ストライクウィッチーズ 寒空を切り裂く紫煙 (兵頭アキラ)
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ナーシャとキリエ

シンフォギアの筆休めに書いてます。

あとがきにアナスタシアのキャラ設定をのせてます。


 オラーシャの寒空を一筋の紫煙が伸びていく。

 その紫煙の正体は現代の箒、ストライカーユニットを装着したとあるウィッチの銜えた煙草だった。小型のシールドで煙草の火を消さずに飛ぶという器用なことをしながら、彼女はすさまじく不機嫌そうな顔で哨戒任務を続ける。

 

「блядь (くそったれ)……!」

 

 こんな汚い言葉を吐く彼女の名はアナスタシア・N・コジェドゥープ。オラーシャ空軍トップエースで階級は大尉、愛称は「ナーシャ」。腰まで伸びた黒髪をおさげにし、仲間から「光が存在しない」と言われるほどの黒い目が特徴的な彼女は半月ほど前からある問題に悩まされていた。

 左足の魔導エンジンが突如停止する。ナーシャは所持している機関砲、ShVAKでガンガンとユニットを叩きながら怒鳴りつける。

 

「こんの糞雑魚ユニットめ!さっさと動きやがれ!」

 

 再びエンジンが回転し始め、姿勢が安定する。彼女が不機嫌な理由がこれだ。半月ほど前の戦闘で友軍から高射砲の直撃を受けてしまってから最低限の修理を受けて以来そのまま放置されている。銜えた煙草をかみしめながら悪態をつく。

 

「ネウロイとの戦闘で高射砲がウィッチに当たるなんてよくあることさ。あの兵士に対しては悪感情はない、今度しっかり当てれるようになればいいんだからな。だけど半月もたって一向に私のユニットが修理されないってのはどういうことだ?!」

 

 頭を抱えて空中を転がるように飛ぶ。

 

「パーツがないってのなら理解できる、でも私よりも後のヤツのほうが修理が速いってのはおかしいだろうがよ!何で私のユニットは後回しなんだ?!」

 

 帰ってから今日で三十を超える嘆願書を書くことを決めながら冷静さを取り戻し、哨戒任務を再開する。使い魔のユキヒョウの尾が毛を逆立てているあたり、心の底では激怒したままなのだろう。

 雪と木しかない地上に煙草の灰をトントンと手で叩いて巻いていく。すぐに灰は真っ白な雪に埋もれて見えなくなる。

 また今日も壊れたままのストライカーを履かされてイライラさせられただけか。とため息をつきかけた瞬間、彼女の目がネウロイの姿を捉えた。すぐさま魔導通信を使って基地に通信を入れる。

 

「こちらイルビス!基地から北西10キロにネウロイを補足した。中型3に小型が4!増援を求む!」

 

 流石に大型が居ないとはいえ、一人で7体の相手はきついと判断したのか基地に増援を要請する。損傷したストライカーユニットで戦うことに不安があるからだ。が……。

 

『すまないが増援は認められない。貴官とは真逆の南東方面で既に出撃可能なウィッチは出払っている』

 

 ナーシャは「は?」と思わず言いそうになったのを慌てて引っ込める。通信兵はただ情報を伝えているだけで彼らに罪はないからだ。

 

「つまり私だけで7体のネウロイを相手しろと?」

『そういうことだ。貴官の武運を祈る』

「……понимание(了解)」

 

 ぶつり、と通信が切れる。その瞬間に担いでいた機関砲を発射可能状態にしながらさらに悪態を突く。

 

「武運を祈るってなんだよ、ストライカー片方不安定なの知ってて言ってんのかあの通信兵。煽ってんのか?後で問いただして煙草か酒を巻き上げてやる」

 

 故障したストライカーを履いて戦わねばならない自分か、トップエースと戦わねばならないネウロイに対してかは不明だが憐れんだような笑みを浮かべる。恐らくどちらもだろう。

 銜えていた煙草を捨てて一気に速度を上げ、ネウロイに突撃する。

 小型ネウロイが迎撃のためにビームを発射するがナーシャはシールドを張ることなく回避し、的確に20mmを叩きこんで二体の小型ネウロイを撃墜した。

 

「残り5!」

 

 彼女の固有魔法である高速思考で無数にある可能性から起きうる未来を選択して残りの二体が対面するように誘い込み、ビームが発射されたタイミングで一気に上昇して同士討ちに持ち込む。

 小型が全滅し、残るは中型3体のみとなった。

 

「残り3。……思ったより簡単だったな……」

 

 3体から一気にビームが放たれる。それを高速思考によって強化された動体視力で避け切ると、左足のユニットがいきなり停止した。

 

「このタイミングでかよ?!……チッ!」

 

 舌打ちをしてから停止した左足を思いっきり振り下ろしてネウロイの1体の下方へ一気に回り込み、下からネウロイをハチの巣にする。その拍子にエンジンが再起動して残り2体の下をビームを避けながら潜り抜け、インメルマンターンで再接近しすれ違いざまに撃墜した。

 

「残り1体。そろそろ終わりかな?」

 

 軍服のポケットから煙草を1本取り出しながら残りのネウロイの真上からダイブする。ナーシャの動体視力がビームを発射するコースを完全にとらえ、煙草の先端を掠らせながら接近して仕留めた。

 ネウロイのビームによって紫煙を漂わせる煙草を銜える。

 

「こちらイルビス。ネウロイをすべて撃墜。これより帰投する」

 

 基地に連絡を入れ、煙草をふかしながら空を飛んでいく。ナーシャのストライカーがなかなか修理されない理由に片方が不安定だったとしてもエースとして活躍が出来る。というのがあるのだが、彼女がそんなことを知る由もない。

 

○○○

 

 基地に帰還したナーシャは格納庫にあるハンガーにストライカーを止め、そばに置いてあったマウンテンブーツに履き替えると整備兵に向かって言い放った。

 

「いつになったら私のストライカーは修理してくれるんだ?」

「ええっと……その……」

「はぁ……。わかった、まだなんだな」

 

 ナーシャは項垂れるように溜息をつくと、煙草をふかしながら格納庫をでる。

 嘆願書を書くために自室に戻る途中で部下のウィッチに声をかけられた。

 

「アナスタシア大尉!」

「ん?なに?」

「指令がお呼びです」

「ハイハイ」

 

 表面上は平静を装っているナーシャだが、内心とてつもなくハイテンションになっていた。

 

(ようやく修理のめどがついたか!いや、待てよ……。指令直々に話があるということはもしや新型をくれるのでは?!)

 

 はやる気持ちを押さえながら指令室のドアを叩く。

 

「アナスタシア・N・コジェドゥープ大尉、入室します!」

『入れ』

 

 ドア越しに指令の声を聴いてから入室する。流石に煙草は捨ててきていた。

 

「来てもらったのは他でもない、君に僚機をつけようと思ってな」

「は、はぁ……」

「入り給え」

『はい!キリエ・A・エフスチグネーエフ軍曹!入室します!』

 

 予想の斜め上を行く指令の発言にナーシャは耳を疑ったが、後ろから聞こえてきた元気な声を聴いて冗談ではないことを確信する。その声の主が入室した。キリエ・アレクセーエヴナ・エフスチグネーエフ軍曹と名乗った少女は、10代前半の小さな体躯に金髪を短めのポニーテールにした元気のいいウィッチだった。

 

「これより彼女が君の僚機となる。君は軍事航空飛行士学校で教官をしていたこともあったようだね?」

「はい、教官を務めさせていただきましたが……」

 

 嫌な予感が頭に響いてくる。

 

「エフスチグネーエフ軍曹はまだ未熟だ。だから君に教官として彼女を鍛えてもらいたい」

「は、はぁ……。了解しました……」

「うむ」

 

 嫌な予感は的中した。しかし、指令の命令を断るわけにはいかずに了承する。

 その答えに満足したのか、指令は頷いてもう戻って良しとナーシャ達に命令する。指令室にいる間背筋を伸ばしていたナーシャだったが出た瞬間に壁に手をついて項垂れ、流れるように煙草を銜えてライターで火をつけた。

 

「コジェドゥープ大尉!私に何かできることはないでしょうか!」

 

 キリエは何か教官であり上官でもあるナーシャの役に立ちたいと善意から思っているが、ナーシャにとってはそうではなかった。

 自身のストライカーユニットの修理の目途が立ったか新型か、と思ってふたを開けたら新人の僚機というお荷物がはいっていたのだ。落ち込みもしよう。故に、キリエに対してとんでもないことを口走ってしまう。

 

「だったらお前と私のストライカーを交換してくれ。私は使えるものが欲しい」

「えっ……」

「あ……」

 

 言い切ってしまってからナーシャは自らの犯した過ちに気づいてしまった。キリエだって故郷オラーシャを守るために幼いながらも戦おうとしているウィッチなのだ。彼女を怒ることはあったとしても侮辱することなどあってはならない。

 ナーシャは弁解しようと口を開くが、それよりも早くキリエが予想外の返しをしてきた。

 

「だったら使えるようになります!大尉がいつか、「あの時ストライカーではなくキリエが来てくれてよかった」と言ってくれるように強くなります!だから私を、鍛えてください!」

 

 軍のトップエース相手に小さい体を地面に平行になるように折って頭を下げる。愚痴とは言え上官の命令に背いたのだ、恐怖のあまりガタガタと体を震わせていた。

 ナーシャはそんな彼女の頭をそっとなでる。キリエの震えが止まった。

 

「国を守ろうとするウィッチの志を侮辱してしまったことを許してくれ。が、愚痴とは言え私の命令に背いたのだ、覚悟は出来ているのだろう?」

「は、はい!か、覚悟はできています!」

 

 キリエは勢いよく顔を上げて目を見つめ返す。ナーシャはそんな彼女に背中を向けて格納庫に歩き始めた。

 キリエは困惑している。

 

「あの……、何か罰があるのでは……?」

「トップエースの私にあんな啖呵を切ったんだ、私に「よかった」と言わせたいのだろう?ついてこい。お前をみっちり鍛えてやる」

 

 ナーシャの言葉にキリエの表情がぱあっと明るくなり、彼女の背中に追いつくために駆け出す。

 

「はい!強くなります!」

「なってみせろ。……コジェドゥープ大尉じゃ他人行儀だ。これからお前は私の僚機なんだからアナスタシア大尉でいい、私はキリエと呼ぶから」

「分かりました!アナスタシア大尉!」

「よし、キリエ!厳しくいくからな」

「はい!」

 

 片方が紫煙をくゆらせながら、もう片方が少しフラフラとしたまま二人のウィッチがオラーシャの寒空を飛翔した。




 アナスタシア・N・コジェドゥープ

フルネーム アナスタシア・ニキートヴナ・コジェドゥープ

所属 オラーシャ空軍第240戦闘航空連隊

階級 大尉

身長 163cm

年齢 17歳(1943年末)

誕生日 6月8日

愛称 「ナーシャ」

使い魔 ユキヒョウ

固有魔法 高速思考能力
  ・高速思考による動体視力の上昇
  ・考えうる可能性を高速で選択することによる未来予測
  ・対人関係になるが上昇した動体視力による心理観察
  ・感覚器官の強化

使用機材 ラヴロフ設計局La-5(機体番号75番)

使用武器 ShVAK

趣味 煙草と酒(特にウォッカ)未成年だが、「ネウロイとの戦闘に国際法も法律もない。全て撃滅してから文句を言え」とのこと。


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