ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう (ルピーの指輪)
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東の海編
ヤソップの娘


にわかな部分もありますので、ご了承ください。
それでは、よろしくお願いします。


「カヤ、君は輪廻転生という言葉を信じるかい?」

 

 私はそう金髪の少女に話しかけた。病弱で外に出ることが出来ない彼女は私の話を楽しそうに聞いていた。

 

「輪廻転生? つまり、生まれ変わりということ?」

 

 美しい彼女はキョトンとした表情で私を見ていた。

 なぜ、そんなことを言うのかって? それは私が――。

 

「転生者……。私は前世はまったく違う世界に居たんだ……」

 

 私は自分が前に居た世界の話をした。この世界とは別物の科学が発展した異世界の話を……。カヤという金髪の幼馴染は私の話をただ、楽しそうに毎日聞いてくれていた。

 まぁ、創作だとは思われてるだろうけど……。

 

 しかし、私は彼女に告げてないことがある。

 

 それは――この世界が自分の前に居た世界の漫画の中だということを……。

 そして、私はどうやらその漫画の主要人物らしいのだ。その漫画の名は《ONE PIECE》――。

 

 私は海の王者と言われる最強の海賊たち――四皇の一角である赤髪海賊団の一員のヤソップの子供だ。

 

 つまり、この物語の中心である麦わらの一味の初期メンバーの一人になるはずの人間ということである。

 

 しかし、おかしな事が二つある。それは、私の性別が前世と同じだということ。

 私の性別は――女なんだ……。しかも、ヤソップの子と言えば鼻の長いウソップなのだが――。

 

「うふふ、とても面白い話をありがとう。ライアさん」

 

 彼とは名前も違う……。まぁ、性別が違うから当たり前かもしれないが……。

 私の名前はライア。赤髪海賊団のヤソップの娘だ。

 

「いつか、私は海に出る。そうしたら、もう少しだけ面白い話が出来るようになるかもしれないね」

 

 未来が漫画と同じなら私は麦わらの一味に入るはずだ。まぁ、入らなくても偉大なる航路(グランドライン)を目指すつもりではいるが……。

 

 最初はそんな気はさらさらなかった。《ONE PIECE》が嫌いと言うわけじゃないが、あんな血生臭い戦いに巻き込まれるなんて、嫌でしかなかったからだ。

 

 私が偉大なる航路(グランドライン)を目指すきっかけは母の死だ……。

 

 優しかった母は毎日のように父が帰ってくるのを楽しみに待っていた。

 そう、死んでしまうその日まで――。

 

 だから私は父を恨んだ。いや、戻ってこられない事情は理解しているのだが、恨まずにはいられなかった。

 私に出来る事は、父に母の墓標の前で謝罪をさせることだけだ――。

 

 しかし、この世界は死と隣り合わせ。赤髪海賊団は確かに大物だけど、いつかやられてしまうかもしれない。

 それならば、確実に会えるタイミングで父を説得して連れて行くしかない。

 

 私が知っている赤髪海賊団の出てくるシーンは頂上決戦――ポートガス・D・エースの死刑執行でヒートアップしたあの戦いを止めるために出てきた、あの瞬間だ。

 

 どうにかして、あの戦いにルフィと共に潜り込んでバカ親父を連れて帰る!

 

 そんな計画を私は密かに立てていた。

 

「やっぱり、お父様を見つけに行くの?」

 

 カヤは少しだけ寂しそうな顔をしていた。はぁ、この顔に私は弱い。

 

「ちょっとだけさ。パパッと行ってきて、見つけて、連れて帰ってきたら、私はずっとこのシロップ村に住むつもりだ」

 

 私はカヤに出来るだけ優しく笑いかけた。彼女は私の目をジッと見ていたかと思うと、カーッと顔を赤らめる。

 

「カヤ? どうしたのさ、ボーッとして」

 

 私は彼女の表情を覗き込むようにして問いかける。

 

「――はうっ、時々、ライアさんが女性だということを忘れてしまうわ。最初に会ったときはホントに男の子だと思ってしまったもの。それに格好もそういう服装が好きだから……」

 

 カヤは私の気にしてる事をズバリと言う。そう、私の見た目は何故か中性的というか、なんというか、《ONE PIECE》のキャラクターでいうとキャベンディッシュの髪型をストレートロングにしたような見た目だ。髪の色は銀髪だけど……。

 おまけに、口調は前世からこんな感じだし、声も少しだけ低い。

 格好は自分の趣味だから譲りたくないんだけど、基本的に黒スーツに白シャツで、シルバーのブレスレットを付けている。

 

 だから、よく男だと間違われることが多い。

 まったく、神様は中途半端なことをしてくれる――。

 

 そんな格好だからとかは言わないでほしい。スカートは嫌いだし、スタイルに自信がないから体のラインが出る服は着たくないんだ。

 そもそも、すごく似合わない……。

 

 もっと可愛い感じに転生出来れば良かったなぁ……。

 

「じゃあ、カヤまた来るよ。ちょっと私はアルバイトがあるからさ……」

 

「うん、待ってるわ。いつもありがとう、ライアさん」

 

 私はそう言って、カヤの家の庭から出た。

 

 

 私は人目を気にしながら小舟を隠している場所まで行き、そこで手早く着替えて、顔の大部分が隠れるくらいの大きさのゴーグルを付ける。

 アルバイトというのは、ズバリ、賞金稼ぎだ。

 これから激しい戦いに巻き込まれると知っていて訓練をしないほど私は馬鹿ではない。

 来たるべきときに備えて私は自分の力を研磨していた。そう、頂上決戦を生き抜くために――。

 

 この世界の戦いは基本的に悪魔の実の能力者が有利だ。海に落ちたら終わりなはずだが、麦わらの一味の戦いは陸戦が多い。

 無能力者のウソップは機転が利く強者だが、運が味方して生き残ったシーンも多い。じゃあ、私はどうだろう? Mr.4のバットを頭に受けて生き残れるだろうか?

 

 巨大爆弾の爆発で生きていたり、かと思えば簡単なことで命を落としたりする世界だ。

 生存率を高くするためには強くなっておくに越したことはない。

 

 とにかくまずは悪魔の実の攻略だ。特に無策で自然系(ロギア)を相手にすると何も出来ずに蹂躙されてしまう。その他に初見殺しみたいな能力者も多い。

 

 これに関しては対策は色々とある。海楼石とか、武装色の覇気とか、弱点を突くとか……。だから、私はこれらの対策を実践するために動いてみた。

 

 まずは海楼石について……、残念だが、東の海(イーストブルー)じゃ、全然見つからなかった。

 スモーカー大佐が海楼石の十手を持ってたから、案外簡単に見つかると思ってたけど無理だった。よく考えたら海軍が特別に支給してる可能性が高いよなー。

 

 そして、武装色の覇気――まったく概念がわからん。大体、ルフィの修行シーンはほとんどカットされていたし、同じ修行なんてそもそも出来るはずがない。早い話、これも今は無理ということだ。

 

 弱点を突く――これが大本命だ。実際にウソップは狙撃する際に何かしらの効果を付与させる弾丸を使っていた。

 私にもそのスタイルが合っているみたいで、生来の器用さも相まって色々な銃弾や銃火器を開発した。

 将来的にフランキーと仲間になったら更に捗りそうだ。

 

 例えば、煙なら炎、砂なら水というように攻撃が出来たりすれば、かなり有利になるはずだ。当たりさえすれば――。

 

 ということで、私は狙撃の訓練を毎日欠かした事はなく、こちらは父親譲りの才能からなのか、すればするほど腕前は上がっていった。

 至近距離なら百発百中は当たり前だし、何なら動いてる相手の先読みまで出来るようになった。

 多分、知らない内に見聞色の覇気とやらが鍛えられたからだろう。

 

 そのおかげで、“避ける”ことに関しても私はかなりの自信がある。

 避けて、逃げて、逃げまくって、当てるという戦法は私の得意な戦法となった。情けないとかは言わないでほしい。

 

 こんなことをしてる内に、私はもう17歳になった。道化のバギーがやられたという情報や、モーガン大佐が失脚したというニュースはまだ届いてないが、そろそろ彼らがシロップ村に現れるかもしれない。

 

 

 今回の海賊との戦いは私の最終試験も兼ねている。

 

 

 さて、手頃な海賊がこの辺りに……。

 私は近海に賞金首の情報が入ると海賊でも山賊でも関係なく実戦訓練がてら、それを狩っていた。クラハドールに警戒されると厄介なのでゴーグルと“アイラ”という偽名で正体を隠しながら……。

 あと、武器の開発にも金がかかるので、小遣い稼ぎも兼ねている。

 

 そのせいで、少々名が売れてしまい、《魔物狩りのアイラ》とかいう、恥ずかしい二つ名まで出来てしまった。

 

 この島には、ここを拠点に暴れ回っている海賊が居ると聞いてやってきた。

 海賊の名は《牛刀のゲルグ》、懸賞金は500万ベリー。東の海(イーストブルー)の懸賞金の平均が300万ベリーだから、高い方と言えば高い方だ。私が仕留めた海賊の中では二番目に高額の賞金首である。

 

 私は武器である特殊な改造をした愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を片手に連中のアジトである、洞窟へと足を踏み入れた――。

 

 

 入って5秒もしない内に私は見張りと遭遇する。まぁ、これは計算どおり。さすがに誰にも見つからないようにするのは無理だ。

 

「――しっ、侵っ!? はうっ……zzzz」

「えっ――!? うっ……zzzz」

 

 即効性の睡眠薬を仕込んだ銃で私は見張りの動きを封じる。怪我ぐらいじゃ叫んで煩いし、殺すのはちょっと合わないというか、何というか……。

 

 とりあえず、縛って目覚めても余計な事が出来ないようにしとこ。

 

「うーん、大きな気配はこっちだな……」

 

 私は枝分かれする道の前で、取り分け大きな気配がする方向を目指して歩き出した。

 見聞色の覇気が鍛えられているのか、私は気配の大きさで敵の強さや位置が離れていて見えない位置でも大まかにわかるようになっている。

 

 しかし、妙だ。今回、感じる気配はとても大きい。前に倒した700万ベリーの海賊よりも遥かに強い気配だ。これは、下手したら勝てないかもしれない。

 それならそれで、逃げれば良いけど……。

 

 私はなるべく最小限に敵を撃ち倒しながら、先へと進んで行った。

 

「おっおま……zzzz」

 

「これで、5人目か……。あんまりやり過ぎると気付かれて本命に逃げられる可能性もあるからなぁ……」

 

 私はゲルグの部下の動きを拘束しながら、ボヤいていた。

 しかし、気配は近い。近づけば、近づくほど凶暴な力を感じるが……。

 

 

 さて、ここが本命の居場所だな。果たして鬼が出るか蛇が出るか……。

 私は愛銃を構えて、ドアを蹴破った。そして、その瞬間に気配のする位置を狙って弾丸を放った。

 

「――っ!? 避けられた!? いや、弾いたんだ、刀で……」

 

 目の前の男は真正面から私の弾丸を弾いた。それも食料庫の中にある小麦粉の袋の上で寝転んだ状態で……。ていうか、ここの船長は牛刀使いのはずだけど、どう考えても違うな……。

 

「人の寝込みを襲うたぁ、いい度胸じゃねェか!」

 

 男は黒いバンダナを巻いており、二本の刀を両手に持って私を見た。いや、二本じゃあない、三本だっ……!? 口に剣を咥えたまま喋ってる。

 

 三刀流? それって……。

 

「まさか、海賊狩り……!? ロロノア・ゾロ……?」

 

 私は自分の軽率さに嫌気がさした。

 そうだよ。ロロノア・ゾロもそういえば、この時期は賞金稼ぎをしていたんだった。鉢合わせる可能性を全く考えてなかった。

 

「ん? おれの名も随分と上がったじゃねェか」

 

 ゾロって、女は斬らないんじゃなかったっけ? でも、私って女認定してくれるかなぁ?

 

「いや、ごめんごめん。私も賞金稼ぎでさ、つい、間違って……」

 

「鬼――斬りッ!!」

 

 案の定というか、いきなり銃をぶっ放したんだから仕方ないんだけど、ゾロは容赦なく私に斬りかかってきた。

 

「――っ!? 速いっ!?」

 

 私は全力で避けるのに徹して、これを躱した。

 シャレにならん。あんなの食らったら死んじゃう。

 

「――ちょっと、待って私は……」

 

「今のを躱すとは大したもんだな。だが、次はそうはいかねェぞ!」

 

 ゾロの凶暴な剣技が再び私に向かってくる。やばいっ! こうなったら――。

 

蒼い弾丸(フリーザースマッシュ)ッ」

 

 私は彼の右腕を目掛けて、弾丸を放った。彼はそれを右手の刀で弾こうとするが――。

 

「――なっ!? 何だこりゃ!?」

 

 彼の刀は凍りついてしまい、そのまま右肘の辺りまで凍りつく。蒼い弾丸(フリーザースマッシュ)は冷気の弾丸だ。

 

「いきなり撃ってしまって申し訳ない。これには訳があるんだ。聞いてくれ、私は君と同じ――」

 

 私はようやく弁明が出来ると思った。しかし、それは甘かった。

 

「だったら、片腕で十分だっ!」

 

 ゾロは凍った右腕なんて、ものともせずに私に斬撃を放とうとしていた。

 くっ――、漫画以上の迫力だな……。仕方ない、ちょっと怖いけど……。

 

「――なっ!?」

 

 私は彼の動きを読みつつ、間合いを急速に詰めて、彼の懐に潜り込む。しかし、ゾロもそんな私の動きに対応して剣を振った。間に合うか――。

 

「はぁ……、提案だが、引き分けってことで手を打たないか?」

 

 私の首元には彼の刀が、彼の胸元には私の銃が突きつけられていた。

 お互い、決め手が無くなったわけだし、平和的に……。

 

「男の勝負に引き分けなんざっ! うおっ!?」

 

 ゾロが強引に動くから私たちは転んでしまった。私は彼に押し倒されてしまう。

 

 そして、彼の左手は刀を手放して、私の胸を鷲掴みにした――。

 

「――なっ、なっ、いや、この感触は……」

 

 ゾロの顔がみるみる真っ赤になる。普通逆じゃないか?

 

「なぁ、すまないが呑気に揉んでないで、そろそろ私の胸から手を放してくれないか」

 

 私は左手の感触に動揺している彼に声をかけた。

 不可抗力とはいえ、思いっきり揉みしだかれてしまった……。

 

「――っ!? すまねェ! まったく女に見えなくてつい……」

 

 彼はそこはかとなく私を傷付けるような発言をしながら、手を離した。自覚はあるし、ゴーグルも付けてるから仕方ないけど、はっきり言われるとなぁ……。

 

「いいよ、私も勘違いで撃っちゃったから――」

 

「勘違い?」

 

「私も君と同じ賞金稼ぎってことさ。強い力の気配を感じたから君が“牛刀のゲルグ”だと思っちゃったんだ。粗忽者で申し訳ない」

 

 私はゾロの凍った腕に薬品をかけて治しながら謝罪した。

 

「へぇ、なかなか腕が立つと思ったが、お前も賞金稼ぎだったのかよ。まったく、無駄なことしちまったぜ」

 

 彼は右手の感触を確かめるように手を開いたり握ったりしていた。少しだけ凍傷になっているが、特に問題なく動く所をみると、彼の回復力が並外れていることが窺い知れる。

 

「じゃあ、お互いに今回のことはなかったことに――」

 

 私は胸に手を置いて、彼に確かめるような言葉をかけた。

 

「おっおう。お前が良いんだったら……。その、悪かったな……」

 

 ゾロは目を逸らせながら、ばつの悪そうな顔をした。原因が完全に私だから気にしなくていいのに……。

 

 それに、すっかり忘れていたが、今の状況はそんないざこざなんて、どうでもいい状況だ。

 

「とりあえず誤解は解けたところで、悪いんだけどさ……」

 

「ん? ああ、そういや海賊のアジトだったな。すっかり忘れてた」

 

 そう、私たちの存在は思いっきりバレていた。あれだけ大暴れしたから当然だ。

 今現在、ゲルグ海賊団の戦闘員たちが武器を構えて一挙にこちらに押し寄せて来ているのだ。

 

 《魔物狩り》と《海賊狩り》は、互いの武器を構えて臨戦態勢を整えた――。

 予定とは違うけど、まぁしょうがないかー。

 




こんな感じのオリ主で進めて行こうと思います。
もし、ご意見やご感想があれば、一言でも狂喜乱舞しますので、お気軽によろしくお願いします!


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冒険の夜明けは突然に

 私の目の前でゲルグ海賊団の戦闘員たちが山積みになって、気絶している。

 

「やっぱり、強いなー。ゾロは……」

 

 私は間近で彼の戦闘を見て感嘆した。剣技はもちろん凄いが、更に驚かされたのは彼のパワーだ。

 人間ってあんなに吹っ飛ぶんだね。いや、ルフィなんてよく漫画で「ぶっ飛ばす!」とか言ってるけど、生でみると実にきれいによく飛ぶもんだ。本当に驚いたよ。

 

「そういうお前もえげつねェ。全部一撃で仕留めてたろ。なんて腕してやがる」

 

 ゾロは私の狙撃を戦闘しながら観察していたみたいだ。

 まぁ、前衛で暴れまわってる彼の後ろからという状況なら、余裕をもって狙えるからね。楽をさせてもらったよ。

 

「狙いに関しては、私の唯一の取り柄なんだ。パワーもスピードもないからね。これ一本で頑張るしかないのさ」

 

 私は自嘲しながら、そう言った。一応、鍛えては居るんだけど、あんな超人みたいなことが出来るようになる気がしない。

 それなら、特技を伸ばした方が今後の為になるはずだから、私は狙撃の技術だけは大切にしようと思っている。

 

「それより、ゾロ。肝心のゲルグがこの洞窟の外に向かってるみたいだ。急ごう、500万ベリーが逃げてしまう」

 

 私はゾロの次に大きな気配がこの場から離れようとしていることを感知した。

 

「なんだ、その超能力? まぁいいか、洞窟の出口だな? 行くぞ!」

 

「ああ、出口はこっちだけどね」

 

 私は反対方向に走ろうとする彼の手を掴んで走り出した。本当にやばいくらいの方向音痴だな。

 

 

「――おい、わかったから、手ェ離せ」

 

「なんだ、君をエスコートしてやろうと思ったのに。恥ずかしがり屋さんだな」

 

 しばらく、私がゾロの手を引いていると、彼は嫌そうな顔をしたので手を離した。そんな顔しなくてもいいじゃないか。

 

 

 洞窟の出口から外が見える。《牛刀のゲルグ》は逃げの一手を打ったようだ。

 賞金稼ぎ二人に部下をほとんど倒されたから、そうせざるを得ないのは分かるけど……。

 

「仲間を見捨てるなんて、実に薄情じゃないか」

 

「――同感だ。だが、奴ぁ、もう船に乗り込もうとしてるぞ。このままじゃ、逃げられちまう」

 

 ゾロは遥か彼方を牛刀を担いで逃げている肥満体型の男を指差してそう言った。

 うん、距離にして1kmないくらいか。それくらいなら……。

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を両手で構える――。研ぎ澄ませ……、万物の呼吸を捉え、そして狙いを定めろ――。

 

「必殺ッ――鉛星ッッ!」

 

 風を切って猛烈な勢いで放たれる、シンプルな鉛の弾丸。ゴム人間とかには効かないけれど……。

 

「お前……、狙撃だけが取り柄っつったけど……。やっぱ、とんでもねェ奴じゃねェか!」

 

 ゾロは目を丸くして私と愛銃を凝視して、目をゲルグの方へと向ける。

 

 ――ゲルグは足を押さえて、船の手前で倒れてのたうち回っていた。普通の人間なら膝裏を貫かれたら当然そうなる。

 睡眠薬入りの弾丸が切れてしまったから、私は彼の急所を外して動きを止めることにしていたのだ。

 

 ふぅ、これでアルバイトは完了か。懸賞金はゾロにも助けられたし、折半しよっと。

 

 

 私たちはゲルグを捕らえて、海軍に引き渡して懸賞金、500万ベリーをゲットした。

 

 

 

「おーい、本当に全部いらないのか? 私って図々しいから真に受けて全部貰っちゃうよ」

 

 ゾロは女に助けられた金は要らないとか言い出したので、私は丸々500万ベリーを頂いてしまった。

 なんだか悪いことをした気がする。

 

「要らねェよ。しかし、お前のことは覚えた。《魔物狩りのアイラ》……、商売敵としてな」

 

 ゾロはニヤリと笑って私を見送ろうとする。

 商売敵ねぇ……。まぁ、仲間になるのはもう少し後だからなー。

 

「あー、でも私って今日で賞金稼ぎ辞めるんだよねー。足を洗うんだ、目的のために……」

 

「はぁ?」

 

 私は今回の仕事で賞金稼ぎを辞める。だって、外に出てる内にルフィたちが来てたらシャレになんないもん。

 

「だから、さ。《魔物狩りのアイラ》、じゃなくて、こっちで覚えてほしいな。私は、ただのライアだ。村娘のね……」

 

 ゴーグルを外して、素顔を彼に晒した。これで次に会ったとき、声をかけやすくなるだろう。

 

「――素顔を見たところで女に見えるような見えねェような……」  

 

「おいっ!」

 

 私はゾロの頭にチョップした。デリカシーのないこと言わないであげてくれ……。

 

「もし、今度会ったらご馳走するよ。美味い飯と美味い酒を好きなだけね」

 

「はっ! そりゃあいいな。楽しみにしといてやるぜ。何年後になるかわかんねェけどな」

 

 握手して、そんな別れを告げて、私はシロップ村に向かった。

 何年後ねぇ、割と直ぐなはずだけど、私も楽しみにしてるよ。ロロノア・ゾロ……、思ったよりも面白い人だったな。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ゾロと会った日から、しばらく月日が流れると、道化のバギーがやられたとかいう情報が私の元に入ってきた。

 ふぅ、そろそろ彼らはこの村にやって来そうだな。気を付けて生活しないと。

 

 そんなことを考えながら、今日も私はカヤの屋敷の庭にいる。

 

「――とまぁ、こんな感じかな。この数式の証明は背理法を使った方が余程早く解けるんだ」

 

 私はカヤの勉強を見ている。彼女は利発だし、物覚えがいい。

 両親が3年ほど前に亡くなって気を落としていたが、今は立ち直って自分で出来ることを増やすために勉学に励んでいる。

 

「ライアさんって、本当に勉強が得意よね。先生か学者さんに向いてると思うわ」

 

 カヤは命題とにらめっこしながら、私の講義を褒めてくれた。

 

「ははっ、私の生徒はカヤだけで十分だよ。君にこうやって何かを教えたり、話したりしてる時間が私には堪らなく幸せな時間なんだ」

 

 実際、冒険なんてどうでもいいから、このまま平和に彼女と同じ時を過ごしたいと思うことも多い。

 しかし、亡き母のことを想うと、私の衝動は捨てられなかった。でも、きっと帰ってくる。大好きな君のもとへ……。

 

「おや、またお勉強を見てもらっていたのですか、お嬢様。別にライアさんでなくても、私だってこれくらいなら教えられますよ」

 

 穏やかな低い声と共に現れたのはメガネをかけた執事、クラハドールだ。

 彼は私の隣に立って、カヤの解いている数式を覗き込んでいた。

 

「わかってるわ。クラハドール。でも、私はライアさんから習いたいの。ね、いいでしょ」

 

「しかしですねぇ、お嬢様。彼女の父親は――」

 

 カヤの言葉にクラハドールは困ったような顔して私を見る。はぁ、大した役者だよ。あなたは……。

 

「――海賊だもんね。クラハドールさん……、ごめんなさい。あなたが私にいい印象を持ってないことは知っている。でも、カヤとは幼馴染で、ずっとこうやって仲良くしてきたから」

 

 私も彼に対する敵愾心は消して、無害な人間を演じる。この男は恐ろしい奴だ。

 元々凶暴な海賊のクセにたったの3年で村中の信頼を勝ち取ってしまった。

 カヤの財産を合法的に掠め取る為とはいえ、よくやるとは思う。

 

「はぁ、あなたも聞き分けが悪いですね。一度、汚れた血はきれいにならないのです。あなたがどれほど善行を積もうとね」

 

 彼は淡々と冷たく私をあしらおうとした。明らかに挑発してるな。私が暴力に訴えるところを、カヤに見せようとしてるんだろう。

 

「――参ったな。クラハドールさんと議論しても平行線のようだ。悪いが、カヤ。私は退散するよ」

 

 私は両手を挙げて降参の姿勢を取った。

 でも、君のことは許さないよ。クラハドール……。

 私の大切な人を殺そうって言うんだから……。いくら甘い私でも躊躇をするつもりはない――!

 

 

 

 私は少し早めの昼食を取るために、村の飲食店へ向かった。自分で作ってもいいのだが、買い置きしてた食料が尽きていることを思い出したのだ。後で、買いに行こう……。

 

 しばらく歩いていた私は足を止める。はぁ、またこの子たちか……。

 

「――さっさと出てきたらどうだ? 私の背後を取るのは無理だと教えたはずだよ」

 

 私は背中越しに感じる視線と気配に向かって話しかけた。

 木陰から感じる気配は三つ。非常に小さいものだ。

 

「さすがです! 船長(キャプテン)!」

「すごいです! 船長(キャプテン)!」

「ライア海賊団ッ、集合しました!」

 

 にんじん、たまねぎ、ピーマンの村の悪ガキ3人組。漫画ではウソップに懐いてウソップ海賊団とかいう、海賊ごっこをしていた子どもたちだ。

 

 この子たちときたら、私が海賊の娘だと知ったら勝手に私を船長(キャプテン)と呼んできて、悪さばかりするものだから、私が村の人に何度も謝罪する羽目になったりもしていた。

 

 まぁ、根は良い子たちなのだが……。

 

「その、ライア海賊団っていうの止めてくれないか。そろそろ……。君たちも独立を考えた方が良いと思うんだ」

 

 私はうんざりした顔で彼らを見た。こういう風に目を輝かせてるときは大抵面倒なイタズラを考えついた時だ。

 

「独立ですか!? 素敵な響きです!」

「バカ、それどころじゃないだろう! ライアさん、大変なんです!」

「かっ、海賊の船がこの村に!」

 

 彼らの報告に私は一瞬だけ、放心状態になる。ホントに来た……。予測はしていたけど、本当に……。

 

 いや、まだ()()と決まったわけじゃ……。

 

「わかった。私が見てこよう。で、その海賊旗には何か特徴はなかったかい?」

 

 私は彼らに海賊旗の特徴を尋ねた。

 

「おい、見たのはお前だろ? なんか無いのか?」

 

 にんじんがたまねぎを問いただす。彼は興奮気味で口を開いた。

 

「あっ、あれは確か、道化のバギーの海賊旗でしたっ!」

 

 ――ビンゴだ。間違いない。麦わらの一味がこの村に来たんだ。

 私は心臓の鼓動が大きな音をたてるのを感じた。何年も覚悟していたはずだが……。いざ、時が来ると震えて来るものだな。

 

「ありがとう。君たちは危険だから、お家に帰りなさい。じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

 私はたまねぎから聞いた方向の浜辺に向かって猛ダッシュした。下手に騒ぎを起こされても困るからな。急がないと……。

 

 

 

 

 

 

「うぉーっ、肉、肉! この村には肉があるかなぁ!」

 

「ちょっとは肉から離れなさい!」

 

 肉のことで頭がいっぱいの麦わら帽子の男の子と地図を見ているオレンジの髪の女の子……。間違いない、ルフィとナミだ……。

 そして、眠そうな顔をしたゾロもいる……。やはり、来たか……。麦わらの一味……。

 

 私は木陰に隠れて、気配を消して様子を窺っていた。

 勢い勇んでここに来たけど、どう挨拶すればいいんだろう? 仲間に入る予定です、とかって変だし。ゾロは顔見知りだけど……。

 

 気配を消してるから、当分は気付かれない。ゆっくり作戦を――。

 

「見られてるぞ、ルフィ……、かなりのやり手だ。気配の位置を正確に悟らせねェ」

 

「うーん、あの辺じゃねぇかなぁ」

 

 とか、思っていたら直ぐに隠れているのがバレてしまった。野生の動物以上の嗅覚だな。

 ルフィに至っては、完全に私の場所を指さしてるし……。

 

 

 ええい、仕方ない。出ていくか……。

 

 

「驚いたな、こんな辺境に道化のバギー一味が何の用事かな?」

 

 木陰から砂浜に飛び降りて、私はルフィたちの方に進む。手に愛銃を持って。

 

「うおっ、なんだぁ、それカッコいいなー」

 

 ルフィは私の付けているゴーグルを見て歓声を上げた。カッコいいかな……? これ……。

 

「長い銀髪に、大きなゴーグル、そして赤い銃……、ルフィ、そいつ多分賞金稼ぎよ。《魔物狩りのアイラ》……、賞金首を無差別に狩ってる凶暴な女だったはず……」

 

 ナミは驚いたことに私を知っていた。てか、私って凶暴な女って評判なの? 誰も殺してないのに……。

 

「うぉっ! ライア! ライアじゃねェか!」

 

 ゾロが驚いた顔をして私に駆け寄る。あー、良かった。忘れられて、斬りかかられたらどうしようかと思ってた。

 

「ゾロじゃないか、驚いたな。バギー一味に居るのか?」

 

 実際はまったく驚いてないが、私はゴーグルを外して如何にも偶然の再会というような演技をした。

 このくらいの嘘は許してもらいたい。

 

「いや、おれもいろいろあってな。海賊はやってるが、船長(キャプテン)はコイツだ」

 

 ゾロはルフィを親指で指さした。うん、知ってる。

 

「なぁ、ゾロっ! こいつのこと知ってんのか?」

 

 ルフィは私の顔をジィーっと見てきた。そんなに見つめられると――照れるじゃないか……。

 

「ゾロとはちょっと前に獲物が被っただけだよ。麦わらくん、そして美人のお嬢さん。私の名前はライア。賞金稼ぎは、偽名を使っていてね。こっちが本名だ」

 

 私は銃をしまって自己紹介をした。出来るだけ、愛想を意識して……。

 

「おれはルフィ、海賊王になる男だ」

 

「私はナミ、航海士をしてるわ。一応ね……」

 

 二人は私に合わせて自己紹介する。海賊王か……、この世界に生まれるとその言葉の大きさがより分かってきた。大言壮語すぎるということも……。

 でも、この男がそれを言うだけの資格があることを私は知ってる。

 

「そっか、海賊王か。いい夢を追いかけてるね。奇遇だよ、私もそろそろ行こうと思ってるんだ。偉大なる航路(グランドライン)へ」

 

 私はちょっといやらしいが、彼が興味を持つような話題を敢えて振って気を引こうとした。まずは、彼の眼鏡にかなわなきゃならない。

 ウソップはルフィと気が合うキャラクターだったんだよなー。でも、私は彼のような陽気さも無いから好かれる自信がない。

 

「へぇ、前に賞金稼ぎ辞めたって言ってたけど、海に出るつもりだったんだな。ルフィ、こいつのこと誘わなくて良いのか? こう見えて、狙撃に関してはとんでもねェ奴だぞ、こいつは」

 

 ゾロは私を船長であるルフィに推薦してくれた。えっ、ちょっと嬉しい……。でも、肝心のルフィに気に入られないとな。

 まだ、会って5分も経ってないから、これから色々と……。

 

「狙撃手かぁ〜! そうだなっ! 海賊は大砲撃つもんな〜! よしっライア、お前、おれの仲間になれよ!」

 

「へっ?」

 

 あまりの展開の速さに私はついつい、変な声を出してしまった。

 これが、私と麦わら一味との最初の出会い――。

 




もう少しルフィたちの出番を後にしようかと思いましたが、展開を遅くするのが苦手なのでこのくらいのテンポで進めることにしました。


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大きなうねりの中へ

そろそろ、百合タグがウォーミングアップしてきました。
イケメン女子なライアをご覧ください。


「出会って早々に私を君たちの仲間に、か。ふふっ、いや、あのロロノア・ゾロが船長(キャプテン)と言うからどんな男かと思ったが、面白い。しかし、本当に私で良いのかい? 私は狙撃しか能のない女だぞ」

 

 ルフィがすぐに仲間に誘ってくれたのは意外でもあり、愉快だった。直感で素直に物事を決めてしまう彼のスタイルは理屈っぽい私には無いもので、非常に興味深く感じられた。

 

 この人は王様の器だ。ただ真っ直ぐに走るだけで周りが付いてくる。世界はこの男を中心に動こうとしている。

 モンキー・D・ルフィに付いていくということは、まさに大きなうねりの中に飛び込むと言うことだ。

 

「――ええーっ! ライア、お前……、女だったのかー!」

 

「そっちかよ!」

 

 私はルフィの驚き顔にツッコミを入れた。さっきナミが私を凶暴な女って、言ってたじゃん。いや、凶暴な女も悲しかったけど……。

 

「くっくっく、ルフィ、お前も引っかかったか。オレも最初は男だと思って斬りかかっちまった」

 

「まぁ、確かに美男子って感じよね。どちらかと言うと」

 

 ゾロとナミは無理もないみたいな顔している。

 ちっ、私もどうせ転生するならナミみたいなスタイルが良かったよ。ホントに神様は中途半端なことをしてくれた。

 

 

「じゃあルフィに私の性別が伝わったところで、何か食べないか? 前にゾロと約束をしたんだ。好きなだけ飯と酒を奢るってね。せっかくだから君たちも一緒に奢らせてくれ」

 

 立ち話も疲れるのと、空腹だったことを思い出して、私は彼らを食事に誘った。

 

「おおーっ! 俺っ、肉食いてぇぞ!」

 

「約束を律儀に果たすたぁ、義理堅ぇじゃねぇか。遠慮はしねぇぜ」

 

「奢り!? あなた、いい人ねー!」

 

 三人は三者三様のリアクションを取り、私の誘いに乗ってくれた。

 まだ、奴はこの村に着いてないみたいだな……。私は周囲の気配を探りながらそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 私はルフィたちを村の飲食店に連れて行った。

 

「――んめぇー! ほほろで、あいあは……」

 

 ルフィは大量の食べ物を素晴らしい勢いで口の中に頬張る。大食漢なのはもちろん知っていたが、ここまで見事だと見ていて気持ちいいものだ。

 

「ルフィ、君は食べ物を飲み込んでから会話をしたほうが良い」

 

 口にモノを詰めて話す彼の言葉が聞き取れなかった私は彼に飲み物を渡した。

 

「――ぷはぁ! なぁ、ライアはどうして偉大なる航路(グランドライン)に行きたいんだ?」

 

 ルフィは最初に尋ねるべきことをようやく質問してきた。一応、気にしてくれてはいたんだね……。

 

「父親が居るんだよ。偉大なる航路(グランドライン)に。私は父をこの村に連れて来て母の墓標に謝罪をさせたい。ウチの母はね、ずっと父が帰ってくるのを待ってたんだ。最期までね」

 

 私はルフィたちに偉大なる航路(グランドライン)を目指す理由を話した。

 正確には目指すのはあの恐ろしい頂上戦争だけど、そんなことを話しても意味はない。父に会うためという目的だけ伝われば十分だ。

 

「ふーん。ん? ライア……? 海賊の娘……? あーっ! お前の父ちゃんヤソップだろ!?」

 

 なんと、ルフィはこの少ないヒントで私の父の名前を当てた。いや、面識があるのは知ってたけど、ウソップと違って私は彼に似てないからなぁ。

 

「驚いたな。君は父を知ってるのかい? そのとおり、私の父は“赤髪海賊団”の船員のヤソップだ。だから、私の目的は大海賊である赤髪のシャンクスが船長を務める船に行くことなんだよ」

 

 私はルフィに対して赤髪のシャンクスの名前を出してみた。彼がシャンクスに対して憧れを抱いていることを知っているから……。

 

「シャンクスは俺が一番大好きな海賊だ! そっかー、ヤソップの子供かー。お前の話は何回も聞かされたぞ。可愛い娘に会いてぇって、うるせぇくらいにな」

 

 ルフィは父が毎日のように私に会いたいと言っていた話をした。私からすると、母に会って欲しかったんだが……。

 

「俺もシャンクスには会いたいと思ってる。よしっ! 一緒に行こう! 偉大なる航路(グランドライン)へ! あっはっはっは」

 

 彼は私の肩を組んで美味しそうに肉を食べながら楽しそうに笑っていた。

 なるほど、彼に味方が多いはずだ。こうやって、一緒に飯を食べるだけで、いつの間にか旧知の友の様になってしまう……。

 素晴らしいけど、恐ろしい……。惹かれ過ぎてしまうと、この男の為に何だってしようと思ってしまいそうだから――。

 

 

「そうだな。海賊に会うために海賊になるのも悪くない。君の目的は海賊王。私などが助けになるか分からないが……、力を貸そうじゃないか」

 

 私はルフィの勧誘を当然呑んだ。とんでもない運命に呑み込まれる覚悟なら、とうの昔に済んでいる。

 私の知識で少しでも彼らの助けになれば、お互いに得をするはずだ。

 それに、私とて少しは戦えるように訓練はしてきた。この先の戦いで生き残るために。

 

「おいおい、良いのかよライア。簡単にテメーの人生諦めて」

 

 私があっさり海賊になると宣言したのでゾロは苦笑いしていた。いや、君が船長をそそのかしたじゃないか。

 

「知らないわよ。この男、あり得ないくらい常識知らずなんだから。もう少し頭の良い子かと思ってたわ」

 

 ナミは呆れた顔をして私を見た。彼女も彼女で今は他人の心配してられない状況のはずなのに……。優しい人だな。一応、お礼を言っておこう。

 

「ありがとう、心配してくれて。でも、踏ん切りを付けたかったからね。いいキッカケなんだよ」

 

 私は真っ直ぐに彼女を見つめてそう言った。

 ナミはこの一味で数少ない常識人だから、仲良くしておこう。

 

「――っ!? あなた、気を付けた方がいいわよ。たぶん狙撃なんかより、女たらしの才能の方があるわ……」

 

 ナミは少しだけ頬を赤らめて、そんなことを言う。前に、カヤにも似たような事を言われたような……。女たらしとまでは言われなかったが……。

 

「あまり嬉しくない才能だね。それは……。気を付けろと言われても、難しいし」

 

「長時間、むやみに女性と目を合わせないようにすること。いいわね?」

 

 私の言葉に対して、ナミは的確?なアドバイスをする。わかったような、分からんような……。まぁいいか。

 

 

 しばらく雑談しながら飲み食いしてると、ルフィが口を開きこんなことを言い出した。

 

「なぁ、ライア。お前って船持ってねぇか?」

 

「ん? もちろん、持ってるさ。小さい船だが、君たちの乗ってるあれよりはマシなやつを、ね。しかし、あれでは些か偉大なる航路(あそこ)に行くには不安はある。まっ、適当な海賊から奪っちゃえば良いんじゃないかな?」

 

 ルフィの質問に私は答える。話の流れが漫画通りなら、ゴーイングメリー号が貰える可能性があるが……。駄目だったときは、盗っちゃえばいい。海賊なんだし、略奪したっていいだろう。

 

「ははっ、そりゃあ良い手だ。オレたちは海賊なんだからな」

 

「あなた、見かけによらず過激なことも言うのね」

 

 ゾロとナミは私の提案に一応は理解を示してくれた。しかし、ルフィは――。

 

「えーっ、誰かと冒険した船なんていらねぇよー」

 

 このような反応である。彼は船一隻の値段を知っているのだろうか?

 

 

「――じゃあ、船の話はおいおい話そう。君たちはしばらくここで好きなだけ飲み食いしといてくれ。店主にはまとまった金を渡しといたからさ。ちょっと、友人に別れを告げてくるよ」

 

 とりあえず、出港は決まった。私はカヤとの時間がもう少しだけ欲しくなり、再び彼女に会いに行くことにした。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 カヤは帰ったはずの私がまた現れて少しだけびっくりしていた。

 しかし、すぐにいつもの穏やかな表情に戻り、他愛のない雑談を始めた。

 

 彼女はもうすぐクラハドールの計画に巻き込まれることになる。どうすれば、彼女の安全を確保出来る? 私はそればかり考えていた。

 

「――ライアさん。それで、出発はいつになるの?」

 

 唐突に、カヤはそんな言葉を放った。

 私は心臓が飛び出しそうになるくらい驚いた。彼女に心を読まれたと思ったからだ。

 

「――っ!? 驚いたな。どうやって切り出そうかと、思ったのに。先に言われてしまうなんて……。どうしてわかった?」

 

 私は少し動揺しながら彼女に質問をした。

 

「なんとなく……。多分、私がライアさんのことばかり考えていたからかもしれない」

 

 その言葉を話したときの彼女は微笑んでいるはずなのに切なげで、儚い感じがした。

 しかし、その姿は誰よりも何よりも美しいと思ってしまった。

 君が私の決意を鈍らせる――。

 

「――もうすぐだよ。しばらく会えなくなる。その、ええと、ごめん……」

 

 私は悲しんでいるカヤに謝罪した。彼女は今にも泣きそうな表情(かお)だったから……。

 

「ううん、いいの。いいのよ……。でも、一つだけ約束を守ってくれる?」

 

「約束?」

 

 カヤの約束という言葉に私は耳を傾ける。

 

「生きて……。何があっても生きていて……、ライアさん。それだけが私の願い」

 

 彼女は「生きて」と私に願った。私に求めるのはそれだけだと……。

 

「――わかった。絶対に生きてここに帰ってくる。例え世界を一周することになってもね。だって、君が私の帰ってくる場所なんだから」

 

「ライアさん……」

 

 多分、私もカヤも涙ぐんでいると思う。

 

「こんなときに言うのは卑怯かもしれないけど、私は昔から君のことが――」

「困りますよ。ライアさん。あなた、先ほど帰ると仰ったじゃあないですか」

 

 私の言葉に被せるようにしてクラハドールがセリフを吐いた。はぁ、見事に邪魔されちゃったな。

 

「嘘はついてないよ。一回帰ってまた来ただけだ」

 

 私はクラハドールの顔を見てそう言った。

 

「屁理屈って言葉を知ってますか? これだから薄汚い海賊の子は……。で、お嬢様を誑かして幾らせびるつもりなんだ?」

 

 財産掠め取ろうって奴が何を言っている? まったく、面の皮が厚い奴だ。

 

「クラハドール、あなた、ライアさんになんて事を! 謝りなさい!」

 

 カヤは珍しく怒りを顕にして怒り出した。

 

「お嬢様は、この女に騙されています。女なのをいい事にあなたに色目を使って財産を掠め取ろうとしているのです。さすがは財宝狂いの父親をもつ女は考えることがえげつない」

 

 クラハドールは口を止めなかった。私を口汚く罵り続けていた。

 なるほど、下衆の勘ぐりとはよく言ったものだ。

 

「――ライアを悪く言うなぁぁぁぁっ!」

 

 そんなことを思っていると、木陰でコソコソ見てるなーって思ってたルフィが飛び出して来て、クラハドールに殴りかかった。

 

 おいっ! 初対面の人間を殴ろうとするな。

 

「――っ!? えっ、ライア?」

「――うわっ! すごい力だな。手が破裂するかと思ったよ。やっぱりとんでもないな……、君は」

 

 私はルフィの拳を手で受け止めた。ここで、クラハドールを傷付けても何の意味もないからだ。

 しかし、完全に見切った上で衝撃を殺すような受け方をしたのに手が高圧電流でも流されたように痺れて痛い。

 ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)なんて打たれたらきっと死んじゃう。

 

 そう、私はめちゃめちゃ痛いのを我慢して平静を装っている。カヤが見てるから……。

 

「ルフィ、今のは私が悪いんだよ。約束を破ってカヤに会いに来たからね。とりあえず、ここを出よう。――そこで見てる君たちも、ね」

 

 私は庭にある大きな木の裏でこっそり見ているゾロたちに話しかけた。

 

「そういや、こいつは気配を感じ取れるんだったな」

 

「何それ? 超能力か何か?」

 

 ゾロとナミ、そしてここに彼らを案内したであろう、にんじん、ピーマン、たまねぎが姿を現した。

 

「ライアさんは、いつも後ろから付いていってもバレるんだ」

「後ろに目があるんだよ、多分」

「とにかく、すごいんだ」

 

 また、悪ガキ共は余計なことを……。

 

 ということで、私は彼らと共にカヤの屋敷を出た。

 

 

「随分な言われようだったが、あの男は何なんだ? ルフィじゃねぇが、オレも苛ついたぜ」

 

「ライア、お前、強いんだろ? 父ちゃんを悪く言われたんだぞ、なんで怒んないんだ?」

 

 ゾロとルフィは私の態度が気になったみたいだ。

 悪巧みをしているクラハドールを刺激しないため――とは、言えないよな。

 

「彼はクラハドール。カヤに仕えてる執事の一人だ。ルフィ、海賊の評価なんて、あんなもんだよ。いちいち腹を立ててもキリがないじゃないか。それに、私は父が嫌いだからね。悪く言われても気にならないさ」

 

 私は彼らの質問にそう答えておいた。半分は本心だ。クラハドールは挑発のしかたを間違えた。父の悪口でなく、母の悪口なら私は怒ったかもしれない。

 

 それに、海賊って、思った以上に嫌われてるからなー。漫画じゃあまり描かれてなかったけど、結構エグい連中も多いんだ。 

 

 300万ベリー前後の小物たちを何人も屠ってきたから、私はそれも知っている。小物とはいえ、かなり悪いことをやってる奴らが多かった。女子供を殺すなんて当たり前にやってたし……。

 

「あなた、海賊の評価が悪いのを知ってて海賊になるの? ロクなもんじゃないわよ。ホントに」

 

 ナミは変わった人を見るような表情で私の顔を窺った。

 そりゃあそうだ。彼女もまた、海賊に虐げられてる人間そのものなんだから。この時点ではまだ、ルフィたちには惹かれているけど、海賊自体は嫌いなはずだ。

 

「何を優先したいか、だよ。私にとって悪名が付かないことよりも、父親に会うことの方が優先したいことなんだ。別にそのためだったら手段は問わないよ」

 

 私はナミに持論を展開する。ルフィの仲間になることが確実に広い海で赤髪海賊団と遭遇出来るチャンスだから、この手段を取らないわけにはいかない。

 

「ふーん。やっぱりあなたもマトモじゃなさそうね」

 

「ははっ、手厳しいな……、ナミは。じゃあ、常識人担当は君に一任するよ」

 

「もう、少しは手伝いなさい。せっかく言葉が通じる人だと思ったのに」

 

 割と本気の勢いでそんなことを言うナミ。ルフィとゾロにはかなり振り回されたんだろうなー。

 

 そんなことを話してる内に、私はとある気配がこちらに近づいていることに気づいた。

 よそ者の気配……。やはり来たか……。

 

 その気配は直ぐに私たちの見える位置まで出てきた。

 そう、現れたのは、なぜか後ろ向きで歩いている催眠術師の海賊。

 通称《1・2のジャンゴ》、キャプテン・クロの元部下であり、クロネコ海賊団の現船長である。

 

 この村には手を出させないよ――。

 

 キャプテン・クロは……、彼だけは……、私が倒す……! それだけは譲れないっ!




思ったよりも長引いてしまいました。
基本的にライアはルフィの獲物を横取りしたりはしませんが、キャプテン・クロだけは別なのです。
次回もよろしくお願いします!


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クロネコ海賊団の船長と元船長

誤字報告とたくさんの感想をありがとうございます!
とてもやる気が出てきて元気になります。
今回はジャンゴ登場からです。



「バカヤロウ、何でおれが見ず知らずのてめェらに初対面で術を披露しなきゃならねェんだ」

 

 催眠術師で海賊の《1・2のジャンゴ》と遭遇した私たちだが、子どもたちとルフィは彼が催眠術師だと知ると目を爛々と輝かせて催眠術を見せろとリクエストしていた。

 

 コイツの催眠術って結構すごいんだよなー。前世で見ていたバラエティ番組とかだとヤラセっぽさがあるけど、彼の能力は本物だ。

 

「いいか、よくこの輪を見るんだ――」

 

 彼はしゃがみ込み輪っかを取り出して、ルフィと子どもたちに見せた。ノリが良い……。確かコイツってノリだけで無罪になって海軍に入ったような気がする……。

 司法はもっと仕事しろとか思ったけど、私も下手したら海軍に捕まるかもしれないからやっぱり怠けてほしい。

 

「やるのかっ……!」

 

 ゾロが呆れ顔でツッコミを入れる。

 

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる」

 

 ジャンゴはルフィたちに輪っかを見せつつ、ゆっくりとそれを揺らした。ベタでバカバカしいんだけど、確かこれって効いちゃうんだよね。

 

「いいか、いくぞ……。ワーン、ツー、……ジャンゴッ……!」

 

 ジャンゴが暗示をかけると案の定、見事にルフィと子どもたちは寝てしまった。お約束どおりジャンゴも寝ちゃったけど……。

 

「おいっ! お前も寝るのかよっ!」

 

 ゾロはそれを見て再びツッコミを入れる。

 なかなか、するどい切れ味のツッコミだな。さすがは剣士と言ったところか……。

 

 とりあえず、子どもたちとルフィを起こそう……。ジャンゴはこのあと確かクラハドール、いや、キャプテン・クロと接触するはず……。さて、どうしてくれようか……。

 

 

 

「ナミ、こういう状態のルフィはどうやったら起きるんだい?」

 

 私は子どもたちを起こしたあと、ルフィを起こそうと体を揺らしていた。彼は鼻提灯を作りながらグーグー眠っている。

 頬を叩いてもゴムだから効かない。つまり、起きない。

 

「知らないわよ。そんなこと」

 

 ナミはお手上げという表情で、ゾロの顔を見ると彼も首を振る。

 ふむ、いくら強くても眠らされると当然ピンチになる。彼の弱点は搦手に弱いことかもしれない。

 

「そっか、わかった。気が進まないが、コレを使おう。――必殺ッ――タバスコ星ッ!」

 

 私はおもむろに激辛成分を独自に調合した丸薬をルフィの口にねじ込んだ。

 

 ルフィの顔はみるみる赤くなる――。

 

「辛ェー! 辛いぞー! みっみずぅ〜!」

 

 喉を押さえてのたうち回る、ルフィ。あー、ちょっとやり過ぎたかな? でも、このままだとここで私がジャンゴと遭遇していることが、クロにバレてしまうかもしれない。

 だからといって何か不都合が起こるとは思わないが、警戒心の強いクロが漫画と違う行動をとる可能性は避けておきたい。

 

「ほら、牛乳だ。飲むといい。辛いのが治まるから」

 

 私はあとで飲もうと思ってた牛乳を手渡した。水を飲むと逆効果だからね。

 

「ぷはぁっ――。ぜぇ、ぜぇ……、ありがとなー、ライア! 助かったー」

 

「はははっ……、礼には及ばないさ」

 

 お礼を言われた私は罪悪感で目が泳いでいた。ゾロとナミからの視線が痛い。

 

「だけどよぉ。なんで、おれ、いきなり辛くなってたんだ?」

 

「この村だと割とよくあるんだよ。“寝てて突然辛くなっちゃう病”が流行ってるからね」

 

「なんだ〜。そういうことかー。あっはっはー」

 

 逆に心配になるくらい、私の嘘を信じ込んだルフィ。彼のことは今後放っておけないかもしれない。

 

「あなた、容赦ないタイプなのね……」

「敵に回したくねェな……」

 

 二人にはちょっと引かれてるし……。いや、違うんだって……。これには理由が……。

 

 

 こうして、私たちは路上で大の字になって寝ている不審者丸出しのジャンゴを放置して歩き出した。

 

 

 

 しばらく歩いて、子どもたちと別れたあとで、私は思い出したように口を開いた。

 

「――あっ! 思い出した!」

 

 わざとらしくないように演技をしながらそんな言葉を吐く。

 

「どうしたのよ? いきなり」

 

 ナミが私の言葉に反応する。ここからは慎重に発言して動かないとな……。

 

「いや、さっきの怪しい催眠術師……、海賊だよ。確か、通り名は《1・2のジャンゴ》……、クロネコ海賊団の船長だ……、懸賞金もかかってたはず。どうしてこんな村に……」

 

 あたかも今、思い出したかのように私はそんなセリフを言う。なぜならジャンゴがちょうど動いた気配を感じたからだ。

 

「なんだ〜。あいつ海賊なのか〜」

 

 ルフィは呑気そうな声を出す。彼はこれでいい。

 

「そのクロネコ海賊団ってのが、お前の村に何か用事があるかもしれねェってことか」

 

「海賊の用事なんてロクなもんじゃないに決まってるでしょ。どうするの? ライア」

 

 ゾロとナミは事態をキチンと呑み込んでくれた。ありがたい。

 

「とりあえず、ジャンゴの気配を追うとするよ。嫌な予感がする……」

 

 私は上手くルフィたちを誘導して、ジャンゴとクロの密会現場に連れて行った。

 もちろん彼らに気付かれない様に――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「――おいジャンゴ、この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだぞ。村の真ん中で寝てやがって」

 

 私たちがジャンゴに追いついたとき、ちょうどクラハドール、もといキャプテン・クロが彼と密会を開始するところだった。

 

「バカ言えっ! おれは全然目立っちゃいねェよ。変でもねェ……」

 

 ジャンゴはムッとした表情でそう答える。いいタイミングだったな。もちろん、タイミングは計っていたけど……。

 

「どういうこと? あなたのお友達の執事がなんで海賊なんかと?」

 

 ナミは小声で私に尋ねる。

 

「――わからない。しかし、これは大変なことかもしれない……、とにかく会話を聞こう」

 

 私は彼女の疑問にそう答えた。

 

「ああ、もちろんだ。いつでも行けるぜ、”お嬢様暗殺計画”ッ!」

 

 ジャンゴは高らかに宣言した。凶悪な笑みを浮かべながら。

 長かった――ついに、馬脚を露したな、キャプテン・クロ……。この現場をルフィたちに見せるために何度、私はシミュレートしたことか……。

 

 

「ふん、暗殺なんて聞こえの悪い言い方はよせ、ジャンゴ……」

 

「ああ、そうだった。事故……、事故だったよなぁ……、キャプテン・クロ……」

 

「キャプテン・クロ――か。――3年前に捨てた名だ。その呼び方もやめろ。今はお前が船長のはずだ」

 

 彼らは密談を続ける。私たちに見られてることも知らずに……。

 

「キャプテン・クロ……、まさかクラハドールは……」

 

 私はそう言葉を口にした。

 

「私もクロって名前は知ってるわ。確か、あなたがさっき言ってたクロネコ海賊団の初代船長じゃなかったかしら?」

 

 さすがに色々と情報を仕入れているナミは東の海(イーストブルー)では比較的に大物だったキャプテン・クロの名前は知っていたみたいだ。

 

「なるほど、あの執事の正体は海賊だったってわけだ」

 

 ゾロも納得してうなずく。

 

 

「―― しかし、あんときゃ、びびったぜ。あんたが急に海賊をやめると言い出した時だ。あっという間に部下を自分の身代わりに仕立て上げ、世間的にキャプテン・クロは処刑された! そしてこの村で突然船を下りて、3年後にこの村へまた静かに上陸しろときたもんだ」

 

 ジャンゴが丁寧に事の経緯を話してくれる。

 

「まぁ、今まであんたの言うことを聞いて間違ったためしはねェから、協力はさせてもらうが分け前は高くつくぜ?」

 

 この男は海賊団ごと皆殺しにするつもりだけどね。私は心の中でジャンゴのお気楽な思考を蔑んだ。

 

「ああ、計画が成功すればちゃんとくれてやる」

 

「殺しならまかせとけ!」

 

 クロの空手形にジャンゴは威勢のいい返事をした。

 

「だが、殺せばいいって問題じゃない。カヤお嬢様は不運な事故で命を落とすんだ。そこを間違えるな。どうもお前は、まだこの計画をはっきり呑み込んでないらしい」

 

 クロはそこから計画の全貌を話した。

 

 それは、カヤの財産を手に入れるためにジャンゴの催眠術を利用して全財産をクラハドールに相続させるという遺書を書かせてから、海賊の襲撃で亡くなったと偽装して殺すという計画だった。

 

 そして、そうなっても不自然じゃないように3年間でこの村の信頼を彼は勝ち取ったと誇らしげな表情をしていた。

 

 

 

「とにかくさっさと合図を出してくれ。おれ達の船が近くの沖に停泊してから、もう1週間になる。いい加減奴らのしびれが切れる頃だ」

 

 クロから計画の全貌を聞いたジャンゴは彼を急かすような言い回しをした。

 さて、この辺で確かルフィが……。

 

「おっ……モゴモゴ……」

「悪いがルフィ、今、君が暴れたら厄介な事になる。動かないでいてくれないか? 頼む……」

 

 彼が言葉を発する気配を察知した私は彼を羽交い締めして、口を押さえた。

 ここで私たちの存在がバレたら全て台無しだ。

 

「明日の朝だ、ジャンゴ……。夜明けとともに村を襲え。村の民家も適度に荒らして、あくまで事故を装いカヤお嬢様を殺すんだ」

 

 クロははっきりと明日の早朝にクロネコ海賊団を村にけしかけろと命令した。

 いよいよ、奴らと決戦だ……。

 

 私たちはこっそりとこの場を離れた。ふぅ、ルフィがゴム人間の特性を活かして強引に出て行かなくて良かったよ。一応、理性はあるみたいだな。

 

 

 

「あの、カヤって子の執事、とんでもないヤツだったわね」

 

 ナミは吐き捨てるようにそう言った。私もよく知ってて3年も耐えたと思う。

 クロは本当に完璧な振る舞いだった。世間に取り入るのも上手かった。

 彼の言うとおり海賊の娘が何を言っても通用しない程の信頼をすぐに勝ち取っていたのだ。

 

「――で、どうするつもりなんだ? お前はよぉ」

 

 ゾロは試すような口調で私に尋ねてきた。

 

 そんなの決まってるじゃないか。私はクロがこの村に()()()から準備していたのだから。

 

「キャプテン・クロは私が倒すよ。私の大切な人の命を取るって言うんだ。落とし前は自分でつけるさ」

 

 このとき自分がどんな表情(かお)をしているのか分からなかった。笑っているのか、怒っているのか、様々な感情がグチャグチャになっていたと思う。

 

「なんだ、あの悪執事はライアが倒すのかー。じゃあ、おれは誰をぶっ飛ばせばいい?」

 

 ルフィはわくわくしたような表情でそんなことを言う。まだ、手伝ってとか何も言ってないんだけど……。

 

「えっと、ルフィ、君は手伝ってくれるのかい? クロネコ海賊団との戦いを」

 

「何言ってんだよー、ライア。仲間が喧嘩するんだから当たり前だろ? 命くらい懸けるぞ」

 

「お前の覚悟は伝わった。で、おれは誰を斬ればいい?」

 

 ニカッと笑って仲間を助けるのは当たり前だと、嬉しいセリフを言うルフィと刀から刃を見せながら研ぎ澄まされた殺気を見せるゾロ。

 

 さらっと格好いいこと言うんだから。これが麦わらのルフィか……。

 

「ありがとう。ルフィ、ゾロ、それに、ナミ」

 

 私は彼らにお礼を言った。素直に嬉しかったからだ。

 

「ちょっと、何、自然な感じで私も頭数に入れてるのよ!」

 

 ナミが両手をブンブン振って抗議した。あっ、やっぱりバレたか。

 

「いや〜、ノリで押せば何とかなるかなーって」

 

「あなたって、結構厚かましいのね……」

 

 ジト目で私に視線を突き刺す彼女。厚かましいと言われれば何の反論も出来ない。

 

「頼むよ、ナミ……。一人でも多くの協力者が欲しいんだ」

 

 私は切実に人手が欲しかった。だから、本気で彼女にお願いした。

 

「――ふぅ、わかったわよ。まったく、もう。長時間目を合わせないでって、さっき言ったじゃない」

 

 ナミは少しだけ顔を紅潮させて、顔を背けながら渋々私のお願いを呑んでくれた。なんだかんだ言って彼女もお人好しだ。

 

「すまない。でも、嬉しいよ。協力してくれて」

 

 私は彼女に手を差し出す。

 

「手伝いの報酬として、あとで、クロネコ海賊団の財宝を貰うからね」

 

 彼女は私の手を握って念を押すようにそう言った。どうぞ、ご自由にと、私は返事をしておいた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 夜になり、私たちはクロネコ海賊団がやってくる村の北側の海岸で野営をしていた。

 賞金稼ぎをしていたからキャンプグッズは充実している。

 

 原作では連中が来る方向を間違えて、ルフィとゾロの到着が遅れたんだっけ。それがなくなるだけでも今回は有利だな。

 

 さて、私はというと、カヤの屋敷に向かっていた。目的は当然――。

 

 

 私は気配を消して彼女の寝室の窓に張り付く。そして、コンコンと窓を叩いた。

 

「――らっ、ライアさん……」

 

「しーっ、静かにしてくれ」

 

 驚く彼女の唇に私はそっと人差し指を当てて小声で話した。

 

「どうしたの? こんな夜更けに……」

 

 カヤは不思議そうな顔をしていた。驚くほど警戒はしていなかったけど。

 

「ちょっと、上がってもいいかい?」

 

「えっ、ええ。いいわよ」

 

 私はカヤの寝室に上がり込む。彼女はいつもと違う私の態度を見て少し緊張しているみたいだった。

 

「カヤ、私がここに来た理由を率直に話すよ。私は君を攫いに来たんだ。これから君を外に連れ出す――」

 

 真剣な表情で私は彼女にそう宣言する。カヤを一人にしておくなんてとんでもない。

 安全が確保されるまで、ナミと隠れてもらおうと私は考えていた。

 

「――らっ、ライアさん。それって、駆け落ちってこと? そっそんな。まさか、ライアさんがそこまで私のことを……。嬉しいけど、私たちは女の子同士だし、それに……、家のことも……」

 

 カヤは顔を真っ赤にして両手で頬を触りながらオロオロと、動揺していた。

 しまった。言い方を間違えたかな?

 

 私は彼女にキチンと説明することにした。信じてもらえることを祈りながら……。




主人公の旅立ちのエピソードだからなのか、思ったよりも展開が遅くなってます。冗長になってないか不安です。最後に百合タグに仕事させるのが精一杯でした。
次回、ようやく戦闘が始まりますので、よろしくお願いします!


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クロネコ海賊団VS麦わらの一味

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「――そっ、そんな、まさかクラハドールが……」

 

 私はカヤにクラハドールの正体がキャプテン・クロだということと、彼の計画の全貌を話した。

 カヤは声を震わせて、今度は違った意味で動揺していた……。

 

 確か、原作ではウソップは信じて貰えなかったんだよな。誰にも……。

 だから、全部嘘にするために勇気を振り絞って立ち向かう話だったはずだ。

 でも、私はたとえ信じてもらえなかったとしても――彼女は連れて行く。それは私の中で決定していることだった。

 

「ライアさん。いっ、今の話は何かの勘違いと言うことは――?」

 

 カヤは少しだけ落ち着いて、祈るような顔つきで私にそう尋ねた。

 

 やっぱり、にわかに信じられないよな。クロは彼女の信頼を手に入れるために尽くしていた。彼女の両親が死んでからは特に……。

 

「いや、残念だが勘違いじゃないよ。君が信じられないのは無理は――」

「わかったわ。ライアさん、私を外に連れて行って」

 

 月明かりに照らされたカヤの瞳は一点の曇りもなく、私を信じていると答えてくれているみたいだった。

 

「カヤ、信じてくれるのかい? 私の言っている荒唐無稽な話を……」

 

 もちろん、信じてもらうつもりではいたが、実際にここまであっさり信じられると、逆に驚いてしまう。

 

「たとえ、世界中の人がライアさんを嘘つきだと言っても、私はあなたを信じる。あなたにだったら、騙されたとしても後悔はしないから」

 

 ニコリと微笑みかけながら、カヤは私の言葉を受け入れてくれた。だったら、私は君にだけ信じてさえくれればたとえ世界を敵に回したって良い……。

 カヤの信頼が嬉しくて、私はそんなことが脳裏に過ぎった。

 

「ありがとう。カヤ、大好きだよ」

 

「――っ!? らっライアさん?」

 

 衝動が抑えられなくて、私は彼女を強く抱きしめる。彼女の華奢な体から伝わる体温(ぬくもり)が……、私の鼓動を早くする。

 

 

「――ごっごめん。つい、我慢が出来なくて……」

 

 私は我に返ってカヤを引き剥がす。こんなときにナニをやっているんだ。私は……。

 

「もう、ライアさんったら。突然あんなことをするんだもん。驚いたわ……。じゃあ、これはお返し……」

 

「んっ……」

 

 私と背伸びしたカヤの唇が触れる。

 

 ほんの一瞬のことなのに永久の時間が流れたように感じられた――。

 

「カヤ……、君は……」

 

「私もライアさんが好き……。友達じゃなくて、それ以上に……。もしかしたら、気持ちを伝えられないかもって思ったから」

 

 涙目になりながら笑う彼女はとても美しく、私はつい引き込まれそうになった。

 

 いかん、いかん。ここで理性を失っては……。

 

 その時である。私はある気配の動きを感じた――。

 

「――いけない。メリーさんが怪我をした……、多分クロにやられたんだ」

 

 カヤに仕えているベテランの執事のメリーがクロに斬られたみたいだ。おそらく、命には別状がないはずだが……。

 

「メリーが……!? 早く助けないと……!」

 

 彼女はドアの方に動こうとするが、私は彼女の腕を掴む。

 

「ダメだ、まだクロが近くにいる。下手に動くと君もメリーさんも危ない。――大丈夫、一度君を仲間の元に送ったあとに、私が再び戻ってきてメリーさんを助けるから」

 

 私はメリーを助けると約束した。カヤとメリーを同時に連れて行く事は出来ない。

 とにかく、速やかに彼女を安全なところに連れて行くことが先決だ。

 

「――ッ!? わっ、わかった。でも、お願い……、必ず、かならず……、メリーを助けてっ……」

 

 カヤは感情を押し殺して、涙を流しながら頷いた。

 

「ああ、約束するよ。信じてくれ」

 

 私はカヤを右腕で抱いて、窓から木々を跳び移って、仲間たちの元に向かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 それから、カヤをルフィたちに預けて、再び屋敷に侵入し、クロによって斬り裂かれたメリーを連れて戻った。人を抱えて往復するのはさすがに疲れたな……。

 

「ああ、カヤお嬢様……、よくぞご無事で……。ライアさん、ありがとうございます……、あなたが居なければ、どうなっていたことか……」

 

 メリーは応急処置を受けながら、カヤの無事を知って涙を流して喜んだ。

 彼はずっと彼女の身を案じていたから、ホッとしたのだろう……。

 

「ルフィ、ゾロ、ナミ……、改めて紹介するよ。私の親友のカヤと、その執事のメリーさんだ。カヤ、メリーさん、こっちは私の仲間の――」

 

「よっ! おれはルフィ! 海賊だ!」

 

 私がお互いを紹介する途中でルフィは躊躇いなく海賊と名乗った。まぁ、それが彼なんだから仕方ないけど……。

 

「かっ、海賊ですか……?」

 

 メリーは不安そうな顔でこちらを見た。

 

「大丈夫だよ、メリーさん。彼らはこの村に手出ししないから。これからキャプテン・クロのクロネコ海賊団と一戦交えるんだ」

 

 私はカヤとメリーに朝になったらやってくるクロネコ海賊団と戦うことを宣言した。

 準備は十分。あとはやるだけだ。

 

「らっ、ライアさんが戦うの? そんなの危険よ。てっきり逃げるのかと思っていたわ」

 

「そうですよ。確かにあなたは運動神経は良いですけど、海で名を上げた海賊というのはとても恐ろしいのです。戦うなんて無謀です」

 

 優しいカヤとメリーは私を止めた。そりゃそうだ……。私がこの日のために訓練してたことを知らないんだから。

 

「心配しないでいいよ。二人とも。私は必ず勝つから。キャプテン・クロに。それに、ルフィもゾロも強いし」

 

 私は力強く彼女たちにそう語りかけた。私は一人じゃない。仲間もいる。

 

「おう、任せとけ! ぶっ飛ばしてやる!」

 

「おれは斬る――!」  

 

 ルフィとゾロはやる気満々のようだ。頼もしい。

 

「彼らが強いならライアさんは戦わなくてもいいじゃない。仲間に任せれば」

 

 カヤはそれでも譲ってくれない。私のことを心から心配してくれてる……。

 

「カヤ、私は仲間だけに戦わせて逃げるなんてしたくはない。――そうだな。少しだけ芸を見せるよ。ゾロ、こいつを思いっきり上に投げてくれないか」

 

 私はゾロにコインを渡した。私はゾロの正面に立って、まっすぐ彼を見る。

 

「あァん? 何考えてんだ、お前……。まぁ、いいけどよォ」

 

 ゾロは不思議そうな声を出してコインを受け取る。

 そして、力強く宙にコインを放り投げた――。

 

「――っ!? そこだッ!」

 

 私は正面を向いたまま、銃を天に上げて銃弾を放つ。ちなみに銃声を限りなく小さくする為の装置は自作して付けているから、遠くに音が聞こえることはないように配慮はしている。

 

 ――しばらくして、コインが地面に落ちてきた。

 

「もう、ライア。何をやったっていうのよ。急に銃なんて使っちゃって」

 

 ナミは呆れた顔をしてコインを拾った。

 

「うそっ――。コインの真ん中に穴が空いてるわ……。ライアは目でコインを追ってすらいなかったのに……」

 

「うわぁ、すっげェ! すっげェなライア!」

 

 コインの穴を見て、ナミとルフィは驚いてくれた。こういう、かくし芸的なものでびっくりしてもらえると嬉しいな。

 

「なっ、信じられません。確かにこれは神業です」

 

 メリーもコインを確認すると驚愕の表情を浮かべた。そしてカヤは……。

 

「そっか、ライアさんはお父さんと会うために頑張っていたんだね。私はライアさんが会う度に逞しくなっているのを知ってたわ。でも、それを見ないフリしてた。どこか遠くに行きそうだったから……」

 

 複雑な表情を浮かべた後に、彼女は穴の空いたコインを握りしめてニコリと笑う。そして――。

 

「無理はしないで。お願い……。そして、絶対に死なないで。危なくなったら――逃げて!」

 

 私の肩を掴んで彼女はそう言った。そう、カヤは自分を押し殺して私の我儘を聞いてくれたんだ。本当に申し訳がない……。

 

「さぁ、そろそろ行くわよ。ライアと約束してるの。あなたたちの身の安全を、ね。近くに隠れる場所があるから……」

 

 ナミは涙ぐんでいるカヤとメリーを連れて、私が作っておいた隠れ家に向かった。あそこはちょっとやそっとじゃ見つからないから村のどこよりも安全なはずだ。

 

 

 

 そして、ナミたちが立ち去って30分ほど経過したところで――夜が明けた……。

 

 

 海岸に一隻の海賊船が停まった。クロネコ海賊団だ。

 そして、中から次々と荒くれ者たちが出てきた。

 

「さぁ、おめェら! やっとこさ暴れられるぞ! 思う存分、やってこい! それが、キャプテン・クロの計画だっ!」

 

 船長のジャンゴの命令で海賊たちが村へと続く坂道を登ってくる。

 

「来たぞ! ルフィ、ゾロ、準備はいいか?」

 

「「とっくに出来ている!」」

 

 二人は私の声に勇ましく応えてくれた。

 

 そして、一本道の坂道の上で待ち構えていた私たち3人は、何十人といるクロネコ海賊団めがけて走り出す……。

 

 坂道の中央で私たちとクロネコ海賊団は衝突した――。

 

 

「「うぎゃぁぁぁぁッ!」」

 

 数多くの荒くれ者たちの悲鳴が次から次へと木霊する。

 私たちが一方的にクロネコ海賊団を蹂躙していったからだ。

 

 ルフィは次から次へと海賊たちを殴り飛ばし。ゾロは得意の斬撃で敵を秒殺する。

 

 私は少しだけ後方で彼らが討ち漏らしている海賊たちの足を確実に撃ち抜き戦闘不能にしていった。 

 

「歯ごたえのねェ、奴らだぜ」 

「ん〜? もう終わったのかー?」 

 

 ゾロとルフィは息一つ切れておらず、退屈そうな顔をしていた。体力もとんでもないな。この二人は……。  

 

 

「船長〜! 村にあんな化物共が居るなんて聞いてません!」

 

 ボロボロにやられた海賊たちが早くも泣き言を言い出した。

 そりゃあそうだろうな。ちょっと、常人離れしてるからね……、あの2人……。

 

「おい、野郎ども。まさかあんなガキ3人相手に、くたばっちゃいねェだろうな」

 

「――ッ!? お、おうッ!」

 

 ジャンゴがドスの利いた声を出すと、倒れていた海賊たちがヨロヨロになりながら立ち上がる。

 

「お! なんだ生きてるよ。根性あるなー」

 

 ルフィは感心したような声を出した。いや、敵を褒めてどうする?

 

「いいか、おれ達はこんな所でグズグズやってる暇はねェ。相手が強けりゃこっちも強くなるんだ」

 

 ジャンゴは例の輪っかを海賊たちに向けながら、そんなことを言ってきた。催眠術で連中を強くするつもりか……。

 

「さァ、この輪をじっと見ろ……。ワン・ツー・ジャンゴでお前らは強くなる。傷は完全回復し! だんだんだんだん強くなる!」

 

「――何やってんだ? あいつら……」

 

 ジャンゴが暗示をかけようとしているところを興味深そうにルフィは見ている。

 

 実は私はこの瞬間を待っていた。ジャンゴがあの催眠術用の道具を出す、瞬間を……。

 

「ワン・ツー……」

 

「悪いけどさせないよ、ジャンゴ。必殺ッ――鉛星ッ!」

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)の引き金を引いた。

 

「ジャン――、なっ、なにッ! おれの商売道具がァァァッ!」   

 

 私はジャンゴの催眠術用の輪っかを狙撃して粉々に砕いた。わざわざ敵を強くするまで待つほどお人好しじゃないよ、私は……。

 

「あのガキかッ! まさか、こんな距離で正確に当てるたァ……、なんて射撃の腕をしてやがるッ! クソッ! これじゃ計画もままならねェ! キャプテン・クロにこんなもん見られちまったら……、こいつらはもちろん、おれたちまで皆殺しだ!」

 

 ジャンゴは顔中から汗を流しながら、壊れた催眠術の道具を呆然と眺めてブツブツ言っていた。

 さすがに敗色濃厚の気配を感じ取ったのだろう。

 

「なあ、ライアー、あいつ何をしようとしてたんだー? 何にも起こんねェぞ」 

 

「さぁ、何だろうね。私にもわからないよ」 

 

 催眠術の邪魔をしたとか言ったら、怒られそうだったから、私はしらを切った。あの催眠術って、ホントにルフィと相性が悪いから封じられて良かった。

 

「やっぱ、性格悪ィな、おめェはよ」

 

 しかし、ゾロにはバッチリ狙い撃ちをしてたところが見られてたらしくて性格が悪いと言われてしまった。

 せめて現実主義だと言ってくれ。

 

 そんな会話をしていた折である。海岸の海賊船から声が聞こえてきた――。

 

「おいおいブチ! 来て見ろよ、ジャンゴさんが頭を抱えてしゃがみ込んでやがる」

「何、船長が!? 何が一体あったんだッ!」

 

 やっと出てくるか、クロネコ海賊団のさしずめ中ボスみたいな連中が……。

 

「そうかまだ、あいつらがいた――! 下りて来いっ! ニャーバン・ブラザーズ!」

 

 ジャンゴが高らかに彼らの名を呼ぶと、2つの影が船から飛び出してきた。

 

「およびで? ジャンゴ船長」

「およびで?」

 

「来たか、ニャーバン・ブラザーズ」

 

 デブとノッポの猫耳コスプレをした海賊がジャンゴの前に立つと、ジャンゴは勝ち誇った顔をした。

 

「ブチ、シャム、おれ達はこの坂道をどうあっても通らなきゃならねェんだが、見てのとおり邪魔がいる! あれを消せ!」

 

 ジャンゴはブチとシャムに私たちを倒すように命令をした。

 しかし――。

 

「そ……、そんな、ムリっすよォ僕たちには。なァ、ブチ」

「ああ、あいつら強そうだぜ、まじで!」

 

 ガタガタと震えながら彼らはジャンゴに反論する。まったく、茶番が好きな連中だ。

 

「――くらえッ」

 

 私はさっさと本性を暴こうと、彼らに向かって鉛の銃弾を放った。    

 

「「――ッ!?」」

 

 するとどうだろう。彼らは素早い身のこなしで、それを躱したのである。

 

「あっぶなーい!」

「喋ってるときに、狙うなんて卑怯だぞ!」

 

 ブチとシャムは私に向かって抗議した。いや、卑怯もらっきょうも無いからね。海賊の戦いなんだから。

 自分らだって「猫をかぶって」いたじゃないか。

 

「あははっ、あいつら面白ェ動きするなー!」

 

「へぇ、なかなか楽しめそうじゃねェか!」

 

 ルフィとゾロはニャーバン・ブラザーズの動きを見て、ニヤリと笑った。彼らの強さを感じ取ったからだろう。

 油断さえしなければ、ルフィとゾロは彼らを相手にそんなに苦戦などしないはずだ。

 

 私はニャーバン・ブラザーズに銃弾を当てようと思えば当てられた。しかし、なぜそれをしなかったかというと、半端に傷つけるとルフィたちのモチベーションが下がると判断したからだ。

 この二人はフェアな喧嘩にやる気を出すタイプだから、その辺は気を使った。

 

 さぁ、彼らの戦いが始まる。勝つのは確信してるけど、どう勝つのかは興味がある。

 

 

「はぁ、なんて連中だよ。まったく……」

 

 ――「そんなに苦戦などしない」なんて、私の分析は甘かった。蜂蜜のように甘々だった。

 

 そう、万全の状態のルフィとゾロにはニャーバン・ブラザーズは全然相手にならなかったのである。

 

  ――2分後、地面にめり込んで白目を剥いているブチと、胸にバツ印の傷をつけられて地に伏しているシャムの姿があった。

 

 

 そして、私はジャンゴの頭に銃口を突きつけていたのである。

 

「チッ、てめェら、これで勝った気なんだろうがよォ……。皆殺しにされるぜ。キャプテン・クロに……」

 

 ジャンゴは銃口を突きつけられてもなお、強気の態度だった。

 クロを怒らせても、自分だけは助かるとでも思っているのだろうか。

 

 

「――ふーん、じゃあ待ってみようか。一緒に……。キャプテン・クロを……」

 

 私はジャンゴをロープで縛りながら、そう言った。

 

「バカめ……、殺されるぞ絶対に――」

 

 彼は縛られながら、心底バカを見るような目でそう言った。

 

 

 

 それからさらに15分ほどの時が過ぎた――。

 

 眼鏡をかけた黒服の男がこちらに歩いてきている。

 そして、彼はクロネコ海賊団が全滅している様子を見て体をプルプルと震わせて声を出した。

 

 

「もうとうに夜は明けきってるのになかなか計画が進まねェと思ったら――何だこのザマはァ!」

 

 クロは怒りを全身に漲らせて、強烈な殺気を放っていた。

 

「遅かったじゃないか。クラハドール……。いやぁ、驚いたよ、君の正体は――あえて君の言葉を借りるなら……、薄汚い海賊だったんだねぇ!」

 

「――ッ!? ライア……、まさかてめェがッ!」

 

 私はようやく宿敵と対峙した。ここから、本当の意味での私のこの村から出るための――卒業試験が始まる――。




やっと、ライアVSキャプテン・クロまで展開を持っていくことができました。
毎回5000字前後を目指して書いてるのですが、長くなってしまって申し訳ありません。
あと、ニャーバン・ブラザーズとの戦闘シーンよりも百合シーンが書きたかっので、尺の都合の割を食ったブチとシャムにはごめんなさいしておきます。
次回もよろしくお願いします。


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ライアVSクロ

いつも、感想をありがとうございます。おかげで百合を全面に押し出すことに躊躇がなくなりました!
いよいよ、ライアとクロの戦いが始まります。


 シロップ村の海岸から村に通じる坂道で、私とクロは対峙する。

 ルフィもゾロも私の想いを汲み取ってくれていて、腕を組んで見守ってくれていた。

 文字通り、手は出さないってね……。

 

「オイ! ジャンゴォ! まさか、てめェ……、ここにいる田舎モンの村娘にやられたってんじゃねェだろうなッ!」

 

 クロは倒れている船員たちに囲まれて、縛られ座っているジャンゴに声をかけていた。

 

「お言葉だがよォ、キャプテン・クロ! そこのガキ共……、とんでもねェ強さだ。あんたじゃなきゃ勝てねェ。シャムもブチもあっさり負けちまった!」

 

 ジャンゴは必死で言い訳をした。まぁ、彼は催眠術をカヤにかけるっていう任務があるから、自分だけは助かるって思ってるんだろう。

 

「ちっ、クロネコ海賊団も軟弱になりやがったッ! たった3人のガキ相手に全滅なんざ笑えねェ! ライア、てめェにゃ騙されたよ。おれの計画を台無しにしやがって……、てめェだけは許さねェ……!」

 

 クロはようやく私に向かって殺気を放ってきた。こちらを射殺さんとするほどの、凄まじい視線と共に……。

 

()()()()だと? クロ、君は些か勘違いをしているよ。君が私を許さないんじゃない。私が君を許さないんだ……」

 

「ンだとォ!?」

 

「君は私の大切な人を傷付けたッ……! 落とし前はつけてもらうよッ!」

 

 私もこれまで殺してきた自分の感情を剥き出しにする。君がこの村に来る前から倒すべき敵だと認識していた。

 来てからはさらに私の殺意は増していた。しかし、カヤを危険に晒さないために……、今日まで私は耐えてきたんだ。

 

 愛銃、緋色の銃(レッドエンジェル)の銃口を私はクロに向ける。

 

「――身の程知らずのガキがッ!」

 

 クロと私の戦いが始まった――。

 

 彼はメガネのズレを直したかと思うと私の視界から消える。

 この男が疾いのはわかっている。だから、研ぎ澄ませ――目で追うな、感じろッ!

 

「そこッ――!」

 

 背後に向かって私は銃弾を放つ。クロが私に攻撃を仕掛けるタイミングで。

 

「――ッ!?」

 

 両手に仕込まれている《猫の手》という爪で私を斬り裂こうとしていたクロは、咄嗟に身を反らせて回避した。

 

 もう一発ッ! 避けられることはわかっていたので、その方向を読んでもう一撃ッ!

 私は彼の動きを読みつつ次々と銃撃を放っていった。

 

 しかし、文字通り目にも留まらぬスピードの彼は動きが読めても捕まらず、私の銃弾はことごとく空を切った。

 

「――なるほど。いい腕だなァ、ライアッ! おれに上等な口を利くだけはある。だがなァ! 気付いてンだろォ? お前じゃあ、おれには勝てねェ」

 

 メガネを直しながら、クロは余裕たっぷりにそう言い放った。余程、私の銃撃を躱してご満悦らしい。

 

「生憎、ものわかりが悪いものでね。君こそ、ブランクで腕が鈍ってるんじゃないかい? 想定よりも攻撃が生ぬるく感じるのだが」

 

 銃弾を左右に放ちながら私は彼にそう言った。実際は、まったくそんなことは思ってないのだが、言うだけはタダだ。だって、私は嘘つきなんだから。

 粋がるだけ、粋がって見せる。不利は悟らせない。

 

「減らず口を叩きやがって! これで終いだよ、てめェはなっ!」

 

 クロはさらにスピードを上げて、私の懐に潜り込み――。

 その右手に仕込まれた凶器を振り上げた。

 

「――ッ!? くっ、痛いな……、さすがに腹を抉られると……」

 

 私は腹の部分をざっくり《猫の手》で切り裂かれてしまった。

 おびただしい量の血が腹から流れ出す。

 

 はぁ、やられてしまったな……。しかし、避けられる攻撃を敢えて受けでもしなきゃ――スキは作れなかった。

 

 自分の未熟さに腹が立つよ……。

 

「がはっ――、バカな……、確かにてめェの銃弾は見切ったはず……。なんで、目の前のてめェの銃撃が後ろからッ!」

 

 クロは信じられないというような表情をしていた。鉛の弾丸の銃撃を背中に受けて、血を吹き出しながら。

 ようやく、一発当ててやった。こっちも良いのを貰ったけど……。

 私は跳弾を利用してクロのスキを突いた。自分に攻撃をする瞬間に跳ね返った弾丸が彼に当たるように、自身を囮にしたのだ。

 

「不思議がってるところ悪いけど、さ。もう、さっきまでのパフォーマンスは無理だよね? 私は種明かしをしない主義なんだ。このまま君を倒すまで……」

 

 私は手負いのクロに容赦なく銃弾を放つ。彼はなんとかソレを躱そうとするも、スピードが落ちてかすり傷を体中に負っていた。

 すでに自慢の上等な服もボロボロになっている。

 

 まぁ、私自身も出血は酷いし、クロのやぶれかぶれな攻撃もいくつかもらってるから血まみれなのは一緒だけど……。

 

「はぁ……、はぁ……、さすがにタフだね。これだけ弾を使って倒せないって経験は今まで無かったよ」

 

 村へと続く坂道は私とクロの血に塗れて、なんとも不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「チッ――いちいち虫唾の走る言い回しをしやがってッ! もういい……、どのみち皆殺しの予定なんだ……」

 

 クロはそう呟くと脱力して、ゆらゆらとした動きを開始した。

 

 ――ようやく切り札を出してくるか……。

 

「まさかッ! オイッ! キャプテン・クロ! それだけはやめてくれッ! この距離じゃおれたちもやられちまう!」

 

 すべてを察したジャンゴが大声で喚き散らす。倒れていた船員たちもよろよろと立ち上がり逃げようとする。

 そう、この場にいる全員が被害を受けるヤツの最強の技……。それが――。

 

杓死(しゃくし)……!」

 

 その刹那、音もなくクロの姿は完全に消えた。

 あたりの岩や岸壁が斬られる音だけが不気味に聞こえてくる。

 

 しかし、それは物だけに留まらず……。

 

 

「うわっ!」

 

 船員のうちの一人が突如血を吹き出して倒れた。

 

「きっ、きたァ! ぐはっ!」

 

 今度はそこから離れた位置の船員が斬られた。

 

「うわっ!」

「まただっ!」

 

 クロネコ海賊団の船員たちはドンドン斬られていった。

 

「キャプテン・クロ! もう、やめて下さい!」

 

「無駄だ! これは”抜き足”での無差別攻撃! 速さゆえ、本人だって何斬ってるかわかっちゃいねェんだ! 疲れるまで止まらねェんだ!」

 

 クロに助けを懇願する船員に別の船員が技の説明をする。

 そう、この技は完全に無差別な攻撃だ。

 

「この技で船員が一体何十人巻き込まれて……、ぐえっ!」

「ぎゃァァァ!」

「助けてェ!」

「できるだけ身をかがめろぉ!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれる。元船長が昔の仲間を切り裂くことによって――。

 

 当然、私も肩や腰に傷を負った。見えない斬撃によって……。

 だが、それよりも驚いたのは遠くに逃げられるはずのルフィとゾロが斬られながらも微動だにせず血を流しながら腕を組んで私を見ていたことだ。

 まるで、私が勝つことを信じてくれているように……。

 

「まったく、とんでもない連中の仲間になったもんだよ。私もね……」

 

 苦笑いしながら、私は愛銃を両手で構える。そして、全神経を研ぎ澄ませた――。

 聞こえるのは生命の息吹……、すなわち万物の呼吸である。

 その間にも私の体は斬り刻まれて、ズタズタになる。しかし、そんな些細なことは気にしない。

 この一発にすべてを懸けているからだ。

 

「――必殺ッ! 鉛星ッッッッ!」

 

 弾丸が発射される音が鳴り止んだ後に訪れたのは――静寂……!

 

 恐ろしいほどに、静まり返ったこの空間の真ん中で黒服の男は腹と背中から大量に血を噴射させて倒れた。

 

 そう、最大限まで研ぎ澄ませた感覚はクロ自身すらも分からない未来の彼の姿を確実に捉えたのだ。

 

 ふぅ、ようやく終わったか……。安堵した瞬間に足に力が入らなくなり、よろけて倒れそうになってしまった……。

 

「おっと、勝者も倒れちまったら締まんねぇだろ」

 

 いつの間にか、私の後ろにいたゾロが優しく体を支えてくれた。

 すまないね。君たちを傷付けてしまった。

 

「うっひょーッ! ライア、やっぱすげェなァ! おれ、全ッ然見えなかったぞ! あの悪執事!」

 

 ルフィは私の肩をバシバシ叩いてきた。うん、興奮するのはわかるけど、そこ傷口だから。痛いから。

 というか、漫画では見えないけど、倒してたよな。私よりも随分とあっさりと……。やっぱり、とんでもないな……。

 

「ちょっと待て、お前って前は睡眠薬とか凍らせる銃弾とか使ってなかったか? それを使えばもっと楽に倒せたんじゃねェか?」

 

 ゾロは思い出したかのようにそう言った。

 

 バレてしまったか……。

 

 ゾロの疑問には理由がある。

 私はこの戦いを自らの卒業試験にしていた。試験の課題は無能力者であるクロを鉛弾だけで倒すということ。

 少なくとも、そのくらいの実力が無くては、この先に生き残れないと思ったからだ。

 

 もちろん、万が一のときはズルをしようと思ってたけど……。

 

 しかし、こんな縛りはこれっきりだ。もう二度やらない。性に合わないし、何より意味がない。

 ルフィとゾロが想定と違って逃げようとしなかったときの罪悪感が半端なかった。彼らを傷付けてしまった。その件についてはきちんと謝罪しよう……。

 

「全部、家に忘れてしまっててね。この銃弾しか使えなかったんだよ。だから、君たちを傷付けてしまった。申し訳ない」

 

 私は嘘をついて、そのあと本当の謝罪をした。頭を深く下げて……。

 

「気にすんなよー。おれたちが好きで見てたんだ! 早くライアと冒険に行きてェぞ!」

 

「そういうこった。なかなか面白ぇもん、見せてもらった。見物料にしたら安すぎらァ」

 

 ルフィは相変わらず傷口をバシバシ叩き、ゾロはニヤリと口角を上げる。

 これが、仲間ってやつなのかな? はぁ、暑苦しいけど、悪くないな……。

 

 

「ちっ、ちくしょう……」

 

 地面に這いつくばっていたクロが何とか立ち上がろうとしていた。

 

 私は彼の元に駆け寄り、銃口を彼の頭に突きつける。

 

「まさか、おれが……、こんなガキに……! クソッタレ……、早く殺りやがれッ! 生き恥をかきたくねェ!」

 

 クロは顔だけを私に向けてそう言った。

 言われなくても、そうするつもりさ……。お前のやったことは万死に値する。

 

 

 しかしッ――。

 

 ――引き金が重い。これを引いたら私は修羅に堕ちるだろう。だけど、そんな覚悟もなく何が海賊だ。

 

 私は覚悟を奮い立たせて引き金を――。

 

「ライアさん! 止めてッ!」

 

 突如、聞こえたカヤの大声に私の手は止まる。

 途中から彼女がナミたちと共に陰でこっそりみていたことには気付いていたが、このタイミングで声をかけられるとは思わなかった。

 

「ライアさん、お願い。クラハドールを撃たないで……」

 

 カヤはフラフラとした足取りで私に近づき懇願する。

 まさか、彼女はまだクロのことを……。

 

「いいえ、違うわ。私はライアさんが、私のためにその手を汚すことが耐えられないの……」

 

 彼女は私の考えを見通したようなセリフを言う。でも、だからって、この男は……。

 

「カヤ、ごめん。でも、私は許せないんだ。君を殺そうとした、この男が――!」

 

「でも、私は生きてる。これからのあなたとの未来を夢見て……。ライアさんは隣に居てくれるんでしょう? 私はそれだけで十分よ」

 

 カヤは血まみれの私の背中から抱きついて、額をくっつける。

 私はどうすることが正解なのか分からなくなっていた。

 

「――っ! 所詮、半端もののガキか……。殺しの覚悟もねェ……。てめェみたいなの――ガハッ」

 

 クロが私に何か言おうとしたとき――何故かルフィがいきなり彼の頭を思い切り殴りつけた。

 クロは頭を地面にめり込ませて、ピクピクしている。

 

「ライア! 悪ィ、手が滑った!」

 

 ニカッと笑顔を向けたルフィはおもむろにクロを掴んで持ち上げた。 

 

 そして、ズタボロにやられて、震えながらこちらを見ているクロネコ海賊団の面々を睨みながら――。

 

「持って帰れェェェェッ!」

 

 クロを思いっきり連中に向かって投げつけたのだった。

 

「匕ィィィィッ!」

「化物〜!」

「逃げろォォォォ!」

 

 クロネコ海賊団は蜘蛛の子を散らすように船に乗り込んで逃げ帰ってしまった。

 ルフィ、君は私に気を遣って……。

 

「ははっ、君には敵わないなぁ。ありがとう、ルフィ」

 

「ん? 何のことだァ? わかんねェこと言ってねェでさ! 飯行こうぜ、飯! なっ、ライアー!」

 

 またまたバシバシと傷口を叩くルフィ。でも、こんなに心地よい痛みは初めてだった。

 

 今なら心の底でこう思える。君と出会えて良かったよ。モンキー・D・ルフィ!

 

 かくして私たち麦わらの一味はクロネコ海賊団との戦いに勝利した。

 

 私は戦いに協力してくれたルフィとゾロ、そして、カヤの安全を確保してくれたナミにお礼を言った。

 

 そして、ナミにはクロネコ海賊団が船を出してしまったのでお宝が手に入らなくてすまない、と謝罪をした。

 

「えっ? お宝? ああ、大丈夫よ。あんたたちが何か揉めてたから、その間に潜り込んで、ほら、こんなにいっぱい」

 

 ナミは金品がぎっしり入った袋を私に見せた。

 まさか、あの短時間に堂々と船に忍び込んで泥棒をしてくるとは……。泥棒猫の凄さを私は思い知った。

 

 私たちはひとしきり飲み食いをして体を休めた。

 そして、次の日……、私たちは全員、カヤの屋敷に呼ばれた。

 そう、とうとう来てしまったのだ。私と私の最愛の人との別れの時が――。




ライアとクロの戦いはいかがでしたでしょうか?
ライアの縛りプレイは迷ったんですけど、彼女の素の実力をこの機会に書いて置かないと、中々この先にチャンスがなかったので、このような形にしました。
スキあらば百合と思ってましたが、今回はちょっとしか出せませんでした。残念です。
次回はメリー号ゲット、そして別れの時……。よろしくお願いします!


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ゴーイングメリー号


いつも、感想をありがとうございます!
ついにカヤとの別れのときが……。
正直、残念です!でも、シロップ村に留まるわけにはいきませんので先に進みます!


 私とルフィたちはカヤの屋敷を目指して歩いている。

 

 それにしても、あのクロを相手に勝てたのは良いけど課題が山積みだった。

 まず、先読みしても銃撃があまりに当たらない。

 それは私の身体能力の無さが原因だ。

 

 引き金を引いて銃弾を放つのにどうしたって時間がかかるし、脳が命令を出して銃口を相手に向ける動作も遅い。

 身体能力が高い相手に攻撃を当てるのは、とっさに危機を察知して避けるのとは難易度が違う。

 要するに、身体能力のある程度高い相手と戦うと、どちらの攻撃も当たらない状態が続きそうなのだ。

 

 クロの敗因は杓死を使ったことだ。あれは超スピードだけど自分の意志がない。

 だから、時間をかけて精神を集中させた時にだけ発動する見聞色の極みである未来視を使って確実に当てることが出来た。

 私は最初からクロに杓死を使わせるまでが勝負だと思っていたのだ。

 

 しかし、杓死と同等の速さと言われる六式使いの(ソル)なんかを使われたら、未来を見る前にやられるか、未来が見えても避けられるかの、どちらかの結果になることが浮き彫りになってしまった。

 

 だからこそ、私は考えなくてはならない。工夫して攻撃を当てる方法を――。

 

「おーい、ライアー。どうしたんだァ? さっきから黙ってて」

 

 首を伸ばしたルフィの顔が逆さまになって目の前に出てきた。

 

「うわっ! ルフィ、君は普通に話しかけられないのかい!?」

 

 私はビクッと少しだけ跳ね上がり、ルフィに抗議する。

 ゴム人間なのは知ってるけど、間近で珍妙な動きをされると死ぬほどびっくりするものだ。

 

「しかし、悪魔の実の能力者なのには驚いたな。私も海には何度も出ているが、初めて見たよ」

 

 私はルフィのほっペを引っ張りながらそう言った。なるほど、面白いくらいに伸びるな……。

 やっぱり、悪魔の実は凄いなぁ。漫画だとバーゲンセールでもやってるみたいに能力者っていたけど、実際、東の海(イーストブルー)では全くと言っていいほど能力者には出くわさなかったんだよねー。

 

 悪魔の実は本当に貴重品なのだ……。

 

 

 そんなことを話してる内に私たちはカヤの屋敷についた。

 

「カヤ、昨日はよく休めたかい? 辛かったらいつでも言うんだよ」

 

 出迎えて、冷たい飲み物まで用意してくれたカヤに私はそう声をかけた。

 

「もう、ライアさんたら、皆さんが見てるのに子供のような扱いをしないで。あのね、ライアさん。私、あの夜からちょっとだけ元気になったの――。私の病気って両親を失った精神的な気落ちが原因だったんだけど、あの時、あなたから元気をもらったから――」

 

「へっ? あの夜って、ああ……」

 

 カヤが言っていることがナニを指しているのか理解した私は顔が熱くなるのを感じていた。

 彼女も自分で言って自分で赤くなっている。

 

「なんだァ? あの夜ってェ? どうして、お前ら、顔が赤いんだァ?」

 

 ルフィが私たちの顔をチラチラ見て不思議そうな声を出したので、私たちはハッとする。

 

「そっそれより、私たちを呼んだのって何かがあったのかな? カヤ……」

 

「えっ、ええ。ライアさんが旅に出ることは知ってたから、プレゼントを内緒で用意してたの。どうせなら、お仲間さんたちにもお見せしようと思って……」

 

 私たちは話題を変えようとドキドキしながら、話していた。

 胸に寂しさを抱えながら。

 

「プレゼント? ライアへのプレゼントが、何で私たちにも関係があるのよ?」

 

 ナミが当然の疑問を口にする。

 カヤには悪いが、彼女のプレゼントには察しがついていた。

 しかし、私へのプレゼントととなると、些か申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「ナミさん、それには理由があるのです。お呼びしていて申し訳ありませんが、岬まで歩いて貰えませんか? そろそろ、メリーが準備を終わらせている頃ですから」

 

 

 そんな訳で私たちは岬に向かって歩いて行った。

 

 

 そう、そこにはあの船が停泊していた。

 

 私はこの船の名を知っている――

 

 

「少々古い型ですが、これは私がデザインしました船で、カーヴェル造り、三角帆使用の船尾中央舵方式キャラヴェル、"ゴーイングメリー号"でございます。航海に必要そうなものは全て積んでおります」

 

 にこやかに笑いながら私たちに船の説明をする。

 私の予想どおり、待っていたのは麦わらの一味と大冒険を繰り広げた船――“ゴーイングメリー号”だった。

 

 しかし、生で見ると迫力があるなぁ。いや、そこまで大きくないんだけど、色んな補正がかかって凄い船に見えてしまう。

 

 この子に無茶をさせることが分かっているから少々申し訳ない。なるべく大事に扱おう。

 

「すっげェ! ライアぁ、お前! すっげェもン貰えたなァ!」

 

 ルフィは表情筋をフル活用して、活き活きとした表情で喜びを顕にする。

 

「カヤ、こんな素敵なモノを良いのかい? 正直、驚いてるよ。君は私が海に出ることを嫌がっていると思ったからね」

 

 私はカヤの瞳を見つめながら、そう言った。

 彼女の寂しそうな顔が長い付き合いの私には通じていたから。

 

「もちろん、寂しいわ。体の半分がどこかに行ってしまうくらい……。でもね、それでライアさんを縛り付けるような嫌な女にはなりたくない。だから、待ってます。帰ってくると信じて」

 

 ちょっと困り顔をしながら、カヤは笑顔を作る。目に溜まっている涙を流すのをグッと堪えて……。

 

「――別れの挨拶なんて、さ。もう会えないみたいだから言わないけど、帰ってくるよ、絶対に! 愛してるよ、カヤ! 君を世界中の誰よりも!」

 

 そう言うと私は彼女を思いきり抱きしめた。

 もう、しばらく彼女に会えない。でも、私の心はいつだって君と共にいる。

 

「ライアさん、私もあなたを愛してる! だから! どんなことがあっても生きていて、お願い!」

 

 泣かないって決めてたのに、いつしか2人揃って泣いていた。

 お互い繋がっていた魂が引き裂かれるような感覚に耐えられずに……。

 

 

 

「ということで、船は手に入ったから良かったね」

 

 私はルフィたちに向かってそう言った。

 

「お前、よく何事も無かったって顔で話を戻せるな」

 

「あなたたち、少しは人目ってモノを気にしなさい! こっちがリアクションに困るわよっ!」

 

「にしし、おめェら仲いいなァ! あっはっは!」

 

 抱きしめ合って、泣きながら「愛してる」とか10分くらい言い合っていたが、すっかり彼らのことを忘れていた。

 

 ゾロは気まずそうに顔を背け、ナミは呆れ顔をしており、ルフィは平常運転だった。ルフィは凄いな、さすが海賊王になる男だ。

 

「あはは、ごめんごめん。カヤは大切な人なんだ。やはり、これから別れるとなると、寂しくてね」

 

 私は笑って誤魔化そうと必死だった。だって、カヤに会えないの辛すぎるんだもん。

 

「ライア……、寂しさのあまり私に手は出さないでね……」

 

 ナミは自分の体を守るような仕草をする。人を見境なしみたいに言わないで頂きたい。

 好きになった人が偶々女の子だっただけで、女の子だから好きになった訳じゃないから、その点は誤解しないでほしい。

 

「出さないから、それだけは心配しないでほしい。いくら君が美人で魅力的な女性でも、そんな事はしないよ」

 

「「そういうとこを、直しなさい!」」

 

 私がナミにそう言うと、なぜかカヤまで怒り出して、同時に同じセリフを言ってきた。

 別に思ったことを口に出しただけなんだけどなぁ。

 

 

 そして、出港のときは訪れた――。

 

「ライアさん、私は医者になる! そして、今度会うときはもっと強くなるわ。あなたが私にしてくれたことに応えたいから」

 

 最後にカヤはそう私に宣言をした。

 

「そっか。優しい君にはピッタリだね。楽しみにしてるよ。――あれ? そのコインは……」

 

 カヤの右手には、先日、私が射抜いて穴を空けたコインがあった。

 

「これは私のお守り。あなたが頑張って、努力して、強くなった証拠だから、これを見て私も頑張るの!」

 

 そう彼女は言うと大事そうにコインを握りしめた。私は彼女がこれまでにない強い意志を見せてくれたことが堪らなく嬉しかった。

 

「じゃあ、私もお守りを貰おうかな」

 

 私はカヤの顔を見ながらそう言った。

 

「えっ、私はそんなの用意……んっ……」

 

 彼女の顔を両手で撫でるように触りながら私は彼女の唇を奪った。

 

「んっ……、はぁ……、もうライアさんたら、いきなりなんだから……」

 

 頰を紅潮させながらカヤは俯き私に抗議する。

 

「海賊になったからね。一番最初に一番奪いたいものを奪ったまでさ」

 

「――絶対に浮気したらダメよ。ぐすっ……、行ってらっしゃい」

 

 そして、真っ直ぐに私を見て彼女は送り出してくれた。ありがとう、必ずここに戻ってくるからね……。

 

 

 麦わらの一味を乗せたゴーイングメリー号はシロップ村を出発した――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「できたぞ! 海賊旗! あっはっはっは!」

 

 ドンと、自信満々の顔をしてルフィは自らがデザインした海賊旗を私たちに見せてくる。

 

 いやはや、これは中々前衛的だなぁ。

 

 ゾロもナミもあからさまに嫌そうな顔をしている。私もちょっと個性的すぎて嫌かなぁ……?

 

「ルフィ、面白そうなことをしてるじゃあないか。どれ、私も一つ描いてみよう」

 

「おう、いいぞォ! どっちがうめェか勝負しよう!」

 

 ルフィはニコリと笑って私に筆を貸してくれた。

 

 

「――よし、こんなものでどうだろうか?」

 

 私は前世で見たデザインを出来るだけ思い出して麦わらの一味のトレードマークの海賊旗を描いてみた。

 

「うん、すっごく上手!」

「ほう、やるじゃねェか!」

 

 ナミとゾロは内心ホッとしたのか、やたらと私の描いた海賊旗を褒めてくれた。

 

「うォォォ! かっけェ! よし、ライア! 今度はこっちだ!」

 

 ルフィも素直にクオリティの差を認めてくれて、今度は帆に大きく同じマークを描くように急かしてきた。

 

 というわけで、ゴーイングメリー号は見事に海賊船となり、長い航海に出かけたのであった。

 

 

「なぁ、ライア。大砲をちょっと使ってみてくれよ」

 

 海賊旗の次は大砲に興味が行ったルフィ。まったくもって落ち着きがない。

 まぁ、テンションが上がるのもわかるけど。

 

「いいよ。一回、試運転がてら使ってみよう」

 

 彼の熱意に押されて私は大砲を使うことを承諾した。そういえば、この流れって……。誰か名前は忘れたけど犠牲になったような……。

 

「へぇ、銃以外もイケるのか興味がある。おれも見せてもらおうか」

 

「そうね。もしも、海戦になったらあなたが頼りだもん」

 

 私の大砲での狙撃の腕を確かめるべく、ゾロとナミがマジマジと見つめてくる。やだ、照れちゃう……。

 

「船長命令じゃあ仕方ない。大砲は扱ったことないから大したことは出来ないかもしれないが……」

 

 私は敵襲とかではないので、十分に集中して――大砲の砲弾を放ったッ――。

 

 轟音と共にすぐ手前の海中に砲弾が沈み、大きな水しぶきを上げる。

 

「――あら、銃撃は凄いけど、こっちは失敗?」

「まぁ、気にするな、ライア。失敗するときも――。――ッ!? 何だ!? これは――」

 

「さっ、魚だァ! 魚が空から降って来たぞォ!」

 

 船内に降ってくる魚たちを見て、ルフィたちは驚きの声を上げていた。これは、食料不足の時に使えるな。

 

「その辺に魚群の気配を感じたからね。狙ってみた」

 

「おっ、お前、魚の気配までわかるのかよッ!」

 

 ゾロはギョッとしたような表情で私を見た。

 

「うん、集中すれば、生きものだけじゃなくて、植物や物質の気配もわかるよ」

 

「やっぱり、これって超能力なんじゃない?」

 

 ナミはビチビチと動いている魚たちを眺めながらそんなことを言う。

 

「どうかな? 誰でも使える技術だと私は思ってるけどね。ルフィやゾロだって、そのうち出来るようになると思うよ」

 

「へぇ、おもしれェ……。誰でも使える技術か……」

 

 ナミの言葉に返事をしたら、ゾロは目をギラつかせながらニヤリと笑った。

 ちょっとは、いい刺激になったかな? 残念ながら、私も理論的なことが分からないから口で説明は出来ないけど、彼らのセンスなら見て真似られそうだ。

 

 そんなふうに、私が質問に答えていると、ルフィがトントンと、私の肩を叩いてきた、

 

「じゃあさ、次はあれを狙ってくれよ」

 

 ルフィは孤島にある岩を狙うように指示を出した。

 私は孤島から2人の人間の気配を感じた。1人の気配はかなり弱っている。

 そうだった、確か壊血病にかかって死にそうな人が居たんだった。

 

「構わないけど、あそこには人がいるみたいだ。2人ほど、ね。しかも1人は死にかけてる……」

 

 私がそう言うと、ルフィはあの孤島に船を近づけるように指示を出した。

 

 

 孤島に居たのはゾロの知り合いの賞金稼ぎ、ジョニーとヨサク……。居たな、こんな人たち……。賞金稼ぎやってたけど、一回も出会わなかった。

 

 ヨサクが壊血病で倒れていたので、ライムを絞って飲ませると、すぐに彼は回復した。

 ん〜、どう考えてもそんなに直ぐに元気になるはずないんだけど……。あっ、倒れた……。

 

 

「申し遅れました。おれの名はジョニー!」

 

「あっしはヨサク! ゾロのアニキとはかつての賞金稼ぎの同志! どうぞお見知りおきを!」

 

 サングラスをかけた黒髪の男、ジョニーと、変な額あてと、短パンにコートという独特のセンスの男、ヨサクが私たちに自己紹介した。

 

 

「それにしても、壊血病に限らず日々の体調は食べ物に依存するからね。ヨサクのことは私たちにも他人事じゃないんだよ」

 

 私は海上レストラン、『バラティエ』に向かう方向に話を持っていこうとした。

 

「確かに、だが、おれは料理なんざできねェ。ライア、お前は器用そうだから出来るんじゃねェのか?」

 

 ゾロは私にそんな質問を投げかけた。

 

「いや、まったく出来ないわけじゃないが、素人の域は出ないよ。長い船旅に限られた食材。これをバランス良く配分するのは、やっぱりプロの料理人じゃなきゃ」

 

「お金取って、私がやってもいいって言おうと思ったけど、そこまでは無理ねぇ」

 

 私がゾロの質問に答えると、ナミが首を横に振ってそう言った。

 

「そっか〜! コックかー! そうだよなァ! コックが居れば毎日うめェもンが食えるもんなァ!」

 

 ルフィはコックの加入に興味を持ったみたいだ。よし、この流れなら。

 

「なるほど、コックをお探しなら、海上レストラン『バラティエ』はどうですかい? 確かこの近くの海域にあるはずですぜ」

 

 上手いこと、ジョニーがそんなセリフを言ってくれたおかげでルフィが乗り気になり、私たちは海上レストラン『バラティエ』に行くこととなった。

 

 『バラティエ』には次の仲間のサンジが居る。仲良くなれるか不安だけど、早く会ってみたいなぁ。

 そんなことを考えてると、ゾロがジョニーに何事かを耳打ちされて、殺気を漲らせていた。

 

 そうだよね。『バラティエ』では彼が――。

 

 麦わらの一味の次の目的地は海上レストラン『バラティエ』……。私の冒険が始まった――。




百合展開の霊圧が……、消えたッ……だとッ!? でも、復活させたいです。
浮気はさせませんけど、ライアのイケメン設定は思う存分暴れさせたいと思います!
次回はいよいよ、コックの王子様の登場です!


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海上レストラン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回はサンジとの出会いです。
それでは、よろしくお願いします!


「着きやした! 海上レストラン! ゾロの兄貴! ルフィの兄貴! ライアの兄貴! ナミの兄貴!」

 

 ジョニーの大声が私たちの船が海上レストランに着いたことを知らせる。

 

「ライアはともかく、なんで私がアニキなのよ……」

 

「おい、失敬だな。君は……」

 

 ナミの「ともかく」に私は反応してツッコミを入れる。

 今さらだが、本当に初対面の人に女の子扱いしてもらえない。

 

 ジョニーもヨサクも当然、初対面では私のことを男だと思ってた。

 言いたくなかったけど、《魔物狩りのアイラ》と同一人物だという話をすると、アイラは女じゃなくて男だったのかと、私の期待の真逆の反応で悲しかった。

 

「どーですかっ! みなさん!」

 

 ジョニーが自分の船のようにドヤ顔を示す。

 

 どーんっと、目の前に浮かぶのは海上レストラン『バラティエ』――。

 魚のようなデザインがオシャレなレストランだ。

 

 私たちは感嘆して、わくわくしながらバラティエに進もうとした。

 

 しかし、一隻の海軍の船が隣にいることに気付くとピリッとした空気が流れる。

 なんせ、海賊船の横に海軍の船があるのだ。水と油みたいなものだ。揉め事がないほうがおかしい。

 

 この海軍の船には確か海軍本部のフルボディ大尉が乗ってたはずだ。

 メリケンサック付けてた人だってことくらいしか覚えてないけど……。どんな人だったっけ?

 

 

「見かけない海賊旗だな……。おれは海軍本部大尉“鉄拳のフルボディ”。船長はどいつだ? 名乗ってみろ」

 

 考えごとをしていたら、フルボディ本人が登場して丁寧な自己紹介をした。

 

「おれはルフィ、海賊旗はおととい作ったばかりだ!」

 

 ルフィは堂々とした態度でフルボディに返す。

 なんだか嬉しそうなのは、海賊だと認めてもらったからだろうか?

 

 しかしフルボディはルフィよりも、その後ろのジョニーとヨサクに目を付けたみたいで2人を挑発するような発言をした。

 

「そういや、てめェら二人……、見たことがある。確か……、小物狙いの賞金稼ぎ、ジョニーとヨサクっつったか……。ついに海賊に捕まっちまったのか?」

 

 フルボディにそんな挑発されて怒ったジョニーとヨサクは彼の船まで喧嘩をしに行ってしまった。

 さて、この間に準備しとくか。

 

 

 ボコボコにされたジョニーとヨサクが返品されて、フルボディは食事に来ただけだからと(うそぶ)く。

 

 だが、少し船を走らせると彼はこちらに大砲を向けてきた。

 まったく、カヤがプレゼントしてくれた船に無粋なことをしてくれる。

 

「ちょっと! あいつ、大砲を撃って来たわよ!」

 

「何ィ!?」

 

 ナミの言葉にゾロもびっくりした声を出す。

 

「――目には目をってねッ!」

 

 私は準備しておいた大砲を撃ち出した――。

 

 

 海軍の船とゴーイングメリー号の間で爆発音が鳴り響く……。

 

 私の撃ち出した大砲が海軍の大砲の弾に命中したからだ。

 漫画だとルフィがゴムゴムの風船で大砲の弾を弾くんだけど、それが『バラティエ』の料理長であるゼフの部屋に直撃して多大な迷惑をかけるんだ。

 さすがにわかってて止めないのは向こうに悪いし、ルフィが雑用で働くなんて可哀想だ、バラティエが!

 

「あー、良かった。船が無事で……」

 

 私は船を撫でながらそう言った。万が一船が傷付けられたら、今度は私がフルボディと喧嘩しなきゃならんところだった。

 

「あなた、とんでもない事を平気な顔してするのね」

 

 船に頬ずりをしてると、ナミが話しかけてきた。よかった。奇行はスルーしてくれた。

 

「ん? そりゃあ、この船も仲間だからね。仲間を傷付けられそうになったら助けるさ」

 

 私はナミの言葉にそう返す。

 

「仲間ねぇ……。じゃあ、もし私がピンチになったら――」

 

「うん、もちろんナミがピンチなら、言ってくれ。絶対に助けるから。ルフィもゾロも一緒に、ね」

 

 ナミの事情を知ってる私は出来るだけ優しく彼女にそう返した。

 

「ライア……、あなた……」

 

「ん?」

 

「そっ、その顔禁止! ――ったく、油断もスキもないんだから!」

 

 ナミは顔を紅潮させてそっぽを向きながら、私の顔のダメ出しをした。

 禁止って言われてもなぁ。ゴーグルつけたくはないし……。 

 

 そんなこんなで、私たちはようやく『バラティエ』に着いたのだった。久しぶりに美味しいモノが食べられそうだ。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ジョニーとヨサクに船番を任せて、私たちは海上レストラン『バラティエ』の中に入って行った。

 

「へェ、ここが海上レストランか」

 

「中もきれいにしてあるのねぇ」

 

「うっひょー! 美味そうな匂いがするぞォ!」

 

 私たち4人はテーブルに通されて、適当に注文して料理が運ばれるのを待った。

 さて、サンジはどこかなぁ?

 

 おや、あそこにはさっきのフルボディがいるぞ。そういえば、デートに来てたんだったな。

 

 なんか、ワイン飲んで興奮してるな……。私もワインは好きだ。

 

「うまい……! このほのかな香りは……、北の大地ミッキュオの大地の香りか……。軽い酸味にコクのある辛口……。このワインは――イテェルツブルガー・シュタインだな! 違うかウエイター?」

 

 大声でウンチクを語りながら、フルボディはドヤ顔でワインの銘柄を言い放つ。

 これは、近くで見なければ……。私は席を立ってフルボディのテーブルに近づいた。

 

()()()()()()、お客様……。ちなみに私は副料理長。ウェイターは昨日、全員逃げ出しまして」

 

 金髪とグルグル眉毛が特徴的な男、サンジがスープを持ってワインクイズの不正解を告げる。

 

 周りのみんなはクスクス笑ってる。いやぁ、いいなぁ、ああいうスマートな感じ。

 

「スープです。熱いうちにどうぞ!」

 

「ふーん、優しくていい香りだね。多分グロリール・シャトーだろう。辛口のイテェルツブルガーじゃ、この料理の味を損ねちゃうから、美味しく食べられるように気を使ってくれたんだね。自信はないけど、当たってるかな? 副料理長」

 

 私はフルボディと相席していた女性にグラスを借りて、ワインの匂いを確かめてサンジに尋ねた。

 

「――せっ、正解です。いやぁ、それにしてもキレイなお嬢さんだ! ワインが好きならおれと一緒に向こうで飲みませんか?」

 

 やった、正解したぞ! ――って、えっ?

 

「ええと、副料理長? 今、お嬢さんって私に言った?」

 

「おや、お若く見えましたが、年上の方でしたか?」

 

 当然という表情で私を見るサンジ。やだ、人生で初めてナンパされたんだけど。女の子に見られるのってこんなに嬉しいなんて……。

 

「おっと、こちらのお姉さんもこれまた美しい! お姉さんもこちらのお嬢さんと一緒にどうですか?」

 

 サンジはその上でさらにフルボディの連れにもナンパをする。凄いなぁ、あんなに自然に口説けるなんて……。

 私の中で既にサンジの好感度は上がりまくりである。

 

「副料理長、それは彼氏さんがいるのに悪いよ。グラス貸してくれてありがとう。こういう料理にはきっと合うと思うよ。優しいお姉さん」

 

 私はサンジを窘めて彼女にグラスを返した。

 

「――あっ、あの! 私この人とは別に付き合ってません!」

 

「えっ?」

 

 女の言葉にフルボディは愕然とした表情をする。まっまぁ、付き合ってなくても食事くらいは行くよね……。

 

「そっ、そうなんだ。それは失礼をしたね……。じゃあ、私はこの辺で……」

 

 気まずくしてしまった私は自分の軽率さを呪いながら、この場を離れようとした。

 

「待って!」

 

 私は彼女に腕を掴まれてしまう。なんだろう? やっぱり雰囲気を台無しにしたことを怒られるのかな?

 

「あ、あの。本当にこの人とは何でもないの。だから、わっ、私と付き合ってくれないかしら? ねぇいいでしょ?」

 

 彼女は私の腕に絡みつきながら、そんなことを言う。何それ、怖い……。

 

「はっ、はぁ? いやいや、私はこちらの副料理長が言ったとおり女だし、心に決めた人が……」

 

「なっ、何を言ってるんだ? おっおれがワインを外したことがそんなにいけなかったとでも言うのか?」

 

 私とフルボディが同時に早口で言葉を吐き出し、何ともカオスな状況になってしまっていた。

 

「だから見つめるなって、言ったのよ! いい加減に学びなさい! このバカ!」

 

「ああ、待って! せめてお名前を!」

 

 それを見兼ねたナミが私の頭を叩きつけて、服を掴んで物凄い力でテーブルまで引っ張って行った。

 

「ごめん、ナミ。でもね、私! ナンパされたんだよ、ナンパだよ! 信じられないよ」

 

「はいはい、良かったわね。私は異様に喜ぶあなたが信じられないわよ」

 

 ナミは私の言葉に呆れたような声を出すが、嬉しいものは仕方ない。君のような女性としてのアレやコレに恵まれた人には分からんのだ。

 

 しかし、私などがナンパされるのだから、当然、ナミは……。

 

「ああ海よ。今日という日の出逢いをありがとう。ああ恋よ。この苦しみにたえきれぬ僕を笑うがいい。どうも、あなたの下僕でございます!」

 

 ナミの放つ圧倒的な美女のオーラは怒り顔でも消せるはずが無く、サンジは私たちのテーブルにもハイテンションで現れた。

 

 うん、本人に自覚はないかもしれないが、力の入り度合いに差があるよね。当たり前だけども……。目がハートマークに見える。

 

「なぁ、ルフィ! あの人良いと思うんだ! 彼を仲間にしよう!」

 

「お前、よっぽど女だと気付いてもらえて嬉しかったんだな……」

 

 興奮気味にサンジを推す私を可哀想な人を見るような目でゾロは見ていた。

 

 

 そんな中、気まずい空気に耐えられなくなったのか、フルボディは連れの女の手を引いて帰ろうとしていた。

 すごい悪いことをした気がする……。そしてあの女の人、めっちゃ私に手を振ってる……。

 

 

 彼が会計を済ませて店を出ようとしたとき、店の入口が開き海兵が慌てた顔で口を開いた。

 

「海賊クリーク一味の手下を逃してしまいました! “クリーク一味”の手がかりにと、我々7人がかりでやっと捕まえたのに!」

 

「馬鹿な! どこにそんな体力がありやがる! 三日前に餓死寸前で以降何も食わせてねェんだぞ!」

 

 海兵の言葉にフルボディは驚愕の表情を浮かべた。

 

「申し訳あり――」

「おい、どうした!? うっ――!」

 

 海兵とフルボディは撃たれてその場に倒れてしまう。そして、外からヨロヨロとふらつきながら、海賊が入ってきた。

 

 彼はクリーク一味の幹部のギンだったけな。

 

 ギンはテーブルに腰掛けて食事を要求する。そんな彼のもとに大柄なボウズ頭のコックが接客に向かった。

 名前はええーっと、誰だっけ?

 

 私が名前を思い出してる内にそのコックがギンをボコボコにしてしまう。金のない人は客ではないと……。まぁ、正論と言えば正論。

 

 そして、ボロボロになったギンは外につまみ出されてしまった。

 

「ルフィ、ちょっと外を見に行かないか?」

 

 私はサンジの動いた気配を察知してルフィを外に誘った。彼にはサンジの人となりを見てもらう必要がある。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「食え……」

 

 空腹で倒れているギンにサンジはちょうど料理を渡していた。

 

「面目ねェ……、こんなにうめェ飯を食ったのは――おれは初めてだ……。――面目ねェ、面目ねェ……! 死ぬかと思った……! もう、ダメかと思った……!」

 

 涙と鼻水を大量に流しながら料理にがっつくギン。よほど、空腹だったのだろう。美味しそうに食べていた。

 

「――クソうめェだろ」

 

 それを満足そうな笑顔でサンジは見つめ、タバコを吹かしている。

 やはり、この人は誰よりも優しい男だ……。

 

「にしし、ライア! あいついいコックだなぁ! よしっ! あいつを仲間にしよう!」

 

 ルフィはサンジの良いところを感じ取り、ニコリと笑った。

 よかった。これで、彼はサンジを仲間にしようと頑張るはずだ。

 

 ルフィはさっそくサンジに声をかけた。

 

「よかったなーお前っ! メシ食わせて貰えてなー! おいコック! お前、仲間になってくれよ! おれの海賊船のコックに!」

 

「ルフィ、それはいかにもストレート過ぎやしないか?」

 

 彼のまっすぐ過ぎる物言いに私はついつい、ツッコミを入れてしまう。

 

 サンジとギンはチラリと私たちの方を見た。

 

「やぁ、副料理長。さっきは騒いでしまって悪かったね。私はライア。こっちは船長のルフィだ。一応は海賊をやってる。副料理長も良かったら名前を教えてくれないか?」

 

 ルフィとともに彼らに近づきながら、私はサンジに自己紹介とルフィの紹介をした。

 

「へぇ、お嬢さん。ライアちゃんって言うのか。可愛い名前だな。おれはサンジ、よろしく」

 

「えっ? 可愛い……かな?」

 

 サンジからの言葉に私はつい、過剰反応してしまう。いかんいかん、彼は誰にだってこんな感じなんだから。

 照れている私を余所にルフィはサンジの獲得のための勧誘を続けていた。

 

 サンジは男の人を相手にも気さくで、楽しそうにこの店が元々名のある海賊のコックが作った店で、その人にとっては宝のような店だと言うことを楽しそうに語っていた。

 

「なぁ、サンジ……、仲間になってくれよ」

 

「断る。おれはこの店で働かなきゃいけねェ理由があるんだ」

 

 サンジはやはりルフィの勧誘を断った。そうだよね。最初はきっぱり断るんだよね。

 

「いやだ! 断る! お前が断ることを断る! お前はいいコックだから一緒にやろう!」

 

 ルフィの無茶苦茶な理論にサンジは呆れた顔をする。

 

「おい、ライアからも言ってくれ。海賊の楽しいところとか」

 

 そしてルフィは私にまで無茶ぶりをしてきた。

 

「そうだね。さっき、君が声をかけていたオレンジ色の髪の美人が居ただろ? あの子も私たちの仲間なんだ。彼女とひとつ屋根の下で暮らすことになるのは刺激的じゃないかい?」

 

 私は彼に効果的な言葉を選んだ。まぁ、意志が固いからこれくらいじゃ――。

 

「えっ? あの天使みたいな彼女もかぁ! 確かにそりゃあ刺激的だ! ぐっ……、ぐぐ」

 

 今、一瞬だけすごく乗り気になった気がする……。

 そして、すごい形相で煩悩と戦ってるような……。

 

 こうして、私たちはサンジと出会った。しかし、この海上レストランは間もなく大きな戦いに巻き込まれることとなる――。

 




色々とサンジに会ったらどうなるのか、と予想してくださった方が多かったので、こんな感じで良いのか不安ですが、いかがでしたでしょうか?
ワンピースのキャラクターってブレないところが魅力的なので、サンジはサンジらしく女性には誰にでも紳士的な態度でいってもらって逆にライアにときめいて貰いました。

そして、海に出て最初にライアに迎撃されたのは、フルボディ大尉の連れの女性でした。予想が当たった方はいますでしょうか?

あと、フルボディ大尉はそれなりに強いのでフラフラのギンに負けないとは思うのですが、傷心中にいきなりの展開で不意討ちされて敢えなくみたいな解釈でお願いします。
次回もぜひご覧になってもらえれば、嬉しいです!


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嵐が来た日

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!とても元気を頂いております!
クリークの船がやってきました。
ここから戦闘に入りますが……、その前に……。という大事な回です。


「話割ってすまねェが――」

 

 ここまで、私たちの話をじっくりと聞いていたギンが口を開いた。

 この人、割とお人好しそうなんだけど結構強いんだよね。

 

「おれはクリーク海賊団のギンって者なんだが……、あんたたちも海賊なんだろ? 目的はあんのかい?」

 

 ギンは私たちに海賊としての目的を聞いてきた。人の目的なんて興味あるものなのか? いまいち理解できない。

 

「おれはワンピースを目指してる。偉大なる航路(グランドライン)へ入るんだ!」

 

「私は父親がそっちに居るからね。会いに行くのが目的だよ」 

 

 私たちはグランドラインを目指すことをギンに伝えた。

 

「コックを探してるくらいだからあんまり人数揃っちゃいねェんだろ?」

 

 ギンは私たちの様子から少人数だということを見抜いた。

 

「今こいつで5人目だ!」

 

「何でおれが入んだよ!」

 

「まぁまぁ、少しくらい考えてもいいじゃないか」

 

 ルフィの図々しい発言にサンジはすかさずツッコミを入れる。私は彼を抑えて、前向きに考えてもらえるように頼んだ。

 まぁ、今の段階じゃ無理だろうけど。

 

「悪いやつらじゃなさそうだから忠告しとくが――、グランドラインだけはやめときな。あんたらまだ若いんだ。生き急ぐことはねェ。グランドラインなんて世界の海のほんの一部にすぎねェんだし海賊やりたきゃ海はいくらでも広がってる」

 

 彼は真顔でグランドラインに行く私たちを止めた。なんか、自殺を止めようとするオジサンみたいだ。

 

「へーそうか……、なんかグランドラインについて知ってんのか?」

 

「――いや何も知らねェ……。何もわからねェ、だからこそ怖いんだ――!」

 

 ルフィの言葉にギンは怯えたような仕草をする。よほど、《鷹の目のミホーク》にトラウマを与えられたんだろうな。

 

 しかし、ツイてないのは間違いないな。グランドラインに着いて早々ミホークに狙われるなんて、スライムが出てくると思ってたらバラモスが出てきたようなもんだ。

 

「あのクリークの手下ともあろう者がずいぶん弱気だな」

 

「クリークって?」

 

 サンジの言葉にピンと来ないルフィ。彼はクリークのことなんて知らないに決まってる。

 

「ルフィ、首領(ドン)クリークだよ。東の海(イーストブルー)で最強の戦力を持つと言われてる海賊さ。その艦隊の総数は50隻ほどで確か1700万ベリーの懸賞金がかかってたはずだ」

 

 私はルフィに一応クリークについて説明をした。多分、1ミリも理解してくれないだろうけど……。

 実際、50隻って凄い数だ。でも管理とかも大変そう……。

 

「ほう、あんたは詳しいんだな」

 

 ギンが私の方を向いてそんなことを言う。そりゃあ賞金稼ぎやっていたし。

 

「船長がこんな感じだから、色々とね……」

 

 私はそう言って誤魔化した。元賞金稼ぎなんて言ったら絶対に警戒されるから、黙っておくにこした事はない。

 

 その後、ルフィがどうしてもグランドラインに行くと宣言したり、料理長のゼフがサンジを注意したりした。

 

 サンジは本当に気のいい男で、怒られているのに、ギンに小船を渡して海に帰してやろうとしていた。

 

 

「悪ィな、怒られるんだろ……、おれなんかにただメシ食わせたから」

 

 親切にしてもらったギンはサンジに申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「なーに――怒られる理由と証拠がねェ」

 

 爽やかな顔で食器を海に落とすサンジ。この感じはやはりカッコいい。

 ギンもサンジの行為に心を打たれたのか、ずっと土下座しっぱなしだった。

 

 やはりサンジは私たちの一味に必要だ。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 さて、それから2日くらい経った訳だが、やっぱりサンジはなかなか折れてくれない。

 それにはやはり料理長でありオーナーのゼフの存在が大きいようだ。

 そりゃそうだ。彼はサンジの命を救った大恩人。

 彼に報いる義務みたいなものがサンジの胸の中にあるのだろう。

 まぁ、だからこそサンジのような人間を仲間として欲しいわけだけど……。

 

 しかし、そろそろだろうな。ギンが彼を連れてくるのは――。

 

 

 予想通り、この日の昼間、巨大なガレオン船が海上レストラン『バラティエ』の前にやってきた。

 私たちはメリー号からその様子を見ている。

 

「あの海賊旗はクリーク一味のものだよ。ルフィ……。彼もまた海賊王を目指してるんだ」

 

「ちょっと待て! 海賊王になるのはおれだぞ!」

 

 私がクリークのことを話すとルフィは首を伸ばしてそう言ってきた。

 

「あはは、分かってるさ、ルフィ。さて、クリークは何のために海上レストランに来たんだろう? 少なくともギンの恩返しじゃないだろうね」

 

「ええーっ! 違うのか〜!?」

 

 私はルフィにクリークの目的について疑問を投げかけてみた。どうやら彼はクリークが恩返しに来たと考えてたみたいだ。

 

「海賊の目的なんざ、略奪に決まってる。そう言いたいんだろ? ライア」

 

「そうだね。私の聞くクリークの人となりだと、その可能性が高そうだ」

 

 ゾロの言葉を私は肯定する。

 

 そのとおり、クリークはバラティエ自体を乗っ取るつもりでやってきたんだ。

 

「そっか、じゃあおれ見てくるよ! クリークって奴!」

 

 ルフィはそれだけ言うと、腕をバラティエまで伸ばして、レストランの中に行ってしまった。

 

「ったく、すぐに行っちまった。どうする? おれらも行くか?」

 

 ゾロは戦闘の気配を感じ取って、ルフィを追いかけようとした。

 

「よし。私も行こう。ナミはどうする?」

 

「えっ? 私? 嫌よ、パスに決まってるじゃない。怖いもん」

 

 ナミはいつもどおりの仕草でバラティエに入ることを拒否した。

 しかし、彼女の目はどこか寂しそうだった。

 

「――わかったよ、ナミ。じゃあ、君には船番を頼む」

 

「うん、任せて。ライア」

 

 ナミは私の言葉に返事をした。目は合わせてくれなかったけど……。

 そっか、やっぱり君は――。

 

 

 私はゾロと共にバラティエに向かった。そして――。

 

「すまない、ゾロ。船に忘れものをしたんだ。先に行っててくれないか?」

 

「なんだ、また忘れものか? 仕方ねェやつだな」

 

 彼は少しだけ呆れたような顔をしたが、一人でレストランに入って行った。

 さて、忘れものを取りに行かなきゃ。

 

 

 

 私は再びメリー号へと戻って行った。

 

 

 

「――おや、随分と高額な賞金首の手配書じゃないか。どうしたんだい?」

 

「――きゃッ! らっ、らっ、ライアッ!? なんであなたがここに? だって、レストランに行くって……」

 

 手配書を眺めていたナミは私が後ろから声をかけると跳び上がって驚いた。

 

「ちょっと忘れものをしてね。戻って来たんだよ」

 

「へっ、へぇ。そうだったの。じゃあ、早く取りに行きなさいよ」

 

 顔を引きつらせながら、彼女は私を見ていた。どうやら、かなり動揺させてしまったらしい。

 

「まぁ、焦らなくてもいいさ。ルフィもゾロも私なんかより強いんだから。しばらく君と雑談でもしたら行くとするよ」

 

 私は努めて笑顔を作って彼女と話をした。

 

 ナミはここで私たちを裏切ってアーロン一味の元に戻ろうと考えてる。メリー号を奪って……。

 それを私は止めに来た。エゴなのかもしれないが、放っておけなかったのだ。

 

「その賞金首、知ってるよ。魚人海賊団、《ノコギリのアーロン》、2000万ベリー。東の海(イーストブルー)の最高額だ。なぜ、君がそんなものを?」

 

 私はナミに質問した。意地悪な質問を……。

 

「元賞金稼ぎだけあって詳しいのね。別に意味なんて無いわよ。随分と高い賞金首だと思って眺めていただけだもん」

 

 彼女はやれやれというようなポーズを取って誤魔化そうとしていた。

 まぁ、簡単に話してくれるとは思わなかったけど……。

 

「そっか、わかったよ。――そういえば前にルフィにさ、海賊のイメージが悪いって話をしたのを覚えてる?」

 

「言ってたわね。そんなこと」

 

 私がナミに以前の話を振ると、彼女は覚えてるみたいで首を縦に振った。

 

「このアーロンのやり方は噂になっててね。彼は縄張りの町や村を支配してるそうだ。長い間、ね。その町村の人はそれは高額な貢金を納めさせられ、出来ない人が一人でも居たら町を壊滅させるくらいのことはやってるらしい。その上、海軍に賄賂まで渡して、手を出せなくしてるみたいなんだ。噂だけど、ね」

 

 実際、そこまで具体的な噂は聞いたことないけど良いだろう。私は嘘つきなんだから。

 

「そ、それがどうかしたの? だから、アーロンなんて知らないって言ってるでしょ!」

 

 その声は悲痛な気持ちが伝わるほど、か細く聞こえた。

 私は彼女のトラウマを抉っているのではないか? 罪悪感で胸が締め付けられそうになる。

 

「もう一つ話をしようか。魚人海賊団には一人だけ人間が居るみたいなんだ。女性がね。それでこの前、君が着替えてるときにふと見えちゃったんだよね。君の左肩にアーロン一味のトレードマークがあるのを」

 

 私がそう言うと、彼女はハッとした顔で左肩を右手で庇うように押えた。

 まぁ、着替えなんて覗く趣味はないから嘘なんだけど……。

 

「ライア……、やっぱり私をいやらしい目で見てるんじゃないの?」

 

「今は君の精一杯の冗談に応える気はないな」

 

 ナミはわざと戯けたような声を出したが、私は真っ直ぐ彼女を見据えて、話を変えさせなかった。

 

「――ったく。その目で見つめるなって何回言ったらわかるのよ」

 

 彼女は顎に手を置いてそっぽを向きながら、悪態をつく。

 

「そうよ。私は魚人海賊団の幹部なの。認めるわ。はい、これで満足かしら? で、私は出ていけば良いの?」

 

 そして、ヤケになったような口調で魚人海賊団に所属していると話した。

 

「出ていくなんて言わないでくれよ。寂しいじゃないか」

 

「はぁ? 私を追い出したいから、追及したんでしょ? アーロンの部下となんか、誰も居たいとは思わないわよ」

 

 ナミは両手を広げて訳がわからないというような仕草をとった。

 私のほうがわからないよ。君を追い出したいなんて思ってもないから――。

 

「追及した理由は、君を助けたいからだ。仲間としてね……。そして私は君と居たいと思ってる! 関係ないよ、君の立場も過去も全部。ルフィたちもきっと同じ気持ちさ」

 

 私はナミに感謝している。あのとき、出会ったばかりの私の頼みを聞いてくれた。

 カヤを守って一緒に居てくれた。自分の命が危険になる可能性があるにも関わらず。ルフィたちみたいな戦闘力もないのに……。

 

 要するに私は恩返しをしたいのだ。

 

「もう、顔が近いわよ……。私は別に助けてほしいなんて――」

 

「海賊を嫌っている君が何もないのに魚人海賊団に入るわけないだろう? 脅されてると考える方が自然だよ」

 

 海賊嫌いを公言していて海賊をやってるという矛盾があるなら、そういう答えが見えてくる。

 

「はぁ、何でもお見通しなのね。あなたのそのキレイな瞳は……」

 

 ナミは私の髪を触りながら、ジッと私の瞳を見ていた。目を合わせるなって言ってたから気をつけてたのに……。

 

「――そうよ。私はアーロンに飼われている。故郷の村をあいつが支配してるから……。あとは言わなくても分かるでしょ?」

 

 諦めたようにナミはアーロンに村が支配されているのを引き合いにされて、今の立場にあると話した。

 

「うん、大体は察しがつくよ。じゃあ、私たちがアーロンを――」

 

「――それは絶対に止めて! 私、あなたたちを良い奴らだと思ってる。本当よ! だから、死んでほしくないの! 大丈夫よ。私は助かる見込みがあるの。もう少ししたら……」

 

 ナミは真剣な顔で私の言わんとすることを否定した。彼女の助かる見込みは一億ベリーをアーロンに支払って、村を買い取る事なのだろうが、あいにくその約束を彼は守る気がない。

 

 でも、それを言っても無駄だし、彼女は聞かないだろう。

 

「死んでほしくない、か。君の気持ちはわかるよ。でもね、君はルフィのことを見くびってる。彼は強いし、君のためなら命懸けで勝利を掴むことが出来る男だ。ナミ、私もこの話を聞いたからには引くわけにはいかないんだ。だから、1つ私とギャンブルをしないか?」

 

 私はナミに賭けをしようと持ちかけた。彼女にウチの船長を頼ってもらうようにするために。

 

「ギャンブル? いきなり何を言ってるの?」

  

 ナミは私の髪を触るのを止めて、首を傾げて不思議そうな声を出した。

 

「これから、ルフィは必ず首領(ドン)クリークと戦う。彼もまた、アーロンに匹敵する1700万ベリーの賞金首でこの海では最強の一角とされている。私は一対一でルフィが勝つ方に賭けよう。私が賭けに勝てば、君はルフィに助けを求めるんだ」

 

 私はルフィの実力をもっと知ってもらうために彼女にこのような提案をした。

 

「じゃあ、私が勝ったらどうしてくれる気なの?」

 

 ナミは私が賭けるモノについて尋ねてきた。

 

「そうだな。君が勝ったらこのメリー号を君にあげよう。私がこの船を賭ける意味はわかるよね?」

 

 私はある意味、命よりも大事なこの船をギャンブルの賭け金に選んだ。そうでもしないと、本気さが伝わらないと思ったから。

 漫画通りルフィが勝てなかったら、死ぬほど間抜けだとわかっていながら。

 

「――ライア、あなたってすっごくバカなのね。だけど……、そのバカな賭けに乗りたくなっちゃった。いいわよ。私が勝ったらこの船をホントに貰うから後悔しなさい」

 

 ナミに私の本気さが伝わったのか、彼女は賭けに乗ってくれた。バカとは心外だな……。

 

「わかってるよ。そのかわり私が勝ったら、約束を守ってくれ」

 

「――っ!? わかったわ……。あいつらにも話すって約束する……」

 

 ナミは少しだけ迷って首を縦に振った。

 

 こうして、ルフィの知らぬところで彼は私とナミの賭けの対象になった。

 ルフィ、お願いだから勝ってくれ。 

  

 と、そんなことを思っていたら……。今までに感じたことがないくらいの巨大な気配の接近を私は感じ取ったのだった――。

 

 




ということで、ナミも一緒にクリーク戦を見守ることとなりました。その前にミホーク戦がありますが……。


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鷹の目のミホーク

いつも、誤字報告や感想をありがとうございます!
そして、アンケートにお答え頂いてありがとうございます!
1日で思った以上の量の回答が得られましたので、ここで締めさせて頂きます。
結果は以下の通りになりました。

(492) いる
(1247) いらない

よって、タグはいらないという回答がかなりの割合でしたので、付けないでおくことにします。
しかし、その代わりのタグとして、感想に書いていただいた《天然女たらし》や《ヒロインはカヤ》に加えて《イケメン女主人公》を付けさせてもらうことにしました。
それでは、よろしくお願いします!


「――こっこんなにも、強いっていうのか……」

 

 私は迫りくる気配を感じて膝から崩れ落ちそうになった。

 なんだ、この力……? ルフィたちや、クリークとは比較にならないほどの凄まじい力を感じる……。

 

 この力の正体は《鷹の目のミホーク》のモノに違いない。

 今日、彼が来るのは知っていたけど、ここまで規格外の大きさの力だったとは――。

 まだ、かなり距離があるのに、心臓が握り潰されそうだ。

 

「ナミ! 船をあのガレオン船から離すぞ! ジョニー、ヨサク、船を動かすのを手伝ってくれ!」

 

「船を動かすって、どうしてよ?」

 

「理由はすぐにわかる! とにかく早くするんだ!」

 

 クエスチョンマークを浮かべるナミを急かして、ゴーイングメリー号をバラティエの前に動かして避難させる。

 

 こうしてる間にもミホークの気配はドンドン近づいてくる。おそらく、あと10分以内に到着する。

 私は初めてグランドラインの大物のレベルを感じていて、このレベルが集まる頂上戦争を想像していた。

 ああ、私は普通に世界一派手な自殺の方法を実践しようとしているんじゃあないだろうか……。

 

 そんなことを考えてる間に、バラティエから食料を持ったクリークが自分の船に戻ったりしていた。

 この間にナミと一緒にバラティエの中に行くか……。

 

「うん、この場所なら安全だ。よし、ルフィたちのところに行くぞ」

 

「これからあいつら、クリーク一味と戦うんでしょう? 近づくの怖いんだけど」

 

 私は間近でルフィたちの戦いを見ようと、ナミを誘った。しかし、彼女はあまり乗り気ではないみたいだ。

 

「大丈夫、怖くないよ。私が君を守るから……、どんなことがあってもね」

 

「ライア、あなた……」

 

 私がそう言うと、ナミの肘鉄が私の胸に突き刺さる。

 

「だからそれを止めろって言ってんのよ!」

 

「――痛いじゃないか」

 

 目を閉じて、真っ赤な顔をして彼女は苦言を呈する。

 そんな、思ったことを素直に言っただけなのに……。

 

「それにしても……、あなたホントに女の子なのね……」

 

「肘で胸をグリグリしながら、しみじみ言うのやめてくれるかな? 誰もが君みたいな素敵な体形に成長するわけじゃないんだよ」

 

 ナミの今さらな一言に私は苦笑いして答えた。

 何それ、嫌味なの? 別に悔しくないんだからね。

 

 そんな会話をしながら私とナミはバラティエへと入って行った。

 

 

 

 中へ入るとサンジから熱烈な歓迎を受けたり、ゾロやルフィからは遅いと怒られたりしたが、戦慄したムードは消えなかった。

 サンジはナミが入ってきた瞬間、天使が戦場に舞い降りたとか言ったのには笑っちゃったな。

 

 そして、クリーク一味のギンはグランドラインのトラウマについて口にしていた……。

 

「そりゃあ……、鷹の目の男に違いねェな……。お前がその男の目を鷹のように感じたかはどうかは確かに証拠にならねェが、そんな事をしでかす事そのものが奴である充分な証拠だ……!」

 

 料理長であり、元海賊で《赫足》と呼ばれていた男、ゼフがギンの話を聞いて推測を話した。

 

「鷹の目……、恐らくジュラキュール・ミホークだね。そりゃ、クリークは運がなかった」

 

「ライアー、知ってんのかァ? どんなやつなんだァ?」

 

 私は彼の言葉を聞いて、名前を口にするとルフィは興味がありそうにこちらを見ていた。

 

「おれの探してる男さ……」

 

 そんなルフィにゾロはミホークを探してる男だと宣言する。そう、このミホークは世界一の大剣豪。

 要するにゾロが目標にしてる男なのだ。

 

 

「――艦隊を相手にしようってくらいだ。その男、お前らに深い恨みでもあったんじゃ?」

 

 サンジはギンに恨まれるようなことをしたのではないかと質問する。

 

「そんな憶えはねェ! 突然だったんだ」

 

「昼寝の邪魔でもしたとかな……」

 

「ふざけるな! そんな理由でおれ達の艦隊が潰されてたまるか!」

 

 ギンは突然やられたという物言いに、ゼフが一言かけると、彼は激昂した。

 

「そうムキになるな。もののたとえだ。偉大なる航路(グランドライン)って場所はそういう所だって言ってるんだ」

 

 ゼフはグランドラインの理不尽さを語ってるだけだと言った。実際、そのとおりなんだろう。

 ミホークはマジで暇つぶしだったみたいだし。

 

「何が起きてもおかしくねェってことだろ」

 

 ゾロがゼフのセリフの真意を捉える。

 

「くーっ! ぞくぞくするなーっ! やっぱそうでなくっちゃなーっ!」

 

「あなたはもっと危機感を覚えなさい!」

 

「怒ってるナミさんも素敵だァ!」

 

 喜ぶルフィに危機感の無さを注意するナミ。サンジは平常運転みたいだ。

 

「でもこれでおれの目的は完全に偉大なる航路(グランドライン)にしぼられた。あの男はそこにいるんだ!」

 

「ばかじゃねェのか。お前ら真っ先に死ぬタイプだな」

 

 ゾロが嬉しそうにグランドラインを目指すと言うと、サンジはそんなゾロをバカ扱いする。

 

「当たってるけどな……、バカは余計だ……。剣士として最強を目指すと決めた時から命なんてとうに捨ててる。このおれをバカと呼んでいいのはそれを決めたおれだけだ」

 

 しかし、ゾロは野望のためなら命は惜しくないと語る。そう、この人は本当に口だけじゃないから恐ろしい。

 

「あっ! おれもおれも」

 

「こういう人たちだからさ、なんかほっとけないんだよ。だから、私も共に旅をしてる」

 

 そして、もちろんルフィだって、まっすぐに死を受け入れるくらいの覚悟は持っている。だから私は彼らの助けがしたいのだ。

 

「ライアちゃん……。いや、おれにはわかんねェよ」

 

 サンジは私の顔を見て、そして彼らが理解できないと言った。やはり、実際の彼らを見ないと何とも言えないかもしれない。

 

 

「おいおい! このノータリン共! 今のこの状況が理解できてンのか!? 今店の前に停まってんのはあの海賊艦隊提督首領(ドン)・クリークの巨大ガレオン船だぞ! この東の海で最悪の海賊団の船だ! わかってんのか!? 現実逃避はこの死を越えてからにしやがれ!」

 

 以前、空腹時のギンをボコボコにした、コック。名前はパティというらしいが、彼が話を現実に戻した。

 目の前にクリークの船があるから、至極まっとうな意見だよね。でも、そのガレオン船もそろそろ……。

 

 私の見込みどおり、ちょうどクリークの一味がこちらに向かってくる瞬間に轟音が鳴り響いた。

 

「――何、なにが起こったの? なんであの大きなガレオン船が真っ二つに……?」

 

 ナミは外で起きた異様な光景が信じられない様子だった。

 

「斬られたんだよ。ズバッとね……」

 

「斬られた? 何をバカなことを? そういえば、あの辺りってさっきまで私たちが居た……」

 

 巨大ガレオン船が斬られたというと、ナミは信じられないという表情とともに大事なことに気付いたみたいだ。

 

「うん、まさかここまでの事が起きるとは思わなかったけど。とんでもない力の持ち主が近づいてくるのが分かったから、船を遠ざけたんだ」

 

 私は船を移動させた理由を話した。

 

「ライア、ちょっといい?」

 

「へっ? ――痛いッ!」

 

 ナミが私の額にチョップする。結構強めに……。

 

「あんなことする奴が近づいてるなら、どうして逃げ出さなかったのよ! ここに居たら意味ないじゃないの!」

 

「あー、そういえば! 君は頭がいいんだね」

 

 確かにナミの言うとおりだ。私はミホークの目的を知ってるから呑気にしてたが、実際は即撤退が正しい判断だろう。

 漫画の知識にばかり頼っていると想定外の事態にやられる可能性もあるかもしれない。

 これは戒めなくては……。

 

「バカッ! このバカライア! 約束守りなさいよね!」

 

「約束?」

 

 ナミが怒りながら私に顔を近づけた。文字通り目と鼻の先くらいの近さまで。

 

「私を守るって約束よ」

 

「ああ、当たり前じゃないか。何があっても、君は守ってみせるよ。天に誓ってね」

 

 私はここまで付き合ってくれたナミを何としてでも守るつもりだ。私のエゴに付き合ってくれたんだから。

 

 

「――――はっ! そっ、そうよ。キチンとするのよ。約束なんだから」

 

 ナミはしばらくの間ボーッと私の目を眺めてたかと思うと、約束を守れと念を押した。

 そして、自分の顔を両手で2回くらい叩いて首を横に振っていた。

 やはり、クリークや鷹の目が怖いんだろうな……。

 

 

 そんなやり取りをして、私たちが外に出ると、既にゾロが鷹の目のミホークに喧嘩を売りつけているところだった。

 

「おれはお前に会うために海へでた!」

 

「――何を目指す」

 

「最強ッ!」

 

 ゾロはミホークと対峙して、目標を問われてそれに返事をする。黒いバンダナを頭にまいて……。

 

 おや、いつの間にかジョニーとヨサクもこっちに来ていたか。まぁ、あんな音がしたら無理はないな。

 

 クリークたちも三刀流から、ゾロの正体を察したようだ。

 

「ヒマなんだろ? 勝負しようぜ」

 

「哀れなり、弱きものよ……。いっぱしの剣士であれば剣を交えるまでもなくおれとおぬしの力の差を見抜けよう。このおれに刃をつき立てる勇気はおのれの心力か……、はたまた無知なるゆえか」

 

「おれの野望ゆえ――そして親友との約束の為だ」

 

 ゾロの凄まじい殺気をそよ風程度にしか感じてないような、ミホークの余裕そうな態度。

 やはり最強の剣士の風格はとんでもない。この距離ならさらに理解できる。ゾロとミホークの気が遠くなるほどの力の差が……。

 

 

 ゾロとミホークの戦いが始まった。彼は東の海の相手如きにはナイフだけで十分だと言い放ち、実際にそれだけでゾロをあしらっていた。

 

「嘘でしょ、あのゾロがまるで子供扱い……」

 

「いや、それ以上の差だよ。ナミ……。あのゾロの鬼斬り……、一度撃たれた私ならわかる。アレはナイフで止まるような技じゃない……」

 

 三本の刀とナイフのぶつかり合いから、伝わるのは絶望――。誰が見ても実力の差ははっきりしていた。

 

 

「何を背負う? 強さの果てに何を望む? 弱き者よ……」

 

「アニキが弱ェだと! このバッテン野郎ォ!」

「てめェ思い知らせてやる! その人は――」

 

「やめろ手ェ出すなヨサク! ジョニー! ちゃんとガマンしろ――!」

 

 ミホークに対して斬りかかろうとするジョニーたちをルフィは取り押さえる。自分も飛び出したいのを必死で堪えて……。

 

「ルフィ……、なんであそこまで……」

 

「汲んでいるのさ。私がクロと戦っているときもそうだった。彼はそういう男だ」

 

 そんな様子をハッとした表情で見ていたナミに私は彼の心情を語る。ルフィはあの時も力強く見守ってくれていた。

 

 

「虎――狩りッ!」

 

 ゾロの決死の必殺技も虚しく、彼の胸に深々とミホークのナイフが突き刺さった。

 

「このまま心臓を貫かれたいか、なぜ退かん?」

 

「さァね……、わからねェ……、ここを一歩でも退いちまったら何か大事な誓いとか約束とか……、いろんなモンがヘシ折れてもう二度とこの場所へ戻って来れねェような気がする……」

 

 ゾロがまったく引かないことに初めてミホークの表情が変わった。

 

「そう。それが敗北だ」

 

「へへっ……、じゃなおさら退けねェな」

 

「死んでもか……?」

 

「死んだ方がマシだ」

 

 ゾロは敗北よりも死を取ると断言した。まったく、この死にたがりが……。本気で言ってるから質が悪い……。

 

 

「小僧……、名乗ってみよ」

 

「ロロノア・ゾロ……」

 

「憶えておく。久しく見ぬ強き者よ。そして剣士たる礼儀をもって世界最強のこの黒刀で沈めてやる」

 

 ミホークはゾロを敵として認めて、ついに剣を抜いた。アレが……、ミホークの剣……最上大業物――《夜》か……。

 威圧感がさらに増したように感じる。

 

 ゾロは精神を集中しながら構えていた。

 

「散れ!」

  

 ミホークが間合いを詰めて剣を振り下ろす。

 

 ゾロはそれを大技をもってして受けようとしていた。

 

「――三刀流奥義! 三・千・世・界!」

 

 彼のこの技は私が今まで見た彼の剣技の中でもっとも力強く見えた。目を奪われるほどに美しい剣技だった。

 

 しかし、ゾロは斬られた上に、親友の形見の刀である《和道一文字》以外は粉々に砕かれてしまった。

 

 そして、彼は振り向いて正面からミホークを見据えた。

 

「何を……?」

 

「背中の傷は剣士の恥だ」

 

 彼はニヤリと笑ってそう言い放つ。最後までこの男は……。

 

「見事」

 

 ゾロはミホークに胸を斬られて、海へと沈んだ。

 私は気付いたら、ナミをサンジに任せて海へと飛び込んでいた……。

 ゾロ……、当然、無事だよな……?

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ゾロは何とか無事だった。そして、ルフィに向けて「もう二度と敗けない」と誓いを述べる。すると、ミホークは満足そうな顔をして去って行った。「この俺を超えてみよ」という言葉を残して……。

 

 私はジョニーとヨサクにゾロをメリー号へ運んで、応急処置をするように指示をして、バラティエの開かれた足場である《ヒレ》の上に舞い戻った。

 

 そして、遂にクリークたちとの戦闘が始まった! 

 

 ルフィはクリークに狙いを絞って戦いを挑んでるみたいだ。ナミとの賭けもあるからクリークは彼に任せよう。

 

 サバガシラ1号とかいうのが吹き飛ばされたのを皮切りに続々と海賊たちがこちらに攻め込んで来たのだ。

 

「さて、と。久しぶりに暴れさせてもらおう。ナミ、君は下がってな」

 

「言われなくても下がるわよ」

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を構えて、侵入して来ようとする海賊たちを次々と海に撃ち落とした。

 

「こういう勝負の場合、銃は有利だよね」

 

「ライアちゃん、やるな〜。惚れ直したっ! 素敵だっ!」

 

「やだ……、素敵だなんて……」

 

 海賊を撃ち落としていた私はサンジの一言に危うく撃ち落とされそうになる。

 

「あの銀髪と赤い銃……! まさか、あいつ《魔物狩り》!?」

 

「血も涙もない……、凶暴な賞金稼ぎがなんでここにっ!」

 

「《海賊狩り》の次は《魔物狩り》かよっ!」

 

 クリーク一味の一部は私に気がついたみたいだ。えっ? ホントに凶暴って噂になってるの?

 

「次はそこだっ!」

 

 そこはかとなくショックを受けながら、私はヒレに上がってくる気配を察知して銃弾を放つ。

 

 しかし、私の銃弾は見事に弾かれてしまった。

 

「ハァーッハッハッハハ! てっぺき! よって無敵!」

 

 体中が盾に覆われている伊達男、鉄壁のパールが私の前に立ち塞がってきた。

 うーん。ちょっと相性が悪いかもしれないなー。

 




ミホークとの戦闘は原作と同じなのでライアとナミの会話を多めにしました。
そして、ライアのバラティエ編の相手は鉄壁のパールです。
次回もよろしくお願いします!


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ライアVS鉄壁のパール

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回はライアとパールの戦いからスタートです!
それではよろしくお願いします!


「ハァーハッハッハ! 君の活躍もこれまでだ。おれの殺人パンチ、パールプレゼントを食らうがいいッ!」

 

 パールは手に付いた盾で殴りかかってきた。見た目によらず、結構スピード速いな……。

 

「――へぇ、面白い技だね……。当たると痛いんだろうな」

 

 私はバックステップでパールの一撃を躱して、銃弾を放った。

  

「――ッハ! 貧弱な攻撃だねぇ、どうも。首領(ドン)クリークのような武力ならともかく。そんなチンケな銃でおれを倒すなんざそりゃ無理だ」

 

 パールは自慢の盾で私の銃弾を防ぎつつ、パンチを繰り出し攻めてきた。

 やはり硬い。そして、攻撃力も高い。多分、一撃でも受けたら結構効いちゃう。

 

「チンケな銃とはずいぶんな言い様じゃないか。これでも、結構気に入ってるんだ。悪いが、君もこの銃で、仕留めさせてもらうよ」

 

 私は銃弾を繰り出しながらパールの言葉にそう返した。

 どうやって仕留めるとかは今から考えるけど……。

 

「仕留めるう? 君が、おれを!? 無理だねそりゃあ! おれは過去61回の死闘を全て無傷で勝ってきた鉄壁の男だ。おれは君の銃弾を防ぎ、全身を守りながら戦える。おれは戦闘において一滴の血も流したことがねぇ〜のよ。血の一滴たりともだ。無傷こそ強さの証! クリーク海賊団鉄壁の盾男パールさんとはおれのことよ。――おれはタテ男でダテ男だ。イブシ銀だろ」

 

 長々とした口上を述べたパール。61回の死闘を無傷で乗り越えて来たか……。そりゃ、自信満々になるよね。

 

「なるほど、その盾で全部守って来たということか……。わかった。じゃあ、その盾を壊そう。いろいろと考えたけど、それしか無さそうだ」

 

 私は次から次へと銃弾をパールに向かって放った。

 

「おれは軍艦の大砲でも正面から立ち向かうことができるんだ! そんな銃弾、何発受けようと効きはしない! ――パールプレゼント!」

 

 パールは自慢の右拳を振り下ろしてきた。

 

「待ってたよ。この瞬間を――。土色の弾丸(クエイクスマッシュ)ッ!」

 

 パールの振り下ろされた拳にカウンターの要領で銃口を密着させてから銃弾を発射させる。

 

 大きな破裂音と共に、私とパールは互いに吹き飛んだ。

 

「やっぱり、かなり痛いな。銃で受けたのに衝撃がもの凄い……」

 

 私は右手をさすりながらダメージを実感していた。

 

「――おっ、おれの盾が……。たかが銃撃で……」

 

 パールは弾け飛んだ右手の盾を見ながら愕然としていた。

 私は闇雲に銃弾を撃っていたわけじゃない。

 彼は盾に関しては無防備だったので、同じ箇所をことごとく狙って微細なヒビを入れておいたのだ。

 

 そして、最後の一撃は《土色の弾丸(クエイクスマッシュ)》を使った。

 これは銃を密着させたとき限定で効果がある銃弾(もはや銃撃の意味合いが無い)で、超振動と共に銃弾が破裂する効果がある。私の数少ない近距離用の技なのだ。

 

 私はようやくパールの鉄壁とやらを破った。右手がめっちゃ痛いけど……。

 

「あっ、パールさんの腕に盾の破片が刺さって血が……」

 

「バカっ! 余計なことをいうな!」

 

「血だっ! ヤベェエ!」

 

 あれ? 血が出ると何か起きるんだっけ? クリーク一味の慌てぶりを見て、私は大事なことを思い出した。

 そうだった、この人血を見ると……。

 

「気を静めて下さい! パールさん!」

 

「おれの鉄壁がくずされた! コイツら危険だぜ!」

 

 パールは右腕の血を見つめながら目を見開いてそう言った。

 

「よせパール! たかが血でうろたえんじゃねェ! ここはジャングルじゃねェんだぞ!」

 

 ルフィと戦ってるクリークまでもパールを止めようとする。まぁ、彼はこの船を乗っ取るつもりだからそう言うだろうな。

 

「身の危険! 身の危険! 身のキケェーン!」

 

 左手の盾をガシガシと胸の盾に叩きつけながらパールは泣きそうな顔をして身の危険をアピールして――全身から炎を吹き出した。

 

「やべェ! 出ちまった! ジャングル育ちの悪いクセ!」

 

「猛獣の住むジャングルで育ったパールさんは、身の危険を感じると! 火をたいちまうクセがあるんだっ!」

 

 クリーク一味たちもこれには参ってるようだ。自分らも巻き込まれるから……。

 

「おれに近づくんじゃねーっ! ファイヤーパァ〜ル! 大特典っ!」

 

 パールは全身から火の玉を放った。火の玉が無差別に飛んでいき辺りの人間を襲う。

 迷惑な奴だな。それなら――。

 

「燃えろォ! この炎と炎の盾でおれはそりゃあもう超鉄壁だ!」

 

「ならば消火しよう。蒼い弾丸(フリーザースマッシュ)ッ!」

 

 私はパールの盾を狙って、冷気の弾丸を撃ち出した。

 すると冷気と炎が互いに打ち消し合い、パールの体を纏う炎が消えてしまった。

 

「ハァァァァ!? どうやっておれは危険から身を守れば――」

 

「危険が嫌なら海に出るなよ。危険だからこそ楽しい――。ウチのクルーはそういう連中だぞ、ダテ男――」

 

 私は動揺するパールの懐に潜り込み、銃口を胸の盾に付けた小さなキズに密着させる。

 

土色の銃弾(クエイクスマッシュ)ッ!」

 

 引き金を引いたその瞬間――パールの一番大きな盾が弾け飛んだ。

 

「必殺ッ――鉛星ッッ!」

 

 さらに私はパールの両肩を銃弾で撃ち抜く。あのパンチを打てなくするために。

 これで私が有利になるはず――。

 

「ハァーッ、ハァーッ、血ッ、血がこんなにいっぱい! かっ……、かっ……」

 

 そんなことを思っていたら、パールは自分の血がたくさん流れていることにショックを起こして、そのまま気絶してしまった。

 

「ぱ、パールさんがヤラれちまった〜ッ!」

 

 ふぅ、何とか倒すことが出来たけど、やっぱり体力がないからクタクタ……。

 

 と、その時である……。私の頭に向かって何かが近づく気配を感じた。

 これは……、クリークの鉄球? 避けなきゃ……、あっ、足がもつれて……。

 油断したところへの不意討ちに動揺して、私は体を上手く動かせずにコケてしまう。これはやばいかも……。

 

 私は覚悟を決めた。が、しかし鉄球は飛んでこなかった。

 

 

「レディにンなもん飛ばしてんじゃねェ!」

 

 なぜなら、サンジが蹴り技で鉄球を弾き返して私を守ってくれたからだ。

 

「大丈夫かい、ライアちゃん。すまねェ、おれらの店の為に……。立てるかい?」

 

 優しくサンジは私に手を貸して立たせてくれる。

 

「あ、ありがと……」

 

「ライアちゃんは少し休んどいてくれ。後はおれが……」

 

 そうサンジが声をかけてくれて、私はその言葉に甘えたくなったが、しかし……。

 

「――そこっ! やらせないよ!」

 

 私は振り向きざまにゼフに向けて弾丸を放った。

 

「ライアちゃん、なんでジジイに……!? なっ! ギンッ! てめェ!」

 

「ちっ、なんて腕してやがる!」

 

 私は背後からゼフに向かって突きつけようとしたギンの銃を弾き飛ばした。

 

「せっかく、平和的に話をつけてやろうとしたんだがな。あんた、この場の全員の命を危険に晒したんだ」

 

 ギンはこちらに歩きながら、そんなことを言う。やはり、腕には自信があるようだ。

 

「そうか、それは悪いことをした。私はそれなりに教養を積んでいると思っていたが、人質を取ることが平和的なんて知らなかったよ。君は単純に臆病なだけさ。クリークにも逆らえなきゃ、恩人のサンジを手にかけることも出来ない。ただ怖いから、卑屈な手段しか取れないんだ」

 

 ギンはサンジに命を救われた恩義があるけど、クリークの言うことは絶対だと思っている。

 要するに今の彼は板挟みなのだ。

 

「――くっ、そうかもしれねェな。おれにはサンジさん! あんたを殺す勇気はねェ! 聞いてくれ! 今、全員が船を降りたら、首領(ドン)クリークはおれが説得する。あんたらの命だけは見逃してくれるようにな! 命が助かるんだったらいらねェだろ、船なんか!」

 

 ギンはサンジを説得しようと声をかけていた。

 

「船を降りろ? やなこった。おれを殺す? 舐めんじゃねェぞ、下っ端! おれには死んでもこの船を降りねェ理由があるんだ。何を言っても聞けねェよ!」

 

 タバコを吹かせながら、サンジはギンを正面から見据える。

 

 

「そうか……、あんたには傷つくことなくこの船を降りてほしかったんだが、そうもいかねェようだな」

 

「あぁ、いかねェな。降りるなんざあり得ねェ」

 

 サンジとギンがにらみ合い一触即発の空気が流れている。

 

「だったらせめておれの手であんたを殺すことが……、おれのケジメだ」

 

「――ハッ……、ありがとうよ。――クソくらえ」

 

 サンジは吸っていたタバコの吸い殻をポイッと投げながらそう言った。

 

 そして――。二人の戦いが始まった。

 

 ギンがサンジに向かっていく。かなりのスピードだ。

 そして鉄球が付いたトンファーでサンジを殴りつけようとした。

 

 しかし、サンジは宙に高く舞い上がり、得意の蹴り技を放つ。

 ギンとサンジは一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「なっ、なんなんだ。このコック! 鬼神と呼ばれたウチの総隊長と互角だなんて」

 

「総隊長がやられたら、残るは首領クリークのみ! やべェぞ!」

 

 クリーク一味はサンジの強さに驚愕していた。

 

「どうしたギンッ!てめぇ、相手に手心を加えてるんじゃねェだろうな!」

 

 クリークもサンジに押されてきたギンにシビレを切らせて怒鳴り込んだ。

 

「お前の相手はおれだろッ!」

 

 しかし、そんなクリークも、いつの間にか近くまで詰め寄られたルフィからの攻撃を受けそうになっている。

 

「くだらねェ!」

 

 クリークは体中から銃弾を乱射してルフィの接近を許さなかった。

 こっちはまだかかりそうだな……。

 

 

 サンジとギンか……。確か、ギンってサンジに勝った上で彼を殺せないって言ってきて、怒ったクリークが毒ガスを撒いたんだよなー。

 

 

 しかしこの戦い、どう見てもサンジが押している。これはどういうことだ?

 

 あっそうか。私がパールを倒しちゃったから、その分のダメージが今のサンジには無いんだ。

 

 だったら、この勝負は見えている……。

 

首肉(コリエ)! 肩肉(エポール)! 背肉(コートレット)! 鞍下肉(セル)! 胸肉(ポワトリーヌ)!」

 

 サンジの蹴り技のラッシュがギンに次々と突き刺さる。

 

 そして――。

 

羊肉(ムートン)ショットッ――!」

 

 彼の必殺の蹴り技を受けたギンは回転しながら吹っ飛んで、ヒレに体を叩きつけられた。

 

 これで、決まりかな? そう思っていると、ギンはよろよろと立ち上がった。

 

「――ってェ……。痛てェよ、サンジさん……。はぁ、はぁ……、結局、ボコボコに……、されて……、少しだけ……、ホッとしちまってる……、自分も居るんだ……。そっちの(あん)ちゃんの言うとおり……、おれには……、あんたを殺す覚悟が……なかった……」

 

 息を切らせながらフラフラのギンはサンジに向かってそう言った。

 というか、そっちの兄ちゃんって、私のこと? 

 

「サンジさんから蹴られて……、あんたがどれだけこの店を守りたいかが、わかったよ……、おれとは違う……、真剣な覚悟だ……。おれとあんたとはそれが決定的に違ってた……。――大事なんだな? この店が命よりも……」

 

 今にも倒れそうなギンは、確かめるようにサンジに質問を投げかけた。

 

「――ふぅー。ああ、この店はジジイの夢だ。てめェらなんざに死んでも渡さねェよ……。ギン、まだやるか?」

 

 サンジはタバコに火を付けて煙を吐き出し、ギンの質問にそう返した。

 

「……いや、この勝負は悔しいがおれの負けだ。おれは自分にこれからケジメをつける……、首領(ドン)クリークッ!」

 

 ギンは声を張ってクリークに向かって話しかける。

 

 ちょうど、ルフィはクリークの鉄球によってこちらに吹き飛ばされたところだった。

 

 

首領(ドン)クリーク、この船を……、見逃すわけにはいかねェだろうか!?」

 

 なんとギンはクリークにこの船を見逃せないかと言いだした。結局、この人の心はそっち側に傾いたんだな。

 

「艦隊一忠実なお前が戦闘に負けるだけに飽き足らず! このおれに意見するとはどういうイカれ様だ! ギンッ!」

 

 クリークは大きな盾をこちらに向けている。あれには、猛毒弾《M・H・5》が仕込まれている……。

 まったく、何でもありなところは海賊らしい海賊だ。

 

「しかし首領――!おれ達は全員この店に救われて……」

 

「もういいッ! ギン、これから猛毒弾《M・H・5》を放つ。ガスマスクを捨てろ、てめぇはもうおれの一味じゃねェよ……!」

 

 クリークは毒ガスを使うからと、ギンにガスマスクを捨てるよう促した。

 

「おい、ライア。あいつ、何を言ってるんだ?」

 

 ルフィは状況が読み込めず私に質問をする。

 

「ヤツは毒ガスを使うつもりなのさ。猛毒のね……。クリーク一味はガスマスクを持ってるんだろう。ギンにはそれを捨てさせようとしてるんだ。彼を確実に殺すために……」

 

「あいつ……、仲間を殺そうとしてんのかッ!」

 

 そのセリフを聞いたとき、ルフィから発せられる何かが背中に突き刺さりドキリとしてしまった。

 仲間を殺そうとするクリークの非情さが彼の逆鱗に触れたのかもしれない。

 

「おれは首領(ドン)の意向に……、背いた……。これは報いだ……」

 

「おいっ! お前、何やってる!」

 

 ギンは観念した表情でガスマスクを投げた――。

 

 そして、その瞬間にクリークは猛毒弾《M・H・5》を放った。

 

 この事態は――想定済みだッ!

 

「必殺ッ――煙星ッッ!」

 

 

 《M・H・5》に向けて放った銃弾は共に砕け散り……。二種類の煙が辺りを覆った。

 ルフィ以外のみんなは海の中に避難したみたいだな。上手くいくか自信がないから良かった。ルフィもガスマスクをつけてるみたいだし……。

 

 

 そして、煙が晴れた後にクリークは驚きの声を放った。

 

「どういうことだッ! なぜ、ギンもそこの銀髪も倒れてねェ! 毒ガスを食らったんだぞ!」

 

 そう、私もギンも無事だった。なぜなら……。先ほど放った、私の煙星は《M・H・5》の中和剤だからだ。

 これは、賞金稼ぎをしていたときに、武器商人が売っていたものを買い取り弾丸から撃ち出せるように改良したものだ。

 海に出る前に何年もあったんだ。私が何の準備もしてないはずがない。

 出来る準備は出来る限りしておいたのだ。

 

 さぁ、後は頼んだぞ! 船長(ルフィ)

 




ライアのクエイクスマッシュはインパクトダイヤルみたいなイメージです。もはや銃撃じゃないとか言わないで……。

次回はルフィとクリーク戦からスタートです!


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首領クリークを打ち破れ

いつも、誤字報告や感想をありがとうございます!
海上レストラン編のラストです。
それではよろしくお願いします!


「なんだ?何も起こってねェみてェだぞ。ライア、お前はマスクしなかったのか?」

 

 ルフィは私がマスクを付けてないことに違和感を覚えたらしい。

 

「ちょっと、手が痺れて上手く掴めなかったんだ。ゴメン、ルフィがせっかく投げてくれたのに……」

 

 これは本当だ。まさかルフィが私の分までマスクを手に入れて投げてくれると思わなかった。念の為に拾おうとしたが、手が痺れてて掴めなかった。

 その上、銃も落としてしまって、まったくもって冴えない感じになってしまった。

 

「しかし、クリークの毒ガスは不良品だったみたいだな。時々あるんだよ。毒の効果が無くなった不良品が武器商人の間で出回ることが……」

 

 不良品が出回ること自体は本当だ。毒ガスは生成過程で毒の効果が打ち消されることも少なくなく、粗悪品がよく流通している。

 中和剤の説明が面倒なのでクリークが粗悪な毒ガスを使ったことにしちゃおう。

 

「ルフィ、どうやら私はこの辺が限界みたいなんだ。頑張れと言われれば頑張るけど、あのクリークを倒すのに助けはいるかい?」

 

 私はルフィに援護射撃がいるかどうか質問した。

 

「いらねェよ! あいつはおれがブッ倒す!」

 

 そう言い放つとルフィはクリークの元へと再び駆け出して行った。

 

「バカが、まるで学習していねェようだ。知能はサル以下みてェだな! 海に落ちたらてめェは終わりだ! ここがてめェの墓場となる!」

 

 クリークは爆弾で海の水を隆起させて目くらましをして、その上で無数の槍を盾からルフィに向かって飛ばした。

 

 しかし、彼は止まらない。愚直に前進し続ける。槍が体に刺さろうとお構い無しでクリークに突っ込む。

 

「だからどうした! この剣山マントに手ェ出してみろ!? どうだ! 手も足も――」

「ゴムゴムの――銃弾(ブレット)!」

 

「――ッ!?」

 

 クリークは棘だらけの冗談みたいなマントで身を包んだが、ルフィは剣山ごと思い切り彼を殴りつけた。

 クリークは吹き飛び地面に倒れる。

 

「ここは、おれの墓場か、お前の墓場だろ!? こんな針マントや槍なんかで、おれの墓場って決めんじゃねェ!」

 

 おびただしい量の血を流しながら、ルフィはクリークにそう言い放った。

 

 

「あのバカ、なんてことするのよ。あんな戦い方じゃ死んじゃうじゃない……」

 

 ナミは口に手をあててルフィの戦い方に驚愕していた。

 

「そうだね。まるで無茶苦茶な戦い方だ。理屈とか計算とかそういうのをまるで考えてない。だからこそ、ルフィの拳は幾千の武器にも勝る」

 

 ルフィの愚直さは理解を超えてる。しかし、理解出来ないものにこそ、人は恐怖する。果たしてクリークの目にはルフィはどう映っているのか……。

 

「ライアちゃんは、いいのかい? あんな無鉄砲が船長で。ありゃ死にに行ってる。肉を切らせて骨を断つどころじゃないぞ」

 

 サンジもルフィの戦い方が異常に見えてるようで、私に気を使うようなことを言ってくれた。

 

「良いも悪いもないよ。あんなことが出来るからこそ、私は彼の後ろに立ちたいんだ。保身を考えずに走ることが出来るからこそ、彼は強い。もちろん、出来る限り死なないようにサポートしたいけどね」

 

 私はルフィという人間に惹かれている。目的の為に付いていくだけというドライな感情はいつの間にか霧散していた。

 

「サンジ、そっちの姉ちゃんの言うとおりだ。ああいうのが、時々いるんだよ。敵に回すとこの上なく厄介。まぁ、おれはああいう奴が好きだがね」

 

 ゼフはルフィがさらにもう一撃クリークに入れるのを見ながらサンジにそう声をかけていた。

 

 ここから戦いはクライマックスに向けてヒートアップする。

 

 クリークが持ち出したのは大戦槍(だいせんそう)――槍で突き刺すと爆発を起こす、彼の切り札みたいだ。

 

 これにどうやってルフィは立ち向かったのかと言うと……。

 

「えっ!? なんで自分から!?」

 

 そう、ルフィは自分から槍に突っ込んで爆発を浴びていたのだ。

 これって、本当によく生きていられるな。無茶なのはわかっていたけど、思った以上に大きな爆発を大戦槍が起こしていたので、それでも動けるルフィの体力に私は手が震えた。

 

「がっ――バカなッ! てめェ! 何しやがった!」

 

 爆発の煙が晴れて、クリークは驚いた顔をしていた。なぜなら、大戦槍の槍の部分が粉々に砕けてしまっていたからだ。

 

「五発パンチを入れてやった! これで、お前をぶっ飛ばせる!」

 

 高らかにそう宣言したルフィ。

 ここからは彼の独壇場だった。

 

 クリークに対してラッシュを仕掛けるように無数のパンチを彼に与える。

 それでは効果が薄いと悟った彼は――。

 

「ゴムゴムの――! バズーカ!」

 

 クリークの爆弾をものともせずに、彼はゴムの特性を十分に活かした両手での掌撃を繰り出す。

 

「効かねェな! 所詮これがてめェの限界だ! だが、この最強の鎧にヒビを入れたコトは褒めて――」

「ゴムゴムの――!」

 

 クリークがセリフを言い終わらないうちに、ルフィは第二撃目を放つ。

 

「――バズーカッ!」

 

 その掌撃はクリークの鎧を完全に破壊して、彼の腹に深々とダメージを与えた。

 

 だが、これで終わりではなかった。クリークは網を飛ばして、ルフィを捕獲し、海の中に引きずり込もうとする。

 クリークのこの手数の多さは感心するな……。

 

 ルフィはというと、それでも諦めない。手足を網から出したかと思うと、足を伸ばしてクリークを捉え、ぐるぐると捻りを作り――。

 

「ゴムゴムのォォォォッッッッ! 大槌ッッッッ!」

 

 クリークを思い切り頭からヒレに叩きつけて、彼の意識を断ち切った。

 ルフィは見事に首領(ドン)クリークを打ち倒したのだった。 

 

 

 さて、ルフィを海の中から助けないと――。って、あれ?

 

 私がそう思うよりも先にナミは走って海に飛び込んでいた。

 

「ナミさん、なんで慌てて海に?」

 

「悪魔の実の能力者は海に嫌われてカナヅチになるんだ。彼がクリークに苦戦した一番の理由はそれだよ」

 

 ナミの行動に疑問を持ったサンジに私が答える。

 

「どうだい? サンジ……、ウチの船長(キャプテン)は中々に見所があると思わないか?」

 

 とりあえず、サンジの感触を確かめてみる。彼がルフィから感じ取ったものはどんなことか……、それが気になった。

 

「ああ、すげェやつだと思ったよ。野望のために命を張ってさ」

 

「じゃあ……、サンジも……」

 

「ごめんな。ライアちゃんが誘ってくれんのは本当に嬉しい。女の子の誘いを断るなんざしたくねェんだけど……、この店だけは――」

 

 サンジはものすごく悲痛な表情を浮かべて私の勧誘を断った。

 ゼフはそんな私たちを腕を組みながら見つめて、そして店へと戻って行った。

 

 その後、クリークは気を失いながら暴れだしたが、ギンが一撃を入れて再び気絶させ……、そして彼はクリーク一味を引き連れて小船に乗って帰って行った。

 

 ルフィはナミが助けて、重傷のゾロとともにメリー号で寝かしつけた。

 二人の応急処置は念入りに行ったので、とりあえずは大丈夫だろう。

 

 

 私は今日の戦いで使った銃のメンテナンスをしていた。うわぁ……、銃口の傷付き具合が半端ないな……。クエイクスマッシュは封印したほうが良いかもしれない。

 

「ライア、まだ休まないの?」

 

 同室で横になっているナミが私に話しかけてきた。

 

「ん? ああ、ごめんね。うるさかったかな?」

 

 私はナミの眠りの妨げになったと思い、片付けの準備をしようとした。

 

「ああ、いいのよ。気にしなくて……。あの、賭けのことなんだけどね。確かにルフィなら何とかしてもらえるかもって、思えたわ……」

 

 ナミは思い詰めた表情でそう言った。彼女にルフィのことがかなり伝わったらしい。

 

「でもね。それ以上に、ルフィが死ぬまで戦いを止めないんじゃないかって心配になった。私の為に命を懸けるなんて、そんなこと――」

 

「うん、君の言うとおりルフィはナミが困っているなら命を懸けると思うよ」

 

 ナミの言葉に被せるように私はそれを肯定した。

 

「だったら、私は――」

 

「賭けを反故にする。もちろん、私はそれを止めようがない。とりあえず私が出来ることは、ルフィより先に君のために命を懸けると約束することかな。一人で悩まなくても良いんだよ。仲間なんだ。命くらい張るさ」

 

 私はナミの震える手を掴んで、目をまっすぐ見ながら宣言した。

 

「――本当に私のために命を懸けてくれるの?」

 

 ナミは上目遣いで目を潤ませながら私を見つめた。 

 

「本当だよ。私の力は確かに微力だけど、本気でそう思ってる……」

 

 大きく頷いて私は答える。仲間というのはこういう関係だと私は思うから……。

 

 

「じゃあ……、キスして……」

 

「うん……、って、はぁぁぁ? 唐突に何を言ってるのかな?」

 

 急に意味がわからないセリフを言われて私の心臓は飛び出そうになった。どうしてそうなる?

 

「お願い、そうしてくれたら、勇気が出るかもしれないの……。大丈夫よ、キスくらい友達同士でもするもの」

 

「――えっ、そうかな? いやいや、しないって絶対に! そもそも、私にはカヤが居るって知ってるじゃないか」

 

 私の肩に手を回して顔を近づけてきながら、ナミはそんなことを言ってきたが、私には全く大丈夫な話じゃなかった。

 

「分かってるわ。だから、そんなに深い話じゃないのよ。少しだけ、慰めてくれれば良いの。仲間なんだから、それくらいは良いでしょ?」

 

「全然よくないよ……。――えっ、えっ、ほっ、本気なの?」

 

 ナミの唇が私の唇に向かってドンドン近づいてくる。

 

 そして――。

 

 

「――やーい、引っかかったわね」

 

「へっ?」

 

 彼女は私の鼻を人差し指で押して、悪戯っぽく笑っていた。

 

「あははっ、いつもドキッとさせられてるから、たまには仕返しをしてやろうと思ったのよ」

 

 ナミはヘラヘラと笑いながら種明かしをするようにそう言った。どうやら私は一本取られたらしい。

 

「まったく。悪い冗談はやめてくれ……」

 

 こっちは恥ずかしいやら、何やらで苦笑いするしかなかった。

 

「それにしても、あなたってそんなに抵抗しなかったわね。もしかしたら、そんなに嫌じゃなかった?」

 

 ニヤニヤした顔のナミを見ていると少しだけ悔しくなってきた。

 

「そうだね……、君の顔を見てると、そこまで嫌じゃなかったよ。ほらっ、目を瞑ってごらん、慰めてあげるよ」

 

「えっ? ちょっとライア……」

 

 私は今度はナミの口元に顔を近づける。ナミは目を本当に目を閉じた。だから――。

 

「んっ……、あっ……」

 

 

 

 

「あははっ、さっきの仕返しだ」

 

 私もナミがさっきしたように彼女の鼻を摘んでみせた。

 

「――ッ!? ライアのバカっ! もう、引き返せなくなったら責任取ってもらうからね!」

 

 同じことをやり返しただけなのに、ナミはかなり怒っていた。結局、彼女がどうするのか有耶無耶のまま私たちは眠りについた。

 

 

「こうやって、気兼ねなく話せるのも良いわね……」

 

 眠りにつく前にひと言、そう口に出した彼女の表情はとても穏やかだった。

 

 

 さて翌日になり、ルフィは驚異的な回復力でもうピンピンしていた。

 元気百倍って感じで大量の食事を口の中に掻っ込んでいる。

 

 しかし、順調なことばかりじゃない。私が変に漫画よりも出しゃばった弊害が起きていた。

 

 それは――。サンジが仲間になると言ってくれない……。

 

 ルフィはこの旅では海上レストランの雑用をやっていない。

 これは意外と大きな事みたいで、飽くまでも客と料理人の関係なので距離がそこまで詰められてなかったのだ。

 

 店を守ってくれた恩人ではあるが、そこまでであった。

 

 そして、もう一つは私がパールを倒してしまったことと、ゼフが人質にされるのを阻止したこと……。

 

 この行為自体はサンジの怪我が少なくて一見良かったように思えるが、これはこれで、他のコックたちへの心象が全然違って事が終わってしまったのだ。

 

 なぜなら、ボコボコにされながらも、ゼフの為に手を出さずに耐えるという過程を見せつけることで、彼の同僚たちにサンジがゼフのことを想っているということが伝わったのである。

 

 それが丸々カットされれば、サンジはホントに料理長の座を狙って居座ってる人だと少なからず思われたままになる。

 つまり、彼の門出を促そうとする動きが起きないのだ。

 

 この齟齬を何とかするのには苦労した。

 何故、サンジがゼフの元を離れないのかを聞き出しつつ、これを他のコックたちに聞かせ、それが伝言ゲームのように全員に伝わらせるということを頑張って実行した。

 

 そして、その間にルフィとサンジが二人きりで話す時間を作ったり、ナミに頼んでサンジの勧誘を手伝って貰ったりした。

 

 サンジはずっとオールブルーを探したいと思っていたから、本音では海に出たいはず。

 それでも、ゼフへの想いが強く、それを実行出来ずにいたのだ。

 

 最終的に呆れた顔をしたゼフに……。

 

「お嬢ちゃんも、麦わらも、そんなにあのチビナスがいいのかい? だったら、頼む、一緒に連れて行ってやってくれねェか。あいつの夢の偉大なる航路(グランドライン)に……」

 

 とまで言われてしまった。ルフィはサンジの意思がなきゃ嫌だと言っていたが、そのサンジはゼフのこの言葉をバッチリ聞いていたのである。

 

「お前の船のコック。おれが引き受けてやる。付き合ってやろうじゃねェか。お互いに馬鹿げた夢をみるもの同士。おれにはおれの夢のためにだ。いいのか、悪ィのか?」

 

「いいさー! やったな! ライア! サンジが仲間になるってよ!」

 

 サンジのこの宣言でようやく彼が仲間になった。

 おそらく漫画よりも数時間は出発が遅れたと思う。

 

 

「オーナーゼフ! ――長い間! くそお世話になりました! この御恩は一生! 忘れません!」

 

 サンジがゼフに土下座して挨拶を済ませたところで我々は出航した。

 

 そして、重傷のゾロもようやく歩けるようになり、全員がデッキに集まった。

 サンジの挨拶もそこそこに、ナミが手を上げて話したいことがあると言い出した。

 

 ここから、私たちの次なる冒険が始まるが、私はこれから思い知ることになる。漫画の知識など当てにならないということを……。

 

 まさか、アーロンパークであんなことが起こるなんて――。

 




次回からはアーロンパーク編が始まります!
戦闘シーンが終わって、少しだけ百合シーンがかけてほっこりしました。


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進路をココヤシ村へ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回からアーロンパーク編がスタートです。
それではよろしくお願いします!


「ルフィ、みんな……、私は偉大なる航路(グランドライン)には行けない……。行けないの……」

 

 ナミはゆっくりと私たちに告げる。グランドラインに「行きたくない」、ではなく「行けない」と……。

 

「ナミさんっ! まさか、どこか体調でも悪いんですか! おいっ! ルフィ! 医者だっ! 医者のいるとこ連れてくぞ!」

 

 こんな感じのナミを見て、サンジは彼女が病気だと勘違いをしてしまった。

 

「お、おう! 医者だなっ! なぁ、ゾロ! 医者ってどっちに行けばあるんだァ?」

 

「おれが知るか! 医者にかかったことなんざ一度もねェ!」

 

「そっかー! おれもそうなんだよなァ! あっはっは」

 

 なんか会話がおかしな方向に行っちゃってる。医者にかかったことないって……、もはや、身体構造から差があるんだな。

 

「笑ってる場合かクソ野郎共! だが、おれも知らねェ。なぁ、ライアちゃんは知ってるかい?」

 

 サンジは頭を抱えながら、今度は私に聞いてきた。

 

「いや、医者なら町に行けば大抵一人は居るものだよ。でもね、多分ナミは病気じゃない。何か言いたいことがあるのさ」

 

 私は彼女が言いだしやすいよう話した。

 

「言いたいこと?おーい、ナミ!なんだ、言いたいことって?」

 

 ルフィはナミに向かってそう尋ねた。そういえば、ルフィって人の話を聞く事あんまりなかったような……。

 

「お金が必要なのよ。ルフィ……。私が自由になるためには1億ベリー必要なの……」

 

 ナミは問題となっているお金の話を始めた。確かにココヤシ村をその値段で買い取るってアーロンと約束してる。そういうやり方で彼女は縛られてるんだ。

 

「1億ベリー?ライア、それって多いのか?」

 

「多いのか少ないのか、それは人によるけどね。ナミの価値が1億ベリーなら、私は安すぎると思うな」

 

 ルフィの発言に対して私は思ったままを口にする。仲間としての価値を度外視しても1億は安い。なぜなら彼女の才能は唯一無二。アーロンがたかが1億で自由にさせるはずがないのだ。

 

「そのとおりだぜ、ライアちゃん! おれだったらナミさんに10億、いや100億……っ! だっ駄目だ! 眩しすぎて値段なんざつけられねェ!」

 

 サンジはオーバーなリアクションで一人盛り上がっていた。なんか、楽しそうだ……。

 

「話が進まねェから黙りやがれアホコック!」

 

「んだと、マリモ頭! 三枚に下ろすぞ!」

 

 そして、イラッとした口調で苦言を呈するゾロに喧嘩腰で言い返していた。

 

「まぁまぁ、二人とも。とりあえず、ナミには纏まった金額が必要なんだね。話し辛いこともあるかもしれないけど、出来る範囲でいいから、私たちに話してごらん」

 

 私は二人を諌めて、ナミには出来る限りで構わないと話を進めることを促した。

 

 

「わかった……。どこから話せばいいのか分からないけど――」

 

 こうしてナミは話し出す。ココヤシ村での幼い日の話から……。

 ルフィは最初から興味なさそうにして寝てしまったが……。

 

 彼女は元軍人のベルメールという養母によって姉のノジコと共に育てられた。

 貧しかったが、明るく楽しく生活していたのだそうだ。

 魚人海賊団が村にやって来るまでは――。

 

 船長のアーロンを中心として、またたく間に村を支配した彼らは村人たちに毎月の上納金を要求する。

 金額は大人10万ベリー。子供5万ベリー。払えない者は見せしめに殺すという無茶苦茶なことを言い出した。

 

 貧しかったベルメールの所持金は10万ベリーがやっとだったらしい。

 ナミとノジコは実の子供ではないから、そのことを誤魔化して、黙って自分の分だけ払えば命は助かった。

 

 しかし……。

 

「ベルメールさんは私たちを家族じゃないって嘘でも言えなかったの。だから、それは私とノジコの分だって言って――」

 

 ここまで話してナミは少しだけ沈黙した。

 

 ルフィは相変わらず寝てるし、ゾロも寝てしまった。半分寝るって……。

 

 そして、再び彼女は話を再開した。

 

 海図を書く才能があった彼女はアーロンに目をつけられる。

 そして、海図を書き続けることを条件にある程度の自由を約束してもらった。

 さらに1億ベリーで村を売り渡す約束も……。

 

 だから、彼女は憎い海賊から宝を盗み続けてお金を貯めた。もうすぐ1億貯まるから、自由になる。そう彼女は語ったのだ……。

 

「――って、ライア。あなたが話せって言ったのに、ルフィもゾロも寝てるじゃない」

 

 ナミはごもっともなツッコミを入れた。いやぁ、自由だね。二人とも……。

 

「ああ、何ということだろう。やはり君は囚われの麗しきお姫様だったのですね。今、駆けつけます! あなたの為に戦う愛の戦士が!」

 

 サンジはキチンと話を聞いてたよね? このリアクションは平常運転なんだよね?

 

「よし、ナミの話も終わったなっ!」

 

 寝ていたルフィがサンジの大声で目を覚ました。

 

「ルフィ、君は話を聞いてなかったろ?」

 

「うん。だって、ナミの過去とか全然興味ねェもん。で、おれは誰をぶっ飛ばせばいいんだ? 居るんだろ? ナミをこんな顔にさせた奴が!」

 

 ルフィは両拳をバチンと合わせてそんなことを言う。

 この男の恐ろしいところは過程をすっ飛ばして、核心にたどり着くところだ。

 

「そうだね。とりあえず、ノコギリのアーロンをぶっ飛ばしたら解決かな? このお話は……」

 

「あなたも何聞いてたのよっ!」

 

 私はナミから額にチョップを受ける。

 

「痛いじゃないか。聞いてたよ。1億ベリーだったね。アーロンがそんな口約束を正直に守るとは思えない。君が財産を隠してるなら、何か理由を付けて没収するだろう」

 

「それはないわ。あいつは約束を守る。今までだって一度も……。だから私はここまで――」

 

 ナミは私の言葉を即座に否定した。なるほど、アーロンは約束を守る主義だったか。

 

「彼は1億ベリーなんて要らないのさ。君さえいれば……。その金は盗品だろ? 約束を反故にしないつもりなら、手駒の海軍あたりに言えばすぐに回収に来るんじゃないかな? そしたら、君をまた縛れる。永遠に……」

 

「――そっ、そんな。そんなことされたら、私……」

 

 ナミの顔が青くなる。アーロンの悪辣なところは希望をチラつかせて人を動かすところだ。

 絶望的な状況で見える希望という光は実に魅力的で、人から冷静な判断力を奪い取る。

 

「試してみるかい? 君の貯めたお金に、私の持ってる現金を足せば1億近くにはなるはずだ。一度、それを持っていってアーロンのリアクションを見てみるといい」

 

 私は懐から現金の札束を取り出して、ナミに差し出した。ホントはローグタウン辺りで武器の改造道具とかを買いたかったけど、彼女の気持ちに踏ん切りをつけさせる方が大事だ。

 

「――ううん。ライア、このお金は必要ないわ。本当はずっと不安だったの。大きくなるにつれて、世間を知るようになってから。私は騙されて使われてるんじゃないのかって……」

 

 ナミはうつむきながらポツリポツリと声を出した。

 

「でも、信じたかった。大好きな村のみんなを守れる可能性を潰したくなかった……。アーロンの野望は世界中の海を支配すること。私の海図は全然足りてない……。きっと、あの男は私をまだ手放さない」

 

 そして、彼女は確信をもってその結論にたどり着く。元々賢い人だ。理詰めで話せば理解は出来ると思った。

 しかし、今までは意識的に考えないようにしていたのだ。自分の中の何かが壊れるかもしれないから……。

 

 

「どうしよう……。このままじゃ村が救えない……。私はこのまま飼い殺しにされて――」

 

 ハッとした表情のナミの瞳から一筋の涙が頬をつたって、零れ落ちた……。

 

「おっし! 野郎共! アーロンってやつの所に行くぞッ! ウチの航海士を泣かせたんだ。喧嘩を売りに行こう! ライア! 場所わかるか!」

 

 その瞬間にルフィは今までにないほどの大声を出す。精悍な顔立ちはすべてを包み込むような、そんな器の大きさを物語っているようだった。

 

「もちろん、わかるさ。私は野郎じゃないけどね」

 

「おっ! 戦闘か……!? なんだ、思ったより楽しそうな話だったんじゃねェか!」

 

「ナミさんを泣かせた魚野郎共! 一匹残らず刺し身にしてやらァ!」

 

 私たちは口々に声を出して進路をココヤシ村へと向ける。

 目的はただ一つ! 仲間を泣かせた大馬鹿者に喧嘩を売りに行くことだ。

 

「ライア、こうなることが分かってたの?」

 

「全部が全部わかってたわけじゃないよ。君が勇気を振り絞って話をしたことが伝わったんだ。みんなにね」

 

 実際、みんながどう動くなんてわからなかった。ルフィはきっと話を理解しようともしないと思っていたし……。

 

「ルフィもゾロも寝てたじゃない」

 

「それでも、伝わるんだよ。大事な仲間のために何をすれば良いのかぐらいは、ね。ほら、たくさん話して喉が乾いただろ? 飲み物を飲むといい」

 

 私はナミのツッコミにそう返した。

 

「飲み物って……、そうね。何か取ってくる」

 

「その必要はないよ。だってそろそろサンジが……」

 

 私にはサンジがこちらに向かってくる様子が手に取るようにわかっていた。

 

「ナミさーん! この暑い日に喉を潤す、スペシャルトロピカルドリンクをお持ちしましたァァァァ! ライアちゃんもどうだい?」

 

「くすっ……、ありがと。サンジくん!」

 

「ぬはっ! 天使だッ! ここに天使が居るッ! もったいないお言葉です! ナミさん!」

 

 ナミに微笑みかけられたサンジは心臓を押さえながら大袈裟な言葉を放ち、満足そうな笑顔を向けていた。

 彼の明るさも今のナミには必要だ。ありがとう、サンジ。

 うん、ドリンクは最高に美味しいよ。女性に生まれて良かったと思えるくらいにね。

 

 

 さて、話も纏まったところで、ここで計算外の出来事をおさらいしよう。

 まずは最初に、ジョニーとヨサクとお別れしたことだ。

 戦力的には大して影響はない。彼らには悪いけど……。

 

 しかし、問題はゾロの武器だ。確か六刀流のハチっていう魚人と戦うはずだったけど、その時、彼ら二人から刀を借りたんだったよなー。

 怪我さえしてなきゃ、刀一本でも勝てるんだろうけど、ミホークに大怪我を負わされている彼には厳しい戦いになるかもしれない。

 ていうか、普通は戦えない。

 

 この点は何とかフォローしなきゃな。

 

 あともう一つは出航がかなり遅れたこと。これはかなりまずい……。

 なぜなら、ココヤシ村ではナミの理解者である駐在のゲンゾウという男が武器の所有を理由に処刑されるかもしれないからだ。

 

 メリー号の快速とナミの航海術をもってすればジョニーやヨサクの船よりもかなり早く着くはずだが、ココヤシ村に着いた瞬間にアーロンと一戦交えることになる可能性はあるかもしれない……。

 

 実はこのとき私はかなり焦っており、大きく後悔していたのである。

 知っているということは残酷だ。何もしなければ好転するかもしれないとか、してしまった結果の責任がズドンとのしかかるのだから。

 

 私は自分の無能さを呪っていた……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 恐ろしいほどの幸運……。ルフィという男が天に愛されているからなのか、メリー号は追い風を目一杯受けて最速でココヤシ村までの最短距離を突き進んで行った。

 

 これなら、間に合うかもしれない。そんなことを思っていたら、早速船着き場付近で魚人に見つかってしまった。

 

 ナミの姿は確認されてないが、見慣れない海賊船を連中が放っておくはずがない。

 このまま、強引に上陸するか? 下手したらアーロンと鉢合わせする可能性もあるが……。

 

 何の準備もなくアーロンとやり合うのはさすがに危険すぎる……。私は頭をフル回転させて囮になることを選んだ。

 

「ルフィ! 私が彼らを引きつけて、村で騒ぎを起こす。そのスキにこっそりと上陸してくれ!」

 

 そう言いながら、私は船着き場に向かってジャンプして魚人たちに向かって発砲した。

 

「何者だっ……zzzz」

 

「きっ、貴様なにを……zzzz」

 

 二体の魚人はぐっすりと眠りに……。

 

「なんだ、今のは? ちょっと眠気がしたが……」

 

「わからん。お前! 何をした!」

 

 ――つかなかった。

  

 あれ? 睡眠薬の効きが悪いな……。魚人だからか? 理屈は分からないけど、実力行使しかないようだ。

 

 私は大きなゴーグルで顔を隠して、今度は鉛の弾丸で彼らの足を貫いた。

 

 そして、一目散に村の中央まで駆け出した。

 

「まだかなり時間があったか。村では騒ぎは起こってないみたいだ」

 

 建物の陰に身を隠した私は、アーロンが来るまで待っていた。今ごろルフィたちは無事に上陸しただろうか?

 

 そんなことを考えていたときである。大きな気配がこちらに近づいて来ているのを私は感知した。そして、その姿を私はすぐに目にすることが出来た。

 ノコギリサメの魚人――アーロンが仲間を引き連れてやってきたのだ……。

 

 頭に風車を付けた駐在であるゲンゾウに物申す為に……。

 

「武器の所持は立派な反乱だ。おれ達の支配圏の平和を乱す要因になる。以後てめェの様な反乱者を出さねェためにもここで殺して他の町村の人間どもにみせしめなきゃいけねェ!」

 

 アーロンはゲンゾウを見下ろしながら理不尽なことを言い放った。そして、彼の頭を掴む。

 

「そんな勝手な話があるか。アーロン! あたし達はこの8年間かかさずちゃんと奉貢を納めてきたんだよ! 今さら反乱の意思なんてあるわけないだろう? ゲンさんから手を離せ!」

 

 水色の髪に赤いカチューシャを付けた女がアーロンに反論していた。

 おそらく、彼女は先ほどナミが話していた、ナミの姉のノジコだろう。

 

「武器の所持が反乱の意思だとおれは言ってんだ。この男には支配圏の治安維持のため死んでもらう! それともなにか? 村ごと消えるか……」

 

 アーロンは独自の理論で反乱分子を潰すと宣言した。逆らうなら村ごと運命を共にさせるとも。

 やはり、この男は……、どこまでも人間を下に見ている。

 

「みんな家へ入れ……! ここで暴れては私達の8年の戦いが無駄になる! 戦って死ぬことで支配を拒むつもりならあの時すでにそうしていた! だがみんなで誓ったはずだ。私達は耐え忍ぶ戦いをしようと! 生きるために!」

 

 ゲンゾウはそれでも動じずに自分だけが犠牲になる道を選んだようだ。

 彼を亡くすわけにはいかない。それも、私のせいで……。これは私の自分勝手な償いだ。

 

「高説だな! いいことをいう。そう、生きることは大切なことだ。生きているから楽し――! ――ぐはっ! なんだっ! くそっ!」   

 

 アーロンのセリフが言い終わる前に私は彼に炎の弾丸を放った。

 彼はマトモにそれを食らったが、ゲンゾウを手放すだけで、さほどダメージを受けてなかった。

 

「――紅い弾丸(フレイムスマッシュ)を受けてもほとんどノーダメージか。さすがは2000万ベリーの賞金首……、ノコギリのアーロン!」

 

 私は魚人たちの前に立ちはだかり、彼らに向かって姿を晒した。

 

「そのゴーグルに銀髪、そして緋色の銃……、アーロンさん! あいつはおそらく“魔物狩りのアイラ”ですよっ!」

 

「賞金稼ぎかッ! アーロンさん! まっ、まずい!」

 

「下等な人間がッ! 魚人のおれに何をしたァァァァァ!」

 

 魚人たちは私の正体に気付くと同時に激怒したアーロンに焦り顔をしていた。

 

「さて、今日は挨拶代わりだ。君の首を私はいつでも狙っている。せいぜい恐怖するがいい」

 

 そう言いながら、私は煙玉を使い、煙幕で視界を封じて姿を隠した。

 

 魚人たちは私を探す者、アーロンを宥めながらアーロンパークに連れて帰ろうとする者に分かれていたが、結局どちらも、ココヤシ村からは去っていった。私が遠くへ逃げたと勘違いしたらしい。

 

 

「何だったんだ……。今のは……?」

 

「賞金稼ぎ……、とか言われていたわね……」

 

 ゲンゾウとノジコはあまりの展開にボーッとしてるみたいだった。

 

「うん、私は元賞金稼ぎなんだ。今はこの村の出身のナミって子の仲間で海賊をやってる」

 

 そんな二人の前に私は姿を見せる。ゴーグルを取り外して……。

 

「何っ! ナミの彼氏だとっ! 許せん!」

 

 ゲンゾウは何を思ったか、自分の家から銃を取り出して、私に向けてきた。

 えっと、ソレって鑑賞用じゃなかったの?

 

 私は早速窮地に立たされてしまっていた――。

 

 

 

 

 




ライアのイケメン力はゲンゾウにとっては驚異でしかないみたいです。
次回もよろしくお願いします!


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準備万端

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!すっごく元気になれます!
今回はノジコやゲンさんとの会話からスタートです。
よろしくお願いします!


「その顔でナミを誑かしおったのか!? 覚悟しろっ!」

 

 ゲンゾウは本気で私を狙って銃を構えている。いや、天に誓ってナミに手出しなんてしてないし……。

 彼女だってそんなことを疑われて不本意だと思う。

 

「ちょっと、待ちなよゲンさん。この人のおかげで助かったんだろ? それにこの人はナミの彼氏だなんて言ってないよ」

 

 ノジコがゲンゾウの肩を叩いて声をかけた。

 

「むぅっ! そっそうか……。それは失礼した。若いの……」

 

 ゲンゾウは銃を下ろして、頭を下げた。

 

「いや、私こそ急に悪かったね。ナイーブになっているときに不躾だったと思うよ」

 

 私はようやく普通に会話が出来ると思い、ホッとしていた。

 しかし、ナミのためにここまでするとは彼女も溺愛されているな。村の人から嫌われてると思い込んでるみたいだけど。

 

「だけどさ、あんた何考えてるんだい? アーロンに手を出すなんて、バカとしか思えないよ」

 

 ノジコは私に近づいてきてアーロンを挑発したことに関して言及してきた。

 

「ああ、文字通りアーロンに喧嘩を売ろうと考えてるんだ。私は海賊でね。仲間たちとここに来て、彼から力づくで奪い取ろうと思ってるんだよ」   

 

 彼女の質問に私は答える。

 

「奪い取るって、何を?」

 

「ナミを貰ってくつもりだ」

 

 そう、アーロンからナミを奪い取ることが海賊としての私たちの目的だ。他に何の目的もない。

 

「はぁ? あんた、正気なの?」

 

「生憎、まともになろうってあまり思ったことないからさ。正気じゃあないのかもしれないね」

 

 ノジコが呆れたような表情を見せると、私は自分の心情を吐露した。

 

「でもね、ナミは苦しんでる。それを黙って見ているのが正気っていうんだったら、私は迷わず狂気に身を委ねるよ。それが仲間だ」

 

 こんな状況に置かれてる仲間を放っておける方が私にとってはそれこそ、どうかしている。

 何とかしようとしない、なんて選択肢はない。

 

「こりゃ本気みたいだねぇ。ナミも変なのに目を付けられたもんだ。仲間か……、あの子にそんなこといって、ここまでくるバカがいるなんて……」

 

「若者よ、帰りなさい。気持ちは嬉しいが、アーロンの支配に耐え忍ぶ戦いを私たちは選んだんだ。命を粗末にするな」

 

 ノジコの言葉に続いて、ゲンゾウは私に帰れと言う。自分たちはアーロンの支配から耐えて生き残ることを選んだから、と。 

 

「そうもいかないんだ。仲間たちがもうこの村に入ってる。ちょうど、この道をずっと奥に行ったところかな? ナミも一緒だ。船長(キャプテン)は私以上に頑固な人だからね。止めても無駄だよ」

 

 私はルフィたちの気配を察知して指をさした。

 

「あっちは、ノジコ、お前の家の方向……。では、本当にナミが……」

 

「帰って来てるみたいだね。あんた、超能力みたいな力があるのかい?」

 

 私の言葉を聞くと、二人は顔を見合わせて頷きあっていた。

 

「ナミはあたしの妹でね。あっちに居るんだったら、多分、あたしの家に居るんだろう。付いて来な。案内してやるよ」

 

 ノジコは私を家まで案内してくれると言ってくれた。ナミと彼女は血が繋がっていないと聞いたけど……、関係ないな。

 二人とも優しくて強い人だ……。

 

「ありがとう。ナミは幸せ者だね。君みたいな妹想いの強い人がお姉さんなんだから」

 

 ノジコの目を見て、私はお礼を言った。

 

「――ふぅ……。あの子大丈夫なの? あんたと一緒だと色々とやられてそうだけど……」

 

「やはり、貴様! ナミに! ナニをした!」

 

 ノジコがため息をついてナミの身を心配するような事を言い出したものだから、ゲンゾウが再び銃を私に向けてきた。

 

 いやだから、それって武器コレクションで鑑賞用じゃ……。待てよ、武器コレクション?

 

「ちょっと待って。そんなことより頼みがあるんだけど――」

 

 私はノジコと家に行く前にゲンゾウに頼みごとをした。それは――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「本当に帰ってたんだね。ナミ……」

 

 ノジコに彼女の家まで案内された私はルフィたちを見つけた。

 やはり、ナミは姉である彼女の家に彼らを連れてきていたらしい。

 

「すぐに出るわ。ちょっと休ませてもらってるだけ。って、ライアも居るの!?」

 

 ナミはノジコの後ろに私が立っていたので驚いたみたいだ。

 

「おう! 待ちくたびれたぞ、ライア!」

 

「――ったく。急に飛び出しやがって。待たされる身になってみろッ!」  

 

「ああん! レディがいくら遅れても待つのが漢だろうが! ライアちゃんお帰り〜」

 

 ルフィたちも私に気付いて声をかけてくれた。というか、強引に飛び出したのに、当然のように待っててくれたんだ。

 合流出来ると信じて……。

 

「うん、ちょっとしたゴタゴタがあってね。偶然、君のお姉さんと知り合ったんだ。ラッキーだったよ」

 

 私はノジコとここに来たいきさつを話した。

 

「ン……、ナッ……、ナミさんのお姉さま! さすがにお綺麗だぁぁぁぁ!」

 

「うるせェ。はしゃぐな。みっともねェ」

 

「ンだと! このッ!」

 

 サンジが盛り上がってる所にゾロが水を差して、また二人はケンカを始めようとする。

 二人とも沸点が低いというか、なんというか……。

 

「アーロンを撃ったくせに、それをちょっとしたゴタゴタで済ますって、ナミ、あんたってこういう男が好きだったの?」

 

「はぁ? ちょっと、何を勝手なこと言ってるの!? ライアは女の子よ……、ギリギリ……」

 

 ノジコの言葉にナミが反応する。えっと、私ってギリギリだったの?

 

「うっそ、信じられない……。へぇ、悪かったわね。ずっとキザな男がナミを陥落させるために頑張ってると思ってたわ」

 

 上から下までジッと私を観察しながらシミジミ彼女はそんなことを言ってきた。

 途中から、そんな気はしてたけど、言うタイミングがなかった。

 ていうか、自分は女ですって上手く言えるタイミングがあるなら教えてほしい。

 

「慣れてるから気にしないで。言わなかった私も悪いんだ。それに、ここに連れてきてくれたんだから、感謝してるよ君には――」

 

「――そっ、そう。それなら、良かった……。あっ、あたし、お茶でも入れようかな」

 

 私を観察してるノジコに顔を少しだけ近づけてお礼を言うと、彼女は何故か目を逸らせてそそくさとお茶を入れに行った。

 何か気にさわることでもしたのだろうか?

 

「人の姉を口説くな!」

 

「痛いじゃないか。私はお礼を言っただけだよ」 

 

 ナミに頭を叩かれて、身に覚えのないことを言われる。感謝の気持ちを伝えたかっただけなのに……。

 

 

「で、アーロンのヤツをぶっ飛ばすんだろ!? 今から行くか!?」

 

「うん。引き伸ばしても仕方ないから、連中のアジトに乗り込むのが一番早いかな」

 

 私はウズウズしてるルフィの言葉にそう返した。実際、海戦とかになると勝ち目がないし、村の中で戦うと色々と迷惑がかかりそうだから、アーロンパークで戦うのが最善だろう。

 

「おっし、ようやく暴れられるな。ストレス溜まってんだ。戦闘は大歓迎だぜ」

 

「あー、屈辱の敗戦の後だもんな。そりゃストレスも溜まるってか?」

 

「ああん!?斬るぞ!てめェ!」

 

 ゾロがサンジに向かって刀を抜こうとした。

 

「だから、その体力はとっときなよ。特にゾロ。君は重傷なんだからさ」

 

「別に……、これぐらいどうってことねェよ」

 

 ゾロはそう言うけど、普通は動けること自体が奇跡みたいな怪我をしている。それで、戦えるのだから彼は化物なんだ。

 

「まぁ、私に出来ることは武器を借りてくることぐらいだったよ」

 

 私はゾロに刀を二本手渡した。

 

「おっ、お前、これをどうしたんだ?」

 

「武器コレクターのゲンゾウさんって人から借りてきた。言っとくけど、借りただけだから、丁寧に扱うんだよ」

 

 そう、武器をコレクションするのが趣味なら刀くらい持ってそうだと尋ねてみれば、持っていたので、貸してもらった。

 

「あなた、ゲンさんにも会ったの?」

 

「うん。君はとても彼からも大切に想われてるね」

 

「ゲンさんが私を……?」

 

 私が彼に対しての印象を語ると、彼女は意外そうな顔をしていた。

 

「知ってるってことさ。君が歯を食いしばってるのを、ね。聞こえたんだ。彼の心の想いが……」

 

 私はナミの肩を叩いた。

 

「あんたら、本気でアーロンのところに行くつもりなんだ。まったく、呆れたバカとしか言いようがないよ。殺される前に精々上手く逃げるんだね」

 

 ノジコは私たちの様子を見て、本気だということが伝わったらしい。

 

「ははっ、ありがとう、ノジコ。お茶、美味しかったよ。君の優しさが伝わるようでさ。また、飲ませてくれないかな? 私たちが勝った後で……」

 

「――ばっ、バッカじゃないの? こっ、こんなもんで良ければいつでも飲みに来な……。死んだら飲めないんだから、生きて……、帰って来るんだよ」

 

 私がノジコにお茶のお礼を言ったら、バカって言われてしまった。どんどん声が小さくなってるけど、体調が悪いのだろうか?

 

 

「もちろんさ。勝った報告を伝えたいからね。君に……」

 

「――う、うん。わかった……」

 

 彼女の言葉に返事をすると、彼女は俯いて静かにそう答えた。あれ? こういう人だったっけ?

 

「だから、それをやめろって言ってるでしょっ!」

 

 ナミは私をノジコから引き離そうと服を後ろから引っ張った。あっ、危ないじゃないか……。

 

「ライア、早く行くぞ! もう待てねェ!」

 

「ルフィ! やっぱり、アーロンに手を出すのは……」

 

 ルフィが私を急かすと、ナミは何を思ったか彼を止めようとした。

 

「うるせェ! 黙って待ってろ!」

 

 彼は麦わら帽子でナミの頭を押さえつけるようにして、それを制した。 

 それは、預けるってことかい? 君の帽子(たから)を……。

 

「行くぞ! 野郎ども!」

 

 ルフィを先頭に私たちはノジコの家を出てアーロンパークへ足を進めた。

 野郎じゃないって言うのは野暮なんだろうなー。

 

 

 そんなこんなで、私たちはアーロンパークを目指していた。

 

 私はここまで、一応は漫画の動きを出来るだけなぞろうとしていた。しかし、それは無駄なことであった。

 なぜなら、私という存在が漫画の中には無かったからだ。

 

 自分を鍛えるために過ごした“魔物狩りのアイラ”としての日々……。これが今になって波紋となり、この世界に小さな影響を与えていたのだ。

 

 

「その銀髪と緋色の銃……、お前……、“魔物狩りのアイラ”だな? お前をスカウトに来た。大人しく付いてきて貰おうか……」

 

「ようやく見つけたわ……。痛い目に遭いたくなかったら、言うことを聞いたほうが身の為よ……」

 

 アーロンパークへの道中、オレンジ色の髪の王様の格好をしている男と水色のポニーテールの女に急に話しかけられた。

 

 えっと、確か彼らはMr.9とミス・ウェンズデー……。なんで、この人たちが東の海(イーストブルー)に居るの?

 




書く時間がなくて、短めの更新で申し訳ありません。
ノジコさんはナミ以上にガードが固そうなイメージです。百合をどうにかして挟みたかったので、ライアにはかなり攻めてもらいました。
そして、最後はまさかのあの二人が早めの登場。
次回もよろしくお願いします!


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勧誘と開戦

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!いろいろと参考にさせて頂いてますし、応援は素直に嬉しく思っております!
今回はバロックワークスに勧誘されたライアのシーンからです。
それでは、よろしくお願いします。


 

 まさにアーロンパークに向かう最中に突如として現れたバロックワークスのエージェント、Mr.9とミス・ウェンズデー……。

 

 私をスカウトに来たとか言ってるけど、どういうことだ?

 こんなの漫画にない展開だし。どうすれば……。 

 

「ライア、そいつら知り合いか?」

 

 ゾロがそんなことを言いながら、もう刀に手を置いている。えっ? 知り合いじゃなかったら、もう斬るの? 早すぎない?

 

「ええーっと、どうしたものだろうか? そうだね。少しだけ話してくるよ。そう、平和的に……。すまないが、待っててくれ」

 

 私はみんなにそう告げて、木陰に二人を連れて行った。

 

 

 

「ほう、仲間と離れて話をしようとはいい度胸――。って、いっ、いつの間にっ!」

 

 Mr.9が話しかけた瞬間に私は彼と肩を組み、喉元に銃を当てた。

 

「時間がないんだ。全部話してくれ。おっと、お嬢さんも妙なマネをすると、こいつが火を吹くことになるぞ」

 

 私はMr.9に銃を突きつけつつ、ミス・ウェンズデーを牽制した。

 

「ひっ、卑怯よ! まだ、何もしてないのに!」

 

 ミス・ウェンズデーは怒りながら私を卑怯者扱いをしてきた。確かにまだ何もされてないから、過剰反応かもしれないな。

 

「そうだね。マナー違反なのは、わかってる。でも、時間がないんだ。許してほしい。ダメかい?」

 

 私は精一杯の誠意を込めて、ミス・ウェンズデーの目をジッと見て謝罪をした。申し訳ないが、アーロンを何とかしなきゃならないときにこの人たちを構ってられない。

 でも、どうしよう。ミス・ウェンズデーに何かあったら今後が色々と詰むかも……。

 

「――はっ、はい。許します……。――じゃなかったわ! Mr.9を離しなさい!」

 

 ミス・ウェンズデーはボーッとした表情でコクンと頷いたかと思えば、頭をブンブン振ってMr.9を解放するように言ってきた。

 一人でボケてツッコミを入れるとは……。王女なんだよね? この人……。

 

「それは私の質問に答えてからだ。君たちは何者だ? 私に何の用事があってやって来た?」

 

 私は二人に改めて目的を問うた。

 

「私たちは秘密犯罪結社バロックワークスのエージェント。私がミス・ウェンズデー。彼は私のパートナーのMr.9よ」

 

 ミス・ウェンズデーが私に自分たちの紹介をした。

 

「おれたちはボスからの指令で世界中で犯罪活動をしている。さらに、ボスが力を入れているのは腕の立つ同志の勧誘だ。東の海(イーストブルー)で《海賊狩り》と肩を並べるほどの腕利きと噂の賞金稼ぎ、《魔物狩り》を組織に勧誘しろという指令が入ったのでな。こうして遥々偉大なる航路(グランドライン)からこっちにお前を探しに来てやったんだ」

 

 Mr.9は私のもとに来た目的を話した。

 なるほど、確かにゾロもバロックワークスからスカウトされたことがあるって言ってたもんなー。断ったら襲われて返り討ちにしたとか言ってたけど……。

 

「ところが、私たちがこの海に来てからというもの、まったくと言っていいほどあなたの消息が掴めなかったの。賞金首を捕まえたって話も全然聞かなくなった。私たちは焦ったわ。ボスの指令に応えることが出来なかったら、下手したら殺されるから……」

 

 あー、それは私がルフィを待つために活動を止めたからだね。

 というか、ルフィに会う前に勧誘されてたら非常に面倒だったな……。私は思わぬ罠が潜んでいたことを知って戦慄していた。

 

「たまたま、海上レストランに行って助かったぜ。そこのコックがよ、気のいい兄ちゃんで《魔物狩り》の戦いを見たって言うんだよ。んで、行き先を聞いたら船の進んで行った方向を教えてくれてな。そして、聞いていた特徴そっくりの船が止まっているのを見てこの島に乗り込んだっていうわけだ」

 

 Mr.9はここまで来た流れを話した。ホントに偶然じゃないか。

 ていうか、そんなヒントでよくここにたどり着けたな。

 

「わかった。でも、頑張ってくれたところ悪いんだけどね。私はもう賞金稼ぎをやめて、海賊になったんだ。せっかく来てくれたのに申し訳ない」

 

 私は彼らに現状を伝えて謝罪した。話を聞くとかなり苦労したみたいだったから可哀想とまで思っていた。

 

「ちょっと! 申し訳ない、じゃないの! それを聞いてハイそうですかって引き下がれないわよ! こっちだって命が懸かってるんだから!」

 

 ミス・ウェンズデーは武器である孔雀(クジャッキー)スラッシャーを私に向かって構えた。

 

「まぁ、待つんだ。平和的に話し合おう」

 

「人質をとって平和的になんて、言わないでちょうだい!」

 

「そっそうだ! おれたちは犯罪者だし、卑怯なこともするけどよォ! されるのはごめんだぜ!」

 

 犯罪組織を名乗ってるにしては、甘いところが目立つ二人が、私に対して抗議する。

 しかし、ミス・ウェンズデーをあまり刺激したくないな……。

 

「大人しくしてれば、何もしないって約束するよ……。暴れても仕方がないだろ?」

 

 私は出来るだけ笑顔を作って彼女を諌めた。

 

「――そっそれもそうね……。わかったわ……」

 

「おっおい! 何を言い包められているミス・ウェンズデー!」

 

 ミス・ウェンズデーが大人しく武器をしまい込むと、Mr.9が悲壮な顔でツッコミを入れた。

 

「まぁまぁ、君も落ち着いて。取り引きをしようじゃないか」

 

「落ち着けるわけねェだろっ! とっ、取り引きだとォ!?」

 

 Mr.9は私の取り引きという言葉に反応した。

 どう考えても、この二人を放置するのは怖すぎる。少なくともウィスキーピークまでは目の届くところに置いておかないと……。

 

「今から、私たちは2000万ベリーの賞金首を狙いに行くんだ。ノコギリのアーロンっていう大物をね……」

 

「にっ、2000万ベリー……。確かにこっちの海では破格の金額だな」

 

「賞金首は資金稼ぎとして私たちもよく狙ってるけど、2000万もあれば貢献度合いとしてはかなり大きい……」

 

 私の言葉に二人とも一定の興味を示してくれた。

 ここからが本題だ。

 

「私たちは海賊だから、賞金首を倒しても1ベリーの得にもならない。君たちがアーロン討伐に力を貸してくれるなら、彼の首をやってもいい。ほら、手土産としてはまぁまぁだろ?」

 

 私は二人をこっちに引きずり込むことにした。

 何かと理由をつけてともにグランドラインに向かわせようと思ったのだ。

 

「それとも、ここで任務失敗をしたということで帰るかい?」

 

 私はゆっくりと銃口を押し付ける力を強くしていった。

 

「――わっ、わかった! わかったから……、離してくれッ! その話に乗ってやろうじゃねェか! なァ? ミス・ウェンズデー」

 

「ええ、それしか選択肢はなさそうね。Mr.9」

 

 二人が観念した表情で私の条件を受けることにしたようだ。

 

「あっ、そうそう。一緒にいた彼ら三人だけど……、三人とも私なんかよりも強いから、変な気は起こさない方がいいよ」

 

 最後に私はそう言って、Mr.9を解放した。

 二人はそれを聞いてゴクリとツバを飲み込んで、素直に私と一緒にルフィたちが待ってるところに付いてきた。

 

 

「やぁ、すまないね。大事なところで足踏みさせてしまって」

 

「待ちくたびれたぞー!で、何なんだお前らは?」

 

 ルフィは退屈そうな顔をして、Mr.9とミス・ウェンズデーの顔をジロジロ見ていた。

 

「おっ、おれは謎の男、Mr.9!」

「オホホホホ、同じく謎の女、ミス・ウェンズデー!」

 

 ビシッと、腰に手を当てて自己紹介する二人。そんないい加減な自己紹介があるか……。

 

「そっかー! 謎かー! なんか、カッコいいなー!」

 

「ミス・ウェンズデーちゃん! ミステリアスで素敵だァ!」

 

 ルフィとサンジはこの無茶苦茶な自己紹介を受け入れていた。まぁ、このほうが都合がいいけど……。

 

 問題は……。

 

「Mr.9? ミス・ウェンズデー? どっかで聞いたことがあるような名前だな? お前らもしかして――」

 

 マジマジと顔を見て、凶悪な視線を送るゾロに二人の目は泳ぎ始めていた。

 

「ゾロ、ここは呑み込んでくれ。この二人は怪しいけど、偉大なる航路(グランドライン)から来てるみたいだから、色々と情報が聞けると思ったんだ。責任は私が取るから、さ。頼むよ」

 

 私は見兼ねて助け舟を出す。ゾロは以前勧誘されてるから遅かれ早かれ気付くはずだ。

 

「ふーん。お前が責任か……。まっ、それなら何も言わねェよ……」

 

「ありがとう。そうしてくれると、助かる」

 

 私はゾロにお礼を言った。彼がそう言ってくれて良かった。

 

「じゃあ、今度こそ行こうか。アーロンのところへ……」

 

 私たちはアーロンパークまで足を運んだ……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「うちの航海士を泣かすなよ!」

 

 ルフィはアーロンを見下ろしてとんでもない剣幕で彼にそう怒鳴る。

 

 いやはや、びっくりした。

 アーロンパークの門をぶん殴って壊したかと思えば、「アーロンはどいつだ」と叫び、彼が返事をすると、問答無用でラッシュを仕掛けて彼をぶっ飛ばしたのだ。

 ルフィはここまで漫画ほど怒ってないと思っていたけど、静かに怒りを溜めていたらしい。

 

 

「てめェ! アーロンさんに何を!」

 

「ぶっ殺す!」

 

 魚人たちがルフィ目掛けて攻撃を仕掛けていた。彼にはアーロンを倒すという仕事があるし、露払いは私たちの仕事だな。

 

 

「クソ雑魚は引っ込んでろッ!」

 

「悪いけど、退場してもらうよ!」

 

「「ぐああああッ!」」

 

 サンジの蹴りと私の銃弾で向かってきた魚人たちは戦闘不能になる。

 

「あっ、あいつらとんでもなく強いぞ。ミス・ウェンズデー」

 

「落ち着きなさい。私たちはあくまでも彼らが倒した首を持ち帰るだけ。慎重に動くわよ。Mr.9」

 

 二人は早くもルフィたちの力に驚いていた。喧嘩売らなくて良かったね……。

 

 

「おい、てめェ……、“魔物狩り”だろ? こいつは海賊って名乗ってたがどういうことだ? 何しに来やがった」

 

 意外にもアーロンは冷静さを保っていて、私の姿を確認するとそう声をかけてきた。

 

「ああ、ごめん。今は私は海賊なんだ。君たちから奪いに来たんだよ。ナミという女をね。彼女は私たちが連れて帰る」

 

「そうだ! ナミはおれの仲間だ!」

 

 私の言葉にルフィも同調して大声を出す。

 

「シャハハハハッ! こりゃ傑作だ。たった4人の弱小海賊団がうちの測量士を奪いに来ただって? おい! てめェらっ! 種族の差ってものを教えてやれっ!」

 

「「(ウオ)ォォォォォッ!」」

 

 アーロンは私たちを嘲り笑い、部下の魚人たちをけしかけてきた。

 

「ゴムゴムのォォォォォ! 銃乱打(ガトリング)ッ!」

 

「だから、てめェばかり獲物を独り占めするなって!」

 

「けっ、準備運動にもならねェ……!」

 

「くっ、おれたちも見物しに来たわけじゃねェ! 行くぞ、ミス・ウェンズデー! 熱血ナイン根性バットォォォォォッ!」

 

「ええ、Mr.9! 孔雀(クジャッキー)スラッシャー!」

 

 私たちは魚人海賊団の猛攻を跳ね除け、向かってきた魚人たちは次々と倒れて行った。

 動ける敵はもう少ないな……。

 

「あいつ悪魔の実の能力者だ……」

 

「関係ない。所詮は下等種族……、チュッ」

 

 魚人海賊団の幹部、クロオビとチュウはルフィの力を見て少しだけ表情を変えた。

 

「ニュー、こうなったら! 出て来い……、巨大なる戦闘員よ! 出て来いモーム!」

 

 そして、ハチはモームという巨大な海獣を呼び出して、こちらを攻撃に仕掛けさせた。

 

「モォォオオォォッッ!」

 

「ゴムゴムの(ピストル)ッ!」

 

羊肉(ムートン)ショット!」

 

 しかし、ルフィとサンジの同時攻撃によりモームは撃退する。

 よし、これで残るは幹部のみ。これなら――。

 

 そう思った刹那、チュウがミス・ウェンズデーを狙って水鉄砲を放った。

 いかん、これは直撃するとただじゃ済まない!

 

「危ないッ! がぁっ!」

 

 私は咄嗟に彼女を突き飛ばして、腹に一撃食らってしまう。

 水圧は思ったよりも凄まじく、脇腹を貫通してしまうほどだった。

 

「大丈夫かい?」

 

「えっ……、なんで私を……。――じゃなかった! 何を余計なことをやってる!」

 

 私が彼女の身を心配すると、彼女は目を逸らしながら悪態をついてきた。

 大丈夫そうなら、良かった。

 

「まだ生きていたか、運のいいやつだ、チュッ」

 

「生憎、私は律儀な性格でね……。一発食らったら、一発返さなきゃ、気が済まないんだよ」

 

 私はよろよろと起き上がり、チュウに銃口を向ける。いかん……、やっぱり耐久力だけはルフィたちと比べ物にならないくらい低いみたいだ。手に力が入らなくて、銃口がぶれて狙いが定まらない……。

 

「まったく、バカなやつ。でも、助けてもらった借りは返すわ」

 

「ミス・ウェンズデーの恩人とあっちゃ、おれも黙っちゃいねェ! 色男、おれも力を貸してやる!」

 

 ミス・ウェンズデーとMr.9が私の隣に立ち、チュウを見据えた。

 

「ありがたいけど、ひと言だけ言わせてくれ……。私は女だ……」

 

「「ええーっ!!!」」

 

 目と舌が飛び出して大袈裟な反応をする二人……。

 

 あんまりな二人の反応に、私は今日一番のダメージを受けた。“魔物狩りのアイラ”って女だってちゃんと伝わってないのか……。

 

 私たちと魚人海賊団の幹部であるチュウとの戦いが始まった。

 




最後の二人のリアクションはエネル顔をイメージしてください。
ということで、次回はチュウとの戦いからです。


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麦わらの一味VS魚人海賊団

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!毎日の執筆のモチベーションとなっており感謝しかありません!
今回でアーロンパーク編は終了です。
それではよろしくお願いします!


「おっ、女だったのか。てめェ……、マジかよ……」

 

「うっ、嘘よ……。だって、私は……。でも……、それでも……」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーはよほど衝撃的だったのか、まだ驚いた顔をしている。

 ミス・ウェンズデーにいたっては俯いて虚ろな目をして何やらブツブツ言っている。

 

 人の性別でそんなにショックを受けないでいただきたい。

 

「おい、あの魚人野郎の攻撃……、結構ヤバそうだな。どう戦うつもりだ? レディ・ライア」

 

「その、妙に女を強調したあだ名……。私に気を使ってるのか、それとも煽ってるのかどっちだい?」

 

 Mr.9に変なあだ名を付けられて私は思わず反応してしまう。

 

「すまねェ。こうでもしなきゃ忘れちまいそうでよォ……」

 

「泣いていいかい? まぁいいや。君の場合はあの水鉄砲を金属バットで受ければ何とか防げるんじゃないかな?」

 

 私はMr.9に戦い方のアドバイスをした。

 この人もミス・ウェンズデーも一応バロックワークスの中では一応コードネームが貰えるくらいの強さだ。

 ゾロやルフィにはまったく及ばないけど、それなりの実力はある。

 

「ほう、なるほど。じゃあ、ここはおれに任せな! 熱血ナイン根性バットッ!」

 

 無駄にアクロバティックな動きで翻弄しながら金属バットで殴りつけるというシンプルな技でチュウに向かっていく。

 

「水大砲ッ!」

 

 チュウはいつの間にか大量の水を体に蓄えており、巨大な水の砲弾を吐き出した。

 

 幸運なことにアクロバティックな動きで空中に高くジャンプしたMr.9はギリギリで水大砲を躱して着地。水大砲は壁に巨大な穴を空けた。

 そして、Mr.9は何を思ったか、チュウに攻撃をすることを忘れて私の方に駆け寄ってきた。

 

「バッキャロー! あんなもん、バットで受けられるわけねェだろうが! おれを殺す気かっ!」

 

 思いもよらないチュウの攻撃の威力に彼は苦情が言いたかったみたいだ。

 

「確かに安易なことを言ったのは悪かったよ。でも、もうちょっとくらい頑張ってもいいじゃないか」

 

 私は運良くチュウの攻撃を躱して、彼に肉薄した彼に対して苦言を呈した。

 

「雑魚共が! このまま蜂の巣にしてやるッ! 百発水鉄砲ッ!」

 

 チュウは私たちに向かってマシンガンのように水鉄砲を放ってきた。

 

「――うわっ! あいつ、見境なしだッ!」

 

 慌ててMr.9は柱の陰にダイブする。

 

「ボサッとするな! ほら、こっちに逃げてッ!」

 

「あっ……!」

 

 まだ、虚ろな目でブツブツ言ってるミス・ウェンズデーを抱きかかえて、建物の陰に避難させる。

 

「くらえっ!」

 

 私は立て続けに2発銃弾を放った。

 しかし、やはりいつものように手に力が入らず、僅かにブレてしまう。

 正確に当てるのはかなり近付かないと無理かもしれないな……。

 

「何とかヤツに接近しないと……」

 

 私がそう呟いたとき、腕の中にいたミス・ウェンズデーが小さく声を出した。

 

「わた、私がスキを作ってやるわ……。ライアさん……、じゃなかった、お前はその間にヤツに近付いて攻撃するのよ!」

 

 彼女は私に接近させる為のスキを作ってくれると言った。

 どんな手を使って? そんなことを思いつつも、彼女を信じるほかに手段はない。

 

「じゃあ、任せたよ。ミス・ウェンズデー!」

 

「ええ! 任せるといいわ!」

 

 チュウの攻撃が止んだ瞬間に彼女は飛び出して、彼の前に立った。

 

 そして――。

 

「魅惑のメマーイダンスッ!」

 

 ぐるぐるとした模様の服を着ているミス・ウェンズデーがくるくるとした踊りをチュウに見せる。

 あー、あったな。こんな技……。これって効くのかな?

 

「うっ――!」

 

 チュウは苦悶の表情を浮かべて顔を手で押さえて、膝をぐらつかせた。

 がっつり効いた。よしっ、このチャンスを逃してなるものか!

 

 私は腹の出血も忘れてチュウに向かって走り出した。

 

「鉛の弾丸だと外したときが痛い……、ならば、緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)いや、――必殺ッ! 火炎星ッッッ!」

 

 必殺の気迫で私はチュウに向かって弾丸を撃ち出す――。

 

 それは彼の左肩に当たって――彼の上半身を燃やした。

 

「――ヌワァァァァァァッ」

 

 彼はたまらず水の中に飛び込もうとする。

 

「おっと、逃さねェぞ! 魚野郎! よくもおれらを雑魚呼ばわりしてくれたな! カッ飛ばせ仕込みバットッ!」

 

 Mr.9はワイヤーが仕込まれたバットの先端を射出して、チュウの足に絡ませて転倒させ、彼の動きを止めた。

 

「悪いね。倒れた敵を撃つのは気が引けるんだけどさ……。生憎、今日の私にはそんな余裕はなくてね……。――必殺ッ! 鉛星ッッッ!」

 

 私は両手で銃を持って至近距離からチュウの腹を目掛けて弾丸を放つ。

 彼は炎熱と銃撃によるダメージに耐えられずに白目をむいてようやく意識を失った。

 

 あー、のっけから大ダメージを受けたときはどうなることかと思ったよ。

 やはり、この世界は耐久力が物を言う……。

 

 私は自分の不利をしみじみと実感した――。

 

「見たか! レディ・ライア! おれとミス・ウェンズデーのナイスアシスト!」 

 

 Mr.9は渾身のドヤ顔でサムズアップのポーズを決める。

 今回は彼らの助けがなかったら危なかったな……。というか、ミス・ウェンズデーはともかく、この人も憎めないキャラだよね……。

 

「ああ、ありがとう。助かったよ。Mr.9……、それにミス・ウェンズデーも、見事なダンスだった」

 

「えっ? そっそうね……。うん……」

 

 私がMr.9とミス・ウェンズデーにお礼を言う。

 ミス・ウェンズデーは何やら複雑そうな顔をして目を背けた。何か、あったのだろうか?

 

 

 こうして、私たちは魚人海賊団幹部のチュウを倒すことが出来た。

 

 同じ頃、仲間たちの決着もつこうとしていた……。

 

 

「龍――巻きッッッ!」

 

 ゾロは六刀流の使い手であるハチを撃破。私よりも重傷なのにこの強さ……、まったくもって理不尽である。

 

羊肉(ムートン)ショットッ!」

 

 サンジは魚人空手の使い手であるクロオビに連撃を加えて見事に勝利をおさめていた。

 サンジも強いなぁ。危なげなく勝ってる……。

 

 

 

 残すはルフィとアーロンの戦いとなった――。

 

 私が彼を見守ろうとしたとき……。この場所に三人の気配が近づいた。

 

 

「信じられない……、本当に魚人海賊団が……」

 

「ほとんど全滅してるねぇ。驚いたわ……」

 

「なっ、なんてことだ。これをさっきの奴らが起こしたとでも言うのか……。どうなってしまうんだ? これから……」

 

 ナミとノジコ……、そしてゲンゾウがアーロンパークに様子を見に来たようだ……。

 

「もうすぐ終わると思うよ……。ルフィが決めてくれるさ……」

 

 私はゲンゾウの疑問に答えるように声をかけた。

 

「ライアと言ったな。あの男がアーロンに勝つ。そう確信しているみたいだが、根拠はあるのかね?」

 

 ゲンゾウは私の言葉に対して質問した。

 

 彼がアーロンに勝つ根拠か……。そんなの決まっている。

 

「彼は海賊王になる男だから……。こんなところで立ち止まる道理がない……、と言ったところかな?」

 

 私は彼の質問にそう答えた。モンキー・D・ルフィという男の器はここで消えるほど小さくないんだ……。

 

 徐々にアーロンはルフィに追い詰められて、本気を出すどころかキレて我を忘れて彼を攻撃していった。

 ルフィは傷だらけになりながらも、ゴム人間の特性を活かした技を次々と繰り出して、ことごとくアーロンの上をいく。

 

 そして、激闘はついに終焉のときを迎えた――。

 

「ゴムゴムのォォォォォ――!! 戦斧(オノ)!! だァァァァァァァ!!」

 

 アーロンパークの最上階から天高く伸びたルフィの足がアーロンに対して振り落とされる。

 

「ああああああああッッ!」

 

 それはアーロンを踏み潰しながら、地面まで建物ごと落とされて――。

 

 ついには建物はガラガラと崩れ落ちていった。

 

 立っていたのは……勝者(ルフィ)だ――。

 

 

 彼はナミが見ていることを確認すると、大声で叫んだ。

 

「ナミ! お前はおれの仲間だ!!」

 

「うん!」

 

 ナミは涙を流してルフィの問いかけを肯定した。

 いや、これでめでたしめでたし……。と、思っていたんだけど……。

 

「おいっ! アーロンの首をホントに持って行って良いんだな!?」

 

「約束したんだからね! 守りなさいよ、絶対!」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーがアーロンの首についての確認をしに来た。

 

「ちょっと、ライア。誰よ、このいかにも怪しい二人組は……!」

 

 ナミは突然現れた珍妙な格好をした二人を見て訝しげな顔をした。

 

「ああ、この怪しい二人は一応アーロン一味を倒すのを手伝ってくれたんだ。一応ね……。で、海賊の私たちがアーロンを倒しても懸賞金は貰えないだろ? だから、それは好きにしたらいいって……」

 

 私は彼らのことを掻い摘んで紹介した。まぁ、アーロンの懸賞金に関しては問題なく――。

 

「ダメよ。バカねぇ、取り引きの仕方も知らないの? こっちの取り分もちゃあんと主張しなきゃ。――じゃあ、私たちの取り分が8で、あなたたちは2で!」

 

 ナミは頭の中でそろばんを弾いて、笑顔でそんなことを主張した。

 

「暴利だァァァァ! おい、聞いたか? ミス・ウェンズデー……。とんでもなく、がめつい女が居たもんだな」

 

「そっそうね。ライアさんとの関係はどうなのかしら……、じゃなかった! おっ横暴よ! せめて半分は寄越しなさい!」

 

 ナミと彼らはさっそく言い争いを始めた。

 

 おや? なんだ、この気配? ってあれは海軍じゃないか!?

 

 私が気配を感じてその方向を見るとアーロンパークに海軍の人たちが入ってきた。

 

 

「驚いたな。ゴザからの通報があって駆けつけてみれば……。噂のアーロンパークが落ちているではないか……。これはどういうことだ?」

 

 紫色の蟹みたいな髪型をしている、階級の高そうな男が驚いた表情をしていた。

 ええーっと、この人誰だっけ?

 

「ん? 三本の刀の男に、銀髪に緋色の銃を持った男……、じゃなかった女が居るな。“海賊狩り”と“魔物狩り”か……。君は確か“魔物狩り”のアイラだったな賞金稼ぎの……。私は海軍77支部の准将プリンプリンだ」

 

 プリンプリンと名乗る紫色の髪の男。はて、こんな人居たっけ? まぁいいか。彼らは私たちのことを賞金稼ぎだと思ってるみたいだし……。

 

「ライアは賞金稼ぎじゃない! 海賊だっ!」

 

 血まみれのルフィがプリンプリンの言葉に反論する。

 

「ん? 海賊? 君たち海賊なのかね?」

 

「ノコギリのアーロンを確保しました! 他の海賊たちも拘束します」

 

 そんな押し問答をしている内に、テキパキと海軍の人たちは倒れているアーロンパークの海賊たちを捕まえて船へと運んでいるみたいだ。

 

「海賊と聞いては私たちは正義に懸けて見過ごすことは出来ないのだが……」

 

「おれは海賊王になる男だっ!」

 

 プリンプリンの問いかけに対してルフィは高らかに海賊であると宣言をした。

 

「ふむ、では彼らも拘束しろ! 海賊は正義の名のもとに滅ぼすべきだ! 精鋭77支部の実力を見せてやれ!」

 

 海軍77支部の海兵たちが我々に戦闘を仕掛けてきた――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「まったく、バカ正直に海賊だって言うから、無駄なことをしてしまったじゃないか」

 

 私はルフィに苦言を呈した。

 

「まぁ、気にすんなよ。ライアー。おれたちは海賊なんだからさー。あっはっはっ」

 

 海軍77支部の皆さんにはちょっとだけ不幸な目にあってもらって、アーロンをお持ち帰りしてもらった。

 

 プリンプリンはルフィに殴られて、絶対に許さないから覚えてろとか言っていた。

 まぁ、アーロンの後処理やってくれそうだし、まともそうな人だし、この周辺の人にとっては良かったのかな。

 

 

 その後、アーロンが居なくなった報せをゲンゾウから聞いた村の人たちから熱烈に歓迎されたり、ゾロがようやくちゃんとした医者から治療を受けられたり、ナミが肩の入れ墨のデザインを変えたりいろいろあった。

 

「おい! 貴様! 本当にナミに手を出しとらんのだろうな!」

 

 酒を飲んだゲンゾウから5回目のこの言いがかりである。

 

「あのね、ゲンゾウさん。何回も言いたくはないんだけど。私は女だから手の出しようがないんだけど」

 

 私は彼に対してそう反論した。

 

「むぅ、信じられん……」

 

 ゲンゾウはめちゃめちゃ私に疑いの視線を送っていた。

 

「あのさ、ノジコからも言ってくれないか? 私とナミは安全だって……」

 

 私はノジコの肩を抱いて彼女に耳打ちした。彼女なら彼から信頼されているし上手く言ってくれると思ったからだ。

 

「――あっ……。えっと、あたしが? いや、そのう……」  

 

 ノジコは顔を赤くしてどうも歯切れが悪い感じになっていた。

 

「きっ、貴様! ノジコにまで手を出しおったか! そこに直れ! あの剣士から先ほど返してもらったこの刀で叩き斬ってくれる!」

 

 血管が切れそうなくらいの剣幕で、ゲンゾウは本当に二本の刀の切っ先を私に向けた。

 

「ナミと海に出ることは断じて許さァァァァん!!」

 

 私は出航までゲンゾウから身を隠すこととなった。

 これって、私が悪いのかな?

 

 

 

 

 

「じゃあね! みんな! 行ってくる!」 

 

 そして翌朝、ナミはココヤシ村を出ていった。満面の笑みを村の人たちに向けて――。

 

 彼女の笑顔は今日の空のように晴れやかで美しかった――。それをそのまま伝えたら、彼女に頭を叩かれたけど……。

 

 

「どうした、故郷から離れてセンチメンタルなのか?どう思う?ミス・ウェンズデー」

 

「きっとそうよ。感動的な別れで私も貰い泣きしちゃったわ。Mr.9」

 

「そっ、そんなことないわよ。私はただ――」

 

 ナミはMr.9とミス・ウェンズデーに話しかけられて反論しようとしたが、ちょっと間を空けて首を傾げた。

 

「――って、どうしてこいつらが船に乗ってるのよ! ルフィ!」

 

 ナミはようやく彼らがこの船に当然のように乗っていることに気が付いてルフィに抗議した。

 

「船無くしちまったって言ってたから、面白ェ奴らだし乗せてやった! 王様だぞ! 王様!」

 

「聞いた私が悪かったわ……」

 

 シンプルな答えにナミは頭を抱えていた。

 

 彼らの乗ってた船は魚人に見つかっており、アーロンパーク近くに運ばれていた。

 そして、海軍が去り際に放った砲弾が不運にもその船に直撃してしまって沈んでしまったのだ。

 

 困った彼らは船長であるルフィに偉大なる航路(グランドライン)まで乗せてくれと懇願。彼はそれを快諾したという流れである。

 

 

「そんなことより、面白いものを見つけたよ。ルフィ、君はお尋ね者になったぞ」

 

 私は新聞の中に入っていた手配書をルフィに見せた。

 

 モンキー・D・ルフィ――懸賞金3000万ベリー。

 あれ? なんで、私の横顔まで見切れてるんだ?

 

 ゴーイングメリー号は偉大なる航路(グランドライン)に入るための下準備をするために、始まりの町(ローグタウン)を目指していた――。

 

 




アーロンパーク編が終わり、次からローグタウン編ですね。
ようやくグランドラインが見えてきました。
次回もよろしくお願いします!


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ローグタウンの武器屋

いつも誤字報告と感想をありがとうございます!
感想で、ライアのパーソナルな情報や武器の情報を詳しくほしいというご意見があったので書いたのですが、気付いたらその感想が消えてしまいました。
でも、せっかく書いたので載せておきます。

興味のない方は読まなくても全然問題ないので読み飛ばしてください。

ライア

所属:麦わらの一味狙撃手
年齢:17歳
誕生日:4月1日
身長:178cm
スリーサイズ:B76・W58・H80
星座:おひつじ座
血液型:S型
髪色:銀色
出身地:東の海 ゲッコー諸島 シロップ村
懸賞金:なし
好きな食べ物:大根おろし

使用武器は装飾銃――緋色の銃(フレアエンジェル)
単発式で弾丸を使い分けて戦う。
見た目は原作の1話で山賊やルウが持っていたような一般的な拳銃とさして変わらないが、緋色に塗装されていて、特殊な弾丸が撃ち出せるように改造されている。
ライアの銀髪と共にトレードマークになっている。

身長はゾロと同じくらいで、ルフィよりも高いです。その上、声も低く、スタイルもアレなので男に間違われるというわけです。

それでは、本編をよろしくお願いします!



「ローグタウン……、始まりと終わりの町か……。なかなか風情があるね」

  

 東の海(イーストブルー)では比較的に大きな町であるローグタウン。

 私たちはここで偉大なる航路(グランドライン)に入るための下準備をすることとなった。

 

 スモーカー大佐にだけは気をつけなきゃなぁ……。

 

「ここで、海賊王は死んだのか……。よっし、おれは死刑台を見てくる」

 

 ルフィは死刑台を見に行くと言って歩き出した。あそこは観光スポットだし、ルフィとしては絶対に見ておきたいに決まってるよなー。

 

「いい食材が手に入りそうだ。うーん、あと、いい女の気配……」

 

 サンジは食材の調達、そしてナンパかな? 食材は本当に大事。命に一番関わるから、サンジを仲間にできたことは本当に大きい。

 

「ふん! 田舎者はこれくらいの町ではしゃぐ。みっともないよなー? なぁ、ミス・ウェンズデー」

 

「ライアさん、どこに行く……? ――えっ? オホホッ! みっともないわねー! ねぇ、Mr.9!」

 

 この人たちは本来ここに居なかった人たちだ。正直言って、この二人が一番怖い。揉め事だけは起こさないでほしい。

 

「おい、ライア。ちょっと買いてェもんがあるんだが……」

 

「ああ、刀を買うんだね。いいよ、好きなのを買って。私が出そう」

 

 ゾロが買いたいものがあると言ってきたので、私は金を出すと言った。

 漫画通りなら貰えるはずだけど、もはやそんな保証はないから、もし貰えなくても出来るだけ良いものを買おうと思っている。

 

「いや、さすがに出してもらうっつーのは……」

 

「遠慮は要らないさ。君には350万ベリー分の借りがあるんだから」

 

 珍しく遠慮を口にするゾロに私はそう伝えて、私は彼の買い物に付き合うことにした。ついでに自分の武器も調達しておこう。

 

「Mr.9、ミス・ウェンズデー、君たちも一緒に来ないか?」

 

 私はバロックワークスの二人組を見張るために誘ってみた。

 

「おれたちは早く偉大なる航路(グランドライン)に戻りてェからここにいるんだ。馴れ合うつもりは――」

「はい、行きま……、――オホホホッ! そうよ! 別に馴れ合う気はないんだから!」

 

 彼らはやはり断った。うーん、やはりダメか……。

 

「なんか、一瞬だけ別人になってなかったか? ミス・ウェンズデー」

 

「きっ、気のせいじゃないかしら? Mr.9」

 

「じゃあ、あんたたちは私の荷物持ちね。言っとくけど、あんたたちを信じて船に残すなんてしないわよ!」

 

 漫才を繰り広げる二人はナミが見張ることとなり、私たちは自分たちの目的のために町の中へと入っていった。

 

 

 ゾロと武器屋を目指してしばらく歩いていると二人の大声が私たちの耳を刺激した。

 

「オウ! 今日はあの化け物と一緒じゃねェんだな!」

 

「ウチの頭はてめェらのせいで監獄の中だ! どーしてくれんノォォォォ!」

 

 二人の荒くれ者が黒髪の女に絡んでいる。あの女性は確か……。

 

「まだ、懲りないんでしたら、私がお相手しますけど……」

 

 黒髪の女は挑発するようなことを言う。

 

「おれたちの相手をするって?」

「してもらおうじゃねェノォォォォ!」

 

「「うぉぉぉぉぉっ!」」

 

 案の定、二人の男は彼女に襲いかかる。ゾロは刀を抜こうとしていた――。

 

 しかし――。

 

 二人の男は彼女によって斬り伏せられた。ああ、この女性は間違いなくスモーカー大佐の部下のたしぎ曹長だな。

 見事な剣技だ――。

 

「あっ……、とっ、とっ、と……。あれ?」

 

「大丈夫かい? 見事な剣技だったから、思わず見惚れちゃったよ」

 

 私は転けそうになった彼女の腕を掴んで抱き起こした。

 

「――っ!? あっ、すっ、すっ、すみません。あっ、あれ、めっメガネが……」

 

 彼女は恐縮するような態度と共に頭を思い切り下げると、足元にメガネが落ちてしまった。

 なんか、冴えない感じだな……。

 

「おい、落としたぞ?」

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

 ゾロはたしぎの落としたメガネを拾って渡した。

 

「――うぉっ!?」

 

 そして彼女の顔を見ると驚愕したような表情を見せた。

 確か彼の亡くなった幼馴染と彼女が瓜二つなんだっけ……? ゾロの和道一文字の元々の持ち主と……。

 

「歩けるかい? どこか捻ったりは?」

 

「ひゃいっ……! だっ、大丈夫です……。すっすみません。本当に……」

 

 たしぎは恥ずかしがっているのか、顔を真っ赤にして首を横に振った。

 

「怪我がないなら、良かった。気を付けるんだよ」

 

 私は彼女にそう声をかけて、ゾロと共に武器屋探しに戻った。

 

 

「びびった……! クソ……」

 

「どうしたんだい? ゾロ……、さっきの子は知り合いかい?」

 

 何も聞かないのは不自然と思ったので、私は動揺している彼に質問した。

 

「んなわけねェだろ。似てたんだよ、知ってる奴にな」

 

 ゾロはぶっきらぼうにそう答えた。うん、漫画で見たときは似てるどころじゃなくて同じだったし。彼も思った以上に驚いてたんだな……。

 

「ふーん。それは、初恋の人とか?」

 

 私はつい、思ったことをそのまま口に出してしまった。

 

「ぶった斬るぞ! てめェ!」

 

「冗談だよ、冗談。怖いなぁ……、君は。よし、お詫びに私の初恋の話をしてあげよう」

 

 本当に刀を抜いてきたので、私は両手を上げて笑って誤魔化そうとした。

 

「聞いてねェよ! バーカ!」

 

 彼は呆れた顔をして刀を鞘に戻した。

 いや、これは彼の傷を抉った私の失言だったな……。

 

 

 それから、適当にぶらついていると武器屋が見つかったので、私たちは入ることにした。

 

「刀が欲しいんだが……」

 

 ゾロは店内に入って開口一番にそう口に出した。

 

「はいはい、いらっしゃいませー。うちは老舗だからね。色々と取り揃えてるよー。好きなだけご覧になってくださいねー」

 

 ニコニコと店主が愛想笑いを浮かべながらゾロを接客しだした。

 

「おい、ライア。予算ってどれぐらいだ?」

 

「予算かい? とりあえず手元には100万ベリーあるよ。船の金庫には私の貯金もまだあるから、必要なら持ってこれるし……」

 

 私はゾロに札束を見せた。現金はそれなりに貯めて持ってきた。私の武器って金がかかるし……。

 

「はぁ? お前、そんなに金持ってんのか?」

 

「逆に私と同じく賞金稼ぎをしていた君が持ってないことが不思議だよ」

 

 ゾロのような名うての賞金稼ぎが文無しの方が私には信じられない。

 モーガンに捕まったときに財産没収でもされたのかな?

 

「とにかく、そんなに貰えるかよ。みっともねェ。店主、出来るだけ安物で間に合わせる。安い刀はどこだ?」

 

「はっ! 安物のナマクラでいいってか? そいつが金出すって言ってんのに遠慮すんなよ」

 

 安物という言葉に店主は顔を露骨に曇らせた。そりゃそうだ。100万ベリー出すという会話がまる聞こえだったんだから。

 

「こっちにもプライドがあんだよ。この際、刀の質には文句は付けねェ……」

 

「だったら、そこの……。――んっ!?」

 

 ゾロの言葉を聞き流していた店主は彼の持っている刀をガン見した。

 それはもう食い入るように見ていた。

 

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待て! おっ、おっ、お前さん! そのそのその刀を見してみな!」

 

「ああん? 何、動揺しまくってんだ?」

 

 ゾロはそう言いながら店主に言われるがままに自分の刀をみせた。

 

「おっおい! こっこの刀……、ボチボチの刀だ……。だから、提案がある。この刀をおれが50万ベリーで買い取ろう。そしたら、お前さんもまぁまぁの刀を三本揃えることが出来る。他人に金を出してもらわなくてもいいんだ。プライドも傷付かずに済むし、そっちの兄ちゃんも金を出さなくて済む」

 

 そして、ゾロの和道一文字を安値で買い叩こうと提案したのだった。

 

「いや、この刀は幾ら積まれてもだな……」

 

「よし、65万ベリー出そう! これでどう――」

 

 ゾロは当然、形見の刀を手放すつもりはない。そして、商談をしているつもりの店主に横槍が入る。

 

「あーっ! この刀は!」

 

「げっ!?」

 

 先程のたしぎがゾロの和道一文字に気付き大声を上げたのだ。店主は嫌そうな顔を見せる。

 

「これって和道一文字でしょう!? “大業物21工”の一本……、ほら、これを見てください売れば1000万ベリーは下らない逸品です!」

 

 たしぎは全部話してしまった。そう、ゾロの和道一文字は紛れもなく名刀。

 この先の激戦でも決して折れることなく付いてくる凄いモノなのだ。

 

「クソ女! 全部喋っちまって! ほら、“時雨”を取りに来たんだろ!? ひょろ剣士が立派な“業物”持ちやがって!」

 

「あっ、わっ、とっと……。あれ?」

 

 店主に刀を投げつけられて、また転びそうになったたしぎを私は再び抱き止める。

 

「また、危なかったね。剣士のお姉さん」

 

「――あっ、あなたはさっきの?」

 

 私が声をかけると彼女は私の顔に気が付いたみたいだ。

 

「まさか2回も転びそうなところを受け止めるとは思わなかったよ」

 

「ひゃい……、すすす、すみません……。ご迷惑かけてます……」

 

 私がそう言うと彼女はまた深々と頭を下げて謝罪してきた。この人、こんなに弱気な人だったっけ?

 

「いや、君に怪我が無かったんだから良かったよ。それだけでもこの偶然の出会いには価値があるんじゃないかな」

 

「――ッ!? 出会い……、ですか?」

 

 たしぎは人見知りなのか、それとも転けそうになって恥ずかしい気持ちが強いのか、耳まで赤くして私の言葉を復唱した。

 

「君は刀に詳しいみたいだし、彼を手伝ってあげてくれないか? 出来るだけ良い刀を安く手に入れたいみたいなんだ」

 

 とりあえず、漫画の流れにすることが良さそうなので、彼女にゾロの刀を選んでもらうことにした。

 

 彼女はゾロに色々と話しかけて“業物”三代鬼徹に目を付けた。

 そして、妖刀だと気が付いたゾロは店主が止めることも聞かずにこれを買うと言い出して、三代鬼徹を放り投げて、その落下地点に腕を出す。

 

 そして――。

 

「――もらってく」

 

 三代鬼徹はゾロの腕を避けて床に突き刺さった。

 私は驚愕した。何を隠そう、私の目にはゾロの腕を切断するように刀が落ちてきたように途中まで見えており、漫画を知っていても大事故を予感していたのだ。

 

 しかし、三代鬼徹はゾロの腕をぬるりと避けた。意志を持っているように――。

 それは、なんとも不思議な光景だった……。

 

 

 さらにこのゾロの異常な立ち振る舞いで店主の心が動かされたのか、“良業物”である雪走まで彼はゾロにプレゼントした。

 確かにあんなことをされたら、ただの剣士だと思う方がおかしい。

 

 かくして、ゾロの刀はやっぱり無料で手に入ったのだった。

 

 さて、私の買い物をしなくちゃな。とりあえず、弾丸とそれからバラしてパーツとして使うように銃を何丁か買っておくか……。

 

「店主、私には銃を見せてくれないか? この銃の銃口部分と同じパーツが使われてる銃が欲しいんだけど」

 

「ああ、金持ちの兄ちゃんか。ん? これだったらこの辺のやつだな」

 

 へぇ、さすが老舗の主人だ。すぐにわかるんだな。

 私は言われるがままに銃を物色し始めた。

 

「あっ、あなたは銃を使うんですね。しかも緋色の銃なんて、今度は“魔物狩りのアイラ”みたいです。知ってますか? 東の海(イーストブルー)で一番凶暴な女って言われている賞金稼ぎを……」

 

 たしぎは腰が抜けて立てないところを私が手を貸して立たせたら、しばらく固まってボーッとしていたのだが、ようやく落ち着いて話しかけてきた。

 よほど、ゾロの行動にびっくりしたんだろうなー。

 

 それにしても、ホントに凶暴な女って感じでこの海中に知れ渡っているんだ……。

 

「不本意だけど、聞いたことはあるよ」

 

 私は思ったままを口にした。

 

「不本意? そっそうなんです。せっかく男に負けないくらい強いって噂になるほどの女なのに……。賞金稼ぎなのは勿体無いです。賞金稼ぎは感心できませんが、少しだけ憧れてるんです。ロロノア・ゾロより強いって噂も聞きましたから」

 

 たしぎは私が賞金稼ぎなんて勿体無いと言う。だって、海軍なんてガチガチに身元確かめられるし……。

 

「ほう? そいつは面白ェ噂だな」

 

 その上、余計な一言が加わったせいで、ゾロの殺気が私の背中にグサグサっと刺さってきた。

 勝てるわけないじゃないか。大怪我していても魚人海賊団の幹部を圧倒するような人だぞ。

 

「私には詰まらない噂だよ。ゾロの方が強いに決まってるからねー。あははっ!」

 

 私はゾロの殺気に耐えられずに笑って誤魔化した。

 

「えっ? やっぱり、あなたも女が男に敵わないと思ってるんですか? 男の人ってやっぱりそんな感じに女の人のことを思っているんですね……」

 

 すると、たしぎは心底残念そうな顔をして私を見ていた。私の言葉を違う風に受け取ったのだろう。

 

「――店主、コイツを全部買おう。釣りはチップだと思ってとっておいてくれ……。待たせてしまったね。行くとしよう」

 

「おう。待ちくたびれたぜ」

 

 私は手早く買い物を済ませてゾロと一緒に店を出ようとした。

 

「――ちなみに私は女だよ。よく間違われるけどね。男女の差とかは考えたことないな。考える暇があったら自分を研鑽することに使えばいい……」

 

 しかし、どうしても悲しそうなたしぎの顔が頭から離れなかったので立ち止まって彼女にそう伝えた。

 

 

「えっ?」

 

 彼女の驚いたような声を背中に受けて、私たちは店外に出た。

 

 私はこれからとんでもない男たちが殺し合いをしている現場に飛び込もうと計画している。

 そんなときに女だからなんて理屈は当然通じない。

 何としてでも強くならなきゃいけないのだから……。 

 

 とは思っているけど、正直、現時点でたしぎの上司であるスモーカー大佐と戦闘は避けたいよなー。

 

 そんなフラグみたいなことを考えながら、私たちは自然に処刑台へと足を向ける。

 そこで私は目にすることになる。伝説の幕開けを――。

 




結構書いたつもりなのに話が進みませんでした。申し訳ありません。
とはいえ、ローグタウンのイベントはそんなに無いはずなので、近いうちにグランドラインに行けるでしょう。

次回もよろしくお願いします!


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伝説は始まった

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!本当にありがたいです!
今回はローグタウン脱出までです。
それでは、よろしくお願いします。


「罪人“モンキー・D・ルフィ”はおれ様を怒らせた罪でハデ死刑ぃぃぃぃぃぃッ!」

 

 死刑台でバカ騒ぎしている道化のバギーとその仲間たち。

 あの、派手なのがバギーか。初めて見た。

 

「あいつ、なんであんなところにいんだ?」

 

 サンジがエレファントホンマグロを背負いながら、ルフィを呆然とした表情で見ていた。

 

「お前らの船長はどうかしてるのか!? 何があったらあんな状況になるんだよ!?」

 

「おれが知るか!」

 

 Mr.9は指をさしてゾロに説明を求めるが、あんなことになった状況なんてわかるはずがない。

 

「じゃあ、あんたたち、何とかルフィを連れてきなさい。もうすぐ嵐が来るから早く出航させたほうがいいわ」

 

「そっ、そんなことが分かるの?」

 

 ナミは冷静に天候を読んで、私たちを急かした。ふむ、肌で天候を感じ取る天性の才能。

 彼女の力はグランドラインでは重宝するだろうな……。ミス・ウェンズデーも両手いっぱいに荷物を持たされながら驚いている。

 

 

「これより! ハデ死刑を! 公開執行するぅぅぅぅ! 何か言い残すことはないか?」

 

 バギーはルフィに最期の言葉を質問した。どう見ても絶体絶命……。

 この状況で彼の放ったひと言はもちろん――。

 

「おれは! 海賊王になる男だァァァァァァ!」

 

 ルフィはこの状況で、この町で、巨大な野望を口にする。

 あまりに果てしなく、そして大きすぎて口に出すことすら憚られるその野望を叫ぶルフィに町の住人は少なからず度肝を抜かれたようだ……。

 

「はっはっはッ! 言い残すことはそれだけか! それでは、ハデに死ねぇぇぇッ!」

 

 バギーは勝ち誇った顔をして剣を構えた。

 

「その死刑待ったァァァ!」

 

 私たちはバギー一味に向かって行ってルフィを救出しようとする。

 あの奇跡が起きなきゃどうすればいい? この距離ならバギーの剣を撃ち落とす事も可能かもしれない。

 でも、この町であの奇跡を見せつけることが出来れば、ルフィの今後のアドバンテージは相当高くなる。

 

 迷いが判断力を鈍らせて、引き金を重くする。

 

 ――バカなのか、私は……。未来を知っているというのは錯覚だ。正確には知っているかもしれない、だ。

 既に漫画とは違った動きをしているのだから……。

 

「ここで、あるかわからない奇跡を信じて……、救える命を救わないことこそ――。あり得ない!」

 

 私は愛銃、緋色の拳銃(フレアエンジェル)を構えてバギーの剣を狙った。

 

「ゾロ! サンジ! ライア! ナミ……!」

 

 ルフィが私たちの名前を告げる。

 

「わりい! おれ死んだ!」

 

「必殺ッ! 鉛星ッッ――!!」

 

 笑顔で彼が死を受け入れたのと、同時に私は引き金を引いた。

 

 しかし、私の弾丸はバギーの剣に届かなかった――。

 

 

 なぜなら……。

 

「奇跡だっペ……、おれァ奇跡を見た……」

 

 私の近くに立っていた男が涙を流して感動していた。

 奇跡だという言葉はまさにこの場にピッタリだろう。

 

 なぜなら、私の弾丸がバギーの剣に当たるよりも早く雷がその剣に向かって落ちて死刑台が崩壊したのだから――。

 ふぅ、奇跡の可能性も捨てきれなかったからギリギリのタイミングを見極めるのは大変だったな……。

 

 私は結局どちらも捨てきれなかった。だから、刹那のタイミングを狙ったのだ。

 

 そのせいで、雷による爆風で浮き上がったルフィの麦わら帽子に弾丸が当たってしまい、穴が空いてしまったが……。

 あとで彼に謝って直さなきゃ……。

 

 

 1つわかったことがある――それは、奇跡は未来視で見ることは出来ないということ!

 

 モンキー・D・ルフィという男の運命を私などが推し量るなど無理な話なのかもしれない。

 

「ライアちゃん、君は神を信じるかい?」

 

「そうだね。もしそういった存在がいるならば、(ルフィ)はよほど神に愛されているんだろう」

 

 サンジのセリフに私はそう返した。しかし、グズグズしてはいられない。

 早く海に出なければ、あの男がやってくる……。海軍本部、大佐――白猟のスモーカー……。おそらく東の海(イーストブルー)で最強の男が――。

 

 

 

「ロロノア・ゾロ! あなたがロロノアで! 海賊だったとは! 私をからかってたんですね! 許せない!」

 

 船に向かってしばらく走っていると、たしぎが我々を待ち構えていた。どうやら、ゾロに対して怒ってるみたいだ。

 

「こいつも黙ってたじゃねェか!」

 

 ゾロは隣で走ってる私を指さした。余計なこと言わないでよ……。

 

「私は別にからかってないもん。ねぇ? 剣士さん」

 

「ひゃうっ! 《魔物狩り》のアイラっ……。 ――とっ、とにかくロロノア! あなたの和道一文字を回収します!」

 

 私がたしぎの顔を覗き込むように話しかけたら、いきなり声をかけたからなのか、彼女は驚いた顔をして、私から顔を背けて、ゾロの刀を回収すると宣った。

 

「やってみな! おい、お前らは先に行ってろ!」

 

「おう!」

 

 ゾロはたしぎの挑戦に受けて立ち。そして、彼女の刀を受け止めた。

 

「おい、お前! レディに手を出すとは――」

 

「あー、ゾロって普通に女の子とも戦うんだ。じゃあ、私はあのとき危なかったんだねぇ」

 

「行くぞ!」

 

 サンジと私が後ろを向いてそんなことを言っていたら、ルフィに襟を掴まれて先に進んだ。

 こういう空気は読めるんだよなー。この人は……。

 

 

 

 さらに走っていくと大きな気配が私たちの進行方向に猛スピードで先回りして待ち構えているのを感じた。

 

 なるほど、何かしらの乗り物を使っているのか――。これは逃げるのもひと手間だな……。

 

「ルフィ! この先に強い気配を感じる……、おそらくマトモに戦えば私たちが全滅するほどの――。回り道をした方がいい!」

 

「嫌だ! おれはこの道がいい!」

 

 ルフィは私の忠告を聞かずにスモーカーの居る方に走っていく。

 やはりダメか……。まぁ、自然(ロギア)系の反則さ加減を知るにはスモーカーはまだマシな方かもしれない。

 だけど彼は海楼石の十手も持ってるからなー。

 というか、弱点を突くならそれを奪うのが一番なんだけど……。

 

 

「来たな! 麦わら!」

 

「誰だ!? お前は!?」

 

「おれの名はスモーカー。海軍本部の大佐だ! お前を海には行かせねェ!」

 

 スモーカー大佐がルフィの前に立ちふさがり、モクモクの実の能力で彼を捕らえる。

 

 ちっ、やはり実物は思った以上の化物……。

 

 それならば……!

 

「ほら、良いものをくれてやる!」

 

 私はスモーカーに向かって度数の強い酒瓶を投げた。彼はモクモクの実の能力者――炎なら何とか彼に多少はダメージを与えられるかもしれない。

 

 

「必殺ッ! 大火焔星ッッッ!」

 

 瓶が彼の伸ばした煙の腕に触れる瞬間を狙って私は緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)を撃ち出した。

 どの程度の火力になるのか見当もつかないな……。

 

「――なっ!? くそっ、この雨で炎か――!? てめェは魔物狩り! おれの能力を対策してきたつもりか!」

 

 スモーカーの伸ばした腕は炎によって断ち切られて、ルフィを落とした。

 

「なるほど、これくらいじゃ無傷ってわけか。参考になったよ。じゃあ、私たちはこの辺で!」

 

「逃がすか! バカッ! ホワイトブロー!」

 

 スモーカーが伸ばしてきた腕を私は寸前のところで躱す。

 

「――おっと、危ない。やはり逃げるのが最善だな。しかし、どうやったら逃げられる?」

 

 彼の攻撃スピードは速く、不意討ちの炎など二度と受けてくれなさそうなのだ。

 

「ライア! おれの腕と拳を燃やせ! あいつをぶっ飛ばす!」

 

「はぁぁぁ? そんなことして何の意味が?」

 

 突然、ルフィがとんでもないことを言い出した。何を考えてるんだこの男は……。

 

「ライアちゃん、そいつは何かしら考えがあるはずだ。おれが時間を稼ぐから言うことを聞いてやってくれ」

 

 サンジがスモーカーに向かっていく。しかし、彼はすぐに殴り飛ばされてしまった。

 

「早くしろ!」

 

「くっ、分かった。酒はもう一つあるから、これを腕と拳に――。そして、雨が降ってるから、マッチを濡らさない様に気を付けて……。点いた!」

 

「ゴムゴムのォォォォ! 火銃(レッドピストル)ッ!」

 

「ぐおっ――!」

 

 炎を纏った拳がスモーカーの腹に直撃すると、彼は吹き飛ばされた。

 ていうか、ルフィってこんなに頭が良かったの?私とスモーカーのあの短いやり取りを見てモクモクの実の対策と、ダメージを与える方法を思い付いたってこと?

 

 私は驚いていたが、スモーカーという男がただ自然(ロギア)系というだけの男ではないということを忘れていた。

 

 彼は吹き飛ばされたが、そのままルフィの腕を掴み、炎が消えたことを確認するとモクモクの実の力で即座に彼を完全に取り押さえてしまった。

 

「どうやら、幸運はここまでのようだな……」

 

「そうでもなさそうだぞ――」

 

 スモーカーが十手を掴もうとしたとき、彼の手を止めたのは黒いフードの男……。

 

 彼は来てくれたか……。ルフィの父親――革命家のモンキー・D・ドラゴン……。

 

 しかし、驚いたな……。戦いに夢中だったせいなのか彼の気配になぜか気付けなかった……。

 

「世界は我々の答えを待っている……!」

 

 ドラゴンがそう言い放ったその瞬間――!

 

 

「なっ――! 突風だっ!」

 

 凄まじい突風が吹き荒れて、私たちは吹き飛ばされてしまう。

 逃げ出すチャンスだ――。

 

「ルフィ、走れっ! バカでかい嵐がくる! 島に閉じ込められるぞ!」

 

 走ってこちらに来たゾロと合流して、私たちはゴーイングメリー号へ向かって行った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ああ、危なかった。危うく取り残されるところだったよ。ありがと、ナミ。それにMr.9にミス・ウェンズデー」

 

「まったくグズグズしやがって」

 

「ライアさん、無事で良かった……、じゃなかった! 本当よ! これじゃ、先が思いやられるわ!」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーに文句を言われる。

 

「まぁ、あの騒ぎで逃げられただけ、幸運よね。あなたも連中のお守りは大変だったでしょう」

 

 ナミは温かい飲み物を手渡しながら、私にそう言った。

 

「そうでもないさ。ルフィには助けられたよ。やはり、我々の船長は凄い。もちろん、ゾロもサンジも凄いけど……。彼らのことは素直に尊敬するよ」

 

 私は飲み物に口をつけながらそう思い返していた。

 本当にルフィの立ち振る舞いには感動した。

 

「ふーん。あなたって、男の人に興味がないと思ってた。女の子ばっかり口説いてたから」

 

「はぁ? まったく身に覚えのないことを言わないで欲しいな!」

 

 私はナミの事実無根の言い草に反論した。

 

「身に覚えのない? あなた、本気で言ってるなら病気を疑うレベルよ! 見境なく手を出して!」

 

 しかし、ナミは譲らなかった。その上言いようが辛辣だった。

 見境なくなんてことは絶対にない。

 

「そっそんなことあるもんか。なぁ? ミス・ウェンズデー」

 

「えっ? そっそうね。私はまったくそうは思わないわよ! オホホッ!」

 

 私がミス・ウェンズデーに同意を求めると彼女は顔を俯かせて同調した。

 なんで目を合わせてくれないんだろう?

 

「ごめん、何か悪いことをしたかい? 君の顔を見たいのだが……」

 

 私は彼女の顎を触って、私の顔が見えるようにクイッと動かした。

 

「あっ……、あっ……」

 

 ミス・ウェンズデーは驚いた顔をして声を発しなかった。そんなに驚かせたかな?

 

「そういうのを止めなさい! バカッ!」

 

 そして、私はナミに頭を思いきり殴られた。

 仲良くしようと思っただけなのに……。

 

 

「おいおい、そんなことよか、導きの灯が見えたぞ! お前らは覚悟した方がいいんじゃねェか? 偉大なる航路(グランドライン)に入ることをッ!」

 

 Mr.9は灯台の光を指さしてそんなことを言っていた。

 

「導きの灯ー? なんだそれ?」

 

「あの光の先に偉大なる航路(グランドライン)があるの! どうする? 何かする?」

 

 ルフィの質問にナミがそう答える。そうだ、あの海にはここまでの冒険とはスケールが違う冒険が待ち構えている。

 私はこれからある事を色々と思い浮かべて身震いした。

 

「よっしゃ、偉大なる航路に船を浮かべる進水式をしよう!」

 

 サンジが樽を置いて足を乗せる。

 

「おれはオールブルーを見つけるために!」

 

「おれは海賊王!」

 

「おれは大剣豪に!」

 

「私は世界地図を描くため!」

 

「私は父親に会うために!」

 

「「行くぞ! 偉大なる航路(グランドライン)!!」」

 

 私たちが同時に踵を樽に落とすと、軽快な破裂音が嵐の海に響き渡る。

 

 麦わらの一味がいよいよ、偉大なる航路(グランドライン)に殴り込みを開始した――。




ルフィのレッドピストルはレッドホークと似てますが、威力は普通のゴムゴムのピストルと同じくらいです。水を手に付けてクロコダイルを殴るのと、同じイメージをしてもらえればありがたいです。しかし、本当に有効なのかは勝手な解釈なので独自解釈のタグを付け加えておきます。

あと、前回のまえがきでライアのプロフィールを載せたところ、感想欄で服装を質問されまして、あまり考えてなかったのですが、第一話の最初の部分に付け加えておきます。ご興味がある方はぜひ読み返して見てください。物語の進行にはまったく関係ないですが……。


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アラバスタ王国編
グランドライン突入!


いつも誤字報告と感想をありがとうございます!いろんなご意見を拝見させてもらうことが出来て楽しいです!
今回から大雑把に分けるとアラバスタ編がスタートです。
なので、そろそろ章を分けてみました。



「おおっ! 見えたぞ! 偉大なる航路(グランドライン)ッ!」

 

 リヴァースマウンテンにはMr.9とミス・ウェンズデーの協力もあってあっさり辿り着き、ゴーイングメリー号は海を登り、グランドラインに到着した。 

 

 しかし、この後が大変だ。漫画と同じなら、ここからすぐに私にとって強大な敵が現れるのだ。

 

 それは、アイランドクジラのラブーン……。

 

 あいつは、その巨体で進路を塞ぐことで、私のゴーイングメリー号を傷付けようとしている。

 漫画ではルフィが機転を利かせて大砲を撃ち込んだおかげで、船首が折れるだけで済んだ。

 

 でも、私はカヤからもらったこの船の船首が折れる事も許したくない。

 まだ会ったこともないブルックとかいう人には悪いけど、私はこのクジラが憎くて仕方がないのだ。

 

「ブォォォォォン!!」

 

 案の定、バカでかいクジラが雄叫びを上げている。

 そして、壁の正体がクジラだということにもみんな気付いたようだ。

 

 

「ルフィ! 私が大砲で船を減速させる! 君はさっきのゴムゴムの風船とやらで、船首を守ってくれ!」

 

 私は船を最も減速出来る絶妙なタイミングと角度を狙いながら、ルフィに頼み事をした。

 

「ん? よし任せとけ!」

 

 ルフィは私の狙いを理解して右拳をパシッと左の手のひらにぶつけながら、返事をした。

 やはり彼は機転が利く……。

 

「おい、ライア! アレを撃つのか!?」

 

「バカなことは止めなさい! もし、あのクジラが怒ったら!」

 

「大胆なところがライアちゃんらしくて、素敵だ!」

 

 みんなは様々なリアクションをとって私を眺めていた。

 

「今だっ!」

 

「ゴムゴムの風船!」

 

 私がブレーキ代わりの砲弾を撃ち出す――そのタイミングでルフィは膨らみエアバッグの代わりをする。

 するとどうだろう? 思ったとおりルフィがクッションの役割を果たして、船はほとんど無傷で停止してくれた。

 

「よし! ルフィ! 手を伸ばしてくれ!」

 

 私はすかさず手を差し出して、彼は私の方に手を伸ばして、私の手を掴み、海に落ちることから逃れた。

 

「ふぅ、良かった。船が無事で……」

 

 私は船首を撫でながらそう言った。いやー、本当に良かった。

 

「自分たちの無事に感謝するのが先でしょ。どんだけ、船が好きなのよ」

 

 ナミはバカな人を見るような目で私を見ていた。

 だって、カヤがプレゼントしてくれたんだよ。

 あー、早く会いたい。空から頂上戦争降って来ないかな?

 

「とりあえず、これ以上クジラを刺激せずに、こっそりあの隙間から抜けよう」

 

「クジラに大砲ぶっ放した奴がなんか言ってるぞ……。ミス・ウェンズデー」

 

「ワイルドで素敵……、じゃなかった……、無茶ばかりしてバカみたいよね。Mr.9」

 

 私の言葉に二人がツッコミを入れる。確かに安易だったかもしれない。クジラがそのあと暴れだす可能性について考えてなかった。

 

「よし、もう少し後ろに下げるか!」

 

 ズドンという轟音と共に船が僅かに後進する。

 ルフィがラブーンに向かってもう一発大砲を撃ったのだ。

 

「ブォォォォォン!」

 

「えっ――?」

 

 2発目の大砲にはさすがのラブーンも気付いたみたいで叫び声を上げながら……。ゴーイングメリー号はクジラに飲み込まれた。

 ルフィには文句言えないけど……。船がァァァァァァッ!

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「私はクロッカス、双子岬の灯台守をやっている。歳は71歳、双子座のAB型だ」

 

「あいつ斬っていいか!?」

 

「良いわけ無いだろ。できるだけ下手に出て、頭を下げてでも状況を確認するべきだ」

 

 クジラの腹の中で灯台守のクロッカスと出会った。

 

「その顔でプライドのないことを言うな!」

 

「顔は関係なくない?」

 

 ナミの理不尽なツッコミに私は首をひねる。

 

「なぁなぁ、ここってあのでっかいクジラの中なのかー?」

 

 漫画とは違い、一緒に飲み込まれたルフィがクロッカスに質問をする。

 

「ここがどこか、みたいな間抜けな質問よりもマシだな。どう見てもネズミの腹の中には見えんだろ?」

 

「まぁ、ルフィの言うとおりクジラの腹の中だと考えるのが自然だね。まるで、おとぎ話の世界みたいだ」

 

「なんで、あんたはそんなに落ち着いてられんの!? クジラに消化されるかもしれないのよ!」

 

 クロッカスは私たちにこの場所がクジラの腹の中だと教えてくれた。

 それと思ってることを呟いたら、ナミにまた叱られた。

 

「出口ならあそこだ――」

 

 クロッカスが出口の存在を教えてくれた頃に、ラブーンがレッドラインに頭をぶつけ始めた。

 

 彼は鎮静剤をラブーンに射ち込み、そして教えてくれた。

 このクジラは海賊に付いてきたクジラで、この場所に置いていかれたという話を。

 そして、また会いに戻ってくるという約束を信じて50年もの間このように待っているということも……。

 その海賊たちは既に亡くなっているというのに――。ブルックは生きてるような死んでるような状態だけど……。

 

 うーん。話を実際聞くと実に切ない。敵視していて申し訳なかったよ。ラブーン……。

 

「で、君は今、何をしようとしたのかな? ルフィ……」

 

「あっ、ライア。ちょっと、あいつに喧嘩を売ろうと思って……」

 

 危なかった、ルフィがメリー号に乗り込んで行って何かしようとしている気配を察知して、慌てて来たから、間に合った。

 

「喧嘩を売るのにメインマストは関係ないよね? この船は私の宝物なんだ……。君にはそのことをよぉく理解して欲しいな」

 

「――そっか、わりいなライア! んーじゃあ、どーすっかなー」

 

 彼はメインマストを叩き折って、ラブーンにぶつけようとしていたのだ。まったく、この船をなんだと思ってるんだ……。

 

 

 で、そんなもの使わなくてもルフィは強いから巨大なクジラと十分喧嘩をすることは出来た。

 彼は敢えて、戦いの決着をつけずに終えて、もう一度戦う約束をラブーンと取り付けた。

 ルフィはラブーンに待つ意味を新しく上書きしたのだ。

 

 そして、ラブーンの件が落ち着いてサンジが食事を作ってくれていた頃、ナミが大声を出した。

 

「あーっ! 羅針盤(コンパス)が狂ってる!」

 

 羅針盤がグルグル回転しっぱなしで役に立たない様子を見て彼女は狼狽した。

 

「なーんだ、お前らそんなことも知らないで、こっちに来たのか?」

 

「この偉大なる航路(グランドライン)では、この記録指針(ログポース)を使って航海するのよ! ちなみにこれは、常識よ!」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーがドヤ顔で説明を開始した。

 この人たちはウィスキーピークを最初の行き先に選んで貰いたいから主導権握りたいんだろうなー。

 

 クロッカスは彼らの言葉に続けて説明をする。偉大なる航路(グランドライン)に流れる特殊な磁気のこと、そして、この島からはそれを利用して7つのルートが選べること、最後にはラフテルという島に通じているということを……。

 

 

「そこで、だ。お前らにこれをやろうと思う!」

 

 クロッカスの説明が一段落して、Mr.9はログポースを私たちにくれると言い出した。

 

「ヘェ、急にそんなこと言い出すなんて何を企んでいるんだ?」

 

 ゾロは最初から彼らを怪しむ。無理もないけど……。

 

「うっ……、Mr.ブシドー……。だから、その代わりに私たちの町であるウィスキーピークを最初の航海に選んで欲しいのよ。それで、私たちは町に帰れるから」

 

 ミス・ウェンズデーは自分たちの目的を告げて取引を持ちかけた。

 

「航路は慎重に選んだ方がいい。ラブーンの件もある。私の記録指針(ログポース)をお前たちにやろう。これで、好きな航路が選べる」

 

 クロッカスが親切心で自らの記録指針(ログポース)を渡そうとした。

 

「おいっ! クソジジイ! 何勝手なこと抜かしてんだ! コラァ!」

「それじゃ、取引出来ないじゃない! 営業妨害よ!」

 

 当然、二人はクロッカスに食って掛かる。帰りたいから必死なのだ。

 

「いいよ。おれたち、こいつらのを貰って冒険するから」

 

「むっ、麦わら……、お前……」

 

 ルフィはそんな中、迷いなく自分の結論を出した。こういうところが彼らしい。

 

 ということで、我々の偉大なる航路(グランドライン)での最初の目的地はウィスキーピークに決まった。

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーはガッツポーズしてたけど、この人たちどうするつもりなんだろう?

 正体は私にバレてるし、彼らの強さも知ってるはずだ。まさか、宴会を開いて有耶無耶にしたところを襲ってくるとかベタな手段を使うのか……?

 

 そんなことを思っていると、ミス・ウェンズデーが私にこっそり話しかけてきた。

 

「ライアさん、警戒しないでください。あなたたちには手を出させないように必ず私が説得します……」

 

「えっ? ミス・ウェンズデー?」

 

「ずっと苦しかったけど……。あなたと出会えて良かったです……」

 

 ミス・ウェンズデーはいつもの調子とは違った感じを見せて、私たちには手出ししないと約束をした。

 急に素の表情を見せるんだもん。驚いたな……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)の航海は困難を極めた。

 

 嵐、春一番、氷山、目まぐるしく変わる天候、そして気づいた頃には逆走しているほど気まぐれな海流。

 

 ナミに自信を持って自分の航海術が通用しないと言わしめるほど厄介な航路であった。

 

 それでも、船員が一丸となれば何とかなるもので……。

 

「最初の島が見えてきたな。あれがウィスキーピークか……」

 

 巨大なサボテンが目立つ島……。ウィスキーピークに我々はたどり着いた。

 

「しかしだなぁ、ミス・ウェンズデー、このまま何の成果もなく戻るとなると我々の面子が……」

 

「面子にこだわって、受けた恩を仇で返すほど落ちぶれて良いのかしら? Mr.9、あなただって感謝くらいはしてるでしょう?」

 

「――くっ!? 仕方ねェな……」

 

 ミス・ウェンズデーとMr.9はブツブツと話し合いをしていた。本当に私たちには手を出さないように説得をしているようだ。

 

「おい! お前らに言っておくことがある! ウィスキーピークは賞金稼ぎの町だ! 死にたくなかったら着いたらログが溜まるまで船から出るな! この船にゃ、手を出さねェようにおれが話をつけてやる」

 

 Mr.9はウィスキーピークの秘密をぶっちゃけた。

 これは意外な展開だけど、どうなるんだろう?

 

「嫌だ! おれは冒険がしたいからここに来たんだ! 着いたら冒険するぞ! 野郎ども!」

 

 ルフィは当たり前のように彼の要求をつっぱねる。性格的におとなしくするはずがない。

 

「いや、悪いね。気を使ってもらったのに。だから急いだほうがいいよ」

 

「急ぐ? 何をだ?」

 

「このままだと、君たちの仲間が全滅するってことさ。ルフィたちに喧嘩を売らないように、強く警告した方がいい」

 

 私はMr.9に忠告した。ルフィたちに手を出さぬことこそ身のためだと。

 実際、ゾロ一人に全滅させられてるんだもん。

 

 

 そうこうしている内に私たちの船はウィスキーピークの港にたどり着いた……。

 

 町は活気のあるムードに包まれて、私たちを大歓迎してくれているみたいに見えた。

 なるほど、こうやってグランドラインに来たばかりの海賊を油断させて仕留めているのか……。

 

「なんだー、楽しそうなところじゃんかー!」

 

 ルフィはこの歓迎ムードを素直に受け取った。

 

「そういう手だろ。まったく、おれたちはクールに行かなきゃって、――可愛い子多いじゃねェか! 天国かよ! この島は!」

 

 途中までクールに決めていたサンジの目がハートマークになったことがわかるくらいだらしなくなる。

 

「ライアを含めて3バカね」

 

「えっ? 私ってあっちの括りなの?」

 

 ナミの言葉が私の心に深く突きささった。不本意どころじゃないよ……。

 

 

 私たち5人は上陸した。ルフィが冒険に出ると言っているので当然だ。

 しぶしぶ、Mr.9とミス・ウェンズデーも降りてくる。

 

「いら゛っ……、マーマーマーマーマ〜♪ いらっしゃい、私の名前はイガラッポイ。ここはもてなしが誇りの町です。あなた方の旅の話をぜひ聞かせてください。宴を用意――」

 

「ちょっと良いかしら? イガラッポイ……」

 

 イガラッポイ、彼はMr.8にしてアラバスタ王国の護衛隊長……。

 彼のセリフを遮るようにして、ミス・ウェンズデーは彼を少し離れたところに連れていき密談を開始する。

 

 彼はチラッと私を睨んだような気がした。気のせいだと思うけど……。

 

 

「うーむ。わかった。麦わら一味の3000万は正直惜しいが……。――ぐはぁぁぁぁッ!」

 

 イガラッポイが何やらそんなことを呟いていると……。

 彼の体が――突然爆発した。

 

 これって……、まさかボムボムの実の能力!?

 

「人が突然爆発した? どういうこと?」

 

「きっ、貴様! どういうつもりだ! Mr.5! まさか、任務失敗したおれたちを消しに来たか!?」

 

 ナミの疑問と同時にMr.9が叫び声を上げる。やはり彼らが来ていたか。こちらも漫画よりもかなり早いな……。

 

「はっ! フロンティアエージェントのてめェごときを消しに誰がこんなところまで来るかよ! おれらがここに来た理由。それは社長が『おれの秘密を知られた』と言ったからだ。そして調べていくと、ある王国の要人がバロックワークスに潜りこんでいることがわかった――」

 

 サングラスをかけたワカメみたいな髪型をした男、Mr.5と、帽子をかぶった金髪のショートヘアの女、ミス・バレンタインが建物の屋根の上に立っていた。

 

 彼の存在に気づいた、イガラッポイは立ち上がり、ロールしている髪から散弾銃を彼らに向かって繰り出した。

 

「お逃げください!」

 

 彼はミス・ウェンズデーに大声でそう告げた。

 

 おそらくMr.9も含めて誰もがこの展開についていけてないだろう。

 

 ルフィたちは呆然として事態を眺めていたのである。

 

「誰が逃がすか! 罪人の名は、アラバスタ王国護衛隊長イガラム! そしてアラバスタ王国王女、ネフェルタリ・ビビ――! お前たち二人を、バロックワークス社長の名の下に抹殺する!」

 

 鼻くそをほじりながらそんなセリフを吐くMr.5を尻目にミス・ウェンズデーいや、アラバスタ王国の王女であるビビは走って逃げようとした。

 

鼻空想砲(ノーズファンシーキャノン)ッ!」

 

 彼から爆弾となった鼻くそが放たれる――。

 もっと、色々と能力の使い道あっただろうに……。

 

 爆炎がウィスキーピークの港で巻き上がる。

 

「――あれ? 当たったと思ったのに……?」

 

「こうやって、君を庇うのは二回目だね。怪我はない?」

 

 私はMr.5の爆弾が彼女を捉えるギリギリで、あのときのように彼女を突き飛ばした。

 

 チュウのときみたいに大怪我は負わなかったけど――。足を捻ったみたいだ。

 

「キャハハッ! 庇って倒れちゃうなんて間抜けね! 死ぬがいいわ! 私のキロキロの実の能力で! 1万キロプレス!」

 

 ビビを庇って転けた私を最初に潰そうとしたのか、ミス・バレンタインが自らの体重を1万キログラムに増大させて落下してきた。

 

 私は避けることが出来ずに彼女を睨むことしか出来なかった……。くっ、こんなところで終わるのか……。

 

 彼女がとてつもない勢いで私の背中に落下してきた――。

 

 あれ? どういうことだ……?

 

「――すっごく軽いんだけど……? 1万キロ?」

 

 どういうわけか、私の背中には子猫くらいの重量しか乗っていなかった。

 力の調節を間違ったのかな?

 

「…………」

 

「…………」

 

 ほんの一瞬だが沈黙が辺りを支配した。誰一人としてひとことも発しない……。

 

 そして――。

 

「えっと、キャハッ……、ちょっとダイエット中?」

 

 ウィスキーピークでついに私たちはバロックワークスと衝突することとなった――。

 

 

 




原作よりも長く居たバロックワークス組が今さら騙し討ちをするとは思えなかったので、今回は展開を色々とすっ飛ばしてしまいました。
原作の100人斬りからのルフィVSゾロとかすっごく好きなんですけどねー。
ゾロの懸賞金にも関わるかなとか思ったんですけど、ここは深く考えずに金額は原作と同じにする予定です。
次回はウィスキーピークでの戦いからスタートです。


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ウィスキーピークの戦い

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ミス・バレンタインの予想以上の人気ぶりに驚きました。
今回はそんなバレンタインとか正体がわかったビビを中心としたストーリーです。
それではよろしくお願いします!


「何をふざけてる! ミス・バレンタイン!」

 

 しばらく呆気にとられていたMr.5は怒鳴り声を上げる。

 あー、ふざけてるのか。確かにこのまま体重を増やしていく技とかあったよね。危ない、早く跳ね除けないと……。

 

「とりゃあっ!」

 

 私は背中に乗っているミス・バレンタインを思いっきり跳ね飛ばそうと力を入れた。

 

「キャッ……ハッ……!」

 

 思った以上に彼女は簡単に飛ばされて、宙に浮かび上がる。どういうつもりだ……?

 そして、私は足の痛みに耐えて何とか立ち上がった。

 

「私の狙いはミス・ウェンズデー! いや、アラバスタ王国の王女! ネフェルタリ・ビビ! とりゃっ!」

 

 ミス・バレンタインの足技がビビの髪留めを破壊しながら彼女の頭を掠める。

 

「くっ……、私のせいでライアさんまで……!」

 

 ビビは自分のピンチなのにも関わらず私の身を案じるようなことを言う。

 

「キャハハッ! トドメよ! 地面に埋めてあげるわ!」

 

 ミス・バレンタインはフワリとジャンプしてビビに攻撃を加えようとした。早く銃を抜かなきゃ……。

 

「やめろ! ミス・ウェンズデーに手を出すな!」

 

「はいっ!」

 

 私が銃を構えようとしながらミス・バレンタインに向かって怒鳴ると、彼女は何を思ったか攻撃を止めて、そのまま着地した。

 

「「――えっ?」」

 

 私とビビは状況がわからずに困惑して顔を見合わせた。

 まさか、本当に攻撃をやめるとは……。

 

「あっ……、キャハッ……。えっと……、あまり見ないでくれない……?」

 

 ミス・バレンタインは頬を桃色に染めて俯きながらそんなことを言い出した。

 

「君は何を言ってるんだい? とにかく、彼女を攻撃するのは許さない…。この距離なら外さないよ、私は……」

 

「キャハハ……、わかったから……、これ以上睨まないで……。せめて睨むのだけはやめてちょうだい……」

 

 私は彼女がふざけていると感じて、嘗められないように銃口を彼女に向ける。彼女は私の目つきが気にいらないようで、チラッチラッとしかこちらを見ない。

 なんで俯きながら上目遣いでこっちを見るんだ? 戦いにくいと思うんだけど……。

 

「おいっ! ミス・バレンタイン! お前はマジでどうしやがった!? もういいっ! 社長命令だテメーら! Mr.8及びミス・ウェンズデーを消せ! ついでにあそこにいる邪魔者もだ! 消したやつには、おれが奴らの後釜に推薦してやるっ!」

 

 Mr.5はそう言ってウィスキーピークの賞金稼ぎたちをけしかけてきた。

 連中は長いものに巻かれる主義なのか、リーダー格のはずのイガラッポイ、もといイガラムやビビに遠慮なしに襲いかかる。

 

「とりあえず! レディに手を出すやつァ許さねェ!」

 

「ライア! こいつらをぶっ飛ばせばいいのか!?」

 

「まぁ、いいや。とりあえず試し斬りしたかったし、理由は後で聞いてやろう!」

 

 サンジ、ルフィ、ゾロの三人が私とビビ、そしてイガラムに襲いかかる100人近い賞金稼ぎたちを次々と蹂躙していく。ナミはこっそりと私の後ろにしがみついて様子を窺っていた。

 

 ナミがしがみついた瞬間にビビとミス・バレンタインの表情が一瞬変わったような気がするが、今はそんなことを気にしてられない。

 

 それにしても圧倒的というか何というか……。

 ホントに一瞬でほとんどの賞金稼ぎたちが倒されてしまい、Mr.5は沈黙していたが、少しだけ腕がプルプルと震えていた。

 ミス・バレンタインが何故か動かない今、自分の不利を悟ったのかもしれない。

 

「しっ、信じられん! この町の賞金稼ぎたちが一瞬で……!」

 

「彼らは強いのよ。イガラム……。特にあのルフィさんは3000万ベリーの懸賞金に見合うだけの強さだわ……」

 

 ビビはルフィたちの強さをもちろん知っている。アーロンパークで、アーロンを圧倒していたところを見ていたから……。

 

「おいっ! ミス・バレンタイン! このままだと社長におれたちが殺されちまう! さっさと王女を始末して戻ってこい!」

 

「――動くと撃つよ! ミス・バレンタイン!」

 

 Mr.5が堪らずミス・バレンタインにビビを抹殺するように指示を出したので、私はさらに彼女に近づいて銃口を突きつける。

 

「うっ……、撃てばいいじゃない! 何よ! 彼女の前だからってカッコつけて! キャハハッ! 私がバカみたいじゃん!」

 

 なぜか涙目で自分を撃てと言うミス・バレンタイン。

 いやいや、なんかよく分からなくなってきたぞ! これってどんな状況なんだ?

 

「いや、ナミは彼女じゃないし……、君は何を勘違いしているんだ? というか、そんなことどうでもいいだろ?」

 

 とりあえず、ナミにも迷惑な勘違いなので私はそれを訂正した。

 

「――えっ? そっ、そうなの?」

 

「ほっ……」

 

 ミス・バレンタインは涙目だった表情が一瞬でポカンとした表情に変わり、なぜかビビが胸をなでおろすような動作をした。

 

「ちょっと! ライア! あなた、戦闘中に女の子を口説くなんて信じられないんだけど!」

 

 ナミが突然、荒唐無稽なことを言ってきた。

 

「なっ、何を言ってるんだ? 私がそんなことをするわけがないじゃないか!」

 

 私はナミに反論する。大体、私はミス・バレンタインとはほとんど会話していない。

 

「どう考えてもあの人の態度がおかしいじゃない! 絶対に何かしたでしょ!?」

 

「そりゃあ、ちょっと変だなーとは思ったけど……」

 

 それでもナミはまったく信じない。いや、確かにおかしな態度を取っているから、ふざけていると――。

 

「キャハハッ! 覚えてなさいッ! この借りはいつか返してやるんだから!」

 

 ミス・バレンタインは私とナミが言い争いをしているスキをついて、捨て台詞を吐きながら戦線を離脱しようとした。

 

 

「Mr.5ッ! 撤退するわよ! あれ? Mr.5!?」

 

 ミス・バレンタインはMr.5がさっきまで居た場所に向かったが、彼はそんなところには居なかった。

 そして、彼女は愕然とした表情を浮かべたのである。

 

「ん?こいつのことか?何か暴れてたぞー!持ってくかー!?」

 

 ボロ雑巾のようになったMr.5を片手でブンブン振り回すルフィ。

 

 そして、そんな彼をミス・バレンタインに向かって投げつける。

 

 ミス・バレンタインはMr.5をキャッチしてそのまま逃げ出してしまった。

 

「Mr.5……が、いつの間に!? まさか、オフィサーエージェントをこうも容易く……!?王女はその実力をご存知だったから、私に手を出さぬように忠告されたのか!」

 

「えっ? ええ、そうね。もっ、もちろんそれもあるわ」

 

 ビビはチラッと私を見ながら気まずそうな顔をしていた。

 どうしたんだろう。巻き込んで悪かったとか思っているのだろうか……。

 

 とにかく展開が早すぎて、みんなは状況が掴めてないと思う。

 私ですら呆気にとられているのだから。

 

 そんなわけで、ビビとイガラムから事情を聞く流れに持っていこう。

 

「なぁ、ミス・ウェンズデー。君がアラバスタ王国の王女、ネフェルタリ・ビビとか言われていたけど、本当なのかい?」

 

 私は当然の質問を投げかけた。ミス・ウェンズデーが実は王女だったというのは急展開すぎる……。

 

「――ライアさん。ええ、本当よ。私はアラバスタ王国の王女――。訳あって、このバロックワークスに潜入していたの……」

 

 ビビは申し訳なさそうな顔をして、私の質問を肯定した。

 

「そっか。王女様がそんなことをするなんて、よっぽどの事があったんだね。君たちさえ、良ければさ……、理由を話してくれないか?」

 

「ちょっと、ライア! 何、面倒に首を突っ込もうとしてるのよ!」

 

 私がビビに理由を聞こうとすると、ナミが慌てて止めに入る。

 おそらく面倒ごとの気配を察知したのだろう。さすがに勘がいい……。

 

「だって、気になるじゃないか。一緒に旅してた人が突然、王女様って言われたらさ」

 

「うう……、そりゃあそうだけど。危ない話だったら、逃げるわよ!」

 

 私が少しだけ押すと彼女は折れてくれた。なんだかんだ言ってもナミは優しい。

 

「おれも聞かせてもらうぞ。長くペアを組んでたんだ。――まさか、王女様であらせられたとは……! ご無礼をお許しください!」

 

「ちょっと、あっ、頭を上げてよ。Mr.9!」

 

 格好をつけて現れた、と思いきや速攻で土下座するMr.9と、それを止めようとするビビ。

 一緒に行動してわかったけど、この人って結構、情に厚いから悪人になりきれないタイプだ。

 

「Mr.8、私もこいつと一緒だよ。あんたとは長くペアを組んだ。ミス・ウェンズデーとも友人だと思ってた。だから、手は出さなかったけど、理由を聞く権利くらいあるはずだ」

 

 さらに筋骨隆々な女性がイガラムの元に現れて彼にそう語りかけた。

 

「ええーっと、お姉さんはどちら様で?」

 

 私はミス・マンデーだと知ってたけど、それを口にするのも変だと思ったので、彼女にそんな質問をした。

 

「えっ? お姉さんって、柄じゃないんだけどな……」

 

 よく分からないけど、ミス・マンデーは私から目を背けて恥ずかしがる動作をする。

 いや、人見知りなの? この人って……。

 

「だから、あなたが口を挟むと面倒なの!」

 

 ナミにはなぜか頭を叩かれた。私が悪いのか? まったくわからん。

 

「彼女はミス・マンデー。私の護衛として一緒に潜入したMr.8――イガラ厶とペアを組んでいる人よ」

 

 そして、見かねたビビが彼女に代わって紹介をする。

 

「ミス・バンッ! マーマーマーマーマ〜♪ ミス・マンデー……、あなたが望むなら話そう」

 

 イガラムは彼女の気持ちを汲んだのか、訳を話そうとしてくれた。

 

「別にお前らに興味はねェが、ライアが聞きたがってんならついでに聞いてやるよ」

 

「ミス・ウェンズデーちゃん。王女様だったのかー。可憐だと思ったんだよなー」

 

「どーしたー? 冒険の話かー?」

 

 そして、賞金稼ぎたちを見事に全滅させたルフィたちがこちらに来て、全員でビビとイガラムの話を聞くこととなった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そして、ビビとイガラムは語った。自分たちの国、アラバスタ王国が内乱中だということ、その原因がバロックワークスだという噂を聞いて潜入したということ、さらにバロックワークスの社長の正体を突き止めたということ。

 

「社長の正体か……。そりゃあマズイな。おれたちゃ、これ以上聞いたら命を狙われちまう。わりいがこの辺で身を隠させてもらう。まぁ、なんだ……。ミス・ウェンズデー、オメーの武運を祈ってるぜ……。――バイバイ、ベイビー」

 

「Mr.8、ミス・ウェンズデー、表立って応援は出来ないけど、死ぬんじゃないよ……」

 

 バロックワークスのエージェントの二人は身の危険を感じてこの場を去って行った。

 賢明な判断だと思う。

 

「社長って、そんなにヤバイやつなのかー?」

 

 二人が去ってから、ルフィはビビにそんなことを質問する。

 ヤバイどころじゃない。正直、この時点のルフィがあの男に勝てたのは奇跡なんじゃないかとすら思う。

 

「ルフィ、当たり前でしょ。国を乗っ取ろうとする奴なのよ。ヤバイやつに決まってるわ」

 

 ナミは一般論を口に出す。

 そのとおりだ、アラバスタといい、ドレスローザといい、国の乗っ取りを企むヤツって個人の実力も組織力もズバ抜けている。

 

「ええ、あなたたちがいくら強くても、Mr.0、王下七武海の一人、サー・クロコダイルには決して勝てはしないわ」

 

「おっ、王女ッ!」

 

 うっかりどころじゃない口のすべらせ方をしたビビに対して、イガラムが顔を青くして声を荒げる。

 

「へぇ、社長って七武海なんだ。そりゃ、大物だね……」

 

「はっ――!」

 

 私の言葉がそれに続いて、ビビは自分が失言したことに気が付いたらしい。もう口を押さえても無駄だと思うが……。

 

「じぃーっ……」

 

 それをしばらく眺めていたラッコとハゲタカ……。確かアンラッキーズとかいう伝令やお仕置きをする役割をもつ動物だ。

 ラッコはハゲタカに乗って空に飛んで行ってしまった。

 

「ちょっと、何なのよ! 今の鳥とラッコ! あんたが私たちに秘密を喋ったこと聞いてたんじゃないの!?」

 

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

 ナミはビビの胸ぐらを掴んで必死で抗議していた。こうなったら、そんなことをしても、もう無駄なんだけどな。

 

「こうなったら逃げるしかないわ! 来て早々に七武海に狙われるなんて、あんまりよ! 幸いまだ顔はバレてないんだから!」

 

「そうでもないみたいだよ。ほら、なかなか上手に描くもんだ。器用なラッコだね」

 

 ナミは逃げようとしていたが、ラッコが上手に私たち5人の似顔絵を描いてそのまま飛び立とうとしていた。

 

「言ってる場合か〜! 早く撃ち落としてよ! 狙撃手でしょ!」

 

「え〜。可愛い動物を虐待って気が進まないんだけど」

 

 ナミはそう言うけど、小さな動物を狙うのはちょっとな……。

 

「何よ! 可愛い女の子は何人も撃ち落としてるくせに!」

 

 ナミがまた身に覚えのない言いがかりをつけてくる。

 

「人を女たらしみたいに言わないで欲しいな。まぁ、仕方ないか――。この睡眠弾で――」

  

 しかし、彼女の言うことはもっともだ。みすみすクロコダイルに私たちの情報を渡す道理はない。

 私は緋色の銃(フレアエンジェル)でハゲタカを狙って引き金を引こうとした。

 

「ぶぇっくしょんッッ」

 

「わっ――!」

 

 そのとき、隣にいたルフィが思いっきり大きなくしゃみをした。私は驚いてしまって、的を外してしまう。

 くっ、この程度で動揺して外すなんて修行不足もいいところだ……。

 

「ルフィ! 何やってるのよ!」

 

「虫が鼻に入ってムズムズした」

 

「これで逃げ場がなくなっちゃった〜! どうしてくれんのよ〜!」

 

 ナミはルフィに怒鳴り、そして頭を抱えて涙目になっていた。

 

「怒ってるナミさんもお美しい〜!」

 

「これでおれたちは5人ともバロックワークスの抹殺リストに追加されたわけか」

 

「なんかゾクゾクするな〜!」

 

 ナミとは裏腹にルフィたち男3人はこんな状況でも平常運転だった。これが、彼ららしさなのだが……。

 

 

「で、これから君はどうするのかな? 国は一大事、その上あの王下七武海であるクロコダイルが敵に回ってる。次の刺客が来るまでさほど時間はないと思うよ」

 

 私はビビにそう話しかけた。彼女の意志を確かめたかったからだ。

 

「もちろん、国に帰ってこの危機をみんなに伝える。クロコダイルの思いどおりにはさせられないもの」

 

 ビビは当然のように危険でも国に帰るという確固たる意志を示した。うん、やっぱりこの子は強い子だ。

 

「そこで、恥を忍んであなたたちにお願いさせて頂きたい。どうか、この王女を無事にアラバスタ王国まで連れて行って欲しいのです」

 

「ん?いいぞ。」

 

 ビビの言葉に続けてイガラムが私たちに彼女の護衛をして欲しいと頼んできた。

 それに対してルフィは即答する。

 

「ちょっと、ルフィ。何を勝手なことを! 七武海よ! 七武海!」

 

「まぁまぁ、どっちみち狙われてるんだから一緒だよ」

 

 当然のようにナミは怒りだす。気持ちはわかるけど、私は何とか彼女を宥めた。

 

「へっ、七武海か。楽しみだな」

 

「ビビちゃん、おれがあなたの騎士になります! 大船に乗ったつもりでいてください!」

 

 ゾロもサンジも概ね乗り気なのでこの件は引き受ける方向で固まった。

 

「では私に提案があります! それは――」

 

 ビビをアラバスタ王国に送り届けるという依頼を引き受けた私たちにイガラムはここからの作戦を話した。

 

 まずイガラムがダミー人形を用意してビビのフリをしながら海に出て永久指針(エターナルポース)でアラバスタ王国を目指し、バロックワークスからの刺客を引きつける。

 そして、私たちは通常の航路を経てアラバスタ王国を目指すという作戦だ。

 

 漫画ではイガラムは出航した途端に沈没させられていたけど大丈夫かな? まぁ、ミス・オールサンデーことニコ・ロビンは敢えて彼を生かしたみたいだから安心だとは思うけど……。

 逆に変なことを言って警戒される方がリスクは高いか……。

 

 そもそも、漫画とは若干出航のタイミングも違うはずだから、ミス・オールサンデーが来ないという可能性もあるよな……。

 

 

 そんなことを考えていたが、やはりというべきか……、私たちのログが溜まったタイミングで出航したイガラムの船は我々と別れたあとに直ぐに爆発してしまった。

 

 

「――立派だった!」

 

 ルフィはそう一言だけ残してゴーイングメリー号を目指した。

 

 私は思った以上の大きさの爆炎が立ち上った船を見て呆然と考えていた。

 知ってて止めなかった私は彼を見捨てたも同然なのでは、と。無論、彼は生きている可能性が高い。

 しかし、爛々と炎上する船を見て私はそう思わずにはいられなかったのだ。

 

「――ッ!?」

 

 血が出るほど唇を食いしばって、駆け出したい衝動を抑えているビビ。

 彼女は私よりも年下のはず。なのに、なんて気高くてそして強い心を持っているのだろうか……。

 

 イガラムに報いることが、私の罪の償いになるならば、私は――。

 

「ビビ、大丈夫だよ。私が命に代えてでも君を守り、無事に故郷に送り届ける。約束しよう!」

 

 私はビビを抱きしめて頭を撫でながら彼女に一方的に約束を押し付けた。

 

「らっ、ライアさん。わっ、私……」

 

「うん。不安なのはわかってるよ。いつでも寄りかかって良いから。君の弱音だって、何だって受け止めるくらいしてみせよう。私だけじゃないよ。強い仲間が君にはあと4人も付いているんだ。誰にも負けないさ――」

 

 こうして、私たちはゴーイングメリー号に乗り込んで、次の島を目指し出発した。

 

 この船に仲間以外が乗り込んでいることに気付いているのは――まだ、私しかいない……。

 

 




キリの良いところまで書いていたら過去最長に……。
5000字前後を目指しているのに、上手く行かないものです。
原作とは違ってクロコダイルは麦わらの一味を5人だと最初から認識することになりました。
次回はオールサンデーとか、リトルガーデンとか、そんな感じです!


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進路はリトルガーデン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!本当に書く力となってますのでありがたいです!
今回はミス・オールサンデー登場からです。
それでは、よろしくお願いします!


「知らないカルガモが乗ってたときには何だと思ったけど、君の友達だったんだね」

 

 カルーが何故かゴーイングメリー号に先に乗っていたので驚いた。でも、カルー可愛いな。

 

「ええ、居なくなったと思ったから焦ったわ……。その、ええーっと……」

 

 ビビは何やら言いたげでモジモジしていた。

 

「あっ、ごめんごめん。ずっと手を握りっぱなしだったね。子供じゃないんだから、もう大丈夫か」

 

「あっ、私は別に……」

 

 私は彼女の手を引いてここまで来ていたので、ずっと握りっぱなしだった手を離した。

 なんか、王女様に失礼なことをしてる気がする。

 

「しかし、あっという間だったな。おれァ、ビビちゃんと旅が出来て嬉しいが」

 

「まっ、試し斬りが出来ただけ良しとしてやるぜ」

 

 サンジとゾロは出航の準備を終えて勇ましい言葉を放っていた。この二人は居るだけで頼りになる。

 

「なァ! 追手ってどれくらい来てんのかなァ?」

 

「1000人くらい来たりして」

 

「あり得るわ。社長の正体の情報はそれだけのことだもん」

 

 ルフィとナミの言葉に返事をするビビ。実際は1000人も動員はされなかったが、Mr.3とミス・ゴールデンウィークは派遣された。

 さらにMr.5とミス・バレンタインとも再び相まみえるだろう。

 

 うーん。私の戦力では果たして悪魔の実の能力者に勝てるだろうか? Mr.3の能力は緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)で何とかなるかもしれないが、なるべくルフィに任せて援護に徹しよう。

 

 

「どっちみち、ここからは油断は禁物だね。気を引き締めていこう。既に追手のうちの一人がいる訳だし……」

 

 私は欄干に腰掛けているミス・オールサンデーに話しかけた。

 

「あら、気付いてたの? 気配を消すのは得意なのに」

 

 ミス・オールサンデーは不敵な笑みを浮かべて私を眺めていた。

 

「この一味の狙撃手をやってるんでね。狙った獲物を逃さないように感覚を鍛えてるのさ」

 

 私は彼女の挑発的な態度に対してそう言葉を吐いた。この人もかなり強いな。幼少から賞金首になって生き残ってるだけはある。

 

「ふぅん。なるほど」

 

「あっ、あなたは!? ミス・オールサンデー! なんであなたがここに居るの!」

 

 ビビはミス・オールサンデーの存在に気付き彼女を睨みつける。

 

「さっきそこでMr.8に会ったわよ? ミス・ウェンズデー」

 

「――くっ!? やっぱりあなたがイガラムをっ!」

 

 さらにミス・オールサンデーの言葉でビビはより一層怒りを顕にした。

 

「今度はMr何番のパートナーなの?」

 

Mr.0(ボス)のパートナーよ。この女だけが社長(ボス)の正体を知っていたから、私は彼女を尾行して社長の正体を知ったの」

 

 ナミの質問にビビは答える。そう、ミス・オールサンデーはMr.0――つまりクロコダイルのパートナーだ。

 

「正確には私が尾行させてあげたの。本気でバロックワークスを敵に回して国を救おうとしている王女様があまりにもバカバカしくてね。ふふっ……」

 

 ミス・オールサンデーはビビをバカにするような態度をとった。

 うーん。彼女には彼女なりの理由があることは知っているけど、その言い様はやはりムカッとするなぁ。

 

「へぇ、だったら迂闊にこの船に乗り込んだ君を捕まえれば色々とわかるんじゃないかな? ねぇ、サンジ」

 

「ライアちゃんの言うとおりだ。ビビちゃんには指一本触れさせねェ」

 

 私とサンジは同時にミス・オールサンデーに向かって銃口を向ける。

 

「そういう物騒なもの……、私に向けないでくれる」

 

「うおっ!」

 

 ミス・オールサンデーの発した言葉と共にサンジは投げ飛ばされた。

 そして、私は彼女の腕が私の右腕に生えてきたのを察知してその手を掴んだ。

 

 

「なるほど、面白い。きれいな手をしてるじゃあないか。ミス・オールサンデー……。この能力……、何の実の能力かな?」

 

 私は左手で彼女の手のひらを撫でながら、そう言葉を吐いた。

 恐ろしいな、この能力。近距離で戦うと私じゃ絶対に勝てそうにない。

 

「――ッ!? 驚いたわ……。さっきの立ち振る舞いといい、なかなか面白い坊やじゃない。ちょっと気に入っちゃった」

 

 ミス・オールサンデーは少しだけハッとした表情をして妖艶に微笑んだ。

 そして、彼女は私の両肩から手を生やして、私の髪の毛を撫でてきた。くっ……。今のは気付いてもどうしようも出来なかった……!

 

「坊やじゃない! 私は女だっ!」

 

「あら、もっと驚いちゃった。ますます面白い子ね」

 

 ミス・オールサンデーはそのまま私の襟を掴んで放り投げる。

 

「うわっ!」

 

「ライア! 大丈夫か!?」

 

 投げ飛ばされた私はルフィに抱きとめられて事なきを得た。ふぅ、びっくりした。やっぱり近距離じゃ勝ち目がないや……。

 

「よく見ればキレイなお姉さん!」

 

 そして、サンジはようやく彼女の顔をしっかりと見たのか、いつもどおりの反応をした。

 

「あなたが麦わらの船長ね。モンキー・D・ルフィ」

 

 ミス・オールサンデーは能力を使ってルフィの帽子を自分の方に投げてそれを掴む。

 

「――ッ!? お前を敵だと見切ったぞ! 帽子返せ! コノヤローッ!」

 

 ルフィはそれに対して激怒して怒鳴るが彼女は動じることなく微笑んでいた。

 

「不運ね、B・Wを敵に回したあなたたちも、頼みの綱がこんな少数海賊という王女も……。そして何よりの不運はあなたたちの行き先、リトルガーデン。あなたたちは、私たちに手を下されるまでもなく全滅するわ。クロコダイルの姿を見ることはおろか、アラバスタ王国にも辿り着かないで……」

 

 ミス・オールサンデーは言いたい放題だった。確かにリトルガーデンは巨人とか恐竜とか居て恐ろしいところだったけど、他に何があったっけ?

 

「知るかコノヤロー! 帽子を返せっ!」

 

「ふふっ、この永久指針(エターナルポース)をあげるわ。行き先はアラバスタ王国のひとつ前の何もない島。うちの社員も知らない航路だから、追手も来ない」

 

 怒るルフィを無視してミス・オールサンデーはビビに永久指針(エターナルポース)を投げる。

 

「何? あいつ良いやつなの?」

 

「罠だろ、どうせ」

 

 ナミの言葉にゾロはそう返す。

 

「どうかしら……?」

 

 ミス・オールサンデーは不敵に笑って二人の言葉を受け流す。

 

「――くっ、どうしたら……」 

 

 ビビは真剣な表情で悩んでいるみたいだ。

 ミス・オールサンデーは信用できる相手じゃないが、安全な航路という言葉は彼女には魅力的に聞こえるだろう。

 

「悩む必要は無いさ。そうだろ? ルフィ」

 

「ああ、そんなことどっちでもいい!」

 

 私が彼に声をかけるとルフィはビビの手元にある永久指針(エターナルポース)を握りつぶした。

 

「アホか! お前ーっ! あいつが良いやつだったらどうすんのよ!?」

 

 ナミはそんなルフィを蹴り飛ばした。

 割と本気で蹴飛ばしてるけど、「もしかしたら良いやつかも」で行動するのも危ないよ。

 

「この船の進路をお前が決めるなよ!」

 

 ルフィはハッキリとミス・オールサンデーに自分の意志を伝えた。

 彼には駆け引きなんてものは通用しないんだろうなー。

 

「という訳さ、ミス・オールサンデー……。君は私たちを不運と断じているけど、私はそうは思わない。次は君に再び出会えた幸運に感謝するつもりでいるよ」

 

「そう……、それならあなたのその口説き文句が聞ける日を楽しみにしておこうかしら……。ふふっ……」

 

 私とミス・オールサンデーの視線が交錯する。

 彼女は機嫌良さそうに笑って去って行った。

 

 

 

「さて、飯だ、飯だ! サンジ、朝飯にしよう!」

 

 ミス・オールサンデーが去ってから開口一番、ルフィはサンジに朝食を要求する。

 

「おう、さっきの町からたっぷり食材持ってきたから、ビビちゃんの歓迎も兼ねて力のつくもんを作ろう!」

 

 ウィスキーピークでログが溜まるのを待っているときにたっぷり補給をしたので食料には余裕が出来た。

 

「ふわァ。眠ィ……。ライア、飯が出来たら起こしてくれ」

 

「ん? わかったけど、君は相変わらずよく寝るな」

 

 ゾロは眠たそうな顔をして私にひと眠りすることを伝える。

 

「あれ? どうしたの? ボーッとして」

 

 ナミはポカンとした顔で我々を見ているビビに話しかけた。

 

「前から思ってたけど、この海賊団ってずっと自然体だなって」

 

 ビビはあまりにも我々の緊張感がないとでも言っているようだった。

 

「そうよね〜。どいつもこいつも……。まぁ、やらなきゃならない時は真剣なんだけど」

 

 ナミの言うとおり、きちんとしなきゃ死ぬような場面では皆ちゃんと動くし、よく働く。

 

「そういうビビだって、もっと自然体になって良いんだよ。あんまり張り詰めてたら、いつか折れちゃうだろ?」

 

「私も? でも難しい……、状況が状況だし……」

 

 私の言葉にビビは深刻そうな顔をして眉をひそめる。

 

「ほら、こうやってニコって笑って。うん、いい顔だ」

 

「…………」

 

 私は彼女の両頬を摘んで口角を無理やり上げて笑顔を作ろうとしたら、ビビは顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 どうやら、また無礼なことをして怒らせてしまったみたいだ……。

 

「あなたはスキあらば人を口説くクセどうにかしなさい! ちょっと、ビビ! あなた、大丈夫?」

 

 ナミに尻を蹴られて強烈なツッコミを入れられる。

 そして、彼女は放心状態のビビの体を揺らしていた。

 

「はっ――。えっええ、大丈夫。あっ、あの、ライアさん!」

 

 ビビはハッとした状況で返事をして、私に少しだけ大きな声で声をかけた。

 

「ん? どうした? 急に改まって……」

 

「わっ、私、ライアさんが……。――ごっ、ごめんなさい。やっぱり何でもない!」

 

 私が彼女の顔を見ると、ビビはブンブンと頭を振って何でもないと言った。ふむ、国が心配で精神が不安定なのかもしれないな。

 

 

「あなた、どうせ責任取れないんだから……、本当に気を付けなさいよ。じゃないと――」

 

「ん? ナミ、君もいきなりどうしたんだ?」

 

 私はナミがボソリと呟いたのに反応した。

 

「はぁ……、ビビに同情してんのよ……。まぁ、良いか。国の心配で気落ちするよりは……」

 

「ナミさーん、ライアちゃーん、ビビちゃーん、ついでに野郎共! 飯が出来たぞー!」

 

 ナミは意味深なことを言っていたようだが、サンジの声にかき消されて、我々は朝食を頂いた。

 

 

 グランドラインの2回目の航海はそれほど荒れなかった。ビビが言うには最初の航海は7本の磁気の影響であれほど天候が荒れ狂ったみたいだ。

 

 いや、そういう細かいところは覚えてないからな。

 漫画を読んでたのってすっごく昔だし……。これでも、よく覚えてる方だと思う。

 

 ――ということで、リトルガーデンに我々は無事に辿り着くことが出来た。

 

 

 

 

 

「冒険のニオイがする! サンジ! 弁当!」

 

 鬱蒼としたジャングルに太古の植物を彷彿とさせる見慣れない風景、そして不気味な物音……。

 このリトルガーデンの如何にもな雰囲気がルフィにはたまらなかったらしい。

 率直に彼の状態を伝えるなら、彼はイキイキしていた。

 

 危険な香りがするから、船でログが溜まるまで待とうと言うナミの言葉を尻目にルフィは冒険がしたいと張り切って、サンジに海賊弁当を要求したのだ。

 

「――ねェ! 私も一緒に行っていい?」

 

「あんたまで、何言うの!?」

 

 唐突にルフィの冒険に付いていきたいと声に出したビビにナミがツッコミを入れる。

 

「色々と考えてしまうから、気晴らしに。大丈夫よ。カルーも居るし」

 

 ビビは気分転換をしようと思ってるみたいだ。ふーむ。なるほど。

 

「――ッ!? ――――!!!?」

 

「この子は言葉が通じなくてもわかるくらいの驚きを見せてるね……。よし、私も行こう。君たちだけじゃ、どうも心配だ。構わないだろ?」

 

 私はルフィたちに同行することにした。多分、トラブルが起こるとしたらこっちだし……。

 

「おう! ビビもライアも来い来い!」

 

「んじゃ、ビビちゃんとライアちゃんに愛妻弁当を」

 

 サンジは私とビビの分の弁当、そしてカルーのドリンクを用意してくれて、出発の準備が完了だ。

 

 

「よし! 行くぞォ!」

 

「じゃあ、船は頼んだよ!」

 

 私たちはゴーイングメリー号から降りて冒険に出発した。

 

 

 

「これ、アンモナイトによく似てる……」

 

「うん、そしてあれは恐竜によく似てるね……。というか、そのものだねー」

 

 ビビがアンモナイトっぽい生き物を眺めている頃、私は巨大な生き物に目を奪われていた。

 

「うはァ! 恐竜!?」

 

 ルフィは恐竜を見て目を輝かせている。

 

「まさか、ここは太古の島!」

 

「なるほど、生命の進化から取り残された島というわけか。いやはや、グランドラインとはとことん常識外れだ」

 

 私は実物の恐竜やアンモナイトを見てつくづくと実感した。やはり実際見ると知っていても驚くものだ。

 

「ところでルフィさんは?」

 

「ああ、ルフィならあそこさ」

 

 ビビの言葉に反応して私はルフィの居る位置を指差す。

 

「すっげェ!」

 

「恐竜に飛びついてる!? ライアさん、止めないの?」

 

 恐竜の背中に当然のように乗っかってるルフィに驚愕しながらビビは私にそんなことを言う。

 

「うん。無駄なことってあまりしたくないからね。ルフィなら、大丈夫さ。ああ見えてしっかり――」

 

「たっ食べられてんじゃないのよー!」

 

 私の言葉が言い終わらないうちにルフィは恐竜にパクっと食べられてしまった。

 

 しかし、その刹那――。

 

「「――ッ!?」」

 

 ズバンと一閃――恐竜の首が胴体から切り離される……。

 そして、ルフィは大きな手の上に落ちていった。

 

「――ゲギャギャギャギャ! 活きの良い人間だな! 久しぶりの客人だ!」

 

 このリトルガーデンに住む二人の巨人族の一人。青鬼のドリーがルフィを助けてくれたのだ。

 

「うっは〜! でっけェなーっ! 人間か!?」

 

「巨人族だね……。なんて迫力だ」

 

「初めて見た……」

 

 私たちはその圧倒的な存在感に唖然としながら口々に感想を漏らした。

 

「ゲギャギャギャギャ! 我こそはエルバフ最強の戦士ドリーだ! ()()()()をうちに招待しよう!」

 

 そして、ドリーは機嫌良さそうに大笑いしながら、私たちをもてなすと言ってくれた。

 やっぱり、いい人そうだな。

 

「見つかってた」

 

「みたいだね。でも、悪い人じゃなさそうだよ」

 

 私たちは巨人族のドリーの住処へと案内されることとなった。

 さて、私はここから、どういう立ち振る舞いをすればよいか……。

 




ミス・オールサンデー、つまりロビンは今までと毛色を変えてみました。進行上の都合もありますけど、向こうから主導権を握って迫ってくる偶には良いかなと思いまして……。
リトルガーデン編はどう考えてもヌルゲーっぽくなりそうなので、何とか面白い展開に出来るように頑張ります!
あと、ライアはリトルガーデンのログが溜まるまで1年という設定を見事に忘れてます。こういうところが彼女の抜けてるところなんです。





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放たれた刺客たち

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!アドバイスも助かってます!ご期待に添えられないところもありますが、参考にさせてもらってます!
それではよろしくお願いします!


「だーはっはっはっ! こりゃうめェな! おっさん!」

 

「ゲギャギャギャギャ! おめェの海賊弁当とやらもなかなかいけるぜ! ちと足りねェがな」

 

 私たちはドリーから恐竜の肉をごちそうになっていた。

 ルフィと彼は既に意気投合して楽しそうに話している。

 

「めちゃめちゃ馴染んでる……」

 

「まぁ、気のいい人だし。気が合うんだろう」

 

 呆れ顔でその様子を見ているビビに私はそう語りかける。

 

「そういや、おっさんはなんでこんなところに一人で住んでるんだ? 村とかはねェの?」

 

「村ならある。エルバフという村だ――」

 

 ルフィの質問にドリーは答える。エルバフには掟があり、互いに引けない争いになると、二人はどちらかが死ぬまで決闘をする。

 ドリーはこの島でかれこれ100年決闘し続けていると話した。

 知ってはいたけど、スケールの大きな話だ。

 

 火山の噴火が決闘の合図――彼は立ち上がり本気の殺し合いに向かった……。

 

「100年もの間……、憎しみ合うなんて、争いの理由は一体――!?」

 

 ビビがそんなことを叫んだ瞬間に彼女の口はルフィの伸ばした手で塞がれる。

 

「やめろ、そんなんじゃねェ」

 

「そんなに長く戦うと引けないだろうね。誇り高い戦士ならなおさら――」

 

 ルフィの言葉に続けて私も頷く。

 

「ふっ、わかってるじゃねェか。姉ちゃん……。そう! 理由など、とうに忘れた!」

 

 ドリーはそう言って、武器を振るった。

 二人のそれも腕利きの巨人族の戦士たちの死闘は圧巻であった。

 

 

「ぷはァ……! まいった……。デっけェ!」

 

 ルフィはごろんと地面に仰向けになり、彼らの戦いにただ感嘆していた。

 

「まいったな……」

 

「ライアさんまで……」

 

 私も巨人族の素晴らしさに感動をしていた。

 

「あの人! 私のこと姉ちゃんって言ったんだ。エルバフの巨人族だからかな? それなら、いつか巨人族の村に行ってみたいなー!」

 

 ドリーは私をひと目で女だと見抜いた。普通の人間では最近はサンジしか気付いて貰えなかったのに。

 今のところ巨人族は100パーセントの正答率である。まぁ、巨人族の知り合いはドリーしかいないけど……。

 

「……ごめんなさい。あのとき、あんなに驚いて……」

 

「しみじみ言わないでくれ……。悲しくなるだろ……」

 

 ビビが心底申し訳ない顔をしたので、私は首を横に振ってこれ以上はこの話題を進めないように頼んだ。

 

 

 

 

 ドリーは戦いを終えたあとに、もう一人の巨人であるブロギーのところに行って、戻ってきた。

 どうやらナミとゾロとサンジは向こうにいるみたいだ。

 

 そして、私たちはドリーから衝撃の発言を聞く。この島のログが溜まるまでの期間はなんと1年……。

 えっ? そんなに長いの? 

 あれ? どうやってアラバスタ王国に行ったんだっけ?

 

 私の頭は真っ白になる。何とかどうやったか思い出さなきゃ。

 

 

「そんなに待てねェよ。なんかいい方法は無いか、おっさん」

 

永久指針(エターナルポース)なら1つある。ただし、行き先はエルバフだが。おれたちはそれを巡って今争っているわけだ。強引に奪ってみるか?」

 

 ん? この島の永久指針(エターナルポース)……!? あっ、そうだった。サンジがアンラッキーズからMr.3あてのアラバスタ王国への永久指針(エターナルポース)を奪ったんだった。

 

 でも、今回はサンジは単独行動してない……。ブロギーのところに行ってる。

 なんとか、私がMr.3の隠れ家を見つけて、クロコダイルからの連絡を受けないとならないな……。

 

 

「ライアさん? どうしたの? さっきから深刻そうな顔をして……。やっぱり、ログのことを考えてるの?」

 

 私が黙って考え込んでいると、ビビが私の顔を覗き込んできた。

 概ね当たっている。さらに、私はもう一つ思い出したことがあった。

 

「うん、そうだね。あと、もう一つ問題があってさ。ドリーさん、その樽の酒……、ちょっと私にくれないかな?」

 

 私はドリーの持っている酒樽を指さした。

 

「なんだ、姉ちゃんも一杯やりてェのかい? いいぞッ! 持ってけ!」

 

 彼はニヤリと笑って私が指さした樽を渡してくれた。こいつをとりあえず……。

 

「ありがとう。――じゃあ、この辺でいいかな? よっとッ!」

 

 私は渡された酒樽を少し離れた場所に置いて、銃でその樽を撃つ。

 

 すると轟音を響かせながら樽は大爆発を起こした。

 さすがの巨人もこんなのを飲んだらタダじゃ済まないだろうな。

 

「酒が爆発した!? こんなのを飲んだら今ごろ……」

 

 ビビが青ざめた顔をして、爆発している樽を見ていた。

 

「ほんのりと火薬のね……、ニオイがしたんだ……。普段から銃火器を扱うからその辺には敏感でね……」

 

 これは本当だ。微かにその香りがしなかったら、見逃していたかもしれない。

 

「どうなってんだ!? これはおれたちの船にあった酒だろ!?」

 

 ルフィもさすがに私達の船からドリーに渡った酒が爆発したという事態は看過できないみたいだ。

 

「まさか、相手の巨人がッ!?」

 

「お前、何見てたんだ!? 100年も戦ってきたヤツらがこんなくだらねェことするか!」

 

 ビビの発言にルフィが怒鳴って否定する。彼は相当腹を立ててるみたいだ。

 

「そうだ。ブロギーじゃない。おれたちは誇り高きエルバフの戦士……。だが、そっちの姉ちゃんは酒の爆薬について教えてくれた……。ならばお前らでもない……。どういうことだ?」

 

 ドリーはブロギーでも私たちでもないなら誰がこんなことをしたのか見当がつかないというような顔をしていた。

 

「簡単だよ。ドリーさん。この島には他に私たち以外の人が居るんだ。おそらく、私たちを追ってやって来た刺客だと思われるが……」

  

 私はようやくこの島にいる4つの気配を察知することが出来た。これがおそらくMr.3たちだろう。ならば、隠れ家もおそらく――。

 

「そんな! B・Wの刺客たちが? 何の目的でドリーさんたちを!?」

 

「ドリーさんを怒らせて、私たちを始末させようとしたとか、元々私たちに爆薬入りの酒を飲ませようとしたとか、色々と想像はできる」

 

 ビビの疑問に私は思いついた事を答える。あとは、巨兵海賊団の懸賞金とかそんな事情だったっけ?

 

「そんなことはどうでもいい! 二人の決闘を汚そうとしたヤツがこの島に居るんだろ!? 絶対に許せねェ」

 

 ルフィの眼光は完全に怒りによって鋭くなっていた。

 

「ルフィ……。うん、そうだね。元々は私たちがこの島に来たから起こったイザコザだ。始末は私たちがつけよう。黙っていたら、連中は次の手をさらに打ってくるだろうし……」

 

 私もルフィに同意して早めに彼らとの決着をつけようと言った。

 長引かせると面倒が増えそうだし……。

 

「ちょっと待って、だったら、もう一人の巨人やMr.ブシドーやサンジさんが爆薬入りの酒を飲む可能性もあるんじゃない?」

 

「何ッ!? ブロギーがッ! そんなことが――!?」

 

 ビビの言葉にドリーの顔色が変わった。そりゃ、決闘に影響が出るんだから当然か……。

 

「うん、その可能性もある。とにかく連中の場所はわかったから、みんなで合流して――。って、ルフィは!?」

 

 私は全員で合流してから、敵を叩こうと提案しようとした。

 しかし、いつの間にかルフィがこの場から消えていた。

 

「ルフィさん!」

 

「決闘を邪魔しようとしてる奴をぶっ飛ばす!」

 

 既にかなり遠くまで走って行ってるルフィは私たちの制止も聞かずにジャングルに入ってしまった。

 

「――まいったな。話をする順番を間違えたか。まぁ、ルフィなら大丈夫だと思うけど……。ビビは危険だから私から離れるなよ」

 

「はっ、はい」

 

 ビビは私がそう言うとピタリと密着するように寄り添う。思ったよりも不安なんだな。でも……。

 

「いや、そこまでくっつかなくてもいいよ……。大丈夫だから。――ん? 火山の音……」

 

 私が彼女にそう告げたとき、火山の爆発音が鳴った。

 

「ふっ、今日は景気がいいな。客人が多いからなのか……」

 

 ドリーは苦笑いしながら立ち上がった。どうやらさっきのことを気にしてるらしい。

 

「ドリーさん。決闘の最中も気を付けて……。悪魔の実の能力者が邪魔をする可能性もあるから」

 

「――ッ!? ゲギャギャギャギャ! こんなちっこいお嬢ちゃんに心配されるほど、エルバフの戦士は弱くねェ! おめェらは自分らの心配をすりゃ良いのさ!」

 

 私がドリーに忠告すると、彼はハッとした表情となり笑ってそれを受け流した。

 さすがに歴戦の戦士だけある。もう平常心を取り戻している。

 

 ドリーは雄大に歩みを進めて再び決闘に向かって行った。

 

「私たちはゾロたちと合流しよう。この決闘で奴らは作戦が失敗したことを知るだろう。連中が次の手を打つ前に、こちらから先手を打ちたい」

 

 私はブロギーの住処にいる仲間との合流をするために動き出した。

 

「わかったわ。でも、ルフィさんは……」

 

「もちろん、彼とも合流するさ。でも、動き回ってるルフィよりも居場所がわかってる方を先にしたほうが効率がいい」

 

 ビビの言葉に答えながら、私たちもジャングルの中へと足を踏み入れた。

 敵はもちろんだけど、猛獣とかにも気を付けなきゃ……。私なんかはルフィたちと違って簡単にパワー負けしそうだもんなぁ。

 

 

 辺りを警戒しながらしばらく歩くとビビが突然、声を上げる。

 

「あっ、ナミさん! あなたもこっちに歩いてきてたのね!」

 

 ビビの視線の先には木にもたれかかって腕を組んでいるナミが居た。

 いや、ナミの性格的に一人でここに居るのは無理があるでしょ。なによりアレは人の気配じゃない! それに――。

 

「――緋色の弾丸(フレアスマッシュ)ッ!」

 

 私はアレをめがけて炎の弾丸を撃ち出した。

 

「らっ、ライアさん! 仲間を撃つなんて! ――えっ! ナミさんが溶けてる……、いや、違う……、あれは人形?」

 

 ビビは一瞬だけ動揺していたが、すぐにアレが蝋人形だということに気が付いたみたいだ。

 

「まったく、姑息なマネをするじゃないか。B・Wのオフィーサーエージェントで悪魔の実の能力者なのに……、随分と臆病なんだね」

 

 私は近くにいる二人の気配の方向に話しかけた。

 

「――けっ!だからてめェらみたいな雑魚にこんな手はいらねェって言ったんだ。Mr.3の奴め!」

 

「キャハハハッ! 痛い目に遭いたくなければ大人しく捕まりなさい!」

 

 Mr.5とミス・バレンタインが私とビビの前に現れた。

 ミス・バレンタインは木の太い枝の上に立ってる。能力をうまく使うためか……。

 

 思ったよりも接近してくるスピードが速かった……。ブロギーの住処にはまだ距離がある……。

 悪魔の実の能力者を二人を相手にして私が勝てるか――。

 顔色には出さないようにしていたが、実は私は焦っていた……。

 

「ビビ、私の後ろに下がって。いざとなったらカルーを全速力で走らせて皆の所まで逃げろ」

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を右手に持って構え、彼女にそう指示を出す。

 

「そっ、そんな! 私はライアさんを見捨てて逃げるなんて出来ない!」

 

 ビビは私の左手をギュッと握りしめてそんなことを言ってきた。

 

 ――そのときである。ミス・バレンタインから殺気が放たれる。

 ウィスキーピークの敗戦がよほど屈辱だったのか……。とんでもない殺気だ。

 

「その殺気――安心したぜミス・バレンタイン。おれ一人でもこいつら如き楽勝だが、この前みたいなことがあっちゃ、この先――」

 

 Mr.5がセリフを言い終わる前にミス・バレンタインは私たちに向かって飛び出してきた。

 

「キャハッ! 絶対に許さない! 埋めてあげるわ! この一万キロプレスでッ!」

 

 彼女の狙いはビビみたいだ。しかし、その技はモーションが大きいから避けるのはわけない。

 

「おっと、おれの存在も忘れるなよ! (ノーズ)空想砲(ファンシーキャノン)ッ!」

 

 Mr.5も同時に攻撃を仕掛ける。大丈夫、どこに逃げればいいかくらいはわかる……。

 

「こっちだ!」

 

 私はビビに避ける方向を告げる。

 

「わかったわ! ――って、カルー逆よ!」

 

 彼女は頷いたが、カルーが逆方向に動いてしまい、ビビはカルーを追って行った。

 

 くっ、このままじゃ彼女がミス・バレンタインに押し潰されて――。

 

「あんたみたいな、いい子ちゃんが一番虫唾が走るのよ!」

 

「危ないッ!」

 

 私はウィスキーピークのときのように彼女を突き飛ばして、ミス・バレンタインの落下地点に入ってしまった。

 くっ――どうにか一撃くらい耐えてやる!

 

「ライアさん!」

 

 ビビの叫び声がした瞬間――ミス・バレンタインの攻撃が私の背中に再び突き刺さ――。

 

「――ッ!? あれ? また、ポスッとしたんだけど……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 風が木の葉を揺らす音がスッと耳に入るほどの静けさだった。

 Mr.5もビビもちょこんと小動物のように私の背中に腰掛けるミス・バレンタインを呆然と眺めていた。

 

「うぉいッ! ミス・バレンタイン! てめェ! 何考えてやがる! おれたちァ、もう後がねェんだぞ! この役立たずがッ!」

 

 Mr.5は怒り心頭でミス・バレンタインに苦言を呈する。

 

「うっ、うるさいわねッ! このワカメ頭! 人の気も知らないで!」

 

 それに対してミス・バレンタインは涙目になって彼に対して逆ギレした。

 

「ああンッ! てめェ! 今、なンつった!?」 

 

 Mr.5は彼女の思わぬ逆ギレに対してさらに怒り出した。

 

「無理なのッ! 悔しくてムカつくけど! こいつに攻撃出来ないのよ!」

 

 よくわからないことを喚くミス・バレンタイン。私に攻撃が出来ないって、どういうことだ?

 

「――ハッ! ミス・バレンタイン……、まさか、あなたも……!」

 

 ビビは何かを察したような顔をした。

 

「もういい! てめェも一緒に始末してやる! 知ってるよなァ! おれは息も爆弾に出来るんだ! そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)ッ!」

 

 Mr.5はリボルバー式の拳銃を取り出して、息を弾倉に吹き込もうとした。

 

「言い争う時間のおかげで私も随分と集中出来た。リボルバー式だと、手数は負けるが! 銃口は1つだろ! 必殺ッ――鉛星ッッ!」

 

 それを私が黙って見てるはずもなく、私は立ち上がり、彼が引き金を引く前に銃口目掛けて銃弾を撃ち出した。

 

「――なッ! バカなッ! ぐわァァァァッ!」

 

 Mr.5の拳銃の銃口に私の放った弾丸が入り込み、彼の拳銃が大爆発を起こして彼を飲み込む。

 ふぅ、何とかスキを突いて倒せたか。相手がこっちの土俵に上がってくれたおかげだな……。

 

 

「わっ、私を守ってくれた? キャハッ――」

 

 ミス・バレンタインは何を勘違いしたのか、私の腕にしがみつく。

 

「うわっ、ちょっと! 腕を離せッ!」

 

 私は驚いて、彼女の体を引き剥がそうとした。

 

「なッ――!? あなた! 敵のクセに何やってんの!? 離れなさいッ!」

 

 ビビは怒りの表情を浮かべながら彼女を私から引き離そうと腕を引っ張る。

 

 そして、ようやくミス・バレンタインが離れた、と思ったその瞬間である――。

 

「嘗めやがって! おれには爆発の類は効かねェんだよ! もうてめェだけは許さねェ! このおれの切り札! 全身起爆で木っ端微塵にしてやる!」

 

 完全にブチ切れた声色のMr.5が私をガッチリホールドして全身を爆発させると言い出した。

 冗談じゃない。私の体がそんなのに耐えられるわけがない!

 

「――くっ!? 振りほどけないッ――!?」

 

 私の身体能力では彼を振り払うことは出来ず、必死でもがいても無駄だった……。

 くそっ、こんなことなら――近距離戦も出来る上に、緋色の銃(フレアエンジェル)よりも格段に威力がある()()()をさっさと完成させておくんだった……。

 

「Mr.5がライアさんに――」

 

「抱きついてるッ!?」

 

 私が後悔をしていると……、ふと、背中からとんでもない殺気を感じた。

 

「「ぶっ殺してやるわッッッッ!!」」

 

「へっ? ――ぶはぁッッ!」

 

 ビビとミス・バレンタインが私にしがみついているMr.5を信じられないパワーでぶん殴り、吹き飛ばした。

 

 さらに、彼女らは吹き飛ばされた彼に向かって行き――。

 

孔雀一連(クジャッキーストリング)ッ!」

「一万キロッ――!」

 

 各々の必殺技の構えを取る――。

 

「スラッシャーッッッ!」

「ギロチンッッッ!」

 

 そして、吹き飛ばされたMr.5が何とか起き上がろうとした、そのタイミングに――。

 彼女らの必殺技が炸裂した。

 

「――ヘブッ! がっハァッッ!!」

 

 これにはMr.5は耐えられず、口から、そして全身から血を吹き出して再び倒れてしまう。

 

「まだ、こんなもんじゃ終わらないわよ!」

 

「死ねッ! このワカメッ!」

 

 そして、彼女たちは倒れたMr.5をさらに蹴飛ばしていた。

 いや、そこまでしなくても良いんじゃないか? というか、ミス・バレンタインはなんで仲間割れをしているんだろう?

 

 私はこの異様な状況を呆然と眺めていた――。

 




Mr.5がライアをホールドした状態は、簡単に言えばサイバイマンがヤムチャに抱きついて自爆したあの状態。
それにビビとバレンタインがキレたわけです。リトルガーデンの最初の犠牲者は彼ということに……。
次回もよろしくお願いします!


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リトルガーデンでの戦い

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ライアに能力者の疑いがかけられていますが、こんな感じでこの先も進めようかと思ってます。
今回はミス・バレンタインがどうするかという話とか、Mr.3ペアとの戦いとかです。
それではよろしくお願いします!


 

 

「ええーっと、そろそろ良いんじゃないかな? 彼も意識を失ってることだし……」

 

 私は前にルフィにやられた以上にボロボロにされているMr.5が憐れになってきて、彼女らを止めた。

 

「そう? ライアさんがそう言うならやめるけど……」

 

「――まだ足りない気がするわ」

 

 ビビとミス・バレンタインはあれだけボコボコにしておいてまだ物足りないみたいだ。

 何が彼女らの逆鱗に触れたのだろう?

 

「ところで、君には助けられたけどさ。思いっきりB・Wを裏切った感じになってるけど大丈夫なの? というより、なんで敵の私を助けたりしたんだい?」

 

 私はミス・バレンタインが組織を裏切るという行為を行ったことに疑問を呈した。

 あんなことして、大丈夫なのかな? 理由もわからない……。

 

「――なんでって……。そっ、そんなの言えないわ! 裏切り? キャハッ……、あっ、あれ……? どうしよう……」

 

 ミス・バレンタインはようやくハッとした顔になり、そのあと真っ青になった。

 

「要するに何も考えてなかったんだね……。だけど、ありがとう。君のおかげで助かったよ。あっ、もちろんビビも……、ごめんね。私が守らなきゃいけない立場なのに……」

 

 私は助けてもらえたお礼を二人に言った。情けないが、彼女たちが居なければ危なかった。

 

「ぜっ、全然大したことないから! べっ、別にお礼が言われたくてやったわけじゃないし……」

 

「私もライアさんが穢されると思ったから、気付いたら体が勝手に……」

 

 なぜか二人とも焦ったような口調になって頬を赤く染めながらそう言った。

 照れてるのかな? よくわからないが……。

 

「でも、行くところはあるのかい? B・Wは裏切り者を許さないんだろ?」

 

 私はミス・バレンタインの身を案じた。助けてくれた彼女が危険に晒されるのは、どうにも寝覚めのいい話ではない。

 

「――ッ!? だから何なの? キャハハッ! でも、私は何一つ後悔してないわ! どうするかは今から考えるわよ!」

 

 彼女はムッとした顔で不機嫌な声を出した。

 しかし、ログが溜まるのにも一手間なこの島で取り残されるとなると、刺客から逃げることもままならないはずだ。

 

 だから――。

 

「私たちと一緒に来るかい? まぁ、B・Wに追われる立場は変わらないけど、一人よりはマシだと思うよ」

 

 私は彼女を船に誘った。とりあえず、安全が確保されるまでは共に旅をしたほうが何かと良いのかと思ったからだ……。

 

「はァ? 私はさっきまでそっちの王女様を殺そうとしてたのよ。そんなこと許されるはず……」

 

 ミス・バレンタインは馬鹿馬鹿しいと言うように肩をすくめてそう言った。

 

「でも、ライアさんを守ってくれた……。私は反対しないわ。ルフィさんたちが何と言うかわからないけど」

 

 ビビは自分の刺客だった彼女のことを拒まなかった。やはり器が大きい子だ……。

 

「うん、そうだったね。君さえ良ければ船長のルフィにも上手く口利きするよ。ミス・バレンタ――」

 

 私が彼女のことを呼ぼうとしたとき、ミス・バレンタインは口を開く。

 

「ミキータ……。それが私の本名よ――。キャハハッ、あなたたちはきっと後悔するわ。私は決して良い人じゃあないんだから」

 

 ミス・バレンタインは自分の本名を名乗った。へぇ、ミキータっていう名前だったんだこの人……。知らなかった……。

 

「そっか、それじゃあ。よろしく、ミキータ」

 

 私は笑顔を作ってミキータに手を差し出した。

 

「――ううっ……、あなたみたいな男はどんな女にもそういう態度なんでしょ? ずるいわ!」

 

 しかし、ミキータは顔を背けながら手を握ってはくれなかった。

 というか今更だけど、やっぱり、私のこと男だと思ってたんだ……。

 

「あっ! ミス・バレンタイン……。ライアさんは男じゃなくって女の子よ」

 

 ビビが私が言い難そうにしているのを察して代わりに私の性別をミキータに教えた。

 

「――キャハハハハッ! ミス・ウェンズデー! やっぱり私に殺されかけたことを根に持ってるってわけね! そんなバレバレの嘘を誰が信じるって言うのよ!」

 

 ミキータは大声で笑いながら私が女だということを信じてくれなかった。随分と頑なだな……。

 

「いや、ビビの言うとおり私は女だよ。ああ、気にしないでくれ。よく間違えられるから、慣れてるんだ」

 

 私は努めて冷静さを失わないようにして、彼女に自分の性別を伝える。やはり、少しだけ悲しい……。

 

「キャッ……ハッ……、まっマジ……?」

 

 ミキータはB・Wを裏切ったことを認識したとき以上に顔を青くした。

 

「えっと、そんなにギョッとした顔をしないでくれないか……?」

 

 あまりに彼女がショックを受けていたような表情をしていた。

 

「――だったら、本当に私ってバカみたいじゃない……!」

 

 吐き捨てるようにミキータはそう言った。

 私が女でそんなにショックなのか?

 

「あなたはバカじゃないわよ。ミス・バレンタイン……。私はそれでも構わないと思えたりしてる……」

 

 いや、ビビも大げさ過ぎるだろ! 何かに妥協してるような言い方だな。

 

「ミス・ウェンズデー、やっぱりあんたも……。まぁいいわ。とにかく、後から厄介者みたいに言わないでよ。忠告はしたんだから」

 

 ミキータはようやく落ち着きを取り戻してくれた。

 

「ああ、それは約束するさ。それじゃあ、一緒に付いてきてくれ」

 

 私は彼女の言葉に対して頷いて、付いてくるように促した。

 

 ゾロたちは大丈夫だろうか? まぁ、簡単に負けるはずがないと思うけど……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「お茶がうめェな」

 

「ああ、なんでだろうな。ゾロ……」

 

 ゾロとサンジが仲良く並んでお茶を飲んでいる。

 

「ちょっと、あんたたちッ! なにを呑気にお茶を飲んでるのッ! 今のうちに巨人から逃げるわよ! 早く逃げましょう……、ぐすッ……。なんで、こんなに悲しいのよ……」

 

 そして、それを見ながらひたすら泣いているナミ……。

 これはカラーズトラップとかいう能力のせいだな……。

 ちっ、ミス・ゴールデンウィークは戦闘をするタイプじゃないから、ゾロたちは油断して彼女の術中にハマったのか……。

 

「よくやったガネ! ミス・ゴールデンウィーク! 戦って厄介な者は戦意を削いでしまえば良いのだ! こうやって、拘束すれば、あとはどんなに強かろうが関係ないガネ!」

 

 そして、ちょうど彼らの元に私たちが着いたとき、Mr.3はゾロたちを蝋を使って拘束していた。

 

「お前がMr.3か! みんなを返してもらうぞ!」

 

 私は大声で彼にそう呼びかけた。正直、今の私では彼に勝てる気はしないが、何とかスキを見てゾロたちを助け出さなくては……。

 

「なっ!? 初対面でなぜ私がMr.3だと見抜いたのカネ!? これほどの切れ者がこの一味にいるとは思わなかったガネ!」

 

「いや、見ればモロバレだろ?」

 

 ガーンとショックを受けた顔をしているMr.3。これはボケているのだろうか?

 

「Mr.5とミス・バレンタインはしくじったのカネ? まったく、役にたたん奴らだ。まぁいい。お前らくらいなら正面からでも問題ないガネ」

 

 Mr.3はやれやれという表情で私と向かい合った。まったく、腹の立つ言い草だ。

 

「嘗めるなッ! 緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)ッ!」

 

 私は彼に狙いをつけて、炎の弾丸を撃ち出した。

 

「ほう、炎の弾丸とは面倒だガネ……」

 

「ライアさん! どこを狙って?」

 

 しかし、腕組みをしているMr.3とはまったく別の方向に私は弾丸を撃っていた。

 

「カラーズトラップ……、闘牛の赤……」

 

 ミス・ゴールデンウィークが赤色の絵の具を使って的を作り、暗示にかかった私はそちらを狙っていたのだ。

 絵の具は炎で消えたけど、また新しく描き足されている……。

 戦闘力はないけど、なんて能力だ……。

 

「フハハハッ! ミス・ゴールデンウィークの恐ろしさを理解したカネ!? キャンドルロック!」

 

「――ッ!? そう簡単には当たらないよ!」

 

 Mr.3は勝ち誇った顔をして蝋を投げつけて、私を拘束しようとしてきた。

 私は攻撃の軌道を読んで、それを躱す。

 

「なかなか素早い奴だ! しかし、いつまで逃げ切れるカネ!?」

 

 Mr.3は次から次へと私に向かって蝋を投げつけてきた。

 確かに捕まるのは時間の問題かも……。

 

「このっ!」

 

 私は何度か鉛の弾丸をMr.3に向かって撃つが、カラーズトラップは強力で全部闘牛の赤を狙ってしまっていた。

 暗示というのはすごいな……。しかし、もうすぐ――。

 

「どこを狙っているのカネ? そろそろ観念したらどうカネ?」

 

 Mr.3は機嫌の良い笑みを浮かべて挑発してくる。

 

「くっ……!? ビビ! 敵の狙いは君だッ! 君だけでも逃げてくれ! ルフィの元へ!」

 

 私がビビにそんな指示を出すと彼女は頷いてカルーを走らせて行った。

 

「私がそれを黙って見てると思うのカネ? キャンドルロック!」

 

 Mr.3は今度はカルーに向かって蝋を放つ。

 彼の足を封じるつもりのようだ。

 

緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)ッ!」

 

 私は炎の弾丸でそれを溶かして相殺した。

 

「――なッ!? ミス・ゴールデンウィーク!? カラーズトラップはどうしたのカネ?」

 

 Mr.3はようやく驚いた表情を見せた。そう、こっちにはもう一人仲間が居たのだ。

 

「キャハッ――! ミス・ゴールデンウィークなら、ここよ!」

 

 ミキータが闘牛の赤を消した上で、ミス・ゴールデンウィークを羽交い締めして捕まえていた。

 

「血迷ったのカネ? ミス・バレンタイン!? ちっ、裏切り者の粛清まで仕事をせにゃならなくなったガネ! まぁいい! まずはお前を殺るガネ! キャンドルチャンピオン!」

 

 Mr.3は怒りを顕にしながら、蝋で自らの体を覆う鎧を形成した。

 

「あれは、かつて4200万ベリーの賞金首を倒したという――Mr.3の最高の美術!」

 

 ミキータはキャンドルチャンピオンを知っているみたいで、汗を額から流しながら焦りの表情を浮かべる。

 

「フハハハッ! 多少動きが素早いくらいじゃどうしようもないガネ! どうした? もう、炎は使わないのカネ? もしかして……弾切れなのカネ?」

 

「ご明察――もうあの弾丸は一発も残ってないんだ」

 

 私が炎の弾丸を使わなくなったことを直ぐに察知した彼はニヤリと笑った。

 特殊な弾丸は量産が難しいからちょっとずつしか補充が出来ない。

 最近はこれから必須になる()()()()ばかり作っていたし……。

 

「そりゃあ不運だガネ! やはり、勝負というのは切り札を最後までとっておいた者が勝つのだ! チャンプファイトッ! 『おらが畑』!」

 

「――ぐはぁッ!」

 

 Mr.3の強力かつ素早い連撃が私を捉えて、私は吹き飛ばされてしまう。

 全身に針が刺さったみたいに痛い……。

 

「さすがに疲れてたのカネ? こちらの動きが読めても避けられなかったら意味がないガネ!」

 

 彼は勝ちを確信したような表情でよろよろと立ち上がった私を見ていた。

 

 しかし、そのときだ――。

 

「ライアさん! 準備が終わったわ!」

 

 ビビが私に向かって大声で叫んだ。

 

「フハハハッ! まだ逃げてなかったのカネ!? 今さら何をしようと無駄だ!」

 

 Mr.3はそんなビビを一瞥もせずに私を攻撃しようとしてきた。

 

「ビビッ! 何度もすまない……! 必殺ッッ――火炎星ッッッ!!」

 

 私はとっておいた最後の炎の弾丸をゾロたちに向けて放った。

 

「――ッ!? しまったッ! 蝋と絵の具が消えて――!? おっお前、弾切れだとさっき……」

 

 Mr.3が驚愕した表情で私を見る。

 ビビには予め、ブロギーに渡した酒をまんべんなく彼らを拘束している蝋に塗りたくるように指示を出していたのだ。

 

「うん。嘘つきなんだ。私は……。それに――切り札を最後までとっておいた方が勝つんだろ?」

 

 私が本当に弾切れを起こしたのならそれを正直に話すわけないじゃないか。

 

「くッ!? フハハハッ! だが弱小海賊団の雑兵ごとき私一人でも十分倒せるガネ」

 

 しかし、本気なのか虚勢なのかわからないが、彼はやる気に満ちた表情に戻ると、シャドーボクシングのような動作をしながらそんなことを言い出した。

 

「ほう、クソメガネ、言うじゃねェか。てめェ、ライアちゃんを殴ってタダで済むと思ってるのか?」

 

「どけ、アホコック! こいつはおれの獲物だ!」

 

 そこにストレスが溜まって苛ついた表情のコックと剣士がやってきた。

 すべてを貫くような凶暴な殺気と共に――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「鬼――斬りッッ!」

 

羊肉(ムートン)ショットッ!」

 

 ゾロとサンジの必殺技が決まってMr.3は倒される。

 

 キャンドルチャンピオンは強いと思ったんだけど、サンジは私の戦いを見ていて、酒をMr.3にかけたかと思うと、タバコを投げつけてあっさり溶かしてしまった。

 

 生身の彼がゾロとサンジを同時に相手をして敵うわけがなく……。

 Mr.3は文字通り瞬殺されてしまった。

 

 まぁ、ちょうどドリーとブロギーの戦いも終わったみたいだから、こっちに彼が戻ってきたら更に詰んでいたと思うけど……。

 

 さて、あとはMr.0……、つまりクロコダイルからの連絡をMr.3の隠れ家で受けるだけだ……。

 

「ミキータ! 君に頼みがある!」

 

「ひゃいっ! わっ、私に頼み? 何かしら?」

 

 私はミキータにMr.3の隠れ家の場所を聞こうとした。

 

「ちょっと、待って。そういえば、この人って敵じゃなかった? なんで、味方みたいなことをしてたの?」

 

 ナミがごもっともな疑問を口にするが、今は答える時間がない。

 どのタイミングでクロコダイルが連絡を取るのかわからないから、なるべく早く隠れ家にたどり着きたいのだ。

 

「ミキータ、とにかく、こっちに来て」

 

「あっ……、手を……、キャハッ……」

 

 私は彼女の手を握って走り出した。ミキータは疲れているのか、俯いて顔を赤くしていた。

 

 

「Mr.3が拠点にしていた場所? なんで、あんたが隠れ家のこと知ってるの?」

 

「あっ、ああ。隠れ家かどうかはわからないが、私がMr.0なら必ずビビたちを仕留めたかどうか直ぐに確かめると思うんだ。だけど、Mr.3は電伝虫を持ってなかったからね。連絡を受ける拠点みたいな場所があると読んだわけさ」

 

 漫画で読んだから知っていると、言える訳もなく、私は思いつきをベラベラと話した。

 

「キャハハッ、よく見てるのね……。もう少し先に彼がドルドルの実の能力で作ったキャンドルハウスがあるわ。こっちよ……」

 

 ミキータは納得したという表情で、私をキャンドルハウスまで案内してくれた。

 

 よし、あとはクロコダイルからの連絡を受けるだけだな……。私はキャンドルハウスのドアを開けた。

 

 あれ――? なんか話し声が聞こえるぞ……。

 

 

『おれが指令を出してから随分と日が経つぞ、どうなってやがるMr.3!?』

 

「おれはMr.3じゃねェ!」

 

『何ッ! 貴様ッ! 誰だッ!』

 

「おれはルフィ! 海賊王になる男だッ!」

 

 電伝虫に向かって大声で叫ぶルフィ……。

 私の頭の中は真っ白になった――。




Mr.3とルフィが戦わなかったので、インペルダウン編でこの辺りの影響はありそうですね。この辺もしっかり練ってストーリーに組み込みたいです。

ミス・ゴールデンウィークとライアを絡ませるの忘れてたので、次回に回します!


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運び屋ミキータ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!応援のおかげで頑張って書くことが出来ております!
今回でリトルガーデンのお話は終わりです。ミキータ加入でどうなるのか? それではよろしくお願いします!


 

 

『ルフィ? そうか、てめェが麦わらか……。Mr.3はどうしたッ!? てめェが殺ったのか!?』

 

 クロコダイルは状況を判断して、ルフィがMr.3を倒して電伝虫を奪ったと解釈してるみたいだ。

 

「――みすたー、もごぉっ! もごもご……」

 

 これ以上、ルフィを喋らせるわけにはいかないので私は必死でルフィの口を押さえる。

 ここから何とか誤魔化さなきゃ……。

 

「失礼しました。ボス……。麦わらのルフィを今、始末しました。逃げ足が速いやつでして、多少手間取りましたが任務はこれで完了です」

 

 私はちょうど今、ルフィを倒したとクロコダイルに報告をした。

 これで彼が納得してくれればいいけど……。

 

『てめェ……! おれを嘗めてるのか!? この流れでてめェをMr.3だと信じるバカがどこにいる?』

 

 やはりやらかした後にすんなり私の言うことを信じるほど、クロコダイルは甘い相手では無かったか……。

 どうしよう……。すごい怒ってるし……。

 

「なるほど、私を偽物だと疑っているわけですね。ボス……」

 

 私は努めて冷静に淡々と事務的な口調で彼と会話をする。

 相手にこっちの動揺を悟らせてはならない。

 

『疑っているんじゃねェ! 確信してるんだ、偽物野郎! このタイミングで都合よく麦わらを殺っただと? 誰がそれを信じる!?』

 

 クロコダイルは私を偽物だと決めつけているみたいだ。まぁ、当たってるんだけど……。

 

「ボス! 私も見てました。Mr.3が麦わらを殺るところを――!」

 

 私が次の言葉を探していると、突然、ミキータが口を開いた。

 どうするつもりだ?

 

『誰だてめェは! 女か!?』

 

 クロコダイルはミキータに対して怒鳴った。

 

「私はミス・バレンタイン。それとも、運び屋ミキータと名乗ったほうがよろしいでしょうか? 麦わらの一味は私の本名を知らないので騙ることは出来ないはずです」

 

 ミキータは自分の本名を名乗り、クロコダイルに信用してもらおうと考えているみたいだ。

 そうか、彼はミキータがこっち側についたことを知らないから、それを利用しようとしているのか……。

 

『――ほう、なるほど。いや、疑って悪かった。Mr.3……。計画も最終段階でな。こっちも慎重になっているんだ』

 

 ミキータのファインプレーでようやくクロコダイルの信頼を勝ち取ることができた。

 

「いえ、理想郷を作るというボスの計画を思えば当然です。任務遂行が遅れていたのは事実ですから、私に落ち度がありました」

 

 私は思ってもないことをペラペラと話す。こういうのは嘘つきの土俵だ。

 

『クハハッ! 殊勝な態度を見せるじゃないか。Mr.3……。ともあれ、任務遂行ご苦労だった。今、アンラッキーズをそちらに向かわせている。ある届け物をもって、任務完了の確認をしにな』

 

 クロコダイルは完全に私を信じてくれたようで本題を切り出してきた。

 

「届け物……、ですか?」

 

『アラバスタ王国への永久指針(エターナルポース)だ……。これから、最も重要な作戦を実行する……。詳細はアラバスタに着いてからの指示を待て……』

 

 私がクロコダイルの言葉を復唱すると、彼は私の目的である永久指針(エターナルポース)の話を振ってきた。

 よし、これでほとんど作戦は上手くいったようなものだ。

 

 ちょうどこっちに向かって来てるアンラッキーズ――今回は手加減しないよ。

 私はまずはラッコを睡眠弾で撃ち落とした。

 

「承知しました。アラバスタ王国にまっすぐ向かえばよろしいんですね?」

 

 そして、クロコダイルに話しかけるのと同時にハゲタカを撃ち落とす。

 

「――なんて、早撃ち……」

 

 ミキータはゴクリと生唾を飲みこんで、私の射撃に対する感想を漏らした。

 

『そのとおりだ。なお、電波を使った連絡はこれっきりだ。海軍が嗅ぎ付けても厄介だからな。以後の連絡はこれまでどおり指令状によって行う。――以上だ。幸運を……Mr.3』

 

「ええ、お任せください……」

 

 私はクロコダイルの話にうやうやしく返事をすると、彼は通信を切った。

 

「ふぅ……、何とか誤魔化せたな……。君のおかげだよ、ミキータ……」

 

 私はミキータにお礼を言った。彼女の機転がなければ危なかった。

 

「キャハッ……、そんなことより、あんたらの船長……、長いこと息してないみたいだけど大丈夫なの?」

 

「あっ!?」

 

 ミキータの言葉で私がルフィの鼻と口を押さえっぱなしだということを思い出した。

 

「――ぷはぁっ……。ぜぇ、ぜぇ……。ライアー! 死んじまうとこだったぞ!」

 

 ルフィは顔を青くして私に苦情を言ってきた。

 

「ごめんごめん……。てか、君の力なら簡単に振りほどけたのでは?」

 

 私はルフィが力づくで抜け出さなかったことに疑問を呈した。

 

「ノリだ!」

 

「ああ、ノリか……。――って、ノリで君は死にかけてたのかい?」

 

 堂々とノリだと宣言するルフィ。いや、そこは命に関わるからノリで済まさないでほしい。

 

「あんたら、運がいいのね。追手が来なくなるだけじゃなくって、都合良くアラバスタへの永久指針(エターナルポース)を手に入れるなんて……」

 

 ミキータは当然、私が永久指針(エターナルポース)目当てだということは知らない。

 クロコダイルが追手を差し向けることを避けるためだと解釈している。

 

「ん? 傘のヤツじゃねェか。なんでここに居るんだ?」

 

 ルフィはようやくミキータに気が付き彼女に話しかけた。

 

「ああ、彼女はミキータ。私の命を助けてくれた恩人なんだ。行くところがないから、一緒に船に乗せたいんだけどさ……」

 

 私はルフィに彼女を紹介した。私の命を救ってくれたことを付け加えて……。

 

「そっか。いいぞ! よろしくな! ミキータ!」

 

 思った以上にあっさりルフィは了承してくれた。反対はしないとは思ったけど……。

 

「キャハッ……!? 軽っ! あんたらのところの船長(キャプテン)軽くない!? もっと、じっくり舐め回すように疑いなさいよ!」

 

 ミキータはあまりにも軽いルフィの態度が逆に不安だったらしく、彼にもっと疑えと言っていた。気持ちはわかるけど……。

 

「別にいいじゃないか。許可してもらったんだから……。これから一緒に旅するんだ。改めてよろしく」

 

 私はもう一度、彼女に対して手を差し出した。

 

「いっ、一緒に……。そっそりゃ、そうよね。えっと、うん」

 

 ミキータは照れくさそうに目を背けながら、右手で頬を掻きながら、左手で私の手を握ってくれた。

 

「ところで、ライア! 巨人のオッサンたちの決闘を邪魔した奴らは見つけたのか?」

 

「ああ、それならゾロとサンジがやっつけちゃったよ。ドリーもブロギーも何事もなく決闘してたし、問題なさそうだ。ラッキーなことに永久指針(エターナルポース)が手に入ったし、みんなの所に行こう」

 

 私はルフィの質問に答えて、彼にみんなの元に戻るように促した。

 ふぅ……、今日は精神をすり減らしたからなのか、Mr.3との戦いのときからやたらと体がダルいな……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「「ああ〜、お茶がうめェ〜!」」

 

 戻ってみたら、ドリーとブロギーが揃ってお茶を飲んで和んでいた。

 

「何これ、どういう状況……?」

 

 私はビビにそう尋ねた。意味がわからない。どうしてこうなった?

 

「ああ、ミス・ゴールデンウィークが出したお茶が美味しかったって、この二人が……」

 

 ビビが彼らが和んでいる理由を話す。ミス・ゴールデンウィークが? どうしてまた……。

 

「チビ人間は器用なもんだな」

 

「こいつらをふん縛ってれば大丈夫だろ。おれは女を縛る趣味はねェ」

 

 感心するような口調のドリーと、縛られたMr.5とMr.3を指さすサンジ。

 まぁ、彼女には戦闘力はないけれど……。

 

 

「ビビから聞いたんだけど、あなた正気なの? 敵だった女を一緒の船に乗せたいなんて」

 

 ナミが私の姿を確認すると、ミキータを乗せることについて渋い表情をした。

 確かに彼女の主張が正論だよね。

 

「うん。いろいろと助けて貰ったし」

 

「助けられたねぇ。それだったら、ここに1年も居なきゃいけないって状況も助けてほしいものね」

 

 ナミは私の言葉に対してそう返す。やはり、ログが溜まるまで1年という話がかなり効いているみたいだ。

 

「それも含めてさ。ミキータのおかげでほら、アラバスタ王国への永久指針(エターナルポース)も手に入った」

 

 私はミキータの機転のおかげで手に入った永久指針(エターナルポース)をポケットから取り出した。

 

「えっ! そっ、その永久指針(エターナルポース)って本当にアラバスタ王国まで続いてるの!? これをミス・バレンタインが!?」

 

 永久指針(エターナルポース)を取り出すと、ナミよりもビビが食い付いてきた。

 

「うん。彼女が上手く、Mr.0を騙してね。何とか私たちはここを脱出出来そうだよ」

 

 私はミキータの功績を彼女に話した。

 

「キャハッ……、別に私は大したこと――」

 

「ミス・バレンタイン! ありがとう! あなたのおかげで私は国を助けられる!」

 

 私の言葉を聞いて、ミキータは両手を振って謙遜しようとしたが、ビビは彼女を力いっぱい抱き締めて大きな声でお礼を言い出した。

 

「ミス・ウェンズデー……。ちょっと、離れてくれる? もう、わかったから離しなさいよ!」

 

 ミキータは顔を真っ赤にしながら、ビビを引き剥がそうとした。

 ビビは国の情勢がかかっているから本当にありがたかったんだろうな。

 

「ほう、裏切り者って聞いたからどんな奴かと思ったが、やるもんだ。言っとくがおれは信用してねェからな」

 

「普通そうよね〜。まともな奴がいて安心したわ」

 

 そして、そんな様子を眺めていたゾロは彼女に忠告するが、彼女はそれをどこ吹く風だと言わんばかりに受け流した。

 

「ああ、今日ほどこの船に乗って良かったと思える日はない! ミキータちゃん……、君はなんて可憐で美しいんだ!」

 

 さらに可愛い女性が船に乗るという出来事にハイテンションになっているサンジがクルクル回りながらやってきて盛り上がっていた。

 

「キャハハッ、よく言われるわ。あんたは扱いやすそうね……」

 

「どうぞ、何なりと扱ってください。おれは恋の下僕になる決意が今できた!」

 

 ミキータのそんなひと言にもサンジはニコニコしながらきれいなお辞儀をする。こういう所は絶対にブレないよなー。

 

「はい。サンジくん、黙っててね。まっ、永久指針(エターナルポース)のことはお礼を言っとくわ」

 

 ナミも最後にこの窮地を脱することが出来る事に対して彼女にお礼を言っていた。

 

 

 

「はぁ、どうやらみんなそれなりに彼女を認めてくれたみたいだ」

 

「ちょっと、あなた。私たちの負けでいいからMr.3たちを解放してくれない?」

 

 私がミキータが問題なく船に乗れそうなことを確認していると、ミス・ゴールデンウィークが話しかけてきた。

 

「君はミス・ゴールデンウィークか。仮に解放したとして、永久指針(エターナルポース)も無しに、どうするつもりなんだい?」

 

「決まってるわ。何とかこの島を出てB・Wのために戦うの」

 

 私の言葉に対してミス・ゴールデンウィークは混じり気のない瞳でまっすぐ私を見据えながらそう答えた。

 

 そこからは一切の邪気を感じられず、ただひたすら純粋な気持ちに溢れていた。

 

「はははっ、君は正直だし仲間想いなんだね。でも、それなら簡単に解放はできないよ……」

 

 私は彼女の受け答えに対してそう言った。それにしても、なぜ彼女はB・Wに所属してるのだろう。

 

「………これあげる」

 

「あっ、ありがとう」

 

 ミス・ゴールデンウィークは唐突にせんべいを私に渡してきた。ん? これはどういう?

 

「また、アラバスタ王国で会いましょう。カラーズトラップ……友達の黄緑……!」

 

 ミス・ゴールデンウィークがそう言葉を言い放つと、プテラノドンが飛んできて彼女を背中に乗せる。

 

「へっ!? いつの間にプテラノドンにッ! カラーズトラップを!?」

 

「うっひゃあッ! すっげェな!」

 

 私は呆気にとられ、ルフィは目を輝かせてその様子を見ていたら、彼女は素早く縛られているMr.5とMr.3を回収して空へと舞い上がって行った。

 

「感心してる場合か! あいつ、仲間を連れて逃げちゃったじゃない!」

 

「ほう、チビ人間が恐竜を従えるとは……」

 

 ナミはプテラノドンを指さし、ドリーは感心したような声を出した。

 

「くっ、逃がすか……。必殺ッ――あれっ?」

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を構えたが、手から力が抜けて銃を地面に落っことしてしまう。

 

「ライアちゃん、大丈夫かい? 拳銃を落とすなんてらしくないな」

 

「ごっ、ごめん。手が滑ったみたいだ……」

 

 サンジがいち早くそれに気づいて、私を気遣うような言葉をかけてくれる。やはり、疲れが溜まってるみたいだ。

 

「まずい……。ミス・ゴールデンウィークがMr.5とMr.3を連れて行っちゃったわ。グズグズしてると、社長(ボス)に気付かれるわね」

 

「出航を急ぎましょう。せっかく永久指針(エターナルポース)も手に入ったことだし……」

 

 ミキータとビビが顔を見合わせて深刻そうに話し合っていた。

 そうだな。急いだほうが確かに良さそうだ。

 

「ふむ、客人は旅立つか。ならば、うまい酒とうまい飯の恩を我らも返すとしよう」

 

「ゲギャギャギャギャ! そうだな、ブロギー。久方ぶりに見た面白い連中だ。死なせるのは惜しい」

 

 そして、私たちの会話を聞いていた二人の巨人がニヤリと笑って立ち上がった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「――覇国ッッッッッ!!」

 

 島食い――育ち過ぎた金魚なのだそうだ。その大陸と見紛うほどの巨大な金魚に飲み込まれたメリー号……。

 しかし我々は二人の巨人のアドバイスどおり“まっすぐ”に進み続けた。

 

 するとどうだろう。ドリーとブロギーによるエルバフに伝わる巨人族の奥義が炸裂し、島食いは海ごと抉られて、ゴーイングメリー号は再び青天の下へと還ってきたのである。

 

 ともあれ、私たちはこのリトルガーデンを脱出することに成功したのだ――!

 

「すっげェ! でっけェな! 巨人っていうのは!」

 

「ああ、いつか見てみたいものだね。エルバフという巨人族の村も」

 

「よし、行こう! エルバフ、エルバフ! 巨人族の村へ!」

 

 ルフィは二人の巨人のスケールの大きさに感動してリトルガーデンをずっと眺めていた。

 

 さて、漫画だとこのあとナミが原因不明の高熱にうなされることになり、進路を急遽変更して元ドラム王国があった場所へと向かった。

 

 そこで、次の仲間であるチョッパーと出会うことになるはずなのだが……。

 

「どうしたの? ライア。人の顔をジロジロ見て」

 

 ナミが不思議そうな顔をして私を見ていた。おそらく私が彼女をガン見していたからだろう。

 

「いや、今日も可愛い顔してるなって思っただけだよ」

 

「ばっ、バカっ! サンジくんみたいなこと言わないでよ!」

 

 私が誤魔化そうとそう言うと、ナミの顔がみるみる赤くなり彼女は怒り出した。

 今のって、サンジっぽいかな?

 

「お呼びですか〜。ナミさん! 暑いですからね。冷たい飲み物なんていかがです?」

 

「じゃあ、お願い。サンジくん」

 

 自分の名前が呼ばれたのを聞いて、サンジは超特急でナミの元に駆けつける。

 そして、直ぐに気遣い……、これはなかなか出来ることじゃない。

 

「かしこまりましたー! おら、どけクソ剣士! おれァ急いでるんだ。そんなところで暑苦しいマネしてたら、レディたちが余計に暑がるだろうが!」

 

「知るかよ、ンなこと!」

 

 ルンルン気分でキッチンに向かうサンジの道を塞ぐようにして鍛錬をするゾロに彼は悪態をつく。

 ゾロは鉄の硬度のキャンドルチャンピオンが斬れなかったことが気に障ったらしく、鉄を斬れるようになるために修行してるのだそうだ。

 

 まぁ、そうしてくれないとスパスパの実の能力者であるMr.1には勝てないし……。

 

 

 

「キャハハッ、緊張感の欠片もない船ね〜」

 

 ミキータはそんな彼らを見てせせら笑っていた。

 

「でも、確実にアラバスタ王国に向かってる。これで、私は生きてアラバスタに帰れる」

 

 ビビはそれを聞いていたが、アラバスタ王国に進路をとっていることに有り難さを感じており、引き締まった表情をしていた。

 

「あんたは、もちっと、楽にしたらいいんじゃない? キャハハッ、どうせ緊張してようが戦闘じゃ大した戦力にならないんだから。リラックスして、逃げ足だけはいつでも早くしときなさい」

 

「ミス・バレンタイン……」

 

 そんなビビにミキータは明るく力を抜くようにアドバイスしていた。

 割と仲間になると義理堅いところもあるのか、それとも命を狙っていた負い目なのかわからないが……。彼女なりにビビを気遣っているのだろう。

 

「へぇ、あんたが誑し込んだ彼女、意外とまともなこと言ってるじゃない」

 

「だから、誑し込んでないって。それよりナミ、体調とか悪くないか?」

 

 私はナミに向かって率直に体調について尋ねた。

 そろそろ熱が出なきゃおかしいんだけど……。

 

「はぁ? 体調? 別になんとも無いわよ。どうしたの急に」

 

「本当かい? ビビに気を遣って黙ってるんじゃ……」

 

 なんともないという、ナミの言葉を疑って、私は彼女の額に自分の額をくっつけた。

 

「んっ……、何? 急に――。――って、ライア! あなた、ひどい熱よ!」

 

「えっ? あっ……!?」

 

 ナミの額は氷のようにひんやりしてた。彼女って低体温だっけ……? えっ? 私の熱がすごいって……、それじゃあまるで私が……。

 

 気付いたら、私はそのまま倒れてしまっていた――。

 まさか、ナミじゃなくて、私が発病した――?

 




リトルガーデンを脱出させようと思ったら、いつの間にか7000字近くなってしまってました。

ミキータの機転でエターナルポースを手に入れたのは良かったのですが、ミス・ゴールデンウィークがいち早く仲間を連れてリトルガーデンを脱出。
彼女らはアラバスタでも再登場させます。
ミス・ゴールデンウィークって、B・Wになんで居るのかわからない感じのキャラクターですよね。懸賞金もMr.3より高いし……。

そして、ケスチアを発症したのはナミではなくライア……。
感想欄で予測されちゃったみたいですが、こんな感じで元ドラム王国に向かうことになりそうです。


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医者を求めて

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ミキータの加入が割と好意的でしたので、安心しました。
今回は文字通り元ドラム王国を目指す話です。
それではよろしくお願いします!


「いや、まいったね。ちょっと、体がダルいなー、とは思ってたんだけど……。まさか、このタイミングで私が……」

 

 私はナミが感染するはずだった病気に自分が感染してしまったことに驚いていた。ベッドに寝かされながら……。

 まぁ、彼女が苦しむよりはいいと思ったけど……。

 

「黙ってなさい。熱が40度もあるじゃない。ちょっと体がダルいなんてものじゃないわよ。何かの感染症かもしれない」

 

 ナミが真顔で低い声で私に注意する。ここは素直に言うことを聞こう。

 

「40度? それって辛ェのか?」

 

「ルフィさん、辛いなんてものじゃないわ。さっきまで立っていたのが不思議なくらいよ」

 

 ルフィの疑問にビビが答える。そういえば、彼は病気になったことないんだったな。

 私も40度の熱は出したことないけど……。

 

「ナミ゛ざん! ライ゛ア゛ぢゃん()んぢゃうのがな゛ァ!?」

 

 サンジは思ったよりも私の体が悪いということを知って、涙ながらに私を心配してくれた。

 すごく嬉しい。サンジって優しくていい人だよなー。

 

「ええいっ、縁起でもないことを言うな! でも、原因がわからなきゃ治療も出来ない……! 私のにわか仕込の医学の知識じゃ、この症状の()()まではとても……」

 

 ナミは狼狽するサンジを諌めながらも、私の症状から治療法を診断出来ないと嘆いていた。

 

「肉食ってたら、病気なんて治るだろ!」

 

「キャハッ……、何言ってんのよ。そんなので治ってたら世の中には医者はいらないじゃない。ていうか、この船に船医は居ないの?」

 

 ルフィの謎理論にミキータが呆れ顔でツッコミを入れ、船医は居ないのかと尋ねる。

 

「あのね、あの修行バカが医者に見える?」

 

「質問した私が悪かったわ。どーすんのよ? こいつ、本当にヤバい病気かもしれないわよ」

 

 ナミはそんな彼女の問いに悲しそうな顔をして答えると、ミキータは素直に謝った。

 いや、そうなんだけど、ゾロのことをディスってない?

 

「ミス・バレンタイン、脅かさないで……。でも確かに偉大なる航路(グランドライン)では屈強な海賊でも原因不明の病で突然死亡するなんてことも――」

 

 それを聞いてビビも顔が青ざめて、首を横に振る。

 だんだん私まで怖くなってきたぞ……。

 

「おいおい、怖いじゃないか。大丈夫だよ、このくらい……」

 

 だから、私はベッドから身を起こしてビビに声をかけた。

 

「「「ダメよ! 寝てなきゃ!」」」

 

 すると、ビビとナミとミキータが凄い剣幕で私に怒鳴る。

 

「えっ、あっ、はい……」

 

 私は3人の迫力に負けて布団に潜った。あれ? この人たちこんなに息が合ってたっけ?

 

「とにかく、早く医者に見せなきゃ」

 

 ナミは焦った表情で私の顔を見ていた。あんなに普段は私と目を合わせようとしないのに……。

 

「ビビちゃん、アラバスタにはどれくらいで着くんだ? 当然、大きな国だし医者は居るんだろ?」

 

「わからない……。でも、確実に一週間以上はかかるわ」

 

 そして、それに合わせてサンジがビビに質問をする。ビビも焦りの表情を浮かべながらアラバスタに着くまでの日数はかなりかかる事を伝えた。

 

「じゃっ! もっと近くの医者を探すぞ!」

 

「そうね。このままじゃライアさんが……」

 

 そして、ルフィは近くを探そうと意見を出して、ビビもそれに同調しかけていた。でも――。

 

「ちょっと待つんだ。ナミ、あの新聞記事をビビに見せてやってくれ」

 

「――ッ!? あなた、そんなことをしたらビビが……」

 

 私はナミにアラバスタの記事が書かれている3日前の新聞を彼女に見せるように頼んだ。しかし、ナミはそれを良しとしないような顔をした。

 

「だとしても、だ。私を思いやる気持ちは嬉しいけど……。こうなったら、知らせないわけにはいかないだろ?」

 

 しかし、私がもう一度彼女に頼むとナミは気が進まないという表情をしながらもビビに新聞記事を読ませた。

 

 

 

「そっそんな……、革命軍の数がいつの間にか国王軍を上回っていたなんて……。このままじゃ、100万人が無意味に殺し合いをしてしまうことに……」

 

 アラバスタ王国は王国軍の多くが革命軍に寝返って、反乱の鎮圧が難しくなっているという状況になっていた。

 これは下手をしたら一気に国が落ちる状況だ。

 

「私だって命は惜しい。生きて帰る約束もしてるからね。でも、君の国でも大きな数の命のやり取りが行われそうになっているんだ。だから――」

 

 私は本音ではカヤとの約束もやりたい事もあるので助かりたかった。しかし、この事実を内緒にすることは不義理だと感じてしまい、できなかった。

 

 ビビには悩ませることになる。私はそう思っていたのだが、しかし、彼女の決断は一瞬だった。

 

「でも、私には……、ライアさんが必要なの……! 国を救うために……、絶対に力を貸してほしいと思ってる! だからッ! 医者を探しましょう! 一刻も早くライアさんに体を治してもらって、それからアラバスタ王国へ!」

 

 ビビは躊躇わずに自分の国を救うのに私が必要だと言ってくれた。

 だから、私の治療を先にしようとも……。彼女の思いやりは私の胸にとても響いた。

 

「にしし、当たり前だ! ライアはウチの狙撃手なんだ! 死ぬのはおれが嫌だ!」

 

 ルフィは笑顔で彼女の意見を支持した。

 

「ビビちゃん! おれァ惚れ直したぜ!」

 

「キャハッ……! コイツを見捨てるとか言ったら私があんたを埋めるとこだったわ」

 

「あんたもお人好しよね。でも、ありがとう。このバカに早く元気になって貰いましょう。キザなセリフが聞けないのも寂しいしね」

 

 それに合わせてサンジとミキータとナミも私の治療を先回しにすることを喜んでくれた。

 みんな、いい人たちだ……。まったく、こんな私のために……。

 

「基本的な病人食は任せとけ! しかし、この病状……、昼間はもちろん夜中だって誰かが看病する必要があるな」

 

「「「じゃあ、私が!」」」

 

 サンジが夜通しの看病の必要性を説くと、またナミとビビとミキータが同時に声を出した。

 なんか、すごい圧力を感じるんだけど……。

 

「いや、そんなに気を遣って貰わなくても……、寝てれば大丈夫だし」

 

 私はそれは如何にも申し訳ないと思って彼女らにそこまでしなくて良いと言ったのだが、聞く耳を持ってくれない。

 

「ライアとは私が一番長く旅をしてるわ。彼女のことも一番よく知ってるし……」

 

 ナミは胸を張って私の頭を撫でながら自分が看病すると主張した。

 

「ナミさんが航海士として神経をすり減らしていることはわかってる。クルーの命に関わる大事な仕事だもの。睡眠はしっかりとった方がいいわ。だから私が――」

 

 ビビはナミの航海での仕事量を気遣った。確かに彼女は海の上では人一倍働いている。でも、なんでビビは私の右手を握っているんだろう。

 

「キャハハッ、そういうあんただって国のことで頭がいっぱいでしょう? ここは何の憂いもない私が看ててあげるわ!」

 

 そして、ミキータはビビは国の心配事も多いだろうから心に負担のない自分が看病をすると主張した。私の左手を握りながら……。

 別にそんな言い争いみたいにしなくても良いのに……。

 

「「――ッ!?」」

 

 しかし3人はなぜか対抗心を燃やしていた。今までにない迫力を醸し出しながら……。

 

「なぁ、サンジ! あいつら、なんで喧嘩してんだ!?」

 

「黙ってろ! くぅ〜、何か見ちゃいけねェと思えば思うほど新しい何かが目覚めようとしてる気がするぜ!」

 

 そして、それを見守るルフィとなぜか興奮気味の口調のサンジ。

 いや、これはどうやって収拾をつけるつもりなの?

 

 

 結局、順番で看病するという方向で収まるまで、実に1時間近くかかった。

 その間に大型のサイクロンが来たりして割と大変だったみたいだ。

 

 

 彼女たちが甲斐甲斐しく看病してくれたのはもちろん嬉しかったのだが、寝間着に着替えるのを手伝うときにビビとミキータが私の体を見て「本当に女なのよねぇ」と何とも言えない表情で呟いていたので、少し悲しかった。

 

 

 

 

 

 翌日……、妙な胸騒ぎがして目が覚めると、船がとんでもなく揺れた。

 そして、間もなく大量の人間が船に乗り込んでくる気配を感じた。

 

 うーん。おそらく、元ドラム王国の国王であるワポルが率いるブリキング海賊団がやって来たのだと思われるが……。

 彼はバクバクの実の能力者で……、ん? バクバクの実……?

 

 私は猛烈に嫌なことを思い出して、未完成の新しい武器である、マスケット銃――銀色の銃(ミラージュクイーン)を持ち出して、よたよたと走り出した。

 

「ちょっと、ライアさん! 何を!?」

 

 急に私が動いたことに驚いたビビが慌てて私を追いかけてきた。

 

 

「おれたちはドラム王国に行きたいのだが――」

 

 ナイフを食べているワポルを私は見つけて、メリー号が食べられるシーンを思い出す。

 熱で意識が朦朧とするが、メリー号だけは命を懸けても守るっ!

 

 ブリキング海賊団の連中に気付かれないように、私はワポルに向けて新兵器、銀色の銃(ミラージュクイーン)の銃口を向ける。

 

 そして――。

 

「小腹が減ったな」

 

 メリー号を食べようと大口を開けるワポルの腹を私は狙って引き金を引く。

 

碧色の超弾(ブラストブレット)ッ!」

 

 命中した瞬間にすべてを吹き飛ばす突風が繰り出される強力な弾丸がワポルにクリーンヒットする。

 

「へぼッ!? ぎゃァァァァァッ!」

 

 ワポルは叫び声とともに遥か彼方に吹き飛ばされる。

 

 やっぱり、未完成だから銃口が砕けちゃったな……。今度……、修理しなきゃ……。ワポルが海に落ちるのを見守りながら、私は茹だった頭でそんなことを考えていた。

 

 

「えっ、ワポル様……?」

 

「「ワポル様ァァァ!!」」

 

 ワポルの部下たちは突然の事態を飲み込めずにいたみたいだが、海に彼が落ちたことを認識すると慌てふためいて自分たちの船に戻っていった。

 

「よかった……、船は……、ぶっ……、無事か……」

 

 私は外の寒気を認識して、熱がグングン上がっているのを感じていた。

 

「らっ、ライアちゃん!? なんて、無茶しやがったんだ! あんな連中おれたちが……」

 

「そうよ、いきなり走り出すんだもん。びっくりしたわ」

 

 私の元に駆けつけたサンジとビビが青ざめた顔をして私を抱えようとした。

 

「ごめん……、でも……、この船だけは私の手で守り……、たかった……か――」

 

 私は最後まで言葉を言い切れないまま意識が遠くに行ってしまった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「体温が……、42度!? こっ、これ以上体温が上がると死んでしまうぞ……」

 

 聞き覚えのない声で意識が戻り、薄っすら目を開けると見知らぬ家の見知らぬベッドで私は寝ていた。どうやら、元ドラム王国に着いたらしい。

 

 あの大柄な男はおそらくドルトンという男だろうな。漫画で見た感じそのままだ。

 

「へぇ、私の体温も……、随分と……、頑張っちゃってるんだね……はぁ、はぁ……。どうりで体が重いわけだ……、うっ……」

 

 私は彼の言葉を聞いた感想をもらした。

 

「あなた、気付いて第一声がそれ? まったく、無茶して。船のために死んだらあの子だって悲しむでしょ!」

 

「「あの子……?」」

 

 ナミは私がワポルを撃ったことを咎めた。カヤのことを持ち出して。

 ビビとミキータは「あの子」という言葉に反応している。

 

「ははっ……、反論……、出来ないよ。はぁ、はぁ……、君の言うとおりだ。ナミ……」

 

 私は彼女の言ったとおりだと思った。確かにバカなことをして死んでしまったら、死ぬなというカヤとの約束を破ることになる。

 

「わかったら、黙ってなさい」

 

 ナミは体力を無駄に消費しないように喋るなと言った。彼女の言うことを聞かなきゃな……。

 

 その後、ドルトンはこの国にいるという唯一の医者について話し始めた。

 魔女と呼ばれるその医者、まぁ、Dr.くれはのことだが、彼女は非常に高い雪山の上にある城に住んでいる。

 

 そして、彼女は気まぐれに山を降りるからいつ来るのか、わからないのだそうだ。

 そっか、だから漫画だと雪山をルフィがナミを担いで登っていったんだよな。

 

 ドルトンは次に彼女が山を降りるのを待つべきだと言っていた。

 

 しかし、ルフィは……。

 

「おーい、ライア! 山登らなきゃ医者居ねェみてェだから、山を登るぞ」

 

 ルフィはやはり私と山を登ると言ってきた。彼ならそう言うだろう。そして、それが唯一の私が助かる道なのだ。

 

「バカなの!? ライアが山を登れるわけないでしょ!」

 

「ああ、おぶってくから、大丈夫だ」

 

 ナミはルフィに反論するが、彼は譲らない。

 

「常人よりも6度も体温上がってるんだぞ。ライアちゃんの体力が保つわけねェ」

 

「そうよ、あんな断崖絶壁! 登れるわけないわ!」

 

 サンジもビビも私を登山させることに否定的だ。

 しかし、これ以上、時間をかけるとアラバスタ王国がより深刻な事態に陥ることになる。

 

「ああ、頼むよルフィ。はぁ、はぁ……、山の上まで連れて行ってくれ」

 

「おう! 任せろ!」

 

 私とルフィはタッチして笑いあった。やはり、私の船長は頼りになる。絶対に何とかしてくれるって思わせてくれる。

 

「ちょっと待ちなさい! キャハッ……、運ぶんだったら私に任せると良いわ。これでも西の海(ウエストブルー)では“運び屋”って呼ばれていたのよ。山登りも私のキロキロの実の能力を使えば多少は楽になるはず」

 

 ミキータは私を運ぶのは自分の役目だと言ってきた。

 確かにキロキロの実は運搬用の能力だとは思うけど……。道中が大変なんじゃなかったっけ。

 

「わかったッ! 運ぶのは任せた! でも、おれも付いてくぞ!」

 

 ルフィはあっさりミキータに私の運搬役を任せた。まぁ、ルフィが自由に動ければ戦闘になっても大丈夫か。

 

 

「ルフィさん! 私も付いていってもいい!?」

 

 ルフィとミキータと私で登山することに決まりかけていたその時、ビビが突然自分も付いていきたいと言い出した。

 

「ビビ……、君は危険だから……」

 

「ライアさんは2度も私を助けてくれた! 今度は私が少しでも助けるために役に立ちたいの! 待ってなんかいられない!」

 

 私はもちろん過酷な道を彼女が歩むことを止めようとしたが、ビビの決意は固そうだった。

 

「よしっ! 良いぞ!」

 

 ルフィはそんな彼女の気持ちを汲んだのか、あっさりと許可を出す。

 

 というわけで、雪山を越えてDr.くれはの城を目指すのは、私に加えてルフィとミキータ、そしてビビの4人――。

 

 私たちはナミとサンジに見送られながら過酷な山登りに挑戦することとなった。

 




ライアが病気になることにより、女性陣の静かな争いが勃発し、登山メンバーも変わってしまいました。

さらに今回はワポルの暴食を防ぐためにライアの新兵器ミラージュクイーンが初登場。未完成なので壊れてしまったのですが、威力が格段にアップした上に近距離戦もこなせる仕様になってます。
この辺のことは正式に装備するアラバスタ王国編の後半でもう一度説明します。


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ラパーンと雪崩と元国王

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!頑張ろうって気にさせてもらっております!
今回はミス・バレンタインことミキータが活躍しますが、キロキロの実の能力に関する描写は独自解釈で補ってる部分もあります。
多少の違和感を感じる部分もあるかもしれませんが、ご了承ください。
それではよろしくお願いします。



 

「キャハハッ……、しっかり掴まってなさい。どこにだって届けてあげるわ」

 

 ミキータは私を軽々と背負ってスタスタ歩く。

 

「なんだ、お前。意外と力があるじゃねェか」

 

 ルフィが感心したような声を彼女にかけた。うん、私もそう錯覚してしまいそうだ。

 

「違うわルフィさん。これはおそらくキロキロの実の能力……。ミス・バレンタインは身に着けたモノを含めて体重を操作できるみたいね……」

 

「正解よ、ミス・ウェンズデー! だから、私はどんなものだって素早く運ぶことが出来るの!」

 

 おそらくはこれがキロキロの実の真骨頂……、身に着けたモノまで体の延長上として捉えて軽くしたり重くしたりする能力。

 そういえば、名前は忘れたけど、ドフラミンゴの部下のトントンの実の能力者は重そうな荷物ごと担いで浮いていた気がする……。

 

「そっかー、要するに不思議な体をしてるってことだな」

 

「ゴム人間に言われたくないわよ!」

 

 ルフィはよくわからないけど、不思議で済ませてるようだ。

 

「とにかく、君たちは山を目指すならラパーンというウサギに気をつけてくれ。熊ぐらいの大きさの非常に凶暴なウサギが雪山には居るんだ」

 

 ドルトンが雪山に生息する凶暴な生き物である、ラパーンに気をつけるように私たちに忠告する。

 

「凶暴なウサギ……」

 

「キャハッ……、たかがウサギでしょ。そんなのこの船長がやっつけてくれるわよ」

 

 ビビの呟きにミキータは楽観的な言葉をかける。まぁ、ルフィなら問題なく処理出来そうだが……。

 

「おう! 何が来てもぶっ飛ばす!」

 

「はぁ、はぁ……、油断しないことだ……、この世界には……、恐ろしい生き物が多い……」

 

 ルフィは自信満々にそう言っていたが、私は油断大敵だと忠告する。

 

「心配すんな! お前は死なせない!」

 

「ふっ……、お節介だったね……。頼むよ、みんな……」

 

 しかし、ルフィは凛々しい精悍な顔立ちで、はっきりと心配は無用だと言ってくれた。

 まったく、こんな大きい男を信じないでどうするんだ。彼が心配ないと言うのならそうなのだろう。

 

 

 こうして私たち4人はDr.くれはの居る城へと向かったのである。

 

 

 

 

 雪山を歩いて少し経つとドルトンが忠告したとおり巨大なウサギが現れた。

 

 うーん、見るからに凶暴そうだ……。

 

「――キャハハッ、出発したときはウサギって言うからにはもっと可愛いかと思ってたけど……」

 

「なんて大きさ。それに――」

 

「すっげェ跳んだぞ! あいつ!」

 

 みんなが口々にラパーンに対する感想を述べると、ラパーンはこちらに向かって飛び跳ねて攻撃を仕掛けてきた。

 

「で、この力……、まるでゴリラみたいね……」

 

 地面の雪が粉砕して四散するのを見てビビは見た目どおりにパワーに舌を巻いていた。

 

「何言ってんだ! ゴリラじゃなくて白くまだぞ。ビビ!」

 

「あいつはウサギなんだからどっちでもないわよ! ていうか、どうでもいいわよ!」

 

 ビビとルフィの会話にイライラしながらミキータが割り込む。

 確かにそんな悠長なこと言ってられなさそうだ。

 

「待って、ルフィさん。あの数……、それにこの動きはまずいわ……。ミス・バレンタインにちょっとでも攻撃が加えられると、それだけでライアさんが……」

 

 ビビはおびただしい数のラパーンがこちらを睨みつけていることに気が付いたようだ。

 

「じゃあ、守りながら戦うぞ!」

 

「でも、あんなに沢山を守りながら相手にしていたら時間が……」

 

 ルフィは私を守りながら戦うと言っていたが、ビビはそれでは時間がかかると懸念していた。

 

「ちょっと、船長! 私を空に投げ飛ばしなさい!」

 

 そんなとき、ミキータが突然、自分を空に投げるようにルフィに頼んだ。

 

「ん? わかった! うぉッ! 軽いなァ、おめェ! とりゃああああッ!!」

 

 ミキータは自身の背負ってる私を含めた体重を極限まで落としてルフィに空高くまで私ごと投げさせる。

 

「えっ? ミス・バレンタイン!? 何を!?」

 

 ビビは突然の行動に驚きの声を上げた。

 

「で、私が着地するまでにあいつらを出来るだけ倒して道を作るのよ!」

 

 傘を開いてふわふわとゆっくり落下しながら、ミキータはルフィにそんな指示を出す。

 

「そっか、ライアさんと一緒に空に避難したのね……」

 

「あいつ! 頭いいなァ! うっし! ゴムゴムのォォォォ! ガトリングッ!」

 

 ミキータの意図に気付いたルフィは目にも留まらぬ連撃で次々と目の前のラパーンたちを薙ぎ倒していく。

 

「キャハッ……、あの船長……、とんでもないわね……。着地するまでまだ随分と時間があったのに……」

 

「一気にあれだけいたラパーンの群を一掃しちゃった……」

 

 ミキータとビビはルフィの戦闘力に改めて驚きの言葉を吐いた。

 

「そりゃあ……、ルフィは……、はぁ、はぁ……、海賊王になる男だから……、これくらいはやるさ……」

 

 私も彼を称賛した。やっぱり、ルフィは只者じゃない……。

 

「これなら、この先も大丈夫そうね」

 

「あと、ミキータ……、君の機転にも……、はぁ、はぁ……、感謝するよ……。一緒に来てくれて良かった……」

 

 ミキータが安心した顔をしてるところに、私は彼女の能力の使い方にも感謝をした。

 この人が仲間になってくれて本当に助かった。

 

「――ッ!? キャハッ……、バカなこと言って体力無くなって死んでも知らないわよ……。その煩い口を閉じないと雪に埋めてやるんだから……」

 

 彼女は照れているのか、顔がほんのり赤くなっていた。素直な性格じゃないんだな……。

 

 

 

「ルフィさんが吹き飛ばしたラパーンたち……、あんなところで何をやってるのかしら?」

 

「――キャハハッ、ダンスの練習だったりして……」

 

 だが、ラパーンもやられっぱなしではない。吹き飛ばされたラパーンたちは、雪の地面をドシドシと踏み鳴らして揺らしていた。

 

 これは――。まずいっ――。

 

 私は漫画の一場面を思い出して、力を振り絞って声を出した。

 

「はぁ……、はぁ……、ミキータ……、笑ってる場合じゃない……、雪崩を、起こそうとして――」

 

「だから、黙ってなさいって……、えっ? 雪崩?」

 

 ミキータは雪崩というワードに反応して顔を青くする。

 

「あのウサギたち……、なんて事を……。どっどうすれば……!? あっ、そうだわ! ルフィさん、前みたいに風船のように膨らむことは出来るかしら?」

 

「こうか!? ゴムゴムの風船!」

 

 ビビはルフィに風船状に膨らむように指示を出す。

 

「ミス・バレンタイン! ルフィさんの上で限界まで体重を増やして、その反動を利用して大ジャンプして!」

 

 そして、さらにミキータにルフィの上で1万キログラムまで体重を操作して大きく沈み、その反動でジャンプするという指示を出した。

 

「キャハッ! なるほど。それなら、さっきよりも高く飛べそうね……! よしッ――、いい感じだわ!」

 

 ジャンプする準備をしたミキータはニンマリと笑った。

 

「ルフィさん、ミス・バレンタインが跳んだらすぐに手を掴んで!」

 

「よしっ! ビビも手を離すなよ!」

 

 ルフィとビビが手を繋ぎ、さらにミキータが大ジャンプした瞬間に彼女に向かって手を伸ばして2人も一緒に空高くまでエスケープする。

 

「すごい能力……、雪崩もやり過ごせるなんて……」

 

「この船長の能力が無かったらあんなジャンプ出来ないわよ。あんた、咄嗟によく思いついたわね」

 

 ビビはミキータの能力を称賛していたが、ミキータは一瞬でこの作戦を思いついたビビを褒めていた。

 

 とにかく、ビビの作戦とルフィとミキータのコンビネーションのおかげで私たちは雪崩にはまったく巻き込まれずに地上に着地することができた。

 

 

 

「あれ? このラパーンは……」

 

 再び歩きだしてすぐに私たちは雪に埋もれたラパーンの手と、小さなラパーンが涙目で埋もれたラパーンを助けようとしてる光景が見えた。

 

 おそらく親子なんだろう……。

 

「大方、群れに置いてきぼりにされてた鈍くさい親子のウサギが雪崩に巻き込まれちゃったんでしょ」

 

 ミキータはこの状況をそう推理した。

 

「はぁ……、はぁ……、ミキータ……、君の能力なら助けられるだろ……、可哀想だから、助けてやりなよ」

 

 私は彼女にラパーンを助けるように頼んだ。見ていられないくらい可哀相だったから……。

 

「キャハハッ……、まったくもう。仕方ないんだから……。ほら、これでいい?」

 

 ミキータは軽々とラパーンを引き上げて助け出した。

 

「――なんだァ! お前、良い奴だな〜!」

 

「かっ、勘違いしないでくれる。気まぐれよ、こんなの」

 

 そんな彼女の様子を見てルフィはニコニコしてミキータを褒めると、彼女はまた照れながらそっぽを向いた。

 

「クスッ……、照れなくても良いのに……」

 

「煩いわね! ミス・ウェンズデー! 雪の中に永久に埋めるわよ!」

 

 その彼女の態度を楽しそうに見つめていた、ビビの一言に腹を立てたミキータはぷりぷり怒って早足になった。

 この人も根は悪い人じゃないんだろうなー。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 さらにしばらく足を進めると、ラパーン以上に厄介な奴らに出くわした。

 ワポルとその部下である、幹部のチェスとクロマーリモだ。

 

「マハハッ! 麦わらの小僧! このおれに無礼を働いた狙撃手を出せ! そいつを惨殺しなきゃならねェ!」

 

 ワポルは私に吹き飛ばされたことを根に持っているみたいだ。

 

「ワポル様! そこで背負われてる奴がおそらくスナイパーかと!」

 

 チェスが私に気が付いて、ワポルに告げ口をする。

 ワポルを撃った瞬間に目が合ったと思ったけど、覚えていたか……。

 

「なんだ、死にかけか。つまんねェ! だが、お前らに命じる! そのクソ銀髪をぶっ殺せ!」

 

「「仰せのままに……!」」

 

 ワポルが2人に指示をだすと、チェスとクロマーリモが襲いかかってきた。

 

「ミキータ! お前はさっさと逃げろ! おれはこいつらを片付ける!」

 

「キャハハッ……、バカ言わないでちょうだい! あんた以外に誰があの断崖絶壁を登れるって言うのよ! 全員であそこまで行かないと意味ないの!」

 

 ミキータに逃げろというルフィに対して彼女は反論した。

 そういえば、そうだ。あんな絶壁、ルフィしか登れない……。

 

「逃げながら戦うしかないみたいよ。ルフィさん。ライアさんはやらせない! 孔雀(クジャッキー)スラッシャー!」

 

「――ッ! こっち来んなッ! ゴムゴムのピストルッ!」

 

 ビビとルフィは襲いかかってきた2人に攻撃するが、この2人はなかなか手強いみたいでスルリと攻撃を躱した。

 

「うぉっと!」

 

「なかなか活きがいいじゃねェか!」

 

「マーハッハッハ! 他の奴らはどうでもいい! その狙撃手を殺せッ! 雪国の戦い方を教えてやりながらなッ!」

 

 そんな2人に対してワポルは私を殺すことを優先するように檄を飛ばしている。

 

「「はっ!」」

 

 2人は同時に返事をしてミキータにまっすぐ向かっていく。

 ミキータは彼らから何とか逃げようとして急いで走っていたが、彼らの姿が忽然と消えてしまった。

 

「――ッ!? 消えた!?」

 

 彼女は驚いて首をキョロキョロさせながらスピードを緩めた。

 

 しかし、そのときである――。

 

「くっくっ、油断したな! これぞ、雪国名物……! 雪の隠れ蓑、その名も……」

 

「雪化粧! それだけ弱ってりゃ即死だ!」

 

 雪の中から突然現れるチェスとクロマーリモ。

 彼らは上手く雪で身を隠して攻撃の機会を窺っていたようだ。

 

「「チェックメイトッ!」」

 

 2人の攻撃がミキータを捉えようとする。

 

「ミス・バレンタインッ!」

 

「キャハッ……、こりゃ避けられないわ……」

 

 私もミキータも観念した表情をしてしまっていた。

 

 だが、攻撃は私たちに届かなかった。

 

「「――ぐはぁッ!!」」

 

 届いたのは、2つのうめき声である。そう、2体のラパーンがチェスとクロマーリモを殴り倒したのだ。

 

「ラパーン!?」

 

 ワポルは驚愕の表情を浮かべた。

 

「ヤツを庇ったのか!?」

 

「バカな! ラパーンは決して人に懐かない動物だぞ!」

 

 チェスとクロマーリモもラパーンの援護に驚いている。

 

「あんたは――さっきの!? キャハハッ……、気まぐれに動いてみるものね。でも、ありがとう。助かったわ」

 

 ミキータはラパーンの背中に乗っている小さな子供のラパーンを見て、さっき助けたラパーンだということに気が付いたようだ。

 

 彼女はラパーンにお礼を言って駆け出した。

 

「今のうちに逃げるぞ!」

 

「ええっ! 急ぎましょう!」

 

 そして、ルフィとビビもそれに続いて走っていった。

 

 

 

 そのあと少し歩いていくと、ようやく城へと続く断崖絶壁にたどり着いた。

 

「キャハッ……、近くで見ると果てしないわね」

 

「てっぺんが見えない……」

 

 ミキータとビビはその断崖絶壁の高さに唖然としていた。

 

「じゃあ、登るか!」

 

「待ちなさい! ここからはフォーメーションを組むわよ」

 

 すぐに登ろうとするルフィをミキータが制止する。

 

「フォーメーション!? なんか、カッコいいな! それ!」

 

「時々、この船長を見ていると猛烈に不安になるわ」

 

 ルフィの変な食いつきにミキータは嫌な顔をした。まぁ、それも含めて彼の魅力だから……。

 

「そんなことより、どうするの?」

 

「ほら、手を絶対に離さないでいるのよ」

 

 ミキータはビビに手を差し出しながら、そう言った。

 

「で、船長は私たち全員を背負いなさい。しっかりロープで固定して……」

 

 ミキータは早い話が3人を背負うようにルフィに指示を出した。

 

「3人抱えるのか!? そりゃあ、重すぎるぞ!」

 

「バカッ! 女の子3人捕まえて重いとか言うんじゃないわよ! 大丈夫なの! 重さを限界まで落とすから」

 

 さすがのルフィもこれには驚いたが、ミキータは3人分の体重を含めて軽くすると言う。

 

「うォォッ! 綿飴みたいに軽いぞ! これなら楽勝だッ! よっと! 医者のところまで一気に行くぞォォォォ!」

 

 そして実際に3人を担いだ状態になったルフィは本当にほとんど重さを感じていない様だった。

 その証拠にスイスイと断崖絶壁を登っている。

 

「気をつけなさいよ! 落とすなら私ごと落としなさい! ライアやミス・ウェンズデーだけが落ちたらお陀仏よ!」

 

 そう、私とビビはミキータから離れた瞬間に元の重さに戻るから、高いところから落ちた瞬間に死が確定してしまうのだ。

 

「わかった! ウォォォォ! 医者ァァァァッ!!」

  

 ルフィは掛け声と共にドンドン高くまで登っていく。

 

「ちっとも、わかってない! でも……!」

 

「すごい! これだけの人数を抱えて、この断崖絶壁をとんでもない速度で上がっている」

 

 そんな無茶をこなすルフィに苦笑いを浮かべるミキータとビビだったが、思った以上のスピードで登っている彼の力に安心しているようにも見えた。

 

 そして、ルフィは見事に登山に成功して、Dr.くれはの住む城に無事に辿り着いたのだ。

 はぁ、私は結局……、助かった――のかな……。私はホッとした瞬間に……、再び意識が途切れてしまった――。

 




原作と違ってルフィがフルで動けたり、雪崩を避けたりしたので、体力に余裕を持って城に辿り着くことが出来ました。
そしていよいよ次回はDr.くれはとチョッパーが登場します!


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トニートニー・チョッパー登場

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ミキータを残留させてほしいというお声が多かったので驚いています。彼女は愛されキャラですね。
愛されキャラといえば、このトナカイ。今回はチョッパーが登場します。
それではよろしくお願いします。


 気が付くと私は暖かい部屋の中でベッドに寝かされていた……。

 ルフィたちは無事に私をDr.くれはの元に連れて行って、治療を頼んでくれたみたいだな……。ありがたい……。

 体も幾分と楽になった気がする……。

 

「助かったのかな……?」

 

「――ッ!?」

 

 私がそう呟くと、側で作業をしていた小柄なトナカイのようなタヌキのような見た目の生き物がビクッと驚いて身を隠そうとした。

 ああ、チョッパーがいる……。知ってたけど、めっちゃ可愛い。抱きしめたい……。

 

「ふふっ……、多分、逆なんじゃないかな?」

 

「――ッ!?」

 

 私はチョッパーの全身を見せつけるようにして、隠れようとする仕草がいじらしくて、笑みがこぼれてしまった。

 

「うん。そっちが正解だね。でも、そんなに怖がらなくたっていいじゃないか。私はか弱い病人だ。何も出来やしないよ」

 

「うっ、うるせェ!あっ、あと、熱は大丈夫か?」

 

 私が彼に声をかけると、チョッパーは警戒心を丸出しにしながら私の体調を聞いてきた。

 

「そうだな。かなり下がった気がする。いい薬を頂けたみたいだ」

 

「あっ、当たり前だ! 特別な薬なんだぞ!」

 

 私は体調が良くなっていることを伝えると、チョッパーは私が頂いた薬は特別だという。

 効果はてきめんだし、思った以上に回復したからもちろんそうなのだろう。

 

「そっか、じゃあその特別な医者にお礼を言わないとね」

 

 私はチョッパーの言葉を受けてそう返した。

 

「――おっ、おい!お前はおれが怖くないのか!?なんで普通に喋ってるんだよ!?」

 

 すると彼は自分のことが怖くないのかと聞いてきた。いや、君よりラパーンとかのほうがよっぽど怖いからね……。

 

「ん? それって、変かな?」

 

「変だ! お前もお前の仲間も変なやつだ!」

 

 チョッパーは私とルフィたちが変だと言いながら、どこかに駆け出して行った。

 ああ、ルフィたちは体力に余裕を残してこの城に辿り着くことが出来たから既にチョッパーとも話をしてるのか……。

 

「うるさいよ! チョッパー!」

 

「あー、行っちゃった……」

 

 途中でガシャンという大きな音が聞こえたから余程焦ってたのだろう。

 チョッパーに注意する声も聞こえる。

 

 そして、その声の主は彼と交代で部屋に入ってきた。

 

 

「ヒーッヒッヒッヒ! 熱は多少引いたようだね。小娘! ハッピーかい!?」

 

 ファンキーな服装をした高齢の女性――Dr.くれは……。

 私の治療をしてすぐにここまで回復させる手腕から察しても凄腕の医者であることに疑いの余地はない。

 

「ああ、天国に行った気分かな。実際には行ったことないけどね」

 

「ヒーッヒッヒ! 面白いね、お前。ん? 37度8分……、なかなか早い回復だ」

 

 私の返事とともに彼女は私の額に指を当てる。体温ってそれだけでわかるのか……。すごいな……。

 

「ああ、やっぱりあなたが医者なんだ」

 

「そうとも。あたしゃ、Dr.くれは。ドクトリーヌと呼びな」

 

 私が当たり前のことを口にすると、彼女はそれを肯定した。

 

「承知した。ドクトリーヌ、素晴らしい治療に感謝するよ。あと――」

 

「若さの秘訣かい?」

 

 私が質問をしようとすると彼女はお決まりのフレーズを出してきた。

 確かに100歳を軽く超えた年齢でその若々しさは気になるけど……。

 

「それも是非とも拝聴したいけど、その前に――私をここに連れてきてくれた3人はどこにいるのかな?」

 

 私は仲間たちの居所を尋ねてみた。体調が悪くなったせいなのか、見聞色の精度がガクンと落ちているみたいなのだ。

 

「ああ、あいつらならお前の治療がひと息つくまでずーっと起きて見守っていたからね。今は疲れて隣の部屋で眠ってるよ」

 

「なら、良かった。みんな元気なら何よりだ……」

 

 私は彼女の言葉を受けてホッとした。まぁ、ルフィたちなら大丈夫かとは思っていたが……。

 

 

「お前の首元……、後で見てみな。原因はここにある……」

 

 Dr.くれはことドクトリーヌが言うには私の首元にケスチアという有毒のダニに刺された形跡があるという。

 

 この毒に含まれる細菌は5日間、体内に潜伏して人を苦しめて、死に至らしめるそうだ。

 やはりリトルガーデンで刺されていたのか。本来は露出度の高いナミの方が刺されていたはずなんだけど……。首元じゃ仕方ない……。

 

「100年前に絶滅したのか……。なるほど、あの島ならそういう生物がいても不思議じゃないな」

 

「おや、心当たりがあるなんて、やんちゃな娘だねぇ」

 

 私がなるほど、という表情をしているとドクトリーヌは呆れたような声を出していた。

 

「ところでドクトリーヌ。質問なんだけど、私はあとどれくらいで良くなる?」

 

 そして、私は最も気になっていた完治までの時間を質問した。

 既にかなり動けるくらいには良くなっている。明日にでも動きたい気持ちはある。

 

「ん? そうだねぇ。お前は回復が早いみたいだけど、3日は大人しくしてな」

 

 彼女の返答は私が思っているよりも長かった。まぁ、病気を嘗めるなと言うことなのだろうが……。

 

「なるほど。何とか早めに出来ないかな? 明日とか。――ぐっ!」

 

「馬鹿言うんじゃないよ。あたしの前から患者が消えるのはね……、()()()()()()だ!」

 

 私がちょっとした我が儘を口にすると、ドクトリーヌは馬乗りになってメスを首元に近づけてきた。

 あー、どうやら気分を害するような言い方をしてしまったらしい。

 

「そっか。ドクトリーヌ……、あなたの優しさは十分に伝わったよ……。私の態度が良くなかった」

 

「――ッ!? まったく、道理で女二人のお前を見る目がピンク色な訳だ! 治療のついでに目玉をくり抜いてやれば良かったよ」

 

 私がドクトリーヌの言葉を真剣に受け止めて返事をすると、彼女は吐き捨てるようにそんなことを言い出した。

 ビビとミキータの目がどうかしているのだろうか?

 

 

 

「ぎゃあああッ!!」

 

 そんな折に、チョッパーの叫び声が部屋の外から響き渡っていた。

 

「見つけたぞォォッ! トナカイの化物ォォォッ! おれたちの仲間になれ!」

 

 ルフィがさっそくチョッパーに目をつけて仲間にしようと勧誘しているらしい。

 

「ルフィさん! 待ちなさい! そんなに強引に追いかけたらトニーくんが怖がるでしょ!」

 

「キャハハッ! 面白いトナカイもいるものね〜!」

 

 ルフィを追いかけているのか、ビビとミキータの声が聞こえる。

 

「おや、もう起きたのかい。お前の仲間たちは……。騒がしいったらありゃしないね。そういえば、お前たち海賊やってるんだって?」

 

「ええ。ドクトリーヌもルフィに勧誘されたりしたんじゃないかな?」

 

 ドクトリーヌの言葉に私はそう返事をする。

 

「はんっ! 礼儀のなってないガキだったんでね。蹴飛ばしてやったよ」

 

 多分、「ばあさん」とか言って怒らせたんだろうな。ルフィが何を言ったのか私は容易に想像が出来た。

 

「ははっ、ウチの船長が失礼したみたいだね。さっきの、チョッパーくんだっけ? 彼は駄目なのかい? 連れて行っては……」

 

「ヒーッヒッヒッヒ! お前たちは揃いも揃って物好きだねぇ。いいよ。持って行きたきゃ持って行きな」

 

 私がチョッパーを海に連れて行っても良いのかどうか尋ねると、彼女は意外とあっさりオッケーしてくれた。

 

「それはありがたい。私たちは船医が欲しかったからね。助かるよ」

 

 なので、私は彼女の許しを素直に喜んだ。

 

「――だがね。一筋縄じゃいかないよ。あいつの心は大きな傷を負っている。それは、医者(あたし)でも治せない大きな傷さ……」

 

 ドクトリーヌは話した。チョッパーが鼻が青いという理由で親からも仲間からも疎んじられていたと……。

 そして、ヒトヒトの実を食べていよいよ群れから追い出され、だからといって人にも受け入れてもらえずに、ずっと一人で暮らすことになってしまったのだとも……。

 

「お前たちにあいつの心が癒せるかい?」

 

 ドクトリーヌはチョッパーのことを真剣に想っているのだろう。彼女も彼女なりに彼の心を何とかしてあげようと思っているのかもしれない。

 

「さぁ? どうだろう……。ウチの船長は人たらしだけど、トナカイがその範疇なのかどうかイマイチ謎だからね……」

 

 我が船長、モンキー・D・ルフィは人から好かれる才能がある。だからこそ、行く先々で彼は敵以上に味方を作っていく。

 基本的に彼は無欲だ。打算が出来ないという訳ではないが、感覚を大事にする人間だ。

 ルフィの凄いところは理屈を抜きにして相手と衝突することで、いつの間にか懐に入り込むことができる所である。

 

「ヒーッヒッヒッヒ! そうかい。お前たちの船には人たらしと女たらしが同居してるんだねぇ」

 

「はぁ?」

 

 ドクトリーヌは私の話を聞くと機嫌良さそうに笑って、よくわからないことを言ってきた。

 ルフィは女たらしには見えないけどなぁ。

 

「さて、やかましい連中をそろそろ黙らせて来ようかね」

 

 そして、さっきから外で大騒ぎしている主にルフィを止めるために部屋の外へと出ていった。

 

 

「それにしてもすごいな……、ドクトリーヌは……。もうほとんどダルさを感じない」

 

 私は体の調子を確かめるように動かしながらそう呟いた。

 

「駄目だぞ。まだ、体を動かしちゃ」

 

「そうなのかい? 随分と良くなった気がするんだが……」

 

 ちょっと立ち上がろうとしてみたらチョッパーが部屋に入ってきて私を止めた。

 うーむ。まだ動いてはいけないらしい。

 

「ドクトリーヌの薬はよく効くから、熱はすぐに引くんだ。でも、ケスチアの細菌は体の中にまだ残っている」

 

 チョッパーが私に現在の病状を伝えてくれる。

 

「ふむ。なるほどね。チョッパーくん、だっけ? ありがとう。君が私の看病をしてくれたんだろう?」

 

「うっ、うるせェ! 人間にお礼なんて言われても嬉しくないんだぞ! コノヤロー! 大人しく寝てろ!」

 

 私は彼が看病してくれていたことを察してお礼を言うとチョッパーは嬉しそうな仕草をしながら悪態をついてきた。

 そんなところが堪らなく可愛いと思う……。

 

「はははっ、承知したよ。チョッパーくん。あと、ウチの船長が少しばかり強引に勧誘して済まないね」

 

 私はルフィが追いかけ回していることを彼に謝った。もちろん、ルフィには悪気は無いのだろうが、怖がらせたかもしれないし……。

 

「おっお前ら、本当に海賊なのか? 海賊だから、誰もおれを怖がらないのか?」

 

「うーん。海賊なのは本当だ。あと、君の場合はその、怖いというより可愛いってタイプだからなー」

 

 私はチョッパーの問いについ本音で答えてしまった。

 

「可愛い……? ばっ、バカにすんな!」

 

 案の定、彼は不機嫌な顔をして怒り出す。

 

「別にバカにしてるわけじゃないさ。しかし、気分を害したのなら謝ろう。君の話はドクトリーヌから聞いたよ……」

 

「ドクトリーヌが……?」

 

 私は彼に謝罪をして、ドクトリーヌの名を出すとチョッパーは彼女の名に反応する。

 

「君が受けた迫害や、君の感じた孤独がどれほどだったのか、分かるなんてことは私には言えない。だけど、私たちで良かったら――君の仲間になろう。だから……、一緒に海へ出ないか?」

 

 私は自分なりに言葉を選んで彼を勧誘した。

 彼が歩んできた過去の痛みや苦しみは想像もつかない。しかし、未来は共有できる。孤独を癒やすことくらいは出来るはずだ。

 

「――ッ!? バカ言うな! にっ人間がトナカイの仲間になれるか! それに、おれはバケモノなんだぞ。二本足で歩くし、――青っ鼻だ――」

 

 チョッパーは私から背を向けて、人間はトナカイの仲間になれないと言ってきた。

 気持ちはわかる。だから、私は――。

 

「仲間にはなれるよ。それは間違いないさ。大事なのは見かけじゃない。心なんだよ。チョッパーくん……」

 

 チョッパーが言葉を言い終える前に私は彼の忠告も忘れて立ち上がり、しゃがんで彼を後ろから抱きしめた。

 

「おっお前……。本当におれを……」

 

 チョッパーが私の顔を見ようと振り返ったとき、ミキータとビビが部屋に入ってきた。

 

「キャハハッ……、あんたも物好きね。ついに人だけじゃなくてトナカイにも手を出したの。てか、元気そうじゃない。安心したわ」

 

「羨ましい……、じゃなかった。ライアさんも、トニーくんを仲間にって考えてるの? でも良かった。ライアさんにもしものことがあったら私……」

 

 彼女らは私の回復した姿を見て安心してくれたみたいだ。かなり心配をかけていたようだな……。

 

「やぁ、随分と心配かけたね。何とかこの子を口説こうとしてるんだけど……。難しいものだね。ナンパというやつは。私にはハードルが高い」

 

 私は上手くチョッパーを勧誘できないことを自嘲気味に彼女らに話した。

 

「ミス・ウェンズデー。まだ、こいつには熱の影響があるみたいよ」

 

「落ち着いて、ミス・バレンタイン。こういうところも含めてライアさんだから」

 

 すると2人はなぜかやれやれと言うような口調で顔を見合わせていた。

 なんか、短い間にこの二人は結構仲良くなってるみたいに見えるな。

 

「おっ、お前らもおれを仲間にしようとするこいつらを止めなくて良いのかよ! バケモノ相手にこんなことしてるんだぞ」

 

 チョッパーはそんな彼女たちを見て、私やルフィを止めなくて良いのか確認する。

 ああ、私とルフィが勝手に暴走してると捉えているのか……。

 

「バケモノって。キャハハッ……、私もそうだけど、バケモノ具合で言ったらあの船長の方が断然上でしょう」

 

 ミス・バレンタインは自分やルフィが悪魔の実の能力者であることを言っているのだろう。

 まぁ、確かに特にルフィはバケモノと言えばそうだよなー。

 

「ライアさんやルフィさんもそうだけど、他のみんなもトニーくんを怖がったりしないと思うわ」

 

 ビビも他のクルーたちもチョッパーを怖がらないと断言した。

 それは間違いないと思う。

 

「お前ら絶対に変だ! おれなんか……! おれなんか……! ――あれ? くんくん……、こっ、このにおいは……、ワポル!!」

 

 チョッパーはそんな私たちをおかしい奴らだと叫ぶ。

 そして、何かの気配を察知したからなのか、四足歩行の形態に変化してスルリと私の腕から飛び出して行ってしまった。

 

「おっと、どこに行くんだい?」

 

「ドクトリーヌ!」

 

 私が声をかけても振り返りもせずに彼はドクトリーヌの名を呼び走り出す。

 

 彼はワポルの名を呟いていた。

 おそらく、ワポルたちがここに来たのを察知したのだろう。

 

 うーむ。ルフィなら負けないとは思うけど……。

 

「ちょっと、ライアさん。何をしてるの?」

 

「キャハッ……、あんた……、その体調で戦いでもするつもり……?」

 

「まぁ、素晴らしい治療のお礼くらいはしようと思ってね」

 

 私は緋色の銃(フレアエンジェル)を取り出して、戦闘の準備を行った。

 

 この国を巡るワポルたちとの戦いが始まろうとしていた――。

 




今回はあまりお話が進みませんでしたね。
ただ、ヒルルクの下りは回想なので全部カットになりますから、割と早く元ドラム王国編は終わるのではと見込んでいます。
ライアが大人しく寝てたら戦闘シーンも全部カットになってしまうので、Dr.くれはにこっ酷く叱られて貰いましょう。


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名もなき国での戦い

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!応援してもらえてとっても嬉しく思っております!
今回はワポルとの戦いを最後まで。
それではよろしくお願いします。


「ゴムゴムのォォォォォ! ブレットオオオオオオッ!!」

 

「「――ッ!!」」

 

 私が城の外に出たとき、ちょうどルフィがワポルを殴り飛ばしているところだった。

 

「しっしっしっし! ライアをよくも殺そうとしてくれたな! 今、あいつは弱ってるんだ! 手は出させないぞ!」

 

 ルフィは私を彼らから守るために戦ってくれたみたいだ。

 彼にも気を遣わせてるな……。

 

「あっ、あいつ伸びたように見えたぞ」

 

「そりゃあ、伸びるさ。彼はゴム人間。君の言い方を借りると立派なバケモノだ」

 

 チョッパーがルフィの腕が伸びたことに驚いていた。

 

「うェェッ! ライア! おっお前、元気になったのか!?」

 

 ルフィは私が歩いてきたことに驚き顔をした。確かにちょっと前まで死にかけてたから、驚くのも無理はない。

 

「ああ、おかげさまでこの通りさ」

 

「そんなわけないだろ! あたしの忠告をこんなに早く無視するバカは初めてだよ! さっさとベッドに戻んな!」

 

 私が右手を上げて彼の言葉を肯定すると、ドクトリーヌは怒ってベッドで寝るように言ってきた。

 

「ドクトリーヌ。それは聞けない命令だ。私にも私の流儀がある。命を救ってもらえた恩を返せないなんて、死んだも同然なのさ。――へぶッ」

 

 ドクトリーヌに言葉に反抗すると彼女は私の腹を蹴飛ばしてくる。

 

「カッコつけて流儀なんて語ってんじゃあないよ。こんな蹴りも避けられないくらい、ヨロヨロの癖して……」

 

 彼女は私への説教を途中で止める。目の前で矢が吹き飛ばされたからだ。

 

「なっおれの矢が防がれただとッ! いつの間に()()()()()()()()()……!」

 

 チェスは自分の矢が私に撃ち落とされたことに驚愕する。ドクトリーヌの蹴りはマトモに受けたけど、何とか防ぐことが出来たぞ。

 

「キャハハッ……、そんな体でも得意の早撃ちは健在みたいねぇ」

 

「君はチェスくんだったかな? 親に習わなかったかい? 敬老精神を持てってね」

 

 ミキータの声を背中に受けながら、私はチェスに向かってそう言い放った。

 まったく、不届きな男だ……。

 

「コラッ! 何をしくじってやがる! ここには殺したいやつが大集合してンだぞ! 容赦せずに一人残らずやっちまえ!」

 

 ワポルはそれを見て不機嫌そうな声を上げていた。

 

「ドクターのあの“信念”は絶対に下ろさせない!」

 

 ドクトリーヌが襲われたのを見たからなのか、はたまた彼の信念によるものなのか、チョッパーの顔付きが真剣な表情に変わり、人型の大男の形態に変化する。

 

「トニーくんが……、大きくなった」

 

「キャハッ! 動物(ゾオン)系特有の形態変化ね」

 

 チョッパーの変化にビビとミキータが反応した。

 

「チョッパーくん。私も君の大切なモノを守るのを手伝わせてもらうよ」

 

 私もチョッパーの隣に立って銃を構える。

 

「――ッ!? おっ、お前……、いや、駄目だぞ! 病人は寝てなきゃ!」

 

「ドクターストップだ。いい加減に医者の言うことを聞きな。小娘……」

 

 しかし、チョッパーもドクトリーヌも私に戦うなと忠告をしてきた。

 まぁ、言ってることは2人が正しいのは分かるけど……。

 

「だから、私は……。ぐっ! ビビっ! ミキータ! 何をする!」

 

 私が2人に反論しようと私はビビとミキータに後ろにグイッと引っ張られた。

 

「いいから、そこで見てなさいよ。一歩でも動くと雪に埋めるわよ」

 

「ライアさんがトニーくんを助けたいのなら、私が代わりに助ける!」

 

「そゆこと〜。キャハハッ! 病人は病人らしく大人しく見てなさい」

 

 ミキータとビビは口々に私に向かって代わりに戦うと言ってきた。

 はぁ、どうやら従うしかないみたいだな。

 私はみんなの言うことを聞いて下がっていることにした。

 ミキータもビビもこんなに頼もしかったんだ……。何か漫画と印象がかなり違うな……。

 

 

「よーしッ! ケンカだ! ――って、なんか寒いぞッ!?」

 

「あんた、その格好じゃ寒いに決まってるでしょ。暖かい格好してきなさい」

 

 ルフィが今さら薄着で寒がっているのを見て、ミキータは呆れ顔でツッコミを入れる。彼女もそろそろルフィに慣れてきたみたいだ。

 

 ルフィは防寒具を取りに城に戻って行った。

 

 

「要するに皆殺し希望って訳だな! まずはワポル様に狼藉を働いた、お前からだ狙撃手! 死ねっ! 静電気(エレキ)マーリモッ!」

 

 その時である。クロマーリモが私目掛けてアフロを千切ったものを飛ばしてきた。

 

「ライアさんには触れさせない! 孔雀(クジャッキー)スラッシャー!」

 

 ビビはすばやく孔雀(クジャッキー)スラッシャーでそれを受け止める。

 技の精度は大したものだ……。

 

「へぇ、見事ね。って言いたいけど、なんか付いてるわよ」

 

「きゃあああ! 何これ、取れない! あっ、取れた」

 

 しかし、ミキータが言うように静電気(エレキ)マーリモがビビの武器に張り付いてしまっていて、彼女はそれを焦って取ろうとした。

 

「私に付けてんじゃないわよ!」

 

 しかし、取れた静電気(エレキ)マーリモはミキータの衣服にくっついてしまっていて、彼女はムッとした表情でビビに苦情を言い放つ。

 

「まだまだ増えるぞ! 静電気(エレキ)マ〜〜〜リモッ!!」

 

 そうこうしてるうちにクロマーリモはどんどん静電気(エレキ)マーリモを放っていき。

 彼女らの体には多数の静電気(エレキ)マーリモが張り付いてしまった。

 

「ちょっと、あんたに元々付いてたものじゃない! ほらっ!」

 

「やめなさい! これは返すわ!」

 

「何やってるんだい? 君たち……」

 

 そんな状況で、2人は互いの静電気(エレキ)マーリモを押し付け合いケンカを始めてしまった。いや、そんなことしてる場合じゃ……。

 

「やかましいだけの女どもか。チームワークがなっちゃいないな! その静電気(エレキ)マーリモはよく燃えるんだぜ!」

 

 チェスはそんな様子を見ながら彼女らを嘲り、火矢を2人の静電気(エレキ)マーリモ目掛けて放った。

 

「まずいわ! ミス・バレンタイン! あいつ、これを燃やす気よ!」

 

「キャハハッ! ここが雪上ってことに感謝するわ! ほらっ、こっちに来なさい!」

 

 しかし、ミキータは余裕の表情でビビを抱き寄せて、抱えてジャンプする。

 

「えっ!」

 

「一万キロ雪洞(ビバーク)ッ!」

 

 そして、彼女はそのまま雪の中に凄い勢いで身を隠して火矢をやり過ごした。

 なるほど、体重を勢いをつけて重くすることで雪の中に避難したんだな。

 

「きっ消えた!」

 

「バカッ! どうやったか知らんが、雪の中に入っただけだ!」

 

 チェスとクロマーリモは思惑通りにいかずに少し動揺していた。

 

「ゲホゲホッ! 雪が口の中に入っちゃった」

 

「キャハハッ! 無傷なんだから、良いじゃない」

 

 ビビは口から雪を吐き出しながら、穴から這い上がって、ミキータは笑いながら彼女の苦情を聞き流す。

 

 

「この国から出ていけ!」

 

 さらにその瞬間、チェスがミキータたちに驚いているスキを狙ってチョッパーが力いっぱい彼を殴ろうとした。

 

「どけ! チェス!」

 

「危ない!」

 

 しかし、チョッパーの拳はチェスには届かない。なぜなら、大口をあけたワポルに捕まり、彼の口の中に入ってしまったからだ。

 

「うォおおおおお」

 

 その時である。防寒具を着たルフィがこっちに向かって走ってきた。

 

「船長! 掴まりなさい!」

 

 そのルフィに向かってミキータは両手を伸ばす。そして、ルフィと手を繋ぎ彼を勢いをつけて振り回し始めた――。

 

「ゴムゴムのォォォォォ! 加重量(フルウエイト)(ウィップ)ッ!」

 

 ルフィは目一杯足を伸ばしてワポルの腹に遠心力を加えた一撃を放つ。

 どうやら、ミキータの能力でルフィ自身の重さが極限まで引き上げられているらしい。

 

「んぬァにィ! ブふゥッッ!!」

 

 ワポルは文字通りの重たい一撃を腹に受けて、崖から落ちそうになるくらい吹き飛んだ。

 カバのような乗り物が邪魔をして落ちてくれなかったみたいだが……。

 

「キャハハッ! ナイスショットッ!!」

 

 その光景を嬉しそうに眺めるミキータ。彼女は今の一撃に手応えを感じたらしい。

 

「悪魔の実の能力者が二人揃うと恐ろしいな……」

 

「なるほど、あっちのニヤけた小娘も能力者か」

 

 私は能力者同士のコンビネーションに舌を巻いた。

 ドクトリーヌは私の言葉を聞いて納得したように頷く。

 

 

 

「くそっ! 絶対に殺すぞ! あいつら――!」

 

「「ワポル様!?」」

 

「見せてやる! “バクバクファクトリー”」

 

 しかしワポルはタフな体をしており、まだまだ元気そうだった。

 そして、自らの体を家のような形に変化させた。

 

 

「マーハッハッハ! ワポルハウス! そして、奇跡を見るが良い!」

 

「「ぎゃあああッ」」

 

 ワポルはその状態でチェスとクロマーリモを食べだした。うわっ……、生でみるとグロいな……。

 

「仲間を食べた……!」

 

「何をしようとしてるの?」

 

 ルフィもビビも彼の意図が掴めないでいるみたいだ。

 

「いでよ! ドラム王国最強の戦士」

 

「「チェスマーリモ!」」

 

 チェスとクロマーリモが合体した姿でワポルの中から出てきた。

 ルフィは目を輝かせてカッコイイとか言っている。悪いけど、同意はしてあげられない。

 

「キャハハッ! 肩車しただけじゃない」

 

「侮るんじゃないよ。あいつらが強くなかったら、医者の追放なんてバカなマネ……、国民全員で止めてたさ」

 

 ケラケラ笑ってるミキータにドクトリーヌは忠告する。実際、奴らが恐怖政治の中枢に居たんだもんな。そのとおりだ。

 

「この国で王様の思いどおりにならんやつは死ね――ドラム王国憲法の第一条だ。よりによって、あんなヘボ医者の旗なんぞ掲げるんじゃねェ! 城が腐っちまうぜ!」

 

 そして、ワポルは城の上に掲げられたヒルルクのシンボルであるドクロの旗を大砲で撃ち落とす。いちいち、この男は下衆なことをするやつだ……。

 

「海賊旗……。おい、トナカイ……。あの旗……」

 

 ルフィは折れた海賊旗を眺めながらチョッパーに話しかけた。

 だが、彼はルフィの言葉には反応せずにまっすぐワポルに殴りかかろうとする。

 

「おれはお前を殴らない。殴らないからこの国から消えてくれ!」

 

 彼は拳を止める。恩人であるヒルルクが彼を救おうとしたから……。

 

 結局、彼の優しさもすべては無駄だった。ワポルは容赦なくチョッパーを攻撃した。

 彼は為すすべもなく血まみれになって倒れてしまった。世の中には煮ても焼いても食えない奴がいるってことかな……。

 よくもチョッパーに酷いことを……。私は静かに怒りを溜めていた。

 

 

 その時だ、ルフィは城の上からワポルに向かって叫び出した。

 手にはヒルルクのドクロマークの付いた旗を持って。

 

「お前らはこの海賊旗(はた)のもつ本当の意味を知らねェ!」

 

「うるせェ! 何度でも折ってやる! そんな目障りな旗!」

 

 そんなルフィの言葉を歯牙にもかけず、ワポルは再び大砲を彼に向かって発射した。

 

「よけろ! 危ない!」

 

 チョッパーは大声で彼に向かって叫ぶがルフィは微動だにしない。

 

「このドクロマークは“信念”の象徴なんだ!」

 

 案の定、ルフィは砲弾をマトモに受けてしまった。

 

「キャハ……、あの船長……。マジでイカれてるんじゃない?」

 

「ルフィさん……」

 

 ミキータとビビはルフィの姿を目を丸くして凝視していた。

 

「ほらな――折れねェ……!」

 

「まったくもって、彼に敵う気がしない……」

 

 私はこのモンキー・D・ルフィを間近に見てこのような感想を何度持ったことだろう。

 

「これは()()()()旗だから。へらへら笑ってへし折っていいものじゃないんだぞ!」

 

「ぐぬぅ……」

 

 ルフィの気迫に圧されたせいなのか、ワポルの顔色が青くなっていた。

 

「おいっ! トナカイ! おれは今からあいつをぶっ飛ばすけど……。お前はどうする!?」

 

 ルフィはチョッパーに質問をした。

 

 しかし、ルフィの言葉にチョッパーが反応するより早く、ワポルは再び彼を攻撃しようとする。

 

「やめろっ!」

 

 チョッパーはそれを止めに入った。

 

 彼は戦うつもりのようだ。大切な人の信念を守るために。

 

 ルフィはワポル。チョッパーはチェスマーリモと戦うみたいだ。

 うーん。私たちの出る幕がなくなってしまいそうだな……。いや、まだやり残したことがあるか……。

 しかし、無茶をして私の体もあまり良くない。どうしたものか……。

 

 チョッパーはランブルボールを口にして優勢……。おそらく漫画と同じく彼は勝つだろう。

 

 ワポルはそのスキに城に入って行く……。

 

 よし、彼を追うか……。ルフィはチョッパーに見惚れて動きそうにないし……。

 

「ミキータ、君に頼みたいことがある。聞いてくれるかい?」

 

 私はミキータにこっそりと話しかけた。今からワポルとやり合うために……。

 

「はい! ――くっ、違うって! しっ仕方ないわね。聞いてあげるわよ」

 

「ありがとう。悪いけど、私をここに来たときみたいに背負って城の中に入ったワポルを追ってくれ――」

 

 ミキータは私の頼みを快く聞いてくれて、私を背負ってくれた。

 彼女とはいい友達になれそうだなぁ。本当に優しい……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

「武器庫にさえ行けば、このバクバクの実の能力で人間兵器になることが出来る! そうしたら、あんな奴ら皆殺しだ!」

 

「そうはいかないよ! 食らえっ!」

 

 私はミキータに背負われながらワポルに発砲した。

 

「パクっ! マーハッハッハ! 食らうか! そんなへなちょこ!」

 

 しかし、ワポルは私が放った弾丸を大きな口を開けて食べてしまった。

 

「キャハハ……、あいつ銃弾食べたわよ……」

 

「ああ、よく考えたら砲弾も食べるような奴だった……」

 

 私とミキータは唖然として顔を見合わせた。

 

「十倍返しだ!」

 

「ミキータ! 浮くよ! 錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)

 

 そして、ワポルが大砲を私たちに撃ち出して来たので、私は命中すると爆発を起こす錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)を地面に撃ち、爆風を起こす。

 

「キャハハッ! 良いわね! なかなかの風よ……!」

 

 ミキータと私は爆風に乗って浮上して、ワポルを見下ろした。

 

「カバめっ!わざわざ的になりやがって!」

 

「そんなの撃ち落とすのはわけない! 必殺ッッ! 火薬星ッッ!」

 

 ワポルが私たちに向かって再び大砲を撃ち出したので私は錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)を大砲の弾に当てて相殺する。

 

「チッ! 大砲の弾をあんなやり方でッ! まぁいい! それよりも武器庫だ!」

 

 ワポルは武器庫の鍵を取り出して鍵を開けようとした。よし、この瞬間のために私はミキータに浮き上がって貰ったんだ。

 

「ミキータ! 頼みたいことがある――」

 

「マジ!? そんなこと出来るの!?」

 

 私はミキータに作戦を話す。彼女は作戦を聞くと驚いた表情をした。

 

「――必殺ッッ! 鉛星ッッッ!!」

 

 そして、私は上から床を狙って鉛の弾丸を放つ――。

 

「マーハッハッハ! どこを狙って――! うぎャあああああッ! そんなカバなあああッ!」

 

 その弾丸は上からでないと跳ねない角度で跳ね上がり、ワポルの持っている鍵を弾き飛ばした。

 

「キャハッ! ホントにこっちに鍵が飛んできたわ!」

 

 弾き飛ばされた鍵はゆっくりと落下していたミキータの手元に届き、彼女はそれを難なくキャッチした。

 

「ちくしょう! 鍵を返しやがれ!」

 

「見つけたぞ! 邪魔口ィィィィ!」

 

 ワポルは怒りの形相を浮かべてミキータに襲い掛かろうとしたが、ルフィがこちらまで駆けてきて、足を伸ばしてワポルを蹴飛ばした。

 

「ヌベェッッ!!」

 

 ワポルは吹き飛ばされて壁に激突する。

 

「ライア! ミキータ! 大丈夫か!」

 

「この隙にッ! 最後の奥の手だッ!」

 

 ルフィは私たちを気遣うが、ワポルは彼の意識が逸れたのを確認して、階段を登って逃げてしまった。

 

「私は大丈夫だ! ルフィ! やつを追ってくれ!」

 

「わかった!」

 

 私は自分たちに構わずルフィにワポルを追うように頼むと、ルフィは頷いて彼を追っていった。

 

「ふぅ、とりあえず……。私の役目は終わりかな」

 

 私はルフィの勝利をひと足早く確信して、ミキータに床に降ろしてもらう。

 

「キャハハッ! 随分とあんたも無茶をするのね。ちょっと前まで死にかけてたクセに……。そんなにあのトナカイちゃんが大事なの?」

 

 彼女はチョッパーのために私やルフィが動いていることを不思議に思ってるみたいだ。

 

「うちの船長が仲間にしたいみたいなんだ。だったら、私も彼をたとえ今だけだとしても仲間として扱いたい」

 

 私は本心からそう言った。たとえ、チョッパーが漫画と違って仲間にならない選択をしたとしても、この瞬間は彼の仲間でありたいと素直にそう思ったからだ。

 

「ふうん。イカれてるわね。そんなことに船長もあんたも命を懸けるんだもん。じゃあ、もし私が仲間になったとしてピンチになったら……」

 

「助けるさ。ていうか、ミキータはもう仲間だよ。私の大切な、ね……」

 

 ミキータがまるで自分がまだ仲間ではないみたいな言い方をするので、私は思っていることを口に出した。

 

「――ッ!?」

 

「どうしたんだ? 急に真っ赤になって……。熱でもあるのか?」

 

 するとミキータの白い顔がりんごみたいに赤くなった。もしかしたら、寒さにやられた?

 

「――もっ、もう知らない! 本当にバカなんだから。キャハッ……、人の気も知らないで……」

 

 ミキータは顔を背けながら、そう言った。

 どうしたんだろう? 一体、私が何をしたというのだ?

 

 

「ゴムゴムのォォォォォ! オオオオオオ! バズーカッ!」

 

 そんなことを彼女と話していると、上の方からルフィが必殺技を叫ぶ声が木霊した。

 

 やはりというか、当然というか、ルフィはワポルを宣言どおりぶっ飛ばしたらしい。

 我々の勝利が決まった瞬間であった。

 




ミキータとルフィの合体技なんですけど、ミキータがルフィを伸びる武器として扱うみたいなイメージです。
武器であるルフィの重量を上げて破壊力を増すみたいな感じですね。
キロキロの実でホントにそんなことできるのか分かりませんが……。悪魔の実を利用し合った合体技を出したかったのでやってみました。
次回からいよいよアラバスタ王国に入ります。


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新たな仲間と新たな友情

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!いろいろと力不足ではありますが、なんとか更新できているのは応援のおかげです!
今回からアラバスタ王国編がいよいよ本番に突入します。
それではよろしくお願いします!


 

 

「うるせェ! 行こう!」

 

 ルフィは漫画さながらの強引な勧誘でチョッパーを誘う。

 

 さかのぼること数時間前、ワポルたちを倒したとロープウェイでやってきたドルトンに報告した。その際に、ゾロとサンジとナミと合流した。

 どうやら、下でもひと悶着あったみたいだったが、ワポルの部下はゾロとサンジによって一瞬で片付けられたそうだ。

 

 私はベッドに逆戻りしたが、ドクトリーヌに武器庫の鍵を渡すと治療費を負けてくれた。

 退院に関しても口では認めなかったが、彼女の独り言は暗にこっそりと城を出ろと言っているように感じた。

 

 というわけで、残るはチョッパーの勧誘のみとなったが、彼の心の傷は大きい。

 私たちと多少は打ち解けたが、オッケーの返事はなかなか得られなかった。

 

 そんなやり取りをする中で彼は自分のコンプレックスを大声で晒す。トナカイで青っ鼻のバケモノだと……。

 

 チョッパーも本当は海に出たいけど、自分という存在に自信がないから一歩前に出ることが出来ないでいたのだ。

 ルフィのあの強引な一言はそんな彼の抱えるしがらみとか怖れとかそういったものを一瞬で破壊した。

 

 こうして、私たちはチョッパーを仲間に引き入れることに成功したのである。

 

 ドクトリーヌからの手荒い別れを背に我々はチョッパーと共に船へとソリで向かった。

 

 まぁ、その向かう道中でドクトリーヌの計らいでヒルルクが長年研究していたというピンク色の雪を降らせることで作られた“ヒルルクの桜”を見ることが出来たわけだが……。

 

 これが幻想的でそれは美しい光景だったんだ。

 

 チョッパーはソリを止めてしばらく泣いていた。それで、いいと思う。あの桜には彼の故郷の両親ともいうべき存在である――ヒルルクとくれはの想いが詰まっているのだから――。

 

 そして、私たちはアラバスタ王国に向かって出航をした――。

 

 

 

 さて、新しい仲間が入ってきたのだ。こんな夜にすることと言ったら決まっている。この出会いを祝した宴である。

 私たちは“ヒルルクの桜”を見ながら酒を飲んでいた。

 

「いやぁ、絶景だね。君は幸せ者だよ。チョッパー……」

 

「えっ――?」

 

 私がちょこんと座って“ヒルルクの桜”を眺めているチョッパーに話しかけると彼はポカンと口を開けて私を見た。

 

「だって、そうだろ? あの素晴らしい景色は君のためのモノだ。君も大切な人からの愛情を感じ取ったから泣いてたんじゃないかい?」

 

「うん……。おれは一人じゃなかった」

 

 私が彼に理由を話すと素直にチョッパーは頷いた。

 やっぱり、ぬいぐるみみたいで可愛いな……。

 

「ふふっ、これからは一人の時間が欲しくなるかもしれないよ――」

 

「ライア? それはどういう――」

 

 そして、私は彼に教える。これからは果てしなく賑やかな人たちに囲まれることになり、孤独を感じる時間など無くなってしまうということを……。

 

「おーい! チョッパー! ライア! 一緒に騒ぐぞ! コノヤロー!」

 

「よしっ! 騒ぐかッ!!」 

 

 ルフィが私とチョッパーに声をかけてきたので私は手を上げて高らかに宣言をした。

 酒の席ではハメを多少は外さないとね……。

 

「おおっ! ライアちゃん、何をするつもりだ?」

 

「あり得ないモノマネシリーズ! もしも、ゾロが床屋さんだったら――」

 

 サンジの言葉に続いて、私は得意のモノマネ芸を始めた。ゾロのモノマネを――である。

 

「あははっ! 似てる!」

 

 ナミは手を叩いて笑ってくれた。

 

「斬るぞ! てめェ! バカにしやがって!」

 

 ゾロは私がモノマネで彼を弄ったので、刀を抜いて威嚇してくる。

 まぁ、殺気はなかったけど……。

 

「斬るぞってところ、そっくりじゃねェか。マリモ野郎」

 

「んだと! コラァ! おめェはつまみでも作ってろ!」

 

「なんだと蹴り倒すぞ! オラァ!」

 

 サンジはニヤニヤ笑ってゾロを挑発すると、いつの間にかそっちと喧嘩になってしまった。

 

 

「キャハハッ! なんで、あんたのペットは凍ってたわけ?」

 

「笑い事じゃないわ! ミス・バレンタイン! でも、どうしてなの? カルー」

 

 船の近くで凍っていたカルーを見て笑うミキータと心配をするビビ。

 最初はゾロと船番してたはずなんだけど……。

 

「足でも滑らせたんだろ? ドジな奴だ」

 

 ゾロはニヤリと笑いながら、震えているカルーを見ていた。

 

「クエクエ――クエ〜」

 

 カルーは苦しそうな声を上げる。

 

「ゾロってやつが川で泳いで居なくなったと思ったから、助けようとしたら凍ったんだって」

 

「あんたのせいじゃない!」

 

 そんなカルーの言葉をチョッパーが訳すと、ナミがゾロにツッコミを入れる。

 そういえば彼は動物の言葉がわかるんだった。人間以外の動物って共通語を使ってるのかな?

 

「へぇ、君は医術に加えて動物の言葉がわかるんだね」

 

「凄いわ! トニーくん!」

 

「褒められても嬉しくないぞ〜。コノヤロー」

 

 私とビビがチョッパーを褒めると彼は盆踊りのようなリズムをとって嬉しさを全面に出す。

 何、この子……。抱きしめたい……。

 

「キャハハッ! チョッパーちゃん。全身から嬉しそうじゃない」

 

「嬉しくないって言ってるだろ〜」

 

 そんなチョッパーのほっぺをツンツンしながらミキータは笑ってた。

 

「ところで、ライア。医術ってどういう事?」

 

「ああ、それはね――」

 

 私はチョッパーについて簡単に紹介をした。彼がドクトリーヌから医術を習い、私の体を診てもらっていることも含めて。

 

「何ィ! チョッパー、お前……、医者なのか!?」

 

 ルフィは今さらのようにそれに驚く。

 あれ? ルフィって、それを知らないんだっけ?

 

「逆にルフィさんはなんでトニーくんをあんなに頑張って勧誘してたの?」

 

 熱心にチョッパーを勧誘していたルフィを見ていたビビは当然の疑問をルフィに投げかけた。

 

「七段変形の面白トナカイだからッ!」

 

「諦めなさい。ミス・ウェンズデー……。この船長の思考を読むなんてことは……。私はとっくに諦めたわ。あの人はノリと本能で生きてるのよ」

 

 ドヤ顔でそう言い放つルフィに絶句するビビ。

 それに対してミキータは彼女の肩を叩いて核心に迫るようなセリフを吐いた。一緒に戦ったからなのか、ルフィの本質をよくわかってる。

 

「ははっ、ミキータちゃんもこいつに慣れてきたってか。どうだい? もう一杯」

 

「キャハッ! 気が利くわね、コックくん。頂いちゃうわ」

 

 そんなミキータを見ていたサンジは笑顔を見せながら空いた彼女のジョッキに酒を注いでいた。

 チョッパーもミキータも上手く馴染んで良かった……。

 

 

「しまった! おれ、医療道具を忘れてきた」

 

「ああ、これだろ? ドクトリーヌのことだ。全部お見通しだったんだよ。これはソリに置いてあったんだ」

 

 その後、しばらくしてチョッパーが青ざめた顔をして忘れ物の存在に気が付いたみたいなので、私はソリから持ってきた彼の医療道具を見せる。

 

「そっか。ドクトリーヌ……」

 

 チョッパーはドクトリーヌの気遣いに気が付いて遠い目をしていた……。

 彼女は優しくて気高くて――素晴らしい女性だったなぁ……。私もあんな歳の重ね方をしたいものだ。

 

「おーい! ライア! もう一回モノマネやってくれ!」

 

「おれもやりたい! ゾロってやつのモノマネ! 教えてくれ」

 

「やるな! 斬るぞ!」

 

 ルフィが私にモノマネのおかわりを要求すると、チョッパーがやり方を教えてとせがんできた。

 するとゾロは不機嫌そうにツッコミを入れる。

 

「なるほど、そういう斬るぞのパターンもあるわけだ」

 

「お前もいい加減に……」

 

 私が次のネタに出来そうだと頷いてると、ゾロは再び刀を抜いた。

 うん。彼で遊ぶのはこのくらいにしておこう。

 

「まぁまぁ、飲みの席くらい許してくれよ。良いじゃないか。ウケたんだから。それはそうと……。そろそろ改めて乾杯しないか?」

 

 私はゾロを宥めて、もう一度乾杯をしようと提案した。

 

「おおう! いいぞ! やれやれ!」

 

「よし、今日は新しい仲間に“船医”チョッパーが! そして、先日は命の恩人であるミキータも仲間になった! 2人の乗船を祝して――新しい仲間に! 乾杯!」

 

 ルフィの景気のいい後押しを受けて私が大きな声で乾杯の音頭をとった。

 

「「カンパーイ!」」

 

 ジョッキを掲げて笑い合う私たち……。このなんでもない安い酒を飲む瞬間が冒険している中で一番楽しいときかもしれない。

 

「おれ、こんなに楽しいの………、初めてだ!」

 

「キャハハ……。こんなのも……、悪くないわね……」

 

 チョッパーもミキータも満面の笑みを浮かべながら宴を楽しんでいた。

 

 この宴は翌日の早朝まで続く……。ふわぁ……、寝不足だよ……、まったく……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「つまりクロコダイルは英雄(ヒーロー)ってことか……、君の国では……」

 

 翌日の昼時、みんなで雑談をしている中でクロコダイルのアラバスタ王国での評判の話題となった。

 どうやら彼は民衆のヒーローとして捉えられているようだ。

 

「ええ、国を襲う海賊を追い払ってくれるから……。民衆からするとありがたい存在なの」

 

 ビビは悔しそうな顔をして私の言葉を肯定した。

 

「しかし、その英雄様がアラバスタを乗っ取ろうとしていることは、みんなは思ってもいねェんだろうなァ」

 

「とにかく、そのクロコダイルってやつをぶっ飛ばせばいいんだろ!」

 

 サンジの言葉に続いてルフィが拳を握りしめてそう言った。まぁ、ざっくり纏めるとそうなんだけど……。

 

「ちょっと待って。キャハッ……、えっ、社長(ボス)の正体って……、あの王下七武海のサー・クロコダイルなの!?」

 

 ミキータの顔がみるみる青ざめていって、驚きの声を上げた。

 そういえば、言ってなかったな。Mr.0と電伝虫で会話したりしてたから知ってるものだと思ってた。

 

「あなた、何を今さらなことを言ってるの?」

 

「キャハハ、あんたたちイカれてると思ったけど、よくボスの正体を知ってアラバスタに向おうとか思えたわね……」

 

 ナミの言葉にミキータは苦笑いを浮かべながらそんなことを言う。

 まぁ、普通は七武海に喧嘩を売ろうとか思わないよな。この人数で……。

 

「ミス・バレンタイン。もしこのままアラバスタ王国へ行くのが――」

 

「行くわよ。どうせ逃げられやしないんだし……。まっ、私の場合は自業自得なんだから、ケジメくらいはつけるわ」

 

 ビビはミキータとかなり親しくなっていたから、彼女に気を遣おうとしたのだろう。

 しかし、ビビがセリフを言い終わる前に出たのはミキータの覚悟である。

 

「あっ、ありがとう。これからはオフィサーエージェントとの戦いになるはずだから、あなたがいるととても助かるわ」

 

「戦力としてはあまり期待しないでね。Mr.4以上のエージェントには正直勝てる気がしないから……」

 

 ミキータはビビの言葉に静かにそう付け加えて神妙な顔をしていた。

 オフィサーエージェントの彼女はよく知っているのだろう。Mr.4以上のエージェントの誇る高い戦闘力を……。

 

「ミキータ……」

 

 私はそんなに彼女の横顔を眺めていた。Mr.4以上のエージェントか……。

 

 

 

 

 それからさらに時が流れて、ドラム王国を出て5日後のことだ。私たちは食材不足という問題に直面していた。

 魚群とか、なかなか遭遇しないものだね……。

 釣りをしても昨日までノーヒット。うーん。困った……。

 

 そんなわけで、今日は釣りを一休みしてミキータと部屋で一緒にある作業をしていた。

 

「ちょっとルフィたちを手伝って来るよ」

 

「わかった。あとは私一人でもできるわ。そもそも、私のための作業だし……」

 

 私は自分の作業が一段落ついたので、ルフィたちの様子を見にデッキへと向かった。

 

 

「オカマが釣れた〜!」

 

 私がデッキに足を踏み入れたとき、ルフィが高らかにMr.2を釣り上げていた……。うわぁ……、なんか、すごい光景だな。

 

 漫画と同じく色々と濃いキャラクターの彼を見ながら、私の脳みそはフル回転していた。

 

 彼をどうすべきか……。Mr.2だということを暗に伝えてここで片付けるという手もあるけど……。どうしよう……。

 

 しかし、後々のことを考えるとそれも悪手のような気がするんだ。

 なんせ、ここでルフィとMr.2が友人になっておくことが今後の展開で大きく作用することになる。

 少なくとも、漫画ではMr.2は2回ルフィを救っている。

 アラバスタ王国脱出とインペルダウンからの脱出だ。

 

 おそらく、ここで彼を叩いたらルフィとの友情は芽生えないだろう。

 どちらが正しいのか分からないが、ここは静観したほうがいいか……。

 

「おーい! ライアー! オカマが海に落っこちちまった。助けてやってくれねェか?」

 

 ルフィは再び海に落下したMr.2を助けるように私に要求した。

 あー、サンジは昼飯の準備、ゾロは二度寝中か……。

 順番的に私になるよね……。ナミがあの奇怪な生き物を助けようとするはずないし……。

 

 私は若干気が進まなかったが、Mr.2を海から助け出した。

 

 

「いやー、ホントにスワンスワン。こんなイケーメンな海賊さァんに救ってもらえるなんて、あちし超ラッキー。この御恩は一生忘れません。あと、温かいスープをくれないかしら?」

 

 Mr.2はお礼と厚かましい要求を口にした。

 

「「ねェよ!」」

 

「あと、私は女だ。最初に言っておくが」

 

 みんなは空腹で気が立っていたので口を揃えてツッコミを入れた。そして、私は面倒なので自分の性別を付け加えた。

 

「あらァ! 残念、ご同業の人〜? 大丈夫。オカマもオナベも仲間よ! ナ・カ・マ! 食っちゃったりしないわ〜! チュッ♡」

 

「誰がオナベだ! 撃ち落とすぞ!」

 

 Mr.2に同業扱いされて、私は思わずキレて銃を抜いてしまった。

 どういう発想をしたら、そんな発想になるんだ……。

 

「ライアがキレた……。珍しいわね……」

 

 そんな私をナミが物珍しそうに見つめていた。

 

「お前、泳げねェのか?」

 

「そうよう。あちしは悪魔の実を食べたの。そうだ。お近づきの印に余興代わりに見せたげるわ」

 

 Mr.2はルフィの言葉を受けてマネマネの実の能力を披露する。これは右手で触れた者の姿とまったく同じ姿に変身する能力である。

 その上、メモリー機能付きで何人もの人間の姿に化けることができる。

 この能力は使いようによってはとても便利な能力だ。

 

 Mr.2は私の姿にも化けてしまった。なんか同じ顔があると気味が悪いな。

 

「おー、ライアもそっくりじゃねェか! あははっ! 面白ェな。それでなんかやってみてくれよ!」

 

「いいわよ〜! じゃあこういうのはドゥーかしら?」

 

「どっ、どうしたの? こっちを見て」

 

 ノリがいいMr.2がルフィのリクエストに答えようと、ナミに近づいて行った。

 何をしようとしてるのだろう。

 

 ナミも不安そうな表情をしている。

 

「おい、お前……。オレの女になれよ……」

 

「はぅぅ……」

 

 ナミは顔を真っ赤にして、立ちくらみを起こしたようにフラフラになった。

 

「ん? ナミの顔がすげェ赤くなってっぞ!」

 

 ルフィは面白そうにナミの顔を見ていた。

 

「ほら、お前も目一杯愛してやるぜ――。ベッドでな……」

 

「へっ? あっ、ベッドで愛してって……」

 

 ビビはMr.2にそう言われて足から崩れ落ちそうになった。

 なんだ? あのオカマは何がしたいんだ?

 

「おっおい、ビビ! しっかりするんだ。というか、私の姿で変なことを言わないでくれ!」

 

 私はビビに駆け寄って、彼女を支えながらMr.2に苦情を言った。

 

「どーうだったあ? あちしの()()()()っ! 普段は決して人には見せないのよう」

 

 そんなことはどこ吹く風のように彼は笑い飛ばして、ルフィと肩を組んで楽しそうに踊っていた。

 

 まぁ、こういう感じでルフィとMr.2は仲良くなったが、彼の正体は簡単にバレた。

 迎えに来た彼の部下が“Mr.2ボンクレー”とはっきりコードネームで呼んだからだ。

 

 正直言ってビビはその前から気付いても良いくらいの情報は持っていたんだけど……。

 

 彼のことに気付かなかったビビは落ち込んでいたが、私はもっと質が悪い……。自分勝手な理由をつけて彼を見送ったのだから……。

 

 特にナミはMr.2に触れられたことを懸念した。仲間が信じられなくなると……。

 

 そして、その打開策を口にしたのはゾロだった。

 

「むしろ、ここでヤツに出会えたことをラッキーだと思うべきだ。対策が打てるだろ」

 

 ゾロが自信満々な声を出して対策を話しだした。

 アラバスタ王国に間もなく到着するというときだった――。

 




ライアに会ったボンちゃんの反応の正解は同業者(オナベ)だと思う――でした。当たった方はいらっしゃるでしょうか?
そして、彼はライアの顔を手に入れました。これも色々と影響が出てきそうです。
次回はいよいよ、アラバスタ王国に突入! 
あの人気キャラクターも登場します!


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火拳のエース

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回はタイトルどおりの回です。
それではよろしくお願いします!


「よし! これから、何が起こっても……。左腕のこれが――仲間の印だッ!!」

 

 私たちは左腕に✕印をつけて、そこに包帯を巻いた。

 仲間が疑わしかったときに、包帯をとって✕印を見せ合えば自分たちの疑いが晴れるという算段だ。

 

 

 アラバスタ近海はオフィサーエージェントの部下である通称ビリオンズの船が多数確認されており、クロコダイルの計画が最終段階であることは間違いないみたいだった。

 

 さて、無事に上陸出来たことだし、まずは――。

 

 

「メーーシーー屋〜〜ッ! メシ屋はどこだァ!」

 

「「ちょっと待てー!!」」

 

 とか考えてると既にルフィは彼方までメシ屋を探して走り出していた。

 ふむ、マイペースというか欲望にまっすぐというか……。

 

「あいつ、敵陣の真っ只中ってことわかってんのか?」

 

 サンジは呆気に取られた顔をしてルフィの後ろ姿を見ていた。

 

「仕方ない。私が彼を探してこよう。彼の気配なら少し離れていても感知できるし……。みんなは旅支度を整えてくれ」

 

「お願いするわ。B・Wのエージェントもいるかもしれないから、なるべく早めに連れ戻して」

 

 私はルフィを見つけて連れ戻すと伝えると、ビビは大きく頷きながらそう言った。

 仲間の位置を感知できる力はこういうとき便利だな……。

 

「うん。わかってるよ。ルフィじゃないけど、食事は済ませておいてくれ。じゃあ――」

 

 私はそう言い残してルフィの後を追った。

 

 

 少し歩くと町並みが顔を出した。

 ここが港町ナノハナか……、見たところのどかな感じだな……。

 

「それにしても暑い……。だが、肌を露出すると紫外線が心配だし……」

 

 そんな独り言をつぶやきながらルフィの気配がする方に向かって歩みを進める。

 

「あとは、これを運んで……。きゃっ、よっととっと……。――あっ、すみません! ありがとうございます」

 

 ルフィの気配が止まったことを感知したとき、目の前で女性が大きな荷物を持ちながら転びそうになっていたので、私は抱きとめた。

 

「大丈夫かい。手伝おうか?」

 

 私はその女性にそう話しかけた。

 あれ? この人って……。

 

「そっそんな。悪いですって――」

 

「あっ――。いつかの海兵さんか……」

 

 お互いが顔を確認すると見知った者同士だということがわかった。

 たしぎ曹長か……。そういえば、スモーカー大佐もこの町にいるんだっけ。

 まずいな。ルフィより先に私がトラブルに足を突っ込んでしまった。何とかしないと……。

 

「まっ、魔物狩りのアイラ! やはりアラバスタ王国にッ! もごもご――」

 

「静かにしたまえ。たしぎ曹長……」

 

 私は即座に彼女の後ろに回り込んで背中に銃口を押し付ける。荷物を手にした彼女は刀を抜くことが出来なかったので背後を取ることは容易だった。

 そして、彼女を階級も含めて呼んでみた。

 

「――ッ!?」

 

 すると、彼女はハッとした表情を浮かべた。

 さて、どうしたものか……。

 

「君が居るのなら、スモーカー大佐もこの国にいるのだな? 大声を出すと撃つ。小声で答えろ……。あと、とりあえず荷物は下に置け。重いだろ?」

 

「そっ、それがどうしたっていうんですか?」

 

 私が静かに低い声で彼女に話しかけると、彼女は荷物を置きながら小さな声でそう返した。

 

「ならば彼には伝えておきたまえ。王下七武海――サー・クロコダイル。彼はこの国を乗っ取ろうとしている」

 

 私はとりあえず今後のためにクロコダイルのことを彼女に話しておいた。

 クロコダイルの処分は海軍にやってもらったほうが何かと都合がいいし……。

 

「あの、サー・クロコダイルが? そんな戯言を……。あっ、あなた何者なんですか? 海賊なんじゃ……」

 

「理由あって立場は明かせない。察して欲しいとしか……。しかし目指す正義は君と同じだとは言っておこう。同じ女性として君には期待してるよ」

 

 彼女はクロコダイルが国を乗っ取ろうとしている荒唐無稽な話は信じられないみたいだった。

 なので、私は適当なことを言って誤魔化すことに決める。

 とりあえず、味方っぽいことでも言ってみるか。偉そうな感じを出して……。

 

「正義は同じ……。まさか……、諜報――」

 

「しーっ……。そこまでだ。たしぎ曹長。それ以上、喋ることは許されない。わかるね」

 

 私は彼女の唇に人差し指を当てて言葉を止める。

 諜報とかを明言すると色々とツッコまれて面倒そうだし……。

 

「あっ……」

 

 私の指が彼女の唇に当たると、たしぎは頬を赤くして息を呑むような仕草をした。

 

「私の言葉が信じられないなら、犯罪組織バロックワークスとサー・クロコダイルの関係性を調べると良い。この国には既に何人ものエージェントが侵入している。ミスターのあとに数字が付いたコードネームを持つ怪しいやつを見かけたりしなかったか?」

 

「たっ、確かにMr.11と名乗る怪しい人を先日捕まえました」

 

 たしぎは私の言葉に思い当たる節があるような言葉を出した。

 あー、フロンティアエージェントの一人を捕まえたんだっけ。

 

「なるほど、やはり彼は優秀だな。スモーカーくんにはまた君を通して情報を伝える。しかし彼は敵を作りやすいタイプだからな……。君がしっかりフォローしておいてくれたまえ。頼むよ……、うん。いい目だね君は……」

 

「顔が近っ……、きゃっ……」

 

 私は適当なキャラクター設定を作ったことを後悔していたが、もうこれで押し通すしかないと思って、銃を構えながら彼女の正面に立ち顔を近づけた。

 

「危ない。気を付けなきゃダメだよ。君の体は民衆を守る大事な体なんだら」

 

「ひゃっ、ひゃい。すみません……」 

 

 腰から砕け落ちそうになったたしぎを片手で支えながら私はゆっくりと諭すように声をかける。

 彼女の殺気は既に消えて、惚けたような顔をしていた。どうやら、敵だとは認識してないみたいだ……。

 

「では、スモーカーくんによろしく。おっと、敬礼は結構だよ。私は海賊だからねぇ」

 

「はっ、はい」

 

 なので、私はそのまま彼女に手を振ってその場を去った。

 あくまでも堂々と毅然に……。焦りを悟らせないようにして……。

 

 

 

「ふぅ、なんとか――」

 

「誤魔化せたってか? すげェな。どうやって海兵を黙らせた?」

 

 私が独り言を再び呟こうとしたとき、背後にとても強い人間の気配がした。

 この気配……、確実にルフィよりも強い……。誰だ……。

 

「私の背後に立つとはいい度胸じゃないか――」

 

「おっと、待て待て! おれはお前に喧嘩を売りに来たわけじゃねェ。ちょっと、人探しをしてるんだ。この手配書のこれ……、お前だろ?」

 

 私は即座に振り向いて引き金を引こうとすると、オレンジ色の帽子をかぶった、そばかすが特徴的な男が慌てた顔をして、ルフィの手配書の隅っこに映ってる私を指差した。

 この男は……。まさしく……。

 

「――きっ君は。まさか……。ポートガス・D・エース……!? 白ひげ海賊団の2番隊隊長の……」

 

「へぇ、おれのことを知ってんのかい?」

 

 私がルフィの兄であるエースの名を呼ぶと、彼はそれを肯定した。やっぱりそうか。まさかルフィより先に彼と遭遇するなんて……。

 

 そもそも、この人の処刑が発端なんだよな。頂上戦争って……。

 だから、あまり会いたい人ではなかった。情が移るとやり難くなるから……。

 

「もちろんだ。ウチの船長のライバルのところの幹部くらいはチェックしてるさ。これでも元賞金稼ぎなんでね」

 

 私は後学のために四皇とその幹部の手配書には一通りチェックを入れていたので、この言葉には嘘はない。

 彼の懸賞金は5億5千万ベリーだったかな? 当たり前だけど、この辺の海賊とはランクが違う。

 

「だっはっはっ! ルフィはオヤジのライバルってか。流石はあいつの仲間だ面白ェ」

 

「私は冗談を言ったつもりはないよ。彼は海賊王になる男だ」

 

 私は笑われてイラッとしたので、はっきりとルフィは海賊の頂点に立つ男だと明言した。

 

「冗談じゃねェこたァ、目を見りゃあわかる。笑ったのはそういう理由じゃねェんだ。なんつーか嬉しかったのさ」

 

 エースは笑った理由は私の勘違いだと話す。そして、私のセリフが嬉しかったとも。

 

「嬉しい? そういえば、君はどうして私に絡んできた? 海兵を煙に巻いたことが理由じゃないんだろ?」

 

「おっと、いけねェ。お前さん、その反応だとドラムで伝言を聞いたわけじゃなさそうだな」

 

 エースが私に話しかけてきた理由を質問すると、彼はドラムで何かしらの伝言を頼んだようなことをつぶやいた。

 

「伝言……。ふむ、ドラム王国()()()場所には行ったが心当たりはないね。言動から察するとルフィの知り合いみたいだが……」

 

 私は彼にそう伝えた。ルフィとの関係性を話すように促しながら……。

 

「ああ、おれはルフィの兄貴だ。お前、絶対に弟の世話を焼いてるだろ? なんとなく想像がつく」

 

 ニヤリと笑いながらエースはルフィの兄だということを告げた。世話を焼いてるといえば、現在進行形で焼いてる。

 

「へぇ、あの火拳のエースがルフィの兄か……。それはびっくりだ」

 

「そう言ってるようには見えねェぜ」

 

 私のリアクションが薄かったからなのか彼は興味深そうな顔をして私の表情を見ていた。

 

「すまないね。あまり感情を表に出さないタイプなんだ。要するにルフィに会いたいんだろ?」

 

「ああ、案内してもらえると助かる」

 

 彼の要望を察して問いかけると、エースは頷いてルフィのところに連れて行くように頼んできた。

 まぁ、それは構わないんだけど……。

 

「案内する必要はないさ。ルフィはもうすぐこっちに来る。ほら」

 

 私はルフィが猛スピードでこちらに向かってくることを察知していた。

 案の定、ルフィは私が指差した方向から走ってこっちに来ていた。

 

「おっ、本当だ。よう、元気そうじゃねェか。久しぶりだな。ル――」

 

 エースは嬉しそうに笑って彼に向かって手を振ったが、ルフィは思いきり無視してそれを横切ってしまう。

 

「うぉおおおおお!」

「待てェ! 麦わらァ!」

 

 それもそのはず、逃げるルフィを鬼のような形相をしたスモーカーが追いかけていたのだ。

 

「…………」

 

「あー、スモーカー大佐だったか。知ってる気配だったから何かに追われてるとは思ったけど」

 

「ったく。世話が焼ける弟だ」

 

 エースはやれやれというような口調でつぶやき、信じられない速度で2人を追いかけて行った。

 なるほど、メラメラの実の力だけではなく、本人の力も相当だな……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 それから、エースはスモーカーを足止めしてくれた。

 なので、私はルフィの首根っこを掴んで船に戻って行った。あーあ、ご飯食べそこねたなー。

 

 そして、船に戻った私たちは急いで出航する。カルーにビビの書いた手紙を託して――。

 彼は有能だから、きっと任務を果たすだろう。水をがぶ飲みしてたけど……。

 

「なんで、ライアちゃんはおれの買ってきた踊り子の服を着てくれないんだい?」

 

「絶対に似合わないだろ? というか、こういうのはナミたちみたいな色々と持ってる可愛い子が着るから良いんじゃないかな?」

 

 サンジが私に踊り子の衣装を着せようとしてきたので拒否した。

 だって、あの3人の横であんな格好したくない。明らかに私だけ貧相だし……。

 

「私はこういうゆったりしたやつで良いんだよ。武器も隠せるしね……」

 

 私はサンジやゾロと似たような格好の服を自分で購入していたのでそれを着た。

 なぜか、ナミやビビやミキータはホッとした表情をしていた。どういうこと?

 

 

「で、ルフィの兄貴ってのはどうだったんだ?」

 

「強いね。私たちの中の誰よりも」

 

 ゾロがエースの印象を聞いてきたのでその問いに対して端的に答えた。

 強い、というのは本当に第一印象だった。

 

「ほう」

 

「ルフィよりも強いって言うの?」

 

「キャハハッ、そりゃあ、とんでもない化物ね」

 

 私の、誰よりも強いという言葉には男女で反応がキレイに分かれた。

 ゾロはわかりやすい反応だ。

 

「だっはっは、エースには1回も勝ったことねェからな。だけど、ライア! 今やったらおれが勝つぞ!」

 

 ルフィはそれでも私の言葉を笑って受け流し、それでも勝つと宣言する。

 そんなこと言ってると後ろから――。

 

「お前が……、誰に勝てるって?」

 

「エ〜〜〜ス〜〜っ!!」

 

 ルフィを叩き落とすかのように船に飛び移ってきたエース。

 ルフィは彼の顔を見るなり大声で彼の名を呼んだ。

 

 エースと再会したルフィは本当に嬉しそうにしている。

 

 彼は黒ひげを追ってグランドラインを逆走していたのだという。仲間を殺した落とし前をつけさせるために。

 

 そして、ルフィに会いに来た目的は彼にビブルカードを渡すため。

 この白い紙切れが相手の居場所を示すアイテムっていうことなんてノーヒントでわかるわけない。

 

 まぁ、彼は敢えて黙ってたんだろうけど……。それがわかるくらいの位置まで進まないと意味を成さないだろうし。

 

 

「できの悪い弟を持つと……。兄貴は心配なんだ。おめェらもこいつには手ェ焼くだろうが……。よろしく頼むよ」

 

 エースは私たちにルフィのことを託すような言葉をかけてきた。

 義理堅い人なんだろうな。そして、ルフィを大切に想っている。

 

「エース……、もう行くのか?」

 

「ああ、ここに来たのはさっきも言ったがついでだからな」

 

 ルフィはエースが立ち去ろうとしているのを見て、声をかけると、エースは頷いて船を動かそうとした。

 

「じゃあ、私から一言いいかい?」

 

「おっ、ルフィの世話焼き係か? どうした?」

 

 私は彼からルフィを任せるというような言葉を受けたからなのか、つい口が動いてしまった。

 

「あまり生き急がない方がいい。ルフィの為にも生きることを諦めないでくれ……。まぁ、深い意味はないけど、覚えててくれたら嬉しいな」

 

 何故なのか分からないが、そんな言葉が出てしまった。

 未来のようなモノを知っている罪悪感からなのかそれとも……。

 このとき、私は頂上戦争など起きなくても良いから彼に生きて欲しいと思ってしまったのだ……。

 

 甘い……。非情になれないクセに保守的だなんて、半端者だ私は――。

 

「はっはっはっ! やっぱ、おもしれェ奴だな。お前……。まっ、覚えといてやるよ。次に会うときまでな」

 

 そんな私の冷たくなった心を知っているのか知らないのか、彼は笑った。

 その笑い声は朗らかで非常に心地よい響きだった。

 

「ルフィ! 次に会うときは――海賊の高みだ」

 

 エースは最後に弟にそう言い残して、去っていった。

 海賊の高みか……。今の私たちではとても届かないな……。

 

 この戦いで私も成長しなくては……。この先、果てしなくエスカレートしていく死闘を生き残るために――。

 




ライアが適当なノリをたしぎに見せたせいで、変な勘違いをされてしまいました。
あと、頂上戦争の原因となるエースに対しても彼女は思うところはあるみたいです。


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ユバを目指して

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!応援に応えられるように、さらに面白く出来るように頑張ります!
それではよろしくお願いします!


 “ナノハナ”から“エルマル”に着いた私たちは、反乱軍が本拠地にしているという“ユバ”を目指して砂漠を歩いていた。

 

 しかし、ルフィにはまいった。クンフージュゴンという勝負をして負けたら勝った人に弟子入りをする変わった生き物を大量に倒してしまい、クンフージュゴンたちがぞろぞろと弟子入りしてしまったのだ。

 

 クンフージュゴンはずっと付いてくるつもりだったみたいだが、チョッパーが交渉して大量の食べ物と引き換えに諦めてもらう。

 

 エルマルは緑の町と言われていたみたいだが、干ばつによってゴーストタウンと化していた。

 これは、クロコダイルが国王に不信感を募らせる目的でこの国の首都である“アルバーナ”でダンスパウダーという《雨を呼ぶ粉》を利用したことが原因だ。

 

 ビビは怒り嘆きながら彼の所業について語る。

 クロコダイルがやり難い相手だという最大の理由は本人が強いクセに暗躍することを好むことだ。

 

 まったく、こういう陰湿なやり方は本当に――腹が立つ。

 

 クロコダイルへの怒りを胸の中で増幅させて、私たちは先に進んだ――。

 

 

 しばらく歩いた後に、私はナミに話しかけた。

 

「そうだ、今のうちにコイツを渡しておこう。君に頼まれて作った武器。天候棒(クリマタクト)だ」

 

 私は元ドラム王国を出発したくらいのときにナミから依頼されて作った武器、天候棒(クリマタクト)を彼女に見せる。

 

「もう出来たの? 仕事が早いわね」

 

 ナミは天候棒(クリマタクト)を見て感心したような声を出す。

 

「まぁ改良の余地はあるけど、一応は注文どおりにはなってるはずだよ。1回、使ってみせよう」

 

 私は天候棒(クリマタクト)を構成する三本の棒について説明を開始した。

 

熱気泡(ヒートボール)冷気泡(クールボール)電気泡(サンダーボール)……。こうやってボタンを押すと三本それぞれから特性のある気泡が飛び出す。スピードはないけど……」

 

 私は三種類の気泡を出しながらナミに説明した。

 

「ライア、何だこれ?」

 

「ルフィ! 触っちゃダメだ!」

 

 すると、それを見ていたルフィが熱気泡(ヒートボール)を人差し指でつついた。

 

「あっぢぃぃッ!」

 

「そりゃあ、熱いよ。緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)にも使っている、発熱剤を利用してるんだから」

 

 叫ぶルフィに気泡は危険物だということを話す。当たれば、それなりにダメージは与えられるように作ったけど、気泡のスピードが遅いのが難点なんだよなぁ。

 やっぱりナミが漫画で使ったようなやり方が一番だと思う。蜃気楼とか出してたし……。

 

「へぇ、すっごーい。ありがとう。ライア」

 

「あとはこうやって水を噴射したりとか、詳しいやり方は説明書に書いてある。しかし、あくまでも護身用の範囲は脱しない武器だ。天候に詳しい君ならこの説明書以外の使い方も思い付けると信じてるけどね」

 

 説明書にはサイクロン・テンポや再現できたか不安だがトルネード・テンポについても書いてある。

 

「説明書以外の使い方……。そうね、考えてみるわ」

 

 ナミに敢えて使い方を自分で考えるように促したのは、その方が自由な発想が出来るようになり、戦術の幅も広がると考えたからだ。

 

「あと、ミキータの武器もメンテナンスが終わったから……。これなら君の能力をフルで活かせるはずだ」

 

 そして、私はミキータにも新しく作った武器を渡す。

 

「キャハハッ、なかなか面白い武器よね〜。気に入ってるわ」

 

 ミキータは楽しそうに笑って武器を受け取った。

 キロキロの実は重量のコントロールを自由自在に行うことが出来る。彼女の能力は武器を使ってこそだと私は思った。

 

 だが、ミキータは武器の心得がないと言っていた。だから、とりあえず誰でも扱える簡単な武器にしてみた。

 

「――あの、ライアさん? そのう、ナミさんとミス・バレンタインに武器を?」

 

「うん。そうだよ。B・Wのオフィサーエージェントと戦闘になる可能性が高いからね。備えは必要だろ?」

 

 ビビの質問に私は答える。ナミはもちろん、ミキータも自分の力不足を口にしていた。

 だから、私は彼女たちの武器を作ることにしたのだ。

 ミキータは手先が器用だったので作り方を教えると半分くらいは自分で何とかしていた。

 

「えっ、ええ。そうよね。あ、あの私には武器を――」

 

「ああ、ビビの武器か……。ごめん。用意してないや……」

 

 そういえば、ビビの武器については考えてなかった。

 守るべき対象だから戦う機会を作らないようにするつもりだったが、考えてみたら護身用の武器くらい持たせておけばよかった。

 

「そっそうよね……。ナミさんやミス・バレンタインと違って私なんて……。戦力外だろうし……」

 

 するとビビはあからさまにうつ向いてしょんぼり顔をする。思ったよりも傷ついてる? なんだか申し訳ない……。

 

「いや、決してそんなこと思ってるわけでは……。じゃあ、この国にいる間だけ私の緋色の銃(フレアエンジェル)を貸しておくよ。いくつか、弾丸も渡しておこう」

 

「えっ? ライアさんの武器を……?」

 

 ビビの顔がパッと明るくなる。そんなに嬉しいもんかな?

 

「あっ、でも使い慣れない銃を渡されても――」

 

「そっ、それがいい! ライアさんの銃を持っていたい!」

 

 ビビが思いの外大声を出したので驚いた。急にそんなに大きな声を出さなくてもいいじゃないか。

 

「ああ、そうかい? 銃が使いたいとは思わなかったな……」

 

「ライアさんの銃……。持っているとまるで、一緒に居るみたい」

 

 よくわからんけど、ビビに私の愛銃を渡すと彼女はそれを大事そうに胸に抱えてしばらく歩いていた。

 そんなに銃が使いたかったのかな?

 

 

「お前、自分の武器を渡しちまって大丈夫なのか?」

 

 そのやり取りを見ていたゾロは私にそんな質問をする。

 

「うん。これがようやく完成したからね。この銀色の銃(ミラージュクイーン)が……」

 

 私は先日、ワポルに向かって使ったマスケット銃、銀色の銃(ミラージュクイーン)を取り出した。

 

「おおッ! かっけェ!」

 

「この前、ライアちゃんが使ってたやつか。ありゃあ、すげェ威力だったもんな」

 

 ルフィとサンジが私の銃を見て感想をもらす。

 威力は確かに格段に上がったと思う。緋色の銃(フレアエンジェル)より重いからスピードは落ちちゃうんだけど……。

 

「なんとかこれでオフィサーエージェントにも対抗してみせるつもりだよ」

 

 そんなやり取りをしながら暑い砂漠をひたすら進んで行った。

 

 途中、ルフィがワルサギという鳥に引っかかって荷物を取られそうになったところで銃を使って威嚇したり、サンドラ大トカゲと戦ったり色々とあったが、何とか夜にはユバに辿り着いた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「私はね……、ビビちゃん! 国王様を信じてるよ……! あの人は決して国を裏切るような人じゃない……、そうだろう!? 反乱なんてバカげている……! あのバカ共を――頼む! 止めてくれ!」

 

 ユバの町はエルマルと変わらないくらい枯れてしまっていた。

 そこで水を得るために砂を掘っていた男がビビに気が付き声をかけた。

 彼は反乱軍のリーダーであるコーザの父親、トト。ビビとは彼女が子供のころからの知り合いらしい。

 

 反乱軍は既にナノハナの東側にあるカトレアに本拠地を移しており、ここには居ないとのことだ。

 彼はビビに懇願していた。反乱を止めることが出来るのは彼女だけだと……。

 

「トトおじさん、心配しないで……。――反乱はきっと止めるから!」

 

 トトに笑顔でそう応えたビビ。

 

 しかし、彼女の表情(かお)は笑っているのに――泣いているようにも見えるほど、痛々しかった――。

 

 彼女はかなり心が追い詰められている。

 そりゃそうだ。100万人が殺し合いをしようとしてるのだから――。

 

 

 彼女の顔を見て頭に過ったことがある。

 漫画だとこのあと、ルフィとビビが喧嘩してクロコダイルを直接叩くためにこのあとレインベースのカジノに向かうが……。

 無策で突入するというのは、今回はかなりリスクが高い。

 

 なぜなら、リトルガーデンを去ったMr.3たち……、彼らがクロコダイルと接触していれば、私たち全員の生存はもちろんミキータの裏切りもバレていることになる。

 

 ミス・ゴールデンウィークはクロコダイルの理想郷の建造に協力すると言っていたから、当然アクションを起こそうとしているだろうから、そろそろ接触してる頃だと考えられるのだ。

 

 ともすると、クロコダイルは私たちがレインベースに来ることも想定するだろうし、全員の存在がバレているので漫画のように油断をして、そのスキをサンジに突かれるようなマネもしないだろう。

 

 だから、今回は漫画のように罠に引っかかって捕まるのだけは避けなくてはならないのだ。

 

 いっそ、ビビの最初の提案どおりカトレアに向かうのも1つの手か? クロコダイルが一番警戒してるのはカトレアでビビがコーザと接触することなのだから……。

 

 うーむ、レインベースでクロコダイルを倒せれば……、と考えると悩むところだ……。

 

 なんせカトレアに行くにはかなり時間がかかる。その間の反乱軍の動きも把握できない。

 

 そういう面でもルフィが立てたクロコダイルをぶっ飛ばすという戦略は実に理に適っていたのだ。

 

 だが、クロコダイルはルフィが2回も負けた相手だ。ちょっとでも歯車が狂っていたら3度目の勝負だってないかもしれない……。

 レインベースに行くなら最初の1回目で倒すくらいの気持ちで策を練らなくては……。

 

 私はそんなことを考えていたのである。

 

「ライアさん? みんな宿に行ったわよ。難しい顔をしてるけど、何を考えていたの?」

 

 気が付けばルフィは穴を掘るのを手伝っていたが、他のみんなは宿に行ってしまったらしい。

 ビビは私がしかめっ面で考えごとをしていたので、それが気になっているみたいだ。

 

「ああ、いろいろと作戦をね。クロコダイルは恐ろしい奴だからさ。力だけじゃ倒せないだろ?」

 

 私はクロコダイルを倒す方法を考えていたと彼女に伝える。

 

「そうね。でも、その前に反乱軍と王国軍の衝突を避けなきゃ」

 

 ビビの頭はやはり反乱軍を止めることでいっぱいのようだ。

 余裕がない顔をしている……。

 

「前にも言ったけどさ。あんまり、張り詰めると折れちゃうぞ。少しくらい私にも君の背負ってるモノを分けてくれ。一緒に背負うよ。あまり力持ちじゃないけどね」

 

 私はゆっくりと彼女の肩を抱いて、少しでもビビの悩みを軽くしようとした。

 

「…………」

 

 すると、彼女は無言で私の胸に頭をつけて、抱きついて来た。

 

「ビビ? どうしたんだい? 急に……」

 

 彼女の突然の行動に私は驚いたが、声に動揺は出さずにどうしたのか尋ねた。

 

「ごめんなさい……。しばらく、こうさせて……」

 

 ビビは小さく体を震わせながら、懇願する。いろんな事が破裂してしまいそうになるのを必死で堪えるように……。

 

「大丈夫。みんな君の仲間なんだ。助けるよ、君が抱える何もかもを……」

 

 私は彼女の頭を撫でながら、静かにそう伝えた。

 妹を持つとこんな気持ちなのかな? 守りたいという気持ちが際限無く強くなる。

 

「あのね……、ライアさん。私……、ずっと、ライアさんのことが……」

 

 しばらく、彼女の頭を撫でていると、ビビは口を開いて何かを話そうとしたが、途中で言葉が途切れてしまった。

 

「ん? 私がどうかしたって?」

 

「――やっぱり、止めておく。全部終わってからにする……。―こうしてると落ち着くわ……。出来るなら、ずっとこうして……、いたい……、な……」

 

 彼女は私の問いかけには答えなかった。そして、よほど疲れていたのかそのまま寝てしまった。

 

 

「お帰り、王子様。この国の王様はクロコダイルの次はあなたを警戒しなきゃならないんじゃない?」

 

 私が寝ているビビを抱き上げて宿まで連れて行くと、ナミがそんなことを言ってきた。

 確かに多少は無礼なのかもしれないけど、こうするしかなかったし……。

 

「誰が、王子だ。疲れて寝てるだけだから」

 

「キャハッ……、さっきはあんな顔してたのに幸せそうな寝顔だこと……」

 

 私に抱えられながら、ベッドに運ばれるビビの寝顔を見て、ミキータはそんな感想をもらした。

 少しは肩の重荷が取れたのかな?

 

 

 

 

 そう思ってルフィとビビは喧嘩したりしないかもしれないとか思っていたが、そんなことはなかった。

 

「人は死ぬぞ」

 

 ルフィは自分たちが反乱軍の元に行ってもすることがないと主張した後に、当然のことのように、そう言い放つ。

 

 ビビはその言葉に腹を立ててルフィに殴りかかった。

 

 ルフィはそれでも続ける。ビビが自分の命を懸けるくらいではとても足りないと。

 

 そして――。

 

「おれたちの命くらい一緒にかけてみろ! 仲間だろうが!」

 

 彼は私たちの命もまるごと懸けるくらいのことをしろと大声でビビに向かって叫んだ。

 本当はビビだってクロコダイルが許せなくて倒したいという気持ちが大きい。

 

 だからこそ私たちが優先すべきことはそのクロコダイルを討伐することなのだ。

 

 こうして私たちの目的地はやはりレインベースとなってしまった。

 敵の本拠地だし、クロコダイルはもちろんミス・オールサンデー、そして海軍もいる。

 

「クロコダイルのところに乗り込むのなら話を聞いてほしい……」

 

 そこで私は昨日の夜に考えた作戦を話すことにした。

 レインベースに向かう道中で……。




今回の最後のほうとかカヤに見られたら多分ライアは怒られるでしょうね。
知らない内にビビの依存度だけかなり上がってる気がする……。
天候棒は概ね原作通りですが、威力が若干強化されおり、ちょっとした新機能をつけてます。
レインベースでの話はかなり原作と異なる感じになります。いろいろとバレてることも多いですし、ライアもクロコダイルの手の内を知っていますので、そういった点が作用することになります。


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クロコダイル登場

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
皆様の応援のおかげで何とか1ヶ月間毎日投稿することができました。これからもよろしくお願いします!


「クハハハハッ! 策士策に溺れるッつーのはお前のようなガキのための言葉だな……。おれを誘い出す文句を使っておびき寄せ、暗殺でも企んでたってか。如何にも小物が考える狡い手だ」

 

 私は後ろ手に縛られて、レインベースの地下にあるクロコダイルのプライベートルームに放り投げられた。

 

「てめェらのような小物海賊団が浅知恵を働かせたところで、所詮はこの程度。他の仲間も捕まったと、連絡が入った。さて、銀髪……。王女ビビをどこに隠しやがった!」

 

 クロコダイルはやはりビビの所在が気になっているみたいだ。

 まぁ、彼女だけが彼の計画を狂わせる可能性があるだろうから当然だな……。

 

「ビビをコーザに会わせると君の計画が崩れる可能性があるというわけか。この国を乗っ取るなんて、計画を立てた目的はなんだい? なぜ、アラバスタ王国自体を手に入れようとする?」

 

 私はクロコダイルを睨みつけながら、質問をした。

 もっとも、彼の目的は知っているが……。

 

 

 ここまでは、作戦どおりだ。このあとが一番大事だが……。さて、どうしたものか……。

 

 私はクロコダイルと対峙しながら数時間前のことを思い出していた――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「作戦って……、ライアさんもルフィさんと同じでカトレアに行くつもりじゃなかったの?」

 

 私がレインベースに行く前提で話を考えていたように伝わったからなのか、ビビは首を傾げて私に質問をした。

 

「うーん。正直迷ってたよ。クロコダイルはビビがカトレアで革命軍のリーダーであるコーザと接触するのが一番嫌だと思ってるだろうし」

 

 私はビビに正直に思ってることを伝えた。

 

「おいおい、ライアちゃん。だったら、もっと早く言ってくれよ。もうおれたちはレインベースに向かっちまってる」

 

 サンジの言うとおり私たちはユバの北であるレインベースに向かっている。

 

「だけど、カトレアは遠い。首都のアルバーナに反乱軍が出兵を始めていたらもっと遠くなる。ルフィの話を聞いて私も確信したよ。まずは頭であるクロコダイルを叩くべきだ」

 

 私は時間的にもこのままクロコダイルを叩くことが最善だという結論に達したということを話した。

 

「ふーん。それで、ライアの作戦っていうのは?」

 

「あえて、私がクロコダイルに捕まるっていう作戦だ」

 

 そこまで話してようやく私は自分の立てた作戦について話しだした。

 

「キャハハッ、とってもユニークでバカな作戦に聞こえるわ」

 

 ミキータはそれを聞いてバカって言ってきた。確かにあまり賢くはないかもしれないけど……。

 

「意味がわからねェな。わかりやすく話せ」

 

「けっ、どうせライアちゃんが上手に説明してもわからねェ癖に」

 

 ゾロのツッコミに対してサンジは悪態をつく。この流れは――。

 

「ンだと!」

 

「やんのかコラァ!」

 

「やめなさい! 暑苦しい!」

 

 やはり喧嘩を始めようとしたので、ナミが2人にゲンコツを繰り出す。本当に暑い……。

 

「これを知ってるかい?」

 

「これって電伝虫? 随分と小さいけど……」

 

 私はカバンから取り出したのは2匹の電伝虫だ。

 

「携帯用の子電伝虫さ。通話出来る範囲は狭いけどね。持ち運びには便利なんだ。実はもう1匹持ってたんだけど、これをある人に渡しておいたんだ」

 

 この子電伝虫こそ今回の作戦の鍵となるアイテムだ。

 旅に出る前に何とか改造してシロップ村のカヤと会話できないかと頑張ったんだけど無理だったから、子電伝虫だけ残っちゃったんだよね……。

 

「ある人って誰よ?」

 

「海軍のたしぎって人。ローグタウンでゾロと戦った」

 

 ナミの質問に私は答える。そう、私は彼女の元から去るときにこれを渡しておいたのだ。

 こうしておけば、何かしら便利に動いてもらえるかもしれないと思ったから……。

 

「あっ、あのパクリ女にか!? お前、何考えてんだ!?」

 

「キャハッ、よりによって、海軍ってあんた正気?」

 

 ゾロとミキータはギョッとした顔で私を見ていた。

 まぁ、海賊が海軍に通信手段を渡すなんてありえないだろうから当然だな。

 

「正気も正気さ。考えてみなよ、クロコダイルが国の乗っ取りを企んでる。本来、これを何とかするっていうのは海軍の仕事だ。あの男もそっちにバレないように骨を折っていたはず」

 

 そう、王下七武海という立場上、海軍には国の乗っ取りが完了するまで彼の野望が漏洩するなんてことは、絶対にあってはならないんだ。

 だからこそ、彼は慎重にことを進めてきたのである。

 

「まさか、ライアちゃんの作戦って海軍を動かすつもりっていうんじゃ……」

 

「さすが、サンジだ。大正解」

 

 ここまで話すとサンジはいち早く私の考えを言い当ててくれた。

 

「まずは、これを使ってクロコダイルの野望を白日の下に晒す。そうしたら、海軍だって動くだろう。そうなると、焦った彼は必ずレインベースのカジノを出るはずなんだ。その後、彼をある場所までおびき寄せ、そこを叩く」

 

 電伝虫を持った私がクロコダイルに捕まり、彼の口から自らの野望を語ってもらい言質をとる。

 当然、それを聞いた海軍は黙っていない。レインベースのカジノに突入するだろう。

 そうなると、クロコダイルは国の乗っ取りを急ぐはず。この国にある彼の目的のモノを手に入れるために。

 

「なんだかまどろっこしいな。カジノに斬り込んだ方が早くねェか?」

 

「クロコダイルだけを相手にするならそれでもいいけどね。私たちを追って海軍が来てるから、2つ相手にするのは面倒だよ。海軍の目をクロコダイルに向ければ、我々も1つの相手に集中出来るだろ?」

 

 ゾロの言うこともわかる。

 しかし、レインベースには既に海軍が居るだろうから、下手したらクロコダイルに辿り着く前にやられてしまうリスクがあるのだ……。

 

「なんだっていいぞ! おれはクロコダイルと戦えるんだな!?」

 

「それは約束するよ。だけど、必ず勝ってくれなきゃ困る。だから、クロコダイルと戦うときは――」

 

 ルフィが大事なことを確認してきたので、私は頷いて、彼にあることを教えた――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 レインベースに着いた私は単独でカジノに向かって歩き出す。

 

 うむ、やはり海軍の人間もレインベース入りしてるようだな。私はたしぎの持っている子電伝虫に向けて通信を繋いだ。

 

『すっ、スモーカーさん。どっどうしましょう。例の海賊から通信が……』

 

『バカヤロウ! もう繋がってるじゃねェか! わかりやすく動揺するンじゃねェ! てめェ、魔物狩りか!? 海賊がこんなモン送りつけて何のつもりだ!?』

 

 子電伝虫からたしぎとスモーカーの声が聞こえる。

 

「やぁ、ご無沙汰してるね。スモーカー大佐。景気はどうだい?」

 

『お前のとこの船長でもとっ捕まえたらちったァ良くなるんだがなァ!』

 

 私がスモーカーに挨拶すると、彼から不機嫌そうな返事がきた。

 何度かルフィに逃げられているのは屈辱なのだろう。

 

「それは、業務熱心だね。君のような海兵ばかりなら、世の中はもう少し平和なんだろうな」

 

 私は本心から彼の仕事に対する姿勢を褒めた。海賊が言うセリフじゃないけど……。

 

『海賊が抜かしやがる。いや、お前……、本当に何者だ? なぜ、お前らの船にネフェルタリ・ビビ王女が乗っていやがった!?』

 

 スモーカーはやはりビビが私たちの船にいることに気が付いていた。

 そしてその理由を当然質問してきた。

 

「もうそこまで知ってるのか? さすがだね。ビビ王女に関しては私を通して()()()()()()()()()()()()彼女を護るように依頼があった。たしぎ曹長から聞いているだろ? この国に渦巻く陰謀を……。だから、レインベースに君もいる。違うかい?」

 

 護衛依頼は本当だけど、あえてこういう言い方をしてみた。

 勝手にいろいろ無いこと無いこと想像してくれるとありがたい。

 常識で考えれば世界政府に所属してるアラバスタ王国がこんな少人数の海賊団に護衛を頼むなんてあり得ないだろうし。

 

『クロコダイルのヤツがアラバスタ王国を乗っ取ろうとしてるって話か? 証拠はあるんだろうな?』

 

「それは証拠があれば海軍が動くと解釈していいのかな?」

 

 スモーカーの言葉に対して私は大切な質問をした。

 

『見逃すわけねェだろ』

 

「話が早くて助かる。じゃ、確かな証拠を示しに行ってくる。頼んだよ」

 

 私は彼の返事を聞いて彼との会話を終えた。彼の性格上、クロコダイルは見逃さないだろうし、この一件が終わるまではそちらに集中してくれるだろう。

 

 そして、私はそのままレインベースのカジノに入った。クロコダイルと会うために……。

 

 

 

「このカジノのオーナーである、サー・クロコダイルに至急取り次いでくれ。海軍の動きとビビ王女についてと言えば分かってくれるはずだ」

 

 フロアの中で一番偉そうなスーツの男に私は話しかける。

 クロコダイルの興味を引く話題を添えて。

 

「はぁ……。あなたはどちら様で?」

 

「ああ、私か。私のことはMr.1からの使者とでも言ってくれればいい」

 

 スーツの男は奇妙なモノを見るような顔で私を見ていた。

 まぁ、急にこんなことを言われれば無理はないか。

 

 しかし、彼は面倒そうな顔をしながらも一応は連絡をとってくれた。

 

 そして、程なくして――。

 

 

「サー・クロコダイルがお会いになるそうです」

 

 笑顔でスーツの男は私にそう伝えた。どうやらクロコダイルの興味を引くことには成功したらしいな。

 

「それはありがたい。では、さっそく……。――なっ、何をする!」

 

 私がスーツの男の言葉に反応した瞬間、大柄な男が後ろから私を羽交い締めしてそのまま手足を縄で縛ってきた。

 

「それでは、クロコダイル様とお会いください」

 

 私はそのまま担がれて、地下にある部屋に投げ込まれてしまった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「なぜ、アラバスタ王国を手に入れようとする、だと?」

 

 そして、私は勝ち誇った顔のクロコダイルと対面することとなったのだ。

 

 

「バカか? てめェは……。んなこと、わざわざ教えるわけがねェだろ。そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()理由なんざ、小物にゃ到底理解できることじゃねェよ」

 

 クロコダイルは見下して馬鹿にした表情で私に向かってそう言い放った。

 

「そうか。それは失礼した。興味があったんだ。海賊が国を欲しがる理由とやらが」

 

「気に入らねェな。この状況で余裕面してるてめェが。何を考えてやがる」

 

「それは、もうすぐわかると思うよ。ほら、君の電伝虫に連絡が入ってきた」

 

「はぁ? てめェの仲間をぶち殺した報告だろ? どうせ……」

 

『クロコダイル様! 海軍がガサ入れに! なんでもクロコダイル様がアラバスタ王国に対して謀略を――。ぐわぁっ!』

 

「海軍だァ!? なぜ、このタイミングで……」

 

「口には気を付けたほうがいい。自分で自分のことを頭が良いと思っている人は尚更ね。“()()()()()()()()()()()()()()()()理由”なんて言葉を吐いちゃったら認めたも同然じゃないか。この国を乗っ取ろうとしていることを……」

 

 私は懐から電伝虫を取り出して、クロコダイルに見せた。

 

「いっ、いつの間に縄を解きやがった。そっそいつは何だ!? 電伝虫はどこに繋がってやがる!」

 

 クロコダイルは明らかに動揺を見せていた。

 

「あー、部下にはもうちょっと上手な縛り方を教えてあげた方がいいよ。ちょっと空間を作るだけでゆるゆるだったから、この結び目」

 

 私は雑に拘束されていたので、いつでも抜け出せる準備は出来ていた。

 

「そんなこたァ、どうでもいい! 誰に繋がってやがるんだ! それは!」

 

『王下七武海、サー・クロコダイルだな? おれァ、海軍本部大佐スモーカーだ。お前に事情聴取がしてェ、とっとと出てきてくれねェか?』

 

 クロコダイルの質問に答えるように、電伝虫からスモーカーの声が発せられた。

 

「海軍本部大佐だとォ!? なぜ、弱小海賊団が海軍と繋がってやがる!?」

 

 さすがに海軍本部の将校に自分の陰謀がバレたと思っていなかったのか、クロコダイルからは完全に余裕のある表情が消えていた。

 

「さてね、私は君のようにペラペラ情報を喋ったりしないんだ」

 

「殺すッ!」

 

 あえて挑発的な言動で彼を揺さぶった。まっすぐ私に殺意を向けるように。

 

藍色の超弾(スプラッシュブレット)ッ!」

 

 銀色の銃(ミラージュクイーン)から私は床に向かって弾丸を放つ。

 服の中に隠していた武器が没収されなかったのは幸運だった。

 

「クハハハハッ! どこを狙ってやがるッ! ――ッ!?」

 

 床に当たった藍色の超弾(スプラッシュブレット)は破裂して、クロコダイルに向かって水を噴射した。

 彼は顔から胸にかけてに水がかかってしまう。

 

「おっと、失礼。暑いから水遊びでもどうかと思ったけど、気に入らなかったかな?」

 

「てっ、てめェ……! なぜ……。ぐっ――!」

 

 私がクロコダイルに向かって鉛の銃弾を放つと、彼は咄嗟に躱したが頬にそれがかすり、そこから血が流れていた。

 

「銃弾で傷付いたのは久しぶりかな? 王下七武海のサー・クロコダイルがスナスナの実の能力者だということは知ってる。自然(ロギア)系は無敵に近いから、私がダメージを与えるには弱点をつくしかない」

 

 私はそう言いながら、銃口を彼に向けた。

 はぁ……、なんとか自然(ロギア)系の能力者にダメージを与えることが出来た。

 

「ぐっ……! それくらいでおれを倒せるつもりか! ふざけやがって!」

 

 しかし、クロコダイルは即座に濡れていない部分を砂に変えて私に近づき――。

 

「――がはぁッ!」

 

 フックを私の腹に突き刺した。動きを読んだはずなのに……、思った以上に速い不規則な動きに対応出来なかった……。

 なんてことだ……。

 

「認めるぜ。おれの計画をあっさりぶち壊したやがった小賢しい頭はな。クソッタレ」

 

 クロコダイルはそう吐き捨てると、血塗れで地面に伏している私を置き去りにして部屋から去っていった。

 

 海軍から逃げるつもりだな……。彼は必ず首都アルバーナを目指すはず……。

 そこを待ち伏せしてるルフィたちが叩ければ――。

 

 私の意識はそこで途切れてしまった――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ライアちゃん。無事か? クロコダイルのやつ、ひでェことしやがる」

 

 目を覚ましたとき、目の前に海軍の格好をしたサンジの顔があった。どうやら、私は彼に抱えられているらしい。

 なるほど、海軍の服を奪って自然にこの中に入ってきたのか……。

 

「チョッパーがライアちゃんの匂いをたどって来たんだ。応急処置もその場でやってくれた」

 

「もう少し遅かったら危なかったぞ」

 

 サンジとチョッパーの声を聞いて、私はようやく自分の無事を実感する。

 

「こっちも作戦どおりに事を進められた。クロコダイルの部下をとっちめて、偽の報告をさせて、その後ヤツが出てくるのを待った。ライアちゃんの言うとおりアルバーナの方角にヤツは向かって行ったよ。ミス・オールサンデーと共にな」

 

 サンジは作戦が上手く行ったことを私に伝えてくれた。

 

「そっか、上手くいったなら良かった……」

 

 私は作戦が概ね成功していてホッとした。

 

「今ごろ、ルフィとクロコダイルは一騎討ちしてるかもしれねェな。ナミさんたちがビビちゃんに成りすまして、ヤツを誘い出すことに成功していればだが……」

 

 サンジは他のみんなの動きに関して話してくれる。

 

「ビビは、ビビはちゃんと隠れてるのか? アルバーナに行く前に彼女と合流しないと……」

 

「私ならここにいるわ。ライアさん」

 

 私が最も気にしてることを口にするもビビの声が後ろから聞こえた。

 

「ビビ!? なんで、ここに!?」

 

「ライアちゃん、ごめんな。どうしてもって、ビビちゃんにせがまれて断れなかった」

 

 サンジはビビにお願いされてここに彼女を連れてきたのだと言う。

 まぁ、確かにチョッパーと隠れている予定だったから、一人で残すよりも一緒の方が安全か……。

 

「こんな酷い怪我までして……。ごめんなさい……」

 

「ははっ……、怪我は私の油断だよ……。それより、もう一つやることがあった……」

 

 ビビの心配そうな顔に、なるべく笑顔を作って答えながら、私は重要なことを忘れていた事に気が付いた。そして、それと同時にその解決策も……。

 

 忘れていたこと……。それは乗り物だ。

 確か、漫画では大きなカニみたいな生き物に乗って高速でアルバーナに向かったから、なんとか事が大きくなる前に間に合った。

 しかし、今回は違う。あのカニって確か道中で知り合ったラクダの友達だったはずなんだ。

 

 だから、今の私たちには移動手段がない。

 

 その問題を解決するために私はカジノを出る前にすることをサンジたちに話すことにした――。




原作とは違って完全に海軍を利用した作戦でクロコダイルの計画を狂わせることに成功しました。
ただ、どうしてもライアの視点になってしまうので、他の仲間の動向を描写しきれない部分が出てしまってます。
この辺りの補足も含めて次回を投稿できればと思っております。


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決戦はアルバーナ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ライアを参謀っぽい感じにしてみたのは良いのですが、作者の頭の弱さを忘れているという……。雰囲気だけでも賢そうな感じに出来るように頑張ります。
それでは、よろしくお願いします!



 

「クロコダイルは計画を開始したというような口ぶりだった。今ごろ反乱軍たちはアルバーナへ向かっているはずだ……。止められる可能性があるとすればビビ、君が反乱軍より早くアルバーナに着くこと……」

 

 私はビビに現在の状況を教えた。そして、反乱軍を止めるためには早くアルバーナに着く必要があることも。

 

 クロコダイルの計画は一応、漫画通りには進んでいる。

 ルフィが彼に勝てていれば、あとはビビをアルバーナに送ってコーザと引き合わせるだけだが……。

 

「そんなの……、今から歩いていたら、とても間に合わない……」

 

 ビビは私の話を聞いて、顔を青くした。

 そう、アルバーナはナノハナやカトレアほどではないがここからそれなりに距離がある。

 

「うん。だからこそ移動手段を考えなくてはならない。例えば、速く大きな動物を上手く利用するとか……」

 

「ライアちゃん、まさかチョッパーに頼んで交渉するとかそういう作戦か?」

 

 サンジは動物という言葉を聞いてそんなことを質問してきた。

 

「友達になれそうなヤツなら何とか出来るけど、そんなヤツばかりじゃないぞ」

 

 そして、それを聞いたチョッパーが首を振りながら難しそうな顔をしていた。

 

「いや、もう少しだけ現実的な作戦がある。リトルガーデンでの出来事を思い出してほしい。ミス・ゴールデンウィーク……。彼女たちを乗せた恐竜が居ただろ? あれを利用出来ないかと考えている」

 

 私はミス・ゴールデンウィークの乗っていたプテラノドンでアルバーナに行く計画を立てていた。

 

「ミス・ゴールデンウィークって、それこそどこに居るのかわからないじゃない」

 

「そうでもないのさ。ミス・ゴールデンウィークとMr.3はあのテーブルクロスの下に居る! どうやったのか知らないが、さっきから気配を感じるようになったんだ」

 

 ビビの疑問に私は答える。

 そう、意識を取り戻してサンジの顔をみたのと同時に私はある気配がこの部屋にあることを感じ取った。

 クロコダイルと対峙したときには感じられなかった気配だ。

 

「おれもさっきから、アレの下から急に匂いがして驚いた。何か居るのは間違いないぞ」

 

 チョッパーも鼻をクンクンしながらテーブルを見ている。

 

「この下にって、ちょっとライアちゃん。下ろしても平気かい?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 サンジが抱えていた私を下ろす。うむ……。反射的に体を捻ったおかげでそこまで酷い怪我にはならなかったみたいだ。

 激痛で気を失ったけど、チョッパーの打ってくれた痛み止めが効いて動く分には問題ない。

 

「じゃあ、引っ剥がすぞ」

 

「その必要はないわ。カラーズトラップ――隠密の紫……。ジッとしてれば誰もその存在に気付かない……」

 

 サンジがテーブルクロスを剥がそうとしたとき、ミス・ゴールデンウィークがMr.3とともに出てきた。

 

「水が欲しい……」

 

 Mr.3はミイラのように体中から水分が抜けてカサカサになっていた。

 

「私たちはMr.0に頭を下げて、挽回の機会を貰おうとしたの。でも――」

 

 ミス・ゴールデンウィークによると、クロコダイルは失敗して帰ってきた彼女らを許さなかったらしい。

 Mr.5はこうなることを予期してスパイダーズカフェに行ったところで離脱したのだそうだ。

 

 クロコダイルがMr.3の水分を吸い取って殺そうとしたところで、ミス・ゴールデンウィークはカラーズトラップによって身を隠しながら、Mr.3を救出。

 そのまま、外にも出れずにここにずっと身を潜めていたそうだ。

 

「ふむ、Mr.3が殺されかけたところを救出したが、外に逃げられぬまま、そこに隠れていたのか……」

 

「やっと逃げられると思ったけど、外には海軍。Mr.0の計画を止めようとしてるあなたたちと交渉しようと思ってたの。アルバーナに早く行きたいのはわかってるわ」

 

 ここまでの成り行きを話して、ミス・ゴールデンウィークは私たちにここから出ることを手伝ってほしいと交渉してきた。

 

「我々が移動手段を欲してるのを知っているなら頼む手間が省けるよ」

 

 利害が一致してることを悟った私はミス・ゴールデンウィークの交渉に乗ることに躊躇はなかった。

 

「だったら、おれたちについてきな。レディを縛るのは趣味じゃねェが、今回ばかりは仕方ねェ」

 

 私はミス・ゴールデンウィークの言葉を聞いて頷く。

 そして、サンジには何かいい手があるみたいで、縄を取り出してミス・ゴールデンウィークとMr.3、そして私を縛った。

 

 

 

「おっと、まだ海賊が紛れ込んでいたか! ご苦労! 連れて行け!」

 

「了解〜♪」

 

 サンジは海賊を連行するフリをして私たちをあっさり外に出した。

 

 

「なるほど、連行中に見せかけて連れ出すとは考えたね」

 

 私たちはカジノを出てレインベースの外の砂漠まで足を進めている。

 

「まァな。ライアちゃんにばかり頭を使わせてられねェだろ?」

 

 サンジはニヤリと笑って頭を指さした。こういうときは彼が一番頼りになる。

 

「無事に外に出したんだ。約束は守ってもらうぞ」

 

「もちろん。取り引きで嘘はつかない」

 

 私がミス・ゴールデンウィークに確認すると彼女はこくんと頷いた。

 

「それよりも……、みっ、水を早く……」

 

「しょうがないやつだなー。コノヤロー」

 

 チョッパーは脱水症状どころじゃないくらいカラカラになっているMr.3を見兼ねて水を手渡す。

 

 Mr.3は物凄い勢いでそれを飲み干した。

 

「ふぅ……。生き返ったガネ〜ッ! そして、ビビ王女は頂く! ミス・ゴールデンウィーク、ここまでよくやったガネ!」

 

 Mr.3は水を飲み干した瞬間に蝋をビビに向かって伸ばして、彼女の喉元に蝋で作った刃物を突き付けた。

 

「Mr.3! お前!」

 

 しまった。まさか、水を飲み干してすぐに裏切るとは……。私は自分の無能さ加減に苛ついた。

 

「こうなったら、王女を人質にして逃げ切ってやるガネ。ミス・ゴールデンウィーク、早く逃げる準備を……」

 

「カラーズトラップ――和みの緑……」

 

 Mr.3がビビを人質にして逃げようとしたとき、ミス・ゴールデンウィークはMr.3に向かってカラーズトラップを使った。

 

「お茶が上手いガネ〜! あれ? 王女は……」

 

 Mr.3はビビを手放して、座ってお茶を飲み始めた。

 

「てめェ! 自分が何やったか分かってんだろうな! 反行儀(アンチマナー)キックコース!」

 

 そんなMr.3をサンジが許すはずもなく、彼の蹴り技がMr.3の腹を突き上げるように決まる。

 Mr.3は体力をよほど消耗していたからなのか、その一撃で倒れてしまった。

 

「Mr.3……、嘘はダメよ。じゃあ、外に連れ出してもらえたことだし、約束を守るわ。ピィー」

 

 ミス・ゴールデンウィークは顔色一つ変えずに、そうMr.3に言い放ち……、そして口笛を吹いた。

 

「すげェ! 恐竜だ!」

 

 チョッパーは興奮気味にプテラノドンを見る。

 

「よしっ、これなら! 何とか間に合いそうだ!」

 

 私はプテラノドンの速度を見てアルバーナに間に合う確信が出来た。

 

「トニーくん、言葉は通じそう?」

 

「おう、任せとけって言ってるぞ」

 

 ビビはチョッパーにプテラノドンと会話が出来るか確認すると、彼はコミュニケーションが取れていると返事をした。

 

「じゃあ、この恐竜は連れて行くよ?」

 

「好きにするといいわ。結局、この国を手に入れたとしても私の願う理想郷には程遠いもの」

 

 ミス・ゴールデンウィークはプテラノドンを好きに使え言ってくれた。

 彼女の目的が何なのか結局わからなかったが、助けられたな……。

 

「そっか。また、縁があったら会おう。ありがとう、ミス・ゴールデンウィーク」

 

「これあげる……」

 

「また、せんべい……」

 

 私がミス・ゴールデンウィークにお礼を言うと彼女はリトルガーデンのときのようにせんべいを手渡してきた。

 

「ライアさん、行きましょう」

 

 ビビはプテラノドンの上から手を差し出して、私はその手を掴んだ。

 

 そして、私たち4人を乗せたプテラノドンは砂漠を飛び立って行った。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 空の上から探索すると、すぐにナミとゾロとミキータを発見することが出来た。

 どうやら、海軍やB・Wとひと悶着あったみたいで3人とも岩場の陰で身を潜めて休んでいた。

 

 仲間と合流を果たした私たちはルフィを探した。

 ルフィはすぐに見つかったが、クロコダイルと戦うことは叶わなかったらしい。

 

 時間を少しでも取られることを嫌がった彼は、ルフィが戦闘を仕掛けようとするのを見るなり砂嵐を起こして、彼を吹き飛ばしてしまったのだ。

 

 私が必要以上に彼を焦らせたせいだな……。まさか勝負すらしてくれないとは……。

 

「あいつは勝負から逃げた! 許せねェ!」

 

 ルフィは怒りの表情を浮かべていた。

 

「すまない。ルフィ……。私が彼を挑発しすぎた。その上、警戒心も煽ってしまった……」

 

 ルフィの相手をしなかったのは、私が彼の弱点を突いたことも原因だろう。

 水を使って戦いを挑まれたら負けはしなくても時間を取られる可能性がある……。おそらくクロコダイルが気にした点はそこにあるのだと思う。

 

「とにかく急ごう。ミキータが居る限り重量制限はないはずだし……」

 

「でもさすがに7人はスペースの関係で厳しいんじゃ」

 

 私の言葉にビビがツッコミを入れる。確かに厳しいどころじゃないな。4人でもチョッパーは私の腕の中に居たし……。

 

「ビビ様! ご無事で何よりです!」

 

 そんな中、大きな鳥が私たちの近くに着地したかと思えば人間の姿になった。

 

「ペルっ! あなた来てくれたのね……!」

 

 現れたのはアラバスタ王国の最強の戦士と呼ばれているトリトリの実の能力者ペル。

 どうやら彼はレインベースに偵察に出て戻る途中に私たちの姿を発見したらしいのだ。

 

「――なるほど、事情は分かりました。ビビ様! 私にお乗り下さい……。アルバーナまで最速でお届け致しましょう」

 

 ペルは形態変化をしながら、ビビを背中に乗せようとした。

 

「待って、ペル。ミス・バレンタイン……、お願いがあるんだけど……」

 

「キャハッ! これなら()()()()()()()全員で行けそうね」

 

 ミキータはビビの言葉から何を言いたいのか察してニヤリと笑った。

 

 

 こうして私たちはペルとプテラノドンに分かれて乗ることでアルバーナの王宮まで飛んで行くことが出来たのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 王宮は既にクロコダイルが荒らしたからなのか、兵士たちが多く倒れていた。

 

「おお、ビビ。よくぞ、戻って来てくれた。賊が侵入したが、何とか撃退することが出来た」

 

 宮殿の中庭でビビを迎えたのは、この国の王であるコブラだった。

 漫画ではクロコダイルに捕まっていたはずだけど……。

 

「お父様! よかった、無事だったのね! 早く、この動乱を止めなくては!」

 

「そうだな。お前には危険を承知で頼みたいことがあるのだよ。こちらに来なさい」

  

 コブラはビビを手招きして近くに来るように促した。

 そして、彼女もそれに従ってコブラに向かって歩き出した。

 

「ビビ様! 行ってはなりません! この王宮は既に奴らが――! ゲハッ――」

 

 ビビが一歩足を踏み出したとき、目の前の扉が開き血塗れの男出てきて彼女を止めようとする。

 しかし、背中を何者かに斬られたみたいで、倒れてしまった。

 

「チャカ!」

 

「まだ生きてやがったか」

 

 ビビが血塗れの男の名を叫んだとき、坊主頭の男――Mr.1が扉から出てきた。

  

「キャハッ! Mr.1……!」

 

「ということは……」

 

 Mr.1の存在に気が付いた私はコブラの顔を睨みつける。

 

「あらァ! バレっちったら、仕方ないわねェ」

 

 コブラの顔はMr.2に変化してビビに向かって襲いかかる。

 

「やらせないよ!」

 

 私は銀色の銃(ミラージュクイーン)を発砲しながら、Mr.2との間合いを詰める。

 

「いつかのオナベちゃんじゃなぁい!」 

 

 Mr.2はニヤニヤと笑みを浮かべて戦闘態勢を作った。

 

「まったく、Mr.0もたかが小娘一人を殺すために慎重すぎだね。“シン”だね。いや、“シッ”だよ!」

 

「フォー」 

 

 さらにMr.4とミス・メリークリスマスも城の中から出てきた。

 クロコダイルは宮殿の中にオフィサーエージェントを侵入させていたのか!? 

 私は漫画とは違う動きをしているクロコダイルに戦慄していた。

 

「ここで王女を殺しておけば、反乱は止まらない。理想郷(ユートピア)計画は完了よ。既にMr.0は計画の最終段階に向けて動き出した。コブラ王と共に……」

 

 ミス・ダブルフィンガーまで出てきて、オフィサーエージェントは勢揃いしたことになる。

 クロコダイルは既に“プルトン”を手に入れるために“ポーネグリフ”の在処までコブラを案内させてるみたいだな。

 やはり、彼は漫画よりも焦って動いてるらしい。

 

「とにかく、クロコダイルは国王と共にどこかに行ったというわけだな。――ルフィ!」

 

 私が彼女の言葉から状況を確認したところで、ルフィは宮殿から猛スピードで出ていった。

 

「そのクロコダイルって奴を探して、今度こそぶっ飛ばしてくる!」

 

 彼はクロコダイルを探すと言い残してこの場から姿を消したのである。

 

「ビビ様! 早くお乗り下さい。奴らの狙いはあなたです! ――ガハッ!」

 

 それを見ていたペルは再び鳥型に姿を変えてビビを乗せて避難させようとしたが、体中から手が生えてきて関節技を決められて倒れてしまう。

 この能力は……。

 

「空を飛ぶ能力者なんて居たのね。余計な邪魔をされるところだったわ」

 

「ペル! ――くっ、ミス・オールサンデー!」

 

 中庭に続く門の上で腰掛けているミス・オールサンデーをビビは睨みつける。

 

「のんびりしてる暇はないわよ。あと30分くらいで、あの宮殿広場から半径5キロ圏内は爆弾によって吹き飛ばされるようにしているの……。ふふっ……。私たちに構っている暇はあるのかしらね。これで、コブラ王も素直になってくれたわ」

 

 ミス・オールサンデーは大きな爆弾の存在を仄めかした。

 やはり、爆弾は仕掛けていたか……。

 

「なんてこった。あの野郎ここまで周到に手を回してやがったのか……!」

 

「なぁに、30分もある。おれたちでこいつら全員ぶっ倒して、ビビが反乱を止める。それでいいじゃねェか」

 

 サンジは焦りを口にして、ゾロは殺気を高めた。

 しかし、ゾロの言うとおりだな。こっちも戦力は揃っている。早く連中を倒して、爆弾を処理すれば何とか……。

 

「あら、強気ね……。あなたたちの勇姿も見ていたいけど……。私も忙しいから」

 

 ミス・オールサンデーはこの場から姿を消した。おそらく、クロコダイルの元へと向かったのだろう。

 

「ビビ! 君は幼馴染とやらを早く探せ! チョッパー! 君も付いていってやってくれ。ビビを守るんだ」

 

 私はビビとチョッパーに指示を出す。チョッパーなら、いざというとき彼女の治療も出来るし心強いからだ。

 

「行かせないよ! “イッ”だよ! Mr.4」

 

 そのやり取りを見ていた、ミス・メリークリスマスはモグモグの実の能力で地中に入って、土の中からビビの足を掴んだ。

 

「フォー!」

 

 そのスキを突いてMr.4が巨大なバットをビビの頭に向かって振った。

 

「うっ動けない! ――あれ?」

 

 Mr.4のバットはビビには届かなかった。なぜなら、途中で受け止められたからである。

 受け止めたのは、ゾロでもサンジでもなく――。

 

「キャハハッ! ()()()のバットが自慢のようね。Mr.4……」

 

 ミキータは巨大なハンマーを片手に持ってMr.4のバットを受け止めていた。

 

「てめェは裏切り者のミス・バレンタイン。馬鹿な、Mr.4のバットをなぜ止められる?」

 

 ミス・メリークリスマスは驚愕の表情でミキータを見ていた。

 

「これが私の新しい武器“キロキロパウンド”――。悪いけど、私のハンマーの重さは1()0()()()よ……。これで、大好きな地面に埋めてあげるわ。ミス・メリークリスマス!」

 

 “キロキロパウンド”は折りたたみ式の巨大ハンマーである。

 故にミス・バレンタインが使わないと丈夫なだけで重さは非常に軽い、殺傷能力が皆無の武器だ。

 デカデカとハンマーに書かれている1()0()()の文字は彼女が能力を発動することで初めて本当になるのだ。

 

「ちっ……」

 

 ミキータの10トンのハンマーに威圧された、ミス・メリークリスマスは苦虫を噛み潰したような顔をしてビビから手を離した。

 

「ビビ! おれの背中に乗れッ!」

 

「トニーくん。その必要はないわ。カルー!」 

 

 チョッパーの声かけに首を横に振ったビビはカルーを呼んだ。

 

「クェー!」

 

 すると、どこからともなくカルーが走ってきて、ビビはカルーに跨った。

 

「コーザの元へ行ってくる。みんな、後はお願い!」

 

「「任せとけ!」」

 

 カルーに乗ったビビの声に私たちは同時に返事をして、彼女とチョッパーを見送った。

 

 こうして、私たち麦わらの一味とB・Wのオフィサーエージェントとの最後の戦いがスタートしたのである――。

 




思った以上に展開が早くなってしまいました。
クロコダイルの性格を考えると、一刻も早くプルトンを手に入れなきゃって急ぐと思うんですよね……。
ミキータの新武器の“キロキロパウンド”は原作でウソップがMr.4に使用した“ウソップパウンド”とほとんど同じ仕組みの武器です。ミキータが使うと嘘表記も本当になりますが……。
厳密に言えばミキータの重量も含めて10トンなので、表記に関しては嘘といえば嘘になりますね。
ということで、アラバスタ王国編は一気に佳境です。
ライアはMr.2ボンクレーと戦います!


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4と2と1

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!そろそろ、アラバスタ王国編も終わりに近づき、今後の展開も色々と考えなくてはならなくなりました。
今回はバトルシーンばかり。ライアとMr.2の戦いをご覧になってください。


「オカマ拳法! どうぞオカマい(ナックル)!」

 

 Mr.2はサンジにも勝るとも劣らないほどのスピードで拳を繰り出す。

 

「――錆色の超弾(ボンバーブレット)ッ!」

 

 私は爆発する弾丸でMr.2の拳を狙う。しかし、彼は体を反らして弾丸を避け、尚かつ速度を落とすことなく私に攻撃してきた。

 

「ちっ……! 重いッ!」

 

 私は銃を盾にしてどうにかMr.2の拳を受けるが、その重さによって数メートルくらい後方まで押されてしまう。

 

「当たり前よーう。来る日も来る日もレッスン、レッスン……! 磨き上げたオカマ拳法が軽いわけないのよ〜う!」

 

 Mr.2はドヤ顔で自らの力を誇示してきた。

 くっ、やはり非力さというのはこういうときに大きく不利になるな……。

 

「力じゃ敵わないなら、受け流す――」

 

「あら?」

 

 私があえて力を抜くと、Mr.2の体が若干バランスが崩れて倒れそうになった。

 そのスキに私は彼の足元を狙い発砲する。

 

蒼い超弾(フリーザーブレット)ッ!」

 

「ちべた〜いッ! 足が凍っちゃったじゃなーい! ジョーダンじゃな〜いわよーう!」

 

 Mr.2の右足を掠った蒼い超弾(フリーザーブレット)は彼の右足を一瞬で凍り付かせる。

 

「――必殺ッッ! 鉛星ッッッ!」

 

 そして、彼が怯んだスキに私はさらに追撃をする。

 

「アウ〜〜チッ! 痛ァァいッ!」

 

 Mr.2の脇腹を私の放った鉛の弾丸は貫通したが、彼はまだまだ元気そうだった。

 

「痛いじゃ済まないはずなんだけど……」

 

 私は常識じゃ考えられないほどのタフな体をしているこの世界の住民に辟易する。

 鉛玉を腹に受けたんだよ。なんで平気な顔して立っていられる……。私なんてクロコダイルのフックで刺されて気絶したんだぞ……。

 

「オナベもなかなかやるものねィ! 仕方ないわ〜。オカマ拳法に古くから伝わる――! ちょっと、まだ喋ってる途中じゃなーい! ジョーダンじゃな〜いわよーう!」

 

「オナベじゃないし! セリフが長いッ!」

 

 私はMr.2の長セリフを聞くのもバカらしくなって銃弾を放った。

 

「本気のオカマにそんなものは通じないわ……」

 

「メリケンサックッ――!?」

 

 しかし、Mr.2は私の弾丸を拳で弾いた。そんな馬鹿なと思い、彼の拳をよく見ると両手にフルボディ大尉みたいなメリケンサックがはめ込まれていた。

 何これ、漫画と違う……。

 

「名付けてメリケンオカマ拳法!」

 

「ネーミング、そのまんまだなッ!」

 

 次々と銃弾を弾きながらドヤ顔をするMr.2に私はツッコミを入れる。ともすると、彼は漫画よりも強いということか……。

 

「弾丸をも弾き返す拳は銃弾よりも強いのよ〜う! アンッ! ドゥッ! オラァッ! “白鳥のアラベスク”!」

 

 凄まじいスピードの連撃が私を襲う。私は銃を盾にしたり、体を捻り必死で彼の拳を躱した。

 そして、Mr.2は必殺の蹴り技を放ってきた。

 

「結局、蹴り技じゃないかッ! ――必殺ッッ! 火薬星ッッッ!」

  

 私はツッコミを入れつつも、彼の蹴りが直撃する瞬間に錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)を放った。

 

「「――ッ!!」」

 

 私たちは互いの攻撃の威力に押されて吹き飛んだ。

 ここまでは若干私が与えたダメージが上……、しかし、フィジカルの差は歴然……。

 ちょっとの油断で簡単に逆転されてしまいそうだ。

 

「やるじゃな〜い! ただの貧弱なスナイパーかと思ってたわ」 

 

「そりゃあ、どうも」

 

 Mr.2は私のことを称賛する。こっちはそんな余裕ないっていうのに……。

 

「でも、こんな手はどう? かつてこんなヤツが居たわ! 友情によって手も足も出なくなった男がね……」

 

「ゾロの顔に変わった……」

 

 Mr.2は友人の姿になって手も足も出なくなった男の話をしながら、ゾロの姿に変身した。

 

「ドゥーかしらッ!? 攻撃できるものならしてみなさ〜い!」

 

「くっ……! これでは、攻撃が……」

 

 得意気な顔をするMr.2と顔を歪める私。

 

「おバカねい! スキありッ!」

 

「まぁ、ゾロなら良いかー」

 

 Mr.2がスキだらけの状態で攻撃を仕掛てきたので私は彼に向かって発砲した。

 

「おい! そりゃ、どーいう意味だ! コラァ!」

「血も涙もねェのか! てめェ!」

 

 Mr.1と戦闘中のゾロと弾丸を肩に掠めて血を吹き出しているMr.2が同時にツッコミを入れてきた。

 

「ああ、ゾロはMr.1と戦ってるんだ。その人強そうだけど、勝てそうかい!?」

 

「負けるはずねェだろッ! バーカ!」

 

 私がツッコミを入れてきたゾロに向かって勝てるかと聞いたところ、彼は当然というような顔をしながら、悪態をついてきた。

 

「おっと、これは失礼。信じてるよ」

 

「お前こそ、負けたらぶった斬るからな」

 

 ゾロは私が負けたら許さないと脅してくる。これは、藪ヘビだったか……。

 

「それは怖いね。じゃあMr.2には負けてもらわなきゃ」

 

 私はMr.2に銃口を向けながらそう口に出した。

 

「あちしが負ける? ジョーダン言ってるんじゃな〜いわよーう! だったら、女の顔はドゥーかしら!?」

 

 Mr.2は今度はナミの体に変身した。

 

「今度はナミの顔か……。そんな衣装でも可愛く見えるね」

 

「バカなこと言ってないの!」

 

 私がナミに変身したMr.2に関する感想を述べると、ミス・ダブルフィンガーと天候棒(クリマタクト)を駆使して戦うナミが顔を真っ赤にして怒り出した。

 

「顔だけじゃなくて体も変わってるのよーう!」

 

 Mr.2はガバッと上着を捲くる。あー、これじゃ、ナミがトップレスになっちゃったみたいだね。

 

「なっ、なっ、ナミさん! なんて、あられもない姿に! ぐはぁッ!」

 

 それを見ていたMr.4と戦っていたサンジは漫画みたいな量の鼻血を噴射して、倒れてしまった。

 

「キャハハッ! コックくんがダメージ受けてるんだけど……」

 

 ミキータはミス・メリークリスマスをモグラ叩きの要領でハンマーを駆使して狙ったり、イヌイヌの実を食べた銃の吐き出す爆弾を打ち返したりしていた。

 彼女は武器を持っただけで、見違えるくらい強くなったな……。

 

「くっ、これじゃ攻撃できない!」

 

「今度こそ、終わりねいッ! ――あぢャァァァッ! なっ、なぜ!?」

 

 そして、Mr.2は攻撃できないと怯んだ顔をした私にまたもやスキだらけで攻撃してきたので、今度は緋色の超弾(フレイムブレット)を撃ち出す。

 

 Mr.2の左肩に今度は銃弾が掠り、彼の肩は炎上して涙目になる。

 

「悪いね。嘘つきなんだ私は……。そういう手はもっとピュアな人に使うべきだよ」

 

「こうなったら、見せてあげるわ! オカマ拳法――その、主役技(プリマ)!!」

 

 私のセリフが言い終わるのと同時にMr.2は白鳥の顔をした変わった靴を装備した。

 

「メリケンサックの次は奇妙な靴か……」

 

 あの靴の攻撃力は侮れないはずだ。気を付けなければ。

 

「これだけは言わせて! あんたから見て、右側がオスで左側がメスよーう!」

 

 靴を履いてご満悦なMr.2は両足の白鳥の性別を叫んだ。へぇ、そんな設定あったのか……。

 

「あー、道理で右側の子の方が吊り眉毛なんだ」

 

「えっ、本当かしらァ?」

 

 私がそれを受けて適当なことを言うと、Mr.2は自分の靴をまじまじと観察しようとする。

 

「嘘だよッ! そもそも、眉毛なんてないじゃないか。錆色の超弾(ボンバーブレット)!」

 

「ガハッ――!? 嘘つくなんてひどーいじゃないのよーう!」

 

 なので、私はまたまたスキだらけになったMr.2に向かって発砲すると、彼は爆発に飲まれて吹き飛ばされた。

 

「犯罪組織の人間がよく言う。国王の姿で騙そうとした癖に……」

 

「まぁ、良いわ! あんたのそのしょぼい銃弾と比べてみなさーい! オカマ拳法! “爆弾白鳥(ボンバルディエ)”!!」

 

 私の不意討ちをまぁいいと流したMr.2は必殺の威力を込めた蹴りを放った。

 

「――なッ!? ぐっ――!」

 

 私の左腕を掠めた蹴りは燃えるように熱く、そして鋭かった。

 腕からじんわりと血が流れて、私はもしこれが直撃したらと想像して息を呑みこんだ。

 

「が〜はっはっは! 掠っただけでも威力は伝わったはずよーう! しなる首に鋼のくちばし――一点に集中された本物のパワーはライフルに匹敵するわァ……。弾はあんたの銃弾よりも少々大型だけどねい!」

 

 得意気に技の説明をするMr.2。ライフルとは言い得て妙で、銃使いの私もその威力に感服するしかなかった。

 

「ちっ……! その上、速いときたか……」

 

「あんたの華奢な体に風穴を開けたるわァ! アンッ! ドゥッ!」

 

 私が舌打ちをすると、同時に彼は鋭い蹴りを放つ。

 

「――ッ!? 怒涛の嵐のような連打……!」

 

 私は何とかMr.2の動きを読んで、それを躱そうと必死になる。

 

「オラァ!」

 

「傷口がッ――!?」

 

 脇腹を彼の蹴りが掠めたとき、チョッパーが巻いてくれた包帯が切れてしまい、クロコダイルに付けられた傷口から血が再び流れ始めた。

 あーあ、こりゃあ、体中血塗れだな……。

 

「あらあら、とーっても血が出ちゃってるじゃなーい! でも、あちしは手は抜かないわァ! 飛ぶ! 飛ぶ! 飛ぶあちし! “あの冬の空の回顧録(メモワール)”!!」   

 

 Mr.2は勝利を確信したのか、大技の準備に入り、宙を舞った。

 大技で一気に決めるつもりだな。だが――。

 

「目が霞む……。力もほとんど入らない……。しかし……! 無駄に長いモーションのおかげで……、()()()()()()が出来た! ――必殺ッッ! 鉛星ッッッ!」

 

 私は未来を完全に読むことでMr.2の攻撃を避けた上で、彼の右足のアキレス腱を銃弾で撃ち抜くことに成功する。

 

「――ぶへェェェェッ!? あちしの足がァァァッ!」

 

 Mr.2は苦痛に顔を歪めて地面を転がり回っていた。

 

「もう諦めろ。はぁ、はぁ……、Mr.2……。君のアキレス腱を撃ち抜いた。もう、満足に動けまい」

 

 私は息を切らせながらも、Mr.2に降参を促した。

 

「はぁ、はぁ……。ジョーダンじゃな〜いわよーう……! 片足でやってやろうじゃねェか!」

 

 しかし、Mr.2はやはりこれくらいでは負けを認めず、よろよろと起き上がり、私に向かって拳法の構えをとった。

 そう簡単には勝たせてもらえないな……。

 

「――片足では踏ん張りも利かない分……。先程までの技の()()がない……」

 

「あんただって、血を流し過ぎて半死人みたいじゃないのよーう! アンッ! ドゥ! オラァ!」

 

 私がMr.2の技の弱体化を指摘すると、彼も私の体が限界に近づいていることを口に出す。

 悔しいけど、そのとおり……。そろそろやばいと思っている。

 

「――うっ! 当然、傷口を狙ってくるか……」

 

 私は執拗に弱点を狙ってくるMr.2の動きに全集中力を傾けた。

 

「「――ッ!!」」

 

 そして、決着の瞬間はついにやってきた。

 

「――爆弾白鳥(ボンバルディエ)アラベスクッ!!」

「――必殺ッッ! 爆風彗星ッッッ!!」

 

 Mr.2が最終奥義とも言える強力な一撃を私に向かって放ち、私がそれを迎撃しようと引き金を引いたのだ――。

 

「「…………」」

 

 2人の体が交錯したその瞬間……、一瞬だけ、時が止まったように感じられた。それが永遠の時間のようにも……。

 

「ぎゃアアアアア!!」

 

 しかし、静寂はMr.2の断末魔に近い叫び声によって打ち消される。

 彼は私の放った突風を繰り出す弾丸を腹に受けて宮殿の壁に激しく体を打ちつけて大の字になって倒れたのだ。

 

 

「まったく……。はぁ、はぁ……、大した強さだったよ。Mr.2……。勝てたのが不思議なくらいだ……」

 

 私は本心からそう思い、彼の強さを讃えた。

 単純な戦闘力で言えば完全に上を行かれていたと思う。今まで真剣勝負した相手の中で一番強かった相手だ……。

 

「くっ、あぢし……、の負けよ……、さっさと、トドメを刺しなさァい……」

 

「驚いたな。まだ意識があるのか……」

 

 私は悔しさに顔を歪めているMr.2のタフさに対して若干呆れ顔していた。

 

「オナベに負けたのなら、悔いはな――ガハッ! まだ喋ってるじゃなーい……、ぐふッ……」

 

「だから、オナベじゃないって……! 睡眠弾だ……、ダメージのある体には効くだろう……」

 

 彼の発言にムッとした私はMr.2の体に睡眠薬入りの弾丸を打ち込んで眠らせた。

 はぁ……、いろんな意味で疲れる相手だったよ……。

 

 

 さて、と。他のみんなは――。

 

 

「一刀流――獅子歌歌(ししそんそん)!」

 

 ゾロは鉄の硬度を誇るMr.1を神速の居合で斬り伏せた。

 この人はこの一戦で確実にレベルアップしたみたいだな……。

 

「トルネード・テンポッ!」

 

 私が作った天候棒(クリマタクト)を最初から上手く使いこなしていたナミは意外にもミス・ダブルフィンガーを終始圧倒していた。

 

 そして、天候棒(クリマタクト)に搭載している最強の切り札であるトルネード・テンポを見事に炸裂させてナミはミス・ダブルフィンガーを相手に快勝した。

 

「一万キロフルスイングッ!」

仔牛肉(ヴォー)ショットッ!」

 

 ミキータはサンジと組んでMr.4とミス・メリークリスマスのペアと戦闘をしていた。

 女性に手を上げない主義のサンジは徐々にMr.4とのタイマンに近い状態に勝負を持っていったので、ミキータも必然的にミス・メリークリスマスと一対一のような状態になっていった。

 

 ラッスーというイヌイヌの実を食べた銃から繰り出される爆弾がMr.4から打ち出されたが、ミキータはそれを打ち返すし、サンジもそれを蹴り返す。

 

 よってサンジとミキータは終始Mr.4ペアを圧倒してほとんどダメージを受けることなく完封してしまったのだ。

 

 ミキータは跳ね返した爆弾の爆発によって地面の穴から飛び出てきたミス・メリークリスマスに向かってハンマーをフルスイングして吹き飛ばし、サンジはMr.4に向かって怒涛の蹴り技のラッシュから必殺の仔牛肉(ヴォー)ショットを決めた。

 

 こうして我々5人はクロコダイルの集めた精鋭中の精鋭である5人のオフィサーエージェント全てに勝利したのである。

 

 あとは、戦争を止めつつ爆弾の処理……。そして、クロコダイルの討伐か……。

 ルフィはクロコダイルと戦えているだろうか……。

 

 アラバスタ王国を巡る戦いは最終段階に進んでいた――。




原作と同じ組み合わせのゾロとナミはほとんど同じ展開で勝利しました。
そして、サンジとミキータはMr.4ペアを圧倒しました。
戦力的にも相性的にも負ける要素がなかったので、一番ダメージが少ないのはこの二人ですね。
ダメージが一番大きいのはもちろんライアです。
いよいよ残すはクロコダイルのみとなりました。
次回には終結が見えてくると思います!


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雨が降った日

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
アラバスタ王国編もクライマックス。
それではよろしくお願いします!


「とにかく、優先すべきは爆弾の処理だな……」

 

 爆弾が爆発してしまえばクロコダイルを倒せても元も子もない。

 

「しかしライアちゃん、こんだけの人数が暴れ回ってる中で爆弾を探し出すのは並大抵じゃないぜ」

 

 サンジが現実的な問題を口にする。しかし、それに関しては問題ない。なぜなら、私は爆弾の設置場所を知っているからだ。

 

「いや、爆弾の在処なら目星はついてるよ。ここに来る前に時計台が見えたんだ。あそこなら、見通しもいいし、爆弾を撃ち出すにはうってつけだ。おそらくそこにある」

 

 私は時計台に爆弾があるという話を予測という形で伝えた。

 

「そういうことか。ならとっとと時計台に行くぞ」

 

「待ちなさいよ。あんな高いところ簡単には登れないわ。時間もおそらく10分あるかないかだし……」

 

 ゾロが動こうとするが、ナミがそれを制止する。

 

「キャハッ……、船長がいればジャンプで行けないこともないんだけど」

 

 ミキータとルフィのコンビネーションなら、確かに何とかなりそうだな。しかし、あそこに行くのに最もうってつけの人物は――。

 

「わっ、私が行こう……。すまない。ビビ様だけでなく、宮殿まで守っていただき――」

 

 ペルがよろよろと立ち上がり、私たちに頭を下げようとする。

 そう、飛行能力を有するペルの力こそ今一番必要な力だ。

 

「まだ、終わってないよ。守るのは、宮殿じゃなくて国なんだろう? ミキータ、一緒に来てもらえるかい?」

 

 私は彼の言葉を遮り話しだした。そして、ミキータの力もあれば心強い……。

 

「なんか作戦があるのね。ここまで来たら最後まで付き合ったげるわよ」

 

「ありがとう。じゃあ、ペル。私たちを乗せて行ってくれ」

 

 ミキータがいつになく真剣な顔をして頷くのを確認した私はペルに声をかける。

 

「わかった。しかし、私が人のことを言える立場ではないが君も重傷だ。なぜそこまでして動くことができる?」

 

「仲間を助けるのに理由なんか要らないよ。うちの船長がそんな人だから、私たちも自然と感化されたのかもしれないね」

 

 ペルの疑問に私はそう答えた。ルフィが仲間のために命を懸ける姿を私を含めてみんなが見ている。

 だからこそ、私たちもそれに付いていこうと思うし、そうありたいと思うのだ。

 

「私も短い間に甘くなったものだわ。あんたらの船長はイカれてる。でも、それも悪くないって思ったもの……」

 

 ミキータもルフィの無鉄砲とも思える行動に多少影響されたみたいだ。

 

「ビビ様が君たちを信頼した理由がわかったよ。アラバスタ護衛隊の名にかけて、必ず君たちを時計台まで届けよう」

 

「よろしく頼む。空を飛べる君がいるなら確実に爆弾は処理できる」

 

 ペルは嬉しそうに微笑み、私たちを乗せて時計台へ飛び立った――。

 

 

 

 時計台に近づいた私は2人の人間の気配を感じた。

 それは、爆弾を撃ち出す任務を請け負っているMr.7とミス・ファザーズデーペアの気配だ。

 こちらに向かって銃を向けているな――。

 

 いいだろう、狙撃(それ)は私の土俵だ。負けるつもりはない。 

 

「アジャスト! “ゲロゲロ銃”! 邪魔はさせないの! ゲーロゲロ!」

 

「ペル、右に旋回! 必殺ッッ! 鉛星ッッッ!」

 

 私はミス・ファザーズデーが引き金を引く瞬間を見極めてペルに指示を出す。

 

 そして、その瞬間にミス・ファザーズデーの利き腕を撃ち抜いた。

 

「ゲロッ!? ぎゃアアア!」

 

 ミス・ファザーズデーは銃を落として、膝をついた。

 

「この距離で移動しながらだというのに、なんて狙撃精度だ!?」

 

 ペルが回避行動をとっているスキに狙撃を成功させたので、彼は驚いた口調だった。

 

「ミス・ファザーズデー? オホホホ! まぐれ当たりは一度きりってスンポーだね。アジャスト! ――ぐはぁッ!」

 

 そして、続けざまにMr.7も狙撃して無力化させる。

 さすがに銃撃戦では負けたくない。

 

「その怪我でも、狙撃に関してはとんでもないわね……。Mr.7も名のあるスナイパーなんだけど……」

 

「これだけが取り柄だからね」

 

 ミキータの感心したような声に対して、私はそう答えた。

 よし、時計台の中へ入るぞ……。

 

 

 時計台の中には大砲と砲弾として巨大な爆弾が設置されていた。

 

「キャハッ……、このでっかい爆弾、時限式なんだけど」

 

 爆弾をいち早く確認したミキータは焦ったような声を出した。

 やはり、時限式だったか……。

 

「何ッ!? クロコダイルのヤツ……。どこまで悪辣なんだ……。こうなったら、私が……」

 

「早まるんじゃない。あれを外に運び出すなんて真似したら君の命が無事で済むはずがないだろう」

 

 ペルが自分を犠牲にして砲弾を運ぼうとしたので、私はそれを止める。

 漫画だと、この人が爆弾の爆発と共に死んだと見せかけて生きていたけど、この世界でも同じようになるとは限らない。

 

「だが、もうこれしか方法は……」

 

 ペルが困った顔をしてそう言ったが方法はある。

 

「ミキータ、君ならこの巨大な大砲ごと持って行けるだろ? 爆弾が爆発する瞬間に最高地点になるように私が砲撃をする」

 

「キャハハッ! 最っ高じゃない。もしもタイミングをミスしたら仲良くお陀仏ってわけね」

 

 私が作戦を話すと、ミキータは何故か喜んだ顔をしていた。うーん、彼女のツボがわからない……。

 

「すまない。君の力にはいつも助けられてる」

 

「バカ……。今さらよ、そんなの。あなたが望むなら私は――」

 

 私が彼女に謝罪すると、ミキータはボソリと聞き取れないくらいの声で何かを呟きながら大砲を持ち上げた。

 キロキロの実の能力って何気に凄くないか? 

 

「なっ、キロキロの実の能力というのは、これほど巨大な大砲の重さもコントロール出来るのか……」

 

「ちょっと、失礼するわよ」

 

 ペルも私と同様、ミキータの力にあ然としていると、彼女は大砲を抱えてペルの背中に乗った。

 

「なるべく高い位置まで行ってほしい」

 

「承知した」

 

 私もペルの背中に乗って、彼に出来るだけ高度を上げるようにお願いした。

 

 

 

「すまない。この辺が限界だ……」

 

「これぐらいなら、爆発の影響が地上にまで及ぶことはほとんどないはずだ」

 

 地上からかなり高い位置まで舞い上がったペルの背中の上で私は砲弾を撃ち出す準備をした。

 

「撃ち出した瞬間に私たちの重さを1万キロにコントロールする。爆風からの影響を抑えられるはずよ」

 

 ミキータは気を利かせてそう言ってくれた。やはり、彼女は機転が利く。

 

「わかった。何から何まで済まない……。よしっ! 砲撃を開始する!」

 

 私は時限爆弾の爆発する時間と砲弾の打ち上がる高さを計算して、導火線に火をつけて爆弾を空中に撃ち出した。

 

「――一万キロプロテクト!」

 

 ミキータが全体の重量を最大に変化させ、爆風に吹き飛ばされないように防御する。

 

「ぐっ――さすがに爆風がッ!」

 

 もの凄い爆風を感じるが、一万キロの重量の私たちはビクともしない。

 

「だけど……、上手く行ったわね……。あとは、船長があのサー・クロコダイルに勝てるかだけど……」

 

 ミキータは遠い目をしながらルフィとクロコダイルの勝負のことを口にした。

 

「ルフィなら、勝つさ……。彼は負けない。負けるはずがないんだ」

 

「だといいけど……。って、あれは――」

 

 私がルフィの勝利は確実だと口にすると、ミキータが驚いた顔をして指をさした。

 

「くっ、クロコダイル? なんてことだ――。あの男が王下七武海の一角を本当に落としたというのか」

 

 ミキータが指さした方向には文字通りぶっ飛ばされたクロコダイルがいた。

 やはり、勝ったか……。信じてたよ……。

 

「ほらね……、ルフィは勝った……、だろ……」

 

「ちょっと、あんた大丈夫!?」

 

 私がふらつくと、ミキータは心配そうな声を出す。

 

「大丈夫さ。せっかく戦いが終わるんだ。最後まで見届けるよ」

 

 そうだ。ここまで頑張ったのだから、この国に平和が戻る瞬間まで意識は保ちたい。

 いつも気絶してばかりだし……。

 

「戦いが終わるか……。ビビ様が奮闘してるとはいえ……。ん? まさか、雨が……」

 

「奇跡が起こると、人の意識は一瞬でも1つになる。そうなれば――」 

 

「キャハ……、ずいぶんと静かになったわね……」

 

 雨が降った。この国は渇いていた。

 そこに天から恵みが降り注いだのだ。

 

 あれだけ激しく争っていた人々はその一瞬に静まり返った――。

 

 これが千載一遇の好機となったのである。

 

「あそこに居るのはイガラムさん……それにチャカも……」

 

「ふぅ……。ようやく終わったか……」

 

 ペルの言葉を聞いて、私はこの国の動乱にピリオドが打たれたことを察した。

 

 

 

 

 

「悔やむことも当然――やりきれぬ思いも当然。失ったものは大きく、得たものはない。が、これは前進である! 戦った相手が誰であろうとも、戦いは起こり、今終わったのだ! 過去を無きものになど、誰にもできはしない! ――この戦争の上に立ち! 生きてみせよ! アラバスタ王国よ!!」

 

 アラバスタ王国の国王であるコブラは、クロコダイルの陰謀により踊らされて反乱を起こした者たちにそう声をかけた。

 

 国というものは人がつくる。確かに壊れたモノ、失ったモノは多いけど……。民衆の意識は確実に前を向いた。

 だからとて、この惨劇の上で前進だとはっきりと宣言できる為政者がこの世界に一体何人いるだろうか――。

 

 

「お疲れ様。よく、頑張ったね。ビビ」

 

「ライアさん! あはっ! 無事で良かった!」

 

 ペルがビビの近くに着陸して、私とミキータを下ろすと、ビビが笑顔を見せて私に飛び付いてきた。

 

「わっ、どうしたんだい? 国が無事で嬉しいのはわかるけど」

 

 ギューッと抱きしめてくるビビの勢いに少しだけ私はびっくりする。

 いや、たくさん人がいる中でちょっと恥ずかしいような……。

 

「――ちょっと、私も無事なんだけど」

 

 ミキータが不機嫌そうな顔をして呟いた。

 

「ビビ様、国王様も見ておられます。あまり、そのう。激しいスキンシップは如何なものかと……」

 

「王女様! いくら国の恩人とはいえ、気軽に男性に抱きついてはなりませんぞ」

 

 ペルとイガラムはそんなビビを諌めていた。というか、イガラムに至っては私のことを男だと認識してたし、もの凄い殺気を私に放っている。

 

「まぁ、待て。イガラム……。ビビも年頃の娘……。この国は彼らによって救われた――。恋心の1つや2つ……」

 

 そして、国王のコブラは優しい表情でイガラムを宥めていた。いや、海賊に恋しちゃまずいでしょ。

 それ以前に――。

 

「ちょっと、待ってくれ。私は女だ! 血が足りないから、あまり叫びたくないが……」

 

「「ええっー!」」

 

 私が性別を告げると、周りの人間が一斉に驚く。コブラも先ほどの威厳が吹き飛ぶくらいの驚きようだ。

 

「恩着せがましいことは言いたくないんだけど……。なんで、国一つ助けてこんな仕打ちを……」

 

 私は少しだけ悲しくなって愚痴をこぼした。

 

「まぁ、それはそれで、アリだが。逆に……」

 

 コブラの表情は一転して威厳のある顔つきでそんなことを言っている。アリってどういうこと?

 

「ナシに決まってます! 王家が滅びますよ! 何を真顔で仰ってるんですか!」

 

 イガラムはそんなコブラにツッコミを入れている様子だった。

 

「ほっ……良かった……」

 

「あんた、マジでホッとしてるでしょ?」

 

 コブラの反応を見ていたビビは何故か安心しきった顔をして、ミキータは呆れた顔をしてツッコミを入れていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 それから3日が過ぎようとしていた。

 ルフィはよほど激闘だったのか、ずっと眠り続けていた。

 さすがに彼の弱点を突くために私が彼に持たせた“ヌメヌメボール”を使っても、クロコダイルを倒すのは骨が折れたか……。

 

 “ヌメヌメボール”は強く握ると拳が水で覆われるという単純な仕掛けのアイテムであり、対クロコダイル用に私が用意したものである。

 

 まぁ、漫画だと2回負けてるし、その分の経験を補ったと考えれば妥当か……。

 

 

「ライアさん、おはよう!」

 

 私が宮殿から外に出ようとしたときにビビから声をかけられた。

 

「おはよう。悪いね。宮殿でお世話になっちゃって」

 

「もう。当たり前でしょう。みんなは国を救ってくれた恩人なんだから」

 

 ビビは宮殿で私たち全員がまとめて面倒を見てもらっていることを当然だと言う。

 それでも、海賊を匿うリスクは高いので申し訳ないと思っている。

 

「そうか……。で、そのう……。君はどうして手を握っているんだい?」

 

 クロコダイルを倒した日から、ビビのスキンシップが激しくなったような気がする。

 ナミやミキータには普通の態度なんだけど……何故か私にだけ……。

 よく、抱きつかれたり腕を組まれたりして、イガラムにそれを見られる度に注意をされていた。

 

 そして、コブラはなぜか嬉しそうな顔をして頷いていた。“尊い”とか言ってたけど何なんだろう。

 

「あっ……。これは、えっと。別に深い意味はないの。そっ、外に用事があるんでしょ? 行ってらっしゃい」

 

 ビビは無意識にやっているのか、ハッとした表情をして顔を赤らめて話題を変えた。

 

 深い意味はないのか。それならいいけど……。

 

 

 私は目的の場所に向けて歩いていった。

 

 

「やぁ、たしぎ曹長。先日はどうも」

 

「――私たちは何も出来ませんでした。あなたたちが全部終わらせたから……」

 

 私は電伝虫でたしぎから呼び出され、人目に付かない場所で2人で会っていた。

 スモーカーの気配を感じたら逃げようと思ってたけど、本当に誰もいないみたいだな。

 

「そんなことはないさ。海軍があのタイミングでクロコダイルの確保に動いてくれたから、彼は焦って動きが雑になり――そして最後には崩れた。自分の功績を卑下する必要はない」

 

 私はふてくされたような表情の彼女にそう言った。

 実際、そのおかげでかなり楽をさせてもらえた部分がある。

 

「スモーカーさんが言ってました。海軍には海賊になったフリをして諜報活動を行う機密部隊があるって噂を聞いたことがあると……」

 

「そうなんだ。へぇ、それは面白い風聞だね」

 

 たしぎから聞いた話は確か本当だった気がする。あれは大変そうな仕事だ……。

 

「だからといって、海賊である限り誰であろうと心を許すな、とも言われました」

 

「当然だね……。だったら、私を捕まえるかい?」

 

 たしぎのセリフに私は頷いた。

 そうかもしれないから、という理由で海賊を捕らえることを躊躇するなんて、スモーカーは許すはずないよな。

 

「今はやめておきます。しかし、もうじきあなたにも懸賞金がかかると聞きました。ロロノア・ゾロと共に……」

 

「ちょっと待ってくれ。ルフィとゾロはともかく、2人よりも圧倒的に戦闘力が劣る私になぜ懸賞金が!?」

 

 たしぎはこの場は見逃すと言ったが、それよりも聞き逃せないのが、私に懸賞金がかかるという話だ。

 なにそれ? 面倒くさい……。

 

「お忘れですか? 懸賞金はその人物の危険度を表しているだけです。単純に強ければ高いということではありません。あなたは巧みな誘導であのクロコダイルの計画を崩した。海軍まで利用して……。上層部はそれを危険視したみたいです」

 

 なるほど、調子に乗って海軍を利用したのが気に食わなかったのか……。

 そりゃあ、海賊に踊らされたんじゃ面子が潰されたも同然だもんな。

 

「そっか。教えてくれてありがとう。敵だから頑張ってとは言えないけど――いつか、自分の正義が貫けるくらい強くなるといい。そしたら、そんな顔をせずに済むのだから……」

 

「――ッ!? 悔しくて仕方ないんです。力がない自分が。何も出来なかった自分が……」

 

 私がたしぎに声をかけると彼女は顔を歪ませて、無力を嘆いていた。

 あのとき、動乱の中で海軍の姿も確認したけど、プライドが傷つけられる何かがあったのだろうか?

 

「何も出来なかったなんてことはないよ。クロコダイルを捕まえたのは君たちだ。これは海賊(わたしたち)にはどうやったって出来ないからね。それにこれだけの動乱の後にも関わらず治安もそれほど荒れてない。それは海軍(きみたち)のおかげさ」

 

 とはいえ、私たちじゃどうにも出来ないことをやってくれるんだから、海軍はアラバスタ王国にとってありがたい存在である。

 私たちなんて基本的に倒したらそれで終わりだし……。

 

「あなたは一体何者――」

 

「しっー。それは知らない方がお互いのためだよ。うん。目に少しだけ力が戻ったみたいだね。君はその方が美しい」

 

 私はたしぎの唇に指を当ててそれ以上の詮索をやめさせる。

 これ以上話すとボロが出そうだからだ。

 

「うっ、うっ――ッ! かっ、からかわないで下さい! 本気にしたらどうするんですか?」

 

「からかってなんか無いさ。真剣に正義を貫こうとしている君は良い表情(かお)をしていた……。それだけだ……」

 

 ゾロから刀を奪おうと意気込んでいた彼女は凛々しかったし、気迫もすごかったので、私はそれを伝えた。

 

「………………はっ! えっ、えっと、とにかく伝えることは伝えました。そして、この電伝虫はお返しします。スモーカーさんが二度と利用されるのは嫌だから突き返せと言ってましたので」

 

「ふーん。彼らしいな。じゃあ、縁があったらまた会おう」

 

 たしぎは数秒間ボーッとしていたかと思えば、急に電伝虫を手渡して、プイとそっぽを向いた。

 私はそれを受け取り宮殿に戻った。

 

 宮殿に戻ると、ちょうどルフィが目を覚ましたと連絡を受ける。

 

 彼が目を覚ましたということは……。この国から出航するのは今夜あたりになりそうだな……。

 

 このときの私は何もわかってなかった。いつか、ナミが私に言った“責任”という言葉の重さを――。

 まさかビビがそこまで私のことを――。

 




ライアに懸賞金かけるかどうか迷ったんですけど、ウォーターセブン編が終わるまで待てなかったので、つい……。
ルフィVSクロコダイル戦は全カット。原作よりも盛り上がりも欠けそうでしたし、ライアは爆弾の処理をしてましたからやむを得ずです。
次回でおそらくアラバスタ王国編は終了となります。
百合を全面に押し出せるように頑張ります!


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アラバスタでの最後の夜


いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
前回、アラバスタ王国編のラストとか書きましたが、終わりませんでした。お風呂シーンを長々と書いてたら終わりませんでした。すみません。
それでは、よろしくお願いします。


 

「15食も食い損ねてる!」

 

「なんでそういう計算は早いのよ。あんた」

 

 起きるなり、1日5食計算で食べられなかった食事の回数を素早く計算するルフィを、ナミは呆れた顔をして見ていた。

 

「ふふふ、食事ならいつでも取れるようにしてるから平気よ」

 

 イガラムの奥さんであるテラコッタがルフィに朗報を伝える。

 

「おばちゃん! おれは3日分食うぞ!」

 

「任せときな! 存分にお食べ!」

 

 ということで、目覚めたルフィを含めたみんなで食事会が開かれた。

 

 

 

「いつにも増して素晴らしい食欲だな。惚れ惚れするよ……」

 

 ルフィはとんでもない量の食べ物を、まるで手品のように体の中に消し去っていった。

 私はそれを見て感嘆していた。

 

「ほっ、惚れる? ライアさんはよく食べる人が好きなの?」

 

 隣で食事をしていたビビが私の言葉に反応してそんなことを聞いてきた。

 

「えっ? まぁ、そうだね。あれくらい豪快だと清々しいと思うよ」

 

 私は質問の意図が掴めず、ルフィを見たままの感想を伝えた。

 

「よしっ! 私も――もぐもぐ……。おかわり!」

 

 するとビビが今までにない食欲を見せて、凄まじい勢いで食べ始めた。

 

「おれ! この肉のやつをもっと!」

 

「わっ、私も……!」

 

 ルフィのおかわり、に対してビビもそれに張り合っておかわりを要求する。

 

「ちょっと、あんた。もしかして船長と張り合ってんの? やめなさいって」

 

 ミキータが心配そうな顔をして、それを止めようとする。

 

「ライア……。あなた、また余計なこと言ったでしょ」

 

 そして、ナミはじぃーっと私の顔を見て、ビビが変なのは私のせいだと言ってきた。

 そんな心当たりがまったくないけど……。

 

 

「うぷっ……」

 

「ビビ、食べ過ぎだよ。大丈夫かい?」

 

 私はビビの背中をさすりながら、彼女に声をかけた。

 

「ごっ、ごめんなさい。ルフィさんには敵わないみたい」

 

 ビビは何を考えているのか、当然のことを口にする。

 

「あっ、当たり前だろ。あははっ! でもビビって面白いね。こんな一面もあったんだ。一緒に居て楽しいよ」

 

「いっ、一緒に居て楽しい? えへへ……ふふっ……」

 

 私が笑うとビビもヘラっとした笑顔を見せて楽しそうな表情を見せてくれた。

 こういうお茶目なところも彼女の魅力だと思う。

 

「キャハハ……、見てられないわ。だらしない顔しちゃって」

 

 そんなビビを見て、ミキータはやれやれというようなポーズをとっていた。

 

 

 食事のあとは国王のコブラの勧めで、宮殿の自慢の大浴場を利用することとなった。

 本来は雨季にしか使わないので特別のようだ。

 てことは、みんなで風呂に入るってこと? 気が乗らないんだけどな……。

 

 

「ううっ……本当にみんなで入るのかい? あまり体を他人に見せたくないんだが……」

 

「何言ってんの。そういえば、あなた病気のときも極力見せないようにしてたわね。サンジくんが買ってきた服も着なかったし……」

 

 私が服を脱ぐことを躊躇っていると、ナミがハッとした表情で今までのことを思い出してきた。

 私が極力露出の少ない格好をしていることに気が付いたみたいだ。

 

「だから、それは……」

 

「キャハハ、まさか上半身だけ女で下半身は男だったりして。そういう人もいるって聞いたことがあるわ。つまり下には――」

 

 私が言葉を詰まらせるとミキータがとんでもないことを口にしてくる。

 私の下半身を指さしながら……。

 

「えっ……? ううん。だっ大丈夫よ、ライアさん。もし、ライアさんの下半身に、その……。男性のええーっと、なんて言えば……」

 

「言わんでいいし。そんなわけ無いだろう」

 

 私の下半身を顔を真っ赤にしながら見つめていたビビが王女が言ってはイケナイことを言おうとしてたので、私は素早くそれを否定した。

 

「だったら、良いじゃない。ほら、脱ぎなさいって」

 

「ちょっと、ナミ……。そんな乱暴な脱がせ方はないだろう」

 

 すると業を煮やしたナミが強引に私の服を脱がせてきた。

 

「キャハッ……観念しなさい。私がこっちを押さえておくわ。ほら、あんたも手伝って」

 

 さらにミキータが後ろから私の体を取り押さえてきた。

 

「わっ、私? なんだかイケナイことしてるような……」

 

 ビビはまだ顔を赤くしてこの状況に戸惑っている。

 

「何言ってんの。ミス・ウェンズ……いや、ビビ。だから、楽しいんじゃない」

 

「ミス・バレンタイン……。私の名前……」

 

 ビビはミキータから自分の名前を呼ばれてハッとした表情をした。

 二人ともなぜかずっとコードネームで呼び合ってたもんな。

 

「会社もなくなったんだから。コードネームで呼び合うのも馬鹿らしいでしょう。キャハハ」

 

「くすっ、それもそうね。ミキータ……」

 

 ミキータが笑ってそう言うと、ビビも笑って彼女の名前を呼んだ。

 いや、いい話なのかもしれないけど……。

 

「友情を育んでるところ悪いけど……自分で脱ぐから離してくれないかな?」

 

「キャハハッ! だから、()()()()()()()から面白いのよ。わかってないわね」

 

 私がミキータに解放を要求すると、彼女はエスっ気たっぷりの笑みを浮かべて、彼女の趣向を話してきた。知らんがな、そんなの……。

 

「そゆこと。いつもしたり顔して、カッコつけてるんだから。たまにはこういうのも良いでしょ」

 

「まったく。何が楽しいのか理解出来ないよ」

 

 ナミもミキータに同調している。何だかんだ言って、この2人も気が合うみたいだ。

 

「キャハッ……。ビビは、どっちかというとライアに無理やり脱がされたかったりして」

 

「――ッ!? ライアさんに脱がされる……」

 

 ミキータはさらにビビに対して変なことを言うと、ビビは何とも言えない表情をしてボーッとしていた。

 

「こらこら、だらしない顔しないの。何を想像してるの? エッチなんだから」

 

「ちっ、違うわ。そんなこと考えてないもん」

 

 ナミがジト目でビビを見つめると、彼女は慌てて両手を振って否定するような仕草をした。

 

「キャハハ、正直ね〜」

 

 ナミとミキータはお喋りをしながら、あれよあれよという間に私の服を脱がして、あっという間に下着姿にされてしまった。

 

「ああっ……」

 

「ほら、そんなに恥ずかしがらなくても……って、そういうこと――」

 

 私が体を縮こまらせて隠そうとすると、ナミは察したような顔をした。

 

「ライアさん……なんでこんなに傷跡が……」

 

 ビビはビックリした顔をして私の体を見つめていた。

 

「子どもの頃から強くなるために鍛えてたんだけどね。上手くいかないもので、傷が増える一方だったんだ」

 

 そう、特訓漬けの毎日で私は体中に傷を負っていた。

 生まれつき色素が薄いこの体は跡が残りやすく、至るところに生々しい傷跡を刻む結果となっていた。

 

「増える一方って、あんた……。なんでそこまでして……」

 

「父親がいるところというのが、ちょっとした努力くらいじゃ届かない場所だからさ。ごめん、こんな体を見せ――って、ビビ……」

 

 四皇である赤髪の船に乗ってる父に会うには、頂上戦争を最後まで意識を保って生き残るというバカみたいな難易度をこなさなきゃならない。

 それを言おうとすると、下着姿のビビが私の背中の傷を撫でながら抱きついてきた――。

 

「ライアさんは初めて会った日も傷を作って、私を守ってくれた。私はそんな体だなんて、思わない……。素敵だし、憧れてるわ……」

 

 静かにはっきりと彼女は私のこの体を肯定してくれた。

 ビビはとても優しい子だ……。

 

「そう言われて嬉しいよ……。でも、下着姿同士で抱き合うっていうのは、ちょっと……」

 

「そっ、そうよ。キャハッ……どさくさに紛れてナニやってんのよ。あんた」

 

 私が困った顔をしていると、ミキータがポカリとビビの頭を小突いた。

 

「――えっと、そのう。わぁ、すごい腹筋……」

 

「誤魔化したわね……。まぁ、いいわ。早く温まりましょう」  

 

 ぺたぺたと私の腹を触るビビを見ながら、ナミは早く服を全部脱ぐように促した。

 確かに脱衣所で時間かけすぎたとは思ってる。 

 

 

「これは見事だ……」 

 

「キャハッ……広ーい」

 

「ホント、素敵ねー」

 

 私たちは口々に大浴場の感想を口にした。いや、本当に立派なものだ。

 装飾から何からこだわりを感じられる……。

 

 

「あ、あの。ライアさん……、背中を流してもいいかしら?」

 

「ん? そんな改まって言うことかい? じゃあ、せっかくだからお願いしようかな?」

 

 浴場を眺めていた私にビビがモジモジしながら遠慮がちに声をかけてきたので、私はそれに応じた。

 

「「むっ……」」

 

 その瞬間にナミとミキータからただならぬ視線を感じたのは気のせいだろうか?

 

「しゃあないわね。私はナミちゃんの背中で我慢したげるわ」

 

「我慢って……じゃあお願い。あなたって、割とお人好しよね」 

 

 そして、ミキータはナミの背中を流すみたいだ。

 最近、ミキータは徐々に名前で私たちのことを呼ぶようになった。ゾロのことを『ゾロくん』って呼ぶのは彼女くらいだ。

 

「キャハハ、それ以上言うとお湯の中に沈めるわよ」

 

「はいはい」

 

 何だか、あっちはあっちで楽しそうに話をしているな……。

 

 

 そして、腰掛けた私の背中をビビが洗い始めた。

 

「うん。気持ちいいよ。ビビ……。上手だね……」

 

 ビビは上下に絶妙な力加減で手を動かしてくれるので、とても気持ちがいい。

 

「そっ、そう? 良かった。嬉しい……」

 

 彼女はホッとしたような声を出して、私の反応に安堵していた。

 

「どれ、交代しよう。今度は私が君を気持ちよくしてあげなきゃな」

 

「――う、うん。ありがとう……」

 

 今度は私がビビの背中を洗う。とはいえ、上手くできるか些か心配である。

 

「どうかな? 痛くないかい? こういうのって慣れてないからさ」

 

 ゆっくりと優しく手を動かしながら、ビビの反応を窺ってみる。

 

「大丈夫……。気持ちいいわ……」

 

 すると彼女は噛みしめるような感じでそう返事をした。

 

「そうか……。なら、良かった……」

 

「私、今――とっても幸せなの……」

 

 ビビは本当に幸せそうだった。おそらく国の危機が去っていったことを実感したからだろう。

 

「ははっ……! 大袈裟だな、ビビは。――ところで、さ。彼らが先ほどからこっちを見てるのが気になって仕方が無いんだが……」

 

 私はビビの返事に反応しつつ、ずっと気になっていた視線について話をした。

 

「「じぃ〜〜〜」」

 

「ちょっと、みんな! 何してるの!?」

 

 壁の上から男性陣が覗いてることにビックリしたビビは大声を上げていた。ていうか、国王が自分の娘の入ってる風呂覗くなよ……。

 

「あいつら――。幸せパンチ!! 1人10万ベリーよ」

 

「「ぐはっ!」」

 

 その様子を呆れた顔で見ていたナミは惜しげもなく自分の裸体を晒した。

 といっても、金はきっちり請求するみたいだが……。

 

「ほう。さすがはナミだね。やるもんだ。私なら、ああは行くまい」

 

「絶対に止めてね。ライアさん」

 

 私が感心したような声を出すとビビが真顔になってナミの真似は止めろと言う。いや、しないから。絶対に誰も喜ばないし……。

 

 

「――ふぅ。こんなに大きな湯船に浸かるのは、初めてだな」

 

「ねぇ、ライア。出航のことなんだけど。今夜はどうかしら?」 

 

 私が今世では間違いなく最大の風呂に浸かってしみじみとしていると、ナミが出航について相談してきた。

 

「そうだね。ルフィも目を覚ましたし、長居をする理由もないか……」

 

「ていうか、海軍がもう黙ってないでしょ。キャハッ……、船も危ないかも」

 

 私がナミの意見に同調すると、ミキータも冷静に船の心配をした。

 海軍が漫画よりも少しは遠慮がちになってくれればいいんだけど……。

 

「…………」

 

「迷ってるんでしょう? ビビ」

 

 黙っているビビにナミが声をかける。そっか、ビビは一緒に来るかどうか最後まで悩んだんだっけ。

 でも、結局国に残ることを決めた。

 

 私は正しい判断だと思った。大体、この麦わらの一味はここから世界の至るところに喧嘩を売って歩いて行くことになるし……。

 

「う、うん。でも、1つだけ決めたことがあるわ。ライアさん、あとで2人きりでお話できる?」

 

「私と? ああ、もちろんいいよ。じゃあ、風呂を上がったらでいいかな?」

 

 私が考えごとをしていたら、ビビが私と話がしたいと言ってきたので了承した。

 なんの話だろう? 海賊になるための相談? いや、それで私と2人でっていうのも変だ……。

 

「ありがとう――」

 

 思いつめたような表情でビビは静かにそう言った。

 しばらくして、十分に体を癒やした私たちは風呂を上がった。

 ああ、なんていい湯だったんだろう。まるで命を洗濯したようだった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「どうしたんだい? 2人で話がしたいって?」

 

 ナミとミキータには先にルフィたちのいる部屋に行ってもらって、私たち女3人が3日間寝泊まりした部屋にビビが入ってきた。

 

 私たちは同じベッドに腰掛けている。

 

 ビビはしばらく黙っていたが、意を決した表情で私の顔をまっすぐに見て口を開いた。

 

「ライアさん……あのっ……。わっ私、ずっと……あなたのことが……好きでした――」

 

「えっ? ビビ……それって……」

 

 私は思いもよらない彼女の言葉に面食らってしまった。

 

「最初に会ったときから素敵な人だと思ってた。気付いたら目で追いかけているようになっていて……」

 

「あっ……」

 

 ビビは今までにない力強さで、私をベッドに押し倒してきた。

 両腕を押さえられて、私は彼女の顔を見上げるような形で見ていた。

 

「女の人ってことがわかっていても、気持ちが抑えられなくなっていた。あなたに触れられるだけで胸がドキドキするの。見つめられるだけで、夜も眠れなくなる日もあったわ――」

 

「そんな、私は……」

 

 ビビは私に出会ってから抱いていた感情を吐き出していた。

 全然、気付かなかった。彼女がそんな気持ちを私に抱いてるなんて――。

 

「私はライアさん、ずっと、ずっとあなたのことが好きでした――。こんな気持ちになるのは初めてなの……。あなたが出航する前に、どうしてもこの気持ちだけは伝えたかった――」

 

「ビビ……えっと、その。顔が近いよ……」

 

 ビビはゆっくりと覆いかぶさるように私に顔を近づけてきた。

 私はあまりの展開に力が入らない。彼女の唇はすでに私の唇と3センチも離れていない。

 ビビが話すたびに吐息が私の口元にかかり、その表情はいつもよりも幾分大人びて見える。

 彼女の青く長い髪からはさっき一緒に使った石鹸の匂いがした――。

 

 一国の王女が海賊のしかも、女の私に――。

 でも、こんなことをするってことは……本気なんだろうな……。

 

 こんなときに私の頭に浮かぶのはシロップ村に残してきたカヤの顔である。

 最後に見た彼女の顔は、今のビビの表情とよく似ていた――。

 

「ねぇ、お願い……。私を攫ってちょうだい――」

 

 しばらく見つめあった後に、ビビは絞り出すように声を出した。

 私は一国の王女になんてことを言わせたのだろうか? 

 アラバスタ王国の最後の夜は――私には忘れられない夜となっていた――。

 




アラバスタ王国編で一番書きたかった回が投稿できて満足しております。
個人的には最近で一番楽しく書けたのですが、如何でしたでしょうか?
次回こそ、アラバスタ王国編はラストになる予定です。


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ビビの冒険


いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回でアラバスタ王国編は完結します。
ビビの告白の行方とか、そういったところに注目してみてください。
それではよろしくお願いします。


 

「――攫うって、穏やかじゃないね。どうした……? こんなの君らしくないよ」

 

 努めて冷静に、私はゆっくりとビビにそう声をかけた。

 

()()()()? 今、全部正直になっているわ。これ以上ないくらい自分らしく振る舞ってる」

 

 ビビはジッと私を力強い視線を送りながら返事をする。

 私を押し倒すことが自分に正直になった結果というのは何とも大胆だな……。

 

「そうか――。ごめん……、ビビ。君の気持ちにまったく気が付かずにいた……。配慮が足りなかった、と思うよ……」

 

「うん。ライアさんはちっとも気付いてくれなかった。でも良いの。そんなところも好きだから……」

 

 私が謝罪すると、ビビははっきりと私に好意を再び伝える。

 妖しく光る瞳は彼女の表情を艷やかに魅せる。

 

「わかった。君の気持ちはよく伝わったよ。正直……、戸惑ってるけど……。ちゃんと応えようと思う……」

 

「…………」

 

 私はビビの真剣な気持ちを理解して、はっきりと自分の気持ちを伝える覚悟をした。

 

「ビビ、君はとても美しいし、良い子だ。一緒に居て楽しいと言ったのも本当だ……。でも……、君の気持ちには応えられない。ごめん……」

 

 彼女の瞳を見つめて私ははっきりとした声で返事をする。

 

「それは……、私が女だから?」

 

「いや、あえて言うつもりは無かったんだけど……。故郷に恋人がいるんだ。()()を裏切ることは出来ない……」

 

 ビビの言葉を私は否定する。カヤの存在を口にすることによって。

 私が愛しているのは彼女しか居ないのだから……。

 

「――ッ!? じゃあ、ナミさんが言ってた“あの子”って……」

 

「ああ、私の恋人だ……」

 

 前にナミが口に出した“あの子”という言葉をビビは覚えていたみたいだ……。

 

「……そっ、そうよね。ライアさんだもん。ほっとかれるはずないわよね……。なんで、私……、気が付かなかったんだろう――。しかも、()()()だなんて……」

 

「ビビ……」

 

 ビビは特に女性が私の恋人だったことがショックだったらしく、泣きそうな顔をしていた。

 

「でも、嫌だ……。諦めたくない。身も心も全部、あなたのモノになりたい。どうしてもあなたが欲しいの!」

 

 しかし、ビビは私を掴んでいる手の力を更に込める。そして、涙をポタポタと私の頬に落としながら叫びに近い声を上げる。

 

「そこまで、想ってくれて嬉しいけど……、どうしても君の気持ちには応えることはできないんだ。――責任をとる代わりに出来る限り何でも言うことを聞くから、それで勘弁してくれないだろうか……」

 

 自分の意志は曲げられない。しかし、どうやって責任を取るかというとそれはまったく思いつかなかった。

 

「何でも言うことを――?」

 

「私はカヤを裏切れないし、裏切るつもりもない。だけど、君を苦しめた罪は重いと感じている。君が本気ということは痛いくらい伝わった。だから、私に出来ることがあるのなら、なんでも言ってほしい……」

 

 私は声を震わせているビビにゆっくりと自分の意見を伝えた。  

 自分の不徳のせいで彼女を苦しめたことに対する贖罪の気持ちを込めて。

 

「――そこまで、カヤさんという方を愛してるの?」

 

 ビビは言葉を出し、そして唇を強く噛み締める。

 

「安っぽい言い方だけど、世界中の誰よりも……。私は彼女を愛してる」

 

 私はストレートに自分のカヤへの気持ちを伝えた。

 

「世界中の誰よりも……か。カヤさんが羨ましくて堪らないわ。でも、ライアさんが本気だということがわかった――。何でもいいのね?」

 

 ビビはそれを聞いて、何かを決意したような声を出す。

 

「もちろんだ。二言はないよ。嘘つきだけど、君を裏切るようなことは言わない……。って、あっ……、んっ……」

 

 私が彼女の言葉を肯定した瞬間、ビビは私の唇を奪った。柔らかな感触が私の五感を支配する。

 

「――ん、はぁ……、んっ……」

 

 ビビは少しだけ唇を離したかと思うと、今度は最初よりも激しく唇を押し付けてきた。

 まるで私のすべてを奪おうとするように、彼女から感じる温かな感触と柑橘系の香りのせいで、頭の中が真っ白になりそうだった。

 

「はぁ……、はぁ……、ビビ……?」

 

 私はビビとキスをしてしまった。多分私は、信じられないというような表情をしていたと思う。

 

「振られちゃったから、海賊っぽいことをしたの。あなたの想い出の一部を無理やり奪ったわ……。忘れてほしくないから」

 

 妖艶に微笑みながらビビは私の頬に両手を撫でるように這わせる。

 

「そんなことを――、んっ……、んんっ……」

 

 それを聞いた私が言葉を発しようとしたとき、ビビは再び私と唇を重ねた。

 今度は何度か軽く口づけをして、そして最後に私の唇を甘噛みするように激しく――。

 

「――んはぁっ、んんっ……」

 

 彼女の舌が私の下の歯に当たるのを感じる。

 ビビは興奮しているのか、喘ぎに近いような声を上げていた。

 

「――ぷはぁ……、はぁ……、確かに何をしても良いとは言ったけど……」

 

 私はビビの顔が離れたのを確認して、彼女に言葉をかけた。

 

「――はぁ、はぁ……、これで……、私のことを忘れないでいてくれる……?」

 

 ビビは今さら顔を真っ赤にして、瞳を潤ませながら私に確認するようにそう言った。

 

「……忘れるわけないさ。今日のことは多分一生忘れられないと思うよ……」

 

 どう考えてもこんな体験は記憶に刻まれて離れなくなると思う。

 

「でも、故郷の恋人さんにもこのことを正直に話すのね……」

 

「うん。カヤには誠実でいたいから偽りなく話すさ」

 

 ビビはすべてを見透かしたようなセリフを聞いて私はそれに頷く。

 カヤには今日のことも話すだろう。すごく怒られるだろうけど――。

 

「もしそれで、ライアさんが振られたら――。ううん、何でもない……」

 

 ビビは私の言葉を聞いて何かを小さな声でつぶやくと、首を振って微笑んだ。

 

「私のことを許してくれるのか?」

 

「許すも何も、私が勝手に好きになって舞い上がってただけだから。でも……、ファーストキスがライアさんで嬉しかった」

 

 私の質問にビビは笑いながらそう答える。何というか、こんなファーストキスで良かったのだろうか?

 

「――積極的というか、何というか……。でも、よく考えたら犯罪組織に潜入するくらいだもんなー」

 

 そう、この子はB・Wに王女という身分ながら飛び込んでスパイをするような子だ。

 彼女は私が思っている以上に直情的だったのかもしれない。

 

「ねぇ、ライアさん。もしも恋人が居なかったら……。もしも、私と先に会っていたら――」

 

「もしものことは、わからないさ。でも、君は誰が見ても魅力的だし、美しい。だから、私なんかよりも素晴らしい人間と巡り合える」

 

 私はビビが言いたいことを察してそれに答える。

 彼女にはいい人をキチンと見つけてほしいと思う。その気持ちは偽善なのかもしれないけど……。でも、本気でそう思ったから、それを口に出した。

 

「もう、意地悪なんだから……。嘘でも夢を持たせてくれれば良いのに」

 

 しかし、ビビは頬を膨らませながらそう言った。夢を持たせるって……。そんなの残酷じゃないか……。

 

「ごめん。じゃあそろそろルフィたちの所に行こう。君も迷っているんだろ? 私たちと来るかどうか。君のことを攫うことは出来ないけど……。来てくれるなら、歓迎するよ」

 

「うん……。もう一度考えてみる」

 

 私は立ち上がりビビの頭を軽く撫でて声をかけると、彼女は静かに頷いてそう声を出した。

 

 

 

 

 ビビと共にルフィたちがいる部屋に入ると、ちょうどMr.2から電伝虫に連絡が入ってきたところだった。

 彼は私たちの船を奪い移動させたと言ってきたのだ。

 ああ、そういう流れで彼に助けてもらったんだったっけ。私はこの辺の流れをすっかり忘れていた。

 

 彼から船を受け取るためにはアルバーナの西側にあるサンドラ河に行かなくてはならない。

 

 それを聞いたビビは私たちにどうしたら良いかと尋ねてきた。

 

 ビビの質問に対して、地図とにらめっこしていたナミが答える。

 

「今夜王宮を発って、サンドラ河で船を奪い返したら、明日の昼12時ちょうどに「東の港」に1度だけ船をよせる。その一瞬だけが船に乗るチャンス。その時は歓迎するわ、海賊だけどね!」

 

 つまりビビに与えられた猶予は約12時間。

 その間に彼女は自らの進退を決めなくてはならない。

 

 ルフィは絶対に来いよ、とは言ってたけど……。私はやはり彼女は残るべきだと思っていた――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 超カルガモ隊のおかげで我々はサンドラ河に最速でたどり着いた。

 

「あちしがこの船を移動させてなかったら、海軍に確実にやられていたわよ! 今、この島は海軍船で完全にフーサよ! 封鎖っ! スワン一匹も逃げられない!」

 

 Mr.2と再会した私たちは彼からこの島周辺の状況を聞いた。

 どうやらスモーカーが近海の海軍を集めたらしい。海軍を利用したのはミスだったかな?

 

「こんな状況だからこそ! つどえ! 友情の名の下に! 力を合わせて頑張りましょ〜〜う!」

 

 Mr.2は共に協力しあって窮地を脱しようと提案した。

 

「「うおおおおっ!」」

 

 ルフィもチョッパーも乗り気になって返事をする。

 

「キャハハっ! 友情ねぇ……」

 

「あら、ミス・バレンタイン。元オフィサーエージェント同士のよしみじゃなーい。仲良くしましょ〜う」

 

 ヘラっと笑うミキータに対して、Mr.2は手を差し出した。

 

「はぁ、あんたと争っても何の得もしないし。戦わないようにしとくわよ」

 

 ミキータは差し出された手を握って、共闘して海軍の包囲網を掻い潜ることとなった。

 

 

 海軍の包囲は思ったよりも厳重だった。

 八隻の海軍の船に囲まれた私は大砲を使って、船から放たれる鉄槍を撃ち落とす作業をしていた。

 

 

「ちっ、鉄の槍か……。厄介だね。私が一気に相手の陣営に穴を開ける。全速力でそのスキを突くぞ! ――くらえっ!!」

 

 私は海軍の船がもっとも密集している地点を狙って砲撃をした。

 

「おっ、マストを折って一気に3隻沈めるたァやるじゃねェか。やっぱ、狙撃の腕はすげェな」

 

 ゾロがニヤリと笑って私の砲撃を褒めてくれた。

 

「すっごいじゃなーい。さすがは同志ねい!」

 

「誰が同志だ! とにかく、このまま――!」

 

 私はMr.2にツッコミを入れてこのまま何とか包囲網を突破しようと考えた。

 

 しかし、海軍もそれをなかなか許してくれない。

 黒檻のヒナ――海軍本部の大佐の船がこちらに近付いてきた。

 

 くっ、このままじゃ、ビビを迎えに行けないじゃないか。私はいつの間にか、彼女にもう一度会うために必死になっていることに気付いた。

 

 そんな中、事情を聞いたMr.2が涙をながしながら決意した顔を私たちに見せた。

 

「いいか野郎ども及び麦ちゃんチーム……、あちしの言うことをよォく、聞きねい!」

 

 なんと、彼は自ら囮になると志願した。そして、彼はそれを実行する。

 

 私たちに成りすまして、黒檻のヒナをおびき寄せたのだ。

 

 

「Mr.2……、君から受けた恩は決して忘れない……。確かに君は――友情にアツいヤツだった……!」

 

「ボンちゃん! 俺たち! お前らのこと! 絶っっ対に忘れねェがらな゛ァ!!」

 

 私たちは彼の勇姿を見送りビビを迎えに行くために船を全速力で進ませた。

 

 

 

 東の港に着いたとき、拡声器によって、王国中に響き渡るビビの声が聞こえた。

 

『少しだけ……、冒険をしました――』

 

 彼女のスピーチは私たちとの冒険を指すような言葉だった。

 しかし、徐々に漫画とは異なる方向に進んでいった。

 

『――そして、初めて人のことを好きになり、見事に失恋してしまいました――』

 

 そう、ビビは私とのことまで話しだしたのだ……。

 これ、王国の人がみんな聞いているんだよね?

 

「ビビ……」

 

 私は昨日の夜のことを思い出して、気付けば人差し指で唇をなぞっていた。

 

『でも、やっぱりまだ、私はあなたのことを! 愛してる! だから、一緒には行けません! きっと辛くなるから!』

 

「あなた、あの子のことを……」

 

「想像にお任せするよ……」

 

 ビビの言葉でナミは敏感に何があったのか察して、私の顔を見た。

 

『――私はここに残るけど……! いつかまた会えたら! 仲間と呼んでくれますか……!?』

 

「あっ……、むぐっ」

 

 最後のビビの問いかけにルフィは答えようとしたが、ナミは彼の口を塞ぐ。

 

「海軍がビビに気付いている……」

 

「私たち海賊との関わりが公になると、彼女は“罪人”にされてしまうかもしれない……」

 

「このまま……、黙って別れるのが彼女のためよ……」

 

 私たちは口々にルフィに対して現状を告げた。

 私は確かにスモーカーに王国とつながってると匂わせたことを言ったことはあるが、あんなのは海賊の戯言と捨て置ける。

 

 しかし、今、海軍の目の前で彼女の言葉に反応をすると流石に言い訳はできない。

 

 だから……、私たちは――。

 

 

「これから何が起こっても、左腕のこれが……、仲間の印――か」

 

 私たち7人は左腕の✕印を掲げながら、彼女の元から去る――。

 

 これは――私たちだけに通じるサインだから――。

 

 さようなら、ビビ――。最後の君の質問に答えられなくてごめん。

 そうだね。もしも、君と先に会っていたら私は――。

 

 

 淡い想い出を胸に秘めて、私は次の冒険に視線を向けていた。

 別れというのは、思ったよりも痛いんだな――。

 

 

 

「なァに? キャハッ……、ビビのこと振ったの後悔してんの?」  

 

 ミキータがボーッとアラバスタ王国の方向を眺めている私に声をかけてきた。

 別に……、後悔はしてないんだけど……。

 

「まさか……。彼女は私なんかよりも、よほどいい人と出会うことになるさ」

 

「それはどうかしら?」

 

 私が彼女の言葉に返事をすると、ミキータは懐疑的な表情で私を見つめていた。

 

「ていうか、ミキータ。君はこのままウチの船員(クルー)になっていいのかい? もう刺客に狙われることはないんだぞ」

 

「そうね。でも、思ったよりもあんたらと居るのが楽しくなっちゃったから……」

 

 私は彼女に我々と共にいる利害関係がなくなったことを伝える。

 

 しかし、彼女は麦わらの一味に愛着みたいなのが芽生えたらしく、このまま共に旅をするつもりらしい。

 

 まぁ、特にルフィがミキータのことを気に入ってるからな。完全に仲間として扱ってるし、合体技とか出来て、すごく嬉しかったみたいだし……。

 一緒に旅を続けることは誰も反対しないだろう。

 

「そっか……」

 

「キャハハ……、軽くなることくらいが取り柄の私だけど、寂しさくらいは紛らわせてあげるわよ」

 

 私が短く返事をすると彼女は肩を組んで慰めるような言葉をかけてきた。

 

「ありがとう。でも、しばらくこの気持ちも大切にしときたいかな」

 

「はぁ、あんたがそんな奴だから。あの子も――」

 

 私は彼女の好意に対してそう答えると、ミキータはため息をついて私を呆れ顔で見ていた。

 

 しばらくしてルフィはミキータを海賊団の“伝令役”に任命する。

 ずっと彼女の役割についてそれなりに真面目に考えてたらしく、フットワークが軽いことに目をつけて任命したらしい。

 

 そして、ミキータの役職も決まったころ、ビビが居なくなった寂しさを忘れられない私たちはもう一人の仲間と出会うこととなった――。

 

 

 




積極的なビビを書いてると止まらなくなってしまって、やり過ぎた感もありましたが、ライアに忘れられない想い出を刻んでいきました。
振られてしまったビビは残念ながらアラバスタ王国に残るという結果に……。
そして、アラバスタ王国編の終わりにビビと仲良くなって護衛団入りする予定だった、ミキータが何か知らない内に船に乗っててびっくり。
ということで、書いてる内にドンドン愛着が湧いてしまったミキータは麦わらの一味に“伝令役”として正式に加入しました。
ムードメーカー的な存在になってほしいと思ってます。こうなったら最後まで連れていきますとも。
身勝手にも前言を撤回してしまって申し訳ありません。


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空島編
空島を目指せ


いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ミキータ加入が好意的に受け入れられて嬉しいです!
今回から空島編がスタートします!


「何言ってんだ、お前! おれはなんもしてねェぞ!」

 

「いいえ、耐え難い仕打ちを受けました。――責任とってね」

 

 ゴーイングメリー号に密航していたミス・オールサンデーことニコ・ロビンがルフィが自分に対してした事の責任を取るように告げてきた。

 

 サンジはルフィの胸ぐらを掴んで怒鳴っているけど、君が考えてるようなことはしてないと思うよ。

 

「意味わかんねェ奴だな。どうしろって言うんだよ?」

 

「私を仲間に入れて――」

 

 ルフィの問いに対して、ロビンは自分を仲間に入れるように要求をした。

 ロビンか……。彼女の人生も壮絶だよな……。

 バスターコールとか、一生体験したくない……。

 

「「はぁ!?」」

 

 ロビンの唐突な要求は船員(クルー)たちにとっては驚くべきものだったみたいだ。

 

「――死を望む私を生かした。それがあなたの罪……。私は行くあても帰る場所もないの。――だから、私をこの船に置いて」

 

「なんだ、そうか。そらしょうがねェな。いいぞ!」

 

 そして、行くところがないと主張する彼女にルフィはあっさり許可をした。

 

「「ルフィ!」」

 

「心配すんなって! こいつは悪いやつじゃねェから!」

 

 許可を即答で出したルフィに対して、一斉にツッコミが入るが、彼はあっけらかんとした態度で笑って流した。

 そんなわけで、ロビンはあっさりと麦わらの一味に加入した。

 

 

 しかし、納得してない面々が多かったので、私が面談のような形を取りロビンにいくつか質問をすることとなった。

 

「ふむ。8歳まで考古学者……、そして賞金首……。なかなかハードな人生だね」

 

「ええ、そのおかげで裏で動くのは得意になったわ。お役に立てるはず」

 

 ロビンは概ね漫画と同じような人生をたどっているみたいだった。

 うーん。まだ、そこは掘り下げないほうが良さそうだな……。

 

「そっか、何か得意なものはあるのかい?」

 

「――暗殺」

 

 そして、私が彼女に特技を質問すると、暗殺という答えが返ってきた。  

 まぁ、彼女の能力は暗殺向きだよね……。

 

「なるほど。うん、一通り聞いたけど問題ないみたいだね」

 

「問題あるわよ! バカ! 今、物騒な言葉を言ってたのが聞こえなかったの!?」

 

 私がロビンへの質疑応答を終えたという感じを出してると、ポカリとナミからげんこつを食らった。

 

「痛いじゃないか。いや、だってさ。8歳で賞金首になったんだよ? 暗殺くらい特技にしないとやっていけないじゃないか」

 

 私は頭を擦りながら、生きるために仕方ないことだと主張した。

 海賊が倫理を説いてもしょうがないし……。

 

「ふふっ、やっぱり面白い人ね。狙撃手さんは……。へぇ、肌きれい……。食べちゃいたい」

 

 するとロビンは私の肩から腕を生やして、両頬を撫でてきた。

 肌はきれいかな? 日焼けには注意してるけど……。

 

「ちょ〜っと、何やってんの? 元副社長」

 

「ミス・バレンタイン……、大好きな狙撃手さんが取られると思ったのかしら?」

 

 そんな様子を見ていたミキータがムッとした表情でロビンの顔を覗き込むと、彼女はすました顔でそう返した。

 まさか、ミキータも……。私はビビの件があったのでビクッとした。

 

「そんなわけないでしょ! バカなことを言わないで!」

 

 あー、良かった。そりゃそうだ。危ない、自意識過剰になるところだったよ……。

 もう少しでミキータにまで好意を向けられているのかと思ってしまうところだった。

 

「こらこら、ムキになると相手の思うツボよ。犯罪組織の元副社長……。ルフィは騙せても私は騙されないわ。妙なことしたら、叩き出すわよ」

 

 さらにそのやりとりを見ていたナミがミキータの肩に手を置いて、ロビンに疑いの眼差しを向けた。

 

「さすが、ナミちゃん。ごめん、私が熱くなっちゃったわ」

 

 ミキータは感心したような顔でナミを見ていた。

 

「そういえば、クロコダイルのところから少し宝石持ってきちゃった」

 

「いやん! 大好きよ。お姉様っ!」

 

 だが、ロビンが宝石の入った袋を出すと、ナミの態度は一変する。

 

「キャハッ……、早くない?」

 

「悪の手口だな……」

 

 それを呆れた顔でミキータとゾロが眺めるという構図となった。

 

「漂う恋よ……。僕はただ漆黒に焦げた体を――」

 

 ちょうどそのとき、おやつの準備をしていたサンジがいつものように大袈裟な詩の朗読をしながら、ロビンにおやつを差し出していた。

 

「キャハハ、サンジくんはあんな感じよね〜」

 

「まぁ、()()は当然ああだよな」

 

 それもミキータとゾロは並んで頷きながら見ている。案外、この船で最も冷静なのはこの2人なのかもしれない。

 

「いいじゃないか。サンジもナミもロビンを受け入れてるんだから、ゾロもミキータも受け入れてあげなよ」

 

 そんな2人に私は諦めてロビンのことを認めるように促してみる。

 

「なるほど。裏切りなんざ恐れねェで、ほっとけということか。確かに、そのときが来れば、躊躇わずに斬っちまえばいいだけだからな。ライアらしい考え方だ」

 

 ゾロは凶悪な笑みを浮かべて勝手に納得していた。

 

「えっ? 発想が怖いんだけど……。君の中での私のイメージってどうなってるんだい?」

 

 私はゾロからどう思われているのか急に不安になってきた。

 

「まっ、私を受け入れたあんただもん。来る者は拒まないのはわかってる。仕方ない。私が代わりに警戒しといたげる」

 

「その必要はないと思うけどな〜」

 

 ミキータはミキータで、義務感を燃やしながらニコリと笑った。

 B・Wに長く居たからこそロビンへの畏怖みたいなのがあるのかなぁ?

 

 

 

「ところで、航海士さん。ログは大丈夫?」

 

 少し時間が経って、ロビンはログの心配をした。

 

「西北西にまっすぐ! 平気よ、ロビン姉さん!」

 

「文字通り現金だね。君は……」

 

「絶対に宝石もらっただろ……」

 

 ナミの変わり身に私とゾロがツッコミを入れる。

 

「ナミ、次の島は雪降るかなァ?」

 

「あんた、また雪みたいの?」

 

 ルフィは雪がお気に入りみたいである。ナミはそうでもないみたいだけど……。

 

「アラバスタからのログを辿ると次は秋島よ」

 

「秋かァ! 秋もいいな!」

 

 ロビンの情報によると次は秋島のようだ。あれ? 空島じゃなかったっけ?

 

 そんなことを思っていると、空から何かの破片が落ちてきた。

 

「ん? 雨か?」

 

「いや、雨じゃねェ……」

 

 ゾロとサンジも異変に気付いて空を見上げる。

 

「これは驚いた――」

 

「空から……、なんで?」

 

「ガレオン船――!?」

 

 私たちは空から降ってくるモノの正体を見て驚愕する。

 なんと巨大なガレオン船が落ちてきたのだ。

 

「キャハハ! 嘘でしょ! 何これ!?」

 

「とっとにかく、船にしがみつけ!」

 

「「うわあああッ!」」

 

 ガレオン船が落ちてきた影響で海は大きく揺れて、私たちは外に放り出されそうになり、慌てて船の至るところにしがみついた。

 

 

「なんで、空から船が降ってくるんだ?」

 

「ああっ! 記録指針(ログポース)が壊れちゃった! 上を向いて動かない!」

 

 ルフィが疑問の声を上げたとき、ナミが大声で記録指針(ログポース)の異変を主張した。

 

「違うわ。より強い磁力を持った島にログを書き換えられたのよ……。指針が上を向いているなら……、“空島”にログを奪われたということ――」

 

「なるほど、空島か……。偉大なる海(グランドライン)の中でも特に変わったスポットだと噂だが……。たしか、雨にならない何層にも渡る雲が海の役割を果たしてるとか……」

 

 ロビンの空島という発言に私も頷く。一応、旅の準備のために偉大なる航路(グランドライン)の情報を頑張って集めていたが、その中でも空島の存在は都市伝説のレベルだった。

 それだけ異質な存在みたいだ。

 

「すっげェ! 空に海が浮いてて島があるのか! よし、すぐ行こう!」

 

「おおっ! 面白そうだ!」

 

 ルフィの言葉にチョッパーも目を輝かせて楽しそうな声を出す。

 

「ちょっと待ちなさい! ロビンも、ライアも何言ってるのよ! 常識で考えて空に島なんてあるわけないでしょう!」

 

「じゃあ、常識を捨てて考えよう。この海に常識は通じないっていうのは、今までの航海でもわかってるだろ? 指針が上を向いてるなら私たちがすることは1つだ」

 

 ナミの言葉に対して私は持論を述べる。本音を言うと船が心配なので空島には行きたくないという部分もあるが、妙な意見を出して漫画と違うルートになるのも怖いので、行こうという結論が自分の中で出来ていた。

 

「空に行く方法を考える。そう言いたいんでしょう? 狙撃手さん」

 

「うん。とりあえず、この船に落ちてきたモノから何か手がかりが掴めないか探ってみよう」

 

 ロビンの言葉に私は頷き、空島への手がかりを探そうと提案した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 探せば何とかなるもので、スカイピア――つまり空島の地図らしきモノは発見できた。

 しかし、手がかりはそこまでで、残りは海に沈んだガレオン船からサルベージして手に入れようという話になった。

 

 

「おい、ライア! これは本当に大丈夫なんだろうな!」

 

「うん。設計上は無理しなきゃ問題ないはずだよ。本当は私も潜りたいけど、上から指示を出さなきゃいけないからさ。まぁ、もしものときはミキータの能力で簡単に引き上げられるから」

 

 間に合わせで作ったサルベージセットに懐疑的なゾロの質問に私は答える。

 ミキータのおかげで引き上げがとても楽になるから安全性はかなり高い。

 

「キャハハっ! いつだって浮かべてあげるわ」

 

「ミキータちゃんに浮かべてもらったら、天国まで行っちまいそうだぜ! ナミさん! おれに任せてくれ!」

 

 ミキータとナミに手を振るサンジ。最近、彼は私たちが並んで立っていると何故か嬉しそうにする。

 

「よろしくね♡」

 

 ナミもなんだかんだ言って空島には興味があるらしく手がかり探しに積極的になってきた。

 そして、ルフィ、ゾロ、サンジの3人はガレオン船を探索するために海に潜った。

 

「こちら、チョッパー。みんな返事して」

 

『こちらルフィ、怪物がいっぱいです。どうぞ』

 

『ここは巨大海ヘビの巣か!?』

 

『こちらサンジ。うわっ!? こっち見た!』

 

 チョッパーが面白そうだと志願をして彼らの引き下げ作業を行っており、彼の問いかけに3人は返事をする。

 

「オッケー」

 

「よし、このまま続けてくれ」

 

「キャハッ……、あんたら、割と容赦ないわよね……」

 

 私とナミが彼らの言葉を流していると、ミキータが少しだけ引いた顔をして私たちを見ていた。

 だってルフィたちだよ? 心配ないとか思ってはいけなかったのだろうか?

 

 

 作業を始めてしばらくすると、少しだけ離れたところから歌が聞こえてきた。

 

「「サ〜ルベ〜〜ジ♪ サルベ〜ジ♪」」

 

園長(ボス)!? そいつァ、おれのことさ! 引き上げ準備! 沈んだ船はおれのもんだァ! ウッキッキー!」

 

 歌の正体はマシラ海賊団。そして、現れたのはマシラという猿顔の巨漢だ。

 大きな船で私たちと同様にガレオン船のサルベージを行うみたいだ。

 

 マシラたちは勘が悪いのか、私たちの目的もサルベージだということに気が付かなかった。

 

 その後の展開は予想通りだった。案の定ルフィたちとかち合って争うことになる。

 

 そして、マシラが業を煮やして海に入った直後、事態は一変する。

 

 巨大な生物の気配がルフィたちに近付いて来たのだ。

 

「ミキータ! すぐに引き上げてくれ! ルフィたちが危ない! みんな! 早く樽を被るんだ!」

 

「キャハハッ! 何よいきなり! わかったわ!」

 

 ミキータがキロキロの実の能力でルフィたちの重量を最小限まで減らしてグイッとチョッパー共に引き上げ作業を開始する。

 

「どうしたんだい? ライアちゃん、急に……」

 

「急に大声が聞こえたから焦ったぜ……」

 

「なぁ、船の中に猿がいたんだ! いきなり暴れ出したから驚いたぞ!」

 

 ルフィたちは袋を片手に樽とともに引き上げられた。良かった無事だったか……。

 

「でも、ライア。なんで、急に大声を出して引き上げようと……。って、何よあれ?」

 

「亀が船を食べてるわね。あのままだったら、みんな仲良くお腹の中に行って……」

 

「キャハッ……、相変わらずエグいことを平気な顔で言うのね……」

 

 ナミたちは巨大な亀が海上に上がってきてガレオン船をムシャムシャと咀嚼している様子を見て口々に感想をこぼした。

 あれに食べられたら危なかったかもしれない……。

 

 そんなことを考えていると、マシラが怒りの形相で私たちの船に乗り込んできて暴れようとしていた。

 

 しかし、急に辺りが暗くなり事態はまたもや一変する。

 なんと巨人族のドリーやブロギーよりも何倍も大きな人影が目の前に映し出されたのである。

 

「「怪物だああああ!」」

 

 みんなは絶叫して、猛スピードで船を動かして巨大な影から離れていった。

 実際は空島の人が映し出された像なんだっけ?

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「さすがにビビったね。あれには……、どーも」

 

「「ふぅ……」」

 

 巨大な影から逃げ出して落ち着いた私たちは口々に今日あった出来事をおさらいする。

 最後にマシラがそれを締めくくると、私たちは一斉に深呼吸をした。

 

 いや、実際に見てみると知っててもびっくりするものだな……。

 

 というか、マシラはまだ乗ってたんだ……。

 

 私がそんな感想を持ってマシラの顔を見た刹那――。

 

「「――出ていけ〜〜!」」

 

 ルフィ、ゾロ、サンジが同時にマシラを蹴り上げた。

 彼は彼方まで吹き飛ばされて行った。容赦ないな〜。

 

 マシラが吹き飛ばされたあと、ルフィたちの戦利品をチェックしたがガラクタばかりで、ヒントになりそうなものはなかった。

 

「完全に行き先を失ったじゃない! ねぇ、ライア〜。どうしましょう」

 

 ナミは涙目になって私に相談してきた。

 確かにルフィたちはこういうとき、呑気だから焦るよね……。

 

「いやァ。どうしようって……。そういえば……、ロビン。君はさっきあの男から何かを盗ってたみたいだけど……」

 

 私はロビンがハナハナの実の能力を発動させて、マシラから何かを盗っていたのを感知していた。

 

「ふふっ、狙撃手さんは目ざといわね。はい、どうぞ」

 

「君ほどじゃないさ。ありがたく受け取っておくよ」

 

 ロビンは微笑みながら、マシラから盗んだモノを私に渡した。

 

「キャハッ、永久指針(エターナルポース)じゃない。やるじゃな〜い。元副社長」

 

 ミキータは私が受け取った永久指針(エターナルポース)見てニヤリと笑った。

 

「“ジャヤ”と……、書いてあるね。彼らの本拠地ってことか」

 

「ジャヤ? そこに行くのか?」

 

 私の言葉にルフィが他人事のように反応する。

 

「アホか! あんたが決めるんでしょうが!」

 

「オ〜〜シ! ジャヤ舵いっぱ〜〜い!」

 

 そんなルフィにナミがツッコミを入れて、ルフィは次の行き先を“ジャヤ”に決めた。

 あれ? ジャヤに行って空島へのヒントを手に入れるんだったっけ? この辺のことよく覚えてないんだよな。

 

 なんか、ルフィに一撃で倒された男が居たことはよく覚えてるんだけど……。ベラミーとかいう名前の――。

 それが強烈過ぎてジャヤの記憶がほとんどない……。

 

 というか、空島辺りの記憶って正直言ってアラバスタやウォーターセブンと比べてかなり薄い……。

 

 あやふやな記憶に一抹の不安を抱きながら私たちはジャヤへと向かった――。

 




ロビンが加入して空島編がスタートしました。
ライアが空島の記憶が薄いのは他意はないです。決して作者が空島編が嫌いとかそんなのではないのですが、読み返して忘れてる箇所が今までの章と比べて圧倒的に多かった……。
ストーリーの完成度はめちゃめちゃ高いし、面白いんですけどね。
新章も百合要素も忘れないようにして面白く出来るように頑張ります!


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モックタウン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
空島編も盛り上げることが出来るように頑張ります!
それではよろしくお願いします!


 

「まだか?ライア」

 

「うん、近付いてはいるけど。まだ見えないね。だけど、もうすぐさ。ここからでも分かるくらいの大きな力の気配をいくつか感じるんだ」

 

 ルフィの言葉に私は返事をする。大きな力の正体はおそらく黒ひげ海賊団だな。

 

「まっ、猿男が縄張りって言ってたくらいだ。そんなに遠くはねェだろ」

 

 ゾロの言うとおりジャヤはマシラが拠点にしている島なのだから近所にあって然るべきなのだ。

 

「ジャヤはきっと春島だな。ポカポカとして気持ちのいい」

 

 ルフィは日向ぼっこしながら機嫌よく笑っていた。

 

「春はいい気候だな。カモメも気持ち良さそうだ。――ってわあああ!! 撃たれた〜〜!」

 

 チョッパーも空を見上げてカモメを見ていたようだが、バタバタとカモメが船の上に落ちてきているのを見て驚愕している。

 

「そのカモメが銃で撃たれた……? ということは、銃弾はこの船の正面の方向から飛んできたことになるな」

 

 私はチョッパーの言葉を聞いて、船の進行方向を双眼鏡で注意深く見てみた。うーん。島はまだ見えないか……。

 

「そうだ。ほら、この銃弾……、角度から見て船の正面からだ」

 

 チョッパーはカモメの死体を観察しながら私にそう申告した。

 殺ったのは十中八九、黒ひげ海賊団の狙撃手だろうな。しかし、とんでもないことをするもんだ。

 

「まだ、見えてもない島から狙撃を? そんなのあなたでも無理でしょ? ライア」

 

「うん。そもそも、この銃の射程じゃ届かないよ。もっとも射程の問題が解決しても()()私じゃ難しいかな」

 

 ナミの質問に私は銀色の銃(ミラージュクイーン)を見せながら答えた。

 本当は出来るって言いたいんだけど……。

 

「キャハッ……、あんたが無理なら無理でしょ」

 

「そんなことはないさ、私よりも凄腕の狙撃手は何人も居るよ。この海には、ね」

 

 ミキータの言葉に私は首を横に振りながら言葉を返す。

 とはいえ、ゾロみたいに世界一とかは目指してないけど、目の前で明らかに自分を上回る技量を見せられると存外ストレスは溜まる。

 Mr.2との戦いで少しだけレベルアップした自覚はあるけど、見聞色をもう少し鍛えないとこの先が思いやられそうだなー。

 

「ちょっと待ちなさいよ。そんなヤバイやつがいる島に行くの?」

 

「わくわくしてきたな! サンジ! これ、焼き鳥にしよう!」

 

 ナミはジャヤに対して嫌な予感がしているみたいだが、ルフィは私の言葉を聞いてニヤリと笑った。

 

 

 

 しばらくすると、観光地のように見える島が肉眼で確認できるようになった。

 

 

「うっは〜〜! いい感じの島が見えるぞ」

 

「キャハハッ! リゾートっぽい島じゃん」

 

「あっ、本当だ。ちょっとゆっくりしたい気分〜〜」

 

 ルフィの言葉にミキータが続き、ナミもさっきの不安な気持ちも忘れてニコリと笑った。

 リゾートと言えばリゾートなんだろうけど、ここって確か……。

 

 

 

「でも、海賊船がたくさん停まってるね。その上、至るところから殺気も感じる」

 

 思ったとおり、ジャヤにあるモックタウンという町の港には多くの海賊船が停泊していた。

 ここは無法者が金をばら撒いて遊んでいくような町みたいだ。

 

「へへっ、面白くなってきたじゃねェか」

 

「楽しそうな場所だな。ここは」

 

 私とルフィとゾロは船を降りて町を散策しようとしていた。

 空島の手がかりをここで見つけなくてはならないからである。

 

「ちょっと、待ちなさい! あなたたち、3人が歩いて騒動を起こさないはずがないわ」

 

 しかし、それにナミが待ったをかける。私たちの監視を名乗り出たのだ。

 

「いや、ルフィとゾロはともかく私も?」

 

 私はまるで私をこの2人と同類みたいな感じで扱おうとしていたので、不満を口にする。

 

「あなたは女絡みとか別の理由よ」

 

「――納得したくないけど、そうなのか?」

 

 するとナミは私が女性関係のトラブルを起こすというようなこと言ってきた。

 先日のビビのこともあったので、私は反論したかったができなかった。

 

「ワタクシはこの町では決して喧嘩をしないと誓います」

 

「よし! ゾロもいいわね!?」

 

「あー、わかったよ」

 

 そしてルフィとゾロに喧嘩禁止の誓いをさせて、私たちは町の散策へと向かった。

 

 町を歩いてすぐに病気で死にかけてそうな男が落馬した。

 その男を助けると、ルフィは男からりんごをもらってそれを食べる。

 その瞬間である……。後方から爆発音が聞こえた。どうやらりんごを食べた者が爆発したらしい。 

 そう、この病弱そうな男は意味もなくルフィを殺そうとしたのだ。確か、こいつも黒ひげの一味の一人だった気がする。

 

 あと、建物の屋根で暴れてる“チャンピオン”とか言うやつも……。

 

 

「殺気立った町だと思ってたけど、やはり強い奴の気配が1つや2つじゃないな」

 

 ルフィがりんごを食べてからしばらくして、私はそうこぼした。

 

「そっかァ! で、どこに居るんだ? 強い奴」

 

「そうだな。例えば……」

 

 私の発言に反応したルフィの質問に答えようと口を開くとポカリと頭を殴られた。

 

「バカライア! トラブルの種を蒔こうとすな! さっき、意味もなく殺されかけたのよ!」

 

 ナミは怒りの形相で私の言葉を封じた。すまない。うっかりしてた……。

 

「ちっ、つまんねェ……」

 

「あんた、今、舌打ちしたでしょ!」

 

 さらに私が黙ったことでゾロが舌うちをすると、ナミはゾロの頭もポカリと叩いた。

 

 そんな感じで適当にぶらついていると、いつの間にかきれいなリゾートっぽいところにたどり着いた。おおっ、ここは素敵な場所じゃないか。

 

「あっ、あの。と……、当、『トロピカルホテル』は只今ベラミー様御一行の貸し切りとなっておりまして……」

 

 私たちが辺りを見渡していたら、支配人風の男が謎のフェイントをしながら近づいてくる。

 

「ホテル? ホテルなのか、ここは……」

 

「ベラミー様に見つかっては大変です。どうかすぐにお引き取りを!」

 

 ゾロの言葉に男は答えず、とにかく出ていってほしいみたいな態度をとった。

 

 

「オイ! どうした? どこの馬の骨だ? その小汚ねェやつらは」

 

 男が我々に声をかけた直後、長髪の男がサングラスをかけた女を引き連れて大声を出しながら、こちらに近づいてきた。

 

「さっ、サーキース様!? こっこれは――」

 

「言い訳はいいから、早く追い出して。いくら払ってここを貸し切りにしてると思ってんの?」

 

 支配人風の男がしどろもどろになっていると、今度は女が彼に向かって文句を言っていた。

 多額の金を払って貸し切りか。それは悪いことをしたな……。

 サーキースって確かベラミーのところの副船長か何かだっけ?

 

「そうか、いやすまない。不快な気持ちにさせるつもりはなかったんだ。すぐに出ていこう」

 

 私は文句を言っていた女に謝罪して、立ち去ろうとする。

 

「――あっ、えっと……。待って! すっ、少しくらいなら良いわよ……」

 

 だが、なぜか女は頬を桃色に染めて、サーキースに絡めていた腕を離してモジモジしだした。

 

「オイ! 何をいきなり言ってやがるリリー!」 

 

 サーキースはリリーが急に態度を翻したことに対してツッコミを入れた。

 

「なんだ、お前ら割と良い奴らじゃねェか」

 

「んじゃ、遠慮なく」 

 

 ルフィとゾロはリリーのセリフを受けて本当にのんびりしようとする。

 

「ったく。あなたが来るとこうなるから……」

 

 そして、ナミはジト目で私を見ながら首を横に振った。えっ? 私のせいなの?

 

「待てや! コラァ! 誰が居て良いって――」

 

「あなた、そんな貧弱そうな海賊団辞めてうちに来ない?」

 

 サーキースの怒鳴り声を遮ってリリーは私をベラミー海賊団に勧誘してきた。

 まぁ、百歩譲って勧誘するのはいいけれど……。

 

「よく知りもしないで、貧弱とは失礼だと思わないのかな?」

 

「ごっ、ごめんなさい。気を悪くしちゃったかしら? ほっ、本当にごめんなさい……」

 

 私がムッとした声で彼女を咎めると、リリーはしおらしい態度で頭を下げて謝ってくる。

 意外と素直な人だな……。

 

「ざけんな! リリー! てめェ! おれの目の前で男口説くたァ、いい度胸じゃねェか。しかも媚びるような態度取りやがって!」

 

 するとサーキースは短剣を抜いて、リリーに突きつけようとした――。

 まったく、無粋な男だ……。ビッグナイフとかいう二つ名だったはずだから、おそらくあれは本来の武器じゃないな……。

 

「仲間にそんなもん向けるなよ。私で良かったら喧嘩を買うぞ? 言っとくけど、脅しでこいつは向けてないからな」

 

「――なっ、てめェ! いつの間に!?」

 

 私はサーキースの殺気がリリーに向いた瞬間に彼の喉元に銀色の銃(ミラージュクイーン)の銃口を突きつける。

 

「――わっ、私のために……」

 

 リリーはサーキースが怖かったのか、尻もちをついて私を見上げていた。

 

「喧嘩するなって言ったでしょう! さっさと行くわよ! まったく!」

 

 すると、そのやり取りを見ていたナミは私の腕を強引に引っ張ってこの場を離れようとする。

 そういえば、そんな約束したような……。

 

「ずいぶんと腕上げたじゃねェか。ライア。今度手合わせしようぜ」

 

「あっはっは、おれより先に喧嘩しそうだったな」

 

 そして、ゾロとルフィは上機嫌そうに笑いながら私の顔を見ていた。

 まさか、私が最初に手を出そうとするなんて……。もう少しクールにならなきゃいけないなぁ。反省しようっと。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 トロピカルホテルとやらを出た私たちは情報収集のために酒場を訪れた。

 酒場のマスター曰くここの島のログは4日なのだそうだ。

 

 そんなことを話してる最中に、ルフィが髭面の巨漢と言い争いを始める。

 奴が黒ひげ……。マーシャル・D・ティーチか……。

 エースの処刑のきっかけを作った男で、2年後には白ひげに代わって四皇と呼ばれるヤミヤミの実の能力者……。

 

 なるほど、他の連中とは明らかに異質……。異形と言ってもいい得体のしれなさを感じる。

 

「おめェ海賊か……? 懸賞金はいくらだ!?」

 

「3000万!」

 

「3000万!? お前が!? そんなわけあるか! 嘘つけ!」

 

「嘘なんかつくかァ! 本当だ!」

 

 ルフィの懸賞金の額に難癖をつけるティーチ。

 まぁ、これは少なすぎるという意味みたいだが……。実際はルフィには現在1億ベリーの賞金が懸けられてるから、彼の見る目は確かだ。

 

 

 そんな争いもティーチがチェリーパイを受け取ったことで終わりとなった。

 しかし、まだ争いの火種はやってくる。さっき因縁をつけてきたサーキースとリリーの船の船長であるベラミーがやってきたのだ。

 

 

「“麦わら”を被った海賊と“銀髪”の海賊はいるか?」

 

 あら、ルフィだけじゃなくて、私もご指名か……。

 さっき、サーキースとちょっと争ったからかな?

 

「お前が3千万の首で、お前がうちのサーキースに上等な口を利いた野郎か?」

 

 ベラミーは私とルフィをヘラヘラとした表情で見下すような顔付きで覗き込んできた。

 

「何だ?」

 

「ふぅ、いい加減言い飽きたんだけど、私は――」

 

 ルフィに続き私がベラミーに性別を告げようとすると――。

 強い殺気を伴った攻撃が私に向かってくる気配を感じた――。

 

「見つけたぜ! 銀髪のクソ野郎! おれの屈辱を100倍にして返してやるっ! 大刃斬(ビッグチョップ)

 

 ククリ刀のようなものでサーキースが回転しながら斬りかかってくる。

 

「――まったくもって……。イライラするよ……」

 

「ガハッ――」

 

 私は油断しきって突撃してきたサーキースの斬撃を躱して、鉛玉と睡眠弾を連続して撃ち込む。

 

「ルフィやゾロじゃなくって。トラブルの種を蒔いたのが私だという事実がね……」

 

 大の字になって寝転ぶサーキースを見下ろして、私はそうつぶやいた。

 思ったよりも私って喧嘩っ早いみたいだ。知らないうちに凶暴って噂を流されてたけど、こういう事の積み重ねなのかもしれない。

 

「ばっ、バカな!? サーキースさんは3800万ベリーの賞金首だぞ! たかが、3000万の船長の部下が……!」

 

「ハッハハハッ! 黙ってな! 今のは油断してかかっていったサーキースが悪ィ! なるほど、リリーがこいつに惚れたのもわかる。合格だ“新時代”への船員(クルー)に加えてやってもいい」

 

 裸にジャケットなのに暑苦しいニット帽を被るという妙なファッションの男が驚いた声を出しているのを、制したベラミーは私に訳のわからない勧誘をしてきた。

 

「言ってることがよくわからん。私たちは空島に行くんだ。君たちには付き合う暇なんかないんだよ」

 

 私は早く話を終わらせて帰りたかったので、手短に目的を話す。

 

 すると辺りがシーンと静まり返った。

 

「空島?」

 

「「ぎゃっはっはっはっ!」」

 

「「ハッハッハッハ!」」

 

 私の空島というワードは酒場中の笑いをかっさらう結果になってしまった。

 あー、思い出した。こいつらそういう奴らだった。

 

 ベラミーはひとしきり笑ったあとに空島とか、黄金郷とか、ワンピースとか、そういう夢を追いかけるのはバカだと言ってきた。

 

「そういう夢追いのバカを見ると虫唾が走るんだッ! サーキースを倒したお前は見どころがあると思ったが……、見込み違いだったな!」

 

 酒瓶をもってベラミーは私の頭を殴ろうとする。

 

「はぁ……、えっ!? ――るっ、ルフィ!?」

 

 私がベラミーを撃とうとすると、ルフィが私を突き飛ばして、酒瓶を自分の頭で受けた。

 私を庇った訳じゃなさそうだな……。

 

「ライア……、ゾロ……、この喧嘩は絶対に買うな!!」

 

 ルフィはムッとした表情で私とゾロに無茶ぶりをする。

 まぁ、船長命令なら従うほかないか。彼には彼の流儀ってものがあるんだろうし……。

 

 私はサーキースを撃ったから、ベラミーは主に私を狙うのだろうと思った。

 しかし、なぜか分からないけどやたらとリリーとかベラミー海賊団の女たちが私を庇ってきて、思いの外仲間想いのベラミーは首を傾げながらも私を攻撃して来なかった。

 リリーたちは、なんか、サーキースをやっつけたところがカッコよかったとか言ってたけど、よくわからん。

 

 すごく気まずい。原因を作った私が無傷でルフィとゾロが血まみれって……。罪悪感が半端ない……。

 

 なんだか、妙な雰囲気になってベラミーもシラケたのか、酒場を出ていけと早々に我々に対して言ってきたので、さっさと立ち去ることにした。

 

 

 帰り際にティーチにこの喧嘩はお前らの勝ちだとか、言われたけど私はただ恥ずかしかった。

 よく分からないけど、こういうのってボコボコにされても手を出さないから、カッコいいのであって、私は思いっきり手を出した上で無傷なんだから、めちゃめちゃかっこ悪いような気がしてならなかった。

 

「人の夢は!終わらねぇ!そうだろ!?」

 

 ティーチはそんな私の心情も知らず、大声でそう主張をしていた。

 

「ゼハハハハッ! 行けるといいな、空島へ!」

 

 彼は私たちを激励してチェリーパイを噛っていた。

 マーシャル・D・ティーチ……、こいつはこいつで自分の美学みたいなものがあるんだろう。

 とりあえず、今はこいつらと戦うようなことにならなくてラッキーだった――。

 

 結局、何も空島のヒントを得ることが出来ずに我々はメリー号に戻ることとなった。

 今日は反省する点が多い。なんせ、私は何の役にも立たないどころか迷惑すらかけてるのだから――。

 

 意気消沈してメリー号に戻ると、ロビンが何食わぬ顔をして、「モンブラン・クリケット」という男の情報を仕入れてきていた。

 そうだった、そうだった。この人が昔の冒険家か何かの子孫で空島に行く方法を知っているんだった。

 というわけで、私たちはモンブラン・クリケットという男に会うために船を出した。

 やっぱり、忘れてることが多いなぁ……。




反省したと言いつつも、相変わらずのライアでした。
次回あたりから徐々に原作と違う展開をお見せ出来ればと思ってます。


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バカとロマン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回でジャヤでのエピソードは最後です。
それでは、よろしくお願いします!


「いや、今日はなんて酒のうめェ日だ! お前らみたいなバカがやってくるなんて思わなかったからよォ」

 

 私たちは今、モンブラン・クリケットの家で食事をご馳走になっている。

 

 モンブラン・クリケットのところに向かう道中にショウジョウというマシラの兄貴分みたいなのに絡まれるトラブルはあったが、私たちは無事に彼の家に到着することが出来た。

 

 その家の近くでナミが見つけた古い絵本――『うそつきノーランド』。

 サンジによるとこれは彼の生まれた北の海(ノースブルー)では有名な童話なのだという。

 

 冒険家のノーランドが黄金郷を見つけたと、王様に報告して行ってみたら何もなかった。彼は『黄金郷は海に沈んだ』と言い張り、死刑になって死ぬまで嘘をつくのを止めなかったという話だ。

 

 確か、黄金郷は実在していて、その部分が突き上げる海流(ノックアップストリーム)で吹き飛ばされて空島に行ったとかそんなのが真実だったんだっけ?

 あっ、思い出した。空島に行くのって、その突き上げる海流(ノックアップストリーム)で船を空に打ち上げるんだった――。

 

 メリー号大丈夫かな? 何とかしないと私の大事なメリー号が本当に壊れてしまう……。

 

 そんなことを考えてると、モンブラン・クリケット本人と遭遇して黄金泥棒だと疑われてしまう。

 しかし、彼は潜水病になっておりその場に倒れ、チョッパーを中心に彼を看病することとなった。

 

 そこに、マシラとショウジョウが現れて、クリケットを慕う彼らは、クリケットを診ている私たちと意気投合し、和解する。

 

 クリケットはやはりノーランドの子孫で嘘つきの子孫として人生を狂わされた自分に決着をつけるために、黄金郷の有無を人生を懸けて探ろうとしてるのだそうだ。

 

 そして、彼は空島についても知っていた。その行き方についても。

 やはり、私が思い出したとおり突き上げる海流(ノックアップストリーム)を利用する方法だった。

 

 船を積帝雲という雲の化石と呼ばれる空の海に飛び込ませるのだそうだ。偶然にも明日が突き上げる海流(ノックアップストリーム)と積帝雲が重なる日らしく、そのことを考えると私たちは幸運であったと言わざるを得ない。

 クリケットたちは夢を追いかける私たちを気に入ってくれて、そのために必要な強化もやってくれると言ってくれた。

 

 という背景もあって私たちは彼の家で食事をしながら騒いでいるのである。

 

 

「これを見ろ!」

 

「うわっ! 黄金の鐘!」

 

 酒も入って上機嫌になったクリケットは私たちに小さな黄金の鐘を見せてくれた。どうやら、海底でこれを3つほど見つけたらしい。

 

「こんな小せェのじゃ、何の証拠にもなんねェがな。まだあるぞ。おい、マシラ!」

 

「こんどは、黄金の鳥か……。こっちは大きいじゃないか」

 

 マシラが袋から取り出したのはペンギンみたいな造形の鳥の黄金の像だった。

 ナミは目を輝かせてこれを見ていた。

 

「ははは、10年潜った対価としちゃあ割に合わねェよ。嬢ちゃん」

 

 私の言葉にクリケットは笑いながらそう答えた。この人は久しぶりにひと目で私のことを女だってわかってくれたから良い人だ。

 

「キャハハ、あんたは女扱いされると露骨に機嫌がいい顔をするのね。ていうか、さっき言ってた奇妙な鳥の声って」

 

 ミキータがニンマリ笑って私を横目で見ながら、先ほどクリケットが話していたノーランドの逸話に触れた。

 

「おっ、そっちのレモンの嬢ちゃんは勘がいいじゃねェか。そうだ、ノーランドの航海日誌にあった奇妙な鳴き声の鳥っていうのはこいつのことなんじゃねェかと思ってる」

 

 ミキータの声にクリケットは頷く。

 

「鳴き声が変なのか?」

 

「ああ、“サウスバード”って言ってだな。この島に現存する鳥なのさ――。あっ! しまった!!」

 

 ルフィが今度は質問して彼はそれに対して答えると、クリケットは突然思い出したかのような大声を上げた。

 

 目指す場所が海ということは記録指針(ログポース)に頼らずに方位を正確に知る必要がある。

 そのためにサウスバードという、必ず南を向く特性のある鳥を捕まえる必要があるのだそうだ。

 

 私たちは早く森でサウスバードを見つけるように急かされ、みんなで森の中に入った。

 

 

 

「――瑠璃色の超弾(スパイダーブレット)ッッ!」

 

「ジョ〜、ジョ〜ッ!」

 

 私の開発した粘着性の網が飛び出す弾丸によってあっさりとサウスバードを確保する。

 なんか、森中で叫び声が聞こえるけど、何かあったのかな? 変わった虫が多いから、ナミとかが怪我してなきゃ良いけど。

 

「さすが、狙撃手さんね。姿も見えないのによく当てるわ……」

 

「音だけでも大体の位置は掴めるから、集中すれば当てるのはわけないさ。見えたら、君の能力のほうが楽だったんだろうけどね」

 

 森に入って10分ほどでサウスバードを籠に入れることに成功した私は、バラけた仲間たちを集めに歩き出す。

 ん? クリケットの家の方に何者かが近づく気配がする……。これは、昼間のベラミー海賊団か……。

 

「みんな、クリケットたちが危ない! 早く戻ろう!」

 

 ルフィたちに声をかけて、私たちはクリケットの家まで走り出した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「さァ、行こうぜ! 金塊を船に積み込め!」

 

「ジジイ! 幻想(ユメ)は決して叶わねェって知るべきだ! ハハッ……!」

 

「待て、小僧! 幻想に喧嘩売る度胸もねェヒヨっ子が……、海賊を語るんじゃねェ」

 

「何だと」

 

 私たちが急いで戻ってきたとき、既にマシラとショウジョウはやられており、金塊はベラミー海賊団に奪われようとしていた。

 

 ベラミーはクリケットをあざ笑うが、彼は立ち上がり、ベラミーを相手に啖呵をきっていた。

 

 それを受けてベラミーはクリケットを睨みつけ、バネバネの実の能力を活かした技を発動させるためにしゃがみ込むような構えをとった。

 

「スプリング……狙撃(スナイプ)!」

 

 ベラミーの能力であるバネの特性を活かした、高速の突撃技がクリケットを襲う。

 

「――ッ!? なっ……、てめェは麦わら……」

 

 しかし、ベラミーの拳はクリケットには届かなかった。

 なぜなら、ルフィがクリケットを庇うようにベラミーの前に立ち塞がり、彼の頭を左手一本で止めたからである。

 

「ベラミー……、お前はひし形のおっさん達に……、何をした!?」

 

 ルフィは静かに怒りを燃やしながらベラミーを睨みつける。

 こういうときの彼は迫力が凄い。なんというか、ビリビリとした力の波動を感じる……。

 

「ちっ、まぐれで受け止めたからって調子に乗りやがって! 海賊として金塊を奪ってやろうとしただけだ! お前にとやかく言われる筋合いはねェ!」

 

 昼間とはまったく違うルフィの態度にイライラしたのか、ベラミーは拳を構えながらルフィの問いに返事をした。

 

「あるさ! おっさん達は()()だ! だから、おっさん達の宝は奪わせねェ!」

 

「ハハハハッ! 臆病者の船長の海賊団がおれらに喧嘩を売ろうってか!? 油断したサーキースを部下が倒したくらいで調子こいてんじゃねェぞ! お前ら! あの小物どもに世の中の厳しさを教えてやれ!」

 

 ルフィの言葉をあざ笑いながらベラミーは自らの仲間たちに声をかける。

 

「「うぉぉぉぉぉっ!」」

 

 するとベラミー海賊団の面々は私たちに向かって襲いかかってきた。

 

「なんだ、せっかく昼間は見逃してやったのに結局、戦闘か?」

 

「ナミさんに失礼な口利いたバカどもってのはあいつらだな?」

 

「ふぅ……、私にそんな物騒なモノ向けないでもらえる?」

 

「キャハハッ! そんなに埋めて欲しいの?」

 

 ゾロ、サンジ、ロビン、ミキータが戦闘態勢を取り彼らの相手をする。

 相手をすると言っても時間は数秒だったが……。

 

「「ぎゃあああああっ!」」

 

 一瞬で蹂躙されてしまうベラミー海賊団……。

 まぁ、ゾロもサンジも強いし、ロビンとミキータは悪魔の実の能力者だ。並の海賊たちでは、歯が立たないのも無理はないだろう。

 

 仲間たちの戦闘を観察しつつ私はメリー号の元に向かっていた――。

 

「おい、お前……。この船に何をするつもりだ?」

 

 メリー号の船首に向かってククリ刀を向けているサーキースに私は話しかけた。

 

「てってめェは銀髪……! 何をするつもりかって!? クソみてェな幻想を抱かねェように、ぶった切ってやるんだよ! バーカ!」

 

 サーキースはベラミーの命令なのか知らないが、私たちの船を破壊しようと目論んでいるみたいだ。

 

「はァ……、1つだけ忠告してやる。他人(ひと)の誇りに干渉するんだったら覚悟をしとけよ――」

 

 彼の無遠慮な返答を受けて私の中で抑えてた理性が弾け飛びそうになる。

 

「あんだと!? 不意討ちで1回勝ったくらいでいい気になりやがって! もう、おれは油断しねェ!」

 

 サーキースは自分が油断したから負けたと考えており、殺気を漲らせて私に向かってククリ刀を向けた。

 確かに彼の身体能力は高い。自信があるのもわかる。けど――。

 

「うん。命があってよかったね。だったら、願っているといい。私が3回も君の命を見逃すくらいのお人好しだってことを――」

 

 2回も殺されかけて学ばないのはいただけない。

 この男は私を格下だと侮る心を捨てきれてない。

 

「うるせェ! 死ねッ! お前に負けたせいでおれァ笑われたんだ! 絶対に許さねェ!」

 

 サーキースは怒りに任せてククリ刀を私に向かって振り回す。

 当たれば大きなダメージを受けるだろうが、殺気によって分かりやすくなった彼の斬撃の軌道は私を捉えることは出来なかった。

 

()()()()?」

 

「くっ、なんで当たんねェんだ!? こんなトロそうな優男に! ――ぐはッ」

 

 上段から私の頭をめがけて刀を振り下ろすサーキースの攻撃を躱して、私は彼の右太ももを撃ち抜く。

 

「許さないのは私だ。沸点の低いのを反省しようと思ったんだけど……。メリー号(たからもの)に手を出されそうになったのを見たら、私も笑えない――」

 

「ひっ……!」

 

 私が太ももを手で押さえながら尻もちをついている彼の腹に銃口を向けると、彼の表情は歪んだ。

 

「――必殺ッッ! ――爆風彗星ッッッ!」

 

 私は躊躇いなく引き金を引く。放たれた弾丸から繰り出される突風によりサーキースは吹き飛ばされていった。

 

 さて、ルフィもそろそろ終わった頃かな?

 

 サーキースが起き上がらないことを確認した私はベラミーの方に目をやる。

 

「夢を見るような時代は終わったんだよ! 海賊の恥さらし共ッ! ――ッ!!!」

 

 ベラミーは殴りかかった拳が避けられたのと同時に顔面を殴りつけられて地面に激突して気絶してしまった。

 

「うっ、嘘だろ! ベラミー、サーキース! こいつらなんて懸賞金も低い雑魚だって言ってたじゃないか!」

 

「ダメだ……、完全に気絶してる……。悪夢だ……」

 

 比較的に怪我が少なかったベラミー海賊団の船員たちが船長と副船長が意識を失っているのを青ざめた表情で確認していた。

 

「あっ……、あっ……、ごめんなさい……。ベラミーが……、その」

 

「悪いと思ってるなら、彼らを連れて帰ってくれるかな? それに、謝るのは私にじゃないし、クリケットも謝罪なんて欲しくないだろう」

 

 さらに怯えきったリリーは私に頭を下げてきたので私はベラミーたちを連れて帰るように促す。

 

「はっ、はい! すぐに! あと……、昼間はありがとう……。嬉しかった……」

 

 リリーはそう言い残して仲間とともに大急ぎでベラミーとサーキースを回収して船に乗って逃げて行った。

 

「驚いたな……。お前ら、強いじゃねェか。おれたちのために、すま――」

 

 ベラミー海賊団が蹂躙されたのを見て、クリケットは私たちに頭を下げようとする。

 しかし――。

 

「ひし形のおっさん! 金塊取られなくて良かったなァ! あっはっはっ!」

 

 ルフィはバシバシとクリケットの肩を叩いて朗らかに笑った。

 すべてを洗い流すような気持ちのいい笑い声だと私は思った。

 

「ギブアンドテイクだよ。クリケットさん……。船長は礼なんかいらないってさ。船の強化……、よろしく頼む」

 

「――大した連中だよ。お前らは……。船の強化は任せとけ! お前たちを何があっても空島に送ってみせる! マシラァ! ショウジョウ! いつまで寝てんだ! 起きやがれ!」

 

 私がクリケットに大事なメリー号の強化を改めてお願いすると、彼はニヤリと笑ってボロボロになって倒れているマシラとショウジョウに活を入れて強化作業を始めてくれた。

 いや、もう少し休んでからでもいい気がするけど――。

 

 彼らが奮起してくれたおかげでゴーイングメリー号は“フライングモデル”へと強化を果たしたのである。

 凄いけど……。なんか、トサカとか付いててニワトリみたいなんだけど……。ニワトリって飛べないんじゃあ……。

 

 

「一つだけ、これだけは間違いねェ事だ! "黄金郷"も"空島"も、過去誰一人"無い"と証明できた奴ァいねェ! バカげた理屈だと人は笑うだろうが、結構じゃねェか! それでこそ! "ロマン"だッ!!」

 

 クリケットの言葉を背中に受けて私たちは空島を目指して出航したのだった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 積帝雲が思ったよりも早く来るという事態もあったが、猿山連合軍の全面的なサポートのおかげで、メリー号は突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生する巨大渦の中心に向かうことが可能となった。

 

 まぁ、向かうというか……、飲まれてるというのが状況の説明としては正しいのかな?

 

 そうこうしている内に巨大渦の中心にメリー号は飛び込んだ。積帝雲が完全に真上にあるので、辺りは夜みたいに暗くなっていった。

 

「行くぞ〜! 空島!」

 

 ルフィはテンションが最高潮に達しており興奮しきっている。

 

 そして、いつの間にかさっきまであった巨大な渦穴が消えていた。

 

 おそらく、渦が消えたというのは、突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生する前兆だと思われる。

 

 つまり、我々は空に向かう直前というわけだ。

 

 そんな中、私たちに接近する巨大ないかだのような船が接近してきた。

 黒ひげ海賊団である――。

 

「ゼハハハハッ! 追いついたぞ麦わらのルフィ! てめェの1億の首をもらいに来た! 観念しろやァ!!」

 

 ティーチはルフィに向かって大声で叫ぶ。やはり、漫画同様ルフィのこの時点の懸賞金は1億か。

 

「おれの首!? 1億ってなんだ!?」

 

「おめェの首にゃ1億ベリーの賞金がかかってんだよ! そして、“海賊狩りのゾロ”てめェにゃ6000万ベリー、さらに“レディキラーのライア”にゃ5600万ベリーだ!」

 

 ルフィの問いに答えるようにティーチは親切にも私たちの新しい手配書を見せてくる。

 私に5600万は高すぎだろ……。それに……。

 

「新しい手配書が出来てるみたいだね……。ゾロと私の……。――って、そんなのはどうでもいい。レディキラーって、なんだ?」

 

 私って“魔物狩り”じゃないの? いや、確かにアイラって偽名を使ってたけど……。

 まさか、ビビの件が海軍にバレて……? でもいくらなんでもそれだけで……。

 

「キャハッ、海軍すら認識してるのに、あんたときたら……」

 

 私が疑問を口にしたら、ミキータがバカにしたような表情で私を見ていた。

 だから、どういうこと?

 

「ライアちゃんにまで賞金がかかってるのに、おれにはないのか……」

 

「ちっ、お前とほとんど変わらないくらいかよ。不満だぜ」

 

「聞いたか!? おれ、1億だ!」

 

 サンジは悲しみ、ゾロは私と似たような金額が不満で、ルフィはひたすら喜んでいた。

 

「喜ぶな! ああ……、アラバスタの件で懸賞金が跳ね上がったんだわ……」

 

 そして、ナミが憂鬱そうな顔で頭を抱えた、そのとき――。

 

 メリー号の真下の海面が盛り上がり――。

 

「「うわあああああっ!」」

 

「「ギャアアアア!」」

 

 私たちの叫び声と、黒ひげ海賊団の悲鳴が同時に響き渡る。

 

 突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生してメリー号は一気に空へと舞い上がったのだ――。

 

 いよいよ、空島に突入か……。アラバスタではクロコダイルに殺されかけたけど――。

 今度の相手はちょっと間違えたら本当に殺されるかもしれない。

 

 まだ見ぬ世界への好奇心と強敵への不安を抱えつつ、私はどんどん高度を上げていくメリー号を見守っていた――。

 




ライアの二つ名はもっと良いものが思い付いたら変更するかもしれません。ネーミングセンスがなくて辛いです。
懸賞金は高すぎる気もするんですけど、海軍が戦闘能力以外も警戒してるという解釈でお願いします!



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空島上陸

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ライアの二つ名に関してもいろいろとご意見を頂けて嬉しいです!
今回からいよいよ、本格的に空島編がスタートします。
それではよろしくお願いします!


「何だ! ここはっ! 真っっっ白っ!」

 

「雲の上! なんでっ?」

 

 辺りを見渡すとまるで天国にでもたどり着いたと錯覚するような白い空間に囲まれていることがわかった。

 

「そりゃ乗るよ、雲だもん」

 

「「いや、乗らねェって……!」」

 

 当然という顔で雲の上に船があることに納得してるルフィにゾロやサンジがツッコミを入れる。

 

 ナミが海流と風を読み、ミキータの能力で最大限まで軽くなった船は猛スピードで空まで飛んでいって積帝雲を突き破り、真っ白な空間にふわりと着地した。

 

 キロキロの実の力で着地のショックは防げたけど……。

 

「――ああ、止めとけば良かった……。空島なんて……」

 

「一気にボロボロになったわね……」

 

 ロビンが指摘したように積帝雲を猛スピードで突き破ったのがまずかったのか、ゴーイングメリー号は所々にヒビが入ったりしていた。

 ここまで、出来るだけ負担をかけないように努力したんだけどなぁ。

 

「キャハッ……、翼は折れちゃったけど、船体自体はまだまだ行けるわよ」

 

 落ち込んでる私を慰めてようと、明るい調子でミキータは私の背中を叩く。本当にミキータが居てくれてよかった。

 彼女が居なかったら、着地のショックも半端なかっただろうし……。

 

「そうだね。無事にみんなでたどり着けたことを喜ぼう。ナミ、記録指針(ログポース)の向きはどうなってる?」

 

 私は気を取り直してナミに指針の示してる方向を質問した。

 

「それがまだ上を指してるのよ」

 

「まだ、積帝雲の中層みたいね……」

 

 ナミの言葉にロビンが頷く。そうか、ここより上にさらに島があるということか……。

 

「ここから、まだ上に行くのか? どうやって……?」

 

「とりあえず、人の気配がする方に進んでみよう」

 

 チョッパーの疑問に私は彼に双眼鏡を手渡しながらそう言った。

 

「ライアちゃん、おれらの他に人が居るのかい?」

 

「うん。向こうの方に人の気配を感じる」

 

 私はサンジの質問に指をさしながら答えた。

 どうやら我々の他にも空島に来た人たちがいるみたいだ。

 

「あっ、本当だ。船がある。って、爆発した――!」

 

 双眼鏡で私が教えた方向を見ていたチョッパーが驚いた声を出した。

 

「なんだって!? こっちに高速で強い気配が接近してくる。みんなっ! 気をつけてくれ!」

 

 その声を聞いた刹那、私は強い力がこちらに近づいて来ることを感じ取った。

 ルフィたちに比べたら大したことはなさそうだが……。

 

 どこかの部族のような仮面をつけた小男が跳び上がり、メリー号の中に入って来ようとした。

 

「排除する……」

 

 謎の男は殺気を漲らせて戦闘態勢をとる。

 

「――やる気らしい」

「上等だ」

「何だ……?」

 

 それに対してサンジ、ゾロ、ルフィの3人が受けて立とうとした――。

 しかし――。

 

「「ぐはっ――」」

 

 なんと、3人はあっという間に倒されてしまう。

 どういうことだ? いや、待てよこの空間の空気は――。

 

「キャハッ、うっそでしょ……。この三人が……」

 

「ちょっと、どうしたの三人とも……」

 

 ミキータとナミは3人が蹂躙されたことが信じられないみたいだった。

 

「多分、急に高いところに来たから空気が薄くて体が慣れてないんだ……。下がってくれ、私の武器なら身体能力はほとんど――」

 

 私の射撃なら集中して当てられさえすれば、なんとかなる。

 小男が跳び上がりバズーカのような武器をこちらに向けていたので、それに対して私も受けて立とうとした。

 

「そこまでだァ!」

 

 だが、私が引き金を引く前に、空飛ぶ馬に乗った騎士が小男を槍で吹き飛ばして我々を助けてくれた。

 

「ウ〜厶、我輩、空の騎士!」

 

 銀色の鎧兜を装備した白い髭を生やした男は自らを“空の騎士”と称す。

 ええーっと、この人って確か……。ここの元神様とかだっけ? 頼りにならない記憶を辿りながら、私は空の騎士の顔を眺めていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「1ホイッスル、500万エクストルで助けてやろう」

 

 空の騎士は自らを傭兵だと話していた。この辺にはゲリラがいるらしく、よく空の戦いを知らない冒険者がよく危険な目にあってるらしい。

 

「エクストルというのは、こっちの通貨の単位かい?」

 

 私はとりあえず気になることを質問した。情報を出来るだけ仕入れたかったからだ。

 

「なっ、何を言っておるおぬしら……、ハイウエストの頂から来たのだろう? ここまでに島の1つや2つ通ってきたのではないか?」

 

 空の騎士は怪訝な顔をしていた。あっ、そうか。私たちが利用した、突き上げる海流(ノックアップストリーム)で空に行く方法って無茶な行き方なんだっけ……。

 

 

「なんと、あのバケモノ海流を使ってきたのか! そんな度胸の持ち主がまだ居たとは……」

 

「普通のルートじゃなかったのね、やっぱり……」

 

「キャハハッ! よく考えたらナミちゃんが居なかったら、全員今ごろ死んでるもんね〜」

 

 空の騎士の呆れ顔にナミが普通の方法ではなかったと気付き、ミキータはヘラヘラと笑いながら核心をつく。

 

「あれは、0か100の賭けみたいな方法だ。他のやり方では全員無事に着くなどは無理だっただろう。なるほど、なかなかの度胸と実力のある冒険者だと見受けた」

 

 空の騎士曰く他の行き方だと必ず何割か脱落者が出てしまうらしい。

 逆に突き上げる海流(ノックアップストリーム)は全滅か全員生還かの2択のギャンブルということみたいだ。

 

「1ホイッスルとは一度この笛を吹くこと。さすれば我輩、天より助けに参上する。本来、空の通貨500万エクストル頂戴するが、1ホイッスルはプレゼントしよう」

 

 彼は自分を呼び出すための笛を我々にプレゼントしてくれた。それは頼りになって嬉しいんだけど――。

 

「あのさ、サービスはうれしいんだけど、500万エクストルって、何ベリーになるんだい?」

 

 私は空島の通貨のレートについて空の騎士に尋ねる。これは重要な情報だった気がする。

 

「ああ、そうだった。おぬしら、青海から来たばかりだったな。確か1ベリーが1万エクストルのはずだ」

 

「1回500ベリーってこと!? それって、とっても安いじゃない」

 

「うむ。格安であろう! 我輩にも生活があるのでな、これ以上は負からんぞ!」

 

 ナミが素早く計算して感想を口にすると、空の騎士は満足そうに頷いて立ち去ろうとした。

 

「我が名はガン・フォール! そして、こやつは相棒のピエール!」

 

 “空の騎士”ガン・フォールは名を名乗り、相棒のピエールに乗って去っていった。

 ピエールはウマウマの実を食べたトリらしく、ペガサスのようだった。

 

 

「ねぇ、狙撃手さん。レートはわかったけど、上への行き方は聞けなかったわね」

 

「あっ……、忘れてた」

 

 ロビンに指摘されて私は一番大事なことを聞き忘れたことに気が付いた。

 どうも、うっかりが多いな……。

 

「適当に進めば、なんとかなるだろ」

 

 ゾロは彼らしい言葉を述べたが、それも楽しそうだということで私たちはとりあえず気になるところに移動することにした。

 滝のような雲があるところをチョッパーが発見して、そこに行ってみようという話になったのだ。

 

 途中、盛り上がった固い雲が障害物になって、それを躱しながら動いたりしたが、特にトラブルもなく、滝のように流れる雲がある場所にたどり着いた。

 

「“天国の門”か……」

 

「天国かァ! 楽しそうだ!」

 

 当然のようにルフィは興奮して、天国の門にメリー号は入って行った。

 

「上層に行くなら1人10億エクストル払っていきなさい。それが法律……」

 

「10億エクストルってことは、10万ベリーね……。あの、私たちはベリーしか持ってないんだけど……」

 

 天国の門で待ち構えていた老婆は私たちに入国料を請求してきた。

 ベリー換算で1人10万ベリー。払えない金額ではない。

 しかし、問題は我々が空島の通貨を持ってないことだ。ナミもそこを気にしてるらしい。

 

「通っていいよ。別に払わなくても」

 

「キャハハッ! 変なこと言うわね。だったら、なんであんたはそこにいるの?」

 

 老婆は払わなくてもいいというセリフにミキータは笑いながら彼女の居る意味を尋ねた。

 

「あたしは門番や衛兵じゃない。お前たちの意志を聞くだけ。もちろん、通らなくてもいい」

 

「じゃあ、金がねェけど、行く――」

「待つんだ! ルフィ!」

 

 老婆の怪しい答えが私の記憶を呼び覚まし、ルフィの言葉を遮った。

 ここで入国料を払ってもどうせトラブルになりそうだが、これ以上メリー号を危険に晒したくはない。

 違法入国者にならなければ、しばらく動き方を考える時間はできるはずだ。

 

「ご婦人、ここに80万ベリーある。青海の通貨だが、これを通行料として払うことは可能かい?」

 

 私は自分の鞄から札束を取り出して、彼女に差し出した。

 

「ふーむ。本来は空島の通貨が望ましいが……。お兄さんは男前だから、サービスして、あたしが換金しといてやろう」

 

 老婆は札の数を確認しながら、私にそう返した。いや、サービスはいいんだけどさぁ……。

 

「ちょっと、私は――。もごもご」

 

「キャハハ、ありがとう。サービスしてくれて」

 

 私が老婆に物申そうとすると、ミキータが慌てて私の口を塞いできた。

 まさか、有耶無耶にしたほうが得だと判断したのか……。

 

「悪いわね、ライア。奢ってもらって」

 

 そして、ナミは奢りということを強調しながら私にウィンクした。

 まぁ、奢りは別に良いんだけど……。

 

「白海名物、“特急エビ”……」

 

「うわあっ! 動き出した!」

 

 そんなやり取りをしていると、老婆が札を数え終えたのか、雲の下から巨大なエビが現れて、せっせとメリー号を上まで運んで行った。

 

 そして、我々はあっという間に空島に辿り着いたのだった。

 まるで夢のような世界だな。きれいだし、何というか……、幻想的だ。クリケットの言うロマンって意味がよくわかる。

 漫画と違って違法入国者にもならなかったし、方針を考えつくまでのんびりするのも悪くない……。

 

 

「は〜〜っ! ここは何だ! 冒険のにおいがプンプンすんぞ! 早く行こう!」

 

「――えっ? あっ、ちょっとルフィ、それにチョッパーも!」

 

 ルフィとチョッパーはいち早く船から降りて雲の上を走り出した。なんか、違法入国じゃなくても、のんびり出来ない気がする……。

 

 というより、こんな風景を見てテンションが上がらない方が難しいみたいで、ナミやミキータ、そして彼女らを追いかけてサンジまで、船から飛び出して、雲のビーチを楽しもうとしていた。

 

「あなたたちは?」

 

「ん? 行くよ。ライアもそうだろ?」

 

 そんな様子を並んで窺っていたゾロと私にロビンが話しかける。

 ゾロは返事をしながら私の方を見た。

 

「もちろんさ。空島を冒険なんて貴重な体験だろ?」

 

 私はゾロに続いて答える。空島なんていう、現実離れしたものに興味がないはずがない。

 

「そう。航海や上陸が……、冒険だなんて、考えもしなかった」

 

 ロビンは少し微笑みながら遠い目をしていた。

 彼女の人生は闇に潜むも同然のものだった。

 だから、こうやって無邪気に知らない土地を渡り歩くことを楽しむなんてことはなかったんだろう。

 

「そっか。だったら、これから徐々に病みつきになるかもしれないね。みんなの影響を受けて……。さぁ、私たちも向かおう」

 

 私はロビンの手を握って、メリー号から飛び出した。

 

「――ッ!? ふふっ、狙撃手さんは手の肌もきれいだし触り心地が良いのね。先にこっちに病みつきになっちゃいそう」

 

 彼女は驚いた顔をしたかと思うと、すぐに笑いながらそんなことを行ってきた。

 なんか、親指で私の指を撫でてるんだけど……。

 

「――おいおい、変なこと言わないでくれよ……」

 

 私はそうつぶやいてルフィたちの元に近づいた。

 

 目に見える風景すべてが新鮮だなぁ。花も木の実も何もかも初めて見る。

 

「スー、スー」

 

「うわぁ! 可愛いなぁ!」

 

 特に私の目を奪ったのは白くてふわふわしたキツネのような生き物だ。

 堪らず私は白いキツネをしゃがんで撫でてしまった。

 

「お前って意外と動物好きだよな……」

 

 白いキツネを撫でて、撫でて、ついには抱きしめてしまってる私を見ながらゾロはそんなことを言う。

 

「意外って、普段の私をどういう目で見てるんだ? ――ん? この音は……」

 

 私がゾロにツッコミを入れた直後、耳に届いたのはきれいなハープの音。 

 

 演奏しているのは――。

 

「天使だ!」

 

 サンジがそう答えるのも無理はないかもしれない。

 確かにハープを持っていたのは、天使のような見た目の女の子だった。確か、この子はコニスという名前だったかな?

 

「へそ!!」

 

 よくわからない、おそらくハワイのアロハー的な感じの挨拶をするコニスは微笑みながら固いフルーツと悪戦苦闘しているルフィに近づいてきた。

 

 コニスはこのスカイピアの住人でルフィが青海から来たと言うと、優しく困ったことがあったら力になると言ってくれた。

 ルフィはフルーツに穴を開けてもらってご満悦みたいだ。どうやら、フルーツの果汁はとっても美味しいらしい。

 後で私も飲もうっと……。

 

「ああ、君の視線で心が火傷を――」

 

「サンジくん、邪魔……。あの、知りたいことがたくさんあるのよ。とにかく、ここは不思議だらけで」

 

 ナミはいつものサンジの肩をグイッと掴んで、コニスにいろいろと聞きたいことがあると言った。

 私も聞きたい。特に空島にしかない、“ダイアル”っていう不思議な貝には興味がある。

 漫画のウソップはあれでナミと自分の武器を強化してたし、私もそれに倣いたいと思っている。

 

「はい、なんでも聞いてください」

 

「ナミ、私もいろいろと把握したい。一緒に話を聞いても良いかな?」

 

 快く了承したコニスを見て、私はナミに声をかけた。

 

「それは構わないけど、あなたが来ると――」

 

「――はっ! ええっと、あっ! その子、私の友達なんです」

 

 ナミが少し嫌そうな顔をしたのと同時に、コニスは恥ずかしそうに頬を赤らめて私が抱いている白いキツネを指さした。

 ああ、この子はコニスのペットだったのか。

 

「ああ、この白いキツネは君の友達なんだね。可愛いね」

 

「そっ、そんな可愛いだなんて」

 

 私がコニスに声をかけると、彼女はますます顔を赤くして照れていた。ペットを褒められて嬉しいのかな?

 

「いや、すっごく可愛いよ。もう、思わず抱きしめて撫で回したくなるくらい」

 

「――だっ、抱きしめるのですか!? でっ、出会ったばかりで抱きしめるなんて……、青海の方は大胆なんですね……」

 

 コニスは私がこの子に対して素直な感想を述べると、びっくりした表情をして両手で口元を隠して伏し目がちにそう言った。

 動物にそういうスキンシップをするのは、空島ではまずいのか……。それは知らなかった……。

 

「ああ、ごめん。つい可愛くてこの子抱き締めちゃったんだけど、駄目だったかな?」

 

 私は白いキツネをコニスに渡しながら、そう尋ねた。

 

「えっ? あっ、この子の……」

 

「もう質問してもいいかしら? ったく、あなたが来るとこうなると思ったわ」

 

「キャハハ、レディキラーだもんね〜」

 

 コニスが何かに気付いた顔をすると、ナミとミキータは私を後ろに引っ張って下げた。

 レディキラーって言われても、私は何もしてないと思いたいけど、違うのか?

 

「コニスさん! へそ!」

 

「ええ、へそ! 父上!」

 

 そんな話をしていると、コニスの父親がスクーターのような乗り物に乗ってこちらに近づいて来た。

 

「あれは、何? 乗り物?」

 

「おおっ! よく見りゃかっこいいな、あれ!」

 

 ナミとルフィは興味深そうにコニスの父親の乗り物に目を奪われていた。

 確かあれって、ルフィが沈没船から持ち帰ったモノの中にあった気がする。

 

 スクーターのような乗り物は“ウェイバー”というもので、やはり“ダイアル”を動力にしてるらしい。

 

 そして、コニスの父親のパガヤもまた親切な方で、彼の誘いもあり、二人の家で食事をご馳走になることになった。

 

 空島の冒険はのんびりとした雰囲気の中で始まった――。

 




お金を払って入国したので違法入国にはなりませんでした。ここは大きく展開に作用するポイントになりそうです。
コニスのライアに対するリアクションはいつもどおり。ナミはもう慣れたって感じになってしまってます。
ダイアルを使って武器を強化しないとCP9の相手はきついと思うので、空島編はライアの強化イベントとしても重要です。


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冒険のにおい

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
空島編を読み返しながらダイヤルの活用法を考えたりしています。このままだと、頂上決戦に行ったとしても即死だなぁと思いながら……。
それではよろしくお願いします!


 私たちはコニスとパガヤの家でダイヤルについて説明を受ける。

 

 やはり、ダイアルは便利なモノだった。風貝(ブレスダイアル)炎貝(フレイムダイアル)は私の特殊な弾丸と似ているが溜めて放つので使い捨てでないところは大きい。

 それに加えて映像や光や音を溜めることができるダイアルも見せてもらった。

 これらを手に入れることが出来れば、いろいろと戦略の幅が広がり、武器作りが捗りそうだ。

 

 あと、ここには無かったが、記憶が確かなら衝撃や斬撃を貯められるダイアルもあった気がする。この2つはぜひ欲しい。

 

 私がダイアルの説明を興味深そうに聞いていると、コニスはなぜか照れたような表情をして目を合わせようとしてくれなかった。

 

「キャハハ、ホントだ光ってる〜」

 

「面白いなー、面白いなー」

 

 ミキータとチョッパーは灯貝(ランプダイアル)を興味深そうに見つめていた。

 

「こっちの生活に溶け込んでいるんだね。うん。これが見られただけでも空島に来た価値はあったな」

 

「そっ、そうですか? そんなに喜んでいただけて嬉しいです」

 

 私の言葉にコニスが反応する。百聞は一見にしかずというが、まさにそのとおり。

 ダイアルを生で見られて私は嬉しかった。

 

「コニスが上手に話してくれたから良く理解できた。ありがとう」

 

「そんな……。私は大したことは……」

 

 私が彼女の手を握ってお礼を言うと、コニスはまた俯いて顔を真っ赤にしていた。

 彼女は照れ屋みたいだ。

 

「まったく、あんたは……。全然反省の色が見えないわね。まぁ、いいわ。食事が出来たみたいよ」

 

 ミキータは頭を横に振りながら、私の肩を叩いた。

 どうやら、パガヤが作った手料理がこちらに運ばれて来たみたいなのだ。

 空島の料理に興味があるというサンジもそれを手伝っていて、彼もこちらに来ていた。

 

 

 

「おーい、ナミさんはどこに行った!?」

 

 食事を始めてしばらくして、サンジは外を見ながら声を上げた。

 

 ナミは乗るためには長い訓練が必要なウェイバーを天性の才能ですぐに乗りこなし、しばらくそれを走らせて遊びたいと言ったので外に1人残っていたのだ。

 

「えっ? さっきまでその辺に……。あれ、居ない」

 

 サンジの言葉を聞いて私も窓の外を見ると、なるほど彼女の姿は見えない。

 

「まさか……。ウェイバーで聖域に行ってしまってはいないでしょうか」

 

「ええ、コニスさん。私も嫌な予感がします」

 

 コニスとパガヤは心配そうな顔をして見つめ合っていた。

 聖域ってまさか……。

 

「聖域?」

 

「はい、スカイピアには足を踏み入れてはならない、神の住む土地があるのです。その名は“アッパーヤード”」

 

 ロビンがコニスの言葉に反応すると彼女は神が住む土地について説明をする。

 そう、そこにはクロコダイルよりもとんでもない奴がいる……。

 

「神がいるのか!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ルフィが目をキラキラさせながらコニスの言葉に反応した。

 あーあ、ウキウキしてるよ……。

 

「はい。ここは神の国ですから。全知全能の神、“(ゴッド)・エネル”によって治められているのです」

 

「そっか〜! 絶対に入っちゃいけない場所があるのか〜!」

 

 コニスはそんなルフィの気持ちにも気が付かずに淡々と説明をしていた。

 なんか、芸人に「押すなよ、絶対に押すなよ」って言ってるみたいだ……。

 

「君には“入れ”としか、聞こえてないみたいだね」

 

「ライアは何でも知ってるな〜! あとで一緒に冒険に行こう! にっしっしっ」

 

 堪らず私はルフィにツッコミを入れると、彼は悪びれもせずに私の背中をバシバシ叩いた。

 いや、私をサラッと共犯にしようとしないでくれ……。

 

「少しは隠せ。コニスちゃんが心配そうな顔してるだろうが!」

 

 サンジは明らかに顔が曇っているコニスを気遣って彼の頭を小突く。

 

「おし、とにかくナミを探しに行こう!」

 

 しかし、ルフィは行く気満々でニコニコ笑っていた。

 

「ちょっと待ってください。本当に彼女がそこに向かったのか分かりませんし、無茶だけはくれぐれもなさらないで下さい。“(ゴッド)・エネル”の怒りに触れると本当に大変ですから」

 

 コニスはルフィの暴走を止めようとエネルの怒りに触れる危険性について話した。

 そう、エネルだけは要警戒だ。自然(ロギア)系の中でも強力な悪魔の実――ゴロゴロの実の能力者。

 

 体が雷になるだけでも強力なのに、心網(マントラ)と呼ばれる見聞色の覇気により広範囲で相手の気配を察知可能な上に動きが読める。

 そして、その心網(マントラ)を利用した遠距離攻撃、神の裁き(エルトール)は反則と言ってもいい。なんせ、このスカイピア全体が彼の攻撃範囲なのだから。

 

 速度も雷速だし、力だってゾロを圧倒するくらい強い。

 ルフィが天敵のゴム人間じゃなかったら、確実に詰むレベルの実力者だった。

 

 おまけに、そのルフィにすら電熱や斬撃ですぐに食い下がるくらい頭もいい。

 間違いなく偉大なる航路(グランドライン)の前半で出てくる敵ではないのだ。

 

 うん。私だったら文字通り瞬殺される未来しか見えない……。

 

 そして、今、ナミがいる場所というのが……。

 

「ちなみにその“アッパーヤード”の方向ってあっちかい?」

 

 私は指で方角を指し示しながらコニスに尋ねた。

 

「あっ、はい。でもどうしてそれを?」

 

 コニスは不思議そうな顔をして私の言ったことを肯定する。

 やっぱり……。ナミはアッパーヤードの方に行ってしまったみたいだ。

 

「まいったな。ナミの気配を探ったんだけど、向こうの方向から感じるんだ」

 

「あら、それは困ったことになりそうね」

 

 私が頭を掻きながらナミがアッパーヤードの方に言ってしまったことを話すとロビンは他人ごとみたいな声を出した。

 うーん。中に入ってないって信じたいなぁ。

 

「キャハッ……、船長が理由を見つけたって顔をしてるわ」

 

「おい、飯を大急ぎで口に詰め込むな!」

  

 それを聞いたルフィはいても立ってもいられなくなったのか、大急ぎで食べ物を口に入れて出発しようとした。

 

「ああ、行かれる前に、あなたたちが仰っていた古いウェイバー。よろしかったら、私、見ておきましょうか? 直せるものなら、直しますし」

 

 そんな我々を見て、親切なパガヤは古いウェイバーの修理をしてくれると言ったので、我々は彼にウェイバーを託した。

 

 

 そして、私たちは船に乗り込みナミの向かった方向に出航しようとしたのである。

 

 その時――。

 

「お待ちください!」

 

 私たちを制止する声はコニスのものだった。どうしたのだろう?

 

「あの、よろしかったら、私も行きましょうか? あなたたちは、まだ空島に慣れていらっしゃらないみたいですし」

  

 コニスはニコリと微笑みながら、案内も兼ねて同行すると言ってくれた。

 

「おおっ! コニスも冒険、じゃなかった、ナミを探しに行きたくなったのか? 来いよ!」

 

 ルフィは笑いながら手招きして彼女をこちらに呼ぶ。

 確かにこの辺の地理に疎い私たちだから、空島の住人に案内してもらえればこれ以上心強いことはない。

 

「へぇ、あの子って本当に親切だね」

 

「キャハハ、鈍感ね。親切なだけじゃないわよ。ほら、あの子の視線を見てみなさい」

 

 私が隣にいたミキータに話しかけると、彼女は呆れた顔をして返事をした。

 

「視線?」

 

「…………ッ!?」

 

 私がミキータの言葉に反応してコニスの目を見ると、ちょうど彼女はチラッとこちらを見ていたみたいで目があった。

 すると、彼女は驚いたような顔をして急いで目を逸らした。

 

 以降、彼女の視線を追っても何もわからず終いだった。

 

 ともかく、私たちはアッパーヤードを目指して船を進めたのである。

 

 

「ここがアッパーヤード……、神が住む土地……」

 

 ロビンが生い茂る森林を見ながら興味深そうにアッパーヤードを見ていた。

 

「よしっ! ナミを探しに行くぞ!」

 

「いや、その必要は無いよ」

 

 ルフィが船から降りようとするのを私が制止した。なぜならナミは――。

 

「あっ、みんな! こっちに来ていたのね!」

 

「ナミさァん! あなたの騎士が馳せ参じましたァ!」

 

「良かった……」

 

 ナミがウェイバーでこちらに向かってきているのを見てサンジはブンブン手を振って、コニスはホッと胸をなでおろしていた。

 

「早くここから逃げるわよ! 私たちはお金を払って入国したから大丈夫だと思うけど、とにかくここは危険なところよ!」

 

「何かあったのか?」

 

 ナミの焦った態度を見て、ゾロはそう尋ねる。彼女の顔色は青く、何か良からぬものを見てい来たみたいだ。

 

「不法入国した人が、さっきまでここでヤバイ連中に襲われてたのよ。きっと、あそこでお金を払わなかったら私たちも……」

 

 彼女は不法入国者が集団リンチに遭っていた様子を私たちに伝えた。

 この国の闇の部分を目にしたみたいだな……。

 

「この国では神が定めた法律がすべてですから。不法入国者を神に仕える神官が裁いていたのです。みなさんは、観光者として入国されてますので大丈夫ですよ」

 

 コニスはナミのセリフを聞いて少しだけ顔を曇らせたが、冷静に私たちに説明をした。

 

「キャハハ……、だけどあのお婆ちゃん、最初は明らかに私たちを不法入国者に仕立て上げようとしてた。神って人もワザとルールを破るように仕向けてるんじゃない?」

 

 しかし、ミキータは入国の際の老婆の態度に対して言及する。確かにアレは不法入国してくれって言っているようにも感じられる。

 

「そっ、そんなことを言ってはなりません。神を冒涜するようなことを言うと裁きが下りますよ」

 

 ミキータの発言にコニスは慌てたような口調になった。そういえば、エネルはゴロゴロの実の力と心網(マントラ)を併用して国全体を盗聴出来るみたいだったな。

 どんだけ反則級の力を持ってるんだ……。

 

「だが、こいつの言うとおり、おれたちは嵌められかけた。少なくとも神というのは、よそ者には厳しいんだろ」

 

 ゾロはミキータに同調し、エネルはよそ者に対して害意があると読んでいるみたいだ。

 

「ところで……、船長さんはどこに行ったのかしら?」

 

 そんな話をしていると、唐突にロビンが気が付いたような声を出した。

 あれ? 本当だ。ルフィが居ないぞ。

 

「ルフィならさっき船から出ていったぞ」

 

 チョッパーはルフィがアッパーヤードに入って行ったことを伝えた。

 あれ? これって、むしろトラブルに巻きこまれるの早まってない?

 

「あのバカ。コニスちゃんがあれだけ言ってたのに、欲望に負けやがって」

 

 サンジはイラッとした声を出している。まぁ、コニスはずっと止めてたからね……。

 

「ルフィがあの話を聞いたら、遅かれ早かれこうなったさ。仕方ない。私が彼の気配を辿って連れ戻そう」

 

 私は船を降りてルフィを探しに行くことにした。なんか、迷子を探しに行く親みたいな心境だな。

 

「ダメです! ライアさんまで罪を背負うことになってしまいます。ルフィさんが戻ってくるまで待ったほうが……」

 

「ははっ……、私はすでにお尋ね者さ。大事な船長を放っておくわけにはいかないよ。大丈夫。すぐに戻る。みんな、船を頼んだよ――っと」

 

 コニスは止めたけど、ルフィを放置するなんて出来ないので、私はアッパーヤードの中に入って行った。

 神官とかゲリラに襲われてなきゃいいけど……。

 

 

 私の心配は杞憂で済んだのか、驚くほどあっさりルフィに追いつくことが出来た。

 

「ライア! なんだァ、やっぱりお前も冒険がしたかったんじゃねェか」

 

 ルフィは走って追いついた私の姿を確認するとニカッと笑って手を振ってきた。

 

「冒険に興味はなくはないけどね。とりあえずナミが無事だったんだから、1回戻らないか? ほら、ちゃんとサンジに弁当を作ってもらわないと途中でお腹が空いたら大変だし」

 

 私は彼の性格から気を引けるようなキーワードを出しながら戻るように促す。

 

「弁当かァ! それもいいな!」

 

 ルフィは思った以上に食いついてくれた。ふぅ、やはり食欲って彼の中で大きなウェイトを占めてるんだな……。

 

「私も冒険はしたいと思ってる。おそらく、この島にはすごい秘密があるんだ」

 

「秘密!? なんだそれ!? すっげェ面白れェ予感がするぞ!」

 

 私が勿体ぶるような言い回しをすると、彼は無邪気にはしゃぎながら目を輝かせる。

 秘密というのは黄金郷のことだ。メリー号のことを考えると、ウォーターセブンで確実にまとまった金が必要になる。

 

 出来ればなるべく多くの黄金を持って帰りたい。ミキータも居るし、メリー号への運搬は彼女の力を借りれば楽そうだ。

 なんとも俗っぽいことを考えながら、私はルフィを説得していたのだ。

 

「面白さについては保証するよ。だから、一度メリー号に戻ろう」

 

「うっし、戻ろう! そして、すぐ出発しよう!」

 

 彼は素直に頷いて、足を反対方向に向けてくれた。

 良かった、このまま無事に船に戻って、みんなで準備を整えて探索すれば……。

 

「ははっ、ルフィは本当に冒険が好きなん――。――んっ!? 今の音はなんだ!?」

 

 ホッと胸を撫で下ろした刹那、大きな音が私の鼓膜を刺激した。なんだろう? 木が倒れた音のように聞こえたが……。

 

「あっちだ!」

 

 ルフィは音のした方向に走り出す。人の気配が2つ……。

 1人はかなり強い……。おそらく神官だろう。もう1人は――。

 

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 巨大な鳥の背中に乗った槍を持った男がカバンを抱えた小さな女の子を追いかけている。

 

「ガキの侵入者なんざ、殺ってもつまらねェが……! 弱いやつは死ぬのが真理だっ! 死ねっ!」

 

「くっ……!」

 

 彼女が木の根に足を引っかけて転けてしまったとき、男はそれを読んだかのように槍を伸ばす。このままだと、彼女は串刺しになってしまう……。

 少女はカバンを抱き締め、目を閉じた――。

 

「――ゴムゴムのォォォ! ピストルッ!」

 

 ルフィが槍の男に向かって腕を伸ばした。その男は事前にそれを察知したかのようにきれいにルフィのパンチを躱す。

 あれは、見聞色の覇気――こっちの言い方だと心網(マントラ)か……。自分以外の使い手を見るのは初めてだな……。

 

「ふぅ、大丈夫かい?」

 

 私は土の入ったカバンを抱きしめている少女に声をかけて、手を差し出した。この子はゲリラを活動をしている、ワイパーたちの仲間だった子か……。

 よく覚えてないけど、ここで死んでないことだけは確かだ。うーむ、やはり漫画と同じじゃないんだな。

 

 これから先もそれを想定して気をつけなきゃ。漫画の知識を過信すると痛い目に遭いそうだ。

 頂上決戦にシャンクスたちが来ないというオチだけは勘弁してほしいがそれも覚悟しておこう。

 

「カハハハハッ。なかなかいいパンチを撃つじゃねェか。見たところお前ら青海人だな。せっかく、正規入国したのに、ここに入ってくるとはバカな奴らだ」

 

 男はルフィを見てニヤリと笑った。確か、この男はシュラという名前の神官だった。漫画ではガン・フォールを倒してた気がする……。

 

「せっ、青海人!?」

 

 私の手を握って立ち上がった少女はギョッとした顔で私たちを見ていた。そういえば、彼女らにとって私たちは排除すべき対象だった。嫌な顔をされても仕方ない。

 

「ルフィ……、あいつかなり強いよ」

 

 私はルフィにそう伝えた。シュラたち神官は全員が心網(マントラ)を会得していたはず。

 使ってるからこそわかるが、攻撃が読まれるというのはかなり面倒な能力だ。

 

「すっげェ! あの鳥、火ィ吹いてるぞ! カッコいいな!」

 

 しかし、ルフィは私のセリフを聞き流して、火を吹いている鳥に対して歓喜の声を上げていた。

 うーん。これは戦闘は避けられないだろうな。

 なんとかルフィを援護してなるべく早くあいつを倒してここを去らないと……。

 

 私とルフィは神官のシュラと戦うこととなった――。




前書きで頂上決戦に触れたんですけど、多分ライアはルフィのサポートに徹する感じになると思うんですよ。
なので、今回はその練習も兼ねてタッグを組ませてみました。
空島編は原作とストーリーも変わってくる部分も多いと思います。面白くできるか、不安ですが見守ってあげてください!


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紐の試練

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回は丸々1話使ってシュラとの戦いです。
それではよろしくお願いします。


「ゴムゴムのォ! ガトリング!」

 

「スピードはまぁまぁだが……、何発撃とうが無駄だ」

 

 ルフィの連撃がシュラに向かうが彼はいとも簡単にそれを躱す。

 やはり、心網(マントラ)の使い手に攻撃を当てるのは簡単じゃないな。

 

「あらま、完全に動きが読まれてるみたいだね」

 

 私はルフィが果敢に攻めてるにも関わらず一撃も当てられていない様子を見ながら作戦を練っていた。

 

「あっ、あいつ。やっぱり腕が伸びてる……」

 

「ああ、ルフィはゴムゴムの実の能力者なんだ。――えっと、君は足を怪我してるみたいだから、あとでウチの船医に診てもらうといい」

 

 私は少女の疑問に答えて、彼女に足の怪我の治療をあとで受けるように言った。

 

「せっ、青海人は排除しなきゃいけない悪い奴のはずなのに! なんで、あたいを助けた!?」

 

 しかし、少女は私が彼女を助けたことを訝しく思っているらしく、警戒心を露わにしている。

 

「なんでって? 理由とか別に無いさ。私もルフィも何となくで動いてるから」

 

「はァ? お前らバカなのか?」

 

 私もルフィも少女が殺されそうだったから、特に何も考えずに彼女を助けた。

 だから、理由を聞かれても困るだけだった。

 

「ははっ! かもしれないね。思ったより元気そうだ。危険だからしばらく隠れているんだよ」

 

 そして、私は彼女に戦いに巻き込まれないようにしてほしいとお願いした。激しい戦いになるかもしれないと思ったから。

 

「黙れっ! 命令するな! お前ら、早く逃げろよ! あいつエネルのところの神官なんだ。殺されるぞ!」

 

「殺されないし、殺させないよ。私は――」

 

 少女のセリフを背中に受けて私は、銀色の銃(ミラージュクイーン)を構えた。

 

 

「くっそー! あいつ変な力があるぞ! 技が当たらねェ!」

 

「カハハハ! 今度はこちらから行くぞ!」

 

 ルフィの攻撃が一段落ついたとき、今度はシュラが動き出す。炎貝(フレイムダイアル)を仕込んでいる槍をルフィに向かって突き刺そうと。

 

「ルフィ! その槍は燃えるぞ! 気をつけろ!」

 

「よっと、おっ! 本当だ! 燃えてる、燃えてる! 面白ェ武器使うなァ!」

 

 ルフィが槍をぎりぎりで避けると、槍は木に突き刺さり、その木はメラメラと燃えてしまった。

 

「ほーう、よく躱した。そして、お前はよく分かったな。初見でこの槍の力が……」

 

「ルフィ、あいつは君の心の中を読んで攻撃を避けてるんだ。だから、当てるのは結構大変だよ」

 

 シュラの言葉を聞き流して、私はルフィに心網(マントラ)のことを話す。

 

「さっきからスカスカするって思ってた! そっか、やっぱり動きを読んでんのか……!」

 

 ルフィはさすがというか、攻撃が事前に読まれて避けられていることに何となく気付いていたみたいだ。

 

「私が動きを止めてみせる。ルフィはそのタイミングで攻撃をしてくれ」

 

「ん? そうか! じゃっ、任せた!」

 

 選手交代ではないが、同じように攻撃のタイミングが読める私がシュラの動きを止める役を担い、ルフィにそのあとを託した。

 

「なんだ? 今度は青瓢箪みてェなガキが相手か?」

 

 シュラは私が銃口を向けても余裕そうな表情は崩さなかった。

 ルフィよりも弱いことがバレてるんだろうな。

 

「――そらっ!」

 

「ほう、大した早撃ちだ。だが、当たらねェよ」

 

 シュラに放った銃弾は軽く躱されてしまう。まるで、引き金を引くときにはもうどこを狙うかわかっているみたいに。

 

「なるほど、正確に私が撃つ瞬間を読んでいる。――おっと」

 

 そして、シュラもまた、私が攻撃をした瞬間を狙って槍を突き出してきた。

 まぁ、私もそう簡単には当たらないが……。

 

「なっ――!? その動き……、お前も心網(マントラ)を……!?」

 

 シュラはひと目で私も相手の動きが読めることに気付く。

 このあたりはさすがだな……。

 

「お互いに同じように攻撃を読めるとなると、勝敗を分けるのは、それ以外のところになりそうだな」

 

 両方の攻撃が永遠に当たらないということはない。

 読めていても避けられないということはあるのだから。実際、私はMr.2やキャプテン・クロの攻撃を何回も受けている。

 

「だったら勝つのはおれに決まってる。お前みてェなガキとは年季が違うんだッ!」

 

 シュラは自分の方が私よりも身体能力的に優れていると読んで、猛攻を仕掛けてきた。

 読まれていようがお構いなしということか……。

 

「くっ――!? 確かに動きの洗練さでは私が負けてるようだ」

 

 私は何とか回避に全集中力を傾けてシュラの技をやり過ごそうとする。

 しかし、速い上に相棒の鳥が所々で炎を吐いてきて、逃げ場を限定してくるので避けるのも限界になってきた。

 

「ハッ! 弱いクセに粋がるからだッ! 色男は女のケツでも追いかけてりゃいいッ!」

 

 シュラは勝ちを確信した表情で私の急所を容赦なく狙って槍を突き出してきた。

 

「ちょっと、お前は仲間だろ! なんで、助けてやらないんだ!」

 

「ライアは動きが止まるのを待てと言ったんだ。だから、おれは待つ!」

 

 それを見ていた少女の言葉に対してルフィははっきりと私に対する信頼を口にする。

 まいったな。そんな事を言われたら――いつもより余計に頑張っちゃうじゃないか……。

 

「カハハハハッ! おれの動きを止めるだとォ! バカも休み休み言え! これで終わりだッ!」

 

 ルフィの言葉を嘲笑うかのようにシュラは力を込めた一撃を私に放ってきた。

 しかし、必殺の勢いというのはそこにスキが生まれる。

 

「――必殺ッッ! 鉛星ッッッ! ぐっ――、肩が――」

 

 私は左肩を盾にしながらシュラの攻撃を敢えて受けて、その瞬間に引き金を引いた。

 動きが読めてようがこの瞬間だけは関係ない。必ず当たる――。

 

 肩が貫かれ、そして焦がされて激痛が走るが、シュラの脇腹にも風穴が空いた。

 

「――ッ! バカなッ――」

 

「今だァ! ゴムゴムのォォォ!」

 

 シュラは苦悶の表情を浮かべる瞬間をルフィは見逃さない。後方に思いっきり両手を伸ばした彼は、シュラの腹をめがけて掌撃を加えようとした――。

 

「なっ! ぐっ――」

 

「――バズーカッッッ!」

 

 シュラは何とか回避行動を取ろうとするも、ルフィの動きが一瞬早く、彼はまともにルフィの技を受ける結果となった。

 

「ガッあああ!」

 

 血を口から吹き出しながら吹き飛び大きな木に衝突するシュラ。

 巨木に埋もれる彼の様子からルフィの技の威力の高さがうかがい知れる。

 

「一撃を受ける覚悟さえしてれば、刺し違えるくらい訳ない。それと――誰が色男だ! 私は女だ!」

 

 そう、私は元より無傷を諦めていた。シュラが最もスキをみせる瞬間に敢えて攻撃を受けて、一撃を与えてやろうと試みていたのだ。

 

「えっ!? ええっ!? お前、女なのか!? あたいはてっきり……」

 

 シュラに聞かせたつもりのセリフは少女を驚愕させる。

 いや、まぁ慣れてるからいいけどさ……。

 

「あっはっは! 気にすんな! みんな、ライアのこと女だなんて思わねェ!」

 

「時々、君の素直さに傷付くことがあるよ……。サンジは思ってくれたもん」

 

 ルフィは少女に笑顔で話しかけ、私はどちらかというと彼の本音に傷付く。

 

 

 しかし、シュラにはかなりのダメージを与えたと思っていたが、驚いたことに彼は立ち上がった。

 

「ちくしょうッ! はぁ、はぁ……、おれは全知全能の(ゴッド)・エネルに仕える神官! 青海人なんかに負けるわけにはいかねェ! もうじきお前らも知ることになるだろう! 生存率3%――紐の試練の恐怖をなっ! ゲフッ……! お前らに教えてやる。そこから先はおれのテリトリーだ!」

 

 シュラは息を切らせながら、試練とかテリトリーとか言い出していた。

 

「私とルフィの攻撃を受けてまだ動くか……」

 

「あいつ! 空に!」

 

 私とルフィが彼の様子を見ていると、彼は鳥の背中に乗って空中に飛び上がった。

 

「カハハハハッ! このフサに乗った空中戦こそおれの真骨頂だ! お前らのまぐれ当たりは二度とないと思え!」

 

 少し休んだからなのか、シュラは再び元気になり、私たちに襲いかかってくる。

 フサという鳥に存分に火を吹かさせながら……。

 

 ルフィはそんなシュラに木の枝に腕を伸ばしたりして回避行動を取りつつ、素早く攻撃を加え、何とか対抗していた。

 

「ちっ、思ったよりも体が動かねェ」

 

「さっきより鈍くなったみたいだな」

 

 シュラのダメージはやはり小さくなかったようでルフィの怒涛のラッシュは少しずつ彼の体を捉えていった。

 

「うるせェ!」

 

 しかし、シュラはルフィの攻撃を読んだ上でカウンターの要領で槍を繰り出し、彼の腕を突き刺す。

 ルフィの傷口は燃え上がり、彼は苦痛に顔を歪める。

 

「あっちィ! こんにゃろう!」

 

 ルフィはダメージに面食らいながらも腕を再び伸ばして、シュラへの攻撃をやめなかった。

 

「伸びたところで的が増えるだけだッ!」

 

「――蒼色の超弾(フリーザーブレット)ッ!」

 

 シュラはルフィに再び攻撃を加えようとしたが、その間に集中力を高めていた私がそれを許さなかった。

 

「なッ! 心網(マントラ)でおれの攻撃の瞬間を読んで――! くっ、腕が凍って――」

 

 彼の腕を掠めた冷気を繰り出す弾丸の効果により、シュラの右腕が凍りつく。

 

「また、スキが出来たな! ゴムゴムのォォォ! うげっ!? 腕が動かねェ! いや、身体も動かねェ!」

 

 それを好機と読んだルフィだったが、何かに縛られたように全身が動かなくなったようだ。

 

「ルフィ! うっ――! 体がっ!」

 

 ルフィの異変を察知した私の体も止まる。

 

「カハッ! これぞ摩訶不思議! 紐の試練――!! ここまで手こずらせたことは褒めてやる。だがここまでだ! フサ!」

 

「ゴォォォォ!」

 

 シュラは勝ち誇った顔をしてフサに命令すると、フサはシュラの凍った右腕に向かって炎を吐いた。

 

「熱いな……。だが、凍った腕は完全に溶けた! まずは厄介なお前からだ!」

 

 シュラは槍を構えて、そして私に向かって突き刺そうと特攻してきた。

 

「ライアァ!」

 

「――瑠璃色の超弾(スパイダーブレット)ッ!」

 

 シュラが槍を突き出そうとしたその刹那、私は素早く彼めがけて粘着性の網が飛び出す銃弾を放った。

 

「うわッ! なんだこれは! おっ、お前は動けねェんじゃ――」

 

 シュラの体には見事に粘着性の網が絡まり、その上それが自分の仕掛けた見えない細い糸に貼り付いてしまって、空中で動きを拘束される。

 

「――ルフィ! 今助ける! はっ――」

 

 そして、私は銀色の銃(ミラージュクイーン)の銃口に刀剣を取り付けて、ルフィを拘束してるであろう糸を切り裂く。

 

「――おっ!? 動けるようになった!」

 

 ルフィは拘束から解放されて、動けるようになった。

 

「相手が動けないと思ったらすぐに油断して、心網(マントラ)とやらを怠るんだもん。まァ、そのおかげで助かったけどね――」

 

 そう、シュラは私が罠にかかったと思った瞬間から目に見えて油断していた。

 そして、私の動きを読むことも疎かにして、突撃してきたのだ。

 

「じゃあお前は最初から……!?」

 

 シュラは罠がバレた上にそれを利用されて騙されたことに気が付き愕然とする。

 

「今度こそ覚悟しろよ!?」

 

 ルフィはニヤリと笑って、先程よりも長く後方に腕を伸ばす。

 

「ちょっ、ちょっと待て! くっ、ベタベタした網が雲紐にくっついて動けねェ……!」 

 

 彼の技の威力を身を以て実感したばかりのシュラは恐怖に顔を引きつらせて、もがいていた。

 

「ゴムゴムのォォォ! バズーカッッッ!」

 

「ぐはァァァッ! こ、このおれがっ……、青海人なんか……、に……」

 

 2度もルフィの必殺の一撃をまともに腹に受けたシュラは大量の血を口から吐き出して、そのまま腹を押さえて気絶する。宙ぶらりんになりながら……。

 ふぅ、やっと勝てたか……。

 

「バカ正直に“紐の試練”なんて言うんだから、相手を拘束するようなトラップくらい警戒するさ。おそらく見えない糸のようなものを無数に張り巡らせて、ルフィを動けなくさせたんだろう。動き回れば知らず知らずのうちに糸によって拘束――というわけだ」

 

 本当は漫画で知ってただけだけど、もしかしてエネルがこの様子を盗聴しているかもしれないので、ワザと説明的な口調でシュラの罠を見破った理由を話した。

 

「おおっ! 道理で動けなくなったと思ったぞ! よく気づいたなァ! でも、ライアも動けなくなったんじゃねェのか?」

 

 それを聞いたルフィは納得した顔をしたが、同時に気になったことを質問してきた。

 

「あれは演技だよ。彼がテリトリーだと言った場所に入ってから体をあまり動かさなかったから、私の体には動けなくなるほどの糸は絡みついてなかったんだ」

 

 そう、紐の試練と聞いてから私は必要最低限にしか動かなかった。

 しかし、糸をまったく体に付けないのも不自然だと思い、体の動きが緩く制限される程度にはワザと絡ませておいた。

 

「そして君が動けなくなった瞬間に私も動けないフリをした。だから彼は自分の罠に私もかかったんだと思い込んで勝利を確信してしまった。それがこの男の敗因だよ」

 

「ライアは嘘が上手いなァ。おれも騙されちまったぞ」

 

 ルフィは私の説明を聞いて感心したような声を出した。

 

「なんか、嘘が上手いってあまり褒められた気がしないな……。さて……」

 

 私は木陰から私たちの戦いをずっと見ていた少女に声をかけようとした。

 

「なっ、なんだ? あっ、あたいをどうしようってんだ!?」

 

 私が彼女の方を向くと少女はビクリとする。

 

「お前、こっちまで追いかけて来てたのか?」

 

「そっ、そんなのあたいの勝手だろ!」

 

 ルフィも彼女に気付いて声をかけると、彼女は顔を背けながら大きな声を出した。

 

「足を庇ってるところを見ると、捻挫の可能性もあるな。ほら、治療してあげるからメリー号においで」

 

 私は少女の足の様子を見て歩くのもキツイだろうと察して、彼女を抱きかかえた。

 

「ばっ、バカ! やめろ! はっ、恥ずかしいじゃないか」

 

 少女は顔を歪めて、私の肩の辺りをポカポカ叩いてくる。

 

「子供が大人を頼るのは恥ずかしいことじゃないよ。別に恩が売りたいんじゃない。中途半端に助けたくないだけなんだ」

 

「ついでに飯でも食ってくか? サンジの飯はうめェぞ!」

 

 私とルフィはそれでもお構いなしで、彼女に声をかけつつメリー号へと足を進めた。

 

「それは、いいな。サンジも可愛い女の子の為なら張り切ってくれそうだ」

 

 多分、サンジはコニスやこの子に特別な弁当を作るだろうな。彼の料理は美味しいだけじゃなくて見た目も美しいのだ。

 

「可愛いって――。あっ、あたいのこと?」

 

「おや、熱もあるみたいだな。顔が真っ赤だ」

 

 私の言葉を聞いた少女は顔から湯気が出そうなくらいに赤くなっていた。

 もしかして、傷口から菌が入って変な炎症でも起こしたかな?

 

「うっうるさい! 離せ! バカ!」

 

 しかし、熱がある割には元気そうな彼女はさっきよりも激しく私を叩いてきた。ただ、恥ずかしいだけだったか……。よかった。

 

 そして、エネルからさらなる刺客でも送られるか心配したが、そんなトラブルはなく、私たちは無事にメリー号に戻ったのである。

 

 戻りがけに聞いたのだが、少女の名はアイサ。

 やはり、ゲリラと呼ばれるアッパーヤードの原住民――シャンディアの1人だった。

 

 私たちがこの子を保護したことは、シャンディアと我々の関係性に大きく影響することに、まだ私は気が付いていない――。

 




最初にアイサを保護したことにより、空島編はちょっと変わった方向に進みそうです。
見聞色同士の戦いって表現が難しいですね。お互いに読み合いになるところが……。
もっと描写力を付けなくてはと実感しました。


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雲隠れの村

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ライアが男にしか見えなくなる現象が時折あるみたいですから、どこかでもう少し乙女に見せようと思ってたりするんですけど、気づいたらいつもどおりみたいなことが続いています。
今回もいつもどおりです。よろしくお願いします!


 

 私とルフィはメリー号に戻ってチョッパーにアイサの足の治療と私の肩の治療を頼む。

 

 ナミとミキータはアイサを見て顔を見合わせて何かを話していた。何を言っているんだろうか?

 

 コニスはアイサがゲリラをしている人たちの仲間だということに気付いたのか、一瞬ハッとした表情を見せていた。

 

「でっけェ音がしやがったから、もう少し遅かったらおれもそっちに行ってたぜ」

 

 治療を終えた私に対してゾロは愚痴をこぼした。多分、私とルフィが戦闘に巻き込まれたことを羨ましいとか思ってるんだろうな。

 

「それは良かった。ゾロが来てたら私はもう一回迷子を探さなきゃならなくなったもん」

 

「誰が迷子になるかッ! ――ったく、出ていってすぐに怪我なんてしやがって!」

 

 私が言葉を返すと、ゾロはムッとした顔をして怪我について言及する。

 君だって割と怪我するタイプじゃないか。まぁ、大怪我しても普通に動けるところはすごいけど。

 

「方向音痴の自覚はないんだね……。怪我については私の鍛錬不足が招いた結果だから言い返せないや」

 

 シュラとの戦い。もう少しだけ私の動きが速ければ傷付くことなく勝利することが出来た。

 相手に打たせずに撃つ。見聞色の覇気を利用した究極のカウンターアタック。

 これが私の求める理想の戦法であった。まぁ、そんな都合のいい真似なんか簡単に出来るわけないけど……。

 

「なァ、コニス。こいつの住んでるところって知らねェのか?」

 

「はい。残念ながら、彼女たちが雲隠れの村に住んでいることは知っているのですが、場所までは……。先代の神様なら交渉をされてたりしていたので知っていると思うのですが……」

 

 ルフィの言葉にコニスは申し訳なさそうに首を振る。

 そう、アイサは私たちに仲間の居場所を教えようとはしてくれなかった。青海人に言う訳にはいかないと……。

 

「へぇ、神様って任期みたいなのがあるんだ」

 

「世襲制で引退したとかじゃない?」

 

 ナミとロビンは先代の神という言葉に反応した。

 先代の神って、確かガン・フォールだったよな……。

 

「足はそんなに重傷じゃないけど、何日かは安静にしてろよ」

 

 チョッパーはアイサの足の処置を終えて、彼女に声をかけた。

 

「――あっ、ありがと」

 

 すると、黙って治療を受けていたアイサはチョッパーにお礼を言う。

 律儀なところもあるんだな……。

 

「おっ、お礼なんて要らねェよ! バカヤロー!」

 

「彼はお礼を言われて喜んでいるだけだから、気にしなくていいよ」

 

 私は可愛らしいダンスを踊っているチョッパーを見て目を丸くするアイサにそう声をかけた。

 

「コニスちゃんは、その先代の神様ってやつの居場所は知っているのか?」

 

「ごめんなさい。それもちょっと……。しかし、最近は空の騎士と名乗って、青海人などを助けているみたいですが……」

 

 その様子を見ていたサンジは思いついたように先代の神の居場所についてコニスに質問すると、コニスは空の騎士の名前を出した。

 やはり、ガン・フォールは先代の神だったか。

 

「「空の騎士!?」」

 

「そっか、あのおっさんか。――ピィー♪」

 

 空の騎士と聞いてみんなが反応した瞬間に、ルフィはまったく躊躇することなく、ガン・フォールにもらった笛を吹いた。

 

「「ルフィ!」」

 

「こいつが住んでる場所教えてくれねェんだから、知ってる奴に聞くしかねェだろ?」

 

 ルフィは当然という表情で“空の騎士”ガン・フォールを呼んだ理由を話した。

 

 確かに、それが一番手っ取り早いけど……。すぐにそれを実行できる決断能力は尊敬に値するな……。

 まぁ、容赦がないとも言えるけど……。

 

 

 

「――空の騎士参上! ぬっ、おぬしら敵に襲われているわけではないのか!?」

 

 しばらくしてピエールに跨ったガン・フォールが私たちの元に現れた。

 

「やァ、ガン・フォール。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、お茶でも飲みながら聞いてくれるかい?」

 

 私は用意しておいたお茶を差し出しながら、彼にアイサを助け出した経緯を話した。

 

 

 

「――ふむ。なるほど、おぬしたちが“シャンディア”の娘を助けていたとは……。神官の一角を倒したのも驚くべきことだが……」

 

「“シャンディア”というのは、あなたたちとは別の部族なの?」

 

 ロビンはシャンディアの名前を聞いて興味深そうな声を出した。考古学者として何か琴線に触れることがあるとでも言うのだろうか?

 

「うむ――。我々空の住民とシャンディアはもう、かれこれ400年ほど争っていた――」

 

 ガン・フォールはシャンディアと空の民が戦い続けていた歴史的な背景について話しだした。

 

 彼が言うには400年ほど前、シャンディアの先祖たちの土地である聖地アッパーヤードが空に打ち上げられてから、争いが生じたという。

 

「じゃあ、アッパーヤードは元々この子たちの先祖の土地だったんだ」

 

「キャハッ……、でも変な話よね。いきなり大地が空に上がってくるなんて」

 

 ナミとミキータは不思議そうな顔をして話を聞いていた。

 

「あり得なくもないわ。突き上げる海流(ノックアップストリーム)なら、小さな島ぐらい……」

 

 そこにロビンが自らの推理を展開させる。うん。それが正解だったはず。

 

 

「うむ。我輩も原因は知らんがその可能性はあるな。我々の先祖は広大な大地(ヴァース)に目がくらみ、シャンディアから聖地アッパーヤードを奪った」

 

 ガン・フォールは包み隠さずに過去に自分たちの先祖が行った行為を話した。

 でも、客観的に見たら――。

 

「キャハハッ! そうやって聞くとあなたたちの先祖って随分と野蛮だったのね」

 

 私が頭で思ったことをミキータが口に出す。そうなんだよな〜。やってることは原住民から領地の強奪だもん。

 

「ちょっと、ミキータ!」

 

 ナミは目の前のガン・フォールを気遣い彼女を咎めるような声を出した。

 

「いや、おぬしの言うとおりだ。しかし、大地(ヴァース)は既に我輩たちにとってもかけがえのないものとなっておる。だからこそ、シャンディアの者たちと長く交渉し和解への道を作ろうとしていたのだ。6年前にな……」

 

 ガン・フォールはミキータの言ったことを肯定して頷いた。

 そして、彼はシャンディアと和解するために努力をしていたのだという。

 

「だけどよォ、あの場所ってコニスちゃんたちも入っちゃならねェ場所になってるよな? なんかあったのか?」

 

 サンジはそこまで聞いてアッパーヤードが絶対に入ってはならない場所となっていることについて疑問を呈した。

 

「ある日、エネルが兵を率いてこの地にやって来た。奴らは強く……、我輩は神の座を追われ、奴が神としてこの地を治めることとなった。結局、我輩は部下を奪われた上に何もできなんだ……。シャンディアとの共存の道もそれで完全に絶たれてしまった」

 

「そっ、そんな! 神様は私たちのために――」

 

 ガン・フォールはエネルによって全てが奪われたというような話をした。そして、自分は無力だと話す。

 それに対して、コニスは堪らずガン・フォールを庇うような声を出した。

 

「もう我輩は神ではない! 空の騎士である……」

 

 ガン・フォールは吐き捨てるように自分の立場を口にした。

 

「ふわァ……、なァ、おっさん。どうでもいいけど、おれはこいつんちの場所が知りてェんだ」

 

 そして、ガン・フォールを呼んでおいて話は私に任せ、長い話は寝て聞き流していたルフィは過去の話よりもアイサの居場所が知りたいと口にした。

 

「シャンディアの住む、雲隠れ村か……。確かに我輩はその場所を知っておる。――エネルが君臨してからというもの、更にピリピリしておるから、戦闘になるやもしれんが……、それでも行くか?」

 

 ルフィの言葉を聞いたガン・フォールは村の場所は知っているが、戦闘になる恐れがあると言い、私たちにそれでも構わないのかと念押しする。

 

「じゃっ、案内頼むぞ! おっさん! 出発だ野郎ども! 行くぞ! 雲隠れの村に!」

 

 それに対してルフィは一瞬も迷うことなく、雲隠れの村に行くことを決断した。

 まぁ、彼ならそう言うと思ったけど……。

 

「バカ! そんなことしなくてもあたいを自由にすれば済む話だ! 余計なこと、するな!」

 

 そのやり取りを聞いていたアイサは大声で自分で帰りたいと駄々をこねた。

 気持ちはわかるんだけど……。

 

「チョッパーに言われたろ? 安静にしろって。大丈夫だよ。私たちなら」

 

「お前だって怪我してるじゃないか! あたいなんてほっといて逃げれば良かったんだ」

 

 私が彼女の足のことを気にすると、アイサは自分のせいで私が傷付いたというようなことを言う。

 ああ、そんなことを気にしていたのか……。

 

「すまないね。生憎、後悔したくないんだ。自分の選択にね」

 

「知らないぞ! 特にワイパーは鬼みたいに怖いんだ」

 

 彼女に要らないことを気にさせた事を謝罪するとアイサはワイパーというシャンディアのリーダー格の男の恐ろしさについて口に出した。

 

「ふーん。怖いのはそのワイパーって人なのかな? 私にはもっと根深いモノを感じるよ。君たちとコニスやガン・フォールたち――空の民からはね……」

 

 私はワイパーというより、400年もの間争っていたことから生じた途方もない憎しみの連鎖が恐ろしいと思った。

 

「根深いモノ? 何も関係ない青海人が勝手なことを言うな!」

 

「それが関係なくも無さそうなんだ。特に私たちとシャンディアにはおそらく……、縁があると思うよ。ロビン!ちょっと考古学者の観点から私の推測を聞いてほしいんだけど――」

 

 アイサは関係ないと言うが、私たちも関係者といえば関係者だ。

 何故ならシャンディアのルーツとなるジャヤの部族とノーランドは密接に関係しているからだ。

 この事実はついさっきアッパーヤードで思い出した。

 

 そして、この話を上手くまとめる為に考古学者であるロビンの知恵を借りようとしたのだ。

 

「考古学者の? 驚いたわね。まさか狙撃手さんが歴史に興味を持っているなんて」

 

「ははっ、そんな大層な話じゃないさ。例えばなんだけどね――」

 

 私はロビンにジャヤとノーランド、そして黄金郷についての話を推測として話した。

 もしかしたら、アイサと共に雲隠れの村に向かうということは好機かもしれない。

 私たちがエネルたち以外に無駄に敵を増やさないための――。

 

 ロビンは実に楽しそうに私の話を聞いていた。

 

「狙撃手さん、私もぜひあの場所に行ってみたいわ。ふふっ、あなたたちが冒険が楽しいと言った理由が少しだけわかった気がする」

 

 ロビンが顔を綻ばせて何やらメモのようなモノを書き終えたタイミングで、私たちは雲隠れの村がある、雲隠れの島に到着した。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「お前ら! 本当に真正面から、村に入るつもりか!? ワイパーが居たら絶対に争いになるぞ!」

 

 私に抱きかかえられたアイサが顔を引きつらせながら、私たちにそう忠告する。

 

「なったら、なったでルフィが止めるさ」

 

「おう! 任せとけ!」

 

 私がルフィに声をかけると、ルフィはパシンと右拳を左の手のひらにぶつけながら勇ましい声を上げる。

 

「いいこと、ルフィ。喧嘩しに来たんじゃないのよ。その子を返したら穏便に帰還するんだからね」

 

 ナミはルフィにいつものようにトラブルを起こすなと忠告する。

 私は人のこと言えないからもはやそういうことは注意できないんだよね……。

 

「お前も降りてきたんだな。興味あるのか? シャンディアとかいうのに」

 

 ゾロは意外そうな顔をして、船を降りてきたロビンに話しかけた。

 

 船を降りたのは私とルフィとナミとゾロ、そしてロビンの5人だ。それにガン・フォールとアイサを加えた7人で雲隠れの村に向かっている。

 

 サンジとミキータ、そしてチョッパーはコニスと共に船番をしている。

 

「ええ、歴史的な発見があるかもしれないから。あと、狙撃手さんに頼まれたこともあるし」

 

「ライアのやつが? ふーん」

 

 ロビンの答えを聞いたゾロはチラッと私を見て興味なさそうな声を出した。あれはホントに興味が全くないときの顔だ。

 

「ここから下に降りると雲隠れの村に行くことが出来る。我輩もかなり敵視されておるから警戒だけは怠るな」

 

 よく見ないと気付かない程度に円形の切れ目のようなモノが入っている雲の一部分に飛び込むと、ズボッと下の層に飛び降りることができた。

 

 なるほど、雲隠れの村とは文字通り雲に覆われて隠された村だったのか……。

 

 私たちは雲隠れの村の中に到着した。

 

 

「おっ、お前はガン・フォール……! 何をしに来た!」

 

 村に入ってすぐに長い黒髪の女がガン・フォールに気が付いて警戒心を露わにした。

 

「むっ……。ラキか……。我輩は案内を頼まれただけだ。こちらの青海人がお前たちの仲間を助け出してな、送り届けに来たのだ」

 

 ガン・フォールはラキに事情を説明して警戒心を解こうとする。

 

「仲間――? あっ、アイサ!? 無事だったんだね! みんな心配してたんだよ!」

 

「ラキ……、ごめんなさい。青海人に助けられるなんて……」

 

 ラキはようやく私に抱きかかえられたアイサに気が付いてこちらに駆け寄り、アイサは彼女に謝罪した。

 

「青海人に助けられたって、この連中にかい?」

 

「うん。こいつと、麦わらの男が神官を倒して――」

 

 ラキの質問にアイサは答える。この人は話が通じそうだな。

 

「神官を!? なんで、青海人が神官と戦ってるんだ?」

  

 ラキは神官というワードを聞いて驚いた顔をしていた。

 

「アイサが槍で刺されそうになってたんだ。ほっとけないだろ?」

 

 あのときは体が勝手に動いていた。ルフィだってきっと同じはずだ。

 

「放っておけないって……」

 

「――ッ!? 随分な挨拶だね」

 

 ラキが声を出した刹那、私の目の前にナイフが飛んできたので、私は右手でアイサを抱えつつ、左手の指二本でナイフを掴む。 

 

「ほう、いい腕だ。どうやら、神官を倒したっていうのも嘘っぱちじゃなさそうだな」

 

「カマキリ……」

 

 モヒカンにサングラスという世紀末スタイルの男はアイサからカマキリと呼ばれた。

 

「ったく。だから、大地(ヴァース)を取りに行くのは程々にしとけって言ったんだよ。お前たち、アイサを救ったことには礼を言うが、早く帰ったほうがいい。あいつが来ると厄介だ」

 

 カマキリは挨拶こそ乱暴だったが、その言葉からはアイサを助けたことへの感謝の気持ちが含まれていた。

 

 

「誰が来ると厄介だって? 久しぶりだな。ガン・フォール。エネルの前にてめェを殺っておこうか?」

 

 カマキリの忠告も虚しく、噂のワイパーが現れてコチラに歩いてきた。

 

「ワイパーか……。我輩の首など既に何の価値も無くなっておる――」

 

 ガン・フォールはワイパーの殺気を込めたひと言など気にも留めずにそう話した。

 

「んなことは、関係ねェ。おれァ誰だろうと排除する。大戦士カルガラの名に懸けて」

 

 殺気をさらに高めたワイパーは眉間にシワを寄せてコチラを睨んできた。なんか、ゾロが紳士的に見えるくらい獰猛な人だな。

 

「ふーん。君がワイパーか。一つ聞くが、その大戦士カルガラというのは何者なんだい?」

 

「ンなもんてめェには関係ねェだろ!」

 

 私はそんなワイパーにカルガラについて質問をすると、思ったとおりの答えが返った来た。

 やっぱり教えてくれないか。

 

「アイサは知ってるかい?」

 

「知ってるも何も、カルガラはワイパーの先祖だ。400年前にあたいたちの先祖のために懸命に戦った英雄だよ」

 

 アイサの言葉から400年前という言葉が飛び出す。

 

「アイサァ! 何勝手に喋ってやがる!」

 

「ひっ――!」

 

 そんなアイサに怒鳴るワイパー。アイサは私の腕の中で怯えきった声を出した。

 

「ワイパー! この人たちはアイサを助けてくれたんだよ! そんな乱暴にならなくったって良いだろ!」

 

「ちっ、知るか! 青海人なんか!」

 

 そんなワイパーの態度にラキが私たちを庇うような声を出した。しかし、ワイパーはそんなことはどうでもいいというような態度だった。

 

 仕方ない。少々早い気もするが、“あの人”の名前を出すか……。

 

「じゃあ、手短に質問というか、確認させてくれ。君たちの中にモンブラン・ノーランドという名前に聞き覚えのある人はいるかい?」

 

「――ッ!? いっ、今、なんつった!?」 

 

 私の言葉を聞いたワイパーは明らかに動揺して、咥えていたタバコをポトリと落とした。

 

 ノーランドとカルガラ。彼らは親友となったが、ジャヤの半分が空に打ち上げられてしまったことから、二人の運命は大きく変わってしまう。

 

 そして、400年の時が過ぎ、縁あって私たちはノーランドの子孫のクリケットの助けによって空島に来ることになった。クリケットは400年前のノーランドの名誉を守ろうと必死にロマンを追い求めていたから――。

 

 その私たちが大戦士カルガラの子孫、ワイパーと出会ったのである。

 ワイパーもまた、400年前のカルガラの“シャンドラの火を灯せ”という意志を引き継いで必死に戦ってきた戦士(おとこ)である。

 

 この出会いは空島での戦いに大きく作用することになった――。

 




ノーランドとカルガラのことを早めに掘り下げる感じにしてみました。
原作でこの辺が掘り下げられるのってエネル戦の佳境だったので、いい話なのですが頭に残りにくかったんですよね〜。
いや、本当にノーランドとカルガラのエピソードは数あるワンピースの回想シーンの中でも屈指の出来だと思ってます。
あと、どうでもいい話ですが、“雲隠れの村”をどうしても“雲隠れの里”って書きそうになってしまいました。割とこれは作者あるあるになるんじゃないかなぁ。


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シャンディア

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
やる気を漲らせて投稿できていますので、とても感謝しております。
それでは、よろしくお願いします!


「その反応、モンブラン・ノーランドを知っているみたいだね」

 

 私はノーランドの名を聞いてわかりやすく動揺したワイパーにそう声をかけた。

 

「――当たり前だ! ノーランドは大戦士カルガラの親友であり恩人! なぜ、お前がその名を!?」

 

 ワイパーは落としたタバコを踏みつぶしながら、大声で私に質問をした。

 

「どうだい? ロビン。これで随分とはっきりしたように思えるけど」

 

「そうね。モンブラン・クリケットがいくら海底を探しても黄金郷が見つからなかったのも頷けるわ」

 

 私がワイパーの反応がさっきロビンに話した仮説の裏付けにならないかと尋ねると、彼女は顎に人差し指を当てながら、私に同調する。

 

「ちょっと、どういうこと? どうしてそこで黄金郷が出てくるのよ」

 

 ナミは黄金郷という言葉に大きく反応して私たちに疑問を呈した。

 

「うん。今から説明しよう。ワイパー、君の疑問にも答えるから少しばかりおしゃべりに付き合ってもらうよ」

 

 私はこの島とジャヤの関係性、そしてノーランドの話の真相を話すことにした。

 

「ちっ! 勝手にしろ!」

 

「まさか、()()ワイパーが青海人の話を聞くなんて……」

 

 ワイパーはその場に胡座をかいて座り込み、その様子を見たアイサは驚愕した表情で彼を見ていた。

 

「結論から言うと聖域、“アッパーヤード”こそモンブラン・ノーランドが探し求めた黄金郷がある場所だったんだ」

 

 私はまず結論から話す。黄金郷の存在という事を口にすれば、さすがのルフィも長い話を聞いてくれると思ったからだ。

 

「黄金郷って、ひし形のおっさんが探していたヤツか!?」

 

「そうだよ。どういうめぐり合わせか、私たちを空に導いてくれた、モンブラン・ノーランドの子孫、モンブラン・クリケットの悲願はここにあったということさ」

 

 私はさり気なくノーランドと私たちの縁をワイパーたちにも聞こえるように話した。

 

「わかんねェ。何を根拠にそんなことを言ってやがる」

 

「根拠なら、2つ。1つは狙撃手さんがアッパーヤードで聞いたというサウスバードの鳴き声。これはアッパーヤードが昔ジャヤと同じ島だったことの裏付けにはなる。植物のサイズが大きいのは気になったけど、この空島の環境が動植物を異常に育む環境だとしたらあり得るわ」

 

 ゾロの疑問に今度はロビンが話を始める。彼女はこういう話が楽しいらしく、いつになく饒舌になっていた。

 

「つまり、こういうことさ。400年前にジャヤの約半分が突き上げる海流(ノックアップストリーム)によって、空に打ち上げられてしまった。だから、ノーランドが再び黄金郷を訪れてもそれが見つからなかったんだ」

 

 ロビンに続けて私はジャヤの半分が空に飛んで行ったという荒唐無稽な真実を語る。

 

「もう一つの根拠はこれよ。航海士さん、スカイピアの地図を出してくれる?」

 

「えっ? スカイピアの地図ってこれのことよね?」

 

 そして、ロビンはジャヤの地図を取り出して、ナミにスカイピアの地図を出すように話した。

 

「これをこうやって合わせると――」

 

「おおっ! 髑髏のマークみたいになった!」

 

 ジャヤの地図にスカイピアの地図を合わせると、髑髏のような島の形が浮かび上がり、ルフィは感嘆する。

 

「これもノーランドの航海日誌の内容と一致するわ。つまり、ノーランドが400年前にジャヤを訪れた時は島の形がまるで髑髏のようだったのよ。さらにノーランドは死に際に“黄金郷を髑髏の右目に見た”という言葉を残した。ということは――」

 

「あっ! わかったわ! この辺りに黄金郷があるということね!? わァ、すご〜い! 今、海賊になって一番興奮してるかも! ノーランドが言ってた事が全部繋がってる!」

 

 ロビンは髑髏のような形の島が浮かび上がった2枚の地図を見せながら解説すると、ナミがテンションを急上昇させながら黄金郷の場所を推理して言い当てた。

 

「そして何よりの証拠は、そこにいるワイパーがノーランドの名を知っていたということさ。この地の英雄である大戦士カルガラとやらはノーランドと親友という間柄みたいだし……」

 

「そっか、シャンディアの先祖がノーランドと親友ってことは確かに黄金郷がこの近くにある何よりの証拠よね」

 

 最後にそれを裏付けるようにワイパーがノーランドという名前に反応したことについて言及すると、ナミは納得したような顔をしてくれた。これで、アッパーヤードに黄金郷があることは信じてもらえたはずだ。

 

「黄金郷には鐘があるんだろ!? 鳴らしたら、ひし形のおっさん気付くかなァ!?」

 

 ルフィはニコリと笑って黄金の鐘を鳴らそうという話をしてきた。

 そうだね。空から鐘の音を聞いたらきっとクリケットもわかってくれるはず――。

 

「――ッ!? シャンドラの灯を……」

 

 そんなルフィの言葉を聞いたワイパーの目から一筋の涙が流れたように見えた。

 

 確か、彼も長い間、カルガラの意志を継いで“シャンドラの灯をともす”――つまり黄金の鐘を鳴らして、天国のノーランドに彼らがここにいることを伝えようと苦心していたはすだ。

 

 だから、ルフィの何気ない言葉が彼の心のどこかに響いたのだろう。

 

「ワイパー、あんた……。泣いてんのかい?」

 

「バカ! 誰が泣いてるって!? おいっ! 青海人ども! 確かに鐘はある! だが、鳴らすのはこのおれだ!」

 

 ラキの言葉にワイパーは怒鳴り散らす。どうやら涙は見られたくなかったらしい。

 

「いや、おれが鳴らすぞ! おっさんたちに教えてやるんだ! 黄金郷があったぞって!」

 

 ルフィはワイパーを睨んで黄金の鐘を鳴らすのは自分だと主張する。

 

「張り合わんでいい! でも、黄金郷って素敵な響きよね〜。絶対に行きましょう! きっと、莫大な黄金が私たちを待ってるはず!」

 

 ナミはそんなルフィにツッコミを入れるが、心は既に黄金郷に向かっていた。

 

「そうだね。クリケットへの恩は黄金郷の存在を示すことで返そう」

 

 私ももちろん黄金郷に到達することこそ、空島の目的だと思っているからそれに同意する。

 

「じゃあ、ガキも返したことだし、さっそく出発するか?」

 

 そのやりとりを見ていたゾロは早く帰りたがっていた。

 しかし――。

 

「待て!」

 

「なんだよ……、まだ何かあるのか?」

 

 背を向けようとするゾロやそれに続こうとする私たちに向かってワイパーは待ったをかける。

 

「お前ら、(ゴッド)・エネルに喧嘩を売るつもりなのか?」

 

 彼は黄金郷を探しにアッパーヤードへ行く気満々の私たちに、エネルと対立するつもりなのか聞いてきた。

 

「というか、もう売ってるよ。彼に仕える神官って人をやっつけちゃったから」

 

「神官を!?」

 

 それに対して、神官をすでに倒していることを告げると、彼は少しだけ驚いた顔をする。

 

「本当だよ。この2人、バカみたいに強かった……」

 

 アイサは遠慮がちにそれが真実だとワイパーに告げた。

 

「ねぇ、ワイパー。私、思うんだけど……」

 

 さらに、ラキはワイパーに向かって何かを言おうとする――。

 

「青海人に頭を下げろってか!? いくらノーランドの子孫の友人だからって……、それは――」

 

 しかし、ワイパーは俯きながら大声を上げて、ラキにその先のセリフを言わせないようにしていた。

 

「だが、おれたちも機を待っていた。神官の1人が落ち、それを倒したって連中が目の前にいる。おれは大戦士カルガラの意志が400年の時を超えて起こした奇跡だとしか思えない」

 

 そんなワイパーの様子を見ていたカマキリは彼の肩を叩き、この出会いは奇跡だと彼に告げる。

 まぁ、確かにタイミングが良すぎると思う。これがルフィの持っている天運というやつなのだろう。

 

「くっ――! 麦わら! てめェがこいつらの頭か!」

 

 ワイパーはルフィが私たちのリーダーなのかを確認をした。

 

「そうだ!」

 

 その問いに対してルフィは堂々とした態度でそれを肯定する。

 

「おれたちは明日、エネルから故郷を取り戻す為に戦争を仕掛ける! 黄金とやらは好きにして構わねェ! だから、エネルのヤツを――! エネルを……」

 

 ワイパーたちはどうやら明日、エネルたちに戦いを挑む予定らしい。

 おそらく、彼は私たちに共闘を申し出たいのだろうが、彼には彼のプライドがあるのだろう。

 ワイパーは言葉を詰まらせていた。

 

 そんな彼を見てルフィが口を開く。

 

「うっし! そのエネルってやつをぶっ飛ばせば良いんだな!? いいぞ!」

 

 ルフィはまっすぐにワイパーを見つめて拳を前に突き出しながらそう言葉をかけた。

 

「ちょっと、ルフィ……」

 

「いいんだよ。ナミ。意識してるのか、無意識なのかわからないけど……、汲んだんだ。彼は……。誇り高い戦士のプライドを」

 

 ナミが何やら言いたそうにしていたが、私は彼女の肩を叩いて首を横に振った。

 

「ふーん。でも、あなた、いいこと言ってくれたわ。ふふっ、黄金は本当に好きに貰っても良いのね……?」

 

 私の言葉を聞いたナミは確認するようにワイパーに声をかけた。

 まぁ、彼女は黄金さえ手に入れば過程は特に問題にしないんだろうなぁ。

 

「なっ、馴れ馴れしくするんじゃねェ! 好きにすればいい!」

 

「じゃ、遠慮なくそうさせてもらう。黄金郷を目指したら嫌でも(ゴッド)・エネルとは対峙するだろうからね。君たちが攻め入る時間だけ聞いたら、私たちは船に戻るよ」

 

 ナミに向かって怒鳴るワイパーに私はそう声をかけた。

 

「なんだ、お前ら一緒に戦うなら作戦とか聞かなくていいのか?」

 

 すると、カマキリが首を傾げて私たちに疑問を呈した。

 そうか。確かに普通はそうするか……。

 

「私たちと一緒に作戦ねぇ……。それは、やめといたほうが良いよ。ウチのチームって個人プレーの方が得意だし、君らの仲間も得体の知れない連中が居るとやりにくいだろ? 青海人には戦いを仕掛けるなとだけ言っておいてくれ」

 

 私は彼らと足並みを揃えるのは上手くないと考えた。

 なんせ、ルフィやゾロは方向すら分からないのに突っ走るタイプだ。それに、シャンディアの戦士たちだって、急に知らない青海人と戦うって言われても困惑するだけだろう。

 

「わかった。アイサの事と一緒に仲間たちには私から伝えとくよ」

 

 そういう意図を話すと、ラキは納得したような口調でアイサの頭に手を置いて頷いた。

 

「ありがとう。黄金のお礼として君たちが誇りを取り戻せるように、私たちも微力を尽くして協力するよ」

 

「――あっ、えっと。ありがとう……」

 

 そんなラキに私は真剣な感じで礼を言うと、彼女は急に目を逸らして辿々しい声になった。

 急に態度が変わったような気がする。

 

「おいおい、ラキ。いくら青海人の野郎の顔が良いからって、照れすぎじゃねェか」

 

「うっ、うるさいよ! カマキリ!」

 

 そんなラキにからかうような口調でカマキリが声をかけると、彼女は顔を真っ赤にして彼に怒鳴った。

 

「はぁ……、また始まった……」

 

 そしてナミはため息をついて額に手を当てている。

 

「いっとくけど、あの人、女だよ……。あたいも騙されたけど」

 

 そんなやりとりを見ていたアイサは唐突に私の性別をみんなに告げた。

 

「「はァ!?」」

 

 すると、ワイパーまでもが2本目のタバコを落とすくらい驚いた表情をしていた。

 頼むからそこまで驚かないでくれ……。

 

「もういい! この流れが私は嫌いだ! 帰る!」

 

 私は悲しくなってきて背を向けて船に帰ろうとした。

 

「まァ、落ち着けってライア。いい加減に慣れろよ」

 

 そんな私にゾロは無情なセリフをかける。

 

「なんと、おなごであったか。威風堂々とした佇まいから、男子だとばかり……」

 

「それ以上はやめてあげて。狙撃手さんが泣きそうだから」

 

 ロビンはさらに追い打ちをかけようとしたガン・フォールに待ったをかけてくれた。彼女は優しい人だ……。

 

「いいじゃねェか。男でも女でもライアはライアだろ? 同じようなもんだ」

 

「全然違うッ!」

 

 最後にルフィが何やらいい風なことを言ってくれてるが、絶対に同じな訳がない。

 私は彼の肩を掴んで大声を出した。

 

 

「とにかく、明日の夜明けに攻め入るのね。わかったわ。私たちも準備を整えて、夜明けと同時に探索に出る」

 

 その間にカマキリから作戦実行の日時をきっちり聞いていたナミが彼らとの協調を確認して、自分たちの予定を告げていた。

 よし、明日の早朝からか……。

 

 エネルは正直言って怖いけど、私が目的を達成するときにはもっと怖い海軍の大将と対峙する可能性もある。

 こんな所でびびってはいられない……。

 

「我輩も青海人たちに助力させてもらうぞ。400年の時を超えた奇跡とやらに力を貸したい。そして、願わくば――」

 

「ちっ、その続きは勝ってからだ。勝ったあとなら、話くらいは聞いてやる」

 

 ガン・フォールが我々と同行することを話し、ワイパーにも何やら言いたそうにしてたが、彼は戦いの後に話を聞くと言った。

 

「ワイパー……、あんた……」

 

 そんな彼をラキは意外なものを見たというような表情で見つめていた。

 この短い時間で彼の中の何かが変わったのかもしれない。

 

 

 

 黄金郷の存在を確認し、シャンディアと協調する約束をした我々はメリー号に戻った。

 

 こんな私たちの元にコニスを置いておくわけにいかない。

 

 事情を船に残ったメンバーに伝えて、まずはコニスの家に彼女を送ることとなった。と、その前に……。

 

「なんで、君がまたこの船に乗り込んでるの?」

 

「だって、ワイパーたちがあたいを戦いに連れってってくれないって言うから……」

 

 私たちが話をしている間にメリー号に乗り込んで来たアイサ。どうやら仲間外れにされたから、私たちとアッパーヤードに乗り込みたいらしい。

 

「いや、どう考えたってワイパーたちが正しいだろ? 危険だよ。間違いなく……」

 

「まァ、来ちまったもんは仕方ねェよ」

 

「また、君はノリでそんなことを言うんだから」

 

 私は彼女に船から降りるように促そうとしたが、ルフィが軽いノリで同行を許可して、我々はそのまま出航した。

 いや、何のために雲隠れの村に行ったんだよ!

 

 コニスの家に着くと、パガヤがちょうどウェイバーの修理を終えたところだった。

 何やら年代物のこのウェイバー、絶滅種のダイアル――噴風貝(ジェットダイアル)が動力となっており、普通のウェイバーとは比較にならないくらいのスピードが出せるらしい。

 ナミしか乗れないけど、便利なモノが手に入った。

 

 そして、サンジがパガヤの好意から食材を幾ばくか分けてもらい、我々は出発することとなった。

 

「あっ、あの! 送ってもらって言いにくいのですが……、私たちも連れて行ってくれませんか? あなたたちのお役に立ちたいんです」

 

「先代が動くのでしたら、我々も協力させてください。すみません。万が一のときはあなた方だけでも逃げられるように致します」

 

 コニスとパガヤは我々に同行したいと申し出た。彼らも自分たちのウェイバーを持っていくみたいだ。

 

 こうしてコニスとパガヤの親子を船に乗せたメリー号は再びアッパーヤードへと辿り着いた。

 翌朝、我々は黄金郷の探索に出かける。だから、なるべく静かに船で過ごそう――。

 

 なんてことをする訳もなく――。

 

「よ〜〜〜し! やるぞ! 黄金探し〜!」

 

 ロビンに渋い顔をされてもお構いなしに、キャンプファイヤーの元で宴会を開く私たち。

 

 サンジとパガヤのお手製の料理を食べながら私たちはどんちゃん騒ぎを行っていた。

 

 そんな様子を最初は驚きながら見つめていたガン・フォールは次第に表情を綻ばせて、私たちに「なぜ、アッパーヤードが“聖域”と言われているのか」を語ってきた。

 

「おぬしらにとって、ここにある地面は当然のものなのだろうな……。だが空には存在せぬものだ。“島雲”は植物を育てるが、生む事はない。緑も土も本来、空にはないのだよ。我々はこれを“大地(ヴァース)”と呼ぶ。空に生きる者にとって永遠の憧れそのものだ」

 

 だからこそ、ジャヤから吹き飛んできたこの地は空の人にとっては黄金などより何倍も魅力的なモノに映ったのだろう。

 400年前の争いの原因は私たちが当然のように踏みしめている、この大地である。

 

 明日の戦いの後で、少しでも彼らの関係に進展があれば良いが……。

 きれい事かもしれないが――私はそう思わずにはいられなかった。

 

 そして、夜が明けて……。黄金郷探しの冒険が始まった――。

 




シャンディアとは共闘というより、協調姿勢で争わずに好きにやるみたいなギブアンドテイクな関係になりました。
結局、最終的には共闘すると思いますが……。
そんな訳でいよいよ、黄金郷をめぐってエネルたちとの戦いがスタートします。


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玉の試練

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
楽しく感想は拝見させてもらってます!
今回はタイトルどおりにサトリ戦です。
それでは、よろしくお願いします!


「ぎゃああああッ! みんなァ! どこに行ったあああ!」

 

「侵入者だ! メ〜!」

 

斬撃貝(アックスダイアル)を食らうんだ! メ〜!」

 

 チョッパーが神兵二人に襲われて走って逃げている。

 

「うわぁあああ!」

 

「一万キロフルスイングッ!」

 

「――必殺ッッ! 鉛星ッッッ!」

 

 神兵たちがチョッパーに攻撃をしようとしたその刹那、ようやく私とミキータが追いついて神兵たちを倒した。

 

「ライアァァァ! ミキータァァァ! はぐれちゃったと思ったぞおおおッ!」

 

 チョッパーは涙を流しながら私たちに駆け寄ってきた。

 あー、危なかった。探索に出て15分で仲間がやられるところだった。

 

「キャハハッ! 思いっきりはぐれてるわよ。チョッパーちゃん」

 

「あの大蛇から逃げるのに必死だったのはわかるけど、見事にロビン以外は別の方向に進んじゃってるね」

 

 メリー号で雲の川(ミルキーロード)を進んで行って、遺跡になるべく近づいた。

 そして、私たちは探索チームと船を遺跡の北側の海岸に寄せて船番をするチームに分け、探索チームのみ森の中へと入っていったのだ。

 

 探索チームは私とミキータとチョッパー、そしてロビンとルフィとゾロの6人である。

 サンジはレディたちを残して降りるわけにはいかないと、ナミたちのボディガードを買って出た。

 

 そして、空の騎士――ガン・フォールもしばらくは護衛としてメリー号に残ってくれると言ってくれた。なので、サンジとガン・フォールが主に船を守ってくれている。

 

 そんなわけで、私たち探索組の6人は東にある遺跡を目指したが、途中で大蛇に襲われてバラバラになってしまった。

 運良く私とミキータは近くにいたので合流し、気配で仲間の居場所がわかる私は最初にチョッパーを追いかけることにしたのだ。

 

 案の定、彼は危ないところだったので、私の判断は正解だったと思ってる。

 

「そっか、ライアは他の人の居場所がわかるんだな」

 

「まァ、君以外は一人でも心配ないと思ったからね。とりあえず、近くにいたミキータと一緒に君を追いかけたというわけさ」

 

 ルフィやゾロやロビンは私よりも強い。だから、放っておいてもとりあえずは安心だと思っている。

 

「うう……、おれだって海賊だ! ごわぐながったも゛ん!」

 

「はいはい。わかってるわよ」

 

 心配されたことにムッとしたのか、チョッパーは精一杯強がるが、ミキータの足にしがみついて、彼女は彼の頭を撫でている。

 

「じゃあ、とりあえずきちんと東の遺跡に向かっているロビンと合流しよう。ルフィとゾロは結構離れちゃったみたいだし」 

 

 私は正確に遺跡へと進んでいるロビンを追おうと提案した。

 彼女はいち早くエネルと遭遇するかもしれないからな……。

 

「おう! 行くぞ、二人共。今度はおれがまもってやるんだ!」

 

「キャハッ! 勇ましいわね」

 

「へへっ……」

 

 チョッパーとミキータは仲がいい。船に乗った時期が似たようなタイミングだからなのか、波長が合うからなのか、よく一緒に遊んだりしている。

 

「急ごう。エネルたちの部下とシャンディアはすでに戦闘を開始してるみたいだ。多分、ルフィたちも……、そのうち……。――ッ!?」

 

 私は話してる間に誰かがこちらに近づく気配を感じて、その方向に銃を向ける。

 

「――ッ!? あんたは――!?」

 

 しかしら茂みから銃を構えながら飛び出してきた者の正体は知っている顔だった。

 

「ああ、シャンディアの……、ええーっと、ラキだっけ?」

 

 シャンディアの戦士であるラキと私が互いに銃を構えながらお互いに気づき合った。

 

「何? この人知り合い?」

 

「うん。昨日話しただろ? ここの原住民の子孫――シャンディアのラキだよ」

 

 ミキータの質問に私は答える。シャンディアと話し合ってなかったら今ごろ戦闘になってたかもしれないな……。

 

「ねぇ、あんた。アイサのやつを知らないかい?」

 

「アイサって、あの生意気なガキのこと? あの子なら私らの船に忍び込んでたから、今は船にいるわよ」

 

 ラキの質問にミキータが答える。アイサについては帰してやれなくて申し訳ないと思ってる。

 

「やっぱり……! あのバカ……!」

 

「まぁ、船には強い仲間もいるから彼女は心配ないよ」

 

 ラキは予想通りだったらしく、拳を震わせて怒りを溜めていたので、私は安心させようとそう声をかけた。

 

 ラキを含めた4人でしばらく歩いていると、先頭を歩いているチョッパーが口を開く。

 

「なァ、ライア。あの丸っこいのなんだろう? たくさんあるんだけど」

 

 確かに目の前に、両手を広げたくらいの大きさの球体状の島雲が大量に浮かんでいた。

 

「あれはまさか……! 玉の試練!」

 

 それを見たラキが警戒して銃を構えた。

 

「試練!? ということは、神官か!?」

 

 私とミキータもラキの言葉を聞いて戦闘態勢をとる。

 

「ほっほほう! へそ! 我が玉の試練によくぞ来た!」

 

 まんまると太ってサングラスをかけた神官が球体状の島雲に腰掛けて私たちに挨拶をした。

 早くも神官と遭遇してしまったか……。

 

「キャハッ……! なんだァ。神官って言うからもっと厳格そうなヤツかと思ったわァ」

 

「ミキータ。油断するな……。前に戦った神官は強かった。きっと彼も――」

 

 ミキータが神官の見た目で油断したのを察した私は彼女を咎める。

 

「ほほう〜! シュラをやったのはお前か! それなら、遠慮はしないぞ!」

 

「右手の掌底か……」

 

 神官は体型からは想像できないくらいの身軽さで私に接近して右手で掌撃を加えようとした。

 おそらく手袋に衝撃貝(インパクトダイアル)を仕込んでいるのだろう。

 

 私は彼の攻撃を読んでそれを躱した。

 

「ほう!? 心網(マントラ)を使うか!」

 

「でかい木が砕けたァ!」

 

 私が避けた神官の右手が巨木に当たり、それが砕けて大きな穴をつくる。

 チョッパーはそれを見て大声を出した。

 

「あれは、衝撃貝(インパクトダイアル)……。気をつけな……、あの手に触れると体内から破壊されるよ」

 

「それは怖いわねぇ……」

 

 ラキはダイアルに詳しくないであろう、青海人である私たちにアドバイスしてくれた。

 ミキータもその威力を目の当たりにしてようやく油断した表情が消える。

 

「おれは神官のサトリ! 全能なる(ゴッド)・エネルに仕える神官だ! ようこそ生存率10%の“玉の試練”へ。ここから先には行かせない。このびっくり雲とこのおれが邪魔をするからな! ほほう♪」

 

 神官はサトリと名乗り、びっくり雲と称した丸い島雲をこちらに向かって飛ばして来た。

 

「玉が飛んできた! キャハッ! こんなもの! これで打ち返してやる! ――きゃあッ」

 

 ミキータはキロキロパウンドでびっくり雲を打ち返そうとしたが、びっくり雲は爆発した。

 

「爆発した!? ミキータ! 大丈夫か!?」

 

「痛いわね〜!? もう! Mr.5みたいなことを!」

 

 チョッパーは目を丸くして驚き、ミキータは爆風で少しだけ吹き飛ばされてはいたが、軽傷で済んでいるようだ。

 

「あの玉の中身は色んなトラップがある。迂闊に触ってはダメ」

 

「キャハハ……、出来れば30秒早く言って欲しかったわね」

 

 ラキが冷静な顔をしてミキータにアドバイスをしたが、すでに爆発に巻き込まれている彼女は苦笑いしてツッコミを入れた。

 

「こりゃあ、近距離よりも遠距離で戦ったほうが良さそうだ」

 

「あんたの得物も銃みたいだね。お手並み拝見させてもらうよ」

 

 私とラキは共に銃を構えてサトリと対峙する。

 

「まだまだ行くぞ! びっくり雲! ほっほう!」

 

「――必殺ッッ! 鉛星ッッ!」

 

「そんなもの! こっちに来る前に!」

 

 今度は10個ほどのびっくり雲をこちらに飛ばして来たサトリ。

 私とラキは銃で狙いをつけて次々とびっくり雲を撃ち落とす。中から槍とか蛇とか色んなモノが飛び出していたが私たちに届く前だったので影響はなかった。

 

「すごい! 全部撃ち落とした!」

 

「チョッパーちゃん! 危ない!」

 

 チョッパーが撃ち落とされたびっくり雲を見て気を緩めた瞬間にミキータが彼に声をかけた。

 

「ほっほう! まずは一番間抜けそうなお前からだ!」

 

「――があああッ!」

 

 びっくり雲に視線を集中させていたサトリがいつの間にかチョッパーに肉薄しており、彼は衝撃貝(インパクトダイアル)によって攻撃されて吹き飛ばされてしまった。

 

「チョッパー! くそっ! よくも!」

 

「怒りで心網(マントラ)がかき乱されてるぞ!」

 

 私がチョッパーがやられて怒り心頭なのを見透かすようにサトリは今度は私に近づき、右手を押し当てた。

 

「ぐはっ――!」

 

「ほーう。反射的に身体を逸らせて急所を避けたか……」

 

 私はとっさに身を翻して直撃を避けたが、思った以上に体内への衝撃が大きくて、すぐには立ち上がれなかった。

 

「一万キロフルスイングッ!」

 

「すごい力も当たらないと意味がない! そして、お前も死ね! ――ッ!? ラキか……。ほーう。お前が先に死にたいのか?」

 

 ミキータの渾身の一撃もサトリの心網(マントラ)によって躱されて、逆にカウンターによって攻撃を加えられそうになる。

 しかし、その瞬間を狙いラキがサトリに向かって発砲。ミキータは攻撃を受けずに済んだ。

 

 サトリはターゲットをラキに変えて彼女に襲いかかろうとする。

 

「くっ……」

 

「ランブルッ! 腕力強化(アームポイント)ッ!」

 

 そんな中、チョッパーは切り札のランブルボールを口にして、腕の筋肉を発達させサトリに背後から殴りかかる。

 

「後ろから右手で殴りかかる――」

 

「くそ! 完全に読まれてる――!」

 

 だが、サトリはその攻撃をも読んでヒラリとチョッパーの攻撃を避けた。

 

動物(ゾオン)系か……。面白い変化をするなッ! もう一度くれてやろう! 衝撃(インパクト)!」

 

「やらせない!」

 

 チョッパーにまたもや衝撃貝(インパクトダイアル)で攻撃しようとしたサトリに向かって私は引き金を引く。

 

「――ッ!? 危ない危ない。もう少しで手を出すところだった」

 

 サトリは慌てて手を引っ込めて私の銃弾をやり過ごした。

 

頭脳強化(ブレーンポイント)! 診断(スコープ)ッ!」

 

 そこでチョッパーは両手を合わせてサトリを観察するポーズをとった。

 これは彼の得意技の診断(スコープ)……。相手の弱点を探る技だ。

 

「ほほう? 何をやってる?」

 

「弱点の解析か……! よし、チョッパー! 君を信じる! 私が彼を食い止める間に解析を!」

 

 チョッパーの解析が少しでも早くなるように、私はサトリに全力で向かっていくことに決めた。

 

「――ライア……。任せろ!」

 

「食い止める!? やってみろ! お前みたいな銃使いにはコレは止められまい! 玉ドラゴンッ!」

 

 チョッパーの勇ましい返事を受けて銃をサトリに向ける私だったが、サトリはびっくり雲を連鎖させて巨大な龍のような形をモノを形成した。

 

「なんだ? あれは……」

 

「“火薬”入りのびっくり雲と“刃物”入りのびっくり雲で出来た玉ドラゴン! 体のどこかの“火炎”玉に触れたが最後! 爆発が爆発を呼び巨体はたちまち大爆発を引き起こす!」

 

 彼は得意気になって玉ドラゴンとやらの説明をした。

 なるほど、下手に攻撃すると大爆発するという代物か。まったく趣味の悪いものを作ってくれる……。

 

「ちっ、面倒くさいな。だったら玉を避けて直接お前を狙ってやる!」

 

「ほほう♪ 心網(マントラ)を鍛えたおれにそんなものは通じない」

 

 私は何度もサトリを狙って発砲したが、彼の心網(マントラ)を掻い潜ることは出来なかった。

 でも――時間は稼げた!

 

「よしっ! 脚力強化(ウォークポイント)! ミキータ! 手伝ってくれ!」

 

「良いわよ! キャハッ! 背中に乗ればいいのね!」

 

 チョッパーの診断(スコープ)が終わったらしく、トナカイの形態に変化してミキータを背中に乗せて駆け出す。

 

「玉ドラゴンに飛び乗った! ほほう! 無駄なことを!」

 

 そして、チョッパーは玉ドラゴンに飛び乗り、頭に向かって行った。

 

「ミキータ! このドラゴンはあそこから紐で吊るされてるんだ」

 

「キャハハッ! なるほど! それはいいことを聞いたわ! チョッパーちゃん! 飛べる!?」

 

 チョッパーの言葉にハッとした顔のミキータが彼にジャンプ出来るか質問した。

 

飛力強化(ジャンピングポイント)! うわぁ! いつもよりも高く飛べる!」

 

「チョッパーちゃんの重さを1キロにしたから、同じ力でも高く跳べるのよ」

 

 チョッパーはジャンプ力を強化した形態に姿を変えて跳び上がると、信じられないくらいの高さまで一気に跳び上がった。

 

「あの紐を掴んでくれ!」

 

「運び屋の本領! 見せてあげるわ!」

 

 そして、彼の指示に従い、サトリが玉ドラゴンを操っている紐をミキータが掴む。

 

「何ィ! いきなり重くなった! かっ肩が外れるッ!」

 

 おそらく紐を掴んだミキータが急降下したことから彼女が体重を10トンまで増やしたのだろう。

 重さに耐えきれずにサトリは玉ドラゴンのコントロールを破棄した。

 

「離したわね……! じゃあ、お返しするわ! あんたに、この玉ドラゴンとやらをね!」

 

 そして、今度は玉ドラゴンの重さを軽くしたのか、紐を握ったミキータがブンっとサトリに向かって玉ドラゴンを投げ返した。

 

「――ゲェッ!」

 

「――ナイスだミキータ! 火炎で誘爆とか言ってたっけ? ――必殺ッッッ! 火炎星ッッ!」

 

 そして、その光景に一瞬あっけに取られたサトリのスキを私が見逃すはずも無く、私は悟りに肉薄する玉ドラゴンを狙って引き金を引く。

 

 すると、大爆発を起こして爆煙が舞い上がった。

 

「はぁ、はぁ……! いかん! 精神を乱して心網(マントラ)を一瞬怠ってしまった……! しかし、お尻の辺りが痛いような!」

 

 サトリが必死で逃げ出したところに待ち構えていたのはチョッパーだった。

 

「――角強化(ホーンポイント)……」

 

 チョッパーはサトリの身体を伸ばした角で完全に固定した。

 

「チョッパーちゃん! かっこいいわ〜!」

 

「まっ、待て! 何のために素振りをしている!?」

 

 そんなチョッパーを見てミキータは満面の笑みを浮かべながらキロキロパウンドを素振りしている。

 

「キャハハッ! 心を読まれて避けられて、イラッとしてたけど……。ようやくストレスが解消できそうよ……。――地面にうずめてあ・げ・る♡」

 

「ミキータ! 頼んだぞ!」

 

 チョッパーは上機嫌そうに笑うミキータに向かって角で固定したサトリを放り投げた。

 

「やめろ〜〜! やめろ〜〜! 痛いのは嫌だ〜〜!」

 

「――一万キロプレス! キロキロパウンドver!」

 

 情けない声を上げるサトリを許すようなミキータではなく、彼の頭に向かって容赦なくハンマーが振り落とされる。

 

「――ァガッ!!!?」

 

 言葉にならない声を上げてサトリは意識を失った。その身をアッパーヤードの大地にうずめて――。

 一万キロプレスって、まともに食らうとホントに地面に埋まっちゃうんだ……。

 

「チョッパーちゃん。イエーイ」

 

「おれっ! 頑張ったよな〜!?」

 

 ミキータとチョッパーはハイタッチをして、誇らしそうな顔を私に見せてきた。

 うん。二人とも頼もしい仲間だ。本当に頼りになる。

 

「私たちが何年も手こずっていた神官をまたも青海人が――」

 

 ラキはサトリの気絶した顔を見つめて信じられないという表情をしていた。

 とにかく、これでシュラとサトリの二人の神官を倒した。

 あとは、残りの二人の神官とエネルか……。

 

 そんなことを考えながら、私たちは遺跡にひと足早く向かっているロビンとの合流を目指して東に向かって足を進めた。

 




ミキータとチョッパーのコンビネーションでサトリを撃破しました。
ミキータの「地面にうずめてあげる」を実行できて楽しかったです。
あと、やっとチョッパーの活躍が書けて満足しております。

神兵は瞬殺されるほど弱くないと思うのですが、チョッパーを狙っていて不意討ちされた感じなので、簡単に負けちゃったというような解釈でお願いします。


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(ゴッド)・エネル登場

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
昨晩、書こうとしてたら寝落ちして投稿が遅れてしまいました。そして、時間が無かったので、今回は少し短めです。
怠けてしまってすみません!
それでは、よろしくお願いします!


 

 サトリを撃破した私たちは東の遺跡に向かって足を進めた。

 

 途中、ボロボロになったカマキリが倒れており、ラキは彼を介抱してから追いかけると言ったので、チョッパーが応急処置用の道具を手渡して、彼女と別れた。

 

 カマキリはエネルにやられていて、心が完全に折れていた。ゴロゴロの実の能力者だということを知って無敵の力に触れて絶望したのだろう。

 

 

 そして、私たちはようやく遺跡付近に辿り着き、ロビンに追いついた。

 

 

「シャンドラ……、それが古代都市の名前……。――もしかしてこの島は地上で“語られぬ歴史”を知っているのかもしれない」

 

「――随分と興奮してるね。ロビン」

 

 遺跡を興味深く観察しながら独り言を呟いているロビンに私は話しかけた。

 

「あら、狙撃手さん。思ったよりも早かったわね」

 

 ロビンは私に気が付いて微笑む。

 

「キャハッ……、相変わらず暗い趣味してんのね。こんなの見て楽しいの?」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべてロビンの顔を覗き込むミキータ。

 

「楽しいわ。あなたが狙撃手さんの顔を見るのと同じくらいは」

 

「――みっ、見てないわよ!」

 

 そんなミキータに対してロビンが言葉を返すと彼女は顔を真っ赤にして首を振った。

 

「ミキータはしょっちゅうライアを見てるぞ」

 

「チョッパーちゃん! まさかの裏切り!?」

 

 チョッパーのロビンを肯定するような発言に対して彼女は驚いた顔で彼を見る。

 確かに彼女とはよく目が合うと思ってるけど……。私の顔なんか見て何が楽しいのだろう?

 

 

「居たぞ! 侵入者だ! メ〜!」

 

「これはこれは、可愛らしいお嬢様方だ……」

 

「神兵長! 奴らが神官を倒したという情報が……」

 

 長髪の巨漢と二人の神兵が私たちの目の前に現れた。どうやら、私たちが神官を倒してここに来たことがバレているみたいだ。

 

「ほう。なるほど……。それでは心してかからなくては……。私は神兵長ヤマ……。全能なる神・エネルの命により、あなた方を排除する!」

 

 神兵長と呼ばれた巨漢は殺気を私たちに向けた。

 

 

「敵に見つかったようね……」

 

「ロビン……、ここの遺跡って大事なモノなんだろう?」

 

 ロビンは嫌そうな顔をしていた。おそらく戦闘になって遺跡が壊されることが嫌なのだろう。

 

「狙撃手さん?」

 

「合わせてくれよ! ほらっ!」

 

 私は目でロビンに合図しながら銀色の銃(ミラージュクイーン)をヤマの方に向かって投げた。

 

「武器を投げ捨てる……!? なんの意味が!? なっ――手が生えて……!」

 投げられた銃はヤマの腹から出てきたロビンの手によってキャッチされる。

 そして、あれよあれよという間に彼の腹に銃口が突きつけられ――そして、引き金が引かれた――。

 

「――かっ、体が痺れるッ――。ぐはっ――」

 

 

「――黄色の超弾(スパークブレット)……。電撃を体内に受ければどんな大男でも、耐えられはしない……」

 

 銀色の銃(ミラージュクイーン)から繰り出されたのは、電撃を発生させる銃弾。

 それを体に密着させて放たれたのだから、ヤマの巨体もひとたまりもない。

 

「――神兵長!」

 

「はいはい。こんなところで倒れたら、元副社長の大事な遺跡が壊れちゃうでしょ。よっと……」

 

 崩れるように倒れ込むヤマの巨体をミキータは片手で受け止め、地面に転がした。

 

「かっ、片手で神兵長の体を持ち上げて……」

 

「バケモノだ! メー! とにかく神兵長の仇を!」

 

 その常軌を逸した光景を目の当たりにして、二人の神兵は驚きながらもこちらに向かってこようとした。

 

「だから、この辺で暴れないでくれって……」

 

「「――がはっ」」

 

 私はミキータによって投げ渡された銃で二人の神兵の体に鉛玉を撃ち込み、二人を倒す。

 

「キャハッ! 出たわね。得意の早撃ち!」

 

 ミキータは私の銃撃を褒めてくれた。

 

「今、うっとりしてるでしょ?」

 

「しっ、してないわよ」

 

 声を上げたミキータに対してロビンがコソッと耳打ちをすると、彼女の顔はみるみる赤くなる。

 ロビンはミキータをからかうのが好きなのかな?

 

「気を使わせちゃったわね。でも、私にとって大事な遺跡でもあなたには関係ないはずよ」

 

「関係あるよ。仲間の大切なモノは私も大切にしたい。君が大事にしてるなら、私にとっても大事ってことさ」

 

 ロビンが遺跡をきれいなままにしたいと思うんだったら、自分にとっても他人事じゃない。

 彼女の意志を尊重しながら、私も動く。

 

「ふふっ、変な子……」

 

 ロビンはそんな私を見てクスクスと笑っていた。

 

「こういうバカだから、いっつも傷だらけになんのよね〜」

 

「バカってそれは酷いよ。ミキータ」

 

 ミキータにバカ扱いされたので、私は彼女にツッコミを入れる。

 まぁ、怪我が多いのは認めるけど……。

 

「黄金都市シャンドラ……。それは、すぐそこにあるわ。付いてきて」

 

 ロビンは何やらメモのようなものを取りながら、私たちを先導した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 歩いてる途中でワイパーやゾロが大きな力の持ち主と戦っている気配を感じた。

 おそらく別々のところで神官と戦っているのだろう。

 そして、なぜかサンジとガン・フォール、さらにナミとアイサがこちらの方に向かって来ているような気配も感じる。何かあったのか? コニスとパガヤの気配もエンジェル島の方に向かっているし……。

 

 シャンディアとの協調の結果、エネルたちの軍勢が漫画よりも数段早く次々と倒されて少なくなっていることと関係してるのだろうか?

 

 そんなことを考えながら歩いていると、見たこともない文字が記された壁が眼前に現れた。

 

「――まさか!? ――こんなに無造作に“歴史の本文(ポーネグリフ)”の古代文字が……」

 

 ロビンは驚きながら記されている古代文字とやらを読み始めた。

 

「“歴史の本文(ポーネグリフ)”って前に君が言ってた古代文字で記された石碑だよね? これがそれに使われている文字なんだ……」

 

「全然読めねェ」

 

 私とチョッパーは呆然として古代文字を眺めていた。まったく意味はわからない。

 というか、多分、世界中でこれが読めるのはロビンだけだ。

 

「『真意を心に口を閉ざせ』……、『我らは歴史を紡ぐ者』……、『大鐘楼の響きとともに』……」

 

 ロビンは古代文字で書かれている事柄を読み上げていく。

 

「大鐘楼? 黄金の鐘と何か関係あるのか?」

 

「そうね……。ノーランドの日誌によれば黄金の鐘と共に大鐘楼があるとあった。4つの祭壇の中心に位置する大鐘楼とあるわ……。おそらくそこに……。そして、“歴史の本文(ポーネグリフ)”もまた……」

 

 ロビンにとっては大鐘楼よりも“歴史の本文(ポーネグリフ)”が大事なのだろう。

 彼女の足が少しずつ早足になる。きっとわくわくしているに違いない。

 

「行ってみよう」

 

 ということで、私たちはロビンに付いていき大鐘楼を見つけようとした。

 

 しかし――。

 

 

「――あーあ、何にもないわね」

 

 古代文字が記した場所はもぬけの殻だった。大鐘楼どころか黄金も何もない。

 やはりエネルが運び出していたか……。

 

「そこにトロッコの軌条……。何かを運び出した形跡があるわ。まだ新しい……」

 

「なるほど、黄金は既に……」

 

 トロッコで何かが運び出された形跡をロビンは見つける。エネルはあれで黄金を運んだのだろう。

 

「――ヤハハハハッ! そのとおりだ。青海人。数年遅かったな」

 

「――誰だッ!」

 

 私は急に大きな気配が現れて驚きながらその方向を見た。

 現れたのは――。

 

「神……」

 

 りんごを口にしながらふんぞり返っている男。

 そして、自らを神と名乗る男――。

 

「そうか。君が(ゴッド)・エネルか……」

 

 エネルを目の当たりにして、私の背筋に寒気が走る。

 もっとも警戒すべき男がすぐそこにいるからだ。

 

「見事なものだろう。空へ打ち上がろうとも、かくも雄大に存在する都市――シャンドラ。雲に覆われた伝説の都を、私が見つけてやったのだ。先代のバカ共は気づきもしなかった」

 

 エネルは先代の神たちがまったくここの存在を知らなかったことを侮蔑しながら、自分がそれを見つけたことを誇っていた。

 

「たいしたものだな。我々ですらここを見つけるのには数ヶ月かかった。遺跡の文字が読めるとこうもあっさり見つかるものか。だが、目当ての黄金はもうない」

 

 さらにエネルは、ロビンがあっさりとこの場所を見つけたことを称賛し、黄金がこの場にないことを告げる。

 

「君が持ち出したのだろ? ここの人たちは黄金に無頓着だったが、どうやら君は違うみたいだね」

 

「あれは、よいものだ。あの輝く金属は私にこそ相応しい」

 

 私の問いをエネルは肯定する。電気と黄金は確かに相性がいい。

 エネルは本能的にそれを感じ取ったのかもしれない。

 

「じゃあ、ここにあった黄金の鐘もそうかしら?」

 

「黄金の鐘? 興味深いな、貴様……、文字を読み何を知った……?」

 

 ロビンの黄金の鐘という発言にエネルは興味を惹かれたみたいで、彼女に質問を返した。

 

「シャンドラの誇る巨大な"黄金の鐘"とそれを収める"大鐘楼"・・・私は大鐘楼に用があった。でも、あなたがここに来たときになかったのなら、――もうそれは空へ来てないのよ」

 

 その質問に対してロビンはエネルが黄金の鐘をここで見つけてないということは、それは空に上がってないと推理を展開する。

 

「――いや、待て――ある! それはあるぞ。空に来ている!」

 

 エネルは心当たりを語りだした。400年前にこの島が空に吹き飛んできたと同時に、大きな鐘の音が国中に響いたという伝説が残っており、その鐘の音は"島の歌声"として伝説となっているのだと。

 

「ヤハハハハ! ()()のついでにそれも探しておくか。不届き者どもを葬ったあとにな――」

 

「――くっ!」

 

 エネルは私たちを倒したあとに、大鐘楼を探すと言い出した。

 どうやら漫画ではサバイバル戦とかを余興としてやっていたが、今回は私たちがシャンディアと組んでいるからなのか、そんなことはやってないらしい。

 

「実はこの場所に用がなくなったのでな。レベルの低い者を間引きしようと思ったのだ。そこに青海から貴様らが現れた。まさか、シャンディアと組むような愉快なことをするとは、思わなかったぞ」

 

 エネルにとっても我々とシャンディアが協調するのは計算外だったようだ。

 

 

「貴様らが想像以上に頑張ったおかげで私の兵士どもは全滅したようだ……。神官共も不甲斐ない……」

 

「みたいだね……。気配がかなり少なくなってる」

 

 ゾロやワイパーは神官を倒して、他の神兵たちも軒並みやられたみたいだ。

 巨大な蔓の上にある雲からはワイパーやラキたちといったシャンディアの幹部やゾロとルフィ、そして大蛇の気配までする。

 ルフィはこっちに来てるみたいだな。よかった。彼が居ればエネルは何とかなるかもしれない……。

 

 しかし、サンジたちはまだこちらには到着していない――。それでも、この島の戦力はかなり上に集中してるな――。

 

「弱い兵には興味がないが……、私の国に連れて行くにはまだ数が多い……。見せてやろう……! 神の力を!」

 

 エネルは腕を雷に変化させて、それを上方の雲に伸ばした。

 

自然(ロギア)系――!? 何を!?」

 

 ロビンはエネルが自然(ロギア)系の能力者だということに気が付いて戦慄していた。

 

「招待してやる! 貴様らの仲間たちを! この処刑場へ! 稲妻(サンゴ)ッ!!」

 

 上方の雲が砕け散り、上から次々と戦士たちが落下してくる。

 よかった。ルフィがいるなら無駄な犠牲は――。

 

「あれっ? いない? いや――」

 

「どうしたの? (ゴッド)・エネル……。とんでもない奴ね……。キャハッ……、勝てる気がしないわ……」

 

 私が訝しげな顔をしていることを妙に思ったのか、ミキータは声をかけてきた。

 

「うん。勝てる可能性があるとするなら、ルフィが戦うことなんだけど……」

 

「船長? そういえば、船長はどこにいるの? ゾロくんは居るのに……」

 

 私が勝算があるのはルフィだけだということをミキータに話すと、彼女は思い出したかのようにルフィの居場所を尋ねた。

 

「ええーっと、多分、あの大蛇の中かな?」

 

 私は内心焦りまくりでそう言った。くっ、シャンディアと争ってないから大蛇に呑まれることはないと思ってたのに……。

 

「キャハハッ! さすがね。こんな状況で冗談が言えるなんて大したもんだわ」

 

 ミキータは大蛇の中にルフィがいるという状況を本気で受け止めてくれなかった。

 

「おっ、ライアたちじゃねェか。お前ら迷子になりやがって心配したぞ」

 

 激戦のあとだったのか、体中から血を流しながらゾロがこちらに走ってきて私たちと合流する。

 

 エネルと対峙するのはシャンディアの戦士たちと青海から来た私たち5人。

 

 さらにサンジやガン・フォールもこちらに向かっている。

 

 しかしながら、エネルの天敵になり得るルフィが不在な今、間違いなくこの状況は不利だと感じていた――。

 

 (ゴッド)・エネルと私たちの雌雄を決するための戦いが始まった――。

 

 




ロビンの能力って不意討ちにめっちゃ向いてる気がしたので、ヤマを相手に試してみました。
そして、シャンディアとルフィたちが争わないのであっさりとエネルの軍勢は倒されて、残るはエネルのみとなります。
ちなみに、オームの鉄の試練は結局ゾロでないと厳しいと判断して原作通りに彼に倒してもらいました。ゲダツはワイパーに倒されています。
次回はルフィ不在で、エネルを取り囲んでの集団戦です。


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シャンドラでの戦い

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
空島編もいよいよ佳境へと突入しました。ここからの展開も是非ともお見逃しなく!
それではよろしくお願いします!


「ひぃーふぅーみぃー、ヤハハハハ、随分と多くが里帰り出来たじゃないか。プライドを捨てて青海人に泣きついた甲斐があったな、ワイパー」

 

 エネルは落ちてきたシャンディアの人数を数えて機嫌よく笑った。

 確かに彼らの中で幹部っぽい連中はカマキリ以外は残ってるみたいだ。

 

「ここがシャンドラ……!」

 

「私たちの故郷? ここがっ……!?」

 

「感傷に浸るのはあとにしろ! エネル! てめェを排除する!」

 

 シャンディアの人たちは辺りを見渡して、感慨深く思っているみたいだが、ワイパーだけはしっかりとエネルを見据えていた。

 確かにエネルを倒さなくては彼らにとっての本当の里帰りは出来ないのかもしれない。

 

「おい、あいつがエネルってやつか?」

 

「そうだよ。ゾロ、怒らないで聞いてほしいんだけど……」

 

 ゾロが今にも斬りかかりそうな殺気を出していたので、私は彼に声をかけた。

 

「はぁ? 真面目な話なら怒らねェよ」

 

「君はエネルには手を出すな。大怪我をするだけだ」

 

 私はゾロに暴言とも取られそうな忠告をした。

 今の彼がエネルに攻撃を仕掛けることは無謀でしかない。確実に蹂躙されることがわかっていて戦わせるわけにはいかない。

 

「ンだと! 何言ってやがる! あの野郎をぶっ倒すためにここに来たんだろうが!」

 

「これは、君だけに言ってるんじゃない。ロビンもミキータもチョッパーも……、ここにいる全員が彼には勝てない。強いとか弱いとかそういう土俵じゃあないんだ」

 

 やはりゾロはかなり怒っていた。そして、私は彼に胸ぐらを摑まれながら、言葉を伝える。

 エネルは異次元の存在だと……。

 

 

「ヤハハハハ! そこの青海人は良いことを言う。そうだ。神に人は勝てない。その割にはお前が絶望していないことは気になるが……。どのみち、お前たちの運命は決まっている……。弱い者から死ぬ……と」

 

 エネルは私たちをあざ笑うように声を出し、一人で我々を全滅させると宣言した。

 

「黙れッ! 行くぞ! エネルの首を取るんだ!」

 

「よしっ!」

 

 シャンディアの戦士たちはある者は槍で、ある者は剣で一斉にエネルに襲いかかり、各々の武器を彼に突き刺した。

 

「「ぎゃあああああッ!」」

 

 しかしながら、倒れたのはシャンディアの戦士たちだった。

 それもそのはず、雷の塊に武器を突き刺したのだ。感電するに決まっている。

 

「なっ、なんてやつ!? 体を槍や剣で貫かれたのに……。貫いた方がダメージを受けてる」

 

 ミキータはエネルの異常性に気が付いて、青ざめた顔をしていた。

 

「彼は雷そのものだ。自然(ロギア)系……、ゴロゴロの実の能力者であるエネルにはあらゆる攻撃は通じないどころか、逆にこちらがダメージを受けてしまう。さらに――」

 

 エネルの厄介なところは触れただけでダメージを受けてしまうというその体質だ。

 まぁ、この辺はメラメラとかヒエヒエとかその辺も同じだろうが……。

 

「銃撃ならどうだ!」

「鉄の砲弾を喰らえ!」

 

 2丁拳銃を持ったシャンディアの戦士と大砲を抱えた戦士が同時に攻撃をする。

 

「1000万V(ボルト)――放電(ヴァーリー)ッ!」

 

「ぐああああっ!」

 

 しかし、その攻撃はエネルに通じない。エネルはその後、瞬時に二人の背後に回り込み雷撃を与えて二人を倒してしまう。

 

「ブラハムッ! ゲンボウ!」

 

 ワイパーは仲間の名前を呼び、グッと拳を握りしめた。

 

「雷速と一撃必殺に近い放電……。無敵な上に攻撃も強いとなると、ね。手の付けようがない」

 

 雷の速度で動き、火力は我々の持っているスケールを遥かに超えている。

 1000万V(ボルト)なんてもはや想像も出来ない。

 

「あの野郎がすげェのはよくわかった。だが、お前の目は死んでねェ。あるんだろ? 勝つ方法が……。勿体ぶってないで教えやがれ……」

 

 ゾロは既に落ち着いていて、私に静かにそう尋ねた。

 冷静にエネルの力を推し測ったか……。さすがだ……。彼はただの無鉄砲ではない。

 

「勝てる方法がないわけじゃない。確かに無敵に近い自然(ロギア)系の能力者だけど、完全無欠ではないんだ」

 

「それはどういうことだ?」

 

 私は自然(ロギア)系の能力者の弱点について話し始めた。

 ワイパーが動くか……。確か、彼はあれを――。

 

「よくも! 仲間たちを!」

 

「何のつもりだ? ワイパー……。お前も死にに来たのか?」

 

 ワイパーはバズーカーを捨てて、エネルに密着する。足に付いているシューターを押し付けて……。

 

「…………」

 

「ん? なんだ……?」

 

 すると、エネルの足がグラついて、倒れそうになる。

 

「“海楼石”ってモンを知っているか? エネル」

 

「――ッ!?」

 

 ワイパーはエネルに“海楼石”について言及した。そう、彼は“海楼石”を持っていた。

 どんな能力者でも殺すことを可能とするアイテムを……。

 

「おれのシューターにそれが仕込まれている。脆いもんだな……、能力者なんて……」

 

 そしてワイパーは掌底をエネルの心臓に押しあてて殺気を込めていた。

 衝撃貝(インパクトダイアル)の10倍の出力を誇る排撃貝(リジェクトダイアル)――。

 これを生身に受けるとエネルといえども――。

 

「くたばれッ――」

 

「やめておけ。知っているのだ。ゲダツを倒した、“排撃(リジェクト)”だろう? 2発も使うとその体もただでは済まんぞ!」

 

 ワイパーが本気だとわかると、エネルは明らかに動揺をした。

 彼もさすがに身の危険を感じると心が乱れるみたいだ……。

 

「黙れ! 死んで本望! お前を道連れに出来るのならな――!」

 

「――くっ!! やっ、やめろ!」

 

 ワイパーはそんなことはお構いなしでエネルを倒すつもりである。

 エネルの言葉は脅しにもならなかった。

 

 そして――。

 

排撃(リジェクト)!!!」

 

「――ッ!!!?」

 

 渾身の一撃を受けたエネルは地面に仰向けになって倒れた。

 誰の目から見ても彼が倒されたのは明らかだった。

 

「はぁ……、はぁ……」

 

 そして、感無量というような表情でエネルを見下ろすワイパー。

 

「海楼石は、海と同じ効果がある石だ。自然(ロギア)系といえども、これによって無力化することができる。数少ない自然(ロギア)系への対抗手段の一つだね」

 

 私はゾロに海楼石について説明をする。クロコダイルの檻に閉じ込められていないので、彼は海楼石を知らないだろうから……。

 

「殺ったのか?」

 

「――いや、まだだっ!」

 

 ゾロがセリフ吐いた刹那――天空から雷がエネルの胸を目掛けて落ちてきた。

 

「――まさか、自分の心臓をマッサージしてる?」

 

「キャハハ……、なんでもありじゃない?」

 

 雷により心臓マッサージをするエネルを見て、ロビンとミキータは額から汗を流している。

 並の相手ならこれで決まりのはずなのに……。やはり、漫画と同様……、心臓を止めてもこちらが勝てないらしい。

 

 仕方がない……。自信はないけど()()を使うか……。

 

「――人は()()()()()()()のではない……。――“恐怖”こそが“神”なのだ」

 

 何事も無かったような表情で立ち上がるエネル。

 確かに恐怖を与えるには十分の演出だな……。

 

「うぐっ――! くそったれ――!」

 

「さっきのは効いたぞワイパー。海楼石とはくだらんマネをしてくれた」

 

 立ち上がると同時にワイパーのシューターをエネルは破壊する。

 

「やっと辿り着いたんだ! 大戦士カルガラの無念を継いで、400年……! この場所を目指して戦い続けて! お前が邪魔だァ!」

 

排撃(リジェクト)を2発も撃って立ち上がるのは見事。だが――相手が悪い」

 

 しかし、ワイパーは折れない。立ち上がってエネルにもう一度挑もうと殺気を向けた。

 エネルはそんなワイパーを見据える――。

 

「――3000万V(ボルト)……」

 

「太鼓が鳥になったぞ」

 

 エネルが太鼓を鳴らすと、それは雷で出来た巨大な鳥に変化する。

 

雷鳥(ヒノ)ッ!」

 

「――ッ!?」

 

 雷の塊である雷鳥(ヒノ)によって体を貫かれてワイパーはその場に倒れてしまった。

 

「――これに海楼石が入っているんだな!」

 

「ゾロッ! よせっ!」

 

「青海の剣士……。私が二度も不覚を取ると思うな」

 

 ゾロはワイパーのシューターの破片を拾ってエネルへと特攻する。

 確かにエネルにそれを当てることが出来れば有効だが――。

 エネルは既に海楼石に警戒心を向けている。

 

雷獣(キテン)――!!」

 

 エネルは近づいてくるゾロに向かって容赦なく雷撃を放ってきた。ここでゾロを失うわけには――こうなったら、覚悟を決めてやる!

 

「――ッ!? んっ、なんだ!?」

 

「怖かったけど……! 賭けに勝ったみたいだ……!」

 

 私はゾロの肩を掴んで、彼の前に出てエネルの雷撃を体に受けた。

 ふう……、3000万V(ボルト)とか言ってたからすっごく不安だったけど……。何とかなったみたいだ……。

 

「ライア……、お前……、その格好は……?」

 

「名付けて――ラバースーツ……!」

 

 ゾロは私の格好についてツッコミを入れた。確かに今のこの姿はちょっと普通ではない。

 頭まですっぽりと全身ゴムで出来た服で覆われている。

 簡単に言えば、名探偵コ○ンの犯人とか、崩玉と融合したばかりの藍○みたいな感じの姿になっているのだ。色はベージュだけど……。

 体のラインがバッチリ出ちゃうから嫌だなァ。

 

 しかし、エネルへの対策のために厚手のゴムで作った服を用意したのは良かったが、実際本当に無効化出来るのかは不安だった。

 1000万ボルトを超える電撃なんて実験で用意出来ないし、常識で考えれば電熱で焼け焦げると思ったからだ。

 

 だから、出来ればワイパーが仕留めることを期待していたし、もっと言えばルフィがさっさと倒してしまうことを期待していた。

 

 そんな甘い考えも吹き飛ばされ、ゾロが窮地になったので、私は身を以て実験を開始する覚悟をしたのだ。

 

 ハァ……、あんな雷に突っ込むなんて――怖かった……。

 

「割って入って、上手く突き飛ばして運良く躱したようだな。そのふざけた格好は意味がわからんが……」

 

 エネルは自分の雷撃が効かなかったとは思いもよらないみたいで、余裕の表情は崩れていない。

 

「6000万V(ボルト)――雷龍(ジャムブウル)!!」

 

 そして、彼はさらに巨大な雷で出来た龍を私に向かって放ってきた。

 

「ライア! 避けろ!」

 

 ゾロの言葉を背中に受けたまま、私は微動だにせずに体にエネルの雷撃を受けた。

 

「残念だが、エネル。君の電撃は私には通用しない――」

 

 私は腕を組んで彼の攻撃が通じてないアピールをした。

 こうやって全く彼の技が効かないことが伝われば精神的に大きなダメージを与えることが出来ると判断したからだ。

 

「――!!!!?」

 

「キャハハハッ! なんか、すんごい顔してるわね……」

 

「そして、狙撃手さんはすごい格好ね……」

 

 どうやら、エネルはかなり驚愕しているみたいだ。

 ロビンの私の格好に対する意見は辛辣だなァ。まぁ、見た目に拘る余裕が無かったから仕方ないけど……。

 

「ライア! どうなっている? あの野郎の技がなんでお前には効かねェんだ?」

 

「この服は全身がゴムで覆われている。頭からつま先まですべてゴム尽くし……。ゴムは電気を通さない物質だ。だから……、エネルの技は効かないという理屈なのさ」

 

 ゾロのセリフに私は彼の技が通じない理屈を話した。

 言い忘れていたが、このラバースーツはめちゃめちゃ臭い。ゴムの臭いって結構キツイんだな……。

 顔までゴムが密着してるから暑さと臭いがとんでもないことになっている。

 

「ゴム? なるほど……」

 

「ゴム? なんだそれは――?」

 

 私のセリフにロビンは納得したように頷き、エネルはゴムを知らないので訳がわからないという声を出した。

 

「なんで、んなもん持ってるか知らねェが、すげェじゃねェか。攻撃が効かねェなら、あいつにだって――」

 

「ただ、このラバースーツには弱点がある」

 

 ゾロがエネルに勝てるというようなことを言おうとしたので、私はこれの弱点を話すことにした。

 

「弱点?」

 

「頭まですっぽりゴムに覆われてるだろ? これって、見た目どおり前が見えない」

 

 そう。かろうじて薄い空気が入ってくる感じだが、顔もすっぽりとゴムで覆われているから何も見えない。

 

「前が見えない?」

 

「うん。目の前が真っ暗だ。エネルがどんな顔したか見たかったけど、見れなかったよ」

 

 私はゾロにこのラバースーツの弱点である視覚が失われる事実を話した。

 

「バカ! だったらどうやって戦うんだよ!?」

 

「あははっ、何とか勘で当ててくしかないね」

 

 彼は私の言葉を聞いてツッコミを入れ、私はエネルに向かって銃口を向ける。

 

「――銃撃? そんなものは通じな――!? ――ぐはッ!?」

 

 エネルは私に銃を向けられても平気そうだったが、銃弾が当たり苦しそうな声を出した。

 

「もちろん。銃弾もゴム弾だ」

 

 エネルへの対策のためになるべく硬くなるように開発した特別なゴム製の銃弾が多少は効果があったみたいで私は安堵した。

 

「お前、本当に見えてねェのか?」

 

 私が銃弾をエネルに当てたのを見てゾロは不思議そうな声を出した。

 

「見えてないよー。でも、大体の位置は気配でわかるから……。エネルの気配って大きいし……」

 

 見聞色の覇気を利用してエネルの位置を察知して攻撃を当てることはそれほど難しくない。

 しかし、この中でラバースーツを着てまともに戦えるのは視覚が封じられても戦える私だけだろう。

 

「キャハッ! ゴム弾だから効いてるのね。無敵だと思ってたけど、弱点はあったんだ」

 

「でも、困ったことにこれじゃあ決め手に欠けるんだよね……」

 

 ミキータの声を受けて私は困ったような声を出した。

 

「ゴム弾じゃ鉛玉よりも威力が落ちるのね」

 

「うん。そもそも宴会用のお遊びで作ったものだから殺傷力は低いんだ。それで、みんなにお願いしたいことがある。あの大蛇の中に入っているルフィはまだ無事だ。私がエネルを食い止めるから、彼を救ってくれないか? ルフィはゴム人間……、つまり……」

 

 ロビンの言葉を受けて私はゴムの弾丸ではエネルに勝てないと説明をする。

 そして、みんなに依頼をした。大蛇の中にいるルフィを助けてほしいと。

 

「あの野郎の天敵ってわけか、おれたちの船長(キャプテン)は……」

 

「キャハッ……、あの蛇ちゃんなら、まだ神とかいうのよりはマシかな?」

 

「ルフィを助けるんだ!」

 

「私たちも食べられなきゃいいけど……」

 

 ゾロ、ミキータ、チョッパー、そしてロビンは私の言葉を聞いて、ルフィこそがエネルとの戦いの切り札だということを理解した。

 

 私がエネル相手にどれだけ保つかわからない。

 だが、何とかみんなにはルフィを助け出してほしい。勝利を掴むために――。

 

 仲間たちによるルフィ救出作戦が開始された――。

 




ラバースーツの見た目が伝わりにくくて申し訳ないです。あと、ゴムで作った服だからエネルの攻撃が無効になるかどうかは作者もわかりませんが、なるってことで話を進めます。
科学的にどうとか考えると全く話を考えられないので勘弁して頂きたいです……。


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海賊ライアVS(ゴッド)・エネル

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
現実ですと、ラバースーツでエネルくらいの出力の雷撃は防げないのは何となくわかるのですが、ワンピースの世界なら効かないってことにしても良いかなって思いまして、ここは読者様の寛大な心で許してくださいとお願いするところです。
それでは、よろしくお願いします!


「さて、(ゴッド)・エネル……。私は前座に過ぎないけれど……、少しは君を楽しませることができればいいな……」

 

 銀色の銃(ミラージュクイーン)を構えながら私はエネルと対峙する。

 本来の実力差は歴然。雷撃が効かないとはいえ明らかに格上との戦いだ。

 集中力を高めねば一瞬で終わる――。

 

「――フンッ! 先ほどは油断したが、銃弾程度――躱せぬ私ではない!」

 

 雷速は目にも留まらぬスピードだ。もっとも視覚は封じられているので、目にも留まらぬ以前に最初から見えてない。

 極限までに高めた集中力は少し先の未来を映し出した。

 

「で、君はそこだろ!」

 

「――ッ!? 私の心網(マントラ)を掻い潜っただと!? ぐはッ――」

 

 エネルが現れる場所を先読みして銃弾を放つ。

 彼は自分に攻撃が当たったことに少なからず驚いていた。

 

「やはりゴム弾では火力不足か――!」

 

 しかし、私はゴム弾の威力の低さに苛ついていた。

 急所に当てても痛がりはするけど倒せる気がしない。

 

「小賢しい! 神の裁き(エルトール)ッ!」

 

 思ったとおり、エネルはすぐに立ち直り雷撃を放ってくる。

 

「だから効かないって!」

 

 もちろん、エネルの攻撃は私には通じない。

 私はすかさず、彼に向かってゴム弾を発射する。

 エネルはすばやくそれを避けた。うーん。やはり、未来を視ないと当てるのは難しいみたいだ。

 

「ぐっ、どうやら本当にその服で雷撃を防げるらしいな……。ならば……、これでどうだ?」

 

 エネルはようやく私のラバースーツが雷撃を防いでいることに納得したらしく、何やら手にしている金の棒を変形させようとしてるみたいだ。

 見えないから何とも言えないが、察するにおそらく槍状にしたと思われる。

 

「へぇ……、そんなこともできるんだ……」

 

「その服さえ突き破れば、お前は無力となるはず……。見たところそこまで硬い材質ではない……」

 

 エネルは冷静にラバースーツに対して分析して持論を展開した。

 はぁ、能力だけのバカなら相手にしやすいのに、すぐにこうやって頭が回るんだもん。

 まったく戦い難いったらありゃしない。

 

「――ふふっ、それはどうかな?」

 

「ヤハハハハッ! 神を謀ろうとしたってそうはいかんぞ。私の心網(マントラ)は嘘を見抜く――」

 

 私は図星をつかれても動じずに平静を装ったが、心を読むことが出来るエネルにはそれが通じずに笑われて終わりだった。

 

「なるほど、駆け引き出来る相手ではないってことか……。いいだろう……。ならば君を寄せ付けなければいい話だ」

 

 とにかく当たらなければどうという話ではない。

 集中力を高めて回避を最優先にして時間を稼げるだけ稼ぐ。

 私の目的は勝つことではなく、ルフィにバトンを繋ぐこと。

 逃げに徹して行動すれば良い。

 

「お前にそれが出来るかな?」

 

 エネルはそう呟くと再び雷の速度でこちらに接近した。

 

「――ッ!? 雷速はやはり伊達じゃない……。ここだッ!」

 

 集中不足で未来は読めず、私は勘を頼りに銃弾を放つ。

 だが、そんな闇雲に放った銃撃が当たるはずもなく、手応えは感じられなかった。

 

「ヤハハハハッ! さっきの身のこなしはやはりまぐれか!? お前の動きも手に取るようにわかるぞ!」

 

「くっ――! 攻撃が当たらない!」

 

 エネルの心網(マントラ)はシュラやサトリよりも精密さを増していて、彼の身体を私の銃撃が捉えるのは至難だった。

 やはり未来視を使わなければまともに当てられない。

 

「ほらほら、どうした? 私を寄せ付けないのではなかったのか?」

 

 そんな私の状況を知っているのかいないのか、それはわからないが、エネルは高速で槍の連撃を私に向かって加えてくる。

 

「ちっ! 速い上に、見聞色も優れている。ちょっと気を抜くと、一巻の終わり――」

 

 情け容赦のないエネルの連続攻撃に私は戦慄していた。

 今のところ何とか躱せているが、これもいつまで続けられるだろうか?

 

「スピードは並のクセにフラフラとよく躱す……。認めてやろう。心網(マントラ)だけは一級品だよ。お前は……」

 

 エネルからのありがたいお言葉を頂くも、その時には既に彼の槍は私の目前に迫っていた。

 

「ふぅ……、体術は苦手なのだが――」

 

「――何ッ!」

 

 私は何とか槍を躱してエネルの腕を掴み、そのまま彼の力を利用して投げ飛ばした。

 

「合気道……。昔、通信教育でやってて良かったよ……」

 

 前世で暇つぶしにと通信教育で習っていた合気道。

 転生してからも時折、思い出しては稽古を独学で積んでいたが、射撃で決着をつけたり、接近戦を避けていたので使うことはほとんどなかった。

 これを使うってことは要するに余裕がないということなのである。

 

「訳のわからん事を……!」

 

「しかし……、2度目はなかなか上手く決まらないか……」

 

 銃撃だけでしか攻撃していないことが上手く働いて先ほどの奇襲は上手くいったが、さすがに掴まれることを警戒したエネルを捉えることは難しかった。

 

 そんな雑念が頭を過った瞬間を見逃すエネルではない。

 

「ヤハハハハッ! そこだッ! 油断したな!」

 

「ぐっ……! しまった――!」

 

 エネルの槍は私の顔を掠る。ラバースーツは破れて顔が完全に露出してしまった。

 

「やはり、脆かったな……。これで、私の勝ちだ! 神に逆らった罪は――重いぞッ!」 

 

 勝ち誇った顔をしたエネルは右腕を雷に変化させる。

 

「まだまだ! 私は負けてない!」

 

 私はせめて少しでも彼にダメージを与えようとゴム弾を、彼の額に撃ち込んだ。

 

「ぐっ――! 無駄な抵抗はやめろ! 神の裁き(エルトール)ッ!」

 

 弾丸が額に当たったエネルは苦悶の表情を浮かべたが、それでもお構いなしに、私に向かって雷撃を放った。

 思ったより時間が稼げなかったか……。無念だ……。

 

「――ッ!? ん?」

 

 私は観念していたが、雷撃を受けることはなかった。

 なぜなら、攻撃を受ける瞬間に何者かが私を抱きかかえて雷撃を回避したからだ。

 

「ふぅ、無事かい? ライアちゃん……」

 

「サンジ……。ありがとう……。助かったよ」

 

 助けてくれたのはサンジだった。そうか、みんなが来てくれたのか……。私はサンジ以外にもこちらに来ている気配を感じて状況を理解した。

 アイサは確か心網(マントラ)が使えた。彼女がここに導いたのだろう。

 

「お前は何者だ?」

 

 エネルは私を救い出したサンジを見据えて声をかける。

 

「恋の騎士だ!」

 

「なるほど、バカなのだな……」

 

 サンジの大真面目な返答を彼は辛辣な言葉で返して、顔を他の所に向ける。

 

「エネル! 貴様! 我輩の部下を! 神隊をどうしたァ!」  

 

 ガン・フォールは何かを聞いてきたらしく、怒りの表情を剥き出しにしてエネルに迫っていた。

 

「ガン・フォールも来たか……。随分と遅い到着だな。お前の部下はなかなか使えたぞ。どうしたかなど、どうでも良いことだ。直に皆、同じ運命を辿るのだから……」

 

「悪魔めッ!」

 

 エネルは暗にガン・フォールの部下を始末したことを示した。

 ガン・フォールの顔はさらに怒りに歪む。

 

「ライア! あんた、どうしたの? その格好……。大変よ! エネルが、この島ごと消滅させるって! マジでヤバイみたいだから、早く逃げなきゃって……、私はそれを伝えに……」

 

 ウェイバーに乗ってきたナミが私に声をかけた。

 やはりこの格好って変だよね……。

 

 彼女はこの国がエネルによって消されることを知ったみたいだ。

 そしてエネルの恐ろしさも知っているようだった。

 

「ナミ。君の目の前に居るのがそのエネルなんだけど……」

 

「いやああああっ!」

 

 私がすぐそばにエネルがいることをナミに伝えると彼女は絶叫する。危険を承知で来てくれたと思ったけど、やはり怖いものは怖いか……。

 

「今さら遅いって……。ん? アイサ……」

 

 ウェイバーからアイサが出てきて走って倒れている仲間に駆け寄っていく。

 

「ワイパー! ゲンボウ! ブラハム! みんな……!」

 

 アイサはボロボロになって倒れているワイパーたちを信じられないという表情で見ていた。

 

「アイサ! あんた、無事だったんだね!」

 

「ラキ……!」

 

 ラキがアイサに気付いて彼女に近付く。これで意識がある人が全員ここに集まったということになる。

 

「ヤハハッ! また雑魚どもが増えたか……! だが、何人増えたとて、同じこと――! 神の恐ろしさを思い知るが良い!」

 

 エネルは人数などものともしない。彼なら私たち全員を倒すなど造作もないことだろう。

 この状況を一変させるためには――。

 

「くっ、まだか………。ルフィ……!」

 

 私は焦りながら、大蛇と戦うゾロたちの様子を見た。

 

「キャハッ! 一万キロフルスイングッ!」

 

「うおおおおっ! 刻蹄・(ロゼオ)ッ!」

 

「――百花繚乱(シエンフルール)――クラッチ!」

 

百八煩悩鳳(ひゃくはちぽんどほう)ッ!!」

 

「ジュララアアアアアッッッッ! ゲボオオオオッッッッッ!!!」

 

 4人の必殺技を腹に受けた大蛇は顔を歪めて叫びながら口から大量に様々なモノを吐き出していった。

 いろいろ溜め込んだんだなぁ……。

 

 その中に――。

 

「やっと出られたぞォ〜〜!!!」

 

 ルフィが大蛇の口から飛び出してきた。よしっ! 間に合ってくれたか!

 

「ルフィ! あいつがエネルだッ! ぶっ飛ばしてくれッ!」

 

 私はエネルを指さして彼に率直にやって欲しいことを伝える。

 

「ライア! うはっ、面白い格好だなァ! よーし、任せろ! ゴムゴムのォォォ――!」

 

 ルフィは瞬時に状況を理解してエネルに向かって走り出す。

 後方に向かって腕を伸ばしながら。

 

「なんだ? 何かと思えば超人(パラミシア)か……。つまらん……。こんなやつがお前たちの切り札だったとは――。神の裁き(エルトール)ッ!」

 

 エネルは凄まじい雷撃を放った。雷撃は遺跡に巨大な穴を開けるほどの威力だったが、ルフィにはまったく効かずにそのままエネルに突っ込んで行く。

 

「――バズーカッッッ!!」

 

 ルフィの渾身の一撃がエネルの腹に突き刺さる。

 エネルもまさか自分が攻撃を受けると思ってなかったのだろう。完全に油断しきっていた。

 

「ぶべほっ……! きっ、貴様……、なぜ!? こうなったら……! 1億V(ボルト)――放電(ヴァーリー)!」

 

 エネルは驚愕しながらも、ルフィに触れて今までに無いほどの巨大な雷撃を直接叩き込んだ。

 1億V(ボルト)って、もはやスケールが凄すぎてよくわからん。

 

「――ん?」

 

「――ッ!!!!?」

 

 当然というか、わかっていたことだが、ルフィは無傷だった。

 そして、エネルの顔はみるみる歪みあ然とした表情に姿を変える。

 なんというか、既視感があるな……。私が女だと伝えたときのビビってこんな顔をしてたような……。

 

「あー、さっきはこんな顔をしてたんだ……」

 

「ライアちゃん、どうなってやがる? エネルってやつの、あの雷撃はすげェ威力に見えたが……。ルフィに通じてねェみてェだ」

 

 私がエネルの顔の感想を漏らしていると、サンジはルフィがエネルを圧倒していることに疑問を呈した。

 

「うん。そうなんだけどね……。ルフィだけは別なんだ。ゴム人間である、彼だけは……」

 

「ゴム人間? まさか……、そんな奴が……! ヤハハハハっ、もうよい……!」

 

 私がサンジにその答えを教えると、エネルはゴムという言葉にハッとした顔をした。

 そして、この場から去ってしまった。

 

「きっ、消えた……!?」

 

「いや、おそらく今すぐこの島を消し去ることにしたんだ。そうしたら、私たち全員を葬れる……」

 

 サンジがエネルの気配がなくなったことに目を丸くし、私が彼の狙いを推測する。

 おそらく彼が向かって行ったのは――。

 

「ああ、なるほどォ! あいつ、頭いいなァ!」 

 

 ルフィがポンと手を叩いて感心したような声を出した。

 

「んな、呑気なこと言うてる場合か! 早く逃げないと!」

 

 ナミがルフィの頭を叩いて逃げるように促す。

 

「どこに?」

 

「えっ、それは――えっと……」

 

 私はそんな彼女に逃げ場について尋ねると、ナミは困ったような顔をした。

 

「ライア……、教えろよ。あいつの居場所。わかるんだろ?」

 

 そして、ルフィは真面目な顔をしてエネルの場所を私に尋ねる。

 なんやかんや言っても私たちの船長はやるべきことがわかっている。

 そう、私たちがやることは逃げることじゃない。

 

「もちろんだ。急いで追いかけよう!」

 

 私は着替えるときに落としていた荷物から幾つか必要なモノを取り出して、ルフィと共にエネルを追いかけた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

MAX(マックス)2億V(ボルト)放電(ヴァーリー)ッ!!」

 

 エネルは凄まじい電気エネルギーを放出して金色に輝いていた。

 

「私を限りない大地(フェアリーヴァース)に導く方舟“マクシム”――! 浮上せよ!」

 

 彼が居たのは空を飛ぶ方舟――“マクシム”の船内。動力部に当たるところだった。

 やはりこのマクシムから島全体を攻撃して空島を落とすつもりだったか……。

 

「それが君の目的か……!? エネル!」

 

 私はルフィと共にマクシムに乗り込み、エネルに声をかけた。

 

「青海人ども! そうか、お前は心網(マントラ)が使えたな……。私の居場所を察知したというわけだな」

 

 エネルは自らの居場所がバレた理由を冷静に分析して頷いた。

 

「逃げるなら、この島に手を出すな!」

 

「手を出すな? それはお前が決めることではない。そもそも、不自然なのだ。空に人が住むなどということは。神としてあるべきところに戻す。それだけだ」

 

 ルフィの主張に対してエネルは持論を述べる。空に人が住むのは不自然だから、地上に落とすと――。

 とんでもなく、理不尽極まりないやつだ……。

 

「この飛行船で君は本当にスカイピアを滅ぼすつもりみたいだね」

 

「無論だ。神は嘘など吐かん。ようやく国の愚民どもが気付いたようだが、この短い時間でどれほど逃げられるか見物だな」

 

 エネルは当然という口調で残酷なことを言う。人間たちの命のことを実際に何とも思っていないのだろう。

 

「ならば……。ここで君を倒す! もう一度、これを使って!」

 

 私は鞄に入れておいた予備のゴム製のマスクを被り、全身をゴムで再び覆った。

 

「ヤハハハッ! 神を倒すだと? 口を慎め! お前らが何者なのか知らんが、大言壮語を吐くものではない! たとえゴムとやらを使っても、私は倒せん!」

 

 エネルはそれでも余裕の表情を崩さず、自分が負けるなんてあり得ないと口にした。

 

「倒せるぞ。おれは海賊王になる男だ。そしてライアはその船員(クルー)……。おれたちは、お前なんかに負けたりしねェ」

 

 ルフィははっきりと宣言した。エネルを倒せると……。

 未来の海賊王の船員(クルー)か……。悪くない響きだ――。

 

「カイゾク王……、なんだそれは?」

 

「世界の偉大な海の王だ!!」

 

「ご立派だな――。決着をつけようじゃあないか、この空で……!!」

 

 空中に浮かぶ方舟“マクシム”……。

 

 ルフィと私は、(ゴッド)・エネルと最後の戦いを開始した――。

 

 




やはり、ラバースーツはそんなに役に立ちませんでした。一撃入れられたら終わりですから、タイマンだと脆いのです。
そして、破れた顔の部分をマスクを被ることで補って、ライアは再びマニアックな格好でルフィと共にエネルに挑みます。
よって、次回は空島の最終決戦となりますね〜。


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最終楽章(フィナーレ)

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回は少しだけ長いです。そして、空島編はこれで終了となります。
それではよろしくお願いします!


 箱舟“マクシム”は、遺跡を覆う岩や森を破壊しつつ浮上する。

 浮上しながら、マクシムはドス黒い雲を煙突から放出していた。

 

 

「この箱舟の究極機能が作動した。――名は"デスピア"……。絶望という名の、この世の救済者だ!」

 

 エネルは自慢げに語る。デスピアと呼ばれる船の機能は、エネルの電気エネルギーを増幅させながら、激しい気流を含んだ“雷雲”を放出しつづけ、スカイピア全土を覆い、エネルの合図で何十本もの雷を落として破壊の限りをし尽くすと。

 

「例えば、こんなふうにな! ヤハハハハ!」

 

 エネルが指を動かすと雷雲から稲妻が走り、エンジェル島に突き刺さる。

 

「何をした!? エネル!」

 

「天使たちを少しからかってやったのだ」

 

 私の質問に事もなく、エネルは答えた。この男は悪いとか、そういうことを考えてない。

 強者は何をしても良いと本気で考えてるのだ。

 

「“神”なら何でも奪っていいのか!?」

 

「そうだ。“命”も“大地”もな」

 

 ルフィの問いにも当然という口調で答えるエネル。

 ダメだ……。この男は……。話なんて通じないに決まってる。

 

「ルフィ、もうあいつと話すのは止めよう。私たちは私たちらしくやればいい。奪わせなければいいんだ」

 

「ああ、そうだな! よし、やろう!」

 

 私は銀色の銃(ミラージュクイーン)を構え、ルフィは拳を構える。

 

「やってみろ! 青海人!」

 

 エネルからは自信に満ち溢れた声で殺気を放った。

 雷撃が通じないという動揺はもうなくなったみたいだな……。

 

「ゴムゴムのォォォ! ピストルッ!」

 

「――油断しなければ、単調な攻撃など当たらん! 雷撃は効かぬみたいだが、これはどうかな!」

 

 ルフィはエネルに向かって腕を伸ばしたが、彼は心網(マントラ)で察知して、それを躱し、槍で彼を攻撃した。

 

「熱っぢィ!」

 

 ルフィはそれに触れて熱によって苦悶の顔を浮かべる。

 早くも弱点が浮き彫りになったか……。

 

「ヤハハハハ! やはり、電熱は別みたいだな。ならば、高電熱のスピアでお前を葬り――」

 

「――蒼い超弾(フリーザーブレット)ッ!」

 

 私は冷気の弾丸をエネルの槍に命中させる。

 

「冷気だとッ……!? 小賢しいマネをする!」

 

 しかし、エネルが力を込めて熱を加えると、音を立てて凍った槍は即座に解凍されてしまう。

 

「うーん。やっぱりすぐに溶けちゃうみたいだね。でも、一時的に電熱の方の効果は抑えられそうだ」

 

「ライア……! よく当てられるなァ。あと、やっぱ面白ェなァ……! その格好!」

 

 そんな私に対して感心したような声を出してきて、今さら格好について触れてきた。

 

「今は、この格好には触れないでくれ。そんなことより、私が銃撃で援護するから、君は思いきり攻めてもらって大丈夫だ」

 

「おっし! 頼んだ!」

 

 私はルフィに援護を買って出た。彼の戦いやすいように私が支えられるだけ支える。

 エネルの首元にルフィの牙が届くように……。

 

心網(マントラ)が使えるだけの貧弱な狙撃手と、雷の効かないだけの無能者如きが手を組んだところで! 圧倒的な力を持つ私には敵いはしない!」 

 

 エネルは私たちを見下し、蔑む。神である自分よりは遥かに格下の存在だと。

 

「それはどうかな!? どんなに圧倒的な奴だって弱点はある! 普段、私は鉛の弾丸だから()()は狙わないのだが……! 今日だけは容赦しないよ! ルフィ、5秒時間を稼いでくれ!」

 

 私は自らの集中力を極限まで高められるようにルフィに時間稼ぎを頼んだ。

 スカイピアの未来が懸かっているというときだ。私も容赦はしないことに決めた。

 

「任せろ! ゴムゴムのォォォ! ガトリング!」

 

「手が増えたわけではあるまい! 実にくだらん――」

 

 ルフィから繰り出される高速の連撃はエネルの心網(マントラ)によって完全に見切られて、彼は両腕を掴まれて床に叩きつけられる。

 

「うぐっ! ゴムゴムのォォォ! ムチッ!」

 

「無駄だと言って――」

 

 しかし、ルフィの攻撃は終わらない。即座に足を伸ばしてエネルに攻撃を加えようとする。

 ありがたい。きっちり時間を稼いでくれた。

 

「――必殺ッッッ! ゴムハンマーッッッ!」

 

 私はエネルの下半身の()()()()を狙ってゴムの弾丸を放つ。

 

「――!!!? くぁwせdrftgyふじこlp……!!」

 

 未来視によって必中の性能を誇る私の弾丸はエネルの()()に命中すると、彼はこれまでに無いほど顔を歪めて涙目になり内股になってうずくまりそうになる。

 

「へぇ……。やはり神でも()()は痛いんだね」

 

「あっはっは! ライア、()()()()()()()だぞ! よーし! ゴムゴムのォォォ! バズーカッッッ!」

 

 ルフィはニヤリと笑いながら思いきり腕を伸ばして、エネルに渾身の一撃を叩き込む。

 

「グフッ――」

 

 さらに苦しそうな顔をするエネルだが、ルフィは止まらない。

 

「ゴムゴムのォォォ!」

 

「いっ、いかん……。避けねば……」

 

 次は腕を捻り回転を加えた拳がエネルを襲う。

 彼は何とか回避しようとするが、痛みによって体が動かないみたいだ……。

 

回転弾(ライフル)ッッ!!」

 

「ガハッ!!」

 

 ルフィの拳は深々とエネルの腹に突き刺さり、彼は吹き飛ばされて仰向けになって倒れた。

 今の連携はかなり効いた手応えがあったぞ。

 私はエネルの力が落ちていることを感じていた――。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

「大丈夫かい? まだ、あいつは立ち上がると思うけど……」

 

 しかし、ルフィもかなり疲れているのか息を切らせている。

 私と違って彼は筋力をフルに使って攻撃しているから消耗も激しいのだろう。

 

「ああ。これくらい平気だ」

 

 ルフィが勇ましい声で私に応えたとき、エネルが立ち上がった。

 

「はぁ……、はぁ……、貴様さえいなくなれば……。私の天下なのだ……! 貴様などが、私に敵うわけあるまい! 私は全能なる神である!!」

 

「あいつ、何か企んでる……?」

 

 立ち上がったエネルが妙な動きをしているので、ルフィは警戒心を高める。

 

「見よ! ゴム人間! そして、貧弱な狙撃手! 堕つ、島の絶望を!」

 

「やめろ! ゴムゴムのォォォォ! バズ――!」

 

 エネルがスカイピアに稲妻を再び落とそうとしたことを察知したルフィは“ゴムゴムのバズーカ”を放とうとして、両手を突き出そうとした。

 

「金の壁を!? まさか!? ルフィ! 手を引っ込めるんだ! ――碧色の超弾(ブラストブレット)

 

 私はルフィに指示を出しつつ、突風を繰り出す弾丸をエネルに向かって放つ。

 

「“(グローム)”! “治金(バドリング)”!」

「――んっ? 引っ込める?」

 

 エネルは大量の金を使ってルフィの両腕を拘束しようとした。

 ルフィは私の声を聞いて咄嗟に腕を引っ込めて、私の弾丸は液状の金に命中して突風が発生して、大部分の金を吹き飛ばす。

 

「ちっ! 厄介な弾を撃つ……! 金を吹き飛ばすとは!?」

 

「あぢィ!」

 

 エネルは舌打ちをして、ルフィは両手がそれぞれ金に覆われて固まってしまったので、熱によって悶えていた。

 

「えっ! これ取れねェぞ!」

 

「ごめん。私がもっと早く注意していれば……」

 

 私はマスクを少しだけ外して、ルフィの両手の様子を見てみると、ボウリングの玉くらいの大きさの球体状の金が1つずつ覆っていた。

 

「貴様を封じて、そこの狙撃手を落とせば、この世に私に敵うものは居なくなり、私の天下になるものを――!」

 

「それはどうかな?」

 

 エネルは天敵のルフィさえ居なくなれば、自分に敵う者が居なくなると言うようなことを口にした。

 

「何っ!?」

 

「下の海にはもっと怪物みたいな連中がうじゃうじゃ居るんだ!」

 

 しかし、私たちはそれを否定する。自然(ロギア)系の能力者で見聞色の覇気も使えるエネルは確かに強者だが、この海にはどうやって倒したら良いのかさえわからない怪物がいる。

 

 

「減らず口を……! たかが、超人系(パラミシア)とただの人間の分際で!」

 

 エネルは怒りを込めて私たちに殺気を放つが、余裕がなくなっているように感じられた。

 

「ゴムゴムのォォォ! 黄金ガトリング!」

 

「――必殺ッッ! ゴムハンマーッ!」

 

 私がエネルの急所を狙い続けると、先ほどの“痛み”がよほどトラウマになったからなのか、心網(マントラ)が乱れて動きの精細さが欠落する。

 

「くそっ! 狙撃手の動きが私の心網(マントラ)に干渉して――!! グフッ――」

 

 エネルは私に警戒心を取られ、ルフィの連撃を躱しきれなかった。

 金に覆われたルフィの重い拳がエネルに次々と突き刺さり、エネルは再び膝をついた。

 

「お前にこれ以上、この島で好き勝手させるかァ!」

 

 ルフィはエネルがスカイピア全土に雷を落とす前に決着をつけようとしている。

 彼からビリビリとした気迫のようなモノが伝わり、いつも以上のエネルギーが感じ取れた。

 

 ――今のルフィは確実に()()()()()()()()強い!

 

「ガフッ! ゲホッ! おのれっ! 2億V(ボルト)ッ!! “雷神(アマル)”ッッッ!! 我は神なり! たかだか青海のサルどもに後れを取るものかァ!」

 

 しかしエネルも負けていない。自身の出力を最大限に高めて雷の化身とも言える形態に変化した。

 

「上手くいくか分からないが! ぶっつけ本番! 碧色の超弾(ブラストブレット)とゴム弾を合わせて――」

 

 私は銀色の銃(ミラージュクイーン)に2種類の銃弾を込める。あいつには今の私に出来る最大の火力を叩き込む。

 

「いくぞォォォ! エネルゥゥゥ! 吹き飛べェェェェ!!!」

 

 ルフィは両腕ををねじりながら交差させて金を纏った両拳を加速させてエネルにぶつけようとする。

 

「――必殺ッッ! 豪武彗星ッッッ!!!」

 

「ゴムゴムのォォォ!!! 黄金回転大砲(ゴールデンキャノン)ッッッ!!!」

 

 突風によって加速するゴムの弾丸と回転の威力も加わったルフィの2つの拳がエネルに突き刺さった。

 

「――ッ!!!?」

 

 エネルは手にした槍を落とし、くの字に体を曲げる。

 

「ウウウウウッ! オオオオオオッッ!!」

 

「――ァああああッッッ………!!」

 

 ルフィはさらに力を込めてエネルに拳をめり込ませると、エネルは白目をむいてそのまま彼方へと吹き飛ばされてしまった。

 

「まだだァァァァァァ! ウオオオオオオッ!!!」

 

 そして、ルフィは続けて“マクシム”から排出されていた“雷雲”に次々と拳をぶつけていく。

 

「“雷雲”まで次々と――! 信じられない……!」

 

「はぁ……、はぁ……。やっぱ、この島は青空の方がいいなァ」

 

 ルフィの黄金を纏った拳は“雷雲”を打ち払って、スカイピアは再び青空に覆われた。

 

「ふぅ……、君には、敵わないな。さすがは未来の海賊王だ……」

 

「にししし……」

 

 私は仰向けになって空を眺めているルフィを労いながら声をかけると、彼は屈託のない笑顔を浮かべる。

 

「じゃあ、ついでに鳴らして帰るかい?」

 

「鳴らす?」

 

 そして、私はルフィに提案する。“マクシム”の進行方向に()()()()があることを予想しているからだ。

 

「エネルは黄金の鐘の在処に目星をつけていた。きっとこの方舟の向かう先は――」

 

「おおおっ! でっけェ! 黄金の鐘だ!」

 

 ()()()()――つまり黄金の鐘が置かれている島雲が視界に入ったとき、私が指をさすとルフィは起き上がってそれを見て興奮する。

 

「さあ、教えてあげよう。クリケットたちに黄金郷があったことを」

 

「よしっ! 届け〜〜〜!!」

 

 ルフィは両拳を覆っている黄金が砕けるくらいの勢いをつけて黄金の鐘を思いきり鳴らした。

 

 カラァーンと小気味よい涼やかな音がスカイピア全域に響き渡る。

 

「なァ……。伝わったかな?」

 

「うん。きっと伝わったよ。私たちがここに居るってね」

 

 私とルフィは雲の下にいるクリケットたちに思いを馳せながら、気持ちのいい鐘の音に魅了されていた。

  

 ノーランドはこの鐘の音が好きだったんだな。彼にも届いていると良いが――。

 

 

「ところでさァ。この船どうやって止まるのか、ライアは知ってんのか?」

 

 鐘の音を聴きながら感傷に浸っていると、ふと思い出したようにルフィは声を出した。

 

「えっ?」

 

「あっ――」

 

 “マクシム”はそのまま、黄金の鐘が置かれている島雲にぶつかり、黄金の鐘は下に落下して、“マクシム”もまた故障して浮力を失い墜落を開始した――。

 

「しっ、しまった。うっかりしてた……」

 

「ライアっ! 掴まれ!」

 

 ルフィは慌てて私に手を差し出して、私はそれを掴む。

 そして、彼はもう片方の腕を島雲に伸ばして私と共にそこに避難した。

 

 私たちは(ゴッド)・エネルを倒した。スカイピアの住民たちは恐怖から解放されたのだった――。

 

 はぁ、今回も何回も死ぬかと思ったよ……。

 

「なァ、ライア」

 

「ん?」

 

「やっぱ、その格好――おもしれーなァ!」

 

「――ぐっ! 忘れてくれ……、後生だから……」

 

 仰向けになって、青く澄んだ空を眺めながら私は急に恥ずかしくなって顔が熱くなっていることを実感した――。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ええっ、もう帰るのですか!?」

 

「うん。多分、うちの船長はそうすると思う。黄金でも盗んでトンズラさ」

 

 スカイピアでの騒動も一通り終息し、私は大量のダイアルを手に入れて、メリー号の修理をしていた。

 やはりメリー号はフライングモデルよりも元の形の方がいい。漫画では船の妖精みたいなのが直したりしてたけど、あれって多分船の寿命が近いって意味もあったんだろうな。

 この船はまだ走れる。大丈夫なはずだ――。

 

「別に盗まなくてもオーゴンくらい幾らでも貰えると思うぞ。あたいたちは、助けられたんだから」

 

 修理作業を手伝うと言ってくれたアイサが土台を押さえながら、私にそう言った。

 

「まァ、一応海賊だからね。そこのところの体裁は整えるんじゃないかな」

 

「そっか……」

 

 修理も一段落して、私は彼女にルフィたちの意図を伝えると、彼女は寂しそうな顔をした。

 

「なんだ。アイサは別れを惜しんでくれるんだね」

 

「あっ、当たり前だろ! せっかく友達になれたのに……」

 

 急に素直になったアイサは私の手を両手で握る。

 友達か……。思えば、この航海で随分と友が増えたものだな……。

 

「私も寂しいです。短い間だったのに……。こんなに……、胸が締め付けられるようになるなんて……」

 

「こっ、コニス? 顔が近いんじゃあないかな?」

 

 さらに作業を手伝ってくれていたコニスが目を潤ませて、私に顔を近づけてくる。

 前にもこんなことがあったような、なかったような……。

 

「――ライアさん、私は……」

 

「ストップ! コニス。こいつ、女だぞ! 知ってるよな!?」

 

 コニスがさらに私に顔を近付けそうになったとき、アイサが慌てて彼女に私の性別を告げる。

 

「えっ――?」

 

「こっ、コニス?」

 

 コニスは絶句して、ひと言も喋らなくなってしまった。ていうか、息をしてないような……。

 きっ、気絶してる? どういうこと!?

 

「あっ、あたいは知らないぞ。お前が紛らわしいのが悪いんだ!」

 

 アイサも“しまった”という表情を浮かべながら頭をブンブン横に振っていた。

 

「――はっ! らっ、ライアさんが女性? すみません。ちょっと驚きました」

 

 幸い、コニスはすぐに意識を取り戻して頭を下げる。

 

「ちょっと、ね。うーんと、気絶したように見えたけどちょっとなんだよね?」

 

「ごめんなさい。心臓が止まるくらい驚きました」

 

「言い直さなくていいよ……」

 

 私が彼女に確認するようなことを言ったら、コニスは胸を押さえながら驚き具合を言い直した。

 

 そっか、そこまで驚かれるのか……。ラバースーツ着て過ごそうかな……。

 

「でも、それでも良いって思えるように頑張ります」

 

「頑張らないでくれ。なんか、嫌な予感がするから……。じゃ、私はこの辺で。コニス、あとで案内を頼むよ」

 

「はい!」

「またな!」

 

 私はルフィたちから離れて行動しているロビンを呼びに行くために船から降りた。

 

 ロビンの元へと行く途中、ナミとすれ違った。大蛇が吐き出した黄金と、さらにその後寝てしまった大蛇の腹の中にあった黄金を取れるだけ取ったらしい。

 普通なら一度では運びきれない量が見つかったけど、そこは“運び屋”がいる我が一味。

 ミキータが山のような黄金を背負って運んでくれるそうだ。

 

 ナミはミキータが仲間に居てくれて良かったとご満悦だった。 

 

 

 そして、私は黄金の鐘の前でガン・フォールと話しているロビンの元に辿り着く。

 

「彼の名は、モンキー・D・ルフィ。私も興味が尽きないわ」

 

「“D”……。なるほど、名が一文字似ているな……。はははっ!」

 

「そう、それがきっと――歴史に関わる大問題なの」

 

 どうやら、ロビンたちはルフィとゴール・D・ロジャーが共に“D”の名がつく者だという共通点があるという話をしているみたいだ。

 

「目当てのモノは見つけられたみたいだね」

 

「あら、狙撃手さん。どうしてわかったの?」

 

 私がロビンに話しかけると彼女は不思議そうな顔をする。

 

「目を見たらわかるさ。君は意外と感情がそこに出てるんだよ」

 

 ロビンは表情が豊かな方ではないが、目を見れば感情の変化は読み取りやすいと私は思っている。

 

「そう。ごめんなさい。あなたがラバースーツというのを着たときも出ちゃってたかしら」

 

「あははっ、出ちゃってたよ。でも、君の唖然とした表情は非常に可愛らしかったから、それが見られただけで、私が体を張った甲斐はあったかな?」

 

 ロビンの言葉に私は少しだけ照れ隠しをしながら返す。

 まぁ、見たのはエネルの槍でラバースーツの顔の部分が破られたときだけど……。

 

「くすっ、じゃあおあいこね。私も楽しませてもらったから。可愛らしい姿のあなたが見られて」

 

「可愛らしい? あれが? まぁいいや。じゃ、そろそろ逃げ出す準備しよう」

 

 ロビンが機嫌よく笑ったので、私は彼女に出航が近いことを告げた。

 ルフィもそろそろ待ちくたびれているだろう。

 

「逃げ出す? おぬしらがなぜ逃げ出すのだ?」

 

「そりゃあ、私たちが海賊だからさ――。だから、多分、その柱も――」

 

 ガン・フォールが訝しいそうな顔して質問を投げかけてきたので、私はその理由を話した。

 黄金は欲しいけど、さすがにその柱くらいの巨大な金を換金したらとんでもない金額になるだろうし、その後の影響を考えたら怖くて手を出せない。

 

 ミキータがいるから漫画よりは多めに黄金は手に入っているだろうから、私たちにはそれくらいでちょうどいい。

 

 

「お〜〜い! ライア! ロビン! 急げ、急げ! 逃げるぞ! 黄金奪ってきた! ほら、見ろ! ミキータがこんなにいっぱい!」

 

「キャハハッ! 幾らでも持っていけるわ!」

 

「バカ! バレちまったじゃねェか!」

 

 ルフィたちの姿を確認すると、リュックや袋いっぱいに黄金を詰め込んだみんなが逃げ出す準備をしていた。

 やはり、ミキータの持ってる量は半端ないな……。

 

「行こっか?」

 

「ええ、行きましょう」

 

 私がロビンに声をかけると彼女はニコリと笑って走ってルフィたちの元へと向かった。

 

「逃げろ〜〜!」

 

「待てェ〜〜!」

 

 私たちは空島から逃走する。コニスとパガヤの案内で到達した“雲の果て(クラウド・エンド)”から。

 白い海の景色も少々名残り惜しい気が……。次の冒険が我々を待っている。

 

 タコバルーンのおかげでゆらゆらとゆっくり空から降下するメリー号の中で私たちは再び聴いた。

 “カラァーン”と鳴り響く、黄金の鐘の音を――。

 

 遥か一万メートル上空から聴こえる鐘の音に送り出されて我々は帰ってきた。真っ青な海の上に――。




これで空島編は終了です。
いろいろと消化不良な感じもありますが、前半で一番の難所だと思っていたのがここだったので、とりあえず終わってホッとしてます。
次回からはロングアイランドなんですけど、短いので、そこも引っくるめてウォーターセブン編にしちゃいます。
なのでウォーターセブン編はとても長くなりそうです。ここから、もっと面白くできるように頑張ります!


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ウォーターセブン編
デービーバックファイト開始


いつも感想や誤字報告をありがとうございます!
新章に突入してはりきりすぎてつい長くなってしまいました。
それでは、よろしくお願いします!


「ゴーイング・メリー号の修繕? 良いのかい?」

 

「良いも何も当然でしょう? 空に行ったせいでこれだけ傷付いているんだから」

 

 空島から持って帰ってきた宝の分配の話になったとき……、ナミの第一声はメリー号の修繕についてだった。

 

「でも、そうやって気遣ってくれるだけでも嬉しいよ! ありがとうナミ! 大好き!」

 

 私は自分から機を見て話を切り出そうと思っていたから、ナミの言葉が嬉しくて、つい抱きしめてしまった。

 

「――ちょっ、ちょっとわかったから、離れなさいよ……」

 

 ナミは顔を赤くして慌てたような口調で私を引き剥がそうとする。

 

「いや、ライアちゃん。もう少しだけそのままでも良いんじゃねェか?」

 

「何言ってんだ? アホコック」

 

 妙に楽しそうな顔をしているサンジにゾロがツッコミを入れる。

 

「キャハッ……、それじゃ宝を分けるのは修繕費がわかってからね」

 

 ミキータもそれに納得して頷いてくれた。彼女も優しい……。

 

「なァ、だったらさ。“船大工”を仲間にしよう! 旅はまだまだ続くんだから必要な能力だ!」

 

「「…………」」

 

 ルフィが船大工を仲間にしようと提案した瞬間、少しの間……、沈黙がこの空間を支配した。

 

「ナイスアイデアだ。さすがは船長!」

 

 私は開口一番で彼に賛同した。フランキーは仲間として絶対に必要な人だ。

 当然、私以上に器用だろうし……。

 

「そりゃ、それが一番だ。ライアちゃんが船がやられる度に青ざめなくて済む!」

 

 えっ? 私ってそんな酷い顔してた? サンジのセリフに私はギョッとする。

 

「キャハハ、この前なんて寝言で船の心配してたわよ」

 

「ははっ。だったら、その線でいくしかねェだろ」

 

 ミキータの暴露でゾロは笑いながら、船大工を探すことに賛成した。

 まさか、寝言でそんなことを言ってるなんて……。

 

「い〜奴が見つかるといいなァ」

 

 ルフィは新たな出会いにわくわくしていた。もうすぐ、ウォーターセブンか……。

 そこでの話次第では私は――。

 

 

 船の修繕と船大工を仲間にするという目的を得たゴーイング・メリー号は、次の島を目指して進みだす。

 途中で、デービーバックファイトで負けたのであろうという海賊船を見つけた。

 

 海賊旗もなければ、船長も航海士も不在のその船は船員たちの生気がなく、シーモンキーの起す大波に飲み込まれて、沈没してしまう。

 確かフォクシーとかいう奴が率いる海賊団が近くにいるんだっけ? ノロノロの実とかいう結構当たりの能力者だった気がする。

 

 とりあえず、あしらえるくらいの対策は考えるか……。ノロノロビームとやらが、鏡で反射できるとかそれくらいしか覚えてないけど……。

 

 そして、ようやく島に到着した私たちを待ち受けていたのは、大平原だった。

 私とルフィとチョッパーが先に降りて、この島について観察すると、やたらと長い動物達が生息していることがわかった。

 

 さらに探索を進めると簡易的な家らしきものを見つける。

 しかし、家の中は無人で前にはシェリーという名前の足や首が細長い白馬がいた。

 チョッパーによると、主人は10年ほど帰っていないようだ。

 

 そんな中、ルフィがその家の周りで“動く長い竹”を見つける。

 彼が竹を折ると、上空から男が落ちてきた。

 

 どうやら男は果てしなく高い竹馬で遊んでいたら怖くて下りられなくなっていたらしい。

 

「その期間――10年!!」

 

 竹馬の男は10年も竹馬に乗っていたと告白した。

 はっ? 何言ってるの? この人……。

 

「大バカか!」

 

 珍しくルフィが素直なツッコミを入れる。ていうか、彼がここまでドン引きしてる顔初めて見たかも……。

 

「10年って……、どうやって生きてたんだい?」

 

 私も彼のことを忘れていたので興味本位で質問をしてみた。

 

「竹馬と同じくらいの高さの木も多いからな。何とか、果物で食い繋いだんだ。あ〜〜、怖かった――」

 

「いやいや、そんなひと言で済ましちゃダメだろう……」

 

 私は“怖かった”でこの10年の孤独を済ませるこの人が怖かった。

 

 男によるとこの島は“ロングリングロングランド”というらしく、10個の小さな島が円形に区切られているそうだ。

 

 ただ、年に一度、数時間だけ潮が大きく引いて1つの大きなドーナツ状の島になるのだという。

 

 この男の仲間たちは3年に1回島を移住して暮らしているらしく、30年かけて一周している。

 

 要するに、竹馬のせいで、この男は取り残されてしまったのだ。

 馬がいれば5年で追いつくとか言ってたけど、それでも大変な話だ。

 

 そして、彼の言う馬こそ白馬のシェリーであり、この馬はずっと男を待ち続けていたのだ。

 

「しっかし、ほんとに(はえ)えぞ! あの馬。おれも乗りて〜〜!」

 

「楽しそうだな。あんなに喜んでる。――おいっ、ライア! なんで、銃なんか持ち出してるんだ?」

 

 ルフィとチョッパーはシェリーの背中に乗っている竹馬の男を眺めていた。

 そして、私がある気配を察知して銃を構えると、チョッパーは不思議そうな顔をして私を見つめた。

 

「えっ? ああ、ちょっと無粋な連中の気配がしたものでね……」

 

 私は気配に向かって銃弾を撃ち出す。すると――。

 

 

「フェッフェッフェッ! おいっ、貴様! おれの狩りの邪魔をしやがって! せっかく、その馬を狙っていたのに!」

 

「そーよ、そーよ! オヤビンの趣味をよくも邪魔してくれたわね! その馬はオヤビンのものにする予定なの!」

 

 シェリーを銃で狙っていたフォクシーが落とした銃を拾いながら文句を言ってきた。

 後ろに巨漢と長い髪の女を引き連れて……。

 

「よーし、もう一回狙って――」

 

 そして、フォクシーは再び銃をシェリーに向けようとした。

 

「狩りだと! そんなことさせるか! お前ら! 誰だァ!?」

 

 それを見ていたルフィは怒り心頭でフォクシーの方に向かっていく。

 

「このおれが誰だって? おれの名はフォクシー! たかが動物狩りで大騒ぎしやがって! おれは欲しいものはすべて手に入れるんだ! 黙ってろ!」

 

 ルフィに対して自己紹介したフォクシーは全く悪びれる様子はなかった。

 

「この野郎! ゴムゴムのォォォ!」

 

「待て! ()()()()()()()!」

 

 本気で怒ったルフィが蹴りを繰り出そうとすると、フォクシーはルフィの名前を呼び、気を引こうとする。

 

「えっ? ――なんでおれの名を!?」

 

 するとルフィは自分の名前が呼ばれたことに驚いて攻撃を止めた。

 あのまま攻撃してても良かったのに――。

 

「知っているとも! 調べはついている!」

 

「懸賞金1億ベリー、“モンキー・D・ルフィ”、懸賞金6000万ベリー“ロロノア・ゾロ”、懸賞金5600万ベリー“ライア”……。たった、8人の少数一味で総合賞金額(トータルバウンティ)2億1600万ベリーとは、ちょっとしたものね」

 

 フォクシーに続いて後ろに居た女が私たちの情報を口にする。

 うーん。ロビンとミキータも賞金首なんだけど、その情報はまだ伝わってないのかな?

 

「我々は“フォクシー海賊団”! “麦わらの一味”に対し! オーソドックスルールによる“スリーコイン”『デービーバックファイト』を申し入れる!」

 

「何をゴチャゴチャ言ってるんだ! 勝負なら受けてやる!」

 

 そんなことをボーッと考えていたら、いつの間にか、ルフィはデービーバックファイトの意味も知らずにフォクシーの申し入れを受けてしまった。

 まぁ、止めたところでやるって言うだろうから、同じだろうけど……。

 

 デービーバックファイトとは、海賊達の楽園“海賊島”で生まれた、より良い船乗りを手に入れるための海賊が海賊を奪い合う、"人取り合戦ゲーム"だ。

 

 フォクシー達が提案したのは、『3コインゲーム』という3本勝負。

 1勝負ごとに仲間を奪い合うという形式のゲームで、これを3回続けて行う。

 私たちはこれからそのルールで“フォクシー海賊団”と戦うこととなったのである。

 

 メリー号に居た仲間たちも呼び出されて、デービーバックファイトをやり慣れているフォクシー海賊団が手早く勝負の準備を始めた。

 

 そして、フォクシーの後ろにいた長い髪の女、ポルチェがデービーバックファイトの敗戦による3ヶ条の説明を開始する。

 

「さァ、敗戦による3ヶ条を誓うわよォ!」

 

「1つ! デービーバックファイトで奪われた全てのものは、デービーバックファイトでしか奪回できない!」

 

「1つ! 勝者に選ばれて引き渡された者は、速やかに敵船の船長に忠誠を誓うものとする」

 

「1つ! 奪われた旗は、二度と掲げることは許されない」

 

 この3つがデービーバックファイトのルールらしい。

 まったく、下衆な連中が考えてそうなルールだ。負けるなんてあり得ないな。

 

「以上のことを誓えますか!」

 

「「誓う!」」

 

 ルフィとフォクシーはこの敗戦の3ヶ条を飲み込んだ。

 

 勝負種目はレース、球技、戦闘の3つで合計7人が出場するというルールだ。

 私たちはナミがどうしても出たくないって言うから彼女を除いた7人でチーム編成を決めることにした。

 

 その結果――。

 

 第1回戦の“ドーナツレース”は私とロビンとミキータの3人。

 

 第2回戦の“グロッキーリング”はゾロとサンジとチョッパーの3人。

 

 そして、最終戦の“コンバット”はルフィというチーム編成に決まった。

 

 私が出るボートレース、“ドーナツレース”は手作りのボートでレースをする。

 ボートはオール2本と樽3個の木材だけを使って作らなきゃならないというルールだ。

 

 ウチは船大工が居ないからボートの質じゃ負けるだろうな……。

 

『まずは麦わらチーム! 狙撃手ライア! 伝令役ミキータ! 考古学者ロビン! 乗り込むボートはフライング・タルタルチキン南蛮号!』

 

『そして、フォクシーチーム! 我らがアイドル、ポルチェちゃん! カジキの魚人、カボーティ! ホシザメのモンダ! 乗り込むボートはキューティワゴン号!』

 

 司会のイトミミズとかいうフォクシー海賊団の宴会隊長が実況を開始する。

 

「へぇ、君たちはサメを使うんだ」

 

「いやん。ルールは破ってないわ」

 

 サメにボートを引っ張らせる作戦を立てているフォクシーチームのポルチェに声をかけると、彼女は体をくねらせながらそう答えた。

 

「うん。ルールに書いてないことは()()()()()()良いんだもんね。お手柔らかに頼むよ。ポルチェ……」

 

 私はポルチェの目を見つめて確認するように言葉を発した。

 何でもありなら私にも考えがある。

 

「――ッ!? はっはい……。いやん、この人……、カッコいいかも……」

 

 そんなことを考えていたら、しばらく私の目を見つめていたポルチェは頬を桃色に染めて、急にモジモジしだした。

 これは、油断を狙っている作戦か?

 

『おおっと! 麦わらチームは、レース開始前から何という卑劣な罠を仕掛けるのでしょうか! さっそくレディキラーの不意討ちによって、我らがアイドル、ポルチェちゃんが陥落寸前だァ! さすが手配書が発行された瞬間に“今、女性が付き合いたい海賊ランキング”1位に輝いた女殺し! 会場の男性陣からは大ブーイング! 女性陣からは黄色い声援が聞こえるぞォ!』

 

 すると司会が勝手なことペラペラと実況しだした。

 なんだそのランキングは!? 聞いたことがないぞ!

 これは私を動揺させようというフォクシーチームの場外戦術なのか?

 

「あいつ、撃っても良いかな?」

 

「キャハハ! あんたの武器なんだから活かしなさいよ。レディキラーさん」

 

「このボートが沈まなかったら勝てるかもしれないわね」

 

 私の言葉をナチュラルに聞き流すミキータとロビン。

 ええーっと、司会の実況とかにはツッコミを入れない方向なのか?

 

「ところで、狙撃手さん。その袋は何なのかしら?」

 

「うーん。秘密兵器かな? あははっ!」

 

「キャハッ、袋の中にダイアルがいっぱい入っているわ。いろいろと作戦を考えてるみたいね」

 

 ロビンが私が持ってきた袋について質問して、ミキータはその袋の中に入っているダイアルを興味深そうに見つめていた。

 

 さて、ダイアルの試運転をしてみようかな。

 

『ルールは簡単! この海に浮かぶ、ロングリングロングランドを一周せよ! 以上! それでは、よーい! スタート!』

 

 司会の合図で我々は出発する。フォクシー海賊団が場外から我々に攻撃をさっそく開始したが、サンジによってそれは阻止される。

 

 しかし、レースはというと、当たり前だがサメが引っ張ってるフォクシーチームが先行していた。

 

「じゃあミキータ……。合わせてくれよ」

 

「キャハッ! 任せなさい!」

 

 私は袋から取り出した衝撃貝(インパクトダイアル)を手袋に固定させて、ミキータに声をかけた。

 

衝撃(インパクト)ッ!」

「ミニマムウェイトッ!」

 

 衝撃貝(インパクトダイアル)のパワーとミキータの能力によるこのボートの重さを1キロにするコンボを決めて、信じられないスピードになった“フライング・タルタルチキン南蛮号”は、一瞬でフォクシーチームを抜き去り、大きくリードを広げた。

 

 やはり、1キロのウェイトなので、加速が全然違う。フォクシーチームの姿が見えなくなってしまったな……。それにしても腕がもげそうになるくらい痛い……。

 

 さらに、ロビンが腕を増やしてオールを漕いでくれるので加速後もスイスイ進んで行くことが可能となる。

 

 だが、サメのスピードは大したもので、コース最大の難所“ロングサンゴ礁”に着く頃にはフォクシーチームも我々に追いついてきた。

 

 “ロングサンゴ礁”は巨大なサンゴ礁によって迷路が形成されている上に不規則な海流がボートの進行を邪魔するという面倒なエリアだ。

 

「いやん。ここまでリードされるなんて思わなかったわ」

 

「やぁ、追いつくなんて凄いじゃないか。でも負けないよ――。君たちも怪我に気をつけてベストを尽くしてくれ」

 

 ボートがちょうど並びあったときに、ポルチェに話しかけられたので、私は返事をした。

 

「――まっ、負けてもいいかも。いやん。あいつの目を見るとおかしくなっちゃう!」

「痛いっス!」

 

 すると、彼女は顔を真っ赤にして、パートナーの魚人をポカポカ叩いて減速する。

 

『また出たァ! 噂によれば王族をも滅ぼしかけた女殺しの必殺ナンパ技! 我らがマドンナ! 難攻不落のアイドルもレディキラーの前では初々しい少女だァ!』

 

 そして、その様子を見ていた司会がまた適当なことを叫びだした。意味のわからない事を叫ばないでくれ……。

 

「やっぱ、あいつ撃っても良いかな!?」

 

「そんなことよりどうするの!? あんな海流、ナミちゃんじゃないと読めないわよ!」

 

 私のつぶやきを聞いたミキータが慌てながら前方で不規則に動く海流を指さしていた。

 確かに漫画ではナミが活躍していた気がする。

 

「うん。そうだね。ナミなら、完璧に読むだろう。でも、私たちは読む必要はない」

 

「狙撃手さん。何か面白いことを考えてるのね?」

 

 私がミキータの不安に対して返事をすると、ロビンがニコリと笑って声をかけてきた。

 

「面白いといえば、そのとおりだ。今から私たちは空を飛ぶ!」

 

「キャハッ! なるほど! じゃあ私は傘でも使っちゃおうかしら?」

 

 私の言葉にミキータは何をするのか大体察したらしい。

 さっそく傘を用意してニヤリと笑う。

 

「さて……! 角度はこんなもんかな? 衝撃(インパクト)ッ! そして、風貝(ブレスダイアル)ッ!」

 

 私は立て続けにダイアルを使ってボートを打ち上げた。

 重さがたったの1キロのボートは空を飛び、サンゴ礁を飛び越えて、さらにその奥にある“ロング(ケープ)”も乗り越えて、あとはまっすぐゴールを目指すだけとなった。

 

 フォクシーチームはというと、魚人とサメの合体技である“魚々人泳法(ツーフィッシュエンジン)”によって、猛烈に追い上げて私たちに肉薄してきた。

 

 それでもリードは大きく、フォクシーの嘘の看板や偽ゴールという妨害も破り、我々はトップを譲らなかった。

 

『ここまで麦わらチームがリードを譲らないが、フォクシーチームにも切り札がある! ポルチェちゃん、そろそろ攻撃してもいいんじゃないかァ!?』

 

 司会の実況はポルチェに向かって攻撃をしろと煽っている。それならそれでこっちも反撃するけど……。

 

「負けるわけにはいかないわ! キューティーバトン! そして! “花手裏剣”を食らわせて――。だっ、ダメ……っ! いやん。できない! だって、わっ私、あの人のこと好きみたいだから!」

 

 すると、ポルチェが何か好きとかどうとか言ってきた。

 何、またフォクシーの仮病みたいに下手な演技で釣る作戦なの? もうそういうのお腹いっぱいなんだけど……。

 

『おおっと! 突然の告白タイム! これはレディキラーの返事が聞きたいところだぞ! オヤビンもこれには驚き、ドキドキした表情でポルチェちゃんを見守っている! さァ、さすがに麦わらチームも引き返して返事を――! しなーい! なんと、レディキラー、ライア! 完全に無視だァ! 女は泣かせて当然という、まさに惚れた女が悪いと言わんばかりの所業! お前の血は何色だァ!』

 

 さらに司会の実況はヒートアップして私を悪者に仕立て上げ、観客席からはブーイングが大きくなる。

 こいつら、妙な一体感を――。

 

「とっとと、ゴールしよう。付き合いきれん……」

 

 私はオールに力を込めて精一杯漕いだ――。

 

『さて、告白無視というアクシデントのせいで、大幅にリードした麦わらチームがゴール目前だ!』

 

「フェッフェッフェッ! おれの必殺を食らえノロノロ――」

 

 そして、ゴール目前で思ったとおりフォクシーが切り札のノロノロビームを打とうと身構えようとする気配を私は捉える。

 

 残念だけど、君の行動には常に警戒していたよ。だから、私は君がビームを放つよりも速く――。

 

「――必殺ッッ! ――爆風彗星ッッ!」 

 

 私は素早くフォクシーに銃口を向けて突風が出る弾丸を撃ち出す。

 

「ビー――! フェッ!? ギャアアアア!」

 

『麦わらチームの狙撃手ライア! いきなり無実のオヤビンに卑劣な銃撃! 銃弾がオヤビンに直撃し突風が発生! オヤビン、無情にも吹き飛んだァァァ! そして、そのままフライング・タルタルチキン南蛮号はゴール! チクショー! 第1回戦の勝者は麦わらチームだッ!』

 

 必殺技を使う前に吹き飛んだフォクシーを尻目に私たちがトップでゴールする。

 デービーバックファイトの1回戦は私たちの勝利で終わった。

 

 ん? 待てよ……。私たち、別にあいつらから欲しいものなんて無いんだけど……。どうすれば、いいんだ?

 




今回はライアが他の海賊団からどういう風に見られるようになったか、に焦点を当ててみました。
実況のセリフに代弁させたのですが、伝わりましたでしょうか?
ロングアイランドのストーリーはサクッと終わらせるので、あっさりしてるかもしれません。


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ゲームの結末

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
気付けば50話を超えて文字の量もかなりの量になっておりますが、長く読んでいただけて感謝しております!
それではよろしくお願いします!


『さァ、取り引きの時間だ! 指名権は勝利チームの船長(キャプテン)、“麦わら”! “船大工”をご所望の様子だよ!』

 

『そうなると、本命は50人の船大工のボス! ソニエか!? はたまた、戦う船大工、ドノバンか!? 本能の赴くまま! お色気船大工、ジーナ姉さんか!?』

 

『先ほどの戦いを見ていた女性陣はレディキラーの毒牙にかかり! ポルチェちゃんを中心に自分を連れて行けと言わんばかりに手を振ってアピールしてるぞ! しかし、ライアは依然として完全に無視! レディキラーには人の血が流れていないのかァ! まさに冷血!』

 

 1回戦を終えて最初の取り引きが始まった。戦いは終わったというのに、相変わらず司会が私のことを好き勝手言ってくる。

 私に向かって手を振って何を企んでいるというのだ?

 

「もう試合は終わったんだから静かにしてくれないかなァ……」

 

 私はイライラが抑えきれずにいた。海賊として真面目に生きてるつもりなんだけど……。

 どうして、ここまで言われるんだ……。

 

「落ち着け、好きに言わせてりゃあ良いじゃねェか……」

 

「嫌だ!」

 

 ゾロの適当な言葉に私はムッとして反発する。

 

「で、そんなことより。どうする? 私は反対よ。得体の知れないやつを船大工にするのは」

 

「ええーっ! ジーナ姉さんじゃないのォ!」

 

 私の言葉をスルーして、あの中の船大工は嫌だと主張するナミに対してサンジは残念そうな顔を浮かべる。

 お色気船大工って……。ちょっと意味がわからない……。

 

「サンジくんは黙ってて。だから、こういうのはどうかしら? 3戦目に出る向こうの船長を取っちゃえばこっちの2勝は確定するでしょ。それならウチが誰かを失う可能性がなくなるわ」

 

「ピーナッツ戦法だね。提案したらバッシングの嵐だと思うよ」

 

 ナミの提案に私はツッコミを入れた。

 

「構わないわよ。そんなこと」

 

 しかし、ナミはそれでも構わないという感じで涼しい顔をする。まぁ、危惧するところは他にもあるけど……。

 

「でも、航海士さん。そうするとあのオヤビンって人がこっちの仲間になるけどいいの?」

 

「「あれはいらねェ」」

 

 ロビンがナミにツッコミを入れると、ルフィたちは口を揃えてフォクシーは要らないと声に出した。

 

 フォクシーにそれははっきりと聞こえたらしく、彼は落ち込みいじけていた。

 

「それに、2回戦で負けてフォクシーが取り返されたら意味ないよ。結局3戦目もやることになるだろ?」

 

 そして、私は1回戦だとピーナッツ戦法は有効ではないと付け加えた。

 ゾロたちが敗けるとは思わないけど、意味がなくなる可能性もある。

 

「そっか。それは考えてなかったわ」

 

「だったら、海賊旗でいいじゃねェか」

 

 ナミがハッとした顔をすると、ルフィが海賊旗にすれば良いと提案する。

 まぁそれでも良いと思うけど……。せっかく勝ったんだし……。

 

「でも、旗は1つだけだからねぇ。あと2回勝つ可能性もあるから――、そのときに困ると思うし……。司会の人、ちょっといいかい?」

 

 私は司会に話かけた。確認したいことがあったからだ。

 

『なんだい? レディキラー。うぉっと、銃は向けないでくれブラザー! 平和的にいこう!』

 

「その名で呼ぶのを今すぐ止めろ! 貰えるものってさ。例えば、物資や金品でも良いのかな?」

 

 レディキラーと呼んでくる司会に我慢できずに、銀色の銃(ミラージュクイーン)を向けながら私は司会に質問した。

 

『もちろんオッケーだ! 金庫の金! 食料品! その他諸々何でもありだぜ! 尚、現金の場合の上限はオヤビンの懸賞金2700万ベリーまでだ! そっちは麦わらの懸賞金の1億ベリーまで!』

 

「何か不平等な気もするけど良いだろう」

 

 人の価値を金で換算するって意味なんだろうけど、どうも釈然としないな……。

 しかし、こっちは黄金が奪われる可能性も出てきたか……。

 まぁ、向こうの口ぶりだとモノよりも人を選ぶだろうけど……。

 

「だったら、とりあえず食料品にしとく? お金は換金すれば困らないだけありそうだし」

 

「そりゃありがてェ。そろそろ、冷蔵庫の中身が心許なかったんだ。このバカが盗み食いしたせいでな。さすがはナミさんとライアちゃんだ」

 

 ナミが食料品を手に入れることを提案すると、サンジはニコリと笑って喜んだ。

 ルフィはサンジの鉄壁のガードを掻い潜るからなぁ……。

 

「まっ、あっちの船は大きいからウチの冷蔵庫いっぱいにしてもそんなに痛くないだろう」

 

 フォクシー海賊団と私たちは人数が10倍以上離れている。

 食料品は豊富にあることが予想されるので、我々が持って行ったところで全然ダメージはないだろう。

 それくらいが丁度いいと私は思う。変に恨まれても面倒だから。

 

「肉かァ! いいな、それも! んじゃあ、貰うものは肉で!」

 

「バカ野郎! 酒もだ!」

 

「お前ら二人とも大バカ野郎だ! 野菜も魚もバランス良くに決まってるだろうが! お前らはともかくレディの食事には気を遣うんだぞ!」

 

 サンジはルフィとゾロにツッコミを入れて、一味を代表して受け取る食料品を選別することとなった。

 てなわけで、1回戦の戦利品は食料品を受け取るということで落ち着いた。

 

 

 続く2回戦のグロッキーリングは、漫画ではチョッパー不在で挑んでも勝った試合だ。

 そんな相手に負けるはずもなく――。

 

 

『デービーバックファイト! 無敵のチームグロッキーモンスターズをくだし! ゲームを制したのはな〜〜んと! 麦わらチーム! 大勝利!!』

 

 ゾロたちは相次ぐ妨害行為を乗り越えて勝利を掴んだ。

 うーん。やっぱり強いなァゾロとサンジは……。で、チョッパーは可愛い。

 

『さァて、今度は勝利チームの船長! モンキー・D・ルフィは誰を選ぶのか!? さっきは食料だったが、見たところ腹も膨れている! くぅ〜〜! この選択の瞬間がゾクゾクするぜェ!』

 

 司会はテンションを上げて次こそ人が選ばれるのでは、と煽っていた。

 だが、私たちの頭にそんな選択はない。

 

「たったの2700万ベリーでもないよりはマシよね」

 

「ルフィ、とりあえず現金にしといてくれ。次の島あたりで美味いものでも買おう」

 

 ナミは金額にケチをつけていたが、2700万ベリーって結構な大金だと思うよ。

 アーロン倒しても届かない賞金だし……。

 

「金かァ。あんま興味ねェな。まっ、いいか」

 

 ルフィは少しつまらなそうな顔をしていたが、現金と交換する方向に納得してくれた。

 

 現金を受け取った私たちが迎えるのは3回戦だ。

 こちらサイドはルフィが出て、向こうはフォクシーが出ることとなる。

 

 

「ホイホイホイ! いいか、お前ら……。3回戦の“コンバット”。おれに勝つのは不可能だと言っておく」

 

「何をー! おれがお前に敗けるかァ!」

 

 フォクシーは不敵に笑い、ルフィを挑発したものだから、彼はムッとした顔で言い返した。

 

「フェッフェッ……! ケンカとゲームは違うんだぜ」

 

「面白い。だったら、こちらもゲームとして戦おう。ルフィ、私がセコンドについてもいいかい?」

 

 何かを企む顔をしていたフォクシーを見て、私はルフィのセコンドに立候補する。

 

「おう! いいぞ! セコンドって何か、わかんねェけど」

  

 ルフィは私がセコンドにつくことを了承した。よし、これがゲームでケンカではなく何でもアリというのなら、私からもエンターテイメントをプレゼントしようじゃないか。

 

 

 “コンバット”のバトルフィールドは、連中の怪しい大砲によって、フォクシー海賊団の船を中心とした直径100mの円の中に決まった。

 ルールは敵を円から外に出せば勝ちになるというシンプルなものである。

 多分、あの中にフォクシーが有利になる仕掛けが沢山あるのだろう。

 なぜなら、フィールド内の武器、兵器などの全ての物が利用可能だからだ。

 

『ライン設置完了! お待たせ致しましたァ! 本日のメ〜〜インイベントッ! “コンバット”! ま〜〜もなくゴングだよ〜〜ッ!』

 

『まずはレフトコーナー! 来るもの拒まず! “コンバット”無敗伝説920勝! 全てのゲームに勝つ男! 我らがオヤビン! “銀ギツネのフォクシー”!』

 

 レフトコーナーからフォクシーがガッツポーズしながら登場する。

 

『次にライトコーナー! 懸賞金1億ベリーの男! 通称“麦わら”! モンキー・D・ルフィ〜〜!』

 

 ライトコーナーからルフィが登場。後ろにはセコンドの私が控えている。

 

「こんなにカッコよくしてもらってありがとな! ライア!」

 

「メタリックカラーはパンチ力を増大させるからね。まるでロボットのような銀色の光沢は気に入ったかい?」

 

 私はルフィの全身に銀色のボディペイントを施した。

 さらに、シルバーのマントを装備させてみた。

 

「すっげェ気に入った! うおおおおッ!」

 

 ルフィは銀ピカになった自分の体が気に入ったらしくテンションを上げていた。

 “コンバット”はグローブを着用とのことだったので、ついでにグローブも銀色に塗装しておいた。

 

 仲間たちというと、チョッパー以外には概ね不評で私には何をしているんだという視線が集中する。

 いや、これには理由があるから……。

 

『デービーバックファイト! 運命の第3回戦! 始まるよ〜〜!!』

 

 

 そして、ついに“コンバット”が開始された――。

 

「いくぜ! ノロノロビームッ!」

 

「――ッ!?」

 

 フォクシーからルフィに向かってノロノロビームが発射され、ルフィは何が起こったのか分からずにキョトンとした顔をする。

 

「フェッフェッフェッ! 鈍くなったな! これは挨拶代わりだ! 九尾ラッシュ!」

 

 フォクシーはルフィに向かって連撃を加えようとする。

 

「ゴムゴムのォォォ! ガトリングッッ!!」

 

 だが、ルフィはいつもどおりのスピードでフォクシーに凄まじい威力の連打を加えた。

 

「――ブェップッッ! グハッ――!」

 

 九尾ラッシュは押し切られ、ルフィの連打は激しく彼の体に突き刺さり、フォクシーは大ダメージを受ける。

 

 そう、ルフィにボディペイントを施したのはノロノロビーム対策だ。

 光沢のあるシルバーのボディがノロノロビームを反射させて無効化したのだ。

 

「くっ、外れてしまっていたか!? フェッフェッ……、もう一度だ! 至近距離から、ノロノロビームッ!」

「ゴムゴムのォォォ! 銃弾(ブレット)ォォォ!」

 

 ルフィはノロノロビームを受けながらも突進してフォクシーをぶん殴った。

 

「ぐぎゃああああッッッ! ――バッバカな……!」

 

 フォクシーは床に叩きつけられて唖然とした表情でルフィを眺める。エネルの雷撃が通じなかった時みたいな表情だなぁ……。

 

『おおーっとこれはどういうことかァ! オヤビンの必殺! ノロノロビームが効いてないぞォ! オヤビン、口を大きく開けて愕然とした表情だァ!』

 

「くっ、クソッ! のっ、ノロノロ――」

 

「ルフィ! マントでビームを防げ!」

 

 フォクシーがノロノロビームを懲りずに放とうとしたので、私はルフィに指示を出す。

 

「マント? ――こうか?」

「ビーム!」

 

 ルフィはマントを翻して、ビームから身を守るような動作をすると、ノロノロビームは鏡のような光沢のあるマントによって反射され、フォクシーに向かって跳ね返っていった。

 

 よって、フォクシーの動きが30秒間スローモーションになる――。

 

「なんだ? 急にゆっくりな動きをして? まっ、いいか! ゴムゴムのォォォ! 回転弾(ライフル)ッッッ!」

 

「――ッ!?」

 

 ルフィは不思議そうな顔をしながらも容赦なくフォクシーの顔面にめがけて拳を叩き込む。

 

「ん? ぶっ飛ばねェな……」

 

「「…………」」

 

 しかし、ノロノロビームが効いている間はフォクシーはスローモーションの動きになるので、その場に踏みとどまる。

 まぁ、それもあと5秒くらいだけど――。

 

「――ンぎゃあああああああッ!!!」

 

 そして、ノロノロビームの効果が切れ、フォクシーは場外まで吹き飛ばされて海の中に落ちてしまった。

 ノロノロビームに固執したおかげで思ったよりあっさりと倒したな。

 

『オヤビンの無敗伝説、ここに敗れる! ゲームを制したのはなんとォ! 麦わらのルフィ! そして、デービーバックファイトはこれにて全試合が終了〜〜!』

 

 司会の実況によって、ルフィたちの戦いと、デービーバックファイトの終わりが告げられる。

 結局、私たちはフォクシー海賊団に全勝した。

 

 

「ちっ、どうやっておれのノロノロビームを破りやがった?」

 

「だから何だよ? ノロノロビームって」

 

 体のペイントを洗い落として着替えたルフィはフォクシーの質問にそう答えた。

 ルフィはノロノロビームのことを知らない。彼がビームを使うところを見ていないから……。

 

「ルフィは何も知らないよ。君がノロノロの実の能力者だってこと。光線は鏡で反射される。だったら、銀色のボディにすればあるいは無効化できるかもって考えたのさ」

 

「てめェの仕業か! あのとき何にも見てないフリして観察してやがったな! 完敗だ! いい試合だったぜ! ブラザーたち!」 

 

 私がフォクシーに種明かしをする。フォクシーは感心したような口調で頷き、私に向かって手を差し出した。

 

「フォクシー……」

 

 私はフォクシーの手を掴む。

 

「――でやッ! 苦し紛れ! 一本背負い!」

 

「私の腕を迂闊に掴まないことだ! ハッ!」

 

「ブハッ――」

 

 フォクシーは私を投げようとしたが、逆に合気道の技で投げ飛ばしてやる。

 まったく油断もスキもないやつだ。

 

「ライア様! カッコいい! やっぱり私を連れて行ってほしいわぁ」

 

「ちょっと、くっつかないでくれるかい?」

「いやん。そういうクールなところが素敵!」

 

 ポルチェはどこまで本気か分からないが、最後まで船に乗りたそうな顔をしていた。

 

「キャハハ、いくら鈍いあんたでもそろそろ自覚出来たんじゃない?」

「ライアがそんな簡単な奴ならあなたはここには居ないわよ」

 

 ミキータとナミはそんな私を見て何やら話していた。何を自覚すれば良いのか本当にわからない……。

 

『最後の取り引きだァ! 今回の指名権も勝利チームの船長“麦わら”ッ! 食料、現金ときて、何を望む!』

 

「海賊旗をくれ!」

 

 そして、司会に最後の取り引きを持ちかけられたルフィは海賊旗と即答する。

 

「まさか、迷わずにおれたちの誇りを選ぶとは!」

 

 というわけで、ルフィはフォクシー海賊団からシンボルを奪った。

 まぁ、帆まで取っちゃうと航海が出来ないと彼は慈悲をかけたから、ルフィがシンボルマークを上書きして返したけど……。

 

 さて、とりあえず竹馬の男に声でもかけて、この島からおさらば――。ん? なんだこれは……。

 

「みんなッ! 早く逃げるぞ! 船に乗るんだ!」

 

 私は凄まじい気配を察知して、みんなに逃げるように伝えた――。

 このプレッシャーは間違いなく()()()()()だ……。

 

 そうだった。この島にはあの男が来るんだった――。完全に忘れてた……。

 

「キャハッ! どうしたの? そんなに慌てて」

 

「おいおい、逃げろって穏やかじゃねェな……」

 

 ミキータとゾロが私の言葉に反応するも、状況が掴めてないみたいだ。

 

「とにかく、やばいヤツが近くまで来てるんだ――。早くしないと! 下手すれば全滅――」

 

「――あららら、見聞色が使えるのか。こりゃ驚いた」

 

 私のセリフが言い終わる前に、現れたのはその大きな力の持ち主――。

 

「誰だ? おめェ?」

 

「――ッ!? はぁ、はぁ……」

 

 ルフィが突然現れた背の高い男に声をかけた瞬間にロビンは憔悴しきった顔をして尻もちをついた。

 

「ロビン?」

「どうした? ロビンちゃん」

 

 その様子を見て、ナミとサンジが心配そうな顔をして彼女を見る。

 

「よう、いい女になったな。ニコ・ロビン」

 

 現れたのは海軍本部大将“青キジ”――海軍の最高戦力と言われている男のうちの1人だ――。

 彼がその気になったら、間違いなく私たちは全滅する。

 

 私はいずれ対峙する予定の最高戦力を初めて目の当たりにして腰が抜けそうになってしまっていた――。

 この男は間違いなく、化物の中の化物だ――。

 こんなのが3人も居るところに飛び込もうとするなんて――命がいくつあっても足りないじゃないか……。

 

 

 




銀色に塗ったらノロノロビームが防げるかなんて分からないですが、この作品ではそういうことにしておきます。
青キジが登場して、頂上戦争をこれまで以上に意識するようになったライアです。
次回は青キジと対峙する一味とそれからって感じになりそうですね。


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青キジとニコ・ロビン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ライアの記憶なんですが、割りと作者が読み返して忘れてた箇所を基準にしていたりします。
いやぁ、記憶って怖いですね。結構重要なことを忘れていてびっくりします……。
それでは、よろしくお願いします!


「たまには、労働も良いもんだ」

 

「ほんとだ、いい気持ちだ! お前、なかなか話せるなァ!」

 

 突如として現れた海軍本部大将の青キジ。

 彼はロビンが我々の一味に加わったことを確認しに来たと言った。

 

 彼とやり取りをする中で様子を見に来た竹馬の男に青キジは移住の準備をするように話す。

 なんと、彼は竹馬の男を助けてやると言ったのだ。

 

 そして、私たちも移住の準備を手伝い、海岸にやってきた。

 

 

「――で? どうすんだ? このままおめェが馬や家を引いて泳ぐのか?」

 

「んなわけあるか。少し離れてろ――」

 

 ルフィの質問を否定して青キジは海に少しだけ手で触れる。

 

「――ギャオオオオ!」

 

 そこに巨大な海獣が現れて青キジを襲おうとした。

 

「いかんっ! この辺りの海の主だっ!」

 

「危ねェぞ!」

 

 竹馬の男とルフィは青キジに声をかけるが、彼は微動だにしない。そして――。

 

「――“氷河時代(アイスエイジ)”」

 

 一瞬の出来事だった。青キジが力を入れると、目の前の海が辺り一面氷漬けになったのだ。

 こういう芸当が出来ることは知っていたが、実際に目の当たりにすると戦慄する。

 能力を極めるというのはこういうことなのか……。スケールが違う……。

 

 その上、覇気も当然使えるのだろうから、弱点が見当たらない……。

 

「「海が凍ったッ――!!」」

 

自然(ロギア)系、“ヒエヒエの実”の氷結人間――! これが“海軍本部”大将の実力よ……!」

 

 驚く私たちに向かってロビンが焦った表情をしながら、青キジの能力を話した。

 この力を知っていたら彼を恐れるのも当然だ。

 

 だって、私たちなんて彼にかかれば簡単に全滅させることが出来るから――。

 

 

「ありがとなー! この恩はずっと忘れねェよー!」

 

「気をつけて行けよ〜!」

 

 竹馬の男に別れを告げた私たちは、猛烈に海岸が寒いということに気付きここから離れた。

 

 

「うーん。何というか、じいさんそっくりだな。モンキー・D・ルフィ……。奔放というか、掴み所がねェというか……」

 

「じいちゃん!?」

 

 じいさんという言葉を青キジが投げかけると、ルフィの顔が青ざめた。

 彼の祖父、モンキー・D・ガープは海軍の英雄。

 漫画での知識だけでもとんでもない人物だということは知っていたが、実際に伝説の海兵として超有名人だった。

 

 まぁ、ルフィにはかなり強めの愛のムチを与えており恐怖心を植え付けてるみたいだが……。

 

「キャハッ! どうしたの? 珍しく汗だくじゃない」

 

「べっ、別に……。いや、その……」

 

 動揺を隠せないルフィを興味深そうにミキータは見つめていた。

 

「お前のじいさんにゃ、おれも昔、()()()なってね。おれがここに来たのはニコ・ロビンと……、お前をひと目見るためだ――」

 

「ふーん。見るためねぇ……。じゃあ、その殺気はどうにかしてくれないかな?」

 

 青キジから感じる気配が微妙に変わったことを察知した私は彼に声をかけた。

 

「――おっと、敏感だな。お前さん。まぁいいや。――やっぱ、お前ら……。今、死んどくか?」

 

 青キジはまるで「部屋の掃除でもしようか」みたいなノリで私たちの死刑を宣告しようとする。

 

「政府は軽視しているが、細かく素性を辿れば骨のある一味だ。少数とはいえ、これだけ曲者が顔を揃えると――後々面倒になるだろう……。初頭の手配に至る経緯、やってきた所業の数々、その成長速度――長く無法者を相手にしてきたが、末恐ろしく思う……」

 

 さすがは大将というべきか、よく見ている。麦わらの一味が将来的に政府にとって厄介な者になるというのは間違いない。

 この人が今、始末しようと考えるのは海軍としては正解なんだろうな。

 

「特に危険視される原因は、お前だよ、ニコ・ロビン。懸賞額は強さだけを表すものじゃない……。政府に及ぼす“危険度”を示す数値でもあるから、お前は8歳という幼さで賞金首になった。取り入っては利用し、裏切っては逃げ、そのシリの軽さで裏社会を生きてきたお前が、次に選んだ隠れ家がこの一味というわけか」

 

 青キジはロビンが逃げ隠れるために私たちの仲間になったと言ってきた。

 言い方が腹立つな……。まるでロビンが私たちを利用しようとしてるみたいじゃないか。

 

「おい、てめェ! さっきから、カンに障る言い方しやがって! ロビンちゃんに何の恨みがあるんだ!」 

 

 サンジも頭に来たみたいで青キジに食ってかかる。

 

「お前たちにもそのうちわかる。厄介な女を抱えこんだと後悔する日も遠くはねェさ。その証拠に今日までニコ・ロビンが関わった組織は全て壊滅している、その女一人を除いて――だ……。何故かねぇ? ニコ・ロビン……」

 

 しかし、青キジは口を止めない。ロビンはどの組織も使い捨てにしてきたと言ってくる。

 

「やめろ! お前! 昔は関係ねェ!」

 

「何が言いたいの!? 私を捕まえたければそうすればいい!“三十輪咲き(トレインタフルール)” ! ――クラッチ!」

 

 ルフィは怒り、それ以上にロビンが怒った。青キジの体に手を大量に生やして、彼の体をへし折り粉々にする。

 

「ロビン! 君らしくないな。自然(ロギア)系の能力者にこんなことしても無駄なのがわからないはずないだろ?」

 

「そっちのお嬢さんの言うとおりだ。もう少し利口な女だと買いかぶっていた」

 

 粉々に砕け散った青キジは元通り再生して、私の言葉に続いてロビンに声をかけた。

 

「“アイスサーベル”……。命を取るつもりは無かったが……」

 

 そして、青キジは草を掴み息を吹きかけて氷のサーベルを作り、ロビンを斬りつけにかかる。

 

「……やらせねぇぞ!」

 

「“切肉(スライス)――シュート”!」

 

 しかし、青キジの攻撃はロビンに届かなかった。

 ゾロが刀でサーベルを止め、サンジがそれを蹴飛ばしたからだ。

 

「ゴムゴムのォォォ! 銃弾(ブレット)ッ!」

 

 さらにルフィが青キジの腹を激しく殴りつける。

 

「冷たッ!」

「ぐわっ!」

「うわっ!」

 

 だが、ゾロとサンジはそれぞれ腕と足を掴まれてそこから凍結し、ルフィは殴りつけた腕がみるみる凍り付いていた。

 

「シャレにならないわね……、あの男……」

「あの、3人がいっぺんに……」

「たっ、大変だ! 早く手当しないと凍傷で手足が腐るかもしれないぞ!」

 

 ナミとミキータは青キジの強さに驚き、チョッパーは凍りついたルフィたちの体の心配をした。

 

「――いい仲間に出会ったな。しかしお前はお前だ、ニコ・ロビン」

 

「違う――私はもう……! あっ……! そっ狙撃手さん!?」

 

 青キジは倒れた3人を尻目に、ロビンの全身を凍らせようと動く。

 私はロビンを突き飛ばして、青キジとロビンの間に割って入った。

 

「――ほう、まるで()()()()()()()()()()身のこなしじゃないか……。そして面白い道具を使うようだな」

 

「まいったね。炎貝(フレイムダイアル)くらいじゃ、君の冷気に対抗出来ないらしい」

 

 私は炎貝(フレイムダイアル)を青キジの腹に押し当てて火炎を放射したが、ダイアルごと凍らされてしまう。

 

「そこをどけ。その女を守ったところで損するだけだぞ」

 

「あははっ……、損するとか、得するとかじゃないよ。私はただ自分の大切な人を守りたいだけさ」

 

 ペキペキと音を立てて私の体はどんどん凍りつく。

 くっ、今の私じゃまったく相手にならないみたいだ……。

 

「――ッ!? バカなことはやめて! このままじゃあなたが!」

 

「すまないロビン……、どうやら私じゃ時間稼ぎにも――」

 

 私はロビンの方に顔を向けて、青ざめた顔をしている彼女に謝罪しようとしたが、その途中で意識が途切れてしまった――。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「――あー、死ぬかと思った」

 

「バカ! 死ぬかと思ったじゃないわよ!」

 

 船の中のベッドの上で目を覚ました私がひと言もらすと、ナミが凄い形相で怒ってきた。

 

「ははっ、ごめんね。心配かけちゃってさ。みんな無事だったかい?」

 

「キャハッ! 船長があんたと同じように氷漬けにされたけど、あんたよりも早く回復したから、全員無事よ。信じられないけどね……」

 

 私が仲間の無事を確認するとミキータが状況を説明する。

 おそらく、ルフィが漫画と同じように一騎討ちをしたのだろう――。

 

「そっか。良かった……」

 

「狙撃手さん……」

 

 私がホッと胸を撫で下ろすと、ロビンが私に声をかけてきた。

 

「やぁ。すまない君にも心配を――」

「もう、こんなことをしないで。約束して」

 

 私のセリフが言い終わらない内にロビンは私の手を握り、自分を庇わないでくれと言葉を投げかける。

 

「――約束かァ。それは無理だよ、ロビン……。君がまた同じような状況になったら、私は何度だって同じことをする。性分なんだ。これは変えられない」

 

 仲間がピンチなのに動かないなんてことは、私には出来ない。

 我ながら面倒な性格だとは思っている。

 

「でも、私は――」

 

「君が自分の価値をどう決めているか知らないけど、この船に乗ったんだったら諦めた方がいい。()()()()()()ってことを、ね」

 

 私は彼女の目をまっすぐに見て、真剣に話をした。

 大体、私だけじゃなくって他のみんなも同じだろう。船長(ルフィ)を中心に……。

 

 

 それから、4日間ほど静養して私たちは出航した。

 ログを頼りに船を走らせ、さらに3日経ってから、私たちはついにウォーターセブンに辿り着く。

 

 途中で、海列車“パッフィング・トム”と遭遇して、シフト駅にて駅長のココロと彼女の孫のチムニーと出会い、ウォーターセブンについて話を聞いた。

 

 ウォーターセブンは“水の都”と呼ばれて、世界一の造船技術を誇る都市だという情報を聞いたルフィは、そこで必ず“船大工”を仲間にすると決めた。

 ココロは親切な人でウォーターセブンの簡易的な地図と市長であるアイスバーグへの紹介状をくれた。まぁ、アイスバーグが市長だってことは教えてもらえなかったけど……。

 あと、政府の人間に気を付けろとも言われた……。

 

 世界政府か……。青キジのことはうっかりしてたけど、この次に遭遇する敵のことは覚えている。

 世界政府の諜報機関の工作員であるCP9――連中に対抗するために、私は新たなアイテムを静養しながらも開発していた――。

 

 それにしてもウォーターセブンかぁ……。

 私はここに至るまで、なるべくメリー号に負担のないように努力してきた。

 しかし、目に見えて大きいダメージはなかったものの、至るところにガタがきている事には気付いている。

 

 果たして、今のこの船の状態は思ってるよりも良いのか、悪いのか、それが気になるところだった――。

 

 そして、ロビンはあれから普段どおりの感じになっていたが、私はなぜか彼女に避けられるようになってしまっていた――。

 どうやら、出しゃばったせいで、嫌われてしまったみたいだな……。

 

 

 ウォーターセブンは海賊でも客はウェルカムらしく、町の人に案内されて都心部から少しだけ離れた岬に停める。

 

 とりあえず、ルフィとナミとミキータと私の4人でまずは黄金の換金と船の修理の依頼に行くことにした。

 

 

「私が言いたいことは3つよ。1つ……、言い忘れてたけど、こいつは1億ベリー、その隣は5600万ベリーの賞金首。2つ……、今の鑑定結果に私は納得していない。3つ……、次に嘘をついたらあなたの首をもらう……」

 

 黄金の換金で査定してもらった金額が気に食わなかったらしいナミは、ドスの利いた声で鑑定士を脅す。

 

 そして、気になる査定結果は――。

 

「「ごっ、5億ベリー!?」」

 

 今までに見たこともない圧倒的な札束の山を目の当たりにして、私たちの興奮はマックスに達する。

 

「キャハハッ! 信じらんないわァ」

 

「大金持ちね。私っ!!」

 

「おいおい、私たち……、だろ?」

 

 そして、1億ベリーが入ったカバンを5つ持って、私たちは造船所に向かった。

 

 

「とにかく、アイスバーグさんという人を探しましょ」

 

 造船所の前でナミは私たちにそう声をかけた。

 しかし、造船所は広く、人が多いのでなかなか見つかりそうにない。

 

「ライアなら、わかるんじゃねェの? おれのこと、すぐ見つけるじゃん」

 

「いや、さすがに会ったことのない人は無理さ」

 

 ルフィの言葉に私は首を横に振る。彼は私の力を勘違いしてるのかな?

 

「キャハッ、あの中って入っちゃってもいいのかしら?」

 

「いいんじゃねェの? おじゃましまーす!」

 

 ミキータの言葉を聞いてルフィは躊躇いなくドックの中に入っていこうとした。

 

「おっと、待つんじゃ、余所者じゃな」

 

「ん?」

 

 しかし、男が現れてルフィを止める。彼は――。

 

「工場内は関係者以外、立入禁止じゃぞ。あ〜〜! どっこいしょ。このドックに用か?」

 

 独特の口調の鼻の長い男が、ルフィに話かけた。彼はカクだな……。ガレーラに潜入しているCP9の1人。

 なるほど、上手く隠してるけど相当な実力者だ……。

 

「お前、すげぇ長い鼻だな〜〜! こんな鼻が長いやつ初めて見たぞ」

 

「ルフィ、失礼だよ。初対面の人に」

 

 ルフィの言葉を私が咎める。

 私がウソップだったら、違うリアクションなんだろうなー。

 

「あの、アイスバーグさんという人に会わせて欲しいの。あなたは、知ってる?」

 

「知っとるも何も、アイスバーグさんはこの都市の市長じゃ。うーむ。あの人も忙しい身じゃから――要するにお前さんたちの話は船の修理じゃろう?」

 

 カクはそう言って、船の場所を聞くと「10分で船の修理査定をしてくる」と言って、とんでもないスピードで空に舞い上がるように飛び上がって消えていった。

 

 身体能力はやはり、超人と言ってもいいレベルだな……。

 

「キャハハッ! すんごいスピードで消えてったけど、落ちたりしてないのかしら?」

 

「ンマー心配するな。奴はこの町を自由に走る……。人は彼を“山風”と呼ぶ」

 

 ミキータの言葉に対して声をかけてきたのは秘書を引き連れた男――。

 なんと、私たちが探していたアイスバーグ、その人だった。

 

 ここから、私たちはウォーターセブンで起こるある事件に巻き込まれることになる……。

 

 しかし、その前に――メリー号だ。ゴーイング・メリー号はカヤにプレゼントしてもらった私の宝である。

 漫画でのメリー号の最期は確かに感動的だったのかもしれない。

 だけど……、私は認めたくない。メリー号がなくなってしまう未来なんて――。

 

 




さて、ウォーターセブン編の最初のポイントである船の査定結果が近づいて来ました。
ライアのここからどう動くのか、是非ともご覧になってください。


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わがまま

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
メリー号がどうなるかという様々なご意見を拝見させていただきました。
ライアの決断が受け入れられるか不安ですが、今回のエピソードは今後にも関わってきますので、ぜひご覧になってください!


「ンマー! ウチの職人たちをナメてもらっちゃ困る。迅速に、より早く頑丈な船を作り上げるためには、並の身体能力じゃ間に合わねェ」

 

 アイスバーグ曰く、ガレーラカンパニーの船大工は身体能力が豊かな人間が多いとのことだ。

 

「――ところで、おいカリファ」

 

「ええ、調査済みです。“麦わらのルフィ”、“海賊狩りのゾロ”、“レディキラー・ライア”、“ニコ・ロビン”、“運び屋ミキータ”――5人の賞金首を有し、総合賞金額(トータルバウンティ)3億250万ベリー、結成は“東の海(イーストブルー)”、現在8人組の“麦わらの一味”です」

 

 アイスバーグが秘書のカリファに声をかけると、彼女は次々に私たちの情報を彼に伝えた。

 この人もカクと同じくCP9か。カクほどの実力は感じないけど、六式が使えるというのは厄介だ。油断してはならない。

 

「すごいな。かなり詳細まで調べられてる」

 

 私は素直に調査能力に驚いた。ここに来て間もないのに、ロビンやミキータのことまで調べてるなんて……。

 

「そうか、よく来た。おれはこの町のボス! アイスバーグ。そして、このネズミはさっき拾った。名前は――そうだな。“ティラノサウルス”……。エサとカゴを用意せねば」

 

「手配済みです。アイスバーグさん」

 

「ンマー、さすがだな。カリファ」

 

「恐れ入ります」

 

 アイスバーグは自己紹介をして、さっき拾ったネズミの世話をするための道具をカリファに相談していた。

 こうしてみるとCP9は実にこの町に馴染んでいる。恐ろしい連中だ。

 

 彼は忙しい身のはずなのだが、「イヤだ」のひと言で予定をすべてキャンセルした。彼曰くこれくらいのことが出来るくらいの権利者らしい。

 

「なァ、()()があのバーさんが言っていたアレじゃねェ?」

 

「ええ、そうね。そのアレよ」

 

 ルフィたちがコレやアレを言った瞬間にカリファから殺気を感じ取る。

 もっとも本気のものではないが……。とりあえず、私がどのくらい動きについていけるか、参考にならないだろうが試してみよう。

 

「この無礼者! ――えっ!?」

 

 カリファが蹴りを繰り出そうとする瞬間に、私は彼女の膝を手で制して、それを止める。

 うーん。全然本気じゃないから、実力はわからなかったな。

 

「おっと、仲間たちがすまないね。君たちの市長を馬鹿にしようとか、そういった意図はなかったんだよ」

 

 私はとりあえず、ルフィとナミの非礼を彼女に詫びた。

 

「――ッ!? そっ、そうですか……。でも、気を付けてください……」 

 

 私の顔を見たカリファは少しだけ頬を紅潮させて、足を引っ込める。

 この人ってこんなしおらしい感じだったっけ? まぁ、漫画と印象が違うってよくあるからなぁ。

 

「うん。よく言っておくよ。許してくれて、ありがとう」

 

「いっ、いえ。お気になさらずに……」

 

 カリファは私から目を逸らしてアイスバーグの後ろまで下がっていった。

 

「ンマー、こりゃ驚いた。怒ると見境のないカリファがこうもあっさり……」

 

 その様子をアイスバーグは物珍しそうに見て感想を述べる。

 

「キャハハ! こいつの特技みたいなものよ。いつものことだから」

 

 ミキータはアイスバーグに私の特技がどうたら言ってるけど、どういう意味なんだ?

 

「はぁ、毎度、毎度……。あっ、そうだ。とにかく、あなたがアイスバーグさんね。紹介状をあなたに――」

 

 そして、ナミは思い出したようにココロの書いてくれた紹介状をアイスバーグに渡した。

 

 それを見たアイスバーグは紹介状を破いたが、理由はキスマークが不快だっただけで、船を修理すること自体は了承してくれ、工場を案内すると言ってくれた。

 やはり、この人はいい人だ……。

 

 そして――。

 

「それは私たちのお金だよ、触らないでくれ――」

 

「ガフッ……zzzz」

「ゲフッ……zzzz」

 

 私は1億ベリーの入ったカバンに触ろうとした男たちを睡眠弾で撃って眠らせた。

 

「キャハッ、そんなにコレが欲しいのぉ? 好きになさい」

 

「ぐわっ! 潰される!」

「化物だ! 逃げろっ!」

 

 そして、ミキータが両手に持ってるカバンを引き剥がそうとした男たちは、体重を1万キロに増やした彼女にカバンごと潰されそうになり――荒くれ者たちは乗ってきた船に戻り逃げ出した。

 彼らはフランキーの子分か……。確か、漫画では奪った金を使って宝樹アダムを買ったんだよな。

 金を回してやる必要はあるかもしれないな。

 

「フランキーは甘く見るな」

 

 アイスバーグは我々にそう忠告する。まぁ、半分サイボーグだし、腕っぷしもさっきの連中とは比較にならないんだろう。

 

 1番ドックに入った私たちはパウリーとロブ・ルッチを紹介された。

 ロブ・ルッチはカク以上に無駄のない体つきと高い戦闘力を秘めているように感じた。

 やはり、思っていたとおり恐ろしい男みたいだ……。

 

 

 そして、しばらく見学したあと、船の査定を終えたカクが戻ってきた。

 

 

「目に見えない損傷がかなりあったが、まァ普通に航海するくらいには直せるじゃろう。それにしても――かなり無茶な航海をしてきたみたいじゃな」

 

「そっかァ!よかった。なァ、ライア!」

 

 カクの言葉にルフィは笑いながら私の背中をバシバシ叩く。

 ふぅ、とりあえずよかった。だけど――。

 

「あっああ……、そうだね。あのさ、気になったんだけど、《普通に航海》って、どの程度なんだい?」

 

「キャハッ、確かに空に行って落ちるなんて普通じゃないもん。」

 

 私の言葉にミキータが頷く。そう、ここから先の海で普通の航海などできるのだろうか。

 

「難しいことを聞くのぉ。はっきり言おう。この先も偉大なる航路(グランドライン)での航海を続けるのなら、この船を直すよりも新しい船を購入することを勧めるぞ。この船はわしらが直しても新品同様の状態に戻すことは出来ん。船の寿命を少しだけ伸ばすので精一杯じゃ」

 

 カクははっきりと別の船の購入を勧めてきた。

 彼はCP9だけど、仕事は真面目にやってくれてるのだろうから、この意見は正しいのだろう。

 

「それでどれくらい航海出来るものなんだい?」

 

「急ぎで直しても、偉大なる航路(グランドライン)の中間地点と言われるシャボンティ諸島辺りまで行けるじゃろう。じゃが、その先……、“新世界”と呼ばれる後半の海――そこから先の航海には間違いなく耐えられん。下手すれば沈没もあり得る。そもそも、この船自体が偉大なる航路(グランドライン)の航海に向いとらんのじゃ」

 

 カクは新世界と呼ばれる海の航海はメリー号では間違いなく無理だと断言する。

 薄々そのことには気付いていた。メリー号が傷つく度に私はその事実を突きつけられて胸が痛かった。

 

「そっか。そんときゃ、そん時で考えりゃいい。とりあえず、この船を直し――」

「ルフィ、ちょっと待ってくれ! 一度メリー号に戻って話し合おう。大事な話がしたいんだ!」

 

 私は大声でルフィの言葉を遮った。このとき、私は決心する。仲間たちにわがままを言うことを――。

 

「ライア? どうしたの? 急に大声を出して。あなたが一番メリー号を直したいと思っているんじゃないの?」

 

 ナミは修理を止める私の言葉を聞いて不思議そうな顔をした。

 そりゃあそうだ。私がメリー号を猫可愛がりしてることはみんな知っているんだもん。

 

 とにかく、アイスバーグには修理は保留にしてもらって予算の見積もりだけ先にしてもらうことにした。

 

 そして、私たちはメリー号に戻った。

 

 

 メリー号には買い出しに行ったサンジと、ロビンと一緒に出かけたが途中ではぐれたと言って戻ってきたチョッパー、そして船番をしていたゾロが居た。

 

「ロビンがまだ戻ってない、か……。彼女には後で話すとして、単刀直入に私の意見を言おう。私はメリー号を降り、新しい船を購入して先に進むべきだと思う……」

 

「「はァ!?」」

 

 メリー号を降りるという私の意見にみんなは信じられないという顔をする。

 私だってこんなことは言いたくない。でも、私が言わなくちゃならない。

 他の人からこの意見を聞きたくはなかったから。

 

「ちょっと待ってくれライアちゃん。メリー号は君の宝なんだろ? それなのに君が乗り換えるって言うのは――」

 

「宝だからだよ。サンジ……。仮に修理したとしてもゴーイング・メリー号はこの先の航海でそう遠くない未来に壊れる。それが私には耐えられそうにないんだ――」

 

 サンジの台詞に私は答える。

 メリー号でこの先を航海したら、絶対にそう遠くない将来――限界がくる。

 壊れて再起不能になるメリー号は見たくないというのが本音だ。

 しかも、そのとき都合よく新しい船が手に入る状況にあるとも限らないのだ。

 

「あの大工が色々言ったから? メリー号じゃ、後半の海は航海出来ないとか……」

 

「うん。薄々、私も思ってたんだ。メリー号の限界を……。船を守ってきて、ここまで致命傷を避けてきてはいたが、いつまでもそれが続かないってことを……」

 

 ナミの言うとおり、プロの意見を聞いて私は決心を固めた。

 今までなるべく考えないようにしていたメリー号の限界を確信したことも大きかった。

 

「この船が死んじゃうのが怖くなったのね。確かに、そりゃ、あんたは耐えられそうにないわ」

 

 ミキータはいつもよりも神妙そうな顔をして頷く。

 

「船長、どうなんだ? ライアはこう言ってるが」

 

「おれは船大工じゃねェから、メリー号が壊れちまうかどうかわからねェ。けど、一番メリー号を大事にしてるライアがダメだって言うんだ。だったら、新しい船を探すしかねェだろ?」

 

 ルフィからはいつもの陽気さが消えて、俯きながら、静かに声を出した。

 私の言ったことを理解してくれた上で、自分の感情を殺しているように見えて……、切なかった。

 彼のことだから、怒って反対すると思ったんだけど――。

 

「ルフィ……、君もこの子のことが好きなのは知ってる。じゃないと、そんな顔はしないだろ?」

 

 私は怒鳴られるよりも辛かった。彼がメリー号を愛して、心から仲間だと思って航海していることを知っていたから。

 ルフィからは涙は見えなかったが、心の中で泣いているのは、歯を食いしばる彼の表情から感じ取ることはできた。

 

「――ッ!?」

 

「船長としちゃあ正しい判断だ。船はおれたち全員の生命に関わる。意地張って無理させて、全滅なんてこともあるだろうからな。むしろ、ライアから船の買い替えを言い出したことに驚いたぜ」

 

 ルフィの船長としての決断をゾロは評価する。

 彼は知っている。船に何かあったら、私たちがいくら強かろうと関係ない。

 一味の全滅という事態を回避するには、メリー号に無理はさせないことが最善だということを。

 

「なァ、メリー号はどうなるんだ?」

 

「普通は焼却処分したりするわね」

 

「もっ、燃やすのか?」

 

 チョッパーの言葉にミキータが答えると、彼は青ざめた顔をした。

 確かに燃やして処分したり、解体屋に部品として引き取ってもらったりするけど――。

 

「ごめん。チョッパー。もう少しだけ話に付き合ってほしい……。ここからは完全に私の我儘なんだけど……」

 

 私にはもう一つ話があった。これは本当に自分勝手な意見だから受け入れられないと思うが……。

 

「我儘? あなたが我儘なんて言うの? 珍しいわね」

 

「キャハッ、何なのよ。言ってみなさい……」

 

 ナミとミキータは興味深そうに私を見ていた。

 うう、言いづらいな……。

 

「お金を貸してほしい! ちゃんと、返済はする。借用書も書くから……」

 

 私は仲間たちに借金の申し入れをした。

 私のやりたい事にはお金がかかるのだ。

 

「――金を貸せって、変なことを言うな。ライアちゃんが1番金を持ってるじゃねェか」

 

「違うでしょ、サンジくん。この子が言いたいのは、こっちの5億ベリーのことよ。船を買ったあとに、私たちがこれを分配するから――。それを自分のために使わせてくれって言ってるの」

 

 サンジの言葉を聞いたナミは私の意図することを察して訂正した。

 そう、私が使いたいのはみんなに分配するはずのお金の一部だ。

 

「大金が要るってこと? キャハッ、何に一体使うのよ?」

 

「メリー号を修理したい!」

 

 ミキータの問いに私は率直に答える。

 メリー号の修繕こそ私の我儘だ。

 

「「えっ!?」」

 

 予想したとおり、みんなは訳がわからないというような顔になった。

 そりゃ、そうだよね。さっき船を買い変える話をしたんだから。

 

「おい! さっき、お前が船を乗り換えるって言ったんだぞ! メリー号を直してどうすんだよ!」

 

 ゾロは怪訝そうな顔をして大きな声を出す。

 

「まさか、あなたもメリー号と一緒に――」

 

「はァ!? それはダメだぞ! お前はおれたちの狙撃手なんだから。それはおれが許さねェ!」

 

 ナミが何やら勘違いをして、ルフィがそれを止めようとする。

 多分、私がメリー号と一緒に一味を抜けると思ったんだろうな。

 

「大丈夫だよ。私は君の仲間を辞めたりしないさ。ただ、メリー号を直して、きちんと信頼できる人に保管してもらって――いつか引き取りに来るつもりなんだ。私の故郷の……、シロップ村にメリー号を里帰りさせるために」

 

 私は自分の意図を話した。カヤが私にプレゼントしてくれたメリー号。

 私はどれだけ時間がかかってもこの子も生まれ故郷まで帰してやりたい。

 それがこの子に出来る恩返しだと思ったから――。

 

 もちろん、ここからシロップ村に戻るのも難しい航海だとは思うが、とりあえずアラバスタ王国までの永久指針(エターナルポース)は持っているし、あの国には双子岬までの永久指針(エターナルポース)が普通に売っていた。

 おそらく、ここに来るよりは随分と楽なはずだ。

 航海術もナミには全く及ばないがそれなりには心得がある。

 

「そっか。東の海(イーストブルー)の故郷にこのメリー号と帰りたいのね」

 

「うん。じゃないとカヤに“ただいま”って言えないと思ってさ。だけど、これは私の我儘だから、一味の金から出すわけには――」

 

 ナミの言葉に私は答える。だけど、メリー号と共に故郷に戻りたいなんて言うのは私の我儘だ。

 だから――。

 

 

 

「持ってけよ。好きなだけ――船長命令だ! 誰にも文句は言わせねェ!」

 

 ルフィは札束の入ったカバンを次々と目の前に置いて、勇ましい顔をして大声を出した。

 有無を言わせないような気迫がビリビリと私に伝わる。

 

「ルフィ……、君は――」

 

 私はルフィの顔を見る。彼はどこまでも澄んだ力強い黒い瞳で私をまっすぐに見つめていた。

 

「おれたちを見くびるな! 世話になったメリー号(なかま)に恩返ししてェのは、みんな同じだ!」

 

 ルフィはメリー号に恩返ししたいと宣言した。

 

「ここまで、おれたちを無事に運んでくれたんだ。そいつァ金には代えられないだろ?」

 

 ゾロもニヤリと笑い、ルフィに同意する。

 

「そうよ。ここまで私たちを運んでくれたんだもん。出来るだけキレイにしてもらって里帰りして貰いましょう」

 

 ナミは私の肩を叩いて可愛らしく笑顔を作った。

 

「くぅ〜〜っ! ライアちゃん、健気だなァ! おれァ、また惚れ直しちまった!」

 

 サンジは拳を握りしめて大げさなことを言う。

 

「メリー号と別れるのは辛いけど。おれも元気でいて欲しいぞ」

 

 チョッパーは私の膝の上に乗って、医者らしくメリー号を気遣ってくれた。

 

「キャハハッ! あんたらしいわね。お金なんて、また稼げばいいわ。それよか、あんたのやりたいことの方が大事なんだから」

 

 ミキータはいつも通り陽気に笑って私のやりたいことを尊重する。

 

「――みんな……、あっ、ありがとう……。ぐすっ……。だい……すきだ……」

 

 気付いたときには頬を涙が通過していた。仲間たちの温かい言葉に私は涙を堪えることが出来なかったのだ。

 

 本当に私はいい仲間に恵まれた――。

 

「へへっ、ライアちゃんに告白されちまったな」

 

「言ってろ、アホコック」

 

 そんな私を見て上機嫌そうな仲間たち――。彼らには返しきれない恩が出来てしまった――。

 

「じゃあ、探すか! 新しい船を!」

 

「うん! 私もちょっと心当たりがあるからあたってみるよ」

 

 ルフィの言葉に私は頷く。そして、決心をする。

 何が何でも最高の船を手に入れようと――。

 

 そのために私はフランキーに会うことにした――。

 




ルフィとライアの喧嘩とかも最初は考えたんですけど、この作品のこの二人ってどう考えてもそんな雰囲気にはなりそうに無いんですよね。
ということで、ライアがアラバスタ王国やシロップ村などをメリー号で再び訪れる里帰り編をやります。
まぁ、タイミングはあそこしかないのでバレバレだと思いますが……。
ビビはそこで再登場します。このあたりは完全にオリジナルエピソードでやるつもりなので、ご期待ください!


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フランキー登場

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
メリー号の処遇は物語を開始して、何度も練り直して考えた話だったので、概ね好印象で安心しました。
今後のオリジナルエピソードにも絡んで来るので、そこで失敗しないように頑張ります。
それでは、よろしくお願いします!


「どっ、どうなってやがる! おいっ! てめェ! おれのかわいい子分たちに何しやがった!」

 

 私が今いる場所はフランキー一家のアジトであるフランキーハウスで、彼の到着を待っていた。

 彼の子分たちはとりあえず睡眠弾で全員に眠ってもらった。

 いや、何十人もいたから全滅させるのは意外と大変だったよ。

 

 フランキーは子分の女を二人連れて、ちょうどアジトに戻ってきて、この有様を見て絶叫していた。

 

「やァ、フランキー。趣味のいいところに住んでるじゃないか。しーっ、静かに――、ほら、君の子分たちが起きちゃうだろ」

 

 私が人差し指を唇に当てて彼にそう声をかける。

 

「おっ、おう。そいつはすまねェ……。そ~っと、そ~っと……。――ってふざけんじゃねェ! お前! 麦わらの一味の“ライア”だなッ! 5600万ベリーの賞金首! おれになんの用だと言っている!」

 

 すると、彼は上手なノリツッコミを見せたあとに私の名前を呼んだ。

 ああ、手配されるとさすがに顔を覚えられるなァ。

 

「2億ベリーを君にあげようと思って来たんだ」

 

 彼の質問に私は目的を答える。“宝樹アダム”は裏ルートで入手するみたいだからな。

 彼に早めに確保しておいてほしいところだ。

 

「――ッ!? ふざけんな。なんで見ず知らずのてめェがおれに金を渡そうとする」

 

 フランキーは当然の反応をする。そりゃあ、迷惑メールみたいな言葉をいきなり信じたりしないよね。

 

「なぜ? ああ、占いだよ。占い。君にお金渡して船を作ってもらえればハッピーになれるって出たんだ。君はアレが欲しいんだろ? “宝樹アダム”だっけ? 私はその木で作った船が欲しい」

 

 私は“占い”という言葉でぼやかしながら、具体的な言葉を出して興味を惹こうとする。

 

「こいつ、なんでそんなことまで知ってるんだわいな」

 

「絶対に怪しい奴だわいな」

 

 フランキーの後ろに立っている女たちは怪訝そうな顔で私を見ていた。

 

「――待て! “宝樹アダム”をおれが手に入れようとしてることを知ってるのはどうでもいい! なぜ、おれに船を造れと言う! おれは解体屋だってことくらいは知ってるんだろ!?」

 

 そして、フランキーは自分が欲しいモノを知っていることより、解体屋である自分に造船を依頼することを妙だと思ったみたいだ。

 

「占いでは君に造らせることが、最善だと出たからだ。“宝樹アダム”は海賊王のゴールド・ロジャーの船の製造に使われた材木みたいだね。君がそれを手に入れようとしているのは、船が造りたいからじゃないのかい?」

 

「ロジャーの船……。くっ……」

 

 フランキーの師匠は確かロジャーの船を造って処刑された男だ。

 そして、海列車を造って沢山の人に希望を与えた男でもある。

 

 彼も私の話を聞いて思うところがあるみたいだ。

 

「下心は本当にないんだ。私たちの船は君じゃないと作れない。偉大なる航路(グランドライン)を制覇するための船をどうか作ってほしい。頼む! 2億で足りないならもっとお金を融通してもいいから!」

 

「ほう、随分と切羽詰まってるみたいじゃねェか。子分たちもほとんど無傷みてェだし――。仕方ねェ。話くらい聞いてやろう」

 

 フランキーはスヤスヤと眠っている子分たちの無事を確認してその場にあぐらをかいて座り込んだ。

 

 私はそんな彼に包み隠さず話をした。カヤからもらったメリー号と仲間たちの冒険の話と、船の査定の結果の話。

 仲間たちと冒険を続けたいこと、メリー号を故郷に帰したいこと――。

 フランキーは黙って腕を組んで話を聞いてくれた――。

 

 そして、私の話が終わった――。

 

「ぐすっ……、ぐすん……、いい話だなァ! 聴いてください! “海賊仁義”――」

 

「「アニキー!」」

 

 フランキーは涙ぐんでギター片手に歌いだそうとし、子分の二人はそれにノリノリになる。

 確かに彼はロビンとは合わない感じだなぁ。面白い人だけど……。

 

「えっと、フランキー?」

 

「兄ちゃん! 気に入ったぜ! 遠い故郷の可愛い幼馴染からもらった船を大事にしてェって気持ち! おれァそういうの大好きだ! 確かにおれは最後に一度だけ恩人のように最強の船を作ることが夢だった! この機会を逃せば次に“宝樹アダム”が手に入るのがいつになるか分かんねェ! 聞いてやろう。お前さんの願いを!」

 

 フランキーはサングラスを外してニヤリと笑い、サムズアップのポーズを取ってあっさりと船造りを了承した。

 思った以上に早くオッケーを出してくれたな……。

 

「本当かい!? ありがとう! フランキー! 恩に着るよ! あと、私は女だよ。よく間違われるけど……」

 

 私はフランキーに礼を言って、ついでに性別を伝えた。まぁ、男と間違われるのは仕方ない。よくあることだと飲み込もう。

 

「――女? いや、東の海(イーストブルー)に残してきた幼馴染ってどう考えても、お前のコレだろ?」

 

 フランキーは私の全身を下から上まで観察して、カヤは私の恋人なんだろうと、小指を立てる。

 いや、そうなんだけど……。ええーっと、どう説明しようか……。

 

「アニキ、そういう愛もあるんだわいな」

「何を隠そう私たちも――」

 

 すると彼の子分の女二人が手を繋いでフランキーに私とカヤの関係を説明しようとする。

 へぇ、彼女たちも……。

 

「何っ!? お前たちいつの間にそんな関係に!?」

 

「「冗談だわいな」」

 

 フランキーは二人の子分の様子を見て驚いた顔をしていたが、間髪を入れずに二人はそれを冗談だと嘯く。

 

「うおーいっ! ス〜パ〜! 一本取られたぜ!」

 

 フランキーは両腕を頭の上で合わせるポーズを取って楽しそうに叫んでいた。

 

「君たちずっとそんなノリなのかい?」

 

 私はそんなフランキーたちのノリを見て、ちょっとだけ疲れてしまっていた。

 なるほど、彼はこんな感じの人かぁ。

 

「よしっ! 姉ちゃん! 契約は成立だ! まずは“宝樹アダム”を手に入れてくる」

 

「そうか。じゃ、これが2億ベリーだから。持って行ってくれ」

 

 フランキーが差し出した手を私は握り、そして彼らに1億ベリーが入ったカバンを2つ渡した。

 

「はァ!? お前、そんな大金持ち歩いておれのアジトにやって来たのか!? なんつー肝の据わった女だ――」

 

「命知らずだわいな……」

 

 私が大金を持ってフランキーのアジトに単独で乗り込んだことに彼らは少なからず驚いたようだ。

 フランキーと戦闘になったら少し危なかったかもしれないけど、出来るだけ急ぎたかったからこれは仕方ない。

 

「おめェみてェなのを従えてる船長(キャプテン)ってのはさぞかし面白い野郎なんだろうな。なるほど、1億の賞金首“麦わら”かァ……。――子分たちには伝えておく。修理をガレーラに任せるにしろ、しばらくそのメリー号とやらも面倒見てやらァ。倉庫の中ならアクア・ラグナが来ても、まず安心だ」

 

「何から何まですまない。修理や造船に必要な費用は言い値で払う」

 

 フランキーはメリー号の保管について心配をしてくれて、すべて自分が面倒を見ると言ってくれた。

 アクア・ラグナか……。そういえば、大津波が来るんだっけ……。

 これは、彼らにそれなりに色をつけて報酬を渡さなきゃいけないな……。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「なァ、ライアちゃん。ロビンちゃんの居場所は分かったかい?」

 

 翌日――宿を取った私たちはその屋上でみんなにメリー号を預けたというところまで報告をした。

 その後、未だに姿を見せないロビンの話になり、私は彼女の気配を探った。

 今は一人みたいだな……。大きな気配は感じない……。

 

「うん。一応、大まかな場所と方向は」

 

「そっか。いや、昨日戻らねェから心配してたんだ。メリー号も今朝預けちまったから、どうしようかと思ったが、ライアちゃんが居場所を探せるなら安心だ」

 

 サンジは私がロビンの居所を感知できることに安心したような顔を見せた。

 うーん。しかし、昨夜はやはりCP9と行動を共にしてたみたいだな。 

 アイスバーグも襲われたみたいだし……。こうなると、私たちも容疑者になるのは間違いないだろう。

 

「そうだね。しかしロビンなら、大丈夫だと思うが変なことに巻き込まれてないか心配だ」

 

「変なこと? まっ、まさか、男たちにロビンちゃんが……」

 

「いやいや、あり得ないだろうそれは……」

 

 私はあり得ない想像をするサンジにツッコミを入れる。

 ロビンが巻き込まれていることは、世界政府が絡んでいる。彼女をそこから解放するには政府に喧嘩を売らなきゃならない。

 

 望むところだ……。誰とだって喧嘩してやるさ……。

 

「ライア! 新しい船ってどんなのになりそうなんだ!?」

 

「そうだな。コンセプトは“最強の船”だ。海賊王、ゴールド・ロジャーの船“オーロ・ジャクソン号”に使われた材木と同じ材木“宝樹アダム”を使って造ってもらうことになった」

 

 ルフィが新しい船について私に質問をしてきたので、それに答える。

 漫画ではサニー号とフランキーの加入は航海をかなり盤石なものにしていた。頑丈だし、壊れてもフランキーがキチンと直すからだ。

 

 それだけに偉大なる航路(グランドライン)の後半では絶対に必要なのだ。

 

「海賊王の船と同じ!? すっげェ!」

 

 ルフィはロジャーの船と同じ材木というところに目を丸くして興奮した。

 

「海賊王の船ってすげェのか!?」

 

「当たり前だろ! 世界一に決まってる!」

  

 チョッパーはルフィの言葉に対して質問をして彼はそれに答える。

 そんな中、焦った表情のナミが私たちの元に駆け込んできた。

 

「――ルフィ! みんな! 大変なの!」

 

「キャハッ、ナミちゃん。どうしたのよ? 随分慌てて」

 

 ナミの顔を見てミキータが質問をする。

 

「造船所のアイスバーグさんが、昨日の夜に自宅で撃たれたみたいなの。町中がこの話で持ちきりで……」

 

「アイスのおっさんが……」

 

 ナミはアイスバーグが撃たれたというニュースを知ったみたいだ。

 町中大騒ぎか。当たり前だな……。

 

「ナミさん。誰だい? そりゃ」

 

「造船会社の社長でこの町の市長でもあるわ。昨日、お世話になったのよ」

 

「この町のシンボルでもある人だから――それは一大事だね」

 

 サンジの質問にナミが答えて、私が同調する。

 アイスバーグはこの町の顔だ。彼を撃った疑いが私たちにかけられれば、町中が私たちを目の敵にするだろう。

 

「ちょっと、行ってくる!」

 

「待って、ルフィ。私も行くから」

 

 ルフィとナミはアイスバーグの様子を見に行ってしまった。

 

「ライアちゃん。やっぱりロビンちゃんが心配だ。探しに行こう」

 

「わかった。気配のする方向を案内するよ」

 

 サンジはそのやり取りを見て、私にロビンを探しに行こうと声をかけた。

 そうだな。一度、彼女と話をしよう。嫌われていて、避けられるようになってしまったが……。

 

「おれも行くぞ」

 

 そして、チョッパーも一緒に探しに行くこととなった。

 

「ゾロとミキータはどうする?」

 

「おれはもう少し成り行きを見ている」

 

「元副社長か……。そうね……、様子を見に行ってみようかしら」

 

 どうすると質問した私に対して、ゾロは残ると答えて、ミキータは付いてくると答えた。

 

 こうして、私たち4人はロビンの元へと向かった。

 

 

 向かっている途中でアイスバーグが目を覚まして、ロビンが襲撃者の中に居たという噂が流た。

 手配書の流れている私は顔が割れているので、ゴーグルを着けて顔を隠してロビンの元に向かうこととなった。ミキータにも予備のゴーグルを貸して顔を隠させる。

 

「アクア・ラグナがもう来るか……」

 

 さらにアクア・ラグナの警報が一帯に流れて、町には緊迫した空気が流れた。

 

「ライアちゃん。アクア・ラグナってのはなんだい?」

 

「年に一度、ここを襲っている大津波らしい。私がメリー号を預けるのを急いだのは、これが起こると聞いたからなんだ」

 

 私はサンジにアクア・ラグナの説明をする。定期的にそんな災害の出る町がこのように発展しているのは奇跡だと思う。

 

「キャハッ……、それで辺りから人が居なくなったのね……」

 

 ミキータはキョロキョロと周囲を観察しながらそう言った。

 

「そりゃあ、まずいな。――ロビンちゃんの元へはまだかかりそうか?」

 

「いや、もうそこにいる――」

 

 そう言って曲がり角を曲がると、小川を挟んでロビンが立っていた。

 

「――あなたから身を隠すことは至難みたいね。狙撃手さん……。厄介な力を持っているわ……」

 

 ロビンは私たちを確認すると、そんな声をかけてきた。

 確かに鬼ごっこやかくれんぼには強い能力だと思う。

 

「ロビンちゃん!」

 

「ロビン〜〜っ! 戻ってこないからみんな心配していたんだぞ!」

 

 サンジとチョッパーはロビンを確認して声をかけた。

 

「とにかく、一緒に帰ろう! 新しい船の話とか色々あってよ。これから説明する」

 

「その必要はないわ。――私はもう、あなたたちの元に戻らない。ここでお別れよ」

 

 サンジの言葉を拒否するようにロビンは首を横に振った。

 それは覚悟を決めたというような表情にも見えた。

 

「何を言い出すんだよ! あァ、あの新聞記事のことか。あんなのおれたちァ誰も信じねェ。事件の濡れ衣なんざ、海賊にゃよくある話だ」

 

 サンジはロビンが襲撃事件のことを気にしていると思い、彼女を安心させようと声をかける。

 

「――そうね、あなた達には謂れのない罪を被せて悪かったわ。だけど、私にとっては偽りのない記事よ。昨夜市長の屋敷に侵入したのは私」

 

 しかし、ロビンはアイスバーグの屋敷に侵入したことを自ら認めるようなことを言った。

 

「「えっ?」」

 

 当然、みんなは驚いたような声を出す。

 

「私には、貴方達の知らない“闇”がある。“闇”はいつかあなた達を滅ぼすわ」

 

 ロビンは自分には“闇”があると吐露した。そして、それが私たちを滅ぼすとも。

 だとしても私は――。

 

「現に――私はこの事件の罪をあなた達に被せて逃げるつもりで――」

「関係ないよ。そんなこと。罪くらい幾らでも被る。だけど君を逃がすつもりはない」

 

 私は別れを告げようとするロビンに睡眠弾を撃ち出そうと銃を構える。

 

「ライア! 銃を――!」

「――最初に会ったときにも言ったでしょ。そんな物騒なモノを私に向けないで」

 

 ミキータの驚愕した声と同時にロビンの手がいくつも私の体から生えてきて、両腕を拘束し、銃を手放させる。

 

「――ぐっ……。ははっ、やっと私と口を利いてくれた」

 

「何を言ってるの?」

 

 避けられ続けていた私が腕を拘束されながらも笑っているとロビンは怪訝な顔をした。

 

「ロビン。どんな“闇”を持ってたっていい。君にあと必要なのは差し伸べられた手を掴む勇気だけさ」

 

 私は出来るならここで彼女に戻ってきて欲しかった。

 私たちを守るためにCP9の言いなりになっていることは分かっていたけど……、離れていくのが堪らなく嫌だったのだ。

 

「――ッ!? もう、私に構わないで! ストラングルッ!」

 

 しかし、私の言葉は虚しいもので、彼女を救うには能わなかった――。

 ロビンは私の首を締め上げて、私はゆっくりと意識を失っていく――。

 

 

 

 目を覚ましたとき、目の前にはチョッパーとミキータしか居なかった。

 

「元副社長は見失ったわ。そして、サンジくんは別行動。無茶はしないって言ってたわ」

 

「ライアの目が覚めたら、ルフィたちと合流して、さっきのことを話せって――」

 

 ミキータとチョッパーは口々にサンジの動向とこれからすることを話した。

 確かにルフィも今ごろロビンのことを知ったのかもしれない。

 一度、話し合う必要はあるだろう。

 

「わかった。ルフィたちの気配を探ろう――」

 

 私たちはルフィたちと合流するために動き出した。

 ロビンを渦巻く“闇”と私たちの戦いが始まろうとしていた――。




フランキーがちょっと物分り良すぎるかもしれませんが、最初に争ってない上に、基本的に気の良い男なので……。
そして、いよいよCP9との戦いも迫ってきました。
ライアの新アイテムとかも登場しますのでその辺も注目してみてください!



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突入!ガレーラカンパニー本社

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
整合性をつけたり、説得力をつけたりというのが中々苦手みたいで、違和感がある部分もあると思いますが、上手くなるように頑張りますのでよろしくお願いします!


「本当にそう言ったのか!? ロビンがそんなこと!」

 

 ルフィと合流した私たちはロビンとのことの顛末を話した。

 ルフィとナミはアイスバーグの元に向かっている途中でガレーラカンパニーの船大工たちに暗殺犯扱いされて拘束されそうになったそうだ。

 そのピンチはフランキーによって助けられる。彼は風来砲(クー・ド・ヴァン)で辺り一面を吹き飛ばし、そのドサクサに紛れてルフィたちは逃げ出せた。

 

 その後、ルフィはアイスバーグと直接会うことが出来て、彼から襲撃犯の中にロビンが居たことを聞いたのだそうだ。

 

 そして、ゾロと合流して隠れているところを私たちが見つけたというのが、ここまでの経緯だ。

 

「落ち着きな。ルフィ……。言われたのは本当だが、それがロビンの本音かどうかわからない」

 

 興奮気味のルフィに対して私は冷静になるように諭す。

 

「にしてもだ、そろそろ()()()()をつけるべきだろう。あの女が敵か味方か……! かりにも“敵”として現れたロビンをこの船に乗せた。――それを急に怖くなったから逃げ出したんじゃ締まらねェ」

 

 ゾロはブンと鞘に入ったままの刀を一振りして、白黒はっきりつけようと言う。

 

「キャハッ……、私も似たようなもんだからあまり強く言うつもりはないけど、その話に決着をつけるんだったら行く場所は1つよ」

 

 ミキータは自虐的に笑って、ロビンが現れる場所に目星があるようなこと言った。

 そりゃあ、彼女が次に現れる場所は決まってるもんな。

 

「アイスバーグさんのいるガレーラカンパニーの本社だな。ロビンのセリフから推測すると、彼の暗殺はもう一度実行されるはずだ。今度はもっと、徹底的に」   

 

 そう。CP9は今夜ロビンと共にアイスバーグ暗殺に乗り出す。

 プルトンの設計図を狙って――。

 

「それは、おれたちをおびき寄せる罠とも取れる。おれたちが現場に居たら“罪”は完全になすりつけられる」

 

 ゾロはロビンが敵だった場合を想定して意見を出している。

 居ても居なくても、もう擦り付けられたようなものだけどね……。

 

「ちょっと、それじゃロビンが敵だって言ってるように聞こえるわ」

 

「可能性の話だ。おれはどっちにも揺れちゃいねェ」

 

 ナミはゾロを非難するが、彼はあくまでイーブンの立場だと主張した。

 

「決めつけて動くと違ったときに動揺しちゃうってことね。ゾロくんらしい、硬派な意見だわ」

 

 ミキータの言うとおり、彼は中立的に物事を見極める為に客観的に物事を見ているだけなのだ。

 

「で、ルフィ。現場には行くんだろ?」

 

「当たり前だ」

 

 ルフィの意思を確認すると彼は当然という表情で頷く。

 まぁ、性格的に引き下がるなんてあり得ないだろう。

 

「行くのは構わないけど、問題があるわ。サンジくんやアイスバーグさんが目撃した“仮面を被った誰か”って、それは私たちの中の誰でもない。きっとロビンが急変したのはそいつが原因よ」

 

 ナミはこの話の核心をつく。そう、まさにロビンはその仮面の連中に脅されている。

 

「そいつに悪いことさせられてるんじゃないのか? ロビンは!」

 

「その考え方が“吉”」

 

 チョッパーの意見に対してゾロは淡々とした口調で声をかける。

 

「元副社長がそいつと本当に仲間だった場合は“凶”ってこと? 嫌な2択ね……」

 

 そして、ミキータがゾロの言葉に続けて顔をしかめる。

 彼女の言うとおり気分のいい2択ではない。

 

「かと言って仮面の誰かじゃ手がかりにもならない。私たちの目的は何?」

 

「――ロビンを捕まえるんだ! じゃないとなんもわかんねェよ」

 

 ナミの問いにルフィはハッキリと答える。まぁ、ここでロビンを確保出来れば楽だけど……。

 相手は六式使い……。私どころか、ルフィやゾロも最初はあしらわれた。

 

「だが、世界政府があの女を20年捕まえようとしても、未だに無理なんだっけ?」

 

「でも……、真相を知るにはそれしかない」

 

 ゾロの言葉にナミが続ける。2人ともそれが並大抵ではないことは理解しているみたいだ。

 

「だから捕まえようとしたんだけど、返り討ちにされちゃったんだよね……」

 

 実際、さっきCP9が近くにおらず、単独行動していたロビンに失神させられたのは痛かった。

 私は大チャンスを逃したのだ。

 

「あんたが加減したから、負けちゃうのよ」

 

「おれも頑張るから、ライアも元気だせ!」

 

 落胆してる私をミキータとチョッパーが慰めてくれる。

 2人とも優しい……。そうだな。悩んでも仕方ない。

 何とか六式に対抗して助けるしかないんだ。

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

 ルフィの声に私たちは全員が頷いてアイスバーグの元へと向かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「アイスバーグさんのところには、秘書のカリファって人がいて……。そして、その近くにはガレーラカンパニーの船大工たちが4人……。その他ガレーラカンパニーの面々が何十人も厳戒態勢を敷いている」

 

「キャハハ、こういうときはあんたの力は本当に便利よね〜」

 

 私がガレーラカンパニー本社内の人員の配置を簡単に話すとミキータは感心したような声を出した。

 

 私たちはガレーラカンパニーの本社から少し離れた場所の木の上から様子を眺めている。

 

「これなら侵入者が現れたら直ぐに気付けそうだな」

 

「いや、そうでもないんだ」

 

 私はゾロの言葉を否定する。1つは暗殺犯というのがルッチたちで既に侵入済みということだけど、これは言えない。

 私が話すのはもう一つだ。

 

「どういうことだ?」

 

「アイスバーグさんが最初に襲われたとき――部屋は密室だったらしい。つまり犯人はドアも窓も開けずに部屋に侵入したということになる。そんな芸当が出来るのは……」

 

 ドアドアの実の能力者――確かブルーノとか言ったっけ? エアドアっていう技が反則級だったと記憶してる。

 多分、そんなに遠くから使えないだろうから、接近には気付けると思うけど。

 

「悪魔の実の能力者ってこと?」

 

 ナミは私の言いたいことを察してくれた。

 

「うん。可能性は高い。だから、事前に侵入に気付けないって可能性はある。もちろん、ロビンの気配が近くに来たら直ぐに気付くから大丈夫だとは思うけど……」

 

 私は一応、能力者にも気を付けて欲しいと思ったので、この話を振ったのだ。

 どっちみち、先手は打たれているので、後手になることは確定している。

 私たちに出来るのは対処を出来るだけ迅速にすることだけだ。

 

「しかし、そんな能力者が居るんだったら、侵入を防ぐのはまず無理だな」

 

「でも、入口の前にも護衛が居るんでしょ? アイスバーグさんだって大声で助けくらい呼ぶんじゃない?」

 

 ゾロの言葉にナミは真っ当な反論をする。

 助けを求めても何とかなる相手じゃないんだよな。

 それに――。

 

「キャハハ、私だったら最初に陽動を仕掛けるわね。ドカーンと、気を逸してからこっそりと侵入するのよ」

 

 ミキータの言うとおり、連中はまずは見張りの数を減らそうとするだろう。

 

「へぇ、ミキータは頭がいいなァ。よし、頑張って見張るぞ」

「仮にコイツが言ったとおりの展開になるんだったら、爆発なんかは完全に無視した方がいいな。騒ぎが大きくなった頃にはもう――」

 

 チョッパーが双眼鏡を覗き、ゾロがミキータの言葉に返事をしようとしたその時――爆発音が私たちに届く。

 

 そして、仮面を着けた人がワザと目立った動きで走ってる様子が見えた。

 ガレーラカンパニーの人間の目を引きつけることが目的なのだろう。

 

「と、言ってる側から爆発か。そして、あそこで仮面を着けて走っているのは――カリファだ……」

 

「カリファって、アイスバーグさんの秘書じゃない」

 

 私はカリファが犯人グループの1人だということをみんなに教えた。

 

「なるほど、犯人は身内もいたってことか」

 

「ロビンたちの気配も近くに来てる。って、ルフィ――!」

 

 そして、私はロビンともう一人の気配を察知した。

 だけど、ルフィの姿が見えない。さっき、あれだけガレーラカンパニーへの侵入方法を話し合ったのに、先に行ってしまった――。

 

「あら、いつの間に居なくなったのかしら――」

 

 ミキータはルフィが居なくなったことにさして驚きもせずにいた。

 もう、彼女は諦めたのだろう。

 

「とにかく私たちも行こう。この騒ぎに乗じれば侵入も容易だろう。あと、ミキータ。君に頼みたいことが――」

 

「何よ。また、変な作戦?」

 

「まァ、念のためさ――」

 

 私は今後のことを考えて、最悪の事態が訪れたときの為の作戦をミキータに伝えた。

 これで、生存率はかなり上がるだろう……。

 

 

「ルフィは喜ぶと思ったんだけどなァ。仕方ない、私たちだけで窓から侵入しよう。このダイアルとキロキロの実の力を利用した“折りたたみ式の気球”で」

 

 私は風貝(ブレスダイアル)炎貝(フレイムダイアル)を利用して作った簡易的な気球をカバンから取り出して膨らませた。

 

 さらにミキータの力で重量を1キロにすれば私たち4人が乗ってもかなりの距離を飛んで移動できるだろう。

 

「なんか、あんたの方が私の力を上手く使ってて複雑なんだけど……」

 

 そんな私の新アイテムを見てミキータは複雑な顔をする。

 確かにキロキロの実の力は便利だから色々と利用法を考えたりはしてるけど……。

 

「くだらねェこと気にすんな。お前の力にゃ、みんな感謝してる」

 

「ミキータの“運ぶ力”がすげェって、知ってるぞ」

 

 ゾロとチョッパーはそんなミキータを慰めるような言葉をかけた。

 

「ゾロくん、チョッパーちゃん……。キャハッ、そうね。どうでもいいこと考えちゃってたわ」

 

 ミキータは声をかけられてニコリと笑って気球に触って能力を使った。

 

「うわぁ! これが空を飛ぶのね! これなら誰にも気付かれずにロビンのところに行けるわ」

 

 そして、ナミは気球に少し興奮しながら乗り込む。

 私たちも気球に乗って、ガレーラカンパニーの本社のアイスバーグの寝室を目指した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「――“プルトン”の設計図はフランキーの元にある。あなたの波打つ血が――! ――ッ!?」

 

「やァ、ロビン。あと、ガレーラカンパニーの皆さん。お久しぶり」

 

 ルッチが、フランキーが“プルトン”の設計図を持っていると確認したところで、私たちはアイスバーグの寝室に窓から飛び込んだ。

 

「もう! この気球、ビックリするくらい遅いじゃない! ロビンが帰っちゃってたらどうするの!? ちょっと待って、何よこの状況!」

 

 ナミの言うとおり、“気球”はとんでもなく遅かった。ルフィなら我慢できなくなるくらい……。

 しかし、ミキータには屋根の上でいつでも気球を出せるように待機してもらった。

 こんなのでも空中を動ける移動手段だし……。

 

 そして、ナミはカリファだけでなく他の船大工たちもアイスバーグの暗殺を企てようとしているのを見て驚いていた。

 

「ほう、あの四角っ鼻……、なるほど、こいつら全員が暗殺犯だったってことか」

 

「ロビ〜〜ン! 迎えに来たぞォ!」

 

 ゾロは状況を見てすべてを察して、チョッパーはロビンに声をかける。

 

「――ちっ、邪魔を!」

 

 ルッチが苦々しい表情で私たちを睨んできた。

 

「ゾロ、まずはロビンの確保だ。チョッパーとナミはアイスバーグさんの怪我が重傷だからスキを見て救出して手当てを頼む――」

 

 私はゾロたちに指示を出して、CP9たちに意識を集中する。

 なるほど、特にルッチとカクから感じられる戦闘力は桁違いだな……。

 

「スキだと? おれたちをナメるんじゃねェ。んなもん見せるか……。――指銃(シガン)ッ!」

 

 そんな中、私の言ったことが気に障ったのか、ブルーノが前に出て私に一撃を加えようとした。

 

「――ッ!? 指一本でこれ程の衝撃とは恐れ入る……!」

 

 私は見聞色の覇気を集中させて、ブルーノの指銃(シガン)衝撃貝(インパクトダイアル)で吸収する。

 

「――バカなッ! おれの指銃(シガン)がっ!? くっ、嵐脚(ランキャク)ッ!」

 

 ブルーノは驚愕しながらも、さらに追撃を加えようとしてきた。

 

「次は斬撃だね。――斬撃貝(アックスダイアル)ッ!」

 

「――う、あっ……」

 

 私はさらにブルーノの嵐脚(ランキャク)斬撃貝(アックスダイアル)で吸収する。

 

「何をやってる!? ブルーノ!」

 

「どうやら、ダイアルの真骨頂は“放つ力”よりも“吸収する力”らしい……」

 

 見聞色の覇気で相手の攻撃を読んで、それをダイアルで吸収する。

 これが私の考えた六式対策の1つだ。ブルーノ相手には通じたが……、しかし……。

 

 私はルッチの凍てついた視線を感じて、猛烈に嫌な予感がした――。

 




今回は(ダイアル)を防御に利用してみた感じです。
原作でもウソップがルフィに対して使った手段ですし、見聞色の優れているライアならブルーノの六式なら何とかできるかと思ってこんな展開にしてみました。
あと、書いてて思ったのはやっぱりミキータの能力は便利すぎるってことですね。


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CP9の実力

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
まだまだ稚拙な文章で読みにくいところも多いかもしれませんが、読みやすく楽しめる作品になるように頑張ります。
それではよろしくお願いします!


「――どうやら、その妙な道具でブルーノの指銃(シガン)嵐脚(ランキャク)を防いだみたいだな……。仕組みはわからんが……」

 

 ルッチは冷静に私の動作を観察しており、ダイアルによって攻撃を防いだことを一目で見抜く。 

 さすがはこの4人の中でズバ抜けた戦闘力を持つ男だ。

 

「肉体を極限まで鍛えた者が使えるという、六式……。実際に使う人を見るのは初めてだけど……。アイスバーグさんも、大変な連中に狙われたもんだ」

 

 私はブルーノの体術を体感してその威力の高さと精度に内心ヒヤリとしていた。

 

「ほう、六式を知っているとは博識じゃないか。ブルーノの技を受けきることが出来るだけでも大したものだと褒めてやろう。だが――! (ソル)ッ――! 指銃(シガン)――!」

 

 ルッチは目の前から消えたかと思うと、一瞬で間合いを詰めて、私の腹を簡単に貫く。

 くそっ、読めていても捌き切れなかった――。

 

「――ッ!? グハッ……!」

 

 かろうじて急所は外れたがダメージが大きくて、私はそのまま床に倒れてしまった。

 

「洞察力は非凡だが、対応できない速さの攻撃には脆い。その身体能力の低さは致命的だ」

 

 ルッチは倒れた私の頭を踏みつけながら、感情の無い無機質な声をかけてきた。

 

「ライア! くそっ! てめェッ!」

 

「人のこと気にしとる場合か。殺しに刃物などいらん」

 

 ゾロが私に気を取られた瞬間、今度はカクが彼に指銃(シガン)による連撃を加える。

 

「――ッ!? ぐっ……!」

 

 ゾロも不意討ちを受けて、あえなく倒れてしまった。

 

「ゾロ!」

 

「……この二人が簡単にやられるなんて」

 

 チョッパーとナミの顔が青ざめてしまう。もう少し何とかなると思ったんだけど……。

 ダイアルで受けるよりも、避ける方を優先すべきだった……。

 

「さて、妙なマネをされる前に殺しておくか」

 

「――確かに、私は君には敵わなかった……、でも……、時間は稼げたぞ……」

 

 ルッチは拳に力を込めて腕を振りあげた。しかし、私は()()()()がこちらに近づいて来ることに気が付いていた。

 

「貴様、何を言って――?」

 

「うおおおおおっ! ロビンはどこだァ!」

 

 ルッチがハッとした表情をしたとき、ルフィが壁を蹴破ってこの部屋に入ってきた。

 

「「ルフィ!」」

 

「ゾロ! ライア! お前らがどうして!?」

 

 ルフィは血を流して倒れている私たちを見て驚いた顔をする。

 これで全員揃ったか……。しかし、ルフィでもルッチの相手は――。

 

「ハァ……、ハァ……、アイスバーグさん! こりゃ、一体どうなってるんですか!?」

 

「パウリー! てめェ、なぜ逃げねェ!?」

 

 さらに怪我を負ったパウリーも部屋に入ってきて思いもよらない展開に目を疑う。

 そりゃあ、尊敬する人が同僚や知り合いに殺されかけている現場に入ってきたらそんな顔になる。

 

「おい! カリファ! ブルーノ! カク! ルッチ! 何でそんな格好をしてやがる!? それじゃまるでお前らが……!?」

 

「パウリー、実はおれたちは政府の諜報部員だ。突然で信じられねェなら、アイスバーグの顔でも――踏んでやろうか?」

 

 パウリーは怒りと悲しみが同居したような形相で怒鳴ると、ルッチは淡々と事実を告げた。

 それは彼にとっては受け入れられないくらいショックな事実だろう。

 

「ふざけんな! もう十分だ! ちくしょう! てめェ! ちゃんと喋れるんじゃねェか! “パイプ・ヒッチ・ナイブズ”ッ!」

 

「――指銃(シガン)

 

 ルッチはパウリーのナイフとロープを利用した技を簡単に避けて、彼の肩を指銃(シガン)で貫いた。

 

「秘密を知ったからには生かす理由はない」

 

「やめろ! お前ェ! ゴムゴムのォォォォ! ガトリングッ!」

 

 そして、パウリーにトドメを刺そうとするルッチに向かってルフィは連打を浴びせるが――。

 

「――鉄塊(テッカイ)!」

 

「全然、効かねェ!」

 

 鉄塊(テッカイ)を使用したルッチには全く攻撃が通じず、ルフィは焦りの表情を浮かべた。

 

「うっとうしい……。(ソル)……! 指銃(シガン)!」

 

 そして、ルッチはルフィに目にも留まらぬ攻撃を加える。

 

「ぐへぇッ!」

 

 やはりルッチは強く、ルフィをも簡単にあしらってしまった。

 ルフィの攻撃がまるで通用しないなんて……。

 

 パウリーを助けたルフィに対して、ルッチは疑問を呈するが、彼はルッチたちが裏切者だということを確かめて、アイスバーグの暗殺者たちを倒すことをパウリーと約束したと答える。

 

 そして――。

 

「ロビン! 何で、こんな奴らと一緒に居るんだ!? 出て行きたきゃ理由をちゃんと言え!」

 

 ルフィはロビンに出て行きたい理由を話すように大声で促した。

 

「私の願いを叶えるためよ! あなたたちと居たら決して叶わない願いを! ――それを成し遂げる為ならば! どんな犠牲も厭わない!」

 

 ロビンは固い意志を私たちに見せる。彼女は恐怖している。私たちを失うことを――。

 だから、世界政府に屈して話を聞いているのだ。

 私は悔しかった。弱くてロビンの信頼を勝ち取れないことが……。

 知っていても防げない無力さが……。

 

「気は確かか!? ニコ・ロビン! お前、自分が何を――!? ぶはっ――」

 

「黙ってなさい! 誰にも邪魔はさせない! それに、あなたに何か言われる筋合いはないわ!」

 

 アイスバーグがロビンを非難するような一言をかけようとするが、ロビンはハナハナの実の力でその口を封じる。

 

「おい! 何やってんだ! お前、本気かよ!?」

 

 ルフィはそんなロビンを見て悲しそうな声を出した。

 

 

 

「悪いがもうお前らにもここにも完全に興味がない。直に、すべての証拠を隠滅するためにここは炎に包まれ焼け落ちる。君たちは罪を被って焼け死ぬというわけだ」

 

 ルッチたち曰く、証拠隠滅のために放火をしてすべてを燃やし尽くす算段らしい。

 そして、火の手が上がるまでは後2分。

 

「最後に面白いものを見せてやろう」

 

 そう言ったルッチは、巨大な豹のような姿に変身した。

“ネコネコの実、モデル(レオパルド)”――これがルッチの能力であり、迫撃においてはゾオン系こそが最強だと自負した。

 

 その力は本物で、嵐脚(ランキャク)一発で建物を半壊させると、またたく間の内にルフィとゾロを蹂躙して彼らを吹き飛ばした。

 

 このままだと、私たちもトドメを刺されて――。

 こうなったら……。私はカバンから1つのダイアルを取り出した。

 

「さて、あとはお前たちだが……。ん? この匂いは……、ガスか!?」

 

 ルッチは鼻も利くらしく、私が匂貝(フレイバーダイアル)から放ったニオイを敏感に察知した。

 

「ルフィたちの敵討ちだ! こうなったら、お前らだけでも! 道連れにしてやる!」

 

 私はマッチを片手にルッチに向かって凄んだ。

 

「ライア!? あなた! 何を考えてるの!?」

 

 後ろに立っているナミは驚いた声を出して、私の肩を揺らす。

 

「――チッ! イカれてる……! 自殺なら勝手にしろ。 ブルーノッ!」

 

 ルッチがブルーノに指示を出すと、彼はドアドアの実の能力で壁にドアを作ってそこからCP9たちは出ていった。

 

「ふぅ、逃げてくれたか……」

 

「ふぅ……、じゃないわよ! ガスなんか使ったら――」

 

「使ってないよ。匂貝(フレイバーダイアル)を使って似たような香りを付けた気体を出しただけだ。引火の可能性はほとんどない。だけど、急いで脱出しなきゃな。ナミはアイスバーグさんと、パウリーの縄を解いてやってくれ。私はチョッパーを助ける」

 

 そう、私はもちろんヤケになって道連れにしようなんて思ってない。

 何とかしてCP9を遠ざけたかっただけだ。これからみんなで脱出するために――。

 

「あなた、ペテン師みたいになってきたわね」

 

「力が足りないんだ。生き残るためには何でもするさ。とにかく急ごう」

 

 私たちは手早く脱出の準備を整え、窓の外で待機していたミキータの乗っている気球に乗って燃え上がるガレーラカンパニーの本社から脱出した。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「まずは……、ンマー、申し訳なかった……。お前たちに妙な濡れ衣をきせた。誤解は後でといておく……」

 

 無事に安全なところに気球は着地して、チョッパーの応急処置を終えたアイスバーグは、私たちにまずは謝罪をした。

 

 そして、彼は語る。ロビンがなぜ私たちの元から居なくなろうとしたのか……。

 

 それはCP9が私たち“麦わらの一味”に対してバスターコールをかける権利が与えられたからだった。

 バスターコールとは、海軍“本部”中将5人と軍艦10隻を緊急招集してすべてを消し去る強硬手段。

 

 それを聞いたロビンは世界政府に捕まることを選んだ。たとえ、古代兵器が復活して世界中の人間が危機に陥ることになったとしても、私たち仲間の命を優先したのである。

 そう、私たち7人を無事に出航させることこそ、ロビンのどうしてもやりたいことだったのだ。

 

「――おれの方の兵器の設計図が奪われそうな今……、あの女を責める権利はねェが……!」

 

 ロビンの真相を話したアイスバーグは顔を歪めて悔しそうな表情をした。

 

「はぁ……、良かった。ロビンはじゃあ、私たちを裏切ったんじゃなかったんだ」

 

 その話を聞いてナミはホッとした表情をして、喜ぶ。

 

「おれたちを嫌いになったんじゃなかったんだな!」

 

 そして、チョッパーもロビンの真意を知って嬉しそうな顔をする。

 

「キャハハ……、何よ! カッコつけすぎじゃない。気に入らないわね!」

 

 ミキータは悪態をつきながらも顔はほころんでいた。

 

「なら、やる事は1つだ! さっきは不覚をとったが……!」

 

 私は立ち上がり、拳を握って動けることを確認すると、顔を2回軽く叩いた。よし、まだ私は戦える。

 

「ええ、早くみんなに伝えましょ。もう迷わない。助けても良いんだってわかったときのあいつらの力に限度なんてないんだから!」

 

 ナミは元気を取り戻し、私の背中を叩く。

 

「そうだね。ルフィとゾロの大まかな場所なら分かる。どういうわけか彼らは動けないみたいだ。この町の地図に印をつけるから、ナミとチョッパーは彼らと合流してくれ」

 

 私はナミに地図を見せながら、ルフィたちとの合流を頼んだ。

 ここからは別行動をする。なぜなら、CP9はまだ――。

 

「えっ? あなたとミキータはどうするの?」

 

「ロビンとフランキーを連行して海列車に乗ろうとしているCP9を追う。どうやら、サンジも海列車の駅の側にいるみたいなんだ」

 

 ナミの質問に私は答えた。

 そう、CP9はまだ出発していない。私はミキータと共にサンジと合流して海列車に侵入するつもりでいた。

 

「フランキーって、あんたが新しい船を作るように頼んだ男でしょ? キャハハ……、なんで、そいつも捕まってるの?」

 

 フランキーの名前を出すとミキータは不思議そうな顔をする。そういや、彼女はフランキーのことは何も知らなかったな……。

 

「おっ、お前ら、フランキーに船を!? いや、そんなことはどうでもいい。フランキーは古代兵器の設計図を持っているんだ。奴らに奪われたら世界は――!」

 

 フランキーが船を作る話を聞いてアイスバーグは驚いた顔をしたが、それよりも古代兵器の設計図の方を気にしていた。

 

「大丈夫だよ。アイスバーグさん。ロビンもフランキーも取り返す! 必ずね」

 

「あら、ライア。フランキーって奴もそんなに大事なの?」

 

 私がアイスバーグに声をかけると、ナミは素直な疑問を口にする。

 

「うん。船の代金、2億ベリー前金で払っちゃったし……」

 

「…………えっ?」

 

 ナミに2億ベリーを支払った話をすると彼女は絶句した。

 なんか、目が点になっているな……。でも、必要なことだったんだ。最強の船を作るのに……。

 

「キャハハッ! じゃあ、フランキーって奴が死んじゃったら2億ベリー、丸損ねー」

 

「――ライア! 絶対に! ロビンと2億ベリー、じゃなかった! そのフランキーって奴も取り返せるように頑張りなさい! 私たちも後から必ず追いかける!」

 

 ミキータの笑い声と共にナミは私の肩をグラグラと揺らしながら、私を激励する。

 もちろん、エニエス・ロビーに行く前に決着をつけるつもりだ。

 

「任せてくれ! 行くぞ! ミキータ! アイスバーグさん、ヤガラを貸してくれ!」

 

「ああ、そいつは構わねェ……。パウリー! こいつらに一番速いヤガラを出してくれ!」

 

 アイスバーグはパウリーにヤガラというボートを引く海獣を出すように指示を出した。

 

「とっとと()()()を連れて帰りましょう!」

 

 ミキータが初めて()()()を名前で呼んだことを妙に嬉しく感じながら、私は海列車の駅に向かった。ガレーラカンパニーに借りたヤガラを走らせて……。

 

 

 

 

『アクア・ラグナ接近中につき、予定を繰り上げ、まもなく出航します』

 

「クソ……、もう出ちまうのか……」

 

 海列車の出航が近付くアナウンスを聞いて焦った顔をしていたサンジを私とミキータが見つけた。

 

「サンジ! よかった、間に合ったよ」

 

「ライアちゃんに、ミキータちゃんじゃないか。他のみんなは!?」

 

 私がサンジに声をかけると、彼は当然他のみんなの心配をする。

 説明はしたいけど、今優先することは――。

 

「話は後にしましょう。とにかく、手遅れになる前に海列車に!」

 

「おっ、おう。わかった。とにかく、おれたちでロビンちゃんを追いかければいいんだな。じゃあ、ナミさんたちにコイツを残しておこう」

 

 ミキータがサンジを急かすと、彼は手紙と子電伝虫を残して私たちと共に海列車に向かおうと足を向けた。

 

「小型の電伝虫か。さすがに準備がいい。よし、もう最終便が出る。行こう!」

 

 私たちは出航ギリギリで最後尾の外に乗り込み、海列車は出航した。

 何とか、間に合った。しかし、問題はここからだ……。

 

 

 

「しかし、ここはめちゃめちゃ濡れるなァ。一服も出来ねェや」

 

 サンジは嵐の中でタバコに火をつけようとしたが上手くいかないみたいだ。

 

「どうやって潜入する? 中にいるヤツって、結構強いんでしょう?」

 

「ここから、奥に向かうにつれて強い奴が待ち構えてるみたいだ。そうだな――」

 

 私はロビンがいる最前の車両までの道筋に待ち構えてる戦力を分析した。

 なるほど、CP9以外にも曲者が乗っているみたいだ。

 

 しかし、どうしようかと思案する時間はなかった。

 最後尾の車両に入るための扉が突然開いたのだ。

 

「――いやァ、外は凄い嵐……」

 

「「あっ!」」

 

 政府関係者っぽいスーツの男と私たちの目が合ってしまう。

 

「1万キロフルスイング!」

「――必殺ッッ! 爆風彗星ッッ!」

首肉(コリエ)シュートォ!」

 

 その刹那、私たちは同時に必殺技をその男に繰り出した。

 

「ブはァ!!!」

 

 男は何人かを巻き添えにしながら、信じられない勢いで吹き飛んでいった。

 ちょっと過剰防衛だったような気がする。

 

「「誰だ! 貴様ら!」」

 

 当然、車両内の政府関係者の連中に気付かれて、一斉に連中はこちらに銃を向けた。

 

「あーあ、やっちゃった」

「キャハッ、やっちゃったわね」

「やっちまったもんは、仕方ねェ……、レディたち、下がってな。こいつらはおれが」

 

 サンジは私たちを後ろに下げて、美味そうにタバコを吸って煙を吐く――。

 海列車での戦いが開始された――。

 

 




多少強引でしたが、海列車にもサンジと共に乗っていきます。
しかし、エニエス・ロビーに行かなくてはならないので、どうしても原作からそこまで逸脱出来ないところがこのあたりの難しいところですね。
何とか退屈な展開にならないように努力します。


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海列車バトルゲーム


いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ダイアルを使って色々と戦闘の幅が広がったので書いてて楽しいです。
今回もそんな感じの話が後半に出ますので、ぜひ注目してみてください。


「――と見せかけて! “スクリュードロップキック”!」

 

 カラテの島出身のボクシングチャンピオンであるジュリーという手足の長い大男がこの車両をまとめているらしく、サンジに襲いかかってきた。

 なんで、この人ボクサーなのにドロップキックしてるんだろ?

 

「もう、ボクシングルール無視か!」

 

 私の心のツッコミと同時にサンジの切れ味のよいツッコミが車両に響き渡る。

 まぁ、このボクサーはサンジの敵ではないだろうな……。

 

「はぁ……、時間の無駄だな。――“串焼き(プロシェット)”ッ!」

 

 サンジは華麗にジュリーのドロップキックを躱して、彼の顔面に強力な蹴り技を振り下ろした。

 

「キャハハッ! サンジくんカッコイイじゃない!」

 

「いやぁ惚れ惚れするような技だったよ! 凄いなぁ!」

 

 ミキータと私は惜しみない賛辞を彼に送った。

 うん。サンジくらいの身体能力があればCP9にも負けないだろう。羨ましい……。

 

「うぉっ! これってまさかすっげェ嬉しいシチュエーションなんじゃッ!? まだまだこんなもんじゃねェぜ!」

 

 サンジはジュリーを倒して勢いづいたのか、闘志をさらに燃やして、残りの銃を持った政府関係者たちに遠慮のない蹴り技を浴びせていく。

 あれ? いつもよりも速くて強いような……。

 

「なっ、なんだこの男! さらに強く――! ギャッ!」

「ぐへぇッ!」

「ゴボぉッ!」

 

 瞬殺――そう表現してもいいだろう。鬼神となったサンジは男たちを次々に蹂躙していった。

 

「レディたちの声援がおれに力を与えてくれる! 愛の騎士となった、今のおれは“無敵”だァッ!! うおおおおおっ!!」

 

 メラメラと燃え上がるオーラのようなモノが彼の背後に見える気が……。

 あと、ミキータと一緒に女の子扱いしてくれることがちょっと嬉しかったりする……。

 

「この人たちは電伝虫を持ってないみたいだし、次の車両に行こう。フランキーもそこにいるみたいだ」

 

「次もサンジくんに任せてたら大丈夫そうね……」

 

 私たちは最後尾の第7車両から第6車両へと向かった。

 

 

「――首肉(コリエ)フリットッ!!」

 

「キャハッ、ホントに1人で全員倒しちゃった」

 

 サンジは、勢いに任せて第6車両に居た政府関係者を一蹴した。

 この車両にはフランキーが雑に拘束されていた。

 

「やァ、フランキー。無事かい?」

 

「んおっ! ライアの姉ちゃんじゃねェか! まさか、おれを助けに来てくれたのか!?」

 

 フランキーはびっくりした顔で私を見た。まぁ、彼を助けに来たのも間違いじゃないな。

 

「ライアちゃん、こいつは誰だい?」

 

「さっき話したフランキーだよ。ほら、船を任せた」

 

 私はサンジとミキータにフランキーを紹介した。

 

「すまねェな。お前らの船を造ってやろうと準備してたらこのザマだ」

 

 フランキーは頭から血を流しながら苦々しい表情を見せる。

 CP9に抵抗したが、やられてしまったのだろう。

 

「君のことはアイスバーグさんから聞いた。随分と厄介なことになってるみたいだね」

 

「まァな。んで、お前らはこの先にいるニコ・ロビンも助けるつもりなのか?」

 

 フランキーは私の言うことを肯定して、ロビンについて尋ねてきた。

 

「当たりめェだ、てめェはついでだよ、ついで。――おっ、電伝虫があるじゃねェか!」

 

 そんなフランキーの言葉にぶっきらぼうに答えながら、サンジはこの車両で数匹の電伝虫を見つけた。

 携帯用の子電伝虫もあるな。一応、私も1匹持っていっておくか。

 

「じゃあ、ナミちゃんに連絡できるわね」

 

 ミキータはサンジに近付いて彼の手元の電伝虫を見つめる。

 

「一度、コンタクトを取ったほうがいいかもしれない。この次の車両は40人ほどが乗っている。その内、1人は中々の手練みたいだ……」

 

 私は隣の第5車両から感じる気配を数えて、それを伝えた。

 CP9以外の強い人って全然覚えてないんだけど、誰だったっけ?

 

「すげェな、姉ちゃん。そんなことも分かるのかよ。じゃあ、この前言ってた占いもマジだったんだな!? ちょっと疑ってたんだが、超能力者なら納得だぜ!」

 

 フランキーは感心したような声を出して、この前の占いの話を口にした。

 あー、適当についた嘘の話を今持ち出されるなんて……。というか、やっぱりあんまり信じてくれてなかったんだな……。

 

「キャハッ、占い? あんた占いなんて出来るの?」

 

 占いという言葉を聞いてミキータは興味津々の顔をして私を見つめる。

 

「えぇーっと、まぁ、少しだけ……」

 

「へぇ、じゃあ今度おれの恋愛運でも占ってもらおうかなァ!」

 

 ミキータの言葉を肯定した私に畳み掛けるようにサンジが私に声をかけた。

 よし! この戦いが終わったら占いの勉強をしよう!

 

「そ、そうだね。あっ! ナミに連絡するんじゃなかったのかい?」

 

 しかし、この話題もツッコまれるとつらい。

 だから、私は急いで話題をナミへの連絡に変えた。

 

「お、そうだった。ナミさんにラブコールしねェと!」

 

「サンジくんもブレないわね〜」

 

 電伝虫を使おうとするサンジの言い回しを聞いてミキータはニコリと微笑みながらそう言った。

 

「ナミさん、ナミさん、聞こえるかい?」

 

『うん。サンジくんね!? こっちも海列車でエニエス・ロビーに向かってるわ! あと、ロビンのことはライアたちから聞いた?』

 

 サンジからの通信に返事をしたナミはロビンの事情について聞いたかどうか質問した。

 

「いや、詳しくはまだ……」

 

「あー、そうだね。とりあえず落ち着いたし、話しておこうか。ロビンは――」

 

 ここに来るにあたってゆっくり話をする時間がなかったので、ロビンとフランキーの話はざっくりとしか話してなかった。

 ということで、私とナミは代わる代わるここまでの経緯を話した――。

 

 

『ルフィ! こっちに来て、サンジくんたちから!』

 

 ロビンの話が終わって、ナミはルフィを近くに呼ぶ。

 

『サンジーっ! そっちはどうだ!? ロビンは!?』

 

「ロビンちゃんはまだ捕まっている。さっき事情を全部聞いたところさ」

 

 ルフィはロビンの安否を含めたこちらの状況を尋ねたので、サンジはそれに答えた。

 サンジから感じるエネルギーが更に1段階上がった気がするな……。

 

『そうか――いいぞ、暴れても!! ライアもミキータもな!』

 

『ルフィ! 無茶言うな! おれたちが追いつくまで待たせろ!』

 

 それをルフィも感じ取ったのか、私たちに先に行動を起こしても良いと許可を出した。

 ゾロはそれを止めてるけど――。

 

「――そいつは無理だ。マリモくん。ロビンちゃんの気持ちを聞かされちゃあ、たとえ船長命令でも、おれは止まる気はねェんで!」

 

「おれじゃないよ。おれたち、さ。私もやられっぱなしは性に合わない」

 

「キャハハ、あいつに勝手に守られたとか気に食わないわ。ゾロくんには悪いけど」

 

 私たちは全員止まる気はなかった。ロビンが捕まって、しかも私たちを想って犠牲になろうとしている。

 それを黙認できるほど、私たちは冷静になれなかった。

 

『ちっ、勝手にしやがれ!』

 

 不機嫌そうなゾロの声とともに電伝虫の通信が切れた。

 あとでゾロに説教とかされそうだなー。

 でも、それでも、私たちは――。

 

「ぎゃ〜〜あ〜う〜〜! ウォーウアウアウ〜! いい話じゃねェかァ! チキショー! なんてこったァ! ニコ・ロビンっていえば“冷酷非道”の“悪魔の女”のハズ! それがどうだ、“ホロリ仲間慕情”……!」

 

 そんな私たちの会話を黙って聞いていたフランキーが号泣しながらジタバタしている。

 どうやらロビンの話が心に突き刺さったらしい。

 

「ねぇ、ライア……、この人に2億渡したって……、本当に大丈夫なの?」

 

「情に脆いって、いい人だっていう証拠だと思わないかい?」

 

 そんなフランキーを見て不安そうな表情をするミキータに私はフォローを入れておいた。

 だって、この人は本当に悪い人じゃないんだもん。

 

「よし! この“フランキー一家”、棟梁フランキー! お前らに手を貸すぜ! おれもニコ・ロビンが政府に捕まっちゃあ困る立場にあるからな! よっしゃあ! こんな人情話聞かされちゃあ! おれのやる気も滾ってくるもんよおおお!」

 

 フォローを入れた刹那、フランキーは更に大きな声を出して手を貸すと言い、その上で雄叫びを上げた。

 うっ、そんな大声を上げられると……。

 

「――なんだ!騒がしい!って、うわあああっ!Tボーン大佐ァァァ!侵入者と脱走者です!」

 

 騒がしい音を聞きつけた海兵がこの車両の有様を見て叫び声を上げる。

 

「侵入者だと!?なっ、何ということだ!こんなにも理不尽な悪に傷付く者たちが!」

 

 すると、ガイコツのような剣士がこの車両にやって来た。

 こいつが手練だ……。Tボーン大佐って呼ばれていたけど、そういえばそんな名前の人居たなァ。

 

「ありゃあ海軍“本部”大佐――“船斬り”Tボーンじゃねェか!」

 

「知ってるのか? フランキー」

 

 意外にもフランキーはそのTボーンを知っていた。

 船斬りとかいう異名なんだ。そりゃあ強そうだ……。

 

「船大工の間じゃあ知れた名前だぜ。なんせ海賊船を真っ二つに斬っちまうって話だ。客が増えるってな。まァ腕っぷしの強さは恐れられてたが……。おれたち解体屋からしても部品が回ってくるんで、ありがてェ話だ」

 

 フランキーの説明から察すると、ウォーターセブンではかなり有名な海兵みたい。

 ああ、思い出した。この人は多分……、漫画ではサンジたちの機転によってやり過ごしたんだった。

 

「キャハハッ! 船を真っ二つって、やばい剣士じゃない。ゾロくんとどっちが強いんだろ?」

 

「さァ? でも、ゾロは世界一の剣豪を目指してるから負けないんじゃないかな?」

 

 ミキータの疑問に私は何気ない一言を返す。しかし、どうやらそれで闘志を燃やす男がいるようだ。

 

「――マリモなら負けねェ? ライアちゃん、ミキータちゃん、ついでにフランキーって奴も聞いてくれ。あの“船斬り”とかいう剣士は――おれが倒す! すぐに追いつくから先に行ってくれ!」

 

 サンジはTボーンを指さして、私たちに先に行くように声をかける。

 

「罪なき市民の明日は私が守る! それを仇なす悪は私が斬る――!」

 

「レディたちの晴れやかな未来はおれが死守する! 騎士道精神に懸けて!」

 

 対峙する2人は何やら互いの信念を語りながら、精神を昂ぶらせているみたいだ。

 

 そして――。

 

「「うおおおおっ!」」

 

 サンジとTボーンが戦闘を開始した。うわっ、Tボーンの剣捌きもさることながら、サンジの技のキレもいつも以上だ。

 

「あの、眉毛の兄ちゃん強いじゃねェか! これなら“船斬り”を何とかしてくれそうだ! 行くぞ! 姉ちゃんたち!」

 

 フランキーはサンジの強さに舌を巻き、そして、私たちに先に行くように促す。

 よし、次の車両に行こう。私たちは第5車両へと足を進めた。

 

 

 

「キャハッ! そういえば、この車両には結構居たのよね……」

 

「ざっと海兵が40人……! さっきまでの戦闘慣れしてない連中とは違うはずだ。銃火器に気を付けながら始末するぞ!」

 

 私とミキータは互いに武器を構えて戦闘態勢を取る。

 

「待ちな! 姉ちゃんたち! ここはこのおれ様に任せな! ストロング・(ライト)ッ!」

 

「ぐわァ!」

 

 しかし、フランキーは私たちを制しながら、右腕をルフィのように伸ばしてパンチを放った。

 そのパンチは海兵にクリーンヒットして一撃で沈める。

 

「ウェポンズ・(レフト)ッ!」

 

「ギャア!」

「うへぁッ!」

「ばっ、バケモノ! グヘッ!」

 

 さらに左手の手首が外れて連射砲弾を発射し、次々と海兵を蹂躙していった。

 さすがにウォーターセブンの裏の顔と言われるだけあって強いな……。

 

「なっ、何なのあんた! その体!?」

 

「はっはっは、おれは改造人間(サイボーグ)だ! さァ、早く行け! ニコ・ロビンの元に!」

 

 フランキーは驚くミキータに向かって上機嫌に笑い、足止めを買って出てくれた。

 ここは、彼の好意に甘える方が良さそうだ。

 

「ありがとう! フランキー!」

 

 私はフランキーに礼を言ってミキータと共に第4車両に向かった。

 ここにも強い敵の気配がするが、どんなやつでも倒してみせる――。

 

 

「なんだァ、襲撃って聞いたから、どんな奴が来るのかと思ったらぁ。ひょろひょろの男とアホそうな顔の女のカップルかァ」

 

 第4車両には白髪で目が飛び出ている何とも形容し難い顔立ちの男が私たちを待ち受けていた。

 なんだろう。顔だけは覚えてるんだけど……、それ以外が出てこない……。

 

「キャハッ! ()()()()だって、私たち!」

 

「喜ぶのかい? あいつ、アホそうなとか、言ってたよ?」

 

 何故か、()()()()という言葉に喜ぶミキータに対して私はツッコミを入れる。

 

「おれはここの給仕長のワンゼだよーん!マッドなマッドなワンゼだよーん!ここは通さないよー!どうしても通りたかったら、このおれのラーメン拳法に勝ってみろ!くらえ!拉麺(ラーメン)ビ〜〜ムッ!」

 

 ワンゼは口に含んだ小麦粉を鼻から凄い勢いでこちらに向かって放とうとした。

 

「よし、ここは私が――」

 

「待ちなさい。アホな女と言われて引き下がるわけにはいかないわ。キャハハッ!ここは、私が相手をする。あんたに貰ったこの完成版(パーフェクト)キロキロパウンドで!えいっ!」

 

 ミキータがハンマーを振るうと、ハンマーから炎が放たれて拉麺(ラーメン)ビームとやらを燃やし尽くした。

 そう、彼女の武器、キロキロパウンドはナミの天候棒(クリマタクト)と共に私が強化した。

 

 ミキータの武器は様々な(ダイアル)を駆使して、彼女の能力を活かせるように改造したキロキロパウンド――すなわち完成版(パーフェクト)キロキロパウンドになったのである。

 

「おれの拉麺(ラーメン)ビームが燃えちゃったァ! どうなってるんだ〜〜!?」

 

 それを見たワンゼは表情には変化がないが驚いたような声を出した。

 なんか、怖いな……。表情に変化がないと……。

 

「悪いけど、さっさとケリをつけるわよ! 魔法少女(マジシャンガール)モードッ!」

 

「うわぁっ! なんだァ! ハンマーに跨って宙に浮いたぞー!」

 

 ミキータは完成版(パーフェクト)キロキロパウンドの機能である魔法少女(マジシャンガール)モードを使って、ハンマーに跨り、宙に浮かんだ。まるで、箒で空を飛ぶ魔女みたいに……。

 

風貝(ブレスダイアル)を使って飛行機能を付けた。キロキロの実で極限まで重量を落とせば空も飛べる」

 

 時間制限があるものの、この飛行能力は貴重だ。

 ミキータはハンマーに跨ったまま、ワンゼとの間合いを詰める。

 そして、その勢いを利用してハンマーを掴み――。

 

「キャハハッ! 1万キロフルスイング!」

 

「ブベッぼっ!」

 

 ブンっと風を切りながら振り切るハンマーの威力は強力でワンゼは一撃でボロボロになった。

 

「なんだ、あんたびっくりするほど、弱いじゃなーい」

 

「くそっ、ニヤケたアホそうな顔に気を取られただけだもんね〜〜! こうなったら、なぜおれが罪人護送チームに選ばれたか、わからせてやる! ラーメン拳法奥義!」

 

 ワンゼに一撃を加えたミキータの声にムッとしたのか、彼は一心不乱に麺を打ち出した。

 

「キャハハ、麺を打って何をするつもりなの!?」

 

「麺を鍛えて、鍛えて! 出来上がる! 食べられる夢の戦闘服! “麺ズ正装(フォーマル)スーツ”!」

 

 ワンゼの打ち出した麺は彼の身を覆って鎧となった。

 なんか、凄い状態だな……。食べれる戦闘服って、誰も食べたくないだろう。

 

「食べ物で遊ぶなってサンジくんなら怒りそうね……」

 

「さっさっさー、見せてやるよ! このスーツを着て発揮されるケタ違いの強さを!」

 

 自信満々の声を出すワンゼ。確かに彼からもそれなりに強い力を感じているので、実力は確かなはすだ。

 

「そ、どうでもいいわ。あんたは私が車両の底にうずめてあげる……! ライア、ここは私に任せて先に行きなさい!」

 

 ミキータは真剣な表情でハンマーを構えて、私に先に行くように、声をかけた。

 私はそれに応じて第3車両に向かう。第3車両に待ち構えている敵もまた強敵である事を理解しながら。

 

 四式使いで、CP9の新入りである“海イタチのネロ”――私は第3車両で彼と対峙することとなった――。

 




魔法少女(マジシャンガール)モードは魔女みたいにハンマーに跨って空を飛ぶミキータを想像したら可愛すぎたので我慢出来ずに書いてしまいました。いかがでしたでしょうか?
ミキータも身体能力に難がある系なので、武器強化で戦闘力を上げる感じにしてみました。
次回は四式使いのネロとライアの戦いからスタートです。


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君が大切だから

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ミキータの重さの変化で物理的にどうなるのとか、高校で物理も選択してなかったような作者にはさっぱりなので、ざっくりとした感じでいかせてもらいます。
それでは、よろしくお願いします!


「し、侵入者だ!」

「たった一人の優男、ネロさんの手を煩わせずとも!」

 

 第4車両のワンゼをミキータに任せて、第3車両に入った私は、またもや政府関係者と思しき男たちと対峙する。

 彼らは銃を私に向けて構えた。

 

「良いのかい? 素人がこんな狭いところで銃なんて使ったら――」

 

「「がハッ!」」

 

 そして、彼らが狭い車両内で一斉に発砲して、互いが互いを傷付ける。

 まったく、大人しくしておけば怪我しないで済むのに……。

 

「ほら、言わんこっちゃない。大人しく寝てたほうが得だよ」

 

 そう言いながら、私は得意の早撃ちで次々と男たちを睡眠弾で眠らせていった。

 さて、これでこの車両に残るのは一人だ……。

 

「ほう、なかなかやるっしょっ! 懸賞金5600万ベリー、レディキラー・ライア」

 

 ミホークに似たファッションの男が私に話しかけてきた。

 この男がここの車両を取り仕切ってるのか……。

 

「黙って味方がやられるところを大人しく見てたけど、それは職務怠慢じゃあないのかい?」

 

「シャウッ! 構わないっしょッ! 雑魚なんか居ない方が集中出来る。むしろおれが殺したいくらいっしょッ!」

 

 私の問いに当然というような口調で答える。

 こいつ……、任務以外はどうでもいいと思っているな……。

 

「そうか。腕に随分と自信がありそうだね。一応、名前を聞いておこう」

 

 私は目の前の腕自慢に名前を尋ねた。

 

「“四式”使い、CP9新入り――“海イタチのネロ”。シャウッ!」

 

 目の前の男はネロと名乗った。CP9の新入り? ああ、そんな人居たっけ……。

 “四式”ということは……、六式のうちの四つしか極めてないってことだよな……。

 

 何が出来て何が出来ないか見極めたいところだ……。

 

「ふーん、“四式”か。じゃあ、君の後ろにいるルッチとは違うんだ」

 

 私は視線をネロの後ろにやって、彼にそう声をかける。

 

「えっ、ルッチさん? ――ぐはっ! 卑怯だぞ! てめェ」

 

 彼はルッチの名に釣られて後ろを振り向いた。

 

「甘いっ……! 海賊を相手に卑怯って……、“正義の殺し屋”が聞いて呆れる」

 

 私はネロの抗議にそう返した。相手をナメてかかるような態度はいただけない。

 

「――くそっ、このおれの強さ見せてやるっしょっ! シャウッ! ――“(ソル)”ッ!」

 

 怒りの形相を浮かべたネロは“(ソル)”による高速移動で接近してきた。

 

「――ッ!? 狭い車両では、素早い動きも制限される! 故に――!」

 

「“嵐脚(ランキャク)”ッ!」

斬撃貝(アックスダイアル)ッ!」

 

 私は見聞色の覇気を集中させて、ネロの“嵐脚(ランキャク)”を左手の手袋に仕込ませた斬撃貝(アックスダイアル)で吸収する。

 ちなみに、右手の手袋には衝撃貝(インパクトダイアル)を仕込んでいる。

 ふぅ、これは2回目だけど上手く行ったな。

 

「――なっ!? なぜ斬れん!?」

 

 ネロは自分の技が消されたことに驚愕していた。

 また、隙が生まれたな……。

 

「――じゃあ、君の“嵐脚(ランキャク)”とやらは返すよ! ほらッ!」

 

「シャウッ――!? お、おれの“嵐脚(ランキャク)”の斬撃がお前の手から――」

 

 私が斬撃貝(アックスダイアル)から斬撃を繰り出すと、ネロは腹を切り裂かれ苦悶の表情を顕にした。

 これだけ表情に出てると、逆に演技なのではと邪推してしまいそうだ。

 

「驚いてる暇はないよ!!」

 

「くっ、“紙絵(カミエ)”」

 

 私はさらに彼に向かって弾丸を放つが彼はゆらゆらとした動きでそれを躱した。

 これは、“紙絵(カミエ)”という回避技だ……。

 

「ゆらゆらと避けるね……。これは当てにくいな……。だが……!」

 

「む、無駄っしょっ! このおれの紙絵(カミエ)は完璧な技。当てることなど出来ん! シャウッ!」

 

 絶え間なく銃弾を撃ち続けると、彼は少しだけ焦りの表情を浮かべ、かなりギリギリで弾丸を躱し、殴りかかってきた。

 うーむ……。これはおそらく……。

 

「――鉛玉を律儀に躱すところを見ると、どうやら、“鉄塊(テッカイ)”は出来ないようだね。となると、残る1つは“月歩(ゲッポウ)”か“指銃(シガン)”だけど……。普通に殴ってきたところを見ると“月歩(ゲッポウ)”じゃないかと予想してる」

 

「ううっ、き、貴様! なぜ……!?」

 

 

 私がネロの拳を躱して持論を展開すると、彼は素直に正解だと口にする。

 

「空を歩くことが出来るって凄いけど、車両内(ここ)ではあまり意味がないよね? それなら実質“三式”使いだな。そして、“嵐脚(ランキャク)”も封じられると――これはもう、“二式”かな?」

 

 そして、さらにわざとらしく彼を煽るようなことをつぶやいてみた。

 挑発に乗ってくれれば良いけど……。

 

「うるせェ! お前のその手が追いつかなかったら、“嵐脚(ランキャク)”は通じるっしょッ! そんなペテンなんかに引っかからん! “(ソル)”ッ!」

 

 ネロは私の言葉を聞いて、顔を赤くして怒り出し、“(ソル)”を使って狭い空間を縦横無尽に駆け巡り撹乱しようとしてきた。

 

「ふははははっ! やはりこの速度にはついていけないみたいっしょっ! “嵐脚(ランキャク)”ッ!」

 

「ぐハッ――!」

 

 そして、ネロは“嵐脚(ランキャク)”を放ち私の体は斬り刻まれる。

 やっぱり、かなり痛いな。まともに技を食らうと……。

 

「ほら見ろ! ――ッ!? 何だこりゃあ!」

 

 上機嫌そうに口角を吊り上げるネロだったが、自分の体が粘着性の網で捕らえられていることに気付いて絶叫した。

 一撃を受ける覚悟さえ出来れば、相手に当てることなんてわけがない。

 ルッチが相手ならその一撃で終わりだから無理だけど……。

 

瑠璃色の銃弾(スパイダーブレット)……。攻撃しながら、紙絵(カミエ)は使えないだろ? 人間、使えないって言われたら使おうって頑張ろうとしてみるものさ。君は“嵐脚(ランキャク)”を使ったんじゃない。使()()()()()んだ。来ると分かっている攻撃なんて、カウンターを狙えと言っているようなものだよ」

 

 私はネロが“嵐脚(ランキャク)”で勝負をかけてくるように誘導した。

 より確実に彼の動きを限定するために。

 

 そして、ネロの両膝を銃弾で撃ち抜く。余計なことをさせないために。

 

「シャウッ――! あっ、足がァ!」

 

 彼は叫び声を上げながらもがいて苦しそうな声を出す。

 

「“嵐脚(ランキャク)”で網を切ろうなんてさせないさ。君が鉄塊(テッカイ)を使えれば、この鉛玉も効かなかったかもしれないね。――必殺ッッッ! 鉛星ッッッ!」

 

「――ッ!?」

 

 最後のトドメに私がネロの腹を撃ち抜くと、彼は白目をむいて気絶した。

 もっと広い空間で戦っていたら苦戦したかもしれない。例えば車両の上とかだったら、“月歩(ゲッポウ)”も使えただろうし……。

 

 さて、これで第2車両へと行きたいところだが、流石にCP9が何人もいるところに飛び込むのもなぁ……。

 

「――やはり上から行くか……」

 

 私は窓から車両の上までよじ登り、第2車両を通り越して第1車両に向かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「そ、狙撃手さん! どうして!? なんでここに居るの?」

 

 ロビンが乗ってる座席の窓を叩くと、心底驚いた顔の彼女が窓を開けてくれた。

 声が微かに震えていたのは、あんな別れ方をしたからだろうか?

 

「君を助けに来たに決まってるだろ? 事情はアイスバーグさんに聞いたよ。さぁ、ここから急いで抜け出そう。ルフィたちもこっちに向かってるんだ」

 

 私はここに来た経緯を手短に話す。ロビンの正面に座って……。

 

「そう……。やっぱり、あの人も生きていたのね。……帰って! 私は別に助けて欲しくなんて――」

 

 ロビンは徐々に興奮して声を大きくしていったので、私は彼女の唇に指を当てて言葉を遮った。

 

「しっ――、静かに……。隣の車両の連中に気付かれると厄介だ……。ロビン、君の意志は知ってるよ。だけど、私は君に居て欲しいんだ。どんな事情があってもね」

 

 私は彼女が様々な覚悟をして政府に捕まったことを知っている。そして、生きることを諦めたことも……。

 だけど、私は認めたくなかった。彼女が犠牲になろうとしていることを……。

 

「――ッ!?」

 

「大丈夫だよ。みんな世界を敵に回す覚悟は出来ている。それで君が帰ってきてくれるんだったら――安いものだ」

 

 まっすぐに彼女を見て、私はルフィたちも同じ覚悟でこちらに向かっていることを話す。

 誰一人として、このまま彼女を1人にしようとなんて思っていない。

 

「みんなは分かってないのよ。この世界の闇の恐ろしさを……。“バスターコール”の恐怖を……」

 

 しかし、ロビンは首を横に振る。私たちは何も分かっていないと言いながら……。

 

()()が君の心を縛っているんだね……。わかった……」

 

「――狙撃手さん?」

 

 私がロビンの言葉に頷いて立ち上がると、彼女は不思議そうな顔をした。

 

「じゃあ、少しだけ待ってて。君の心を縛ってる連中を全部倒す。そうすれば、君は解放されるだろう?」

 

 ロビンの心をここまで壊した連中がだんだん許せなくなり、私は闘争心を燃やす。

 なんで、彼女がこんな顔をさせられなきゃいけないんだ。

 

「ば、馬鹿なことを! CP9を相手にするつもりなの!? さっき見たでしょ? 彼らの力を……」

 

 ロビンはそんな私の手を掴んで、ちょっと前にボコボコにやられた相手に挑むのはあり得ないというようなことを言ってきた。

 それは正論だ。私はルッチには手も足も出ずにやられてるし、他のCP9にだって敵うかどうかわからない。

 

「私は物分かりが悪いんだ。――そういえば、前に私の手のことを褒めてくれたけど、私もロビンの手は好きだよ。ひんやりしてるけど、温かさが伝わるような不思議な手だね……」

 

 ロビンに握られた手から伝わるのは彼女の優しさ――。

 私は体温の低い彼女から伝わる温かさを感じていた。

 

「――そんなこと、今言うことじゃ……」

 

 すると、ロビンは少しだけ掴む手の力を緩めた。

 

「君が大切なのさ……」

 

 私は彼女の目をしっかりと見つめて、両手でロビンの右手を握りしめてそう伝えた。

 

「――ッ!?」

 

 するとロビンの頬が少しだけ紅潮して彼女は目を逸らす。

 ちょっと気持ちを伝えるのに失敗しちゃったかな?

 だけど――。

 

「寂しいことをしないでよ。君が私たちのために命を張ったのと同じで、私たちだって君のためなら命くらい幾らでも張れるんだ」

 

 私は元よりここにいるサンジもミキータも、こっちに向かっているルフィもゾロもナミもチョッパーも……、みんな彼女の為なら命懸けで戦う。

 

「でも、私は――」

「おっと、タイムオーバーか。そろそろ行かなきゃな」

 

 私は第2車両にサンジたちが全員たどり着いたことを感知した。

 

「本当に彼らと戦うつもり? 何のために私が……」

 

「うーん。じゃあとりあえず、君を掻っ攫ってからにするか……」

 

 ロビンがしょんぼりしたような顔をするので、私は意を決して彼女を抱きかかえた。

 

「えっ? キャッ!」

 

「あははっ、可愛い声も出すんだね。初めて聞いたよ」

 

 いきなり抱きかかえられたロビンのリアクションが新鮮で私はついつい笑ってしまう。

 

「――バカなことを言ってないで……。降ろしなさい!」

 

 

 途中で役人風の男を蹴り倒して、私達は第2車両に入った。

 

「うぉっ! ロビンちゃん! さすがライアちゃんだ。きっちり救出してたか!」

 

 何やらすでにルッチとひと悶着していたらしいサンジがニコリと笑ってこちらを見る。

 

「なんだ、そっちにも侵入者が居たのか? いい加減、諦めたらどうだ? そいつらには話したが、お前が抱えてる女は死んだほうがいい女だぞ」

 

 ルッチも私に気付いてそんな言葉をかけてきた。

 この男の言葉はいちいち人を苛つかせる……。

 

「うるせェ! まだ言うか! クソがッ!」

 

「サンジ、とりあえずこいつらをぶっ倒して、さっさと帰ろう」

 

 私とサンジは殺気をルッチに向ける。仲間を侮辱されて、私たちも黙ってるわけにはいかない。

 

「ふん、先ほどの戦いで力の差を感じられないほど鈍いやつだとは、な。悪いがおれたちに銃弾は効かない……!」

 

「そいつは、どうかな?」

 

 銃口を向けても余裕の表情を崩さないルッチに向かって私は引き金を引いた。

 銃口はその瞬間床に向けていたが……。

 

 すると、辺り一面が煙に覆われる。

 

「――なっ、煙玉か! 狡い手を!?」

 

 第2車両は濃い煙に覆われて、CP9たちの視界が奪われる。

 私はその瞬間に第2車両から第3車両まで一直線に駆け抜ける。

 

「先ほどの戦いで私が狡い手を使うような奴だって分からなかったのかい? 鈍いね〜、ロブ・ルッチくん」

 

「「よっしゃー!」」

 

 私がルッチに対してそう言葉をかけると、サンジとフランキーは喜びの声を上げる。

 とりあえず、ここで無駄に戦うよりは、ルフィたちと合流してこいつらを叩いたほうが勝算はあるだろう。

 

 さっきまで戦う気満々だったけど、結局理を優先してしまったな……。まぁ、感情的になって動いてもロクなことがないから、仕方ない……。

 

「――くっ!」

 

「キャハハッ! じゃあ作戦通りに車両を切り離すわよ〜!」

 

 悔しがるルッチの声を聞きながら、ミキータが第3車両を切り離し、我々はロビンを奪還した――。

 

 ロビンがこのまま大人しく私たちに付いてきてくれれば良いけど……。

 腕の中にいる彼女を見ながら、私は今後の動きを考えていた――。

 




ネロは車両の上で戦った方が強いタイプなので、ライアが圧勝したからといって、フランキーより上の実力とかそういう感じにはなりません。
というわけで、いよいよエニエス・ロビーが近づいてきました。
ここから、盛り上げられるように頑張ります!


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いざエニエス・ロビーへ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回からエニエス・ロビーに突入します。
楽しんでいただけると嬉しいです!


「ダメ……! 私――やっぱり、あなたに死んで欲しくない――!」

 

「ロビン! どうして……! フランキーがせっかく……」

 

 車両を切り離したまでは良かったが、何と切り離した車両をカリファがムチで捕らえて、ブルーノが引っ張って引き寄せた。

 

 私たちはCP9と戦闘をしようと身構えたが、フランキーが身を挺して第2車両へ飛び込み、第3車両と完全に分断した。

 

 フランキーは自らを犠牲にして私たちを助けてくれたのだ……。

 

 しかし、ロビンは急にハッとした表情をして、CP9のところに戻ると言い出したのである。

 

「ロビンちゃん! バスターコールが何だってんだ! おれたちが絶対に何とかしてやる!」

 

 それを聞いたサンジは彼女を説得しようと声をかける。だが――。

 

「そのバスターコールが問題なのだ」

 

「て、てめェはッ!」

 

 サンジの背後にブルーノが突然現れた。

 

「“嵐脚(ランキャク)”ッ!」

 

「――ぐァッ!」

 

 ブルーノの不意討ちにサンジは背中から血を流して倒れる。

 あの、エアドアはやはり厄介だな……。

 

「さァ帰るぞ……、さもなくば、そこのレディキラーも殺していく」

 

「何だとッ!? やれるもんなら、やってみろ! ――なっ、ロビンッ!」

 

 私がブルーノの言葉に反応して銃を向けようとすると、ロビンが私の体から手を生やして拘束する――。

 

「――クラッチ!」

 

「――かハッ!」

 

 そして、背骨を反り返させ極める関節技によって私は口から泡を吹いて倒れてしまった――。

 

「ごめんなさい……。あなたの言葉……、嬉しかった……。胸が高鳴って、付いていきたいと思ってしまうくらい……。でも、それと同じくらい……、あなたの命が無くなることが怖かった……」

 

 ロビンは悲しそうな声をこぼしながらブルーノの開けたエアドアに入っていく。

 そんな……、どうして……。

 

「キャハハ! バッカじゃないの!?」

 

「ミス・バレンタイン……?」

 

 ミキータが大声でロビンに向かって罵倒すると彼女は意外そうな顔でミキータを見た。

 

「私たちがどういう気持ちでここに来たのか、まったく理解してないわね! あんたはこいつらの何を見てきたのよ! ライアもサンジくんも――それに船長だって! 絶対にあんたを勝手にさせないわ! 待っていなさい!」

 

 ミキータは怒っていた。そして、どこまでも優しい声をロビンに向かってかけていた――。

 

「“嵐脚(ランキャク)”ッ!」

 

「キャッ! くそっ! ホントに覚えてなさいよ!」

 

 ブルーノの嵐脚(ランキャク)によってミキータもまた倒されてしまったが、彼女の目はまだギラギラと輝いて、ロビンの方を向いている。

 

「ロビンちゃん……!」

 

「無駄だ……。ニコ・ロビンは協定を破らない……」

 

 そして、サンジがよろよろと起き上がろうとしていると、ブルーノの暗く低い声が私たちに伝える。ロビンは戻ってこないと……。

 

「なんでそう言える!?」

 

 サンジの問いにブルーノは説明した。ロビンはバスターコールによって滅ぼされた島の生き残りということ……。

 そして、それが大きなトラウマとなっており、仲間にその恐怖が向けられれば、CP9には逆らえなくなるということを……。

 

 

「てめェら、どこまで腐ってやがる! 畜生!!」

 

 サンジの蹴りは虚しく空を切り、ロビンは再びCP9に連れ去られてしまった。

 

 私たちは悔しさを抱えたまま、後続より近づいてくるルフィたちと合流することになった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「――というわけで、ロビンちゃんは“CP9”に何やら過去の“根っこ”を掴まれちまってる。別に奪い返せなかった言い訳をしてェんじゃねェが、これから敵地に乗り込んだからといって、ロビンちゃんがおれらに身を委ねてくれるかは、わかんねェ」

 

 サンジは海列車での顛末をルフィたちに説明した。

 ロビンの闇は思ったよりも深かった。私では彼女の闇を振り払うことは出来ないのか……。

 

「んなこと、知るかァ! 絶対に許さん! ――ロビンめーっ!」

 

 サンジの説明を聞いたルフィは何故かロビンに向かって怒りを顕にする。

 

「何でよッ!」

 

「そうじゃねェか! 何で、おれたちが助けるのを嫌がるんだ!」

 

 ルフィの言葉にツッコミを入れるナミに対して、彼はロビンのことが理解できないというようなことを言った。

 

「そ、それは、私たちのことを考えて苦しんで――」

 

「そんなことは関係ねェ! ロビンはこのままだと殺される! 死にてェわけがねェんだから助けるんだ!」

 

 ナミはルフィの迫力に押され気味だったが、話はシンプルだ。

 私たちのやることは変わらない。何としてでもロビンを助ける。それだけだ――。

 

 

「ちょっと、お前らこれを見ろ。これから作戦を話すぞ」

 

 線路の整備で“エニエス・ロビー”に入ったことのあるパウリーが地図を描いてくれ、これからのついての話し合いが始まる。

 

 “エニエス・ロビー”は海に開いた巨大な滝の上にある。

 そして、“正門”から“正義の門”までの直線でロビンとフランキーを取り返さないとならないらしい。

 “司法の塔”の背後にある“正義の門”を通り過ぎてしまったら、手出しは出来ない状況になるようだ。

 

 そして、決まった作戦はこんな感じだ。

 最初に、ガレーラカンパニーの船大工たちとフランキー一家が乗り込んで、“正門”と、“本島前門”をこじあける。

 

 そして私たちは、“ロケットマン”で5分待機した後に“ロケットマン”ごと本島に突っ込み中に入る。

 

「“CP9”を倒せるのは麦わらさんたちだけだ。他の敵には構わないで先に進んで“CP9”だけに集中してくれ!」

 

 敵は数千人はいる。そして、こちらは60人ちょっと……。

 ならば、頭を潰すのが定石。だから、彼らは私たちにCP9に集中すべきだと言った。

 

「ああ、わかった!!」

 

 ルフィは彼らの立てた作戦を聞いて力強く頷く。

 さァ、いよいよ正義の門が見えてきたぞ。

 

 

 

「――えっ? なんか、ルフィ先に行っちゃったみたいなんだけど……」

 

 チョッパーのルフィは何処だという一言を聞いて、私が気配を探ると彼は一足先にエニエス・ロビーに入っているみたいだった。

 

「無駄だった……」

「あいつ、“わかった”って言ってたぞ」

「キャハハ、船長らしいわね〜。5分なんて待てないに決まってるじゃない」

「ああ、確実にムリだったな」

 

 ナミたちはルフィだから仕方ないみたいな雰囲気を醸し出していた……。

 勘が鋭いから、こういうノリも正解のパターンは多いんだけど……。

 やっぱり1人にするのは心配だな。ルフィはこっちの切り札なんだし、ルッチと戦うまでは出来るだけ温存したい。

 

「ルフィ1人だと心配だ。私も彼を追いかけるとしよう。ミキータ! 魔法少女(マジシャンガール)モードの()()()を使おう」

 

 私はミキータと共にルフィを追うことにした。

 完成版(パーフェクト)キロキロパウンドの魔法少女(マジシャンガール)モードは二人乗りを想定している。

 私が後ろで(ダイアル)を使うことで、さらに速度を高めることが出来るのだ。それを、ターボ機能と私は名付けた。

 

「仕方ないわね。まぁ、()()を使えば船長に追いつけると思うけど……」

 

 ミキータは完成版(パーフェクト)キロキロパウンドを取り出して、ニコリと微笑む。

 

「ライア、おれにも獲物を残しとけよ!」

 

 ゾロはそんな様子を見て、背中を遠慮なくバシッと叩いた。

 

「ええ〜っ! ライアの姉さんまで行っちまうんですか〜!!」

 

 すると、フランキー一家の代表みたいな男がびっくりした顔で私に声をかける。

 いや、なんていうか、その……。

 

「姉さんって……。照れる……」

 

 私は“姉さん”って言葉の響きが気に入ってついつい、そんなことを口走ってしまった。

 

「言うとる場合か! はぁ、せいぜいあのバカを抑止しなさい」

 

 ナミは私の額を小突いてルフィを抑えるように指示を出してきた。

 うーん。ルフィの抑止ねぇ……。

 

「キャハハ、ナミちゃん。この子、結構喧嘩っ早いの知ってるでしょ?」

 

 私の心を覗き見したのか分からないが、ミキータは私もやる気満々だということをナミに伝えた。

 とりあえず、出来るだけ彼を援護しておきたいところだ……。

 

「うおおっ! それが空飛ぶハンマーか! かっこいいなァ!」

 

 チョッパーが海列車の外でミキータと私を乗せて浮いているハンマーを見て、興奮気味の声を出す。

 

 

「チョッパーちゃんも後で乗せてあげるわね!」

 

「じゃあ、行ってくる。――衝撃(インパクト)ッ!!」

 

 そして、私が水面に腕を当てて、衝撃貝(インパクトダイアル)を発動させ、さらに風貝(ブレスダイアル)を併用すると、ミキータの完成版(パーフェクト)キロキロパウンドは猛スピードでエニエス・ロビーの“正門”を超えて中に侵入し、さらに“本島前門”を空から簡単に飛び越えた――。

 

 

 

「おう! ライア! ミキータ! すっげェカッコいい乗り物じゃねェか!」

 

「まったく。1人で突っ走るんだもん。困った船長だ」

 

 とんでもない人数に取り囲まれたルフィの元に私とミキータは降り立った。

 この人数を1人で相手にするつもりだったのか? いや、漫画だと相手にしたんだっけ?

 

「ははっ……、おい、“麦わらのルフィ”、そして“レディキラー・ライア”、“運び屋ミキータ”……、お前ら、たったの3人だけか?」

 

「エニエス・ロビーの兵力は1万だぞ!」

 

 こちらの人数が少ないと見ると口々に兵士たちは私たちを嘲った。

 これだけの人数差があったら、余裕な態度も取るか……。

 

「ねぇ、ライア……。わ、私たち、ヤバイところに入ってきたんじゃない? キャハッ……」

 

 あまりの人数の多さにミキータは声を震わせる。確かに普通なら勝ち目のない戦いだろうな……。

 

「道を開けろ!!」

 

「言っても聞かないなら、まかり通らせてもらうだけだ……!」

 

 ルフィは臨戦態勢を整えて、私も武器を用意する。

 

「うおおおおっ!」

 

「うわぁ!」

「ぎゃっ!」

「げフッ!」

 

 ルフィが次々と兵士たちを蹴散らしながら、走っていく。

 

「さて、もうちょっと高度を上げようか? ミキータ」

 

「キャハハ、任せなさい! それっ!」

 

 私はミキータに高く上がるように指示を出して、空中から兵士たちを眺める。

 

「さて、エニエス・ロビーの皆さん……、空中からの狙撃にお気をつけください……!」

 

 そして、空から得意の早撃ちで次々と兵士たちを倒していった。

 

「がハッ!」

「――そっ、空から! うぶッ!」

「うゲッ!」

 

 兵士たちは空中に意識が削がれて、ルフィに対する注意が散漫になる。

 

「ゴムゴムのォォォォ! 暴風雨(ストーム)ッッッ!!」

 

「「ぐぁァァァァ!!」」

 

 まさに、一騎当千の如き力を発揮するルフィは瞬く間に100人規模で兵士たちを蹴散らす。

 もちろん、敵の数はとんでもない数なのだが、このような立ち振る舞いをされては、彼らの士気も上がらない。

 まさにルフィのペースに呑まれてしまっているのである。

 

「さて、上からだとこういう事も出来るぞ……。――必殺ッッッ! 火薬流星群ッッ!!」

 

「「ぎゃあああああっ!!」」

 

 私は大量の火薬玉を兵士たちに向かって落として、敵の人数を減らしていった。

 このまま、空を移動できれば楽なんだけど……。

 

「――ッ!? ライア! そろそろ内蔵されてる、風貝(ブレスダイアル)のエネルギー残量が……」

 

 しばらく空中から攻撃しながらルフィの援護をしていると、ミキータがキロキロパウンドに内蔵した風貝(ブレスダイアル)の風が切れかけていると伝えてくれた。

 

「よし、少しは温存しておこう。私たちも地上で戦うとしようか」

 

 ということで、私とミキータはルフィの側に降りて地上で戦うことにした。

 

「キャハッ……! じゃあ、私もそろそろ暴れるわよ! 1万キロフルスイング・(ファイア)ッッ!」

 

「「うげえええええっ!」」

 

 ミキータは完成版(パーフェクト)キロキロパウンドで近くの兵士を吹き飛ばしながら、炎をさらに撒き散らす。

 近距離と中距離攻撃を同時に出来るのはこういう状況だと強いな――。

 

 私たち3人は司法の塔を目指して敵を蹂躙しながら前へと進んでいった。

 

「ルフィ! “司法の塔”はあの“裁判所”の先だ!」

 

「行き止まりみてェだけど、登ってみっか!」

 

「キャハッ! じゃあ私の出番ね! あのくらいの高さならジャンプ出来るわ!」

 

 ルフィが風船のように膨らんで、ミキータが重量を増やして彼をジャンプ台代わりにして私を背負って大ジャンプする。

 すかさずルフィが腕を伸ばして、ミキータがその手を掴み3人揃って“裁判所”の屋上に舞い上がった。

 

 

「あれが、最後の建物だな」

 

「でも、道はないわね」

 

「――ッ!? 敵の気配だ……!」

 

 ルフィとミキータは“司法の塔”を見据え、私は敵の気配を感知する。

 この突然出てくるような気配は奴しかいない……。

 

空気開扉(エアドア)……」

 

「あっ、お前はハトのやつと一緒にいた……」

 

 何もない空間からドアが開き、中からブルーノが出てきたので、ルフィはそれに反応した。

 

「“世界政府”始まって以来の前代未聞だぞ。ここまで海賊たちが踏み込んできたことは――」

 

「ブルーノ……」

 

 何やら大袈裟なことを曰うブルーノを見て私は迷う……。

 ルフィが戦えば、おそらく“ギア(セカンド)”を使ってブルーノに勝つだろう。

 

 だが、あの技は体力をかなり消費する技だったはず。

 故にルッチと戦うのにあたってこれはかなりのマイナス要素なのではと私は考えた――。

 

 だからといって、ギアを使わないでくれと言うのも変な話になる。 

 そういった点を含めて私は悩んでいるのである。

 

「いつまで、暴れる気だ?」

 

「「死ぬまで!」」

 

 ブルーノの問いかけに、私とルフィは同時に答えた。

 無論、私は止まるつもりはない。ロビンを助けるまで……。

 

「キャハッ……、息ぴったりなんだから……」

 

 そんな私たちを見てミキータは小さな声でツッコミを入れた。

 

「お前らはまだ気付いてないようだな。これが“()()()()()()”の大犯罪ということに――」

 

「ああ、そういうのはいいよ。世界政府に喧嘩を売ったとか、どうでもいい話をするんだろ?」

 

 ブルーノがまだ何かベラベラとしゃべりそうだったので、私はそれを遮った。

 世界政府がどうとか、大犯罪がどうとか、そんなことは関係ないから――。

 

「レディキラー……、あの女に振られたにも関わらず随分と御執心みたいだな……。あんな、不吉な女などさっさと捨てて――。――ッ!?」

 

 ロビンを貶めるような口を利くブルーノに向かって私は発砲する。

 銃弾は彼の頬を微かに掠めて彼を傷つける。

 彼は信じられないという表情で頬を流れる血を触って見ていた。

 

「その薄汚い口を閉じな。ブルーノ……。ルフィ、ここは譲ってくれないか? ブルーノ(あのおとこ)は私が倒す――! あの程度の敵、君が出る幕じゃない!」

 

 私はブルーノを自分一人で倒す決心を固めた。

 ネロとは違う本当のCP9……。だけど、ヤツは私の越えるべき壁だ――。

 

 集中力をいつも以上に高めながら、銀色の銃(ミラージュクイーン)を構え直し、私は強敵と対峙した――。

 




ライアとブルーノが戦い、ルフィがギア2を出す機会がルッチ戦にお預けになりました。
なので、次回はライアとブルーノの戦いからスタートです。


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“六式”を打ち破れ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
道力って設定が出たときは遂にワンピも戦闘力が!?みたいに思いましたけど、これっきりでしたよね〜。
コビーとか、ガープの道力が気になったりします。
それでは、820道力のブルーノにライアがどう闘うのかご覧になってください。


()()()()だと? 海賊風情が図に乗るな。お前もそこの1億ベリーの男ですら、我々に手も足も出ずにやられたではないか。面倒だ。3人揃ってかかって――。――ッ!?」

 

 ブルーノは私が1人で戦うことが不満な様子だったので、私は再び彼を狙って発砲した。

 弾丸は彼の首をギリギリ掠めて、彼の表情が曇る。

 

「無駄口を叩くな。すぐに終わってしまうぞ。負けるにしても負け方っていうものがあるだろ?」

 

「――貴様ッ! “(ソル)”ッ!」

 

 私が煽るとブルーノは地面を瞬間的に10回以上蹴ることで超人的なスピードで移動することを可能とする移動技で、視界から消える。

 

 しかし、その領域のスピードも既に――。

 

「そのスピードにはもう――慣れた……!」

 

 私は背後に迫るブルーノの腹に弾丸を叩き込む。

 

「“鉄塊(テッカイ)”……! 貴様のショボい弾丸など通用しないッ!」

 

 しかし、ブルーノの鋼鉄と化した肉体には私の弾丸は通じない。

 ならば――私はブルーノの腹に右手の掌底を密着させる――。

 

「――衝撃(インパクト)ッ!」

 

「ごフッ!」

 

 衝撃貝(インパクトダイアル)を利用した一撃はブルーノの体内を破壊し、彼にも幾分ダメージを与えることが出来たようだ。

 

「やはり、内部破壊系の技は通用するみたいだね。とはいえ、今日2発目はキツかったな……」

 

 右腕から肩までの痺れるような痛みに私は思わず苦笑いした。 

 

「妙な技を……! “月歩(ゲッポウ)”――“鉄塊(テッカイ)・輪”!」

 

 ブルーノは空中を歩き、上から大きく開脚した状態で“鉄塊(テッカイ)”を発動し、そのまま足を私に向けて振り下ろしてきた。

 私はそれを躱すが、勢いを利用した回転により続けざまに足を振り下ろし、連続攻撃を仕掛けてくる。

 

「――なるほど、ネロとは違うみたいだ……! ――必殺ッッ! 灼熱星ッッッ!」

 

「――ッ!? がぁッ! 何だ!? この弾丸は!?」

 

 “鉄塊(テッカイ)”状態のブルーノの首元に高熱を帯びた弾丸が当たり、その熱によって彼は苦悶の表情を浮かべた。

 

熱貝(ヒートダイアル)で熱の塊と化した弾丸は硬いだけじゃあ防げないぞ」

 

 銀色の銃(ミラージュクイーン)に仕込んだ熱貝(ヒートダイアル)は弾丸に熱を付与することが出来る。

 特殊な弾丸にそれを使うことは出来ないが……。

 

「驚かされてばかりだが……やること為すことが軽い。CP9は超人の集団。お前の小細工ごとき、何発受けようとおれは倒れん。――“(ソル)”ッ! ――“指銃(シガン)”!」

 

「くっ……!」

 

 高速移動からの“指銃(シガン)”の連打という、身体能力の差で押し切る作戦で来られた私はどうにか衝撃貝(インパクトダイアル)でいなしてみたが、それもかなり厳しくなってきた。

 

「いつまでその妙なモノでおれの“指銃(シガン)”を捌き切れるかな?」

 

「し、しまった……!? がハッ……」

 

 そして、ついにブルーノの“指銃(シガン)”が私の左肩と脇腹を貫いて、私の体から鮮血が飛散する。

 

「トドメだ! “鉄塊(テッカイ)・砕”!」

 

 飛び上がったブルーノは“鉄塊(テッカイ)”の状態のまま凄い勢いで落下してきた。

 これは当たると、それだけで勝負が決まってしまう。

 

「――ッ!? ――なんて、破壊力ッ!」

 

「外したか……」

 

 かろうじて身をよじらせて私はそれを躱す。

 

「攻と防を同時に放つ……、厄介なことを……。ならば……」

 

 私はだらんと腕を下ろして、脱力した状態で構えた。

 

「なんだ、その構えは? ナメてるのか!? ――“指銃(シガン)”ッ!」

 

「………こういう感じか? ふーむ」

 

 ゆらゆらと1枚の舞い散る木の葉のように揺れて、私はブルーノの“指銃(シガン)”を次々と避ける。

 

「こっ、この身のこなしはまさか……!? 貴様ごときが、“紙絵(カミエ)”を……!? ――グふッ!」

 

「避けながら、君が攻撃する瞬間を狙ってカウンターをしかける……」

 

 “紙絵(カミエ)”を何度か間近で見て、見聞色の覇気の応用で何となく真似ることに成功し、さらにブルーノの攻撃の瞬間に弾丸を撃ち出すと、彼は脇腹を押さえて苦悶の表情を浮かべる。

 

 さっきの“指銃(シガン)”のお返しをしたぞ。

 

「そ、そんな都合のいいことをいつまでも……! くそっ、当たらん! ――がハッ!」

 

 私はブルーノの“指銃(シガン)”と“嵐脚(ランキャク)”を回避しながら、カウンターを何度も浴びせる。

 

「――必殺ッッ! 灼熱星ッッッ!」

 

「――ッ!!? ごフッ……! し、信じられん! 空気開扉(エアドア)ッ!」

 

 さらに熱を付与した弾丸が彼の左肩を貫いたとき、彼はドアドアの実の能力を利用してエスケープした。

 

「ドアドアの実の力で消えたか……」

 

 空気開扉(エアドア)の能力で隠れられると見聞色でも出てくる瞬間でないと感知できない。

 

 私は精神を集中して、彼の気配を探り続けた。

 しかし――。

 

「回転ドアッ! “嵐脚(ランキャク)”ッ!」

 

「――目がッ! うわッ!」

 

 目の前にブルーノの手が出てきて、私の目の部分が回転する、意外な行動に面食らっていると“嵐脚(ランキャク)”によって体がズタズタに切り刻まれる。

 

「――“指銃(シガン)”ッ!」

 

「うっ……! 左腕が……!」

 

 さらに“指銃(シガン)”によって左腕が貫かれる。

 何とか急所を突かれることを避けられたけど……、血を流しすぎてしまったな……。

 

「その状況でわずかでも“紙絵(カミエ)”が使えたことは褒めてやろう。しかし、視覚が封じられれば攻撃は出来――。――何ッ!?」

 

「いきなりで驚いて、隙を見せたのは私の甘さだ……。はぁ、はぁ……、目が使えないなら最初から見なければいい」

 

 クルクルと目が回った状態が気持ち悪くて、見聞色を怠ってしまい隙を生み出してしまった。

 だけど、視覚が失われたことは私にとってそこまで問題じゃない。

 

「貴様、目を瞑って……、おれに攻撃を当てただと!? まぐれに決まっている!」

 

 ブルーノはこの状態で攻撃が自分に当たったことに驚きながらも、“指銃(シガン)”を放ってきた。

 

「まぐれじゃないさ」

 

「――ッ! がハッ! くっ……」

 

 その瞬間を見極め、私は目を閉じた状態でブルーノに弾丸を当てる。

 今度は右肩に当たったかな? 私は回転した目を止めて彼の負傷箇所を確認した。

 

「しかし、私も血を流しすぎてしまった……。そろそろ、君を倒さなきゃ面倒そうだ」

 

 実際、長期戦になると私は不利だろう。

 それに、まだエニエス・ロビーでの戦いは始まったばかりだし、ここでさらにダメージを受けるのは本意ではない。

 

「そろそろおれを倒す? 貧弱な狙撃手が何を戯けたことを……!」

 

 ブルーノは私の言葉が気に食わなかったのか、苛つきを顕にする。

 

「確かに私は貧弱だが……、()()に関して言えばそれなりに自信があるんだよ。ブルーノ」

 

 私は精神を集中させながらブルーノを睨みつけた。

 

()()? 確かに多少は腕がいい様だが……。攻撃が軽いのは致命的な弱点だぞ。――“(ソル)”! ドアドア!」

 

「――ッ!?」

 

 ブルーノは超スピードに加えてドアドアの実の力で床、空気中、と様々なところに隠れながら私を翻弄してきた。

 

「どうだ見切れまい! ドアドアと“(ソル)”のコンビネーションは! “鉄塊(テッカイ)・砕”!」

 

「――うッ!?」

 

 さらにその超スピードから“鉄塊(テッカイ)”状態で突撃するという容赦のない攻撃を加えてきた。

 

「貴様に攻撃を加えるときは常に“鉄塊(テッカイ)”をかけて行う! もはや貴様に勝ち目はない!」

 

「それはどうかな? ――必殺ッッ!」

 

 高らかに勝利宣言を行うブルーノに私は銃口を向け、集中力を最大限に高めた――。

 

 そして――。

 

「“鉄塊(テッカイ)・輪”ッ!」

 

「――衝流星(インパクトキャノン)ッ!」

 

 ブルーノと私は互いの必殺を同時に放つ。この刹那に勝負は決した。

 

「「…………」」

 

「き、貴様……」

 

 ブルーノはギロリと私を睨みつけるとばたりと倒れた。

 

「世の中には“アリの眉間”すら撃ち抜く狙撃手がいる。だったらせめて、()()()()()()()“人の眉間”くらいは撃ち抜けなきゃ、未来の海賊王の船の狙撃手は名乗れないだろ?」

 

 昔、幼かった頃にバカな親父がしていた自慢話を思い出しながら、私は眉間に弾丸を受けて倒れたブルーノに声をかけた。

 

 衝撃貝(インパクトダイアル)を加工した弾丸は使い捨てだが、1点に集中した攻撃力は通常の衝撃(インパクト)を大きく凌ぐ。

 故に当てる場所さえ間違わなければ一撃必殺の威力を発揮するのだ。

 まぁ、持って帰ってこれた衝撃貝(インパクトダイアル)の数に限りがあるので、ここぞという場面でしか使えないが……。

 

「うっ……」

 

「よっと。最後の射撃凄かったな。お前の父ちゃんみてェだったぞ!」

 

 ルフィはよろけた私をガシッと支えてくれ、ニカッと笑って声をかけてくれた。

 この人はずっと見守ってくれてたんだろうな……。私を信じて……。

 

「あそこにロビンがいる。早く助けに行こう」

 

「ちょっと、待ってろ。それなら……。すぅ〜〜」

 

 私が司法の塔を指さすと、ルフィは大きく息を吸い込み始めた。

 

「ロ〜〜ビ〜〜〜ン!! 迎えに来たぞォ!!!」

 

 ルフィの大声がエニエス・ロビーに響き渡る。

 彼は自分たちの到着を高らかに宣言したのである。

 

 

 しばらく待っていると、大きな音ともに司法の塔の屋根が崩れフランキーとロビンが飛び出してきた。

 おそらく、フランキーが彼女を連れてきてくれたのだろう。

 

 

「おーっ! ロビン! よかった。まだそこに居たのかァ! よしっ、待ってろ! すぐそこに――」

 

 ルフィはゴムゴムのロケットでロビンの元に飛ぼうとした。

 

「待って! 私はあなたたちの元には帰らない! 私がいつ助けてって頼んだの!? 私はもう死にたいのよ!」

 

 しかし、それをロビンは止める。彼女は助けて欲しくないし、死にたいと言う。

 そんな悲しいことを……。私は彼女の悲痛な気持ちを感じ取り、胸が痛かった。

 

 そこにルッチやカクを始めとするCP9たちが現れた。

 並んで立つとなかなか壮観だな。ブルーノと同格かそれ以上……。ルッチ、カク、ジャブラ……、この三人は別格で強い……。

 

「わははっ! よく集まった“CP9”! ――だが、もう少し待て! たった今、麦わらの一味が内部崩壊を始めたところだ! さぁて、間抜けな船長はどんな顔をしてあの女を――」

 

 そして、それを取りまとめているすべての元凶である長官のスパンダムが現れてニヤニヤとした表情でルフィの顔を窺おうとしていた。

 

 こいつがロビンを……。私は彼の顔をジッと見て、必ず報いをくれてやると誓う。

 

 そして、ルフィはというと――。

 

「ロビーーーン! 死ぬなんて、何言ってんだァ!? お前!」

 

「鼻をほじるのは止めないか?」

 

 ルフィは鼻をほじりながらロビンの叫びを聞いていた。

 まったく。彼らしいというか。何というか……。

 

「あのなァ! お前! おれ達ここまで来ちまったから、とにかく助けるからよ!! そんでなァ、それでもまだお前死にたかったら、そしたら、その時死ね! 頼むからよ、ロビン! 死ぬとか何とか――何言っても構わねぇからよ! そういうのは、おれ達のそばで言え!!」

 

 ルフィはロビンの意志は放ったらかしで、まずは助けると言い出す。

 これ以上ない直球の言葉に彼女もスパンダムも言葉を失ったみたいだ。

 

「あっはっはっ! そうだな。ルフィ! とりあえず君は助かってから、そういうことを考えたらどうだい!?」

 

 私はルフィの素直というか、自由と言うか、そんな純粋な気持ちが愉快になり、彼に同調した。

 

「キャハハッ! ねっ、言ったでしょう!? この船長にあんたの理屈なんて通じないのよ!」

 

 ミキータも隣に立って朗らかな笑顔を見せる。

 

「そうだぞ! ロビンちゃん!」

 

「ロビン帰って来ーい」

 

 仲間たちも裁判所の屋上まで駆け付けて来てくれて、私たちはズラリと横一列に並んで、CP9と対峙する姿勢で睨み合った。

 

「あとはおれたちに任せろ!」

 

 そして、ルフィは自信に満ちた声で自分たちに任せるように言い放った。

 

 麦わらの一味とCP9はここから全面対決へと移行する――。

 

 ロビンの気持ちを確かめた後に――。

 

 




衝流星(インパクトキャノン)は、名前のとおり衝撃貝(インパクトダイアル)の効果が付与される弾丸です。
強いのですが、使い捨てなのでここぞという場面でしか使えないということで、ライアの当面の切り札になりそうです。


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ロビン救出大作戦

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ここから、CP9との戦いが本格化してきます。
それではよろしくお願いします!


「…………」

 

「おい、お前、何とか――」

 

 私たちの呼び掛けに対してロビンは無言で俯いたままだった。

 フランキーが何やら気まずそうな顔をしてロビンに何かを話すよう促す。

 

「このタコ海賊団! 粋がったところで何も変わらん事を思い知れ! 殺し屋集団“CP9”の強さ然り、“正義の門”の重さ然り、何より今のおれには“バスターコール”をかける権限がある! ニコ・ロビン、20年前にお前の故郷を消し去った力だ! “オハラ”という文字は、翌年の地図から消えてたっけなァ!!」

 

 スパンダムは私たちを挑発するかの如く罵倒してきた。

 そして、“バスターコール”をかけることも出来ることを誇らしげに語る。

 この男は思っていた以上にクズ野郎だな……。CP9の面々も少し引いてるように見えるぞ……。

 

「やめなさい! それだけは! それを押せば何が起こるかわかってるの!? 地図の上から人間が確認できる? あなた達が世界をそんな目で見てるから、あんな非道な事ができるのよ!! バスターコールをかければ、エニエス・ロビーごとあなた達も吹き飛ぶわよ……!」

 

 スパンダムの言葉を聞いたロビンは彼を激しく非難し、バスターコールを発動させればこの場所ごと消えてなくなると忠告した。

 

「何をバカなことを! 味方に消し飛ばされてたまるかァ! 何言ってんだてめェは!?」

 

 スパンダムはそんなロビンの忠告を歯牙にもかけない様子だった。

 しかし、バスターコールをこの男が今かけたら本当にそうなる。何とか対策を考えなくては――。

 

「20年前、私から全てを奪い、大勢の人達の人生を狂わせたたった一度の攻撃が“バスターコール”――!! その攻撃が、やっと見つけた気を許せる仲間達に向けられた……。私があなた達と一緒にいたいと望めば望む程、私の運命があなた達に牙をむく! 私には海をどこまで進んでも、振り払えない巨大な敵がいる! 私の敵は「世界」とその「闇」だから! 青キジの時も――今回も、もう二度もあなた達を巻き込んだ……! これが永遠に続けば、どんなに気のいいあなた達だって、いつか私を重荷に思う! いつか私を裏切って捨てるに決まってる! それが一番怖いの! ――だから助けに来て欲しくもなかった! いつか落とす命なら、私は今、ここで死にたい!」

 

 ロビンの悲痛な叫びは泣き声にも聞こえた。

 彼女を取り巻く環境は想像を絶している――。まさしく闇そのものなのだろう。

 死にたいと言う彼女の悲哀を含むその表情は見ていられないほど痛々しかった――。

 

「ワハハハハ! そりゃそーだ! お前を抱えて邪魔だと思わんバカはいねーよ! あの象徴(バッジ)を見ろ、海賊共! あのマークは、4つの海と170か国以上の加盟国の”結束”を示すもの! これが世界だ! この女がどれほど巨大な組織に追われてきたかわかったか!」

 

 スバンダムが嘲り笑いながら、“司法の塔”の屋上にはためく旗を指さして、世界がロビンのことを追っていると言い放つ。

 

「ロビンの敵はよくわかった。ライア!」

 

「ん?」

 

 ルフィはスパンダムの話を聞いて、何がロビンの敵になっているか理解したと言い、私に声をかけた。

 

「あの旗を撃ち抜け」

 

 ルフィの指示はもちろん世界政府の旗を撃ち抜くこと。世界政府の象徴を撃つというのはつまり――世界に対する宣戦布告である。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど――。

 

「うん。わかった――」

 

 ルフィの言葉に返事をしたとき、私は既に旗を()()()()()()()

 

「――えっ?」

「いつの間に――」

 

 ロビンとフランキーは燃え上がる世界政府の旗を見て驚いた顔をしていた。

 

「――何を見てやがる? ん? はぁァァァ!? バカな!? 海賊達がァーーー!! “世界政府”に宣戦布告しやがったァーーー!! 正気か貴様ら!? “世界政府”を敵に回して、生きてられると思うなよォ!!!」

 

 スパンダムは世界政府の象徴が燃え上がっている様子に少し遅れて気が付いて、大袈裟なリアクションをとる。

 

 世界政府が敵に回る? そんなこと大した話じゃない。

 もっと大切なことが私たちにはあるんだ。

 

「望むところだァーーーーーーーっ!!!」

 

 ルフィはそんなスパンダムに対して喧嘩上等の姿勢を見せる。

 私たちの船長はこういう男だ。だから、みんなして付いていくんだ。

 

「ロビン! まだお前の口から聞いてねェ! “生きたい”と言えェ!!」

 

「…………」

 

 ルフィはロビンの気持ちをもう一度確かめる。

 彼女は涙を流しながら、その言葉を噛み締めているように見えた。

 今まで彼女はどこでも生きることを否定され続けていたから。()()を望んで良いのか戸惑っているのかもしれない。

 

「あとは君が自分に正直になるだけだ! 私は君にこの手を伸ばし続ける!!」

 

 手をロビンに向かって差し出しながら、私は彼女に自分の想いを伝える。

 私だけじゃない。みんな彼女に手を伸ばしているんだ。

 

「――生ぎたい!!」

 

 “生きたい”――その四文字はロビンにとって大きな前進だったのかもしない。

 失うことを恐れて、誰も信じられなくなった彼女は最後の最後で勇気を出して私たちを信じることを選んでくれた。

 

 だったら、私たちがすることは1つだ――。

 

 この戦いに絶対に勝つ! それだけだ――。

 

「行くぞッ!」

 

 ルフィが力強く言葉を吐いたとき、裁判所と司法の塔を繋ぐ跳ね橋が下り始めた。

 さァ、戦闘開始だ――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「もしお前らが先を急いだりしたら、こんな鍵、海に捨てちゃうぞ! チャパパパ」

 

 ココロが動かした“ロケットマン”に飛び乗って命からがら司法の塔に突入した私たちはフランキーと合流した。

 

 そんな私たちの前に現れたのはCP9の1人、フクロウ……。

 彼によるとロビンを拘束している海楼石の手錠の鍵はルッチ以外の5人のCP9の内の誰かが持っているのだという。

 彼らの持っている5本の鍵の内の1本が本物なのだそうだ。

 

 そして、CP9を無視してロビンの奪還を急いだりしたら、海に鍵を投げ捨てると彼は私たちを脅してきたのである。

 

 

「ルフィ、お前はとにかくハト男をブッ飛ばせ! ルフィを除いておれたちは7人。――ここに5人いるCP9から5本の鍵を手に入れて、ルフィを追う」

 

 サンジは瞬時にこの状況から出来る最善手を考え、私たちにこれからするべき行動を伝える。

 この判断力の早さは素晴らしい。

 

「ロビンが正義の門に連れて行かれる前にすべてを終わらせなくてはならないな。タイムロスは出来ない……」

 

 私はサンジの意見に頷きながら、時間があまりないことを強調した。

 

「敗けは許されねェ!」

 

 ゾロはだからこそ敗北だけはしてはならないと言う。

 そのとおり、負ければそれだけ時間を浪費してしまう。

 

「「絶対に勝つ!」」

 

 私たちは勝利を誓い合って走った。

 

 ルフィはルッチに向かって一直線に進み、フランキーはコーラを補充すると言って、それを探しに先に私たちと別れた。

 

 そして、残った私たちは――。

 

「うーん。そっちと、あっちに特に強い気配を感じる……。あとの3人はブルーノと似たりよったりの実力だな……」 

 

 私はカクとジャブラの居る方向を指さして、それとなく伝えた。

 

「「強い奴の気配?」」

 

 するとゾロとサンジが同時に私の言葉に反応する。

 

「おもしれェ! おれはあっちに行くぞ」

 

「けっ、張り切って負けんじゃねェぞマリモ頭! じゃあおれはそっちに――」

 

 ゾロとサンジはそれぞれカクとジャブラのいる方向へと駆け出す。

 

「ちょっと、ライア! 弱い気配はどっちなのよ!」

 

 そんな私を見て今度はナミが妙な質問をしてきた。

 いや、弱い気配って……。

 

「はぁ? 弱い気配なんてないよ。みんな強いって。CP9なんだよ?」

 

 私はナミの質問に真剣な顔をして答える。

 CP9は強い上に全員が悪魔の実の能力者。故に弱者などいない。

 

「ちょっとでも実力が下の奴とかいるでしょ?」

 

「まァ、強いていえば……、こっち側のカリファかなァ――?」

 

 それでも、引き下がらないナミに対して私は1番実力が劣っていると感じたカリファの名前を出した。

 ただ、力が小さいからと言って弱いとは限らないのがこの世界の常識。油断だけはしてはならない。

 

「あの秘書だった奴ね。――そうだ。良いこと考えた――」

 

「ん?」

 

 ナミはカリファの名前を聞いて悪い笑みを浮かべた。何か背筋がゾクッとしたぞ……。

 

「じゃあ、私とあなたはこっちよ」

 

 そして、ナミは私の手をグイッと引っ張ってカリファのいる方向に向かおうとする。

 

「わ、私もなのかい?」

 

「そりゃ、そうよ。その体で強い奴と戦えないでしょう?」

 

 彼女はブルーノ戦での負傷を理由に2人で行動することを提案してきた。

 まァ、確かにこの状態でCP9を1人で倒すのは難しそうだけど……。

 

「キャハッ……、仕方ないわね。だったら、私はこの地下に行ってみるわ」

 

「おれは向こうにいくぞ!」

 

 ミキータとチョッパーも各々が動く方向を決めて、私たちは分散した。

 

 

 

 

 

「あら? この部屋にはあなた達が来たのね……」

 

 ナミと私はカリファが待ち受けている部屋にたどり着いた。

 カリファは確かアワアワの実の能力者だったな。泡で包まれると力が抜ける上に上手く動けなくなるんだったっけ?

 

「カリファ! 鍵を渡してもらおうか! さもなくば――!」

 

 私はさっそく銀色の銃(ミラージュクイーン)を構えて、カリファを睨みつける。

 しかし、ナミがいきなり私を小突いてきた。

 

「ライア! あなた、その体で戦いなんて無理よ!」

 

「痛っ……! うっ……! ナミ?」

 

 ナミは痛がる私の肩を組んで、耳元に口をあてがった。

 

「どうしたの? 戦わないのかしら? それとも仲間割れ?」

 

 カリファは私とナミがモタモタしている状況を見て、不思議そうな顔をしている。

 

「――今から、この紙に書いている通りの行動を取りながら、このセリフをカリファに向かって言ってきなさい……」

 

「な、なんで? こんな恥ずかしいことを……?」

 

 ナミはこっそり私にメモを手渡して、指示どおりに動くように伝えてきた。

 えっ? 何の意味があって、そんなことを?

 

「ロビンを助けるためよ。ていうか、いつも言ってることとそんなに変わらないじゃない。さぁ、早く……」

 

「うう……、わかったけど……。こんなこと言って何になるんだ?」

 

 ナミがあまりに自信満々な態度だったので、私は渋々彼女に従うことにした。

 こんなことして、大丈夫なのかな?

 

「あなたがブルーノを倒したみたいね。驚いたわ。海賊が六式使いを倒すなん――」

 

「そんなことより、君と見つめ合っていたいのだが……。いいかな?」

 

 私はカリファに近づいて、まずは彼女の目を真っ直ぐに見つめてメモに書いてあるとおりのセリフを言った。

 

「――ッ!? 何を急に! せ、セクハラですッ!」

 

 するとカリファは顔を赤らめながら、目線を逸らす。

 おかしいな。本当に攻撃してこない。なぜだ?

 

「率直に言うよ。君が欲しい。私のモノになってくれ。カリファ」

 

 さらに彼女に近づきながら私はメモにあったセリフを言う。

 彼女との距離はもう目と鼻の先――というか、私が近づくたびに彼女が引き下がるから、カリファは壁を背にして目の前に私がいるという状況になっていた。

 

「あ、あなた正気なの? さっきまで仲間を取り返そうとしていたじゃない……」

 

「――良いじゃないか。そんなことはどうでも。照れてるのかい?」

 

 顔を真っ赤にしてたじろいでいるカリファの後ろの壁に右手を押し当てて、私は彼女に顔を近づけた。

 ふむ、これはどういう状況なのだ? 何かすごく悪いことをしているような気がするぞ……。

 

「な、何のつもり……? ふざけるのもいい加減に――。むっ……」

 

「なんだ、強気な人だと思っていたけど、可愛いところもあるじゃないか。見かけと違って意外と初心(うぶ)なんだな。君は……」

 

 左手の人差し指でカリファの唇を塞ぎながら私は彼女にそう声をかける。

 どういう訳か分からないが、彼女はそのまま固まってしまった。

 

「じゃあ、まずはその唇を貰おうか……。さァ、目を閉じて……」

 

 私は左手で彼女の顎を触りながら、目を閉じるように命じる。そんなことを言って本当に敵を目の前にして目を閉じるヤツが――。

 

「――えっ? ――んっ……」

 

 あれ? 本当に目を閉じたぞ? 何これ? ナミが催眠術でも使っているのか?

 私の頭の中には“?”がいっぱいになっていた。

 

「いい子だ。へぇ、髪もきれいに手入れしてるんだね。触り心地がいい。肌もきれいだね」

 

「…………そ、そんなとこ。触らないで……。は、恥ずかしい……」

 

 右手で髪を撫でながら、徐々に背中に手を回し、彼女の持っている鍵を探す。うーん。手探りだから見つけにくい……。

 それを察したのか、ナミもこちらに来て一緒に鍵を探す。

 

「目を開けちゃダメだよ。ほら、ジッとしてて」

 

「んっ……、くすぐったいわ……」

 

 私は目を閉じることを強制しながら、何とか鍵を見つけようとするけど見つからない。

 ナミもカリファの体中を弄りながら、鍵を見つけようとしているが、成果は芳しくないようだ。

 

「す、すごい。まるで手が4本あるみたい……」

 

 いや、本当に4本の手で触っているんだけど……。この人天然なのかなァ?

 というより、なんで目を開けないんだ? めちゃめちゃ不審な状況だぞ……。

 それにしても見つからないな。あと、探してないところと言ったら――。

 

「――ちょっと……、どこよ! もう! じれったいわね!」

 

「おい! ナミ! さすがに()()は!」

 

 ナミがイライラを顕にしながら、カリファの✕✕✕の中を探そうとしたので、私は大声でそれを止めようとした。

 そ、そんな恥ずかしいところを躊躇いなく探そうとするなんて――。

 

「「あっ……!」」

 

 そして、私とナミは大声を出したことをお互いに意識して顔を見合わせて沈黙した。

 

「…………騙したの?」

 

 さすがにカリファも異変に気付いて私とナミを凄い形相で睨みつけてきた。

 やっぱり、こんな方法で何とかなるわけないじゃないか!

 

 まさに一触即発……。私とナミはカリファと戦闘を開始した――。

 




書き終わって読み返してみると色々と酷い……。
カリファが原作よりも5割増くらいアホっぽくなってしまいました。これはライアの能力の結果なのかもしれません。
ということで、カリファ戦の決着は次回に持ち越しです。


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VSカリファ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
前回、やらかしてしまったライアとナミがカリファと戦います。
今回の話はそれだけなのですが、前回の後半と合わせると過去最長の戦闘になってしまいました。
長いですが、エニエス・ロビーでの戦闘のメインなので、よろしくお願いします!


「女心を弄んで、利用する。なるほど、これがレディキラーの手口ッ!――許せない!」

 

 カリファは強い敵意と怒りを見せて、私たちを睨みつける。

 あれ? さっきより強さ増してない? ブルーノよりも強くない?

 

「いや、その、これはナミが……!」

 

 私は意味がないことはわかっていたが、つい、自己弁護しようとした。

 しかし、それをナミは許さない。

 

「そうよ! 泣かせた女は数知れず! 騙されたヤツが悪いってコイツは反省なんかしないんだから!」

 

「ええーっ!」

 

 なんと、ナミはカリファの言うことを全肯定して、私を完全な悪者にしてしまった。

 

 

「くっ、やはり……! もう少しで身も心も奪われてしまうところだったわ……。危なかった……」

 

 カリファは自分の胸を抱きしめながら、身震いしていた。

 あれでそんなに危ない感じになってたんだ……。

 

「諜報機関の人間がそれじゃダメなんじゃないかな?」

 

「むっ……! ぶ、無礼者! ――“嵐脚(ランキャク)”!」  

 

 思わず口走ったセリフがカリファの逆鱗に触れたらしく、彼女は“嵐脚(ランキャク)”で私を攻撃する。

 

斬撃貝(アックスダイアル)で……、うっ……!」

 

 私は“嵐脚(ランキャク)”を斬撃貝(アックスダイアル)で受け止めようとするが、先程の戦いの負傷のせいか、体が上手く動かずにまともに攻撃を受けてふっ飛ばされてしまった。

 

「あなた、やっぱりさっきのダメージが!?」

 

「ブルーノと戦った直後に私と戦おうなんて無謀なのよ。だから、あんな手を使おうとしたんでしょうけど……。私はあなたを許さない!」

 

 カリファは吐き捨てるような口調で許さないと言う意思を表して、“嵐脚(ランキャク)”で続けざまに私を攻撃する。

 

「ぐあっ……! はぁ、はぁ……、なんかこっちが悪者のような……。ああ、でも私たちが海賊なんだからそれで合ってるか。ははっ……」

 

「笑ってる場合か! こうなったら、あなたに改良してもらった、この完成版天候棒(パーフェクトクリマタクト)で!」

 

 私が勝手に納得して笑ってると、ナミは先日ミキータの武器と一緒に作って渡した完成版天候棒(パーフェクトクリマタクト)を手にして応戦する姿勢を見せた。

 

「ああ、それを使うのか……。出力の調節には気を付けてくれ――」

 

 完成版天候棒(パーフェクトクリマタクト)は強力だが、下手をすれば自分たちをも巻き込んでしまう可能性もある。

 だから、扱いが非常にデリケートな代物なのだ。

 

「――月歩(ゲッポウ)! しなる指銃(シガン)・“(ウィップ)”ッ!」

 

「キャッ! 痛いわねェ! でも、雷雲は出来てる! 行くわよ! サンダーボルト=テンポ!」

 

 カリファの攻撃がナミに命中したが、ナミもいつの間にか雷雲を作っており、完成版天候棒(パーフェクトクリマタクト)を利用して落雷を発生させる。

 

「やった! 大成功!」

 

 雷撃は見事にカリファに直撃して、ナミはガッツポーズして喜んだ。

 

 だが――。

 

「いや、効いてない……! 君は……、悪魔の実の能力者だね……」

 

「そう、私は“アワアワの実”を食べた“石鹸人間”!」

 

 泡を纏ったカリファが無傷の状態で出てきた。

 あの雷撃を受けて無事とは……。

 

「雷の電撃をも絶縁するほどの泡を纏うとは……!」

 

「わぁ、色っぽい! こんな秘書がいたら正直嬉しい! ――って、おっさんか! 私は!」

  

 私が真剣に彼女の防御を分析していたら、ナミはよく分からないテンションで一人ノリツッコミをしていた。

 

「そして! “石鹸羊(ソープシープ)”!」

 

「あんた、バカじゃないの?」

 

 カリファはさらに大量の泡を纏って羊のような格好になり、ナミはそれに悪態をつく。

 

「ふふっ、見かけに――」

「か、可愛い! 可愛いよ! 羊みたいで!」

 

 そんなカリファの姿がとても可愛らしかったので、つい私は本音をポロッと吐いてしまった。

 

「えっ? そ、そんなに可愛いかしら? だ、ダメ! 気をしっかりと持たないと!」

 

「うん! なんか癒やされるな。君を見てると――」

 

 カリファの怒りの表情が少し和らいだ気がするが、それは気のせいみたいだ。

 だけど、なんか癒やされるな……。

 

「――せ、セクハラよ……、そんなの……。また、どうせ騙すんでしょう!?」

 

「あ、あれ? 何? この空気……」

 

 カリファの様子がおかしくなったのをナミは察して、首を傾げる。

 

「ごめん。君の心を傷つけるつもりはなかったんだ。確かに君は倒さなきゃならない敵だけど……、さっきみたいなやり方は間違っていたよ……」

 

 私は一応、悪いことをしていた気にはなっていたので、それについては謝っておいた。

 

「き、気にしてないわ……。じゃあ可愛いと言ってくれたのは本心なのね……?」

 

「ちょっと、今から戦うんじゃ?」

 

 変な質問をするカリファにナミは呟くようにツッコミを入れる。

 

「えっと、まぁ本心だけど――」

 

「良かった……。嬉しいわ――」

 

 

 私がカリファの問いかけに答えた刹那――彼女の人差し指は私の胸を貫いていた――。

 

 

「――ぐはぁッ……」

 

「ライア? えっ、うそ……!」

 

 私の胸から鮮血が吹き出し、ナミは青ざめたような表情でこちらを見ていた。

 

「――痛かったかしら? ごめんなさい……。でも、決めたの。あなたを……、持って帰るわ。串刺しにしてキレイなオブジェにするの……。ふふっ……。 ――“ゴールデン(アワー)”」

 

 カリファは血まみれの私を背中から優しく抱きしめながら恐ろしいことをささやき……、私の全身に泡を付着させた。

 

「あうう……、力が抜けて……」

 

 全身がツルツルで丸みを帯びた状態になった私は立っていることが出来なくなって、その場に倒れた。

 

「うふふ……、キレイになったわ。どこに飾ろうかしら?」

 

 カリファはそんな私を満足そうに眺める。

 

「趣味の悪いこと、言ってんじゃないわよ!」

 

「“(ソル)”ッ! “嵐脚(ランキャク)”ッ!」

 

 そんなカリファに対してナミは雷を帯電した完成版天候棒(パーフェクトクリマタクト)を叩きつけようとするが、簡単に躱されて、逆に攻撃を加えられてしまう。

 

「くッ!」

 

「トドメよ! “指銃(シガン)”ッ!」

 

「“蜃気楼(ミラージュ)=テンポ”ッ!」

 

 カリファがナミにトドメを刺そうと攻撃を繰り出したが、それは空を切る結果になった。

 

「に、偽物ッ!? 何!? どういうこと!?」

 

「こっち、こっち!」

 

 完成版天候棒(パーフェクトクリマタクト)によって発生させた蜃気楼で分身を作ったナミはカリファを見事に翻弄していた。

 

「このッ! くっ……! 焦れったい! 私の愛憎の力を爆発させてあげるわ! 羊雲・大津波(タイダルウェーブ)ッ!」

 

 そんなナミに怒りを向けたカリファは大量の泡を津波のように繰り出して、すべてを飲み込もうとする。

 

「“サイクロン=テンポ”ッ!」

 

「風で吹き飛ばすというのは考えたわね! でも、まだまだ! 溢れ出す泡の力! 羊雲・大噴火(ボルケーノ)!」

 

 ナミは見事に泡の津波の一部を風で吹き飛ばすことに成功し、そこから脱出しようとしたが、カリファは体中から無差別に泡を吹き出し続けて結局ナミを捕らえてしまった。

 

「部屋が――泡で溢れる!? くっ……!」

 

「あはははっ! もっと、もっと溢れ出しなさい! とぉーってもいい気分よ!」

 

 高笑いするカリファからは絶えずに泡が吹き出しており、部屋の中は泡だらけになる。

 

「ち、力が……」

 

「あらら、君もお揃いになっちゃったね……」

 

 ナミも私と同様に全身がツルツルになってしまい、体の起伏もなくなり、私の隣に倒れてしまった。

 

「相変わらず、呑気な顔して……。あなたが1番ピンチなのよ? あの人、あなたをオブジェにして持って帰るって言ってるんだから」

 

「1番ピンチも何も……、この戦いで負けたら全員死ぬ。それを怖がっても、何も生まれないだろ?」

 

 ナミはムッとしたような口調で私がピンチだというが、そんなのは関係ない。

 どっちみち敗けたらその時点でアウトなんだから、今やるべきことはそれじゃない。

 

「何か手はあるのね?」

 

「どうやら、この泡に触れると脱力状態になり、力が抜けるらしい……。その上、体中がツルツルで、立ち上がることもままならない」

 

 ナミは私が作戦を立てていたことを理解して話を聞こうとしてくれたので、私はまずはこの泡の性質について彼女に話した。

 

「うん。さっきから力を入れても全然ダメ……」

 

「体中を覆っている泡が原因なら、それを洗い流せば動けるはずなんだ。その証拠に血によって泡が洗い流された肩の一部分だけは他の箇所よりも力が入る」

 

 そして、この泡を流すことが出来れば元通り動けることを話した。

 状況を逆転させるには、まともに動けなくては話にならない。

 

「そっか、水を浴びれば……。でも、こんな体じゃどうしようも……。それに一面泡だらけだから、洗い流しても直ぐに泡まみれになっちゃうんじゃない?」

 

 ナミは納得しかけたが、カリファが絶え間なく泡を大量に放出出来ていることに触れて、直ぐに元通りになるのではと、指摘した。

 

 確かに今のカリファは普通じゃない。多分、漫画ではあんなに泡を大量に放出出来なかったはずだ……。

 

「そうだね。ちょっと雨を降らせるくらいじゃ足りないと思う……。だからこそ、時間が欲しい……。カリファを足止めして、すべてを吹き飛ばすんだ。君と私で……」

 

 私はカリファの足止めさえ出来れば状況を打破できると話した。

 

「――ライア……、それは……!? うん。わかったわ! 私に良い考えがある」

 

 ナミは私の案がどんなものか話さずともわかったらしい。

 そして、カリファの足止めについて考えがあると、また悪い笑みを浮かべる。

 

「ふぅ、またその顔か……。さっき、その良い考えとやらのせいでカリファがあんな風になったというのに……」

 

「もー、根に持つんだから。大丈夫よ。一瞬、私たちが動けるようになればカリファは沈黙する」

 

 私の愚痴に対してナミは自信満々の態度でそう返した。

 

「ふむ、そんなに自信満々なら信じるよ。どのみち、この体じゃあどうにもならないし……」

 

 ナミがここまで言うのなら是非もない。どのみち彼女の作戦に乗っかるしかないと思った私はナミを信じることにした。

 

「相談は終わった? 正直言ってあなたたちには感謝してるのよ。私って今までこんなに怒ったこともなければ、憎んだこともなかった。怒りや憎しみが爆発するとこォんなに強くなれるなんて知らなかったわ……」

 

 カリファは急激な能力のパワーアップに興奮してるみたいだ。

 確かに悪魔の実の能力は鍛えれば汎用性が増すから、能力者になりたてのカリファの能力は漫画ではそんなに強い方じゃなかった。

 

 でも――。

 

超人系(パラミシア)の覚醒……、とまではいかないけど……。似たような能力者のMr.3を遥かに上回る出力……」

 

 一度に繰り出せる泡の量、その出力はかつて対峙した敵をも凌駕しており、カリファは厄介な敵へと変貌している。

 

「泡で埋め尽くしてやる! メガヒット泡怒(アワード)!」

 

 今度は足元から四方に泡を噴射して、部屋を泡のプールに変えようとしてきた。

 

「くっ、このままだと泡で溺れてしまう……」

 

 どんどん室内の泡のかさは増してきて、私たちは半分泡に浸かった状態になっている。

 

「でも、何とか……、あいつが余裕ぶっこいてくれたおかげで、何とかクラウディ=テンポで雲を大きくすることが出来たわ。これに冷気泡(クールボール)ぶつけて――」

 

 ナミはそんな中、冷静に雨雲を作っており、雨を降らせる準備をしていた。泡のせいで最低限しか体も動かせないのによくやってくれた――。

 

「無駄な抵抗よ! “指銃(シガン)”ッ――!」

 

「――痛ッ! でも――天候は“雨”よ……! “レイン=テンポ”!」

 

 カリファの“指銃(シガン)”はナミの右肩を貫いたが、彼女の行動は間に合っており、スプリンクラーのように私たちの頭上から雨が降り注いできた。

 

 よし、何とか復活出来た――。

 

「あらあら、涙ぐましいわね……。こんな雨で泡を洗い流したところで意味はないわ……! ドラゴン(アワー)! この巨大な泡の龍であなたたちを飲み込んであげる」

 

 カリファは私たちの復活を鼻で笑って、とんでもない大きさの泡の龍を作り出し、こちらに放とうとした。

 

「ライア! 立ち上がって、ここに来なさい」

 

「あ、ああ。わかった……。でも、何を?」

 

 ナミは私に指定の場所に立つように指示したので、私はそれに従う。

 

「カリファ! これから、あなたを夢の世界に招待するわ!」

 

「何を訳のわからないことを! 私を怒らせたことを悔やむがいい! な、何? こ、これは……!?」

 

 ナミが完成版天候棒(パーフェクトクリマタクト)をひとふりすると、カリファの周りに4つの蜃気楼が現れて、彼女は困惑したような、ボーッとしたような表情となった。

 

「これは、蜃気楼? それも私の姿を映した……」

 

 そう、ナミが繰り出したのは4つの私の姿をした蜃気楼――。

 カリファは顔を赤らめてキョロキョロ周りを見ていた。

 

「名付けて! “逆ハーレム=テンポ”!」

 

「いやいや、どういう意味だい?」

 

 ナミの言っている意味がわからなかった私は彼女にツッコミを入れた。

 

「…………ぼーっ」

 

「早くこの隙に()()の準備をするわよ!」

 

「わかってる。どこを狙えば良いのかな?」

 

 確かにカリファはどういう訳か惚けた顔をして動かなくなっていた。

 だから、私たちは次なる作戦行動に移ることにした。

 

「そこと、あそこと、そして、向こうよ……」

 

「了解!」

 

 ナミの指示にしたがって私は特殊な弾丸を放ち、さらに(ダイアル)を設置する。

 

「――はっ! 私としたことが、幻になんてだらしない顔を!? もう許さない! ドラゴン(アワー)!!」

 

 作戦の準備が終わったとき、カリファはようやく意識を取り戻して、私たちに向かって巨大な泡の龍を放ってきた。

 

 でも、もう遅い。作戦は完了した――。

 

「「天候は“暴風雨”! “ストーム=テンポ”!!」」

 

 私とナミは声を揃えて、大技の名前を言い放つ。

 ナミが完成版天候棒(パーフェクトクリマタクト)をブンブンと振り回すと、爆風と共に嵐と言っていいくらいの大雨が室内に吹き荒れた。

 

「な、何ッ! どうなってるの!? きゃあッ」

 

 巨大な泡の龍は四散して、カリファは爆風によって大きく吹き飛ばされる。

 

「お、思ったよりも風が強い……! あっ……!」

 

「ナミ! 掴まれ!」

 

 その風はナミも私も吹き飛ばそうとしてきたので、私は強力な吸盤の付いた手袋を使って壁に右手を貼り付けて、ナミの手を左手で掴み、彼女を抱き寄せた。

 

「ライア! えっと、その……」

 

「私を離すんじゃないぞ。そのまましがみついていろ!」

 

 ナミはどういう訳か、私の腕の中で顔を赤らめていたが、そんなことを気にはしていられない。

 自分たちの放った技で吹き飛ばされるなんて、間抜けな話にはしたくない。

 

「うん……。あ、ありがと……」

 

 ナミは小さな声で礼を言って、私をギュッと抱きしめてきた。

 いや、そこまで強くしがみつかなくても、大丈夫だと思うけど――。

 

 そして、私たちは何とか暴風雨をやり過ごすことが出来た。

 

 

「それにしても……、酷い有様だ……。何もかもが流されて……。あれ? カリファは?」

 

「あっ! さっき飛ばされてそこの窓を突き破って下に落ちちゃってたわ!」

 

 部屋の中の惨状を見て、私は室内にカリファが居ないことを指摘すると、ナミは彼女が窓を割って外まで吹き飛ばされたと言ってきた。

 

「な、なんだって!? そこの下は海じゃないか! 早く助けないと、鍵が!」

 

「えっ!? ライア!?」

 

 私はロープで自分の体を結んで、下の海に向かって飛び込もうとした。

 

「大丈夫! 命綱つけてるから!」

 

「そういう問題じゃ……!」

 

 ナミは何か言いたげだったが、時は一刻を争う。

 私は海に向かってダイブした。

 

 

 

 

「う〜〜ん! スーパー!」

 

「た、助かったよ。フランキー……」

 

 フクロウを倒したという、フランキーがちょうどこちらを通りかかってくれたので、彼にロープを引っ張ってもらって、カリファとともに私は引き上げられた。

 

「良いってことよ! それにしても随分と派手に争いやがったみてェだな! カリファがまさかこんなに強かったなんて知らなかったぜ……!」

 

「いや、それは……」

 

 フランキーは部屋の有様を見て、激戦だったのだと感じ取ったのだろう。

 しかし、激戦になった理由が間抜けすぎるので、私はあまりそれには触れたくなかった。

 

「うっ……、うん……。――はっ!? 私は海で溺れていたはず……!? ――そ、そうだ! レディキラー、お前はなぜ私を助けた!?」

 

 カリファは意識を取り戻したみたいだが、戦意はなくなっており、私に自分を助けた理由を聞いてきた。

 

「そんなの当たり前だろ! 大切なモノを無くす訳にはいかないじゃないか!」

 

 私はロビンを助けるために必要な鍵を無くす訳にはいかなかったので、そう答えた。

 

「えっ――大切? そこまで私を――!? あ、あなたを殺そうとしたのに……、どうして?」

 

「そんなこと君を助けた理由と何も関係ないよ。どうしても必要なんだ。私には、ね……」

 

 そりゃあ、カリファには殺されかけたけど、そんなのロビンを助けることと何も関係ない……。

 

「――ッ!? ま、敗けたわ……。心も何もかも奪われてしまった……。はぁ……、こんな気持ちになるのも――初めてよ……」

 

 カリファは観念した表情で敗けを認めてくれた。

 よし、再戦なんてしなくて良いんだな……。

 

「そ、そうか。敗けを認めるなら遠慮なく……」

 

「そうね。私たちには時間が無いもの……」

 

 私とナミはカリファの隠してる鍵を彼女の体から見つけ出そうと動き出す。

 

「えっ!? いきなり、そんな!? あ!

そ、そこはダメ……! ーー―ーッ!?」

 

「や、やべェ……! な、何かに目覚めちまいそうだぜ……!」

 

 私とナミが手荒い身体検査をしていると、側でその様子を見ていたフランキーがサムズアップのポーズを取りながら、どういう訳か興奮気味になっていた――。

 

 大きなトラブルは起きたが、何とかカリファの持っている鍵を手に入れた。フランキーも鍵を持っているので、残す鍵はあと3つ。

 今のところバスターコールはまだかかってないけれど……。

 私は少しだけ焦りを感じながらも他の仲間の様子を見に行くためにこの部屋から出ていった――。

 

 ロビン! 必ず君を助けるからな!

 




カリファを強くしすぎたせいで色々と大変でした。
最後はライアらしい締め方が出来たと思います。
フランキーは良いものが見られて羨ましい……。


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奪還

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
そろそろウォーターセブン編も終了が近付いてきました。
クライマックスをぜひご覧になってください!


「勝手に動きやがってこのクソマリモが!」

 

「ああん!? てめェが余計なマネをするからだろうがアホコック!」

 

 カクとジャブラと戦っていたはずのサンジとゾロは何故かお互いに手錠で繋がれて言い争いをしていた。

 えっ? 何があったの? 手錠を使おうとして失敗したのか?

 

「君たち、なんで手錠で繋がれているんだい?」

 

 私は妙な状態になっている2人に率直な疑問を呈した。

 

「話せば長ェが、このマリモ野郎が全部悪ィ」

「ンだと! そもそも、お前がんなモンを拾ったのが――」

 

 お互いにお互いが悪いと譲らない2人。サンジとゾロはいつもこんな感じだよなー。

 

「というか、CP9はどうしたのよ」

 

「あそこで倒れてやがるのが、それじゃねェのか?」

 

 そんな2人の言い争いを呆れ顔で見つめていたナミの疑問にフランキーが答える。

 あっ、本当だ……。カクとジャブラが2人とも倒れている……。

 この2人は手錠で繋がれているのに――。

 

「まさか、手錠で繋がれた状態であの二人を倒したのか? 一体、どうやって……」

 

「そんなことよりライアちゃん。2番の鍵を持ってねェか? 一刻も早くこいつと離れてェ」

 

 私はとんでもないことをやってのけた2人に驚きを隠せずにいると、サンジが2番の鍵を持ってないかと質問してきた。

 

「ああ、2番なら私たちが手に入れたヤツだ」

 

 私は自分の持っている鍵でサンジとゾロの手錠を外した。

 この手錠って海楼石なんだよな……。すぐに加工するのは難しいかもしれないが、せっかくの海楼石だ。

 どこかで役に立つかもしれないから持っておこう。

 

「助かったぜ。ふぅ、清々した……」

 

「これで残す鍵はあと1つだけど――」

 

 スッキリした表情をしている2人を見て、私は残り1つの鍵について気にかけた。

 

 すると――。

 

「刻蹄・桜吹雪ッ!」

「一万キロJETスイングッ!」

 

 チョッパーの必殺技と、完成版(パーフェクト)キロキロパウンドに仕込んだ、噴射貝(ジェットダイアル)を利用したミキータの最大の切り札が炸裂したようで大きな音が下の方から聞こえた。

 

 ちなみに噴射貝(ジェットダイアル)はワイパーがゲダツを倒したときに手に入れたものを譲ってもらった。私も1つだけ持っている。

 

「――ッ!? げハァッ――!!」

 

 床を突き抜けてCP9のクマドリが吹き飛んで来て白目をむいて倒れる。

 

 程なくして、チョッパーとミキータが私たちの元にやってきた。

 

「なんだ、チョッパーとミキータちゃんは一緒に戦ってたのか……」

 

 ボロボロになった体で現れたチョッパーとミキータを見たサンジは、彼らに声をかけた。

 

「勝ったぞォ!」

 

「キャハハッ! うずめないで、ぶっ飛ばしちゃったわ!」

 

 ダメージは大きそうだけど、2人とも満足そうな顔をしてるなァ。

 チョッパーも暴走せずに勝てたみたいだし、何はともあれ良かった。

 

「思ったよりもスムーズに鍵は集まったな。あとはロビンに届けに行くだけ――」

 

 かくして、5人のCP9は私たちによって倒されすべての鍵を手に入れることが出来た。

 そして、これからの動きを考えようとしたとき、最悪はやってくる――。

 

『よりによって! “バスターコール”をかけちまったァ〜〜っ!』 

 

 響き渡ったのはスパンダムの声だった――。

 やはり、漫画と同様にバスターコールをかけたようだ。

 もしかしたら大丈夫とか思っていたけど、大丈夫じゃなかった。

 

『バカな事を! 今すぐ取り消しなさいっ!』

 

『バカ言え! “バスターコール”――結構じゃねェか! そもそも侵入した海賊共を止められねェ能無しの兵士共など死んだ方がマシだ! バカ野郎!』

 

 そして、その後響き渡ったのは聞くに堪えないスパンダムの身勝手な主張だった。

 まったく、正義の役人が聞いて呆れるよ……。

 

『全員島を離れて! エニエス・ロビーに“バスターコール”がかかった! 島にいたら誰も助からないわ!』

 

 ロビンは島中の人間に逃げるように忠告した。

 まぁ、そうしないと本当に何もかもが破壊されて、命がなくなってしまうからな……。

 

「やれやれ、こりゃあのんびりしてられないよ」

 

「みたいね。当然、ロビンは救出するとして――」

 

「ここからの脱出方法を考えなきゃならねェな」

 

 ナミとサンジは私の言葉に続いてこれから為すことを相談しようとしていた。

 そう、ロビンを奪還して全員で脱出する作戦を練らなきゃならない。

 しかも、漫画と大きく違うのはメリー号の奇跡は起きないということだ。

 

 メリー号には伝わっているはずだ。私が一緒にシロップ村に帰りたいと望んでいることを……。

 だから船の命を散らすような無茶をする訳が無いし、そんなこと起きてほしくない……。

 

「しかし、どーすんだ? 適当に船とか掻っ払うか?」

 

「キャハッ! 軍艦10隻からそれで逃げ切れるかしら?」

 

 ゾロの意見は悪くないけど、ミキータの懸念も尤もだ。

 軍艦だらけのところから逃げ切るのは容易なことじゃない。

 

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

 

「作戦はある。いや、作戦というより、ギャンブルみたいな策なんだけど――」

 

 チョッパーが不安そうな顔を見せたところで、私は作戦を話した。

 かなり危険というか不安が付きまとう作戦だけど……。ガレーラやフランキー一家も含めて全員無事に、となるとこれしかない!

 

 

「スーパーじゃねェか! おもしれェ! そういうことならおれも協力するぜ!!」

 

 フランキーは作戦を聞いて興奮した表情でいつものポーズを決めた。

 彼が協力してくれるととても助かる。

 

「こんなに小せェ(ダイアル)で、そんなことがねェ……」

 

 ゾロは手渡した(ダイアル)を見て首を捻っていた。

 確かに不安なのはわかる……。

 

「キャハハッ! 任せなさい! 私が戻ってくるまでに準備は済ませとくのよ!」

 

 そして、乗り物といえばミキータの協力は不可欠だ。

 今回の作戦も彼女の能力ありきで考えている。

 

「じゃあ、ロビンの救出はライアとミキータに任せるとして、私たちは脱出の準備を――」

 

 ロビンの救出には私とミキータが向かう。

 魔法少女(マジシャンガール)モードを利用して空から救出に向かうのだ。

 遠距離からの攻撃が得意な私なら、いち早くロビンをフリーにすることが出来るだろう。

 

「うん。みんなで生きて帰ろう!」

 

「「おう!」」

 

 私たちは全員無事に脱出することを誓い合って、行動を開始した。

 ロビン、今から迎えに行くぞ……!!

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「オハラの戦いは幕を閉じる! オハラは敗けたんだ!!」

 

「まだ私が生きている!」

 

 ためらいの橋でスパンダムはロビンを“正義の門”まで連行しようとしたが、ロビンはそんな彼に必死で抵抗していた。

 

 その奥では“正義の門”がバスターコールを受け入れるために全開になっている。

 やはり、のんびりはできない!

 

「そのお前が死ぬん――! ――ポガバッ!!」

 

「そうだ。まだ、君が生きている! 何も終わっちゃいない!」

 

 私は錆色の超弾(ボンバーブレット)でスパンダムの口を狙い撃ちして、彼の口元を爆破する。

 こいつの話すことは一言も聞きたくない。

 

「――ッ!? ら、ライア!!」

 

「ふふっ、初めて名前で呼んでくれたね。ロビン……。よく頑張っ――ッと……」

 

 ロビンが私の名前を呼んで、勢いよくこちらに飛びついて来たので、私は彼女を抱きとめる。

 

「――ぐすっ……。信じてた……。あなたが来るのを待っていた……」

 

 彼女は泣きながら私を待っていたと言ってくれた。

 そっか。信じてくれて嬉しいな……。

 

「ありがとう。信じてくれて――」

 

「うん……」

 

 私は泣いている彼女の頭を優しく撫でて、信じてくれたお礼を言った。

 緊張の糸が解れたからなのか、いつもと雰囲気が違うな……。なんか、随分と甘えてくるというか……。

 まぁ、背負ってたモノが大きかったんだし、そうなっても仕方ないか……。

 

「キャハッ……、あのさ……、イチャついてるところ悪いんだけど、私も来てるんだけど……」

 

「…………」

 

 そんなロビンにミキータがジト目で声をかけると、ロビンはハッとした表情をして顔を赤くする。

 

「わかりやすく照れてんじゃないわよ。ほら、手錠を外すわ。こっちに来なさい」

 

 ミキータは持ってきた手錠の鍵をロビンに見せて、手招きした。

 

「ミキータ……、あのとき海列車で言葉をかけてくれたから……、みんなを信じる勇気を持てたわ……」

 

「バカ……、素直なあんたなんて気持ち悪いじゃない。ほら、手錠が外れたわよ。ロビン……」

 

 ロビンがミキータのひと言に励まされたと言うと、ミキータは少しだけ照れたような声を出して、彼女の手錠を外した。

 

 そんなやり取りをしていると、ロビンを完全に奪還したことを護送船の近くに待機していた海軍の連中が気づき、こちらに向かって走ってきた。

 

 さて、ここから狙撃手の仕事をさせてもらうとしようか。

 誰ひとりこっちには近づけさせないよ――。

 

「長官! 大丈夫で――ブヘホッ!」

「グワッ!」

「がァッ!」

 

 こちらに近付いてくる海兵たちを私は得意の早撃ちで次々と倒していった。

 

「な、なんて早く正確な狙撃だ……」

 

「さて、諸君。見てのとおりだ。向かってくるなら容赦しないよ。私は――」

 

 海兵たちは仲間がバタバタと倒れる様子を呆然と眺めて怯んでいたので、私はこちらに動くと容赦なく狙撃すると宣言する。

 

「んおのれェ!」

 

「スパンダム……。君には特にキツいお仕置きが必要だな! ――必殺ッッ! ゴムハンマーーーッ!!」

 

 そんな中、怒りの表情を浮かべたスパンダムが懲りもせず立ち上がったので、私は彼の急所を目掛けてお仕置きをした。

 

「――!!!? くぁwせdrftgyふじこlp……!!」

 

 彼は言葉にならない声を発して内股になり、股間を押さえて蹲る。

 

「あとは、ご自由に……」

 

 そして、私はロビンの肩を叩いて彼を好きにするように促した。

 

「ふふっ……、そうさせて貰うわ! 六輪咲き(セイスフルール)! スラップ!」

 

「――ほゲブッ!」

 

 ロビンは彼の体に六本の手を生やして彼の顔がパンパンに腫れ上がるくらいまでビンタした。

 意外と優しいな……。

 

「よしっ! 逃げるわよ! ――ッ!? ――って、何あれ?」

 

 ミキータが逃げようと声をかけたとき、砲弾がエニエス・ロビーの防衛柵を破壊する音が響き渡った。

 

「始まったみたいだ……。軍艦による攻撃……。バスターコールが……」

 

 私たちは海軍の軍艦の接近に気が付き、バスターコールが始まったことを察する。

 

「脱出は護送船を奪うしかなさそうね……」

 

「ううん。あれは使わない。軍艦に集中的に狙われたら終わりだからね」

 

 ロビンは護送船を奪う作戦を口にしたが、私たちの計画は違う。

 

「じゃあどうやって?」

 

「海列車を使う! 全員で“ロケットマン”に乗り込んで、強引にここから脱出するんだ」

 

 彼女の疑問に私は答えた。

 “ロケットマン”に(ダイアル)を取り付けて機動力を強引に上げて勢いよくエニエス・ロビーから飛び出してしまおうという作戦を私は先ほどみんなに話したのだ。

 

 もちろん、この作戦はミキータによる重量操作が肝となる。

 1キログラムまで海列車のウエイトを減らせば、小さな(ダイアル)でも機動力を増すことは可能だと私は考えてこの案をだしたのだ。

 

「ギリギリ司法の塔まで戻るエネルギーは残っているわ。早く乗りなさい」

 

「ほら、ロビン。よく掴まってくれよ」

 

 私はロビンを抱き上げて、完成版(パーフェクト)キロキロパウンドに跨った。

 本来2人が定員だが、こうやって彼女を抱き上げれば何とか3人でも動ける。

 

「あっ……。ふふっ……」

 

 するとロビンはギュッと私の背中に手を回して、顔を私の胸に密着させる。

 いや、そんなに密着しなくても大丈夫だと思うけど……。

 

「ちょっとあんたくっつき過ぎじゃない!? ま、まぁいいわ! とにかく急ぐわよ! 軍艦がもうそこまで――!」

 

 ミキータはそんなロビンに何か言いたげだったが、司法の塔を見据えて完成版(パーフェクト)キロキロパウンドを浮かび上がらせ、ためらいの橋から飛び立った。

 

 後ろから少しずつ砲弾が近付いてくる気配がする。

 ルフィ……、あとは君が勝利を掴むのを待つだけだぞ!

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ちっ、思ったよりも数が多い!」

 

「“ロケットマン”は既に出発の準備が出来ている! 奴らをここから先に通すな!」

 

「能力者も交じっているぞ! 気を付けろ!」

 

「それは、こっちも同じこと! 二度と捕まらないわ!」

 

「キャハハ! そう願いたいものね!」

 

 司法の塔に突き刺さった“ロケットマン”が再び動けるように準備を完了した私たちは、次々と軍艦から降りてくる海軍の連中と戦って、“ロケットマン”を守っていた。

 

 ルフィは“ギア3”からのギガント(ピストル)でルッチを吹き飛ばしたが、彼はまだ意識があり、裁判所の屋上――つまり私とブルーノが戦っていた場所で死闘を繰り広げていた。

 

 ブルーノを私が倒したから漫画よりも余力があると思っていたが、ルッチは強く……、ルフィはかなり苦戦している様子だった。

 

 そして、こちらはというと――。

 

 ゾロの刀――“雪走”が“サビサビの実”の能力者によって使い物にならないほどボロボロにされている。

 正義の門から離れた場所にいるおかげなのか、漫画ほど海兵の数は居ないが、彼らは海軍“本部”の精鋭。

 一人ひとりが強く、そして厄介だった。

 

 これ以上、奴らの数が増えると、私たちの防衛網が突破されるかもしれない――。

 

 私がそう思ったときである――私たちの頼りになる船長の怒号が辺り一面に響いた。

 

「ゴムゴムのォォォォ! JET暴風雨(ストーム)!!!」 

 

 ルフィは無数の拳をルッチにぶつけながら、彼を上空に吹き飛ばした。

 先日、アラバスタでクロコダイルをぶっ飛ばしたように。

 

「うおおおおおおおっ!! ああああああっ!! おりゃああああああっ――!!!!」

 

 さらにルフィの嵐のような拳がルッチの体に次々と突き刺さる。

 これには流石のCP9最強の男も耐えられない――。

 

 ロブ・ルッチは気を失って、こちらに向かってくる海兵たちのど真ん中に叩きつけられるように落下した――。

 

『ロブ・ルッチ氏が“海賊”麦わらのルフィに敗れましたァ!』

 

 悲鳴のような海軍の伝令が響いたとき、あれだけ猛追してきた海兵たちの動きが一瞬硬直した。

 

 よし、今の内に……。私はルフィの顔を確認する。

 彼は――。

 

「一緒に帰るぞ!! ロビ〜〜ン!!!」

 

 ルッチに勝利したルフィは涙ぐんでいるロビンの顔を確認すると大きな声でそう叫んだ。

 

 よし、みんなで帰ろう。この修羅場から一刻も早く脱出して――。

 

 

 

「すまねェ! ちょっとヤボ用を済ませてきた!」

 

「ぶへェ〜〜! もう少しで体が動かなくなるところだったぞ!」

 

 焦り顔のサンジとルフィが“ロケットマン”に乗り込み、一味全員とココロさんたちがこの中に全員入ったことを確認した。

 子電伝虫で連絡を取ったところ、ガレーラの人たちとフランキー一家は全員無事で戻る手段を手に入れたとのことである。

 おそらく、もう一つの海列車“パッフィングトム”を使うのだろう……。

 

「サンジ! ルフィ! 君たちで最後だ! フランキー! 準備は良いか!?」

 

「いつでも行けるぜ!」

 

 私がフランキーに確認すると、彼は力強い返事をしてくれた。

 よし、今からこの“ロケットマン”には大いに働いてもらうぞ!

 

「あっ! “正義の門”が閉まって! 渦潮が起こってる、サンジくん、まさか!」

 

 ナミは“正義の門”が閉まって渦潮が発生し、軍艦がパニックになっている様子を見て、サンジのヤボ用が何だったのかを察した。

 

「念には念を入れたほうがいいだろ? ねぇ〜、ナミさん! おれを褒めてくれ!」

 

「はいはい……。凄いわ! サンジくん!」

 

 サンジはナミに褒められて嬉しそうな顔をしていた。

 これで、さらに脱出しやすくなったぞ。

 

「よし、最後に噴射貝(ジェットダイアル)をこの角度にセットして……」

 

「急げ! 軍艦がこっちに向かって砲撃してくるぞ!」

 

 私が最後の調節をしていると、ゾロが出発を急かしてくる。うん、大丈夫。これで行けるはずだ。

 

「出発だァ! 行けェ!!」

 

 ルフィはふらふらになりながらも元気のいい声で号令をかけた。

 あの、ルッチを倒した後なのにすごいな……。

 

「トムさんが作ったこの“ロケットマン”はこんな軍艦どもには負けねェよ! いくぞ、てめェら! 振り落とされんなよ!!」

 

 フランキーは威勢の良い声で私たちに注意を促して、構えた――。

 私も彼に合わせて風貝(ブレスダイアル)噴射(ジェットダイアル)を発動させようとする。

 

風・来・砲(クー・ド・ヴァン)!!」

噴射(ジェット)ッ!!」

 

 それは一瞬だった。ロケットマンがまるでミサイルのように上空に向かって飛んでいき、エニエス・ロビーから一気に飛び出して行ったのだ。

 Gがすごいので私たちは皆、必死でどこかにしがみついた。

 

「と、飛んだァ〜〜!!!」

 

「こ、こいつァ! 想像以上だ!」

 

「すげェ!」

 

 ルフィとフランキーとチョッパーは目をキラキラさせて興奮している。

 

「キャハハ! 海兵たちが唖然としてるわね!」

 

 いきなり私たちを乗せた鉄の塊が空の彼方に飛んで行ったので海兵たちが呆然としている、と双眼鏡を使っていたミキータは報告した。

 

 そして、上手く路線に乗ることが出来た“ロケットマン”はウォーターセブンに向かって走り出した。

 

 

「――みんな……。言うのが遅れちゃったけど……。ありがとう!」

 

 脱出が落ち着いたことを確認してロビンは私たちにニコリと笑ってお礼を言った。

 彼女の顔は今まで見たどんな時よりも晴れやかだった。

 

「気にすんな! ししし!」

 

「そゆこと。水臭いことは言いっこなしよ」

 

 ルフィとナミはそんなロビンに笑って返事をする。

 うん。私たちが好きでしたのだから、気にする必要は全くない。

 

「改まって、んなどうでもいいことを……」

 

「どうでもいいとは、どういうことだ!? てめェ!」

 

 ゾロがロビンに悪態をつくと、サンジはそれに対してキレて蹴りかかろうとする。

 

「まぁまぁ、サンジ。ゾロなりの照れ隠しだよ。これは」

 

 私はサンジの肩を抱いてそう声をかけた。

 

「おい! おれは別に!」

 

 すると、ゾロは顔を赤くして私を睨んでくる。

 

「ゾロくん。本当は優しいもんね〜。キャハハ!」

「ちっ……」

 

 そんな彼を見て笑い声をあげるミキータと舌打ちをしてそっぽを向くゾロ。

 

「くすっ……」

 

 ロビンはそんな様子を見て幸せそうに微笑んでいた。

 

「――しかし、お前ら。こりゃとんでもねェことをしたぞ。大体、世界政府の旗を撃ち抜くなんて……」

 

 そんな和やかなムードの中でフランキーは神妙な顔で私たちにとんでもないことになったと、声をかけてくる。

 

「取られた仲間を、取り返しただけだ……。――この喧嘩! おれたちの勝ちだァ!!」

 

 しかし、ルフィは()()()()()なんか全く気にしてない。

 そして、世界政府と私たちのロビンをめぐったこの喧嘩の勝利宣言をした。

 

「「よっしゃーーァ!!」」

 

 私たちは声を揃えて、この戦いの勝利の味を噛みしめる。

 CP9との死闘は本当に厳しかった――。

 この戦いを乗り越えたことで私も少しはレベルアップしていれば良いんだけど……。

 

 まぁ、ロビンが無事だったんだから、それもどうでもいいや……。

 




エニエス・ロビー脱出成功ということで、ウォーターセブン編も残り僅かになりました。
このあとの注目ポイントと言えば、ライアとミキータの懸賞金とかその辺ですかね〜。


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出会いと別れ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回でウォーターセブン編を終わらせようとしたら無理でした。
それでは、よろしくお願いします!


「ンマー、任せておけ。そのメリー号とやらはガレーラカンパニーが責任を持って修理して、丁重に保管しといてやる」

 

 アイスバーグはメリー号を私が再びここに来るときまで預かってくれることを承諾してくれた。

 

 ウォーターセブンに無事に戻った私たちは新しい船が出来るまでここでゆっくりと体を休めることにした。

 

 漫画ではルフィとチョッパーが特に重傷だったが、2人とも割と元気だ。

 

 おかげで毎晩のように宴会続きでお金が吹っ飛んでいく――。

 まぁ、メリー号の修繕及び保管代と新しい船の施工代は既に支払っているから良いけど……。

 

 そんな中、私の元に息を切らせたパウリーが走ってきた。

 

「おい! 大変だぞ! 海軍“本部”のガープ中将の船がここに来やがった!」

 

「ンマー! ガープだとッ! あの海賊王とやり合った伝説の海兵じゃねェか! お、おい! ライア!」

 

 パウリーの言葉に驚くアイスバーグの言葉を背中に受けながら私は仲間たちの元に走り出した。

 なるほど、このエネルギーに満ち溢れた強さ……。今までに感じたことがないくらい強い……!

 

 これがルフィの祖父、モンキー・D・ガープの力の大きさなのか……。

 

 

 

「ずいぶん暴れてるようじゃのう。ルフィ!」

 

「げぇ! じ、じいちゃん!!」

 

「「えェ!? じいちゃん!?」」

 

 私が仲間たちの元に駆けつけたとき、ちょうどガープが壁を突き破って部屋の中に入ってきた。

 ガープはルフィを見るなりゲンコツをお見舞いして、海兵にならなかった事を嘆いた。

 

 あれが武装色の覇気か……。なるほど、実体を捉える力というものが概念だけじゃ全く理解出来なかったけど――実際に見ても全く理解出来ないじゃないか!

 

 あれって、私でも習得出来るのかなァ?

 

「“赤髪”に毒されよって! そもそも“赤髪”がどれほどの男か解っとるのか!? お前は!」

 

「シャンクス!? シャンクスは元気なのか!?」

 

 ガープが“赤髪”の名を口にすると、ルフィはハッとした表情でシャンクスについて質問をした。

 

「元気も何も……、今や星の数ほどおる海賊の中で“白ひげ”と並ぶ4人の大海賊のうちの一人じゃ。“偉大なる航路(グランドライン)”の後半の海に皇帝のように君臨するそやつらを世に“四皇”と呼ぶ!」

 

 ガープは“四皇”の名前を出してシャンクスがどれほどの海賊なのかルフィに教えた。

 多分、ルフィはピンと来ないだろうな〜。

 

 “四皇”ってとんでもない存在なんだけど、この人はそういうのには無頓着だし……。

 

「よくわかんねェけど。元気ならいいや。懐かしいな――」

 

 ルフィは麦わら帽子を見つめて少し微笑んだ。

 

 

「まさか、“赤髪”と繋がりが……!」

 

「ルフィの麦わら帽子、その人から預かってるんだって。そんなにすごい人だって知らなかったけど。というか、ライアのお父さんもその人の船に乗ってるんでしょう?」

 

 ロビンはルフィとシャンクスの繋がりについてびっくりしてたみたいで、ナミがどのような関係なのか彼女に教える。

 ついでに私の父親が彼の船に乗っているということも……。

 

「うん。“赤髪海賊団”の狙撃手をやってるよ。クソ親父だけど、腕だけは良いから」

 

 ナミに話を振られた私はそれを肯定する。

 漫画と同じような未来を辿るなら、もうすぐあの場所に現れるはずだ――。

 

「キャハッ! あんたの射撃の腕がやたらすごいのはそのせいなのね。納得したわ」

 

 ミキータは私の狙撃の才能が父親譲りだという事に気が付いて頷いていた。

 

「ライアのお父様……。いつか会ってみたいわ」

 

 そして、ロビンは私を背中から抱きしめて、私の父に会いたいと言う。

 いや、なんかスキンシップ激しくない?

 

「そ、そう? 会ってもつまらないと思うけど……」

 

「なんか、最近ロビンってやたらライアにベタベタするわね……」

 

 ロビンと私を見てナミが少しだけ不機嫌そうな声を出していた。

 

 そんな中、ざわざわと騒がしい音が外から聞こえてくる。

 ん? これは、ゾロの気配か……。

 

「――ん? 何事じゃい!?」

 

「賞金首の“海賊狩りのゾロ”ですね」

 

 騒ぎに対するガープの質問にピンク色の髪の男がそう答える。

 あの人、ちょっと強いな……。

 

「ほう――ルフィの仲間じゃな。威勢がいいのう。――どれ、お前ら……、止めてみぃ――!」

 

「「はい!」」

 

 ガープの指示でルフィとゾロに襲いかかる2人の海兵。

 この二人はコビーとヘルメッポ。私と出会う前――ゾロをルフィが仲間にしたときに会った人たちだ。

 

 二人は善戦したけど、ルフィとゾロの相手には全くならず、またたく間に蹂躙されてしまった。

 

 そして、コビーがルフィに自らの名を名乗るとルフィはもちろん、ゾロまでその変わりきったのであろう風貌に驚きを隠せなかった。

 

「コビー!? お前、成長期にも程があんぞ!」

 

「事件のあとでお疲れのところ、すみません」

 

 ルフィはコビーとの再会をとても喜んでいた。

 そして、自ら七光のバカ息子と称したヘルメッポも一応思い出してもらっていた。

 

 

 

「そういえばルフィ。親父に会ったそうじゃな……」

 

「え? 父ちゃん? 父ちゃんってなんだよ?」

 

 さらにしばらくして、ガープはルフィの父親について触れてきた。

 ルフィはもちろんローグタウンで会ったあの男が自分の父親だということを知らない。

 

「なんじゃい。名乗り出んかったのか。ローグタウンで見送ったと言っとったぞ! お前の父の名は――“モンキー・D・ドラゴン”……、革命家じゃ!」

 

「「…………」」

 

 ガープがルフィの父親の正体を明かすと、辺り一面が一気に沈黙する。

 そして――。

 

「「え、ええーっ!」」

 

 海兵たちも含めて全員が驚いた顔をして絶叫した。

 

「おい、みんな。一体、何をそんなに――?」

 

「バカ! お前、ドラゴンの名前を知らねェのか!?」

 

「あんたのお父さん! とんっっっでもない男よ!」

 

 周りのリアクションを不思議に思ったルフィだったが、サンジもナミももちろん世界最悪の犯罪者として有名な革命家のドラゴンを知らないはずがなかった。

 

「おい、ロビン」

 

「何て説明すればいいのかしら――」

 

 ロビンは少しだけ間を空けて、ルフィに説明した。

 海賊は自分から政府や海軍を襲う事はないが、それとは別に、“世界政府”を直接倒そうとしている勢力があり、それが“革命軍”であると。

 ドラゴンという男はその“革命軍”のリーダーなのだ。

 世界中の色んな国々でその思想が広がり、王国に反乱をまねき、いくつもの国が倒れている。

 

 故に“世界政府”はその黒幕であるドラゴン を、“世界最悪の犯罪者”として躍起になって探している。

 しかし、その素性は誰も知らない謎の男として有名だったのだ。

 なのに――ガープがあっさりとその事実を口にした。

 だから、みんながあれほど驚いたのである。

 

 まったく、恐ろしい血筋だよな。ルフィって……。

 

「あっ! コレやっぱ、言っちゃまずかったかのう!? ぶわっはっはっ!! じゃ、今のナシ!」

 

「「ぇええェ〜〜っ!!!?」」

 

 あまりにも適当なガープの発言に周囲のみんなは堪らず絶叫した。

 この破天荒なところはきっちりルフィに受け継がれてるなー。

 

 

 そして、ルフィはコビーと“偉大なる航路(グランドライン)”の後半の海である新世界で再会しようと約束し、ガープはルフィは自分の孫だからという凄い理由で私たちを見逃してくれた。

 

 あー、良かった。あの人と戦って勝てる気が微塵もしないもの……。

 

 

 そのあと、私たちは何回目かわからない宴に参加したが、そのとき青キジの気配がした。

 彼はロビンを見守ると言って去っていったが、それを聞いたロビンの顔は憑き物が落ちたように見えた。

 

 

 

 

 それから船の完成やらを待つ間にいろんな事があった。

 

 元気があり余っているルフィが連日の宴で更に散財して残った2億5千万ベリーを使い果たしてナミにボコボコにされたり、アイスバーグを含むガレーラの船大工たちが新しい船の作成を手伝ってくれたり……。

 お金に関してはフランキーに予め多めに渡したから、船の装備は漫画よりも充実しそう。

 

 

 記録(ログ)が貯まって、その行き先が少しだけ下を向いていたので次の行き先は魚人島だとココロが教えてくれた。

 

 それに加えて“魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”についての情報も……。

 まぁこれはスリラーバークのことなんだけど……。

 

 王下七武海――ゲッコー・モリアかぁ……。カゲカゲの実の能力者でゾンビ兵を量産する能力の持ち主……。

 ゾンビ兵には前に悪魔の実の能力者対策で作って失敗した()()()()が役に立つかもしれない。多めに作っておこう……。

 

 そんなことを考えてると、フランキーの2人の妹分、キウイとモズが船が完成したと伝えてくれた――。

 

 

「ええーっ! もう出来たのかァ!? 随分早ェ!!!」

 

 ルフィはあまりにも早い船の完成に驚いていた。

 

「超一流の船大工が5人で夜通し造ってたんだわいな!」

 

 アイスバーグとフランキーに加えてパウリーたち1番ドックの船大工も協力して仕上げてくれたのだそうだ。

 

「よし! すぐ行こうぜ!」

 

「キャハハ! 楽しみね!」

 

 私たちはみんな新しい船の完成を喜んだ。実際にたったの3日で最強の船を造り上げるなんて尋常じゃない仕事量だ。

 

 私たちが外に出るとこっちに大急ぎで向かってくる集団が居た。

 

「「麦わらさ〜〜ん!」」

 

「フランキー一家だね。どうしたんだい? そんなに慌てて……」

 

 フランキー一家の面々がドタバタと走ってきたので私は彼らに何があったのか質問した。

 まぁ、大体の察しはついているのだけど……。

 

「ハァ、ハァ……、実は無理を聞いて貰おうと……。手配書を見ましたか!?」

 

 フランキー一家のまとめ役のザンバイというツンツン頭の男が息を切らせながら手配書の話をする。

 やはり手配書の話か。フランキーの首に懸賞金が付いたのだろう。

 

「手配書?」

 

「麦わらさん、あんた凄い金額ついてるぜ! それに他のみんなも追加手配されちまってる!」

 

 まだ、ピンと来ていないルフィにザンバイは懸賞金が上がったことを伝える。

 そして、ナミ、サンジ、チョッパーにも懸賞金がかかったということも……。

 

「「えっ?」」

 

「話すより見てくれ――あんたら8人、全員の首に賞金が!!」

 

 ザンバイは私たちの手配書を広げて見せてくれた。

 ああ、本当にみんなに賞金がかかってるね……。

 

 私たちの首にかかった賞金は――。

 

 “麦わらのルフィ”――懸賞金3億ベリー

 

 “海賊狩りのゾロ”――懸賞金1億2000万ベリー

 

 “レディキラー”ライア――懸賞金9600万ベリー

 

 “悪魔の子”ニコ・ロビン――懸賞金8000万ベリー

 

 “泥棒猫”ナミ――懸賞金1600万ベリー

 

 “運び屋”ミキータ――懸賞金4250万ベリー

 

 “わたあめ大好きチョッパー”(ペット)――50ベリー

 

 “黒足のサンジ”(写真入手失敗)――7700万ベリー

 

「うはーーっ! 上がった」

 

 素直に喜ぶルフィ……。まァ、やらかした事の大きさとその主犯なんだからこのくらいの金額は妥当だな。

 

「フン……」

 

 ゾロは興味なさそうにしてるけど、この顔は比較的機嫌が良いときの顔だ。

 美味しいお酒を差し入れしたときの表情と同じだから。

 

「こんなに……、まいったな……」

 

 私に1億近くの賞金かぁ……。正直言って過大評価だと思うけど、世界政府の旗を燃やしちゃったからそれが大きいんだろうな。

 ていうか、ロビンをちょうど助けたときの写真に変わってて、彼女の腕と髪の一部が私と一緒に写ってる……。なんで、写真変えたんだろ?

 

「ちょっと……」

 

 ナミは自分が賞金首になったことにショックを受けていた。

 それが普通の女の子のリアクションだよなぁ。

 ていうか、すっごくノリノリのポーズで可愛く写真に写ってるけど、確か騙されて撮られたんだっけ?

 

「…………♪」

 

 ロビンは自分の手配書というより、私の手配書を妙に機嫌良く眺めていた。

 最近、彼女は笑うことが増えたな。楽しそうにしていて何よりだ。

 

「キャハッ!」

 

 ミキータはいつもどおりの明るさで楽しそうに手配書を見ていた。

 彼女の写真も変わっていて、キロキロパウンドを構えている写真になっていた。

 

「ごじゅ……」

 

 チョッパーは50ベリーという子供のお小遣いみたいな賞金にショックを受けていた。

 良いじゃないか。可愛いんだから。写真も可愛い。

 

「誰だ……?」

 

 サンジは漫画と同様で絵心があるんだか無いんだかわからないイラストで手配されていた。

 私は彼の写真が漫画と同じように載らなくて正直に言ってホッとした。多分、写真が載ったりするとジェルマが黙ってない。

 実際この絵にそっくりな人をジェルマは探し当てて別人と認識して大人しくしていた。

 だから、サンジの写真が撮られなかったのは彼にとって幸運だったのだ。

 

 

「――ま、まァ、心中お察しするというか、色々言いてェことはあるだろうが、その……、待ってくれ! ――おれたちの頼みって言うのはこっちなんだ! コレ見てくれ!」

 

 ザンバイはもう一枚の手配書を取り出して、私たちに見せた。

 

鉄人(サイボーグ)”フランキー――懸賞金4400万ベリー

 

「「フランキー!!」」

 

 やはりフランキーにも賞金が懸けられていた。

 当然といえば当然だ。CP9のフクロウも単独で倒してるし……。

 

「アニキだけは免れることが出来なかった――。このままだとアニキの命が危ねェ……。だから、おれたちみんなで話し合ったんだ! 麦わらさん! アニキを海に連れ出してくれ! アニキは元々海賊の子なんだよ!」

 

 ザンバイたちフランキー一家は揃ってルフィに頭を下げて、フランキーを連れて行ってほしいと頼み込んだ。

 フランキーは慕われてるな。こんなにも沢山の人たちに大事にされているんだから……。

 

 

「――元気出しなよ。サンジ」

 

「元気なんか出せねェよ。笑われるんだ、おれは……。世界中のレディから」

 

 新しい船に向かう準備をしている私たち。

 うなだれて動かないサンジに私が声をかけると、彼はよほど手配書のことがショックみたいで悲しそうな声を出した。

 

 

「実物の君は格好いいんだから問題ないよ。そんなこと……」

 

「ライアちゃん……。そうだよな! こんな手配書なんか……、手配書なんかァ……! あああっ……! おれはこんなんじゃねェェェ!」

 

 サンジは私の言葉を聞いて少しだけ元気を取り戻したが、自分の手配書とにらめっこして頭を抱えて叫びだした。

 

「キャハハ! そんな単純に受け入れられないわよね〜。ほら、チョッパーちゃんも元気出して!」

 

 ミキータは賞金額に傷付いたチョッパーを慰めながらケラケラ笑っていた。

 

 どうにか落ち着いた彼らを引っ張って私たちは新しい船の元に向かった。

 

 

 新しい船の元にはアイスバーグ1人しか居なかった。フランキーはどうやら自分のアジトに帰っているみたいだな……。

 

「この船は凄いぞ、図面を見た時に目を丸くした。あらゆる海を越えて行ける。フランキーからお前への伝言はこうだ、麦わら。『お前はいつか”海賊王”になるんなら”百獣の王”の船に乗れ』!!」

 

 アイスバーグはそう言いながら、新しい船を覆っている布を引き剥がした。

 大きな“スループ船”が私たちにその姿を見せる。

 

「うおーーーーっ!! でけーーーっ!! かっこいい〜〜〜!!!」

 

 ルフィは新しい船の姿を見て大興奮だった。

 大きさはメリー号の倍くらい。船首にはお馴染みのクマのようなライオンのオブジェ。

 芝生の甲板にすべり台、遊び心もある素晴らしい船だ。

 

 ナミは機動力のある大きな縦帆(ガフスル)に興奮して、航海士としての腕が鳴るとやる気を見せていた。

 サンジは鍵付き冷蔵庫と巨大オーブンに感動してフランキーに感謝をしている。

 

「で、この日にもう一つ間に合わせたモノがある! やっぱ、こういう儀式はしっかりやっておかねェとな!」

 

 アイスバーグは新しい船の隣にあるモノに被せていた布を外した。

 すると、その中からは――。

 

「め、メリー号だ! す、凄い! まるで新品みたいにピカピカじゃないか!」

 

 私の目の前にはシロップ村でカヤからプレゼントしてもらった時と同じくらいキレイな状態に修繕されたゴーイングメリー号の姿があった。

 

 

「ンマー、やっぱり乗り換えるんだったらお前らもお別れとか、いろいろ言いてェことはあるだろ? おれの権限で最優先に修理をさせておいた!」

 

「ありがとう! アイスバーグさん! さすがは世界一の造船会社ガレーラカンパニーだ! 素晴らしい仕事ぶりだよ!」

 

 私はアイスバーグの最高の計らいに感謝した。

 まさかメリー号の修理まで最速で終わらせてくれるなんて!

 

 

 私たちは全員メリー号の前に集まって横一列に並んだ。

 

「メリーーーーーっ! 今までありがとな!! おれが海賊王になったら! 絶対にお前に会いに行くからなァ!!」

 

 ルフィはメリー号の前で海賊王になることと再会を誓った。

 

「まぁ、なんだ……、おれたちの命はお前だから守れたってのは間違いねェ。達者でな……」

 

 ゾロはぶっきらぼうながらもメリー号だから1番大切な命を守ってもらえたと伝える。

 

「メリー! あなたと一緒に積んだ経験は絶対に無駄にはしないわ! また、元気に走るところ、見せてね!」

 

 ナミはこの船で学んだことを活かして次に繋げることを約束した。

 

「大した船だったよお前は。おれらの無茶に応えてくれて感謝してるぜ!」

 

 サンジはメリー号を称賛し、感謝の気持ちを伝える。

 

「あ゛りがどー! やっぱ寂じい゛ーぞ! でも直っで良かっだなァァ」

 

 チョッパーは涙を流しながらも、きちんと修理してもらったことを喜んでいた。

 

「キャハハ! 良かったわね! キレイにしてもらって! 最後のひと仕事も頑張りなさい!」

 

 ミキータは明るく、シロップ村への航海を頑張るように激励する。

 

「短い間だったけど、楽しかったわ。あなたと空に行ったこと、決して私は忘れない」

 

 ロビンはメリー号との思い出は忘れないと約束した。

 

「メリー……、今まで良く無茶振りに耐えてくれたね。お前と絶対に無事に故郷に帰るって誓うよ。だから、少しだけ待っていてくれ!」

 

 そして、私はメリー号に必ず一緒にシロップ村に戻ることを約束した。

 でも、やっぱり別れが現実味を帯びると寂しくて――気付いたら私はボロボロ泣いてしまっていた――。

 

 でも、本当に良かった。元気な姿のお前を見ることが出来て……。

 今までありがとうメリー……。

 

 こうして私たちはメリー号に別れを済ませた。

 そして、フランキー一家の願いを聞いて、強引にフランキーを仲間に入れようという計画を実行に移すことにしたのだった――。

 




メリー号へのお別れまで書いたら今回も量が多くなってしまいました。
そして、フランキー加入が次回になってしまった……。
で、非常に分かりにくくて申し訳ないのですが、次の話は後半がスリラーバーク編と重なるので、次回からスリラーバーク編ということで章を分けさせて貰います。
上手くまとめられなくてすみませんでした!


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スリラーバーク編
サウザンドサニー号


いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
気付いたらウォーターセブン編も終わり、前半の海が終盤にさしかかってました。
今回の後半からスリラーバーク編に突入します。



「フランキー! 船! ありがとう!! 最高の船だ!! 大切にする!! このパンツ返してほしけりゃ、おれたちの仲間になれ!!」

 

 私たちの船長は決して頭がおかしくなったのではない。

 そして、私たちの目の前の人物は決して変態ではない……。多分……。

 

 ルフィがフランキーのパンツを片手に彼を勧誘している。

 そして、フランキーはパンツを奪われたので、大事なモノをオープンにして仁王立ちしていた。

 

 こんな状況になったのには理由がある。

 フランキー一家はフランキーに私たちの仲間になるように説得をしたらしい。

 しかし、フランキーは義務感からそれを拒否した。

 だから、彼らはフランキーのパンツを強奪して、逃げることで無理やり私たちの前に引きずり出したのだ。

 

 うーん。男の人の考えが分からん。ただ、チョッパーにフランキーのパンツを咥えさせたのには、抗議だけしておいた。

 チョッパーにも口に入れてはならないモノがあると言うことをキチンと言い聞かせた。

 

 

「バカ言え! パンツ取ったくらいで簡単に仲間に出来ると思うなよ! ――なんのその……、男は裸百貫の……、波に向かって立つ獅子であれ!」

 

 だが、フランキーはパンツが無くても平気みたいで、見せつけるようにいつものポーズを取る。

 

「あいつ……、なんて気が強ェんだ! 甘かった! 男の中の男だ!!」

 

 ルフィはその姿を見て称賛の声を贈っていた。うん、全っ然理解できない……。

 

「ただのド変態でしょ!」

「いくら私でも笑えないわ……」

 

 そんな中、ナミとミキータは普通にドン引きしていた。

 

「手荒で良ければ手を貸しましょうか?」

 

「ん?」

 

 ここで動いたのはロビンだった。彼女は文字通りの手荒な行動に出たのである。

 

二輪咲き(ドスフルール)……。――クラップ!」

 

 ロビンはフランキーの下半身に手を生やして、彼の2つのアレを握り締めた。

 

「ホデュアーーーーー! アアアアアっ!!」

 

 フランキーは死にそうな顔をして絶叫した。

 それは、聞くだけで同情出来るような声だった。

 

「ちょっと、ロビン!」

「潰れるぞ! ロビーーン! いてててて!」

 

 これには私たちも度肝を抜かれる。いやいや、何で普通にギュッと出来るの? 

 抵抗なく出来るところが凄い。私は撃つことは出来てもそれはさすがに無理だ……。

 というか、男性陣のリアクションを見ると、私がエネルやスパンダムにやったことって結構酷いことだったんだな……。

 

 どれくらい痛いのかは一生分からないと思うけど……、ちょっと可哀想……。

 

「ロビン! 男のまま仲間にしたいんだよ! 取んなよ!」

「そういう問題かい……?」

 

 ルフィの言い分に私はついツッコミを入れてしまう。

 

「“宝”を目前にした海賊に“手を引け”と言うのなら、それなりの理由を言って貰わなきゃ、引き下がれないわよ……」

 

 ロビンはフランキーに仲間にならない理由を言うように促した。

 

「だからおれはこの島に居たいんだよ、お前らには感謝しきれねェくらいに感謝してるし、一緒に行ってやりてェが、おれにはここでやらなきゃならねぇ事がある。だからおれの“夢の船”を贈ったんだ」

 

 フランキーはこの島にいる義務があるとロビンの問いに答えた。

 

「待てフランキー、こいつはお前の“夢の船”にはなってないはずだ」

 

 しかし、アイスバーグはフランキーの言葉に反論する。

 

 フランキーは少年時代、自分にとっての”最高の船”が完成したら、船大工としてそれに乗り込み、その運命の日を見届けることが夢だと語っていたらしい。

 

「お前が今この島でやっているのは“償い”だ。あの日、トムさんが連行された事を自分のせいだと、お前は悔いている。だがトムさんはあの日すでにお前を許し、道を示していた! トムさんが許しても、おれがお前を許しても何も変わらない……。もういい加減に! 自分を許してやれよ、フランキー!! もうてめェの夢に生きていいだろ!?」

 

 フランキーが裏町で過激な行動をしているのは、トムの愛した”水の街”を守り抜くという罪滅ぼしだったことを、アイスバーグは知っていた。

 

「旅の荷物です、アニキ! おれ達バカだから、ねぇ頭振り絞って一生懸命考えたんですっ! 少しぐらい考えたらダメですか!? おれ達みたいなゴロツキを拾ってくれた”大恩人”の――あんたの幸せも考えたらダメですか!?」

 

 フランキー一家のザンバイは涙を流しながらアイスバーグの言葉に続けて彼に対する気持ちを伝えた。

 

 それがフランキーの心を打ったのだろう。彼は自分が居なくても大丈夫なのか、弟分たちに確認して覚悟を決めた顔付きになる。

 

 そんな中、ゾロとサンジがガープの軍艦がこちらに向かっていると、焦った顔付きで戻ってきた。

 

「さァ乗れよフランキー! おれの船に!!」

 

 ルフィはフランキーにパンツを投げ返して、船に乗れと命令する。

 

「生意気言うんじゃねェよ、大工の一人もいねェとは船が不憫だ。仕方ねェ! 世話してやるよ! おめェらの船の“船大工”! このフランキーが請け負った!! ちょっと行ってくらァ!!!」

 

 威勢よく私たちの仲間になると宣言したフランキーは堂々と船に乗り込んできた。

 うーん。仲間になってくれたのは嬉しいけど――。

 

「頼むからパンツをはいてくれ……」

 

 私は彼に一刻も早くその状態をやめるように懇願した……。

 この船に関しては心配は無用になったな……。

 

 

 私たちはフランキーを乗せて出航する。

 そして、それから間もなくしてガープの船はこちらに近づき攻撃を開始してきた。

 

 

 

「“サウザンドサニー号”!」

 

 アイスバーグの“千の海”を“太陽”のように陽気に乗り越えて欲しいという願いが込められた、この名前を私たちはとても気に入った。

 ていうか、今まで気にしてなかったけどルフィたちのネーミングセンスってちょっと酷い……。

 自分たちの技には格好いい名前をつけるクセに……。

 

「じいーちゃーん! コビーーっ! 今からおれたちは逃げるから! また会おう!!」

 

 帆を畳み、サニー号の切り札を出す準備を整えたとき、ルフィはガープとコビーに別れを告げた。

 ガープには挑発にしか聞こえてないみたいだけど……。

 

 ガープは怒って超巨大な鉄球をこちらに投げつけようとしてくる――。あれがぶつかったら、早速サニー号が破損するんだけど……。

 あの人、本当に容赦ない人じゃん。

 

「急いだ方がいい。あの鉄球はいくら私でも撃ち落とせない……」

 

「キャハッ! それじゃ、この船の重量(ウエイト)を1キロにしたわよ!」

 

 私が切り札の発動を急かすとミキータがサニー号の重さを1キログラムに落とした。

 そして――。

 

「――風・来(クー・ド)バースト!!」

 

 サニー号から噴射されたのは噴射(ジェットダイアル)も真っ青なくらいの勢いの風――。

 先日のロケットマン以上の高さまでサニー号は勢いよく飛び立って行った。

 

 えっ? これはちょっと尋常じゃないくらいの高さなんだけど……。

 1キロのウエイトだと、こんなに飛距離が伸びるんだな……。

 

「コーラ樽を三つも消費しちまうが、1キロ――いや、レモンの姉ちゃんの助けがありゃあ、この通り何キロも先に飛んでいける! この船はおれが魂を込めて造った最強の船だ! 破損したらおれが完璧に直してやる! 船や兵器の事は何でもおれを頼れ! 今日からコイツがお前らの船だ!!」

 

 フランキーは船のことに関しては全面的に任せろと、ドンと胸を張って宣言した。

 兵器については今度彼に色々と相談してみよう……。

 

「「おおーーーっ!」」

 

 私たちは頼りになる仲間と船を手に入れた喜びを噛み締めて新たな航海へと発進した。

 

 次の目的地は“魚人島”……。うむ……、ここから歴史はどう動くのかな?

 フランキー歓迎の宴の最中、私はこれから起こるであろう可能性について色々と思考を張り巡らせていた。

 

 もし、この先の未来が漫画通りに進んだとして、今の私が……、あの頂上戦争で生き残ることが出来るだろうか?

 

「どうしたの? 何か考え事?」

 

 グラスを両手に持ったロビンが私に声をかけて、1つを私に手渡してくれた。

 

「ああ、ちょっとね。もっと強くならなきゃって思っていたまでさ」

 

 私はひと口それを飲んで、彼女の質問に答えた。

 世界中からヤバい連中が集まる場所で生き残る力が私は欲しい。

 

「あなたは強いわ。その証拠に9600万ベリーも賞金が懸けられてるじゃない」

 

「あれは過大評価だよ。戦闘力ならゾロやサンジはもちろん、君にだって敵わないかもしれない」

 

 ロビンは私の賞金額に触れるが、彼女の言葉に私は首を振った。

 この一味の中でも私の戦闘力はロビンと同じくらいか少しだけ劣ると考えている。

 

「うふふ……、そういうところは若いのね。いつも大人びて見えてたから、ホッとしたわ」

 

 私の答えを聞いたロビンはニッコリ笑って私の頭を撫でながら子供扱いしてきた。

 そんなに軽薄な意見だったかな?

 

「やれやれ、珍しく年上をアピールするじゃないか。じゃあ人生の先輩とやらのアドバイスを頂こうかな?」

 

「あら、簡単なことよ。強さというのは多様な種類があるの。あなたにはあなただけの“強さ”がある。それを信じなさい」

 

 私がロビンに助言を求めると彼女は“強さ”には様々なタイプがあると言ったきた。

 うーん。私だけの強さか……。

 

「キャハハ! それって“女たらし”の力?」

 

「えーっ! そりゃないよー!」

 

 そんな私とロビンの会話に酔っ払ったミキータがいつもよりも陽気に笑って、変なことを言ってきたので私は彼女に抗議した。

 そんな力なんてないし、あっても役に立たないじゃん。

 

「そうね。それもあるわ……。責任……、取ってね……」

 

 するとロビンは悪戯っぽく笑い。意味深なことを呟いてきた。

 せ、責任? それってどういう――。

 

 私がそれを尋ねようと口を開くと、彼女はハナハナの実の力を使って口を塞いでくる。

 まったく、敵わないなー。ロビンには……。

 

 真っ昼間から始まった宴会は夜遅くまで続いた。

 その最中も、サニー号は力強く私たちを次の冒険に連れて行ってくれていた――。

 

 次はおそらくスリラーバーク……。そして、ブルックが仲間になるはず……。

 彼はどんな人だろうなー。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ヨホホホホ! ハイどうもみなさん、ごきげんよう! 私この度、この船でご厄介になる事になりました“死んで骨だけブルック”です! どうぞよろしく!!」

 

「「ふざけんな! なんだこいつは!」」

 

 こんな人だった――。

 

 私たちの目の前でアフロのガイコツ男が自己紹介している。

 みんな唖然としてるな……。彼がブルックか……。

 

 王下七武海――ゲッコー・モリアの罠であろう“流し樽”を拾ったルフィがそれを開けると、中から赤い光が飛び出した。

 

 それから私たちはココロから聞いた“魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”とやらに迷い込み、幽霊船と遭遇。

 

 わくわくが止まらないルフィはナミとサンジを引き連れて幽霊船に冒険に出かける。

 そして、中で出会ったブルックを仲間に勧誘して戻ってきたのである。

 

「やァブルック。ライアだ。よろしく」

 

「おっと、こちらも美しいお嬢さんだ。ヨホホ! よろしくお願いします! あと、パンツ見せてもらっても良いですか?」

 

 ブルックは私の手を握って挨拶をした。“美しいお嬢さん”って照れる……。

 

「えっ? でも、私のはナミやミキータみたいに可愛い下着じゃないしなぁ」

 

「キャハッ! バカ! あんた、なんであの奇っ怪なのを簡単に受け入れてんのよ! というか、恥じらうポイントおかしいわよ!」

 

 ミキータがブルックを指さしながら、強めの拒絶をした。

 やっぱり、ガイコツは受け入れにくいか……。ルフィとロビン以外はドン引きしてるもんなー。

 

「私は彼はいい人だと思うなァ」

 

「あんたの性別を当てたから? なんか頭が痛くなってきたわ……」

 

 私のつぶやきにミキータは肩をすくめてやれやれというポーズをとる。だって、嬉しかったんだもん。

 この一味だとサンジ以来初めて女の子扱いしてくれたし……。

 

「おめェら、何のために付いていった!? こういう暴走を止めるためだろうが!」

 

 ゾロはサンジとナミがルフィを止めなかったことを割と本気で叱っていた。

 

「「面目ねェ……」」

 

 普段はゾロに言い返すサンジが素直に頭を下げている。

 これはかなりやらかしたと思っているということだ……。

 あれ? こんなにブルックの第一印象って悪かったっけ? このままだと、仲間にしないなんてことも……。

 

 こうなったら――。

 

「まぁ、立ち話もアレだしご飯でも食べていくかい? ウチの自慢のダイニング案内するよ!」

 

「おめェは真面目そうな顔してんのに、クレイジーだな……。まァ、スーパーなおれが造ったキッチンを見せてェ気持ちは分かるが」

 

 私がブルックを食事に誘うと隣に立っていたフランキーがギョッとした顔をする。

 とりあえず、交流して彼の人となりを知ってもらえれば何とかなるかもしれない。

 

「おっ、飯かァ! 腹減ったしいいな! サンジー、飯作ってくれ!」

 

「ヨホホ! それでは遠慮なく!」

 

 こうして私たちはブルックと共に食事をすることとなった。

 上手く打ち解けられれば良いけど……。

 

 

 

「今日はなんて素敵な日なんでしょう! 人に会えた! この霧の深い暗い海で、たった一人舵のきかない大きな船にただ揺られてさ迷うこと数十年! 私、本っっ当に淋しかったんですよ! 淋しくて怖くて! 死にたかった! 長生きはするものですね! 私にとってあなた達は“喜び”です! ヨホホホホ!」

 

 食事が一段落すると、ブルックは自らがヨミヨミの実の能力者の元海賊で仲間が全滅してから何十年もの間、孤独に耐えていたことを明かした。

 私なら精神が死んでしまう……。というか、この人は重い過去を持つ人が多いワンピースの世界でも悲惨なキャラクターで1番を争えるかもしれない……。

 

「あなたが私を仲間に誘ってくれて……、嬉しかったです。どうもありがとう。だけど断らねばなりません。私は影を奪われ、太陽の下で生きてはいけません。私はここに残り、影を取り返せる“奇跡”の日を待つことにします! ヨホホホホ!」

 

 そして、影が何者かに奪われて日光の下に行くと死んでしまう身体となったことを明かしたブルックは仲間になる件を固辞する。

 ルフィと私は奪い返すと説得したのだが、人の良い彼は首を縦に振らなかった。

 

 そうこうする間にスリラーバークが顔を出し、ブルックは上陸せずに脱出するようにと忠告して海を走って去って行った。

 

「さて、ブルックはああ言ったけど……。ここを放っておくなんて……、出来ないよね?」

 

「そうか! ライアも冒険に行きたいか! しょうがねェやつだなァ!」

 

 ルフィはスリラーバークをニコニコしながら眺めて、私の肩を組んだ。

 

「バカなの! 2人とも!! こんなにヤバそうで何なのか分からない島、あいつの言うとおり――」

 

「キャハハ……、無駄よ、ナミちゃん。ライアはともかく、あの状態の船長は止められない……」

 

 青ざめた顔をするナミにミキータは苦笑いしながら観念するように忠告する。

 実際、ここの人たちはブルックを含めてかなり悲惨な状況だったし、放置するのは可哀想なんだもん。

 

 スリラーバークの冒険が始まった――。

 




サニー号の飛距離がミキータ有りだと、とんでもないことになりました。キロキロの実がチートすぎる……。
スリラーバーク編はライア視点だと引き伸ばし所が少ないので結構早く終わりそうです。


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スリラーバークの冒険

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
キロキロの実の運用でちょっと違和感を感じられた方もいらっしゃるようで、その点は申し訳なかったです。
基本的に勢いにまかせて科学的な事とかを二の次にしているので、こういった事は多々あると思いますが……、面白くしていけるように頑張りますので見捨てないでください。お願いします!


「「ケルベロス〜〜〜!!!」」

 

「えっ、ちょっと! みんな!!」

 

 オバケが怖くて、スリラーバークに乗り込むことに最後まで反対したナミとチョッパーとミキータ。

 私と彼女らがフランキーが造ったミニメリー号の試乗をしていたら、何かの間違いでスリラーバークの中に突っ込んでしまった。

 

 そんな私たちの前に現れたのは3つ首の怪物、ケルベロスだった。

 ナミたちはそれを見るなり走って逃げてしまったので、私も仕方なしにそれを追うこととなった。

 

 強い気配がチラホラ……。よかった……、ゾンビの気配も見聞色で感知できるみたいだ……。

 

「階段だ! 地上に出られる!」

 

 チョッパーは階段を見つけて嬉しそうな声を出した。

 それでも追われるのは変わらないと思うけど……。

 あの大きいのを倒すのも時間がかかりそうだし……。()()はまだ使うときじゃない。

 

 ならば――。

 

「そっか、じゃあ一応だけど……。蒼色の超弾(フリーザーブレット)ッ!」

 

 私は階段を凍らせて道を塞ぐ。ちょうど凍らせた場所をケルベロスが踏みつけた。

 

「キャハハ! ナイスよ! 階段を凍らせた! あいつ、ツルンと滑って転んだわ!」

 

「これで一安心だけど……、随分と奥まで来ちゃったわね……」

 

 ミキータはガッツポーズをして喜び、ナミは奥まで来たことを悔やんでいた。

 

「あんなのが居るなら、目立つ場所でみんなが来るまでなんて待てないぞ」

 

 そして、チョッパーは仲間の助けを目立つところで待つことを嫌がる。

 

「まったくですね……」

 

「キャハ……、い、今の声……、ライア?」

 

 私たちの会話に参加してきた低い声を、青ざめた顔で確認するミキータ。

 本当にオバケが苦手みたいだな……。

 

「いや、この人だろ?」

 

「こ、この人?」

 

 私が後ろを親指でさすと彼女たちはその方向に顔を向ける。そこにはコウモリ男のようなゾンビがいた。

 

 まァ、ゾンビとか言っちゃうとみんなが混乱するだろうからそんなことは言わないけど……。

 

 しかし、今気付いたけどゾンビと人間じゃ少しだけ気配が違うな。魂と身体が合っていないから違和感があるからだろうか?

 

「「ギャーーーっ!」」

 

「私はヒルドンと申しまし……。お困りのようでしたから声をかけさせて頂きました。こちらは夜が更けますと危険です。もしよろしければ、私の馬車でドクトル・ホグバックのお屋敷にいらっしゃいまし……」

 

 ナミたちが絶叫するのもお構いなしにヒルドンと名乗ったゾンビは馬車でホグバックの屋敷に私たちを誘った。

 ふむ、ホグバックというのはモリアの部下だったはず……。行ってみるか……。

 

「ホグバック?」

 

 ホグバックの名を聞いたチョッパーの顔つきが変わった。

 あー、そういえばチョッパーはホグバックを尊敬していたんだったな。

 間違いなく罠だけど、不自然な行動もしたくない。警戒は怠らずに行ってみるか……。

 

 私たちはヒルドンの誘いに乗ることにした。

 

 

 しかし、流石は王下七武海の本拠地……、トラブルはこれで終わらない。

 ヒルドンは馬車を急に止めて私たちを墓場のど真ん中で放置したのだ。

 

 そして、お約束のような演出で墓場から次々とゾンビが出てきた。

 

「ふぅ……、結局こうなるのか。――必殺ッッ! 火炎星ッッッ!!」

 

「キャハハッ! 炎が弱点なら! 1万キロフルスイング・(ファイア)ッ!!」

 

 私がゾンビたちを火炎で狙い撃ちして、ミキータはゾンビを吹き飛ばしながら、火球を放出する。

 

「「うわああああっ!」」

 

 ゾンビたちはこちらの思わぬ反撃にたじろいだ。

 

「なっ……! こいつら強ェぞ!」

「聞いてねェよ! 腐れちくしょう!」

  

 そして、私たちに敵いそうにないと知ると捨て台詞を吐いて退散していった。

 

「た、助かったわ……。あなたたち、ゾンビが怖くないのね……」

 

 ゾンビの集団にドン引きしていたナミは私の腕にギュッとしがみつきながら、そんなことを言う。

 

「ナミちゃん! 私は怖いわよ! 足なんてほら……、膝が笑ってるでしょ! キャハハって……」

 

 ミキータは自分の膝がカクカク揺れている状態を指さしながらジョークを飛ばしていた。

 

「割と余裕あるじゃないか……」

 

「あっちに大きな屋敷が見える。ホグバックの屋敷かもしれないぞ! 行ってみよう!」

 

 私はミキータにツッコミ、チョッパーは少しだけ離れた場所にある洋館を指さす。

 うわぁ、如何にもだなぁ……。

 

「こんな島にまともな人が住んでるとは思えないわ」

 

「でもここまで来たらどこ行っても危険だし……」

 

「アテはないんだ、行ってみよう……」

 

 私たちはホグバックの屋敷らしき洋館の門を叩くことにした――。

 さて、どうなることやら……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「いらっしゃい……」

 

「「ぎゃあああああっ!」」

 

 洋館の外庭の古井戸にスポットライトが当たり、その中から顔色の悪い女が皿を何枚も持って出てきた。あの子もゾンビだな……。名前は忘れちゃったけど……。

 ナミたちは今日、何回目か分からない絶叫をする。

 

「一枚、二枚、三枚……」

 

「な、なんであの人、皿を床に投げつけて割っているの?」

 

「キャハッ……、し、知らないわよ。そんなこと」

 

 女が床に皿を叩きつけている様子をナミたちは震えながら見ていた。

 とりあえず、攻撃してきそうな感じじゃないな……。

 

「やァ、こんばんは。君はここの人かな?」

 

「四枚……。…………」

 

 彼女に声をかけると、女は皿を叩きつけることをやめて暫くボーッとした表情で私の顔を見ていた。

 どうしたんだろう?

 

「おーい、大丈夫かい?」

 

「――はっ!? そ、そうよ。あなたたちを入れるように言われて来たわ……。え、ええーっと……」

 

 私はもう一度、女に話しかけると驚いたような顔をして、すぐに困ったような表情になりモジモジしだした。

 人見知りなのかな? よく覚えてないけど……。

 

「なんてこった! シンドリーちゃんが照れてやがる……! 何があったんだ!?」

 

 すると、洋館の扉がガチャリと開き、中から丸っこい体型で手足が細長いサングラスをかけた男が出てきた。彼がホグバックか……。

 

「いつものことよ」

「慣れてきた自分が嫌になっちゃう……」

「…………?」

 

 ナミとミキータがヒソヒソ何かを話していて、チョッパーが不思議そうな顔をしている。

 

「驚かせて悪かったな。この女はかつて婚約していた大富豪の愛を試すために、そいつが大切にしていた皿を10枚割ったところ、婚約破棄され、顔にハナクソをつけられて追い出された不幸な過去を持つ、皿嫌いな使用人、シンドリーちゃんだ」

 

「割とどうでもいいわ……」

 

 ホグバックの紹介に対して、ナミは辛辣なツッコミを入れる。

 シンドリーというか、彼女の影の持ち主の過去だったと思うが、確かにどうでもいい……。

 ああ、この子そんな名前だったっけ。

 

「そして、紹介が遅れたな! おれは世にも名高きドクトル・ホグバック!! 通称“天才”だ!!! フォスフォスフォス!」

 

 ホグバックは自己紹介して誇らしげに笑みを浮かべた。

 こいつはかなりの外道だったはず。死体を弄ぶような……。シンドリーも弄ばれた内の一人だ……。

 

「――こんな皿なんか――もうどうでもいい……。どうでも……」

 

「はぁ? シンドリーちゃん?」

 

 シンドリーが持っていた皿を古井戸の中に放り込むとホグバックは首を傾げる。

 

「さァ入って、中でお話ししましょう」

 

 そして、両手が自由になったシンドリーは私の腕に絡みつき、肩に頭を置いて屋敷の中に引っ張ろうとしてきた。

 あれ? この人ってこんなにフレンドリーだっけ?

 

「ホグバックさん? この人、いつもこんな感じなのかい?」

 

「…………くっ! いや、フォスフォスフォス! 珍しいこともあるもんだ。シンドリーちゃんが他人に興味を持つなんてよォ! よし! お前ら気に入った! 屋敷の中に入りな! 歓迎するぜ!」

 

 ホグバックは一瞬顔を歪めたが、直ぐに笑顔を見せて、屋敷に歓迎すると言った。

 100%罠だけど、とりあえず連中の出方を見るか……。

 

「本物のホグバックに誘われた〜!!」

 

「どうする? ナミちゃん」

 

「外のゾンビよりマシでしょ」

 

 私たちはホグバックの誘いに乗り、屋敷の中に入っていった。

 

 

 ドクトル・ホグバックはこの地でゾンビの研究、もとい“死者の蘇生”の研究をしているのだと嘘八百を並べる。やってるのは、ゾンビ兵の強化とかそんなところだったかな?

 

 チョッパーは、「喜ぶ人はいっぱいいる」と彼の研究に賛成したが、それもどうかと思う……。死者蘇生なんてものが仮に可能になったら、良からぬことに使う連中が後を絶たないだろう。

 比較的に上機嫌だったドクトル・ホグバックだが、チョッパーが研究室を見たいと言うと顔つきを変えて「絶対に見るな」と断った。

 

「プリンをどうぞ」

 

「あ、あれ〜〜!? シンドリーちゃんが皿にプリンを〜〜!!? 叶っちまった! 小さなおれの願い!」

 

 皿に置かれたプリンを見てホグバックはオーバーリアクションを取っていた。

 そんなに驚くことかな?

 

「何よ、大袈裟ね……。皿にプリンを盛り付けるなんて当たり前じゃない」

 

「フォスフォスフォス! いままで何度、言っても聞かなかったんだよ〜! まったく! さっきから人が変わったみたいになりやがって! つーか、銀髪の分だけデザート豪華じゃねェか! ここの主人はおれだぞ!」

 

 ナミのツッコミにホグバックはシンドリーが決して皿に盛り付けをしなかったと言い、私の目の前にある大きなプリンパフェを指さしながら大声で叫んだ。

 

「ああ、すまないね。じゃあ、こっちと取り替えて……」

 

「いらねェよ! 余計に惨めだよ! そっか、シンドリーちゃんは面食いだったか!? そうなのか!?」

 

 私がホグバックの皿と交換しようとすると彼は興奮気味にそれを拒否して、立ち上がってシンドリーに向かってそんなことを言う。

 

「お風呂を用意したわ。こんなに汚れちゃって可哀想……。ゆっくり温まってね……。――あんたたちも入ったら、汚いから」

 

 シンドリーはホグバックを無視して、私の両肩に手を置いて風呂に入るように促してきた。

 なんか、妙なことになったな……。

 

「キャハッ……、なんか段々腹立ってきたわね……」

「私は疲れてきた……。せっかくだし入りましょ。汚いのはホントだし……」

 

 そういうことで、私たちは屋敷の風呂に入ることにした。

 チョッパーも一緒に入ろうと言ったら男だぞって断られた。人間の女には興味ないみたいだけど……。なんか、ごめん。

 彼には浴室の前で待ってもらうことにした。

 

「で、ライアはあのホグバックをどう思ってるの?」

 

「ん? 何って、あの人が嘘ついてることかい?」

 

 体を洗って湯船に浸かって落ち着いた頃、ナミがホグバックについて私に印象を尋ねてきたので、それに答えた。

 まぁ、ナミもそれには気付いてるだろう。

 

「キャハッ……、やっぱり疑ってるんだ」

 

「おい! ライア! ホグバックは凄い医者なんだぞ! 嘘なんか吐くもんか」

 

 ミキータも胡散臭さを感じているみたいだったが、浴室の外で話を聞いているチョッパーはホグバックを信じている。

 

「チョッパー、あの人は嘘をついてるのは間違いないんだ。その証拠にこの屋敷には多くのゾンビがいる」

 

 私はチョッパーに屋敷にゾンビが何体かいるという事実を伝えた。

 

「えっ?」

 

「やっぱり……」

 

「やっぱりって、ナミちゃん。あんたも気付いてたの?」

 

 私の言葉にチョッパーは驚いていたが、ナミは気付いていたみたいで、それを聞いたミキータの顔が青くなる。

 

「もっと言えば、シンドリー……。彼女も生きた人間じゃない……」

 

「ちょっと、ライア。それ、マジなの?」

 

 シンドリーの話を出すと、3人はさらに驚いた顔をした。

 

「うん。ほら、私ってさ人の気配を感じることが出来るだろ? シンドリーから感じられる気配は墓場で遭遇したゾンビに近かったんだ」

 

「ほう、そんな奴がいるとはな……」

 

 私がシンドリーの気配の話をすると、この浴室の中にいる人間の気配が一つ増え、その気配は言葉を発した。

 ああ、居たな。そういえば、姿が見えない男が……。

 

「だ、誰?」

 

「誰もいないわよ……」

 

 ナミとミキータはハッとした表情で辺りを見渡し、首を傾げる。

 

「さっそくお出ましか。――よっと……」

 

 私は手に持っていた縄を引っ張って浴室の外に置いていた銃を手元に手繰り寄せた。

 さすがに敵陣で丸腰で風呂になんて入れないからな……。

 

「ライア……、あなた銃を……」

「ふん、銃なんか持ったところで――。――ッ!? うっギャアあああッ! 痛てェえええッ!」

 

 ナミの声と男の声が同時に発せられ、私は男の方に向かって発砲する。

 銃弾は男の左肩辺りに命中した。

 

「キャハッ! 何よ! 今の声!?」

 

 ミキータは男の叫び声に動揺して周囲をキョロキョロと注意深く観察するが、透明人間が相手なのでもちろん目には見えない。

 

「1つ、私は見えなくても位置がわかる。このとおりだ」

 

「グギャアアアッ!」

 

 私は男に自分の立場を分からせるために、彼の脇腹にもう一発銃弾を浴びせる。

 彼は絶叫してのたうち回った。

 

「2つ、逃げ出そうとすると撃つ。3つ、姿を現さないと撃つ。4つ、制限時間はあと三秒、ニ秒、一――」

 

「わーった、悪かった……! 姿を見せるから撃たないでくれ!」

 

 私が彼に忠告してカウントダウンを開始すると、ようやく男はその獣のような外見を現した。

 

「な、何ッ! こ、こいつ!」

「キャハッ! 1つ言えることは透明になって風呂を覗くスケベな変態ってことね!」

 

 その姿を見てナミとミキータは体を湯船と手で隠して、侮蔑のこもった視線を彼に向ける。

 透明になって風呂を覗くようなことをしたんだから当然だけど……。

 

「うぉっ! こっちの2人は可愛いじゃねェか! この男みてェな女よりは、かなり好みだぜ! ――ッ!? じょ、冗談だ。冗談……!」

 

「口の利き方には気をつけろよ」

 

 そんなナミとミキータを見て、男は立ち上がり鼻息を荒くしたので、私はその鼻に向かって銃口を突きつけて忠告した。

 

「ちっ、9600万ベリーの賞金首なのは知ってたが、まさかおれの力を見切るなんて……」

 

 男は私の賞金額を口にして悔しそうな顔をしていた。

 ちょうどいい。こいつに全部吐かせるとするか……。

 

「君は悪魔の実の能力者だな? それも透明人間になれる能力……」 

 

「その通り。おれはアブサロム。スケスケの実の能力者だ」

 

 男は私の質問にあっさり答えてアブサロムと名乗った。

 

「で、私たちをどうするつもりなのかな? 賞金首ということを知ってて手を出したみたいだが……」

 

「けっ! そんなこと言えるわけねェだろう!」

 

 さらに私が彼らの目的を聞くと、アブサロムは悪態をついて質問に答えることを拒否する。

 なるほど、それなりにモリアへの忠誠心はあるらしい。

 

「そうか。じゃあ仕方ない。死んでもらうか……」

 

「ギャーーーッ! ま、待ってくれ! 全部言う! 全部言うから……!」

 

 私がわざとらしく大きな動作で、銃弾を込め直して、引き金を引こうとすると、アブサロムは大慌てで私の質問に答えようとした。

 さすがに命は惜しいか……。

 

「――それでいい。それじゃあ……」

 

 彼に質問をさらに投げつけようとした時、私は妙な気配を感じた。

 しかし、その気配は弱々しく、警戒するに値しないものだったので、さして気にも留めなかった。

 

 これがいけなかった……。気配の正体はホロホロの実の能力者の能力であるネガティブホロウで、迂闊にも私はそれに触れてしまっのだ……。

 

「――ダメだ……。男みたいな顔って言われた……。もう生きていけない……。死のう……」

 

 気分は最悪だった。そう。もう何もしたくないくらいに……。

 私はアブサロムに向けていた銃口を自分に向ける。

 

「ちょ、ちょっと! ライア! あなた、何やってんの!?」

「キャハッ! 今更なこと言って……! 何でショックを!?」

 

 それを見ていたナミとミキータが大慌てで湯船から飛び出して、私を羽交い締めにして、銃を奪い取った。

 もうどうでもいいんだけど……。ごめんなさい。迷惑をかけてしまって……。

 生まれてすみません……。

 

「――ぺ、ペローナか!? でかした! 助かったぜ!」

 

「あっ! 待ちなさい!」

 

 アブサロムはペローナという恐らくはホロホロの実の能力者の名前を口にして、窓を開けて逃げてしまった。

 ああ、間抜けな私のせいで逃してしまった……。

 もう、チーズ蒸しパンになりたい……。

 

 

 私が正気を取り戻したのは数分後のことだった――。

 あれがネガティブホロウの力か……。まずいな……。想像以上だ……。

 確か、ウソップは元からネガティブだから無効だったというが、私にはがっつり効く……。

 これはある意味モリアよりも厄介だ……。

 

 幸運なのは見聞色の覇気で、分かりにくいがある程度の位置は掴めたこと。避けれるだけ避けて、何とか一撃で倒すしかないな……。

 

 とにかくもう油断したらダメだ……。油断さえしなければ、その辺のゾンビには負けはしない……。

 

 私はそう思っていたんだけど――。

 

 

「フォスフォスフォス! 見事だ! 達人に斬られた者は、鼻唄まじりに三丁歩き、そこで初めて斬られた事に気付くという……」

 

 あのあと、屋敷で様々なゾンビに襲われて、ホグバックの地下研究室で彼を問い詰めると、出てきたのは“和の国”のサムライだというゾンビ――リューマ。

 彼の太刀筋は見えただけで、私は何も出来なかった……。

 チョッパー、ナミ、ミキータは倒れて、私は膝をつく。

 

「"鼻歌三丁・矢筈斬り(やはずぎり)"!」

 

 しかし、リューマの声が聞こえたとき……、辛うじて保っていた意識が飛んでしまいそうになる。

 ダメだ……。横になりたい。体がまったく動かない……。

 

「ヨホホ、おやこれはびっくりですね。まだ、意識がありますか。では更に強い剣技でトドメを……!」

 

「――ッ!?」

 

 私は覚悟を決めたが、何者かが後ろから私を抱きかかえて走り出した。

 

「し、シンドリーちゃん! 何をしている! 戻れ! “命令”だっ!」

 

「き、君は……、ホグバックの……」

 

 なんと、シンドリーが私の体を持ち上げて、一心不乱に駆け出したのだ。

 あまりの出来事にホグバックは驚いて、リューマは命令が無いので止まってしまった。

 

「あなたへの気持ちが私の心を呼び覚ましてくれた――。胸の高鳴りが止まっていた鼓動を蘇らせてくれた」

 

 よく分からないが、シンドリーは自我に目覚めたみたいなことを言っている。本当に訳がわからない。

 

「ダメだ! 仲間がまだ……!」

 

「あの子たちは大丈夫! 絶対に殺されはしない! それは決まっているの!」

 

 シンドリーは私を抱えたまま、ホグバックの屋敷を飛び出してしまった――。

 なんてことだ……。仲間を置いてきてしまった。

 確かに、モリアの能力を考えたら殺されることは無いと思うが……。それにしても情けない。

 しかし、悔やんでも仕方ない。何としてでも仲間を取り返さなくては……。

 




ネガティブホロウは普通に効くライアでした。
しかもリューマにも負けて、同じ日に2回敗北する奴があるかよ状態に……。
シンドリーのキャラクターもかなり好きなので、ちょっと彼女に活躍してもらいました。
なんで、彼女の呪縛が解かれたのかというと、恋をして胸が高鳴って心臓が動いたからです。
超理論すぎて申し訳ありません……。


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シンドリーとローラ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今月も何とか頑張って投稿していきますので、よろしくお願いします!


「くっ……、私が弱かったせいで仲間が守れなかった……!!」

 

 森の奥まで逃走した私はようやく意識が回復して、体が動くようになった。

 

「あなたが弱かったんじゃない……。相手が悪いのよ……。リューマは将軍(ジェネラル)ゾンビたちの中でも別格で強い……。それにこの島を支配しているのは王下七武海のゲッコー・モリア……。あなたがどうしたって敵う相手ではないわ」

 

 シンドリーは優しい口調で私を慰めるが、到底納得することは出来なかった。

 あの場面……、ルフィたちとの合流まで逃げに徹しなかったのは私の慢心だ。

 ゾンビたちの強さを推し量れなかったことを含めて……。

 そもそもネガティブホロウの時点で撤退を考えなかったことは悪手でしかなかった。

 

「ナミたちを早く助け出さなきゃ……」

 

「ダメよ。その体じゃ……、あなたまで影を取られちゃう。お願い逃げて……! 今の私は胸が高鳴って止まってた心臓が何故か動き出して自由を得た。でも、こんな奇跡は長く保たない……。この奇跡を与えてくれたあなたにだけは助かってほしいの」

 

 ナミたちの気配を探り、その場所へと急ごうとする私をシンドリーはもの凄い力で腕を掴んで引き留めようとする。

 私に逃げてほしいと懇願しながら……。

 

「――心臓が動くってそんなバカな……!? でもごめん。君に助けられたことは感謝するけど……。私は逃げない。自分のプライドを懸けて……、みんなを助ける!」

 

 私はもう逃げ出すわけにはいかなかった。自分のミスは自分で取り返す。

 モリアのところに直接乗り込んででも彼女たちを助ける!

 

「――そう。あなたにそこまで想われる人たちが羨ましい……。分かった……。私も手伝う。この奇跡であなたの仲間が助けられれば――それでいい」

 

 シンドリーは腕の力を緩めて、私の手を握りしめて私を助けると言ってくれた。

 自分が動ける残り少ない時間をそれに捧げると――。

 

「シンドリー……」

 

「そんな顔しないで。私、そんなにいい死に方じゃなかったけど、いい人生だったのよ。舞台上で演技して、みんなから声援をもらって……。幸せだった……。そして、今も幸せ……。好きな人を見つけて、恋をすることを思い出せた――」

 

 彼女はニッコリ笑ってみせた。その表情は一点の曇りもなく清々しい笑顔だった。

 

「――恋? いや、ええーっと。私は……」

 

 シンドリーの“恋”という言葉を聞いて私は動揺する。

 もしかして彼女は私を男だと勘違いしている?

 

「知ってるわよ。女の子なんでしょ? お風呂での会話……、聞いていたわ。躊躇いなく、女の子2人を連れて服を脱ぎ出したときはそういう人なのかと思ったけど……」

 

 シンドリーは浴室付近に確かに居た。そうか、話は聞いていたか……。

 

「いや、それなら……」

 

()()()()構わないの。私の心臓にもう一度、鼓動を与えてくれたのがあなたなのだから。私は――この気持ちを大切にしたい……」

 

 シンドリーは私が女でも構わないと言って、胸を抱くような仕草をする。

 でも、いや、だからこそ……。

 

「私は君の想いには応えられない……。だから、君の想いを利用するようなことは――」

 

「ふふっ……、真面目なんだから。あなたが望むことを私は尊重したいの。だから手伝わせて……。――まずは“塩”を手に入れましょう。塩にはゾンビたちを“浄化”する力があるわ」

 

 シンドリーは塩でゾンビが浄化されることを話した。うん。それは知っている。

 でも、彼女が手伝いたいという気持ちは嬉しかった。

 

 リューマのときは彼が速すぎて使えなかったが、私も()()()()を使わせて貰おう。

 

 

 

「――必殺ッッッ! 海水花火星ッッッ!」

 

「「ギャああああッ」」

 

 悪魔の実の能力者対策で作った失敗作、藍色の超弾(ソルティブレット)

 ルフィに試してみたけど、ちょっと海水で濡れたくらいじゃ、能力は封じられなかった。

 しかし、口の中に塩が入れば浄化されるゾンビは違う。私は次々にゾンビたちの体内に海水をねじ込み、モリアの居城にいる仲間たちの元を目指した。

 

 

 

 

「「私たち! 男なんだぜ!!(キャハッ!)」」

 

「「え〜〜〜!」」

 

 ナミたちはビックリするくらい、あっさりと見つかった。

 求婚のローラの影が入っている猪ローラに追いかけられていたらしく、ナミとミキータは自分たちが男だと言い張っている。

 そして、猪ローラとチョッパーが驚きの声を上げていた。

 

 チョッパー……、君はどこで男女の判断をしてるんだい?

 

「そうなの?」

 

「そ、そう。私たちはオカマなの、ね? 冗談じゃないわよーう」

「キャハハッ! そうそう、冗談じゃないわー」

 

 まだ不思議そうな顔をしている猪ローラに対してナミとミキータは雑な芝居を続けている。

 

「それに、あなたとあの獣男のことすっごくお似合いって、ねー?」

「キャハッ……! まさにベストカップルって感じ……みたいな」

 

 そして、アブサロムと猪ローラがお似合いだと2人は彼女を持ち上げていた。

 

「ホント!? 今まで誰にも後押しされたことないのに……。こんなに優しい言葉は初めてよ……」

 

「友情ってこういうものよ。マイフレンド! 私は“ナミゾウ”、ナミって呼んで。こっちは――ええーっと……」

「“ミキタロウ”よ。キャハハ、ミキータと呼んで……」

 

 猪ローラは感動していて、ナミは“ナミゾウ”、ミキータは“ミキタロウ”と名乗っている。

 よくやるなぁ。こういうアドリブ……。

 

「何やってんだ……。君たち……。でも、良かった。無事だったんだね……」

 

 話も一段落したようなので、私はようやく2人に声をかけることができた。

 

「「ライア!」」

 

 ナミたちは私に気が付いて駆け寄ってくる。

 ふぅ、何はともあれ大した怪我をしてなくて良かった……。

 

「あら、シンドリーじゃない。こっちに来るなんて珍しい。そっちは……、なに、あなたの友――! ――ッ!? 結婚して!!」

 

 そして、猪ローラはシンドリーに気が付いて声をかけていたが、ついでに私にも気が付き求婚してくる。

 アブサロムはどうした? アブサロムは……。

 

「「おい!」」

 

 これにはすかさずナミとミキータがツッコミを入れる。

 

「ローラ結婚は無理。この人は女……」

 

 シンドリーは淡々とした口調で私が女だということを告げた。

 自分で言うのは悲しいから言ってくれて助かった……。

 

「えっ? え!? え〜〜〜〜ッ!!!?」

 

 すると、猪ローラは口を大きく開けて、目と舌を極限まで飛び出させながらオーバーなリアクションを取る。

 ちょっと待て! おかしいぞ!

 

「なぜ、ナミたちのときよりリアクションが大きいんだ!?」

 

「まぁまぁ……」

 

 私は猪ローラを指さしながら抗議をしたが、ミキータが私の肩に手を置いてなだめるような仕草をした。

 

「な、なるほど。オカマとオナベの友達同士ってことね……!? 腐れ驚いた!? 心臓が止まるかと思ったわ……! ――はっ、もう止まってた!? でも、それにしてはシンドリー。あなたはやたらとその子にベタベタしてるじゃない」

 

 ローラはシンドリーがさっきから私にピタリとくっついて離れないことに疑問を呈する。

 そうなんだよな。シンドリーはものすごい力で私の腕を組んで離してくれないんだよ……。

 

「別にいいでしょ。男は男同士……、女は女同士でみんな恋愛してしまえばいい……」

 

「それは、どうかと思うよ……?」

 

 シンドリーの極論に対して、私は流石にツッコミを入れた。

 

「お、女の子同士の恋愛!? か、考えてみもしなかったわ! あなた進んでるのね〜〜!? じゃあ、アブサロムが男の人に奪われる可能性も!?」

 

 猪ローラはハッとした表情でナミたちをジロっと見る。

 

「あんた! 話をややこしくするなよ!」

 

「大丈夫。あの獣男はそんな趣味ないから、きっとあなたに振り向くから!」

 

 ミキータがシンドリーに文句を言って、ナミは必死で猪ローラを説得していた。

 上手いもので、一度恋バナに花を咲かせるとナミとミキータは猪ローラと打ち解けて仲良くなっていた。

 

 

「ところでローラ、私、財宝置き場で忘れ物しちゃって戻りたいんだけど、どこだったかしら?」

 

「ドジねェ。いいわよ、あそこはペローナ様の部屋から行けば近いわ」

 

 そして、仲良くなった途端にナミはさり気なく財宝置き場の場所を聞き出す。

 こういうところはしっかりしてるよな。感心する。

 

「キャハハ! ナミゾウったら、もう……、ブレないんだから……だぜ!」

 

「――アブサロムの気配がするね……。ほら、こっちに来てる……」

 

 ミキータがそんなナミに声をかけると同時にアブサロムがこちらに向かってくる気配を感じた。

 ここで彼を倒すより隠れて様子を見たほうがいいかもしれない。

 どうやらサンジとゾロがモリアに影を取られたみたいだ。彼らの動きがさっきからずっと止まっている。

 

 ロビンとフランキーはブルックと居るな……。良かった。

 あとはルフィだけど……。捕まってないよな……?

 

「チャンスよ、ローラ! あなたの想いを伝えるの!」

 

「ありがとう! ナミ! ミキータ! 私頑張る!」

 

 ローラはナミとミキータに見送られて、ダッシュでアブサロムに突撃をしていった。

 

 

 

「サンジとゾロがやられたみたいだ……」

 

「えっ? あの二人が!?」

 

 私が2人が倒されてしまったことを伝えるとみんなは驚いた顔をした。

 しかし、驚いている場合じゃない。

 

「うん。だけど大丈夫。彼らは生きている。とりあえず、今私たちが置かれてる状況を説明しよう――」

 

 私はモリアの能力などについてナミたちに説明をする。

 彼女らは恐ろしいモリアの力に戦慄していた。

 

「影を奪って、その力をゾンビ兵に埋め込むって……。キャハハ、エグいことするわ」

 

「ドクトル・ホグバックがそんなことを……」

 

 ミキータはその非道な行いを嫌悪して、チョッパーはホグバックが死体を弄んでゾンビ兵を作っていることにショックを受けていた。

 

「私の肉体も別人の影によって動かされていたわ。今のように心臓が動く前は、影の持ち主の人格の影響で皿が嫌いだったり、ホグバックの命令には絶対に服従だったの」

 

 シンドリーは自分の体を例にあげてゾンビ兵のシステムについて説明する。

 

「死体の心臓が動くなんて……。まったく、恐ろしいことするじゃない」

 

「それって、私に言ってる?」

 

 ナミはジトっとした視線を私に送り、私は自分を指さして彼女の言葉を確認した。

 

「キャハッ! 他に誰が居るのよ?」

 

 ミキータはバカなことを聞き返すなと言わんばかりの態度で私を見ていた。

 

 

 そんなことを話している最中である。私たちは建物全体が震える中で、とてつもない怒号を耳にした。

 

「肉~~~~~っ! ハラ減った~~~~! サンジ! メシーーーー!!!」

 

 聞き覚えがあり過ぎるフレーズに私たちは身震いする。

 どう考えても普通のサイズの人間ではない声でルフィのセリフが聞こえたからだ。

 

「まさか、ゾンビナンバー900号に影を……!?」

 

「なんだ? ゾンビナンバー900号って?」

 

 シンドリーの声にチョッパーが質問する。

 

「“島引き伝説”をもつ、史上で唯一“魔人”と呼ばれたオーズという男のゾンビ兵よ。巨人族よりも遥かに大きな身体で、ホグバックの最高傑作……」

 

 彼女はオーズについて説明をした。やはりルフィも影を奪われてしまったか……。

 

「キャハッ……、待って。そんなやばい身体に船長の影なんて入れられたら……」

 

「地獄ね……。控え目に言って……。ライア、どうしましょう?」

 

 ルフィの戦闘力を持つ“魔人”……。

 ナミたちはその言葉のインパクトに戦慄する。

 ルフィがデカイってそれだけで脅威だよなぁ。

 

「とりあえず、フランキーとロビンは無事のようだから、彼らと合流しよう。そしてルフィたちを助け出して影を取り返すんだ」

 

 ナミの言葉に私はそう答えて、まずは仲間を全員揃えることが先決だと話した。

 反撃をする前に出来るだけ戦力を整えないと……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「美女の剣豪が肉を持ってきたぞ!!」

 

「美女……!?」

「剣豪ォ……!?」

「肉……!?」

 

 フランキーとロビンと合流して、シンドリーの案内でサニー号の元へと辿り着いた私たちはダイニングで眠っているルフィたちを発見した。

 

 彼らはどんなに頑張っても起きてくれなかったので途方に暮れていたが、私が何とか漫画でどうやって“ウソップ”が彼らを起こしたのかを思い出して、それを試すとようやく彼らは目覚めた。

 こういう機転は私が彼に及ばないところだな……。

 

 さらにフランキーがブルックとラブーンの関係を話して、私たちの士気は最高潮に達した。

 

「うは〜〜〜!! ぞくぞくしてきた!! あいつは音楽家で! 喋るガイコツで! アフロで! ヨホホで! ラブーンの仲間だったんだ!! おれはあいつを引きずってでもこの船に乗せるぞ! 仲間にする! 文句あるか!? お前ら!!」

 

「「ない!!」」

 

 ルフィがブルックを仲間にすると宣言して、今度は誰も文句を言わなかった。フランキーなど終始泣いていた……。

 

「よっしゃあ! 野郎ども! 反撃の準備をしろ!! スリラーバークを吹き飛ばすぞォーーー!!」

 

 麦わらの一味にシンドリーを加えた9人は全員でモリアの居城に再び乗り込む。“影”を取り返すために――。

 




シンドリーは本来の人格と影の人格が混ざった感じになってます。
さて、次回はいよいよホロホロの実の能力者が登場です!
スリラーバーク編のメインになりますのでよろしくお願いします!



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海賊ライアVS怪人ペローナ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます。
今回はタイトル通り、1話丸々使ってペローナ戦です。
面白くなっているか不安ですが、よろしくお願いします!


「皆さんと同じ大地を踏んで申し訳ありません」

「サバ以下だおれの存在は……、死のう……」

「そうだ! ノラ犬などに踏まれたい!」

「お金なんて、全部捨てて、ついでにゴミ箱に入るわ……」

 

 膝を突いてネガティブ状態になっている、ゾロ、サンジ、フランキー、ナミの4人……。

 ブルックを助けつつ、モリアを倒そうということで二手に分かれた。

 本来、ブルックの方に向かっていたのはフランキーとゾロだけだったが、ルフィの影を手に入れたオーズが大暴れして、上に登る階段を破壊し、落下した私たちもゾロたちと合流することになったのだ。

 

 モリアの元にはルフィ、チョッパー、ミキータ、ロビンの4人が向かっている。

 

「捕らえろ! あっけねェ……」

 

 ペローナはゾンビ兵たちにゾロたちを捕らえるように指示を出した。

 

「――必殺ッッ!! ――海水花火星ッッ!!」

「――一つ、二つ、三つッ!」

 

 私は海水を含む弾丸をゾンビの口に向かって放ち、シンドリーは私が全員に手渡したソルトボール、言わば塩の塊を口の中に放り込む。

 

「「ギャアアアアッ――」」

 

 ゾンビたちは断末魔を上げて、次々に浄化されてしまった。

 

「な、シンドリー! 本当に裏切りやがったのか! くそっ、銀髪、てめェは躱してやがったな! 生意気な!」

 

「裏切る? ペローナ、私は最初から思ってるわよ。ゾンビなんかみんな消えてしまえばいいって……」

 

 裏切り者扱いされたシンドリーは心外だと言う顔をペローナに見せる。

 

「ちっ、“ネガティブホロウ”!」

 

 ペローナは“ネガティブホロウ”をシンドリーに向かって放った。

 しかし――。

 

「――ゾンビなんか、そう……、みんな消えてしまえばいい!」

 

「「ギャアアアアッ!」」

 

 シンドリーはネガティブホロウを食らっても平気な顔をしてゾンビたちを浄化していく。

 

「なぜだ、シンドリー! お前はゴーストが当たっても、なぜ膝を突かない!」

 

「なぜかしら? 私を動かすこの影って、とってもネガティブなのよね。昔から……。だから、私が憂鬱な気分でも……、勝手に体が動いちゃうの」

 

 ペローナはシンドリーにネガティブホロウが効かない事に驚き、シンドリーは自分の影が元からネガティブだから平気だと答える。

 

「ええーーっ!!! バカな! 人は生きてるだけで前を向いてるものだぞ!」

 

 ペローナは元からネガティブ発言をするシンドリーの言葉が信じられないようだった。

 

「ペローナ、私……、死んでるわよ……」

 

 そんなペローナに向かってシンドリーは周知の事実を伝える。

 そう、シンドリーは既に死んでいる人間。これ以上、失望することはない……。

 

「――あ、そっか」

 

「じゃあ、そういうことだから……」

 

 納得したペローナを尻目にシンドリーはゾンビたちを浄化する作業に戻る。

 よし、私もかなりの数のゾンビを浄化させた。あとはペローナと……。

 

「クソがッ! ゾンビ如きが逆らいやがって! クマシー! 口を閉じて! シンドリーをぶっ飛ばせ!」

 

「――くっ!」

 

 ペローナの側近であるクマのぬいぐるみのようなゾンビ、クマシーがものすごいパワーでシンドリーを殴り飛ばす。

 

「クマシーの腕力は本物の熊をも凌ぐ! “ネガティブホロウ”が効かなくてもてめェごとき!」

 

 シンドリーはクマシーとの戦いに手一杯になってしまった。

 そして、ペローナはネガティブホロウを私に向かって放ってくる。

 

「みんな! ここは私とシンドリーに任せてくれ! 私ならあいつのネガティブホロウを避けられる。早く先に進んでくれ!」

 

 私は見聞色の覇気を全力で回避に集中させて、ネガティブホロウを何とか躱しながら、仲間たちに指示を出した。

 思ってる以上に避けにくい。これは避けながら戦うなんて無理かもしれない……。

 

「あ、あれ? ナミさんは!?」

 

 そんなとき、正気に戻ったサンジはナミがこの場から消えていることに気づく。

 くっ、ネガティブホロウに集中して気付かなかったが、アブサロムが……。

 

「今ごろ気付いたか? マヌケめ! あのオレンジの髪の女ならアブサロムのバカが持っていったよ。大方、結婚式でもするつもりなんだろう」

 

「け、結婚!? おのれ許さんぞォォォ! んナミさ〜〜〜ん!!」

 

 ペローナが私たちにアブサロムがナミを攫ったことを告げると、サンジの体がメラメラと燃え上がり、ナミを探しに駆け出して行った。

 

「ゾロとフランキーも早く先へ……!」

 

「悔しいが奴に勝てる気がしねェ! 頼んだぞ!」

「そこまで言って、負けたら許さねェからな!」

 

 フランキーとゾロは私にこの場を任せて先へと進んで行く。

 よし、ペローナは私が倒す。

 

「なんだ、銀髪。お前は私とやり合う気か?」

 

「うん。君を倒せるのは私だけだからね」

 

 ペローナは私を見据えて不敵に笑い、私は彼女の言葉を肯定する。

 

「くらえ! “ネガティブホロウ”!!」

 

「不規則な動きは、躱しにくいけど……! これくらいならッ!」

 

 ネガティブホロウは不規則な動きであらゆる物質を通過するので、少しでも油断するとアウトだが、私は何とか回避に成功した。

 

「ちっ、ちょこまかと!」

 

「――さて、そろそろ探させてもらうよ。君の本体を……。君は偽物……、いや、霊体とでも言ったほうが正確かな?」

 

 そして、私はペローナの本体を探そうと告げる。

 目の前にいる彼女は幽体離脱した霊体であり、ダメージを与えることが不可能なのだ。

 

「な、なぜそれを知っている!? まさか、シンドリーが!? いや、あいつはそんなこと知らねェはず!」

 

「私は人の気配を感知する能力があるんだよ。だから君の位置を把握できる。こっちだろ? 君の本体は……」

 

 明らかに動揺したペローナに私は彼女の本体がある方向を言い当てることで、さらに動揺を誘おうとした。

 

「くっ、そういえば、お前はアブサロムの能力も見切っていたな! 絶対に行かせるもんか! その前にネガティブにしてやる!」

 

「――うっ! ここまで不規則な動きを!?」

 

 しかし、これはいけなかった。ペローナは焦りを見せたが、それ以上にネガティブホロウの動きを複雑化させて、私を追い込んできたのだ。

 

「どんなものでも通過する“ネガティブホロウ”を躱し続けることができるかな!?」

 

「――ッ!? ――必殺ッッ! 爆風彗星ッッ!!」

 

 ネガティブホロウが目前まで迫ってきたので、私は床に向かって爆風を放ちその反動を利用して回避する。

 

「自ら吹き飛ばして直撃を避けたか。やっぱり余裕がねェな! これでトドメだ!」

 

「し、しまった!」

 

 体勢を崩してしまった私にペローナは手をかざす。

 

「くらえ! “ネガティブホロウ”!」

 

「――ッ!?」

 

 私は敗けを覚悟したが、ネガティブホロウが直撃する寸前にシンドリーが私を抱えて助け出してくれた。

 

「し、シンドリー! お前、クマシーを!? よくも!!」

 

「この心臓が止まるまで! 私はあなたを抱えて走り続ける! この身体はホグバックによって強化されてるから、その方が速いわ! ペローナの本体はどこに居るの!?」

 

 シンドリーはクマシーを倒しており、私を抱えてペローナの元へ向かうと声を出す。

 

「君は……、くっ……、こっちに走ってくれ!」

 

 私はシンドリーにペローナのいる場所を伝え、彼女は全力で駆け出した。

 

「行かせるか! ミニホロ――“ゴーストラップ”ッ!」

 

「――ッ!? うっ……!」

 

 そんなシンドリーに対してペローナは小さなゴーストをぶつけて爆発させてくる。

 

「まだまだ! ――ラップッ!」

 

「――あっ……!」

 

 さらに彼女は攻撃を加えられて、体がグラついて倒れそうになった。

 

「シンドリー!!」

 

「大丈夫……! どうせ私は死んでるんだから……。こんな攻撃――痛くない!!」

 

 シンドリーは執拗なペローナの攻撃にも動じずに、速度を緩めず走り続ける。

 彼女からは熱い魂の叫びのようなモノが聞こえてきた。

 

「なかなか丈夫にできてやがるな! こうなったら“特ホロ”! 神ラップ!」

 

 業を煮やしたペローナは巨大なゴーストを作り出し、それをシンドリーに向かって放つ。

 これを食らえばさすがの彼女も……。

 

「――ライア……! 投げるわよ……!」

 

「えっ? ――うわぁああああっ!」

 

 彼女は振りかぶって私を思い切りぶん投げた。

 後ろの方で爆発音が聞こえる――。くっ、最後まで彼女には助けられっぱなしだった……。

 

「シンドリー……、君のおかげで助かった!! ――必殺ッッ! 爆炎彗星ッッッ!!!」

 

 私は彼女に感謝の気持ちを述べ、ペローナの居る部屋の壁に風穴を開ける。

 部屋の中には目を閉じてベッドに横たわっているペローナの姿が見えた。

 

「しまった――!?」

 

「待ってろ! 今すぐそこに行ってやる!」

 

 私はペローナの部屋に向かって一直線に走り出す。

 

「行かせるか! “ネガティブホロウ”!!」

 

「――当たるもんか!!」

 

 ペローナはネガティブホロウを放つも、私はギリギリでそれを躱して、彼女の部屋に肉薄した。

 

「なっ!? てめェ!! またちょこまかと!!」

 

「よし、ようやく辿り着いた! 君の本体にちょっとお仕置きしなきゃな! 必殺ッッ! ――ッ!?」

 

 何とか部屋に着いた私は、彼女を狙って攻撃をしようとした――が、その時である――。

 

 突如としてペローナの腹の中からネガティブホロウが飛び出してきて私はその一撃をマトモに受けてしまったのだ。

 

 しまった――もう一体居たのか……。

 

「バカめ! 念の為に“ネガティブホロウ”を一体、私の体の中に隠しておいたのさ。それは見抜けなかったみてェだな……。ここまで追い込んだ罰だ! スーパーネガティブにしてやる!」

 

 絶望に打ちひしがれて膝を突いた私に更に追い打ちをかけるようにペローナはネガティブホロウを何回も私に向かって通過させる。

 

「み、見抜けなかった……、ああ、なんて私は愚か者なんだろう……、ふふ、ペローナ……、こんな愚かで無能な私を笑ってくれ……」

 

 私は本当に愚か者だ。せっかくシンドリーが作ってくれたチャンスをふいにして……。

 生きている価値を考えられないくらいの無能である。

 ペローナは私のことを嘲るに違いないだろう。

 

「――ッ!? え、いや、そうだな。そこまで言わなくても良いんじゃないか?」

 

 ペローナは間近で私の顔を見ると何故か驚いたような顔をして、奇妙なことに私を慰めるようなことを言ってきた。

 

「いや、こんな私なんか死んだほうがいい存在なのさ。人生に今からピリオドを打とうじゃないか……。生まれて来てすみ――」

 

 私はそれでも死にたかった。だから、銃口を自らの喉元に当てて、引き金を引こうとした。

 

「ま、待ってくれ! 死ななくていいぞ! きっといいことあるに決まってる!」

 

 不思議なことにペローナは大慌てで、私の銃を奪い取り、あたふたとした感じで自殺を止めようとしてくる。

 なぜだ? この人は私の敵ではないのか?

 

「嫌だ! 私は死にたいんだ! 無能でそのへんの虫よりも弱いし、海藻よりも存在価値がない! 死なせてくれ!」

 

「バカ! 死ぬなっ! やめてくれ!」

 

 暴れる私を取り押さえるようにして止めてくるペローナ。なんで、この人は私に構うんだ?

 

「見ろ! こんな男みたいな顔に生まれて、道を歩けば男に間違えられて……、こんな顔なんかふっ飛ばしてやる!」

 

 私はペローナから銃を奪い返して、頭を吹き飛ばそうと決意する。

 

「――はぅぅ……、ま、真正面から見ちまった……、なんだ、こいつ……、ホントに男前じゃねェか……」

 

 ペローナは私の顔を正面から眺めて、顔を真っ赤にして男みたいだとバカにしてきた。

 

「やっぱり、男みたいな顔だって、君も思ってるんだあああっ! 死んでやる! 絶対に死んでやる!」

 

「待ってくれ! 頼むから元気になってくれよ。私は――お前の顔が好きだ!」

 

 彼女は顔を更に赤くして大声で私の顔のことを好きだと言い放つ。

 さっきまで、馬鹿にしていたのではないのか? どうしていきなり……。

 

「ほ、本当かい? こんな私の顔なんかを……」

 

「ああ、本当さ。本当だとも。お前は、そのう。私の“ネガティブホロウ”のせいでナーバスになってるだけなんだ」

 

 ペローナは私の髪を撫でながら、ゆっくりと優しく言葉をかけてくれた。

 

「いや、これが私の本心さ……。虚ろなんだ。何もかも……。でも、ありがとう。ペローナ……。君が私を肯定してくれたおかげで……、少しだけ楽になったよ……」

 

「――そ、そうか。よ、よかったじゃねェか。――ッ!? ひゃうっ!」

 

 私はペローナが優しい言葉をかけてくれたことが嬉しくて彼女に手を握りしめる。

 するとペローナは驚いた声を出した。

 

「ごめん。やっぱり、私なんかが触れたら嫌だよね? 少しだけ、人の温もりが欲しくなってしまったんだ……」

 

 私は慌てて彼女から離れて謝罪する。何を調子に乗っていたんだ……。

 やはり、こんな私なんか……。

 

「い、いや、す、すごく良い……。じゃなかった……、ちょっと驚いただけだ」

 

 ペローナはそう言って私を急に抱きしめてくる。動く気力もない私はそのまましばらく黙って彼女の温もりを感じていた――。

 

「いいな。ペローナは可愛くて、女の子らしい格好が似合って」

 

「そ、そんなことねェよ。私なんかガサツだし……。ほら、これで少しは楽になったか?」

 

 私は彼女に抱きしめられたまま、彼女のことを羨ましいと言うと、ペローナはぶっきらぼうにそう答える。

 

「ううん。とっても可愛いから、羨ましいよ。君みたいになりたかった」

 

「そ、そうか……。嬉しいな……。可愛いなんて、面と向かって言われたことなかったからさ。ちくしょう! こいつは敵なのに……、なんでこんなにっ……! 嬉しいんだ……!」

 

 私はペローナの容姿が心底羨ましい。

 だから、彼女のように可愛い感じになりたいとそのまま伝えると、彼女は照れたような声を出して、少しだけ微笑んだ。

 

「顔を近くで見てもいいかい?」

 

「す、好きにしろ……。――う、やば、耳に吐息が……」

 

 私はペローナの顔にグッと自分の顔を近付ける。

 彼女はブルッと身を震わせて恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「ごめんね……、私たちは敵同士なのに……」

 

 彼女の優しさに甘えてしまった私は罪悪感でいっぱいになり、彼女に謝罪する。

 

「うっ……。そ、そうだったな。も、もういいじゃねェか。そんなことは――。それよりさ、お前さえ良かったら私と恋人同士になら――」

 

「――ッ!? 何をやってたんだ!? 私は!?」

 

 彼女が真っ直ぐ私を見据えて何かを言おうとした時、私の中の空虚な気持ちが弾けて消えた――。

 そうだ、ネガティブホロウの効果で私は……。

 

「あっ……! ネガティブホロウの効果が消えちまったのか!?」

 

「くっ……。敵の君に私はなんてことをしてしまったんだ……。というか、何ていうか……。優しかったな……、随分と君は――」

 

 しかし、わからない。無気力状態の私をペローナは何故か放置していた。

 そして、優しい言葉までかけて全力で自殺を阻止しようとしていた。

 

「――う、うるせェ。バーカ……、こっちの気も知らないで!」

 

 彼女は目を逸らして頬を桃色に染めて悪態をつく。

 

「ん? こっちの気も?」

 

「な、何でもねェよ!」

 

 私が彼女の真意を聞こうとしても、ペローナはプイと頬を膨らませてそっぽを向いて教えてくれない。

 

「そうか……、君との戦いを再開する前に真意を知りたかったけど――」

 

 私は銃を取られてしまっているので、両手に仕込んでいる衝撃貝(インパクトダイアル)斬撃貝(アックスダイアル)で彼女と戦うことにした。

 

「待ってくれ……、私はお前のことが――! ――へブッ!!」

 

 そんな私に対して慌てて何かを言おうとしたペローナだったが、突如として現れたシンドリーが彼女の腹を思いきり殴り、吹き飛ばした。

 

「あなたにそれは言わせないわ……」

 

「シンドリー……」

 

 シンドリーはボロボロになりながらも、私を追ってここまで来てくれたみたいだ。

 結局、ペローナを倒したのは彼女か……。まったく情けない……。

 

「言っとくけど、ペローナを倒したのはあなたの力よ……」

 

「えっ? それってどういう……」

 

 そんな私の心情を読み取ったように、シンドリーは私の力でペローナを倒したようなことを言う。

 

「ふふっ……、それは内緒……」

 

 シンドリーは満面の笑みを浮かべながら、唇に人差し指を当てながらウインクした。

 この人は女優として活躍していた頃はこんな風に笑っていたんだろうな……。

 

「――フォスフォスフォス! おい! ペローナ! 力を貸してくれい! あいつらとんでもねェ――。――ッ!? うォいっ! シンドリーちゃん! どうしてここに!」

 

 そんな中、焦った顔をしたホグバックがペローナに助力を求めるような言葉を吐きながらやってきた。

 ホグバックはお供のゾンビが居ないところを見ると戦いに敗けて逃げ出してきたみたいだな……。

 彼は自らのエゴでシンドリーの遺体を好き勝手に弄んで彼女の尊厳を奪ってきた。

 

「ホグバック……」

 

 シンドリーは苦々しい表情で彼の名をつぶやき、その拳を震わせながらを握りしめていた――。

 




ペローナ戦はいかがでしたでしょうか?
ネガティブ化したライアを書くとメンヘラ臭がすごかった……。
なんか、あのまま行くとペローナと共依存みたいになって危なかったかもしれません。
シンドリーはこの章が始まってずっと活躍しっばなし……。こんなに絡ませるつもりは無かったのですが……。
ホグバックはあっさり片付けて、次回は主にオーズ戦になりそうです。



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麦わらの一味VS“魔人”オーズ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
スリラーバーク編も終盤戦が近づいてきました。
それではよろしくお願いします!


「てめェ! 生き返らせた恩を忘れやがって! 見た目が美しいからある程度の自由は許してやった――。フバァッ――!?」

 

「でも、今は完全に自由を得たわホグバック。今日までのお礼をしてあげなきゃ……」

 

 シンドリーはホグバックの顔面にグーパンチをめり込ませて吹き飛ばし、ポキポキと拳を鳴らして、腕をブンブンと回した。

 

「やめろッ……、やめてくれ!」

 

 ホグバックは顔面蒼白となり、恐怖に打ちひしがれた表情で腰を抜かして悲鳴を上げている。

 因果応報とは、この事かもしれない。

 

「うっ――! 心臓が……! か、体が動かない……」

 

 しかし、シンドリーは胸を押さえて膝をつく。

 どうやら心臓の調子が悪いらしい。

 

「フォスフォスフォス! なんだ、動いていた心臓が止まりかけているのか? 当たり前だ! そんな不条理がいつまでも続いてたまるか! チャンスだ――。おい! シンドリー! そこの銀髪を殺せ……!」

 

 ホグバックは形勢が逆転したと見ると、シンドリーに命令した。私を殺せと……。

 

「――はい、ホグバック様……」

 

「シンドリー! げふっ……、かはっ!」

 

 シンドリーはクルリと振り返って私の首をいきなり絞めてくる。

 

「いいぞシンドリーちゃん! そのまま首を絞めて殺してしまえ!」

 

「はい……」

 

 ホグバックは勝ち誇った表情をして、指示を出すとシンドリーは私の首を絞める力を増した。

 このままじゃ……、私は……。

 

「――が、うぐっ……」

 

 彼女はものすごい力で私の首を絞めたまま、私を壁に強く打ちつける。

 シンドリー……、頼むから正気に戻ってくれ……。

 

「いい子になったじゃねェか! そうだ。おれに従っておけば、お前は幸福なんだ! なんせ、生きていられるんだからな!」

 

 ホグバックは上機嫌そうに笑いながらシンドリーが私の首を絞める様子を眺めていた。

 

「…………ら、ライア。いやだ……、わ、私は……」

 

 シンドリーは涙を流しながらホグバックに抵抗しようとする。

 時折、首に入れられている力が弱まっていることから彼女の心臓はまだ完全には止まっていないのだろう。

 

「――躊躇わずに殺せ!」

 

「わかりました――」

 

 ホグバックの指示にシンドリーは頷く。そして――。

 

 

「――ッ!? ん、んんっ……!」

 

 冷たく柔らかな感触が私の唇を刺激する。

 シンドリーが私の唇を奪ったからである――。

 

 えっ!? これってどういうこと?

 

「はぁ? そ、そんなっ!? し、シンドリーちゃん……、な、なんて事を!?」

 

 それを目の前で見ていたホグバックは飛び跳ねるほど驚いて、叫び声を上げた。

 

「――ふふっ……、こうすれば……、またドキドキして心臓も動くでしょ……」

 

 シンドリーはペロリと舌なめずりをして、妖しく微笑み口づけすることでもう一度心臓を動かしたようなことを言う。

 そ、そういう問題なの? 心臓ってそんな風に出来てるの?

 あまりの出来事に私は唖然としながらシンドリーの妙に清々しくなった表情を見ていた。

 

「ンなバカな! そんな奇跡みてェなことあってたまるか! ちくしょう! 何で、おれじゃなくてあいつなんだよ!!」

 

 ホグバックは心底悔しそうな声を出して、地団駄を踏んでいる。

 独りよがりの歪んだ愛情で彼は狂ってしまい非道なことに抵抗がなくなったのだろう。

 人の道を外れた彼を私はこれ以上見ていられなかった。

 

「――バカは君だ。ドクトル・ホグバック!! よくもウチの船医を失望させたな! そして、シンドリーを好き勝手に!」

 

 私は銀色の銃(ミラージュクイーン)の銃口を彼に向けて殺気を高める。

 

「待って……、この人は私が――!!」

 

 シンドリーは私から銃を奪い取って、ホグバックを狙おうとした。

 

「――シンドリー! 待て、待ってくれ! もうこれ以上、嫌なことは命令しない!! 何でも好きなモノはモリア様に頼んで手に入れてやる! だから!!」

 

「もう、私の1番欲しいモノは手に入ったわ……」

 

 シンドリーは私の銀色の銃(ミラージュクイーン)の引き金を引いた――。

 錆色の弾丸(ボンバーブレット)がホグバックの腹に突き刺さる――。

 

「――ギャアアアアあああああっ!!」

 

 彼は燃え盛る火炎に飲み込まれたまま爆風によって吹き飛ばされて断末魔を上げる。

 少しは死体を弄ばれた人たちの痛みを感じることが出来れば良いけど……。

 

「ふぅ……」

 

 体力的にはそこまで消費してないけど、精神的には随分と疲弊したように感じられて私はため息をついてしまった。

 

「ありがと……」

 

「ん?」

 

 そんな私にシンドリーは私に銀色の銃(ミラージュクイーン)を手渡して小さな声で礼を言う。

 どちらかというと助けられたのは私なんだけどな。

 

「なんか……、こう……、スカッとしちゃった。この世に未練はないわ……」

 

「えっ? ま、まさか……」

 

 彼女は後ろに手を組んでニコリと笑ってスッキリとした顔を見せた。

 そ、そんな……。確かにこのまま生き続けることが無理なのはわかるけど……。

 

「――あなたの人生に幸あれ……。最期に良い夢が見れたわ……」

 

 シンドリーはそうつぶやくと、目を閉じて動かなくなった――。

 やっぱり……、でも……。

 

 

「シンドリーーーっ!!」

 

「何? クスッ、酷い顔……。これでも、昔は女優だったんだから。これくらいは演技できるわ」

 

 私が叫び声を上げると彼女はパチリと目を開いて微笑む。

 どうやら、まだ余裕があるみたいで私はいっぱい食わされたみたいだ。

 

「それは、洒落にならないよ……」

 

「神様はもう少しだけ時間をくれた。この島の行く末を見れるまで頑張ってみる……」

 

 勘弁してくれと、肩をすくめた私に対して彼女はこの戦いを最後まで見届けたいと言った。

 わかったよ……。シンドリー……。

 絶対にこの戦い――私たちは負けない!!

 

 勝利を誓った私の前に現れたのは、今までに戦ったどんな敵よりも強大な()()だった――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「てめェがおれたちの邪魔をして、どうすんだ! ルフィ!!」

 

「ルフィ? そいつはおれの敵の名だ。おれの名はオーズ! よろしく!」

 

 オーズがモリアの命令を聞くようになり、私たち“麦わらの一味”をターゲットにして動き出してきた。

 

 オーズはサンジの前に立ち塞がっている。

 

「どうしようか? あれ……」

 

「キャハハ! 改めてみると笑えない大きさね」

 

 遠目からオーズを眺めているのは私とミキータとロビンとチョッパー、そしてシンドリー。

 少し近くにゾロとフランキーがブルックと共にオーズに向かって視線を送っている。

 

「てっきり、私たちは影だけを狙われると思ったけど……。暴れすぎたかしら?」

 

「怖ぇ〜〜! あんなのと戦えねェぞ……」

 

「早く逃げたほうがいい……。あれはあなたたちの手に負えないわ……」

 

 私たちがあのサイズの化物に対して、尻込みをしていると、シンドリーは迷わず逃げることを勧めてきた。

 

「悪いけど……! 逃げる気はないよ!」

 

 私はオーズがサンジを狙って攻撃をしようとしていたので、居ても立ってもいられずに走り出した。

 

「ゴムゴムの! 鎌!」

 

「ぐおっ! 首肉(コリエ)フリッ――!?」

 

 サンジはオーズの反則じみたリーチからなる素早い攻撃を何とか避けて、首を蹴り上げようとしたが、それはダメージを与えることが出来ず、彼は足を掴まれてしまう。

 

 このままだと、まずい――!

 

「――必殺ッッッ! 爆炎彗星ッッ!!」

 

 私はオーズの眼球を狙って大量の火薬が炸裂する弾丸を放つと、目元が爆発したオーズはサンジをポイッと投げ捨てた――。

 今までの敵とスケールが違いすぎる……。

 

「うわぁぁぁッ! サンジ!!」

 

 チョッパーはサンジがやられた様子を見て絶叫する。

 

「一剛力羅! 二剛力羅! 三刀流! 二剛力斬ッッ!!」

 

 ゾロも高所からオーズめがけて飛び降りて、

強力な斬撃を繰り出すも、それは彼の牙を一本折るのみで――。

 

「ゴムゴムのォ! 火山ッ!」

 

 オーズの蹴り技をまともに受けたゾロの体を空高く舞い上がり、大ピンチとなってしまう。

 まずい! あの高さだと……、さすがのゾロも……。

 そう思っていたが、落下する彼をロビンが“スパイダーネット”で受け止めて、なんとか彼は助かった。

 

 しかし、オーズの猛威は終わらない。フランキーが放った“ウェポンズ(レフト)”を躱したかと思うと、そこから大いに暴れまくり私たちを虫を叩くように周りを瓦礫に変えるついでに叩き落としていったのだ。

 その間に藍色の弾丸(ソルティブレット)を彼の口に放り込むことに成功したが、量が少な過ぎて無駄に終わった。

 

「お前らなんか知らねェぞ。おれはモリア様の下僕……、オーズだッ!!」

 

 彼は倒れている私たちを見下ろしながら、そう呟いていた。

 くそっ、ここまで強いのか……。でも……。

 

 

「あと2人たりねェ……。ここかな? んー、どこだァ?」

 

 オーズは残る仲間のルフィとナミを探しに行ってしまった。

 完全に私たちを倒したと思い込み……。

 

 

「なんつった。名前……」

「オーズだよ……」

「バカっ! 一発で当てるなよ。つまんねェ」

「このマリモ、ライアちゃんに向かってなんてことを!」

「あの、私は……、すみません」

「キャハハ、骨くんはちょっと休んでなさい」

「ふぅ、あの大きいのどうしようかしら」

「スーパーな一撃を与えてやりてェ」

「よし、そうしよう。でもどうやって?」

 

 そんなオーズを見て私たちのプライドが刺激されないはずもなく……。

 ブルックとシンドリー以外の全員がオーズに向かって立ち上がり、反撃の姿勢をとった。

 

「おい! オーズ! てめェの中身がルフィの影なら……、てめェの仲間の底力……! 見くびっちゃあ、イカンだろう!!!」

 

 このまま何も出来ないで蹂躙されてたまるか!

 

「まず、1つ提案なんだが……、あいつを1回投げ飛ばすってのはどうだろう?」 

 

 ゾロはオーズを投げ飛ばしたいと、口にした。

 

「なるほど、そいつァ、さぞ気持ちが良いだろうなァ!」

 

「キャハッ! で、どうすんの? 作戦とか……」

 

 それに対してサンジとミキータは同意したようにテンションを上げる。

 

「中身がルフィだけあって、パワーだけじゃなくて、スピードもあるからねェ。こんな作戦はどうだろう?」

 

 私は作戦を思いつき、みんなに提案しようとした。

 

「おっ、ライア。なんか面白ェ作戦でもあるのか?」

 

「うん。みんなで力を合わせる必要があるけどね」

 

 フランキーの言葉に私は頷き、チームワークを要すると説明を始める。

 

「おれは何でもやるぞ!」

 

「もちろん私も手伝うわ。ふふっ……、何だか楽しそう……」

 

 チョッパーとロビンもやる気を出して、私たちはオーズと再び相まみえた。

 

 

「ゴムゴムのォォ! 尻もちィィ!!」

 

 ドスンとオーズがヒップアタックを披露した瞬間から作戦は開始された。

 

「行くぞォォォ!!」

 

「キャハハッ! いつでもどうぞ!」

 

 瓦礫の上に乗るミキータと私をチョッパーが力いっぱい思いきりオーズの頭の上を目掛けてぶん投げる。

 

魔法少女(マジシャンガール)モード!」

 

 空中でミキータは完全版(パーフェクト)キロキロパウンドの飛行機能を発動して、オーズの真上を飛行する。

 

「――必殺ッッ! 油星ッッ!!」

 

 私はキロキロパウンドの上からオーズの髪の毛に油を大量に付着させた。

 

「――キャハッ! 火炎放射よ!」

 

 そこにミキータがキロキロパウンドに仕込まれている炎貝(フレイムダイアル)から炎を発して、オーズの髪の毛を炎上させる。

 

「アヂィィィ!!」

 

 堪らずオーズは頭を触りながら前かがみになった。

 

「と、思ったけど、熱くなかった……」

 

 オーズはゾンビの体だから当然、熱さなど感じないが、思ったとおり生前の記憶によって反射的な防御行動をとった。

 

「――大撃剣ッッ!!」

木犀型斬(ブクティエール)シュートッッ!!」

 

 そんなオーズの左右の膝裏を目掛けて、ゾロとサンジは強力な一撃を与える。

 

百花繚乱(シエンフルール)! 大樹(ビッグツリー)!」

 

 2人の攻撃でグラついたオーズの右膝の関節を()めて、バランスを崩した。

 

風・来・砲(クー・ド・ヴァン)ッ!!」

 

「うォっあッ――!!」

 

 さらにフランキーが浮いている左足の裏に強力な風の弾丸を命中させて、オーズはついにひっくり返って、頭からホグバックの居た屋敷目掛けて転落する。

 

「「よっしゃあああ!」」

 

 やっと、1回ダウンを奪ったぞ――。私はフランキーに消費したであろうコーラを手渡しながら喜んだ。

 

 しかし、私たちの優勢はそう長く続かなかった。

 オーズの中にあるコックピットのような場所にモリアが入って指示を出すようになったのだ。

 

 

 

「キシシシッ! お前らにおれと戦うチャンスをやろう! おれを倒せばすべての影を回収出来る。――全員でかかってこい! ただしオーズを倒さねば、おれは引きずり出せねェがな……!!」

 

 モリアは私たちを挑発して、オーズを操り攻撃を仕掛けてきた。

 ルフィはまだ遠いところにいる……。さらに、強い気配を感じる……。この気配はおそらく“バーソロミュー・くま”……。

 会ったことないけど、漫画だと確かこのくらいの時分に現れていたはずだ……。

 

 悪夢だな……。王下七武海のダブルヘッダーなんて……。

 

 大量の塩を持ってきたブルックと、アブサロムから逃げ切ったナミが戦列に加わったが、形勢は悪くなる一方だった。

 

 モリアのカゲカゲの実の能力による“影革命”という技によって、オーズの体がルフィのように伸びるようになってしまったのだ。

 

 これには私たちも参った……。もはや、目の前の相手は巨人族の倍くらいのサイズをもつルフィだ……。

 

 私たちは何とか逆転の一手は無いものかと抗うが、ミキータとロビンは影を奪われ、1人、また1人と仲間たちは倒れていき、立っているのは私とナミのみになってしまった。

 

「ライア……、勝算は……!?」

 

「もちろん、あるさ……。あと少しだけ……、時間をかせげれば、ね……」

 

 私はこちらに向かってきている強大な気配を感じている。

 これだけのパワーならこのデカブツにも……。

 

「キシシシ! 何を言ってやがる! このゾンビにゃ塩も効かねェ! お前らには1%の可能性も残っちゃいねェんだよ! ほら、踏み潰せ! オーズ!!」

 

「スターーーンプ!!」

 

 オーズはガスガスと足踏みをして、私たちにトドメを刺そうとする。

 

「ナミ! しっかり掴まってろ!!」

 

 私は全神経を集中させて、ナミを抱えながら、オーズの足を避けていた。

 

「けっ! ちょこまかと! もういいオーズ! 跳び上がって全身で潰せ!」

 

 オーズのボディプレスが私たちを襲う。

 まずい――これは避けきれない――。

 

 

「おい!! でけェの!! お前は一体何を潰そうとしてるんだ!? お前の下には誰もいねェぜ!!!」

 

 ナイトメアルフィ――百体の影を体内に注入することでパワーアップしたルフィが私とナミを掴んで助けてくれた。

 

「お前は誰だ!?」

 

 オーズはそんなルフィに名を尋ねる。

 

「モンキー・D・ルフィだぜ!!!」

 

 彼は自分の名を名乗り、オーズに飛びかかった。

 

 ここからは圧巻であった。百人分の影の力がプラスされたルフィの戦闘力は凄まじく、オーズを殴り飛ばしたかと思うと、さらにあの巨体をバックドロップした。

 信じられない……。私たち全員をあれほど苦しめたオーズを……。

 

「希望の星の一味を救え! 安全な場所で応急処置を!」

 

 ルフィがオーズと戦っている最中に求婚のローラが手下を率いてやってきて、仲間たちを救い出してくれた。

 ふぅ、彼女たちが駆けつけてくれて助かったよ……。

 

「信じられない……、あのオーズを……」

 

 私の隣で気絶から目覚めたシンドリーが信じられないという表情でルフィの戦いぶりを眺めていた。

 

「この勝負は――ルフィの勝ちだ……」

 

 私がそう呟いたとき、ルフィはオーズに最強の必殺技を叩き込む。

 

「ゴムゴムのォォォォ! 暴風雨(ストーム)!!!」

 

 夜明け寸前――ルフィの凄まじいラッシュが決まって、オーズを吹き飛ばして倒してしまった。

 

 そして、ルフィは体から影が次々と抜けて元に戻ってオーズの近くに倒れた。百人分の影を体に入れて戦うのはかなりキツかったんだろう……。

 

「「スリラーバークが落ちた〜〜〜!!!」」

 

 ローラの仲間たちは盛り上がっていたが、まだ決着はついていなかった――。

 オーズは痛みを感じないのでまだ動けるし、モリアも弱っているが未だに意識はある状態だ……。

 

「最終局面だな……」

 

「えっ?」

 

 私が言葉を呟き、シンドリーがその声に反応した瞬間、オーズがよろよろと立ち上がる。

 

 スリラーバークの戦いはこの瞬間、クライマックスを迎えていた――。

 

 




スリラーバーク編はシンドリーに助けられました。まさか、こんなに大活躍してくれるとは……。
次回、スリラーバーク編のラストです。
やっぱり、書いてみると短かったですねー。


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完全決着

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回でスリラーバーク編は終了です。
それではよろしくお願いします!


「さて、あいつにそろそろ引導をくれてやろうじゃないか」

 

「手伝うぜ……、ライア。ハァハァ……、ルフィに何が起こったのか知らねェが、十分な追い込みだ……」

 

 私とゾロはお互いの武器を構えてオーズと対峙する。

 

「あと一撃加えられれば! あいつを倒せる!」

 

 ルフィも何とか立ち上がり、ロビンとブルックに頼み事をして上に飛ぶ算段をまとめているようだ。

 

「し、信じられねェ。コイツら微塵も諦めてねェ……!」

 

 ローラたち、影を奪われた被害者たちはいち早くこの場から離れて避難を開始した。

 

「天候は“雨”! “レイン・テンポ”!!」

 

 ナミが雨を降らせてオーズをずぶ濡れにする。

 

「キャハハ! 回すわよォォ!」

「発射! 特大冷蔵庫の超低音冷気砲!」

 

 フランキーが即興で作った冷気砲でオーズの半身を凍らせた。

 

「ゾロ! オーズの腹を引かせて!」

 

「任せろ! 三刀流! 奥義! 三千世界!」

 

 チョッパーの指示でオーズをゾロが切り裂き、彼の腹を引かせることに成功する。

 

「今だな! 行くぞ!」

 

 サンジはオーズに巨大な鎖を巻き付けて、それを巻き上げることで彼を直立させた。

 

「人間の背骨は本来S字になっている事で衝撃を緩和する。それが真っ直ぐに伸びきると衝撃は逃げ場をなくして全てのダメージを受け止めることとなる! オーズの背骨を一直線に伸ばすんだ!」

 

 チョッパー曰く、今のオーズの状態は全身にダメージが行き渡る状態にあるということみたいだ。

 

「特大バズーカを食らえ!」

 

 ルフィが“ギア3”を発動して、オーズにトドメをさそうと空から降ってくる。

 しかし、オーズもゴムゴムのバズーカのポーズを取っており、これを迎撃しようとしていた。

 よし、援護するぞ!!

 

「――必殺ッッッ! 衝彗星(インパクトキャノン)ッッッ!!」

 

 オーズの右腕のもっとも損傷の激しい部分に、私は内部破壊を行うことが出来る弾丸を飛ばして命中させる。

 

「あ、あれ? 右腕が上がらない……!?」

 

 オーズの右腕の骨が砕けて、彼は腕を動かせずにいた……。

 よし、今だ! ルフィ!

 

「ゴムゴムのォォォォ! 巨人(ギガント)バズーカ!!!」

 

 ルフィの強烈な一撃がオーズの顔面に命中し、その衝撃は彼の背骨を粉砕する。

 この攻撃によって、オーズの体は完全に破壊された。

 

「「やった〜〜〜!!」」

 

 見守っていたローラたち被害者の会は歓声を上げて喜んでいた。

 

 しかし、まだ終わっていない。中にいるモリアが依然として無事だからである。

 

 

「航海を続けてもてめェらの力量じゃ死ぬだけだ……。“新世界”には遠く及ばねェ! 筋のいい部下が揃っているようだが全て失う! なぜだかわかるか? おれは体験から答えを出した。名を馳せた有能な部下をなぜおれは失ったのか……。仲間なんざ、“生きている”から失うんだ! 全員初めから死んでるゾンビなら何も失うものはねェ! ゾンビなら不死身で替えのきく無限の兵士! おれは死者の軍団で再び海賊王の座を狙う!!」

 

 モリアの持論はどこか寂しげで自暴自棄な感じがしていた。

 そう言う割に、ペローナ、ホグバック、アブサロムといった生きている部下も持っていたということは矛盾してるのではないかと、私は思った。

 

 

「うっ……、影が……」

 

 モリアが切り札である能力――影の集合地(シャドーズ・アスガルド)を発動させ、スリラーバーク中の影を自らに取り込んだので、影の力で動いているシンドリーはよろけて私の胸に倒れ込んだ。

  

 まだ、心臓が動いているから辛うじて意識はあるみたいだが、苦しそうにしている。

 

「――もう少しだけ……、時間を……」

 

 シンドリーは1000体分の影を吸収して巨大化したモリアを見ながら、静かに呟いた――。

 

「君は……」

 

 彼女もまた私たちと同様にルフィの勝利を疑ってなかった。

 そもそも、この勝負はすでに私たちが勝っている。

 モリアはあの巨大なパワーをコントロール出来ていない。あの変身は朝日が昇るまでの時間稼ぎなのだ。

 

「“ギア(セカンド)”……!!」

 

 体から蒸気を吹き出しながらルフィは切り札である“ギア(セカンド)”を発動する。

 

 ここからルフィの猛攻がモリアを追い詰める。1段階強くなった彼の強烈な攻撃を受けてモリアは次々と影を吐き出していった。

 

 しかしモリアも粘り強く応戦して時間は過ぎるのに中々倒れてくれない。

 

 そんな中、ゾロやサンジたちと同様に影を奪われて日向にいるせいで、体が消えかけているのにも関わらず、ルフィを応援し続けていたローラが叫び声を上げた。

 

「帰ってきなさいよ! 生まれた時からずっと一緒だったじゃない!!」

 

 彼女の声と共に、ルフィも叫んだ。

 

「おれの影にも一言あるぞ! お前っ! 海賊王になりてェんなら、しっかりおれについてこいっ!!!」

 

 ルフィはその声と共に凄まじい勢いでモリアの腹に体当たりを仕掛けた。

 モリアは断末魔のような声を上げて、口から大量の影を吐き出していった――。

 

「み、みんな!!」

 

 しかし、それと同時に朝日が完全に大地を照らしてきたので、影を奪われた仲間たちが消え去ろうとしていく。

 私はその光景を見て血の気が引いてしまった――。

 

 

「はぁ、心臓に悪い……。みんな無事で良かったよ……」

 

 ギリギリのところで、全員の体は無事だった。

 モリアから排出された影が元の持ち主の場所に帰って行ったからだ。

 

 しかし、彼女には影はない……。借り物の影で動いていたから……。

 

「ありがとう……。一晩だけの短い付き合いだったけど……。私にとって、この自由な時間は最高に幸せな時間だったわ……」

 

 シンドリーは横たわったまま、私の手を握りしめて自分は幸せだったと言う。

 そんな……、この人は酷い目に遭わされて来たのに……、どうしてそんなことが言えるんだろう? でも――。

 

「――君のことは決して忘れない。私の胸に君との想い出を刻むと約束するよ……」

 

 私は彼女のことを記憶に刻み込む。ずっと、ずっと……。

 

「――うん。前の人生では好きな人にお別れも言えなかったから……。今度は満足……かな……。ふふっ……」

 

「シンドリー……」

 

 彼女は最期に笑った。朗らかに……、満足そうな顔をして……。

 

「さよなら。ライア……、また、生まれ変わったら……、次は――」

 

 そして、別れの言葉を呟くと……、目を閉じて……、動かなくなった……。

 気付けば私は泣いていた。声も出せずに、ただ涙をこぼして……。

 

「――ほら、顔を拭きなさい。この子もあんたのそんな顔は見たくないと思うわ……」

 

 それを見兼ねたのか、ミキータは私にハンカチを渡す。

 

「すまない……。あとで、彼女を埋葬しなきゃ……」

 

()()()? それってどういう……」

 

 私のセリフにミキータは不思議そうな顔をした。

 そう、私は今、悲しみに暮れる余裕がないことを思い出したのだ……。

 

 この島にいるもう一人の七武海――バーソロミュー・くま……。

 

 

『世界政府より特命を下す。麦わらの一味を含むその島に残る者達全員を抹殺せよ』

 

「た易い……」

 

 政府からの指示を電伝虫で伝えられたくまは、私たち全員の抹殺に動き出した。

 

「キャハッ……! あれ、嘘よね……。“暴君”が……、何故ここに……!」

  

 ミキータはくまの存在に気付いて、青ざめた顔をする。

 

「何故かなんて考える時間はないよ。ミキータ。やらなきゃ、やられる……」

 

 私は離れた場所にシンドリーの遺体を安置すると、銀色の銃(ミラージュクイーン)を片手にくまと対峙した。

 

「その通りだ。覚悟を決めろ……! 災難ってのは畳み掛けるのが世の常だ……!」

 

 ゾロも私の横に立って刀を構える。

 私たちは同時にくまに向かって攻撃を加えた。

 

「――必殺ッッ! 雷光彗星ッッッ!!」

「――百八煩悩砲ッッッ!!」

 

 私はくまの体が機械だということを知っているので、黄色の超弾(スパークブレット)碧色の超弾(ブラストブレット)を同時に放ち、どうにかダメージを与えようとする。

 

 ゾロも遠距離からの飛ぶ斬撃でくまを攻撃した。

 

 しかし、バーソロミュー・くまは強かった。

 

 私とゾロの同時攻撃をニキュニキュの実の能力で軽く弾き返したくまはそのまま、圧縮された空気の塊である“つっぱり圧力砲(パッドほう)”を放ち、私たちは二人とも吹き飛ばされる。

 

 なんで、肉球人間がこんなに理不尽に強いんだ? 何でも弾いて、その上攻撃にも転じられるって……。

 

 そもそも、モリアとの戦いで満身創痍な私たちは徐々に追い詰められてしまった――。

 

 

「お前たちの命は助けてやろう。そのかわり”麦わらのルフィ”の首一つ、おれに差し出せ。その首さえあれば、政府も文句は言うまい。さぁ、麦わらをこっちに……」

 

 そんな私たちを見兼ねたのか、くまが取り引きを持ち込んできた。

 ルフィの命と引き換えに私たちを助けると――。

 

 そんな取り引き、到底飲み込めるはずもなく、私たちは声を揃えて叫ぶ。

 

「「断るッ!!」」

 

 私たちはくまの譲歩を突っぱねて、戦いを続けようとした。

 

 しかし――。

 

「“熊の衝撃(ウルススショック)”」

 

 くまによって、超圧縮された空気の塊が解放され、私たちはそれに飲み込まれて、全員が吹き飛ばされてしまった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「――み、みんな……。ぞ、ゾロが居ない……、まさか……!!」

 

 私が目覚めたとき、仲間たちは皆倒れて気絶していた。ただ一人を除いて……。

 漫画ではゾロが自らの命と引き換えにルフィを救おうとしていたことを思い出して、彼の気配を探って駆け出した――。

 

「が、ああああああっ……!!」

 

 彼を見つけたとき、私はまた泣きそうになってしまっていた……。

 ルフィの受けた全ダメージを自らが引き受けている最中であろうゾロは、体中から血を吹き出して、苦悶の表情を浮かべていた。

 

「ゾロ!!」

 

「ぐっ……、ハァハァ……。ら゛、ライ゛ア……、てめェ……、誰にも言うな゛よ……、ハァハァ……。――こごでは……なにもな゛かった……!!」

 

 彼は凄い剣幕で私のことを睨みつけて、誰にも言うなと私に告げる。

 

「――ライアちゃん。こいつは一体……!」

 

 そんな中、サンジもこっちに駆けつけて、血溜まりの中で仁王立ちしているゾロを見て顔を青くした。

 

「…………いや、私も今来たところで何があったのか分からない。とにかく、チョッパーの元に――」

 

 私は血まみれのゾロを抱きかかえて、チョッパーの元へと運ぼうと歩き出した。

 

「――おい、女がおれ゛を運ぶのかよ゛!?」

 

「あははっ……、ゾロが私を女の子扱いか……、こりゃ雪が降るな……」

 

 ゾロは私が彼を抱きかかえていることに悪態をつくので、私はそれを流す。

 

「てめ、あ゛とで覚えでろ……!」

 

「クソ野郎! 口を閉じて大人しくしやがれ……! ライアちゃん、やっぱりおれが運ぶぜ!」

 

 そんなゾロを見てサンジは自分が彼を運ぶと言い出してきた。

 まぁ、彼は紳士だから女の私にそれをさせたくないのはわかるけど……。

 

「いや、この中で1番傷が少ないのは私だから……、このくらいさせてくれ……、頼むよ」

 

 サンジもボロボロになっている。だから、1番ダメージの少ない私がゾロを運びたかった。

 この戦いで何の役にも立たなかったから――。

 

 ゾロをチョッパーに診せて、すぐに私はシンドリーの遺体の元に向かった。

 そして、彼女をスリラーバークの中から見つけた棺桶に入れて埋葬する。

 安らかに眠ってくれ……。

 

 そのあと、チョッパーとナミとミキータが花をどこからか見つけて来て、一緒に供えてくれた。

 さらにその後、フランキーが気を利かせて立派な墓を作ってくれる。私はみんなの優しさが嬉しかった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ラブーンが元気だとわかった、影も戻った、魔の海域も抜けた、これはもう私一人が昔を懐かしむ為の歌ではなく、ラブーンに届ける為の歌! 辛くない日などなかった……、希望なんて正直見えもしなかった……、でもねルフィさん! 私! 生きててよかったァ!! 本当に生きててよかった!! 今日という日が! やって来たから!!!」

 

 ラブーンの無事を聞いて、仲間たちと最期に歌った“ビンクスの酒”を記録した音貝(トーンダイアル)の音声を流して、それを封印したブルックは生のある今を喜んでいた――。

 

「あ、私仲間になっていいですか?」

「おういいぞ」

 

 そして、仲間になりたいと願う彼の想いをルフィはすぐに受け取る。

 というわけで、“麦わらの一味”の新しい船員(クルー)としてブルックが加わることとなった。

 

「通称“鼻唄のブルック”、懸賞金3千300万ベリー! 昔、とある王国の護衛戦団の団長を務め、その後、ルンバー海賊団船長代理“音楽家兼剣士”。今日より麦わらのルフィ船長にこの命! お預かりいただきます! 骨身を惜しまず頑張りますっ! ヨホホホホホー!!」

 

 うーん。彼は仲間になるというより、ルフィに忠誠を誓ったって感じだな……。

 

 

 それから、2日が経ち……、ゾロの容態も安定してきたので、私たちは出航することとなった。

 

 

「これあげる、ナミゾウとミキタロウは姉妹(きょうだい)分だから……」

 

「これなぁに?」

「キャハッ! ただの紙に見えるけど……」

 

 ローラは自分の母である四皇である“ビッグ・マム”の“ビブルカード”をナミたちに手渡した。

 

 ローラとナミとミキータは猪ローラの件があったからなのか直ぐに打ち解けて仲良くなっていた。

 特にナミは猪ローラに助けてもらったらしく、宝をあげるとまで言う始末である。

 

 私はローラに男に間違われて求婚され、さらに女だと告げるとまた求婚された。

 どうやらシンドリーが猪ローラに言い放ったセリフが影に刻み込まれて、女同士でも恋愛関係になれると気付いたとか言っていた。

 

 どうにか、私は故郷に恋人がいることを話して引き下がってもらったが、彼女は恋愛対象がシンドリーのおかげで倍に増えたとご満悦だった。

 これは、彼女にとって良いことなのかどうか、私には分からない。

 

 話を“ビブルカード”に戻そう。

 ビブルカードとは新世界にしかない物であり、自分の爪を練りこんで造られた特殊な紙で、別名“命の紙”とも呼ばれている。

 離れていく家族や恋人に破った一部を持たせると、離れたカード同士は世界中どこに居ても引き合うから、相手のいる方角がわかる、という便利な代物だ。

 

 その説明を聞いたルフィはエースに貰った紙がビブルカードだということに気が付いて、麦わら帽子からそれを取り出した。

 

「あり? ちょっと焦げて小さくなっているぞ……」

 

 ルフィは焦げて縮んでいるビブルカードを手のひらに乗せて不思議そうな顔する。

 

 やはり――こうなってしまったか……。

 

「気の毒だけど、この人の命! もう消えかけているわよ!!」

 

 ローラはエースの命の灯火が消えかけていることを告げた。

 おそらく、エースは黒ひげに負けて、海軍に捕まりインペルダウンに収監されてしまっているのだろう。

 

 頂上戦争はこの世界でも起こってしまいそうだな……。

 私がこの海に出た目的は父親であるヤソップに会うこと……。

 漫画だと、赤髪海賊団はあの場所にやってくる……。

 

 力不足は自覚している。自殺行為に近いことをしようとしてることも……。

 私はルフィよりも数段弱いのだから……。

 だが、ここまで来たからには逃げるつもりはない。

 拳を握りしめて、まだ見ぬ未来の戦いに私は想いを馳せていた――。

 




最後まで、シンドリーがヒロインだったスリラーバーク編は如何でしたでしょうか?
メンヘラ化しても女たらしを止めないライアを描いていて、ダメだコイツとか思ったのは内緒の話です。
この先の章分けなんですけど、場面の移り変わりが早いので1つにまとめようと思います。
なので、次回からいよいよ頂上戦争編ということで新しい章を開始します。前半戦のクライマックスです。
とにかく登場キャラクターが多い、この章を書くのは非常に不安ですが頑張ってみます。


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頂上戦争編
再び赤い土の大地(レッドライン)


いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回から頂上戦争編が始まります。
書き始めた頃は遠い未来の話だと思ってたのに、ここまであっという間でした。
それではよろしくお願いします!


「いいんだ――。万が一本当にピンチでも、いちいちおれに心配されたくないだろうし、エースは弱ェとこ見せんの大嫌いだしな。行ったって、おれがどやされるだけさ。おれ達は出会えば敵の海賊。エースにはエースの冒険があるんだ」

 

 ルフィはナミがエースのビブルカードについて、放っておいても良いのかという問いかけに対してそう答えた。

 

 このルフィの言葉は本音だろう。

 兄であり強いと信頼しているエースが死ぬことなどあり得ないという前提で……。

 

「ビブルカードってのは本人が弱ると縮むだけで、また元気になったら元の大きさに戻るそうだ」

 

「うん、会うならそん時だ!! その為にエースは紙をおれにくれたんだ!」

 

 サンジがルフィに声をかけるとルフィは笑顔で再会するときは彼が元気なときだと答えた――。

 

 しかし、エースは――。

 ルフィは家族として彼を慕っている――。

 

 気が付くと私は口を開いていた。

 

「ルフィ、君の信念に水をさして悪いんだが……。気が変わったら意地を張らずに素直に教えてほしい。私たちはみんな君の吐いたツバくらい飲み込んで見せるからさ……」

 

「あっはっは! ライア、そりゃ汚ェぞ!」

 

 私がルフィにエースを助けたくなったら、いつでも言うように声をかけると、彼は足をバタバタしながら笑っていた。

 

「いや、今のはものの例えで……」

 

「分かった。もし、考えが変わったら真っ先にお前に言うよ」

 

 彼はちょっと恥ずかしくなってしまった私に対して、急に真剣な顔をして拳を突き出して約束をする。

 ルフィが彼を助けたいと望むのなら、私はそれを手伝おう。自分勝手な目的で彼に付いていこうとしているのだから――いや、私が堪らなく嫌なだけのかもしれない。

 朗らかに笑っている彼が悲しみに沈むことが――。

 

「キャハッ! あんたも随分と船長の世話を焼きたがるのね〜。それじゃ、ゾロくんも人間離れしたスピードで回復したし、改めて――」

 

 ミキータは私を世話焼きだと言う。別にそういうつもりは無いんだけど……。

 そして、さらにグラスを配って乾杯の音頭を促そうとしてきた。

 

「“音楽家”ブルックの乗船を祝して!!」

 

「「乾杯(カンパ)〜〜〜イ!!」」

 

 私たちは海の上で改めてブルックが仲間になったことのお祝いをした。

 ブルックは海賊王すらもルーキー扱いする程のキャリアを持つ、私たちにはない老獪さも持っている心強い仲間だ。

 

 彼の経験と知識は私たちをきっと助けてくれるだろう。

 

「お世話になりまーす!」

 

 陽気な音楽家ブルックは楽しそうに再び挨拶をした。

 

 そして、私たちは“魚人島”を目指して航海を続ける。

 赤い土の大地(レッドライン)が近いからなのか双子岬からウィスキーピークに向かったときと同じような異常気象に襲われたがサニー号はそれを難なく突破してくれた。

 

 

「ししし、とにかくこれで半分だ。ラブーンとであった双子岬は海の反対でこの壁と繋がってる!!」

 

 赤い土の大地(レッドライン)に到達したルフィは楽しげにそびえ立つ大きな壁を眺めている。

 

「こうして再び相見えると、壮観だね。なんかこう……、私たちの冒険の軌跡が映り込むって言うかさ……」

 

 私も感慨深い。偉大なる航路(グランドライン)の前半は“楽園”と揶揄はされているが、厳しい冒険の連続だった。

 正直言って何回死にかけたか分からない。

 

「世界をもう半周した先でもう一度この壁を見ることとなる――。そのとき、おれは海賊王だ!!」

 

 ルフィは高らかに海賊王になる未来を赤い土の大地(レッドライン)の前で誓い、さらなる冒険を夢見ていた。

 

 さて、ここから私たちはしばらく立ち往生することとなる。

 なんせ、私以外は誰もコーティング船のことなど知らないから、魚人島への交通手段が分からずにいる。

 

 現在は海底に潜ってその行き方を探っているところだった――。

 

 コーティング船のことを教えようと思ったのだが、シャボンディ諸島でのトラブルは一歩間違えれば海賊団の全滅もあり得る。

 ここで私が変なことをすると、予想外の出来事が起こり大ピンチに陥る可能性も考えられたので、命の危険が伴わない範囲ではあまり干渉しないことにした。

 

「ぷはぁーー! 出たぞーー! ダメだ、海の底も全然見えねェや。本当にあんのか? 魚人島」

 

「ヨホホ、初めて乗りました潜水艦」

 

「これより下なら、着く前に死んじゃうわ」

 

 ルフィたちは潜水艦で海底に潜ってみたが、当然のことながら成果はゼロだった。

 知ってて言わないのはやはり、罪悪感があるなぁ……、

 

「変ね……、記録指針(ログポース)は確かに真下を指しているんだけど……。ねぇ、ライア。どうしたら良いと思う?」

 

「うーん。そうだな。やはり情報を手に入れるために――」

 

 ナミにアドバイスを求められて、何も答えないのも不自然だと思い、とりあえずシャボンディ諸島に行こうと提案しようと口を開こうとした――。

 

 するとそのとき、海から海獣が飛び出す。

 

「うおおおっ! さっきのやつだ! 付いてきたのか、“海兎”!!」

 

「ピョオオオオッ!!!」

 

「海の上でおれに敵うか! ゴムゴムのォォォォ! 回転銃(ライフル)!!」

 

 ルフィは飛び出た“海兎”を一撃で屠った。あんなに大きな生き物を一撃で……。

 相変わらず凄いパワーだ。

 

「お、お見事……! だけど……!」

「何か吐き出いたぞ!!」

「人? いや、違う……!?」

「ま、まさか〜〜!?」

 

 私たちは“海兎”よりも吐き出されたナニカに目を奪われていた。

 あのシルエットは……。

 

「きゃーーーっ!」

 

「だ、大丈夫かい? 怪我はない……?」

 

 私は落下地点を予測して、()()を受け止める。

 魚人は見たことあったけど……。

 

「――ハァ……、ハァ……。――ッ!? わーーーっ!? 人間の王子様に声をかけられちゃったーーーっ!!」

 

「いや、王子とかじゃないからね……」

 

 “海獣”に吐き出されて落下してきた彼女は私の腕の中でオーバーなリアクションを取る。

 

「まさか、本当に――人魚!?」

 

「キャハッ! 初めて見たわ……!」

 

 そう、落下してきたのは人魚だった。頂上戦争のことばかりで頭がいっぱいだったので、彼女のことはすっかり忘れてた。

 

「わーーーっ!! びっくりした! 人間の人がいっぱい!!」

 

 このオーバーリアクション気味の人魚はケイミーというデザイナー志望の女の子だ。

 そして、もう一人、新鋭のデザイナーと名乗るヒトデのパッパグが彼女と一緒に自己紹介した。

 

 さて、サンジは勿論、私たちも初めて見る人魚に興味津々で色々と話をしていた。

 そんな中で、ケイミーの電伝虫に連絡が入る。

 人さらいの“マクロ一味”が“トビウオライダーズ”という集団と手を組んで、彼女の友人である“はっちん”を捕まえたのだそうだ。

 

 “マクロ一味”はケイミーをしつこく狙っていたらしく、その“はっちん”が彼女を守っていたらしいが、“とびうおライダーズ”と手を組むようになって苦戦するようになったらしい。

 

 ナミは魚人島への行き方と引き換えに“はっちん”を救出しようと提案して、ケイミーはそれを承諾。

 

 私たちは“はっちん”の救出へ向かった。

 

 しかし、その“はっちん”って、アーロン一味のハチなんだよなー。

 だから、ナミがそれを知ったらと考えると……。私はそれが少しだけ心配だった。

 

 魚人海賊団のやった事は私は到底許されないことだと思ってるし、ナミはもちろん私以上にそう思っているだろう……。

 

 しかし、その背景を考えると……、胸が空く思いがする。

 ケイミーのような人魚は人さらいに狙われ続け、魚人は迫害され、そして中には奴隷にされる者もいる……。

 この世界は不条理で溢れ返っている。そんな膿というか、闇の部分が今後行く予定のシャボンディ諸島では垣間見えるだろう……。

 

 まぁ、難しい話は考えることは止めておいて、私はフランキーの協力もあって完成した新アイテムの調整でもしよう……。これは今後にきっと役に立つはずだ……。

 

 そんな準備をしていたら、いつの間にか“はっちん”の正体がハチだと分かって、どうするか迷っている内にケイミーが“マクロ一味”に捕まってしまう。

 

「いいわ! ハチも解放しましょう。無害な奴だし……」

 

 その様子を見ていたナミはハチも助けようと決断を下した。

 

「ふふっ……」

 

「な、何よ……!?」

 

 私がナミの顔を見て笑いかけると、彼女はムッとした顔をこちらに向ける。

 

「いや、やっぱり優しいんだね。君は……。ナミのそういうとこ、好きだよ」

 

「――も、もう! バカなんだから。早く行くわよ!」

 

 彼女は照れたのか、少しだけ頬を赤く染めて戦闘の準備をした。

 

 ルフィは一瞬でケイミーを奪い返して、私たちに命令する。

 

「野郎ども! 戦闘だァ!!」

 

「「うおおおおおーーっ!!」」

 

 私たち“麦わらの一味”は“トビウオライダーズ”と戦闘を開始した――。

 

「フランキー、さっそくコイツを使わせて貰うよ」

 

 私は折りたたみ式のスノーボードのような形の板を取り出して、フランキーに声をかける。

 

「おっ! 試運転するのか!? その、スーパーダイナミック・スカイロケット号の!」

 

「うん。この“ホバーボード”はずっとほしかったモノの内の1つだからね。存分に使わせてもらう」

 

 転生前に大好きだった映画“バック・トゥ・ザ・○ューチャー”。

 その映画の中の未来の世界で出てくる“空飛ぶ板”は私の憧れであり、何とか(ダイアル)を駆使して作ってみたかった。

 一人では作れなかったのだが、フランキーの知恵を借りて、やっとそれが叶った。

 

 私はホバーボードを起動させて、銃を構える。

 

「おっ……! きっちり浮いてるじゃねェか!」

 

「うん! 完璧だ……! ――よっ……、と」

 

 サニー号から私がホバーボードに乗って飛び出すと、大きなトビウオに乗った一団が海中から飛び出してきた。

 

「へぇ、向こうも飛んできたか。面白い……! ――1つ! 2つ! 3つッ!!」

 

「「ぐわあああっ!!」」

 

 ホバーボードに乗りながら海上に出て私はトビウオたちを撃ち落とした。

 キロキロパウンドよりも飛べる高度は低く、連続起動時間は短いが、スピードが速く、能力無しで誰でも使える点がこのアイテムの利点だ。

 

『一旦潜る!!』

『了解……』

 

「――あっ! ルフィ!」

 

 なぜか、トビウオに乗っていたルフィが海中にダイブしようとしているところを見つけた私は大慌てで彼に近付いた。

 

「ぶはっ……! やべェ……、もう少しで海の中に落ちるとこだったぞ――!」

 

「君って何も考えてないように見せて、本当に何も考えてないことあるよね……?」

 

 私は彼が海に落ちる寸前で彼の手を掴み救出して、サニー号まで引っ張って行く。

 時々、“面白そう”が先行しちゃうところが、ルフィの弱点だな……。

 まぁ、それを補って余りある決断力と行動力があるから良いんだけど……。

 

 そうこうしている内にゾロがハチを救出し、ブルックが次々とトビウオライダーズを眠らせたりして、終始私たちが押し気味で戦闘は進んでいった。

 

 そして……。ルフィは懲りずにトビウオに乗って、リーダーの男がいる彼らのアジトへ突っ込んで行った。

 

 

 さて、ここから先は茶番というか、なんというか……。

 

「オラの顔を見せてやる……。会いたがったぬらべっちゃ……!」

 

 トビウオライダーズのリーダー、デュバルはサンジの手配書にそっくりの男だった。

 彼はサンジが手配されてから、恐ろしい目にあったらしく、サンジを恨んでいた。

 髪型を変えたり、髭を剃ったりという発想は彼にはなかったらしい。

 

 向こうの因縁も分かったところで全面抗争という場面になったが、こちらの優位は揺るがず……。

 私がサニー号の秘密兵器、“ガオン砲”というコーラ樽を5つ使う燃費の悪さだが超強力な空気砲を放ち、勝負はほとんど決した。

 

 そして、デュバルはというと――。

 

整形(バラージュ)ショットッ!!」

 

「ダバダァァァァッ!!」

 

 サンジの高須ク○ニックもびっくりな蹴り技は、デュバルにトドメを刺すだけに留まらず、彼の顔を別人と言えるレベルまで変えてしまった。

 

 ちょっと、あの技……、私の顔にもやってもらえないかな? もうちょい可愛い感じになるように……。

 そんなことをサンジに言ったら、「ライアちゃんの顔を蹴れるはずがねェだろ」って笑いながら言われてしまった。

 冗談で言ったんじゃないんだけどな……。

 

 

 ともかくハチの救出は成功した。

 デュバルは顔が変わって人生が変わったから「麦わらたちの力になりたい」と言ってハイテンションで去って行き、ケイミーたちに魚人島への行き方を聞くこととなった。

 

 そしてコーティング船のことを聞き、私たちはようやくシャボンディ諸島へと足を踏み入れることとなったのだ。

 

 

「あら? あんたは船から降りないの?」

 

「うん。少しだけ、“ホバーボード”と()()()()()のメンテナンスをしてから向かうとするよ。大丈夫、みんなの気配なら辿れるからさ」

 

 シャボンディ諸島に着いて下船の準備をしているミキータが、機械いじりをしている私に声をかけたので、返事をした。

 この先の戦いに備えて、万全を期しておきたい。このあと漫画通りに《あの出来事》が起こるなら、準備出来るのは今このときしかない。

 

「ふーん。じゃ、私たちは先に行ってるわね」

 

 こうして、船番に残ったサンジと船のメンテナンスで残ったフランキーを含めた私たち3人がサニー号に残り、残りの仲間たちは船を降りた。

 ゾロだけ別行動を取るみたいだったが……。

 

 しばらくして、新しい武器のメンテナンスが終わろうとしたとき、サンジが私に近づいて声をかけてきた。

 

「ライアちゃんってさ。海賊やってる父親に会いに行くために海に出たんだよな?」

 

「ん? そうだよ。どうしたの? 急に……」

 

 サンジの言葉の意図が掴めなかった私は、それを彼に尋ねる。

 

「いや、その。もしも、航海の途中で目的が叶っちまったら、どうすんのかなーって、思ってさ」

 

 サンジは私がヤソップに会う目的を果たしたらどうするつもりなのか興味があるみたいだ。

 

「ああ、そういうことか……。正直、言ってね。海に出たときは目的が叶ったら船を降りて故郷から出ないつもりだった……。そう約束した人もいるし……」

 

 そう、私はカヤと約束をしている。ヤソップを連れて帰ったら、シロップ村から出ないと……。

 でも――。

 

「つもりだった?」

 

「気が変わっちゃったんだ。やっぱり、というかどうしようもなく、私はルフィを“海賊王”にしたい。困ったことに目的が1つ増えちゃったんだ」

 

 ――共に戦い、共に笑い、共に怒り……。

 私にとってルフィの存在は大きくなっていた。

 それは恋愛感情とは程遠く、“義”や“仁”といった感情に近いだろう……。

 私の航海の目的はいつしか2つに増えていたのだ……。

 

 だから、カヤには大いに謝るつもりではあるが、私はルフィを何としてでも“海賊王”にするつもりである。

 

「くぅ〜〜!! いいじゃねェか! 仁義あってのこの世界……!! それを蔑ろにするのは男じゃねェ……!!!」

 

「うん。そうだね。よくわかるよ。でも、今度“男なら”とか私に言ったら怒るからね……」

 

 大袈裟な物言いをするフランキーに対して、私はツッコミを入れる。

 ナチュラルなのか、イジってるのかはっきりしてほしい……。

 

「おいっ! てめェは割り込んで来ながら、ライアちゃんに失礼なこと――んっ!? 電伝虫か……? ナミさんかな?」

 

『ケイミーが攫われたァあああッ!! 人魚や魚人は悪人じゃなくても売買が黙認されてるらしくって――』

 

 電伝虫の声の主はチョッパーだった。そうだった、ケイミーを狙っている人さらいの集団はまだ居たんだった……。

 確か、ケイミーはどこかで競売にかけられる

はずだ……。そこで彼女を助けなくては……。

 くそっ、会ったばかりの上に小さな力しかない彼女の気配は、これだけ人が多い場所だと探れない……。

 

「トビウオライダーズを呼ぶ」

 

 サンジは冷静にこの道のプロの話を聞こうと判断して、トビウオライダーズに連絡を取ろうと動く。

 彼の迅速な判断力にはいつも助けられるな……。

 私たちはケイミー救出へ動き出した。

 

 




目的を果たしてもライアはルフィに付いていくつもりみたいです。
頂上戦争編を盛り上げることが出来るように頑張ります!


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シャボンディ諸島の冒険

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
遂にシャボンディ諸島に到着してしまいました。
前半のクライマックスにどんどん近付いております。
それでは、よろしくお願いします!


「せっかく巨人を捕まえてったのによォ! それをオークション開始寸前に“人魚”を持ち込んだ奴がいるってんだよ!」

 

 人さらいを商売にしている連中を総当たりして、ようやく有力な情報が掴めた。

 これは恐らく当たりだな……。

 

「ふむ。それはどこのオークション会場なのかな――?」

 

「――ッ!? い、いつの間に!? お、おいっ! 話すから、その物騒なモンはしまってくれ――」

 

 私は手っ取り早く話を聞くために銃口を男の喉元に突きつけながら質問し、彼からオークション会場の場所を聞いた。

 

「場所は1番GR(グローブ)、“ハウンドペッツ”!! ここから行くんだったら……、小回りが利くこっちを使った方が良いな……」

 

 私はホバーボードに乗って、最短距離を走行して“ハウンドペッツ”に向かった。

 

 私が辿り着いたとき、サンジ、フランキー、ナミ、そしてチョッパーがオークション会場の前で男と揉めていた。

 

「だからなんで返せねェんだよ! ケイミーちゃんは売られるような筋合いがねェっつってんだよ!!」

 

「筋合いないのはお前だ。これ以上騒ぐと“営業妨害”で訴えますよ」

 

 怒れるサンジの言葉に男は平然とした顔でそう返す。

 まったく、どの世界にもろくでもない連中は居るものだ。

 

「政府はいつから“人身売買”なんて許可を出したんだい?」

 

「さァ、政府や軍の関係者は“人身売買”という言葉が聞き取り辛いらしく……、この商売のことは全く知らないらしいですねェ」

 

 私の言葉もニヤニヤと笑いながら男は受け流し、私たちのイライラは頂点に達した。

 

「ええい、まどろっこしい! 人魚がここに居るなら、こうすりゃ良いだろ!?」

 

「ニュ〜〜! 止めてくれ! “天竜人”も居るし、中のケイミーは既に“首輪”を付けられている筈……」

 

 フランキーが堪らず、オークション会場を吹き飛ばそうと左腕に仕込んでいる迫撃砲の砲口を扉に向けると、ハチが必死に彼を止める。

 そうか、天竜人はともかく首輪があったか。私は見ていないが、確か奴隷たちは爆発する首輪を付けられていた。

 ケイミーがそれを付けているということは――。

 

「あの爆発する首輪!? じゃあ、下手に連れ出せもしねェぞ!」

 

 チョッパーの言うとおり、力ずくではいかないな……。

 

「ライア! 船の宝って換金したら2億くらいはあるわよね?」

 

「少なくともそれくらいはあるんじゃないかな?」

 

 ナミはモリアから奪った宝について私に聞いてきた。

 何気に宝をきっちり奪うあたり私たちの中でナミが1番海賊をやっていると思ってたりする。

 

「よし! 手が出せないなら、ここのルールでケイミーを取り返しましょう」

 

「なるほど。ハチ、2億ベリーあればケイミーは落札できそうかい?」

 

 ナミの意図を理解した私はハチに彼女の相場について質問をした。

 こういう下衆な話はしたくないのだが、事態が事態なだけだから仕方ない。

 

「にゅー、そりゃあ、それくらいあれば十分だけど……。おれはそんなに返せない……」

 

 ハチはお金の心配をする。ケイミーを助けるためのお金なのにそれを彼が返そうと考えているのだ。

 

「なーに? ハチ。あんたケイミーの保護者かなんか?」

 

「ナミ、聞くだけ野暮だよ……。安心しな、ナミだって友達を取り返したいんだ。心配はしなくて良いさ」

 

 ナミがケイミーとハチの関係を尋ねていたので、私はそれを止めて、ハチにお金の心配はしなくても良いと声をかけた。

 

「そゆこと。ていうか、あなたって他人のこういう事には普通に感覚が働くのね。普段はびっくりするほど鈍感なクセに……」

 

 ナミは私の言葉を肯定した上で、私の普段が鈍感だと毒づいてくる。

 そんなに鈍感なのかなぁ……。私は釈然としなかったけど、反論はしないでおいた。

 

「――お前ら……、この恩は……!」

「一生忘れねェ!」

 

 ハチとパッパグは涙を流して礼を言っていた。

 いつも思うけど、ナミは本当に人間が出来てる。ハチの居た魚人海賊団とは色々とあったのに、この前も彼を助けようとしたし……。

 これは、誰にでも出来ないと思う……。

 

 彼女のような人間が仲間で私は誇らしかった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『魚人島からやって来た! 人魚のケイミー!!』

 

「うおおおおおーーっ」

「本物だ! 若い人魚だ!!」

 

 オークション会場に入った私たちは人間たちが売られていく光景をまざまざと見せつけられた。

 何ていうか、人ってここまで醜くなれるんだな……。

 あんまり私は正義感とか振りかざすタイプではないが、この空間の雰囲気は耐え難いものだった。

 

 そして、世界貴族――“天竜人”……。連中もオークションに参加していた。

 この世界を創ったとされる20人の血族の末裔が“天竜人”とされていて、彼らは無条件で敬う対象となっている。

 “天竜人”に喧嘩を売ると海軍“本部”大将が飛んでくると言われているので、誰も彼らには手を出せないでいるのだ。

 

 “天竜人”については漫画での知識だけで嫌悪感しかなかったが、やはり実物を見るとより醜悪に見えるな……。

 

 そんなことを思っていた矢先である。

 

「5億で買うえ〜〜! 5億ベリー〜〜〜!!」

 

 間の抜けた声がオークション会場に響き渡る。

 “天竜人”の男がケイミーに5億ベリーの値をつけたのだ。

 

 当然、誰も上乗せすることは出来ず……、ケイミーは落札されてしまった。

 

「マズイな……。金で解決できるならと身を引いたら、より厄介になっちまった」

 

「そんな、おれたちどうしたら!?」

 

 サンジもチョッパーもこの事態をどうすべきなのかと焦った顔をしだした。

 

「ニュ〜! おれ、こうなったら力ずくで――」

 

「うむ。それしか手は無さそうだな。問題は首輪の鍵だが……」

 

 私はハチの言葉に同意して銀色の銃(ミラージュクイーン)を取り出す。

 

「ライア、ちょっと本気なの? 下手したら大将がここに来るのよ……。とりあえず、銃を寄越しなさい……! あなたって、時々ルフィやゾロより喧嘩っ早いんだから……!」

 

 すると、ナミは私がむやみに発砲しないようにするためなのか、銃を私から奪い取った。

 でも、このまま引くわけにはいかないじゃないか……。

 

「ナミさん。この状況じゃそれしか方法は無さそう――」

 

 サンジが私のフォローをしてくれようとしたとき、大きな音とともにトビウオがオークション会場に飛び込んできた。

 

「もっと、上手く着陸しろよ!!」

 

「ん? ここはサニー号じゃねェな。どこだ?」

 

 そう、ルフィとゾロがようやくこの会場に辿り着いたのだ。

 

「ルフィに、ゾロも……!?」

 

 チョッパーも彼らの存在に気が付き、少しだけホッとした表情を浮かべる。

 

「おっ! ケイミー、探したぞ〜〜〜!! よかった〜〜!!」

「ちょっと待て! 麦わら!!」

 

 ルフィは到着するなりケイミーを見つけて、彼女が入れられている水槽に向かって走り出そうとしたが、それをハチが全力で止めた。

 

「きゃ〜〜!! 魚人よ!!」

「なんで陸に魚人が居るんだ? 気持ち悪い……!」

「怖いわ〜! 存在が怖い……! 近寄らないで〜〜!」

「海へ帰れ化物!!」

 

 そんなハチの姿を見て、オークション会場の人たちはパニックを起こす。

 魚人という存在を嫌悪するように……。

 

「ロビンが言ったとおりだ……。この島では魚人や人魚が差別を受けている……」

 

 その異様な光景をみたナミは青ざめた顔をして、魚人たちへの差別の存在を認識した。

 

「えっ? ケイミーもハチも……!?」

 

「残念だけど……、これもまた現実だ……。未だに魚人や人魚に対する風当たりは強い……」

 

 私もこのような差別があることは知識としては知っていたが、実際に目の当たりにすると、何とも胸が痛いというか、虚無感に襲われてしまった。

 

「きゃあああああっ!」

 

「むふふふ! むふーん♪ 当たったえ〜〜! 魚人を仕留めたえ〜〜!」

 

 そんな中である。天竜人の男がハチを銃で撃った――。

 あまりに殺気がなく。虫を叩くような当たり前の感覚で人を撃つ光景に私は狂気を感じた。

 

 しまった……。ナミから銃を回収していれば――。

 

「はぁ、撃たれてよかった。気持ち悪かったし」

「何か企んでいたに違いない……」

 

 しかし……、より狂気を感じたのは、その様子を平然とした顔でオークション会場の人たちが見ていたことに対してだ……。

 

「お父様〜〜! これは自分で仕留めたからタダでいいえ〜〜! 得したえ〜〜! 魚人の奴隷がタダだえ〜〜!」

 

「――ッ!?」 

 

 醜く下衆な言葉を吐く、ハチを撃った男にルフィはキレてそちらに向かおうと歩き出す。

 

「ルフィ……」

 

「ま、待ってくれ麦わら……! おれがドジったんだ……! 目の前で()()()()()()()!! 天竜人には逆らわないって約束したろ? ど、どうせおれは海賊だったんだ……。悪ィことをしたから……、その報いだ!」

 

 そんなルフィをハチは必死で止めた。天竜人に手を出すとどうなるのか知っているから……。

 

「…………」

 

「ゴメンなぁ、こんなつもりじゃなかったのになぁ……! ナミに――ちょっとでも償いをしたくて……、おめぇらの役に立ちたかったんだけども――結局、迷惑ばっかりかけて、ゴベンなぁ~〜!!」

 

 ハチには彼なりのナミに対する贖罪の気持ちがあったらしい。

 涙ながらに謝罪する彼の言葉は悲痛な叫びに聞こえた。

 

「魚め〜〜! 撃ったのにベラベラ喋ってムカつくえ〜〜!!」

 

「やめろ、ムギ! おめェらもタダじゃ済まねェぞ!」

 

 天竜人の男が再びハチに銃口を向けたとき、ルフィは彼に向かってゆっくりと歩いて行った。

 パッパグは止めていたが、無駄だろう。既にルフィの心は決まっている。

 私はこれから起きることを予感して、ナミの持っている銀色の銃(ミラージュクイーン)を回収した。

 

「何する気だ!? あいつ!!」

 

「むっ、お前もムカつくえ〜〜! ――ヴォゲァアッ!!!!」

 

 天竜人の男が発砲したその刹那、ルフィの豪腕は彼の顔面を捉えて、その男を吹き飛ばす。

 そう、モンキー・D・ルフィは天竜人を公衆の面前で堂々と殴り飛ばしたのだ……。

 やはり、やってくれたか……。そりゃあルフィなんだから仕方ない……。

 

 

「悪ィお前ら……、コイツ殴ったら海軍の”大将”が軍艦引っ張って来んだって……」

 

 ルフィは一応、“大将”が来ることは知っていたみたいで、私たちに謝罪をする。

 

「お前がぶっ飛ばしたせいで斬りそこねた」

「私は撃ちそこねた……」

 

「あなたたち……」

 

 刀と銃を構えている私たちを見て、ナミは頭を抱えていたが、口元は緩んでいた。

 

 そして、オークション会場にいた衛兵たちと私たちの戦闘が始まる。

 

 ミキータ、ロビン、そしてブルックもこの会場に辿り着き加勢してくれたので、会場内の兵士たちを蹂躙するのは簡単だった。

 問題は、外を取り囲んでいる海兵だな……。

 彼らの目的は恐らく――。

 

 

「あいつらの狙いの人魚を殺すアマス!! ――なっ、下々民がまた狼藉を!?」

 

「やらせないよ――! そこから動くと今度は怪我をすることになる。痛いのが嫌なら大人しくしていろ!」

 

 女の天竜人がケイミーを撃とうとしたので私はその銃を撃ち落とした。

 

「――はいッ! わかり申したでアマス! ――って、なぜ、私が下々民に媚びるような態度を取っているアマス!? ゆ、許せん!! しかし、今までに見た誰よりも……! いや、そんなことは関係ないアマス! ――ッ!?」

 

 彼女は私の顔を見て一瞬だけ素直に“気をつけ”の姿勢をとったが、直ぐに怒った表情となり落とした銃を拾おうとする。

 だが、その前に口から泡を吹いて倒れてしまった。

 

「シャルリア宮!!」

 

「――これは、覇王色……。やはり居るのか……」

 

 ビリビリとした気迫が舞台裏から放たれたことに気付いた私は視線をそちらに向ける。

 

「――ほら見ろ、巨人くん。会場はえらい騒ぎだ……。オークションは終わったし、金は盗んだ。ギャンブル場に戻るとしよう」

 

「質の悪いじいさんだな。――金を()るためにここにいたのか?」

 

「あわよくば、私を買った者から奪うつもりだったんだがなァ。――考えてもみろ……。こんな年寄り、私なら奴隷になど絶対にいらん!! わはははは」

 

 舞台裏から出てきたのは、海賊王ゴール・D・ロジャーの船で副船長を務めていた伝説の男――“冥王”シルバーズ・レイリー……。

 なるほど、今までに会ったどんな強者とも違う……。

 

 なんせ、さっきまで……、私は彼の力を探知出来なかったからだ。ごく普通の一般人と同じくらいの力しか感じていなかった。

 実力をあえて隠すなんてことも出来るのか……。

 

「お、おい。なんで錠が外れてるんだ?」

「知るか、んなこと。まずいぞ巨人が暴れたりしたら……」

 

「レイリー……!」

 

 会場がざわつく中、ハチは彼の名をつぶやく……。

 

「おおっ! ハチじゃないか! 久しぶりだな!! その傷はどうした――!? いや、待て、答えなくていい……」

 

 レイリーはハチに質問しておきながら、答えなくて良いと口にして、しばらく辺りの様子を観察する。

 そして、ハチがケイミーを救うために酷い目に遭ったこと、私たちがそれを助けたことなどを全て察したようだ……。

 覇気とか関係なく洞察力も化物だな……。

 

 

「――さて」

 

 レイリーが目を見開くとビリビリとした気迫が会場全体に飛ばされる。

 

「「――ッ!?」」

 

 覇王色の覇気は意志の弱い者たちをひれ伏させる力がある。レイリーが放ったのはまさにそれだった。

 会場にいる兵士たちが皆、バタバタと倒れていく。

 

「――なんだ、このじいさん。何をした?」

 

 サンジもゾロもその光景を見るだけで、レイリーが只者ではないことに気付いたみたいだ。

 

「その()()()()()は精悍な男によく似合う。会いたかったぞ……!! モンキー・D・ルフィ……!!」

 

 レイリーは真正面に立っているルフィに声をかける。まるで、ずっと彼を待っていたように……。

 漫画だとレイリーがルフィの師匠になったし、そういう運命みたいなのを最初から感じていたのかな? 麦わら帽子も元々は海賊王のモノだったみたいだし……。

 

 その後、レイリーはあっさりとケイミーの首輪を外す。多分、覇気の応用なんだろうけど……、さっぱり意味がわからない。

 

 そして、商品にされていた人たちを解放して、ここから退散することになった。

 

 ルフィはオークション会場に居たユースタス・キャプテン・キッドとトラファルガー・ローと共にいち早く表から出て、正面にいる海兵たちを粗方吹き飛ばして、脱出を楽にする。

 

 おかげで私たちはそれほど派手に戦闘をすることなく、トビウオライダーズ改め、人生バラ色ライダーズと共にこの場から離れることが出来た。

 

 

 

「え〜〜〜〜っ!! 海賊王の船にィ!!!」

 

「副船長をやっていた、シルバーズ・レイリーだ。よろしくな」

 

「「副船長!?」」

 

 元海賊でハチと顔なじみの女店主シャクヤクが経営する酒場、『シャッキー'S ぼったくりBAR』まで逃亡した私たち。

 レイリーの正体を聞いたルフィたちは驚きを隠せない様子だった。

 

 もっともブルックはロジャーの名はルーキー時代で止まっていて、ロビンは元から気付いていたみたいだから顔色は変わってなかったが……。

 

「あら、気付いてなかったの?」

 

「みんな、海賊はやってるけど、他の海賊には興味ないんだから仕方ないよ」

 

 ロビンは不思議そうな顔をしていたが、そもそもルフィは他人に無関心だし、他のみんなも特に海賊に興味もないので顔を知らなくても無理はない。

 

 レイリーはロジャーの話をしてくれたが、知ってる話でも体験した人から聞くと全然違うというか、感慨深いものがあった。

 

「私はモンキーちゃんにも会いたかったけど、あなたにも会ってみたかったわ。ライアちゃん」

 

「えっと、シャクヤクさん? な、なんで私と?」

 

 雑談をしてると、シャクヤクが私に飲み物のお代わりを渡しつつ、私に会いたかったと言ってきた。

 この人も只者じゃない感じだけど、掴みどころがない人だな……。

 

「うふふ、シャッキーって呼んで。だって手配書の写真がとってもキレイだったんだもん。本物はもっと素敵ね」

 

「えっ? えっと……。私はシャッキーの方が女性らしくてキレイだと思うが……」

 

 シャクヤクは私をキレイだと褒めるが、私は彼女の方がキレイというか年齢的にあり得ないくらい若々しくて素敵だと思う。

 

「――まぁ、噂のレディキラーに口説かれちゃったわ。そういうとこ、昔のレイさんみたい」

 

「おいおい。私がいつ君を口説いたって?」

 

 シャクヤクの言葉にレイリーは少し困った顔でツッコミは入れる。

 この二人はまぁ、そういう関係なんだろう……。

 

「都合の悪いことはすぐ忘れちゃうんだから。あなたたちも覚えておきなさい。泣かされるのはいつも女なのよ」

 

 そして、シャクヤクはやれやれと肩をすくめて、タバコの火をつけてそんなことを言っていた。

 いや、それじゃあまるで私が質の悪い男みたいじゃないか……。

 

「キャハハ、まったくもってその通りね」

 

「少しは反省してもらいたいわ」

 

 ミキータとロビンは顔を見合わせて頷きながら、シャクヤクに同意した。

 

「ロビンまで……。ちょっと、待ってくれ。シャッキー、私はだな――」

 

「知ってるわ。女の子なんでしょ? でも、そんなのは関係ないわ。気を付けなさい。知らないところで泣かされてる子もいるんだから」

 

 彼女は私の性別は知っていて、それでも気を付けるように忠告する。

 うーん。泣かされる子ってビビのことかな? 彼女には悪いことをしたとは思ってるけど……。

 

「シャッキー、お嬢さんが困っているだろう。それくらいにしてあげなさい」

 

 言葉に窮していた私に気が付いたレイリーは助け舟を出してくれた。

 なんというか、レイリーは思ってたより気さくで温かい人だ。こういう人だからこそ、ロジャーも彼に背中を預けたんだろうな……。

 

 レイリーはコーティング作業に3日かかると言った。

 そして、彼は自分のビブルカードを渡して、3日後の夕刻に自分のいる所にカードの示す方向を辿って来てほしいと話した。

 

 既に私は黄猿であろう人間の気配を感知している。

 ここから先の展開が漫画と同じとは限らない。バーソロミュー・くまが現れるか……、それとも……。

 

 私はレイリーのビブルカードを見つめながら、この先の行動を何度もシミュレーションしていた――。

 




次回は麦わらの一味が……。
さて、ライアはどこに行くのでしょう?
ここから、原作と違う展開になりますので是非ともご覧になってください!


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麦わらの一味崩壊

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回でシャボンディ諸島から舞台を移します。
それではよろしくお願いします!


「あれは、バーソロミュー・くまではない……! 気配が違う……!」

 

 3日間の逃亡生活をしようとした矢先に目の前に現れたのは七武海のバーソロミュー・くまとそっくりの人間兵器――パシフィスタ……。

 強力なレーザー光線を放ち、肉弾戦も強く、その上、鋼のように硬い身体を併せ持つ厄介な敵だ……。

 

「でも強いわ。私のJETスイングを食らってもビクともしないもの……」

 

 ミキータやチョッパー、そしてフランキーが各々の必殺技を放ったが効果は芳しくなかった。

 さて、どう攻めるか……、だが……。

 

「ゲフッ……、ガバッ……」

 

「ゾロっ……!?」

 

「ほっとけ、んな奴! まずはこいつをどうにかするかだ!」

 

 ゾロはスリラーバークでのダメージが残っていて苦しそうだな……。

 無理もない。満身創痍のところにルフィのダメージを注入したんだ。生きてることがそもそも不思議なくらいだ。

 

「――体は確かに硬いみたいだけど……。口の中はどうかな? ――必殺ッッ!! 雷光彗星ッッッ!!」

 

 私は口からレーザーを放とうとしている瞬間を見極めて口の中に電撃を帯びた弾丸を放つ。

 

「ガガ……ッ!!」

 

 するとパシフィスタは膝をついて、壊れた機械のような音を出した。

 

「あいつの様子が変わった! ライアの攻撃が効いたんだ」

 

「なるほど。何かがショートしたような音がした。確かに体は硬ェが、肌から血は出る。おれと同じ、体中を兵器だらけにした元は生身の人間ってわけか」

 

 フランキーは自らもサイボーグなので、いち早くパシフィスタの本質を見抜く。

 よし、弱点は浮き彫りになったぞ。

 

「ナミさんッ! 危ねェ!!」

 

「しまった!」

 

 しかし、攻勢になったと思ったのも束の間、パシフィスタは口を再び開けて、ナミを狙ってレーザーを出そうとした。

 

「“八十輪咲き四本樹(オチュンタフルール)”! “ショック”!!」

 

「さすが、ロビン。口の中でビームが暴発した――!!」

 

 その瞬間、ロビンはパシフィスタの身体に巨大な四本の腕を生やして、強制的に口を閉じさせて、パシフィスタの口の中でレーザーが暴発させる。

 

「隙を見せたわね! “雷光槍(サンダーランス)=テンポ”」

 

 さらにナミが完全版天候棒(パーフェクトクリマタクト)から雷の槍を繰り出して追撃した。

 

「効いてる……! でも、どうやら……、暴走しちゃったみたいだ……!」

 

 これだけの波状攻撃の結果、パシフィスタは暴走して無差別に攻撃を繰り出すようになってしまう。

 

 ここから、一気に決めないと面倒なことになりそうだ――。

 

「おい! こっちに飛ばせ!」

 

「ちっ! 無理しやがって! 悪魔風翔(ディアブルジャンプ)!! “画竜点睛(フランバージュ)ショット”!!」

 

 ゾロの指示でサンジは燃える足から繰り出される強力な蹴り技で彼の方にパシフィスタを蹴飛ばした。

 

「“鬼気九刀流”! “阿修羅”!! “魔九閃”!!」

 

 それを受けたゾロは3人になったと錯覚するほどの気迫を見せる大技で、パシフィスタに大ダメージを与える。

 

「よしっ! ルフィ、最後は君が決めてくれ!」

 

「“ギア(サード)”!! ゴムゴムのォォォ!! 巨人の回転銃(ギガントライフル)!!!」

 

 ボロボロになったパシフィスタにルフィがトドメの強力な一撃を放つ。

 パシフィスタは巨大な拳に押し潰されて、ようやく沈黙した。

 

 はぁ……。海軍の人間兵器一体を倒すのにこんなに苦労するなんて……。

 確かに漫画で2年鍛え直すとルフィが判断したのは正しかったのかもしれないな……。

 

 

 早速、疲労困憊気味の私たちはその場を直ぐに動くことは出来なかった。

 ――くそっ、こうしてる間にも……。

 

「サンジ……、気付いたかい? どうやらコイツは一体じゃないみたいなんだよ。そして、今もこっちに向かって近付いて来ている……」

 

「なにっ!?」

 

 パシフィスタにPX4と書かれているのを見ていたサンジに私が声をかけると、みんなはギョッとした顔で体を起こした。

 

「まったく、やってくれるぜ! てめェら!!」

 

 マサカリを担いだ男、戦桃丸がパシフィスタを引き連れて空から飛び降りてきた。

 この男自体もかなり強いな……。確か漫画だと武装色の覇気も使っていた気がする。

 

「バラバラになって逃げるぞ! 3日後に会おう!!」

 

 ルフィは素早く形勢が不利なことを悟って、逃げの一手を選択した。

 さらに彼の判断でルフィ、サンジ、ゾロの3人は別々でバラける。戦力の集中を避けるといういい判断だ……。

 

 でも――。

 

 ゾロ、ミキータ、ブルックの向かった方向に大きな気配がいきなり現れる。

 光の速度ってそういうことなのか……。神経を研ぎ澄ませていたのに、速すぎて接近に気が付かなかった――。

 

 海軍本部“大将”――黄猿……。ピカピカの実の光人間……。

 彼が出現して、一瞬でゾロがやられてしまう……。

 

「気を取られてるが、そんな暇はねェぞ! 足空独行(アシガラドッコイ)!!」

 

「――ッ!? 痛ェ〜〜〜ッ!! あいつの攻撃なんか変だぞ!」

 

 ゾロに気を取られたルフィは戦桃丸からキツイ一撃を受けて吹き飛ばされてしまった。

 また、武装色の覇気か……。恐らく“新世界”は当たり前のように覇気使いが居るんだろうな……。

 

「言っとくがわいは能力者じゃないぜ。――それにしても、遅かったな。黄猿のオジキ」

 

「そうだ!! ゾロ――!!」

 

 戦桃丸の言葉にルフィはハッとしてゾロの方を再び見る。

 彼は大ピンチに陥っていた。

 

「くっ――! ハンマーが効かない!!」

「剣も効きません!!」

 

 ミキータとブルックが必死でトドメを刺そうとする黄猿を攻撃するが自然(ロギア)系の彼にはまったく攻撃が効かない。

 

碧色の超弾(ブラストブレット)でゾロを吹き飛ばせば――」

 

「妙なことはさせねェ!」

 

 私が風の弾丸でゾロをエスケープさせようとしたが、戦桃丸がそれを邪魔する。

 

「ちっ!!」

 

「――ほう、わいの攻撃を躱すとは……、なかなかやるな! だが、ロロノアはこれで終わりだ!」

 

 私は彼の攻撃をギリギリで避けるが、ゾロを助けることに失敗した。

 

「くっ、ゾロがこのままだとやられちまう! ゾロ〜〜〜!!!」

 

「移動もさせない。今死ぬよ〜〜!!」

 

 黄猿は無慈悲にゾロに向かって、光の速度の蹴り技を放とうとする。

 

 しかし――。その技は止められた――。

 

「「――ッ!?」」

 

「――あんたの出る幕かい? “冥王”レイリー……!!」

 

 黄猿の攻撃を防いだのはレイリーだった。さすがは海賊王の船の元副船長……。

 老いても尚、その大いなる力は健在だった。

 

「若い芽を摘むんじゃない! これから始まるのだよ……! 彼らの時代が!!」

 

 レイリーは涼しい顔で黄猿の技を受け流し、私たちの味方をすると言い放つ。

 

 だが、彼の加勢もこの状況を好転させるには足りなかった。

 既に満身創痍な状況の私たちにとって、パシフィスタと戦桃丸の戦力だけで十分な驚異であり、一人、また一人と仲間たちが倒れていく……。

 チョッパーが3個目のランブルボールを摂取し、暴走形態となるが、パシフィスタと戦桃丸と黄猿は暴走チョッパーの無差別攻撃を上手く避け、倒すことはできない。

 私がどうにかしないと……!

 

「――必殺ッッ!! 爆炎彗星ッ!!」

 

「確実に急所を射抜く上手い狙撃だが……! 貧弱だな、9600万の狙撃手!!」

 

 私は戦桃丸の顔面に一撃を入れることに成功するが、彼は涼しい顔をして私に反撃してくる。

 

「ライア!!」

 

「――私は大丈夫だ。ルフィ……! 君は自分の身を守れ!」

 

 ルフィが倒されればこの一味は終わりだ。まさか、漫画とは違ってくまは現れないのか……。

 このままだと、逃げ切れずに……。

 

 そう思った矢先である。スリラーバークで覚えた気配を感じるのと共にゾロを抱えて逃げているミキータの絶叫が聞こえた。

 

「キャハハッ! 悪夢ね! もう一人出てくるなんて!!」

 

 そこにもう一体のくまが現れた。今度はパシフィスタではない、正真正銘の七武海、バーソロミュー・くまが。

 ミキータはフラフラになりながらもハンマーを構えてくまに立ち向かおうとする。

 

「――旅行するなら……、どこへ行きたい?」

 

 しかし、くまはそんなミキータを尻目に、ゾロの体に触れて彼を消してしまった。

 正確には吹き飛ばしたのだが、私たちには消されたように見えた。

 

「――はァ? ゾロくん!? ど、どこに!?」

 

 ミキータはキョロキョロと彼を探す動作をするが、ゾロはどこにも居ない。

 

 ここからは漫画と同様の展開だった。

 まずはブルック、ミキータ、サンジが消し飛ばされた。

 

 そして、パシフィスタが消されて、ナミと暴走状態で暴れていたチョッパー……、さらにはロビンまで……。

 

 実際、彼のおかげで仲間たちの命は助かったのだが、そんなことはルフィには分からないし、さすがの彼もこの状況に参ってしまっているようだ。

 

「――おれは仲間を救えな゛い゛!」

 

「諦めるな! 前を向くんだ! ルフィ……!」

 

 私はしつこく何処かに吹き飛ばそうとする、くまの掌底を躱しながら、ルフィに声をかけた。

 

「ライア? お前、まだ――!?」

 

「――ふむ。見聞色に特化しているタイプか……。面倒だ。後に回すか……」

 

 くまは私を吹き飛ばすのを後に回して、ルフィを飛ばそうとした。

 

「――もう二度と会うことはない……」

「――今だ! ――必殺ッッ!! 銭形補物星!!」

 

 私はくまの掌底がルフィに当たる寸前に、予め作っておいた新しい銃からロープ付きの手錠を彼に向かって飛ばして、腕を捕らえる。

 この武器は海楼石の手錠を利用しても使えそうだな……。

 

 私の賭けとも言える目論見は成功して、ルフィと共に私は吹き飛ばされた――。

 さてと、ここから何とか頂上戦争に足を運べるように立ち回らなくてはならないな……。

 

 

 

「ちきしょー! みんなどこへ消えたんだよーー!」

 

「多分、私たちみたいに吹き飛ばされたんだよ。どこかにさ」

 

 一緒に吹き飛ばされているルフィが叫び声を上げていたので、私はそれに対して返事をした。

 

「あれ? ライア! なんで、お前も一緒なんだ!?」

 

「ほら、腕を見てみな。手錠が付いてるだろ? 君が飛ばされる寸前にコイツで君を捕まえたから、私も同じく吹き飛ばされたということだよ」

 

 私は手にしたロープを彼に見せながら、状況を説明する。

 

「い、いつの間に!? すげェな、ライアは。くまみてェな奴に襲われて、おれは何にも出来なかったってのに……」

 

 ごめん……、ルフィ……。知ってたから用意してたんだよ。

 そして、知ってたにも関わらず……、私の力が足りないから……、くまの襲撃をそのまま甘受するしか……、みんなを助ける方法はなかったんだ……。

 

「出来なかったことを考えるより、これから出来ることを考えよう。みんなが同じ状況なら全員生きてる可能性が高い」

 

 私は自分にも言い聞かせるようにルフィの言葉にそう返す。

 

「そうだな! みんなでまた集まってサニー号で出発しよう!!」

 

 ルフィは私の言葉で気を取り直して、前向きな考えになってくれた。

 

「ああ……。じゃあ、ルフィ……。私は疲れたから寝るとするよ……」

 

「寝るのか!? あんま、おれも寝る場所は選ばねェけどよ、この状況で寝ようって思えねェ……」

 

 元気になったルフィの顔を確認した私が寝ようとすると、彼は珍しく私にツッコミを入れる。

 パシフィスタや戦桃丸と戦って疲れていたし、これからひと悶着ありそうだから体力を温存したいだけなんだけどなー。

 

「だけど、あれだけの激戦の後だ。どれだけ飛ばされるのか分からないし、体力は出来るだけ温存した方がいい。私は君と違って貧弱だから尚更だ。大丈夫、海に落ちたら助けるって。こうやって、ロープは腕に巻いとくからさ」

 

「そっか、なら安心だ――。Zzzzzz……」

 

 私が彼に寝る理由を話すと、直ぐにそれを受け入れて、ルフィはさっさと寝てしまった。

 

「くすっ……。私より直ぐに寝ちゃってさ。でも、それでいい。悩むよりも寝てリフレッシュするほうがよっぽどね……」

 

 睡眠をばっちり取った私たちはドンドン海の上を飛ばされていって、とある島にたどり着いた。

 ニキュニキュの実の能力は親切なもので、落下するときは、ボフンとクッションの上に落ちたような感覚で、怪我一つなく到着することが出来た。

 

 うーん。ジャングルの中か……。果たして漫画と同じく女ヶ島に着いたのだろうか? 強い力を持つ気配は幾つも感じるけど……。

 

「さて、どうしようかな……。ん? ルフィ。何を見てるんだい?」

 

「レイリーから貰ったビブルカードがあるから、そっちに向かえば、みんなに会えるかと思ってよォ」

 

 ルフィが何かを眺めていると思ったらビブルカードだった。なるほど、みんながそれを辿ると読んで、そっちに進もうとしたんだな。

 

「そうだな。その意見は正しいけど、結局私たちは海を越えなきゃシャボンディ諸島には行けないだろ? 幸いこの島には人が居るみたいなんだ。だからさ……」

 

「船を貰えねェか、頼めば良いんだな! そっか、よかった! 人が居んのかァ!」

 

 私が人が居るということを、彼に伝えるとルフィは喜んで、人が居る場所に行こうと私を急かしてきた。

 というわけで、私たちは人里を目指して歩くこととなった。

 

「何か昔を思い出すなー。子供の頃、じいちゃんに無理やり投げ込まれたジャングル。やっぱ思い出したくねェ」

 

「完全にトラウマになってるね……」

 

 途中で腹が減ったとルフィが騒いだので、近くにいたイノシシを仕留めて焼いて食べた。

 やっぱり、ただ焼くだけでもサンジが居るのといないのとでは味が大違いだな。正直言ってあまり美味しくない。

 

「ところでさ。ルフィ……。君が囓ってるのって、イノシシの肉じゃないよね?」

 

 私はルフィが美味そうに食べているモノを指さして、質問した。

 何か食べ物を持ち歩いていたのだろうか?

 

「ああ、これか? 何かその辺に生えてたキノコだ! 結構イケるぞ!」

 

「ふーん。その辺に生えてるキノコかァ……。――えっ!? お、おい! ルフィ!! 早く吐き出しなよ!! そんなもの食べたら……」

 

 私は彼の発言を理解すると悪寒が走り、彼にキノコを吐き出すように促した。

 しかし――。

 

「ん? うわぁああああっ!!!」

 

 B級ホラーのようにルフィの体から多くのキノコが生えてきて、彼はパニックになったのか、何が起こったのか分からないが気絶してしまった。

 

「まずいな……。こういう場合どうすれば良いか分からないし……。ん? 近くに人の気配――」

 

「おい! そこのお前!! 見かけない顔だな!! 何者だ!?」

 

 気配に気付いたのと同時に私はその方向から声をかけられる。

 どうやら、この島の住民が明らかに余所者である私を警戒しているようだ。

 3人組の女――それも全員がかなりの手練……。やはり、ここは女ヶ島――アマゾン・リリーで間違いなさそうだな。

 

「いや、驚かせてすまない。訳あって、こちらの島に遭難してしまったんだ。そして、腹を空かせた仲間がキノコを食べると、体中にキノコが生えてきて困っている。助けて頂けると嬉しいのだが……」

 

 私は事態が事態なので両手を上にあげて戦意のないことを示して、手短に状況を話す。

 

「――キノコ? ふむ、こ、これは“カラダカラキノコガハエルダケ”だな。食べたらキノコが生えるのよ! 大変!」

 

 金髪で弓矢を持っている女は素早くルフィの陥っている状況を理解して緊急事態だと口にした。“カラダカラキノコガハエルダケ”って、そんな体から如何にもキノコが生えそうなモノがあったなんて……。

 

「やっぱり、あのキノコが原因か……。何とかならないか? 大事な仲間なんだ!」

 

「――ッ!? な、何でだろう……。お前の顔を見ると胸がドキドキする……。い、いや、そうだな。このままだと生気を吸われて死んでしまう。アフェランドラ!」

 

 私が金髪の女に詰め寄って、ルフィを助けてくれと懇願すると、彼女は驚いた自分の胸を抱くような仕草をした。

 しかし、すぐに顔つきが変わり、私の倍以上の身長がある長身の女に声をかける。

 

「はーい。この子を村に運ぶのね」

 

 アフェランドラと呼ばれたその女は、軽々とルフィを持ち上げて歩き出した。

 

「“一刻を争うの巻”ね……」

 

 独特の喋り方をするツインテールの女がその後に続き……。

 

「急ぎましょう!!」

 

 金髪の女は、私の手を引いて急いで村に行ってルフィを助けようと言ってくれた。

 

 村に着くまでの間に金髪の女はマーガレット、ツインテールの女はスイートピーと名乗った。

 私はどうやってここに来たのかを、そのまま伝えたが、あまり理解してもらえず、村に着いたら詳しい話をみんなで聞くと言われる。

 

 いきなりルフィが倒れてしまったし、どうなることか不安だな……。それに、ここを治めている“女帝”ボア・ハンコック――彼女は難しい人物だと聞いている。

 ルフィはともかく果たして私は無事でいられるだろうか――。

 

 そんなことを考えている内に私たちは、マーガレットたちの村へと辿り着いた。

 さて、ここからどうなるのだろうか――?

 




女ヶ島に行く展開は多少強引な気もしますが、ご容赦ください。
なんか、ライアがある意味1番行ってはいけない場所に行ってしまったような……。
次回からは舞台はアマゾン・リリーで、本家メロメロの使い手が登場します!


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女帝現る

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
アマゾン・リリーにやってきたライアとルフィ……。
今回はあのキャラクターが登場します!
それではよろしくお願いします!


「あれ? アフェランドラ、ルフィはどこに?」

 

 ルフィの処置をアマゾン・リリーの村の人たちに任せた後、よそ者の私は妙なことをしないようにアフェランドラに監視されていた。

 と、言っても拘束などされず、お茶と菓子を出されて雑談をするみたいな感じだったが……。

 まぁ、私のような貧弱な人間などいつでも組み伏せられると思ってるんだろう。

 

「ああ、あの子なら――汚れちゃってたから、近くの川にマーガレットが洗いに行ったわよ。――それにしても、あなたってキレイな顔してるのねー。マーガレットも言ってたけど、見てたら心臓の鼓動が早くなるから不思議」

 

 アフェランドラは私の顔をマジマジと見つめながらルフィは近くの川にいると教えてくれた。

 

「ああ、ありがとう。そっか、体を洗いに――。ん? ルフィの体を洗う……!?」

 

 私は一度、そのセリフを飲み込んだが、猛烈に嫌な予感がして立ち上がる。

 そうだ、アマゾン・リリーって……。

 

「ちょっと、どうしちゃったの? 急に走り出して」

 

 私はルフィの気配を辿りながら走り出す。アフェランドラはそんな私を後ろから追ってきた。

 

 

「「きゃあああああ〜〜〜〜っ!!」」

 

 私が川に辿り着いたとき、ルフィを取り囲む女たちの悲鳴が響き渡り、私は何が起こったのか察した。

 

「しまった。遅かったか……!」

 

「ちょっと、何が起きたの? あの子は一体……」

 

 アフェランドラは近くでルフィを見ていた人の内の一人に状況を確認する。

 

「それが大変なのよ。あなたたちが連れてきた子が“男”みたいだったの!」

 

 やはりルフィが男だということがわかって混乱してるみたいだな。ここって、男子禁制の掟とかあったんだっけ? 

 ルフィは漫画でよく助かったな……。まぁ、ハンコックが彼に惚れたおかげだろうけど……。

 

「お、男〜〜!? ライア、あなたのお友達は男だったの?」

 

 アフェランドラはルフィが男だということに対して言及する。

 

「え、いやー、その……。男だとまずいのかな?」

 

 私はとりあえずこの場をどうしようかと思案しながら、彼女の言葉を肯定した。

 

「お前もここに来ていたか。まずいなんてものじゃない。“男子禁制”は数百年続くこの国の規律。それを破ったとなると、あの男はおろか、お前や、連れてきたマーガレット、スイートピー、アフェランドラもこの国の君主である蛇姫様が許すまい」

 

 アフェランドラと話していると、キキョウという村の戦士たちをまとめてる女が私に話しかけてきた。

 アフェランドラに私を見張るように言ったのも彼女だ。

 

「そうなんだね……。キキョウだっけ? 何とか許してもらえないだろうか? さっきも話したけど、ここに辿り着いたのは不可抗力。故意ではないんだよ」

 

 私はキキョウの目を真っ直ぐに見つめて、ダメ元で穏便に済ませないか頼んでみる。

 

「――ッ!? お前も何か雰囲気が違う……。よくわからないが、お前を見ると胸が高鳴る……。――まさか、男じゃあるまいな!?」

 

「なんで、“男子禁制”のところでまで、私はそんなことを言われなきゃいけないんだ……。私は女だよ。――ルフィはどうするつもりだい?」

 

 私は女しか居ない島でも男だと言われて少しだけ傷付きながら、ルフィの処遇を質問した。

 

「目が覚めるまで、牢獄に入れて待つ――」

 

 彼女はルフィが起きるまで待つと言った。

 

「目が覚めたら?」

 

「――お前には悪いが……、殺すしかないだろうな。蛇姫様が居ない内に“男”が入ってきたことを揉み消すことが出来れば、アフェランドラたちはもちろん、お前も助かるだろう。理解してほしい……」

 

 キキョウは少しだけ申し訳なさそうな顔をして私にルフィを殺すつもりだと伝えた。

 到底、承諾できない話だがこの国にはこの国のルールがあるのだろうし、彼女が個人的な感情でルフィを殺したいと思ってる訳ではない。

 言い争うだけ無駄だろう……。

 

「君たちの立場はわかったよ。じゃあせめて、牢獄の前で彼が起きるのを待たせてほしい。彼と私は一蓮托生だ。ルフィが死ぬなら、私も死なねばいけないだろう」

 

 しかし、私もハイそうですかと引くつもりはない。

 彼を生かすために動くつもりだし、彼を置いて自分だけ助かるなんてあり得ない。

 だから、何とかルフィを逃がすキッカケを掴むために牢獄の前に居させてほしいと頼んだ。

 

「ふっ、ヒョロヒョロの体のクセに言うじゃないか。好きにするがいい……。不思議だな……。お前から感じる独特の雰囲気は妙に心地よい……」

 

「そ、そうか。すまないけど、牢獄とやらに案内してくれ……」

 

 キキョウは私には悪い感情を持っていないようだ。彼女はあっさりと牢獄の前で待つことを許して、そこに案内もしてくれた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ふわぁ〜〜! んん? ここはどこだ?」

 

「ようやく目覚めたか。ルフィ……」

 

 爆睡して、目が覚めたルフィに私は声をかけた。

 

「おお、ライア! お前がここに運んでくれたのか!? ん? こいつらは誰だ!?」

 

 牢獄の前には初めて見る男に興味津々のこの村の女たちがズラリと並んでルフィを観察していたので、彼はギョッとしている。

 初めてパンダが動物園に来たみたいな状況になってるな……。

 

「ああ、君が変なキノコを食べて死にかけていたのを、この村の人が助けてくれたんだ」

 

「ふーん。そっか。こいつらが命の恩人ってことか! おっ、麦わら帽子、持っててくれてありがとな!!」

 

 私が手短にさっきあったことを話すと、彼は手を伸ばして私が持っていた彼の麦わら帽子を掴み取る。

 

「腕が伸びた!」

「男は腕が伸びるんだ!」

「知らなかったわ」

 

 腕の伸びたルフィを見て、この国の人たちはゴムゴムの実の能力が男の基本性能だと思っているみたいだな……。そういえば、ハンコックたち姉妹も悪魔の実の能力者だと認識されてなかったんだっけ?

 

「――あっ! おれ、裸じゃん!! ライアが脱がせたのか!?」

 

「誤解を招くような発言は止めてほしいな……。君の服はマーガレット……、そう、彼女がボロボロだろうからって、新しいのを作ってくれたんだよ。ね、マーガレット?」

 

 私はルフィの衣服に関してせめて下だけでも着せてあげてくれと頼み込んだ。

 しかし、新しいのを作るし、彼をじっくり観察したいからという理由であっけなく断られてしまう。

 もう少しで、ルフィに付いてるアレについて質問攻めに遭うところだった。その前に彼が目覚めてくれて本当に良かった……。

 

「そ、そうだ……。ほら、お前のボロボロになった服と同じ形で作った」

 

「――え〜〜悪ィな! ありがとう!」

 

 私が話しかける度に急にモジモジする人見知りなマーガレットはルフィに彼女が縫った服を手渡す。

 マーガレットは私のせいで責任が自分にも及びそうなのに、特に怒ることもなく、牢獄の前で待っている私の隣にずっと居てくれた。

 時折、顔を赤くしては首を傾げて体調が悪くなったかもしれないと口走っていたので、何かの病気になっていないか心配である。

 

「――ッ!?」

 

 ルフィは花の刺繍やフリルが付いた服を着て、不服そうな顔をしていた。

 普通に良くできていて、可愛いんだけどなー。

 

「へぇ、可愛く出来てるじゃないか。凄いな、マーガレットは。羨ましいよ、こんなに裁縫が得意だなんて」

 

「ええっ……!? そ、そうかしら? じ、じゃあ、今度はライアの分も作ってあげるね」

 

 私がマーガレットの作った服を褒めると、彼女は嬉しそうにニコリと笑って、私の服も作ると言う。

 

「ライア! 可愛いじゃねェって! おれは男だぞ!!」

 

 そんなやり取りを見ていたルフィはいつものようにツッコミを入れる。

 私にとっては普段どおりのことなのだが……、これがいけなかった……。

 

「いや、そうなんだけど……。あれ?」

 

「お前には悪いが、やはり男とは相容れない存在らしい! 命を救われた恩を忘れて獰猛に怒鳴り散らす! 凶暴な本性が見えた今、蛇姫様が戻る前に迅速に処分すべきだと私は判断した!」

 

 気付いたら、周りの女たちが一斉にルフィに向かって矢を向けた。そして、キキョウは彼を危険な存在だとして殺すと明言する。

 おいおい、こんなのノリじゃないか。ルフィだって本気で怒ってなんかいないのに……。

 

「ちょっと待ってくれ。彼は凶暴とかそういうのとは程遠い人間だ! 地声が少しだけ大きいだけなんだよ!」

 

 私はルフィの前に立ち、両手を広げて彼の弁護をする。

 

「そこをどけ! どのみち蛇姫様は男がこの国に入ることを許さん!」

 

「お、おい! 服を悪く言ったことは謝るからよォ! ちょっと撃つの止めろよ!!」

 

 ルフィも自分がまずい立場であることを理解して、素直に謝罪した。

 

「謝罪も弁明も聞かん! ライア! お前のことは個人的には気に入っているが、退かねば撃つ!」

 

 キキョウはそれでも聞く耳は持たない。私ごと撃つことも辞さないという姿勢だ……。

 

「ふっ、それは出来ない相談だよ。でも、私も君のそういう真面目なところは好きだけどね。キキョウ……」

 

「――なっ!? ば、バカなことを……。くっ、ほ、本当に撃つからな!!」

 

 私の言葉を聞いたキキョウは顔を真っ赤にして怒り出し、弓を放とうとする。

 

「ライア、もういい! 退いてろ!!」

 

「ルフィ! 私は大丈夫だ! 君は逃げろ!! 煙星ッ!!」

 

 ルフィは私に退けと命令した瞬間に、私は隠し持っていた煙玉を床に投げつけて、ルフィに逃げるように促した。

 

「――なっ!? 煙幕だと!?」

 

「な、何だかわかんねェけど! わかった!!」

 

 ルフィは牢獄を破壊して外に飛び出して逃亡する。

 さて、私も姿を隠すとしよう……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ふぅ……、ホバーボードのおかげで何とか九蛇城とやらの天守閣まで来られた。まさか、ここに隠れるとは思うまい」

 

 私はルフィが騒ぎを起こしてそちらに全員の目が行っているスキを狙って、村を出て……、あえてこの国で1番高い建物、“九蛇城”の頂上である“天守閣”にある蛇の彫刻の裏に身を隠した。

 この場所なら見通しも良いし、ルフィがハンコックと遭遇しても直ぐにわかる。

 

 ルフィはマーガレットを捕らえて、また別れたみたいだ。

 多分、ビブルカードを回収したんだろう。

 

 しばらくして、城の周辺が騒がしくなった。この国の“女帝”であるハンコックが海から戻ったのだ。

 なるほど、さすがは七武海だ――こんなに強い力を持つ女を私は見たことがない。

 美しい外見とこの力、そしてカリスマ性……、国の人間が敬うのも当然だな……。

 

 彼女が城に入ってしばらくすると、老婆が弾き飛ばされた。恐ろしいほど洗練された身のこなしで見事に着地したけれど……。

 あの人はさっきルフィを男だとみんなに教えていた人だ……。

 

 そして、さらに時間が過ぎると、今度は城から続々と人が出てきた。

 

「蛇姫様の湯浴ぁ〜〜〜み〜〜〜っ!!」

 

 大声でハンコックの入浴が喧伝される。確か彼女は背中に天竜人の奴隷であった証拠である烙印が押されていたはずだ。

 だから、自分の体を見られることを恐れて入浴するときは人払いをしているということだろう――。

 

 で、その場面を漫画だとルフィに見られたんだよな……。 ん? 待てよ……。この真下からハンコックの気配が――。

 まさか、この下ってお風呂だったりするのか?

 

 私が自分の居る場所を理解したその時である――。

 

「ライアーーーッ!! 良かった! お前も無事だったんだなァ!!!」

 

 城壁の上からルフィが“天守閣”の彫刻の裏に隠れている私を発見して、そのままこちらに飛び移ってきた。

 

「えっ? あっ! ルフィ……、ちょっと待ってくれ!! うわっ――!!」

 

 私はルフィに待ったをかけたが遅かった。彼は凄い勢いで私の方に飛びついて来たので、脆かった“天守閣”の屋根が破壊されて私と彼はそのまま真下に落ちてしまった。

 

「ぶはーっ! み、水だーーーっ! 熱ちち!! 違うお湯だーーっ! 溺れる……! ライア、助けて!!」

 

「いや、ここは浅いから……。まぁ、それ以外の問題はあるけど……」

 

 水に落ちたルフィがパニックになっていたので、私は彼を落ち着かせようと声をかける。

 

「ほ、本当だ。足ついた」

 

「――ッ!? ――男……!?」

 

 そんな大騒ぎをしてハンコックが気付かない訳がない。振り返って私たちの顔を見て驚いた顔をした。

 

「ん? おめー、その背中の……、おれ、どっかで……」

「いや、私は女で……、って、そんなこと言える雰囲気じゃないな……」

 

 私もルフィも見てしまった――。彼女の見られたくないモノを……。

 いや、困ったな……。私はこの場にいるつもりはなかったんだけど……。石になりたくないし……。

 

「――見たな!?」

 

 ハンコックは怒りの形相で私たちを睨みつける。当然の反応だ……。

 しかし、参ったな。どう立ち回るのが正解だ?

 

「姉様!」

「姉様! 何事なの!?」

 

 そんな騒動の中、彼女の妹たちが浴室に入ってくる。

 この二人も悪魔の実の能力者だったかな? 強い力を感じる……。

 

「誰だ!? あいつらは!? 男!?」

「なんで、男がここに!?」

 

 完全に私も男扱いされてるな……。反論できる雰囲気じゃないけど……。

 

「――背中を見られた……」

 

「せ、背中を!?」

「じゃあ、死んでもらうしか無いわね……」

 

 ハンコックが手短に状況を伝えると、彼女の妹たちは私たちを殺すと言って前に出てきた。

 

「せ、背中を見たくらいで、何だよ!? なぁ、ライア……、あれってどこかで見たことがあるよな?」

 

「そうだね。ルフィ……、私の口からは詳しく話すつもりはないけど……。彼女にとっては、耐え難いことを私たちはしたとだけ言っておくよ……」

 

 私はとりあえず彼に自分たちがやってはならない事をしたとだけ伝える。

 天竜人云々は特に今は話す必要がないだろう。

 

「そっちの銀髪は間違いなく理解しておるな……。そうじゃ、そなたらが見た背中のこれは、わらわたちがたとえ()()()()見られたくないものじゃ……!!」

 

 ハンコックは青ざめた顔をして、私たちにそう言い放つ。

 やはり、彼女は私たちを殺すつもりらしい。

 

「見たもの全てを墓場に持っていけ! “メロメロ甘美(メロウ)”!!」

 

「くっ……!」

「なんだ? 何をやってるんだ?」

 

 私は石になることを覚悟し、ルフィは何をされてるのか全く気付かずにキョロキョロしている。

 

「「あれ?」」

 

 結論から言ってルフィはもちろん、なぜか私も大丈夫だった。光線みたいなのを受けても何も感じなかった……。何でだ?

 

「“メロメロ甘美(メロウ)”!!」

 

「…………?」

「ふぅ、どうやら大丈夫みたいだ……」

 

 もう一度、ハンコックは石化させる光線を出すが何とか私も無事だった。

 

「なぜじゃ!? そなたら、わらわの湯浴み姿を見て何の心も動じておらぬとでも言うのか!?」

 

 あー、なるほど。ハンコックの姿を見て何かしらの邪心が生まれる人間が石化するのか……。

 私ってナミやミキータからよく鈍感って言われてるし、そういう感情に疎いのかな?

 

 しかし、石化は免れたのだが……。そもそも、ハンコックはそんな力が無くても私などよりも遥かに強く……、私はあっさりと捕まって、ルフィも私が捕まったのを見て立ち止まり――、二人仲良く捕まってしまう。

 

 そして、私たちは鉄のロープのような蛇によって縛られて、晒し者のように闘技場のようなところに連れて行かれて座らされた。

 これは、一戦交える感じになりそうだけど……。ルフィはともかく私は大丈夫かなァ……。

 

 




病気レベルで鈍感なライアはメロメロにならないという理屈なんですけど、許してもらえませんかね?
アマゾン・リリーで男を知らない子たちはそもそも異性とかに対する恋心は知らないと思うので、ライアから新鮮な感情をもらってる感じです。
ハンコックも今は怒ってますけど、次回には……!?



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覚悟


お休みしてすみません。
めちゃめちゃスランプなんで、毎日更新はきついですけど、頑張ってみます。


 

「では、聞くが“男”……! そなたらは何の目的でどのようにして、この国に入ってきた?」

 

 ハンコックは私たちに対して尋問を開始する。彼女の問いは当然の疑問だな……。

 

「なんつったら、良いんだ? よくわかんねェけど、あっという間に空を飛んでここに居たんだよ。なァ? ライア」

 

「うーん。まぁ、理屈はわからないから、そうとしか言えないか……」

 

 悪魔の実とかの話をすると、余計に彼女の機嫌を損ねそうだったので、私はルフィに同意するだけに留めた。

 

「嘘をつけ! そのような滑稽な話で誤魔化されはせぬ! 狙いがあるハズじゃ」

 

 当然、ハンコックは荒唐無稽な話を信じてくれない。

 私たちに目的を話せと一点張りである。

 

「狙いっていうなら、船をくれ! おれたち行かなきゃならねェ場所があるんだ。なァ、お前は1番偉いんだろ!? 海に出たい!!」

 

「誓って話すが、私たちには害意はない。君たちの掟を蔑ろにしてしまった事については謝罪するが、ここで死ぬわけにはいかない」

 

 私とルフィは自分たちに敵意がないことと、外に出たいことを端的に伝えた。

 ルフィの言葉遣いにはカチンときた人たちが多かったみたいだけど……。

 

「生きてここを出られると思うな! “死”は免れぬ……!!」

 

 ハンコックは強い殺意を視線に込めて私たちに送る。

 口じゃどうしようも無さそうだ……。

 

「お待ちください! 蛇姫様!! この者たちは嘘を言える人たちじゃありません!!」

 

 そんな中でマーガレットが私たちの前に出てきて、私たちを弁護してくれた。

 私の頼みを聞いて、ルフィが死にそうなのを見捨てられないで助けてしまったことを語り、自分にこそ非があると訴えたのだ。

 ついでに私が女ということも何となく伝わったみたいだが、あまり意味はなかった――。だって、背中見てるし、ルフィをここに入れた主犯だし……。

 

「マーガレット、君は下がってた方がいいよ。私たちを無理に庇うと君まで危ない」

 

「何を今さら! お前が服を褒めてくれたとき、嬉しいのと同時に胸が張り裂けそうだった。お前が死ぬのが嫌なんだ……! ルフィだってそうだ。悪い奴じゃないのに死ぬなんておかしい!」

 

 彼女は泣きそうな顔をして私たちが殺されるのは不当だと訴えてくれた。

 

 さらに、アフェランドラやスイートピーまでもが私たちの前に立って庇ってくれる。

 半分はマーガレットのためであろうが……。

 

 だけど、そんな理屈とか情とかが通じる相手じゃなさそうだ。

 ハンコックは顔色一つ変えずに、マーガレットたちに近づき――。

 

「メロメロ甘美(メロウ)!!」

 

 容赦なく彼女らを石にしてしまう。これにはルフィも驚いているみたいだ。

 

「君に意見しただけだろ? そこまでする必要があるのかい?」

 

「当たり前じゃ、そなたらを助けようとしたのだから罰を与えた」

 

 私が立ち去ろうとしたハンコックに声をかけると彼女は当然だという口ぶりでこちらを振り向く。

 やはりこれはやりすぎだ……。私は彼女を睨みつけた。

 

「下らない理屈だな……。蛇姫!」

 

「――ッ!? う、美しい……! なっ――!? わ、わらわが見惚れた……!? くっ……! そんなはず!!」

 

 ハンコックは一瞬だけ驚いた表情をしたが、頭をブンブン振ってそのまま歩いて、元いた席に戻ろうとする。

 

「おい! お前! こいつらを元に戻せよ!」

 

「――すぐに化けの皮を剥がしてやる。“バキュラ”を闘技台へ!」

 

 ルフィの言葉も無視して彼女は“バキュラ”という生き物を連れてこいと指示した。

 

「あれ? 縄が解けたぞ」

 

「そして、目の前には巨大な黒豹か……。武器も一緒に連れてこられたからどうしたものかとは思ったが……」

 

 私とルフィは鉄のような硬さの蛇から解放されて立ち上がる。

 目の前には見るからに獰猛そうな黒豹がいた。

 

「バキュラはこの国の皇帝に代々処刑人として仕える肉食獣。処刑後は一本の骨も残らぬ。精一杯、戦って散るが良い。わらわ達が見届けてやる……」

 

「ガルルルルルッ!」

 

 巨大な黒豹――“バキュラ”に私たちを襲わせることで処刑を執行するとハンコックは宣言して、“バキュラ”は牙を剥き出しにして私たちに向かってくる。

 

「ここは急所を狙って……」

「ライア――お前、下がってろ!」

 

 私が銃を構えようとすると、ルフィは私を手で制して、バキュラを一撃で吹き飛ばして倒してしまった。

 

「「――ッ!?」」

 

「つ、強い――バキュラを一撃で……!」

「“覇気”は使ってない……、“腕力”だけで……!」

 

 ルフィが一撃でバキュラを屠ったことは見物者たちを大いに驚かせた。

 ここでは“覇気”は当たり前の力なんだな……。

 

「どうかしてるぞ……、お前ら……。あんな女に――仲間を石に変えられてんのに、なんでへらへら笑ってられるんだよ!!」

 

「ルフィ……、君は……」

 

 ルフィは怒っていた。彼は自分たちが死刑を執行されることではなく、マーガレットたちが石にされても平気な顔をしてみている女たちに対して怒っている。

 彼にとって仲間が蔑ろにされることは1番耐え難いことだからだろう。

 

「野蛮人が私たちに向かって怒鳴ってる!」

「3人は可哀相だけど、蛇姫様のやる事に間違いはないのよ!」

「国の規律を破ったその子たちが悪いのよ!」

 

 一応、彼女たちもマーガレットたちに同情心はあるみたいだが、ハンコックがここでは絶対の存在であるから、彼女のすることは全て正しいという認識なのだ。

 

「わらわは……、何をしても許される……! 何故なら、わらわは美しいから!!」

 

「「キャ〜〜♡ 蛇姫様〜〜ッ♡」」

 

 ハンコックは自負している。自分はどんな横暴に振る舞おうともそれが全て肯定されると――。

 まるで全てを焼き尽くすマグマのような強烈な自尊心もまた彼女の強力な個性なのだろう。

 

 しかし――。

 

「――ふふっ、そなたらもそうであろう……?」

 

「お前、ムカつくなァ!」

 

 ルフィには彼女の理屈は通じない。シンプルに彼は不快感を彼女に示した。

 

「ば、馬鹿なことを……。わらわの虜にならぬ男などおるはずない。――わらわにはあの男の存在が耐えられぬ……!」

 

 ハンコックはショックを受けて天を仰ぎ、ルフィの存在が耐えられないと宣った。

 

「今すぐ、マーガレットたちを元に戻すんだ……。さもなくば、神が君を許しても……、私は君を許さないよ……!」

 

 私だって庇ってくれた友人が石にされて大人しくしているような物分りのいい人間じゃない。

 こうなったら頂上戦争なんて二の次だ。彼女たちを何としてでも元に戻してもらおうと、銃を構えて、ハンコックに立ち向かうことを宣言する。

 

「くっ……、そしてこっちはこっちで腹立だしい……! 女だというのに、男みたいな顔をしおって……! その上、わらわともあろう者が一瞬でも気の迷いを……!」

 

 やはり、彼女は反論してくる人間の存在が嫌で仕方ないみたいで、死刑を宣告して、自らの妹たちを私たちにけしかける。

 

 

「サンダーソニア! マリーゴールド!」

 

動物(ゾオン)系ヘビヘビの実の能力者ってところか……。あれ? ルフィ……?」

 

 サンダーソニアとマリーゴールドは共に悪魔の実の能力者――しかし、この国の人たちは呪いによる身体の変化と解釈してるみたいだ。

 悪魔の実という概念がないのだろう……。

 

「また、元に戻るかもしれねェからな。ごめんな、おれたちの為に……!」

 

「人の心配よりも自分の心配をした方がいいんじゃない?」

 

「うっせー! とにかく、お前らをぶっ飛ばしゃいいんだろ!?」

 

 ルフィは石に変えられたマーガレットたちを安全な場所に退避させて戦闘準備を行った。

 

「相手は2人なんだ私もそろそろ動いても良いかな?」

 

「あなたたち、私たちに勝つつもりなの?」

 

「それなら教えてあげるけど、客席と闘技台の間の溝は剣で埋め尽くされてるから落ちない方が良いわよ」

 

 私も相手が二人ならと戦う準備をしていると、彼女たちは闘技台の周りが剣で埋め尽くされている溝で覆われていることを教えてくれた。

 

「なんだ、思ったよりも親切じゃないか。忠告してくれて、ありがとう」

 

「――ッ!? この子……、姉様とは違った意味で何か胸を締め付けてくる……」

「まさか、姉様と同じ系統の能力者じゃ……」

 

 私がひと言、お礼を言うと彼女らは私が能力者なのではないかと口にしてくる。

 いや、何もしてないのに能力者扱いは辞めてほしい。

 

「ん? ライアって、いつの間に悪魔の実を食ったんだ?」

 

「食べてないって! “ホバーボード”……!」

 

 ルフィまで私が能力者になったのかどうか尋ねてきて、私はそれを否定しつつ“ホバーボード”取り出した。

 

「それ、いいなァ! 今度乗せてくれよ!」

 

「うん、今度ね。私は伸びないからこれくらい使わなきゃ能力者に対抗出来ないからさ」

 

 さすがに悪魔の実の能力者で覇気まで使える強敵を相手にするのだから、私も出し惜しみは出来ない。

 使えるものはすべて使って勝ってみせる。

 

「言うわね。そんな浮く板を使ったくらいで私たちに勝てる気なんて、ナメないでもらいたいわ」

 

「さ、始めましょう!」

 

 私たちは戦闘を開始した――。

 

 

「――私の相手は君かい? サンダーソニア……」

 

 私は目の前に立ちふさがるサンダーソニアを見据えて、右上に飛び上がろうとする。

 

「右上に飛んで来てそこから銃弾を放つ……」

 

「君はそれを邪魔しようと下から尾を伸ばして攻撃する」

 

 お互いがお互いの攻撃を読み合い、そしてそれを躱す。

 さすがに見聞色もきっちり使えるってわけだな……。

 

「――ッ!? 外海の人なのに覇気が使えるのね……。ちょっとだけ驚いたわ……」

 

「サンダーソニア様とあの銀髪の攻撃――どっちも当たらない!?」

 

 私たちは何度も攻撃を繰り出すが、その全てを読み尽くし、そして回避していた。

 

「――ふむ……。やはり、心網(マントラ)使いと戦ったときと同じようになるか……」

 

「思ったよりもずっとやるじゃない!! でも、貧弱なあなたは一回でも攻撃を受けると耐えられそうに無いわね」

 

「それなら、全部躱すまでさ……。よし、()()()()を――」

 

「ま、また心臓を鷲掴みにさせる感じ……、妙な力を……!」

 

 私がサンダーソニアを睨みつけて特殊な弾丸を準備しようとしたとき、彼女はなぜか私から目を逸らして胸を押さえた。

 

「あ、あれ? ――必殺ッッ! 鉛星ッッ!!」

 

「――避けきれない! でもッ!!」

 

 私はそれを好機だと思って鉛の弾丸を放ったがそれは彼女の皮膚に当たって弾かれてしまった。

 

「――武装色硬化!? やはり、普通の弾丸では脅しにもならないのか!? しまった――!?」

 

「とっさに後ろに下がって、衝撃を逃したわね……。でも、ダメージは大きそう」

 

 私が弾丸を弾かれたことに意識を向けている隙にサンダーソニアの尾が私の腹に突き刺さる。

 私は地面に激突してかなりのダメージを受けてしまった。

 

「うわっ!!」

 

「ルフィ……!?」

 

 そして、その隣にルフィも吹き飛ばされてきた。彼も武装色と見聞色の覇気に苦戦しているみたいだ。

 

「なかなか頑張ったけど、お遊びはここまで……。そろそろ、“罰”と“死”を与えなきゃ」

 

 このあとの展開は私は置いてきぼりになってしまった。

 なぜなら、石像を壊そうとした姉妹に対して怒ったルフィが覇王色の覇気を発動して、会場の全員の度肝を抜いたと思えば、彼はその後ギア2を発動。

 瞬く間にサンダーソニアとマリーゴールドを圧倒して蹂躙した。

 

 さらにマリーゴールドの炎を纏った攻撃を跳ね返したルフィだったが、それによって衣服が燃えてしまったサンダーソニアの背中ががら空きとなり、ルフィは彼女の背中に飛びつきそれを隠そうとした。

 

 その騒動もあり、ハンコックは“武々”とやらの中止を宣言することとなった。

 さらにルフィはハンコックから船を貸すこととマーガレットたちを元に戻すことの2択を迫られたとき、即答でマーガレットたちを助けることを選択したことにより、彼に対する評価は急転することとなる。

 

 

 その後も色々とあった。ハンコックたちが元天竜人の奴隷だったことを告白したり、それを受けても全く態度を変えないルフィに彼女が惚れて船を貸し出すことを約束したり、エースの公開処刑のニュースをルフィが知ることとなったり――。

 

 

「ライア……」

 

「ん?」

 

「みんなには悪ィけど、おれは寄り道して行きてェ」

 

 ルフィはニョン婆というお目付け役みたいな老婆からエースの処刑について聞かされて、彼を助けたいと口にした。

 そう言うだろうということは分かっていたけど、実際に聞くと来るものがあるな。

 

「そっか。じゃ、私もエースを助けに行こう」

 

「本当か!?」

 

 私がルフィと共にエースを助けることを口にすると、彼は笑顔を私に向けた。

 

「ああ、もちろんだ。問題はどうやってインペルダウンに行くかだが――」

 

「おぬしら、それなら可能性は薄いが方法はある――」

 

 ニョン婆はインペルダウンに行く方法を私たちに話しだした。

 インペルダウンは海軍の軍艦でしか行くことはできない。

 現在、ハンコックは七武海の“強制招集”を拒み続けている。

 もし、ハンコックがそれに応じれば、軍艦に私たちも乗り込むことが出来るかもしれない。

 

 そんな中、ハンコックが病に倒れたという知らせを私たちは受ける。

 確か、ルフィに惚れて“恋煩い”とかそういうこの島特有の病気になったんだっけ?

 

 病に倒れてもなお、ルフィを案じるハンコックは彼と話がしたいと希望を口にして、私たちは彼女と面会した。

 

 そして、ルフィは兄を救うために彼女に協力を求める――。

 

「“七武海”の招集に応じろというのね……。それをあなたが望むなら、わらわはどこまでも行きます――」

 

 ハンコックは七武海の“強制招集”に応じてルフィに協力を約束した。

 

「良し! これでインペルダウンに行ける!」

 

「ルフィ、それなら別行動をしよう。私は海軍本部に行こうと思う」

 

 ルフィがインペルダウンに行けると意気込んだところで、私は先程から考えていたことを口に出した。

 

「どういうことだ? エースを監獄から救い出すんだろ?」

 

「もしもの話だ。君がその作戦に失敗したとなると、エースは海軍本部の前で処刑される。しかし、その前に白ひげ海賊団と一戦交えるのであれば――私は海軍側から隙を狙ってエースを救出しようと思う」

 

 ルフィの疑問に私は答える。未来が漫画と同じように動くなら、私はインペルダウンに行かない方がいい。

 むしろ、海軍側に忍び込んで後から来るはずのルフィのサポートをしたほうが良いと考えたのだ。

 

「海軍側から?」

 

「つまり、海兵に成りすまして海軍本部に潜入するんだよ」

 

 私は海兵に変装して海軍本部に潜り込む計画を話す。

 一応、いつか役に立つと思って海軍の服を手作りしていた。これで誤魔化せるか分からないけど……。

 

「おぬしも酔狂じゃな。海賊が海軍本部の中に入るなど……」

 

「覚悟なら出来てるさ」

 

 ハンコックの言葉を受けて、私はナイフを懐から取り出した。

 

「ライア……、お前……、ナイフで――髪を!?」

 

 そして、私は自分の髪の毛を切り裂く。よく男に間違えられるから、伸ばしていた長い髪を――。

 

「――女の海兵はいないことはないが、男よりも数が少ないからね。不本意だが、男によく間違えられる私だ。男装して本部に入ろう。その方が目立たないからね」

 

 私はなるべく目立たないようにするために、男の海兵として潜入しようと思った。

 髪を短くしたのはその決意表明だ。

 

「ならば、前に海軍の船から略奪した物の中に奴らの軍服があったはずじゃ。それを着て、わらわが漂流して捕えた海兵として連中に引き渡そう」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 するとハンコックは海兵に化けることや、自然に潜入することを助けてくれると言ってくれた。

 なるほど、それなら楽に潜入が出来そうだ。

 

「ふーむ。おぬしは早うこの島から出なくては大変なことになりそうじゃな」

 

「私が? なんで?」

 

 そんな私に対してニョン婆が唐突に私は外に早く出ろと言ってきた。

 

「恋煩い――。今まではおぬしが女だという認識じゃったから、ギリギリ防げておった。しかし、男装までするのであれば、この国の者たちが何人おぬしのせいで倒れることか……」

 

「へっ?」

 

 

「蛇姫の前でも正気でおれるくらい鈍感なおぬしであろうから教えてやるが、“武々”の後におぬしに惚れそうになっている人間が後を絶たん。男を知らぬ者すら、止めようのない感情に戸惑っておる。取り返しのつかん事になる前に早う出てほしいのぉ」

 

 ニョン婆は私がいると国の人たちに“恋煩い”が蔓延するみたいなことを言ってきた。

 このままだと国が滅びるとか、そんな大袈裟な……。

 

「姉様と似たような系統の力かと思っていたけど……。それ以上に厄介みたいね」

 

「私たちもあなたを見てると時々、胸を締め付けられる……」

 

「そういや、ナミやミキータやロビンも似たような顔をするときがあるなぁ。あれって、ライアが悪いのか!」

 

 ルフィたちは口々に、私を見ると女性が変な感じになるみたいなことを言ってくる。

 そんなこと起きてるっけ? まったく言ってることがわからない。

 

「そ、そんな。私を病原菌みたいに言わないでくれよ」

 

「みたいではなくて、その物なのじゃ。頼むからこの国の未来のために――」

 

「わかったよ。早く出ればいいんだろ? ハンコック、あとで海兵の服をお願いする」

 

 ニョン婆に完全に病原菌扱いされた私は不満だったけど、とりあえず準備を急ごうと考える。

 そして、私は捕らえられた海兵“ライアン”として、海軍の軍艦に潜入することとなった――。

 

 




女ヶ島はさすがに軌道修正できなかったので、ほぼ原作通りになりました。
そして、インペルダウンに行くとまた原作と同じになるので、ライアに男装をさせて海軍本部に潜入するストーリーに予定を変更しました。
ショートカットで男装したライアが海軍本部でどうなるのかお楽しみに!


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マリンフォードへ

 
頂上戦争の登場人物多すぎる問題勃発中です。
あと、感想とか誤字報告ありがとうございます。
思ってたより待っててくれた方が多くてびっくり。


 

「ほう、その男があなたを説き伏せたと……」

 

 ナイフに肉を突き刺して、モシャモシャと食べているモモンガ中将は私を見据えた後に、ハンコックに視線を送る。

 どうやらこの軍艦の乗員は彼以外、石にされてしまったみたいだな。

 

「そうじゃな。わらわはこの海兵の熱意に絆されてしもうた。こちらの条件は呑んでくれるか?」

 

 ハンコックは漂流した海兵である私を長い間幽閉していたが、ある日のこと差し入れでもらった新聞で“強制招集”のことを知り、国のために応じるように寝ずに彼女を説得したことになっている。

 

上官(うえ)の許可はおりた。若いの、名前は」

 

 モモンガ中将はインペルダウンにハンコックが立ち寄る許可を得ることが出来たと言って、私の名を尋ねる。

 

「はっ! ラグナー・マク・ライアン三等兵です! 新兵になって早々漂流してしまい、恥ずかしながら何とか戻ることが出来ました!」

 

 私は昨夜考えた自分の名前を答える。

 そして、新兵になってすぐに漂流してしまった海兵を演じた。

 

「――“海賊女帝”を熱意を持って説得、か……。――ふんっ!」

 

 モモンガ中将は肉を食べ終えたかと思うと、いきなり私に向かって手にしていたナイフを投げつけてきた。

 しまった……。早くもバレてしまったか……。

 

「――な、何をされますか? 中将殿!」

 

 私は内心ビクビクしながら、二本の指でナイフを抓み、モモンガ中将に抗議する。

 見たところ、多少は加減してくれたみたいだけど……。

 

「ほう、やはり愚図ではなさそうだ。知っていると思うが今は有事である。ラグナー・マク・ライアン三等兵、貴様を“海賊女帝”を招集に応じさせた功績を以て伍長に昇格させるとのことだ。この先で、さらに武功を立てることを期待しよう」

 

 なんとモモンガ中将は私を“伍長”に昇格させるように上から連絡がきたとか言ってきた。

 前々から思っていたけど、この世界の海軍って適当に出世させすぎじゃない? まぁ好都合だけど。

 

「そ、それでは……」

 

「貴様は今日から海軍本部に所属だ。不服か?」

 

「いえ、これからより一層、正義のために尽力させていただく所存です!」

 

「うむ」

 

 海軍本部に着いたらどうやって居座って戦争に参加しようかと思案していたが、どうやらその心配はなさそうだな。

 あとは、海軍本部で私が賞金首だとバレないようにしなければ……。

 指名手配犯が警視庁で働くみたいなものだからなぁ……。

 

 その後、ハンコックは海兵たちの石化を解除して、彼女は丁重にもてなされ、軍艦はインペルダウンに向かった――。

 

 

「おい、新入り! 女ヶ島に居たなんて羨ましい奴だな。なァ、“海賊女帝”ってどんな感じだったのか教えろよ! あんな美人おれァ見たことねェ」

 

「おれも興味あるな」

 

 モモンガ中将が率いる軍艦に上手く乗り込むことが出来た私は、新米の海兵として働いている。

 男子禁制の“女ヶ島”から生きて戻ってきた(という設定の)私は海兵たちから質問攻めに遭っていた。

 

「ええーっと、そうですね。いくつか注意をしておきましょう。まずは、決してあのように、蛇姫様の部屋を覗いてはなりません。石にされてしまいますから」

 

「げっ、本当だ!」

「怖ぇ〜〜」

「お前、よく生きて戻ってこれたな……」

 

 私がハンコックの居る部屋の前で石にされてしまった海兵たちを指さしながら彼らに忠告をする。

 ハンコックなら大丈夫だと思うが、ルフィのことを秘密にするなら、部屋から海兵たちを遠ざけるに越したことはない。

 

「あと、蛇姫殿は大食でございます。この船の食料がどれ程あるか存じませんが、数日は絶食を覚悟したほうが良いですね」

 

 そして、私はルフィが食べる量を把握しているので、ハンコックの食事の量についても言及しておくことにした。

 

「そんなバカな。あのスタイルだぞ、きっと小鳥の餌ほどしか食べないに――」

 

「――いや、先程食事を持っていったら、“女帝”は怒って10倍の量を要求してきた。しかもそれを5食もだ……。大食なのは間違いない」

 

 しかしその忠告は遅かったらしく、既に彼女は大量の食事を注文しているみたいだった。

 非常食用意していて良かった……。

 

 

「――おい、ライアン。お前に話があるって“女帝”が……」

 

 そんな中、海兵の一人が私に対してハンコックが私を呼んでいると伝えてくる。今日だけで3回目だ。

 あまり、何度も呼ばれると怪しまれるかもしれないから控えるように言っておこう。

 

「また、お前がご指名かよ。良いなぁ、おれもその顔に生まれていたら天下取ってるぜ。“女帝”もお前さんが若くてキレイな顔だから生かしてくれたんだろう」

 

「違いねェ。おれなら捕まって直ぐに殺されている自信がある。そもそも、ライアンと同じ顔なら海兵なんざやってねェや。ははっ……」

 

「お前にしても、あのレディキラーにしても、モテる顔の奴っているんだよな〜」

 

 海兵たちはやたらと私とハンコックの関係を疑い、面白可笑しく囃し立てた。

 まぁ、私自身が疑われているわけじゃなさそうだから、いいか……。

 

「か、勘弁してくださいよ。先輩方……。そ、それでは行ってまいります!」

 

「おう、冗談だ。気にすんな! あとで話を聞かせてくれや」

 

 私はペコペコ頭を下げながら苦笑いしていると、先輩海兵の一人がニヤリと笑って、背中を叩いた。

 うーん。当たり前だけど、海兵の方が海賊よりマトモな人って多いんだな。

 

 

「おう! ライア! これ、美味ェぞ! 食うかァ!?」

 

「ルフィ、あまり大きな声を出しちゃダメだよ。見つかると全部パァになるんだから」

 

「んぐっ、そうだった、そうだった」

 

 私は海王類のハムとかいう食べ物を美味しそうに食べているルフィに声が大きいと注意する。

 こんなところで見つかったら最悪なんてもんじゃない。全てがご破算だ。

 

「ハンコック、君のおかげで助かったよ。まさか私が君を説き伏せた事にしてくれるなんて……」

 

「ついでじゃ。ルフィの為になることなら、少しでもしておきたいからの」

 

 私はハンコックの計らいに感謝する。どうやら海軍はハンコックが“強制招集”に応じない事にかなり参っていたらしい。

 私がハンコックを説得したということになれば、海軍は私を信頼してくれるはず――彼女はそう読んだのだ。

 まぁ、いきなり“伍長”にまでなれるとは思わなかったけど……。

 

「うん。きっと、君の想いも伝わるはずさ」

 

「――だ、だと良いのだが……。見たところ、ルフィはわらわよりもおぬしを慕っているみたいだし……」

 

 私は素直にハンコックの恋を応援すると口にしたら、彼女はルフィが私を好きなのでは、と疑っているみたいなことを言い出した。

 

 いやいや、それはないって。そもそも彼は恋愛感情を持ち合わせているかどうかも怪しいし……。

 

「ルフィが私を? ちょっと、変なこと言わないでくれ。付き合いが長い分打ち解けているだけだから。そんな不安そうな顔をしないでくれ」

 

 私はハンコックの言い分を否定して、彼とは長く一緒に海賊をやっているから気兼ねなく話しているだけだと伝えた。

 

「そうか……。仲間か……、羨ましいな」

 

「ルフィは強い……、でも精神的にはまだ成熟はしていない。ハンコック……、彼がもし今後……、心が弱ってしまったら……、君が支えてくれると嬉しい。私は生きていられるか分からないからさ」

 

 そして、彼女には万が一のことがあったときにルフィの事を頼むとお願いしておいた。

 エースを救う気ではいるけども、それが出来るとも限らないし、私自身が死ぬかもしれない。

 だから彼女には彼のことを何とか守ってほしいと頼み込んだのだ。

 

「ライア……、おぬしは……。――いや、もしその時が来たらわらわに任せよ」

 

「君は強いから、安心してルフィのことを任せられるよ。ありがとう」

 

 ハンコックは私の想いを受け止めて、ルフィのことを守ることを了承してくれた。

 彼女になら、ルフィを任せられる……。

 

 

 そして、アマゾン・リリーを出航して4日と半日後――遂に軍艦はインペルダウンに辿り着く。

 なるほど、バスターコールもびっくりなくらいの数の軍艦が待機しているな……。

 

 

「ルフィ……、上手くやれよ……」

 

 ハンコックの服の中に隠れたルフィが大監獄“インペルダウン”の中に入っていく様子を軍艦の上から私は見つめていた。

 

「おーい。ライアン。やっぱりおめェ、“海賊女帝”とデキてるんじゃないか? 今さ、チラッとお前の方を見ていたぞ」

 

 そんな私に話しかけてきたのは海軍本部少佐のスナイプランである。

 長い金髪を後ろで結んでいる彼は狙撃を得意としている海兵で、私も銃撃を得意としていることを話すと気に入られてしまい、よく雑談に付き合わされるようになってしまった。

 兄貴分って感じのキャラで若い海兵たちに慕われているみたいだ。

 

「気のせいですよ。彼女は私など目に入っていません」

 

「そっか、そりゃあそうだよなー。あの絶世の美女を落とすのはキツいよな。――わかるぞ。おまえさんの気持ちは痛いくらいわかるぞー!」

 

 なぜかスナイプラン少佐の中では私がハンコックに振られた事になっていて、私は背中をバシバシ叩かれた。

 なんだろう。戦ってないのに負けた気がする……。

 

「いや、私は別に……」

 

「でも、ま、気を落とすなよ。マリンフォードは初めてなんだろ? 可愛い女海兵も多いんだぜ。どうだ? 素敵な出会いがあると思えば、テンションも上がるだろ?」

 

 私の返事も聞かずに彼はマリンフォードでの素敵な出会いとやらに期待しろとか言ってくる。 

 ええーっと、そんなこと言ってる場合じゃないような……。私は海賊という立場も忘れて、この人が心配になってきた。

 

「これから戦争をするんですよね? そんなお気楽思考でいいのでしょうか?」

 

「あったりめーよ。気楽にならんと、やってらんねェ。大体な、男ってのはな、死ぬかもしれねェって時が1番子孫を残してェって思うもんなのさ。だからよ、一夜の相手を探すってこたァ、自然界の道理に従った行動なのよ」

 

 しかし、スナイプラン少佐はこのあと生きる死ぬの戦いをすることを意識していない訳ではなかった。

 彼には彼の理屈があって気楽な思考に転じているのだ。私にはわからないけど……。

 

「わかりました。少佐のご高説は私の心のノートにキッチリとメモしときましたよ」

 

 私は熱く語る彼の話を無視するわけにもいかずに、出来るだけ愛想よく返事をしていた。

 

「おう! ついでに絶対に上手くいくナンパの方法も教えてやろうか? お前さんの容姿なら迎撃数だけで1個中隊は作れるぞ」

 

「ナンパですか? 生憎、私はそういうのはちょっと……」

 

 そういう態度のせいか、スナイプランはさらにノリノリになって、私にナンパの方法まで教えるとか言い出す。

 そういうのはサンジを見ているだけでお腹いっぱい。ていうか、1個中隊ってどれだけさせるつもりなんだ……。

 

「おいおい、お前さんも狙撃手(スナイパー)だろ? だったら、ナンパの1つでもして、女を落とすべきだ。景気づけにな! マリフォードに着いたら、さっそく付き合え! 上官の命令だ!」

 

「はぁ……、わかりました。お供させていただきます」

 

 私はナンパに難色を示したが彼のスナイパーなら女を落とすべきとかいう謎理論に圧されて、彼にマリンフォードで付き合うことを約束してしまう。

 へぇ、男のスナイパーってそんなこと考えてるんだ。女である私には考えられない理屈だ……。

 

「ははっ、ライアン伍長。すっかり、少佐のお気に入りだな」

 

「まったく、私のようなつまらない人間のどこが気に入ったのやら……」

 

 そのやり取りを見ていたベテラン海兵から、スナイプラン少佐に気に入られていることを指摘され、私は苦笑いする。

 

「こいつ、おれの若いときにそっくりなのよ。ナンパのやり方さえ覚えれば、絶対に凄いことになるぜ」

 

 スナイプランの若いときか……。いや、私はこんなに陽気な人じゃないけど……。

 まぁ、顔立ちは整っているからモテるんだろうし、昔はもっとモテていたのかもしれない。

 

 とりあえず、スナイプランの後ろにいるのは悪くない。

 一人で孤立して変な感じになる方が怖いし、海軍本部では目立つことはしたくないしな……。

 

 

 色々と考えをまとめていると、モモンガ中将がハンコックと共に戻ってきた。

 彼女は私に目で合図をしてルフィが無事に侵入できたことを伝えてくれた。

 良かった……。武運を祈ってるぞ……。

 

 

 そして――。

 

 

「おい、ライアン。ここがマリンフォードだ。壮観だろ? 世界中から腕自慢の海兵たちが集ってきてる……」

 

「確かに、凄いですね。みなさん見るからに強そうです」

 

 海軍本部のお膝元、マリンフォードには世界中から招集を受けた海兵たちが集まっており、緊迫した空気が流れていた。

 さて、戦争が始まるまで少佐を隠れ蓑にして――。

 

「うおっ! さっそく可愛い子発見! 行くぞ! ライアン!」

 

「あ、はい!」

 

 スナイプラン少佐はかなり遠い場所にいる人の顔を認識出来るみたいで1キロくらい全力で走らされた。

 ちょっと待って――この気配……。

 

「ねェ、君はたしぎちゃんだっけ? 相変わらず可愛いね。あっちでお茶しない?」

 

「あ、あの、そのう。困ります……」

 

「おい、スナイプラン。てめェ誰の部下をナンパしてやがる」

 

 そう、スナイプラン少佐がナンパしているのはスモーカーの部下であるたしぎだった。

 この人たちとは直接顔を合わせているから、出来れば会いたくなかったんだけど、いきなり出くわしてしまった――。

 

「おー、スモーカー()()。久しぶりじゃねェか」

 

()()だ。相変わらず、男に興味がねェみてェだな」

 

「へぇ、そりゃ偉くなったもんだ。ヒナちゃんより上だから同期じゃ1番か? だったら何か奢ってくれよ。おれとたしぎちゃんに……」

 

 スモーカーとスナイプラン少佐は同期みたいだ。

 でも、スモーカーの態度からするとあまり好かれてなかったのかな?

 

「調子の良いこと言いやがって。後ろの若いのはてめェの部下か?」

 

「んー、まぁそんなとこ。あの“海賊女帝”を口説き落とした手柄を立てて本部に配属になったライアン伍長だ。おい、突っ立ってねェで挨拶しな」

 

 スモーカーは私に気が付いて、スナイプラン少佐は私に挨拶するように促す。

 ええい、ここで変な動きをするほうがリスクが高い……。

 

「ラグナー・マク・ライアン伍長です。よろしくお願いします!」

 

「スナイプランの部下にしちゃ、礼儀正しいな。ん? てめェの顔……、どこかで……」

 

 私の挨拶を聞いたスモーカーはタバコを吹かせながら顔を近づけて、私の顔をどこかで見覚えがあるとか言ってきた。

 こ、これは着いて早々に逃げなきゃいけなくなってしまったか? 私は戦慄しながら、スモーカーの視線に耐えていた――。

 




ライア以外にオリキャラ出すつもりなかったんですけど、物語を円滑に進めるためにやむを得ず。


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ライアンの冒険

めちゃめちゃ久しぶりです。
見捨てないでいてくれた方には感謝しかありません。


「そうですね。軍に所属する前に准将殿はローグタウンで何度かお見かけしたことがあります」

 

 私は声が震えるのを抑え、極めて平静を装ってスモーカーの問いかけに答えた。

 そうだ、元々この“ラグナー・マク・ライアン”は私が賞金稼ぎをしていたときに狙っていた海賊に捕まって殺されて海に捨てられた男の名前だ。

 彼の名が私に似ていたから偶然覚えていて、それを偽名にしたのだ。万が一海軍が戦死者リストを確認したときのために。

 東の海(イーストブルー)の出身で海兵ならスモーカーと顔を合わせても不自然ではないだろう。

 こっちは長年嘘つきをやってるんだ。バレてたまるか。

 

「ほう。お前は東の海(イーストブルー)出身か。よく考えりゃ、お前に似た顔は海賊だった。海軍の本拠地のど真ん中にいるはずがねェ」

 

「か、海賊でしたか。なるほど、海賊が自分と似た顔とは、はた迷惑ですな……」

 

 スモーカーもまさか麦わらの一味の人間が海軍本部のあるマリンフォードに来るわけがないと一人で納得してくれた。

 そうだよなー。でも、ウチの船長はもっと無謀で大監獄インペルダウンに行ってたりするんだよなー。

 

「スモーカー。てめェはただでさえ顔が怖ェんだから、睨むんじゃねェよ。ライアン、ほらチャンスだぜ。たしぎちゃんに一夜の相手をしてくれって頼めよ」

 

「な、何を仰ってるんですか? すみません。私はそんなことを貴女に言うつもりは一切――」

 

 スナイプランのキラーパスに私は動揺する。いや、たしぎになんでそんなこと……。

 大体、彼女がそんなセクハラめいたことをされたら、不快な顔をするじゃないか。

 

「え、ええ。わかってます。スナイプランさんが変なことを……、言っていて、伍長さんは決して、ええーっと」

 

「動揺しすぎだ! シャキッとしろ!」

 

「は、はい。あっ、よっとととっ!」

 

「おっと、危ないですよ。少尉殿……」

 

 しかし、たしぎは私以上に動揺したのか、スモーカーの一喝にびっくりしたのか、バランスを崩して倒れそうになったので、私が腕を伸ばして彼女を受け止めて、こちらに肩を引き寄せた。

 

「うえっ? ご、ごめんなさい。あれ? この感じ前にも……」

 

「どうかされましたか? これから大きな戦いなのですから、怪我などされたら大変ですよ」

 

「えっ……? あっ、その……、大丈夫です。ありがとうございます……」

 

 たしぎは転けたことが恥ずかしかったのか、顔を覗き込んだ私から目を逸らして、頬を桃色に染めていた。

 確かに前にもこうして受け止めたことがあったけど、それで勘付かれそうになったのはびっくりしたぞ。

 

「さすがおれの見込んだ男だ。たしぎちゃんがいとも簡単に落とされちまった。スナイパーとしても見込みがあるな」

 

「少佐、あまり変なことを仰らないでください。少尉殿に失礼です」

 

 スナイプランはまだナンパさせることを諦めていないので、私はさすがに彼を諌めようとする。

 たしぎだって、こんなよく知らない奴に色恋の話をされても嬉しくないだろう。

 

「え、えっと、そんな大丈夫ですよ。全然、失礼じゃないですから」

 

「そうですか? お優しいのですね。私のような階級が下の者にも気を使っていらっしゃる」

 

「……そ、そんなことないです。私はいつもドジで皆さんに迷惑をかけてますから。顔色を窺うのが癖になっちゃってて」

 

「それをお優しいというのです。私は尊敬しますよ。あなたのような方を」

 

「…………」

 

 そんな彼女と何言か会話をしていたら、よくわからないけど、たしぎはボーッとしたような呆けた顔をして、ますます顔を赤くしていた。

 

 とにかく、私のことを知っている人間とはなるべく関わりたくない。この場を早く離れなくては……。

 

「それでは、少佐。私は初めてのマリフォードを少しだけ見学してみたいのですが……」

 

「ん? ああ、構わないぜ。ナンパのしすぎで会議の時間には遅れるなよ。モモンガ中将がうるせェから」

 

「お前と一緒にするな!」

 

 スナイプランに自由行動の許可をもらって私はマリンフォードの見学へと足を踏み出す。

 後ろでスモーカーが彼を怒鳴っていたけど、それは気にしないでおこう。

 

 とにかくこの場から離れられて良かった。あとは戦争が始まって、どうやってルフィをサポートするか考えなきゃな。

 

「いきなり、スモーカーと会うとは驚いた。正体がバレたら私がインペルダウン行きになってしまう。洒落にならん。んっ? あいつらは……」

 

 私は自らの無事にホッと胸を撫で下ろしていると、聞き覚えがある声が二つまた鼓膜に届く。

 見聞色を使うまでもない。あいつのことは覚えている。もう一人もギリギリ覚えていた。

 

「いいじゃねェか。あっちでおれらと遊ぼうぜ」

「これでもおれたちは、エリート部隊に居てだな。とにかくこっちに来いよ」

 

「そ、そんな困ります」

「ええーっと、私たちまだ新兵でして……、ここから動くなと言われてまして……」

 

 目の前で新兵だという女性を無理やりどこかに連れて行こうとナンパしていたのは、クロネコ海賊団だった男――ジャンゴ、そして海上レストランでひと悶着起こした男――フルボディだ。

 

「大丈夫だって少しくらい」

「これから戦争やるってんだ。多少のことは無礼講で済んじまう。おら、こっちに来やがれ――! ――ッ!? ん? なんだ、てめェは」

 

「お前は……、ジャンゴか?」

 

 私はジャンゴの腕を掴み、一応彼の名前を確認した。

 人違いのはずないんだけど、念の為……。

 

「おうよ。おれのこと知ってんのか? 悪いが今取り込み中だ。その手を離しな」

 

「その子たちは嫌がっているように見えるけど……。私も大人だからさ。あまり力に訴えたくないんだよね。ここから、消えたら何もしない」

 

 フルボディはともかく、ジャンゴはなぁ。大好きなカヤを殺そうとした男だし、こんなところでのうのうと海兵をしながらナンパなんてしてるのはちょっと許せない……。

 しかし、感情に任せて騒ぎを起こすのはナンセンス過ぎるからなるべく穏便に済ませよう。

 

「おい、てめェ。おれのブラザーになんて口を利きやがる。ジャンゴ! とりあえず、この青二才に序列ってやつを教えてやるぞ」

「もちろんだ。うらァ!」

 

「ふぅ……、私はあまり人を恨まないタイプなんだけどさ。クロネコ海賊団だけは別なんだ……」

 

 穏便に済ませようと3秒前には思っていたけど、彼が殴りかかろうとしたときに、クロネコ海賊団のことから、あの日のカヤの泣きそうな顔まで思い出してしまって私もちょっとイライラしてしまった。

 

「クロネコ海賊団!? それも知ってやがんのか!? 何が別なのか教えてみろ!?」

 

「それは秘密だけど――私は海賊だった君を許さないってことだよ」

 

 ジャンゴの拳を余裕を持って躱しながら、彼に顔を近づける。

 彼も自分の拳が当たらないことに違和感を感じたみたいだ。

 

「あ、当たらねェ……! こ、この動きおれァどっかで……」

 

「越えてきた修羅場が違う。ちゃんと正義を背負ってるなら、見逃そうと思ってたけど。そうじゃないなら――」

 

「――っ!?」

 

 彼の拳を避けた瞬間に背中を軽く押すと、ジャンゴはあっけなく転んだ。

 

 ここで彼を痛めつけるのは簡単だけど、それをするとキャプテン・クロにトドメを刺すことを必死で止めたカヤやあの日のルフィの心遣いも無駄にしてしまうと思ったので、私はかろうじてそれを踏みとどまる。

 

「ブラザー! 何してやがる!? おめーがケリをつけねェんだったら、このおれが!」

「まて、ブラザー! 喧嘩を売られたのはおれだ! くそっ、ナメやがって!」

 

「ダメだよ。そんな安易にパンチなんか打ったら」

 

 フルボディとジャンゴは同時に私に殴りかかろうとしたので、私は十分に引きつけてから、それをヒョイと躱した。

 すると――。

 

「「うぎゃあああッ!」」

 

 彼らはあまりにも上手にお互いの顔面を殴り合って倒れる。

 思いの外、呆気なかったので最近戦っていた相手ってやっぱり理不尽に強かったんだなぁって再確認できた。

 

「言わんこっちゃない。相手の動きをよく見ないからそうなるんだ。――っ!?」

 

「へぇ、後ろから不意討ちしても躱しちゃうんだ。ヒナ驚愕」

 

 そんなことを思っていたら、背後からジャンゴたちとは比べ物にならないくらい強い気配が近づいて来て、蹴りを放ってきたので私はジャンプしてそれを躱した。

 この人にはアラバスタ王国で軍艦で包囲されたりしたなぁ。

 

「そりゃあ、あなたほどの方の気配が後ろからいきなりくれば警戒しますよ。“黒檻のヒナ”さんともあろう方が何故このようなお戯れを?」

 

 蹴りを放った人の正体は“黒檻のヒナ”。確か、海軍本部の大佐だっけ?

 漫画の知識しかないけど、オリオリの実とかいう能力者で拘束するような技が得意だったなぁ。

 物理攻撃も効かなそうだし、海兵向きな能力者って感じだ。

 

「そこのバカ二人は私の部下なの。見慣れない子と喧嘩してるみたいだったから止めるのは上司の務めでしょ」

 

「ヒナさん。違うんです。その方は私たちを助けようとして」

「この人たちが無理やり私たちを――」

 

 ヒナが私に対してそんなことを言っていると、その様子を見ていた二人の新兵が私のことを庇ってくれた。

 良かった。一応、私が助けたって感じにはなってるみたいだね。

 

「あら、そうだったのね。じゃあ、あなたはこの子たちのために……。ヒナ早計」

 

「いえ、私こそ出過ぎたマネをしました。では、これで失礼を――」

 

「待ちなさい。あなたの顔どこかで見た気がするの」

 

 新兵の人たちから事情を聞いたヒナは私に謝罪したので、私もこれ以上は関わっても仕方ないということで、この場を離れようとすると彼女に腕を掴まれた。

 

 あれ? なんで、みんなして私の顔を見覚えがあるとか言ってくるんだろう? ルフィとか大物賞金首になった後でも、雑な変装でバレないのに……。

 

「そ、そうですか? 私なんてよく居る顔だと思いますが」

 

「それはない」

「見慣れないカッコいい人がいるなって思ったし」

 

 よくいる顔だと主張したら、新兵二人は速攻で否定してきた。

 助けたのに裏切られた気分だ。解せぬ……。

 

「なぜ、目を逸らすわけ? ヒナ不審……」

 

「そ、それは、大佐みたいにキレイな方に見つめられたら誰だって緊張するに決まってますよ。あははっ……」

 

「――っ!? お、大人をからかうのは良くないわよ。あなた名前は?」

 

 とりあえず、不審がられてしまったので、何とか誤魔化そうとサンジみたいなこととか言ったりすると、ヒナは顔を赤くして目を逸らした。

 大人をからかうか……。確かにスモーカーとこの人は同期だから、かなり年上だよなぁ。多分、ロビンより上だろう。

 

 そう考えると本当にキレイな人だな。私もこんなふうに色気の漂う大人になれれば良いのだが……。どう考えても、無理っぽい……。

 

「ら、ラグナー・マク・ライアン伍長です。申し遅れてしまって、すみません!」

 

「ライアンくん。私に生意気な口を利いた罰として夕食に付き合ってもらうから。ヒナ誘惑」

 

 ヒナは何を思ったのか私を夕食に誘った。なんでトラブルが重なるんだ? ルフィと違って私は大人しくしていたのに……。

 

「いや、そのう……。わ、わかりました……。お供させてもらいます……」

 

 腕に込められた力の強さに怯んだ私は逆らわないほうが賢明だと思い、彼女の誘いを受けることにした。

 いや、面倒なことになったぞ。でも、ご飯食べるくらいなら仕方ないか……。

 

「ええーっ、ヒナさんだけズルいです。私たちも一緒にいきたいですよ」

「そうですよ。こんなカッコイイ人滅多にいないし。あの、女殺し海賊に似てる気がする」

「あっ、確かに、あたしファンなんだよね〜」

「しーっ! それ、内緒にしなきゃ怒られるよ」

「でも、ファンの人いっぱい居るよ」

「それでも、ダメなの」

 

 ここを動くなと命令されていた新兵たちの言葉を完全に無視してヒナは私を彼女の行きつけのレストランに連れて歩き始めた。

 女殺しの海賊なんているんだ……。へぇ、海軍にもファンがいるなんて、そりゃ大声じゃ言えないわな。

 

「あ、あのう。大佐……、どうして腕を組んでいるのでしょうか?」

 

「あら、禁縛(ロック)される方がお好み?」

 

「い、いえ。とんでもございません」

 

「ならいいわ。ヒナ安心」

 

「は、はぁ……」

 

 ヒナは私の腕に自分の腕を絡ませて、ピタッと体を密着させながら歩く。

 めちゃめちゃ、目立って恥ずかしいというか、周囲の視線の中に殺気とか混じって嫌なんだけど……。

 でも、禁縛(ロック)されるのはもっと勘弁してほしいしなぁ。

 

 そんなこんなで、ヒナと私はマリンフォードにあるレストランに辿り着いた。

 

「この店、マリンフォードで1番の高級店なのよ。ヒナ説明」

 

「海上レストラン並みに栄えてますね」

 

東の海(イーストブルー)の海上レストランを知ってるの?」

 

「え、ええ。私の故郷はそちらにありますから。この辺りに比べたら平穏な場所ですよね。あははっ……」

 

 思ったままの感想を述べると東の海(イーストブルー)の話が出てしまい、とりあえず出身地はそこだと言って笑ってみる。

 なんだろう。やましいことがありまくると、大丈夫な会話でも戦々恐々としてしまうな。

 

「そうね。戦争が起きたら平和な場所なんて無くなるかもしれないけど」

 

「なるべく死者が出ないことを祈りたい限りです。私も死にたくないですからね」

 

 白ひげが暴れるということは世界を巻き込むということ。

 漫画では彼が戦争で起こした被害は大したことなかったが、それによって世界中のパワーバランスが変わってしまい治安が悪くなったりしていた。

 故郷のシロップ村は平和であってほしいものだ。

 

「あら、命を賭してでも絶対正義を貫こうとか思ってないわけ? 最近の若い子は臆病なのね」

 

「ええ、生きていないと守りたいモノも守れませんから。私は出来るだけ長生きしたいのです」

 

 カヤからは生きる約束をしているし、親父に会うためにもこの戦争で死ぬわけにはいかない。

 ルフィのサポートをするということはあの恐ろしい青キジや黄猿、そしてもっと恐ろしい赤犬と対峙する可能性もある。

 もちろん、色々と小賢しい手は用意しているけど、ルフィよりも弱い私じゃ生きるだけでも大変だ。

 

「聞かなかったことにしてあげるわ。そういう考えも悪くないかもしれないけど、口うるさい人が多いから。ヒナ忠告」

 

「大佐はお優しいですね。部下の方に慕われるわけだ」

 

 口にした後で私も今の発言は海軍にいる者として相応しくないと思ってしまった。

 しかし、ヒナはそれを見逃すと言ってくれたのだ。  

 思ったよりも優しい人だったから私はビックリする。多分、スモーカーなら怒鳴ってるし……。

 

「別に優しくないわよ。あなたにだけ優しいの」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「食後のデザートを食べてほしいと誘ってるのよ。戦争も近いことだし、お互いに溜まってるでしょう?」

 

 ヒナは私にだけ優しいのだと口にして、唇に指を当てて、さらに部屋の鍵らしいモノを私に見せる。

 デザートを食べて欲しいって――溜まってるって……、それってもしかして……。

 

 私は自分が今、完璧に男だと見られていることに頭を痛めた。ええーっと、つまりヒナは私を――。

 彼女が何が言いたいのか察してしまった私は顔が燃えるように熱くなったのを感じた。この気配はいつかのビビみたいだ……。

 いやいや、そういう目で見られるとは思ってもみなかったぞ。

 まずいな。貞操の危機というか、そんな状態になったら私の性別が……。

 

「えっ……? いやぁ、そのう……」

 

「まさか断るんじゃないわよね。私って束縛する主義なの。嫌なんて選択肢、用意してないわよ。ヒナ脅迫」

 

「きょ、脅迫って……。まいったな。どうすれば――」

 

 そうだ、この人は拘束が得意なんだ。ていうか、海兵がそんなことに能力使うなと言いたい。

 正直言って、私はスモーカーの側に居れば良かったと後悔していた。

 

「ライアン伍長! 探したぞ!」

 

「も、モモンガ中将殿!? よかった……、じゃなかった。いかが致しましたか?」

 

 そんなときに私に声がかかった。声の主はモモンガ中将で、私を探していたみたいだ。

 なんか、モモンガの厳つい顔が天使に見える。これは渡りに船、いや渡りにモモンガだ。

 

「至急、聖地マリージョアに行ってもらう。女帝が貴様を護衛にしたいと駄々をこねよった」

 

「ハンコック……、いや、海賊女帝が……、私を――?」

 

 そうか、ハンコックは七武海だから聖地マリージョアにいるのか。

 思い出してみれば漫画では彼女がエースの手錠の鍵を手に入れたりしていたな。

 なるほど、彼女は私を護衛という形で側に置いて、共にルフィのサポートをしようと考えたんだ。味方になるとなんて頼もしい女性なんだろうか……。

 

「戦争前にあの強大な戦力に機嫌を損ねられても面倒だし、貴様はあの女の扱いに長けておる。まぁ、正義を守る身としては、いささか女に手が早いように見えるが、それは目をつぶろう」

 

「中将殿、これはそのう」

 

「モモンガくん。ヒナも捨てたものじゃないでしょう? 若い子にもモテるのよ。ヒナ自慢」

 

 モモンガに変な勘違いをされたが、そんなことに変に反論をするよりもこの場を離れたかった私は何も言わないことにした。

 

「わかった。わかった。楽しみの時間を邪魔して悪かったな。ライアン、貴様に拒否権はないぞ」

 

「もちろん分かっております。必ずや“ボア・ハンコックの護衛”の任務を果たしましょう」

 

「うむ。七武海は面倒な連中が多いから、ちょっかいをかけられても決して反応はするな。まぁ、貴様みたいな若造をわざわざ挑発するような輩は居ないと思うがな」

 

 こうして私はハンコックと合流するためにマリージョアへと行くこととなった。

 七武海って、割と私と関わった人居るような気がするけど、大丈夫だよね? この変装がめっちゃ不安になってきたんだけど……。

 とにかく、ハンコックと出会ったら彼女から離れないようにしようっと――。

 




久しぶりだから、ちゃんと出来てるか不安です。
ライアっぽさが書けているかとか。


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聖地マリージョアにて

すいません。色々と考えた結果、色々と投げました。
つまり、話がサクッと進みます。
ツッコミどころ満載でしょうがごめんね。許して〜。


 

 聖地マリージョアへ向かう私たちだが、その前にモモンガは私を海軍本部に連れて行った。

 本部内は海兵たちが忙しなく動いている。

 どうやら、世界情勢が不安定となる要因が次々と立ち上っているらしい。

 

「インペルダウンに侵入者、新世界では赤髪とカイドウが小競り合い、白ひげのモビー・ディック号は雲隠れしている。海軍本部はピリピリしとるが、聖地マリージョアに予定外の人物を勝手に連れて行くわけにはいかんからな。然るべき手続きは踏まねば」

 

「インペルダウンに侵入者ですか? そんな自殺行為を行うような者がいるとは――。信じられませんね」

 

 白ひげの船である“モビー・ディック号”の消失。

 白ひげを討とうと“百獣のカイドウ”が動き、それを止めるために“赤髪のシャンクス”も動き、新世界で両者が衝突。

 さらにインペルダウンにルフィが侵入して掻き回すという事件も起こり、海軍本部はてんやわんやになっているみたいだ。

 

 私はルフィの情報を聞き出したいがためにインペルダウンの事件に食いついた演技をする。

 

「うむ。貴様の言うことはもっともだ。しかし、全く考えが読めない、イカれた海賊団の船長が主犯だからな。アマゾン・リリーには伝わっていたか知らぬが、ヤツの名は――」

 

「わしの孫じゃ! ぶわっはっはっはっは!」

 

「――っ!? あ、あなたはガープ中将!?」

 

 モモンガがルフィの名前を言う前に、背後からバカでかい気配と共にルフィの祖父であるガープ中将が現れた。

 心臓が飛び出るくらい驚いたんだけど……。ウォーターセブンでも感じたけど彼の戦闘力は計り知れない。

 

「なんじゃ、わしのこと知っとるのか」

 

「海兵で貴様のことを知らんほうがどうかしとるぞ」

「モモンガ中将の仰るとおりです。英雄を知らないはずがないですよ」

 

 ガープは鼻をほじりながら、私の顔をマジマジと見つめる。

 彼とはウォーターセブンでほとんど絡んでないからバレないと思うけど……。

 

「で、誰じゃ? そっちの若いの」

 

「ラグナー・マク・ライアン伍長です。会えて光栄です。ガープ中将」

 

「ふむ……、どこかでお前さんの顔を見たことがあるんじゃが」

 

 楽観的に考えていたんだけど、海軍本部の中将だもんな。勘は良いのか……。

 孫のルフィなんか、2年後の明らかな偽物にも付いていくくらい人間の判別が出来なくなったりするのに……。

 

「そ、そうですか? 初対面のはずですが……」

 

「いや、絶対に見たことある!」

 

「…………うっ」

 

 私が誤魔化しても、ガープは自信満々の表情でこちらを睨みつけてくる。

 くっ、苦しいかもしれないけどしらを切り続けるしか……。

 

「じゃが、忘れたからもういい! わっはっはっはっ!」

 

「誇らしげに言うことか?」

「ほっ……」

 

 私の心臓の鼓動が跳ね上がりそうになった瞬間にガープは潔い笑顔を浮かべて忘れたとはっきり言った。

 よかった。豪快な人で……。

 

「ガープ! 貴様! まだここに居たのか!? さっさと仕事に戻らんか!」

 

「せ、センゴク元帥!」

「ちょうど良かった。元帥、彼がラグナー・マク・ライアン伍長です」

 

 そんなガープを怒鳴り散らしたのは海軍本部・元帥である“仏のセンゴク”。つまり、ここで一番地位が高い人間だ。

 モモンガは私を彼の元に案内しようとしたのである。理由は聞いてないけど。

 

「ふむ。あの女帝が全幅の信頼を置いてると聞いとったから、もっと屈強な男を想像しとった。わからんのう」

 

「は、はぁ……、申し訳ありません」

 

「まぁよかろう。今は有事であるからして、半端な戦力はかの地に立ち入ることを許されておらん。ラグナー・マク・ライアンは本日この時間を以ってして少尉に昇格」

 

「へっ?」

 

 なんと、よくわからないが私は昇進ということになったらしい。

 本当に意味がわからない。この世界の海軍ってホイホイ昇格させるイメージはあるけど、これは明らかにやりすぎだ。

 

「将校でないと、かの地の要人の護衛は出来ぬというしきたりがあるのだ。貴様のコートだ。大事にしろよ」

 

 どうやら、有事のときの特別処置らしい。こんな無茶苦茶な人事は元帥の権力でないと出来ないから、私は彼の元に連れられたのである。

 

「はっ、はい! 正義のためにいっそう励みます!」

 

「うむ」

 

「では、急ぐぞ。聖地マリージョアへ!」

 

 海軍将校にのみ配られる例のコートを渡されて、私はそれを羽織る。

 なんだろう。コスプレしている気分になるな……。

 

 私はモモンガに連れられていよいよ聖地マリージョアへと向かった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 聖地マリージョアは赤い土の大地(レッドライン)の上にあり、世界政府の中心地だ。

 世界貴族である天竜人の居住地がある場所で、4年に一度、各国の王達が集う“世界会議(レヴェリー)”が行われる。

 

 楽園側からは、マリンフォードからすぐ近くにある赤い港(レッドポート)からそこに向かうことができる。

 

 ここに来るなんて思ってもみなかったなぁ。

 七武海にはなるべく関わりたくないけど……。

 

 しかし、当たり前だが七武海は全員、円卓のある会議室に集合させているらしい。

 ハンコックも当然、そこにいるというわけだ。

 

「ぬっ、“ボア・ハンコック”は居ないのか?」

 

「は、はぁ……、こんな汗臭い場所には居たくないと仰られましたので……」

 

 会議室にハンコックは居なかった。

 モリアとかミホークとかクマとかドフラミンゴは居たけど。ドフラミンゴは初めて見たけど、あの派手な格好はやっぱり目立つ。

 ハンコックは気を利かせてこいつらから離れたんだろう。

 黒ひげはすでにインペルダウンに向かおうとしているくらいの頃か……? 姿が見えない。

 

「まったく、身勝手なやつめ。公開処刑まで時間も少なくなってきているというのに。黒ひげもいないが……」

 

「彼は腹を壊したと言って先程トイレに行かれました」

 

「あの風体でデリケートだな。まぁいい。“ボア・ハンコック”の護衛の男を連れてきた。彼女の居場所を教えろ」

 

 モモンガが私をハンコックの護衛だと口にした瞬間に大きな影がいきなり立ち上がり、彼と話していた海兵に襲いかかる。

 この影――。

 

「――っ!? か、影がいきなり!? がはっ――」

 

「……この能力は――!」

「おい、青二才! 何の真似だ? そりゃあ」

 

 私は椅子でふんぞり返っていたモリアの頭に拳銃を向けた。

 彼は私の行動が気に入らないというような表情をしている。

 

「いや、あんたが私を攻撃しようとした理由を聞いとこうと思ってさ。ゲッコー・モリアさん」

 

 モリアの狙いは明らかに私だった。殺気くらい感じることはできる。

 しかし、私の正体に気付いたわけではなさそうだった。

 

「キシシ、おれにも護衛が欲しいと思っただけだ。“海賊女帝”だけ特別扱いは気に食わねェ」

 

 何か子供っぽい理由でこの人は攻撃してきたみたいだ。

 ついこの前にゾンビ兵をルフィに負けて全部失ったからそんな考えが起きたのかもしれない。

 

「そっか。意外だなぁ。モリアさんと言えば、かの四皇“百獣のカイドウ”と肩を並べるほどの大海賊だと聞いていたけど、私みたいな若造に守ってもらいたいほど臆病だったとは」

 

「誰が臆病者だと! てめェのような優男なんざいるかよ!」

 

「ライアン、そこまでにしておけ。モリアもこれ以上、有事に問題を起こすと称号の剥奪もあり得るぞ」

 

 私が嫌味を言うとモリアが私などいらないと怒って、見かねたモモンガは私と彼の二人を一喝した。

 私も殺気に当てられたとはいえ、大人気なかったかもしれない。

 

「ちっ、冗談も通じねェのか。暇つぶしくらいさせろよな。ライアン? その顔……。どっかでおれァ……。まぁいい。戦争になりゃあゾンビ取り放題だしな。護衛はやっぱいらねェよ」

 

 モリアはつまらなそうにそっぽを向いて、目を瞑った。

 ゾンビ取り放題か。この人の能力も厄介だよなぁ。

 

「黒ひげが見当たらない? ちゃんと探したのか?」

「あと3時間以内に見つけろ! でないと本部に報告することになるぞ!」

「黒ひげがいないとはどういうことだ!」

「も、モモンガ中将!?」

 

 黒ひげが行方不明となっていることに気付いた海兵たちがざわつき始めて、モモンガはそちらに状況を聞きに行ったみたいだ。

 面倒ごとが増えそうな気がしているのか、彼の顔色が悪い。

 

 そんな彼の様子に気を取られていた一瞬の間に、彼は私の真後ろに立って威圧感を放った――。

 

 こ、この男は世界一の大剣豪――“鷹の目のミホーク”――。

 

東の海(イーストブルー)で会って以来だな……。船長や剣士は元気か……」

「“鷹の目のミホーク”さん……? 何の話かわからないんだけど……」

「おれの“目”は誤魔化せん。安心しろ、質問に答えれば悪いようにはしない……」

 

 なぜか知らないが、海上レストランでちょっと顔を合わせたくらいのミホークに正体がバレた。

 モリアもスモーカーですら気付かなかったのに、どういう目をしてるんだこの人は……。

 仲間のことを言えば、悪いようにはしないとか言ってるけど、ゾロはこの人の家にいると思うし、ルフィはインペルダウンで無事かどうかまだわからないし……。

 

「何も言うつもりはない……、私が知りたいくらいさ……」

「ほう……、この状況で何も言わぬか。面白き女だな……。貴様を見るだけで暇つぶしになりそうだ……」

 

 適当なことを言うのは簡単だが、彼は下手な嘘を見抜くだろう。ならば何も言えない。

 その答えがなんで気に入ったのかわからないけど、彼はそれ以上なにも聞かなかった。

 威圧感で心臓が潰れるかと思ったよ。

 

「フッフッフ! なんだ鷹の目ェ! その若造と内緒話か? 聞かせろよ」

 

 そのやり取りを見ていたドフラミンゴは楽しそうに笑いながらこっちに来た。やっぱ、派手だなぁ。この人は……。

 

「つまらん話だ」

 

「そうかそうか。おれァてっきり、鷹の目に男色の趣味でもあるかと思ったぜ。フッフッフ! あの海賊女帝も誑かせるくらいの色男か。海賊になりゃあ国を落とせるかもしれねェな。海軍辞めたくなったらおれに声をかけな。いい就職先を案内してやるぜ」

 

 ドフラミンゴは私の顔をマジマジと見つめて、面白そうに笑いながらありがたくない親切な言葉をかける。いや、この人の斡旋先なんて碌な商売してるところないじゃないか。

 

「ドフラミンゴさん。お気遣い、痛み入ります」

 

「なぁに、構わねェよ。フッフッフ」

 

「ライアン! こっちに来い。面倒ごとが増えそうだ。貴様の案件だけでも終わらせたい」

 

 ドフラミンゴと会話していると、モモンガは焦ったような顔をしながら付いてこいと私を呼んだ。

 やっとハンコックのところに行けそうだ。

 

 

「おおっ! ()()()! 待っておったぞ。まったく、むさ苦しい連中がいる部屋にわらわを入れようとしおって」

 

 ハンコックは私を見るなり、駆け寄ってきて手を握った。

 いやいや、のっけから名前を間違えてるよ。モモンガは気付いてないけど。

 

「まずいよ、ハンコック……、モモンガの前では私はライアン」

「すまぬ……、間違った……。よく来たな、ライアン」

 

 私は彼女に小声で注意して、彼女は改めて再会を喜んだような表情をした。

 一人で不安だったから彼女と共に居られるのはありがたい。

 

「貴様ら、本当に仲が良いのだな。とにかく約束は守ったぞ。ボア・ハンコック、わがままは聞いてやったんだ」

 

「わかっておる。このわらわが信じられぬと申すか? 無礼な男だ」

 

「…………ライアン。貴様がコントロールしろ。昇格を無駄にするなよ」

 

 モモンガはとりあえずハンコックの件だけでも安心したいらしく、私に念を押した。

 中将ってかなり上の地位だと思うんだけど、こんなに忙しく動くもんなんだな。

 というより彼ほどの人間が忙しくなるくらいヤバめの出来事が頻発してるってことか……。

 

「もちろんです! ハンコック殿、何かありましたら何なりと申しつけてください」

「うむ。相変わらずライアンは殊勝な態度じゃな。モモンガ、お主にはもう用はない。どこへでも行くがよい」

 

「言われなくてもそうする。こちらとて忙しいのだ」

 

 モモンガはハンコックの態度を見てホッとしたのか、部屋から急ぎ足で出ていった。

 ふぅ、やっとひと心地つけるな。

 

 

「助かったよ、ハンコック。君のおかげでルフィは潜入出来た」

 

「しかしわらわは不安じゃ。ルフィが兄の元へと無事に辿り着けるか。見つかったという話も聞いたからのう」

 

 ハンコックにお礼を言うと、彼女はルフィの身の心配をしていた。

 インペルダウンの環境を直に見たからますます心配になったんだろうな。

 

「今のところ、彼が捕まったっていう情報は入ってない。それに――」

 

「それに?」

 

「彼は海賊王になる男だからね。やると言ったことは必ずやる。そういう男なんだ。きっと無事だよ」

 

 私はルフィなら無事だと信じていた。漫画で未来を知ってるからじゃない。

 たとえ漫画と違う現象が起きたとしても、あの逞しい船長なら絶対に切り抜けるという信頼があるからだ。

 

「やはり羨ましいのう。おぬしとルフィは互いに信頼しあっているように見える」

 

「何言ってるんだ。君も同じだよ」

 

「えっ?」

 

「ルフィは君に助けられた。この先、何があっても彼は君を信頼するし、私だってそうだ。だから、君もルフィを信じてほしいな」

 

 ルフィは助けてもらえた恩を決して忘れない。  

 一度、相手を信じたら死んでもそれを曲げない男だ。彼はハンコックのことを信頼するだろうからこそ、私も彼女にルフィを信じてもらいたかった。

 

「信じるか……。思えば、ルフィにはわらわが忘れてしもうた感情を思い出させてもらった気がする。はっ――もしや、これが婚約――!?」

 

「あはは……」

 

 彼女は人を信じるという心をルフィに思い出させてもらったと述べて、婚約とまで口にしたので、私はつい笑ってしまう。

 でも、彼女は本気なんだよな。その気持ちは応援したい。

 

「ライア、いろいろ考えたが、これはお主が持つがよい。ルフィの兄の手錠の鍵じゃ。想像したくないが、ルフィが失敗したときのためにおぬしに渡しておこう」

 

「まさか、そのために私を?」

 

「無論じゃ。ルフィのために海軍本部にまで潜入するおぬしの覚悟はしかと見させてもらった。わらわも愛する者の意志は継ぎたいと思っておる。ならば、多少のリスクは背負いたい」

 

 どうやったのか知らないがハンコックはエースの錠の鍵を手に入れたみたいだ。

 そして、私にそれを託そうとしている。

 

「リスクならとっくに背負ったじゃないか。ありがたいけど、私より戦闘力が高い君が持っていたほうが――」

 

「ふむ。わらわも最初はそう思うたが、戦争が始まってドサクサに紛れようにも七武海という立場ゆえに目立ちすぎる。もちろんその場合、ルフィはインペルダウンから脱出して兄のもとに駆けつけると信じておるが、彼もまたおぬしが持っていた方が安心するじゃろう」

 

「ハンコック……」

 

 しかし、ハンコックは自分では立場的に処刑されようとしているエースに近付くことすら難しいと言う。

 それなら目立たない海兵の一人となるだろう私のほうが良いだろうし、ルフィだってそう思うとも――。

 

「これが信頼というやつなのじゃろう? わらわもおぬしを信じる。ルフィが信じておるのじゃから。それにおぬしには力はないかもしれんが、知恵がある。その知恵でルフィを助けてやってくれ」

 

「わかったよ。君の覚悟を無駄にしない。これはありがたく受け取っておくよ」

 

 彼女の、そしてルフィの信頼を無駄にしないと心に誓いながら私は彼女から鍵を受け取った。

 どうにか三大将とかセンゴクとかガープのスキをついてエースに近付く方法を考えないとな。

 色々と無理ゲーだけど、何とかしなきゃ。これくらい役に立たないとここまで連れてきてもらったルフィに申し訳ない……。

 

 そんなことを考えていたらハンコックは急にモジモジとして顔を赤らめる。どうしたのだろう?

 

「あ、あの。こんなことを聞くのははしたないと思われるかもしれんのじゃが……」

 

「はしたない?」

 

 彼女はどうやら私に質問したいことがあるらしい。

 一体どんなことだろう……?

 

「る、ルフィとおぬしは長く冒険をしたと聞く……。教えて欲しいのじゃ、ルフィの冒険の話を――。愛する者のことを知りたいと思うことは間違っておるのか? 嫌われたりは――」

 

「間違っちゃいないさ。戦争が起こるにしてもまだ時間がある。彼の冒険の話をしよう。最初の話は私の住んでいた村にルフィたちが来た日の話だ――」

 

 ハンコックが聞きたがったのは、ルフィがどんな冒険をしてきたか、ということだ。

 好きな人のことを知りたいという彼女の純粋な気持ちに応えるために私は彼との冒険の話を時間が許す限り語った。

 彼女はとても楽しそうにその話を聞く。村にいた頃はカヤにも色々とこうやって昔の話をしたっけな……。

 

 ハンコックはルフィの話はもちろんのこと、私とカヤの関係にも興味を持ったらしく、その辺りも質問攻めにあった。

 こんなところで恋バナなんてするとは思わなかったよ……。ちょっと恥ずかしいな……。

 

 そんなことをしているとすぐに時間が経ってしまい、エースの処刑までもう間もなくというところまで来てしまった。

 

 

「“ボア・ハンコック”さま! そろそろ出陣の準備を――」

 

「行こう、ハンコック。ルフィはインペルダウンで間に合わなかったみたいだ。でも、まだチャンスはある」

 

「おぬしの話の中で、カヤという者との関係は非常に興味深かった。わらわもいつかルフィとそのような関係に――。考えるだけで体が熱くなる」

 

「そうだね……、ルフィもいつか大人になるんじゃないかな? 君の想いもきっと届く。彼は思ったよりも良く人を見ているからさ」

 

 ハンコックはいつかルフィの恋人になれる日を夢見ていたので、私はそれを応援すると答えた。

 さて、話をしながら武器やアイテムのメンテナンスは済んだ。出し惜しみをするつもりはないし、何としてでも生き残る覚悟も出来ている。

 

「おぬしは優しいな。それでは向かうとするかのう。愛する者を待つために」

 

「うん。私も敬愛する船長の到着を待つとするよ。いやぁ、世界最強の海賊と最前線で対峙するなんて経験なかなか出来ないだろうなぁ」

 

 その一瞬のスキを見つけるまで、私は立場上は海軍側の人間だ。

 つまり狙われるということである――世界最強と言われる海賊、白ひげこと“エドワード・ニューゲート”とその仲間たちに……。

 七武海の配置位置は港から見える軍隊の最前列だ。つまり護衛である私の配置も自ずと七武海・“海賊女帝ボア・ハンコック”のすぐ傍らということとなった。

 

「死ぬなよ。ライアよ……。おぬしが死んでもルフィは悲しむぞ」

 

「ああ、大丈夫さ。そうならないように準備はしている。怖くないと言ったら嘘になるけどね」

 

 ポートガス・D・エース処刑まで残り3時間を切った。

 総勢十万人を超える海軍の精鋭たちが決戦の刻を待つ中、私もその最前線であの頂上戦争が始まるプレッシャーに耐えながら、その時を待っていた――。

 




頂上戦争をさっさと始めることにしました。
戦闘力が圧倒的に低いライアがどう立ち回るか……、という感じになりそうですね。
二次創作で頂上戦争といえば、無双するのがお約束なんですが、ライアにはそれが無理というか何というか……。
とりあえず、彼女の目的まであと少しなので私も頑張ります。


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頂上戦争開始!

この辺りのライアの立ち回りも色々と考えて二転三転しました。
結局書きやすさを優先した感じです。
彼女の立ち回りはベストではないと思うし、失策もあると思いますが、私が描いてるんだから仕方ない。


 

「――諸君らに話しておく事がある。ポートガス・D・エース……。この男が今日ここで死ぬ事の大きな意味についてだ――!」

 

 センゴクが電伝虫を利用して全世界に発信をする。

 エースという男を処刑する意味を――。私はもちろん理由を知っているが……。

 

「エース、お前の父親の名前を言ってみろ!」

「――っ!?」

 

「オヤジ?」

「何だ? こんな時に……」

 

 海兵たちはその質問の意味を知らない。当然だ。

 前の世界と違ってこの世界では親の罪が子の罪となる理不尽が通っている。

 この秘密が知られていれば、エースはもっと畏怖されるべき存在になっていたに違いない。

 

「おれのオヤジは白ひげだ!」

「違う!」

「違わねェ! 白ひげだけだ! 他にはいねェ!」

 

 彼は自分の()()()は白ひげだと答える。

 エースの言葉は心底の本音なのだろう。

 

 しかし、センゴクは説明した。彼の出生の秘密を……。

 

 彼の母親が父親の秘密を知られないように必死になって20ヶ月も腹に彼を隠してきたという事実。

 それを突き止めたとき、彼の父親の正体がわかったとのことだ。

 

 そう、エースの父親は――。

 

「知らんわけではあるまい――! お前の父親は! 海賊王ゴールド・ロジャーだ!」

 

「「――っ!?」」

 

「おぬし、知っていたか? ルフィの実の兄ではないと……」

「まさか。驚いているよ……」

 

 エースの父親の名前がセンゴクの口から言い放たれたとき、周りの海兵たちはどよめいた。

 そりゃあそうだ。海賊王であるゴール・D・ロジャーの関係者は容赦なく処刑されてきたのだから。

 フランキーの恩人のトムだって、船を作っただけで処罰の対象になったし。息子など本来見逃して良い存在じゃないんだ。

 

 つまり、エースは生まれたときから十字架を背負わされたことになる……。

 

「お前を放置すれば、必ず海賊次世代の頂点に立つ資質を発揮し始める! だからこそ今日ここで、お前の首を取る事には大きな意味がある! たとえ”白ひげ”と全面戦争になろうともだ!」

 

「「ウォォォォォッ!!」」

 

「このタイミングで彼の出生を話すとは……。士気を上げるには絶好のタイミングだね」

「うむ。世界を守るという大義名分が出来たということじゃな……」

 

 マリンフォードに雄叫びが響き渡る中で、私とハンコックはそんな会話をしていた。

 こちらの士気は最高潮だ。戦争を始めるには最高の滑り出しという感じのようだ。

 センゴクって人はトップとしての仕事を確実にこなしているな……。

 

 しかし、ここで大きな異変が起きる。開くはずのないマリンフォードの“正義の門”が開いたのだ。

 海兵たちは動揺したが、間髪を入れずに続々と姿を現したのは”白ひげ海賊団”傘下の海賊総勢43隻の大艦隊である。

 

 遊騎士ドーマ、雷卿マクガイ、ディカルバン兄弟、大渦蜘蛛スクアードなど、いずれも“新世界”に名を轟かせている船長ばかりだ。

 私は一応大きい賞金首の名前はチェックしてるけどルフィは一人も知らないだろうなぁ。

 

 確か、スクアードとかいう奴が最初に白ひげに深手を負わせるんだよな。

 それを阻止したら、ちょっとはルフィが楽になるかな……? 私にそれが出来るか甚だ疑問だけど……。

 

 海軍は白ひげの出現に警戒しているけど、彼は見える位置からは来ない。なぜなら白ひげが出てくる場所は――。

 

「湾内の海底に影が!」

「そうか! あいつら全船――コーティング船で海底を進んでいたのか!?」

 

「うわァアアア! モビー・ディック号が来たァ!!」

 

 白ひげの乗る“モビーディック号”を始めとする4隻の”白ひげ海賊団”本家の艦は、コーティング船で海底を進み、海軍本部の湾にいきなり浮かび上がってきた。奇襲は成功したって感じだ。

 あの人が白ひげか……。病気の年寄りって聞いてたけど、世界最強って言われるに相応しいくらいの力を感じる……。

 さらに白ひげ海賊団の面子は揃いも揃って化物軍団と言ってよいほどの戦闘力だ。

 私なんかちょっとでも油断したらあいつらに簡単に殺されるな……。

 

「グララララ! 何十年ぶりだ? センゴク。おれの愛する息子は無事なんだろうな! グララララ! ちょっと待ってな、エース!」

 

 白ひげは男らしく豪快に笑う。エースは彼らに何故来たのか問うていたが、彼らの意志は固い。

 全員が一丸となり、エースの救出をしようと意気込んでいた。

 

「――あの男は世界を滅ぼす力を持っているのだ!!」

 

 センゴクが叫ぶのと同時に、白ひげはグッと拳に力を込め、それを”大気”に叩きつけ、”大気”にヒビを入れる。

 すると海が急激に浮き上がり、マリンフォードの島を挟むように巨大津波が発生したのだ。

 攻撃の規模と威力が桁違いだ。私の銃ではどうにもならない。

 

 漫画で読むのとは大違いの特大スケールな白ひげの初撃に、私は息を飲んで身構えた。身構えたところでどうしようもないんだけど……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 氷河時代(アイスエイジ)やら大噴火やら、大将たちのアホみたいな火力によって、白ひげたちの進軍は一時的に止められる。

 しかし、リトルオーズとかいうオーズの子孫が暴れだし、白ひげ海賊団とその傘下の海賊たちは私たちの持ち場にまで迫ってきた。

 

「ふぅ、しばらくはこれ一本と(ダイアル)で頑張らなきゃな……」

 

 “ライア”の武器である銀色の銃(ミラージュクイーン)は目立ち過ぎるので、ライアンの状態では使えない。

 ルフィと合流できる状況になるまでに色々と戦闘のドサクサに紛れて私も下準備をするつもりなので、“ライア”の姿に戻るわけにはいかないのだ。

 なので、私は海軍に支給してもらった拳銃で戦うこととなった。

 物理無効の能力者には通じないから防戦がやっとだろう。

 

「オーズに気を取られているうちに攻め落とすぞ!」

 

「まったく、レディの背後を狙うとは不躾だな――とか、サンジだったら言うのかな? 必殺! 鉛星ッ!」

 

「ぐはぁっ!? お、おれの仕込み銃の銃口に!?」

 

 ハンコックを仕込み銃で狙う男がいたので、私は銃口めがけて鉛玉を放つ。

 やっぱり火力低いなぁ。いつもの銃でも不足してるのに。

 

 とりあえず、ここに来る前に処刑台付近にこっそりいくつか罠は仕掛けて来たから、ルフィが来るタイミングで上手くライアンは死んだことにして、ライアに戻らなきゃ。

 

 なぜ、タイミングを大事にしているかというと、下手にライアンが麦わらの一味だったとバレるとハンコックに迷惑がかかるからだ。

 だから、ライアンには死んでもらうし、ライアの登場も違和感がないようにしなくてはならない。

 

 そのために用意はしてるけど、出来ればそれを使うのはルフィが来たあとの方が効果的なんだよな。この戦争の真っ只中で上手く立ち回れれば良いけど……。

 

「ライアン。この程度の攻撃、わらわなら自分で――」

 

「一応、君の護衛だからさ。仕事くらいさせてもらうさ」

 

 そう、今の私はラグナー・マク・ライアン少尉だ。

 その任務は“海賊女帝”ボア・ハンコックの護衛。それならばその任務はきちんとこなすさ……。

 

「おぬしは真面目な奴よ。見ておれ、これがわらわの力じゃ……、チュッ――虜の矢(スレイブアロー)!」

 

「「ぐわぁぁぁ!」」

 

「か、海賊女帝ッ!」

 

 ハンコックの投げキッスはハートを生み出し、そこから放たれる矢に刺さると海賊たちは次々と石になってしまう。

 とんでもないチート能力だな。やっぱり。

 

芳香脚(パフューム・フェムル)!!」

 

 さらに相手を石化させつつ砕くという荒業も披露した。

 武装色の覇気と能力の併用か……。さすがは七武海……、女帝と言われるだけはある。

 

「貴様! 海兵にまで!」

「ちょっと、あなた護衛役でしょ!? しっかりコントロールしてよ!」

 

「わらわの美しさに免じて許してほしい」

「すまないね。私が代わりに謝っておこう」

 

 ハンコックが海兵もろとも自分の技の餌食にしてしまったので、私まで怒られた。

 だから、私もハンコックと共に謝る。

 

「う、美しい……、ゆ、許してしまう」

「な、なんて美形なの……、誰にだってミスはあるから仕方ないわ……」

 

 ちゃんと謝ったら気持ちは通じるもので、何とか許してもらった。

 なんか、いろんな視線がこっちに向いてる気がする。

 

「あまりの麗しさに攻撃を躊躇ってしまう。なんだ、あの芸術的な美しさは……」

「だ、ダメよ……、彼は倒すべき敵なんだから……! 躊躇なんかしちゃ!」

 

「あの二人はなんだ!?」

「絶世の美女と世紀の美男子――!?」

「攻撃するのも憚られる……」

 

 さらに視線と同時にこちらへの攻撃が緩めになった。

 これはここから動くチャンスかもしれない。

 

「今じゃ、ライアン! おぬしにはおぬしのやるべきことやらがあるのじゃろう?」

 

「すまないね。ハンコック……、この埋め合わせはいずれまた……!」

 

 そう、私は何としてでもルフィと合流して、彼を守らなくてはならない。

 そして、伝えなきゃならないこともある。あの世界最強の男に――。

 

「急がないと、ルフィはきっともうすぐ――」

 

 ルフィが本当に現れるかどうかは疑っていない。

 それがいつになるか分からないけど、もう来てもおかしくないくらいの時間は経っている。

 

 

「――っ!? 海賊船!? 風貝(ブレスダイアル)!」

 

 その時だ、青キジによって作られた氷塊を砕いて海賊船が侵入してきた。

 私は靴に仕込んだ風貝(ブレスダイアル)を発動させて大ジャンプする。

 

「“氷の魔女”ホワイティベイかっ! くそっ! 急がなきゃいけないのに……!」

 

 ホワイティベイは白ひげ傘下の海賊団で“氷の魔女”と呼ばれ恐れられている大物海賊だ。

 目の前に立っていた水色のウェーブがかった髪を靡かせている彼女を見て、私は戦慄した。

 感じられる力は白ひげ海賊団の隊長たちと比べても遜色ないレベル。

 私じゃ逆立ちしたって勝てないし、海兵の格好をして一人で乗り込んでいるこの状況は非常に不味い。

 

「お手のモンだよ。こんな氷塊! ん? 海兵が紛れ込んだようだね。消してあげるよ」

 

 彼女はナイフ片手に私との間合いを急速に詰める。

 そこから感じられたのは容赦のない殺意――。

 

「――っ!? 速い! ぼ、帽子が風圧で――」

 

「死になっ!」

「ちっ――」

 

 あまりの風圧で私の帽子は吹き飛ばされて中にしまっていた短い銀髪が顕になる。

 そして、私は彼女の攻撃を何とか見切ろうと、ホワイティベイの視線を読むために眼光を光らせた――。

 ダメだ、何とか急所を外すくらいしか……。

 

「船長の攻撃が躱された?」

「いや、今の船長が手を一瞬緩めたような……」

 

「あんた何者だい!? あたしに何をした!?」

 

 よくわからないけど、彼女の攻撃が急速に緩まって、私は容易に避けることが出来た。

 そして、ホワイティベイは頬を赤らめて、私に何をしたのか怒鳴ってくる。そんなの私が知りたい。

 

「えっ? いや、そのう……」

 

「よ、寄るな! その顔を近付けるな! なんてこった。このあたしがこんな若造に……」

 

「せ、船長の様子が変だ」

「まさか、あの男は何かの実の能力者なんじゃ……」

 

 私は今の状況を理解出来ずにいる。彼女はなぜ攻撃を止めたのか。そして、なぜ私を見て後ずさりするのか……。

 

「来るなと言っている! このっ!」

「うわっ!」

「な、なんでこっちに!?」

 

 私が三歩ほど彼女に近づくと、ホワイティベイはこちらにナイフを投げつけて来た。

 そのコントロールはめちゃくちゃで、私はそれを躱そうと動いたが、焦って足に仕込んでいた風貝(ブレスダイアル)を発動させてしまい、彼女に体当たりしてしまう。

 

 ホバーボードが使えない代わりにこの靴を作ってみたけど、割と失敗作だな……。

 

「……ご、ごめん。大丈夫? 押し倒すつもりはなかったんだけど……、不可抗力で……」

「ば、バカ野郎。くそっ! 間近で顔を見ちまった! こんなことやってる場合じゃないのに――」

 

 ホワイティベイを押し倒してしまった私は文字通り目と鼻の先で彼女と顔を見合わせることになってしまった。

 彼女の顔はますます赤くなり、耳まで朱色に染まっている。

 

「せ、船長のあんな表情見たことねェ」

「あ、ああ。あれじゃまるで、十代の乙女……、実年齢は言ったら殺されるけど……」

 

「な、なんで、拳銃(そいつ)であたしを撃たない!? あんた海兵だろ!?」

 

 そして、ホワイティベイは私が銃を使おうとしないことに疑問を持ったようだ。

 ああ、そういえば私は今、海軍側だったよ……。

 でも、今はこの船に海兵は居ないし、私が単独で乗り込んでいる感じになっているし、いいタイミングかもしれない。

 

「いや、海兵じゃないよ……。ちょうどいい。君が白ひげ傘下の中でも特に信頼を受けている海賊だということは知っている。信じてもらえるか分からないけど、私はエースの弟――麦わらのルフィの船のクルーだ。一応、懸賞金も出てる。ほら、私と船長の手配書……」

 

 私は時が来たら、上手くどこかの海賊船に侵入して身分を明かして協力をお願いしようと思っていた。

 

 タイミング的にはルフィが現れた後のほうが良かったのだが、エースは自分の弟の話を身内によくしていたらしいから、彼女ならルフィの名前くらい知っていると思い、彼の手配書を彼女に見せたのだ。

 

 そして、彼の海賊船のクルーである証明として私の手配書も一緒に……。

 帽子が取れて銀髪が出てるから、並べてみれば私だということは分かるはずだ。

 

「“レディキラー”ライア……、知らない名だね。でも、ルフィって名は知ってるよ。うるさいくらい、あの坊やに話を聞かされたからねぇ。なんで、海兵の格好をしてるんだい?」

 

「エースを助けるために海軍本部に潜入したから」

 

「――っ!? あっはっは。なんてこった。エース坊の弟の船のクルーがあたしらより無謀なことしてるなんてね。なんで、正体を明かした?」

 

 エースに聞かされてルフィの名前を知っていた彼女は私のことを海賊だと信じてくれた。

 そして、海兵になりすました理由を聞くと上機嫌そうに笑う。

 

「そろそろ、堅苦しい海兵のフリをやめたかったのさ。私の船長も来てくれたしね」

 

「はぁ? 何言って――」

「船長! 上を見てください! 船が降ってきましたァァァァ!!」

 

 私はずっと頭上に見聞色の覇気を集中させて、ルフィの到着を待っていた。

 そのせいで、相手の攻撃に反応が遅くなるポカをやっちゃったけど……。

 とにかく、ルフィがついにここまでやって来たのだ。

 

「あああああっ! あっ!? おれゴムだから平気だ!」

「貴様、一人で助かる気カネ!? 何とかするガネ〜〜!」

「こんな死に方ヤダッチャブル! 誰か止めて〜〜ンナ!」

「てめェの提案なんか聞くんじゃなかったぜ! 畜生! 麦わらァ!」

 

 漫画と同様にインペルダウンの名だたる囚人たちを引き連れて、精悍な顔立ちの彼はこの戦場に降り立った。

 

「助けに来たぞ〜〜〜! エ〜〜〜ス〜〜〜! やっと会えたァ!!」

 

「ルフィ……、元気そうで良かった……」 

 

 ルフィの叫び声を聞いた私は思わず口が緩む。何か数ヶ月くらい離れてた気がするよ。 

 

「あ、あれがあんたの船長……、それで、それがあんたの本当の姿……」

 

「髪が短いままだとさ、色々と迷惑がかかる人がいるからね……。そこでお願いなんだけど、私がこの船に乗って来た、ということにして欲しいんだ」

 

 私はいつものスーツ姿となり、切った髪で作ったウイッグを付けて前と同じ格好に戻る。

 そして、念の為にホワイティベイに私は彼女の海賊船に乗せてもらってここに来たことにしてほしいと頼んだ。

 

「ふっ……、それくらいお安い御用さ。野郎ども! この男! レディキラーはあたしらと一緒にここに来た! いいね! 覚えたかい!?」 

 

「「イエス! マム!」」

 

 私がこの海賊船に乗っていたという既成事実がここに出来た。

 これで、私は違和感なくルフィの元に駆けつけられる。

 でも、その前に――。

 

「あのさ、よく間違えられるんだけどね。私は女なんだけど……。久しぶりに言うけどさ……」

 

「「えっ!? えええええッッッ!!!」」

 

 とりあえず、嫌すぎる誤解は解いておきたい。

 そして、彼女たちはいつかのビビとかミキータとかと同様に死ぬんじゃないだろうかってほど驚いた顔をした。

 早く手配書に性別も明記してくれないかな……。

 

「な、なんでいつも性別を言うだけで、こんなにショックを……」

 

「じゃ、じゃあ、あたしは年甲斐もなく若い女にときめいていたってことかい……? いや、30歳くらい若けりゃ、それでもあたしは――」

 

「……ん?」

 

 さらにホワイティベイはショックを受けながら、何かをブツブツ言っていた。

 一体どうしたんだ……。

 

「と、とにかく、あんたの心配してることはわかった。行きな。麦わらのルフィの元へ! 若い海兵はあたしらが殺しといたことにしておくさ」

 

「ありがとう。あと、これは知ってて欲しい話なんだけど。君たちの船ならあるいは状況を打破できるかもしれないんだが――」

 

「――ふーん。なるほどねぇ。そりゃあ、あたしらの得意分野だ。そのときが来たら何とかしてみせるよ」

 

 私は海軍の計画について口早に彼女に伝えた。

 もちろん、白ひげに伝えるつもりではいたけど、最前線の彼女にも伝えといたほうが良いと思ったからだ。

 

「それじゃ、あとよろしく! ホバーボード――」

 

 そして、私はホワイティベイの海賊船からホバーボードで飛び出して、船長の元へと空から向かって行った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「おれは知ってんだぞ! お前、海賊王になりてェんだろ! “海賊王”になるのはこのおれだ!」

 

「クソ生意気な……、足引っ張りやがったら承知しねェぞ、ハナッタレ!」

 

「おれはおれのやりてェようにやる! エースはおれが助ける!」

「おれじゃなくて、私たちで助ける、だろ? ルフィ……!」

 

 世界最強の男に一歩も引かないで啖呵を切る船長を頼もしく思いながら、私は空から彼に声をかけた。

 

「ライア〜! すげェな! もう来てくれたのか!」

 

「戦況が芳しくないんでね。情報を共有しようと思ったんだ。そちらの大将とね」

 

 私はホバーボードを操って、ルフィの隣に着地した。

 白ひげは間近で見るとますます威圧感が増しており、対峙するだけで震え上がりそうになる。

 

「ハナッタレの次は小娘か? まったく礼儀がなってねェな。最近の若ェのは」

 

「なぁ、ルフィ聞いたかい? やっぱ、白ひげって凄い海賊じゃないか! 私を小娘だって、小娘!」

 

「あっはっは! お前いっつも男と間違えられるもんなァ! 仕方ねェけど!」

 

 しかし白ひげが私を女だとすぐに認識してくれたことが嬉しくて、緊張感が一気に解けた。

 というか、ルフィ……、仕方ねェですまさないでくれ……。

 

「まぁ、それはどうでもいいんだけど、エースの処刑時刻が早まる」

 

 私はルフィと白ひげに本題を切り出した。これからの話は知っておくのと知らないのとでは大きく戦況が異なるはずだ。

 

「おっ、ライアも聞いたのか! おれもそれは教えとこうと思ってた。エースを助けてェのは一緒だからな。何かの準備のあとって言ってたけど、暗号でよくわからなかった。ライアは知ってるか?」

 

「海軍は全世界に放送している電伝虫の通信を切るつもりだ。後で結果だけ知らせるつもりでね。そして、ここからが重要なんだが、この湾岸にはそれをぐるりと囲む鉄壁の包囲壁が仕込まれているんだ。通信を切った瞬間に包囲壁を作動させ、連中は速やかにエースの処刑を実行する。ここまでが奴らの計画さ」

 

 センゴクの立てた計画は恐ろしく秀逸だった。

 地の利があるマリンフォードの特性を活かしきった作戦。これが成功するなら白ひげ海賊団と傘下の海賊たちは一網打尽に出来るだろう。

 

「驚いた。随分と詳細に海軍どもの情報を手に入れてるじゃねェか。どうやったんだ?」

 

「ライアは海軍本部にそのために行ったんだもんな」

 

「そういうこと。私はエース救出に動くはずの君たちとウチの船長をサポートする目的で色々と調べてきた。だから、上手く利用してくれると助かる」

 

 そもそも、ルフィがあまりにも遅かったりしたら、白ひげだけにでも何とかしてこの情報は伝えようと思っていた。

 彼は大海賊だけあって、指揮を取ることにも当然、長けていたし……。

 

「でけェ借りが出来ちまったな。そいつァ貴重な情報だ。助かる」

 

「いいんだ! 気にすんな! ウチの狙撃手がすげェだけだから」

「よせよ。照れるじゃないか……」

 

「ふっ……」

 

 ルフィが私を持ち上げるものだから、ちょっとだけ照れくさくなってしまった。

 だけど、船長に褒められるのは素直に嬉しい。

 

「じゃあ行くぞ! ライア! 絶対におれに付いてこいよ!」

「ああ、もちろんだ。でも、その前に……、もう一つ内緒話がある」

 

 そして、私は白ひげにあのことを伝えようと小声で話をしようとした。

 彼の命に関わることだから、伝えておかないとな。

 

「まだ、何かあるのか?」

 

「これは、信じなくてもいい。君が仲間を家族同然に想っていることは知っているからね。ただ、心のどこかで覚えておいて欲しいんだ――」

 

「――それをおれに信じろと? 奴ァ息子も同然の男だぜ……、小娘の戯言が聞けるかよ」

 

「だろうね。別にいいんだ。ちょっと覚えておくだけで。それで十分だし。じゃあ、お互いに頑張ろう。目的を果たすためにね」

 

 大渦蜘蛛スクアードの裏切りの話を彼にしたが、仲間を大事に想う彼は信じてくれなかった。

 まぁ、力説したり助けたりするほどの義理はないからこれくらいで良いだろう。

 お互いに利用し合う程度の関係だし、私は彼の仲間ではないのだから。

 

「終わったか?」

「ああ、準備オッケーだ」

 

「「行くぞ!」」

 

 そして、私は銀色の銃(ミラージュクイーン)と新たな武器を用意してホバーボードに乗ってルフィの頭上で援護の構えを取る。

 さて、今度は真正面から行くとするか……。どんな死線も天国だと感じられるような――そんな戦場(じごく)へ――。

 




最初はライアンとしてもっと長く暗躍したりするつもりでしたが、どうにも傍観者になりがちで書きにくくて全部ボツにしました。
ホワイティベイとかいう謎だらけの人をヒロインっぽくしたりしましたけど、この人多分50歳前後なんですよね〜。
ここから、ライアとルフィのタッグで頑張ります。


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頂上戦争――戦場を駆け抜けるルーキーたち

「うおおおおっ!」

 

 ルフィは雄叫びを上げながらいつもどおりの無鉄砲さで戦争の真っ只中をエースめがけて一直線に駆け抜けようとする。

 

 しかし、彼に向かって一際大きい殺気を向ける者が居た。

 私は慌てて銃口を向ける。殺気の元ではない。ルフィにだ。

 

「相変わらずまっすぐだなァルフィは――しかし、狙うのは大将の黄猿か……。気が進まないけど――碧色の超弾(ブラストブレッド)!」

 

「うわァ! 風がッ!」

 

 黄猿の光速の蹴り技がルフィを狙うよりも早く、私の風の銃弾が彼にヒットして突風によりルフィは吹き飛ばされて、黄猿の攻撃から難を逃れる。

 

「「どわああああっ! 黄猿のヤツなんて攻撃を!?」」

 

「ライア! 助かった!」

「援護は任せろって言ったろ!」

 

 幸い、大将たちの攻撃は火力があり過ぎるからなのか海兵たちが密集するポイントには仕掛けてこなかった。

 

 それでも、海軍の精鋭たちの力は強く、懸賞金3億ベリーのルフィの力を以てしても中々先へは進めないという状況だった。

 

「くっ、こいつら一人ひとりが強いぞ!」

 

「ルフィ、いちいち相手にしちゃ体力が保たない! 倒すことにこだわるな! 私が動きを封じるから遠くに吹き飛ばしてくれ! 瑠璃色の超弾(スパイダーブレッド)! 銃弾はたっぷりと用意している! それッ!」

 

 私は自分の攻撃力にそもそも期待をしていない。

 敵を倒すのではなく動きを封じることに集中しようと準備をしてきた。上空から放たれるのは粘着性の網を詰めた弾丸――。

 

「な、なんだこのネバネバした網は!?」

「くそっ! 面倒なことを!」

「上から次から次へと! 殺傷力はないのに邪魔くさい!」

 

 海兵たちは網の中でもがき、動きを一時的に封じられる。

 この戦場で動きが封じられるということは焦りを生み、冷静に動けなくなりそれがますます彼らの動きを制限することになった。

 

「これならぶっ飛ばせる! ゴムゴムのォォォ! ガトリング!」

 

「「があああああっ!」」

 

 そして、ルフィは次から次へとその強靭な拳で網に絡まった海兵たちを彼方まで吹き飛ばしてしまう。

 彼の動きに合わせて銃弾を撃つことには慣れている。このときを私はシミュレートしながらルフィと共に死線を越えていたので、彼の行動パターンは頭に刻み込まれているのだ。

 

「次々いくぞ! 合わせてくれ!」

「おう! 任せろ!」

 

 網を、炎を、氷を銃口から放ち、ルフィを徹底的に私は援護した。

 彼の行く手を阻む者たちの集中力を削ぎ落とし、ルフィが最短で道を切り拓けるように。

 ホバーボードは狙撃手が援護するにあたって最高のアイテムということがわかる。この日の私は未だに狙いを外していなかった――。

 

「麦わらボーイの動きが仲間の援護を受けて格段に良くなっチャブル」

「あの軍勢を押し退けてぐんぐん進んでいくぞ!」

「クマの攻撃も遅れている。これなら!」

 

 ルフィも戦いやすさを感じのだろう。敵が密集しているにも関わらず、縦横無尽に戦場を駆け巡り、気の向くままに立ち向かう敵に鉄拳をお見舞いしている。

 彼の力が100パーセント引き出せているなら本望だ。

 

「麦わらを討ち取れ!」

「いや、まずは援護しているレディキラーからだ」

「キシシシ! 麦わらか! また影を取ってオーズに入れてやろう!」

 

「いよいよ私まで狙い始めたか」

「くっ、それにモリアか!? 厄介だな」

 

 しかし、さすがに私が鬱陶しいことに気付いたのか、海兵たちは私も狙おうとしてきた。

 さらに王下七武海のゲッコー・モリアがルフィの影を奪い再びゾンビ兵をつくろうと目論見、こちらにゾンビたちをけしかける。

 

 私たちはゾンビたちとの戦闘を開始しようとした。

 

「来るな! ルフィ〜〜!」

 

「「――っ!?」」

 

 そんなとき、処刑台から大きな声が響く。エースの声だ。

 彼のために奮闘するルフィを見ていたたまれなくなったのかな……。

 

「わかっているはずだぞ! おれもお前も海賊なんだ! 思うがままに海を進んだはずだ! おれにはおれの冒険がある!」

 

 エースはルフィにはルフィの自分には自分の冒険があり、別の海賊同士なのだから構うなと言いたいのだろう。

 しかし、そう言われようとルフィの意志は――。

 

「ライア……」

「うん、わかったよ」

 

 ルフィの声に従って、私は匂貝(フレイバーダイアル)を敵が密集しているポイントに投げ混んだ。

 

「な、なんだ、この臭いは」

「く、臭いぞ!? ガスか何かの……」

 

 これは以前にアイスバーグのところで使った臭いだけのものとは違う。正真正銘の可燃性のガスだ。

 

「お前みたいな弱虫が! おれを助けに――」

 

「やれ」

「必殺――火薬星!!」

 

「「ぎゃああああああッ!」」

 

 ルフィの短い号令に従って私は銃弾を放つ。それはゾンビ兵の中心で大爆発を起こして、火柱がゾンビたちを葬った。

 

「だ、大爆発!?」

「エースが何か叫んでいたが、かき消されちまった!」

 

 爆発の轟音によって、何やらまだ叫んでいるエースの声は完全に消え去る。

 エースは自分の声が消されてしまって、あ然としていた。

 

「何言ってんのか全然聞こえねェ!!」

 

「――っ!?」

 

「おれは弟だ! 黙って助けられろ! エ〜〜ス〜〜!」

 

「エースも彼に理屈なんて通じないのわかってるはずなんだけどな……、こういう男だし……」

 

 ルフィはエースの理屈を聞くつもりはない。嫌なものは嫌だからだ。

 最初はルフィだってエースにはエースの冒険があるって理屈は理解していた。だけど、ルフィは彼の死が差し迫ったとき、その理屈を曲げた。

 その理由は単純明快だということを私は知っている。

 

「爆発でゾンビが一瞬で吹き飛ばされちまった! くそっ! もう一回だ!」

 

「ザババーーッ!」

「か、海水だとォ!」

 

「塩に弱いんじゃったな。お前さんのゾンビは」

 

「ジンベエ!」

 

「さすが、元七武海だなァ。すごっ……」

 

 ゾンビ兵たちの執拗な追撃をジンベエが一蹴する。

 私たちがあれだけ苦しめられたゾンビ兵を簡単に倒すなんて――地の利があるとはいえ頼りになりすぎるな……。

 漫画だと仲間になるみたいな話がでてたけど、最終的にどうなったんだろう……。

 わかる前に私は死んじゃったからなー。

 

『その男もまた未来の“有害因子”! 幼い頃エースと共に育った義兄弟であり、その血筋は――“革命家”ドラゴンの実の息子だ!』

 

「「――っ!?」」

 

「あー、そういえばそれも大事なのか、世間的には……」

 

 それからしばらくして、センゴクが放送でルフィの父親もバラした。

 確かに革命家ドラゴンって、積極的に世界政府倒そうとしてる連中の親玉だしヤバさで言えばある意味で海賊王以上だろう。

 

「ギア(サード)! ゴムゴムの巨人回転銃(ギガントライフル)!!」

 

「ぐはっ――」

 

「「うおおおおッ!」」

 

「とにかくそこに行くからさァ! おれは死んでも助けるぞォォ! 文句なら助かってから言えよォォォ! エ〜〜ス〜〜!!」

 

 巨人族の海兵を吹き飛ばして彼はエースに向かって叫んだ。

 

 ルフィがエースを助ける理由はシンプル。“弟”だから――彼は兄を助ける。それだけなんだ――。

 

 助けたあとで彼にいっぱい怒られよう……。私も君に付き合うからさ……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「かなり進んだけど、まだ遠いな」

「けど、エースには近付いてる!」

 

 それから私たちは海兵たちをやり過ごしながら確実に前に進んだが、まだまだ処刑台は遠く感じた。

 奥に進めば進むほど強い奴らが待っている。ここから先は修羅場になるだろう。

 

 ほら、厄介なヤツがやってきた――。

 

「ルフィ! スモーカーが来る! まともに相手をしても面倒だ! 三つ数えたら目をつぶってくれ!」

「目をッ!? わかった!!」

 

「麦わらにレディキラー! お前らはおれが始末する! ホワイトランチャー!」

 

 ちょっと前に挨拶したスモーカーがこっちに向かってきていた。

 最弱ロギアとか言われてたりするが、海楼石の武器も持ってるし武装色の覇気も使えない私たちにとっては厄介な相手だ。

 まともに戦いたくない私はルフィ三つ数えた後に目を瞑るように声をかける。

 

「にぃー、いち……、ゼロ! 閃光貝(フラッシュダイアル)ッ!」

 

「な、何だ! この光! め、目がァ!」

 

 空島で仲良くなったシャンディアからもらった灯貝(ランプダイアル)の上位種、閃光貝(フラッシュダイアル)を利用して私は至近距離の人間全員の目をくらませる。

 スモーカーと彼の側にいた、たしぎは余りの眩しさに目を閉じてしまった。

 

 そのスキにルフィは悠々とその横を無傷で駆け抜けることに成功する。

 

「スモーカーさん! 目が眩んで……、きゃっ!」

「大丈夫かい? 君はいつも転けるんだね。気を付けなよ。ここで死ぬのはバカらしい……」

 

 そして、私も横をすり抜けようとしたが、たしぎが足を滑らせて転んでしまったので、ついいつものように彼女を受け止めてしまった。

 

「……また、あなたですか? 正義のために死ぬことの何がバカらしいのです? 私はこの戦いに誇りを持って挑んでいます」

「そっか。でも、君が死んだら私は悲しいよ」

「――っ!? な、なんで敵なのに……、いつもあなたは――。そして、あなたと話してると胸が苦しくなる……」

「それじゃ、元気でね。たしぎ少尉……」

「この感じ……、あれ? 私はついさっきも……」

 

 彼女と何言か会話して、何か彼女がライアンのことを思い出しそうになったので、私は急いでルフィの元に飛び去る。

 でも、戦争で知り合いが亡くなるのは悲しいから――偽善だけど、きれい事だけど、死んでほしくないと思っているのは本心だ……。

 

「すげぇなライア! あんな短ェ間に色々と準備してたんだなァ!」

 

「あ、ああ、まぁね。準備は短い期間にしたわけじゃないけど……。それより、また面倒な奴だよ」

 

 ルフィからすれば私がアマゾン・リリーを出てから、この短い間に準備を済ませたように見えているんだろう。

 でもそれは違う。海に出ようと決意した日から今日のためにずっと準備をしてきたんだ。

 その割にはこの程度の戦力にしかなれないのは悲しい。

 

 理想は覇気とかマスターして、何かロギア系の実とか食べて、その力を利用して大暴れしたかったんだけど、そんな都合の良いことは起こらなかった。

 力が無いなりに何とかしようと藻掻いた結果がこれだ。

 

 ルフィの言葉に返事をした直後、スモーカーの次に私たちの前に立ち塞がったのは、今日一番厄介な相手だった。

 

「悪いが赤髪。この力、慎みはせんぞ……!」

 

「“鷹の目”!」

「手加減してくれそうにないね……」

 

 世界一の大剣豪にして王下七武海――“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク。

 強くて面倒な七武海の中でも、この人の力の底は知れない……。

 

「さて、運命よ……。あの次世代の申し子の命、ここまでか。それともこの黒刀からどう逃がす……!」

 

「あんな強ェやつと戦ってる場合じゃねェ!」

「同感だよ。とりあえず、私が盾になるから、ルフィは出来るだけ前に進んでくれ!」

「盾って、お前!?」

 

 少なくとも処刑台のある広場まで、私はルフィにはなるべくダメージを受けて欲しくなかった。

 革命軍の幹部のイワンコフに怪しげなホルモンを打たれて復活とかしていたけど、それって確か彼の寿命を引き換えにしている。

 私は彼にそんなことをしてほしくないのだ。

 

 だから、私が彼の盾になる――。

 

「まっすぐ来るか――無謀!」

斬撃貝(アックスダイアル)ッ!」

「ぬっ……! 切れぬ……、だと!?」

 

 斬撃を吸収して、それを放つ特性がある斬撃貝(アックスダイアル)

 CP9の嵐脚(らんきゃく)を防いだ実績のあるこの(ダイアル)は、見切りさえ間違わなければ、斬撃を防ぐ絶好の盾になりうる。

 

 まぁ、刀に手を差し出すのはめっちゃ怖いけど。

 

 ゾロに付き合ってもらって精度を上げたかったけど、女相手にそんな練習やってられるかって怒られたっけ。 

 

「世界一の斬撃を吸収したぞ。一発で許容量マックスに溜まっちゃったけど……。それに衝撃がヤバい……、手が折れそうだ……」

 

 一応、ミホークの斬撃は吸収できた。でもその威力は嵐脚(らんきゃく)の何倍もあったみたいで、許容量は一撃で最大になってしまった。

 彼の斬撃は適当にそのへんの海兵にばら撒いとこ……。

 

「大丈夫か!? ライア!」

 

「あんまり大丈夫じゃないよ〜。うわっ! 今度は吸収しきれなかった。手から血が……!」

 

 二撃目は吸収しきれずにちょっと手が切れちゃった。

 ああ、この人が本気出したらこれじゃ吸収出来そうにないな……。

 

「ふむ、これでもなお切れぬか。丸腰の女に力を込めて斬りかかるのは気が引けるが――」

 

「しゃがめ! ルフィ!」

「――っ!?」

 

「デカい氷塊が真っ二つに――あんなの吸収するのは無理無理……」

 

 そんな予感がありありとした三撃目……。剣圧だけで巨大な氷山がきれいに二等分されてしまった。

 それを見て私は首をブンブン横に振って身震いする。

 

「やっぱ二人で!」

「一度、やるって言ったこと投げ出せるわけないだろう! 先に行くんだ、ルフィ! 吸収した斬撃を返してやる!」

 

「ほう、おれの斬撃がそのまま返ってくるのか。やはり面白き女だ」

 

 今度はミホークから吸収した斬撃を彼に放ってみた。

 しかし、彼は涼しい顔をしてそれを弾いて、楽しそうに私を見ている。余裕そうな顔しちゃって……。

 

「ちっ! 当たり前だけど、まったく効果なしか! 手数がだんだん増えてくる。くそっ、全然ヤツは本気じゃないのに――」

 

「トドメだ! 船長を逃がせたことを誇れ!」

 

 そして、彼の容赦ない斬撃は私の読みの力でも捌き切れなくなり、ついに私は自分が切られてしまうことを覚悟した。

 

「ゴムゴムのォォォ! JETエスケープ! ぐはっ!」

 

「ルフィ! なんで戻ってきたんだ!?」

 

 しかし、私は無事だった。ルフィがギア(セカンド)を使って高速移動しながら、私を庇いながら、私の体を上方に放ったのだ。

 

「もう、おれは船員(クルー)を失いたくない! 船長命令だ! 一緒に逃げ切るぞ! ライア!」

 

「まったく、君ってヤツは。仕方ない、チャンスは一度切りだぞ。あの“鷹の目”の油断を逆手に取るんだ」

「よしっ! わかった!」   

 

 ルフィは私を見捨てない。言い聞かせても聞いてくれない。

 ならば、あの自分を格上だと信じて止まない髭男をびっくりさせてやろうじゃないか。

 私とルフィは目で合図して頷いた――。

 

「――集中……、集中……。あいつが斬撃を繰り出す直前なら、威力は半分以下だ……。それを止める! ――未来視ッ!」

 

「二人がかりとて、無駄なこと――」

 

「今だ! ルフィ!」

「止めた!? 先程までとは読みの深さがまるで違う!?」

 

 集中力を極限まで高めることで発動する未来視――冒険に出た頃は数秒かかっていたのだが、今では一秒くらいで発動することが出来るようになっていた。

 それでも、戦闘中だと長過ぎるくらいだが、何とかミホークが斬撃を放つ瞬間を見極めてそれを止めることに成功する。

 

「ゴムゴムのォォォ! JETスタンプ!!」

 

 ルフィは私が動いた瞬間には既に技の準備をしていて、天高く振り上げた彼の足は、ミホークの剣を踏み落としたのだった――。

 

「ふっ……、見事なり。若き力よ」

 

「あの“鷹の目”が! 剣を落としたァ!?」

「あのルーキー二人がやりやがった!」

「信じられねェ! 実力は完全に“鷹の目”が上だったのに!!」

 

 ミホークはなぜか剣が叩き落とされたのにも関わらず、満足そうに笑っていた。

 

「よし、行くぞ! このスキに!」

「ああ、助かったよ。ありがとう、ルフィ」

「仲間を助けるのは、当たり前だろ?」

 

 彼は追ってはこなかった。どうやら、白ひげ海賊団の五番隊隊長にして二刀流の剣士――花剣のビスタと相見えているみたいだ。

 もしかして、あのまま苦戦していても漫画みたいに助けてもらえたのかな? でも、それを全部信じて行動するわけにはいかないもんなー。

 

 

「海軍の攻撃が大詰めを迎えてきたな。ルフィ、あれを覚えてるか?」

「シャボンティ諸島にいたくまみたいな奴、あんなに沢山!?」

 

 “鷹の目”の執拗な攻撃を振り切った私たちは、後方から大量のパシフィスタがこちらに向かって戦闘態勢を取っていることに気がついた。

 そして、それらは一斉放火を開始する。背後からの攻撃って効くんだよな。こういうとき……。

 

「後方の敵に構うな野郎共! 一気に広場へ攻め込むぞォー!」

 

「全隊ただちに氷上を離れろォ! 海賊達を決して広場にあげるな! 全ての映像が切れた時点で“包囲壁”を作動! その後すぐにエースの処刑と共に敵を一網打尽にする!」

 

「エースがやべェ! 急がねェと!」

 

 センゴクがエースの処刑を早めることを遂に宣言して、ルフィは焦りの表情を浮かべた。

 海軍はここから一気に勝負を決める気だ。

 

「ルフィ! 黄猿だ! こっちに手を伸ばせ!」

 

「レディキラー、君も邪魔だよォ〜〜」

 

「ちっ!」

 

「逃げだけは上手いねェ〜〜」

 

 さらに黄猿は私やルフィに目をつけて攻撃しようとする。

 彼が技を放つ前に避けないと速すぎて避けられないので、黄猿の技を回避するには神経がとにかく削られる。

 

「ライア! くそっ大将が出てきた!」

「今度こそ私に構うな! 行け!」

「だから行けねェ!」

 

「ルフィくん! ライアくんの言うとおりじゃ! 今は急がねば! 手強い敵がでてくるのは承知じゃったろう!」

 

 私が囮になると言ってもやはりルフィはイエスと言ってくれない。

 ジンベエは私に同意してくれるが……。

 

 そのときである。白ひげ海賊団のメンバーが私たちの横を振り切った――。

 

「エースの弟! まだまだ元気なんだろ!?」

「えっ?」

「仲間と一緒に大将一人に止められてんじゃねェ! 一緒に来い! 海兵どもが退いてく今がチャンスだ! 一気に突破するぞォ!」

 

「こりゃあ百人力……」

 

 何と彼らは私たちを同志として扱い、一緒に行こうと声をかけてくれたのだ。

 ジンベエの言うとおり、これは百人力である。

 

「負けてらんないって思うだろ? ああやって、先に行かれると」

「ああ、エースを助けるのはおれたちだ!」

 

 一緒に同じ目標に向かって突き進む者たちがいる。全然知らない人たちだけど、それでも心強いって気になれるよ――。

 

 しかし、私たちが処刑台のある広場に肉薄しようとしていたとき、事件は起こる。

 

「――オヤジィィィ!!」

「白ひげが刺されたァァァ!!」

 

「貫かれたのは腕か……、忠告してれば避けられると思ってたけど……」

「おっさん……」

 

 漫画と同じように、スクアードが白ひげを刺したのだ。まぁ、刺されたのは腹じゃなくて腕だから比較的に軽傷なんだろうけど。

 

 そこから先は概ね漫画と同じ展開だ。

 

 傘下の海賊の首を売ってエースを助ける約束をしたと疑われた白ひげはグラグラの実の力を使って、退路を作ることで疑いを晴らした。

 

「海賊なら! 信じるものはてめェで決めろォ! おれと共に来る者は命を捨ててついてこい! 行くぞォーーーー!!」

 

 白ひげの表情からは鬼気迫るものを感じた。彼の覇気は今、この場にいる誰よりも強い……。

 

「こっちに飛んでくる。おっさんが」

「すごい跳躍だね」

 

 そして、彼は信じられない跳躍力を見せて、私たちの近くまでジャンプしてきた。

 腹を刺されてないからなのか、フィジカルは漫画よりも強いのかな……。

 

「小娘、悪かったな。せっかく忠告してもらったってのに、刺されちまったぜ。間抜けな話だ。って、何やってやがる!」

 

「ん? 応急処置だよ。君に頑張ってもらわなきゃ勝てないし」

 

 白ひげが私に話しかけてきたので、それを聞きながら私は持ってきた応急処置グッズで彼の腕の止血をして包帯を巻いた。

 何かこの人、良いことをしてあげてるのに嫌な顔をするんだけど……。

 

「ふてぶてしい、ガキだぜ。エースのヤツのほうがよっぽど可愛げがある」

 

「あはは、避けられなかった方が悪いんだ。私に文句を言うのは筋違いだろ?」

 

「ちっ! んで、ホワイティベイのやつに頼んでるのか? 包囲壁の件」

 

「ああ、仕込みが成功してるならチャンスだよ。この戦争で最大のね」

 

 私はルフィのところに行く前にホワイティベイにも包囲壁が仕込まれていることを話しておいた。

 記憶ではこの包囲壁はリトルオーズの血液が入っただけで誤作動を起こすお粗末なシステムで動いてるみたいだから、予め知っておけば包囲壁の作動を抑制できるのではと考えたのだ。

 

 それ故、ホワイティベイの海賊船はこの戦争の最中、こっそりと包囲壁の作動を抑制するために動いている。

 

「そうか。じゃあ、一つ忠告しといてやる! 今からひと暴れするから、おれから離れな。ハナッタレと一緒に!」

 

「やばっ! ルフィ急ぐぞ! 向かう方向はあっちだ!!」

 

 世界最強が暴れだす。グラグラの実の能力はとんでもなく、巨人族の海軍中将をひっくり返すだけにとどまらず、この島全体を――傾けたのだ!

 

「な、なんだ!? 地震どころじゃねェ!」

「島ごと海も! 傾いて!?」

「うはぁっ! 立っていられない!」

 

「やれェ〜〜! オヤジィィ! 処刑台ごと!」

 

 余りの衝撃に地に足をつけている者たちは立っていられなくなっていた。さらに白ひげが大気を殴りつけると、その凄まじい振動の力は処刑台まで一気に突き進む――。

 

「「――っ!?」」

 

「処刑台には当たってない?」

「何で逸れたんだ?」

 

「どうやったんだろ? あの人たち……」

 

「「三大将!」」

 

 だが、それで処刑台が崩れるほど甘くない。

 青キジ、黄猿、赤犬の三大将は両手を前に突き出して、白ひげの凄まじい攻撃をいなしたのだ。何でなのかわからないけど。

 

「ライア! エースの処刑台はあっちだぞ!」

「いいんだ、ルフィ! この方向が最短コースだ!」

 

「野郎共! 話したとおりだ! 突っ込め!」

 

 私はルフィにホワイティベイの海賊船がある方向を指し示し、白ひげもそちらに動くように手下たちに指示を出す。

 

「壁がせり上がってくるぞ!」

「くそっ! ここに閉じ込めて包囲する気か!」

「いや待て! オヤジが指示した方向だけ!」

「壁が上がっていない!?」

「そして、リトルオーズが倒れているところも!?」

 

 センゴクの指示で包囲壁が作動するも、二箇所ほど作動していない箇所があった。

 一つはリトルオーズが倒れている場所。そしてもう一つは、その倍くらいの範囲に渡ってがら空きになっている、ホワイティベイの海賊船の付近である。

 

「おい! なぜ完璧に作動しない! 何事だ!? くそっ! 始めろ、赤犬!」

 

「流星火山!!」

 

「うわぁあああッ! 氷が溶けて足場が!」

「熱ィ! 海が煮えたぎってる!」

 

 センゴクはこの状況に焦りながらも、赤犬に広範囲に渡ってマグマグの実の力で攻撃をするように指示を出した。

 

 その威力は凄まじく、足場だった氷は溶けて、さらに海水は湯だって地獄のような状況を生み出した。

 

「やぁホワイティベイ! やってくれたんだね」

 

「こんなの朝飯前って言いたかったんだけどね。この広さが限界だったよ。なんか、女の海兵ばかりがやたらと攻撃してきてさ」

 

 私はようやくホワイティベイの海賊船の近くまで辿り着いて彼女に挨拶した。

 へぇ、女の海兵ばかりがねぇ。何でだろう?

 

「ライア! 早くここから中に!」

 

「せっかちなところは兄貴にそっくりだねぇ。麦わらのルフィ。何も話していないのかい?」

 

「言ったところで自重する人じゃないんでね。そろそろ頃合いだ。ルフィ。飛び乗るぞ!」

 

「「――っ!?」」

 

 ルフィは早く包囲壁が作動していない箇所から広場に入ろうと私を急かしたが、それはまだ早い。何故なら迎えが来るからだ――。

 

「船だ〜〜! まるで包囲壁の作動が失敗する場所がわかっていたかのように!」

「コーティング船をそのすぐ側に海底で潜ませてやがった!」

 

「情報提供の礼だ! 乗ってけ! ハナッタレと小娘!!」

 

「おっさん!」

「お邪魔するよ。白ひげ海賊団」

 

 そう、白ひげは切り札としてコーティング船を海底に一隻潜ませていたのだ。

 そして、ホワイティベイの船の近くまでそれを動かしており、包囲壁の発動とともに広場に突入しようと作戦を立てていたのである。

 

 私の話を聞いただけでここまで見事に状況に適応した柔軟な判断が出来るなんて……、この人の下に人が集うのは当たり前だな……。

 その上、仲間を何よりも大事にするんだから――。

 

「“外輪船(パドルシップ)”です! 突っ込んできます!!」

 

「沈めろ! モビー・ディック号のように! 撃て〜〜!!」

 

 白ひげたちと私とルフィを乗せた“外輪船(パドルシップ)”が広場に侵入するのに対して、呆気に取られた海軍だったが、少し遅れて砲弾をこちらに向かって放ってきた。

 

「遅い! おれを誰だと思ってるんだ!?」

 

「砲弾がすべて砕かれました〜〜!」

 

 しかし、白ひげは即座にグラグラの実の力を発動させて、すべての砲弾を粉々に砕いてしまう。

 何度見てもデタラメな力だ……。

 

「おれァ白ひげだ!! 野郎共! エースを救い出し! 海軍を滅ぼせェェェ!!」

 

「「うおおおおおっ!」」

 

 白ひげは自信たっぷりに、誰もが知っている通り名を叫び、手下たちの士気を最大限に高めた。  

 よし、ここまでは想定どおりだ――。

 

「ルフィ……、ここからが本番だぞ! 体力は残ってるか?」

「ああ! ほとんど疲れちゃいねェ! 必ずエースを助ける!」

 

 私とルフィも処刑台が間近に迫っていることと、本当の強敵たちが目と鼻の先にいることを感じながら、もう一度エースを必ず助けることを誓いあった。

 三大将に、ガープとセンゴクかぁ……。でも、ここまで来たんだ。

 全部出し切って、必ず生き残って、ルフィの目的を達成する。

 そして、私の目的もあわよくば――。

 

 ここから、文字通りの死闘が幕を開けた――。

 




何か書いてて思ったよりサクサクとルフィとライアが先に進んでいて驚いている。
白ひげは過去編を読んでめっちゃ好きになった。苦労してるよな〜、この人……。
いろいろと描写がテキトーになっていてスマン!


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頂上戦争――エース救出大作戦

「よし、ルフィ準備オッケーだ。白ひげたちに遅れを取らないようにするぞ!」

 

「ら、ライア! それすっげェカッコいいな! 何かメリー号に似てるぞ!」

 

 私は新たな武器である黒色の大筒(シャドウエンペラー)を取り出す。

 メリー号のような装飾を施したバズーカー砲で私は火力不足を補うつもりだ。

 (ダイアル)とフランキーの技術によって実現したこの武器は弾数は少ないがそれなりに強い。

 

「うん。フランキーと一緒に作ったんだ。海軍本部でコーラをたくさん補給しておいて良かった。これが私の新しい武器――“ガオン砲・メリーVer(バージョン)”だ! これで道を切り開く!」

 

「――っ!?」

 

 サニー号のガオン砲に近い威力の砲弾は海軍の精鋭たちをも吹き飛ばして道を切り開いた。

 連射が出来ないのが難点だけど、私の弱点はかなり補えたはず……。

 

「おおおおおおおッ!」

 

「涙を流すほどかい? さすがはフランキーだ。いい仕事をしてくれたな」

 

 ルフィは涙を流して格好いいと褒めてくれた。

 私はメリー号と戦えたような気がして少し嬉しい。よし、このまま突き進むぞ――。

 

 と、思ったのも束の間……目の前に現れたのは、先日私を氷漬けにしてくれた青キジ――“海軍本部”の大将だ。

 

「まずは鬱陶しいお前さんから死んでもらおうかねぇ。今日は前みたいに加減してやらねェぞ。レディキラー」

 

「――青キジ!?」

 

 青キジは明らかに私を狙っている。彼は見聞色の覇気を駆使して、私の動きを捉えようとした。

 

「ギア(セカンド)ッ! やらせるかァあああッ!」

 

「お前らにゃ、このステージは早すぎるよ……」

 

 ルフィが折れた柱をぶん投げて私を助けようとしてくれたが、彼はいとも簡単にそれを凍らせる。

 そして、再び私を狙ってきた。

 

「だとしても! 私たちは引くことを知らないからねェ。必殺! 鉛星ッ!」

「ゴムゴムのォォォ! JETガトリング!」

 

「あらら、無鉄砲すぎる。そんなことをしても――」

「無駄なことだと思うじゃん」

「んっ? この臭いは……」

 

 私はこの処刑場の至る場所に匂貝(フレイバーダイアル)などを仕込んでいた。それを鉛星で破裂させることで青キジの周りはガスが充満する。

 

「これが、私のガオン砲のもう一つの決戦機能! 燃焼砲(バーンバズーカ)だッ!」

 

 炎貝(フレイムダイアル)匂貝(フレイバーダイアル)、さらに風貝(ブレスダイアル)を合わせて、ガスを一直線に噴出してそれを点火することで、灼熱の火柱を発生させることが出来る私の2つ目の切り札――。

 青キジだってこれにまともに当たれば、無傷ではないはずだ。

 

「な、なんつー威力だ」

「エースの火拳みてェなのを出しやがった」

「こりゃあ、青キジだって……」

 

 青キジは私の作り出した火柱に飲み込まれた。

 氷結人間とて、炎の攻撃を不意打ちで受ければ、タダでは済まないはず――。

 

「――っ!? 何で私の後ろに?」

 

「――いい腕をしてる。まさかてめェに傷を負わされるとはな」

 

 青キジは肩から血を流しながら私の背後に回って攻撃しようとしていた。

 嘘でしょ。完全に油断してたと思ったのに――。

 

「あれ? タイミングばっちりだと思ったのになァ」

 

「こちとら、死線を幾つも越えてんだ。あんな臭いを発生させといて、警戒しねェ方がおかしいだろ? 掠らせただけでも大したモンだ。お疲れさん」

 

 青キジの戦いの勘とやらは私の力を大きく上回っており、攻撃を見事に躱していた。

 あー、まずいな。彼から一撃もらうと私は即ゲームオーバーだ。

 

「やらせねェよい!」

 

「――っ!? き、君は白ひげ海賊団――一番隊隊長の……、なんで?」

 

 もう駄目だと思ったとき、白ひげ海賊団の一番隊隊長の“不死鳥マルコ”が私を助けてくれた。

 いや、なぜこの人が私を? 絡んだことないんだけど……。

 

「オヤジは義理堅い男だ。恩を受けた、お前さんたちを死なすなという命令を守っただけだよい!」

 

「そっか。随分と高く売れたもんだ。ありがとう」

 

「行けよい。エースの弟を守るのがお前の役目だろい」

 

 彼は白ひげの命令で私を助けたと言う。ありがたいけど、大将の相手を押し付けたのは気が引けるな……。

 でも、私じゃあの人の相手はどうにもならないし……。

 

「いやァ、参ったよ。危うくまた氷漬けにされちゃうところだった」

 

「ライア! 無事で良かった!」

 

「しかし、次に大将と対峙したら私たちの命も危ないかもしれないね」

 

「麦わらのルフィ……、レディキラー・ライア……。排除する……」

 

 再び処刑台に向かうルフィと私だが、危機は終わらない。

 パシフィスタが私たちの前に立ちふさがったのだ。

 いや、こいつを倒すのも相当面倒なんだけど……。

 

「クマに似た奴!」

「まったくいちいち厄介だな……! んっ? は、ハンコック?」

「あ、危ねェぞ!」

 

 そんな折、ハンコックが飛び出してパシフィスタと私たちの間に入り込んだ。

 な、なるほど、そういうことか……。

 

「………」

 

「攻撃中止……」

 

 パシフィスタは味方と識別したハンコックへの攻撃をストップした。

 ふぅ、助かった。ありがたいことだ……。

 

「ありがとうハンコック」

 

「はぁ……、ま、また名前を呼んで……」

 

 ルフィが彼女にお礼を言うとハンコックは頬を赤らめて感激している。

 

 よし、もう少しで処刑台だ。行くぞルフィ。

 

 

 ルフィと私は前線で戦っている白ひげたちにようやく追いついた……。

 

 

「なんだ小娘、ハナタレを連れてここまで追いついてきたのか」

 

「おかげさまでね。傷は大丈夫かい」

 

「――大丈夫か、だとォッ!!」

 

 私が白ひげの体を気遣った言葉をかけると彼は怒りながら、巨大な薙刀を振るった。

 なんていう威力だ……。世界最強って言われてたけど、この人、病人だよね? 

 海兵たちは次々と吹き飛ばされる――。

 

「「うわァああああッ!!」」

 

「ガキに心配されるほどおれァ落ちぶれちゃいねェ!」

 

 どうやら私が心配したことが彼の逆鱗に触れたらしい。

 確かにちょっと失礼だったかもしれない。

 

「確かに生意気なルーキーだ」

「オヤジにゃ、おれたちがついている」

「てめェら、てめェらで勝手にやってな」

 

「行くぞライア! もう立ち止まらねェ!」

 

 ルフィは今までになく真剣な表情で私に早く進むように促した。

 うん。一気に決着をつけよう。エースを救出するのに手こずっている場合じゃないしね……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「やめろォ〜〜〜〜〜ッ!!」

 

「こ、これは覇王色の覇気……」

「考えてみれば当然の資質だっチャブル……道理で人を惹き付ける」

 

 エースの処刑が巻きで執行されようとしたとき、ルフィは覇王色の覇気を無意識で発動させて、それを阻止した。

 

「ただのルーキーだと思うな! 全力で叩き潰せ!!」

 

 海兵たちはルフィをより警戒して彼を狙おうとしている。

 覇王色の持ち主ってだけで、これだけ警戒されるのか……面倒なことになったな……。

 

「白ひげも弱ってる! こっちのケリを付けるぞ!」

「何としても薙ぎ倒せ!」

 

「ナメるなァ!!」

 

「「ぎゃあああああッッッッ!」」

 

「野郎共ォ! 全力で麦わらを援護しろ!」

 

 ルフィに対する攻撃が増え始めたとき、白ひげは手下たちに命令する。

 彼を援護するように、と。すごいなぁルフィは、こんなにも人を惹き付ける才能があるのだから……。私にはとても真似できないよ……。

 

「ルフィ! おそらくこのチャンスが最後だ。みんなが君にベットする。大将たちが来る前にエースを助けるぞ!」

 

「おう! まだまだ走れるぞ! うおおおおおッ!」

 

 ルフィはさらに勢いを増してエースの元に急いだ。これなら何とか間に合いそう――。

 

 とっておきのアレの出番だ――。

 

 

「よし! ルフィ! これから君を処刑台まで飛ばす! 派手に暴れてくれ!」

 

「ら、ライアッ!?」

 

「必殺ッッッ! JETロケット彗星ッッッッッ!」

 

「うっはァ! すげェ! これならエースのとこまで行けるぞ!」

 

 私はルフィの背中にロケットを取り付けた。処刑台まで飛ばせるように。

 彼にはコツがいるホバーボードには乗れない。だから、私は彼を発射してエースの元に届けようと考えたのだ。

 

「凄い勢いで空中に! 何てことを!」

「麦わらが向かった! 撃ち落とせ! ダメだ的が定まらない!」

 

「うわああああああッッッ!!」

 

 空高く打ち上がったルフィは物凄い勢いで処刑台に突っ込む。

 処刑台にいるのは、センゴクとそして――。

 

「ルフィ! この先に行かせるわけにはいかん!」

 

「じいちゃん……! そこをどいてくれ!」

 

 伝説の海兵ガープがルフィを迎え撃とうと拳を構えた。

 エースを救うには難関だらけだ。普通なら勝ち目のない相手だけど、彼には迷いがある……。

 

「どくわけに行くかァ! わしは“海軍本部”中将じゃ! ――なんじゃああッ! 邪魔するのは!? ――あっ!?」

 

「行け! ルフィ!」

 

 私もホバーボードで空中へと飛び上がり、空から“ガオン砲”をガープの顔面に叩きつけて注意をこちらに向けた瞬間にルフィは彼の横をすり抜けてエースの元に到着した。

 見聞色の覇気でガープの精神状態を探ったけどガタガタだった。私の不意討ちに当たってしまうくらい……。

 

「エ〜〜ス〜〜!! 助けに来たぞォォォ!!」

 

「ルフィ……!」

 

 エースはついに側にたどり着いたルフィに驚きを隠せない。

 たくさんの人間が彼を援護することで成し遂げた奇跡みたいなものだから仕方ない。

 まぁ、それだけエースを救いたいという人が多いんだけど……。

 

「馬鹿が! 鍵もなくどうやって助ける! 貴様も私の手で処刑する!」

 

「逃げろ! お前まで!」

 

 ルフィが大立ち回りに対して、センゴクは鍵の有無について言及する。

 エースは彼に逃げるように言っているが、実はもうその心配は終わった話である。

 

「鍵ならあとは回すだけだァ〜〜!」

 

「「――ッ!?」」

 

「い、いつの間に!? 鍵が錠にピッタリとハマって……!?」

 

 なぜなら、すでにエースの手錠にはピッタリと鍵が刺さっているのだから。

 ルフィをロケットで飛ばして派手にエースの元に届けたのには意味があるのだ。

 

「もっと空からの射撃には注意したほうがいい。必殺ッッ! 脱獄星だッッッ!」

 

「あ、あいつ鍵を撃ったのか!? ルフィに視線が集中したその瞬間に!?」

「しっしっしっ! ウチの狙撃手はすげェだろ!?」

 

 そう、私は鍵をシャボン玉で包み込み銃弾としてエースの手錠の鍵穴にハマるように撃ちだした。

 アリの眉間だって、私は狙える。止まっている的に当てるなんて造作もない。

 

 ただ、面倒な連中の意識だけは逸れて欲しかった。ルフィを陽動に使ったのにはそんな理由がある。

 

「ちっ! まさかお前らに助けられちまうとはな!」

「エ〜〜ス! 助けられて良かった!」

 

 ルフィは手早く手錠の鍵を開けてエースを助け出す。

 センゴクはあまりの展開にあ然としていた。

 

「火拳のエースが解放されたァ〜〜!」

 

「やったぞ! 麦わら!」

「エースを奪い返しやがった!」

 

 海兵たちは悲痛な声を出し、白ひげの陣営の士気は上昇した。

 しかし、大事なのはここからである。この修羅場から退却しなければならないのだから……。

 

「再会を喜ぶのは後にして逃げてもらえないかい?」

 

「まさか、お前がルフィの無茶にここまで付き合ってくれるなんて思わなかった」

 

「君は前に私のことを彼の世話焼き係って言ったじゃないか。係の仕事をこなしたまでさ」

 

「だっはっは! お節介もそこまでくると笑えるぜ! “火柱(ひばしら)”ッッッ!」

 

 エースはルフィの世話焼き係の仕事をこなしたと答えた私を見て笑い。一瞬のうちに処刑台を炎上させてしまった。

 

 やっぱり自然(ロギア)系は半端ないな……。

 

「さて、ここから今度は逃げ切らなきゃいけないのか……。まったく厄介だよ……」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「お前らとおれはここで別れる! 全員必ず生きて!! 無事新世界へ帰還しろ!!」

 

「白ひげが背水の陣で殿を務める、か……」

 

 海軍本部からの退却は熾烈を極めた。やらかした大渦蜘蛛のスクアードが戦場の殿を名乗り出て突撃をしようとしたが、白ひげがそれを止めて、自らが海軍の足止めをすると宣言した。

 

 そして、“最後の船長命令”として仲間たちに無事に逃げろと叫んだのだ。

 

 彼からは決死の覚悟というものを感じる……。

 

「オヤジ……!」

 

「行けェ!! 野郎共ォ〜〜〜!!」

 

「イヤだ! オヤジ! 一緒に帰ろう!」

「何言ってんだ! それじゃまるでオヤジが!」

 

「船長命令が聞けねェのか!? さっさと行けェ! アホンダラァ〜〜!!」

 

 白ひげ海賊団や傘下の海賊たちは当然、白ひげの身を案じて逃げることを憚ったが、彼の決意は固い。

 それを感じ取ったのか、皆は撤退を開始した。

 

 

「エース! 行こう! おっさんの覚悟が」

「君の気持ちはわかるが……白ひげの気持ちもわかってるんだろ? 私たちよりも」

 

「わかってる。オヤジの覚悟は無駄にはしねェ!」

 

 エースは撤退することを飲み込んだ上で周囲の敵を一層して、白ひげに向かって土下座した。

 最後の挨拶をするということか……。

 

「エース、一つだけ。言葉は要らねェが――おれがオヤジで良かったか?」

 

「勿論だ!」

 

 白ひげとエースは血のつながりはないけど、家族以上の絆があると私は確かに感じ取れた。

 私は本当の親父とそこまでの絆はないもんなぁ……。

 

 

「ルフィ、エース……君たちは特に急げ。海軍は君らを徹底的に狙うから! “ガオン砲”ッッッ!」

 

 私は最後の“ガオン砲”を放って退路を作る。ルフィとエースには助かってもらわなきゃ、私も後味が悪い。

 特にルフィの目の前でエースが死ぬなんてことは止めてほしい。それは阻止しないと……。

 

「軍艦を奪ったぞ〜〜! 早く乗れェ〜〜!」

 

「「ぐわぁァァァ!」」

 

「危ねェ! 赤犬だ!」

 

 私はかなり急いで退却を促したつもりだが、大将赤犬はとんでもない火力のマグマの一撃を放ちながらこちらに近付いてくる。

 さて、と。私が彼を足止めするのは無理ゲーだから……。

 

「エースを解放して即退散とは、とんだ腰――」

「そういう煽り文句とか要らないんだ。赤犬ッ! 必殺爆音星ッッッッッ!」

 

 私はそこら中に仕込んである音貝(トーンダイアル)を発動させる。  

 音貝(トーンダイアル)には爆裂音から大音響までありとあらゆる雑音を吸収させていた。

 

 戦場はまたたく間に大きなノイズに包まれた。

 

「「――ッッッ!?」」

 

「うるせェ〜〜〜!?」

「頭が割れる! なんだ、この音は!?」

「耳がジンジンする〜〜!」

 

 漫画では、赤犬の煽り文句に激怒したエースが彼に特攻して、その後ルフィを庇って死んでしまった。

 私は大きな音を発生させて海兵たちの気を逸らしただけでなく、赤犬のくだらない台詞をエースに聞かせないようにしたのだ。

 

「な、なんだ……?」

 

「と、とにかく今のうちに!」

 

「よしっ! 逃げ切れそうだ!」

 

 ルフィとエースは足を止めずに撤退している。これなら何とか逃げ切れるかもしれない。

 

「逃がすつもりはないけぇ! ああ、うっとうしいのォ!」

 

「赤犬が追って来たァ〜〜!」

 

 しかし、大きな音くらいで諦めてくれる赤犬じゃない。すぐにこちらに狙いを定めて、こちらに向かってきた。

 

 赤犬を何とかしなきゃ撤退は無理かもしれない……。

 

 その上、トラブルは続く――。

 

「おいっ! 海軍要塞の裏に何かいるぞ!?」

「それだけじゃねェ! 処刑台の上にも!? 誰だ!?」

 

「ゼハハハハ! ようやく気付いたか!? 久しいな! ……死に目に会えて良かったぜ! オヤジィ!!」

 

 そう。ついに奴らが現れたのだ。この戦争を起こした元凶と言っても良い人物とその仲間――黒ひげ海賊団が。

 

 頂上戦争はついに佳境へと突入した――。

 




なんかね、この小説書き始めたときはエース死亡ルートにする気満々だったんだけど、書いてみると出来ないものですね。

たくさん面白い作品のある中でまだ拙作を読んでくれてありがとうございます!
更新頻度は遅くなりますが、頑張りますのでよろしくお願いします!


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頂上戦争――決死の逃亡劇

待ってくれてる人がいるか不明ですが、お待たせしました。
色々と迷ったんですけど、もう書きたいところだけ書こうかなって。
言い訳です。すいません。


 

「海賊 "巨大戦艦サンファン・ウルフ"!」

 

「あ……、見つかっつった上にバレつった……」

 

 山みたいな大男が海軍本部の建物の裏からひょっこり顔を出していた。

 こんなデカイやつをどうやって幽閉してたんだ……。

 

「"悪政王アバロ・ピサロ"!」

 

「懐かしいシャバだニャー……」

 

「"大酒のバスコ・ショット"!」

 

「トプトプトプ……! ウィ〜、こいつら殺してええのんか?」

 

「"若月(みかづき)狩りカタリーナ・デボン"!」

 

「ムルンフッフッフッ、あなた達もスキねェ」

 

「――そして! インペルダウンの"雨のシリュウ"看守長!」

 

「一体どうなってるんだ!?」

 

 個性的な"LEVEL6"の囚人たちとインペルダウンの看守長までが黒ひげについており、海軍も混乱しているみたいだ。

 

「シリュウ! 貴様……! マゼランはどうした!? インペルダウンはどうなった!? 貴様らどうやってここへ来た!?」

 

「後でてめェらで確認しな……ともかくおれは……コイツらと組む。以後よろしく」

 

 センゴクは特にシリュウにご立腹みたいだな。無理もないか。裏切り者なんだから。

 

 黒ひげ、マーシャル・D・ティーチはインペルダウンに侵入するために七武海に入った。

 そして、強い仲間を手に入れるという目的が達成された今、七武海の称号は要らないと宣う。

 

「ティーチィ~~!!」

 

「危ない! 船長!」

 

「「――ッ!?」」

 

「容赦ねェな……! あるわけねェか!」

 

「……てめェだけは息子とは呼べねェな! ティーチ!! おれの船のたった一つの鉄のルールを破り……お前は仲間を殺した」

 

 白ひげは怒っていた。エースを捕まえた海軍に対しては見せなかった怒気を感じる。

 大気を通じてビリビリとした覇気が私の身体を自然に震え上がらせた。 

 気をしっかり持たなきゃな。意識ごと持ってかれそうだ。

 

 

「「オヤジッ!」」

 

「黒ひげッ! 今度こそおれが決着をつけて……」

 

「マルコ! エース! 手を出すな! 4番隊隊長サッチの無念! このバカの命を取って おれがケジメをつける!」

 

「ゼハハハハハ! 望むところだ!」

 

 マルコとエースが勇み足を踏むが白ひげはそれを許さない。  

 彼は自分だけでケジメをつけると更に覇気を剥き出しにした。

 

「"闇穴道(ブラックホール)"!」

 

「サッチは死んだが……エースは助け出せて良かったじゃねェか。オヤジィ――だが、思ったとおり、あんたはボロボロだ」

 

「――ッ!?」

 

「おれはアンタを心より尊敬し……憧れていたが……! アンタは老いた! 処刑されゆく部下一人を救っただけで半死人になるほどにな!」

 

 黒ひげはヤミヤミの実の能力で白ひげに肉薄し、彼の衰えを口にする。

 全盛期の彼がどれ程のものか知らないが、死にかけでこれだけの膂力を見せつけるのだ。世界最強に相応しいだけの力を持っていたのだろう。

 

「あの野郎! もう許せねェ! オヤジのことを侮辱しやがって!」

 

「…………」

 

「どけ! ルフィ! おれはティーチを黙らせてくる!」

 

 エースが飛び出そうとするのを無言で制するルフィ。

 エースは血管が弾けそうになるくらいの剣幕でルフィに怒鳴る。

 

「オッサンは手を出すなと言った。これは、白ひげのオッサンの喧嘩だ」

 

「わかってる! そんなこと! けど、おれァあの人を見捨てられねェ! あの野郎を許せねェ!!」

 

「おい! エース待て!」

 

 ルフィの理屈などエースだって承知してるのだろう。

 だが、彼は許せなかった。白ひげが死ぬのを傍観することも、何よりも黒ひげが好き勝手することが。

 

「来るんじゃねェって言ってるのが、まだわかんねェか! アホンダラァ〜〜!!」

 

「――ッッッッッッ!?」

 

「お、オヤジがエースを攻撃した? いや、吹き飛ばした!?」

 

 槍を振るい、白ひげは近づいてきたエースをこちらに向かって吹き飛ばす。グラグラの実の力が封じられているにも関わらずにだ……。

 黒ひげとの戦闘中なのに……、そんな余裕はないはずなのに……。

 

「エース! てめェはやっぱりあの男のガキだ! 気が短くて、無鉄砲!」

 

「オヤジ……」

 

「あいつァ! お前のことを待っている! ここで死んでもいい男じゃあねェんだ! 目に焼き付けろ! おれの背中を! 歯を食いしばれッ! 強くなるためにッ! 覚悟を決めろッ! あの男の意志を受け継げるのはエース……お前だけだ! お前はおれの自慢の()()だからなッッッ!!」

 

「 オ……ゴワァアア!!」

 

 エースへの思いを語り、黒ひげを直接武器で攻撃する白ひげ。

 その圧倒的な覇気は黒ひげといえども大ダメージを受けたみたいだ。

 

「ハァアアアアッ! 痛ェエ!! 畜生ォ……」

 

「過信……軽率……お前の弱点だ……」

 

「い…………え!? オイ! やべろッ!」

 

 黒ひげの顔を掴み、震動を加えようとする白ひげ。

 わざわざ弱点を指摘するところを見ると、黒ひげへの情も残ってるのだろうか……。

 

「やべろォ! オヤディ! おれァ息子だど 本気で殺スン……ああああああ――ッ!?」

 

 グラグラの実の能力を顔面に受ける黒ひげ。私なら即死だろうが、彼の耐久力はワンピースの世界で屈指だろうからな。まだまだ、生命力は衰えていないみたいだ。

 

「こ、この……"怪物"……がァ!」

 

「死に損ないのクセに!……黙って死にやがらねェ!」

 

「やっちまえェ!!」

 

 黒ひげの仲間たちから総攻撃を受ける白ひげ。

 漫画で見て知っていたが、実際に見るとここまで凄惨なものか。

 私の見聞色の覇気は彼の生命力の衰えを確実に捉えていた。彼はもう――。

 

「ライア……、白ひげのおっさんは……」

「……死ぬよ。間違いなく……」

 

「オヤジィ〜〜〜!!」

 

 ルフィだって確かめなくても分かっている。私にそんな問いかけをしたのは、そう言わずにいられないほど、目の前の光景が壮絶だからだ。

 

「ゼハハハハ! やれェ!! 蜂の巣にしろォ!!」

 

「オヤジ……! クソォ! 離せ、マルコ! 頼むから! 離してくれよォ!」

「おれだって割って入りたいんだよい! だが、オヤジはお前に生きろと命令したんだ。ならば、お前を守るのがオヤジの意志だ!」

 

 黒ひげたちが白ひげを嬲る様子に我慢ならないエースだが、それをマルコが羽交い締めして動きを封じる。

 そんなマルコも歯を食いしばりながら、耐えているみたいだが……。

 

「エースはいつかきっと、ロジャーの意思を継ぐ! お前じゃなくてな、ティーチ! "血縁"を断てなかったてめェの甘さを呪いな……!」

 

「――誰になるか知らねェが、いつの日かその数百年分の"歴史"を全て背負ってこの世界に戦いを挑むヤツが出て来るだろう……!」

 

「センゴク……お前たち"世界政府"は……いつか来る……その世界中を巻き込む程の"巨大な戦い"を恐れている!!」

 

「興味はねェが……あの宝が見つかった時……世界はひっくり返るのさ……エースかそれとも別の誰かが見つけ出すのか知らねェが! その日は必ず来る……!」

 

「"ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"は 実在する!!!」

 

 白ひげはエースに、そして世界中の海賊たちに……遺言にも近いセリフを遺す。

 "ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"とは何なのか私は知らないが……恐らく世界がひっくり返るような何かなのだろう。

 

「あのおっさん。ワンピースのこと知ってんのか?」

 

「あの白ひげが最期にいい加減なことを言うはずがないからね。知ってるんだろう」

 

「最期って……、白ひげのおっさん……立ってるぞ」

「言葉のとおりさ……、()()()彼は凄いんだ。海賊王になるなら、君はあの背中を超えなきゃいけないね……」

 

 漫画とは違って、ルフィは白ひげの死に様を見た。

 これが今後……どのように彼の生き様に影響するか分からないが……。

 

「てぃ、ティーチのやつ、何をするつもりだ!?」

 

「くそっ! 海軍のやつ! 思い出したかのように攻撃をしてきやがって!」

 

「向こうが気になるが! ここは逃げるぞ! エースくん! ルフィくん! お前さんたちは……しっかりと生きにゃならん!!」

 

 黒ひげは黒い布で白ひげの遺体を覆った。どうやったのか知らないが、彼のグラグラの実の力を奪うのだろう。

 それと同時に海軍がこちらに向かってくる。白ひげを失って、士気が下がってるところを狙うつもりか……面倒な……。

 

「ジンベエ……! おれァ……!!」

 

「情けないじゃろう! 無力感に打ちひしがれて辛いじゃろう! だがな、あの人はお前さんが立ち上がることを信じとる。じゃから、涙を飲んで意志を汲み取るんじゃ!」

 

「…………」

 

 ジンベエが呆然としているエースに声をかける。

 まるで、エースを失ったときのルフィだな……。ショックで覇気を微塵も感じない……。

 

「君が死ぬことほど、白ひげの死を侮辱することはないだろうね。……うちの船長も満身創痍になっている。無駄にしたら、私は許さないよ」

 

「分かってる。知った風な口を利くんじゃねェ!」

 

 私も一応は声をかけたが無駄だった。ここで死なれるのは惜しいから奮起して欲しいんだが……。

 

「エース……」

「ルフィ……? ぐはっ――!」

 

 ルフィは完全にエースの不意をついて、彼の腹をぶん殴って、ふっ飛ばした。

 本来ならメラメラの実の力で覇気無しの攻撃など効かないんだろうけど、精神的に消耗していたのだろう……。

 

「ルフィくん、何をするッ――!?」

 

「このままぶっ飛ばせば運べるだろ? エース動かねェし」

「んな、無茶苦茶な……。理屈もなにもあったもんじゃないわい」

 

 ジンベエは通常運転のルフィのぶっ飛んだ理屈に驚いていたが、力尽くでも動かすっていうのは本質をついている。

 

「麦わら、礼を言うよいッ! また海で出会ったら、な」

 

 マルコは動く、倒れたエースを抱えて……。ここからの逃亡戦は漫画以上に厄介かもしれない。 

 エースが生きてる分、海軍には大義があるからだ。

 

「大噴火ッ!」

天岩戸(あまのいわと)ッ!」

暴雉嘴(フェザントベック)ッ!」

 

 三大大将は容赦なく海賊たちを駆逐する。

 黒ひげたちをもっと構ってやれよ、とか思ったけど……エースの生存は向こうにとって負けも等しいので面子を優先したらしい。

 

 そして――。

 

「ゼハハハハ、手に入れたぜ! 全てを無に還す闇の引力! 全てを破壊する地震の力! これでもうおれに敵はねェ! おれこそが最強……まさしく究極の存在だ!! おれの前にひれ伏し、恐怖し崇めろ! これからの未来は決まった! そう、これからは……、この黒ひげの時代だァ!!」

 

 マリンフォードが激震するのと同時に景気の良い笑い声が聞こえる。

 最強と最凶の力を併せ持つ、超越者。悪魔の実の能力は一人ひとつという法則を打ち破ったただ一人の例外。

 

 黒ひげ、マーシャル・D・ティーチは両手を広げて、自らの時代の到来を宣言した。

 

 

「あいつ、白ひげのおっさんの力を――」

「気になるのは分かるが……逃げた方がいい」

 

 私とルフィは思った以上にもたついている。

 ルフィを早く逃さなきゃ、と焦っているが私も彼も消耗していて……衰えない敵の量に辟易していた。

 

「……そろそろ、ベッドの中でだらけて寝てェ。お前ら、さっさと死んでくれねェか? Zzzzz」

 

「はぁ……、もう寝てるし……」

「青キジ……はぁ、はぁ……」

 

 いかんな。ルフィは私以上に疲れている。そりゃあインペルダウンで死にかけた足で来たんだから当然か……。

 赤犬の奴はどうやら、エースを追って、マルコとジンベエと戦っているみたいだな……。

 

「無駄な戦いはしない。逃げれば、文字通り勝ち……だからね」

「はぁ、はぁ……、わかってる。あんな強いのと戦ってる暇はねェ……!」

 

 青キジと私とルフィは逃亡戦を開始。

 しかし、大将と戦う気力は我々には残っていなかった――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ルフィ〜〜〜ッッッッ!」

 

 私を庇ってルフィが氷漬けにされる。

 まだ生きているが、早く逃げないとヤバい。

 

「悪いね、この前みたいに生かしてやらねェぞ」

 

 青キジは容赦なく氷像となったルフィを踏み潰そうとした。

 私も足を凍らさせられて、火貝(フレイムダイアル)でどうにか解凍しようとしているが、間に合わない。

 

「麦わらボーイッ! まだ、こんなところにいたっちゃブルか!」

 

 ギリギリのタイミングで革命軍の幹部であるイワンコフがルフィを助ける。

 革命軍たちが、こちらに援軍に来てくれたみたいだ。

 

 

「イワンコフだっけ? 青キジをちょっと私が抑えとくからさ。ルフィを安全なところまで運んで助けてやってくれないか?」

 

 私は彼だか彼女だか分からないが、イワンコフに声をかける。

 革命軍に任せれば、それなりに安全を確保できそうだ。

 

「レディキラーね。男の子にしてあげたいタイプ……。ヒーハー! ヴァナタ、あの青キジを止めるだなんて、そんなこと本気で言ってるの? どう考えても、返り討ちにされるだッチャブル」

 

「1秒、時間をくれれば何とか。君たちは振り返らずに真っ直ぐ逃げてくれればいい」

 

 凍ったルフィを抱きかかえるイワンコフに先に行くように促した私。

 青キジとの勝負は3回目だけど、今度は負けない。

 

「ンーフフフフ、いい目をするじゃない。地獄のWINK(ヘ〜ルウィーンク)ッ!! 行くわよ!」

 

 青キジに爆風を伴う衝撃波を発したイワンコフは逃げの手を打ってくれた。

 あとは彼の無事を祈るだけだ。そして、私の健闘を――。

 

「レディキラー、お前さんの覚悟を汲んで奴らの寿命を少しだけ伸ばしてやった。おれを止めると断言するたぁ、大言壮語を吐くようになったな。命を捨てて、船長を生かす気か?」

 

「いやいや、とんでもない。私もさ……、目的があって海に出たんだ。気配が近付いているのが分かったからね。声が聞こえるんだ。とても懐かしくて……ムカつく声が……。今死んだら、この海に来た意味が無くなる」

 

 そう、私には目的がある。ルフィを海賊王にするよりも前に立てた目的が。

 その瞬間は近付いている。確かな気配が私にそれを知らせてくれている。

 

「……? よくわからねェが、死ぬ気がねェってことはよく分かった。奥の手があるってことも。力はねェが、頭がある。あの女が惚れる訳だ……」

 

「ご明察……。怪我したくなかったら、こっちに動かないことをオススメするよ。もうじき、この戦争の意味は無くなる。エースは海に出ていったみたいだし」

 

 サカズキのスキをついて、エースは上手く逃げられたらしい。

 マルコたち、白ひげ海賊団の隊長たちやジンベエが見事に抑えたみたいだな。

 ルフィはもう少しかかりそうだが……、公開処刑の意味を失ったのはでかい。

 

「それで、動かねェとでも? 何をしても無駄だ。一撃で決める――」

「必殺――」

 

 勝負は一瞬。ここ一番の集中力で未来を読み切れ――!

 

両棘矛(パルチザン)ッ!」

「銭形捕物星ッッ!」

 

 最後の切り札。これが私に残されたラストジョーカー。

 これ以上は何にも用意していない。ここぞという場面で使おうと残していた。

 

 そう、私は最後の土壇場で――。

 

「か、海楼石の手錠を飛ばした――、だと……? 死ぬ場面があれ程あったにも関わらず、ここまで……これを使わずにいたというのか……」

 

 青キジの左足に嵌められた手錠は海楼石で出来ている。

 つまり、ヒエヒエの実の力は封じられて……。彼の力も激減した……。

 

 とはいえ、私も確実に当てるために引きつけ過ぎて、脇腹を氷の槍で貫かれて出血しているのだが……。

 

「ちっ、まんまと策に嵌められたみてェだな。さっさと行っちまえ。今度会ったら、全力でお前さんから倒す」

 

 怖いことを言いながら、青キジは素直に負けを認めてくれた。

 

 だけど、さ。私もここから離れるつもりは無いんだよね……。

 

 

 ――だって、来てくれたんだもん。

 

 

「この戦争を終わらせに来た……」

 

 

 赤髪海賊団が――。

 

 私の旅の目的が一つ……達成されようとしていた――。




とまぁ、こんな感じであっさりと赤髪海賊団の登場。
次回は父娘の対面とか、そんな感じ。


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3D2Y編
父娘の再会


 エースを逃しても尚、マルコたちは白ひげの遺体をどうにか回収出来ないかと奮闘しており、海軍との戦いを止めていなかった。

 海軍も面子を丸潰しにされた怒りを海賊たちに向けており、戦争は漫画に負けず劣らずの泥沼化していたのである。

 

 そんな中、ルフィの盟友である若き海兵のコビーが「命が勿体ない」と主張し、漫画通りに赤犬の攻撃を受けそうになり、それをシャンクスが救う展開となった。

 

 ルフィは度重なる攻撃をイワンコフたちに守られながら、最終的には漫画と同様にトラファルガー・ローの潜水艦に乗船する。彼と再会するのは2年後……か、それとも……。

 

 

 そして、シャンクスは主張した。白ひげの遺体は自分が供養する、と。暴れ足りないのなら、自分たちが相手をすると……。

 四皇の出現に、場は引き締まり……万能感を得て調子に乗っていた黒ひげさえも撤退を選んだ。

 

「全員――この場はおれの顔を立てて貰おう」

 

 シャンクスのこのセリフに誰も異議を唱える者は居なかった。

 海軍には居たのかもしれないが、センゴクが黙らせたのだろう。

 

「戦争は……! 終わりだァ!!」

 

 かくして、海軍元帥センゴクが終戦を受け入れ――このマリンフォードの頂上戦争は幕を閉じたのである。

 

 

 さて、と。まだ身体中が痛いけど……目的を果たさせて貰おう。

 生憎、私はまだ――。

 

「おい、赤髪海賊団にレディキラーが近付いてるぞ」

「あいつ、麦わらと一緒に逃げたんじゃねェのか」

「つーか、なんで……追撃者(チェイサー)ヤソップにガン飛ばしてるんだ? 殺されたいのか……」

 

 動きが止まった海兵や海賊たちの間をすり抜けて、私は赤髪海賊団の中で一際格好を付けている狙撃手の前まで歩く。

 

 ドレッドヘアのその男は私の顔を見るなり、涙を流しながら笑った――。

 

「おおおおおッ! ライアちゃん! パパに会いに来てくれたんだろ!? おれァ、手配書見た日からずっと待ってたんだぜ! まさか、ルフィの船に乗ってるとはな〜〜!」

 

「生憎、私はまだ暴れ足りないんだよね……」

 

「……ら、ライアちゃん? へぶぉッッ――!!」

 

 ヘラヘラと笑う親父の顔面を思いきり私はぶん殴る。

 この闘志だけは失うわけにいかなかった。

 いくら骨を折られても、臓器が傷付いても、身体に穴が空けられても……、親父の顔面にキツイ一撃をくれてやるだけの体力は残しとくつもりだった。

 

「「殴ったァァァァ――!」」

 

「麦わらの一味は頭のおかしい奴揃いだと聞いていたが、この状況で四皇に喧嘩を売るとは」

「たった一人でなんつーヤバいことを」

「どうするつもりだ……。何を考えてる?」

 

 親父のやつ……わざと殴られたな……。

 バレバレだって……。

 

 まったく。腹が立つ……。

 

 気付けば、私は地面とキスしていた……。

 

「「倒れたァ〜〜!」」

 

 ――ダメだ。既に私の限界はとうの昔に超えていて……。

 

 意識がぷっつりと……途切れて……、しま、った――。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「痛ててて……、まだ生きてたか」

 

「ライアちゃ〜〜ん! おれァ、おれァ、ライアちゃんがてっきり死んじゃったかと……!」

 

「うるさい……」

 

 医務室らしき場所のベッドで目覚めた私は、泣きわめく親父の声に苛立った。

 大体、いい歳こいて金髪に染めるって恥ずかしくないのか。ドレッドヘアも似合ってないし……。

 

「おおっ! ヤソップんとこの娘が目覚めたか。こっちに来いよ。宴開いてやっから」

 

「赤髪のシャンクス……」

 

 マリンフォードで見たときの覇気を剥き出しにしていた厳しい表情とは違った気さくな感じで声をかけてきたので、私は少し驚いた。

 

 漫画ではそういうキャラってことは知ってたけど、本人を前にするとそうも言ってられない。

 白ひげもそうだけど、四皇には今のルフィじゃ太刀打ち出来る気がしないなぁって感じ。

 潜在能力を探れば探るほど、底知れない凄みを私は感じていた。

 

「……親父が世話になってる。あと、治療してくれてありがとう。助かった」

 

「気にすんな。ルフィの船に乗ってんだろ? 聞かせてくれよ。あいつの話とか、お前の話もな」

 

 シャンクスはそう言って、私を甲板に誘う。親父も立ち上がり、私も後に続いた。

 私は親父と会話が出来なかった。十年以上も間を空けて、積もる話もあるし、愚痴も山ほど言ってやりたい気持ちもあった。

 だけど、この人はこの世界で立った一人の私の身内で……この人に会うために命を賭して海に出て……何ていうか色々と込み上げ過ぎて言葉が出なくなったのである。

 

 

 シャンクスとしばらく雑談して知ったのだが、私はあれから何日か眠ってたらしい。

 彼に頼んで新聞を見せてもらったから間違いない。ルフィは漫画と同様に2年後にシャボンディ諸島で会おうとメッセージを送ってくれていた。

 エースは死ななかったが、あの戦いで力不足を実感したのだろう……。

 

 

「だっはっはっ! ヤソップの娘って、手配書で見たときから思ってたけど、全然似てねェな」

「どう見ても、親父より男前だもんな」

「違いねェ! この顔なら女はほっとかねェだろうな!」

 

「バカヤロー! こんなに可愛いんだぞ! 求婚希望の野郎共が寄って来るに決まってっだろうが!」

 

 親父を茶化す赤髪海賊団のクルーたち。

 確かに私は親父に似てない。射撃の才能を受け継いだぐらいだ。

 だけど久しぶりに会って、私はこの人との血の繋がりを感じた――。

 

「あいつ、お前の手配書を毎日のように眺めていてな。可愛いだろって、バカ見てェに何度も船員(クルー)に確認するんだ。そりゃ、もううるせェくらいに」

 

「……あの、バカ親父」

 

「はは、酒の肴にゃ、もってこいかもな。娘の手配書なんざ。ほれ、何日も食ってねェだろ? 腹満たしときな」

「あ〜! おれの肉ッ!」

 

 副船長のベン・ベックマンは親父が私の手配書を毎日のように見せびらかしてる話をしてきてめちゃめちゃ恥ずかしくなった。

 可愛いはずないじゃん。男みたいだって散々言われてるんだぞ。仲間にだって。

 サンジとブルックはまぁ、例外として……。仲間を困惑させることをしないでほしい。久しぶりに顔が熱くなったわ。

 

 その恥ずかしさを誤魔化すために私はシャンクスの故郷の酒とかいうのを、ハイペースで飲み進め――ルフィたちとの冒険の話をするのだった――。

 

 

 

「――そっか。ルフィの奴にはそんな仲間が集まったか。やっぱ、おれの見込んだ男だ。楽しくやってるならそれでいい」

 

「もう少し早ければ直接会えたのに、残念だったね」

 

「その時が来たら必ず会えるさ。約束したしな。あいつは約束を守る男だ」

 

 シャンクスにひとしきり仲間たちとの出会いや冒険の話をした私。

 酒も進み、ほろ酔いになりながら……私は親父の話を切り出すタイミングをうかがっていた。

 

 言うなら早いほうがいい。目的を果たすために来たんだから。

 

「……シャンクス。あなたに頼みがあるんだけど」

 

「ん? おれに頼み?」

 

「ヤソップを貸してほしい。母が死んだんだ。かなり前にね。東の海(イーストブルー)のシロップ村にある母の墓標に謝罪させたい。あなたたちに構って、寂しい思いをさせたってね」

 

 これが私が海に出た望み。ワンピースとか、オールブルーとか、世界地図とか世界一の大剣豪とか……、ローグタウンを出たあの日……私たちは様々な誓いを立てたが……、私の旅の終着点はこの四皇から幹部を借り受けて、東の海(イーストブルー)に戻ることが……。

 

「ルフィとの冒険はどうするんだ?」

 

「もちろん、彼の元には駆けつける。だけど、我々の船長は2年間猶予をくれたからね。故郷に帰るくらいルフィは許してくれるさ」

 

 シャンクスはルフィとの冒険について尋ねたので、私は本心を述べる。

 そうだ。私は親父をシロップ村に連れて行って、それで冒険を終わらせられなくなった。

 モンキー・D・ルフィ――という男に魅せられてしまったから。

 

「私はルフィを海賊王にする。その覚悟は既に出来ている」

 

「ほう――」

「なんだ、ライアちゃん。ルフィと一緒におれたちを超えるつもりなのか?」

 

 海賊王……その言葉を吐いたとき。宴会で騒いでいた赤髪海賊団の一同も一瞬だけこちらを見た。そして、親父は楽しそうな顔をして私の顔を覗き込む。

 

「結果的にはそうなるんじゃないかな。そのうち、ね」

 

「……へへっ、初めて口利いてくれたな。ルフィの話だからみてェだが……」

 

 馴れ馴れしく肩を組む親父とそれを眺めているシャンクス。

 そうかもしれないな。ルフィの話なら親父との確執を抜きにも話せるんだ……、私は。

 

「ルフィは凄い男なんだ。あれ程の器の人間を私は見たことがない」

 

「白ひげを見たんだろ? エースの小僧も……。それでも、ルフィが上に見えたのか?」

 

「まぁね。人を見る目だけは自信があるから。もちろん、私が勝手にそう思ってるだけなんだけど」

 

「はーっはっは! ――おい、お頭……ちょっと娘と二人旅させてくれ! おれァ、バンキーナに一言だけ詫び入れて来るわ!」

 

 ルフィの自慢をしていたら、急にヤソップは真顔になってシャンクスに故郷に帰っても良いか許可を取り始めた。

 私の母であるバンキーナに謝罪をさせたいという話……聞いてないふりをして聞いていたのか。

 まったく、油断のならない人だ……。

 

「ったく、行かねェなんて抜かしたらぶん殴ってやるところだったぜ。しっかり、ケジメを付けて来い」

 

「おうよ。ついでにライアちゃんを鍛えてやるぜ。悪ィ男が寄って来ねェようにな……! なんせ、こんなに可愛い手配書(しゃしん)が出回っているんだ。言い寄る男が後を絶たねェに決まってらァ!」

 

 親父は私を鍛えるとか何とか言いながら手配書を取り出した。

 また、手配書の写真が変わっている。懸賞金が変わったのかな……。

 

 あれ――。

 

 数字がおかしいような……。

 

「い、1億9600万ベリー……、なんで私みたいな貧弱な海賊に……」

 

 そこには確かに記されていた。レディキラーライア……懸賞金1億9600万ベリー、と。

 

 どう考えてもおかしい。懸賞金の高さが戦闘力と見合ってない。

 

「別におかしいことはない。懸賞金は世界政府から見ての危険度。お前さんは、ルフィと馬鹿やっただけだと思ってるかもしれねェが。奴らはそうは思ってねェのさ」

 

「おれの娘だって知ったからだろ!? 心配すんな。おれがばっちり教えてやるからよォ。寄って来るバカ共を片っ端から倒せるようにな」

 

 というわけで私の懸賞金が上がってしまった。

 そして、ヤソップと私はシャンクスから小船を貰って……偉大なる航路(グランドライン)の逆走を開始したのである。

 

 最初の目的地は――。もちろん……。

 

 

 

 

「ウォーターセブンだァ? なんで、んなとこ寄るんだよ。あそこは造船くらいしか見るとこねェ島だぞ」

 

 そう、私はアイスバーグに預けたメリー号を引き取りに行く。

 アイスバーグやパウリーといった一流の船大工がメリー号を完璧に整備してくれている。それに乗ってシロップ村に帰ることこそ、私の真の目標なのだ。

 カヤにも元気なメリー号を見せてやりたいし……。

 

「ふーん。あの金持ちの屋敷の娘さんと仲良くしてたのか。んで、船を貰ったから……その船と一緒にねェ。いい話するじゃねェか。んじゃ、行くしかねェな。ウォーターセブン」

 

 まぁ、親父に反対されても行くつもりだったけど、ね。ウォーターセブンには。

 赤髪海賊団は実にアイテムも充実していて、永久指針(エターナルポース)も半端ない量が用意されていた。

 さすがは四皇の船だ。期待通り、何処へでも行ける装備がある。

  

 ウォーターセブン行きの永久指針(エターナルポース)など、幾つか持って行っても良いと言われたので、補給をするために何ヶ所か島に寄れるように準備させてもらった。

 

 ウォーターセブンに行ったのは最近なのに数年ぶりみたいに感じるなぁ……。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 小船は進む。造船の島へ……。そして、私は親父に銃を渡された。

 

 何の変哲もない、安物の銃を……。

 

「ライアちゃん。最高の狙撃ってのを知ってるかい?」

 

「最高の狙撃? 正確に的に当てる、とかかな? 相手が動いていても……先読みして……」

 

 実際に私の必勝パターンはそれだ。未来を読み切り、回避不能の一撃必殺で勝負を決める。

 貧弱だし、火力も不安が残る私は、この方法でしか勝ってない。

 

「ちょっと惜しいな。正確に当てるのは当たり前だ。最高にイカしてる狙撃ってのはな。相手に撃たれたことすら気付かせない。そして、鉛玉一つでどんな奴も……ぶっ殺すのさ――」

 

「――っ!?」

 

 気付かなかった。見聞色の覇気で違和感に気付いた時には既に勝負は終わっていた。

 

 私の背後でザバンと水しぶきを上げたのは巨大な海獣である。海王類程とは言わないが、ガレオン船なんかよりも遥かにデカイ。

 それをこの親父は安物の銃の鉛玉一つで仕留めたのだ。

 

「おれから銃口を向けられたら、海軍大将だって余裕ぶっこいてはいられねェ。何故か分かるか? 鉛玉にはよォ――不思議な力が込められているんだ」

 

「ああ、武装色の覇気か……」

 

「なんだ、知ってんのか。使えるようには見えねェんだが」

  

 やっぱりそうか。四皇の一角……赤髪海賊団である親父たちの銃が凡庸だったのは私の観察力不足ではなかった。

 狙撃する銃弾にも覇気を込めることが出来るんだ。じゃないと、ベン・ベックマンに黄猿が銃を向けられてホールドアップする理由が分からないもんな。

 

「名前を知っているだけだよ。武装色の覇気は全然使えない」

 

「ふーん。見たところ見聞色の方はかなりいい線行ってるのに変わったやつだな……。まぁいい。ライアちゃん、シロップ村に付くまでにお前に狙撃のいろはを教えてやる。覚悟はいいか?」

 

「望むところだッ!」

 

 私に必要なのは力。

 懸賞金に相応しく、尚かつ未来の海賊王のクルーに相応しいパワーを。

 

 こうして、航海と特訓が始まった――。

 

 次の目的地はウォーターセブン。メリー号との再会だ……。

 




シャンクスのキャラも、それ以上にヤソップのキャラも掴めないんですが、適当に脳内で保管して描くことにします。
ライアのグランドライン逆走の旅が始まりました。
イベントを幾つか用意していますので、これからもよろしくお願いします。


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ウォーターセブンでの再会

沢山感想を頂けて嬉しいです。
今回から、ライアの帰郷が始まります。


 ウォーターセブン――つい先日のことだ。私が船員(クルー)たちにメリー号を休ませることを懇願して、フランキーにサニー号の制作をお願いしたのは。

 

 そこから、ロビンがCP9に攫われて……私たちは司法の島で死闘を繰り広げて勝利する。

 

 そんな経緯もあり、ウォーターセブンの市長であるアイスバーグには信頼してもらうことが出来た。

 

 

「んで、ライアちゃん。武装色は掴めそうかい?」

 

「全然だよ。あのさ、教える気あるのかな? 理論とか理屈とか、そういうので覚えるタイプなんだけど私は」

 

 この親父、武装色の覇気を教えるとか言って全然芯を食ったような話をしてくれない。

 見聞色の覇気が使えるなら、その延長上に武装色もあるから、覇気という概念を身体に染み込ませろ……みたいなことを言われたけど、一向に掴めないでいた。

 

「だって、理屈じゃねェもん。体で覚えるしかねェんだよ」

 

「本当に……?」

 

「さァな。ライアちゃん以外に教えたことねェから、よくわかんねェ」

 

 ……いい加減すぎる。よくもまぁ、あんなに自信満々に「いろはを教える」とか言ったもんだ。

 だけど、新世界での戦いでは武装色の覇気は必須。私にはウソップみたいな運もなければ耐久力もない。だから、殺られる前に殺らなきゃならないんだ。

 

 何とかして、この親父の技を全部盗まなきゃ……。

 

 

「お〜〜い、そろそろ飯にするぞ」

 

「ちょっと待って。もう一回試したら作るから」

 

「いや、もう出来てるって。早く食おうぜ」

 

「えっ……?」

 

 親父に調理なんて繊細なこと出来るとは思ってなかったから、私は心底びっくりした。

 いや、私だってサンジに及ぶべくもなく人並みにしか出来ないけど、この人が料理作るなんて……。

 

「別に普通に飯くらい作ってたぞ。お頭と組んだばかりの頃はな。お前の器用さは誰譲りだと思ってんだよ?」

 

「……母さん」

 

「まァ、母さんの方が美味い飯は作ってたよな。だけど、これだって――」

 

「うん。悪くないよ。故郷の味って感じだ。ちょっと塩気が多いけどね」

 

「嘘つけッ! おれァ、ちゃあんとライアちゃんの好みの味付けにしたぞ。薄味が好きだったからな」

 

 正解だよ。私は嘘をついた。なんかムカついたから。

 この人は私のことなんか忘れてると思ってたけど……覚えてたんだ、そういうとこ。 

 

 サンジには気を使わせてるんだよね。私のだけ、調味料を控えめにしてもらったりしてさ。何も言ってないんだけど、彼は気遣いの人だから。

 

 だけど、気遣いとは程遠い親父がまさかこうやって料理を出すなんて……やっぱり信じられなかった……。

 

 

「ウォーターセブンには、もう間もなくって感じか。久しぶりだなァ。赤髪海賊団の海賊旗無しで港に下りるのは」

 

「四皇と呼ばれるくらいになると、おいそれと動けないだろ。海軍が見張ってるだろうし」

 

「まァな。お頭は気にせず自由に動く時もあるけどな。この前もそれでカイドウたちと殺り合ったし」

 

 百獣海賊団の総督――シャンクスや白ひげと同じく四皇の一人に数えられる大海賊、百獣のカイドウ。

 最強生物とか言われてたっけ……。実は私は彼とルフィたちが決着をつけるところまで漫画を読んでいない。「和の国編」の始まった直後くらいに死んじゃったから。

 

 とりあえず、いつか喧嘩を売るのは間違いないのは知ってるけど……。

 

 まァいいや。こういうのはルフィが何とかしてくれるだろう。私はもうちょっと小物を相手にするというか、何というか……とにかく彼をフォローしつつ死なないように頑張ればいい。

 

「2年で戦えるようになるんだろ? カイドウだろうが、おれたちだろうが……。ルフィを海賊王にするために、さ」

 

「……そうだね。彼の障害を取り除くのが、私たち船員(クルー)の役目だから」

 

 恐らく初めて食べた親父の手料理。

 残すとサンジに怒られるからな。ちゃんと完食しなきゃ……。

 

 

 赤髪海賊団から借り受けた小船はウォーターセブンの目前まで迫っていた――。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「おおっ! ライアじゃねェか! マリンフォードで麦わらと馬鹿やったってすげェニュースになってたぞ!」

 

「パウリー、久しぶり――って程じゃないか」

 

 ウォーターセブンに着いて、私は一人でガレーラカンパニーに訪れた。

 親父は四皇幹部として顔がそれなりに売れてるから、小船の方で留守番してる。最後まで、娘にちょっかいだす男を仕留めるから付いてくると煩かったが……。

 

「ここに来た目的は分かってるぜ。メリー号を受け取りに来たんだろ? 麦わらとの待ち合わせが2年後に延びたから」

 

 そうそう。話が早くて助かるよ。

 

 ――んっ? ちょっと、待って。あの3D2Yのメッセージ……って、仲間の私たちにしか通じないはずだよな。

 だって、3日後に集まるなんて約束……あの場にいた仲間たちしか知らないはずだし。

 

「おーい、その資材はあっちに運んでくれ!」

 

「はいはーい。キャハッ、こんなの簡単よ!」

 

 1番ドックの奥の方から聞き慣れた笑い声が聞こえる。

 まさか、彼女がウォーターセブンにいち早く辿り着いていたのか……。

 

「全部、レモンの姉ちゃんの読みどおりだ。“船長さんが待ち合わせを延期したから、必ずライアは船を取りにここに来るはず”って言ってたからなァ」

 

 すごいな。クマにどこに飛ばされたのか、彼女だけ漫画の知識が役に立たなくて知らなかったが、こんなに早くここまで駆けつけたなんて……。

 

「お〜〜い! レモンの姉ちゃん! ライアの奴が来たぞ〜〜!」

 

 パウリーが叫んだ、その瞬間……。

 凄い勢いで、空高く彼女は舞い上がった――。

 

 前は空中に上がるのに傘を使ってた……、と思ったけど……。

 

「ライア〜〜! キャハハッ、やっぱりあんたも無事だったのね!」

 

 明るい笑顔を見せる彼女は麦わらの一味のムードメーカーとなっている、通称“運び屋”ミキータだ。

 色々あって、バロックワークスを裏切り私たちの仲間になった彼女はキロキロの実の能力者であり、私と共に漫画の麦わらの一味には居ないイレギュラーな存在でもある。

 

「会えて、嬉しいよ。君が無事で良かった」

 

「ば、バカ……、そんなの当然でしょ。……それより急にそんなに力強くされると、私……」

 

 ミキータを抱きしめて再会を喜ぶ私。

 彼女は声を震わせながら、返事をした。やっぱりミキータも不安だったみたいだ。

 

 ――顔を見るとびっくりするくらい赤くなってる。熱でもあるのかしら……。

 

「だけど、驚いたよ。私よりも早くウォーターセブンに着いてるんだもん。まさか、ここに飛ばされたのか?」

 

「……ううん。すっごく辛気臭いところに飛ばされたわ。何か世界政府の諜報員(スパイ)を育成している機関みたいなところ。抜け出すのに苦労したんだから」

 

 世界政府の諜報員育成って、CP9とかそういう系の育成機関って感じかな。

 また、濃いところに飛ばされて……よく抜け出せたな。

 

「で、これを頂いたってわけ。キャハハッ!」

 

 ミキータは懐から一冊の本を取り出した。

 なになに、“猿でもなれる六式マスター”――何だこりゃ。教本っぽいけども……。

 

「私、思ったの。今のままじゃ、確実に一味の足を引っ張るって。だから、体を鍛えて能力も鍛える。私はまだキロキロの実の力を使いこなせていない。少なくともあんたの方が私の能力(ちから)を上手く使えてると思う内は……」

 

 いつになく真剣な顔をしたミキータは自分の力不足を2年間で補うために特訓をすると豪語した。

 キロキロの実は強いと私も思う。六式と組み合わせれば、面白いかもしれない。ん? 待てよ……。さっきのあれって……。

 

「キャハッ! さすがに気付いたわね。月歩(げっぽう)はまだ全然出来ないけど、一歩だけなら、空中に踏み出せるようになったってわけ。それでも、私が体重を極限まで減らせばあの効果。傘や爆発無しでもあの高さまで飛べるようになったわ」

 

 身体能力に難があったミキータだったが、そこを克服すれば戦闘力は相当高くなるだろう。

 さらに能力の応用が利くようになったら……。あれ? 私よりも強くなるんじゃない……?

 

 

「おい、お前ら。再会を喜んだところで、メリー号を見るか? あれから、さらにガレーラ総出でメンテナンスもばっちりしたんだぜ」

 

 私たちがひとしきり雑談をしたところでパウリーがそう声をかけてきた。

 へぇ、メリー号のメンテナンスもばっちりか。ナミが航海士として居ないのが怖いけど、何とか無事に帰れそうかな。

 

「1番ドックに置いてくれてるのかい?」

 

「いんや。特別な場所に隠してる。なんせ、麦わら関連の船だから政府に目をつけられちゃならねェ。アイスバーグさんが格納庫の鍵を持っているんだ。恩人の大切な私物だからな。あの人が管理するって聞かなくてよォ」

 

 アイスバーグ……そこまでメリー号を大事にしてくれたんだ。嬉しいな。あれに乗って帰って……カヤに早く会いたいよ。

 

「キャハッ! あんた……エロい顔してるじゃない。故郷の彼女の顔でも想像してたの?」

 

「あはは、バレちゃったか。ミキータは何でもお見通しだな」

 

「その余裕な感じ腹立つわね。私も会いに行って、現地妻ですって挨拶してやろうかしら。キャハハ」

 

「まったく、冗談でも勘弁してくれよ。意外と怒ると怖いんだからさ」

 

 ミキータと私はパウリーに案内されて、ガレーラの本社に入り、アイスバーグのいる社長室に向かう。

 

 アイスバーグ、元気かな。まずはお礼を言わなきゃいけないよな。色々と気を遣わせちゃったし……。

 

「あれ? おかしいな。この時間はここにいるはずなんだが。寝てんのか?」

 

 ノックをしても反応がないみたいで、パウリーは首をひねる。

 ドアノブを回すと鍵はかかっておらず、扉は開いた。変だぞ……見聞色の覇気で中を探ったけど、中には人は――。

 

「誰もいねェ! この部屋は機密とか結構あるから出かけるにしても鍵は絶対にかけるはずなんだが……!」

 

 パウリーが中をキョロキョロと見渡し誰も居ないことを確認する。

 私は椅子を触ってみた。まだ温かい……。さっきまで誰か座っていたのは間違いないみたいだ。

 

「……ライア。見てご覧なさい。これって、血じゃないかしら。まだ固まってないから、ちょっと前よ。ここに血が付着したのは……」

 

 ミキータは窓枠に付いた血を指差す。窓は――鍵がかかってない。開いている……。

 

 まさか、誰かがこの部屋に入って……アイスバーグを――。

 

「アイスバーグさんを攫ってった奴が居るのか。世界政府絡みの連中? いや、司法の島のことであれだけCP9がコテンパンにやられて……バスターコールまでかけちまって、それはねェか」

 

 パウリーは自問自答しているが、アイスバーグが攫われたのは殆ど間違いない。

 

 犯人は……、近くにいるはず。私は見聞色の覇気で怪しい気配が近くに居ないか探る……。

 

 

 ――居たッ!?

 

 

 この場所にいち早く行くためには――。

 

 

「ミキータ! 屋上まで私を運べるか?」

 

「キャハハ! 任せなさい。何処へだって運んだげるわよ!」

 

 ミキータは私を背負いつつ、窓枠から上空に向かって一歩踏み出した。

 

 すると、物凄い勢いでガレーラ本社の屋上までひとっ飛びで到着する。短期間でこれだけ出来るようになれたのは素直に凄いな……。

 

 

「隠れても無駄だ。そこの裏に居るんだろ? 君がアイスバーグさんを攫ったのかい?」

 

「無礼者……! 世界政府に追われている私がそんなことをするものか!」

 

 物陰から飛び出たのは、かつて私とナミが司法の島で死闘を繰り広げ……かろうじて勝利したCP9の紅一点――アイスバーグの秘書としてガレーラカンパニーに潜入していた女――カリファである。

 

 ルッチとかカクの気配は感じないな。この人、一人だけか……。世界政府に追われてる……? そういや、スパンダムが全部責任をルッチたちに被せたんだっけ。

 

「カリファ。アイスバーグさんが行方不明なんだ。状況的には君が怪しいけど、この辺りには彼が居ないし……。どうしてここにいるのか教えてくれるかい?」

 

「あなたに身も心も奪われた私よ。あ、あんなセクハラしといて……。め、命令すれば良いじゃないですか。何してるのか話せって。というか、命令しなさい! そして、思う存分……束縛しなさい!」

 

 私がここにいる理由をカリファに尋ねると、急に頬を赤らめてモジモジしながら変なことを言う。

 いや、束縛とかいいから早く話してよ。

 

「あんた、この人にナニしたのよ? キャハハ、言わなくても想像つくけど」

 

「何もしてないって。鍵をちょっと凄いとこに隠してたから……色々と触ったりはしたけど」

 

「そ、そうよ。もう、尊厳も全て奪われたんだから……。もう、私はレディキラーの奴隷になるしかないの……」

 

 それは、あなたが悪いじゃん。ていうか、殆どナミがやったことだし……。

 あのさ、DV被害者みたいな顔しないでもらえるかな。

 

「で、話を戻すけど……カリファは何でここにいるの?」

 

「命令したのなら答えます。司法の島で私だけ仲間とともに逃げ遅れて……。何とかあなたのお仲間が逃げるのに紛れて、この島に潜伏してたのですが。流石にずっとここに居るわけにいかないから、秘書時代に隠したへそくりを回収しにここに来ました。……まだ何もしてません。さぁ、縛りなさい」

 

 嘘はついて無さそうかな。血の匂いもしないし……。何よりカリファから戦意を感じない……。縛りなさいは意味がわからん。

 

「ライア。そういえば、さっき社長室でこれを拾ったんだけど……」

 

「ん? カード……だな。これは……。あれ? このカードって……」

 

「……このカードには見覚えがある。アイスバーグは厄介な連中に捕らえられたみたいです。……ご主人様。恐らく狙いは私たちと同じ……プルトンの設計図でしょう。なるほど、バスターコールの権限まで与えて私たちを急かせたのはこういう理由もあったのね……」

 

 なんかカリファが訳知り顔でミキータの手にしたカードを見てきた。

 とりあえず、ご主人様とはもう二度と言わないでほしい。

 

 それは置いといて、プルトンの設計図を狙っていたのは世界政府だけじゃなかったってこと? まぁ、あれが燃やされたとかいう情報は極秘だろうから、狙ってる奴が他に居たとして、それを知らないってのは分かるけど。

 

 うーん。このカードって……どう見てもアレだよなぁ。

 

 私の帰郷は思わぬ敵によって邪魔されつつあった――。

 




ミキータとカリファがパーティーに加わりました。
ここから、プルトンを巡っての戦いは完全にオリジナルストーリーです(敵も含めて)。
プルトン言えば、某砂漠の国も関わってきますし、あの王女様もこの先出てくる予定です。
今のところ、面白くなっているか不安ですが頑張ります。

とにかくミキータが好きで、贔屓してます。ライアと共にイレギュラーな存在なので、里帰りに付き合わせようと思いました。
カリファは何となくドMな感じにしてみました。勝手なことして申し訳ありません。

このストーリーも去年から考えていたのですが、頂上戦争編を書くのに苦心しちゃってて、投稿が遅くなって申し訳ありません。

感想など頂けたら嬉しいです!


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スキップとリバース

「このカードって、あれだよな。UNO(ウノ)ってゲームで使うスキップカードじゃなかったっけ」

 

 私はミキータの手元のカードについて言及する。この世界にもUNOがあるとは驚いたが、トランプとかチェスとかもあったし、別に変じゃあないか。

 

「そう。このカードは世界政府も手を焼く面倒な海賊たちが関わっている証拠です。そいつらはユノ一味と呼ばれており……闇社会の情報網を掌握して覇権を手にしようと、勢力を拡大していました」

 

 ユノ一味……? 知らない連中だな。そんな奴いたっけ……。

 それに――。

 

「キャハハ、“いました”ってことは今は違うってことよね?」

 

「ええ。慎重に大物たちの影に潜んで勢力を伸ばしていたユノ一味は、新世界でビッグ・マムの縄張りを誤って荒らしてしまったことで呆気なく崩壊。少数だけ残った幹部たちが細々と前半の海で略奪行為を重ねているだけのはずなのですが……プルトンの設計図の情報をどうやったのか手に入れたみたいですね。ご主人様……」

 

 その闇の情報網とやらで、プルトンに辿り着いたってことかな。

 それなら、下手すりゃ……アラバスタとかも狙われてもおかしくない。

 

 ていうか、カリファは私のことを変な呼び方で統一するつもりか……。

 

「ご主人様っての止めてくれないか?」

 

「その突き放すような視線ゾクゾクする……」

 

「何かヤバい性癖に目覚めちゃってるじゃない。レディキラー恐るべしってとこね」

 

「ミキータも変なこと言うの止めてくれ」

 

 もう、カリファはどうしようもないかもしれない……。

 

 とにかくアイスバーグが危険だ。

 設計図など既に燃えて無くなったと知れば、彼の命の保証はない。

 

 しかし、どこを探そう? ウォーターセブンは人数が多いし、アイスバーグの気配は決して大きくない。見聞色の覇気で見つけるのは困難だ……。

 

「……ここは諜報員だった私に任せてください。ユノ一味は慎重。窓からアイスバーグを連れ出して隠れ家に向かう道中も誰にも見つからないように動くと思われます。とすると、逃走ルートは恐らく――」

 

「よし、カリファ。案内してくれ」

 

 CP9だった彼女の分析能力は高く、またアイスバーグの秘書だった経験もあるのでこの街のことを知り尽くしている。

 つまりカリファはウォーターセブンのスペシャリスト。彼女なら、アイスバーグが連れられた場所を特定出来るかもしれない。

 近付けばアイスバーグの気配も探れるだろうし……。

 

「わ、私を信じてくれるのですか?」

 

「うん。信じるさ。嘘ついてるかどうかは目を見たら何となくわかる」

 

 私はカリファの目を見て、彼女を信じることにした。

 彼女が私たちを嵌めるつもりなら、こんな回りくどい方法を取らないだろうし……。

 

「ああ! 今すぐに鎖で繋いで引っ張り回してください! ご主人様〜〜!」

 

「嫌だよ! やっぱり発想が怖いんだけど!」

「バカ言ってないで早く行くわよ!」

 

 ドン引きしてる私とイラッとしてるミキータ。

 カリファは得意の月歩(げっぽう)を使って先行し、我々も彼女の後を追った――。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「あの角を曲がったところに廃墟があります。おそらく、その中が――」

「連中のアジトの可能性があるってことだね」

 

 こんな市街地の一角に二階建ての洋館みたいな廃墟があるなんて知らなかった。

 確かにここなら、隠れ家にするにはもってこいかもしれない。

 

 アイスバーグの気配は――。

 

「ビンゴだ。アイスバーグさんはあの中にいる。――敵は意外にも一人だけみたいだ」

 

「じゃあ、今のうちに取り返しましょう。こっちは三人だし」

 

「でも、カリファはほら。アイスバーグさんとは色々とあったじゃないか……」

 

 チラッとカリファの顔を見て私は彼女が気まずいのではと懸念した。

 だって、裏切った相手だし。殺そうとしてたし……。

 

「私は構いません。あれは任務でしたから。それ以上の感情は持っていません」

 

「任務か。色々と言いたいことはあるけど、時間がない。敵が一人ならチャンスだ」

 

 マスケット銃のミラージュクイーンを片手に私は廃墟に侵入する。

 アイスバーグの気配は二階だ。なるべくなら、戦闘はせずに彼を救出したいが……。

 

 

「おーいオイオイ、アイスバーグよ。プルトンの設計図を燃やしちまったって本当か?」

 

「さっきから、そう言っている。だから政府の連中も諦めた。闇社会の情報に強いのではないのか?」

 

「脈拍は正常そのものか。ハズレかよ。オイオイ、最近の船長の情報は古すぎていけねェや。CP9を出し抜くどころか、ことが終わった後じゃねェか」

 

 洋館の二階の一室でアイスバーグは縛られて、頬から血を流しながらバンダナを巻いたキツネ目の痩せた男に尋問されていた。

 脈拍を測りながら嘘発見器みたいなことをしてるのだろう。

 

 一発、狙撃してアイスバーグと男の距離を空けて――。

 

「私がアイスバーグさんを助ければ良いんでしょ」

「いい感じで縛られてるわね……」

 

 そうと決まれば、早く動こう。あのキツネ目の男から殺気が漏れている。

 ハズレと知ったら容赦なく殺すタイプに違いない……。

 

「オイオイ、こりゃあ無駄足だな。船長に文句言わねェと……。――こいつの口を封じた後になァ!」

「必殺ッ! 火炎星ッ!」

 

 キツネ目の男の殺気に混ぜて、完璧なタイミングで私は銃弾を放つ。

 それと同時にミキータはアイスバーグを救出。男にも多少のダメージを与えたとは思うのだが……。

 

「――ぐぁはっ……。何で後ろから私が刺されるんだ……」

 

 鋭い痛みが背中に突き刺さる。

 反射的に身を反らせたから、致命傷には至らなかったが……目の前に居たあの男がいつの間に――。

 

「スキ〜〜ップ♪ オイオイ、随分と物騒なことしてくれんじゃない。おれがスキップ人間じゃなきゃやられてたぜ。さて、と。次は急所を狙わせて貰おう」

 

 悪魔の実の能力者か。一瞬で任意の場所にワープするような能力を持ってるってわけか。

 初見殺しの力だな……。

 

「無礼者! ご主人様に手を出すな!」

「……ぐっ! その動きは六式……!? オイオイ、世界政府は諦めたんじゃねェのかよ」

 

 (ソル)で間合いを詰め、指銃(シガン)をキツネ目の男に放つカリファ。

 男は反応が遅れて、指銃を食らうもすぐに瞬間移動した。

 うん。やはり、見聞色の覇気で気配を追っても完全に消えている。剃とか杓死とかそういう類の技じゃない。

 

「ユノ一味、幹部――“寝首落としのシェード”、懸賞金700万ベリー。キプキプの実の能力者……」

 

 淡々と目の前の男のプロファイリングをするカリファ。

 そういや、初対面で私らの情報も筒抜けだったっけ。

 

「目立たず成り上がるを信条にやってたが、こうも知られるようになるたァ……そろそろ潮時かねェ。……まっ、とりあえずお前らを殺してから考えることにするよ――」

 

 戦闘態勢を取るシェードとかいう男。

 とにかく、瞬間移動は厄介だ。ノーモーションで背後を取られるとか反則も良いところだし。

 

「ご主人様……。シェードのスキップは目に見える範囲のみ。それも半径10メートル程のごく短い距離に限られます」

 

 CP9の情報網をナメてた。カリファは敵の悪魔の実の能力までキチンと把握してるじゃないか。

 味方にすると頼もしいな……。特に私みたいなタイプにとっては。

 

「オイオイ、そこまで知ってるとは……。やっぱ、世界政府の犬かよ。まァいい。まずはお前から――」

「止めときな。シェードの旦那」

 

 いつの間にか、部屋の窓枠に座っていたスキンヘッドの男が声を出した。

 こいつもユノ一味の一人か……。

 

「ウォーターセブンにはプルトンの設計図はないってさ。船長が予定を変えた」

 

「はァ? おれァ、とっくに知ってるぜ。そんなこたァ。オイオイ、今から別の島に行くんじゃあねェだろうな」

 

「正解だ。とある王国に集合だとよ。何でもプルトン自体がそこに封印されてるらしいぜ。だから、とっとと旦那も船に乗りな。出港する……って、もう行っちまったのか」

 

 スキンヘッドの言葉が終わる前にシェードは消えた。

 あの能力……。ちょっと厄介だ。距離を取って狙撃するのが楽に倒せる方法かな……。

 

「じゃあ、おれも退散させて――」

「行かせるかッ!」

 

 私は咄嗟に鉛玉をスキンヘッドに向かって撃つ。

 しかし銃弾は――。

 

「リバース……」

「えっ――!?」

 

 男に当たった瞬間に跳ね返り……私の方に戻ってくる。

 私は何とかそれを躱したけど、狙撃手としてはかなり屈辱的だった。

 

 あいつも悪魔の実の能力者かよ……。気付いた時にはスキンヘッドの男はもう居なかった……。

 

「彼もユノ一味の幹部……“逆転のラルトス”。リバリバの実の能力者。触れた物の向きを逆にする……反転人間です。懸賞金は確か……1000万ベリー」

 

 反転人間って、そんなのアリ? さっきのシェードといい、面倒くさい連中だぞ。

 ていうか、シェードもラルトスも実力の割に懸賞金が低いんだけど……。

 

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。アイスバーグは無事か……。

 

 

「ンマー、お前らにゃ……また危ないところを助けられちまったな。ミキータの言ったとおりやって来たってわけか」

 

 ミキータによって縄が解かれて自由になったアイスバーグは私の元に歩いてくる。

 見たところ、外傷は頬の傷だけみたいだ。

 

「変な連中にばかり絡まれて不運だね。アイスバーグさんは」

 

「トムさんが遺したモノを守るための覚悟はある程度していた。ことが終わったと思ってたから、油断してたのは間違いないねェが。それにしても――」

 

 私の言葉に返事をしたアイスバーグはその隣で姿勢よく佇んでいるカリファを見る。

 やっぱり、そりゃあ気になるよね。私だって彼女がここに居るのに違和感しかないもん。

 

「……カリファ。てめェ、何のつもりだ? どうしておれを助けた……?」

 

「別にあなたを助けたいと思ったわけではない。私は自らが身も心も捧げたご主人様の意向を汲んだだけのこと」

 

「身も心も捧げた……ご主人様ァ? ……ンマー、なるほど。お前がレディキラーって呼ばれてるのは、こういうことなのか」

 

 カリファが恥ずかしいセリフと共にこの場にいる理由を答えると、アイスバーグは納得したような顔をして私を見る。

 いやいや、こういうことって……どういうことだよ。

 

 この場で揉めると面倒だから、争いにならなくて良かった。

 

「ねぇ、ライア。プルトンが封印されてる国って……」

 

「ああ、間違いなくあそこだろうね」

 

 ――アラバスタ王国。かつてクロコダイルが古代兵器プルトンを手中に収めようと暗躍した国で、私たちもその事件に関わった。ミキータに至ってはクロコダイルの元部下だし……。

 

 あんな連中に狙われたらビビたちが心配だ。元々補給地点としてアラバスタに寄ることは考えてたけど……。

 

「急ごう。あんな連中に好き勝手させる訳にはいかない。私たちでユノ一味を倒すんだ」

 

「キャハハ、船長さんも居ないのにあんな怪物共を相手に出来るのかしら? まァ、あんたとなら、死んであげても良いけどね」

 

「死ぬつもりは無いさ。故郷に帰るまでは、ね」

 

 確かにシェードとラルトスは厄介な能力者だった。

 しかし、頂上戦争で見た化物の中の化物みたいな連中と比べたら……やれないこともない。

 船長って人がどれ程の実力なのか凄く怖いけど……。七武海クラスだったら、私じゃ太刀打ち出来ないだろうし……。

 

「ご主人様、差し出がましいですが……ここは引いた方がよろしいかと。ユノ一味の船長……“万策のユノ”は悪魔の実の能力者ではありませんが、非常に狡猾な上に……世界政府からの刺客を全て返り討ちにして、闇社会で名を上げた男です。彼の犯した罪は公にしにくいヤマが多いので懸賞金こそ1200万ベリーと低めですが……危険度は王下七武海にも匹敵するかもしれません」

 

 そんなに危険な海賊が、バギーよりも懸賞金が低いのか。

 政府には知られちゃマズい案件が多いことは知ってるけど、そこをピンポイントで突くような連中って不気味だな。

 

 いくら危険でも関係ないけどね。アラバスタ王国は私たちにとって特別だし。

 

「カリファ。心配かけて悪いけどさ。私には引けない戦いがあるんだよ」

 

 私はカリファの言葉にそう返した。

 相手がいくら強くても、私は何とか知恵を働かせて対処してみせる。

 

「わかりました。私もご主人様のために微力を尽くさせて貰います。ユノ一味の討伐に協力させて下さい」

 

「ンマー、プルトンはトムさんが死ぬ直前まで気にしていた案件だ。おれには見届ける義務がある。ライア、メリー号の最後の調整はおれが船大工として乗り込んで完成させてやろう」

 

 カリファとアイスバーグが私に付いてくると言い出した。

 いや、確かにカリファは敵の情報を把握しているし、アイスバーグはフランキーにも劣らない船大工。一緒に来てくれるなら、これ以上ない助っ人だけど……。

 

 これは、アラバスタまで向かうにあたって思った以上に人数が増えてしまったぞ。

 親父はどんな反応をするんだろう……。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 パウリーにガレーラカンパニーを暫く任せると頼んだアイスバーグ、そしてへそくりをこっそり回収したカリファ、キロキロパウンドなどの荷物を手にしたミキータを引き連れて、私はメリー号と再会した。

 

 前も新品同様ってくらいにキレイになってたけど、これはもしかしたら新品以上かもしれない。

 ピカピカの船体に上がると、いい匂いがする。潮風がいつもよりも心地よい……。

 

 ニューメリー号に乗って、私は親父のいる小船の近くに船を寄せた。

 

 

 

 

「おい、ライアちゃん。父娘水入らずの旅行じゃねェのかよ……。おっさん一人に姉ちゃんが二人か」

 

追撃者(チェイサー)ヤソップ。赤髪海賊団の幹部がご主人様のお父様!?」

「キャハハ、本当に会えたんだ。おめでとう」

「恐ろしい血筋は麦わらだけではなかったということか」

 

 三者三様のリアクションを取る。しかし、ルフィに比べたら私の血統など大したことない。

 ちょっと銃の上手いだけの人だし……。

 

 

「言っとくがおれは手出ししねェぞ。勝手に動いたらお頭に迷惑かけちまうからな。まっ、これも修行だと思うこった。最強の狙撃が出きりゃ何とかなるって」

 

 四皇の幹部がアラバスタ王国で戦闘などしたら、色々と大騒ぎになるということで、思ったとおり親父は助っ人として期待できない。

 アラバスタまでの航海で今よりも強くならなきゃ……。

 

 

 こうしてメリー号はウォーターセブンを出港した。

 目指すは砂漠の国――アラバスタ王国。ビビたちは元気だろうか――。

 

 

 




ユノ一味の設定は適当です。
どうせアラバスタ王国にもう一回行くなら、何かしらイベントを起こしたくて……。
アイスバーグとカリファは新アラバスタ編のみのゲストということで。

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アラバスタ王国、再び

またもや、めちゃめちゃ間が空きましたね。
申し訳ありません。


「済まないね。ミキータに六式の指南なんてさせちゃって」

 

「いえ、ご主人様の命令とあらばたとえ両手両足を束縛されたまま、海に放り込まれても構いません」

 

「私が構うんだが……」

 

 カリファはメリー号でミキータに六式の基礎を教えている。この体術……キロキロの実とめちゃめちゃ相性が良い。

 1万キロの鉄塊でプレスするだけで悪夢だし、剃も月歩もウエイトを自在に操れるミキータが使うと脅威になり得る。

 彼女が六式マスターになれば、二年後の旅はかなり楽になるだろう。

 

「で、ライアちゃんはちっとは武装硬化使えるようになったか?」

 

「えっと、ね。指先だけ、ほら。ちょっと黒い気がしない? 気配を探るときのピリッとした感じを集めてみたんだけど」

 

「キャハハ。本当にちょっぴり黒っぽいじゃない。それが覇気って奴なの?」

 

 ヤソップとミキータが私の指を覗き込む。漫画だと、覇気使いは腕とか全身とか真っ黒にしたりしてたけど、今の私は人差し指の先っぽが限界みたいだ。いや、これが本当に覇気なのか怪しいが……。

 

「おー、出来てるじゃねェか。よし、次は銃弾に覇気を込めるか」

 

「早いよ! ステップを多分10段階くらい飛び越えてるよ!」

 

 親父が無茶ぶりをするから、私はついつい声を荒げる。

 こんなもやしみたいな武装色しか出来てないのに銃弾に覇気なんて込められる訳がないじゃん。

 

「ライアちゃんは殴り合いするんじゃねェんだろ? だったら、銃弾に覇気を一点集中する訓練をした方が効率がいい」

 

「まぁ、確かに……。だけどさ、こんなに弱い覇気で……例えばロギア系の能力者を相手にして十分な効果を得られるもんなの?」

 

「相手が武装色で防御しなきゃ、それなりに効果はあると思うぞ。実体を銃弾が捉えるようになるからな」

 

 そっか。武装色で防御しなきゃ銃弾で能力者にダメージが与えられるのは大きいな。

 私の火力不足も随分と解消出来そうだ。

 

「んじゃ、さっそく指からギュッと覇気を注入してみろ」

「だから、もっと理屈を教えてくれ!」

 

 親父の教え方が下手なので、私はムッとする。

 いや、ルフィやゾロやサンジならそういう感じでもコツを掴んだりするんだろうけど。

 

 こんな感じで久しぶりのゴーイングメリー号での航海は私がヤソップから武装色の覇気を、ミキータがカリファから六式を教わりながら、永久指針(エターナルポース)の指し示す方向を頼りにアラバスタを目指した。

 

 

 

「ンマー、これなら東の海(イーストブルー)の端っこまで行ってもかなり余裕はありそうだな」

 

「ありがとう。まさか、アイスバーグさんまで乗船してくれるとは思わなかったよ」

 

「プルトンのことも気になるし、何よりこの船の修理はおれがキャリアの全てを懸けて担当したからな。それならば、最後まで面倒が見たくなるってのが人情ってモンだろ」

 

 メリー号の修理を責任持って請け負ったというアイスバーグは完璧な仕事をしてくれている。

 既に新品以上のスペックなんじゃないかっていうくらい快速だし、偉大なる航路(グランドライン)を逆走して東の海(イーストブルー)を航海しても大丈夫だというお墨付きを頂いたし、本当に彼には感謝してもしきれない。

 

 

 ということで新生メリー号は多少の荒波にも負けず、あっさりとアラバスタ王国に到着した。

 

 いやー、永久指針(エターナルポース)ってチートアイテムだね。

 アラバスタからウォーターセブンって到着するまで結構頑張った気がするんだけど……。

 まぁ、空島挟んだせいってのも大きいか。トラブルもめちゃめちゃあったし……。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「じゃ、親父は船番頼んだよ。言うだけ無駄だけど気を付けて」

 

「おう。三下海賊なんざに負けんなよ。おれァ、ライアちゃんにプレゼントでも作ってやらァ」

 

「私の工具箱勝手に使ってるし……。まぁいいけど。壊さないでくれよ」

 

 赤髪海賊団の幹部として顔が売れているヤソップは一人で船番をする。

 彼は私の工具箱を開けて何かを作るみたいだ。

 ていうか、私の作った道具を物色してるけどちゃんと片付けてくれよ……。

 漫画のウソップを参考にして作ったは良いけど日の目を見ることの無かった発明品もそれなりにあるんだから。

 

 

「キャハ、こんなに早くここに戻ってくるとは思わなかったわ」

 

「逃げ出すのにも苦労したもんね」

 

「ンマー、まさかクロコダイルの称号剥奪も麦わら絡みの事件とは思わなかったぜ」

 

「クロコダイルのやり方は世界政府すらも欺くほど見事でした。ニコ・ロビンが隠れ蓑にしただけはあります。それを見抜くなんてご主人様は流石です」

 

 私とミキータ、それにアイスバーグとカリファの四人はアラバスタ王国の港町であるナノハナに上陸した。

 うーん、よく考えなくてもおかしな四人組だ。

 元バロックワークス、元CP9、ウォーターセブン市長って、キャラクター濃すぎるだろ。

 

 とにかく、ユノ一味もこの国に来て良からぬことを企んでいるはず。

 それを知った以上、奴らを野放しにするわけにはいかない。

 ルフィが居たらきっと同じことをしただろう。

 

「で、会いに行くんでしょう? あの子に」

 

「うん。本来は海賊である私が軽々に会っちゃいけないっていうのは分かるんだけど。ビビに事情を伝えた方が話が早いからね」

 

「アラバスタ王国は世界政府加盟国だぞ。お前ら海賊がネフェルタリ・ビビ王女に簡単に会えるのか?」

 

「簡単には無理かな。公には関わりなんか無かったことになってるし。だから世界政府関係者に成りすまして会おうと思うんだ。例えばCP9とか」

 

「なるほど、身分を偽って謁見するのですね。先方には騙されたフリをしてもらう、と」

 

 ビビが私たち海賊と関わっていたことはトップシークレット。

 ならば身分を偽って会えばいい。アラバスタ王宮のみんなとは顔見知りだから、きっと演技に付き合ってもらえるし。

 

 ここに来るとき、それくらいは想定して作っておいたんだ。

 CP9に成りすます為の変装道具を……。

 

「ということで、みんなにはこれを身に着けてもらう」

 

「キャハ! あのときに見た変な仮面ね!」

「ンマー、再現度高すぎて傷跡が疼くな」

「自前のものを持っていますが、ご主人様が作られたものを身に着けます」

 

 私は三人にCP9が被ってた変な仮面を手渡した。

 いや、カリファは本物を持っているならそれを使ってくれ……。

 

 

 と、まぁこんな感じで私は変装してナノハナから首都アルバーナを目指し、予定通り到着はしたんだけど――。

 

 

「この街に世界をひっくり返す程のお宝があると聞いた! おれァ! 偉大なる航路(グランドライン)で名を上げた海賊の中の海賊! モジャ髭だァ!」

 

「やいやいやいやい! お前ら、知ってることをちゃあんと吐かねェと後悔するぞコラァ! あっしは、この近海の最高賞金額を目指してる男ォ! 通称2500万ベリー男! ゲリラ豪雨のディオラだァ!」

 

「シンプルに口が臭いだとォ!? そうさ、このわしこそ毒ガスを吐き出す最悪の男! ピーチランド海賊団、船長! デスブレスのゼオスじゃ!」

 

 アルバーナは海賊たちの溜まり場みたいになっていた。

 これはどういうことだ!? アルバーナは前に来たときは治安はまぁまぁ良かったのだが……。

 いくら、クロコダイルの抑止力が無くなったからって……。

 

「ユノ一味の得意技です。近海のならず者たちに独自ルートで偽の情報をバラ撒いて、任意の場所の治安を悪化させるという」

 

「キャハッ、そういうこと。連中はプルトンの場所を知らない」

 

「ンマー、アラバスタ王家が過剰反応してプルトンの在り処を守ろうと動くことを期待したって訳か」

 

 カリファはユノ一味が情報操作してこの連中をアルバーナに集めたのだと読んだ。

 理由はミキータとアイスバーグの言うとおりだろう。

 やはり陰湿な手を使う……。まったく、この国の平和を私の目の前で再び乱すなんて――。

 

「ライア、連中に構わず先を急いだ方が良さそうだ。騒ぎを起こすとおれたちが此処に――」

 

「キャハハ、無駄よ。そんなこと言っても。知ってた? あの子、うちの船長さんやゾロくんよりも喧嘩っ早いのよ」

 

 いっけね。もう、銀色の銃(ミラージュクイーン)をぶっ放してた……。

 だって、こいつらさ。ビビがあんなに必死な想いをして守った国をめちゃめちゃにしようとしてるんだよ? 許せないじゃないか。

 

「せ、船長! どうしたんですかい!? 急に撃たれて……!」

 

「なんだ、なんだ!? 海軍か!? それとも王国の兵士共か!?」

 

「おれたちに歯向かうものは! ぐえっ!」

「この無礼者めらは皆殺し……で、よろしいでしょうか? ご主人様……」

 

 私の発砲を皮切りに、カリファが動き出して次々に海賊たちを六式によって沈めていく。

 ありがとう。付き合ってくれて……。

 

 ユノ一味との戦いとの前にウォーミングアップだ。

 私だって強くなったんだ。懸賞金に負けないくらいの実力を見せつけてやる。

 

「キャハッ! 仕方ないわね! 船で覚えられたのは、これ一つ! 1万キロ指銃(しがん)ッ!」

 

「ぐぎゃあああああああっ!」

 

 うわぁ……、やっぱりキロキロの実と体術って相性良いなァ。

 ていうか、ミキータ……物覚え良すぎ。カリファが教えるのが上手いのもあるかもだけど。

 

「ったく、麦わらが居なくてもこいつら結局こうなるのか……」

 

 アイスバーグは呆れ顔で身を隠しながら、私たちの暴れっぷりを傍観している。

 大丈夫だよ。ほら、ちゃあんと仮面で変装してるし。

 どっからどう見てもCPっぽいって。

 

 

 

「ど、どうなっている? 市民の通報で駆けつけてみれば、大量の海賊共が倒れている……」

 

 小一時間くらい戦っていたら、ほとんどの海賊たちは倒れていた。

 どうやら偽情報に踊らされた海賊って時点で大した奴らでは無かったらしい。

 

 それにしても、懐かしいな――。

 

 空から降りてきたアラバスタ最強の戦士――ペルが呆気にとられた表情をしていたので、私は彼に挨拶を兼ねて状況を説明しようとした。

 

「やぁ、ペル、久しぶり。ちょっと内密に国王に話したいことがあるんだけど……」

 

「――っ!? そ、その声はライア? どうしてこの国に? それにその妙なマスクは……」

 

 CP9風のマスクをつけた私に話しかけられたペルは驚愕して私を見る。

 そりゃ、騒ぎを聞きつけて来てみれば、こんな格好した私がいるんだもん。驚くよね……。

 

「いやぁ、これには訳があってさ。実は――」

「ライアさん!!」

「――っ!? うおっ、と!」

 

 ペルに事情を説明しようとしたとき、懐かしい声と共に……彼女が私の胸に飛び込んで来た。

 近くにいることは見聞色の覇気で感知していたんだけど、まさか仮面をしていても私に気付くとは……。

 

「ビビ、よく私だと気付いたね。久しぶりだけど、元気にしていたかい? また、君に会えて嬉しいよ」

 

 力強く抱きしめられて、ペルから変な視線を送られつつも私はビビの顔を見て、再会を喜んだ。

 あんな別れ方をしたんだから、もっと気まずくなると思っていたんだけどな……。

 

「愛する人を仮面くらいで見紛うはずがないわ。それに、こうしてるとライアさんの匂いがするし……」

 

「に、匂い? そ、そんなに匂うかい? 私……」

 

 ギューッとさらに力を込められて顔を胸に押し付けながらビビは私の匂いがするとか言ってきた。

 確かに砂漠を越えて汗はかいたけど、恥ずかしいな。

 

「キャハッ! イチャつくのは、そこまでよ。私たち、急ぎの用件で来たんだから」

 

「……ミキータ。あなたも来てくれたのね」

 

「そうよ。だから、さっさとライアから離れなさい……」

 

 ミキータに話しかけられても、一向に私を離そうとしないビビに対して、彼女は呆れた声と共に私からビビを強引に引き離そうとする。

 

「ご主人様、まさかアラバスタの王女を愛人に……? ますます素敵です」

 

「王女に惚れられて国を滅ぼしかけた危険人物という噂は本当だったのか」

 

 カリファは妙に興奮した声で、アイスバーグは若干引いたような口調で私がビビと親しいことについて言及する。

 いや、愛人でもないし、国を滅ぼしかけたなんて大嘘だし……。

 

「ビビ、さっきペルに話そうとしたんだけど……。この国に不穏な影が迫って来ている。至急、コブラ国王に報告しなければならない話なんだ」

 

「不穏な影が……? わかった。王宮に来てもらって話を聞くわ。ルフィさんたちのことも含めて」

 

 私はビビにユノ一味について国王に報告したいと述べる。

 彼女はもちろんオッケーしてくれたけど……。今度は手をギュッと握ってそのまま歩き出した。

 

 ミキータはカヤに告げ口するとか小声で囁くし……、なんかユノ一味よりも恐ろしいことになりそうなんだけど――。

 

 




ということで、久しぶりの更新は如何でしたでしょうか?
ビビとの再会も書きたかった要素の一つなので、投稿できて嬉しいです。


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王女と海賊

お久しぶりです。
前回の話とか覚えてないかと思いますが、よろしくお願いします。


 まさかアラバスタ王宮にもう一度訪れることになるとはなぁ。

 私は海賊だし、ビビとはあんな別れ方をしたから気まずいっていうのもあったけど、プルトンが狙われている事態は看過出来なかったし。

 

 ビビはずっと私に寄り添っていて、ミキータの視線が痛い。

 アイスバーグやカリファも何か勘違いしているみたいだ。

 

 まったく、私が王女を誑かして国を滅ぼしかけたって酷い噂もあったもんだよ。

 そんなわけ無いじゃないか……。

 

「……というわけで、私たちが来たのは他でもない。ユノ一味がこの国にあるという古代兵器プルトンを狙っていること知ったからだ」

 

「まさか、そんなことが起きていたとは。君がプルトンについて知っていたことにも驚いたが……。わざわざここまでよく来てくれた……」

 

 アラバスタ王国の国王ネフェルタリ・コブラに政府からの使者として謁見する私たち。

 ふぅ、人払いしてくれたからようやく仮面を外せる。

 どうやらコブラは我々を歓迎してくれたらしい。

 

「ライアさん、また逞しくなったわね」

「そうかい? 筋力は多少ついたと思うけど女の子らしさからはまた離れてしまったよ」

「そこがいいのよ」

 

 ビビとも積もる話をしたいところだが、まぁ、それはこの話が解決してからだ。

 しかし、今日の彼女は随分と甘えてくるような気がする。

 

「せっかく来てくれたところ、悪いのだが、プルトンの場所を教えるわけにはいかぬ。ニコ・ロビンから聞いて知っているのかもしれんが」

 

「いや、ロビンからは聞いていないよ。それに場所を教えてもらう必要も全くない」

 

 ロビンが私たちの仲間になっているのは流石に知っているか。

 手配書も出回っているもんな。変な疑いをかけられたくないところだが。

 

「そういえば、ミス・オールサンデー、いやニコ・ロビンが何でライアさんたちの仲間になっているの? 随分とライアさんと仲が良さそうだったけど」

「キャハッ! あなた、ライアの手配書持ち歩いてるの? 重症じゃない」

 

 ビビが私の手配書を取り出して、ロビンの腕が一緒に写っていることを指摘する。ちょっと怖い顔してるのは、やっぱりこの国を陥れようとしたクロコダイルのパートナーだったからかな。

 うーん。話せば長いんだけどな。今はそんなこと話している場合じゃないし。

 

「ロビンのことはまた説明する。それよりもユノ一味のことが先決だろう? 私たちは連中の野望を阻止するために迅速に動かなくてはならない」

 

「ご主人様は何か妙案があるようにお見受けしますが」

「また、ライアさん。別の女の人とも仲良さそうにしてる……」

「キャハハ、こんなの日常茶飯事なんだから目くじら立てるだけ無駄よ」

 

 カリファの言うとおり、作戦ならある。

 コブラはプルトンの場所を教えられないとしているがそれは当然だろう。

 守るにあたって、場所を知る必要はないのだ。ユノ一味をぶっ倒せばこの話は終わりなのだから。

 

「偽の情報を流す。アラバスタ王国は持てる兵力を総動員してある場所を守っていると。その場所が本当である必要はない。奴らをおびき寄せる餌にすればいいのだから」

 

「ンマー、やってることは連中と同じだが、おれたちが国と繋がっていることも知らねェし、連中の企みがバレていることも知らねェだろうし、有効だろうな」

 

 私が口にした作戦を聞くとアイスバーグはそれは有効だと口にした。

 ユノ一味が偽情報を使った陽動が得意なら、私もそれに倣おうじゃないか。

 あいつらをおびき出して一網打尽にする。

 それが私の考えた作戦の最終段階だ。

 

「キャハハ、アラバスタ軍と私らでユノ一味をフルボッコにするって訳ね」

 

「いや、ミキータ。戦うのは私たちだけだ。不特定多数の人間にプルトンの情報を知られるのはまずいからね」

 

 沢山の人が聞いている前でプルトンのことを連中が口にすると面倒だ。変な噂が広まり、ロビンを狙ったときみたいに世界政府が兵器を狙う可能性すらある。

 出来るだけ目立たず、収めたいところだ。

 

「うむ。それは私も懸念していたことだ。君たちに任せても良いだろうか? ペル、チャカ、お前たちも同行しなさい」

 

「「はっ!」」

 

 ペルとチャカも一緒に来てくれるのか。

 ペルは飛行能力があるし、チャカはゾオン系の能力者でパワーもある。同行してくれると心強い。

 

「私も行くわ! ライアさんを放っとけない!」

「ビビ様! 何を仰る! ここは私とチャカに任せて、吉報をお待ちください!」

「ペルの言うとおりだ。ビビは王女なんだか――」

「ライアさんは私を何度も守ってくれた! 今度は私が守りたいの! あなたが託してくれたこの銃で!」

 

 ビビが手にしているのは赤色の銃(レッドエンジェル)

 私が東の海(イーストブルー)から愛用していた武器である。 

 って、わがまま言われてもなぁ。ユノ一味は危険な連中の集まりだしビビを連れて行くっていうのは……。

 

「ライアさん、今度会ったときまた私のことを仲間と呼んでくれるって約束してくれたでしょ? この国で仲間が危険な人たちと戦おうとしているのは見過ごせないわ。アラバスタのために戦っているのなら尚更!」

 

「……はぁ、仲間とか言われると弱いじゃないか。ルフィがここにいたら、即答するだろうな。『いいぞ』って」

「キャハハ、船長さんなら間違いなく何も考えずに言うでしょうね」

 

 クロコダイルと戦ったとき、いやアーロンと戦ったときからビビは仲間だった。

 麦わら一味だと公の場で話すなんてことは出来ないけど、みんなそう思っているはずだ。

 だからこそ私はここに来たんだし、みんなだってこの事態を知っていれば駆けつけてきてくれるのは間違いない。

 

「ビビ、君は置いていっても抜け出す気満々だね?」

「ふふ、バレてる? お願いライアさん。この国にあなたがいる間だけでも、あなたの仲間で居させてほしいの」

「……仕方ないな。なるべく、私から離れるな。手が届く範囲じゃなきゃ君を守れなくなるからね」

「……はい」

 

 私はビビの肩を抱いてなるべく離れないことを条件に同行することを許した。

 いや、私が許したところで許されるかどうか分からんのだけど。

 ペルとかチャカとか、すげー睨んで来てるし。

 

「ビビ様! もう少し離れなさい! 深みにハマるとまた大変なことになりますぞ!」

「恋煩いでどれだけ精神を消耗したのかお忘れか!? 彼女はアラバスタの恩人ではあるが、あなたにとっては毒薬なのです!」

 

「えっ? えっと、そのう。ビビの同行を諌めてるんじゃ」

「さすがはご主人様。アラバスタ王女をここまで依存せしめるとは」

「ンマー、それがレディキラーって二つ名が付いた由縁だろうな。お前やニコ・ロビンを見ていてもそれは分かる」

 

 ペルとチャカはユノ一味よりも寧ろ私を危険視しており、カリファとアイスバーグはそれに納得している。

 えっ? 私が変なの? どうかしているの?

 なんか、変な方向に収集がつかなくなっているんだけど。

 

「まぁまぁ、良いではないか。百合は文化だ。それもまた良し」

「国王! 百合は国を滅ぼしますぞ!」

「あなたが亡くなると王族はビビ様しか居なくなるのです! これは国家問題なのですよ!」

 

 何当たり前みたいに百合とか言ってるんだよ。

 私たちが居ない間にコブラは何をしていたんだ。てか、ビビのことは止めないのか……。

 よく考えたら、ビビを二年間もバロックワークスに潜入させていたんだった。

 私にもまだ前世の常識みたいなのが残っていたけど、割とそういう世界だった。

 

「キャハハ、もうどうでもいいから早く動きましょ。今の私たちには船長さんたちが居ないんだから、一人でも戦力が多い方が良いわ」

 

「ンマー、言っちゃなんだがおれは戦えねェからな」

「諜報部隊で培ったこの力、全てはご主人様のために」

 

 私たちの中で最も常識人なミキータが戦力が多い方が良いという非常に当たり前のことを言ってくれたおかげで話はまとまった。

 アイスバーグにはここに残ってもらって、ペルとチャカ、そしてビビを加えた六人でユノ一味に挑む。

 コブラたちと相談した結果、ユパ付近の砂漠地帯をアラバスタ王家の大切な宝の隠し場所として警備するという偽情報を流布させておいた。

 

 さて、連中はどう動くか。

 “万策”のユノの配下には、“寝首落としのシェード”というキプキプの実の能力者、“逆転のラルトス”というリバリバの実の能力者がいるのは既に知っている。

 

 さらにカリファに聞いたところ、“金縛りのデジール”というドゥルドゥルの実の能力者。

 よく分からんが強制ドロー人間なんだって、枷を押し付けて一度触れられると重量が二倍、二度触られると重量が四倍、相手は重さに耐えきれずに頭を垂れるという何か聞いたことがあるような能力者だった。

 

 相手は四人でこっちは六人。人数の上では有利だけど、勝てるかなぁ……。

 情報戦が得意で武闘派では無かったとのことだが、新世界の海賊だったらしいし。

 

 でも、やらなきゃならない。大切な人の大切な(くに)を守るために――。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「しかしルフィ無しで勝てるものか。彼が居たらどんな相手にも負ける気がしなかったのに、気弱になったもんだよ」

 

 銀色の銃(ミラージュクイーン)やホバーボード、衝撃貝(インパクトダイアル)などのメンテナンスを終えた私は砂漠の岩陰に隠れながら連中がやってくるのを待つ。

 やっぱりアラバスタは暑いなぁ。こりゃあ早く連中がやってきてくれないと干からびちゃうぞ。

 

「あんただって、今や億超えの賞金首なんだし、海軍と白ひげの戦争に巻き込まれても無事だったんだから、自信を持ちなさい」

 

「あれも近くにルフィが居たからなぁ。それに懸賞金は戦闘能力じゃない。ユノ一味はその際たる例だろ?」

 

 頂上戦争で生き残り、懸賞金1億9600万ベリーになった海賊と聞けば、結構厳つい感じになるけど、過大評価も良いところだ。

 ユノ一味はその逆。懸賞金は1000万ベリー前後なのにビッグマムに目をつけられるまで新世界で生き残っていたと聞く。

 懸賞金はあくまでも政府から見たときの危険度合いでしかなく、戦闘能力とは比例しないのだ。

 あの黒ひげだって、頭角を現す前はゼロだったって話だし……。

 

「今は私がライアさんの側にいるわ。それじゃ、心許ない?」

 

「あはは、そうだね。ビビもミキータもカリファもいる。それにペルとチャカもね。一人で構え過ぎていた。仲間に頼りながら、勝つ方法を模索するとするよ」

 

 手を握りながらビビは仲間ならいると口にした。

 そうだった。今のこの状況でも私には頼りになる仲間がいるじゃないか。

 力を合わせれば、実力以上の戦果を出せることは今までの冒険で証明している。

 

 きっと大丈夫だ。どんな奴が相手だとし――。

「おーい、オイオイ! やーっぱり、船長の言うとおりだ。偽情報だったじゃねェか。ねずみが六匹しかいねェってのは、おかしいよなァ。オイ!」

 

「「――っ!?」」

 

 背後から現れたのは“寝首落としのシェード”。

 テレポートを使う悪魔の能力者だ。見える範囲しか動けず、遮蔽物があると乗り越えられないって聞いたけど。

 

「おーい、オイオイ、見える範囲しか動けないのにどうしていきなり現れたって面してんなぁ。こいつがありゃあ、()()()()()ってのは増やせるんだぜ」

 

 望遠鏡を片手にニヤつくシェード。そういうことか。

 砂漠で高いところから予め、こっちの様子を望遠鏡で観察して私たちの姿を発見して接近したという訳か。望遠鏡でテレポートの範囲を伸ばせることには気付かなかった。

 いや、だとしてもこの場所は簡単に分かるはずがない。遠くからは簡単に見えないような場所を選んだのだから。

 

「キャハハ、ユノってやつ、あんた並の広範囲で“見聞色の覇気”っていうのが使えるんじゃない?」

「そ、そうか。そういうタイプはエネル以外に今まで居なかったから失念してたよ」

「“万策”のユノは無能力者の中でもかなりの強者のはずです。覇気使いかどうかの情報はありませんが、十分に考えられます」

 

 参ったな。ユノが見聞色だけじゃなくて武装色まで使えるとなると、私たちの戦力じゃどうにもならない可能性があるぞ。

 漫画の知識しかないけど、覇気使いで能力者を圧倒していた描写は見られたし。

 

 まぁ、そんなことを考えても意味がないか――。

 

「おーい、オイオイ。アラバスタのねずみ共。船長が言うにはお前らがプルトンの場所を知っていると読んでいる。死にたくなけりゃあ、吐くこった。おれらも急いでるんでね」

 

「悪いが素直に話す連中に見えるかい? 私たちが」

 

「かぁー、オイオイ。命ってのは大事にした方がいいぜ。船長命令で、てめェらを拷問にかけても吐かせろって言われてんだぜェ。()()()()は……!」

 

「「――っ!?」」

 

 私の見聞色の覇気がシェード以外の二人が猛スピードで接近していることを感知したのと同時に隠れ蓑にしていた巨大な岩が砕け散る。

 とっさに私たちは防御姿勢を取りながら、その場を離れた。

 やって来たか、ユノ一味。恐らく“万策”のユノはどこかで様子を見ていて手下をこっちに送り込んで来たんだな。

 

「シェードの旦那ァ! こいつら、ウォーターセブンに居た連中じゃないっすか」

 

「オイオイ、そういえば見た顔だな。世界政府の連中がアラバスタ王国と結託してプルトンを……、あり得ねェ話じゃねェか」

 

「どうでも良いですよ……、そんなこと。私は早くジメジメした船室に帰りたい……」

「デジールの旦那、しっかりしてくれよ。砂漠は絶対に嫌いだと思っていたが」

 

 シェードに続けて“逆転のラルトス”が現れて、さらに横にいる顔色の悪い長髪の男は恐らく“金縛りのデジール”だろう。ラルトスがそう呼んでいたし……。

 

 奇しくも私たちは三手に分かれて三人の男たちと対峙している。

 スキップ人間、“寝首落としのシェード”とはペルとチャカが。

 反転人間、“逆転のラルトス”とは私とビビが。

 そして、“金縛りのデジール”とはミキータとカリファが向かい合っていた。

 

 これはタッグを組んで二人で一人を倒す計算かな。いや、早く倒せば助太刀も出来るし、卑怯だと言われようが人数差で押し切る気で戦おう。

 

 アラバスタ王国の砂漠での戦いがはじまった――。

 




ユノ一味との戦い、そしてビビとの別れと見せかけて……。
里帰りにビビも同行させたら面白いかも、とか妄想しています。
二年後編もやりたいなー、強くなったライアがドフラミンゴやら四皇やらの一味とどう戦うとか。
ゆっくり更新になりますが、気長にお待ちいただけると幸いです。


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VSユノ一味

 私とビビに立ちはだかるのは“逆転”の二つ名を持つ、ラルトス。

 ウォーターセブンで対峙したとき鉛玉を跳ね返してきた。

 カリファに詳しい能力を聞いたが跳ね返す力がどの程度なのかわからない。

 それならば、まずすべきことは――。

 

「ビビ、あいつの能力を探りたい。反射に注意しつつ、私を援護してくれ」

 

「ライアさん、任せて! 足は引っ張らないわ!」

 

 ビビの応答を聞いた私は銀色の銃(ミラージュクイーン)を構えて、ラルトスに向けて発砲する。

 

 しかし、銃弾が当たる寸前でラルトスの体がぶれたように見えたと思った瞬間、弾が弾き返されて私の方に飛んできた。

 

「くっ、やはり……」

 

 咄嵯に身を捻り、体を逸らすことで直撃は免れたが、それでも肩に掠ってしまう。

 

「へェ、やるねェ。さすがは1億9600万ベリーの賞金首。こうも簡単におれの能力を見抜いてくるなんてな」

「見抜くというほど大層なものでもない。お前の動きを見て、予測を立てただけだ」

 

 ラルトスも同じく肩を負傷している。なぜか……私の弾丸が当たったからだ。

 

「ライアさん、どういうこと? あらゆるものを跳ね返すのが彼の能力じゃないの?」

 

「うん。でも、それはあいつが視認できたものだけだ。私は二発撃ったんだよ。一発は正面、二発目は跳弾でやつの死角から肩を狙った」

 

「そ、そんなことをあの一瞬で? ライアさんこの少しの期間でとてつもなく強くなってる……?」

 

 これで跳ね返す力があるのは視認できる攻撃に対してのみ、ということがわかった。

 それがわかればいくらでも対策はできる。

 

「旦那〜、もしかしておれの能力がわかったくらいで対策できるとか思っちゃってる? 甘めェよ」

「なに? ……ぐはぁ!?」

「ライアさん!!」

 

 いきなり、私が立っていた場所に砂煙が巻き起こり吹き飛ばされる。

 何が起きたかは見えなかったが、とにかくなんらかの圧力を感じた。

 

「跳ね返すものならいくらでもあらァ……。例えば空気をこんなふうに触れて放てばいいだけなんだぜ。もちろん、目に見えないほどの速度でな!」

「うっ……」

 

 立ち上がろうにも体に上手く力が入らない。貧弱な私には結構ダメージが大きいみたいだ。

 これが奴の能力か……。

 

「ハハッ!! あんまり痛そうじゃねェなあ。まぁ、このままジワジワ嬲ってやれば、そのうち動けなくなるか」

「ライアさん! 今行くわ! うぅっ……!?」

「おいおい、余所見してんじゃねぇぞお嬢ちゃん。あんたも旦那と同じ目に遭いたくなかったら大人しくしてなァ! それとも先に死ぬかい?」

「くうっ……、ナメるんじゃないわよ!」

 

 ラルトスはビビに向かって空気弾を放とうと手をかざす。

 それと同時にビビはかつて私が彼女に預けた緋色の銃(レッドエンジェル)で反撃する。

 しかしラルトスの手が僅かにブレたと思った瞬間、弾が弾き返された。

 ビビはそれを読んでいたのだろう。危なげなくそれを躱す。

 

「やっぱり、弾き返されるのね……!」

「なんだお嬢ちゃんも銃を持ってんのか。けど、残念だったな。その程度じゃあおれには通用しねェんだ。旦那みたく跳弾でも狙ったら別だけどなァ」

 

 ラルトスはビビの銃撃も跳ね除けると、ゆっくりと彼女に近づいてきた。

 

「ライアさん、ここは私が……」

 

 どうやらビビは私を助けるために隙を作ろうとしているようだ。

 だが、私はそれを制止した。まったく、ルフィたちの仲間としてこの程度の相手に手こずるなんて情けない。

 ちょっと慎重になりすぎたな。悪い癖だ。

 

「ビビ、攻めるぞ。ついてこれるかい? 作戦はあるんだ。私を信じて合わせてくれ」

「えぇ、もちろんよ!」

 

 私は立ち上がると、そのままラルトスに向けて駆け出した。

 

「おっと、来るか? だが、おれは跳弾だって注意さえすれば跳ね返すことができる。あんたらが何をしようと無駄だ」

「それはどうかな。ビビ!」

「ライアさん!」

 

 私はラルトスに肉薄すると、跳躍し空中で身を捻りながら銃弾を放つ。

 そして、それに合わせるようにビビもまた銃弾を放った。

 

「なっ!? くっ、舐めるなよ! 連携で注意をそらすつもりだろうが……こんなお遊びみたいな弾でおれを倒せると思うなァ!」

 

 ラルトスは私とビビの放った銃弾を跳ね返そうと腕を前に出す。

 だが――。

 

「甘いな。必殺――真・鉛星!!」

 

 私はラルトスの目の前でさらにもう一発発砲する。

 

「旦那が早撃ちなのはわかってる! 跳弾にも注意してる! 無駄なんだよォ!」

「いや、これは特別な弾丸だよ。あと、誰が旦那だ! 私は女だ!」

「なに? ……ぐあああっ!?」

 

 ラルトスは跳ね返そうとした弾丸をそのまま受け止めた。

 それにより、彼の右手から血が流れる。

 

「バカな……、なぜおれの手が!?」

「注意力散漫……、悪魔の実の能力者は能力が通用しないとすぐにスキだらけになる」

「はァ?」

孔雀(クジャッキー)……スラッシャー!!」

 

 ビビの必殺技――孔雀(クジャッキー)スラッシャー。刃物を糸につけ、小指で回転させて敵を斬る技。

 

「ぐあああぁ!?」

 

 ラルトスは全身を切り刻まれ、悲鳴をあげる。

 そして白目をむいて倒れた。

 

「ライアさん、やったわね!」

「あぁ」

「でも……どうしてライアさんの銃弾が当たったの?」

 

 ビビは当然の疑問を口にする。確かに、あの弾丸は通常のものとは少し違う。

 

「あれはね、私が武装色の覇気を弾丸に纏わせたんだよ。覇気という力を纏わせた銃弾は実態を捉える。つまり、跳ね返すことはできない。それがたとえ悪魔の実の力であろうとね」

「すごい……さすがはライアさんね。けど、なんでわざわざそんなことをしたの?」

「奴が油断しているうちに倒すためだよ。もし警戒されていたら避けられていたかもしれないからね。あとは、奴の能力を知ったなら奴はその弱点を突くと思うだろ? 覇気を使うという選択肢が頭から消えれば必ず当たると思ってね」

 

 正直、かなり面倒な相手だった。

 奴の能力は目に見える攻撃に対しては無敵に近い。

 覇気を使わずとも手数で押し切れるとは思ったがそれだと私やビビがかなりダメージを負う可能性も高かった。

 だから、あえて初めて実戦で覇気を纏わせた銃弾を撃ち込んだのだ。

 武装色の覇気を纏わせることができるようになったのは本当につい最近である。

 最初に使わなかったのは体力が異常に消耗するし、タメにも時間がかかるからだ。

 だが、効果はご覧のとおりで悪魔の実の能力を打ち破りダメージを与えることができる。

 

「うっ……、旦那ァ……。マジで女なの、か……」

 

 ラルトスはそう言い残して気絶した。これで完全に意識を失っただろう。

 つーか、最期の言葉めっちゃ腹立つんだけど。

 

「ふぅ……。なんとか勝ったわね」

「あぁ、君がいてくれて助かった……」

「ライアさん……」

「ビビ……」

 

 久しぶりの戦闘で興奮したからなのかビビは頬を赤らめてこちらを見つめてくる。

 そして、彼女は私の手を握りしめて――。

 

羊雲(ひつじぐも)大津波(タイダル・ウェイブ)!」

「キャハッ! 一万キロ指銃!」

「がはッ……!」

 

 その瞬間、戦闘中のカリファとミキータによって“金縛りのデジール”が吹き飛ばされてきた。

 

「なっ!?」

 

 私は慌てて振り返る。

 そこには、ムッとした表情のミキータと泡まみれのカリファがいた。

 

「ちょっと王女様。キャハッ、戦闘中にいちゃついてんじゃないわよ」

「さすがはご主人様です。戦いの最中でも女性を口説けるなんて……」

 

「いや、口説いていないし。君たちも“金縛りのデジール”を倒したんだね」

「えぇ、あなたたちが戦っている間にね。キャハハ、まぁ、私たちも危なかったんだけど。新技がなかったらこんなに簡単にはいかなかったわ」

「ドゥルドゥルの実の能力とアワアワの実の能力の相性が良かったのも幸運でした」 

 

 これで残りは“寝首落としのシェード”のみ。

 彼はテレポートが使える厄介な相手だけど……ペルとチャカは無事だろうか?

 私はすぐに彼らの元へと駆け寄った。

 

「テレポートとは珍しい力だが私にも世界で五種しか確認されていない飛行能力がある」

「アラバスタ王国護衛隊の双璧たる我らの力、見せてくれる!!」

「おーい、オイオイ。こりゃ参ったな。おれにもヤキが回ったか?」

 

 テレポートを繰り返すシェードは、チャカとペルに対して防戦一方となっていた。

 彼はかなりのダメージを受けているようで満身創痍といった感じだ。

 

「飛爪!」

鳴牙(なりきば)!」

 

 目にも止まらぬスピードで二人は斬撃を繰り出す。

 

「がふッ!! て、テレポートが追いかねェ! こ、これだから……戦闘は嫌なんだ……恨むぜ、頭ァ!!」

 

 シェードは二人の猛攻を受けてついに膝をつく。

 しかし、それでもなお抵抗しようと立ち上がろうとする。その時――。

 

四匹の野生怒狼(ワイルドドローフォー)……!!」

 

 そのとき、砂の中から男が飛び出して、掌底をシェードに叩き込む。

 まるで獣が噛み付いた跡のような傷が彼の四肢に刻まれた。

 

「ぐあああっ!? か、頭ァ! これは一体どういうことだ!? 」

「悪いね、お前らがあまりにも弱くて使えないからね。まったく悪魔の実まで食わせてやったのにこのザマかい……。もういいや、死んどけ。野生の手札(ワイルドカード)

 

 そう言って男は掌底で、さらに強烈な一撃を喰らわせる。

 

「ぎィああぁあッ!!!」

 

 その衝撃でシェードは吹っ飛んで、そのまま動かなくなった。

 今のは排撃貝(リジェクトダイヤル)級の威力に見えたぞ。

 この力を私は知っている……。武装色硬化――つまり、こいつは武装色の覇気使いか。

 

「ご主人様、彼が“万策のユノ”。屈強な海賊がひしめく新世界にて悪魔の実の力なしで戦い抜いていた強者の一人です」

「まさか、これほど強いとは……。覇気を使いこなす人間はここまで厄介なのか……」

 

 カリファの説明なしでも私には察せられた。

 彼の戦闘力はあの頂上戦争で戦った連中と比べても遜色ない。 

 

 さすがに大将クラスや白ひげ、ミホークほどの威圧感はないが、それでも私からすると間違いなく強敵であった。

 

「麦わらの一味のレディキラー、運び屋。それにCP9の女諜報員。そしてアラバスタ王国副官“ハヤブサ”に“ジャッカル”、さらにアラバスタ王国の王女様ときた……こりゃあ、どういう組み合わせだ? 何にせよ、全員始末しちまえば問題はないな」

「くっ……! なんていうプレッシャーだ」

 

 私は思わず冷や汗を流す。

 やはり、こいつの強さは本物だ。部下の力が大したことなかったから油断していたけど、これに勝つのは尋常じゃないぞ。

 

「って、王女様だけは生かしたほうがプルトンの在り処を探る上では都合が良いかもな」

「ご主人様の愛人を傷つけるわけにはいきません」

「キャハハ、やれるもんならやってみなさいよ」

 

 カリファとミキータは戦う構えをとる。

 いや、カリファはビビのことをなんだと思っているの?

 

「ビビ様には指一本触れさせん」

「うむ。ここは任せろ」

 

 ペルとチャカも戦闘態勢に入る。それを見たユノは肩をすくめた。

 

「部下の戦いを見て、あんたらの実力は把握しているつもりだ。おれを相手にするにはあんたら程度じゃ、荷が重いんじゃないか?」

 

 その瞬間、ユノの姿が消えた。いや違う、高速移動したんだ。

 

「まずはレディキラー、お前からだ」

「――ッ!?」

 

 気づいたときにはユノが私の目の前にいた。

 ったく、(ソル)を見慣れるくらい見てなかったら見聞色の覇気を鍛えていても対応できなかったかもしれないな。

 この程度なら対処できないほどじゃない。

 

「いい反応だァ! だがそれで躱したつもりか!?」

 

 ユノはニヤリと笑って蹴りを繰り出す。

 皮一枚を掠らせて避けるつもりだった。実際に避けることはできた。だが――。

 

「ぐはっ……!」

 

 私はその風圧と掠ったときに触れた僅かな武装色の覇気だけで吹っ飛ばされた。

 しかもそれだけでは終わらず、さらに追撃が来る。

 ユノの攻撃は止まらない。

 私はそれをなんとか回避するが、反撃する余裕など微塵もなかった。

 

 こいつ……なんて強さだ。

 おそらく、武装硬化させた一発がきれいに入るだけで私は死ぬ。

 そんな予感すら抱かせるほどのパワーだった。

 

「どうした!? 動きが鈍ってきたぜ!!」

「ぐふぅ……!」

 

 ユノの拳が腹に入った。

 咄嗟に後ろにジャンプしたのに内臓が破裂しそうな衝撃で口から血が吹き出る。

 マズイ……。このままだと殺される。

 

「キャハハ! ライアになにしてんのよ! くらいなさい! 一万キロ鉄塊プレス!」

「ほう? 運び屋ァ! まぁまぁいい技持ってるじゃねェか。野生の手札(ワイルドカード)!」

 

 空中から身体を硬化し、重量を一万キロまで上げたミキータが落下する。

 それに対してユノは凶悪な笑みを浮かべて、右手の掌底を放つ。

 

「ふんッ!!」

「きゃああっ!!」

 

 凄まじい衝撃音と共に、ミキータの悲鳴が響く。

 一万キロもの重量がある彼女は遥か彼方に吹き飛ばされて、地面に叩きつけられた。

 

「スキあり!」

「アラバスタ王国の驚異は私たちが排除する」

「次はお前らか? いいねぇ、来いよォ」

 

 ペルとチャカがコンビネーションで攻撃するも、ユノはそれを難なくいなす。

 あの二人を同時に相手にしても余裕すら伺える。

 

四匹の野生怒狼(ワイルドドローフォー)!」

「ぐふっ……!」

「うぐ……!」

 

 チャカとペルの攻撃を掌底で受け止めたユノはそのまま二人の腹を抉る。

 その強力無比な威力に二人は堪らず膝をついて倒れた。

 

「くそっ……! なんて奴だ……!」

「こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ……!」

 

 ペルとチャカは悔しそうに歯噛みしながらユノを見る。

 私も同じ気持ちだ。これほど強いなんて想定外にも程がある。

 

「ご主人様、ビビ王女を連れてお逃げください。ここは私が――」

「仲間を置いて逃げるやつが海賊王のクルーは名乗れないさ。大丈夫……一撃で仕留めるから」

 

 私はカリファの言葉を遮って立ち上がる。

 そして、目をつむって集中力を上げる。

 こうなったら残された手はたった一つだけ。

 

 私のとっておき――武装色の覇気を纏わせた弾丸を未来視を駆使して急所にぶち込む。

 

 あいつが全身を武装硬化でもさせたらおしまいだったけど、どうやら油断しているみたいだし一発ならなんとかなるだろう。

 

「なんだ? 戦闘中に目を閉じるとは余裕だな」

 

 ユノは怪しげなものを感じたのか、警戒して距離を取ろうとする。

 だが、遅い。すでに私は武装色を弾丸に纏わせている。

 

「どうやら一発に賭けているみたいだが、そう簡単にいくかな?」

 

 さっきまで以上にスピードを上げてユノは私を翻弄しようとする。

 そのスピードは(ソル)を使ったカリファよりも遥かに速い。

 だけど、未来視を使えばどんな速度にも対応できる。

 

「悪いけど……お前の動きはもう見切った」

「何?」

「見せてやる。――必殺! 真・鉛星ッ!!」

 

 未来を見切った私はユノの急所を目がけて銃口を向ける。

 そして放たれた弾丸は確実に彼の腹に命中した――。

 

「……がふっ! ぐはっ……、やるじゃないか。もう少し覇気が強かったら、おれの硬化も追いつかずに貫かれていたかもな……」

 

 ユノは血反吐を吐き出しながらもニヤリと笑う。

 どうやら咄嗟に武装硬化を弾丸が命中する瞬間に使ったらしい。

 こいつ、そういえば見聞色もかなりの使い手だったな。

 

 弾丸の威力は殺されて、彼の腹から血まみれの弾が出てきた。

 く、くそ! ま、まだだ! 私はさらに銃弾を放とうと弾を込める。

 特殊な弾丸を使えば、効かぬとも翻弄してスキをつくことも――。

 

「遅い――」

「え……?」

 

 ユノの声が聞こえたと思った瞬間には遅かった。

 腹を撃たれたはずの彼は一瞬で間合いを詰め、私の首を掴む。

 その腕力は尋常ではなく、気道を潰されて呼吸ができない。

 

「ぐ……、うぁ……!」

「終わりだ! 野生の(ワイルド)――」

 

 そこまで口にした瞬間、ユノの筋肉は弛緩してゆっくりと倒れる。

 同時に、私の首を掴んでいた手が離れた。

 よく見たら私が撃った弾痕の隣にもう一つ……一回り大きな弾痕がユノの体には刻まれていた。

 

「げほっ! はぁ……はぁ……。なんだったんだ今の……? 」

 

 とにかく助かったようだ。

 ユノが倒れてくれたおかげで命拾いをした。

 しかし、一体なにがあったんだ?

 

「そげきーの島から来ーた男ー、ルルルー、ルルララ、それ逃げろー♪ そげげ、そげそげ、そげキーンーグー♪」

 

 ゆっくりと仮面をつけた男がこちらに向かって歩いてくる。

 その歌はどこか懐かしいような気がする。

 

「ライアくん。最後の一発は惜しかったな。このそげキング様が見本を見せてやったぞ」

「なにやってるんだよ? バカ親父……」

「親父? 誰だね? それは……。私は狙撃の島からやってきたそげキングだ!」

 

 正体を隠すために作っておいた仮面を身に着けて、父ヤソップは私を助けに来てくれた。

 なんだかんだで気にかけてくれていたらしい。憎たらしい父親だが、今この人は別人を演じている。だから――。

 

「あ、ありがと……そげキング」

「んっ? ああ、君は親友のヤソップくんの可愛い娘だからね。守るのは当然だ」

「ふーん、あ、そう……」

 

 今回は完全に負けていたな。

 親父がいなきゃ、確実に全滅していた。

 やはりもっと強くならないと……とてもじゃないけどルフィを海賊王にすることはできないみたいだ……。




ビビ、ライア共闘とヤソップがそげキング化して助太刀が書きたかっただけなのに、随分と時間が経っちまった……!
すまぬ、情けない作者ですまぬ……! 
ヤソップの口調は演技です。一応……。


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