乙女ゲー主人公はヤンデレでした (でち公)
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番外編 Ex.1 春の陽気に誘われて

番外編だオラァ!

ただ単にこの話がやりたかっただけなんですけどね。

次話投稿時に新しく番外編の章を1番上に作って移動させときます。多分それの方が見やすいだろうし。

じゃそういうことで初投稿です。



 今日はとてもいい天気だ。春特有のぽかぽか陽気に柔らかい風が木々の幼い緑を揺らし、風に乗って流れてくる仄かな花の香り。

 

 こんな日にこそお昼寝をするべきだろうと、私レインはそう思う。

 

「オルドと一緒にお昼寝したいなぁ」

 

 そう呟いてみるも私はオルドが住んでいる家を知らない。というのもオルドは学園が終わるといつの間にか消えているのだ。ほんの少し目を離した瞬間にはもう居なくなっているため後をつけることも出来ない。家を知っていれば今日みたいな休みの日でもオルドに会いに行けるんだけど……。

 

「できればずっと一緒に居たいのに」

 

 しかしそうは言ってもどうにもならないのも事実。仕方がないので絶好のお昼寝ポイントに一人で行って寝ることにしよう。

 

 そうと決まれば早速準備をする。とりあえずは財布と鞄、それにシートとタオルケットを準備して……。そこで机の上に置いていた宝物の小袋が目に入った。……これも持っていこうかな。

 

 これを抱いて寝ればきっと幸せな夢が見られると思うから。

 

 大切な小袋を服の内ポケットに入れ込み、玄関のドアノブをガチャリと捻り外へ出る。

 

「いってきます」

 

 

 

 

 

 

 とりあえずはまだお昼ご飯を食べていないし、軽く食べてから行こう。そう思ったので屋台村へと向かうことにした。

 

 そしてしばらく歩くと屋台村に着いた。さて何を食べようかな? そんなことを考えながら歩いていると知り合いのおばさんが話しかけてきた。

 

「あらーレインちゃんじゃない! 今日はどうしたの?」

 

「ええと、お腹が減ったのでお昼ご飯を食べようと思いまして……」

 

「そうなのね、ほらじゃあこれあげるわ! うち自慢のベル豚の串焼きよ!」

 

 そう言っておばさんは串焼きを5本ほど包むとこちらに渡してきた。

 

「わ、悪いですよ」

 

「いいのよ、レインちゃんには色々と世話になったのだから」

 

「で、でもこれ売り物ですし……」

 

「んーそうねぇ。そうだ、私この前レインちゃんに腕の怪我を治してもらったじゃない?」

 

「えっ、ああ、はい」

 

「それのお駄賃てことで貰ってちょうだいな」

 

 そう言っておばさんはカラカラと笑ってグイッと押し付けてきた。ここまで言われてしまっては受け取らない方が逆に失礼に当たるだろう。

 

「えっと、それじゃあ有難くいただきますね」

 

 そう言って串焼きを受け取った。それじゃあお昼寝スポットに行って食べようかな……。そんなことを考えていると今度は別の屋台のおじさんから声がかかった。

 

「おぉ!? レインちゃんじゃねえか! 串焼き持ってるってことは昼飯買いに来たんだな?」

 

「ええ、まあ、そうですけど」

 

「じゃあ俺んとこのも持っていきな!」

 

「お、ならうちのも持って行ってくれ!」

 

「あたしんとこも持っていきなよ」

 

「うぇえ!? ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 おじさんがそう言ったのを皮切りに近くで屋台を経営してた人達がどんどん売り物を持ってきては私に手渡してくる。皆とてもいい笑顔で渡してくるものだから断るに断れずに受け取るしかなかった。

 

 

 

 

 

 両手いっぱいに抱えた食べ物を持ち歩きながらどうしようかと悩んでしまう。屋台村の人達が沢山食べ物をくれたのは嬉しいけれどさすがにこの量を私1人で食べきるのはかなり厳しい。

 

 だからといって彼らの好意を無下にはしたくないし、食べ物を無駄にするのも嫌だ。

 

 ……仕方ない頑張って食べよう。

 

 そんなことを考えながら絶好のお昼寝スポットに向かっていると何処からか音が聞こえた。耳をすまして聞いてみるとその音は誰かが歌を歌っているということが分かった。

 

 聞いたことも無い歌、けれど何故かとても懐かしくて、心の底から安心してしまうようで、とても眠たくなる歌だ。その優しげな歌声にふらふらとまるで吸い込まれるように向かって行ってしまう。

 

 そうしてしばらく歩いた先には風に揺られて草同士が擦れる度に耳触りのいい音を奏で、太陽の光に照らされてキラキラと光る草原。そんな草原にある丘にポツンと生えた木の陰で誰かが座って歌を歌っている姿が見えた。

 

 まるで一枚の絵画のような光景に私は一瞬立ち尽くしてしまった。

 

 ハッと気を取り直し、一体誰だろうと目を凝らして見てみると歌っていたのはオルドだった。暫くじっとみていると不意にこちらに顔を向けたオルドとバッチリ目が合ってしまった。

 

 互いの間に流れる沈黙の時間。なんだろう、凄く居心地が悪く感じてしまう。

 

「……聞いていましたか?」

 

「う、うん。とてもいい歌だったよ」

 

「そうですか」

 

 オルドはそう言うと顔を真っ赤にして俯いてしまった。普段の無表情から一転して恥ずかしそうに俯くオルドに何だか、こう胸の奥が高鳴るというか、何だろう尊みがオーバーフローを起こしてしまう。

 

「隣に座ってもいいかな?」

 

「どうぞ」

 

 その言葉を聞いてオルドの隣へと座り込む。屋台村の人達から貰った食べ物を膝の上に置くとオルドが驚いたような目でこちらを見ていた。

 

「随分と食べるんですね」

 

「あっ、いや違うよ!? これは屋台村の人達がくれたって言うか……」

 

「ああ、なるほど。レインはこの国の人達から好かれていますからね」

 

「えっ、そ、そうかな?」

 

 唐突に褒めてきたオルドに思わず照れてしまう。

 

「ええ、この国の人達から少し話を聞きましたがレインは怪我を負った人たちに無償で治療してくれたり、清潔な水をくれた等と皆さん嬉しそうに教えてくれましたよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「怪我をしても貧困層の人達は治療が満足にできない事が多いですからね。それを無償でしてくれるレインには心の底から感謝してると言っていましたし、レインが創り出す水は一度も腹を下したことがないから有難いと言っていました」

 

「あはは、何だかそんなに褒められると恥ずかしいね」

 

 手放しに褒めてくれるオルドに少し気恥ずかしくなり、話題を逸らすように屋台村の人達から貰った食べ物を彼に手渡す。

 

「一緒に食べよ?」

 

「ん、いいのですか?」

 

「勿論だよ、私一人じゃこんなに沢山のものを食べきれないからね」

 

「では有難くいただきます」

 

 そう言うとオルドは受け取ったものを食べ始めた。美味しそうに食べるオルドの姿にとてもほっこりとした気持ちになってしまう。

 

 ……今度私も何か作ってみようかな。

 

 そんなことを考えつつ、私も取り出した食べ物を食べ始めた。

 

「この串焼き美味しいですね」

 

「ベル豚のお肉らしいよ?」

 

「へえ、ベル豚っていうとあの魔物ですか。まあ比較的狩りやすい魔物ですし、市場にも出回りやすい肉ですね。……それにしてもこのタレすごく美味しいですね。一体どうやって作ってるんでしょう」

 

 今度作ってみようかな、なんて呟くオルドに少し驚いた。

 

「オルドって料理出来るの?」

 

「まあ、それなりに」

 

「そ、そうなんだ」

 

 思わずオルドがエプロンを着けて料理をしている所を想像してしまう。何だろうとても似合っていそうだ。それにオルドも料理が出来るのならそこに私も並んで一緒に料理をしたい。

 

 その光景を想像すると何だか幸せな気持ちになれた。こうなんというかまるでおしどり夫婦のような……。そこまで考えたところでふにゃりと破顔してしまう。

 

「急に笑いだしてどうしたのですか?」

 

「ううん、なんでもないよ!」

 

 よし、今度絶対にオルドを誘って一緒に料理をしよう。それで一緒に作った料理を2人で食べればきっと幸せなこと間違いなしだ。

 

 そこからはオルドと話しつつ、食べ物を食べ進めていっているとふと思い出したことがあった。

 

「そう言えばオルドが歌ってた歌って初めて聞くものだったんだけど、何処の歌なの?」

 

「……さあ、何処の歌なんでしょうね。私にもよく分からないんです。ただ、唯一覚えていた歌を口ずさんでいただけですので」

 

 そう話すオルドはどこか懐かしそうで、それでいて悲しそうな、まるで遠い故郷を思い出すかのような目をしていた。その姿を見て胸がちくりと痛んだ。

 

 時折オルドは何処か遠い目をする。彼が何を思い出しているのかは分からない。けれど彼がそんな目をする度に不意に何処か遠くに行ってしまうのではないか。また、私の前からいなくなってしまうのではないか。そんな考えが私の頭の中を過ぎるのだ。

 

 もう私の目の前からいなくならないで欲しい。次オルドがいなくなってしまえば私はきっと耐えれない。もうあんな思いはしたくないのだ。

 

「レイン、私の服を掴んでいますがどうかしましたか?」

 

 心配そうに私の顔を覗き込んでくるオルドに言われて初めて自分がオルドの服の裾を掴んでいることに気がついた。

 

「……なんでもないよ」

 

 手を離そう。そうは思うけれど私の意思に反して彼の服の裾から手が離れることは無かった。オルドはそれに何を言う訳でもなく、残っていた食べ物を食べ始めた。今はその心遣いが嬉しかった。

 

 そうして暫くオルドの服を掴んでいると、ようやく心が落ち着いた。それと同時に安心しきったことで眠気が出てきてしまった。元々昼寝をするために外に出てきたというのとこの暖かな木漏れ日がより一層眠気を増してくる。

 

「ごめんオルド、私ちょっと眠るね」

 

 オルドにそう言って私は木に背中を預けて目を閉じた。しばらくの間微睡みの中にいると思わず身体が横に倒れ込んでしまった。けれど特に衝撃もなく、ちょうどいい柔らかな感触が私の頭を支えてくれた。それに疑問を抱けるほどの思考は残っておらず、それどころかふんわりと鼻をくすぐる安心する匂いと優しく頭を撫でられる感覚により深く微睡んでしまう。

 

 そして遂に夢の中に旅立ってしまうその時に、不意に私の耳にとても懐かしい歌が届いた。そうだ、この歌は私が寝付けない時にあの男の子が……歌っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━おやすみレイン、いい夢を。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「この聖女やりおるわ……」

 

 人の膝の上にいきなり倒れ込んで眠り出した聖女を見て思わずそう呟いた。寝たら寝たでさっさと放置して帰ろうと思った矢先に人の膝の上に倒れ込まれたものだから動くに動けない。

 

 それにしても随分とまあ気持ちよさそうに眠りやがる。

 

 髪は女の命だと聞くので人の膝の上で勝手に眠りやがったすやすやと人の膝の上で眠る聖女に仕返しを兼ねて髪を軽く弄る。

 

 ……すごいサラサラだなこの髪。

 

 暖かな海の色を思わせるアクアマリンのような長い髪。きっと手間暇かけているんだろうなということは容易に伺える。しばらくの間弄ってはいたが、つまらなくなったのでやめた。暇だしまた歌でも歌うかな……。

 

 聖女の目の前で軽く手を振ってみたりして、聖女が完全に眠っているのを確認をする。流石に人前で歌うのはなけなしの羞恥心が刺激される。聖女が完全に眠り込んだのを確認すると起きないように小声で歌い始めた。

 

 前世で散々聞いていたこの乙女ゲーで一定の条件をクリアすることで聞ける曲。まあ、よく覚えているもんだよな。もう数十年経っているというのに頭の中にべったりとこびりついているもんだから驚愕ものだ。

 

 そういえばこの歌、なんかファンブックか何かに特殊な効果があるとかないとか書いていたような気がするなぁ……。ま、所詮たかが歌だしそんな大した効果はないだろ。

 

 しばらくの間歌を歌っていると不意に気持ちよさそうに眠っている聖女の姿が目に映りこんだ。こんなにも気持ちよさそうに眠られては何だか毒気も抜かれるというものだ。……まあ、別に誰も見ていないしたまには構わないか。

 

 




次回も番外編です。なにやらオルドくんの傭兵時代が気になっている様子なのでメテオラちゃんとセットで傭兵時代を書きます。あとついでに設定資料もあげるかもー。

そう言えばレインちゃんヤンデレか? という疑惑が沢山出てますが、ヤンデレだよ(鋼の意思)まあ、今は病みが浅いですけどきっと病んでくれるでしょう。この純粋乙女の特大の地雷をRPGで撃ち抜くレベルのことをオルドくんがしでかすので(畜生)

女の子:今はいい夢を見てることでしょう。

男の子:膝枕してる。普通逆なのでは……?

小袋:MVP

まだまだリクエストは募集しているので気が向いたらして、どうぞ。

ほな、また……(失踪)


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Ex.2 傭兵団の日常(前編)

長くなったので分けます。

スマヌ…スマヌ…ハツトツコウデス……。


「寒っ……」

 

 ぶるりと身体を震わせるような冷気で目が覚めた。寝ていたベッドから身体を起こし、軽く伸びをする。その際にちらりと横を見てみれば、メテオラがベッドに入り込んできていた挙句に毛布を全て掻っ攫っていた。道理で寒いわけだと思わず苦笑してしまう。

 

 気持ちよくぐっすりと寝ているメテオラを起こさないようにそーっとベッドから離れる。その後軽い身支度を済ませると扉を2つほど潜り抜けて外に出た。

 

 その途端、爆発音やら何かが壊れるような音、挙句に鈍い打撃音が至る所から大音量で流れた。

 

「おー、朝からドンパチ楽しくやってんなあ……」

 

 この傭兵団では毎朝のことである。立地している場所が場所なのでよく魔物が迷い込んでくる。殆どの魔物はこの建物を見ると一目散に逃げ出すのだが、一部の勇敢というか蛮勇を拗らせた魔物が突っ込んでくるのだ。そのため、よくこう言った音は鳴り響いているし、他にも傭兵団に所属しているもの同士で戦ってもいるのだろう。

 

 オルドは今日の飯当番は俺だったな、などと思いながら殆どの仲間がいるであろうこの拠点のエントランスへと向かった。

 

 エントランスに入ると大勢の人間が空を飛んでいた。その姿を見てオルドはまたかと眉間を揉んだ。人が吹き飛ばされているその中心点では乱雑に伸ばされた金色の髪を振り回しながら大暴れしている団長の姿が見えたからだ。

 

「おう、おはようさんオルド」

 

「おう、おはようヴィセミル」

 

 こちらに声をかけてきたのは筋骨隆々の肉体に髭をフルフェイスにしているヴィセミルという男であった。

 

「オルド、早速だが団長を止めてきてくれねえか」

 

「やだよ。つかお前ら何したんだ?」

 

 半目で睨むとヴィセミルはハハハと苦笑いをしながら語り出した。

 

「いやな? 最近ここに来た新人がいただろ? 彼奴が団長に喧嘩を売ってなあ……。で、それに便乗して他の奴らも団長に戦いに行ったんだが……まあ、ご覧の有様だよ」

 

「自業自得じゃねえか」

 

 ピクピクと死んだカエルの様に足を痙攣させている真っ先に叩き潰されたであろう新人の姿を見てため息を吐いた。

 

 新人にはよくあることなのだ。団長は女ということと筋骨隆々の身体ではなく、女性らしい起伏に富んだ柔らかそうな身体をしているため弱いのではないかと勘違いした新人が団長に突撃しては一撃で叩き潰される。全身に走った傷を見れば分かるような気もするが、団長のことだ。大方力を隠して本当に弱いと錯覚させていたのだろう。

 

 こういう事はよくあるためこの拠点のエントランスはちょっとやそっとの攻撃では壊れない頑丈な作りになっているのだ。

 

 どうするかなーとエントランスの2階から未だに投げ飛ばしまくっている団長をヴィセミルと一緒に見ていると不意に団長と目が合った。こちらを見た団長は好戦的な笑みを浮かべた。

 

「今日という今日はぶちのめしてやるからな、ヴィセミル!」

 

「おい、ご指名だぞ」

 

「えっ、なん、なんで俺?」

 

 明らかに狼狽した様子を見せるヴィセミルは此方を縋るように見てきた。

 

「オルド! 頼むっ、団長を落ち着かせてくれ! 何なら俺の秘蔵の酒をやるから!」

 

「……ったく、しゃあねえな」

 

 そう言って懐から琥珀色の酒を差し出してきたヴィセミルから受け取ると団長が佇んでいる1階の方へと向かう。その途中で置いてあったグラスに酒を入れることを忘れずに。

 

 並々と注いだ酒を手に持って、団長の元へと駆け寄ると瞳に六芒星が刻まれている力強い狼のような目で此方を睨みつけられた。

 

「団長」

 

「なんだオルド? お前が俺と━━━━━」

 

「韋駄天のヴィセミル様からの宣戦布告じゃああああっ!!」

 

 並々と注がれた酒を団長の顔目掛けてぶち撒ける。それをモロに食らった団長は顔からぽたぽたと酒を滴らせる。だが、その程度で終わらせる俺ではない。ヴィセミルから貰った酒のボトルを団長の頭の上で逆さにして残っていた中身を全てぶっかけていく。

 

「ヴィセミル様の酒が飲まれへんのか? ええ、おい?」

 

 ここぞとばかりに煽り倒し、最後に空になった酒瓶を団長の手に持たせる。勿論、ヴィセミルと名前が書かれているのがはっきりと分かるように。

 

「おっ、おまっ、オルドォォオオ!? なんて事を……!」

 

「ハハッ、ヴィセミルゥ……」

 

 わなわなと震えながら誰でも見て分かるほどの魔力を全身に滾らせて、しまいには左の瞳から漏れ出た金色の魔力が炎のように噴出される団長と顔が蒼白を通り越して土気色に変色しているヴィセミルの姿を見てそそくさと厨房へと繋がる扉の方へと行く。

 

 扉を閉める直前にヴィセミルの方を見た。

 

「どうせ新人煽ったのお前だろ。団長にボコボコにされてしまえ」

 

「ち、ちくしょおおおおおお!! この裏切り者があああああっ!!」

 

「ヴィセミルゥゥウ!!!」

 

 パタンと扉を閉める直前に見えたのは持っていた空の酒瓶を粉々に握り潰し、ヴィセミルへと飛びかかっていく団長の姿と諦めたような顔で団長から逃げ出そうとしていたヴィセミルの姿だった。

 

 そして今日の朝一番の轟音が拠点中に鳴り響いた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 寸銅鍋で大量の食材を煮込んだり、巨大な肉塊を特製のオーブンで焼いたり、米を炊いたり、パンを焼き上げたりなどとこの団に所属している全員分の食事を用意をしていると不意にでかい影が差し掛かった。

 

 振り向くとそこには白銀の鱗に包まれた全長20mはあろうドラゴンが涎を垂らしながら此方をキラキラとした目で見つめていた。

 

「おはよう、ソル」

 

『おはよー、オルド! 今日の食事当番はオルドなんだね。僕、オルドのご飯美味しいから好き!』

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。でも口はしっかり閉じておこうな」

 

 少年とも少女とも取れるような中性的な声で喋るのは、俺と契約しているドラゴンのソルだ。ソルは今でも随分とデカいがこれでもまだ幼体らしく、子供のような無邪気さがある。

 

 ソルは頭を俺の頬にグリグリと押し付けて甘えてくる。それに対して俺も答えるようにソルの首元に生えているモコモコとした毛をガシガシと撫で付ける。嬉しそうに目を細めてグルルと喉を鳴らすソルに焼き上がっていた肉を一つ近づける。

 

『いいの?』

 

「いいぞ、ただみんなには内緒だからな?」

 

『わーい!』

 

 そう言って喜んで肉を口に頬張るとモグモグと咀嚼していく。

 

『おいしー!』

 

 そう言って尻尾をビタンビタンと床に叩きつけて全身で喜びを表現するソルの姿に思わず笑みが溢れる。それを見たソルは首を傾げた。

 

『どうしたの?』

 

「いんや、ソルはいい子だなと思ってな」

 

『えへへ、僕いい子かな!』

 

「ああ、いい子だとも」

 

 軽く一撫ですると残っていた他の料理を一気に仕上げる。大量に出来上がった料理を腹を空かせているだろう傭兵団の連中が待っている食堂へと運んでいく。

 

『僕も手伝うね!』

 

「おう、ありがとうなソル」

 

 デカい寸銅鍋に紐を通し、口に咥えて持ち上げるソルを後目に残っている料理を全て魔法も駆使して運んでいく。

 

 食堂の扉を開けるとそこには空の容器を手に持っていた傭兵団の連中が行儀良く椅子に座って待ち構えていた。

 

「待ってたぜえ、オルド!」

 

「早くっ、早くオルドの飯を食わせてくれ!」

 

「副長! デザートはあるんですかっ!?」

 

「あるよ」

 

「やったぁ!」

 

 その光景に若干引きつつも、食堂の前に設置されている長机に沢山の料理を並べていく。置いていく料理の数に比例して食堂にいる全員のボルテージが上がっていく。

 

 それらを並べ切ると壁に設置されている音を鳴らす道具に手を掛けるとその音を聞き逃すまいと全員が耳を澄ませて待ち構えていた。そして金属同士がぶつかった時の特有の子気味のいい音が鳴り響いた。

 

「うおおおお! あの肉は俺のだああああっ!!」

 

「させるかぁっ!」

 

「儂はあのチーズがたっぷり乗ったやつを狙うぞ!」

 

「副長特製のデザートは私のよ!」

 

 音が鳴り響いた途端我先にへと集まってくる連中の姿を見てゾンビみたいだなと思いつつ、先に取ってあった料理を団長が座っている席にへと持っていく。

 

「おはよう、団長」

 

「おう、おはよオルド」

 

 朝から大暴れしたから上機嫌な様子の団長を見て苦笑しつつ、先に取り分けていた料理を団長の前に並べていく。

 

 この団の食堂は基本的にビュッフェ形式で食事を取るのだが団長にだけは先にいくつかの料理を持っていくことにしているのだ。というのも団長があの食事争いに突っ込んだら全員が壁に突き刺さる事になるからだ。というか既に一回やっているので、それからは団長にだけは持っていくことが暗黙の了解となっている。

 

「ほら、ソルの分だ」

 

『やった、オルドのご飯だ!』

 

 山盛りに盛られたこんがりと焼き上げられた肉をソル専用のテーブルに置くと勢いよくがっつき始めた。

 

『おいしー!』

 

「そいつは良かった」

 

 元気よく感想を述べるソルに思わず笑顔になりつつ、団長の隣の席に座る。

 

「お前、ソルには甘いよな」

 

「この団の唯一の癒しだからな。そら、甘くなるわ」

 

 持ってきた料理のうちの土鍋の蓋を開けると巨大なブロック肉が目立つ野菜たっぷりのビーフシチューがほかほかと湯気を立てながら出てきた。

 

「お、これかあ……俺の好物じゃねえか。随分と気が利くな」

 

「ゴリラに食堂で暴れられたらこま━━━━━」

 

 強烈な打撃音が食堂の中に響き渡った。

 

「何か言ったか馬鹿弟子」

 

「いえ、なんでもないです師匠……」

 

 鳴り響いた打撃音に何事かと食堂にいる全員の目線が集中したが、呻き声を上げながら頭を抑えるオルドの姿にいつものことかと納得し食事を再開した。

 

「そういやオプティマ共和国から依頼が来てたぞ」

 

「どんな依頼?」

 

「ニスフィム連峰に住むブラックモアドラゴンの討伐だとよ」

 

 そう言いながら団長はビーフシチューに入っていた巨大なブロック肉をフォークで突き刺してがぶりとかぶりつく。

 

「メテオラを派遣すれば良くねーか?」

 

「んぐっ、それがだな。オプティマ共和国の冒険者組合の連中と合同だそうだ」

 

「はぁん? 冒険者組合とか畑違いもいい所だろ」

 

 冒険者組合と傭兵団、この2つは似ているようでかなり異なる。そもそも冒険者組合とはその名が指すとおり冒険者達を統括する組織なのだが、その組織が主に担当するのは探索や採取などだ。勿論探索中に魔物と遭遇する可能性はあるため戦うことはあるだろうが、逆に言えば冒険者はそのぐらいしか戦うことがない。

 

 反対に傭兵団は戦闘が主な仕事となる。魔物の討伐から盗賊団の掃討、団によっては国同士の戦争に介入する所もある。まあ、この団は少々特殊な事情があるので戦争への介入は禁じられているが……。

 

 荒事は傭兵団、その他は冒険者組合へ等と言われるくらいにはきっちりと線引きがされている。が、今回の依頼はどういう訳か傭兵団の仕事の領域に冒険者組合の連中が出しゃばって来ることになる。

 

「ま、それもそうだが、お前も一緒にメテオラと行ってこい」

 

「えー? 黒蜥蜴如きでメテオラとバディ組む必要なくね?」

 

 そんな話をしていると丁度メテオラがこんもりと盛られた料理を持ってこちらにやってきた。

 

「何の話をしているのですか?」

 

「いいところに来たな、メテオラ」

 

 メテオラはこんもりと盛られた料理達をテーブルに置くとオルドの横の席に座った。

 

「で、何の話ですか?」

 

「ニスフィム連峰のブラックモアドラゴンをオプティマ共和国の冒険者組合の連中と合同討伐の依頼だとよ」

 

「おう、その依頼をオルドとメテオラの二人でやってもらおうと思ってな」

 

 団長は口の端に付着したビーフシチューを親指で拭い、それをペロリと舐めとる。

 

「まあ、俺の予想だが大方うちの団の連中の引き抜きでもしたいんだろうよ。若しくは繋がりを作るために冒険者連中と合同で討伐に当たらせるのか」

 

「あー、確かにそれはありえそうっすね。うちの団は別に引き抜きは禁止してないからなあ……」

 

「そう言えばメテオラ、オプティマ共和国の冒険者組合が討伐依頼にも手を出し始めたって聞きました」

 

 ビーフシチューを食べきった団長は、今度はローストビーフの塊にフォークを突き刺して丸ごとかぶりついていく。

 

「ま、そう考えると十中八九引き抜き目的だろうな。……これ美味いな、おいオルド。今日の晩飯もこれ作れ」

 

「あいよー。で、どうするよ?」

 

「報酬自体は美味いし、別に受けても構わねえよ。というかあれだ。お前らで黒蜥蜴を本気で潰しに行ってこい」

 

「あ、そういうことですね。メテオラばっちり理解しました。協力する暇もなくぶち転がせばいいのですね」

 

 そう言ったメテオラの言葉で団長が何を言いたいのか理解出来た。

 

「すぐに殺せば協力もクソもねえから冒険者連中を使った繋がりは期待出来ねえのか。でもそれだと引き抜きの方が酷くなるんじゃねーか?」

 

「そこについてはお前らの裁量次第だ。あ、オルドは駄目だからな?」

 

「分かってるっての。団長がいる限りこの団を離れることはねえよ」

 

「ふん、ならいい」

 

 そう言って団長は鼻を鳴らすと他の料理に手を付けていく。それを見て俺も自分で作った料理を食べ始める。

 

「むむむ、やはり団長は強敵ですね。メテオラ、嫉妬の炎がメラメラと燃え盛ります」

 

「何言ってんだ手前は。おい、オルド。お前明日オプティマ共和国に向かうだろ? だったら今日は俺と一戦やるぞ」

 

「了解でーす。今日という今日は団長の顔を地面に叩きつけてやるわ!」

 

 その後、飯を食べきった二人は近くにある開けた土地で戦い、数時間後には上半身が地面に埋まっているオルドの姿が見つかったとのことだった。




団長:フィジカルお化けゴリラ。オルドにあらゆる戦闘技能を叩き込んだゴリラ作成EXの持ち主。お前もゴリラだ(ゴリパン)

副長:犬神家。傭兵団では唯一まともな料理を作れるヤツ。具体的に言うなら他が丸焼きしか作れない中、一人モンハンの猫飯を作ってくるようなやつ。

相棒:人のベッドに潜り込んできた上に毛布を全て掻っ攫っていたやつ。

韋駄天:天井に突き刺さってる。

ドラゴン:オルドに凄く可愛がられてる。

メテオラ回とか言ってたのに全然出てこなくって本当にすまない……。

スマヌ…スマヌ…シッソウシマス…。


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Ex.3 傭兵団の日常(中編)

書きたいこと書いてたらねぇ!クソ長くなったんですよねぇ!(逆ギレ)

本当だったら前編後編で終わらせるつもりだったのに……!

それから遅くなってすみませんでした。

お詫びとして初投稿します。



 辺り一面がボコボコの穴だらけになっている土地の中で最も深いクレーターの中央で頭に大量の土をつけたオルドと彼を心配そうに見つめているソルの姿があった。

 

『オルドー、大丈夫ー?』

 

「あー、ちょいと頭は痛むが大丈夫だ」

 

 そう言いながらオルドは頭をぶるぶると左右に降って頭に着いている土を振り落としていく。そうしてある程度落ちると頭を軽く摩り出した。

 

「あー、クソッ。マジで意味わかんねえ……。ほぼ垂直に受け流してこの威力って相変わらずどうなってんだ団長の攻撃」

 

『すっごい音してたもんね! ドゴーンって音が拠点にも聞こえたよ! あとすっごい揺れた! 僕ビックリしちゃった』

 

 てへへと愛嬌のある笑顔を浮かべるソルの額をグリグリと撫でた。そしてズキズキと痛む頭を押さえつつ立ち上がると少しふらついた。

 

「おっと……」

 

『やっぱり大丈夫じゃなさそうだから僕が治してあげるね!』

 

「おー、じゃあ頼もうかな」

 

 オルドがそういうや否やソルは彼の頭をパクリと口の中へと含んだ。そしてそれはもう盛大にジュルジュルと音を立てながらオルドの頭をまるで飴玉の如く舐め回した。

 

「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」

 

 突然のことに絶叫をあげるオルド。しかしソルはオルドの頭を舐め回すことに夢中でその絶叫が全く聞こえていなかった。

 

『前に唾つけとけば治るって聞いたから頑張って舐めるね!』

 

「確かにお前の体液は……んぶっ。そういう効果はある……んげぇっ。こっ、こら……おぶぅっ、ソル、やめ……うぶっ、やめないかっ!?」

 

 運良くその言葉がソルの耳に届いたらしく舐めるのをやめてオルドを口の中から解放した。口から開放されたオルドの頭はソルの唾液塗れになっており、オルド自身はぜーはーと息を荒くしていた。

 

『どう? 痛くなくなった?』

 

「……ああ、痛みはなくなったよ。ありがとうな。でも今度から口の中に含んでベロベロ舐め回すのは息がしにくいからやめような」

 

『分かった!』

 

 目をキラキラと輝かせながら此方を見つめてくるソルに、そして何よりも善意でしてくれたという手前怒るに怒れず、オルドは軽く注意だけした。そしてソルの唾液塗れになった頭を風魔法と水魔法を用いて片手間に洗浄しつつソルがこちらに来た理由を聞いた。

 

「それでソルがここに来たのは何でだ? 何か用事があってきたんだろ?」

 

『あ、えっとね、オルド明日依頼に行くんでしょ? その依頼に僕も連れて行って欲しいの!』

 

「ソルもか? そりゃまた何で」

 

 オルドがそう尋ねるとソルはえへへと笑いながら何とも可愛らしい理由を話した。

 

『僕もたまにはオルドのお手伝いがしたくて……』

 

 気恥しいのか尻尾を所在なさげに左右にフリフリと振る様子を見てオルドは思わず顔が綻んでしまった。

 

「そっか、じゃあ一緒に行こうか」

 

『うん!』

 

 オルドはソルの額に自身の額をくっつけてソルの喉元を撫で付けた。ソルもそれを擽ったそうにしつつも嬉しそうに喉を鳴らしてオルドに甘えていく。

 

「それじゃあ明日の朝早くに出発するから今日は早く寝て明日に備えようか」

 

『うん! ねえねえ、今日は昔みたいに一緒寝て欲しいな!』

 

「ああ、いいとも。たまには一緒に眠るのも悪くない」

 

『やった!』

 

 

 

 ◆

 

 

 

 オプティマ共和国から北東に約750kmほど離れた場所にあるニスフィム連峰、その山の麓に4人の冒険者達が山に入るための準備を入念に行っていた。

 

 その内の1人のくすんだ金髪が特徴的な若い青年がやたらと震えており、それに気がついたガタイのいい壮年の男が話しかける。

 

「おいマウロ、そんなに震えてどうしたんだよ?」

 

「そりゃあ震えますよウーゴさん。だって今回討伐に行くのはブラックモアドラゴンですよ? 『這い寄る死』って呼ばれてる特級の魔物じゃないですか」

 

「まー、確かに俺たちだけで討伐に行くならお前の気持ちも分かるが、今回はあの傭兵団との合同討伐だからな。そんな震えんでも平気だろ」

 

「アキリィア傭兵団……でしたっけ。俺よくその傭兵団のこと知らないんですよねー」

 

「はあ? マウロ、あんたそれ本気で言ってんの?」

 

 マウロがポツリと零した言葉に反応した女性がズカズカとマウロに歩み寄る。

 

「アンナさんは知ってるんですか?」

 

「当たり前じゃない。アキリィア傭兵団ほど有名な傭兵団は無いのよ?」

 

「あー、なんかすっごい強いらしいですね。でも俺そのくらいしか知らないんですよね」

 

「呆れた……。これから一緒に依頼を受ける傭兵団、しかもアキリィア傭兵団の事なら尚更知っときなさいよ」

 

 アンナと呼ばれた赤い髪をポニーテールにしている女性は頭が痛いと言わんばかりに眉間を抑えた。

 

「いい? アキリィア傭兵団ってのは━━━━━」

 

「……アキリィア傭兵団は数ある傭兵団の中でも唯一あらゆる国家から認められた傭兵団。言わばあらゆる国家の独立遊撃隊のような存在であり、あまりの強さから戦争への加担を禁じられた傭兵団」

 

「リタ、あんたアキリィア傭兵団の事になると饒舌になるわね……」

 

 リタと呼ばれた翡翠色の髪をボブカットにしているまるで子供のような背丈をした女性は目を輝かせながらアキリィア傭兵団の事について語り始めた。

 

「アキリィア傭兵団は所属している一人一人の強さがとんでもなく高い。最低でも冒険者組合が定めている最上級の魔物を1人で倒せるようにならないと所属することすら出来ない」

 

「最上級クラスの魔物を1人でですか!?」

 

「うん、と言うのもアキリィア傭兵団の本拠地にしている場所が『帰らずの山(かえらずのやま)』『幽玄の沼地(ゆうげんのぬまち)』そして『世界の亀裂(せかいのきれつ)』と呼ばれる場所を結んだ地帯、通称『死の地帯(デッド・ベルト)』の中央にある」

 

 それを聞いたマウロは口元を手で押えて絶句した。

 

「死の地帯って最上級の魔物が餌とまで呼ばれてる上に特級や極限級の魔物が跋扈(ばっこ)している上に果ては伝説上の禁忌級が存在しているっていう噂される場所じゃないですか。そりゃあ最低限そのくらい倒せないと所属できないわけっすね」

 

 魔物の危険度は下級、中級、上級、最上級、特級、極限級、禁忌級の7段階に別れている。上級までならば冒険者達でも何とか倒せるといったところで、通常の傭兵団ならば特級まで、極限級となると国の騎士団が総出で挑まなければならないといったところだ。

 

 そして禁忌級だが、これは目撃例がほんの少ししかない。何故ならばそれに出会った者のほとんどが殺されていると言われているからだ。その気性の荒さ、加えて個体数の少なさから伝説上の魔物とされている。

 

 そして何より禁忌級に勝てるのは神に選ばれたものである聖女、そして勇者だけだと呼ばれていたため、その事が尚更拍車にかけていた。

 

「強いってことは改めてよく分かったんですけど、でも結局のところ1傭兵団があらゆる国家に認められるっておかしくないですか? だって強いっていってもたかが傭兵団ですよ。国を凌駕するほどの戦力を保有しているわけないじゃないですか」

 

 マウロは疑問に抱いたことをリタに質問する。

 

 当たり前の疑問だ。傭兵団が国を守る騎士団より強いのであれば騎士団の立つ瀬がない。そして何よりもそんな存在があったのであれば傭兵団という存在の性質上国の戦争が激化してしまう。

 

「確かにそう思うのも仕方がない。たかが1傭兵団が国を凌駕するほどの戦力を保有しているわけが無い。それはどの国もそう思ってた。けどそれはアキリィア傭兵団の団長、『戦災』の手よってひっくり返された」

 

「……何が起きたんですか?」

 

 マウロは喉をゴクリと鳴らした。

 

「それは━━━━━」

 

 リタが言葉を紡ごうとした瞬間、重力を感じさせるほどの威圧感が4人を襲った。呼吸をしようにも上手く出来ない。息が乱れ、冷汗が滝のように溢れ始める。視界すらも焦点が定まらず、周囲の全てがぼやけて見える。

 

 一体何が、そんなことを考えるよりも本能が最大級の警鐘を鳴らしていた。逃げろ、逃げなくては死ぬぞと。けれど、その意に反して足は震えるばかりで動くことすらままならかった。

 

 まるで敬虔な信徒の様に膝を折り、祈るように空を見るとそこには『白銀』が存在していた。

 

 白銀の鱗、蒼銀に光る天を貫かんばかりに生えた二本の大角。全長凡そ20mにも及ぶ身体を支えるに相応しいがっしりとした筋肉質な四肢にその先にある刀のように鋭い爪、そしてその重量を空に浮かばせるだけの光を反射する剛翼。

 

 身体の周囲からまるで暴風を思わせるほどに渦巻く魔力を放ちながら黒と金の異なる虹彩で彼等を睥睨していた。

 

 そんな生物はたった一種類しかいない。

 

「龍種……! しかもあの色は━━━━━」

 

 誰かが零した言葉はそのドラゴンが着地した時に発生した音によりに掻き消された。

 

 グルルルと喉を鳴らしながらまるで誰から食べようかと此方を見定めているように見えるドラゴンに4人は生きた心地がしなかった。

 

 そして遂に恐怖がピークに達する瞬間━━━━━

 

「おい、お前達が今回の同行者か?」

 

「へ?」

 

 ドラゴンの方から聞こえた若い男の声にその恐怖心が何処かに霧散していった。ドラゴンが喋ったのか? 思わずそう思うもそんなのあるはずが無い。もう一度よく見てみるとドラゴンの背中に2人の男女が跨っていた。

 

「……今回の討伐依頼の同行者じゃないのか?」

 

「え、ああ、そうだ。俺達が今回の依頼の同行者だ」

 

 同行者じゃない、その言葉とともにドラゴンの方から僅かに膨らんだ威圧感に慌てて同意をするウーゴ。その言葉を聞いた二組の男女はドラゴンの背から降りてこちらに近付いてくる。

 

「アキリィアから派遣されたものだ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 尻もちを着いたままだったウーゴは男の手を借りて立ち上がった。

 

(このぼやけた感じ認識阻害か、それに仮面まで……)

 

 男は黒いローブについたフードを深く被っており、それに顔をぼやけさせる認識阻害の魔法に加えて仮面までつけるという徹底的に顔を隠蔽していた。

 

 そんな風にじっと見ていたからか、その視線に気がついた男はフード越しに軽く頭を掻いた。

 

「顔を隠してすまないとは思うが、顔が割れると色々と面倒なんでね。今回はこのままでやらせてもらう」

 

「あ、ああ、わかった」

 

「それで今回のことだが━━━━━」

 

「あ、あのっ、『龍星(りゅうせい)』だよね……?」

 

 仕事の話をしようとした時、割り込むようにローブの男に話しかけてきたのはリタであった。

 

「おいおい、『龍星』って言えばアキリィア傭兵団の副団長だろ? そんな人がこんな依頼を受けてくれるわけ━━━━━」

 

「確かに俺は『龍星』と呼ばれているが……」

 

 ウーゴが否定しようとした言葉を遮るようにローブの男は本人だと告白した。その衝撃的な事実に固まるウーゴと反対に目をキラキラと輝かせるリタ。

 

 リタは腰にかけていたポーチから羽根ペンと色紙を出すとその2つを頭を下げてに差し出した。

 

「あのっ、覚えてはいないと思いますけど、以前貴方に助けて貰ったリタです! サインをしてもらってもいい!?」

 

「ええ……?」

 

 突然の告白に困惑を隠せない様子の龍星。思わず受けとってしまったそれをどうしようかと頭を抱えて悩んでいると片割れの白いローブを纏った女性が近づいてきた。

 

 そして頭を抱えている龍星の横腹を思いっきり突っついた。

 

「また女の子を引っ掛けたのですか?」

 

「人聞きの悪いこと言ってんじゃねえぞ『殲光(せんこう)』。俺だって困惑してるっつーの」

 

 二人の会話から聞こえたもう片方の女性の渾名。それが聞こえたマウロ除く三人は驚愕の声を上げた。

 

「おいおい、嘘だろ? 『龍星』と『殲光』が特級の依頼にコンビで来るのか!?」

 

「今回の依頼って極限級じゃないわよね……?」

 

「……お父様に無理を言ってよかった」

 

「え? なに? なんすか?」

 

 1人状況が飲み込めていないマウロは辺りをキョロキョロと見渡す。それに気づいたウーゴがマウロに向かって説明し始めた。

 

「いいか、マウロ? 『殲光』は極限級含む魔物討伐数がアキリィア傭兵団でトップクラスの人で『龍星』に至ってはアキリィア傭兵団のNo.2、詰まるところ副団長に就いている人だ。今回は特級の依頼で本来ならばアキリィア傭兵団に所属している中堅クラスの奴等が来ればいいと思っていたところにトップクラスの実力者が2人も来たって言うことなんだよ」

 

「え、えーと? つまり……?」

 

「ああ、もう、要はとんでもない奴らが来たと思えばいい!」

 

「りょ、了解っす!」

 

 何となくだが事態を把握できたマウロを他所に龍星は今回の依頼の件について話をし始めた。

 

「今回のブラックモアドラゴンの討伐依頼についてだが、奴がいる場所は把握出来ているのか?」

 

「出来ている、と言いたいところだがすまない。連峰の上層部にいることしか分からなかった」

 

 ウーゴはそう言いつつニスフィム連峰全体が描かれている地図を広げて、大凡の辺りをつけた場所を丸で囲って示す。

 

「上層部、か……。かなり範囲が広いな。絞り込めなかった理由を聞いても?」

 

「あたし達冒険者組合も探索に出ても見たのだけれど、本来上層部にいるはずの上級、最上級の魔物達が中層部にまで降りてきちゃってるのよ。そうなると私達冒険者組合だけじゃあお手上げ状態なのよね」

 

 両手を上げて降参と言った様子で苦笑しながら首を振るアンナ。

 

「なら何故、ブラックモアドラゴンがいると 判断したのですか?」

 

 殲光の質問に対してリタが懐から拳大の黒い物体を出した。

 

「ブラックモアドラゴンの鱗か」

 

「そう、それから運悪くブラックモアドラゴンと遭遇したパーティからの証言もあった」

 

 龍星はリタから渡された黒く艶やかな鱗を手に取るとじっくりと観察を始めた。角度を変えてみたり、光に照らしてみたりなどと色々な所から見ているとあることに気がついた。

 

「鱗の形状、硬さからして此奴は若い個体だな。だが、鱗の黒さが通常の個体より薄いところ見るにをブラックモアドラゴンにしては珍しく光の届かない洞窟に住んでいるわけでは無さそうだ。それに若干凹んでる部分がある。それからこれは……魔力痕、か? 殲光、ちょいとここを見てくれ」

 

 龍星はそう言って殲光に鱗を手渡すと凹んでいる部分を指し示す。鱗を受け取った殲光は凹んでいる部分をじっと見つめるとこの凹みが発生した理由が分かった。

 

「これ、攻撃魔法による凹みです。属性は風、思いっきりぶつけられたんでしょうね。それからこの鱗の端に何が鋭いもので傷つけられた痕跡があります。ここにも風属性の魔力を感じるので多分風の鎌鼬系統の攻撃魔法で攻撃されてますね」

 

「ブラックモアドラゴンに攻撃を仕掛ける魔物、若しくは人間がいたということになるか……。聞いておきたいんだが遭遇したパーティはブラックモアドラゴンと交戦したのか?」

 

「いや、交戦したとは聞いてないな。ブラックモアドラゴンを目視した瞬間には全力で逃げ出したと聞いた。それに此方の冒険者組合にはブラックモアドラゴンに傷を付けられるほどの実力者はいねえ」

 

 ウーゴは首を左右に降って否定した。

 

 最近は討伐依頼に手を出し始めたと言えども殆どの冒険者達は中級が精々だ。一部の冒険者は上級を倒せるようにもなって来ているが、特級のブラックモアドラゴンに傷を付けられるほどの者はまだいない。

 

 然しそうなるとブラックモアドラゴンに傷を付けられるほどの何者かがニスフィム連峰に存在していることになる。

 

 人か若しくは魔物か、一体どのような存在が関係しているのか、そこまで考えようとしたところで龍星の声によってその思考を打ち切った。

 

「まあ、ここで色々と考えていても埒が明かない。実際ニスフィム連峰に入って調べてみるしかないだろうな。あんたらはどうする? 此処で待っていてくれても構いはしないが」

 

 龍星からの質問に対して4人は答えは決まっているとばかりに答えた。

 

「いや、俺達も行かせてくれ。戦いでは役に立たないだろうが、調査なら役に立ってみせる」

 

「そっすね、調査なら俺達の得意分野っすからね。ブラックモアドラゴンは怖いけどここに来たからには役に立ってみせるっすよ!」

 

「そうね、あたし達は冒険者だもの。探索して調査してブラックモアドラゴンについて調べきってみせるわ」

 

「ブラックモアドラゴンもだけどもう1つの存在についても調べる。その存在が分かれば被害を抑えることもできるから」

 

 4人の答えを聞いた龍星と殲光はお互いに顔を見合わせて苦笑した様子を見せて4人組に聞こえないように小声で話した。

 

「意外と根性あるなこの4人組」

 

「メテオラはてっきりここで待ってると言うかと思ってました。今までの人達は大体そうでしたし」

 

「確かにな」

 

 そこまで話すと龍星は後ろの方で行儀よく待っていた白銀のドラゴンと念話を始めた。

 

(ソル、戦いが始まったらこの4人組を守ってくれるか?)

 

(はーい! オルドの頼みときたからには傷一つ付けさせないよ! その代わり後で沢山褒めてね!)

 

(ああ、分かった。後で沢山褒めてやるからな)

 

 話し終えた龍星は4人組の方へと振り向いた。

 

「それじゃあ、ニスフィム連峰に行こうか」

 




ウーゴ:筋肉モリモリマッチョマン。探索に必要な物を色々突っ込みまくるせいで毎回大荷物になる。中にはそれ本当に必要? ってのも持ち込む。そのせいで荷物は毎回重い。そのため必然的にマッチョになった。

マウロ:お調子者。怖いものは怖いけどそれに立ち向かう事のできる勇気はある。冒険者になってまだ日は浅いため知らないことが多い。

アンナ:そこそこベテランの人。主に調査を主体とした冒険者をやっている。今回は特級の魔物の生態を知ることが出来ると思ったため、討伐依頼同行に立候補した。

リタ:オルドに昔助けられたらしい。見た目ロリなのでよく子供と勘違いされるが実を言うとオルドやメテオラと同い年だったりする。サインはしっかり貰った。

オルド:龍星と呼ばれていると知った時は割と恥ずかしがっていたが、今はもう慣れた。オルドが担当するのは役職柄だいたい国絡みの依頼が多いので顔が割れるとクソほど面倒なのことになるのは分かっているためお仕事の時は徹底的に顔を隠す。

メテオラ:殲光と呼ばれてる。魔物に対する特攻持ちなので担当する依頼はもっぱら魔物関連。オルドとの担当の違いから別に顔は割れても構わないがペアルックをしてみたかったので色違いの同じ格好をしていた。ご満悦。

ソル:人前で喋ったらダメとオルドから言われてるのでちゃんとお口チャックしているいい子。体液に回復効果がある

じ、次回できっちり終わらせるから(震え声)

ほな、また……(失踪済み)


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Ex.4 傭兵団の日常(後編)

初投稿デース!

今回は戦闘回ということでゴリラ達がハッスルしてるので暴力描写が苦手な人は要注意です。


 ニスフィム連峰の中腹にて、まるで金属バットでボール打った時のような快音を鳴らしながら突き進む一行の姿があった。

 

 まあ、正確に言うのならば金属バットでボールを打っているのではなく、オルドが近寄ってきた魔物を片っ端から殴り飛ばしているのだが。

 

「ウーゴさん」

 

「何だマウロ」

 

「実は俺ってこの連峰入るにあたって結構死ぬ覚悟とかもしてたんすよ。中腹には上級や最上級の魔物達が彷徨いてるって聞いてたんで」

 

「おう」

 

「けどなんすっかね。その上級や最上級の魔物達があんなボールみたいにすっ飛ばされてるのを見てると俺の覚悟はなんだったんだってなりますね……」

 

 遠い目をしながら語るマウロにウーゴは何も言うことが出来なかった。それにウーゴ自身もオルドの強さに舌を巻いていた。

 

 ━━強いとは聞いていたが、実際に見ると噂以上だな……。

 

 ウーゴ自身、他の傭兵団に所属しているものの強さを見た事はある。その時だって最上級の魔物相手に1歩も引かず戦う傭兵の強さに感動していたし、人とはこんなにも強くなれるのかとも感心を抱いたのも覚えている。が、今回の光景には少なくとも感動も感心もしない。むしろドン引きしかすることが出来ない。

 

 この光景は言うなれば熊を素手で殴り飛ばしているというのに相応しいだろう。

 

 そんな光景は誰だってドン引きしかしない。

 

 そんなことを考えていたからか、横の草むらから飛び出して襲いかかってきた魔物に反応するのが遅れてしまった。

 

「しまっ……」

 

 防御しようと慌てて剣を正面に構えようとした途端、飛び掛ってきた魔物が横合いから飛んできた光線に全身を飲まれて塵も残らず消し飛んだ。

 

「ええ……?」

 

 それをしたであろうメテオラの方を見てもまるで当たり前のように気にせずオルドの後を追っている。

 

「……まあ、これなら安心して調査が出来るか」

 

 ウーゴはそんなことを呟いて、何か一つでも痕跡を見つけようと辺りを見渡し始めた。そうしてしばらくの間中腹を彷徨いてると不意にオルドがピタリと止まった。

 

「どうかしたのか?」

 

「これを見てみろ」

 

 問いかけたウーゴに対してオルドは地面に向けて指を突きつけた。そこにあったのはかなり大型の足跡だった。それを見たウーゴ達はその足跡の元へと向かい、観察を始めた。

 

「前方に三指、後方に一指。典型的な龍属の足跡だな。爪の形状からしても肉食なのは間違いないだろう。それにこの特徴的な指の形はブラックモアドラゴンだな」

 

「足の幅と歩幅から見るに大きさ20、いや22m級っすかね」

 

「この地面の凹み方から見てブラックモアドラゴンは何かから急いでいたみたいにみえるわね。それに周囲の木に結構な傷があるわね。マーキング……いや、これは攻撃かしら?」

 

「……この足跡は一体?」

 

 足跡の形状、足の幅、歩幅、地面の凹み方などから様々な情報を得ているとそこから少し離れた場所にリタがもう1つの別の魔物らしき足跡を発見した。

 

「これは……肉球か。指球の間の狭さから見てイヌ属だな。それにしても随分掌球がでかいな。前足が発達しているのか」

 

「大きさは大体12mくらいっすね。ブラックモアドラゴンの約半分位の大きさじゃないっすか。ブラックモアドラゴンが追っていた……いやそれだと足跡の付き方が合わないっすね」

 

「ええ、むしろこの足跡の持ち主が追っていたと考えた方が妥当ね。ブラックモアドラゴンの足跡の真後ろにピッタリとくっついているもの」

 

「周囲の木を傷つけていたのはこの魔物? まるで刃物で切ったかのような鋭利な切り傷だけど。……そう言えばブラックモアドラゴンの鱗には風属性の魔力痕があるって言ってた」

 

 4人がそこまで考察したところでオルドとメテオラが近くにやってきた。オルドは足跡の方へ、メテオラは傷の付いた木の方へ向かうと各自調べ始めた。

 

「この足跡は以前帰らずの山の山頂付近で見たことがあるな……。地面についた爪痕からしても爪はかなり鋭い。聞きたいんだが、この足跡の持ち主はイヌ属で間違いないんだな?」

 

 オルドは近くにいたウーゴに尋ねると、ウーゴはその質問に対してこくりと頷いた。そして何故それがイヌ属の足跡だと判断したのかを説明し始めた。

 

「ああ、そうだ。この前方にある指、形からして肉球何だがこれの事を指球って言ってな。この間がほぼくっついているくらいには狭いだろ? これはイヌ属の特徴でな。足跡が似ているネコ属がいるが、ネコ属ならこの間隔はまだ広い」

 

「ふむ、ブラックモアドラゴンを襲うくらいには強く、そして獰猛。多分だが『あいつ』か。殲光、木に魔力は付着しているか?」

 

 オルドは木についた痕跡を調べているメテオラに尋ねた。

 

「してますね。しかも思った通り、あの鱗についてた同じ魔力です。この傷は風属性の鎌鼬系統による攻撃魔法でしょうね。後、一部魔力が付着していないのがある所から直接攻撃も仕掛けてますね」

 

 それを聞いてオルドは息を深く吐いた。ブラックモアドラゴンを追っていた魔物の正体が分かり、面倒なことになったと思ったからだ。

 

「決まりだな、此奴は『タンペットルーヴ』だ」

 

「『タンペットルーヴ』!? 嵐狼(らんろう)のことか!」

 

「嵐狼って言えば極限級の魔物じゃないすか!? なんでこんな所に!」

 

 驚くウーゴ達を他所にオルドは嵐狼について説明を始めた。

 

「『タンペットルーヴ』、通称嵐狼だが、此奴はかなり執拗い。狙った獲物は逃がさないとよく言われるが、その言葉の通り今回はブラックモアドラゴンを狙って帰らずの山から追っかけてきたんだろうな。だから本来は光の届かない洞窟に過ごしているはずのブラックモアドラゴンが鱗の色から判断するに相当長いこと逃げ続けていたんだろう。そんで逃亡先としてこのニスフィム連峰にやって来たというわけだ。上級、最上級の魔物が中腹に逃げてきたのはその二体が上層の方で暴れているからだろうな」

 

 そこまで説明したところでオルドは話を区切りウーゴ達の方をじっと見つめた。

 

「こいつは予測だが嵐狼はもうブラックモアドラゴンを狩猟している事だろう。この周囲の光景から察するにな。それで、だ。今回討伐するはずのブラックモアドラゴンは既に討伐されていると仮定すると、今回の依頼はここで終わりとなる。ああ、勿論戦ってはないから契約金はいらないが」

 

 そう言って手をヒラヒラと振るオルドに対してウーゴは気まずそうに聞いた。

 

「その、嵐狼は討伐はしてくれないのか?」

 

「悪いがこれでも一応は傭兵なんでね。流石に特級の契約金で極限級相手にするのは些か契約金が足りない」

 

「そうか、それもそうだよな。因み嵐狼の討伐契約金はどれくらいになる?」

 

「そうだな、嵐狼が相手となるとざっくり見積ってこんなもんか」

 

 オルドから提示された金額を見て、ウーゴは唸る。

 

「やはり嵐狼となるとこれくらいはするか。むしろ安いくらいではあるが……。だが、すまない。流石にこの金額となると俺の一存では決めることは出来ない」

 

「そうか、なら一応ブラックモアドラゴンが討伐されているかだけでも確認しておくか? それの確認が出来次第下山すればいい。その後は国と話し合って依頼するかを決めてくれ」

 

「そうだな、嵐狼が本当にいるかの確認もしたい。是非ともそうしてくれ」

 

「了解、それじゃあ上層の方へ進もうか」

 

 ◆

 

 一行はニスフィム連峰の上層部へ向かい、辺りを探索していると不意にオルドとメテオラが足を止めた。その事に気がついたウーゴが疑問を投げかける。

 

「どうしたんだ?」

 

「血の匂いだ」

 

「それもかなり濃いですね」

 

 2人はそう言うと同じ方向へと一斉に走り出した。それに慌てて着いていく4人。息を切らせながらも2人について行くと鬱蒼とした森の中を進んでいたはずなのに不意に開けた場所に出た。

 

 一体何が。

 

 そう思う間もなく4人は目に映った光景に息を呑んだ。

 

 まるでそこだけ嵐が来たかのように木々が薙ぎ倒され、地面は所々捲り上がっていた。そして何よりもそんな光景の中心に今回の目標であったブラックモアドラゴンが全身をズタズタに引き裂かれて血の海に沈んでいた。

 

「まさか、本当に嵐狼がいるのか……?」

 

「ま、調べてみるしかないだろう」

 

 オルドはそう言うとメテオラと共にブラックモアドラゴンの死骸に近づいて調べ始めた。その様子を見て4人も急いで死骸の元へと向かう。

 

「ふむ、目が潰されてるな。この潰れ方はなにか強い圧力が加わったことによるものだ。それにしても目か。ブラックモアドラゴンは暗いところで生活する関係上、視覚がかなり発達したんだったか」

 

「ここは風の魔力を感じますね。眼球だけ潰されてるところを見るにピンポイントで風魔法で圧縮した気体をぶつけたんでしょうか」

 

「嵐狼は狡猾な魔物。それにかなり知能も高い。だからまずは弱点を狙ったんだと思う」

 

「まあ、そんなところかもな」

 

 オルドとメテオラが目の傷について話し合っている中、リタが何故そこを狙ったのかを推測していく。ついで今度は大きく凹んだ胸部について着目した。

 

「この傷が止めになったんだろう。明らかに心臓を狙った攻撃だ。だがそれにしてもブラックモアドラゴンの厚い胸殻をここまで凹ませるとはな」

 

「ここからは魔力は感じませんね」

 

「ふむ、ならどうやって……」

 

「ん? この凹み方ってかなりの質量がぶつかった感じじゃないすかね。しかもこの凹み方からして嵐狼の頭のサイズとピッタリっすよ」

 

「風魔法で速度をブーストさせて突進したのか?」

 

「その可能性が高そうですね」

 

 マウロの助言により厚い胸殻がどうやって凹んだのかを推測することが出来た。次は最も酷い状態になっている腹部へと着目した。

 

「これはかなり酷いわね。内臓のほとんどが食い荒らされてるわ。それにこの噛み跡……。鱗を難なく貫通しているところから牙も相当鋭いわね」

 

「牙のサイズも相当だぞ。少なく見積っても30cmはある。人間が噛まれたら一瞬で内臓まで食い破られて即お陀仏だな」

 

 ウーゴ、そしてアンナの推測によりブラックモアドラゴンを討伐した魔物が完全に嵐狼だということに決まった。その事により4人の間に重い空気が流れる。

 

 今回の調査でブラックモアドラゴンを討伐したのはまず間違いなく嵐狼だということが分かった。はっきり言ってこれは非常にまずい事態だ。ニスフィム連峰はオプティマ共和国から約750kmの距離しか離れていない。

 

 はっきり言ってこの程度の距離、嵐狼にとっては2~3日で踏破しきれる距離でしかない。極限級の個体がそんな近くにいるなどと悪夢以外の何物でもない。だが、今回に限ってはあのアキリィア傭兵団からやってきた龍星と殲光の二人が揃っている。噂通りならばあの二人なら嵐狼を討伐してくれるだろう。

 

 だが、そのための契約金の変更をする為には一度国に帰ってから話し合わないといけない。もし、そんなことをしている間に嵐狼が国に行ってしまったらどうなる? 

 

 まず間違いなく最悪の出来事になるだろう。

 

 ウーゴがそこまで考えたところで不意にオルドが舌打ちをかました。

 

「チッ、あの犬っころめ。こっちの存在に気が付きやがったか」

 

 その言葉と共に目を爛々と輝かせて血走った目で此方を見つめる特徴的な赤い鬣と尻尾、そして青と白の体毛に口元を赤く染めた嵐狼が現れた。殺意を剥き出しにしてこちらを見つめる嵐狼に思わず誰かがヒッ、と怯えを含んだ悲鳴を上げてしまった。

 

「殲光」

 

「ん」

 

 オルドの合図とともにメテオラは正面に対魔障壁を張った。そして障壁が構築された瞬間、突風などと言うレベルではない暴風が障壁をぶつかった。障壁が張られていない部分はあまりの暴風に地面が捲り上げられていき、暴風の正面にあった木々は全てバキバキとへし折れる音とともに薙ぎ倒されていく。

 

 その一撃はあまりにも強く、山頂付近にいるというのに今の一撃でニスフィム連峰の麓まで一直線の道ができてしまった。

 

「ま、見つかっちまったもんはしゃあねえわ。おいあんたら、契約はしなくてもこの場から追っ払うことくらいはしてやるぜ?」

 

 まるで少し散歩に出かけると言わんばかりの気楽な声でそう語るオルド。けれど言っていることは嵐狼の気性からして言外にこの場は追っ払うが後のことはどうなっても知らんと言っているのと同義だ。

 

 ━━どうする

 

 思考を目まぐるしく加速させていくウーゴだったが、不意にリタがオルドに対して真っ直ぐに見つめて話しかけた。

 

「龍星、先程貴方が提示した金額。それを払うと言えば嵐狼を討伐してくれる?」

 

「おい、リタお前何を言って━━」

 

「ああ、勿論だとも。あの金額をしっかりと払ってくれるなら今すぐにでもこの犬っころの首を落としてやるさ」

 

「分かった━━」

 

 大胆不敵に笑うオルドにリタを一度目を閉じて、深く深呼吸するとカッと目を見開いた。

 

「リタ・ジェイド・オリヴィエの名にかけてその金額を支払うと誓う」

 

「なっ、リタ、いや貴方様はまさか━━」

 

 その言葉を聞いたオルドとメテオラの2人まるで漸く楽しめると言わんばかり口角を吊り上げた。

 

「よし、契約はなった。嵐狼討伐開始だァ!!」

 

「ボッコボコにぶち転がしてやりましょう」

 

 その言葉と共にメテオラが空に向けて魔力弾を打ち上げた。そしてニスフィム連峰の半分を覆うほど巨大な魔法陣が空に描かれる。

 

「おいソル! その4人を連れて上空に飛んどけ。そんで流れ弾飛んできたらそっちで相殺しといてくれ」

 

 その言葉と共にソルは4人を纏めて咥えると背中の方に向けて放り投げて猛スピードで空の彼方へと飛んでいく。そしてニスフィム連峰を覆っている魔法陣を超えたあたりでホバリングをして停止した。

 

 4人はいきなりのことに驚きつつも下の方がどうなっているのかとソルの背中から先程までいた場所を覗いてみると今自分が見ているものが現実なのか疑いたくなった。

 

 空に描かれた魔法陣からはひっきりなしに極大の閃光が雨のように降り注ぎ、先程まで自分たちがいた場所は遠目から見ても凹んでいると分かるほどの巨大なクレーターが発生していた。そして彼らが戦っている周囲にあったはずの森は見るも無惨な焦土へと変貌していた。

 

「め、滅茶苦茶だ……」

 

「あれが本当に人の戦いっすか……?」

 

「これが噂のアキリィア傭兵団なのね……」

 

「……」

 

 ウーゴ、マウロ、アンナの3人はオルドとメテオラの戦いぶりを見て戦々恐々としているのとは別にリタはオルドの動きを食い入るように見つめていた。

 

 ◆

 

 嵐狼は混乱の極致にいた。食い応えのあるトカゲを食べてしばらく休息をとっていたら人間(おやつ)が6人群れを為してやってきた。少々後ろにいるトカゲは気になるが、纏めて殺して食ってしまえば関係ないとそう気楽に考えていたというのに、今の状況はなんだ? 

 

「クッ、ヒッ、ハハハハハ!! 楽しいじゃねえかよぉ! なぁ、犬っころォ!」

 

 当たれば1発でやられてしまう。そんなことが考えずとも分かるほどの凶悪な威力を持った攻撃を仕掛けてくる右目の位置から白銀の炎に似た魔力を噴出する男。

 

「ああ、ああ! メテオラはとっても楽しいです! もっともっと激しくぶち転がしてあげますね!」

 

 空から極大の閃光が雨のように降り注ぎつつも、此方を的確に狙ってくる光の魔弾。見ればその女の手には銃のようなものが二丁握られていた。そこからひっきりなしに光の魔弾が飛んでくるのだ。

 

 そして何よりも恐ろしいのが、この2人は全くお互いの事を気にしていないのだ! 

 

 そこに味方がいようと平気で攻撃を放ってくる。それはまるで当たった奴が悪いと言わんばかりであった。怖い、恐い! 嵐狼はあまりにもイカれた連携ともいえない攻撃を放ってくる2人組に恐怖していた。

 

 逃げよう、逃げなければ死んでしまう! 

 

 そう思って風を纏って加速して逃げようとした瞬間には、白銀の魔力を噴き出している男が一瞬で回り込んでくるせいで逃げることが出来なかった。目の前に現れた瞬間、自慢の爪で切り裂こうと男に向けて振るったが、男の余りの硬さに逆にこちらの爪がへし折れてしまった。

 

「おいおいおい、逃げんなよ! これからが楽しいところじゃねえか!」

 

 その言葉と共に放たれる悍ましい程の威力を持つ拳が自身の頭蓋目掛けて振り下ろされた。それを間一髪で回避することは出来たが、回避したことによって空を切った拳は地面に激突し、大規模なクレーターと爆風が発生してまるで塵のように吹き飛ばされてしまった。

 

 しめた! このまま爆風に乗って逃げれば……! 

 

 そう思った矢先に今度は当たれば瞬間消滅させてくる光の魔弾が食らいつくように放たれる。身を捩り何とか回避をする。だが、上から降ってきた極大の閃光に飲み込まれた。

 

 熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い!!! 

 

 まるで全身を火炙りにされてしまったかのような灼熱の激痛が我が身を襲ってきた。そしてその痛みで思わず足が止まってしまった。その次の瞬間、先程までかなりの距離があったはず白銀の魔力を噴き出している男の拳が眼前に迫ってきていた。

 

「逝けやオラァ!」

 

 メギリと自身の頭蓋から嫌な音が聞こえたと共に今まで生きてきた中で最大級の痛みが脳を揺らした。

 

 そして嵐狼は空を舞った。

 

 猛スピードで殴り飛ばされた嵐狼は正面の木を全て薙ぎ倒してもそのスピードは全く緩まず、遂には連峰の岩壁にぶち当たり、そのまま岩壁を砕いて岩の中を突き進んでいく。それでもなお勢いは止まらず連峰の岩壁を全て砕ききり、連峰の端っこまで来たところで漸く勢いが止まった。

 

 もはやコヒュー、コヒューと虫の息よりもか細い息を上げ、全身のほとんどの骨が砕けたような痛みに襲われるという死に体だが、嵐狼は嬉しくて仕方がなかった。

 

 これで逃げられる。

 

 その一心でまともに動いてくれない身体を這ってでも少しづつ、少しづつ動かしてあの化け物たちから離れようと必死だった。そしてふと自身の周囲がやたらと明るくなっていることに気がついた。

 

 これは一体……? 

 

 疑問に思って空を見上げるとそこには白銀に輝く光の流星が此方に目掛けて降ってきていた。その光景に嵐狼は魅了されたかの如く見つめ続けていた。

 

 そしてそれが嵐狼の見た最期の景色だった。

 

 ◆

 

 一部が焦土と化したニスフィム連峰のその麓で4人の冒険者たちと2人の傭兵、そして1匹のドラゴンが向かい合っていた。

 

「今回の嵐狼の討伐ありがとうございました。これで国に被害が出ることも無いと思う。契約金の方も約束通り払わせて貰う」

 

「了解、契約金はこの商業組合の口座に振り込んでおいてくれ」

 

「分かった」

 

「んじゃ、俺達は帰らせてもらうよ」

 

「あ、あのっ!」

 

 そう言ってオルドとメテオラはソルの背中に乗ろうとしようとしたらリタに呼び止められた。オルドとメテオラは不思議に思って振り向き、リタの方を見た。

 

「2人はこの国に来る気は無い? 来てくれたら良い待遇を受けられると約束する」

 

 勧誘を受けた2人は互いに顔を見合わせるとフッと笑った。

 

「俺はアキリィア傭兵団から離れるつもりはないから遠慮させて貰うよ」

 

「メテ……んんっ、私も同じ意見です」

 

「そっか」

 

 その言葉を聞いたリタはそう返事されるだろうことは予感していた。

 

「それじゃあまた縁が有ったら依頼でもしてくれ」

 

 オルドはそう言い放ち、今度こそソルの背中にメテオラと一緒に乗って空の彼方へと消え去って行った。

 

 リタは彼らが消えた空を見てポツリと呟いた。

 

「それでも私は貴方のことを諦めきれない。必ず手に入れてみせる」

 




龍星:歩くクレーター製造ゴリラ。逃げようとしても一瞬で目の前に現れるゴリラムーブする。強い速い硬いの三拍子が揃ったクソゴリラ。なお団長はその遥か上をいく。今回の合体技は上手く決まったなと内心自画自賛してた。

殲光:超広域殲滅ウーマン。本来のスタイルは二丁魔銃スタイルでクソみたいな弾幕張ってくる。しかも上から雨のように降ってくる極大の閃光もある。数は力なのだよ。魔性持ちは当たれば大ダメージ必須なので魔性の存在にとってはクソゲーにしかならない。今回の合体技はもはや夫婦がなせる技だと思っていた。

嵐狼:圧倒的被害者。とち狂った思考で襲いかかってくるゴリラ共に為す術なくぶちのめされた。1対1ならそこそこ戦えたがタッグ組んだゴリラには何も出来なかった。こんな酷いことってある?

リタ:?????

くぅ~疲れましたw これにて番外編完結です!(以下略)

次回からは本編進めます。ついでに言えばレインちゃんの闇堕ちの章になります。いやあ、これから収穫の時期ですよ。楽しみです。

それじゃあ、さよならー(失踪)


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本編 乙女ゲー主人公はヤンデレでした

こんな設定の小説を書いてくれる人いないかなー(/ω・\)チラチラ


 

 突然だが俺はここがある乙女ゲーの世界だと知っている。

 

 クソやかましい顔面と背景を持つ5人の男達に同じく顔がやかましい上に馬鹿げた能力をもつ一人の少女。それに比べ、俺含む他の奴らの何ともぼんやりとしたTheモブと言わんばかりの顔面。

 

 この時点で何らかの乙女ゲーは確定している。事実、主人公様は5人の男達を見事に籠絡している。洗脳かなにかした? そんなことを聞きたくなるくらいにはメロメロである。しかもこの五人、乙女ゲーのテンプレと言わんばかりに重要な役職についている者たちだ。

 

 この国の王子に財務大臣の息子、騎士団団長の息子、宰相の息子、挙句の果てに隣国の王子ときた。この国、女の取り合いで国割れたりしないだろうな? 女の取り合いで国割れるとか笑い話にもならないぞ。

 

 さて、そんな5人を籠絡している主人公様だが、ぶっちゃけこいつが一番ヤバイ。何がやばいかっていうとこいつの能力だ。

 

 主人公が持つ力は水に関わる力だ。無から水の生成、水温の変化、相転移、挙句の果てに意志を持つ水で出来た兵士の生成とやりたい放題にも程があるほどの力だ。水の兵士もやばいが相転移がかなりやばい。何せプラズマを発生させられるのだから。加えて相転移に必要な水は自身で出せる上に、出せなくとも空気中の水分から抽出することが出来る。それに水の生成だけ切り取っても厄介だろう。

 

 水の生成に上限はない。詰まりは何処でも大津波を引き起こせる。水のないところでこれほどの水遁を、とか言っちゃえるレベルだ。そしてここで水温の変化だ。沸騰した湯に変化するだけで死の津波の完成である。

 

 雑に扱っても国程度簡単に潰せる。そんな力を持つ女の名はレイン・ローレライ。水の聖女と呼ばれている。

 

 そして前世で大流行した乙女ゲーの主人公だ。その乙女ゲーについてはまあ、有名だったし説明は不要だろう。強いて言うなら乙女ゲーとRPGが融合したものと言えば大体の人間はわかるだろうしな。

 

 水の聖女ことレイン・ローレライだが、此奴はゲームの方でもクソ強いことは覚えている。何せ魔王と呼ばれる存在と育成次第ではタイマン張れるくらいには強くなるのだ。

 

 誰が呼んだかゴリラの聖女。魔王と殴りあえる聖女とは一体とよく思ったものだ。

 

 強い、賢い、可愛いの三拍子揃った聖女と完璧だ。5人の男達が惚れるのもよく分かる。聖女の地位としても、軍事力としてもどう扱っても使えるのは火を見るより明らかだ。

 

 ゲームの方では1年生で5人の男達を惚れさせ、魔王を潰していたというのは覚えていた。だからこそ俺は面倒事に関わりたくなかったから2年生で転入してきたのだ。

 

 本当に関わりたくなけりゃ件の学校に入学しなけりゃいいだろと思うだろうが、同業者の傭兵仲間に行ってこいと背中を押されたのと無事卒業出来れば将来は安泰とまで言われるその実績はやはり魅力的だ。それに1年で全てが終わっているのだから俺のようなモブ顔には聖女とは関わることなんてないだろう。

 

 

 

 ━━━━━そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 

 運命とはこのことをいうのだろう。私、レイン・ローレライはそう思わずにはいられなかった。

 

「オルド・アシュワースです。これからよろしくお願いします」

 

 そう言って無愛想に自己紹介する額の右側から頬にかけて一直線の傷跡があるこの辺りには見ない珍しい黒髪の男。

 

 ━━━━━そして私がずっと探していた人だ。

 

 2年生に上がると同時に転入生がやってくると聞いてはいた。どんな人が来るのだろうとは気にはなっていたが、まさかあの人であったとは思いもしなかった。魔王を倒してあの人が平和に暮らせる世界にするために奮闘した1年生の時の努力を神様からご褒美として与えられたのだと思った。普段は祈りもしない神様に大いに感謝した。

 

 それにしても━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前はオルド・アシュワースって言うんだね将来は私がレイン・アシュワースってなるのかなそれとも貴方がオルド・ローレライってなるのかなえへへ楽しみだな本当に運命の赤い糸ってあるんだねそれに記憶の時より随分と身長が伸びて何処か昔の面影を残しながらも精悍な顔つきになってるとってもかっこいい右の傷はどうしたのかな私がその場にいたのなら傷跡すら残さずに癒したのに傷をつけたやつを塵一つ残さず消し飛ばしたのにでもこれからは傷一つ付けさせないからね貴方のために魔王を倒したんだよ褒めてくれるかな褒めてくれるよね貴方と学園生活を送れるようになるなんて嬉しいな貴方の周りに近づく穢らわしい雌共はみんな排除するからね貴方に相応しいのはこの私だけだもんこの1年私に纏わりつく5匹の羽虫が目障りだったけど貴方とこれから一緒に過ごせるならもうどうでもいいこれからは貴方と過ごす楽しくて愛おしい記憶で塗りつぶしてしまえばいいもんねああ貴方が好きな料理を知りたい貴方が住んでる場所が知りたい貴方が今まで生きてきた人生を知りたい貴方のすべてが知りたい貴方と早くお喋りしたい貴方と手を繋ぎたい貴方と一緒に食事をしたい貴方とキスがしたい

 

 ━━━━━あなたと1つになりたい




主人公:顔はモブだが行動が攻略キャラのそれと言うことに気づいていない。傭兵やってた。

怪文書の聖女:素で逆ハールート行った真性の人たらし。魔王相手にタイマンして勝てるゴリラ。主人公には過去に会ったことがある。

他5人:ガン飛ばしてる


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第2話 オルド視点

ある程度設定を吐き出さなくちゃ続きかけるものも書けないなと気づいたので初投稿です


 おかしい、そう思わずにはいられなかった。Theモブと言わんばかりの無難な自己紹介をしたはずだ。同業者の傭兵仲間からは猫かぶりすぎだろと笑われまくった完璧な自己紹介をしたはずだ。実際クラスのほとんどの奴らは大した反応はしていない。5人の男達もそうだ。

 

 なのに何故、何故あの女は、水の聖女は瞬き1つせず目ん玉かっ開いて此方を凝視しているのか。えっ、怖っ! 薄く笑ってるのも何で? ほんと怖いんだけど。

 

「それじゃあオルドの席は━━━━━」

 

 そんな聖女の様子に戸惑っていると担任が俺の席を何処にするかと考えていた。出来れば聖女の位置から遠く離れた場所でお願いします! なんか聖女の横が不自然に空いてるけど他にも席は空いてるから聖女の横だけはご勘弁を! なんなら聖女の横じゃなければ立っててもいいから! 

 

「先生、私の横が空いています」

 

 そう言って薄く微笑んで手を垂直に挙げつつも妙に圧を発する聖女。

 

 やめっ、やめろぉぉおお!! お前の横だけは絶対嫌だぞ! 見ろよほら、例の五人衆が凄い目でこっち睨んでるんじゃが!? 俺達の聖女に近づくのかおぉん? 見たいなヤンキーもびっくりガン飛ばして来てるんだが!? けど1番怖いのはお前だよ聖女! 担任に話しかけてるのに目線だけはずっと俺にやってるのは怖いわっ! えっ何? お前俺の何を見てんの!? 

 

「や、だがなあ━━━━━」

 

 おっ、いいぞ。その調子で断ってしまえ。聖女の横とか厄介事しか運ばないだろうからな。ふふ、すまないな聖女よ。モブはモブらしく影に徹するのだ。断じてお前の横とかいう強烈に光り輝く場所には行かない。我らが担任は絶対に聖女の圧なんかに負けないんだから! 

 

「先生、私の横が、空いています」

 

「お、おう。じゃあそこで……」

 

 聖女の圧には勝てなかったよ……。

 

 仕方が無いので指定された席に向かっていく。席に近づくにつれて深まる聖女の笑み、五人衆からの高まる殺気。そして他の人達からの嫉妬混じりの視線。

 

 もしかして今日は俺の命日なんだろうか? やだぞこんなクソくだらないことで死ぬなんて。

 

 観念して着席すると同時に聖女が話しかけてきた。

 

「これからよろしくね、オルド」

 

 そう言って手を差し出してくる聖女。握手しろということなのだろうか。握手しても大丈夫なのだろうか。手を握り潰したりされない? しかし、ここで握手をしないというのは悪手でしかない。自分モブじゃないですと自己申告してるようなものだ。ここはモブらしく笑顔で握手だっ。……駄目だ、表情筋が仕事しねえ! 笑顔になれねえ! 傭兵業ではポーカーフェイスが大事だったから仕方ないね。仕方ないので笑顔を諦めて差し出された手を握る。

 

「ええ、これからよろしくお願いします。えっと……」

 

「あ、ごめんね? 私はレイン・ローレライっていうの。レインって呼んで欲しいな」

 

 知ってます、とは言えまい。一応初対面だし知らないふりをしとかなければ。

 

「分かりました、レイン」

 

「━━っ!」

 

 ん、今身体を震わせたか? 寒い……という訳では無いだろう。じゃあ一体何故……? そう思い首を傾げた後視線だけで周りを見渡すと身体を震わせた理由が分かった。

 

 五人衆の顔怖っ! 

 

 鬼の形相と言っても差し支えないくらい歪んでる。元々が整っているため怒った時の顔は尚更怖いというものだ。こんな顔みたらそら震えますわ。でももっと震えたいのはその視線を浴びてる俺ですけどね。この顔休み時間になったら連れ出されますねこれは……。まあ、好きな女の子が他の男と喋ってるのを見たらムカつく……みたいな気持ちなのか?

 

 あれ? 俺、自己紹介して握手しただけだよな? 俺何も悪くなくない? えっ、ありえないんですけど! 

 

「それじゃあ転入生への質問……といきたいところだが、この後は戦闘訓練だから質問は休み時間にしといてくれ。それと今回の戦闘訓練はペアで行う。適当にペアを組んだら第1訓練所に集合しろよ」

 

 そういうと担任はさっさとクラスから出ていった。この担任、今ペアを組めと申したか? 俺、転入したばかりだから友達1人もいないんですけど! あれか、担任と組めということか。

 

 どうすっかなと思っていると五人衆が此方に寄ってきた。……正確に言うと聖女の方にだが。まあ、聖女と組みたいのだろう。俺は応援するぜっ! だから俺と聖女とペアだけは勘弁な! 

 

「レイン! 俺と一緒に━━━━」

 

「オルド、ペアになろっ!」

 

 いの一番に声を掛けたこの国の王子、アルベール・ヌダム・オルティス。ええい、長い上にまだるこっしいな。王子1号の声に被せるように発言する聖女。そして固まる五人衆。

 

 あっ、これあれじゃな? また俺が睨まれるんだな? 

 

「ま、待ってくれ。レインはその男と組むのか?」

 

 最も早く再起動した王子1号がそう聞くと聖女は誰もが見惚れるような笑みを浮かべて答えた。

 

「そのつもりだよ、オルティスくん。だってオルドはこの学園に来たばかりでペアを組む人はいないと思うから」

 

「なら、俺がそいつと組むよ。それならレインが組む必要は無いだろう?」

 

 そう言って聖女に待ったをかけるのは騎士団団長の息子、クロヴィス・ファリナッチ・ヴァンだった。

 

 いいぞ! 俺もこいつとは組みたいとは思わないからな! ただでさえ今ヘイトが集まりまくってるのに更に集めてたまるかっ! ありがとうな、公式では熱血男と呼ばれてた騎士団団長の息子! お前はホント良い奴だ! 

 

「ダメに決まってるでしょ。だってヴァンくんと組んだら怪我するかもしれないじゃない。それなら回復もできる私の方がいいと思うの。それに私は学級委員長でもあるしね。だからオルドと組もうと思うのだけれど……ダメ、かな?」

 

「うぐっ、ああ、分かった俺は別にそれでいい」

 

 お前はホント駄目なやつだ! 上目遣いで陥落してんじゃねえよ熱血男! 他の奴らは……駄目だクソが! 他の奴らも陥落してやがる。レインがそこまで言うならって、そんな雰囲気醸し出して引き下がりやがった。諦めんなよっ! 

 

「それじゃあ、一緒に頑張ろうねオルド!」

 

「えっ、ああ、頑張りましょうね……?」

 

 物凄い上機嫌な様子で満面の笑みを浮かべる聖女に俺は何も言えなかった。ここで断ろうものなら色んな意味で死んでしまう。結局の所嫌々、本当に嫌々ながら聖女とペアを組むことになった。

 

 ちくしょう!! 

 

 

 

 

 

 

「おーし、全員着替えて集まったなー?」

 

 着替えてきましたよ、視線やばかったけどなっ! 着替えてる最中にビシビシと感じる視線。視線が実体化していたら串刺しになっていただろうことは想像に固くないほどだった。その中にやたらねっとりとした視線も感じとれた。……ここでもケツを守らなくちゃいけないのかあ……。嘘だと言ってよバーニィ! 

 

「そんじゃ、お前たち2年の担任となるクロード・ベルコだ。主に戦闘訓練を担当している。ビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけー」

 

 気だるげにそう言う無精髭が生えた男は先程聖女の圧に負けた人だった。そっかあ、この人が戦闘訓練担当か。

 

 結構、というよりかなり強いとみた。

 

 流石はリバドレード王国最高峰と呼ばれるファルマス学園。こんなに上質な先生を用意しているとは。今度一戦交えて貰えないだろうか。とても楽しめそうだ。

 

「そんじゃペア同士組んで念入りストレッチしとけよ。今回は魔法無しの組手をするからな」

 

 そうかそうか組手か。……組手? 聖女と? 嘘でしょ。やばいって聖女と組手はまずい。しかも魔法なし。つまりは肉弾戦のみ。

 

 俺、男、聖女、女。

 

 迂闊に攻撃出来ねええええ!! 変なとこに当ててしまってでもみろ、五人衆からの処刑待ったなしだぞ!? それ所かクラス中から白い目で見られること間違いなしだ。イカン、これはイカンですよ。

 

「すみませんクロード先生」

 

「お、なんだ転入生」

 

「私の相手はレインさんなのですが、組手は拙いのではないでしょうか」

 

「お前は戦場で女と戦うことになったら戦わねーのか?」

 

 はい、正論ですね。戦場だと迷ったやつから死んでいくもんね。そら、戦場なら躊躇いなく殺しに行くけども! 

 

 ここ! 学園! でしょうがっ!! 

 

 今後の学園生活に支障を来すんだっつーの! 考えてもみろ! 五人衆に加えてクラス全員から慕われてそうな奴に怪我なんかさせてしまったら俺の学園生活が灰色になるっつーの! 

 

「おい、お前ら一応言っとくが相手が女でも適当にやろうとすんなよ。俺の戦闘訓練は生温くはないからな。それに怪我をしてもこの学園にゃ優秀な回復術士もいる。安心して潰し合え」

 

 PTAがあったら大問題になりそうな発言だぁ……。

 

「そんじゃ一発目は……決めた。オルドとレインペアで戦え。レインの実力は既に知ってるが、オルドの実力は知らねえからな。ルールは闘技台の上の白線から外に叩き出すか、気絶、もしくは参ったというまでだ」

 

 はい、クソー! 初戦からかよ! 

 

 クロード先生に言われたのでストレッチをしてから仕方なく前に出て構えを取る。同じく目の前に立ち構える聖女。その顔はなんとも楽しそうなそれでいて嬉しそうな顔をしていた。

 

「よーし! 私負けないからねっ!」

 

「ええ、此方も負けないように頑張りますね」

 

 ああ本当に嫌だ。こいつとだけは戦いたくなかった。

 

 だってコイツ━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、いくよっ!」

 

 ━━━━━加減なんて出来ないレベルで強そうなんだよなっ! 

 

 そう思うと同時にバゴンッと聖女の足元の床が粉砕すると共に一息で5mはあった間合いを詰めてきた。そしてそのままスピードを乗せたハイキックが俺の側頭部を狙う。

 

 それを体勢を後ろ向きに逸らすことで回避する。

 

(足払いか……)

 

 続けて聖女はハイキックからのスピードを落とすことなく足払いへと繋げていく。恐らく体勢を逸らしたことで不安定になった重心を支持基底面の外に出すことで転倒させることが目的なのだろう。それをバク転する事で回避。

 

 だが顔を上げた時には目の前で掌底を放っていた聖女の姿が見えた。逸らすのは間に合わない。ならばそれを首を横に傾けることでギリギリで躱すと同時に後方へ跳躍することで距離をとる。

 

 本当に強いなこいつ……! 

 

 そんなことを思いつつも追撃をしてこない聖女に内心首を傾げながらも聖女の方を見る。

 

「あはっ、やっぱり思った通りだぁ」

 

 思わずゾクッとしてしまった。そこには喜色満面と言わんばかりの恍惚とした表情を浮かべた聖女がいた。

 

「オルドは強いねぇ。多分格闘術だけなら私と同格……いや、もしかしたらそれ以上なのかな? えへへ、ね、オルド」

 

 今度は先程より断然速い踏み込みによる間合い潰し。加えてその速度を乗せた貫手を放ってきた。

 

「本気で、戦おう(ヤろう)?」

 

 ああ、ホント最悪だ。ここまで強いんじゃ、否が応でも『スイッチ』が入ってしまう。いや、もう入ってしまったか。このゴリラ聖女め、恨むぞ。

 

「ハッ、上等」

 

 聖女が放った貫手に軽く手を添え、力の向きを変える。すると大きく逸れたため聖女の懐がガラ空きとなる。そこに間髪を容れずに拳を叩き込む。聖女は大きく飛んでいき、着地すると共にガリガリと床を削りながら強引に止まる。

 

 ━━━━━白線は超えていないか……。

 

 殴った時の感触からしてダメージは少ない。恐らく大きく後方に飛ぶことで衝撃を逃したのだろう。

 

「えへへ、嬉しいなぁ。私相手に手加減しないで戦ってくれるなんて」

 

 寧ろ恍惚とした表情を浮かべながら此方に歩み寄ってくる聖女。マゾかよと叫びたくなってしまう。

 

 聖女が間合いを詰めようと踏み出した瞬間、それよりも速く俺が間合いを潰し接近する。聖女はそれに驚きつつも掌底を繰り出す。轟ッと空気を裂くような音ともに繰り出された掌底の勢いを利用して聖女の手首を掴み、空へと勢いよく放り投げる。

 

 そして投げ出された聖女の腹部に蹴りをぶち込んだ。

 

「空中なら魔法を使わない限り勢いは消せねぇだろ? そんでもって━━━━━」

 

 だが、流石は魔王を倒したと言うべきか。蹴りを入れた瞬間には腕をクロスさせ、腹部をガードしていた。

 

 勢いよく吹っ飛んだ聖女だったが、空中で体勢を整えて綺麗に着地する。だが━━━━━

 

「俺の勝ち、ってな」

 

 聖女が着地したのは白線より外側だった。

 

「勝者オルド! 勝負を終えた二人は別の闘技台で訓練するか、他の奴らの見学をしてもいいぞ」

 

 あー、ホント強いわこの聖女。格闘術だけでコレだもんなぁ……。これにあの能力が合わさるとか敵からすりゃクソゲーもんだな。つくづく敵には回したくないものだ。魔法無しの組手で良かったわ。あったら絶対負けてた。

 

 そんなことを思いつつも吹っ飛んで行った聖女の元へと駆け寄り手を差し伸べる。終わった後の握手ってやつだな。

 

 だが、聖女は差し出した手を見ずに俯いてふるふると震えていた。

 

 えっ、もしかして痛すぎたか? や、そりゃ加減なんてしてなかったけども。えっ、泣くのかこれ? やばい、泣かれたら俺がし━━━━━

 

「凄い凄い! オルド本当に凄い!」

 

 ━━━━━ほげええええええ!!! 

 

 ドゴォッという音でも付きそうなほどの強烈なタックルを腹部にもらい大きく吹き飛んだ。そしてそのままの流れで俺の腹部の上にマウンティングをとった聖女は何とも嬉しそうにはしゃいでいた。

 

「私これでも学生の中では格闘戦で負けたこと無かったのに! それに私の知らない技が沢山あった! えへへ、ね、私にどんな技なのかじっくり教えて欲しいな。それこそ手取り足取り……ね? って、あれ?」

 

 ふぐぅ……やはりゴリラの聖女だったか……!




じゃあ続き書いてくれよ! 楽しみに待ってるからな!

おるどくん:正体現したね? ガチると元の口調に戻る。

れいんちゃん:やっぱりゴリラの系譜に名を連ねてた。格闘術もヤバいやつだった。パワー系ヤンデレ。

くろーどせんせい:こいつらやばくない?


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第2話 レイン視点

評価が赤いっ! つまりそれだけこんな設定がすこっていう人が多いってことだよね?

じゃあ似たような設定で書いてくれるよね? 俺も書いたんだからさ。

そんなわけで初投稿です


 目の前で自己紹介をしていた私の愛しいオルドを見て思わず想いが溢れてしまった。今はオルドの姿を記憶に焼き付けるためにしっかりと見ないとね。……えへへ、オルドぉ。オルドとの将来を考えるだけで思わずにやついてしまう。はしたない女の子だなんて思われてしまうだろうか? 

 

「それじゃあオルドの席は━━━━━」

 

 オルドの席、そんな言葉が聞こえた瞬間、私は反射的に手を挙げた。

 

「先生、私の横が空いています」

 

 オルドが私の横に来るのは絶対だ。何せこの学園に来た時から夢想していたのだ。もしオルドが学園に来た時の為に横の席は取っておくと。それが今叶うのだ。今までオルドとの将来を考えて周りに味方を増やしていってよかった。私の学園生活は薔薇色になるに間違いない。ありがとう神様! 

 

 そんなことを考えていたのに先生は何故か渋った様子を見せた。

 

「や、だがなあ━━━━━」

 

「先生、私の横が、空いています」

 

 少々圧をかけて再度『私の横』という言葉を強調していう。もしオルドが私の横以外の席に行ったのならオルドの横に座っている人の席を奪うことも吝かではない。そうならない為にも私の横にしてくださいね、先生。

 

「お、おう。じゃあそこで……」

 

 そんな私の想い通じたのか先生はやや戸惑った様子で私の提案を呑んでくれた。そしてオルドが私の隣の席へと向かって歩いてくる。ほんの少し手を伸ばせば触れる位置にオルドがいる。その事実に自分自身でも笑みが深まっていることが分かるほどだ。

 

 オルドが席に着いたのを見て挨拶をする。

 

「これからよろしくね、オルド」

 

 末永く、ね? そんな想いを込めながら手を差し伸べるとオルドは少し困惑したように手を握り返してくる。思っていたより手の皮膚が硬い。それにこの鍛え方……。体幹の維持とか歩法とかもそうだったけどもしかしてオルドって武に通じてる? どうにも戦い慣れしてる様な印象があるなぁ……。

 

「ええ、これからよろしくお願いします。えっと……」

 

 何やらオルドが困っている様子だ。……もしかして私の名前を知らないのだろうか? これは想定外だ。とりあえずは私の名前を教えてみる。名前が分かればすぐにでも私が水の聖女だということに気がつくだろう。

 

「あ、ごめんね? 私はレイン・ローレライっていうの。レインって呼んで欲しいな」

 

 オルドは特に驚いた素振りを見せなかった。この反応は私が水の聖女ということに気がついてないと思える。

 

 ……どういう事なのかな? 

 

 私とオルドが出会ったのはまだ幼い頃だから仕方ない、と2ヶ月前ならそう言えただろうが、今の私ははっきり言ってリバドレード王国民のほとんどが知っているはずだ。何せ2ヶ月前に魔王討伐による大々的なパレードを行ったのだから。私も有名になるのは嫌だったが、オルドが私を見つけてくれるかもしれない。そんな一縷の望みをかけて出たのだが、当のオルドはそれを知っている様子ではない。

 

 そうなると現時点ではオルドがいた場所の3つの推測が出てくる。

 

 一つ、私のパレードが伝わらないほどの辺境にオルドが住んでいた。

 

 二つ、額の右側から頬にかけて走る一筋の傷跡から見てパレードの話すら届かない最前線で戦っていた傭兵。

 

 三つ、同じく傷跡から見て奴隷として最下級の区分に分けられる戦闘奴隷だった。

 

 2番の可能性は低い。そうなると3番か1番の可能性があるが、そもそも3番については私が原因となる人達を潰した。となると1番? でもオルドの出身地は私と同じはずだ。じゃあやっぱり2番なのかな? 

 

 一体どれが━━━━━

 

 そんなことを考えているとまるで脳髄を溶かすような甘い響きが私の耳に届いた瞬間、今までの思考が那由他の果てまで吹っ飛んでしまった。

 

「分かりました、レイン」

 

「━━っ!」

 

 レイン、レイン、レイン! ああ、なんと甘美な響きなんだろう! オルドが私の名前を、それもファーストネームで呼んでくれた! ああ、駄目だ。下腹部に熱が滾っていくのがよく分かる。まるでマグマのような熱量だ。これは刺激が強すぎるっ……! 

 

「それじゃあ転入生への質問……といきたいところだが、この後は戦闘訓練だから質問は休み時間にしといてくれ。それと今回の戦闘訓練はペアで行う。適当にペアを組んだら第1訓練所に集合しろよ」

 

 ペア!? 今ペアと言ったのかなこの先生は? そんなの組む人は決まっている。

 

「レイン! 俺と一緒に━━━━」

 

「オルド、ペアになろっ!」

 

 何やら変な言葉が聞こえた気がする。私が組むのはオルド以外にはいないというのに。

 

「ま、待ってくれ。レインはその男と組むのか?」

 

 ああ、さっき喋ってたのはオルティスくんだったんだ。それにしても当たり前のことを聞くんだね。

 

「そのつもりだよ、オルティスくん。だってオルドはこの学園に来たばかりでペアを組む人はいないと思うから」

 

 仮にいたとしてもオルドのペアを譲る気はない。オルドのペアはこれからずっと私だけでいいのだ。今まで一緒に過ごせなかった分を取り戻すようにオルドとは二人っきりで濃密な時間を過ごしたいのだから。

 

「なら、俺がそいつと組むよ。それならレインが組む必要は無いだろう?」

 

 その言葉に思わず呆気に取られてしまう。誰が誰と組むだって? 私を差し置いてオルドとペアになるなんて許されるわけがないというのに。

 

「ダメに決まってるでしょ。だってヴァンくんと組んだら怪我するかもしれないじゃない。それなら回復もできる私の方がいいと思うの。それに私は学級委員長でもあるしね。だからオルドと組もうと思うのだけれど……ダメ、かな?」

 

 ヴァンくんは手加減が下手だ。オルドの動き方からしてないとは思うが、万が一怪我をさせられたら私はヴァンくんを蒸発させてしまうかもしれない。そうなったら今まで積み上げてきたのが崩れてしまう。それは回避したい。

 

「うぐっ、ああ、分かった俺は別にそれでいい」

 

 上目遣いでヴァンくんにお願いすると、どうやら納得してくれたらしい。他の皆も渋々といった様子だが引いてくれた。これでようやくオルドとペアを組むことが出来る。

 

「それじゃあ、一緒に頑張ろうねオルド!」

 

「えっ、ああ、頑張りましょうね……?」

 

 その後私とオルドは別れて更衣室へと向かった。

 

 ……しょ、しょうがないよね。これから行うことはオルドがどれくらい鍛えてるのかを知るためであって、ペアを組むのに必要な偵察だもんね。うんうん仕方ない仕方ない。それに私がオルドの身体が見るのにオルドが私の身体を見ないのは不平等だもんね。これからペアになるんだから不平等はいけないもんね。今度オルドと二人っきりのときにしっかり見てもらわないと。

 

 そんなことを思いながらオルドが着替えているであろう更衣室の中にある大気中の水分を使って眼を作り、私の感覚と同調させる。

 

 オルド以外の人の身体なんて見たくもないからオルドのみ映るように調整し、バレないように細工をしかけた上で天井に作る。

 

 えへへ、オルドの逞しい身体……。一体どんな感じなんだろう? 思わずよだれが垂れてしまいそうになり、急いで拭う。

 

 そして同調しきったため視界が切り替わる。

 

 ……なに、この傷跡。

 

 オルドの身体は見ることが出来た。鍛えに鍛え抜いたんだろうってことが思えるほどに絞りあげられた肉体をしていた。それと同時にこの筋肉の付き方は戦うために付けたと分かる程に機能的な肉体をしていた。

 

 そしてそれを裏付けるようにオルドの身体には無数の傷跡が残っていた。切創、銃創、刺創などの明らかに人と戦ってついたような傷跡から咬創などの魔物とも戦っていたと考えられる傷跡が身体中に刻まれていた。

 

 不愉快だ。不愉快極まりない。

 

 誰が、誰が私のオルドにこんなにも傷をつけた。きっと痛かっただろう。辛かったのだろう。どれほど苦しんだのだろう。

 

 許さない、断じて許してなるものか。

 

 私の愛しいオルドに傷をつけたことを後悔させてやる。それこそこの世に生まれてきたことを後悔するほどに。

 

 先程考えていた1番と2番の可能性は消えた。何故なら1番ならそもそもこんな傷は出来ていない。2番は傭兵ならば情報を最も重要視している。なら調べなくともわかるパレードについて知らないわけがない。それに私の存在を知らないというのもありえないだろう。

 

 そうなると残るは3番、戦闘奴隷だ。戦闘奴隷はその名の通り戦闘時のみ出される奴隷。最も死に近しい奴隷。そのため奴隷の中でも最下級の位置に付けられている。そして何よりも他の奴隷でもある人権が一切ない。戦いの時のみ駆り出され、戦いが終わればまるで道具をしまうように檻の中に叩き込まれる。加えて逃走防止のために首に爆破機能がついた首輪を装着される。また死んだとしても墓を作ることはない。そこいらの森に投げ捨てるなりなんなりして証拠隠滅として魔物に食わせるのだ。

 

 仮にそんな存在であったのならばオルドが私のことを知らないのも頷ける。それにオルドは昔はあんなにへりくだったような言葉遣いではなかった。戦闘奴隷であったがためにそう言う言葉遣いになってしまったのだろう。

 

 けど気になることもある。オルドが戦闘奴隷であったとしてどうやってこの学園に入学したんだろう? 誰かが手引きしたとしか思えない。多分オルドを戦闘奴隷から解放した人もその人のはずだ。もしそうだったのなら私はその人に対して出来るうる限りのお礼をするつもりだ。なんなら聖女としての地位を使っても構わない。

 

 それにしても戦闘奴隷は存在そのものが違法だ。そのため国王様と協力して戦闘奴隷を販売している奴隷商人は根こそぎ潰して、戦闘奴隷を持っている貴族達も容赦なくスキャンダルとしてすっぱ抜いて没落させた。全員潰したと思っていたけれど何処かに生き残りがいたんだ。そしてそいつがオルドにあんな傷を付けたのかな? 

 

 そっか、そっかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━潰す。

 

 

 

 

 

「おーし、全員着替えて集まったなー?」

 

 この学園は基本的に自由だ。そのため規定された運動服などはない。そのため服装は各自動きやすい服に着替えるのだが……。

 

 ちらちらと何度もオルドの方を見てしまう。

 

 オルドの筋肉質な身体の全体を覆う黒がピッチリと身体に張り付き、薄らと見える筋肉の筋がTシャツの隙間からチラリチラリと顔を覗かせる。そしてTシャツ故に見えてしまう黒に覆われた鎖骨にそこはかとない色気を感じてしまう。

 

 ━━━━━このオルド、スケベすぎるっ! 

 

 おい聖女、と言いたくなるくらいアホの感想だ。だが、聖女と言うだけあって生娘であるが故に想い人の身体のラインが出る服装に興奮を隠せない。

 

 そんな風にオルドの服装に悶々としていると、目の前に立っていた先生が自己紹介を始めた。

 

「そんじゃ、お前たち2年の担任となるクロード・ベルコだ。主に戦闘訓練を担当している。ビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけー」

 

 そんなふうに気だるげに言っているクロード先生だが、立ち振る舞いに隙がない。

 

 ━━━━━この先生、騎士団長さんほどじゃないけどそれ相応に強いね。あの人からも教えを受けてはいるけどこの先生からも教えて貰えるなんて運がいいなぁ。

 

「そんじゃペア同士組んで念入りストレッチしとけよ。今回は魔法無しの組手をするからな」

 

 へえ、組手するんだ。……? 組手? オルドと組手? 魔法無しで? つまりそれって使えるのは肉体のみだよね? えへ、えへへ、それってつまりオルドが私の身体に触って、私もオルドの身体に触れるってことだよね? 

 

 ありがとうっ、その言葉しか見つからないよクロード先生! 

 

 そんなことを考えていると隣にいたオルドがクロード先生に質問をしていた。

 

「すみませんクロード先生」

 

「お、なんだ転入生」

 

「私の相手はレインさんなのですが、組手は拙いのではないでしょうか」

 

 もしかしてオルド、変なところ触ったらって考えた? 私はオルドなら何処触られても全然大丈夫なんだけどなー。寧ろ触ってほしいとさえ思う。

 

 そんなこと言うのははしたないから言わないけど。

 

「お前は戦場で女と戦うことになったら戦わねーのか?」

 

 クロード先生がそう言うとオルドは僅かにだが苦い顔をして黙り込んだ。

 

「おい、お前ら一応言っとくが相手が女でも適当にやろうとすんなよ。俺の戦闘訓練は生温くはないからな。それに怪我をしてもこの学園にゃ優秀な回復術士もいる。安心して潰し合え」

 

 凄い発言だ。仮にも王族がいるこのクラスで言っていいセリフじゃない。けれど、ハッキリとそう言ってしまう所にレインは好感を得た。

 

 実際、レインは女だということもあり、組手の時にはいつも手加減されていた。怪我をさせないように、機嫌が悪くならないように、そんな思考が明け透けて見えてしまうほどだった。その上、自身よりも圧倒的に格下とも言える人にまでそんなことをされてしまったので女だからという理由で手加減する輩が苦手であった。

 

 だが、聖女だからこそ怪我をさせてはいけないと思う気持ちは理解はしているためさして騒ぐ気もなかったが。

 

「そんじゃ一発目は……決めた。オルドとレインペアで戦え。レインの実力は既に知ってるが、オルドの実力は知らねえからな。ルールは闘技台の上の白線から外に叩き出すか、気絶、もしくは参ったというまでだ」

 

 初戦からオルドと戦うことになった。互いにストレッチをしてから闘技台の上に上がると構えを取った。

 

 ふぅーっ、と軽く深呼吸をし、オルドを見据える。そこでふと気づいた。

 

 オルドが纏っている空気が変わり始めていることに。

 

 その姿を認識した途端レインの胸の内からなんとも形容しがたい感情が湧き出てきたのが感じとれた。その感情に蓋をしつつオルドに声をかける。

 

「よーし! 私負けないからねっ!」

 

「ええ、此方も負けないように頑張りますね」

 

 ほんの少しの静寂。

 

「じゃあ、いくよっ!」

 

 その言葉とともに地面を思いっきり踏みしめ、一気に加速してオルドへと詰め寄る。そして勢いを落とさないままオルドの側頭部へハイキックを叩き込む。だがそれを上体を後方へ反らすことで躱される。だが、そのまま足を振り抜くことで勢いを落とさず流れるようにして足払いへと移行する。

 

 躱される、そんな予感はしている。何故ならオルドは上体を反らした時にこちらの様子をちらりと確認していた。その時の眼光にレインはゾクゾクと身体を震わせた。今まで手加減をしてきた奴らとは違う。敵として見定めている目であった。

 

 そしてやはりというべきか、足払いもオルドはバク転をすることで躱した。とはいえ、回避されるということは分かっていたため、即座に騎士団長仕込みの掌底をオルドの顎目掛けて打ち込む。

 

 回避した後の硬直で避けれないだろう。そんな思いと共に打ち込んだが、オルドは迫り来る掌底から一切目を離さずに冷静に見極めることで最小限の動作で躱すと同時に後方へと大きく跳躍し距離を取った。

 

 追撃にいこうと思えばいけた。だが、この身を襲うゾクゾクとした高揚感に動くことが出来なかった。

 

「あはっ、やっぱり思った通りだぁ」

 

 オルドは強い。体捌きからでも多少はわかっていたが、騎士団長に格闘術を仕込まれた私と並んでいる、いやそれ以上なのではないかと思える。

 

 それが私と同い年、それも私の愛しい人だという事実に興奮を隠せない。

 

「オルドは強いねぇ。多分格闘術だけなら私と同格……いや、もしかしたらそれ以上なのかな? えへへ、ね、オルド」

 

 オルドなら、オルドならば本気で戦っても他の生徒のように簡単にやられずに、寧ろ私の全てを受け止めてくれる。そんな確信を抱いた。

 

「本気で、戦おう?」

 

 そう呟くとオルドは常の無表情が消え、私にだけ見えるように口角がつり上がった。

 

「ハッ、上等」

 

 あぁ、その言葉遣いは……。

 

 昔の、昔のオルドの口調に戻っていっている。私の手を引いて色んな世界を見せてくれた、勝気な性格だった頃のオルドに。

 

 嬉しい、好き、愛してる、そんな感情が胸を占める。それと同時にこのオルドを知るのは私だけでいいという独占欲も湧き上がる。

 

 だが、複雑な気持ちにもなる。オルドが元に戻れるのは戦闘の時だけ。戦闘奴隷として生きてきたであろうオルドが自身の素をさらけ出せるのが戦闘だけだったとは何たる皮肉だろうかと。

 

 ━━━━━いつかは戦闘以外でもオルドの素が出てくれるようになったらいいな。

 

 いや、必ず元のオルドに戻してみせる。そんな決意を胸に抱く。

 

 まずはそのために、もっとオルドにさらけ出してもらうように私も本気でオルドと戦う。

 

 先程よりも強く地面を踏み締め、先程のよりも比にならないくらいの速度で間合いを詰める。ただの学生では目で追うことすらもできないであろう速度で詰めたにも関わらず、オルドはしっかりと目で追ってきていた。

 

 掌底では速さが足りない。掌底ではきっと先程のように見切られて躱されてしまうだろう。故に打つのではなく、速く、鋭く、貫くように。

 

 今までで最も速いと言えるほどのスピードを乗せた貫手を放つ。

 

 だが、オルドはその速度にも対応してきた。高速で放たれた貫手に、まるで壊れやすいものを触るかのようにそっと触った。たったそれだけで私が放った貫手は大きく横へと逸れ、私の懐がガラ空きとなった。

 

 そして目の前にはグッと拳を握り締めるオルドの姿が見えた。

 

 それを見た瞬間本能的に後ろへと大きく跳んだ。そして跳んだと同時にオルドの拳が私の腹部に目掛けて放たれた。私は大きく吹っ飛びながらも着地すると同時に地面に足を叩き込むことで無理矢理減速して停止した。

 

 ━━━━━私の跳んだ時の速度の方が僅かに速かったおかげでオルドの拳は軽く当たった程度で済んだ。

 

 けれど、それでもなお軽く当たった程度の腹部に痛みを感じた。もしこれが直撃していたらどうなっていたのか……。ゾクリと背筋が震えると共に私はオルドに対して嬉しさを感じていた。

 

「えへへ、嬉しいなぁ。私相手に手加減しないで戦ってくれるなんて」

 

 女だから、聖女だから、そんな理由で手を抜いてくる奴らとは違い、私というレイン・ローレライを見て戦ってくれている。私という個人を見ているからこそ躊躇なく本気で攻撃してきているのだと思うと嬉しくて堪らない。

 

 そんな想いを抱きつつ、今度は先程よりも速く鋭く打ち込もうと踏み締めた瞬間、目の前にオルドが現れた。

 

 出が見えなかった。まるで最初からそこにいたかのように私の目の前に現れた。そのことに驚きつつも咄嗟に掌底を放った。

 

 これがいけなかった。動揺により先程躱された掌底を踏み込みによる速度も乗せずに打ってしまったのだ。当然オルドにそれが見切られることは分かった。きっとオルドは私に打ち込んできて吹き飛ばしてくるだろう。そう思ったため、無茶な体勢であったが無理矢理後ろに飛ぼうとした時だった。

 

 オルドは私の右手首を掴むと後ろに飛んだはずなのに気づけば私は空に投げ出されていた。混乱する私の視界に映し出されたのはオルドが足を曲げ、傍目から見ても分かるほどにギチギチと膨張している足の筋肉。

 

 私は咄嗟に腹部をガードした。そしてオルドの正面から放たれた蹴りが私の腕を捉えた。ミシミシッと骨が軋む音が鳴り、盛大に吹っ飛ばされた。

 

「空中なら魔法を使わない限り勢いは消せねぇだろ? そんでもって━━━━━」

 

 勢いよく飛んでいきながらも空中で体勢を整える。だが、視界の端に白線が見えた。

 

 ━━━━━ああ、これは……

 

「俺の勝ち、ってな」

 

 私の負け、かな。

 

 私が着地した場所は白線の外。それは私の負けを意味していた。それを確認したであろうクロード先生が試合終了の合図を上げる。

 

「勝者オルド! 勝負を終えた二人は別の闘技台で訓練するか、他の奴らの見学をしてもいいぞ」

 

 また負けちゃった。オルドには昔から勝てなかったけど成長した今の私なら勝てると思ったんだけどなあ……。私も成長していたがそれ以上にオルドは成長してた。私の知らない技を使って私を驚かせてくれた。

 

 ああ、本当に━━━━━

 

「凄い凄い! オルド本当に凄い!」

 

 目の前まで来ていたことは分かっていたため、思いっきり飛びつく。何だかぐふっ、と声が聞こえたような気がするが、オルドに抱きついたことで高揚した私の耳に届くことは無かった。そのまま倒れ込んだオルドの腹の上に座り込み昂る感情のままに言葉を紡ぐ。

 

「私これでも学生の中では格闘戦で負けたこと無かったのに! それに私の知らない技が沢山あった! えへへ、ね、私にどんな技なのかじっくり教えて欲しいな。それこそ手取り足取り……ね? って、あれ?」

 

 また昔みたいにオルドに色々と教えて欲しいな。

 

 

 




相変わらず簡潔に纏めること出来てねえな作者ァ!?

戦闘描写を書くのが好きだからまあたくさん書いちゃった。

所でヤンデレの思考って難しいもんですね。他のヤンデレ小説書いてらっしゃる作者様方を尊敬します。

Q.奴隷制度あるの?
A.ありますねぇ!

Q.乙女ゲーで奴隷制度あるとかやばくね?
A.奴隷と言っても人権は認められてるし酷い扱いはされていない。どちらかと言うと職業に近いのでセーフ! セーフだよ! セーフだよね?

傭兵:ちょっと漁れば出てくる情報を知らなかった大馬鹿者。知らなかった理由はまた別の話の時に。戦闘時に来ていた服は傭兵してた時に着ていたタイツに上からTシャツとか被ったもの

聖女(本部):傭兵が悲惨な目にあってたと考え本部化。私が守護らねば……! 覗きに聖女の力を使うという実に無駄な力の使い方をした。騎士団長仕込みの格闘術を使う。

奴隷商人:ギリギリ生き残ってようやく立て直せてこれたのに傭兵のせいで聖女にロックオンされてまた潰される予定の人達。

感想自体はしっかり読んでます。疑問に思ったところなんかは書き込んでくれれば話に影響しない限りお話の中に盛り込んでいきます。ネタバレになるのは勘弁な!

という訳で感想待ってます

じゃあの(失踪)


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第3話 オルド視点

日刊1位になっていましてお紅茶を吹きましたわゾ〜(お嬢様)

日刊1位になったしこの設定が広まって書いてくれる人が増えることですわ! 増えますわね? 増えますわ! 増えなさい! 増えましたわ(確信)

それから誤字脱字報告の方感謝です(正気)

それはそうと初投稿ですわ(お嬢様)


 なんかついノリと勢いで勝っちまったけど俺は負けるべきじゃなかったんだろうか。

 

 そんなことを思いながら俺は目の前の現実から逃避を試みていた。

 

「ねぇ、オルド。さっきの私の貫手を逸らした技のやり方がやっぱり分からなくて……。もうちょっと詳しく教えて欲しいな」

 

 そう言いながらグイグイとクッソスタイルのいい身体を俺に押し付けてくる。特にグイグイと押し付けられる胸がやばい。凄いやばい。なにがやばいかってそれを濁った目で見てくる五人衆がやばい。やばいしか言ってないな俺。

 

 このおっぱいで聖女は無理でしょ。

 

 前世で散々ネットで言われていたことを思い出した。ワイトもそう思います。

 

「えっと、こんな感じで力の向きを考えてやるとやりやすいかと……」

 

 グイグイと体を押し付けてくる聖女から少し距離をとって実例を見せてみる。聖女は俺の真似をしてみるが上手くいかないのか首を捻る。

 

「うーんやっぱり上手く出来ないなぁ……」

 

 そりゃすぐに出来たら天才でしかないわ。……あれ? この聖女って確か設定の方だと……。

 

「あ、そうだ!」

 

 何かを思いついたように手をポンと叩く聖女によって思考が中断された。なにか凄い嫌な予感がする。そう、具体的に言うなら五人衆と他の生徒から嫉妬の嵐が来そうな……。

 

「ね、オルド。私の身体を使って教えて欲しいな」

 

 そう言って聖女は俺の懐に入り込むと先程よりも密着して俺の手を握ってきた。そして身長の関係から聖女は俺を見上げながらお願いをしてきた。

 

 時に聖女の運動服はどんなものか知っているだろうか? 

 

 ノースリーブの胸元が強調されるような上着に尋常じゃないローライズで丈がクソ短いズボン。

 

 簡単に言うとタンクトップにホットパンツという思春期の男を前屈みにさせてしまう事間違いなしな服装をしている。お前本当に聖女? 

 

 そんな服装をしている巨乳な聖女が上を見上げるととんでもない事になる。具体的に言うなら上を見上げる関係上胸を張るので胸がすごい強調される。その上タンクトップなのでより一層強調される。

 

 さてここで今の俺と聖女の位置を思い出していただきたい。

 

 俺の懐に入って過剰なまでに体を押し付けている聖女と手を握られている俺。詰まるところ背後から抱きしめているような状態になる。

 

 その状態で聖女が俺を見上げたら? 

 

 答えは簡単━━━━━

 

 

 

 ━━━━━絶景が広がる。

 

 逃げようと思っても手を握られているせいで逃げることすら出来ない。なんだろう、逃がさないという意志を感じるようだ。

 

 視界は天国、気配は地獄。これなーんだ? 

 

 ━━━━━今の俺の状態です……。

 

 肝が冷えるような嫉妬と殺気の嵐が俺に降り注ぐ。これには俺も思わず苦笑い。この後俺は殺されるんではなかろうか。

 

「? オルドどうしたの?」

 

「え、ああいやなんでもないですよ。えっとですね、ここをこうして……」

 

 苦笑していた俺の方を見て怪訝に思ったのかどうしたのか尋ねてきた聖女になんでもないと誤魔化してササッと教えることですぐに聖女から離れられるように画策する。

 

 聖女の手を取って力の加え方や流し方を聖女の体を通して体感させる。

 

「あ、こういう感じなんだ」

 

 聖女はなるほどと言った感じで先程俺が動かした動作を完璧に再現してみせた。

 

 ウッソだろお前。たった1回体感させただけで先程俺が動かしたのと同じように出来てしまった。その事実に冷や汗をかく。

 

 ゲームの方の設定ではこの聖女、歴代水の聖女の中でも最強と呼ばれている。その強さは歴代の水の聖女を纏めて相手しても勝ててしまうと言われている。というか、実際に何かしらのイベントで歴代の水の聖女を打倒するイベントがあるのだが、この聖女はあろうことか単騎で突破してしまうのだ。その上この聖女、1度理解してしまえばそれが何であろうと扱えるという馬鹿げた才能がある。もうお前一人でいいんじゃないかな。

 

 なろう聖女だの揶揄されていたが、その才能の片鱗を見て改めてそのチートっぷりを実感してしまう。

 

 今はまだ力の流し方や見切り方も俺の方が圧倒的に上だ。だが、いずれ越されるだろう。まあ、こいつにだけは負けたくないので追い越されないように鍛錬をするが。

 

「すごいですね! その動きであってますよ!」

 

「えへへ、オルドの教え方が上手だったからだよ」

 

 お前の才能がヤバかったからだと思うんですけど。そんな考えを他所に此方へとズカズカと歩いてくる五人衆の姿があった。

 

「アシュワース、いくら何でも彼女に引っ付きすぎじゃないか?」

 

「そうですよ、いくらなんでも教える為とはいえレインに引っ付きすぎです」

 

 そう言ってくるのは王子1号にその付き人、宰相の息子であるケヴィン・デュテルトル・ルブランだった。公式ではメガネのイケメンと呼ばれていたのでメガネで。

 

 せやな、俺もそう思う。でも聖女が手を離してくれないんです。しかも段々握ってる手に力が入り始めてるんですけど。

 

 あ、いやまてよ? こいつら使えば上手く聖女から離れてこいつらに聖女押し付ければ俺もハッピー、相手もハッピーでいい事尽くしなのでは? よしそうと決まれば早速実行だ。

 

「そ━━━━━」

 

「私がオルドにお願いしてるんだし、別に問題は無いよ」

 

 一言どころか一文字しか喋らせてもらえんかった……。

 

「そうは言うがいくらなんでも密着しすぎじゃね? さっさと離れるべきでしょ」

 

 財務大臣の息子、アンジェロ・ドゥ・ラフィットがそう言うと俺の手を握る力が更に強くなった。こいつは公式ではチャラ男と呼ばれていたのでチャラ男としよう。

 

「オルドが使ってる技を理解するためだよ。ただ見るだけじゃ分からなかったから仕方の無いことじゃないかな?」

 

「俺の親父に教えて貰ってた時はそんなに密着してなかっただろ?」

 

「騎士団長さんのはとても分かりやすかったからね。あれは見るだけで理解することが出来たんだ」

 

 熱血男も反論するが即座に潰されてしまった。

 

「ふむ、ですが貴方は女性、アシュワースさんは男性です。そんなにも密着するのはアシュワースさんを困らせてしまうのでは?」

 

 普通に言っては引かないと思ったのだろう。隣国の王子であるハンス・オーゲン・ディール、王子2号が別の方向から攻めてきた。そう言われると聖女は眉をへにょりと情けなくタレ下げて俺の方を見つめてきた。

 

「オルド、私迷惑かな?」

 

 そう言ってこちらを見つめてくる聖女の目は潤んでいた。なんだろうか、この状態ではいと頷いてしまうとこいつは絶対に泣くという謎の確信がある。しかも泣いたら拗ねて機嫌を元に戻すのにすごい大変な気もする。

 

「うん? 迷惑とまではいきませんが……」

 

 そんなことが頭によぎったためどっちつかずと言った返事をしてしまった。その返事を聞いた聖女は先ほどの泣きそうな顔から一転して花が咲くような笑顔になった。

 

「じゃあ何も問題はないよね! ほらほら、オルドもっと詳しく教えてよ」

 

 そういうや否やただでさえ密着していたのをさらにくっつき、握っていた手を絡ませ始めた。この聖女、ナチュラルに五人衆煽ってない? そのヘイト全部俺に来るんだけど? 

 

 そして当然の如く五人衆の顔は俺の事をまるで親の仇を見るような顔つきになっていた。なんでさ。

 

「レイン、ひとつ教えてくれ。アシュワースに密着しているのはアシュワースの格闘術が知りたいからなんだよな?」

 

「うん、そうだよオルティスくん」

 

「そうか、なら━━━━━」

 

 あ、これ駄目だなやつだ。クソ面倒くさいことが起きるやつだ。

 

「アシュワース、俺と戦ってくれないか?」

 

 うーんこの。まあ、好きな人と密着できるのならしたいよな。だからと言って普通王子が戦うか? や、そりゃ多少は格闘術は学んでるだろうけどさ。

 

 あ、そういやここ乙女ゲー世界か。なら是非もなし。確かゲームの方でも終盤は聖女単騎で魔王城行かない限りは五人衆もついて行ってたし、そこそこ強いだろ。

 

「別に構いませんが……」

 

「ありがとう。だが、ただ戦うというのもつまらないだろう? 1つ賭け事しないか?」

 

「賭け事ですか?」

 

「ああ、俺が勝ったら俺がレインに教える。お前が勝ったら俺のできる範囲で望むものを用意しよう」

 

 等価値じゃねえだろその賭け事。王族怖いわぁ。高々、聖女と密着したい為だけにそんなことする? ……するからこんな事やるのかぁ……。

 

 他の4人もその手があったかと言わんばかりの表情してるし……。

 

「オルティス様がそう仰るのであれば私からは何も申し上げる事はございません」

 

 勝っても負けてもwin-winだしな。ま、わざと負けりゃいいだろ。聖女を押し付けることが出来るのなら大歓迎だ。だが、その思考を読んだかのごとく王子1号はただし、と付け加えてきた。

 

「手を抜いてわざと負けることは許さない。互いに全力で戦うことに意味があるんだからな」

 

 マジ? その条件下だと絶対王子1号勝てねえだろ。パッと見ても鍛えちゃいるがさほど強いとは感じない。ゲームの方でも王子1号は魔道士よりのステしたしなぁ……。

 

 格闘術じゃ勝てないってのも分からねえのか? ……あーいや、この表情は違ぇなぁ。勝つ、それ以外の事なんて考えてねえ目だ。

 

 いいなぁこの王子1号。

 

 結局の所そこいらにいるぼんぼんと変わらねえのかと思ってたけどそういう表情も出来るんだな。

 

 これは俺も全力を出さねば失礼に当たるというものだ。王子1号に敬意を評して俺も全力を出すことを誓おう。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━負けるほうになあ! 

 

 当たり前だろ馬鹿野郎。聖女を押し付けることができる千載一遇の機会だぞ。こんなチャンスみすみす逃せるかっつーの! それに王族に下手な怪我をさせられないしなぁ。目をつけられた面倒なだけだ。

 

 ふふふ、傭兵団一の演技力を見せつける時が来たようだな。傭兵団の仲間からも認められたギャップが酷すぎて笑われるほどの演技を見せてやるぜ! 

 

 

 

 

 軽く身体を解してからレインの時と同じように互いに位置について構える。それにしても王子に対する歓声すげえな。それから聖女は俺の応援するのはやめような。是が非でも負けにいって聖女を押し付けねば。

 

「よし二人とも闘技台の上に上がったな? それじゃあ始めぇっ!」

 

 クロード先生が戦いの合図をする。

 

 よっしゃ、どっからでもかかってこい! 華麗にぶっ飛んでやるぜ! そんなことを思いながら構えて待つが王子1号は一向に近寄ってくることは無かった。何故……? そう思っていると王子1号は不敵に笑いだした。

 

「ふっふっふ、何故攻めてこないのかと不思議に思っているようだなアシュワース」

 

「ええ、まあ」

 

「お前は確かに強い。あのレインにも勝つほどだ。だが、俺はお前の攻略法を先程の戦いで見つけたぞ!」

 

「攻略法?」

 

 マジかよこの王子1号すげえな! 魔道士よりのステだったからINTも高かったし、そういう分析とかも得意なんだろうな。さて、どんな攻略法だ? 

 

「お前の攻略法、それは俺から攻撃しない事だ!」

 

「は?」

 

 は? 

 

「アシュワース、お前は先程の戦いはずっと受け身に回っていた。お前の得意とする戦法はカウンター戦法なのだろう。事実レインもお前のカウンターにより敗北していた。ならばこちらから攻撃しない限りはお前のカウンターは使えない!」

 

 どうだ! と言わんばかりのドヤ顔を晒す王子1号に俺は何も言えなかった。

 

 えぇ、そう考えちゃうのかあ……。

 

 確かにさっきの戦いは受けに回っていたけども……。しかしこの王子気づいてないんだろうか? 俺も攻撃に行かなかった場合、何の進展もしないということに。高いINTはどこに活用されたんですかね? 

 

 出来れば王子1号の攻撃を受けて華麗に吹っ飛びたかったんだが……。ま、それならそれでやりようはある。王子1号は言外にカウンターをすると言ってるようなもんだし、それに敢えて乗るとしよう。

 

 軽い攻撃を仕掛けてカウンターを受けることによって白線の外に吹っ飛ぶ。

 

 ふっ、我ながら完璧な作戦だ。

 

 さっきの戦いを分析してるんなら腹部の攻撃により警戒するだろうし、ここは腹部狙いでいきますかね。そこしか狙う部分がないからとも言うが。それに王子1号は魔道士よりのステにしては回避率は高い方だったから安心してやれるな! 

 

「そうですか、では此方から参ります」

 

 その言葉と共に王子1号でも反応出来るであろう速度で間合いを詰める。そして見え見えのテレフォンパンチを仕掛ける。さあ、何処からでもカウンターをしてこい! 俺の演技力を見せてやるぞぉ! 

 

 王子の腹部にパンチが届くまであと80cm。まだ何もしてこない。50cm。まだ何もしない。30cm。まだ何もしない。20cm。まだ何もしない。これ、大丈夫だよな……? 10cm。まだ何もしない。あ、ダメだこいつ! 反応出来てねえ! ちょっ、ま、もう止められな━━━━━

 

 そして威力だけは高いテレフォンパンチが王子1号の腹部に炸裂した。ぐふっ、と肺から空気が漏れる様な声とともに大きく吹っ飛びゴロゴロと地面を転がる王子1号。

 

 そしてそのまま白線の外に出てしまった。

 

 シーンとする場にやや気まずそうにクロード先生が決着の合図を告げた。

 

「あー、勝者オルド」

 

 わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 

 

 ウッソだろお前ぇ! さっきの自信満々な表情は何だったんだよぉ!? そこそこ高いはずの回避率はどこにいった!? クリーンヒットしてんじゃねえよ! 

 

 頭を抱え込みたくなる衝動に駆られているオルドを他所に聖女はオルドが勝ったのを見て大いに喜んでいた。

 

 




いくら格闘術習ってるからと言っても現役傭兵のパンチをただの王子が避けられるわけないだろ! いい加減にしろ!

加害者:王子1号の腹をぶん殴ったやつ。打首不可避。

被害者:腹を殴られた人。そもそも普通に考えたら国の重要人物が敵の大将に殴り込み行くはずがない。え? 三国志? 戦国? 知らない子ですね(目そらし)。

性女:加害者が勝ったので大満足。これで文句言われることなく存分イチャつけると考えてる。

無言失踪


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第4話 オルド視点

1話毎に別視点やりたいけどそうなると全然進まないのである程度進んだら別視点を突っ込みます。

初投稿です


 ありのまま今起こったことを話すぜ! 

 

「俺は王子1号に負けようとしていたらいつの間にか勝っていた」

 

 な、何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

 いや、本当にどうしよう。王子1号を殴り飛ばしちゃった。これ不敬罪かなんかで首が物理的に飛ばない? と、とりあえずは今も倒れている王子1号を起こしに行こう。

 

 王子1号の元に走り寄って王子1号に向けて手を差し伸べる。

 

「す、すみません! お怪我はなされていませんでしょうか……?」

 

「あ、ああ怪我はしていないから平気だ」

 

 王子1号は俺の手を握って身体を起こす。ふむ、どうやら本当に怪我はなかったようだ。良かった、あったら首が飛んでた。なくても飛びそうな気がするけど。ホントにどうしよう。

 

「あー、別に今回のことでアシュワースをどうこうするつもりはない。それに今回の授業は組手であるし、肩書きも性差も無いものとして扱われているのだ。怪我をするのも仕方はないが、今回は怪我もしていない。よって何か責任を取らせるようなことはしないさ」

 

 狼狽えていた俺の考えを読んだかのようにそう言ってきた。その言葉に思わず安堵する。

 

「あんな大口を叩いておいて1発でやられてしまうとは我ながら恥ずかしいものだな。さて、アシュワースお前の望むものを言ってみるといい」

 

 あ、そう言えばそんな約束してましたね。ふむ、望むものかあ……。望むもの……。

 

 これ聖女押し付けられるのでは? 

 

 や、ほら? 俺は勝ってはしまったけど聖女様に俺が教えるのは恐れ多いっていうか、なんかそんな感じでいえば押し付けられるのでは……。

 

 あ、いや無理だわ。散々ベタベタ引っ付かれといて恐れもクソもねーわ。

 

 うーん、じゃあ聖女様に教えるのは荷が重い、とかは……。

 

 駄目だな、王子1号に勝った手前そんな理由で押し付けられるわけが無い。それに王子1号、プライドが高いような設定があった気がするしな。仮にここで聖女を押し付けようもんならキレられそうだな。

 

 ━━━━━となると聖女関連以外か。これと言って欲しいものもないし、金を請求するのは色々と拙いので却下。困ったな、本格的に欲しいものがない。

 

 そういや傭兵団にいた頃はまともな料理とか食えてなかったから王都の料理とか楽しみにしてたな。美味い店でも教えてもらうか? 王子だし美味い店くらい知ってんだろ。

 

「それじゃあ、どこか美味しい食事処を教えて貰えませんか?」

 

「そんなものでいいのか?」

 

「はい、王都の料理は食べたことがなかったもので少し憧れていまして……」

 

 そう伝えると王子1号は堪えきれなくなったようにブハッ、と吹き出して笑い始めた。

 

「フハハハハハ! 俺に対して望むものが王都で美味い食事処の情報か。そんなものでは要望のうちに入らんわ。美味い食事処も教えるが他の願いを言え」

 

 ええ……? 止めてくれよめんどくせえ。王子のような権力持った野郎のなんでもって言葉はめんどくさいものがついて回るってうちの団長も言ってたのによー。貴族の権力争いに巻き込まれるとかホントごめんだぞ。……ん、あーそうだ。それでいいじゃねえか。

 

「それじゃあ、もし私が困った事があったら助けて貰えませんか?」

 

 これなら角が立たねえし、仮に貴族の権力争いに巻き込まれても王子1号に投げとけば解決してくれるだろ。面倒事を回避するに限る。

 

「ふむ、よし分かった、それでいこうか」

 

 王子1号と握手をして互いに闘技台の上から降りる。はー、めんどくさ……。そんなことを思いながら降りた先にはやたらいい笑顔をした聖女の姿が見えた。

 

 負けたかったなぁ……。

 

 しみじみと思いながら重い足取りで聖女の方へ近づく。

 

「それじゃ、またよろしくね!」

 

 

 

 

 

 

 終わった。ようやく終わった。ハニトラかなんかかと疑いたくなるほど身体を密着させてくる聖女とのマンツーマンでの訓練が終わった。そんなことを考えていると此方に歩み寄ってくる一つの影が見えた。

 

「失礼、今お時間よろしいですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。それでどんな御用でしょうか、ディール様」

 

 話しかけてきたのは王子2号だった。また王族かぁ、今度はどんな聖女絡みの事なんでしょうね。そう思っていたのだが何故か王子2号は驚愕したような目をこちらに向けてきた。

 

「私の名前を知っているのですか?」

 

「ええ、まあ、噂くらいはお聞きしていますよ」

 

 なんで驚いてんだこいつ。そらオルディン帝国の王権継承者なんだから有名だろ。あ、でも発表されたのが俺が転入する少し前くらいだったな。……驚くのに関係なくね? 

 

「レインのことを知らぬようでしたので私のことは知らないものかと思っていました」

 

 聖女のことを知らない? なんか引っかかる言い方だな。もしかして聖女って有名なのか? いやまてよ、ゲームの方では聖女は有名になるのを嫌がっていたし、聖女が有名になる切っ掛けであるパレードは二つの条件を達成しないと発生しないはずだ。そのうちの一つである魔王討伐は既に達成しているが、もう片方の条件である方の情報は出てきていない。

 

「あの、失礼ですがレインは有名な人なのですか?」

 

「やはりレインについて何も知らないのですね。ええ、そうです。レインは水の聖女としてこの国でパレードを行いました。それ故に知っていると思っていたのですが……」

 

 嘘だろおい。パレードしてるってことは……

 

「すみません、一つ質問よろしいでしょうか?」

 

「構いませんよ」

 

「そのレイン、あー、水の聖女様は誰かと婚約されていらっしゃるのでしょうか?」

 

 パレードを行うためのもう一つの条件は攻略キャラのうち誰かと婚約を結ぶことだ。聖女の身分はあくまで平民。故に釣り合いが取れるようにパレードを行う必要があるのだ。だが、情報を収集していた限りでは誰かと婚約していると聞いたことは無かった。団長からもパレードについては一切話されていない。

 

「いえ、私もそのようなことを聞いたことはありませんね」

 

 王子2号も聞いてないとなるとあの聖女が誰かと婚約しているという線は無いに等しいだろう。となるとなんの為に聖女はパレードを行った? 有名になるのを嫌がる聖女がその心を押し殺してまで有名になる必要があったのは何故だ? 俺の知っている限りではゲームの方では婚約無しではパレードに行くルートはなかったはずだ。

 

 思わず舌打ちを打ちそうになるのを我慢しつつ、考えを深めていく。

 

 俺の知るゲームの方とは差異が出てるな。関与しなければ差異は出ないと考えていたが……。考えを改める必要があるか。後で情報屋のアイツに連絡を取るか。もう一度聖女について調べる必要が出てきた。この世界の中心点である水の聖女に関わることは出来うる限り調べなければ。もしかしたら俺が知らないイベントがあるのかもしれん。

 

 それにしてもあのクソババアめ。こんな簡単な情報を教えないってなんだおい。定期的に俺の情報収集力を知るために何度か嘘の情報や情報を与えないって事はしてたが、こんな調べなくとも分かる情報を教えないとは思わなかった。

 

 まあ、情報の裏付けをしなかった俺に非があるか……。それはそれとしてムカつくので帰ったら真っ先にぶっ飛ばすけどな! 

 

 しかしそうなると最初に知らないふりをしてたのは悪手だったな。本来誰でも知ってるはずの情報を知らないとなると聖女も気になるはずだ。……ん? だから俺にあんなに引っ付いてきてたのか? 

 

「アシュワース君、こちらからも質問したい事があるのですが、よろしいですか?」

 

 ん、おおそうだった。王子2号がいたんだった。いかんいかん、忘れるところだった。

 

「ええ、私に答えられることならば」

 

「貴方はあのレインと知り合いですか?」

 

 ほぉん? なんでそんな発想にいったんだ? 俺の記憶を漁る限りではあの聖女と知り合いってことは無い。小さい頃はどうか知らんが、まあこんな広い世界で出身地が同じってことは無いだろうし知らないはずだ。

 

「いえ、知り合いではないと思いますが」

 

「……嘘をついているようには見えませんね。ですがレインは初対面である貴方にやたら親しげな様子ですが何か心当たりはありますか?」

 

 そんなん知るわけねーだろ。こっちが聞きたいわそんなん。とはいえ予想するなら……

 

「私が聖女様だと知らなかったのでそれが気になっていただけなのでは?」

 

 誰もが知っているはずの事を知らない。それも自分の事とくればなおさら気になるはずだ。

 

「……ふむ、ではレインが貴方にあんなにも密着していた理由は?」

 

「聖女様に勝ったからではないですかね? 事実聖女様も私の扱う格闘術を知りたがっていた様子でしたし」

 

「なるほど、質問に答えて頂きありがとうございます。それでは私のこの辺で失礼いたします」

 

 そういうと王子2号はくるりと身体を反転させ、来た道へと帰っていった。なんだったんだあの野郎。俺と聖女の仲を詮索するってことは危機感を抱いた、と言うのにはどうにも引っかかる気がする。……こっちもちと調べてみるか? 無駄骨になる可能性は高いが、調べなかったせいで何かイベント事に巻き込まれるのは御免だ。

 

 さてそろそろ俺も次の授業の場所へ向かうか。確か、魔法薬学だったか。ま、連続して聖女と同じペアになるってことはなかろう。

 

 

 

 

 

 おかしい……。もはや何か陰謀めいたものすら感じるぞ。なぜ、なぜ━━━━━

 

「わ、また同じペアだねオルド。えへへ、この授業でもよろしくね?」

 

 俺の隣が聖女なんだ? 

 

 え、なに? こいつ大魔王かなんかなの? 魔王より強いもんね君。聖女からは逃げられないってか。止めてくれよ……。

 

 そんな風に絶望していると魔法薬学の担当であろう、恰幅の良い女の講師が入ってきた。

 

「えー、おほん。魔法薬学の担当のアンドレア・マリア・ブラウンです。あなた方に魔法薬についてみっちり教えて差し上げます」

 

 ほーん、名前からしてオルディン帝国出身かぁ。ま、あそこ魔法に関して色々と発展してるもんな。そこから講師を呼ぶのもおかしくはないか。……にしてもこの人も難儀なもんだよなぁ? 自国の王子に教えなくちゃいけないんだからよ。

 

「魔法薬かぁ……。私あんまり得意じゃないなんだよねー。オルドはどう?」

 

 お前脳筋だもんね。それに魔法薬なんかなくても水属性に親和性の高い聖女なら回復魔法の効果えげつないからポーションとかいらねえもんな。

 

「まあ、魔法薬はそこそこ出来ますよ」

 

 俺の所属してる傭兵団は事情が事情だけにイカれた人間しかいなかったからなぁ……。その事情のせいで怪我人なんざわんさか出るから魔法薬に関してかなり詳しいクレイジーサイコ女がいたんだよな。そいつから魔法薬作りについては教えて貰ったしな。代わりに実験台にされることがしばしばあったけど……。

 

「そっかそっか、じゃあまた私に教えてね?」

 

「ええ、わかりました聖女様」

 

 そう言うと聖女はビシリとまるで石のように固まってしまった。そんな聖女を他所に授業が始まった。

 

「それでは今回は初級治癒ポーションの作り方を教えますわ」

 

 ほーん、初級治癒ポーションか。たしかに簡単だったな。たしか治癒能力を高めるキチユ草と増強効果のあるグングン茸を砕いて7:3の割合で混ぜて水で抽出すればいいだけだもんな。

 

 ……アイテムのネーミングはもうちょいどうにかならんかったのか。

 

「それではまずこのキチユ草とグングン茸を━━━━━」

 

 砕くんやな。

 

「煮込みます」

 

 煮込むの!? おかしい、あのクレイジーサイコ女から習った手順ともう違う。うわっ、あの煮汁の色エグッ!? ヘドロみたいなんですけど!? 

 

「そしてこの煮汁を濾します」

 

 いや、もうあれヘドロでしょ。ネチャネチャしてるというか……。え、あれが主流なのか? 売られてる奴の色と全く違うんですけど。

 

「これで第一段階終了です」

 

 そう言って魔法薬学のおばさんが見せたのはとてもではないか治癒ポーションとは言えない様な色をした液体だった。

 

「当然これだけでは初級治癒ポーションとはなりません。ここから更にアオミドリゴケを粉末にしたものを100mlにつき1gほど混ぜる必要があります」

 

 アオミドリゴケ? あれって確かほんの少しだけ滋養強壮作用があったやつだよな? 後は着色料としても使われてた気がする。

 

「これを混ぜ合わせますと初級治癒ポーションの原液が出来ます」

 

 うわあ……。あのヘドロの色したやつが一瞬で深い緑色になったぞう。つかこれで原液なのか。クレイジーサイコ女から教えて貰ったレシピとの色と違いますね。ふむ、しかしこの学園に招待されるほどの講師だ。法螺ぶっこいてるわけでもあるまい。となるとこれが主流の作り方なんだろう。じゃああの女から教わったレシピなんなんだ……。

 

「後はこれを1:9の割合で希釈すれば完成となります」

 

 うお、ホントだ。店に並んでるポーションの色と変わらねえ。はえーすっごい。あの女から教えて貰ったレシピとも違うから性能も違うだろうし、後で効能の差異を比べてみよ。取り敢えず拍手だ拍手。他の人たちもやってるしね。

 

「やー、凄いですね聖女様! 聖女様?」

 

 また新たに知識が増えて嬉しみを感じる。そんなことを思いながらさっきからやけに静かになっていた聖女の方へ顔を向けるとしわしわ聖女になっていた。なんでこの聖女の顔しわっしわになってんの? 乙女ゲー主人公にあるまじき顔だ。

 

「オルドぉ……、なんでそんな他人行儀になったの……?」

 

「え、ああいや先程貴方様が聖女様だと知りましたので、ファーストネーム呼びは失礼かと思いまして」

 

 そう言うと聖女は目をカッと見開き、こちらの手を握り締めた。

 

 いだだだだだ!? 手が潰れる! 目怖っ! 

 

「失礼なんかじゃないからレインって呼んでね? 今度から絶っっっ対聖女様なんて他人行儀な呼び方はしないでね」

 

「あっ、はい。分かりましたレイン」

 

 それよりもはよ手を離してぇぇえええええ!!! 潰れちゃうのぉぉおおお!!! 

 




考える人:今更パレードが行われていたことを知った。団長からパレードについて何も言われていなかったのと婚約していると情報はなかった為、行われていないと思い込んでポカやらかしたのを知った。改めて情報を探る予定。

疑う人:聖女と親しいのを気にしていくらかの質問をした人。パレード知らないのに自分の名前を知ってて驚いた。今回のことで少し悩み始めた。

ご機嫌な人:考える人を通してある事を思い出したのでご機嫌になった。

ハニトラ:頑張って誘惑したけど効果なし。それどころか次の時間から想い人からのファーストネーム呼びでキャッキャッしてたのにいきなり他人行儀な聖女様呼びになったので絶望して暗黒面に落ちた。が、その後すぐに元に戻ったので暗黒面からとんぼ返りしてきた。

幼馴染ものっていいよね、そんな事考えてたら気づいたらFGOのssを書いてたっていう。でもfate警察の方が怖いので(今のところ挙げる気は)ないです。はー、幼馴染ものは良い文明。

あとヤンデレは地の文と過程が大事だと思ってます。なので病んだ表現するのにただカタコトになるのはあんまりすこじゃないです。お前さっきまで普通に喋ってただろ! 勿論地の文と合わせたカタコトはすこすこです。(注文の多い客)

犬の糞ほどにどうでもいい話でしたね、責任取って失踪します。


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第5話 オルド視点

書きたい設定の小説が多すぎる。FGOも書きたいし、最近ドツボにハマってしまった配信物も書きたい。本当に時間と腕が足りない。いっそのことアシュラマンになりたい。

それはそうとMHWIにラージャンが来ましたね。キリンちゃんとプケプケがとても可哀想。




 煮込んでいる、素材を。

 

 何故かそんな言葉が頭の中に浮かんできた。まあ、実際煮込んでるからいいか。魔法薬学の先生のしていた通りに煮込んでいるのだが、これが思ったより面白い。と言うのもこのやり方だと分量によって大幅に粘り気が変わるのだ。

 

 これについては増強効果のあるグングン茸のもう一つの作用だろうことは簡単に予想がつく。グングン茸はお湯に反応して強い粘り気を出すという特性がある。この為水での抽出ではサラサラとしたものであったが、煮込む方では粘り気が多く出るのだろう。それにグングン茸は熱を与えると増強効果が強まるというのもある。

 

 だが個人的に気になる点としてはキチユ草についてだ。キチユ草の治癒能力は一定以上の温度を加え続けると不活性化すると聞いたことがある。とは言え実際に効果がある以上は不活性化しても多少は治癒能力を高める効果はあるのだろう。だがそれだけでは効能が足りないはずだ。

 

 だからそこで滋養強壮の効果が少しだけあるアオミドリゴケをいれているのかもしれない。それにアオミドリゴケはグングン茸の増強効果を上げる効果があるとクレイジーサイコ女が言っていたか。

 

 なるほどなぁ……。色を誤魔化すために入れてるのかと思ってたがそうでもないのか。こちらの製法もちゃんとした理に叶ってるなあ。

 

 クレイジーサイコ女の製法はキチユ草の効能をフル活用した製法だが、こちらの製法は各種素材の組み合わせによる製法。うむうむ、また新しい知識が増えて嬉しみを感じる。

 

 だが、ふむ……。これ上手く調合すれば塗り薬に出来そうな気がする。ちょっと試してみるか? 

 

 今煮込んでいるのとは別にグングン茸を刻んだ物のみを煮込む。粘り気を出すために水は少なめでやる。

 

「オルド? それ先生がやってるのと違うよね? 何やってるの?」

 

 煮込んでる間に同じく刻んでおいたキチユ草を冷水で抽出する。この時、グングン茸の粘り気を減らさないように水を少なめにする。

 

 さて煮込んでいるグングン茸の粘り気が十分になったら濾してネバネバのみにする。この時点でかなり良い質感になった。そしてここにキチユ草を抽出した水を加えたいのだが、キチユ草の特性上このネバネバを冷やさなければいけない。という訳で風魔法により掻き混ぜつつ冷やしていく。

 

「あの、オルド?」

 

 十分に冷えたグングン茸のネバネバにキチユ草を取り除いた抽出水を加える。この時水を加えたのでグングン茸の粘り気が少々失われる。ここでアオミドリゴケの粉末を加えるのだ。アオミドリゴケは水分の吸収効率が抜群だ。これに水分を吸わせることで粘り気を殆ど失わせずに済む。

 

「オールードー」

 

 さてこれで試作品の塗り薬が出来たわけだが……。実際に確かめて見なければ効能が分からん。という訳で指先をスパッと斬る。血が滲んだのを確認するとそこにぺたぺたと作成した塗り薬を塗る。さて効果は如何程か。

 

「ちょ、何してるのオルド!?」

 

 効果を見ようとしたところで傷付けた指を掻っ攫われた。

 

「何ってちょっと気になったことがあったので試してみているだけですが」

 

「だからって自傷なんてしたら駄目だよ!」

 

「別にこの程度なんてことないで━━━━━」

 

「駄目だよ! いくらオルド自身でもオルドの体に傷付けるなんて駄目なんだからね!」

 

 鬼気迫るような表情で此方に言ってくる聖女。うーむ、聖女の目の前で怪我をするのは駄目だったか。ま、心優しい聖女様だしな。そら怒るか。

 

「善処します」

 

「約束だよ?」

 

 そう言いながら聖女は先程斬った指先に回復魔法をかける。

 

 ああ、ちょっと待って。後ちょっとだけでいいから。経過を見させて。

 

 そんなことを思うも流石は聖女と言うべき回復魔法だった。切り傷が跡形もなく綺麗さっぱり消えてしまったのだ。

 

 くっ、これでは効果が分からん。うぬぬ、今度はバレないようにこっそりと指を……。

 

「オルド、私2回も言いたくないなー?」

 

 いい笑顔で此方を見る聖女に諦めた。どっかの誰かも言ってたしね。笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である、って。別に聖女怖いからという訳では無い。絶対ない。

 

「それでオルドは何を作ってたの?」

 

「塗り薬ですよ。グングン茸の特性を活かして塗り薬は出来ないものかとふと思いついてしまって」

 

「塗り薬? でもこれ初級治癒ポーションの材料だよ?」

 

 確かに。でも出来そうだと思ったんだよな。まだ効果の程が分からないけど。んー、いけると思うんだけどなぁ。今度傭兵団に帰った時クレイジーサイコ女と内容を詰めてみるか。

 

「まあ、そうなんですが。ああ、それと普通の初級治癒ポーションは完成したので」

 

「え、嘘!? 塗り薬作ってたよね?」

 

「並行して作ってましたよ」

 

 この王都って確か王立ビブリオテック図書館って言うのがあったよな。授業が終わり次第ちょっと文献漁るか。軽傷に対応出来る塗り薬が作れれば荷物が嵩張らないし、即効性の物が作れたら尚良い。うむむ、でも他にもやりたいことあるし……。

 

「オルド私も作ってみたいから一緒やってくれないかな」

 

「ええ、勿論いいですよ」

 

 取り敢えずは1度思考を中断し、聖女がどうやらポーション作成をしたいとの事だったので手伝う。

 

「えっと、まずはキチユ草とグングン茸を煮込めばいいんだよね?」

 

「はい、ですが先にグングン茸を煮込んでからの方がいいですね」

 

「それはなんでなのかな?」

 

「グングン茸は熱を加えることでグングン茸の持つ増強効果を増幅させることが出来るんですよ。後、キチユ草はグングン茸とは反対に熱を加えすぎると効果が薄まるんです」

 

「なるほど、オルドは詳しいね?」

 

「まあ、詳しくならざるを得なかったんで」

 

 主にクレイジーサイコ女のせいで。

 

「そっか……」

 

 なんか妙にしんみりとしている聖女を他所にドンドン工程を進めていく。

 

「この位の粘り気が出たらグングン茸の増強効果が強まった証なのでここでキチユ草をいれます。色が変わったのを確認できたら火を消して濾します。熱いから気をつけてくださいね?」

 

「これって冷えても大丈夫なの?」

 

「水で希釈するので大丈夫だと思いますけど」

 

「そっかそっか」

 

 そういうや否や聖女は煮えたぎっていた煮汁に手を翳した。すると煮えたぎり、湯気が出ていた煮汁が一瞬にして冷めてしまった。温度変化かぁ。何気に便利だなこの技。

 

 そんなことを思いながら聖女の方を見ると何故かドヤ顔を晒していた。……褒めた方がいいのかこれ? 

 

「えっと、凄いですね?」

 

「そうでしょー」

 

 ふふんと鼻を鳴らしながら聖女は煮汁を濾していく。不純物を取り除くと黒いヘドロのような煮汁ができた。

 

「……これ見る限りでは治癒ポーションには見えないよね。むしろ毒ポーションっていうか」

 

 ノーコメントで。

 

「それではこれにアオミドリゴケの粉末を混ぜてくださいね」

 

「100mlに対して1gだったよね?」

 

「ええ」

 

 アオミドリゴケを混ぜることで一瞬にして深い緑色へと変色する。

 

「後は水で希釈して完成です」

 

「はーい」

 

 聖女はそんなことを言いながら治癒ポーションの原液に手を翳した。すると聖女の手から勢いよく水が溢れでた。その勢いに思わず零れる、そう思った。だがどういう訳か希釈するためのボウルの縁を超えても零れることはなく、まるで見えない壁があるかの如く零れずに水位が上がっていった。

 

 聖女はこちらをチラチラと見ながらドヤ顔を披露していた。また褒めろと? 

 

「あーすごいですね」

 

「ふふーん!」

 

 ドヤ顔をしながら胸を張る聖女に傭兵団にいる相棒を幻視した。あいつ元気にやってるかな? まあ、彼奴なら元気に団長にしばかれつつやってるだろう。……泣いてる姿が見える見える。

 

「じゃあ後はそれを各容器に移して完成です」

 

「はーい」

 

 聖女が容器に移しているのを見て思うのだが、あのポーション何かおかしくないか? 俺が作ったポーションと比べると明らかに光ってるというか……。なんか輝いてる気がする。

 

 聖女が創り出した水だからか? 聖女は回復魔法との相性がやばい。その聖女が創り出した水を使ったから効果が上がった、なんてそんなアホみたいな理由じゃないはずだ。……多分、メイビー、きっと。

 

「それじゃ先生に提出しましょうか」

 

「そうだね」

 

 そういうわけで完成品を魔法薬学の先生に持っていく。

 

「あら、完成したのね?」

 

「はい! 渾身作です」

 

「あら自信満々……ん? んん??」

 

 魔法薬学の先生は妙に輝いているポーションを2度見所か3度見した。うんまあ、そうだよねそんな反応するよね。みんな同じ素材で作ったはずなのに一人輝いているからね。

 

「えーと、これを作ったのはレインさん貴方でよろしいのかしら?」

 

「はい!」

 

「そ、そう。少し調べさせてもらうわね」

 

 そう言うと魔法薬学の先生は聖女が作ったポーションを中心とした魔法陣を構築した。

 

 ━━━━━あれは確か解析の魔法陣だったか。

 

 リバドレード王国の魔法陣のに比べて随分と簡略化されている。流石は魔法帝国と呼ばれているオルディン帝国だ。リバドレード王国よりも随分と魔法の研究が進んでいるようだ。

 

 あれくらい簡略化された魔法陣なら俺も扱えるだろうか? 

 

 そんなことを思っているうちにどうやら解析が終えたようだ。結果は言わずとも魔法薬学の先生の顔でよく分かる。

 

「……レインさん、材料は特に変えていませんわね?」

 

「? はい、先生の言う通りの素材で作りましたよ!」

 

 聖女がそう言うと魔法薬学の先生は頭が痛いと言わんばかりに頭を抱え込んだ。

 

「これ、上級治癒ポーションですわ」

 

「えっ」

 

 しってた。

 

 大方聖女の魔力を含んだ水が作用したんやろなあ……。うーんこの聖女つくづく規格外と言うかなんというか。

 

 まあ、ポーションも一応水だしな。聖女の領域の範囲内とも言えるけどさあ……。

 

「どうやったら初級治癒ポーションの材料で上級治癒ポーションが作れますの……」

 

「あはは……」

 

「ま、まあいいですわ。それからオルドさんのポーションはかなり良い出来ですわ。これなら十分な効果を発揮するでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

 どうやらちゃんと成功していたようで。

 

 やはりこの学園に来て正解だったな。あの傭兵団の常識とこちらでの常識が違う可能性がある事にも気づけた。今日は授業が終わり次第ビブリオテック図書館にでも足を運んでみるとしよう。

 

 特に今後必ず行うであろう魔法を使った訓練の為にこちらで主流の魔法を調べる必要がある。特に団長から仕込まれた魔法に関しては重点的に調べておこう。何故なら団長仕込みの魔法は傭兵団で暮らしている時も異常だとは思っていたからだ。何せ団長に仕込まれてる時の周りのヤツらの目が明らかに可哀想な奴を見る目だったからな! 俺もやっててこれ本当に魔法って疑問抱いたしね。

 

 さて、そうこうしている内に授業が終わったようだ。周りの人達も無事ポーションを完成させ魔法薬学の先生に提出していた。

 

「今期の学生さん達は随分と優秀ですわね。今後は更に難しい魔法薬について教えていきますのでしっかりと勉強に励みなさい」

 

 そう言うと魔法薬学の先生はさっさと出ていった。聖女が作ったポーションをこっそり取っていったあたり余程あのポーションを詳しく調べたかったようにみえる。

 

 それはさておき、今から待ちに待った昼食だっ! 

 

 王都のご飯は楽しみにしていたんだ。あの傭兵団の食事は色んな意味で悲惨だったからなぁ……。今日は肉! 明日も肉! 毎日肉! と言わんばかりに魔物肉ばっかりで……。戦場にいることがほとんどだから仕方ないとは言えそこまで肉づくしなのは飽きる。

 

 それにこの学園、昼休憩の時は学園の外に出てもいいことになっている。学園の中にも食堂はあるが食堂のご飯に飽きたら外食も可能。最高だ。学園のご飯にも興味はあるが今回は屋台巡りをすると決めているのだ。幸いにも金は腐るほどある。金を使う機会なんてほとんど無かったからね。使ったといえばアカティア共和国しか……。やめよう、あの国思い出したらもれなく激ヤバ第1王女のことを思い出してしまう。

 

 怖い思い出には蓋をしておいてさっさとご飯を食べに行こう。そう思ったのも束の間━━━━━

 

「オルド、一緒にご飯食べようよ!」

 

 聖女から食事のお誘いをされてしまった。

 

「あー、私は外で食べようと思ってますのでオルティス様方と食べたらいかがでしょうか?」

 

 モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……。

 

 だから今回は一人で━━━━━

 

「ホント!? 実は私も今日は外で食べようと思ってたの。それにオルドは王都のことはあんまり知らないと思うから私が案内するよ!」

 

 駄目ですか、そうですか。

 

 




孤独のオルド:ゴローちゃんごっこをしたかったが聖女がもれなく着いてきてしまったので出来なくなってしまった。ガーンだな……。にこそざ。

お水の聖女:どう足掻いても逃がす気はない。デートですよ! デート! そんな思考で頭が埋め尽くされてる。相変わらず頭おかしい性能している。最初におをつけるだけで凄いひYになるのはなんでだろう(すっとぼけ)

しかしまあ、ヤンデレの描写の仕方の感想が多か
ったですね。
それはとてもいい事です。
うこん。

息抜きに書くであろう小説ですが、読みたいというのがあれば投票してどうぞ。設定自体はほぼほぼ固まってるのでいつでも書ける状態なのです(設定厨)


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第6話 オルド視点

FGOの幼馴染ものが人気でビックリです。

そっちの方も書き書きしてますので納得のいくものができたら挙げます。

皆さんも書いてもいいのよ?

初投稿はじめました。



 ファルマス学園から少し離れたところに屋台が年中立ち並ぶ場所、通称屋台村。そこに俺と聖女はやって来た。……それから後ろからこっそりついてきている例の五人衆もいるが。

 

 なんで絡んでこないのかと思ったら尾行するためだったのか。いや、普通に絡んでこいや。そしたら聖女を押し付けられたのに。くっ、俺のぶらり一人旅の予定が……! 

 

 それにしてもあの五人衆あれで隠れてるつもりなのだろうか? 素顔隠すために覆面を付けているがどう見てもそっちの方が目立ってると思うんですけど。それに身分の高い連中が集団でこんな場所に来たらイカんでしょ。……まあ、一応護衛っぽいのが五人衆の後ろに8人程付いているから大丈夫か。

 

 念の為こっちの方でも多少は警戒しておくか。

 

「オルドオルド! ほらほらこっちこっち!」

 

 そんな考えを他所に聖女は俺の手を掴んでグイグイと引っ張っていく。何やらオススメの屋台があるとの事だが、一体何を食べるつもりなんだろうか。

 

 そうして暫く引っ張られて辿り着いたのは揚げ物特有の香ばしい匂いを放つ屋台だった。

 

「おじさん、ベルソーラ2つください!」

 

「おー! レインちゃんじゃねえか。珍しいね、レインちゃんが男連れなんて。もしかして彼氏さんかい?」

 

「えへへ、そう見え━━━━━」

 

「いえ、違います」

 

 なんてことを言うのだこのおっさんは。此奴とそんな仲になったら確実に面倒臭い事になるだろう。ほら見てみろ後ろの五人衆がもう百面相し始めたぞ。

 

「おや、そうなのか? レインちゃんが男を連れてくることなんて初めてだったからそういう関係なのかと思ったよ」

 

「レインは最近こちらに越してきた私にこの辺りを案内していただいているだけですよ」

 

 そう、ただのクラスメイトという関係なのだ。決して聖女の恋人などという面倒なポジションじゃあない。

 

 ま、それはさておき━━━━━

 

「所でその、ベルソーラというのは?」

 

 キツネ色にこんがりと揚がった楕円系の食べ物を見て思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。見た感じコロッケに似ているがどうなのだろうか。

 

「ベルソーラっていうのはな、この国名物のドレイモとファルマス小麦にこの店特製のスパイスを使った揚げ物料理さ。どんなものかは食ってみたら分かるぜ」

 

 そう言ってベルソーラを1つ差し出してきたので、それを受け取った。

 

「揚げたてだ。熱いから気をつけろよ?」

 

 うむ、確かにホクホクだ。軽く息を吹きかけて冷ましてからかぶりついた。

 

「……!」

 

 なんだっこのっ、うまぁっ! 

 

 カリカリとした衣にドレイモを潰すのではなく、荒く刻んでいることで歯応えもいい! そして何よりもこのピリッとした辛味の効いたスパイスがとんでもなくこのベルソーラとマッチしてる。

 

「これとても美味しいです」

 

「そうだろ? ほらレインちゃんの分だ」

 

「ありがとうおじさん!」

 

 レインが受け取っている姿を後目にベルソーラどんどん食べていく。いや本当に美味いなこれ。もうちょっと食べたい。

 

「すいません。追加で5個お願いします」

 

「お、気に入ってくれたかい。それじゃあ5個で400ゴルだな」

 

「はい」

 

 懐から小袋を取り出してそこから400ゴル丁度出す。

 

「へへ、まいどあり。じゃあ少し待っててくれ」

 

 こくりと頷き、完成するまでの時間までまだ残っていたベルソーラを食べようとした時、なにやら聖女から手元に視線を感じた。

 

「……あげませんよ?」

 

「違うよっ!」

 

 なんだ違うのか。てっきりこのベルソーラが欲しいのかと思った。じゃあ何だったんだろうか、そんなことを考えていると聖女の目線がベルソーラではなく金の入った小袋に目がいっていることに気がついた。

 

 もしやこの聖女、俺の有り金を奪おうと……? 

 

 そこまで考えたところで今食べているベルソーラが先程と聖女が払っていたということに気がついた。

 

「ああ、すみません。お返ししていませんでしたね」

 

 その言葉と共に小袋に手を突っ込んだところでまた聖女につっこまれた。

 

「それもちっがーう!」

 

 ええ……? じゃあ何なんですかね? 

 

「えとさ、その小袋なんだけど……」

 

 ああ、そうか、そういや気にしてなかったけどこれ随分とボロボロだもんなぁ……。そらそんなボロボロの物持ってたら気になるか。

 

「これかなりボロボロですからね。あはは、お恥ずかしい」

 

 破けた後が補修された跡等も随分とある。長い事使っていたもんだから特に何も考えていなかった。そしてそもそもこの小袋、財布用じゃないしな。子供が持つような小袋を丁度いいサイズだからって財布に使っていただけだし。

 

「その小袋、随分と長く使ってるみたいだけど買い換えようとは思わなかったの?」

 

「ええ、なんだか捨てるに捨てれなくて。やはりおかしいですかね?」

 

「ううん、おかしくなんかないよ。それに私も同じくらい使い込んでるのがあるから親近感が湧くなーって思ってね」

 

 そう言って聖女が出したのは俺が使っている小袋と全く同じ物だった。そしてその小袋も俺と同じように長い間使い込まれているのが分かるほどボロボロであった。

 

「えへへ、何だか嬉しいな」

 

 はえー、この聖女も同じ小袋持ってるとかすごい偶然もあったもんだな。まあこの小袋使いやすいしね。そんなことを思っているとベルソーラが出来たらしく、おっさんが袋に入れて渡してきた。

 

「ほい、お待ちどうさま。サービスで1個追加で入れといてやったぜ」

 

「ありがとうございます。また来ますね」

 

「おう、次もたくさん買っていってくれや」

 

「ええ」

 

 早速袋から1つ取り出して食べようと思ったところで聖女が食べ終わっていたことに気づいた。……まあ、さっき奢ってもらったし、一人で食べるというのも何だか居心地が悪いし 、何より借りを作ったままは嫌だ。

 

 自分の分とは別に1つ取り出して聖女に差し出す。

 

「あげます。さっき奢ってもらったので」

 

「ええ!? いやいや、そんな悪いよ!」

 

「別に構いません。店主の人からサービスで貰ったのをあげるだけですから」

 

 ベルソーラを聖女に押し付けて自分の分のベルソーラを食べ始める。聖女は受け取ったベルソーラをみて、やや目を細めると礼を言ってきた。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 聖女と一緒にベルソーラを食べながら歩いていると敵意の籠った視線を感じた。その視線の先を辿ると路地裏に荒くれ者のような格好をした三人の男達がこちらを見ていた。正確に言うなら聖女の方を見ていると言った方が正しいか。

 

 この後もまだまだ屋台巡りをしたいし、こんな事で足止めを食らうのも嫌だ。というわけで、聖女にバレないように極小の魔力で土魔法を使い、小石を手の中に作り出す。後は身体強化の魔法を右手のみにかけて何時でも小石を弾き飛ばせるようにしておく。

 

 向かってこなければ特に何もする気は無いからこっちに来るなよ、と思っていたが結局こちらに向かってきたのを確認できたので三人めがけて指弾の要領で小石を勢いよく弾き飛ばす。小石は猛スピードで人混みの中を進み、荒くれ者達の眉間に激突した。その結果、荒くれ者達は路地裏のゴミ捨て場に頭から勢いよく突っ込んだ。

 

「なんかあっちの方が騒がしいね?」

 

「大方酔っ払いあたりがゴミ捨て場にでも突っ込みでもしたのでしょう。所でレイン、他におすすめの屋台はありますか?」

 

「うーん、じゃあ今度は最近行ったスイーツを売ってる屋台があるからそこに行こうよ」

 

「分かりました」

 

 悔しいがこの聖女は本当にこの辺りの美味い屋台をいくつか知っている可能性が高い事が先程の屋台で分かった。なのである程度はこの辺りの屋台について教えてもらうとしよう。

 

「それじゃあこっちだよ」

 

 そう言って聖女は俺の手を握るとグイグイと引っ張っていく。聖女に案内されるがままに着いていくと随分と甘い匂いが漂う屋台へと来た。聖女が勧めるスイーツとは一体どんなものなのか、そんなことを考えながら屋台の方に近づいてみるとやけに見覚えのあるスイーツが売っていた。

 

 というかこれって━━━━━

 

「えへへ、ここのスイーツはすっごく美味しいんだ。薄く引き伸ばした甘い生地に果物を入れて白くて甘いフワフワしたホイップっていうのを入れて、それを生地で巻いて食べるんだ」

 

「そ、そうなんですね」

 

 クレープじゃねえか。なんでこの時代に……? あれ、この世界って中世辺りがモチーフじゃないの? え、なんで本当にあるのさ。クレープ自体は近世の初め頃に出来始めたはずだろ? しかもその時のクレープはまだ甘いやつじゃないはずだぞ。

 

 ……乙女ゲームの世界だからでいいか! 

 

 乙女ゲーだしクレープくらいあってもおかしくない、うん。

 

 それにしても色々な種類があるんだな。チョコにショコラにメイプル、ストロベリー、キャラメル……突っ込まないぞ、絶対突っ込まないからな。

 

「やあ、そこのお二人さん達。ウチの自慢のセリクムを食べていかないかい?」

 

「もちろんですよ! 私はストロベリーホイップを1つ下さい。オルドは何にする?」

 

「んー、それならショコラホイップで」

 

「はいよ、ストロベリーホイップとショコラアイスホイップだね。ちょいと待ってておくれよ」

 

 このクレープの名前、セリクムって言うのか。でもどう見てもクレープだよな。しかもトッピングの名前はモロ前世からの言葉だし……。もしかして転生者やら憑依者やらがいるのか? 俺という存在がある以上いないとは言えないからなあ……。

 

「レイン、セリクムと言うのは最近できたものなのですか?」

 

「王都に昔からある食べ物らしいよ?」

 

「昔から? それってどれくらい前か知ってます?」

 

「え、うーん……。聞いたところによると確か200年以上前からあったとか聞くね」

 

 200年? そんな前からあんの? 

 

「そう言えばトッピングの名前もこの辺りでは全く聞きませんよね」

 

「そうだよねー。私が頼んだストロベリーホイップって言うのもストラの実をただストロベリーって言ってるだけみたいだし」

 

「へえ、そうなんですね。じゃあなんでこんな名前をつけたんでしょうね」

 

 そんな事を二人で話しているとその話が耳に入ったのか店主であるおばさんがこちらを見てきた。

 

「それはね、どんな名前で出すか悩んでた私がある日見た夢で神様が啓示してくださったんだよ。こういう名前で出しなさいって」

 

 何やってんだ神様。え、そんなクソくだらないことで啓示してきたの? 俗物が過ぎないか神様。

 

「神様ってそんなにホイホイ夢に出てくるものなんですか……?」

 

「まあ、夢に出てきたのは命名神様だからねえ。基本毎日誰かに啓示してくださるそうだよ」

 

「ああ、命名神様なら納得です」

 

 まるで啓示のバーゲンセールだぁ……。そんなことしていいのか神様。いいんだろうね、聖女の反応を見る限り。

 

「ほら、お二人さん完成したよ。ストロベリーホイップとショコラホイップだ」

 

「ありがとうございます」

 

 2人分の代金を支払い、聖女にストロベリーホイップを渡す。

 

「あ、自分の分くらい払うよ」

 

「良いんですよ。美味しい屋台を教えて貰ってるお礼です」

 

 聖女がお金を渡そうとしてきたが、受け取らずにショコラホイップを食べ始めた。

 

 む、これマジで美味いな。ホイップの甘みにショコラの苦味がいい感じに合わさって美味しい。それにこの生地もほんのり甘いけど少しだけ塩気があるから食べやすい。これだけ美味けりゃ他のも美味いだろうな。くっ、何個か買うべきだったか……! 

 

「でも、やっぱり悪いよ」

 

 そんなことを考えていると聖女がもう一度お金を返そうとしてきた。ぶっちゃけあんな端金程度なら返さなくても本当にいいんだが……。とは言えこの聖女は頑固だろうし必ず返そうとするよな。うーん、そうだ。

 

「なら1口食べさせてくれませんか? ちょうどそれも食べてみたかったんです」

 

「え、まあ、それくらいいいけど……」

 

 そう言って聖女がおずおずと言った様子で差し出してきた。差し出してきたセリクムを遠慮なく1口食べる。

 

 うむ、これも美味いぞー! ホイップの甘みとストラの実の酸味がよく合う。それにこの味は団長が好きそうだな。今度傭兵団に帰る時にみんなにお土産として買って帰るか。

 

 む、口元にホイップがついてるな。

 

 口元に付着したホイップを親指で拭いとり、拭ったホイップをペロリと舐める。うーむなんとも甘い。甘いもの好きな相棒にもたまらん逸品だろうなこれ。

 

 そんなことを考えているとなにやら聖女の方から視線を感じた。

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、ううん! なんでもない、なんでもないよ!」

 

「はあ、そうですか」

 

 聖女は慌てたように否定すると恐る恐ると言った感じで自分のセリクムにかぶりついた。

 

「これとても美味しいですよね」

 

「う、うん。すごく、美味しい、ね?」

 

 そんなことを言いながらチラチラとこちらを見てきた。む、もしかして俺のショコラホイップが食べたいのか? まあ、これ美味しいもんね。1口くらいなら食べさせてもいいか。

 

「はい、どうぞ」

 

「はぇ!?」

 

 そういうわけで自分が食べていたショコラホイップを聖女に差し出す。すると聖女はとても驚いたような声を出した。なんだ? 食べたいんじゃないのか? 

 

「先程からこちらを見てきたのでこれが食べたいのかと思っていたのですが……」

 

「あ、いや、えーと」

 

「食べたくないのですか?」

 

「た、食べたいです……」

 

「ならどうぞ」

 

 そう言ってずいっと聖女の目の前に差し出すと、少し躊躇ったような素振りを見せたあと決心したかのようにゆっくりとショコラホイップにかぶりついた。

 

「どうですか?」

 

「うん、おいしい、すごく、おいしい、です」

 

「それは良かった」

 

 残ったショコラホイップをさっさと食べ終えてるとそろそろ学園の方に帰らないといけない時刻になっていたことに気がついた。

 

 他にもいろいろと食べたかったが、仕方ない。

 

「名残惜しいですがそろそろ時間ですので学園の方に帰りましょうか」

 

「うん、そうだね。……ね、また一緒に行こうね」

 

「ええ、機会があったら行きましょうか」

 

 行かないけどね! 俺は今度こそ1人で食べるんじゃーい! 

 

 




デート回なので会話文を多めにしてみました。テンポ良く読めるようにしたいものです。

所でヤンデレで思うことがあるんですけど、ヤンデレって平穏かつ満たされてたらただの可愛い女の子だと思うんですよ。えっ、なんでこんなことを言い出したかって?

レインちゃんの平穏はここまでだということです。

オルド:いつもなら気をつけるがご飯に気がいってしまい攻略キャラムーブしまくってたことに気がついていない。飯が絡むと馬鹿になってしまう。傭兵団のルールで美味しいものはシェアと言うのが基本だったので間接キスとか全く気にならない。というかそんなものは頭の中から消え去った。

レイン:表面上は平静保ってるけど内心は大荒れしてた。レインポインツ大量進呈。何回か顔が赤くなりそうだったが能力使って赤くならないようにした。無駄遣いしてんな、お前な。

命名神様:(ファミチキください) 人の夢枕に立って名前を決めてくれる。妖怪か何かじゃなかろうか。

五人衆:レインとデートしやがって羨ましい! あっ、手を繋ぎやがった! あのレインとあーんまでするだとぉ!? 何処かで出ていくつもりだったが、レインの普段見れない姿に見るのに夢中になって出ていくのを忘れてた。

護衛達:ちゃんとお役目を果てしていた。なお時々急に気絶する輩にビックリしていた模様。

次回は(作者が待望してた)レインちゃん回だっ!

まあ、そんなことを言って失踪するんですけどね。



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第6話 レイン視点

マイページの自動推薦にこの作品が載ってて笑ったので初投稿です


 ちらりと横を見ると常の無表情ながらどこか楽しげな雰囲気を纏うオルドの姿がある。生きていてよかったと魔王を討伐した時よりそう思ってしまう。そんなことを思うほど私、レインは幸せの絶頂の中にいた。

 

 オルドと昼食を食べに出かける。それは最早デートと言っても過言ではない。これはカップルに見えるのではないだろうか。むしろ私としては夫婦として見えてもらっても構わない。

 

 さて、オルドに私のおすすめの屋台を紹介したいのだが今は昼食時。屋台村は沢山の人達で溢れている。つまりはぐれない為に手を繋ぐことは仕方がないことなのだ。うん、仕方がない。

 

 オルドの手を握り、私がよく食べに行くベルソーラを販売している屋台へと連れていく。

 

「オルドオルド! ほらほらこっちこっち!」

 

(オルドの手、私の手と違ってゴツゴツしてる。これがオルドの手の感触かぁ……)

 

 こっそりとオルドの手をにぎにぎとしてみる。するとオルドは無意識にか、こちらの手をぎゅっと握り締めてきた。ああ、この癖は昔から変わっていないね。

 

 小さい頃、私が怖い夢を見た時によくオルドの手を握ったものだ。オルドも私の感情を察してくれたのか、何も言わずぎゅっと握り返してくれたな。

 

 そんなことを思い出していると私が気に入っているベルソーラを販売している屋台についた。

 

「おじさん、ベルソーラ2つください!」

 

「おー! レインちゃんじゃねえか。珍しいね、レインちゃんが男連れなんて。もしかして彼氏さんかい?」

 

 彼氏、やっぱりそう見えちゃうかー! 

 

 その言葉に自分の口角がだらしなく下がるのを感じるが、それを直すことが全くできない。

 

 にへらっと笑顔を浮かべながらおじさんにベルソーラの2つ分の料金を支払う。

 

「えへへ、そう見え━━━━━」

 

「いえ、違います」

 

 だらしなく下がった口角が一瞬で戻ったのを分かった。

 

 そんなに食い気味に否定しなくてもいいのに。

 

「おや、そうなのか? レインちゃんが男を連れてくることなんて初めてだったからそういう関係なのかと思ったよ」

 

「レインは最近こちらに越してきた私にこの辺りを案内していただいているだけですよ」

 

 むっ、オルドはこれをデートと認識していないんだなー? これは聖女と呼ばれた私でもカチンときた。こうなったら是が非にでも意識させてやるんだからっ! 

 

 そんなことを考えているオルドがジッとベルソーラを見つめていることに気がついた。物珍しそうに見ている事からオルドはベルソーラを見たことがないんだろうか。

 

「所でその、ベルソーラというのは?」

 

 思った通りベルソーラを見たことがないみたいだ。オルドはおじさんの説明を興味深そうに聞いていた。

 

「揚げたてだ。熱いから気をつけろよ?」

 

 そんな言葉とともにおじさんはオルドにベルソーラを渡した。

 

 こうしてじっとオルドを見てみるとやはりオルドは瞳に感情が出やすいのかもしれない。何せベルソーラを見つめる目が初めて見る玩具を手に取った子供のようにキラキラと輝いているのだ。

 

 そしてオルドは手に持ったベルソーラを口に近づけるとふぅーっと何回か息を吹きかけて━━━━━

 

 ━━━━━ん゙ん゙っ!! 

 

 口を尖らせて息を吹きかける姿をどうしようもなく可愛らしく見えた。なんだあのちょっぴりと突き出した唇は。誘っているのかな? 

 

 だが私は水の聖女だ。この程度の誘惑などに負けはしない。心を落ち着けてもう一度オルドの方を見るとベルソーラを頬張り、常の無表情が崩れてほんのりと笑っている姿が━━━━━

 

 ━━━━━ん゙ん゙ん゙っ!!! 

 

 あーこれはダメです。あんな表情は流石に狡すぎます。何ですかあの幸せそうな表情は。アツアツのベルソーラをはふはふしながら食べるのも反則です。とてもエッチです。

 

「これとても美味しいです」

 

 はー見ているだけで幸せになるなぁ……。と言うか幸せが過剰供給されすぎて私の身が持ちそうにない。何か私の気を紛らわせてくれるものは……

 

「そうだろ? ほらレインちゃんの分だ」

 

「ありがとうおじさん!」

 

 本当にありがとうおじさん! 私もベルソーラを食べる事で気を紛らわそう。ベルソーラを受け取って食べているとオルドはベルソーラを気に入ったのか追加で5個注文していた。

 

 私が好きな食べ物をオルドも気に入ってくれたのなら嬉しいな、なんてそんな事を思っていたらオルドが懐から出した物から目が離せなくなった。

 

 そうやってじっと見つめているとその視線に気がついたオルドは食べていたベルソーラを私から見えないようにすると半ば閉じた何かもの言いたげな目でこちらを見てきた。

 

「……あげませんよ?」

 

「違うよっ!」

 

 いや、確かにそのベルソーラは欲しいけども! でも目が釘付けになってたのはそれじゃないよ! 

 

 否定するとオルドはもう1つの手に持っていた小袋に目をやった。

 

 そうだよ、私が気になってたのはそっち━━━━━

 

「ああ、すみません。お返ししていませんでしたね」

 

 そんな言葉とともに小袋に手を入れて先程私が支払ったベルソーラの代金を返そうとしてきた。

 

「それもちっがーう!」

 

 お金返せって視線じゃないってば! ああ、もう! 

 

「えとさ、その小袋なんだけど……」

 

 随分と使い込まれている小袋のことを聞くとオルドは少しだけ恥ずかしそうに頬を軽く搔いた。

 

「これかなりボロボロですからね。あはは、お恥ずかしい」

 

 オルドはそう言いながらもとても大切なものかのように丁寧に扱っていた。

 

 ああ━━━━━

 

「その小袋、随分と長く使ってるみたいだけど買い換えようとは思わなかったの?」

 

 本当に━━━━━

 

「ええ、なんだか捨てるに捨てれなくて。やはりおかしいですかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『でもまあ、ありがとな。大切に使わせてもらうよ』

 

 

 

 ━━━━━泣いてしまいそうだ。

 

「ううん、おかしくなんかないよ。それに私も同じくらい使い込んでるのがあるから親近感が湧くなーって思ってね」

 

 そう言って私は懐から大切な宝物である小袋を取り出した。私とオルドが『あの日』にお互いに交換した大切な贈り物。

 

 目を瞑ればまるで昨日の事のように思い出すことが出来る。二人で村から離れた街でお互いのプレゼントを選んだのにどっちも同じものを買ってて二人で笑ってたんだよね。とても、大切で愛おしい思い出だ。

 

 交換した後はある賭け事をしたなぁ。どっちが速く村に着くかっていう本当に子供のようなことをして、そして私とオルドは、オルドが……。

 

『お前はとっとと━━━━━』

 

 ━━━━━やめよう、今は楽しいデート中なんだから。

 

 これを今思い出す必要は無い。それにオルドは今確かに生きて私の隣にいてくれている。それだけで私は幸せなのだ。その上、私が送ったプレゼントを今でも大切に扱ってくれてるという事実が更に私を幸せにしてくれている。だから━━━━━

 

「えへへ、何だか嬉しいな」

 

 ああ、私はとても嬉しくて幸せで仕方がないのだ。

 

 感傷に浸っているとどうやらオルドが注文していた物ができたらしくおじさんがオルドにベルソーラを渡してきた。

 

「ほい、お待ちどうさま。サービスで1個追加で入れといてやったぜ」

 

「ありがとうございます。また来ますね」

 

「おう、次もたくさん買っていってくれや」

 

「ええ」

 

 オルドとおじさんがそんなやり取りをしたあと、オルドは早速ベルソーラが入った袋に手を入れるとそこから1つ取り出してこちらにずいっと差し出してきた。きっと私が食べきったことに気がついたのだろう。

 

「あげます。さっき奢ってもらったので」

 

「ええ!? いやいや、そんな悪いよ!」

 

「別に構いません。店主の人からサービスで貰ったのをあげるだけですから」

 

 ぶっきらぼうにそう言うと私にベルソーラを強引に押し付けて、もう1つ袋から取り出してとっとと食べ始めた。

 

 こういう所も昔と変わらないなあ。あげないなんて言っても最終的には何かと理由をつけてあげるところとかさ。

 

 ああ、まだ出会ってから半日しか経っていないというのにもう胸がいっぱいになっちゃった。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

 

 暫くオルドと一緒に屋台村を歩きながらベルソーラを食べていると、人混みの向こうが突然騒がしくなった。

 

「なんかあっちの方が騒がしいね?」

 

「大方酔っ払いあたりがゴミ捨て場にでも突っ込みでもしたのでしょう。所でレイン、他におすすめの屋台はありますか?」

 

 オルドは騒ぎの事より他の屋台のことが知りたいらしく、私におすすめの屋台を聞いてきた。

 

「うーん、じゃあ今度は最近行ったスイーツを売ってる屋台があるからそこに行こうよ」

 

「分かりました」

 

「それじゃあこっちだよ」

 

 オルドの手を握り、引っ張っていく傍らに騒ぎになっている場所を人混みの中からちらりと覗くとオルドの言った通り3人の男の人達が頭からゴミ捨て場に突っ込んでいた。

 

 まあ、屋台村はお酒も売っているから本当に酔っぱらいの人が倒れこんだのかも。

 

 そんな事を思いながらも私が最近行ったおすすめのスイーツを売っている屋台の方へと向かった。そうして人混みの中をしばらくの間進んでいくと目的地に着いた。

 

「えへへ、ここのスイーツはすっごく美味しいんだ。薄く引き伸ばした甘い生地に果物を入れて白くて甘いフワフワしたホイップっていうのを入れて、それを生地で巻いて食べるんだ」

 

「そ、そうなんですね」

 

 オルドはセリクムを見ると困惑したような雰囲気醸し出していたが、暫くすると何かに納得したようだった。

 

「やあ、そこのお二人さん達。ウチの自慢のセリクムを食べていかないかい?」

 

「もちろんですよ! 私はストロベリーホイップを1つ下さい。オルドは何にする?」

 

「んー、それならショコラホイップで」

 

 屋台に書かれているメニュー表からストロベリーホイップとショコラホイップのどちらにするか少し悩んだ後、ストロベリーホイップを頼んだ。オルドは何を食べたいか聞くと私と同じように少し悩んでからショコラホイップに決めた。

 

「はいよ、ストロベリーホイップとショコラホイップだね。ちょいと待ってておくれよ」

 

 おばさんはそう言うと熱々に熱した鉄板の上に生地の元を垂らす。すると甘く香ばしい匂いと共にジュウッ、と焼けていく音がなった。

 

 焼ける音を聞きながら完成を楽しみに待っているとオルドからセリクムについて質問を投げかけられた。

 

「レイン、セリクムと言うのは最近できたものなのですか?」

 

「王都に昔からある食べ物らしいよ?」 

 

「昔から? それってどれくらい前か知ってます?」

 

「え、うーん……。聞いたところによると確か200年以上前からあったとか聞くね」

 

 なんでいきなりこんなことを聞いてきたんだろ? そう不思議に思いつつも前にケヴィン君から聞いた情報を思い出しながらオルドに教える。

 

「そう言えばトッピングの名前もこの辺りでは全く聞きませんよね」

 

「そうだよねー。私が頼んだストロベリーホイップって言うのもストラの実をただストロベリーって言ってるだけみたいだし」

 

「へえ、そうなんですね。じゃあなんでこんな名前をつけたんでしょうね」

 

 確かにオルドの言う通りだ。なんでこんな不思議な名前をつけているんだろ。もしかして命名神様がつけた名前だったり? そんな事を二人で話しているとその話が耳に入ったのか店主であるおばさんがこちらを見てきた。

 

「それはね、どんな名前で出すか悩んでた私がある日見た夢で神様が啓示してくださったんだよ。こういう名前で出しなさいって」

 

「神様ってそんなにホイホイ夢に出てくるものなんですか……?」

 

「まあ、夢に出てきたのは命名神様だからねえ。基本毎日誰かに啓示してくださるそうだよ」

 

「ああ、命名神様なら納得です」

 

 やっぱり予想していた通り命名神様だった。あの神様は人間が作るものが好きだって言ってたから良く名前が決まらないものに名付けてくれるんだよね。ものによっては祝福もかけてくれるらしいし。

 

「ほら、お二人さん完成したよ。ストロベリーホイップとショコラホイップだ」

 

「ありがとうございます」

 

 そんなことを考えているとどうやら完成したらしい。オルドが受け取ると2人分の料金を支払ってくれた。

 

「あ、自分の分くらい払うよ」

 

「良いんですよ。美味しい屋台を教えて貰ってるお礼です」

 

 オルドに自分の分の料金を支払おうとしたが、オルドは私にストロベリーホイップを渡すとお金は受け取らないと言外に言うように自分のセリクムを食べ始めた。

 

「でも、やっぱり悪いよ」

 

 先程もベルソーラを貰ったのにまた貰うと言うのは悪い気がしてならない。そう思ってお金をオルドに渡そうとしたが、オルドはお金を受け取らずにこちらをじっと見つめていた。

 

「なら1口食べさせてくれませんか? ちょうどそれも食べてみたかったんです」

 

「え、まあ、それくらいいいけど……」

 

 オルドが提案してきたのはお金を返すことではなく、私のセリクムを1口分けてくれというものであった。そんなことでいいのかなとも思ったが、オルドがそれでいいと言うのだからそうした方がいいかなと思い、セリクムをオルドに差し出す。そしてオルドが1口食べたところでようやく気がついた。

 

 これって、もしかして恋人同士がやる『あーん』っていうものなんじゃ……。

 

 は、恥ずかしくなってきた……! そんな事を思っていると口元に着いたホイップをオルドが舐めとっている姿が見えた。

 

 ━━━━━ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙っっ!!!!! 

 

 まずい。これはまずい。今日トップクラスの破壊力だ。目に焼き付いたオルドの舌の動きが頭の中で何度もリフレインされる。あっ、あっ、これは本当にまずい。顔に一気に血液が集中するのを感じると共に聖女の能力を使い強引に抑え込む。

 

「どうかしましたか?」

 

 じっと見ていたことに気がついたのかオルドがどうかしたのか聞いてくる。

 

「あ、ううん! なんでもない、なんでもないよ!」

 

「はあ、そうですか」

 

 慌ててなんでもないと否定して自分のセリクムを食べて心を落ち着けようとセリクムに目をやると先程オルドが食べた痕が目に入った。

 

 これ、間接キスってやつなんじゃ……。

 

 再度聖女の力を使い、顔が赤くなるのを強引に抑えた。とは言え、いつまでもセリクムを食べないとオルドに不審に思われてしまう。

 

 意を決してセリクムにかぶりついた。

 

 瞬間、状態異常の魔法がかけられたのではないかと言わんばかりの衝撃が私を襲った。頭がぼーっとして思考が纏まらない。そもそも私は今ちゃんと地面に立っているのだろうか? ふわふわと浮いてしまっているんじゃないんだろうか。あまりの多幸感にどうにかなってしまいそうだった。

 

「これとても美味しいですよね」

 

「う、うん。すごく、美味しい、ね?」

 

 ごめんね、全然味がわからないや。私には刺激が強すぎて脳が麻痺してしまっているかのようだった。というか、オルドはなんとも思っていないんだろうか。仮にも間接キスなんだよ?

 

 そんなことを思いながらチラチラとオルドの方を見るとその視線に気がついたオルドが先程まで自分が食べていたセリクムをずいっと私の方に差し出してきた。

 

「はい、どうぞ」

 

「はぇ!?」

 

 幻聴かな? オルドの口からとんでもない言葉が聞こえてきた気がする。しかもオルドがこちらにあーんをしてきてる幻覚も見てる。

 

「先程からこちらを見てきたのでこれが食べたいのかと思っていたのですが……」

 

「あ、いや、えーと」

 

 や、確かにそっちを見てたけど……。てかこれ幻じゃないね。状態異常の魔法でもないや。これ現実だ。

 

「食べたくないのですか?」

 

 う、その言い方は卑怯だ。オルドにあーんして貰えるならそれはして欲しい。でも、そんな恥ずかしいことは……。そんな思考とは裏腹に私の口は随分と素直だったようで欲望のままに喋りだした。

 

「た、食べたいです……」

 

「ならどうぞ」

 

 そう言ってさらにずいっと差し出されるセリクムを見て、私は覚悟を決めた。お母さん、たとえ私の脳が焼き切れようとも私は大人の階段を上ってみせます! 持ってくださいよ、私の理性。

 

 そしてオルドが差し出してきたセリクムを口に含んだ。

 

 瞬間、視界が白に染まった。

 

「どうですか?」

 

 おるどがなにかをいっている。よく、わからない。ただ、なにかをいわなくちゃ。

 

「うん、おいしい、すごく、おいしい、です」

 

「それは良かった」

 

 あ、おるどがほほえんで━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 はっ!? 

 

 何だか凄い幸せ景色を見ていたような、それでいて何か世界の真理も見ていたような気がする。何だろう、今ならどんな魔物でも指一本で倒せると思えてしまうくらいに全能感に溢れてる。

 

「名残惜しいですがそろそろ時間ですので学園の方に帰りましょうか」

 

 オルドのその言葉でもうそんな時間になっていたということに気がついた。楽しい時間は一瞬だと言うけれど本当に一瞬だったなぁ、とそんなことを思った。けれど、そんな一瞬でも良かった。だってまたオルドと一緒に来ることが出来るんだから。

 

「うん、そうだね。……ね、また一緒に行こうね」

 

「ええ、機会があったら行きましょうか」

 

 ああ、本当に私は幸せだ。




いい最終回だった(棒読み)

歩く麻薬:フラグをバッキバキにおっ立てた上にレインちゃんを新世界を見せた。麻薬かなにかですか?

中毒者:新世界の開幕見てしまった。あまりの多幸福感に水の女神様と出会った場所にトリップしてた。おや、レインちゃんの様子が……?

水の女神様:あの娘どうやって来たの……?

???:今そっちに向かいますからね!

失踪したっていいじゃない、作者だもの


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第7話 オルド視点

今こそ言える。初期ではレインちゃんガッツリ病ませる予定だったのにいつの間にかピュアッピュアレインちゃんになったということを。病みを祓う姿は紛うことなき聖女。

それはそうとこの話を読むにあたってこの小説の名前を思い出して欲しいんですよ。

それじゃあ失踪します。



 ファルマス学園に転入してから一週間が経った。

 

 時に聖女から逃げたり、時に聖女を五人衆に押し付けたり、時に聖女に捕まって屋台村に赴いたりなど色々なことがあった。

 

 他にもクラスの連中ともそこそこの交友関係を築くことが出来た。それに五人衆とも友好的な関係を作れたよ。まあ、聖女の情報を流したら結構あっさり作れたけどな! 聖女との仲について探りを入れてみたりしたけれど、まさか全く進んでなかったとはこのオルドの目を持ってしても見抜けなかった……。

 

 話を聞いてみるに聖女はガードがクッソ堅いらしい。二人きりで何処かに行くなんてことはなく、何処かに行く時は必ず複数人でしか行かないとの事だった。

 

 ちなみにこの情報はチャラ男くんからだった。そしてこのチャラ男くんだが、見た目に反してめちゃくちゃ頭がいい。特に魔法薬学と魔法陣学に関しては2年生にして学園の教授達と議論ができるレベルだった。

 

 なのでその事をべた褒めしつつ、聖女の情報をちょこちょこ流したらとても仲良くなりました。それと同様に他の4人にも聖女の情報をという餌を投げながら各自の得意分野を褒めつつ情報をすっぱ抜き、友好を深めることに成功した。

 

 や、チョロいなこいつら。というよりも聖女の情報という餌が強烈すぎるのか。

 

 しかし今思ったがこの関係は恋愛ゲームでいう便利な情報を与えてくれるモブポジではなかろうか。ふふ、このままのポジションを維持し続けていこうじゃないか。

 

 そう意気込みつつ、自分の席に着いてしばらく経つとこのクラスの担任であるクロード先生が教室の扉が開いて入って来た。

 

「よーし、お前らさっさと席に座れー」

 

 その言葉で席を立っていたクラスメイトたちは自分の席に着席した。全員が座ったのを確認するとクロード先生はいつもの様に点呼を取る、ということはしなかった。

 

 なんだろうか、果てしなく嫌な予感がしてきた。こう、命に関わるとかではなく、死ぬほどめんどくさい事になりそうな気がする。

 

「あー、今日からこのクラスに転入生が来る。本来であればオルドと同時に入れるつもりだったんだが、諸事情により少し遅れての転入となった」

 

「先生! その人は女の子ですか!? それとも男ですか!?」

 

 前側に座っていた男子が転入生と聞いてパッと手を挙げて質問を投げかけた。

 

「喜べ、女だ。それもとびっきり可愛いぞ」

 

「「「いっよっしゃあっ!!」」」

 

 五人衆を除いたクラスのほとんどの男子が雄叫びを上げた。まあ、確かに新しく入ってくるのが女だと嬉しいよね。それも担任お墨付きのとびっきりの容姿を持つ女子なんて。ただなんか嫌な予感してきたので素直に喜ぶことが出来ない。

 

 そんなことを思っていると隣に座っている聖女がこちらに耳打ちをしてきた。

 

「オルドは嬉しくないの?」

 

「私はどっちでも構いませんので」

 

 と言うよりもどんどん嫌な予感が強くなってきているのでそれどころではない。もはや寒気すらしてきた。

 

「それじゃあ入ってこい、()()()()

 

 おい待て、今なんて━━━━━

 

 担任に呼ばれて入ってきたのはまるで儚げな少女のようにほっそりとした体に雪のように白い髪を前下がりのセミショートにしており、そして何よりも目を引く星の如く微塵の濁りも見せない琥珀色の澄んだ瞳を持つ少女であった。

 

 まるで天使のような見た目を持つ少女に教室にいた誰も彼もがまるで時が止まってしまったかのように身動き1つせずじっと目で追っていた。

 

「メテオラ・テバットです。暫くの間、よろしく」

 

 そして見た目通りに鈴のように澄んだ声で自己紹介をする少女にますます全員が引き込まれていった。

 

 そんなふうに周りが少女に魅了されている中、オルドは死んだ魚のような目になっていた。

 

 なんで相棒━━━━━メテオラの奴がきてんの? え、なんで? 団長、メテオラも一緒に行くとか一言も言ってなかったよね? 

 

 どういう事だ、おい。と、そんな意味を込めた目線をメテオラに向けるが彼女はただにっこりと微笑むだけであった。

 

「それじゃあメテオラの席だが何処がいい? このクラスは人数が少ない分、席がそこそこ空いている。好きなところに座るといい」

 

「ええ、では━━━━━」

 

 その言葉を聞くとメテオラはこちらをじっと見つめてきた。いや、正確に言うと俺のもう1つある隣の席にというべきだろうか。

 

「オルドの隣が空いてるのでそこに座りますね」

 

 その言葉とともにクラスの男子全員がこちらを血眼で見てきた。

 

「ずるいぞオルドお前!!」

 

「というか、知り合いなのかよ!?」

 

「俺を紹介してくれないか!」

 

 ……? なんでこいつらメテオラに反応、ってあーそうか。メテオラは見た目だけなら美少女だもんな。中身は色んな意味でぶっ飛んでるせいで忘れてた。

 

「オルド、そのテバットさんとは知り合いなの?」

 

 やや不安げに聖女はそう聞いてきた。

 

「そうですね、知り合いというよりは━━━━━」

 

「将来を誓い合った仲です」

 

「いきなり嘘ぶっこいてんじゃねえぞ」

 

 メテオラが唐突に聖女との話に割り込んできた。しかも平然と大嘘を吐いてきたもんだからたまったもんじゃない。

 

 否定するとメテオラはわざとらしくヨヨヨ、と言いながら泣き崩れた。

 

「シクシク、メテオラは悲しいです。あんなにもメテオラと激しくヤり合った仲だというのに……」

 

「ヤ、ヤり合った……」

 

 カァッ、と顔を紅潮させる聖女に思わずため息を吐きそうになりながらもメテオラの言葉を訂正する。

 

「誤解を招く言い方してんじゃねえよ。ただ単に戦っただけだろうが」

 

「それもそうでしたね。それでは再会のハグをしましょう。それからキスもしましょう。こう、しっぽり、ねっとりと」

 

 そう言って悪びれもせずに抱きつこうとするメテオラの頭を反射的に立ち上がり鷲掴みにすることで無理やり押さえつけるが、メテオラはさらに強い力で抵抗して無理矢理にでも抱きつきにかかった。

 

 このやろっ、こんなことで身体強化魔法使いやがった! 

 

 こんなくだらない事で魔法なんぞ使いやがってと思いながらもグググッと力を込めて抑えていたが一気に馬力を底上げしてきたメテオラにそのまま押し切られ抱きつかれた。メテオラは抱きつくと頭をぐりぐりと押し付けてきた。

 

「ひっつき虫かお前。つーか、メテオラはなんでこっち来たんだ」

 

「前にも言いましたが、メテオラの居場所はオルドの隣ですので」

 

 何を当たり前なことをと言った顔でまるでこちらがおかしいことを言ったかのような態度を取るメテオラに思わず頭が痛くなった。それから気になったこともあったのでメテオラに小声で尋ねた。

 

「理由になってねえだろ。つか、団長は許可したのか?」

 

「一番近い連休の時にオルドを引き摺ってでも連れて帰ると言ったら快諾してくれましたよ」

 

 連れて帰るという言葉に真っ先に思い当たる節があった。と言うのも俺の所属する傭兵団は程度に差があれどそのほとんどが戦闘狂だ。

 

 そして我らが団長は団内でもぶっちぎりの戦闘狂だ。どれくらい酷いかと言うと目に付いた魔物を片っ端からぶちのめすくらいには戦闘狂だ。なので行く前に団長の戦闘欲求を満たす為に三日三晩寝ずに殴り合いをした。それで次に帰るまでに持つだろうと今までの経験から読んでいたのだが。

 

「行く前に散々戦ったよな?」

 

「3日も持ちませんでしたよ」

 

 嘘でしょ、3日も持たなかったの? 前の時は結構長く持ってくれたじゃん。

 

「……なにか被害出した?」

 

「ゴルディン山を禿山にしてましたね」

 

「嘘だろ、またやったのか?」

 

 ゴルディン山、通称帰らずの山。苔むした巨大な木々が鬱蒼と生い茂った4000m級の山であり、常に木々が尋常ではない速度で成長し続けるという特殊な環境から山の中をさ迷い帰って来れなくなるということが多発する山だ。だが、この山が帰らずの山と呼ばれる由縁はそこではない。

 

 そこに住む魔物達こそが帰らずの山と呼ばれる原因なのだ。地脈の関係からか、そこの山には多種多様な魔物達がうじゃうじゃと発生している。それこそ中堅の冒険者や傭兵でも倒せるような魔物から国が一個中隊を差し向けて討伐しなければならない魔物までいる。だが、いちばん厄介なのがその数だ。少し歩いただけでそんな魔物達と遭遇するのだ。そしてそこに住む魔物たちは血の匂いに敏感だ。つまり、1匹でも魔物を倒すとその血の匂いに惹かれた魔物達が群れをなして襲いかかってくるのだ。

 

 幸いにもその山は人間の国からそれなりに離れているということとオルドの所属する傭兵団の本拠地の近くにあるため暇を持て余した戦闘狂達が定期的に間引きに行っているのでこれと言った問題は起こっていない。

 

 傭兵団のストレス解消の山として気に入られたゴルディン山が団長の手によって禿山にされた。これによりゴルディン山が復活するまで魔物達も発生しないだろう。それによって何が起きるかと言うと、近場で戦えなくなった戦闘狂共が悶々とする。そして溜まりに溜まりきると傭兵団内で大乱闘が勃発するのだ。

 

 ああ、くそっ━━━━━

 

「俺も参加したい……」

 

「乱闘にですか?」

 

「当たり前だろ。絶対楽しいぞ」

 

 ああ、本当に残念だ。是が非でも俺も混ざりたかった。こっちに来てからろくに戦ってなかったし、メテオラからそういうことを聞くと今まで我慢してた欲求が湯水の如く溢れてくる。今日って戦闘訓練あったよな? 

 

 そんなことを考えていると話について来れずにおいてけぼりにされた聖女が質問をしてきた。

 

「ね、ねえ、オルド。結局のところテバットさんとはど、どういう関係なのかな?」

 

 何処か恐れているような、そんな雰囲気を醸し出している聖女に少し不思議に思いつつも思ったことを口にする。

 

「んー、まあ、相棒といったところですかね?」

 

「あい、ぼう……」

 

「おいそこの3人。話は休憩時間にしろ」

 

 担任に注意されたため、未だに引っ付いているメテオラを身体強化魔法を使い無理やり引き剥がし席に座らせてから着席する。

 

「メテオラに質問をしたい奴は休憩時間にしてくれ。それから今日の連絡事項だが、今回の戦闘訓練はお前らの魔法の腕を見させてもらう。もちろん持ってきているとは思うが魔法発動に魔具が必要なやつで忘れたやつはこちらで用意したものを使ってくれ。以上だ」

 

 そう言って準備のためかさっさと教室から出ていこうと扉に手をかけたところで「ああ、そうだった」と何かを思い出したかのように呟くとこちらに顔を向けた。

 

「オルドとメテオラの二人は着替えたら魔具準備室に来てくれ」

 

 そう言うと今度こそ扉を開いて教室から出ていった。

 

 ふむ、順当に考えれば手伝いと考えるのが妥当だが……。

 

「メテオラ、お前何かしたか?」

 

「メテオラは特に思い当たることは無いです。そういうオルドはどうなんですか?」

 

「こっちも特に思い当たる節はないな」

 

 メテオラが初っ端から何か仕出かしたかとも思ったが、目を見る限り嘘は言っていない。とすれば俺の方かとも思ったがそうであるのならメテオラまで呼ぶ理由が分からない。ふむ、素直に準備を手伝えということと考えてもいいか? 

 

「ま、何はともあれ着替えるべきか。それではレイン、申し訳ないのですがメテオラを女子更衣室までお願いしてもよろしいですか?」

 

「え? あ、ああ! うん、いいよ任せて」

 

「ありがとうございます。ではまた後ほど」

 

 そう言って男子更衣室に向かう、が何故かメテオラがこちらの隣にピッタリとくっついて歩いてきた。

 

「おい、なんで着いてきてるんだ?」

 

「今から着替えるんですよね?」

 

「そうだよ、だからお前はレインに着いていくんだよ。なんで俺に着いてきてんだ」

 

「別にメテオラはオルドに裸を見られてもいいので一緒に着替えましょう」

 

 思わずこいつは何を言っているんだと思い、白い目で見てしまう。

 

「嫌に決まってんだろ」

 

「嫌、ですか……。オルド、あんまり舐めたこと言ってるとここでひん剥きますけど、いいですか?」

 

「お? やるかこの野郎。逆にひん剥いてやろうか」

 

 2人で頭をゴツゴツと付き合わせていると聖女が中に割って入ってきて無理やり距離を空けさせた。

 

「ダメだからね2人とも!? メテオラさんはオルドと一緒に着替えたら他の人にも裸見せちゃうことになるんだからね!?」

 

「オルド以外の男の目を潰せば問題ないと思いますが」

 

「ダメに決まってるからね!?」

 

 メテオラのあまりの暴論に速攻で否定する聖女。いいぞ、その馬鹿にもっと言ってやれ! そんなこと考えていると聖女はぐるりと此方を向いた。

 

「オルドもオルドだよ! 女の子に対してひん剥くなんて言ったらダメなんだからね! そう言うのは━━━━━じゃなくて! 兎に角そんな言葉言ったらダメだからね!」

 

「あっはい」

 

 一気にまくし立ててきた聖女に気圧され思わず頷いてしまった。いやまあ、確かに女の子に対してひん剥くなんて言ったらダメか。相手がメテオラだったから何も考えてなかった。

 

「それじゃあ、メテオラさんは私と一緒に女子更衣室に行こうね!」

 

「え、ちょっとなんですかいきなり。メテオラには今ここでオルドをひん剥くという仕事が━━━━━」

 

「じゃあまた後でね、オルド!!」

 

「え、ええ」

 

 そういって聖女はメテオラの言葉を無視してメテオラの手を握って強引に連れていった。そんな聖女の後ろ姿を俺は見送ってから男子更衣室へと向かった。

 

 




レインちゃんの平穏は崩れてしまいましたね(他人事)

化けの皮剥がれたやつ:まさかの傭兵団での相棒が何の連絡もなしに来てたことに驚いた。しかも本来だったら同時期に入る予定と聞いて尚更。その上メテオラムーブに飲まれてメテオラのみに素で対応してしまった。

フリーダム:見た目天使顔負けの顔してる(激ウマギャグ)基本マイペースというかフリーダムすぎる人。オルドくんとは仲良し。そしてひっつき虫。

病みを祓う聖女:オルドが素で話してる女の子が登場したことで絶賛恐慌中。しかもオルド本人からも相棒と言われさらに混乱中。まさか五人衆と同じ目に合うとは思うまい。堕ちそう(小並感)

フリーダムメテオラちゃんの容姿書いてて思いましたが、レインちゃんの容姿書いてなかったですね。と言うわけでレインちゃんの容姿は明るい水色の後ろで結ばれたロングヘアーに明るい青色の瞳です。多分どこかの話で詳しく描写する。

それはそれとして初投稿です。


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第8話 レイン視点

(話の進行速度)おっそーい!

前話なんて朝のHR終わっただけだよ。これは圧倒的に亀ですね……間違いない。

そんな訳で俺はうさぎになるぞっ!! 読者ァッー!!

決意を改めたところで初投稿です。



『相棒といったところですかね?』

 

 それは考えてみれば当たり前の事だった。『あの日』からもう8年近く経っている。その間にオルドが誰か親しい人を作っているというのはありえない事ではない。

 

 ただその親しい人が私と同い年の女というのが一番の問題だ。それもオルドに対してあんなにベタベタとくっつくなどと、なんとうらやま……けしから……妬ましいっ!! 

 

 ええ、ええ! 妬ましいですとも。テバットさん、いえメテオラさんが妬ましくて、羨ましくて仕方がない。私なんてまだ手しか繋げていないというのに、彼女はいとも容易くオルドに抱きついた。そしてオルドの胸板に頭をぐりぐりと擦り付けた上にキ、キスをせがむなんて……! 

 

「メテオラさん」

 

 となりでいそいそと着替えているメテオラさんがこちらにちらりと目線をやった。

 

「どうかしましたか?」

 

「あなたにとってオルドはどういう存在なのか教えてくれないかな?」

 

「ええ、いいですよ。私にとってオルドは━━━━━」

 

 オルドと話している時からなんとなくだけれど分かっていた。きっとこの人は私と同じ━━━━━

 

「存在理由の1つです」

 

 ━━━━━オルドに焦がれている人だ。

 

 メテオラさんが教室に入ってきてからずっと彼女の目にはオルドしか映していなかった。まるで他の人なんて存在していないと言わんばかりに毛ほどの興味も示していなかった。今だってそうだ。ほんの少しだけこちらを見るとすぐに興味が失せたように目線を切り、着替えの続きをし始めた。

 

「それではメテオラは魔具準備室に行きますので」

 

 そう言って彼女は着替え終わるとさっさと出ていってしまった。

 

 ……ああ、やっぱり予想していたとおりだった。彼女はオルドだけしか眼中に無いみたいだね。合流する場所である魔具準備室に行こうとした途端、彼女は浮き足立っていた。

 

「はあ……」

 

 思わず天井を見上げて息を零す。この学園の女子達からはとことんオルドを守り続けていたというのにとんでもないライバルが現れてしまったなぁ。

 

 けれど構わない。何故なら私には彼女が持ち得ない武器を持ってるからね。ふふ、その武器というのはこの胸だ。彼女の胸ははっきり言って貧しかった。平らという程ではなかったけれど……。

 

 対して私は自分で言うのは何だけれど大きい方だ。きっとオルドも小さいよりかは大きい方が好きだと思うし……。ほ、ほら大は小を兼ねるって言葉もあるらしいから。小さいよりかは大きい方がいいに決まっている。

 

 ……小さい方が好きって言われたらどうしよう。

 

 思わずそういう想像をしてしまってじわぁっと涙が少し出てしまった。い、いや大丈夫大丈夫。いざとなれば大きい方が好きになるようにしてしまえば……! 

 

 そう、例えば色仕掛けとか……、色仕掛けと、か……色仕掛け……。

 

 そこまで考えたところでカァッーと頭が茹で上がるような感覚に襲われた。い、色仕掛けってアレだよね? 胸を押し付けたりするんだよね? キ、キスは……うんダメだよね。これはダメだ。そんなことをしてしまっては私の身が持ちそうにない。だってキスをするって事はオルドの顔が近くなるってことで……。

 

「う、うぅ〜」

 

 赤くなった顔を隠すように手で覆う。や、やめようこんな妄想は。もしオルドにこんなこと考えてたって知られたらはしたない子だって思われてしまう。で、でもオルドにならそんな風に言われるのも……。

 

 やっ、やめにしよう! 今はこんなこと考えたらダメだよね! 

 

 頭を左右にブンブンと振りかぶり、妄想をかき消す。

 

 よ、よーし取り敢えずはメテオラさんに負けないためにも恥ずかしいけど頑張っていきます。た、多分。

 

 

 

 

 

 今回の戦闘訓練を行う場所、大魔闘技場へとやってきた。

 

 ここはファルマス学園の名物の1つでもある魔闘技大会を行う施設、所謂コロッセオのようなものだ。また魔法を使用した戦いを想定されているので非常に強固な造りとなっている。観戦席には被害が及ばないように闘技場を中心とした巨大なドーム型の結界が張られている。

 

 この結界は魔物から取れる魔石を燃料とした優れた結界であり、魔法攻撃は勿論のこと物理的な攻撃も弾く強固な守りとなっている。余程の攻撃でなければ罅すら入ることは無いと言われており、また仮に罅が入ったとしても燃料である魔石の持つ魔力がある限り多少の時間があれば結界を修復するという機能を持つ。

 

 この結界のおかげで闘技者達は思う存分にその腕を振るうことが出来るのだ。

 

 そこで私達は魔法を使用した戦闘を行う筈なのだが、どういう訳か観戦席に座るようにクロード先生から指示されていた。

 

「ふむ、前の時のように直ぐにでも戦闘を行うと俺は思っていたのだが、観戦席に座って待っていろとはな。ケヴィンはこのことについてどう思う」

 

「普通に考えるのなら今から私達は誰かの戦いを観戦すると考えられますよアルベール様」

 

「であろうな。では誰が戦うのだろうな? あのクロード先生と誰かか?」

 

「オルドとメテオラさんじゃないかな」

 

「ふむ、レインはそう思うか」

 

 2人の会話に入り込むように私が思っていたことを伝える。

 

「レインはなんでそう思ったんだ?」

 

 そう聞いてくるのはヴァンくんだった。なんで、と言われても二人は魔具準備室に向かった。そしてその魔具は既にこの場所に用意されているにも関わらず、2人とも未だにこの場所にいない。となれば戦うために控え室にでもいるであろうことが想像出来る。事実それを裏付けるように2人の魔力をこの大魔闘技場にある控室から感じる。その事を伝えるとヴァンくんは成程といって納得したようだった。

 

「じゃあよ、オルドとテバットの2人のどっちが勝つか予想しねえ? あ、俺はオルドが勝つ方な」

 

「それはまた面白そうですねアンジェロ。では私はテバットさんが勝つ方に」

 

「ほう、ハンスはテバットが勝つ方か。ならば俺は我が友であるオルドに」

 

「あ、俺もアルベールと同じオルドが勝つと思う」

 

「私はテバットさんでしょうか。あの方の実力はまだ知らない訳ですし。レインはどう思いますか?」

 

 勿論オルドが勝つ! と、そう言いたいところだが、更衣室で着替えていた時メテオラさんからよく見なければ気づくことが出来ないほどではあったが、私の力と似た何かの力を感じた。それを考えると一概にオルドが勝つとは言いづらい。でも、勝ってほしいと願うのは……

 

「オルド、かな」

 

 そう言ったところで戦闘訓練を担当しているクロード先生がこちらにやってきた。

 

「おう、待たせてすまねえな。それじゃあ今回はここで魔法を絡めた戦闘の練習をする。それじゃあ早速、と言いたい所だがまずお前らにはある2人の戦闘を見てもらう」

 

 クロード先生はそう言うと首にかけていた赤い魔石に口元に持っていくと「入ってきていいぞ」と話した。確かあの魔石は一定の距離ならば対応する魔石を持つ人に声が届くという仕組みを持つ魔石だった筈だ。

 

 そして私が予想していた通り、闘技台にオルドとメテオラさんの二人が登ってきた。

 

「今回はまずオルドとメテオラの二人の戦闘を見てもらう」

 

「クロード先生! なんでオルドさんとメテオラさんの二人の戦闘を見るのでしょうか!」

 

 当たり前の疑問を抱いた同級生の人がクロード先生に質問を投げかけた。その質問を受けたクロード先生は頭をポリポリと掻きつつも質問に答える。

 

「そうだなぁ……。魔法を絡めた戦闘だとあの2人がお前達にとっては最も参考になるだろうと思ったからだな。まあそれがなんでなのかっていうのはあの二人の戦い方を見れば直ぐにでも分かるだろうよ。それじゃあしっかり見ておけよ」

 

 そう言うとクロード先生は闘技台の方へと目をやった。

 

「オルドとメテオラ、互いに位置につけ。今回のルールは前回と同じ闘技台の上の白線から外に叩き出すか気絶、もしくは参ったというまでだ。それでは……」

 

 オルドとメテオラさんは約10m程の間隔を空け相手を見据えている。

 

「はじめぇっ!!」

 

 その合図とともに強烈な閃光が迸る。やったのはメテオラさんだ。開幕オルドの目を潰すと共に後方に勢いよく飛び、数十個の魔法矢を発動させてオルドを狙った。だがオルドはそれを予知していたかの如く正面に土魔法による岩壁を発生させ、目潰しと魔法矢を防いだ。

 

「さて、解説をするが今回の戦闘訓練でオルドとメテオラを選んだのはその戦闘スタイルと高い技能からだ。オルドは近接主体の戦闘スタイル。メテオラは魔法士らしい遠距離主体の戦闘スタイルだ」

 

 オルドは魔法矢を防ぎ切ると正面の発生させた岩壁を勢いよく殴り砕き、砕け散った石をまるで散弾の如くメテオラさん目掛けて飛ばした。……身体強化魔法、それも体を覆う魔力が少しも揺らいではいない。オルドはかなりの魔力操作技術があるという証拠だ。

 

「レインはよく理解していると思うが戦闘というのは得意の押し付け合いだ。剣士などの近接主体のものはいかに間合いを潰して近づくか、反対に魔法士などの遠距離主体のものは近づけさせない立ち回りが必要となる。あの二人はそういった得意の押しつけが上手い。特にオルドは間合いを潰すことに長けている。近接主体の者はオルドの動きをよく見ておくといい」

 

 クロード先生の言う通りオルドの方をじっと見つめていると急にオルドが視界から消えた。その事に驚愕する暇もなくいつの間にかメテオラさんの目の前に現れていたオルドは彼女の足を刈り取るように足払いを仕掛けた。だが、メテオラさんはそれをバク転の要領で避けるとそのまま高く跳び、上空からレーザー光線を連射した。オルドはそれを身体をずらすことで避けるがいつの間にか地面に刻まれていた起爆魔法陣が起爆し大きく後退させられた。

 

 ……私は確かにオルドを見つめていた。それも俯瞰視点の上に私は1度あの間合いの詰め方を見たというのにまたしても初動が全く見えなかった。

 

「……流石は『あの団』に所属しているだけはあるな。学生の領分を超えてるだろあの動き」

 

 はあ、とため息を吐くクロード先生にヴァンくんが質問した。

 

「クロード先生、オルドは今何をしたんすか?」

 

「視線誘導だよ」

 

「視線誘導?」

 

「そ、オルドは特殊な歩法を使ってここにいる全員の視線を誘導したんだろうよ。視線をズラした瞬間彼奴は一気に間合いを潰したといったところか。魔法を使った誘導じゃない分厄介にも程がある。しかしまあ、メテオラも上手いな。足払いをバク転で避けるときに起爆魔法陣を仕掛けて無理矢理距離を取らせた」

 

 クロード先生の説明を聞きつつ、オルドの方を見るととても楽しそうに笑っていた。いや、オルドだけではなくメテオラさんも上機嫌な様子で笑っている。その表情を見て思わず歯軋りしてしまう。

 

 ……その表情は私だけに見せて欲しかった。私だけがその表情を引き出したかった。

 

 メテオラさんは光線と魔法矢が入り混じった弾幕を発生させオルドを近づけさせない。しかしながらオルドもその攻撃に掠りもせずに躱し続けていた。

 

「む、オルドのやつ近づけてはおらんではないか。このままではオルドのやつジリ貧になって負けるのではないか?」

 

「オルドのやつこれ負けたかぁ?」

 

 オルティスくんとラフィットくんがそう話したのも束の間の事だった。オルドの右腕がブレると同時にメテオラさんは今まで放っていた弾幕を直ぐにやめてまるで飛びつくように大きく横に回避行動を取った。

 

 そして轟音が鳴り響いた。張られている結界が大きく揺れる。

 

「うぉぉ!?」

 

「一体何したんだよ!?」

 

 何が起きたか、なんて言うまでもない。オルドの正面の地面がまるで削り取られたような跡が結界まで続いていた。

 

 先程のオルドの右腕がブレたのは視線誘導でも何でもない。超スピードによる残像だ。地面が削れているのはオルドが拳を振ったことによる衝撃波とその拳圧によるものだろう。

 

 だが、それはおかしいのだ。拳を振った時のオルドは身体強化魔法以外の魔法は使っている様子は見られなかった。そして身体強化魔法はそこまで強化することは出来ない。

 

「おいおい、あんなことが出来るのは『()()』だけじゃなかったのかよ」

 

 クロード先生がポツリと呟いた言葉がたまたま耳に入った。

 

 戦災……? いや、それよりもだ。先程ほんの僅かによく注意してみなければ分からないほどではあるがオルドが纏う魔力に違和感を感じた。

 

 聖女が共通して持つ力の一つである魔力の流れを見る目を発動させてオルドを見るととんでもない事がわかった。

 

 オルドは筋肉に直接魔力を流していた。

 

 開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろう。あんな無茶苦茶な身体強化魔法など存在してはならない。なぜならほんの少しでも魔力の流れが乱れでもしたならば━━━━━

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かに身体に纏うよりは大きな効果を出すだろうが、そんなものは狂気の沙汰でしかない。誰でも扱える身体強化魔法をあのようにイカれた昇華をさせるなどそれこそ戦闘にしか生を見出させないような者かそれにも耐えうるように身体を弄られた者か━━━━━

 

 そこまで考えたところで口に手を当てた。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()? 

 

 

 それはオルドの身体に付いていた無数の傷跡が証明していたではないか。鋭利な刃物で斬られたような傷跡も銃で撃たれたような傷跡も鋭く尖ったものに抉られたような傷跡も至る所にあったではないか。つまりそれはオルドがそういう目にあっていたということに他ならないんじゃないか。

 

『あの日』のオルドはまだ子供だった。仮に拐うとしたらさぞ簡単だっただろう。それにきっと弱りきっていたはずだ。抵抗すらできないほどに。

 

 オルドの失われた記憶、異常な傷跡に自殺するためのような魔法。それから去年壊滅させたはずの違法の奴隷商人。

 

 そしてあの時相対した黒いローブを被った人間が言っていたあの()()

 

 考えすぎかもしれない。私のただの妄想かもしれない。けれど一度抱いた疑念は私の頭の中にべったりと引っ付いて離れない。

 

「オルド……」

 

 嘘だよね? そんな想いも込めてオルドを見上げた。

 

 見上げた先には楽しくて仕方がないと言わんばかりに私と戦った時などと比較にならない程にまるで裂けたように口角を上げ、凄惨に嗤うオルドの姿が私の目に映った。

 

 オルドはメテオラさんが放つ光線や魔法矢を魔力を纏わせた拳で正面から薙ぎ払い、叩き潰し、打ち砕きながら彼女に接近していく。

 

 見たくなかった、そんな風に嗤うオルドの姿なんて。

 見たくなかった、まるで自身の命など知ったことかと言わんばかりのオルドの姿なんて。

 見たくなかった、戦に狂った人特有の狂気に染まった瞳の輝きを宿すオルドの姿なんて。

 

 徐々に近づきつつあるオルドを引き剥がすためにメテオラさんは闘技台の半分の面積を呑み込むほどの極大の光線を放った。予備動作無しに放たれたオルドは成すすべもなく呑み込まれたように見えた。

 

「お、おいおい! オルドのやつ大丈夫なのかよ!?」

 

 心配そうに呟くヴァンくんを他所に極大の光線が途切れていく。だがそこにはオルドはいなかった。その代わりにそこには蜘蛛の巣状にひび割れた地面だけがあった。

 

 一体どこに。そう思った瞬間、凄まじい悪寒が私の体を駆け巡った。バッと上を見上げるとドーム型の結界の天井の天辺に足をつけているオルドの姿があった。

 

 その姿を認識した途端、ヒュッと息がなった。オルドの両足に流された魔力は今までの比ではなかった。あの状態のオルドの攻撃が直撃しようものならまず間違いなく死ぬ。

 

 メテオラさんが上を向いてオルドの存在を感知した瞬間、バギンッと歪な音ともに結界に巨大な罅が入り、オルドの存在が掻き消えた。

 

 そしてまるで隕石が落ちたかと錯覚するような轟音と衝撃が私達を襲った。あまりの衝撃に地面がグラグラと揺れ動き、砕かれた闘技台の瓦礫が爆風によって結界に勢いよくぶつかっては砕け散っていく。

 

「おいおいおいおい! これやばくねーか!?」

 

「……ッ! あの馬鹿ども!」

 

 土煙が晴れるとそこには元はあっただろう闘技台は欠片も残っておらず、クレーターのように大きく陥没した穴の中央に佇むオルドの姿と空中に無傷で立っているメテオラさんの姿が見えた。

 

「おい! 二人ともそこまでだ!」

 

 二人とも戦闘態勢に入っていたが、クロード先生の声によって構えを解いた。それと同時にオルドが身に纏っていた狂気的な雰囲気はなりを潜めていつもの無表情へと切り替わった。

 

「オルド……」

 

 その様子を見て私はただただそう呟くことしか出来なかった。

 




UAが25万突破し、お気に入りも7000人を超え、評価者は200人を超えました。これもひとえに読んでくださる皆様のおかげです。

それはそうとこの小説書く切っ掛けだった。似たような設定の小説を増やすという目的ですが、全く達成されていませんでした。私は悲しい(ポロロン)

雨:昔のオルドから乖離した笑顔を見せられたのでSANチェックです。メンタルをボッコボコに凹まされた。もっと凹まそうぜ!(畜生)

光:ひんぬー。ある事情からオルドに依存してる。光魔法が大得意。なにやらレインはメテオラから似たような力を感じとったらしいが……?

星:戦うのたーのしー! な戦闘狂のゴリラのフレンズ。聖女のことをゴリラなどと口が裂けても言えない。失敗したら体が爆散するというクッソリスキーな身体強化魔法を使う。その分上昇の幅は普通の身体強化魔法の比じゃない。大体過去になにかしらやらかしている。お前ほんとさぁ……。

髭:途中から解説するどころじゃなくなった。オルド達が所属する傭兵団について何か知っているようだ。

あ、そうだ(唐突)

今回の記念にちょっとした番外編を書くかもしれなくもないです。一応リクエストでもネタ集めも兼ねて募集でもしてみますかね。詳しくは活動報告の方にて。

じゃあ俺、失踪して帰るから……


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第9話 オルド視点

滑り込みセーフ! なんとかギリギリクリスマスに間に合いましたね!

久しぶりのほんへということで初投稿です。




 あー、やべーわ。クッソイライラする。あのクソ教師よりにもよって盛り上がってきたところで戦いを止めた上に今後俺とメテオラとの戦闘は禁止だとかいいやがった。なんだよ、別にいいだろうがあの程度。ちょっとクレーター作っただけじゃねえかよ。

 

 はー、しかもその後はろくに戦う事もせず、ただただメテオラと一緒に学生達に戦い方を教えただけ。なんでもお前らの戦い方の方が危険ではあるが生存率を上げるには1番だとか言っていた。

 

 ああ、そうだ。生存率といえば近々毎年恒例の山篭りがあるらしい。熱血男と組手をしている時に教えてくれた。や、正確に言うなら野外実習訓練だったか? 最大6人、最小3人までのチームを組んで魔物がいる山中で三日程過ごすんだとか。

 

 魔物にしても下級の中の最下位付近にいる魔物位しか居ないみたいだし、ぶっちゃけ警戒する必要も無い。せめて特級、欲を言うなら極限級の魔物がいたら嬉しいけど、学園が管理している山だからそもそもいるはずがない。だったらメテオラと敵同士になって戦えばいいじゃないかとは思ったけど、クロード先生に先手打たれて俺とメテオラは強制的に同じチームになった。

 

 あー、半端に戦ったせいで却ってストレスが溜まる。こんな時こそ傭兵団にいた時の有り難さが実感してしまうな。気の思うままにスッキリするまで戦えたし。

 

「そういえば、オルドはメテオラの他に誰と組むのですか?」

 

 そんなことを考えているとメテオラが話しかけてきた。

 

「ぶっちゃけて言うとレインが欲しい」

 

 今回の野外実習訓練だけに関して言えば、あの聖女が欲しい。というのも聖女としての能力目当てなのだが。

 

「水の生成が出来るって言うのはサバイバルだと喉から手が出る程欲しいからな。魔法によって生成した水は飲めないし」

 

 魔法によって生成した水が飲めない以上は確実に水を供給できる聖女の力はサバイバルにおいてはチートもいいとこだ。何せ生きる上で最も必要で量もいる水を無限に生み出せるのだから。とは言えそんな力を持つ聖女が他の奴らから勧誘されていないわけが無い。それに学園の人気者と言っても過言ではない程の存在ならば尚更声がかかるだろう。

 

「まー、既に組んでる可能性の方が高いが聞いてみるだけ聞いてみるかな」

 

「レインに集ってる人達を蹴散らせばいいのではないですか?」

 

あっち(傭兵団)の基準で考えんなよ」

 

 互いに軽口を叩き合いながら聖女を探しに行く。とは言っても気配を探るまでもなく、すぐに見つかるだろう。何せ、聖女の周りには基本五人衆がいるし、その五人衆や聖女自身に集まる奴らで基本聖女の周りは賑やかだ。

 

「と、やっぱ人気者だねえ聖女様はさ。いつもより倍の人間が囲んでらぁ」

 

「あれメテオラなら容赦なく蹴散らしますね。すごく鬱陶しそうです」

 

 聖女が困ったような表情で囲んでる奴らに何か言っているのが分かる。断り文句なのか、もしくは煽ってるのか。後者だと乱闘出来そうで楽しそうなんだがな。ま、俺も一応言うだけ言ってみるかね。断られる確率高そうだけど。

 

 聖女に集まる人波をメテオラと共にひょいひょいと掻き分け、聖女の目の前に出る。その時丁度聖女がこちらを振り向いたのでタイミングよく目線があった。

 

「あ、オルド……」

 

「レイン、良ければ私達と組みませんか?」

 

「ぜ、是非! 是非お願いします!」

 

 うおっ、すっげえ食いつき。まさかこんな食い気味に肯定されるとは思わなかった。とは言え、僥倖というものか。これで飲み水には困らない。さてこれで俺、メテオラ、レインの最低限3人は揃った。これで終わり、とはならんよな。

 

「オルド、俺も入れてくれないか!」

 

「殿下が入るのであれば私も入れさせてください」

 

「オルド! 俺を入れてくれ! 後悔はさせないぜ!」

 

「おっす、オルドー。俺を入れてくれよー」

 

「オルドさん、テバットさん、私を入れてくれませんか?」

 

 だと思ったわ。五人衆は絶対絡んでくると思った。ま、別に組んでも構わないだろう。あの程度の魔物なら俺一人でも十分だと言うのに、聖女にメテオラが揃っている以上万が一ということもないだろうしな。

 

「えっと、私では決めることが出来ないので貴女方でカードなりじゃんけんなりで決めて貰えませんか?」

 

「ふっ……」

 

 笑ってんじゃねえぞメテオラ。

 

 横で口を抑えてプルプルと震えているメテオラの横腹を思い切りど突く。

 

「むう、ならばじゃんけんで決めるとしよう。勝った3人がレイン達と組むことができるということで良いな?」

 

 王子1号の言葉に4人は無言で頷き、絶対に勝つと言わんばかりの闘志を燃やしていた。しかしまあ、じゃんけんに本気なる王族貴族か。なんというか、面白いというか、そこまで聖女と組みたいのかと。

 

「じゃんけん━━」

 

 王子1号の掛け声で5人は勢いよく拳を振り下ろした。そして勝ったのは━━

 

「フハハ! やはり天は俺に味方をしたな!」

 

「しゃあっ! よく勝ったぜ俺!」

 

「ふふ、これでチームは完成ですね」

 

 王子コンビと熱血男だった。熱血男が来たのは僥倖だったな。組み手をしてて思ったが熱血男の強さならば中級までなら余裕だろう。流石はリバドレード王国騎士団長の息子。それに騎士団長の息子というのならばサバイバル術も親に叩き込まれている事だろう。

 

 問題は王子コンビか。サバイバル生活に耐えてくれれば嬉しいのだが……。強さ? はなから期待はしてないな。王子1号の強さから考えるに2号も似たようなもんかもしれないし。それに王族だし剣技とかは習ってはいるだろうが、王族の剣技はどちらかと言うと舞踊だ。実践向きと言うにはあまりにも華がありすぎる。そもそも王族は戦わない。どちらかと言うと鼓舞するのが重要だから構いやしないんだがな。

 

「殿下、どうかご無事で」

 

「ちぇっ、あの時グーを出しとけばなー」

 

 負けた2人はそう言うと自分達もチームを組むために他の人達を誘いに行った。まあ、あの二人なら一瞬で人が集まるだろう。

 

「ではこれからよろしくお願いしますね」

 

「うん、よろしくね」

 

「ああ、よろしく頼むぞ!」

 

「おう! 野外実習訓練頑張ろうぜ!」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 さーてと、これで6人集まった。あとはこのメンバー表を作ってクロード先生に提出すれば終わりだな。ちゃちゃっと済ませようか。そんなことを考えていると不意にメテオラが袖をくいくいと引っ張ってきた。

 

「何だ?」

 

「ちょうど昼時ですし、ご飯を食べに行きましょう。メテオラはお腹がペコペコです」

 

「ん、了解。お前はこっちに来て間もないだろうから美味い店教えてやるよ」

 

 確かにメテオラの言う通り昼時だったし、飯に行くのもいいだろう。そうなるとここに来て見つけた美味い店の情報を共有するのも悪くない。それが分かれば此奴も勝手に食べに行くだろうしな。

 

「それもいいのですが、今回はオルドの料理を食べたいです」

 

「あん? まあ、時間はそこそこあるから構いやしねえけどよ」

 

 俺の料理かー。なんとも珍しい奴だ。俺の料理なんかより王都の店の料理の方が美味いだろうに。 ま、俺の料理を食べたいと言われるのは悪い気はしない。頑張って作るとしようかね。

 

「オ、オルドって料理が出来るの!?」

 

 俺達の会話が聞こえたのか、聖女がやたら驚いた顔でこちらを見ていた。

 

「ええ、まあ、家事炊事洗濯一通り出来ますので」

 

「あ、あのさ、私も食べさせて貰えないかな? ダメ?」

 

「私なんかの料理より王都の店の料理の方が美味しいですよ?」

 

 この聖女入れたら多分というか、十中八九他の3人もくっついてきそうなんだよなー。流石に王族貴族に出せる様な品でもないし。

 

「ううん、別にいいよ。オルドが作るって事の方が大事だから」

 

「……そうですか」

 

 押し強いなーこの聖女。まあ、聖女はまだいい。問題はこっちをじっと見ている3人組よな。明らかに期待してるかのような目でこっちを見てるしさあ。傭兵団で鍛えた料理スキルだから王族貴族が食べるような美食では無いのよね。断りたいが王族貴族の頼みを断るのはなー。傭兵時代でもちょっと面倒ないざこざがあったし……。

 

「オルドよ、ここは皆で食事会といこうではないか」

 

「そうだぜ、今回のメンバーでチームを組むんだからな!」

 

「そうですね、野外実習訓練のためにも仲を深めるのも大事でしょう。ここは仲を深めるための食事会を開きましょう」

 

 ほらな? 絶対そう来ると思ったよ。つか、お前らが仲を深めたいのって聖女だろ。いやまあ、それ自体は別に構いやしないんだ。むしろ深めてくれりゃあ此方としても願ったり叶ったりだ。

 

 それに、聖女も俺のような輩とは親密になるべきじゃないだろう。

 

 それがきっとあいつの━━

 

 ……んお、今何考えたんだ? ダメだ、何考えてたか全く思い出せねえ。こっちに来てからたまにあるんだよなー。ボーッとしてしまう事。

 

 こりゃストレスだな。今度王都の外でメテオラと手合わせして貰うか。戦ってストレス発散しないとな。

 

「あのー私の料理は皆様が食べるような食事では無いですし、そんなものを食べさせるのは些か気が引けるのですが」

 

 一応は断り文句を入れてみる。だが、

 

「何、構いはせんよ。それに野外実習訓練では俺達の食べるものは出ないんだ。それに俺達は作ってもらう側の立場だからな、余程酷い味でなければ構わん」

 

 王子1号の言葉とそれに同調するかのような2人の言葉で完封されてしまった。こう言われてしまってはもう断れないだろう。変な確執も生みたくはないし、素直に作るべきか。

 

「分かりました。でも味の方はあまり期待しないでくださいね?」

 

 ◆

 

 さあ、やって来ました学園にある生徒用の厨房に。この学園、色んな科があるからこういうのもあるんだよね。使用許可は勿論取った。というか、3人組が取ってくれた。流石の先生といえどあの3人の頼みは断れんだろうしな。

 

 さて、今回の料理だが得意料理の1つのクリームシチューでも作るとしよう。慣れた料理の方が一番美味しく作れるだろうしな。さぁーて、傭兵団での作り方はブロック肉をそのままぶち込む作り方だったけど、今回は3人組がいるし切った方がいいかねー? 

 

 そんなことを考えているといつの間にか横に聖女が立っていた。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「私もなにか手伝えることないかなって思って」

 

 あー、なるほど手伝いに来たと。それは嬉しいけどお前が来たら他の3人も引っ付いてくるから今回ばかりはご遠慮願いたいんですわ。

 

「いえ、いいですよ。そこで座って待っててください」

 

「そ、そう? 何か手伝えることがあったら何時でも言ってね?」

 

 そう言うと聖女は何とも心残りと言った様子で此方をチラチラと見ながら帰って……帰ってねえな。さっきの位置からちょっと離れた位置に立ってるわ。そこまでして手伝いたいのか。ほら見ろ、他の3人も立ち上がってきたぞ。

 

「オルドよ! やはりこうして頼んだ手前ただ座って待っているだけというのも些か居心地が悪い。ぜひ手伝わせてくれ!」

 

「そうだな、それに皆で作った料理を食べるって言うのも仲が深まりそうじゃないか?」

 

「いいことを言いますねクロヴィス。ここは皆で一緒に作って仲を深めましょうか」

 

 ほらね。こーなることは読めてたよ。聖女が立ち上がった時点で色々とアウトだよこんちくしょう。多分何言っても話聞かなさそうだし、最低限怪我しないように見張っておけばいいか。

 

 メテオラの方をじっと見ると仕方なさそうに立ち上がって3人組が怪我しないように見張り始めた。

 

「そうですね、それじゃあ一緒に作りましょうか」

 

「じゃあ私は何をすればいいかな?」

 

 うおっ、近いなこいつ。作りましょうかと言った瞬間にはもう真横にいやがったよ。

 

「それじゃあレインは野菜を切りましょうか。怪我しないようにしてくださいね?」

 

「分かった!」

 

 そう言うと聖女はいくつかの野菜を手に取って切り始めた。その手際は何とも手馴れた様子だ。自炊でもしてたんだろうか。

 

「オルドよ、俺達は何をすればいい」

 

「お肉を切りましょうか。自分達が食べやすいくらいの大きさに切ってください。怪我は絶対にしたらダメですよ?」

 

「おう、心配しないでくれ。刃物の扱いには慣れてるからな!」

 

 肉の扱いには困ったが、こうすればいちゃもんも飛んでこないだろう。何せ自分で切ったんだからな。それに野菜は聖女が切ってる。尚更文句はとんでこない。

 

 さて、俺はクリームシチューの素の調合でもしとくか。

 

「あ、メテオラ。お前は付け合わせを作ってくれ」

 

「ん、分かりました」

 

 この後、3人組の個性溢れる肉の切り方をしていたり、野菜を切り終えた聖女が俺の横にぴったりと引っ付いてきたせいで3人組から若干の嫉妬を感じたり、炒める際の油の跳ねた音に王子コンビが驚いたり、聖女が水を一瞬で沸騰させたりと色々とハプニングはあったが無事クリームシチューは完成した。

 

 メテオラの方はどうやら付け合わせとしてサラダを作ったようだ。相変わらず盛り付けはすっごい綺麗なんだよなこいつ。あっち(傭兵団)でもこれくらいちゃんとやってくれりゃあいいのによ。

 

「で、出来たんだな! 俺達が協力して完成させた料理が! 」

 

「ええ、とても大変な道のりでした。ですが、こうして完成出来たのも私達が力を合わせたからです!」

 

「おー、すっげえいい匂いだ。早く食べようぜ」

 

 やたら感動的な様子の王子コンビとは異なり、割と冷めた様子の熱血男。まあ、ここは料理をした事あるかないかの差だろう。熱血男は野外炊飯とかした事ありそうだしな。

 

「ふふ、それもそうだね。私もお腹が空いちゃったし、早く食べよう」

 

 そう言って柔らかな笑みを浮かべる聖女に3人組が固まった。というか見惚れていた。そりゃあもう料理を完成させた時の感動よりも圧倒的に上の衝撃だったようだ。

 

 3人組が見惚れてる間にこっちは配膳をしておく。ついでに買っておいたパンを食べやすいようにスライスしたのをクリームシチューの皿とは別に配膳する。

 

 クリームシチュー、パン、サラダ、飲み物の配膳はできた。その後は各自適当な席に座って飯を食べ始めた。

 

「美味いな……。なんともホッとする味だ。それに自分で頑張って作ったのもあるからか、いつも食べてるものより美味しく感じるな」

 

「ええ、とても優しい味がします。母様を思い出させるような、そんな味です」

 

「すっごい美味いなこの料理! これならいくらでも腹に入りそうだ」

 

 うーんこの、王子コンビと熱血男の差よ。や、まあ別にいいけども。メテオラは相変わらず無言でバクバク食べてる。あっちと変わりねえな。あーもう、口につけてよぉ。ったく、みっともねえ。

 

「おい、メテオラ」

 

「ん」

 

 メテオラの口周りを軽く拭ってやって綺麗にする。此奴はいっつもこうなんだよなー。割と口周りに付けるからそれが気になってよく拭っちまう。

 

 そういや聖女はどうなのかね? 

 

 そう思って聖女の方を見てみると頬にクリームシチューを付けた聖女がこちらを見ていた。いや、何でそこにつくんだよ。

 

「あー、レイン? 頬についてますよ」

 

 言外に拭けという圧力に屈して新しい紙を取り出して聖女の頬を拭う。すると聖女は少し恥ずかしそうに顔を紅潮させて礼を言ってきた。

 

「あはは、付いてたなんて気づかなかったや。ありがとね、オルド」

 

 それほんとかぁ? 思わず疑惑の目を聖女に向けてしまう。その視線を何をどう勘違いしたのか知らんがやたら照れた様子の聖女。

 

 まあいいや、とっとと俺も食おう。そう思って切ったパンをクリームシチューに付けて食べ始めた。

 

 ちなみにクリームシチューはとっても美味しかったです。




オルド:絶賛イライラ期到来。満足に戦えなかったのでさらにイライラ中。クリームシチューの素を調合と炒める担当。

レイン:オルドからチームに誘われて大喜び。そのあとの食事ではメテオラに対抗して頬につけた。やったはいいものの後々恥ずかしくなったそう。野菜を切るのと沸騰させる担当。

メテオラ:オルドの猫被り姿についに我慢できずに笑った。オルドがいない時は口周りにつけたりはしない。オルドが何かと世話を焼いてくれるのを知っているので狙ってやる策士だったり。傭兵団では割と適当な料理をする。サラダ担当。

アルベール:王子1号。初めて自分で作った料理に感動。油の跳ねる音に驚いたりしてた。お肉を切る担当。ちなみに切ったお肉は切りすぎてミンチみたいになってた。

クロヴィス:熱血男。料理を作ったことは何回かあるのでさほど感動はしていない。お肉を切る担当。切ったお肉豪快にも程があるほどでかいブツ切り。多分3口分くらいある。

ハンス:王子2号。1号と同じく自分で初めて作った料理に感動。王子コンビ揃って同じ反応してた。お肉を切る担当。切った肉はめっちゃ細く切ったせいでペラペラになった。

ちなみにオルド君がいなかった場合は聖女と五人衆でチームが出来ていたり。

クリスマスには投稿出来たので失踪させていただきます(サンタ並感)


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