僕とSHUFFLEと召喚獣 (京勇樹)
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試験召喚戦争編
プロローグ 再会


満を持しての投稿開始です!!


桜散る季節

 

その桜並木を、3人の男女が歩いていた

 

「あれから5年か………」

 

そう呟いたのは背筋がピンとしている男子で、名前は土見稟(つちみりん)と言う

 

「明久くん……」

 

その右隣に立っているのは、セミロングの橙色の髪にリボンを結んだ美少女で、名前は芙蓉楓(ふようかえで)

 

稟の幼なじみの一人である

 

「アキくん……」

 

そして稟の左側には、全体的に長い黒髪を前側だけリボンでツインテールに纏めた大和撫子と言える美少女が居た

 

名前は八重桜(やえさくら)

 

桜も稟の幼なじみである

 

そんな三人の表情には陰りがあり、晴天とは裏腹だった

 

しばらく歩いていると、大きな校門が見えた

 

そして、その校門の前には、筋骨隆々の男性が脇に箱を抱えて立っていた

 

「「「おはようございます。西村先生」」」

 

「うむ、おはよう」

 

男性の名前は西村宗一(にしむらそういち)と言い、通称が鉄人である

 

鉄人と呼ばれる理由は、彼の趣味にある

 

彼の趣味は、筋トレ、レスリング、トライアスロンなのである

 

西村は挨拶をすると、脇に抱えていた箱から、三通の封筒を取り出して

 

「ほれ、これがお前達のクラス分けだ」

 

と稟達に、手渡した

 

「「「ありがとうございます」」」

 

三人はお礼を言うと、封筒を開けはじめた

 

何故、こんな方法で発表するのか

 

それは、この学園が有名なのと特殊なシステムを採用してるのが上げられる

 

まず、この学園が有名な理由

 

それは、この学園に通っているのは人間だけではない

 

神族と魔族も通っているのだ

 

神族と魔族とはなにか

 

それは、今から約10年前に太平洋のある島にあった、ある遺跡から端を発する

 

その遺跡に突如、巨大な門が出現して、開いたのだ

 

これが今で言う、<開門事件>である

 

この開門事件で、世界中は神族と魔族に邂逅したのだ

 

神族と魔族は見た目、同じ人間に見えるが、耳が特徴的に違うのだ

 

神族と魔族は耳が尖っているのだ

 

しかも、この二つの種族は、それまで絵空事と言われていた<魔法>が実在すると言う証明になったのだ

 

それにより、世界は彼らと交流するべく、世界中に交流指定都市を作ることを制定したのだ

 

そのひとつがここ、文月学園の存在する光陽町なのだ

 

そしてこの文月学園は、その魔法と最先端科学と少しの偶然で世界初のある特殊なシステムが開発されたのだ

 

それが<召喚獣システム>である

 

この召喚獣システムは、生徒のテストの点数がそのまま強さになるのだ

 

故に、この学園では世界で初めて、テストの点数上限が廃止されているのだ

 

そして、その点数により上はAクラスから下はFクラスまで組分けをするのだ

 

クラス分けをすると、設備に差が生まれる

 

その差は激しく、Aクラスは豪華の一言で、反対にFクラスはボロボロらしい

 

何故、そんなに差をつけるのか

 

それは、召喚獣システムに起因する

 

この召喚獣システム

 

戦わせることが出来るのだ

 

それを個人戦ではなく、集団でやったらどうなるか

 

それが、この学園の特色、試験召喚戦争である

 

試験召喚戦争はお互いのクラス設備を賭けて戦うのだ

 

しかし、前述した通り、上位のクラスとは点数差がある

 

だったら、どうやって勝つのか

 

召喚獣の操縦技術を上げるか

 

策謀をめぐらせるか

 

テストの点数を上げるしかないのだ

 

それを利用して勉強意欲を掻き立てようというのが、文月学園の目的なのだ

 

そして、三人の結果は

 

土見稟 Aクラス

 

芙蓉楓 Aクラス

 

八重桜 Aクラス

 

だった

 

「流石だな、お前ら! さぁ、胸を張ってクラスへ行け!」

 

「「「はい」」」

 

西村の言葉に、三人は頷いて教室へと向かった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所 Aクラス前の廊下

 

「なぁ……ここ、本当に学校か?」

 

稟はそう言いながら、固まっていた

 

「あ、あははは………」

 

「これでは…ホテルと言えますね………」

 

桜は苦笑いしか出来なくて、楓は一応笑っているが、驚いている

 

すると

 

「ねぇ……扉の前で、固まらないでくれる? 入れないんだけど」

 

と、三人の背後から女子の声

 

三人が振り向くと、そこに居たのは

 

「木下さん。おはようございます」

 

「優子ちゃん。おはよう」

 

「木下さん。おはよう」

 

上から、楓、桜、稟の順番である

 

三人がそれぞれ、挨拶すると

 

「ええ、おはよう」

 

木下優子(きのしたゆうこ)は挨拶しながら、ドアを開けようとした

 

 

それを稟が止めた

 

優子は、いぶかしむような視線を稟に向けた

 

すると、稟はジェスチャーで横にどくように指示した

 

優子は首を傾げながらも、指示に従った

 

すると、稟は深呼吸して

 

ドアを一気に開けた

 

その瞬間

 

「ようこそ、楓ちゃん! 俺様の」

 

と眼鏡を掛けた男子が、両手を広げて突撃してきた

 

それを稟は

 

「フン!」

 

短い呼吸と共に、腰の入った右拳を男子の腹部に叩き込んだ

 

「ガフッ!?」

 

「相変わらずだな……(いつき)

 

眼鏡を掛けた男子

 

緑葉樹(みどりばいつき)

 

彼は頭が良く、スタイルも抜群だが

 

女遊びが悪く、趣味がナンパと言う程である

 

稟とは文月学園に入ってから知り合ったが、親友でもあり悪友だ

 

「り、稟か……いい拳だ……」

 

そこまで言うと樹は、腹部を押さえながら倒れた

 

それを稟は気にすることなく、教室に入った

 

「ね、ねぇ……これ、いいの?」

 

優子は呆然としながら、倒れてる樹を指差した

 

「あはは……何時もの事だから」

 

「はい……何時もの事なんです」

 

二人は苦笑いしながら、教室に入った

 

優子は倒れた樹を気にしながら教室に入った

 

すると、ちょうどよくチャイムが鳴った

 

そしてチャイムが鳴ると同時に、女性が二人入ってきた

 

「私は学年主任であり、Aクラス担任の高橋洋子(たかはしようこ)です」

 

「そして、私は副担任の紅薔薇撫子(べにばらなでしこ)だ」

 

二人がそれぞれ自己紹介すると、背後のプラズマディスプレイに名前が表示された

 

紅薔薇撫子が現れた時、稟は内心嬉しかった

 

紅薔薇撫子は、稟達をなにかと気にしてくれて、時々相談にも乗ってくれた

 

「では、設備を説明する前に、編入生を紹介します」

 

そう高橋女史が説明すると、教室内が騒がしくなった

 

すると

 

「やかましい! グラウンドをタイヤ引き40周させるぞ!?」

 

一言言い忘れたが、紅女史は熱血教師である

 

紅女史の言葉に、Aクラスは流石に黙った

 

すると

 

「では、入ってください」

 

と、高橋女史がドアに向けて言った

 

 

現れたのは

 

「おーう! なかなかいい設備じゃねぇか!」

 

「そうだね、神ちゃん。これなら、ウチのネリネちゃんの勉強もはかどるだろうね」

 

二人の男性だった

 

稟はその二人を見て、少し驚いた

 

その二人の男性は人間ではなかった

 

片方は黒い服を着た長身の男性で、耳が異様に尖っている

 

魔族の証拠だ

 

もう片方は、鍛え上げられた筋肉が凄まじく、着流しで隠しきれていない

 

そして、魔族ほどではないが尖った耳

 

神族の証拠だ

 

その二人が入ってきたことにより、教室内は完全に固まっている

 

「で、目的の人物はどこだい?」

 

「ちょっと待ってろよ………お? 居た居た」

 

魔族の男の言葉に、神族の男性は目を凝らして教室を見回して

 

稟を見ると、近づいてきた

 

「おめぇが稟殿か……なるほど。いい眼をしてるじゃねぇか! うちのシアをよろしく頼むぜ?」

 

神族の男性はそう言いながら、稟の背中を叩いた

 

あまりの強さに、稟は前のめりになった

 

「おっと、抜け駆けするのはナシだよ、神ちゃん! 私のネリネちゃんもよろしくね!」

 

魔族の男性は慌てた様子で、稟の肩に手を置きながら言ってきた

 

「は、はい?」

 

と稟が困惑していると

 

ドゴオ!!

 

という凄まじい音と共に、神族の男の頭が横にズレた

 

「もう! お父さん! 恥ずかしいから、それ以上なにもしないで!!」

 

その背後には、両手にパイプイスを握っている神族の少女が居た

 

(あのイスで殴ったのか?)

 

稟はあまりの事態に着いていけず、呆然としていた

 

「シア? 椅子はやめろと何度も言ったろうが………」

 

どうやら、椅子で殴るのは日常茶飯事らしい

 

「これじゃないと、効果がないし、少し血の気を抜くくらいが丁度いいんです!」

 

苦言してきた父親に少女は毅然と言い放つと、顔を稟に向けて

 

「ゴメンね、稟くん。大丈夫?」

 

ペこりと頭を下げて謝ってきた

 

「お父様もやり過ぎです。稟様が困ってるではありませんか」

 

「いやあー、ゴメンね? ネリネちゃんの可愛さを分かってほしくて、つい……」

 

気付けば、魔族の男性の後ろに魔族の少女が居た

 

しかも、美少女と言っても過言ではない

 

「で、どっちが原因なの?」

 

と、神族の少女が問い掛けると

 

「「神ちゃん(まー坊)が!」」

 

と二人して、互いを指差した

 

すると

 

「「二人とも同罪です!」」

 

「「はい……」」

 

と、半ば漫才をしていたら

 

「で、話を進めてもよろしいですか?」

 

紅女史が、笑顔だが、凄まじい覇気を放出していた

 

「「「「はい……」」」」

 

四人はうなずくことしか、出来なかった

 

閑話休題《そんでもって》

 

「リシアンサスです! 神界からやってきました! まだ不慣れなこともあるかと思いますが、よろしく頼むっす!」

 

「ネリネと申します。皆さん。よろしくお願いします」

 

二人が対極に自己紹介すると

 

「私の名前はフォーベシィ。ネリネちゃんの父親であり、魔王である。見知っておいてくれたまえ」

 

「俺の名前はユーストマだ! シアの父親で神王をやってる! まあ、よろしく頼むぜ?」

 

続いて、父親二人が衝撃的な発言をした

 

 

「お二人は結構です………それに、まだ一人終わってません!」

 

紅女史が顔を赤くして、一人の男子を指差した

 

紅女史が指差して初めて、Aクラスの面々はそこに男子が居ることに気づいた

 

そして、稟、楓、桜の三人はその男子を見て固まった

 

なぜか

 

理由は簡単だ

 

その男子は………

 

「俺の名前は吉井明久(よしいあきひさ)と申します。リシアンサス殿下とネリネ殿下の護衛を勤めています」

 

死んだと思っていた明久だったからだ

 

「明久!?」

 

「明久くん!?」

 

「あ、アキくん!?」

 

稟達は思わず、立ち上がっていた

 

 

 

これは、悲しみを背負って、自ら犠牲になった少年と

 

幼馴染の少年少女たち

 

そして、周囲の人物達が奏でる

 

ひとつの物語である



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驚愕の事実

左目に眼帯を装着した少年、吉井明久が名乗り、明久を見た稟達が驚愕して立ち上がると、教室内は時間が止まったように静かになった

 

すると、ネリネとシアの二人が前に出て

 

「稟様……」

 

「明久君のことなんだけど……」

 

と、辛そうに口を開いた

 

が、そのタイミングでドアが開いて

 

「すいません……遅れました」

 

「遅れました!!」

 

二人の男女が入ってきた

 

女性のほうは、長い白髪に整った容姿。だが、その両目は閉じられており車椅子に座っている

 

その車椅子を押しているのは、金髪リーゼントにサングラス、更には制服越しだというのにわかるほどの鍛え上げられた大柄な体躯が特徴だった

 

すると、それまで呆然としていた紅女史がハッと我に帰って

 

「ああ……お前たちか。連絡は受けている。名札の置いてある机に付け」

 

と、二人に説明した

 

すると、二人は頷いて

 

「わかりました!」

 

「承りました」

 

と、机に向かおうとした

 

が、車椅子に座っている女性がハッとした様子で顔を上げた

 

「どうした、智代?」

 

金髪リーゼントの男子、皇興平(すめらぎこうへい)が問い掛けるが、白髪の女性

 

皇智代(すめらぎともよ)は答えずに、顔を明久のほうに向けて

 

「この感じは……明久?」

 

呆然とした様子で呟いた

 

「なに!?」

 

智代の呟きを聞いた興平は、視線を明久に向けて

 

「あ、明久!?」

 

明久に気づくと、目を険しくして明久に掴みかかった

 

「明久! テメエ、今までどこに居た!」

 

興平が凄い剣幕で怒鳴るが、明久は首を傾げて

 

「俺を知ってるのか……?」

 

と、問い掛けた

 

明久の言葉を聞いた稟は、驚いた様子で目を見開いて

 

「なに言ってるんだよ! 興兄と智代姉さんじゃないか!」

 

と言うが、明久は尚も首を傾げていた

 

すると、ネリネとシアが悲しそうに

 

「稟様……」

 

「言いたかったのは、そのことだったの……」

 

と呟いた

 

「どういう……ことだ?」

 

稟が問い掛けると、ネリネとシアは数瞬口をつぐんだが

 

「私達が明久君を保護したのは五年前なんだけど……」

 

「保護した時から、明久さんは名前以外、何も覚えてなかったんです……」

 

シアに続いてネリネが告げた言葉を聞いて、稟達は固まった

 

「な、なんだと……?」

 

興平が唸るように呟くと、手を叩く音がして

 

「歓談中すまないが、私と高橋先生はFクラスがDクラスに対して宣戦布告したために、試験召喚戦争に備えて待機する。その前に、クラス代表だけでも紹介しておく。霧島、前に出ろ」

 

紅女史がそう言うと、黒髪ロングの女子が立ち上がり前に出た

 

「……霧島翔子(きりしましょうこ)です。よろしく」

 

と、簡潔に自己紹介して頭を下げた

 

それを確認した高橋女史は頷いて

 

「皆さん、霧島さんに従って試験召喚戦争に負けないようにしてください。それでは……」

 

と言って、紅女史と共に教室から退出した

 

その後、Aクラスの生徒達は紅女史の指示に従って軽く自己紹介しあっていた

 

そんな教室内の一角では

 

「あの……剣神の吉井明久様ですよね?」

 

神族と魔族の少女達が、座っていた明久に声を掛けていた

 

「まあ、確かにそう呼ばれているな」

 

明久が肯定すると、少女達は嬉しそうに

 

「あ、あの! 私達、あなたのファンなんです! 握手してもいいですか!?」

 

と問い掛けると、明久は少し不思議そうに

 

「別に構わないが……」

 

と頷いてから、二人の少女と交互に握手した

 

握手した少女達は、嬉しそうにはしゃぐと明久に頭を下げて離れた

 

その光景を見ていた稟達は、悲しそうに

 

「本当に、変わっちまったな……」

 

「はい……」

 

「うん……」

 

「明久……」

 

そう呟いていた

 

場所は変わり、旧校舎屋上

 

そこには、数人の男女が座って話し合っていた

 

話し合っているのは、Dクラスに対して宣戦布告したFクラスの生徒である

 

すると、逆立った赤髪の男子、Fクラス代表の坂本雄二が思い出したように

 

「そういやぁ、ムッツリーニに麻弓。確か、Aクラスに転校生が入ったよな? 情報はあるか?」

 

と小柄で三白眼が特徴の男子と、右目が赤で左目が青の少女に問い掛けた

 

三白眼の男子、ムッツリーニこと土屋康太は

 

「……俺が調べた限り、転校生は三人。美少女二人と男が一人だ」

 

と呟くように言って、それに続くようにオッドアイが特徴の少女、麻弓=タイムは何処からかデジタルカメラを取り出して

 

「写真を撮ってあるのですよ!」

 

と操作してから、全員に画面を見せた

 

その画面に写っているのは、ネリネとシア。そして、明久だった

 

「まず、一番左側の子は魔界の王女のネリネ様。真ん中の子がリシアンサス様。最後に、左側の男子が神界魔界合同近衛部隊部隊長にして、剣神の称号を持つ吉井明久なのですよ」

 

と麻弓が言うと、雄二は腕組みして

 

「魔界と神界の王女に近衛部隊の部隊長が、なんでこんな所に来たんだ?」

 

と首を傾げた

 

「どうやら、誰かに会いに来たらしいのですよ」

 

「なるほどのう……む? 姫路よ、どうしたのじゃ?」

 

「まるで幽霊を見たような顔をして」

 

雄二の疑問に麻弓が答え、そのことに女子に見える男子

 

木下秀吉が頷いていると、自分の隣に居た女子、姫路瑞希が目を見開いていることに気づいた

 

そして、同じように気づいたポニーテールの女子、島田美波が問い掛けると、姫路瑞希は両手をパタパタと振って

 

「あ、いえ……大丈夫ですよ?」

 

と言ったが、内心では

 

(なんで……なんで、この人殺しが生きてるんですか!?)

 

と驚愕していた

 

(生きてるわけが無いんです! だって……この人殺しは、五年前のあの日に……)

 

姫路の脳裏によぎったのは、幼い明久が流血している左目を手で覆いながら落ちていった光景だった

 

(私が突き落とした筈なのに!)

 

だが、明久はこうして生きている

 

それを確認した姫路は

 

(このままじゃ、また楓ちゃんから笑顔が無くなります……だったら、私が勝ってあの人でなしを学校から追い出します!)

 

と拳を握り締めながら、意気込んでいた



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明久の仕事の一端

FクラスとDクラスが試験召喚戦争をしている最中のAクラスでは

 

「明久くん、ここは何て訳すんすか?」

 

「ああ、そこはですね……」

 

普通に自習していた

 

シアは英語が苦手らしく、明久に訳し方を教えてもらっている

 

ネリネはノートに向かっており、シャーペンをカリカリと動かしていたが止まると、視線を明久に向けて

 

「明久さん……ここなのですが……」

 

と問い掛けた

 

問い掛けられた明久は、ノートを見ると

 

「ああ、そこはですね、この公式を当てはめると解けますよ」

 

と教えた

 

その光景を見た稟達は、少し呆然とした様子で

 

「あの明久が……勉強を教えてる」

 

「うん……」

 

「そうですね……」

 

「ヤバい……ギャップが激しい」

 

「確かに、そうですね……」

 

と口々に言った

 

何気にかなり失礼だが、それも仕方ないかもしれない

 

稟達の記憶の中の明久は、かなりの勉強嫌いで、はっきり言ってバカと言えた部類だったからだ

 

その明久が、王女二人に勉強を教えている

 

これほどギャップが強いことはない

 

そう思いながら、稟達が固まっていると

 

『ピンポンパンポン♪』

 

突如、放送が始まった。

 

その放送に気づいたAクラスの生徒達は、視線を上に向けた

 

『船越先生、船越先生』

 

「船越先生って、誰?」

 

「数学の先生なんですが……」

 

「最近は、ちょっと悪い噂が絶えない先生なんだ……」

 

船越先生を知らなかったシアが問い掛けると、楓と桜の二人が苦笑いしながら軽く説明した

 

その時だった

 

『Aクラスの土見稟が体育館裏で待ってます。船越先生と大事な話があるそうです。繰り返します……』

 

という、とんでもない放送がされた

 

「ふっざけんなぁぁー!」

 

その放送を聞いた稟は、心の底からの雄叫びを上げた

 

船越先生の悪い噂というのは、彼女は仕事にのめり込んだ結果婚期を逃してしまい、四十五の今になっても独身で、今となっては成績を盾に生徒に交際を迫るようになってしまっているのだ

 

当然、今のような放送をすれば、もの凄い形相と勢いで婚姻届を持ちながら迫ってくることは想像に難くないのだ

 

その時

 

バタン!

 

ドアの閉じる音が、教室に響いた

 

「おや? 明久はどうしました?」

 

「あれ? そう言えば、居ないっすね……」

 

智代の言葉を聞いた興平が見回すが、明久は居らず、二人して首を傾げた

 

『……大事な話があるそう……』

 

と、そこまで放送が聞こえたタイミングで、何か重い物が崩れ落ちた音が放送越しに聞こえた

 

『何事!? ドアがいきなりご臨終に!? って、ギャアアァァァ!!』

 

男子の悲鳴が聞こえ、教室を沈黙が支配した

 

数秒後、軽く叩く音がしてから

 

『あーあー、ごほん……船越先生、先ほどの放送は誤報です。ここに居る男子を好きにしていいですから……それでは』

 

「今の声は……」

 

「明久くん……ですね」

 

「うん……」

 

その放送を聞いた稟達が呆然としていると

 

『ここかしらぁー?』

 

という、女性の声が聞こえた

 

『見ぃーつけたー』

 

『ヒィッ!? 船越先生!?』

 

どうやら、その女性が船越先生らしい

 

『あらあら……あなたはFクラスの須川君じゃない……』

 

『船越先生! 待ってください! これは、間違っ!』

 

『ウフフフフ……恥ずかしがらなくっていいのよ? さぁ、今すぐに婚姻届(コレ)を提出しに行きましょう!』

 

『来ないで! 来ないでぇ!!』

 

『ウフフフフフフフフフ……』

 

『嫌だァァァァァ!!』

 

その悲鳴を最後に、何も聞こえなくなった

 

あまりの事態に、クラス中の生徒達が沈黙していると、ドアが開き

 

「ただいま戻りました」

 

明久が帰還した

 

「あ、明久くん」

 

「お勤めお疲れ様です」

 

シアとネリネが慣れた様子で言うと、明久は軽く頷いて

 

「軽く、害虫駆除をしてきました。ああ、それと連絡は済んでますので大丈夫ですよ」

 

もはや、人間扱いされてない須川である

 

明久の言葉を聞いたシアは、取り出していた携帯をカバンに仕舞った

 

この時、Aクラスの生徒達は心の底から誓った

 

(彼だけは、敵に回さないようにしよう……)

 

 

余談だが、暴走した船越先生は紅女史と西村先生によって止められたらしい

 

余談その2

 

明久が斬った放送室のドアは、数時間後には元通りになっていたらしい

 

そして、下校時間の後にFクラスが勝利したのだった

 

 

 



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帰宅と話と……

今回は、若干シリアスですよ


FクラスがDクラスを下した日

 

稟達は揃って帰宅している途中だった

 

稟は、自分と楓が住んでる家の両側に建っている巨大な家を見て

 

「この魔法ハウス……誰が住んでるんだ?」

 

と首を傾げた

 

魔法ハウス

 

この呼び方は、近所の子供達が付けた呼び方である

 

理由としては、一週間程前である

 

1、ある日、両隣の計八軒に住む人達が突如、一斉に引っ越し

 

2、翌日の朝には、もはや更地

 

3、その日の夕方には、既に出来上がり

 

これは、魔法ハウスと呼ばれても仕方ない

 

すると、稟の呟きを聞いたのか、ネリネとシアが手を上げて

 

「こっちの家が私の家で……」

 

「こちらが、私の家です」

 

シアが純和風の家を指差し、ネリネが純洋風の家を指差しながら呟いた

 

その呟きを聞いた稟達が固まっていると、明久が顔を芙蓉家に向けて

 

「人の気配がする……」

 

と言った

 

それを聞いた稟達は驚愕した様子で

 

「なんだって!?」

 

「そんな、今日はお父さんも仕事の筈なのに……」

 

「一体、誰が……」

 

と口走った

 

すると明久は、物音を立てずに玄関まで駆け寄ると懐から刀の柄の部分を取り出して、構えた

 

すると、その柄から半透明の刃が出現した

 

「なんだ、アレ……」

 

明久が持っているのを見た稟が呟くと、シアとネリネが近寄って

 

「あれは、魔力刀っす」

 

「魔力刀?」

 

「はい、使い手が集中すると魔力による刃を形成する道具です」

 

と、稟に説明した

 

その説明を聞き終えて、稟が視線を向けると、明久はドアを開けて中を見ていた

 

稟達が近寄ると、明久は居間の方を見ていて

 

「居間に居るな……数は一人だな」

 

と呟くと、ゆっくりとドアノブに手を伸ばすと掴んだ

 

そして数秒後、一気に開けると居間に突入すると

 

「動くな! 何者だ!」

 

と大声を張り上げた

 

その声の直後、稟達も居間に入ると固まった

 

なにせ、居間に居たのは

 

「幹夫さん!」

 

「お父さん!?」

 

「幹夫おじさん!?」

 

楓の父親にして、稟と明久の本来の後見人

 

芙蓉幹夫(ふようみきお)だったからだ

 

幹夫は最初、明久に刃を向けられて呆然としていたが稟達に気づくと片手を上げて

 

「や、三人とも」

 

と微笑みながら、挨拶した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

十数分後、明久やネリネ、シアを含めて、稟達はソファーに座っていた

 

なお、明久は頑なに稟達の後ろで立つことを譲らなかった

 

「お父さん、まだ出張中のはずじゃあ?」

 

楓が問い掛けると、幹夫はフンスと鼻息荒く

 

「明久くんが生きてると聞いて、仕事なんかしてられるか」

 

と言うと、視線を明久に向けて手招きした

 

呼ばれた明久は、幹夫の近くに寄った

 

すると幹夫は、明久の顔をジッと見つめて

 

「生きてくれて、良かった……君に死なれたら、あいつらに申し訳が立たなかったよ……」

 

そう言うと、肩を震わせた

 

「あいつらとは、一体……」

 

明久が首を傾げながら問い掛けると、幹夫は目尻に浮かんだ涙を拭いながら

 

「ああ……そういえば、明久くんは記憶喪失だったね……待っていてくれ」

 

幹夫はそう言うと、ソファーから立ち上がり部屋を出ていった

 

数分後、幹夫は一冊の厚いアルバムを持ってきた

 

そして幹夫は、持ってきたアルバムを開くと机の上に置いて

 

「これを見てごらん」

 

と言いながら、写真を指差した

 

明久達は幹夫が指差した写真に視線を向けた

 

そこに写っていたのは、かなり幼く、幼稚園の制服を着ている明久と、今の明久に雰囲気が似ている優しそうな女性

 

そして、クールそうな雰囲気の男性と小学校高学年か、中学生くらいの少女だった

 

その写真を見たシアが、幹夫に視線を向けて

 

「もしかして、この写真に写ってるのが……」

 

と問い掛けると、幹夫は頷いて

 

「ああ……明久君とその家族だ」

 

悲しい笑みを浮かべながら、呟くように言った

 

すると、ネリネが戸惑いの表情を浮かべながら

 

「あの……明久さんのご家族は……」

 

と幹夫に問い掛けた

 

すると、幹夫は目を細めて

 

「今から八年前に……私の妻と稟くんの両親と一緒に……事故で死んだよ……」

 

と呟いた

 

「そんな……」

 

「ようやく、明久くんの居た町がわかったと思ったのに……」

 

幹夫の話を聞いて、ネリネとシアは俯いた

 

「今は、私が明久くんと稟くんの後見人ということになっているが……五年前に……明久くんが行方不明になってしまった時は、彼らに申し訳が立たないと思ったよ……」

 

幹夫はそう言いながら、写真を見つめた

 

そして数秒間写真を見つめると、視線を明久に向けて

 

「明久くんが生きてると聞いて、私は嬉しかったが同時に、謝りたいと思ったよ……私が弱かったから、明久くんに犠牲を強いてしまい、挙げ句の果てには明久くんから、大切なモノすら奪ってしまった……」

 

幹夫はそう言うと、膝の上で組んだ両手の上に、頭を乗せた

 

すると明久は、一旦目を閉じて

 

「今の俺には、記憶はありませんが……恐らく、こう言ったでしょう」

 

と言うと目を開き、幹夫を見つめて

 

「『これは、俺が選んだ道なんです。だから、後悔はしてません……』とな……」

 

と言い、それを聞いた稟達は息を呑んだ

 

ああ……それは確かに、明久が言いそうなことだと

 

明久は誰かの為に全力で行動できる人間で、それにより怪我しても、笑って相手を許した

 

そして五年前に起きたことも、明久の行動が理由で起きた悲劇だった

 

稟と幹夫は、その時の明久の言葉を思い出した

 

『稟と楓ちゃんには、笑顔で居てほしいから』

 

明久はそう言って、自身が傷つくのを躊躇わなかった

 

本当は稟が行おうとしたのに、それを明久が先に行った

 

それにより、楓は確かに、稟に対しては笑顔を見せていた

 

だが、その代わりに明久が傷ついて、稟は心が痛かった

 

そして、五年前に明久が行方不明になった時は泣いた

 

なぜ、こうなる前に止められなかったのかと

 

兆候は何回もあった

 

怪我なんて何時ものことで、中には明久を殺そうとしたとしか思えないこともあった

 

明久を思って、幹夫は何回も止めようとしたが、その全てを明久は拒否した

 

楓ちゃんと稟のためなら、僕は頑張れるから。と

 

それを聞いた幹夫は、自分の無力さに涙した

 

だからせめて、明久や稟が大人になるまでは責任を持って守ろうと思った

 

だが、その思いは守れなかった

 

明久はある日、散歩に行ってくると言って出ていったきり、帰ってこなかった

 

なお、その途中を興平が見ており、後に興平は一緒に着いて行けばよかったと後悔していた

 

ただ、その時の興平の証言により、明久の足取りが掴めて、明久は近場のハイキングなどに選ばれる小さい山に向かったことがわかった

 

その後、警察の捜索により、飛び散っている血痕と、その時履いていた靴が片方だけ見つかったが、明久は依然として見つからなかった

 

捜索状況を聞いた幹夫は、酷く落ち込みソファーに座り込んで一晩中涙を流した

 

その後もしばらくの間、捜索は続いたが半年を過ぎた辺りで、捜索は打ち切りになった

 

その後、吉井家の墓前にて、幹夫が泣きながら何度も頭を下げていたのを寺の住職が確認している

 

そして、楓はその二年後に真実を知り、泣きながら居ない明久に謝り続けた

 

稟と興平は自分の無力さに絶望し、もう失わないようにと、自身を鍛えた

 

桜は明久の自己犠牲を怒りながら、事態を見てることしか出来なかったことを泣いた

 

智代は病弱な体を恨めしく思い、出来るだけ、体を鍛え知識も蓄えた

 

そして明久に再会して、全員の気持ちは一つになった

 

《もう二度と、明久だけに背負わせない》

 

そう心に誓った

 

 



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空気の重い昼休み

翌日、昼休み

 

場所 屋上

 

そこは、大変、空気が重かった

 

なお、その重い空気の中心は……

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

稟達Aクラス組と

 

「…………」

 

姫路だった

 

(ちょっと、緑葉くん! どういう状況よ!)

 

(そんなの、俺様が知りたいよ!)

 

(……空気が重すぎる!)

 

(稟達になにがあったのでしょうか……)

 

(うーん……わからないなぁ……でも、ただ事じゃないよね)

 

巻き込まれた形になった五人は、小声で話していた

 

話は数分前に遡る

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

昼休み直後

 

「くあぁぁ……ようやく、昼休みか」

 

昼休みのチャイムが鳴り、教師が出ていくと稟は背伸びした

 

すると、桜と楓が近づいてきて

 

「稟くん、お昼にしましょうか」

 

「一緒に食べよう!」

 

と言ってきた

 

稟はそれに頷くと、視線を樹に向けて

 

「樹! お前も一緒に食わないか?」

 

と声を掛けた

 

「OK、構わないよ。ついでだし、シアちゃん達も一緒でいいよね?」

 

と言った

 

既に、樹の背後にはシア、ネリネ、明久の姿があった

 

三人としては、拒否する理由がなかったので了承した

 

すると

 

「あ、私達もいいですか?」

 

「俺達も弁当だから、いいか?」

 

皇夫婦も提案してきた

 

なぜ夫婦なのかと言うと、まず智世は病弱なので入退院を繰り返した結果、現在二十歳

 

興平はそんな智世に付き合って、十八歳である

 

そして、文月学園に入ったと同時に入籍したのだ

 

ゆえに、公式的にも二人は夫婦である

 

閑話休題

 

「いいですよ。それじゃあ、いい天気だし。屋上で食べないか?」

 

と稟が問い掛けると、全員は頷いた

 

そして、屋上に到着すると、そこには

 

「おや、麻弓じゃないか」

 

「あら、緑葉くんに土見くん達」

 

麻弓=タイムを含めた、Fクラスの姿があった

 

話によると、姫路がお弁当を作り過ぎたらしく、ちょうどいいから屋上で食べようということになったらしい

 

それを聞いた樹は、一緒に食べることを提案

 

稟達も不承不承ながらも、その提案に従った

 

そして、冒頭に戻り

 

樹達が小声で話し合っていると、ドアが開きFクラス代表の坂本雄二と島田美波が現れた

 

なお、二人の腕の中にはFクラスの人数分のジュースがあった

 

どうやら、食堂で買ってきたらしい

 

「あ? 土見じゃねぇか。それに、転校生の三人も」

 

雄二は気付くと、片眉を上げた

 

そして、島田は

 

「あ! 土見! またあんたは、そんな女達と!」

 

稟に気付くと、缶を落として稟に近づいてきた

 

 

「それ以上、近づくな」

 

明久がいつの間にか抜いた魔力刀の切っ先を、喉元に突きつけていた

 

「な、なによ!」

 

「貴様からは、害意しか感じられない」

 

島田が睨みながら聞くと、明久は淡々と答えた

 

すると、雄二が島田の肩を掴んで

 

「島田、揉め事を起こすな」

 

と言った

 

「なんでよ! ウチはただ!」

 

雄二の言葉を聞いた島田は、雄二に反論するが、雄二は睨みを効かせて

 

「二度は言わないぞ?」

 

と言うと、島田は歯を食いしばって

 

「わかったわよ……」

 

稟を睨みながら下がり、姫路の隣に座った

 

それを確認すると、雄二は

 

「悪いな、土見。俺のクラスの奴が迷惑を掛けたな」

 

と謝ってきた

 

「別に構わない」

 

稟はそう簡潔に答えると、弁当を開いた

 

他のメンバーも各々、弁当を開いた

 

その中でも、一際眼を惹いたのは

 

「うわ、凄い綺麗……」

 

明久が置いた重箱式弁当だった

 

重箱の中には、バランスよくおかずが入っていて、おにぎりも綺麗に並んでいる

 

それを見た興平は

 

「なあ、この弁当って、明久が作ったのか?」

 

と聞くと、シアが頷いて

 

「うん。明久くんの腕前はね、お城のシェフも認める腕前なんだ」

 

「お父様も賞賛してました」

 

シアの言葉に続いてネリネがそう言うと、稟は

 

(そういえば、明久は昔から料理が得意だったな……)

 

と思い出した

 

すると、その光景を見ていた姫路が拳を震わせながら

 

「わ、私だって負けてません!」

 

と言って、自身の重箱を開けた

 

その重箱の中には、明久の物にも負けないほど美味しそうな料理が並んでいた

 

「おお!」

 

「これは、美味そうじゃのう」

 

「……これは中々」

 

重箱の中を見たFクラスのメンバーは、口々に賞賛していた

 

この時、ほとんどの人物は気付いてなかったが明久の鼻が僅かに動いていた

 

「そんじゃま、そろそろ食うか」

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

雄二の音頭を聞いて、全員手を合わせながら言った

 

そして、自分の弁当を持ってきていた稟達は食べ始めた

 

が、Fクラスのほうは

 

「ふむ……それでは、ワシはこれを頂くかのう」

 

と言って、秀吉が手を伸ばした瞬間

 

「待った」

 

明久が、それを制止した

 

「どうしたのじゃ?」

 

「こちとら、腹がへってるんだが?」

 

秀吉と雄二がそう言うと、明久は軽く頭を下げて

 

「すまんな、すぐに終わる」

 

と言ってから、視線を姫路に向けて

 

「少し聞きたいのだが、君」

 

「……なんですか?」

 

明久が声を掛けると、姫路は不機嫌そうに顔を向けた

 

「微かにだが、これから異臭がする……何を入れた?」

 

明久が指差しながら聞くと、姫路は数秒間黙ってから

 

「隠し味として……硝酸を」

 

と答えた

 

その直後

 

ブチィ×3

 

何かが、盛大に切れる音がした

 

すると、シア、楓、桜の三人がユラリと立ち上がり

 

「硝酸を入れた……?」

 

「料理に?」

 

「科学薬品を……?」

 

お茶の間には、決して見せられない修羅のオーラを漂わせながら姫路に近づいた

 

「え、ええ……そうですけど……」

 

三人の雰囲気に、姫路も流石に恐怖したらしく、体を反らしている

 

「姫路さん……少し、向こうに行こうか」

 

「大丈夫です……O☆HA☆NA☆SHI☆はすぐに終わります……」

 

「だから、来て」

 

料理を作れる三人には、許し難い行為だった

 

「え? あの、ちょっと待ってください……お話のニュアンスが違……」

 

姫路が抗議するが、三人は無視してドアの向こうに消えた

 

そして、十数秒後

 

どこからともなく、聞き覚えのある悲鳴が聞こえた

 

この時、Fクラスのメンバーは心中で

 

(もし、文化祭とかで模擬店を出すなら、姫路だけは調理場に立たせないようにしよう……)

 

と誓っていた

 

なお、姫路が持ってきた弁当は、明久が極秘裏に処理した

 

そして、昼休みが終わる前

 

「うーむ……稟達に一体、なにがあったんだろう……」

 

「確かに、あの雰囲気は気になるのですよ」

 

「……ただ事ではない」

 

樹、麻弓、康太の三人は屋上手前の踊り場で話し合っていた

 

「手をこまねいているだけってのも、俺様の主義に反するからね……麻弓」

 

「わかってるのですよ、私も気になってきたし……土屋くん?」

 

樹が麻弓に顔を向けると、麻弓は答えてから康太に視線を向けた

 

「……俺も調べるが、条件がある」

 

「なによ……ムッツリ商会会長さん」

 

麻弓がそう問い掛けると、康太はデジタルカメラを取り出しながら

 

「……お前の写真を何枚か撮らせてくれ……お前の写真も、結構需要が高い……副会長」

 

と言った

 

ちなみに、ムッツリ商会と言うのは、彼土屋康太が開いた裏の店であり、会長の彼と副会長である麻弓が撮影した写真や彼らが作ったグッズなどを販売しているのである

 

補足ではあるが、名前の由来は土屋康太のあだ名のムッツリーニとムッツリスケベかららしい

 

そして凄いのは、ムッツリ商会が誇る情報網である

 

何でも、その気になれば、個人情報も洗いざらい曝されるとか

 

閑話休題

 

「まあ、そのくらいならいいけど……頼むわよ、会長さん」

 

「……心得た」

 

麻弓の言葉を聞いて、康太はどこかに消えた

 

「さてと、俺様も調べますかね……なにがあったのかを」

 

「私も調べるのですよ」

 

二人はそう言うと、自分のクラスへと戻っていった

 

なお、昼休み直後にFクラスはBクラスへと宣戦布告し、翌日の昼過ぎから開戦となった



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Fクラスからの挑戦状

二日後、Fクラスの姿がAクラスにあった

 

なお、Bクラスとの戦いは予想外に早く終わった

 

理由は、Bクラスの反則負けである

 

試験召喚戦争にも、守るべきルールがある

 

Bクラス代表たる根本は、それを破ったのだ

 

そのことが康太と麻弓のタレコミにより、西村に露見

 

一発で反則負けとなったのである

 

そして、雄二は満を持してAクラスに来たのである

 

「俺達Fクラスは、Aクラスに対して代表同士による一騎打ちを申し込む」

 

「目的はなにかしら?」

 

そう問い掛けたのは、職員室に呼ばれた翔子の代わりに出た木下優子である

 

優子からの問い掛けに、雄二は自信満々で

 

「それはもちろん、Fクラスの勝利だ」

 

と宣言した

 

それを聞いた優子は、首を振って

 

「受け入れられないわね。だって、これは戦争だもの」

 

と言った

 

「なるほど、こっちから姫路が出るのを警戒したな? だが、安心しろ。こちらからは、俺が出る」

 

優子の否定の言葉を聞いて、雄二は自身を親指で示すが

 

「信じるわけないでしょ? もう一回言うけど、これは戦争なんだから」

 

と言った

 

雄二の采配を知った優子は、どうやら騙し討ちを懸念しているようだ

 

雄二がどうしようか悩んでいると、音もなく優子の背後に人影が現れて

 

「……受けてもいい」

 

と言った

 

「代表! 戻ってたの?」

 

優子は驚いた様子で、翔子に問い掛けた

 

問い掛けられた翔子は、無言で頷き

 

「……ただし、条件として5対5での決闘にしたい。先に三勝したほうの勝ちで」

 

と続けて翔子が言うと、雄二は頷いて

 

「だったら、教科選択権は全部こっちでいいな? せめて、それくらいのハンデは欲しい」

 

と言うが、翔子は首を振り

 

「……せめて、そっちが三回でこっちが二回。しかも、勝ったほうは負けたほうに命令出来るというのが条件」

 

と言った

 

「OK、乗ってやるよ。その命令権は個人か?」

 

雄二が問いかけると、翔子は無言で頷いた

 

「……開戦は昼休み直後でいい?」

 

翔子がそう問いかけると、雄二は頷き

 

「いいだろう。場所はAクラスでいいな?」

 

と聞いた

 

「……構わない」

 

雄二からの問い掛けに翔子はそう返した

 

すると、翔子の背後に稟が現れて

 

「やっぱり、Aクラスが目的だったか」

 

と言った

 

すると、雄二が不敵な笑みを浮かべ

 

「そうだ。バカに負けるのを楽しみにしろや」

 

と言った

 

その直後、Fクラス側から島田が歩み出て

 

「土見ー! 今日という今日こそ、観念しなさい! あの目障りな女子達が居なければ、こっちのものよ!」

 

と言った

 

楓と桜の二人は、紅薔薇先生に呼ばれたために現在、教室には居ない

 

そして、島田がいきり立った様子で拳を振り上げて近づこうとしたら

 

「よせ、島田! 揉め事は控えろ!」

 

と雄二が止めたが、島田は雄二の静止を振り払い

 

「うるさい! これ以上、我慢できるもんですか!」

 

と言い、稟に近づきながら再び拳を振り上げた

 

が、島田の首元に半透明の刃が突きつけられた

 

「それ以上近づくならば、実力で排除する」

 

明久は無感動でそう宣言した

 

「な、なんですって!?」

 

島田が怒った様子で喚くと、明久は睨みつけながら

 

「貴様からは、害意しか感じない。護衛として、貴様の接近は許容出来ない」

 

「護衛だかなんだか知らないけど、邪魔しないで!」

 

と島田は言うと、稟に対して一歩踏み出した

 

「警告はした」

 

明久はそう言った直後

 

神剣一刀流 初の太刀 紫電

 

そう呟きが聞こえて、閃が走った

 

その直後、島田はうつ伏せに倒れた

 

すると、姫路が島田に駆け寄り

 

「美波ちゃん! なにも攻撃しなくても!」

 

と明久に抗議した

 

明久は柄を懐に仕舞いながら

 

「気絶させただけだ。それに、貴様らは外交問題にしたいのか?」

 

と言った

 

すると、姫路が訝しむように眉をひそめて

 

「どういうことですか?」

 

と、問い掛けた

 

「こちらにいらっしゃる稟殿は、ネリネ殿下とリシアンサス殿下の婚約者に選ばれた方だ。すなわち、次期王様候補である」

 

姫路からの問い掛けに、明久がそう返した直後

 

「なんだと!?」

 

「土見ー!」

 

「貴様、羨ま……羨ましい!」

 

と、バカ共が黒いローブを纏って現れた

 

「お前ら、FFF団!?」

 

稟は顔を青ざめて、一歩引いた

 

FFF団

 

彼らは嫉妬からくる怒りにより、女子に近づいた男子に対して暴力を振るう問題集団である

 

ちなみに、彼らに取って稟はトップクラスの対象である

 

「横溝! あ奴の罪状を読み上げい!」

 

「はっ! 被告、土見稟は周囲に美少女を侍らすに飽きたらず、更に美少女の婚約者になるという……」

 

FFF団会長である須川に乞われて、横溝がどこからか取り出した紙を読み上げていると

 

「ええい! 長ったらしい! もっと簡潔に述べい!」

 

と須川が、持っていたムチを鳴らした

 

すると横溝は、持っていた紙を引き裂いて

 

「要するに、今の状況が羨ましいんじゃボケェ!!」

 

と、恨みの声を上げた

 

すると、須川は満足そうに頷き

 

「うむ! 実にわかりやすい!」

 

と言うと、どこからか剣を抜いて

 

「諸君、異端者土見を殺せー!!」

 

と号令を発した

 

「「「「「オオオォォォ!!」」」」」

 

須川の号令に従って、FFF団(バカ共)は凶器を振りかざしながら稟に飛びかかった

 

それを見た明久は、懐から二つの柄を取り出して

 

神剣二刀流 参の太刀 八華蟷螂

 

神速の連続斬撃を繰り出した

 

「「「「「ギャアァァァー!」」」」」

 

それにより、FFF団は一瞬にして全滅した

 

積み上がったバカ共を見て、雄二は溜め息混じりに

 

「あー……すまんな……面倒をかけた」

 

と、謝罪した

 

すると、明久は柄を懐に仕舞いながら

 

「構わない。こういう害虫を駆除するのも、近衛の役目だ」

 

と言った

 

明久はもはや、人間扱いを止めたようである

 

この後、バカ共は到着した西村と紅薔薇の二人に連行されていき、厳しい罰則の補習を受けたようである

 



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Aクラス対Fクラス 前篇

少しサクサク過ぎかもしれませんが、これは作者の都合です


昼休み直後

 

場所、Aクラス

 

そこには、AとF両クラスの生徒が全員集まっていた

 

「それでは、只今からAクラスとFクラスの代表同士による一騎打ちを行います」

 

そう宣言したのは、教卓の位置に立っている高橋女史である

 

他には、念のために紅女史と西村の二人がそれぞれ教室の端に立っている

 

「それでは、双方先鋒を出してください」

 

高橋女史がそう促すと、Aクラスからは木下優子が立ち上がった

 

雄二はそれを見ると、数瞬考えてから

 

「秀吉、頼む」

 

優子の弟である、秀吉を指名した

 

「うむ。わかったのじゃ」

 

指名された秀吉は、頷くと立ち上がってフィールドに上がった

 

そして、二人が規定の位置に立ったのを確認すると高橋女史は

 

「それでは、教科を選択してください」

 

と促した

 

「秀吉、あんたが選んでいいわよ」

 

優子にそう言われた秀吉は、一瞬意外そうにするが

 

「では、お言葉に甘えるとするかのう。高橋先生、古典をお願いするのじゃ」

 

と、教科を選択した

 

言われた高橋女史は、頷いてからパソコンを操作して

 

「古典に設定しました。召喚してください」

 

と、召喚を促した

 

促された二人は、頷くと

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

と、召喚のためのキーワードを唱えた

 

その直後、二人の足下に魔法陣が発生してから軽い爆発音がした

 

古典

 

Fクラス 木下秀吉 98点

 

「あら、大分点数が上がったのね」

 

秀吉の点数を見て、優子は軽く驚いた様子でそう言った

 

「まあ、これでも頑張っておるからのう……」

 

優子の言葉を聞いて、秀吉は腕組みして頷きながらそう返した

 

「だけどね、私はAクラスなのよね」

 

優子がそう言った直後、遅れて優子の点数が表示された

 

古典

 

Aクラス 木下優子 345点

 

その点数差は、圧倒的だった

 

そのために、試合が始まった直後に秀吉は敗北した

 

「すまんのじゃ……」

 

自陣に戻った秀吉は、雄二に対して申し訳なさそうに謝った

 

すると、雄二は秀吉の肩に手を置いて

 

「いや、あの点数差は仕方ない」

 

と励ました

 

「それでは、これより第二回戦を始めます。両クラスは次の代表を出してください」

 

と高橋女史が促すと、Aクラスからメガネを掛けた女子

 

佐藤美穂(さとうみほ)が立ち上がって

 

「私が出ます。教科は、化学でお願いします」

 

と、教科を選択した

 

それを聞いた雄二は、ううむ、と唸ってから

 

「須川、行ってこい」

 

と、須川を指名した

 

すると、須川はキザったらしい仕草で髪をかきあげて

 

「坂本よ……それは、俺に本気を出せってことか?」

 

と問い掛けた

 

「いいから、とっとと行ってこい」

 

雄二はそんな問い掛けを無視して、須川をフィールドに向けて蹴り出した

 

須川はバランスを崩しかけるが、なんとか立て直してフィールドに立った

 

雄二はそれを見ると、顔を後ろに向けて

 

「さてと……ムッツリーニ。準備しとけ」

 

と言った

 

その直後

 

「第三回戦を始めます。両クラスは次の代表を出してください」

 

という、高橋女史の促す声が聞こえた

 

その声を聞いた雄二が、フィールドを見ると

 

化学

 

Aクラス 佐藤美穂 398点 WIN

 

VS

 

Fクラス 須川亮 0点 DEAD

 

須川は瞬殺されていた

 

「すまん……負けた」

 

と、須川が頭を下げると

 

「元々、期待してねぇ」

 

バッサリと切り捨てた

 

雄二のその言葉を聞いて、須川が両手両膝を突いていると、ムッツリーニが須川を踏んでフィールドに上がった

 

すると、Aクラスから一人の女子がフィールドに上がった

 

二人がフィールドに上がったのを見ると、高橋女史は二人を交互に見ながら

 

「それでは、教科を選択してください」

 

と促した

 

「……保健体育」

 

康太が自身の得意科目を選ぶと、女子が

 

「ボクの名前は、工藤愛子。去年末に転校してきたんだ。よろしくね……ムッツリーニ君」

 

と自己紹介した

 

「……よろしく」

 

康太が何時も通りに返すと、愛子は意味深な笑みを浮かべて

 

「そういえば、ムッツリーニ君って、保健体育が得意なんだよね? 実は、ボクも得意なんだ……ただし、君と違って……実技でね」

 

と言うと、康太は首を傾げて

 

「……それがどうし」

 

た、と言おうとしたら、物凄い勢いで鼻血が噴出した

 

康太は何事も無かったかのように、ポケットからティッシュを取り出して鼻に詰めると

 

「……これは花粉のせい」

 

と言った

 

「いや、ムッツリーニ。その言い訳には無理がある」

 

康太の言葉を聞いた稟は、思わず突っ込んでいた

 

そんな康太の様子を見て、愛子はニヤリと笑うと

 

「それでね、実はボク……ノーブラなんだよネ♪」

 

と言った直後、康太は鼻に詰めていたティッシュを吹き飛ばす程の勢いで鼻血を噴き出し

 

「……卑怯な!」

 

と言いながら、吹き飛ぶように倒れた

 

「ムッツリーニィーー!!」

 

衛生兵(メディック)! 衛生兵(メディック)ー!!」

 

「誰か、このエロの化身を助けてくれぇー!!」

 

Fクラスでは、あっという間に阿鼻叫喚の様相と化して、反対にAクラスは引き気味になっていた

 

「……仕方ない……」

 

そんな様子を見かねて、壁際に座っていた明久が立ち上がり康太に駆け寄った

 

数分後

 

「えー……試合を再開してよろしいでしょうか?」

 

あまりの事態に、高橋女史も困惑気味に首を傾げた

 

「ボクは何時でも♪」

 

愛子はウキウキとした様子で頷き

 

「……問題……ない……」

 

明久の回復魔法により蘇生した康太は、松葉杖を突いて、腕に輸血用のチューブを刺しながら頷いた

 

二人が頷いたのを確認すると、高橋女史は右手を掲げて

 

「それでは、召喚してください!」

 

と、召喚を促した

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

二人が同時にキーワードを唱えると、魔法陣が現れて召喚獣が現れた

 

康太は相変わらずの忍者姿

 

代わって、工藤愛子の召喚獣はセーラー服を着ているが……

 

「なんだよ、あの大きな斧は!?」

 

「それに、腕輪まで着けてるぞ!?」

 

愛子の武器は、召喚獣よりも大きな斧であり、その右腕には四百点超えの証である腕輪まで装着していた

 

そして、遅れて愛子の点数が表示された

 

保健体育

 

Aクラス 工藤愛子 465点

 

その点数は、Aクラスでも驚異的な点数だった

 

「理論派と実践派。どっちが強いか、教えてあげるよ!」

 

と愛子が宣言したタイミングで、高橋女史が手を上げて

 

「試合、開始!」

 

と、ゴングを鳴らした

 

「バイバイ、ムッツリーニ君!」

 

愛子はそう言うと、斧を掲げながら駆け出した

 

「ムッツリーニィーー!!」

 

Fクラスからは、康太を心配する声が上がったが、康太はゆったりとした動作で腕輪の着いた右手を上げると

 

「……加速」

 

と呟いた

 

「え……?」

 

愛子が訝しんだ直後、康太の召喚獣の姿が消えた

 

「……終了」

 

作業と同じように呟いた直後、愛子の召喚獣は身体を十字に切られ、康太の召喚獣が愛子の召喚獣の背後で小太刀を振り切った状態で姿を現した

 

そして、数秒後に愛子の召喚獣は消えた

 

保健体育

 

Aクラス 工藤愛子 0点 LOSE

 

VS

 

Fクラス 土屋康太 556点 WIN

 

「そんな……このボクが……」

 

愛子は負けるとは思っていなかったようで、茫然自失といった様子で膝を突いた

 

そして康太は、歓声が上がっているFクラス側へと戻っていった

 

(ここまでは、俺の予想通りだ……後は、姫路が勝って、俺が翔子に勝てば、チェックメイトだ!)

そう。ここまでは、完全に雄二の予想通りだった

 

だが、この後に雄二の予想を大きく外す出来事が起きることを

 

彼は、まだ知らない

 



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Aクラス対Fクラス後編 剣神の実力

眠い……
おやすみなさい……


「では、これより準決勝を始めます。両クラスは、選手を出してください」

 

と高橋女史が促すと、雄二は

 

「姫路、行け」

 

Fクラスの切り札を投入した

 

「はい!」

 

指名された姫路は、キッと前を見ながら立ち上がって、フィールドに入った

 

「では、僕が……」

 

姫路の姿を見て、Aクラスからは試験時次席の久保がフィールドに上がろうとした

 

だが、それより先に

 

「吉井くん! 出てきてください!」

 

姫路は声高に、明久を指名した

 

指名された明久は、閉じていた目をゆっくりと開き

 

「やれやれ……ご指名とはな……」

 

億劫そうに呟くと、フィールドに上がった

 

すると、姫路は明久を睨み付けて

 

「吉井くん。あなたが居たら、楓ちゃんが笑わなくなるんです。ですから、あなたを倒して、この学園から追い出します!」

 

と指差しながら、断言した

 

姫路の言葉を聞いて、稟と興平は思わず立ち上がろうとした

 

だが

 

「二人とも、落ち着きなさい」

 

興平の隣に居た智代が、二人を制した

 

「しかし、智代!」

 

「あいつ、自分がやったことを棚に上げて!」

 

智代の制止に、二人が憤っていると

 

「今は、落ち着くのです……っ」

 

智代は、唇を噛んでいた

 

ふと気づけば、座っている車椅子の取っ手を潰さんばかりに握っている

 

「わかり、ました……」

 

「仕方ねぇ……」

 

二人は渋々といった様子で、床に座った

 

「それでは、教科を選択してください」

 

姫路の言葉を無視して、高橋女史は教科選択を促した

 

「そちらがどうぞ」

 

明久が促すと、姫路は憤慨した様子で

 

「どういうつもりですか……あなたが、私に勝てるとでも?」

 

と問い掛けた

 

すると明久は、肩を軽くすくめて

 

「君も、一つ勘違いしている。我々近衛には、負けは許されない。ゆえに、並大抵の努力はしていない」

 

と言った

 

その言葉を聞いて、姫路は顔を怒りで赤くして

 

「負けても、後悔しないでください! 高橋先生、総合科目でお願いします!」

 

姫路が教科を宣言すると、高橋女史は頷いて

 

「総合科目に設定しました。召喚してください」

 

と召喚を促した

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

二人は同時に、召喚のキーワードを唱えた

 

総合科目

 

Fクラス 姫路瑞希 4409点

 

表示された点数を見て、Aクラスには動揺が走った

 

「な!? あの点数は代表並だぞ!!」

 

「確か、彼女は次席だったはず……」

 

確かに、姫路瑞希は優等生である

 

それこそ、Aクラス入りは確実と言われていた程に

 

だが、表示されている点数は驚愕に値する点数だった

 

「どうですか? 吉井くん。あなたでは、絶対に取れない点数でしょうね」

 

姫路がそう言うと、明久はため息を吐いて

 

「やれやれ……見くびられたものだな」

 

と言った

 

その直後、明久の点数が表示された

 

総合科目

 

Aクラス 吉井明久 8850点

 

その点数を見て、その場に居たほぼ全員は驚愕した

 

「八千点超えだと!?」

 

「規格外過ぎる……」

 

「バカな……」

 

全員が呟くように言うなか、姫路は

 

「そんな点数ありえません! カンニングしたに違いありません! 高橋先生、吉井くんの反則です!」

 

と、高橋女史に直談判した

 

だが、高橋女史は首を振り

 

「カンニングはありえません。なにせ、彼は一人でテストを受けてますから」

 

と言った

 

すると、シアとネリネが立ち上がり

 

「明久くんのその点数は間違いなく、明久くんの実力っす」

 

「明久さんは、既に大学レベルまで履修してます」

 

と、驚愕的な事実を告げた

 

「大学レベルだと!?」

 

「なんで、そんな奴が高校に通ってるんだよ!」

 

「そんな奴に、勝てるわけねーだろ! こんな試合、無効だ!」

 

シアとネリネの説明を聞いて、Fクラスの男子達が喚くが

 

「やかましい、貴様ら! 吉井はリシアンサス、ネリネ両殿下の護衛として来ている! それに、吉井を指名したのは姫路だ!」

 

と、西村が一喝した

 

「あなた方に、想像出来ますか? 寝る間を惜しんで勉強して、血反吐を吐くほどに刃を振るい続けて、傷が無い場所を探すのが困難なほどに、私達をその身を盾にして守ってくれた明久さんを」

 

「明久くんには、普通の生活を送る権利だってあったはずっす……けど、明久くんは自ら、剣術を学び、魔法を学び、独学で勉強した……それこそ、自分を犠牲にしてまで……」

 

二人は、悲しそうに告げた

 

すると、明久が

 

「俺はただ、恩を返したいだけなんです……記憶喪失で身元不明だった俺を受け入れてくれて、一緒に生活してくれた陛下達に……ですから、恩を返すためならば、この身など、惜しくはない……」

 

明久はそう言うと、召喚獣の武器を抜かせた

 

その武器は、二本の刀だった

 

明久が刀を構えると、高橋女史は片手を上げて

 

「それでは、試合開始!」

 

試合のゴングを鳴らした

 

その直後

 

「素人には負けません!」

 

姫路はそう意気込みながら、大剣を構えて突撃した

 

明久はそれを冷静に見極めると、右手の刀をゆっくりとした動作で振り上げた

 

そして、姫路が大剣を振り下ろした直後

 

澄んだ金属音が響き、姫路の大剣は僅かにズレて地面にぶつかった

 

「神剣一刀流、防の型、流水陣……我が防御、簡単に破れると思うな」

 

明久のその言葉を聞いて、姫路は逆上したのか歯を食いしばって

 

「まだです!!」

 

至近距離で、右腕を押し付けた

 

その腕には、煌びやかな装飾が施された腕輪が存在していた

 

「発動!!」

 

姫路が叫ぶと同時に、明久の召喚獣の居た場所を極太の熱線が走った

 

「いくら点数が高くても、それを活かせなければ、ただの木偶の坊です!」

 

と、姫路が勝ち誇った直後

 

「遅いぞ、戯け」

 

という、明久の言葉が聞こえて

 

「神剣二刀流、壱の太刀……雪華」

 

一瞬にして、姫路の召喚獣は両手、両足、頭、胴体に切り裂かれた

 

総合科目

 

Fクラス 姫路瑞希 0点 LOSE

 

VS

 

Aクラス 吉井明久 8650点 WIN

 

僅か一瞬で、姫路は敗北した

 

「他愛無い。児戯だったな……」

 

明久はそう言うと、座り込んでいる姫路を見下ろした

 

こうして、Fクラスの敗北が決まったのだった



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慟哭

お待たせしました
シリアスです


明久がフィールドから出た時

 

「あなたは……あなたは、この学校に居てはいけないんですよ、吉井君!」

 

姫路が突如として、そう大声を出した

 

「あなたが居たら、楓ちゃんが笑わなくなるんですよ!」

 

姫路がそう喚くと、明久は視線を姫路に向けて

 

「どういう意味かな?」

 

「あなたは、楓ちゃんと稟くんの親を殺……」

 

明久からの問い掛けに、姫路が答えようとした時

 

「「お前は……黙ってろ!!」」

 

稟と興平の二人が、姫路を殴り飛ばした

 

「あぐっ……!」

 

二人に殴られた姫路は、勢いよく倒れた

 

「お前ら、何をしている!」

 

「西村は黙ってろ!!」

 

「これは俺達の問題なんだよ!」

 

二人が殴り飛ばしたのを見て、西村が二人を捕まえようとしたが、二人は西村を突き飛ばした

 

「お前に……お前に、明久を非難する資格なんざねぇんだよ!」

 

「俺達から……俺達から、あの優しかった明久を奪ったお前にはな!!」

 

稟と興平の二人は涙混じりに、そう告げた

 

「つっちー、どういうことだ?」

 

稟の言葉が気になった紅女史が、稟に問い掛けた

 

その問い掛けに、稟が答えようとした時

 

「それには、俺様達が答えますよ。紅女史」

 

そう言いながら、樹が紅女史に近づいた

 

「緑葉……」

 

「麻弓、康太」

 

紅女史が樹を見ると、樹は頷きながら二人を呼んだ

 

呼ばれた二人は樹に近づくと、それぞれUSBメモリーを差し出した

 

「さすがに、二日間ではあまり分からなかったのですよ」

 

「……すまない」

 

二人は謝るが、樹は受け取りながら首を振り

 

「気にしない気にしない」

 

と言ってから、高橋女史に顔を向けて

 

「高橋女史、パソコン借りますね」

 

と言った

 

すると、高橋女史はパソコンを樹に差し出した

 

そして、視線を稟に向けて

 

「稟、俺様が説明するな」

 

真剣な表情でそう告げると、二つのUSBメモリーをパソコンに差し込んだ

 

「ことの始まりは、今から八年前だ」

 

樹はそう言いながら、パソコンを操作した

 

すると、モニターに新聞の切り抜きが表示された

 

その新聞に表示されている年号は、樹の言うとおりに八年前だった

 

その新聞には

 

『悲劇、旅行帰りに起きた悲惨な交通事故』

 

という、見出し

 

「交通事故? それがつっちー達と、どう関係するんだ?」

 

紅女史が問い掛けると、樹はパソコンを操作しながら

 

「この被害者の名前を見てください」

 

と言って、新聞の一部を拡大させた

 

そこには

 

土見 紫苑

 

土見 (けやき)

 

芙蓉 紅葉

 

という、三つの名前

 

「な!? 芙蓉とつっちーの家族か!?」

 

紅女史が驚いていると、倒れていた姫路が

 

「そうです……そして、土見くんと楓ちゃんの家族を奪う原因が吉井君なんですよ!」

 

と声を張り上げた

 

「どういうことだ、姫路?」

 

姫路の言葉を聞いて、紅女史は眉をひそめた

 

「旅行に行った楓のお母さんや土見くんのご両親に、嘘を言って、事故を起こさせたんですよ!」

 

姫路がそう叫ぶと、教室内はざわめいた

 

「おいおい……マジかよ……」

 

「だったら、あいつは確かに人殺しじゃねぇか!」

 

「失せろ! この人殺しが!!」

 

姫路の話を聞いて、Fクラスの男子達が喚き出した

 

だが

 

「てめぇらは黙ってろ!!」

 

「なにも知らないくせに、喚くんじゃねえ!」

 

騒ぎ出したFクラス男子達に、稟と興平は睨みながら叫んだ

 

「事実じゃないですか! だから、楓ちゃんは吉井君をあんなに傷つけたんじゃないですか!」

 

姫路がそう叫ぶと、稟が反論しようとした

 

だが

 

その姫路を、桜が叩いた

 

「あなたに……あなたに、何が分かるんですか……」

 

桜は涙をこらえながら、語り出した

 

「あなたも、明久君の幼なじみなのに……なんで……なんで、明久君を信じてあげなかったんですか!」

 

桜は泣きながら叫んだ

 

「どういうことですか?」

 

姫路が問い掛けるが、誰も答えなかった

 

すると、樹が

 

「そして、次に起きたのが……これ」

 

そう言いながら、パソコンを再び操作した

 

そして、モニターに表示されたのは

 

『小学六年生の男の子、行方不明』

 

という見出し

 

それはまさしく、五年前の記事だった

 

「待って……この日って……」

 

「私達が明久君を保護した日付……」

 

シアとネリネは、新聞に記載されてる日付を見て呆然としていた

 

「この事件に関して、俺様達は稟達が通ってた小学校の関係者に色々と聞き込みをしたんだ」

 

「そしたら、とても興味深いことがわかったのですよ」

 

「……それは、吉井が三年間に渡って、学校中の全学年の全学生から虐められていたという事実」

 

麻弓と康太の話を聞いて、紅女史は目を見開いた

 

「吉井が……虐められていただと?」

 

紅女史が呟くように言うと、樹は頷き

 

「そう……そして、その先頭に立っていたのが……楓ちゃん」

 

そう言いながら、視線を楓に向けた

 

名前を呼ばれた楓は、辛そうにしながら俯いた

 

「そして、最も傷つけていたのが……そこに居る姫路さんなのですよ」

 

麻弓はそう言いながら、姫路を指差した

 

「……だが、そんな吉井を守っていたのは、土見と皇興平」

 

「結局……守れなかったがな」

 

「俺達が弱かったから……」

 

康太の話を聞いて、稟と興平は悔しそうに拳を握った

 

二人の言葉を聞いて、樹は数瞬程俯くと

 

「そして、その事件の重要参考人が一人上がったが……結局、逮捕はされなかった」

 

「理由は、証拠が少なかったのと……対象が幼かったから」

 

樹に続けて、麻弓はそう告げた

 

「……そうだろ? 姫路」

 

康太がそう言うと、姫路は頷き

 

「ええ、そうです……楓ちゃんの笑顔のために……私が吉井君を突き落としたんですよ!」

 

と、声高に叫んだ

 

すると、シアとネリネが一歩前に出て

 

「……突き落とした? その程度では、済まないはずです!」

 

「あたし達が明久くんを保護した時は、明久くんは左目が潰れてて、後頭部からは出血してた!」

 

ネリネとシアがそう言うと、明久が突如として額に手を当てて呻いた

 

この時、明久の脳裏には、五年前のその時のことがフラッシュバックした

 

「ああ……思い出した……そうだった……」

 

明久がそう呟くと、稟達の視線が明久に集中した

 

「明久? まさか、お前……」

 

稟が問い掛けると、明久は頷き

 

「ほんの少しだけど、思い出したよ……俺はあの日に姫路さんに呼び出されて、あの山に行ったんだ……」

 

そう言いながら、ゆっくりと視線を姫路に向けた

 

「そして待ってたら……いきなり後頭部を殴られて、振り向いたら、左目に激痛が走ったんだ……そして、左目を抑えながら見たら、姫路さんが……両手で石を持ってた……」

 

それは、初めて明らかにされた、事件の詳細

 

「そして、俺が痛みに止まっていたら、姫路さんは石を捨てて……俺を、崖に突き落とした」

 

明久がそう言うと、一堂の視線が姫路に集中した

 

すると姫路は、握り締めていた拳を開いて

 

「そうですよ……私が吉井君を突き落としたんですよ! それの何が悪いんですか! 吉井君は人殺しなんですよ!? その人殺しを突き落とすのが、そんなに悪いんですか!?」

 

姫路が声高に叫ぶと、稟達が拳を握って

 

「てめぇは……!」

 

「自分が犯罪を犯してるってのに、罪悪感すらないのかよ!」

 

稟と興平が詰問するが、姫路は悪びれる様子もなく

 

「私は楓ちゃんの笑顔を守っただけです!」

 

と宣言した

 

姫路のその言葉に、稟が何かを言おうとしたら

 

「はい、そこまで。姫路さん、君は一つ大きな勘違いしている」

 

樹が稟を制止して、姫路を指差した

 

「勘違い?」

 

姫路が首を傾げると、樹はパソコンを操作しながら

 

「そう……八年前の事故の犠牲者はね、三人だけではなかったんだ」

 

樹がそう言うと、モニターに表示されたのは

 

吉井 蓮華(れんげ)

 

吉井 紅蓮(ぐれん)

 

吉井 玲

 

の三つの名前

 

「吉井だと!?」

 

「明久くんの御家族……」

 

「この時にですか……」

 

新たに表示された名前を見て、紅女史、ネリネ、シアの三人は目を見開いた

 

「吉井君の家族も……同じ事故で?」

 

姫路は知らなかったのか、目を見開いていた

 

「そうだよ……お前は知ろうとしなかったけどな、明久の家族も死んでるんだよ……」

 

「楓が紅葉さんが亡くなったから、無気力になっていた……」

 

稟がその先を言おうとしたら

 

「……私が生きるために……明久くんが、嘘をついたんです……」

 

楓は絞り出すように、涙声で喋りだした

 

「私は昔、お母さんっ子だったので、お母さんが死んじゃっだことで絶望しちゃって……生きる希望が無くなってた……」

 

「そんな楓を生かすために……俺が憎まれ役を演じようとしたんだ……」

 

「だけど、明久くんが稟くんと幹夫さんの話を聞いてて……先に行動を起こしたの……」

 

「明久はな……稟と楓の約束……〈ずっと一緒に居る〉って約束を守らせるために、憎しみを自身に向けさせた……」

 

「明久は常々、『稟と楓ちゃんが笑顔で居られるなら、僕は傷ついても構いません』って言ってました……」

 

楓から始まり、桜、稟、興平、智代が次々と語り出した

 

「俺は泣きたかったよ……明久は傷ついても笑顔で居たけど、何回も病院にも行った」

 

「中には、痕が一生残る傷もあった……」

 

「俺達が守っても、これが限界だった……」

 

「私達には、見守ることしか出来なかった……」

 

「だからせめて、明久君と一緒にずっと居ようって思ってた……」

 

「それを……お前が……」

 

興平はそう言いながら、姫路を睨んだ

 

そして、姫路が呆然としていると

 

「はい、そこまで」

 

「彼女の処遇は、俺達が決めよう」

 

ドアが開いて、魔王と神王が入ってきた

 

こうして、一つの事件に終止符が打たれる



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一つの終止符

新たに聞こえた声に、全員の視線が声のした方向に向けられた

 

そこには、何時もの服装の魔王と神王が居た

 

「神王陛下、魔王陛下……」

 

二人の姿を見て、明久が驚いていると二人は笑顔を浮かべて

 

「やあ、明久君。見事な勝利だったよ」

 

「おうよ。さすがは、初代合同近衛部隊隊長だな」

 

と言いながら、フィールドに入ってきた

 

「もったいなきお言葉です……」

 

二人の言葉を聞いた明久は、深々と頭を下げた

 

そして、フィールドに上がった二人は一回稟達を見回してから姫路に視線を向けると

 

「さて、君が姫路瑞希ちゃんだよね?」

 

「おめぇさんに、ちょいとばかし話があるんだ。付いて来てくれるか?」

 

二人が声を掛けると、姫路は無言でうなだれた

 

「君の気持ちは立派だがね、やり方を間違えたんだよ」

 

「おめぇさんのやった事は、到底許されることじゃねぇんだ」

 

二人のその言葉の直後、ドアから数人の全身黒装備の一団が入ってきた

 

シアとネリネは、その黒装備部隊を知っていた

 

通称、黒の宣告部隊(トリアージ・ブラックラベル)

 

この部隊に捕まった者は、二度と太陽の光を浴びることは無いとすら言われている

 

別名は処刑部隊(エクスキューショナーズ)とすら呼ばれている

 

すると、明久が片膝を突き頭を下げて

 

「魔王陛下、神王陛下。頼みがあります」

 

と言い出した

 

明久の言葉を聞いて、二人は視線を向けた

 

「なんだい?」

 

「言ってみな」

 

二人が許可すると、明久は右拳を地面に突いて

 

「彼女に対しての処罰の減刑を、伏して願います」

 

と言った

 

明久の言葉を聞いて、稟達と魔王と神王の二人は目を見開いた

 

まさか、被害者の明久がそう言うとは思ってなかったからだ

 

「理由を聞いてもいいかな?」

 

魔王が問い掛けると、明久は視線を魔王に向けて

 

「確かに、彼女はやり方を間違えたかもしれません……ですが、誰かの為にという気持ちに、嘘偽りは無かった筈です……」

 

明久がそう言うと、稟達は心中で

 

(ああ、明久らしいな……)

 

と思った

 

明久は例え自身が傷ついても、相手を笑顔で許した

 

一部の記憶は戻ったが、まだ記憶の大半は失われている

 

それでも、明久の本質は変わっていなかった

 

それが、稟達には嬉しかった

 

明久の言葉を聞いて、魔王と神王は嘆息して

 

「まったく……明久君は本当に優しいね」

 

「だな。だが、それが明久の一番の宝だ」

 

二人はそう言うと、一人の黒装備隊員を呼び寄せて何かを耳打ちした

 

聞き終わった黒装備隊員は、無言で頷いた

 

すると、二人は明久に視線を向けて

 

「明久の嘆願。確かに聞き受けた」

 

「だけど、彼女がこの学園に戻ることは二度とないだろうね」

 

二人はそう言うと、黒装備部隊を伴って姫路を連れていった

 

その後、戦後対談が進みFクラスの設備はダンボールと御座に変わった

 

そして、各々の命令権の話だが

 

優子 秀吉に部活を週一回休んでの勉強を命令(優子監督のもと)

 

佐藤美穂 別に無いので保留

 

ムッツリーニ 佐藤美穂と同じく、保留

 

そして明久だが、明久の命令相手である姫路が居なくなったので、明久は命令権を翔子に譲渡

 

その結果

 

翔子 雄二に対して、自身の命令に逆らわないことを命令

 

その直後、雄二を引きずってデート(雄二の手足に鎖付き手錠を付けて)へと向かった

 

そして、Fクラスは西村による平日毎日三時間の補習が課せられた

 

そして、数十分後、稟達は下校していた

 

その時だった

 

「ああ、そうだ…………稟、楓ちゃん、桜ちゃん、興兄、智姉」

 

明久が突如、稟達をそう呼んだ

 

今明久が呼んだ呼び方は、昔の明久の呼び方である

 

その呼び方を聞いて、稟達は勢い良く振り向いた

 

シアとネリネも驚いている

 

そんな全員の様子に、明久は苦笑いを浮かべて頬を掻いて

 

「まだ完全じゃないが、少し思い出したって言ったでしょ?」

 

「明久、お前……」

 

「アキくん……」

 

明久の言葉を聞いて、稟達は目を見開いて驚いていた

 

そして、明久は一回深呼吸すると全員を見据えて

 

「五年も待たせてすまない……だから、これだけは言わせて……」

 

明久はそこで一旦区切ると、はにかんだ笑みを浮かべて

 

「ただいま、皆……」

 

明久がそう言うと、全員は感極まったように涙を浮かべて

 

「「「「「お帰り(なさい)! 明久(アキくん)!!」」」」」

 

と言いながら、抱き着いた

 

 

こうして、一人の少年が背負った悲しみの連鎖は止まった

 

だが、まだ全てが戻ったわけではない

 

全てを取り戻して、自身の幸せを掴むのはいつになるのか

 

それは、まさしく神のみぞ知る(神王じゃないよ?)



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おまけ編
閑話 明久に関して


今回を含めて、二、三程おまけを挟む予定です


皆さん、どうも初めまして

 

私の名前は瑠璃=マツリと申します

 

若輩ながら、明久隊長率いる合同近衛部隊の副隊長を勤めさせていただいてます

 

なお、合同近衛部隊の副隊長はもう一人居ますが、そちらは後に紹介することになるかと思います

 

しかし、なぜ私なのですか、作者殿?

 

『俺は瑠璃=マツリが好きなんよby作者』←カンペ

 

そ、それは、ありがとうございます……

 

さて、気を引き締めて、今回は明久隊長の一日を教えたいと思います

 

明久隊長の始まりは早く、毎日朝の四時五十分に起床します

 

そこからよほどの事が無い限り、10キロメートルの走り込みと素振りを千回行います

 

その後、六時半に合同近衛部隊各員の一日の予定を確認

 

7時から陛下方の朝食を作ります

 

時折、リシアンサス様が先に作り始めてることがあるので、手伝いに回りますね

 

平日の場合は、朝食後に着替えて登校しますね

 

そして、学校での授業が終わると、殿下方と稟殿と一緒に下校します

 

場合によっては、下校時に買い物をしますね

 

この時、買い物の荷物は全て明久隊長が持ちます

 

帰宅しますと、まず先に学校の提出物を手早く終わらせますね

 

大体、三十分あれば終わってます

 

そして時々ですが、殿下方の提出物を手伝ってる場合もあります

 

そして、大体六時頃から陛下の奥方様達と一緒に夕食の準備を始めて、七時頃に夕食

 

食べ終わったら食器を洗い片付けて、陛下方の翌日の予定を確認します

 

その後、時々ですが陛下方の手伝いをします

 

そして、夜九時頃に隊員達からの報告を聞いてから反省会などを行います

 

この時、明久隊長が相談に乗る場合があります

 

こういうケアを忘れないので、明久隊長は基本的に隊員全員に慕われてますね

 

この後、大体十時から十一時半頃まで隊員達と訓練を行い、どこを直すべきとかを指摘します

 

そして、十二時から一時半頃まで書類を片付けて、軽く湯浴みをし、翌日の準備をして就寝します

 

本当に、明久隊長には頭が下がります

 

書類仕事は私やもう一人の副隊長のフリージアさんも手伝いますが、はっきり言って激務です

 

私達が五枚終わらせてる間に、明久隊長は優に四倍から五倍近く終わらせてました

 

その光景を見て、フリージアさんは一度

 

『隊長って、本当に人族?』

 

と呟いてました

 

しっかりと人族ですので、安心してください

 

そして、明久隊長の休日ですが、基本的に朝は変わりませんね

 

朝の走り込みと素振りが終わった後、明久隊長は汗を流してから読書をすることが多いですね

 

読んでる本の種類は幅広く、何らかの学術書から小説まで読んでます

 

以前に私が見たのは、所謂SF物でしたね

 

ロボット同士による戦争の物語でした

 

読書が終わると、大抵で明久隊長は瞑想を始めます

 

この瞑想は魔法の基礎訓練です

 

使い手の熟練度によっては、近くに寄った人に使い手の心象風景を見せることもあります

 

私が見たのは、とても綺麗な海辺でした

 

私はその風景に心を奪われました

 

白い砂浜に透き通った海

 

穏やかに寄せては引いていく波

 

私は昔、明久隊長が通っていた学校での噂を知っていました

 

<人殺し>

 

私も当時は、バカ正直にそれを信じていました

 

しかし、当時の明久隊長を見て違うのでは?

 

と思いました

 

なにせ、明久隊長の眼はとても澄んでいて、優しかったからです

 

しかし、私が行動を起こす前に明久隊長は行方不明になってしまいました

 

私は酷く後悔しました

 

どうして、あんな噂を信じたのだろうかと

 

稟殿や興平殿と同じように、明久隊長を守ればよかったと

 

しかし、数日後に私は驚きました

 

なにせ、明久隊長が魔界で保護されたからです

 

保護された場所は、魔王陛下の別荘地近くの湖畔だったようです

 

私は身元確認の為に呼ばれて、魔界に向かいました

 

そして、思わず崩れ落ちました

 

明久隊長は確かに無事でした

 

ですが、痛々しいくらいに頭部の半分近くが包帯だらけでした

 

特に、左目はもう治療不可能だったみたいです

 

それに、名前以外は何も覚えてませんでした

 

それがより一層、私の無力感を掻き立てました

 

その後、私自ら願い出て、明久隊長の世話をすることにしました

 

しかしある日、私とお父様がほんの僅かに離れていた間に賊が襲撃

 

明久隊長は重傷を負いながらも、一緒に居た殿下方を私達が到着するまで守ってました

 

傷だらけの明久隊長を見て、私は思わず泣きながら明久隊長を抱き締めました

 

また、失うのかと思いました

 

ですから私は、出来る限り近くに居るようにしました

 

まるで、もう一人の弟が出来たようでした

 

しかし、私が気づかない内にお父様から神剣一刀流を習い始め、気づいた時にはかなりの腕前となってました

 

っと、話がそれてしまいましたね

 

瞑想が終わると、明久隊長は大抵は軽く寝てますね

 

やはり、普段の睡眠時間が短いからでしょうか?

 

『俺の平日の平均睡眠時間は三時間ですby作者』←カンペ

 

作者も寝てください

 

お昼寝している時の隊長の顔は、本当に年相応と言えます

 

優しそうで、少し無邪気な感じです

 

起きると軽く昼食を食べてから、トレーニングをします

 

その日によってトレーニング内容はまちまちですが、内容的には筋力トレーニングですね

 

その後、魔王陛下の奥方様と料理談議を展開することもあります

 

あれほどの激しい議論は、私には無理です

 

そして談議後は、夕食作りに掛かります

 

明久隊長の料理の手際は良く、凄く様になってます

 

私も料理はしますが、明久隊長ほどは出来ません

 

魔王陛下曰わく、王宮の料理人すら凌ぐと言ってました

 

私も時々頂きますが、本当に美味しいんです

 

夕食が終わると、自室にて勉強してますね

 

大体、一時間ほど

 

以前に内容を見せてもらいましたが、難し過ぎて解りませんでした

 

後で聞いてみましたら、大学レベルだそうです

 

勉強が終わると入浴して、就寝します

 

明久隊長の一日はこんな感じですね

 

明久隊長は全てに於いて高い技量を誇ってますが、これは全て日々の弛まぬ努力で成り立っています

 

それを知っているからこそ、私達近衛部隊の隊員は明久隊長を尊敬し、慕っています

 

人というのは、努力次第で限界を超えられるものと明久隊長は自ら示してくれています

 

私達近衛部隊の隊員は、そんな明久隊長の顔に泥を塗らないために努力を怠りません

 

私達を選抜してくださった陛下達を守る為に、明久隊長を補佐し任務を完遂する為に

 

私達は日夜頑張っています

 

今日はこんなところでしょうか

 

それでは、また会う日まで

 

瑠璃=マツリでした




途中で出てきたフリージアさんの見た目は、<夜明け前より瑠璃色な>のエステルさんをイメージしてください


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五年ぶりの……

おかしい、気づいたらシリアス多めになっていた
これが、噂のキャラの一人歩きなのか!?


学園も休みのある日、明久は自ら休暇申請を出し、ある場所に来ていた

 

なお、休暇申請を出した時に魔王と神王が驚愕で固まったのは余談である

 

乱立する石の柱には、様々な名前が彫られてあり、明久の前には

 

《吉井家の墓》と彫られたお墓があった

 

明久は持ってきていた花束を飾ると、線香を灯してから供えて

 

「父さん、母さん、姉さん……大分遅くなったけど、ただいま」

 

と手を合わせながら言った

 

その両隣には、《土見家の墓》と《芙蓉家の墓》もある

 

もちろんのこと、明久はその両方にも花と線香を供えた

 

事実、五年振りの墓参りである

 

明久はこの墓の場所を、幹夫から聞き出していた

 

墓参りとしては季節外れだが、明久としては暇な時に来るしかなかった

 

どうやら、幹夫が頻繁に訪れているからか雑草等は見当たらない

 

そのことに感謝しつつ、明久は両手を合わせた

 

すると、新しい足音が聞こえて

 

「アキくん……?」

 

という、明久としては聞き慣れた声が聞こえた

 

振り返った先に居たのは、明久の幼なじみの一人である八重桜だった

 

「桜ちゃん……」

 

「アキくんもお墓参り?」

 

「うん……」

 

桜からの問いかけに、明久は頷いた

 

「そっか……」

 

桜はそう言うと、手早く花束と線香を供えて手を合わせた

 

そして、数秒間沈黙が続くと桜は立ち上がって

 

「なるべく、月一で来るようにしてるんだ」

 

と言った

 

「ありがとう……」

 

「ううん、いいの……アキ君を助けられなかった代わりだから……」

 

明久の感謝に、桜はそう答えた

 

どうやら、贖罪を兼ねていたらしい

 

「さってと……これからどうしようか?」

 

桜はそう言いながら立ち上がり、明久に視線を向けた

 

「え?」

 

言葉の意図が分からず、明久は首を傾げた

 

「その様子だと、アキ君。休暇を貰ったんでしょ?」

 

桜からの問いかけに、明久は頷いて答えた

 

すると、桜は微笑んで

 

「だったらさ、お出かけしない?」

 

と提案した

 

「別にいいが……いいのか、俺で?」

 

明久が問いかけると、桜は頷いて

 

「アキ君がいいの」

 

と答えた

 

「分かった。お供しましょう、お嬢さん」

 

と明久は、まるで執事のように恭しく頭を下げた

 

それを見た桜は、クスクスと笑って

 

「アキ君、まるで執事さんみたいだよ?」

 

と言った

 

「まあ一応、執事も兼ねてるからね」

 

二人は会話しながら、その場を後にした

 

そして十数分後、二人は商店街のとある喫茶店に来ていた

 

そこはお洒落な内装と、可愛いウェイトレスが有名な喫茶店だった

 

そして、注文しようと呼んだら

 

「はい、お待たせしました」

 

と、桜には聞き覚えのある声が聞こえた

 

桜が驚いた様子で視線を向けると、そこに居たのは、輝くような金髪が特徴の神族の美少女だった

 

「カレハ先輩!?」

 

「あらあら、桜さん」

 

桜は驚愕し、カレハと呼ばれた美少女はニコニコと笑っていた

 

二人の様子を見て、明久は首を傾げながら

 

「桜ちゃん、知り合い?」

 

と問い掛けた

 

明久からの問いかけに、桜は頷きながら

 

「うん……私と楓ちゃんが所属してる家庭科部の副部長さん」

 

と桜が言うと、カレハはちょこんとスカートをつまみ上げて

 

「はじめまして、カレハと言いますわ。剣神さん」

 

と名乗った

 

すると、明久も軽く頭を下げて

 

「神族魔族合同近衛部隊隊長の吉井明久です」

 

と名乗った

 

二人が名乗るのを待ってから、桜はカレハに視線を向けて

 

「カレハ先輩は、ここでバイトをしてるんですか?」

 

「ええ、なるべく自分のお小遣いくらいは自分で稼ごうと思って」

 

桜からの問いかけをカレハがそう答えると、桜は頷いてから

 

「そういえば、剣神ってなんですか?」

 

と再び問い掛けた

 

「剣神というのは、彼の二つ名ですわ。剣神吉井明久」

 

「剣神……」

 

桜が呟くと、カレハは頷き

 

「剣においては、誰も適わない。故に、剣神……彼の振るう剣は、魔法すら両断する……万物切断者とも呼ばれてますわ」

 

「あの、カレハさん……そこらへんで……」

 

さすがに自分のことを語られて恥ずかしがったのか、明久はカレハを止めた

 

「そうですわね。注文を取りに来たんでしたわ」

 

カレハはそう言うと、苦笑いを浮かべてから

 

「ご注文をどうぞ」

 

と言いながら、伝票を取り出した

 

「私はケーキセットの紅茶をお願いします」

 

「俺はブレンドコーヒーを」

 

「承りましたわ」

 

二人が注文すると、カレハは手早く書いてから奥へと向かった

 

数分後、注文したケーキセットとコーヒーが来て、二人は歓談を始めた

 

とはいえ、その内容は明久が記憶喪失なのでそれの補完という感じではある

 

「ねぇ、覚えてる? 私の夢」

 

「うっすらとだが、確かぬいぐるみを作る人になりたい……だったか?」

 

明久がそう言うと、桜は頷いて

 

「うん、そう……最近になって、ようやく図面通りに作れるようになってきてね、今はテディベアを作ってるの」

 

「そうか……頑張ってるんだな、桜ちゃん」

 

桜の話を聞いて、明久は素直に感心していた

 

すると、桜は両手をパタパタと振って

 

「私よりも、アキ君の方が頑張ってるよ。近衛部隊隊長さんなんでしょ?」

 

と言った

 

「俺は恩を返したかったから、必死にやっただけさ……それに、自分の夢も覚えてない」

 

「アキ君……」

 

明久の話を聞いて、桜は悲しそうな表情を浮かべた

 

すると、その雰囲気に気づいたらしく明久が

 

「む、暗くさせてしまったな……すまない」

 

と謝ると、机の端の伝票を取って

 

「お詫びに、支払いは俺が持つよ」

 

と言った

 

すると、桜が慌てた様子で

 

「いいよ、支払くらいは自分でするよ!」

 

と言うが、明久は微笑んで

 

「これくらいは払わせてくれ。正直、お金は有り余ってるんだ」

 

と言った

 

実を言うと、明久は貰った給金のほとんどが手つかずで残っているのだ

 

そのために、銀行には一高校生が持つには過剰なまでのお金が貯金されているのである

 

具体的な金額は言えないが、しばらくは遊んで暮らせるだけの金額は貯まっているのである

 

ゆえに、喫茶店での支払い程度ならば大した金額ではないのだ

 

そして、支払いも済んで街を歩いていたら、不意に周囲から人々の姿が無くなっていることに桜は気づいた

 

「あれ……人が……」

 

桜が呟くと同時に、明久が右手を上げて桜を制止した

 

「アキ君?」

 

「すまない。どうやら、巻き込んだようだ」

 

桜が視線を向けると、明久はそう言った

 

すると、進路の先の左右の道から数人の人影が現れた

 

しかも、普通の人族ではなく、魔族と神族だった

 

「いやはや、かの剣神が護衛の一人も無しに一人で歩くとはなぁ」

 

「手間が省けたぜ」

 

二人の男はそう言うと、桜に気づいて

 

「おい、女の子が居るぜ。それも、とびっきりのかわいこちゃんだ。どうするよ?」

 

「殺すに決まってるだろ。見られたからにはな」

 

男たちの会話を聞いて、桜は顔を青ざめながら明久の背後に隠れた

 

明久は一歩前に出ると、男たちを睨んで

 

「なるほど、貴様らは人族排斥主義者か」

 

と言った

 

人族排斥主義者

 

それは、魔族や神族こそが世界を支配するべきである。という思想の者達である

 

この者達は、その為ならばテロ行為すら辞さないのだ

 

「そうだよ? そして、お前は我々の理想のためには邪魔なんだよ」

 

「人族如きが、近衛部隊の隊長だぁ? ふざけんな! その栄誉は、我々にこそ相応しいんだ!」

 

男達は声を荒げてそう言うと、魔力刀を構え、魔法の準備に入った

 

それを見て、明久は左手を眼帯に持っていきながら

 

「それ以上、動いてみろ……終わるぞ」

 

と告げた

 

が、それを男達は嘲笑い

 

「人族如きになにが出来る!」

 

「ここで死ねぇ!」

 

声高にそう言うと、駆け出そうと足を踏み出した

 

次の瞬間、明久の姿が消えた

 

「え?」

 

そのことに桜が驚いていたら、攻撃をしようとしていた男達が全員倒れた

 

「え? え?」

 

あまりの事態に理解が追いつけず、桜が困惑していたら、明久の姿が桜の前に現れた

 

だが、明久は息を荒げながら片膝を突いた

 

「アキ君!?」

 

「っ……やはり、負担が大きいか……」

 

桜が駆け寄ると、明久はそう呟いた

 

そして、明久は震える手でポケットから携帯を取り出して

 

「すまないが……電話帳の二番目の番号に電話してコードB7と伝えてくれ……」

 

と桜に手渡した

 

「う、うん!」

 

桜は携帯を受け取ると、言われた通りに電話を掛けた

 

『はい、フリージアです。隊長、どうしました?』

 

「すいません、私は八重桜と言います。今はアキ君の代わりで電話してます」

 

『どういうこと?』

 

桜の言葉にフリージアと名乗った人物は、怪訝そうな声を出した

 

「コードB7だそうです」

 

『っ! 分かったわ。場所は?』

 

桜が告げたコードB7という単語を聞いて、フリージアの声音が変わった

 

「はい、場所は……」

 

フリージアに促されて、桜は現在地を告げた

 

それから数分後、二人の美少女を先頭に十数人の魔族と神族が走ってきた

 

しかも、先頭の二人を桜は知っていた

 

一人目は、腰の辺りまで伸びた金髪が特徴の美少女

 

文月学園生徒会長の瑠璃=マツリ

 

もう一人は、副会長のフリージアだった

 

二人は周囲の状況を瞬時に把握したらしく

 

「第一分隊は倒れている者達を捕縛し、本部へ連行!」

 

「第二分隊は人払いに使用されている魔道具を探し出し、処分してください!」

 

と通達した

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

命令を聞いて、それぞれ言われた命令に従って半分は倒れている男達を捕縛し、もう半分は周囲へと散った

 

それを確認してから、瑠璃=マツリとフリージアは明久に駆け寄り

 

「隊長!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

と問い掛けた

 

「なんとかな……」

 

明久はそう言うが、桜が

 

「なんか、眼帯に手を掛けたら一瞬で消えたんです」

 

と説明した

 

すると、二人は目を見開いて

 

「アイオーンを使ったんですか!?」

 

「無茶をしないでください!」

 

と叫んだ

 

「あの……アイオーンってなんですか?」

 

桜が問いかけると、二人は少し真剣な表情になり

 

「他言無用でお願いします」

 

「アイオーンというのは、隊長の左目に埋め込まれている魔道具です」

 

二人の説明を聞いて、桜は明久の左目の眼帯に視線を向けた

 

「アキ君の左目に?」

 

そういえば、と桜は明久が左目の眼帯に手を掛けてから明久の姿が消えたのを思い出した

 

「そのアイオーンって、どういう魔道具なんですか?」

 

桜が問いかけると、二人は明久に処置をしながら

 

「アイオーンの能力は、装着者の時間間隔の引き延ばしよ」

 

「最大で、数百倍まで引き延ばします」

 

桜は二人の説明を聞いて、驚愕した

 

そんな魔道具、聞いたことが無かったからだ

 

「だけど、もちろん副作用があります」

 

「それが、負担の大きさです」

 

「負担の……大きさ?」

 

二人の言葉を聞いて、桜は明久を見た

 

最初よりは大分落ち着いているが、それでもまだ息が荒い

 

「初めて使った時は、一週間まともに動けませんでした」

 

「しかも、生死の境をさまよい続けました」

 

二人の言葉に桜は固まった

 

そんな危険な魔道具を、明久は使ったというのか? と

 

「最近は以前に比べて、負担は軽くなってます」

 

「それでも、2日間は絶対安静ですが」

 

二人はそう言うと、フリージアが明久を背負った

 

そして、瑠璃=マツリは桜に対して

 

「桜さん、ご連絡いただき、ありがとうございます」

 

と頭を下げた

 

「い、いえ! そんな……」

 

突然の感謝に、桜は狼狽した様子で首を左右に振った

 

「隊長がアイオーンを使ったということは、桜さんは隊長にとって大切な人だということです」

 

「私が……」

 

瑠璃=マツリの言葉を聞いて、桜は嬉しく思った

 

明久は記憶喪失だが、優しさは残っていた

 

「ですからどうか、隊長と一緒に居て上げてください」

 

「あなたなら、隊長を支えてあげられる筈だから」

 

二人はそう言うと、隊員達と共に去った

 

それを見送った桜は、胸元で手を握って

 

「アキ君……私達がずっと、居てあげるから……」

 

と誓った



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清涼祭編
準備


清涼祭編、始まるよーーー


「なに? 魔王神王反対派に不穏な動きだと?」

 

彼、吉井明久は部下の一人からの報告を聞いて眉をひそめた

 

「はい……詳しくは未だに掴めてませんが、この人物と積極的に接触しているようです」

 

神族の部下の一人が、そう言って一枚の写真を出した

 

そこに写っているのは、メガネを掛けた白髪の男だった

 

「こいつは……竹原教頭……」

 

その人物は、文月学園の竹原教頭だった

 

「その男は、かなりの金額を受け取っているみたいです」

 

部下からの報告を聞いて、明久は顎に手を当てて数秒間黙考すると

 

「こいつと反派の奴らの監視、厳しく頼む。そのためのフォローも回す」

 

「はっ!」

 

明久の指示を聞いて、部下は敬礼すると部屋から退出した

 

そして、一人になった明久は険しい表情を浮かべて

 

「何をするのか分からないが……させんよ」

 

と言った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

翌日、Aクラス教室

 

「……という訳で、我々はFクラスと共同で模擬店を出します」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

翔子の言葉を聞いて、Aクラスの生徒達は素直に頷いたが

 

「ちくしょう……」

 

翔子の隣に居た雄二は、うなだれていた

 

なぜ、雄二がうなだれているのか

 

理由として語るならば

 

1、翔子が雄二に合同出店を提案

 

2、雄二は興味ないからと拒否

 

3、翔子は先日の勝利による命令権を発動

 

4、雄二は命令なんか無効だと反論

 

5、翔子は、一回だけとは言ってないと明言

 

6、高橋女史が肯定し、合同出店するしかないと説明した

 

ということである

 

確かに、思い出してみれば、翔子は雄二に命令した時に回数は明言していなかった

 

今回の合同出店は、そこを突く形での決定である

 

ちなみに、Fクラスの男子達はAクラスとの合同出店に大喜びであった

 

理由としてはまず、Aクラスの女子達と交流できるからなのと、文化祭の模擬店にて得た収入で教室設備の改善が許可されたからである

 

Fクラスに置ける男女比率は、男子がほとんどである

 

そして、教室の設備ははっきり言ってヒドい

 

壁と窓はひび割れ、畳は半分以上が腐っており、机として使っているちゃぶ台は穴が空いていたりしていた

 

施設は学校側に報告すれば、直してもらえるだろう

 

だが、設備に関しては元々学校側の取り決めであるので変更はしてもらえない

 

しかし、文化祭で得た収入での設備の向上は許可されていたのだ

 

ゆえに、Fクラス男子達としては願ってもない提案《命令》だったのだ

 

なお、合同出店の内容は執事&メイド喫茶である

 

そして、雄二と翔子は合同出店の許可を得るために学園長室へと向かった

 

その間、明久達は料理が得意なメンバーを集めてどんなメニューにしようか話し合っていた

 

「やっぱり、加熱時間が短いのにしたほうがいいよね……」

 

「そうなりますと、あまり手が掛かる料理は控えるべきですね」

 

「だったら、ピラフなんてどうかな?」

 

「……最適だな」

 

といったように、明久達は議論した

 

ちなみに、稟としては康太が料理上手なことに驚いた

 

そのことを聞いたら、康太曰わく

 

『……この程度、一般常識』

 

とのことだった

 

しかし、稟は

 

(絶対に、エロが関わってるよなぁ……)

 

と、内心で溜め息を吐いた

 

土屋康太という男は、エロが関わると不可能を可能にするのだ

 

そして、明久達が議論を展開させていたら、雄二と翔子が帰ってきた

 

「……許可は貰えた」

 

翔子がVサインと共に報告し、雄二はうなだれ気味で

 

「施設に関しては、交換条件で直してもらえることになった」

 

と、告げた

 

その交換条件というのが、文化祭にて行われる試験召喚獣大会に於ける優勝である

 

しかも、組むのはFクラスの生徒のみとのこと

 

そこで雄二は相棒に康太を指名し、康太も快諾した

 

そして、明久達の議論の甲斐もあって出す料理は決まり、内装は専門の業者と話し合って決めた

 

問題だった執事服とメイド服は何を思ったのか、魔王が人数分提供

 

動作に関しては、魔王の奥さんであるセージさんと執事のバーグさん

 

そして、明久がギリギリまで指導した

 

こうして、準備期間はあっという間に過ぎ去り、文化祭こと清涼祭当日となった

 

こうして、波乱塗れの清涼祭が始まるのであった



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二人の少女

清涼祭当日

 

場所、Aクラス教室

 

そこには、数十人の生徒達が集まっていた

 

Aクラス主導によって出店される、メイド&執事喫茶

 

それが、もう間もなく開店する所である

 

「……皆、準備はいい?」

 

「はい!」

 

「バッチリっす!」

 

「万事抜かりなく」

 

翔子の言葉に、全員は口々に答えた

 

なお、雄二は面倒くさそうに翔子の隣に立っている

 

その時

 

『これより、文月学園文化祭、清涼祭を開催します!』

 

という放送が流れた

 

「そんじゃあ、始めー」

 

という雄二の気怠げな宣言の直後、全員は各自の持ち場へと向かった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「いらっしゃいませ、お嬢様方。何名様でしょうか?」

 

「はい、ショートケーキとストレートティーのセットですね」

 

「五番と七番の注文出来上がり!」

 

清涼祭が始まって僅か数十分だと言うのに、AF合同出店は大盛況だった

 

列は既に長蛇の列と化しており、最後尾は三十分待ちとなっている

 

中には、メイドをナンパしようとした奴も居たが、《懇切丁寧に》退場してもらった

 

しかしながら、懲りないバカが居るもので……

 

「お嬢様、この後俺様と甘ーいアバンチュールでも……」

 

「はいはーい、エビフライ♪ エッビフライー♪」

 

「新しい世界が見える!」

 

という遣り取りや

 

「ふむ……あの御婦人はなかなか……」

 

「1、2、3! スピニング・サンダー、キーック!」

 

「アガポ!?」

 

等々があった

 

しかし、一番の問題はFクラスの男子達だった……

 

なぜならば、執事の格好をしている稟と明久が人気でそれに嫉妬して飛びかかっては、明久によって迎撃されていた

 

それでも、すぐに復活するのは生命力が強いからか……

 

なお、途中明久は

 

「あの店に予約しておくか……」

 

とどこかに電話していた

 

そして、始まって数時間後

 

『間もなく、試験召喚獣大会第一回戦を始めます。選手の方々は各試合会場まで集まってください。繰り返します……』

 

という放送が聞こえた

 

その放送を聞いて、雄二と康太の二人は頷ずくと教室から出ていった

 

試験召喚獣大会は三回戦まで観戦は出来ないので、クラスメイト達は心中で応援しながら見送った

 

それから十数分後、二人は勝利して帰還

 

それからしばらくの間は、模擬店に精を出した

 

しばらくして、明久の携帯に電話が掛かってきた

 

画面に表示されている名前は、部下であるフリージアだった

 

フリージアから掛かってくるなんて、珍しい。と明久は思いながら、携帯を耳に当てて

 

「フリージア、どうした?」

 

と出た

 

すると、フリージアは緊張した様子で

 

『申し訳ありません、隊長。魔界本城の方から連絡で……プリムラ様を見失ったとの報告が上がってきました』

 

「なに?」

 

フリージアの報告を聞いて、明久は眉をひそめた

 

『どうやら、交代のタイミングを狙われたようです。今現在、第五分隊が足取りを追ってます』

 

「最後に確認された場所は?」

 

『門です』

 

フリージアの報告を聞いて、明久は片眉を上げた

 

「門だと?」

 

『はい……人間界側の門まで到着したことは確認しました』

 

フリージアの報告を聞いて、明久は顎に手を当てて黙考してから

 

「第六から第八分隊まで投入してかまわない。必ず見つけろ」

 

『了解』

 

明久は通話が終わると、携帯をポケットにしまった

 

その時だった

 

『ありがとうございます、お兄さん!』

 

『……ありがとう』

 

『良いってことよ、チビっ子共』

 

という声が聞こえて、一人は雄二だとすぐにクラスメイト達にはわかった

 

しかしながら、ある三人は固まった

 

なぜならば、この場では聞こえてはいけない声が聞こえたからだ

 

「んで、誰を探してるんだ?」

 

と雄二は言いながら、ドアを開けた

 

「あ、優しいお兄さん!」

 

それと同時に、一人の少女が駆け出した

 

駆け出した少女はそのまま、稟に飛びついた

 

「おっと……あ、君は……あの人形の?」

 

葉月(はづき)です!」

 

稟は思い出したのか、少女を見ながら首を傾げて、少女、葉月は元気に名乗った

 

「稟くん、その子は?」

 

「ああ……少し前にぬいぐるみを買いたがってた子でな。お金を払ってあげたんだ」

 

「あの時はありがとうございました!」

 

問い掛けてきた桜に説明し終えると、葉月が頭を下げた

 

その時、もう一人の少女が静かに稟に歩み寄った

 

その少女は人族ではなく、神族か魔族を示す尖った耳に銀色の髪が特徴で、腕にはボロボロの猫のぬいぐるみを抱えていた

 

まさか文月学園に来るとは思わず、明久、シア、ネリネの三人は固まった

 

「……リン?」

 

「おぉ? 俺は土見稟だが……」

 

少女が稟を見上げながら首を傾げていると、稟は自身の名前を教えた

 

その数舜後、少女は稟に抱きついた

 

「ほっ!?」

 

「リン……会いたかった」

 

稟が驚くなか、少女はそう呟いた

 

「リムちゃん……」

 

「なんで、ここに……?」

 

そのタイミングになって、ようやくシアとネリネが我に戻り呆然としていて、明久は携帯を取り出して

 

「俺だ。プリムラ様を探索に向かわせた全部隊を撤収させろ。プリムラ様が見つかった」

 

とフリージアに連絡していた

 

この直後、FFF団が稟に対して突撃したが、明久によって瞬く間に殲滅された



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竹原の陰謀

プリムラが来て、十数分後

 

明久はなんとか、プリムラの近くに居ながら、自身の部下である瑠璃=マツリとフリージアに連絡を取って近辺に近衛の第一から第三分隊を配置させた

 

そして、プリムラは明久が出したオレンジジュースを席に座って飲んでいた

 

そんなプリムラはまるで、小動物を彷彿させてクラスメイト達は癒された

 

そして葉月に関しては、姉の島田が来て、一緒に学園祭を回ることになった

 

そして、数十分後に放送で試験召喚獣大会二回戦が行われることが知らされた

 

その放送を聞いて、雄二は康太と一緒に会場へと向かった

 

そして、数分後だった

 

「二人だ。中央付近の席は空いてるか?」

 

とスキンヘッドとソフトモヒカンの男子達が入ってきた

 

「どうぞ、こちらへ」

 

その二人を伴い、Aクラス所属の神族の少女が席まで案内した

 

「おう」

 

案内された二人は鷹揚に頷くと、席に座った

 

そして、数分後だった

 

「おい! 責任者を呼べや!」

 

「飯が不味いし、接客態度も悪いんだよ!」

 

と先ほどの二人が騒ぎ出した

 

周りの客は二人を迷惑そうに見ている

 

その時、一人の神族の男が近づいてきて

 

「ほう……ウチのシアの飯が不味いと……?」

 

と地を這うような声が聞こえた

 

「む? ……この声は……まさか?」

 

明久はその声を聞いて、脳裏に一人の人物が浮かんだ

 

神族なのに、妙に体格が良く、拳で語る人物を

 

そして、向けた視線が捉えたのは、間違いなくその人だった

 

「あぁ? 誰だアンタ?」

 

「誰だ、オッサン?」

 

騒いでいた二人は、自分達に近づいてきた神族の男

 

神王、ユーストマを見て訝しんだ

 

明久はまさか、神王が来るとは思ってなかったので固まった

 

「おめぇら……ウチのシアの飯が不味いと……」

 

明久は気付いた

 

あの二人は、神王ユーストマの逆鱗に触れたのだと

 

ユーストマが睨みを効かせると、二人は少し怯みながらも

 

「あぁ、不味いんだよ! どんな教育したんだよ、アァ!?」

 

とユーストマを睨んだ

 

「そうかいそうかい……なら、ちぃとばかし、裏行こうや」

 

ユーストマはそう言うと、二人の襟首を掴んで軽々と持ち上げた

 

「グォッ!? 離せや、コラっ!?」

 

「ふざけんな! 離せ!」

 

二人は暴れるが、ユーストマは完全に意に介さずに二人を引きずっていった

 

なお、ユーストマは机の上にキチンとお金を置いていった

 

何気に、フォローを忘れない神王だった

 

ゆえに、慕われているのかもしれない

 

明久は三人を見送ると、呆然と固まっていた翔子の横を通ってフロアの真ん中に立って

 

「お客様方、大変お騒がせしましたことを深くお詫び申し上げます。お詫びとしましては、今現在いらっしゃるお客様方に関しましては、全員二割引にて対応させていただきます。これからも、ごゆっくりとお過ごしください」

 

と頭を下げた

 

すると、ようやく我に返ったらしい客が

 

「ああ、いや……気にしないでいいよ」

 

「今のはどう考えても、あいつらがおかしい」

 

「あ、すいません。ピラフお願いします!」

 

と次々に言った

 

すると、明久に翔子が近づいてきた

 

「……対応、ありがとう」

 

「すまんな、勝手に値切りをした」

 

明久が謝罪すると、翔子は首を振った

 

「……あの時は、あれが最善だった」

 

「すまんな。フォローには回る」

 

明久はそう言うと、素早く携帯を取り出して

 

「買い出し班。すまないが、買い出しを追加する……」

 

と連絡を取り始めた

 

買い出し班は、開店から予想外の客入りだったので急遽編成した班である

 

明久はそれの統括を任されており、発注内容は耳に着けてあるインカムから聞こえる声から判断している

 

つまりは、明久の頭の中には残っている在庫数から予想される消費量をはじき出し、発注内容を決めているのだ

 

これは、普段から即座に部下に対して指示している明久だから出来た芸当である

 

確かに、翔子の記憶力も桁外れに高い

 

だが、翔子は無口なことが災いして、指示することには慣れてない

 

ゆえに、明久にその役回りが回ってきたのだ

 

その時、雄二と康太が帰ってきた

 

「……試合は?」

 

翔子が問い掛けると、雄二は肩をすくめて

 

「勝ったに決まってんだろ」

 

「……楽勝だった」

 

雄二に続いて、康太はそう言うと、それぞれ担当に戻った

 

そして、またしばらくして

 

『まもなく、第三回戦を開始します』

 

という放送が聞こえて、雄二と康太の二人は教室から出ていった

 

それから、数分後だった

 

『隊長、不審な男達がそちらに向かってます』

 

という報告が、クラス用とは反対側に着けたインカムから聞こえた

 

「人数と種族は?」

 

『人数は10名程。種族は人族と魔族ですね』

 

明久が問い掛けると、フリージアが報告してきた

 

明久はそれを聞くと、数舜考えてから

 

「周辺警戒を厳としろ。伏兵が居るやもしれん」

 

と通達すると、袖の中から魔力刀の柄を取り出した

 

その直後、ドアが蹴破られて十数人の男達が乱入してきた

 

その男達の手には、ナイフが握られていた

 

それを見て、クラスメイト達は悲鳴を上げて離れた

 

だが、その瞬間に明久は男達の懐に踏み込んでいて

 

「神剣二刀流、参の太刀……桜花!」

 

と一瞬にして、男達を制圧した

 

明久は男達が気絶したのを確認すると、塚を仕舞ってから男達の拘束を始めた

 

すると、ドアから白髪にメガネを掛けた男

 

文月学園教頭、竹原が入ってきて

 

「君、一般参加者に手を出すとはどういう了見だ? 今すぐ、教頭室に来なさい」

 

と言った

 

すると、明久は教頭を睨みつけて

 

「貴様こそ、どこを見ている? この男達は凶器を持っていたんだぞ? それに、来たタイミングが嫌に良いな? どういうことだ?」

 

と詰問した

 

すると、竹原は口を噤みメガネを押し上げて

 

「……申し訳ないが、私はまだ仕事があるのでね」

 

と言うと、教室から去った

 

明久は去っていった竹原を、ずっと睨みつけるとインカムに対して

 

「フリージア、第四分隊を風紀委員会に偽装して回してくれ。男達の身柄を回収して、尋問しろ」

 

『了解。マツリと共に向かわせます』

 

明久はそれを聞くと、ドアを見て

 

「こっちはフォーベシィ様に頼むか」

 

と呟くと、携帯を取り出した

 

こうして、陰謀塗れの文化祭の一日目が過ぎていく



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明久の推理

初日が終わり、ほとんどの生徒達が帰宅した後、明久はフリージアと瑠璃=マツリを連れて学園長室へと向かっていた

 

「隊長、どこに行くんですか?」

 

どこに行くのか分からない瑠璃が、明久に問い掛けた

 

「学園長室だ」

 

「学園長室?」

 

明久の告げた場所を聞いて、フリージアが首を傾げた

 

「ああ……今回の件、学園長と教頭が関与している」

 

と明久が答えたタイミングで、学園長室に到着した

 

明久は到着すると、ドアをノックした

 

『誰だい?』

 

「二年Aクラス所属の吉井明久と三年Aクラス所属のフリージア及び、瑠璃=マツリです」

 

明久が名乗ると、数瞬してから

 

『入りな……』

 

と入室を促された

 

「失礼します」

 

促されて、明久達は入室した

 

そして、一瞬止まると植木鉢に近寄って

 

「疾!」

 

という掛け声と共に、魔力刀を振った

 

「いきなり、何やってんだい!?」

 

明久の行動に、学園長が声を荒げた

 

だが、明久は無視して植木鉢の残骸に手を伸ばして何かを摘まんだ

 

「気づいてなかったんですね……」

 

明久はそう言うと、それを机の上に置いた

 

「なんだい、これは?」

 

「盗聴器です」

 

学園長の言葉に明久は端的に返答しながら、魔力刀で切り裂いた

 

「瑠璃、フリージア」

 

「魔術的、機械的のは他にはありません」

 

「人の気配もありません」

 

明久が問い掛けると、瑠璃=マツリとフリージアは周囲を警戒しながらそう言った

 

その報告を聞いてから、明久は学園長に切り出した

 

「学園長、今回の文化祭……いや、試験召喚獣大会。裏がありますよね?」

 

「……流石は、合同近衛部隊の隊長だね……」

 

明久の言葉を聞いて、学園長は深々とため息を吐いて、机の引き出しから一つの腕輪を取り出した

 

「それは?」

 

「今度の大会の優勝者に送られる景品さね……名前は黒金の腕輪」

 

明久が問い掛けると、学園長は神妙な面持ちで説明した

 

「その腕輪がどうしたんですか?」

 

「この腕輪にはね……致命的な欠陥があるのさね」

 

瑠璃からの質問に学園長が答えた瞬間、明久は目を細めた

 

「欠陥があるのに、景品として出品したのか?」

 

「アタシとしちゃあ、出す気は更々無かったのさ……だが、竹原の奴が勝手に発表したのさ」

 

明久の言葉を聞いて、学園長は溜め息混じりにそう言った

 

すると、明久は顎に手を当てて

 

「なるほどね……竹原の奴の企みがわかったぞ」

 

と言った

 

「隊長、どういうことですか?」

 

瑠璃が問い掛けると、明久は腕輪を指差して

 

「学園長、この腕輪の欠陥というのは取得点数ですね?」

 

と言った

 

すると、学園長は軽く驚いた様子で

 

「よくわかったね?」

 

と言った

 

すると明久は、軽く肩をすくめて

 

「学園長が大会に出場するように言った坂本と土屋はFクラス所属。もし、点数が低いのが理由で何か起こるのだったら、坂本ではなく、一緒に居た霧島に依頼する筈だ……だが、坂本達に依頼した。つまりは、取得点数が高いと暴走する……違うか?」

 

明久の説明を聞いて、学園長は降参といった様子で両手を上げて

 

「正解さね……そいつは、取得点数が総合Bクラスに達すると暴走するのさ」

 

と告げた

 

「なるほどね……恐らく、竹原の企みはその腕輪を意図的に暴走させ、学園長を失脚させて学園を乗っ取ろうと言った所か」

 

明久がそう言うと、学園長は深々とため息を吐いて

 

「本当にズバズバと当てるね……」

 

と言ってから

 

「竹原の奴が近くの私立の高校と接触しているから、恐らくは試験召喚獣システムが目的さね」

 

と言った

 

それを聞いて、明久は目を細めて

 

「それで誘拐すら起こさせるか……ふざけやがって……」

 

と悪態を突いた

 

「どういうことだい?」

 

学園長が問い掛けると、明久は懐からスマホを取り出して

 

「これを見てください」

 

と言って、操作してから机の上に置いた

 

そこに映っているのは、明久達のクラスに乱入してきた男達の一人だった

 

男は虚ろな表情をしながら、竹原に依頼されて生徒の誘拐を企てた

 

と語った

 

それを聞いて、学園長は額に手を当てて

 

「竹原はそこまでやったのかい……すまないね、怪我人は居なかったかい?」

 

と明久に問い掛けた

 

すると、明久は頷いて

 

「俺が直ぐに制圧したからな……だがこうなったら、竹原は我々が潰すぞ」

 

明久はその瞳に、冷たい光を宿しながらそう宣言した

 

明久の宣言を聞いて、学園長は察した

 

竹原は、明久の逆鱗に触れたのだと

 

すると、明久が背を向けて

 

「近い内に代わりの人材はこちらで用意する……ではな」

 

と言うと、学園長室から退室した

 

学園長はそれを見送ると、椅子ごと回って窓の外を見ながら

 

「竹原……短い付き合いだったね……」

 

と呟いたのだった

 

余談ではあるが、放課後に校舎の裏にて常夏コンビがズタボロで埋まっているのを、偶然通りかかった生徒が見つけたのだった



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文化祭、二日目

翌日、Aクラス教室

 

「これから二日目なんだが……お前ら、大丈夫か?」

 

雄二がそう問い掛けた先に居たのは……

 

「「「「「大丈夫だ……尻以外問題ない」」」」」

 

へっぴり腰状態になりながらも、そう言い返すFクラス男子達の姿があった

 

なぜ、Fクラス男子達がそんなことになっているのか

 

理由は簡単

 

とある青繋ぎを着た男が経営する、二十四時間営業のBARに転移させられて、《自主規制》されたのである

 

なお、男子達の中には

 

「ああ……兄貴……」

 

と言いながら、恍惚な表情を浮かべている男子も居る

 

雄二は冷や汗を流すが、気持ちを持ち直して

 

「それじゃあ、てめぇら……持ち場に付け!」

 

と号令を下した

 

雄二の号令を聞いて、Aクラス及びFクラスの生徒達は各自の持ち場へと駆け出した

 

ふと気づけば、雄二の首にはワイヤーが繋がっていて、それは翔子の手に繋がっている

 

なにがあったのかは、詳しく知る者は居ないし、雄二は詳しくは語らない

 

『これから文月学園文化祭二日目を開催します!』

 

という放送の直後、生徒達は歓声を上げた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

それから数時間後

 

『これより、試験召喚獣大会準決勝を開催します! 選手及び観客の皆さんは第二会場までお集まり下さい! 繰り返します……』

 

という放送が掛かった

 

それを聞いて、雄二と康太は互いの顔を見て頷いてから教室を出た

 

その頃、明久は瑠璃=マツリと桜の二人と一緒に居た

 

明久と桜は休憩時間が重なったので一緒に出て、瑠璃=マツリは近くに居たのを明久が呼んだのである

 

明久と桜は並んで歩いているが、瑠璃は少し後ろを歩いていた

 

これは、彼女の生真面目な性格が起因している

 

だが、そんな彼女とて年頃の少女である

 

本音を言うと、桜と同じように明久と並んで歩きたい

 

だが、自分は明久の部下であって……

 

という葛藤が、彼女の頭の中でグルグルと巡っていた

 

すると、そんな彼女の様子に気付いた明久がスッと瑠璃に近づいて

 

「ウジウジと悩んでいるくらいなら、一緒に行くぞ」

 

と言って、瑠璃の手を握った

 

「あっ……」

 

いきなり手を握られて、瑠璃は顔を赤らめるが明久は気にせずに歩いた

 

すると、桜が反対側の腕に抱きつき

 

「生徒会長だけ、ズルいよ」

 

と言った

 

「なんなんだ……」

 

明久はそう呟くが、どこかまんざらではない様子だった

 

十数分後、三人の姿は屋上にあった

 

その手には、出店で買った食べ物や飲み物があった

 

屋上は休憩所として解放されており、色々な人の姿があった

 

三人は一角に置かれたベンチに並んで座った

 

「「「いただきます」」」

 

三人はそう言うと、各々買ってきた物を食べ始めた

 

「ふむ……学園祭にしては、なかなか美味いな」

 

焼きそばを一口食べた明久がそう言うと、瑠璃が

 

「学園長が色々と手配してましたからね」

 

と言った

 

「文月学園って、お金掛けてるよね」

 

二人の話を聞いて桜がそう言うと、明久は頷いて

 

「複数の企業や財閥が出資しているからな、資金は潤沢なんだな」

 

と言った

 

陽気は穏やかで、風もちょうど良かった

 

だからだろうか、明久の瞼がゆっくりと降りて

 

「すまん……少し、休む……」

 

と言って、明久は眠った

 

「アキくんが寝るなんて、珍しいなぁ……」

 

座ったまま寝た明久を見て、桜は僅かに驚いた様子でそう言った

 

「隊長、普段から睡眠が短いですから……」

 

瑠璃がそう言うと、桜は瑠璃に視線を向けて

 

「短いって、どのくらいですか?」

 

と問い掛けた

 

「平均、三時間ですね」

 

「そんなに!?」

 

瑠璃の説明を聞いて、桜は驚いた

 

隊長という役職が大変なのは分かる

 

だが、それではいつ倒れるか分からない

 

「ですから、少し休ませてあげましょう」

 

瑠璃がそう言うと、桜は頷いた

 

「でも、座ったままっていうのもなぁ……」

 

桜はそう言うと、少し考えてから自分の膝の上にあった食べ物の空パックをゴミ箱に捨ててから

 

「よいしょっ……と」

 

と明久の頭を自身の膝に乗せた

 

いわゆる、膝枕である

 

「桜さん……」

 

桜の行動を見て、瑠璃が驚いていると

 

「あははは……私の膝なんかじゃ、大して休めないかもしれませんが……」

 

と恥ずかしそうに言った

 

「いえ、大丈夫だと思いますよ……」

 

瑠璃はそう言いながら、穏やかな表情で二人を見た

 

そして桜はと言うと、寝ている明久の頭を優しく撫で続けた

 

なお、桜の膝枕は明久が起きるまで続けられ、起きた明久が若干頬を染めたのは、三人だけの秘密である



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呆気ない幕切れ

深夜テンションって恐ろしいね
二時間で書きあがった


二日目が始まって数時間後、AとFクラスの合同出店は大盛況だった

 

明久と桜も休憩から戻ると、すぐさま教室内を忙しなく歩き回った

 

そして、数時間後

 

『これより、試験召喚獣大会決勝戦を行います! 選手と観戦者の方々は第一会場へと集まってください! 繰り返します……』

 

という放送が聞こえた

 

その放送を聞いて、康太と雄二は頷きあって教室から退室した

 

それを見ると、明久は左耳に手を当てて

 

「フリージア、行動を開始しろ」

 

と呟いた

 

『了解!』

 

明久はフリージアの返答を聞くと、翔子に近づき

 

「霧島。すまないが、少し離れる」

 

と言った

 

「……わかった」

 

翔子が頷くと、明久は教室から出た

 

「瑠璃、稟達の護衛を頼む」

 

『了解、必ず守り抜いてみせます』

 

瑠璃からの返答を聞いて、明久は教頭室へと向かった

 

そして、決勝戦は呆気なく終わりを告げた

 

それはフリージアの操作により、決勝戦の科目が保健体育になったからである

 

雄二と康太の相手である常村と夏川は理数系を得意としており、保健体育はAクラスの平均点程度だった

 

だが、康太は寡黙なる性職者(ムッツリーニ)と呼ばれるほど保健体育を得意としている

 

だから、その点数差は圧倒的なものだった

 

常村と夏川が二百点後半に対して、康太は六百点超えという脅威の点数だった

 

だから試合開始直後、康太は自身の腕輪たる加速を発動

 

まさしく一瞬にして、二人を切り捨てたのである

 

その頃、明久は……

 

「まったく、使えない役立たず共だ……」

 

と言ったのは、文月学園の教頭の竹原である

 

竹原は飲んでいた紅茶のカップを置くと、常村と夏川の写真を引き裂いて

 

「役立たずは要らない……」

 

と言って、二人の写真をライターで焼いた

 

「さて、次はどうするか……」

 

と竹原は言うと、机の引き出しから新しく数枚の写真を取り出して

 

「彼らに犠牲になってもらうか」

 

と言った

 

その写真に写っているのは、稟達だった

 

「そうだな……そこらへんのゴロツキでも金で雇って、襲わせるか……そして、その罪を学園長にでも擦り付けるかな……」

 

と呟いた

 

その直後、ザギン! という切り裂く音が響き渡り、ドアがバラバラに崩れ落ちた

 

「な、なに!?」

 

竹原が驚愕で立ち上がると、瓦礫と化したドアを踏み越えて明久が現れた

 

「き、貴様……っ! 何をしたのかわかっているのか! 器物損壊だぞ!」

 

竹原は非難がましい視線を明久に向けるが、明久は意に介さず

 

「ならば、貴様が行ったのは業務上横領罪並びに、犯罪教唆だな」

 

と言った

 

すると、竹原は小馬鹿にしたように鼻で笑い

 

「そんな証拠がどこにあると言うのかね?」

 

と明久に侮蔑の視線を向けた

 

すると、明久は冷静に懐に手を入れて

 

「まず、これは貴様の銀行口座の預金残高だが……この金はどうやって手に入れたのかな?」

 

と指し示した

 

そこに記載されているのは、千万単位で記載されている残高だった

 

それ程の金額の金が、ある日に突如として竹原の口座に振り込まれていた

 

「この金額、学園長に聞いたら、貴様に任せた教室の改修費用の八割以上らしいじゃないか……」

 

「それは、盗まれないようにと預かったまでだよ」

 

明久の言葉に対して、竹原はそう言うが明久は竹原を睨みつけて

 

「そうかそうか……ではなぜ、Fクラスの教室施設があれほどボロボロだったのかな? 学園長に確認させたら、あれは改修する対象らしいが?」

 

明久の言葉を聞いて、竹原は鼻を鳴らし

 

「たかがFクラスの屑共に対して、教室施設の改修など勿体ない。だったら、私が有意義に使わせてもらうさ」

 

と答えた

 

「その時点で、貴様は業務上横領罪を行っている!」

 

「そんなの、私には関係ない! この世は、私のような天才と、その天才に使われるべき道具しか必要ない! Fクラスの奴らは道具以下だ!」

 

明久の言葉を聞いて、竹原は両手を広げながらそう言った

 

それを聞いて、明久は竹原を睨んで

 

「見下げ果てた屑だな……」

 

と吐き捨てるように言った

 

「話はこれだけかな? ならば、貴様はここで死ね!」

 

竹原はそう言うと、懐から球体の物を取り出した

 

だが、次の瞬間

 

「神剣一刀流……奥義、不動!」

 

という掛け声の直後、その物体を持っていた竹原の手が手首から飛んだ

 

「グアァァァ! 手が、私の手がぁぁぁ!?」

 

竹原は痛みにうずくまるが、明久は無視して

 

「貴様……これほどの魔道具、どうやって手に入れた? これは、特A級危険魔道具だぞ?」

 

と呟いた

 

だが、痛みにのたうち回っている竹原に答えられる訳がない

 

明久は魔道具を拾い上げて

 

「まあ、どうせ貴様に協力した反派の奴らが渡したんだろうがな……」

 

と言うと、空中に放り投げてから魔力刃で切り裂いた

 

そして明久は、なおも喚いている竹原に視線を向けて

 

「いい加減にうるさい!」

 

と言うと、顎を蹴り上げて竹原を気絶させた

 

そして竹原が気絶すると、札を取り出して傷口に貼り付けた

 

「まだ死なれたら、困るからな……貴様には、洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

と言った

 

その時だった

 

『隊長、夏川と常村の両名が学園長と坂本雄二並びに、土屋康太の会話を盗聴。屋上の設備を使って放送しようとしてます』

 

という、フリージアの報告が聞こえた

 

「何としても止めろ。手段は問わない!」

 

と告げた

 

『了解!』

 

という、フリージアの返答の直後、屋上の方から爆発音が聞こえた

 

どうやら、魔法を使って攻撃したようだ

 

『隊長、放送の阻止に成功。二人を拘束しました』

 

「わかった。二人を直ちに連行して、どういう経緯で協力したのか、洗いざらい吐かせろ」

 

『了解!』

 

フリージアの返答を聞くと、明久はトントンと二回叩いてから

 

「瑠璃、そちらはどうだ?」

 

と稟達の護衛に着いている瑠璃に問い掛けた

 

『なんら異常はありません』

 

瑠璃の報告を聞いて、明久は満足そうに頷くと

 

「わかった。引き続き、護衛を頼む」

 

と言ってから、通信を切った

 

そして、自身で切ったドアと天井を見上げると

 

「仕方ない……陛下方に頼んで派遣してもらうか」

 

と言うと、携帯を取り出した

 

こうして、陰謀塗れの文化祭は幕を下ろしたのだった



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打ち上げ

どうぞ
お待たせしました


学園祭が終了して、小一時間後

 

「……皆のおかげで、模擬店は大成功でした……今日はお疲れ様でした……乾杯」

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

翔子の演説の後に続いて、クラスメイト達は持っていた紙コップを掲げた

 

今彼らは、近くの自然公園にて打ち上げの真っ最中である

 

今回の合同模擬店の成果は大成功の一言で、Fクラス全員分の机や椅子を購入してもかなり余る程の売り上げを記録した

 

それほどの売り上げを出したことを祝して、余り物の飲み物や食べ物を持ってきて、更には売り上げの一部を使って飲み物と食べ物を新たに購入

 

それを自然公園に持ち込んで、盛大に打ち上げをやることにしたのだ

 

「いやはや、なかなかに売れたね」

 

「おかげで、ようやくちゃぶ台生活から脱出出来るのですよ」

 

樹の言葉に麻弓が同意の言葉を述べると、康太が頷いて

 

「……ようやく、腰の負担が減る」

 

と言った

 

「しかし、珍しく秀吉までテンションが高いよな」

 

稟がそう言った視線の先では、秀吉が久保と楽しそうに話し合っている

 

そして、明久が新しく持ってきた飲み物を一口含んだ時だった

 

「まさか……」

 

明久は自分が飲んでいた缶の裏側を見て、ビシリと固まった

 

なぜならば、そこには《カルーア・ミルク》と書かれていたからだ

 

そして、明久は素早く視線を周囲に巡らせると

 

「稟、緑葉、土屋。飲むな!」

 

明久が突然声を荒げたことに驚き、稟達は目を丸くしながら視線を明久に向けた

 

「いきなり、どうした?」

 

「……何があった?」

 

稟と康太が問い掛けると、明久は二人の手にある缶を指差しながら

 

「銘柄を確認してみろ」

 

と言った

 

三人は首を傾げながら、缶の銘柄を確認した

 

「カシスオレンジ……っておい!?」

 

「お酒じゃないか!」

 

「……買い出し班のミスか……」

 

三人は驚愕すると、視線を素早く周囲に巡らせた

 

気づくと、チラホラと既に酔っ払っているクラスメイト達の姿があった

 

「……雄二、私を見て」

 

「待て翔子、落ち着け! ここで脱ぐんじゃねぇ!!」

 

稟達は敢えてその光景を無視して、どうしようかと考え始めて気づいた

 

先ほどから、近くに居る女子達が異様に静かなことに

 

嫌な予感と共に、稟達は視線を女子達へと向けた

 

「ヒック……」

 

「ニュフフフ……」

 

時既に遅かった

 

「マジかよー!?」

 

「……よりによって……」

 

「遅かったみたいだね」

 

「はぁ……」

 

上から順に、稟、康太、樹、明久である

 

四人は酔っ払っている女子達を見て、内心頭を抱えた

 

すると、まずはシアが稟に飛び付いて

 

「稟くーん! ニャハハハ!」

 

と嬉しそうに笑い始めた

 

それに続くように、楓が

 

「ヒック……稟くーん……ヒック」

 

と稟に抱きついた

 

「楓、シア、とりあえず落ち着こう! な!?」

 

稟は自身の理性をフル稼働させて、二人に落ち着くように諭した

 

「稟様……私……私……」

 

ネリネは顔を赤らめながら、制服のボタンを一つずつ外し始めた

 

「おぉ! 桃源郷はここに……」

 

「お前は見るな!!」

 

「あべしっ!?」

 

ネリネが脱ぎ始めたのを見て樹は興奮するが、樹は明久の蹴りによって地面に横たわった

 

「ニャハハハ! 土屋くーん!」

 

「……麻弓、落ち着け!」

 

麻弓は笑いながら康太に迫り、康太は必死に麻弓を押さえていた

 

だが、動き回っていたからか麻弓はあっという間に横たわって寝息を立て始めた

 

その時、明久の背中に桜が抱きついて

 

「アキくん……」

 

と言うと、桜はスヤスヤと寝息を立てて寝た

 

桜が抱きついたことに驚くが、明久は状況が一段落したので安堵のため息を漏らした

 

その時、桜が

 

「好き……」

 

と呟いたが、明久は聞こえないフリをした

 

その直後

 

「異端審問会! 開廷(スタンバイ)!」

 

「YAーHAー!」

 

「サーチアンドデース!」

 

「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!」

 

気づけば、あっという間に周囲をFFF団が包囲していた

 

「このチャンスを待っていたよ……吉井明久、貴様の戦闘力が奪われるこのチャンスをな!」

 

覆面を被っているので分かりにくいが、どうやら須川らしい

 

「貴様が居るせいで、土見に今まで制裁が与えられなかった……だが、今の貴様は動けない!」

 

須川はそう言いながら、明久を指差した

 

確かに、今の明久は座っていて、更には桜が背中に抱きついて寝ているのでまともに動けない

 

「積もり積もった恨み……今こそ晴らす! 全員、掛かれ!」

 

「「「「「ウオオォォォ!!」」」」」

 

須川の号令に従い、FFF団は一斉に飛びかかった

 

だが、FFF団は失念していた

 

明久が近衛部隊隊長であることを

 

「愚かな……」

 

明久はそう呟くと、懐から数枚の札を取り出して空中に放り投げた

 

明久は確かに、剣神と呼ばれるほどに剣の使い方が突出している

 

だが、何も扱うのは魔力刀だけではない

 

「雷帝招来」

 

明久が呟いた直後、空中に舞っていた札が放電を放ち、FFF団を襲った

 

「アバババババ!?」

 

「ヌオォォォォ!?」

 

「ギャアァァァァ!?」

 

明久の放った電撃魔法により、FFF団は瞬く間に全員撃沈した

 

何気なく樹も巻き込まれているのは、先ほどの行動が理由だろう

 

「あまり俺を舐めるな」

 

明久は見事に、一歩も動かないでFFF団を全滅させた

 

その光景を見て、康太は

 

(……こいつだけは敵に回さないようにしよう)

 

と密かに心に決めたのだった



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ローラー作戦

ちょっとばかり、残酷な描写があります


打ち上げが終わって二日後、稟達は魔王から文化祭中に来た少女

 

プリムラのことについて、説明を受けていた

 

だが、その部屋の中に明久の姿は無かった

 

そのことが気になり、桜が

 

「あの、アキくんは……?」

 

と問い掛けたら、魔王は朗らかな笑みを浮かべたまま

 

「今、明久くんを含めた近衛はローラー作戦の真っ最中でね。悪いんだけど、詳細は教えられないんだ」

 

と告げた

 

「ローラー作戦?」

 

稟達が首を傾げていると、魔王は頷いて

 

「そう。文化祭の時に、反神ちゃん、私派の連中が元教頭に内通して事件を起こしていたのが分かってね」

 

と語った

 

「反神王魔王派なんて居るんですか……」

 

魔王の説明を聞いて、楓が驚きで目を丸くしながら問い掛けた

 

「ああ……人族など、支配するべきだ。と考えている連中でね……和平路線の私達と対立している連中さ」

 

魔王はそこで一区切り付けると、プリムラの説明を再開させた

 

その後、芙蓉家でプリムラを受け入れる事が決まり、稟達は解散した

 

それから数時間後、明久達近衛部隊はとある大きな屋敷を包囲していた

 

「ここで最後だな?」

 

明久が問い掛けると、背後に居た瑠璃とフリージアの二人は頷き

 

「はい、間違いありません」

 

「ここが、奴らの最大級の拠点になります」

 

と報告した

 

二人の報告を聞いて、明久は頷き

 

「よし、第7と第8、第9小隊は遮音と遮断、人払いの結界を展開しろ。第1から第6各小隊は突入。今日で、光陽(この)町に居る反対派を殲滅するぞ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

明久の号令を聞いて、各小隊隊長は敬礼した

 

そして数分後、明久達近衛部隊はその屋敷へと突入した

 

小一時間程経つと、反対派の戦力は半壊

 

明久達はその屋敷の半分を制圧した

 

しかも、制圧速度は落ちることなく、反対派の戦力は分刻みで減っていった

 

その速度は、反対派にとっては、まさに悪夢のようだった

 

千人近く居た戦力が、僅か一時間足らずで半壊し、拠点も半分が制圧された

 

これを、悪夢と言わずに何と言うのか

 

「貴様らも神族と魔族だろ! なぜ、人族のガキなんかに従う!?」

 

「恥ずかしくないのか!?」

 

反対派の男達がそう言うと、近衛部隊の隊員達は一笑に付した

 

「我等近衛、陛下方と隊長に忠誠を誓った者」

 

「隊長が居てくれるからこそ、我等近衛は、今ここに居る!」

 

隊員達はそう言うと、反対派の戦闘員達を次々と無力化していった

 

その様子はもはや、一方的な蹂躙とも呼べる光景だった

 

反対派の攻撃は当たらず、近衛部隊は無人の荒野を駆けるが如き速度で次々と倒していく

 

だが、彼らは一般隊員に過ぎない

 

隊長格は、もはや神業と呼べる技を身に付けていた

 

ある神族の隊長は斬撃を飛ばし、ある魔族の隊長は壁の向こう側に居る相手を魔法で吹き飛ばす

 

またある隊長は、相手が放った魔法を魔力刀で切り裂いた

 

だが、そんな彼らも足下に及ばないのが、明久と瑠璃、そしてフリージアの三人である

 

明久は小銃の銃弾すら切り落とし、相手の認識外の速度で接近する

 

瑠璃は魔力刀による戦闘力に於いては、他の追随を許さず、隠密能力と合わせて、静かなる刃と呼ばれている

 

フリージアは魔法による戦闘は近衛随一で、魔法を遠隔発動し相手を無力化できる

 

そんなフリージアは、ソーサリー・エンプレスと呼ばれている

 

そんな三人率いる近衛部隊が突入してきた時点で、反対派は逃げるのが正解だったのだ

 

だが遮断の結界によって、逃走すら叶わない

 

もはや、反対派は絶望的な消耗戦を強いられていた

 

そして、近衛部隊が突入して二時間もしない内に九割が制圧されて、明久達は反対派を追い詰めた

 

「諦めろ……もはや、逆転は不可能だ」

 

明久がそう勧告すると、一人の魔族がギリッと歯軋りして明久を睨みつけて

 

「こうなったら……てめぇらも道連れだぁぁ!!」

 

とある物をその手に握った

 

「バカ、よせ!?」

 

そいつが持った物に気づいて、もう一人が止めようとしたが、時すでに遅く、そいつはソレを投げた

 

それは、六角形の宝石のような代物だった

 

明久はそれを見て、目を見開いた

 

「S級危険魔道具だと!?」

 

相手が投げたソレの名前は、ディメンジョン・イーター

 

次元喰らいの魔道具だった

 

なお、竹原が使おうとした魔道具はワームホール

 

次元に穴を開けて、どこかに飛ばすという代物である

 

系統としては、この二つは非常に近い

 

だが危険度としては、ディメンジョン・イーターのほうが段違いに高い

 

ディメンジョン・イーターの効果範囲は、半径数十メートル

 

その場に居る全員が、余裕で消え去ることになる

 

男が投げた次の瞬間、明久は駆け出していた

 

ディメンジョン・イーターは既に発動プロセスに入っており、斬るのも間に合わない

 

だから明久は、右手でそれを掴むと右手毎魔力で覆った

 

正直言えば、焼け石に水かもしれない

 

だが明久には、犠牲を無くすにはそれしか思い浮かばなかった

 

明久が掴んで魔力で覆ったその直後、ディメンジョン・イーターは膨大な光を放って、爆発が起きた

 

「隊長!?」

 

「総隊長!!」

 

隊員達の心配そうな声が響き、反対派の連中は爆発が起きた場所を指差しながら

 

「クハハハハ! あいつバカだぜ!」

 

「自分から死にやがった!」

 

と笑った

 

だが次の瞬間、その反対派の生き残りはフリージアと瑠璃によって全滅した

 

二人は反対派を無力化したことを確認すると、視線を爆発があった場所に向けて

 

「隊長!」

 

「返事をしてください。隊長!!」

 

と明久を呼んだ

 

「騒ぐな……無事だ……」

 

明久の声が聞こえ、爆煙の間に明久の姿を見て、二人は安堵した

 

だが、ビシャッという音を聞いて、二人は嫌な予感がした

 

まるで、大量の水分が一気に零れたような音だった

 

そして、爆煙の中から明久が姿を見せると二人は息を呑んだ

 

「隊長!!」

 

明久の右腕は、肘から無くなっていた

 

「大丈夫だ……」

 

明久はそう言うが、瑠璃とフリージアは顔を蒼白にしながら駆け寄り

 

「大丈夫なわけがありません!」

 

「今すぐ、医療班を呼びます!」

 

と声を上げた

 

「それよりも……反対派の連中はどうした……」

 

明久が問い掛けると、二人は明久を支えながら

 

「反対派ならば、先ほど全滅しました!」

 

「ですから、隊長は治療を受けてください!」

 

と言って、隊員達に拘束するように命じて、二人は明久を支えながら脱出した



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少女の思い

明久達、近衛部隊が反対派を殲滅して十数分後

 

桜は自室で宿題をやっていたが、明久のことがどうしても気になっていた

 

「アキくん……大丈夫かなぁ……」

 

魔王からローラー作戦を行っていると聞いてから、嫌な胸騒ぎがしていた

 

そしてシャーペンを置いた時、大きな物音がベランダから聞こえた

 

「な、なに……?」

 

桜は不安になり、ベランダの方のカーテンを少し開けた

 

そこに見えたのは……

 

「隊長! しっかりしてください!」

 

「意識をしっかり持ってください、隊長!」

 

焦った様子の瑠璃とフリージア

 

そして、二人に支えられて右腕が肘から無くなっていた明久だった

 

「アキくん!?」

 

その姿の明久を見て、思わず桜はベランダのドアを開けた

 

「桜さん!?」

 

「そうか……ここは八重さんの!」

 

瑠璃とフリージアは桜が現れたことに驚くが、桜はそんな二人を無視して

 

「なにがあったんですか!?」

 

と明久に駆け寄った

 

「……ローラー作戦で、敵と交戦していたんですが……ヤケになった敵がS級危険魔道具を使って、自爆攻撃をしようとしたのを、明久隊長が庇ってくれたんです……」

 

「瑠璃!」

 

作戦で起きたことを瑠璃が喋ると、フリージアが諫めるように声を上げた

 

「見られたからには、隠すことは無理です」

 

「っ……そうだけど……!」

 

瑠璃の正論に、フリージアは口を噤んだ

 

「傷口は魔力で塞ぎましたが、長くは保ちません……」

 

「そんな……」

 

続いた瑠璃の説明を聞いて、桜は明久の傷口に目を向けた

 

「なんとかならないんですか!?」

 

「神界の方に、医療魔法のスペシャリストが居ます。ですが、そこまで保つかは……」

 

瑠璃のその言葉を聞いて、桜は明久の顔を見た

 

息が荒く顔も蒼白になっており、何よりも辛そうだった

 

(私がちゃんと、魔法の練習をしてたら……っ!)

 

桜はそう思うと、拳を握りしめた

 

実を言うと、桜の魔力量はかなり多い

 

幼なじみメンバーの中では、随一と言っても過言ではなかった

 

だが、魔法よりも人形職人になりたいという夢を優先し、魔法の練習をしていなかったのだ

 

しかも、回復魔法の適性値が非常に高かったのも覚えている

 

まさに今、その魔法を使いたい状況だったが、夢を優先したために、それも叶わない

 

「アキくんを助けたいのに……私には、何も出来ないの!?」

 

桜は無力感に苛まれ、思わず声を上げた

 

まさにその時、稟の家の前の明久が借りているアパートの一室

 

明久の机の引き出しの隙間から、光が漏れていた

 

数瞬後、突如として引き出しが弾けるように開き、中から発光体が空中に浮かび上がった

 

その発光体は数秒間ほど浮かんでいると、まさしく光の速度で窓を突き破ってどこかへと飛んでいった

 

場所は戻り、桜が声を張り上げたことに二人は驚きつつ、口を噤んでいた

 

その時、どこからともなく飛んできた発光体が桜の前で止まった

 

「え……なに、これ?」

 

目の前の発光体が分からず、桜は疑問の声を上げた

 

瑠璃とフリージアも何が起きているのか分からず、呆然としていた

 

すると、発光体がゆっくりと降り始めたので、桜は思わず両手で受け止めた

 

桜が両手で受け止めると、光はゆっくりと収まった

 

桜の両手の中にあったのは、一つのペンダントだった

 

女神を彷彿させる装飾が施された、金属製のペンダントだった

 

だが桜は、その金属製のペンダントから不思議と暖かさを感じた

 

「これって……」

 

桜がペンダントに見入っていると、桜の両手の中のペンダントを見た二人は目を見開き

 

「それは、アフロディーテ!?」

 

「なんでここに!?」

 

と驚いていた

 

「アフロディーテ?」

 

桜が首を傾げると、いち早く立ち直った瑠璃が

 

「桜さん、隊長を治してください」

 

と告げた

 

「え!? 私がですか!?」

 

桜が驚いていると、フリージアが

 

「アフロディーテは特級魔道具でして、能力は完全回復です」

 

「完全回復!?」

 

「ええ……前使用者が亡くなって、神王陛下が預かっていたんですが、中々適合者が現れなかったんです」

 

「まさか、飛んでくるとは思いませんでしたが……」

 

桜の驚愕にフリージアと瑠璃は、そう言った

 

二人は知らなかったが、特級魔道具の中には意思を持つ魔道具もあった

 

そして、このアフロディーテがその一つであった

 

明久はそれを神王から聞いていたので、引き出しの中に閉まっておいたのである

 

「どうか、お願いします……」

 

瑠璃が頭を下げると、桜は決意の籠もった目で明久を見つめて

 

「わかりました。私が、アキくんを治します」

 

と宣言した

 

桜の言葉を聞いて、二人は嬉しそうにした

 

「それでは、使い方ですが……」

 

とフリージアが説明しようとしたら、桜は首を振って

 

「大丈夫です。わかります」

 

と言うと、アフロディーテを首に掛けて、明久を抱き締めた

 

(アキくん……アキくん……! アキくん!!)

 

桜は明久を抱き締めると、明久を強く思った

 

するとアフロディーテが光り輝き、桜と明久を包み込んだ

 

その光りは暖かく、桜は安心感を覚えた

 

まるで、母親の腕の中に居るようだった

 

数秒後、光が収まると、明久の右腕は治っていた

 

「凄い……っ!」

 

「こんな速さで治るなんて!」

 

瑠璃とフリージアは、回復の速さに驚いていたが、桜は疲れで壁に背中を預けていた

 

しかも、桜の額には大粒の汗も浮かんでいた

 

「凄い……疲れた……」

 

「恐らく、魔力もほとんど残ってないでしょう……捕まってください」

 

桜の言葉を聞いて、瑠璃が桜を立たせようとした

 

その時

 

「俺が支えよう」

 

という言葉が聞こえた

 

「隊長!」

 

「もう、平気なんですか?」

 

フリージアが問い掛けると、明久は頷いて

 

「心配を掛けたな……」

 

と言うと、桜に視線を向けて

 

「桜、ありがとうな」

 

と言いながら、桜をお姫様抱っこして抱えあげた

 

「アキくん! 私、重いよ!?」

 

桜が焦った様子で言うが,明久は首を振って

 

「軽い軽い……本当にありがとうな、桜ちゃん」

 

と言って、桜をゆっくりとベッドに下ろした

 

そして明久は、身を翻すとベランダに出て

 

「じゃあね……また明日」

 

と言うと、一瞬でその姿を消した

 

桜は数秒間ほど明日が居た場所を見つめていると、思い出したように窓を閉めた

 

そして、へたり込むと

 

「良かった……アキくんが治って、良かったよぅ……」

 

と安心感からか、涙を流した

 

なぜ、使い方を知らない筈なのに治せたのか

 

桜が受け止めた時、頭の中に使い方が流れ込んできたのだ

 

だから、桜はアフロディーテを使えたのである

 

まさしく、愛の為せる技だろう

 

そして桜は、首に掛かっていたアフロディーテを外すと、机の上に置いて

 

「明日返そう」

 

と言うと、着替えを持って部屋から出ていったのだった



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如月グランドパーク編
デートの始まり


明久が負傷して、数日後

 

「如月グランドパークのチケット?」

 

「はい。出張中の父さんから、手紙で送られてきました」

 

楓がそう言いながら見せたのは、間違い無く如月グランドパークのプレオープンチケットだった

 

「どうやって手に入れたんだ?」

 

「なんでも、取引先の方が好意でくれたそうです」

 

楓の説明を聞いて、稟はふーんと言うと、少し考えてから

 

「行くか?」

 

と問い掛けた

 

「え? 私とですか?」

 

楓がビックリした様子で問い掛けると、稟は頷き

 

「まあ、日頃からお世話になってるしな」

 

と言うと、立ち上がって

 

「財布取ってくるか」

 

と言って、居間から出た

 

それを楓は見送ってから、少しポーッとして

 

「ハッ!? 私も準備しなきゃ!」

 

と慌てた様子で居間から出ていった

 

同時刻、近衛部隊詰め所

 

「強制休暇……ですか」

 

詰め所に現れた神王の言葉を聞いて、明久はそう言った

 

「ああ……明久。お前、この間重傷を負ったらしいじゃねぇか」

 

「はあ……確かにそうですが、その怪我は協力者のおかげで完治しましたよ?」

 

神王の言葉を聞いて、明久がそう返すと、神王は頷いてから

 

「確かに、そうかもしれねぇな……けどよ、考えてみたらな……今までお前、碌に休暇取ってないからな……ここらで一旦、休暇を与えたいんだ」

 

と言った

 

「ですが……そうしたら、ここの指揮は……」

 

と明久が言いよどんでいると、瑠璃とフリージアが入ってきて

 

「安心してください、隊長」

 

「二三日くらいなら、私たちでも十分に回せますよ」

 

と言った

 

それを聞いて、明久は少し黙考すると

 

「わかりました。休暇に入ります」

 

と言った

 

そして、詰め所から出ると明久は

 

「そういえば、魔王陛下から如月グランドパークのプレオープンチケットを貰っていたな……」

 

と呟くと、一旦自宅に戻って

 

「ふむ……ペアチケットか……」

 

と呟くと、携帯を取り出した

 

同時刻、八重家

 

「え? 如月グランドパークのプレオープンチケット?」

 

明久から電話が来て、桜はキョトンとした

 

『ああ……ペアチケットだから、一緒に行かないか?』

 

「……私でいいの?」

 

『ああ』

 

桜が問い掛けると、明久は即答した

 

「分かった。行くね」

 

『ああ……大体、十分もすれば、桜ちゃんの家に到着するから』

 

明久の言葉を聞いて、桜は時計を見てから

 

「分かった。待ってるね」

 

と言うと、通話を切った

 

その数秒後、桜は顔を真っ赤にして

 

「アキくんと……デート……」

 

と呟くと、ベッドに倒れ込んでジタバタした

 

恋する乙女として、意中の少年に誘ってもらったのは、桜としては非常に嬉しかった

 

だが、悲しいかな

 

彼女はデートは初めてで、どういう服装をすればいいのか分からなかった

 

「と、とりあえず! 着替えよう!」

 

桜は意気込んでそう言うと、クローゼットを開いた

 

そして、十分後

 

「待たせたな」

 

「う、ううん!」

 

明久が到着すると、桜は門柱の前で待っていた

 

桜の服装は白いブラウスに水色のスカート、桜色のカーディガンである

 

そして明久はと言うと、紺色のGパンに青いワイシャツ、白黒迷彩柄のジャンバーを着ている

 

「よく似合っているよ、桜ちゃん……それじゃあ、行こうか」

 

「う、うん!」

 

明久の言葉を聞いて、桜は嬉しそうに頷くと明久に付いていった

 

こうして、三組のデートが始まる



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バカ共の騒動

数十分後、如月グランドパークの入り口

 

「ふむ……なかなか、大きい所だな」

 

到着するなり、明久はそう呟いた

 

「そ、そうだね」

 

明久の呟きを聞いて、桜は顔を赤くしながら頷いた

 

なぜ、桜が顔を赤くしているのか

 

それは、明久が桜と合流後に桜をお姫様抱っこしたまま、ずっと如月グランドパークまで屋根の上を跳んで移動したからである

 

しかも、人一人を抱えて数十分間跳び続けたというのに、明久は息を乱してすらいなかった

 

流石は、近衛部隊の隊長といったところだろう

 

「さて、中に入ろうか」

 

「う、うん!」

 

明久が手を差し伸べながら言うと、桜は満面の笑みを浮かべながら頷いた

 

そして、明久達が入った数分後に稟と楓がやってきて

 

「ここだな」

 

「はい」

 

二人は数秒間ゲートを見上げると、顔を見合わせてから

 

「入るか」

 

「はい!」

 

と言ってから、ゲートを潜った

 

その更に数分後、なぜか鎖で繋がれた雄二を引きずって翔子が現れて、そのまま入っていった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「さて、どこから行くか……」

 

「そうだね……」

 

明久と桜は入ると、手渡されたマップを見ていた

 

一部はまだ入れないのか、微調整中という文が記載されている

 

明久と桜はしばらく眺めていると、桜が

 

「じゃあ、ここから行こうよ」

 

とマップの一カ所を指差した

 

それを見た明久は、ふむと頷くと

 

「わかった。では、そこから行こうか」

 

と言うと、再び桜の手を握って歩き出した

 

そして数分後、明久達は目的の場所に到着した

 

「ふむ……惨劇の館か……本当にいいのか?」

 

アトラクションの看板を見てから、明久は桜に問い掛けた

 

明久の認識としては、一般的に女子というのは怖いのは苦手という物だからだ

 

だが、桜は微笑みながら

 

「大丈夫だよ。むしろ、少し気になってたんだ」

 

と答えた

 

どうやら、桜は怖いのは平気なようだ

 

「そうか。では、入ろうか」

 

「うん!」

 

桜を伴って、明久は入っていった

 

係員はそれを見送ると、ニヤリと笑みを浮かべ、懐から無線機を取り出すと

 

「ターゲットが入っていった。手筈通りにヤれ」

 

と言った

 

入ってから十数分後、明久達は並んで歩いていた

 

どうやら廃病院をモチーフにしているらしく、道筋の至る所に包帯やら薬剤の空瓶などが転がっていた

 

モチーフに因んで、お化け役も医者や患者のような姿をしていた

 

桜は時々驚いてはいるが、興味津々といった様子で周囲を見回していた

 

だが、明久は剣呑な表情を浮かべていて

 

(おかしい……建物の広さにしては、出口がなかなか見えないし、なにより……これは魔力か?)

 

と考えていた

 

その時、明久の視界の端で一瞬だけ光った

 

その瞬間には、明久は桜を背後に庇って

 

「桜ちゃん、動かないで!」

 

と言うと、裾の中から札を数枚と魔力刀の柄を取り出して構えた

 

そして、まずは札を空中に放った

 

すると、明久の前に魔力障壁が何重にも展開された

 

その魔力障壁に次々と魔力弾や、魔法攻撃が直撃した

 

即席だったためか、魔力障壁は次々と全て砕け散った

 

だが明久は、その両手に握った魔力刀で、第二波を全て弾いた

 

そして、攻撃が来ないのを確認すると、柄を仕舞ってから背後に顔を向けた

 

だが、桜の姿はなかった

 

「む……」

 

明久は素早く周囲に視線を向けて、状況を確認した

 

「ちっ……無駄に手の込んだことを」

 

明久がそう言った理由は、先ほどまで居た場所と景色が違っていたからだ

 

しかし明久は慌てず、数秒間黙考すると左手を懐に入れた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「アキくーん! 何処に行っちゃったの!?」

 

明久とはぐれた桜は、大声を上げて明久を呼んだが、返事はなかった

 

「うぅ……何が起きたんだろう……気が付いたら、別の場所に居たし……」

 

と桜が心細さそうにしていると、ザリッという足音が聞こえた

 

明久かと思い、桜は振り返ったが、すぐに身を引いて

 

「誰……ですか?」

 

と目の前に居た男子達に問い掛けた

 

桜が知らないのも、無理はない

 

そこに居たのは、Fクラスの男子達(バカ共)だったからだ

 

「よぉ! 八重桜さんよ!」

 

「ようやく、あのいけ好かない剣神って奴から離せたぜ!」

 

男子達はそう言うと、下卑た笑い声を上げた

 

その光景に、桜は僅かに後退した

 

だが、男子達は気にしていない様子で

 

「あいつのせいで、俺達のクラスから女子が一人減ったし、土見にも攻撃出来ない!」

 

「だったら、あいつを始末しようとも考えた! だけど、あいつはデタラメに強い!」

 

「だから、あいつの周りから切り崩すことにしたんだよ! なぁ、八重桜さんよぉ!?」

 

男子達の言葉を聞いて、桜は本能的に恐怖して後退りした

 

男子達の目に宿っているのは、完全に憎しみだけだった

 

男子達の憎しみは、完全に逆恨みである

 

Fクラスの所属だった姫路は、過去に許されないことをやって、学園から去った

 

男子達はそれを認めず、明久を恨んだのだ

 

そして、明久を打倒するために、桜を標的にしたようだ

 

「さてさて……どうしてやろうかなぁ!?」

 

と桜に男子達は近寄り始めた

 

桜も後退するが、恐怖で身が竦んで動きが止まった

 

そして、涙を滲ませながら

 

「助けて……助けてよ、アキくん!」

 

と助けを求めて叫んだ

 

その直後、ザギンっ! という金属を斬る音がした

 

「は?」

 

一人の男子が音のした方に視線を向けた直後、暗闇だったはずの場所の一角が多角形に崩れ落ちた

 

そして、そこに居たのは右手に魔力刀を持った明久だった

 

「アキくん!」

 

桜が嬉しそうに呼ぶと、明久は魔力刀を肩に担ぐようにして

 

「はてさて……こんなふざけたことを考えたバカ共は、貴様らか?」

 

と侮蔑的な視線を、男子達に向けた

 

それだけで、男子達はわかった

 

今の明久は、非常に激怒していると

 

だが、明久が次の行動を起こす前に桜に近かった一人の男子が、桜を羽交い締めにして

 

「その武器を離せよ! そうしないと、この子がどうなるかな!?」

 

と明久に告げた

 

それを聞いて、明久は溜め息を吐くと

 

「そうか、離せばいいんだな?」

 

と言って、魔力刀を離した

 

次の瞬間、明久の姿は二人の目前にあった

 

「は?」

 

男子が呆然としている間に、明久は桜を捕まえていた手を離すと、流れるような動作で桜を横にどかしてから、男子の顔面をアイアンクローの要領で掴み、足払いをしながら、男子の頭を床に叩き付けた

 

凄まじい音響と共に、男子の頭は地面にめり込んだ

 

だが痙攣していることから、辛うじて手加減はしたらしい

 

その直後に、周囲の風景が変わり、お化け屋敷の隣の工事中の区画へと変わった

 

「まったく……幻影系の魔道具を使って周囲の風景を変えて、俺達をここまで誘導したのか……」

 

明久はそう言うと、男子達を睨みつけた

 

「どうする? 今なら、警察に突き出すだけで勘弁してやるが? まあ、営業妨害に誘拐、婦女暴行といったところか」

 

明久はそう言うと、先ほど離したのとは別の魔力刀の柄を取り出して

 

「それとも……みじん切りにしてやろうか?」

 

冷たい殺気を放ちながら、魔力刀を突き付けた

 

その直後、男子達は揃ってその場に座り込んだ

 

 



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思いでと後始末

時は少し戻り、明久と桜の二人が行った後、近い場所で稟と楓の二人が明久達と同じように地図を見ていた

 

その二人目掛けて、一体の着ぐるみが物凄い勢いで駆けてきて、その手には釘が何本も打ち込まれたバット

 

いわゆる、釘バットが握られていた

 

そして、稟達まで残り数メートル程になって、その着ぐるみ

 

島田は釘バットを振り上げて、攻撃態勢に入った

 

その時、横合いから一陣の金色の風が疾った

 

そして、その風が通り過ぎる瞬間だった

 

「神剣一刀流、初の太刀……紫電!」

 

その人物、瑠璃=マツリは握っていた魔力刀をまさに光の速度で振るった

 

そして、着ぐるみを着ていた島田は数秒後にうつ伏せに倒れた

 

瑠璃はそれを確認すると、魔力刀を懐にしまい、襟元のピンマイクに何かをボソボソと呟いた

 

その直後、瑠璃と島田の下に魔法陣が展開して、二人の姿は消えた

 

次の瞬間には、瑠璃と島田の姿は薄暗い場所に有った

 

そして、瑠璃は転がっている島田に視線を向けると

 

「まったく……学習しませんね。明久隊長が居ないからといって、我々まで居ない訳がないでしょう」

 

と溜め息混じりに言うと、部下に命じて奥のゴミ捨て場へと運ばせた

 

これで、しばらくは島田は動けないだろう

 

そう判断するが、瑠璃はピンマイクに向かって

 

「まだ油断しないように。他にも、Fクラスの男子達が居る筈です。警戒態勢は厳に」

 

と告げると、自身も身を翻して走り出した

 

その頃稟達は、コーヒーカップの方へと向かっていた

 

「そういえばさ、こうして遊園地に来るのって久し振りだよな」

 

と稟が言うと、楓は少し考え込んでから

 

「そうですね……最低でも、十年振り位ですね」

 

と答えた

 

元々、稟と楓の家はそれほど裕福ではなかったし、如月グランドパークが出来るまでは、近場に遊園地などなく、行くとしたら某ネズミーランド位しかなかったのだ

 

しかも八年前のあの事故以来、どこにも遊びには行っていなかった

 

特に、五年前に明久が居なくなって、その二年後に真実を知ってからは尚更だった

 

楓は罪悪感で押し潰されそうになり、稟はそんな楓を支えるので必死だった

 

「そんじゃま、久し振りの遊園地を楽しみますか」

 

「はい!」

 

稟の言葉を聞いて、楓は満面の笑みを浮かべながら歩いていった

 

場面は変わり、明久達の方

 

明久達は件のFクラス男子達(バカ共)を、異常に気づいて現れた係員に引き渡すと、責任者が深々と頭を下げてきた

 

「此度は、我が社のアルバイトが大変ご迷惑をお掛けしました……」

 

「大丈夫です。今回の事は、全面的にあのバカ共が悪い。それに、俺も物を幾つか壊してしまった」

 

責任者が深々と頭を下げていると、明久は警察の犯人護送用のバスにFクラス男子達が次々と乗り込んでいた

 

「その分はこちらで、補修させてもらおう」

 

明久がそう言うと、責任者は慌てた様子で

 

「滅相もございません! 此度は全面的にこちらの落ち度です! 彼らをバイトとして雇った我々に!」

 

と言うが、明久は微笑みながら

 

「そうだとしても、物を壊したのはこちらだ。それは詫びよう。申し訳ない」

 

「お客様……」

 

明久が頭を下げると、責任者は感銘した様子で呟いた

 

そして明久は携帯を取り出すと、どこかに連絡してからしまって

 

「大体、二十分もしたら神界の修復部隊が到着しますので、案内を頼みます」

 

と言った

 

すると、責任者は深く腰を折って

 

「ありがとうございます。案内は手配しておきます」

 

と答えた

 

「それでは、俺達はこれにて」

 

明久がそう言って、案内されたバックヤードから去ろうとした時だった

 

「お待ちください」

 

と責任者が呼び止めた

 

「何でしょうか?」

 

明久が首を傾げていると、責任者が懐から二つのラミネート加工が施されたカードを取り出して

 

「当遊園地の無期限フリーパスでございます。これを入り口で見せていただければ、最優先にてご案内させていただきます」

 

と告げながら、明久達に差し出した

 

「よろしいのですか?」

 

明久が問い掛けると、責任者は頷いて

 

「お客様のお心遣いに感銘致しました……どうぞ、お受け取りください」

 

と言った

 

それを聞いて、明久と桜は顔を見合わせてから

 

「それでは」

 

「ありがたく貰います」

 

と受け取った

 

明久達が受け取ると、責任者は近くに居た係員の一人に視線を向けて

 

「こちらのお客様方のご案内を」

 

と命じた

 

「はい!」

 

命じられた係員は返事をすると、明久と桜に頭を下げてから

 

「お客様方、こちらです」

 

と案内を始めた

 

その係員について行くと、責任者が深々と頭を下げながら

 

「どうぞ、ごゆっくりとお楽しみくださいませ」

 

と告げた

 

それを背に聞きながら、明久達は係員の案内について行って

 

まだ、始まったばかりである



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再びのバカ共

バックヤードから出てきて数分後、明久は時計を見て

 

「桜ちゃん、お昼にしようか」

 

と言った

 

「あ、時間的に丁度いいね」

 

明久に言われて、桜は腕時計を見た

 

時間はもうすぐ正午になろうとしていた

 

「近くに飲食店はと……」

 

と桜が見回していると、明久がある方向を指さして

 

「あっちにあるな」

 

と言った

 

「よく分かるね」

 

桜が感心した様子で問い掛けると、明久は頷いてから

 

「あっちから匂いがするからな」

 

と答えた

 

すると、桜は不思議そうに首を傾げて

 

「私には、わからないなぁ……」

 

と呟いた

 

すると明久は、クックックと笑って

 

「俺は特殊訓練を積んだのでな。ある程度の毒薬を含んでも、大丈夫だよ」

 

と答えた

 

すると、桜は心配そうな表情を浮かべて

 

「毒薬って……本当に大丈夫なの?」

 

と明久に問い掛けた

 

すると明久は、失敗したなぁ……という表情を浮かべて

 

「大丈夫さ。簡単には死ねないしな」

 

と言うと、明久は桜の頭を撫でた

 

「アキくん……」

 

明久は桜の頭をひとしきり撫でると、手を離してから何処からともなく櫛を取り出して

 

「それでは、大人しくしてくださいね。お嬢様」

 

と言うと、桜の髪を梳き始めた

 

どうやら、自分が崩した桜の髪型を直しているらしい

 

「アキくん、なんか手慣れてない?」

 

桜が問い掛けると、明久は梳きながら

 

「一時期、陛下方の髪を梳いていたからな」

 

と説明した

 

明久の説明を聞いて、桜は納得した様子で

 

「ああ……リンちゃんもシアちゃんも髪は長いもんね」

 

と呟いた

 

「ああ……陛下方一人では、自分の髪は梳くことが出来ないからな……俺か瑠璃、フリージアの誰かがもっぱら梳いていたな」

 

明久はそう言うと梳くのを止めて、桜の髪型を全体的に確認してから

 

「ふむ……これで問題ないな。では、行こうか」

 

と櫛をしまってから、桜に向けて手を差し伸べた

 

「うん!」

 

桜は笑顔を浮かべながら、明久の手を握った

 

そして、明久と桜は飲食エリアへと到着した

 

「桜ちゃんは、何にする?」

 

明久が問い掛けると、桜はメニューを見てから

 

「それじゃあ、私はピラフでお願い」

 

と明久に言った

 

「了解した。待っていろ」

 

明久はそう言うと、桜を伴って一緒に注文に行った

 

そして注文したのだが、この時、注文を受けた係員が

 

「ターゲットが来たぞ……ヤレ」

 

と悪意の満ちた笑みを浮かべた

 

そして、数分後

 

「お待たせしました。ピラフとスパゲッティです」

 

と係員は料理を乗せたトレイを出した

 

だが、明久はジッと料理を見ているだけで、受け取ろうとはしなかった

 

「アキくん? どうしたの?」

 

「お客様?」

 

桜と係員が問い掛けるが、明久は係員に視線を向けて

 

「一つ聞こう……これに何を入れた?」

 

と問いただした

 

すると、係員は一瞬頬をヒクつかせて

 

「何のことでしょうか?」

 

と首を傾げた

 

すると、明久は係員の襟首を掴んで

 

「正直に言え……何を入れた?」

 

と尋問を始めた

 

「い、いや、あの……!?」

 

「あ、アキくん!?」

 

係員と桜が慌てて、騒動に気付いたらしい客は騒ぎ始めた

 

「それに、貴様らから悪意を感じる……今吐くなら、楽に終わらせてやる……」

 

明久はそう言いながら、魔力刀を取り出して刃を首筋に押し付けた

 

すると、係員は顔面を蒼白にして

 

「す、すいません……吐きます……」

 

と涙混じりに語り出した

 

その後、この受付役の係員

 

暴露すると、Fクラス男子だったのだが、このFクラス男子の自白により、料理に青酸カリを混ぜたことを告げた

 

それにより、受付役と調理者を請け負っていたFクラス男子達を捕まえた

 

これにより、また責任者が頭を下げることになったが、明久は気にしていないと告げた

 

なお、料理は別の係員が作ることになっり、明久達は満足そうに食べ終わると、再び回り始めたのだった



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第三波の襲撃

明久達は食事を終えると、次にジェットコースターへと向かった

 

如月グランドパークのジェットコースターは、宙にぶら下げるタイプらしく、かなりのスリルを味わえるらしい

 

そして、入り口に立った時だった

 

突然、明久が歩みを止めた

 

「お客様?」

 

「アキくん?」

 

係員と桜が不思議そうにしていると、明久は懐に手を入れながら

 

「君、責任者に連絡を頼む……また数人、捕縛する……とね!」

 

と言った

 

その直後

 

「おい、気づかれたぞ!」

 

「構うな! 人数で押せ!」

 

と聞こえて、数人の係員に扮したFクラス男子達が手に工具や棒を持って飛びかかってきた

 

それを見て、明久はスッと目を細めると魔力刀を両手に持って

 

「神剣二刀流、終の型……吹雪!」

 

その名の通り、苛烈にして避けようの無い密度の剣戟が繰り出された

 

「ギャアアアァァァ!?」

 

「グアアアァァァ!?」

 

一瞬にして、人の山が出来た

 

明久はそれを見ると、魔力刀を仕舞ってから札を取り出すと空中に放って

 

「縛」

 

と呟いた

 

その直後、魔力によって形成された網でFクラス男子達は捕縛された

 

明久は全員捕縛したのを確認すると、驚いていた係員に向けて

 

「責任者に連絡は取れたかな?」

 

と問い掛けた

 

すると、係員は我に帰り

 

「は、はい! 先ほど取れました! 今こちらに警備員を派遣するそうです!」

 

と答えた

 

明久は係員の返答に頷くと、次にジェットコースターに視線を向けて

 

「だったら、次にこのジェットコースターを調べたほうがいい。こいつらが何か仕掛けた可能性が高い」

 

と言った

 

すると、係員は頷いてから

 

「わ、わかりました! 直ちに調べます!」

 

と言うと、近くに居た他の係員を呼び寄せると、入り口を鎖で塞いでから駆け出した

 

これでは、誰が責任者か分からなくなるが、状況的には仕方ないだろう

 

いきなり複数の係員(バカ共)が客である明久に飛びかかり、更には明久はその男子達を瞬く間に無力化

 

しかも明久は、圧倒的カリスマ性とプレッシャーを放ちながら有無を言わさぬ口調で言ったのだ

 

従うのは仕方ないことだろう

 

数分後、駆けつけた警備員達により、Fクラス男子達は全員捕まった

 

そして、調べた結果は大丈夫だったので、ジェットコースターは再開された

 

桜は終始、スカートを気にしていたが、明久は楽しんでいた

 

その頃、稟達はお化け屋敷から出てきた

 

ただ、楓はかなりビクビクしており、稟に抱き付いている

 

そして、稟達は知らなかったが、お化け屋敷内にはまだFクラス男子達が残っていて、それらを極秘裏に瑠璃やフリージアが無力化し捕縛していた

 

そして、ベンチに座っていると楓が

 

「稟くん、なんか先ほどから警備員さん達が走ってますよ?」

 

と指差した

 

楓に言われて、稟は周囲を見回した

 

すると確かに、警備員達が次々と走っていた

 

それを見て、稟は少し考えてから

 

「何かトラブルがあったんじゃないか? まだ微調整してるアトラクションがあった位だしな」

 

と答えた

 

稟のその言葉を聞いて、楓はどこか納得した様子で頷いた

 

稟達は知らなかったが、その走っている警備員達はFクラス男子達を捕縛しに向かっていたのだった

 

そして、稟は腕時計を見て

 

「丁度いい時間だし、飯にすっか」

 

と言った

 

時刻は既に、12時半になっていた

 

「そうですね、行きましょう!」

 

稟の提案に乗って、楓は頷くと立ち上がった

 

その後、稟達はフードコートで昼食を済ませると、次のアトラクションへと向かった

 

なお、稟達の食事を作ったのは須川と横溝だったのだが、二人は何もせずに普通に働いていた

 

そして、須川と横溝が居たことに明久は気づいていて、後で何もしなかった理由を聞いた

 

そうしたら、二人は

 

「「俺達は兄貴に忠誠を誓い、普通に働くことにしていた!」」

 

と断言したのだった

 

それを聞いて、明久は思わず

 

「いかん……余計な信者を増やしてしまった……」

 

と冷や汗を流しながら、呟いたのだった



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近衛の本気

明久達がジェットコースターに乗っている時、稟と楓の二人は昼食を終えて、次のアトラクションへと向かっていた

 

しかしそんな二人を、着ぐるみを筆頭にした数人の係員

 

島田と残ったFクラス男子達が追い掛けていた

 

もちろんのこと、こいつらの目的は稟への攻撃である

 

稟と楓は気づかずに、マップを見ながら次のアトラクションへと向かっていた

 

そして、距離が残り数メートルになった時だった

 

先頭を走っていた島田が突如として、何かにぶつかった、ゴンという音を立てて倒れた

 

その異様な光景を見て、Fクラス男子達は足を止めた

 

すると、頭を抱えて悶絶していた島田が、着ぐるみの頭を投げ捨てながら立ち上がって

 

「もう! なんなのよ、これは!」

 

と苛立った様子で叫びながら、目の前に向かって拳を繰り出した

 

すると、再びゴンっという音が響いた

 

その音の鈍さから、かなり分厚い壁だと思われる

 

すると、一人の男子が恐る恐ると島田が叩いている辺りに手を伸ばした

 

そして分かったのは、そこに透明な壁のような物が有るということだった

 

「まさか、結界……? 空間隔絶系の結界だってのか!?」

 

「なんだと!?」

 

「マジかよ!」

 

一人の叫びを聞いて、他の男子達は次々と結界を叩き始めたが、結界はビクともしない

 

「ふざけんな! ここから出せよ!」

 

「俺達は土見を倒さないといけないんだよ!」

 

「出さないとヒドいわよ!」

 

男子達や島田が口々に叫ぶが、もちろんのこと開くわけがない

 

そして、彼らが無防備だと思っていた稟は、もちろん護衛が居る

 

明久以外に、常に一個小隊、三十人が周囲で息を殺して警護している

 

事実を述べると、ほとんどの場合は明久だけで事足りる

 

だが、幾ら明久と言えど、常に守れる訳ではない

 

今日みたいに休暇の時や、何かしらの用事の際には離れる

 

そういう時に彼らが守っており、最大で一個大隊

 

約三百人が展開される

 

そしてそれだけ居れば、大概の魔法は発動出来る

 

今使っている空間隔絶系結界や、大規模殲滅魔法、儀式魔法などがそれだ

 

彼らは個にして全であり、全にして個である

 

明久を頂点にしながらも、ある程度ならば、各個人判断による行動も許されている

 

故に、一見無秩序のようでありながら、実際は非常に統率が取られており、まるで無人の広野を駆けるように戦場を駆け巡り、牙を剥く襲撃者達を一切の呵責もなく狩る

 

故に、一部からは狩人とも呼ばれている

 

だが、全員が現神王と魔王、明久に忠誠を誓っており、その命令が無いと基本は動かない

 

そして一度動き出したら、命令内容を完遂するまで決して止まらない

 

そして、任務を完遂するためならば、手段を問わない

 

そして今回の命令内容は、《稟の安全の確保》だ

 

そのために、瑠璃とフリージアは魔王に申請して、とある場所を空けてもらった

 

そこは通称で《魔界のアルカトラズ》と呼ばれている監獄である

 

島田とFクラス男子達は、日付が変わるまで、その監獄の一室で過ごすことになる

 

「総員、準備はいいですね?」

 

瑠璃が通信越しに隊員達に問い掛けると

 

『第一小隊、準備よし』

 

『第二小隊、同じく』

 

『第三小隊、準備完了しました』

 

と各小隊から返答がきた

 

瑠璃は各小隊の返答を聞いてから、札を取り出して

 

「では、飛ばします。各自、準備を」

 

と命令を下した

 

『承知!』

 

瑠璃の命令を聞いて、隊員達から斉唱が帰ってきた

 

この時、島田やFクラス男子達は気付いていなかったが、結界の内側

 

彼らの足下には、円形に札が配置されており、それが薄く発光していた

 

そして数秒後、瑠璃は札を持った腕を高々と掲げて

 

「転送!」

 

と叫んだ

 

その直後、島田とFクラス男子達の姿は結界内部から消えた

 

そして、誰も残ってないのを確認すると

 

「第四から第六小隊、結界を解いてください。第七から第九小隊、稟殿達に異常は?」

 

『了解、解きます!』

 

『異常ありません!』

 

瑠璃は報告を聞くと、数瞬考えてから

 

「第七から第九小隊は引き続き護衛を、第一から第三小隊は先ほど要請があった、修復に向かってください。他は散開し警戒態勢を維持。稟殿達が帰るまで、一切気を抜かないように」

 

『承知!』

 

瑠璃は隊員達の斉唱を聞くと、立ち上がって

 

「これで、当面は大丈夫ですね……」

 

と呟くと、胸元で両手を軽く握りあわせた

 

すると、背後にフリージアが現れて

 

「隊長が気になる?」

 

と問い掛けた

 

すると、瑠璃はビクッと震えてから

 

「い、いきなり何を!?」

 

と狼狽えるが、フリージアはフフッと微笑んでから

 

「皆気付いてるわよ、あなたが隊長を好きなことを」

 

と言ったら、瑠璃はビキッと固まって

 

「な、な、な……」

 

と顔を真っ赤にした

 

そんな瑠璃を見て、フリージアは

 

「少しは素直にならないと、出遅れるわよ」

 

と忠告して、何処かへと消えたのだった

 

その後、瑠璃はしばらく固まっていたが、しばらくするとへたり込んで

 

「気付かれてたんですか……」

 

と両手を突いたのだった



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失われた時

島田とFクラス男子達が捕まって、数分後

 

稟と楓はファンタジー系の乗り物に乗っていた

 

「うわぁ……凄いですね、稟くん!」

 

「ああ……」

 

楓が目を輝かせながら言うと、稟は同意した

 

上には妖精の人形が飛び交い、近くの岩を模したモニュメントの上にはカバの形をしたロボットが居た

 

それらを見て、楓は年相応の少女のように喜んでいる

 

稟は楓が心の底から笑っているのを、数年振りに見た

 

母親である紅葉が亡くなり、明久が行方不明になり、全ての真実を知った後、楓はまるで人形のようだった

 

なんとか稟がコミュニケーションを試みたが、それでもあまり効果は無かった

 

桜や皇夫妻が手伝ってはくれたが、それでも微々たるものだった

 

数年掛かって何とか笑顔を見せるようになったが、それでもどこか陰があった

 

だから、楓が心の底から笑っているのを見て、稟は嬉しかった

 

だが、完璧には戻っていない

 

後は、明久の記憶が完全に戻るだけなのだ

 

だが、それが何時になるのか分からない

 

しかし、必ず戻してみせる

 

「それが……俺達の役割だ……明久に押し付けちまった俺達のな……」

 

稟がそう呟くと、楓が不思議そうな表情をしながら

 

「なにか言いました、稟くん?」

 

と稟に問い掛けた

 

すると、稟はハッと我に帰って

 

「いや、独り言だ」

 

と言った

 

そうこうしている間に、どうやら終わったらしい

 

稟達が乗っていたゴンドラは、ゆっくりと速度を落として固定された

 

「どうぞ、隙間に気をつけてください」

 

係員はそう言いながら、出口を指し示した

 

稟と楓の二人は、係員の誘導に従って出口から外に出た

 

そして、次のアトラクションをマップで見ながら決めていた

 

「次はどうすっかな……」

 

「コーヒーカップなんてどうですか?」

 

楓が指差したアトラクションを見て、稟は少し考えてから

 

「よし、そこに行くか」

 

と頷いて歩き出した

 

場所は変わって、明久達

 

明久達はジェットコースターから降りると、稟達と同じようにマップを見ながら

 

「次はどこに行こうか」

 

「ふむ……そうだな……」

 

と話し合っていた

 

そして、しばらく悩んでから

 

「それじゃあ、ここに行こうよ」

 

と桜はマップの一カ所を指差した

 

明久はそこを見ると、少ししてから

 

「分かった。そこに行こう」

 

と同意した

 

そして、向かった先は……

 

「あ、明久」

 

「明久くん」

 

「む、稟と楓か」

 

「わあ、偶然だね」

 

稟達と同じコーヒーカップだった

 

そこで四人は出会うと、会話を始めた

 

「へぇー! 楓ちゃんと稟くんも来てたんだ!」

 

「はい! お父さんがチケットを暮れたので、一緒に来たんです」

 

楓と桜はキャイキャイと話し合っていたが、稟と明久は

 

「え? あの警備員達の騒ぎは、Fクラスの連中だったのか?」

 

「ああ……そちらは大丈夫だったようで、安心したよ」

 

とFクラスの騒ぎに関して話し合っていた

 

そして明久は、少し意識を広げて

 

(ふむ……第七から第九小隊か……瑠璃の采配かな?)

 

と付近に近衛部隊が展開しているのを察知した

 

(休暇が終わったら、隠密系の指導をするか……距離20で気付かれるなど、まだ甘いな)

 

明久はそう思うと、前が空いたことに気づいて

 

「空いたようだ。入ろう」

 

と促した

 

明久に促されて、稟達はアトラクションに入った

 

そして、幼なじみ四人は同じコーヒーカップに乗って回る

 

クルクルと

 

幼いころに、四人で手を繋いでたように

 

四人で草原に寝転がったように

 

それらは、今は失われた記憶

 

何時かは取り戻したい時

 

だから、幼なじみ達は決意する

 

何時か、明久の記憶という時を取り戻すと

 

そして今度は、決して一人にしないと

 

それが、今の自分達に出来ることだから……



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少女の慟哭

時は経ち、大分陽も暮れた

 

明久達と別れた後、稟と楓の二人は観覧車に乗っていた

 

二人は観覧車から降りたら、家に帰るつもりだった

 

一応、同居人であるプリムラは魔王の家に預けている

 

だが、預けっぱなしも悪い気がして「夕方には迎えに行きます」と言ってあるのだ

 

「今日は楽しかったですね」

 

「そうだな……」

 

楓の言葉き対して、稟は同意した

 

久しぶりに遊園地に来たのも有るが、何よりも明久が帰ってきたからだ

 

それまでは、何をやっても虚しい感覚が有った

 

《明久が行方不明になったのに、自分達には何も出来ない》

 

その思いが、重くのしかかっていた

 

明久に苦痛と傷を与えてしまったのは、自分達が弱かったから

 

だけど、明久は構わないと言った

 

僕が傷つくことで、稟と楓ちゃんが一緒に居られるから

 

明久はそう言って、稟の肩に手を置いて

 

笑っていた

 

そして、こうも言っていた

 

「だから、僕を敵のように扱ってね。そうすれば、楓ちゃんとずっと居られるから」

 

 

明久がそう言った直後、稟は思わず声を荒げた

 

「そんなこと、出来るわけないだろ!?」

 

 

自分達の為に悪役を被っているのに、なぜ自分が明久を敵にしないといけないのかと

 

稟がそう言ったら、明久は困ったような笑みを浮かべていた

 

だから、稟は迷わずに

 

「俺達は、ずっと明久の味方だ」

 

と言った

 

稟の言葉を聞いて、明久は微笑みながら「ありがとう」と言った

 

だから、稟は興平と一緒に体を鍛えた

 

だから意外にも、稟は結構筋肉質である

 

とはいえ、興平には負けるが

 

閑話休題

 

稟と楓が夕日を見ていると、楓が

 

「稟君……私、明久君に何をしたらいいんでしょうか……」

 

と呟くように問い掛けた

 

「楓……」

 

「私のせいで、明久君は左目と記憶を失いました……私に、どんな償いが出来るのでしょうか……」

 

稟が視線を向けると、楓が涙を零しながらそう言った

 

「私が弱かったから、明久君に背負わせてしまいました……そんな私が、明久君に何が出来るんでしょうか……」

 

そう言うと楓は、顔を両手で覆った

 

思い出してみれば、楓はまともに明久と話していない

 

それは恐らく、罪悪感から話し掛け辛いのだろう

 

楓は元来、真面目で責任感が強い少女である

 

だから、明久の左目と記憶を失ったのを自分の責任と思っていた

 

明久が聞いたら、恐らくは笑って許しているだろう

 

だが、楓はそんな自分が許せなかった

 

真実を知らなかったとは言え、明久を傷付け続けた

 

本当だったら、今すぐに命で償いたかった

 

だが、その行為は明久達の思いを否定する行為である

 

だから、それは出来ない

 

だったら、何が出来るのだろうか?

 

楓は明久が帰ってきてから、ずっとそれを考えていた

 

だが、何もいい案が浮かばない

 

楓の言葉を聞いて、稟はんーと言いながら、頬を掻いて

 

「昔みたいに接してやればいいんじゃね?」

 

と言った

 

すると、楓は稟に視線を向けて

 

「昔……みたいに……?」

 

と首を傾げた

 

すると、稟は頷いて

 

「ああ……明久だってさ、それを望んでいる筈だぜ? 忘れたか? あいつは誰が何をやっても、笑顔で許してただろ?」

 

と言った

 

だが、楓は涙を流しながら首を振って

 

「でも……でも、私が……っ!」

 

と泣いた

 

すると、稟は楓の肩に両手を置いて

 

「それに、罪は俺にもある……」

 

と言った

 

すると、楓は顔を上げて

 

「どういう……ことですか?」

 

と稟に問い掛けた

 

すると稟は、一拍置いてから

 

「明久がやったこと……最初は俺がやろうとしてたんだ……」

 

と語った

 

すると、楓は目を見開いた

 

「そんな……」

 

「だけど、明久が俺と幹夫さんの話を聞いてて、先に実行したんだ……俺と楓の約束を守らせるためにな」

 

稟がそう言うと、楓は俯いた

 

すると、稟は顔を上に向けて

 

「だからさ、楓だけが背負う必要はないんだ……俺も背負う……だから」

 

稟はそこまで言うと、楓を優しく抱きしめて

 

「明久とは、昔みたいに接してみようぜ……」

 

と言った

 

「はい……はい……!」

 

稟の言葉に楓は頷くと、大声で泣いた

 

それは、母である紅葉が亡くなり、真実を知った時以来の涙だった

 

そんな楓を稟は観覧車が降りるまで、ずっと抱きしめ続けた

 

その後、稟と楓の二人は観覧車から降りると、如月グランドパークから出て、帰路へと付いた

 

もう一人の家族の待つ家へと



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約束と後片付け

今回は短いです


明久と桜の二人は、如月グランドパークの夜のパレードを見ていた

 

煌びやかな装飾が施された山車とダンサーが中央道を練り歩き、華やかな印象を見てる人達に与えてくる

 

そんなパレードを見ながら、桜は

 

(どうしよう……言おうかな……)

 

と迷っていた

 

すると、明久が

 

「桜ちゃん」

 

と桜に声を掛けた

 

告白しようかしないか考えていた桜にとっては突然で、桜は慌てた様子で

 

「な、なにかな?」

 

と明久に問い掛けた

 

すると明久は、穏やかな表情で

 

「俺はまだ、桜ちゃんの想いに答えることは出来ない……まだ、大事な約束を思い出してないから」

 

と言った

 

明久のその言葉を聞いて、桜は目を見開いた

 

稟と楓の二人が、ずっと一緒に居る。という約束をしていたように、明久と桜の二人も幼い頃に大事な約束をしていたのだ

 

「アキ君……記憶が……」

 

桜が驚いていると、明久は頷いて

 

「少しずつだけど、戻ってきてはいる……だけど、肝心な約束の内容を思い出せないんだ……」

 

と寂しそうな表情を浮かべながら、そう言った

 

それを聞いて、桜は

 

「私とアキ君の約束は……」

 

と言おうとした

 

だがそれを、明久は片手を上げて制して

 

「ありがたいけど、桜ちゃん……そういうのは、自分で思い出すべきなんだと思う……だから……」

 

一旦そこで止めてから、一回深呼吸して

 

「だから……思い出すまで待っててね? 何時になるかは分からないけど、絶対に返事はするから……」

 

と言った

 

すると、桜が目尻に涙を浮かべながら

 

「うん……待ってるね……」

 

と言うと、明久に抱き付いて、明久も桜を優しく抱き締めた

 

その後、明久と桜の二人はパレードが終わると帰路に付いた

 

もちろんのこと、桜は明久からの返事を待つことを胸の内に秘めて……

 

そして翌日

 

如月グランドパークは、文月学園に対して正式に抗議文と損害賠償を要求した

 

内容としては

 

《此度、バイトとして赴いた其方の学園の生徒達が起こした、度重なる営業妨害により、此方は以下に記載した金額を損害賠償として要求する》

 

という文章であった

 

これを受けて、文月学園学園長の藤堂カヲルは誠心誠意込めて謝罪

 

それと同時に、損害額を全額支払った

 

それだけでなく、今回問題を起こした生徒達に対して

 

1、近く建設する寮に強制入寮させて、許可を得ない限り外出を禁止

 

2、週二日間の無償奉仕の義務付け(サボった場合、警察による監視の義務化)

 

3、召喚獣の観察処分者仕様化

 

4、教室設備の最下位での固定

 

5、クラス替えの禁止

 

6、私物の持ち込み禁止(持ってきた場合、重い罰則を科す)

 

等々といった事が決まった

 

尚、召喚獣の観察処分者仕様化だが、等級式に変更

 

等級式といっても二段階だけだが、下級が通常の観察処分者仕様

 

上級だと、痛覚及びフィードバックが70%で固定されている

 

そして、この上級仕様には、全男子が主犯格として名を上げた島田美波がなることになった

 

そして、学園長たる藤堂カヲルは、自ら引責辞任を発表

 

これに関しては、今のところストップが掛かっている

 

理由としては、適任者が見つからないのである

 

召喚獣システムに関しては、そのまま藤堂カヲルが引き受けることになっている

 

だが、文月学園がかなり特殊な学園であるために、引き受けてくれる人物が現れないのだ

 

結果、藤堂カヲルはしばらくの間、続投が決定

 

半年間適任者が見つからない場合、再度話し合って決めることになった

 

こうして、如月グランドパークでのデートと、騒動は幕を下ろした



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強化合宿偏
男二人の決意


「ここ……だよな?」

 

「ああ……ここの筈だ」

 

目の前の建物を見ながらそう言ったのは、須川亮と横溝真一だった

 

二人が今居るのは、光陽町の外れに有る神界魔界合同大使館の一角の合同近衛部隊の詰め所だ

 

詰め所とは言っても、訓練所や宿舎も兼ねているのでかなり大きい

 

普通の体育館の二倍に匹敵するだろう

 

二人はその建物を見上げながら、揃って喉を鳴らした

 

しかし、なぜこの二人がこんな場所に居るのか

 

それは、明久に会いに来たのだ

 

そして、会いに来た理由は《強くなりたいから》である

 

この二人、明久の戦いを数回程間近で見たのだが、気付いたら、明久の強さに惚れていた

 

他を寄せ付けない、その圧倒的強さに

 

そして、なぜそこまで強くなったのか、二人は一緒に考えた

 

そして思い出した

 

『守るために、必死に努力して強くなった』

 

という事を

 

それを思い出し、二人は数日間悩んで、今朝早くに、明久の家へと向かった

 

だが、生憎と明久は留守だった

 

すると、たまたま家の前で掃除していた魔王が

 

『明久君なら、今日は詰め所で隊員達と訓練しているよ』

 

と教えてくれた

 

それを聞いた二人は、後日に改めて来ようと帰ろうとした

 

だが、魔王が

 

『しかし、明久君に何の用事だい?』

 

と二人に問い掛けた

 

その問い掛けに対して、二人は数秒してから

 

『強くなりたいから、明久に修行を付けてもらいたい』

 

と真剣な表情で答えた

 

それを聞いて、魔王は朗らかな笑みを浮かべると

 

『ふむ、本気のようだね。少し待っていたまえ』

 

と言うと、家の中へと入っていった

 

それから、数分後

 

『はい、これを持って、郊外にある大使館へ行きなさい』

 

と二人に紙を手渡した

 

その紙には《面会許可証》と書かれてあり、下には魔王の名前がサインしてあった

 

それを見て、二人は思わず魔王に視線を向けた

 

すると、魔王は笑いながら

 

『今の君達ならば、大丈夫そうだからね。行っておいで』

 

と、二人を見送ったのだ

 

その後、二人は大使館に到着すると、受け付けの人に許可証を見せてから、明久がどこに居るのか教えてもらい、詰め所まで来たのだ

 

そして、冒頭に至る

 

「よし、入るぞ!」

 

「おう! こうしてても、埒があかない!」

 

二人はそう気合いを入れると、一緒にドアを開けて中に入った

 

すると、入り口付近に立っていた二人の隊員が須川達の前に立ちはだかって

 

「ここから先は、一般人は立ち入り禁止だ」

 

「速やかにでなさい」

 

と二人に忠告した

 

すると、須川と横溝は魔王から渡された許可証を提示して

 

「俺達は、吉井明久隊長に会いに来ました」

 

「これ、魔王様から貰った許可証です」

 

と続けて言った

 

それを聞いて、隊員達は訝しむように二人を見て

 

「本当か?」

「それを見せろ。確認する」

 

と二人に言った

 

すると、二人は素直に持っていた許可証を隊員達に手渡した

 

隊員達は許可証を受け取ると、数秒間確認してから

 

「失礼した」

 

「確かに、魔王陛下の直筆だな」

 

と謝罪すると、許可証を二人に返却した

 

「それで、総隊長だったな」

 

「こっちだ。付いて来い」

 

隊員達はそう言うと、須川達に付いて来るように言ってから歩き出した

 

それに続いて、須川達も歩き出した

 

明久が居るという場所に向かっていた途中、須川達は時々見えた部屋の中で他の隊員達が書類仕事や雑談しているのを見た

 

しかも単一種族ではなく、神、魔、人族が入り乱れている

 

二人がそれを不思議そうに見ていると、先導していた隊員の一人が

 

「不思議か? 三種族がこうして、一緒に働いているのが」

 

と、二人に問い掛けた

 

「あ、いえ!?」

 

「そういうわけじゃあ!!」

 

隊員からの問い掛けに二人が動揺していると、隊員達は笑みを浮かべて

 

「焦らなくてもいい」

 

「同胞の中には、人族排斥主義者なんかも居るからな」

 

と言った

 

人族排斥主義者

 

その過激派集団のことは、二人も知っていた

 

人族は、魔族や神族に支配されるべき。という考えの集団だ

 

「恥ずかしながら、昔の俺達も似た思考を持っていたよ」

 

「だが、明久総隊長に出会って、その考えは捨てた」

 

そう言った隊員達の表情は、どこか晴れやかな表情だった

 

「最初、俺達は明久総隊長を見下してたんだ。だが全てにおいて、明久総隊長は俺達の上を行ったよ」

 

「そして、圧倒的強さで俺達を下した。そこからだな。俺達は明久総隊長を敬愛するようになったよ」

 

「そうなんですか……」

 

「凄い人なんだな……」

 

隊員達の話を聞いて、須川達は素直に感嘆した

 

そんな話をしている内に、大きなドアの前に到着した

 

そのドアの上には《鍛錬場》という、看板が着いていた

 

「総隊長はこの中だ」

 

「開けるぞ」

 

隊員達はそう言うと、ドアを押し開けて

 

「総隊長! 総隊長に面会を希望している者達を連れてきました!」

 

「お目通し願います!」

 

隊員達がそう言うと、それまで指導していた明久がゆっくりと振り向いた

 

ここから、須川達の再誕が始まる



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男二人の決意

スランプで、筆が進まない…………


振り向いた明久は須川と横溝の二人を見ると、首を傾げて

 

「確か……Fクラスの須川と横溝……だったか?」

 

と問い掛けた

 

すると、二人は姿勢を正して

 

「須川亮です!」

 

「横溝真一です!」

 

と名乗った

 

「わかった……で、なぜお前達がここに?」

 

明久がそう問い掛けると、二人は緊張した様子で

 

「「お願いします! 俺達を鍛えてください!」」

 

と二人は口を揃えて言いながら、頭を下げた

 

すると明久は、片眉を上げて

 

「どういうつもりだ? なんのために、強くなりたいんだ?」

 

と問い掛けた

 

すると、二人は頭を下げたまま

 

「お恥ずかしい話ですが、俺達は自分達が不甲斐ないのに、それを他人のせいにしてました!」

 

「ですが、明久隊長殿を見ていて分かりました。俺達が自分達に気付けていなかっただけだと!」

 

と言うと頭を上げて、真剣な表情で明久を見ながら

 

「「だから、俺達を鍛えてください!」」

 

と言いながら、再び頭を深々と下げた

 

それから数秒間、無音の状態が続いた

 

無音の状態が続いたから、二人は半ば諦めかけた

 

その時

 

「頭を上げろ……」

 

と明久に言われたので、二人は頭を上げた

 

すると、明久は二人に歩み寄り

 

「魔王陛下が直筆で許可書を書いたんだ。お前達の気持ちは本物なんだろう……そこは俺も汲み取ってやる」

 

と言った

 

「それじゃあ……!」

 

明久の言葉を聞いて須川が嬉しそうな表情を浮かべるが、それを明久は右手を上げて遮り

 

「ただし、我々近衛隊の訓練はかなり厳しいぞ? それも覚悟しているな? 始めたら、途中で抜けることは認めないし、弱音も受け付けない」

 

と忠告した

 

それを聞いて、二人は姿勢を正し

 

「元より覚悟してます!」

 

「絶対に、弱音は吐きません!」

 

と答えた

 

それを聞いて、明久は頷き

 

「良いだろう。貴様らの仮入隊を認める!」

 

と告げた

 

「「はい!」」

 

明久の言葉を聞き、二人は背筋を伸ばした

 

これで、目的が達せると

 

「マツリ、フリージア!」

 

「「はっ!」」

 

明久が呼ぶと、一瞬にして二人の少女が明久の背後に現れた

 

そしてその二人の美少女を、須川と横溝は知っていた

 

片や、文月学園の生徒会長の瑠璃=マツリ

 

もう一人は副会長のフリージアだった

 

以前までならすぐさまナンパに掛かるが、須川と横溝の二人はそれを意志で押さえ込んだ

 

中途半端な気持ちで、修行が出来るわけがないからだ

 

「この二人を部屋に案内して、教育者を当てろ。人選は一任する」

 

「はっ!」

 

瑠璃とフリージアに指示だしすると、明久は訓練している隊員達に視線を向けて

 

「お前達は訓練に戻れ!」

 

と一喝すると、他の隊員達は訓練に戻っていった

 

その直後、瑠璃とフリージアが二人に近寄り

 

「あなた達、付いてきなさい」

 

「あなた達の部屋に案内します」

 

と告げた

 

「「はい!」」

 

そして歩き出して少しすると、二人は

 

「あの、お二人は確か……」

 

「生徒会会長の瑠璃=マツリさんとフリージアさん……ですよね?」

 

と問い掛けると、瑠璃とフリージアは頷き

 

「その通りです」

 

「あの学園には、私達以外にも何人か近衛が在籍してますよ」

 

と説明した

 

それを聞いて、須川達は驚いた

 

まさか、瑠璃とフリージア、明久以外にも近衛が在籍してるとは思わなかったのだ

 

そして、部屋に着いたらしく

 

「ここよ」

 

「ここで待っていてください。あなた達の教官役を後で送りますから」

 

と言った

 

「「了解!」」

 

こうして、二人の修行の日々が始まった



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強化合宿へ

今回は導入なので、短いです


須川と横溝が仮入隊して数日後、明久達は高橋女史と紅女史が配ったしおり

 

学力強化合宿のしおりを見ていた

 

「この学校って、本当に凄いよねー。合宿専用の建物まであるなんて」

 

「本当ですね」

 

シアが感嘆した様子で言うと、ネリネも同意するように頷いた

 

すると、同じくしおりを見ていた明久が

 

「なんでも、倒産した旅館を格安で購入し、試験召喚獣に対応させる工事をして使っているそうです」

 

と説明した

 

それを聞いて、稟が

 

「明久、よく知ってるな」

 

と感心した様子で言った

 

すると明久は、目を瞑って

 

「一応、安全かどうか調べたからな……」

 

と呟やいた

 

その直後

 

「案内位つけろよー!!」

 

という叫び声が聞こえた

 

「な、なに……?」

 

桜が驚いていると、明久が

 

「Fクラスは現地集合になっているからな、それだろう」

 

と言った

 

それを聞いて、稟達はしおりに書いてある各クラスの現地までの移動方法を見た

 

Aクラスはリムジンバスで移動する、と書いてあったが、Fクラスは

 

〈各自現地集合〉

 

としか書かれていない

 

しかも

 

〈迷っても、自分でどうにかしろ〉

 

と書いてあった

 

その文章を見て、興平は鼻息荒く

 

「あんなことしたんだ。自業自得だろ」

 

と吐き捨てるように言った

 

なお、須川と横溝以外のFクラス男子達と島田は今現在、学園側が建てたプレハブに住んでいる

 

そして、須川と横溝は近衛隊の隊舎に住んでおり、共に切磋琢磨しており、メキメキと力を付けている

 

魔力に関しては、二人は人族なためにそれ程多くはない

 

だが二人はそれぞれ、杖術と二丁拳銃での格闘戦に高い適性を示した

 

それを受けて明久は、二人に試作品の兵装を渡した

 

近年、人族と結婚して産まれる魔力値の低いハーフに対応させるために開発された試作兵装だ

 

実を言うと、明久が使っている魔力刀や札もその一つだ

 

須川に渡されたのが、伸縮自在の魔力杖で、横溝は魔力で弾と魔力刃を作る魔力銃だ

 

その兵装に関しては、既に学園に話を通して持ち込み許可を得ている

 

なお、明久の二人への評価は

 

「今後の成長に期待」

 

という評価だった

 

二人の成長速度が高いのは、二人の向上心の高さもあるだろう

 

二人は暇があれば特訓をしているか、先達達にコツなどを聞いているらしい

 

らしい、と言うのは、明久は直接見た訳ではないからだ

 

それらは全て、副隊長の一人のフリージアから聞いた話だ

 

須川と横溝の二人は、魔法に関しては残念ながら才能はほとんど無い

 

だが、諦めないで特訓しているという話だ

 

その影響を受けてか、先達達の練習意欲も上がっている

 

そういった部分を明久は買い、近い内に正式に採用する予定だ

 

なぜならば、明久も同じだったからだ

 

明久は魔法だけでなく、剣の才能も無かった

 

だが寝る間を惜しみ、血反吐を吐く思いで特訓を続けて、剣神の二つ名を得た

 

だから明久としては、二人にはそのまま頑張って特訓を続けてほしいと思っている

 

閑話休題

 

「さて、何事もなく終わってくれれば僥倖なんだが……」

 

明久はそう呟くものの、その願いは叶わないとは、この時は思っていなかった



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騒がしい合宿の始まり

いやはや
大変お待たせしました
まだリハビリ状態なので、しばらくは亀更新ですので、ご了承ください


翌日、明久達は学園が用意したリムジンバスにて、合宿所に向かった

 

移動中、バス車内では賑やかに占い等を行った

 

明久はその間、油断なく警戒していた

 

だが警戒しながらも、明久は稟達と談笑しており、警戒していることを悟らせなかった

 

道中は何もなかったが、渋滞に巻き込まれて合宿所に到着したのは予定よりも二時間も遅れたのだった

 

しかし、遅れた以外は概ね順調に推移

 

だが夕食が終わり、入浴時間を待っていた時、事件は起きた

 

その時、明久達は宛がわれた部屋にて休んでいた

 

なお部屋には、明久と稟以外にはクラスメイトの久保の姿もあった

 

本来は四人部屋なのだが、男子の人数の都合上、明久達は三人で使っている

 

なお、須川と横溝の二人にはFクラスの監視を命じている

 

とはいえ、一番不安なのは女子なのだが

 

その時だった

 

急に廊下が騒がしくなり、ドアが乱暴に開けられた

 

その直後、島田が入ってきて

 

「土見ー!!」

 

と声を上げながら、稟に駆け寄ろうとした

 

だが、それを見逃す明久ではない

 

明久は一瞬にして魔力刀を抜くと稟の前に出て、島田に刃を突き付けた

 

魔力刀を突き付けられた島田が止まると、明久は島田を睨んで

 

「なんのつもりだ?」

 

と低い声で問い掛けた

 

すると、島田は一瞬躊躇ってから

 

「これが女子浴場の更衣室に仕掛けられてたのよ!」

 

と言いながら、右手を開いた

 

そこには、小さい黒い箱のようなものがあった

 

「なんだい、これは?」

 

久保は分からないのか、メガネを上げながら首を傾げたが、明久は目を細めて

 

「ワイヤレス小型監視カメラ………」

 

と呟いた

 

そのカメラは要するに、《そういった目的のため》のカメラである

 

それが、女子浴場の更衣室に仕掛けられていた

 

つまりは、盗撮である

 

「こんなの仕掛けるのなんて、土見しか思い浮かべられないわよ! 観念しなさい!」

 

島田はそう言いながら、稟に飛びかかろうとした

 

だが、それを明久が許すわけがない

 

島田が一歩踏み出した瞬間、明久は魔力刀を一閃

 

数秒後、島田は倒れた

 

もちろんだが、峰打ちである

 

いくら明久とて、簡単に切り捨てはしない

 

その時、ドアが開いて

 

「明久、稟、大丈夫か!?」

 

と興平が駆け込んできた

 

どうやら、事態に気付いて走ってきたらしい

 

興平に僅かに遅れて、西村がやってきた

 

そして、倒れてる島田を見ると、明久に視線を向けて

 

「島田はなんと?」

 

と問い掛けた

 

それに対して、明久は淡々と

 

「その小型カメラを突き付けながら、稟殿を犯人扱い。更に危害を加えようとしたので、無力化しました」

 

と答えた

 

それを聞いて、西村は首を振りながら

 

「Aクラスは全員アリバイがあって、不可能なんだがな」

 

と言って、島田を肩に担いで出ていった

 

明久達は見送り、興平は島田が落とした小型カメラを拾い上げた

 

その時、明久の右耳に付けていたインカムに一瞬ノイズが走り

 

『隊長、緊急です! Fクラスの男子たちが、女子浴場に向かいました!』

 

と須川から緊急事態を告げる無線が入った

 

それを聞いて、明久は

 

「横溝は?」

 

と、問い掛けた

 

『横溝は現在、先生たちに連絡しに向かってます! 俺は、男子たちの後を追ってます!』

 

須川の返答を聞いて、明久は立ち上がると

 

「俺も行く、少し待て」

 

と告げた

 

ドアに向かった明久を見て、稟と興平はいぶかしむような表情を浮かべて

 

「明久、なにがあった?」

 

「どうした?」

 

と問い掛けた

 

すると明久は、二人に視線を向けて

 

Fクラス男子達(バカ共)が、女子浴場へと向かっているらしい。止め(殺り)に行く」

 

と告げた

 

それを聞いて、二人は獰猛な笑みを浮かべて

 

「面白そうじゃねえか!」

 

「いっちょ、派手に暴れますか!」

 

と声を上げた

 

すると久保は、メガネを上げながら

 

「じゃあ僕は、手空きのAクラス男子達に声を掛けて、有志を募ってくるよ」

 

と言った

 

それを聞いて、明久は頷くと

 

「では、状況開始だ」

 

と言って、部屋から飛び出した

 

どうやら、まだ一日目は終わらないらしい

 



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男二人の任務

お久しぶりです
お待たせしました


明久達が男子を止めに向かっている時、須川はどう足止めしようか考えていた

 

(力ずくか? こいつらなら、バカ正直に俺に向かってくるかもしれないが、数に押されて突破される可能性が高すぎる……)

 

須川はどうすれば足止め出きるか、自分なりに考えていた

その時、一瞬ノイズが走ってから

 

『須川! 聞こえるか!?』

 

と別ルートで先生を呼びに向かった横溝から、通信が入った

 

「横溝か!」

 

『今、高橋女史と一緒に、一階のエントランスに居る!』

 

横溝からの通信を聞いて、須川は横溝の考えに気づいた

横溝は、数の差を試召戦闘を使って補う気なのだと

確かに、それならば圧倒的数に対抗して、時間稼ぎが出きるかもしれなかった

自分達は時間稼ぎ

本命は、動いてるだろう明久だ

明久が来るまで時間を稼ぐために、横溝は試験召喚獣を使って戦う気なのだ

しかし、この二人もFクラスだ

悲しい事実だが、点数は似たり寄ったりだ

そんな点数では、大した時間稼ぎは出来ないだろう

須川が悩んでる間にも、Fクラス男子達は階段を駆け降りていた

そして一階に到達し、須川の視界に高橋女史の姿が見えた

その時、須川と横溝の脳裏に、ある一つの教科が浮かび上がった

最近になって、うなぎ登りに点数が上がった教科を

二人はアイコンタクトを交わすと、頷いて

 

「高橋女史! Fクラス須川亮と!」

 

「同じくFクラス。横溝真一が、他のFクラス男子達に対して!」

 

「「魔法理論で勝負を挑みます!」」

 

「「「「「な、なに!?」」」」」

 

仲間だと思っていたのか、勝負を挑まれたFクラス男子達は目を見開いて驚愕した

しかし、高橋女史は気にした様子もなく

 

「許可します!」

 

と言うと、フィールドを展開した

高橋女史がフィールドを展開したのを確認すると、二人は

 

「「試獣召喚(サモン)!!」」

 

とお馴染みのキーワードを唱えた

すると、二人の足下に魔法陣が現れて、軽い爆発音がした

そして、二人の召喚獣が召喚された

二人は現れた自身の召喚獣を見て、目を見開いた

なにせ、二人の召喚獣の服装と武装が変わっていたからだ

須川は胴着と長い棒から、白地に緑色、黄色、赤色の混じった近衛隊服と支給された魔力杖

横溝は学生服と鉄パイプから、須川と同じデザインの近衛隊服と二挺の魔力銃だった

本来だったら、学期毎やクラス変更時にしか変わらないはずなのだ

二人は知らなかったが、この変更は明久からの入隊祝いだった

無理を承知で学園長に頼み、変えてもらったのだ

そして勿論だが、交換条件があった

それは、試験召喚獣システムに使われている生徒と召喚獣のシンクロ魔法の改良のための魔法技術の技術提供だった

これに対して明久は、明久が知る限りの知識でもって応じた

それにより、操作性の向上が出来たらしい(学園長曰く、軽く1、5倍近くらしい)

二人は召喚獣の服装と武装が変わっていることは頭の角に置いて、眼前のFクラス男子達を睨んだ

すると

 

「須川! 横溝! お前ら、どういうことだ!」

 

「裏切ったのか!!」

 

と男子達は怒鳴った

すると、二人は

 

「裏切ったんじゃない!」

 

「俺達は、俺達の任務をこなすだけだ!」

 

と返した

二人の言葉が理解出来ないのか、Fクラス男子達は舌打ちすると無視して地下浴場に向かおうとした

しかしそれを見て、高橋女史がメガネを上げながら

 

「戦闘を挑まれて召喚しないのは、敵前逃亡とみなし、即補習室送りとなりますが?」

 

と言うと、再び舌打ちしてから構えて

 

「「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」」

 

とキーワードを唱えて、召喚獣を召喚した

 

魔法理論

Fクラス男子達 平均55点

 

VS

 

Fクラス須川亮 178点

Fクラス横溝真一 164点

 

「「「「「なんじゃそりゃー!?」」」」」

 

表示された二人の点数を見て、Fクラス男子達は驚愕の声を上げた

須川と横溝の二人も同じFクラス

点数の差はないと思っていたのだ

だが、彼らの考えは外れた

選択科目、魔法理論

神族と魔族が使う魔法をあらゆる視点から解析し、それを理解するための科目である

なぜ、Fクラスのはずの須川と横溝が三倍近い点数を獲得しているのか

それは一重に、彼らの努力である

近衛部隊では、神族と魔族が大半を占めている

だから、対魔法訓練は日常的に行われている

しかし、魔法を理解せずに魔法には勝てるわけがない

だから二人は、暇さえあれば、魔法を知るために魔法理論を学んだ

分からないところは先達達に学んだ

そして、たった二週間足らずで、二人はBクラス並へと至った

しかし、普通に勉強していたのでは間に合わない

だから二人は、《死に物狂いで勉強した》

既に、その体現者が居る

死に物狂いで勉強し、血ヘドを吐く思いで修行した人物が

努力して、人族でありながらも、栄光ある合同近衛部隊の隊長となった人間が

 

((だから努力すれば、あの領域に至れる筈だ!))

 

二人はそう意気込むと、眼前のFクラス男子達を睨んで

 

「近衛部隊仮隊員、須川亮!」

 

「同じく、横溝真一!」

 

「「参る!」」

 

と言うと、たった二人で切り込んだ

自分達の責務を果たすために



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終結

待たせたな(土下座)


須川と横溝の二人が戦い始めて、約十数分が経過

なんと二人は、約四十人相手に善戦

数人を補習室送りにしていた

しかし、やはり人数差はどうにも出来なかった

人数に押されて、二人の点数が五十点を切りそうになった

 

(これ以上は、保たないかっ!)

 

と二人が諦めかけた

その時だった

 

『お前達、よく保たせた』

 

と待ち望んだ声が、聞こえた

その声を聞いて、二人は笑みを浮かべ

 

「お待ちしてました! 総隊長!」

 

と声を挙げた

その直後

 

「神速!」

 

「そぉい!」

 

「いっしゃあ!」

 

という声が聞こえて、それとほぼ同時に数人が0点になった

そして、戦場に新たに三人の名前と点数が表示された

 

魔法理論

 

Aクラス 吉井明久 689点

Aクラス 土見稟 385点

Aクラス 皇興平 398点

 

現れたのは、たった三名

しかし、精鋭の三名

しかも一人は、学園最強の生徒

合同近衛部隊総隊長、吉井明久

二人が尊敬して止まない、頂点に立つ一人の猛者

その明久の姿を見て、生き残っていたFクラス男子達は

 

「見ろ! 憎き吉井明久だ!」

 

「裏切り者の土見稟と皇興平も居るぞ!」

 

「ぶっ殺せぇぇぇぇ!」

 

と、まるで獣のように飛び掛かった

その光景を見て、須川と横溝の二人は思わず

 

「ああ……俺達も前は、ああだったか……」

 

「そりゃあ、モテないわなぁ……」

 

と呟いた

第三者視点から見たから、ようやく気付いた

自分達のやっていたことの、何とも醜いことか

モテない男達の嫉妬からくる、憂さ晴らし(八つ当たり)

そんなことをやっていたら、それは嫌われる

それだったら、自分達の尊敬している明久と同じように誰かのために戦った方がカッコいいに決まっている

二人はそう意気込むと、互いの顔を見て

 

「横溝、あと何点残ってる? 俺、60点」

 

「俺、55点だ……狙うは?」

 

「人間と同じように弱点に設定されてる、頭と胸部!」

 

と確認しあった

そして、眼前で明久達に群がっている以前の友人達(烏合の衆)を見て

 

「んじゃあ、行きますか………戦場へ!」

 

「ああ………総隊長ばかりに任せたら、近衛部隊の名が泣くわ!」

 

と言って、武器を構えた

狙うわ、護衛対象

土見稟を背後から奇襲しようとしている、数人の男子!

 

「行っくぜぇぇぇぇ!」

 

須川は雄叫びを上げると、魔力杖を横に持ちながら突撃した

稟が背後からの奇襲に気付いて振り向いたが、既に武器を振り上げていた

 

(間に合わないかっ!)

 

と稟は点数が削れるのを、覚悟した

だが

 

「せぇのっ!」

 

横合いから須川が、その男子達を魔力杖で押し出した

それは、須川が魔法理論で高い点数を取ったが故に出来たこと

召喚獣というのは、点数がそのまま強さになる

つまり、点数が高いほうが必然的に召喚獣の身体能力が高い

そして、須川達の点数は他のFクラス男子達の約二倍だった

つまり、須川達の召喚獣は他のFクラス男子達の召喚獣の約二倍の身体能力を有しているということ

須川の召喚獣はその身体能力を活かして、数人分の召喚獣を押して壁に押し付けた

 

「須川、テメェ!」

 

「この、裏切り者が!!」

 

と喚いて、須川を睨んだ

しかし、須川は笑みを浮かべて

 

「余所見してて、いいのかな!?」

 

と言った

その直後、須川の召喚獣の背後から横溝の召喚獣が姿を現した

そして、両手の魔力銃を構えると

 

()ぇ!」

 

気合いと共に銃撃

的確に、召喚獣の頭と胸部を撃ち抜いた

しかし、その隙を突こうと横溝の背後に二人の召喚獣が現れた

 

「横溝、しゃがめ!」

 

須川のその言葉を聞いて、横溝は条件反射の域でしゃがんだ

そして、横溝の召喚獣の頭上を須川がフルスイングした魔力杖が通過

身体能力と遠心力がタップリ籠った一撃が、二人の召喚獣の首に直撃

その二人の召喚獣は、首を折られて戦死した

そして気付けば、Fクラスは全滅していた

 

「っしゃあ!」

 

「やったぜ!」

 

勝ったことが嬉しくて、須川と横溝はハイタッチした

すると、明久が近寄って

 

「お前達、よく保たせてくれた」

 

と、二人を誉めた

すると、それに続くように稟と興平が

 

「本当だな」

 

「よくやったな」

 

と言って、手を差し出した

 

「え?」

 

いきなりの事に、二人が驚いていると

 

「握手だよ」

 

「見直したよ、お前ら」

 

と稟と興平が言った

それを聞いて、須川と横溝は顔を見合わせてから

 

「よろしくな!」

 

と握手に応じた

こうして、第一次女子浴場覗き防衛戦は終結

敵約四十人をたった五人で殲滅という、大戦果を上げた

その立役者として、須川亮と横溝慎一の名前が教師に広がった

そして、この時を境に、二人の評価が少しずつ変わっていく………

 



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食事と会議

短くてすまぬ


Fクラス男子達による覗き未遂騒ぎの翌日

須川と横溝は疲れた様子で、机にうつ伏せになっていた

 

「つっかれた……」

 

「あー……飯が旨い……」

 

二人はそう話ながら、もそもそと朝食を食べ始めた

彼らが居るのは、大食堂の一角

場所的には、Aクラスの位置だ

理由は至極単純

Fクラスのほとんどは、別室で西村監視の下で食事中なのだ

なお、Fクラスで捕まってないのは須川と横溝の二人の他に、雄二、秀吉、康太の三人だ

その三人もAクラスの一角

具体的には、翔子達の居る場所で食事中だ

しかし、その中に明久の姿が無い

明久が居ないことに気付いて、須川と横溝は周囲を見回した

すると、なぜかキッチンの方から明久が現れた

そして、明久が椅子に座ると

 

「隊長、なぜキッチンから?」

 

と須川が問い掛けた

すると明久は、キッチンで働いている女性達に視線を向けて

 

「なに。少しばかり、指導をな」

 

と言った

それを聞いて、横溝が

 

「隊長、料理が得意なんで?」

 

と問い掛けた

すると、明久は肩をすくめて

 

「一人暮らししてるからな。一応得意だな」

 

と答えた

それを聞いて、二人は

 

(隊長、一人暮らしなんだ)

 

と思った

しかし、二人は知らなかった

明久の料理の腕が、王宮の料理人すら超えることを

そしてその腕を、家事が得意な魔王フォーベシィも高く評価していることを

それを知るのは、もう少し後の話となる

閑話休題(話を戻して)

明久達は食事を終えると、部屋に戻った

そして、昨日の事件の捜査を始めた

 

「まず、ロッカールームのカメラだが……」

 

「これですね」

 

明久の言葉を聞いて、須川が机の上に写真と資料を置いた

それを見て、明久が

 

「これは……犯人は館内に居るな」

 

と言った

 

「隊長。その理由は?」

 

横溝が問い掛けると、明久は写真を指差して

 

「この小型ワイヤレスカメラ。バッテリー駆動で、最大で八時間だ。それに、資料によれば映像は電波でパソコンに送るタイプだ。そして、これほど小型ならば電波の有効範囲は最大で百メートル以内。つまりは、この合宿所に居る誰かだ」

 

と説明した

それを聞いて、二人は納得した様子で頷いた

そして、ハッとした表情で

 

「まさか、犯人は女子では」

 

と同時に口走った

それを聞いて、明久は笑みを浮かべて

 

「ほう……その理由は?」

 

と問い掛けた

すると横溝が、机の上に合宿所の見取り図を置いて

 

「西村先生から聞いた話では、廊下にはカメラが設置されてます。更に、入り口にはパスワード式のセキュリティがあり、入るには教師の誰かが入力する必要があります」

 

と説明を始めた

 

「しかし、例外があります……まずは、西村先生と高橋女史。そして、隊長が持ってるセキュリティカード。そして……女子なら顔認証で入れます」

 

その説明を聞いて、明久は満足そうに頷いた

 

「よく気付いたな。今回の盗撮事件の犯人は、女子だろう。そして、カメラはもう一台あるだろうな」

 

明久のその言葉を聞いて、二人は驚いていた

 

「本当ですか!?」

 

「ああ……西村先生から聞いた話では、見つけたのはここ。裏返しにされた籠の中だったようだ……それではまるで、見つけてくださいと言ってるようなものだ」

 

明久のその言葉を聞いて、二人はあっと声を漏らした

 

「入り口付近の裏返した籠の中……」

 

「簡単に見つかりますね」

 

そう

余りにも、隠してあった場所がお粗末過ぎたのだ

素人丸出しの隠し位置

だが、それが囮ならば話は別である

 

「今朝早くに、本隊に必要な装備を持ってくるように連絡した。それを使って、犯人を探しだすぞ」

 

「はい!」

 

明久の言葉を聞いて、二人は真剣な表情で頷いた

こうして、二日目は始まったのだった



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修羅

お待たせしました
一週間以上かけて、短いです
あかん
これ書くの、結構キツイかもしれん………


「隊長。どうでした?」

 

昼食後、須川は明久に何か進展があったか尋ねた

すると、明久は一枚の紙を取り出して

 

「隠密から報告書が来た。まず、更衣室にはカメラが最低でももう一台あるようだ」

 

「つまり、見つかったのは囮ってことか?」

 

明久の言葉を聞いて稟がそう言うと、明久は無言で頷いた

 

「隠してあった場所も、入り口付近の裏返した籠の中だったらしい……明らかに囮だな」

 

明久のその言葉を聞いて、興平が頷いた

そして

 

「明らか過ぎる」

 

と同意した

確かに、あからさま過ぎるのだ

まるで、見つけてくださいと言わんばかりだ

 

「そして、調査した隠密によると、更衣室から不明電波が発せられてるとのことだ。今、詳細は調査中だ」

 

「不明電波?」

 

明久の言葉を聞いて、稟が首を傾げた

すると、明久が

 

「学園で使っているのとは、全く違う電波を確認したらしい。恐らくは、犯人が仕掛けたものだろう」

 

と言った

 

「要するに、犯人はまだ諦めてないと…………」

 

「だな。それで、男子達は?」

 

「諦めてるわけないですよ」

 

「特に、Fクラスはね」

 

稟の言葉に、須川と横溝が答えた

二人はFクラス男子達から裏切り者扱いされており、情報を得るのは難しいだろう

《普通》にやれば

しかし、今の二人は仮にも近衛隊に所属している

隠密の魔法も習っていた

二人はそれを使い、ギリギリまで潜入したのだ

 

「どうやら、Fクラス男子達は他のクラスにも参加を要請したようです」

 

「Aクラスは拒否。それ以外は、覗き側として参加するようです」

 

二人の報告を聞いて、明久は唸りだした

約百名近くが、覗き側として参加する

かなり、頭が痛い話しだった

勝てないわけではないが、普通に戦ったら、かなり時間が掛かるのは間違いなかった

 

「隊長。どうします?」

 

「隊長……」

 

須川と横溝の二人が問い掛けるが、明久はしばらく黙っていた

そして

 

「仕方ない。影を動かすか」

 

と言った

 

「影?」

 

「隊長。影とは?」

 

影の意味がわからなかったのか、二人は首を傾げた

すると、明久が

 

「普段は催眠暗示で一般人として過ごしているが、俺がある動作をすると近衛として活動を始めるんだ。だから、影」

 

要は隠密だった

しかも、無自覚の隠密

これほど恐ろしいことはないだろう

何人居るのか聞こうと思ったが、恐らく機密だろうから言わないと判断した

 

「問題は、やっぱり人数差を覆す方法か」

 

須川がそう言うと、明久は指を一本立てて

 

「方法は一つだけだ……召喚獣を使う」

 

と言った

それは、須川と横溝もやった手だった

試験召喚獣を使った、試召戦争

それを行い、数の差を覆すのだ

試召戦争は、0点になると問答無用で補習室に連行される

それを使って、相手を全て倒すのだ

そうすれば、数の差は覆せる

後必要なのは、点数だ

 

「須川、横溝。お前達は後で、テストを受けてこい。先の戦いで減った点数を回復させておくんだ」

 

「了解」

 

明久の指示を聞いて、二人は頷いた

すると、明久は立ち上がり

 

「俺は、影を起こすとするか」

 

と言った

それを聞いた興平が

 

「そういえば、その影は何人位居るんだ?」

 

と明久に問い掛けた

それを聞いて、明久は少し思い出すように僅かに上を見て

 

「約20人足らずだったか」

 

と答えて、部屋から出た

しかし、問題はもう一つある

それは、覗きの真犯人だ

明久は言わなかったが、実は一人怪しいのが居た

それは、Dクラスの清水美春という女子だった

近衛の調べでは、彼女には前科があった

そして、何より大きいのが、百合だということ

彼女はFクラスの島田が好きらしく、事ある毎に島田にアプローチしていたのだ(島田は、それら全てを断っているが)

しかし、恋する乙女はなんとやら

島田に断られているのに、未だに諦めてないらしい

それは別に構わないのだが、他人を巻き込むのは関心しなかった

清水の過去を調べたのだが、気に入った女子に近づく奴が居たら、あらゆる手段を使って排除していたのだ

それにより、転校や不登校になってしまった生徒も居ることが分かった

今回は、島田が稟に近寄った(清水の認識では、稟が島田に近寄っただと思われる)ので、稟を排除しようとした

そんな処だろう

だが、そんな暴挙は

 

「絶対に許すものか……」

 

そう言った明久の目には、冷たい光が宿っていた

清水は、怒らせてはいけない相手を怒らせた

それに気づくことは、ない………

 



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戦闘直前

短くてすまぬ


二日目、女子の入浴時間より少し前

 

「そうか……やはり、清水か」

 

『はい。部屋のカバンの中に、ノートパソコンが有り、その中に盗撮映像を確認しました』

 

明久は通信機を使って、部下と連絡を取っていた

その内容は、清水のカバンの中にノートパソコンが有り、更には盗撮映像も有ったというものだった

 

『更に、どうやら盗撮映像を使っての脅迫や販売をしていたようです。ノートパソコンのメモに書いてありました』

 

「そうか……コピーは?」

 

『万事抜かりなく』

 

部下からの報告を聞いて、明久はふむと頷いた

 

「分かった。それら全てのデータは、俺の端末に送れ。俺が対処する」

 

『承知』

 

それを最後に通信を終わると、明久は通信機を懐に仕舞ってから合宿所に戻った

その時、明久はふと悪意に気付いて

 

「……上か?」

 

と天井を見上げた

しかし分からないのは、誰かに向けられているということのみ

近距離だったら、誰に悪意が向けられているのか分かる

更に、自分に向けられているなら誰が悪意を発しているのかすら分かる

しかし、今は距離が大分離れてるようで分からない

明久は深々と溜め息を吐くと

 

「たまには、落ち着いた時を過ごしたいものだね……」

 

と愚痴をこぼして、自室へと歩きだした

そして時は経ち、入浴時間

明久達は手早く入浴を終わらせると、準備をしていた

それは勿論、覗きをしようとする男子達(バカ共)の殲滅戦のである

今のところ、戦闘に参加するのは明久、須川、横溝、禀、興平の五人のみである

それに対して、相手の人数は約百人程

戦力差は絶望的だった

明久曰く

 

『どこのスパルタだ』

 

とのことだった

なおその時、何処からか

 

『炎門の守護者ァァァァァァァ!』

 

と暑苦しい男の声が聞こえた

というのは、須川の談である

閑話休題

因みに、禀の参戦に明久は何度も制止した

敵は嫉妬に燃えるFクラスの男子達が中心となった、覗き部隊

バカなFクラス男子達ならば、覗きよりも先に禀を攻撃してくるのは想像に難くない

そうなった場合、明久でも人数差で禀を守りきれない可能性が高かった

だが明久が制止しても、禀は頑なに譲らなかった

理由は語らなかったが、興平の

 

『諦めろ、明久。こうなった禀は、絶対に引かない』

 

という言葉で、明久が折れたのだ

何時かは分からないが、影が援軍として現れる

それでも、戦力差は約四倍

絶望的な差には変わらない

だから明久は、須川と横溝の二人に禀の護衛を命じた

なるべく、禀から離れるな。と

それを聞いて、二人は真剣な表情で敬礼した

そして彼らは、戦場へと向かう

鮮血(点数)火花(嫉妬)が渦巻く戦場に



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開始

短いですが、更新します
待ってくれてた人、居るのかな……
居ないか


夕食後、明久達はある場所に居た

その場所は、地下へと向かう階段の前の広場

そこが、女子浴場へと向かう唯一の階段だ

そこの前に布陣していれば、敗北しない限りは誰も通れない筈である

フィールドの形成は、高橋女史がやってくれる

そして、この階の端には西村が待機している

負けた生徒が逃走する前に、捕まえるつもりだ(とはいえ、過去に逃がしたことはないが)

 

「……緊張するぜ……」

 

「人数は、前の倍近く……」

 

と須川と横溝がそう呟くと、それまで目を閉じていた明久がゆっくりと目を開けた

気配を感じたからだ

そして、奥の階段を見つめて

 

「来るぞ」

 

と言った

その数秒後、雄叫びを上げながら走ってくる男子達の姿が見えた

すると、明久が

 

「高橋先生、俺達全員であいつら全員に魔法理論で勝負を挑みます!」

 

と高橋女史に告げた

それを聞いて、高橋女史は頷くと

 

「許可します!」

 

と言って、フィールドを展開した

明久達は、高橋女史がフィールドを展開したのを確認してから

 

試獣召喚(サモン)!」

 

と一斉にキーワードを唱えた

その直後、連続して爆発音が響き渡って、明久達の足下に召喚獣が姿を表した

そして、僅かに遅れて点数が表示された

 

魔法理論

Aクラス

吉井明久  875点

土見稟  386点

皇興平 397点

 

Fクラス

須川亮 263点

横溝真一 249点

 

それを見て、覗き部隊は足を止めず

 

「あいつらを殺れぇ!」

 

と直接攻撃しようとした

だが

 

「ルールを破った者は補習!」

 

と、西村がその数人を捕縛

連れ去ったのだった

そう

今この時だけは、試験召喚獣戦争のルールが適用される

そして、そのルールの一つ

 

《召喚者への直接攻撃は禁止》

 

彼等はそれを破ったのだ

それを破った場合、戦死した時と同じように補習室行きになるのだ

予期せぬことで減ったが、それでもまだ人数差は激しい

だが、諦めるつもりは毛頭無い

今、ここに立っている漢達は不退転の覚悟で立っている

特に明久

今の時間、女子浴場に入っているのはAクラス女子達である

つまり、ネリネやリシアンサスが入っている

例え、自分の命が果てようが、誰一人として通すつもりもない

 

「ちいっ! 忘れてたぜ!」

 

「仕方ねえ! 試獣召喚!」

 

一人が悪態を吐き、一人がキーワードを唱えた

それを皮切りに、続々と残っていた覗き部隊もキーワードを唱えた

その結果

 

魔法理論

Bクラス 平均95点×20

Cクラス 平均87点×20

Dクラス 平均55点×20

Eクラス 平均49点×20

Fクラス 平均30点×32

 

試験召喚獣戦争では主に、現代国語、古典、数学、化学、日本史、世界史、英語(ライティングとリスニング)、保健体育が重要視されている

これら個別点数が加算されているのが、総合点数である

そして、その点数に表示されない教科が通称選択科目である

選択科目は、美術、音楽、技術、家庭科、魔法理論だ

この選択科目は、試験召喚獣戦争ではあまり使われない

故に、殆どの生徒が最低限の点数を取るだけで終わる

だからこそ、こういう時に切り札となるのだ

相手は最低限しか取っていないのに、自分達が高得点だったらどうなるのか

答えは簡単

一撃撃破だ

 

「ギャアアァァァァァ!?」

 

「つか待て!? なんであいつら、あんなに高得点なんだ!?」

 

「た、助けて!?」

 

「お助けぇぇぇ!?」

 

先頭で邂逅した男子達が、悲鳴を上げた

最低でも、百点以上の差があるのだ

例え急所でなくとも、致命傷になる

それを証明するかのように、一番最初に交戦した男子達は戦死

西村によって連行されていった

しかし、戦闘は始まったばかり

人数差は圧倒的

気を緩めるわけにはいかなかった

この時明久は、稟に向けられている殺意に気づいていた

そして、その殺意を発している相手が誰なのかも

 

(人数は一人……場所は、後ろの階段か……)

 

だから明久は、ある策を行動することにした

明久は僅かに下がると、稟の耳元でボソボソと呟いた

それを聞いて稟が頷き、右手で左手手首を触った

それを確認した明久は、元の位置に戻るために一歩踏み出した

次の瞬間、僅かに明久の姿がブレたが元の位置に立っている

そして、二面作戦が始まった



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終結

今回、初めて完全スマホ投稿です
もしかしたら、少しおかしい場所があるかもしれません
ただ今、作者は茨城県まで応援に来てるんです
詳しくは、割烹を見てください


戦闘が始まって、早十数分が経った

明久達は奮闘していたものの、徐々に押されていた

それはやはり、数の差だった

いくら一人一人が強かろうが、数の暴力に押されていた

一人倒しても、直ぐに倍以上の敵が殺到している

須川と横溝の二人も奮戦していたが、内心でかなり焦っていた

何時になれば、明久が言っていた影が来るのかと

その時だった

やはり焦りからだろう

須川は飛び掛かってきた相手への反応に僅かに遅れて、押し倒されてしまったのだ

 

「しまった!?」

 

須川が焦りの言葉を口にした時、須川達の上を三体の召喚獣が飛び越えた

 

「しいっ!!」

 

その須川のフォローに、横溝が片手の魔力銃を連射した

それにより、二体の召喚獣が倒せた

しかし、残った一体が戦っていた稟目掛けて武器を振り下ろそうとした

明久は複数人を相手にしており、稟のカバーに回れない

須川は押し倒されていて、横溝は二人を相手に近接戦闘をしていた

そんな二人は、稟に警告をしようと口を開こうとした

その時だった

稟の背後の階段から、小さい何かが飛んできた

飛んできた物

針は、稟を攻撃しようとしていた召喚獣の頭を貫いた

それにより、稟を攻撃しようとしていた召喚獣は消滅

そして、稟の背後の階段から次々と人影が現れた

現れたのは、桜と楓を筆頭としたAクラス女子と同じくAクラス男子達だった

 

「な、なんだ!?」

 

「Aクラスだと!?」

 

何故Aクラスが来たのか分からず、覗き部隊は狼狽えていた

須川と横溝も訳が分からなかったが、直ぐに行動を再開

自分達と戦っていた相手が止まっていたので、一撃で倒して稟のカバーに入った

 

「あれって、Aクラスだよな?」

 

「ああ……まさか、Aクラスが隊長の言ってた影なのか?」

 

二人はそう会話しながらも、稟を攻撃しようと接近してくる覗き部隊を次々と打ち倒した

この時、二人は前だけに意識を向けていたので気付かなかった

階段から、稟に害意が向けられていることに

 

魔法理論

Aクラス 平均285点×約30人

Aクラス代表 霧島翔子 387点

Aクラス 八重桜 355点

Aクラス 芙蓉楓 367点

 

どういう訳か、Aクラスの魔法理論の点数が軒並み高い

魔法理論は前述した通り洗濯科目故に、殆どの生徒は最低限の点数しか取らない

Aクラスの高点数と人数

その二つにより、覗き部隊は瞬く間に討伐されていった

そして、Aクラスが突入してきて数分後に覗き部隊は全滅した

 

「終わったか……?」

 

「みたい……だな」

 

二人はそう言いながら、明久に近寄ろうとした

その時だった

階段から人影が飛び出し、稟目掛けて飛び掛かったのだ

二人が動くよりも早く、稟の防衛に誰かが入った

それは言うまでもなく、明久だった

しかし、須川と横溝は驚いた

なにせ、今この場所には明久が二人居たからだ

 

「た、隊長が二人居る!?」

 

「ど、どういうことだ!?」

 

二人が困惑している間にも、事態は進んだ

後から現れた明久は、飛び掛かってきた相手

清水美春を一撃で無力化して、拘束した

そして、気絶した清水の手から物体

ナイフが、こぼれ落ちた

刃渡りは、優に10cm以上はあるだろう

恐らくは、それで稟を刺すつもりだったのだろう

そんな長さのナイフで刺されたら、命が危うかっただろう

清水を拘束し終えた明久は、稟に視線を向けて

 

「稟、助かった。解除してくれ」

 

と言った

すると稟は、頷いてから左手手首の腕時計

魔道具を弄った

その直後、最初の位置に居た明久の姿が掻き消えた

 

「まさか……」

 

「幻術系の魔道具?」

 

二人が推測混じりにそう呟くと、明久が頷き

 

「ああ……稟に協力してもらって、隠れていたんだ」

 

明久はそう答えながら、天井を指差した

そこには、金枠が外されている通風口があった

元々は古い旅館だったという話だったから、その時の名残だろう

そこに隠れていたようだ

最初からか途中からかは二人には分からなかったが、二人は心中で驚愕していた

つまり明久は正面からではなく、上から見ながら召喚獣を操作し戦ったのだ

その難易度は、二人には想像出来なかった

簡単に言うと、ゲームで自分のではなく隣の画面を見ながら戦っているのと同じだろう

それを明久はやってのけ、しかも、稟の危機に素早く行動した

それを知って、二人は尊敬の眼差しで明久を見ながら敬礼した

そして、気になったことを聞くために明久に近寄り

 

「しかし、隊長。まさか、Aクラスが隊長の言ってた影なんですか?」

 

と、問い掛けた

その問い掛けに対して、明久は首を左右に振って

 

「いや、彼等は影ではない」

 

と答えた

そして、足下に倒れている清水を見下ろしながら

 

「こいつが、部屋に盗聴機を仕掛けている可能性を考えてな……」

 

と言った

つまりは、《敵を騙すには、味方から》である

恐らく、明久が直接頼んだのだろう

それならば、Aクラスが高い点数なのが頷けた

明久が頼んだから、テストを受けて取得したのだろう

明久は、清水を担いでから

 

「霧島代表、Aクラスの協力に感謝する」

 

と言った

すると、翔子は頷いてから

 

「……雄二の無実を証明出来るなら、安いもの」

 

と答えた

それを聞くと、明久は清水を担いだまま去っていった

これにより、覗き部隊との戦闘は終結したのだった

 



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夏休み編
始まる夏休み


合宿が終わって数日後

明久達は、普通に下校していた

なお、覗き部隊はもれなく全員一週間の停学となった

更に、前科持ちだったFクラス男子達はペナルティが課せられた

その内容は、卒業までのボランティア

並びに食堂の使用禁止である

文月学園の食堂は券売機方式なのだが、食券を買うには生徒手帳を翳す必要がある

つまり、その券売機のデータベースのFクラス男子達のデータをブラックリスト入りすれば、食券が買えなくなるのだ

なお、生徒手帳の貸与は禁止されている

もし無くした場合は、速やかに教師に申し出るように通達されている

そして、最も処分が重かったのは清水と島田の二人である

島田は一ヶ月の停学と留年が決定

清水は無期限停学、実質の留年だった

なお、清水の復学の時期は決まっていない

 

「もうすぐ、夏休みかあ」

 

「だな……リシアンサス殿下?」

 

明久が視線を向けた先では、シアが酷く落ち込んでいた

 

「シアちゃん……夏休み補習みたいです」

 

とリンが言うと、シアは無言で定期試験の結果が書かれた紙を見せた

確かに、下部の補足の部分に

 

《夏期補講決定》

 

という文章が書かれていた

なおメンバーは、何時ものメンバープラスFクラスから、雄二、康太、麻弓=タイム、秀吉だ

そして、麻弓はもはや燃え尽きている

理由は、言わずもがな

夏期補講である

しかも、六割も

夏休みとは、一体……

すると、明久が

 

「リシアンサス殿下……お母様方から、厳しい授業を受けたのでは?」

 

「英語だけは、全員ダメなの……」

 

明久の問い掛けに、シアは落ち込んだ様子でそう言った

確かに、英語の点数が一際酷い

 

「他のは、ケアレスミスとかでダメだったみたい……うぅ……お父さんになんて言えばいいの……」

 

シアがそう言うと、リンも頷いた

ユーストマとフォーベシィは夏休みを楽しみにしており、家族旅行を計画していた

下手したら、学校に乗り込みかねない

親バカは怖いのだ

 

「それこそ、お母様方に頼めば大丈夫ですよ。サイネリア様辺りが無難ですよ」

 

「それだ!」

 

明久の提案を聞いて、シアはビシッと明久を指差した

サイネリア

ユーストマの妻の一人なのだが、その昔は《雷の女帝》と呼ばれた女傑だったのだ

その戦闘技法は近接格闘戦闘で、拳で魔法すら弾くことが出来る手練れなのだ

実を言うと、以前にユーストマは記念日を忘れていてサイネリアを怒らせてしまい、土下座外交を敢行するしかなかったのだ

サイネリアの一撃は、ユーストマですら恐れているのだ

だから何か起きれば、サイネリアを呼ぶようにすれば万事解決である

拳で

実際明久は、ユーストマが暴走した時にサイネリアを呼ぶようにしている

その時明久は、神王家の前でユーストマとフォーベシィが雑談しているのを見つけた

 

「あ、お父さん」

 

「御父様も居ますね」

 

とシアとリンが言うと、向こうも気付いたらしい

手を振ってきた

 

「やあ、お帰り皆」

 

「おう、お帰り」

 

「ただいまー」

 

「ただいま帰りました」

 

親子でそれぞれ挨拶すると、ユーストマが

 

「シア、テストの結果はどうだった?」

 

と聞いた

その質問に、シアはビクッと震えた

余りにも、タイムリーだったからだ

少しすると、シアは諦めたように紙を差し出した

ユーストマはそれを読むと、震えだして

 

「よし! 特殊部隊を呼べ! これは我が家に対する宣戦布告とみた!」

 

と声を上げた

余りにも予想通り過ぎた

シアは家に駆け込むと

 

「サイネリアお母さーん!!」

 

とサイネリアを呼んだ

そして少しすると、中からは赤髪の魔族の女性が現れて

 

「コークスクリュー!!」

 

「ごふっ!?」

 

その拳の一撃で、ユーストマを沈黙させた

サイネリアは手をパンパンと鳴らすと、稟達に笑顔で

 

「お騒がせして、ごめんなさいね」

 

と言って、ユーストマの襟首を掴んで引きずっていった

それから、数日後

夏休みに入って、三日目

 

「来たな、マー坊」

 

「そうだね、神ちゃん」

 

「とうとう来たな」

 

「来ちゃったね、神ちゃん」

 

「ようやく来たな!」

 

「そうだよ、神ちゃん! さあ、一緒に!」

 

そこまで言うと、二人は呼吸を合わせて

 

「うーみー!!」

 

と叫んで、海に駆けていった

すると、一緒に来ていた時雨亜沙が

 

「あの二人の荷物、少し離しておこうか」

 

と提案し、全員が頷いた

理由は至極単純

恥ずかしいからだ

なお、魔界と神界に海は存在しない

在るとしたら、とてつもなく広い湖である

だから、ユーストマとフォーベシィの二人はずっと海に来たがっていたのだ

そして、念願の海に来てテンションが天元突破してしまったのだ

すると、シアが

 

「お父さん! お母さん達がスイカ割りしようだって!」

 

と呼ぶと、ユーストマは駆け戻り

 

「おうよ! 幾らでも、粉砕してやらぁ!」

 

と声を上げた

スイカ割りとは粉砕するのではない

なぜ、拳を握り締める

と稟達は内心で突っ込みをしていた

すると、一人になったフォーベシィは

 

「ふむ、では私は……そこらの女性の品定めでも」

 

と呟いた

だが

 

「1、2、3!」

 

という掛け声を聞いて、顔を蒼白にした

すると、どこからかメイド服を着た女性

フォーベシィの奥さん

セージが現れて

 

「スピニング・サンダー……キーック!!」

 

とフォーベシィを蹴り飛ばした

 

「アガポっ!?」

 

蹴られたフォーベシィは、砂浜に頭から埋まった

セージはそんなフォーベシィを肩に担ぐと、何処かに去っていった

すると、リンが

 

「では、私は御父様の面倒を見てきますね」

 

と言って去った

こうして、騒がしい夏休みが始まった



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海で

短いですが、投稿します


海に来て数十分

明久は砂浜で日光浴していた

サングラスを掛けている

よく見れば、眼帯を外している

稟達は波打ち際でプリムラと一緒に砂で城を作っている

すると、明久の近くに桜が来て

 

「お疲れさまだったね、アキくん」

 

と明久を労った

その理由は、少し前まで神王に付き合って遠泳してきたのだ

明久はそれに疲れて、休んでいたのだ

その距離、20kmである

 

「普段使ってる筋肉とは違う筋肉使ったからな……流石に疲れた」

 

そう言う明久の語気には、疲れが見える

 

「やっぱりね……はい」

 

桜は苦笑を浮かべると、ペットボトルを一本手渡した

明久は受け取ると、ゆっくりと飲んだ

もちろん、人肌温度である

明久は三割程飲むと、桜に視線を向けて

 

「ありがとうね、桜ちゃん」

 

と言った

 

「ううん、平気」

 

桜はそう言うと、明久の隣の椅子に腰かけた

それを見た明久は、自分の近くのパラソルの向きを調整した

桜も影に入るようにだ

 

「ありがとう、アキくん」

 

「構わないさ」

 

桜はスタミナはかなりの物だが、運動神経は悪いほうである

だから長距離走等ではかなりの成績を出すが、短距離やバレー等では見学に回る

楓は希望的に文武両道だが、時折うっかりが発動する

そして、明久が見ている先にはもちろん廩達が居る

ふとその時、明久はある気配を感じた

故に明久は、立ち上がって

 

「桜ちゃん、何か買ってくる?」

 

と桜に問い掛けた

 

「え? あ……じゃあ、かき氷をお願い。いちごで」

 

「分かった」

 

明久は頷くと、海の家に向かった

そして、中に入ると

 

「報告」

 

と入口脇に立っていた瑠璃に問い掛けた

 

「神界で不審な動きが確認されました。詳細は確認中です」

 

「分かった……瑠璃」

 

明久が呼ぶと、瑠璃は不思議そうに首を傾げた

すると明久は、壁のメニューを指差して

 

「何か頼むか?」

 

と問い掛けた

すると、瑠璃が慌てた様子で

 

「わ、私は任務でここに居るのであって!?」

 

と言った

だが、明久は

 

「だが、何も飲まず食わずは体調に悪い。それに何より、店側にもな」

 

と言った

それを聞いて、瑠璃は言葉に詰まった

その隙に、明久はカウンターに行き

 

「かき氷を二つ、いちごで」

 

と注文した

そして、出来たのを受け取ると

 

「ん」

 

と一つを手渡した

 

「あ、え、あの……」

 

瑠璃は視線をかき氷と明久に視線を往復させていると、明久は瑠璃の腕を掴み

 

「行くぞ」

 

と歩きだした

 

「し、しかし、隊長! 任務が!?」

 

「瑠璃一人位なら、問題ないですよ」

 

瑠璃の言葉に被せ気味にそう言ったのは、いつの間にか居たフリージアだった

 

「須川と横溝の影響か、全員の能力向上が凄いの。だから瑠璃一人が抜けても、問題なくカバー出来るわ」

 

「う、うぅ……」

 

フリージアの言葉に、瑠璃は反論が出来なかった

 

「では、俺の近くで稟達を守るというのはどうだ?」

 

「……分かりました」

 

明久の言葉に、瑠璃は不承不承という体で頷いた

 

「フリージア、配置パターンの変更。頼めるか?」

 

「お任せを」

 

明久の指示を聞いてフリージアは頷くと、静かに消えた

それを確認すると、明久は瑠璃を伴って戻った

すると、桜が

 

「お帰り、アキくん。あれ? 瑠璃さん?」

 

「海の家でたまたま会ってな、連れてきた」

 

桜が不思議そうにした理由を察して、明久はそう説明した

それに納得したのか、桜は微笑んで

 

「そうなんだ。よろしくお願いしますね、瑠璃さん」

 

と握手した

すると、シアが近寄ってきて

 

「あれ? 瑠璃さん? どうしてここに?」

 

と首を傾げた

 

「海の家に居たので、連れてきました」

 

明久がそう説明すると、シアは嬉しそうに

 

「わあ! そうなんだ! よろしくっす!」

 

と瑠璃に抱き付いた

 

「は、はい!」

 

シアに抱き付かれて、瑠璃はアタフタしながらも頷いた

すると、そのタイミングで他のメンバーも集まってきた

それぞれが瑠璃が居たことに驚いていたが、明久が説明した

ふと時計を確認すると、ちょうどいい時間だった

すると、楓や桜

亜沙が弁当箱を取り出して

 

「御昼にしようか」

 

と提案した

すると、魔王夫婦や神王の奥さん達が更に弁当箱を取り出した

重箱弁当箱である

そして最後に、明久が弁当箱を取り出した

これまた、重箱である

そして、昼食を始めた

 



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夏休み3

短いですが、投稿します
ギャグ混じり


「うーん……やっぱり、明久君の料理に勝てる気がしないっす」

 

「そんなことありませんよ、リシアンサス殿下……また腕を上げましたね」

 

明久の料理にシアが悔しそうに言うと、明久はそう言った

周りのメンバーからしたら、大差ないのだが

すると、楓と桜が

 

「負けてられません……」

 

「もっと勉強しないと……」

 

と呟いていた

どうやら、女のプライドに火が点いたらしい

すると、瑠璃が

 

「わかります」

 

と二人に同意していた

それを聞いていた明久は、内心で

 

(解せぬ)

 

と思っていた

それから数分後、昼食は終わった

その時、瑠璃が耳元で

 

「隊長、どうやら不審者が出ているようです」

 

と囁いた

それを聞いて、明久の目が鋭くなった

 

「詳細は?」

 

「どうやら、相手は魔族のようです。人数は二人」

 

明久が問い掛けると、瑠璃は弁当箱を片付けながらそう言った

そして明久は、少し考えると

 

「対応マニュアル、Fー3」

 

と呟いた

すると、いつの間にか付けていたインカムから

 

『了解、Fー3で対応開始します』

 

とフリージアから通信がきた

それを聞くと、明久はインカムを仕舞った

そして、明久は全員が見えるようにとイスに座った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

その頃、文月学園では

 

「皆、知っているか……にっくき土見や吉井達が、シアちゃんやネリネちゃんと共に海に行っているらしいぞ」

 

「それは本当か、中田!」

 

Fクラスの男子の一人

中田幸助の言葉を聞いて、村田勇が声を上げた

すると、長山荒太が

 

「ちくしょう……俺達はこんなに辛い思いをしているというのに……理不尽だ!」

 

と叫んだ

今彼等を含めたFクラス男子達は、ほぼ全員が補習の真っ最中だった

正確には、補習という名前の夏休み返上授業の真っ最中だ

彼等は度重なる問題行動により、夏休みの八割を返上し授業が決定された

そして、その授業の担任は西村と高橋女史である

そして今、高橋女史の下で授業中だった

なお、今の会話は全て、アイコンタクトで交わしている

高度なスキルの無駄使いである

 

「どうする?」

 

「全員でこの地獄から一気に脱出して、成敗しに行くぞ!」

 

「それで行くぞ!」

 

「3カウントで行くぞ! 3、2、1!」

 

とタイミングを合わせると、一気に動き出した

高橋女史の制止を無視して、全員は廊下に飛び出した

そして、ロッカーに隠してあった武器を取り出すと玄関に向けて走り出した

そして、間もなく玄関に到着する

その時だった

 

「待てい、貴様ら!!」

 

と大声が響き渡った

その声に足を止めたFクラス男子達が見たのは、廊下で仁王立ちしている西村だった

 

「どけ、鉄人!!」

 

「俺達は今から、土見を成敗しに行くんだ!」

 

「この理不尽を許してはいけないから!」

 

Fクラス男子達が口々にそう言うと、西村はカッと目を見開き

 

「戯け! この状況は、貴様らの自業自得だろうが!!」

 

と怒声を張り上げた

その怒声に、Fクラス男子達は一瞬怯んだものの、すぐに

 

「うるさい!」

 

「もう、我慢の限界なんだ!」

 

「邪魔するなら、鉄人からやってやる!」

 

「全員、掛かれ!」

 

「うぉぉぉ!」

 

と西村目掛けて、走り出した

それを見た西村は、嘆息してから右手を高々と掲げた

そして

 

「○着!」

 

と叫んだ

次の瞬間、西村の体に機械の鎧が装着されていた

 

「な、なにい!?」

 

「まさか、あれは!?」

 

「伝説の鎧か!?」

 

その鎧を見て、Fクラス男子達は驚愕した

しかし西村は、そんなFクラス男子達を無視して

 

「今から貴様らに、教育的指導を行う」

 

と言って、それを構えた

光る剣を

 

「ちょ、待って!?」

 

「に、逃げろ!!」

 

「ダメだ、間に合わねえ!?」

 

「鉄人……ダイナミック!!」

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

西村の技を食らい、Fクラス男子達はぶっ飛んだ

そして西村は、Fクラス男子達全員が倒れたのを確認すると鎧を解除

そして、全員を一気に担いで運び始めた



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来たのは

一人追加ですっ
この子は、どっちにしようかな……


「……首尾は?」

 

「一名捕縛しました。ただ今、尋問中です」

 

明久が問いかけると、いつの間にか背後に居たフリージアがそう言った

それを聞いて、明久はふむ、と漏らすと

 

「もう一人は、どうした?」

 

と問い掛けた

すると、フリージアは少ししてから

 

「この方です」

 

と明久に写真を差し出した

それを受け取って、明久は写真を見た

そして、思わず片眉を上げた

その人物が、完全に予想外だったからだ

 

「この方は……デイジー樣ではないか」

 

「はい……予想外で、一先ず報告をと」

 

確かに、予想外過ぎた

デイジー

現神王の兄の娘であり、本来だったら、その兄が神王になる予定だった

しかし、その兄は病弱だった

だから、弟だったユーストマが神王になった

そのことに関して、その兄は納得しているらしい

ユーストマも、色々と手回しして後腐れないようにしていた

しかし、その兄の奥さんの一人

デイジーの産みの母親が、未だに神王の座に執着していることが分かっている

そしてつい最近、その母親が現神王反対派に接触していることも分かっている

それにより、その母親に危険な魔導具が渡っていることも分かっている

そしてデイジーは、文月学園の生徒だ

学年は二年生で、学園が用意した寮に住んでいる

生活費を稼ぐために、近くのゲームセンターでバイトしていることが分かっている

 

「……デイジー樣には、手出しするな。俺が直接見る」

 

「了解しました」

 

明久の言葉にフリージアは返答すると、影を使った転移魔姿を消した

デイジーが姿を現したのは、それから数分後だった

しかしそれは、完全に休みを満喫している様子だった

 

(来たのは、完全に偶然か……ん?)

 

その時明久は、デイジーの右肩にその存在を見つけた

見た目は、黒いウサギのぬいぐるみ

しかし、その正体は神界の神獣

 

(エリカ=スズラン樣!?)

 

その正体に気付いた明久は、思わず飲んでいたお茶を吹き出した

 

「アキ君!?」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

近くに居た桜と瑠璃は、慌てて明久に近寄った

明久は桜からタオルを受け取ると、右手でデイジーの方を指し示した

 

「ん? あの子は確か、放送部の……」

 

「デイジー樣ですね……え!?」

 

桜はエリカ=スズランに気づいてないようだが、それは仕方ない

だが瑠璃は気付いたらしく、目を見開いた

肩に乗っている、エリカ=スズランに

 

「た、隊長っ! あの肩に乗っていらっしゃるのは、まさか!?」

 

「エリカ=スズラン樣だな……間違いない」

 

そう言った明久は、先ほどの写真に写っていなかった理由を思い出した

ユーストマから聞いた話だが、エリカ=スズランは写真に写るのを好まないらしい

だから、神界の書物にしか記録が残っていない

なお、今の姿は仮の姿であり、本当の姿は幼い少女の姿らしい

とはいえ、それも書物に書かれていただけ

その姿を見たのは、遥か昔の神王のみ

現神王たるユーストマも、見たことは無いようだ

その神獣がなぜ、人間界に居るのか

 

「一緒に居るとはな……完全に予想外過ぎた……」

 

「なぜ、デイジー樣と?」

 

「それも分からない……」

 

と明久と瑠璃が小声で話していると、海から上がってきたシアが気付いたらしく

 

「あれ? デイジーちゃん!」

 

とデイジーに声を掛けた

すると、荷物を置いたデイジーが振り向いて

 

「シア樣!」

 

と嬉しそうにした

するとシアは、エリカ=スズランに気付いたらしく

 

「初めまして、エリカ=スズラン樣。当代神王の娘、リシアンサスです」

 

と恭しく挨拶した

すると、エリカ=スズランは

 

「うむ。よろしく頼むぞ」

 

と言った

喋り方は古風だが、その声は少女のものだった

すると、エリカ=スズランが明久に気付いたらしく

 

「ほれ、そこの主。こちらに来たらどうだ?」

 

と言った

呼ばれた明久は、座っていたベンチから立ち上がって近寄り

 

「初めまして、神獣、エリカ=スズラン樣。自分は神界魔界合同近衛部隊部隊長の吉井明久と申します。こちらは、副隊長の一人の」

 

「瑠璃=マツリと申します。以後お見知り置きを」

 

と二人して自己紹介した

 

「うむ。よろしく頼むぞ」

 

とエリカ=スズランが言うと、デイジーが慌てた様子で

 

「わっわ!? あの近衛部隊の剣神さん!? 初めまして!」

 

と頭を下げた

すると、明久は

 

「こちらこそ、初めまして。デイジー樣ですね? 以後お見知り置きを」

 

と頭を下げた

すると、瑠璃が

 

「初めまして、デイジーさん。文月学園生徒会会長の瑠璃=マツリです」

 

と挨拶した

すると、デイジーは首を傾げて

 

「あれ? 先ほど、近衛部隊副隊長って……」

 

「まあ、生徒会会長もしてまして。今度は生徒としてですよ」

 

デイジーの問い掛けに、瑠璃はそう返した

それに納得した様子で、デイジーは瑠璃と握手した

すると、シアが

 

「デイジーちゃんは、なんで海に来たの?」

 

と問い掛けた

すると、デイジーは

 

「放送部の活動が休みだったのと、バイトもお休みだったので遊びに来たんです。そしたら、偶然皆さんに会ったんです」

 

と言った

どうやら、本当に偶然らしい

すると、シアが

 

「だったら、一緒に遊ばない? 一人よりも、皆で遊んだほうが楽しいよ!」

 

と誘った

 

「え? ご、ご迷惑では?」

 

「構わないさ。それに、一人で居ると、ああいうナンパが五月蝿いぞ?」

 

明久はそう言いながら、ある方向を指さした

その方向では、樹が女性をナンパしていた

が、すぐに麻弓に鎮圧された

それを見て、デイジーが

 

「緑葉先輩……」

 

どうやら、樹を知っているようだ

まあ、同じ学園なのだから、知っているだろう

そして少しすると、デイジーは

 

「そちらが構わないなら」

 

と答えた

こうして、一人追加されたのだった

 



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放送部へ

デイジーは終始、シアと楽しそうに遊んでいた

その時、明久の近くにユーストマが現れて

 

「デイジーか……」

 

とデイジーを見た

その目には、複雑な感情が見て取れた

 

「神王陛下……」

 

「最近、義姉貴が変な動きをしているのは知っているがな……どうだ?」

 

デイジーを見たまま、ユーストマはそう明久に問い掛けた

 

「今のところ、危険な動きや魔道具は確認出来ません……監視は怠らずに行います」

 

「ああ、頼む」

 

明久の言葉に、ユーストマは頷いた

そして時は過ぎて、夕方

明久達は、帰途に着いた

その途中のことだった

デイジーが

 

「あ、あの、シア樣!」

 

とシアに声をかけた

 

「んー? なあに?」

 

とシアが小首を傾げると、デイジーは緊張した様子で

 

「放送部に……放送部に入ってくださいませんか!?」

 

と言った

その後、デイジーはそう言った理由を語った

今デイジーは放送部の部長なのだが、今年は新入部員は無し

更に、三年生が引退したために部員がデイジー一人だけらしい

だが、一人では部としての存続は実質不可能

今年中に、最低で三人にならないと廃部になることが決まったのだ

そしてシアは、部活には入っていない

確かに、人材としてはうってつけだろう

シアはその容姿と性格から、幅広く好かれている

 

「うーん……どうしよう」

 

とシアが悩んでいると、ユーストマが

 

「悩む必要はねえよ、シア」

 

と言いながら、シアの頭に手を置いた

 

「お父さん……」

 

「今のお前は、王女であると同時に学生なんだ。だったら、学生らしく部活にも参加しろや」

 

シアが視線を向けると、ユーストマはそう言った

それは、神王としてではなく、シアの父親としての言葉だった

それを聞いたからか、シアは

 

「えっと、何処に行けばいいのかな?」

 

とデイジーに問い掛けた

すると、デイジーは嬉しそうに

 

「来てくださるんですか!?」

 

とシアに問い掛けた

 

「うん。部活には、参加してみたかったの」

 

「ありがとうございます! 明日の11時に、学園二階の放送室に来てください」

 

シアの言葉にデイジーはそう言った

そこで一行は別れて、帰宅した

翌日、明久達は言われた時間に学園に来ていた

そして、シアが放送室のドアをノックすると、少ししてから

 

「お待ちしてました! どうぞ」

 

と明久達を中に招き入れた

中はかなり広く、設備もかなりのものだった

 

「これは……もはや、ラジオ放送局の設備並だな」

 

と言ったのは、設備を一瞥した明久である

どうやら、非常時に使うことも考慮されているらしく、広域放送システムがあったからだ

 

「しかし、これだけの設備……一人で回すのは厳しいだろ?」

 

という明久の言葉に、デイジーは頷いて

 

「はい、そうなんです……」

 

と認めた

すると、シアが

 

「それで、今日はどうすればいいのかな?」

 

とデイジーに問い掛けた

すると、デイジーが

 

「今日は、シア樣と剣神さんにゲストとして出てもらうという形を考えてます」

 

と答えた

そして、傍らの机の上に置いてあった箱を取ると

 

「実は、少し前からお二人への質問を集めてたんです」

 

と言って、中から紙の束を出した

明久は、その片方を取ると中を見て

 

「なるほど……まあ、答えられる範囲でなら答えよう」

 

と言った

すると、同じようにシアが

 

「そうだね……流石に、答え難いのがあるなぁ」

 

と言った

すると、デイジーが

 

「ああ、それは構いません! 私も、応募された中から選んだつもりですが、最初からこれは言えないというのが幾つかあったので……」

 

と言った

一体、どういう質問内容だったのか

 

「では、いいですか?」

 

「ああ、構わん」

 

「OKっす!」

 

二人が頷くと、デイジーは立ち上がって

 

「では、中に入って待っていてください。私は、ちょっとやることがあるので」

 

と言って、奥に続くドアを開けた

二人が中に入ってイスに座ると、デイジーは何やら設備を操作した

そして稟を手招きすると、何やら指を指して喋っている

そして稟が頷くと、入ってきた

そして二人と対面する形で座ると

 

「では、準備はいいですか?」

 

と二人に問い掛けた

 

「大丈夫だ」

 

「OKっす!」

 

明久とシアがそう返すと、デイジーは稟の方に向いて手を振った

すると、机の上のランプが光った

それを確認してか、デイジーが天井から吊られる形であったマイクに顔を近付けて

 

「皆さん、お昼の放送の時間です! 食事中の補習の皆さんも、部活の皆さん。今日もお疲れ樣です!」

 

と喋りだした

そして、二人を見ると

 

「今日はなんと、スペシャルゲストをお呼びしています! 神王ユーストマ樣のご息女、リシアンサス樣と神界魔界合同近衛部隊総隊長の吉井明久さんです!」

 

「ど、どうも! リシアンサスっす! 長いから、シアって呼んでください!」

 

「吉井明久だ。好きに呼んでくれ」

 

と二人が軽く自己紹介すると、学園中から歓声が上がった

 

「おっと、放送室まで歓声が聞こえましたよ! やはり、お二人は有名ですね?」

 

「いわゆる、有名税とやらだな」

 

「明久君、人気っすよね♪」

 

「シア樣も人気じゃないですか。では、以前から皆さんに応募してもらった質問の中から幾つか選んで、お二人に聞いていきたいと思います!」

 

とデイジーは言うと、明久と書かれた束を持った

こうして、放送は始まった



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放送部にいらっしゃい

「ではこれから、お二人に質問をしていきたいと思います! なお、流石に答えられないのはパスと言ってください」

 

「了解っす!」

 

「分かった」

 

二人が頷いたのを確認してから、まずデイジーは明久に視線を向けて

 

「ではまず、明久さんに質問します」

 

と問い掛けた

そして、明久が頷くと

 

「えっと、剣神さんは基本的に一刀流で戦ってらっしゃるみたいですが、二刀流はどうなんですか?」

 

とデイジーが問い掛けた

すると、明久が頷き

 

「確かに、基本的に使っているのは神剣一刀流という剣技だが、二刀流も使う」

 

と答えた

それを聞いたデイジーは、おおっ。と声を上げて

 

「しかし、神界には二刀流による戦闘技法は無いですよね?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに明久は

 

「確かに、数年前まではなかったな。だが、俺が創立した」

 

と答えた

それを聞いたデイジーは、驚愕した様子で

 

「そ、創立したんですか!? 凄いですね!?」

 

と声を上げた

すると明久が

 

「とはいえ、実質的な使い手は俺のみだな」

 

と肩を竦めた

それを聞いたデイジーは、なるほどと頷くと

 

「では次は、シア様にお尋ねします」

 

とシアに体を向けた

するとシアは

 

「どんと来いっす!」

 

と言った

それを聞いたデイジーは頷いてから

 

「では、シア様。えー、リシアンサス様は料理がお得意なようですが、一番最初に覚えた料理はなんですか?」

 

と問い掛けた

するとシアは、すぐに

 

「オムレツっす! 洋食の基本にして、頂点と言われた料理っすね」

 

と答えた

 

「なるほど! それで、そのオムレツを教えてくれたのは、誰ですか?」

 

とデイジーが問い掛けると、シアは一瞬明久を見て

 

「基本的な技術はお母さん達っすけど、応用を教えてくれたのは明久君っす!」

 

と答えた

するとデイジーは、少し驚いた様子で

 

「え、明久さんって料理も出来るんですか?」

 

とシアに問い掛けた

その問い掛けに、シアは

 

「明久君の料理の腕は、宮廷料理人に認められてたっす!」

 

と答えた

するとデイジーは

 

「つまり、明久さんの料理の腕はプロ級ってことですか!」

 

と声を上げた

すると明久が

 

「まあ、そうなるな」

 

と肯定した

 

「す、凄いですね……料理教室を開いたら、千客万来間違いなしですね」

 

デイジーはそう言うと、軽く咳払いしてから

 

「では、次の質問を明久さんにします!」

 

と言った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

そして、約三十分が過ぎた所で

 

「では、リクエストされた曲は流します。曲名は、Once&Foeverです!」

 

と言って、稟の方にピースサインをした

すると稟は、親指を立ててから何らかの操作をした

すると、デイジーが

 

「実質的には、これで終わりです。ですが、最後に一緒に、シーユー・ネクストタイム。と言ってほしいんです。お願いします」

 

と言った

それを聞いて、明久とシアは頷きながら

 

「分かった」

 

「分かったっす!」

 

と答えた

そして、曲が終わると

 

「さて皆さん。お別れの時間がやってまいりました。今日の放送は、楽しんでもらえましたか? では、お二人も一緒に。せーの!」

 

と、音頭を取った

そして

 

「シーユー・ネクストタイム!」

 

と三人で一緒に告げた

そして人差し指を立てると、稟は頷いてからまた操作した

すると、机の上にあったランプが消えた

それを確認したデイジーは、ヘッドホンを外して

 

「ありがとうございました! お二人のおかげで、楽しかったです!」

 

と言いながら、軽く頭を下げた

すると、シアが

 

「こっちも楽しかったっす!」

 

と嬉しそうに語った

するとシアは、立て続けに

 

「それで、入部するにはどうすればいいのかな?」

 

とデイジーに問い掛けた

それを聞いたデイジーは、目を輝かせながら

 

「い、いいんですか!?」

 

と立ち上がった

するとシアは、微笑みを浮かべて

 

「なんか新鮮で、楽しかったからね。入部することにしたっす!」

 

と答えた

するとデイジーは、シアの手を掴んで

 

「ありがとうございます! 嬉しいです!」

 

と言いながら、何回も頭を下げた

そして、稟が待機してた隣の部屋に行くと、ある机の上にあったファイルを取って開き、中から一枚の紙を取り出すと

 

「この入部届けに、シア様のお名前を書いてください。そうすれば、私が顧問の先生に出しますから」

 

と言いながら、シアに手渡した

それを見た稟が、デイジーに

 

「なあ、俺も入っていいか?」

 

と言った

 

「え、土見さんも……ですか?」

 

とデイジーが不思議そうに問い掛けると、稟は頬を軽く掻きながら

 

「実は俺、帰宅部でな。家に帰っても、暇を持て余してたんだ。それに、初めてやったが、結構面白いしな。やってみたくなったんだ」

 

と言った

それを聞いて、デイジーは

 

「あ、ありがとうございます! これで、廃部を免れられます!」

 

と嬉しそうに頭を下げた

それを見ていた明久は、少し考えると

 

「ならば、俺も入ろう」

 

と言った

明久は、稟とデイジーの驚きの視線を受けとめつつ

 

「まあ、主にはお二人の護衛という意味が強いがね。それに、来るのは少ないだろうが、許してくれ」

 

と言った

するとデイジーは

 

「構いませんよ!」

 

と言いながら、稟と明久の分の入部届けをファイルから取り出した

こうして、放送部は廃部を免れたのだった



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ドタバタとフラグ

禀達三人が放送部に入った翌日

全員は学園に登校していた

今日は登校日であり、先生から話が終わっていたが、禀達は惰性で残っていた

その時だった

 

『マイクチェック、1、2』

 

とスピーカーから、デイジーの声が聞こえた

その声を聞いて禀と明久は思わず、シアに顔を向けた

するとシアは、首を振った

今の一瞬の間で、三人の間ではアイコンタクトによる会話がなされていた

内容は以下である

 

『あれ? 今日って活動日だったか?』

 

『殿下、今日は活動日でしたか?』

 

『ううん。違うよ』

 

そして、三人が首を傾げていると

 

『皆さんに通達します。二年生の緑葉樹が用もないのに学園を歩き回り、淫らなことをしています。紅薔薇先生が有志を募り、捕縛隊を結成したいそうです。有志の方々は紅薔薇先生の所に行って、縄を受け取ってください』

 

と放送された

それを聞いた何時もの面子の殆どが、思わず頭を抱えた

その時だった

ドアがガラッと勢いよく開き

 

「つっちー! 居るか!」

 

と紅女史が現れた

呼ばれた禀は、立ち上がって歩み寄ると

 

「樹、今度は何をしました?」

 

と問い掛けた

すると、紅女史は

 

「PTAを敵に回しかねんことを仕出かした」

 

と言った

どんなことをやったのか

 

「既に、麻弓を中心にした討伐部隊を結成し、動かした」

 

今、紅女史は討伐と言った

捕獲ではなかったのだろうか

 

「その他に、緑葉のことをよく知るつっちーに、別動隊を任せたい」

 

紅女史はそう言うと、禀の肩に手を置いて

 

「頼んだぞ」

 

と言った

表情は笑っていたが、眼がマジだった

まず禀は、明久と一緒に下駄箱に向かった

帰宅したか確認する為である

 

「ふむ……まだ居るな」

 

「ああ」

 

下駄箱には、樹の靴がまだ有った

どうやら、まだ校舎内には居るらしい

禀は少し考えると、食堂に向かった

そこでは

 

「槍部隊! 出入り口を塞いで! 興平君は緑葉君の後ろに!」

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

「もう逃げられないぞ、緑葉!」

 

「くっ! まさか、ここまで戦力が投入されているとは!?」

 

麻弓の指揮で、樹が包囲されていた

しかもよく見れば、興平は憤怒の表情である

一体、何を仕出かしたのか

 

「抵抗するなら、攻撃も許可!」

 

麻弓はそう言うと、笑顔で

 

「というか、やっちゃえなのですよ♪」

 

と、楽しそうに宣告した

すると、包囲部隊の眼が光った

それを見た樹は、慌てた様子で

 

「ま、待ったあ! 捕虜の扱いはジュネーブ条約で」

 

「知るか、ボケぇ!」

 

「たらばぁ!?」

 

哀れ樹は、興平の拳が顔面を直撃

床に倒れた

そして倒れた樹に、包囲していた生徒達が一気に飛び掛かってボコボコにした

すると、禀の近くに麻弓が現れて

 

「この麻弓=タイムが、そんな条約を知るわけが無いのであります♪」

 

と言った

それを聞いた禀は

 

「いや、それ位知っとけよ」

 

と突っ込みを入れた

 

ジュネーブ条約

それは、世界大戦中に締結された条約

所謂、国際条約である

その条約の一つに、人道に基づき、捕虜は丁重に扱うこと

と記載されている

世界でも、割りと知られている条約である

そして禀は、引きずられていく樹を見送りながら

 

「あいつ、何をしたんだ?」

 

と問い掛けた

すると麻弓は

 

「私も詳しくは知らないけど、多分、PTA会長の前でナンパでもしたんじゃない?」

 

と言いながら、肩を竦めた

それを聞いた禀は、若干納得した

 

(そういえば、PTA会長って、智世姉のお爺さんだったなぁ)

 

皇智世の祖父

皇剛平(すめらぎごうへい)

現皇グループの会長であり、以前は小さかった皇鉄鋼所を一代でグローバル企業にした豪傑である

そんな剛平は、一言で言えばかなりのジジバカである

しかも、孫の中では唯一の女である智世を溺愛している

それは今もであり、そんな剛平の前で恐らく智世をナンパしたのではなかろうか

樹は相手に交際相手が居ようが関係なく、ナンパする

それにより、女性関係のトラブルは数知れず(その問題は本人曰く、全て解決しているとか)

なお剛平は、興平も気に入っている

過去に禀が聞いた話では

 

『漢と漢の語り合い()で、結婚を認めてくれた!』

 

と言っていた

勿論だが、興平は智世を大事にしている

恐らくだが、興平が僅かに離れた間に樹が智世にナンパを敢行

そこに、興平と剛平が紅女史と一緒に来て目撃

何を言ったか知らないが、興平と剛平が激怒

紅女史、慌ててデイジーに頼んで部隊を結成し、差し向けた

更に念の為に、禀に頼んだ

ということだろう

恐らく樹は今ごろ、職員室でシバカれているだろう

禀も過去にヤンチャした時、幹夫が居ない時は剛平が拳を持って怒ったのを覚えている

それを思い出した禀は、思わず頭頂部を撫でた

すると、麻弓が

 

「土見君、どうしたのですよ?」

 

と問い掛けてきた

 

「いや、大丈夫だ。問題ない」

 

禀はそう返答したが、明久が

 

「禀、それは所謂フラグだ」

 

と突っ込みを入れた

そう

まさに、フラグだった

禀達が教室に戻って、鞄を持って帰ろうと思ったら

 

「何があった?」

 

そこには、学園長

藤堂カヲルが居た

すると、楓が

 

「禀くん……それが」

 

と禀に説明した

禀達が教室を離れている間に、常夏コンビが襲来

イチャモンを着けてきた

それで教室の雰囲気が悪くなった時に、西村を連れた学園長が来て、学年対抗戦式お化け屋敷をすることにしたらしい

それを聞いた常夏は、残ってる三年生に声を掛けるために出ていった

そこに、禀達が戻ってきた

ということのようだ

それを聞いて、禀は

 

「本当にフラグだったかぁ……」

 

と漏らした



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始まり

その後、学園に残っていた二年生と三年生が集められた

三年生は受験が迫っているからだろう、かなりの人数が居たらしい

そして二年生は、部活に参加するためと真面目に夏季補講を受けに来たのがかなり居た

故に、人数はほぼ同数らしい

なお、先ほどルールの確認の際に会ったら、かなり不満そうにしていたのが大多数だった

恐らく、常夏の二人が発端なのと、受験勉強を邪魔されたからだろう

かなり真面目な印象だった

常夏の二人以外は

そして今回のお化け屋敷だが、召喚獣がやることになった

なんでも今回、調整によりオカルト面が強く出ているらしい

それを聞いて、明久達は確認のために召喚した

以下の通りである

 

明久 銀腕剣士

稟 赤い弓兵

楓 若い王女

桜 赤髪の女王

麻弓 お菓子好きの鬼

樹 剣父

シア 九尾狐

ネリネ 紫髪の槍持ち女神

デイジー 石化魔眼持ち幼女

以下略

 

となっていた

そしてこのお化け屋敷は、ペアで行動するらしい

故に、厳正なくじ引きの結果以下の通りだ

 

明久・デイジー

稟・ネリネ

楓・桜

麻弓・樹

シア・A組女子

以下略

 

となった

何気に女子同士のペアが多いが、これは学園に残っていた人数の都合上である

生徒の中には、家の店番があるという生徒もいた

何時終わるのか分からないため、それは帰宅を許した

それにより、女子のほうが多い事態になった

故に、女子同士のペアが出来たのだ

そして二年生の待機部屋となったのは、FクラスとEクラス教室だった

今回のお化け屋敷は、ABCDの各教室に居る三年生の番人を全員撃破すれば、二年生の勝ち

逆に、二年生は進む生徒が全員負けるか失格になれば負けである

このお化け屋敷は通常の試召戦争とはルールが異なる

お化け屋敷故に、脅かしで大声を上げたら失格となるルールが設けられている

不正防止のために、教室の天井には監視カメラが設置された(康太提供)

更に、生徒の肩にも小型カメラが付けられることになった(こちらも康太提供)

 

「康太。お前、どんだけカメラ持ってんだ」

 

「……備えあれば、憂いなし」

 

「便利な言葉よね」

 

稟の問い掛けに答えた康太の言葉を聞いて、麻弓は呆れた様子で肩をすくめた

そうして、お化け屋敷は始まった

最初に入ったのは、Fクラス男子ペアである

なぜFクラス男子ペアがあるのか

もし女子と組ませたら、何をするのか分からないために、Fクラス男子達(一部除く)はFクラスのみで組ませるようにしたのだ

特に、前科があるから、念入りに

 

『短時間で作ったのに、中は凝ってるな』

 

『だな』

 

と男子達が会話していると、目前にお化けが現れた

いきなり現れたためか、数人の女子が悲鳴を上げた(待機部屋ではノーカウント)

だが、Fクラス男子達は驚かず

 

『あ、このお化けも召喚獣か』

 

『触れないしな。あ、召喚獣なら触れるか?』

 

と言って、召喚獣を呼び出した

すると、確かにお化けに触れた

それを確認したからか

 

『なあ、このお化け使えね?』

 

『道暗いしな。使うか』

 

と会話して、ジャックオランタンのお化けを、ライト代わりにした

それを見て、雄二が

 

「やはり、最初にして正解だったな」

 

と頷いていた

恐らくは、負けても痛くない捨て駒的な意味もあるだろう

そうして、しばらく進むと

 

『あ、消えた』

 

『召喚フィールドの限界か』

 

その召喚獣達が消えた

今回、教室に最低二人の先生達が待機し、召喚フィールドを展開しているらしい

消えたのは、最初に待機していた先生のフィールドの範囲外に出たからだろう

男子達はそれも無視して、更に進んだ

すると、広い場所に出た

奥には、三年生のペアが居た

どうやら、番人らしい

 

『試獣召喚!』

 

四人は一斉にキーワードを唱えて、召喚獣を呼んだ

そして、点数が表示された

 

現代国語

三年Aクラス

有田博文 285点

&

金田亮二 290点

VS

二年Fクラス

君塚葉 70点

&

国広俊 65点

 

もちろん、勝負にならなかった

すると、明久が

 

「やはり、Aクラスか……」

 

と呟いた

どうやら、予測していたらしい

すると雄二が

 

「現代国語が得意なペア、居るかー?」

 

と問い掛けていた

こうして、お化け屋敷は始まったのだった



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中盤戦

特級旗建築士


第一の番人は、投入されたAクラス生徒ペアにより撃破された

そして番人を撃破したことにより、以後はDクラスの迷路を通らないで良くなった

Cクラスに入るに当たり、雄二は作戦を一部変更

複数のペアを同時に突入させた

これは、なんらルール違反ではない

実際、中の迷路は所々で別れていた

それによる時間ロスを防ぐのと、様々な事態に対応させるためだ

もちろん、突入させたペアの大半はFクラスペアだ

そしてある程度進むと、広間に一人の女子が居た

そこに居たのは、着物を着た女子だった

誰だろ、と稟が首を傾げていると

 

「……三年生の小暮葵」

 

と康太が言った

よく見れば、康太の手には一冊のメモ帳が

どうやら、そこに書いてあるらしい

しかし、その葵は一人だけ

戦うには、人数不足だ

すると、一人のFクラス男子が

 

『おい、通っていいのか?』

 

と問い掛けた

すると葵は、微笑みを浮かべた状態で

 

『実は私、茶道部に所属してるんです』

 

と言った

それを聞いて、桜が

 

「あ、だから着物姿なんだ」

 

と納得した様子で手を叩いた

やはり、葵が着物姿なのが不思議だったらしい

 

『だからなんだっての』

 

『いい加減にしろや! 力ずくで退かすぞ!?』

 

と言ったのは、葵の言葉に憤ったらしいFクラスペアだった

もはや、ヤクザのようである

しかし、そんなFクラス男子ペアの恫喝にも葵は微笑みを浮かべたまま

 

『それと私……』

 

と言って、着ていた着物の襟元に手を持っていった

次の瞬間

 

『新体操部にも所属してるんです♪』

 

と言って、着物を脱いだ

その下は、レオタード姿だった

 

『ふおおぉぉぉぉ!!』

 

『うっひょぉぉぉぉ!!』

 

その場に居たペア達だけでなく、待機場所に居た男子達

も叫んでいた

しかも気付けば、待機場所の人数が大分減っていた

どうやら、勝手に中に突入したらしい

すると康太が

 

「……全員、失格」

 

と宣言した

すると、その映像を見ていたデイジーが

 

「……最低です」

 

と侮蔑した様子で、突入していった男子達を見た

その頃、待機場所の一角では

 

「稟君は見ちゃダメっす!」

 

「稟様、見てはいけません!」

 

「ぬおぉぉ!?」

 

シアやネリネ、楓が稟を押し倒す勢いで目を塞いでいた

そんな光景に、一部男子達が殺気を放っていたが、明久が片手に魔力刀の柄を持って威圧

それにより、稟へは攻撃出来なかった

なお、勝手に中に突入していった男子達により、Fクラスは殆どが失格

なお、待機場所に居て大声を上げても失格にはならない

すると、腕組みしていた雄二が

 

「吉井、行ってくれるか?」

 

と明久に問い掛けた

それに対して、明久は

 

「ああ、構わん」

 

と言った

そして明久は、デイジーと一緒に突入

道中の脅かしもスルーし、明久とデイジーは葵が居る場所に到着した

すると葵は

 

「あら、貴方は……かの剣神ですか」

 

と明久を見た

それに対して、明久は

 

「まあ、確かにそう呼ばれているな」

 

と肯定した

すると葵は

 

「貴方には、通用しなさそうですね。通ってください」

 

と言って立ち上がり、後ろの通路を指し示した

それを聞いて、明久とデイジーは通路を進んだ

そして進んでいると、明久とデイジーの前に二人の男子が現れた

 

試獣召喚(サモン)!」

 

四人はキーワードを唱えて、召喚獣を召喚した

すると、僅かに遅れて点数が表示された

 

英語(ライティング)

 

三年Aクラス

国博俊 298点

高島浩輝 287点

VS

二年Aクラス

吉井明久 876点

二年Bクラス

デイジー 213点

 

デイジーの点数は、Bクラスでもかなり優秀な部類だった

しかし、明久の点数が圧倒的だった

結果、明久による独壇場だった

あっという間に二人を撃破

明久とデイジーは、待機場所に戻ることにした

すると、デイジーが

 

「……あの、明久さん。なんで、そこまで点数が凄いんですか?」

 

と明久に問い掛けた

すると明久は

 

「俺はただ、恩返しがしたいだけなんだ……記憶を失い、重傷だった俺を受け入れてくれた神王陛下や魔王陛下……そして、殿下達にな。だから必死に、独学で頑張ったんだ」

 

と言った

その明久の顏は、真っ直ぐな表情だった

そんな明久を見て、デイジーは気付けば惹かれ始めていた

だからか、ほんの僅かに頬が赤くなっていた

そして二人が待機場所に戻ると、須川と横溝の二人によって人の山が出来上がっていた

どうやら、稟に飛び掛かった男子ペア達を撃破したらしい

 



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変態1号

短いです


Bクラス突入が始まったが、最初に突入したのはFクラスの生き残りを含めた3ペアだった

複数ペア突入させたのは、あらゆる事態に対処させるためだった

だが何故か、途中までは何も無かった

それに不気味さを感じながらも、突入した3ペアは進んでいた

その時、ある1ペアが一番先に少し広い場所に出た

 

『なんだ、暗いぞ……?』

 

『それに、人の気配があるな』

 

とFクラスペアが言った直後だった

バツン! という音がして、部屋が一気に明るくなった

そして見えたのは、女装した常村(ハゲ)だった

 

『ギィヤァァァァァァァ!?』

 

『くせあふじpdm@サバーニャ!?』

 

それを見たFクラスペアだけでなく、カメラ越しに見た生徒達も叫んだ

まさに、阿鼻叫喚という言葉が当てはまるだろう

そしてその叫び声を聞いたのか、残り2ペアが走ってきた

そして、常村(変態ハゲ)の姿を見て

 

『嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『誰か助けて! ここから出してぇぇぇぇ!!』

 

『嫌だ、見たくない! 見たくないのぉぉぉぉ!!』

 

『ごぶっ!?』

 

と叫んだ

結果、突入した3ペアは全滅

更に、待機場所に居た生徒の一部が気絶した

すると、復帰した雄二が

 

「あの変態ハゲ野郎……汚物案件やらかしやがって……っ!」

 

と言いながら、拳を握った

すると、一人の男子が

 

「坂本! あの変態野郎に、天罰を!」

 

と言った

そこから、倒せコールが上がり

 

「ムッツリーニだ! ムッツリーニを突入しろ!」

 

「麻弓もだ! 奴に、地獄を!」

 

とあるペアが呼ばれた

すると

 

「ムッツリーニ! ムッツリーニ!」

 

「麻弓! 麻弓!」

 

と二人の名前が声高に呼ばれた

それに答えるように、二人が前に出た

その二人を見て、雄二が

 

「ムッツリーニ、麻弓! お前らの取れるあらゆる手段を取って、あの変態ハゲを打倒しろ!」

 

と命じた

それを聞いて、二人は教室から去った

それから数分後

 

『確か、この辺だったよね?』

 

『……準備は万全』

 

と二人がその場所に着いた

その数秒後

 

バツン!! ⬅ライトアップされた音

ドン! ⬅ムッツリーニが姿見を置いた音

ビシャビシャビシャ! ⬅常村が吐いた音

 

『てめぇ! なんて物見せやがる! 吐いたじゃねぇか!』

 

『……吐いたのは、自明の理だ』

 

怒鳴った常村に、ムッツリーニは冷静にそう言った

すると常村は

 

『ちくしょう……通りでメイクした奴が、口元抑えてた訳だ……予想以上だったぜ』

 

と言った

その時、パシャリとシャッター音が聞こえた

 

『おい、待て。お前……なんで、写真を撮った?』

 

気付けば、麻弓がスマホを構えていた

麻弓は

 

『ん? 海外のモノホンサイトと私のサイトにUPするのですよー?』

 

と笑顔で言った

それを聞いて、常村が慌てた様子で

 

『ふざけんな! そんなことされたら、俺の人生が終わる!』

 

と叫ぶと、走り去った

それを見た二人は、ハイタッチした

そして二人は、そのまま前進

その勢いのまま、Bクラスの番人達をムッツリーニが難なく撃破した

保健体育で、帝王に勝てる訳がなかったのだ

そうして、Aクラスに突入が始まった

 



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少女達

Aクラスに最初に突入したのは、木下姉弟だった

この二人だったら、大抵のことは冷静に対処出来ると雄二が判断したからだ

その予想通り、木下姉弟は大抵の脅かしはスルー

どんどんと奥に進んでいった

このまま、番人の所に行けるか

と思われた

だがその時、二人が入った広間

そこに、夏川(ソフトモヒカン)が居た

だが夏川の相方たる、常村(変態ハゲ)の姿がない

何をするのか、と二人は身構えた

すると夏川は、懐から一枚の紙を取り出した

そしてそれを開いて読み始めたのだが、それはラブレターだった

……秀吉への

この後に、雄二やムッツリーニは

 

『秀吉の本気の悲鳴を、初めて聞いた』

 

と語る

勿論、秀吉は失格となった

失格になった秀吉は、待機部屋に帰ってくると部屋の隅で涙を流していた

そんな秀吉に、普段は厳しい優子も流石に同情したらしく優しく頭を撫でていた

そして、動いたのが稟だった

 

「秀吉の仇、取ってくる」

 

稟がそう言って出ようとした時

 

「俺も行こう」

 

と明久が立候補した

明久は稟とシアの護衛として、立候補したようだ

そして四人は、Aクラスに突入した

そして先程の場所に来たのだが、夏川の姿は無かった

どうやら、対秀吉専用だったらしい

明久が安全を確認すると、四人は進行を再開した

途中で別れ道に差し掛かったので、明久とデイジーは左に

稟とシアは右の通路を進んだ

道中定番の脅かしはあったが、明久達は進んだ

その時、不意にライトが消えた

 

「デイジー様、下手に動かないでください」

 

「は、はい」

 

明久が警告すると、デイジーは素直に従った

真っ暗な中、何やらゴトゴトと動かす音が聞こえた

たが害意は感じなかったので、明久は動かなかった

そして少しすると、ライトが点いた

すると目の前には、稟の背中があった

 

「稟?」

 

「ん? あ、明久?」

 

明久が呼び掛けると、稟は振り向いて不思議そうにしていた

そして明久は、デイジーが居た右側を見た

そこには、先程まで無かった壁があった

 

「ち……小細工を」

 

「迷路を組み換えたのか」

 

明久が舌打ちしながら言うと稟も察したらしく、吐き捨てるように言った

そして歩きだそうとした稟の肩を掴んで止めると、明久は目を閉じた

そして少しすると、目を開いて

 

「どうやら、お二人は右側の通路に居て進むようだな」

 

と言った

どうやら、気配を探ったらしい

 

「オーライ。じゃあ、行くぞ」

 

「ああ」

 

稟の言葉に頷き、明久は進んだ

そして、少しした時

 

「げっ……来たじゃねえか」

 

「無能な脅かし役達が……」

 

と先の方から、声が聞こえた

その声は、常夏(変態コンビ)の声に間違いなかった

迷路を組み換えた理由はどうやら、脅かしやすい女子ペアにしたのが目的らしい

 

「まあいい……なあ、お姫様。ちょっと相談なんだが、俺達を近衛に採用しないか?」

 

「あんな愛想の悪いガキよりもよ、俺達みたいな優等生の方が有用だぜ?」

 

どうやら、シアに取り入るつもりのようでもあるらしい

そして続けて

 

「それによ、周りに女侍らせてる奴よりも俺達のどちらかの方がいいだろ?」

 

「俺達、優等生だしな?」

 

と言った

だがその言葉は、NGワードに他ならない

 

「……」

 

「……」

 

二人が黙っていると、常夏が

 

「おーい、黙ってないでなんとか言えよ」

 

「一言で済むぜ?」

 

と言った

その直後

 

「ふざけないでください!!」

 

と二人が同時に怒鳴った

 

「おぉ!?」

 

「なんだ!?」

 

まさか怒鳴るとは思ってなかったのか、常夏は狼狽した様子だ

しかしシアとデイジーは、構わず

 

「貴方達が、明久さんの何を知っているというんですか! 必死に修業や独学で研鑽して、今の地位に居る明久さんを!? 確かに、成績は良いほうかもしれません! ですが、貴方達の性格は最低です!」

 

「稟くんは、貴方達よりもずっと優しいんです! 貴方達なんか、目じゃないの! 明久くんだって、何回も死にそうになりながらも私やリンちゃんを守ってくれた優しい人なの!」

 

と怒鳴った

明久としては、シアが怒鳴ったというのが驚きだった

そういうのは大抵、ネリネの役割だったからだ

すると、常夏が

 

「こ、このガキ共……人が下手に出ればっ!」

 

「気に入らねぇな! つかおい、今のでこいつら失格だろうが!」

 

と言った

確かに、シアとデイジーの二人の声量は失格判定だ

 

「失格で結構です! 行きましょう、シア様」

 

「そうっすね」

 

「とっとと失せろ!」

 

「二度と来んな!」

 

と聞こえた

どうやら、シアとデイジーは戻ったらしい

そして、明久と稟は

 

「……そんなに、優しいか?」

 

「明久が優しくなかったら、誰も優しいの部類に入らないだろうが」

 

と会話していた

すると、今度は稟が

 

「俺が優しいのかは分からないが、一つだけはっきりしてることがある」

 

と言った

 

「それは?」

 

「あの常夏(変態コンビ)を倒さないと、気がすまん」

 

明久が問い掛けると、低い声音で稟はそう言った

すると、明久がフッと笑って

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

と同意を示した

そして二人は、顔を見合わせると

 

「んじゃま、行くか」

 

「ああ、そうだか」

 

と言って、歩きだした

そして、ポツリと

 

「その首、洗って待っていろ」

 

と同時に言った



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結末

明久と稟が常夏(変態コンビ)の居る場所に到着したのは、シアとデイジーが失格になってから数分後だった

二人が到着すると、常夏(変態コンビ)

 

「おう、この出来損ないの後輩共が」

 

「先輩を待たせるんじゃねぇよ」

 

と偉そうに言った

だが、明久と稟は無視

そんな二人の態度に、常夏は舌打ちして

 

「先輩を無視するなんざ、偉くなったな?」

 

「次からそんなこと出来ないように、きっちり教育してやる」

 

と言った

そこで、ようやく二人は

 

「御託はいい」

 

「とっとと始めようぜ、先輩方」

 

と言った

その言葉に、常夏は再び舌打ちして

 

「吠え面かかせてやる!」

 

「後悔すんじゃねぇぞ!!」

 

と言った

そして、四人同時に

 

試獣召喚(サモン)!」

 

とキーワードを唱えた

 

化学

三年Aクラス

常村勇作  298点

夏川俊平  297点

 

まず先に、二人の点数が表示された

確かに、成績優秀な方だろう

約300点は取っている

すると常夏は、胸を張り

 

「どうだ、後輩共!」

 

「てめぇらじゃあ、こんな点数は取れないだろ!?」

 

と言った

だが明久と稟の二人は、慌てずに

 

「それがどうした」

 

「忘れてないか? 俺達だって、Aクラスなんだよ」

 

と言った

その直後、明久と稟の点数が表示された

 

化学

二年Aクラス

吉井明久  858点

土見稟  302点

 

明久と稟の点数を見て、常夏の二人は狼狽した様子で

 

「土見はともかく、そいつの点数はなんだよ!?」

 

「有り得ねぇ! 800点越えなんて、聞いたことねぇ! イカサマだ!」

 

と喚いた

すると、稟が

 

「あのな、明久を誰だと思ってるんだよ。明久は、合同近衛部隊の隊長だぞ? 並の学歴な訳がないだろ」

 

と言った

すると明久が

 

「誰を怒らせて、誰を敵に回したのか……篤と理解するがいい」

 

と言った

そして、戦いは始まった

だがそれは、戦いとは言えなかった

まず明久

明久は、圧倒的点数差と圧倒的技量

そして、腕輪により一瞬にして終わった

明久の召喚獣の腕輪

それは、神速である

その能力は、明久の体感時間を最大で二百倍まで伸ばすという、まさに規格外の能力だった

しかしそれ故に、消費点数は非常に高い

その消費点数は、二百点

だが、一度発動したら最後

相手は、明久の召喚獣を認識することは不可能となる

それを明久は、試合が始まった瞬間に発動

まさしく一瞬にして、常村の召喚獣はバラバラになった

そして夏川は、常村の召喚獣が一瞬にしてバラバラになったのと、明久の召喚獣に意識を取られて、稟を忘れた

そこを、稟が襲撃

稟は明久から教えられた召喚獣の弱点

人間と同じ急所を攻撃されて、敗北した

負けた二人は、両手両膝を突いて

 

「バカな……」

 

「俺達が、負けるなんて……」

 

と意気消沈していた

すると、そんな二人に稟が近寄り

 

「言っとくが、あんたらの進学は絶望的だろうよ」

 

と言った

すると、常夏の二人が

 

「んだと!?」

 

「どういうことだ!?」

 

と顔を稟に向けた

 

「あんたらはさ、やり過ぎたんだよ……文化祭での妨害に、今回のイチャモン……そして何より、怒らせた相手が不味かったな」

 

「だから、どういうことだ!」

 

稟の言葉に、常村が稟の襟首を掴もうとした

だが、それは明久によって阻止され

 

「貴様らが怒らせた、リシアンサス殿下の父上の御名前は、ユーストマ樣だ……いくら貴様らとは言え、その名を聞いて分かるな?」

 

と明久が言った

それを聞いて、夏川が

 

「神界の王か!?」

 

と声をあげた

そして、明久は

 

「そして何より貴様らは一度、ユーストマ樣を怒らせている……文化祭の時にな」

 

と言った

それを聞いて、常夏の二人は顔を見合わせて

 

「まさか……」

 

「あの時のオッサンが……」

 

と呟いた

明久はそんな二人から、最早興味なし。とばかりに、視線を外した

すると稟が

 

「別に俺はな……自分のことを言われても、聞き流せる……だがな、知り合いをバカにされたり、俺を慕ってくれてる子達を悪く言われて大人しく出来るほど、優しくはないんだよ!」

 

と怒りを露にした

そして、稟は常夏に背を向けて

 

「あんたらが蒔いた種だ……後悔しろ、クズ野郎共!」

 

と言って、去った

そして、廊下に出ると

 

「……言い過ぎたかな」

 

と稟が呟いた

すると、明久が

 

「どうやら、俺達が勝った時点で映像は終わったようだ」

 

と言った

稟が気にしたのは、常夏に言っていた時の映像を、他の先生達が見ていたか気にしたらしい

だが、明久と稟が勝った時点で映像が終わったので、それは杞憂に終わった

 

「そっか……なら良し」

 

稟がそう言うと、二人は待機部屋に到着

そんな二人を、残っていた二年生達が盛大に出迎えたのだった



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少女の感情

これは、外せないよね


お化け屋敷騒動から、数日後

 

「今日は疲れたなぁ」

 

と言ったのは、一人で歩いていた稟だった

昼は樹に呼び出されて、駅前でナンパに付き合わされた(そこに、樹を探していた紅女史と遭遇し、強制終了)

その後は買い物に出ていたカレハとその妹、ツボミと遭遇

二人の妄想癖を止められるのは、亜沙だけだと認識した

 

その後、自分の私物の買い物に行ったら、Fクラス男子達がボランティア活動している場面に遭遇

襲いかかってきたが、西村が一瞬にして撃破していた(なぜか、銃剣を持った神父服姿で)

怒濤のようにそれらに遭遇し、精神的にドッと疲れた

そして稟は、家近くの公園の前に来た

その時、その公園に一人の少女を見つけた

楓と同じ同居人

プリムラだった

 

「プリムラ、何してるんだ?」

 

稟が問い掛けると、プリムラはゆっくりと振り返り

 

「……リコリスお姉ちゃんを待ってるの」

 

と言った

 

「リコリスお姉ちゃん?」

 

「……待ってても、来てくれないの」

 

稟が問い掛けると、プリムラはそう返した

何時もと変わらぬ無表情だったが、何処か寂しそうに見えた

すると稟は、プリムラに近寄り

 

「そうか……とりあえず、家に帰ろう」

 

と言って、手を差し伸べた

するとプリムラは、ゆっくりとだが稟と手を繋いだ

そして稟とプリムラは、二人で家に帰った

それから数時間後だった

 

「それでは、稟くん。お風呂に入りますね」

 

「おーう」

 

夕食を食べ終えた後、稟は居間でテレビを見ていた

ゆったりとした時間が流れ、稟は平和だな

と思った

そして、数十分後だった

 

「稟くん、大変です!」

 

と風呂上がりらしい楓が、居間に駆け込んできた

 

「どうした?」

 

「リムちゃんが居ないんです!」

 

楓の言葉を聞いて、稟は立ち上がって

 

「部屋に居なかったのか?」

 

「はい。お風呂から出たので、リムちゃんに空いたことを教えるために行ったら、居なかったんです」

 

稟の問い掛けに、楓はそう答えた

楓の言葉を聞きながら、稟はプリムラの部屋に向かった

確かに、部屋にプリムラの姿は無かった

代わりに、何時もプリムラが抱き締めているボロボロのヌイグルミが置いてあった

それを見て、稟は

 

「楓、俺は明久の部屋に行ってくる。魔王のおじさんを呼んでおいてくれ」

 

と言った

 

「わ、わかりました!」

 

稟に言われて、楓は階段を降りていった

そして稟は、向かいの明久の住んでるアパートに向かった

 

「明久!」

 

稟がドア越しに声を掛けると、ドアが開き

 

「入れ」

 

と明久が中に招き入れた

 

「プリムラの場所は?」

 

「近くの公園だ」

 

稟の問い掛けに、端的に明久は答えた

一言だが、稟には直ぐに分かった

あの公園だと

 

「分かった。ありがとう」

 

「プリムラ様を頼む」

 

明久の言葉を背中越しに聞きながら、稟は家に戻った

すると、居間にはフォーベシィが居た

 

「やあ、稟ちゃん。プリムラが居なくなったと聞いたよ」

 

「ええ、ですが。大事な話があります」

 

フォーベシィの問い掛けを軽く流し、稟はそう切り出した

するとフォーベシィは、変わらぬ微笑みを浮かべながら

 

「なんだい?」

 

と問い掛けた

それに対して、稟は

 

「リコリスって、誰ですか?」

 

と問い掛けた

 

「……リコリスは、プリムラから聞いたんだね?」

 

稟の問い掛けに、フォーベシィはそう言い、稟は頷いた

そして語られたのは、今から約10年前に始まったある計画だった

それは、死人を甦らせるという禁忌に触れる計画だった

その計画を成功させるために、神界と魔界はあらゆる手を尽くした

そして、計画の中心となったのが三人

一人目は、強化された個体

その個体の基となったのは、当時の神界魔界双方の中から、魔力が強かった存在だった

その個体が有していた魔力を、更に強化した

しかし、その個体は強化された魔力に耐えきれず消滅した

そして二人目は、複製

つまりは、クローンだった

それは、人間界では国際法に触れる行為だった

その基となったのが、ネリネだった

ネリネは子供の頃から魔力が強く、複製基にはピッタリだったらしい

そして複製する際に、遺伝子を組み換えて魔力を強化した

しかし、遺伝子組み換えの影響か寿命が長くなかったらしい

だから計画は、三人目に移行

その三人目は、創造された

創造と言うのは簡単だが、天文学的な確率と資金を使って産み出されたのが、プリムラだった

そして産み出されたプリムラには、本当の意味で親族は居なかった

そんなプリムラにとって、二人目

複製で誕生したリコリスは、姉のような存在だった

しかしそのリコリスは、ネリネの体を治すためにその存在は失われた

そのリコリスがプレゼントしたのが、普段プリムラが持っていたボロボロのヌイグルミだったのだ

 

「もちろん、プリムラにはリコリスは死んだと伝えてある……だが、プリムラは中々信じてくれないんだ」

 

「なるほど……」

 

フォーベシィの説明を聞いて、稟は納得した

プリムラは今も、リコリスが会いに来てくれると思っているのだと

そして、稟が立ち上がると

 

「稟ちゃん。私にこんなことを言う権利は無いのかもしれないが……」

 

とフォーベシィは言って、立ち上がった

そして

 

「プリムラを、頼んだよ」

 

と言って、頭を下げた

稟はそれを見て

 

「いってきます」

 

と言って、家から出た

気付けば、雨が降っていた

 

「まあ、ちょうどいいか」

 

稟はそう言うと、傘も差さずに走り出した

プリムラの居る、公園を目指して

そして、数分後

 

「プリムラ」

 

稟は、プリムラを見つけた

 

「稟……」

 

「帰ろう、楓が心配してる」

 

稟がそう言うと、プリムラは

 

「嫌……私は、リコリスお姉ちゃんを待ってるの……私の所に来てくれるって、約束してくれたから」

 

と言った

そして、稟は確信した

 

「あのな、プリムラ……リコリスは、もう居ないんだ」

 

「嘘だよ……リコリスお姉ちゃんは」

 

稟の言葉を聞いて、プリムラはそう言いながら首を振った

すると、稟が

 

「プリムラ」

 

とプリムラの肩を掴んだ

 

「死んだ人は、もう帰ってこないんだ」

 

稟はそう言った

それは、自分が経験したから分かることだった

両親が死んだ時も、明久の両親と紅葉が死んだ時に経験したこと

最初は、家に帰ったら家に居るような気がした

だが、その希望は儚く終わった

 

「確かに、リコリスさんが死んだことは悲しいな……俺にも、その気持ちは分かる……」

 

稟のその言葉を、プリムラは聞き入っていた

稟の目に、悲しみを感じたからだ

 

「なあ、プリムラ……俺達じゃあ、ダメか?」

 

「え?」

 

稟のその言葉を聞いて、プリムラは首を傾げた

すると稟は、真剣な表情で

 

「リコリスさんの代わりにはならない……けどさ、俺達が家族じゃダメか?」

 

と再び問い掛けた

 

「稟が……家族?」

 

「楓もだ……俺達じゃあ、ダメか?」

 

プリムラの言葉に、稟がそう返した

その直後、プリムラの目尻に大粒の涙が浮かび

 

「う……うあぁぁぁぁ!」

 

とプリムラが泣き始めた

プリムラは、感情が未発達などではなかったのだ

ただ、不器用だっただけ

感情の発露の仕方が、分からなかったのだ

その切っ掛けを、稟が与えたのだ

稟は、泣き出したプリムラを抱き締めた

泣き止むまで、待った

そして、数分後

 

「ありがとう、稟……」

 

とプリムラは、微笑んだ

そんなプリムラの頭を、稟は撫でながら

 

「んじゃ、帰ろうか」

 

と言った

 

「うん……ねえ、稟……お兄ちゃんって、呼んでいいかな?」

 

「おう……楓も呼んでやれ。喜ぶだろうからな」

 

プリムラの問い掛けに稟はそう返して、プリムラの手を握った

そして二人は、雨が止んで満月が垣間見える夜空の下を家まで歩いたのだった



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風邪

皆さんも、気をつけてくださいね
あ、俺は今日で29歳ですわ
アラサーです


「しかし、感情豊かになりましたね。プリムラ様」

 

「明久……えっと、何回も面倒を掛けてごめんなさい」

 

明久が微笑みながら言うと、プリムラは苦い表情を浮かべながら頭を下げた

すると、明久が

 

「いえいえ、それが自分の仕事ですから」

 

と言った

そんな明久達は、学校に向かっていた

今日は、放送部の活動がある日だった

今日は明久、稟、シアの他にプリムラと楓、桜が居る

楓と桜は、明久達が参加している部活が気になったから付いてきたのだ

学園に到着し、明久達は放送室に行った

すると放送室内では、デイジーが何やらやっていた

どうやら、一人で原稿を纏めているようだ

その時、デイジーが顔を明久達の方に向けて

 

「あ、皆さん。いらっしゃいです」

 

と出迎えた

そして立ち上がったのだが、ガクリと膝が曲がって倒れそうになった

その瞬間、明久がデイジーを支えていた

 

「早っ」

 

稟が驚いていると、明久が

 

「デイジー様……風邪、引いてますね」

 

とデイジーの額に触れた

 

「えぇっ!?」

 

「大丈夫なの!?」

 

シアと桜は驚き、楓は

 

「熱は、どうですか?」

 

と明久に問い掛けた

すると明久は

 

「熱は……約38度といったところですか」

 

と言った

すると、デイジーは

 

「あー……気付きませんでした……」

 

と呟いた

どうやら、自身の体調が悪いことに気づいてなかったらしい

 

「デイジー様、今回の台本は?」

 

「そこに、出来てます……」

 

明久の問い掛けに、デイジーが先程まで座っていた机の上を指差した

稟が見ると、今日の日付が書かれた台本を見つけた

 

「今回は俺達が代行するから、デイジーは休め」

 

「でも……」

 

と稟の言葉に躊躇っていると、シアが

 

「今引き始めなら、早く治した方がいいっす!」

 

と言った

確かに、道理である

 

「はい、分かりました……」

 

デイジーはそう言って立ち上がろうとしたが、それを明久が押さえて

 

「無理しないでください」

 

と言って、デイジーを背負った

そして立ち上がったデイジーの鞄を持って

 

「俺が送ってくる」

 

と言った

すると桜が

 

「アキ君。手伝うよ」

 

と言った

だが、明久は

 

「すまんが、桜ちゃんは稟の手伝いをしてくれ」

 

と言った

 

「稟君の?」

 

「ああ。それに、デイジー様が居なくなるから、司会進行役が居ない。そうなると、誰かが臨時にしないといけない。だから、稟と話し合ってくれ」

 

明久がそう言うと、桜は少し考えて

 

「分かった。頑張ってみるね」

 

と言った

そして明久は、デイジーを背負ってデイジーの住んでいる寮に向かった

文月学園が有する寮である

寮までは、歩いて約10分だ

エントランスに入ると、明久はデイジーから鍵を借りて自動ドアを開けた

そして、デイジーに言われるがままに部屋に向かった

部屋に到着すると、明久はデイジーを下ろして

 

「デイジー様、とりあえずパジャマに着替えてください。俺は、少し買い物に行きますので」

 

と言って、出た

そして、近くのスーパーで買い物を済ませると戻った

鍵は、既に借りている

 

「デイジー様、着替えましたか?」

 

明久は念のために、ドアの前から声を掛けた

しかし、返答は無い

 

「失礼します」

 

中に入ると、デイジーが倒れていた

 

「着替えてる途中で、倒れたか……」

 

明久は手早く状況を把握すると、中途半端だったパジャマを着させた

紫色を基調にしたパジャマだった

そして明久は、デイジーをベッドに優しく寝かせた

その後、キッチンに立ち買ってきた材料で調理を始めた

そして、調理が終わった頃

 

「ん……あ……」

 

と声が聞こえた

振り向いてみれば、デイジーが目を覚ましていた

 

「起きましたか、デイジー様」

 

「明久さん……あれ、私」

 

明久は作った卵雑炊を器に入れると、机まで運んだ

そして

 

「デイジー様、食べられますか?」

 

と問い掛けた

するとデイジーは、上半身を起こして

 

「はい、なんとか……」

 

と答えた

そんなデイジーを支えて、明久は

 

「では、これを」

 

と器とスプーンを差し出した

 

「作って、くれたんですか?」

 

「作るのも辛いかと思いまして」

 

デイジーの問い掛けに、明久はそう答えた

実際、かなり辛いだろう

 

「ありがとう、ございます……」

 

「いえ、ゆっくり食べてください」

 

明久はそう言って、デイジーが食べるのを見守った

そして、十数分後

 

「ご馳走さまでした……」

 

「お粗末さまでした」

 

とやり取りすると、明久はデイジーに風邪薬とコップを手渡した

それを飲み終わったのを確認した後、明久は用意していたカップを手渡した

 

「これは……」

 

「ハーブティーです。落ち着きますよ」

 

明久がそう説明すると、デイジーはゆっくりと飲み始めた

その間に、洗い物を終わらせた

そして、飲み終わったカップを受け取り

 

「では、ゆっくりと休んでください」

 

と言って、帰る準備を始めた

すると

 

「あの……寝るまででいいので、一緒に居てほしいです……」

 

とデイジーが言った

それを聞いて、明久は

 

「自分で良ければ」

 

と言って、デイジーの手を優しく握った

そして明久は、デイジーが眠るまで近くに居たのだった



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裏シア

デイジーが風邪で倒れた翌日

 

「デイジーちゃん、大丈夫だったの?」

 

とシアが明久に問い掛けた

その問い掛けに、明久は

 

「まあ、二三日休めば大丈夫かと」

 

と答えた

その直後

 

「んっ」

 

とシアが頭を押さえた

 

「殿下?」

 

「あ、だ、大丈夫っす……ちょっと、頭が痛くなっただけっす」

 

明久が心配そうに見ると、シアはそう言った

それを聞いて、明久は

 

「では、今日はお休みを」

 

と言った

今明久とシアは、二人で昼食を作っていたところだった

すると、シアは

 

「でも……」

 

と躊躇った様子だった

しかし、明久が

 

「無理して怪我したら、陛下が五月蝿くなり(心配し)ますので」

 

と忠告した

それを聞いて、シアは

 

「そうっすね……では、部屋で休みます」

 

と言って、キッチンから去った

その後、昼食時に

 

「シアはどうした?」

 

とユーストマが明久に問い掛けた

その問い掛けに対して

 

「具合が悪そうでしたから、御部屋にて休まれてるかと……」

 

と答えた

そして、明久は

 

「陛下、後程聞きたいことがあります」

 

と言った

声音は何時も通りだったが、その目は真剣そのものだった

それを見て、ユーストマは

 

「おう、わかった」

 

と頷いた

そして、昼食後

 

「それで、聞きたいことってのはなんだ?」

 

ユーストマの部屋に、明久が居た

その問い掛けに、明久は

 

「シア様の中に居る方についてです」

 

と言った

それを聞いて、ユーストマは明久を軽く睨み

 

「何時、気付いた?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、明久は

 

「度々、シア様から普段とは違う魔力を感じていましたから……それに、時おり表に出てきて夜に徘徊していることがありますから」

 

と言った

それを聞いて、ユーストマは

 

「そうか……」

 

と言いながら、視線を落とした

そしてユーストマは、そのもう一人について語り出した

 

そもそもシアは、神族たるユーストマと魔族のサイネリアの間に産まれた子供である

本来ならば、神族と魔族の間に子供が産まれるのは天文学的確率らしい

そしてシアだが、本来だったら双子として産まれるはずだったらしい

しかし、何が起きたのかは分からないが一人娘として産まれた

それ自体はいい

しかし、シアの中にはもう一人の人格があった

その存在に、名前は無い

ユーストマ達の間では、裏シアと呼ばれている

シアが神族の面が強いのに対して、裏シアは魔族の面が強い

もしその存在が反現神王派に知られたら、シアに対する暗殺

もしくは、ユーストマに対するクーデターが起きかねない

だからユーストマは、その裏シアの存在を認めてこなかった

しかしそれは、ユーストマにとって苦肉の選択だった

本当だったら、認めたい

だが、認められない

そのジレンマに、苛まれてきていた

 

「なるほど……」

 

「俺は、どうすればいいんだ……」

 

裏シアが認められないのは、ユーストマ

神王の娘としてだ

すると、明久が

 

「なれば、養子という風にしてはいかがですか?」

 

と提案した

 

「なに?」

 

「直接の娘ではなく、そうですね……殿下によく似た捨て子を養子として受け入れる……という形です」

 

明久のその言葉を聞いて、ユーストマは

 

「確かに、それなら可能かもしれねぇが……問題は、どうやって裏シアの体を」

 

と言った

それに対して、明久が

 

「以前に、リコリス様をネリネ様に融合させたと聞きます……なれば、それの応用で行けるかと存じます。問題は消費する魔力が莫大だと思われますが、そこはプリムラ様に御協力してもらえば、充分行けるかと」

 

と言った

それを聞いて、ユーストマは

 

「そうか、その手があったか!!」

 

と声を上げた

どうやら、思い付かなかったらしい

そして明久は

 

「存在が認められないというのは、辛いですから」

 

と言って、部屋から出た

それを聞いて、ユーストマは

 

「そうだったな……おめえは、自身を悪役にしてたな……そして、生きてることを認められなかった……」

 

と呟いた

今の明久は、一度存在を否定された結果だ

裏シアの気持ちが分かるのだろう

そして、裏シアを解放する動きが始まる



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名付け

ユーストマから話を聞いた数時間後、明久は夜の街を走っていた

その理由が、夜の街に出たシア

裏シアを追いかけていたからだ

 

(かなり速い……魔法で身体能力を強化しているのか……)

 

今シアと明久の二人は、揃って民家の屋根の上を跳んでいた

その裏シアの身体能力は、かなり本気の明久の速力で漸く追い掛けることが出来るものだった

そこから明久は、裏シアが魔法で身体能力を大幅に底上げしていると気付いたのだ

 

(やれやれ……やはり、才能が無いというのは泣ける……これが、もう一人の殿下の力か)

 

明久は自身の非才に内心では軽く頭を抱えたが、追い掛けるのを止めなかった

そして少しすると、シアの行き先に気付いた

 

(この先は……文月学園か)

 

シアの行き先は、文月学園だった

シアは文月学園の校庭に着地

その僅か後に、明久も着地した

すると、シアが振り向いた

その表情は、何時ものシアとは違った

すると、明久は今この場にもう一人居ることに気付いた

それは、稟だった

 

「稟!? なぜ、ここに!?」

 

「いや、俺は……あの裏シアに呼ばれたんだ」

 

明久が問い掛けると、稟はそう言った

 

「何時!?」

 

「ん? 今日の昼過ぎだな」

 

稟の返答を聞いて、明久は唇を噛んだ

あの部屋に戻った後、シアの体を裏シアが使い外に出ていたらしい

 

(まさか、こちらの警備に気づかれずに出るとは……)

 

そこから分かるのは、裏シアの魔力運用レベルが相当高いということだった

裏シアは魔法を使う際に漏れ出る魔力が、ほぼ無かったのだろう

そうして、何らかの手段を用いて警備に気づかれずに外に出て稟と会って、文月学園の校庭に夜に来るように言った

ということだった

 

「ということは……俺が気づけたのは態と魔力を漏らしたのか……」

 

そう言ったタイミングで、裏シアは口を開いた

 

「シアは良いよね……稟や明久達と一緒に生活が出来るからさ」

 

と喋り始めた

その声音から分かったのは、悲しんでいるということだった

 

「私は、体も名前も無かった……ただ、裏シアと呼ばれてた……」

 

彼女はそう言いながら、クルクルと回っていた

すると、彼女は二人に体を向けて

 

「それじゃあ、まるで……私がシアのオマケみたいじゃない……シアは違うと言ってくれてるけど……誰も、私を見てくれてない!」

 

と叫んだ

その直後、彼女の周りに凄まじい数の魔力球が現れた

それを見た明久は、通信を開き

 

「瑠璃、フリージア! 部隊の展開状況は!?」

 

と問い掛けた

すると

 

『第一から第三中隊までが展開完了してます!』

 

『今から、私達も入ります!』

 

と返答がきた

しかし、明久は

 

「入るな! いいか、対魔、対爆、消音結界を学園を囲うように展開し、絶対に入るな!」

 

と指示を出して、稟の前に布陣した

そして、懐から札を数枚取り出すと、稟の足下に円状に配置

そして

 

「八式最強防御陣!!」

 

と稟を守る結果を展開させた

 

「明久!?」

 

稟が驚いた様子で明久を呼ぶが、明久は答えずに魔力刀を取り出した

今の彼女は、魔法の制御が一切出来ていないのだ

魔法の制御というのは、感情に直結する

だから魔法を使う時は、出来るだけ平常心を乱さないことが求められる

しかし今の彼女は、平常心を忘れていた

それは、今まで誰にも認められなかった反動だった

そしてその威力は、当代随一の魔力を有するネリネに迫っていた

今の明久の中での優先順位は、第一に稟の安全の確保

第二に、街に被害を出させないこと

だから明久は、近衛に学園を囲うように布陣させて、三重の障壁を張らせたのだ

そして、明久が二刀を構えた

その直後、彼女の魔法が放たれた

その魔法を見て、稟は死を覚悟した

 

(ダメだ、あれは……耐えられるものじゃない)

 

しかしその時、稟は気付いた

明久が二刀で、防御しようとしたことに

それを止めようとしたが、間に合わなかった

彼女が放った魔法が、その威力を解き放った

音と景色の両方が、消えた

稟は思わず、死んだとすら思えた

しかし、少しして気付いた

まだ、自分が生きているということに

そして稟は、おそるおそると、瞼を開けた

 

「生きてる……」

 

と稟は、自分が五体満足で生きてることを安堵した

その直後、ビシャリという音が聞こえた

それを聞いて、稟は思い出した

明久が、自分を守るために二刀を構えたことを

そして稟が見たのは、先程と同じ姿勢の明久だった

だが明久の全身は、血塗れだった

更によく見れば、左下腹部が大きく抉れていた

 

「明久ぁ!!」

 

と稟が呼んだ

すると、またビシャリと音

血が落ちる音がして

 

「騒ぐな……まだ、生きている」

 

と明久が答えた

だがそれは、本当に辛うじてだった

痛みは酷く、はっきり言って気絶した方が楽だろうとすら明久は思えた

しかし、まだ言うことがあった

 

「裏シア様……」

 

と明久が呼ぶと、顔色が青白くなった彼女が明久を見た

 

「貴女様には、名前が無いと聞いています……もし良ければ、自分がその名を贈ります……」

 

明久はそう言うと、倒れるのを必死に堪えながら

 

「キキョウ……というのは、どうでしょうか……ただリシアンサスから連想した、安直ですが……貴女様には、良く似合う名前と想います」

 

と言った

その直後、明久は両膝を突いた

そして明久は、自身から溢れた血溜まりに倒れた



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キキョウの思い

裏シアことキキョウに名前が与えられた翌日

キキョウは、明久が入院している病室の前でウロウロしていた

ユーストマから、明久が提案したことを聞いたからである

 

「どうしよう……顔を合わせづらい……」

 

とキキョウが呟いた

その時

 

「あれ、シアちゃん?」

 

と声が掛けられて、キキョウは振り向いた

そこに居たのは、花束を持った桜だった

 

「あ、すいません。友人に似てたものですから、間違えてしまいました」

 

雰囲気で違うと察したのか、桜は苦笑いを浮かべながらそう言った

すると、キキョウは

 

「いや、ある意味間違ってないよ。アタシはキキョウだけど、体はシアのだから」

 

と言った

 

「どういうことですか?」

 

桜が問い掛けると、キキョウは簡単に説明した

それを聞いて、桜は

 

「なかなか、複雑なんですね」

 

と言った

そして、少しすると

 

「それで、なんでアキ君の部屋の前で?」

 

と首を傾げた

桜のその言葉を聞いて、キキョウはピクリと体を震わせた

桜が明久のことを好いていることは、シアの体を通して知っている

それゆえに、明久を傷つけたことがいたたまれない気持ちが強くなった

その時

 

「何してるんだ」

 

と二人の目的の人物の声が聞こえた

二人が視線を向けると、車椅子に乗った明久が膝の上にビニール袋を乗せた状態で、二人を見ていた

 

「アキ君、大丈夫なの?」

 

「これ位ならば、問題ない……寝たきりだと、体も鈍る」

 

桜からの問い掛けに、明久はそう言いながら病室のドアを開けた

そして、中に入りながら

 

「キキョウ様、帰らないでください」

 

と体を翻していたキキョウを呼び止めた

明久に呼び止められて、キキョウはビクリと震えた

そして、最後にゆっくりと病室に入った

その間に桜は、持ってきた花束を花瓶に活けた

そして、キキョウは桜の隣の椅子に座った

それから少しすると

 

「キキョウ様、シア様に怒られてませんか?」

 

と明久が問い掛けた

その言葉の意味が分からないのか、桜は首を傾げた

すると、キキョウが

 

「うん、怒られてる……凄い怒られてる……」

 

と辛そうに答えた

 

「えっと、どういうこと?」

 

桜が問い掛けると、明久が

 

「シア様とキキョウ様は、二人で一つの体を使っている。そして、片方が表に出ていてももう片方は意識があるんだ」

 

と説明を始めた

そして、キキョウを見ながら

 

「今のキキョウ様は、さながら耳元でメガホンを使って怒られているのと同じなんだ」

 

と言った

それを聞いて、桜もようやく察したらしい

うわあ、という表情でキキョウを見た

桜も、シアの説教の力強さをよく知っている

特に、声量はかなりのものになる

それだと言うのに、耳元でメガホンを使って怒られているという状態を想像して、驚いたらしい

そんな桜に気付かず、キキョウは

 

「謝る、謝るから……だから落ち着いて、シア……お願いだから」

 

と必死な様子で呟いていた

そして少しして落ち着いたらしく、顔を上げて

 

「明久……ごめんなさい」

 

と頭を下げた

すると、明久は

 

「大丈夫ですよ、キキョウ様……あれが、俺の仕事ですから」

 

と返答した

その直後

 

「だからって、明久君は傷付き過ぎ!」

 

とシアが出てきて、怒った

 

「あの時、左脇腹が抉れてて、出血だって危険域だったんだよ!? 私が出てなかったら、死んでたかもしれないのに……」

 

そう言ったシアの目には、涙が溢れた

その怪我の規模は知らなかったのか、桜は驚いていた

すると明久は

 

「しかし、俺が盾にならなければ、稟が死んでいました……それだけは、させたらいけない……俺の任務もですが、シア様やネリネ様が泣く……それに何より、稟と楓ちゃんの約束が守れなくなる」

 

と言った

 

「それに、簡単には死なないさ……あの個性的過ぎる近衛部隊を、誰が纏められようか……」

 

明久のその言葉に、シアは一瞬顔をしかめた

合同近衛部隊

今では最精鋭と知られているが、編成された当初は個性が強すぎて通常の部隊運営が難しいとされた人員やハーフばかりが集められたのだ

それは、人族を見下す古い世代の魔族や神族の仕業だった

しかし、明久は僅か一ヶ月程でそれらを纏めあげた

それだけでなく、最精鋭部隊と呼ばれる程にした

これをユーストマとフォーベシィは高く評価していた

 

「それに……まだ、大事なことを思い出していない」

 

明久のその言葉に、桜は

 

「アキ君……」

 

と呟いた

明久が言ったのは、桜との約束のことだった

今回の負傷で、明久はまた記憶を少し取り戻していた

それ故か、明久の言葉使いが少し柔らかくなっていた

すると、キキョウが

 

「明久のおかげで、アタシは名前を貰えた……それに、ようやく自分の体を得られる……」

 

と言った

それを聞いて、明久と桜がキキョウに視線を向けると

 

「だから明久……アタシを、明久の傍に居させて」

 

と言った

よく見れば、キキョウの顔は僅かに赤くなっている

意図に気付いたのか、明久が

 

「俺……ですか」

 

「うん……明久のおかげで、アタシは居場所を手に入れた……だから、明久の傍に居たいの」

 

明久の問い掛けに、キキョウは真剣な表情でそう言った

どうやら、本気らしい

 

「今はまだ、返事はいい……待ってるから」

 

キキョウはそう言うと、病室から去った

それを見送り、桜が

 

「アキ君……どんどん出世するね」

 

と呟いた

それを聞いて明久は

 

「あまり出世するのは、面倒なんだがな」

 

と言った

余談だが、部屋でしばらくキキョウがジタバタしているのが目撃されたという



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新たな仲間

明久の怪我が治ってから、一週間後

 

「確か、今日だったよね」

 

「だからって、ずっと外を見てるなって」

 

桜の言葉に、稟がそう突っ込みを入れた

しかし、その稟本人も気になるのか外を見ていた

今居るのは、学園である

夏休みも終盤に入り、最後の登校日である

その日に、ある少女が新しく学園に来ることになっている

編入されるのは、Aクラス

なお、その編入にかの王達のテコ入れがあったことは言うまでもない

そして明久は、自分の机でジッと待っていた

その時だった

 

「来たな」

 

と明久が呟いた

それと同時に

 

「あ、来たよ!」

 

と桜が言った

そしてAクラス生徒達が見たのは、シアと一緒に歩いているシアと瓜二つの少女

キキョウだった

その二人は、校門から入って少し歩くと、見ているAクラス生徒達に気付いたらしい

二人揃って、仲良く手を振った

そして、数分後

 

「き、キキョウです……正式には夏休み明けですが、このクラスになります……よ、よろしくお願いします」

 

とキキョウは、緊張した様子で挨拶した

すると、Aクラス生徒達は受け入れたようで拍手した

なお、キキョウのことは表向き

 

《神王がたまたま視察に行った人間界の孤児院にて、シアと瓜二つの少女を見つけて、受け入れた》

 

ということになっている

元々、ユーストマは面倒見がいいことで知られている

だからその説明を聞いて、神界の重鎮達はわりとスンナリと受け入れた

だが、一部の元老院等が

 

『その方に、継承権は与えるのか!?』

 

と問い掛けられた

それに対して、ユーストマは

 

『キキョウには、継承権は与えない』

 

と言った

するとキキョウも

 

『アタシも、王女様ってガラじゃないかな』

 

と言ったという

その説明に、その元老院達は納得はしていないが引き下がった

そしてシアは

 

『やったぁ! 妹が出来たぁ!』

 

と喜んで、キキョウに抱き付いたらしい

そして部屋だが、今はとりあえずシアの部屋にフトンを運び込んで過ごしているらしい

近いうちに、神王家の工事をして、キキョウの部屋を増改築するらしい

そしてキキョウだが、ユーストマに

 

『明久と一緒に居たい』

 

と言ったらしい

その十数分後、明久の居たアパートが平らになった

それに関して、ユーストマは軒下に吊るされた

簀巻きで

なお、それに関して明久は

 

『まさか、拳一つで平らにされるとは……道具を発掘しないと』

 

と肩を落としていた

その後明久は、なんとか道具を発掘

今は、野宿しているらしい

それを知った芙蓉家と八重家が、明久を招待しているらしいが

そしてキキョウの席は、明久の隣になった

こうして、新しい仲間が加わったのだった



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魔道具

夏休みも終わり、明久達は学園に登校

キキョウも正式に、学園の生徒となった

そして何時もの日常が巡る

朝起きて朝食を済まして、会話しながら登校し授業を受ける

帰宅したら、家での用事を済ませて翌日の準備をして眠る

それが、全員の日常だった

しかし

 

『いいですね、デイジー……しっかりやりなさい』

 

「はい、お母さん……」

 

デイジーは母親からの言葉を聞いて、俯いた

そして、小さく

 

「私は……私は……っ!」

 

と呟いて、体を震わせた

そんなデイジーの手には、小さなアクセサリーがあった

そして、翌日の放課後

明久達は放送室で、昼の放送の打ち合わせをしていた

その時

 

「デイジーちゃん、どうしたの?」

 

とシアが問い掛けた

なお、新しくキキョウも入部を果たしている

それにより、人数は五人に増えた

すると、僅かに遅れて

 

「あ、な、なんですか?」

 

とデイジーはシアに顔を向けた

すると、シアが

 

「なんか、心ここに有らずっていうか……反応が鈍いから」

 

と心配そうに言った

すると、デイジーは

 

「あ、だ、大丈夫ですよ。少し考えてただけですから!」

 

と慌てた様子で言った

すると、明久が

 

「熱は……ないようで」

 

とデイジーの額に手を当てた

その直後、デイジーは顔を赤くして

 

「だ、大丈夫ですってば!」

 

と言いながら、後ろに跳んだ

すると、後ろにあった棚に背中を強打

蹲った後に、その棚からファイルやら冊子が落下

デイジーに直撃した

 

「わ、わあ!?」

 

「ちょっ!? 大丈夫なの!?」

 

シアとキキョウは慌てて駆け寄り、デイジーを救出した

すると、デイジーは苦笑いを浮かべて

 

「あ、あははは……すいません」

 

と頭を下げた

そうこうしながらも、部活は終了

そして明久は、ある報告を耳にした

 

「陛下の義姉に動きが?」

 

『はっ……どうやら個人的に動いていたらしく、遅れました……どこからか、危険魔道具を入手したようです』

 

明久の問い掛けに、フリージアがそう報告した

それを聞いて、明久は

 

「わかった。監視を怠るな」

 

と告げた

それを最後に、通信は終了

明久は少しすると

 

「まさか……な……」

 

と呟いた

その呟きは、あることを危惧したからである

そしてその危惧は、現実の物となった

それは翌日の放課後

放送部の部活動の時、明久はデイジーの胸元から見えたその魔道具に気づいた

 

「デイジー様、それはっ!?」

 

「つっ!?」

 

明久の言葉を聞いて、デイジーは素早く後退

そして、その魔道具を掲げた

 

「来ないでくださいっ」

 

デイジーのその言葉に、明久は動けなくなった

するとデイジーは

 

「これは、相手を別の次元に送る魔道具です……本当はお母さんに、シア様をそこに送れと言われたんですが……出来ませんでした……私には、憎しみなんてないんですから……」

 

と泣きそうな声で言った

すると、シアが

 

「だったら、今からでも遅くないから……それを置いて」

 

と置くように促した

しかし、デイジーは首を振って

 

「ダメです……もう、遅いんです」

 

と言った

その時、その魔道具が光り輝いた

 

「さようなら、皆さん……」

 

「ちいっ!」

 

デイジーが別れの言葉を口にしたタイミングで、明久がデイジーに飛び掛かった

その直後、一際強く光り輝いて何も見えなくなった

そして光が収まり、シア達はデイジーが居た場所を見た

そこには誰も居らず、ただ地面には発動し終えた魔道具が落ちていた

しかも、デイジーだけでなく明久の姿も無くなっていた

 



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その世界は

明久が消えた翌日

 

「確認できた。やっぱ、義姉貴がデイジーに渡した物だとよ」

 

と言ったのは、芙蓉家に来たユーストマだった

明久とデイジーが姿を消した後、稟、シア、キキョウの三人はすぐにユーストマとフォーベシイに連絡を取った

すると二人は、近衛を連れてすぐさま駆け付けた

そして、放送室付近を立ち入り禁止にして捜査開始

そして、デイジーが使用した魔導具を発見

それは、古代魔導具だった

文献に効果は書かれていたが、名前が無かった魔導具

そしてそれは、遥か昔に神獸

エリカ=スズランが持っていた物らしい

しかしそれは、ある日奪われてしまったようで、取り戻す機会を伺っていたようだ

しかし、その前に使われてしまった

 

「義姉貴、こうなるとは思ってなかったらしい。完全に意気消沈してた……そして、デイジーを助けて。とも言われたな」

 

やはり、邪な計画をしたとは言っても母親なのだろう

娘の無事を願ったらしい

しかし

 

「もう、この魔導具に魔力は残されておらぬ……長い年月で、霧散したようだの……」

 

というエリカの言葉で、誰もが黙った

つまり、戻すことはほぼ不可能だと

すると、エリカが

 

「まあ、ちとばかし……様子を見に行くか」

 

と言った

その言葉の意味を誰かが理解する前に、エリカは姿を消した

そしてエリカがその姿を現した場所は、一面花畑だった

しかも、黒い兎のヌイグルミの姿ではなく、着物姿の幼い少女だった

 

「ふむ……この姿も、久しぶりだな」

 

とエリカは言って、歩き出した

そして、どれ程歩いたのか

 

「む、居たな」

 

とエリカは、二人を見つけた

二人は少し開けた場所に居た

 

「エリカ様……」

 

「そんな姿だったんですね」

 

エリカに気づいて、明久とデイジーはそう言った

するとエリカは

 

「こうして人前に姿を見せたのは、何年振りかの」

 

と言った

そして、エリカは

 

「今向こうでは、お主らを戻そうとしておる」

 

と言った

それを聞いて、デイジーが

 

「私も、ですか……」

 

と驚いた様子で言った

すると明久が

 

「デイジー様の放送、人気のようですから」

 

と言った

その言葉は、大分柔らかい

 

「剣神……お主」

 

「記憶、戻りました」

 

エリカの問い掛けに、明久は微笑みながら答えた

どうやら、何らかの理由で記憶を取り戻したようだ

そして、明久は

 

「しかしこの世界は、時間概念が無いんですね……一日中陽が出てるとは」

 

と言って、空を見上げた

するとエリカは

 

「この世界は、我が世界よ……」

 

と懐かしむように告げた

つまり、彼女の故郷らしい

すると、デイジーが

 

「この世界に一人というのは、寂しくないですか?」

 

とエリカに問い掛けた

するとエリカは

 

「確かにの……故に我は、この世界から出た……外の世界を知りたくてな」

 

と答えた

そして、背を向けると

 

「では、しばし待っていろ……恐らく、かの者達がお主らを帰す算段を立てるでな」

 

と言って、姿を消した

それを見送ると、明久は

 

「さて、俺は……どうするべきかなぁ」

 

と呟いたのだった



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可能性と

エリカが戻ると、稟が

 

「明久とデイジーは、大丈夫でしたか!?」

 

と問い掛けた

その問い掛けの気持ちは同じらしく、芙蓉家に集合していた全員が同じようにエリカに視線を向けていた

すると、エリカは

 

「案ずるな。向こうの世界は、害を為す者は存在せん……」

 

と告げた

それを聞いた一同は、安堵の溜め息を漏らした

しかし、問題はある

 

「戻すには、その魔道具に魔力が必要……なんだね?」

 

というフォーベシィの言葉に、エリカは頷いて

 

「そうだな……具体的な量は、大体……9000兆というところだな」

 

と言った

その量を聞いて、誰もが絶句した

9000兆

それは、莫大な魔力を有しているネリネやプリムラですら遠く及ばない単位だった

なお、人間の平均値は凡そ10~20位であり、多いと言われてる桜ですら約1500前後だ

9000兆という魔力量は、一朝一夕には集められない

もし集めようとしたら、下手すれば年単位掛かる可能性が高い

だが

 

「だからって……諦めてたまるかよっ!」

 

と稟が言った

そんな稟に、全員の視線が集まった

すると、稟が

 

「俺達は一度、あいつに全部を背負わせちまったんだ! それであいつは、片眼と記憶を失った! これ以上、あいつだけに背負わせてたまるか!!」

 

と声を張り上げて言った

そして、稟が荒く呼吸を繰り返していると、楓が

 

「そうですね……私も、明久君に恩を返したいです!」

 

と同意を示した

そして桜は、無言で稟と楓の近くに歩み寄った

三人の目には、強い決意の光があった

決して、諦めないという決意の光が

それに同意するように、シアやキキョウ。ネリネ、プリムラ、瑠璃、フリージアが立ち上がった

決して諦めないと

それを見たからか、エリカが

 

「ならば、最も可能性が高い方法を教えよう」

 

と言った

それを聞いた全員の視線が、エリカに向いた

すると、エリカは

 

「しかしそれでも、可能性は一桁だ……それでも、やるか?」

 

と全員に問い掛けた

その問い掛けに、全員は無言で肯定した

それを見たエリカは、その方法を教えた

そして、明久とデイジーはエリカが見つけた少し開けた場所にずっと居た

 

「お腹も減らないのは便利だけど……変な感じだ」

 

「そうですね……」

 

明久の言葉を聞いて、デイジーは頷いた

するとデイジーが

 

「あの、明久さん……」

 

と明久に視線を向けた

すると、明久が

 

「どうしました?」

 

と首を傾げた

その表情は、以前に比べて遥かに柔らかい

それに一瞬ドキリとしてから、デイジーは

 

「どうして、記憶喪失になってたんですか?」

 

と明久に問い掛けた

それを聞いた明久が沈黙すると、デイジーは

 

「あ、喋り辛いなら無理に喋らなくていいですよ」

 

と言った

しかし明久は、首を振って

 

「大丈夫、話すさ」

 

と言って、語りだした

そしてデイジーは、明久の自己犠牲の話を聞いた

そして、明久が最後に

 

「まあ、偽善だよね……」

 

と呟いた

するとデイジーは

 

「偽善だろうが、それは明久さんの本性です……でも、自身を大事にしてくださいよ……そんなの、何時死んでてもおかしくないですよ……」

 

と涙を流した

その言葉を聞いて、明久は

 

「だけど……僕が引き受けるしかなかったと思うんだ……それが、一番犠牲が少ないと判断したんだ……」

 

と泣きそうな表情をしながら言った

恐らくだがその時、悲壮なまでの覚悟をしたのだろう

でなければ、小学生でするような行動ではない

それを聞いたデイジーは、明久の腕に抱き付いたのだった

 



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帰還

明久とデイジーが異世界に消えて、数日後

稟達は、動いていた

そして、昼

 

『あーあー……皆さん、聞こえてますか?』

 

と放送が流れた

その声は、間違いなく稟だった

 

『俺は、二年Aクラス。放送部所属の土見稟です。今日は皆さんに、お願いがあります』

 

と稟が言うと、Aクラスに居た優子が

 

「お願い? 何かしら?」

 

と首を傾げた

すると、偶々Aクラスに来ていた秀吉が

 

「何やら、真剣な声じゃのう」

 

と呟いた

すると

 

『もう気付いてる方も居るとは思いますが、二年Aクラスの吉井明久と二年Bクラスのデイジー。この二名が現在居ません』

 

と稟が言った

それは、優子やAクラスの全員が気付いたことだった

ここ数日、明久とデイジーの姿を見ていなかった

 

『その二人は数日前、ある危険魔道具により異世界に送られました……帰すには、皆さんの協力が必要なんです!』

 

と稟が言った

すると、そのタイミングでAクラスのドアが開いて楓と桜が入ってきた

そして二人は

 

「このクラス、いえ」

 

「学園全員の皆さんに協力してほしいんです」

 

と頭を下げた

実はこの時、各学年、各クラスにおいて同様のお願いをしていた

エリカ=スズランが告げた最も可能性が高い方法

それは、文月学園に居る全生徒の意志を一つに

 

《明久とデイジーの帰還を願うこと》

 

だった

しかし、それはかなり難しい方法だろう

なにせ、約七百二十余人の意志を一つにしないといけないのだから

特に不安視されるのは、FFF団を形成している二年Fクラスだろう

彼等はなにかと、明久を目の敵にしている(まあ、自業自得なのだが)

それだけでなく、稟のことも目の敵にしている

そんなFクラスが、素直に稟の頼みごとを聞くだろうか?

しかしそれは、対策法が取られていた

その対策法を選んだのは、元FFF団だった須川と横溝の二人だった

 

「なんとか連絡を取った人曰く、デイジーさんは明久隊長と一緒に帰りたいそうだ」

 

「それに協力すれば、モテるようになるはずだ!」

 

『是非協力しよう!!』

 

余りにも、単純だった

なお、モテるようになるはずだ

とは言ったが、モテるとは言ってない

嘘は言ってないだろう

後は、彼等の性格と行いを矯正する必要があるが、須川と横溝はそこまでする気は皆無だった

二人にとって最重要なのは、デイジーと明久の無事の帰還だった

そのためならば二人は、クラスで浮くことになるだろうが構わなかった

 

(使えるのは、何でも使ってやる!)

 

(隊長が帰ってくれば、後はどうとでもなる!)

 

二人はそう思った

そして、時は来た

 

『では、皆さん。二人の帰還を祈ってください!』

 

稟のその言葉の後に、全員が祈り始めた

それは、真摯な願い

奇跡を起こすのは、人々の願いなのだから

そして祈り始めてから十数秒後、学園全体を光が覆った

そして光が収まると、稟は放送室から飛び出した

確信したのだ

二人が、帰ってきたのだと

実は稟だけでなく、何時ものメンバーも一目散に走り出していた

ある場所に向かって

そして向かったのは、学園の屋上だった

全員が屋上に到着すると、見つけた

屋上の一角に、二人分の人影

それは間違いなく、明久とデイジーだった

稟達はその二人を見つけると、涙を堪えながら

 

『お帰り、二人とも!』

 

と二人に飛び付いたのだった



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桜の決意

帰還した明久とデイジーの二人は、衰弱から軽く入院することが決まった

そして明久は、ベッドからボーっと空を見上げながら

 

「本当、どうしようかな……」

 

と呟いた

どういう理由かは分からないが、明久は記憶が全て戻った

それにより、忘れていた桜との約束も思い出した

しかし

 

「もう、約束が果たせない状況じゃないか……」

 

桜との約束

それは、《いつか、二人でお店を開こう》だった

明久は家庭の事情で、昔から料理が得意だった

そして桜は、人形作りが好きだった

だから二人で、人形も売る喫茶店でも開こう

と約束していたのだ

それは、子供の他愛ない約束かもしれない

しかしそれは、大事な約束だ

だが今の状況は、それを不可能にしている

今の明久は、近衛の総隊長だ

そして今の近衛の隊員達は、全員して

 

『明久以外の隊長を認めないし、従わない』

 

と断言している

もし隊長を辞めたら、どうなるかは一目瞭然だ

明久はどうすればいいのか分からず、頭を抱えて唸り始めた

その時だった

ドアがノックされて

 

『アキ君、入っていい?』

 

と思っている少女

桜の声が聞こえた

桜の声を聞いて、明久は一瞬体をビクッと震わせてから

 

「どうぞ」

 

と入室を促した

すると、ドアが開いて

 

「アキ君。調子はどう?」

 

と桜は入るなり、そう問い掛けた

その問い掛けに対して、明久は

 

「衰弱してるとは言っても、問題ない範囲だよ」

 

と返答した

それを聞いた桜は、安心した様子で

 

「良かった」

 

と言って、ベッド近くの椅子に座った

その後、二人して暫く黙ってしまった

明久は気まずさから

そして桜は、何やら思案している様子だった

どれほど経ったか

明久が

 

「あのね、桜ちゃん……約束、思い出したよ」

 

と言った

それを聞いた桜が顔を上げると、明久が

 

「でも、ごめん……今の僕じゃあ、約束を守れそうにないんだ……」

 

と言って、頭を下げた

すると、桜が

 

「うん、分かってるよ、アキ君」

 

と言って、明久の頭を抱き締めた

そして、優しい声音で

 

「アキ君は、文字どおり頑張ってきたからね……楓ちゃんや稟君の時から、ずっと……」

 

と言った

その言葉に明久が黙っていると、桜が涙声で

 

「アキ君が居なくなった時……私……後悔したの……なんで、楓ちゃんにもっと早く本当のことを言わなかったのかって……知ってたのに……」

 

と言った

それを聞いて、明久は何も言えなかった

確かに、桜は稟と興平、智代から話を聞いていた

それで、明久を止めようとしたこともあった

だがそれを、明久が止めたのだ

 

《必要悪だから》

 

小学生が自身を必要悪として、一人の少女の生きる理由になる

どれほど、悩んだだろうか

どれほどの覚悟だっただろうか

だが、それは

 

「アキ君……アキ君が傷付いたら、私達だって辛いの」

 

自己犠牲に他ならない

そして、人によってはただの偽善とバカにするだろう

しかし、時には必要になることもある諸刃の剣なのだ

 

「だからね、アキ君……私に……私達に支えさせて」

 

「私……達?」

 

桜の言葉の意味に明久が気付く前に、桜は立ち上がって

 

「それじゃあ、今日は帰るね」

 

と言って、桜は病室から去った

明久はそれを見送り

 

「まさか……ねぇ」

 

と呟くことしか出来なかった



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決め事

終わりが見えてきましたよー


入院して二日後、明久とデイジーは退院

それぞれ、寮と隊舎に戻ることになった

だが、その前に

 

「デイジー……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

「お母様……」

 

デイジーは自身の母親と出会っていた

デイジーの母親はデイジーを見た直後、涙を流しながらデイジーに抱き付いた

その母親の頭を、デイジーは優しく撫でた

 

「ご母堂……申し訳ありませんが……」

 

「分かっています……デイジー……ごめんなさいね……」

 

一人の隊員が声を掛けると、デイジーの母親はそう言って立ち上がった

彼女の罪状は、危険魔導具の違法所持

ということになっている

神王への反逆ではない

反逆罪を適用しようと進言した者も居たが、それは神王が止めた

なんでも、神王の兄が来たらしい

本当ならば、空気の清んだ地域からは離れられない兄が態々人間界に来て、頭を下げたらしい

 

『妻が済まなかった……私が止められなかったのが原因だ』

 

その上で、全ての責任は自分にある。とも言った

しかし、神王は

 

『俺も、義姉貴の行動に気づけなかった。おあいこだ、兄貴』

 

と言った

それにより、反逆罪は適用されない運びになった

その代わりに、デイジーを王族として迎えいれ、納得出来ないとした母親に危険魔導具の違法所持罪を適用

デイジーの母親は、半年間の禁固刑になった

 

「さて、デイジー……王位継承権はどうする?」

 

母親を見送ったデイジーを見ながら、神王はそう問い掛けた

今のデイジーは、王族に連なる立場である

シアよりは下だが、王位継承権を得られる立場なのだ

すると、デイジーは

 

「私は……王位継承権は要りません」

 

と言った

それを聞いて、神王は

 

「いいのか? キキョウは与えられないが、お前さんは得られるぞ?」

 

と問い掛けた

キキョウは孤児を引き取ったという形にしてあるので、王位継承権は与えられない

しかし、デイジーは神王の兄の娘

王位継承権は十分に与えられる立場だ

しかし

 

「私は、王という立場には興味はありません……それに……どうも、王というのは似合わないような気がするんです」

 

と言った

確かに、デイジーの性格を鑑みれば向かないのは明白である

むしろ、補佐する立場の方が向いているだろう

それを聞いた神王は

 

「分かった。そうしておくぜ」

 

とデイジーの言葉を受け入れた

その後、明久は隊舎に向かった

すると

 

『総隊長、おかえりなさい!!』

 

と残っていた隊員達が出迎えた

すると明久は

 

「うん、ただいま」

 

と言いながら、微笑んだ

すると一人の隊員が

 

「隊長……なんか、雰囲気変わりました?」

 

と首を傾げた

すると明久は

 

「ああ、うん……記憶が戻ったんだ。全部」

 

と言った

それを聞いた瑠璃が

 

「良かった……良かったです……」

 

と嬉しそうに呟いた

するとフリージアが

 

「素直になったら?」

 

と言った

すると瑠璃は、顔を真っ赤にして

 

「まだ出来ませんっ」

 

と言った

それを聞いたフリージアは、ニヤリと笑ったのだった

そして彼等の物語は、終盤に向かう



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乙女

明久が帰還した日、隊舎はドンチャン騒ぎになった

隊員の誰もが、明久の帰還を喜んだのだ

しかし、酔いつぶれてはいない

直ぐに動けるようにだ

なお料理は、料理が得意な隊員達が振る舞った

その中には、須川の姿もあった

須川の実家は定食屋で、須川も昔から手伝っていたらしい

なお横溝は、主に配膳に回った

しかし気付けば、その二人は眠っている

どうやら、疲れたらしい

そして明久は、一人ベランダで月を見上げていた

その明久の手には、中身が入っていないコップがあった

そこに

 

「隊長」

 

と瑠璃が現れて、ウーロン茶を注いだ

 

「ありがとう、瑠璃先輩」

 

明久がそう言うと、瑠璃は

 

「久しぶりに、そう呼ばれました……5年振り……でしょうか」

 

と言って、明久の隣で同じように月を見上げた

そして、少しすると

 

「つ……月が綺麗ですね」

 

と瑠璃が言った

すると、明久が

 

「……夏目漱石……」

 

と小さく呟いた

そして

 

「死ぬことは、許しませんよ。瑠璃さん」

 

と言った

それを聞いて、瑠璃は

 

「しかし5年前……私は、噂に騙されてしまった……隊長の純粋な目を見ていながら……何もしなかった……」

 

と涙ながらに語った

すると明久は

 

「それで良かったんです……ヘイトコントロール……それに成功してたんですから……僕の目的は、果たされてたんですから」

 

と言った

そして明久は、瑠璃の頭に手を置いて

 

「瑠璃さんは、十分魅力的ですよ……それは、僕が保証します。気立てよし、料理も得意と来たら、嫁の貰い手は、引く手数多でしょう」

 

と誉めた

それは、明久の本心だった

実際、瑠璃は性格から容姿、文武両道と非の打ち所がない少女だった

しかし、目立つのを良しとしないために、普段は穏行の魔法で存在感を限界にまで無くして行動している

それがなぜか、フリージアとカレハには通じないことに、瑠璃は首を傾げているが

生徒会長になれたのは、彼女の素行の善さと成績が良かったかららしい

そして瑠璃は、明久の言葉を聞いて

 

「私は……隊長……明久以外とは、結婚したくありません」

 

と言って、明久を見詰めた

すると明久は

 

「しかし、僕は……人族、ですよ?」

 

と言って、躊躇いを見せた

すると、瑠璃は

 

「構いません。そもそも、私はハーフです」

 

と言った

そう、瑠璃は人族と神族のハーフなのだ

父親は神族だが、母親が人族だ

瑠璃の顔立ちは、その母親そっくりらしい

そして料理は、その母親の教育の賜物とか

 

「まあ、明久には慕う方が多いみたいですが」

 

「うっ……」

 

瑠璃の言葉を聞いて、明久は思わず呻いた

心当たりが多すぎたからだ

そんな明久を見て、瑠璃は

 

「忘れないでくださいね、明久」

 

と言って、明久の頬にキスをしたのだった

 

 

なお、それは一部デバガメに見られていて、瑠璃はそれでからかわれることになる



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告白

それが動いたのは、明久達が登校を再開して数日後だった

ある日の放課後、明久の部屋

そこに、部屋の主たる明久の他に、桜、キキョウ、デイジー、瑠璃の四人が集まっていた

その四人の表情は、真剣そのものだった

そして部屋の主たる明久は、その四人の前で困った表情を浮かべていた

その理由が

 

「えっと、ごめん……もう一回、言ってくれるかな?」

 

「だからね、アキ君」

 

「アタシ達は」

 

「明久さんが」

 

「好きです」

 

と、四人から告白されたからだ

明久も、四人が自分に好意を向けていることに気付いていた

だがまさか、四人同時に告白されるとは思っていなかったのだ

実はこの四人、示し合わして来たのだ

この四人は互いに、明久が好きなことに気付いていた

それは、恋する乙女だから分かったのだろう

そして四人は、先日に話し合ったのだ

 

『誰が選ばれても、恨みっこなし』

 

だから四人は、同時に告白したのである

それに明久は、頭を抱えた

まさか、四人同時に告白されるとは、と

あっても、タイミングをズラしてくると思っていた

 

(どうしよう……選べない……)

 

四人の真摯な告白に、明久は誰か一人を選べないでいた

良い言い方ならば、優しい

悪い言い方だと、ヘタレ

それが、本来の明久なのだ

明久が唸っていると、桜が

 

「アキ君……選べないんでしょう?」

 

と問い掛けた

その言葉に、明久はビクリと体を震わせて

 

「その通りです。はい」

 

と頭を下げた

すると、桜は微笑みを浮かべて

 

「ほら、私の予想通りだったよ」

 

と言った

そして、桜の言葉を聞いた三人も、頷いていた

実は先日に話し合った際に、桜が

 

『アキ君、なんだかんだ理由を着けて、選べないと思うんだよね』

 

と言っていたのだ

その予想が、完全に適中していたのだ

やはり、幼馴染みだからこそ、予想出来たのだろう

すると、瑠璃が

 

「すいません、隊長。少し、意地悪なことをしました」

 

と謝罪した

その後に、デイジーが

 

「やはり、ここはこれしかないかと」

 

と言って、持ってきていた鞄の中から一枚の紙を取り出した

そしてその紙を、明久の前に置いた

それに気付いた明久は、思わず目を疑った

何故ならば、その紙は

 

《重婚姻届け》

 

だったからだ

 

「えっと……本気で?」

 

明久が問い掛けると、四人は

 

『本気』

 

と短く答えた

確かに、今の世の中は神界の法が適用されて、重婚することも可能になっている

 

「俺ですよ?」

 

明久が思わず問い掛けると、四人は

 

「隊長、先程も言いましたが、私達は隊長以外とはお付き合いする気はありません」

 

「私達はね、アキ君。アキ君だから、付き合いたいの」

 

「そして、四人で話し合って決めたの」

 

「だから、後悔はありません」

 

と答えた

そして明久は、四人の目から本気だと察した

だから

 

「分かった……受け入れます」

 

と答えたのだった

実は同時刻、稟も楓、シア、ネリネ、プリムラから告白されていた

そして、同じことが起きていた

こうして二人の少年は、未来が決まったのだった

 



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エピローグ

最終回です
長々とお付き合いいただき、感謝です


明久と稟が告白されて、数年後

神界と魔界の王女達とある少女達が、それぞれの想い人と結婚式を挙げた

それは、親バカ王達により、史上類を見ない程に華やかに行われた

その結婚式の参列者には、青年になった少年達の親代わりの男性

そして、青年の部下達

二王とその奥さん達

今なお現役たる、恩師達

新郎新婦達の友人達

青年達の結婚相手の両親達と意外にも少人数だ

しかし、その結婚式は生中継されている

そして結婚式場は、非公開だ

親バカ王達は盛大に、民衆の前で結婚式をしたかったらしい

だが、安全面を考慮して、非公開となったのだ

主に、テロリスト対策で

今結婚式場の周りも、簡単にテロリストや無関係者が立ち入れないようにされている

だから、今や三界最強と謳われる合同近衛部隊の隊員が、全員参加出来ているのだ

そして、結婚式も佳境に突入

 

『それでは、新郎新婦達は誓いのキスを』

 

神父に促されて、新郎二人は奥さん達にキスをした

それを見た参列者達は、惜しみ無い拍手を送った

それが恥ずかしいからか、新郎新婦達は揃って顔を赤くした

そして、神父が祝詞を告げた

それを聞いた後、新郎に付き添われて新婦達は教会を出た

その後は新婦がブーケトスをして、未婚女性がキャッチしたり、料理を堪能したりと、賑やかだった

そして、結婚式が始まって数時間後

 

「だぁ……緊張したぁ」

 

「お疲れさま」

 

稟が椅子に深々と腰かけると、その隣の椅子に明久が座って労った

そして、少し間を置いて

 

「色々、あったね」

 

と呟くように言った

すると、稟も

 

「そうだな……」

 

と同意するように、言った

そして

 

「本当に、色々とあったな」

 

と半ば遠い目になった

二人が思い出したのは、それぞれ告白された後だった

明久は明久の部屋だったのだが、稟の告白された場所が悪かった

なにせ、学校の屋上だ

翌日の朝から、嫉妬に駆られた男子達が襲撃してきて、通学路に文字通りに人の山が出来たり、校庭に直径10mのクレーターが出来たり、体育館が半分吹き飛んだりと、苦労が絶えなかった

特に、明久は

何故か、亜沙が瑠璃が告白したことに気付き、そこから連鎖的に、デイジー、桜、キキョウの告白もバレた

それから明久は、稟を守りながら、自分に襲い掛かってくる輩の撃退

更に、キキョウやネリネが壊した場所や施設の補修監督等をし続けた

その結果、睡眠不足になって一度は過労で倒れた程だ

その見舞いに四人が来たのは嬉しかったが、その病院に男子達が襲撃

キキョウの魔法で、病院の駐車場にまた巨大なクレーターが出来た

そのクレーターを作ったのを謝り、明久は胃痛を覚えた

それはさておき、今

明久と稟が苦笑していると、二人が居る部屋のドアが開いて

 

「アキ君! 稟君! 皆が探してるよ!」

 

とドレス姿の桜が現れた

どうやら、探しに来たらしい

すると、稟が

 

「楓は、どうした?」

 

と問い掛けた

すると、桜は

 

「楓ちゃんなら、今は麻弓ちゃんと話してたよ」

 

と言った

それを聞いて、稟は

 

「ああ……そう言えば、話したいって言ってたな」

 

と納得した

そして、明久は

 

「よく、ここだって分かったね?」

 

と桜に問い掛けた

すると桜は、自信満々と言った表情で

 

「私が、二人とどれだけ付き合いが長いと思ってるの?」

 

と言った

確かに、もう何年になるか

それを考えれば、明久と稟が何処に居るのかなど、予想出来るだろう

そこに、新たに一人

シアが現れて

 

「桜ちゃんに頼んで、正解だったすね」

 

と微笑んだ

それに遅れて、次々と新婦達が姿を見せた

そして、一斉に手を差し伸べて

 

『ほら、いこうよ』

 

と言った

それを聞いて、二人は歩き出したのだった

華やかな未来へと



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