ありふれちゃいけない職業で世界最強 (キャッチ&リリース)
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第1章『プロローグ』ー騎士王の始まりそして奈落へー
第1話プロローグ


"これは、異界の神に遣わされた数多ある騎士を統べし王のありふれてはいけない物語………"

 

 

 

 

 

俺は朝田総司だ。突然の自己紹介で何の事か解らないかもしれないが一応転生者なんだ。

そして、この世界は某小説投稿サイトにて連載している《ありふれた職業で世界最強》の世界であり、その世界のパラレルなんだ。

 

長々と説明してしまったが、俺は今剣道をやっている。

 

「やぁー!」

 

パァン!

 

「一本!そこまで!!」

 

『おぉ〜!』

 

正直に言うと日本の剣術や剣道というのは習いたくなかったのだが、両親にやってみないか、と言われ何となく始めた。

ただ、元々欧州圏の剣技の方が身に付いているので最初から使える剣術以外は得意ではなかった。

 

「また負けてしまったわね」

 

彼女はこの道場の師範の娘の八重樫雫。俺が入ったばかりの頃からよく相手になってくれている優しい娘だ。

何というか、どっかのアーチャーを思い出すくらいにオカンな感じがするが、それも又チャームポイントといったところだ。

 

「けど強くなっていると思うよ。それに、色々と難しく考え過ぎなだけだし」

 

「けれど、たった半年で勝てなくなってしまったのよ?そんなの悔しいじゃない。

それから、3年間も勝てないまま勝ち逃げされるんだもの」

 

それと、極度の負けず嫌いでもある。

 

「喧しいわね」

 

心の中を読まれた、解せぬ………。

まあ、雫が言っていることも何となく分かる。勝ちたい相手に勝てないまま離れる事になるのは悔しいし憤りも感じるからな。

とはいえ、両親の都合によって引っ越すのだから怒らないで欲しいものだ。

 

「また、会えるわよね?」

 

「さあな。まあ、運命の歯車がかみ合った時には会えるんじゃないか?知らんけど」

 

なんかくさい事言ったような気がするんだけど………、まあいいか。

 

 

 

そんなこんなで、中学2年生になった。なったんだけど、現在腹立たしい場面に遭遇中である。

 

「……可哀想」

 

詳しい説明は省くが彼女は原作ヒロインの白崎香織、俺の幼馴染で恋人だ。

 

「……………」

 

俺たちの視線の先にはガラの悪い連中にクリーニング代と称したカツアゲを受けているお婆さんと小さい子供がいる。

明らかに怯えているお婆さんと子供に対して容赦なく怒鳴りつける不良達、明らかに見て見ぬ振りをする周りの人たちに俺は怒りを覚え行動に移った。

 

「へっ、総ちゃん!?」

 

香織が呼び止めようとしたが無視をして進み。

 

 

腹を全力で殴った。

 

「がはっ!」「なっ!?」

 

「おい何やってやがる。白昼堂々とカツアゲか?なぁ?」

 

「てめぇには関係ねえだろ!服が汚れたからクリーニング代出せって言ってるだけなんだよ!」

 

そう言いながら殴りかかってくる不良その1。しかし威力もなく動きも遅いため片手で受け止め投げ飛ばした。

 

「世界はお前等中心で動いている訳ではない。ぶつかってしまった子供に対して謝る事こそすれど、怯えさせ更には金を脅し取ろうとするなど言語道断!幼稚園からやり直してこい!」

 

「クソッ、覚えてやがれ!」

 

などとテンプレ発言をして逃げていった不良達。彼奴等のせいで何かしらあるかと思ったが何とか余計な被害を出さずに終える事ができた。

すると、隣に香織が来て腕に抱きついてきた。

 

「ふふっ。格好良かったよ総ちゃん!」

 

「そうか。………それと当たってるんですが」

 

「当ててるんだよぉ〜」クスクス

 

「帰るぞ、香織」

 

「うん!」

 

総ちゃんの総ちゃんがおっきしないうちに。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

漸く高2になった訳だが、原作主人公はやはり虐められている。そして何故か俺も一部から虐めの対象にされている。

 

「よぉ〜キモオタ!夜中までゲームやっていて寝不足か。どうせエロゲとかやってたんだろ!」

 

あぁ〜本当に目障りで耳障りで鬱陶しくて、人間どうやったらあそこまで人に嫌われる要素を持てるんだ?

何時もハジメに絡んでいく檜山大介とその取り巻きには毎度の事ながら辟易させられる。第一何をしようがそいつの勝手だろうに。

 

「おはよう南雲くん!」

 

まあ、こうなっている理由は香織にある訳だが。それでも生来の面倒見の良さから放っておく事が出来ないらしいので諦めているのだが。

 

 

 

「総ちゃん、南雲くん、一緒にお昼食べよう」

 

「あ〜僕はちょっと………」

 

「ありがとう香織。それと、ハジメもちゃんと食べなきゃ体が持たんぞ」

 

現在絶賛昼休み中である。そして俺は、何とも言えぬ危機感を感じ取っている。

こんな事を考えていたら、天ノ河光輝と坂上龍之介、そして雫がやって来た。

 

「香織もこっちで食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだし、寝ぼけたまま香織の弁当を食べるなんて俺が許さないよ」

 

何ともお花畑な頭である。面倒くさいけど何か香織が自分の物みたいに言われるのは腹がたつので文句を言おうとしたところ。

 

「えっ?何で光輝くんの許可が必要なの?」

 

「「ブフッ!」」

 

「えっ?」

 

香織やそれ反則だ。雫まで笑ってるじゃん。そして天ノ河、ぐうの音も出ない正論を言われたからって固まるな、もっと足掻いて恥をかけ。そして俺を楽しませろ。

 

そんな事をしていると突然教師である畑山愛子(25歳)がやって来た。

 

「皆さん早く教室から出てください!!」

 

は?………あぁ〜原作開始ね。

 

 

 

 

 

 

いやいきなり過ぎだろ!!



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第2話異世界『トータス』

両手で顔を覆って光から目を守っていたが光が薄くなったので手をどかし、周りを見回してみた。

ああ、うん。…………ですよね!知ってた、知ってたよここに来るって!けどさあ、もうちょっと劇的なもの期待しちゃったじゃん!これじゃあ『ありふれた日常から異世界召喚』じゃん!

 

そんなこんな心の中で騒ぎまくっていたら案の定好々爺然とした、それでいて胡散臭く、悪神エヒトルジュエの狂信者が話し始めた。

 

「ようこそ『トータス』。勇者様、そしてそのご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教教会に置いて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願いいたしますぞ」

 

ああそう。

早く終わらせて香織と帰りたいのに………。話長いよ!あとウザい!無理して好々爺演じてんじゃねえよ!

あっ、エヒトルジュエ倒さなきゃ帰れないんだった。……………いや、神殺ししなくちゃ解放されないってどんなクソゲーだよ!SA◯ですらラスボス倒せば、魔王ぽい何かを倒せば終わったんだぞ!何?この世界では神がラスボスなの!?フザケンナカオリトイチャイチャサセロクソヤロー!

 

「では、『ハイリヒ王国』へとお送り致します。

"彼の者へと至る道、信仰と共に開かれんーーー天道"」

 

ああ、移動ですかそうですか。まじ巫山戯るな帰らせろ。……………と言いたいところだが、もう無理か。

潔くついて行こう。ただ、此奴等は本当に理解しているのか?魔人とて人間だ、亜人もまた人間。それ等と戦争をするという事は人を殺すと同義だ。

あの正義馬鹿は助けられるなら助けたい何て言っていたが、力を手に入れたところで出来る事は人殺しが大半だ。快楽殺人者にでもなりたいのかねぇ?

 

おっと、考え込んでいるうちに目的地に着いたようだな。………此処は、玉座か。30人近くの武官や文官がいるところを見るともう直ぐ国王も来るのか。

 

やはりな、玉座に座ったのはエリヒド・S・B・ハイリヒ、ハイリヒ王国の国王で、その隣に腰を下ろしたのが王妃であるルルアリア、金髪美少年がランデル王子、その近くにいる美少女がリリアーナ王女だそうだ。………って、あのクソガキ香織に視線行きまくってんじゃねえか!

王子であろうが無かろうが絶対に渡さねえぞ!

 

その後、晩餐などをしたらしいが記憶に残っていなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

翌日は早朝訓練から始まった。訓練を見てくれるのは騎士団長であるメルト・ロンギヌsゴホン、メルト・ロギンスという如何にも脳筋ぽいおっさんである。

 

何でも勇者様一行に半端な者はつけられないから担当する事になったそうだが、本人曰く、「面倒な雑事を副長(副団長の事)に押し付けることが出来て助かった」だそうだ。

 

屑だな。

 

すると銀色のプレートみたいな物が配られた。

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートはステータスプレートと呼ばれている。文字通り自分の客観的なステータスを数値化して示してくれる物だ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても大丈夫だ。失くすなよ?」

 

ほぅ、原作で知ってはいたが中々に便利な代物だよな。アーティファクトにも関わらずそれなりに流通している事を考えると偽装なども出来ないだろうし。

本当に最も信頼のある身分証明書だな。

 

やってみるか。

 

自分の指先に針を刺して出てきた血をステータスプレートにつけてみた。すると。

 

===============================

朝田総司(ア■■ー・■■■ラ■■) 17歳 男 レベル1

天職:■■■

筋力:5(封印中)

体力:5(封印中)

耐性:5(封印中)

敏捷:5(封印中)

魔力:5(封印中)

魔耐:5(封印中)

技能:全属性適正・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剛力・神速・鉄壁・創造・剣技・剣術[+飛天御剣流][+■明三■■き]・槍術・弓術[+精密速射][+精密狙撃][+超拡散射撃][+インドラの矢]・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・魔力操作[+魔力放出][+性質変化][+形態変化][+魔力闘衣]・覇気[+見聞色の覇気][+未来視][+武装色の覇気][+覇王色の覇気]・神威・技能模倣[+完全模倣][+完全掌握]・魔眼[+千里眼][+■■眼][+■■の眼]・■具[+真■解■][+約■■■た勝■の■]・言語理解

===============================

 

何これ?何で名前表示のところに括弧があって、その上明らかに日本人には有り得ない横文字が入ってるんだ?

それに天職は才能なんだよな?なら何でバグってんの?技能に関しても所々バグってるし、能力に至っては封印中とか書かれてんだけど。てか、低!?

 

「全員見れたか?説明するぞ。まず最初に"レベル"があるだろう?それは各ステータスと共に上がる。上限は100でその人間の限界値を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在地を示していると思ってくれ。レベル100というのは人間としての潜在能力の全てを発揮した極地という事だからな。そんな奴はそうそういない」

 

ほぅ、レベルが上がるからステータスが上がるのではなく、ステータスが上がるからレベルが上がる、か。詰まりは鍛錬を積めば積むほど潜在能力を発揮できるようになる訳だな。

それにしても、国の宝物庫大開放って………。

 

「おぉ!」

 

===============================

天ノ河光輝 17歳 男 レベル1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適正・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

===============================

 

正義馬鹿な勇者誕生。ほっとこ。

 

「後はお前たちだけだな。先ずはそっちの坊主だな」

 

ハジメのステータスは案の定錬成師のオール10だった。悲惨な目に会わせたくはないが俺が出来る事なんてたかが知れている。それなら手を出さずに這い上がってもらった方がいい。

 

だが、数少ない親友が馬鹿にされるのはいただけないよなぁ。今度殴っとこ。

 

 

 

ついでに俺はハジメ以上に弄られた挙句、香織に絶対に守ってあげるからねと言われた。

何それ泣きそう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

訓練後に装備を選びに行ったのだが、あんまりしっくり来るものが無く探し回っていたのだが、ある一つの武器では無い、武器というよりかは鍵のような物に目が止まり、何故か目が離せなくなってしまった。

他にはそういったものが無かった為結局その鍵のような物にしたのだが、就寝中に可笑しな夢を見た。

 

『目覚めなさい私の愛しきア■■ー。早く目覚めなければ取り返しのつかない事になってしまいます。ですから早く………』

 

『誰だ?それにお前は誰の事を呼んでいる!』

 

『まだ、目覚める事が出来ないのですね………。ですが、私は信じています、我が愛しき息子よ………』

 

『まて!』

 

「まて!」

 

「うぉあー!?ど、どうしたの総司?」

 

「い、いや何でも無い。何でも無い、はずなんだ…………。何だったんだ」

 

 

 

『目覚めなさいア■サー・ぺ■■ラゴ■。その世界が厄災に滅ぼされる前に』



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第3話月下の語らい、そして目覚め

総司 side

 

「明日から実践訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要な物は此方で用意しておくが、今迄の王都外の魔物との実践訓練とは一線を画すると思ってくれ!まあ気合入れろよって事だ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

何とも急だが、まあ仕方が無い事でもあるんだろうな。ただ、封印中という表示は解けず、能力も上がっていないこの状況で遠征に行く事になるとはな。

最悪死ぬ覚悟を持っておかなければ。

 

「ねえ総司。僕たち生き残れるかな?」

 

「さあな。………ただ俺はもう死ぬ覚悟は決めてる。どちらにせよ今のままでは何時か命を落とす事になるだろうからな」

 

「そっか。僕はそんなに簡単には決められないかな。怖いし、まだ死にたく無いし」

 

「それでいいんだよ。寧ろ俺みたいに簡単に死ぬ覚悟を決めるなんて事はするな。俺もこんな事を言ってはいるが正直、生に対する未練が無いかと聞かれたら絶対にあると答えるからな」

 

「けど、やっぱり不安で………」

 

「…………何にせよ、怖かったら誰かにそれを伝えて共感できれば楽になると思う。だから、俺もお前のお陰で助かったよ」

 

「そっか。ありがとう総司」

 

会話が終わってから数秒した頃ドアがノックされた。ハジメと俺は顔を見合わせたが、俺がドアを開けに行った。

 

「こんばんは、総ちゃん。それに南雲くんも」

 

「どうしたんだ突然、不安にでもなったか?」

 

「いやその前にツッコみなよ」

 

ハジメはとてもツッコミを入れたそうにしているが気にしない事にしよう。それにもし香織が不安に駆られて眠れないのであれば何とか落ち着けて楽に寝かせてあげたいからな。

 

「あのね総ちゃん、南雲くん。明日の大迷宮への遠征には行かないで欲しいの!」

 

「それは、足手まといだから?」

 

「何か夢を見たのか?昔っからそういった夢は悉く当たってきたからな。不安の原因はそれか」

 

「うん。さっき少し眠ったんだけど、夢を見てね、総ちゃんと南雲くんが居たんだけど………声をかけても全然気が付いてくれなくって………走って追いかけたけど全然追いつけなくって………最後には………」

 

そうか、用心する事に越した事は無いが、不安を取り除く為には何かしら絶対的な安心感が必要となるだろう。

ただ、それが何か俺には………。

 

「…………消えてしまうの」

 

「…………そうか」

 

「…………そっか」

 

「けどな、メルドさんや他のクラスメイトだっているし、俺だって戦う術が無いって訳じゃない」

 

「うん……」

 

「けど、もし。もしもだ、俺の身にいや俺たちの身に危険が迫ったら君が助けてくれ、治癒師である香織が治してくれ」

 

「っ!うん!!」

 

「ははは……。僕空気だったなぁ………」

 

「「大丈夫だよハジメ(南雲くん)」」

 

「「「ははははは!!!」」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ロックマウントだ!」

 

「万翔羽ばたき、天へと至れーー"天翔閃"!」

 

ああ!超クサイ事言っちまった!!やべえ恥ずかしい!超恥ずかしい!!!大迷宮の中を進んでる最中なのに集中できない〜!!周りのことが頭に入ってこない〜!!

 

「団長!トラップです!」

 

「なに!?」

 

ハニトラですか!?何ですか!?恥ずかしがってるんだからもう少し優しくしてくれ!!

 

「全員、早くこの部屋から出るんだ!!」

 

ファ!?

えっ!?ちょっ!これ魔法陣ジャン!やべえ、早く出なきゃ!!

 

なっ!?この浮遊感…………ッ!!

 

クソったれ間に合わなかった………。

 

 

 

 

ーーーまさか、………ベヒモス……なのか………

 

 

 

原作で知っちゃあいたがこりゃあ絶望する筈だわ。

 

「グルァァァァァアアア!!」

 

 

 

ドクンッ!

 

『目覚めなさい』

 

またあの時の声が。

 

「誰だ!」

 

『貴方は』

 

誰なんだ!?

 

「がぁ!?!?」

 

頭が?!割れっ!?!?!!?

 

『世界を救う救世主』

 

クソガァ!!

 

「ぐぁぁぁあ!!!」

 

『そして』

 

あぁ、そうか。

 

『私の愛しき息子』

 

「俺は」

 

「『アーサー・ペンドラゴン』」

 

手に握っていた鍵型のアーティファクトが砕け散った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!やつを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待ってくださいメルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなのが一番やばいでしょう!俺達も………」

 

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!奴は65階層の魔物!かつて"最強"謳われた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!早く行け!お前達を死なせる訳にはいかないんだ!」

 

光輝は、「見捨ててなどおけない」といった風にメルド達に自分達も戦うと言う。

 

メルドは何とか撤退させようと光輝達に必死に説得を行おうとしたが、光輝は考えを変えず、武器を手に取り戦う姿勢を示す。

そのとき、ベヒモスは咆哮しながらメルド達の元へと突っ込んできた。このままでは、撤退中の生徒達を轢殺してしまうだろう。

 

そうはさせるかと、ハイリヒ王国の騎士達は障壁魔法を唱えた。否唱えようとした。

しかしそれは突然割り込んできたある人物によって邪魔をされてしまう。

 

「総ちゃん!危ないから早く下がって!!」

 

「坊主、逃げろ!!」

 

総司は、その説得を意に介さず尚も突き進んでくるベヒモスと相対する。

 

「騒がしいぞ。身を弁えろ魔物風情が」

 

刹那、言葉に乗った殺気がフィールドを包み込む。それは正しく王の覇気であり、怒りでもあった。

 

「束ねるは星の息吹」

 

手に持つ剣に光が宿る。

 

「輝ける命の奔流」

 

それは、万物の命の根源をあらわしているかの様だった。

 

「受けるがいい!!」

 

 

 

《約束された勝利の剣》

 

 

 

「グルゥ……ガァァァアア……」

 

一閃、それは神々しく輝く断罪の一撃のようでもあった。戦闘中であるにも関わらず生徒達は勿論、騎士達、そして敵であるトラウムソルジャー達ですら見惚れてしまう様な美しいそんな一太刀であった。

 

「何を惚けている、戦いの最中に余所見など言語道断!敵を斬り尽くせ!!」

 

皆に命令を下す姿は故郷に伝わる伝説の騎士の様であった。

 

「恐れるな!武器を取れ!我々に敗北は無い!!」

 

その姿は、数多ある騎士を統べし王の様であった。精神的主柱を手にした彼等の前に敗北の二文字は消えて無くなった。

 

『おぉぉぉぉぉおおおおお!!』



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第4話絶望、それはお粗末な悪意

『おぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!』

 

総司の鼓舞により士気を上げた生徒と騎士達は思い思いの感情を曝け出しながら、叫びながらトラウムソルジャーの軍勢を倒してゆく。

 

「助かったぞ坊主!お陰で何とか脱出出来そうだ!」

 

「礼を言うのはまだ早い!全員で生きて脱出する事だけを考えろ!さもなくば魔物の餌となれ!」

 

「はっ!誰がなるかんなもんに!!おらぁ!」

 

危機に瀕したこの状況での総司のこの発言は反感を買ってしまう様なものであったが、メルドにとっては寧ろ有難かった。

一時は死ぬ覚悟すら抱いた物のこの発言によって死ぬ覚悟ではなく、全員で生きて脱出するという決意を抱く事が出来たのだから。

 

 

 

しかし、絶望というものは得てしてこういう時にやってくる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ここは、世界の何処かにある悪神の住まう場所。

そして、そこに住まう悪神は良からぬ、否、あってはならない事を考えていた。

 

「死地から騎士を救う英雄。確かに良いものであろう。しかし、犠牲なき英雄譚など何の面白みも無い。騎士を守る為に犠牲になって貰おう救世主よ……。くっくっくっ………。はっはっはっはっ!!!」

 

「良いお考えでございます主よ」

 

「そうであろう。そうでなくては盤上を掻き乱す事など出来んからなぁ」

 

「お見事で御座います、エヒトルジュエ様」

 

「はっはっはっはっ!!!」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「もう少しだ!気合入れていけ!」

 

「だ、団長!!ベヒモスの死骸が、形を………」

 

「何?」

 

部下に言われベヒモスの方へと振り返ったメルドだったが、振り返った先で見た物は想像を絶する圧倒的なまでの絶望だった。

ベヒモスの死骸は、形を変え、大きく、そして禍々しい"ナニカ"へと変貌していた。

 

「な、なん、何なんだアレはぁ!!?」

 

それは生徒達の故郷にて空想上の怪物であり、本来この世界では見る事は叶わないとも言われているドラゴンであった。

否、ただのドラゴンでは無い。ある創作物では、神々の地肉を喰らいし破滅の暴竜とされ、あるゲームでは世界を壊し新たに世界を生み出したとされる神竜にして破滅の象徴。

 

"バハムート"

 

「クソ!お前等、退路が開いたら直ぐに階段へ走れ!」

 

「チッ!メルド、お前は馬鹿共の手助けをして来い、そしてそのまま奴等を地上へ逃せ。俺はこの化物の足止めをしている」

 

「まて、それではお前が!」

 

「何、心配するな。愛する者を置いて死ぬ事などしない。もし居なくなったとしても死んだわけでは無いだろうよ。さあ、行け!!」

 

「ああ、って愛する者って誰だよ!」

 

「香織だ!解かったなら行け!」

 

「おう!」

 

総司はメルドに対して生徒達を連れて部下と共に地上へと逃げろという指示を出した。しかし1人だけその指示を聞かなかった者がいた。

 

「総司、僕も一緒に戦うよ。総司が頑張っているのに逃げ帰る何で嫌だから!」

 

「チッ!馬鹿が!死んだとしても文句は受け付けんぞ!」

 

「望むところ!」

 

総司とハジメは協力してバハムートに戦いを挑んだ。されど今の総司は封印が完全に解けてはおらず、ハジメも大した力は持っていなかった。

その状態で勝てる程、弱くは無い、………筈だった。

 

「ハジメ、左側面から錬成で敵の動きを牽制しろ!」

 

「うん!」

 

総司の的確な指示とハジメが指示を正確に実行した事により劣勢になる筈だった戦いが優勢のまま進み、遂にバハムートに対して致命傷を与える事が出来た。

 

「よしハジメ地上に戻るぞ!」

 

「うん!!」

 

しかし、バハムートは捨て身と言わんばかりに橋へと落ちて行きこのままでは崩落に巻き込まれてしまう状態になってしまった。

そこでメルドは、生徒達にバハムートの落ちる軌道を変える為に魔法での攻撃を指示した。

 

「いかん!このままでは橋に落ちる!総員、魔法で化け物の軌道を変えろ!」

 

その指示と同時に生徒達は一斉に魔法を放ち、バハムートの軌道変えようとした。

しかし、疲れ果て、注意が疎かになっていた総司とハジメの足下に凶弾が打ち込まれた。

 

「なっ!?」

 

「えっ?」

 

そして、その二発の凶弾はクラスメイトが放った追尾性の魔法であった。故に足下に正確に着弾し、橋の崩落に拍車を掛けてしまった。

その二発がバハムートへ向けて打たれていれば軌道は逸れたであろう。しかし、現実とは非常なものであった。

 

「くっ!(せめてハジメだけでも!)」

 

「あっ…………」

 

奈落へと落ちゆく総司とハジメ。間に合わないと判りつつも手を伸ばす愛する者(香織)にひたすら手を伸ばし続けた。

 

しかし……………。

 

「いやぁぁぁ!!!総ちゃん、南雲くん!!」

 

「ダメだ、君まで死ぬつもりか香織!もう彼奴等は駄目だ、だから止まるんだ香織!」

 

「離して!総ちゃんが………総ちゃんがぁ!」

 

「駄目よ香織!」

 

愛する者を失った悲しみは………。

 

「あ、彼奴等が悪いんだ。は、ははは」

 

「お前が……。お前が!お前が総ちゃんを!!!!」

 

激しい憎悪へと………。

 

「あがぁ!?ごは!や、やめ、がぁ!!!」

 

変わりゆく。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

ドンッ!

 

「其処までだ嬢ちゃん。すまねぇな俺達が不甲斐ないばかりに………」

 

「ごめんなさい、私達が止めなくちゃならなかったのに」

 

「いや、元はと言えば俺達が守りきれなかった事が原因だ。それを他人のせいにする気はねえよ」

 

香織が犯人を、檜山を殺す前にメルドが止め、何とかこれ以上の犠牲を出さない事に成功した。

そしてこの時、メルドは雫に総司に言われた事を伝えた。

 

「嬢ちゃんが起きたらこう伝えてくれ。

 

"愛する者を置いて死ぬ事などあり得ない。もしも居なくなったとしても必ず君の元へ帰る"

 

とな」

 

「えっと、それは」

 

「あの坊主が言っていた言葉だ。一言一句違わずに行ったわけじゃ無いがそれと同じような事を言っていたからいいだろう?」

 

「ふふ、大丈夫だと思いますよ。ただ、私に向けて言って欲しかったですけどね」

 

「そうか。…………今は存分に泣け。それを見咎める輩は居ないからな。もし咎められても文句なんぞ言わせはせん」

 

「ありがとう、ござ、い、うぅ!っ!!」

 

たった1人のお粗末な悪意の所為で失ったものは大き過ぎた。しかしこれはさらなる苦難への序章でしか無かった。

 

ありふれちゃいけない職業で世界最強

 

序章 プロローグ FIN



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第2章『真のオルクス大迷宮』ー奈落から生まれた化物と光の神子ー
第5話奈落の底、頼れるのは己の力


とても短い時間でしたがハジメのメインヒロインのアンケートを実施していました。
結果は
1位
ストライク・ザ・ブラッドより
アヴローラ・フロレスティーナ
同率2位1人目
Fate/staynightより
キャスター メディア
同率2位2人目
ドラえもんより
ジャイ子
同率4位1人目
Fate/staynightより
アーチャー エミヤ
同率4位2人目
コードギアスより
C.C.


というわけで、ハジメのメインヒロインはアヴローラとなりましたぁ〜!
ただ、書いてみてジャイ子は無いなと思いました。書いていて吐きそうになったのって初めてです。


「んっ、ここは?……………っ!!香織!」

 

返事が無い?いや、これは恐らく橋から落ちた後に行き着いた果てみたいなものか。

待っていてくれ、必ず君の元へ、俺だけじゃ無いハジメも一緒に必ず帰ってみせる。

 

「とは言え、此処は何処だ?」

 

それにこの水溜り何か《全て遠き理想郷》に似たものを感じさせる。まさかとは思うが……………。

試してみる価値は有りそうだ、効果が無ければそれで良し、有ったら有ったで儲けもんっと言ったところか。

 

「っ!!これは、想像以上だな。この水の元は………。あれか」

 

鑑定。

 

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神結晶

大地に流れる魔力が千年という長い時を掛けて偶然できた魔力溜りにより、魔力そのものが結晶化した物。

結晶化後数百年掛けて内包する魔力が飽和状態になると液体化し流れ出す。

===============================

 

ふむ………。

 

「宝物庫に入れておくか。この先役に立つかもしれんからな」

 

それに、魔物を喰らっても何とかなるかもしれない。まあ、希望的観測だが。

 

その前にステータスを確認しておこう。恐らく封印は解けているだろうからな。

 

===============================

朝田総司(アーサー・ペンドラゴン) 17歳 男 レベル10

天職:騎士王(英雄王)

筋力:1765000(封印完全解除まであと19%)

体力:1961000(封印完全解除まであと19%)

耐性:3280000(封印完全解除まであと19%)

敏捷:2459900(封印完全解除まであと19%)

魔力:Error(封印完全解除まであと19%)

魔耐:3142000(封印完全解除まであと19%)

技能:全属性適正・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剛力・神速・鉄壁・創造[+無限の剣製]・剣技[+魔法剣][+強化][+記憶解放]・剣術[+飛天御剣流][+無明三段突き][+秘剣・燕返し]・槍術[+刺し穿つ槍]・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密速射][+インドラの矢]・縮地[+爆縮地][+瞬歩]・先読・高速魔力回復・気配感知[+超感覚]・魔力感知[+聖霊の眼]・魔力操作[+魔力放出][+性質変化][+形態変化][+魔力闘衣]・覇気[+見聞色の覇気][+未来視][+武装色の覇気][+覇王色の覇気]・神威[+神威解放]・技能模倣[+完全模倣][+完全掌握]・魔眼[+千里眼]・写輪眼[+万華鏡写輪眼][+永遠の万華鏡写輪眼]・宝具[+真名解放][+約束された勝利の剣][+天地乖離す開闢の星][+王の財宝]・鉱物創造[+オリハルコン創造][+ヒヒイロカネ創造][+星の結晶創造]・鑑定・言語理解

===============================

 

何これ?ぶっ飛び過ぎだろ、5桁どころか7桁!万単位かと思ったら百万単位!チート!マジで壊れ過ぎだろ!存在自体がバランスブレイカーになってた!そんでもって未だに封印が解け切ってない!!

 

「これは、やべえ。つかこれでレベル10って。俺いつの間にか人間辞めてたよ。香織の癒しが欲しい………」

 

いやホント、これマジで。

 

取り敢えずハジメと合流する為に動くか。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

見つかんねえ、と言うか何度かやばそうなモンスターと遭遇したんだけど、ゴアマガラとか、ティガレックスとかナルガクルガ亜種とかリオレウス希少種とかetcetc。

というか何でこの世界にモンハンの世界のモンスターが居るんだよ可笑しいだろ!

 

まあ、そんなんばっかり出てきて戦っていたのは良いんだが、腹も減ってきて我慢出来なくなったから溜め込んでいた魔物の肉を美味しく焼き焼きして食べたんだよ。したらさぁ、レベル???になってて、しかも能力に関してはオールErrorになってたんだよね。

 

それと、俺はハジメみたいにゴツくはならなかった。

その代わりと言っては何だが、Fate/staynightのアルトリアさんと殆ど同じ様なそれでいて本人よりも背が高い姿になってしまった。

簡単に言えば背が高い男の娘だ。解せん!

 

それよりハジメどこだ?

 

「お前………………総司か?」

 

「………………えっ?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

たくっ!総司のやつどこ行きやがった。動き始めて直ぐだが早めに見つけられると思ったんだがな。

 

ん?今何かが動いた?あれは………………っ!!

 

「お前………………総司か?」

 

「………………えっ?」

 

えっ?総司だよな?いやでも、容姿は完全に違うし、それに女?だよな。

けど今の声、やっぱり総司に似てるんだよな。

それにあの時一緒に落ちたのは総司だけだったし。

どうなってるんだこれ!?

 

「わ、私は、サーヴァントセイバーだ」(超裏声)

 

「あーー、うん。久し振りだな総司」

 

「いや分かってんだったら早く言えよ、恥ずかしいだろうが」

 

此奴こんなキャラだったか?いや、元々はもっと酷かった気がする。

それより何でこんな身体になってんだ?

 

「なあ総司、お前その身体………」

 

「あぁ〜。魔物の肉を美味しく食べたらこうなった。多分、きっと、maybe」

 

「つまり分かってないんだな?」

 

「まあ、そういう事だ」

 

何はともあれ、無事に、とは言えないがそれでも再開する事は出来たから良しとするか。

 

「で、その左腕はどうした、ハジメ?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「で、その左腕はどうした、ハジメ?」

 

「何でも良いだろう、ちょっと死にかけて頑張ったらこうなっただけなんだから」

 

やっぱり治す事は出来ないよな。せめて部位欠損じゃなければ何とかできたんだが。

けど、恐らくハジメも神結晶を持っているはず。そして既にココロブレイクされた状態だから、………よし。

 

「ハジメ、ちょっとステータスを見せてくれ」

 

「ん?ああ、構わねえよ。ただ、お前のも見せろ。あの時明らかに俺よりステータスが低かったお前が何であんな化け物じみた動きが出来たのか知りたいからな」

 

「当然、構わない」

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル17

天職:錬成師

筋力:300

体力:400

耐性:300

敏捷:450

魔力:400

魔耐:400

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

===============================

 

大分上がっているな。魔物を食べると能力が上がるというのは判っていたがこれ程までに凄まじいとは。

 

「サンキュー。んじゃこれ俺のな」

 

「おう」

 

さてさてさーて。どんな反応を示す事やら。

 

「っーーなんっっっじゃこりゃあぁぁぁあ!!!」

 

取り敢えず。

 

「うるせえコラ」

 

「あだ!いやこれ、何だよ!ていうか、なんで錬成師じゃないのに錬成出来るんだよ!つか俺が持ってる技能フルコピーしちゃってるし!能力に関しては全部Error表示だし!お前…………………人間辞めたのか!?」

 

「ああうん、それ以上傷を抉らないで、そんでもって塩塗り込まないで!!」

 

「お前やば過ぎだろ」

 

「いや今更過ぎでしょ………」

 

ていうか、こんな事している場合じゃない!これからの事を話さなくては。

 

「此処からは真面目な話だ。いいなハジメ」

 

「ああ。大方これからの事についてってところか?」

 

「そういう事だ。取り敢えずこのフロアは一通り散策したんだが、上につながる階段は見つからなかった。そうなると残された道は…………」

 

「言わずもがな、最下層を目指して脱出の方法を見つける。それだけだな」

 

「ああ。…………行動に移る前に一つだけ。これから俺達は一緒に行動するが、………………信じていいのは己の力だけだ人間極限状態に陥ると判断力が鈍り、あらぬ行動を取ろうとする。もしも俺がそうなった時には躊躇わずに撃て、いいな?」

 

「無論だ」

 

ちゃんと分かっているようだな。さて……。

 

「行こうか!」

 

「おう!」




9/25 主人公の技能を追加しました。


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第5.5話クラスメイトside 失意と決意、香織の手にした小さな希望

清水くんの行く末アンケートの中間発表その1です。

助けるが31
助けないが66
寧ろ最凶化が14
ラーメンを食べたい人たちが67

意外とラーメン食べたい人って多いんですね〜。


時は少し遡る。

 

大迷宮にて総司とハジメを失ったクラスメイト達は失意の底に沈んでいた。

そして雫は、愛する人を失い、悲痛な表情を浮かべながら眠る親友を見守りながら自らもまた涙を流していた。

 

あの日、迷宮で死闘と喪失を味わった日から既に5日も過ぎている。

 

あの後、宿場町ホルアドで一泊して、翌日には、高速馬車に乗って一行は王都へと戻った。とても、迷宮での実践訓練が続行出来る雰囲気では無かったし、無能扱いされていたとはいえ、勇者の同胞を失ってしまった以上、国王にも教会にも報告が必要だった。

 

それに、厳しい言い方をすれば、こんな所で折れてもらっては困るのだ。致命的な障害が起こる前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあった。

 

雫は、王国に帰って来てからの事を思い出し、香織に早く目覚めて欲しいと思いながらも、同時に眠ったままで良かったと思っていた。

 

帰還を果たし総司とハジメの死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰しもが愕然としたものの、それが"無能"と言われていた総司達だと知ると、安堵の吐息を漏らしたものだ。

 

国王やイシュタルでさえも同じだった。本来、強い力を持っている勇者とその同胞が死んでしまう事はあってはならない事だった。

故に、"無能"である総司とハジメの死亡は大した損害にはならず、寧ろ邪魔者が消えた位の事としか考えていなかった。

 

しかし、総司達に対して罵詈雑言を吐き捨てる者達に食ってかかった人物がいた。

 

「お待ち下さい!確かにあの2人はステータスこそ低かった、それは事実です。けれど、我々が王都に帰還出来たのは彼らの尽力があったからこそです!」

 

「されど、大した力を持たない者がそんな事をした所で肉壁にしかなるまい?」

 

「しかし彼等は、ベヒモスを…………そしてその更に上を行く化物をたった2人で仕留めて見せました!我々が一切手を貸す事もなく!己の力だけで…………!」

 

『なっ!?』

 

この時、総司達を無能と罵っていた者達は失ったものの大きさに漸く気づくことが出来た。しかしそれは、あまりにも遅すぎた。

 

その後、総司達が奈落へと落ちる原因となった追尾性の魔法は誰が放ったのか、という事を調べようとしたメルドだったが、イシュタルに止められてしまい行動する事が出来なかった。

しかし、犯人が誰かという事は殆ど分かりきっていた事でもあったので、生徒達だけで話し合いをした。

 

しかし、犯人である檜山は事故だと言い張り、光輝がそれを認め、勝手に許してしまった。その時、雫は光輝達を見限り、香織に対して心の中で謝罪し続けた。

 

「香織、貴方がこの事を知ったら怒るのでしょうね。けれど私は、それを甘んじて受け入れるわ。だって、見殺しにしてしまった事には変わりないんだもの…………」

 

その時、握り締めていた香織の手が少し動いた。雫はそれと同時に香織の顔を覗き込み、安堵の表情と、涙を流した。

 

「………雫ちゃん?此処は……それに…………私達は迷宮へ遠征に……っ!!雫ちゃん!総ちゃんは!?南雲くんは!?無事なんだよね!?一緒に帰ってきたんだよね!?」

 

「落ち着いて香織。朝田くんと南雲くんは、帰って来てはいないわ。けれど、朝田くんから伝言を預かっているの」

 

「っ?!………総ちゃんは何て言っていたの?」

 

「彼は、『愛する人を置いて死ぬ事はあり得ない。もしも居なくなったとしても必ず君の元へ帰るから』と、言っていたそうよ」

 

「それは、誰から聞いたの?」

 

「メルドさんよ。直接本人から聞いたから間違いは無いって」

 

「………………そっか。なら、何時までもくよくよしていちゃダメだね。ありがとう、雫ちゃん!」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

2人は顔を近付け微笑みを浮かべた。しかし、タイミングの悪い所で乱入者達が現れる。

 

「雫、香織は起きたか………い………。?!す、すまない、邪魔をした!」

 

「うお!?」

 

光輝達から見ると香織と雫がキスをしている様に見えていたらしく、そういった事をしている途中なんじゃ無いかと、邪魔をしてしまったと思い込み直ぐにドアを閉めた。

 

雫は、疑問符を浮かべている香織に今迄起きた事を説明した。その中には総司達に対して罵詈雑言を言い続けていた者達の事や、総司達が奈落へと落ちる原因を作った檜山に対する光輝の対応なども含まれていた。

 

香織は当然激怒した。それもそうだ、総司は幼い頃からずっと一緒にいて、交際し、将来を誓い合うような、香織にとって必要不可欠な存在だ。

それに、ハジメもとても親しく、かつ総司の親友で、あの夜守ってみせると約束していたのだ。

 

その2人に対しての罵詈雑言に、2人と離れる原因を作った檜山、そして、その檜山を勝手に許した光輝に、怒りなど生ぬるい、憎悪の感情すら抱いてしまう程の敵意を持ってしまった。

 

そんな事になっているとは露知らず、光輝はドアをノックして部屋の中に入ってきた。

 

「もう大丈夫なのか、香織?」

 

「何の用かな、天ノ河くん?私は心配して欲しいなんて言って無いんだけど」

 

「えっ?いや、だから、俺は香織が心配で………」

 

「必要無いって言っているの。もう話しかけてこないで」

 

「だ、だが…………グハッ!?」

 

「出て行って………」

 

香織は、光輝の心配に対して絶対零度の視線を浴びせながら冷たくあしらい、それでも尚声をかけてくる光輝を殴って追い出した。

憎悪すら抱いている相手に対して、これだけで済ませたのは香織の生来から来る優しさの所為だろう。

 

されど、その事に文句を言う事は出来なかった。

 

何故なら、香織は既に光輝に対する興味が無くなっているという事が誰の目からも明らかだったからだ。

 

「良かったの?」

 

「うん、正直もう関わりたくも無いしね。それに…………」

 

この日、香織は小さな希望を見つけた。そして、それを掴むべく必死に努力しようという決意をした。

 

「こんな所で寄り道していないで総ちゃんを探して、また一緒に居られるようにするんだから。雫ちゃんも手伝ってくれる?」

 

「当然よ。ただ、貴方から朝田くんを奪う事になるかもしれないけどね」

 

「っ!?ふふっ、望むところだよ雫ちゃん!」

 

クラスメイトが失意に沈むなか、2人の恋する乙女達はその目に決意の光を宿らせる。

 

 

 

「クソ!なんで、なんであいつが!!!」

 

そう、物語はまだ始まったばかりである。



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第6話奈落の底の吸血姫、神子と真祖と魔王と騎士王

大分進んできたな。最初にいた場所から計算して概ね50階層と言ったところか。

 

「ハジメ左から二尾狼3、右から蹴りウサギ2!俺が斬りこむから援護頼む!」

 

「わーったよ!」

 

二尾狼が二匹倒れた!

 

「吹き飛べ"暴竜のテンペスト"!!」

 

よし!蹴りウサギは全滅。だが、まだ二尾狼が残っているな。

 

ドパァン!

 

「ナイスハジメ!」

 

「おう!」

 

漸く一息つけるな。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真オルクス大迷宮50階層のとある部屋、そこには人では無い何かが封印されていた。

その部屋の扉には何かを埋める為の窪みがあり、両端には巨人の石像のような物が置かれていた。

 

「なあハジメ。これ、なんだと思う?」

 

「さあな。ただ他の所とは違う感じがするな」

 

「開けてみるか?」

 

「…………やってみる」

 

そう言ってハジメは錬成を使いながら扉を開けようとした。しかし扉は開かず、両端にあった石像が動き出し、中から殻を破るように一つ目の巨人が姿を現した。

 

「これは……………!サイクロプスか!」

 

「やるぞ総司!」

 

「当然!!」

 

そう意気込んで戦い始めたものの、総司は一撃で屠り、ハジメは弱点を的確に突いた事により呆気なく終わってしまった。

 

「結構楽に終わったな。もう少し梃子摺るかと思ったが………」

 

「楽に終わる分には良いだろう?何せ此処から後どれ位降っていけば良いのか分からないんだからな」

 

「まあな!っと。………これは、魔石か?」

 

「恐らくその魔石を窪みに入れるんだろうな。だが、2つ余るな」

 

「まあやってみりゃあ良いじゃねえか」

 

談笑しつつ、2人は扉を開けるために魔石を窪みに嵌めた。2つ目を嵌めると突然扉が光りだし、開き始めた。

しかし、その扉の奥には更に2つの扉があり、どちらも先程の扉と同じ窪みが1つずつあった。

 

「如何する?此処は二手に分かれた方が良いと思うが」

 

「だろうな。ちゃんと戻ってこいよ」

 

コツン、と総司とハジメは拳をぶつけ合い魔石を1つずつ持ち分かれた。そして、総司は魔石を窪みに嵌めて扉を開いた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

扉の中は暗闇に覆われ、何か光る触手の様な物が無数に蠢いており、何とも気持ちが悪い光景であった。

 

総司が一歩踏み出すと無数に蠢いていた触手?が突然一点に集中する様に動き出し、徐々に、オブジェを支える様な形となった。

その中心には立方体が現れ、それと同時に何者かの声が響いた。

 

『だれ?』

 

それは立方体から生えているナニカ、否、幼い女の子の掠れた声であった。何故そんな所から生えているのか、という疑問は最初から浮かばなかった。

原作を知る総司は、この部屋の事を知っていた。まあ、もう一つあったという事には流石に驚いた様だが。

 

「人…………か?」

 

原作で知っているにも関わらず何故そんなことを聞くのかは置いておくとして、総司は、立方体から生えている女の子にそう尋ねた。

 

「助けて…………おねが、い………なんでも、するから…………」

 

「女の子が何でもするなんて言っちゃいけません。………まあ、助けてやれんこともないが、時間はかかるぞ。それでも良いのか?」

 

「うん………」

 

すると総司は、錬成を駆使して立方体を、封印の核を壊し始めた。幸い、途中で錬成の特訓をしていた為練度はハジメにも匹敵する程となっており、意外と早く壊す事に成功した。

 

「大丈夫か?」

 

「う…ん…………」

 

「はぁ。取り敢えずこれ飲んどけ。喉の渇き位は治るだろう」

 

「あり、がとう………」

 

総司は女の子に神水を飲ませて、喉を潤すように促した。その間に何も着ていなかった女の子に《王の財宝》から出した厚手のコートを身体に視線が行かないようにかけた。

 

「ん、ありがと………」

 

「どういたしまして」

 

「………あなたの名前は?」

 

「俺か?俺は朝田総司だ」

 

「総司、総司、総司、総司、総司、総司………-」

 

「おぅふ、名前を延々と連呼され続けると流石に怖いな」

 

総司は何とか少女を正気に戻す事に成功し、これからの事も考えて部屋を出る事にしたが、少女は自分も付いて行くと言い出した。

 

「さて、さっさと此処から出なきゃな」

 

「私も………私も付いて行っていい?」

 

断る理由もなく、強い力を持つというのであれば大歓迎である為了承する事にした。

 

「ああ………」

 

しかし、次の言葉を紡ごうとした時、入り口の方に巨大なナニカが落ちてきた。それは、大きなハサミを持ち、尻尾には針のような、否、針があった。

恐らくその針は毒針で、この巨大なナニカはサソリ型の魔物なのだろう。

 

「おーおー、こりゃ部屋に入った異物を消し去る為に出てきたのか?………いや違うな。多分封印が解かれて外に出られると困るから、されていた奴と解いた奴の両方を殺す為の番人みたいなもんか」

 

「どうするの?」

 

「消し飛ばす!」

 

総司は、エクスカリバーを鞘から抜き、普通なら届かない所から突きを繰り出した。

だが、その突きはただの突きではなく、切っ先から光の刃を打ち出す為のものだった。

 

巨大サソリは、その刃を一身にくらい息絶えた。たった一撃で葬り去る事が出来るとは思っていなかった少女は目を見開き驚愕の表情を浮かべていた。

 

「…………すごい」

 

少女は、愕然としてたった一言の単語を絞り出すことしか出来なかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

総司は、少女が落ち着きを取り戻した所で名前を聞く事にした。

 

「そういえば、お前の名前は何なんだ?」

 

少女は、その問いに対して暗い表情を浮かべ黙り込んでしまった。そして、ようやく出てきた言葉は総司を驚かせた。

 

「…………あなたが付けて」

 

「は?いや、名前無いのか?」

 

「ある…………けど、あの名前は……もう嫌だ。だから……………助けてくれたあなたに付けて欲しい」

 

総司は少し考え込み、悩んだ。だが、考え過ぎるといい事は無い思い、第一印象からつける事にした。

原作の受け売りでしか無いのであるが。

 

「じゃあ…………"ユエ"でどうだ?」

 

「ユエ?」

 

「ああ。俺の故郷で"月"を意味する名前だ。初めて見た時お前のその金髪と紅い眼が月を思い浮かばせたと言うか何というか………」

 

「ユエ、ユエ、ユエ、ユエ………」

 

「また止めるのは面倒だからな、置いて行くぞ〜」

 

「あっ!待って………」

 

ユエも何とか正気に戻り、総司の後を付いて行った。そして、部屋の外に出ると、同じタイミングでハジメと知らない少女が出てきた。

 

「あれれ〜、そんな小さい子を引っ掛けて来たんですかぁ〜?ハジメく〜ん」

 

「うるせえ、どたまぁぶち抜くぞこら…………!」

 

「はは、怖い怖い。っとまあ、お巫山戯はこれ位にして、その子は誰なんだ?」

 

「此奴は"アヴローラ・フロレスティーナ"というらしい。何でも、吸血鬼の頂点に位置する真祖の1人だとか何とか。んで、そっちは?」

 

「ユエだ。名前は俺が付けた。何でも身内に裏切られて数百年間封印され続けていたらしい」

 

すると、吸血鬼組が突然涙を流しながら話を始めた。

 

「アヴローラ、なの…………?」

 

「アレーティア?………元気だっ、た?」

 

「ん、げんき……だよ?」

 

それを見ていた保護者たちは………。

 

「あらやだハジメさん、うちの子達顔馴染みのようですよ?」

 

「うるせえ。つか、話し方がキメェ!」

 

じゃれついていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真オルクス大迷宮50階層クリア



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第6.5話クラスメイトside2 過去の払拭と悪夢の再来

総司がユエと出会い、サソリモドキを秒殺した日。

 

光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】へ遠征に来ていた。但し、訪れているメンバーは勇者パーティーと小悪党組、永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女5人パーティーだけであった。

 

理由は簡単だ。先の遠征でベヒモスと戦い命を落とした(事になっている。)総司とハジメの姿を見てしまったからだ。それによって、"戦いの果ての死"というものを強く印象付けられてしまったのだ。

 

それによって、戦いに恐怖を抱き戦場に出る事が出来なくなってしまった者が多くいた。

 

当然、聖教教会の者達は良い顔をしなかった。実践を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわりと復帰を促してくる。

 

しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛子先生だ。

 

愛子は、当時遠征には参加していなかった。作農師という特殊かつ激レアな天職である為、実践訓練するよりも、教会側としては農地開拓に力を入れて欲しかったのである。愛子がいれば食糧問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。

 

そんな愛子は、総司達の死亡を知るとショックで寝込んでしまった。自分が安全地帯でのんびりしている間に、生徒が死んでしまったという事実に、全員を連れて帰る事が出来なくなったという事に、責任感の強い愛子は強いショックを受けたのだ。

 

だからこそ戦えないという生徒を戦場に送り出すことなど断じて許せなかった。

 

愛子の天職はこの世界の食糧問題を一変させてしまう程の激レアである。その愛子先生が、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議しているのだ。関係の悪化を防ぎたい教会側はその抗議を受け入れた。

 

結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと小悪党組、永山重吾のパーティーのみが訓練を継続する事となった。今回もメルド団長と数人の騎士団員が付き添って来ている。

 

今日で、迷宮攻略6日目。

 

現在の階層は60層だ。確認されている最高到達階数まであと5層である。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

少し時は遡る。

 

実践訓練再開の前日、香織は雫と共にある話していた。それは、今後どのように行動するかという事だった。

 

「ねえ、雫ちゃん。私ね明日からの遠征で総ちゃん達と合流する為に此処からいなくなろうと思っているの」

 

「?!ど、どうして!?」

 

「だって、天ノ河くん達は総ちゃん達は生きていないと思い込んでいるし」

 

香織は光輝達の総司達が死んだと決めつけている事に腹を立てており、それと同時に、一刻も早く総司と合流したいと思う気持ちがある。

 

「このままだと総ちゃんが取られちゃいそうな気がするから」

 

そして、度々過る嫌な感じ(という名の女の勘)がして、総司が他の女に奪われてしまうのではないかと思っているのだ。そのせいで、香織の背後にはよくスタ○ドらしきものが立っていて、周りの生徒達、そして騎士団の者達が怖がっているのだ。

 

「それに、さっきステータスプレートを確認したら色々と変わっていて………」

 

「えっ?」

 

香織はそう言って雫にステータスプレートを見せた。そこには本来人間が到達できないようなステータスと可笑しな技能増えていた。

 

===============================

白崎香織 17歳 女 レベル27

天職:騎士王妃(治癒師)

筋力:22604

体力:19560

耐性:20472

敏捷:21681

魔力:185639

魔耐:79580

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性適正[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・複合魔法・言語理解

===============================

 

「なっ!?」

 

「これなら総ちゃんの足手纏いにはならないでしょ?だから………私は総ちゃん達の所に行く」

 

「そう…………」

 

雫は頷く事しか出来なかった。何せ雫は、バカをやらかす事の多い光輝達のストッパーであり、そう簡単に見捨てる事が出来ないのだ。それ故に、香織と一緒に抜ける事が出来ないと思っている。

 

但し、雫は内心羨ましいと、自分も総司の元へ行きたいと思っているのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

勇者一行は60層にて立ち往生をしてしまっている。道に迷ってしまったという事ではなく、何時かの悪夢を思い出してしまったからである。あの時と同じ様な断崖絶壁がその記憶を呼び覚ましているのだ。

 

香織はその記憶による頭痛に苛まれながら、「総ちゃん………」と呟き悲痛な表情を見せた。総司達には同じ様に落ちる事でしか会えないと思っているからこそ覚悟を決めたが、総司達が生き延びているかは定かではないのである。その考えがどうしても過ってしまう為、覚悟が揺らいでしまうのだ。

 

そんな香織の気持ちに気付かず、空気も読まずに雰囲気をぶち壊してしまった大馬鹿者がいた。勇者パーティーのリーダーである光輝は悲痛な表情を見せる香織が総司達の死を痛ましく思っているからだと思い込んでこう言った。

 

「香織………君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に何時までも囚われていちゃいけない!前へ進むんだ。きっと、朝田達もそれを望んでいぐぉは!!」

 

しかしそれは悪手であった。光輝は香織と総司はただ仲が良いだけで付き合っている訳ではないと言う見当違いも甚だしい思い込みをしており、何時もの微笑みも、ただクラスメイトの死によって現実逃避をしているか心が病んでいると思っている。

 

だからこの様に、阿保みたいな発言が出来るのである。

 

そしてこの発言によって香織は激怒し、言葉を言い切る前に光輝を殴り飛ばしたのだ。

 

「天ノ河くん、総ちゃんはまだ死んでないよ。だって総ちゃんは、一度言った事は絶対に曲げない、覆さないんだもの。にも関わらず何でそんな事言うのかな?何で愛する人の生存を信じちゃいけないのかな?かな?かな?」

 

「ひっ!!」

 

「止めなさい香織。貴女の気持ちはよく分かる、けどね、それ以上はやっちゃダメよ」

 

雫が止めに入った事で何とか助かった光輝だが、ベヒモス戦の時以上の恐怖をその身に刻み込まれ、今なら総司達の仇を討つ事が出来ると思っていた。

何とも馬鹿な男である。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

光輝達勇者一行は65層へと到達し、悪夢の地に足を踏み入れた。しかしそこで待っていたのは先へと続く希望ではなく、あの時と同じ悪夢の再来だった。

 

赤黒く脈動する直径10メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えがあるものだった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

勇者一行は恐れ慄き、一時は戦意を喪失しかけてしまう程だった。しかし、光輝がクラスメイトを鼓舞し、力を発揮した事により徐々に優勢になっていき、あと少しで倒せるところまできた。

 

「皆、後もう少しだ!行くぞ!」

 

しかし、ベヒモスは総司達を失った時のバハムートと同じ様に橋に攻撃を仕掛けた。幸い崩れる事は無かったが、香織が橋の外へ投げ出されてしまった。

 

「なっ!?香織!」

 

光輝は手を伸ばし香織の手を掴もうとするが、その手は健闘虚しく空を切った。

 

「よくも香織を!!」

 

ベヒモスに対して怒りを露わにした光輝はクラスメイトの力を借り何とか仕留める事に成功した。しかし、クラスメイト達はとても大きなものを失った。

 

クラスメイト達は、皆一様に涙を流し悲しんでいた。

 

 

 

 

 

香織の計算通りに進んでいるとも知らずに…………。




9/26香織の天職を変更しました。


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第7話パートナーの実力、落ちてきた王妃

「チッ!鬱陶しい奴等め!」

 

「だぁー!ちくしょぉぉお!」

 

「………総司、ファイト………」

 

「………ハジメ、我応援する………」

 

「「お前等は気楽だな!」」

 

現在、総司とハジメはユエ達を背負いながら猛然と草むらの中を逃走していた。周りには160センチメートル以上ある雑草が生い茂り総司達の肩付近まで隠してしまっている。ユエとアヴローラなら完全に姿が見えなくなってしまうだろう。

 

そんな、生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら逃走している理由は………。

 

「「「「「「「「「「「「「「キシャァアア!」」」」」」」」」」」」」」

 

200体近い魔物に追われているからである。

 

総司達が準備を終えて迷宮攻略に動き出した後、10階層は順調に降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法とアヴローラの眷獣、そして、総司の圧倒的な力が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

 

ユエの魔法は、全属性なんでもござれとノータイムで使用し、的確に総司達の援護をしていた。

 

そしてアヴローラの眷獣は、広範囲に雷を落としたり、周りを凍らせたりと天災のようなものであるが近くに寄って来た魔物を蹂躙するにはもって来いな能力だった。

 

だが、2人とも魔力切れで休んでおり役に立てない状況だった。

 

「うぜえ……な!!」

 

「俺がやる!」

 

「頼んだ!」

 

「"死して排せよ

 

《天地乖離す開闢の星》"!!」

 

圧倒的な暴風が吹き荒れ魔物達を蹂躙していった。魔物達は風圧に押し潰され、壁に叩きつけられた。その拍子に壁が崩れてしまい外へと放り出されてしまった。

 

「ふう……何とかなったな」

 

「ああ。だが、もう少し手加減できなかったか、これ」

 

「無理だな。今のが最小出力だから………」

 

総司がその続きを言おうとした時、穴が空いた辺りからドサッ、という音が聞こえた。魔物達はいなくなったのは分かっていたが反応せずにはいられなかった。

 

「!?…………人?」

 

「人に化けた魔物かもしれない、あまり不用意に近づくな!」

 

「ん、んぅ………イタタ。……あれ………此処は?」

 

総司とハジメにとっては見覚えがあり過ぎる容姿だった。あの時、最後まで自分達を助けようとしていてくれた、ハジメにとっては借りのある、総司にとっては何よりも大切で、かけがえの無い人物だった。

 

「か、香織?どうして…………どうして此処にいるんだ!」

 

「!!総ちゃん!総ちゃん!会いたかった………ずっと………会いたかった!」

 

「むぅ………」

 

総司が香織に問いかけたところ、香織はそれを無視して総司に涙を流しながら抱きつき号泣した。総司はその間、身動きが取れずどうしたらいいかとオロオロしていたが、香織の顔をみて暫くはこうさせておこうと決めた。

 

ユエは突然現れて総司とイチャコラし始めた香織に対抗心を燃やし背中に抱きつこうとしたが、ただならぬ雰囲気を感じ取って諦めた。しかし、香織に嫉妬して顰めっ面をしていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「………落ち着いたか?」

 

「うん……ごめんね、総ちゃん」

 

「大丈夫だ。………それで、何でこんな所にいるんだ?天ノ河達と迷宮攻略をしているんじゃなかったのか?」

 

「うん………けどね…………」

 

香織は、総司達に今迄あったことを説明した。総司達の生存はあり得ないと決めつけている光輝達クラスメイトのこと、それに嫌気がさして迷宮攻略の途中で何とか総司達と合流する事を決めた事などを時に笑い、時に泣きながら話した。

 

総司はその話を聞いて、無性に腹が立った。もしかしたら、合流する以前に命を落としてしまったかもしれないと、涙ながらに香織に説教をした。

 

愛する人が目の前でいなくなってしまった香織にとっては、もしも駄目なら、総司達も同じ道を辿っているだろうと思って、愛する人の元に行く為ならこれ位どうって事は無かった。

 

けれども、総司はもうこんな危ない真似は二度としないでくれと懇願した。自分もいなくならないからと言いながら、香織に抱きついた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「おいこら………いつまでもイチャついてるんじゃねえ」

 

ハジメは、ある程度落ち着いた所を見計らって声をかけた。理由はそれだけでは無いが、2人の再会を邪魔するのも野暮だと考えてひと段落する迄待機していたのだ。

 

「おう。拠点は?」

 

「作り終わった。それと、壊した壁はテメーで直してこい」

 

「りょーかい。………香織」

 

「うん!」

 

総司は香織に声をかけ、先程自らの技で破壊した壁の修理に向かった。

 

修理自体は直ぐに終わったが、拠点に着くまでイチャイチャしながらゆっくり向かっていた為、途中でユエが迎えに来て、頬を膨らませながら引っ張って連れて行かれた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ふぅ………不味かった。…………取り敢えず、今のステータスを確認しよう出来れば皆のを」

 

「構わねえよ」

 

「私も!」

 

拠点にて食事を済ませた総司達(香織は総司が創造した地球の和牛)は、今後行動するにつれて問題になるステータスの差を確認する為に3人でステータスプレートを見せ合った。

 

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朝田総司(アーサー・ペンドラゴン) 17歳 男 レベル???

天職:騎士王(英雄王)

筋力:Error

体力:Error

耐性:Error

敏捷:Error

魔力:Error

魔耐:Error

技能:全属性適正・回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剛力・神速・鉄壁・創造[+無限の剣製]・剣技[+魔法剣][+強化][+記憶解放]・剣術[+飛天御剣流][+無明三段突き][+秘剣・燕返し]・槍術[+刺し穿つ槍]・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密速射][+インドラの矢]・縮地[+爆縮地][+瞬歩]・先読・高速魔力回復・気配感知[+超感覚]・魔力感知[+聖霊の眼]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+魔力放出][+性質変化][+形態変化][+魔力闘衣]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・覇気[+見聞色の覇気][+未来視][+武装色の覇気][+覇王色の覇気]・神威[+神威解放]・技能模倣[+完全模倣][+完全掌握]・魔眼[+千里眼]・写輪眼[+万華鏡写輪眼][+永遠の万華鏡写輪眼]・宝具[+真名解放][+約束された勝利の剣][+天地乖離す開闢の星][+王の財宝]・鉱物創造[+オリハルコン創造][+ヒヒイロカネ創造][+星の結晶創造]・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・鑑定・言語理解

===============================

 

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白崎香織(アルトリア・ペンドラゴン) 17歳 女 レベル37

天職:騎士王妃(治癒師)

筋力:27502

体力:21530

耐性:25965

敏捷:28432

魔力:395561

魔耐:123452

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性適正[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・複合魔法・言語理解

===============================

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル65

天職:錬成師

筋力:1625

体力:1792

耐性:1803

敏捷:2168

魔力:1450

魔耐:1450

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

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「あ、あれ?なんで俺が一番低いんだ?」

 

2人がチート過ぎるだけである。



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登場人物紹介その① by香織

《朝田総司》

本作の主人公であり、チートの権化。普段は香織の尻に敷かれているが、香織が危ないことをすると立場が逆転しO☆HA☆NA☆SHIを始める。

香織とは幼稚園の頃から近所に住んでいて、幼い頃からイチャコラしまくっていた為周りの保護者達はよくブラックコーヒーを飲んでいたそうな。

中1の時から交際しており、香織の父である智一には何故かデレデレされる(無自覚)。

尚、雫とも幼馴染であり小学3年まで通っていた道場で知り合い、彼女の親族に襲撃されるようになった(無自覚)。

前世は普通を学生であり、オタクではなかったがそういった話は好きで、ハジメとアニメ談議やらゲーム談議などをしていた。

 

突発性難聴は起こらない。

 

容姿:FGOの沖田さん(男体化(約175cm))⇒UBWのアルトリア・ペンドラゴン(男体化(約180cm))

 

ザ・チート+天然たらし+騎士王(笑)

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朝田総司 (アーサー・ペンドラゴン) 17歳 男 レベル???

天職:騎士王

筋力:Error

体力:Error

耐性:Error

敏捷:Error

魔力:Error

魔耐:Error

技能:全属性適正・回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剛力・神速・鉄壁・創造[+無限の剣製]・剣技[+魔法剣][+強化][+記憶解放]・剣術[+飛天御剣流][+無明三段突き][+秘剣・燕返し]・槍術[+刺し穿つ槍]・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密速射][+インドラの矢]・縮地[+爆縮地][+瞬歩]・先読・高速魔力回復・気配感知[+超感覚]・魔力感知[+聖霊の眼]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+魔力放出][+性質変化][+形態変化][+魔力闘衣]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・覇気[+見聞色の覇気][+未来視][+武装色の覇気][+覇王色の覇気]・神威[+神威解放]・技能模倣[+完全模倣][+完全掌握]・魔眼[+千里眼]・写輪眼[+万華鏡写輪眼][+永遠の万華鏡写輪眼]・宝具[+真名解放][+約束された勝利の剣][+天地乖離す開闢の星][+王の財宝][+全て遠き理想郷]・鉱物創造[+オリハルコン創造][+ヒヒイロカネ創造][+星の結晶創造]・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・鑑定・言語理解

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白崎香織

本作のメインヒロイン。序盤に突如覚醒して原作のハジメよりも可笑しなスペックを誇るようになった。

某料理対決漫画のヒロインの能力を持っており、尚且つハンターさんで溢れかえっている世界の料理猫の力もある為料理チートがあるかも?

原作では不遇な正統派サブヒロイン(ハーレム要員)だったが、原作開始前に主人公と交際を始めていたことにより正妻ポジションに。

主人公が無自覚にフラグを乱立させる事には諦めがついており、正妻としてうまく立ち回っている(無自覚)。

 

チートの権化その②

 

正妻系正統派ヒロイン+スタ○ド属性+女神属性

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白崎香織(アルトリア・ペンドラゴン) 17歳 女 レベル37

天職:騎士王妃(治癒師)

筋力:27502

体力:21530

耐性:25965

敏捷:28432

魔力:395561

魔耐:123452

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性適正[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・複合魔法・言語理解

===============================

 

 

 

南雲ハジメ

言わずと知れた原作主人公。原作ではチートであったが、本作では準チート扱い。

しかし、トータスの一般的観点から見ると十分チートである。

何気に親友ポジに主人公がいて、かつ早い段階で合流した為やさぐれ感は半減。原作よりも人情に厚い性格になっている…………はず。

実は主人公に対して圧倒的な忠誠心があり、死なない指示であれば絶対に聞くし、何かと過保護になる。

 

ツッコミは健在。

 

覚醒あるかも?

 

ツッコミ属性+厨二病+忠犬属性

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル65

天職:錬成師

筋力:1625

体力:1792

耐性:1803

敏捷:2168

魔力:1450

魔耐:1450

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

===============================

 

 

 

八重樫雫

原作サブヒロイン。内心乙女なサムライガール。香織が落ちた後、主人公達が死んでいない事を知り涙を流すほどに主人公ラブ。

ただその感情がうまく出せずに別れた為、想いを伝えることが出来るのはまだ先。

 

一般人?一逸人?

 

乙女属性+クーデレ属性+オカン

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八重樫雫 17歳 女 レベル:43

天職:剣士

筋力:230

体力:350

耐性:220

敏捷:760

魔力:250

魔耐:250

技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+無拍子]・縮地[+爆縮地]・先読[+投影]・気配感知・隠業[+幻撃]・言語理解

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天ノ河光輝

勇者(笑)の正義馬鹿。本作アンチ対象の1人。主人公と香織が交際している事を知らず、従兄妹か何かと思い込むご都合解釈万歳など阿呆。

自覚はしていないが香織に惚れており、その所為で主人公やハジメに辛く当たる。

 

ご都合解釈大好きな"かりちゅま"王子様。

 

ご都合解釈+かりちゅま+王子様属性

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天之河光輝 17歳 男 レベル:52

天職:勇者

筋力:640

体力:640

耐性:640

敏捷:640

魔力:640

魔耐:640

技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術[+無念無想]・剛力・縮地[+爆縮地]・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破[+覇潰]・言語理解

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新しく香織のサブウェポンを決めようアンケート実施中です。

選択肢は、
エリュシデータ&ダークリパルサー(SAOより)
青薔薇の剣&金木犀の剣(SAOより)
ワンド・オブ・ガブリエル(グランブルーファンタジーより)
ロトの剣【勇者の剣改】(ドラクエⅪより)
ウルティマラティオ・ヘカートⅡ(SAOより)
です。
投票よろしくお願いします。


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第8話最奥のボスラッシュ 目覚めのユエ

ハジメがメンバー内(チート3人組)の中で最弱であることが判ってから幾分だった。

 

途中でエセアルラウネという植物系の魔物に襲われたが、香織を操り人質に取ったが故に総司が問答無用で切り裂き、事なきを得た。それと同時にユエも操られたが、香織と共に虐殺した。その隣でもハジメが同じような事をして、アヴローラが不機嫌になっていた。そのあとは総司はユエに、ハジメはアヴローラに血を吸わせて失った魔力や気力を回復した。

 

そして遂に、次の階層で総司達が最初にいた階層から百階目になるところまで来た。その一歩手前の階層でハジメは装備の確認と補充にあたっていた。相変わらずアヴローラは飽きもせずにハジメの作業を見つめている。というよりも、どちらかというと作業をするハジメを見るのが好きなようだ。今も、ハジメのすぐ隣で手元とハジメを交互に見ながらまったりとしている。その表情は迷宮には似つかわしくない緩んだものだ。

 

「よし、完成だ!」

 

そのすぐ近くでは、何やら杖らしきアーティファクト?を作り終わった総司と、その作業をうっとりしながら見て、時折火花を散らせ合わせていた香織とユエがいた。

 

「綺麗な杖だねぇ………」

 

「………ん…………綺麗……」

 

香織とユエは共に感嘆の声をあげ、目を輝かせた。………それ程までに美しいものなのだろう、香織は目を輝かせながらうっとりとして、ユエはまじまじと見つめていた。

 

「香織は武器がないだろ?だから作っておいた」

 

「ありがとう総ちゃん!」

 

「お気に召してくれましたかな?お嬢様」

 

「うん!」

 

香織は渡された両手杖を大事に抱え込みながら、目を潤ませてお礼を言った。総司は記念日など関係なく度々プレゼント等を渡していたが、毎回この様にお礼を言ってくれる為、とても心が穏やかになっているらしい。

 

「むぅ………私も………何か欲しい」

 

「えっ?そう言われてもなあ……、あっ!そうだ、もしも魔法を撃てるだけの魔力が無かった時の為に、これをやる」

 

「?……これは?」

 

総司が渡したのはガ○ダムシリーズに出てくる某マグナム銃だった。何とも危なっかしいものを渡しているが、これもユエを守る為であり、かつ全員の生存確率が大幅に上げる為のものでもあった。

 

「それは[ビームマグナムライフル]と言ってな、カートリッジ……あー、エネルギーの元である魔結晶を使って撃つんだ。魔結晶が無くなったら言ってくれ、作って渡すから」

 

「ふふ………ありがと、総司」

 

ユエは花が咲いた様な笑顔を浮かべながらお礼を言って総司に抱きついた。

 

「あぁ!ずるいユエちゃん!私も〜!」

 

「いやちょっと待てや、そろそろ支度も終わったんだから早く出発するぞ」

 

「うん……」「ん……」

 

このままでは、埒があかないと思った総司は香織とユエを引き剥がし、顔を見ない様にしてハジメの元へ向かった。

 

 

顔を見なかったのは、見てしまうと引き剥がせなくなるからである。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメには悩み事があった。それはアヴローラのことである。

 

アヴローラと出会ってからどれくらい日数が経ったのか時間感覚がないためわからないが、最近、アヴローラはよくこういうまったり顔というか安らぎ顔を見せる。露骨に甘えてくるようにもなった。

 

特に拠点で休んでいる時には必ず密着している。横になれば添い寝の如く腕に抱きつくし、座っていれば背中から抱きつく。吸血させるときは正面から抱き合う形になるのだが、終わった後も中々離れようとしない。ハジメの胸元に顔をグリグリと擦りつけ満足げな表情でくつろぐのだ。

 

ハジメも男である。アヴローラの外見が十二、三歳なので微笑ましさが先行し簡単に欲情したりはしないが、実際は遥に年上。その片鱗を時々見せると随分と妖艶になるのは困ったものである。未だ迷宮内である以上、常に緊張感をもっていることから耐えてはいるが、地上に出て気が抜けた後、アヴローラの大人モードで迫られたら理性がもつ自信はあまりなかった。もたせる意味もないかもしれないが……。

 

ハジメは考える事を止め、次の階層に向かう為に総司達と合流するした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「総司……いつもより慎重……」

「うん? ああ、次で百階だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のためだ」

 

総司達が最初にいた階層から八十階を超えた時点で、ここが地上で認識されている通常の【オルクス大迷宮】である可能性は消えた。奈落に落ちた時の感覚と、各階層を踏破してきた感覚からいえば、通常の迷宮の遥かに地下であるのは確実だ。

 

ハジメはメンバー内で特に能力が低い為、技能を磨き上げる事を重視ていた。そして、銃技、体術、固有魔法、兵器、そして錬成。いずれも相当磨きをかけたという自負がハジメにはあった。そうそう、簡単にやられはしないだろう。しかし、そのような実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのが迷宮の怖いところである。

 

故に、出来る時に出来る限りの準備をしておく。ちなみに今の総司達のステータスはこうだ。

 

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朝田総司 (アーサー・ペンドラゴン) 17歳 男 レベル???

天職:騎士王(英雄王)

筋力:Error

体力:Error

耐性:Error

敏捷:Error

魔力:Error

魔耐:Error

技能:全属性適正・回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剛力・神速・鉄壁・創造[+無限の剣製]・剣技[+魔法剣][+強化][+記憶解放]・剣術[+飛天御剣流][+無明三段突き][+秘剣・燕返し]・槍術[+刺し穿つ槍]・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密速射][+インドラの矢]・縮地[+爆縮地][+瞬歩]・先読・高速魔力回復・気配感知[+超感覚]・魔力感知[+聖霊の眼]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+魔力放出][+性質変化][+形態変化][+魔力闘衣]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・覇気[+見聞色の覇気][+未来視][+武装色の覇気][+覇王色の覇気]・神威[+神威解放]・技能模倣[+完全模倣][+完全掌握]・魔眼[+千里眼]・写輪眼[+万華鏡写輪眼][+永遠の万華鏡写輪眼]・宝具[+真名解放][+約束された勝利の剣][+天地乖離す開闢の星][+王の財宝][+全て遠き理想郷]・鉱物創造[+オリハルコン創造][+ヒヒイロカネ創造][+星の結晶創造]・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・鑑定・言語理解

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白崎香織(アルトリア・ペンドラゴン) 17歳 女 レベル37

天職:騎士王妃(治癒師)

筋力:27502

体力:21530

耐性:25965

敏捷:28432

魔力:395561

魔耐:123452

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性適正[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・複合魔法・言語理解

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

天職:錬成師

筋力:1980

体力:2090

耐性:2070

敏捷:2450

魔力:1780

魔耐:1780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

===============================

 

ハジメのステータスは、初めての魔物を喰えば上昇し続けているが、固有魔法はそれほど増えなくなった。主級の魔物なら取得することもあるが、その階層の通常の魔物ではもう増えないようだ。魔物同士が喰い合っても相手の固有魔法を簒奪しないのと同様に、ステータスが上がって肉体の変質が進むごとに習得し難くなっているのかもしれない。

 

しばらくして、全ての準備を終えた総司達は、階下へと続く階段へと向かった。

 

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径5メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは30メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

総司達が、しばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。ハッと我を取り戻し警戒する総司達。柱は総司達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 

総司達はしばらく警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。200メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長10メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

「……反逆者の住処?」

 

いかにもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくとも総司の本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ハジメ達も感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

ハジメは本能を無視して不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようとやるしかないのだ。

 

「そうだな………さっさと終わらせるぞ」

 

総司も同意し、全神経を集中させた。

 

「……んっ!」「我、頑張る」

 

ユエとアヴローラも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 

「ふふっ」

 

香織は、意味深な笑みを浮かべながら扉の前に立った。

 

そして、5人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

その瞬間、扉と総司達の間30メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

総司は、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、総司達が奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径10メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は3倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

 

「……………………」

 

「……大丈夫……私達、負けない……」

 

「第四真祖の名にかけて、必ず、倒す………」

 

「必ず倒そうね、総ちゃん」

 

ハジメが流石に引きつった笑みを浮かべるが、アヴローラは決然とした表情を崩さずハジメの腕をギュッと掴んだ。

 

総司はユエ達の言葉に「そうだな」と頷き、苦笑いを浮かべながら魔法陣を睨みつける。どうやらこの魔法陣から出てくる化物を倒さないと先へは進めないらしい。

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする総司達。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

体長30メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら6対の眼光が総司達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が総司達に叩きつけられた。

 

同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

しかし………。

 

「《約束された勝利の剣》!!」

 

この一振りでヒュドラごと切り裂き、そのままヒュドラの息の根を止めてしまった。

 

それと同時にヒュドラの陰に隠れていたもう一体の魔物、イフリートが総司に向かって攻撃を仕掛けた。

 

しかしそれは、何処からか現れた障壁に阻まれた。

 

「……総司は………やらせない!行って……コクートス!」

 

ユエが放ったその魔法は、青白い氷でできた竜であった。その竜がイフリートを飲み込み、暴虐的なまでの灼熱地獄を心まで凍えさせる極寒地獄へと変えた。

 

イフリートは氷の竜に飲み込まれ、そのまま砕け散った。

 

然し、それだけでは終わらず新たな魔物が姿を現した。その魔物は天使や悪魔、堕天使等が戦争をしていた世界にいた、否、この際だから言ってしまうと『ハイス○ールD×D』に登場している、邪竜[クロウ・クルワッハ]であった。

 

無論、そのものというわけではない。喋りはしないし知能も他の魔物と大差ないような紛い物だ。だが、紛い物であったとしてもその強さは規格外であり、そうあっさりと倒せるような魔物ではない………………筈だった。

 

「邪魔………ジャガーノート・スフィア!」

 

ユエがたったの一撃で仕留めてしまったのだ。ここに来て覚醒したユエは圧倒的な力を得て、総司達に近づいたのだ。

 

「………大丈夫?……」

 

「ああ、何とかな」

 

こうして、真のオルクス大迷宮の最奥で始まったボスラッシュは終わりを迎えた。



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第9話反逆者の住処、総司卒業する

あの戦いの後、強烈な睡魔に襲われ眠りについた総司は香織達に迷宮内の何処かに運ばれていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

総司は、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、総司のまどろむ意識は混乱する。

 

(何だ? ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)

 

まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、手はその意思に反して動かない。というか、ベッドとは違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。

 

(何だこれ?)

 

ボーとしながら、総司は手をムニムニと動かす。手を挟み込んでいる弾力があるスベスベの何かは総司の手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。何だかクセになりそうな感触につい夢中で触っていると……

 

「……ぁん……」

「……ぅん……んぁ……」

(!?)

 

何やら艶かしい喘ぎ声が聞こえた。その瞬間、まどろんでいた総司の意識は一気に覚醒する。

 

慌てて体を起こすと、総司は自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。純白のシーツに豪奢ごうしゃな天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が天蓋と総司の頬を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。

 

さっきまで暗い迷宮の中で死闘を演じていたはずなのに、と総司は混乱する。

 

(どこだ、ここは……まさかあの世とか言うんじゃないだろうな……)

 

どこか荘厳さすら感じさせる場所に、総司の脳裏に不吉な考えが過ぎるが、その考えは両隣から聞こえた艶かしい声に中断された。

 

「……んぁ……総司……ぁう……」

「……ぁん………総ちゃん……んぅ……」

「!?」

 

総司は慌ててシーツを捲ると隣には一糸纏わない香織とユエが総司の両手に抱きつきながら眠っていた。そして、今更ながらに気がつくが総司自身も素っ裸だった。

 

「なるほど……これが朝チュンってやつか……ってそうじゃない!」

 

混乱して思わず阿呆な事をいい自分でツッコミを入れる総司。若干、虚しくなりながら香織とユエを起こす。

 

「香織、起きてくれ。ユエも」

「んぅ~……」

「ん〜……」

 

声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエと、総司の左腕をその豊満な胸に挟み込み肩付近に頬擦りをする香織。ついでに総司の右手はユエの太ももに挟まれており、丸くなったことで危険な場所に接近しつつある。

 

「ぐっ……まさか本当にあの世……天国なのか?」

 

更に阿呆な事を言いながら、総司は何とか手を抜こうと動かす。が、その度に……。

 

「……んぅ~……んっ……」

「………ぁん……っんぅ……」

 

と実に艶かしく喘ぐ香織とユエ。

 

「頼むから起きてくれぇ……」

「んぅ……ん、ふぁ〜〜。………お、おはよう、総ちゃん///」

 

総司の言葉に反応するように香織が起きた。しかしユエは中々目を覚まさず、尚もユエの危ない位置に右手がある為動かすことが出来ない総司はどうしたものかと考えていた。

 

「ぐぅ、落ち着け俺。いくら年上といえど、見た目はちみっこ。動揺するなどありえない! 俺は断じてロリコンではない!」

 

 総司は、表情に変態紳士か否かの瀬戸際だと戦慄の表情を浮かべながら自分に言い聞かせる。右手を引き抜くことは諦めて、総司は何とか呼び掛けで起こそうと声をかけるが一向に起きる気配はなかった。

 

 その内、段々と苛立ってきた総司。ただでさえ状況を飲み込めず混乱しているというのに何をのんびり寝ていやがるのかと額に青筋を浮かべる。

 

 そして、イライラが頂点に達し……。

 

「手を離してくれ香織」

「えっ?……うん」

 

そして…………。

 

「いい加減に起きやがれ! この天然エロ吸血姫!」

 

 〝纏雷〟を発動した。バリバリと右手に放電が走る。

 

「!? アババババババアバババ」

 

 ビクンビクンしながら感電するユエ。総司が解放すると、ピクピクと体を震わせながら、ようやく目を開いた。

 

「……総司?」

「ああ、総司だ。たくっ、こっちは状況が飲み込めてないってのに何時までも幸せそうに寝やがって」

「総司!」

「!?」

 

 目を覚ましたユエは茫洋とした目で総司を見ると、次の瞬間にはカッと目を見開き総司に飛びついた。もちろん素っ裸で。動揺する総司。

 

 しかし、ユエが総司の首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気が付くと、仕方ないなと苦笑いして頭を撫でた。

 

「わるい、随分心配かけたみたいだな」

「んっ……心配した……」

「本当だよ、総ちゃん………」

 

しばらくしがみついたまま離れそうになかったし、倒れた後面倒を見てくれたのはユエなので気が済むまでこうしていようと、総司は優しくユエの頭を撫で続けた。例えその隣に般若が居ようとも………。

 

それからしばらくして、ようやくユエが落ち着いたので、総司は事情を尋ねた。ちなみに、香織とユエにはしっかりシーツを纏わせている。

 

「それで、あれから何があった? ここはどこなんだ?」

「あの後は………」

 

香織曰く、あの後、ぶっ倒れた総司の傍で同じく魔力枯渇でフラフラのユエが寄り添っていると、突然、扉が独りでに開いたのだそうだ。すわっ新手か! と警戒したもののいつまでたっても特になにもなく、時間経過で少し回復したユエが確認しに扉の奥へ入った。

 

 《全て遠き理想郷》があるとは言え、総司が倒れたことに変わりはなく、強靭な肉体が一命を取り留めているが、灼熱地獄による火傷のダメージがいつ神水を上回るかわからない。そんな状態で新手でも現れたら一巻の終わりだ。そのため、確かめずにはいられなかったのだ。

 

 そして、踏み込んだ扉の奥は、

 

「……反逆者の住処」

 

中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったというのだ。そのあと、危険がないことを確認して、ベッドルームを確認したユエは、総司を背負ってベッドに寝かせ看病していたのだという。神結晶から最近めっきり量が少なくなった神水を抽出し、総司に飲ませ続けた。

 

遂に灼熱地獄のダメージに神水の効果が勝ったのか、通常通りの回復を見せたところで、ユエも力尽きたという。

 

「……なるほど、そいつは世話になったな。ありがとな、香織、ユエ」

「んっ!」

「ふふっ!」

 

総司が感謝の言葉を伝えると、香織達は心底嬉しそうに瞳を輝かせる。ユエは無表情ではあるが、その分瞳は雄弁だ。

 

「ところで……何故、俺は裸なんだ?」

 

総司が気になっていたことを聞く。リアル朝チュンは勘弁だった。別に香織達が嫌いという訳ではないのだが……ほら、心の準備とかね? と誰にともなく内心ブツブツ呟く総司。

 

「あはは……ほら、総ちゃん戦闘服のまま倒れ込んでいたから…………てへ☆」

「……汚れてたから……綺麗にした……」

「……なぜ、舌なめずりする。そして、何故に誤魔化そうとする」

 

香織は総司の質問に、言い訳を言って可愛らしく舌を出して誤魔化そうとし、ユエは、吸血行為の後のような妖艶な笑みを浮かべ、ペロリと唇を舐めた。何となくブルリと体が震えた総司。

 

「それで、どうしてユエが隣で寝てたんだ? しかも……裸で……」

「……ふふ……」

「…………………へぇ、そっかぁ、ユエちゃんとしたんだぁ〜。しちゃったんだぁ〜。ねぇ、総ちゃん?」

「まて、何だその笑いは! 何かしたのか! っていうか舌なめずりするな!それと、香織さん?今すぐその般若さんをしまってくれませんかねえ!」

 

激しく問い詰める総司だが、ユエはただ、妖艶な眼差しで総司を見つめるだけで何も答えなかった。香織は、目の笑っていない笑みを浮かべ、背後からスタ○ドよろしく般若が顔を出していた。

 

しばらく問い詰めていた総司だが、楽しそうな表情で一向に答えないユエに、色々と諦めて反逆者の住処を探索することにした。ほんとうは香織が怖かっただけだが…………。ユエがどこから見つけてきたのか上質な服を持ってくる。男物の服だ。反逆者は男だったのだろう。それを着込むと総司は体の調子を確かめ、問題ないと判断し装備も整える。一応、何かしらの仕掛けがあるかもしれないので念のためだ。

 

後ろで同じく着込んでいた香織とユエも準備が完了したようなので振り返る総司。香織は今まで着ていた戦闘装束で、ユエは、

 

……何故かカッターシャツ一枚だった。

 

「ユエ……狙ってるのか?」

「? ……サイズ合わない」

 

まぁ、確かに男物のサイズなんて身長が百四十センチしかないユエには合わないだろう。しかし、それなりの膨らみが覗く胸元やスラリと伸びた真っ白な脚線が、ユエの纏う雰囲気のせいか見た目の幼さに反して何とも扇情的で、総司としては正直目のやり場に困るのだった。

 

「……天然なら、それはそれで恐ろしいな……」

 

狙っているのか、天然なのか分からないが、いずれにしろ色々な意味で恐ろしいユエだった。

 

 

 

ハジメ達と合流しベッドルームから出た総司は、周囲の光景に圧倒され呆然とした。

 

まず、目に入ったのは太陽だ。もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。

 

「……夜になると月みたいになる」

「うん、綺麗だったよ。あの時総ちゃんが告白してくれた時のことを思い出すくらいにはね」

「マジか……」

「すげえな……」

 

次に、注目するのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。よく見れば魚も泳いでいるようだ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

総司達は川や畑とは逆方向、ベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

 

「少し調べたけど、開かない部屋も多かったよ。何かが隠されているのかもしれないね」

「それに俺の錬成も受け付けなかったからな」

「………んっ」

「そうか……お前等、油断せずに行くぞ」

「ん……」

 

石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいた総司達には少し眩しいくらいだ。どうやら3階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。人の気配は感じないのだが……言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいな……。

 

総司達は、より警戒しながら進む。更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

 

「まんま、風呂だな。こりゃいいや。何ヶ月ぶりの風呂だか」

「確かにな。どれだけ待ちわびたことか」

 

思わず頬を緩める総司とハジメ。最初の頃は余裕もなく体の汚れなど気にしていなかっただが、余裕ができると全身のカユミが気になり、大層な魔法陣を書いて水を出し体を拭くくらいのことはしていた。

 

しかし、総司達も日本人だ。例に漏れず風呂は大好き人間である。安全確認が終わったら堪能しようと頬を緩めてしまうのは仕方ないことだろう。

 

 そんなハジメを見てユエが一言、

 

「……入る? 一緒に……」

「総ちゃん………いいよ……///」

「……一人でのんびりさせて?」

「むぅ……」

「ダメッ!一緒に入るの!」

 

素足でパシャパシャと温水を蹴るユエと顔を赤らめながらおずおずと言う香織の姿に、一緒に入ったらくつろぎとは無縁になるだろうと断る総司。ユエは唇が尖らせて不満顔をしたが、香織は一緒に入ると言い張って無理やり入り、そして…………。

 

「ちょ!!それはアカン、まじアカン!いや、ちょっ、どこ握ってっ!?」

「大丈夫だよ総ちゃん。私も……その……初めてだから………///」

「……んっ、私も……初めて……」

「待って!ヤメッ!アッーーーーーー!?」

 

………この日総司は、童貞を卒業することとなった。

 

その隣ではハジメとアヴローラも同じようなことをしていたがきっちりと断っていた。

 

それから、2階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。仕方なく諦め、探索を続ける。

 

5人は3階の奥の部屋に向かった。3階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径7、8メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

「ちょっと怖いね……」

「……怪しい……どうする?」

「……我、何か感じる」

 

香織はともかく、ユエとアヴローラもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺達のの錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。香織とユエは待っててくれ。何かあったら頼む。」

「アヴローラもこいつ等と一緒にいてくれ」

「ん……気を付けて」

「行ってらっしゃい」

「……我、待ってる……」

 

総司達はそう言うと、魔法陣へ向けて踏み出した。そして、総司とハジメが魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

まぶしさに目を閉じる総司とハジメ。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

 

やがて光が収まり、目を開けた総司達の目の前には、黒衣の青年が立っていた。




何か無理矢理すぎるかも知れませんが、総司くんは晴れて大人な男へと進化しました!
羨ましい、リア充など滅べばいいのだ!

次回、ありふれちゃいけない職業で世界最強、【旅立ちの日】byユエ


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第10話旅立ちの日、真の歴史を知りし者達

い、14000文字以上も………筆が進んだとはいえやり過ぎた。


魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 

中央に立つ総司達の眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。驚きながら彼の話を聞く。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

そうして始まったオスカーの話は、総司達が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

 

それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は''神敵,,だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、''解放者,,と呼ばれた集団である。

 

彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか''解放者,,のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。''解放者,,のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

彼等は、''神域,,と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。''解放者,,のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、''解放者,,達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした''反逆者,,のレッテルを貼られ''解放者,,達は討たれていった。

 

最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、総司とハジメの脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。

 

やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。総司達はゆっくり息を吐いた。

 

「ハジメ……大丈夫?」

「ああ、平気だ……にしても、何かどえらいこと聞いちまったな」

 

「総ちゃんは?」

「平気だよ。…………'''解放者,.か………どうにも他人事のように思えないな。何か、まだ何か隠されている………いや、知られていないナニカがあるんじゃないのか?」

「……わからない……けど……もしかしたらそうかも知れない」

 

「……我達……どうする?」

 

アヴローラがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

 

「うん? 別にどうもしないぞ? 元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ。……アヴローラは気になるのか?」

 

一昔前のハジメなら何とかしようと奮起したかもしれない。しかし、変心した価値観がオスカーの話を切って捨てた。お前たちの世界のことはお前達の世界の住人が何とかしろと。

 

とはいえ、アヴローラはこの世界の住人だ。故に、彼女が放っておけないというのなら、ハジメも色々考えなければならない。オスカーの願いと同じく簡単に切って捨てられるほど、既にハジメにとって、アヴローラとの繋がりは軽くないのだ。そう思って尋ねたのだが、アヴローラは僅かな躊躇ためらいもなくふるふると首を振った。

 

「我の居場所はここ……他は知らない」

 

そう言って、ハジメに寄り添いその手を取る。ギュッと握られた手が本心であることを如実に語る。アヴローラは、過去、自分の国のために己の全てを捧げてきた。それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。アヴローラにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ

 

その牢獄から救い出してくれたのはハジメだ。だからこそハジメの隣こそがアヴローラの全てなのである。

 

「……そうかい」

 

若干、照れくさそうなハジメ。それを誤魔化すためか咳払いを一つして、ハジメが衝撃の事実をさらりと告げる。

 

「あ~、あと何か新しい魔法……神代魔法っての覚えたみたいだ」

「……ホント?」

「ああ、俺も覚えたから間違いはないな。ただ、より正確に言うのであれば神代魔法ではなく概念魔法と言ったところなんだが………いかんせん情報が少な過ぎる」

「だな」

 

信じられないといった表情のユエとアヴローラ。それも仕方ないだろう。何せ神代魔法とは文字通り神代に使われていた現代では失伝した魔法である。総司達をこの世界に召喚した転移魔法も同じ神代魔法である。

 

それに、概念魔法など聞いたこともない魔法まで出てきたのだ。この世界の住人ですら知らないことを知っている''解放者,,達は何処まで知っているのだろうか、という疑問が尽きないことは確かだ。

 

「何かこの床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄る? みたいな」

「……大丈夫?」

「ああ、問題ない。しかもこの魔法……俺とハジメのためにあるような魔法だな」

「どんな魔法だったの?」

「生成魔法と言うものだな。魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だ」

 

総司の言葉にポカンと口を開いて驚愕をあらわにするユエ。

 

「……アーティファクト作れる?」

「ああ、そういうことだな」

「本当!?」

 

そう、生成魔法は神代においてアーティファクトを作るための魔法だったのだ。まさに''錬成師,,のためにある魔法である。実を言うとオスカーの天職も''錬成師,,だったりする。

 

「香織達も覚えたらどうだ? 何か、魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。オスカーも試練がどうのって言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないか?」

「えっ?で、でも私は………」

「……錬成使わない……」

「まぁ、そうだろうけど……せっかくの神代の魔法だろう? 覚えておいて損はないんじゃないか?」

「……ん……総司が言うなら」

 

総司の勧めに魔法陣の中央に入るユエ。魔法陣が輝きユエの記憶を探る。そして、試練をクリアしたものと判断されたのか……

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスry……」

 

またオスカーが現れた。何かいろいろ台無しな感じだった。総司達はペラペラと同じことを話すオスカーを無視して会話を続ける。尚、ハジメとアヴローラも同じことをしている。

 

「どうだ? 修得したか?」

「ん……した。でも……アーティファクトは難しい」

「う~ん、やっぱり神代魔法も相性とか適性とかあるのかな?」

 

そんなことを話しながらも隣でオスカーは何もない空間に微笑みながら話している。すごくシュールだった。後ろの骸むくろが心なし悲しそうに見えたのは気のせいではないかもしれない。

 

「あ~、取り敢えず、ここはもう俺等のもんだし、あの死体片付けるか」

 

ハジメに慈悲はなかった。

 

「ん……畑の肥料……」

 

アヴローラにも慈悲はなかった。

 

「………美味しいごはん………」

 

ユエにも慈悲など存在していなかった。

 

風もないのにオスカーの骸がカタリと項垂れた。

 

「いや、せめて埋葬してやれよ。狂神の所為でこんな所に住処作って最終的に骸になったら肥料扱いは散々過ぎるぞ」

 

「そうだよ!せめてお墓くらいは、ね」

 

見間違えであろうか、オスカーの骸からキラリと光る涙のようなものが見えた気がする。

 

オスカーの骸を畑の端に埋め、一応、墓石も立てた。総司と香織の「流石に、肥料扱いは可哀想すぎる」発言のおかげではあるが。

 

埋葬が終わると、ハジメとアヴローラは封印されていた場所へ向かった。次いでにオスカーが嵌めていたと思われる指輪も頂いておいた。墓荒らしとか言ってはいけない。その指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の文様と同じだったのだ。

 

まずは書斎だ。

 

一番の目的である地上への道を探らなければならない。ハジメとアヴローラは書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴つづられたものだ。

 

「ビンゴ! あったぞ、アヴローラ!」

「んっ」

 

ハジメから歓喜の声が上がる。アヴローラも嬉しそうだ。設計図によれば、どうやら先ほどの3階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。盗ん……貰っておいてよかった。

 

更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の1つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということもわかった。人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。

 

工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。これは盗ん……譲ってもらうべきだろう。道具は使ってなんぼである。

 

「ハジメ……これ」

「うん?」

 

ハジメが設計図をチェックしていると他の資料を探っていたアヴローラが1冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記のようだ。かつての仲間、特に中心の7人との何気ない日常について書いたもののようである。

 

その内の一節に、他の6人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「……つまり、あれか? 他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」

「……かも」

 

手記によれば、オスカーと同様に6人の''解放者,,達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが……。

 

「……帰る方法見つかるかも」

 

アヴローラの言う通り、その可能性は十分にあるだろう。実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は神代魔法なのだから。

 

「だな。これで今後の指針ができた。地上に出たら7大迷宮攻略を目指そう」

「んっ」

 

明確な指針ができて頬が緩むハジメ。思わずアヴローラの頭を撫でるとアヴローラも嬉しそうに目を細めた。

 

それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。

 

しばらくして書斎あさりに満足した2人は、工房へと移動した。

 

工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどである。

 

ハジメは、それらを見ながら腕を組み少し思案する。そんなハジメの様子を見て、アヴローラが首を傾げながら尋ねた。

 

「……どうした?」

 

ハジメはしばらく考え込んだ後、アヴローラに提案した。

 

「う~ん、あのな、アヴローラ。しばらくここに留まらないか? さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ?」

 

アヴローラは300年も地下深くに封印されていたのだから1秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、ハジメの提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。不思議に思ったハジメだが……。

 

「……ハジメと一緒ならどこでもいい」

 

そういうことらしい。アヴローラのこの不意打ちはどうにかならんものかと照れくささを誤魔化すハジメ。

 

結局、総司達も説得して5人はここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

総司がDTを卒業し色々吹っ切れてしまった夜から二ヶ月が経った。奈落の底で、常識はずれの化物達を相手に体と心を作り替えてまで勝利し続けたハジメも、アヴローラの猛攻には太刀打ち出来ず勝率は0%だ。なので、総司達は開き直って受け止めることにしたのだった。

 

元々、ユエの好意には気がついていた上、元の世界にも連れて行こうと香織と話していた。ユエのアプローチに耐える理由は、香織に対する裏切りになってしまうから、という至極真っ当な者ではあったが。

 

そしてそれはハジメも同じで、アヴローラの好意には気がづいていたし、自分の生まれ故郷へ連れて行く約束までしていた。今までアプローチに耐えてきた理由も、迷宮を攻略するまで気を緩めないようにしたいから、という脆弱なものだった。

 

なので、迷宮の攻略と確立された安全な拠点の入手、そして帰還のための明確な行動指針を得られたことで若干心にゆとりを持ってしまった以上、脆弱な理由では、アヴローラのアプローチに対抗することも出来ず、またその理由もなかったのである。

 

そんな5人は拠点をフル活用しながら、傍から見れば思わず〝リア充爆発しろ!!〟と叫びたくなるような日々を送っていた。遠くで、とある女子生徒がス○ンド的な鬼面武者を背後に浮かべ、幼馴染が怯えるという事態が度々発生していたが、それはまた別の話。近い未来でのさらなる修羅場の布石である。

 

「……ハジメ、気持ちいい?」

「ん~、気持ちいいぞ~」

「……ふふ。じゃあ、こっちは?」

「あ~、それもいいな~」

「……ん。我がもっと気持ちよくしてあげる……」

 

現在、アヴローラはハジメのマッサージ中である。エロいことは今はしていない。何故、マッサージしているかというと、それはハジメの左腕・・が原因だ。ハジメの左腕に付けられた義手と体が馴染むように定期的にマッサージしているのである。

 

この義手はアーティファクトであり、魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かすことができる。擬似的な神経機構が備わっており、魔力を通すことで触った感触もきちんと脳に伝わる様に出来ている。また、銀色の光沢を放ち黒い線が幾本も走っており、所々に魔法陣や何らかの文様が刻まれている。

 

実際、多数のギミックが仕込まれており、工房の宝物庫にあったオスカー作の義手にハジメのオリジナル要素を加えて作り出したものだ。生成魔法により創り出した特殊な鉱石を山ほど使っており、世に出れば間違いなく国宝級のアーティファクトとして厳重に保管されるだろう逸品である。もっとも、魔力の直接操作ができないと全く動かせないので常人には使い道がないだろうが……

 

この二ヶ月で5人の実力や装備は以前とは比べ物にならないほど充実している。例えば総司達のステータスは現在こうなっている。

 

===============================

朝田総司 (アーサー・ペンドラゴン) 17歳 男 レベル???

天職:騎士王(英雄王)

筋力:Error

体力:Error

耐性:Error

敏捷:Error

魔力:Error

魔耐:Error

技能:全属性適正・回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剛力・神速・鉄壁・創造[+無限の剣製]・剣技[+魔法剣][+強化][+記憶解放]・剣術[+飛天御剣流][+無明三段突き][+秘剣・燕返し]・槍術[+刺し穿つ槍]・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密速射][+インドラの矢]・縮地[+爆縮地][+瞬歩][+瞬光]・先読・高速魔力回復・気配感知[+超感覚]・魔力感知[+聖霊の眼]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+魔力放出][+性質変化][+形態変化][+魔力闘衣]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・覇気[+見聞色の覇気][+未来視][+武装色の覇気][+覇王色の覇気]・神威[+神威解放]・技能模倣[+完全模倣][+完全掌握]・魔眼[+千里眼]・写輪眼[+万華鏡写輪眼][+永遠の万華鏡写輪眼]・宝具[+真名解放][+約束された勝利の剣][+天地乖離す開闢の星][+王の財宝][+全て遠き理想郷]・鉱物創造[+オリハルコン創造][+ヒヒイロカネ創造][+星の結晶創造]・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・鑑定・魔力変換[+体力][+治癒力]・剛腕・追跡・限界突破・生成魔法・言語理解

===============================

 

===============================

白崎香織(アルトリア・ペンドラゴン) 17歳 女 レベル79

天職:騎士王妃(治癒師)

筋力:54390

体力:49530

耐性:49370

敏捷:53900

魔力:Error

魔耐:Error

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性適正[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・複合魔法・魔力操作・生成魔法・言語理解

===============================

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:10950

体力:13190

耐性:10670

敏捷:13450

魔力:14780

魔耐:14780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

===============================

 

レベルは100を成長限度とするその人物の現在の成長度合いを示す。しかしハジメは、魔物の肉を喰いすぎて体が変質し過ぎたのか、ある時期からステータスは上がれどレベルは変動しなくなり、遂には非表示になってしまった。

 

魔物の肉を喰ったの成長は、初期値と成長率から考えれば明らかに異常な上がり方だった。ステータスが上がると同時に肉体の変質に伴って成長限界も上昇していったと推測するなら遂にステータスプレートを以てしてもハジメの限界というものが計測できなくなったのかもしれない。

 

ちなみに、勇者である天之河光輝の限界は全ステータス1500といったところである。限界突破の技能で更に3倍に上昇させることができるが、それでも約3倍の開きがある。しかも、ハジメも魔力の直接操作や技能で現在のステータスの3倍から5倍の上昇を図ることが可能であるから、如何にチートな存在になってしまったかが分かるだろう。

 

一応、比較すると通常・・の人族の限界が100から200、天職持ちで300から400、魔人族や亜人族は種族特性から一部のステータスで300から600辺りが限度である。勇者がチートなら、ハジメは化物としか言い様がない。肉体も精神も変質しているのであながち間違いでもないが……。

 

総司に至っては元から意味不明なステータスをしていだが、香織も徐々にチートへの道を極め始めていたことには誰も触れはしなかった。

 

新装備についても少し紹介しておこう。

 

まず、ハジメは〝宝物庫〟という便利道具を手に入れた。

 

これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている1センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるというものだ。要は、勇者の道具袋みたいなものである。空間の大きさは、正確には分からないが相当なものだと推測している。あらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。半径1メートル以内なら任意の場所に出すことができる。

 

物凄く便利なアーティファクトなのだが、ハジメにとっては特に、武装の1つとして非常に役に立っている。というのも、任意の場所に任意の物を転送してくれるという点から、ハジメはリロードに使えないかと思案したのだ。結果としては半分成功といったところだ。流石に、直接弾丸を弾倉に転送するほど精密な操作は出来なかった。弾丸の向きを揃えて一定範囲に規則的に転送するので限界だった。もっと転送の扱いに習熟すれば、あるいは出来るようになるかもしれないが。

 

なので、ハジメは、空中に転送した弾丸を己の技術によって弾倉に装填出来るように鍛錬することにした。要は、空中リロードを行おうとしたのだ。ドンナーはスイングアウト式(シリンダーが左に外れるタイプ)のリボルバーである。当然、中折式のリボルバーに比べてシリンダーの露出は少なくなるので、空中リロードは神業的な技術が必要だ。まして、大道芸ではなく実戦で使えなければならないので、更に困難を極める。最初は、中折式に改造しようかとも思ったハジメだが、試しに改造したところ大幅に強度が下がってしまったため断念した。

 

結論から言うと一ヶ月間の猛特訓で見事、ハジメは空中リロードを会得した。たった一ヶ月の特訓でなぜ神業を会得できたのか。その秘密は〝瞬光〟である。〝瞬光〟は、使用者の知覚能力を引き上げる固有魔法だ。これにより、遅くなった世界で空中リロードが可能になったのである。〝瞬光〟は、体への負担が大きいので長時間使用は出来ないが、リロードに瞬間的に使用する分には問題なかった。

 

次に、総司とハジメが競い合うように〝魔力駆動二輪と四輪〟を製造した。

 

これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。ハジメのものは、二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていたアザンチウム鉱石というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、ハジメ自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。速度は魔力量に比例する。

 

総司のものは、二輪の方は何処かの自称ソルジャーさんがが乗っていた大型二輪、四輪の方は某名門ブランドのスポーツカー(という名の移動要塞)で、車輪やパーツなどに関しては殆ど同じであった。違うところはアザンチウム鉱石よりも硬い、他の人に渡してはいけない鉱石トップ5に入ること間違いなしのオリハルコンを使っている。それ故に、シュラーゲンの最高火力でも傷をつけられないような巫山戯た硬さを誇る。並びに冷暖房完備であり香織にとても感謝されていた。そして、何と言ってもエンジンも一度だけ触れたことがあった為基本構造を理解しており、再現することが出来たので、エンジン音も聞こえると言うロマン溢れるものになった。

 

更に、この4つの魔力駆動車は車底に仕掛けがしてあり、魔力を注いで魔法を起動する地面を錬成し整地することで、ほとんどの悪路を走破することもできる。また、どこぞのスパイのように武装が満載されている。総司とハジメも男の子。ミリタリーにはつい熱が入ってしまうのだ。夢中になり過ぎて香織やアヴローラ達が拗ねてしまい、機嫌を直すのに色々と搾り取られることになったが……。

 

''魔眼石,,というものも開発した。

 

実はハジメはヒュドラとの戦いで右目を失っている。極光の熱で眼球の水分が蒸発していまい、神水を使う前に〝欠損〟してしまっていたので治癒しなかったのだ。それを気にしたアヴローラが考案し、創られたのが''魔眼石,,だ。

 

いくら生成魔法でも、流石に通常の''眼球,,を創る事はできなかった。しかし、生成魔法を使い、神結晶に、〝魔力感知〟''先読,,を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得ることができる魔眼を創ることに成功した。

 

これに義手に使われていた擬似神経の仕組みを取り込むことで、魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになったのだ。魔眼では、通常の視界を得ることはできない。その代わりに、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔法の核が見えるようにもなった。

 

魔法の核とは、魔法の発動を維持・操作するためのもの……のようだ。発動した後の魔法の操作は魔法陣の式によるということは知っていたが、では、その式は遠隔の魔法とどうやってリンクしているのかは考えたこともなかった。実際、ハジメが利用した書物や教官の教えに、その辺りの話しは一切出てきていない。おそらく、新発見なのではないだろうか。魔法のエキスパートたるユエも知らなかったことから、その可能性が高い。

 

通常の〝魔力感知〟では、〝気配感知〟などと同じく、漠然とどれくらいの位置に何体いるかという事しかわからなかった。気配を隠せる魔物に有効といった程度のものだ。しかし、この魔眼により、相手がどんな魔法を、どれくらいの威力で放つかを事前に知ることができる上、発動されても核を撃ち抜くことで魔法を破壊することができるようになった。ただし、核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要ではあるが。

 

神結晶を使用したのは、複数付与が神結晶以外の鉱物では出来なかったからだ。莫大な魔力を内包できるという性質が原因だと、ハジメは推測している。未だ、生成魔法の扱いには未熟の域を出ないので、三つ以上の同時付与は出来なかったが、習熟すれば、神結晶のポテンシャルならもっと多くの同時付与が可能となるかもしれない、とハジメは期待している。

 

ちなみに、この魔眼、神結晶を使用しているだけあって常に薄ぼんやりとではあるが青白い光を放っている。ハジメの右目は常に光るのである。こればっかりはどうしようもなかったので、仕方なく、ハジメは薄い黒布を使った眼帯を着けている。

 

白髪、義手、眼帯、ハジメは完全に厨二キャラとなった。その内、鎮まれ俺の左腕! とか言いそうな姿だ。鏡で自分の姿を見たハジメが絶望して膝から崩れ落ち四つん這い状態になった挙句、丸一日寝込むことになり、アヴローラにあの手この手で慰められるのだが……みなまで語るまい。

 

新兵器について、ヒュドラの極光で破壊された対物ライフル:シュラーゲンも復活した。アザンチム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも持ち運びの心配がなくなったので3メートルに改良した。〝遠見〟の固有魔法を付加させた鉱石を生成し創作したスコープも取り付けられ、最大射程は10キロメートルとなっている。

 

また、ラプトルの大群に追われた際、手数の足りなさに苦戦したことを思い出し、電磁加速式機関砲:メツェライを開発した。口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分12000発という化物だ。銃身の素材には生成魔法で創作した冷却効果のある鉱石を使っているが、それでも連続で五分しか使用できない。再度使うには10分の冷却期間が必要になる。

 

さらに、面制圧とハジメの純粋な趣味からロケット&ミサイルランチャー:オルカンも開発した。長方形の砲身を持ち、後方に12連式回転弾倉が付いており連射可能。ロケット弾にも様々な種類がある。

 

あと、ドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃:シュラークも開発された。ハジメに義手ができたことで両手が使えるようになったからである。ハジメの基本戦術はドンナー・シュラークの二丁の電磁加速銃によるガン=カタ(銃による近接格闘術のようなもの)に落ち着いた。典型的な後衛であるアヴローラとの連携を考慮して接近戦が効率的と考えたからだ。もっとも、ハジメは武装すればオールラウンドで動けるのだが。

 

総司が個人で作り上げた物もある。

 

一つ目は、何処かのVRMMOでピンクの悪魔が何度か壊したサブマシンガンのP-90であった。名前は『メディア』で、1発毎の威力に関してはドンナーとシュラークよりも高く、取り回しもいい小型サイズの為使い勝手がいいのだ。

 

それ以外には、PTRD1940デグチャレフ対戦車ライフルなども作っていた。これに関しては火力一点張りの超特化型の武装な為使う用途は限られてしまうが、それでも非常に心強い切り札になる事は間違いない。

 

他には、香織のサブウェポンの1つとして対物ライフルであるウルティマラティオ・ヘカートⅡを火力特化の後方支援ように作った。材質は出回らせちゃいけないオリハルコンをふんだんに使っており、トリガーを引くことによって纏雷が発動して弾が発射されるという仕組みになっている。尚、スコープの倍率はハジメのものと同じく10キロメートル程だ。

 

そして、もう1つ香織のサブウェポンを作っていた。それは、何処ぞのアンダーワールドな世界で使われていた特殊な武器である『青薔薇の剣』と『金木犀の剣』だ。パスコード的なものがあり、それを唱えると武器の形状が変わったり、使用者の周りが凍ったりと凄まじいものだった。

 

他にも様々な装備・道具を開発した。しかし、装備の充実に反して、神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器十二本分でラストになってしまった。枯渇した神結晶に再び魔力を込めてみたのだが、神水は抽出できなかった。やはり長い年月をかけて濃縮でもしないといけないのかもしれない。

 

しかし、神結晶を捨てるには勿体無い。ハジメの命の恩人……ならぬ恩石なのだ。幸運に幸運が重なって、この結晶にたどり着かなければ確実に死んでいた。その為、ハジメには並々ならぬ愛着があった。それはもう、遭難者が孤独に耐え兼ねて持ち物に顔をペインティングし、名前とか付けちゃって愛でてしまうのと同じくらいに。

 

そこで、総司とハジメは、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。そして、それをユエに贈ったのだ。ユエは強力な魔法を行使できるが、最上級魔法等は魔力消費が激しく、1発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、最上級魔法でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。

 

そう思って、ハジメはアヴローラに。総司は香織とユエに〝魔晶石シリーズ〟と名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、そのときの香織達の反応は……。

 

「グスッ!ふ、不束者ですがよろしくお願いします」

「……プロポーズ?」

「何故だ」

 

香織達のぶっ飛んだ第一声に思わず突っ込む総司。

 

「それで魔力枯渇を防げるだろ? 今度はきっとユエを守ってくれるだろうと思ってな」

「……やっぱりプロポーズ」

「いや、違うから。それにするなら香織だけに……」

「総ちゃん?私は気にしないてないから大丈夫だよ」

「……総司、照れ屋」

「……最近、お前人の話聞かないよな?」

「受け入れちゃいなよ、総ちゃん!」

「……ベッドの上でも照れ屋」

「止めてくれます!? そういうのマジで!」

「総司……」

「総ちゃん………」

「はぁ~、何だよ?」

「ありがとう……大好き」

「ありがとう……愛してるよ!」

「……おう」

 

本当にもう爆発しちまえよ! と言われそうな雰囲気を醸し出す3人。いろんな意味で準備は万端だった。

 

それから十日後、遂に総司達は地上へ出る。

 

三階の魔法陣を起動させながら、総司は香織とユエに静かな声で告げる。

 

「香織、ユエ……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「黙っていたらそれはそれで気持ち悪いなぁ……」

「ん……」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「そうだね……」

「ん……」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

「うん、わかってる……」

「ん……」

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「今更……」「今更だよ!」

 

香織達の言葉に思わず苦笑いする総司。真っ直ぐ自分を見つめてくる香織とユエのふわふわな髪を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細める2人に、総司は一呼吸を置くと、キラキラと輝く黒眼と紅眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。

 

「俺が香織達を、香織達が俺を守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

総司の言葉を、香織とユエはまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべた。返事はいつもの通り、

 

「うん!」

「んっ!」




香織のサブウェポンを決めようアンケートはヘカートⅡと青薔薇&金木犀の2つを採用することにしました。


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第10.5話クラスメイトside3 前編 帝国と勇者達

時間は少し戻る。

 

総司がボスラッシュを制し倒れた頃、勇者一行は、一時迷宮攻略を中断しハイリヒ王国に戻っていた。

 

道順のわかっている今までの階層と異なり、完全な探索攻略であることから、その攻略速度は一気に落ちたことと、香織の死亡(そう思い込んでいる)また、魔物の強さも一筋縄では行かなくなって来た為、メンバーの疲労が激しいことから一度中断して休養を取るべきという結論に至ったのだ。

 

もっとも、休養だけなら宿場町ホルアドでもよかった。王宮まで戻る必要があったのは、迎えが来たからである。何でも、ヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るのだという。

 

何故、このタイミングなのか。

 

元々、エヒト神による''神託,,がなされてから光輝達が召喚されるまでほとんど間がなかった。そのため、同盟国である帝国に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい、召喚直後の顔合わせができなかったのだ。

 

もっとも、仮に勇者召喚の知らせがあっても帝国は動かなかったと考えられる。なぜなら、帝国は300年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、冒険者や傭兵の聖地とも言うべき完全実力主義の国だからである。

 

突然現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得はできないだろう。聖教教会は帝国にもあり、帝国民も例外なく信徒であるが、王国民に比べれば信仰度は低い。大多数の民が傭兵か傭兵業からの成り上がり者で占められていることから信仰よりも実益を取りたがる者が多いのだ。もっとも、あくまでどちらかといえばという話であり、熱心な信者であることに変わりはないのだが。

 

そんな訳で、召喚されたばかりの頃の光輝達と顔合わせをしても軽んじられる可能性があった。もちろん、教会を前に、神の使徒に対してあからさまな態度は取らないだろうが。王国が顔合わせを引き伸ばすのを幸いに、帝国側、特に皇帝陛下は興味を持っていなかったので、今まで関わることがなかったのである。

 

しかし、今回の【オルクス大迷宮】攻略で、歴史上の最高記録である65層が突破されたという事実をもって帝国側も光輝達に興味を持つに至った。帝国側から是非会ってみたいという知らせが来たのだ。王国側も聖教教会も、いい時期だと了承したのである。

 

そんな話を帰りの馬車の中でツラツラと教えられながら、光輝達は王宮に到着した。

 

馬車が王宮に入り、全員が降車すると王宮の方から1人の少年が駆けて来るのが見えた。10歳位の金髪碧眼の美少年である。光輝と似た雰囲気を持つが、ずっとやんちゃそうだ。その正体はハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒである。

 

しかしランデル殿下は、戻って来た勇者一行の中に香織がいないことに気が付き光輝にどうしたのかと聞いた。

 

「……香織は……もう……」

 

「な!?何故だ、何故香織が死ななくてはならないのだ!」

 

光輝を問いただすランデル殿下だが、途中で泣き崩れ眠ってしまい、メイド達に部屋へと運ばれた。光輝は香織の死亡報告が此処までのダメージをランデル殿下に与えるとは思っていなかった為、どうしたら良いのか分からず立ち尽くしてしまっていた。

 

実は、召喚された翌日から、ランデル殿下は香織に猛アプローチを掛けていた。と言っても、彼は10歳。香織から見れば小さい子に懐かれている程度の認識であり、その思いが実る気配は微塵もなかった。生来の面倒見の良さから、弟のようには可愛く思ってはいるようだったが。

 

「光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」

 

リリアーナはそう言って頭を下げた。美しいストレートの金髪がさらりと流れる。

 

「そうだな。……何か失礼なことをしたのなら俺の方こそ謝らないと」

 

光輝の言葉に苦笑いするリリアーナ。姉として弟の恋心を察しているため、意中の香織に全く意識されず、死亡報告を聞いてしまったランデル殿下に多少同情してしまう。まして、ランデル殿下の不倶戴天の敵は別にいることを知っているので尚更だった。

 

ちなみに、ランデル殿下がその不倶戴天の敵に会ったとき、一騒動起こすのだが……それはまた別の話。

 

リリアーナ姫は、現在14歳の才媛だ。その容姿も非常に優れていて、国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女である。性格は真面目で温和、しかし、硬すぎるということもない。TPOを弁えつつも使用人達とも気さくに接する人当たりの良さを持っている。

 

光輝達召喚された者にも、王女としての立場だけでなく一個人としても心を砕いてくれている。彼等が関係ない自分達の世界の問題に巻き込んでしまったと罪悪感もあるようだ。 

 

そんな訳で、率先して生徒達と関わるリリアーナと彼等が親しくなるのに時間はかからなかった。特に同年代の香織や雫達との関係は非常に良好で、今では愛称と呼び捨て、タメ口で言葉を交わす仲である。

 

「いえ、光輝さん。ランデルのことは気にする必要ありませんわ。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

 

リリアーナはそう言うと、ふわりと微笑んだ。香織や雫といった美少女が身近にいるクラスメイト達だが、その笑顔を見てこぞって頬を染めた。リリアーナの美しさには2人にない洗練された王族としての気品や優雅さというものがあり、多少の美少女耐性で太刀打ちできるものではなかった。

 

現に、永山組や小悪党組の男子は顔を真っ赤にしてボーと心を奪われているし、女子メンバーですら頬をうっすら染めている。異世界で出会った本物のお姫様オーラに現代の一般生徒が普通に接しろという方が無茶なのである。昔からの親友のように接することができる香織達の方がおかしいのだ。

 

「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」

 

さらりとキザなセリフを爽やかな笑顔で言ってしまう光輝。繰り返し言うが、光輝に下心は一切ない。生きて戻り再び友人に会えて嬉しい、本当にそれだけなのだ。単に自分の容姿や言動の及ぼす効果に病的なレベルで鈍感なだけで。

 

「えっ、そ、そうですか? え、えっと」

 

王女である以上、国の貴族や各都市、帝国の使者等からお世辞混じりの褒め言葉をもらうのは慣れている。なので、彼の笑顔の仮面の下に隠れた下心を見抜く目も自然と鍛えられている。それ故、光輝が一切下心なく素で言っているのがわかってしまう。そういう経験は家族以外ではほとんどないので、つい頬が赤くなってしまうリリアーナ。どう返すべきかオロオロとしてしまう。こういうギャップも人気の1つだったりする。

 

光輝は相変わらず、ニコニコと笑っており自分の言動が及ぼした影響に気がついていない。それに、深々と溜息を吐くのはやはり雫だった。苦労性が板についてきている。本人は断固として認めないだろうが。

 

「えっと、とにかくお疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

 

どうにか乱れた精神を立て直したリリアーナは、光輝達を促した。

 

光輝達が迷宮での疲れを癒しつつ、居残り組にベヒモスの討伐を伝え歓声が上がったり、これにより戦線復帰するメンバーが増えたり、愛子先生が一部で〝豊穣の女神〟と呼ばれ始めていることが話題になり彼女を身悶えさせたりと色々あったが光輝達はゆっくり迷宮攻略で疲弊した体を癒した。

 

雫は内心、迷宮攻略に戻りたくてそわそわしていたが。



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第10.5話クラスメイトside3 後編 帝国と勇者達

それから三日、遂に帝国の使者が訪れた。

 

現在、光輝達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

 

陛下と使者の定型的な挨拶のあと、早速、光輝達のお披露目となった。陛下に促され前にでる光輝。召喚された頃と違い、まだ二ヶ月程度しか経っていないのに随分と精悍な顔つきになっている。

 

ここにはいない、王宮の侍女や貴族の令嬢、居残り組の光輝ファンが見れば間違いなく熱い吐息を漏らしうっとり見蕩れているに違いない。光輝にアプローチをかけている令嬢方だけで既に二桁はいるのだが……彼女達のアプローチですら「親切で気さくな人達だなぁ」としか感じていない辺り、光輝の鈍感は極まっている。まさに鈍感系主人公を地で行っている。

 

そして、光輝を筆頭に、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に65層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

使者は、光輝を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

 

その視線に居心地悪そうに身じろぎしながら、光輝が答える。

 

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、66層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

光輝は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっと、俺は構いませんが……」

 

光輝は若干戸惑ったようにエリヒド陛下を振り返る。エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。神威をもって帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだ。

 

「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ」

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

光輝の対戦相手は、なんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。

 

刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており。構えらしい構えもとっていなかった。

 

光輝は、舐められているのかと些か怒りを抱く。最初の一撃で度肝を抜いてやれば真面目にやるだろうと、最初の一撃は割かし本気で打ち込むことにした。

 

「いきます!」

 

光輝が風となる。''縮地,,により高速で踏み込むと豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした。並みの戦士なら視認することも難しかったかもしれない。もちろん、光輝としては寸止めするつもりだった。だが、その心配は無用。むしろ舐めていたのは光輝の方だと証明されてしまう結果となった。

 

バキィ!!

 

「ガフッ!?」

 

吹き飛んだのは光輝の方だった。護衛の方は剣を掲げるように振り抜いたまま光輝を睥睨している。光輝が寸止めのため一瞬、力を抜いた刹那にだらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり光輝を吹き飛ばしたのだ。

 

光輝は地滑りしながら何とか体勢を整え、驚愕の面持ちで護衛を見る。寸止めに集中していたとは言え、護衛の攻撃がほとんど認識できなかったのだ。護衛は掲げた剣をまた力を抜いた自然な体勢で構えている。そう、先ほどの攻撃も動きがあまりに自然すぎて危機感が働かず反応できなかったのである。

 

「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか? まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

 

平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には失望が浮かんでいた。

 

確かに、光輝は護衛を見た目で判断して無造作に正面から突っ込んでいき、あっさり返り討ちにあったというのが現在の構図だ。光輝は相手を舐めていたのは自分の方であったと自覚し、怒りを抱いた。今度は自分に向けて。

 

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

 

今度こそ、本気の目になり、自分の無礼を謝罪する光輝。護衛は、そんな光輝を見て、「戦場じゃあ''次,,なんてないんだがな」と不機嫌そうに目元を歪めるが相手はするようだ。先程と同様に自然体で立つ。

 

光輝は気合を入れ直すと再び踏み込んだ。

 

唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と''縮地,,を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。その速度は既に、光輝の体をブレさせて残像を生み出しているほどだ。

 

しかし、そんな嵐のような剣撃を護衛は最小限の動きでかわし捌き、隙あらば反撃に転じている。時々、光輝の動きを見失っているにもかかわらず、死角からの攻撃にしっかり反応している。

 

光輝には護衛の動きに覚えがあった。それはメルド団長だ。彼と光輝のスペック差は既にかなりの開きが出ている。にもかかわらず、未だ光輝はメルド団長との模擬戦で勝ち越せていないのだ。それはひとえに圧倒的な戦闘経験の差が原因である。

 

おそらく護衛も、メルド団長と同じく数多の戦場に身を置いたのではないだろうか。その戦闘経験が光輝とのスペック差を埋めている。つまり、この護衛はメルド団長並かそれ以上の実力者というわけだ。

 

「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、少々素直すぎる。元々、戦いとは無縁か?」

「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから」

「……それが今や''神の使徒,,か」

 

チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると護衛は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「おい、勇者。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ? うっかり殺してしまうかもしれんからな」

 

護衛はそう宣言するやいなや一気に踏み込んだ。光輝程の高速移動ではない。むしろ遅く感じるほどだ。だというのに、

 

「ッ!?」

 

気がつけば目の前に護衛が迫っており剣が下方より跳ね上がってきていた。光輝は慌てて飛び退る。しかし、まるで磁石が引き合うかのようにピッタリと間合いを一定に保ちながら鞭のような剣撃が光輝を襲った。

 

不規則で軌道を読みづらい剣の動きに、''先読,,で辛うじて対応しながら一度距離を取ろうとするが、まるで引き離せない。''縮地,,で一気に距離を取ろうとしても、それを見越したように先手を打たれて発動に至らない。次第に光輝の顔に焦りが生まれてくる。

 

そして遂に、光輝がダメージ覚悟で剣を振ろうとした瞬間、その隙を逃さず護衛が魔法のトリガーを引く。

 

「穿て――''風撃,,」

 

呟くような声で唱えられた詠唱は小さな風の礫を発生させ、光輝の片足を打ち据えた。

 

「うわっ!?」

 

踏み込もうとした足を払われてバランスを崩す光輝。その瞬間、壮絶な殺気が光輝を射貫く。冷徹な眼光で光輝を睨む護衛の剣が途轍もない圧力を持って振り下ろされた。

 

刹那、光輝は悟る。彼は自分を殺すつもりだと。

 

実際、護衛はそうなっても仕方ないと考えていた。自分の攻撃に対応できないくらいなら、本当の意味で殺し合いを知らない少年に人間族のリーダーを任せる気など毛頭なかった。例えそれで聖教教会からどのような咎めが来ようとも、戦場で無能な味方を放置する方がずっと耐え難い。それならいっそと、そう考えたのだ。

 

しかし、そうはならなかった。

 

ズドンッ!

 

「ガァ!?」

 

先ほどの再現か。今度は護衛が吹き飛んだからだ。護衛が、地面を数度バウンドし両手も使いながら勢いを殺して光輝を見る。光輝は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。

 

護衛の剣が振り下ろされる瞬間、光輝は生存本能に突き動かされるように〝限界突破〟を使ったのだ。これは、一時的に全ステータスを三倍に引き上げてくれるという、ピンチの時に覚醒する主人公らしい技能である。

 

だが、光輝の顔には一切余裕はなかった。恐怖を必死で押し殺すように険しい表情で剣を構えている。

 

そんな光輝の様子を見て、護衛はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ハッ、少しはマシな顔するようになったじゃねぇか。さっきまでのビビリ顔より、よほどいいぞ!」

「ビビリ顔? 今の方が恐怖を感じてます。……さっき俺を殺す気ではありませんでしたか? これは模擬戦ですよ?」

「だからなんだ? まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ったか? この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ? その自覚があんのかよ?」

「自覚って……俺はもちろん人々を救って……」

「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる? 剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな? 最初に言ったろ? 気抜いてっと……死ぬってな!」

 

護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら光輝に迫ろう脚に力を溜める。光輝は苦しそうに表情を歪めた。

 

しかし、護衛が実際に踏み込むことはなかった。なぜなら、護衛と光輝の間に光の障壁がそそり立ったからだ。

 

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

イシュタルが発動した光り輝く障壁で水を差された''ガハルド殿,,と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。そして、興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

 

すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。

 

40代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 

その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

 

そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。まさかの事態にエリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。それに溜息を吐きながら「もう良い」とかぶりを振るエリヒド陛下。

 

光輝達は完全に置いてきぼりだ。なんでも、この皇帝陛下、フットワークが物凄く軽いらしく、このようなサプライズは日常茶飯事なのだとか。

 

なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。

 

しかし、その晩、部屋で部下に本音を聞かれた皇帝陛下は面倒くさそうに答えた。

 

「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。''神の使徒,,である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」

「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」

「あぁ? 違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」

 

どうやら、皇帝陛下の中で光輝達勇者一行は興味の対象とはならなかったようである。無理もないことだろう。彼等は数ヶ月前までただの学生。それも平和な日本の。歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど出来ているはずがないのである。

 

「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。今は、小僧どもに巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ。教皇には気をつけろ」

「御意」

 

そんな評価を下されているとは露にも思わず、光輝達は、翌日に帰国するという皇帝陛下一行を見送ることになった。用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。本当にフットワークの軽い皇帝である。

 

ちなみに、早朝訓練をしている雫を見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった。雫は丁寧に断り、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と不敵に笑いながら引き下がったので特に大事になったわけではなかったが、その時、光輝を見て鼻で笑ったことで光輝はこの男とは絶対に馬が合わないと感じ、しばらく不機嫌だった。

 

雫の溜息が増えたことは言うまでもない。



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第3章 残念ウサギとライセン迷宮
第11話ライセン大峡谷と残念なウサギ


魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に総司達の頬が緩む。

 

やがて光が収まり目を開けた総司達の視界に写ったものは……。

 

洞窟だった。

 

「何故だ………」

「なんでやねん」

 

魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていた総司とハジメは、代わり映えしない光景に思わず半眼になってツッコミを入れてしまった。正直、めちゃくちゃガッカリだった。

 

そんな総司の服の裾をクイクイと引っ張るユエ。何だ? と顔を向けてくる総司にユエは自分の推測を話す。慰めるように。

 

「……秘密の通路……隠すのが普通」

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

「そう、だよね……」

 

そんな簡単なことにも頭が回らないとは、どうやら自分は相当浮かれていたらしいと恥じる総司と香織。頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、総司達は暗闇を問題としないので道なりに進むことにした。

 

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。5人は、一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。総司達はこの数ヶ月、ユエとアヴローラに至っては300年間、求めてやまなかった光。

 

総司達は、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。

 

近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。総司は、〝空気が旨い〟という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 

そして、総司達は同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は1・2キロメートル、幅は900メートルから最大8キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

 【ライセン大峡谷】と。

 

総司達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々さんさんと暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

 

たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた総司達の表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエとアヴローラでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。

 

「……やっとだ……やっと……!」

「うん………!」

「……戻って来たんだな……」

「……んっ」

「……うれしい」

 

5人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「しっーーー!」

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

「んっーー!!」

「ヤッタァー!」

「っーーーーー!!」

 

小柄なアヴローラを抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。総司に至っては香織と濃厚な口付けを交わし、ユエは総司の背中に乗りはしゃいでいた。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓つまずき転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、5人でケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

ようやく5人の笑いが収まった頃には、すっかり……魔物に囲まれていた。

 

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」

「………………」

 

ドンナー・シュラークを抜きながらハジメが首を傾げ、総司は無言でエクスカリバーを抜いた。座学に励んでいたハジメには、ここがライセン大峡谷であり魔法が使えない場所であると理解していた。

 

「……分解される。でも力づくでいく」

 

ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。もちろん、ユエの魔法とアヴローラの眷獣も例外ではない。しかし、ユエとアヴローラはかつての吸血姫であり、内包魔力は相当なものであるうえ、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している。

つまり、ユエ曰く、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいということらしい。

 

「力づくって……効率は?」

「……十倍くらい」

 

どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。

 

「あ~、じゃあ俺がやるからアヴローラは身を守る程度にしとけ」

「……でも」

「香織とユエもな」

「むぅ………」

「んぅ……」

 

危険だからという事で香織とユエ、そしてアヴローラに前線に出るな、と言う総司達に対して。

 

「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ? 任せてくれ」

「……わかった。我、待ってる」

「そうだね……」

「んっ……わかった」

 

香織達が渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持が傷ついたようだ。唇を尖らせて拗ねている。

 

そんな香織達の様子に苦笑いしながらハジメはおもむろにドンナーを発砲し、総司はエクスカリバーを振り抜いた。相手の方を見もせずに、ごくごく自然な動作でスっと照準を魔物の一体に合わせると、これまた自然に引き金を引き、剣を振り抜いたのだ。

 

あまりに自然すぎて攻撃をされると気がつけなかったようで、取り囲んでいた魔物の2体が何の抵抗もできずに、その頭部を爆散させ死に至った。辺りに銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのかわからないというように凍り付いている。確かに、10倍近い魔力を使えば、ここでも〝纏雷〟は使えるようだ。問題なくレールガンは発射できた。エクスカリバーに関しては、魔力ではなく星の息吹を用いている為制限なく使えるのだ。

 

未だ凍りつく魔物達に、総司達は不敵な笑みを浮かべる。

 

「さて、奈落の魔物とお前達、どちらが強いのか……試させてもらおうか?」

「いや、弱いに決まってるだろう?何当たり前のこと確かめようとしてるんだお前は」

 

スっとガン=カタの構えをとったハジメと、エクスカリバーを構える総司の眼に殺意が宿る。その眼を見た周囲の魔物達は気がつけば一歩後退っていた。しかも、そのことに気がついてすらいない。本能で感じたのだろう。自分達が敵対してはいけない化物を相手にしてしまったことを。

 

常人なら其処にいるだけで意識を失いそうな壮絶なプレッシャーが辺り一帯を覆う中、遂に魔物の1体が緊張感に耐え切れず咆哮を上げながら飛び出した。

 

「ガァアアアア!!」

 

ズドンッ!!

ズパンッ!!

 

しかし、ほぼ同時に響き渡った銃声と共に一条の閃光が走り、その魔物は避けるどころか反応すら許されず頭部を吹き飛ばされた。

そして、それと同時に剣が振り抜かれた音が響き渡った。それと共に魔物には一筋の線が入り真っ二つにされた。

 

そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙。魔物達は、ただの一匹すら逃げることも叶わず、まるでそうあることが当然の如く頭部を吹き飛ばされ、身体を二分され骸を晒していく。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

 

ドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまったハジメは、首を僅かに傾げながら周囲の死体の山を見やる。

 

その傍に、トコトコとアヴローラが寄って来た。

 

「……どうしたの?」

「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

「……ハジメが化物」

「ひでぇいい様だな。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」

 

そう言って肩を竦めたハジメは、もう興味がないという様に魔物の死体から目を逸らした。

 

「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、7大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

「……なぜ、樹海側?」

「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

「……確かに」

 

ハジメの提案に、アヴローラも頷いた。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。ハジメの''空力,,やユエの風系魔法を使えば、絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。

 

ハジメは、右手の中指にはまっている''宝物庫,,に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにアヴローラが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。

 

その近くでは総司が《王の財宝》から魔力駆動四輪を出していた。総司は、助手席に香織を乗せ、後部座席にユエを乗せてエンジンを吹かしながらハジメ達が乗る二輪と並走し始めた。

 

ハジメのものは、地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かである。ハジメとしてはエンジン音がある方がロマンがあると思ったのだが、エンジン構造などごく単純な仕組みしか知らないので再現できなかった。ちなみに速度調整は魔力量次第である。まぁ、ただでさえ、ライセン大峡谷では魔力効率が最悪に悪いので、あまり長時間は使えないだろうが。

 

ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。総司達は、迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動車を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 

もっとも、その間もハジメの手だけは忙しなく動き続け、1発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らせているのだが。

 

しばらく魔力駆動車を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう30秒もしない内に会敵するだろう。

 

魔力駆動車を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が2体現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が2つある、双頭のティラノサウルスモドキと、同じくティラノサウルスに似ているが4足歩行で前足の横には大きな翼が付いている、某ハンターさん達の世界にいるティガレックスだ。

 

だが、真に注目すべきは双頭ティラノやティガレックスではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした2人の少女だろう。

 

総司達はは魔力駆動車を止めて胡乱な眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女達を見やる。

 

「……何だあれ?」

「……兎人族?」

「なんでこんな所に? 兎人族って谷底が住処なの?」

「……聞いたことない」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「……悪ウサギ?」

 

この会話は上から順に総司⇒ユエ⇒香織⇒ユエ⇒ハジメ⇒アヴローラの順だ。

 

総司と香織とユエ、そして、ハジメとアヴローラは首を傾げながら、逃げ惑うウサミミ少女達を尻目に呑気にお喋りに興じる。助けるという発想はないらしい。別に、ライセン大峡谷が処刑方法の1つとして使用されていることからウサミミ少女達が犯罪者であることを考慮したわけではない。赤の他人である以上、単純に面倒だし興味がなかっただけである。

 

ハジメは相変わらずの変心ぶり、鬼畜ぶりだった。アヴローラの時とは訳が違う。ウサミミ少女達にシンパシーなど感じていないし、メリットが見当たらない以上ハジメの心には届かない。助けを求める声に毎度反応などしていたらキリがないのである。ハジメは既に、この世界自体見捨てているのだから今更だ。

 

しかし、そんな呑気な総司達をウサミミ少女達の方が発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のまま総司達を凝視している。

 

そして、今度はティガレックスが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。……総司達の方へ。

 

それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女達の必死の叫びが峡谷に木霊し総司達に届く。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノとティガレックスが迫っていて今にもウサミミ少女達に食らいつこうとしていた。このままでは、ハジメ達の下にたどり着く前にウサミミ少女達は喰われてしまうだろう。

 

流石に、ここまで直接助けを求められたらハジメも……。

 

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

「……迷惑」

 

やはり助ける気はないらしい。必死の叫びにもまるで動じていなかった。むしろ、物凄く迷惑そうだった。総司達を必死の形相で見つめてくるウサミミ少女達から視線を逸らすと、ハジメに助ける気がないことを悟ったのか、少女の目から、ぶわっと更に涙が溢れ出した。一体どこから出ているのかと目を見張るほどの泣きっぷりだ。

 

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

「おねがい〜!!」

 

ウサミミ少女達が更に声を張り上げる。

 

それでも、ハジメは、全く助ける気がないので、このまま行けばウサミミ少女達は間違いなく喰われていたはずだった。そう、双頭ティラノとティガレックスがウサミミ少女の向こう側に見えた総司達に殺意を向けさえしなければ。

 

双頭ティラノとティガレックスが逃げるウサミミ少女達の向かう先に総司達を見つけ、殺意と共に咆哮を上げた。

 

「「「グゥルァアアアア!!」」」

 

それに敏感に反応するハジメ。

 

「アァ?」

 

今、自分は生存を否定されている。捕食の対象と見られている。敵が己の行く道に立ち塞がっている! 双頭ティラノの殺意に、ハジメの体が反応し、その意志が敵を殺せ! と騒ぎ立てた。

 

双頭ティラノが、ウサミミ少女達に追いつき、片方の頭がガパッと顎門を開く。青髪のウサミミ少女はその気配にチラリと後ろを見て目前に鋭い無数の牙が迫っているのを認識し、「ああ、ここで終わりなのかな……」とその瞳に絶望を写した。

 

が、次の瞬間、

 

ドパンッ!!

 

聞いたことのない乾いた破裂音が峡谷に響き渡り、恐怖にピンと立った二本のウサミミの間を一条の閃光が通り抜けた。そして、目前に迫っていた双頭ティラノの口内を突き破り後頭部を粉砕しながら貫通した。

 

力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。

 

その衝撃で、青みがかった銀髪のウサミミ少女は吹き飛んだ。狙いすましたように総司の下へ。

 

「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い!」

 

眼下の総司に向かって手を伸ばすウサミミ少女。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。たとえ酷い泣き顔でも男なら迷いなく受け止める場面だ。

 

「はぁ〜………右に避けろ」

 

青みがかった銀髪のウサミミ少女は疑問符を浮かべながら言われた通りにした。

 

刹那、

 

スパンッ!!

 

剣を振り抜いただけでは絶対に出ないような音がして、驚いて背後を見ると、

 

「グ、ガァァアア……」

 

真っ二つになったティガレックスがいた。

 

「えぇー!?」

 

青みがかった銀髪のウサミミ少女は驚愕の悲鳴を上げながら総司の眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

「……面白い」

 

ユエが総司の肩越しに青みがかった銀髪のウサミミ少女の醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。そうこうしている内に双頭ティラノが絶命している片方の頭を、何と自分で喰い千切りバランス悪目な普通のティラノになった。

 

普通ティラノがその眼に激烈な怒りを宿して咆哮を上げる。その叫びに痙攣していた青髪のウサミミ少女が跳ね起きた。意外に頑丈というか、しぶとい。あたふたと立ち上がった青髪のウサミミ少女は、再び涙目になりながら、これまた意外に素早い動きでハジメの後ろに隠れる。

 

あくまでハジメに頼る気のようだ。まぁ、自分だけだとあっさり死ぬし、ハジメが何かして片方の頭を倒したのも理解していたので当然といえば当然の行動なのだが。

 

「おい、こら。存在がギャグみたいなウサミミ! 何勝手に盾にしてやがる。巻き込みやがって、潔く特攻してこい!」

 

ハジメのコートの裾をギュッと掴み、絶対に離さない!としがみつくウサミミ少女を心底ウザったそうに睨むハジメ。後ろの席に座るアヴローラが、離せというように足先で小突いている。

 

「い、いや!今、離したら見捨てるつもりだよね!」

「当たり前だろう? なぜ、見ず知らずウザウサギを助けなきゃならないんだ」

「そ、即答!? 何が当たり前なの!?あなたにも善意の心はあるでしょう!? いたいけな美少女を見捨てて良心は痛まないの!?」

「そんなもん奈落の底に置いてきたわ。つぅか自分で美少女言うなよ」

「な、なら助けてくれたら……そ、その貴方のお願いを、な、何でも一つ聞きくわよ?」

 

頬を染めて上目遣いで迫る青髪のウサミミ少女。ツンデレだがあざとい、実にあざとい仕草だ。涙とか鼻水とかで汚れてなければ、さぞ魅力的だっただろう。実際に、近くで見れば汚れてはいるものの自分で美少女と言うだけあって、かなり整った容姿をしているようだ。青髪碧眼の美少女である。並みの男なら、例え汚れていても堕ちたかもしれない。

 

だが、目の前にいる男は普通ではなかった。

 

「いらねぇよ。ていうか汚い顔近づけるな、汚れるだろが」

 

どこまでも行く鬼畜道。

 

「き、汚い!? 言うにことかいて汚い! あんまりじゃない! 断固抗議するわッ「グゥガァアア!」ヒィー! お助けぇ~!」

 

ハジメの言葉に反論しようと声を張り上げた瞬間、てめぇら無視してんじゃねぇ! とでも言うようにティラノが咆哮を上げて突進しようと身をたわめた。

 

青髪のウサミミ少女は情けない悲鳴を上げて無理やりハジメとアヴローラの間に入り込もうとする。アヴローラが、イラッときたのか魔力駆動二輪に乗ろうとするウサミミ少女を蹴り落とそうとゲシゲシ蹴りをかますが、青髪のウサミミ少女は頬に靴跡を刻まれながら「絶対に離さないわよ!」と死に物狂いでしがみつき引き離せない。

 

そんな様子をみてコケにされていると感じたのか、より一層怒りを宿した眼光でハジメ達を睨み、遂にティラノが突進を開始した。

 

直後、ハジメの手が跳ね上がり銃口がティラノの額をロックオン。コンマ一秒にも満たない時間で照準から発砲までプロセスを完了し、一発の銃声と共に閃光がティラノの眉間を貫く。

 

一瞬、ビクンと痙攣した後、ティラノはあまりに呆気なく絶命し、地響きを立てながら横倒しに崩れ落ちた。

 

その振動と音に青髪のウサミミ少女が思わず「へっ?」と間抜けな声を出し、おそるおそるハジメの脇の下から顔を出してティラノの末路を確認する。

 

「し、死んでる…そんなダイヘドアが一撃なんて…」

 

青髪のウサミミ少女は驚愕も表に目を見開いている。どうやらあの双頭ティラノは〝ダイヘドア〟というらしい。

 

呆然としたままダイヘドアの死骸を見つめ硬直している青髪のウサミミ少女だが、その間もアヴローラに蹴られ、ハジメにしがみついたままである。さっきから、長いウサミミがハジメの目をペシペシと叩いており、いい加減本気で鬱陶しくなったハジメは脇の下の脳天に肘鉄を打ち下ろした。

 

「へぶぅ!!」

 

呻き声を上げ、「頭がぁ~、頭がぁ~」と叫びながら両手で頭を抱えて地面をのたうち回るウサミミ少女。それを冷たく一瞥した後、ハジメは何事もなかったように魔力駆動二輪に魔力を注ぎ先へ進もうとする。

 

その気配を察したのか、今までゴロゴロ地面を転がっていたくせに物凄い勢いで跳ね起きて、「逃がすかぁ~!」と再びハジメの腰にしがみつく青髪のウサミミ少女。やはり、なかなかの打たれ強さだ。そして、総司達と一緒に青みがかった銀髪のウサミミ少女もやって来て、自己紹介を始めた。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

「先程は助けて頂きありがとう。私は兎人族ハウリアの一人、レナというの。取り敢えず私の仲間も助けて欲しいんだけど」

 

そして、なかなかに図太かった。

 

ハジメは、しがみついて離れないウサミミ少女を横目に見る。そして、何故か同じ状況に陥っていない総司を見て、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった。



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第12話残念ウサギ達の事情

オリキャラ登場です。


「「私達の家族も助けて(下さい)!」」

 

峡谷に残念ウサミミ少女改めシア・ハウリアとレナ・ハウリアの声が響く。どうやら、このウサギ2人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ。よほど必死なのか、先程から相当強くユエとアヴローラに蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。

 

あまりに必死に懇願するので、ハジメはレナに対して仕方なく……〝纏雷〟をしてやった。

 

「アババババババババババアバババ!?」

 

電圧と電流は調整してあるので死にはしないが、しばらく動けなくなるくらいの威力はある。レナのウサミミがピンッと立ちウサ毛がゾワッと逆だっている。〝纏雷〟を解除してやると、ビクンッビクンッと痙攣しながらズルズルと崩れ落ちた。

 

「全く、非常識なウザウサギだ。アヴローラ、それに総司達も行くぞ?」

「わかった……」

「はぁ〜………」

 

総司達は何事もなかったように再び魔力駆動車に魔力を注ぎ込み発進させようとした。

 

しかし……。

 

「「に、にがざない(じませんよ~)」」

 

ゾンビの如く起き上がり総司の脚にしがみつくシアとハジメの脚に縋り付くレナ。流石に驚愕した総司達は思わず魔力注入を止めてしまう。

 

「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力出したんだが……何で動けんるんだよ? つーか、ちょっと怖ぇんだけど……」

「……不気味」

「て言うか、勝手に開けて汚すな!」

「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、肘鉄とか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! お詫びに家族を助けて下さい!」

「そうよ!花の乙女にこんな事をしたんだから!責任取りなさいよね!」

 

ぷんすかと怒りながら、さらりと要求を突きつけるシアとレナ。案外余裕そうである。このまま引き摺っていこうかとも考えた総司達だが、何か執念で何処までもしがみついてきそうだと思い直す。血まみれで引きずられたまま決して離さないウサミミ少女達……完全にホラーである。

 

「ったく、何なんだよ。取り敢えず話聞いてやるから離せ。ってさり気なく俺の外套で顔を拭くな!」

「そうだな、話は聞いてやるから車は汚すな!」

 

話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシア達は、これまたさり気なく総司のズボンとハジメの外套で汚れた顔を綺麗に拭った。本当にいい性格をしている。イラッと来たハジメが再び肘鉄を食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。

 

「ま、また殴ったわね!父様にも殴られたことないのに!よく私のような美少女を、そうポンポンと……もしや殿方同士の恋愛の方が……だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したのね!そうだッあふんッ!?」

 

なにやら不穏当な発言が聞こえたので蹲うずくまるレナの脳天目掛けて踵落としをするハジメ。その額には青筋が浮かんでいる。

 

「誰がホモだ、ウザウサギ。っていうか何でそのネタ知ってんだよ。アヴローラと言いお前と言い、どっから仕入れてくるんだ…? まぁ、それは取り敢えず置いておくとして、お前の誘惑だがギャグだが知らんが、誘いに乗らないのは、お前より遥かにレベルの高い美少女がすぐ隣にいるからだ。アヴローラを見て堂々と誘惑できるお前の神経がわからん」

 

そう言ってハジメはチラリと隣のアヴローラを見る。アヴローラはハジメの言葉に赤く染まった頬を両手で挟み、体をくねらせてイヤンイヤンしていた。腰辺りまで伸びたゆるふわの金髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、ビスクドールの様に整った容姿が今は照れでほんのり赤く染まっていて、見る者を例外なく虜にする魅力を放っている。

 

格好も、ハジメと出会ったばかりの頃の様なみすぼらしい物ではない。前面にフリルのあしらわれた純白のドレスシャツに、これまたフリル付きの黒色ミニスカート、その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織っている。足元はショートブーツにニーソだ。どれも、オスカーの衣服に魔物の素材を合わせて、アヴローラ自身が仕立て直した逸品だ。高い耐久力を有する防具としても役立つ衣服である。

 

ちなみに、ハジメは黒に赤のラインが入ったコートと下に同じように黒と赤で構成された衣服を纏っており、これもアヴローラ作だ。当初、アヴローラはハジメにも白を基調とした衣服を着せてペアルック気味にしたがったのだが、流石に恥ずかしいのと、自身の髪が白色になっているので全身白は嫌だとハジメが懇願した結果、今のスタイルに落ち着いた。

 

そして、総司は水色に白いラインが入ったマントのようなコート羽織り、下は群青色のズボン(と言うよりはドレス気味に膨らむブリ○チの死○装の下側の感じ)を履いており、ユエはアヴローラと同じ様な服を着ていて、香織は元々着ていた戦闘装束を改良した、まさに聖女の様な服を着ている。これは全てユエ作だ。

 

そんな可憐なアヴローラを見て、「うっ」と僅かに怯むレナ。しかし、ハジメには身内補正が掛かっていることもあり、二人の容姿に関しては多分に主観的要素が入り込んでいる。つまり、客観的に見ればレナ達も負けず劣らずの美少女ということだ。

 

ロングストレートの青髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで青く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。

 

何より……アヴローラにはないものがある。そう、レナ達は大変な巨乳の持ち主だった。ボロボロの布切れのような物を纏っているだけなので殊更強調されてしまっているそれ凶器は、固定もされていないのだろう。彼女が動くたびにぶるんぶるんと揺れ、激しく自己を主張している。ぷるんぷるんではなくぶるんぶるんだ。念の為。

 

要するに、彼女が自分の容姿やスタイルに自信を持っていても何らおかしくないのである。むしろ、普通にウザそうにしているハジメが異常なのだ。変心前なら「ウサミミー!!」とル○ンダイブを決めたかもしれないが……

 

それ故に、矜持を傷つけられたレナは言ってしまった。言ってはならない言葉を……

 

「で、でも! 胸なら私が勝ってるわ!そっち女の子はペッタンコじゃない!」

 

''ペッタンコじゃない,,''ペッタンコじゃない,,''ペッタンコじゃない,,

 

峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊こだまする。恥ずかしげに身をくねらせていたアヴローラがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。

 

ハジメは「あ~あ」と天を仰ぎ、無言で合掌する。ウサミミよ、安らかに眠れ……。

 

ちなみに、アヴローラ達は着痩せするが、それなりにある。断じてライセン大峡谷の如く絶壁ではない。

 

震えるレナのウサミミに、囁ささやくようなアヴローラの声がやけに明瞭に響いた。

 

―――― ……お祈りは済ませた? 

―――― ……謝ったら許してくれたり

―――― ………… 

―――― 死にたくなぁい! 死にたくなぁい! 

 

「〝嵐帝〟」

 

―――― アッーーーー!! 

 

突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるレナ。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共にハジメ達の眼前に墜落した。尚、シアは完全にとばっちりではあるが香織とユエにシバかれている。

 

まるで犬○家のあの人のように頭部を地面に埋もれさせビクンッビクンッと痙攣している。完全にギャグだった。その神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女である。ただでさえボロボロの衣服? が更にダメージを受けて、もはやただのゴミのようだ。逆さまなので見えてはいけないものも丸見えである。百年の恋も覚める姿とはこの事だろう。

 

香織とユエにアヴローラは「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとトコトコと総司達の下へ戻り、アヴローラは二輪に腰掛けるハジメを下からジッと見上げた。

 

「……おっきい方が好き?」

 

実に困った質問だった。ハジメとしては「YES!」と答えたい所だったが、それを言えば未だ前方で痙攣している残念ウサギ達と仲良く犬○家である。それは勘弁して欲しかった。

 

「……アヴローラ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」

「……」

 

取り敢えずYESともNOとも答えず、ふわっとした回答を選択するハジメ。実にヘタレである。アヴローラはスっと目を細めたものの一応の納得をしたのか無言で後席に腰掛けた。

 

内心、冷や汗を流すハジメは、居心地の悪い沈黙を破ろうと話題を探すが何も見つからない。ハジメのライ○カードは役立たずだった。

 

だが、ハジメが視線を彷徨さまよわせた直後、痙攣していたレナの両手がガッと地面を掴み、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿を捉え、これ幸いにとレナに注意を向け話のタネにする。

 

「アイツ動いてるぞ……本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが……」

「……………………ん」

 

いつもより長い間の後、返事をしてくれたことにホッとしていると、ズボッという音と共にレナが泥だらけの顔を抜き出した。

 

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」

 

涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すレナは、意味不明なことを言いながらハジメ達の下へ這い寄って来た。既にホラーだった。

 

「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ……何者なんだ?」

 

ハジメの胡乱な眼差しに、ようやく本題に入れると居住まいを正すレナ。バイクの座席に腰掛けるハジメ達の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが……。

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います」

「私はその妹のレナ・ハウリアと言うわ。実は……」

 

語り始めたレナの話を要約するとこうだ。

 

レナ達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、1つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 

そんな兎人族の1つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が2人生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子達の髪は鮮やかな青髪と青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を1つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子達を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子達の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。

 

故に、ハウリア族は女の子達を隠し、16年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女達の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 

行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 

しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 

女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

 

全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

 

しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

 

そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……

 

「……気がつけば、60人はいた家族も、今は40人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、レナは、総司と香織にユエ、そしてアヴローラやハジメと同じ、この世界の例外というヤツらしい。特に、ユエと同じ、先祖返りと言うやつなのかもしれない。

 

話を聞き終ったハジメは特に表情を変えることもなく端的に答えた。

 

 「断る」




レナの容姿はSAOの桐ヶ谷直葉を青髪にしてウサミミを生やした感じです。


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第13話契約完了

遅くなりました。


「断る」

 

総司の端的な言葉が静寂をもたらした。何を言われたのか分からない、といった表情のシア達は、ポカンと口を開けた間抜けな姿で総司をマジマジと見つめた。そして、総司達が話は終わったと魔力駆動車に乗ろうとしてようやく我を取り戻し、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!なんでよ!今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ!安心しろ!!俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところよ!流石の私もコロっといっちゃうところよ!」

「何、いきなり美少女との出会いをフイにしているですか!って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」

 

シア達の抗議の声をさらりと無視して出発しようとする総司達の脚に再びシアが飛びつく。さっきまでの真面目で静謐な感じは微塵もなく、形振り構わない残念ウサギが戻ってきた。

 

足を振っても微塵も離れる気配がないレナに、総司は溜息を吐きながらジロリと睨む。

 

「なら、お前達を助けて、俺達に何のメリットがあるんだよ」

「メ、メリット?」

「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうするんだよ?また帝国に捕まるのが関の山だろう。で、それ避けたきゃ、また俺達を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」

「うっ、そ、それは……で、でも!」

「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもの抱えていられないんだよ」

「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」

「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ?……お前の固有魔法と関係あるのか?」

 

一向に折れない総司に涙目で意味不明なことを口走るシア達。そう言えば、何故シア達が仲間と離れて単独行動をしていたのかという点も疑問である。その辺りのことも関係あるのかと総司は尋ねた。

 

「え?あ、はい。''未来視,,といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか?みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ!''未来視,,があれば危険とかも分かりやすいですし!少し前に見たんです!貴方が私達を助けてくれている姿が!実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」

 

シアの説明する''未来視,,は、彼女の説明通り、任意で発動する場合は、仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。これには莫大な魔力を消費する。一回で枯渇寸前になるほどである。また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。

 

どうやら、シア達は、元いた場所で、総司達がいる方へ行けばどうなるか? という仮定選択をし、結果、自分と家族を守る総司の姿が見えたようだ。そして、総司を探すために飛び出してきた。こんな危険な場所で単独行動とは、よほど興奮していたのだろう。

 

「そんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」

 

総司の指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。

 

「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて……」

「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」

「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」

「ただの出歯亀じゃねぇか!貴重な魔法何に使ってんだよ」

「うぅ~猛省しておりますぅ~」

「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」

 

呆れたようにそっぽを向く総司にシアが泣きながら縋り付く。総司が、いい加減引きずっても出発しようとすると、何とも意外な所からシア達の援護が来た。

 

「……総司、連れて行こう」

「総ちゃん………ダメ?」

「ユエ?香織?」

「!?最初から貴女達のこといい人だと思ってました!ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」

 

香織達の言葉に総司は訝しそうに、シア達は興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。

 

「……樹海の案内に丁度いい」

「あ~」

 

確かに、樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強い。樹海を迷わず進むための対策も一応考えていたのだが、若干、乱暴なやり方であるし確実ではない。最悪、現地で亜人族を捕虜にして道を聞き出そうと考えていたので、自ら進んで案内してくれる亜人がいるのは正直言って有り難い。ただ、シア達はあまりに多くの厄介事を抱えているため逡巡する総司。

 

そんな総司に、香織達は真っ直ぐな瞳を向けて逡巡を断ち切るように告げた。

 

「……大丈夫、私達は最強」

「私達は最強だよ?」

 

それは、奈落を出た時の総司の言葉。この世界に対して遠慮しない。互いに守り合えば最強であると。総司は自分の言った言葉を返されて苦笑いするしかない。

 

兎人族の協力があれば断然、樹海の探索は楽になるのだ。それを帝国兵や亜人達と揉めるかもしれないから避けるべき等と''舌の根も乾かぬうちに,,である。もちろん、好き好んで厄介事に首を突っ込むつもり等さらさらないが、ベストな道が目の前にあるのに敵の存在を理由に避けるなど有り得ない。道を阻む敵は叩き潰してでも進むと決めたのだ。

 

「そうだな。喜べ、残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」

 

確かに言っていることは間違いではないが、セリフが完全にヤクザである。しかし、それでも、峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わりはなく、シア達は飛び上がらんばかりに喜びを表にした。

 

「あ、ありがとうございます!うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

「おどゔさーん、おがぁざーん!」

 

ぐしぐしと嬉し泣きするシア達。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。

 

「あ、あの、宜しくお願いするわ!」

「そ、それでお二人のことは何と呼べば……」

「ん?そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」

「……我……アヴローラ・フロレスティーナ」

「俺は朝田総司だ。なんとでも呼べ」

「……ユエ」

「白崎香織だよ。宜しくね」

「ハジメとアヴローラちゃんね」

「総司さんにユエちゃん、それに香織さんですね〜」

 

二人の名前を何度か反芻し覚えるシア達。しかし、ユエが不満顔でシアに抗議する。

 

「……さんを付けろ。残念ウサギ」

「ふぇ!?」

 

ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。どうもユエは、シアが気に食わないらしい。何故かは分からないが……。例え、ユエの視線がシアの体の一部を憎々しげに睨んでいたとしても、理由は定かではないのだ!

 

「ほれ、取り敢えず残念ウサギも後ろに乗れ」

「中入れシア」

 

総司達がユエの内心を華麗にスルーしながら残念ウサギ共に指示を出す。シア達は少し戸惑っているようだ。それも無理はない。なにせこの世界に魔力駆動車等と言う乗り物は存在しないのだ。しかし、取り敢えず何らかの乗り物である事はわかるので、レナは恐る恐るアヴローラの後ろに跨り、シアは空いているドアから車に乗り込んだ。

 

とある魔物の革を使ったタンデムシートだが、アヴローラが小柄なので十分に乗るスペースはある。レナは、シートの柔らかさに驚きつつ、前方のアヴローラに捕まった。その凶器を押し付けながら。

 

その感触にビクッとしたアヴローラは、おもむろに立ち上がると器用にハジメの前に潜り込む。アヴローラの小柄な体格は、問題なくハジメの腕の間にすっぽりと収まった。どうやら、背中に当たる凶器の感触に耐え切れなかったらしい。苦い表情で背後のハジメに体重を預けるアヴローラにハジメは事情を察して苦笑いする。

 

レナは「え?何で?」と何も分かっていない様子だったが、いそいそと前方にズレるとハジメの腰にしがみついた。ハジメは特に反応することもなく魔力駆動二輪に魔力を注ぎ込む。決して思わず反応してしまいそうになるのを堪えている訳ではない。ないったらない。

 

シアに関しては後部座席に乗っただけだが、ぷるん、と揺れるソレを見たユエは一瞬般若を覗かせた。香織に至っては助手席に乗りながらどうやってシアのソレをもぎ取るか考えていた。

 

シアが後部座席に乗り込んだのを確認した総司は、凶悪なまでのソレを視界に入れない様にして魔力駆動四輪を発進させた。

 

そんな総司と香織とユエの微妙な内心には微塵も気づかずに、シアは総司に後部座席から疑問をぶつける。

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物?何なのでしょう?それに、総司さんもユエさん、あと、ハジメさん魔法使いましたよね?ここでは使えないはずなのに……」

「あ~、それは道中でな」

 

そう言いながら、総司達は魔力駆動車を一気に加速させ出発した。悪路をものともせず爆走する乗り物に、レナがハジメの肩越しに「きゃぁああ~!」と悲鳴を上げた。地面も壁も流れるように後ろへ飛んでいく。

 

谷底では有り得ない速度に目を瞑ってギュッとハジメにしがみついていたレナも、しばらくして慣れてきたのか、次第に興奮して来たようだ。ハジメがカーブを曲がったり、大きめの岩を避けたりする度にきゃっきゃっと騒いでいる。

 

総司達は、道中、魔力駆動車の事や総司とユエが魔法を使える理由、ハジメの武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。すると、シア達は目を見開いて驚愕を表にした。

 

「え、それじゃあ、お三方も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

「ああ、そうなるな」

「……ん」

 

しばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様に運転席のシートの裏に顔を埋めた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。

 

「……いきなり何だ?騒いだり落ち込んだり泣きべそかいたり……情緒不安定なヤツだな」

「……手遅れ?」

「手遅れって何ですか!手遅れって!私は至って正常です!……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

「「……」」

 

どうやら魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていたようだ。家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族、シア達のために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。それでも、いや、だからこそ、''他とは異なる自分,,に余計孤独を感じていたのかもしれない。

 

シアの言葉に、ユエ達は思うところがあるのか考え込むように押し黙ってしまった。いつもの無表情がより色を失っている様に見える。総司達には何となく、今ユエ達が感じているものが分かった。おそらく、ユエ達は自分とシア達の境遇を重ねているのではないだろうか。共に、魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において''同胞,,というべき存在は居なかった。

 

だが、ユエ達とシア達では決定的な違いがある。ユエ達には愛してくれる家族が居なかったのに対して、シア達にはいるということだ。それがユエ達に、嫉妬とまではいかないまでも複雑な心情を抱かせているのだろう。しかも、シア達から見れば、結局、その''同胞,,とすら出会うことができたのだ。中々に恵まれた境遇とも言える。

 

そんなユエの頭を総司はポンポンと撫でた。日本という豊かな国で何の苦労もなく親の愛情をしっかり受けて育った総司には、''同胞,,がいないばかりか、特異な存在として女王という孤高の存在に祭り上げられたユエの孤独を、本当の意味では理解できない。それ故、かけるべき言葉も持ち合わせなかった。出来る事は、''今は,,一人でないことを示す事だけだ。

 

ハジメとてそれは同じだ。

 

すっかり変わってしまったハジメだが、身内にかける優しさはある。あるいは、アヴローラと出会っていなければ、それすら失っていたかもしれないが。アヴローラはハジメが外道に落ちるか否かの最後の防波堤と言える。アヴローラがいるからこそ、ハジメは人間性を保っていられるのだ。その証拠に、ハジメはシア達との約束も守る気だ。樹海を案内させたらハウリア族を狙う帝国兵への対策もする気である。

 

そんな総司達の気持ちが伝わったのか、ユエとアヴローラは、無意識に入っていた体の力を抜いて、アヴローラはより一層、まるで甘えるようにハジメに背中を預け、ユエは運転席にいる総司の膝の上に座り甘える様に頬擦りをした。

 

「あの~、私のこと忘れてませんか?ここは『大変だったね。もう一人じゃないよ。傍にいてあげるから』とか言って慰めるところでは?私、コロっと堕ちゃいますよ?チョロインですよ?なのに、せっかくのチャンスをスルーして、何でいきなり二人の世界を作っているんですか!寂しいです!私も仲間に入れて下さい!大体、お二人は……」

「「黙れ残念ウサギ」」

「……はい……ぐすっ……」

「あ、あはは……」

 

泣きべそかいていたシアが、いきなり耳元で騒ぎ始めたので、思わず怒鳴り返す総司とユエ。しかし、泣いている女の子を放置して二人の世界を作っているのも十分ひどい話である。その上、逆ギレされて怒鳴られてと、何とも不憫なシアであった。その不憫さに香織は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。ただ、シアの売りはその打たれ強さ。内心では既に「まずは名前を呼ばせますよぉ~せっかく見つけたお仲間です。逃しませんからねぇ~!」と新たな目標に向けて闘志を燃やしていた。

 

尚、ハジメ達も同じ様なことになっていた。

 

「あの~、私のこと忘れてない?ここは『大変だったね。もう一人じゃないよ。傍にいてあげるから』とか言って慰めるところでは?私、コロっと堕ちるわよ?チョロインよ?なのに、せっかくのチャンスをスルーして、何でいきなり二人の世界を作っているの!寂しい!寂しいわよ!私も仲間に入れて!大体、貴方達は……」

「「黙れ残念ウサギ」」

「……はい……ぐすっ……」

 

しばらく、シア達が騒いでハジメとアヴローラか総司とユエに怒鳴られるという事を繰り返していると、遠くで魔物の咆哮が聞こえた。どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようだ。

 

「!総司さん!もう直ぐ皆がいる場所です!あの魔物の声……ち、近いです!父様達がいる場所に近いです!」

「はぁ〜、耳元で怒鳴るな!聞こえてる!飛ばすからしっかり掴まってろ!」

 

総司達は、魔力を更に注ぎ、魔力駆動車を一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。

 

そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。




最近忙しくて書く時間がないとです。


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第14話ハウリア族と合流

書き溜めはあるので投稿していきます。


ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。

 

ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 

そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。

 

「ハ、ハイベリア……」

 

後部座席にいるシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキは''ハイベリア,,というらしい。ハイベリアは全部で六匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。

 

そのハイベリア二匹が遂に行動を起こした。大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してくる。

 

ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎門を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 

周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは有り得ない。

 

なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、奈落の底より這い出た化物と数多ある騎士を統べる王がいるのだから…。

 

ドパンッ!!ドパンッ!!

ギューーン!!

 

峡谷に二発の乾いた破裂音と何かが高速で動く風切り音が響くと同時に三条の閃光が虚空を走る。その内の一発が、今まさに二人の兎人族に喰らいつこうとしていたハイベリアの眉間を狙い違わず貫いた。頭部を爆散させ、蹲る二人の兎人族の脇を勢いよく土埃を巻き上げながら滑り、轟音を立てながら停止する。

 

同時に、後方で凄まじい咆哮が響いた。呆然とする暇もなく、そちらに視線を転じる兎人族が見たものは、片方の腕が千切れて大量の血を吹き出しながらのたうち回るハイベリアの姿。すぐ近くには腰を抜かしたようにへたり込む兎人族の姿がある。おそらく、先のハイベリアに注目している間に、そちらでもハイベリアの襲撃を受けていたのだろう。二発の弾丸の内、もう一発は、突撃するハイベリアの片腕を撃ち抜いたようだ。バランスを崩したハイベリアが地に落ちて、激痛に暴れているのである。

 

「な、何が……」

 

先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の頭部を砕かれ絶命したハイベリアと、後方でのたうち回っているハイベリアを交互に見ながら呟いた。

 

すると、更に発砲音が聞こえ、のたうち回っていたハイベリアを幾条もの閃光が貫いていく。胴体をぐちゃぐちゃに粉砕されたハイベリアが、最後に一度甲高い咆哮を上げるとズズンッと地響きを立てながら崩れ落ち動かなくなった。

 

上空のハイベリア達が仲間の死に激怒したのか一斉に咆哮を上げる。それに身を竦ませる兎人族達の優秀な耳に、今まで一度も聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。今度は何事かと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、高速でこちらに向かてってくる三人の人影と大きな鉄の塊の様なものに乗る四人の人影。

 

その内の二人は見覚えがありすぎる。今朝方、突如姿を消し、ついさっきまで一族総出で探していた女の子達。一族が陥っている今の状況に、酷く心を痛めて責任を感じていたようで、普段の元気の良さがなりを潜め、思いつめた表情をしていた。何か無茶をするのではと、心配していた矢先の失踪だ。つい、慎重さを忘れて捜索しハイベリアに見つかってしまった。彼女を見つける前に、一族の全滅も覚悟していたのだが……。

 

その彼女が黒い乗り物の後ろで立ち上がり手をブンブンと振っている。その表情に普段の明るさが見て取れた。信じられない思いで彼女を見つめる兎人族。

 

「お待たせ〜!」

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 

その聞きなれた声音に、これは現実だと理解したのか兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。

 

「「「「「「「「「「シア、レナ!?」」」」」」」」」」

 

ハジメは、魔力駆動二輪を高速で走らせながらイラッとした表情をしていた。仲間の無事を確認した直後、レナは喜びのあまり後部座席に立ち上がりブンブンと手を振りだした。それ自体は別にいいのだが、高速で走る二輪から転落しないように、レナは全体重をハジメに預けて体を固定しており、小刻みに飛び跳ねる度に頭上から重量級の凶器巨乳がのっしのっしとハジメ頭部に衝撃を与えているのである。そのせいで照準がずれ、二匹目のハイベリアを一撃で仕留められなかった。

 

ハジメは、未だぴょこぴょこと飛び跳ね地味に妨害してくるレナの服を鷲掴みにする。それに気がついたレナが疑問顔でハジメを見た。ハジメは前方を向いているため表情は見えないが、何となく不穏な空気を察したレナが恐る恐る尋ねた。

 

「あ、あの、ハジメ?どうしたの?なぜ、服を掴むの?」

「…戦闘を妨害するくらい元気なら働かせてやろうと思ってな」

「は、働くって……な、何をするのよ?」

「なに、ちょっと飢えた魔物の前にカッ飛ぶだけの簡単なお仕事だ」

「!?ちょ、何言って、あっ、持ち上げないでぇ~、振りかぶらないでぇ~」

 

焦りの表情を表にしてジタバタもがくレナだが、筋力一万超のハジメに敵うはずもなくあっさり持ち上げられる。

 

ハジメは片手でハンドルを操作すると二輪をドリフトさせ、その遠心力も利用して問答無用に、上空を旋回するハイベリア達へ向けてレナをぶん投げた。

 

「逝ってこい!残念ウサギ!」

「いやぁあああーー!!」

 

物凄い勢いで空を飛ぶウサミミ少女。レナの悲鳴が峡谷に木霊する。有り得ない光景に兎人族達が「レナ~!」と叫び声を上げながら目を剥き、ハイベリアも自分達に向かって泣きながらぶっ飛んでくる獲物に度肝を抜かれているのか、レナが眼前を通り過ぎても硬直したまま上空を見上げているだけだった。

 

そして、その隙を逃すハジメではない。滞空するハイベリア等いい的である。銃声が四発鳴り響き、放たれた弾丸が寸分のズレもなくハイベリア達の顎を砕き貫通して、そのまま頭部を粉砕した。

 

断末魔の悲鳴を上げる暇すらなく、力を失って地に落ちていくハイベリア。シアを襲っていた双頭のティラノモドキ〝ダイヘドア〟と同等以上に、この谷底では危険で厄介な魔物として知られている彼等が、何の抵抗もできずに瞬殺された。有り得べからざる光景に、硬直する兎人族達。

 

そんな彼等の耳に上空から聞きなれた少女の悲鳴が降ってくる。

 

「あぁあああ~、たずけでぇ~、ハジメ〜!」

 

慌ててレナの落下地点に駆けつけようとする兎人族達を追い抜いたハジメが、ちょうど落下してきたレナを見事にキャッチして、二輪をドリフトさせながら停止した。そして、抱えたレナをペイッと捨てる。

 

「あふんっ!うぅ~、私の扱いがあんまりよ!待遇の改善を要求するわ。私もアヴローラちゃんみたいに大事にされたいのよぉ〜!」

 

しくしくと泣きながら抗議の声を上げるレナ。レナは、ハジメに対して恋愛感情を持っているわけではない。ただ、絶望の淵にあって〝見えた〟希望であるハジメをレナは不思議と信頼していた。全くもって容赦のない性格をしているが、交わした約束を違えることはないだろうと。しかも、ハジメはレナと同じ体質である。''同じ,,というのは、それだけで親しみを覚えるものだ。そして、そのハジメは、やはり''同じ,,であるアヴローラを大事にしている。この短時間でも明確にわかるくらいに。正直、レナは二人の関係が羨ましかった。それ故に、''自分も,,と願ってしまうのだ。

 

投擲とキャッチの衝撃で更にボロボロになった衣服を申し訳程度に纏い、足を崩してシクシク泣くレナの姿は実に哀れを誘った。流石に、やり過ぎた……とは思わず鬱陶しそうなハジメは宝物庫から予備のコートを取り出し、レナの頭からかけてやった。これ以上、傍でめそめそされたくなかったのだ。反省の色が全くない。

 

しかし、それでもレナは嬉しかったようである。突然に頭からかけられたものにキョトンとするものの、それがコートだとわかるとにへらっと笑い、いそいそとコートを着込む。アヴローラとお揃いの白を基調とした青みがかったコートだ。アヴローラがハジメとのペアルックを画策した時の逸品である。

 

「も、もう! ハジメったら素直じゃないわねぇ~、アヴローラちゃんとお揃いだなんて……お、俺の女アピールですかぁ? ダメよぉ~、私、そんな軽い女じゃないから、もっと、こう段階を踏んでぇ~」

 

モジモジしながらコートの端を掴みイヤンイヤンしているレナ。それに再びイラッと来たハジメは無言でドンナーを抜き、レナの額目掛けて発砲した。

 

「はきゅん!」

 

弾丸は炸薬量を減らし先端をゴム状の柔らかい魔物の革でコーティングしてある非致死性弾だ。ただ、それなりの威力はあるので、衝撃で仰け反り仰向けに倒れると、地面をゴロゴロとのたうち回るレナ。「頭がぁ~頭がぁ~」と悲鳴を上げている。だが、流石の耐久力で直ぐに起き上がると猛然と抗議を始めた。きゃんきゃん吠えるレナを適当にあしらっていると後方にいた総司の車からシア総司達が出てきたのと同じタイミングで兎人族がわらわらと集まってきた。

 

「シア!レナ!無事だったのか!」

「父様!」

 

真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シア達と父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互の無事を喜んだ後、総司達の方へ向き直った。

 

「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアとレナの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシア達のみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

シア達の存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族であるハジメに頭を下げ、しかもハジメの助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱くハジメ。

 

カムは、それに苦笑いで返した。

 

「レナが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

その言葉にハジメは感心半分呆れ半分だった。一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程があるというものだろう。

 

「えへへ、大丈夫よ、父様。ハジメは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人だけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれるわ!」

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

 

レナとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しでハジメを見ながら、うんうんと頷いている。

 

ハジメは額に青筋を浮かべドンナーを抜きかけるが、意外なところから追撃がかかる。

 

「……ん、ハジメは(ベッドの上では)照れ屋」

「アヴローラ!?」

 

まさかの口撃に口元を引きつらせるハジメだったが、何時までもグズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、堪えて出発を促した。

 

一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ウサミミ四十二人をぞろぞろ引き連れて峡谷を行く。

 

当然、数多の魔物が絶好の獲物だとこぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいなかった。例外なく、兎人族に触れることすら叶わず、接近した時点で閃光が飛び頭部を粉砕されるからである。

 

剣を振れば一筋の線が描かれ、乾いた破裂音と共に閃光が走り、気がつけばライセン大峡谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物である総司とハジメに対して畏敬の念を向けていた。

 

もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るう総司とハジメをヒーローだとでも言うように見つめている。

 

「ふふふ、総司さん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

「ハジメも、モテモテねぇ〜」

 

子供に純粋な眼差しを向けられて若干居心地が悪そうなハジメに、レナが実にウザイ表情で「うりうり~」とちょっかいを掛ける。

 

額に青筋を浮かべたハジメは、取り敢えず無言で発砲した。

 

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

「あわわわわわわわっ!?」

 

ゴム弾が足元を連続して通過し、奇怪なタップダンスのようにワタワタと回避するレナ。総司はシアに対してちょくちょく魔法を放ちながらやってくる魔物(食料)を切り捨て続けた。道中何度も見られた光景に、シア達の父カムは苦笑いを、ユエと香織、そしてアヴローラは呆れを乗せた眼差しを向ける。

 

「はっはっは、シア達は随分と総司殿達を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シア達ももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、総司殿達なら安心か……」

 

すぐ傍で娘が未だに銃撃されているのに、気にした様子もなく目尻に涙を貯めて娘の門出を祝う父親のような表情をしているカム。周りの兎人族達も「たすけてぇ~」と悲鳴を上げるシア達に生暖かい眼差しを向けている。

 

「いや、お前等。この状況見て出てくる感想がそれか?」

「……話にならんな」

「……ズレてる」

「………?」

「ぷっ!……ふふっ……」

 

ユエの言う通り、どうやら兎人族は少し常識的にズレているというか、天然が入っている種族らしい。それが兎人族全体なのかハウリアの一族だけなのかは分からないが。

 

そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。総司達が''遠見,,で見る限り、中々に立派な階段がある。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。

 

総司が何となしに遠くを見ていると、シアが不安そうに話しかけてきた。

 

「帝国兵はまだいるでしょか?」

「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが……」

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……総司さん……どうするのですか?」

「? どうするって何が?」

 

質問の意図がわからず首を傾げる総司に、意を決したようにシアが尋ねる。周囲の兎人族も聞きウサミミを立てているようだ。

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。総司さんと同じ。……敵対できますか?」

「シア。お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

「はい、見ました。帝国兵と相対する総司さんを……」

「だったら……何が疑問なんだ?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

 

シアの言葉に周りの兎人族達も神妙な顔付きで総司を見ている。小さな子供達はよく分からないとった顔をしながらも不穏な空気を察してか大人達と総司を交互に忙しなく見ている。

 

しかし、総司は、そんなシリアスな雰囲気などまるで気にした様子もなくあっさり言ってのけた。

 

「それがどうかしたのか?」

「えっ?」

 

疑問顔を浮かべるシアに総司は特に気負った様子もなく世間話でもするように話を続けた。

 

「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」

「そ、それは、だって同族じゃないですか……」

「お前らだって、同族に追い出されてるじゃねぇか」

「それは、まぁ、そうなんですが……」

「大体、根本が間違っている」

「根本?」

 

さらに首を捻るシア。周りの兎人族も疑問顔だ。

 

「いいか? 俺は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」

「うっ、はい……覚えてます……」

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は潰す。それだけのことだ」

「な、なるほど……」

「第一不殺を貫くなんて器用なことは出来んのでな」

 

何とも総司らしい考えに、苦笑いしながら納得するシア。''未来視,,で帝国と相対する総司を見たといっても、未来というものは絶対ではないから実際はどうなるか分からない。見えた未来の確度は高いが、万一、帝国側につかれては今度こそ死より辛い奴隷生活が待っている。表には出さないが''自分のせいで,,という負い目があるシアは、どうしても確認せずにはいられなかったのだ。

 

「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

カムが快活に笑う。下手に正義感を持ち出されるよりもギブ&テイクな関係の方が信用に値したのだろう。その表情に含むところは全くなかった。

 

一行は、階段に差し掛かった。総司とハジメを先頭に順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽かった。亜人族が魔力を持たない代わりに身体能力が高いというのは嘘ではないようだ。

 

そして、遂に階段を上りきり、総司達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。

 

登りきった崖の上、そこには……。

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、総司達を見るなり驚いた表情を見せた。

 

だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

「小隊長!白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長!話がわかる!」

 

帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。

 

帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやく総司達の存在に気がついた。

 

「あぁ?お前誰だ?兎人族……じゃあねぇよな?」

 

総司は、帝国兵の態度から素通りは無理だろうなと思いながら、一応会話に応じる。

 

「ああ、人間だ」

「はぁ~?なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ?しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そう総司とハジメに命令した。

 

 当然、総司とハジメが従うはずもない。

 

「断る」

「……今、何て言った?」

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

 

聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」

 

総司の言葉にスっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気でハジメを睨んでいる。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、総司の後ろから出てきた香織とユエに気がついた。方や美しい容姿である上に纏う雰囲気に艶があり、そのことからか、えもいわれぬ魅力を放っている美女と、方や幼い容姿でありながらも纏う雰囲気に艶があり、そのギャップからか、えもいわれぬ妖艶さを放っている美貌の少女に一瞬呆けるものの、総司の服の裾をギュッと握っていることからよほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達えらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

その言葉に総司は眉をピクリと動かし、ユエは無表情に、香織は誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにしている。目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとした。

 

だが、それを制止する総司。訝しそうなユエを尻目に総司が最後の言葉をかける。

 

「つまり敵ってことでいいよな?」

「あぁ!?まだ状況が理解できてねぇのか!てめぇは、震えながら許しをこッ!?」

 

ヒュンッ!!

 

想像した通りに総司が怯えないことに苛立ちを表にして怒鳴る小隊長だったが、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。なぜなら、一回の風切り音と共に、その頭部が首から下と分かたれたからだ。綺麗に切り落とされた頭部と、ソレが繋がっていた部分からおびただしい量の血を噴き出させ、そのまま後ろに倒れる。

 

何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた小隊長を見る兵士達に追い打ちが掛けられた。

 

ドパァァンッ!

 

一発しか聞こえなかった銃声は、同時に、六人の帝国兵の頭部を吹き飛ばした。実際には六発撃ったのだが、ハジメの射撃速度が早すぎて射撃音が一発分しか聞こえなかったのだ。

 

突然、小隊長を含め仲間の頭部が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器を総司達に向ける。過程はわからなくても原因はわかっているが故の、中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。

 

早速、帝国兵の前衛が飛び出し、後衛が詠唱を開始する。だが、その後衛組の足元に二つの何かがコロンと転がってきた。黒い筒状の物体と、緑色の球体だ。何だこれ?と詠唱を中断せずに注視する後衛達だったが、次の瞬間には物言わぬ骸と化した。

 

ドガァンッ!!

ゴォォッ!!

 

黒い物体、燃焼粉を詰め込んだ''手榴弾,,と、緑色の球体、この世界では用いられていない科学技術を詰め込んだ''プラズマグレネード,,が爆発したからだ。しかも前者はご丁寧に金属片が仕込まれた〝破片手榴弾〟である。地球のものと比べても威力が段違いの自慢の逸品。燃焼石という異世界の不思議鉱物がなければ、ここまでの威力のものは作れなかっただろう。後者は空想上の産物とまで言われる、実現すれば世界最強のグレネードになると言われるものだ。総司の''創造,,がなければ作れなかっただろう。

 

この一撃で、密集していた十人程の帝国兵が即死するか、手足を吹き飛ばされるか、内臓を粉砕されて絶命し、さらに七人程が巻き込まれ苦痛に呻き声を上げた。

 

背後からの爆風に、思わずたたらを踏む突撃中の前衛七人。何事かと、背後を振り向いてしまった六人は、直後、他の仲間と同様に頭部を撃ち抜かれて崩れ落ちた。血飛沫が舞い、それを頭から被った生き残りの一人の兵士が、力を失ったように、その場にへたり込む。無理もない。ほんの一瞬で、仲間が殲滅されたのである。彼等は決して弱い部隊ではない。むしろ、上位に勘定しても文句が出ないくらいには精鋭だ。それ故に、その兵士は悪い夢でも見ているのでは? と呆然としながら視線を彷徨わせた。

 

そんな彼の耳に、これだけの惨劇を作り出した者が発するとは思えないほど飄々とした声が聞こえた。

 

「うん、やっぱり、人間相手だったら宝具は使わなくても良さそうだな」

 

兵士がビクッと体を震わせて怯えをたっぷり含んだ瞳をハジメに向けた。総司はエクスカリバーを鞘へとしまい、P-90で肩をトントンと叩きながら、ゆっくりと兵士に歩み寄る。黒いコートを靡かせて死を振り撒き歩み寄るその姿は、さながら死神だ。少なくとも生き残りの兵士には、そうとしか見えなかった。

 

「ひぃ、く、来るなぁ!い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!」

 

命乞いをしながら這いずるように後退る兵士。その顔は恐怖に歪み、股間からは液体が漏れてしまっている。総司は、冷めた目でそれを見下ろし、おもむろに銃口を兵士の背後に向けると連続して発砲した。

 

「ひぃ!」

 

兵士が身を竦めるが、その体に衝撃はない。総司が撃ったのは、手榴弾で重傷を負っていた背後の兵士達だからだ。それに気が付いたのか、生き残りの兵士が恐る恐る背後を振り返り、今度こそ隊が全滅したことを眼前の惨状を持って悟った。

 

振り返ったまま硬直している兵士の頭にゴリッと銃口が押し当てられる。再び、ビクッと体を震わせた兵士は、醜く歪んだ顔で再び命乞いを始めた。

 

「た、頼む!殺さないでくれ!な、何でもするから! 頼む!」

「そうか?なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

 

総司が質問したのは、百人以上居たはずの兎人族の移送にはそれなりに時間がかかるだろうから、まだ近くにいて道中でかち合うようなら序でに助けてもいいと思ったからだ。帝国まで移送済みなら、わざわざ助けに行くつもりは毛頭なかったが。

 

「……は、話せば殺さないか?」

「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか?別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」

「ま、待ってくれ!話す!話すから!……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

''人数を絞った,,それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。総司は、その様子をチラッとだけ見やる。直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないと瞳に殺意を宿した。

 

「待て!待ってくれ!他にも何でも話すから!帝国のでも何でも!だから!」

 

総司の殺意に気がついた兵士が再び必死に命乞いする。しかし、その返答は……

 

ドパンッ!

 

一発の銃弾だった。

 

息を呑む兎人族達。あまりに容赦のない総司の行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずと総司に尋ねた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 

はぁ?という呆れを多分に含んだ視線を向ける総司に「うっ」と唸るシア。自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つようで、兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしい。総司が言葉を発しようとしたが、その機先を制するようにユエが反論した。

 

「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」

「そ、それは……」

「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目を総司に向けるのはお門違い」

「……」

 

ユエは静かに怒っているようだ。守られておきながら、総司に向ける視線に負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである。当然といえば当然なので、兎人族達もバツ悪そうな表情をしている。

 

「まあ、それ以上に香織の四肢を切るとか、犯してから奴隷商に売り飛ばすとか言った時点でギルティだから」

 

総司は香織に対する発言(ユエも)に切れていた様だ。

 

「ふむ、総司殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

「総司さん、すみません」

 

シアとカムが代表して謝罪するが、総司は気にしてないという様に手をヒラヒラと振るだけだった。

 

総司は、無傷の馬車や馬のところへ行き、兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、せっかくの馬と馬車を有効活用しようというわけだ。魔力駆動四輪を《王の財宝》から取り出し馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとった。

 

無残な帝国兵の死体はユエが風の魔法で吹き飛ばし谷底に落とした。後にはただ、彼等が零した血だまりだけが残された。



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登場人物紹介その② byユエ

・朝田総司

本作の主人公であり、チートの権化。普段は香織の尻に敷かれているが、香織が危ないことをすると立場が逆転しO☆HA☆NA☆SHIを始める。

香織とは幼稚園の頃から近所に住んでいて、幼い頃からイチャコラしまくっていた為周りの保護者達はよくブラックコーヒーを飲んでいたそうな。

中1の時から交際しており、香織の父である智一には何故かデレデレされる(無自覚)。

尚、雫とも幼馴染であり小学3年まで通っていた道場で知り合い、彼女の親族に襲撃されるようになった(無自覚)。

前世は普通を学生であり、オタクではなかったがそういった話は好きで、ハジメとアニメ談議やらゲーム談議などをしていた。

 

突発性難聴は起こらない。

 

容姿:FGOの沖田さん(男体化(約175cm))⇒UBWのアルトリア・ペンドラゴン(男体化(約180cm))

 

ザ・チート+天然たらし+騎士王(笑)

===============================

朝田総司 (アーサー・ペンドラゴン) 17歳 男 レベル???

天職:騎士王(英雄王)

筋力:Error

体力:Error

耐性:Error

敏捷:Error

魔力:Error

魔耐:Error

技能:全属性適正・回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剛力・神速・鉄壁・創造[+無限の剣製]・剣技[+魔法剣][+強化][+記憶解放]・剣術[+飛天御剣流][+無明三段突き][+秘剣・燕返し]・槍術[+刺し穿つ槍]・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密速射][+インドラの矢]・縮地[+爆縮地][+瞬歩][+瞬光]・先読・高速魔力回復・気配感知[+超感覚]・魔力感知[+聖霊の眼]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+魔力放出][+性質変化][+形態変化][+魔力闘衣]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・覇気[+見聞色の覇気][+未来視][+武装色の覇気][+覇王色の覇気]・神威[+神威解放]・技能模倣[+完全模倣][+完全掌握]・魔眼[+千里眼]・写輪眼[+万華鏡写輪眼][+永遠の万華鏡写輪眼]・宝具[+真名解放][+約束された勝利の剣][+天地乖離す開闢の星][+王の財宝][+全て遠き理想郷]・鉱物創造[+オリハルコン創造][+ヒヒイロカネ創造][+星の結晶創造]・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・鑑定・魔力変換[+体力][+治癒力]・剛腕・追跡・限界突破・生成魔法・言語理解

===============================

 

 

 

・白崎香織

本作のメインヒロイン。序盤に突如覚醒して原作のハジメよりも可笑しなスペックを誇るようになった。

某料理対決漫画のヒロインの能力を持っており、尚且つハンターさんで溢れかえっている世界の料理猫の力もある為料理チートがあるかも?

原作では不遇な正統派サブヒロイン(ハーレム要員)だったが、原作開始前に主人公と交際を始めていたことにより正妻ポジションに。

主人公が無自覚にフラグを乱立させる事には諦めがついており、正妻としてうまく立ち回っている(無自覚)。

 

チートの権化その②

 

正妻系正統派ヒロイン+スタ○ド属性+女神属性

===============================

白崎香織(アルトリア・ペンドラゴン) 17歳 女 レベル???

天職:騎士王妃(治癒師)

筋力:100000

体力:90480

耐性:94220

敏捷:100000

魔力:Error

魔耐:Error

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・全属性適正[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・複合魔法・魔力操作・生成魔法・言語理解

===============================

 

 

 

・南雲ハジメ

言わずと知れた原作主人公。原作ではチートであったが、本作では準チート扱い。

しかし、トータスの一般的観点から見ると十分チートである。

何気に親友ポジに主人公がいて、かつ早い段階で合流した為やさぐれ感は半減。原作よりも人情に厚い性格になっている…………はず。

実は主人公に対して圧倒的な忠誠心があり、死なない指示であれば絶対に聞くし、何かと過保護になる。

 

ツッコミは健在。

 

覚醒あるかも?

 

ツッコミ属性+厨二病+忠犬属性

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:10950

体力:13190

耐性:10670

敏捷:13450

魔力:14780

魔耐:14780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

===============================

 

 

 

・八重樫雫

原作サブヒロイン。内心乙女なサムライガール。香織が落ちた後、主人公達が死んでいない事を知り涙を流すほどに主人公ラブ。

ただその感情がうまく出せずに別れた為、想いを伝えることが出来るのはまだ先。

 

一般人?一逸人?

 

乙女属性+クーデレ属性+オカン

===============================

八重樫雫 17歳 女 レベル:70

天職:剣士

筋力:890

体力:750

耐性:630

敏捷:1910

魔力:670

魔耐:670

技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+無拍子]・縮地[+爆縮地]・先読[+投影]・気配感知・隠業[+幻撃]・言語理解

===============================

 

 

 

・天ノ河光輝

勇者(笑)の正義馬鹿。本作アンチ対象の1人。主人公と香織が交際している事を知らず、従兄妹か何かと思い込むご都合解釈万歳など阿呆。

自覚はしていないが香織に惚れており、その所為で主人公やハジメに辛く当たる。

 

ご都合解釈大好きな"かりちゅま"王子様。

 

ご都合解釈+かりちゅま+王子様属性

===============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:78

天職:勇者

筋力:1040

体力:1040

耐性:1040

敏捷:1040

魔力:1040

魔耐:1040

技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術[+無念無想]・剛力・縮地[+爆縮地]・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破[+覇潰]・言語理解

===============================

 

 

・ユエ

総司が大好きなデレデレ吸血鬼(姫)

 

総司自身は認めていないが、総司のハーレム要因。

 

尚、アヴローラとは幼馴染で、ハジメとは準チート仲間。

 

もしかしたらサキュバス?

 

 

・アヴローラ・フロレスティーナ

ハジメのメインヒロインであり原作のユエほど嫉妬深くなく、現時点で作中トップの良心。

 

ただ、その反面切れると眷獣と共に暴れ出し、ハジメしか止めることができなくなる。

 

レグルス・アウルムは動力源。

 

 

・シア・ハウリア

残念ウサギその①。巨乳であり、ユエにビンタされる事が多く、総司が守った時に×××(ネタバレなのでカット)しまった。

 

双丘は凶器。

 

 

・レナ・ハウリア

残念ウサギその②。シアの妹で巨乳。アヴローラは大体穏和に済ませるのでハジメの制裁しか喰らわない。

 

ダブルロケットは反則。



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第15話ハウリア姉妹の心情とハルツィナ樹海

七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、総司達が魔力駆動車で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた。

 

魔力駆動車には、総司達以外にも二輪には前にアヴローラが、後ろにレナが乗っていて、四輪には、運転席の総司の膝の上にユエが、助手席に香織が、後部座席にシアが乗っている。当初、シア達には馬車に乗るように言ったのだが、断固として魔力駆動車に乗る旨を主張し言う事を聞かなかった。ユエが何度叩き出しても、ゾンビのように起き上がりヒシッとしがみつくので、遂にユエの方が根負けしたという事情があったりする。レナに関しては、アヴローラが何もしない為そのまま乗っている。

 

シア達としては、初めて出会った''同類,,である二人と、もっと色々話がしたいようだった。ハジメにしがみつき上機嫌な様子のレナ。果たして、レナが気に入ったのは二輪の座席かハジメの後ろか……場合によっては手足をふん縛って引きずってやる!とアヴローラは内心決意していた。

 

若干不機嫌そうなアヴローラと上機嫌なレナに挟まれたハジメは、四輪を走らせつつ遠くを見ながらボーとしていた。

 

そんなハジメにアヴローラが声をかける。

 

「……ハジメ、どうして二人で戦ったの?」

「ん?」

 

アヴローラが言っているのは帝国兵との戦いのことだ。あの時、魔法を使おうとしたアヴローラ達を制止して、ハジメは総司と二人で戦うことを選んだ。アヴローラ達が参加しようがすまいが結果は〝瞬殺〟以外には有り得なかっただろうが、どうも帝国兵を倒した後のハジメは物思いに耽っているような気がして、アヴローラとしては気になったのだ。

 

「ん~、まぁ、ちょっと確かめたいことがあってな……」

「……確かめたいこと?」

 

アヴローラが疑問顔で聞き返す。レナも肩越しに興味深そうな眼差しを向けている。

 

「ああ、それはな……」

 

話し始めたハジメの理由を要約するとこういうことだ。

 

ハジメがアヴローラを制止して、自分で帝国兵全部を相手取った一つ目の理由は〝実験〟である。万一に備えて全員頭部を狙っておいたが、実は、鎧部分にも撃ち込んでいたりする。なぜそんな事をしたかというと、人間と相対する度にレールガンを放っていたのでは完全にオーバーキルであり、街中などでは何処までも貫通してしまい危なっかしくて使えない。暴漢を木っ端微塵にするのは何の問題もないが、背後の民家を突き破って団欒中の家族を皆殺し!とか、完全に外道すら通り越した狂人である。ハジメとて、何の関係もない人々を無差別に殺す殺人鬼になるつもりは毛頭ない。なので、どの程度の炸薬量が適切か実地で計る必要があったのである。実験の甲斐あって結果は上々。威力の微調整にも具体的な見当がついた。

 

もう一つの理由は、自分が殺人に躊躇いを覚えないか確かめるということだ。すっかり変わってしまったハジメだが、人殺しの経験は未だなかった。それ故に、殺す前も殺した後も動揺せずにいられるか試したのである。結果は、〝特に何も感じない〟だった。やはり、敵であれば容赦なく殺すという価値観は強固に染み付いているようである。

 

「とまぁ、初の人殺しだったわけだが、特に何も感じなかったから、随分と変わったもんだと、ちょっと感傷に浸ってたんだよ……」

「……そう……大丈夫?」

「ああ、何の問題もない。これが今の俺だし、これからもちゃんと戦えるってことを確認できて良かったさ」

 

あれだけ容赦なかったハジメが、実は初めて人を殺したという事実に内心驚くレナ。同時に、ハジメの僅かな変化に気がついたアヴローラの洞察力(おそらくハジメ限定)に感心する。そして、改めて、自分はハジメやアヴローラのことを何も知らないのだなぁと少し寂しい気持ちなった。

 

「ねえ、ねえ!ハジメとアヴローラちゃんのこと、教えてくれない?」

「?俺達のことは話したろ?」

「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落?という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身のことが知りたいのよ」

「……聞いてどうするの?」

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけ。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけたから。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれたし、今は、自分を嫌ってはいないけど……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのよ。貴方達に出会って、私達みたいな存在は他にもいるのだと知って、二人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっと貴方達のことを知りたいというか……何というか……」

 

レナは話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第に小声になってハジメの背に隠れるように身を縮こまらせた。出会った当初も、そう言えば随分嬉しそうにしていたと、ハジメとアヴローラは思い出し、レナの様子に何とも言えない表情をする。あの時は、アヴローラの複雑な心情により有耶無耶になった挙句、すぐハウリア達を襲う魔物と戦闘になったので、谷底でも魔法が使える理由など簡単なことしか話していなかった。きっと、レナは、ずっと気になっていたのだろう。

 

確かに、この世界で、魔物と同じ体質を持った人など受け入れがたい存在だろう。仲間意識を感じてしまうのも無理はない。かと言って、ハジメやアヴローラの側が、レナに対して直ちに仲間意識を持つわけではない。が……樹海に到着するまで、まだ少し時間がかかる。特段隠すことでもないので、暇つぶしにいいだろうと、ハジメとアヴローラはこれまでの経緯を語り始めた。

 

結果……。

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎるぅ~、ハジメもアヴローラちゃんもがわいぞうにぃ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないわよぉ〜!」

 

号泣した。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんだわぁ」とか「もう、弱音は吐かないからぁ」と呟いている。そして、さり気なく、ハジメの外套で顔を拭いている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、ハジメとアヴローラが自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。

 

しばらくメソメソしていたレナだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

「ハジメ!アヴローラちゃん!私、決めたわ!貴方達の旅に着いていく!これからは、このレナ・ハウリアが陰に日向に貴方達を助けて上げるわ!遠慮なんて必要ないわよ!私達はたった三人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

勝手に盛り上がっているレナに、ハジメとアヴローラが実に冷めた視線を送る。

 

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってんだ? 完全に足でまといだろうが」

「……さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている……厚皮ウサギ」

「ついでに言えば俺達は二人で旅をしているわけじゃない。あと三人いるだろ」

「な、何て冷たい目で見るのよ……心にヒビが入りそう……というかいい加減、ちゃんと名前を呼んでよぉ」

 

意気込みに反して、冷めた反応を返され若干動揺するレナ。そんな彼女に追い討ちがかかる。

 

「……お前、単純に旅の仲間が欲しいだけだろう?」

「!?」

 

ハジメの言葉に、レナの体がビクッと跳ねる。

 

「一族の安全が一先ず確保できたら、お前、アイツ等から離れる気なんだろ?そこにうまい具合に''同類,,の俺らが現れたから、これ幸いに一緒に行くってか?そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅出来るとは思えないしな」

「……いや、それは、それだけでは……私は本当に貴方達を……」

 

図星だったのか、しどろもどろになるレナ。実は、レナは既に決意していた。何としてでもハジメの協力を得て一族の安全を確保したら、自らは家族の元を離れると。自分がいる限り、一族は常に危険にさらされる。今回も多くの家族を失った。次は、本当に全滅するかもしれない。それだけは、レナには耐えられそうになかった。もちろん、その考えが一族の意に反する、ある意味裏切りとも言える行為だとは分かっている。だが''それでも,,と決めたのだ。

 

最悪、一人でも旅に出るつもりだったが、それでは心配性の家族は追ってくる可能性が高い。しかし、圧倒的強者であるハジメ達に恩返しも含めて着いて行くと言えば、割りかし容易に一族を説得できて離れられると考えたのだ。見た目の言動に反してレナは、今この瞬間も''必死,,なのである。

 

もちろん、レナ自身がハジメとアヴローラに強い興味を惹かれているというのも事実だ。ハジメの言う通り〝同類〟であるハジメ達に、シアは理屈を超えた強い仲間意識を感じていた。一族のことも考えると、まさに、シアにとってハジメ達との出会いは〝運命的〟だったのだ。

 

「別に、責めているわけじゃない。だがな、変な期待はするな。俺達の目的は七大迷宮の攻略なんだ。おそらく、奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだ。お前じゃ瞬殺されて終わりだよ。だから、同行を許すつもりは毛頭ない」

「……」

 

ハジメの全く容赦ない言葉にシアは落ち込んだように黙り込んでしまった。ハジメもアヴローラも特に気にした様子がないあたりが、更に追い討ちをかける。

 

レナは、それからの道中、大人しく二輪の座席に座りながら、何かを考え込むように難しい表情をしていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

それから数時間して、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、総司殿に香織殿、ユエ殿。それにハジメ殿、アヴローラ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

カムが、総司達に対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った〝大樹〟とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には〝大樹ウーア・アルト〟と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

当初、総司とハジメは【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮かと思っていたのだが、よく考えれば、それなら奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、とても亜人達が住める場所ではなくなってしまう。なので、【オルクス大迷宮】のように真の迷宮の入口が何処かにあるのだろうと推測した。そして、カムから聞いた〝大樹〟が怪しいと踏んだのである。

 

カムは、総司達の言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてハジメ達の周りを固めた。

 

「総司殿、ハジメ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

「ああ、承知している。俺もユエも香織も、ある程度、隠密行動はできるから大丈夫だ」

「こちらも同じだ」

 

総司達は、そう言うと〝気配遮断〟を使う。香織達も、奈落で培った方法で気配を薄くした。

 

「ッ!? これは、また……総司殿、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

「ん? ……こんなもんか?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

元々、兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、奈落で鍛えたユエと同レベルと言えば、その優秀さが分かるだろうか。達人級といえる。しかし、総司の〝気配遮断〟は更にその上を行く。普通の場所なら、一度認識すればそうそう見失うことはないが、樹海の中では、兎人族の索敵能力を以てしても見失いかねないハイレベルなものだった。

 

カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑いだ。隣では、何故か香織が自慢げに胸を張っている。シア達は、どこか複雑そうだった。総司の言う実力差を改めて示されたせいだろう。

 

「それでは、行きましょうか」

 

カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 

順調に進んでいると、突然カム達が立止り、周囲を警戒し始めた。魔物の気配だ。当然、総司達も感知している。どうやら複数匹の魔物に囲まれているようだ。樹海に入るに当たって、総司が貸し与えたナイフ類を構える兎人族達。彼等は本来なら、その優秀な隠密能力で逃走を図るのだそうだが、今回はそういうわけには行かない。皆、一様に緊張の表情を浮かべている。

 

と、突然総司が左手を素早く水平に振った。微かに、パシュという射出音が連続で響く。

 

直後、

 

ドサッ、ドサッ、ドサッ

「「「キィイイイ!?」」」

 

三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿が三匹踊りかかってきた。

 

内、一匹に向けてユエが手をかざし、一言囁くように呟く。

 

「〝風刃〟」

 

魔法名と共に風の刃が高速で飛び出し、空中にある猿を何の抵抗も許さずに上下に分断する。その猿は悲鳴も上げられずにドシャと音を立てて地に落ちた。

 

残り二匹は二手に分かれた。一匹は近くの子供に、もう一匹はシアに向かって鋭い爪の生えた四本の腕を振るおうとする。シアも子供も、突然のことに思わず硬直し身動きが取れない。咄嗟に、近くの大人が庇おうとするが……無用の心配だった。

 

再度、総司が左腕を振ると、パシュ! という音と共にシアと子供へと迫っていた猿の頭部に十センチ程の針が無数に突き刺さって絶命させたからだ。

 

総司が使ったのは鎌鼬である。手の内を晒したくないのと剣を抜く必要を感じなかったという理由ではあるが、十分に人の域を超越している技であるのでシアは驚きながらお礼をのべた。

 

「あ、ありがとうございます、総司さん」

「お兄ちゃん、ありがと!」

 

シアと子供(男の子)が窮地を救われ礼を言う。総司は気にするなと手をひらひらと振った。男の子の総司を見る目はキラキラだ。シアは、突然の危機に硬直するしかなかった自分にガックリと肩を落とした。

 

その様子に、カムは苦笑いする。総司から促されて、先導を再開した。

 

その後も、ちょくちょく魔物に襲われたが、総司とユエが静かに片付けていく。樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もなかった。

 

しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、総司達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

総司達も相手の正体に気がつき、面倒そうな表情になった。

 

その相手の正体は……。

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。



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第16話残念なのはハウリア族

樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いている。

 

その有り得ない光景に、目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達に裏切り者を見るような眼差しを向けた。その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。

 

「あ、あの私達は……」

 

カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシア達を捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪と青い髪の兎人族…だと?……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する!総員かッ!?」

 

ドパンッ!!

 

虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、ハジメの腕が跳ね上がり、銃声と共に一条の閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。

 

ザンッ!!

 

それと共に何かを斬る音が聞こえ、総司の腕が振り抜かれていた。それと同時に背後にあった樹木ごと地面に切れ目が入っていた。

 

理解不能な攻撃に凍りつく虎の亜人の頬に擦過傷が出来る。もし人間のように耳が横についていれば、確実に弾け飛んでいただろう。聞いたこともない炸裂音と反応を許さない超速の攻撃と大地を割る斬撃に誰もが硬直している。

 

そこに、気負った様子もないのに途轍もない圧力を伴った総司とハジメの声が響いた。〝威圧〟という魔力を直接放出することで相手に物理的な圧力を加える固有魔法である。

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺のキルゾーンだ」

「ついでに言えば、今の斬撃は剣圧に過ぎない。……本来の威力でもないしな」

「な、なっ……詠唱がっ……」

 

詠唱もなく、見たこともない強烈な攻撃を連射出来る上、味方の場所も把握していると告げられ思わず吃る虎の亜人。それを証明するように、ハジメは自然な動作でシュラークを抜きピタリと、とある方向へ銃口を向けた。その先には、奇しくも虎の亜人の腹心の部下がいる場所だった。霧の向こう側で動揺している気配がする。

 

「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺が保障しているからな……ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」

「…………」

 

威圧感の他に総司達が殺意を放ち始める。あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込んだ。

 

(冗談だろ! こんな、こんなものが人間だというのか!まるっきり化物じゃないか!)

 

恐怖心に負けないように内心で盛大に喚く虎の亜人など知ったことかというように、総司がエクスカリバーを、ハジメがドンナー・シュラークを構えたまま、言葉を続ける。

 

「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

虎の亜人は確信した。攻撃命令を下した瞬間、先程の閃光が一瞬で自分達を蹂躙することを。その場合、万に一つも生き残れる可能性はないということを。

 

虎の亜人は、フェアベルゲンの第二警備隊隊長だった。フェアベルゲンと周辺の集落間における警備が主な仕事で、魔物や侵入者から同胞を守るというこの仕事に誇りと覚悟を持っていた。その為、例え部下共々全滅を確信していても安易に引くことなど出来なかった。

 

「……その前に、一つ聞きたい」

 

虎の亜人は掠れそうになる声に必死で力を込めて総司に尋ねた。総司は視線で話を促した。

 

「……何が目的だ?」

 

端的な質問。しかし、返答次第では、ここを死地と定めて身命を賭す覚悟があると言外に込めた覚悟の質問だ。虎の亜人は、フェアベルゲンや集落の亜人達を傷つけるつもりなら、自分達が引くことは有り得ないと不退転の意志を眼に込めて気丈に総司を睨みつけた。

 

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

「大樹の下へ……だと?何のために?」

 

てっきり亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない〝大樹〟が目的と言われ若干困惑する虎の亜人。〝大樹〟は、亜人達にしてみれば、言わば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ。

 

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

「本当の迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

「いや、それはおかしい」

「なんだと?」

 

 妙に自信のある総司の断言に虎の亜人は訝しそうに問い返した。

 

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」

「弱い?」

「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうだった。それに……」

「なんだ?」

「大迷宮というのは、〝解放者〟達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

「……」

 

総司の話を聞き終わり、虎の亜人は困惑を隠せなかった。総司の言っていることが分からないからだ。樹海の魔物を弱いと断じることも、【オルクス大迷宮】の奈落というのも、解放者とやらも、迷宮の試練とやらも……聞き覚えのないことばかりだ。普段なら、〝戯言〟と切って捨てていただろう。

 

だがしかし、今、この場において、総司が適当なことを言う意味はないのだ。圧倒的に優位に立っているのは総司の方であり、言い訳など必要ないのだから。しかも、妙に確信に満ちていて言葉に力がある。本当に亜人やフェアベルゲンには興味がなく大樹自体が目的なら、部下の命を無意味に散らすより、さっさと目的を果たさせて立ち去ってもらうほうがいい。

 

虎の亜人は、そこまで瞬時に判断した。しかし、総司達程の驚異を自分の一存で野放しにするわけには行かない。この件は、完全に自分の手に余るということも理解している。その為、虎の亜人は総司達に提案した。

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

その言葉に、周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

冷や汗を流しながら、それでも強い意志を瞳に宿して睨み付けてくる虎の亜人の言葉に、総司は少し考え込む。

 

虎の亜人からすれば限界ギリギリの譲歩なのだろう。樹海に侵入した他種族は問答無用で処刑されると聞く。今も、本当は総司達を処断したくて仕方ないはずだ。だが、そうすれば間違いなく部下の命を失う。それを避け、かつ、総司とハジメという危険を野放しにしないためのギリギリの提案。

 

総司は、この状況で中々理性的な判断ができるヤツだと、少し感心した。そして、今、この場で彼等を殲滅して突き進むメリットと、フェアベルゲンに完全包囲される危険を犯しても彼等の許可を得るメリットを天秤に掛けて……後者を選択した。大樹が大迷宮の入口でない場合、更に探索をしなければならない。そうすると、フェアベルゲンの許可があった方が都合がいい。もちろん、結局敵対する可能性は大きいが、しなくて済む道があるならそれに越したことはない。人道的判断ではなく、単に殲滅しながらの探索はひどく面倒そうだからだ。

 

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

「無論だ。ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」

「了解!」

 

虎の亜人の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていった。総司は、それを確認するとスっと構えていたエクスカリバーを腰に着けている鞘《全て遠き理想郷》に納めて、〝威圧〟を解いた。ハジメもまた、ドンナー・シュラークを太腿のホルスターにしまい威圧を解いた。空気が一気に弛緩する。それに、ホッとすると共に、あっさり警戒を解いた総司達に訝しそうな眼差しを向ける虎の亜人。中には、〝今なら!〟と臨戦態勢に入っている亜人もいるようだ。その視線の意味に気が付いたのかハジメが不敵に笑った。

 

「お前等が攻撃するより、俺の抜き撃ちの方が早い……試してみるか?」

「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

「わかってるさ」

 

包囲はそのままだが、ようやく一段落着いたと分かり、カム達にもホッと安堵の吐息が漏れた。だが、彼等に向けられる視線は、総司達に向けられるものより厳しいものがあり居心地は相当悪そうである。

 

しばらく、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、そんな雰囲気に飽きたのか、ユエが総司に構って欲しいと言わんばかりにちょっかいを出し始めた(アヴローラもハジメにちょっかいを出していた)。それを見たシア達が場を和ませるためか、単に雰囲気に耐えられなくなったのか「私も~」と参戦し、苦笑いしながら相手をする総司とハジメに、少しずつ空気が弛緩していく。敵地のど真ん中で、いきなりイチャつき始めた(亜人達にはそう見えた)総司達に呆れの視線が突き刺さる。

 

時間にして一時間と言ったところか。調子に乗ったレナが、アヴローラに関節を極められて「ギブッ!ギブッですぅ!」と必死にタップし、それを周囲の亜人達が呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、急速に近づいてくる気配を感じた。

 

場に再び緊張が走る。レナの関節には痛みが走る。

 

霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、森人族いわゆるエルフなのだろう。

 

総司は、瞬時に、彼が〝長老〟と呼ばれる存在なのだろうと推測した。その推測は、当たりのようだ。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね?名は何という?」

「総司。朝田総司だ。」

「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 

ハジメの言葉遣いに、周囲の亜人が長老に何て態度を! と憤りを見せる。それを、片手で制すると、森人族の男性も名乗り返した。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

「うん?オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

目的などではなく、解放者の単語に興味を示すアルフレリックに訝みながら返答する総司。一方、アルフレリックの方も表情には出さないものの内心は驚愕していた。なぜなら、解放者という単語と、その一人が〝オスカー・オルクス〟という名であることは、長老達と極僅かな側近しか知らない事だからだ。

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

 

あるいは亜人族の上層に情報を漏らしている者がいる可能性を考えて、総司達に尋ねるアルフレリック。総司達は難しい表情をする。証明しろと言われても、すぐ示せるものは自身の強さくらいだ。首を捻る総司にユエが提案する。

 

「……総司、魔石とかオルクスの遺品は?」

「ああ!そうだな、それなら……」

 

ポンと手を叩き、〝宝物庫〟から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

アルフレリックも内心驚いていてたが、隣の虎の亜人が驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「後は、これ。一応、オルクスが付けていた指輪なんだが……」

 

そう言って、見せたのはオルクスの指輪だ。アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥める。しかし、今度は総司の方が抗議の声を上げた。

 

「待て。何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

「いや、お前さん。それは無理だ」

「なんだと?」

 

あくまで邪魔する気か? と身構える総司達に、むしろアルフレリックの方が困惑したように返した。

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

アルフレリックは、「今すぐ行ってどうする気だ?」とハジメを見たあと、案内役のカムを見た。総司は、聞かされた事実にポカンとした後、アルフレリックと同じようにカムを見た。そのカムはと言えば……。

 

「あっ」

 

まさに、今思い出したという表情をしていた。総司の額に青筋が浮かぶ。

 

「カム?」

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、総司とユエのジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。

 

「ええい、シア、レナ、それにお前達も!なぜ、途中で教えてくれなかったのだ!お前達も周期のことは知っているだろ!」

「なっ、父様、逆ギレですかっ!私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

「酷すぎるわよ!それに私だって忘れてたの!」

「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな?とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

逆ギレするカムに、シア達が更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。

 

「お、お前達!それでも家族か!これは、あれだ、そう!連帯責任だ!連帯責任!総司殿、ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

「あっ、汚い!お父様汚いですよぉ!一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

「お父さん!私達まで巻き込まないで下さい!」

「バカモン! 道中の、総司殿とハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

「あんた、それでも族長ですか!」

 

亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか……流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 

 青筋を浮かべた総司が、一言、ポツリと呟く。

 

「……ユエ」

「ん」

 

総司の言葉に一歩前に出たユエがスっと右手を掲げた。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣る。

 

「まっ、待ってください、ユエさん!やるなら父様だけを!」

「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」

「何が一緒だぁ!」

「ユエ殿、族長だけにして下さい!」

「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」

 

喧々囂々に騒ぐハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟いた。

 

「〝嵐帝〟」

 

―――― アッーーーー!!!

 

天高く舞い上がるウサミミ達。樹海に彼等の悲鳴が木霊する。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意はなかった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。彼等の表情が、何より雄弁にハウリア族の残念さを示していた。



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第17話長老会議

遅れてすみません



 濃霧の中を虎の亜人ギルの先導で進む。

 

 行き先はフェアベルゲンだ。総司と香織とユエ、それにハジメとアヴローラ、ハウリア族、そしてアルフレリックを中心に周囲を亜人達で固めて既に一時間ほど歩いている。どうやら、先のザムと呼ばれていた伝令は相当な駿足だったようだ。

 

 しばらく歩いていると、突如、霧が晴れた場所に出た。晴れたといっても全ての霧が無くなったのではなく、一本真っ直ぐな道が出来ているだけで、まるで霧のトンネルのような場所だ。よく見れば、道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められている。そこを境界線に霧の侵入を防いでいるようだ。

 

 総司が、青い結晶に注目していることに気が付いたのかアルフレリックが解説を買って出てくれた。

 

「あれは、フェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は〝比較的〟という程度だが」

「なるほど。そりゃあ、四六時中霧の中じゃあ気も滅入るだろうしな。住んでる場所くらい霧は晴らしたいよな」

 

 どうやら樹海の中であっても街の中は霧がないようだ。十日は樹海の中にいなければならなかったので朗報である。香織とユエとアヴローラも、霧が鬱陶しそうだったので、二人の会話を聞いてどことなく嬉しそうだ。

 

 そうこうしている内に、眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の十メートルはある両開きの扉が鎮座していた。天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも三十メートルはありそうだ。亜人の〝国〟というに相応しい威容を感じる。

 

 ギルが門番と思しき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音を立てて門が僅かに開いた。周囲の樹の上から、総司達に視線が突き刺さっているのがわかる。人間が招かれているという事実に動揺を隠せないようだ。アルフレリックがいなければ、ギルがいても一悶着あったかもしれない。おそらく、その辺りも予測して長老自ら出てきたのだろう。

 

 門をくぐると、そこは別世界だった。直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも二十階くらいありそうである。

 

 総司達がポカンと口を開け、その美しい街並みに見蕩れていると、ゴホンッと咳払いが聞こえた。どうやら、気がつかない内に立ち止まっていたらしくアルフレリックが正気に戻してくれたようだ。

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

 アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ。総司とハジメは、そんな彼等の様子を見つつ、素直に称賛した。

 

「ああ、こんな綺麗な街を見たのは始めてだ。空気も美味い。自然と調和した見事な街だな」

「それに風も喜んでいる。……まさに自然に愛された国か」

「うん、綺麗だね」

 

 掛け値なしのストレートな称賛に、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている。

 

 総司達は、フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

 現在、総司達は、アルフレリックと向かい合って話をしていた。内容は、総司がオスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

 アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。不思議に思って総司が尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だという。

 

 総司達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 

 【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。

 

 そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、俺は資格を持っているというわけか……」

 

 アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。

 

 総司達とアルフレリックが、話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。ハジメ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。総司達とアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

 階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

 総司達が階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

 しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、こんな人間族の小僧共が資格者だとでも言うのか!敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

 あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そして総司とハジメと香織を睨む。

 

 フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

 アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。二百年くらいが平均寿命だったと総司は記憶している。だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 

 そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、総司とハジメに向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 

 そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、総司に向かって振り下ろされた。

 

 亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。シア達ハウリア族と傍らの香織達以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となった総司を幻視した。

 

 しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

ズドンッ!

 

 衝撃音と共に振り下ろされた拳は、あっさりと総司の左腕に掴み止められていたからだ。

 

「……温い拳だな。それに、負の感情を込めすぎだ。この程度では……相手をする価値すらない」

 

 そう言って、総司は握力を高める。熊の亜人の腕からメキッと音が響いた。驚愕の表情を浮かべながらも危機感を覚え、必死に距離を取ろうとする熊の亜人。

 

「ぐっう!離せ!」

 

 必死に腕を引き戻そうとするが、体長が半分程度しかないにもかかわらず、総司はビクともしない。実は、この時、靴に仕込んだ金属板を錬成してスパイク状にし足元を固定していたりするのだが、そんなことは知らない熊の亜人からすれば、総司を不動の大樹の様に感じただろう。

 

 総司は無言で魔力を注ぎ、左手の握力を一気に高めた。

 

バキッ!

 

「ッ!?」

 

 熊の亜人の腕からなってはいけない破壊音が響く。それでも悲鳴を上げなかったのは流石は長老といったところか。だが、痛みと驚愕に硬直した隙を総司は逃さない。

 

 離した左腕を空手の正拳突きのように引き絞ると、後退る熊の亜人の懐へ一気に踏み込んだ。

 

「ふっ飛べ」

 

ドパンッ!

 

 と言う音と共に、左側からハジメが〝豪腕〟を発動しながら義手の突きを放つ。と、同時に肘の部分から衝撃が発生し、飛び出した薬莢が宙を舞う。唯でさえ強力な力が宿った拳が更に加速を得て破壊力を増大させた。

 

 絶大な威力を込められた機械式の拳が、遠慮容赦なく熊の亜人族の腹に突き刺さり、その場に衝撃波を発生させながら、文字通り猛烈な勢いで吹っ飛ばす。熊の亜人は、悲鳴一つ上げられず、体をくの字に折り曲げながら背後の壁を突き破り虚空へと消えていった。しばらくすると、地上で悲鳴が聞こえだす。

 

 ハジメが使ったのは、肘から発射できるショットガンである。内蔵されたショットシェルの激発の反動を利用して推進力にすることもできれば、シュラークを撃ちながら、背後の敵も同時に攻撃することも出来る。今回は推進力として利用した。〝豪腕〟と合わせて使うと絶大な威力を発揮する。

 

 誰もが言葉を失い硬直していると、ガシュン!とギミックの作動音を響かせた総司達が長老達に殺意を宿らせた視線を向ける。

 

「で?お前らは俺の敵か?」

 

 その言葉に、頷けるものはいなかった。

 

 

 ハジメが熊の亜人を吹き飛ばした後、アルフレリックが何とか執り成し、総司達による蹂躙劇は回避された。熊の亜人は内臓破裂、ほぼ全身の骨が粉砕骨折という危険な状態であったが、何と一命は取り留めたらしい。高価な回復薬を湯水の如く使ったようだ。もっとも、もう二度と戦士として戦うことはできないようだが……

 

 現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、総司達と向かい合って座っていた。総司とハジメの傍らには香織とユエとアヴローラ、カムとシアとレナが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。

 

 長老衆の表情は、アルフレリックを除いて緊張感で強ばっていた。戦闘力では一,二を争う程の手練だった熊の亜人(名前はジン)が、文字通り手も足も出ず瞬殺されたのであるから無理もない。

 

「で?あんた達は俺等をどうしたいんだ?俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが……亜人族・・・としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのは不味いだろう?あんた達的に。殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺はお人好しじゃないぞ」

 

 総司の言葉に、身を強ばらせる長老衆。言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう。

 

「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」

 

 グゼが苦虫を噛み潰したような表情で呻くように呟いた。

 

「は?何言ってるんだ?先に殺意を向けてきたのは、あの熊野郎だろ?俺は返り討ちにしただけだ。再起不能になったのは自業自得ってやつだよ」

「き、貴様!ジンはな!ジンは、いつも国のことを思って!」

「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?」

「そ、それは!しかし!」

「勘違いするなよ? 俺が被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ?なら、そこのところ、長老のあんたがはき違えるなよ?」

 

 おそらくグゼはジンと仲が良かったのではないだろうか。その為、頭では総司の言う通りだと分かっていても心が納得しないのだろう。だが、そんな心情を汲み取ってやるほど、総司達はお人好しではない。

 

「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」

 

 アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む。

 

「確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

 そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目で総司とハジメを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 

 その視線を受けて、翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックが総司に伝える。

 

「朝田総司、南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

「絶対じゃない……か?」

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

「それで?」

 

 アルフレリックの話しを聞いても総司達の顔色は変わらない。すべきことをしただけであり、すべきことをするだけだという意志が、その瞳から見て取れる。アルフレリックは、その意志を理解した上で、長老として同じく意志の宿った瞳を向ける。

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

「……殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」

「そうだ。お前さんの実力なら可能だろう?」

「あの熊野郎が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だろうな。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。あんたの気持ちはわかるけどな、そちらの事情は俺にとって関係のないものだ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」

 

 奈落の底で培った、敵対者は殺すという価値観は根強く総司とハジメの心に染み付いている。殺し合いでは何が起こるかわからないのだ。手加減などして、窮鼠猫を噛むように致命傷を喰らわないとは限らない。その為、総司がアルフレリックの頼みを聞くことはなかった。

 

 しかし、そこで虎人族のゼルが口を挟んだ。

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

 その言葉に、総司とハジメは訝しそうな表情をした。もとより、案内はハウリア族に任せるつもりで、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはなかった。そのことは、彼等も知っているはずである。だが、ゼルの次の言葉で彼の真意が明らかになった。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

 ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。

 

「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」

「シア!止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

「でも、父様!」

 

 土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

 ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。長老会議で決定したというのは本当なのだろう。他の長老達も何も言わなかった。おそらく、忌み子であるということよりも、そのような危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたという事実が罪を重くしたのだろう。ハウリア族の家族を想う気持ちが事態の悪化を招いたとも言える。何とも皮肉な話だ。

 

「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが?どうする?運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

 それが嫌なら、こちらの要求を飲めと言外に伝えてくるゼル。他の長老衆も異論はないようだ。しかし、ハジメは特に焦りを浮かべることも苦い表情を見せることもなく、何でもない様に軽く返した。

 

「お前、アホだろ?」

「な、なんだと!」

 

 ハジメの物言いに、目を釣り上げるゼル。シア達も思わずと言った風にハジメを見る。アヴローラはハジメの考えがわかっているのかすまし顔だ。

 

「俺は、お前らの事情なんて関係ないって言ったんだ。俺からこいつらを奪うってことは、結局、俺の行く道を阻んでいるのと変わらないだろうが」

 

 ハジメは長老衆を睥睨しながら、スっと伸ばした手を泣き崩れているレナの頭に乗せた。ピクッと体を震わせ、ハジメを見上げるレナ。

 

「俺から、こいつらを奪おうってんなら……覚悟を決めろ」

「ハジメ……」

 

 ハジメにとって今の言葉は単純に自分の邪魔をすることは許さないという意味で、それ以上ではないだろう。しかし、それでも、ハウリア族を死なせないために亜人族の本拠地フェアベルゲンとの戦争も辞さないという言葉は、その意志は、絶望に沈むシアの心を真っ直ぐに貫いた。

 

「本気かね?」

 

 アルフレリックが誤魔化しは許さないとばかりに鋭い眼光でハジメを射貫く。

 

「当然だ」

 

 しかし、全く揺るがないハジメ。そこに不退転の決意が見て取れる。この世界に対して自重しない、邪魔するものには妥協も容赦もしない。奈落の底で言葉にした決意だ。

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

 ハウリア族の処刑は、長老会議で決定したことだ。それを、言ってみれば脅しに屈して覆すことは国の威信に関わる。今後、ハジメ達を襲うかもしれない者達の助命を引き出すための交渉材料である案内人というカードを切ってでも、長老会議の決定を覆すわけにはいかない。故に、アルフレリックは提案した。しかし、ハジメは交渉の余地などないと言わんばかりにはっきりと告げる。

 

「何度も言わせるな。俺達の案内人はハウリアだ」

「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

 アルフレリックの言葉にハジメは面倒そうな表情を浮かべつつ、レナをチラリと見た。先程から、ずっとハジメを見ていたレナはその視線に気がつき、一瞬目が合う。すると僅かに心臓が跳ねたのを感じた。視線は直ぐに逸れたが、レナの鼓動だけは高まり続ける。

 

「約束したからな。案内と引き換えに助けてやるって」

「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか?峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう。」

「問題大ありだ。案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんだよ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんざ……」

 

 ハジメは一度、言葉を切って今度はアヴローラを見た。アヴローラもハジメを見ており目が合うと僅かに微笑む。それに苦笑いしながら肩を竦めたハジメはアルフレリックに向き合い告げた。

 

「格好悪いだろ?」

 

 闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリ。殺し合いにおいて、ハジメはこれらを悪いとは思わない。生き残るために必要なら何の躊躇いもなく実行して見せるだろう。

 

 しかし、だからこそ、殺し合い以外では守るべき仁義くらいは守りたい。それすら出来なければ本当に唯の外道である。ハジメも男だ。奈落の底で出会った傍らの少女がつなぎ止めてくれた一線を、自ら越えるような醜態は晒したくない。

 

 ハジメに引く気がないと悟ったのか、アルフレリックが深々と溜息を吐く。他の長老衆がどうするんだと顔を見合わせた。しばらく、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した。

 

「ならば、お前さん達の奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

「アルフレリック!それでは!」

 

 完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた。

 

「ゼル。わかっているだろう。この少年が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

「しかし、それでは示しがつかん!力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

「だが……」

 

 ゼルとアルフレリックが議論を交わし、他の長老衆も加わって、場は喧々囂々の有様となった。やはり、危険因子とそれに与するものを見逃すということが、既になされた処断と相まって簡単にはできないようだ。悪しき前例の成立や長老会議の威信失墜など様々な思惑があるのだろう。

 

 だが、そんな中、総司が敢えて空気を読まずに発言する。

 

「ああ~、盛り上がっているところ悪いが、シア達を見逃すことについては今更だと思うぞ?」

 

 総司の言葉に、ピタリと議論が止まり、どういうことだと長老衆が総司に視線を転じる。

 

 総司はおもむろに右腕の袖を捲ると魔力の直接操作を行った。すると、右腕の皮膚の内側に薄らと赤い線が浮かび上がる。さらに、〝纏雷〟を使用して右手にスパークが走る。

 

 長老衆は、総司のその異様に目を見開いた。そして、詠唱も魔法陣もなく魔法を発動したことに驚愕を表にする。ジンを倒したのは左腕の義手型アーティファクトだけのせいだと思っていたのだ。

 

「俺も、シアと同じように、魔力の直接操作ができるし、固有魔法も使える。次いでに言えばこっちのユエとアヴローラもな。あんた達のいう化物ってことだ。だが、口伝では〝それがどのような者であれ敵対するな〟ってあるんだろ?掟に従うなら、いずれにしろあんた達は化物を見逃さなくちゃならないんだ。シア達二人を見逃すくらい今更だと思うけどな」

 

 しばらく硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる。

 

「はぁ~、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアとレナ・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である朝田総司と南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、朝田総司と南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

「いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

 

 総司の言葉に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ。恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ! という雰囲気である。その様子に肩を竦める総司とハジメは香織達やシア達を促して立ち上がった。

 

 ユエとアヴローラは終始ボーとしていたが、話は聞いていたのか特に意見を口にすることもなく総司達に合わせて立ち上がった。

 

 しかし、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議。「えっ、このまま本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた。

 

「おい、何時まで呆けているんだ?さっさと行くぞ」

 

 総司の言葉に、ようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行く総司の後を追うシア達。アルフレリック達も、総司達を門まで送るようだ。

 

 シアが、オロオロしながら総司に尋ねた。

 

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

「?さっきの話し聞いてなかったのか?」

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

 周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。それだけ、長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだろう。どう処理していいのか分からず困惑するシアに香織とユエが呟くように話しかけた。

 

「……素直に喜べばいい」

「ユエさん?」

「そうだね。総ちゃんに救われた。それが事実なんだから。受け入れて喜べばいいんじゃないかな?」

「……」

 

 香織とユエの言葉に、シアはそっと隣を歩く総司に視線をやった。総司は前を向いたまま肩を竦める。

 

「まぁ、約束だからな」

「ッ……」

 

 シアは、肩を震わせる。樹海の案内と引き換えにシアと彼女の家族の命を守る。シア達が必死に取り付けた総司達との約束だ。

 

 元々、〝未来視〟で総司達が守ってくれる未来は見えていた。しかし、それで見える未来は絶対ではない。シア達の選択次第で、いくらでも変わるものなのだ。だからこそ、シア達は総司達の協力を取り付けるのに〝必死〟だった。相手は、亜人族に差別的な人間で、シア達自身は何も持たない身の上だ。交渉の材料など、自分の〝女〟か〝固有能力〟しかない。それすら、あっさり無視された時は、本当にどうしようかと泣きそうになった。

 

 それでもどうにか約束を取り付けて、道中話している内に何となく、総司達なら約束を違えることはないだろうと感じていた。それは、自分が亜人族であるにもかかわらず、差別的な視線が一度もなかったことも要因の一つだろう。だが、それはあくまで〝何となく〟であり、確信があったわけではない。

 

 だから、内心の不安に負けて、〝約束は守る人だ〟と口に出してみたり〝人間相手でも戦う〟などという言葉を引き出してみたりした。実際に、何の躊躇いもなく帝国兵と戦ってくれた時、どれほど安堵したことか。

 

 だが、今回はいくら総司達でも見捨てるのではという思いがシア達にはあった。帝国兵の時とはわけが違う。言ってみれば、帝国の皇帝陛下の前で宣戦布告するに等しいのだ。にもかかわらず一歩も引かずに約束を守り通してくれた。例えそれが、総司自身の為であっても、ユエの言う通り、シア達と大切な家族は確かに守られたのだ。

 

 先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも……

 

 シアは、ユエの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、総司に全力で抱きつく!

 

「総司さ~ん!ありがどうございまずぅ~!」

「っ!?いきなり何だ!?」

「むっ……」

 

 泣きべそを掻きながら絶対に離しません! とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリと総司の肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている。

 

 それを見た香織とユエが不機嫌そうに唸るものの、何か思うところがあるのか、総司の反対の手を取るだけで特に何もしなかった。

 

 喜びを爆発させ総司とハジメにじゃれつくシアとレナの姿に、ハウリア族の皆もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。

 

 それを何とも複雑そうな表情で見つめているのは長老衆だ。そして、更に遠巻きに不快感や憎悪の視線を向けている者達も多くいる。

 

 総司とハジメはその全てを把握しながら、ここを出てもしばらくは面倒事に巻き込まれそうだと苦笑いするのだった。



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第18話生き残る唯一の道

長い間お待たせしてすみません。ようやく執筆が終わりました。

これからも長い期間投稿しない事が多くあると思いますが応援の程よろしくお願いします。


「さて、お前等には戦闘訓練を受けてもらおうと思う」

 

 フェアベルゲンを追い出された総司達が、一先ず大樹の近くに拠点を作って一息ついた時の、総司の第一声がこれだった。拠点といっても、ハジメがさり気なく盗ん……貰ってきたフェアドレン水晶を使って結界を張っただけのものだ。その中で切り株などに腰掛けながら、ウサミミ達はポカンとした表情を浮かべた。

 

「え、えっと……総司さん。戦闘訓練というのは……」

「死なないわよね……?」

 

 困惑する一族を代表してシアとレナが尋ねる。

 

「そのままの意味だ。どうせ、これから十日間は大樹へはたどり着けないんだろ? ならその間の時間を有効活用して、軟弱で脆弱で負け犬根性が染み付いたお前等を一端の戦闘技能者に育て上げようと思ってな」

「な、なぜ、そのようなことを……」

「おそらく、俺達と行動を共にする場合色々と戦わなければならない時が来るからな。だから、せめて逃げ切る事位は出来るようになってもらうぞ」

 

 ハジメの据わった目と総司の説明、そして全身から迸る威圧感にぷるぷると震えるウサミミ達。シアが、あまりに唐突な総司達の宣言に当然の如く疑問を投げかける。

 

「なぜ? なぜと聞いたか? 残念ウサギ」

「あぅ、まだ名前で呼んでもらえない……」

 

 落ち込むレナを尻目にハジメが語る。

 

「いいか、俺達がお前達と交わした約束は、案内が終わるまで守るというものだ。じゃあ、案内が終わった後はどうするのか、それをお前等は考えているのか?」

 

 ハウリア族達が互いに顔を見合わせ、ふるふると首を振る。カムも難しい表情だ。漠然と不安は感じていたが、激動に次ぐ激動で頭の隅に追いやられていたようだ。あるいは、考えないようにしていたのか。

 

「まぁ、考えていないだろうな。考えたところで答えなどないしな。お前達は弱く、悪意や害意に対しては逃げるか隠れることしかできない。そんなお前等は、遂にフェアベルゲンという隠れ家すら失った。つまり、俺の庇護を失った瞬間、再び窮地に陥るというわけだ」

「「「「「「……」」」」」」

 

 全くその通りなので、ハウリア族達は皆一様に暗い表情で俯く。そんな、彼等に総司とハジメの言葉が響く。

 

「お前等に逃げ場はない。隠れ家も庇護もない。だが、魔物も人も容赦なく弱いお前達を狙ってくる。このままではどちらにしろ全滅は必定だ……それでいいのか? 弱さを理由に淘汰されることを許容するか? 幸運にも拾った命を無駄に散らすか? どうなんだ?」

 

 誰も言葉を発さず重苦しい空気が辺りを満たす。そして、ポツリと誰かが零した。

 

「そんなものいいわけがない」

 

 その言葉に触発されたようにハウリア族が顔を上げ始める。シアとレナは既に決然とした表情だ。

 

「そうだ。いいわけがない。ならば、どうするか。答えは簡単だ。強くなればいい。襲い来るあらゆる障碍を打ち破り、自らの手で生存の権利を獲得すればいい」

「……ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません……とても、そのような……」

 

 兎人族は弱いという常識が総司とハジメの言葉に否定的な気持ちを生む。自分達は弱い、戦うことなどできない。どんなに足掻いてもハジメの言う様に強くなど成れるものか、と。

 

 ハジメはそんなハウリア族を鼻で笑う。

 

「俺はかつての仲間から〝無能〟と呼ばれていたぞ?」

「ついでに俺は〝最弱〟だったな」

「え?」

「〝無能〟だ〝無能〟。ステータスも技能も平凡極まりない一般人。仲間内の最弱。戦闘では足でまとい以外の何者でもない。故に、かつての仲間達は俺を〝無能〟と呼んでいたんだよ。実際、その通りだった」

 

 総司とハジメの告白にハウリア族は例外なく驚愕を表にする。ライセン大峡谷の凶悪な魔物も、戦闘能力に優れた熊人族の長老も、苦もなく一蹴した総司とハジメが〝無能〟で〝最弱〟など誰が信じられるというのか。

 

「だが、奈落の底に落ちて俺達は強くなるために行動した。出来るか出来ないか何て頭になかった。出来なければ死ぬ、その瀬戸際で自分の全てをかけて戦った。……気がつけばこの有様さ」

 

 淡々と語られる内容に、しかし、あまりに壮絶な内容にハウリア族達の全身を悪寒が走る。一般人並のステータスということは、兎人族よりも低スペックだったということだ。その状態で、自分達が手も足も出なかったライセン大峡谷の魔物より遥かに強力な化物達を相手にして来たというのだ。実力云々よりも、実際生き残ったという事実よりも、最弱でありながら、そんな化け物共に挑もうとしたその精神の異様さにハウリア族は戦慄した。自分達なら絶望に押しつぶされ、諦観と共に死を受け入れるだろう。長老会議の決定を受け入れたように。

 

「お前達の状況は、かつての俺達と似ている。約束の内にある今なら、絶望を打ち砕く手助けくらいはしよう。自分達には無理だと言うのなら、それでも構わない。その時は今度こそ全滅するだけだ。約束が果たされた後は助けるつもりは毛頭ないからな。残り僅かな生を負け犬同士で傷を舐め合ってすごせばいいさ」

 

 それでどうする? と目で問うハジメ。ハウリア族達は直ぐには答えない。いや、答えられなかったというべきか。自分達が強くなる以外に生存の道がないことは分かる。総司達は、正義感からハウリア族を守ってきたわけではない。故に、約束が果たされれば容赦なく見捨てられるだろう。だが、そうは分かっていても、温厚で平和的、心根が優しく争いが何より苦手な兎人族にとって、総司達の提案は、まさに未知の領域に踏み込むに等しい決断だった。総司とハジメの様な特殊な状況にでも陥らない限り、心のあり方を変えるのは至難なのだ。

 

 黙り込み顔を見合わせるハウリア族。しかし、そんな彼等を尻目に、先程からずっと決然とした表情を浮かべていたシアとレナが立ち上がった。

 

「やります。私に戦い方を教えてください! もう、弱いままは嫌です!」

「例え無様でもやり遂げて見せるわ!」

 

 樹海の全てに響けと言わんばかりの叫び。これ以上ない程思いを込めた宣言。シア達とて争いは嫌いだ。怖いし痛いし、何より傷つくのも傷つけるのも悲しい。しかし、一族を窮地に追い込んだのは紛れもなく自分が原因であり、このまま何も出来ずに滅ぶなど絶対に許容できない。とあるもう一つの目的のためにも、シアとレナは兎人族としての本質に逆らってでも強くなりたかった。

 

 不退転の決意を瞳に宿し、真っ直ぐ総司を見つめるシアとハジメを見つめるレナ。その様子を唖然として見ていたカム達ハウリア族は、次第にその表情を決然としたものに変えて、一人、また一人と立ち上がっていく。そして、男だけでなく、女子供も含めて全てのハウリア族が立ち上がったのを確認するとカムが代表して一歩前へ進み出た。

 

「総司殿、ハジメ殿……宜しく頼みます」

 

 言葉は少ない。だが、その短い言葉には確かに意志が宿っていた。襲い来る理不尽と戦う意志が。

 

「わかった。覚悟しろよ? あくまでお前等自身の意志で強くなるんだ。俺は唯の手伝い。途中で投げ出したやつを優しく諭してやるなんてことしないからな。おまけに期間は僅か十日だ……死に物狂いになれ。待っているのは生か死の二択なんだから」

「というか、変わっても変わらなくても俺達は次の迷宮へ向かうからお前達の面倒を見る暇はない。十日で変わらなければ見捨てるからな」

 

 総司とハジメの言葉に、ハウリア族は皆、覚悟を宿した表情で頷いた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 総司達は、ハウリア族を訓練するにあたって、まず、〝宝物庫〟から取り出した錬成の練習用に作った装備を彼等に渡した。先に渡していたナイフの他に反りの入った片刃の小剣、日本で言うところの小太刀と、片手で扱うには大きすぎる両刃の長剣、地球で言うところの西洋剣だ。これらの刃物は、総司とハジメが精密錬成を鍛えるために、その刃を極薄にする練習の過程で作り出されたもので切れ味は抜群だ。タウル鉱石製なので衝撃にも強い。その細身に反してかなりの強度を誇っている。

 

 そして、その武器を持たせた上で基本的な動きを教える。もちろん、総司は別であるが、ハジメには武術の心得などない。あってもそれは漫画やゲームなどのにわか知識に過ぎず他者に教えられるようなものではない。教えられるのは、奈落の底で数多の魔物と戦い磨き上げた〝合理的な動き〟だけだ。それを叩き込みながら、適当に魔物をけしかけて実戦経験を積ませる。ハウリア族の強みは、その索敵能力と隠密能力だ。いずれは、奇襲と連携に特化した集団戦法を身につけばいいと思っていた。

 

 ちなみに、シアに関してはユエとアヴローラが専属で魔法の訓練をしている。亜人でありながら魔力があり、その直接操作も可能なシアは、知識さえあれば魔法陣を構築して無詠唱の魔法が使えるはずだからだ。時折、霧の向こうからシアの悲鳴が聞こえるので特訓は順調のようだ。

 

 だが、訓練開始から二日目。総司はどこかあらぬ所を見ているかのような遠い目をし、ハジメは額に青筋を浮かべながらイライラした様にハウリア族の訓練風景を見ていた。確かに、ハウリア族達は、自分達の性質に逆らいながら、言われた通り真面目に訓練に励んでいる。魔物だって、幾つもの傷を負いながらも何とか倒している。

 

 しかし……

 

グサッ!

 

 魔物の一体に、ハジメ特製の小太刀が突き刺さり絶命させる。

 

「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」

 

 それをなしたハウリア族の男が魔物に縋り付く。まるで互いに譲れぬ信念の果て親友を殺した男のようだ。

 

ブシュ!

 

 また一体魔物が切り裂かれて倒れ伏す。

 

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私はやるしかないのぉ!」

 

 首を裂いた長剣を両手で握り、わなわな震えるハウリア族の女。まるで狂愛の果て、愛した人をその手で殺めた女のようだ。

 

バキッ!

 

 瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが、倒れながら自嘲気味に呟く。

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

 

 その言葉に周囲のハウリア族が瞳に涙を浮かべ、悲痛な表情でカムへと叫ぶ。

 

「族長! そんなこと言わないで下さい! 罪深いのは皆一緒です!」

「そうです! いつか裁かれるとき来るとしても、それは今じゃない! 立って下さい! 族長!」

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

「お、お前達……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼(小さなネズミっぽい魔物)のためにも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

 

 いい雰囲気のカム達。そして我慢できずに突っ込むハジメ。

 

「だぁーーー! やかましいわ、ボケッ! 魔物一体殺すたびに、いちいち大げさなんだよ! なんなの? ホント何なんですか? その三文芝居! 何でドラマチックな感じになってんの? 黙って殺れよ! 即殺しろよ! 魔物に向かって〝彼〟とか言うな! キモイわ!」

 

 総司にいたっては……

 

「魔物って何だっけ?戦いって何だっけ?食料って何だっけ?」

 

 現実逃避どころか心が破壊されていた。

 

 そう、ハウリア族達が頑張っているのは分かるのだが、その性質故か、魔物を殺すたびに訳のわからないドラマが生まれるのだ。この二日、何度も見られた光景であり、総司とハジメもまた何度も指摘しているのだが一向に直らない事から、いい加減、堪忍袋の緒が切れそうなのである。

 

 ハジメの怒りを多分に含んだ声と心が壊れた総司の悲痛なる疑問にビクッと体を震わせながらも、「そうは言っても……」とか「だっていくら魔物でも可哀想で……」とかブツブツと呟くハウリア族達。

 

 更にハジメの額に青筋が量産され、総司は泡を吹いて倒れた………

 

 見かねたハウリア族の少年が、総司とハジメを宥めようと近づく。この少年、ライセン大峡谷でハイベリアに喰われそうになっていたところを間一髪総司達に助けられ、特に懐いている子だ。

 

 しかし、進み出た少年は総司達に何か言おうとして、突如、その場を飛び退いた。

 

 訝しそうなハジメが少年に尋ねる。

 

「? どうした?」

 

 少年は、そっと足元のそれに手を這わせながらハジメに答えた。

 

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって……よかった。気がつかなかったら、潰しちゃうところだったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

 

 総司は体をビクンッビクンッ!とさせ、ハジメは頬が引き攣らせる。

 

「お、お花さん?」

「うん! ハジメ兄ちゃん! 僕、お花さんが大好きなんだ! この辺は、綺麗なお花さんが多いから訓練中も潰さないようにするのが大変なんだ~」

 

 ニコニコと微笑むウサミミ少年。周囲のハウリア族達も微笑ましそうに少年を見つめている。

 

 ハジメは、ゆっくり顔を俯かせた。白髪が垂れ下がりハジメの表情を隠す。そして、ポツリと囁くような声で質問をする。

 

「……時々、お前等が妙なタイミングで跳ねたり移動したりするのは……その〝お花さん〟とやらが原因か?」

 

 ハジメの言う通り、訓練中、ハウリア族は妙なタイミングで歩幅を変えたり、移動したりするのだ。気にはなっていたのだが、次の動作に繋がっていたので、それが殺りやすい位置取りなのかと様子を見ていたのだが。

 

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ」

「はは、そうだよな?」

 

 苦笑いしながらそう言うカムに少し頬が緩むハジメ。しかし……

 

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まないように避けますがね」

 

 カムのその言葉にハジメの表情が抜け落ちる。すると、その後ろから幽鬼のようにゆら~りゆら~りと揺れながら立ち上がり、此方に歩み寄り始めた総司に、何か悪いことを言ったかとハウリア族達がオロオロと顔を見合わせた。総司は、そのままゆっくり少年のもとに歩み寄ると、一転してにっこりと笑顔を見せる。少年もにっこりと微笑む。

 

 そして総司は……笑顔のまま眼前の花を踏み潰した。ご丁寧に、踏んだ後、グリグリと踏みにじる。

 

 呆然とした表情で手元を見る少年。ようやく総司の足が退けられた後には、無残にも原型すら留めていない〝お花さん〟の残骸が横たわっていた。

 

「お、お花さぁーん!」

 

 少年の悲痛な声が樹海に木霊する。「一体何を!」と驚愕の表情で総司を見やるハウリア族達に、総司は額に青筋を浮かべながらにっこりと微笑みを向ける。

 

「ああ、よくわかった。よ~くわかりましたともさ。俺が甘かった。俺の責任だ。お前等という種族を見誤った俺の落ち度だ。ハハ、まさか生死がかかった瀬戸際で〝お花さん〟だの〝虫達〟だのに気を遣うとは……てめぇらは戦闘技術とか実戦経験とかそれ以前の問題だ。もっと早くに気がつくべきだったよ。自分の未熟に腹が立つ……フフフ」

「そ、総司殿?」

 

 不気味に笑い始めた総司に、ドン引きしながら恐る恐る話かけるカム。その返答は……

 

ズパンッ!

 

 総司の持つハンドガン〝ロングストローク〟による撃だった。カムが仰け反るように後ろに吹き飛び、少し宙を舞った後ドサッと地面に落ちる。次いで、カムの額を撃ち抜いた非致死性のゴム弾がポテッと地面に落ちた。

 

 辺りをヒューと風が吹き、静寂が支配する。総司は、気絶したのか白目を向いて倒れるカムに近寄り、今度はその腹を目掛けてゴム弾を撃ち込んだ。

 

「はうぅ!」

 

 悲鳴を上げ咳き込みながら目を覚ましたカムは、涙目で総司を見る。ウサミミ生やしたおっさんが女座りで涙目という何ともシュールな光景をよそに、総司は宣言した。

 

「貴様らは薄汚い〝ピッー〟共だ。この先、〝ピッー〟されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ! 今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみろ! 貴様ら全員〝ピッー〟してやる! わかったら、さっさと魔物を狩りに行け! この〝ピッー〟共が!」

「そ、総ちゃんが、壊れた!!どうしよう、ち、治癒魔法で治るかな?それとも……そうだ、抱きしめてあげれば!」

 

 総司の普段は発しないようなあまりに汚い暴言に硬直するハウリア族と狼狽えてアイデンティティクライシスを起こした香織。しかし、そんなハウリア族に総司は容赦なく発砲した。

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

 わっーと蜘蛛の子を散らすように樹海へと散っていくハウリア族。足元で震える少年が総司に必死で縋り付く。

 

「総司兄ちゃん! 一体どうしたの!? 何でこんなことするの!?」

 

 総司はギラリッと眼を光らせて少年を睨むと、周囲を見渡し、あちこちに咲いている花を確認する。そして無言で再度発砲した。

 

 次々と散っていく花々。少年が悲鳴を上げる。

 

「何だよぉ~、何すんだよぉ~、止めろよぉ総司兄ちゃん!」

「黙れ、クソガキ。いいか? お前が無駄口を叩く度に周囲の花を散らしていく。花に気を遣っても、花を愛でても散らしてく。何もしなくても散らしていく。嫌なら、一体でも多くの魔物を殺してこい!」

 

 そう言いつつ、再び花を撃ち抜いてく総司。少年はうわ~んと泣きながら樹海へと消えていった。

 

 それ以降、樹海の中に〝ピッー〟を入れないといけない用語とハウリア達の悲鳴と怒号が飛び交い続けた。

 

 種族の性質的にどうしても戦闘が苦手な兎人族達を変えるために取った訓練方法。戦闘技術よりも、その精神性を変えるために行われたこの方法を、地球ではハー○マン式と言うとか言わないとか……

 



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