化け物の俺は彼女たちと人間になりたい (ゼルクニル)
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化け物から人への1歩
第0話 名誉捨て去り零から生きる


再投稿するものを作成していますが時間が掛かるため、最新話との地の文に大きな差があると思います…。














 

此処は、某国のとある1室。

 

 

「「「……」」」

 

張り詰めた空気の中で男達は並ぶ…

 

この部屋にいる者達の目線は……

 

その目線を集めているのは……

 

 

「……なん、だと!?」

1人の男と……

 

 

「……言ったとおりだ」

男達の前に立つ1人の少年の背中だった

 

 

 

 

 

「お前を……」

 

 

「生かす価値はないっ!!」

 

 

「やっ……やめ!」

 

バン!

 

 

 

「…制圧完了、撤収する。此処は跡形も無く消すぞ」

 

「了解だ。砲撃要請を行う」

 

「この建物…砲撃で崩れるのか?」

 

「どうしますか?リーダー」

 

「だったらC4をありったけ使う。此処を完全に吹っ飛ばすぞ」

 

「「「「了解だ!」」」」

 

 

 リーダーと呼ばれる少年の指示に従う男達は少年と共に建物の中を爆薬で埋め尽くすし建物から出た…

 それから5分ほど経ち、砲撃の嵐と建物内の爆発で激しい爆発音が響き…続いて建物が大きな音を立て盛大に崩れ落る。その爆風で少年と男達の服は激しく靡いた後、辺りは男達の歓声が響いた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫となった建物の前で2人の男は、崩れた建物を見つめ満面の笑みを浮かべていた

 

 

 

「これで……終わったのか?」

 

「そうだ。終わったんだ……何もかも」

 

「そうか……」 

 

「これで俺たちは……」

 

「そうだ!」

 

 

 

「まだだ」

 

 

喜ぶ男達の会話に水を差したのはリーダーと呼ばれる少年だった。喜ぶ男達とは違い、彼の表情は変わらず喜びを感じられない程…硬い表情だった

 

 

「「リーダー?」」

 

「まだ終わっていない」

 

「何故でだ!?」

 

「そうだぞ!もう敵は全員!」

 

「そうじゃない」

 

「……じゃあ何故?」

 

「俺たちはまだ日本に帰ってないからだ」

 

 

少年の冷静な発言は男達に緊張感を与え、冷静さを取り戻させた

 

 

「っ!、そうだった。悪い…」

「俺たちちょっと浮かれてたな…」

 

「いや、気は抜いても良いが程々にだ。絶対気を抜くなよ」

 

「「ああ!」」

 

 

男達の表情を確認し満足がいったのか。少年は1人仲間のところへ戻っていく…その後ろ姿はこの場にいる誰よりも大人だった

 

 

 

「はぁ、普通は喜ばないか?あいつは……」

 

「そうだな……」

 

「だがあいつの…『リーダー』のおかげで俺たちは勝てたんだ」

 

「そうだな…」

 

「だが……どうなるんだ?リーダーは」

 

「……分からん。何せリーダーは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰る場所が無い…からな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

少年が活動拠点としているテントに入ると、先に戻っていた仲間達が喜びながら少年に声を掛け始めた

 

 

「ようやくだな!リーダー!なぁ皆」

 

「森田さんの言うとおりですよ!リーダー!」

「ようやくだな!」

 

 

「森田…お前ら…もうリーダーはやめてくれ。もうそんな呼ばれ方はされたくない」

 

「そうか?まぁこれが最後なんだ。我慢してくれ!」

 

「……分かった」

 

「まぁとりあえず!今日は宴会だ!酒用意しろ酒!」

 

「「「おおっ!!」」」

 

 

少年の仲間達が宴会を開く準備をする中…

 

「…はっ……」

 

少年はただ1人ため息をつき乱暴に椅子に座り何かを呟いていた事を知る者はいなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

宴会が始まり……あっという間に終わった。皆、酒を飲み過ぎ夢の中…

 

少年は酒を飲む気分にならず、星空の下でたき火をして水を飲んでいた

 

 

 

「……はぁ」

 

「浮かない顔だな、リーダー」

 

「森田……」

 

「……まだ考えてるのか?」

 

「ああ」

 

「もう気にしなくても良いんじゃ無いか?」

 

「そうか?」

 

「そうだぜ?親が居ない子供は結構居るからな

 

「それはそうらしいが…」

 

 

 森田たちは元々、観光地として有名だったこの国に旅行に来ていた一般市民だった。

 だが某国内で突如紛争が起り、人質として捕まった友人や家族を助けるためにこの部隊を築いたのが森田だった。

 

 だが俺は…戦略増加の為に拉致され、その際に両親と弟は殺されたらしい

 

 此処に連れ去られたとき俺は4歳だったらしく今となっては森田達が俺の親みたいなものだ

 家族はどんな者達だったのかはもう分からない

 だが俺は紛争を生き抜いた兵士だ。森田達からあらゆる知識を教わり、薬品によって身体は進化と呼べる程の造りとなった上、特殊な訓練を10年近く受けたのだから生活はどうにでもなるはずだ

 

 

 

「まぁ…どうにかなるだろ?」

 

「ああ!どうにかなるさ!」 

 

 

夜空の下、たき火が燃える音が響く中再び森田が口を開いた

 

 

「話が変わるが…リーダー?」

 

「いい加減リーダー止めないか?昔みたいに話せ」

 

「…分かった。お前はいまいくつだ?」

 

「年か?確か…16ぐらいだと思うが?」

 

「…そうなのか」 

 

「何でだ?」

 

「お前、老けて見えるからさ」

 

「殴んぞ」

 

「いやいや!皆そう思ってるぞ?」

 

「普通驚くところじゃないのか?」

 

「俺達はお前の親みたいなもんだぞ?息子の年聞いて驚くわけないじゃないか」

 

「じゃあ何でいくつか聞いたんだ?」

 

「…確認だ」

 

「……そうか」

 

気を遣っているのか、それともただ気になっただけなのかは分からないが多少の気紛らわしにはなった

 

「ありがとよ。森田」

 

「気にすんな…ちょっと待てよ?お前、名前はどうする?」

 

「名前か…」

 

 

俺には名前が無い、そもそも名前を知らないから名乗れないのだ。だから今までも「リーダー」とか「指令官」とか呼ばれてきた。

 

 

「それなら考えてある」

 

「そうなのか!?どんなのだ?」

 

「明日の朝教えてやる」

 

「そうか!じゃあ明日のためにも、最後の準備をしますかね!」

 

「ああ」

 

 

俺は砂を掛けたき火を消し、森田と最後の準備を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 “翌朝”

 

 

「全員!リーダーの最後の挨拶だ!」 

森田の指示が朝日と共に響き渡る、そして俺は最後の職務を全うするべく全員の前に出た

 

 

「皆、ついに紛争は終わった。ここにいる全員が、ようやく故郷である日本に誰一人欠けること無く出来る。

 まず皆に感謝したい。幼い俺をここまで育ててくれたことそして、こんな俺の指示に従ってくれたこと、それ以外のことも全部まとめてありがとう」

 

 

言ったとたんに泣き出す奴がたくさんいたので驚いたが、話を続けた

 

 

「そして俺は、今日この日に生まれ変わる」

 

「とうとうだな、お前ら!リーダーが自分の名前を決めたぞ!」

 

森田がそう言い放った瞬間歓声が上がった、お前らそんなに気になっていたのかよ…

 

「マジでか!?」

 

「ああ、今まで無かった俺の名前…」

 

「今日この日から俺は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後…

 

 

 

 あの後俺たちは日本に着いたが、ついた途端新聞記者たちに囲まれた。当然だ、一般市民が友人や家族のために戦い続けたんだからな。

 そこから先は、森田たちに取材班が集まったが俺は隙を狙い逃げた。16の少年がリーダーだったと報道されたくなかったし、親代わりもいないから少年院確定だとおもっていたからな。

 

 だかうれしい誤算があった、それは…

 

「これで良しと、いやーやっと終わった」

 

「にしてもこうなるとはな、ありがたい」

 

 16歳でもひとり暮らしが出来る事だ、しかも森田の知り合いがバイトを募集していたのでそこで働き生計を立てることにした。

 帰国前に今までの資金と敵共の溜めてた金を頂戴し山分けしたのだが、いつかのためにほとんど貯金することにした、それでも生活資金は結構あるので当分は問題なさそうだ。

 

 

「口調はこんな感じか?…やはりおかしいな」

 

 

口調を変えておけと言われたのでなるべく変えてみたが…

しばらくは今まで通りでいいだろう…

 

 

「さて、それでは今日から仕事頑張るとしよう」

 

 

森田が紹介してくれた仕事はどうやらライブハウスのでのアルバイトらしい、仕事先くれた森田に感謝だな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだな」

 

着いたは良いが、立派すぎないか?ここで働くと思うと気が引き締まる。

息を整え、俺は扉を開けた。

 

 

「すいません!今日からここで働くものなんですけれども」

  

「はーい。ちょっと待ってくださーい。」

 

 

奥から声がしたので待っていると、スタッフらしき人が来た。

 

 

「今日からここで働く新人は君だね、私は月島まりなだよ。君の名前は?」

 

「はい、今日からここでお世話になる神鷹 零(こうたか れい)です。」

 

「うん、よろしくね。零くん」

 

「はい。よろしくお願いします、まりなさん」

 

 

 

ついにこの日、この日から俺は、戦争で育った化け物としてでは無く、神鷹 零(こうたか れい)として、人としての人生がようやく始まった。

 

 

この時、俺は予想もしてなかった。

 

この場所で出会う者達のおかげで…俺は大きく変わるということを…

 

 

 

 

 

 




簡単なキャラ設定


名前:神鷹 零
身長:184cm
年齢:16歳
特徴:ダークブラウンの髪 顔の傷

能力:驚異的な身体能力・毒物耐性・負傷時の急速回復(激痛のデメリットあり)





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第一章 
第1話 帰り道での出会い


CIRCLEで働き出して1ヶ月近くたった

 

「零くーん、この機材運ぶの手伝ってー」

「今行きます」

 

 

まりなさんにあれこれ教えて貰い、ようやくスタッフとしての仕事が出来るようになった。

 

と言っても、現状は機材の運搬や簡単な整備程度しか出来ないものの、それでも構わないと受け入れて貰いながらも出来ることを増やしていこういう目標を持ちながら働いている。

 

 

だがそれでも、多くのことをこなしてきた俺でも出来ないことが1つだけあった。

 

 

 

 

「ここまで出来るようになったんだから、そろそろ受付も頼めないかな?」

「いくら仕事とはいえ、受付はまだ断らせて頂きます」

 

 

まりなさんは平然と会話をしているが、俺の顔はかつての古傷である刃傷が多く残っている。その為、俺が受付をするとお客さんが来なくなるのは目に見えていた。なので俺は受付だけは絶対にしないのだが、やはりコミュニケーションのことを考えると…かなり不憫である。

 

 

「まぁですけど、以前よりは変わったような気がします」

「君は強いね…」

「それはどっちの強さですか?」

「どっちもだよ」

 

 

まりなさんは俺の境遇を知っている数少ない人物の一人だ、俺の境遇を知っていてもなお快く迎えてくれた恩人であるので、この人の頼みには出来るだけ良い返事をしたいが受付だけはまだ出来ないと言わざる終えない。

 

 

「でもね?だからこそ君には青春を謳歌して、今まで出来なかったことをしてほしいの、ここについてはよく知っているでしょ?」

「それはそうですけど…」

 

 

ここに来たとき聞いた話だが、ここはガールズバンドのためにオーナーが建てたらしく今は主に5つのバンドが使用しているらしい。どのバンドとも面識は現状無いが、出会う日はそう遠くない可能性もある。

 

 

 「すいませーん」

 

「はーい、今行きまーす。零くん、ここの機材をしたまで運んで貰ってもいい?」

「わかりました」

「うん、頼んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「やっと、と言うほど時間掛かっていないが終わったな」

 

 

過去の経験はいつか役に立つと言うらしいが事実だな、機材の方が重装備よりも軽く感じるのは重労働を経験したからだろう。

 

 

「おつかれさまーってすごいね!?本当に一人で運べたの!?」

「寧ろ軽いくらいでしたよ」

 

 

仕事が終わる度にまりなさんに驚かれる。それが仕事のルーティーンとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

仕事が終わり、俺は家に帰った後について考えていた。

 

 

「…しばらくはバイトも休み、アニメでも見るとしよう」

 

 

最近、俺はアニメを見るようになった。きっかけは今時の流行を知るために見始めたのだが…中々おもしろい、現実味があるものもあれば幻想的なもの等様々だというのにほぼ毎日見れるという事実に驚きだ。これが日本の普通…まだ慣れないな。

 

 

「今日は何を見ようか…やはり今日は『ち、ちょっと!』…なんだ?」

 

 

明らかに嫌がっている声がしたので急いで声のする方に行ってみると,

白桃色の髪をした少女が男に腕を捕まれていた。明らかに嫌がっている…だが揉め事は避けたいがしょうが無い。偶然通りかかったように近づき少女を掴む手を払うという算段を立てている間に俺は男に気づかれ、男は怒鳴り散らし始めた

 

 

『あ?何だよお前には関係ないだろ!引っ込んでろ!』

「あんたのせいで関係者だ。無理矢理その子の腕を掴んでいる時点で犯罪だ」

『うるさい!!俺の女なんだぞ!!彼女と何しようが勝手だろう!』

 

「放してよ!このストーカー!助けてください!!」

 

『ストーカーじゃない!僕は君のためなら何だってする!君は僕と結ばれる運命にあるんだ!』

 

 

流石に見ているだけでは居られなくなったので、俺は少女の腕を掴む男の腕を無理矢理引き剥がしてやった。

 

 

「手ぐらい放したらどうだ」

『邪魔するなっ!』

 

 

すると逆上して殴りにかかってきたので横に避け、足を掛け転ばしてやると男はそのまま電柱に頭をぶつけ倒れた。

この男をどうしてやろうかと考えていると、少女に声をかけられたので振り返ると少女が近くにいた

 

 

「あっありがとうございますっ!」

 

 

彼女の顔は半泣きだった。当然だ。ストーカーに腕捕まれていたからな……今更だが、これは正当防衛の判定内だろうか。誰かに質問されたら勝手に転んだと言っておこう。

 

 

「怪我はしているか?」

「大丈夫です。それよりも…この人どうします?」

「頭部を強くぶつけ当分は起きないはずだ。どうするかは君の判断次第だ」

 

 

少女は少しうなった後何かを言い出そうとしたが、少女の電話が鳴ったので電話に出るように言った。しばらく続いていたのでひとまず男を落ちてたロープで縛ると少女が戻ってきた

 

 

「お待たせしま……なにやってるんですか?」

「ひとまずはこれで一安心だ」

 

 

結局警察を呼ぶこととなり男は逮捕、連行されていき俺は正当防衛ということでこの一件は終わった。

 

 

「帰りは気をつけるんだぞ」

「待ってください!」

「んん?どうした?」

「あの、あなたの名前を教えてください!」

「…神鷹 零だ」

 

あまりの勢いだったのでつい名乗ってしまった。だが少女の方は満足したようで「いつかお礼をします!」と言って元気に帰って行ったので「気をつけるんだぞ」と注意だけをして再び家路につくことにした。

 

 

揉め事は金輪際ゴメンだ。

 

 

 

 

 

少女はあの後、幼馴染みの数名といつも集まる喫茶店にいた。幼馴染み達は少女が襲われたと聞きつけ、心配で急遽集まったようで少女は最高の幼馴染みを持ったんだと感動しながら出されたコーヒーを飲んでいた。

 

幼馴染み達は少女を救った男について少女に聞いたものの、彼は帽子をかぶりマスクをしていたため顔が見れなかったが、身長や髪の色、「れい」と名乗っていた等の数少ない情報を少女は話した。

 

 

「なんか…想像つかないね…」

「まぁ、そんなに特徴的ならすぐに見つかるんじゃない?」

「れい、か…今度会ったらあたしたちもお礼いわないとね」

「だな!」 「だね~」 「うん!」

 

 

幼馴染み達が感謝を伝えようと考えていたとき、少女は『また会えるような気がする』。そんな謎の核心を抱きながら、心を落ち着かせるために追加で頼んだパフェを口に運ぶのだった

 

 



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第2話 出会い モールでの1件

続けて読んで頂きありがとうございます。
この物語はこのような感じで続いていきます


 あの一件から3日たったが、今も何も変わらない日々を過ごしている。

 あの少女がどうなったのかは多少気にはなるが、結局は偶然だっただけだ。お礼をするとは言っていたが…所詮は偶然の出会い、恐らく今後も会うことも無いだろう。

 

 

 そして、今日は食料品や衣類などを買いにモールにやってきた。

 休日だからか多くの人が訪れているので、マスクは絶対外せない。外したら間違いなく異様な目を向けられるだろうからな。

 

『服はその人を表すものだから、もっと衣服に興味持った方が良いよ』というまりなさんの助言をもらいおすすめのお店まで紹介して貰った、本当にあの人には頭が上がらない…

 

 

 

 

 

 

ショッピングモールに着いた俺は、何とか迷わずに衣類店へと向かい店員に勧めらた衣服を購入した。

 白のTシャツと青のジーンズと黒の帽子で仕上がったシンプルな組み合わせだが…自分でも分かるくらい変わった事が実感できる、服装一つでここまで変わるのなら今後は服装にもかなり気を配らなければならない、俺の意識改革のいい材料となった。

 

 

「(あとはこの顔だけだな)」

 

 

 いくら服装がまともになったとは言え、一日中マスクの状態は卒業したい、というかするべきだろう。毎日毎日職務質問されたくないし紙マスク買い込むのは資源と予算の無駄遣い。この際多少ましになれば何でも良いからこの顔の傷をどうにかしなければいけない。

 

 

 

 

 公園で一息入れながらこの問題(顔の傷)の解決策を調べる

 

「(……そういったものはメイクで隠すのが一番よいでしょう』か…メイク…たしか化粧の一種だった筈)」

 

 これはまずい…医療分野なら金銭的な問題で解決するが、『メイク』となると専門的な知識がそれなりに必要になってくる…また1から覚えなければならないな…

 

 

 

 

「また戻って来る羽目になるとはな…」

 

『知識を得るには1に書物2に実践だ』と昔森田に教わったので再びモールに戻り一番良さそうな本を購入した

 

「後は覚えるだけだな、さっさとかえr

 『オォーー!! スゲェ!! カッコイイ!!』

 ……なんだ? 有名人でも来たのか?」

 

 

 無性に気になったので人混みが出来ているところに行ると

 

『次に披露してくださる立候補者はいませんかー?』

 

 どうやらモールで第一回目となる隠し芸大会のイベント、しかも指名されたお客がするようだ

 すぐに帰ろうかとも思ったがどんなものか気になったので見ていこう

 

「さすがに指名されることなんてあるはずn『ではそこの白いTシャツに帽子とマスクをされているお客様どうぞ!!!』嘘だろ……」

 これが『フラグ回収』というものか…

 

『ではお客様、お名前は?』

「こ、神鷹 零です……」

『こうたかさんですね!! ではステージの方へどうぞー!!』

『イィゾイィゾ!! ガンバレー!!」

 

「(どうしようか、人に見せられるものなんて何も…。第一小道具とか持ってない…披露したとしても引かれるだけだろうしな)」

 

「小道具ってありますか?」

『はい!! この台の上にあるものなら何でも使って貰って大丈夫ですよ!!』

 

(台? これか? ……確かに色々あるな、かつら・笛・棒・皿? ……ヌンチャクまであるが、俺に出来るものと言ったらヌンチャクか棒らへんだが……)

 

『こうたかさん!! そろそろお時間です!』

 

 やるしか無いのかと腹をくくった、その時だった

 

 

 

 

 

 

『万引きだ──! ソイツを捕まえてくれー!!』

 と叫ぶ店員らしい男から逃げているような男がステージ(ここ)に迫ってきた

 

『ハァハァ、丁度良い!! お前こっちに来い!』

 しかも万引き犯はその場にいた女の子に刃物を向け人質にとりやがった、よほど逃げたいらしい

 

 ……つうかなんかこんなこと前もあったよな? そしてみんな刃物持ってる気がするだが、日本は犯罪少ないんじゃ無かったのか? 分かっている、ふざけている場合では無いことくらいな

 

『それ以上近づくな!! 近づいたらコイツを殺すぞ!』

『助けて! ママー!!』

『お願い! その子を傷つけないで!!』

『もうすぐ警察も来る! 馬鹿なまねはやめるんだっ!』

 

(俺なら助けに行くことは出来る、だがここはあの場所(戦場)では無く法治国家だ。下手に暴力を振るえば俺だって逮捕される可能性がある、悔しいがここは冷静に警察を待つべきだ!!)ギリッ

 

 

 煮えたぎるほどの怒りが【神鷹 零()】を殺そうとする、今動いてはいけない!

 

 

 今動いたら俺は! 【神鷹 零()】は死ぬ! そしてまた一人に戻ってしまう! それだけは絶対に嫌なんだ!!! 

 

 

『警察だ! こどもを解放しろ!!」

 

 

 これで男は人質を解放する。そう思った一瞬の隙が大きな、大きな過ちだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『良いのか~? 俺の気分次第でこのガキを殺せるんだぞ~? 分かったらさっさとどけ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう聞こえた瞬間……俺は、考えるよりも先に身体が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、また…やってしまった…」

 

 

 

 事件の後で男は捕まり、女の子は無傷で保護され、さらに逮捕と保護を協力したとして、俺は無罪となった。これですべてが丸く収まったが……

 

 

「結局…俺は…」

「(また戻ってしまった、戻りたくなかった。あんなの端から見たら……)」

「悪党以外の何物でもないじゃないか…」

 

「そんなことないよっ!!」

「そうですよ」

「えっ?」

 

 つい口に出してしまった言葉を聞いていたのは、その言葉を批判してくれたのは…

 

「だってっ、だってお兄ちゃんは私をたすけてくれたんだよっ!! 悪い人じゃないよっ!!」

「あなたのおかげでこの子は無事だったんですよ? もっと自分を誇ってください」

 

 人質にされていた女の子と、その子の母親だった

 

「この子、あなたに言いたいことがあるみたいなんです、聞いてあげてください」

 

 母親がそう言うと、女の子が近づいてきたから屈んで目線を合わせた

 

「どうしたの?」

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとっ!!」

「!!」

 

 ただ、その言葉がうれしかった。温かかった。

 

 笑って言ってくれたこの子を俺は

「無事でよかった」

 そう言って頭を優しく撫でた……

 

「うん!!」

「ふふっ、よかったわね」

 

 

 

 

 

 

疲れたのか、5分くらいで眠ってしまった

 

「本当にありがとうございました。良ければこの後お食事でもいかかですか?」

「いえいえ、そこまでして貰わなくても良いですよ、助けたくて助けたんですから」

「そうですか…残念です、この子あなたのことを気に入ったようですから」

「…その子に兄か姉ががいるんじゃないですか?」

「!?、なぜ分かったんですか!?」

「これでも元兄だったので、この子からそんな感じがしたんです」

「元、ということは…」

「ええ、ですから居なくなる苦しみや悲しみはよく分かります」

「…お強いんですね」

「よく言われます。」

そう話しているうちに大分野次馬が集まってきた、そろそろ帰宅(てっしゅう)するとしよう。

 

「それじゃ自分はこれで…」

 

「お兄ちゃん、もう行っちゃうの?」

「起きたのか」

「嫌だっ!!もうちょっと一緒に居たい!!」

「もう、文句言わないの!すいません本当に…」

「いえいえ…そうだ、お二人はどちらにお住まいで?」

「住所ですか?〇〇〇〇ですけど…」

「そうですか」

 

それを聞いた俺はもう一度この子の頭を撫でた

「実は俺もここら辺に住んでるんだ。だから会おうと思えばいつでも会えるよ」

「本当!?」

「ああ、でもすぐは無理だぞ?何せ最近引っ越してきたばかりだからな、でも時間が出来たらいつでも会いに行くよ」

「いやったぁ!!」

「良かったわね~。でしたらその時にこの子の姉といっしょにお礼をさせていただきます」

「楽しみにしてますね、それじゃあまた会いましょう!」

「ええ」 「バイバーイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???サイドー

 

 

 (速く!…もっと速く!!)はぁ、はぁ

 

あたしは今、今までで一番焦っている…

 

 (お願い!!…無事でいて!!!)

 

 

 

いつも通りの練習中に一本の電話がかかってきた

 

 「もしもし?…」

 

 『警察です、あなたの保護者と妹さんを保護しています。』

 

 「ええっ!?」

 

 『すぐに警察署に来てください』

 

 「はっはい!すぐ行きます!」ピッ

 

 「どっ、どうしたんだい美咲?」

 

 「今!!警察から電話かかかってきて!!お母さんと妹が保護されたって!」

 

 「「「ええっ!?」」」

 

 「どっどういうこと!?なんで美咲ちゃんのお母さんと妹ちゃんが保護されたの!?」

 

 「そんなのあたしが知りたいですよ!!」

 

 「とっ、とにかくみーくんはおかあさんのとこに行った方がいいんじゃないかな?」

 

 「そうよ!!、黒服の人に頼んで車を出してもらいましょ!」

 

 『すでに手配してあります』

 

 「おっ、お願いします!」

 

 

 

 

『お待ちしてました。奥沢s「二人は無事なんですか!?」ぶっ無事です!!二人とも無傷ですよ!』

 

「よっよかった~」クラッ

 

「だっ大丈夫?美咲ちゃん?」ササエ

 

「あっありがとうございます。花音さん」

 

『こちらですよ、ついてきてください』

 

 

 

 

 

 

「あら美咲、以外と速かったのね?」

「はやかったね!お姉ちゃん」

 

「二人とも!!一体何があったの!?」

「実はね…」

 

あたしはみんなと一緒に今日何があったのかをお母さんから聞いた…

 

「そ、そんなことがあのモールで起きてたの!?」

「うん、私、私…うわぁぁーん!!怖かったよぉぉ-!!!」

妹が泣きながら抱きついてきたので優しく抱きしめた

「よしよし。もう大丈夫、大丈夫だから」

「うわぁぁーん!!」

 

 

 

 

 

「よかったわね!美咲!」

「うん、ありがと、こころ」

「しかし…どうやって警察はそんな状況で美咲の妹を助けたのだろうか?」

「確かにそうだよね」

「そんなすごいおまわりさん、はぐみ会ってみたい!」

「そうだよお母さん!その人にお礼を言わないと!」

 

すると

『失礼します』

一人の警察官が入ってきた

「あの!!妹を助けていただき、本当にありがとうございました!」

 

『あっあの…妹さんを助けたのは私では…』

「「「「え?」」」」

『私は奥沢さんに頼まれていた事を教えに来ただけです』

「じっ、じゃあ妹を助けた人を連れてきてくれませんか?ここの警察官ですよね?」

 

『それは無理です』

 

「何でですか!?」

「そうだよ、はぐみもその人に会ってみたい!!」

「あたしも会ってみたいわ!!」

「私も」

「わっ私も!!」

 

『でっですから…「あの、頼んでいたものは?」はっはい、これです。では』ガラッ

警察官は出て行った

 

「実はね…その人、警官じゃ無くて一般人なのよ」

 

え?

 

「「「「「えぇぇぇーーー!?」」」」」」

 

「ほんと驚いちゃったわ。だってあの感じ、美咲と同い年くらいだったもの」

 

「ええっ!あたしと一緒くらいって」

「す、凄すぎるよ、その人…」

「凄いなー!!はぐみ、その人に会ってみたい!!」

「あぁ!!名も無き騎士が少女を救ったなんて、実に儚い!!」

「すごいじゃない!!!まさにヒーローだわ!!」

「お母さんその人の名前は?」

「それが、名前を聞きそびれちゃって…でもこのあたりにすんでるって言ってたわよ」

 

そんなすごい人がこの近くに…

 

「そういえば、さっき警察の人が持ってきたものってなんですか?」

「そうだった、お礼を言うためにその人の名前を調べて貰ったのよ」

「ほ、本当なのお母さん!?」

「えぇ、その人の名前は…神鷹零さんだって」

「神鷹 零さんか…」

「カッコイイ名前だね!!」

 

「決めたわっ!」

急にこころが叫んだ

 

「こっ、こころちゃん?決めたって何を?」

 

「その、こうたかれいって人は美咲の妹を助けて、美咲を笑顔にしたヒーローなのよ!!」

 

「まさか…」

 

「その人を、あたしたちハロハピのメンバーにするのよっ!!」

「さんせーい!」「素晴らしい提案だよこころ!!」

「ふぇぇぇ、美咲ちゃん、どうしよう…!」

「こころ!!待って、落ち着いて、そもそもどこに居るかも分からないのにどうやってメンバーにするの?」

『我々におまかせください。美咲様』

(あっ、そうだった…黒服さんたちならすぐに見つけられるんだった…)

「花音さん、もう駄目です。まぁ、もう後はなるようになりますよ、きっと」

「そっそうだね…」

 

 

 

 

 

(まぁ、お礼も言いたいし。今回はこころの案に賛成かな…神鷹零さん、どんな人なんだろう?)

 




もしよろしければ評価、リクエストなどの感想をよろしくお願いします!


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第3話 出会い スカウトでの1件

今回はパスパレの回です





『うちの事務所に来てみませんか?』

 

「…はい?」

 

 

それは突然のことだった。あれから俺はメイクを練習し続け、浅い傷が見えにくいように仕上げることが出来た。やはり深く残った傷は消えないが…深いのは適当な理由を付けてはぐらかしてしまえばいい。そう思って俺は初めてマスクなしで外へ出かけた。

 

その後何事もなく散歩をしていると背後から声を掛けられた後、現在に至る。

 

「…話が見えないのですが?」

『言葉足らずでした…申し訳ありません。ここでは説明できないのでついてきてもらえませんか?』

「分かりました…」

 

ここで断ることも考えたものの、少しだけ興味が湧いたので話を聞くためついていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうぞおかけになってください』

 

たどり着いたのはかなり大きめの建物。一瞬だけ見えた看板には事務所と書かれ、通路には様々なポスターが張られていたので恐らくはそういう類いの事務所だろう。

 

「それでは、説明していただけますか?」

『はい、実は…』

 

 

 

聞かされた話を要約すると、出演するはずだった役者が事故で出演不可能になったため代役が必要になった。そして身長や顔つきがそこそこ似ている俺が声を掛けられたということだった。

 

そんな理由で一般人を代役にして済ませるのは安上がりだと思うのは俺だけなのだろうか。事務所なら他の役者なり俳優を代役にすれば解決するのでは?。

 

色々と疑問に思うところはあるものの、何事も経験するべきだと前向きに考えて今回の件は受けることにした。

 

 

『よろしく頼むよ代役君!!ハイこれ台本、印がついてるところが君の役だから目を通しておいてね』

「分かりました」

『一通り目を通したら、5番スタジオに来てくれ待ってるよ』

 

 

先ず今回の撮影についての説明を監督から聞いた。台本は薄いが内容は目を通すと中々に濃かった。ジャンルは…時代劇というものらしい。詳しいことは全く分からないが、昔の日本が元となった内容で戦闘シーンがそこそこ多いらしい。ここ最近戦闘ばかりで思うところがあるももの、何も言わず監督の指示に従って動けば問題は無いはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

「それではみなさん、よろしくお願いしまーす!」

『よろしくお願いします!』

 

 

監督の挨拶と共に撮影が始まった。これが撮影スタジオなのかと思いながら見渡すと様々な機材が並び、眩しいぐらいの照明の効果なのか分からないが天井が遠く感じた。

 

 

「彼が代役をしてくれる子だ。みんな、挨拶して」

『よろしくお願いします!』

「よろしくお願いします」

 

 

スタッフや出演者が監督の下に集まり俺に挨拶してくれた。思った以上に人が多いのは撮影上当たり前なのか?目で数えるだけでも20人近くいると思うが?

 

その後、各役者から様々な指導を受けリハーサルが始まった。

 

 

『そのおなご二人をこちらに渡せ』

『そうか、それが貴様の答えか。ならば…仕方がない!』

『やってしまえー!!!』

『おおおおおぉぉっ!!!』

 

 

始まる前からロクなことにはならない、という予想が的中してしまった。どう考えても異常なほど相手の数が多かった。

 

刺客の数30人に対して俺は味方が居ない。更に後から来る2人の女性を守りながら戦わなければならない。ハッキリ言って現実味が無い。このような状況に立たされてそんなことが出来るような人物は精々俺の部隊メンバーくらいだ。

 

とは言ったものの、斬りかかる際は必ず声を上げて来るので、簡単に避けられる。代役だからと配慮してくれているので、全体を通しても激しく動くことはなかった。

 

 

『カット!代役君すごいよ君!演技の経験あるの!?』

「いえ、ただ指示通りに動いただけです」

『それじゃあおなご役の子たちが来るまで、衣装に着替えて本番まで休憩してて』

「分かりました」

 

 

用意された楽屋に来てみると、テーブルの上に衣装と狐の面が、ペットボトルの水や詰め合わせの菓子が入れられた大皿と共に置かれていた。

 

『まずは着替えよう……さすがにサイズは良い感じだな。あとは…狐のお面?顔を隠すっていってたがこれを付けるのか?』

 

 

 

(……何か変な感じの衣装だが、この模造刀とお面は気に入った。コレ貰えないかな?)

 

コンコン『そろそろ本番です』

 

「はい!今行きます」

(撮影終わったら聞いてみよう)

 

 

 

 

 

“スタジオ”

 

「お待たせしました」

『代役君も来たね、これで全員揃ったかな?それじゃ2人とも挨拶してください』

ディレクターが合図すると2人のおなご役の子が自己紹介をはじめた

「おはようございます、Pastel*Paletteの白鷺千聖です本日はよろしくお願いします」

「同じく、若宮イヴです!よろしくお願いします!」

『『『『よろしくお願いします!!』』』』

 

こうして本番が始まった

 

出番まで待機中の俺の元に金髪の子がやってきた

「君は…確か千聖さんですよね?よろしくお願いします」

(俺はお面をかぶったままで挨拶した)

「こちらこそ、本日はよろしくお願いしますね。」

「…それにしても」

「なんですか?」

「代役とは思えないほどの動きですね」

「そうですか?まぁ運動は人より出来るので」

「そうですか…俳優になる気はないんですか?」

「うぅ~ん…自分はあまり目立ちたくないので…あまり気乗りしませんね。今回だって顔を隠せるから引き受けただけです」

「そうですか…残念です。あなたとなら良い演技が出来ると思ったので」

『お二人とも、準備してくださーい』

「呼ばれましたね、それじゃいきましょう」

「ええ」

 

“本番中”

『そのおなご二人をこちらに渡せ』

「……」

『そうか、それが貴様の答えか。ならば…仕方がない!!』

(これ、いくら何でも…)

『やってしまえー!!!』

『『『『おおおおおおおおおぉぉっ!!!!!』』』』

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『はいカット!!お疲れ様!!』

また30人相手にして撮影が終了した…

 

「ふぅ、やっと終わった」

「お疲れ様です代役さん」

「本当にすごいです!!まさに宮本武蔵のようでした!!」

 

「2人もお疲れs『ガンッ』っ!?」

撮影が終わり盛り上がっていたスタジオの空気が、謎の音によって一瞬で静まりかえる……

 

 

『なっ、何の音だ!?』

ディレクターもスタッフ全員も騒ぎ出す

 

「なにか変な音がしたわよね?」

「なっ何でしょう…」

(なんだろう……なんだか嫌な予感がする……)

 

その予感は的中した!!

 

 

 

 

『にげろぉぉぉ!!!』

『ガシャーン!!!!』

 

すべてが一瞬だった

誰かが叫んだ瞬間、目の前に居たスタッフたちにスタジオの照明が落ちてスタッフが下敷きとなった!!!!

現場はパニックとなってしまった

 

「落ち着け!!動ける奴は救急車呼んで人を集めろっ!」

『『『『『はっはい!』』』』

冷静に指示を出した俺だったが、さらなる悲劇が起きた

 

『危ないっ!』

「っ!」

 

俺たちの頭の上にあった照明も落下してきた

 

「2人とも!」

「「えっ?」」

『ガシャーン!』

「代役さん!」

「あなた!!大丈夫なの!?」

 

俺は落ちる瞬間2人を突き飛ばし、俺は照明を支える体勢になった

 

「俺は大丈夫だ。人は!?」

「私たちはともかく、あなたはどこが無事なのよ!!」

「そうです!!その体勢じゃ潰されてしまいます!!」

 

俺は今、片方の膝をつき模造刀を使い両手で照明を支えている状態だ

 

「2人とも!!2人も人を集めてきて!!!急いでっ!!!!」

「分かったわっ!!!」

「分かりましたっ!!!」

そう言って2人は他のスタッフたちと一緒にスタジオから出て行った…

 

 

ふんっ!!」ガシャン!!

さすがに無傷ではすまなかったが、頭っを打っただけなので自力で脱出出来た。

 

「意外と重かったな…誰も居ないのが不幸中の幸いだな…」

普通1人くらいここに残るだろ…本当にパニック状態だったのか…

 

さ、手遅れになる前にこの人たちを助けないとな

 

「次はコレだな……ふんっ!」バコォン

 

スタッフは気絶してるが全員無事だな良かった良かったが…

 

「…この状態を見られたら非常にまずい」

 

こうして、俺は荷物を持ってスタジオから姿を消した………

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

“千聖サイド”

 

「ここですっ!!」扉バン

 

「っ!?嘘!?」

 

私が人を集めて戻ると、あの人の姿は無かった…

 

「どうなってるの?…」

「千聖さん!!」

「イヴちゃん…」

『これは!!すぐに救急車に運びます!!皆さん手伝ってください!!』

「千聖さん!!代役さんはどこに行ったんですか?」

「分からないわ…」

(彼が支えていた照明があんなところにあって、スタッフ達に落ちた照明もこんなところにある…一体何が?)

 

「千聖さん!あれを見てみましょう」

「あれって…?撮影用のカメラ…!まだ動いているってことは!」

「代役さんがどこに行ったかも分かるかもしれません!!」

「早速見てみましょう」

 

 

【誰も居ないのが不幸中の幸いだな…】

 

【次はコレだな……ふんっ!】バコォン

 

衝撃的な映像だった…

 

「嘘…コレ全部彼がどけたって事?」

「すっ、すごすぎます…」

「…コレは消してしまいましょう」

「そうですね、代役さんの為にも」

 

【削除しました】ピッ

 

『お二人とも!!』

「ディレクターさん!!」

「どうかしました?」

『彼は?代役君は?』

「それg『皆さん!!!』どうしました?」

『彼の楽屋に置き手紙が!!!』

「「「「えぇっ!!」」」」

『コレです!!』

 

 

「皆様へ  自力で脱出できたので帰らせて頂きます。

 PS・給料の代わりに衣装を貰っていきます

 PSのPS・いくらパニックになっていたとしても一人くらいその場に残っておきましょう 

                                    代役より」

 

 

『なんてこった…我々は、彼に謝罪どころか感謝も告げられないのか…』

「代役さん…でも、また会えますよね?」

「分からないわ…」

「でもこの事務所の人なんですよね?」

「そうよね、そのうち会えr『申し訳ありません!』…どうしました?アシスタントさん?」

『それが…彼は私がスカウトした一般人で…名前も分からず…』

「そんな!!じゃあもう会えないんですか!?」

 

(こんな…こんな別れ方…納得いかないわ!!せめて名前でも分かっていれば…)

「お礼くらい…」

 

 

この場にいる全員が後悔した。パニックになっていたとしても、彼を見殺しにしかけたのだから

 

この場にいる全員が感謝した。彼がいなければ死んでいたかもしれない人がいたから

 

でも、彼にはもう会えない…誰もがそう思った

 

 

『あの~ディレクターさん?』

「あなたは受付の…どうしました?」

『これを返してきてほしいという人がいたんですが…』

「これは!!彼の台本じゃ無いか!!」

「「「「!!」」」」

『ではこれで…「待ってください!!」はい?』

「その人の名前を知りたいのですが!!」

『名前たしか…【自分の名前は「零」です】っていってましたよ。では…』

「ありがとうございます。…【零】ね」

「レイさんですか…」

『零君か…』

 

【零】それが私たちを助けた彼の名前…この名前をここに居る全員が忘れないでしょうね…

 

(零…私は忘れないわよ。あなたにもう一度出会うまで…)

 

 

 

 

 

 



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第4話 出会い 散歩中での1件

今回の物語は「日常と読みやすさ」を重視しているので前作より読みごたえが無いかもしれません……




〈続いてのニュースです。先日のスタジオ照明が落下した事故で……〉

 

「もうニュースになっているな……」

 

先日の一件から2日たった日の朝、新しく買ったテレビで見る最初のニュースがこの前の事故だったので何とも言えない朝をむかえている

 

「死者は0人かそれは良かった……」

 

ニュースを見ながら食事と着替えを済ませた

 

「さて、行きますか」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

今日はとある場所へ行くのだが、コンビニに寄り道していく

 

『いらっしゃいませー!』

 

「(買うものは……適当に飲み物数本で良いか)」

 

『お会計463円ですー!』

 

「(店員1人だけ……?人手不足か?)」

 

『463円丁度ですねー!』

 

「(まぁ……考えたところで何も変わらないがな……)」

 

『ありがとうございましたー!』『サンシャイーン』

 

「(何か挨拶っぽい何かが聞こえたが……もいいか)」

 

 

 

 

“コンビニサイド”

「ありがとうございましたー!」「サンシャイーン!」

「……お客さん来てたんですね~」

「……ねぇモカ」

「なんですか~?」

「さっきの話なんだけどさ……」

「さっきの話~?ひーちゃんを助けた人の話ですか~?」

「うん、さっきのお客さんの特徴がその人に似てたからもしかして~と思っちゃって」

「本当ですか~?」

「まあ、似てたってだけかもね……」

 

 

 

“零サイド”

コンビニ近くの公園

 

「ここで一息入れようか……」

 

飲み物を飲み、澄み渡る程の青空を眺めた

 

(思い返してみれば……あっという間に数ヶ月たったな……)ゴクッ

 

(日本に来て森田たちと別れて……CIRCLEで働き始めて……本当に)ゴクッ

 

 

今までを振り返り、飲み物を飲みながら時間だけが過ぎていく……

 

「そろそろ良い時間だな」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ここだな」

 

今日の目的地である【ある場所】とは、このライブハウスである

ライブハウスならCIRCLEなのだが、本日は休業なのでここに来た

 

「ギターを借りたいんですけど」

 

 

ここのライブハウスは楽器をレンタルでき、練習に来る人もよく来るそうだ

俺は興味本位でギター弾いた時があり、それが結構楽しくって今でもCIRCLEでギター借りて練習している

 

 

 

弾いてはみるものの…やはり素人の練習、という感じの音しか出ないな…

歌ってもみるが…上手いのか分からない…

結局大した成果が出たわけでもなく練習を終えた

 

 

 

 

「さて……そろそろ帰ろうか(っ!?)」

 

今誰かいた。夢中になっていて気づかなかったが、誰かに見られていたようだ……

だが…見るほどの練習でもない。見られていとことも気にしないでおこう

 

 

「さっさと帰るか……」

 

こうして俺の一日が終わった……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

“???サイド”

 

「つい隠れてしまったけど……しまったわね……もう居ないわ……」

 

(でもさっきの演奏……私には無い何かを秘めていたわ……)

 

(しかし……これは立派な【盗撮】になるわね……)

 

再生しますか? 

《はい》

 

『~♪』

 

「彼をマネージャーに出来れば……きっと私達は……」

 

そうつぶやくと少女は彼を映した携帯をしまい、店をあとにした…………

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。
やはり物足りないでしょうか?

お気に入り登録して頂く皆さんありがとうございます
今後の物語を面白くするためのコメントなどがありましたら是非




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第5話 出会い 掘り出し物探しでの1件

今回で第一章は終了して、次回から第二章が始まります。

今回も「ゆったり」重視でいきます……


「コレはここに飾って……まぁこんなものか」

 

ようやく家と呼べる状態へと仕上げた俺は今、この前の模造刀とお面を飾っていた

 

「給料代わりに貰っていくと書いておいたが……まずかっただろうか」

 

……まぁ、あれだけ働いたんだしこれくらい、いいだろう

 

でもせっかく飾ったんだからもう少し何か飾ろうか

 

「よし、今日の予定が決まったな」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「しかし……刀と一緒に飾るものって何だ?」

 

(刀とセットなのは基本的に刀や刀掛けだとどっかで聞いたことがあるが……)

 

(そもそもこの辺りに骨董品を取り扱っている店なんてあるのだろうか?)

 

未だにこの地域周辺のお店を把握仕切っていない俺は諦め欠けていた

「どうしようかな……ん?」

 

道をよく見てみると何か貼ってある

 

「これは……星?」

 

星のシールがどこかに続いているかのように張り巡らされている……

 

(行く当てもないし、星に導かれてみようか……なんてな)

 

俺は星のシールをたどった……

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

(ここがゴールか?)

 

たどり着いた所には立派な蔵があった

 

「中も立派だな、隣は結構な邸宅だし……」

『どちら様ですか?』

(しまった!!邸宅って事はここは私有地の中だ!)

 

「申し訳ありません!勝手に入ってしまい…」

『もしかして、シールをたどってきたんですか?』

「えっ、あっはい」

『やはりそうでしたか。実はあれうちの孫娘が貼ったものなんですよ』

「そうなんですか。あの、実は……」

 

 

俺はこの人にここまでの経緯を語った

 

 

『なるほど、でしたらついてきてください。』

「え、あ、はい」

 

(どこへ向かっているんだろう)

 

『実は私、流星堂というお店をやっていまして、そこでお探しの物も見つかるかもしれませんよ』

「そうだったんですね」

『あなたで2人目です』

「?。何がですか?」

『あのシールでうちの蔵にやってきた人が、あなたで2人目なんですよ』

「……1人目はどんな人だったんですか?」

『その人ですか?その子、うちの孫娘のお知り合いだったんですよ』

「そんな偶然もあるんですね」

『そうですね……つきましたよ』

 

案内されたお店には数多くの壺や巻物といった骨董品が多く取り扱っていた

「すごい数ですね」

『どうぞごゆっくりごらんになってください』

(優しい人だな……)

 

一通り見たが、目的の物は無かった

 

『そうですか……すみませんお力になれなくて』

「いえいえ!そんなこと無いですよ!」

『そうにはいきませんよ……どうでしょう、もしよろしければうちで休んでいきませんか?』

(……ここにすんでいる人ならここらの事についてしれるかもしれないな……)

「……では、お言葉に甘えるとします」

 

 

 

しばらく待っているとお茶を出してくれた

『どうぞ』

「ありがとうございます」

(緑茶だな……この後味がいい)

「おいしいです」

『そうですか。良かったです』

「あの、色々教えて貰いたい事があるんですけど……」

 

 

その人はここ一帯について細かく教えてくれた。店・交通・商店街について・この地域について

更にはその人のお子さんについても話してくれた

 

(…………うらやましいな」

 

『そうですか?』

「……声に出てましたか?」

『ええ、良ければ話して頂けませんか?』

 

(この人には一日世話になった、いい人だ。この人にならいいか)

 

「自分には……親と呼べる人がもう居ないんです……ですから、あなた達が羨ましくって」

『私、たち?』

「自分のお子さんについて楽しそうに語るあなたと、大切にされているその子が……羨ましいです。もし自分に両親が居たら、そんな話が毎日出来るんですから……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「今日は本当にありがとうございました」

『いいえ、こちらこそ楽しかったですよ』

「では……」

『お待ちください』

「どうされましたか?」

『こちらをお持ち帰りください……』

渡された袋を開けると立派な模造刀が入っていた

「これは?」

『お代はいりません。今日1日話し相手になってくださったお礼です』

「いいんですか?」

『ええ、ですがお代の代わりに聞きたいことがあります』

「何でしょう?」

『あなたのお名前を教えてください』

「名前ですか?自分は神鷹 零ですけど……」

『神鷹さんですか。私は市ヶ谷 万実ともうします、またお越しくださいませ神鷹さん』

「はい、必ずまた来ます。ありがとうございました万実さん」

 

こうして、頂いた模造刀を手に今日は家に帰った

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

“???サイド”

 

『ただいま』

 

「おかえり、ばあちゃん」

「お邪魔してまーす」

 

『あら、いらっしゃい』

 

ん?今日のばあちゃん、ずいぶん機嫌が良いな……

 

「ばあちゃん、今日なんかあったのか?」

「私もそれ気になる!」

 

『実はね、今日香澄ちゃんみたいな人が来たのよ』

「「ええっ!?」」

「私みたいな人!?」

「どういうことだよばあちゃん!?」

『その人、あのシールをたどってうちの前まで来たのよ』

「シールってあの!?」

「確かに私と一緒だね!」

『その人と流星堂でつい話し込んじゃったの』

 

(ばあちゃんがここまでお客についてしゃべるなんて、よっぽどそのお客のこと気に入ったんだな)

 

「その人ってどんな人だったんですか?」

『どんな人?茶色みたいな黒髪の男性よ』

 

(茶髪に近い黒髪…?どっかで聞いたような特徴だな)

 

『身長もかなり大きい人でね……』

 

「あれ?聞いたことある気がするんだけど……どこだったっけ?」

「忘れたのか?学校で噂になってるヤツだろ、確か名前は……」

 

『その人は……』

 

『「神鷹 零」って言っていたわねぇ……』

 

「「……え?」」

 

(嘘だろ!?特徴も名前も一緒ってそれ完全に噂になってる男じゃん!)

 

「一体……どんな奴なんだ?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そして……

 

 

「零く~ん!!」

 

「何ですか?まりなさん」

 

「実はね……」

 

 

遂に……

 

 

「今回開催するライブイベントのプロジェクトマネージャーに君を任命します!!」

 

「………え?」

 

「明日彼女たちと顔合わせだからよろしく!!」

 

「…嘘だろ」

 

 

ついにその時が来た

 

 

 

第1章 完

 




これにて一章終了となります。



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第6話 顔合わせ

ついにこの日が……

「来てしまった」

 

大体まりなさんもまりなさんだろ、そんな大事なこと勝手に決めて良いのか?

そう考えながら俺は店に入る

 

「おはようございます」

 

「おはよう零くん、遂にこの日が来たよ!いや~ドキドキするね~」

 

「それはこっちの台詞ですよ。大体いきなりライブイベントするなんて言われて対応する身にもなってくださいよ」

 

「そこはほら…あれだよ、サプライズ的な!びっくりしたでしょ!」

 

「確かに驚きましたよ。そんな一大イベントを最近来たばかりの新人に任せるその発想には」

 

「それとコレ、今回出てもらうバンドの資料」

 

 

渡された資料を見てみるとバンド名しか書いてない…ならバンド名だけ言えば良いのでは無いのだろうか…

 

 

「…だいたい、どのバンドとも面識無いのですが?」

 

「そのためにも今日顔合わせをするんだよ」

 

「それで良いんですか?この【Roselia】というバンド、音楽のこととなるとかなり厳しいと聞きましたけど」

 

「まあそこはどうにかなるよ」

 

「随分適当ですね」

 

「とにかく!顔合わせはライブスペースでするから、零くんは下にある機材をどけて待機。暇になったら前にお願いした修理とか、楽器の練習とかして待ってて!」

 

「分かりました」

 

 

どうにかなるだろう。そう思いながら俺はライブスペースへと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

「コレで最後だな」

 

機材をステージそばの個室に移動させた

 

「あとは待つだけだな…ん?この機械は確か…」

 

 

修理を申請している機材の中に、数日前に修理を任された物がある。

 

 

「…まぁやってみようか」

 

 

時間にも大分余裕があるので俺は工具を持ち個室の中で修理作業を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【零が機材の中のライブスペース】

 

「みんな、今日は来てくれて本当にありがとう。ライブイベントについては、もう説明を受けていると思うから省略させてもらうね」

 

「私はこのライブハウスで働いている月島まりなって言います。よろしくね」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

「おお…なんか、こんなに大勢から挨拶してもらえるとうれしいね……!」

 

「まりなさん、これで全員ですか?聞いていた話より1人少ない気がしますけど?」

 

「そうだった!実は今回のライブイベントをまとめてもらうスタッフがここに来ています」

 

「そうなんですか?でもどこにも居ませんけど?」

 

「そうなんだよね…ステージ裏かな?」

 

「まりなさん、でしたよね?本当に大丈夫なんですか?集合場所にもいない人をまとめ役になんて…」

 

「ちょっと紗夜!いきなりそんな失礼なこと言わないの!」

 

「それについてはあたしも同意見です」

 

「蘭ちゃん!」

 

「ち、ちょっと待って!きっとステージ側の個室にいるんだと思うから、今呼んでくr『しまった!』

 

「「「「「っ!?」」」」」」

 

「なっ何ですか今の声!?」

 

「なんかステージ側から煙出てますけど!?」

 

「まさか火事!?」

 

「……?。違います、これは」

 

「演出用の機材から出る煙ですね……」

 

「というかすごい量!」

 

「一体なぜ?」

 

「ゴホッ、ああクソ!」

 

(((((誰か出てきた!?)))))

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

「まりなさん?すみません!時間が余っていたので先日の機械を直そうとしていたらゴホッゴホッ……配線を間違えてしまい…機械が止まらなくなってしまって!」

 

「分かったけど!せめてステージの上にいてよ!もうみんな揃ってるよ!」

 

「すっすみません!皆さんもゴホッ」

 

「いっ、良いですから速くこの煙をなんとかしてください!」

 

 

 

 

煙の中、換気扇のスイッチを入れ3分立ったところでようやく煙が晴れてきた

 

 

 

「ようやく晴れてきましたね…」

 

「本当に…大丈夫なんでしょうか…」

 

「ご、ごめんねみんな!あの子がミスする事は滅多に無いから!許してあげて!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

『本当に大丈夫だろうか』そんな不安が彼女たちを支配した……が

 

「本当に申し訳ありません!!」

 

「もう良いから零くんはその煙の中から自己紹介して!!」

 

(((((零くん?))))

 

まりなさんが放ったこの一言に、数人のが反応し……

 

「今回のライブイベントのプロジェクトマネージャーに任命されました……」

 

((((高身長に……ダークブラウンの髪!!??))))

 

 

晴れつつあった煙の中から出てきたその姿にさらに数人が驚愕し……

 

 

「神鷹 零です。どうぞよろしくお願いします」

 

 

『『『『『『ええぇぇっ!!??』』』』

 

完全に姿を現し、名乗りをあげたその男を見た十数人は様々な感情を胸に叫んだ……

 

 

続く




いかがだったでしょうか

評価を付けてくださった皆様!お気に入り登録してくださる皆様!
本当にありがとうございます!!

コメントの方もよろしくお願いします(*^_^*)


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第7話 顔合わせでの失敗

今回は前回の続きとなります。再びたらたらと書いてしまい申し訳ありません!!




「本当に…申し訳ありませんでした!!」

 

「零くんもういいって、失敗は誰にでもあるよ」

 

俺は今、眼科に来ている。

あの状況から何故眼科にいるか?

それを説明するには数時間前に遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『ええぇぇっ!!??』』』』

 

「っ!?みんなどうしたの!?」

 

「零さん!?何でこんな所にいるの!?」

「あの人がひまりを助けた人?」

 

「あの人が神鷹 零さん!?何か聞いてたイメージと違う!」

「もしかして!あの人が美咲の妹を助けたヒーローさんなのね!」

 

「(彼ここで働いていたのね…探す手間が省けたわ)」

「あれ~?どっかで見たことある気がするんだけど…どこだったっけ?」

 

「レイさんが煙の中から出てきました!もしやレイさんは忍者ですか?」

「イブさん…それは違うと思います…」

「(零くん…こんなところで会えるとは思わなかったわ)」

 

「マジかよ!?あれがばあちゃんの言ってた!?」

「なんか……噂で聞いたほど強そうじゃ無いね……」

 

 

それぞれの思いを口に出す面々だったが……

 

 

「ちょっと待ってくれ!今どうなってるんだ!?」

 

「零くん!?大丈夫なの!?」

 

「まりなさん!目が痛くて前が見えません!」

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

「この機材駄目です!煙が目に当たると失明の可能性があります!」

 

「とっ、とりあえず眼科に行かないと!ごめんみんな!!今日は解散してまた後日でいい!?」

 

「だ、大丈夫ですから!その人を速く!」

 

「うん!みんなありがとね!」

 

そう言うとまりなさんは俺を眼科へ連れて行ってくれて、現在に至る…

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな時に限って……」

「もうっ!なんともなかったんだから少しは喜びなよ」

「ですけど…」

「彼女たちもいいって言ってくれてたし、もう気にしないの!」

「はい…」

「よろしい!それじゃあ決まったことを知らせておくね……」

 

 

そう言うとまりなさんはあの後、ミニライブを行うことと明日から合同練習があることを教えてくれた

 

 

「明日はポピパとパスパレだからね」

「分かりました」

「それじゃあ、今度こそ明日からだからね!」

「はい」

「(今度こそ顔合わせだな、一体どんな人達だろうか)」

 

 

 

 

“パスパレサイド”

 

「いや~今日は面白かったー!ね~彩ちゃん!」

 

「えっ!?そ、そうだね…」

 

「日菜さん…あの状況は楽しんじゃいけませんよ…」

 

「「…」」

 

「ん~?どうしたの?千聖ちゃん、イブちゃん」

 

「えっ?え、ええそうね…」

 

「はっはい!」

 

「二人ともどうしたの?ずっと上の空って感じだけど?」

 

「「そ、そう?」ですか?」

 

「そうだよ、全然るんっ!てこないよ二人とも!ねえ麻弥ちゃん」

 

「はい…あの神鷹さんって人が出て行ってしまった時からずっとですよ?」

 

「千聖ちゃん、イブちゃん、あの人と何かあったの?」

 

「……三人には話したわよね。この前の事」

 

「この前って…あの事故のこと?」

 

「確か、照明から守ってくれた人が居るって話だよね?」

 

「もしかして!」

 

「きっとあの人だわ…あの時は衣装で顔を見れなかったけど」

 

「そうです!きっとレイさんがあの時の人です!」

 

「そうだったんですね…でしたら私達もお礼を言わないといけませんね!」

 

「そうだね」ね~」

 

「明日が待ち遠しいですね!千聖さん!」

 

「ええ、そうね」

 

「(こんな偶然があるなんて、零…あなたは私の思ったとおり面白い人ね)」



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第8話 初めましてじゃない初めまして

元はゲームのシーズン1ですが、原作と違うところが多々あります。すみません……


「遂にこの日が来た、今度こそだ」

 

ついにガールズバンドとの対面の日が来た

 

(昨日盛大にやらかしたよな!?向こう(戦場)じゃ失敗したら腹を切れっていわれてたけど!?今はそんな事しなくていいんだよな!?)

 

「おはようございます……」

「おはよう零くん!もう彼女たちはスタジオにいるよ」

「そうですか……不安だ」

「……零くん、もしかして女性経験無いの?」

「そういう意味の不安じゃ無いです。昨日の事での不安です」

「そっか、それはよかった。大丈夫だよきっと」

「そうですか。ならその根拠の無い根拠を信じますね」

 

(人生でここまで重く感じる扉は今まで無く…

は無かったがもう無いよな?

ここで人生終了なんて事無いよな!?)

 

いよいよだ……あぁ、本当にこれで終わりなんて無いよな?

 

 

「おはようございm「レイさん!」あぁす!?」

 

「え、何で名前をってええっ!?」

(嘘だろ!?でも間違いないよな!!)

「千聖さん!?イブさん!?どうしてこんな所に!?」

「あら、こんにちは零くん。それにその質問の答えは簡単なはずよ?」

「え?じゃあ2人は…」

 

「あの~」

「は、はい!」

「そろそろ自己紹介を…」

「あっそうだった。自分が今回ライブイベントのプロジェクトマネージャーになった神鷹零だ。よろしく頼む」

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 

「それじゃあまずは、自己紹介をお願いします」

 

「それじゃあ私から!Poppin'Partyのギターとボーカル担当の戸山香澄です!よろしくお願いします!」

「ギター担当の花園たえです。」

「ベース担当の牛込りみです。よ、よろしくお願いします!」

「ドラム担当の山吹沙綾です。よろしくお願いします」

「キーボード担当、市ヶ谷有咲です」

 

「ん?市ヶ谷?どっかで聞いたことがあるな」

「あなたが零さんですね?私、市ヶ谷 万実の孫娘です」

「何!?万実さんの娘さんか!」

「はい、今後ともどうかよろしくお願いいたします」

「有咲が変になってる」

「変じゃね…無いです」

「ん?何か言ったか?」

「いえ何も!」

「そうか?」

 

 

 

「次は私達ですね?」

「はい、お願いします」

 

「こんにちは~まんまるお山に彩を♪

 Pastel*Palettes、ボーカルの、丸山彩でーす!」

 

 

「…………んぁ??」

(何だ?今のは挨拶か?)

「あははっ、今の顔面白かった!!あたし、ギター担当の氷川日菜!よろしくっ!」

「自分がドラム担当の大和麻弥です。よろしくお願いします」

「そして私がベース担当の白鷺千聖で」

「私がキーボード担当の若宮イヴです!」

 

「二人がパスパレのメンバーだったとは知らなかった…驚きだな」

「私たちからしたら、あなたがここで働いていたことが驚きだったわよ」

「そうです!あの時のはお礼も言えなかったので、また会えてうれしいです!」

「その節はすまなかった……てそうだ!ディレクター怒ってなかったか!?」

「怒るって何をですか?」

「皆さんレイさんに感謝してますよ?」

「だって衣装持って帰ったんだぞ?」

「給料代わりならいい』と言ってましたよ」

「マジでか…よかった~」

(これで窃盗容疑は無くなったな)

 

「そんなことより!私たちはレイさんに言いたいことがあるんです」

「何だよ言いたいことってのは」

 

そう言うとパスパレメンバーが集まって

「レイさん!私たちを助けてくれてありがとうございました!」

「私も、助けてくれてありがとう」

「ありがとね!」「「ありがとうございました!」」

五人が俺にそう言った

 

「えっ!?あぁ。どう…いたしまして」

(あんな事で感謝されるのは嬉しいが…)

 

 

「助けた?」

「何々!?どういうこと!?」

 

状況が分かっていないポピパのメンバーは当然戸惑っている

「どういうことですか?零さん?」

「実はな……」

 

 

そこから俺は、先日のスタジオでの事故について説明した……

 

 

「そうだったんだ……」

「すっ、凄すぎる……」

「そんな凄い人だったんですね…」

「もはや凄いというレベルではない気がするけどね……」

「マジかよ……」

(何でそんなに驚いてるんだ?これくらいならあいつら(部隊の全員)でも普通に出来るぞ?)

(あと有咲…お前やっぱりそっちが素なのか)

 

「まあそういうことだ。いや~あの時は死ぬかと思ったけどな!」

「なんで笑って言えるんですか……」

「馬鹿なのかな」

「おたえ!失礼なこと言わないの!」

「いや~そうだな!俺は生粋の馬鹿だな!」

(現に戦闘馬鹿になりつつあったからな)

 

「零さん…肝が据わりすぎです」

「零くん、あなたやっぱりうちの事務所に来ない?」

「それ面白そう!零くんもうちの事務所に来てよっ!」

「だからそれは勘弁……というかそろそろ合同練習しよう!?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ん~っ、今日も楽しかったあー!」

「香澄、少し走りすぎだ!」

「でも、勢いがあって良かったと思うよ!」

 

「皆さんの演奏、素敵でしたっ!」

「思ったんだけど、ポピパは音が楽しそうに聴こえるんだよね~。なんでだろう?」

 

(これが……ガールズバンドか)

「零さん、どうでしたか?」

 

「今まで聞いたことある中でも聴いてて一番楽しくなったんだけど…」

「けど?」

「なんだろう。迷いとか、失敗とか、そんなこと気にしない!って感じに聞こえたんだ」

「「「「……」」」」

「えっ?もしかしてなんかまずいこと言ったか?」

(まずい!反感を買ってしまったか!?)

 

「そうなんです!そんな感じです!」

「え?」

「だって間違える時は間違えるじゃないですか?」

「まあ人間だからな」

「でも……思うがままに弾く。そのほうがきっと、『らしさ』が出るって、そう思うな」

「なるほど……」

(思うがままか)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「そろそろ時間だな、みんな!お疲れ様でした!」

「「「「「「お疲れ様でしたっ!!」」」」」

 

そしてみんなは帰って行った…

 

「思うがまま……ね」

「どうしたの?」

「!?、千聖さんか」

「私じゃ悪い?」

「いえそんなことは…」

「……ありがとうね零くん」

「何がですか?」

「この前のことよ」

「もう良いですって、あのことは…」

「やっぱりあなた何か隠してない?」

「いえ。そんなことは無いですよ?」

「そう?それなら良いのだけど。それじゃあこれからもよろしくね零くん」

「ええ、よろしくお願いします、千聖さん」

 

そうして千聖さんは帰って行った

 

 

(さすがの観察力だ。やっかいだな…だが悟られてはいけない

 俺のためにも、彼女たちのためにもな…………)

 

 

 

(彼、やっぱり何か隠してるわね。でも…なぜかしら…知ってはいけない何かがある気がするわ…零くん…あなたは一体…何者なの?)




いかがだったでしょうか。

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第9話 けんかする奴は似たもの同士

投稿ペースが遅いですが、失踪はしないことをここで宣言します!
という報告をしておきますね。

宣言を報告ってなんだそれ


「おはようございます」

「あっ零くん!お疲れ様。プレイベントの準備、進んでる?」

「まあ、何とか形は出来はじめてますね」

「うんうん、いいね!バンドのみんなも、香澄ちゃんの提案で合同練習をはじめたみたいだね」

 

やはり香澄の影響力は凄いな。

 

「確か今日は…」

「AfterglowとRoseliaでしたよね…」

「顔合わせの日に激突寸前だったからね…大丈夫かなぁ…」

「大丈夫であってほしいです」

 

 

ドア越しに揉めている声が聞こえているので、普通に開けるわけには行かないと思い、一先ず二回ノックしてみたが、声は止まず、ノックに対しての反応はない。

 

 

「もうちょっと強めにノックしたほうがいいんじゃないかな? あ、でもあんまり力まないでね!?」

 

「念押ししなくとも分かってますよ」

 

 

力の調整もある程度は出来るようになった筈だ。軽く握った拳で一回叩き、ドアノブに手を掛けた。

 

 

 

しかしドアはガチャリでは無くパキッと音を立てた。

 

 

「「ん?」」

 

 

手元を見てもドアノブはまだ捻っていない、だが謎の音が鳴るという状況に、俺とまりなさんは疑問の言葉を溢す。

 

ドアノブに掛けた手を捻ることなく正面へと倒れていき、小さな埃を舞い上がらせながらバタンと音を立て、床で横になった。

 

 

「「「「!?」」」」

 

「……何だと?」

 

 

やはり接続部を破壊してしまったようだ。予測はしていたものの、少しは調整できたと思い込んでいたことに

 

(そうだった…最近気にしてなかったけどやっぱ怖いよな…、向こうの奴ら(敵共)は俺を化け物扱いするくらいだからな…)

 

俺はまた……色々やってしまったようだ

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…神鷹零です…すみませんでした…」

 

「い、いえ…こちらこそよろしく頼むわ零さん」

「は、はい…よろしくおねがいします…」

 

「ハァ…」

「ど、どうかしましたか?」

「いや…やはり俺は怖いよな」

 

もう顔見て話せない…情けない…

自分の短所分かってて短所で失敗したんだ…何やってるんだ…俺は

 

 

「そんなこと無いですよ!」

「フォローしてくれるのは嬉しいんだけど君も気絶してたよ」

「あぁー…ですけど!零さんのおかげでけんかも収まりましたし。ね?みんな!」

「…まあ結果的にはそうですね」

「あ、暑くなった空気が一気に冷えましたしね!」

「そうだね~。涼しくなったね~」

「本当に申し訳ない…」

 

本当に優しい人達だな…

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

結局時間が来てしまい、練習どころか名前を聞くことも出来なかった……

 

「はぁ…」

昨日のように俺は皆が帰った後のスタジオで1人反省していた

 

「やっぱり…俺は変わってないのか?変われないのか?」

 

俺は変わると決めた、時には荒技も使ったがそれは人のためだ…

 

「そう思っているだけなのか?」

 

「やはり俺は……ただの化け物なのか?」

 

前もこんなことがあったな。だが今回は何も救ってない……やはり俺は…

 

 

 

「そんなこと無いです!」

「?」

振り返るとAfterglowのメンバーがいつの間にかいた

そしてその中にいた一人を俺は知っている

 

「そうだ、君はあの時の……」

「零さんは私を助けてくれたじゃ無いですか!!」

「そうですよそんなに自分を否定しないでください!」

 

「あたしたちは零さんにお礼が言いたいんです!」

「お礼?」

「あたしたちの大切な幼馴染みのひまりを助けて頂いて

「「「「ありがとうございました!」」」したー」

 

また、お礼を言われたな

 

「ひまりちゃん、だったか?」

「はい!そうですよ!どうかしましたか?」

「……最高の幼馴染みだな」

「はい!!」

「それじゃあ、今日はもう帰ろっか」

「そうだね~。」

 

 

「ちょっと待ってくれないか?」

「?どうかしましたか?」

「…巴ちゃんだけ少し残ってくれないか?」

「あたしですか?いいですけど…」

「少し話があるだけだから」

 

こうして巴ちゃんだけ残ってもらった…聞きたいからな…

 

「それで何ですか?聞きたいことってのは」

「……妹のことなんだけど」

「あこのことですか?」

「ああ」

 

これだけは聞いておきたい…

 

「妹は君にとってどんな存在なんだ?」

「どんな…そうですね…大切な存在ですね」

「……そうか。ありがとね、気をつけて帰るんだぞ」

「え?はい、それじゃあ……」

 

(大切な存在、か……)

 

 

 

「ごめん!待ったか?」

「巴ちんやっと来た~」

「巴、あの人と何話してたの?」

(零さん、何であこの事を聞いたんだ?)

「巴?どうしたの?」

「やっぱり何でも無いってさ」

 

 

 

 

 

 

“Roseliaサイド”

 

「本当にあの人で大丈夫なんでしょうか……」

「紗夜、またそんなこと言ってるの?」

「そうだよ~。きっといい人だよあの零さんって人。ね~あこ?」

「そっそうですよ!あこだって失敗することだってありますし…そうでしょりんりん!」

「はい…きっと大丈夫…ですよ…」

「人間性の話じゃありません。今後の私たちの為になるのかということです!」

「それについては問題ないわ」

「「「ええっ!?」」」

「湊さん?どうしてそう言い切れるんですか?」

「これがその証拠よ」

 

そう言うと携帯をとりだし、ある動画を見せた

 

「これは!?」

「零さん、だよね?」

「かっこいいです!」

「とても…凄いです」

「あの人の演奏は私たちに無い何かを秘めていた。彼をマネージャーに出来れば、

 私達の成長に繋がる。そう思うの」

「なるほど……それなら納得です」

「でも友希那?これって盗撮だよね?」

「「「「……」」」」

「そうね…」

 

(なんとしてでも、彼をRoseliaのマネージャーにしなければいけないわね

 私達の成長のためにも……)




次回から投稿ペースが遅くなりますが気長にお待ちください

もしよろしければ評価、リクエストなどの感想をよろしくお願いします!



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第10話 伝わった感謝の想い

皆さんお待たせしました続編です。




「おはようございます」

 

「零くん!お疲れ様」

 

「今日はafterglowとハロハピですね」

 

「そうだよ。もうすっかりマネージャーだね」

 

「何かもうなれちゃって」

 

「そっか。それじゃあ今日もよろしく!」

 

「はい」

 

 

 

 

「さてと、今日もやりますか」

(afterglowは昨日会ったし、あとはハロハピだな……どんな人たちだろうか)

 

そう思いつつ俺は扉を開ける

 

「おはようございます」

 

「私、キーボードやめようと思う!」

「…え?」

 

 

入っていきなり引退宣言!?なんだこの状況は…これが出オチってやつか?

 

 

「じゃああたしもこれを機に別の楽器でもやろうかな~」

 

さらに引退宣言!?どうなっているんだ…

というか……

 

「いつになったら気がつくんだ!?」

 

「「「「?」」」」

 

そう言ったら全員振り向いた……本当に気づかなかったようだな。

 

「零さん!こんにちは」

 

「ようやく気付いたなつぐみ」

 

「ええっ!?なんで名前知ってるんですか?」

 

「そんな驚くなよ。名前分からないままだといちいち自己紹介しないといけなくなるだろ?

 だからあの後名前が分かってないバンドメンバーを全部調べたんだ」

 

「おお~零さんやる気十分ですね~」

 

「これでもプロジェクトマネージャー任された身だからな」

(統率役が名前覚えてないって最悪だからな)

 

「それと、俺のことはため口で良いぞ。そっちの方が楽だろ?」

 

「……いいの?」

 

「良いって言ったばっかだろ。良いんだよ」

 

「分かった。改めてこれからよろしく、零」

 

「ああ、よろしくな蘭」

 

 

これで多少の溝は減ったか?まあ自分でつくった溝なんだけどな…

少なくともこれで親近感も湧くだろう

 

 

「あなたが零ね!」

 

そう考えていると誰かが俺を呼んだ

 

(金髪の少女……ということは)

「ああそうだが……君は……こころちゃんかな?」

 

「そうよ!あなたハロハピのメンバーにならない?」

 

いきなりのスカウト!2回目だな。でもスカウトは勘弁してほしい……

だって目立ちたくないからな……まあ今更だが

 

「いっ、いきなりだな。というか何で俺なんだ?」

 

「あなたがヒーローだからよ!」

 

「ヒーロー?」

 

「そうだよ!れーくんはみーくんのヒーローだからね!」

 

(オレンジ髪の少女……つまり……)

「君がはぐみちゃんだね。というかみーくんって誰だ?」

 

「あたしです。零さん」

 

(今度は黒髪の子……)

「君がみーくん、じゃなくて美咲ちゃんかな」

 

「はいそうです……あの……」

 

「なんだ?」

(何だろう……どっかで?いや、誰かに似ている気が……しかしどこだった?)

 

「この前は妹を助けて頂いてありがとうございました!」

 

(今日もお礼を言われた……ん?妹?助けた?)

 

 

その時、『あの時』の事を思い出した……何?『あの時』が分からない?分からない人はもう一度物語を読み返して見たらどうだ?

……雑だって?そんなことは無い。決して説明がめんどくさいと思ったからじゃないからな?

 

『……その子に兄か姉ががいるんじゃないですか?』

『!?、なぜ分かったんですか!?』

 

『この子の姉といっしょにお礼をさせていただきます』

 

 

「……ええ!?じゃああの時助けた子の姉っていうのは美咲ちゃんだったの!?」

 

「っ!はい!そうです!」

 

「そうだったのか!」

 

「良かったね。美咲ちゃん」

 

「水色の髪、君が花音さんだね」

 

「はい、よろしくおねがいします」

 

「ああ、正体不明の英雄が目の前にいるなんて……実に、儚い……」

 

(儚いって言う人は一人だけだ、というか儚いってそう使うのか?)

「君が薫さんだな?」

 

「ああそうだ、よろしく頼むよ零」

 

「ああ、よろしく」

 

 

そしてこの次は……

 

 

「助けた?」

「どういうことですか~?」

 

「……説明する」

 

 

またこの展開だな、と思いながらも俺はモールの一件を話した

 

「と言うわけだ」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

「先に言っておくが、これくらいなら誰でも出来るぞ」

(これで驚かれることは……)

 

「そんなことないでしょ!」

「漫画みたいな話だね~」

「つ、強すぎる……」

「なんか……嘘みたいな話だね……」

「だな……」

 

(何でそんなに驚くんだ!?というか引いてない!?嘘でしょ!?これくらいならうちのやつら(部隊)はみんな出来るんだが!?)

 

 

「そんなことがあったなんて……」

「零さん凄すぎでしょ……もしかして黒服の人達より強いんじゃない?」

「その儚い話、演劇のためにももっと聞かせてくれないか」

「やっぱりれーくんはヒーローだね!」

「素敵じゃない!零!やっぱりあなたは世界を笑顔に出来るわ!」

 

(もう、収集がつかない…………)

 

 

そんなこんなで、今日は解散した

 

 

────────────────────

 

 

(毎度毎度練習してるか?まぁ、彼女達は彼女達で練習した方がいいのかもしれないな。そもそも俺は音楽に関しては素人だし…俺はイベントの準備に集中するか)

 

「それじゃ今日は帰るか」

 

そう思ったのだが……

 

「あら、居たのね零さん良かったわ」

 

「君は……友希那さんかな?」

 

「ええそうよ」

 

「それで?どうしたの?」

 

「……単刀直入に言うわ。あなた…私達のマネージャーにならない?」

 

「……はい?」

 

 

またか…

 

続く




いかがだったでしょうか。

今後はこんな感じのスピードで投稿していきます!

もしよろしければ評価、リクエストなどの感想をよろしくお願いします!


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第11話 頼みと望みは違う時が多い

お待たせしました続編です

携帯で作成したので、誤字が多いと思います。
間違っていたらコメントで指摘してください


「マネージャー?」

「そうよ」

 

 

まただな……まあ適当に誤魔化し…てもまた来そうだな…どうしようか

 

 

「あの……何で俺なんだ?俺は音楽に関しては素人だぞ?」

 

「あら、そうなの?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

現に嘘は言ってない。ギターも初めてまだ3日だし、この前歌ってたのもやっと出来るよ

うになったものだからな…

 

 

「嘘ね」

 

「いや…嘘じゃ無い」

 

「じゃあこれは何?」

 

 

そう言うと携帯をとりだし映像を見せた

 

「!?、これは!」

 

 

そこに映っていたのは、この前の練習している俺だった

 

 

「素人にこんな演奏できるかしら?」

 

「いや素人の音だろ……待て。コレをいつ撮ったんだ?」

 

「そ、そんなことどうでも良いじゃ無い……」

 

「じゃあ、この前覗いてたのは友希那だったか」

 

「それで?受けてくれる?」

 

「その答えは今じゃないと駄目か?」

 

「いいえ、そんなことは無いわ。零さん」

 

「零で良い、俺も友希那と呼ぶからさ。他のメンバーにも言っておいてくれ」

 

「…分かったわ零。でも理由を聞かせてくれないかしら?」

 

「実は他のバンドからも似たようなことを言われていてな、まだ答えが出せずにいる」

 

「それだけ?」

 

「……俺はどのバンドの演奏も聴けていない。その上何度も言うが、俺は素人だからな。もう少し、考える時間がほしいんだ」

 

 

「そう、分かったわ。でもあまり待たせないでね、私達には時間が無いの」

 

「分かった。ライブイベントが終わった頃には答えを出しておく、約束だ」

 

「その言葉、忘れないでよ?」

 

「忘れねえよ、要件はそれだけなのか?まだ何かあるのなら聞くぞ?」

 

「……1つだけあるわ」

 

「何だ?」

 

「1度だけ私たちの演奏を聴いてくれないかしら?」

 

「……素人の感想しか言えないぞ?」

 

「それでもいいわ」

 

「分かった…でも感想にあまり期待しないでくれよ」

 

「ありがとう零、それじゃあ早速行くわよ」

 

 

 

そう言うと俺をどこかに案内した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついた先はとあるライブハウスだった

理由はさすがに聞かなくても分かる

 

「全員揃ってるのか?」

 

「ええ、待たせてしまっているから早く」

 

「そう焦らせるなよ」

 

 

扉を開けると

 

「待たせてしまったわね」

 

「いえ、問題ありません」

 

「おかえり~友希那、思ったより速かったね」

 

「待ってましたよ!友希那さん!」

 

「おかえり…なさい」

 

 

Roseliaのメンバーが楽器を準備して待っていた

 

 

「みんな、つれてきたわ」

 

「どうも…先日はすみませんでした」

 

「まだ気にしてたんですか?もう気にしてませんよ」

 

「そうか?じゃあ気にしない」

 

「…もう良いかしら?」

 

「ああ、悪い……いや待て。演奏聴く前に頼みがある」

 

「何かしら?」

 

「楽譜を見せてくれ」

 

「ええ、いいけれど…何故?」

 

「出来るだけ良いアドバイスをしたいからだ」

 

楽譜があれば、速いだとか遅いとか、音が違っていた、とかも言える……かもしれないからな…

楽譜を見せて貰ったが……まあ…どうにかなるだろ。

 

 

「いい?」

 

 

「ああ、始めてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうだったかしら?」

 

率直に言ってしまえば……中々の技術だ。高校生とは思えない、しかも1人は中学生だ

どうなってるんだ…音楽業界は。これでもなお上を目指すのか…尚更下手なアドバイス出来ないな

 

 

「そうだな……まず全体的にはまとまっていたが……」

 

 

「次に個人についてだが。まずドラム、あこだよな?」

「はい!そうです!」

「この中間のこの部分だが……」

 

 

この後も俺は楽譜を見せながら、思ったことを言い続けた

 

まあ言ってることは初心者だろうがな

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、俺からしたらこんな感じだな」

 

「そう…」

 

「聞く前にも言ったが、俺は音楽に関しては素人だ。そんな俺のアドバイスが役に立つのか?」

 

「いいのよ、頼んだのは私たちだから」

 

「そうか?まあ、いいのならいいんだ」

 

「今日はありがとう零、またよろしく」

 

「ああ、全員練習は良いが日が沈む前に帰りなよ。じゃあお疲れ様でした」

 

(また、なのか……ま、いいか)

 

 

 

 

 

 

 

「……湊さん」

 

「ええ、信じられないわ…」

 

「零さん、本当に素人なの!?」

 

「あこ、絶対嘘ついてると思います!」

 

「あこちゃん…決めつけは良く…無いよ」

 

「あれほどの的確な指示、音の違いそれらを私たちの楽譜だけを頼りに言っていました」

 

「あれで本当に素人なら、技術を身につければさらにその上を行くわね」

 

「(ですが…本当に素人だとして、あれだけの指示を……それもたった1度聞いただけで答えることなんて出来るのかしら?あの人には何かあるのでは?そう……特別な……なにかが……)」

 

「紗夜?どうかしたの?」

 

「いえ……何でもありません」

 

「(あの人なら……あの子を超える技術を身につけられるのでは?)」

 

「彼をマネージャーにすれば…」




いかがだったでしょうか。

また内容が薄くなってしまいましたか?

次回はなるべく濃くします!


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第12話 思い出は癒やしにも苦痛にもなる 前編

お待たせしました

かなり濃い話を作成するために時間を掛けました

それではどうぞ


……俺はこのままで良いのだろうか?このままですべて上手くいくのだろうか?いいやそんなことは無い……俺は再び取り戻すべきだ……そう

 

 

「資格をな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、電気工学の勉強だ」

 

 

意味深な発言したからなんだとか思ったか?

何の資格だと思ったか知らないが勘違いだと思う。この国について大分分かってきたが、この国はほんと不便だな…海潜るにしても、機械使うにしても、何か改造するにしても全部資格が必要だとは…

 

 

「だから覚えるんだ。いろんな事をな」

 

 

そもそも俺だって資格くらい持ってた。今初めて語るが、俺の部隊の1人に『品川』という男がいたのだが…俺にこう言った

 

 

『リーダー、生きるうえで必要な知識は、資格が無いと社会では無意味なんだ。だから今のうちに資格をとっておいたほうが良いぞ!』

 

 

とな。『無意味なんだ。』と言われて信じたのかと思うだろうが、俺はその時まだ13歳だった。疑いもせず受けたのは言うまでも無い…

 

その結果か?一通り資格を取得したさ……何の資格か?……今のところ覚えているのは……

 

 

 

自動車整備士・危険物取扱者……あとは溶接系は全部とっただろ?あと総合無線通信士……

何か分からないだろうが……まあわかりやすく言えば普通じゃ無いということだな…

 

 

まあとにかく、資格を取れば今後の人生にも影響してくるだろうから、とっておいて問題ないだろうという考えだ。と思ったからこれから資格を取ることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……認定証とかいらないんですか?」

 

「はい、一度取得されたのでしたら。再発行出来ます」

 

 

コレで俺は、今のとこ何でもでは無いが一通りのことが出来るようになった

 

 

当分は必要ないだろうが…

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

次の日

 

「今日も仕事だったな~まあ今日も頑張りますかね」

 

そう言いながらテレビを見ると

 

『続いてのニュースです。連続誘拐事件の犯人は未だ逃走中で……』

 

「…………まだ捕まってないのか?」

 

どうしても頭から離れない【誘拐事件】という言葉。

そんなことがまだ起こっているという事実

 

「朝からこんなの聞きたくないな」

 

さっさと準備をしてCIRCLEへ向かった……

 

 

 

(……誘拐…何故だ?…何のためにそんなことをするんだ?)

 

「……い……ん」

 

(……考えるだけでも嫌なんだ……)

 

「れ……っと……」

 

(もし、見つけたら…………)

 

「零さん!!」

 

「っ!なんだ?」

 

知らない間に考え込んでいたようだ

 

「大丈夫ですか!?」

 

「何がだ?」

 

「何が?じゃないですよ!」

 

「零さん……顔が怖い…ですよ?」

 

そして顔に出ていたようだ

「ああ、すまない」

 

 

今、俺はRoseliaの指導の為に練習を見ている

 

 

 

 

 

「ちょっと嫌なこと思い出しちまってな……一度はそんなことあるだろ?」

 

「そうですか」

 

「まあ分からなくも無いけど。ちゃんと聞いてなのよね?」

 

「ああ、ちゃんと聞いてたぞ。まず……」

 

 

 

「……とまあこんなところかな」

(感情が顔に出ないようにしないとな)

 

「そう、分かったわ」

 

「……零さん」

 

「なんだ?紗夜」

 

「教えてほしいことがあるのですが…」

 

「何だ?」

(ギターのことでは無いと良いが)

 

 

「零さんは何者なんですか?」

 

「「「!?」」」

 

「おいおい、随分ばっさりと聞くんだな」

 

「そうだよ紗夜!せめてもっと遠回しに聞きなよ」

 

「答えてください」

 

「そんなこと言われてもなぁ、じゃあ紗夜は自分がそう聞かれたらなんて答えるんだ?」

 

「…答えてください」

 

紗夜は明らかに様子がおかしいのだが…どうやってこの場を乗り切ろうか……答えは…

 

「俺は俺、人より違うってだけだ」

 

これが今俺の答えられる限界だ……

しかし…

 

 

「そういうことを言ってるのではありません!」

 

(!?、なんで半ギレ!?そんなおかしな答えだったか?)

 

「紗夜!?どうしたの!?」

 

「はっきり答えてください!!」

 

(紗夜は何か焦っているように見えるな…だが理由分からないから会話で解決できない。さてどうしたものか……)

 

「紗夜!少し落ち着いて!」

 

「紗夜さん!どうしちゃったんですか!?」

 

「あなたといい、あの子といい!どうして!?」

 

冷静に話しかけてみようか

 

「あの子って誰だ?教えてくれないと分からないんだが」

 

「あなたもそんなこと言うんですか!?」

 

やっぱり駄目だった!!

 

「どうしたんだよ紗夜。怒ってるのか?なんでか教えt」

 

 

 

 

「あなたは恵まれてて良いですよね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」ブチッ!!

 

爆発寸前、あまりにも腹が立った!いつも(戦場)ならぶん殴っていただろう!

……だが俺は変わると決めた、この状況はすぐに鎮められる。何故か?もう揃っているだろう?

 

怒る理由(鎮圧材料)がな!!!

 

 

簡単だ、この顔で……

 

「おい……」

 

ブチ切れるフリだけで良いんだ…

ちょっと怒るだけだ…

 

「言葉には気をつけろ!」

 

「零……さん!?」

 

「だったらどう答えれば満足なんだよ」

(徐々に冷静になるフリをしながら…顔はそのまま…)

 

「そ……れは……」

 

(紗夜は今にも泣きそうだが…良い教訓になるだろうし、これで余計な詮索はしない無いはずだろ)

 

「俺はな、何も責めたい訳じゃねえ。だがここまで言われては黙っていられねえ」

そう言って俺は紗夜に近づく

 

「いいか?俺は詮索されるのが嫌いだ、だから詮索するな」

 

「……」

 

「分かったか!?」

 

「はい!!」

 

「お前らもだぞ!?」

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

 

これで鎮圧完了だ

 

 

 

紗夜が立つ気配が無い

 

(腰ぬかしてんのか?)

 

「ほら……もう怒ってねえから」

そう言って手を差し伸べる

 

「はい…」

 

そう言って手を掴んで立ち上がった

 

「零さん、先ほどはすみませんでした!」

 

「気にしなくていいぞ」

 

「いいん…ですか?」

 

「ああ、前もそうだったからな」

 

「前、とは?」

 

「初めて顔合わせした日だ。覚えてるか?まぁ今回は逆だったが…」

 

「……ええ、そうでしたね」

 

 

ようやく落ち着いた空気になってきたな。

 

「あ~よかった!ちゃんと仲直りできてよかったよ~」

「全く……どうなるかと思ったわ」

「よかった…です」

「あこビックリしたよ~零さん魔王みたいで怖かったもん」

 

「すまない…」

 

 

 

 

 

 

「ああ……練習というか言いたいこと言って終わったな」

 

「そうですね」

 

 

練習が終わり、今は俺と紗夜で片付け中だ。しかしどうしたものか……これから素性を隠していくのはかなり疲れる、全部話してしまいたいが……やはり知られたくないな。化け物と呼ばれたくもないし……まあどうにかなるだろ

 

 

「零さん聞いても良いですか?」

 

「何をだ?」

 

「……努力で才能は超えられますか?」

 

なるほど……そういうことか

 

「妹だな?」

 

「!そうです……」

 

「妹は日菜だな?」

 

「ええ、あの子はいわゆる天才で…超えたくても超えられない存在で…どう接して良いか分からなくて…」

 

「そうだったのか……」

(【それ】さえも経験していない俺はどうすれ力になれる?)

 

 

考えに考えた結果

 

「紗夜」

 

「何でしょう」

 

「努力で才能は超えられないかもしれない」

 

「!……そうですか」

「でもな」

「?」

「俺は努力をしたから今みたいに出来るんだ」

「そうなんですか?」

「俺は今まで多くの経験を積んできたし、いろんな失敗もした。だから今があるんだと俺は思う」

 

 

この経験を生かして彼女たちを助ければ良い、そう思った

 

 

「紗夜、俺はな…………元兄なんだ」

「!?元、ということは……」

「俺が物心つく前にな……誰にも言わないと信じているから言ったんだからな」

「そんな……私は……本当に」

「だから怒ってないから謝んな」

 

「……でもな、紗夜。自分の家族が生きてるって素晴らしい事なんだぞ?」

 

「それでも……どうすれば…………」

 

この場合慰めるのが一番なのだろうが…そんな方法は……あ

 

 

(今になって思い出したぞ!前、森田から女の慰め方とか言うのを聞いたのを!今がそれを実践するときだな!確か……)

 

 

 

「紗夜」

 

「なんですか?」

 

 

『いいかリーダー!女ってのはな!頭撫でながら優しくしたらイチコロなんだぜ!』

 

『何?イチコロの意味?それはな……おt…いや、そう癒やすって事だ!!』

 

 

 

(森田もそう言っていた、癒やせるなら試す価値はある!)

 

そう思い俺は言われた通り頭を撫でることにした

 

 

「れ、零さん!?」

 

「何かあったら俺を頼れ、俺に出来る事は何でも…では無いが、出来る事はしてやる。絶対だ」

(これが一番いいんだって森田が言ってたが、本当に効果あるのか?)

 

 

「は、はい……///」

 

(!?、何か声小っさくなったぞ!?どうしたらいいんだ!?あっ謝れば良いのか!?金か!?何なんだ!?)

 

「さ、紗夜?どうした?……やめた方がいいか」

 

「あの……」

 

「な、なんだ?」

(何を要求されるんだ!?何だ!?)

 

「もう少しこのままで……お願いします……」

 

「……え?ああ分かった…?」

 

「………///」

 

 

……何かよく分からない状況のまま時間だけが過ぎていった

 

……何でみんなそんな目で俺を見るんだ?そんな残念な物を見る目で俺を見るんじゃない!

 

 

 

「そろそろ帰った方が良いんじゃ無いか?」

「そ、そうですね」

 

 

何故だろう……さっきから紗夜の様子がおかしい…だからそんな残念な物を見る目で俺を見るんじゃない!

 

 

「紗夜、大丈夫か?顔赤いぞ?」

 

「だ、大丈夫です///」

 

「そうか?」

 

「零さん」

 

「何だ?」

 

「……頼りにさせて頂きますよ?」

 

「おう!頼れ頼れ」

 

「それではまた、お疲れ様でした」

 

「おう!お疲れ」

 

 

 

 

 

 

“紗夜サイド”

 

『何かあったら俺を頼れ、俺に出来る事は何でも…では無いが、出来る事はしてやる。絶対だ』

 

(何でしょうか?この気持ちは……でも…凄く落ち着きます…)

 

「零さん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“零サイド”

 

「にしても腹減ったな」

 

紗夜と別れた後、帰宅中にふと思った

 

「そうだ、商店が近いし商店街で何か食べてこう」

 

確か沙綾の家がパン屋、つぐみの家が喫茶店で、はぐみの家が精肉店だったはずだ。行けば何かあるはずだ

 

「そうと決まればすぐ行くとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「どういうことだ?」

 

ついた……が、人が誰も居ない。

仮に店が全部営業終了だとしても人の気配が無い。コレは異常すぎる…

 

 

「何があったんだ?」

 

(一通り散策したが、誰も居ない……一体何が?)

 

 

「誰だ!!」

 

周囲を再び散策しようとしたが誰かに呼び止められた

 

(相手はかなり警戒しているな…構えだけ取って話をしよう)スッ

 

「ここら辺に最近引っ越してきた者だ」

 

「信じられないな!」

 

「ならあんたこそ何者だ?」

 

「あんたには関係ない」

 

「自己中過ぎはしないか?」

 

 

一向に話が進まない…お互いに納得いくようにしたが…

 

 

「まさか……」

 

「まさか?」

 

「お前が、お前がぁぁぁ!!!!」

 

「何っ!?」

 

 

駄目だった…

急に突っ込んできたが相手は一般人だ…制圧するとしよう

 

 

「ふん!」

投げ、そして叩きつけた

 

「があっ!!」

 

「何すんだこのっ」ギリギリ

 

「痛だだだ」

 

「ちょっとお父さん何やってるの!?」

 

誰か来た!!増援か……お父さん?

 

「って零さん!?どういう状況!?」

 

「沙綾!?……お前んとこの親父さんに殺されそうになったんだが?というかあんた沙綾の親なのか」パッ

 

「痛たたっ、容赦ないな……君」

 

「これでも全く力入れてないのだが?」

 

「嘘だろ……」

 

「というか何なんだ?さすがに俺も怒るぞ!」

 

「零さん!」

 

「なんだ!!」

 

 

 

 

「うちの妹と弟が……2人が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこかに行ったまま帰ってこないの!!!」

 

 

 

 

「何!?」

 

 

 

 

後半に続く……



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第13話 思い出は癒やしにも苦痛にもなる 後編

お待たせしました後半です!

何とか濃い物を完成させることができました!

投稿ペース安定化出来てますかね?


運の無い日だと文句を言いたい心境ではあるが、今はそれどころでは無い。流石に話が急で久々に混乱している。乱心した親に襲われ、その次は家族の失踪という治安が良いはずのこの国では有り得ないと思われるであろう事態だ。

 

 

「先ず深呼吸をして冷静になれ、説明はその後だ」

 

 

指示通りに深呼吸をした沙綾は、現状の問題について焦りを見せながらも説明をし始めた。

聞いた話をまとめると、沙綾の妹【紗南】と弟【純】が公園に行ったっきり帰ってこず。その話を商店街の人々にし捜索を頼んだ結果が今のこの商店街無人化の状況。

そして未だ見つかっていない事への不安で父親の理性は崩壊寸前になり見知らぬ俺を疑った結果このような状況となったようだ。

 

 

 

「状況は分かった。俺も探そう」

「沙綾!?本当に信用して良いのかこの人は!?」

「失礼なこと言わないでよ!この人はライブハウスのスタッフさんだよ!」

「何!?それは申し訳ない!」

「謝罪は良い、2人の特徴は?」

 

 

そこから二人の特徴と今日の服装、他にも行きそうな場所や持ち物についてなどの聞けるであろう情報はすべて聞いた。ひとまず行ったであろう公園に行ってみるとしよう。

 

 

「分かった、それじゃあ俺はその公園から探すことにする」

「お願いしますね」

「ああ」

 

土地勘が無いものの、ついでに教わった特徴的な建物などを目印に公園を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが公園か」

 

この地点から手がかりを探す、おおまかな場所は商店街の人達が捜索しているらしいしそこは任せよう

 

「考えられる可能性は……」

 

 

まず迷子は無い、理由はその2人が話通りだとこの一帯の知識はあるらしいからだ。いくら子供とは言え迷子になったらどこに行けば良いか分かる、それにここら一帯が捜索範囲だからすぐに見つかる可能性が大きい。

 

次に家出の可能性を考えたが、これも無い。

話を効いた限り家族内で揉めたわけでもなさそうだし、何より家出する理由もない。そもそも所持品なしで家出するほど子供でも無いだろう。

 

となると……

 

 

「まさか……誘拐」

 

あり得ない話じゃ無い。誘拐事件が続いている地域はそう遠くないし、ここまで見つからないとその可能性のほうが高い……

 

 

「何か……何か無いか」

 

ベンチの下や遊具の中など様々な場所を調べ、何か見つけた

 

「……コレは」

 

 

「何か情報は…………!」

 

俺は携帯を開き、情報を得ようとしたが……中身はろくでもないものしか無い…

中身は何だったのかだと?…それ以上聞くな

 

…………強いて言うなら、【人の好みは人それぞれ】と言うことだ

 

 

「……とにかく情報は電話番号だけだ」

 

電話番号だけ分かっていても、知りたいのはその契約した人間だ。そんなこと調べられるのは余程太いパイプ(人脈)がある人間じゃないといけない

 

 

「……しょうがない、これだけはしたくなかったんだがな」ピッ

 

俺はある人物へ連絡を掛ける、いやある人物【たち】……だな

 

『いかがなされましたか?零様』

「この前の話は本当だな?【黒服さん】?」

 

 

何故俺がこころ家の黒服さんの電話番号知ってるか知りたいか?それは数日前に遡る……

 

 

 

 

 

“数日前”

 

「さてどうしたものか…バンドからの何かしらのスカウト……」

『零様』

「ん?…確かこころ家の黒服さんじゃないか?」

『先日のお話、お決まりになられましたか?』

「……まだだ。色々やることが多くて答えを考える時間が無いからな」

『そうですか……』

「すまない。せめて人手があればゆっくり考えられるんだがな」

『…零様。こちらをどうぞ』

「どうぞって、なんだこの番号」

『その番号に掛けて頂ければ我々が零様をお手伝いいたします』

「はあ…ちなみにどんなことが出来るんだ?」

『はっきり言って何でも出来ます』

「……本当か?」

『本当です』

「……分かった。前向きに考えるためにも、何かあったらよろしくな」

『こちらこそ、これからもこころ様の事をよろしくお願いします』

 

 

 

 

 

という訳だ。ようは…………賄賂代わりって事だ。

 

「調べてほしいことがある」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ここだな」

 

送られた地図を見て確認するが間違いない

 

「しかし優秀だな…名前どころか住所と現在位置まで割り出せるなんて」

 

おかしいと思わないか?だって携帯を持ってるのは俺なのに何で場所が分かるんだ?

まあ深く考えないでおこう……

 

「さて……やるか」

 

 

 

 

「脱出通路の確保・敵地内の捜索・救出対象の発見および救出・ターゲットの情報収集および証拠の入手。以上」

 

 

久々の潜入任務だな。犯人(てき)への怒りと久々の任務への高揚が凄い…今なら自動車素手で壊せそうな気がする

 

 

「まず鍵だが……開いた」

(ロックピックはお手の物だ)

 

(二階建て……部屋は4、いや5部屋)

 

「まずは一階からだ」

 

 

 

「何も無いし誰も居ない」

 

とりあえず出来たのは脱出ルートの確保と武器の入手(ロープだけだが…)だけだ

 

「次は二階だな」

 

音を立てずに移動、脱出ルートの確保、武器の調達。全て向こう(戦場)で教わった技術と知恵だが、まさかこんなところで使えるとはな。何でも覚えておくものだ

 

 

「部屋は2つ…」

 

まず一つ……ガチャ

「何も無い……?、なんだコレは!?」

 

そこにあるのは大量のアルバムと……スタンガンだよなコレ?

 

「何故こんな……いや大体分かってきたぞ。つまりこの写真は……」

 

……証拠、そして武器(スタンガン)を入手した。あとは救出だけだな

 

 

「最後の一部屋……!人の気配…竜か蛇か…」ギィィ

開けると……

 

 

「「んんん!んんんん!」」

 

遂に見つけた!!

 

「大丈夫か!?今助ける」

 

(手足を縛られている……すぐにほどこう)

 

 

(2人だけ?犯人はニュースになっていた人物じゃ無いのか?)

 

疑問がいくつも残るが今は脱出優先だ

 

「動けるか?」

 

 

2人はうなずいているし、手足に怪我は無かったので問題ないな

 

「あの…お兄さんは誰ですか?」

「……君が純だな?」

「何で知ってるんですか?」

「早い話、俺は君の姉の知り合いだ。君たちを助けると約束したんだ」

「そうなんですね…」

 

(随分冷静だな……沙綾に似てるな、そういうとこ)

 

「此処を出るぞ。準備は?」

「いつでもいけます!なあ沙南?」

「うん!」

 

 

そこからは簡単だ、用意していた脱出ルートで脱出

 

「お兄さん、コレ何?」

「それは警察に渡す物だ。絶対落とすな」

「分かった」

 

証拠となる物を2割ほど持ってきた、主に記録や指紋のついたであろうスタンガンをな。8割は警察が見つけないと意味が無いから残してきた……

 

 

 

 

 

“犯人サイド”

 

「ぐふふ、ようやく手に入れたぞ!早速コレで……」ガチャ

 

「んな!!??何故だ!?なぜ居ないんだ!!……まあいい、また連れてくれば……特にあの子は……ぐははははっ!!」ダダダダッ

 

 

 

 

家を出た俺は、来た道を戻ろうとしたものの自宅までの道のりは2人に聞いた。よくよく考えれば、土地勘のある者の方がこういった場合有利に立てるのだからな。

案の定、2人の先導のおかげで俺の来た道よりも早く戻ってくることが出来た。

 

 

「2人の家に戻って来たぞ2人とも……2人とも?」

 

「「すぅ……」」

 

「寝てるのか」

 

確かに途中で負ぶって来たけど、寝るとはな……まあいいか

 

 

「戻ったぞ」

 

「零さん……」

 

また泣きそうな顔してる……今日2回目だな

 

 

「そんな顔するな、良い物見せてやる」

 

「なんなの?……それ」

 

「ほら、コレでどうだ?」

 

 

そう言って寝ている2人を見せたしまった、これで喜ぶかと思ったが…沙綾は泣き出してしまった…

また慰めないとな……

 

 

 

「沙綾」頭撫で

 

「!?、な、なんですか?///」撫でられ

 

「辛かっただろ?」

「はい…」

「もしまたこんなことがあったらな、俺を頼れ。いつでも助けてやる」

「……本当ですかっ?」

「ああ、約束する。弟のことでも、バンドのことでも、沙綾のことでも何でもな」

 

(沙綾も顔が赤いな……紗夜もそうだったが、励まされると顔が赤くなるのか?)

 

 

 

「零さん……」

「何だ?」

 

「もう少しこのままでいいですか?」

 

「ええ?ああ、いいぞ…?」

 

「んふふ///」ダキッ

 

何か抱きつきながら凄い満足そうな顔してる気がするんだが、これでいいのだろうか?まあ笑ってるしいいかな……

 

 

 

「……いつになったら終わるんだそれ」

「「!?」」

 

いつのまにか沙綾の父親が居たんだが!?俺も驚いちまったぞ

 

「お、お父さん!?いつからいたの!?////」

「多分、『ほら、』って所からじゃ無いか?」

「つまり……全部……////」

「君は気づいていたなら無視するんじゃ無いよ!」

「夕方の仕返しですよ」

 

「あれ?お父さん2人は?」

「あまりにも長かったから寝室に運んだよ」

 

これで終わり……では無い

 

「2人とも速く店の奥に行ってください!」

「どうしてだ?」

「まだこの事件は解決していないからですよ!!」

「!?零さんそれってどういう事?」

「いいから速く!」

 

 

 

 

 

 

さて……そろそろだな

 

「ハァ……ハァ……つ、ついたぞ……」

 

犯人はあえて捕まえさせなかった、理由か?

 

 

自分の欲望満たす為に拉致するような奴をぶん殴るためだ

 

 

まぁ犯人の家の方には既に警察が行ってるだろうがな。何故か?脱出した後に「不審な人物が家の中に入っていたんですけど」と言って住所も教えた。駄目押しに「その建物の二階から変な音がする」とも言ってやったから少なくとも家の中を調べるだろう。そうすれば残してきた証拠も見つかって終わりだからな

 

 

 

コイツがほぼ犯人確定だがまあまずは「カマ」かけてみようか

 

 

 

「こんばんわ」

「え、ええこんばんわ」

「どうしましたか?このお店ならもうとっくに営業時間外ですよ」

「そ、そうなんですか?……そ、それは、残念です」

 

挙動不審過ぎないか?

 

「そうだ!聞きたいことがあるんですけど」

「はい何でしょう?」

「……実はこの辺りにいる子共がどこかに行ってしまったんです…見てませんか?」

「さ、さあ……そんな男の子知りませんねえ……」

「そうですか…それでは」

「ええ!それでは!」

 

………

 

 

「それではじゃねえだろ!」バキ

 

 

「ぐあっ!!」

 

 

「何が!「知りませんねえ」だこの野郎、俺は子供としか言ってねえのになんで男だと分かったんだ!ええっ!」ドカッ

 

 

「があっ!!」

 

 

「もうばれてんだよ!子供好きの変態クソ野郎!!」ドンッ

 

「イガアアアァァァ!!!」

 

「俺はな!!てめえみたいに自分の都合で人の家族奪う奴があっ!!」

 

 

「一番、嫌いなんだ!!」ドガッ

 

 

「ぐはっ!!」ドサッ  

 

 

 

「はぁ、はぁ、くそっ!!何でだよ!何でこんなことばっかり起きるんだよっ!!」

 

 

精神的に限界だった、いつだろうとどこだろうと必ず何か起きる!そんな状態いつもだった。だが今になって耐えられなくなった……良くも悪くも変わってしまったと今実感した

 

 

「零さん……」

「沙綾……聞いてたのか?……俺は弱いな」

「!!……そんなこと無いですよ?」

 

「そうか……」

「そうですよ!それにまだ誰もお礼を「すまないが帰る…警察は呼んだ」

「えっ!?待ってください零さん!」

「またな、沙綾……」

(しばらく1人で考えよう……久しぶりの感覚だな、この当てばの無い怒り…)

 

 

 

 

 

 

 

「零さん!!!…………」

 

“沙綾サイド”

 

すぐに警察は来て、事情聴取や一時的な2人の保護の説明、後犯人をここまで痛めつけた人物についても聞かれたけど、全然頭に入って来なかった…

 

 

ようやく終わり、私は自室で考えていた。というより気になっていた

 

 

 

「零さん……」

 

彼のことが気になってた

 

『辛かっただろ?』

 

彼に撫でられた所を自分で撫でる……けど満たされない、あの感覚が…あの優しくて暖かい言葉が頭から離れない……

 

「んっ…」

 

(凄く変な気分、でも……何か良い気分…これが一目惚れ?なのかな?)

 

 

 

でも……

 

『何でこんなことばっかり起きるんだよっ!!』

 

「零さん……どうしてあんなに辛そうな……」

 

 

彼は2人を助けてくれた、私の心を満たしてくれた

 

「どうにかして…恩返しできないかな」

 

 

 

 

この日、零は2人の人生を救った事

 

それと同時に特別な感情も与えてしまった事を彼は知るよしも無かった……




いかがだったでしょうか。
恋ってこんな感じなんでしょうかね?自分さっぱりなので今出せる全力で書いてみましたが……おかしいですか?おかしかったら教えて下さい


間もなく第1部終了です
それに伴い、今第二章の内容についてアンケートをとっています!
今後皆様に面白い作品をお見せするために、是非回答してください

評価・コメントよろしくお願いします


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第14話 現実は思い通りに行かない

前回の話どうでしたか?

あのシュチュエーションは知人からのアドバイスだったんですが…展開が急過ぎましたかね…?

まぁそんなこんなで、始まります。


「零くんも準備できてる?」

「いつでもどうぞ」

「よし、それじゃあ開演しようっ!扉を開けてきて!」

「はい」

 

今日、遂にライブイベントの日だ

 

 

……言いたいことは分かる。

 

 

急だよな。いろんな事あり過ぎて忘れてたけ今日が開演日だった。

俺は何をしていた?顔合わせして、Roseliaの練習見て、また事件に出くわした。

ほとんど何もしてない?その通りだな…だがもう遅い

 

 

 

「さて、忙しくなるな」

 

お店の扉を開ける……

 

「皆様お待たせしました!これより入場を開始します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の仕事は、照明と音響の調整だ。機材の調整と管理も済ませ一息入れてる

 

「零ーさん!」

「どうした?香澄?」

「これはどうしたら良いですか?」

「それはこっちに置いておいて」

「はいっ!」

 

ステージ側はまだ準備的出来ていないんだよな……

 

「ここでいいですか?」

「ああ。そこで大丈夫だ」

「零さんはなにしてるんですか?」

「俺は照明と音響担当だからな!ここが今日の仕事場だ」

「ええっ!?零さんそんなことできるんですか!?」

「ああ、その気になればライブに必要な事何でも出来る」

「すごいですね!」

「そうか?……そろそろ戻った方が良いぞ」

「そうですね!それじゃあ頑張ってください!」

「お互いにな」

 

 

何だかんだありながらもイベントは大成功に終わった

 

 

だが終わった後の後片付けが一番面倒だよな……

 

「掃除終わりました」

「それじゃ、楽屋からみんなを呼んできて」

「分かりました」

 

 

 

楽屋から上に戻ってきたらすぐにみんな集まってワイワイやってるな……まあ楽しそうで何よりだ

 

「ふぅ……外はやっぱりいいな」

 

俺は今、外で一息入れている。人混みは慣れない物だ

 

「ここに居たんだ」

「まりなさん…どうしたんですか?」

「打ち上げするから戻ってきて」

「え?あ、はい!今行きます」

 

「ライブの成功をお祝いして…」

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 

「(打ち上げか…みんな思い思いに仲間たちと話をする…久しく見たな、こんな光景…)」

 

「どう?楽しんでる?」

「…ええ、楽しんでますよ。自分なりに」

「そっか、どう?彼女たち。」

「どう。とは?」

「イベントの事、彼女たちに任せても良いと思うんだけど…どう思うかなって」

「主語なさ過ぎですよ……良いと思いますよ?」

「(まとめ役も優秀、アイデアは泉のように湧いてきそうだからな)」

 

「うんうん!そうだよね。まあ細かいフォローは私たちがするって事で、みんなを信じてみようじゃない」

「そうですね」

 

この人は本当に面倒見が良いな

 

「ってことで景気づけに、ちょっと食べ物買ってきてくれる?もちろん君のおごりね~!」

 

「分かりました!行ってきます」

「いってらっしゃ~い!」

 

(これから彼女たちがどんなイベントをするのか…まぁ彼女たちならきっと良い物になるに違いない…揉め事も無いだろうしな)

 

これからの期待を胸に、俺は食べ物を買いに行くのだった……

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「えっ!?みんなでケンカしちゃったの!?」

 

今更だが…上手くいかないのが現実だ

 

「まぁ……予想できるな。さしずめあれだろ?ロゼリアとアフグロだろ?」

「そうです」

「はぁ…」

「これじゃあ『ガールズバンドパーティー』もうまくいかないよ~!」

 

誇りを持つのは良いが、それとコレを上手く割り切るのがプロだ……難しいだろうが今度そう言っておこう

 

 

 

「ねえ零くん、何にいい方法はないかなぁ?」

 

しょうが無い、ここは俺の出番だ。毎回揉め事=俺だが

 

「そうですね……彼女たちはそれぞれ見ている物が違うから今回のようになったはずなんで……まずは見ている物の中にある共通点を見つけてみたらどうだ?」

 

我ながら良い答えが出たな

 

「なるほど……」

「理屈は分かるけど……そんなの、どうやって探していけばいいんだよ?」

「……そこまでは考えてない」

「考えてねーのかよっ」

「方法は分からないけど、私たちもサポートするから、一緒に頑張ろう」

「まあ、なるようにしかならないからな。頑張ってこう!」

「はいっ!」

 

 

“翌日”

 

「今日は合同練習のはずだが……まあ来ないよな」

 

ロビーでの仕事をしながら俺はそう言った。

 

「零さん……」

「どうした?香澄、元気ないな」

「……」

「急に黙ったな……」

(この感じは何か考えてるのか?落ち込んでるのか?)

「かーすみ!大丈夫?」

 

他のメンバーも来たな

 

「これは大丈夫なのか?」

「マジで大丈夫か?」

「あんまり考え込まない方がいいぞ?」

「んーーーー!!ダメだっ!!みんなの共通点が見つからないっ!!」

 

「零さん!!!どうしたら良いですか!?」

「それは言えないな、まあまずは冷静に考えてみたらどうだ?」

「そんな~!!」

 

本当はどうしたら良いかという考えはある、だがそれを教えたら彼女たちの成長に繋がらない…

 

「どのバンドも妥協してくれなさそうだしな~……」

 

「妥協ってしないといけないのかな?」

 

「ようやく気づいたか?」

「んん?どういうことですか?」

 

「皆、共通点は妥協点じゃないんだぞ?」

「どういうこと?」

 

「……こだわりを最大原生かすライブをしたいけどこだわりを消したくない、でも意見が合わない」

「そうなんです……」

「そこが惜しい」

「ええっ!?」

「いいか……この問題の解決策は簡単なんだ。それはな……」

「「「それは?」」」

 

 

 

 

 

 

 

「頭を使うな」

「「「……え?」」」

「ハァっ!?」

 

「何言ってんだよっ!?」

「言葉のまんまだ。現に実行してる奴がいるぞ」

 

「頭、使うのや――めた!!」

 

 

「考えても仕方がないんだもん!それなら行動するしかないっ!」

「その通りだ。ようやく分かったか?」

 

元々考えて解決する問題じゃ無いからな。こちらの方が百年考えるより時間を有意義に活用出来るはずだ。ようは行動あるのみだ

 

「やることはまとまったか?」

「はい!」

「なら良かった」

「でもどうやってスタジオにみんなを連れてくる?」

 

「それは……ここまで来たらもう手段は一つだろ?」

「そうですよね!」「そうだよね」

 

香澄とおたえは分かってるみたいだな、そうここまで来たら……

 

 

「強制連行だ」「強制連行」「強制連行だよ!」

 

 

 

どうなるかは分からないが…良い方向には進むだろうと思いながらも、俺は2人と同じ事を言うのだった

 




如何だったでしょうか?

今にして思うけど自分の駄文に付き合ってくれている人たちがいるって本物に嬉しいですね!今後ともよろしくお願いします!

再びアンケートを取っているのでよろしくお願いします。



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第15話 百の(こう)より一の(こう)

皆さんはバンドリの映画見ましたか?

もう凄い事になりましたよ…色々と。いつか映画の話を小説で書いてみたいです

そんなこんなで始まります


香澄とおたえはあの後すぐに行ってしまった

 

 

「本当にあれで良かったんですか?」

 

「何かいけないのか?」

 

「ちょっとはなんか考えるべきだったんじゃないか、ってことだ」

 

「そうですよ零さん」

 

まぁ普通はそう思うよな

 

「良かったさ、ちゃんと理由もあるぞ」

 

「理由、ですか?」

 

「話を聞いて欲しい時には時に無理矢理でも聞いてもらうんだ。そうすれば人は必ず聞いてくれる。そういう生き物なんだよ人間ってやつは」

 

 

彼女たちは良い意味でも悪い意味でも優しさがある。しかし、時に優しさが行動にブレーキを掛けてしまい、いつか後悔することがあるのは俺が一番分かっていた、だから後悔させないように成長させないとな

 

 

「理屈は分かるけど…それでまた揉めたらどうするんだよ?」

 

「有紗、りみ、沙綾」

 

「何ですか?」 「何だよ?」

 

 

もし俺の出来る事があるとすれば、それは彼女たちに俺のようにならないように導くことだ。

 

 

「ぶつからなきゃ伝わらない事だってあるんだ、もしもそれでも崩れるのならそれだけだったという事だ」

 

「俺は今までいろんな奴を見てきたが、俺は皆を見て思った。皆なら大きな事を成し遂げるってな、だから俺は今一番良くなる可能性がある方法を押した。俺はみんなにこれで終わってほしく無い。これが理由と言う名の俺の我儘だ。もしこれで揉めたなら俺が何とかする。」

 

「「「……」」」

 

「どうした?急に黙って」

 

 

何か変な事言ったか?まぁ今までも変なこと言ってるけどな…

 

 

「零さんって大人ですよね」

 

「何でだ?」

 

「何というか…言葉に重みがあるっていうか…見た目よりもっと老けた事言うなって思った」

 

「老けた事で悪かったな。経験が濃いと神経が老けてくるんだ、あともっとって何だよせめて渋いって言えよ」

 

 

まだこの話をするには早かったか?まぁ言って損は無いだろうけどな

 

 

「分かる気がする」

 

「ん?分かるのか?自分で言っといてなんだが、結構難しい話だった気がするんだが」

 

「まぁ……沙綾はそうだよな……」

 

「そういえば…そうだったね」

 

「んん?何だ?どういうことだ?」

 

「それは……「ただいま~!!」

 

 

タイミングが悪いが……まぁ後で聞くとしよう

 

 

「戻ってきたな香澄、おたえは?」

 

「もうすぐ来ます!」

 

「よし、それじゃあスタジオに集まろう」

 

「はい!」

 

 

まずは今ある問題を解決しないとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで全員揃ったみたいだな」

 

 

思った通り、2人なら全員連れて戻ってくると思ったからな。コレが一番の解決法の第一歩だ

 

 

「無理矢理連れてこられたんだけど?」

 

「しょうがないだろ…だってこうでもしないと皆話聞かないだろ?まぁ……怒るのも分からなくは無いが」

 

「だからってそんな無理矢理じゃなくたって…」

 

「それじゃあ俺はロビーにいるから、香澄。決まったら報告してくれ」

 

「分かりました!」

 

 

まあ予想道理の結果にはなったな、後は香澄に任せてみよう。……決して丸投げでは無いからなっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「零さん!!」

 

 

ロビーでの仕事中、バンドの演奏が聞こえてきたが。良い感じに終わったか?

 

 

「何だ?良い感じに決まったか?」

 

「はいっ!」

 

「それじゃあまりなさん呼んでくるから、ちょい待ってて」

 

 

やはり今後のイベントの決めごとは彼女たちに任せておこう

 

 

 

「『笑顔のおすそ分け』……か。良い感じにまとまったな」

 

「うん!良いコンセプトだと思う!」

 

 

やはり彼女たちに任せて正解だっただろう?にしてもこんなすぐにまとまるなんて嬉しい誤算だ。最悪集まらなかったらどうしようかと思っていたからな……まぁその時はその時で頭下げるなり何なりとできたかもしれないがな……

 

 

(もし…もしもこの世の人間が彼女たちみたいだったら…あんな事にはならなかった…かもな)

 

 

ありもしない考え、叶いもしない望み、いつもなら考えない事を今の俺は考えていた

 

 

「いやあ、いいねえ。キミのアドバイスがきいたってよ?やったね?」

 

「そうですか?…まぁこのくらいなら任せてください」

 

「零さん、得意げ!」

 

「私たちも、イベントに向けて準備していかないとね!」

 

「はいっ!」

 

「問題は、最後の1曲で……」

 

「「最後の1曲?」」

 

「音楽を楽しむ気持ちはみんな同じなんだって、お客さんに伝えられるような曲を最後にやりたいんですけど…」

 

「どのバンドの曲もいいから、なかなか決められないんです……」

 

「ふーむ……」

 

 

 

「……そんなに深く考えるのか?」

 

「ええ?」

 

「もしかして!零くん私と一緒のこと考えてない?」

 

「多分そうです」

 

「え?ええ?どういうことですか?」

 

「香澄、コレも簡単な話だぞ?」

 

「なるほど!」

 

「曲がないなら……」

 

「作ればいいんだっ!!!!」「作れば良いんじゃないか?」

 

「そうっ!!!!……て言っても、私たちがやるわけじゃないから……」

 

「大分めちゃくちゃな話だけどな……」

 

「めちゃくちゃじゃないですよっ!一緒に曲を作ればもっともーっと気持ちを1つにできますって!」

 

「そうか。なら困ったら俺を頼れ、いいな?」

 

「わかりましたっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし……やること多いな」

 

 

俺の仕事はまりなさんの仕事でもあるが、基本は1人で行う。出来る事は1人でする主義だからな。基本はロビーで、たまにスタジオで仕事する。まぁ……部屋が変わると気分も変わるからな

 

 

 

「零さん、仕事はかどってますか?」

 

「んん?沙綾か、まあまあだな」

 

「そうですか?」

 

「ああ、目が焼けるぐらい頑張ってるからな!」

 

「お疲れ様ですね……」

 

「ほんと疲れるよ、座っての作業は苦手でな……」

 

「具体的に零さんの仕事って何ですか?」

 

「そうだな~。今はイベント時のドリンクやスイーツについての資料作成とポスター作成についての資料作成と、チラシの資料作成とTシャツの資料作成だな!」

 

「資料ばっかりですね……というか作成はみんながするんじゃないんですか?」

 

「作成は任せてるけど、こっちはこっちで資料を作って保管しておく必要があるんだよ。今後のイベントのためにもな。要はみんなが雑務をしなくていいようにするのが俺の今の仕事だな」

 

 

 

ぶっちゃけ写真撮ってレシピとか作り方とか残しておけばいい気もするがな……

 

 

 

「……なあ沙綾」

 

「なんですか?」

 

「この前の話……聞いても良いか?」

 

「この前の話?」

 

「この前言いかけていた話だ……聞かせて貰っても良いか?」

 

「……いいですよ」

 

 

そういうと沙綾は俺の隣に座って語り始めた……

 

 

「私……中学の時にバンドのドラム担当として活動していたんです…でもライブの日にお母さんが倒れてしまって……それでライブに出られなくなっちゃって……。メンバーに気を遣わせたくなくって…私はバンドから抜けて、病弱なお母さんの手伝いをするようになったんです」

 

「……」(沙綾も辛い過去を背負ってたんだな)

 

「でも……私はバンドを諦められなくって……香澄やみんなに背中を押されて…またこうしてドラムが出来るんようになったんです」

 

「……そうか」

(支えてくれる仲間……家族…………)

 

「家族……か」

 

「零さん?」

 

「いや、何でもない。今日はありがとな沙綾」

 

「お礼を言われるようなことはしてませんよ?」

 

「そんなことはないぞ?むしろお礼をしたいくらいだ」

(また色々教えてくれたからな)

 

「ええっ!?そんなのいりませんよ///」

 

「じゃあ何か頼み事とかないか?」

 

「頼み事……ですか?///」

(無い事は…無いんだけど///)

 

「ああ、今できることでも良いぞ?」

(今なら…まぁ運搬以外なら体力的に一通り出来るな)

 

「じゃあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ……沙綾」

 

「なん…ですか///」

 

「確かに頼みは何でも聞くとは言ったが……こんなことで良いのか?」

 

「十分過ぎます///」

 

「……そうか」

 

 

何でも良いというのは言葉通りの意味だった、だからどんなことを言われてもいいようにしたんだが……予想外だったな。まさか……

 

 

 

 

「前みたいに頭撫でるだけでいいなんてな……」

 

「///」

 

しかも満足そうだが…そんなに良いことなのか?頭撫でるのって、慰めるための行動じゃないのか?まだ分からないことしかないな……

 

「なあ沙綾」

 

「なん……ですか///」

 

「座っても良いか?立ってるの疲れちまった」

 

「え?ああ、はいっ!どうぞ」

 

 

撫でるのはいいんだがさすがに立ちっぱは辛い

 

 

「ふぅ…どうした?座ったらどうだ?」

 

「いいんですか?」

 

「確認する必要ないぞ?」

 

「……じゃあ」

 

 

なんで確認する必要があるんだ?……え?ちょっ、そこに座るのか!?

 

 

「沙綾?そこは椅子じゃない。俺の膝の上だ」

 

「でもいいって言ったじゃないですか」

 

(……ここであれこれ言っても離れないだろうな)

 

「……まぁそれでいいんならいいや」

 

 

 

膝の上に座ったと思ったら今度は俺の体にもたれかかってきた。疲れてるのかと思ったが……頭をこちらに寄せてきた。続けろと言うことなのか?まあやってみるか……

 

 

「…これでいいのか?」

 

「は、はい……///」

 

 

本当にこれでいいのか!?また声小っさくなったけど……やはり疲れているのか?ならひと休みして貰おう

 

「ちょっと失礼」

 

少し遠いから抱き寄せてみた

 

「れ、零さん!?」

 

「何だ?コレの方が落ち着くんじゃないかと思ったんだが」

 

「お、落ち着きますけど///」

(どうしよう…凄くいい///)

 

「だったらこれでいいだろ?落ち着くんならゆっくりしたらどうだ」

 

「じ、じゃあ……お言葉に甘えて……///」

(ずっとこのままでいたい///)

 

 

時間の許す限り俺は沙綾の頭をなで続けた。これでお礼出来たのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

スタジオの時計を見るとそろそろ日が暮れる時間だ

 

「そろそろ帰ろうか……沙綾?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「……この状況でよく寝られるな」

(まぁ寝れるって事は休んでるって証拠か……)

 

「動けないな。まぁ起きるまで待つか」

 

(人が俺にもたれて寝ている……こんな状況今までなかったな……)

 

俺にもたれる物と言ったら……少なくとも平和とはほど遠い物だ。今の状況は…自分が変わったという証拠なんだろうか

 

ガチャ 

「零くんいつま……で……」

 

時間を大幅に過ぎたからか…まりなさんが来てしまった。そして凄い目でこちらを見ている……まぁ変な状況だよな

 

「……どうも。動けない自分です」

 

「……何したの?」

 

「何って…望みを聞いただけなんですけど…」

 

「望み?」

 

「頭撫でてほしいって頼まれたんでしたんですけど……」

 

「……なるほど……そういうことか~」

 

何故笑ってるんだ?可笑しい事したか?というかそういうってどういう事?

 

「あの……勝手に理解されても困ります」

 

「零くん!君はこれからもっと困ったことになるかもね!」

 

「ええっ!?どういうことですか!?」

 

「それは教えられません!」

(君の自覚のない優しさが彼女たちをそうするんだろうね……)

 

「そんな~」

 

(君は沢山失ったけど…今なら取り戻せる)

 

「教えちゃったら意味がないからね〜」

 

(君には人としての幸せを知ってほしい)

 

「……でも助言するとしたら」

 

「したら?」

 

 

 

「君は自分が正しいと思うことをしてみると良いかもね」

 

(彼女たちと…今まで出来なかった事を楽しんで欲しい)

 




何か最近になってこういう色恋の話をついつい書きたい衝動に駆られるんですけど時間かかるんですよね……休みが欲しい!!

もう少しで第2章が始まるようにしますので、気長にお待ち頂けると幸いです(^_^;)


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第16話 休憩の時のコーヒーは格別

最近戦闘につなげるネタが思いつかないんですよね……

零のバトルを読みたい方は、コメントでお知らせください



それではどうぞ……




作業が楽しくなる人って居るのか?もしそうならそのコツとか教えて欲しいな……。書類作業って意外と辛いんだな。毎日毎日パソコンの画面にへばり付いての仕事はさすがに疲れる、閃光弾と比べると大したことはないが……ずっと見ているのはやはり辛い。

 

 

「……。」

 

「零くん!?しっかりして!!」

 

「……あれ?……まりなさん?どうしました?」

 

「どうしました?じゃないよ!無理し過ぎだよ!」

 

「…あれ…もうこんな時間ですか」

 

 

最近仕事に集中し過ぎて時間を忘れることが良くある…何事も似たような感じだがな

 

 

「零くん…張り切るのは良いけど無理しちゃダメだよ?」

 

「すみません…でも、もうすぐ終わりそうです」

 

「じゃあそれが終わったら帰って良いよ。ちゃんと休んでよ?」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

期限(ライブイベント)が近づいてるから張り切らないといけないんだよな………そういえば体動かさない仕事って初めてかもな。コレが普通の仕事か…結局仕事は何やってても辛いな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“数日後“

 

「…………。おはようございます」

 

「おはよう、出来上がったの?」

 

「はい」

 

「うん、問題ないね。……ちゃんと休んだ?」

 

「はい」

 

「嘘でしょ」

 

「……はい。あの後やり続けました」

 

「もう!健康第一って知らないの!?」

 

「知りませんよ…命が第一でしょう?」

(第一は自分の命って教わったしな)

 

「対して変わらないでしょ!自分の身を大事にして!」

 

「そんなこと言われても…この状態が普通だったんで…」

 

 

向こう(戦場)では疲れたから。といつまでも休んでいられないって生活だったからな……疲労ごときで1日休めと言われても休めない。これも染みついちまった物だからな

 

 

「君まずその考え方を辞めさせないといけないね」

 

「まあ、頑張ってみます……」

 

「とりあえず!皆の様子を見に行くよ!」

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

「みんな、お疲れ様~!どう?仲良くやってる~?」

 

何人かはもうTシャツ着てる様子から見て、皆気合いが入っているのが分かる。ただ気が早すぎないか?

 

「お疲れ様です。ちょうどこれから、段取りの話をしたいと思ってまして。お二人の意見も聞かせてもらえますか?」

 

「は、はい~っ!」 「ああ」

 

 

これは……休む暇なんて無いな…

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、だったらそれでいいんじゃないか?」

 

「そうですか。分かりました」

 

「よし、コレで一通り終わったか?」

 

「そうですね。お疲れ様でした」

 

 

段取りの話がようやく終わった……思ったより時間もかかったが、まぁこれで少しは仕事は減ったか?

 

思いっきり腕を伸ばしたら音鳴りまくった、ここまで疲れがたまっていたとはな

 

「お疲れのようですが…忙しいのですか?」

 

「もうすぐ終わる。それに休めって怒られたところだ」

 

「具体的にどのくらい残っているのですか?」

 

「そうだな……企画書は完成して提出したし、後は資料をまとめるだけだな」

 

「そうですか」

 

「ああ、さてと」

 

「どちらへ?」

 

「設備の調節を頼まれてたからな、先に片づけてくる。用事でもあったか?」

 

「いえ。時間に余裕があるので待ってます」

 

「そうか?じゃあ少し待っていてくれ」

 

 

さて頑張るか、休めと言ったのに頼み事って…あの人言ってること無茶苦茶じゃないか?まぁ普通に出来るからなんでもいいがな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“紗夜サイド”

 

「……大変なんですね」

 

 

零さんはいつも仕事ばかりしている気がします…イベントの事と私たちの練習での指導、両立させるには相当な気力と体力が必要になるはずですが…

 

 

 

「なぜパソコンの電源を付けたまま行ってしまったんですか?」

 

あの人は最近どこか抜けてる気がします。そんなに多くの仕事をこなしているのでしょうか?

 

(零さんの仕事内容……一体どんなことを?)

パソコンの画面を覗いてみると……

 

 

「!これは……」

 

そこに映っていたのは、カフェのメニューやTシャツなどの資料、それも一つ一つ細かく書かれている

 

「…これは本来私たちの仕事では?」

 

一体零さんは何を……?

 

ガチャ

 

「戻ったぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“零サイド”

 

「戻ったぞ」

 

作業をさっさと終わらせて戻ると、紗夜がパソコンをガン見していた。もう覗くとか言うレベルじゃない

 

「紗夜?何してんだ?」

 

「零さん…これは何ですか?」

 

「それか?資料だ。保管用のな」

 

「保管用?どういうことですか?」

 

「このイベントはCIRCLEにとってかなり重要なイベントなんだ。もし第2・3回目があったときの際に今回のイベントについての資料が必要になってくる。その際に使うための資料がな」

 

「でしたらなぜ私たちにそれを言わなかったのですか?」

 

 

ごもっともだ、言い出せば彼女たちなら手伝ってくれるだろうから作業が楽になる。だがそれはしたくないしさせたくない、なぜなら……

 

 

 

「みんなに楽しんで欲しいからだ」

 

「どういうことですか?」

 

「俺にとって今回のイベントは、ただ人に楽しんで貰うことが目的じゃない。楽しませる側、つまり演奏する皆にも楽しんで貰いたい。現に曲も仕上がってきたみたいだし、皆忙しそうにしてるのに、その上仕事を手伝えだなんて俺は言えない。だからだ」

 

 

今回は楽させてあげたいと思ったしな

 

 

「そういうことですか。ですが私たちも頼ってばかりなのは……」

 

「俺がここまでするのは今回だけだ。だからこのことは秘密にしてくれないか?」

 

「そう言われましても…これは私たちの仕事ですし…」

 

「頼む」

 

「しかし…」

 

交渉はあまり得意じゃない…勢いでどうにかするしかないな……

 

 

「…分かった。じゃあこうしよう」

 

 

こういうことはあまり言わない方が良いんだが仕方が無い

 

 

「俺の頼みを聞いてくれるんなら、俺は紗夜の頼みを聞こう」

 

「どういうことですか?」

 

「要は何でも言うこと聞くって事だ」

 

「……分かりました。この事は誰にも言いません」

 

「ありがとな。紗夜」

 

「それで…何か望みはあるか?」

 

「そうですね……でしたら少しお話ししたいことが」

 

「分かった、外で話そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CIRCLEに来てからの俺の仕事は幅広い、ロビー・スタジオ・ステージが俺の職場だが最近になってカフェも任された。俺は料理も出来るからな

 

「はい、コーヒー。これでいいか?」

 

「ありがとうございます。ですがよろしいのですか?勝手にカフェの設備を使用してしまって」

 

「良いんだよ。たまにここが職場になるからな」

 

「本当に何でも出来るんですね…」

 

「何でもじゃない。出来る事だけだ」

(まぁ…それが多いからそう言われるんだろうけどな……)

 

「……美味しいです」

 

「そうか?それはよかった。他の物も飲みたくなったら言ってくれ」

 

「いいんですか?」

 

「いいさ。材料は余りまくってるからな…」

 

「では、カフェオレを……」

 

「分かった」

 

 

生きるために身につけた向こう(戦場)の知識も役に立つんだな……俺は料理は出来るが基本はしない。だって面倒だからな…でも誰かのために作れというなら作る。何が作れるか?主に……やっぱり説明は辞めておこう。あまり良い表現が出来るものではないからな…

 

 

「はいカフェオレ」

 

「いただきます……やはり美味しいです」

 

「そうか……」

 

 

 

紗夜がカフェオレを飲み干した事を確認し、俺は口を開いた

 

「さて、本題に入るが話ってのは何だ?」

 

「……今後についての相談です」

 

「と言うと?」

 

「私はまだ未熟なんです。ギタリストとしても姉としても」

 

「そうか?向き合ってるんだろ?」

 

「ですが今のままでは成長とは呼べません。どうしたら私は成長できるのでしょうか」

 

「う~ん……」

 

 

前よりは丸くなったが…。確かにまだ未熟だな。

 

 

 

「紗夜…確かに紗夜は未熟かもしれないが、深く考えてると余計にひどくなるぞ?」

 

「どういうことですか?」

 

「いいか紗夜。人は一言で言えばコップだ」

 

「…コップですか?」

 

「そうだ、よく考えてみろ。ファミレスで出されるコップにプールの水を全部入れられるか?」

 

「無理です」

 

「だろ?プールの水を入れたいなら同じプールのサイズのコップじゃないと入らない。これは人も同じだ」

 

「つまり?」

 

「器に余る物は持てない、だから器を大きくしたい、でも早くしたい。それが今の紗夜の状態、焦りだ」

 

「確かにそうですね…」

 

「まぁ…何が言いたいって言うと、焦らず少しずつ変わっていけば良いって事だ」

(例え話をせずにこれだけ言えば良かったかもな……)

 

「……なるほど」

 

「焦って何かすると間違えやすい、よく知ってるだろ?」

 

 

焦りが一番思考を鈍らせる、 向こうじゃ[焦る=死]だったんだからな。何事も冷静に判断できるように育てられた俺が言うんだから間違いない…

 

 

「そうでした…」

 

「まぁ、少しずつ変わっていこうじゃないか」

 

「そうですね。聞いて頂いてありがとうございます」

 

「すっきりしたか?」

 

「はい」

 

「そうか……おかわりは?」

 

「いただきます……」

 

 

 

 

「はい、おかわりどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「……なぁ紗夜」

 

「なんでしょうか」

 

「紗夜は学生…なんだよな?」

 

「そうですが…それがなにか?」

 

「紗夜の学校ってどこなんだ?」

 

「花咲川女子学園です」

 

「あ~女子校か…」

 

「そうですけど…それがなにか?」

 

「いや、なんとなく聞きたかっただけだ」

 

 

本当は進学を少しだけ考えたんだが……女子校はさすがに無理だな…

 

 

 

 

 

 

あっという間に日が沈んだな……そろそろ帰ろうか

 

「今日はありがとうございました」

 

「いや、こっちも色々聞けて楽しかった」

 

「そうですか?」

 

「ああ」

 

「それはよかったです」

 

 

さて……飲んだ後の片付けだな

 

 

「それじゃあ、カップを片づけますかね」

 

「いえ、それくらいは私がやります」

 

「やらなくていいよ?出したのは俺だし」

 

「ですg『ガタッ』、っ!?」

 

「おおっと!!」

 

 

紗夜が慌てて立った際に足を引っかけてしまった、そして俺はそれを抱き止めてる。……結構焦ったのか、俺をがっしりと掴んでるな。……端から見たら抱きついてる状態だな

 

 

「……大丈夫か?」

 

「……」

 

「紗夜?」

 

「え、ええ。大丈夫です///」

 

「そうか?それはよかった……あれ?」

 

 

離れようとしたが完全捕まれてる…全然離れようとしない。何故だろうか。何でさっきより腕に力を入れているのだろうか

 

 

「さ、紗夜?どうした?」

 

「……のままで」

 

「んん?何だ?」

 

「……このままで居させてください」

 

「え?な、何でだ!?」

 

「このままで居たいんです……ダメですか?」

 

 

なんか前にもこんな事があったような気がするがまぁ…それくらいいいだろう

 

 

「分かった。気が済むまでそうしてくれ」

 

「……腕」

 

「ん?」

 

「腕を……」

 

「腕?……ああ、そういうことか」

 

 

腕を紗夜の背中に回した……完全に抱き合ってる状態だな。見えるではなく完全に抱き合っている。俺は何か間違ってる事をしているのだろうか。それとも正しいのだろうか。聞いてみるか

 

 

「これでいいか?」

 

「はい……満足です」

(温かい…何かが満たされている…そんな気がします///)

 

「そうか」

(じゃあ問題ないようだ。今後もコレで行こう)

 

 

この時間は、日が沈みきるまで続いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「満足しました」

 

「あ、ああ。そうか」

(何かスッキリした顔つきになったな)

 

「なあ紗夜」

 

「な、何でしょうか?」

 

「さっきのあれ、そんなに良かったのか?」

 

「な、なぜですか?」

 

「いや…それで満足するならいつでもするつもりだ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。言ってくれればいつでもいいぞ」

 

「約束…しましたからね?」

 

「ああ、約束だ」

 

「そうですか……では。明日からまたよろしくお願いします」

 

「ああ、お疲れ」

 

 

(抱き合うと言う行為は人を癒やす効果があるのか……森田の話は本当だったのか。いつか会ったらお礼をしなければないな。これからはこの方法を彼女たちを支える手段の一つとして取り入れていくとしよう)

 

 

 

 

この日、零は人生で最大の勘違いを、常識として認知するようになってしまった。この勘違いが原因でこの先どうなってしまうのか。それはまだ誰も知らない……




次回で第1章を終わらせます。

第2章は学校編についてのアンケートを元に作らせて頂くので、参加者の皆様。もう少しだけお待ちください!


高評価、又はお気に入り登録をよろしくお願いします!


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第17話 人を見かけで判断するな

いよいよ第1章最終回です!

最初の最終話なので張り切ったら文字数が……なるべく減らしましたがやはり多くなってしまいました、申し訳ありません!!

それではどうぞ





「いよいよ本番か~……ここまであっという間だったね」

 

「そうですね」

 

「準備できてる?」

 

「なんとか……」

 

「昨日はちゃんと休めたんだよね?」

 

「なんで疑ってるんですか。休みましたよ」

 

「そうみたいだね~顔色も良くなったみたいだし」

 

 

昨日は休みを貰って体を休めていた。まぁ大して変わらなかったがな……

 

 

「何も起らないと良いんですけどね……」

 

そう言った途端にみんなが慌て始めた……やっぱりそうなるのか

 

 

「『何も起らず』は無理かもしれないね~……私たちもみんなのサポートしていかないと!」

 

「そうですね」

 

 

今日は一段と忙しくなりそうだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ステージ側”

 

「零さん!!」

 

「紗夜か、どうした?」

 

「実は……」

 

 

 

 

 

「何?タイムテーブルの変更?」

 

「そうなんです……」

 

「……具体的にはどう変わった?」

 

「afterglowとパスパレの出番を逆にしただけです」

 

「そうか。なら問題ないな……だがどうしてそうなった?」

 

「千聖さんがお仕事の都合で遅れてくるそうなんです」

 

「そうか……分かった。俺は変更点も含めて準備を進めるから、リハーサルを終わらせたら楽屋で待機。みんなにも伝えておいてくれ」

 

「分かりました」

 

 

「仕事の問題。遅れてきたときの用意をしておかないとな……」

 

 

 

 

その後は順調に事は進んだ。お客の入場と証明の調整。時間との勝負はやはりきついな……

 

 

 

「はぁ」

 

「零くん!準備できた?」

 

「なんとか……」

 

「じゃあみんなを呼んできて!」

 

「分かりました」

 

さあ、開演だ!

 

 

 

 

 

「やっぱり凄いな……」

 

 

改めて演奏を聞くとそう思う。お客もみんなも演奏を楽しんでいるようだ

 

 

「ポピパの次にafterglow……順番もよく考えてある」

 

 

企画とタイムテーブルは全部みんなに任せていたからちょっと不安だったがいらない心配だったな……

 

「このまま良い流れに乗ってくれると良いんだが」

 

 

 

 

 

だが現実は甘くなかった……

 

「あと10分…このままだと時間が…」

 

「どうしましょう……」

 

「大変です!千聖さんのお仕事がまだ終わらないって連絡が!」

 

「何!?」

 

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 

最悪の事態が起きてしまった!!千聖抜きで演奏は出来ない……どうすれば!?

 

「零さん……」

 

「どうしたら良いですか!?」

 

「零、どうにか出来ない?

 

「…みんな、俺だって万能じゃない。コレばっかりは…」

(策がないわけじゃない……だかこれだけは……)

 

 

 

そう。俺はこうなる事態も考えて準備していた…だがこの状態ではその策も意味をなさない……失態だっ!!

 

「零くん!」

 

「まりなさん…」

 

「零くん!こうなったら最後の手段だよっ!!」

 

「……え?」

 

「「「「「最後の手段?」」」」」

 

 

最後の手段……って!!まさか!?

 

「本気ですかっ!?」

 

「本気だよっ!それしか無いよ!!」

 

「ですが!!」

 

「大丈夫だよ!責任は全部私が背負うから!」

 

 

……だがこれ以外に良い手段は無い!!

 

 

「ああーもう!!分かりましたよ!!準備は!?」

 

「楽屋にあるよ!」

 

「時間は!?」

 

「15分!!」

 

「了解!!」

 

 

「黒服の人!!」

 

『はい』

 

「最終手段だ!準備してくれ!」

 

『承知いたしました』

 

「こうなったらやれるだけやってやる!!」

 

ステージの裏で、俺はそう叫び、楽屋に行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ステージ側”

 

「よしっ!これで問題解決っと!」

 

「まりなさん…さっきのはどういうことですか?」

 

「黒服さんを連れて行きましたけど……」

 

「何が始まるんだ?」

 

「あんな零さん……初めて見た」

 

「最終手段?ってなんですか?」

 

「ふふ~ん。最終手段ってのはね~」

 

 

 

「準備できました」

 

「おっ!良い感じだね~」

 

「「「「零さ……!?」」」」

 

「何だよ。なんだよその顔は」

 

 

イベントのTシャツに青のジーンズに着替えた零さんがそこに居た

 

 

「え?零さん……だよね?」

 

「それ以外誰に見える?」

 

「なんでTシャツ着てるの?」

 

「何でって……着替える必要があったからな」

 

 

私たちはまだ理解できていない……これから何が始まるのだろう。そう考えているとすぐに答えがでた

 

 

『零様、準備が整いました』

 

「はぁ……」ガタッ

 

「「「「!?」」」」

 

 

彼が取り出したのはギター……まさか!?

 

 

「じゃあやりますか」

 

「え?……ええっ!?」

 

「零さん!?どういうことですか!?」

 

「いーから黙って見てろ!」

 

そう言うと彼は黒服の人と一緒にステージへと向かっていった

 

 

 

 

 

“零サイド”

 

マジでやるのか……お客も同意してくれたみたいだし。お客は神様とよく言ったもんだな……

 

「どうも。ここのスタッフです。聞いてください……【VS】!」

 

まずはこれで様子見だな……ギターは練習はしてたが人に聞かせられるような物か分からない以上、人前で演奏しない方が良いと思っていたんだが……意外と反応いいな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想を超える歓声の中で、俺は演奏を辞めない。この興奮に身を任せるっ!!

 

「次、曇天!」

 

 

タイトルを言うと、黒服さんはすぐに合わせせてくれた……さすがの一言だな。

 

 

 

「珈琲屋によって、一休み決めたら

帰れない 帰らない」

 

 

歌……これが彼女たちの輝きの元となるんだな…

確かに楽しい!!初めての感覚だ!

みんな楽しそうに出来るわけだ!!

 

 

 

そろそろ終わるな……最後は溜めるに溜めて……魂を解き放つように!!

 

 

「の~で!僕も、弱虫ぶら下げて~空をあお~ぐ~」

 

歌い、ギターを奏でる。これが演奏という物か!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?彼の演奏は」

 

「すっごく楽しそうです!」

 

「あんなに上手かったんだ……」

 

「流石ね…」

 

「まるで別人ですね」

 

「聞いててとっても楽しいわ!」

 

「そうだよね~。私もあんな零くん初めて見たよ」

(とっても楽しそう……少しずつ変わってるね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……次で最後です!【KNOW KNOW KNOW】」

 

 

音を響かせ、大きく動き、マイクを握りしめて歌う!!奏でる!!

 

 

 

最後……今持てる全てを込めるっ!!

「Yes,I know good time is now!」

 

演奏が終わり……疲れが押し寄せる、だが辛くない。むしろ良い気分だ。

 

そして歓声が響き渡る……

 

「ありがとうございました!」

任務完了だな!!……良い気分だ

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~疲れた!」

 

「お疲れ様、零くん!」

 

「ホントですよ……みんなどうした?」

 

「あなたギター弾けたの!?」

 

「やっと来たか千聖!弾けるぞ?」

 

「何で教えてくれなかったんですか!?」

 

「香澄の言うとおりですよ!何でですか!?」

 

「だって聞かなかったじゃん。それに素人だし」

 

「素人!?嘘言わないで」

 

「嘘!?蘭もそんなこと言うのか!?」

 

「だって素人があんな演奏できるわけ無いじゃん」

 

「そらなぁ…これくらい出来ないとRoseliaのマネージャーなんて出来ないだろ?」

 

「「「「「マネージャー!?」」」」」

 

「ええっ!?知らなかったのか!?というかRoseliaは誰もそのこと言ってないのか!?」

 

「「「「そういえば……」」」」

 

「何じゃそら……」

 

 

「みんな!!ライブまだ終わってないよ!!!」

 

「そういやそうだった!!パスパレ!準備は!?」

 

「バッチリです!」

 

「じゃあ行ってこい!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

こんな感じで最後までライブは進んだ……

 

 

「最後か……」

 

遂に演奏も最後、曲……完成したのか?

 

「零さ~ん!」

 

「おう香澄、他のメンツも来たな。曲は完成したか?」

 

「ええ。完璧よ」

 

「そうか。じゃあ最後、楽しめよ」

 

 

 

こうして、イベントは大成功に終わった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりましたね」

 

「そうだね~どう?演奏した気分は」

 

「……初めての感覚でした」

 

「そっか!それは良かった~!一歩前進だね」

 

「そうですね……少し外に行きます」

 

「分かったよ。何かあったら呼びに行くね」

 

「はい……」

 

 

 

「外の椅子はガラガラだな」

 

(まずい、座った途端今までの疲労が今になってきた…少し…休も…う)

 

そこで俺は意識を手放した……

 

 

 

 

 

“ロビー”

 

「まりなさん!!お疲れ様でしたっ!!いろいろサポートしてくださって、ありがとうございます!」

 

「いやいや、私は何もしてないよ。ほぼ全部零くんがやってくれたことだよ」

 

 

「そういえば……零さんはどちらへ?」

 

「零くんなら外に……あれ?」

 

「零……寝てません?」

 

「ホントだね~起きるまで待ってようか」

 

「そうですね」

 

 

 

 

 

「「お疲れ様です」」

 

「沙綾ちゃん、紗夜ちゃん。お疲れ様!」

 

「無事にイベントが終わりましたね」

 

「……零くんのおかげだね」

 

「ずっと無理してたみたいですけどね……」

 

「そうですね……資料作成はそこまで大変なんですか?」

 

 

 

「資料作成?どういうことですか?」

 

「!?、皆さん……聞いてたんですか?」

 

「むしろ聞こえないと思ったの?」

 

「……そうだよね」

 

「沙綾、何の話だ?」

 

「二人とも、何か隠してない?」

 

「そ、そんなことは……」

 

「嘘ね」

 

「ええっと~その~」

 

「みんな落ち着いて!私が説明するから……」

 

 

 

 

 

 

 

「んん~っ!!ん?寝てたのか……戻んねえとな」

 

「零くん!起きた?」

 

「まりなさん……」

 

「みんな待ってるよ?」

 

「あ!?そうでした!!」

 

 

 

 

「みんな!お疲れ様……なんだ?どうしたみんな」

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

「ええっ!?なんだ!?何がだ!?」

 

「私たちのために頑張ってくださったことです!」

 

「……何の話だ?」

 

「資料作成。ありがと、零」

 

「なっ!!ばらしたのか!?あれだけ言うなって言っておいたのに!!」

 

「「すみません……」」

 

「どっちだ?どっちが言ったんだ?」

 

「私だよ」

 

「まりなさん!?なんで!?」

 

「君は隠してばっかりだからね~。それに、休めって言ったのに休まなかった事へのお仕置きだね」

 

「……むごい」

 

「でも感謝して貰ったからよかったでしょ?」

 

「……まぁ、そうですね」

 

「零さん!」

 

「何だ?香澄」

 

「ありがとうございました!悩んでいた時に、共通点を見つけてみてってアドバイスのおかげでこんな風に、みんないい演奏が出来たんです!」

 

「それに……あたしたちも楽しませて貰ったしね」

 

「零くん、やったじゃん!オーナーもすごく喜んでくれてたよ。第二弾もよろしくー!だって」

 

「ええ~?」

 

「そうだ!さっそく次のイベントの内容考えようよ!」

 

「気がはえーよ!」

 

 

 

 

 

 

 

そして打ち上げだ。

 

「せーの……」

 

「「「「かんぱーい!!!」」」」

 

(一気に盛り上がったな……いい雰囲気だ)

 

(皆がそれぞれの話で盛り上がる、自分の声も聞こえないくらいにな……この空気を保っていかないとな)

 

 

 

「いいねいいね~、なんかせーしゅんって感じがするなぁ」

 

「せーしゅん?何ですかそれ」

 

「学校生活のことだよ」

 

「学校生活……」

 

「零さん、学校行きたいんですか?」

 

「え?……まぁ……ちょっと行きたくなったな!」

 

「どちらの学校へ行かれるのですか?」

 

「まだ決まってないんだけどな」

 

「何々?零くん学校行くの!?だったらうちに来てよ!」

 

「それは流石に無理じゃないか?」

 

「ええ~いいじゃん!零くんが来てくれたら絶対るんっ♪てくるから!」

 

「そういう問題じゃない!ああ~もう!!どっかに良いとこ無いのか?」

 

「そんなこと言われても……」

 

「私たちはまだ高校生だしな~大学までは知らないな~」

 

「え?大学?大学行けるのか?」

 

「えっ?行けるんじゃないですか?」

 

「まりなさん、俺は大学に行けるんですか?」

 

「無理だよ」

 

「そうですよね~」

 

「ええっ!?何でですか!?」

 

「そうですよ!零さんなら大学くらい……」

 

「だって飛び級になるもんな!」

 

 

 

 

急に静まりかえった……

 

 

 

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

「え?」

 

「何で飛び級になるの?」

 

「ええっ?なるだろ?ですよね?」

 

「え?零くんはそうだよ?」

 

「ほら」

 

「え?」

 

 

何でそんなことを……ん?待てよ……まさかっ!!??

 

 

「お、お前ら……」

 

「「「何ですか?」」」

 

「俺……いくつだと思う?」

 

「「「「「ええっと~」」」」」

 

「19かな」

「まぁ…そのくらいかな?」

「ええっ!?20歳でしょ!」

「23じゃあ……」

 

 

……やはりそうだったか。もう仕方が無いことだがな…

 

 

「俺は20代ではない。俺はまだ16だ」

 

 

 

「「「「「え?ええええ!?」」」」」

 

 

「じゃあ……高校生じゃないですか!!」

 

「年齢的にはそうなるな」

 

「じゃあ零は年下?信じられないわ」

 

「だろうな。よく言われる」

 

「でもあんたが同い年だなんて思えない!」

 

「思えなくてもそうなんだ」

 

ここまで驚かれたのは初めてなのかもしれないな

 

 

 

 

 

空気を変えるため、俺たちは外に出た。すっかり日が暮れたな……

 

暗い中で、俺は口を開いた

 

 

「俺は事情があって、高校に入学できなかったんだ」

 

「そうなんですか……」

 

「だから紗夜に学校のことを聞いたんだが……」

 

「女子学園だった、ということですね?」

 

「そうだ。まぁ…今になって入学できるとこなんて無いよな……」

 

 

「ごめん、零」

 

「なんで蘭が謝るんだよ」

 

「だって……結構悩んでたんでしょ?」

 

「まぁ……それはそうなんだが」

 

「なんとかなるんじゃないのか?」

 

「巴の言うとおりですよ!探せばきっと……」

 

「無理だ」

 

「何でですか!?」

 

「ここら一帯の高校を調べた、今から入学できるところは無かったんだ」

 

「じゃあ……れーくんは学校に行けないの?」

 

「まぁ……行けないことはないがな」

 

「どういうことですか?」

 

「行こうと思えば行けるところはある」

 

「じゃあそこに!」

 

「ただし、そこに行こうと思うと、少なくとも俺はここに戻ってこない」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「県外だからな……まぁ行く気は無いが」

 

「でもそれじゃあ」

 

「俺は、入学を諦めるか・ここを去るかのどちらかになるな」

 

「そんな……」

 

「こんなのって……」

 

「まぁ……思い通りに行かないのが現実だ」

 

それはどこに行っても一緒だ……

 

 

 

「こんなのひどいよっ!!」

 

「香澄……」

 

「だって零さんは悪いことしてないじゃん!なのに……」

 

「そうだよ……」

 

 

 

……分からない

 

 

 

「……なんで」

 

「零さん?」

 

「何でそこまで心配してくれるんだ?」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 

 

今まで良くしてくれた……それは嬉しかった。でも前から思ってた、なんでここまで親しげにしてくれるんだ?なんで?何でだ??

 

 

「分かんねぇ…何でだ?」

 

「なんで……ってなんですか?」

 

「え?」

 

「助けてくれたから助けたいんです!」

 

「そうですよ!私たちを助けてくれたじゃないですか!」

 

「みんなが零さんを支えたいと思ってるんですよ?」

 

「そうよ!私は零を笑顔にしたいの!」

 

「私たちも、あなたに日頃からお世話になっているお礼をしたいわ」

 

「みんな……」

 

 

今日は初めてのことばかりだな。だが……

 

「気持ちは嬉しい、ありがとう」

 

「そんな……お礼を言われることは」

 

「……なぁみんな」

 

「「「「なんですか?」」」」

 

「みんなはさ、心の底から笑えるか?」

 

「ど、どういうことですか?」

 

 

俺は皆に背を向けて言う

 

 

「俺はな……人の幸せってのが分からない」

 

「「「「えっ」」」」

 

「あまり深くは言えないが。今まで笑えるような生き方をしてこなかった」

 

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

「それが卑屈になってる理由だ」

 

 

ここまでいうことは無いが、今は言うときだから言った

 

 

「だったら!私たちが教えますっ!」

 

「……ホントか?」

 

「「「はいっ!」」」「「「ええ」」」

 

「……そうか」

 

ほんと、変わってるな……

 

 

 

 

 

 

「でも…これじゃ問題解決してないよね」

 

「そうなんだよな~」

 

「ああ~それなんだが……」

 

「どうするんですか?」

 

「諦める!!」

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」

 

「いいんですか!?」

 

「ああ」

 

「なんで!?」

 

「ここを離れるという選択肢がなくなったからだ」

 

「それは……嬉しいですけど」

 

「まぁ……高校行かないだけだし!死ぬわけじゃないしな!!」

 

「そう……ですか」

 

「まぁ……それで納得するんならいいんじゃねぇか?」

 

「そんな……」

 

「まぁ残念だけど~しょうが無い!コレが現実!以上!!」

 

「零くん……」

 

「そういうことで!まりなさん。今後ともよろしくお願いします」

 

「……うん!頑張っていこうね!」

(零くん……辛くないように見せてるんだね……)

 

 

 

「こんなこと……」

「どうにかならないのかな?」

「こればっかりは……」

「「「「……」」」」」

 

 

 

 

皆がどうにかならないか……そう思った時

 

 

 

『ちょっといいですか?』

 

「「「「「「「?」」」」」」」

 

「誰ですか?」

 

「ああ!!」

 

「どうした?つぐみ」

 

「この人、学校の校長先生ですよ!!」

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」」」

 

「ええ~と?つまり羽丘女子学園の学校長。それで?どうしました?」

 

『君、16歳何だよね?』

 

「ええ?はい」

 

「君、うちの学校に特別入学しないか?」

 

「え!?」

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

『実は、うちの学校もそろそろ男女共学化しないかという話がまとまりつつ合ってね。でも試験的に入学させられる子供はこのご時世少ないんだよ。』

 

「つまり……共学化の試しに入学してほしい?という事ですか?」

 

『まぁそういうことだね』

 

「でも、いいんですか?そんな簡単に決めてしまって」

 

『君は噂になっているよ?うちの生徒を何度か助けているって。だったら問題あるまい』

 

「でしたら、よろしくお願いします」

 

『よろしく、ええっと』

 

「自分、神鷹 零です」

 

『では零くん、詳しくは後日伝える。ではまた』スタスタ

 

 

 

「ええっと……進学先……」

 

「「「「決まった?」」」」

 

「……マジでか!?」

 

「よ、よかったね」

 

「こんな……あっさり……ええ?」

 

 

(((((喜びたいけど……)))))

 

((((((喜びにくい……))))))

 

 

 

 

こうして…俺は高校生になった……全然実感わかねぇ!!




いかがだったでしょうか。

ぐずぐずで第1章終了です!

演奏の所を書くのは難しいですね……かなり駄文になってしまったかも……コツなどがありましたら、コメントで教えてください


次回から第二章学校編です。皆様の意見を元に作らせて頂きます!!


高評価、又はお気に入り登録をよろしくお願いします!




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第二章 
第18話 願ったり叶ったり


と言う訳で遂に第2章突入しました!

が、その前に1話だけ物語に関わってくる話を書かせて貰いました。




ライブイベントが終わって2日後の朝、俺の元に一本の電話がきた

 

「あ~あ~うるさいなーもう!寝起きの電話が一番腹立つなんだけど」ガチャ

 

「もしもし?」

『あっ!もしもし零くん?』

「誰ですか?」

『あたしだよ!あたし!』

「ああ~そうですか。さようなら」ガチャ

 

あれが噂のオレオレ詐欺……いや、あたしあたし詐欺だな?

 

「さ~てと、そろそろ今日のじゅんb」

 

【プルルル!】

 

「……」ガチャ

『もしm』ガチャ

 

しつこくないか?

 

「さぁt【プr】ガチャ しつけえよ!!

『だってすぐに切るんだもん!!』

「と言うか誰ですか!?」

『あたしだよ!日菜だよ!』

「日菜!?何で番号知っんだよ!?」

『それはね~「日菜ちゃん変わって」わぁ』

「今度は何だ?」

『もしもし、零くん?私は千聖よ』

「千聖か、どうした?」

『ちょっと事務所に来てくれない?』

「え?何でだ?」

『いいから来てちょうだいね?』ピッ

 

……朝っぱらから凄い強引に予定埋められたな!ひどいな!まぁ予定無かったからいいけど!

 

「じゃあ……用意していくか」

 

 

 

 

 

着替えだけ済ませて事務所前まで来た

 

「まさか……またここに来るとな」

 

「あっ零さん!おはようございますっす!!」

「おう、おはようさん麻弥」

「零さんはなぜ事務所に?」

「さあな!なにせ起きてすぐに、ここに来いって電話入れられたからな!」

「そうなんですか?」

「ああ、麻弥は何か知らないのか?」

「何も知らないっすよ?」

「そうか……」

 

 

一体何で呼ばれたんだ?…取材とかじゃないよな!?あの時みたいに、記者がぞろぞろと……

 

 

「れ、零さんどうしました?顔色があまりよくないように見えますよ?」

「そ、そうか?そんなことは無いぞ?」

(取材なら即撤退だな!!)

 

『おはようございます!!待ってましたよ零さん!』

「あれ!?貴方は確かいつぞやの!」

『そうですよ!今日はお越しくださいましてありがとうございます!!』

「それはいいんですけど…要件は?」

『それについては中で、麻弥さんもご一緒に』

「分かりました!」

「……まぁ、行ってみるか」

 

 

 

 

『こちらです』

「ここは?」

『入れば分かります』

「そうっすよ!」

 

すげー不安になってきた…開けた途端何か出てくるんじゃ無いか?

 

「失礼します」ガチャ

 

「やっと来た~。遅いよ零くん!」

「おはようございます!零さん」

「レイさん!おはようございます!」

「おはよう、零くん」

「改めまして、零さん。おはようございますっす!」

 

 

まさかのパスパレ全員集合してた……

 

 

「おはよう~じゃない!何で電話してきた?というか何で電話番号知ってんだ!?」

「まりなさんから聞きました」

「ああーあの人は~!!」

 

個人情報を普通に第三者に教えるなよ!!俺でもそんな事は……したな。一回部隊のメンバーの情報漏らしたことあったな……

 

「というか何だよ。番号聞いてまで俺を呼んだ理由は」

 

「それはですね……」

「零くんあたしたちのマネージャーになってよ!」

 

 

「はい?」

「日菜ちゃん!私が言おうとしてたのに~」

「いやちょっと待て」

『どうかしましたか?』

「いや。どうかしてるのはあなた方でしょ!?」

「ええ~どうして~?」

「どうしてって、日菜は説明不足だ。なんで俺なのかと言うことだ」

「あなたが適任だからよ」

「適任?俺が?」

『そうですよ!あなたは一度、彼女たちとここのスタッフの命を助け、私たちに指導までしてくださいました』

「指導?そんなのしたか?」

『置き手紙にあった文ですよ!』

「あの駄文ですか!?」

「そうよ、あの手紙のおかげで、全スタッフの緊急時の体制が変わったのよ」

「そうなんです!レイさんの指示が、マニュアルにも載ってますよ!」

「そんなに!?」

『それに聞きましたよ。あなたはあのRoseliaのマネージャーをしていらっしゃると』

「そんな情報どこから?」

「私たちが言ったのよ」

「だよな……」

 

「だが……そんな簡単に決めてもいいのか?」

「どういうこと?」

「ここは大手事務所なんだろ?俺以外も適任者はいるんじゃ無いか?」

「そんなの嫌だもん!」

「何でだよ」

「だって零くんじゃないとるんっ♪てこないもん!」

「ええ~?」

「それについては私もよ」

「千聖まで!?」

「あなたじゃないと、面白くないもの」

「マジかよ」

「私たちも、零さんがいいです!」

「そうっすよ!」

「はいっ!」

「彩、麻弥、イヴまで!?」

「それに零くん?年上のお願いを断るの?」

「そうだよ零くん!あたしと麻弥ちゃんは先輩なんだよ!」

「ぐっ……痛いとこつくな……」

 

 

そうだった……よくよく考えたら、俺この中で一番年下じゃないか!

 

でも、13歳で2・30代の部隊の統率者だった俺は……今更だよな

 

 

「あの…零さん。本当にダメですか?」

「というか彩、具体的な仕事内容は何なんだよ」

『そこは主に練習での指示だけです』

「ええっ!?そんな簡単なのか?」

『はい、高校生にそこまで大きな仕事は渡せませんから』

「まだ高校生では無いけどな」

『ですので、マネージャーと言うよりはコーチですね』

「どう?あたしたちのマネージャーになる?」

「う~ん……」

 

 

まぁ…悪い話じゃ無いよなー。芸能事務所が出勤先、この事実があれば今後かなり有利になるかもしれないし…

 

 

 

「分かったよ。なる」

「ホント!?」

「なるよ、マネージャー」

「やったー!!」

 

 

「それじゃあ、これからよろしくな、みんな」

 

「「「はいっ!」」」「うん!」「ええ」

 

「いや~まさか零さんがマネージャーになるとは思わなかったっす!」

「マネージャーじゃないコーチだ。後、呼び方は零で良いんじゃ無いか?」

「いえいえ。こっちの方が慣れてしまったので」

「そうか。じゃあ、ここでも学校でもよろしくな。麻弥」

「はいっ!よろしくっす。零さん」

 

 

『いやーありがとうございますね!零さん!』

「ええ、こちらこそ。今後ともよろしくお願いします」

『はい!では、お給料のことなんですけど…』

「ええっ!?給料あるの!?」

『ありますよ?差し上げないと行けませんよ~』

「何でですか?」

『先ほどお話ししましたが。零さんのおかげでスタッフの育成マニュアルが変更され、事務所の事故被害率は大幅に減少しました。コレは立派な貢献です』

「まぁ……照明担げる人間はそういないだろうからな」

『そもそも、彼女たちはアイドルですよ?マネージャーが給料貰わないのはおかしな話でしょう」

「ええっ!?じゃあみんな給料貰ってるの!?」

「ええ、貰ってるわよ?」

「まぁ…仕事だもんな」

『ちなみにこのくらいです』

「どれどr……!?」

 

 

ええっ!?嘘!?こんな貰えんの!?マジで!?みんなこんなに貰ってたのか!?

 

 

 

「はぇ~すげぇなみんな」

「でしょ?」

「まぁ普通はそうなりますよね」

『そして零さんの給料はこのくらいに……』

「どれどr……!!!???」

「零くんは~どれ位?ってスゴイ!!」

「ええっ!?こんな貰えるんですか!!??」

『これでも零さんには少ないですよ?』

 

 

コレで少ない!?どれ位かって?そうだな……ドルにしたら上等なアサルトライフル買えるくらい!!

 

 

『では、頑張ってください!』

「はい……頑張ります」

『では』ガチャ

 

「そんなにでしたか?」

「……ああ」

「気になりますね……」

「言えない」

「でもこれで、零くんも事務所入りね」

「千聖、一つ聞いてもいいか?」

「何かしら?」

「あの照明……どうなった?」

「あれなら、飾ってあるわよ?」

「何でだ!?」

「戒めの象徴ですって」

「なんだそりゃ」

 

 

 

 

「そういえば!零くんいつから学校来るの?」

「そういえばそうでしたね!いつからですか?」

「近いうちに行く予定だ。その時はよろしくな?二人とも」

「分かりました!」「うん!」

 

「いいな~」

「そうですね~」

「そうね……」

「んん?何でだ?」

 

「だって、零くんが学校に来てくれたらきっと楽しいと思うから」

「そうです!色々と教わりたいです!」

「零くんなら、何か面白い事を考えそうね」

 

「……そうか?」

「ああー!今いいかもって思ったでしょ!?」

「ええっ!?そんなこと無いぞ?」

「ダメだよ!零くんはうちの学校に入るんだから!」グイッ

「いだだだっ!日菜!腕を引っ張るな!」

「レイさん!やはりこっちに来てください!」グイッ

「あだだだっ!イヴまで!?ちょ、ヘルプ!!」

「「頑張ってください!」」

「ふふっ、楽しそうね」

「おいーーーっ!!」

 

 

 

 

こうして、俺はパスパレのマネージャーにもなった。

これから始まる学校生活は、中々楽しくなりそうだ!!




次回から学校での話になります!!


高評価、コメントをよろしくお願いします!





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第19話 特別入学にて

語彙力の低さを自覚しました…他の方の小説の凄さが改めて実感できますね…

それじゃあ始まります




「……遂に、この日が来たな」

 

 

新たな服装に身を包み、俺は門の前にいる

 

「ここが、羽丘女子学園か…」

 

これから…ようやく人としての人生の第一歩を踏み出せるわけだな

 

 

『零くん。おはよう』

「おはようございます。校長殿」

『殿?変わった言い方だね』

「し、失礼しました!」

(しまった…前の癖がまだ残ってた)

 

『いや、その方が言いやすいのなら殿でも構わない』

「そうですか?では改めて、よろしくお願いします。校長殿」

『よろしくね、零くん。ではついてきたまえ』

「はい」

 

 

 

そこから俺は雑談を挟みながら、校長に少し学校内を見させて貰った

特に雑談は大事だぞ?関係を良くするだけじゃない、その場での情報を聞きやすい環境を自分で作れるからな!

 

 

『ここが教室です』

 

(立派な作りだな…)

 

 

「校長殿。この学校に自分以外の男子はいますか?」

『いや、今のところは君だけだ。不安かな?』

「いえ。知人もいるので大丈夫です」

『それは良かった』

 

 

『その服装はどうだ?』

「……慣れが必要ですね」

『慣れか、君は面白いね』

「そうですか?普通の意見だと思いますけど」

『いや、君と話しているとね。君が年上のように感じてしまうんだよ』

「よく言われます」

 

 

「あの~校長殿」

『何だね?』

「自分は…トイレをどうすれば?」

『それは問題ない、女子トイレの横に新たに作った』

「そうですか…」

(共有とか言われ無くて良かった)

 

 

 

20分程度だろうか、それなりに見て回れたところで校長が言った

 

『さて零くん、そろそろ体育館に行こうか』

「なぜですか?」

『全校生徒に挨拶だ』

「……分かりました」

『用意はいいかな?』

「いつでも」

『では、行こうか』

 

 

裏口からステージ横まで来た、体育館横断じゃダメだったのか?

 

『では紹介するまで待っていてくれ』

「はい」

 

 

 

 

『ですので、皆さんは今後の事を……』

 

「あ~あ、タイクツ~」

「日菜さん…」

「麻弥ちゃん!何か面白いことしてよ!」

「そんなこと言われましても……」

 

「長いよ~もっと短くならないかな~」

「ひまりちゃん、静かに聞かないとダメだよ」

「そうだね~つぐ~。それじゃあおやすみ~」

「おいモカ!寝るなって」

「……暇」

 

「(中々終わらないね……)」

 

「……暇ね」

「早く終わらないかな~」

 

 

 

 

校長話…長い!もうほとんど聞いてなかった……

 

「……まだなのか?」

『零くん、そろそろ』

「あ、はい」

(やっとか…)

 

 

 

 

『それでは最後に、転入生を紹介します』

 

「「「ええっ!?」」」

 

ザワザワ ザワザワ

 

「転入生!?もしかして!」

「きっとそうですよ!」

 

「ええっ!?もう来たの!?」

「ようやくか!」

「そうだね!」

「やっとだね~」

「……やっと来た」

 

「ようやく来たのね」

「やっとか~、楽しくなりそう」

 

「おお!遂にその時が!」

 

『では、自己紹介を』

 

 

ステージから見て分かる、スゲェ数だな!しかも全員女子高生だし……男onlyの次は女onlyか、中々楽しそうだ

 

「ええっ男子!?」 「しかも大っきい!」

 

(なかなかの反応だ。まぁ女子校に男子はおかしいよな)

 

「今日より、この学校に入学しました。「零くんだ!」…絶対やると思った……そう零。神鷹零です。どうぞよろしくお願いします」

 

結局また、ぐずぐずで終わった。

 

 

 

 

 

今日は自己紹介で学校自体が終わった…それだけの為に全校生徒集めたのか?

 

「ああ。締まらないな」

 

「ああっ!零くんだ!」

 

「零くんだ!じゃない日菜。自己紹介くらい言わせろ」

 

「ええ~いいじゃん!もう知ってるんだし!」

 

「そういうことを言っている…もういい」

 

「ああ!零さん!こんにちは」

 

「こんにちは麻弥」

 

「みなさんも、もうすぐ来ますよ!」

 

「お~い!零さ~ん!」

 

「よう!零さん!」

 

「こんにちは、零さん」

 

「こんちは~零くん」

 

「ようやく来たね、零」

 

「おおっ来たなafterglow」

 

「私たちも来たわよ零」

 

「入学したね~零くん」

 

「友希那とリサも来たな」

 

「やぁ零、入学おめでとう」

 

「薫も来たな」

 

 

 

 

「さて、これで今知ってるメンバーは揃ったな」

 

「そうだね~」

 

「他のみんなは花咲川か?」

 

「そうなんです」

 

「……何か偏りあるな」

 

「言われてみればそうですね」

 

「ポピパメンバーは居ませんからね」

 

「まぁ半分くらい居てくれたからよかった」

(顔見知り居ないと不安だからな……)

 

 

 

 

「そういえば、零の制服は新鮮だね」

 

「そうか?どうだ?」

 

「……老けて見える」

 

「何!?」

 

「生徒より、教師ね」

 

「蘭も友希那もひどくないか…」

 

「も~蘭は素直に似合ってるって言いなよ~」

 

「モカっ!」

 

「そうなのか?」

 

「っ!」ゲシッ

 

「痛っ、何でだよ」

 

「二人とも仲いいね~」

 

「そうですね!」

 

 

 

 

「そういえば零さんのクラスはどうなったの?」

 

「それが……」

 

「何だ?どうした?零さん」

 

「クラスが決まってないみたいだ」

 

「「「「ええ?」」」」

 

「しばらく2クラス行ったり来たりだそうだ」

 

「そうなんですか」

 

「まぁどっち行ってもアフグロのメンバーと一緒に居られるな」

 

「そうですね!」

 

「そうだね~」

 

「楽しくなりそう」

 

「ええ~いいな~、あたしも零くんと一緒がいい!」

 

「それは無理だろ…学年違うんだし」

 

「そうだよ日菜、学校が一緒なんだからいつで会えるでしょ?」

 

「そうだぞ?日菜と麻弥もこれまでより関わるだろうからな」

 

「ああ〜そっか!」

 

「そうですね」

 

「 零?どういうことかしら?」

 

「零くんはね〜あたし達のマネージャーになったんだよ!」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

「そうなんですよねー、これで2つバンド掛け持ちになるんだがな。無論!練習はどちらも見るからRoseliaの練習に影響は無い!」

 

「そう…まぁ、練習に影響しないのなら構わないわ」

 

「ホントにいいの〜?友希那」

 

「零が他のバンドにスカウトされるのは、なんとなく予想出来たもの」

 

「まぁそうだよね〜」

 

「そもそも私、あなたからまだ返事を貰っていないのだけれど」

 

「…ああそうだった!マネージャー、するぞ」

 

「遅いわよ…」

 

「悪かった。もうマネージャーの気でいたからな…」

 

「でも~これで零くんが正式にマネージャーになったね~」

 

「そうだな。改めてよろしく頼む。友希那、リサ」

 

「ええ」 「うん!」

 

 

 

 

「……ねぇ零」

 

「何だよ、蘭」

 

「あたしたちも頼んでもいい?」

 

「何をだ?」

 

「マネージャー」

 

「ああ、いいぞ」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

「えっ、ホントにいいの?」

 

「ああ、何かこうなるんじゃ無いかと思ってた」

 

「そうなの?じゃあよろしく零」

 

「こちらこそ、よろしくな蘭」

 

「君は懐の深い人なんだね……零」

 

「そうか?……薫もスカウトか?」

 

「いや、そんなことはない。でも私も、君の指導を受けてみたいと思っているよ」

 

「そうか。いい方向で考えてみるよ」

 

「分かった。いつか答えを教えてくれ」

 

「ああ、必ず」

 

 

 

その後も大分話し込んでしまった……

 

「コレで俺は正式に3バンドのマネージャーになったな」

 

「大変ですな~零く~ん」

 

「モカさんの言うとおりですね……」

 

「零、あなたに休む時間があるの?」

 

「そうですよ!イベントの時みたいに無茶しませんよね?」

 

「……もししたらどうする?」

 

「あんたを無理矢理にでも休ませる」

 

「だな!」

 

「そうだね~」

 

「まぁ、今後は無理しないようにするよう心がける」

 

「それならいいんです!」

 

「あぁ、それが1番だよ」

 

 

 

話すのは実に有意義な時間だと思う。気づけば日は沈みつつあった

 

 

 

「さて!そろそろ帰ろうか」

 

「そうですね」

 

「ええ~もう帰っちゃうの~?もっと話そうよ!」

 

「なら……何処かで続けようか?」

 

「いいの!?じゃあファミレス!」

 

「いいですね!みんな行こうよ!」

 

「おっ、いいね~友希那も行こうよ!」

 

「……しょうが無いわね」

 

「では私も行こう。君の儚い物語を、是非聞かせてくれ」

 

「じゃあ……あたしも行く」

 

「あたしも~」

 

「あたしも!」

 

「じゃあここにいる全員で行くか!」

 

「でも…お小遣いが…」

 

「心配するなつぐみ。今日は俺が奢る」

 

「いいんですか?」

 

「ああ。楽しむときはみんなで楽しもう」

 

「だって!つぐも行こうよ!」

 

「……うん!私も行く!」

 

「よーし!今日はしゃべり倒すぞ!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

 

 

 

 

「んん?何この金額。誰だ?こんなに食ったのは」

 

「ごちそうさま~」

 

「モカ?嘘だろ…」

 

 

 

この日、モカの食費は俺だけでは払えず、結局割り勘となった……




こんな緩い感じで2章を作成していきます!


こんな話が読みたい、という意見がある方はコメントで教えてください!


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第20話  やろうと思ったら忘れる前に








ようやく学生になり、マネージャー(コーチ)になった

まぁ昨日なったばかりなんだがな。これがせーしゅん?なのか?

 

「まぁ、今までの生活に比べれば…大分平和になったからいいか」

 

 

家の中でくつろぐ。この人から見れば何気ない時間さえもが実に有意義な時間であると思える…

 

 

椅子に座り、ハンガーに掛けた制服を眺める

 

(死臭も銃声も無い生活…ここまで良いものだったのか)

 

 

学校は?だと?今日は休日だ。

学生生活2日目で休みってどうなんだ?普通転入して一週間たった時点で今の状態になるのが理想的だと思っていたのだが休みとは…

 

 

「…なんか食うか。」

 

 

 

 

「では早速作ろうか」

 

 

気合い入れて棚を開けるが…問題が発生した

 

 

「……食パン無いんだった」

 

「いや待てよ…沙綾の家パン屋だよな?」

 

「……行くか。商店街」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

“商店街”

 

「やっぱりこういう所が近いと便利だな」

 

前に比べると、やはり賑わってる。というか、こんなに人いたのか…これだけの人が前の一件に協力してくれてたのか?皆優しい人々なのだな…

前と同じ道を進むと、やまぶきベーカリーの看板を見つけた。この店だな

 

 

「こんちちは」ガチャ

「いらっしゃ、おお!零くん!いらっしゃい」

「親父さん!こんにちは」

 

前の一件のあと精神的に安定した事は沙綾から聞いていたが……問題なさそうだな

 

「ちょっと待っててくれ。純!紗南!来てくれ!」

 

少し待つと2人の足音が近づいてきた、足音で分かる、元気そうだな

 

「「どうしたの?お父さん」」

 

「お客さんだよ」

 

「誰?ああっ!零兄!」

 

「零お兄ちゃん!」

 

「おう!2人とも元気そうだな!」

 

「「うん!」」

 

(元気で…笑ってる…本当に良かった…)

 

 

無邪気に笑っている2人。そんな2人を見て俺は、嬉しくも羨ましいという複雑な気分だった

 

 

「それで?今日はどうしたんだ?」

 

「そうでした。食パン買いに来たんでした」

 

「食パンか~」

 

「売り切れですか?」

 

「いや、今から焼けばあるんだが…」

 

「じゃあお願いしてもいいですか?」

 

「結構時間が掛かるぞ?」

 

「構いません。お願いします」

 

「分かった。じゃあ2人と時間潰しててくれ」

 

 

そう言って親父さんと入れ替わりで2人が来た

 

 

「2人とも、あの後大丈夫だったか?」

 

「うん!零兄のおかげだよ!」

 

「それは良かった」

 

 

 

あの一件の後、2人は一時的にだが警察に保護されていたそうだが……はっきり言って警察は当てになるのか不安だからな…だってそうだろ?ストーカーといい万引き犯といい、前の一件もそう、犯罪率が高い。どいつもこいつも刃物を所持している。

スタンガンまでもだ、法治国家で一般人が簡単に入手できるはずが無い。一体どこから入手しているのか…

俺にとって警察の信用はニュースより低いのだ…

 

 

 

「……そういえば沙綾は?」

 

「姉ちゃんならもうすぐ帰ってくると思う」

 

「どこに行ってるんだ?」

 

「お母さんのお見舞いだよ」

 

「っ!……ごめんな」

 

「何で零兄が謝るんだよ!」

 

「そうだよ」

 

「こういう事を聞いた俺が悪いからだ」

 

「俺たちは気にしてないから!」

 

「そうか?」

 

「「うん!」」

 

 

そういえばそうだった。沙綾の母親は病弱だと言っていたことを今になって思い出した……今後は発言に気をつけなければな

 

 

「でも零兄のおかげだよ!」

 

「何がだ?」

 

「最近お姉ちゃんが元気になったの!」

 

「元気に?いつも元気じゃないのか?」

 

「そうじゃないんだよ。何か様子が違うんだよ」

 

「様子が?具体的には?」

 

「最近独り言が多くなった!」

 

「どんな?」

 

「何か分かんないけど…零お兄ちゃんの名前を呼んでるのを見たよ」

 

「俺の名前を?」

 

「あと、この前姉ちゃんが自分で自分の頭撫でてた!」

 

「ええ?大丈夫なのかそれ」

 

「分かんない!」

 

(大丈夫なのだろうか…また何か抱えてるんじゃないだろうな……)

 

そんな心配をしていると……

 

「ただいま~」

 

沙綾が帰ってきたようだ

 

 

「おかえり!姉ちゃん!」

「おかえり!お姉ちゃん!」

「おかえり、沙綾」

 

「うん、ただいま~」

 

 

え?スルーした?そんなに違和感なく溶け込んでたか?混ざってみたら意外とばれないんだな!

 

 

「ってええ!?零さん!?」

 

「気づいてなかったのか?」

 

「全然気づかなかった……」

 

「そんなことあるんだな…」

 

「あら?沙綾。この方は?」

 

「あ!お母さん!」

 

「おかえりなさい!」

 

「ただいま。純、紗南」

 

 

そうか…この人が沙綾の母親なんだな。そう思うと、どことなく似てるな…雰囲気とか

 

「お母さん!この人だよ」

 

「あら、そうだったの?」

 

「そうだよ!零兄だよ!」

 

「あの…」

 

「はい、何でしょう」

 

「沙綾の母親…ですか?」

 

「ええ、山吹千紘です。あなたが零さんですね?」

 

「そうですけど…」

 

「純と紗南を救って頂いた事、そして沙綾を支えて頂いた事。本当にありがとうございます」

「いえ。自分はやりたいことをやっただけです」

 

「そうですか……ふふっ」

 

「どうしました?」

 

「いえ、沙綾が言っていた通りの人だったので」

 

「え?」

 

「お、お母さん!」

 

 

沙綾が言っていたとおりの人?一体どんなこと言ったんだ?

 

「なあ沙綾。なんて言ったんだ?」

 

「ええっ!?それは……言えない」

 

「いいじゃないか…」

 

「言えない」

 

「…だったらこっちも考えがある」

 

「な、なに?」

 

聞けないなら、聞ける人に聞けばいい

 

「なぁ2人共、沙綾1人の時なんて言ってるんだ?」

 

「ええっとね~」

 

「い、言わないでっ!」

 

「じゃあ教えろよ」

 

「卑怯!」

 

「卑怯で結構だ」

 

 

中々言ってくれないな……じゃあ……

 

「しょうがないな……」

「今度はなに?言っておくけど、そう簡単に言う訳にh「また望み聞いてやる」っ!?」

 

 

やはり食いついた。この一言は最強のようだな……

 

 

「だから教えろ、どうだ?」

 

「ええっ!?う~ん」

(またあれを///…でもこれは流石に…)

 

「言えないか?」

 

「…」

 

 

そっからは、ひたすらこれを繰り返した。相手が痺れを切らすまで時間を掛けて…それが交渉というものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺の負けでいい」

 

結局負けた…この空気の中では聞けないと言う事が分かったからだ。引くときはいつも空気のせいだ…空気ってのは恐ろしいものだ

 

「そこまでして言いたく無いなら聞かない」

 

「そう…ですか……」

 

「何でそんな残念そうなんだよ」

 

 

意味が分からない……どうしたら納得したんだ?

 

 

「姉ちゃんと零兄は仲いいね!」

 

「そうね~まるで…」

 

「夫婦みたい!」

 

 

「「夫婦!?」」

 

「夫婦?そう見えるか?」

 

「うん!」

 

「そう見えるわよ?」

 

「そうそう!」

 

 

夫婦……家族になるって事だよな?

 

「……それは…沙綾は嫌なんじゃ…」

(俺と一緒に…生きていく…それは無理だろ)

 

 

「沙綾はそうでも無いみたいですよ?」

 

 

何故か、そんな疑問を持ち沙綾の方を見てみると……

 

 

「ふ、え、なっ!?///」

 

見たこと無いくらい顔を赤くしてパニックになってる沙綾がいた。

 

 

「どうした!?」

 

 

慌てて俺は沙綾に近づく。沙綾は遠ざかろうとしたが、後ろは壁で逃げられない。そして2人の距離は互いの息が掛かるぐらい近くなった

 

 

「どうしたんだ!?やっぱり疲れてたのか!?大丈夫か!?」

 

「だっ……大丈夫じゃ……にゃいです!///」

 

「ちゃんとしゃべれてないじゃないか!」

(どうすればいいんだ!?)

 

 

 

 

「千紘さん!どうしたらいいですか!?」

 

 

そう聞くと千紘さんは

 

「それはね~零さんが解決してください」

 

そう言ってどこかへ行ってしまった……

 

 

「ええっ!?」

「じゃあ零兄、頑張れ~」

「がんばってね~」

「待ってくれ!」

 

 

純も紗南も行ってしまい。俺と沙綾の2人となってしまった……

 

 

 

「沙綾?大丈夫か?」

 

そう言って肩を掴んで揺らしてみる

 

「だい…じょうぶ……ですか?///」

 

「聞いてんのに聞き返すなよ……」

 

 

これはどう考えても大丈夫じゃない……かくなる上は昨日テレビで見た『女性がやって欲しいこと』とかいうのを試してみようか…確か……

 

 

まずは……優しく抱きしめる……だったか?

 

「れ、零さん!?」

 

後頭部と背中に手を回し、優しく抱きしめた

 

 

次は……耳元で囁く……か?まぁやってみるか

 

「なぁ……沙綾……」

「……ふぁい///」

 

 

明らかに声が緩くなった。少しは落ち着いたか?まぁ続けてみよう

 

「無理……してないか?」

 

「ふぇ?」

 

「最近様子が変だって聞いた、大丈夫なのか?」

 

「変……ですか?」

 

「俺の名前つぶやいてたり、自分で自分の頭撫でたりしてたって聞いたぞ?」

 

「っ~~~~~/////!!」

 

 

そう言った途端、沙綾の顔が急に赤くなり小さく震え始めた

 

「沙綾?大丈夫か?」

 

「……///」

 

「沙綾?」

 

いくら呼んでも反応が無い……

 

「沙綾?」

 

「……ないで」

 

「え?」

 

「今…顔を見ないで……ください///」

 

 

そう言って俺の体に顔を押しつけて顔を隠した。そこまで見られたくないのか、がっちり俺の体を掴んで密着させている

 

「沙綾……もしかして……甘えたかったのか?」

 

「……///」コクコク

 

(頷いてるな。まぁそうだよな……弟と妹いて母親は病弱、だから家の手伝いとバンドの練習、やることも多いだろうし……頼れとは言ったが…沙綾は自分から頼りに行く性格じゃ無かったな…)

 

 

「……こうしていたいか?」

 

「……///」コクコク

 

「……頭撫でようか?」

 

「……///」コクコク

 

「……こんな感じか?」ナデナデ

 

「んっ……///」コクコク

 

その後も、質問しては答えて貰うを繰り返し、時間だけが過ぎていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、沙綾は自分から手を放して離れていった

 

「ありがとう……ござい……ます///」

 

「満足してくれたか?」

 

「はい///」

 

「そうか。それは良かった……」

 

「ありがとうございます……零さん」

 

「…『さん』いるか?同い年だし呼び捨てのほうが…」

 

「そうd、だね…。そうするよ、零」

 

 

 

 

 

 

「やっと終わったの?」

「全く……見せつけやがって」

「姉ちゃん嬉しそう!」

「でも顔真っ赤!」

 

 

「ええっ!?みんないつから見てたの!?」

 

「初めからずっとよ」

 

「やっぱり……」

 

「零兄気づいてたの?」

 

「ああ、なんとなくだがな」

 

「前もそうだったな君は!」

 

「でも零くん。仕事はまだ残ってるわよ?」

 

「ええ?」

 

 

千紘さんの目線をたどってみると……

 

「っ~~~~~~!!///」

 

もう何かが爆発するんじゃ無いか、って感じの様子だ。

 

 

 

 

「しょうがないな……」

 

最後の一言、コレが重要って言ってたな……

 

 

俺は沙綾に再び近づき

 

「……また甘えたいならそう言えよ?」

 

耳元でそう囁いた

 

「いいな?」

 

「はっはい///」

 

「よし」

 

 

 

今度こそ問題解決だな!

 

「親父さん、パン焼けました?」

 

「もうとっくに焼けてるよ!君のせいで胸焼けしそうだけどな!」

 

「何でですか?」

 

「……はぁ、もういい。これ受け取って帰りな」

 

袋を受け取った。袋の中身は食パンのようだ

 

「ありがとうございます」

 

 

目的達成!帰ろうか

 

「それでは」

 

「またいらしてくださいね」

「またな~零兄!」

「またね~」

 

「じゃあな、沙綾」

 

「うん、またね///」

 

 

 

 

こうして俺は帰る……

 

「…何故食パンを買ったんだ?」

 

結局俺は、軽食の事をすっかり忘れていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「零さん……///」

 

「まったく、あの子のせいで沙綾が……」

 

「いいじゃないですかあなた。彼なら」

 

「……まぁそうだな。彼なら文句なしだな」

 

「「沙綾」」

 

「な、なに?お父さん、お母さん」

 

「「彼ならいつでも歓迎よ?」だぞ?」

 

「ええっ!?いや、その……///」

 

 

 

『また甘えたいならそう言えよ?』

 

(零さん……)

 

 

もう今は彼のことしか考えられない……

 

彼の言葉が頭から離れない……

 

彼ともっと居たい……

 

そんな感情が沙綾の中で溢れていた

(もっと……甘えよう///)

 

 

 

それ以降、沙綾が零に甘えることが多くなった……

 

あくまでも人前では無く、家の中だけだ……

 

 

 

 




最近ずっと沙綾のことしかか書いてないんですよね……

みなさんは誰とイチャついてるのが読みたいですか?

推しキャラなどのコメントで頂いた要望を最優先で作らせて頂きます!


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血塗れた手に青薔薇を
第21話 その時は、その時


前回(結構前)にお知らせしたとおり、Roseliaの再投稿です。
片っ端から修正していく内に(まだ終わっていない)、また一ヶ月過ぎていた…なので更新不定期を追加しました。タイトルも変えようかな、とか悩んでいる真っ最中です。


※話数のズレや話の食い違い等の問題は分かっているので、報告は不要です。


 学校としての生活にも少しずつ慣れてきた俺は、CIRCLEでの仕事と両立してバンドの練習を見るための時間を取れるようになった。と言っても、俺は音楽に関しては完全に素人であり彼女たちに物を言えるような立場では無い筈なのだが…友希那曰く、「直感でも良いからアドバイスが欲しいの」とのこと。

 

 直感で言う指示が練習の役に立つのかは未だ不明だが、本人達が納得しているのであれば、俺も音楽に関する知識を身につける為に丁度良い機会だと思っている。あまり損得で考えたくは無いが…。

 

 それでも最近、なんとなくだが…前に比べて的確な意見を言えるようになったような【気』がする。あくまでも気がするだけなので大して誇れるようなことではない。そうだとしても、着々と音楽に関して分かるようになってきたのは…こうして彼女たちの演奏を間近で聴けるからこそなのだろう。

 

 

「そろそろ時間か。悪いが今日は帰らせてもらう」

「…そう。今日は随分と早いのね」

「今日はパスパレの仕事もあるからな」

 

 

 パスパレのマネージャー、元い練習補助として事務所に雇われたのは金銭的にも喜ばしい事だが、どうしても物事に対する時間は割かれる。況してやRoseliaとパスパレでは、曲のジャンルや今後の方針が根本的に違うので少々難しいところであるが…多少は慣れたので、そこに関しては経験を積み慣れていく他あるまい。

 

 

「あの…日菜がご迷惑をお掛けしてませんか?」

「人に振り回されるのは慣れている。気にする必要はない」

 

 

未だに日菜には慣れないがな。彼女は特に休憩時間になると、何が面白いのかすぐ腹を狙い突っ込んで来る。元気が良いのは良いが…あの奇行は未だに何なのか分からない。決して悪気があるようには見えないので軽く対応して終わらせている現状である。

 

 

「私たちは、私たちで練習を続けるわよ」

「「はい!」」「ええ」「オッケー☆」

「ではまた今度」

 

 

 

音楽面に関してはこうやって彼女たちと関わりながら身につけていけば良い。焦らず、然れど早く。そんなことを考えながら別れの挨拶をし、俺はスタジオを出て事務所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 零がパスパレに指導している頃、彼女たちは、零に与えられた課題を完遂し息を切らしていた。

 

 

「ふぅ…今日はここまで」

「皆さん、お疲れ様でした」

「お疲れ~」

「つかれた~」

「あこちゃん……おつかれ」

 

 

各々楽器を片付けながら息を整え、片付けが終わると椅子を引っ張り出して円状に並べて座ると、今後の予定を話し合った。

そして話し合いが終わると世間話へと変わり、いつの間にか話の話題は零についてへと変わっていた。素性、生い立ち、己について全くと言って良い程語らないものの、いつの間にか自分達の周りに溶け込んでいる今の零は、実質謎の少年。寧ろそうならない方がおかしいだろう。

 

そして今日、更なる謎を呼ぶ話題がリサの口から語られた。

それは前回の商店街での一件。商店街の人々が全員で探しても見つけることが出来なかった『純』と『紗南』を1人で見つけ出し、更にはその犯人を無力化したというものだった。

 

 

「うーん…。ねぇりんりん。零さんってそんなに強いの?」

「どうなのかな…。私には分からない…かな」

「…ただの噂なのでは?」

「そもそも、零が運動しているところを誰も見たことが無いのよ?証拠も無いのに、そんなこと言われても信じられないわ」

「やっぱり…みんなそう思う?」

 

 

無論それは紛れもない事実。だが当然、そんなアニメや映画の主人公のような話があるのだろうかと彼女たちは疑った。確かに彼は普通の人とは少し違う。だが幾ら人より多少は優れているからと言って、流石に嘘なのでは?と皆はこの話を偶然起きえたものだと決め、この話題についての討論は終わり、彼女たちは各々でライブハウスを後にすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み始め、夕日の温かな光を背に受ける帰り道で私は考えていた。

 

彼は私たちの成長に繋がると思ってスカウトした。その結果、確かに私たちの音色は少しずつ変わり始めている。特に紗夜の音は、最初とは比べものにならないものになり始めている。彼のおかげで、私たちは確実に成長している。

けれど…彼自身はどう思っているのかしら… 

私たちは彼に何もしていない。彼は今でも音楽面に関しては自信が無いと言っているのに…私たちは彼に頼りすぎているわね…。

 

そう考えていたときだった。

 

 

「湊友希那さん、ですね?」

 

 

いつの間にか目の前に立っていたスーツ姿の男性が話しかけてきた。

スーツ姿を目の前にした時点で、用件を聞かなくとも大体の予想は付いていた。それでも一応、用件を聞くことにした。

 

 

「そうですけれど。どちら様?」

「自分は、こういう者です」

 

 

予想通りの展開に、心の中で溜め息を付きながら差し出された名刺を受け取った。

受け取った名刺には目の前に立つ男性の名と、社名が書かれたごく普通の名刺。今まで何度も同じような物を渡されてきたので、またいつものようにこの場で断ろうとした。けれど、今渡された名刺は私の興味を引いた。

 

名刺に書かれた社名は『〇〇プロダクション』。その名は何度も雑誌で目にしたことがある。今活躍している名のあるアーティストの殆どがその会社に所属し、中には『FUTURE WORLD FES』に出場したアーティストも数多くいることから、【〇〇プロダクションに所属すれば『FUTURE WORLD FES』に必ず出られる】という噂も後を絶たない。

 

これまでのスカウトの中で、最も大きなチャンス。

 

けれど私は、Roseliaのボーカルとして、Roseliaの5人でFUTURE WORLD FES(そのステージ)に立つ。それは絶対に変えないと決めた。私だけのスカウトなら大手だろうと断るつもりでいた。

 

 

「誤解を招くかも知れないので説明させて頂くと、我が社がスカウトしたいのは貴方と、貴方が組んでいるバンドの皆様全員です」

「!」

「今すぐ答える必要はありません。数日待つので、決まれば電話でお知らせください。それでは」

 

 

けれど信じられないことに、今回のスカウトはRoseliaというバンドとしてのスカウト、願ってもない提案に私は動揺を隠せなかった。当然よ。今までのスカウトのほぼ全ては私だけのスカウトだったもの。

その後、男性は『数日待っている』と言って帰っていった。

 

 

「(…明日、彼に話すべきね)」

 

 

突然過ぎる大きなスカウトに戸惑いながらも、私は沈み掛けた夕日が照らす道を歩いて家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

学生は一日授業を受けるのは当然、それは分かってはいるものの…最近、分野によっては聞くだけ無駄な気がし始めていた。

 

国語や社会科はほぼ無知であるので必要だ。だが数学や科学は、作戦の立案や弾道の予測、医療品の調合等で必要になると幼少期から叩き込まれてきた。況してや英語など…某国に居続けた12年の内に知らずと習得している。

 

それでも受ける必要があるので、ただ黙って教科書を見ながら教師の話を一応聞く。それが現状の授業態度である。 

 

そして今日の数学も同じように受け、気づけばチャイムの響く音と共に教師が授業を締め一礼して午前は終わった。

 

授業が終わると今日のクラス、A組の生徒達は学食を食べに行く者や友人に会いに行く者が多く、瞬く間に教室はほぼ空。残ったのは先程出された宿題を終わらせようとしている俺と、机に開かれたノートをシャーペンでリズム良くトントンと叩きながら溜め息を吐く蘭の2人だけとなった。

 

 

「歌詞でも考えているのか?」

「うん。そっちは?」

「こちらは宿題を終わらせようと……いや、今終わった」

「…えっ?ホントに?」

 

 

席の横に開いた机を1つ挟んで始まった会話の中、宿題を終わらせたと告げると蘭は疑ったので俺は宿題を終わらせたノートのページを開けて蘭の方に向けると、『ホントだ…』と小さく驚きの声を溢した。

 

 

「零って何でも出来るよね」

「何でもでは無い。出来無いものは全く出来ないぞ」

「…例えば?」

「歴史分野と国語は全くと言って良い程理解できていない」

「そうなの?なんか意外」

 

 

一体俺はどんなイメージを持たれているのだろうか。そんなことを考えながら荷物を片づけていると、教室の入り口から俺を呼ぶ声がしたので入り口の方を確認した、其処にはいつもより真剣な目を向ける友希那が立っていた。

友希那が此処に来るのはかなり珍しいので、何かあったのだろうと予想した俺は無駄な話を省き『何か用か?』と聞くと、『ついてきて』とだけ言い残し廊下へと消えて行った。

 

 

「…何かあったの?」

「分からない。一先ず話を聞きに行く」

 

 

途中で終えていた片付けをすぐに終わらせ、俺はスマホをポケットに入れ友希那を追うため教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那の後について行くと屋上に辿り着いた。扉を閉め用件を聞くと何故か答えるよりも先に周囲を確認し、終えると友希那は余計な話を省きスカウトを受けたと語った。話を始める前に周囲を確認したのは、俺と友希那以外の誰かがいないことを確かめたのだろうか。

 

過去に、友希那だけスカウトされるところを目撃され揉めたことがあったと聞いた。思い違いや誤解を招くかも知れないという心配の上での行動だと考えるのが妥当だ。

 

 

「現状は?」

「今は返答を待って貰っているわ」

 

 

流石にやり慣れていると思わざるを得ない。今までどれだけのスカウトがあったのかは知らないが、それらを全て断っているだけあって冷静な判断だ。だが本人に言わずとも分かるだろうが、決めるのはリーダーである友希那だ。

 

俺は本音を言えば、彼女たちが誤った判断をして取り返しの付かないことにならなければそれでいいと思っている。Roseliaに限っては正確な判断が出来る面々が多いので、余程のことが無い限りは問題ない筈だが。

 

 

「現状については分かった。最も、今後の方針に関しては相談程度しか出来ないがな」

 

 

…大手からのスカウトか。

CIRCLEでの仕事中に聞いた噂だが…Roseliaを結成してから多くのスカウトや勧誘があったものの、友希那がそれらを全てを断った結果、音楽業界からはイマドキ珍しい期待の新星だという目で見られているという噂だ。

言わずとも友希那は理解しているだろうが、良くも悪くも目を付けられているという事になる。

 

 

「スカウトの話について、貴方はどう思っているのかしら?」

「…求めている答えかどうかは分からないが、他の4人と相談したうえで受けるというのならそれでも良いとは思う」

「そう…」

 

「……だが」

 

「?。何か言ったかしら?」

「何も言っていない」

 

 

話が終わりに近づいて来たと思ったその時、次の授業の予鈴が鳴り『この続きは次の練習の時に話しましょう』と言って友希那は先に教室へと戻っていった。

 

 

「(スカウト。か)」

 

 

Roseliaの目指す先、それは『頂点』だ。

この先…彼女たちが業界へと足を踏み入れた後、果たしてどうなるのだろうか。良くも悪くも上に行けば行くほど光は強く当たり、光が強く当たれば当たる程に影も濃くなる。この世の中に綺麗事だけで成り立つ事など無い…彼女たちは今後『演奏の技術』で勝負するだろうが、果たしてこれから先相手にする者達は、()()()()()()()()()()()()()を持つ者達だけなのだろうか…。

 

 

考え過ぎだというだけなら、それで構わない。何にせよ…大手からのスカウトとなれば、素人である俺の指導など必要なくなるだろう…。

 

 

万が一の場合その時は、その時だ…。

 




散々待たせておきながら短くて申し訳ありません…

次回は現在作成中なので待たせるようなことはない…筈です。


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第22話 割れる音

お久しぶりです。

山のような課題の量でモチベなくなりながら地道に書き続けて、気付けば2か月たってました…

【今回はかなり重たい話です】


平日の夕方。この時間帯にカフェテリアを利用するのは、練習しようとCIRCLEに訪れた学生。後は散歩していたら寄りたくなった等の理由で何となく立ち寄った人々。客が多く訪れているように聞こえるが平日なので客入りは大して良くないのが最近、とある問題の原因となっている。

 

 

「…今日も余るな」

 

 

カフェテリアに客が来なければ何が問題となるのか、それは材料だ。

CIRCLEだけなのか、それとも他の店も同じなのかが分からないが此処のカフェテリアは作り置きをしない。衛生面の心配が理由だとオーナーが言っていたとまりなさんから聞いたが、ならば衛生上の心配をなくす設備を買うなりして対策を取れば良いだけだろうと思ったのは言うまでも無い。

 

無論その話はまりなさんにしたが、あの人曰く…『予算がそこまで回らないから無理なんだよ』と即答された。

 

見ただけでは分からないだろうが、CIRCLEは金銭的に余裕が無い現状らしい。そうでなければ、何処の生まれかも分からないような俺を受け入れる筈が無い。圧倒的な人手不足でも何とか商売として成り立っている、意外と赤字寸前で踏みとどまっている状態の店なのだ。

 

だったら何故、材料が余るのか。話を簡潔に纏めると『需要は少ないが、供給が止まらない』からだ。

 

 

特に一番余るのが牛乳だ。乳製品は日持ちが良くないのでどうにかして消費しなければ赤字は目に見えている…どうしたものか。

閉店のために店の中でカウンターをタオルで拭いていると、誰かの足音が近づいてきた。

 

 

「…すまないが、カフェテリアの営業は終わったぞ」

「あー…やっぱり?」

 

 

足音の正体は、ベースを背負ったリサだった。

そう言えば今日スタジオの予約を入れていたな…

 

 

「練習終わりか?」

「そうなんだ〜。結構張り切って練習したし、自分へのご褒美〜と思ったんだけどなー…」

 

 

…言っていることは残念がっているだけだが、言い終わると諦めて帰るどころか、苦笑いしながら腕を組み『どうにかならない?』と訴えかけるかのような

目線をチラッと何度も見せた。

 

 

「………注文したいなら普通に言え」

「あははー…ゴメンゴメン」

 

 

注文されたカフェオレとショートケーキを盆に乗せ、リサの座るテーブルへと持って行き、リサの座る反対側の席に腰掛けた。

なんだかんだ言いながらも特別営業で注文を受けているが、決して顔見知りだからと言うだけの話ではない。ようやく来たお客様相手に少しでも売り上げを出すためだ。

汚いと思うだろうが、それが商売というものだ。

 

 

「あ、このケーキ美味しい」

「そうか。それは何よりだ」

 

 

カフェテリアでも仕事をしている俺だが、正直言って料理の味に関して自身が無かった。

全く無かったというわけではない。まともな食品などあまり食せ無かった紛争の中で生きる為に必要な技術だった、現状一人暮らしなので多少なりとも出来る。

だがそれはあくまでも、俺が食べていくうえでの技術。普通の食事をして生きてきた人達の口に合うかどうか…まりなさん達からは好評だったものの、『お世辞だろう』と思っていた。

 

 

「追加でもう一個ケーキ、頼んで良い?」

「…タダではないぞ?」

「分かってるって♪」

 

 

だがこの時、その心配は無くなってた。

ガールズバンドの中でも特に、料理の腕で右に出る者がいないとまで言われているリサが追加の注文をした。彼女のお墨付きなら料理に関して問題は無いということだ。

 

リサが食し終わったケーキの皿を下げ、追加のショートケーキを再びテーブルに運んだ。

 

…満足そうな顔をし、美味そうに食べている。

 

 

「追加分は要るか?」

「うーん…そうしたいけど、持ち合わせが…」

「追加分は俺が奢る」

「…いいの?」

「ただしその分、話し相手になって貰う」

 

 

この機を逃す訳にはいかない。半ば強引になったが、スカウトの件について聞かせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

「だからこういうのは、なるべく調味料で誤魔化さないようにして~」

「なるほど…」

 

 

今、俺はカフェテリアのエプロンを身に纏いカウンター横に備え付けられたコンロで調理をしている。そして俺の横には、俺と同じエプロンを身に纏ったリサが俺に指導をしている。

 

 

何故そうなったのか。

 

 

最初はお互いにコーヒーや紅茶を片手に様々な話をしていた。バイトで面倒な客が来たことや、最近の授業が難しい等のリサの愚痴に対して俺が意見を発するという、言わば相談から始まり、そこから話が弾んだのか、リサは自身の私生活についての不満や不安も言い始めた。

 

そのことについては、誰であろうとそういった感情はあるだろうと思い、何とも思ってはいなかった。

寧ろ、そういったプライベートについての相談をするということはそれだけの信用を得ているという心境の現れ。実に喜ばしいことだ。

 

そんな話を続いている中、リサが切り出した話が現在の状況へと至った理由となった。

 

 

「そういえば、このケーキって零が作ってるの?」

「ああ、そうだが…口に合わなかっただろうか?」

 

「え?あ、いやいや違うって!ただちょっと意外だなーって」

 

「…どういう意味だ」

「いや…そういうことに興味ないと思ってたから」

 

 

意外だったと言いながらも、困惑するような表情を浮かべることなくケーキを食べ続けるリサに対し、『だったらどんなことなら興味があるように見えるんだ』と言ってみようかと考えたものの、口には出さず、自分で淹れたエスプレッソと共に飲み込んだ。

 

…今更思うのだが、俺がカフェテリアの仕事を請け負う前は誰がここを切り盛りしていたのだろうか。

やはりまりなさんだろうか。…いや、あの人が『私…その…料理とか出来ないんだよね、あはは…』と言っていたのを思い出した。

 

そういえばカフェテリアのカウンター下には売り上げを記録するための用紙がある、俺も仕事終わりには売り上げなどについて書き、保管用のトレーに保管しているがよくよく考えれば、俺が勤務し始める前の記録用紙も保管されていた筈だ。

 

 

すぐに確かめるため椅子方立ち上がり、カウンターへと向かった。

店の中に入り、カウンター下の保管用トレーを空け用紙を取り出す。新しい紙を表紙にホッチキスで留められている用紙にしゃがみながら目を通すと、予想通り俺が勤務し始める前の記録が残っていたものの、名前は書かれていなかった…。

 

 

「結局分からず終いか」

「何が分かんないの?」

 

 

用紙に向けていた目線を声がした方へ向けると、カウンターの店外側から身を乗り出しこちらの様子をうかがっていた。

用紙のケースだけを保管場所に戻し立ち上がると、右手を腰に当て『何も言わないでどっかに行くのは酷くない?』と怒りながら、左手に持った空のコップを俺の方に差し出すと『アイスティー、おかわり』と付け足した。

 

軽く謝罪し受け取ったコップにアイスティを入れ直していると、『うわ…』というリサの声がした。

目線を向けると、リサは俺が先程まで見ていた売れ高の記録用紙に目を通していた。『見ていて面白いようなものではないぞ』と言いながら入れ直したアイスティを手渡すと、リサは深刻そうな表情でこちらを見ながらアイスティを受け取った。

 

 

「赤字なんだ…」

「もともと客足は伸び悩んでいたそうだ。まりなさん曰く、ガールズバンドが練習に来るようになってから客足は伸びたらしい」

 

 

最近CIRCLEの知名度が上がったとまりなさんが言ってはいるが、売り上げを見ると正直そうは思えない。俺はこういった流行などに対しての知識は皆無だ。大体、未だにこの生活に慣れていない。

先に話したとおり、具体的な改善法が結局分からず終いのため、首の皮一枚繋がっている程度なのだ。

 

 

「ねぇ零。提案なんだけどさ…」

「何だ?」

 

 

「もしよかったら、アタシが料理について教えてあげる」

 

 

赤字を記録した用紙を見て何思ったのかは分からないが、リサの提案を受け現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

「零は思ってたより手際が良いねー☆」

「そうか?」

「これなら時間短縮にもなりそう♪」

 

 

再びカフェテリアのエプロンを纏いまな板で野菜を切る俺の横で、貸したエプロンを纏うリサが包丁の腕を褒める。

…あまりいい気はしない。食材を切り続けた結果として包丁の腕を上げたのではなく……人を殺める為に鍛えられた腕だからな。それが偶々、良い方向に転んだだけだ。

 

 

その後も何気ない会話が続いたが、彼女のある一言が空気を変えた。

 

 

「零は…スカウトのこと、どう思う?」

 

 

その言葉に先ほどまでの明るさはなく、声色から困惑と不安が感じ取れる。前向きな思考を持つリサでも、やはり迷っていた。

 

 

「リサはどうなんだ?」

「……いい話かなって思う。今まで聞いたスカウトは全部…友希那だけだったからさ…」

「今回は全員だから良い、と?」

 

「……誰かが抜けることを避けられるなら。またRoseliaが無くなるようなことにならないなら……良いと思ってる。こんなの、我儘なのは分かってるけどさ…」

 

「…そうか」

 

 

……リサはリサなりの考えがあった。だがそれは傍から聞けば我儘だ。

だが俺はそうとは思わなかった。身近にいた人物、それが幼少期から知っている幼馴染みなら、何処かに行かないようにしたいと思うだろう。

 

しかし事務所にRoseliaとして所属したとして、果たして誰も抜けずに続けられるのだろうか。

肩書きとはいえ俺はRoseliaのマネージャー、業界については色々と漁ってはいるが…何もかもが全く変わらずに続いているバンドは存在しない。

況してや、現時点で芸能界に目を付けられている()()()()組んだバンド。友希那の人選に狂いは無い、故にそこが大きい。

 

 

「……カナダの五つ子姉妹の話を知っているか?」

 

 

ただ俺の意見を話したところで効果は薄いと判断した俺は、炒め物をしていたコンロの火を切ったカチッという音の直後にそう質問した。

 

 

「…知らないけど?」

「リサは今、俺に料理について教えた。今度は俺がリサに教える」

「……何を?」

 

「…心理学について」

 

 

このようなことを教えるのは適切な判断では無いことは理解している。だが少なくとも、いずれは知らなければならない。思い知らされなければならないことだ。

本当にそれが正しい判断なのかと迷う自分にそう言い聞かせながら、出来上がった料理を皿に盛り付け、エプロン姿の俺とリサの2人で試食するためにテーブルへと運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

カナダの五つ子姉妹は実在した人物達だ。

 

事実を掻い摘まんで説明すると、世界恐慌の最中で、奇跡と呼ばれる程の確立で産まれてきた5人の姉妹がいた。

しかし五つ子の両親は経済的に育てることが厳しくなることを予測し、頭を抱えた。

そこから五つ子の人生は狂った。

金銭のことを考えた結果、両親は「五つ子を万博の見世物にする代わりに契約金を受け取る」という書類にサインした。すると人道的見地から見過ごせないと州、即ち国が動いたものの、結局は金儲けのために両親を言いくるめ親権を剥奪し、更には五つ子を奪われないように後ろ盾()を用意した。

 

数年後に両親の元へと帰ることができたものの…我が子を思い、子供を返して欲しいと訴え続けた両親さえもが、五つ子を()()()()()金稼ぎのしか見なくなった…

 

 

「最終的には自由を手にしたものの、五つ子は其処まで辿り着くまで多くのものを失った。という話だ」

「…」

 

 

話が終わる頃には試食のため運んだ互いの料理の皿は空になり、再び注いだアイスティーの氷は溶けきった。タイミングを見計らい、少し味が薄くなったアイスティーを流し込み始めるとリサは口を開いた。

 

 

「何で今その話をしたの?」

 

 

不満げにリサが口にしたのは、もっともな意見だった。

このような話は不安を煽るだけの、決断を惑わせるような話だということは十分に理解しているつもりだ。だからだ、今だからこそこの話はするべきだろう。

 

 

「今の話を聞いてどう思った」

 

 

飲み干したコップをテーブルに置き、改めてリサの目を見てそう言った。

 

 

「リサ…俺は何も、スカウトを受けなるなとは言わない。俺の立場は所詮肩書き。今後の方針に沿って様々なことを決断するのはリサ達だだがな、今回の件については話が別だ」

 

「…どういうこと?」

 

「FWFに出場するのが目標だということは分かっている。Roseliaとして、5人揃って出場することが重要なのだと言うことも分かっている。その目的を果たすために事務所に入るのも納得がいく…だが俺は思う。何かを成す為には必ず、何かしらの組織に入らなければならないのだろうか?。事務所所属という肩書がなければいけないのだろうか?」

 

「それは……」

 

「……何故この話をしたか分かるか?。五つ子の話の本当に恐ろしい話、それは何だと思う」

 

「…それは……ゴメン、分かんない」

 

「この話の一番の恐ろしさは、五つ子の人生がどれだけ過酷且つ残酷な一生になるのかを、誰も予想しなかったということだ。五つ子を育てたのは、利用すれば金を稼げるという欲望に満たされ家畜のように扱う者、そして唯一救えるであろう者たちは、自分は良いことをした、五つ子を守ったんだというありもしない正義感に溺れた。結果として誰1人、五つ子のことを()()()()()救おうと思った者はいなかった」

 

 

 

「……問題の発端となるのは、人の欲。この世には目的を果たすためなら手段を選ばないというどうしようも無い連中が山ほどいる。事務所に所属するということは、そういった奴らの要求を呑まなければならないと言うことだぞ。例え…自分達が望まない、やりたくないことだったとしてもだ」

 

 

 

話し終えた頃、リサは完全に黙り込んでいた。今後のことで悩んでいた彼女にダメ押ししてしまっただろうかと思ってしまったが、焦りで物事を決め最悪の結末を迎えないようにするための忠告なったはずだ。

 

それでも言い過ぎたのではないかと思った俺は、「…もう一度、考え直すべきだと俺は思う」と付け足し、空になった2人分の皿を洗うため席を外した。

 

 

 

 

 

 

 

零が席を外したことで一人となったリサの頭の中では、先程の零の話の一部が響いていた。

 

 

『何かを成す為には必ず、何かしらの組織に入らなければならないのだろうか?』

 

『この世には目的を果たすためなら手段を選ばないというどうしようも無い連中が山ほどいる』

 

 

話を聞いていてリサが思ったこと、それはその言葉に重みがあったということだった。

何を聞けるのかと思っていざ聞いたのは、決していい話ではなく、想像もしたくないような残酷な話と、耳を塞ぎたいと思ってしまうほどのキツイ言葉。

 

それでもリサは聞くことを辞めなかった…否、正確に言えば辞めようと()()()()()のだ。

 

 

 

 

 

「(言われなくても、分かってるよ…)」

 

 

何故ならリサの本心は…事務所に入ったからといって全て丸く収まるとは思っていない。いっそのこと事務所に入らず現状維持、何処にも所属せず今のように続けていきたいと思っていた。

自身の考えは間違っていると思い始めていたリサは、この考えは間違っていないという確信を持ちたかった。だから辛くても聞き続けた。零が同じことを考えているのならきっと助けてくれると思ったからだ。

 

だがリサは、その本心を零に言うことが出来なかった。誰しもが持つ感情が、彼女を縛っていたからだ。

 

 

「(でもっ!…また……前みたいにはなりたくないっ!)」

 

 

リサを縛っていたのは、恐怖。

時が経つ毎に離れていった幼馴染である友希那との関係を取り戻したい一心で今まで頑張っていた彼女にとって、友希那と意見で対立するということは、絶縁の可能性が生まれてしまう最も避けなければならない行動だと思ったからだ。

 

しかし本当にそれでいいのだろうかとリサはリサ自身に問いかけるものの、本心と恐怖のどちらかを選び、切り捨てることが出来るほど人は…リサの心は強くなかった。

 

考えるたびに頭痛が起こり、呼吸が荒くなる。もしも絶縁という最悪の言葉を口にされたら、もしもまた前のような関係になってしまったら…そんなあるかどうかも分からない不安と恐怖を抑えるように、リサは自身の肩を抱き、うずくまってしまった。

 

 

 

…リサは気付いていなかった。

 

テーブルに置かれた自分のスマホに、『大事な話があるからまた連絡するわ』と、友希那からのメッセージの着信が来ていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして零はカウンター内の食器棚に皿を戻しながらその光景を見ていた。そして片づけ終えようと最後の皿を掴んだ時、カウンター内で小さな音が響いたことに零は気付かなかった。

音が響いたのは、リサがうずくまってしまった数秒後。

 

 

響いたのは、『ピキッ』っという()()()()()()()音だった。

 

 




話の内容は考えているものの、書く暇がなくて更新できない悪循環から抜け出せず更新が遅れるかもしれませんが、失踪する気はないので気長に待っていただけると助かります…

それではまた、次回を気長にお待ちください…


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第23話 焦る感情、迫るその日

お久しぶりです。初期の話を空いた時間に書き換えてました。(けど全く終わってない)
約一年ぶりの投稿でいろいろおかしなところがあるかもしれません…


零とリサがスカウトの件について意見を述べていた頃。友希那はとある場所へと足を運んでいた。そこは以前、スカウトの話を話していた光景をあこと燐子に目撃されらあの場所だった。友希那にとってもあまりいい記憶があるような場所ではない為、此処への足取りは重かった。

 

中に入り空いた席に座り、しばらくすると入り口の方から1人の男性が来た。スカウトの話を持ち掛けてきたスカウトマンだ。「お待たせしました」と一礼し友希那の向かい側に座るスカウトマンに対し「いえ」と返す友希那。

 

互いに顔を見るや否や、スカウトマンはすぐに話しを始めた。

 

 

『決めていただきましたか?』

 

「……いえ。まだ…」

 

『…何度も申し訳ありませんが、そろそろ決めていただけないでしょうか?』

 

 

今回のスカウトの内容は友希那にとっては申し分ない内容だった故に、断ろうかどうかと踏ん切りがつかない状態だった。友希那本人とて、目標であるFWSへの道のりは遠く険しいものだと分かっている。そのため、多少は苦労を減らしたいとは少なからず思ってはいたのだ。

 

友希那の実力と見る目は確か。だが所詮は社会を知らない学生故、今後どうしていけばいいかという目標や志はあるものの、これからどうしていけば良いのか具体的なことは綿密には決まっておらず手探りの状態。それでも自分個人では無く全体、即ちバンドとしてのスカウトは願ってもない話。

 

どうしようかと今の今まで悩み続けた友希那は、1つの質問をスカウトマンにした。

 

 

「1つ。聞いてもよろしいでしょうか?」

『何でしょうか?』

 

 

「……私の父親をどう思っていますか?」

 

 

今までスカウトの話を持ち掛けられ、そこそこ話が進むと友希那は必ずこの質問をした。彼女自身が音楽に興味を持ち始めたキッカケであり、今の彼女の心残りである友希那の父は名の知れたバンドマンだった。しかし友希那の父は【曲を強要】FWSのステージに立つことは無く、その後解散を発表した。

 

ステージにも立たずに解散を発表。当然ファンは事情など知らない、友希那の父とバンドメンバーを批判する者は多かった。

友希那にとって、それが自身のことのように腹立たしくてたまらなかった。

 

そして友希那は誓った。父親に代わり、必ずそこに立つと。

 

 

 

 

質問されたスカウトマンは目を見開くと、ハッキリとした声で答えだした。

 

 

『貴方の父親のバンドは素晴らしかった。技術で人を魅了し、その歌声は聞く人々の心を熱くしました。貴方が我々と共に結果を出せば、貴方の父親をもう一度ステージに立たせることが出来ると確信しています』

 

「!。……そうですか」

 

 

今までのスカウトでは皆が同じような返答をした。

『貴方は貴方の父親よりも…――――』と。

 

友希那にとってその返答は「父親なんか」と言われているような、その技術を認めていないと言っているような腹立たしさがあり、そこも含めスカウトを断り続けてきた。自身が誇る父親を認めないような者達と共に進んでいこうなど、意見の食い違いがいずれ起ると予想したからだ。

 

この質問は友希那にとって重要な質問であり、今この瞬間、友希那の中で曖昧だった考えが纏まった。

 

 

 

――この話は受けても良いのでは。と

 

 

「今回のスカウトについて、もう少し聞きたいのですが」

『でしたら明日、再び此処で、今度は皆様揃ってお話ししましょう。』

 

そして彼女は流れに乗っているのか、流されているのかが自身の中でも曖昧なまま話を進めた。

だがこの時、またとない機会を目の前に徐々に焦りを覚えてしまい、冷静さを失い始めていることに彼女自身は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

蹲っていたリサの肩を揺らし声を掛けると会話をしていた時と比べると明らかに顔色が悪かったので、彼女の家路に付き添うことにした。

 

「本当に大丈夫なのか?」

「うん…。わざわざごめんね。鞄まで持たせちゃって…」 

「俺のことより自分の身体に気を配った方が良い」

 

 

 

日が沈み、辺りが暗闇に包まれた歩道に街灯の光が照らす道を並んで歩く。少しでも負担を減らすため、俺はリサの鞄を持って歩いている。

 

 

薄々分かってはいたが、リサは事務所に所属することに対して思うところがあるようだ。それだけならまだ良かったが……リサは友希那のことを優先して考え過ぎている。幼馴染みの存在がどれだけ大きなものなのか、俺にはそれが分からない。それでもここまで悩んでしまうのは…良くも悪くも、リサの優しさが理由だろう。

 

面倒見が良いという性格の人物は、相手を尊重し自分を後回しにすることが多いと聞く。リサは特にその傾向が強く、さらに幼少期からの付き合いである友希那の話となればどちらを優先したくなるのかは、関わりを持って間もない俺でもすぐに分かってしまう。

 

 

「…少し寄り道しないか?」

「…そうだね。うん」

「行き先の希望は?」

「…零に任せるよ」

 

 

 

寄り道とは言ったものの、未だ土地勘がない俺は知っている道を行き来し続け、道中見つけた小さな公園を終着点とした。連れまわされたからか少し疲弊しているリサをベンチに座らせ、自販機でペットボトルの水を2本買い、ベンチに座るリサの元へと戻った。

 

 

「少しは気が紛れたか?」

「アタシの気のせいかな?…同じような道をグルグル回ってた気がするんだけど?」

「適当に道を歩いていたからな。それでも気晴らし程度にはなっただろ」

「それはそうだけど…。だからって女の子をここまで歩かせるのは感心しないな~?」

 

 

調子の戻ったように見えるリサは、先程までとは違い、僅かに明るさを取り戻した笑顔でそう答えた。だが感心しないと言う割には疲れているようには見えないが…部活でもやっているのだろう。

 

その後も何気ない話をした。カフェテリアでも似たようなことをしていたが、内容は先程よりも深い部分であろう人間関係について聞くことが出来き、その話の中には興味深い内容、友希那とリサの過去についても聞くことができた。何故リサが友希那の意見に強く反対することができないのかもその話で大体の予想がつく。

 

 

「リサ」

「ん?」

「改めて聞くが結局のところ、リサはどうしたいんだ?」

 

 

友希那に反論することができないと分かっても、何もせず黙っていられるとはとても思えない。どれだけ相談を受けようが、どれだけ解決策を見出そうが、結局リサが動かなければ変化は起きない。

 

 

「誰かの考えに対して反対意見を述べるのは簡単ではないのは分かる。友希那との関係が崩れるようなことになりたくないというのも理解はできる。だが、自分の意見を口にせず相手の意見を尊重しすぎるのは優しさとは言わない」

 

 

その言葉を聞いたリサの表情は再び沈み、手に持っているペットボトルは強く握られていた。

 

 

「でも、また前みたいになるって…考えちゃうんだよね」

 

「大きく変われとは言わない。だが本当に友希那のことを、隣で支え続けたいと心の底から思うのなら、時には先に行こうとする腕を掴んで強く反対することも、優しさの形だと俺は思う」

 

 

相談に乗るとは言ったが、今の俺がどれだけ語ろうと結局は気休め程度の発言しか出来ない。だが今は俺の方から話をして、恐怖から来る不安を紛らわせることくらいはできるはずだと思った。

関係の薄い俺には大したことはできない。ならばどうするか、俺は思考を巡らせ出した答えをすぐに実行に移した。

 

 

「スマホ、借りてもいいか?」

「?。いいけど…変なことしない?」

「俺がすると思うか?」

 

 

渋々取り出したものの、手渡されたスマホを借り、電話帳に俺のスマホの番号を入力した。スマホを返し、今度は俺のスマホにリサの番号を登録した。

 

 

「何かあれば俺が聞く。何でも答えられるわけではないが…それでも愚痴程度ならいつでも」

「……やっぱり零って変わってるよね」

「…嫌だったなら謝る」

「いいよ。心配してくれてるって分かったし」

 

 

やはり俺は変わっているのだろうか。苦笑いされたので誤った行動を取ってしまったのかと思ったが、本心か気を遣ってかは分からないものの、何とかリサの精神的逃げ道を築けた筈。恐らくこれから一番苦労するのはリサだ。これから各々で成長していく中で、リサは手助けをしようとすることはほぼ確実。そうなった際のリサの負担は減らせるように何かしらの準備をしておいたほうがいい

 

 

「後輩は先輩がいて成り立つ。逆も又然りだ。少なくともこの一件が終わるまでは好きなように俺の電話番号(先輩の特権)を使って貰って構わない」

「なーんか言い方が気になるけど…。オッケー♪。困ったら頼りにするから、零も困った時はアタシに頼ってね?」

「そうさせて貰う」

 

 

リサとの連絡網を築いたから何かあれば連絡は来るはずだ。寧ろ来て貰わねば今連絡先を交換した意味が()()()()()()()()()()()()()()

……いや、相談を聞くことを目的とした連絡先交換なので、意味が無くなることは無いか。

 

現時点で考えるべきは、相手を疑うべきだろうかということだ。

 

ハッキリ言って疑いたくはない。疑心暗鬼になりながら生きていくような面倒な生き方はもう勘弁だ。だがこうも話が進んでいくものだろうか、大手の事務所とはいえ、不自然なくらい話の進み方が異常だと思うのは俺の無知故か、それとも本当に異常なのか。

 

どちらにせよ、友希那と話をする必要があることに変わりはない。

 

 

「一つお願いしてもいい?」

「何だ?」

「友希那の話を代わりに聞きに行って欲しい。……今のアタシじゃ、多分反対とか出来ないから…さ」

「…それが本音か?」

「…うん」

「分かった」

 

本当はリサが友希那に直接一言言えればいいのだが、今は仕方がない。俺一人で行くとしよう。

 

飲み終わったペットボトルをゴミ箱に投げ入れた後、鞄を肩に掛け、『何かあれば連絡する』と最後に付け足し、俺は目的の場所へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサは?」

「リサは急用らしく、代理を頼まれた」

 

 

公園でリサを待っていた私はその言葉を聞いて驚いた。何かあって会えない時はいつも電話で聞いてくるのに、リサが代理を頼むなんて…。いつの間に仲が良くなったのか、そんな疑問が過ったけれど、重要なことは別にあるからとすぐに切り替え、スカウトの話について零に話した。

 

 

 

「少し待て」

 

「何かしら」

 

「…都合が良すぎるとは思わないのか?今の話だと明らかに怪しい。スカウトが数日前で1週間待つと言っておきながら、明日には今後についての打ち合わせをすると言っているんだぞ?」

 

 

何も焦ってなどいない。これから先で私たちが不利にならないようにするための提案だというのに、考えが甘いと言わんばかりに私の意見を批判する零に対して不満を募らせていた私の感情は爆発した。

 

 

「だいたい貴方に何が分かるの!? 私はこの機会を逃す訳にはいかない! 今度は以前のようには行かないわよ!」

 

 

感情的になった私の右腕は、彼の意見を振り払うかのように強く横に振っていた。後ろ髪が腕の勢いで揺れた感覚が背中を伝わり、どれだけ力強く振ったのかを実感した。

 

 

「分かっていないのは俺だけか?」

 

 

怒りを露わにした私とは裏腹に、彼は特に驚くこともなく冷静にそう答えた。

彼の目はいつもより冷たく、まるで鏡に写った過去の自分を見ているかのようで、私の感情はますます高まっていく。

 

 

「……なんですって?」

「決めるのは友希那だ。だが焦って決めるようならもう少し期間を置いてからでも遅くはないはずだ」

「……期限は迫っているの。このチャンスがどれだけ大きなものか貴方は分かってない!」

 

 

間違ったことなど言っていない。自分と気が合う事務所などこれから先、またスカウトされる機会が来るかどうかなど分からないし、ここまで好条件は滅多に無い。どのみち事務所には所属しなければならなくなるのだから早いほうがいいはず。

 

そう思ったから私は、零を説得するため強く言った。

 

 

零は黙り込み、目を閉じると静かに口を開いた。

 

 

「友希那の言うとおりだ。俺は音楽経験の無い素人であって、どれだけ俺が批判しようとも参考になどなるはずがない。マネージャーなどと言っているが、所詮は肩書きだけのハリボテだからな」

 

 

 

「貴方は、Roseliaに全てを賭ける覚悟はあるのかしら?」

「元よりあるつもりだ。…だが、面と向かって言ったことは無かったな」

 

「改めて言う。俺は全てを賭ける覚悟を持っている。文字通り、全てだ」

 

 

私の質問にすぐに答えた零は、嘘をついているとは思えない目をしていて、心なしか、全てが強調されて聞こえたような気がした。

けれど、音楽に対する覚悟の強さは私の方が上に決まっている。

 

絶対に譲るつもりはない。そう言おうとした時、私よりも先に零が口を開いた。

 

 

「分かった。俺も疑い過ぎたことは認める、謝罪もする。ただ諄いかも知れないがもう一度言う、今の友希那は見るべきものを見落としている」

 

 

それはどういう意味かしら。そう聞こうとした瞬間、零は私の元へ歩き出してそのまま横を通り過ぎて、私の後ろで話し始めた。

 

 

「自分で考えろ。深く考えずともすぐに分かる筈だ。それと、リサから伝言を預かっていた。伝えようかと思ったが、今の話で気が変わった。リサには悪いが、内容は直接聞け」

 

 

そう言うと零は再び歩き出した。伝言が何だったのかを今教えるように言うことは出来ず、闇夜へと消えていくその後姿を、私はただ眺めることしかできなかった。

 

気づけば、街灯に照らされた夜の公園で一人佇んで、さっきまでの会話を思い返していた。

 

全てを賭ける覚悟。

それは今まで何度も口にしてきた言葉であり、これから頂点へと昇り詰めていく私たちに必要なもの。

 

そしてその言葉は自分自身にも言ってきた言葉でもある。

一度は失敗したけれど私は、私たちは乗り越えた。例えこの選択が…もし誤った選択だったとしてもまた乗り越えてみせる、私にはその覚悟があるもの。

 

 

 

このチャンスを必ずものにしてみせる。その決意を胸に、私は家に帰った。




初期の話を書き換えたい(特に一番最初…)
次回は来月中に投稿を目指します。

それではまた、次回を気長にお待ちください…


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彼女たちとの交流①
第29話 着ぐるみ少女の苦労


予告通りほのぼのを書かせて頂きます…
シリアスは、現在ネタ切れです…


 人とは必ず得意不得意がある。それは人間誰しもそうであり、それが個性というものだ。当然俺にも不得意はある。

 まぁ……そんなこと言うと必ず『そんなことあるの?』と聞かれるのが……

 

 とにかく、俺は今その不得意で悩んでいる。それは……

 

 零「……はぁ」

 蘭「またため息……今日何回目?」

 零「さあな……」

 ひ「もう! 少しは笑ってよ!」

 零「それが出来たら苦労しない」

 

 笑うことだ。

 

 

 午前の授業が終わり、俺はアフグロのメンバーと屋上に居る。最近はここで皆と話しをするのが昼休みの日課となっているからな……

 

 

 モ「れい君元気ないね~」

 巴「最近ずっとそんな感じだよな」

 つ「また無理してないよね?」

 零「前よりは無理はしてない」

 ひ「前よりじゃなくて無理しないの!」

 零「しょうがないだろ……リハビリしないと体が上手く動けないし、少しでも早く元の状態に戻さないと……」

 蘭「そんなに焦るようなことなの?」

 零「当然だろ?」

 巴「何でだ?」

 零「動く時に動けないと駄目だろ」

 つ「それって……」

 ひ「どんな時?」

 零「どんな時って……そりゃ~……あー……」

「(危ない……またいつもの感じで話す所だった……)」

 

 

 昔の事は誰にも言えない。が、偶にボロを出して言ってしまう時が最近になって多くなった気がする。彼女たちを心から信じ始めた証拠なのか、自分が平和ぼけし始めたのか。どちらかは分からないが……また気を引き締め直さなければな……

 

 

 蘭「ねぇ零」

 零「何だ?」

 蘭「また抱え込んでない?」

 モ「ええ~。それを蘭が言っちゃうの~?」

 ひ「そうだよ! 蘭も零くんのこと言えないよ!」

 零「そうなのか? 何でだ?」

 巴「それは言えないな~」

 零「じゃあ聞かない」

 蘭「……いいの?」

 零「誰にだって聞かれたくない事はある。聞かれたくないなら俺は聞かない」

「(それに……俺は彼女たちに俺個人のことを何も教えてないからな……)」

 

 

 つ「でも……本当に無理してないよね?」

 巴「本当に大丈夫なんだよな?」

 零「う~ん……自分でも分からん」

 ひ「何で?」

 零「メンタル的なことは良く分からないから……」

 モ「少しは緩くなったら~? モカちゃんみたいにさ~」

 零「じゃあモカを基準にすればいいのか?」

 つ「それは……その……」

 ひ「モカは……基準にならないかな……」

 モ「ええ~。つぐもひーちゃんもひどいよ~」

 巴「まぁモカが言いたいことは分かるけどさ!」

 零「どういうことだ?」

 巴「要するに、零はもっと肩の力を抜いたらどうだ?」

 零「なるほど。まぁ……やってみる」

 

 蘭「そろそろ授業始まるんじゃない?」

 つ「そうだね。そろそろ戻ろっか」

 巴「モカはまた寝るなよ?」

 モ「それは出来ないかな~」

 零「じゃあ俺も寝るか」

 ひ「2人とも寝たら駄目だよ!」

 零・モ「ええ~」

 

 そんな緩い会話をしながら、俺は考え方を改めようと思い始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈放課後〉

 

 俺は、また悩んでいた……

 アフグロのメンバーから助言を受けたはいいが、肩の力を抜く……そんなこと今までやったことがない。どうすればいいのか分からず……ただただ道を歩き続けていた。

 

 

 零「(気を抜く……どうやるんだ? 今まで俺は人の上に立ち、多くの人間の命を背負って生きてきた……。そんな俺が気を抜くなんて……それは全員の死を意味する。森田たちはどうやって生き抜きしてた? 

 ……酒だったな。だが未成年者は法律上酒飲めないんだよな? じゃあ意味無いな……)」

 

 

「零さん?」

 

 

 誰かに俺の名前を呼ばれた……振り返り誰なのか確かめる。そこにいたのは……

 

 

 零「美咲……」

 

 制服に身を包み、夕日を背に立つ美咲だった

 

 零「何で此処に?」

 美「零さんこそ、どうして学校の近くに居るんですか?」

 零「ええっ!?」

 

 見渡すとそこは、うちの学校の近くでは無かった……

 

 零「気づかなかった……」

 美「もしかして……迷子ですか?」

 零「いや、そんなことは無い。考え事して歩いてただけだ」

 美「本当ですか?」

 零「何でそんなに疑うんだよ……」

 美「花音さんも偶に同じ事を言ってるんで……」

 零「花音が? だからって……と言うか花音は迷子になるのか?」

 美「……かなり」

 零「そう、なのか……」

 

 零・美「……」

 

 会話のネタがすぐに尽きた……

 

 零「(この場合……どうしたらいいんだ?)」

 

 美「零さん」

 零「な、何だ?」

 美「少し……話しませんか?」

 零「あ、ああ。そうだな」

「(会話のネタ……これからは用意しておくべきだな……)」

 

 

 

 

 

 2人で話しをするため、近くの公園にやってきた。誰も居ない公園のベンチに腰を掛け、自販機で買った飲み物の蓋を開ける。蓋の開く音が公園に響き、飲み物で喉を潤した後、話し始めた

 

 零「それで……話ってなんだ?」

 美「その……まずは、この前のお礼を言いたくって」

 零「この前……でもそれって……前に言ったよな?」

 美「前はこころ達が居たから……今度はちゃんと言いたいんです」

 

 そう言って美咲は俺の前に立って

 

 美「零さん。妹を助けてくれてありがとうございます!」

 

 頭を下げお辞儀した

 

 零「……ああ。妹を大事にしろよ」

 美「はいっ!」

 

 

 ベンチに座り直した美咲は、話しを続けた

 

 

 美「それで……その……」

 零「何だ?」

 美「あたしの話を……聞いてくれませんか?」

 零「ああ。どんな話しでもいいぞ」

 美「実は……」

 

 

 そこからの話は……いわゆる愚痴ってやつだった。特にこころとはぐみと薫の3人がやりたい放題で、それをまとめるのが疲れるって話しだった……

 

 

 美「そしたらまたこころが……ってごめん」

 零「え? 何がだ?」

 美「あたし愚痴しか言ってないから……」

 零「いや。全然良いぞ? 今のうちに言いたいことは言っとけ」

 美「……ホントに? いいの?」

 零「ああ」

 美「じゃあ……遠慮無く……」

 

 

 そこから先、愚痴はずっと続いた……

 

 美「……」

 零「どうした?」

 美「なんか……恥ずかしくって///」

 零「何が?」

 美「その……誰かにこんなに愚痴を聞いてもらったの初めてで」

 零「そうか……」

 

 今の話でなんとなくだが……俺と美咲は、少し似てる気がした

 

 零「なぁ美咲」

 美「なんですか?」

 零「美咲はこころ達の事、どう思ってるんだ?」

 美「それは……なんだろう。考えたこと無かった……」

「あたしは……こころに無理矢理メンバーにされたし……あの3バカは未だにあたしがミッシェルだって分かってくれないし……でも……」

 零「嫌いになれないんじゃないか?」

 美「そうですね……なんだかんだ言って、あたしは楽しんでますね」

 零「……そうか」

 

 美「零さんは?」

 零「ん?」

 美「話したいこと、ない?」

 零「そうだな……妹さん元気か? 今度会いに行こうかと思ってるんだが」

 美「ホントに? きっと喜ぶと思うよ」

 零「そっか……」

 美「他には?」

 零「そうだな……」

 

 話したいこと……そうだ……あれを聞いてみるか……

 

 

 零「美咲はさ、肩の力を抜けって言われたらどうする?」

 美「ん~。あたしは……何事もほどほどが良いから……あたしより、こころ達の方が分かるかも」

 零「そうか……」

 美「ごめんね……聞いたのに……」

 零「いや。聞いてくれただけでも十分だ」

 

 やはり……分かる人間から教えて貰うべきか……しかしどうすれば……

 

 美「ねぇ零さん」

 零「なんだ?」

 美「今度の練習、来てみない?」

 零「練習って、ハロハピのか?」

 美「うん。こころ達も零さんなら来ても良いって言うだろうし」

 零「そうなのか? ……ちょっと待って」

 

 俺は携帯をとりだし、黒服さんに電話した

 

 零「もしもし。黒服さん?」

『はい、いかがなされましたか?』

 零「俺って……今度の練習見に行ってもいいんですか?」

『零様でしたら。いつでも』

 零「そうですか。それだけ確認したかっただけです」

『そうでしたか。それでは』

 零「それでは」ピッ

 

 

 美「零さん!? なんで黒服の人の電話番号知ってるんですか!?」

 零「大分前にな。こころの為にもメンバーになってくれないかって」

 美「それで……どうでした?」

 零「来ても良いってさ。今度はいつあるんだ?」

 美「土曜日です。あたしは零さんと一緒に行きます」

 零「そうか。じゃあ……この公園で待ち合わせで良いか?」

 美「そうですね……そうしましょうか」

 零「……そろそろ帰ろうか」

 美「ですね」

 零「じゃあ、また土曜に」

 美「はい。さようなら」

 零「ああ」

 

 こうして俺たち2人は、公園を出た……

 

 

 

 

 

 

 〈土曜日 弦巻家前〉

 

 零「なぁ……美咲……」

 美「言いたいことは分かりますよ……」

 零「道……間違え「てません」……」

 美「此処がそうです。こころの家です」

 

 練習……家で? そう思ったが……なるほどな……なんか……もう……驚くを通り越すくらいデカい豪邸だな……

 

 零「まぁ黒服さんが居るくらいだ……これくらいデカくてもおかしくは無いか……」

 美「最初は誰でも驚きますよ……。もう慣れちゃいましたけど……」

 

 門の前でそんな話をしていると……黒服さんが来た

 

 黒「美咲様、零様。皆様がお待ちです」

 美「はい。じゃあ行きましょうか」

 零「ああ……」

 

 

 

 こ「あら美咲! 零も来たのね!」

 は「あっ! れーくん!」

 薫「やぁ零。遂に来たね……」

 零「ああ……来た」

 花「零さん……どうしたんですか?」

 零「いや……その……」

「(内装が……豪華すぎる……)」

 

 ここまでの豪邸……そうそうないんじゃないか? そして自由過ぎるって本当に自由にやりたい放題なのか……まぁこれだけの豪邸に住むくらいならそれだけの資金はあるんだろうな……

 

 

 零「ええっと……今日は何をするんだ?」

 美「今日は……」

 こ「演奏よ!」

 花「えっ? ええっ!?」

 美「えっ、ちょこころ!?」

 こ「やっと零が来てくれたのよ? だったら私達の演奏を聴いて欲しいの!」

 は「いいアイデアだよこころん!」

 薫「そうだね……零に私達の演奏を捧げよう……」

 花「ふええ〜。ちょっと待って~」

 美「ああーもう!」

 零「大変だな……美咲」

 美「ちょっと着替えてきます!」

 零「着替える?」

 

 しばらくすると……何か来た……着ぐるみか? というかなんで熊? 

 

 零「もしかして……美咲か?」

 美(ミ)「はい……そうです……」

 零「その熊……それがミッシェルか?」

 美(ミ)「そうです……」

 零「……苦しくないか?」

 美(ミ)「凄く……蒸し暑いです……」

 零「本当に……大変なんだな……美咲」

 美(ミ)「はい……」

 

 こ「あら! ミッシェル! これでみんな揃ったわね!」

 零「(そして……気づかないってこういうことか)」

 こ「それじゃあみんな! 行くわよ~!」

 

 

 

 

 

 零「おお~。これは……」

 

 ハロハピの演奏……他のバンドとはまた違う面白さがある。ただただやりたい放題やって居るわけでは無い、何か大きな考えがあって、その上でこうしているんじゃ無いか。そう思えるような演奏だった……

 

 こ「どうだったかしら? 私達の演奏!」

 零「ああ……とても楽しそうだったな」

「こころ達は……何か目標があるのか?」

 

 こ「ええ! 私達は世界を笑顔にしたいの!」

 

 零「……世界を……笑顔に……か」

 

 

 出来るわけ無い……恐らく前の俺ならそう言ってるだろうな。だが……彼女たちの演奏を見た俺は、心の何処かでは楽しんだんじゃないかと思っている。今俺が感じたこの感じが……楽しいってことか? 

 俺が実感できたくらいだ……彼女たちなら……出来るかもな……

 

 

 美(ミ)「まぁいつもこんな感じです。どうでした?」

 零「ああ……なんとなくだが……なにか掴んだ気がする」

 美(ミ)「……」

 零「美咲?」

 美(ミ)「暑い……」

 零「早く脱いできたらどうだ?」

 美(ミ)「でも……」

 零「ここは俺が何とかしよう」

 美(ミ)「じゃあ……脱いできます……」

 

 そう言って出て行った。大変だな、美咲……

 

 

 こ「あら? ミッシェルは何処かしら?」

 零「ミッシェルなら帰ったぞ。用事があるってさ」

 は「ええっ!? もう帰っちゃったの!?」

 零「まぁ……ミッシェルも忙しいみたいだしな~」

 薫「ミッシェルも大変なのだね……」

 零「そうみたいだな」

 

 こんな感じでいいのか? 簡単に誤魔化せるな……しっかりしろよ3人とも……

 

 

 美「戻りました……」

 零「ああ、お疲れさん」

 花「お疲れ様。美咲ちゃん」

 美「2人ともありがとうございます」

 花「私は何もしてないよ?」

 美「えっ? じゃあ3バカを誤魔化したのは?」

 零「俺だが……簡単だったぞ」

 美「ええっ!?」

 零「そんなに驚くことか?」

 美「誤魔化すの結構疲れませんか?」

 零「いや、全く……」

 美「凄いですね……」

 零「ええっ!? そんなにか?」

 花「はい……私達2人でも大変で……」

 零「花音も大変なんだな……」

 花「はい……」

 零「(どうにかして2人の苦労を減らしたいが……どうすりゃいいんだ?)」

 

 

 そんなことを考えていると、こころがまたとんでもない発言をしてきた

 

 

 こ「零! 貴方もなにか出来ないかしら?」

 零「と言うと?」

 こ「零の演奏が聞いてみたいわ!」

 零・美・花「ええっ?」

 は「れーくんが演奏するの!?」

 薫「それは名案だよこころ! 零ならきっと儚い音色を聞かせてくれるよ」

 零「ハードル上げられたな……」

 美「ちょっとこころ! 無茶振りしないの!」

 零「いや。やろうじゃないか、演奏」

 花「ええっ!? いいんですか?」

 美「そうですよ! 無理なら無理でいいですよ!?」

 零「そうはいかない。せっかく演奏を聞かせてくれたんだ。こちらも要望に応えるのが筋ってもんだ」

 

 

 零「それで? 楽器はどれだ?」

 こ「楽器なら、そこにあるものを使って!」

 零「そこ?」

 

 こころが見る方向を見ると、そこには数多くの楽器が揃っていた。

 

 零「こんなとこに楽器あったか? まぁいいか」

 

 俺が選んだのは……最近練習を始めたキーボードだ

 

 零「じゃあ、始めるぞ」

 

 演奏した曲は、最近気に入ったゲーム【U〇dert〇le】のマネキンと槍使いの魚人のBGMだ。うまく説明出来ないが……気になったら調べて聞いてみると良いぞ? 多分ほとんどの人が知ってると思うが……

 

 演奏が終わり、彼女たちに問いかける

 

 

 零「どう……だった? まぁ……最近出来るようになった初心者の演奏だ……」

 こ「と~ってもよかったわ!」

 は「うん!」

 薫「ああ。とても儚い演奏だったよ……」

 花「初心者とは思えないですよ」

 美「花音さんの言うとおりですよ。いつの間に出来るようになったんですか?」

 零「まぁ……簡単な曲だし、楽器は色々出来た方がいいからな。今は他の楽器も練習してる」

「(そうでもしないと、ロゼリアのメンバーの指導なんて出来ないからな……)」

 

 

 楽器を片付け、一息入れたところ、で! 

 

 

 こ「零! あなたハロハピのメンバーにならない?」

 

 またスカウトだ……

 

 零「なぁこころ。なんで俺をスカウトするんだ?」

 こ「だってあなた、笑顔が無いもの!」

 零「っ!」

 

 笑顔が無い……バッサリ言われたな

 

 こ「私は零を笑顔にしたいの!」

 零「笑顔に……か」

 美「ちょっとこころ! いくらなんでも今のは失礼でしょ!」

 零「いや、こころの言う通り。俺は……確かに笑顔が無い」

 

 零「なぁこころ。お前なら俺を笑顔に出来るのか?」

 こ「もちろんよ! 私があなたを笑顔にするわ!」

 零「そうか……」

 

 

 こころ……彼女は何か俺に無いものがある。幻想に近い目標を掲げる程の根性があり、行動力がある。彼女に……掛けてみようか……

 

 零「分かった! 俺はハロハピのメンバーになる。その代わりこころ! 言ったからには俺を笑顔にしろよ」

 こ「もちろんよ! 零!」

 

 こうして俺は、ハロハピのメンバーとなった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習? が終わり。俺は美咲と帰っていた……

 

 美「ホントによかったの?」

 零「ああ、俺の知らないことをこころは知ってる。それを知るにはメンバーになるのが1番だ」

 美「それだけなの?」

 零「ええっ?」

 美「なんか……もっと違うことを考えてる気がする」

 零「……バレたか」

 美「何考えてるの?」

 

 俺が1番気になったこと……それは……

 

 零「ミッシェル、動きやすいか?」

 美「ええっ?」

 零「いや……その……気になってな……」

 美「動きにくいし、暑いから……動きにくいかな」

 零「なぁ美咲。もし良かったら……俺が改造しようか?」

 美「ええっ!? 改造って……何する気!?」

 零「動きやすく、暑くなりにくいよう改造しようかって話だ」

 美「出来るの!?」

 零「多分……昔は機械いじりとかよくやったし、少なくとも今よりは動きやすくはなると思うぞ」

 美「じゃあ……お願いしてもいい?」

 零「ああ、もちろん」

 

 昔暇で作った小型空調機が役に立つだろうしな……

 

 

 美「ねぇ……零さん」

 

 話している途端、急に美咲が止まり、俺の名前を呼ぶ

 

 零「……何だ?」

 美「どうして……そこまでするの?」

 零「ん? どういうことだ?」

 美「なんで……あたしに良くしてくれるの?」

 零「そんなに良くしたか?」

 

 美「したよ……この前はあたしの愚痴をずっと文句も言わずに聞いてくれたし、今だって……ミッシェルの改造までしてくれるって言ったじゃん。それに偶然とは言え……妹のことも……人の為に普通ここまでする?」

 

 零「(そんなにおかしな事なのか?)」

 美「教えてよ零さん……なんでそこまで……人のために何か出来るの?」

 零「誰かの為……ではないな」

 美「えっ? じゃあなんで?」

 零「俺はな……俺がやりたいと思ったことをやってるだけだ」

 

 美咲の目を見て俺は言う

 

 零「俺は今まで……俺の為に行動できなかった。俺は今まで、必ず誰かの為に動かないといけなかった……」

 

「でも今は違う。俺は自分がやりたいことを自由に出来るようになった。だから俺はやりたいようにやってる。それだけだ」

 

 

 俺は今、自由だ。己の生き方を己で決め、それに向かって生きていける。だから俺は……俺に生きて欲しいと言ってくれた彼女たちの為に生きたい。それが俺の生き方、だから俺は……

 

 

 零「俺は、美咲を支えたい」

 

 美「……ええっ!? ///」

 

 零「(美咲は俺に似ている、いっつもあの3人をまとめてるみたいだし。その上ミッシェルとしても活動してる。俺みたいにやることが多すぎる、だから俺は、美咲の仕事を減らすように動きたい。それが俺のやりたいことの1つになった)」

 

 零「だから……って……美咲?」

 

 美「零さん!? 自分がなに言ってるか分かってる!? ///」

 

 零「ええっ? ああ。だから俺は、美咲を支えたいんだって」

 

 何故聞き返すのだろうか。俺は本心を言っているだけなのだが……

 

 美「なっ、え、そのっ! あ、あたし急いでるんでっ! じゃあ!」

 

 急に美咲は走って帰っていった……

 

 零「ええっ!? ちょ! 美咲!?」

 

 零「どうしたんだ? ……まぁ……急いでるなら……いいか」

 

 なんか顔が赤かった気がしたが……夕焼けのせいだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美「ハァ……ハァ……///」

 

 なんで……こんなに走ってるんだろう……

 

『俺は、美咲を支えたい』

 

 美「っ///!」

 

 彼の思い出すたびに、顔が熱くなる……

 

 彼は……妹の恩人。ただそれだけだと思ってたのに……

 

 美「あんな事……目を見て言われたら……」

 

 美「勘違い……するよ……バカ///」

 

 でも……悪い気がしない……こんな感じ……初めて……

 

「(あの人は……あたしの……何なのだろう……)」

 

 顔の熱を頭を振って冷まし、あたしはそのことばかり考えて、妹の待つ家に帰っていった……

 




美咲は難しい!書きたいけど上手く書けませんでした…許してくれっ!

シリアスな展開を読みたい皆様。
勝手に緩い展開が始まってイラだっている皆様。
すいませんっ!ネタが無いっ!ネタが思い付き次第、投稿致しますので、それまで待って!お願いしますっ!






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第30話 着ぐるみ少女の心

1話じゃ足りないと言った奴!ほらっ!続きだっ!

キャラ名の部分を少しだけ変更しました。

色々模索しながらの投稿ですので…



零「よし…今日はここまでだ」

 

 

今日も俺はロゼリアの練習に顔を出していた

 

零「皆お疲れさん」

友希那「お疲れ様。零」

紗夜「零さん、最近調子がいいですね」

零「そうか?」

リサ「そう言えば~そうだね!」

あこ「零兄ちょっと変わったかも!」

零「変わったか?」

燐子「はい…表情が…前より…」

零「そうか…」

友希那「何かいいことでもあったの?」

零「いや…特には…だが変わった事って言ったら、またバンドのスカウトを受けたってくらいだな」

あこ「ええっ!?」

紗夜「…どちらのバンドですか?」

零「ハロハピだ。この前メンバー入りした」

友希那「また貴方…休む暇あるの?」

零「休む暇はある。また倒れたくないからな」

友希那「そう…それならいいわ」

あこ「でも零兄。なんでハロハピのメンバーになったの?」

零「ハロハピからは、俺の知らないことを色々学べそうだからな」

「それに…実はかなり前から勧誘はされてたんだ」

 

リサ「ええっ? そうだったの? いつから?」

零「友希那にマネージャーを頼まれる前からだ」

友希那「そんなに前から…」

零「まぁ黒服さんからだが…。何度か黒服さんにも世話にはなった」

紗夜「そうだったんですか…」

零「でもまぁ、皆から見て変わったのなら、ハロハピに入って良かったかもな!」

5人「…」

零「…どうした? 何で黙るんだ?」

「(何か…まずいこと言ったか?)」

 

友希那「いえ…今後の練習に影響が無いのなら、構わないわ」

零「そうか? そう言ってもらえるのは有り難いが…」

 

明らかに何か言いたそうだし…皆何か不満そうな顔をしているが…まぁいいか…

 

零「さて…時間だ。そろそろ行くとするか」

燐子「今日は…何かあるん…ですか?」

零「ああ、ちょっと…改造してくる」

あこ「改造!?改造って零兄なにするの!?」

零「ただの仕事だ。じゃあな」ガチャ

 

荷物をまとめ、俺は改造しにまたあの場所へ向かった

 

 

紗夜「…湊さん」

友希那「…ええ」

あこ「零兄が変わってるのはいいことだけど…」

リサ「なんか…」

燐子「複雑…ですね…」

5人「…」

 

彼女たちを悩ませていることなんて知る由も無い零だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈弦巻家〉

 

空調機などの機械を入れたカバンを持って、俺は弦巻家のハロハピが集まる場所に来ていた

 

零「来たぞ」

黒服「お待ちしておりました零様」

零「今日はよろしく頼む」

黒服「こちらこそよろしくお願いいたします」

 

黒服さんも協力してくれると言ってくれた時は有り難かった。俺はエンジニアじゃ無い、どうしても人手が居るからな…

 

零「美咲」

美咲「あっ零…さん」

零「…何故顔を逸らすんだ?」

美咲「いや…その…」

 

俺は顔を見ようと、顔を逸らされたら逸らされた方向に行く、逸らされては行くを繰り返した。が…どうしても見られたくないのか、ずっと顔を逸らし続ける…

 

零「…何故だ? 何故頑なに顔を逸らすんだ?」

美咲「…てるから」

零「?」

美咲「今…顔を見て欲しくないから」

零「何故だ?」

美咲「今のあたしの顔…変だから///」

零「そうなのか?」

 

大丈夫なのか確かめるため、俺は顔を隠してる帽子を取り上げ顔を見た

 

美咲「ちょっ!」

 

零「何だ…普通にいい顔をしている」

 

美咲「っ~~~~!///」

 

美咲の目を見てそう言ったんだが…声に出ない声を出したと思ったら、急に顔が赤くなった

零「…どうした?」

美咲「いいから帽子返してっ!///」

零「ああ。すまない」

 

帽子を返すとすぐに深々とかぶり、顔が見えなくなった

 

零「悪かった…美咲」

美咲「いいから…早く始めようよ」

零「そうだな…始めようか。待っていくれ機材持ってくる」

 

そう言って俺は改造用の機材を取りに行くのだった。

そういえば…黒服さん達いつの間にか居なかったな。

なんて静かな退室だ…今度教えて貰おうかな…

 

 

 

 

美咲「…」

 

『普通にいい顔をしている』

 

美咲「っ!///」ブンブン

 

まただ…また…この感じ…

 

美咲「あたし…どうしちゃったんだろう///」

 

誰も居ない部屋の中で、あたしの小さな声が響いた…

 

 

 

 

 

 

零「じゃあ早速始めよう」

黒服「はい」

零「それで…何処を改良して欲しい?」

美咲「そうですね…まずは動きやすくして欲しいです」

零「ならば…まずは間接の動きを調整しようか」

黒服「素材はいかがなされますか?」

零「とりあえず今ある物を使うとしよう」

黒服「ではこちらをどうぞ」

 

渡されたのは数え切れないほどの生地だ。

 

零「なかなかいい物があるじゃないか」

黒服「そちらでよろしいのですか?」

零「ああ。この生地は熱を外に出しやすいからな」

黒服「そうでしたか。我々も勉強不足のようです」

零「そうなのか?意外だな」

黒服「お恥ずかしながら…」

零「以外と知られてない豆知識みたいなものだからな…知らないのも無理ない」

 

そんな会話を挟みながら、俺は改造を始めた

 

 

 

零「とりあえずこんな感じだな」

美咲「ええっ!?もう出来たの!?」

零「ああ、着てみてくれ」

美咲「分かりました…」

 

 

 

零「どうだ?」

美咲(ミ)「凄い…前より動きやすいし、ちょっと涼しい!」

零「いやまだだ。頭の近くにボタンがある、押してみろ」

美咲(ミ)「ええっ?えっと…どこですか?」

零「?…ああ違うそこじゃない」

美咲(ミ)「ええっ!?どこですか?」

零「じっとしてろ」

 

俺はボタンを押すために、ミッシェルに抱きつく体勢になった

 

美咲(ミ)「ええっ!?ちょっと零さん!」

零「あ、暴れるな」

美咲(ミ)「何してるんですか!」

零「ああもう止めよう。一端脱いでくれ」

美咲(ミ)「なっ!?何バカな事言ってるんですか!?」

零「何故だ?ミッシェルを脱げばいいだけだろう?」

美咲(ミ)「あっ、そ、そうですね…」

 

 

 

零「…ボタンの案はボツだな」

美咲「すみませんでした…」

零「構わない。空調機のスイッチは内部に作るとしよう」

 

結局この日は間接の調整で終わった…

 

 

 

 

 

 

〈帰り道〉

 

零「まだまだ調整が必要だな…」

美咲「そうですか?あたしはあれでも十分ですけど」

零「でも空調機のスイッチ押せなかったじゃないか。押せるようにしないと」

美咲「ああ~疲れた。ちょっと休みませんか?」

零「そうだな。そこにベンチあるし、そこにするか?」

美咲「そうですね」

零「じゃあ俺は飲み物買ってくる。なんかいるか?」

美咲「いいの?じゃあ……缶コーヒーで」

零「分かった」

 

自販機は…遠っ!ちょっと歩かないとな…

 

 

 

 

 

 

彼が居なくなり、あたしはまた考える

 

美咲「ハァ…」

 

「(あの時、ちょっと言い過ぎたかな…怒ってないかな…)」

 

美咲「でも…いいって言ってたよね?」

 

「(というか…ずっと零さんのこと考えてるよね…最近)」

 

美咲「…何でだろう」

 

 

 

零「美咲」

 

彼に後ろから声を掛けられ、振り返ると冷たい缶コーヒーを顔に当てられる

 

美咲「ひゃあっ!」

 

 

 

美咲「なっ何するんですかっ!///」

零「さっきのお返しだ」

美咲「もう!」

零「悪かった。お望みの缶コーヒー」

美咲「もう…///」

零「悪かった…許してくれ」

美咲「嫌ですっ!///」

零「頼む…」

美咲「…じゃあまた聞いてください。あたしの愚痴」

零「ああ、いいぞ」

 

そこからあたしは、また彼に愚痴を始めた

 

美咲「(なんでだろう…零さんともっと話していたいって思うんだよね…)」

 

「(零さんは…あたしの事…どう思ってるのかな?)」

 

「(同い年の友達?バンドメンバー?何だろう…)」

 

「(というかあたし…何考えてるんだろ…)」

 

「(分かんないけど…今は…この時間を…大切にしたい…かな///)」

 

 

零「美咲?どうした?」

 

美咲「何でも無いよ。零」

 

零「急に呼び捨てか?」

 

美咲「駄目?」

 

零「構わない。美咲の話を聞かせて欲しい」

 

美咲「うん」

 

 

そう言ってくれた彼と、あたしはずっと話し続けた…

 

 

その時…彼に貰った缶コーヒーの味は…

ブラックのはずなのに…

凄く…凄く甘かった




美咲個人の話は今は終わりです。続きはまた今度…

コメントをお願いします…


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第31話 ただの偶然

投稿が遅い?面目ない…色々忙しかったので…
今回も緩く行きます…でも長くなりました…


〈CIRCLE ロビー〉

 

「さあさあ今日も張り切っていこう!…何か違うな。」

 

ハロハピのメンバー達と関わりを持ち数日が経ち…そしてその中で俺は学んだ。何が俺に必要か、それは【元気】だ。こころは美咲や花音を振り回していると美咲が言っていたが2人はなんだかんだ言っても仲がいいようだ…2人を引きつける何か、それが俺の足りない物だと分かった。

そして俺は元気にたどり着いた…が。

 

「…どんな風にすればいいのだろうか?」

 

「さっきから何を言ってるの?」

 

「…まりなさん」

 

「何かな?」

 

「元気とは…何でしょうか…」

 

「…ええっ?」

 

 

まりなさんに元気が俺が変わる為に必要だと説明した…

 

 

「なるほど~でも急だね?」

 

「…そろそろ意識改革をしていかないと」

 

「おおっ!やっぱり変わったね~零くん」

 

「これも皆のおかげですよ」

 

「うんうん!その調子で行こうよ!」

 

「はい」

 

「それでさっきの質問の答えだけど、元気っていうのは…私にも分かんないな~」

 

「そうですか…」

 

「でも!今日は丁度いい日にバイトに入ったんじゃない?」

 

「何故ですか?」

 

「今日の予約リスト見てごらん」

 

 

今日の予約リストには、ポピパの名前が書かれていた。時間は…

 

 

「この後じゃないですか」

 

「ポピパなら、いいこと聞けるんじゃないかな?」

 

「確かにそうですね…」

 

ポピパの演奏はハロハピと同じように元気がある。彼女たちなら何か掴めるかもしれないな…

 

「…スタジオで練習して待っていてもいいですか?」

 

「うん、いいよ~。今日は何を使うの?」

 

「じゃあギターを借りますね」

 

 

俺はギターを手に、スタジオに入っていった

 

まりな「うん!頑張ってね。零くん」

「(このまま、このまま行けば零くんはきっと…)」

 

 

 

 

 

 

『囚われた屈辱は 反撃の反撃の嚆矢だ』

 

今歌っているのは、多分皆ご存じ【紅蓮の弓矢】だ。この曲の間奏と歌声がどうしても納得いくものにならない…なんとか出来るようにしたい…そしてロゼリアのメンバーに勧めたい。この曲なら彼女たちの印象にも合うだろうからな

 

 

「(よし…間奏だ)」

 

ギターを強く握りしめ、音楽が流しているステレオに合わさるように弾いていく…俺のギターとステレオの音が重なり、激しい音がスタジオに響く

 

「(いい感じだ…)」

 

 

 

『何ひとつリスク等 背負わないままで

 何かが叶う等…

 暗愚の想定 唯の幻影』

 

中途半端な所だが、此処が俺が1番気に入っている歌詞だ。何故か?俺の言いたいことがそのまま歌詞になってるからな…

犠牲無しで得るものは無い、生き抜く為の常識だ。この曲の歌詞は俺の今までを思い返すのに丁度良いな…思い出したい訳では無いが…

 

 

 

最後の部分だ…俺の今までを魂込めて歌ってみるか…

 

『止めどなき衝動に

 其の身を侵されながら 宵闇に紫を運ぶ

 冥府の弓矢~』

 

いい感じだな…最後のギターもバッチリだった。これで人前でも出来るな。

 

 

「ふぅ…」

 

 

ギターとマイクをスタンドに乗せて椅子に座り一息入れる。

 

 

時間とはすぐに過ぎていくものだな。扉の向こうからポピパメンバーが全員覗いてたのは流石に驚いたが…時計を見ると既に予約の時間をとっくに過ぎていた。

完全にスタジオ独占してたな…ここのスタッフにあるまじき行為だ。どうしようか…こういう時は謝ればいいんだ!…だがそんなに怒っていないようだ、むしろ輝いてる、主に香澄が。

 

 

「零くんスゴいよ!今の演奏!」

 

「音が生き生きしてた」

 

「心に響くような歌声だったね有咲ちゃん」

 

「あぁ…零はホントに素人か?」

 

「そうだね…」

「(動画撮っておけば良かった…)

 

 

「すまないな…勝手にスタジオ独占して…」

 

「そんなこといいよ~それより零くん!」

 

「何だ?」

 

「零くんほかの楽器もできるの?」

 

「ええっ?何でそれを?」

 

「弦巻さんが言ってたぞ」

 

「何て言ってたんだ?」

 

「零さんはキーボードも出来るって」

 

「あ~そうか。まぁ…言わないわけ無いか」

 

「ええっ?出来るんですか?」

 

「まぁ…多少はな」

 

「聞いてみたいです」

 

「ええっ?でも楽器が…ってレンタルすればいいか。待ってろ」

 

 

ギターと入れ替えでキーボードを持ってきた。メーカー?分からん、もっと勉強しないとな…

 

「じゃ、始めるぞ」

 

コレと言って何も無かったんだが…【F〇7】の曲を弾いた。あのレトロな感じをだすために設定いじりまくったが…ゲームの曲ってちょっとしか無いんだよな…だがあの曲は今でも親しまれているゲームミュージックの代名詞だそうだ。代名詞の使い方…あってるよな?なにぶん、日本語が怪しいからな…ってもう終わったな…

 

 

「…とまぁ、こんな感じだ」

 

 

5人の方を見ると、みんな驚きを隠し切れていない。そこまで期待外れだったのか?

 

 

「マジかよ…」

 

「まぁ…ゲームの曲だし…人に聞かせられるようなものじゃ…」

 

「いやいや、そんな事ねえって!」

 

「ええっ?そうなのか?これくらい有咲の方が出来るんじゃ…」

 

「出来ねぇよ!何でそんなに出来るんだよ!?」

 

「いや…そんな事言われてもな…ただただ黙々と練習してただけだ」

 

「マジかよ!?」

 

「マジだ!それ以外何も無いって…」

 

「信じられないな…」

 

これだけは俺の過去関係ないから…本当にただ練習してただけだからな?キーの場所から始めて…弾き方とか機能の使い方とか…それだけだからな?本当だからな?

 

 

「でもここまで出来るのに初心者って言えるのかな?」

 

「だろ?」

 

「コツがあるんですか?」

 

「コツ?う~ん…曲にのること…か?」

 

「聞いてんのに聞き返すなよ」

 

「分かんないから…じゃあポピパはコツとかあるのか?」

 

「楽しむことっ!」

 

「香澄らしいね」

 

「ザックリしてんな…でもシンプルで良い」

 

「でしょ?だってなんでも楽しい方がいいもん!」

 

 

なんでも楽しい方が良い、か…その考え方もアリなのかもな。最近になって楽しむって事が少しだが分かってきたし…今なら分かる気がする。

 

 

「楽しいって…具体的にはどんなこと?」

 

「キラキラドキドキすること!」

 

「それじゃ分かんねえよ!」

 

「つまりは輝いていて、興奮することだな!」

 

「そんな感じだよ!」

 

「何で理解できるんだよ!?」

 

「香澄の言ってることが分かるの?」

 

「ええっ?いやなんとなくそんな感じかな~って」

 

 

普通に考えて…って俺の考えは普通じゃ無いか。でも流石にキラキラとかドキドキの意味は俺でも分かるぞ!?

ええっ?でもこんな感じだと思わないか?…思わない?そうか…。

 

さっきから気になってたが、香澄やたえの目が…何か期待してるような目なんだが…一体何を期待するってんだ?

 

 

「零さんってもしかして他の楽器もできるの?」

 

「えっ?…まぁ…少しはかじってるが…」

 

「聞きたいです!」

 

 

まさかの展開!…でも無いな、現にハロハピもそうだったしな。だが…まぁ…いいか

 

「香澄もおたえも零に無茶降りすんな!」

 

「分かったよ!やるよやる!」

 

「ええっ!?出来るんですか?」

 

「無理してやらなくてもいいですよ!?」

 

「そうだぞ!?やけくそになってないよな!?」

 

「いや…もう慣れた。というか前にもこんなことあったしな!

 それで?何すればいいんだ?いや…もう全部やる!」

 

5人「ええっ!?」

 

 

そっから先はもう俺のやりたい放題だ。ギターとキーボードの他、最近練習を始めたベース、ドラムもした!

その時の説明?…説明できるものは何も無い!何故か?……それくらい察してくれ。だが強いて言うなら…ふざけすぎた。いずれこの事を平然と言える日が来るのだろうか…

 

 

「あぁ……」

 

もう駄目だ…幾ら自由になって過ごせるようになったからって…ここまでふざけた事なんて無かった!何か此処に居たくない!今すぐ帰りたい気分だ!これが恥ずかしいって気分なのか…

 

「こんな感じだ…ベースとドラムは最近始めたから下手な所もあったが。どうだ?」

 

 

「下手じゃないよ!凄かった!」

 

「ベースもちゃんと弾けてましたよ」

 

「ドラムも十分出来てましたよ!」

 

「ここまで出来るのは凄いんじゃない?」

 

「凄いで言い表せるのか?」

 

「まぁ満足したならやった甲斐があったな」

 

 

思ったより高評価だな!とりあえずこれで指導に関しての問題は解決した、後はもっと練習すればいいだけだな。

そして香澄の目は更に輝いて見えるのは気のせいだろうか?いや気のせいじゃ無い。このパターンは前にもあったよな?そしたら言われることは1つだ。

 

「決めたよっ!零くん!」

 

「何だ?」

 

「私達のコーチになってよ!」

 

「いいぞ」

 

「そんなすぐに決めてもいいのか!?」

 

「でも私は賛成かな。零さんはもっと上達しそうだし」

 

「まぁ…確かにな」

 

「でも、本当にいいんですか?」

 

「ああ、他のバンドのスカウトも全部受けてるしな」

 

「ええっ!?そうなの!?」

 

「afterglow、Roselia,

 Pastel✾Palette、ハローハッピーワールド

 のコーチ兼マネージャー兼メンバーだ」

 

「そうなんですか…」

 

「それでもいいならいいぞ」

 

「うんっ!よろしくね!零くん」

 

「こちらこそ、よろしく頼むよ。香澄」

 

 

これで5バンドコンプリートだな。コンプしたかったではわけでは無いが…人生が楽しめるのなら、こういうのもアリなのかもな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、ポピパの練習を見ていたが…元気とは何かを理解した気がした。でもそれより気になったのは香澄は走り過ぎだと言うことだ…元気がいいのは良いことなんだろうがな。終わったら皆帰って行った、が…

 

「…」プイッ

 

最後まで残った沙綾の様子がおかしいんだが?さっきから質問しても…

 

 

「なぁ…どうしたんだよ…」

 

「別に?」

 

 

これの繰り返し。何というか…トゲがあるような感じだ。これはあれか?これが[ツンツン]してるって言うのか!また1つ普通に近づいたな。じゃないっ!

これってどうしたら機嫌を取り戻すんだ?まぁ…やれるだけのことをしてみようか

 

 

「俺…何か悪いことしたか?」

 

「…」

 

「頼むよ…何でか教えてくれよ…」

 

「…」

 

「「…」」

 

 

どん詰りだ…原因が分からない以上解決できない。もう黙ってるしかないし…

ああ~いつもと違うなー全然解決できないなー……気楽に考えて何か思いつくかと思ったが駄目だな。俺は真面目過ぎる…こういう時どうすれば良いのか何て俺分かんないぞ…

 

 

何も話さない空間(スタジオ)の中、外の人の音だけが響く…ってもう居なくなった。何でいなくなるんだよ…もうこの感じは俺と沙綾しかいないぞ…どうすんだよこの空気!

 

 

「…」スタスタ

 

 

あれ、急に沙綾が扉の方に向かって歩き出して……ん?今、カチッって音しなかったか?今扉に鍵掛けたような音しなかったか?…鍵しめられたな。どうすんだコレ…

まさか尋問か!?まずい…この状況は逃げられない。だって扉壊すわけにも行かないしな…

って言ってるうちにこっちに来たっ!どうしようか…あぁ…腹でもくくるか…

 

 

「零さん」

 

「何dおおっと!」

 

 

近づいたと思ったら急に抱きついてきた…え、どういうことだ?

というか凄い力入れてるな…ちょっと苦しい…

沙綾は俺の腹に顔を…コレなんて言うんだ?ええっと…あれだ…そう、ぐりぐりしてる。

 

 

「沙綾?どうしたんだよ…ホントに」

 

「寂しかった…ずっと…」

 

「ええっ?…ああ、そうか」

 

俺は今の言葉で理解した。確かに最近沙綾に構ってやれなかった、事件の後のリハビリとか仕事の処理とかが溜まっていたからな…

そうだ…頼れと言ったのに頼れるような時間を作らなかった俺のが悪いんだ…

 

 

「悪かったよ…構ってやれなくて」

 

「いいの…零さんも大変だったのは分かってる。でも…辛かった。もうこんな事できないんじゃないかって」

 

「沙綾…」

 

「だから!今は誰も居ないし…

その…今までの分を…///」

 

「…ああ」

 

沙綾の背中に腕を回し抱きしめ、耳元で吐息と共に囁く

 

「満足するまで側に居る」

 

「っ?!///」

 

「それでいいな?」

 

「…はい///」

 

 

そこから先は…いつもと変わらない。撫でたりとか囁いたりとか…代わり映えしないよな?本当にこれでいいのか?だが沙綾が満足してるんだし…良いよな?

 

 

 

 

 

 

 

あれからどれだけの時間がたったのだろうか…もう数時間くらいの感覚だな。

そんな考え事をしていると。沙綾は自分から俺の元を離れていった

 

「満足か?」

 

「はい///」

 

「なぁ沙綾。本当にいつもこれでいいのか?」

 

「ダメ…ですか?」

 

「いや…そんなことは無い。ただ飽きないかな~って」

 「(毎度毎度同じ事を頼まれているからな…)」

 

「そんなこと無いです。コレで十分です」

 

「そうか?ならいいんだ」

 

 

あれからどれだけの時間が過ぎたんだ?時計を見ると時計の針は7時前で止まっている。荷物をまとめてさっさと帰るべきだ。仕事も終わってるしな…

 

 

「ああっ!」

 

「どうした?」

 

「この財布!有咲のだよ!」

 

「何?忘れてったのか?」

 

「渡しに行かないと」

 

「じゃあ俺が渡しに行こう。もう日が暮れそうだしな」

 

「いいんですか?」

 

「ああ」

 

沙綾から有咲の財布を受け取り、鞄の中にしまった。

 

「じゃあまたな」

 

「はい!また!」

 

さて…財布パクられたって言われる前に届けに行くか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?財布がない!?どっかに落としたか!?」

 

家に帰ってきて明日の授業の用意をしようとカバンを開けると、財布がないんだけど!?

どうしようか…今から探しに行くか?いや…もう日が沈んでるだろうし…

ああもう!何で忘れたんだよ私っ!!

 

「でも…ホントにどうしたらいいんだ?」

 

頭抱えて悩んでたら、インターホンが鳴ってるな。たく…誰だよこんな時間に

 

「今行きまーす!」

 

財布を忘れた事への苛立ちを覚えながら、重たい体を動かして玄関を開ける。

そこに居たのは…

 

「やっと出たな」

 

ついさっきバンドのコーチになったコイツ、零だった。

 

「なんだよ…零かよ」

 

「なんだとはなんだ…」

 

「こんな時間になにしに来たんだよお前」

 

「そんなこと言って良いのか?」

 

「はぁ!?どういう意味だ?」

 

「これは有咲のだろ?」

 

「ああっ!財布!なんでお前が持ってるんだよ!」

 

「なんでって…スタジオに置いてったからだろ?」

 

「そうなのか?」

 

わざわざ届けてくれたのか?律儀だな。でも財布届けてくれたのは助かる

 

「ありがと…」

 

 

零から財布を受け取った。そしたら丁度良くばあちゃんが来たのが足音で分かった

 

 

「有咲?どなたなの?…あら零さん!こんばんわ」

 

「こんばんわ。万実さん」

 

「こんな時間にどうしましたか?」

 

「私の財布を届けてくれたんだよ」

 

「あらそうでしたか!ありがとうございます」

 

「いえ。ではこれで」

 

「お待ちください。よければ夕食をご一緒にいかがですか?」

 

「ええっ?いいんですか?」

 

「いいから入れ!礼だと思って食べていきなよ」

 

「じゃあ…お邪魔させて貰います」

 

ばあちゃんがそこまで言うなんて…コイツ、良い奴なんだろうな

 

 

 

 

 

 

万実さんの食事は、俺の食べたことの無いような味だった。何というか…優しい味だった。白米、味噌汁、焼き魚、肉じゃが。在り来たりな食事でも俺には贅沢すぎるものだった

家族が居たら…こんな食事が続いたのか…もう叶わない望みだがな…

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「お口に合いましたか?」

 

「はい。とても美味しかったですよ」

 

「そうですか?それは何よりです」

 

「随分時間掛けて食べてたな?」

 

「まぁ…久々の食事だからな」

 

「はぁ!?どういうことだよ」

 

「俺は今まで誰かの分の飯は作ってたが自分の飯は作らなかった。そんな生活がずっと続いてたからな…体がその状態に慣れちまって…基本飯は作らない」

 

「食事くらい普通にしろよ!」

 

「そんなこと言われてもな…」

 

 

あの場所(戦場)で贅沢は出来るわけが無い。基本食事は携帯食や缶詰とかが基本だった。偶に…贅沢は出来たが…18禁のグロい食事だった…。まともな食事を出来るときも偶にあったが、志気向上のために基本はメンバーにまわしていた。そんな生活が続くと体が食べないことに慣れてくる、つまりは省エネな訳だ。言い方を変えればな…

 

 

「じゃあお前料理とか出来るのか?」

 

「まぁそれなりにな」

 

「じゃあ今作ってみろよ」

 

「別に良いが…何でだ?」

 

「いいから!なぁばあちゃん」

 

「食材はお好きにお使いください」

 

「じゃあ…作らせて貰おうか」

 

 

食材は…野菜だな。菜の花、トマトに玉ねぎ…じゃあ簡単にサラダで良いか。

 

菜の花を茹でて食べやすいサイズに切り分け、トマトは食べやすく玉ねぎはみじん切りにしてあらかじめドレッシングを作っておいたボウルに入れる。後はざっくり和え、器に盛るだけ。

【トマトと菜の花のサラダ】の完成だ

 

「どうぞ…」

 

有咲と万実さんの前にサラダを出す

 

「じゃあ、食べてみるか」

 

「そうですね。いただきます」

 

 

2人が食べている間に、器具を洗い食べ終わるのを待つ…

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「…どうだっただろうか」

 

「お前…料理上手すぎだろ…」

 

「ええっ?じゃあ…」

 

「美味しかった。なぁばあちゃん」

 

「ええ」

 

「そうか…」

「(俺の飯は日本でも通用するのか…)」

 

「これなら安心です。そうですね?有咲」

 

「ま、まぁ…」

 

「ん?何の話ですか?」

 

「実は私、しばらく家に居ないんですよ。ですので有咲に食費を渡していたのですが…」

 

「そんな大事な物忘れるなよ…」

 

「う、うるせぇ!いちいち掘り返すな!」

 

「零さん。貴方に頼みたいことがあるんです」

 

「…何でしょうか」

 

「私が居ない間、有咲の料理を作って頂けませんか?」

 

「ええっ!?な、何故自分に頼むのですか!?」

 

「貴方になら、有咲を任せられます。それに…有咲は不器用ですから」

 

「…まさか。料理できないのか?」

 

「…悪いかよ」

 

「有咲はいいのか?」

 

「私は零の飯ならオッケーだぞ?」

 

「有咲もこう言ってますし、どうでしょうか…」

 

 

万実さんにはいつも世話になってる。それに有咲もこれから世話になるだろうし…

 

「分かりました。俺で良いのなら」

 

「ありがとうございます!これが家の鍵です」

 

俺は万実さんからスペアキーを受け取った。

 

「有咲をよろしくお願いしますね」

 

「はい。じゃあ有咲、しばらくよろしくな」

 

「まぁ…よろしく、零」

 

 

こうして俺は、しばらく有咲の料理担当となった

 

そうと決まったら、レシピを頭ん中たたき込まないとな…

 

 

続く…




待たせて悩んでこのクオリティ…チャ〇ナもビックリだ!(殴


シリアス?前のアンケートの結果で決まったキャラを書き終わったら書きます…もう少しだけお待ちください…


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第32話 朝起きたら顔洗う習慣をつけろ

活動報告通りぶった切りました!


ピピピピッ ピピピピッ

 

「ふぁ〜あ…もう朝か?」

 

いつもと同じように、目覚まし時計の音で目を覚まし、制服に着替える。

まぁいつもと変わらない私の朝。カバンを持って朝食を食べに行く

 

「おはよう、ばぁちゃん」

「寝ぼけてるのか?」

「え?」

 

寝起きでぼやけた目を擦って、視界をハッキリさせる

 

そこに居たのは、ばぁちゃんじゃない…見慣れ無い制服に身を包んだ…

 

「零!?ウチで何やってるんだよ!」

「何って…飯作りだろ?」

「なんで…ああそうか。ばぁちゃん居ないんだった」

 

ばぁちゃんが居ない間、コイツが料理作るんだった…すっかり忘れてた

 

「あと、有紗」

コイツは台所から振り返り、私の顔を見つめてる

「なんだよ。人の母ジロジロ見て…

私の顔になんかついてんのか?」

「…よだれ垂れたんぞ。顔洗ってこい」

 

顔を触って確かめると、口からよだれが…垂れてた…

 

「…み」

「み?」

 

「見んなよ馬鹿あぁーっ!!」

 

恥ずかしくって持ってたカバンを、平然としてるコイツに向かって投げちまった…けどコイツは、空いた手で普通にカバンを止めやがった

 

「気にするなら顔洗ってから来いよ…」

「う、うるせぇ!」

「はいはい悪かった。

 朝飯冷める前にさっさと行って来たらどうだ?」

「言われなくてもそうする!」

 

ああ〜最悪!知り合いに見られたくないとこ、思いっきり見せちまった!さっさと顔洗いに行こっ!

 

 

 

 

 

 

「どうだ?朝飯の味は」

「ま、まあまあだな」

「そうか。不味くないなら良いんだ」

 

 

不味くないなら良い?私はあんな事言ったけど…コイツの料理の腕どうなってるんだ!?

普通に美味しい!ばぁちゃんに負けない位に!

ホントにコイツ何者だよ…

 

 

「そろそろ時間だな。有咲、ほら弁当」

「サンキュー」

 

受け取ってみると少し重く感じたけど、容器はいつもと変わらないな

 

「(零は私の弁当まで作ってたのか?一体何が入ってるんだか…

 でも朝飯が美味かったんだし…期待してみようかな)」

 

「じゃあ俺も行くかな」

 

もう私の皿、洗い終わってるし…手際良すぎんだろコイツ…

 

 

 

お互い準備を済ませ、鍵を掛け玄関前で一時の別れを告げる

 

「また夕飯頼むな。零」

「ああ、有咲は夕食何が良い?」

「ん~そうだな…任せるよ」

「そうか?じゃあ考えとくよ」

「そっか…じゃ」

「ああ」

「「行ってきます」」

 

そして私と零は、別々に学校へと向かった…

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

〈昼休み 花咲川女子学園〉

 

ようやく昼休みだな。いつもと変わらず、私はバンドメンバーの香澄達とお昼を食べる

 

「疲れた~」

「大丈夫?香澄ちゃん」

「でも香澄は寝てただけでしょ?」

「そうだよ?ちゃんと授業聞いてないと、また赤点とるよ?」

「ううっ…」

「私は絶対助けないからな!」

「そんなこと言わないでよ有咲ー!」

「ああ!抱きつくな!」

 

これがいつもの私達、まぁ…なんだかんだ言って楽しい

 

「そろそろお昼にしようよ!」

「じゃあ…せーので開ける?」

「またそれか?もう普通で良いんじゃないか?」

「せーの!」

「人の話を聞けよ!」

 

まぁ…そんなこと言ってはいるけど、無意識のうちに開けてた。

さて、あいつの作った弁当はどんなのだ?

 

「普通だな…」

 

中身は…卵焼きとか唐揚げとか、至って普通のおかずだった…

ってちょっとまて。何か知らない物がある!何コレ!?

 

「有咲のおかずは…何それ」

「どれどれ~?ホントだ!変わったおかずだ!」

「なんだろうね…それ」

「有咲ちゃん、お弁当を入れてた袋に何か入ってるよ?」

「ええっ?」

 

ホントだ…何か書いてある…どれどれ?

 

【見慣れない物が入っているだろうが

 それは俺特性の豆腐ハンバーグだ

 決して怪しいものじゃない】

 

豆腐でハンバーグ?作れんのかそんなの…

 

「何て書いてあったの?」

「なんか…豆腐ハンバーグって書いてあった…」

「豆腐のハンバーグ!?珍しいね」

「でも美味しそうだよ!」

「ハンバーグ…有咲!」

「分かったよ…今日は何と交換するんだ?」

「じゃあ…キャベツ」

「割に合わねぇだろ!!」

「セットでレタスでどう?」

「ああもう!いいよ!それで!」

 

毎度毎度思うんだけど…おたえの交換って交換になってないよな?

まぁ今回はどんなのか分かんないから良いんだけど…

ってもう食ってるし!

 

「…おたえ?どう?」

「…」

「おたえちゃん?」

「どうしたの?」

「おい…なんか言えよ」

 

おたえがしゃべんなくなったぞ!?零の奴!一体何作ったんだよ!

帰ったら1発ぶん殴っt「美味しい!!」…はぁ!?

 

「美味しいよ有咲!」

「マジで!?」

「うん!お肉みたいな味がする!」

「ホントか?」

 

私も一口食べてみる…おお、ホントだ。ちゃんと味がする

あいつ…実は料理人か?

 

「おたえがここまで言うなんて…初めてじゃない?」

「そうだよね!初めてかも!」

「有咲ちゃん…私たちも食べて良いかな?」

「え?い、いいけど…」

 

「んん~!ホントだ!これ美味しいよ!」

「本当にお豆腐でできてるの?」

「めっーちゃ美味しいよ!有咲ちゃん!」

「そ、そうか…」

「(零…お前ホントに何者だよ…)」

 

そっから香澄達に「今度有咲のおばあちゃんに作り方を教えてもらいに行ってもいい?」って聞かれたけど…

適当にごまかしておいた。だって…作ったのあいつだって…言えねぇ…

でもまぁ…帰ったらお礼くらい…言うか

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

〈同じ頃 羽丘女子学園〉

 

「…ウケただろうか」

「何か言ったか?」

「何も言ってないぞ?」

「も~!またそうやって嘘つく~!」

 

俺はいつも通り、afterglowのメンバーと昼食、もとい休息中だ

俺の昼飯?俺は基本カロリー〇〇トだ。

そうだ、これだけだ

 

 

「零くんいつもそれだけだよね?」

「だな〜それだけで足りるのか?」

「まぁ…最近忙しいからな…」

「ちょっとは食べないと~モカちゃんみたいにさ~」

「モカは食べ過ぎ。でも零、偶には普通に食べなよ」

「まぁメロンパンあるんだけどな」

「あるのかよ!なんでそれを先に食べないんだ?」

「いや…なんか…。まぁいい、早速頂くか…な?」

 

カバンの中を漁るが…無い。カバンに入れたはずの…

 

「パンが…無い」

「「「「ええっ!?」」」」

「何で無いんだよ…」

「知らねぇよそんなの」

 

「…」ソロリソロリ

 

「おいモカ。何処に行く」

「ええ~と、ちょっと忘れ物を~」

「カバンは此処にあるだろ?」

 

さっきからモカの目が泳いでる…

今日の席、モカの隣だった…

 

「おい…まさか…」

「…えへへ~」

「モカ…」

「つい食べちゃいました~」

「ハァ…だろうな…まぁいい。後で奢って貰うからな」

「りょーか〜い」

「モカは反省!」

 

 

俺は昼飯を栄養食で済ませる宿命なのかもな…

この後、モカには飲み物を奢らせてチャラにした。

 

 

__________________________________________________

 

 

 

〈夜 市ヶ谷宅〉

 

「ただいま~」

「おかえり、有咲」

 

帰って来てすぐにあいつの様子を見に台所に行ったけど、もう夕食できてる…

なんか…すぐに食べたくなってきたな…

 

 

「荷物置いてきたらどうだ?」

「…腹減った」

「じゃあそこにカバン置け、すぐ食うぞ」

 

 

カバンを置いて食卓に着き、私は零と向かい合わせて机を挟み椅子に座る

私の前には料理があるが…何故か零の前には何も無い…どういうことだ?

 

 

「お前…自分で作ったのに食べないのか?」

「え?食って良いのか?」

 

 

何言ってんだコイツ…何当たり前の事聞いてんだよ…

 

 

「自分が作った飯くらい自分で食って良いに決まってんだろ」

「ええっ?…そうなのか?」

 

 

コイツ…本気で言ってんのか?

…本気だな。だってコイツ…マジで戸惑ってやがる!

挙げ句の果てには、いいのか?と聞いてくるし…

 

 

「いいからお前も食べろ!」

「あ、ああ…」

 

 

ったく…コイツの常識はどうなってるんだよ…

料理とかはできるのに、こういう所は抜けてんだよな…コイツ

 

 

「悪い…待たせた」

「それじゃあ」

「「いただきます」」

 

 

弁当もそうだったが…飯が美味いんだよな~コイツ

特にこの肉じゃが、具材にちゃんと味が染みこんでる。

ばあちゃんは「染みこませるのは難しい」って言ってたのにな…

そんなことを思いながら私はコイツの料理を頬張る…

 

「なぁ…有咲」

「ん?なんだよ」

 

 

いきなり話しかけられ、戸惑いながらも私は口に含んだおかずを飲み込み返事をする

 

 

「有咲はいつも万実さんと食卓を囲むのか?」

「まぁ…そうだな。なんだよ唐突に」

「いや…気になっただけだ」

「ふ~ん…」

 

 

その時のコイツの声は、なんというか…少し弱く聞こえた気がした…

 

 

「今度は私が聞くけどさ…お前って…なんなんだ?」

「なんなんだって、えらくザックリした質問だな」

「だってお前…全然自分のこと話さないじゃん」

 

 

いつからだっけ…コイツの事知りたくなったのは…

そうだった、あのイベントの日からだ…

幸せが分からないとか言ってたコイツは…どんな生き方をしてきたんだ?

今はそれが無性に気になっていた

 

 

「今はノーコメントだ。まぁいずれ話すさ」

「なんか納得いかねーな!」

「だが強いて言うなら…」

「言うなら?」

「人間以上チート以下…だな」

「それじゃ質問の答えになってねえよ」

 

 

人間以上…確かにそうかもな…Roseliaの一件はコイツ1人で片づけたらしいし…

私だって見た、コイツが…傷ついて寝込む姿をな。でも今はどうだ?

医者さえ生きててもおかしいと言ってたのに、今は私の前で平然と夕食を食べてる…

 

コレは多分、ポピパ以外のバンドも思ってるはず。

零は一体…何者なんだ?って

 

 

「まぁ言えないならいいんだけどさ…」

「悪いな…コレばかりはまだ言えない」

「けど…いつかは教えてくれよ?」

「…その日が来たら、な」

 

 

そんな会話をしている間に、私は食事を終えていた

 

「ごちそうさま」

「おそまつさんだ。風呂入れてあるから入りな」

「ありがと」

「じゃあ俺は帰る。また明日な」

「そっか…じゃあまた頼むな、零」

「ああ」

 

そう言って零は帰って行った…

風呂入れてから帰るって気が利きすぎだろ…

 

「まぁ今日も疲れたし、風呂入ってスッキリするか」

 

そして私は、風呂から出た後、明日の用意をして寝た…

 

 

続く…




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第33話 料理って心込めてりゃ何でも美味い

ぶった切った後半です!


〈数日後〉

 

「おはよう、零」

「ああ、朝飯できてるぞ」

「サンキュー。じゃあ」

「「いただきます」」

 

 

私にとってこの生活は、もう日常となっていた。

朝起きてコイツの朝飯を食べて、コイツの弁当を持って学校へ行く

 

 

「用意できたか?」

「バッチリだぞ?」

「そうか?」

「じゃあ…」

「ああ」

「「行ってきます」」

 

 

 

ホント、時間ってあっという間だよな…あいつと食事するのも今日と明日だけ…

 

「(この数日、色々あったんだよな…)」

 

料理の仕方とか、私はあれこれ言ったのに教えてくれた

キーボードの練習も付き合ってくれた…あいつマジで上手かった…

私の愚痴も聞いてくれた。嫌な顔もせず、色々相談も聞いてくれた

疲れた時も「これでも食って元気出せ」って、あんこのスイーツとか作ってくれた

 

あいつには言ってないけど…楽しかったんだよな…

 

あいつはどうなんだろうな…私とどんな心境で接してたんだ?

 

あいつは…私のこと…どんな風に思ってるんだ?

 

 

「って何考えてんだ私は!!」

 

自分でも意味が分からない事を考えていた

それに気づいた私は、頭を振って学校に行った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局…特に何も無く、普通に帰って来て、今は玄関の前に居る

 

「…」

 

いつも普通に開けるはずの玄関を開けられない…

何でだろう…なんというか…ああっもう!なんなんだよこの気持ちは!

 

 

よく分からない気持ちを振り払うように頭を振り、勢いよく玄関を開ける

「ただいまっ!!」

 

あいつはやっぱり帰ってた。でも顔は驚きを隠せていない

 

「お、おかえり…」

「ど、どうしたんだよ…何でそんなに驚いてんだよ」

「だって物凄い勢いで扉開けたから…なんかあったのか?」

「え、いや…何も無い」

「そうか?…なら良いんだ」

 

そう言うとコイツは落ち着いた表情になった…

 

 

「じゃあ食べるか?」

「そうだな」

 

お互い席に着き、手を合わせる

 

「それじゃあ」

「「いただきます」」

 

いつものようにコイツが作った夕食をコイツと一緒に食べる…

それで話しをして…色々教えて貰って…

 

「(私は…コイツに何かできないのか?)」

「なぁ有咲…有咲?」

「えっ?な、なんだよ」

「話聞いてたか?」

「…ごめん。聞いた無かった」

「じゃあもう一度聞くが、料理はできるようになったか?」

「何でそんなこと聞くんだ?」

「有咲も料理くらいできないと、後々大変だろうからさ」

「そうか?できなくても生きていけると思うけど…」

「そんなことないぞ?生きていくうえで、いつどんな時食事が取れなくなるか分からないんだぞ?料理は覚えておけば絶対役に立つ、これは断言できる」

「お、おう…そうか」

 

 

前から思ってたが…何でこんなに説得力があるんだ?相談したときもそうだ、コイツの意見には説得力がある…

まるで…経験者みたいな説得力がな…

 

 

「簡単な料理くらい作れるようになってくれないと…俺は心配だぞ…」

「何でだよ」

「ええっ?だって教えたし、有咲も食事は俺に頼ってばかりだからさ」

「ぐっ…痛い所を突くな…」

 

「まぁ…料理が出来るようになったら嬉しいな」

「!」

 

それだ!コイツは私に料理を作ってくれた

だったら、今度は私がコイツに料理を作ってやればいいんだ

そうすれば、コイツも私を見直すに違いない…

 

「なぁ、零はレシピとかどうやって知ったんだ?」

「レシピか?基本はCookp〇dだ。何でそんなこと聞くんだ?」

「…気になっただけ」

「そうか?ってもう時間だな…食器洗い頼んでも良いか?」

「そのくらいならいいぞ。ありがとな。零」

「いいんだ。じゃ、また明日な」

 

そう言って零は帰って行った…

 

 

 

 

「さてと。じゃあ皿洗いしますか」

 

スポンジに洗剤と水を付け泡立てる。泡立つとシストラルのスッとした香りが広がり

十分に泡だったところで皿を洗う

 

「(この香り…あいつの匂いだな…いっつも私の分も洗ってくれて…って!そうじゃないだろ!なんであいつのこと考えてんだよ…皿洗ってんだろ?)」

 

 

皿洗いを終わらせて、一度風呂に入ってから料理の練習を始めた

 

「ええっと…まずは…」

 

自分が改めてすると、難しい事がすぐに分かった…包丁で野菜を上手く切れないし、炒め物も焦げるし…

改めてあいつの凄さを実感した。

 

「(料理って…こんなに大変なんだな。分量とか時間とか、ハッキリ言って面倒だし…でもあいつは…私のために…)」

 

変な話だと思わないか?

だって自分の為じゃ無い、私の為にわざわざ朝早くからうちに来て弁当作って…それをずっとし続けてくれたんだぞ?

ばあちゃんがあそこまで言うわけだな…ここまで人が良かったらな

 

「それにしても…妙に寒いな…」

 

そういえば今日は珍しく冷え込むってニュースで言ってたな…

 

「まぁ…ちょっとくらい…頑張ってみようかな…」

 

私は、時計の針が12を超えるまで練習を続けた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おかしいな」

 

いつもならもう起きてくるはずなんだが…まだ寝てるのだろうか。幾ら有咲を呼ぼうとも返事は帰ってこない…

 

起こしに行こう、そう思った時。いつも通り有咲が来た…

けど壁にもたれて歩いてくる、息も上がってる上に顔も赤い…

 

「有咲?大丈夫か?」

「大…丈夫…」

 

そう言ってはいるが、自分では立てていない。まさか…

有咲の近くに駆け寄り、おでこを触る

かなり熱い…これは…休んだ方が良いな

 

「有咲、今日はもう学校休め。いいな?」

「何…でだよ?」

「風邪を引いてるからだ」

「嘘…だろ」

「事実だ。ほら、立てるか?」

「…」

「有咲?…しょうがない。怒るなよ?」

 

俺は自力では立てない有咲を抱きかかえて、有咲の部屋に運んだ

 

ベットに寝かせ、布団を掛けておく

 

「有咲?大丈夫か?」

 

…返事が無い

 

「寝てるのか?」

 

寝ていることにしておこう。俺は携帯で学校に電話を掛ける

 

「もしもし、神鷹零です

実は自分風邪気味で…今日は休ませて貰ってもいいですか?…はい、ではまた明日…はい、失礼します」

 

学校って言っても俺の学校だけどな、言うの遅いが…

まぁ一日くらいずる休みしてもいいって聞くし…いいよな?

 

「まぁいいや。お粥でも作るか」

 

美味いお粥を作るために、俺は台所に向かった

有咲の部屋を出て行くとき、何か聞こえた気がするが…多分気のせいだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぐすっ」

 

何やってるんだよ…私

結局…あいつに迷惑掛けてばっかりだな…

なんだよ…くそっ…私は…あいつに…零に…

 

「何もできないのかよ…」ボロボロ

 

悔しくって…涙が出た…

今分かった。私は…零にお礼がしたかったんだ…

私を支えてくれた…私に色々教えてくれた…

だから今度は私が、って思ったのに…これか?

風邪引いて、零を休ませて、私の看病をして貰うのが…お礼か?

 

「くそっ…くそっ…」ボロボロ

 

あまりの悔しさに、私は唇を噛んだ…

私は結局…何もできない。何もしてあげれない。

そう考えただけで自分への怒りが込み上げてくる…

今すぐにでもあいつに謝りたい。今ならまだ学校に間に合う

けど風邪にあらがえない…自分では起き上がれず、そのまま意識を手放した…

 

 

 

 

 

 

 

「ううっ…」

 

「(苦しい…熱い…)」

 

急に苦しくなってきた。楽になろうと動いてみる、けど余計に苦しくなる…

 

「(!…何だ?)」

 

頭に何か乗せられた…

 

「(冷たくて気持ちいい…何だろうコレ…)」

 

熱い体が冷えていく感覚に身を任せ、私はまた意識を手放した

 

 

 

 

 

「う…んん…」

 

薄れた意識が徐々に戻ってきた…

 

「あれ…私…」

 

寝てたのか?…時間は…!?

12時…真夜中だ…

 

起き上がると頭から何か落ちた…これは…

 

「タオル…濡れてる…」

 

私の側には冷たい水の入ったバケツが置いてある…濡らして頭に置いてくれたのか?

 

「起きたか…有咲」

 

丁度良く、零が入ってきた

 

「どうだ?具合は」

「…これ」

「それか?熱そうだったから…

それで顔拭いて頭に置いておいたんだ」

 

また零に…ホント…私は…何も…

 

「有咲…っ!有咲?どうした?」

「どうしたって?」

「なんで…泣いてるんだよ」

 

自分でも分からなくって、自分の顔を触ってみる

あれ…ホントだ…私…泣いてる

 

「ごめん…零…」ボロボロ

「なんで…謝るんだ?」

「だって…私…何にもできないから…」ボロボロ

 

「零との時間…スッゲぇ楽しかったんだ…いろんな事教えてくれたじゃん…。

私はさ…零に…お礼がしたかったんだ!昨日言ってたよな?料理が出来るようになったら嬉しいって。だから私…昨日零が帰った後料理の練習してたんだ。けど風邪引いてまた迷惑掛けちまった!

私は何にもできない!何にもしてやれない!だからもう…悔しくって…」ボロボロ

 

「有咲…」

 

「私…迷惑ばっか掛けてるな…」

 

「そんなこと無い」

 

「えっ?」

 

「有咲は迷惑なんて掛けてないよ」

 

「そんなことないだろっ!なんでだよ!なんで私を慰めるようなこと言うんだよっ!」

 

「…嬉しかったからだ」

 

「何がだよっ!」ボロボロ

 

「お前と飯食ってたあの時間がだ」

 

零は私の頭に手を乗せて言ってくれた

 

「俺は…有咲が羨ましかった」

 

「羨ましかった?」

 

「誰かと囲む食卓を…俺は経験したことが無い」

 

「ええっ?」

 

経験したことが無いって…どういうことだ?

 

「だから俺も楽しかった、お前と話しながら食う飯」

 

その気持ちは…私と…いっしょだったのか…

 

「有咲。冷蔵庫に入ってたあれ、お前が作ったんだろ?美味い料理だったぞ」

 

「食べて…くれたのか?」

 

「当たり前だ。有咲は何も迷惑なんて掛けてない、むしろ俺はお前に感謝したい」

 

「感…謝?」

 

「有咲は教わると同時に、俺に色々教えてくれた。だからさ!

有咲…ありがとう」

 

 

 

「零…私…」ボロボロ

 

「有咲」

 

「なんだよ___!」

 

零は何故か私を抱きしめた。

 

「な、なにすんだよ…」

 

「泣きたいなら泣いても良いぞ?」

 

「…誰にも…言うなよ」

 

「約束する」

 

コイツ…サラッととんでもないことしやがる…

 

「…ううっ…ぐすっ…」ボロボロ

 

けど…なんか…いい///

 

 

今なら全部言える、私は…嬉しい。零にありがとうって言って貰ったから

あの料理を美味しいって言ってくれたから…

 

今こうして…零に包まれてるのが///

 

「なぁ…零」

「何だ?」

「しばらく…このままが…」

「…いつまででも」ナデナデ

「勝手に…撫でるな」

「悪い…止めよう」

「…止めるな」

「どっちだよ…」

「……撫でろ///」

「分かったよ…」ナデナデ

 

コイツ…撫でるの上手すぎ…マジで…

 

「(温かい…いい気分だな///)」

 

「(多分…私は…零が…///)」

 

私はその後も…零に包まれながら泣きじゃくった

 

 

 

 

 

 

 

 

「___さ」

 

んん…誰だ?私を呼んでるのは…

 

「有咲!」

「ば、ばあちゃん!」

「大丈夫なの?風邪引いたって聞いたけれど」

「もうスッカリ良くなったよ」

「そう…良かった…零さんにお礼を言わないとね」

「っ!そうだよばあちゃん!零は!?」

「それが…台所にこの手紙があったのよ」

 

そう言っておばあちゃんから手紙を受け取る

 

『有咲へ コレ呼んでる頃には、風邪引いてるといいが…

2人で食べるはずだった最後の夕食、冷蔵庫に入れておくからちゃんと食べろよ?

今までありがとう。そしてこれからもよろしくな 零』

 

「零…」

 

 

もう居ない。その事実を聞くだけで辛くなる。記憶ではついさっきまで一緒に居たのにな…

 

 

「零は…何を作ってたんだ?」

 

私は零の料理を確かめに、台所に向かった

 

 

 

 

冷蔵庫を開けると、ラップに包まれ付箋がされたお皿を見つけた

 

「多分コレだな…」

 

中身は…ゆで卵…だけ?

 

「どういう…ことだ?」

 

何か意味があるのかと思い付箋を見る。そこには何か書かれていた

 

『ゆで卵、好物なんだろ? 最後に有咲の好きな物作ろうと思ったけど…間違ってたか?

言い訳になるかもしれないが、料理ってのは誰に何をどう思って作るかが大事なんだ。

シンプルでも、それに心込めて作れば、どんな物でも料理になる

だから有咲。料理が下手でも、俺は有咲の作った物は料理だと誇っていいと思う』

 

 

「なんだよ…それ…格好つけやがって…」ボロボロ

 

「(最後の最後に…また教えてくれた…)」

 

「…いただきます」

 

温めず、すぐに口に頬張った

 

「…美味しい」

 

「(ホント…美味いな…あいつの飯は…)」

 

ただゆで卵を食べただけなのに…満たされるような気分になる…涙が出る…

 

「ありがと…零。ごちそうさま」

 

「あらあら、すっかり零さんにご執心だねぇ」

 

「ばあちゃん!?い、いつから!?」

 

「冷蔵庫を開けるくらいからだよ」

 

「全部…じゃんか…///」

 

「ごめんね有咲。でもおばあちゃん嬉しいよ。ようやく、有咲もそういう事を意識し始めたようだねぇ」

 

「そっ、それは…///」

 

ここまでされて…意識しないなんて…無理だろ///

 

 

「俺が何だって?」

 

聞き慣れた声がしたからすぐ振り返った。

そこにいたのは今の話しを1番聞いて欲しくない人物、零だった

 

「ええっ!?れ、零!?いつから居たんだよ!?」

「いやついさっきだ。鍵返してなかったからな…」

「そ、そっか…」

「(聞かれて無くて良かった///)」

 

「じゃ、鍵も返したし帰るな~」

「ま、待ってくれ!」

「な、何だ?」

「あの…その…ええっと…」

「どうした?焦ってないから落ち着け」

「…飯、食べたか?」

「いや…まだだが」

「私が今から料理するから!その…食べてかないか?」

「じゃあ頂くとしよう。でも俺も手伝うぞ」

「ええっ?いいってそんなの!」

「いいから!ほら準備しろって」

「ああ~もう分かったよ!」

 

全く…コイツはお人好しなのか、鈍いのか。

 

でも…そんな奴だから…私は…///

 

 

 

 

 

 

 

「若いのは元気があっていいねぇ」

 

万実は料理をする2人を見て、微笑ましく思ったようだ

 

「よそ見せず包丁持ってだな…」

「分かってるよ!いちいち言うな!」

 

「よかったねぇ…有咲」

 

万実の目に映るのは、あれこれ言いながらも楽しそうにする有咲の姿だった

 

「これで…有咲の未来は安泰だねぇ…」

 

 

2人が並ぶその姿は、誰が見ても新婚夫婦を答えれる程。

 

甘く…賑やかな空間になっていた…




これにて有咲編終了です!

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第34話 彼女たちの思い

ネタ切れた…と思ったら思いついた話
まぁキャラ目線の振り返りと伏線、みたいな感じです

興味ないなら読まなくていいです…
興味半分で書いただけなので…



初めて貴方と出会ったのは、ライブイベントの顔合わせの日だった。

最初の印象は…ハッキリ言ってあんまりいい印象じゃなかったんだよね…

だって貴方は、機材を壊した!って叫んで出てきたんだよ?

この人大丈夫なの?って思っちゃった

 

でも、あの日。紗南と純が帰ってこなかった日。

貴方は帰ってこない2人を連れて帰ってきてくれた。

その時、私…嬉しくって泣いちゃったんだよね…

そしたら貴方は、私の頭を撫でてこう言ったよね?

『もしまたこんなことがあったらな、俺を頼れ。いつでも助けてやる』

って、突然の出来事だったけど…

その時だよ…貴方の事を思い始めたのは

 

けどあの日の最後に…貴方は苦しそうに去って行った…

貴方が見せたあの辛そうな姿が今でも忘れられない

だからあの日に思ったんです。貴方を支える側になって恩返ししようって

でも…いつの間にか、貴方が私を支える側になってた。

 

今でもそう、私が辛くなったら貴方に甘える。

貴方の膝の上に座って、貴方に撫でられて、貴方に話を聞いて貰う。

その時間が、今の私にとってかけがえのない時間…だから…

 

「ずっと一緒に居て」

 

「ん?沙綾?何か言ったか?」

 

「何にも、言ってないよ!」

 

「そうか?じゃあ…続けるか?」

 

「お願いします…零さん///」

 

この時が、永遠に続けば良いのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

お前への最初の印象は、面倒くせぇ奴だって思ってた。

ばあちゃんから、香澄みたいな奴が来たって聞いたときはホントビビったよ…

あのシールを辿ってきたとか…また面倒な奴に違いない。そう思ってたんだ

その予想は大体合ってた。問題ばっかり起こしてる噂の男だったしな!

 

お前の噂は本当だった、超人とか言う奴もいたが事実だった。

集団相手に1人で突っ込んで行ったらしいし…危険物飲み込んで倒れたし…

医者から死ぬかもしれないって言われてたのに、お前は平然として生きてやがる…

ホントにコイツ…信用して良いのか?そう思ってた

 

あの日、いつも通りの練習の日にコイツの演奏を聞いたけど…

コイツのギターは、うまかった。ギターについて詳しくない私でも分かった

それだけじゃない。できないとか言ってた他の楽器も普通に演奏しやがった…

キーボードもだぞ?練習して出来るようになったとかいうレベルじゃねえっての!

そしたら香澄がコイツをコーチにした。まぁそれくらいは予想できたけどな

 

でもあの日、私が財布忘れて行った日。わざわざ届けて来たよな…

その日ばあちゃんの提案で夕食一緒になったけど、お前変なこと言ってたよな?

「誰かの飯は作るが自分のは作らない」って、正気の沙汰じゃないと思ったぞ?

でもお前の飯は美味かった。だからばあちゃんが居ない間の食事を作ってくれって頼んだ

 

その日からしばらくの間、お前は私の食事作ってくれたよな…

マジで美味かった。毎日料理だけじゃなくて色々支えてくれた。

そんな日が続くうちに、私の中でお前の見方が少しずつ変わっていった…

 

それでお前に何かできないかって思った時、お前は私に、料理ができるようになったら嬉しいって言った。

だから私は見直して欲しくって、お前が帰った後に料理の練習をした。

でも…私は風邪引いて、お前は学校休んで看病してもらう羽目になっちまった

あの時、私は私を許せなかった。結局お前に助けられてばっかりだったからな…

 

けどお前は、そんな私を怒らなかった。それどころかお前、私の料理を美味しいって言ってくれた

マジで嬉しかった。あの料理、料理って言えるほどまともな物じゃ無かったのにさ…

その後、お前は私を慰めてくれた。急に抱きしめるって…ホント、お前の思考は香澄以上だな…

 

今でもお前は、偶にうちに来て私に料理教えに来る。有咲はまだまだできるって、ホントしつこいなお前…

けど…そんなお前だからこそ、私はお前を嫌いになれない。

なぁ…お前はどうなんだ?私の事、どう思ってるんだ?

 

…いや、今はそんなこと考えないでおこう。

今は…

 

「___さ!有咲!」

「え!?なんだよ!」

「いや…ずっとボケーっとしてたから…」

「そうか?何でもねぇよ」

「そうか…なら良いんだ」

「それより!早く練習続けるぞ!」

「おお…気合い入ってるな」

 

「当たり前だろ…だってお前が…居るから…」

 

「何か言ったか?」

 

「な、何にも言ってねぇよ!///」

 

「そうか…じゃあ始めるぞ?」

 

「おう!」

 

お前と居られるこの時間を…楽しむからさ

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方と最初に出会ったのは、とあるライブハウスだったわね…

貴方の歌声はスタジオの外まで響いていたのだけれど…気づいてたかしら?

あの日、貴方の演奏は…私達に無い『何か』を秘めていた。

だから最初、貴方をRoseliaのマネージャーにしようかと思っていた

最初は紗夜に反対されたけれど、貴方の演奏を聞いた貰ったら賛成してくれた

あの時、紗夜に反対されていたら貴方とは知り合い程度の関係になっていたかもしれないわね…

 

貴方をスカウトした時、貴方は自分を素人だと言っていたけど、あれは嘘だと今でも思ってるわ。

一度貴方に私達の演奏を聞いて貰ったけれど…貴方は想像以上に期待できると思える程のものを秘めていると確信できた。

貴方は私達の演奏を一度聞いただけだというのに、何故あれだけの指示が出せるのか。

そう思ったのは私だけでは無いはず。でも私達の成長に繋がるのなら何でも良い、それがあの時の私の考え、そこは今でも変わらないわ。

 

練習中に「考え事をしていた」と言っていたあの日のことを覚えてるかしら?

あの時の貴方の顔が今でも忘れられない。

考え事、ただそれだけだとは思えない表情だったわ。

貴方があの時思い出した『嫌なこと』それは一体何だったの?

その後だったわね…突然紗夜が貴方と言い合いをしたのは…

 

正直に言うと、あの時紗夜を止める気がしなかったわ…

このまま紗夜の勢いに負け、貴方が自分について話してくれるのでは?

そう思っていた…

けれど…貴方は紗夜の放った一言で激怒した

その時、私は恐怖したわ…。

貴方は一体何者なのか、その謎が深まるばかりだったわ…

 

そして私は…過ちを犯した

貴方について考えていたとき、あの男が現れた。

あの男の話は…今にして思えば疑わしい話だったわね…

その事にいち早く気づいた貴方は、私達に「スカウトは受けない方が良い」と言って警告した

けれど…私は貴方の話を無視した。

それどころか、4人を説得するために貴方の名を使って嘘までついた

 

その結果が…貴方の忠告通りの結末…

でも貴方が助けに来る。都合の良い身勝手な考えだった

けど貴方は…私達を助けに来た。

けどその時の貴方は…恐ろしかった…目を見れなかった…

貴方は私達を叱った。「あれだけ言ったのにその結果がこれか?」と

それでも貴方は傷だらけになりながらも助けてくれた…

そして…貴方は倒れた…

 

何も言わずに横になる貴方を見て、私は…謝ることしかできなかった…

医者から貴方が死ぬかもしれない、そう言われた時、私は…どうしたらいいのか分からなかった…

けれど…貴方は生きてた。

 

しばらくして…私は貴方の様子を見に行った

私は…貴方に謝罪した…自分の過ちは許されるものでは無いのに

それでも貴方は…私の過ちを許してくれた

それどころか…「自分自身を許せ」そう言ってくれた

貴方の言葉を聞いたとき、涙が止まらなかったわ…

貴方は私を慰めるように頭を撫でてくれた

 

その時から…貴方は私に必要な『何か』になった

貴方は…Roseliaが頂点にたどり着くために必要…

Roseliaを守ってくれた大切な人

だから…例え何があっても…

 

「零」

 

「ん?どうした?」

 

「貴方の事ならどんなことでも受け止めるわ」

 

「ええっ?なんだよ急に…」

 

「…それだけよ」

 

「はぁ…じゃあまた明日な」

 

「ええ。お疲れ様」

 

それが…私が貴方のために決めた覚悟よ…

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたは…変わった人でした。

初めて出会ったのは、CIRCLEでイベントのために顔合わせをした日でしたね…

あなたへの最初の印象はかなり酷いものでした。当然です。あなたは出会ってすぐに問題を起こしたのですから…

でも…今にして思えば、それも良い思い出です…

 

あなたが初めて私たちに指示をしたあの日、あなたは…私を成長させるために…あの子を超えるために必要。そう思っていました。

あなたの技術は、あなたが『秘めているもの』は、確実にあの子、日菜を超えるものを秘めていました。

けど私は…あなたに嫉妬していたのかもしれません…

私はあなたに…聞きましたよね?「何者なんですか?」と…

そしてあなたが返した答え、その言葉は日菜と一緒でした

その時、私は怒ってしまい、あなたに当たってしましました

そしてあなたは…怒りました…

あなたの顔は…私が泣き出しそうになるくらい恐ろしかった…

私はあの時…あなたの…『見てはいけない部分』を見てしまったのかもしれませんね…

 

その日の最後に、あなたに聞きました。「努力で才能は超えられますか?」と。

その答えは…あなたにとって辛いはずの…()()()()兄弟の事でした…

あの時…私は申し訳ない気持ちで一杯でした…あなたが恵まれて居るだなんて言ってしまって…今でも後悔しています…

 

ですが…あなたは私を許してくれました。

それどころか。あなたは私に…不思議な感情を与えてくれました

今もそうです…あなたの事を考えると…変な気持ちになるんです…

悪い気分ではなく…とてもいい気分になるんです

 

ですが…あなたは私達の為に生死を彷徨いました…

その時…私は今までで1番苦しく、悲しくなりました…

『もしあなたがこのまま死んでしまったら?』そう思うだけで涙が止まりませんでした…

何も言わないあなたの姿は、私の脳裏に焼き付き…トラウマとなって眠れない日々が続きました…

眠れない日々が続く中、私はあなたに会いに行きました

 

眠れていないことをすぐに見抜かれ、私は眠れない日々が続いているのを説明しました

その後ですよ…あなたの理解できない提案を聞いたのは。

なんと言ったか覚えていますか?

「今から俺と一緒に寝ろ」ですよ?

何を言い出すの!?と思いましたよ…

ですがあなたに包まれたことでトラウマも無くなり、今では普通に眠れます

 

あなたのおかげで…私は考えを改め、日菜とも少しずつですが仲を取り戻してきました

ギターの技術も磨かれてきました

あなたのおかげで私は変われています

あなたには感謝しきれません…

 

ですが時々…あなたの姿が遠く見えるときがあるんです…

手を伸ばしても届かないほど遠く…遠くに…

私は…不安です。

いつかあなたは…私達から遠ざかっていく。

そう思ってしまうんです…

何故なのでしょうか…

そう見えるのは…あなたが『知られたくない何か』と…関係があるのでしょうか…

もしそうなら…今すぐにでも『何か』について知りたい…

ですがあなたは教えてくれない…でしたら教えて頂かなくても構わない

ですがその代わり…

 

「なぁ紗夜。前から聞きたいことがあったんだが…聞いても良いか?」

「なんでしょうか?」

「友希那達を呼ぶときは苗字なのに

 なんで俺を呼ぶとき名前なんだ?」

「神鷹さんより零さんの方が呼びやすいからです」

「まぁ…そうだよな。俺の苗字呼びにくいよな…」

「私からも質問してよろしいですか?」

「なんだ?」

 

「零さんは…何処にも行きませんよね?」

 

「行くって…何処にだ?今の俺に行く場所なんか無い」

 

「だいたい、RoseliaのマネージャーがRoselia置いて何処に行くってんだ?」

 

「そうですね」

 

「どうしたんだよ…疲れてるのか?」

 

「いえ。気になっただけです」

 

「そうか。じゃ、Aメロからいくぞ?」

 

「はい!」

 

あなたが教えてくれるまで…私はあなたと一緒に居ます。

私を助けてくれたあなたを、今度は私が助けるために




思いついた4人を書きました。他の4人?思いつきませんでした…面目ない

もうすぐタイトルとサブタイトルを変えようかと思っています、変更した際は報告させて貰います。

活動報告をまだ見ていない方はご確認ください!
まぁ書いてあることはもう言ったようなものですけどね…


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第35話 一息ついてまた一難

最近忙しくて投稿が遅れるんです…

今回は前回の零版みたいな感じですね
そして内容が…薄いかもしれn…
え?あ、待って!面白くなさそうって理由でブラウザバックしないで!待ってくれっ!!
せめて最後の部分だけ、後書きだけでも読んで!色々書いてあるから!
お願いします!ね?

…ね?


「…暇だ」

 

 休日の朝、時計の針は7時を指し、空は快晴一点の曇り無し。

 そして5バンド全て今日は練習無し…どうしようか

 

 テレビは何も面白いもの放送してないし、予定も無い…

 そうだ…買い物するか…

 

「じゃあ行くか…」

 

 …テンション低いし説明が少ない? 

 悪い…最近疲れ気味なんだよ…だから少し待て…店に着いた頃にはいつも通りになるはずだ…多分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、到着だ」

 

 どうも皆さん零です。移動中に軽く走って気合い入れて来たぞ! 

 

 まあ…大して走ってない…たったの6キロ走っただけだ…

 十分過ぎる? いやいや…これくらいの距離はいつでも走れるようにしておかないといけないだろ? 

 何故かって? そりゃあ…生き残る…ため…

 

「…くそっ」

 

 あぁ…まただ…またあの時の思考のままだな…

 

 そうだ…俺は平和を知り、人として生きる為に自分の過去を隠して生きている

 俺は変わると決め、彼女たちのバンドと友好関係を結んだ

 彼女たちと関わることで、良くも悪くも俺は少しずつ変わり始めている

 彼女たちには…感謝しきれないな。

 

 

「まぁ折角モールに来たんだし、色々見て回ろうか」

 

 俺は特に考えもなく店の中を歩き始めた

 

 

 

 

 衣服、食品、家具家電、本、娯楽…

 改めて店の中を歩くと色々な店があるんだな。

 今までと比べると、贅沢だなーって思っちまう

 これが普通なんだろうけどな。まぁこれから慣れて行こうと思う。

 

 

 

『それでさ~』

『えっマジ?』

『『アハハッ!』』

 

「あれが普通の学生…なのか?」

 

 前を通り過ぎたのは制服に身を包んだ少年達だ。

 俺もその世代のはずだが…

 

 

「(何もかも変わったな…)」

 

 そう思いながらもまた歩き出す…

 

 

 

 

 そういえば…俺と一緒で彼女たちも変わった気がする

 特に沙綾、有咲、友希那、紗夜、リサ、あこ、燐子、美咲と言った、結構色々あったメンツがな…

 どう変わったのか? 

 

『いらっしゃいませー!焼きたてですよー!』

「パン屋か…」

 

 まず沙綾だが…最近パン買いに行くとサービスしてくれるようになった

 それどころか商店街の人々も俺に色々くれるようになった

 最初は何か裏があるのかと疑ったが…そんな考えさらさら無いようだ

 一度商店街の人々に何故なのか聞いてみたが…

『これも沙綾ちゃんが幸せになる為だから気にしないで』

 と皆答えていた…どういうことだ? 何で俺にサービスすることが沙綾の幸せに繋がるんだ? 

 

 あとは…前より甘えてくるようになった。まぁやることは前と変わらないが…

 彼女はそれで満足しているようだ。これで…彼女に恩を返せているだろうか…

 今度はあれだな…一緒に寝るか? とか聞いてみようかな…

 

 

 

 

『ねぇいいでしょ~?』

『ダーメ!』

『うう~』

『…分かったわ。買いに行きましょう』

『いいの!?ありがとう!お姉ちゃん!』

 

「姉妹か…」

 

 

 紗夜は日菜との溝を埋め始めたようだ。良いことだ。俺は…もう居ないからな…

 ギターも徐々に上達してきている。これならいつか日菜を超える日も近いだろう

 だが最近…紗夜も甘えるようになってきた。まぁいいって言ったのは俺だが…

「また一緒に寝るか?」って聞いたときは迷ったあげく残念そうに断ってた。

 

 

 あこは…相変わらず何を言っているのかよく分からないときがある…

 いや分かる事もある。だが『バァーン!』とか『ズギャーン!』とかは流石に分からない。あれ何なんだろうな…ゲームとかの効果音か? もっとゲームで遊ぶか…

 あこも甘えるようになってきた…主に「上手く出来たから頭撫でて!」の一言のみだがな。

 まぁそれで満足するなら誰だろうと撫でるつもりでは居るので、言われたらいつでも撫でてる

 

 

 美咲はこの前妹さんに会いに行った。元気そうだったから良かった。

 その後は美咲の母親に夕食を誘われ、美咲家と食卓を囲んだ。

 その時…美咲の両親に妙な質問をされたな…

『君は美咲のこと、どう思ってるの?』ってな。

 その時は「大事な人です」って答えた。

 そしたら何故か美咲の両親は喜んでたな。美咲は顔赤くして部屋から出て行ったが…何であの時慌ててたんだろうか…

 おかしなこと言ったか? だって美咲はメンバーの1人なんだし…おかしな事言ってないだろ? 

 

 

 

 

 

「んん?」

 本屋の横を通り過ぎる所で、ふと目に留まった数冊の本

 

『体調不良に効く薬膳レシピNo,2』

『イマドキの流行ファッション集』

『あなたもコレで人気者!カラオケで高得点のコツ』

「なんか…色々だな…」

 

 

 有咲は…変わったのか?いや変わったな…前よりは角が取れたな

 料理作りに行く必要がなくなっても、俺は今も料理を教えてる

 有咲も、文句を言いながらもちゃんと話は聞いているようで、教える度に上達している

 ただ…引きこもるのは感心しないが…まぁ香澄に引きずり回されて外に出てるからいいか。

 

 

 リサは…俺に対して心配性になった。面倒見が良く、Roseliaのムードメーカーでもある彼女の存在は必要不可欠である。

 それ故に彼女にはあまり負担を掛けたくないので、あまり頼らないようにしているのだが…

 彼女の腑に落ちないらしく、何かあるごとに『何か困ったことがあったらいつでも頼ってよ?』と言ってくれる。

 その度に俺が『今は何も無いから大丈夫だ』と言うと、必ずと言って良いほど拗ねる。そして俺が頭を撫でると機嫌が戻る…このループは無くすべきだろうか? 

 ベースも最初は焦りや音のズレがあったものの、今はそう言ったミスも無くなってきた。

 Roseliaの中でも、1番の努力家はリサだな。今度そう言って褒めてやるか。

 

 

 燐子は最近、俺にアドバイスを求めてくるようになり。変わろうとする姿勢が見て取れる。

 Roseliaの衣装作成も打ち合わせはするものの、作成自体は燐子に任せてる。俺に裁縫の知識は無いからな…

 キーボードに関しては元々実力はあったので、ミスを無くせるように練習している。

 そういえばこの前…俺の衣装を作りたいから寸法を測らせて欲しいって言われたな…

 測って貰ったんだが…寸法測るのってあんなに引っ付かないと出来ないのか?って位近かった。

 しかもあの感じ…なんか興奮気味だったような気もするが…勘違いだろうな

 俺の衣装か…楽しみだな…

 

 

 友希那は…前より慎重になったな。まぁ原因は前回の一件だろうがな…

 何かしらの決め事があったら必ず俺に相談するようになった。

 俺の言葉の意味を理解してくれたみたいだし、これでRoseliaが選択を見誤ることは無いだろう

 歌唱力は…正直俺には分からない。元々歌唱力の実力はそこまで高くないからな…

 だがその歌声は前より透き通っているような…迷いが無いように聞こえるようになった。

 

 

 

「(思い返してみると、色々あったな…)」

 

 本屋からしばらく歩き、電気屋の前で止まった

 

 

 彼女たちのバンドにはそれぞれに芯がある。

 あの景色を見たい。いつも通りで居たい。夢を掴みたい。頂点を目指したい。世界を笑顔にしたい。

 

 それぞれに目標があり。それぞれに思いがある。

 これが彼女たちが奏でる。異なる音の源なのだろう…

 

 俺は…平和に生きたい。彼女たちとは違って俺は…人間じゃ無い。

 けど…彼女たちに、普通の人に近づく事は出来るはずだ。

 

 でないと俺は…俺は…ただの…

 

 

「(いや。その考えは止めよう)」

 

 この事を言うと、彼女たちに散々怒られてきたしな…

 だから俺は変わる!人として生きる為に努力する! 

 よし…大分スッキリしたな。もう此処に居る必要は無い! 

 

 

「そうと決まったらさっさと帰るか!」

 

 そう言って歩き出そうとしたときだった。

 

 

 

 展示されていたテレビから、『あるニュース』が報道された

 

 

『続いてのニュースです。

 今日未明、人気アイドルグループ〇〇〇のメンバー数名が、【不慮の事故】により重傷を負い、病院に救急搬送されました。

 これに対し事務所は、【数日前に謎の脅迫状が届けられた】と話しており、警察は傷害事件として…』

 

 

「アイドル…グループ…」

 

 この時、俺は他人事では無い気がした。

 もし…最悪の事態が起ったら…()()()()を守らないとな…

 

「まぁ…警察が捕まえてくれるのを祈ろう」

 

 最悪の事態は起らないと自分に言い聞かせ、俺は家路に着くのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが……

 

 

 

 

 

『社長!大変です!』

 

『どうした。そんなに慌てて』

 

『事務所の前にコレが!』

 

 男はそれを社長と呼ぶ男に見せた

 

『何っ!?それはまさか!!』

 

『例の…脅迫状です!』

 

『すぐにスタッフと彼女たちを集めるんだ! 

 それと彼女たちのマネージャー…

 神鷹マネージャーも呼ぶんだ!!』

 

『ええっ!?彼もですか!?』

 

『当然だ! 彼なら良い案を出せるかもしれない!』

 

『分かりましたっ!』

 

 そう言って男は出て行った

 

『学生である彼に頼るのは得策では無い

 だが…今は彼の力を借りるしかない…

 彼女たちを救った彼の力を…』

 

 

 

 零と彼女たちを襲う…

 

 

 次の嵐は、もうすぐそこ前迫ってきているのだった…

 

 

 




と言うわけで、次回よりシリアスだぜ!待たせたなっ!

これから私は試験のため、しばらく投稿が安定しなくなるかもしれませんが気長にお待ちください…



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色無き心に彩りを
第36話 依頼と期待


Reゼロコラボ、皆さんどうですか?
レム燐子とエミリア友希那…出ましたか?
自分ですか?30連しても出ませんでした…
それだけです…

パスパレ編始動!



『よく来てくれた。神鷹君』

 

俺は今、事務所の社長に呼ばれ社長室に居る。

部屋の外に居たスタッフ達は何か知っているようだが…

なんとなく…呼ばれた理由が分かる気がするな…

 

「社長」

『なんだい?神鷹君』

「ハッキリ聞きます。例の脅迫状は関係ありますか?」

『っ!?』

 

社長の顔が変わった…関係大ありのようだ

 

『何故それを!?』

「先ほどテレビでとある事件を知りました。

 俺を呼び出したのはその事件が原因ですね?」

『…そうだ。事務所の前にこれがあったそうだ』

 

そう言って社長が見せてくれたのは、1枚の手紙だ…

 

「それが脅迫状ですか?」

『恐らくな…読んでみてくれ』

「はい…」

 

社長から脅迫状を受け取り、中の文章を読む

 

 

〈〇〇〇事務所へ

 

 我々は偽りのアイドルと言う罪人に裁きを与える者なり

 貴様らの罪は過去の過ちから目を背けている事だ

 罪人の貴様らは我々が裁く、だが慈悲を与えよう。

 Pastel*Palettesの解散宣言を報道しろ

 そうすれば、我々は手を出さない。約束しよう。

 もし警察に言ったら…彼女たちの命は無いと思え。

 無能な貴様らでも正しい判断が出来ると信じよう

 

 審判者の集いより〉

 

 

ハッキリ言って…何だよこの文…

「罪人」とか「裁く」とか…一般的な知識が少ない俺でも分かる。これは「中二病」ってやつだろう?大体何だよ審判者の集いって…馬鹿なのか?

もうちょっとマシな名前にしろよ…てかそうじゃない

 

 

「これは…本物ですか?」

『…分からん。が、ここまで書かれているのに見逃すわけにも行かない。現に事件は起きているのだからな…』

 

 

当然だ…理由は知らないがここまでされてイタズラだったら俺は容赦しない。

本当に命を狙ってるなら…その時は…【やる】しかないな

 

「それで…何故俺は呼ばれたのですか?」

『実は…君に力を借りたいんだ』

「俺に?」

 

『そうだ…情けない話だが、我々にはどうすれば良いのか分からない。

だが君はスタッフや彼女たちを救った!冷静に状況を判断でき、スタッフ達には無い行動力もある!だから我々は…君の力を借りたいんだ!タダとは言わない!望みなら幾らでも金は出そう!頼む!』

 

 

俺は…社長の覚悟を実感した。16の俺に頭を下げようとしたのだから。

スタッフの、Pastel*Palettesの為に…

 

だから俺は、頭を下げようとした社長の肩を掴み、頭を完全に下げる途中で止めた。

 

『何を…』

「そこまでされなくてもいいです。

 分かりました。その仕事請け負いましょう」

『本当か?』

「男に二言はありません」

『そうか…ありがとう!神鷹君!』

 

社長は俺の手を握りしめ、そう言った

 

 

 

 

俺は椅子に座り、社長と会議を始めた

 

『神鷹君。数日後にアイドルイベントがあるのを知っているな?』

「はい…確かパスパレのライブもありましたよね?」

『そうだ…本当は出場を辞退したいのだが…』

「だが…どうしましたか?」

『辞退は出来ないのだよ…今回のイベントは、彼女たちの演奏を聞きにお偉いさんも来るのでな…』

「なるほど…」

 

 

コーチの俺が言うのもあれだが、彼女たちの知名度はハッキリ言って低い

そういった所でチャンスを掴まない限り、この業界では生きてはいけないそうだからな…

本当なら、社長を説得させ出場を辞退させるのが1番だが…依頼を受けてしまった以上仕方が無い…

 

 

『まずは君の意見を聞かせて貰おう』

「そうですね…まずこの会場ですが…」

 

そこから俺は、今までの経験と知識(過去の戦術)を生かし、警備や機材の配置。スケジュールの変更。入退口の警備の強化を提案した。

 

「今言えるのはここまでですね…あとは場所を見ないと何も言えません」

『そうか…』

 

社長は何かを確信したような目をしていた

 

「どうしましたか?」

『やはり分からない…君は本当に…何者だ?』

「ただの高校生ですよ」

 

 

その後も社長と会議を続け、それなりに話がまとまった

そして俺は根本的な事を聞いた

 

「社長。1つ聞いても?」

『なんだい?』

「この事は…パスパレのメンバーは…」

『…』

「言ってないですよね」

『すまない…』

「まぁいいです。自分が言いますから」

『本当にすまない…』

「それでは」

 

そう言って俺は社長室を出たが…外に居たスタッフ達は話を聞いていたらしく、すぐに指示に従います!って言って何処かに行った…

本当にそれでいいのか?と疑い、自分たちなりの解決策を考えようとしないのか?

 

「ハァ…そう言っとけば良かった…」

 

そう後悔しながら俺は、彼女たちが居る部屋へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

「零だ。入るぞ」

 

「どうぞ」

 

「失礼する。皆悪い、待たせたな」

 

軽く謝罪した後、彼女たちをロングテーブルの横で椅子に座り、向かい合う状態になってもらい。俺はテーブルの前に椅子を置き座った。分かりやすく言えば、ドラマよく見る会議で座る配置だな。ドラマはあまり見ないが…

 

「「「…」」」

 

彩、麻弥、イヴは不安そうな表情でこちらを見ている

千聖は何かを察したような目を向け

日菜に関してはタイクツだったと言いたげな表情を見せている

 

「あの…零くん?」

「どうした?彩」

「私…なにかやっちゃったかな…」

「別に誰かクビになるとかそんな話じゃ無い」

「ホント!?」

「ああ」

 

そう言うと不安そうだった3人はいつも通りの表情に戻った

 

「よ、よかった~」

「良かったですね!アヤさん!」

「ヒヤヒヤしましたよ…」

 

 

「まぁ何も良くないがな」

「「「ええっ?」」」

「やっぱり…零。何があったの?」

「実はな…」

 

その後、俺は社長室でのやりとりを5人に伝えた

 

 

「と言うわけだが…」

「「「…」」」

 

完全に彼女たちの顔が曇った…

当然だ…自分達の命に関わるのだからな…

 

「でもさ~本当に信じちゃうの?その手紙」

「まぁ日菜の言いたいことも分かる。だが万が一があるからな」

「零くんならどうにかできるんじゃない?」

「俺もそこまで万能じゃない」

 

まぁ相手が分かっていれば【どうにでも】できるがな…

 

「それで聞きたいんだが…皆はどうしたい?」

「どうしたい…って?」

「イベントに出るか出ないか。どっちがいいかだ」

「「「ええっ!?」」」

「零?それはどういうことかしら?今の話を聞く限り…」

 

「出る方向で話しはしている。だが出るのは皆だろ?

 だったらどうするか決めるのは最終的に皆だ」

 

 

自分で言ってることがどれだけ残酷なのかは分かってる

当然だ…出たら命が危うい

出なければ…アイドル業界で生きていくのは厳しくなる可能性もある

どちらを取っても…後悔は残る結果となる…

だがそんな重要な選択を、途中から入った俺が決めるのはおかしいだろ?

だって彼女たちの人生なのだから…

 

 

「私は…」

 

皆が悩む中、最初に口を開いたのは彩だった

 

「私は出たい!」

「「「ええっ!?」」」

「彩ちゃん!本気で言ってるの!?」

「そうですよ彩さん!」

「キケンです!」

「彩ちゃん…止めた方がいいと思うよ?」

 

「彩…幾ら俺でも確実な安全は保証できない。

 最悪の場合…どうなるか分かってるはずだ

 それでもか?」

 

言い過ぎか?いや言い過ぎじゃない。命に関わる事だからな…

 

彩は一瞬下を向いたが、すぐに俺の目を見て話を続けた

 

「それでも…今出場しなかったらずっと後悔すると思う…

 それだけは…絶対に嫌だから!」

 

「お偉いさんが来るからか?」

 

「そんなの関係ないよ!私は…

 どんなことがあっても…

 アイドルを頑張るって決めたから!」

 

「「彩ちゃん…」」「アヤさん…」「彩さん…」

 

 

彩の目は…迷いのないまっすぐな目をしている…

 

俺は今、彩の凄さに驚いている

自らの安全と夢を天秤に掛け、夢を選んだ…

並大抵の勇気じゃない…それ程まで夢とは力になるのか?

 

 

4人にも意見を聞こうとしたが…

4人はしょうがないな…というような顔をしている

もう決まったようなものだが…一様確認しておこう

 

「…本当にいいのか?」

 

「ええ。こうなった彩ちゃんは止められないから」 

「まぁそれが彩ちゃんの良いとこだしね~」

「そうですね!彩さんらしいです!」

「それがアヤさんのブシドーです!」

 

「全会一致か…」

 

「それに、貴方も居るんでしょ?」

「まぁ…社長にもそう言ったからな…」

「だったら私は良いと思うわよ?」

「そうです!レイさんは私達を助けてくれました!」

「それにお姉ちゃんも助けてくれた!」

「ジブンも零さんが居るなら安心です!」

「そうか…」

 

ここまで期待されるのは久しぶりだな…

ましてや命に関わる事…複雑だ…

 

「…全員出場。それでいいんだな?」

「「「はいっ!」」」

「分かった。俺も全力を尽くそう」

 

「それで…私達はどうしたらいいの?」

「まぁ皆がやることはいつもと変わらない」

「つまり?」

「イベントに向けての練習。それだけだ」

「ええっ?それだけですか?」

「それだけだ」

 

Roseliaの一件は、相手が誰だか分かっていた上。情報源(雑魚共)がすぐそばに居たからがすぐにできた。が、今回の場合は相手も人数も分からない。その場合、作戦を複数練り被害を最小限にするのが俺のやり方だ。というかそう教わったからな…

狙われていることを確信できる以上、守ることに専念していればおのずと敵は姿を現す。そして出てきたところを…どうしてやろうか。

 

「皆はいつも通りの演奏をすればいい

 後の事は俺とスタッフ達で対処する」

 

「な~んだ。以外と簡単だね!」

「日菜の言うとおりだ、皆がすることと言えば練習と周りの注意。これだけだからな」

「零?そんな簡単でいいの?」

「いいの?って言われても…皆に出来る事って他にあるか?」

「確かに…そうね…」

「揉め事は俺に任せておけばそれでいい」

 

本当は…揉め事なんてしたくないが…

この際しょうが無い…

 

「じゃあ私たちは今できることをしよう!」

「そうですね!」「そうだね~」

「練習か?」

「それが今、出来る事だから!」

「分かった。準備しておいてくれ」

「はいっ!みんな行こ!」

 

彩の合図と共に、メンバー全員が部屋を出ようとした

 

「私は後から行くわ。みんな先に行っててちょうだい」

「うん!分かった」

 

そう言って4人は出て行った

 

「…ようやく2人になれたわね」

 

「(千聖の表情が変わった…)」

 

「零。あなたに聞きたい事があるの」

「何だ?」

 

 

 

「貴方は本当に何者なの?」

 

さてどうしたものかな…この状況…

 

 

 

続く… 




タイトル変えた途端読んでくれる人倍に増えてビビってます…

新たに評価を付けてくださった
「シルスキー」さん「301部隊」さん「おべ」さん
ありがとうございます!!

評価ゲージが伸びて嬉しい…!


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第37話 似たもの同士

皆さんお待たせ!
遅い?……風邪引いてた(現在進行形)
今後は風邪は関係なしで投稿が遅れます…気長に待って!

風邪で頭回ってない日々が続く中書いたものなので、おかしな所多いかもです…
おかしくても許してください…


「貴方は本当に何者なの?」

 

 

毎度毎度言われるこの言葉、もう聞き飽きたな…

あと何でそこまで過去について知りたがる?

 

 

「言わないと駄目なのか?」

「…ええ」

「何でだ?」

「貴方のことを信用したいからよ」

「信用してないのか?」

「そんなことは無いわ…けどそろそろ教えてくれても…」

 

「素性を言わない人間に私達の命を預けられないってところか?」

 

「っ!?」

 

 

そう断言したとき、千聖は驚きを隠せていなかった

 

 

「俺の過去については言えない」

 

 

千聖に嘘は通用しないだろう…どうしたものか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素性を言わない人間に私達の命を預けられない

 ってところか?」

 

「っ!?」

 

 

嘘…何故私の考えが分かるの!?

 

 

「俺の過去については言えない」

 

 

零…やはり貴方を…信じたくても信じられないわ

確かに貴方は…私とイヴちゃんを助けくれた

けど貴方は…『普通じゃない』

スタッフよりも冷静かつ行動力がある

そして人知を超えた身体能力を持つ人間

そんな貴方を完全に信用するのは…やはり難しいわ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のこと、信用できないか?」

「…ええ」

 

 

まぁ無理もない、俺も同じ立場に立たされたらそう思うだろうからな…

だが信用してもらわないと…後々の指示が出来なくなる…

 

 

「貴方は命の恩人よ。だけれど…」

「どうしたら…信用してくれるんだ?」

「貴方が今隠している事、それを教えて」

「…」

「今この部屋には私と貴方しかいない。それでも…難しいかしら?」

 

 

今後の指示のためにも信用はして貰いたい…

かといって俺の過去を話す訳にもいかない…

だがいずれ話す時が来るのでは?彼女たちにいつまでも隠して行けるとは流石に思っていない。

だが…全てを知った時…今までのようには接してもらえなくなるのは目に見えている

どうすればいい…どうすれば…

 

 

「(いや…待てよ…)」

 

「なぁ千聖。隠していることなら何でも良いんだな?」

「えっ?え、ええ…貴方に大きく関わることなら…」

「だったら…約束できるか?」

「約束?何かしら?」

「…絶対に俺を信用しこの事は誰にも言わない、と」

「…それはどうして?」

「できるかできないか聞いてるんだ。どっちだ?」

「…できるわ。約束する」

「本当だな?」

「約束するわ。絶対よ」

「…分かった」

「本当?」

「だが始めに言っておく、話すことはできない」

「えっ?」

「だが…()()()()()事はできる」

「見えてもらう?どういうことかしら?」

 

「まぁ見てろ」

 

 

そう言って俺は…テーブルの上に置いてあった

ウエットティッシュを手に取り…

『左頬』を拭き始めた…

 

 

「零?何をしているの?」

 

「千聖…悪いが過去については詳しく言えない

 だが…過去に関わる物。それを見せれば良いんだろ?

 だったら俺が悩んだあげく見せるのは…コレだ」

 

 

ウエットティッシュが肌色になったのを確かめた後…

俺は…『メイクを落とした左頬』を見せた…

 

 

「っ!!??」

 

「これが…今お前だけに見せられる…俺の過去だ…」

 

これが…今できる最大限のことだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが…今お前だけに見せられる…俺の過去だ…」

 

私は…自分の目を疑った。

零がウエットティッシュで拭いた部分に…無数の傷跡が浮かび上がった…

理解が追いつかなかった、今まで彼が見せていた素顔は…偽り(メイク)だったの?

改めて彼の顔を見ると、所々肌の色が若干違う事に気づいた

まさか…左頬だけじゃ…無いの?

 

 

「貴方…何なのよ…その傷跡は…」

「やんちゃな時期があった。とだけ言っておく」

「……そう」

「これで信用するよな?」

「当然よ」

 

 

本当はもっと聞きたいことがある。けれど…

…もう聞けない。

 

 

貴方の素顔を見た途端…

冷や汗が止まらない…

部屋の温度が急激に下がったような感覚がする…

これ以上貴方の過去について踏み込んではいけない…

私の感がそう言っている…

 

それに…約束を守ってくれたのなら…信じるしかないわ

 

でも…どうしても聞きたい…

 

 

「零。1つだけ…聞いても良いかしら」

「何だ?」

「貴方は…どうして自分を偽るの?」

 

「その話…()()()()()()()と関係あるのか?」

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面…そう言った途端、千聖の表情は…()()になった

どういう意味か分からない?簡単に言えば、俺と似ているな…って感じだ

それでも分からない?…悪いがコレについては上手く例えられない…

要は『似たもの同士』って所だと思ってくれればいい

 

 

「そう…貴方には分かるのね」

「ああ。分かるとも」

「自信があるのね」

「当然だ」

「何故?」

 

 

「俺も千聖も似たもの同士だからな」

「似たもの同士?何も知らないくせによくそんなこと言えるわね」

 

「(明らかに声色が変わった。これが千聖の素か…)」

 

千聖の事を知らない。それは半間違い半正解だな

事務所(ここ)に勤めるようになってから大体の事は調べた

子役の白鷺千聖…それがお前の持つ()()()()だとしたら

名の無い化け物…それが俺の持つ()()()()

だからこそ…俺には分かる

 

 

「確かに俺は千聖の事を全然知らない」

「当然のことでしょう?」

「だが…分かる事だってある」

「嘘をつかないで…」

「嘘じゃない。分かる」

 

 

「…のよ」

「?」

 

 

「貴方に何が分かるって言うのよっ!!」

「…」

 

 

千聖は俺の発言に対して激怒、反論した

 

だがこの時、俺は確信した

千聖は俺と同じ、()()()()()()んだとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意味が分からない…何を言い出すのかと思ったら

分かる事だってあるですって?

ふざけないで…

 

 

「貴方に分かるはずがないでしょ!今まで…どれだけの事があったかなんて…貴方が気安く分かるなんて言わないで!」

 

 

そう…分かるはずがない…

幾ら貴方でも…そこまで分かるはずがない

そもそも貴方が言ってることは他の人達(大人)と同じ…

私に期待を押し付ける為の発言でしかない…

 

 

 

「口先だけならどうとでも言えるでしょ!そんな中身の無い言葉は聞き飽きたのよ!」

「口先だけじゃ無い」

「嘘よ!」

「嘘じゃない」

「…えっ?」

 

 

彼の放った一言は…私を静める程…

ハッキリと…中身があるように聞こえた…

 

 

そして彼の顔は…今まで以上に真剣で…

彼の目は、他の人達(大人)とは違う

嘘偽りの無い目をしていた

 

 

「俺だってそうだった。誰かに期待されてた…幼くても、やりたくなくても関係なかった。ずっと期待に応えないといけなかった…そうでもしないと生きていけなかったからだ」

 

 

「!!」

 

 

「…一緒だろ?俺も千聖も、だから言えるんだ」

 

 

彼は…私の目を見て堂々と言う

 

 

「俺はお前の辛さも分かる。どれだけの努力があって此処に居るのかもな。俺はお前の背負う辛さが分かる。だから辛いのなら辛いって言え、苦しいなら苦しいって言え。俺はどんなことでも受け入れるし受け止めてやる。絶対にだ」

 

 

「っ!!」

 

 

全てが初めてだった…

彼の顔も、目も、言葉さえも…他の人達(大人)と明らかに違った

偽りじゃ無い…演技でも無い…

私と同じ背負っていた人の…本物の中身がある言葉

 

 

彼の言葉を…聞いた時、私の中でヒビが入るような音がした気がする

 

 

 

「…ほら」

 

 

彼は私に近づき、ズボンのポケットからハンカチを取り出して私に差し出した

 

 

「…これで拭いとけ」

 

 

何を?と言おうとしたら、私の頬を温かいものが流れているのが分かった

私は…涙を流していた

けど私は…泣いてはいけない。

そう自分に言い聞かせてきた…

 

泣きたいのに…泣くことができない…

 

 

「今この部屋には俺と千聖しかいない

 それでも…難しいか?」

 

「零____っ!」

 

 

 

そう言って彼は、私の顔が彼の上半身に軽く埋まるように抱き寄せた

 

 

「今だけは泣けるように…誰にも見えないようにしておく」

 

 

彼は…本当に分かっている…

 

 

「ううっ…ぐすっ…」ボロボロ

 

「そうさ…それでいい…」

 

 

彼は抱き寄せたときに頭に乗せた片手で

私の頭をゆっくり撫でてくれた

 

 

彼の前なら…泣ける…

彼の前では自分を偽らなくてもいい…

 

だって彼は…初めて出会った…

 

似たもの同士(真の理解者)、なのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからどれだけの時間が過ぎたのだろうか…

千聖はまだ泣いている…

 

彼女が背負ってきたものはどれだけのものだったのか

一体どれだけの時間が、彼女を苦しめたのか

それは分からない…

 

だが俺も、部隊のメンバーとその家族や友人の命を背負って生きてきた

だからこそ、背負う辛さは誰よりも分かる

周りからの期待も苦痛に変わるときだってあった

 

だからこそ…その辛さが分かるからこそ

俺は少しでも千聖を楽にしてあげたい…

千聖には、素の千聖を受け止める人間が必要だから…

俺にも…いたからな…受け止めてくれた奴が…

 

 

「…零?」

「どうした?」

「ちょっとだけ…苦しい」

「えっ?ああ…悪い」

 

 

考えている間に、力が入りすぎていたようだ…

すぐに手を放し、抱きしめるのを止めた

 

 

「悪かった」

「いえ。いいのよ」

 

 

千聖の顔つきはさっきよりも落ち着いていて、楽になっているのが見て分かる程、穏やかだった

 

 

「ありがとう、零」

「いいさそのくらい…」

「そのくらいでも、私には十分よ」

「そうか。ならよかった」

 

 

そういえば…パスパレの練習をすることを忘れていた

消した左頬のメイクを戻し、扉に向かおうとした

 

「…待って」

 

千聖に止められた、服の袖をつままれていたのだ

 

「千聖?」

「…待って」

「でもそろそろ行かないと…」

「…嫌よ」

 

理由を聞こうと後ろを振り返るが…千聖は俺の腕を掴んで離そうとしないその上何故か顔が赤くなっている…

まぁ泣いた後だからだろうな…

そこまで辛かったのか…

 

「零。貴方は受け止めると言ったわよね?」

「ああ、言った」

「だったら…」

 

 

「もう少しだけ…私を受け止めて?」

「千聖…」

「お願い…零」

 

顔を赤め、弱々しい震えた声で俺にそう言う…

少し考え、また千聖を抱き寄せた

 

「分かった…でも少しだけだぞ?」

「…どれくらい?」

「うーん…5分?」

「10分」

「…「10分」…分かった」

「ありがとう」

 

 

 

結局20分ほど続いたため、待てなくなった日菜が部屋に入ってきてしまった

その結果、俺が千聖を泣かせたんだと日菜に叫ばれ、誤解を解くために一日かかってしまった…

何でそうなる…世の中はいつでも理不尽だな

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

私は家に帰り、自分の部屋のベットに倒れ込んだ

 

 

――受け止めてやる――

 

 

「…///」

 

目を閉じると彼の姿が見える

私を受け止めてくれた彼の言葉が聞こえる

 

 

「…零///」

 

 

彼は私の我儘に付き合ってくれた…

あの感覚は…忘れられない…

 

「(出会ったときから思っていたけど…貴方は面白い人ね

 私の事を理解してくれるなんて思ってもいなかった

 零…さっきはごめんなさいね。貴方を疑ってしまって…)」

  

「(確かに、貴方の過去については謎が多い…

  時には疑う時もあるかもしれない)」

 

「(けれど…私は貴方を信じるわ…)」

 

「(だって…私が初めて出会った似たもの同士(真の理解者)だから)」

 

けれど…

 

 

『千聖』

 

「っ!///」

 

 

彼の事が…頭から離れない…

今まで表に出さないようにしてきた感情が…

彼のおかげで出せるようになった…

 

「(…寂しいわ。零)」

 

少しだけ一緒にいただけなのに、とても心地の良い時間だった

彼の優しさが…近くに無いと苦しい…

彼に…もっと受け止めて欲しい

そんな感情が溢れて止まらない…

 

 

「…」

 

気を紛らわすために布団を丸めて、抱き枕のようにする

けれど…違う。明らかに違った…

温もりも…匂いも…

 

 

「(そういえば…彼のハンカチ、まだ返してないわね…)」

 

 

そう思いながら、彼のハンカチを手に取る

ハンカチからは、ほんのりだけど彼の匂いがした

彼の匂いだけで…落ち着くと同時に心臓の鼓動が早くなる

 

「零…」

 

 

「(私をこんなに変えてしまうなんて…貴方は罪な人ね。この責任は…ちゃんと取ってもらうわよ///)」

 

 

私はその後、彼のハンカチを枕の上にのせて顔を埋め

彼の事を考えながら悶え続けた…

 

 




どうですか?結構頑張った千聖さんです!
こういうのもありでしょ?…無し?そうですか…

☆10を付けて頂いた無敗のおっさんさん
☆9を付けて頂いたむにえるさん 
ありがとうございます!!

コメントはやっぱり嬉しい!モチベ上がります!
そしてお気に入り減ると未だにテンション下がります…

活動報告、また上げました。


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第38話 気を抜く時はタイミングを考えろ

リゼロコラボ終わったら今度はドリフェス…スター無いって…
やってくれますね運営も…


今回はかなりシリアスです。ご注意を

ーシリアス苦手な人の為の回れ右用スペースー





 脅迫状が届いて数日が経ったものの、特に変わった事は無い…

 

 

『思ったよりも楽に終わりそうだな!』

『どうせイタズラだったんだろうな』

『気張って損したな…』

 

「(ふざけやがって…)」

 

 

 変化が無い為、スタッフは皆気を抜いている…

 

 その事に俺は苛立ちを覚えている

 当然だ。何も起きないからといって全てが終わったわけでは無い。

 現に有名なアイドルが同じような脅迫状を送られ、今も病院の中だからな。

 イベント自体がまだ終わっていない。ましてや明日がリハーサルだ。

 本当に警戒するべきはこれからのはずだ…

 1番気を抜いて楽になりたいのはパスパレのメンバーである彼女たちだ

 俺達の仕事は、自分の仕事と並行して彼女たちへの負担を少しでも減らすことだろう…

 何故その事に気づかないんだ…それさえも分からないのか?

 

 

『なぁ!神鷹君もそう思うだろ?』

「そうですね。まぁ何も無いのが1番です」

『だろ?』

 

 

 その後もスタッフ達の気の緩んだ会話は続き、途中で俺は適当な理由を付け屋上へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…」

 

 事務所に屋上があるのは珍しいのでは無いだろうか。そうでも無いのだろうか。

 どうでも良いことを考えながら俺は屋上のフェンスに両腕を乗せ、フェンスに全体重をかけてもたれる。

 空は青く広がり、暖かな風と太陽の光が心地よく体に当たる…

 

「(俺が…おかしいのか?)」

 

 風と日の光を浴びながら思う

 俺の考えが堅すぎるのか?と

 そこまでおかしな事を言っているのだろうか?と

 命の重さは…そこまで重くないのか?と

 

「(いや…おかしくないはずだ…)」

 

 心の中でそう自分に言い聞かせた

 だが…本当にそうだろうか。そう思う自分がいた

 現に一般的な知識が欠落している事は自覚していた。だから彼女たちと関わり、少しは学んでいると思っていた。だが…変わってないのでは?

 

 

「…もう分からないな」

『何が分からないんだ?』

 

 

 つい口に出してしまった言葉を聞いていたのは社長だった

 片手には缶コーヒーが握られている。休憩しに来たようだ…

 社長は俺の隣に来て、俺と同じようにフェンスにもたれる態勢になった

 

 

『君が此処に来るとは珍しいね…』

「そうですね…偶には良いかと思い…」

『分かるよ。私も休憩する時、偶にだが此処に来たくなる』

「そうですか…」

『此処から見た景色が、1番好きだからな…』

「そうなんですか?」

『ああ。此処に立つと…懐かしく思えるんだ』

「懐かしい?」 

 

『私はな…昔、俳優をしていたんだ…』

 

「そうなんですか?」

 

『何度もオーディションを受け、夢だった俳優になった

 あの時は…毎日が忙しく、それでも充実していたんだ

 特に初めてのステージからの景色は今でも忘れられない…

 自分がなりたかった者になり、お客さんに楽しんでもらった

 その事への充実感と、達成感が私は好きだったんだ…』

 

「…」

 

『だがある日…私は交通事故に遭った。

 原因は相手側の飲酒運転だった…

 その結果、私は臓器をやられてしまってね…

 活動出来なくなってしまったんだ…』

 

 

 その事を話している社長の手は、フェンスを強く握りしめ震えていた。

 悔しくてしかたがないはずだ。夢が…理不尽な現実で奪われたのだから…

 

 

『だが私は思った。自分が出来なくなったのなら、出来る人を育てようじゃないかと。

 夢を叶えたい人を集め、夢を叶えさせてあげる場所を作ろうじゃないかと。

 そして私は、此処を築いた。気づけば色んな人達が此処に集まって、夢を叶えている

 そしたら最近…面白い子がうちに来たんだよ。

 その子は…私に似ていた。夢の為に努力を惜しまない子だ。誰だか分かるか?』

 

 

 突然の質問だったが、『その子』が誰なのか

 すぐに分かった。それは…

 

 

「彩…ですか?」

 

『…そうだ』

 

「でも努力してるのは彩だけじゃないです」

 

 

 確かに彩は、アイドルという夢の為に失敗しながらも頑張っている

 だが…それは彩だけじゃない

 

 

『…それはどういうことかな?』

 

「千聖、日菜、イヴ、麻弥。

 皆、彩と同じくらい頑張ってます。

 彼女たちの努力を自分は2番目に知っています」

 

『2番目?1番では無いのか?』

 

「彼女たちの努力を1番知っているのは…

 彼女たち自身ですよ…

 1人が4人を支えてる、それを皆が行っている。

 だからこそ、彼女たちの努力は彼女たちが1番知ってる

 そう思うんです」 

 

 

『ほう…なるほど…そうか』

 

 社長はどこか納得したような表情になった…

 

「あの…どうしました?」

『やはり君にマネージャーを頼んで良かったよ』

「あの…どういう意味ですか?」

 

『…最近になって思ったのだ。君は本当にマネージャーとしてふさわしいのか?と』

「やはり多少は疑ってたんですね」

『気づいていたのか…』

「そもそも、学生に給料付きのマネージャーを任せる事務所なんて…あり得ませんからね」

 

『だが改めて分かった。君はマネージャーに相応しい!』

 

「本当にそうですか?」

 

『君は下心があって来たわけでも、金のためでも無い

 純粋に彼女たちの事を見ている。その上評判も良い

 これ以上の無い逸材だよ君は』

 

「…見えてるものが全てでは無いですよ?」

 

『ははっ!言うじゃないか神鷹君!

 確かにそうかもしれない、だが…

 彼女たちが信用している君を私が信用しないのはおかしな話だろ?』

 

 誰かが信用しているからこそ信用する…か

 

「社長は…ここのスタッフ達を信用していますか?」

『当然だ。…何故そのようなことを聞く?』

「実は…」

 

 俺は社長に今の俺の考え方について話した

 

「…どう思いますか」

『うーん…』

 

 社長は俺の話を聞いた後、腕を組み深く考えていた。

 うなり声を言い続け言い続け…「分からないならいい」と言おうとした時、社長のうなり声が終わった

 

『神鷹君。確かに君の考え方は正しい。命は重いものだ。

 だがな、君の考えが全て正しいかと言えばそれは違う』

 

「そうですか…」

 

『もう少しだけうちのスタッフ達を信じて欲しい』

 

 

 確かに俺は…スタッフ達をもう少しだけ信じるべきだ…

 皆年上、この業界について良く分かっているはずだ…

 何をでしゃばっているんだ俺は…

 頭の中で自分の考えを改めるべきだな…

 

 

「すみませんでした…」

『いや、いいんだ。確かに彼らも気が緩みすぎている。

 私からもキツく言っておくから』

「はい…自分もスタッフ達を信じるようにします」

 

『お互いに、考えることが多いみたいだな』

「みたいですね」

 

『さて、そろそろ休憩も終わりにしようかね…

 では神鷹君、明日はいよいよリハーサルだ。頑張ろうな』

 

「はいっ!」

 

 そう言って社長は戻っていき、俺は深く深呼吸をして気合いを入れ直す

 

「(社長の言うとおり…明日はスタッフ達を信用してみよう)」

 

 考えを改め、俺は明日のリハーサルのための準備をしに事務所の中に戻っていくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈リハーサル当日 会場〉

 

「此処が会場なのか…」

 

 俺はパスパレのメンバーと共に、リハーサルの為会場となる場所に来ていた。

 会場は有名なものと比べるとかなり小さいドームの中で、それなりの広さを有している

 だがステージはCIRCLEを大きくした感じだな…

 何かイメージしていたのと違った

 

「しかし…ここまで広いと1万人くらいは入れそうだな」

「(まぁそこまで入るかどうかは分からないが…)」

 

「みんなはどう思…う?」

「「「…」」」

 

 今更だが…ここに来てから彼女たちの顔色があまり良くない。

 あれこれ言っても上の空、目は何処を見ているのか分からない…

 手を叩いてようやく反応があるくらいだ…

 

「どうしたんだよ…緊張してるのか?」

 

「な、何でも無いよ!ね?」

「そ、そうですね」

「シンパイゴムヨウ…です」

「そうね…」

「まぁそうだね」

 

 何でも無いと言えるような反応では無いが…

 理由は言いたく無いだろうし聞かないでおこう

 

「…なら良いんだ。この後俺は打ち合わせ、みんなはその間ステージでリハーサル。質問ある人は?」

 

「機材の調整は誰がするの?」

 

「そこはスタッフ達に任せてある。と言うか今この会場にいるのは

 俺とみんなと事務所のスタッフ達、後は関係者だけだ」

 

「なんか少なくない?」

 

「一応、警戒中だからな…人が増えるのは良くない」

「やっぱり…危険なのは変らないんだね…」

 

「警備もスタッフ達に任せてあるから特に問題は無いはずだ」

 

「零…本当にスタッフ達に任せて良いのかしら…」

 

「なんだよ…俺の人員分配が信用できないのか?」

 

「そうじゃないわよ。ただ…」

 

「ただ…何だ?」

 

「…いえ、貴方を信じるって決めたもの。何も言うことは無いわ」

 

「…いいんだな?」

 

「ええ」

 

「他に質問は?…無いな?なら一端解散だ。また後で会おう」

 

 

 話を終えた後、みんなはステージへと向かい、俺は打ち合わせをするためにドーム内にある会議室へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室へ向かうが…廊下が長い…改めて此処の広さが分かった…

 

 少し経つと彼女たちの演奏が廊下を響いてきた…音は問題ないようだ

 

 長い長い廊下を歩きながら、俺は考え事をしていた

 

「(本当に大丈夫なのか、か…)」

 

 千聖の心配は、おそらくスタッフ達の緊張感が無い事への不安だろうが…その事に関しては…正直言って俺も不安しか無い。

 

「(…何も起きないよな?)」

 

 今日の警備や機材の調整などは全てスタッフ達に任せてある。

 昨日の社長の言葉通り、スタッフ達を信用してみようと思ったからな

 気はたるんでるが…特に問題は無いはずだ

 万が一の為にも無線機を持つようにしたからな

 彼らも大人だ、出来る事は俺より多いはずだ…

 

 そう言い聞かせながら俺は会議室へと向かう

 

 すると目の前に2人の男性が横を通り過ぎていく…

 ここの関係者なのか分からない為、少し話しかけてみた

 

「あれ?会議室に向かうんですか?」

 

『…はい。そうですけど?』

『どちら様でしょうか?』

 

「自分ですか?パスパレのマネージャーですけど?」

 

『!…そうですか』

『大変ですね~お互いに…』

 

「そうですね。色々と…では」

 

 話を切り上げ会議室へ向かう…

 

『おいおい待てよ~』

 

 だが男の1人に後ろから肩を掴まれ止められる。同時にもう1人が何処かに向かおうとしている

 

「なんですか?」

『ちょっとお話ししようぜ?マネージャーさんよぉ』

「いいですけど…なんでですか?」

『それはな~』

 

 

 

 

『こういうことだっ!』

 

 男は刃物を取り出し俺に切りつけようとする

 

「ふん!」

『がぁっ!』

 

 だが俺は男の刃物を避け顔面に膝蹴りを当てて壁に男を叩き付けた

 

 刃物を拾った後、叩きつけた男の胸ぐらを掴み刃物を近づけて脅す

 

「さぁ吐け!お前の知ってる事全部な!」

『はっ!そんな脅しが通用するとでも?』

「ほう…そうかい」グサ

 

 ためらいなど無く真顔で男の左足に刃物を刺した

 

『がぁぁっ!』

「次は右足だぞ?」

『へ、へへへ…こんな事…してて良いのか?』

 

 その言葉を聞いた瞬間、演奏が止まった

 そして俺は、もう1人男がいたのを思い出した

 

「しまった!…お前は寝てろ!」バキ

『グハッ!』ドサッ

 

 男の腹に蹴りを入れ気絶させた後、俺は急いでステージに向った

 

 

「おい!…おい!」

 

 走りながら無線機でスタッフ達と連絡を取ろうとするが、繋がらない…いや、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()事が分かってしまった

 

「くそっ!ふざけやがって!何のための無線だと思ってるんだ!」

 

 繋がるはずのない無線を放り捨て、全力で走る

 

 

 廊下を抜けるとステージの横に出ると、男が彼女たちに刃物を向けていた

 

「させるかあっ!」ブン

 

 俺は男に向けて刃物を投げナイフのように投げつけた

 

『があああっ!!』

 

 男の背中に刃物が刺さり、男は悲鳴をあげ倒れる

 完全に動けなくなったのを見て確認した後、彼女たちの所へ駆け寄った

 

「みんな無事か!?」

 

 みんなは無傷だが突然の出来事に腰を抜かしたのか座り込んでいた

 

「零…ええみんな無事よ」

「よかった…みんな立てないのか?」

「う、うん…」

「いざとなると…立てなくなるのね…」

「フイをつかれました…」

「ビックリしちゃって…」

「ジブンもです…」

「それが普通だ、ほら…立って」

 

 立てない彼女たちの腕を掴み、ゆっくりと立たせる

 彼女たちはふらついているものの、自分で立てている

 ただ1人を除いて…

 

「うわぁ!」

「おおっと、彩…大丈夫か?」

「ゴメンね…零くん」

「気にするな…ゆっくりでいいから」

「うん…ありがとう」

 

 ようやく彩も地力で立てるようになった所で、彼女たちに背を向け男に近づき尋問しようとした

 

「…起きろ!話をしようじゃないか…」

 

 怒りで理性が崩れる前まで来ている…

 

 起き上がらない…警戒しながら少しずつ近づく…

 

「おい…さっさと起きろ」

 

 だが起き上がらず…気づけばすぐ目の前にまで来た

 

「…死んだふりか?無駄だ、急所は外した。その出血で死にはしない」

 

 それでも起き上がらない…なら最後の策だ

 

「だったらしょうがない…」

 

 俺は近くにあったアンプを持って男をまたいで立った

 

「零さん?何してるんですか?」

「え…嘘だよね?」

 

「おい起きろ。3秒以内に起きなかったらコイツで頭を潰す」

 

「1…」

 

「ええっ!?」

「やめてください!」

「待ちなさい零!そんなことしたら死んでしまうわ!」

 

 彼女たちの声を無視し、俺は数え始める

 

「2…」

 

 腕を後ろに持って行き、振り下ろす準備をする

 

「「「「だめっ!」」」」

 

「3!」

 

 振り下ろs『分かった!話す!』

 

 その言葉と同時に男の頭に当たる直前で腕を止める

 

「馬鹿だな。何も聞いてないのに当てるわけ無いだろ」

『ほ、本当か?』

「まぁ何かしら聞いてたり、彼女たちに傷1つ付けてたら…

頭をぶん殴ってミンチにしてたな」

「…」

 

 

「さぁ今知ってる事全b…っ!!」

 

バン!!

「…がはっ!」ゴトッ

「「「「…え?」」」」

 

 全てが…一瞬だった…

 男がうつむいていた状態から…こちらを向いた…

 だが男は…銃を所持していた…

 当然俺はアンプで…両手が塞がっている…

 手で防げず…腹に当たった…アンプを落とした…

 至近距離からの発砲は…弾の速度で俺の体を吹き飛ばした

 

「ぐっ…嘘だろ…何でそんな物…持ってんだよ!」

 

『あ。ああっ…あああああっ!!!』ダダダッ

 

 男は発砲した銃を放り捨て、叫びながら走って行った

 

「ぐっ…待て!」

 

 立とうにも立てない…くそっ…

 前ならすぐ立てた…何故立てないんだっ!!

 

 

「待ちやがれえええぇぇっ!!!」

 

 立てない事への怒りと共に、叫ぶ…だが男は姿を消した…

 

 叫ぶと…懐かしい感覚に襲われる…

 血が喉を通り、口から出ようとする時の…

 鉄の味と…血の温かさ…

 

「おぶえぁっ!」ドバァッ

 

 目の前に血の水たまりが出来る…

 この量…まずいな…確かヤバい量だったはずだ…

 

「れい君」「零くんっ!」「零っ!」

「零さんっ!」「レイさんっ!」

 

 吐血した時、彼女たちが俺を呼んで近づいてきた…

 

「お前ら…弾…当たってないか?」

「貴方は貴方の心配だけをしてっ!」

「どうしよう…どうしたらいいの!?」

「ハァ…ハァ…」

「イヴさん!救急車を呼んでくださいっ!」

「は、はいっ!」

 

 麻弥の指示は…的確だな…

 俺の場合…まず…弾丸を…取り除かなければ…

 

「日菜…」

「何!?どうしたの零くん!!」

「そこの…刃物…取れ」

「これ!?…何に使うの?」

 

 日菜から刃物を受け取ると、俺は体に刃物を刺し弾丸を取り出す

 

「があああああっ!…ハァ…ハァ…」カラン

 

「零!?貴方何してるのよっ!!」

「そんなことしたら死んじゃうよ!!」

 

 普通の人間なら医者に任せるのが普通だが…

 俺は薬品の力と人知を越えた治癒力がある…

 大博打だが…何もしないよりマシだ…

 

 それに…いつもこうやって直してたからな…

 

「大丈夫…だ…

 

「何言ってるのよ!どう見ても大丈夫じゃないわよっ!」

「麻弥ちゃん!どうしたらいいの!?」

「タオルで傷を塞ぎましょう!」

「あたしが取ってくる!!」

「あとは…えっと…ええっと!…」

 

 俺は…慌てる麻弥の…服を引っ張った

 

「零さん?どうしました!?」

「麻弥…紐…止血」

「止血…これで縛ります!」

 

 麻弥は…何だ?何かでキツく縛った…

 

 まずい視界が…意識…が…

 

「零?…零っ!!」

「えっ!?ちょっと零くん!!」

「れいくん!!ダメだよこんなの!」

「零さん!救急車はまだですか!?」

「レイさん!起きてください!レイさん!」

 

 

 聴覚も…ああ…また…か…

 

 俺はまた…声を聞きながら意識を手放した…

 

 

 続く…




青薔薇編とはまた違ったシリアスでした。
どうでしたか?まだ続きますよ?あと…どれくらいだろうか…まぁ気が済むまで書かせてもらいます

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第39話 責任感は時に感情を殺す

携帯での急ピッチ作成なので、誤字脱字あるかも知れません…内容も薄いかな…
しっかり書ける時間が欲しい!!




_当然今回もシリアス!回れ右スペース_







「(…此処は何処だ?)」

 

目を開くと黒い世界が広がり、俺は椅子に座っていた。前には誰が座るのか分からない椅子がありそれ以外は何も無い…

 

俺はこの光景に似たようなものを知っていた。そう…Roseliaの一件の後で経験した謎の存在との出会いも(悪夢の最後)と似たような場所だ。またなのかと思いながらも何処かに行けるわけでもなく、ただ何かが起こるまでずっと待つことしか出来ない

 

 

『待つ必要は無いぞ』

 

 

 

目の前の椅子に誰も座っていない。だがどこからともなく声がする時点で、また謎の存在(コイツ)だと分かった

 

『また此処に来たようだな』

 

嫌ならさっさと帰してくれ。とコイツに言う、俺は忙しいんだからな

 

『弾丸喰らった事への関心は無しか?』

 

無い訳では無い。あの後どうなったのか分からないんだ…こんな所で無駄な時間を過ごしている訳にはいかない!

 

『戻ってどうするんだ?あの馬鹿共を殴り飛ばすのか?』

 

 

誰がそんなこと!と反発したいが…本当はそうしたいのが本心なのは間違いでは無い。あの男共が真面目に働いていればこんな事にはならなかったのは紛れもない事実だからだ

だから俺はコイツに向かって何も言えなかった…

 

 

『何故こうなったのか教えてやろうか?お前が人間になろうとしているからだ』

 

何を言っているのか分からない、だがそれは間違いに決まってる。俺は化け物じゃ無いのだから!

 

 

 

 

 

『間違い?自分の身を守れなかったくせにか?』

 

俺が口を開く前にコイツは話を続ける

 

英雄(化け物)と呼ばれた頃は仲間は傷つきながらも誰も死ななかった。ましてやお前は腹に弾丸喰らっても人を追いかけられる程走れたじゃないか』

 

コイツは責めるような強い声では無く、人を小馬鹿にするような軽い声で俺に語り続ける

 

『だが今はどうだ?まともな指揮も出来ず、一瞬の判断も出来やしない。これでも間違いだと言えるか?』

 

否定が出来ないことに腹が立つ…だが…事実だ…

 

 

もしあの時…所持していたアンプを盾として利用していたら傷を浅く出来たかもしれない。

 

もしあの時…男を機材のコードで縛っていたら警察に突き出せたかもしれない

 

もしあの時…彼女たちに向けて発砲していたら彼女たちは…

 

 

『何も出来ていないじゃないか。ただ運が良かっただけだ違うか?』

 

そうだ…今立てた予測も…起きない起こせないと否定出来ない、起こりえたかもしれない未来だ…

 

予測、指揮、冷静な判断。今まで出来ていたのに何故…出来なくなったんだ?

 

 

頭を抱え自問自答する。だが答えは分からない…何故?何故なんだ?

考えがまとまらず混乱し、まともな判断が出来ない状態に陥ったタイミングを見計らったかのようにコイツは俺に追い打ちをかけ始めた

 

『いい加減諦めろよ。お前は化け物だ』

 

違うっ!俺は人間だっ!

 

『それを認めない限りお前は何も救えないぞ?いいのか?』

 

…何も…救えない?

 

『おかしいと思わないか?お前が配置した警備の無線は何故電源が入ってなかったんだ?』

 

そうだ…警備を任せた奴らは皆気を抜い…まさかサボっていた!?

 

『そうだろうなぁ。何せ人の命なんかどうでも良い連中だからなぁ』

『そもそも、何であの敵共は練習するタイミングを知ってたんだろうなぁ』

 

嘘だろ?…誰かが情報を漏らしたとでも言うのか!?

 

『さあな』

 

 

この時俺は…1つの感情が崩れ始めていた…それは信じる心。誰かを疑いながら生きてきた俺がようやく掴み始めた人の心。それが…徐々に崩れていくのが分かる…

 

 

「(守ろうとしない警備の配備と情報漏洩…俺は…何も出来てないじゃないか…どうしてこうなったんだよ…何でなんだよっ!!)」

 

 

人になり始めた精神が崩れていく…俺は…人間になってはいけないのか?

 

『そうだ…お前は…ただの化k』

 

するとパリンと言う音と共に黒い世界にヒビが入り、に徐々に光が差し込んでくる…

 

『ちっ、時間か…これからだってのに…』

 

そう言い残し、謎の存在は完全に消えてしまった

 

そして俺はその光に飲み込まれていく…

 

 

 

 

 

 

光が弱くなりぼやけた目を少しずつ開けると、そこは…また同じ天井、同じ病室だった。時計の針は午後7時前を指し、日が沈む時間だ

 

「…」

 

夢だろうがそうでなかろうが、俺にとってはどうでも良かった。俺は…

 

「俺が、俺1人が動けばいいんだ…」

 

自分1人で全て解決すればいい(化け物に戻ればいい)と理解したのだから…

 

 

 

横になっていたベットから降り自力で立つ、多少ふらつくが無理矢理にでも立とうとすれば立てる。服は患者用の服に着替えさせれていたが、ハンガーに掛けてある、血が染み込み異臭がする俺の服に着替えた。腹には包帯が巻かれているが邪魔だし傷は塞がっているので引きちぎり放り捨てた

 

「喉が渇いたな…」

 

病室に水道が無いので、近くに置いてあった花瓶の中の水を飲んだ。酷い味だが戦場で(前に)飲んだ一番酷い水よりはマシだな味だ…何も問題は無い、死ななければ何でもいい…

 

「外に行くか…」

 

 

病室の隅に並べておいてあった靴を履き、俺は自力で歩き病室を出る。屋上に向かう途中で誰かに呼ばれた気がしたが、無視して外へと向かった…

 

 

 

 

外は雨が降り注いでいたがそれでも関係なく外に出た。ズボンのポケットに両手を入れ、傘もささず全身で雨水を受ける、服は雨に濡れてシミになり始め、髪は雨水が染み込み重さで下に下がる。気づけばあっという間に全身が水浸しになった

 

「…」

 

雨水は氷水のように冷たく全身の熱が奪われていく。だがそんな事はどうでもいい。冷たいのは雨水じゃない…元から俺は冷たいんだ、冷徹なんだ。と自分に言い聞かせる為に外に出たのだとようやく理解した…

 

 

雨が降る音が辺り一面に響く中、いくつもの足音が後ろから聞こえてきた

 

「待ってよ!れいくん!」

「何処に行くつもりなのよ!」

「傘くらいさしてよ!風邪ひくよ!?」

「無理はしない方が良いですよ!」

「ムリは禁物です!」

 

後ろに居るのはパスパレの5人のようだ。丁度良い…状況を整理するためにいろいろ聞くとしよう

 

「あれから何があった?」

 

「そんな事、後でもいいでしょ!?」

 

後でもいい?そんなことあるわけが無い、休んでいた時間を取り戻さなければいけないのだからな

 

だが彼女たちに何度同じ事を聞いても何度も望んだ返答は帰ってこない

 

「いいから言えよっ!!」

 

望む答えが返ってこない事に苛立ちを覚えた俺は、彼女たちの方を向いてそう叫んだ。彼女たちの顔は驚きを隠せていない…それどころか怯えるような表情だった。何故?そう思った時、自分の顔から変色した雨水が額を流れている事を、額から落ちる雨水を見て理解した。彼女たちが驚いたのは、()()()()を見たからなのだろうか…それとも大きな声を出したからなのか。まぁどっちでもいいがな…

 

「零!貴方顔の傷が!!」

 

「どうだっていい…」

 

「どうだって良いこと無いでしょ!?」

 

「どうだっていいさ…いずれ明かすんだ…今と後、何が違うって言うんだ…」

 

「零…くん?どうしちゃったの?」

 

「どうもしてない…コレが俺だ。それより状況は?あの男共は?なぁどうなったんだ?」

 

 

早く教えろ…あの男共はどうせ捕まってないんだろ?俺がどうにかすれば良かったんだろ?どうして俺の事ばかり気にするんだ…そんなの後回しで良いじゃ無いか…

 

 

「もしかして…責任を感じてるんですか?」

 

そうだ。だから早く教えろって言ってるんだが?まぁ話がようやく進むのか…

 

「そんなに…気負わなくてもいいじゃない」

 

「そうですよ!零さんは頑張ってましたよ!」

 

…は?何を…言ってるんだ?気負わなくても…いい?

そんなこと…許されるはずが無い…

 

 

 

「…だろ」

 

「えっ?」

「零……くん?」

 

 

「気負わなきゃいけないだろっ!!」

 

雨の音が俺の叫びと同じタイミングで激しくなり、雷も鳴り始めた中、俺は感情にまかせて声を発し続けた

 

 

「全ての責任は俺にあるんだ!人員配置も瞬間的な判断も出来ない俺が悪いんだよ…俺が無能だからあの男共も取り逃がしたんだっ!銃弾を受けて死にかけた?だから何だってんだ!!それで責任を取らなくていい訳がないだろうがっ!」

 

 

俺が叫ぶ言葉に対し、彼女たちは顔を歪めながらも俺に言い返した

 

 

「でも!れいくんは私達を守ってくれたよ!?」

 

「そんなの当たり前の事だろ!だいたい俺は統率者なんだぞ!?ロクに警備もできない人間を配置し!軽々と外部からの侵入を許した時点で無能そのものじゃないかっ!!」

 

「おかしいよ!そんなのあの人達の問題で!零くんは何も悪くないじゃん!」

 

「その人間の問題をなくすのが俺の仕事だ!それが出来なかった俺自身の問題なんだ!指示された人間の失敗は統率者である俺の責任だ!!」

 

「だからといってレイさんが全ての責任を背負うのはおかしいです!」

 

「だからこそだろ!?だから俺が全て片付ければ良いだけの話じゃ無いか!!」

 

「そんなのおかしいです!零さんがそこまでする必要ないじゃないですか!!」

 

「俺が…俺だけが傷つかなければいけないんだ!!」

 

「どうしてよ!貴方が…そこまで傷つく必要ないじゃない!!」

 

「俺が傷つけばそれで終わりなんだよ…」

 

「どうして?何で…貴方が傷つかななければいけないの?」

 

 

 

「どうしてよ!」

 

「それ以外の解決策がある訳ないだろっ!!」

 

 

 

千聖と共に感情を叫んだ時、雷が落ちる音がに響いた…

 

その言葉を聞いた彼女たちは更に顔を歪め俺の方を見る。その時俺は…今までで1番の衝撃の光景が脳裏に焼き付いた。彼女たちの目は…思い出したくも無い奴らの目と同じ…異様なものを見る目だ…

 

「嘘…だろ?…お前らも…そうなのか!!どいつもコイツも何でそんな目で俺を…見るんだ…っ」

 

その一言を言い切る前に急に体に力が入らなくなり、崩れ落ち地面に膝をついた

 

 

「情けない…たかがこれだけでもう立てないのか?」

 

また視界がぼやけてくる…また限界か…ますます無能な…人間もどきだな

 

「どうした…笑いたければ…笑えよ…どうせ俺は…無能な…死に損ない…だ…」

 

言いたいことを言い切り、俺はビチャリと音を立て地面に倒れる感覚を最後に、また意識を手放した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてなの?」

 

 

私達は再び病室に運ばれた彼を横から見つめ、私は彼に答えるはずのない問いかけをした…

 

彼が倒れた原因は、疲労と貧血、後は万が一、彼が勝手な移動をした場合に連れ戻せるようにと投与された鎮静剤の効果だと医師から説明された

 

「どうして…貴方だけが傷つかなければいけないの?」

 

彼は私達の為に誰よりも動いていた。スタッフへの指示やイベントの段取りについての会議、そして私達との練習…両立は難しいはずだったのに彼は顔色1つ変えずに頑張っていた

 

報われるべき行動をした彼が…何故1番苦しまなければいけないの?

 

「私が…悪いのかな…」

「彩ちゃん…そんなことないわよ」

「でも!…イベントに出たいって言ったのは私だよ?」

「それは…そうだけど…」

「私が出たいって言わなきゃ…れいくんは…こんな事にはならなかったんじゃ…」

「「「…」」」

 

 

そんなのおかしい。彩ちゃんは何も悪くない。元はと言えば、私達に脅迫状を送りつけた集団が悪いに決まってるじゃない…。…え?

「(待って…おかしいじゃない…)」

 

 

そもそも私達を襲ったあの男はどこから入ってきたの?当然裏口のはず、けどそこには零がスタッフに警備をするように指示していた。万が一に備え零は無線機を持たせるように指示したと言っていた…

おかしい…無線機があるならすぐに危険が近づいていることを知れたはず…。

そもそも…()()()()()()()()()()()()()もし…居なかったら?

 

 

そう考えたとき、私の中で全てが繋がった。勝手な予想だけれども理解した…

あの日…リハーサルの日、スタッフは皆気が抜けていた。その事に不安を感じ、万が一のことをがあったら対処できないと思った私は彼に本当に大丈夫なのかと質問した。だが彼が居るから問題ないと勝手に決めつけた。

あの時…スタッフが休憩などの適当な理由をつけ警備をサボり持ち場を離れていたら?全てが繋がるじゃない…

 

 

あくまでも予想、でもその可能性が大いにある。違うにしろスタッフ達も私達も…皆彼に頼りすぎなのは紛れもない事実。

 

その事実に怒りが込み上げてくるのを感じる。全身に力が入り、自分の腕を強く握る…

 

 

「零を苦しめていたのは…私達全員なのかもしれないわね…」

 

私が言った一言は、みんなにも…そして私自身にも突き刺さった

 

 

「ジブンたちは…どうすれば良かったんでしょうか…」

「分からないわ。けど私達は…零に頼りすぎていたようね…」

「一生のフカクです…」

「これから…どうしよっか…」

「分かんないよ…分かんないよっ…」ボロボロ

 

 

どうすれば良いのか分からず…私達は彼の側で下を向くことしか出来なかった…

 

「そろそろ帰らないとね…」

「そうね…明日は休みだから。続きは明日此処で話し合いましょう?」

「そうですね…今は気持ちを整理する時間が欲しいです…」

「そうだね…」

「うん…じゃあみんな…また明日ね…」

 

こうしてみんな帰って行った…

 

 

 

私は最後まで残り彼の側に居た…

 

「零…ごめん…なさいね…」

 

例え聞こえてなかったとしても、彼に謝るために…

 

「貴方は…私より多くのものを抱えていたのね…私達の為に…」

「それなのに私は…私達は…」

 

『俺が…俺だけが傷つかなければいけないんだ!!』

 

『嘘…だろ?…お前らも…そうなのか!!どいつもコイツも何でそんな目で俺を…見るんだ…』

 

 

『笑いたければ…笑えよ…』

 

 

「笑えるわけ…ないじゃない…」ボロボロ

 

彼があの時見せた表情は、歪んでなかったけど…とても辛そうだった。瞳は今にも泣きそうになっているように見えた。

その顔を思い出す度に、私は自分が許せなくなった。

 

 

「貴方は私を受け止めてくれるって言ってくれた…初めて出会った…大切な人なのよ?」

 

私は泣きながら彼の傷ついたの頬を撫でる。彼の頬は冷たく、彼の心を連想させた

 

「それなのに私は…貴方に全て任せっきりにしてしまった…貴方を傷つけてしまった…」

 

彼が最後に叫んだとき、私は彼に謝りたかった。どうしたら良いのか分からず、ただ彼の方を見た。けど…

 

「それが貴方を…深く傷つけたのよね?貴方の過去を…掘り返すような目をしてしまったのよね?」

 

「明日…貴方の目を見て謝るわ。でも…これだけは今言わせて…」

 

 

『どうせ俺は…無能な…死に損ない…だ…』

 

 

「そんなこと…言わないで…」

 

「貴方は無能じゃない…死に損ないじゃない。貴方は有能で…勇敢で…頑張り屋で…」

 

「貴方が居ないなんて…そんなの嫌よ…」

 

「ごめんなさい…ごめん……なさい……零…」ボロボロ

 

 

謝っても彼には聞こえない。そんなことは分かっている…けど今はこの感情を彼に向けて言いたかった

 

「そろそろ…帰らないと…」

 

「零…また明日」

 

彼の手を握り、別れの挨拶をして病室を出た

 

 

 

 

 

「(明日…真実を突き止めなければいけないわね)」

 

残っていた涙を拭い、1つの決意をする…

 

その時見た夜空は…

今の私の心ように曇りの無い夜空だった…

 

 

続く…




試験が…ようやく終わった…これで自由!かと思ったら次の試験がすぐそこに…
また更新が遅くなります(白目)まぁ気長にお待ちください。

今更ですけど更新は基本深夜です

もしよろしければ評価、リクエストなどの感想をよろしくお願いします!


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第40話 忘れていた心

試験。試験。終わったと思ったらまた試験。
それが更新が遅れた理由です…お待たせました…

今回は回れ右スペース不要…だと思う…


『なぁ_____…少し休んだらどうだ』

「_____?____!」

『そう___事を言ってるんじゃない。お前は___なんだよ』

『リーダー。俺はお前になんて教えた?』

「_____!____?」

『ハァー全く…もう1度言うぞー?』

『いいか?お前は____なんだぞ?お前が_____誰が代わりを___んだ?だから…』

『お前は休むこと!あと______を覚えろ!いいな?』

 

 

 ……

 

 

 

 病室の窓から差し込んだ日の光で俺は目を覚ました

 

「あれは…過去の記憶か?」

 

 リーダー、そう呼ぶのは仲間達だけだ。そしてついさっきまで見ていたのは恐らく過去の記憶なのだろう

 だが話していた相手の顔が分からず、途切れ途切れで何を言っているのか分からない部分もあったな…最後のあの言葉…俺は何を覚えろと言われたんだ?

 

「だが…休むことを覚えろ。か…」

 

 確かに俺は今まで動きっぱなしだったのかもしれない。彼女たちの為と自分に言い聞かせて無理をしていたのかもな。だから昨日も……昨日…

 

「俺は彼女たちに…色々やってしまったな…」

 

 …昨日の行動について深く反省した

 

 俺はやけになり今まで隠していた顔の傷を彼女たちに見せてしまった。その上彼女たちの励ましを全て否定し、彼女たちに感情をぶつけてしまった…

 顔の傷についてはともかく、彼女たちを苦しめないようにしていたにもかかわらず俺は彼女たちを傷つけてしまった。本末転倒もいいところだ…

 

「どう謝れば良いんだ…」

 

 

 そう考えていると誰かが俺の病室に近づいてくる足音がする。だが音は聞き覚えの無い重みを感じる音だったので俺は寝たふりをして様子を見ることにした

 

 ガラッと扉が開く音が響く…

 

『コイツが…あいつらの?随分若い奴を雇ったな』

「(あいつら?雇った?…事務所の関係者か?)」

『ケッ!まぁいい…どうせコイツもあいつらに裏切られるんだからな』

「(裏切る?…脅迫状にあった過去の罪のことか?)」

 

 

 男が独り言を終えると静かに部屋を出て行った…

 

「…行ったな」バサッ

 

 

 あの男…何者だ?あの言い方は彼女たちと関わりがある人間だったという決定的な証拠だ

 

 

 今まで集まった情報を整理しよう…

 

 そもそもの始まりは事務所に届いた脅迫状だ。内容はパスパレを解散しろ、でないと彼女たちの命の保証は無いというものだった

 もし送り主が先ほどの男だったのなら一応動機がある…だがあの男が全て悪いのかどうかは分からない。本気で彼女たちを殺したいのなら、邪魔になる俺を今殺さなかった時点でおかしいからな

 

 だが…犯人の正体の他に新たな謎ができてしまった

 

「彼女たちは…何か隠しているのか?」

 

 あの男の発言が全て事実だった場合、彼女たちは過去に問題を起こした可能性がある。あくまでも可能性だ、俺はそれなりにあれこれ調べたがパスパレが問題を起こしたという記録が何処にも無いからな…

 

「聞いたら答えてくれるだろうか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳なかった!!」

 

 起きてからしばらくたち、パスパレのみんなが集まったので俺は彼女たちに頭を下げた。鎮静剤の効果で立つことが出来ずベットの上で頭を下げ謝罪している…

 

「私達も貴方に謝るわ。私達は貴方に頼り過ぎていた…ごめんなさい」

「「「「ごめんなさい…」」」」

 

 だが結局お互いに頭を下げる状況となった…

 

 

 

 

 

 

 お互いに謝り続けた後、俺たちは今の状況についての話を始めた

 

「さて…「零?」何だ?」

 

「貴方…メイクは?」

「…止めたんだ」

「「「ええっ?」」」

「どうして?」

 

「俺が顔の傷を隠していたのは、また…あれこれ言われるのが嫌だったからなんだ…」

 

 傷があると接客ができないという簡単な理由だったのにな…まさか人に言うのがここまで辛くなる程複雑なものになるとはな…

 

「でもみんなに見せたし…もう隠しても意味無いしな…」

 

 ただ傷の話をするだけなのに口が上手く動かない…腕が少し震え、視線はずっと下を向いている

 今俺が感じている感情は…多分『怖い』って事なんだろうな…

 俺は…心の何処かで『化け物だ』と言われるのが怖かったんだと今初めて意識した。

 

「今更だが…どうだ?俺の素顔は…」

 

 だがもう遅い。また…同じ事を言われる。そうに違いない…そう思った

 

 

 

「良いと思うわよ」

 

「えっ?」

 

 だが返ってきた答えは、俺の予想を遙かに超えた予想外の答えだった

 

「本気で…言ってるのか?」

「当然よ。みんなもそう思わない?」

「そうだよ!慣れれば結構良い感じだよ!」

「ジブンはちょっと慣れるのに時間が掛かりそうですが…良いと思います!」

「うんうん!るんっ♪てくるよ!零くん!」

「そうです!顔の傷は武士のクンショウです!」

 

「本当の…本当にか?」

 

 

「本当の本当よ。零、私達は貴方を信じてる。だから貴方も…私達を信じてちょうだい」

 

「なんでだ…なんでそこまで俺を信じれるんだ?」

 

「決まってるじゃない。貴方は私達の…」

 

 

 

「仲間ですもの。ね?みんな」

「「はいっ!」」「「うんっ!」」

 

「っ!!」

 

『お前は休むこと!あと仲間を信じることを覚えろ!いいな?』

 

 その言葉を聞いたとき、俺は忘れていた言葉を思い出した。俺は…1番大事なもの、仲間を信じる心を忘れていた。背中を預ける程の信用が無いのなら、自分達の命を預けるはずがない…そんな当たり前のことをさえ忘れてしまっていた

 

「本当に…申し訳なかった…」

 

「どうして?」

 

「みんなは俺を信用してくれていたのに、俺は…みんなを信用してなかったんだと思う。いや、信用してなかったんだ…俺は自分の事しか考えていなかった…」

 

「「「…」」」

 

「だから…俺じゃ…駄目だ…」

「え?」

「…俺は責任を取るべきだ」

「責任を取るって…どうするの?」

「俺は…事務所を辞める」

「「「「ええ!?」」」」

「どうして!?」

「自分の事しか考えない人間が人を束ねられる訳がないからだ」

 

「それだけじゃない、そもそも今回の責任者は俺だ。その俺が失敗したと言う事実だけがイベント関係者に伝わるに違いない。だったら俺がクビにされるのは時間の問題だ」

 

「それは零くんだけの責任じゃないでしょ!?」

 

「それでも…そうでもしなければ俺のこの感情は治まらないんだ」

 

 

 彼女たちは納得しないということは理解していた、だが俺には統率者として最低限の誇りがある。それに…金が動く仕事を受けたら責任は取らなければいけないと教わった。だったら俺のこの行動は間違っていないはずだ

 

 

「零…どうして貴方は…そんなに自分を責めるの?」

 

 

 千聖にそう問われたとき、俺はどう答えれば良いのか迷った。だが…俺は自分の言える最大限の答えを出した

 

 

「俺は…そうするべきだと教わったからだ」

「そうするって?」

「自分の言動に責任を持て、そして失敗したら自分の首を切り落としてでも責任を取れってな」

「そんなの…大げさよ…」

 

 大げさでは無い…命とはそれだけ重いもの。だから…

 

「だから俺は…こうすることしか…出来ない…」

 

 

 

「零」

「何__!?」

 

 

 下を向きながら話し続けた俺は、千聖に呼ばれて顔を上げた。だが呼ばれた瞬間、俺は横から千聖に抱き寄せられた。千聖の腕の力が強いのか、体が弱っているからなのか、抜け出そうにも体が動かない…

 

 

 

「なに…してるんだ?」

「…」

「千聖?」

 

 

 

「もう抱え込まないで」

「えっ?」

 

「貴方は十分頑張っていた。貴方の頑張りは私達が知ってるわ。だから…少しは自分を許してあげて」

 

 千聖の言葉は言い聞かせるかのようにでは無く、願いを言うかのように優しかった

 

「だが…俺は…」

「さっきも言ったけど…貴方は仲間なのよ?貴方だけが責任を感じなる必要は無いわ。貴方の責任は私達の責任でもあるの。少しは私達にも頼って」

 

 

 ここまで言われて…信じられないなんて言えるはずが無い…

 

 

「零?」

「……分かった。今度はみんなに頼ることもあるかもしれない…その時は…頼っても良いか?」

「いいわよ。いつでも…」

 

 

 千聖以外の4人も頷いてくれている…偶には…頼ることも大事なのか?いや…そうだよな…仲間を信じるんだから…それくらい、いいよな?

 

 

「千聖…」

「どうしたの?」

「少し…このままでもいいか?」

「…ええ」

 

 

 何故いつも沙綾達が俺にもたれてくるのか…今なら少し分かる。この感じ…言葉には言い表せれない良い感じがする。千聖の熱が丁度いいくらいの温かさで…落ち着く…

 

 

「眠いのかしら?」

「…ああ。悪い…」

「いいのよ。ゆっくりしても」

「…そう…させてもらう」

 

 

 この眠気は自然のものじゃないな…鎮静剤の感じだ。ドクターめ…仕込んだな?

 まぁ…そのおかげでこう出来るのだから…落ち着くからいいか。

 

 少しずつ千聖に体重を掛ける感覚を覚えながら、俺は徐々に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…zzz」

 

「完全に…寝てしまったわね…」

 

 今になって思うのだけれど…

 私今…何をしているのだろう…

 

「…千聖ちゃん」

「…何かしら?」

 

 彩ちゃん達の方を見ると、みんな不満そうな顔をしてこっちを見ている…もしかして?

 

「なんか…もやってする…」

「よく分かりませんが…ジブンもそんな気が…」

「そうですね…レイさんが頼ってくれるようになってくれましたが…」

「なんか…ずるい気がするなー」

 

 あら?まさか…みんなも?

 

「でも…これで1人で抱え込むこともないよね?」

「きっと少しずつ、頼ってくれるようになるはずです!」

「そうですね!助け合いが1番です!」

「も〜零くんは頭固いな〜」

 

 そうではない感じね…でも気づくのは時間の問題かもしれない。現に、この人()に好意を寄せているのは私だけじゃないことは薄々気づいている。この人()のこういった悪い癖を無くすためには、私達が無くせるように手伝うべきだと思う

 

「…zzz」

 

「全く…人の気も知らないで…」

 

 ただ面倒な人ならいくらでも見てきた。でもやっぱりこの人()は他とは違う気がする。呆れながらも憎めない…何も知らない子供のような雰囲気が少しある。いつもは大人のように振る舞い、辛そうな雰囲気は一切見せた事が無いのに…こういう時は…頼ってくれるようになるかしら

 

 少しは頼るように…また1人だけ傷つかないでほしい。そう願いながら、私に持たれるこの人()をベットに寝かせて毛布をかけた

 

 

「改めて考えると零さんって不思議ですよね」

「不思議?麻弥ちゃん。どういうこと?」

「いえ…零さんの事をジブン達は何も知らないじゃないですか。でも頼れる、頼ってもいいって思えてしまうんです。そう考えると不思議じゃありませんか?」

 

 

 確かにそうね…私達は出会って数週間だというのに、何故か無意識のうちに頼ってしまっている。何故そう思えるのか、そう考えるとこの人()の才能なのか、それとも別の何かなのか…

 

 

「まぁ深く考えてもしょうがないんですけどね」

 

 

 改めてこの人()の顔を見る。一体どんな人生を歩んできたのか。それを知るときは来るのだろうか…そう思っていたときだった

 

 

 

『失礼するよ』

 

 扉が開く音と共に社長が入ってきた

 

 

『彼は…どうだ?』

 

「どうだってなんですか。この人()がどれだけ傷ついたか分かってますか?」

『分かっている』

「…だったらいいですけど」

 

『君たちに話がある、場所を変えたいのだがいいか?』

 

「「「…はい」」」

 

「はい」

 

 どうして此処で話さないのか。そう言おうと思ったけど…社長も責任を感じているのか表情が曇っていたから言わずについて行くことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は会議室で社長の話を聞くことになった

 

 

『話というのは…まず…』

 

 そこから先の話、ほとんどはイベントについてだった

 

 

 この前の事件があってから、イベントは中止しになった

 犯人が捕まるまで他のアイドル達は活動休止となった

 

 そして…

 

 

『最後の話は…彼についてだ』

「あの…零くんはどうなるんですか?」

『…責任は取って貰うことになる』

「「「っ!」」」

「待ってください!確かに彼にも責任はあります!でもそれは彼だけの責任では無いはずです!」

『確かにそうだ。だが彼にも責任は取って貰わないといけない』

 

「それで…彼はどうなるんですか?」

 

『…今は何も言えない。だが…()()()()()()()()()()もある』

 

「…そうですか……!?」

 

 そう聞いたとき、私の頭の中で…話が繋がった

 

「社長」

『気づいたかな?…私も薄々そうなんじゃないかと思い始めたよ…』

「ええっ?何々?千聖ちゃん何に気づいたの?」

 

「それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 

 私が話そうとした瞬間、部屋の外からノックの音が聞こえた

 

『おおっ!ようやく来てくれたようだ!』

 

 私達が理解できない中、社長だけは誰が来たのか分かっているようね…

 

「社長?誰が来たんですか?」

 

『説明は後でする。誰か開けてあげてくれ』

 

「じゃあジブンが」

 

 

 扉に一番近かった麻弥ちゃんが扉を開けると、そこに居たのは身長は彼よりも少し大きい1人の男性だった

 

 

 

 

『よく来てくれました!』

【いやいや。そんなにかしこまらなくても良いんじゃ?】

 

「あの…社長?この人は誰ですか?」

 

「あれ?説明してないんですか?」

『申し訳ありません…今から説明させて貰います』

 

『みんな。さっき話したとおり犯人が捕まるまで他のアイドル達は活動休止となった。だが脅威は去らないから各事務所で警備を雇うべきだという意見が多く出たんだ』

 

『そこで!私は昔のツテを辿って、最も信用できる警備を雇った。そしてそれがこの人だ!』

 

 

「…ええと…つまり?」

【まぁわかりやすく言えば…ボディーガードみたいなもの…かな?まぁそんな認識で良いよ】

 

 

 社長がそこまで信用できるのなら。と思いたいところだけど…

 

「私は信用できない」

 

「「「『ええっ!?』」」」

 

「ズバッと言うね…」

 

 

『何故だ!?』

 

「何故?社長も分かっているでしょう?彼の受けた仕打ちを!例えスタッフ達に重要な理由があったとしても!彼を見捨てたようなものでしょう!?」

 

 

 正直我慢の限界だった。これではまるで彼の代わりを見つけてきたと言われているように聞こえてしまう。彼の苦労は何だったのかと怒りを覚えてしまう…

 

『…その事は謝罪しようがない。だが!この人だけは信用できる!』

 

「…何故ですか?」

 

『この人は!_____________』

 

 

 

「「「「「ええっ!!??」」」」」

 

 

 社長の放ったその言葉は、私を納得させるほどのものだった

 

 そして同時に思った。この男なら彼が休んでいる間、彼の代わりが務まるだろうと…

 

 

「あの…その「彼」っていうのは誰なんだ?」

 

『ああ彼ですか?彼ならこの病院の病室に居ます』

 

「会ってみたいのだが…」

 

『彼の病室なら〇〇号室です』

 

「分かりました。ではまた後で」

 

 

 そして男は出て行った…

 

 

『これで…納得してもらえたかな?』

「…ええ」

 

「これで…零くんの負担を少しは減らせたよね?」

「分からないわ。でも…期待はして良いと思うわ」

 

 まさかあの男が…そんなに凄い人だったなんて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると誰も居ない。完全に眠ってしまっていたようだ…

 しまった…状況確認をするタイミングを失ってしまった…

 

 そう後悔したときだった

 

 コツコツとまた足音が聞こえる。もう面と向かって話をしてみようか「何っ!?」

 

「!?」

 

 誰が来たんだ?そう思った瞬間。ガラッ!!っという音と共に誰かが入ってきた

 

 

「……」

 

「……」

 

 静寂が部屋を包む中、目の前の男は扉を閉め鍵を掛けた

 

「どちらが先に名乗りますか?」

 

「冗談を言えるようになったのか?()()()()

 

「嫌みか」

 

「悪かったよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダー」

 

「…久しぶりだな。近藤」

 

 

 この時俺は盟友との再会に喜びを覚えたと同時に思った

 

 この問題…解決したも同然だと

 




ようやくオリキャラ登場です。
どうしてこの時期は忙しくなるんでしょうね!?また更新が遅れるかと思います…

そして気づけば登録者150人超えていました!
皆さんいつもありがとうございます!



もしよろしければ評価、リクエストなどのコメントをよろしくお願いします!


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第41話 なりたい自分の姿

ようやく色々落ち着いてきた…。お待たせしました…。
書きたいこと書いてたらちょっと長くなりました…。




「しかし…まさかお前に会えるとは思っていなかった」

「それは俺も同じだ。近藤」

 

 

 本名 近藤克典(かつのり)、かつては森田と同じ幹部。そして俺に近接戦についての知識と経験を与えてくれた男だ

 前にヌンチャクを使用した事があったが、ヌンチャクも近藤に教わったのだ

 

 

「出会うのが病室とか、相変わらずのようだな!」

「俺だって好きで暴れてる訳じゃない」

「そんなに言うなら今まで何してたか聞かせてもらおうじゃないか」

「だったらそっちも聞かせろ」

 

 

 そこから先はただ、今まで何をしていたか。何があったのかを昔のように話した

 どうやら近藤は紛争で生き抜いたその実力を活かす為、今では警備員の職についたそうだ。元々サラリーマンだったが、近藤には性に合ったらしく、今では有名人からの指名も数多く寄せられているらしい…

 

 俺は今までの話。ガールズバンドである彼女たちとの出会い、女子校への特別入校、そして巻き込まれた事件の数々について、そしてどうして今こうなっているのかを話した

 

 

 

「マジでか…お前…色々あったんだな…」

 

「というかやっぱりあれお前が関わってたのか」

「やっぱりって…じゃあ薄々気づいてたのか?」

「当然だろ?俺だけじゃない、他の奴らもだ」

「他の奴ら…他のメンバー(あいつら)か?」

 

「おう。最近は会わないがな」

 

 

 

 あの後…空港を最後に俺は誰とも会っていない。近藤は森田たちと何度か会っていたそうだが、最近は会わないようだ

 近藤の話通りなら皆、家族と共に元気にやっているそうだ

 

 

 

「連絡はとってないのか?」

「どいつもこいつも忙しいんだと」

「ま、それもそうか…」

 

 

 そのあともお互いに話したい事を話し続けた。全てを知っている人物との久しぶりの会話は、懐かしさを思い出した

 

 だが話しの途中で急に話が途切れた…

 

「…」

 

「どうした近藤。急に黙るなよ」

 

「なぁリー、いや、零」

 

「なんだ?」

 

「今…楽しいか?」

 

 

 その質問をする近藤の顔は、心配そうな表情だった

 

 

 今の俺は彼女達に色々と教わり始めた、確かに大変だし血を流す事もあった。

 それでも、彼女達との時間は充実している

 

 

「…ああ。楽しくやってる」

 

 

 長々と語る必要は無い。ただそれだけが言いたかった

 

「…そうか。ならいいんだ!」

 

 

 近藤の顔が明るくなった。馴染めているか心配だったのだろうか?

 だがそろそろ、仕事の話をしなければいけない

 

 

「近藤、世間話はこのくらいにするべきだ」

「そうだな。まず何処から話す?」

「慌てるな。まずは彼女達の所へ行くとしよう。何処にいるか分かるか?」

「会議室だ」

「行くとしよう」

「待て、零」

「なんだよ?」

「俺たちの関係は隠してるんだろ?そこはどうするんだ?」

 

 

 そうだった…ここで知り合いだった。なんて言える訳ない

 

 

「だったら、俺たちは初対面だという設定にする」

「分かった」

「リーダーとか言うなよ?」

「そんなヘマはしない!…多分」

 

 

 本当に大丈夫なのかと不安を覚えながら、俺は近藤と会議室に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室に行くと、パスパレのメンバー5人と社長が座っていた。俺と近藤が席に着いた後、改めてどういう状況なのかを一通り説明して貰い、話を進めることにした

 話す事は色々あるが…まずは聞かなければいけない事がある

 

 

「それで?スタッフ達はどの様な理由があったんですか?」

 

「それはだな…」

 

 

 ここから先の話が長かったので簡単に縮小すると、スタッフ達はあの銃を持った男に脅され慌てて逃げた、その際に無線機を捨ててしてしまったのだという…

 まぁ…しょうが無い話だ。俺は銃や脅しに慣れているがスタッフ達はただの一般人、銃を突きつけられて恐怖を感じないはずが無い…だからといって許すつもりは無いが…

 

 

「まぁ…しょうが無いですね」

「零!?たったそれだけなの!?」

「それだけだ」

「私は納得いかないわ!貴方…1歩間違っていたら死んでたのよ!?何でそんなに楽観的なの!?」

「千聖…」

 

 

 確かに千聖の主張も正しい。もし俺が間に合わなかったら此処に居る5人のうち誰かが死んでいた。

 だが、今さらこの事で揉めている暇は無い。現に俺は多少撃たれても死なないからな。

 

 

「今は別に話があるんだ…今は飲み込んでくれないか?」

「…分かったわ」

 

 

 不満そうな顔をしながらも、千聖は何とか落ち着いてくれた

 

 

「さて…ハッキリ言って状況は最悪です」

「君…それは何故だ?」

 

 

 俺の発言に続き、近藤が俺に他人を装い質問した

 なんとかなっているじゃないか…そう思いながら、俺は皆にさっきの発言の続きを説明した。

 

 

「相手が誰だか分からない上に…向こうは銃を所持してましたからね…」

「銃の種類とかは…分からないのか?」

 

 

 

 俺は目を閉じて撃たれたときの景色を思い出した

 あの男が所持していたのは…リボルバーだ。撃ち込まれた弾薬は9ミリ弾…

 9ミリ弾でリボルバー、そして日本人が所持していたということは…

 

 

「恐らく…ニューナンブM60だと思います」

「何?確かなのか?」

「分かりません…ですがその可能性が高いかと」

「嘘だろ…」

 

 

 俺と近藤はその銃を所持している時点で、厄介だとすぐに理解した

 

 ニューナンブM60、記憶が正しければ1960年に日本の警察用として調達され、1990年代に生産が終了されてもなお現在でも運用されている回転式拳銃だ

 

 何故銃器について詳しいのか、説明しなくても分かるはず。叩き込まれた知識の1つだからだ。

 

 だが問題は所持している銃の種類だ

 もし…警察に内通者が居たとしたら、この1件は一筋縄ではいかない。下手をすれば警察を相手にする事になるからな。

 

 どういう意味なのか理解していない俺と近藤以外の6人にこの事を説明した

 だが話をした後の6人の様子がおかしい…やはり何か知っている。そのことに気づいた近藤は俺の代わりに質問をした

 

 

「そろそろ教えてもらえないだろうか?」

 

『教えるとは…一体何のことかな?』

 

「あくまでも白を切るつもりか?君たちもだ」

 

「「「「「…」」」」」

 

 

 だが答えない。恐らく俺と同じように言えない事情があるのかもしれない。そう思った俺は近藤に【もう止めておけ】とサインを送った

 近藤はサインの意味を理解し、質問を中断した

 

 

「まぁいい…することは変らないからな。それで?君には何か考えがあるのか?」

 

「………あるにはあります。ですが…おすすめは出来ません」

 

「…なるほど。だいたい分かった」

 

「零?どんな策があるの?」

 

「……この策は、みんなにも協力してもらうことになる。そのうえ、かなり危険だ。だからあくまでも提案として聞いて欲しい」

 

「「「「「…」」」」

 

 

 戸惑いながらも聞く姿勢をとった5人に、俺は策を言った

 

 

「まどろっこしい説明は抜き、早い話が……おとり作戦だ」

 

「「「「「おとり…」」」」」

 

『作戦!?正気か!?神鷹君!』

 

「ま、妥当な判断だ。相手が誰だか分からない、警察にも頼れない、だったらこの場に居る人間で片づけるしかないしな」

 

 

 だがこんな策は言いたくは無かった。俺の策は言い換えれば、自分たちから火の海に飛び込んでこいと言っているようなもの。危険から遠ざけるために危険を冒させるという皮肉な策でしかない

 そのうえ、おとりは俺や近藤では無く彼女たち5人のうちの誰かだ。自分1人でどうにかできるはずが無い…

 

 

「あくまでも提案、無理だというなら無理でもいい」

 

「断りにくくするようなことを言うが、現時点でこれ以外に策は無いと思うぞ」

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 当然すぐに答えが出るはずも無く、一端話を中断することにした

 

 

「何度も言うが、あくまでも提案だ。意見がまとまったら言いに来てくれ」

 

「何処に行くんだ?」

 

「…病室に戻る」

 

 

 この場に俺がいたら決めれることも決められなくなるだろうと判断し、一度席を外すことにした

 後は貧血故に、血を作るための休息も兼ねてだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病室に戻り、軽く食事をした俺は彼女たちの返事を待っている。病室には何も無い…せめてテレビでも置いてくれたらいいのだが…贅沢は言えない。

 ふと見た時計は1時を指し、窓からは昼の暖かな日の光が差し込む。

 

 

「このまま来ない…あり得るな」

 

 

 待ってはいるものの来る気配は一向に無く、扉の外は人が通る音がしない。せめて話し声だけでも聞こえてくればいいのだが…これは贅沢では無いよな?

 

 

 もういっそのことこちらから聞きに行こうとした時だった。病室の外から足音が聞こえ、扉が開いた。

 そして入ってきたのは…

 

「彩…だけか?」

「うん」

 

 

 いつも以上に緊張している彩ただ1人だった

 

 

「まぁいいや。それで…意見はまとまったか?」

「…」

「彩?どうした?」

「ゴメン!れいくん!」

「な、何がだ?」

「私たち…ずっと隠してたことがあるの…」

 

 

 やはりか…だが何故今になって?いや、今だからこそなのかもしれないな

 

 

「…それで?何を隠してるんだ?」

「それは……ええっと…」

「先に椅子に座ったらどうだ」

「ええっ!?あ、うん…」

 

 

 落ち着かせるためにも彩を椅子に座らせたが…言いにくそうだな…何か事情があるのだろうな

 

 

「彩。言いにくい事なら無理に言わなくても良いぞ」

「…それじゃダメ。ちゃんと言わなきゃいけないことなの!」

「…分かった。落ち着いてゆっくりで良いからな?」

「…実は…ね」

 

 

 そこから先の話は…とても重く、彼女たちにとっては思い出したくも無いものだっただろう

 

 

「アテフリか」

「うん…」

 

 

 来客数1万の前でのアテフリ、機材トラブルでその事実が公になり一時期はバッシング。

 なるほどな、だからこの前のリハーサルの時に浮かない顔をしていたのか。初の失敗の事を思い出してしまったのか…

 

 だが確信を持てた、主犯はその1件でパスパレに何かしらの恨みを持った人間だ

 

 

「その時…責任を取れっていろんな人が辞めちゃって…」

「その中にマネージャーは?」

「…いたよ」

 

 

 これでだいたい主犯は確定した。だが此処で大きな疑問が残る。そもそも練習はしていたにもかかわらず、何故普通に演奏をしなかったんだ?彼女たちの練習をしっかりしておけば、初お披露目も無事に終わっていた可能性だってあったはずだ。

 だいたいスタッフもスタッフだ。何故そこまで考えないんだ。意味が分からない。

 

 

 無性に腹が立つ、結局自分以外の事以外考えていないのでは無いのだろうか…

 一体彼女たちを何だと思っているのだろうか。

 

 

「クソッタレ…」

 

 

 つい口に出してしまった言葉。だが我慢も良い加減できない状態だ…

 誰にだってそんな時はあるだろ?今がその時だったのかもしれない

 

 

「……さい」

 

「彩?」

 

「ごめん…なさい…」ボロボロ

 

 

 俺の言葉を聞いてしまったのか、彩は泣きながら俺に謝った。あまりも突然な出来事に俺は戸惑ってしまった

 

 

「どうした!?俺傷つけるけるようなこと言ってしまったか!?」

 

「言ってないよ…でもっ…怒らないで…」

 

「彩?別に俺は怒ってないぞ?」

 

「でもっ…私が悪いのっ!」

 

「…何でだ?」

 

「私が…出たいって言ったから…れいくんが傷ついちゃったんだよ…私はっ…また誰かを傷つけちゃった…」

 

「誰かとは…前のマネージャーの事か?」

 

 

 そう聞いてみるが…彩は泣いていて答えられる状態ではない。

 どうすればいいんだ…

 

 

 

「ホントにダメだね…私。結局…誰かを傷つけてばっかり…どうしてこうなっちゃうんだろう…」

 

 

 …いつも笑顔で明るい彩はそこに居なかった

 俺と同じ過去に苦しめられる人…だったらどうしたらいいのか。俺は自分なりの言葉にして伝えようとした。

 

 

「だったら…どうしたい?」

「…えっ?」

 

 彩が座る椅子の前にもう一つ椅子を置き、彩の正面に座り目を見て話を続けた

 

 

「彩。今彩には2つの選択肢がある」

「過去と戦うか、逃げるかだ」

 

「どういう…こと?」

 

「戦うということは、俺の作戦を実行し主犯を捕まえるということ」

「逃げるということは、脅迫状通りパスパレを解散するということ」

 

「どっちを取る?」

 

 

 意地悪など何を呑気な事を言っている場合では無い。これは人生の選択だ、リスクを背負わずしてなせるものなどない

 

 

「彩からしたら嫌な事を聞いているかもしれないが、これは彩が決めなければならない事だから選ぶんだ。どんな答えでもいい」

 

 

 悪いな…彩。俺はこんな事しか言えない。

 

 だが…ここで答えを出せるならきっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(どっちを取ればいいんだろう…)」

 

 

 今の彼は今まで…1番厳しい表情をしていた…いつもより真剣で、怖い顔だった

 

 

「(そんな選択…どっちも選べないよ…)」

 

 

 私はアイドルを夢見て今まで頑張ってきた。時には厳しい事も言われた、けど夢を諦めたくなかったから頑張ってきた

 

 

「(でも…今の私はアイドルなのかな…)」

 

 

 今の自分は夢見ていた姿をしているのか分からない…でも答えは出さなくちゃいけない。けど分からない。どう答えればいいのか分からない。何が正しい答えなのか分からない

 

 

 

「分かんないよ…」

 

 

 考えようとして頭に乗せた手で髪が乱れるまで悩んで、悩んで…考えに考えた答えは、分からないの一言だけ…

 選べないから選ばないという子どもみたいな理由、通用するはずがないただのワガママ…

 

 正面に居る彼からどんな答えが返ってくるのか…怖い。また怒鳴られるのかな…

 

 

「彩」

 

 

 また怒られると思うと怖くって、目線を下に逸らして目を瞑った…

 

 

 

 

 

 

 

「それでいい。よく言えたな」

 

「……え?」

 

 

 怒鳴られるどころか…褒められたことに驚いてしまった

 

 

「なんで?…私どっちも選んでないよ?」

 

「どんな答えでもいいって言っただろ?答えが分からないなら、分からないでいいんだ」

 

 

 彼は私の乱れた髪を、慰めるように手で優しく解いてくれた。

 

 

「悪かった。こんなに髪を乱すまで悩ませて…」

 

 

 彼の手つきは…慣れていない感じがしてちょっと荒っぽい。けど彼なりに整えようしてくれているのが伝わってくる

 

 

「前は…これでいいか。後ろ向け」

 

 

 そんなにしなくても自分で出来る。そう言おうとしたけど…言う前に体が勝手に後ろを向いた

 

 

「今更だが…痛くないか?」

 

「痛くないよ」

 

 

 痛くない…むしろ気持ちいい。お母さんにしてもらったときと同じくらい気持ちいい。くすぐったいけど…ずっとこうして欲しいと思ってしまう

 

 

「安心した」

 

 

 髪を整えながら、後ろの彼は私にそう言った

 

 

「彩はちゃんと向き合ってるな」

 

「そんなこと…ないよ…」

 

「ある。本当に向き合ってるからここまで悩めるんだ」

 

 

「向き合ってなかったらとっくに逃げてる。でも彩は頭抱えてしっかり悩んだ。そして自分なりの答えを、【分かんない】と答えた」

 

 

「彩は…俺より凄い」

 

「なんで?私は…れいくんより弱いよ…」

 

 

 自分で言ったけど…弱い。その言葉が心に刺さる、自分1人では何も出来ないという無力さが悔しい…辛い…

 

「終わった。こっちを向いてくれ」

 

 

 手を止めた彼の言うとおりに、私は彼の方を向いた

 

 

「そんなことない」

 

 

 突然彼は…私の肩を掴んで今までより優しい声で、私の目を見てそう言った

 

 

「俺が凄いのは単純な力だけ。でも彩は違う、自分の夢に向かって進んでる。だから他の4人も一緒に居てくれるんじゃないか?彩の前向きな所。夢の為にここまで悩める所は…安い言葉だが、凄いと思う。カッコイイと思う」

 

 

 彼の後ろの窓から入ってきた温かい風が私と彼の髪を揺らす。彼の言葉は風のように温かくって…

 

 

「彩。確かに彩は失敗ばっかりだ。歌うとき音は外す、アドリブに弱い、おまけに…あの決めポーズ?みたいなものは…良いとは言えないが、彩は努力してる。変ろうと頑張ってる。だったら誇っても良いじゃないか

 誰かを傷つけた?だったら償う方法を考えれば良い。変りたい?だったら変わる方法を探せば良い

 俺はマネージャーだ。変わる方法ならいくらでも考えてやる。いくらでも支えてやる

 だがら自信を持て。今まで多くの挫折を味わった俺の質問に答えられたのなら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「丸山彩。お前は自分がアイドルであると誇っていい」

 

 

 私の心は髪のように小さく揺れた…口を開くと震えて…弱々しい声しか出せなかった

 

 

「私…自分がなりたかったアイドルに…なれたのか分かんない…」

 

「ならなればいい。彩が胸を張ってアイドルって言える彩に」

 

「手伝って…くれる?」

 

「どんなことでも手伝う。俺は彩をアイドルにする」

 

「絶…対?」

 

「彩が頑張るのなら、絶対だ」

 

 

 強く言った彼の言葉は揺れた私の心を大きく揺らした。

 

 

「うっ…ううっ…」

 

「彩?」

 

 

 

「うわあぁ~ん」ボロボロ

 

 

 我慢してた涙と声が…止まらない

 

 

「やはり我慢してたのか…」

 

 

 そう言って彼は私を正面から抱き寄せた。右手で頭の後ろを撫でて、左手で背中をさすってくれている

 

 

「苦しかっただろ…辛かっただろ…」

 

「うんっ…うんっ…」ボロボロ

 

 

 私は彼の背中に両腕を回して彼に抱きついた…彼の肩に顔を埋めて泣いた、息が止まるほどギュッと抱きしめた

 

 

「今は泣け、溜まってるもの全部出せ。出し終わるまでずっとこうしておく」

 

「ごめんなざいっ~わた、わだじのぜいで~」ボロボロ

 

「もう気にすんなよ。前を向け。彩」

 

「うわあああぁぁ~ん」ボロボロ

 

 

 謝って…泣いて…また謝って。彼は受け止めてくれた。言うこと全部優しく返してくれた…

 その後も…私は彼の肩に顔を埋めて泣き続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「うん!ありがとう!れいくん!」

 

 

 切り替わりが早い…ついさっきまで泣いていたのだろうか疑ってしまう程の変わり様だ。だが顔から不安が消え満

 面の笑みを浮かべている…

 

 

「服…濡らしちゃったね…」

 

 

 彩が顔を埋めていた場所は彩の涙で濡れている。だが別に気にするほどのことじゃないので別にこのままでもいいんだがな

 

 

「これくらい気にするな」

 

 

 そう言って彩の頭を撫でる

 

 

「っ…///」

 

「ん?どうかしたか?」

 

 

 頭を撫でた途端に、彩の顔は真っ赤になり湯気が出ているようにも見えた

 

 

「う、ううん!なんでも…ない///」

 

 

 前から気になっていたことがあるのだが…ここでまた少し気になった。

 撫でて赤くなるのなら…抱きしめたらどうなるのだろうか。赤くなった顔は元に戻るのだろか?

 

 

「彩。動くな」

 

 

 興味が湧いた俺は、彩を抱きしめた。

 

 

「ひゃうっ…」

 

 

「…彩?」

 

 

「……ふにゅう///」

 

 

「…彩?」

 

 

 落ち着くのかと思ったが抱きしめた瞬間に変な声を出し、空気が抜けるかのような声を出した後気絶してしまった

 

「…………すまない」

 

 聞こえるはずのない謝罪をしたあと、俺は寝ていたベットに彩を寝かせ一端会議室に戻ることにした。

 起きたら謝るとしよう。ただなんと謝ればいいのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あれ?」

 

 

 目が覚めると、私はベットで寝ていた。窓は閉まっていて時間はさっきの時間から10分たってた

 

 

「なんで…寝てたんだっけ?」

 

 

 起きたばかりの頭を動かして何があったのかを思いだした

 

 

「………っ~~!!///」

 

 

 全部を思い出した時、全身が熱くなった。

 

 彼の事を思い出すと心臓がうるさい、顔が赤くなるのが分かる…

 

 思い出した途端に彼の事しか考えられない

 

 

「……えへへ///」

 

 抱きしめられた時の事を思い出すと自然とニヤけてしまう…

 温かくって、全部受け止めてくれたあの包まれた感覚。優しくて気持ちがよかったあの時間が忘れられない

 

 

「あそこまでされたら……」

 

 

 チョロいと言われるかもしれない。けど今のこの気持ちは…きっとそう。私は…彼を、年下の彼を…

 

 

「好きになっちゃうよ///」

 

 

 自分で言ってて恥ずかしいけど…この気持ちが止まらない。

 

 顔…見れるかな…多分恥ずかしくって無理だと思う

 枕に顔を埋めながら、ああ…///と悶える。

 

 

「あれ?待って?」

 

 

 急に冷静になって考え出す。ここは…彼の病室。

 

 つまり…このベットは…

 

 

「れいくんの…ベット…」

 

 

 一瞬…思考が止まった、だったらどうするのか。そう考える前に私は枕にボフッと音を立てて顔を埋めた

 スンスンと枕の匂いを嗅ぐ、少し汗の匂いがしたけど同時に彼のいい香りもして嗅ぐのを止められない

 

 

「何してるんだろう…私…」

 

 

 おかしな事をしてると分かってるけど止められない。彼の香りをずっと嗅いでいたいという犬みたいな考えが頭から離れない。

 

 

「私…おかしくなっちゃった?」

 

 

 口ではそう言うけど…内心はおかしいと思ってない。もっと、もっとと求めてしまう…

 

 

 彼の香りがする毛布を羽織ってベットで横になり、全身を彼の香りでいっぱいにした後、枕の香りを嗅ぐ。分かってはいるけど、とてもアイドルの姿じゃない

 それにアイドルは恋愛厳禁。だけど…ムリ。この思いは止められない

 

 いつもクールで、こういう時には優しい人。惚れるなと言われてもムリって答えられるくらい、今…私の中で彼は…カッコよかった

 

 

「今だけ…今だけは……いい…よね?///」

 

 

 一瞬だけ……彼のワンコもありかもって思っちゃったけど、流石にダメだと思う…

 

 最初で最後…彼にだけ夢中になるために…

 私は1人の恋するただの女子高生(女の子)になった。心と頭が満たされるまで…私は彼の残り香を嗅ぎ続けた

 

 

続く…

 




なんか…書きたくなったワンコっぽい彩。
こんなのもありでしょ?
何か違うだって?人の好みはそれぞれということですよ…

しばらくは安定した投稿が出来るかもです(出来るとは言っていない)
最初の深夜テンションで書いた話の編集しないといけないので…

ではまた。気長にお待ちください!


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第42話 親代わりの男の悩み

安定するかもとか言っておきながら遅くなりました……
結局忙しくなりそうです……

安定しないので「投稿不安定」というタグを付けようかな…


今回は…ちょっと緩いかも


「お待たせしました」

 

 

 病室から会議室に戻り俺は元の席に座った

 席に座ると彩以外の4人から何をしていたんだ?と訴えるような目線を向けられ、近藤からは遅くなった理由を質問をされた。だが正直に答えられるわけでもなく嘘をつき誤魔化した

 

 

「では…自分の策を説明させてもらいます」

 

 

 言い方が悪いがおとり作戦と言っても、ただ彼女たちを餌にして後ろから捉えようという考えではない。それでは余計に危険にさらすだけだからな…

 そもそも主犯は前のマネージャー、他にいたとしてもそれは事務所の関係者としか考えられない

 

 そうなると主犯は誤解している

 何故か?彼女たちは悪くない。事の発端は意味の分からない指示を出した人物であって彼女たちではない、彼女たちも被害者であり裏切るような行為は行っていない

 そこさえ理解してもらえれば大体の事は収まるはず。それでも揉め事に発展するのなら俺と近藤で解決できるだろう。つまりは平和的解決を目的とした策だ

 

 話が少しそれたが作戦の内容は…

 

 

「簡単に言うと、パスパレにライブをしてもらいます」

 

『「「「「え?」」」」』

 

「またぶっ飛んだこと考えるな…」

「(相変わらずの無茶降りだな)」

 

「それを可能にするための貴方ですよね?」

「(俺とお前なら出来るだろ?)」

 

「そうじゃないと思うんだがな」

「(当然だろ)」

 

「そう言わずお願いしますよ」

「(じゃあやるか)」

 

「ま、解決するならな」

 

 

 表情、目、言い方で口に出さない会話が目の前で行われているなど誰が予想できるだろうか

 口には出さない会話が俺と近藤で行われているなどいざ知らず、4人と社長には口に出す会話しか聞こえていない

 

 

『1つ聞いてもいいかな?解決策なのは分かったが…何故ライブなのだ?』

 

「ライブはおとりというのを隠すため…という建前は止めましょう。真の目的はパスパレの演奏を聞いて貰うためです」

 

『んん?どういうことだ?』

 

「辞めていった人達の為ですよ」

 

『……聞いたんだな』

 

 

 言いたいことは山ほどある。だが今は押さえこの一件が片づいたときに全て言わせてもらう。

 だが社長も4人も表情が曇り下を見ている……彩と同じ事を考えているのか、それともまた別のことか。それは分からないが心境くらいは言っておこう

 

 

「言っておきますけど別に怒ってませんから。今更怒っても仕方ないので」

 

「零…」

 

「先に言うが謝罪なら後で聞く」

 

「…ええ。分かったわ」

 

「ようやく前を見たな。それでいい」

 

 

 俺の言葉を聞き千聖を始めとし他3人と社長も前を向き始めた。姿勢だけではなく意識的にも前を向いたならなおいいが…きっと向いたはずだ

 

 

「それで…具体的にはどうするんですか?」

 

「基本的にやることは変わらない。みんなは練習して俺と社長で準備するだけだ」

 

 

 そこは何も変わらない。違う事と言えば安全が保証できないことだ。主犯が来たら説得、最悪は俺と近藤でどうにかする。まとめるとそういった作戦である

 

 

『活動休止だというのに…よくそんな大胆なことを考えるね…』

 

「ですがこの問題を解決できたら他のアイドルも活動を始められ、パスパレの知名度も上がるはず、損得で考えると得の方が大きいと思います。どうにかなりませんか?」

 

『…まぁ場合が場合だ、何とかしてみよう』

 

「ありがとうございます。みんなもそれでいいか?」

 

「ええ」「「はいっ!」」「うんっ!」

 

「決まりだな」

 

 

 これでやることは決まった。後は十分な準備をし問題を解決するだけだ

 だが…4人はそろそろおかしいと思い始めたようだ

 そう、もう1人がまだ帰ってこない事に…

 

 

「アヤさん…遅いですね」

「そうね。少し遅すぎるわね」

「もー彩ちゃんどこ行っちゃったんだろう」

 

「ジブンが探しに行きますね」

 

 

 麻弥が彩を探しに行くと言い扉を開けると、そこにはオドオドしている彩がいた

 少し前からそこに居たのだろうか…偶然開けたタイミングでいたという驚き方では無い

 

 

「あれ?彩さん?もしかしてずっと居たんですか?」

「え?そ、そんなこと無いよ!つ、つい今来たんだよ!?」

 

 

 とてもそうには見えない…

 あまりの慌てぶりに、みんな疑うどころか笑っている…

 ここまで「そうなんです」と公言しているような誤魔化し方は見たことがない…

 

 

「…彩ちゃん?今まで何をしていたの?」

「え?それはーその…」

 

「(…まさか)」チラッ

 

 

 何を思ったのか彩に質問している千聖は何故か俺の方を見ている…

 …まさか気づかれたか?いや…幾ら何でも気絶していたことに気づけるはずがない

 いや……女の勘というものは恐ろしいと誰かから聞いたことがある…まさか?

 

 

「…まぁいいわ」

「(よ、よかったぁ~)」

 

 

 …バレていない?

 

 

「後でじっくり聞かせてもらうから」

「」

「貴方もね?零」

「何故俺も?」

「いいわよね?」

「………分かった」

 

 

 ……バレたのか?マズいどうしようか…

 本当のことを言えばいいのか?まぁそうするしかないな…

 …近藤。そんな不審者を見るような目を向けるな

 あれはただの事故だ。あれにも落ち度があったが決して悪意があったわけではないんだ…

 

「(あいつ一体何をした?…そうだ)」ニヤニヤ

 

 おい待て近藤…何故笑っている?

 余計なことを言うなよ?これ以上誤解を招くような発言は許さないからな?

 

「社長。そろそろ今後について話したいので場所を変えようじゃないか」

『そうだな。では行こうか』

「君も来てくれ」

「え?はい…」

 

 

 何を考えてるんだ近藤…

 訳が分からないまま俺は社長、近藤と共に彼女たちを残し部屋を移動した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと?お前、何したんだ?」

 

 

 部屋を移り、俺は今近藤と2人だけだ

 社長はイベントの話を他の人達に話すために電話をしに外に行っている

 

 

「で?どうなんだよ~ええ?」

「何でそんな興味津々何だよ…」

「何だよ~そんないかがわしい事したのか~?」

「ハァー…は分かった話す、話すから落ち着け」

 

 

 そこからは…正直に全て話した…

 

 

「…という訳だ」

「」

 

 

 全てを話したが、近藤は何故か頭を抱えため息を吐く…

 確かに呆れる話だ。興味本位で年上の女子を気絶させるのは流石におかしな話だからな…

 

 

「お前…まさか今までもそんなことしてたのか?」

「そんなことは流石にない」

「そ、そうだよな!幾ら何でも流石にそんな」

「気絶したのは今回が初めてだ」

「…………は?」

 

 

 今度は驚きを隠せていない…忙しい奴だな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今…コイツなんて言った?

 気絶したのは今回が?初めて?

 何だそれ…え?…待て…落ち着け、落ち着くんだ俺…

 

「今回が?初めて?」

「そうだが?」

「抱きしめたのが?」

「違う気絶させるのはだ」

 

「…抱きしめたのは?」

「そんなのいつもしている事だ」

 

 

 聞き違いじゃなかったぁぁぁぁっ!!

 

 何っ!?コイツ女子抱きしめてんのか!?

 しかもいつも!?コイツヤベぇ奴じゃないか!!

 誰だそんな風に育てたのは!……俺達じゃないか

 

 だが起きてしまったことは仕方が無い…うん

 落ち着くんだ近藤克典!!幾らなんでも2,3人位だろう…

 

 

「因みに~どれくらいその…抱きしめた?」

 

「確か……ええと…8人だ」

 

「」

 

 

 抱きしめた女子の数を特におかしいこと言ってないかのような顔しながら指で数えてやがる…

 

 コイツヤベぇ奴じゃないか!!

 誰だそんな風に育てたのは!……俺達じゃないか

 

 これ言うの2回目だな…

 

 ていうかおかしいだろ!コイツ意味分かっててやってるのか!?

 

「おおい待て!何でそんなことしてんだ!?」

「何故って…そういった行為は人を癒やす効果があるんだろ?」

「…誰から聞いた?」

「森田」

 

 

 あの野郎かあぁーっ!!

 あいつ何イカれた事教えてんだよ!!

 おかげでとんでもない事やってんじゃないか!!

 どうすんだよ!コイツいろんな意味で死ぬぞ!?

 

 

「…それで?その子達からどんなこと言われる?」

「基本は…もっと。だな」

 

 

 そうか……もう遅かったか……ん?

 

 もっと?

 

 まさか…好感度下がるどころか上がった?

 

 だが…顔が傷だらけとはいえコイツはかなり容姿が良い方だ…お世辞抜きでな

 それに普通の常識が無い。それは俺達が教えなかったのが悪いが…

 だから誰も恥ずかしがってやらない事も平然と出来る

 それに聞く話が本当なら少女達は皆コイツに何かしら助けられている…

 

 

モテない方がおかしい!

 

 

 どう聞いてもモテる要素しかない!

 だがその事実を知らない。というか分かってない!!

 そりゃそうだ!戦場で育って野郎ばっかでの生活がずっと続いていたからな…

 

 

 

 …逆に考えれば…それでいいのかもしれない

 

 コイツは青春を知らない。それは俺達も責任がある…無駄死になせないために幼い頃から厳しく育てたからな…

 俺でも打つのが辛かったイカれた薬を平然と数回打ち、陸軍のレベルを超えた訓練を10年ぐらい俺達と受け、いつの間にか俺達を導いていた…

 

 コイツは人としての生き方をしていない…

 させてやれなかった…

 

 だが今はどうだ?偶然の偶然が重なり今は少女に囲まれてやがる

 コイツにやましい感情は無い。そもそもそんな感情知らない

 だからこのままでいいかと言われればそうでは無いが…いずれ理解する日が来るだろうし…このままでもいいかもな…

 

 

 幸い彼女たちとコイツはそれなりの友好関係を結べているようだ…

 今会った5人もそのようだ

 

 特に千聖という少女、コイツと共感できる何かがあるようでコイツにご執心のようだし…

 

 日菜とイヴという少女も独特の表現ができるようだ、コイツの堅苦しい部分を砕くきっかけを作れるかもしれない…

 

 麻弥という少女は社長の話通りなら、かなりの機材好きらしく…機械いじりばかりしていた時期があったコイツと話が合いそうだ…

 

 そしてあの彩という少女は…完全にコイツの事、気に入ったようだしな…

 

 

「何故そんな事を聞くんだ?」

「いや…その…」

「なんだよ」

「いやその…環境が変わったから上手く馴染めてるかな〜って思ったからさ」

 

 

 

 

 

 

「…確かに変わった。考えられないくらいにな…」

「…そうか」

 

 やはり浮いているのだろうか…

 そんな心配が俺の中で膨らむ…

 

「だが…良い感じだ」

「!」

「争い事もあったが…それでもみんなは俺は受け止めてくれたからな…」

「…そうか!」

 

 いらない心配だったようだ…

 スッとした。独身の俺だが…親のような気分だ

 いや…親だな。ここまでコイツの事を考えてると…

 

「よし零!電話番号教えろ!」

「ええっ?まぁ…いいが…」

 

 渋々出された携帯に俺の番号を登録する

 これで何かあったら連絡が取れるからな!

 

「よしこれでいい。何か困ったら俺を呼べ!どうせ俺暇だし!その内ここら辺に引っ越すし!」

「そうなのか?まぁ何かあったら助かるが…」

 

 せめて普通の親らしいことしてやらないとな!

 

 

「そういえば…他の奴らって今何してるんだ?」

「他か?そうだな…確か森田は……ってああっ!!」

「な、なんだ?どうした」

「そうだ!お前に言っておけってあいつらから伝言があったんだ!」

「なんだよ!そんな重要なこと早く言えよ!」

 

 

 それはコイツにとって結構重要な事だった

 すぐに言おうとしたが…タイミングが悪く社長が帰ってくる声がするので、その話は今度の機会にした

 

 

『お待たせして申し訳ない…』

「それで…どうでした?」

 

 

 

『……明日だそうだ』

「「!?」」

 

 

 明日って事は…明日やれってのか!?

 

 

『他の事務所も協力はしてくれるようだが…元々予定されているイベントがあるのでな…出来るのは明日だけだそうだ…』

 

「えらく無慈悲な話だな…」

 

 どうすんだよ…急すぎる話に彼女たちは着いてくれるのか?そもそも練習の時間もないじゃないか…

 ハッキリ言ってどうしようもない状況だ……

 

 

 だがコイツは……

 

「分かりました。明日やりましょう」

 

 ここだけは変わらずだった…

 

 

「やれるのか?」

「当然です」

「……何故だ?」

「簡単ですよ」

 

 

 〈行けるか?〉

 〈当然だろ?〉

 〈何でそんなに自信があるんだよ〉

 〈何故って?〉

 

 

「〈俺が出来ると言ったからだ〉ですよ」

 

 

 この自信に満ちた顔と声は……今も昔も変わらない

 

 

「そうか…」

 

 

 だったら俺はコイツについて行くだけだ

 前のように…何も変わらずただ手伝うだけだ

 

 

「だったらやるか!段取りは出来てるんだろ社長?」

『勿論です!……あとは彼女たち次第です』

「でしたら彼女たちには自分が説明します」

『そうか。一応演奏スペースの使用許可は得ている、楽器もそこに置いてあるから』

「分かりました」

 

 

 そう言ってあいつは出て行った…

 

 

『どうですか?彼』

 

 社長にそう聞かれたとき…俺は特におかしな事は言わず「根性がある」とだけ言った

 

『そうですよね。優秀ですよね…彼』

 

 

 社長の言葉の後、どこからか明るい演奏が聞こえてくる…

 

 

「(ホント…あいつの凄さは変わらないんだな…)」

 

 

 近くで見てきたからこそ…あいつの変化が大きい事がすぐ分かる…

 だが変わらない所があるのもいいのかもな

 

 

 

 そう思いながら、俺はあいつの為にも明日は頑張ろうと決意した

 

 

 

 

 

 だがあの後、あいつが千聖という少女に問い詰められたあげく「だったら…イベント終わって安定したら彩と一緒に3人で寝るか」と言った時には、やっぱり変わるべきなんじゃないのか!?とつい口に出してしまいそうになった…

 

 あの2人か?

 顔赤めながら「それは…」と言っていたが…一言も嫌だとは言ってなかった…

 

 

 …………マジで寝ないよな?

 

 

 

 

 もう、俺、知ーらない!

 

 

 

 続く…

 




お気づきの人は気づいたと思いますが…
そうです。あれこれ変わりました。書かれている内容は全く変わってませんが…
その内もっと読みやすいように変えていきます

あとキャラ設定が消えていると思いますが、編集のために一度削除しました。
編集し終わり次第投稿します

……設定なんか興味ない?だったら読まなくても問題なしですよ?


では次回を気長にお待ちください


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第43話 守れない約束

どうも皆さん遅くなりました…まぁいつものことですが…
今回は続きなのでまたシリアスです。長いです…

あと文字の色を変える機能を使ってみました。


-シリアス苦手以下略 スペース-









「準備は出来たのか?」

「…ああ」

 

 

 ようやくこの日が来た。散々振り回されたこの1件に終止符を打つ日がな

 

 ドームでの急なイベントにもかかわらず多くの客が来場した。俺達はそれぞれの準備を整え、後は時間が来るのを待つだけとなり…俺と近藤はステージ側で最後の準備を整えていた

 

 

「警備員は配置についたぞ。後は俺達だけだ」

「……そうか」

 

 

 昨日彼女たちの練習を見た後、社長が前回の警備を任せたスタッフと共に謝罪をしに来たのだ。深々と反省の意思を見せた彼らを「今度は無線くらい肌身離さず持つように」と注意はしたものの、それ以上のことは言わなかった。

 だがそれは…銃口や刃を向けられる事に慣れた自分達とは考え方が違う、だから言うだけ無駄だと判断しただけだったものだ。だがその言葉はスタッフ達にとって何かを変えるものだったようで…今では俺の指示に従うようになった

 

 

 しばらく手はずについて話していると、彩と千聖が他の3人より先に衣装に着替えやって来た…

 

「……彼女たちの所へ行ってこい」

「……ああ」

 

 メンタルケア…とまでは行かないだろうが気を楽にしてやることぐらい出来るはずだからな…

 

 

 

 

「どうだ?準備できたか?」

「うん…」「ええ…」

 

 明らかに表情と声が暗い…

 色々聞いては見たものの「大丈夫」と「そんなことない」の二言だけしか帰ってこない…どうすれば良いのか分からずただその会話を繰り返し続け、気づけば開演時間が近づいていた

 

 

「最後に聞くが…本当に大丈夫か?」

「うん」「ええ」

「分かった。いつも通り頑張れよ」

「……そろそろ行くぞ」

「分かりました」

 

 

 2人に最後の一言を言った後、俺は近藤と共に配置につくため彼女たちの横を通り、ステージ側から外へ出るため移動を始める…

 

 

「「待って!」」

 

 出て行く一歩手前で2人の声が聞こえたと思ったら、後ろから足音が聞こえ2人が後ろから抱きついてきた…

 

 

「待って!…行かないで……」

「お願いだよ…此処に居てよ!」

 

 

 振り払い行こうとしたがその力は強く、簡単には放してくれそうもない…

 

 

「幾ら何でもそれは無理だ。放せ」

「「嫌!」」

「何でだよ」

 

 

 そう聞くと2人の力は更に強くなる。一体どうしたのいうのだろうか…

 

 

「もう嫌なの!れい君が怪我して…また苦しむ姿を見たくないの!」

「貴方が…このまま行って帰ってこないような気がするのよ!だから行かないで!」

 

「…」

 

 

 心配されてるのか?何故だ?もう分かっているはずだ…俺はどれだけ負傷しようとすぐに元に戻る。そこまで心配する必要は無いはずだ

 

 近藤を見ると「時間が無い」とサインを送られ「少し待て」と返事をした

 

 

「2人共…それは無理だ」

「「っ!」」

 

 

 2人の力は更に強くなる…だが流石に俺も抵抗して振りほどいた

 無理矢理振りほどいたからか2人は泣き始める…

 

 そんな2人を俺は…

 

 

「すまない…2人共」

 

 そう言って俺は2人の頭を撫でて謝罪した

 

 

「だが俺は行かなければいけない」

「そんなの……」

「絶対此処に戻ってくる。約束する」

「……絶対よ?絶対帰ってきて?」

「もし怪我して帰ってきたら許さないからね?」

「それは…絶対傷ついて帰ってこれないな」

「当然だよ!」「当然よ!」

 

 

 約束だったら俺は絶対に無傷で戻ってこなければいけない

 

 そろそろ時間だ…近藤がいる出口の方を見る

 

 

「そろそろ行かないとな」

「もう…行っちゃうの?」

 

 

 撫でる俺の手から2人は放れようとしない。

 

 

「戻ってきたら幾らでも撫でてやる」

「……約束よ?」

「ああ」

 

 

 俺と2人だけの約束をした所で、他の3人も此処に来た

 3人も不安そうな表情で俺を見る。

 

 

「あくまでも交渉するだけだからそこまで心配する必要は…」

「それでも心配なんですよ!」

「大丈夫だろ…何のためにあの男がいると思ってるんだ?前みたいに俺が病院送りにならないためだろ?」

「みんなはみんなのやるべき事をするんだ。俺は俺のやるべき事をするだけだからさ」

 

 

 多少は彼女たちの気を楽にできただろうか。

 やはり分からない…どうしてここまで心配されてるのかが…

 

 だが理由を聞いている時間は無い。すぐにでも配置につかなければならないからな

 

 

「レイさん!コレをどうぞ!」

 

 イヴから手渡されたのは…木刀だ。何故木刀を所持しているのだろうか……気にしないでおこう。

 

「あの…何で木刀を渡すんだ?」

「お守りの代わりです!」

「……そうか?」

「はいっ!」

 

 

 彼女たちから少し放れ手渡された木刀を片手で縦に一度振る。ブンと風を切る音と同時に風が髪を靡かせる…

 懐かしい感覚だ…一時期は軍刀として刃物を使用していた時期があったからな

 

 持ち方を変えた後、ズボンのベルトに木刀を通し腰に差す

 

 

「零くん剣道とか習ってたの?」

「一時期教わったことはある。だが習ったというよりは独学だ」

「それじゃ。行ってくる」

 

 彼女たちに背を向け、今度こそ出口へと向かう

 

 …待てよ…マネージャーとして最後に気合いを入れてやらないとな。

 

 

「……Pastel*Palette!」

 

 彼女たちに背を向けたまま俺は彼女たちを呼ぶ

 

 

 

「俺は期待なんてしてないからな!」

 

 

 それだけを聞けばただ傷つけるだけの言葉だ。だが俺は期待をしない。理由?そんなの簡単だ

 期待とは、あることが実現するだろうと望みをかけて待ち受けることであり、当てにして心待ちにすることだ。そんなのはただの押しつけでしかない。

 俺が、彼女たちが散々押し付けられたものだ…

 

 

「それは何故か!期待は重りにしかならないからな!」

 

「だから期待はしない!だが!」

 

 

 だが1つ。たった1つだけ彼女たちに対して望みがあるとしたら…

 

 

「自分たちのやりたいようにやれよ!」

 

 

 意味が分からない?ああ、俺も自分で言っていて意味が分かっていない。だが彼女たちの練習を見ていたから分かるものがある。

 彼女たちは心の何処かで濁りがある。そのような音が聞こえていた…

 それは今までの辛い記憶が何処かしらで重りとなっているからだろう。彼女たちの本来の音は輝きを放つ、CIRCLEでのイベントで聞いたあの音は間違いなく人を魅了する音だった。あの時の音をいつでも出せるようになれば彼女たち本来の実力を見せられる筈なんだ

 

 様々な思いをその一言にまとめ今度こそ出て行く

 

 

 

 

 

 

「カッコつけるな~」

「何を言っているのか分からないのだが?」

「ええっ?それくらい分かろう?」

「…気を引き締めろ」

「はいはーい」

「……ハァ」

 

 

 彼が近藤さんと出て行く時、その姿は今までで一番遠くって…大きかった

 

 2人が通っていく通路の光が付いたり消えたりする…この会場はかなり前からあるらしいから蛍光灯が古いのかもしれない。そう思いながら私達は彼らの背中を見続ける…

 

「「「……!?」」」

 

 一瞬。ほんの一瞬だった…2人の姿が違った

 彼はいつも通りの普通の私服なのに……一瞬だけ…2人とも見たことも無い服を着ていて…彼だけボロボロの上着を羽織っているように見えた…

 そう見えたのは私だけじゃなかった…みんな一瞬私と同じように見えたみたい。どうしてなのかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と近藤の配置はステージ側でも会場内でもない…

 

 ステージ裏の外だ

 

 

「しっかし…本当に上手くいくのか?」

「今更何を言い出すんだ」

「だってよ…こんな作戦滅多に使わなかったじゃないか」

「似たようなことなら幾らでもやっただろ?」

 

「それに…もう作戦は始まっている」

 

「は?…………ああっ!」

 

 

 暗闇の中、俺が指さした先には…咄嗟に隠れたような影がある…

 見えているから出てこいと言うと、影はその姿を現した。その影の正体は…前に見た者。恐らく元マネージャーだ

 

 

『どうして此処に居ると分かった?』

「配置がおかしいと思わなかったのか?こういうことだ」

 

 偉そうに言っているが…ただ会場内を重点的に警備を配置しただけだ。誰でも分かる簡単な配置だが効果はあったようだ

 

 

「……自首しろ」

『い、いきなりだな…』

「ああ。面倒な話は必要ないだろ」

『……引くわけには行かない』

「この男を知っているはずだ」

『近藤克典…まさか英雄まで居るとはな…』

「分かっているはずだ。勝てないことくらい」

『…ああ!分かっているさ!だが引けない!』

 

 

 元マネージャーは刃物を取り出し俺達に向ける。それだけで俺達が怯むはずがないだろう…

 

「脅しのつもりか?その割にはあんたの方が震えてるじゃないか」

 

 刃物の先はどころか全身が、生まれたての子鹿のような震え方をしている。敵対心があるのなら、叫んででも刺しに来る筈、だがこの男は動きもしない。ただ震え、ただ刃先を向けるだけ…

 しばらくすると、男は勝手に倒れ…泣き出した

 

「何故このようなことをする?」

 

『もう…こうするしか…無いんだ!』

 

「こうするしかないだぁ?何を言っ!……零?」

 

 

 

 俺は責める近藤を無視して男に近づく。握ってすらいない男の刃物を奪い取り…

 

 

「ふざけたこと抜かすなこの野郎!」

 

 胸ぐらを掴み上げ男を地面に叩きつけ、無理矢理起こし胸ぐらを掴む。

 

「こうするしかない?あいつらに刃物を向けること以外の方法がないと言いたいのか!?」

 

「腹が立つ!理由なんざどうだっていい!人に刃物向けたからには当然向けられる度胸くらいあるよな!?あるよな!?」

「零!落ち着けよ!」

「コレが落ち着いていられるか!?コイツは俺が嫌いな奴らと一緒だ!自分の責任を誰かの責任にし、自分の欲のために人を犠牲にする!」

「落ち着くんだ!いいか!ここは警察に任せるんだ!」

 

「…………あ゙あ゙っ分かった!」

 

 

 冷静さを無理矢理取り戻し、近藤の提案に乗るために乗り男を放り捨てた

 

「もっと優しくしてやれよ…」

「本気でコイツ殴りたい!」

「お前の本気で殴ったら骨折じゃすまないだろ!?」

「だったら殴らなかっただけ十分な慈悲だ!」

 

「まぁいい!腹は立つが作戦は続行!」

 

 

 苛立つが…目的を忘れてはいけない。この男に彼女たちの演奏を聞かせるのが本来の目的なのだ…後は法治国家であるこの国の法に従うべき。すなわち警察に突き出してその後は…後で考えよう

 

 あらかじめ用意していたロープで男を縛り、無線で待機させていたスタッフ数人を此処に来るよう指示する。数分待ちスタッフ達が男を連れて行く…

 

 

「この前の手中で連れて行くように!いいな?」

「「「分かりました!」」」

 

『待て!俺は何処に連れて行かれるんだ!?』

「本来ならあんたは警察直行コースだが…なあに心配するな。ちょっと寄り道してもらうだけさ」

『寄り…道?』

「さっさと連れて行けっ!お前は黙って行きやがれっ!!」

「「「は、はい!!」」」『はいっ!!』

 

 

 俺が機嫌が悪いのを理解したか、スタッフ達と男は逃げるかのように走って行った

 

 冷静になるため深く深呼吸をする。良く耐えたなと近藤に言われるが…まだ耐える必要がある

 

「この問題がコレで終わりとは思えない」

「何でだ?もう犯人は捕まえて後は…」

 

 

 確かにそうだ。犯人と思われる元マネージャーは捕まえた

 だが…全てあの男が仕組んだことなのだろうか?

 

 

「考えてみろ。俺たちに刃物を向けることすら出来ない男が、恨みを持つ彼女たちに、ましてや銃口を向け引き金を引けるだろうか?」

「無理だな。それに…こうするしかないとか言ってたよな」

 

 

 するしかない。つまり、他の方法があるがその手段しか出来ないということになる。何もかもがおかしい…

 リハーサルの日に居たあの男達はあの男が雇った、あるいは知人友人だと思っていたがそれはない事が確信できる

 理由は単純。人を平気で殺せるような人間と関わりを持てるほどの度胸は先ほどの行動で見て取れる

 

 

「だとしたら…まさか!?」

「だろうな…」

「「まだ主犯は別にいる」のか!?」

 

 

 そう言った瞬間。近藤の背後から誰かが姿を現し近藤に刃物で切りつけようとした

 

「近藤っ!」

 

 俺たちは完全に油断していた。俺は近藤を横に突き飛ばし刃物を顔に受ける。受けた刃物は顔の左側、頬から左目を通り額にかけてを深く切りつけた

 

 

「があ゙あ゙あああっ!!!」

「おい零っ!!大丈夫かっ!?」

「大…丈夫だ!失明していない!」

 

 

 咄嗟に目を閉じたのが不幸中の幸いだった。ゆっくりと目を開け周囲を確認する…顔からは血が流れ出血が止まらない。服の一部をを引きちぎり包帯代わりにして顔に巻く…

 

 辺りを見渡すと、いつの間にか集団に囲まれている…大型二輪のエンジン音が響き、統一された服を着た男達がゾロゾロと姿を現した

 

 

『仕留め損ねた!クソッタレ』

『気にすんな。1人は深手だ』

 

 

 他の音達も余裕の表情と挑発とも取れるような発言をこちらに向けて放っている…

 

 しばらくすると男達をかき分け、1人の男が姿を現す。周りの者達と明らかに違うこの男は…間違いなく集団のリーダーだ…

 

 

『あ~あ。まさかこんなに早くバレちまうとはな』

『まぁいいさ。別にバレてもあんたらを消せば問題ないからな』

 

「あの男とあんたらは…どう…繋がっているんだ?」

 

『ああ?あのひょろいのか?それがよぉ…あの男仕事で失敗したから金を貸してくれ~って泣きついて来やがってよぉ』

『それであいつに金貸したら借金だのなんだのを踏み倒されちまってよ~だからこう言ったのさ』

『その育てた奴ら、連れて来いってな。そしたらあいつ、適当な理由付けて連れてこようとしねぇんだ』

『だからチョイと色々貸してやったのよ!だがここまで来たらもう知らねぇ!俺達が直接連れて行けば良いからなぁ!』

 

 

 そう言って男達は高らかに笑い出し、男達は武器を手にこちらに向かって走ってくる。近藤が拳をみぎり締め怒りの表情を浮かべ所持していたヌンチャクを構える中…俺は頭の整理が追いつかなくなった…

 

 ……つまり。あれか?あの男は借金があって?こいつらに金を借り踏み倒し?

 

「「「「死ねぇぇっ!!」」」

「おい零!何してんだよ!」

 

 

 あいつが指示をし……ということは?

 

 

「リーダー!」

 

 

 

 

 

 どっちもただのクズじゃないか

 

 

 

「ふざけやがってえっ!!!」バキッ

 

 男達がすぐ側まで迫って来た中、俺は木刀で男達を殴り飛ばした

 

「あああああっ!!!クソッタレ!!ぶち殺してやる…ぶち殺してやるぞ雑魚共めがぁ!」

 

「ああそうだ!そうだぞ零!!こいつらは俺達にとって雑魚だ雑魚でしかない!久しぶりにこのヌンチャクでぶちのめしてやる!零に傷を付けた分てめぇらの血で償ってもらうぞ!」

 

 

 思ったことをそのまま口にし、俺と近藤はそれぞれ武器を構え全身に力を込める

 

「行くぞ近藤おぉぉっ!!!」

「ぶちのめしてやらあぁぁっ!!」

 

 

 俺も近藤も怒りが抑えきれなかった。怒りに身を任せ1人、また1人と邪魔者をなぎ倒していく。幾ら集団といえども俺達は10年近く戦場で生き、薬品で強化された人間だ。そこらのチンピラ風情が束になったところで勝てるはずもなく……いつの間にか、男達は半分近くが重傷でそこらに転がっている

 

 

『な、何だよこいつら!?馬鹿みたいに強ぇぞ!?』

『お、おいあの男…近藤ってまさか!?』

『最近話題になった英雄の1人か!?』

『それにあのガキ!デケェ黒髪の…嘘だろ!?』

『近頃噂の劇薬飲んだ集団狩りか!?』

『か、勝てる訳ねぇ!!』

 

「ゴチャゴチャと!!」バキッ

「うっせぇ!!」ブウンッ!ドゴン

 

 

『『『『『ガアアアアアッッ!!』』』』』

 

 

 

「……今ので最後か」

「いや、まだ残ってるぞ」

 

 

 大きく息を吸い込み吐く…かつての感覚を少し取り戻してしまった事を悔やみながら息を整える。近藤の目線の先には腰を抜かし後ずさりしていく男が1人…こいつらのリーダーだ

 

 

「コイツどうする?」

「…………警察、だろ…?」

「……よく言った。変わったな、零」

 

 

 正直腹は立つ。この男もあの男もどうしてやろうかと考えている

 だが俺は変わると決めたのだ。日本は法治国家、罰せる法があるなら処罰は法の番人に任せよう…

 

 

「だがまぁ…()()()させないとなぁ?」

「…いいのか?」

「何がだ?俺はただ()()させないといけないと言っただけだが?」

「……そうか」

 

 

 近藤の言葉の意味を理解した俺は、血の付いた木刀を強く握りしめ、後ずさりしていく男にゆっくり近づく。来るな来るなと言い放つ男と俺の距離は徐々に小さくなり、気づけば男の後ろは壁…完全に逃げられなくなるなったところで…俺はまた胸ぐらを掴み壁に叩きつけた

 

 

『がっ!』

 

『こ…こんなことして!タダで済むと思って!』

 

 

バゴンッ!!

 

 

「黙れ雑魚めがぁ…」

 

 

 あまりにもふざけたことを言い出す男の言葉に腹が立った俺は、男を片手で壁に押し付けながらもう片手の木刀を()()()()()()突き刺した。突き刺した後…俺は冷静に気絶させるように色々込めて言葉を放った

 

 

「俺は今すぐにでもお前をぶち殺してやっても良いんだぞ?お前のせいで約束守れなかったじゃないか…どうすんだこれ?ええ!?どう責任取るんだ!?ああっ!?」

 

「今回だけは近藤がいるから警察で勘弁してやる……いいか?次また目障りな真似してみろよ…」

 

 

 

 

「次 は ぶ ち 殺 し て や る か ら な」

 

 

 

『あ……あっ……あ……』

 

 

 トドメの一言で男は完全に戦意と気を失った…

 

 それと同時にバキバキという音を立て……木刀が崩れ落ちた……

 

 

「あああああっ!!」

「ど、どうした!?零!」

「木刀が!!」

「ああっ!お前どうすんだよコレ!?これイヴって子の物だろ!?」

「どうすればいい!?作れば良いか!?」

「材料が分からないのにどうやって作るんだよ!?」

 

 

 どう謝ろうか…そう考えていると体が徐々にふらつき始めた。顔の左側に激痛が走り出し血が再びあふれ出し止まらない

 

 そういえば俺貧血だったな…完全に忘れていた。それに2人との約束も…守れなかった

 いや…守れない約束だったのだ。こうなることはきっと無意識のうちに分かっていた。いつもそうだった…何かあると必ず誰かが傷つくのだ…それが俺になっただけ。何故なのだろうか…どうして…平和的な解決が出来ないのだろうか…

 

 倒れるのを堪えるために四つん這いになる俺。それを心配して駆け寄る近藤に血を地面に滴らせ、俺は近藤に問いかける

 

 

「近藤……俺は…血を流さないと何も出来ないのか?」

「……そんなことは」

「ぐぅっ!…」

「おい大丈夫なのか!?」

 

 

 疲労や貧血…積み重なる負担が四つん這いの体勢を崩す。素直に諦め、俺は地面に横になる…空は明るくも暗くもない色が右目に広がり、左は包帯代わりにして巻いた服が赤くなっている事しか分からない…

 

 ぼんやりとする意識の中、サイレンの音が小さく聞こえてくる…

 

 

「近藤…俺は…少し休む」

「ああ。そうしろ。お前は働き過ぎだ」

「そうか?…前もこんな感じだった」

「前は役割分担してたじゃないか。今回はお前1人が動き過ぎなんだよ」

「そうか……後。頼んだぞ…」

「任せておけと」

 

 

 そう言って俺は近藤に手を伸ばす。近藤は伸ばした手を強く握り、俺の言葉に返事をした

 その後、動けない俺を壁にもたれさせた

 

 

「後は任せてちょっとは寝ろ!いいな!」

「言われなくとも……」

「救急車いるか?」

「いらない……もう入院は勘弁だ」

「そうか」

 

 

「おおーい!こっちだ!」

 

『これは!?一体何があったのですか!?』

 

 

 この声は…音は……警察か…

 

 青い服装を着た男達が来た事を見た後、俺は目を閉じた…

 

 薄くなっていく意識の中。約束守れなかった事と木刀を破壊してしまった事をどう謝れば良いのかを考え続け、俺は意識を手放したのだった…

 

 

 続く…

 




あと少しでこの話を終わらせますかね。そろそろアンケートの内容も書いていきたいので…

次回の先に正月編を書こうか悩んでいます…どちらにするかは「笑ってはいけない」を見ながら考えます


では皆様。また来年にお会いしましょう!


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第44話 傷

明けましておめでとうございます…

散々待たせて申し訳ありませんでした(時間的関係)
正月編、書けませんでした(能力的関係)
他の方々の想像力の凄さを実感しました…


今回エグいくらい長いです!

それではどうぞ…


「……またか」

 

 

 意識を手放した俺は……またこの場所に居た。此処は……所謂夢の中なのだろうか?それともまた別のものなのか?分からない……

 だが今回はいつもと少し違う。辺り一面が黒ではなく白いのだ……地面も血のような赤く汚れた水ではなく、澄んだ川のような水が広がり……美しいとは逆に奇妙な風景だ……

 

 

 ────気分はどう?──

 

 

 またいつものように見えない何かが話しかけてくる

 

 だが……おかしい。声がいつものように低くない、かなり高い声なのだ。いつもは人を小馬鹿にするような話し方だというのに、今は本当に心配しているかのようにさえ聞こえた……

 

 

 ────思ったより元気そうだね!──

 

「……ああ」

 

 

 訳も分からず質問に答えてしまう……だが今はそうすることしか出来ない。戸惑いを隠せない中、俺はいつものように見えない何かに話をするのだ……

 だが……いつもと違うこいつは一体何なのだろうか。そもそもここは何なのだろうか。いくつもの疑問が泉のように湧いてくる中……

 

 

 ────ねえねえ。聞いてる?──

 

「……すまない」

 

 ────もう!ちゃんと聞いててよ!──

 

 

 コイツはずっと話しかけてくるのだ……。……いや。子供のようなので「この子」と呼ぼうか?

 そうするとしよう……

 

 

 ────その怪我……痛くないの?

 

 

 傷のことを言われ、俺は深くえぐられた顔の左を触る。下に広がる水を鏡代わりにして顔を見るとかなり深い傷だということが見るだけで分かるほど酷い傷だった事に少し驚いた。

 ようやく傷を彼女たちに見せるようにしようとしていたにも関わらず……ますます傷を見せられなくらってしまった事に苛立ちを思えたが、その怒りはすぐに冷めた……

 

 

 ────痛いんでしょ?なんで泣かないの?──

 

「この程度で泣くわけないだろ」

 

 ────どうして?──

 

「……お前には関係ないだろ」

 

 ────むーっ!ケチ!──

 

 

 一体この子は何なのだ……。ここまで感情豊かなのは彼女たちくらいだ。ますます謎が深まる……

 だが時間が来た。足下がふらつくと思いきや、体が水に沈んでいくのだ……

 徐々に体が沈み、体の半分が沈んだ位でこの子は長々と話しをし始めた

 

 

 ────もう行っちゃうの?──

 

 ────もっと話したいのに!──

 

 ────でもね!本当は、君は分かってるんだよ!──

 

────君が分からないものは!これから知れば良いんだ!──

 

────だから……頑張ってね……──

 

 

 

 

 ──― ■■■〇■■■■ 

 

 

 

 

 体は完全に水の中に沈み、最後の一言が何だったのか良く聞き取れなかった。一体何と言われたのだろうか……分からない。

 

 空気吸え、を息を吐く度に泡が出るが濡れているような感覚が無く、沈むというより落ちていくというのが正しい感覚を感じながら俺はまた意識を手放した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い!おい……」

 

 

 ぼんやりとする意識の中……俺はまた徐々に意識を取り戻しゆっくりと右目を開いた

 

 

「ったく。ようやく起きたか」

「……どうした?」

「一息ついでに状況報告だ」

「……聞こうか」

 

 

 そこからは俺が寝た後について聞かされた

 まずあの男達は、警察が手を焼いていた暴力団だったらしく。脅迫、強盗、暴行等で……ようは殴ってもいい奴らだったということを聞かされた。まぁリーダー以外は全員、腕だの肋骨だのをへし折ってやったので全員警察病院送りだな。何故か、か?今この場所に10台以上のパトカーと警察病院搬送の車両が止まっているからだ

 

 次に……元マネージャーは抵抗もなく警察に現行犯逮捕された。

 罪状は分からないが……近藤曰く「あくまでも事情徴収」との事だ……まぁどうなるのかは分からないが俺はあの男を殴ってやりたいという思いは変わらないがな

 

 

「最後に負傷者1名。貧血で、片目に重傷ありだ」

「そうか。……ご苦労」

「ああ、あと負傷者は手術とのことだ」

「また……学生生活が遠のくな……」

「まぁお前の事だ。深手くらい三日、四日で治るだろ」

「かもな」

 

 

 再び入院なのかとショックを受けるが……失明しなかっただけマシだと考えることにした。

 左頬には血の染みついた布がひっつき、まだ血が滴っていた……立とうにも貧血で立てず改めて壁にもたれる。頭だけ壁にこすりながら動かし、壁の上の方をを見ると大きく凹んだ部分がある……俺が木刀で作ったものだ。下には粉々になった木刀の破片が無数に転がり、木刀は俺が握っていた持ち手の部分だけ残ったのだ……

 

 もし木刀を受け取っていなければ……何か変わったのだろうか。俺は素手でも十分動けるが加減が出来ないのだ……力加減を間違えると……骨など成人男性の物でも簡単に折れる程のものだと近藤は言う。

 ここまで来て……前と同じ事はしたくない。そう考えると……イヴの言う通り木刀は御守りとなった。そう思いながら残った木刀の持ち手を握りしめる

 

 

「そろそろ移動しようぜ。このまま居ると、お前死体みたいだからな」

「……笑えない」

「お前が嫌でも救急車は来たからな。乗ってもらうぞ」

 

 

 本当に面白くもないジョークを言いながら俺に肩を貸そうとする近藤の肩を借り俺はようやく立ち上がった。

 頭を上げれず視線は常に地面を見ている……数歩歩くだけで肩で息をする程息が上がる……

 結局俺は……何一つ約束を守れなかったな……

 

 

 

 

 

 だがその約束は……

 

 

 

 

「れい君!!」「零!!」「レイさん!!」

「零くん!!」「零さん!!」

 

 

 彼女たちも破ったようだ……

 

 

「帰る場所があるというのに……此処に来たら約束守れないだろ……」

 

 彼女たちの顔を見ようにも頭が上がらないので……息を整え下を向き俺は話をする……

 

「れい君……なんでふらついてるの?」

「貧血だって事忘れててな……このザマだ」

 

「貴方……どうして服の一部が無いの?」

「掴み合ったら破けた」

 

「レイさん……木刀はどちらに?」

「やはり危なかったからな!ちゃんとあそこに置いてある」

 

「零……さん」

「少し疲れたが……これで問題なく終わったな」

 

「零くん……」

「長かったが……これで……」

 

 

 

 

 

「……。全部嘘だ」

 

 何を意味の無いことをしているのだろうか……俺は貧血症にでもなったのか?

 

「悪い……彩……千聖……約束……守れなかった。イヴの木刀も粉砕してしまった」

「れい君……怪我したの?」

「ああ」

「大丈夫です!木刀ならまだありますから!気にしないでください!」

「……そうか」

 

 

「また頬?全く……困った人ね」

 

 

 大した怪我じゃない。そう言おうとしたが……

 

 突然全身の力が抜けドサッと音を立て崩れ落ちた。その後、すぐに呼吸が荒くなり息が苦しくなる……その後追い打ちをかけるかのように……顔の左側が焼けるように熱くなり、俺は布越しに顔を押さえつけ苦しんだ。

 

 

「あ゙あ゙ああっ!!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「おい!!大丈夫か!?」

 

 

「あ゙……あ゙あ゙っ……あ……」

 

 呼吸が上手く出来ないので、叫びで空気を失いますます苦しくなる……

 

 

「マズい!!おい誰か!!」

『何事ですか!?近藤さん!!』

「早くコイツを病院へ!!」

『分かりましたっ!!』

 

 

 また徐々に意識が薄れていく……

 もはやもがく事も……叫ぶことも出来ない。貧血によって酸素の供給量が一気に下がったのだと今になって理解したがもう遅い。俺はもう動けない……顔から血を流し、ただ周りの音と彼女たちの呼びかけと悲鳴のような声が聞こえた中……また意識を手放したのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 再び……もういいか。

 

 今度は、またいつもの光景(びょうしつ)だった

 目線を下に向けると口には酸素マスクを付けられ、腕には点滴と輸血袋の管が刺さっている。左目は開こうとするが器具を取り付けられ開くことが出来ない……

 

 空腹感と疲労感が同時に襲う中、周囲を身渡すと様々な医療器具が並べられているものの誰も居ない……

 

 

「ようやく起きたか?片目の手術はしたが……」

「近藤…………まただ」

「そうか……。確かに分かる。だがお前のは特に辛いよな……不憫だよな~俺達の()()って……」

「だがコレが無ければとっくに死んでいる」

 

 

 いつぞやか治癒力が上がったなどと言われたことがあるのを覚えているだろうか。だが俺たちの肉体はそれどころの話では無い……俺たちが体に投与した薬品は様々な種類があったが、特に異常な物があったのだ。

 それを俺たちは【Xセル】と呼ぶ。

 投与したのは俺だけだ。その効果は話したく無い。いずれ話すが、その薬が異常な物だったと今は知っておいてもらいたい。

 

 再生時の説明は、詳しくすると面倒なので簡単に説明すると……深手が一般人より何倍も素早く治るが傷を治す際激痛が走るといういもの。

 故に俺は瀕死に近づくほど叫び、もがき崩れるのだ。

 Xセルは関係ないため、森田や近藤も同じ事なのだが……俺はその上である

 

 

「それで?俺はどうなる」

「2日間!コレに乗ってもらう!」

「コレってどれだ?見えない」

「ああ悪い……車椅s「断る」早えよ」

「そんなもの無くても歩ける」

「乗らないと彼女たちに怒られるぞ」

 

「……乗る」

 

 

 自力で起き上がり、近藤が押す車椅子に乗る……

 点滴と輸血袋を吊した器具も同時に動かす羽目なるのだが……邪魔だな。この車椅子に取り付ければ良いか……

 

 近藤に押されながら聞いたのだが……この点滴は4袋目で

 この目に付いている器具は特殊な医療器具で、付けたのは俺が初めてだそうだ……理由は【この傷で生きている人間が居ない】からだと。まるで俺のための器具だな……

 

 

 しばらく押されて移動すると、この前使用したばかりの部屋である会議室の前に来た

 

 

「こっからはお前1人で行け」

「何故?」

「いいからいいから」

 

 

 あれこれ言って近藤は去って行った。

 理由も分からず、車椅子の車輪を自力で動かし扉に近づきドアノブに手を掛け扉を開ける

 扉を開けるとそこに居たのはパスパレの5人だけがそこに居た

 

 俺が何か言い出す前に彼女たちは俺に抱きついてきた。危なかったが俺はなんとか受け止め切れた

 

 

「おいおい。転けたらどうするんだよ……」

 

「れい君!……れいくんっ!!」ボロボロ

「見ている私たちの身にもなってちょうだいっ!」ボロボロ

「どうなるかと……思いましたよっ!」ボロボロ

「良かったよっ……ホントにっ……」ボロボロ

「無事で……なによりですっ!」ボロボロ

 

「すまなかった……みんな」

 

 

 その後、彼女たちが泣き止むまで俺は彼女たちに謝り続け……部屋には彼女たちの泣き声が響き続けた……

 

 

 

 

 

 

 

 彼女たちが泣き止んだ後、俺はあの後について色々聞いた。

 あの後俺は救急車で此処まで連れられ、すぐに手術を受けたそうだ。その事は他の面々にも伝わり、皆が一度此処に集まったそうだ……

 

 その時……

 

 

「全員が……見たのか?その……傷を……」

「うん……」

「で、ですけど!皆さん心配はしてました!それに……」

「それに?」

「きっと気にはしてないですよ!」

 

 

 本当にそうだろうか……。

 いや、隠すのを止めるのだと決めたからにはその覚悟を決めるべきだとは思っていた。だが……このような形では望んでいなかった。

 

 しかし逆に考えれば……見せると決めて結局戸惑うのならこれで良かったのかもしれないな。

 

 

「だといいがな」

「零……その……傷はどう?」

「かなり痛む。しばらくはこの器具を付けたままで様子見だそうだ」

「……傷は残るの?」

「浅くは無いからな……今までで一番大きく残る」

 

「「「「っ!」」」」」

 

「だが……まぁ仕方ない事だ。気にするな」

 

 

 何かして傷つくのは俺にとって普通の事であり……今更どうだこうだと言う筋合いは無い。勝手に俺が首を突っ込んだ結果がこれなのだから……ただ俺が弱かったのが悪い。

 

 それに今更傷が増えたところで何も変わらない。そうだろう?

 傷が付いた野菜は買う気が失せるだろう?その野菜にいくつ傷が付いているか気になるか?つまりはそういうことだ。傷があるだけで、人はすぐに不良品や悪印象という認識しかしない。それは人間の心理であり絶対なのだ。

 

 その後も彼女たちからは様々な質問をされるが俺は普通に返答した。

 答える度に謝るのは何故なのだろうか?謝る必要は無いというのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

彼との会話のうち、彼女たちは疑問に思い始めていた。

 

「どうして彼は……ここまで普通に話せるの?」と

 

 それは良い意味でも悪い意味でも深く考えない日菜でさえも感じた。

 

 顔色1つ変えず聞かれたことに答える彼の姿は、彼女たちの感覚を狂わせたかのような錯覚を感じさせる程の異常な光景にも見えたのだ。

 怪我をしたら痛みで泣き顔を歪める、それは普通の事であり何もおかしくない至って普通のとこである。

 だが彼は……泣きもしない、顔を歪める事も無い。ましてやその傷が大きく顔に残るのだ、彼女たちは「どうしてくれるんだ!」と怒られる覚悟をしていた。

 

 だがその答えは……「仕方ない」たったそれだけ……

 

 

 彼女たちの中でも彼の事を一番知るであろう千聖に関しては、目の前の彼に……恐怖を感じた

 

「(何故?どうして……そんなに平然としていられるの!?)」

 

 怒りもしなければ泣きもしない。軽くあくびをして、頭を動かし首を鳴らす。挙げ句の果てには……目が少し笑っているようにも見えてしまっていたのだ……

 千聖の感じた小さな恐怖は大きな疑問と確信に変わった

 

「(彼は一体……どんな人生を過ごしてきたの?間違いなく……私の苦しみでは比にならないのでしょうね……)」

 

 徐々に複雑な感情にむしばまれていく中、彼女たちの大きな疑問を口に出したのは……

 

 

「どうしてなの!?」

 

 彩だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 いきなりだった。普通に返答していただけなのに、急に彩が叫んだのだ

 

 

「どうして。とは?」

「どうしてそんなに怒らないの!?」

「怒ったところで何も変わらないだろ」

「傷が残るんだよ!?これからずっとだよ!?」

「そうだな」

「ずっと顔の傷で辛い思いをしてたんでしょ!?」

「辛いと言うよりは不憫だと思っていた」

「一緒だよ!!」

「急にどうしたんだよ……」

 

 

「私は怖かったの!ライブが終わって急に外に呼び出されたから慌ててみんなで外に行ったら……また……れい君が怪我してたから!また苦しんでたから!……手術するって聞いたとき……このまま……死んじゃうかと思ったの!」

 

「多分腕を切り落とされても生きてるかもな」

 

「そんなの嫌だよ!考えたくもない!!傷ついて欲しくないっ!!!」ボロボロ

 

「それは無理だ。俺はまた何処かで傷つく」

 

 

 そんなの不可能だ。俺は傷ついて初めて何かをなせるのだ……

 傷つけ、傷つかなければ何も出来ない。それが俺なのだから……

 そこは……どうあがいても変わらない……

 

 

「……どうしようもない事だ」

 

「「「「え?」」」」

 

 

 ふと口から出た言葉は、泣き崩れる彩にも聞こえるほど大きく発していた。ただ何か言わないといけない、その一心で出たのは、所謂【ボロ】である。過去を隠して生きていくと決めた俺にとってはな。

 

 

「傷というものは…」

 

 

 何か意味があるわけでも無く、ただ独り言を言うかのように彼女たちに話す。彼女たちの誰とも顔を合わさず、首だけを動かして窓の外を見る……外は曇りで日の光を見ることは出来ない。自分の心境を見ているかのように感じながら、俺は言葉を発し続ける……

 

 

「つけられるものではなく、つけるものだ」

 

「一度付けると消えない。だがそれは経験によって物事を教わり、それを永久に記憶に体に残すということ。文字通り【体に刻み込む】ということだ」

 

 

 人間は、経験を教えてもらい覚える人間と経験を刻み込み覚える人間の二種類がいる。そんなことは無いと言う奴ほど、現実が見えていない世間知らずでしかない。それは何故か?ソイツは恵まれているからだ……

 知識があっても経験をしていない。()()()()()()()からだ。

 

 

「例えるなら……火を触ると火傷をする。だが火傷の跡が無い人間にはその熱さと痛みが分からない、という事だ」

 

 

 これは今までで一番楽に聞こえる例え。まぁ俺は、建物ごと何度か燃やされたがな……。だからこそ、このようなこのような表現が出来るのだろうな。

 経験したからこそ分かる事、いや……しなければ分からない事が多くある。

 

 

「話が逸れるが、初めて俺と会った時。俺が傷を隠さなかったら?今のように接することが出来たか?」

 

 

 質問のように語り目線だけ彼女たちの方を見ると、皆が下を向いている。それに腹を立てるつもりは無い、恐らく25人全員に聞いてもこうなる事は分かる。

 日菜でさえ下を向くのだ、ほぼ同じ思考を持つ「こころ」もそうなるだろう……

 

 

「見た目……第一印象はそれで決まる」

 

「無理矢理話を繋げると、俺にとって知るという事は傷をつけられるという事だ。俺は何かを知る為に傷付かなければならない」

 

「それが嫌だというのなら……」

 

 

 

「……いや。何でも無い」

 

 

 

 最後にそう一言言って、俺は下を向く彼女たちに背を向け自力で部屋を出た

 

 

「あそこまで言う必要あったか?」

 

 

 廊下に出て近藤とすれ違うと、近藤はそう言った。

 

 

「……まだ疑ってるのか?」

「……」

「お前の事ここまで心配する奴が俺たち以外に居たか?」

「だからこそ……疑うんだ」

 

 

 

 俺は……悪いが彼女たちを完全に信用していない。

 信用はしたい……だが……

 

 

 〈結局……そうなるのか?〉

 〈……ああ、そうかよ……〉

 

 〈だったら……初めから信じなければよかった!!!〉

 

 

 

()()()()()()は……ゴメンだからな」

 

 

 一度止まった車輪を動かし、キコキコと車輪が回る音を廊下に響かせ前に進む。その先に……日の光は無い。

 

 

「世話が焼けるな全く……」

 

 

 何か聞こえたような気がしたが……気にしないで置こう……。

 今は……数少ない感情を整理したいからな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「世話が焼けるな全く……」

 

 分かってはいる……分かっているのだが……

 面倒くさいなぁーホント堅い。

 

 だが仕方が無いんだ。アイツがそう育っちまったのは俺たちの責任でもあるからな。言っておくがあれでもまだ丸くなった方だぞ?昔はもっと荒れてたからな……

 特にその……いや、この話今は止そう。

 

 兎に角……重要なのは、ここまで来てまだアイツを心配している奴らがいる!それが今一番重要なのだ!ましてや女子!女子だぞ!?色々と恵まれなかったアイツにようやく春を与えられるチャンス到来なんだぞ!?

 

 ここで関係を終わらせるわけにはいかない!余計なお世話でも、俺は俺の今できることをさせてもらう……

 

 

 

「失礼するよ」

 

 アイツと入れ替わるように俺は彼女たちの居る部屋に入室させてもらった。

 ああ……暗いな……空気が重いな……

 だがこの空気を変えられるのは俺だけだ……

 

 

「彼と何かあったか?」

 

「その……彼が言っていたことの意味がよく分からなくて……」

「意味は合っているようにも聞こえたけど……」

「どういうことなのかな……」

「分かりません……」

「それでも……間違っている気がします……」

 

 

 

 

「……君らは……本気でアイツを心配してるか?」

 

「「「「「当然です!」」」」」

 

 

 彼女たちのその言葉に躊躇も迷いも無く、5人全員がこちらを真っ直ぐ見て言い放った。嘘では無い……本気であると信じるには十分な眼差しだ。

 ならば俺は彼女たちに賭ける。アイツが彼女たちと共に変われる可能性に……

 

 アイツには悪いが……少しだけ明かさせてもらおう

 

 

「……正直に言おう。俺と零は初対面じゃない」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

「かと言ってあまり深い仲でも無いがな」

 

 

 当然全ては話さない。アイツとの関係は……そうだな……

 適当にはぐらかしておこう。そう決めて俺は……とても曖昧な内容を彼女たちに話して話しをはぐらかした。

 

 

「それで、だ。この事を俺が言ったのは黙っていてもらいたい。後々面倒になるからな……」

 

「「「「「……分かりました」」」」」

 

「最後に。ここからが君らにとって一番重要だ。アイツを本気で助けたい、支えたいと思っているのならな」

 

 

 

「聞かせてくれ。何故……アイツを心配するんだ?」

 

「どういう意味ですか?」

 

「もう分かっていると思うが……アイツは傷ついてばかりだ。それでもアイツはああいう性格だからな……助けるのが面倒だと思われがちだ。だというのに君らはアイツを助けたいと言う……何故そこまで言えるのかが知りたいんだ」

 

 

 仮に……ただなんとなく、などのしょうもない理由なら絶対に無理だ。だがこの子たちはそんな簡単な理由とは思えない。

 だが理由が分からない以上、完全に信用する事が出来ない

 どっちにしろ……理由を知りたい

 

 少しだけ時間を与え彼女たちなりの答えを待った。すると彼女たちは1人1人話し始めた

 

 

「れい君は……苦しんでた私を慰めてくれたから!何度も助けてくれたから!だから私は……彼をまた傷つかないようにしたいんです!」

 

「零は……本当の意味で、初めて私を理解してくれた人です。ですから私は!本当の意味で彼を理解してあげたいんです!」

 

「零くんはお姉ちゃんを助けてくれた!零くんの事考えるとスッゴく、るんってする!でも今の零くんを見てると……モヤってする。だからあたしは!零くんをるんってさせたい!」

 

「レイさんは……私と千聖さんを何度も助けてくれました!レイさんのブシドーで、九死に一生を得ました!今度は私が、私のブシドーでレイさんを助けたいです!」

 

「ジブンは……零さんに頼ってばかりでした……。ジブンは零さんに手伝ってもらってばかりだというのに……零さんには何もしてません……今更だとは思います!ですがそれでも……ジブンは恩返しがしたいんです!」

 

 

 ……予想以上だ。

 丸山彩、白鷺千聖、氷川日菜、若宮イヴ、大和麻弥の順にそれぞれの思いを聞かせてもらった。

 彼女たちなら……あんな事にはならない!確信が出来る!

 

 

「……君らの思いは伝わった」

 

 

 零……お前はようやく……人に恵まれたな。

 お前のめちゃくちゃだと思われた一生を変えられるチャンスだぞ!

 

 

「アイツには何もかもが足りてない。だから!アイツを……任せた」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 完全に丸投げである事と彼女たちならアイツを変えられると信じて……アイツを変えてくれ、助けてやってくれ、そういう意味を込めて俺は彼女たちに、アイツのことを頼んだ

 

 その後彼女たちは、明日アイツにしてやりたいことがあるとか何とか言って会議のようなものをしていた。

 まぁ俺は別の事をしなければならないので席を外させてもらった。

 彼女たちの策が何なのか……明日分かる事だ。

 

 

 これでアイツのえぐられた傷(こころ)が……少しは良くなるだろう。謎の確信を得た俺は、アイツのための()()()()を始めるために廊下を出てた。

 

 アイツが通った廊下は……日の光が差し込んでいる……

 これが良い予兆だといいな。そう思いながら俺は廊下を歩き出した……

 

 

 

 続く……

 

 




次回でパスパレ編最終回!……多分

☆10滅亡のcatastrophyさん
☆9CHILDSPLAYさん

評価ありがとうございます!


それではまた、次回を気長に待ってください(^^)/


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第45話 得て与える特別休暇 前半

個人的な理由でかなり期間が空いてしまいました…申し訳ありません。
やっぱり最終回にするのは無理だったので2つに分けます。
ただ…クソ長くなりました。1万文字行きました…ですがぶった切りはしないです…長くてすんません


それでは…長い長い最終回前半、どうぞ。


 朝日が差し込み暖かな病室で目が覚めた俺は体の変化に気づいた

 ベッドで横になりながら手足を上下左右に動かし、最後に体を起こした。すると自力で起き上がれたのだ…

 そして腕を見ると刺さっていた輸血パックと点滴の管が外されていたので、ようやく貧血が治ったという事を理解した

 片目の器具は付けたままだが…これで外に出れると思いベットから降りようと横を向くと、パイプ椅子の上に一枚の置き手紙とデジタル時計がある

 

<9:00までそこで待つように!>

 

 時計を見ると8:50を表して点滅している…

 ならば待っていようと思い、俺はなんとなく鼻歌を歌い始めた

 ベットから足だけ下ろしメトロノームのようにリズムをとる。

 

「~♪」

 

 ただただ鼻歌を歌っているだけだというのに…何故か気分が良くなる…自然とギターやドラムの音が聞こえてくる…なんでも良いから楽器を弾きたい…

 そんな事を考えた頃には鼻歌で一曲歌い終わり、また別の歌を歌い出す。そんな事を自然と繰り返していく…

 

 そんな中…ふと時計を見ると時刻は9:16を表していた。

 しかし誰かが来る気配は一向に無い…

 日の光が眩しく、ベットのカーテンをすり抜け光が病室に差し込み…その光によって俺は気づいた。

 俺のベットの横に…カーテンが閉まったベットが1つ増えている事。そして日の光によってその中に居る誰かの影がカーテンに映っている…

 

 影を見ると寝ているのではなく、ベットに座る状態のように見えるので起きているのが分かる。思い切ってカーテンを開けた

 

 

「……彩?何してるんだ?」

「えっ、いや、それは~」

 

 

 カーテンを開けると、そこに居たのは彩だった。余程驚いたのか質問するとオドオドしている…

 

 

「というか何故ここに居るんだ」

「れい君が勝手に出て行かないように見張ってた!」

「……いつから?」

「うーん…7時くらいかな?」

「起きてたのか?」

「……寝ちゃってた」

「起きたのは?」

「……ちょっと…前」

 

 

 最初は自信満々に答えていた彩だったが、徐々に声が弱々しくなっていった…

 見張っていたのに寝たのか…。意味無いじゃないか…。

 

 

「それで…何か用か?」

「あ、そうだった…れい君は…」

 

 

 

 

 

「今日一日!私たちのお願いを聞いてもらいます!」

「……はい?」

 

 

 意味が分からず聞き返してしまった。

 いや…分からない。いきなり彩は何を言い出すのかと思いきや……今日一日?要求を呑め?しかも私【達】?何がどういう意味なのか本当に理解できない

 

 戸惑いを隠せない俺に対し、彩は笑顔でこちらを向いている。だが目は真剣なのが見て取れる…

 

 

「……理由は?」

「れい君にリフレッシュしてもらいたいの!」

「リフ…レッシュ?息抜きの事か…何故?」

「れい君には…色々辛い思いをさせちゃったから…今日は私たちと一緒に、れい君もお休みって事!」

「それ位…何とも無い」

「でもれい君は私たちとの約束破ったよね?」

「なっ……」

 

 

 痛い所を突いてくるな…

 だが…負傷したのが俺だけだったとはいえ、今回は彼女たちも色々と思うところがあるのだろうし…現に約束は約束、破ったからにはそれなりの処罰を受けるべきだ。

 それに今日は平日…彩の言い回しだと学校から既に休みの許可を得ているという事になる。

 ならば…仕方ない……

 

 

「……分かった」

「ホント!?」

「無茶ぶりじゃなければな」

 

 

 約束をした後に、彩は唸りながら何を言うかを考え始めた。そういうものは予め考えておくのもではないのかと思いながらも、俺は彩が唸るのを止めるまで待った

 

 少し待つと唸り声が止まった

 

 

「決まったか?」

「うんっ!」

「それで?どうすればいい?」

「まず!ココに座って!」

 

 

 彩が居るベットの横をポンポンと叩きながらそう言われたので、俺はベットの横に腰掛けた。何をする気なのだろうかと思っていると、ベットの上に居る彩は、座りながら俺の後ろに座り…俺の頭を撫で始めた。

 普段…俺は偶に髪を整える為ブラシを使用するが…それ以上に心地よい感覚だ…

 

 

「前は…私が撫でられてたの…覚えてる?」

「ああ」

「その時言ってくれたよね?ちゃんと向き合ってるって…」

「言ったな…だが…何故今それを?」

 

 

 そう聞くと彩は撫でるのを止め、ベットの逆方向から降りた。

 

 

「コッチに来て」

 

 

 今度は俺が寝ていたベットに来いと言う……疑問ではあるが今は特に考えず、俺は指示に従った

 

 

「また座って」

「ああ…」

 

 

 本当に意味が分からないのだが…そう思いながらも俺は彩と共に、再びベットに腰掛けた

 お互いに何かを言うわけも無く…ただ沈黙が部屋を支配する…

 しばらくすると、彩はこちらを向き何か言いたそうな表情を浮かべたので、俺は彩の方を向いた

 

 

「…向いてばっかり…じゃない?」

「え?」

「れい君は…今どこを見てるの?」

「…」

 

 

 今どこを見ているのか。それは俺にも分からない…。

 前でも後ろでもない。俺には…何も無いのだ…良いものなど何も無い…。

 忘れたい、思い出したくも無い事しか無い…

 

 

「……横になって」

「…何?」

「さっきみたいに寝て」

「あ、ああ……」

 

 

 次から次へと…今度は先ほどと同じように寝る態勢、つまりは普通にベットで横になった。

 彩はその隣に座ると俺に毛布を掛け、俺の隣で横になった。

 言うところの添い寝状態である。

 

 何がしたいのかよく分からないが、とりあえず寝にくいようだったので枕を譲った。お互いの息が顔に当たる程近くなった所で、また彩が口を開いた

 

 

「……辛いよ」

「え?」

「れい君は…私には見えない所を見てるんでしょ?」

「……かもな」

「どうして…?なんで…?なんで……違う所を見てるの?私は…れい君と…同じ所を見たいよ…」

「…何故?」

「れい君はすぐに私の前に行っちゃう…ようやく追いつけるって思うと…今度は傷ついて後ろに行っちゃう…。いつまで経っても…私はれい君と同じ所に居ないの…」

「…それが俺の生きる道だ。俺はその道に進むしかない…」

「そんなのおかしいよ…そんなに向き合わないといけないの?それはれい君が本当に通らないと行けない道なの?」

 

 

 泣きながら言う彩を見て、俺は申し訳ないと思ったが…

 同時に、それは仕方ない事なのだと思った。

 彩はファンが多く居るアイドルであり、俺は一般人。それも血に塗れた人間もどき…。どう足掻こうとそこは変わらない…同じ場所を、ましてや俺の見た景色を彩に見せるわけにはいかない。

 

 

「最後」

「なんだ?」

「最後に…目を閉じて…」

 

 

 指示されるがまま、俺は目を閉じた。

 もぞもぞと動く音が聞こえた後、彩の呼吸の音が全て聞こえるようになり…また頭を撫でられたと思いきや、同時に指を絡め手を握られる感覚を覚えた。

 

 

「れい君…」

「なんだ?」

「もし…れい君がもう無理って思ったら…今みたいに私の手を握って。その時は…私の道を一緒に歩こうよ」

「そんなことしたら…彩が後悔するぞ」

「それでもいいよ。れい君が傷つかなくて良いのなら…」

 

 

 分からない…何故そこまで肩入れする?

 今はこうして接せるだろう…だがいずれは…またあの時と同じ事になるだろう…

 

 …寝起きだというのにもかかわらず眠気が再び俺を襲い始めた。意識を保とうとするも視界は徐々に薄れ、体は睡眠を欲し始めた。

 そろそろ撫でるのを止めてくれと言っても聞かず、睡魔に抗う俺を…彩は撫で続ける…

 

 

「……眠い…止めてくれ…」

「嫌。眠たいなら寝てもいいよ?」

「………20分で…起こして…くれ」

「うん。お休み、れい君」

「あぁ……」

 

 

 結局、睡魔に負けた俺は彩に撫でられたまま…短い眠りについた

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「……zzz」

「寝ちゃった…」

 

 

 少し待つと、目の前の彼は…小さないびきをかきながらぐっすり寝てしまった…

 横に置いてある時計のアラームをセットして置いた。

 

 

「これでまた寝ちゃっても起こせる…よね?」

 

「…」

 

「(何しちゃってるの私っ!!///)」

 

 

 添い寝している事への恥ずかしさが今になって込み上げてきた…心臓がうるさくて…自分の顔を触ると熱い。でも…彼を撫でるのを止めたくない。彼の髪は思っていた以上にサラサラで…フワフワで…手放したくない程触り心地が良い

 

 

「れい君…ゴメンね?私、嘘ついちゃった」

 

 

 私は朝に来たって言ったけど…ホントはずっと居たんだよ?昨日からずっと…同じ部屋にね。

 もちろん勝手に出て行かないように見張ってた。けど…本当はね?もし何かあったらすぐに人を呼べるようにって。病院の人達と相談して、他にも色々無理なお願いを通して貰ったんだよ?

 

 

「無理しすぎだよ…もうっ…」

 

 

 れい君は…全然寝てなかった。

 この部屋は他の病室より少し広くって、少し大きなテーブルが1つあってその上にはたくさんのノートと紙が置いてある。ノートの表紙にはPastel*Paletteって書いてあって……他のノートにもafterglowやRoseliaって書いてある。彼が寝た後に読むと、練習時間や改善点、と色んな事が書いてあった。

 

 当然…私たちのことも書いてあった。その時1番気になったのはやっぱり…私のこと。

 ペラペラとページをめくると私の名前を見つけた。

 

 他のみんなと比べると…私のページ……多い…

 そんなに…ダメなのかな…。そう思って、最後の行を読んだ

 

 

 ー改善点は山ほどある、だが彼女なりに変わろうとしている傾向が見られる。なら俺は、その努力を1つたりとも無駄にさせないように指導しなければいけない、そして彼女との約束を守らなければならない。

 彼女をアイドルにする。それが約束であり、俺の仕事だからな。ー

 

 

「ちゃんと覚えていてくれたんだね」

 

 

 ちゃんと見てくれてた。私なりの努力がちゃんと伝わっていた。

 努力は当たり前のことだけど、改めて私の努力を見ていることを知ると嬉しい。

 

 

「(れい君にとって…私って…何?)」

 

 

 色々と気になることはあるけど…やっぱりそういうことも気になっちゃう。

 れい君は何というか…大人っぽい雰囲気がする…私の方が年上なのになんかズルいな~。でもそこが…れい君のカッコイイところだと思うけどね。

 

 そもそも私ってどういう風に見えてるのかな?私はれい君のこと頼れる後輩だって思ってるから、ちゃんと先輩として見て欲しいけど…今の私じゃ無理かな…。

 

 本当に辛くなったら……私を頼ってくれるかな…?またさっきみたいに手を握ってくれるかな…

 

 

 色々と気にしている私の前で、れい君はずっと寝てる。

 

 

「(…寝てるよね?)」

 

 

 撫でるのを止めて、私はれい君に少しずつ近づいて…体をピッタリ引っ付けると体温を体で感じる温かい。彼の体に顔を埋めて息をすると、いい香りがする。

 

 ずっとこうしていたい…

 

 けれど時間はあっという間に過ぎて…この時間を満喫した時には、アラームが鳴ってしまった…

 

 残念だと思いながら、目を開けた彼に聞く

 

 

「ちゃんと休めた?」

 

「……ああ、ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……ああ。ありがとな」

 

 

 体に掛かった毛布を除け体を起こす

 予想以上に寝付けたので久しぶりの睡眠をとったという感覚に少し満足した。寝ているときかなり温かかったが…日の光のせいだったのだろうか?

 

 

「久ぶりに…休んだって気がするな」

「ええっもう!?ま、まだみんなが色々…」

「ああ…そうだったな。悪かった」

 

 

 私【達】と言っていたしな…ということは他の4人も休みの許可を得ているのか?本当に大丈夫なのかそれは…まぁ今更そんなこと言っても何も変わらないのだがな。

 

 ベットから降り体を少し動かすと普段よりは鈍いがそれなりに動ける。

 

 

「どう?1人で歩ける?」

「問題ないな」

「じゃあ次に行こっ!」

「ああ」

 

 

 今度は外のようなので置いてあった運動靴を履き、彩と共に外へ向かった。途中で次は誰なのか聞いたが…内緒だと言われ答えなかったり、暇つぶしに歌っていた鼻歌が良かっただとかいう話をし続けた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に来たのは病院の外にある庭だ。この病院の庭は異常な程広く、リハビリ用の場所やテニスコートも完備されている…病院にあるテニスコートに需要があるのかは分からないがな。

 

 しばらく歩くと木々が生い茂る場所に着き、そこにはイヴと日菜が居た

 

 

「も~遅いよ彩ちゃん!零くん!」

「アヤさんレイさん!お待ちしてました!」

「悪かった。これでも早く来たほうだ」

 

 

 しかし…ここで一体何をしようというのだろうか。木々はあるがそれ以外には…ハッキリ言って何も無いのだから【森林浴】というものをするのだろうか?

 

 

「それで今度はどっちが?」

「まずは私です!」

 

 

 どちらが先か聞くとイヴが挙手をしたと同時に木刀を握った。

 一体何をしようというのか…

 

 

「私からのお願いは、鍛錬で鍛えてもらう事です!」

「鍛錬?」

「そうです!」

 

 

 気合いが十分なのは見て分かる。だが修行で鍛えるとは具体的に何をすれば良いのだろうか。基礎的な部分の指導などで良いのならばいいのだが…

 

 断る理由も無いため俺はとりあえず基礎である構えや振り方を一通り見させて貰った。やはり一通りの基礎は出来ている…これ以上に鍛える必要は無いと思えるのだが…その意見にイヴは納得がいかないようだ

 

 

「というか…何故イヴはそこまで鍛錬にこだわるんだ?何度も言うが基礎的な部分は普通にできているぞ?」

「それではダメなんです!」

「……何故だ?」

「それでは私が目指すブシドーにはまだ遠いんです!」

 

 

 武士道…いつもイヴが言っているいわば信念を言い表す言葉だ。

 確かに俺なら基礎以上の指導を行える、だが…正直いい気がしないのだ。過度な力にウンザリしていた時期がある俺にはな…。戦う術など彼女たちに不要だろ…

 

 だがイヴは怯まない。芯が強いのはよく分かっているからな

 

 ならば…

 

 

「いいだろう…鍛えてやるよ」

「本当ですか!」

 

 

 

「ただし!今から行う試験で俺を認めさせられたらな」

「えっ?試験…ですか?」

「ああ。俺にも教えるべきかそうじゃないかを見極める権利くらいあるだろ?」

「見極め…」

「ああその…誤解はするなよ?イヴが駄目だとかそういうことではない。ただな…その…色々あったからな…こういうことを教えるときは試験的な事をするように決めてるんだ。すまないな…勝手で…」

「いえ!確かにそれは大事なことです!」

 

 

 試験…まぁ言いようによっては、【やれるならやってみろ】と挑発にも取れるたとえだが…そうとは取られなかったようだ。現に一度似たような事があったからな、その時は諦めて貰ったが…

 

 

「さて試験内容だが、今から5分以内に……俺に打ち込んでこい」

「「「…ええっ!?」」」

 

 

 試験内容はとても簡単に聞こえるような内容だろうが…俺が試験をするんだぞ?簡単なわけ無いだろ…

 

 

「待ってよれい君!」

「そうだよ!ちょっと落ち着こうよ!」

「…ああそうか…言葉足らずだった。別に当てなくていいぞ?そうだな……ここまでこれれば合格だ」

 

 

 そう言いながら足で地面に線を引いた。……俺とイヴの距離は10メートル程、走ればすぐに終わる距離だからな。見ただけだとこれは本当に試験なのかと疑うだろう。

 ついでに、彩と日菜には俺の後ろに立つように指示を出した。2人とも何をするのだろうかという目を向けていたがこれも準備なのだ。

 

 

「さてと、彩が合図した瞬間からスタートだからな?準備しとけよ?」

「はいっ!」

 

 

 さて…イヴは理解しているのだろうか…

 

 

「じゃあ…始め!」

 

 

 彩の合図と同時にイヴは走り出す。まぁ…普通ならそうするだろうな。間違っていない判断であり行動だ、だが……【ただ、それだけ】ならこの試験では無意味だぞ。

 

 ましてや……俺が相手ならな……

 

 

「っ!!!???」

 

 

 突然イヴは止まった。気合いに満ちた顔は一気に青ざめ足は子鹿のように小さく震え始めた。急変したイヴに対して何が起きたのか理解が追いつかない2人は心配した。だが俺は止めない。

 

 ここで俺は今何をしているのだろうかと思うだろう。俺はただ仁王立ちしているだけだ。変えたのはただ1つ、目つきだ。

 右目だけでイヴを睨んでいる。ただそれだけのことだがその目にどの様な感情を乗せるかで目は大きく変わる。今俺が向けているのは……【怒り】。無論彼女たちへの怒りでは無い。それでも怒りは怒りだ。

 しかし全力では無く、10で表すなら3だ。それでも十分だ…人を怯ませるにはな。

 

 

 

 

 

 その時イヴは……今までで感じたことの無い程の恐怖と威圧感を覚えた。

 異常なほどの威圧感は全身の動きを止めた。完全に蛇に睨まれた蛙の状態ある…

 それでもイヴは動こうとする。しかし……

 

「(動きません…)」

 

 どれだけ足掻こうと体は動かない。その事を自覚しイヴが取った行動、それは……

 

「参り…ました…」

 

 勝てない事を自覚し負けを認める。つまり身を引いたのだ…

 

 

 

 

 

 イヴは負けを認め、試験は終わった。イヴと2人で話したいという理由で彩と日菜には席を外して貰い、俺とイヴはテニスコート近くのベンチに座った。誰も居ないコートを背に、俺は口を開いた

 

 

「さてと…イヴ」

「はい…」

 

 

 明らかに元気が無いイヴは未だに小さく震えている…悪いことをした…

 だがそれでも、それだけする必要があったのだ。そしてその結果は…

 

 

「……合格だ」

「えっ?……合格ですか?」

「合格じゃ駄目か?」

「ですが私は…負けてしまいました」

「イヴ……この試験は勝ち負けは全く関係ないぞ」

 

 

 この試験に勝敗など必要ない。現に勝ち負けがあるとしたらそれは負けろといっているようなものだろう。何故か?入院中とはいえ俺に勝てるはず無いだろ…余裕とは行かないにしろ素手で一撃だ。

 

 

「それに勝敗で言えば…イヴは勝ったぞ」

「そんなことないです!…私は…逃げました…」

 

 

 逃げる。言い方にも悪意があるような言葉だな。だが確かにそうだな…逃げるという行為を馬鹿にする者は数多く居る。だがその者達は言わせて貰えば3流でしかない。

 一体何故そのような言われ方をしなければならないのだろうか…それでもイヴにとっては精神的に来るものがあるのだろう…

 先ずはその考えをどうにかしよう

 

 

「逃げる行為はそんなに悪いことか?」

「当然のです!ブシとは相手に背を向けないんです!それがブシドーです!」

「だったら俺は武士道は歩んでいないな」

「そんな事無いです!」

「だが逃げてはいけないのが武士道なんだろ?」

「レイさんは逃げてないじゃないですか!常に勇敢に戦っていました!」

「……それは間違いだな」

「えっ?」

 

 

 逃げずに、か。それこそ大きな間違いなのかもしれない、いや大きな間違いだ。策の内に逃走は常に頭に入れていた。時には失敗し死にかけた事など数え切れない程だ…その時俺は仲間と逃げた。車両に乗り込み無理矢理にでもアクセル全開でな。

 過去の話はそこまでにして…

 

 

「【常に勇敢に】それは無理だ。俺は逃げるときは逃げる主義だからな。大体逃げるのは間違いっていう思考は止めた方が良いぞ」

「ですが…」

「イヴは戦い負け勝負に勝ったぞ」

「勝った……私がですか?」

「大体逃げるなってのが間違いだと俺は思うのだが…。戦略的撤退って聞いたことあるか?イヴは正にそれだろ」

 

 

 そもそも……俺は勇敢では無い。言うならただの蛮勇だ。

 

 イヴの試験をしていて思い出したことがある。それは思い出したくも無い数年前、ある時期は白人戦が多くその時期俺は日本刀を主としていた。そして俺は……その刀で【山】を作った。何の山か、それは想像に任せるが想像はしない方が良い……だが強いて言うなら一面を赤く染めないと出来ない山だ。

 その時期は夜叉という呼ばれ方もしたが、結局化け物に戻った…

 

 

 そして今…その景色が頭の中で蘇ってきた。鮮明に写るその忌まわしき景色を見るうちに、椅子にもたれている上半身は徐々に下に向き始め…最終的に足に肘を置き体を支える姿勢へと変わった。だが目線は股を通り抜け地面を見る……気づけば前を向けない……そんな状態で俺はまた口を開いた

 

 

「……俺はそんな立派な人間じゃない」

 

「っ!?」

 

「勇敢、立派、何処がだ?俺のはただの暴力でしかない。……何故試験をしたか分かるか?有り余った力や能力、技術は恐ろしいからだ。イヴだって分かるはずだ…俺の異常さは。イヴは俺にだって良くしてくれてる、だからすぐに教えてやりたいと思った。だが…同時に嫌だった」

 

「何が…ですか?」

 

「力ってのは要らないんだよ…普通で良い。イヴの意思は芯がある。だったらもう十分じゃないか…俺は今まで多くの人を見てきた。その多くは……小さな力を得た途端、異常な強さを求めてイカれる奴らばかり…俺は嫌だ…イヴにもそんな風に…なってほしくない…」

 

「レイさん…」

 

「勝手で悪いが…諦めてくれないか?…大丈夫だろ……また何かあったら俺がまた……」

 

 

 守ってやる。そう言おうとした時横からトンと叩かれた。下を向き続け重たくなった頭を横に向けると、俺は顔を伏せたイヴに叩かれた事を理解した。その後はポカポカと力の無い拳で殴られ続け…徐々に上がるイヴの顔は涙で濡れていた

 

 

「レイさんのバカっ!ケチっ!分からず屋!」ポカポカ

 

「イヴ?」

 

「なんで…何で分からないんですか!?私が鍛錬をお願いしたのは…もうレイさんに傷ついて欲しくないからですっ!!私がレイさんを超えて!今度は私がレイさんを守りたいからです!!……私はレイさんに3何度も救われました…何度も私の前に立って…何度も守ってくれました!だから今度は私が!私のブシドーでレイさんを守りたいんですっ!なのに…なんでそんなこと言うんですか…」ボロボロ

 

「…」

 

 

 何故だ…何故…そこまでして俺を救おうとする…?

 もう分かったはずだろ?俺は幾ら傷ついても死なない…そこまで気負う必要など…

 だが…イヴはそれでも、例え嘘だったとしてもそこまで言ってくれたのだ…ならば…

 

 泣き止んだイヴの目を見て俺は口を開いた

 

 

「イヴ…悪かった。だったら最後に教えてくれ…本当にイヴは…異常にならないか?」

「なりませんっ!だから私は…レイさんに弟子入りしたいです!」

「弟子入りか…」

「駄目…ですか?」

「いや。約束だからな。今日からイヴを弟子にする」

「本当ですか?約束ですよ?」

「ああ。約束する」

 

「ではレイさん!…いえ師匠!よろしくお願いします!」

「ああ。改めてよろしくな。イヴ」

 

 

 こうして俺は、涙を拭い満面の笑みを浮かべ俺を師匠と呼ぶこの少女、若宮イヴを弟子にした。俺を超えるかどうかは分からないが…彼女が満足出来る程の実力は付けてやろうと決めた

 

 

「と言っても…鍛錬は俺は退院してからな?」

「はいっ!お待ちしています!師匠!」

「鍛錬以外は普通に呼んでくれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから彩と日菜の2人と合流し、再び木々が生い茂る先ほどの場所へと戻ってきた

 

 

「やっとあたしの番だよ零くん!」

「待たせたな…それで?日菜の願いってのは何なんだ?」

「あたしのお願いはね~コレ!」

 

 

 そう言って日菜は俺にアコースティックギター、【アコギ】を手渡した。まぁ…何を言われるのかはこれで大体察しが付くが一応聞いておこう

 

 

「どうしろと?」

「弾き語りしてみてよ!」

「いきなり難易度上がったな」

「だって零くんの歌ってるところ全然見たこと無いもん!」

 

 

 確かに俺は人前であまり歌わない。今まで数回あった程度だ…

 曲のレパートリが少ないという理由はもあるが…アコギにおいては話がまた別だ…そしてその理由が…

 

 

「だが俺…アコギは洋楽しか出来ないぞ」

 

 

 そう…アコギで出来るのは歌詞が英語のものばかり、なので歌ったとしても歌詞が分からないと言われて終わりなのだ。それに…選曲の年代が古いのでウケが悪いだろうからな…

 

 

「いいからいいから!とにかく歌ってみてよ!」

「れい君の歌…気になる!」

「ぜひ聞かせてください!」

 

 

 日菜に続き、彩とイヴも聞かせてくれと頼んでくる…ならもう良いだろうと俺は近くにあった椅子に座りチューニングを済ませ、弦に指を掛ける。

 

 

「先ずは……Country Load」

 

 

 足でリズムを取り、弾き語りを始めた。

 音は緩く鮮やかに、歌声はギターの音を邪魔しないよう意識をしながら弾いて歌う。風で揺れる木々の音はアコギだけのむなしい今の1曲によく絡み合う…

 

 

「……Soldier's Eyes」

 

 

 久しぶりに弾いたアコギの感覚を忘れないように続けてもう一曲。先程の曲は有名だが、この曲の知名度はかなり低い。マニアックな曲だから仕方ないのだが…それでもこの曲は何故か印象に残ってしまう。

 歌うというよりは、語るという感覚を意識して歌った…

 

 

「とまぁこんな感じだが…」

「凄いよ零くん!スッゴく、るんってしたよ!」

「2人は?」

「とっても良かったよ!」

「はい!とても素晴らしい演奏でした!」

「そうか…気に入ったのなら何よりだ」

 

 

 

「次は……っ!」

 

 

 続けて歌い出そうとした時、痛みが引いたと思っていた顔の傷がチクリと痛んだ。ただ弾き語りしていただけだというのに…。傷を器具の上から押さえるが痛みはすぐに引いた。

 

 

「レイさん大丈夫ですか!?」

「…問題ない」

「無理はしないでね?」

「ああ…分かっている」

 

 

 アコギを椅子に置き一度立とうとすると、傷を押さえ心配になったのか彩とイヴは俺に駆け寄り肩を貸そうとする。だが自力で立てるので自力で立ち2人の間に立った。

 しかし…日菜はただ弾き語りして欲しかっただけだと言っていたが…他ににも理由がある気がする…聞いてみるか

 

 

「なぁ日菜?」

「ん?なに?」

「何故弾き語りをして欲しいと言ったんだ?ただ弾き語りを聴きたいなら退院後でも良かったんじゃないか?」

 

 

「それはね~。零くんにるん!てして欲しかったからだよ!」

 

「どういうことだ?」

 

「零くんって変わってる、あたしと全然違うのが面白いんだよ!特に練習の時の零くんってスッゴくるん!ってしてるんだよ。でも今の零くんを見てると…ズキッってする。だから…あたしはこうしてもらったら、またるん!ってしてくれるかなって思ったの」

 

 

 最初は明るかった日菜の表情は少しだけ曇り…日菜はあまり見せない【悩んだ】という表情をしている。彼女は独特な思考を持っているが、彼女は彼女なりに考えてくれていたようだ…

 

 

「……今の俺はどうだ?」

「ちょっとだけるん!って感じだよ!」

「…そうか」

 

 

 日菜の表現は難しいが…恐らく少し良い感じ。ということなのだろうか…

 あまり彼女たちを心配させたくは無い…日菜から見て少し良い感じなのなら、少しはリフレッシュさせて貰ったということなのだろうな…

 

 

「ありがとな。日菜」

「も~お礼はまだでしょ?まだ千聖ちゃんと麻弥ちゃんが待ってるんだから!ほら行くよ~っ!!」

「ま、待ってくれ!」

 

 

 お礼はまだ早いと俺の腕を掴み走る日菜と、引っ張られながら走る俺

 

 

「待ってください!ヒナさーん!」

「ちょっと待ってよ!置いてかないで~っ!」

 

 

 それを追いかける彩とイヴ

 

 

 

 向けられる慣れない心配と彼女たちの優しさ。その他にも、今日感じた様々なものは…今までに無かったものだと少しだけ分かったような気がした。

 それがただの勘違いなのかは分からない。だがそれでも、俺が人間として生き始めたのだと少しだけ確信を持ったような気がする…

 

 

 後半に続く…

 




☆10藤井 悠さん、shrヒロさん
☆8 鬼縞龍二さん ありがとうございます!!

それでは次回!今度こそ最終回!

それではまた、気長にお待ちください…



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第46話 得て与える特別休暇 後半

ええー…遅くなって申し訳ないです…
今後はここまで遅くならないように……努力はします(白目

なんか前より長くなって1万超えた…

では、第二章最終話どうぞ。


『時間は20分だ』

 

 

 そう言って刑務官は出て行き扉を閉めた。俺とその男の前には声を通すための穴が開いたガラスが1枚。ガラスの向こうに居る男の顔に生気は無く、薄い光を放つ瞳でこちらを見る

 

 

『…どうして来たんだ?』

 

 

 どうして来た? というかそもそも此処は何処なのか。

 突然だが、俺は今…近藤と共に刑務所に来ている。聞きたいことは分かるので簡単に説明すと、日菜に引っ張られていた途中に近藤と出会い用事があるから一旦来いと言われ連れてこられたのが此処だった。

 まぁ遅かれ早かれ此処に来るつもりでは居たいたので良かったのだがな。

 

 

「どうして? お前のせいで俺はこうなったんだぞ。分かってるのか? お前のせいで、あいつらがどれだけ苦労したのかが……説教は止めよう。聞きたいことがあるからだ」

 

『聞きたい…こと?』

 

「そうだ。何故お前はあの時、こうするしかないと言ったんだ?」

 

 

 この男の行動には疑問が多かった。あの暴力団との関係は【借金した奴と金を貸した奴】だ。だがコイツは借金を踏み倒した…その結果、暴力団からパスパレを連れてくれば借金は無かったことにしてやるという提案。だがこの男はその提案を曖昧にし、拒否し続けた…

 おかしいと思わないか? 借金を踏み倒すような奴が、借金を無効にする提案を拒否したんだぞ? だとすれば何かしらの理由があったはず…それが知りたいのだ

 だがこの男は質問に答えない…いや、言えないのかもしれないな…

 

 

「質問を変えようか。何故、借金をした?」

 

『……それは…』

 

 

『彼女たちの…為だったんだ…』

 

 

 両手で頭を抱え泣きながらそう答えるこの男は、途切れ途切れだが事情を話し始めた。

 どうやらこの男…彼女たちの為にライブステージを用意しようと金を集めるものの上手くいかず、他の仕事を重ね資金を集めるも…仕事のうちの1つで客に難癖を付けられ金をむしり取られるという不幸に見舞われ、あがきに足掻いた結果がこのような事態を招いたのだという…

 事情は分かったが…実はもう一つだけ気になることがある

 

 

「聞きたいことがまだある……お前は…アテフリについて何も思わなかったのか?」

 

『そんな訳ないじゃないか! みんなあれだけの練習をしていたんだぞ!?』

 

「だが彩から聞いた。お前はその責任を取れとクビにされたんだろ?」

 

 

 

 

『……られたんだ

 

「何だと?」

 

 

『はめられたんだよっ!!』

 

 

 椅子が倒れる程、男は勢いよく立ち上がりそう叫んだ。

 

 

「はめられた? 一体どういうことだ?」

 

 

 その後男の話が長くなった為、話をまとめるとこうだ。

 

 ある日のこと…社長は一時期出張で事務所を空けるため社長の代理となる奴が来た。そしてソイツの要望は常に無茶苦茶で…今になって思うとソイツの言動は、明らかにうちの事務所に大博打をさせるような提案ばかりだったが…男も当時のスタッフ達も仕方が無いと思い従い続けた

 ソイツは大手から来た奴だという噂が広まってたので、下手をすれば当時小さかった事務所すぐに潰されると思った為その時点で反論しようとは思わなかった…

 そしてソイツが来て数日経ったある日…この男は突如として辞職を迫られた。理由は『仕事の複数持ち』何も罪には取れないこの事実を社長代理の権限によって犯罪にも近い事実に書き換え、強制退職となった…

 

 

『その後だ…あの野郎が……俺をはめたんだって気づいたのはな』

 

「何故その時点で気づいたんだ?」

 

『あの野郎は……社長が戻ってくる前日に姿を消したんだ。跡形も無くな…』

 

「……因みに…ソイツはどの大手から来た奴だった?」

 

 

『確か……〇〇プロダクションだった』

 

「……あんたもはめられた()()か」

 

 

 その名前をまた聞く羽目になるとは…覚えているか? この名を名乗る男を俺は知っている……あの男だ。知らない者の為に分かりやすく説明すると……【Roseliaを騙し、俺に叩きのめされた奴】だ

 あの男…相当のやり手だったのか…まぁ今は檻の中だがな

 

 

『まさか野郎を知ってるのか!?』

 

「知らないなら教えてやる。今は此処じゃない別の刑務所の中に居るぞ」

 

『そう…なのか? 本当か?』

 

「嘘だと思うなら後で聞いてみろ」

 

 

 俺が言うんだから事実に決まっているだろ…俺が刑務所に放り込んだようなものだからな

 

 

『じゃあアイツは!?』

 

「……何? だからさっき言ったじゃないか。その大手を…」

 

『ソイツじゃない! 後もう1人いただろ!?』

 

 

 この言葉は、ずっと俺の横で会話を聞いていた近藤と俺を驚かせるには十分すぎるものだった。

 

「そんな奴は知らない。何者なんだ?」

 

『ソイツが何者だったのかは分からない。姿さえ全く見たことが無いからな…ただ、何度か社長室で社長代理がソイツに電話しているのを聞いたことがあるんだ。口調的に電話していた相手の方が上の立場の人間のようだったが…』

 

 

 謎が1つ減ったと思ったが…また新たな謎が生まれてしまった。かつて…大手を名乗るあの詐欺師は、友希那たちにこんな事を言っていたそうだ…【そうしろと頼まれた】とな。雇い主について聞こうとはしたが…駄目だった。まさかその男が雇い主だったのか? 分からない…

 

 

「事情は分かった、だが話を戻させて貰う。……仕方ないと言った理由は?」

 

 

 あれだけ聞いたのにまだ聞くのかと思っただろ? ああ聞くとも当然だ。どんな理由があろうと刃物を向けた時点で俺を挑発したという事実は変わらない。仕方が無いという一言で人を殺す可能性を生んだことはどう考えようと許さない…

 

 

『……金が無くて…どうする事もできなくて…だからといって彼女たちを売るような事はできなかった…』

 

「それで?」

 

『あの暴力団に……良い仕事があると言われた。邪魔な奴を殺せって…そうしたら…借金を減らしてやるって…』

 

 

 明らかに利用されていたな。だがその時期…この男は精神的に相当な負担が掛かり、正常な判断が出来ていない状態だっただろう…。それにこの男もあの詐欺師に騙された被害者だ。

 

 するとこちら側の扉から刑務官が面会の時間が終わりに近づいてきたという報告をしに来た。聞くこともないので俺は近藤と共に帰ることにした

 

 

「……聞きたいことは全て聞いた。協力感謝する」

 

『なぁ待ってくれ! ……最後に…』

 

「なんだ?」

 

『……君のおかげで彼女たちの演奏を聴けた。ありがとう』

 

 

 ガラス越しに頭を下げる男に対して、俺は呆れたような声で答えた

 

 

「…俺のおかげじゃない」

 

『そんなことは_』

 

「お前が、彼女たちは練習するべきだと判断し彼女たちの為に身を削った。その結果はこのような最悪の結果となってしまった…だがな。お前の努力があったからこそ、彼女たちは…少なくとも彩はそれに答えようと頑張っていたその結果がお前が聞いた演奏だ。あんたの仕事は俺が引き継ぐ……後は任せろ」

 

『……よろしく…お願いします』

 

 

 男の最後が一言を言った後、男に一礼され面会は終わりを告げた。一礼を終え頭を上げた際に見えたこの男の顔は、刑務所の中だというのにもかかわらず…悔いは無いという目をしていたように見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刑務所を去り、今は近藤の車両で病院へと戻っている。助手席は荷物が置かれ俺は後ろの席で窓の外を見ていた。歩道行く人々を眺め、今までの惨劇は何だったのだろうと思い返す……現実とはいつだろうと何処だろうと悲惨なものだというのに…

 

 窓の外の景色に飽きたので、横切る車両の音を聞きながらフロントガラスに写る景色を見る。暇なのだと分かってはいるが暇を潰す物が無いので、今できることと言えばこういったことしか無いのだ…

 

 

「そう言えば新聞読んだか?」

 

「読んでいないが…何故だ?」

 

 

 運転している近藤はバックミラーで俺と目線を合わせそう言った。普通はニュースじゃないのかと思われるだろうが当然ニュースも見て、その上で新聞も読むようにしているのだ。どちらかでも良いとは思うが…何せ病室にはテレビが無いので今は新聞で情報収集している。

 

 俺が新聞を読んでいないと知った近藤は、助手席の荷物の中から新聞を取り出し俺に放り渡した。渡された新聞の記事には先日の一件について書かれている。幸いにも俺についての情報は出てこそいないが…嗅ぎ回られるのは時間の問題だと確信し、俺は頭を抱えた

 

 

「まぁ、考えようによっては宣伝効果があるな! 心配すんな。お前の顔は載ってないし、俺からもそれ以上の詮索は止めるように言っておくからさ!」

 

「ああ…頼む…」

 

 

 ようやく安定した生活を手にできると思っていたが…こうなるから記者やマスコミは嫌いだ。

 

 

「こういった生活に少しは慣れたか?」

 

「…まだ分からない。何もかもな」

 

 

 思い返せば…良くも悪くも濃い日々だった。彼女たちとの出会いは唐突に起きたと思ったら今度は女子学園共学化の試験入学者となり学生となった。これで平和に…と思ったのも束の間、また事件に巻き込まれ…そして今回もまたこの有り様である。

 この様な生活が普通では無いことは常識が無い俺にも分かる。だが今回の一件は終わったことを考えれば…しばらくは平和を味わえるだろう。

 

 

「しっかしなぁ〜まさかお前にモテ期が来るとはな〜」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもない」

 

 

 一体何を言っていたのだろうか。気にはなるが今はそんなことよりも他に気になることがある……有り過ぎる。正体が分からない人物が関わっていた事件に巻き込まれたのは偶然なのだろうか……いや、あまり深く考えないで置こう。

 

 今後の心配を止めた俺は車両に乗った時から気になっていた事を聞くことにした

 

 

「今回の一件についてはいろいろ聞けたか?」

 

「とりあえず資料は貰った……ほらよ」

 

「投げるなよ…」

 

 

 新聞同様にこちらに事件の内容をまとめた資料を投げ渡された。直接聞ければ一番だがそうはいかない、俺は()()()()()一般人だからな…一般人の学生と、紛争から帰国した英雄とでは得られる情報の信用性と質量が違うのは明らかだからな。長々と書かれた文章を目で読んでいく…流石は警察。内容は細かく書かれている…病院に着くまで読むとしよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資料を隅々まで読み終わったところで車両が止まり、窓の外は見慣れてしまった景色が広がっている。俺だけ車両から降り、窓から顔を出した近藤に資料を返すと【また後でな】と言って何処かに言ってしまった…そしてまた。なのか…今度はタイミングが良い時に来て貰いたいものだな

 さて…彼女たちは何処に居るのだろうか…。病院の入り口から病室までの道はかなり近いが、彼女たちを探すため結構な遠回りをして戻ることにした。しかしその道中で会うことは無く…意味をなさない遠回りを終え病室へと戻ってきた

 

 

「遅かったじゃない」

 

「待ってましたよ。零さん」

 

「……居た」

 

 

 病室のドアを開けると、そこには待ちくたびれていたという表情を浮かべる千聖と麻弥が椅子に座って待っていた。余計なことを考えずに初めから病室に戻っていれば良かったのだと思いながらも軽く謝罪をして話を進めた

 

 

「それで…2人の要望は?」

 

「それなんだけど…2人で1つにしてもいいかしら?」

 

「ああ。構わない」

 

「それは良かったです。では零さん。どうぞこちらへ」

 

 

 そう言って麻弥は病室のテーブルの前に椅子を置き、座れるように椅子を引いた。何をするのかと思いながらも俺は指示に従い椅子に座る。

 ……そういえば俺のノートは何処に行ったのだろうか。朝はこのテーブルの上にまとめて置いてあったのだが…辺りを見渡すとベットの上にまとめて置かれていた。

 それからしばらく待つと、病室にもかかわらず背後からハーブの香りが広がり始めた。一体2人は何をしているのだろうかと振り返ると、カップをとポットを乗せたトレーをこちらに運ぶ千聖の姿が。

 

 

「何処からお湯を持ってきたんだ?」

 

「何処って…電動ケトルがあるじゃない」

 

「そうなのか? 知らなかった…テレビは無いのにケトルはあるのか……というか麻弥は何をしているんだ?」

 

「ちょっと捜し物を…ありました!」

 

 

 千聖の後ろでずっとカバンを漁っていた麻弥は、包装紙に包まれた箱を取り出しこちらに来た

 

 

「それで…これは…」

 

「色々あって落ち着く暇が無かったでしょう? だから今からお茶でもどうかと思って」

 

「本当はジブンも皆さんと同じように何かしたかったんですが…あまり良い案が思いつかなかったので千聖さんにご一緒させて貰いました。ですので、ジブンはお菓子を」

 

「そういうことか。確かに…こういう時間は欲しかった」

 

「そう? 良かったわ」

 

 

 テーブルの上にカップと菓子を広げ、2人と顔を合わせるようにテーブルを囲むように座った。カップを手に取り香りを嗅ぐとハーブの爽やかな香りが全身に染みる。そのまま口に含み、喉を鳴らして飲み込むと全身が温まる。……こう落ち着いて紅茶を飲むのは初めてなのでは無いだろうか。

 

 しばらく紅茶を楽しむとカップをテーブルに置き、千聖が口を開いた

 

 

「それで……さっきは何処に行っていたの?」

 

「…」

 

「いえその…答えられないのなら良いのよ? 単純な興味で…」

 

「………元マネージャーに会ってきた」

 

「「!?」」

 

 

 言うかどうか悩んだが…一応言っておくべきだと判断し、俺は2人に今回の一件について話し始めた

 

 

「少し重い話になるが…聞くか?」

 

「…ええ。聞くわ」

 

「ジブンも…今回の一件について知っておきたいです…」

 

「いきなりだが…元マネージャーはしばらく刑務所の中だ。理由は暴力団の一件に関わったからだと…だがあくまでも関与というだけで、あの男自身が何かしたわけでは無いので2、3年で出られるらしい」

 

「そう…」

 

「…」

 

「次にあの男共だが…どうやら全ても始まりだったあの脅迫状もあの男共の仕業らしい……もはや言うまでも無く有罪。罰金と懲役刑だが…もうあの男共を見ることも無いだろう。因みにあのステージでの練習の際、俺に発砲した男も同罪となった」

 

「あの時は本当に…」

 

「ジブン達が…」

 

「もういいんだ。現に生きているのだからな…」

 

 

 やはり今話すべき内容では無かっただろうか。だが遅かれ早かれこういった話をしなければならないのだから結果的には良かったはずだ…

 ……いや…本当にそうなのだろうか…。本当は違うのでは……いや…だが…

 

 自分の発言は正しかったのかと疑問を思ったのは初めての感覚だった。いつもならそうなのだと…決して発言に自信があるわけでは無いがそれが一番正しい判断なのだと思っていた。

 だが…今は前とは違う。相手は大人でも無ければ敵でも無い……ただの学生だ。当然俺も学生だが…そうじゃない。彼女たちと俺の違い…それは普通か、そうじゃないか。

 

 俺は…普通じゃない…。

 

 

「……何だろうな」

 

 

 またいつぞやのように…俺は考えもなしに口を開いた

 

 

「零?」

 

「分からない……結局…俺は何がしたんだろうな…」

 

「その…零さんは悩んでるんですか?」

 

「悩む……悩んでるんだろうか…それさえもが分からない…」

 

 

 カップの中で回る紅茶のように思考がまとまらず…精神が小さく波を打ち、回る。

 

 

「ただ…分からないんだ…。結局俺は…何なんだ?」

 

 

 それしか言えなかった。彼女たちのように夢があるわけでも無い、元マネージャーのように誰かの為に身を削ったわけでも無い。今までだってそうだった…何もかもを奪い、狂わせた奴らへの復讐心。それが俺の生きようとした意味だった…

 だが今、奴らはもう居ない。だから平和を求めて…普通の人間になる為に…普通に生きてきた彼女たちを知るためマネージャーとなった。だが…

 

 

「最近思う…俺は…マネージャーと名乗って良いのだろうか…」

 

「何を…言ってるの?」

 

「元マネージャーに別れを言った後…あの男は、悔いのないと言わんばかりの目をしてい

た。…あれが、人の為に身を削った人間の目なんだろうな…」

 

「でしたら零さんだって!」

 

 

 違う。俺は…意味が違うのだ。

 あの男は、自分の意思で身を削った。だが俺は…それしか出来ないから身を削った。

 それは自分の意思だと言えるのだろうか。それは所謂【やることが無かったからやった】というだけなのではないのだろうか…

 

 

「分からない…俺は……何がしたいんだろうか…」

 

 

 病室は沈黙に包まれ、外は徐々に日が沈む…俺は自分の発言を最後に、冷えてしまった紅茶を飲み干した。すると千聖の電話が鳴ったと思えば、呼ばれたのでと部屋を出ていき…麻弥と2人だけになってしまった

 

 

「すまない…折角用意してくれたのだというのに…」

 

「いえ、良いんですよ? 言ったら楽になることもありますから」

 

 

 謝罪をすると麻弥は優しくそう言い、席をずらして俺の横に来た

 

 

「……ジブンも、分からないです」

 

「…何がだ?」

 

「今のジブンがですよ。……ジブンは、アイドルってこう…キラキラしたもので…ジブンみたいなのが慣れるとは思ってませんでした。そもそも、千聖さんがジブンをスカウトしたので、今こうしてアイドルとして活動出来るんですけど…」

 

「…それで……何が分からないんだ?」

 

「ジブンは…何故アイドルをしているんでしょうか」

 

「……どういう事だ?」

 

「最初の頃、本当は出来ない、無理だって思ってたんです。ですが今でもジブンはアイドルとして活動しています。つまりはですね?」

 

 

「ジブンが意識していなくても、無意識のうちにジブンで決めた何かが、今のジブンを突き動かしてるんじゃないかって事です!」

 

 

 麻弥の言葉を聞いた時、何かがハッキリと見えたような感覚を覚えた。今まで感じたことのない光が薄っすらと差したような気がしたのだ。弱く、細いが…今の状態を楽にするには十分な光が…

 

 

「どうでしょうか…その、ただそう思ったっていう…決して面白い話ではないですけど…」

 

「いや…十分な話だったぞ。その…何となくだが、少しだけ…考えがまとまった」

 

「本当ですか!? 良かったです!」

 

 

 先程まで暗い顔をしていた麻弥だったが、今は笑顔でそう答えた

 まだ俺は分からないことだらけだ。だが…焦る必要は無い。時間はまだまだあるのだ、これから見つけられるだろう…

 

 

「……色々抱え込んでませんか?」

 

「何故そう思う?」

 

 

 突然そう聞かれ、俺はいつも通りの返しをする。すると麻弥は立ち上がり俺のノートのうちの1冊を手に戻ってくるとノートを開きページをめくり続けると麻弥は途中で止め口を開いた

 

 

「零さんは練習が終わると、いつもこのノートに何か書いてたのは知ってましたが…驚きました。偶にジブンもメモを取ったりはしますがそれ以上です…」

 

「仕事を請け負った以上はそれ位は出来るようにしておくべきだと思ったからだ」

 

 

 請け負った以上はそれに見合うだけの事をしなければならない。そう思い、俺は独学で最低限の知識は身につけたつもりだ。だがそれでも…経験の差が埋まらないのは分かっていた。せめて無理にでも合わせられるようにと思い俺は…ノートに記録を付けることにしたのだ…

 

 

「……無理に…合わせてませんか?」

 

「…合わせていたな」

 

「彩さんから聞きましたよ? 零さんの演奏する姿が…楽しそうに見えたって言ってました」

 

「楽しそう…か……楽しんでいたかも、俺には分からない…」

 

「零さん。ジブンは…零さんには、零さんの知らない…零さんだけの良いものがあると思うんです。その…偉そうには言えませんが…一応ジブンは先輩ですから。何かあったら、協力して欲しいことがありましたら…是非ジブンを頼ってください」

 

 

 出しゃばっていたのだろうかと自分に聞くが…それさえもが分からなくなった。そもそも…何かを勘違いしていたんだろうか、そうとも思い始めた…

 ここまで言われるのは……いつぶりだろうか。未だに俺は全てを背負って生きようとしている事を今改めて理解した。それでは駄目なのだ。俺は変わると決めたのだから……

 だがそれでも…

 

 

「…やはり分からない」

 

「そう…ですか…」

 

「だが…これから理解していけば……良いよな?」

 

「!。……そうですよ。これから理解していけば大丈夫です!」

 

「だから…その…なんだ……何かあったら…頼ってもいいだろうか」

 

「はいっ!。ただ……無理をしない範囲でですよ?」

 

「当然だ」

 

 

 そうだ…もう今は違う。

 分からない事は聞けばいい、たったそれだけのことだ。未だに俺の神経は昔のままだが…それでも、これから変わっていけば良い。

 俺の()()はこれからなのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 麻弥との会話を終え…俺は麻弥の案内によって、今日一日の締めくくりがあるという場所へと案内された。

 しかしそこは何度も利用した会議室だった。麻弥の案内に従い扉を開けるとそこには先程出て行った千聖と、何故か社長と世話になっている医者(ドクター)が居た。

 どういうことなのかと聞こうと後ろに居た麻弥の方を見るが既に居ない。どうすることも出来ず、俺はこの場に居る者達に素直に聞いた

 

 

「これはどういう集まりなのだろうか?」

 

『その説明は私から…先ずは零くん。医療器具の調子はどうかね?』

 

「…傷は痛まないので早く外したいです」

 

『やはりそうか…では、今から医療器具(ソレ)を外そう』

 

 

 ようやく外せると思いながら俺は医者(ドクター)の側に行き背を向け、器具を外してもらった。後頭部で金具が外れる音がすると同時に顔の左側が軽くなる…外して貰うまで閉じていた目を開けると数日ぶりに両目で見える景色が広がる。

 

 置かれていた鏡を見ると…やはり傷は深く残っている。今まで隠し続けた傷跡に更なる深手の傷…仮にまた隠そうと思ったとしてもここまで深いものはもう隠せない。だが俺は…もう隠さない。現に彼女たちは、この顔でも良いと言ってくれたのだ……変わる為にも…俺はこの傷をさらけ出してこれから過ごしていく

 そうは決めたが…やはりこの顔は…今後の事を考えると…

 

 

「……失明するよりはマシだな」

 

「零…」

 

「零くん…本当に…」

 

「別に責めているわけではありませんよ。もう終わったことですかr「それじゃ駄目なのよっ!」…千聖?」

 

「…ごめんなさい。取り乱してしまったわ」

 

 

 突然の出来事に流石の俺も少し驚いた。いつもと同じ受け答えをしていた途端に、千聖が強くそう言った。その後すぐに冷静さを取り戻し…次に社長が口を開いた

 

 

「零くん…私は、いや。私たちは君に返せない程の恩がある。私は社長でありながら…学生である君をこのような事態に招いてしまった…本当に申し訳なかった!」

 

「ですから…」

 

「だから零くん! 最後に頼みたい…私の我儘を聞いてはもらえないだろうか」

 

 

 不要だと言った謝罪頭を下げてまでをした社長。そして今度は我儘を聞いて欲しいという……もはや理解が追いつかない。

 だがそんな状況でも1つだけ理解できることがある。今の社長は……今まで以上に本気だということだ…。その目は…その頼みに対しての強い思いが伝わる程の真っ直ぐだ…。

 

 

「…分かりました」

 

「ありがとう零くん。ただ申し訳ない…少しだけ準備がいるんだ……待っていてくれないか?」

 

「はぁ…分かりました」

 

 

 そう言うと、社長と医者(ドクター)は部屋を出て行ってしまい…俺と千聖の2人だけになってしまった…

 何を話せば良いのか分からず、近くにある鏡で自分の顔を再び確かめる。改めて自分の顔を見ると…よくもここまで顔に付けたものだと思えてしまう。額と頬には刃傷が使い込まれたまな板のように幾つもの傷がある自分の顔を見て………久しぶりに、本当に大丈夫なのだろうかと心配になった

 

 

「零?大丈夫なの?」

 

「……分から、いや…………大丈夫ではない…か」

 

 

 ついさっきまで変わっていけば良いと言っていた自分に対して…物事に対してここまで不安になるようなことは今まで無かった。これが普通の人間なのだろうか…それとも、ただ自分が弱いだけなのだろうか…我ながら情けないと思った

 

 

「今日一日色々として貰って…本当にありがとう」

 

「お礼なんていいのよ。私たちがそうしたかっただけだから…」

 

「………面倒だと思わないのか?」

 

 

 感謝の言葉の後に面倒だったかと聞くのは場違いな発言。それくらいは理解している。だが…それでも俺は問いたい。何故ここまでしてくれるのかを…

 

 立ち話を止める為パイプ椅子を引っ張り出し座り、俺の前に居た千聖も同じく椅子に座った

 

 

「当たり前のことを理解していない、約束は果たさない俺は…面倒くさいだろ」

 

「確かにそうね…」

 

「だったら何故……そこまで心配するんだ…?」

 

 

「貴方が…大切な人だからよ」

 

「俺が?」

 

 

 千聖の言葉に耳を疑った。ロクな事が無かった俺の今までのうちに…そのようなことを言われたのは一体いつだっただろうか、そもそもそのようなことを言われたことはあるのだろうか…ただの聞き違いなのではとさえ思った。

 そんな事を考えている間にも、千聖は話し続ける…

 

 

「確かに貴方は…面倒な人よ」

 

「だろうな…」

 

 

 分かりきっていた事だが…やはりそうだった、結局俺はそんなものなのだ。

 一体何を期待したのだろうかと思いながら目線を下に向ける。……得るものなど無い。常に下、血に塗れる生活という底辺の底辺を生きた俺は…そこから上になど行けるのだろうかと思い、自分に呆れ、目を閉じ火を消す時のような強いため息を一瞬吐いた

 

 だが次に目を開いた時には…状況が理解できなかった。目線を左側に向けると千聖の横顔と後ろ姿が見え、首には腕が回されていた。何をしているのかと聞く前に千聖はその状態のまま話を続けた

 

 

「けれど貴方は私たちを救ってくれた。何度も…何度も」

 

「それは当たり前の事だろ…」

 

「零…貴方の行動は【当たり前の事】で済ませてはいけないわよ…。そんな安い言葉で…終わらせないで…」

 

「千聖?」

 

「貴方は…どうして自分を大切にしないの!? いつだって無理をして! 目の前で倒れて!……それを見る私の身にもなって……」

 

「何故そこまで心配するんだ…」

 

「貴方は、本当の私を理解してくれたのよ…今度は私が貴方の理解者になりたい。例え無理だったとしても…いつでも私は貴方の味方…それはみんなも同じなのよ…だから、私たちを信じて…お願い…」ボロボロ

 

 

 顔は見えないが…声は震え、首にまわされた腕の力は強く、首に温かな雫がポツポツと当たる…

 俺にとって当たり前の事で怒り、泣き、更には信じて欲しいと言う。何もかもが初めての感覚だった。彼女たちは…こんな俺のために一日色々なことをしてくれたというのに、俺は彼女たちを…完全に信用していなかった…

 

 

「……申し訳なかった」

 

「ホントよ……バカ…」

 

 

 空いた右手で千聖の頭を撫でて謝罪をする。謝罪しようとも仕切れない俺の唯一の償い…遅いだろうが、もう一度…人を信じてみよう。ここまでしてくれたのだ…きっと……前とは違うだろう…

 その後俺は、離れない千聖が離れるまで頭を撫で続けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ時間が経つと、千聖は自然と離れていき…最初のように椅子に座った後話を続けた。

 

 

「私たちは貴方に救われた。最後に…社長の我儘を聞いてくれてありがとう」

 

「聞きたかったんだが…社長の我儘とは何なんだ?」

 

「それは言えないわ。ただ強いて言うなら……貴方にとってとても良いことよ」

 

 

 笑みを浮かべてそう言う千聖とは裏腹に、俺はますます分からなくなっていた…

 一体何なのだろうかと考えていると、部屋の扉が開き…社長と医者(ドクター)、後何故か、彩、日菜、麻弥、イヴの4人も入ってきた。

 

 

「……何度も聞くが、何なんだ?」

 

「零くん。君は此処に居るパスパレの5人を命を賭けて守った。その事に改めてお礼を言う、ありがとう」

 

「それはもう聞きましたよ?それでその…我儘とは?」

 

「私は君に返せない程の、命の恩が出来た。だからせめて……君の生きる手助けがしたい。君のため、そして君と共に居たいと願うパスパレの為に────」

 

 

「っ!?」

 

 社長の我儘は……俺が得ても良いのかと思える程の提案だった…

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、医者(ドクター)の診察を最後に受け、俺は無事に退院を認められた。

 顔に巻かれた包帯を一部取り、鏡を見ると顔が映る。顎を軽く動かすと問題なく動くかせる事を確認し、再び包帯を巻いた

 

「どうかね?顔の調子は、問題なく()()かな?」

 

「信じられませんよ…本当に感謝します」

 

「構わないさ…退院おめでとう。今度こそ入院しないでくれたまえ」

 

「はい」

 

 

 そして俺は、ようやく退院した。前回のように空は青く、温かな風が髪を揺らす。そして外にはパスパレの5人が待っていてくれた。声を掛ける前に気づいた日菜がこちらに駆け寄り、他の4人も同じく駆け寄ってきた。

 

 

「待たせたか?」

 

「そんなことないよ!今来たところだよ!」

 

「そうか?」

 

「そうよ。それより……どうかしら…顔の調子は」

 

 

「……感謝しきれないくらいだ」

 

「「「「「本当(ですか)!?」」」」」

 

「本当にありがとう…」

 

 

 遠回しに感謝を伝えると彼女たちは満面の笑みで、彩に関しては泣きながら喜んだ。本当に感謝しかない、そう思いながら…俺は彼女たちの前で包帯を外した…

 

 

 

 

「顔の傷を()()()()()()()

 

 

 そう。社長の我儘というのは、顔の傷を消す手術を受けて欲しいというものだった。そのような手術があるという事さえ知らなかったのでその言葉を聞いたときは本当に驚いた、無論願っても無い事だったのでご厚意に甘えさせて貰った。

 だが俺は…あえて傷をいくつか残した。それは戒めの証であり、過去を忘れないためである。他にも理由はあるが…他は大した理由でもない

 

 結果今は、今回の【左側の額から頬までの刃傷】と獣に付けられたような感じに残した【右頬の傷3本】だけとなった。

 

 

「かなりいい感じだと俺は思うのだが…どうだろうか」

 

「うん!いい感じだよ!」

 

「そうね。男らしいと思うわ」

 

「ハクが付きました!」

 

「るんっ♪て感じだよ!」

 

「はいっ!バッチリです!」

 

 

 その後、病院から少しだけの間彼女たちと共に家路についたが彼女たちは仕事があるため途中で別れ…1人家路を辿った

 

 

 彼女たちと別れた後、数日ぶりに自宅であるマンションへと戻った。鍵を開け扉を開くと久しぶりに見慣れた光景を見てようやく終わったんだと実感できる。

 荷物をテーブルに乗せ、ソファーに身を投げ横になると日の暖かな光が全身を包み睡魔を誘う。目を閉じ、この安らぎに身を任せようとした…途端にテーブルの上にあるスマホが鳴り響き睡魔を追い払った。誰なんだと思いながら画面を見ると近藤の文字が表示され、少しの苛立ちを覚えならが電話に出た

 

 

「…なんだ」

 

〈いやー悪い!急な用事で会いにいけなくなってな〜。言おうと思ってたことだけ言っておこうと思ってな〉

 

「そういえばそんなこと言っていたな。で?」

 

〈アイツらのうちの何人かが、仕事の都合でしばらくそっちら辺に住むことになったらしいからタイミングが合えば会うかもなって話だ〉

 

「そうか。分かった」

 

〈おう!じゃまた会おうぜ!〉

 

 

 その言葉を最後に近藤の声は消え、画面はホームへと戻った。アイツらが近くに住むのか…ならば、しばらくは揉め事も無さそうだ、あったとしても頼ればどうにでもなるだろう…

 

 睡魔を少し追い払った俺はテーブルにスマホを置き、倒した身体を無理矢理起こしキッチンで眠気覚ましに紅茶を入れた。紅茶は千聖が用意してくれた物で、余った残りを帰りに貰ったのだ。

 

 

「(暫くは…何事も無く学校生活を遅れると良いのだがな…)」

 

 

 明日、いや…今後に期待をするなど人生で初めてなのではないだろうか。明日が来るかも分からなかった俺に明日について考えられる精神的余裕が生まれた…ようやく、人としての()()を…何も無かった感情に、少しだけ彩りを得たような気がした…。

 

 

 

 

 彩りは化け物を人へと変え始める…

 

 (カラ)の心が色彩に染まる日は…来るのだろうか…

 

 

色無き心に彩りを  完

 

 

 

第三章へと続く…




☆10 Ciruku/Rekiさん
☆9 マーボー神父さん
☆8 ユウキ、さん
☆1 Dixie to armsさん 評価ありがとうございました。

☆1は、まぁ仕方が無いです…今後頑張って行きます…


次回からは第三章、内容は緩く行かせて貰います。
後は初期の話を再投稿を予定しているので、第三章はそちらと平行しての投稿となります…(予定なので書き直さないかも…)


それではまた、次回を気長にお待ちください…


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第三章 
第47話 新たな試み


いつものごとく遅くなりました。すみませんでした…
今回…読み応えないかもしれません…まぁ今回はアンケートをとっているという報告がてらのものですからね…



 パスパレの一件を終え、俺が退院してから数週間が経った

 

 あの一件の後…俺は数回に分け、パスパレ以外のバンドの者達に今の顔を見せた。結果、無理をし過ぎだと怒る者も居れば、今の顔の方が良いという者などの様々な反応が返ってきた。Roseliaの面々に関しては、長々と説教を喰らったが…

 

 退院後の最初の頃、学校生活は楽では無かった…

 そもそも俺は、羽丘女子学園が共学化する為の試験入学者である為、長期にわたる欠席は即退学処分と見なされると思っていた。だが学園長はパスパレの一件、俺が手術したという件については警察や日菜と麻弥から聞いていたらしく…俺は反省文と厳重注意だけで処罰を真逃れた。

 

 だが…バンドメンバーはともかく、関わりの無い他の女子生徒達からは…傷跡アリの顔はあまり良い印象では無かったようだ。最近は気にならなくなったのか、入学当初の雰囲気に戻ったがな

 

 音楽面に関しては、ただひたすらに練習を続けた。彼女たちも協力してくれた結果、何とか彼女たちの技術に追いつくことは出来たが……ブランクは大きく、まだまだという状態。

 請け負っていたマネージャーの仕事については…マネージャーと言うよりはサポーターの方が良いという意見もあり、今やマネージャーと名乗るサポーター。呼び方を変える必要は無いので今後もマネージャーで良いそうだが…仕事に関しては大して変わることも無い

 

 

 

 そのようなことを繰り返し。未だに俺のクラスは決まらず、A組とB組を行き来している…

 

 

「そろそろ決めても良いのではないだろうか…」

「なんの話?」

「俺のクラスの話だ」

 

 

 スマホを片手に調べ物をし、卓上のノートに筆を走らせながらふと呟いた小さな愚痴について質問をしてきた蘭に対し俺は顔を見ずに答えた。スマホの画面に集中していると横からスマホを持つ手まで影が伸びてきた。何なのだろうかと影を目線で辿ると何をしているのか気になったのか、蘭が俺のノートを覗き込んでいた

 

 

「さっきからなにしてるの? ……フルーツタルトのレシピ? なんでそんなの調べてるの?」

「仕事だ」

「仕事って…カフェテリアの?」

「ああ。こういう時しか調べる暇が無いからな」

 

 

 現時点で俺はロビーやステージの掃除、機材の配備や修理、カフェテリアといったCIRCLEのバイトほぼ全てを請け負っている。今まで叩き込まれた知識の中には、車両や精密機械の整備や調理等も含まれていたので…今はその技術を生かしているのだ

 

 

「今メニューにあるので良くない?」

「カロリーが高い、と文句を言ってきた客がいるからな…」

「……もしかして」

「ああ。多分合っていると思うぞ…」

 

 

「蘭ー! 零ー! お昼行こう!」

 

「「来た…」」

 

 

 今此処で仕事をする原因となった一言を発した人物について想像していると、教室のドアから顔を出したひまりを見た瞬間、2人揃って呆れ顔でそう呟いた

 

 

「…なんで2人してそんな顔で私のこと見るの?」

「丁度いい。今からその話をしようではないか…」

「…あまりいじめないでよ?」

「善処する」

「え? なになに…なんの話をしてるの…?」

 

 

 会話の意味を理解できず困惑しているひまりをよそに、俺と蘭は荷物をカバンにまとめ教室を出た。質問に対して答えなかった俺と蘭に怒りながらついてくるひまりと共に屋上に向かう。屋上の扉を開けると、一足先に巴とモカが昼食を広げていた。どうやらつぐみは生徒会の仕事で呼び出しを受けたそうで、先に集まって食べることにしたそうだ。

 

 4人の昼食に混ぜてもらい昼食であるサンドウィッチを食した後に、俺は先程までの話をひまりに話た。

 

 

「結論、これ以上フルーツタルトのカロリーを減らすのは無理だな」

「ええ〜!? そんな〜…」

「こっちは商売、費用はかけられない。大体…あれでもかなり減らしたんだぞ…」

「あと…もうちょっとだけ…出来ない?」

「出来なくは無いが値上げすることになるぞ?」

「うっ…ガマンします…」

 

 

 ただただ我儘を言われているだけだが、なんだかんだ言いながらもこういう時間を欲している自分がいる。何と言えば良いのか分からないが…気が楽になる、そういう感じなのだ。俺は未だに気を抜けず、楽しいという感覚も分からず笑顔も出来ない。それでもこういう時間を過ごしていけば徐々に変わっていけると思っているから…この時間を欲しているのだろう…

 

 

「ひーちゃん。ドンマイ」

「店員としては有り難い話だが…個人的に言わせてもらえば、食べ過ぎだろ」

「ひどい! そんなことないもん!」

「いや…食べ過ぎだと思うぞ…」

「巴まで!?」

 

 

 毎度の事ながらひまりは今日もからかわれている。そしてそれを笑うモカと苦笑いの蘭と巴。いつかは俺も、最低でも苦笑いくらいは出来るようになりたいと思いながら水を飲み込み、口の中に残っていたサンドウィッチの感覚を胃の中に流し込んだ。

 

 

「そういえば…最近零の表情が…少しだけ柔らかくなった気がする」

「いきなりだな…だが…そうか?」

「確かに!」

「言われてみればそうだな!」

「そうだねー」

 

 

 多少は変わってきていると評価されるのはとても良いことだ。徐々に変わってきているという事実は自分では分からないものだからな…。今後もこの調子で過ごしていけば感情表現が出来るようになる日もそう遠くは無いだろう。

 

 

「でもー。まだまだ固いよー?」

「これでも変わろうとはしているのだがな。まだまだか…」

「そういうモカは緩すぎ」

「だな。モカと零の真ん中ぐらいが丁度良いんじゃないか?」

「もー。蘭もトモちんもひどいよ~」

 

 

 巴は冗談本意で言ったのかもしれないが、その意見には一理ある。確かにモカは緩すぎるとは思うが…固すぎるよりは好印象だろうからな。俺の今の感じをモカと組み合わせれば俗に言う『プラマイ0』というものなのではないだろうかと俺は思うのだが…どうなんだろうか? 

そんな小さな疑問を抱きながら続ける昼食の時間は瞬く間に過ぎていった…

 

 

 

 

 

 

 時はあっという間に過ぎ…気づけば放課後となり、皆が帰って行った教室で俺は一人仕事を続けていた。一通りの資料をまとめ終わり、机の上に並べていたノートをカバンに放り込み下校の準備を済ませすぐに下校しようと教室を出た時だ。

 

 

「零?」

「友希那? 何故此処に?」

 

 

 廊下に出るとカバンを持った友希那が居た。何故居るのかを聞くと個人練習の為にCIRCLEを利用できるかを聞くために俺の教室に探しに来たようだ、俺はカバンから手帳を取り出し今日の予約を確認すると今日はほとんど無いので友希那の予約を入れた。俺もCIRCLEで仕事があるので友希那と共にCIRCLEに向かうことにした。

 

 

「……最近はどう?」

 

 

 特に何か話すことも無く…夕日で赤く照らされた道を無言で歩き続けていた中、友希那の質問がぼんやりとしていた意識をハッキリさせた。

 

 

「どう、とは?」

「最近、貴方の噂を聞くのよ…」

 

 

 噂には尾鰭(おひれ)が付くとはよく言ったものだ。仕方が無いことではある上、悪評など()()であるので気にはしていない。それにどの様な噂なのかは俺の耳にも入ってきているので大した事でも無い。

 

 

「仕方が無いこと、俺はそれで終わりにしている」

「貴方は…それでいいの?」

「あぁ」

 

 

 知らない事実をいちいち説明されたところで『そうなんだ』の一言で終わるものだからな。それに、噂がどうだろうと接してくれる者も居るという事実がある。それだけで…俺は十分だ…

 

 

「零。貴方は私達の仲間、それだけは忘れないで」

「……あぁ」

 

 

 こういった場合どの様な返事が正しいのかが分からず、一言でまとめる事しかできない。その後はたわいもない話を続け、丁度のタイミングでCIRCLEに着いた後、友希那とは仕事の都合で別れた。と言っても地下のステージについての仕事するだけなのだがな。

 

 

 

 

 

 

 スタッフルームで制服からスタッフ用のTシャツに着替え、モップでの床掃除、照明の掃除と点検、機材の音量調整、そしてステージ上にあるスピーカーの整備などの地下ステージでの仕事を始めた。

 

 仕事に関してはただ黙々と続けただけなので特に話す事もない。機材の話をしたところで飽きるだろうからな…

 

 だが此処では、働く者にとっての特権がある…それはステージでの楽器調整の為の模擬演奏。分かりやすく言えば、ステージ上で演奏が出来るということだ。ここはスタジオではなくステージなので誰も練習には来ない、時間の許す限り地下ステージ(ここ)は俺専用の練習スペースとなるので、まさに特権である。

 

 ドラムの調整と称した個人練習を続けていた中、観客側から見て真ん中に置かれているマイクに目が入った。特に気になった訳でもなくただ見てしまっただけだったが…一つ疑問が浮かんだ

 

 

「俺の歌唱力は…どうなのだろうか」

 

 

 確かに以前、彩達の前で洋楽を歌ったことはあるが、今の俺には日本語の曲のレパートリーが少な過ぎる。彼女たちの曲をカバーするには声が低いので今の俺には実質不可能に近い…だが折角の機会なので練習はしたい…

 

 どうしたものか、と悩みながら機材以外の置かれたものを片付けようとしていた時、ステージ端に置かれたCDプレーヤーを持ち上げた時だった。プレーヤーの下には一枚の紙が敷かれていたので拾い上げると、紙には曲のタイトル『Missing you』と歌詞のみが書かれた楽譜だった

 

 

「(他に候補がある訳でもない…)」

 

 

 音源を一度流し音源のみであることを確認した後、CDプレーヤーをスピーカーに繋げてマイクと共に電源を入れた。無音のステージにマイクが拾う小さな雑音が響く中、歌詞を一通り覚え、マイクを少し強く握り…精神が整ったタイミングで曲を流した

 

 

Whenever you are feeling lonely and afraid(いくら孤独や恐れを感じて落ち込んでいても)

 

The time will pass away on you(時は無慈悲に過ぎ去っていく)

 

So many times you feel like losing to the pain(そして何度も痛みに打ちのめされて)

 

And you try to fade away(また消え去りたいと願うんだ)…」

 

 

 今の俺は、順調とも音程が合っているとも思えない…

 だが歌詞を読んだ時…無性に”この曲を歌いたい"と思えた。ただの偶然でしかない、にも関わらずそう思えたのだ。

 

 マイクを握る手が無意識のうちに強くなり、声が徐々に大きく、曲に合わせて高い声が出るようになっている…。

 

 練習などではなく…今はこの感覚に身を任せたいと思えた。溜まっていた毒素が崩落したダムの水のように激しく身体の外へと出て行くような高揚感。

 

 目を閉じると更に高揚感は増し、身体は曲に合わせて無意識に激しく動く

 

 

 

Tell me when you will come back(戻ってきたら教えてよ)

 

Will wait til’ the time is over(最後の最後まで待ち続けているからさ)

 

Tell me when you will come back(戻ってきたら教えてよ)

 

I will never… say it! (もう2度とこんなことは言わないから)

 

 

 歌い終わると同時に激しく響いたこの空間は静寂へと戻った。目を閉じたまま一度深呼吸をすると、一滴の汗が額を流れ落ちる感覚がした…何故だろうか……何もかもが清々しく感じられる。

 歌い終わったにもかかわらず高揚感が収まらない…とても晴れ晴れとした気分だ。

 

 これで練習、そして仕事は終わりにするべき。そう思い目を開くと……

 

 

「…」

「居たのなら声くらい掛けてください…まりなさん」

 

 

 驚きを隠せない表情のまま棒立ちし、こちらを見るまりなさんの姿があった。流石にここまで音を響かせていたら(歌っていれば)止めに来ると言うことは理解できていたが…人が来たことさえも気づけないほど集中していたということなのだろうな…。

 

 

「凄かったよ零くん! いつの間にそんなに歌えるようになったの!?」

「いや…今初めて歌ったのですが…。ここに置いてあった曲を借りただけなので…」

 

 

 今初めて歌詞を見て歌った曲、それに練習で歌っただけ…恐らく音程はかなり外れていただろう…。とても褒められたような、況してや人に聞かせられるようなものでは無かったはずだというのにもかかわらず…まりなさんはかなりの高評価をした。きりの良いところで話を区切り、ステージ上の機材や楽器を片付け終えると、まりなさんは唸り考えるような表情を浮かべ…すぐに何かを思いついたような表情に切り替えると、少し興奮気味に口を開いた。

 

 

「ねえ零くん! バンドとか組まない!?」

「……はい?」

 

 

 バンドを組むかと聞かれても……俺は既に5バンドのマネージャー(サポーター)として活動している。流石にこれ以上はいかがなものかと思うのだが…バンドか……そもそも組む相手が居ない時点でどうしようもない。この店CIRCLEにはバンドメンバーを募集するための掲示板が置かれているがメインはガールズバンドであるため、男性と組んでくれる人がいるのだろうか…

 

 

「とりあえず掲示板に募集のチラシを貼るだけでもどう?」

「……貼るだけなら」

 

 

 色々と考えたが…今の俺は何処まで通用するのかが知れる、上手くいけば交友関係が広がる、バンドとしての合同練習で得られる経験値の違い、彼女たちに追いつくいや追い越す程の実力を付けられる等の良い点が多くある…これは良い機会だと思った。兎に角、今は掲示板に募集のチラシを貼るだけだ。そこで集まればよし、集まらなければその際に考えれば良いだろう…

 

 

 

 バンドを組むかどうかはともかく…ステージで歌ってみようという試みは、バンドを組んでみようかという新たな試みへのキッカケとなった…

 

 




☆10 フレイド さん
☆9 kirito2022 にゃあ@猫娘症候群 kenta1017 葛宇賀蘆伊都 さん 

評価ありがとうございました。


 そして、またアンケートしてます。内容は見ていただいた通りです。
 初期の話を書き直す事は決まってはいますが…【書き直した話と、新しく書く話】のどちらが先に読みたいかのアンケートになります。
 尚、結局全部書くので早く読みたい方を選んでいただければ幸いです。

集計の結果、Roseliaが多かった場合…次回はRoseliaの再投稿から始まります。
afterglowかハロハピの場合は数話だけ間隔を空けます。





それではまた、気長にお待ちください…


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第48話 学園からの依頼 準備①

 何かと予定ギチギチな日々だったので更新が遅れました。すみません。
久しぶりの投稿なので、展開が急なんじゃないか?と思うかも知れませんが、これが予定通りです。
 リハビリも含まれているのでおかしな所も多々あるかもです。その際はお知らせ頂ければ助かります…


「男子生徒の入学が決定した、ですか?」

「そうだ」

 

 

 授業が終わり休み時間となったと同時に校内放送で学園長殿に呼ばれ、俺は学長室に入室した。入って正面に置かれた学園長殿の机には山積みになった紙の束が置かれ、学園長殿は唸りながらその紙の一枚を凝視していた。「楽にしてくれ」と言われたので、年紀の入った木製の椅子を前回の一件に関しての話なのだろうかと思ったが…。

 

 

「何故その報告を自分に?」

「…事について話しておくべきだと思たのでな」

 

 

 その後、事の経緯について聞かせてもらい脳内で簡潔にまとめた。

 まとめると、急遽廃校となった高校から生徒を受け入れ、男女共に入学させようという考えらしい。

 そう決まったならばそうすれば良い、そう言ってこの話は終わるはずだというのにも関わらず、何故を俺は呼び出されたのだろうか…

 

 

「でしたら自分を呼ぶ必要は無いと思いますが…」

「ところがそうもいかないのだよ。これを見てくれたまえ」

 

 

 学園長殿は俺の質問に答えた後、山積みになった紙束のうちの一部を手渡してきたので目を通すと、それは入校予定の生徒の学籍書だった。

 目を通すが、どの紙にもごく普通の学歴や家庭についてしか書かれていない。

 

 だが…数枚の紙に書かれた事実はあまりにも普通ではない内容だった。

 

 

「あの…学園長殿? これは事実なのですか?」

「……事実だそうだ」

「…何故コレを自分に見せたのですか?」

「とても恥ずかしい話なのだが…この学校で一番正しい判断が出来るのは君のような気がしてならなかったからだ」

 

 

 学園長殿の言い方から考えると…この数名に関しての見解を求めているのだろうか。確かに人の判別は前々から行っていたので…癪だが得意ではある。が、今ある資料だけでは判断出来ない。人はその場その場での目の向け方や行動で自然と本性が現れるものであり、人の判別にはそれをこの目で見極める必要がある。

 

 

「…コレだけではなんとも言えませんが…。家庭事情は人それぞれです。問題を起こしたという記録もありませんし…。即座に判断はできませんね」

「そうか…」

 

 

 今更だが…こう言った話は学生にしない方がいいのではないだろうか…理由があるとはいえ、こうも簡単に個人情報を見せないほうがいい。

 そんな事を考えながら学園長殿に学籍書を返した。その際、学籍書とは別に黒いファイルに纏められた資料を見た。ファイルに厚みは無い、しかし重要度はかなり高いように見られる。

 

 

「見極めの機会はあるようですね」

「…何故知っているんだ?」

「ただの勝手な予想だったのですが。一様あるようですね」

 

 

 してやられた、と訴えるような顔を見せながら学園長殿は黒いファイルの中身を慎重に取り出し俺に見せた。

 内容は廃校となった学校と羽丘女子学園、更に花咲川女子学園と合同で行う【交流会】と赤字で書かれた資料。後の数枚は、場所の地図や移動ルート、更には交通費等の額まで書かれていた。

 

 花咲川と羽丘の関係は深いつながりがある事は知ってはいた。理由は様々あるだろうがバンドなどの関係も1つだろうからな。だが…この機会に花咲川も共学化をするのか。何人かが『近いうちに共学化するのでは?』という感じの話をしていたのを何度か聞いた覚えがある。

 

 

「……交流会にしては随分と、大盤振る舞いですね」

「廃校になったのは名のある学校だったのでな。せめてもの謝礼だそうだ」

「謝礼? 生徒の受け入れがですか?」

「時期が時期だ。現状、生徒を増やせるのはうちと花咲川だけのようだからな」

 

 

 

 しかし…三校合同の研修とは大きく出たものだ。言い換えれば『問題ないかどうかの見定め』だろう。当然だ。問題を起こす者だろうと関係なく誰でも受け入れる筈が無い。

 しかし見極めるには丁度良い機会ではあるので有り難い。

 

 だが…参加者の記録を確認した際、大きな問題を見つけた。

 

 

「学園長殿。コレは一体どういうことなのか説明を頂けますか?」

 

 

 大きな問題とは…参加者である生徒の男女の人数をまとめた表があるが、羽丘の参加者には男子の数字が記載されていないということだ。即ち、俺が参加するという情報が記載されていない。だが作成ミスとは思えない…明らかに、記載する気がない作成の仕方だった。

 

 だが理由はすぐに予想できた。恐らく女子校に男子生徒が居るという事実は隠しておく方が、廃校となった学校側からすれば都合が良かったのだろう。

 確かに試験入学生である俺は制服などの最低限の物は支給されたが、生徒手帳等の重要性の高い物は未だに支給されていないのだ。その分、試験入学生として入学した時期から今までの分の学費は免除されているのでそこは正当な等価交換となっていると思っているので文句は無い。

 

 

「理由は分かります。ですが、これでは意味が無いかと」

「それなのだが………頼みがあるのだよ…」

 

 

 学園長殿の表情から察するに余程の妙案なのだろう。明らかに頼むような表情では無く、言いにくいといわんばかりの難しい表情だった。

 

 

「君は()()()()()は参加しないで欲しい」

「…」

 

 

 一体どうするのだろうかと思っていたが、まさか学生としては参加するなとは。

 

 提案を聞くと同時にファイルの中から2枚の紙を取り出し手渡された。『任命された生徒(仮)へ』と赤字で書かれた1枚目の表紙裏には、計画されているスケジュールや移動ルートを細かく書かれ、2枚目は支給される服装のサイズとその他必要な物を記入する用紙が渡された。

 

 もはや生徒への頼み事などでは無く、完全に依頼だ。

 

 

「良いのですか? …生徒に依頼してしまって」

「君なら問題あるまい」

「勝手に期待されても困ります。まぁこの紙を用意された時点で拒否権は無くなったも同然…良いですよ。今回の依頼は受けますよ。ただし、今後同じようなことがあった場合は教師の方々で解決してください」

「本当に感謝するよ。神鷹君」

 

 

 正直いい気はほとんどしないが…今後の為ならばいいだろう。必要な物は支給されるようだからな、どれだけ用意してもらえるのかは怪しいが…支援があるだけよしとしよう。

 

 一先ず話が終わったので、机とボールペンを借りて用紙の記入欄にサイズ等の詳細な情報を記入することにした。

 サイズは簡単に記入できるのだが、その他必要な物か…今のところは思いつかない…とりあえずは入学予定の生徒に関する資料で良いだろう。数日の猶予もあるので他にもあれば後々で記入すれば良い。

 

 取り敢えず支給される服装のサイズのみを記入し、ふと時計を見ると休み時間は終わりを迎えようとしていたので一旦は教室に戻る事にした。

 

 

「そろそろ授業なので戻らせて頂きます」

「そうだな。数日の間に持って来てくれたまえ」

「分かりました。では、失礼しました」

 

 

 果たして…俺は学生として見てもらえているのだろうか? 

 上手いこと利用されているのでは無いのか、と僅かに疑い始めた俺は…そのようなことは無いと自分に言い聞かせながら、チャイムの鳴り響く廊下を早足で歩き教室へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後となった今日はパスパレの練習を見る日なので事務所に来ていた。

 

 前回の一件の直後は会見や取材などで時間的余裕が無かったものの、現在は練習の時間も得られるほど立て直すことに成功したのだ。そう考えると、やはり俺の中ではマスコミほど悪印象なものはない。

 

 肉体的に傷ついたのは俺だけだが、精神的な傷を負ったのは彼女たちパスパレの面々だというのに…何故傷を増やすような発言が出来るのだろうか。

 

 幾ら職として成り立っているとはいえ…あのように軽々しく生死に関して聞くあの態度を変えれば、発言する側の心境を多少は楽に出来るはずだというのに…

 

 …個人的な意見はここまでにしよう。

 

 

 練習に関しては徐々に良くなってきているように感じる。

 初期の頃には無かったまとまりが生まれ、音の躊躇い(ためらい)が減っている。未だに俺は素人のままなのでそう言った発言は堂々と出来ないのだが…。それでも変わってきているという事が分かる程、音が良くなっていると言うことに関しては確信を持てている。

 

 

「キリが良いので今日は終わりとする。後は個人で練習するように。お疲れ様」

「「「「お疲れ様でした!」」」」」

 

 

 終わりの挨拶と共に彼女たちに背を向け、机に置かれた楽譜に目を通し始めると、楽器の音が響いていたレッスンルームには機材や楽器の片付ける音が響きだした。

 

 此処はCIRCLEのスタジオのように防音壁ではなく鏡で囲まれているからなのか音の響き方が違うように感じてしまい、稀に「この指示で良いのか」と疑問に思ってしまうことがある。更には練習を終えた後には一度機材を向かい側にある保管庫に移動させなければならない。

 

 偶には事務所以外の場所でも練習させるべきだとは思うのだが…アイドルであるため社長からは許可が下りない。ならばどうするかと考えていると、ガシャンという嫌な音とゴツンという鈍いが聞こえた。

 

 

「!。今のは何の音だ?」

 

 

 振り返って見てみると麻弥がアンプのコードに足を引っかけ倒れていた。近づいて麻弥の容態を確認するが怪我は無く、アンプもこれと言った問題は見当たらなかった。

 

 だが…改めて見ると何がおかしい。ちょっとしたトラブルだけだというのにも関わらず、その風景に違和感を覚えた。何だろうか、そう思いながら改めて麻弥の様子をしばらく眺めていると、1分近く経ってようやく気づいた。

 

 

「麻弥? 眼鏡はどうした」

 

 

 起き上がって再び片付けを始めた麻弥は、眼鏡を掛けていなかったのだ。

 いつの間にか眼鏡を掛けていない仕事中(アイドル)の麻弥を見慣れてしまったのか、殆ど違和感が無かったので気づくのに少し時間を有した。

 

 何故眼鏡を掛けていないのか理由を聞こうとし、「それがですね…」と苦笑いで麻弥が理由を話し始めた時だった…何やら廊下で騒ぎ声が聞こえてきた。

 閉まっているドアの向こうからドタドタと響いてくる音やあのお気楽な声からして、また日菜がはしゃいでいるのだとすぐに分かった。その後に続くようにイヴと彩の声も徐々に聞こえるようになり始め…

 

 バァン、と木製のドアが割れるのでは無いかと思う程の激しい音を立てレッスンルーム(ここ)に入ってきたのは()()()()()()日菜。そしてその後を追うように元気なイヴと、息を乱し疲れ果てていた彩、そして笑いながらも何処かあきれ顔の千聖が入ってきた。

 

 

「あー楽しかった!」

「そうですか…。それは何よりです…」

 

 

 満足そうな笑みを浮かべている日菜は、掛けていた眼鏡を麻弥に手渡した。

 

 

「つまりは…こういうことですよ」

 

 

 麻弥の、言いたいことを全て凝縮したであろうその一言で俺はなんとなくだが事の経緯が思い浮かんだ。

 簡潔にまとめれば、日菜の思いつきに振り回されたのだろう(いつものことだった)

 

 

「眼鏡、曲がったり割れたりしてないか?」

「はい…なんとか大丈夫そうです…」

「安易に貸さない方が良いぞ。眼鏡は自分の目と同じだからな」

 

 

 前に一度だけ、「眼鏡を止めてコンタクトにしないのは何故だ?」と麻弥に聞いたことがある。返答が、眼鏡の方が落ち着くから、だったか?…かなり前なのであやふやだが、眼鏡の方が楽なのだと言っていたのは確かだ。

 

 その後、何故麻弥の眼鏡を掛けていたのかを日菜に聞いたところ…

 

 

「だって色んなものがいつもと違って見えるんだよ? これってスッゴく、るんっ♪てしない?」

「だからと言って無理矢理借りるな。麻弥もむやみに貸さないように、良いな?」

「はーい!(はい…)」

 

 

 借りる方も借りる方で貸す方も貸す方だ。頼まれたからと言って何でもかんでも日菜に貸すのはあまり良くない気がする。

 良くも悪くも、日菜は物の扱い方や考え方が枠に囚われていない。発想が豊かなのか、天才と呼ばれる者は皆がそうなのか、それとも日菜が変わっているのか…そこに関しては未だに謎だ。

 現状、日菜は器物破損等の問題こそ起こしては無いものの……いや。あまりあれこれ言いたくは無いのでこの話も止めにするとしよう。

 

 はしゃぐ日菜やイヴを一旦落ち着かせた後、途中で終わっていた片付けを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

「みんなも眼鏡掛けてみてよ!」

「…人の話を聞いていたのか?」

 

 言ったところで無駄なことも時にはある、それは当然のことだと考えていた。人の思考は各々で違うのだからな…

 だがここまで「無駄なのだ」と思ってしまったのは今までで一番の驚きである。

 

 

 

 数十分前、素早くとまでは行かなかったが、普段よりも早く片付け終わった事により時間を持て余した俺たちは、各々で時間の有効活用を行っていた。

 

 彩はスマホで何かを調べていた。エゴサーチ? と言っていたが…俺にはよく分からない。

 千聖は近々出演を控えているドラマの台本を暗記していた。やはり千聖は忙しいのだな。

 イヴは木刀で素振りを行っていた。鏡に囲まれたこの部屋で素振りはどうかと思うが…許可は下りているそうなので注意だけした。

 麻弥は黙々と機材をいじっていた。遠目で見てでも分かるが、機材に関して麻弥はかなり手慣れている。自分から機材オタクだと名乗っているだけのことはある。

 

 その頃俺は、依頼で必要な物について考えていた。

 今回の依頼に関しては姿を変える、即ち【変装】が重要となってくる…だが俺は今まで変装などしたことがない。

 全くなかったわけでは無いのだが…。あったと言えるのは以前まで行っていた顔の傷を隠すメイク程度だ。

 

 

「(ネットで調べて出てくるものは派手過ぎる。もう少し…何か付け足す程度で済むものは無いのだろうか…)」

 

 

 それとも自分が色眼鏡で見ているから派手だと思ってしまうのだろうか。

 そんなことを考えているときだった。

 

 特に何かしているわけでも無く…ただ机に突っ伏して暇そうにしていた日菜が突然立ち上がり「みんなも眼鏡掛けてみてよ!」そう言ったので、俺はいきなり何を言い出すんだ。と困惑し、に眉をひそめ「…人の話を聞いていたのか?」と答えた。

 

 

 

 そして現在に至る。

 

 

「ちゃんと聞いてたよ? 麻弥ちゃんの眼鏡じゃなかったら良いんでしょ?」

「それはそうなのだが…。何故いきなり眼鏡を勧めた?」

「だって今眼鏡掛けてるの麻弥ちゃんだけでしょ? みんな眼鏡で揃えたら面白いと思うんだ~♪」

 

 

 突っ伏していた先程までとは打って変わり、満面の笑みを浮かべならがはしゃぐ日菜は気が済むまで止まらないだろう。……時々『紗夜と日菜は本当に姉妹なのか?』と疑う時が多々ある。容姿意外はほぼ似ていない…姉妹とはそういうものなのだろうか。

 

 

「パスパレのみんなで眼鏡…ちょっと面白そう」

「そうね。偶には良いかもしれないわ」

「名案ですね!」

「ジブンも興味あります!」

 

 

 そして意外にも全員乗り気だった。俺は関係ないのでこれ以上は何も言わずに黙って部屋を去ろうとしたが「そうだ! 誰が一番似合ってるか零くんに聞くからね!」と言われたので黙って椅子に座って見続けることにした。

 因みに伊達眼鏡は、日菜が走り回っていた際に見つけたドラマ用の小道具を日菜がもう一往復して持って来た物を

 使用するようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 1人ずつ順に掛けていき……皆の雰囲気は変わるものの…

 彩はどうしてか自慢する子供のような雰囲気しか感じられなかった。

 イヴはモデルである為か中々しっくりきていた。

 日菜は掛けても掛けなくてもあまり変わらない。

 千聖はもはや違和感すらなかった…

 

 

「……全員良かったでは駄目なのか?」

「えー? それじゃ面白くないよー」

 

 

 そもそも俺に対してファッション関連の事について聞くこと自体が間違っている。衣服は見た目より通気性や気安さ等の性能を重視する俺に、似合う似合わないの基準は無い。どうしたものか…

 

 

「じゃあ零くんが掛けてよ!」

「…需要は?」

「ある!」

 

 

 ……あまりの自由さに反論する気も失せたので、差し出された伊達眼鏡を渋々受け取リ眼鏡を掛けた。最初の感覚は邪魔だと思う程の重さ、多くの人がコンタクトを選ぶ理由が分かる気がする。

 

 

「…どうだ?」

 

 

 取り敢えず眼鏡を掛けたので感想を聞いた。だが日菜どころか周りに居た彩達さえ微妙な表情を浮かべていたので流石に似合っていなかったのだと感じ取った。

 

 

「要望に応えたんだぞ…何か言ったらどうだ」

「うーん…何だろう。もっとこう、シュッ! と来ると思ったんだけどなー。今の零くんは何かモヤモヤって感じかなー」

「つまりはどうなんだ? 誰でも良い、そこだけハッキリ答えて貰いたい」

 

 

 分かってはいたが、やはり日菜の表現は独特すぎる。似合っていないのかどうかさえ分からない表現をされるのは少しだけ気に障るのでせめてそこはハッキリして貰いたいところだが…。

 

 

「えーっとですね…似合ってはいるんです、けど…」

「そうね…今の服装が変われば様にはなると思うわ」

「似合ってるかは…今すぐには決められないかな…」

「可もなく不可もなし、です!」

 

 

 彼女たちの様々な意見を聞き、改めて自分の顔を見てみると…確かになんとも言えない多少の違和感を覚えた。

 この違和感…何と言えば良いのだろうか…。千聖の言うように今のこの服装が駄目なのだろうか、それとも普段掛けないから無駄な装飾となっているのかも知れない。

 だが服装さえどうにかすれば多少は様になるはずだ。

 

 

「千聖。服装が変わればと言ったが…具体的にはどうすればいい?」

「具体的に言えばそうね…貴方の場合はスーツが一番、髪型を整えれば印象は大きく変わるはずよ」

 

 

 流石は女優、的確なアドバイスは予想を確信へと変えた。

 依頼に必要な装飾品として伊達眼鏡を幾つか支給して貰うとしよう。変装のイメージのストックが一部出来たので一段落だ。

 

 

「取り敢えずこれは返す。もう満足しただろう?」

「えー? こんな曖昧な感じで終わるのー? るんっ♪てしないよー」

「もう良いだろう? 少なくとも、今の服装では似合わないと答えが出ているのだからな」

 

 

 サッサと眼鏡を外し日菜に返すと、頬を膨らませ不満げな表情で眼鏡を受け取り満足していないと文句を言ったが、何とか終わらせようと俺なりの正論を並べて反論した。

 

 

「じゃあ似合うように零くんを改造しよう♪」

「……は?」

 

 

 だが返ってきた答えは予想を圧倒的に上回る程の珍回答。そして何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる日菜がいきなり突っ込んできたので避けると諦めずに何度も突っ込んでくる。

 

 

「何で避けるのー? ちょっと着替えて貰うだけだって♪」

「嘘をつけ。それだけで終わらせる気は無いだろ」

「いーから♪ いーから♪」

「断る!」

 

 

 その後も日菜に追いかけられ続け、結局日菜を諦めさせるために事務所中を走り続ける羽目となった…。




☆9 桜花9696さん ありがとうございます


【今後の活動についての報告です!】

 シリアスについてのアンケートを募集していたのですが、Roseliaの話を書き直して欲しいと言う要望が予想以上に多く、今後の物語作成に影響してくるにもかかわらず内容がぐずぐずなので、Roseliaの物語の再投稿を優先させて貰います

 それに伴い、初期の物語の書き直しも並行して行っていくのでafterglow及びハローハッピーワールドのシリアスの投稿がもう少しだけ遅くなります。

 ですがafterglowとハローハッピーワールドの一部は完成しているので、投稿まで楽しみにして頂けると幸いです!

 何もかも勝手で申し訳ありません…それでは、次回はRoseliaの再投稿です。


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