている。

 

「人形のドーパント!?あなたは何者ですの!?」

 

「ギシャァァァァ!!」

 

人形はこの世のものとは思えない声を上げ、スカルに襲いかかって来た。スカルは少年を安全な場所へ逃がし、スカルマグナムで人形へ銃撃する。銃弾は2発程命中し、人形は地面へ倒れ伏した。

 

「はぁ…やりましたか?」

 

「ギャァァァァァァッ!!」

 

しかし人形は再び起き上がり、こちらへ飛びかかって来る。損傷も特になく、攻撃も効いているとは思えなかった。

倒したと思って油断してしまったスカルは小さな身体に翻弄され、スカルマグナムを奪い取られてしまう。

 

「そんなのアリですのぉ!?」

 

「ギャァァァ!」

 

「あぁぁぁぁ!!どうしましょう困りましたわぁぁ!!」

 

人形はスカルマグナムを連射し、それを避けるスカルを嘲笑っていた。

そんな2人の戦闘の様子を、通りかかったパトカーの中に乗っていたルビィが発見した。

 

「曜ちゃん!!お姉ちゃんが!!」

 

「えっ、何!?」

 

「ダイヤがどうかしました?」

 

「あっ…いや、仮面ライダーさんがあそこで何かと戦ってるの!」

 

曜はパトカーを駐車させ、海未とルビィと共に急いで車内から飛び出す。

スカルは人形に飛びつかれており、それを身体から引き剥がそうともがいていた。

 

「もう!離れなさい!!燃やしますわよ!?」

 

「な、ななな何ですかあれは!人形が動いてますぅぅ!!」

 

「ヤバい…!行かなくちゃ!」

 

曜がアクセルドライバーを取り出そうとしたところ、ポケットの中のビートルフォンがブルブルと音を立てて震える。画面に表示されていたのはルビィからのメッセージであり、『園田刑事さんにバレちゃうよ!』と書いてあった。

 

「おっと危ない…あっ海未ちゃん!!あれ何!?」

 

「えっ?」

 

曜は空を指して海未の注意をそちらへ向かせると、うなじに向けて手刀を叩き込んだ。海未は『あっ!?』と声を出した後、その場で気を失う。

 

「海未ちゃんゴメンね、正体がバレちゃうから…ルビィちゃん、ダイヤさんは私が助けるからパトカーの中に隠れてて!」

 

「う、うん!」

 

ルビィは気絶した海未を引きずりながらパトカーへと戻って行った。曜は改めてアクセルドライバーを装着し、メモリを右手に構える。

 

\アクセル!/

 

「変…身っ!!」

 

\アクセル!/

 

「ダイヤさん、ちょっと失礼します!」

 

アクセルに変身した曜はスカルの仮面にしがみついている人形をエンジンブレードで一突きし、遠くへ吹き飛ばした。

 

「曜さん、助かりましたわ!」

 

「どういたしまして!あの人形何なんだろう?ドーパントなのかな…」

 

「わかりません。ですがあんな小型のドーパントは今まで見た事がありませんわ」

 

「ケケケ…」

 

スカルとアクセルが話している内に人形はゆっくりと起き上がり、逃亡を図ろうとする。

 

「あっ!曜ちゃん、お姉ちゃん、人形が逃げちゃう!!」

 

「わ、本当だ!ルビィちゃん、教えてくれてありがとう!」

 

「くおぉらぁ!!待ちなさいこの化け人形!!」

 

「よし!ルビィもパトカーで…はダメだよね、無免許運転になっちゃうし…」

 

アクセルはバイクフォームに変化、スカルはスカルボイルダーを呼び出し逃げて行った人形の後を追いかけ、走り去った。ルビィもパトカーの中で眠っている海未を放置し、慌てて2人について行く。

ところが人形のスピードは想像を遥かに上回っており、2人が3回目の角を曲がった時には既に姿を消していた。

 

「はっや…人形のスピードとは思えないよね」

 

「参りましたわ…そもそもあのドーパントはどうやって倒せばいいのでしょうか…」

 

諦めて変身を解こうとしたその時、2人の真横にある廃車置き場から軽自動車がクラクションを鳴らしながら猛スピードでこちらへ向かって来た。アクセルは跳びながら車の天井で回転して躱し、スカルは後方へ避けながらタイヤへスカルマグナムの弾を発砲する。車は左へスリップし、横から電柱へ激突した後に停止した。

 

「ケケケケケ!」

 

「あの笑い方!腹立たしいですわ!!」

 

「ホント、舐められたもんだよね」

 

「ケケケ…ゲアッ!!」

 

「え、ちょ、なんか外してるんですが…」

 

「ち、力も強いんだなぁ…」

 

窓から飛び出して来た人形は、いつの間にか外していた車のドアとタイヤを2人へと投げつける。2人は後退し、連続で投げられる部品を次々と躱し、破壊していく。

 

「ケッケケケ〜」

 

「何が『ケッケケー』ですか!!頭外しますわよ!?」

 

「いやダイヤさん怖いから!!」

 

人形は自身を捕獲しようと向かって来たスカルの股を潜り抜け、右足首を掴んで転倒させるとそのまま走りながらスカルを勢いよく引き摺り回した。

 

「こ、こらぁお化け人形さん!お姉ちゃんを離して!」

 

それとほぼ同じタイミングで2人を追いかけて来たルビィが現れ、人形に止めるよう叫ぶ。それに反応した人形は手を止めてルビィの方へ振り返るのだが、その顔は怪物とは思えない程に整ったものへと変化していた。

 

「…えっ?」

 

「今だっ!」

 

\エンジン!/

\エレクトリック!/

 

アクセルは人形が動きを止めた隙にエンジンメモリを挿し込みながらブレードのトリガーを引き、攻撃する。電気を浴びた人形は何処かへと飛び去ってしまった。

 

「逃げたかぁ…」

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「あいたたた…ルビィ、ありがとうございます」

 

スカルがルビィに起こされながら変身を解除すると、同じく元の姿に戻った曜がこちらへ走って来る。

 

「ダイヤさんも無事でよかったよ…」

 

「それよりもルビィ、あなたいきなり部室を飛び出すなんてどうしましたの?女の子がどうとか言っていましたが…」

 

「そうだよ、私も先走っちゃって聞くの忘れてた。ルビィちゃん、探偵部にどんな依頼が来たの?」

 

ルビィは今朝早くに探偵部に人形探しの依頼をしに現れた少女の事を2人に説明する。

 

「なるほど…信じ難い話ではありますが、嘘を言っている様子ではなさそうですね。現にあのおかしな人形もいる訳ですし」

 

「でも特徴を聞く前に何処かに行っちゃったから、さっきのお化け人形があの子の探してる人形なのかはわからないけど…」

 

「で、曜さんは人形に関する事件が起きたから調査していたと…」

 

「どうやら被害に遭った住人全員がさっきの人形を目撃しているみたいだよ」

 

「さっきの人の息子さんはなんで被害に遭っちゃったのかな?あの人形に何かして呪われちゃったとか」

 

「呪いなんて有り得ません。あの人形は間違いなくドーパントですわ!小さいのにあそこまで強いと違和感でしかないです!」

 

しかしルビィはどうも腑に落ちない様子だ。先程人形が見せた普通と何ら変わりないあの顔が、彼女の頭の中に強く残っているのだった。

 

 

 

夜が更け、沼津の街は飲み会を開く者や仕事帰りの者が闊歩する場所へと姿を変えていた。そんな中、ChunChunにある扉の奥ではタブー・ドーパントがことりと密かに密会を開いているのだった。

 

「今日のタブーの肉体もいい調子だね、あんじゅさん。底知れない美しさも秘めたそのメモリ、素晴らしい能力ですよね〜」

 

「そう言われるとありがたいわ、ことりさん」

 

「はい!…でも、なんか今日はいつもと比べると完璧じゃないなぁ。何かあったんですか?」

 

「ことりさん、あなたエスパーかしら?その通りよ」

 

タブーはあんじゅの姿へと戻り、自身の考えている事を見透かすことりへと話し始める。

 

「理亞さんがね…英玲奈の事があったのかしら。ここの所ガイアメモリの話題には触れようともしないし、芸能活動にばかり没頭しているのよ」

 

「あぁ、確かに私もそれは思ってました。理亞ちゃんって初めて会った時から、なんか私に冷たいんですよ〜」

 

「あの子と聖良さんには私の為にドーパントとして働いてもらわないと困るのよねぇ… ねぇことりさん、理亞さんを完全なドーパントにしてくれない?」

 

「あんじゅさんの頼みなら…お易い御用ですよ♪」

 

今の理亞はドーパントになる事を拒否している。あんじゅとことりは彼女をどうするつもりなのだろうか。それは誰にもわからない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、続きに取り掛かろうかなん」

 

そして翌日。格納庫では、果南が年季の入った机の上に置かれた未完成のメモリガジェットの作成を始めていた。それから数分し、曜を連れたダイヤが格納庫へと入って来る。

 

「果南ちゃん、お取り込み中申し訳ないんだけど検索をお願いできるかな?調べて欲しい事があって…」

 

「ゴメン曜、見ての通り今忙しいんだよね。昨日新しいガジェットの部品と設計図が届いたんだ、完成までもうちょっとかかるから後にして欲しいなぁ」

 

「それはそれ、これはこれですわ。最近起きている人形による事件の解決が優先です」

 

「人形?ダイヤ、Figureによる事件って何があったの?」

 

果南がそれに反応するより先に格納庫に鞠莉とルビィが入って来る。

どうやら昨日、果南はガジェット造りに夢中で鞠莉は彼女にずっと付き添っていたらしく、2人共事件や依頼の事は知らないそうだ。ルビィと曜は事情を知らない鞠莉へと昨日の出来事を説明し始めた。

 

「Oh…それは確かにMysteriousねぇ」

 

「事件は3件も起きてるんだよ。今のところ被害にあった子達全員、命に別状がないのは幸いなんだけどね…また誰かが狙われるかもしれないから調べて欲しいんだ」

 

「という訳ですから果南さん、作業は後にして下さい」

 

「ちょちょちょダイヤ!部品がどっか行っちゃうから!わかったわかった、じゃあ始めよう」

 

ダイヤに作業を中断させられた果南は渋々と立ち上がり、地球の本棚へと入る。

 

「じゃあ、検索始めるよ。キーワードは?」

 

「とりあえず、まずは被害者の名前から言うね。『室井裕翔』くん、『周七海』ちゃん、『真鍋宇月』ちゃん。全員小学生だよ」

 

果南は曜から提示された3人の名前を入力する。手元には一冊の本が残り、それを読み進めていく。

 

「『日下部美帆(くさかべみほ)』という高校1年の子の本だったよ。どうやら小学生の妹がいるらしいね」

 

本には人形を大切そうに抱えた小柄な少女と柔らかな笑みを浮かべたショートヘアの女子高生の写真が載っていた。それを見たルビィは人形を抱いた少女を見て、思わず反応を示す。

 

「あっ、この子!この子だよ!探偵部に依頼に来た女の子!」

 

極めつけは妹らしき子が抱えている人形だ。金髪で三つ編みを2つに結わえた可愛らしい少女の人形。依頼に現れた少女が持っていた物と全く同じである。

 

「ドーパントの正体はこの子…妹の麻心(まこ)ちゃんだと考えられるよ」

 

「そんな…何故小学生の方がドーパントになってしまったんでしょうか…」

 

「いや、麻心ちゃん本人の意志とは関係ないんじゃないかな。きっと姉である美帆ちゃんが麻心ちゃんをドーパント…昨日私達と戦った人形に変えちゃったんだよ」

 

「それまずいんじゃ…!?三日ちゃんの時みたいになっちゃう!!」

 

「ガイアメモリは身体の成長が不完全な人が使用すると暴走症状を引き起こす。だからこのまま放っておくと麻心ちゃんは…」

 

「大変…!ダイヤさん、ルビィちゃん、行こう!」

 

「うん!」

 

「麻心さん、待っていて下さい!」

 

曜達は麻心を救出すべく、早足で格納庫を飛び出した。鞠莉も向かおうとするが、ふと先程の曜と果南の推測に違和感を感じ、足を止めた。

 

「ん?鞠莉は行かないの?」

 

「…ねぇ果南、何かおかしくない?」

 

「何が?」

 

「『美帆が麻心をドーパントに変えた』って、果南は言ってたでしょ?でもその動機がよくわからないのよ」

 

鞠莉が着目したのは犯人と考えられる少女・美帆の動機だ。曜と果南の推測だと、妹をドーパントにしてまで事件を起こした理由が明確に説明されていない。

 

「3人の被害者が憎いからじゃないの?でも自分は手を汚したくなくて妹を利用した。そういう事じゃない?」

 

「でも被害に遭ったのは全員小学生よ?高校1年はHalf adultだし、年の離れた子達にムキになるような事なんてないと思うけど…仮にムカッとする事があったとしても殺そうとまではしないんじゃない?」

 

「あぁ、確かにそうかも。でもキーワードが足りないから調べようがないよ。動機は曜達が聞き出してくれると思う」

 

「もう!ガジェット造りがBusyなのはわかるけど、丸投げはNGよ!メモリ名も調べ忘れてるからどう戦えばいいかわからなくて曜とダイヤも困るんじゃない?動機だって、今揃ってるキーワードから手掛かりが少しでも見えるかもしれないし…」

 

「…そうだよね。ごめん、つい夢中になって探偵部としての活動を忘れてたよ。調べてみるから鞠莉は曜達の応援に向かって。あの2人は戦闘経験も少ないし、私達みたいに状況に応じたメモリチェンジができないから」

 

「果南…!Thanks!!」

 

鞠莉は果南に促され、格納庫から飛び出して行った。出だしは遅れたが、ようやく2人で1人の探偵が動き出した瞬間だ。

 

 

 

「理亞ちゃん、来てくれてありがとう♪」

 

「何ですか。私に話って」

 

一方ChunChunにある一室では、理亞がことりに呼び出されていた。

 

「理亞ちゃんってさ…『ガイアメモリを使いたくない!』って思ってるでしょ?芸能界の友達だった子達から貶められたり、ストーカーに襲われたりして」

 

「なんでアンタがそんな事知ってんの」

 

何故自分の心情を知ってるのだろうか。途端にことりへ対する不信感が募り、理亞は思わず口調が強くなる。ことりは歳上であるが、そんな事は彼女にとって今はどうでもよかった。しかし当のことりは理亞の態度を特に咎めようとはせず、淡々と言葉を続ける。

 

「ただの勘だよ〜、もしかして図星?」

 

「はぁ…そうですけど、だったら何なんですか?」

 

「安心して!ツバサさんにチクッちゃおうとか、そんな事は考えてないよ?私もそんな怖い経験しちゃったらそうなってもおかしくないから、少し気持ちはわかるんだ」

 

『出会ってそんなに経ってないのにお前に何がわかるんだ』と内心で毒づいたが、彼女には何を言っても無駄だ。理亞は大人しく彼女の話を聞く事にした。

 

「ガイアメモリの事を考えたくないなら無理に考えなくてもいいと思うよ。正直手元にあるのも嫌だよね?」

 

「まぁ…」

 

「だったらさ、私が理亞ちゃんのドライバーとメモリを代わりに持っていてあげる。そうすれば理亞ちゃんは何も苦しむ必要なんてないよ。ねっ?」

 

「分かりました…」

 

そう説得された理亞はクレイドールメモリとガイアドライバーを取り出し、ことりへと手渡した。

 

「…じゃあ、仕事があるから。姉様も待ってるし」

 

「ありがとう。確かに受け取ったよ…?」

 

ことりは口元を妖しく緩ませながら出ていく理亞の後ろ姿を見送るのだった。




<次回予告>

ルビィ「麻心ちゃんの事、本当に愛してるの!?」

ダイヤ「あなたには本当に感謝していますわ」

クレイドール「絶対に許さない!!」

果南「全部わかっちゃったんだよね」

次回 Pは動き回る/姉妹のカタチ





鞠莉「実は…」

果南・ダイヤ・ルビィ・曜「「「「えぇぇぇぇぇっ!?」」」」


そして、黒澤探偵部をも巻き込む最大の危機が訪れる…
次回を見逃すな!


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#19 Pは動き回る/姉妹のカタチ

パペティアー編後編です。
ちょいネタバレになってしまいますが、今回は風都探偵で判明したハイドープの能力について言及する描写があったり、原作と比べると大分アレンジした部分が多いです。
また、ラストで黒澤探偵部に大きく関わる出来事が起こるので是非最後まで読んで頂けると幸いです。

そういえばかなまり、前回Wに変身してなかったな…()


「ギャハハハハッ!!」

 

「あー!!あのドーパント、イライラするんだけど!!」

 

「同感ですわ!暴走しているとはいえ笑い方が下劣過ぎます!」

 

閑静な住宅地に不気味な笑い声が響き渡る。その声は昨日、2階のベランダから突き落とされそうになった少年が住む家の真正面の道で大きくこだまするのだった。

ダイヤと曜、ルビィは人形が少年を殺害すべく再びここに現れるだろうと予想し先回りしていた為、今回は未然にそれを防ぐ事ができたのだ。

 

「それにしてもこのドーパントの変身者の麻心さん、とんでもなく身体能力が高いのですね…」

 

「だとしたらメモリの能力で底上げされてるから厄介だよ!早くメモリブレイクして助けないと!」

 

この人形の狡賢さや素早さは今まで以上だ。どのように対処すればいいかを考えながら戦っているが、2人はスカルとアクセル、エンジンの他に対抗できるメモリを持っていない為、状況はあまり芳しくなかった。だがこのまま麻心の身体が限界を迎えるのを待つ訳にはいかない。

しかしそんな2人の元へ、ようやく動き始めた彼女が到着する。

 

「ダイヤ、曜、お待たせ!」

 

「鞠莉さん!遅いですわよ?」

 

「Sorry, ちょっと果南と話してたの!それじゃあ行くわよ!」

 

\トリガー!/

 

「変身!!」

 

\サイクロン!トリガー!/

 

鞠莉は転送されてきたサイクロンメモリとトリガーメモリをダブルドライバーへ挿し込み、勢いよく展開させる。

 

「あれ、いきなりサイクロントリガー?どうするの?」

 

「Capture strategyよ!」

 

「きゃぷ…何?」

 

『和訳すると捕獲作戦、という意味だよ』

 

\ルナ!/

\ルナ!トリガー!/

 

「次はこれよ!」

 

\スパイダー!/

 

Wはルナトリガーにチェンジ、起動させたスパイダーショックをトリガーマグナムにセットし、ホーミング弾を撃ち込む。トリガーマグナムから放たれた無数の弾は逃げ惑う人形を追尾・命中すると黄色のネットへと変化した。人形は塀に固定され、身動きがとれない。

 

「メモリを多く持ってるって便利ですわね…」

 

「そうでしょ〜?さて、仕上げにメモリブレイクよ!」

 

\サイクロン!トリガー!/

\バット!/

 

Wは再びサイクロントリガーへと戻り、トリガーマグナムへバットショットをセットする。

次にトリガーマグナムのスロットにトリガーメモリを装填し、人形へ照準を合わせながらトリガーを引いた。

 

\トリガー!マキシマムドライブ!/

 

「「トリガーバットシューティング!!」」

 

「ギャァァァァ!!」

 

人形は叫び声を上げ、その場で爆発した。煙が晴れると人形はゆっくりと地面に落ち、動かなくなった。

 

「麻心ちゃん!!」

 

それを見たルビィは人形へ駆け寄り、優しく両手で抱き上げた。特に目立った破損はなく、顔も元の綺麗な状態へと戻っていた…のだが、人形からメモリが排出されていないのに気づく。

 

「あら?メモリが出てきませんよ?」

 

『そうだよ。その人形はドーパントじゃないからね』

 

\ルナ!トリガー!/

 

果南はメモリをルナに変え、曲がり角に向けて銃撃する。ホーミング弾は塀を避けるように進んで行き、何かに命中する。塀の向こう側から転がって来たのは、白のスーツに身を包んだ悪魔のような顔をしたドーパントであった。ドーパントの身長は人形のような小さな身体ではなく、普通の人間と特に変わりなかった。

 

『アイツのメモリの名前はPUPPETEER(パペティアー)。人形使いの記憶を秘めたメモリで、その名の通り人形を使いながら相手を翻弄させる厄介な能力のドーパントだよ』

 

「じゃあ麻心ちゃんはドーパントじゃないんだ…よかった…」

 

その解説を聞きながら人形をよく見ると、パペティアーがそれを操っていた事を示すかのように手足が糸で拘束されている。果南はそのままトリガーマグナムを連射し、パペティアーへとダメージを与えていくが…

 

「待って!もうやめて!」

 

パペティアーは変身を解き、元の姿…本の中の写真に写っていた女子高生・日下部美帆の姿へ戻った。

 

「美帆…あなた、どうしてガイアメモリなんて使ったの?」

 

「全部家族の…いえ、妹の為よ」

 

「妹の為…?」

 

俯きながら話し始めようとする美帆。しかし、ルビィはそれに割り込むように小声で呟いた。

 

「どうして自分の大切な家族を言い訳にするの…?ルビィには何があったのかわからないけど、家族を言い訳にガイアメモリを使って沢山の子供達を怪我させて!そんなの最低だよ!!」

 

「何よ。あなたに何がわかるのよ…」

 

「こんな酷い事、麻心ちゃんを悲しませてまでやるべき事なの!?誰よりも妹の気持ちを考えて、お父さんやお母さんにも負けないくらい寄り添って、正しい事は正しい、間違ってる事は間違ってるって教えてあげる…お姉さんってそういう存在じゃないの!?」

 

「ルビィ…」

 

立場上ルビィが妹で美帆が姉なので違いはあるものの、それでも互いに姉妹を持つ者同士だ。特にルビィには自分にとっての姉を体現した存在…ダイヤがいる為、美帆がそうでない事に激しい憤りを覚えたのだ。ここまで彼女が強気な姿はスカルはおろか鞠莉達もこれまでに見た事はない。

だが、美帆はそれを聞いても大人しく引き下がろうとはしない。

 

「何の話よ!」

 

「麻心ちゃん、ルビィに人形を探してって頼んで来たんだよ?あなたを止めて欲しいからきっと…」

 

「そんな嘘が通じるとでも思ってるの!?」

 

「嘘じゃないもん!人形だって持っていたし、少しだけど話もした!あなたは麻心ちゃんの気持ちを何もわかってない…麻心ちゃんの事、本当に愛してるの!?」

 

「さっきから聞いていれば知ったような口を…!いい加減にしなさいッ!!」

 

\パペティアー!/

 

美帆は顎にメモリを挿し、パペティアー・ドーパントへと姿を変えた。こちらへ迫ってくる不気味なその姿にルビィも思わず足がすくんでしまう。

 

「意気地なさそうな女の癖に…ッ!」

 

パペティアーはどこか躊躇うような素振りを見せつつも、ルビィに襲いかかろうとする。その手があと少しで彼女に伸びようとした瞬間、パペティアーに銃弾が放たれる。Wとスカルの銃撃を受けたのだ。

 

「変身できない人に攻撃とは見過ごせないわね!」

 

「しかも私の妹に手を出すなんて…そんな事は絶対にさせません!」

 

スカルはロストドライバーからスカルメモリを抜き、スカルマグナムへと挿し込もうとしたその時、突如太陽が闇に包まれ空が暗くなった。同時に5人の目の前に霧が出現し、パペティアーをゆっくりと包み込んでいく。

 

「何これ…!見えない!」

 

「っ!美帆がいないわ…」

 

やがて霧が晴れると、パペティアーはその場から完全に姿を消していた。

 

「ルビィ、怪我はない?」

 

「うん…麻心ちゃん、ルビィ達が助けてあげるから待っててね」

 

その場に残された茶髪の少女の人形を抱きしめ、ルビィは一層決意を固めるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…はっ!ここって…」

 

「あっ、どうやらお目覚めみたいだね〜」

 

パペティアーが目を覚ますと、見知らぬ天井が視界へと飛び込んでくる。周囲を見回していると、別の扉からモップを持ったことりが入室してきたのだった。

 

「誰なんですか?あなた…」

 

「副業でガイアメモリの研究をやってるただの17歳だよ。ちなみに本業はChunChunというメイド喫茶の店長なのです♪」

 

「もしかして…あなたが私を?」

 

「そう!パペティアーメモリの能力は非常に優秀なの。だから助けたんだよ」

 

「それはありがとう。でもこんな所にいる暇はないの。どうしても許せない女がいるから…」

 

パペティアーはそのまま店の外へと出ようとするが、ことりがモップで進路を阻みながら手を掴む。

 

「何ですか。邪魔しないで下さい」

 

「落ち着いて?そんなに復讐したい人がいるなら私も協力してあげるよ。ちょっと研究したい事があるんだよね〜」

 

そうパペティアーを引き止めたことりはモニターを操作し、喫茶店内の監視カメラの映像を拡大する。そこにはいかにも落ち着かないといった様子で席に座る理亞の姿が映されていた。

 

「閉店時間が楽しみだなぁ…♪」

 

 

 

「麻心ちゃん、聞こえるかな?」

 

その頃、鞠莉達は浦女へと戻って来ていた。鞠莉と果南は格納庫の方へ行っている為、部室ではルビィが先程から回収した人形に話しかけているが、反応はない。

 

「ダメですわ。やはり麻心さんが人形なんて有り得ないのでは?」

 

「そっか…だって麻心ちゃんはこの人形を探してるもんね。答えてくれる訳な…」

 

『ルビィちゃん、聞こえるよ!』

 

「ピギャァァァ!?しゃ、喋ったよお姉ちゃん!?」

 

「き、ききき聞きましたわ…やはりこれは呪いの人形なのでは!?」

 

なんと突然、これまでうんともすんとも喋らなかった人形が突然少女の声で話し始めたのだ。

 

「違うよ。今のは人形じゃない」

 

ルビィとダイヤが驚いていると、部室からカエルのようなメモリガジェットを手にした果南が鞠莉と共に入って来た。

 

「こんにちは、ルビィちゃん」

 

『こんにちは、ルビィちゃん』

 

ギジメモリに声を吹き込んだ果南がカエルのメカにそれを挿し込み眉間のボタンを押すと、彼女とは別人の声でカエルのメカが喋り出した。

 

「これは『フロッグポッド』っていうガジェットだよ。ギジメモリに声を録音して本体に挿し込めば、さっきみたいに違う人の声でそれを再生したり、敵の撹乱に使ったりする事ができるみたい。どう?かなり優れものでしょ?」

 

「つまり〜、こういう事もできるのよ♪」

 

『はいっ!!アルトじゃ〜ないとッ!!』

 

『はいっ!!アルトじゃ〜ないとッ!!』

 

鞠莉は先日の騒動で知り合った飛電の社長・或人のギャグ動画の音声をギジメモリに録音する。そして果南がその音声を入れたギジメモリを挿し込みながらフロッグポッドのボタンを押すと、或人の決め台詞がダイヤの声で再生された。

 

「堕天使ヨハネ、降臨!」

 

『堕天使ヨハネ、降臨!』

 

「くぉらぁ!!私の声で遊ばないで下さい!!」

 

「はい鞠莉、おふざけはそこまで」

 

果南からフロッグポッドを取り上げられ、舌をペロリと出してウインクをする鞠莉。一方、ルビィはフロッグポッドには見向きもせず何かを考えており、やがて何かを思いついたのかゆっくりと立ち上がった。

 

「ルビィ、どうしたの?」

 

「麻心ちゃんに会いに行って来るよ。ちゃんと人形を返さないと」

 

「待ってルビィちゃん、その事なんだけど…実は麻心ちゃん、今年の3月に亡くなってるんだ」

 

「えっ…」

 

「か、果南さん?それはどういう事ですの?」

 

昨日、鞠莉がダイヤ達と合流する直前に果南は麻心について地球の本棚で検索していたのだった。更にそこから検索を進めていくと、被害者と麻心の関係や美帆が犯行に至った経緯が少しだけ見えてきたらしい。

果南曰く、麻心は誕生日プレゼントには毎回人形を買って貰っている程人形が好きな少女だったが、それが原因でいじめを受けるようになり、やがて精神的に限界に達してしまったのか3月頃に駅のホームで飛び降り自殺を図ってしまったとの事だ。

 

「つまり美帆さんによる人形を使った襲撃事件の被害者、そしてダイヤが助けた男の子の4人は麻心ちゃんをいじめていた中心メンバーだったって事」

 

「加害者だった彼らは麻心の死後に母親が訴訟を起こした事をきっかけにちゃんと反省していたそうよ。部屋から発見された麻心の日記が証拠になったみたい」

 

「でも元から身体の弱かった母親は麻心ちゃんが自殺したショックで体調を崩して6月末頃に心不全で亡くなった。美帆さんがガイアメモリに手を出したのはおそらく麻心ちゃんをいじめていた子達に復讐する為だと思うよ。父親は美帆さんが産まれてすぐに事故死してるから親は母親しかいない。酷な言い方をすると麻心ちゃんも母親も殺されたようなものだし、そりゃ許せないよ」

 

「そんな…辛すぎるよ、そんなの…あれ…?」

 

ふと、ルビィは先日部室で麻心に会った事を思い出した。

 

「でも、それならルビィが会った麻心ちゃんって一体何なんだろう?」

 

「それは…でも死人還りが関係してるとは思えないしなぁ…」

 

「ルビィが見たのって…まさかGhost!?」

 

この時期によくテレビ番組でも取り上げられる霊的な類なのか、はたまたガイアメモリの能力によるものなのだろうか。

 

「何なのかはわからないけど、麻心ちゃんが美帆さんの心を助けてあげたいと思ってるのは確かだと思う…だからルビィも麻心ちゃんのその気持ちに応えてあげたい!」

 

「あらルビィ、その想いはマリーも同じよ♪それに麻心だけじゃない。美帆を止める義務も私達探偵部にはあると思うの」

 

「そうと決まれば早速行動開始ですわ!鞠莉さん、ルビィ、行きましょう!」

 

「じゃあ3人共、何かあったら連絡して。私はパペティアーの攻略法を調べておくから」

 

依頼の解決、ガイアメモリに呑まれてしまった者を止める事。

それらは彼女達にとってはいつも通りにすべき事ではあるが、逆に考えれば普段から忘れてはいけない事でもある。ダイヤとルビィ、鞠莉は二手に分かれて学校を飛び出し、果南は地球の本棚で検索を行うべく格納庫へとそれぞれ向かって行った。

 

 

 

そして一方、ChunChunも閉店の時間となった。静まり返った店内には理亞のみが残っており、奥の部屋からは店員や客が全員帰った事を確認したことりが現れた。

 

「今度は何?疲れてるからさっさと済ませて帰らせて欲しいんだけど」

 

「はい理亞ちゃん。これ返すね」

 

ことりの手には先程預けたクレイドールのメモリが握られていた。預かると言っていた筈だが、たった数時間で返すとはどういうつもりなのだろうか。

 

「本当はずっと預かっているつもりだったんだけど、もしツバサさんに見つかったら面倒でしょ?だからせめてメモリぐらいは持っていた方がいいかなぁと思って」

 

以前理亞がメモリを捨てた時、ツバサは『ガイアメモリは私達の絆だから大事に持っていてね』と言った。ことりはそれも知った上で自分を気遣ってくれているのだろう。そう思った理亞はことりの手にあるクレイドールメモリをそっと受け取った。

 

「じゃあ、あとはよろしくね」

 

「えっ?」

 

『よろしくね』とはどういう意味なのか。それを尋ねようとした瞬間、突如として理亞の意識が遠のく。その原因は彼女に巻きつく操り糸である。

ことりの言葉は理亞の背後にいたパペティアーに向けて告げられたものだったのだ。

 

「あなたはもう私の操り人形よ」

 

「流石だよ…!これでパワーアップしたクレイドールの力を見る事ができる!ふふっ♪」

 

ことりは立ちながら眠っている理亞の腰にガイアドライバーを装着させながらほくそ笑んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「今この道を通ったから…もうすぐだね」

 

「曜さんから聞いた住所だと、ここを曲がった先にある住宅みたいです」

 

「あ、2人共こっちこっち!」

 

曜から提供された住所を辿りながら美帆の家を探すダイヤとルビィ。ようやく目的の場所が近づいたところで先に来ていた曜が曲がり角からひょっこりと顔を出し、2人を家へと案内する。美帆の家は既に警察による家宅捜査が始まっており、周囲にはそれを一目見ようと群がる近隣住民が集まっていた。ルビィ達は野次馬をかき分けて家の中へと入って行く。

 

「曜!それにダイヤとルビィも、お疲れ様です」

 

「園田刑事、ごきげんよう。美帆さんはいらっしゃいますか?」

 

「家にはいないので完全に黒ですね。インターホンを押しても出なかったので強制捜査に踏み込みました」

 

ダイヤは念の為に美帆の安否を海未に聞くが、海未が家を訪ねた頃にはもぬけの殻となっていたらしい。

その上、テーブルの上とその周りには酒が入っていたであろう無数の空き缶、灰皿には喫煙の形跡が残されている。ストレスで飲酒や喫煙を繰り返していたのか、家族を亡くしてからの生活が乱れていたのは明らかだ。

 

「法律で禁止されている未成年の飲酒・喫煙までしていたぐらいだし、心身共に限界だったのかも。ただ逮捕するだけじゃなくて心のケアも十分にしてあげないといけないね」

 

「そうですね、いくら犯人とはいえ同情ができない訳ではありませんし…ルビィ、この後はどうしますか?」

 

「ここに置いておくだけじゃダメだと思う。この人形は美帆さんに直接渡さないと」

 

「…あなたならそう言うと思いました。私も付き合いますわ」

 

ダイヤとルビィはその場を後にし、引き続き美帆の行方を探し始めた。

 

 

 

「よし、検索終了。あとは鞠莉かダイヤ達からの連絡を待つだけだね。暇潰しにフロッグポッドのテストでもやってみようかな〜」

 

『ビョ、病院から?ビョイーンと帰ろう!』

 

『はいっ!!アルトじゃ〜ないとッ!!』

 

「ブフッ!ヤバいこれ…梨子ちゃんとか善子ちゃんが言ってると思うとめっちゃ面白いんだけど…ぷくく」

 

一方、パペティアーの検索を終えた果南はフロッグポッドに録音していた音声を梨子や善子の声で再生しながらゲラゲラと笑っていた。部室に戻る為格納庫の扉を開けながら次の音声を再生しようとした瞬間、目前に巨大な何かの姿が現れた。

 

「!?なんで組織のドーパントが…!」

 

果南の見たそれの正体はクレイドール・ドーパントだった。鞠莉が不在で変身ができない彼女を気に留める様子もなく、クレイドールは腕から光弾を放ちながらこちらへ攻撃を加えてくる。逃げながらスタッグフォンを取り出し鞠莉へと連絡を入れようとするが、スタッグフォンは光弾が放たれた衝撃で数メートル先へと吹き飛んでしまった。

 

「とうとう私の事を捕まえに来たんだね」

 

「捕まえる?別にあなたに用はないわ。私が探してるのは黒澤ルビィよ」

 

「美帆さんか…あなたの狙いはルビィちゃんなんだね。てっきりダイヤか曜だと思ってたよ」

 

「彼女達は私を妨害しただけ。でも黒澤ルビィは許せない…!アイツは私だけでなく麻心の事まで侮辱した!!」

 

パペティアーによって操られたクレイドールの攻撃は校舎外へ出ても止まる事はない。このままではやられると果南が確信したその時、後方から2つの何かが飛び出しクレイドールを破壊した。1つは果南を助けようとしたファング、もう1つは果南の後ろに停車したアクセルガンナーの放った光弾だ。

 

「ファングにアクセルのユニット!助かったよ」

 

ほっと息をつくが、そうも言っていられない。ルビィが美帆に狙われているのだ。果南はスタッグフォンを開き、鞠莉へと連絡を入れるのだった。

 

「…ここは?」

 

粉々になったクレイドールも再生能力で元の形に戻り、パペティアーの操り糸の能力から解放される。最後の記憶を辿ると、自身が操られる前に見たのが笑みを浮かべたことりの姿である事を思い出した。

 

「あの女、私を騙すなんて…!絶対に許さない!!」

 

ことりに利用された事を悟ったクレイドールは変身を解くのも忘れ、ChunChunへと引き返して行った。

 

「…まぁいいわ。黒澤ルビィは見つけたら絶対に…キャッ!!」

 

クレイドールの操り糸が外れた為、パペティアーは諦めてルビィを探そうと踵を返そうとした瞬間、横から飛び出して来た影からの攻撃を受ける。前方には自身を攻撃したであろう影…スミロドン・ドーパントが立っていた。

 

「理亞の様子がおかしいと思って来てみたら…あなた、理亞を操って何をしたんですか!?」

 

スミロドンは獲物を狩る野獣のような勢いでパペティアーへ襲いかかろうとする。妹が何者かわからないドーパントに操られていたのだ。怒りを抱くのも無理はない。

 

「待って!違う!私はメイドカフェの店長と名乗る女にあなたの妹を操るよう唆されたの。引き受けたら報酬を出すと言われて…」

 

「メイドカフェの店長…南ことりですか…!」

 

それを聞いたスミロドンはことりを問いただすべく、ChunChunへと向かって行く。パペティアーもスミロドンの姿が見えなくなったのを確認した後、ルビィを探すべくその場から去った。

 

 

 

「見つからない…何処にいるんだろう」

 

「焦っても意味がありませんわ。長い時間歩き回りましたし、ここで一旦休みましょう」

 

そして同じく、ルビィもダイヤと共にパペティアーを探す。公園に設置されたベンチに座った瞬間、先程までの疲れが一気に押し寄せてくる。背もたれに寄りかかると、少しずつ太陽が落ち始めているのが見えた。

 

「オレンジジュースで良かったですか?」

 

「あ、ありがとう…」

 

眠気で瞼が閉じかけた瞬間、隣にダイヤが座りオレンジジュースの缶を渡してくる。まさか自分の為に買ってくれたのだろうか。ルビィは少し申し訳なさそうにそれを受け取った。

 

「あら?口に合いませんでしたか?」

 

「ううん、そんな事ないよ。でもなんか申し訳なくて…」

 

「気にしないで下さい。私が勝手にしている事ですから。それに今回はルビィの方が動いていますし」

 

ダイヤはルビィに優しそうに笑いかける。この笑顔を見るのは何度目になるのだろうか。そんな事を考えながら自身も笑顔を返す。

 

「…ルビィ、あなたは本当に大きくなりましたね」

 

「えっ?」

 

「もう覚えていないかもしれませんが、昔のあなたはどんな時もただ私の後ろをついて来るだけだったんです。でも今日のあなたは私よりも積極的に依頼解決の為に動いていたように見えます。妹の成長をここまで実感する日が来るなんて想像もしていませんでしたわ」

 

「そんな事ないよ…ルビィは依頼人の為に行動したいって思ったから動いてただけだし…」

 

「でも、それって本当はとても勇気のいる事なんですよ?特に私達は普通の探偵業務の他にガイアメモリが絡んだ命懸けな依頼が来る事もあります。そのような状況になった時、依頼人の為にと思っていたとしてもつい自分を優先してしまいがちです」

 

「お姉ちゃん…」

 

「ルビィが関わる事によって変わった事…きっとあるのではないかと思います。それはあなた自身が一番知っているのではありませんか?」

 

「そ、そうなのかなぁ…?あまり考えた事ないかも…」

 

とはいえ実際、ルビィが動いた事によって変わった事はいくつもある。善子がダイヤモンドの女によって行方不明になった時は自ら潜入捜査を行う事で早急な発見に貢献し、言動に棘のあった理亞は彼女との出会いで考え方が丸くなったのだ。当の本人はまだ実感が湧かないようだが。

 

「とにかく、あなたはもっと自分に自信を持ってもいいと思います!たとえ自分の行動が突発的なものだとしても、周りに良い影響を与えているのならそれで十分です。以前の依頼や事件だってそう。少なくとも私は、私や鞠莉さん達にできなかった事をルビィが成し遂げてくれたように思います。だからあなたには本当に感謝していますわ」

 

「自分の与えた影響とか、まだよくわからないけど…でも、ルビィもきっと変わってるんだよね。それならルビィ、これからも黒澤探偵部の一員として頑張りたいと思う!」

 

「その意気ですわ!…まぁ、あまり突発的過ぎるのもぶっぶーですよ?常に良い方向に進んだり、思った通りになるとは限りませんから」

 

「ピギィ…それは本当にごめんなさい…」

 

「ふふっ。さて、日も暮れてしまいますしそろそろ再開しましょう」

 

「何を再開するつもり?」

 

2人がベンチから立ち上がったその時、目の前に同じくルビィを探していたパペティアー・ドーパントが現れた。ダイヤはルビィの前に立ち、彼女を守ろうとする。

 

「ようやく見つけたわ。黒澤ルビィ…!」

 

「まさかそちらから来て下さるとは。ですが、ルビィには手を出させないと言った筈です」

 

「退きなさい。あなたに用はないの」

 

「何故ルビィに危害を加えようとするのですか?麻心さんをいじめていた加害者の方々が標的ではないのですか?」

 

「松浦果南も同じ事を言っていたわ。そいつらもあなたの妹も、私と麻心を侮辱したからよ!!」

 

「侮辱…?」

 

「私は麻心と母さんが死んでからずっと麻心をいじめた奴等を憎んでいた。でも私の気持ちなんて知りもせずに『麻心を愛していない』と口にした…!あなたの事よ、黒澤ルビィ!!」

 

「だからルビィといじめていた子達に復讐しようとしてるの…?そんなの麻心ちゃんが悲しむよ…!」

 

「麻心って…その人形が?ふざけないで!そんな物はただの人形よッ!!」

 

パペティアーは左手の糸でダイヤを縛りつけ、後ろにいたルビィを右手の糸で拘束し持ち上げる。彼女の怒りが遂に頂点へと達した瞬間だった。

 

「やめて美帆さん!麻心さんの気持ちも考えてあげて下さい!」

 

「うるさいッ!!こいつの顔なんて見たくないのよ!!…丁度いいわ。あなたの目の前で妹を殺してあげる。そうすればあなたも妹を失った私の気持ちがわかるでしょう!?」

 

そう言いながらナイフを取り出し、右手の糸を切断するパペティアー。ダイヤが何もできない状況の中、ルビィは無常にも地へと落下していく。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「ルビィ!!」

 

「大丈夫、任せて!」

 

もうどうにもならない。2人がそう思いかけた瞬間、ダイヤの真上からWが飛び出し間一髪ルビィを受け止めたのだった。

 

「遅れてゴメン、ダイヤちゃん!」

 

そこへアクセルに変身した曜も駆けつけ、ダイヤを縛りつけていた糸をエンジンブレードで切断する。ルビィも救われ、ダイヤは思わず息を1つ吐いてしまった。

 

「鞠莉ちゃん、ありがとう!」

 

「当たり前デース!気持ちは同じだって言ったでしょう?」

 

しかし、救出を喜んでいる時間もない。パペティアーはクラリネットのような物を取り出すと音で鞠莉達を怯ませながら糸を出し、ルビィを時計の柱に張りつける。

 

「あぁ!また…」

 

「余所見してる場合!?」

 

アクセルが再びルビィを助けに向かうが、パペティアーは操り糸でアクセルを拘束してしまう。パペティアーに操られたアクセルはダイヤを突き飛ばし、Wへと攻撃する。

 

「鞠莉さん、果南さん!」

 

\スカル!/

 

ダイヤもスカルへと姿を変え、Wに攻撃し続けるアクセルと交戦する。

 

「果南!どうすれば曜を元に戻せるの?」

 

『パペティアーの本体に攻撃するか曜を変身解除させるかの二択だよ。ルビィちゃんもまとめて助けるには前者の方がいいよ!』

 

「OK…あ、なら例のアレを使ってみましょう!」

 

『アレ?…あぁ、あれね!』

 

\スチーム!/

\ジェット!/

 

\ヒート!メタル!/

 

\エレクトリック!/

 

Wはヒートメタルにチェンジしながらアクセルの攻撃を防ぎつつ、フロッグポッドをパペティアーの足下へ向かわせる。

 

『かんかんみかん!かんかんみかん!』

 

「えっ?」

 

フロッグポッドは千歌の台詞をルビィの声で再生する。それに反応したパペティアーはルビィが挑発したのかと思い彼女の方を見るが、ルビィは人形を抱きしめながら目を瞑っており喋った気配はない。

 

「うりゃ!」

 

「ッ!?」

 

その隙に鞠莉はメタルシャフトを投げつけ、パペティアーを吹き飛ばした。それと同時にルビィを縛りつけていた糸は外れ、アクセルも意識を取り戻した。

 

「よくも私を操ってくれたね!」

 

「うっ!!」

 

アクセルに斬りつけられた事により再び地面を転がるパペティアー。鞠莉はドライバーからヒートメモリを抜き、スカルへと手渡す。

 

「ダイヤ!あなたのVery hotな想いと本当の姉の姿を美帆に届けてあげて!」

 

「わかりましたわ!…美帆さん!」

 

\ヒート!マキシマムドライブ!/

 

スカルはヒートメモリをドライバー横のマキシマムスロットに装填し、パペティアーにいつもの決め台詞を放つ。

 

「さぁ、あなたの罪を数えなさい…!」

 

スカルはマキシマムスロットのボタンを押しながらパペティアーの元へと走り、胸部に赤紫の炎を纏った拳を叩きつける。スカルのヒートメモリを使ったマキシマムドライブ・ヒートソウルフィストを喰らったパペティアーは遠くへと吹き飛ばされ、元の姿へと戻る。

 

「うっ…あなた達に私の悲しみなんて…分かる訳がない…」

 

美帆は膝から崩れ落ちながら写真を取り出す。写真には笑顔の麻心と美帆が写っており、それは握りしめられた事により僅かな皺をつくった。

 

「もう私には何も残ってない…生きる意味さえも、愛されてる人も…」

 

「それは違うよ、美帆さん」

 

そう零す美帆へ、ルビィは優しく声を掛けながら近づきながら持っていた茶髪の少女の人形を返す。

同時に曜が美帆から排出されたパペティアーメモリを回収しようと腕を伸ばすと、突如それは白く光りだし金髪の少女の人形を持った幼女…麻心へと姿を変えた。

 

「お姉ちゃん、泣かないで。お姉ちゃんが悪い事しちゃったとしても、マコはずーっとお姉ちゃんの事、大好きだから…」

 

「麻心…ありがとう。こんな私でも愛してくれて…ごめんなさい…」

 

「いいの。ルビィお姉さんもありがとう。私の為に一生懸命になってくれて」

 

「良かったね、麻心ちゃん」

 

麻心は笑いながら頷いた後、金髪の少女の人形を遺しその場から消える。光が収まり、曜が再び麻心のいた場所を見るとそこには砕けたパペティアーメモリが人形と共に静かに落ちていた。美帆は何故か驚いたようにその人形をゆっくりと拾い上げる。

 

「これ、私が去年の誕生日に買ってあげた人形…?どうしてここに?」

 

「もしかして…」

 

「えっと…どういうSituationなの?果南、何か知ってるという事?」

 

「うん。全部わかっちゃったんだよね、これが」

 

なんと、果南はルビィの見た麻心の正体が何者なのか知っているらしい。

 

「ど、どういう事ですの?あの麻心さんは幽霊なのですか?ルビィの元へ依頼に来た麻心さんと何か関係が…」

 

「はいはい今から説明するから。ねぇ美帆さん、あなたってもしかして…黒澤探偵部の事知ってるでしょ?」

 

「えぇ…といっても街の掲示板に貼られたチラシで見た程度だけど…」

 

「やっぱりね、だったら説明もつく。ルビィちゃんの元へ依頼に来た麻心ちゃんは幽霊じゃないかって予想もあったけど、勿論その類のものではないよ」

 

「つまり、どういう事ですの?」

 

「ルビィちゃんが見た麻心ちゃんは、ガイアメモリの能力がその人形を通じた事によって現れた美帆さんのイメージだったんだよ。メモリとの適合率が高いと、使ってるうちにドーパントにならなくても能力を発動する事ができるようになるって、組織に捕まってた時に見た資料に書いてあったんだ」

 

「私のイメージ…?でも私はその人形を操った記憶なんてないわよ?そもそも何の目的で…」

 

一見説明が成されているようにも聞こえるが、果南の話には何故麻心の姿になった人形が美帆の意思と関係なくルビィの元へ現れたのか、という疑問が残る。しかし果南は特に迷う事なく説明を続ける。

 

「多分、美帆さんは内心で自分が間違ってる事に気づいてたんじゃないかな。その想いにメモリが反応して、自分の行動と関係なく人形を操ってたんだよ。つまり、美帆さんは無意識に自分の復讐を止めてくれる人を探していたって事」

 

「あれ?今現れた麻心ちゃんに関しては説明がないけど…それはどういう事?」

 

「そっちに関しては…正直私にもわからない。だって自分の事を好きだなんて思ってても口には出さないでしょ?美帆さんのイメージなのか麻心ちゃん本人なのか…果たして一体何だろうね?」

 

「ピギィ!」

 

どこか身震いをしている様子の果南を見たルビィも思わず声を上げてしまう。

一方、美帆は目からゆっくりと涙を流していたが、どこか霧が晴れたようにすっきりとした顔をしていた。

 

「どっちも、って事にしとく。きっと麻心も私を愛してくれているって…信じたいと思う」

 

そう言いながら美帆は曜と共に立ち上がり、ゆっくりと連行されて行く。

少し不気味な謎を残したまま、人形に関する一連の出来事は幕を下ろしたのだった。

 

 

 

「南ことりッ!!」

 

人形による事件・依頼が解決された時間から遡ること数分前。閉店したChunChunには怒りに肩を震わせたクレイドール・ドーパントが現れていた。

 

「あっ理亞ちゃんおかえりなさい!凄いでしょ?パペティアーの能力!」

 

「私を利用しておいて…!ふざけるな…ッ!?」

 

「よしなさい、理亞さん」

 

クレイドールはことりに攻撃しようとするが、彼女のいる部屋からタブー・ドーパントが飛び出し制止しようとする。

 

「あんじゅさん、退いて!」

 

「ぐっ!?」

 

クレイドールはタブーに光弾を放つが、何故かいつもより威力が高くパワーを制御できない。慌てて攻撃を止めるが、そこには既に変身を解かれたあんじゅが蹲っていた。

 

「理亞!…あれって!」

 

そこへことりに事情を聞き出そうとスミロドン・ドーパントも現れたが、クレイドールの側でふらふらと立ち上がるあんじゅを見て自身も変身を解いた。

 

「あんじゅさん!大丈夫ですか!?」

 

「あんじゅさん、ごめんなさい…!私が加減を誤ったから…」

 

「いいのよ、気にしないで!いいから先にツバサの家に戻ってなさい」

 

あんじゅに諭された聖良と理亞は、部屋からこちらを見て笑うことりを一瞬睨みつけ、ChunChunから出て行った。

 

「2人共怖〜い。理亞ちゃんはドライバーの出力を上げ過ぎちゃったし、下手したら殺されちゃうかも〜」

 

「ことりさん、『ドライバーの出力を上げ過ぎた』ってどういう事?理亞さんのドライバーに何をしたの?」

 

あんじゅはことりの発言が引っかかった為、それについて彼女に尋ねる。

 

「言葉通りの意味ですよ〜。理亞ちゃんのドライバーを直挿しに近くなるよう改造したんです!」

 

「直挿しって…あなた、随分と危険な事をしたのね」

 

直挿しとは、生体コネクタを通じて直接ガイアメモリを身体に挿入する事を意味する。これはバイヤーによってメモリを購入した一般人が主にドーパントに変身する為の方法であり、最もメモリの力を引き出す為の方法だが、代償として使い続けるうちにメモリの毒素が身体を蝕んでしまうというデメリットがある。ツバサをはじめとした綺羅家の幹部が持つゴールドメモリは一般に販売されている物よりも毒素が高く、直挿しをすると精神汚染や暴走のリスクが起こりやすい。彼女達が変身する際にガイアドライバーを用いるのは、それらを防ぐ事が目的であるからだ。

しかしことりは理亞のドライバーにあったその機能をほぼ全て外してしまった為、クレイドールメモリの力が通常時よりも引き出されあんじゅに多大なダメージを与えたのだ。

 

「強いドーパントになるにはドライバーなんて生易しい物から脱却しないとダメなんですよ?あんじゅさん」

 

ことりはそう笑いながら店の掃除をし始める。

あんじゅはその姿を見て、改めて彼女の恐ろしさを理解するのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「すみません、遅れてしまいました!」

 

「ダイヤちゃん、おはヨーソロー!」

 

「大丈夫だよ。ルビィちゃんから話は聞いてたし」

 

人形の事件が解決してから2日後。この日も部室には果南とダイヤ、ルビィ、曜が集まっていた。

 

「あとは鞠莉ちゃんだけだね」

 

「それにしても、鞠莉ったら何処行っちゃったんだろう。トイレ行った隙にいなくなっちゃったんだよね」

 

「私も生徒会の会議で外からは出ていないので見ていませんわ」

 

「待ってればすぐに来るよ!…ほら、噂をすれば」

 

曜が外を見た瞬間、鞠莉が部室の中へと駆け込んで来る。しかし、その様子は何故かおかしい。

 

「ちょっと、何処行ってたのさ鞠莉」

 

「物凄い全速力でしたが、何かあったのですか?」

 

「はぁ…はぁ…実は…この学校が…」

 

「学校が…何?」

 

 

 

「この学校が…来年で統廃合になるって…」

 

 

 

「…えっ?」

 

「「「「えぇぇぇぇぇっ!?」」」」

 

 

 

8月が始まって僅か数日。

鞠莉達の元に届いたのは自分達の通うこの学校・浦の星女学院統廃合の知らせだった。

 

それは同時に黒澤探偵部の存亡が危ういという事を意味する1つのメッセージでもあった…




<次回予告>

ダイヤ「何としても学校を存続させましょう!」

???「メモリが抜けなくなっちゃって…」

ことり「あなたはもしかして…月ちゃんの従姉妹かな?」

アクセル「倒すべき奴が目の前にいるのに…ッ!!」

次回 Dが映すもの/ハイスピード少女だにゃ


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#20 Dが映すもの/ハイスピード少女だにゃ

あっという間に20話。
ここの所ゲストがオリキャラばかりでしたが、今回はμ'sより星空凛ちゃんがゲスト出演します。更に今回は初の試みで、インビジブルメモリの代わりにオリジナルガイアメモリを登場させました。最後に設定があるので能力等はそちらをご参照下さい。

タイトルのアルファベットが早速被ってますが(前回Dが使われたのは4話)気にしないで下さい。本編の流れを考えると被るのを避けられなかったんですよ…まぁ二次創作だから多少はいいでしょ(白目)


「…今日が休みなのはご存知ですよね?」

 

「…テヘッ♪」

 

「『テヘッ♪』じゃありませんわぁ!!生徒・教員共にオーバーワークは禁止だといつもあれほど…」

 

「それに関してはVery sorry!!でも今回は見逃して欲しいの!まだギリギリ休業期間に入ってないしいいでしょう?」

 

「で、今日はその休みを使って一体何をするの?」

 

8月7日、沼津駅前。本来この日は探偵部の活動が休みだったのだが、どうやら鞠莉にはやりたい事があるらしく急遽予定変更となったのだ。

 

「さて皆さん、今私達はとある問題に直面しています。その問題とは一体何でしょう?ルビィ!」

 

「ピギ!?えーっと…統廃合、だよね?」

 

「その通りデース!千歌と梨子にはラブライブでこの学校の名を広めてもらい、私達や曜、善子と花丸が学校や街の魅力を絶賛Search中なのは皆さんもご存知である通り…」

 

「前置きが長い。簡潔にまとめてくれるかなん?」

 

「も〜、果南はせっかちさんね!実はこの度、浦の星女学院にひっそりと存在していた逸材を発見したの!それをみんなにも一目見て欲しくて」

 

「だったら最初からそう言って下さい!私とルビィは今日予定していたお稽古を無理矢理キャンセルしたのですよ?」

 

「それで、その逸材って…?」

 

「よくぞ聞いてくれましたルビィ!それは…陸上部の1年生よ〜!」

 

鞠莉が言うには今年入学した1年生の中に中学時代から短距離走で優秀な成績を残している生徒がいるらしく、学校のアピールポイントとして紹介できるのではないか、との事だ。

この日、浦女の陸上部は他校との合同練習があり鞠莉が逸材と称する生徒もそれに参加しているらしい。

 

「さっきも言ったんだけど、みんなにその子を見てもらおうと思って今回は呼んだの!すぐに終わるからちょっとだけ付き合ってくれない?」

 

「私は構いませんが…」

 

「ルビィも大丈夫だよ!」

 

「その代わり、お詫びとしてデザート奢ってもらうからね?」

 

「OK, じゃあ早速出発しましょう!」

 

そう言いながら鞠莉は予め買っておいた人数分の切符を取り出し、4人で駅の中へと入って行く。陸上部が合同練習を行っている高校は2つ先の駅で降り、そこから5分程歩いた場所にある。

学校へ到着すると、他の高校よりも比較的広いであろうグラウンドが目に飛び込んできた。調べによると運動部が盛んな学校らしく、今回目的の陸上部以外にもサッカー部やラグビー部が汗を流しながら練習に励んでいる。

 

「陸上部は…Oh!丁度今から私の言ってた1年の子が走るよ!見逃さないで!」

 

「マジか、グッドタイミングだね」

 

鞠莉の指す先にはストレッチをする茶髪を後ろで結んだ少女が。その横では、この学校の生徒であろうオレンジのショートヘアが特徴的な少女がスターティングブロックに足をつけ始めている。遠目から見ると男子生徒に見えなくもない。

 

「それでは始めます。Ready…」

 

数拍置きに男性教師がスターターピストルを鳴らし、2人の少女は走り出す。スピードはどちらも互角であり、まるで二人三脚を見ているかのようだ。

そう探偵部の一同が思い始めた頃、浦女の生徒でない方の少女のスピードが急激に速くなった。

…いや、どちらかといえば"その場から消えたようにも見えた"というのが正しいだろうか。鞠莉達が驚く間もなく、その少女は既にゴールラインの向こう側に立っていた。

 

「み、皆さん…見ましたか?」

 

「は、速かったね…これじゃあうちの1年の子の凄さがアピールできないわ…」

 

「あれってボ○トさんよりも速いんじゃ…」

 

その証拠に教師や陸上部員、更にはそれを見ていた違う部の部員までが少女の方へ集まって行くのが見える。

いつ、何処で能力の高い生徒に出会うかわからない。鞠莉とダイヤ、ルビィはそれを驚く程思い知ったのだった。

 

「………」

 

「果南ちゃん、どうしたの?」

 

「…いや、何でもないよ」

 

「別の子と走っている姿を録りましょうか。ちょっとお願いして来るわ」

 

「それがいいですわ。Aqours以外にもアピールできるポイントを増やし、何としても学校を存続させましょう!」

 

鞠莉が先程負けた浦女の部員達の方へ走って行く一方、果南は何かを考え込むように少女の方を見つめていた。結局彼女が感じたその違和感は、帰宅してからもわからないままだったが。

 

 

 

「よし、完成」

 

「今度はカタツムリさんだ!」

 

翌日、果南は新たなガジェットを完成させていた。カタツムリの形をした新たなガジェット・デンデンセンサーだ。

このガジェットは人形事件が解決して間もない頃に未完成の状態で果南宛に届いた物であり、数日前から少しずつ作成を始めていたのだ。

 

「にしても、フロッグポッドといい誰が送ってくれるんだろう。ありがたいけどさ」

 

「このガジェットはどんな機能を持ってるの?」

 

「一言で言うなら双眼鏡型ガジェットだよ。これもなかなかの優れもので、隠れてる物を見つけたりする事ができるんだって。ちょっと覗いてみ?そのダンボールの中にエロ本入ってるから」

 

「はぁ!?学校にそんな破廉恥な物を置いておくなんてぶっぶーですわぁ!!」

 

ダイヤは果南の手からデンデンセンサーを奪い取り、レンズ越しにダンボールを見ようとする。しかしその瞬間、彼女の目の前に猛スピードで動く何かが現れ、ドスンと音を立てながらクリーンヒットした。

 

「お姉ちゃん!」

 

「な、何ですのぉ…?」

 

「痛いにゃ〜!やっぱ速すぎるよぉ…」

 

「あら?あなたって…」

 

鞠莉がダイヤにぶつかった何かの正体を確認すると、そこには昨日の短距離走で驚くべき結果を見せたオレンジの髪の少女が座り込んでいた。

 

「あ!昨日学校に来た人だにゃ!凛、依頼に来たんだけど…」

 

「そうなの?どんな依頼かしら?」

 

「実は凛、日本代表よりも速く走る事ができるんだ〜」

 

「くおぉらぁ!足を机に乗せるのははしたないd…って、それ!!」

 

自らを凛と呼ぶその少女は靴下をめくり、足首を見せてくる。ダイヤが突然目を見開いたので鞠莉と果南、ルビィもそれに反応しながら少女の足首を見ると、そこには生体コネクタが大きく打ち込まれていた。当然…

 

「「「「ドーパントぉぉぉ!?」」」」

 

と、4人が叫んだのは言うまでもない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「えーっと…凛ちゃんでいいのかな?凛ちゃんはどうしてメモリを手に入れたの…?」

 

「短距離走のタイムがなかなか縮まらなくて大会で負けちゃって…その時に凛と同じくらいの子から速く走れるようになるガイアメモリを貰ったんだよ!」

 

依頼人の名前は星空凛。昨日鞠莉達が訪れた学校・立原高校の生徒であり、今年陸上部に入部したばかりの1年生だそうだ。

 

「やっぱりね。流石に女子高生があんなに速く走れる訳ないと思ってたんだよ。メモリの能力って言われてみれば納得がいく」

 

「でもこの前から勝手に身体が動くようになっちゃったんだ。だからこうやって立ってると…にゃっ!?」

 

すると突然、その場に立っていた凛の姿が見えなくなる。果南がデンデンセンサーを覗くと、凛が目に見えないスピードで部室の中を駆け回っている姿がレンズに映っていた。数秒して動きが止まると、鞠莉は置いてあった折り畳み椅子を出し凛をゆっくりと座らせる。どうやら彼女が使っているのはスピードを増強させるガイアメモリのようだ。

 

「…こんな風に勝手に走っちゃうにゃ。それに身体からメモリが抜けなくなっちゃって…そしたら浦の星の探偵部を見つけたから相談しに来たんだにゃ!」

 

「なるほど…探偵部もすっかりガイアメモリ相談所になってしまいましたね」

 

「こんな時こそデンデンセンサーの出番だね。凛ちゃん、今から身体の中に残ったメモリを見てみるけど大丈夫?」

 

「全然平気だにゃ!お願い!」

 

果南は再びデンデンセンサーを凛へ向ける。凛の身体の中にはガイアメモリと思しき小さな長方形のエネルギー反応があり、それを中心としてスキャンを進めていく。

 

「普通はメモリを挿すと姿がドーパントに変わるけど、凛ちゃんの場合はそうじゃない。多分身体の中のメモリに異常があるんじゃないかな」

 

「えぇ!?それはまずいにゃ!早く元に戻らないと大変だよ〜!」

 

「まずはメモリの流出元を突き止めないと。凛ちゃんはさっき同じくらいの子からメモリを貰ったって言ってたけど、それってどんな感じの子だったの?」

 

「えっと、ふわふわってした感じの女の子だったにゃ!髪の毛の色はグレーで、横で結んでた!」

 

「髪はGrayで横に結んでる、ふわふわとした雰囲気で高校生くらいのGirl…OK!じゃあ街で聞き込みに行ってみましょうか!」

 

鞠莉達は凛にメモリを渡した少女の正体を突き止めるべく、行動を開始した。

ここまでで判明している情報はおっとりとした柔らかい雰囲気である事、グレーの髪をサイドテールで結んだ高校生ぐらいの少女であるという凛の2つの証言である。更にこれらから言えるのは、メモリを渡した少女がバイヤーではないという事だ。凛はメモリを"貰った"と口にしていたので間違いないだろう。

 

「ねぇ、今日のうちにその子に会えるかな?」

 

「頑張れば会えると思うけど…どうしてそんなに焦ってるの?」

 

「とにかく急いで欲しいにゃ」

 

そう急かすように言う凛。ルビィがその理由を尋ねるも、彼女は理由も言わず『急いで欲しい』とはぐらかすだけだった。

 

「ほらほらルビィちゃん、早くするにゃ!鞠莉さんとダイヤさんも!」

 

凛がルビィの腕を引っ張りだすとそれに呼応するかのようにメモリの能力が発動する。

 

「あっ鞠莉ちゃんにダイヤちゃん!こんにちヨーs…ぐえっ!?」

 

「にゃぁぁぁ!!」

 

そこへ鞠莉達の姿を見つけた曜がこちらへ近づいて来る。凛はルビィごと曜へと突っ込み、そのまま3人して地面に倒れ込んだ。

 

「いたたた…ルビィちゃんと、この子は?なんか物凄く足が速かった気がするんだけど…ゲホッ」

 

「ごめんなさい…あっ、この人は渡辺曜ちゃんって言って沼津署の刑事さんで、この子は星空凛ちゃん!凛ちゃんは依頼人でハイスピード少女で…あとドーパント!」

 

「そうなんだ…って、ドーパント!?本気なの?流石に限度があるよ、鞠莉ちゃん」

 

「なぁぁぁ捕まっちゃうにゃぁぁ!!」

 

曜は持っていた手錠を凛に掛けようとするが、鞠莉は慌ててそれを制止し依頼の内容等を細かく説明し始めた。

 

「まずは凛にメモリを渡したGirlを探さないといけないの!曜、良ければ手伝ってくれない?」

 

「色々とツッコミどころは多いけど、とりあえず了解したのであります…」

 

どこか納得いかない様子の曜だったが、このまま異常が見られるメモリを配る人間を放っておく訳にはいかない、次に被害者が出てからでは遅いとの事で鞠莉達に同行する事にした。

こうして街での聞き込み調査を進めていくと、派手なゴスロリの服を着た住民から先程沼津にある服飾専門店でその少女と思しき人物と話したとの情報を手に入れた。特に名前を聞いたりはしなかったらしいが、彼女に会えるなら充分だ。一同は目撃情報のあった服飾専門店へと足を運んだ。

 

「わぁ!制服まで置いてある!素敵なお店だなぁ…」

 

「曜さん、目的を忘れてませんか?」

 

「いやいや!?そんな事ないって〜!」

 

「あの人、まだいるかな?」

 

「いなかったらまた探せばいい…と言いたいところだけど、特徴と似たようなGirlは見つけたわ。彼女で合ってるかしら?」

 

「おっ!そうそう、あの子だにゃ!」

 

凛にメモリを渡したと思われるグレーの髪の少女はハンガーに飾られている洋服をじーっと見つめている。何を買おうか迷っているのだろうか。

少女の姿を捉えた曜は真っ先に彼女の元へと向かい、警察手帳を突き出す。

 

「ちょっといいかな?沼津署の者ですが」

 

明らかに聞こえているにもかかわらず、少女はその言葉に反応する事なく別のコーナーへと歩みを進めようとする。当然曜も黙っておらず、彼女の進路を塞ごうと前に躍り出た。

 

「聞こえてますか?沼津署の渡辺です。あの子にガイアメモリを渡した疑いがあるとの事で事情をお伺いしたいのですが」

 

「渡辺…?あなたはもしかして…月ちゃんの従姉妹かな?」

 

「なんであなたが月ちゃんの事を知ってるの?」

 

ようやく反応したと思いきや、彼女の口から昨年亡くなった従姉妹の名前が飛び出した。知り合いなのかと思った曜は少女…南ことりへと疑問を投げかける。

ことりは答える代わりにシルバーのガイアメモリを見せつける。そこには日差しと雨、雷と竜巻で描かれたWのイニシャルが刻まれていた。

 

\ウェザー!/

 

「Wのメモリ…まさか!?」

 

「そうだよ。あなたの両親と月ちゃんとは去年の夏に会ってるんだ」

 

ことりが耳元にメモリを挿すと、店内に強風が巻き起こる。目の前にいた曜はそれに吹き飛ばされ、ルビィはダイヤに促されてバットショットでその光景を撮影する。竜巻のような強風が止むと、ことりは侍のような風貌のウェザー・ドーパントへと姿を変えた。

 

「私の秘密を知っちゃったから、死んでもらおうかな♪」

 

ウェザーは冷気を放出し、店内の物を次々と凍らせていく。曜の両親と従姉妹の月を殺害したのはおそらくこの能力だ。

 

「みんな逃げて!変身!」

 

鞠莉はWに姿を変え、店内にいた客を外へ逃がしながらウェザーへ立ち向かう。

 

『サイクロンじゃ相性が悪い。ヒートに変えよう!』

 

\ヒート!メタル!/

 

果南はメモリをヒートとメタルに変え、メタルシャフトを使いながらウェザーへ攻撃を加えるが、それが効いている様子はない。

ウェザーはメタルシャフトを左手で受け止めてWごと持ち上げると、地面に勢いよくその身体を叩きつけた。

 

「こうなったらマキシマムで決めましょう!」

 

\メタル!マキシマムドライブ!/

 

「「メタルブランディング!!」」

 

このままでは分が悪いと判断した鞠莉はメタルメモリをメタルシャフトに装填し、メタルブランディングを発動させる。

高熱の炎がメタルシャフトの両先端を包むが…それさえも無駄だった。メタルブランディングは命中するどころか放たれた冷気で掻き消されてしまったのだ。

 

『マキシマムが効かない…!こいつ、強すぎる!』

 

「ならもう1本マキシマムで…!」

 

『ダメ!ツインマキシマムは危険だよ!』

 

ドライバーに残ったヒートメモリを抜こうとした鞠莉の手を果南が慌てた様子で止める。

ツインマキシマムとは、文字通りマキシマムドライブを二重または同時に発動させる事を意味しており、Wは武器を持つメタルやトリガー系の形態に変身する事で発動が可能だ。しかし単独でそれを発動した場合、身体にかかる負担も通常のマキシマムより倍増する為下手に使えば命を落としかねない。言わば諸刃の剣である。

そうしているうちにウェザーへとエネルギーの刃が次々と飛んで行くが、彼女はそれを難なく躱す。アクセルがジェットの能力を発動させたのだ。

 

\エンジン!マキシマムドライブ!/

 

「これで終わらせる…!」

 

「待つにゃ!」

 

アクセルはエンジンブレードを構え直してマキシマムドライブを発動させようとするが、自身とウェザーの間に凛が割って入った事により失敗に終わった。

 

「ちょ、凛さん!危ないでしょうが!」

 

「ねぇ、凛にメモリを渡したの覚えてるよね?元に戻して欲しいにゃ!」

 

「えぇ!?凛ちゃん、その人は危ないよ!何されるかわからないよ!?」

 

「元に戻れるなら何でもいいの!」

 

「いいよ。後でゆっくり見せてね?…という事で皆さん、さようなら〜♪」

 

ウェザーは鞠莉達の前に無数の落雷を落とし、凛と共に姿を眩ませてしまった。

やっと家族の仇を見つけたのに逃げられてしまった。アクセルはエンジンブレードを叩きつける事しかできなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして綺羅家では、いつもより少し厚めの化粧をしたあんじゅが家を出ようとしていた。

 

「ツバサ、少し出掛けて来るわ」

 

「あんじゅ、またことりさんの所かしら?最近行く頻度が高い気がするけど」

 

「別に。大した事ではないわ」

 

あんじゅは何かを隠している。理亞がパペティアーに操られて以来、聖良の中では彼女がことりと何かを企てているのではないかという疑いが強まっていた。

ツバサは以前と同じくそれを咎めたりする訳ではないが、おそらく感づき始めているだろう。

 

(あんじゅさん、なんであんな奴なんかと…)

 

そう考えていたのは理亞も同じであった。だが悪いのはあんじゅではなく、彼女を変貌させた元凶であることりだ。きっとあんじゅはことりに洗脳されているのだ。

理亞の中でことりに対する憎悪が高まったその時、突如彼女が握りしめていたカップがパキンと音を立てながら割れた。

 

「っ!?」

 

「理亞!また…」

 

「ごめんなさい!またやっちゃった…」

 

「大丈夫理亞さん、怪我はない?」

 

「いえ…でもここ最近、力の加減が上手くできなくて…」

 

先日から理亞の身体に異変が起きており、手に少し力を入れただけで物を壊してしまう事が何度かあった。しかし意図してやったとは到底考えにくい。

 

「メモリの暴走症状かしら…理亞さん、何か心当たりがあるんじゃないの?」

 

「…そういえばこの前、南さんにドライバーとメモリを預けるように言われた事があったんです。もしかしたらそれが原因じゃないかと…」

 

「じゃあ、あの時パペティアーがあなたを操ったのは…」

 

「…ことりさんに聞く必要があるわね」

 

ことりは何を考えているのだろうか。謎はいっそう深まるばかりだ。

 

 

 

「凛ちゃんにメモリを渡した女が使うウェザーメモリは台風や吹雪といった地球上の様々な天候を模した能力を持ったガイアメモリ。これまでと違うのは多数の能力をあれ1本で使えてしまうという事だよ」

 

ことりが凛と共に消えて1時間後。格納庫へと戻って来た鞠莉達は果南からウェザーメモリの能力を聞かされていた。

 

「早く凛ちゃんを助けなきゃ…!」

 

「ルビィちゃん、それ本気で言ってるの?あの子は自分から悪人について行ったんだよ。そんな奴助ける必要ないでしょ」

 

曜は冷たく言い放つと格納庫から出て行こうとする。

 

「何処へ行くつもりですの?」

 

「奴の居場所を特定する。あいつは家族の仇、見過ごす訳にはいかないよ」

 

「落ち着きなって、ウェザーは1人で敵う相手じゃない。それこそ私と鞠莉とダイヤ、それに曜の3つのマキシマムがなきゃ勝てないよ。1人で行っても殺られるだけ」

 

「別にそれで構わないよ。あいつを撃てるなら死んだっていい!」

 

「簡単に死んでもいいなんて言わないで!みんなあなたの事を心配してるのよ?それにまだ統廃合も阻止できていない!曜が欠けてしまったら千歌っちと梨子も悲しむし、できる事もできなくなってしまうかもしれないのよ!!」

 

「どうでもいいよそんな事!!」

 

曜は耳を傾ける様子もなく、苛立った様子で格納庫から出て行った。家族を殺した犯人を見つけた事で冷静さを失ってしまったようにも見える。

 

「出会った頃の曜ちゃんに戻っちゃった…」

 

「気持ちは分かりますわ。こんな形で倒すべき敵と出会ってしまったのですから、無理もありません」

 

「でも放っておけない。私達も行きましょう!」

 

「待って2人共。念の為言っておくけど、曜があんな状況になったからこそ今の2人には慎重さが必要だよ」

 

「わかってるよ。無茶はしないから」

 

鞠莉は果南にウインクをすると、ダイヤとルビィと共に格納庫を飛び出して行った。

 

 

 

「南ことり、17歳。沼津市内にある人気メイド喫茶『ChunChun(・8・)』の店長。その傍らで服飾デザイナー・ミナリンスキーとしても活動中…」

 

格納庫を出た曜が先に向かったのは沼津警察署であった。先にことりの身元や住所を調べなくては彼女の発見は難しい。調査書を手にことりがいるメイド喫茶・ChunChunへ向かおうとすると、疲れた顔をした海未が書類の山を抱えながら入室して来る。

 

「曜、戻ってたんですね。こちらも先程会議が終わったところです。段取りが上手くいかなくて20分押しになってしまったんですよ」

 

「お疲れ様。ちなみに何の会議だったの?」

 

「明日、市内で行われるマラソン大会の交通整理だったり警備についての会議です。上から協力を要請されたので…最近ドーパントによる事件が頻発しているからか一部の市民から『警備を厳重にしろ』『マラソン大会は中止すべき』という声が上がってるらしくて、今年は警備を拡大して開催するそうです」

 

「そうなんだ。まぁ私には関係のない話だけど」

 

そう言いながら曜は足早で出て行く。いつもは明るい彼女がなりを潜めているように感じたが、疲れてストレスが溜まっているのだと感じた海未は追いかけようとしなかった。

 

 

 

「ん〜…」

 

「ダイヤ、鼻の穴が凄い開いてるけどどうかした?」

 

「開いとらんわ!!…いえ、凛さんにメモリを渡したこの人なんですけど、何処かで見た事があるんですよね…」

 

ダイヤはそう言いながらバットショットで撮影したことりの写真を見つめる。鞠莉とルビィも改めて写真を確認するが、見覚えはない。少なくとも浦女の生徒や知り合いではなさそうだ。

彼女と会った事があるのかを思い出そうと歩いていると、近くのベンチで座りながらゲームに没頭している善子を発見した。隣には花丸もいる。

 

「おぉ!探偵部のみんな、こんにちはずら!」

 

「こんにちは、花丸ちゃん。善子ちゃんは何してるの?」

 

「話題の新作ゲームよ。昨日コーポレーションGENMUから新しいSwitchのソフトが出たからそれをプレイしてるのよ」

 

「それって『エグゼイド・クロニクル』よね?発売前から話題のVery excitingなゲームらしいね」

 

「発売日に予約でゲットしたらしいずら。さっき裏ストーリー?っていうのを解放したんだって」

 

「ゲームもいいですが課題は終わったのですか?夏休み前に職員室を訪れたら一部の先生方が『津島さんが課題を出さない』と苦言を仰っていたのを耳にしましたよ」

 

「これが終わったらやるわよ!…クックック、待ってなさいゲムデウスX。お前をすぐに冥土へと送ってくれるわ!」

 

「冥土…あぁっ!!」

 

突然『冥土』というワードに反応したダイヤが何かを思い出したかのように叫び出す。

 

「だ、ダイヤどうしたの?」

 

「この人が誰なのかを思い出したんです!ルビィ、以前理亞さんと雑居ビルの中にあるスマホケースのショップに行きましたよね?彼女はそのビルの中にあったメイド喫茶の店員なんです!」

 

「そうなんだ!…でも、なんでルビィがスマホケースのショップに行った事を知ってるの?」

 

「あっ…い、いや?ルビィのスマホケースが変わっているので?理亞さんと遊びに行った時に買ったのかなぁと思いまして〜…」

 

「ダイヤ、その言い訳は無理があるよ…」

 

思わずあの時ルビィと理亞を尾行していた事を漏らしてしまったダイヤ。

それはともかく、ここまで来ればことりの居場所は判明したも同然だ。鞠莉達は善子と花丸と別れ、彼女がいるであろうChunChunの方へと向かって行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その頃、ことりはChunChunの奥の部屋でベッドに寝かされた凛の施術を行っていた。室内にはそれを待ち続けるあんじゅの姿もある。

 

「あんじゅさん、そんな怖い顔しないで下さいよ〜。もう少しで終わりますから」

 

「もう待ちくたびれちゃったわ。そんな出来損ないのドーパントより先に私を見てくれない?」

 

「そうしたいところなんですけど、今はこのメモリの方が大切なんです。恐怖の女王を倒す為に…ねっ?」

 

「恐怖の女王を倒す、ね。その女王を…ツバサを倒すのがあなたの目的だったのね」

 

「テラーメモリはガイアメモリの中でも最強クラス…ウェザーとあのメモリを併用できるようになれば、私に怖いものなんて存在しません」

 

ことりの目的は綺羅家の主・ツバサを倒しテラーメモリを手に入れる事だった。その為に動くのは当然理由がある。彼女の脳裏に浮かんだのは地を這うような邪悪な瘴気、そしてその場に倒れる自分に似たグレーの長い髪の女性…

その出来事は彼女の脳裏に嫌というほど焼き付いて今も離れずにいる。

 

「それを聞いてはっきりしたわ。あなたとは利害が一致してるという事が」

 

「ですね。あんじゅさんの目からも感じますよ、ツバサさんを滅ぼしたいという底知れない憎しみと恐怖が…あっ、終わったみたい」

 

話を無理に終わらせるよう、鳴り響く機械音。機械から伸びる吸盤は凛の身体の至るところに付けられている。施術が終わったようだ。

 

「…ん?終わったにゃ…?」

 

「おはよう、凛ちゃん。身体からメモリを抜くのは無理だったけど、とりあえず自分の意思で能力を使えるようにはしておいたよ」

 

「全然大丈夫にゃ!ありがとう、ことりちゃん」

 

「いえいえ。次はあんじゅさんの番ですよ」

 

ことりがあんじゅにドーパントへの変身を促そうとした瞬間、部屋の扉が大きな音を立てて開く。入って来たのは曜だった。2つの青い目は鋭く、真っ直ぐにことりだけを見つめている。

 

「邪魔。巻き込まれたくなければ消えて」

 

「は、はいっ!」

 

戦いの邪魔になりかねないと判断した曜は凛にその場から去るよう忠告する。凛はメモリの能力を発動し何処かへ走り去って行った。

 

「見つけたよ。私の全てを奪ったWのメモリの持ち主…南ことり!!」

 

「あーあ、見つかっちゃった。ここが分かるなんて流石刑事だね、曜ちゃん!」

 

「私の名前と仕事まで知ってるなんて…」

 

「家に警察学校の合格発表の紙が置いてあったからね〜、名前はあなたのご両親と月ちゃんが死ぬ間際にずっと呼び続けてたから…」

 

悲痛に顔を歪ませながら自分の名前を呼び続ける家族達の姿。嫌でも簡単に想像ができてしまう。

 

「よく笑ってられるよね。私の家族があなたに何をしたの?」

 

「別に何もしてないよ、ウェザーの力を試せるなら誰でも良かったってだけ。能力の手数が多くて曜ちゃんの家族だけじゃ足りなかったんだけどね〜」

 

その発言からはことりが曜の家族だけでなく、その他にも多くの人々を殺害してきたという事が読み取れる。能力を試したいというだけの身勝手な理由で罪のない人々が犠牲になったのだ。その残虐さに曜の拳は強く握り締められる。

 

「覚悟した方がいいよ。私は自分を抑えられない」

 

\アクセル!/

 

「このお店も閉店かなぁ…いいよ。そう来なくちゃ♪」

 

\ウェザー!/

 

曜はアクセルに、ことりはウェザー・ドーパントに姿を変える。その余波で部屋の物は宙を舞い、モップの入ったロッカーは倒れた。

2人は店を飛び出し、中央公園へ続く橋の下に戦いの場を移す。

 

「曜を見つけたわ!果南、行くわよ!」

 

『わかったよ、鞠莉』

 

\サイクロン!/

\ジョーカー!/

 

「「変身!!」」

 

\サイクロン!ジョーカー!/

 

そこへ音を聞きつけた鞠莉達も駆けつけて来た。果南と鞠莉はWに変身し、アクセルへと加勢しようとする。

 

「鞠莉ちゃん、邪魔しないで!!」

 

しかしアクセルはWの身体をエンジンブレードで切り裂き、共闘を拒む。あくまでも1人で倒すつもりらしい。

 

「手を出さないで。あいつは私が倒す!」

 

『無理だって!1人で勝てる相手じゃない』

 

「皆さん、後ろ!!」

 

果南とアクセルが言い争っているうちにいつの間にか後ろにはウェザーが近づいていた。ウェザーはWとアクセルの首を掴んで腕から炎を発生させ、投げ飛ばす。

地を転がった3人が顔を上げると、既に目前には冷気を纏った白い風が迫っている。

 

\ヒート!/

\エンジン!/

 

\ヒート!ジョーカー!/

\スチーム!/

 

Wはヒートジョーカーにチェンジ、アクセルはエンジンブレードにエンジンメモリを挿し風を防ぐ。しかしウェザーの攻撃は止まらず、風を払った時には赤い雷撃が黒雲から繰り出されていた。

 

\ヒート!トリガー!/

\エレクトリック!/

 

アクセルがエレクトリックを発動させて攻撃を防いでいるうちにWはボディサイドのメモリをトリガーに変え、トリガーマグナムでウェザーへと銃撃する。ウェザーは火炎弾をまともに喰らうが、ダメージを受けた様子はない。

 

「その程度ですか?少しは私を楽しませて下さいよ〜」

 

『やっぱり強い…能力が高いだけじゃなくてそれを組み合わせて使えるなんて…』

 

「それはあなた達が弱いだけじゃないかな?」

 

そう言いながらウェザーが腕を振ると、巨大な竜巻が発生しWとアクセルを吹き飛ばした。

 

「私も行きますわ!変身!」

 

\スカル!/

 

見かねたダイヤもスカルに変身しウェザーへと拳を叩き込むが、それは軽々と受け止められてしまった。

 

「何人来ても同じですってば〜」

 

ウェザーは受け止めたスカルの拳を赤く燃え上がらせ、小さな爆発を起こし吹き飛ばす。橋の柱に叩きつけられたスカルはダメージを負い、あっさりと変身を解除させられてしまった。

 

「お姉ちゃん!しっかり!!」

 

「大丈夫ですわ…まさかここまで強いとは…」

 

「当たり前です。私が強くなれたのは多彩な能力を持つウェザーに惹かれたからです。そこから更に研究を重ねて自らの身体を改造した結果、私は1人でも複数のメモリを使えるようになりました。もうすぐ高速移動を使う事もできるようになるんですよ?」

 

『高速移動…まさか凛ちゃんにメモリを渡したのは…!』

 

「そう、実験です。凛ちゃんに渡したスピードメモリは体内でロックされるように私が改造したんですよ!」

 

「どうしてそんな事を!」

 

「生命力を奪い取った事によって強化されたメモリを私が使う為です。凛ちゃんはそれを手に入れる為だけの消耗品に過ぎません」

 

「なんて性根の腐った方ですの…!」

 

自分の目的の為なら他人の命をも厭わないウェザー。笑い出す彼女を見たダイヤは憤慨し、ルビィも驚愕する。

 

「そんな事絶対にさせないわ!凛はマリー達が助ける!」

 

「助ける…ですか。凛ちゃんを殺さなければメモリは排出されないし、メモリブレイクも不可能ですけどね〜」

 

「くっ…うあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「無茶だよ曜ちゃん!!」

 

ルビィが制止の声を上げるが、アクセルはバイクフォームに変形し突進して行く。ウェザーはそれを左手で受け止めながら右手で殴りつけて吹き飛ばし、変身を解除させた。

 

「綺麗なメモリだね。こんな純正化されたメモリとドライバーを使ってるから勝てないんだよ」

 

ウェザーは手に冷気を溜め、動けない曜へ向けて吹雪を放とうとする。

 

「家族と同じ死に方であの世に送ってあげる!私に立ち向かって来た勇気だけは褒めてあげるね♪」

 

「倒すべき奴が目の前にいるのに…ッ!!」

 

動けない曜は涙を流しながらその場で絶叫する。それを見た鞠莉はある決意をし、何も言わずにドライバーから抜いたトリガーメモリをトリガーマグナムへと装填する。

 

\トリガー!マキシマムドライブ!/

 

「諦めが悪いな〜、何をしようと無駄ですよ」

 

「確かにそうかもね。でもこれならそうとも言えないんじゃないかしら?」

 

『まさか…!?鞠莉やめて!!』

 

ドライバーの右スロットへ手を伸ばそうとする鞠莉に気づいた果南は慌ててそれを止める。そう、鞠莉はツインマキシマムを使おうとしているのだ。

 

「離して果南!!もうこれでしかあいつを止められないのよ!!」

 

『そんな事をしたら鞠莉の身体が持たない!!お願いだからやめてッ!!』

 

鞠莉は果南の手を無理矢理振り払い、ドライバーから抜いたヒートメモリを腰のマキシマムスロットへと挿す。

 

\ヒート!マキシマムドライブ!/

 

「うっ!!うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

\マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ…/

 

マキシマムスロットのボタンを押した途端、メモリからは警告するかのようにマキシマムドライブの音声が鳴り響き、Wは炎に包まれる。身体は火傷しそうになる程急激に熱くなっていき、皮膚は燃えてしまいそうだ。

そんな状態の中、鞠莉はトリガーを引く。トリガーマグナムからは通常のマキシマムよりも強力な火炎弾が飛び出しウェザーへ命中、爆発を起こした。

曜とダイヤ、ルビィはその威力に思わず息を呑む。ウェザーは倒せたのだろうか。それを確認するより先にトリガーマグナムとマキシマムスロットからメモリが排出され、Wの変身は解かれた。

 

「鞠莉ちゃん!!」

「鞠莉さん!!」

 

『鞠莉ッ!!』

 

「うっ…」

 

変身が解けた事により格納庫で目を覚ました果南は鞠莉の名前を叫ぶ。意識はあるようだ。

 

「ふぅ…普通のマキシマムで無理なら2本同時使用かぁ、考えましたね!ちょっとだけ効きましたよ?」

 

「嘘…これでも倒せないなんて、ルビィ聞いてないよ…」

 

「ふふっ、流石ことりさんね。あの仮面ライダーを寄せつけないなんて」

 

ツインマキシマムを持ってしてもウェザーは倒せなかった。陰から見ていたあんじゅは初めからそれをわかっていたのか、加勢に加わらなかった。

 

「今度こそ全員まとめて殺してあげます。さようなら♪」

 

ウェザーは再び手に冷気を溜め始める。鞠莉達は体力を使い果たし、抵抗する力も残っていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

<おまけ>

 

 

ことり「皆さん、本編は楽しんで頂けましたか?μ'sの南ことりです♪」

 

凛「今回はμ'sのみんなでおまけコーナーをお送りするにゃ!読むの面倒くさかったらブラウザバックしても大丈夫だよ〜」

 

真姫「本編は相変わらず長かったけどできるだけ読んだ方がいいわよ?今回はオリジナルのガイアメモリが登場したからね」

 

穂乃果「今回登場したのって何メモリだっけ?インビジブル?」

 

海未「穂乃果、さっき真姫がオリジナルガイアメモリと言ったじゃないですか。インビジブルではありませんよ」

 

穂乃果「そっか!そうだね!じゃあまずはそのメモリとドーパントの設定から、どうぞ!」

 

 

 

スピード・ドーパント

 

立原高校陸上部の生徒・星空凛が南ことりから手に入れたスピードメモリを右足首に挿し高速移動した姿である。

本来ならドーパントの姿になってから高速移動が可能になる筈なのだが、ことりがメモリに改造を加えた事により姿が変化しなかった。しかも自分の意志では高速移動とその解除が制御できずメモリも抜けなくなってしまっていた(そのためか優木あんじゅからは「出来損ないのドーパント」と揶揄された)。

後に再会したことりの処置を受けて任意で高速移動を使う事ができるようになったが、その度に生命力をメモリに吸い取られ、やがては死に至る事が判明した。果たして鞠莉達はどのようにして凛を救うのだろうか…?

 

 

スピードメモリ

 

速度の記憶を内包したガイアメモリ。

このメモリを使った人間は目にも見えない程の高速移動能力が使用可能になる。スピードに限っていえばナスカメモリの超高速を遥かに上回っており、速度は測定不可能(おそらく音と同じくらいの速度)。

 

 

 

花陽「音と同じくらいって…速すぎるよぉ!!」

 

にこ「ていうか"おそらく"って何よ。オリジナルなんだからもう少し細かく考えなさいよ。スピード・ドーパントの設定なんかpixiv百科事典のインビジブル・ドーパントの解説をそれ専用に弄っただけじゃない」

 

希「作者も忙しいんやない?そんな中で細かい設定考えてたらキリないよ」

 

穂乃果「そうだよにこちゃん!メモリと使える能力が違うだけでそれ以外の設定はインビジブルとほぼ同じだし」

 

絵里「それは言ってしまっていいのかしら?」

 

希「まぁ事実やから」

 

にこ「で、もう1つ聞きたいんだけど私の出番っていつなの?μ'sは海未とことり、凛と花陽しか出てないじゃない!」

 

真姫「私達はまだ良い方よ。ニジガクは彼方としずくと璃奈の3人しか出てないんだから」

 

花陽「統廃合エピソードも含めるとAqoursがメインだもんね。μ'sと虹ヶ咲は今後の展開に合わせて少しずつ出していくと思うよ」

 

凛「でもこの前作者に聞いたら、まだ出てないμ'sとニジガクメンバーの配役ももう決まってるって言ってたよ〜!」

 

穂乃果「えっ、そうなの!?私は誰のポジションかなぁ…」

 

真姫「行き当たりばったりの小説だから雑にゲスト扱いされて終わりの可能性もあるわよ?正直私、あまり期待してないから」

 

絵里「こればかりは配役の通達が届くまで何とも言えないわね。大人しく待ちましょう?」

 

海未「ではことり、締めをお願いします」

 

ことり「うん!それでは次回もお楽しみに♪」

 

μ's「さぁ、あなたの罪を数えなさい!」




<次回予告>

鞠莉「あとはお願い…!」

果南「凛ちゃんを救うにはアクセルの力が必要なんだ」

凛「マラソン大会に出られるなら死んでもいいにゃ!」

アクセル「全部含めて振り切るよ!!」

次回 Dが映すもの/吼えろトリプルマキシマム


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#21 Dが映すもの/吼えろトリプルマキシマム

凛ちゃんゲスト回後編。凛ママも登場します。
凛ママの名前は見た目のイメージで付けたんですが、ママの皆さんの本名は何なのか、声なしで登場したママの声優さんは誰になるのか等気になりませんか…?色々妄想してみるのも面白いかもしれません。


「今度こそ全員まとめて殺してあげます。さようなら♪」

 

ウェザーの右手に溜められる冷気。変身を解除され抗う事のできない鞠莉達は完全な窮地へと陥ってしまっていた。

死を覚悟した鞠莉達だが、その時辺りを黒い粘膜のような物質が包み込む。この邪悪な力は、以前果南と鞠莉が淡島で感じたものと同じだった。

 

「これ、あの時の…」

 

「フフフフフ…」

 

「ツバサ…!」

 

笑い声が聞こえたと思うと、地面から邪悪な気配の根源であるテラー・ドーパントが出現した。ウェザーが手から力を抜くと、溜められた冷気はゆっくりと消滅する。

 

「何の用ですか?」

 

「見てわからないかしら?お茶の誘いよ、ことりさん」

 

「それならお言葉に甘えさせて頂きます。では仮面ライダーの皆さん、またお会いしましょうね〜」

 

物質が更に広がると、ウェザーはテラーと共に地面の下へと消えて行く。それと同時に物質はゆっくりと消え去り、辺りは元の明るさを取り戻した。

 

「ことりさん、大丈夫かしら…」

 

ことりの身に危険が迫っていると危惧したあんじゅも物質が消滅したのを見届け、綺羅家へと戻って行った。

敵が完全にいなくなり周囲も落ち着きを取り戻したが、鞠莉が危険な状態なのを思い出したダイヤとルビィは慌てて彼女を介抱した。

 

「何故無茶をしたのですか!!死んでもおかしくなかったかもしれないのですよ!?」

 

「曜の顔を見たら身体が動いちゃったの。だって仲間じゃない、放っておけないよ」

 

「何それ…少しは自分の事も考えたら?手を出したからこうなったんだよ」

 

目を逸らしながら冷たく言い放つ曜だったが、鞠莉はそれでも望みを捨てなかった。まだダイヤと曜が変身できるからだ。

 

「ダイヤ、曜、あとはお願い…!凛の事、助けてあげて…だって私達は仮面ライダー、だから…」

 

「鞠莉ちゃん!!」

 

鞠莉はそう言い残すと意識を失った。ルビィが必死に身体を揺さぶるも、彼女は目を覚まさない。

 

「馬鹿だね…私の為に自滅してその上ドーパントの心配までするなんて。大馬鹿だよ」

 

『馬鹿なのは曜だよ!!鞠莉は命懸けで助けようとしたのに…ふざけんなッ!!』

 

果南の怒号は曜にも、意識を失った鞠莉の耳にも届かない。こうなってしまった今、仲間同士の繋がりさえも崩壊しかけていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

重苦しい雰囲気の中、ダイヤとルビィ、曜は理事長室へと戻って来る。ルビィは眠っている鞠莉をソファーに寝かせ、手当を始めようとする。

 

「ルビィちゃん、手当は気休めにしかならないよ。ガイアメモリのダメージは医学じゃ治す事はできないんだ、本人の回復力を信じるしかない」

 

「そうなんだ…ルビィ達、どうすればいいんだろう…」

 

ダイヤは泣き出すルビィを抱き締め、落ち着かせる。

一方の果南はずっと黙ったままの曜へゆっくりと近づき、胸倉へと掴みかかった。

 

「凛ちゃんを救う方法は1つだけある。それを実行できるのはアクセルだけ…でも曜はそれを断った!」

 

「そんな事より南ことりの居場所を探してよ。今すぐに」

 

「嫌だね、自分の事しか考えてない奴の頼みなんて聞くもんか。そんなに復讐がしたいなら自分の力で探せば?死んでも知らないから」

 

「果南さん!!なんて事を言うのですか!!曜さんの力でしか凛さんは救えないのでしょう?」

 

「スカルの力で凛ちゃんを助ける方法を探せばいいだけだよ。復讐しか頭にない曜に仮面ライダーを名乗る資格はない」

 

曜と果南は理事長室を出て行き、それぞれの目的の為に行動する。こんな時、鞠莉だったらどうするのだろうか。ダイヤは眠っている彼女を見ながら心でそう考えるのだった。

 

 

 

「はぁ…おかしいにゃ、なんかふらふらする…」

 

その頃、自宅へと帰宅した凛の体調もメモリによって悪化し始めていた。凛は体調の回復を図るべくベッドへと入ってそのまま眠りに落ちる。この時はまだ、自分が死ぬかもしれないという事を彼女は知らないままだった。

 

 

 

「美味しい!お店の場所が見つかってなかったらメニューに入れてたかも!」

 

そして綺羅家。ツバサに招かれたことりは満更でもない様子で出された食事を平らげていた。しかもその量は尋常ではなく、それこそ大食いと揶揄される人の食事量とは比べ物にならない。

 

「よくそこまで食べられるわね。自分の身体をガイアメモリの複数使用の為に改造しているだけの事はあるわ」

 

「気持ち悪っ…」

 

「理亞さん、口の利き方に気をつけなさい」

 

理亞はなおも食事を続けることりの姿に嫌悪感を露わにし、あんじゅから咎められる。

聖良は言葉にこそ出さなかったものの頭の中では理亞と同じ言葉が浮かんでおり、密かに納得するのだった。

 

「それに肝も据わってるわね。こんな状況の中で食事が喉を通るなんて」

 

「何の話ですか?」

 

「とぼけないで。あなたがあんじゅと何かを企んでいるのは知ってるのよ」

 

その言葉にことりの手がピタリと止まる。それを見たあんじゅはいつでもツバサに刃向かえるよう、タブーメモリを取り出し握り締めた。

 

「理亞さんにはメモリの暴走症状が出ているし、聖良さんも困惑している。綺羅家を脅かす存在は誰であろうと容赦しないわ」

 

「…脅かすだなんて、そんなつもりはありませんよ〜。私はただガイアメモリを奥深くまで究めたいだけ。それはあなたもあんじゅさんも同じ筈です」

 

(何、あのコネクタの数…)

 

そう言ってことりは服を捲り、腹部を露出させる。そこには夥しい量の生体コネクタの痕が打ち込まれていた。彼女は数多くのガイアメモリの能力を試すべく、自らの身体も実験体としていたのだ。

ここまで来ると最早怪物である。聖良と理亞は以前ツバサが言っていた『ことりは危険な人物』の意味を改めて理解するのだった。

 

「…ふふっ、面白いわね。あなたにそれなりの技量があるのは事実だし、しばらくここに泊まればいいわ。もう店には戻れないでしょう?」

 

コネクタの痕を見ても微動だにしなかったツバサはそう笑いながら席を立つ。近くの席に座っていた聖良に『ことりさんを監視して』と耳打ちをしながら…

いざとなれば理亞を守れるように、聖良は密かに決意を固めるのだった。

 

(ツバサを切り抜けた…)

 

あんじゅは安堵の息を1つ吐き、タブーメモリを懐へとしまう。そして再びことりの方を見ると、彼女は部屋を出て行くツバサの背を見ながら得意気な笑みを浮かべていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうですか?果南さん」

 

「ダメか。やっぱり凛ちゃんを救うにはアクセルの力が必要なんだ」

 

あれから数時間。日が落ち始める時間帯になるまで果南は検索を続けたが、スピードメモリをブレイクし凛を助けるには曜の力は必要不可欠だった。

 

「でしたらもう一度、曜さんに頼んでみましょう。それでいいでしょう?」

 

「私は嫌。とてもじゃないけど首を縦に振るとは思えない。もう少しだけスカルの力で凛ちゃんを救う方法を探してみるよ」

 

「何時間もかけてそれを検索しても出てこなかったんでしょう?凛さんの命だって懸かってますし…」

 

曜に協力を仰ぐしか方法はない。しかし果南はそれを良しとしなかった。

すると、2人の間に訪れた沈黙を破るようにガタンと椅子の音が鳴った。ルビィが立ち上がったのだ。

 

「もう意地張ってちゃダメだと思う。ルビィが曜ちゃんを説得してみるから、果南ちゃんももう1回考え直して。お姉ちゃんは鞠莉ちゃんの事を看てあげてね」

 

「ちょ、ルビィ…行ってしまいました」

 

「なんかルビィちゃん、大人っぽくなったよね」

 

果南とダイヤは、格納庫から出て行った大人らしいルビィの対応を見て思わず驚いた。以前の人形事件で探偵としての経験を積んだからだろうか。

 

「まぁ、私の妹ですから」

 

「何それ、自分は大人っぽいアピール?ルビィちゃんの方がよっぽど落ち着いてるよ」

 

「えぇ!?そうですか!?」

 

「そうだよ!…にしても、なんかルビィちゃん見てたら意地張ってるのがバカらしくなっちゃったよ」

 

そう言う果南の顔は吹っ切れたように笑っていた。これなら心配ないだろう。ダイヤもそう果南に笑いかけるのだった。

 

 

 

一方、浦女を出たルビィは海未に連絡を入れて曜の居場所を聞き出し、会いに向かっていた。曜は一瞬気まずそうな顔になるも、その場から去ろうとせずにルビィと話す事にした。

 

「で、私の所に来たと…」

 

「ごめんね、やっぱりこのままは嫌だからちゃんと話そうと思って…」

 

「いや、果南ちゃんの言う通りだよ。今の私は復讐しか頭にないから『仮面ライダーじゃない』って言われても返す言葉がない」

 

「…そっか」

 

「でもそう言われても構わないよ。南ことりは人の命を何とも思わない奴だし、このまま放っておいて犠牲者が出てからじゃ遅い。だから絶対に倒さないと」

 

「うん、ルビィわかったよ。曜ちゃんも凛ちゃんの事が心配なんだよね?」

 

「えっ?なんでそうなるのさ」

 

曜はルビィに軽蔑されるかもしれないのをわかった上でそう言ったつもりだったのだが、ルビィから返ってきた答えは予想とは異なるものだった。

 

「曜ちゃんは今『復讐しか頭にない』って言ったけど、それでも次の被害者が出ちゃうかもしれないのを気にしてるからだよ。本当に復讐したいと思ってるなら自分の事しか考えられなくなっちゃうと思うんだ」

 

「なるほど。それで?」

 

「鞠莉ちゃんや果南ちゃん、お姉ちゃんに出会った事で気づかないうちに曜ちゃんの考えも変わってるんだよ。この前ルビィも『探偵を始めてから大人になった』ってお姉ちゃんから言われたし、自分の変化って自分じゃ気づけない事が多いみたい」

 

「それは私も思うよ。ルビィちゃんに言われた通り、正直前みたいに頭に血が上った感覚がないからね。もし今日まで鞠莉ちゃん達に出会わなかったら、今の私はもっと暴走してたかもしれない」

 

「じゃあ、ルビィ達に協力してくれますか?」

 

感謝しないといけないね。そう呟いた曜にルビィは改めて力を貸して欲しいという事を伝える。

 

「今回はルビィちゃんに一本取られちゃったなぁ…凛ちゃんの家に行ってみようか。実は高校に住所聞いてたんだよね」

 

ヘルメットを被りながら駐車させておいたバイクの座席を指差す曜。ルビィは口を三日月形に変形させ、嬉しそうに後部座席へと座り込んだ。

高校から聞いた住所を頼りに10分程バイクを走らせると、『星空』と彫られた表札のある一軒家に到着する。凛の家は特別金持ちで大きいという訳でもなく、ごく一般的な家庭だった。ルビィがインターホンを押すと、ドアから茶髪の女性が顔を出した。その顔立ちはどことなく凛に似ている。

 

「こ、こんにちは!黒澤ルビィですっ!」

 

「あなたは凛ちゃんのお友達?」

 

「はい!…といっても今日知り合ったばかりなんですけど…」

 

「いいよいいよ!わざわざお見舞いに来てくれたんでしょ?…あっ、ちなみに私は母の明日美です。よろしくね〜」

 

凛の母と名乗る女性・明日美の顔には、どこか子供のようなあどけなさが残っている。曜とルビィは大学生くらいの姉だと思っていたので、見た目の若々しさに少々面食らうのだった。

 

「立ち話も何だし、どうぞ上がって!外も夏真っ只中で暑いだろうし、冷たい物用意するね♪」

 

娘の友達が来て舞い上がっているのか、いかにもご機嫌といった感じで小さくスキップを踏みながら台所へ歩いて行く明日美。凛の幼さが残る性格はおそらく彼女似なのだろう。

そんな事を考えていると、曜の目には数々のメダルやトロフィー、賞状の飾られたショーケースが飛び込んできた。メダルやトロフィーの色は銀や銅、賞状に書かれた文字には2位、3位という惜しい結果が収められているのが分かる。だがその反面、金色の物や1位の賞状等はどこにも見当たらない。

 

「あの子ね、中学の頃からずっと陸上やってるんだけど、今まで1位を取った事は一度もないんだよね」

 

ショーケースを眺めていると、明日美が紅茶の入った2本のグラスを置きながら話しかけてくる。

 

「何度も悔しい思いをして、その度に練習も頑張ってるんだけどいつも惜しいところで負けちゃって…私はどちらかといえば好きな事を楽しんで欲しいから『結果なんか気にしなくてもいい』って言ったんだけど、凛ちゃんはそうじゃなかったみたい。ここまで悔しい結果が続いちゃったんだもん、そりゃあドーピングしてでも勝ちたいって思っちゃうよ」

 

「ドーピングって、お母さんは凛さんが何をしたのか知ってたんですか?」

 

「薄々だけどね。ここの所遅刻ギリギリの時間になって家を出る事が増えたからおかしいと思って、この前こっそり部活の練習を見に行ったの。そしたら陸上選手でも出せないようなスピードで走り出したから、私びっくりしちゃった」

 

明日美はガイアメモリを使っている、命が脅かされている等細かい事までは知らないようだったが、凛が何かしらのドーピングをしていたのには勘づいていたらしい。

 

「やめさせようとは思わなかったんですか?」

 

「どんな理由があろうとも陸上を取り上げるなんてできなかったからね。でも母としては心配なんだよね…もしかしたら途中で体調が悪化しちゃうかもしれないし、不正がバレたら多くの人から後ろ指差されちゃうし。だから明日のマラソン大会も行かせるべきか迷ってるの」

 

曜は明日美の口から出たマラソン大会という単語に反応する。彼女の言うマラソン大会というのは、先程海未と少しだけ話した沼津で開催される大会で間違いないだろう。凛はそれにエントリーしていたのだ。

 

「…今、凛さんは?」

 

「部屋にいると思うよ。良かったら会ってあげて?」

 

曜はゆっくりと立ち上がり、凛のいる2階の部屋へと上がって行く。部屋のドアをノックすると、中からは『いいよ〜』と力の抜けたような声で返事が返ってきた。

 

「凛ちゃん、お邪魔するね」

 

「け、刑事さん!凛の事、捕まえに来たにゃ!?」

 

「それが目的ではないよ。凛ちゃん、悪い事は言わないから明日のマラソン大会に出るのはやめた方がいい。このままメモリを身体に残しておくと死ぬらしい」

 

「凛が…死ぬ?」

 

「事実だよ。だからこうして忠告しに来た」

 

「…それでも凛は出たいにゃ。だからメモリを抜いてもらおうとことりちゃんについて行ったんだよ」

 

「えっ?」

 

「部活で能力を使ってるうちに気づいたにゃ。最初は『これで勝てる!』って嬉しくなったんだけど、みんなから急に足が速くなった理由を聞かれたり期待される度に後ろめたくなっちゃって、好きでやってる事なのに全然走る事が楽しいって思えなくなったの。だから凛は自分の力でマラソン大会に出て1位を取りたい。勿論能力は使わない、自分で使えるように治してもらったから大丈夫」

 

「そういう問題じゃないんだよ!話聞いてなかったの?メモリは身体に残っているだけでも生命力を蝕んでいく。その状態で負担をかけたら…」

 

「マラソン大会に出られるなら死んでもいいにゃ!ガイアメモリに頼っちゃった事もあったけど、それでも練習は頑張ってきた!1位が取れるかもしれないのに諦めたくない!!」

 

「自分の命も大事にしなよ!!簡単に死んでもいいなんて言わないで!!みんな凛ちゃんの事を心配してるし、それで死んだら悲しむ人が…」

 

そこまで言いかけたところで曜は言葉に詰まる。同時に思い出すのは、ことりを倒そうと格納庫を飛び出そうとした時に鞠莉から諭された言葉…

今自分が凛に言っているのは、あの時彼女に言われた事とほぼ全て同じ内容だったのだ。

 

「…そんなに出たいんだね?」

 

「凛は本気だよ」

 

「でも命に関わるリスクを放っておいてまで大会に出るのは認めない。だから明日、大会が始まる前に会場に来て。凛ちゃんの身体の中のメモリを抜いてあげる。私の仲間が見つけた…あなたを救う為の処置で」

 

「刑事さん…ありがとにゃ!」

 

凛はそう言って笑い、拳をぎゅっと握り締めた。曜の声を聞いて駆けつけたルビィもその様子を見て、安心したような表情を浮かべるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、曜は大会のスタート地点で凛と果南達の到着を待っていた。開始時間まであと1時間を切った時、タイミングよく2人の人影がこちらへ駆けて来た。果南とルビィだ。

 

「あっ、果南ちゃ…」

 

曜が果南の名前を呼びかけたその瞬間、果南は腕を上げ曜の頬を勢いよく殴りつけた。

後から追って来たダイヤはその行動の意図が理解できず、慌てて果南を引き止める。

 

「何してるんですか果南さん!理由もなしに殴るのはぶっぶーですわ!」

 

「ダイヤ知らないの?これは漫画とかでもよくある仲直りの為の儀式なんだよ。これぐらい鞠莉も知ってるからね?」

 

「そ、そうなのですか…?よくわかりませんわ」

 

「なかなか粋な事を知ってるんだね。私もだけど!」

 

困惑するダイヤを脇目に果南は曜へと歩み寄り、手を差し伸べる。曜もその手を取り、2人は固い握手を交わし合うのだった。

 

「話はルビィちゃんから聞いたよ。メモリの摘出方法を教えるからよーく聞いてて」

 

果南はルビィが書いたであろうイラストを曜に見せ、メモリを摘出する方法を1つ1つ丁寧に説明し始める。

 

「おーい、みんな〜」

 

「凛ちゃんだ!」

 

果南が説明し終えるのと同時に凛も到着する。これで準備は整ったように思われたが…

 

「皆さん!奇遇ですね〜」

 

逆方向からはさも偶然を装ったかのようにことりが現れた。

 

「南ことり…!」

 

「ここで会えたのも何かの縁…ついでに片付けてあげます!」

 

\ウェザー!/

 

ことりはウェザー・ドーパントに変身し、戦闘態勢に入る。曜も復讐心から戦い出してしまうのではないか。果南達は身構えたが…

 

「悪いけど今はあなたの相手をしてる時間はないんだよね。凛ちゃんを助けるのが先」

 

「この前も言ったでしょ?そんな事は不可能だって」

 

「方法ならあるよ。しかもそれは私にしかできない事だから」

 

「そうなんだぁ…でもさせないよ?」

 

「あら、それはこちらの台詞ですわよ?」

 

\スカル!/

 

「変身、ですわ!」

 

\スカル!/

 

ウェザーがこちらへ襲いかかろうとした瞬間、スカルに姿を変えたダイヤが間一髪でそれを受け止めた。

 

「私も仮面ライダーだという事をお忘れなく」

 

「小賢しい真似を…!」

 

「皆さん、ここは私が食い止めます!凛さんは頼みましたわ!」

 

「ダイヤちゃん、ありがとう!」

 

スカルがウェザーの相手をしている隙に、曜達は凛の元へ駆け出す。

 

「それじゃあ曜、早速変身して!凛ちゃんはここから離れない程度に高速移動能力を使って適当に走り回って!」

 

的確な指示を受け、曜と凛は言われた通りに行動を開始する。果南曰くメモリはドーパント化…凛の場合は高速移動能力の使用中にしか排出できないらしい。

 

「凛ちゃん、すぐに助けてあげるから!」

 

\アクセル!/

 

「変…身っ!!」

 

\アクセル!/

 

続けて曜はアクセルに変身、果南はライブモードに変形させたバットショットを向かわせながら左手に持ったデンデンセンサーのライトを当て、高速移動で見えなくなった凛の位置を特定する。

 

「ちょ、みんな!何してるの!?」

 

「凛ちゃんに死んでもらいます!」

 

\エレクトリック!/

 

凛の後を追って来た明日美が異変に気づきそう尋ねるが、アクセルは迷う事なくそう告げる。

すると飛んでいたバットショットがピピッと音を鳴らし、凛にエレクトリックが正確に命中する位置を示した。

 

「曜、今だよ!」

 

「了解であります!」

 

アクセルが電気を纏ったエンジンブレードで凛を切ると高速移動能力が解除され、足元にスピードメモリが排出された。凛は息をしていない為、摘出が成功したのだ。

すかさずアクセルは横たわる凛に近づき、エンジンブレードで凛の心臓に軽い電気ショックを与える。凛は『うっ』と発しながらゆっくりと目を覚ました。

 

「…あれ?凛、生きてるにゃ」

 

「凛ちゃん!!良かった…」

 

先程まで悪かった体調もメモリが排出された事により嘘のように消え去った。明日美は無事に蘇生された凛に抱きつく。

そこへ到着したスカルも凛の無事を喜び、ウェザーは摘出されたスピードメモリを信じられないといった様子で見ている。

 

「どうやら上手くいったようですね!」

 

「死なない限り排出できないのにどうして…何をしたんですか!?」

 

「勿論、凛ちゃんは一度死んでるよ。だからメモリを摘出できた」

 

「そんな事はわかります!!それならどうして凛ちゃんが生きてるんですか!!」

 

「簡単な話だよ。死ぬ事でしかメモリが排出されないなら一度心臓を止め、メモリに死んだと認識させて電気ショックで再度心臓を動かせばいい。電気は人を生かす事も殺す事もできるからそれを利用したんだよ」

 

「仮面ライダーの力はただ戦うだけじゃない。人を救う力でもあるんだよ!」

 

アクセルはスピードメモリを拾い、ゆっくりと握り潰し粉々に破壊する。それを見たウェザーは強い怒りのあまり激しく身体を震わせていた。

 

「許さない…強力な能力を手に入れるチャンスだったのにッ!!」

 

ウェザーは近くに立っていたスカルの腹を殴り飛ばし、アクセルへと襲いかかる。一発目の拳はエンジンブレードで何とか防ぐも、その一撃は怒りが乗っているからか相当重い。

 

「ただ殺すだけじゃ生ぬるい。あなた達は凍らせて砕き殺す!!」

 

拳に力が加わり、アクセルは後ろへとスリップする。ウェザーは腰に取り付けられた武器・ウェザーマインを取り出しそこから伸びたチェーンでアクセルとスカルに同時攻撃を浴びせる。防戦一方に追い詰められた2人だが、その時ウェザーへとファングがぶつかり果南の手中に収まった。

果南はファングをメモリモードへと変形させてスイッチを押す。その腰にはダブルドライバーが。

 

\ファング!/

 

「行くよ!」

 

『OK!ひと暴れしましょう!』

 

\ジョーカー!/

 

自身の脳内に響く溌剌とした声。そう、鞠莉が目を覚ましたのだ。

 

「「変身!!」」

 

\ファング!ジョーカー!/

 

果南はファングメモリと転送されて来たジョーカーメモリをドライバーに挿し、水色の風を纏いながらWへと姿を変えた。

 

「鞠莉ちゃん!目が覚めたんだね!」

 

『Yes!もうピンピンしてるよ!』

 

「会場に行こうとしたから保健室のベッドに寝かせておいたんですが…起こしてしまったのですか?」

 

「ダイヤと曜がピンチだったからね。という事で鞠莉、ちょっと手伝ってよ」

 

『Of course!!』

 

\アームファング!/

 

鞠莉は果南より先にファングの角を1回押して腕に白い刃を出現させ、ウェザーを連続で切り裂いた。そこへ体勢を立て直したスカルとアクセルも加わり、それぞれの武器を使いながらウェザーを追い詰めていく。

 

「っ…どうしてあなた達は諦めないんですか!私に勝てない事なんてわかってるのに!!」

 

『確かにあなたは強いわ。でもそれは諦める理由にはならない。力を1つに合わせればMiracle successが起きると信じてるから困難にも立ち向かえるのよ!』

 

「そうだね!助けられないと思っていた凛ちゃんを助ける事ができたのは、復讐に呑まれかけた私を仲間が繋ぎ止めてくれたからだよ!」

 

アクセルはWと遠くから戦闘を見守るルビィを見ながらそう言う。鞠莉の言葉があったから、ルビィが自身と向き合ってくれた事で離れてしまった仲間と想いが繋がったから。だから今の自分がここにいるのだ。

 

「それが力の源になってると言うなら…全部私が壊してあげますよ!!」

 

ウェザーが力を込めて手を振ると巨大な竜巻が出現し、こちらへと向かって来る。昨日の戦闘でWとアクセルを吹き飛ばしたものよりも遥かに大きい。

 

『Big tornadoが来てるけど…私達の力をことりに見せつけてあげましょう!仮面ライダーの力と仲間の絆を!』

 

「やってやろうじゃん!曜とダイヤもマキシマムで行こう!」

 

「はい!」

 

「よし!復讐だけに囚われてた過去も、仲間を信じなかった私も…全部含めて振り切るよ!!」

 

\ファング!マキシマムドライブ!/

\スカル!マキシマムドライブ!/

\アクセル!マキシマムドライブ!/

 

『Timingを合わせてトリプルマキシマムよ!』

 

4人は横一列に並び、それぞれのマキシマムドライブを発動させる。そして足にありったけの力を込めそれを竜巻へとぶつけるのだった。

 

「「「「ライダートリプルマキシマム!!」」」

 

ファングストライザー、ライダーキック、アクセルグランツァーのトリプルマキシマムが命中した瞬間、巨大な竜巻は水色のものと紫色のもの、そして赤いものの3つに分裂しウェザーの方へと向かって行った。

 

「何これ…きゃぁぁぁぁっ!!」

 

3色の竜巻が完全に命中した瞬間、その場で巨大な爆煙が発生した。アクセルはそれが収まった後に変身を解き、ことりを確保しようとウェザーのいた場所へと走って行く。

 

「南ことりもウェザーメモリも見当たらない。逃げたのかも」

 

「なかなかしぶとい方ですわね…」

 

「ま、凛ちゃんを救えただけ良しとしよっか。今回は曜のお陰だよ、ありがと」

 

そう笑い合う3人の方を遠くから見ている者がいた。赤いロングコートに身を包んだ女性…それは曜に仮面ライダーの力を与えた人物・ディライトだった。

 

「いいわねぇ。強くなってきたのデース」

 

ディライトは外国人じみた言葉遣いでそう呟くと、音もなく何処かへと姿を消すのだった。

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ことりさん、どうしたの!?」

 

一方、綺羅家にあるあんじゅの部屋には服のあちこちが裂け手足に幾つも切り傷を作ったことりが戻って来ていた。トリプルマキシマムはウェザーの蜃気楼の能力で防いだ事でメモリブレイクは免れたものの衝撃波を完全に防ぐ事はできず、大きなダメージを負ってしまったのだ。

 

「危うくメモリブレイクされるところでした…仮面ライダーの強さは思った以上かもしれません」

 

「無事で良かったわ。私達が悲願を成すまでは絶対に負けないでね、ことりさん」

 

「はい。その為にも色々と準備はしているので」

 

ことりには仮面ライダーとツバサを倒す為の策がまだあるようだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Report(報告書)

 

Rin was about to be arrested for possessing Gaia Memory, but she was able to participate in the marathon without incident thanks to the explanation that You was a successful victim. Moreover, the result is the 1st place! Her many years of hard work paid off and made me as happy as I was.

And one more good thing. You can now truly believe in you's friends. Kotori hasn't been arrested yet, but I want to believe that something has changed in her.

(凛はガイアメモリを所持していた罪で逮捕されそうになったが、曜が上手く被害者であると説明したお陰で彼女は何事もなくマラソン大会に出場する事ができた。しかも結果はなんと1位!彼女の長年の努力は報われ、私まで自分の事のように嬉しくなった。

そしていい事はもう1つ。曜が心から仲間を信じる事ができるようになったのだ。ことりはまだ逮捕されていないが、彼女の中で何かが変わったと私も信じたいと思う)

 

久々に報告書を書き終えた鞠莉は一息つき、パソコンを手に部室へ向かう。

しかし到着し中へ入った瞬間、何やらダイヤが般若のような顔をしている。その視線の先には頭にハテナマークを思い浮かべてるであろう果南が。説教中だろうか。

 

「な、何…?ダイヤ?」

 

「果南さん、先日あなたはこのダンボールの中にエロ本が入ってると仰ってましたよね?」

 

「言ったけど…」

 

「取り除こうと思って開けてみたらどこにもそんな物が入っていなかったんですよ!!あれは私を騙したのですか!?」

 

「騙してないから!ていうかあれ本気にしてたの!?冗談のつもりだったんだけど…」

 

鞠莉にはダイヤの顔がますます般若に近くなったように見えた。彼女は昔から冗談半分でもからかってしまうとこのような顔になる。流石お堅い系生徒会長と呼ぶべきか。

 

「怒っているのはそれだけではありません。中に入っていたのが全てお父様の物だった事です!イメージダウンに繋がるような言動をするとは何と無礼な!!あなたは本当にお父様を尊敬していたのですか!?」

 

「あ、剛の物が入ったダンボールだから怒ってたのね」

 

それを聞いた鞠莉は怒っても仕方ないと思った。それにしても沸点が低いような気はするが。

 

「師匠の物が入ってるなんて知らなかったんだよ!そんな怒る事ないじゃん!」

 

「うおぉ黙らっしゃぁい!!今日という今日は反省するまで許しませんからね!?」

 

「ヤバイヤバイ鬼が来た!!ルビィちゃん逃げて、鬼が来たよ!!」

 

「逃げるのですか!?なら地獄の果てまで追い回しますわよぉぉぉ!!」

 

果南は悲鳴を上げながら部室を飛び出し、ダイヤはドスドスと足音を立てながらその後を追って行った。これは面倒な事になりそうだ。鞠莉はトイレから戻って来たルビィと2人で取り残される。

 

「ダイヤは追いかけ回す足は速いからねぇ…できるだけ怒らせない方がいいよ?」

 

「しばらく『足が速い』って言葉は聞きたくないよぉ!!」

 

その日、果南とダイヤが校内を走り回った事によって探偵部全員が叱られたのは言うまでもない。




<次回予告>

???「夢に変な怪物が出てきて眠れないんですぅ!!」

曜「な、なんて悪夢だ…」

ルビィ「さぁ、あなたの罪を数えルビィ!」

鞠莉「Loveは言葉にしないと伝わらないのデース!!」

次回 Bで甘い恋/結末は悪夢かワンダーランドか


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