ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう (ルピーの指輪)
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東の海編 ヤソップの娘

にわかな部分もありますので、ご了承ください。
それでは、よろしくお願いします。


「カヤ、君は輪廻転生という言葉を信じるかい?」

 

 私はそう金髪の少女に話しかけた。病弱で外に出ることが出来ない彼女は私の話を楽しそうに聞いていた。

 

「輪廻転生? つまり、生まれ変わりということ?」

 

 美しい彼女はキョトンとした表情で私を見ていた。

 なぜ、そんなことを言うのかって? それは私が――。

 

「転生者……。私は前世はまったく違う世界に居たんだ……」

 

 私は自分が前に居た世界の話をした。この世界とは別物の科学が発展した異世界の話を……。カヤという金髪の幼馴染は私の話をただ、楽しそうに毎日聞いてくれていた。

 まぁ、創作だとは思われてるだろうけど……。

 

 しかし、私は彼女に告げてないことがある。

 

 それは――この世界が自分の前に居た世界の漫画の中だということを……。

 そして、私はどうやらその漫画の主要人物らしいのだ。その漫画の名は《ONE PIECE》――。

 

 私は海の王者と言われる最強の海賊たち――四皇の一角である赤髪海賊団の一員のヤソップの子供だ。

 

 つまり、この物語の中心である麦わらの一味の初期メンバーの一人になるはずの人間ということである。

 

 しかし、おかしな事が二つある。それは、私の性別が前世と同じだということ。

 私の性別は――女なんだ……。しかも、ヤソップの子と言えば鼻の長いウソップなのだが――。

 

「うふふ、とても面白い話をありがとう。ライアさん」

 

 彼とは名前も違う……。まぁ、性別が違うから当たり前かもしれないが……。

 私の名前はライア。赤髪海賊団のヤソップの娘だ。

 

「いつか、私は海に出る。そうしたら、もう少しだけ面白い話が出来るようになるかもしれないね」

 

 未来が漫画と同じなら私は麦わらの一味に入るはずだ。まぁ、入らなくても偉大なる航路(グランドライン)を目指すつもりではいるが……。

 

 最初はそんな気はさらさらなかった。《ONE PIECE》が嫌いと言うわけじゃないが、あんな血生臭い戦いに巻き込まれるなんて、嫌でしかなかったからだ。

 

 私が偉大なる航路(グランドライン)を目指すきっかけは母の死だ……。

 

 優しかった母は毎日のように父が帰ってくるのを楽しみに待っていた。

 そう、死んでしまうその日まで――。

 

 だから私は父を恨んだ。いや、戻ってこられない事情は理解しているのだが、恨まずにはいられなかった。

 私に出来る事は、父に母の墓標の前で謝罪をさせることだけだ――。

 

 しかし、この世界は死と隣り合わせ。赤髪海賊団は確かに大物だけど、いつかやられてしまうかもしれない。

 それならば、確実に会えるタイミングで父を説得して連れて行くしかない。

 

 私が知っている赤髪海賊団の出てくるシーンは頂上決戦――ポートガス・D・エースの死刑執行でヒートアップしたあの戦いを止めるために出てきた、あの瞬間だ。

 

 どうにかして、あの戦いにルフィと共に潜り込んでバカ親父を連れて帰る!

 

 そんな計画を私は密かに立てていた。

 

「やっぱり、お父様を見つけに行くの?」

 

 カヤは少しだけ寂しそうな顔をしていた。はぁ、この顔に私は弱い。

 

「ちょっとだけさ。パパッと行ってきて、見つけて、連れて帰ってきたら、私はずっとこのシロップ村に住むつもりだ」

 

 私はカヤに出来るだけ優しく笑いかけた。彼女は私の目をジッと見ていたかと思うと、カーッと顔を赤らめる。

 

「カヤ? どうしたのさ、ボーッとして」

 

 私は彼女の表情を覗き込むようにして問いかける。

 

「――はうっ、時々、ライアさんが女性だということを忘れてしまうわ。最初に会ったときはホントに男の子だと思ってしまったもの。それに格好もそういう服装が好きだから……」

 

 カヤは私の気にしてる事をズバリと言う。そう、私の見た目は何故か中性的というか、なんというか、《ONE PIECE》のキャラクターでいうとキャベンディッシュの髪型をストレートロングにしたような見た目だ。髪の色は銀髪だけど……。

 おまけに、口調は前世からこんな感じだし、声も少しだけ低い。

 格好は自分の趣味だから譲りたくないんだけど、基本的に黒スーツに白シャツで、シルバーのブレスレットを付けている。

 

 だから、よく男だと間違われることが多い。

 まったく、神様は中途半端なことをしてくれる――。

 

 そんな格好だからとかは言わないでほしい。スカートは嫌いだし、スタイルに自信がないから体のラインが出る服は着たくないんだ。

 そもそも、すごく似合わない……。

 

 もっと可愛い感じに転生出来れば良かったなぁ……。

 

「じゃあ、カヤまた来るよ。ちょっと私はアルバイトがあるからさ……」

 

「うん、待ってるわ。いつもありがとう、ライアさん」

 

 私はそう言って、カヤの家の庭から出た。

 

 

 私は人目を気にしながら小舟を隠している場所まで行き、そこで手早く着替えて、顔の大部分が隠れるくらいの大きさのゴーグルを付ける。

 アルバイトというのは、ズバリ、賞金稼ぎだ。

 これから激しい戦いに巻き込まれると知っていて訓練をしないほど私は馬鹿ではない。

 来たるべきときに備えて私は自分の力を研磨していた。そう、頂上決戦を生き抜くために――。

 

 この世界の戦いは基本的に悪魔の実の能力者が有利だ。海に落ちたら終わりなはずだが、麦わらの一味の戦いは陸戦が多い。

 無能力者のウソップは機転が利く強者だが、運が味方して生き残ったシーンも多い。じゃあ、私はどうだろう? Mr.4のバットを頭に受けて生き残れるだろうか?

 

 巨大爆弾の爆発で生きていたり、かと思えば簡単なことで命を落としたりする世界だ。

 生存率を高くするためには強くなっておくに越したことはない。

 

 とにかくまずは悪魔の実の攻略だ。特に無策で自然系(ロギア)を相手にすると何も出来ずに蹂躙されてしまう。その他に初見殺しみたいな能力者も多い。

 

 これに関しては対策は色々とある。海楼石とか、武装色の覇気とか、弱点を突くとか……。だから、私はこれらの対策を実践するために動いてみた。

 

 まずは海楼石について……、残念だが、東の海(イーストブルー)じゃ、全然見つからなかった。

 スモーカー大佐が海楼石の十手を持ってたから、案外簡単に見つかると思ってたけど無理だった。よく考えたら海軍が特別に支給してる可能性が高いよなー。

 

 そして、武装色の覇気――まったく概念がわからん。大体、ルフィの修行シーンはほとんどカットされていたし、同じ修行なんてそもそも出来るはずがない。早い話、これも今は無理ということだ。

 

 弱点を突く――これが大本命だ。実際にウソップは狙撃する際に何かしらの効果を付与させる弾丸を使っていた。

 私にもそのスタイルが合っているみたいで、生来の器用さも相まって色々な銃弾や銃火器を開発した。

 将来的にフランキーと仲間になったら更に捗りそうだ。

 

 例えば、煙なら炎、砂なら水というように攻撃が出来たりすれば、かなり有利になるはずだ。当たりさえすれば――。

 

 ということで、私は狙撃の訓練を毎日欠かした事はなく、こちらは父親譲りの才能からなのか、すればするほど腕前は上がっていった。

 至近距離なら百発百中は当たり前だし、何なら動いてる相手の先読みまで出来るようになった。

 多分、知らない内に見聞色の覇気とやらが鍛えられたからだろう。

 

 そのおかげで、“避ける”ことに関しても私はかなりの自信がある。

 避けて、逃げて、逃げまくって、当てるという戦法は私の得意な戦法となった。情けないとかは言わないでほしい。

 

 こんなことをしてる内に、私はもう17歳になった。道化のバギーがやられたという情報や、モーガン大佐が失脚したというニュースはまだ届いてないが、そろそろ彼らがシロップ村に現れるかもしれない。

 

 

 今回の海賊との戦いは私の最終試験も兼ねている。

 

 

 さて、手頃な海賊がこの辺りに……。

 私は近海に賞金首の情報が入ると海賊でも山賊でも関係なく実戦訓練がてら、それを狩っていた。クラハドールに警戒されると厄介なのでゴーグルと“アイラ”という偽名で正体を隠しながら……。

 あと、武器の開発にも金がかかるので、小遣い稼ぎも兼ねている。

 

 そのせいで、少々名が売れてしまい、《魔物狩りのアイラ》とかいう、恥ずかしい二つ名まで出来てしまった。

 

 この島には、ここを拠点に暴れ回っている海賊が居ると聞いてやってきた。

 海賊の名は《牛刀のゲルグ》、懸賞金は500万ベリー。東の海(イーストブルー)の懸賞金の平均が300万ベリーだから、高い方と言えば高い方だ。私が仕留めた海賊の中では二番目に高額の賞金首である。

 

 私は武器である特殊な改造をした愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を片手に連中のアジトである、洞窟へと足を踏み入れた――。

 

 

 入って5秒もしない内に私は見張りと遭遇する。まぁ、これは計算どおり。さすがに誰にも見つからないようにするのは無理だ。

 

「――しっ、侵っ!? はうっ……zzzz」

「えっ――!? うっ……zzzz」

 

 即効性の睡眠薬を仕込んだ銃で私は見張りの動きを封じる。怪我ぐらいじゃ叫んで煩いし、殺すのはちょっと合わないというか、何というか……。

 

 とりあえず、縛って目覚めても余計な事が出来ないようにしとこ。

 

「うーん、大きな気配はこっちだな……」

 

 私は枝分かれする道の前で、取り分け大きな気配がする方向を目指して歩き出した。

 見聞色の覇気が鍛えられているのか、私は気配の大きさで敵の強さや位置が離れていて見えない位置でも大まかにわかるようになっている。

 

 しかし、妙だ。今回、感じる気配はとても大きい。前に倒した700万ベリーの海賊よりも遥かに強い気配だ。これは、下手したら勝てないかもしれない。

 それならそれで、逃げれば良いけど……。

 

 私はなるべく最小限に敵を撃ち倒しながら、先へと進んで行った。

 

「おっおま……zzzz」

 

「これで、5人目か……。あんまりやり過ぎると気付かれて本命に逃げられる可能性もあるからなぁ……」

 

 私はゲルグの部下の動きを拘束しながら、ボヤいていた。

 しかし、気配は近い。近づけば、近づくほど凶暴な力を感じるが……。

 

 

 さて、ここが本命の居場所だな。果たして鬼が出るか蛇が出るか……。

 私は愛銃を構えて、ドアを蹴破った。そして、その瞬間に気配のする位置を狙って弾丸を放った。

 

「――っ!? 避けられた!? いや、弾いたんだ、刀で……」

 

 目の前の男は真正面から私の弾丸を弾いた。それも食料庫の中にある小麦粉の袋の上で寝転んだ状態で……。ていうか、ここの船長は牛刀使いのはずだけど、どう考えても違うな……。

 

「人の寝込みを襲うたぁ、いい度胸じゃねェか!」

 

 男は黒いバンダナを巻いており、二本の刀を両手に持って私を見た。いや、二本じゃあない、三本だっ……!? 口に剣を咥えたまま喋ってる。

 

 三刀流? それって……。

 

「まさか、海賊狩り……!? ロロノア・ゾロ……?」

 

 私は自分の軽率さに嫌気がさした。

 そうだよ。ロロノア・ゾロもそういえば、この時期は賞金稼ぎをしていたんだった。鉢合わせる可能性を全く考えてなかった。

 

「ん? おれの名も随分と上がったじゃねェか」

 

 ゾロって、女は斬らないんじゃなかったっけ? でも、私って女認定してくれるかなぁ?

 

「いや、ごめんごめん。私も賞金稼ぎでさ、つい、間違って……」

 

「鬼――斬りッ!!」

 

 案の定というか、いきなり銃をぶっ放したんだから仕方ないんだけど、ゾロは容赦なく私に斬りかかってきた。

 

「――っ!? 速いっ!?」

 

 私は全力で避けるのに徹して、これを躱した。

 シャレにならん。あんなの食らったら死んじゃう。

 

「――ちょっと、待って私は……」

 

「今のを躱すとは大したもんだな。だが、次はそうはいかねェぞ!」

 

 ゾロの凶暴な剣技が再び私に向かってくる。やばいっ! こうなったら――。

 

蒼い弾丸(フリーザースマッシュ)ッ」

 

 私は彼の右腕を目掛けて、弾丸を放った。彼はそれを右手の刀で弾こうとするが――。

 

「――なっ!? 何だこりゃ!?」

 

 彼の刀は凍りついてしまい、そのまま右肘の辺りまで凍りつく。蒼い弾丸(フリーザースマッシュ)は冷気の弾丸だ。

 

「いきなり撃ってしまって申し訳ない。これには訳があるんだ。聞いてくれ、私は君と同じ――」

 

 私はようやく弁明が出来ると思った。しかし、それは甘かった。

 

「だったら、片腕で十分だっ!」

 

 ゾロは凍った右腕なんて、ものともせずに私に斬撃を放とうとしていた。

 くっ――、漫画以上の迫力だな……。仕方ない、ちょっと怖いけど……。

 

「――なっ!?」

 

 私は彼の動きを読みつつ、間合いを急速に詰めて、彼の懐に潜り込む。しかし、ゾロもそんな私の動きに対応して剣を振った。間に合うか――。

 

「はぁ……、提案だが、引き分けってことで手を打たないか?」

 

 私の首元には彼の刀が、彼の胸元には私の銃が突きつけられていた。

 お互い、決め手が無くなったわけだし、平和的に……。

 

「男の勝負に引き分けなんざっ! うおっ!?」

 

 ゾロが強引に動くから私たちは転んでしまった。私は彼に押し倒されてしまう。

 

 そして、彼の左手は刀を手放して、私の胸を鷲掴みにした――。

 

「――なっ、なっ、いや、この感触は……」

 

 ゾロの顔がみるみる真っ赤になる。普通逆じゃないか?

 

「なぁ、すまないが呑気に揉んでないで、そろそろ私の胸から手を放してくれないか」

 

 私は左手の感触に動揺している彼に声をかけた。

 不可抗力とはいえ、思いっきり揉みしだかれてしまった……。

 

「――っ!? すまねェ! まったく女に見えなくてつい……」

 

 彼はそこはかとなく私を傷付けるような発言をしながら、手を離した。自覚はあるし、ゴーグルも付けてるから仕方ないけど、はっきり言われるとなぁ……。

 

「いいよ、私も勘違いで撃っちゃったから――」

 

「勘違い?」

 

「私も君と同じ賞金稼ぎってことさ。強い力の気配を感じたから君が“牛刀のゲルグ”だと思っちゃったんだ。粗忽者で申し訳ない」

 

 私はゾロの凍った腕に薬品をかけて治しながら謝罪した。

 

「へぇ、なかなか腕が立つと思ったが、お前も賞金稼ぎだったのかよ。まったく、無駄なことしちまったぜ」

 

 彼は右手の感触を確かめるように手を開いたり握ったりしていた。少しだけ凍傷になっているが、特に問題なく動く所をみると、彼の回復力が並外れていることが窺い知れる。

 

「じゃあ、お互いに今回のことはなかったことに――」

 

 私は胸に手を置いて、彼に確かめるような言葉をかけた。

 

「おっおう。お前が良いんだったら……。その、悪かったな……」

 

 ゾロは目を逸らせながら、ばつの悪そうな顔をした。原因が完全に私だから気にしなくていいのに……。

 

 それに、すっかり忘れていたが、今の状況はそんないざこざなんて、どうでもいい状況だ。

 

「とりあえず誤解は解けたところで、悪いんだけどさ……」

 

「ん? ああ、そういや海賊のアジトだったな。すっかり忘れてた」

 

 そう、私たちの存在は思いっきりバレていた。あれだけ大暴れしたから当然だ。

 今現在、ゲルグ海賊団の戦闘員たちが武器を構えて一挙にこちらに押し寄せて来ているのだ。

 

 《魔物狩り》と《海賊狩り》は、互いの武器を構えて臨戦態勢を整えた――。

 予定とは違うけど、まぁしょうがないかー。

 




こんな感じのオリ主で進めて行こうと思います。
もし、ご意見やご感想があれば、一言でも狂喜乱舞しますので、お気軽によろしくお願いします!


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冒険の夜明けは突然に

 私の目の前でゲルグ海賊団の戦闘員たちが山積みになって、気絶している。

 

「やっぱり、強いなー。ゾロは……」

 

 私は間近で彼の戦闘を見て感嘆した。剣技はもちろん凄いが、更に驚かされたのは彼のパワーだ。

 人間ってあんなに吹っ飛ぶんだね。いや、ルフィなんてよく漫画で「ぶっ飛ばす!」とか言ってるけど、生でみると実にきれいによく飛ぶもんだ。本当に驚いたよ。

 

「そういうお前もえげつねェ。全部一撃で仕留めてたろ。なんて腕してやがる」

 

 ゾロは私の狙撃を戦闘しながら観察していたみたいだ。

 まぁ、前衛で暴れまわってる彼の後ろからという状況なら、余裕をもって狙えるからね。楽をさせてもらったよ。

 

「狙いに関しては、私の唯一の取り柄なんだ。パワーもスピードもないからね。これ一本で頑張るしかないのさ」

 

 私は自嘲しながら、そう言った。一応、鍛えては居るんだけど、あんな超人みたいなことが出来るようになる気がしない。

 それなら、特技を伸ばした方が今後の為になるはずだから、私は狙撃の技術だけは大切にしようと思っている。

 

「それより、ゾロ。肝心のゲルグがこの洞窟の外に向かってるみたいだ。急ごう、500万ベリーが逃げてしまう」

 

 私はゾロの次に大きな気配がこの場から離れようとしていることを感知した。

 

「なんだ、その超能力? まぁいいか、洞窟の出口だな? 行くぞ!」

 

「ああ、出口はこっちだけどね」

 

 私は反対方向に走ろうとする彼の手を掴んで走り出した。本当にやばいくらいの方向音痴だな。

 

 

「――おい、わかったから、手ェ離せ」

 

「なんだ、君をエスコートしてやろうと思ったのに。恥ずかしがり屋さんだな」

 

 しばらく、私がゾロの手を引いていると、彼は嫌そうな顔をしたので手を離した。そんな顔しなくてもいいじゃないか。

 

 

 洞窟の出口から外が見える。《牛刀のゲルグ》は逃げの一手を打ったようだ。

 賞金稼ぎ二人に部下をほとんど倒されたから、そうせざるを得ないのは分かるけど……。

 

「仲間を見捨てるなんて、実に薄情じゃないか」

 

「――同感だ。だが、奴ぁ、もう船に乗り込もうとしてるぞ。このままじゃ、逃げられちまう」

 

 ゾロは遥か彼方を牛刀を担いで逃げている肥満体型の男を指差してそう言った。

 うん、距離にして1kmないくらいか。それくらいなら……。

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を両手で構える――。研ぎ澄ませ……、万物の呼吸を捉え、そして狙いを定めろ――。

 

「必殺ッ――鉛星ッッ!」

 

 風を切って猛烈な勢いで放たれる、シンプルな鉛の弾丸。ゴム人間とかには効かないけれど……。

 

「お前……、狙撃だけが取り柄っつったけど……。やっぱ、とんでもねェ奴じゃねェか!」

 

 ゾロは目を丸くして私と愛銃を凝視して、目をゲルグの方へと向ける。

 

 ――ゲルグは足を押さえて、船の手前で倒れてのたうち回っていた。普通の人間なら膝裏を貫かれたら当然そうなる。

 睡眠薬入りの弾丸が切れてしまったから、私は彼の急所を外して動きを止めることにしていたのだ。

 

 ふぅ、これでアルバイトは完了か。懸賞金はゾロにも助けられたし、折半しよっと。

 

 

 私たちはゲルグを捕らえて、海軍に引き渡して懸賞金、500万ベリーをゲットした。

 

 

 

「おーい、本当に全部いらないのか? 私って図々しいから真に受けて全部貰っちゃうよ」

 

 ゾロは女に助けられた金は要らないとか言い出したので、私は丸々500万ベリーを頂いてしまった。

 なんだか悪いことをした気がする。

 

「要らねェよ。しかし、お前のことは覚えた。《魔物狩りのアイラ》……、商売敵としてな」

 

 ゾロはニヤリと笑って私を見送ろうとする。

 商売敵ねぇ……。まぁ、仲間になるのはもう少し後だからなー。

 

「あー、でも私って今日で賞金稼ぎ辞めるんだよねー。足を洗うんだ、目的のために……」

 

「はぁ?」

 

 私は今回の仕事で賞金稼ぎを辞める。だって、外に出てる内にルフィたちが来てたらシャレになんないもん。

 

「だから、さ。《魔物狩りのアイラ》、じゃなくて、こっちで覚えてほしいな。私は、ただのライアだ。村娘のね……」

 

 ゴーグルを外して、素顔を彼に晒した。これで次に会ったとき、声をかけやすくなるだろう。

 

「――素顔を見たところで女に見えるような見えねェような……」  

 

「おいっ!」

 

 私はゾロの頭にチョップした。デリカシーのないこと言わないであげてくれ……。

 

「もし、今度会ったらご馳走するよ。美味い飯と美味い酒を好きなだけね」

 

「はっ! そりゃあいいな。楽しみにしといてやるぜ。何年後になるかわかんねェけどな」

 

 握手して、そんな別れを告げて、私はシロップ村に向かった。

 何年後ねぇ、割と直ぐなはずだけど、私も楽しみにしてるよ。ロロノア・ゾロ……、思ったよりも面白い人だったな。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ゾロと会った日から、しばらく月日が流れると、道化のバギーがやられたとかいう情報が私の元に入ってきた。

 ふぅ、そろそろ彼らはこの村にやって来そうだな。気を付けて生活しないと。

 

 そんなことを考えながら、今日も私はカヤの屋敷の庭にいる。

 

「――とまぁ、こんな感じかな。この数式の証明は背理法を使った方が余程早く解けるんだ」

 

 私はカヤの勉強を見ている。彼女は利発だし、物覚えがいい。

 両親が3年ほど前に亡くなって気を落としていたが、今は立ち直って自分で出来ることを増やすために勉学に励んでいる。

 

「ライアさんって、本当に勉強が得意よね。先生か学者さんに向いてると思うわ」

 

 カヤは命題とにらめっこしながら、私の講義を褒めてくれた。

 

「ははっ、私の生徒はカヤだけで十分だよ。君にこうやって何かを教えたり、話したりしてる時間が私には堪らなく幸せな時間なんだ」

 

 実際、冒険なんてどうでもいいから、このまま平和に彼女と同じ時を過ごしたいと思うことも多い。

 しかし、亡き母のことを想うと、私の衝動は捨てられなかった。でも、きっと帰ってくる。大好きな君のもとへ……。

 

「おや、またお勉強を見てもらっていたのですか、お嬢様。別にライアさんでなくても、私だってこれくらいなら教えられますよ」

 

 穏やかな低い声と共に現れたのはメガネをかけた執事、クラハドールだ。

 彼は私の隣に立って、カヤの解いている数式を覗き込んでいた。

 

「わかってるわ。クラハドール。でも、私はライアさんから習いたいの。ね、いいでしょ」

 

「しかしですねぇ、お嬢様。彼女の父親は――」

 

 カヤの言葉にクラハドールは困ったような顔して私を見る。はぁ、大した役者だよ。あなたは……。

 

「――海賊だもんね。クラハドールさん……、ごめんなさい。あなたが私にいい印象を持ってないことは知っている。でも、カヤとは幼馴染で、ずっとこうやって仲良くしてきたから」

 

 私も彼に対する敵愾心は消して、無害な人間を演じる。この男は恐ろしい奴だ。

 元々凶暴な海賊のクセにたったの3年で村中の信頼を勝ち取ってしまった。

 カヤの財産を合法的に掠め取る為とはいえ、よくやるとは思う。

 

「はぁ、あなたも聞き分けが悪いですね。一度、汚れた血はきれいにならないのです。あなたがどれほど善行を積もうとね」

 

 彼は淡々と冷たく私をあしらおうとした。明らかに挑発してるな。私が暴力に訴えるところを、カヤに見せようとしてるんだろう。

 

「――参ったな。クラハドールさんと議論しても平行線のようだ。悪いが、カヤ。私は退散するよ」

 

 私は両手を挙げて降参の姿勢を取った。

 でも、君のことは許さないよ。クラハドール……。

 私の大切な人を殺そうって言うんだから……。いくら甘い私でも躊躇をするつもりはない――!

 

 

 

 私は少し早めの昼食を取るために、村の飲食店へ向かった。自分で作ってもいいのだが、買い置きしてた食料が尽きていることを思い出したのだ。後で、買いに行こう……。

 

 しばらく歩いていた私は足を止める。はぁ、またこの子たちか……。

 

「――さっさと出てきたらどうだ? 私の背後を取るのは無理だと教えたはずだよ」

 

 私は背中越しに感じる視線と気配に向かって話しかけた。

 木陰から感じる気配は三つ。非常に小さいものだ。

 

「さすがです! 船長(キャプテン)!」

「すごいです! 船長(キャプテン)!」

「ライア海賊団ッ、集合しました!」

 

 にんじん、たまねぎ、ピーマンの村の悪ガキ3人組。漫画ではウソップに懐いてウソップ海賊団とかいう、海賊ごっこをしていた子どもたちだ。

 

 この子たちときたら、私が海賊の娘だと知ったら勝手に私を船長(キャプテン)と呼んできて、悪さばかりするものだから、私が村の人に何度も謝罪する羽目になったりもしていた。

 

 まぁ、根は良い子たちなのだが……。

 

「その、ライア海賊団っていうの止めてくれないか。そろそろ……。君たちも独立を考えた方が良いと思うんだ」

 

 私はうんざりした顔で彼らを見た。こういう風に目を輝かせてるときは大抵面倒なイタズラを考えついた時だ。

 

「独立ですか!? 素敵な響きです!」

「バカ、それどころじゃないだろう! ライアさん、大変なんです!」

「かっ、海賊の船がこの村に!」

 

 彼らの報告に私は一瞬だけ、放心状態になる。ホントに来た……。予測はしていたけど、本当に……。

 

 いや、まだ()()と決まったわけじゃ……。

 

「わかった。私が見てこよう。で、その海賊旗には何か特徴はなかったかい?」

 

 私は彼らに海賊旗の特徴を尋ねた。

 

「おい、見たのはお前だろ? なんか無いのか?」

 

 にんじんがたまねぎを問いただす。彼は興奮気味で口を開いた。

 

「あっ、あれは確か、道化のバギーの海賊旗でしたっ!」

 

 ――ビンゴだ。間違いない。麦わらの一味がこの村に来たんだ。

 私は心臓の鼓動が大きな音をたてるのを感じた。何年も覚悟していたはずだが……。いざ、時が来ると震えて来るものだな。

 

「ありがとう。君たちは危険だから、お家に帰りなさい。じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

 私はたまねぎから聞いた方向の浜辺に向かって猛ダッシュした。下手に騒ぎを起こされても困るからな。急がないと……。

 

 

 

 

 

 

「うぉーっ、肉、肉! この村には肉があるかなぁ!」

 

「ちょっとは肉から離れなさい!」

 

 肉のことで頭がいっぱいの麦わら帽子の男の子と地図を見ているオレンジの髪の女の子……。間違いない、ルフィとナミだ……。

 そして、眠そうな顔をしたゾロもいる……。やはり、来たか……。麦わらの一味……。

 

 私は木陰に隠れて、気配を消して様子を窺っていた。

 勢い勇んでここに来たけど、どう挨拶すればいいんだろう? 仲間に入る予定です、とかって変だし。ゾロは顔見知りだけど……。

 

 気配を消してるから、当分は気付かれない。ゆっくり作戦を――。

 

「見られてるぞ、ルフィ……、かなりのやり手だ。気配の位置を正確に悟らせねェ」

 

「うーん、あの辺じゃねぇかなぁ」

 

 とか、思っていたら直ぐに隠れているのがバレてしまった。野生の動物以上の嗅覚だな。

 ルフィに至っては、完全に私の場所を指さしてるし……。

 

 

 ええい、仕方ない。出ていくか……。

 

 

「驚いたな、こんな辺境に道化のバギー一味が何の用事かな?」

 

 木陰から砂浜に飛び降りて、私はルフィたちの方に進む。手に愛銃を持って。

 

「うおっ、なんだぁ、それカッコいいなー」

 

 ルフィは私の付けているゴーグルを見て歓声を上げた。カッコいいかな……? これ……。

 

「長い銀髪に、大きなゴーグル、そして赤い銃……、ルフィ、そいつ多分賞金稼ぎよ。《魔物狩りのアイラ》……、賞金首を無差別に狩ってる凶暴な女だったはず……」

 

 ナミは驚いたことに私を知っていた。てか、私って凶暴な女って評判なの? 誰も殺してないのに……。

 

「うぉっ! ライア! ライアじゃねェか!」

 

 ゾロが驚いた顔をして私に駆け寄る。あー、良かった。忘れられて、斬りかかられたらどうしようかと思ってた。

 

「ゾロじゃないか、驚いたな。バギー一味に居るのか?」

 

 実際はまったく驚いてないが、私はゴーグルを外して如何にも偶然の再会というような演技をした。

 このくらいの嘘は許してもらいたい。

 

「いや、おれもいろいろあってな。海賊はやってるが、船長(キャプテン)はコイツだ」

 

 ゾロはルフィを親指で指さした。うん、知ってる。

 

「なぁ、ゾロっ! こいつのこと知ってんのか?」

 

 ルフィは私の顔をジィーっと見てきた。そんなに見つめられると――照れるじゃないか……。

 

「ゾロとはちょっと前に獲物が被っただけだよ。麦わらくん、そして美人のお嬢さん。私の名前はライア。賞金稼ぎは、偽名を使っていてね。こっちが本名だ」

 

 私は銃をしまって自己紹介をした。出来るだけ、愛想を意識して……。

 

「おれはルフィ、海賊王になる男だ」

 

「私はナミ、航海士をしてるわ。一応ね……」

 

 二人は私に合わせて自己紹介する。海賊王か……、この世界に生まれるとその言葉の大きさがより分かってきた。大言壮語すぎるということも……。

 でも、この男がそれを言うだけの資格があることを私は知ってる。

 

「そっか、海賊王か。いい夢を追いかけてるね。奇遇だよ、私もそろそろ行こうと思ってるんだ。偉大なる航路(グランドライン)へ」

 

 私はちょっといやらしいが、彼が興味を持つような話題を敢えて振って気を引こうとした。まずは、彼の眼鏡にかなわなきゃならない。

 ウソップはルフィと気が合うキャラクターだったんだよなー。でも、私は彼のような陽気さも無いから好かれる自信がない。

 

「へぇ、前に賞金稼ぎ辞めたって言ってたけど、海に出るつもりだったんだな。ルフィ、こいつのこと誘わなくて良いのか? こう見えて、狙撃に関してはとんでもねェ奴だぞ、こいつは」

 

 ゾロは私を船長であるルフィに推薦してくれた。えっ、ちょっと嬉しい……。でも、肝心のルフィに気に入られないとな。

 まだ、会って5分も経ってないから、これから色々と……。

 

「狙撃手かぁ〜! そうだなっ! 海賊は大砲撃つもんな〜! よしっライア、お前、おれの仲間になれよ!」

 

「へっ?」

 

 あまりの展開の速さに私はついつい、変な声を出してしまった。

 これが、私と麦わら一味との最初の出会い――。

 




もう少しルフィたちの出番を後にしようかと思いましたが、展開を遅くするのが苦手なのでこのくらいのテンポで進めることにしました。


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大きなうねりの中へ

そろそろ、百合タグがウォーミングアップしてきました。
イケメン女子なライアをご覧ください。


「出会って早々に私を君たちの仲間に、か。ふふっ、いや、あのロロノア・ゾロが船長(キャプテン)と言うからどんな男かと思ったが、面白い。しかし、本当に私で良いのかい? 私は狙撃しか能のない女だぞ」

 

 ルフィがすぐに仲間に誘ってくれたのは意外でもあり、愉快だった。直感で素直に物事を決めてしまう彼のスタイルは理屈っぽい私には無いもので、非常に興味深く感じられた。

 

 この人は王様の器だ。ただ真っ直ぐに走るだけで周りが付いてくる。世界はこの男を中心に動こうとしている。

 モンキー・D・ルフィに付いていくということは、まさに大きなうねりの中に飛び込むと言うことだ。

 

「――ええーっ! ライア、お前……、女だったのかー!」

 

「そっちかよ!」

 

 私はルフィの驚き顔にツッコミを入れた。さっきナミが私を凶暴な女って、言ってたじゃん。いや、凶暴な女も悲しかったけど……。

 

「くっくっく、ルフィ、お前も引っかかったか。オレも最初は男だと思って斬りかかっちまった」

 

「まぁ、確かに美男子って感じよね。どちらかと言うと」

 

 ゾロとナミは無理もないみたいな顔している。

 ちっ、私もどうせ転生するならナミみたいなスタイルが良かったよ。ホントに神様は中途半端なことをしてくれた。

 

 

「じゃあルフィに私の性別が伝わったところで、何か食べないか? 前にゾロと約束をしたんだ。好きなだけ飯と酒を奢るってね。せっかくだから君たちも一緒に奢らせてくれ」

 

 立ち話も疲れるのと、空腹だったことを思い出して、私は彼らを食事に誘った。

 

「おおーっ! 俺っ、肉食いてぇぞ!」

 

「約束を律儀に果たすたぁ、義理堅ぇじゃねぇか。遠慮はしねぇぜ」

 

「奢り!? あなた、いい人ねー!」

 

 三人は三者三様のリアクションを取り、私の誘いに乗ってくれた。

 まだ、奴はこの村に着いてないみたいだな……。私は周囲の気配を探りながらそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 私はルフィたちを村の飲食店に連れて行った。

 

「――んめぇー! ほほろで、あいあは……」

 

 ルフィは大量の食べ物を素晴らしい勢いで口の中に頬張る。大食漢なのはもちろん知っていたが、ここまで見事だと見ていて気持ちいいものだ。

 

「ルフィ、君は食べ物を飲み込んでから会話をしたほうが良い」

 

 口にモノを詰めて話す彼の言葉が聞き取れなかった私は彼に飲み物を渡した。

 

「――ぷはぁ! なぁ、ライアはどうして偉大なる航路(グランドライン)に行きたいんだ?」

 

 ルフィは最初に尋ねるべきことをようやく質問してきた。一応、気にしてくれてはいたんだね……。

 

「父親が居るんだよ。偉大なる航路(グランドライン)に。私は父をこの村に連れて来て母の墓標に謝罪をさせたい。ウチの母はね、ずっと父が帰ってくるのを待ってたんだ。最期までね」

 

 私はルフィたちに偉大なる航路(グランドライン)を目指す理由を話した。

 正確には目指すのはあの恐ろしい頂上戦争だけど、そんなことを話しても意味はない。父に会うためという目的だけ伝われば十分だ。

 

「ふーん。ん? ライア……? 海賊の娘……? あーっ! お前の父ちゃんヤソップだろ!?」

 

 なんと、ルフィはこの少ないヒントで私の父の名前を当てた。いや、面識があるのは知ってたけど、ウソップと違って私は彼に似てないからなぁ。

 

「驚いたな。君は父を知ってるのかい? そのとおり、私の父は“赤髪海賊団”の船員のヤソップだ。だから、私の目的は大海賊である赤髪のシャンクスが船長を務める船に行くことなんだよ」

 

 私はルフィに対して赤髪のシャンクスの名前を出してみた。彼がシャンクスに対して憧れを抱いていることを知っているから……。

 

「シャンクスは俺が一番大好きな海賊だ! そっかー、ヤソップの子供かー。お前の話は何回も聞かされたぞ。可愛い娘に会いてぇって、うるせぇくらいにな」

 

 ルフィは父が毎日のように私に会いたいと言っていた話をした。私からすると、母に会って欲しかったんだが……。

 

「俺もシャンクスには会いたいと思ってる。よしっ! 一緒に行こう! 偉大なる航路(グランドライン)へ! あっはっはっは」

 

 彼は私の肩を組んで美味しそうに肉を食べながら楽しそうに笑っていた。

 なるほど、彼に味方が多いはずだ。こうやって、一緒に飯を食べるだけで、いつの間にか旧知の友の様になってしまう……。

 素晴らしいけど、恐ろしい……。惹かれ過ぎてしまうと、この男の為に何だってしようと思ってしまいそうだから――。

 

 

「そうだな。海賊に会うために海賊になるのも悪くない。君の目的は海賊王。私などが助けになるか分からないが……、力を貸そうじゃないか」

 

 私はルフィの勧誘を当然呑んだ。とんでもない運命に呑み込まれる覚悟なら、とうの昔に済んでいる。

 私の知識で少しでも彼らの助けになれば、お互いに得をするはずだ。

 それに、私とて少しは戦えるように訓練はしてきた。この先の戦いで生き残るために。

 

「おいおい、良いのかよライア。簡単にテメーの人生諦めて」

 

 私があっさり海賊になると宣言したのでゾロは苦笑いしていた。いや、君が船長をそそのかしたじゃないか。

 

「知らないわよ。この男、あり得ないくらい常識知らずなんだから。もう少し頭の良い子かと思ってたわ」

 

 ナミは呆れた顔をして私を見た。彼女も彼女で今は他人の心配してられない状況のはずなのに……。優しい人だな。一応、お礼を言っておこう。

 

「ありがとう、心配してくれて。でも、踏ん切りを付けたかったからね。いいキッカケなんだよ」

 

 私は真っ直ぐに彼女を見つめてそう言った。

 ナミはこの一味で数少ない常識人だから、仲良くしておこう。

 

「――っ!? あなた、気を付けた方がいいわよ。たぶん狙撃なんかより、女たらしの才能の方があるわ……」

 

 ナミは少しだけ頬を赤らめて、そんなことを言う。前に、カヤにも似たような事を言われたような……。女たらしとまでは言われなかったが……。

 

「あまり嬉しくない才能だね。それは……。気を付けろと言われても、難しいし」

 

「長時間、むやみに女性と目を合わせないようにすること。いいわね?」

 

 私の言葉に対して、ナミは的確?なアドバイスをする。わかったような、分からんような……。まぁいいか。

 

 

 しばらく雑談しながら飲み食いしてると、ルフィが口を開きこんなことを言い出した。

 

「なぁ、ライア。お前って船持ってねぇか?」

 

「ん? もちろん、持ってるさ。小さい船だが、君たちの乗ってるあれよりはマシなやつを、ね。しかし、あれでは些か偉大なる航路(あそこ)に行くには不安はある。まっ、適当な海賊から奪っちゃえば良いんじゃないかな?」

 

 ルフィの質問に私は答える。話の流れが漫画通りなら、ゴーイングメリー号が貰える可能性があるが……。駄目だったときは、盗っちゃえばいい。海賊なんだし、略奪したっていいだろう。

 

「ははっ、そりゃあ良い手だ。オレたちは海賊なんだからな」

 

「あなた、見かけによらず過激なことも言うのね」

 

 ゾロとナミは私の提案に一応は理解を示してくれた。しかし、ルフィは――。

 

「えーっ、誰かと冒険した船なんていらねぇよー」

 

 このような反応である。彼は船一隻の値段を知っているのだろうか?

 

 

「――じゃあ、船の話はおいおい話そう。君たちはしばらくここで好きなだけ飲み食いしといてくれ。店主にはまとまった金を渡しといたからさ。ちょっと、友人に別れを告げてくるよ」

 

 とりあえず、出港は決まった。私はカヤとの時間がもう少しだけ欲しくなり、再び彼女に会いに行くことにした。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 カヤは帰ったはずの私がまた現れて少しだけびっくりしていた。

 しかし、すぐにいつもの穏やかな表情に戻り、他愛のない雑談を始めた。

 

 彼女はもうすぐクラハドールの計画に巻き込まれることになる。どうすれば、彼女の安全を確保出来る? 私はそればかり考えていた。

 

「――ライアさん。それで、出発はいつになるの?」

 

 唐突に、カヤはそんな言葉を放った。

 私は心臓が飛び出しそうになるくらい驚いた。彼女に心を読まれたと思ったからだ。

 

「――っ!? 驚いたな。どうやって切り出そうかと、思ったのに。先に言われてしまうなんて……。どうしてわかった?」

 

 私は少し動揺しながら彼女に質問をした。

 

「なんとなく……。多分、私がライアさんのことばかり考えていたからかもしれない」

 

 その言葉を話したときの彼女は微笑んでいるはずなのに切なげで、儚い感じがした。

 しかし、その姿は誰よりも何よりも美しいと思ってしまった。

 君が私の決意を鈍らせる――。

 

「――もうすぐだよ。しばらく会えなくなる。その、ええと、ごめん……」

 

 私は悲しんでいるカヤに謝罪した。彼女は今にも泣きそうな表情(かお)だったから……。

 

「ううん、いいの。いいのよ……。でも、一つだけ約束を守ってくれる?」

 

「約束?」

 

 カヤの約束という言葉に私は耳を傾ける。

 

「生きて……。何があっても生きていて……、ライアさん。それだけが私の願い」

 

 彼女は「生きて」と私に願った。私に求めるのはそれだけだと……。

 

「――わかった。絶対に生きてここに帰ってくる。例え世界を一周することになってもね。だって、君が私の帰ってくる場所なんだから」

 

「ライアさん……」

 

 多分、私もカヤも涙ぐんでいると思う。

 

「こんなときに言うのは卑怯かもしれないけど、私は昔から君のことが――」

「困りますよ。ライアさん。あなた、先ほど帰ると仰ったじゃあないですか」

 

 私の言葉に被せるようにしてクラハドールがセリフを吐いた。はぁ、見事に邪魔されちゃったな。

 

「嘘はついてないよ。一回帰ってまた来ただけだ」

 

 私はクラハドールの顔を見てそう言った。

 

「屁理屈って言葉を知ってますか? これだから薄汚い海賊の子は……。で、お嬢様を誑かして幾らせびるつもりなんだ?」

 

 財産掠め取ろうって奴が何を言っている? まったく、面の皮が厚い奴だ。

 

「クラハドール、あなた、ライアさんになんて事を! 謝りなさい!」

 

 カヤは珍しく怒りを顕にして怒り出した。

 

「お嬢様は、この女に騙されています。女なのをいい事にあなたに色目を使って財産を掠め取ろうとしているのです。さすがは財宝狂いの父親をもつ女は考えることがえげつない」

 

 クラハドールは口を止めなかった。私を口汚く罵り続けていた。

 なるほど、下衆の勘ぐりとはよく言ったものだ。

 

「――ライアを悪く言うなぁぁぁぁっ!」

 

 そんなことを思っていると、木陰でコソコソ見てるなーって思ってたルフィが飛び出して来て、クラハドールに殴りかかった。

 

 おいっ! 初対面の人間を殴ろうとするな。

 

「――っ!? えっ、ライア?」

「――うわっ! すごい力だな。手が破裂するかと思ったよ。やっぱりとんでもないな……、君は」

 

 私はルフィの拳を手で受け止めた。ここで、クラハドールを傷付けても何の意味もないからだ。

 しかし、完全に見切った上で衝撃を殺すような受け方をしたのに手が高圧電流でも流されたように痺れて痛い。

 ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)なんて打たれたらきっと死んじゃう。

 

 そう、私はめちゃめちゃ痛いのを我慢して平静を装っている。カヤが見てるから……。

 

「ルフィ、今のは私が悪いんだよ。約束を破ってカヤに会いに来たからね。とりあえず、ここを出よう。――そこで見てる君たちも、ね」

 

 私は庭にある大きな木の裏でこっそり見ているゾロたちに話しかけた。

 

「そういや、こいつは気配を感じ取れるんだったな」

 

「何それ? 超能力か何か?」

 

 ゾロとナミ、そしてここに彼らを案内したであろう、にんじん、ピーマン、たまねぎが姿を現した。

 

「ライアさんは、いつも後ろから付いていってもバレるんだ」

「後ろに目があるんだよ、多分」

「とにかく、すごいんだ」

 

 また、悪ガキ共は余計なことを……。

 

 ということで、私は彼らと共にカヤの屋敷を出た。

 

 

「随分な言われようだったが、あの男は何なんだ? ルフィじゃねぇが、オレも苛ついたぜ」

 

「ライア、お前、強いんだろ? 父ちゃんを悪く言われたんだぞ、なんで怒んないんだ?」

 

 ゾロとルフィは私の態度が気になったみたいだ。

 悪巧みをしているクラハドールを刺激しないため――とは、言えないよな。

 

「彼はクラハドール。カヤに仕えてる執事の一人だ。ルフィ、海賊の評価なんて、あんなもんだよ。いちいち腹を立ててもキリがないじゃないか。それに、私は父が嫌いだからね。悪く言われても気にならないさ」

 

 私は彼らの質問にそう答えておいた。半分は本心だ。クラハドールは挑発のしかたを間違えた。父の悪口でなく、母の悪口なら私は怒ったかもしれない。

 

 それに、海賊って、思った以上に嫌われてるからなー。漫画じゃあまり描かれてなかったけど、結構エグい連中も多いんだ。 

 

 300万ベリー前後の小物たちを何人も屠ってきたから、私はそれも知っている。小物とはいえ、かなり悪いことをやってる奴らが多かった。女子供を殺すなんて当たり前にやってたし……。

 

「あなた、海賊の評価が悪いのを知ってて海賊になるの? ロクなもんじゃないわよ。ホントに」

 

 ナミは変わった人を見るような表情で私の顔を窺った。

 そりゃあそうだ。彼女もまた、海賊に虐げられてる人間そのものなんだから。この時点ではまだ、ルフィたちには惹かれているけど、海賊自体は嫌いなはずだ。

 

「何を優先したいか、だよ。私にとって悪名が付かないことよりも、父親に会うことの方が優先したいことなんだ。別にそのためだったら手段は問わないよ」

 

 私はナミに持論を展開する。ルフィの仲間になることが確実に広い海で赤髪海賊団と遭遇出来るチャンスだから、この手段を取らないわけにはいかない。

 

「ふーん。やっぱりあなたもマトモじゃなさそうね」

 

「ははっ、手厳しいな……、ナミは。じゃあ、常識人担当は君に一任するよ」

 

「もう、少しは手伝いなさい。せっかく言葉が通じる人だと思ったのに」

 

 割と本気の勢いでそんなことを言うナミ。ルフィとゾロにはかなり振り回されたんだろうなー。

 

 そんなことを話してる内に、私はとある気配がこちらに近づいていることに気づいた。

 よそ者の気配……。やはり来たか……。

 

 その気配は直ぐに私たちの見える位置まで出てきた。

 そう、現れたのは、なぜか後ろ向きで歩いている催眠術師の海賊。

 通称《1・2のジャンゴ》、キャプテン・クロの元部下であり、クロネコ海賊団の現船長である。

 

 この村には手を出させないよ――。

 

 キャプテン・クロは……、彼だけは……、私が倒す……! それだけは譲れないっ!




思ったよりも長引いてしまいました。
基本的にライアはルフィの獲物を横取りしたりはしませんが、キャプテン・クロだけは別なのです。
次回もよろしくお願いします!


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クロネコ海賊団の船長と元船長

誤字報告とたくさんの感想をありがとうございます!
とてもやる気が出てきて元気になります。
今回はジャンゴ登場からです。



「バカヤロウ、何でおれが見ず知らずのてめェらに初対面で術を披露しなきゃならねェんだ」

 

 催眠術師で海賊の《1・2のジャンゴ》と遭遇した私たちだが、子どもたちとルフィは彼が催眠術師だと知ると目を爛々と輝かせて催眠術を見せろとリクエストしていた。

 

 コイツの催眠術って結構すごいんだよなー。前世で見ていたバラエティ番組とかだとヤラセっぽさがあるけど、彼の能力は本物だ。

 

「いいか、よくこの輪を見るんだ――」

 

 彼はしゃがみ込み輪っかを取り出して、ルフィと子どもたちに見せた。ノリが良い……。確かコイツってノリだけで無罪になって海軍に入ったような気がする……。

 司法はもっと仕事しろとか思ったけど、私も下手したら海軍に捕まるかもしれないからやっぱり怠けてほしい。

 

「やるのかっ……!」

 

 ゾロが呆れ顔でツッコミを入れる。

 

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる」

 

 ジャンゴはルフィたちに輪っかを見せつつ、ゆっくりとそれを揺らした。ベタでバカバカしいんだけど、確かこれって効いちゃうんだよね。

 

「いいか、いくぞ……。ワーン、ツー、……ジャンゴッ……!」

 

 ジャンゴが暗示をかけると案の定、見事にルフィと子どもたちは寝てしまった。お約束どおりジャンゴも寝ちゃったけど……。

 

「おいっ! お前も寝るのかよっ!」

 

 ゾロはそれを見て再びツッコミを入れる。

 なかなか、するどい切れ味のツッコミだな。さすがは剣士と言ったところか……。

 

 とりあえず、子どもたちとルフィを起こそう……。ジャンゴはこのあと確かクラハドール、いや、キャプテン・クロと接触するはず……。さて、どうしてくれようか……。

 

 

 

「ナミ、こういう状態のルフィはどうやったら起きるんだい?」

 

 私は子どもたちを起こしたあと、ルフィを起こそうと体を揺らしていた。彼は鼻提灯を作りながらグーグー眠っている。

 頬を叩いてもゴムだから効かない。つまり、起きない。

 

「知らないわよ。そんなこと」

 

 ナミはお手上げという表情で、ゾロの顔を見ると彼も首を振る。

 ふむ、いくら強くても眠らされると当然ピンチになる。彼の弱点は搦手に弱いことかもしれない。

 

「そっか、わかった。気が進まないが、コレを使おう。――必殺ッ――タバスコ星ッ!」

 

 私はおもむろに激辛成分を独自に調合した丸薬をルフィの口にねじ込んだ。

 

 ルフィの顔はみるみる赤くなる――。

 

「辛ェー! 辛いぞー! みっみずぅ〜!」

 

 喉を押さえてのたうち回る、ルフィ。あー、ちょっとやり過ぎたかな? でも、このままだとここで私がジャンゴと遭遇していることが、クロにバレてしまうかもしれない。

 だからといって何か不都合が起こるとは思わないが、警戒心の強いクロが漫画と違う行動をとる可能性は避けておきたい。

 

「ほら、牛乳だ。飲むといい。辛いのが治まるから」

 

 私はあとで飲もうと思ってた牛乳を手渡した。水を飲むと逆効果だからね。

 

「ぷはぁっ――。ぜぇ、ぜぇ……、ありがとなー、ライア! 助かったー」

 

「はははっ……、礼には及ばないさ」

 

 お礼を言われた私は罪悪感で目が泳いでいた。ゾロとナミからの視線が痛い。

 

「だけどよぉ。なんで、おれ、いきなり辛くなってたんだ?」

 

「この村だと割とよくあるんだよ。“寝てて突然辛くなっちゃう病”が流行ってるからね」

 

「なんだ〜。そういうことかー。あっはっはー」

 

 逆に心配になるくらい、私の嘘を信じ込んだルフィ。彼のことは今後放っておけないかもしれない。

 

「あなた、容赦ないタイプなのね……」

「敵に回したくねェな……」

 

 二人にはちょっと引かれてるし……。いや、違うんだって……。これには理由が……。

 

 

 こうして、私たちは路上で大の字になって寝ている不審者丸出しのジャンゴを放置して歩き出した。

 

 

 

 しばらく歩いて、子どもたちと別れたあとで、私は思い出したように口を開いた。

 

「――あっ! 思い出した!」

 

 わざとらしくないように演技をしながらそんな言葉を吐く。

 

「どうしたのよ? いきなり」

 

 ナミが私の言葉に反応する。ここからは慎重に発言して動かないとな……。

 

「いや、さっきの怪しい催眠術師……、海賊だよ。確か、通り名は《1・2のジャンゴ》……、クロネコ海賊団の船長だ……、懸賞金もかかってたはず。どうしてこんな村に……」

 

 あたかも今、思い出したかのように私はそんなセリフを言う。なぜならジャンゴがちょうど動いた気配を感じたからだ。

 

「なんだ〜。あいつ海賊なのか〜」

 

 ルフィは呑気そうな声を出す。彼はこれでいい。

 

「そのクロネコ海賊団ってのが、お前の村に何か用事があるかもしれねェってことか」

 

「海賊の用事なんてロクなもんじゃないに決まってるでしょ。どうするの? ライア」

 

 ゾロとナミは事態をキチンと呑み込んでくれた。ありがたい。

 

「とりあえず、ジャンゴの気配を追うとするよ。嫌な予感がする……」

 

 私は上手くルフィたちを誘導して、ジャンゴとクロの密会現場に連れて行った。

 もちろん彼らに気付かれない様に――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「――おいジャンゴ、この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだぞ。村の真ん中で寝てやがって」

 

 私たちがジャンゴに追いついたとき、ちょうどクラハドール、もといキャプテン・クロが彼と密会を開始するところだった。

 

「バカ言えっ! おれは全然目立っちゃいねェよ。変でもねェ……」

 

 ジャンゴはムッとした表情でそう答える。いいタイミングだったな。もちろん、タイミングは計っていたけど……。

 

「どういうこと? あなたのお友達の執事がなんで海賊なんかと?」

 

 ナミは小声で私に尋ねる。

 

「――わからない。しかし、これは大変なことかもしれない……、とにかく会話を聞こう」

 

 私は彼女の疑問にそう答えた。

 

「ああ、もちろんだ。いつでも行けるぜ、”お嬢様暗殺計画”ッ!」

 

 ジャンゴは高らかに宣言した。凶悪な笑みを浮かべながら。

 長かった――ついに、馬脚を露したな、キャプテン・クロ……。この現場をルフィたちに見せるために何度、私はシミュレートしたことか……。

 

 

「ふん、暗殺なんて聞こえの悪い言い方はよせ、ジャンゴ……」

 

「ああ、そうだった。事故……、事故だったよなぁ……、キャプテン・クロ……」

 

「キャプテン・クロ――か。――3年前に捨てた名だ。その呼び方もやめろ。今はお前が船長のはずだ」

 

 彼らは密談を続ける。私たちに見られてることも知らずに……。

 

「キャプテン・クロ……、まさかクラハドールは……」

 

 私はそう言葉を口にした。

 

「私もクロって名前は知ってるわ。確か、あなたがさっき言ってたクロネコ海賊団の初代船長じゃなかったかしら?」

 

 さすがに色々と情報を仕入れているナミは東の海(イーストブルー)では比較的に大物だったキャプテン・クロの名前は知っていたみたいだ。

 

「なるほど、あの執事の正体は海賊だったってわけだ」

 

 ゾロも納得してうなずく。

 

 

「―― しかし、あんときゃ、びびったぜ。あんたが急に海賊をやめると言い出した時だ。あっという間に部下を自分の身代わりに仕立て上げ、世間的にキャプテン・クロは処刑された! そしてこの村で突然船を下りて、3年後にこの村へまた静かに上陸しろときたもんだ」

 

 ジャンゴが丁寧に事の経緯を話してくれる。

 

「まぁ、今まであんたの言うことを聞いて間違ったためしはねェから、協力はさせてもらうが分け前は高くつくぜ?」

 

 この男は海賊団ごと皆殺しにするつもりだけどね。私は心の中でジャンゴのお気楽な思考を蔑んだ。

 

「ああ、計画が成功すればちゃんとくれてやる」

 

「殺しならまかせとけ!」

 

 クロの空手形にジャンゴは威勢のいい返事をした。

 

「だが、殺せばいいって問題じゃない。カヤお嬢様は不運な事故で命を落とすんだ。そこを間違えるな。どうもお前は、まだこの計画をはっきり呑み込んでないらしい」

 

 クロはそこから計画の全貌を話した。

 

 それは、カヤの財産を手に入れるためにジャンゴの催眠術を利用して全財産をクラハドールに相続させるという遺書を書かせてから、海賊の襲撃で亡くなったと偽装して殺すという計画だった。

 

 そして、そうなっても不自然じゃないように3年間でこの村の信頼を彼は勝ち取ったと誇らしげな表情をしていた。

 

 

 

「とにかくさっさと合図を出してくれ。おれ達の船が近くの沖に停泊してから、もう1週間になる。いい加減奴らのしびれが切れる頃だ」

 

 クロから計画の全貌を聞いたジャンゴは彼を急かすような言い回しをした。

 さて、この辺で確かルフィが……。

 

「おっ……モゴモゴ……」

「悪いがルフィ、今、君が暴れたら厄介な事になる。動かないでいてくれないか? 頼む……」

 

 彼が言葉を発する気配を察知した私は彼を羽交い締めして、口を押さえた。

 ここで私たちの存在がバレたら全て台無しだ。

 

「明日の朝だ、ジャンゴ……。夜明けとともに村を襲え。村の民家も適度に荒らして、あくまで事故を装いカヤお嬢様を殺すんだ」

 

 クロははっきりと明日の早朝にクロネコ海賊団を村にけしかけろと命令した。

 いよいよ、奴らと決戦だ……。

 

 私たちはこっそりとこの場を離れた。ふぅ、ルフィがゴム人間の特性を活かして強引に出て行かなくて良かったよ。一応、理性はあるみたいだな。

 

 

 

「あの、カヤって子の執事、とんでもないヤツだったわね」

 

 ナミは吐き捨てるようにそう言った。私もよく知ってて3年も耐えたと思う。

 クロは本当に完璧な振る舞いだった。世間に取り入るのも上手かった。

 彼の言うとおり海賊の娘が何を言っても通用しない程の信頼をすぐに勝ち取っていたのだ。

 

「――で、どうするつもりなんだ? お前はよぉ」

 

 ゾロは試すような口調で私に尋ねてきた。

 

 そんなの決まってるじゃないか。私はクロがこの村に()()()から準備していたのだから。

 

「キャプテン・クロは私が倒すよ。私の大切な人の命を取るって言うんだ。落とし前は自分でつけるさ」

 

 このとき自分がどんな表情(かお)をしているのか分からなかった。笑っているのか、怒っているのか、様々な感情がグチャグチャになっていたと思う。

 

「なんだ、あの悪執事はライアが倒すのかー。じゃあ、おれは誰をぶっ飛ばせばいい?」

 

 ルフィはわくわくしたような表情でそんなことを言う。まだ、手伝ってとか何も言ってないんだけど……。

 

「えっと、ルフィ、君は手伝ってくれるのかい? クロネコ海賊団との戦いを」

 

「何言ってんだよー、ライア。仲間が喧嘩するんだから当たり前だろ? 命くらい懸けるぞ」

 

「お前の覚悟は伝わった。で、おれは誰を斬ればいい?」

 

 ニカッと笑って仲間を助けるのは当たり前だと、嬉しいセリフを言うルフィと刀から刃を見せながら研ぎ澄まされた殺気を見せるゾロ。

 

 さらっと格好いいこと言うんだから。これが麦わらのルフィか……。

 

「ありがとう。ルフィ、ゾロ、それに、ナミ」

 

 私は彼らにお礼を言った。素直に嬉しかったからだ。

 

「ちょっと、何、自然な感じで私も頭数に入れてるのよ!」

 

 ナミが両手をブンブン振って抗議した。あっ、やっぱりバレたか。

 

「いや〜、ノリで押せば何とかなるかなーって」

 

「あなたって、結構厚かましいのね……」

 

 ジト目で私に視線を突き刺す彼女。厚かましいと言われれば何の反論も出来ない。

 

「頼むよ、ナミ……。一人でも多くの協力者が欲しいんだ」

 

 私は切実に人手が欲しかった。だから、本気で彼女にお願いした。

 

「――ふぅ、わかったわよ。まったく、もう。長時間目を合わせないでって、さっき言ったじゃない」

 

 ナミは少しだけ顔を紅潮させて、顔を背けながら渋々私のお願いを呑んでくれた。なんだかんだ言って彼女もお人好しだ。

 

「すまない。でも、嬉しいよ。協力してくれて」

 

 私は彼女に手を差し出す。

 

「手伝いの報酬として、あとで、クロネコ海賊団の財宝を貰うからね」

 

 彼女は私の手を握って念を押すようにそう言った。どうぞ、ご自由にと、私は返事をしておいた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 夜になり、私たちはクロネコ海賊団がやってくる村の北側の海岸で野営をしていた。

 賞金稼ぎをしていたからキャンプグッズは充実している。

 

 原作では連中が来る方向を間違えて、ルフィとゾロの到着が遅れたんだっけ。それがなくなるだけでも今回は有利だな。

 

 さて、私はというと、カヤの屋敷に向かっていた。目的は当然――。

 

 

 私は気配を消して彼女の寝室の窓に張り付く。そして、コンコンと窓を叩いた。

 

「――らっ、ライアさん……」

 

「しーっ、静かにしてくれ」

 

 驚く彼女の唇に私はそっと人差し指を当てて小声で話した。

 

「どうしたの? こんな夜更けに……」

 

 カヤは不思議そうな顔をしていた。驚くほど警戒はしていなかったけど。

 

「ちょっと、上がってもいいかい?」

 

「えっ、ええ。いいわよ」

 

 私はカヤの寝室に上がり込む。彼女はいつもと違う私の態度を見て少し緊張しているみたいだった。

 

「カヤ、私がここに来た理由を率直に話すよ。私は君を攫いに来たんだ。これから君を外に連れ出す――」

 

 真剣な表情で私は彼女にそう宣言する。カヤを一人にしておくなんてとんでもない。

 安全が確保されるまで、ナミと隠れてもらおうと私は考えていた。

 

「――らっ、ライアさん。それって、駆け落ちってこと? そっそんな。まさか、ライアさんがそこまで私のことを……。嬉しいけど、私たちは女の子同士だし、それに……、家のことも……」

 

 カヤは顔を真っ赤にして両手で頬を触りながらオロオロと、動揺していた。

 しまった。言い方を間違えたかな?

 

 私は彼女にキチンと説明することにした。信じてもらえることを祈りながら……。




主人公の旅立ちのエピソードだからなのか、思ったよりも展開が遅くなってます。冗長になってないか不安です。最後に百合タグに仕事させるのが精一杯でした。
次回、ようやく戦闘が始まりますので、よろしくお願いします!


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クロネコ海賊団VS麦わらの一味

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「――そっ、そんな、まさかクラハドールが……」

 

 私はカヤにクラハドールの正体がキャプテン・クロだということと、彼の計画の全貌を話した。

 カヤは声を震わせて、今度は違った意味で動揺していた……。

 

 確か、原作ではウソップは信じて貰えなかったんだよな。誰にも……。

 だから、全部嘘にするために勇気を振り絞って立ち向かう話だったはずだ。

 でも、私はたとえ信じてもらえなかったとしても――彼女は連れて行く。それは私の中で決定していることだった。

 

「ライアさん。いっ、今の話は何かの勘違いと言うことは――?」

 

 カヤは少しだけ落ち着いて、祈るような顔つきで私にそう尋ねた。

 

 やっぱり、にわかに信じられないよな。クロは彼女の信頼を手に入れるために尽くしていた。彼女の両親が死んでからは特に……。

 

「いや、残念だが勘違いじゃないよ。君が信じられないのは無理は――」

「わかったわ。ライアさん、私を外に連れて行って」

 

 月明かりに照らされたカヤの瞳は一点の曇りもなく、私を信じていると答えてくれているみたいだった。

 

「カヤ、信じてくれるのかい? 私の言っている荒唐無稽な話を……」

 

 もちろん、信じてもらうつもりではいたが、実際にここまであっさり信じられると、逆に驚いてしまう。

 

「たとえ、世界中の人がライアさんを嘘つきだと言っても、私はあなたを信じる。あなたにだったら、騙されたとしても後悔はしないから」

 

 ニコリと微笑みかけながら、カヤは私の言葉を受け入れてくれた。だったら、私は君にだけ信じてさえくれればたとえ世界を敵に回したって良い……。

 カヤの信頼が嬉しくて、私はそんなことが脳裏に過ぎった。

 

「ありがとう。カヤ、大好きだよ」

 

「――っ!? らっライアさん?」

 

 衝動が抑えられなくて、私は彼女を強く抱きしめる。彼女の華奢な体から伝わる体温(ぬくもり)が……、私の鼓動を早くする。

 

 

「――ごっごめん。つい、我慢が出来なくて……」

 

 私は我に返ってカヤを引き剥がす。こんなときにナニをやっているんだ。私は……。

 

「もう、ライアさんったら。突然あんなことをするんだもん。驚いたわ……。じゃあ、これはお返し……」

 

「んっ……」

 

 私と背伸びしたカヤの唇が触れる。

 

 ほんの一瞬のことなのに永久の時間が流れたように感じられた――。

 

「カヤ……、君は……」

 

「私もライアさんが好き……。友達じゃなくて、それ以上に……。もしかしたら、気持ちを伝えられないかもって思ったから」

 

 涙目になりながら笑う彼女はとても美しく、私はつい引き込まれそうになった。

 

 いかん、いかん。ここで理性を失っては……。

 

 その時である。私はある気配の動きを感じた――。

 

「――いけない。メリーさんが怪我をした……、多分クロにやられたんだ」

 

 カヤに仕えているベテランの執事のメリーがクロに斬られたみたいだ。おそらく、命には別状がないはずだが……。

 

「メリーが……!? 早く助けないと……!」

 

 彼女はドアの方に動こうとするが、私は彼女の腕を掴む。

 

「ダメだ、まだクロが近くにいる。下手に動くと君もメリーさんも危ない。――大丈夫、一度君を仲間の元に送ったあとに、私が再び戻ってきてメリーさんを助けるから」

 

 私はメリーを助けると約束した。カヤとメリーを同時に連れて行く事は出来ない。

 とにかく、速やかに彼女を安全なところに連れて行くことが先決だ。

 

「――ッ!? わっ、わかった。でも、お願い……、必ず、かならず……、メリーを助けてっ……」

 

 カヤは感情を押し殺して、涙を流しながら頷いた。

 

「ああ、約束するよ。信じてくれ」

 

 私はカヤを右腕で抱いて、窓から木々を跳び移って、仲間たちの元に向かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 それから、カヤをルフィたちに預けて、再び屋敷に侵入し、クロによって斬り裂かれたメリーを連れて戻った。人を抱えて往復するのはさすがに疲れたな……。

 

「ああ、カヤお嬢様……、よくぞご無事で……。ライアさん、ありがとうございます……、あなたが居なければ、どうなっていたことか……」

 

 メリーは応急処置を受けながら、カヤの無事を知って涙を流して喜んだ。

 彼はずっと彼女の身を案じていたから、ホッとしたのだろう……。

 

「ルフィ、ゾロ、ナミ……、改めて紹介するよ。私の親友のカヤと、その執事のメリーさんだ。カヤ、メリーさん、こっちは私の仲間の――」

 

「よっ! おれはルフィ! 海賊だ!」

 

 私がお互いを紹介する途中でルフィは躊躇いなく海賊と名乗った。まぁ、それが彼なんだから仕方ないけど……。

 

「かっ、海賊ですか……?」

 

 メリーは不安そうな顔でこちらを見た。

 

「大丈夫だよ、メリーさん。彼らはこの村に手出ししないから。これからキャプテン・クロのクロネコ海賊団と一戦交えるんだ」

 

 私はカヤとメリーに朝になったらやってくるクロネコ海賊団と戦うことを宣言した。

 準備は十分。あとはやるだけだ。

 

「らっ、ライアさんが戦うの? そんなの危険よ。てっきり逃げるのかと思っていたわ」

 

「そうですよ。確かにあなたは運動神経は良いですけど、海で名を上げた海賊というのはとても恐ろしいのです。戦うなんて無謀です」

 

 優しいカヤとメリーは私を止めた。そりゃそうだ……。私がこの日のために訓練してたことを知らないんだから。

 

「心配しないでいいよ。二人とも。私は必ず勝つから。キャプテン・クロに。それに、ルフィもゾロも強いし」

 

 私は力強く彼女たちにそう語りかけた。私は一人じゃない。仲間もいる。

 

「おう、任せとけ! ぶっ飛ばしてやる!」

 

「おれは斬る――!」  

 

 ルフィとゾロはやる気満々のようだ。頼もしい。

 

「彼らが強いならライアさんは戦わなくてもいいじゃない。仲間に任せれば」

 

 カヤはそれでも譲ってくれない。私のことを心から心配してくれてる……。

 

「カヤ、私は仲間だけに戦わせて逃げるなんてしたくはない。――そうだな。少しだけ芸を見せるよ。ゾロ、こいつを思いっきり上に投げてくれないか」

 

 私はゾロにコインを渡した。私はゾロの正面に立って、まっすぐ彼を見る。

 

「あァん? 何考えてんだ、お前……。まぁ、いいけどよォ」

 

 ゾロは不思議そうな声を出してコインを受け取る。

 そして、力強く宙にコインを放り投げた――。

 

「――っ!? そこだッ!」

 

 私は正面を向いたまま、銃を天に上げて銃弾を放つ。ちなみに銃声を限りなく小さくする為の装置は自作して付けているから、遠くに音が聞こえることはないように配慮はしている。

 

 ――しばらくして、コインが地面に落ちてきた。

 

「もう、ライア。何をやったっていうのよ。急に銃なんて使っちゃって」

 

 ナミは呆れた顔をしてコインを拾った。

 

「うそっ――。コインの真ん中に穴が空いてるわ……。ライアは目でコインを追ってすらいなかったのに……」

 

「うわぁ、すっげェ! すっげェなライア!」

 

 コインの穴を見て、ナミとルフィは驚いてくれた。こういう、かくし芸的なものでびっくりしてもらえると嬉しいな。

 

「なっ、信じられません。確かにこれは神業です」

 

 メリーもコインを確認すると驚愕の表情を浮かべた。そしてカヤは……。

 

「そっか、ライアさんはお父さんと会うために頑張っていたんだね。私はライアさんが会う度に逞しくなっているのを知ってたわ。でも、それを見ないフリしてた。どこか遠くに行きそうだったから……」

 

 複雑な表情を浮かべた後に、彼女は穴の空いたコインを握りしめてニコリと笑う。そして――。

 

「無理はしないで。お願い……。そして、絶対に死なないで。危なくなったら――逃げて!」

 

 私の肩を掴んで彼女はそう言った。そう、カヤは自分を押し殺して私の我儘を聞いてくれたんだ。本当に申し訳がない……。

 

「さぁ、そろそろ行くわよ。ライアと約束してるの。あなたたちの身の安全を、ね。近くに隠れる場所があるから……」

 

 ナミは涙ぐんでいるカヤとメリーを連れて、私が作っておいた隠れ家に向かった。あそこはちょっとやそっとじゃ見つからないから村のどこよりも安全なはずだ。

 

 

 

 そして、ナミたちが立ち去って30分ほど経過したところで――夜が明けた……。

 

 

 海岸に一隻の海賊船が停まった。クロネコ海賊団だ。

 そして、中から次々と荒くれ者たちが出てきた。

 

「さぁ、おめェら! やっとこさ暴れられるぞ! 思う存分、やってこい! それが、キャプテン・クロの計画だっ!」

 

 船長のジャンゴの命令で海賊たちが村へと続く坂道を登ってくる。

 

「来たぞ! ルフィ、ゾロ、準備はいいか?」

 

「「とっくに出来ている!」」

 

 二人は私の声に勇ましく応えてくれた。

 

 そして、一本道の坂道の上で待ち構えていた私たち3人は、何十人といるクロネコ海賊団めがけて走り出す……。

 

 坂道の中央で私たちとクロネコ海賊団は衝突した――。

 

 

「「うぎゃぁぁぁぁッ!」」

 

 数多くの荒くれ者たちの悲鳴が次から次へと木霊する。

 私たちが一方的にクロネコ海賊団を蹂躙していったからだ。

 

 ルフィは次から次へと海賊たちを殴り飛ばし。ゾロは得意の斬撃で敵を秒殺する。

 

 私は少しだけ後方で彼らが討ち漏らしている海賊たちの足を確実に撃ち抜き戦闘不能にしていった。 

 

「歯ごたえのねェ、奴らだぜ」 

「ん〜? もう終わったのかー?」 

 

 ゾロとルフィは息一つ切れておらず、退屈そうな顔をしていた。体力もとんでもないな。この二人は……。  

 

 

「船長〜! 村にあんな化物共が居るなんて聞いてません!」

 

 ボロボロにやられた海賊たちが早くも泣き言を言い出した。

 そりゃあそうだろうな。ちょっと、常人離れしてるからね……、あの2人……。

 

「おい、野郎ども。まさかあんなガキ3人相手に、くたばっちゃいねェだろうな」

 

「――ッ!? お、おうッ!」

 

 ジャンゴがドスの利いた声を出すと、倒れていた海賊たちがヨロヨロになりながら立ち上がる。

 

「お! なんだ生きてるよ。根性あるなー」

 

 ルフィは感心したような声を出した。いや、敵を褒めてどうする?

 

「いいか、おれ達はこんな所でグズグズやってる暇はねェ。相手が強けりゃこっちも強くなるんだ」

 

 ジャンゴは例の輪っかを海賊たちに向けながら、そんなことを言ってきた。催眠術で連中を強くするつもりか……。

 

「さァ、この輪をじっと見ろ……。ワン・ツー・ジャンゴでお前らは強くなる。傷は完全回復し! だんだんだんだん強くなる!」

 

「――何やってんだ? あいつら……」

 

 ジャンゴが暗示をかけようとしているところを興味深そうにルフィは見ている。

 

 実は私はこの瞬間を待っていた。ジャンゴがあの催眠術用の道具を出す、瞬間を……。

 

「ワン・ツー……」

 

「悪いけどさせないよ、ジャンゴ。必殺ッ――鉛星ッ!」

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)の引き金を引いた。

 

「ジャン――、なっ、なにッ! おれの商売道具がァァァッ!」   

 

 私はジャンゴの催眠術用の輪っかを狙撃して粉々に砕いた。わざわざ敵を強くするまで待つほどお人好しじゃないよ、私は……。

 

「あのガキかッ! まさか、こんな距離で正確に当てるたァ……、なんて射撃の腕をしてやがるッ! クソッ! これじゃ計画もままならねェ! キャプテン・クロにこんなもん見られちまったら……、こいつらはもちろん、おれたちまで皆殺しだ!」

 

 ジャンゴは顔中から汗を流しながら、壊れた催眠術の道具を呆然と眺めてブツブツ言っていた。

 さすがに敗色濃厚の気配を感じ取ったのだろう。

 

「なあ、ライアー、あいつ何をしようとしてたんだー? 何にも起こんねェぞ」 

 

「さぁ、何だろうね。私にもわからないよ」 

 

 催眠術の邪魔をしたとか言ったら、怒られそうだったから、私はしらを切った。あの催眠術って、ホントにルフィと相性が悪いから封じられて良かった。

 

「やっぱ、性格悪ィな、おめェはよ」

 

 しかし、ゾロにはバッチリ狙い撃ちをしてたところが見られてたらしくて性格が悪いと言われてしまった。

 せめて現実主義だと言ってくれ。

 

 そんな会話をしていた折である。海岸の海賊船から声が聞こえてきた――。

 

「おいおいブチ! 来て見ろよ、ジャンゴさんが頭を抱えてしゃがみ込んでやがる」

「何、船長が!? 何が一体あったんだッ!」

 

 やっと出てくるか、クロネコ海賊団のさしずめ中ボスみたいな連中が……。

 

「そうかまだ、あいつらがいた――! 下りて来いっ! ニャーバン・ブラザーズ!」

 

 ジャンゴが高らかに彼らの名を呼ぶと、2つの影が船から飛び出してきた。

 

「およびで? ジャンゴ船長」

「およびで?」

 

「来たか、ニャーバン・ブラザーズ」

 

 デブとノッポの猫耳コスプレをした海賊がジャンゴの前に立つと、ジャンゴは勝ち誇った顔をした。

 

「ブチ、シャム、おれ達はこの坂道をどうあっても通らなきゃならねェんだが、見てのとおり邪魔がいる! あれを消せ!」

 

 ジャンゴはブチとシャムに私たちを倒すように命令をした。

 しかし――。

 

「そ……、そんな、ムリっすよォ僕たちには。なァ、ブチ」

「ああ、あいつら強そうだぜ、まじで!」

 

 ガタガタと震えながら彼らはジャンゴに反論する。まったく、茶番が好きな連中だ。

 

「――くらえッ」

 

 私はさっさと本性を暴こうと、彼らに向かって鉛の銃弾を放った。    

 

「「――ッ!?」」

 

 するとどうだろう。彼らは素早い身のこなしで、それを躱したのである。

 

「あっぶなーい!」

「喋ってるときに、狙うなんて卑怯だぞ!」

 

 ブチとシャムは私に向かって抗議した。いや、卑怯もらっきょうも無いからね。海賊の戦いなんだから。

 自分らだって「猫をかぶって」いたじゃないか。

 

「あははっ、あいつら面白ェ動きするなー!」

 

「へぇ、なかなか楽しめそうじゃねェか!」

 

 ルフィとゾロはニャーバン・ブラザーズの動きを見て、ニヤリと笑った。彼らの強さを感じ取ったからだろう。

 油断さえしなければ、ルフィとゾロは彼らを相手にそんなに苦戦などしないはずだ。

 

 私はニャーバン・ブラザーズに銃弾を当てようと思えば当てられた。しかし、なぜそれをしなかったかというと、半端に傷つけるとルフィたちのモチベーションが下がると判断したからだ。

 この二人はフェアな喧嘩にやる気を出すタイプだから、その辺は気を使った。

 

 さぁ、彼らの戦いが始まる。勝つのは確信してるけど、どう勝つのかは興味がある。

 

 

「はぁ、なんて連中だよ。まったく……」

 

 ――「そんなに苦戦などしない」なんて、私の分析は甘かった。蜂蜜のように甘々だった。

 

 そう、万全の状態のルフィとゾロにはニャーバン・ブラザーズは全然相手にならなかったのである。

 

  ――2分後、地面にめり込んで白目を剥いているブチと、胸にバツ印の傷をつけられて地に伏しているシャムの姿があった。

 

 

 そして、私はジャンゴの頭に銃口を突きつけていたのである。

 

「チッ、てめェら、これで勝った気なんだろうがよォ……。皆殺しにされるぜ。キャプテン・クロに……」

 

 ジャンゴは銃口を突きつけられてもなお、強気の態度だった。

 クロを怒らせても、自分だけは助かるとでも思っているのだろうか。

 

 

「――ふーん、じゃあ待ってみようか。一緒に……。キャプテン・クロを……」

 

 私はジャンゴをロープで縛りながら、そう言った。

 

「バカめ……、殺されるぞ絶対に――」

 

 彼は縛られながら、心底バカを見るような目でそう言った。

 

 

 

 それからさらに15分ほどの時が過ぎた――。

 

 眼鏡をかけた黒服の男がこちらに歩いてきている。

 そして、彼はクロネコ海賊団が全滅している様子を見て体をプルプルと震わせて声を出した。

 

 

「もうとうに夜は明けきってるのになかなか計画が進まねェと思ったら――何だこのザマはァ!」

 

 クロは怒りを全身に漲らせて、強烈な殺気を放っていた。

 

「遅かったじゃないか。クラハドール……。いやぁ、驚いたよ、君の正体は――あえて君の言葉を借りるなら……、薄汚い海賊だったんだねぇ!」

 

「――ッ!? ライア……、まさかてめェがッ!」

 

 私はようやく宿敵と対峙した。ここから、本当の意味での私のこの村から出るための――卒業試験が始まる――。




やっと、ライアVSキャプテン・クロまで展開を持っていくことができました。
毎回5000字前後を目指して書いてるのですが、長くなってしまって申し訳ありません。
あと、ニャーバン・ブラザーズとの戦闘シーンよりも百合シーンが書きたかっので、尺の都合の割を食ったブチとシャムにはごめんなさいしておきます。
次回もよろしくお願いします。


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ライアVSクロ

いつも、感想をありがとうございます。おかげで百合を全面に押し出すことに躊躇がなくなりました!
いよいよ、ライアとクロの戦いが始まります。


 シロップ村の海岸から村に通じる坂道で、私とクロは対峙する。

 ルフィもゾロも私の想いを汲み取ってくれていて、腕を組んで見守ってくれていた。

 文字通り、手は出さないってね……。

 

「オイ! ジャンゴォ! まさか、てめェ……、ここにいる田舎モンの村娘にやられたってんじゃねェだろうなッ!」

 

 クロは倒れている船員たちに囲まれて、縛られ座っているジャンゴに声をかけていた。

 

「お言葉だがよォ、キャプテン・クロ! そこのガキ共……、とんでもねェ強さだ。あんたじゃなきゃ勝てねェ。シャムもブチもあっさり負けちまった!」

 

 ジャンゴは必死で言い訳をした。まぁ、彼は催眠術をカヤにかけるっていう任務があるから、自分だけは助かるって思ってるんだろう。

 

「ちっ、クロネコ海賊団も軟弱になりやがったッ! たった3人のガキ相手に全滅なんざ笑えねェ! ライア、てめェにゃ騙されたよ。おれの計画を台無しにしやがって……、てめェだけは許さねェ……!」

 

 クロはようやく私に向かって殺気を放ってきた。こちらを射殺さんとするほどの、凄まじい視線と共に……。

 

()()()()だと? クロ、君は些か勘違いをしているよ。君が私を許さないんじゃない。私が君を許さないんだ……」

 

「ンだとォ!?」

 

「君は私の大切な人を傷付けたッ……! 落とし前はつけてもらうよッ!」

 

 私もこれまで殺してきた自分の感情を剥き出しにする。君がこの村に来る前から倒すべき敵だと認識していた。

 来てからはさらに私の殺意は増していた。しかし、カヤを危険に晒さないために……、今日まで私は耐えてきたんだ。

 

 愛銃、緋色の銃(レッドエンジェル)の銃口を私はクロに向ける。

 

「――身の程知らずのガキがッ!」

 

 クロと私の戦いが始まった――。

 

 彼はメガネのズレを直したかと思うと私の視界から消える。

 この男が疾いのはわかっている。だから、研ぎ澄ませ――目で追うな、感じろッ!

 

「そこッ――!」

 

 背後に向かって私は銃弾を放つ。クロが私に攻撃を仕掛けるタイミングで。

 

「――ッ!?」

 

 両手に仕込まれている《猫の手》という爪で私を斬り裂こうとしていたクロは、咄嗟に身を反らせて回避した。

 

 もう一発ッ! 避けられることはわかっていたので、その方向を読んでもう一撃ッ!

 私は彼の動きを読みつつ次々と銃撃を放っていった。

 

 しかし、文字通り目にも留まらぬスピードの彼は動きが読めても捕まらず、私の銃弾はことごとく空を切った。

 

「――なるほど。いい腕だなァ、ライアッ! おれに上等な口を利くだけはある。だがなァ! 気付いてンだろォ? お前じゃあ、おれには勝てねェ」

 

 メガネを直しながら、クロは余裕たっぷりにそう言い放った。余程、私の銃撃を躱してご満悦らしい。

 

「生憎、ものわかりが悪いものでね。君こそ、ブランクで腕が鈍ってるんじゃないかい? 想定よりも攻撃が生ぬるく感じるのだが」

 

 銃弾を左右に放ちながら私は彼にそう言った。実際は、まったくそんなことは思ってないのだが、言うだけはタダだ。だって、私は嘘つきなんだから。

 粋がるだけ、粋がって見せる。不利は悟らせない。

 

「減らず口を叩きやがって! これで終いだよ、てめェはなっ!」

 

 クロはさらにスピードを上げて、私の懐に潜り込み――。

 その右手に仕込まれた凶器を振り上げた。

 

「――ッ!? くっ、痛いな……、さすがに腹を抉られると……」

 

 私は腹の部分をざっくり《猫の手》で切り裂かれてしまった。

 おびただしい量の血が腹から流れ出す。

 

 はぁ、やられてしまったな……。しかし、避けられる攻撃を敢えて受けでもしなきゃ――スキは作れなかった。

 

 自分の未熟さに腹が立つよ……。

 

「がはっ――、バカな……、確かにてめェの銃弾は見切ったはず……。なんで、目の前のてめェの銃撃が後ろからッ!」

 

 クロは信じられないというような表情をしていた。鉛の弾丸の銃撃を背中に受けて、血を吹き出しながら。

 ようやく、一発当ててやった。こっちも良いのを貰ったけど……。

 私は跳弾を利用してクロのスキを突いた。自分に攻撃をする瞬間に跳ね返った弾丸が彼に当たるように、自身を囮にしたのだ。

 

「不思議がってるところ悪いけど、さ。もう、さっきまでのパフォーマンスは無理だよね? 私は種明かしをしない主義なんだ。このまま君を倒すまで……」

 

 私は手負いのクロに容赦なく銃弾を放つ。彼はなんとかソレを躱そうとするも、スピードが落ちてかすり傷を体中に負っていた。

 すでに自慢の上等な服もボロボロになっている。

 

 まぁ、私自身も出血は酷いし、クロのやぶれかぶれな攻撃もいくつかもらってるから血まみれなのは一緒だけど……。

 

「はぁ……、はぁ……、さすがにタフだね。これだけ弾を使って倒せないって経験は今まで無かったよ」

 

 村へと続く坂道は私とクロの血に塗れて、なんとも不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「チッ――いちいち虫唾の走る言い回しをしやがってッ! もういい……、どのみち皆殺しの予定なんだ……」

 

 クロはそう呟くと脱力して、ゆらゆらとした動きを開始した。

 

 ――ようやく切り札を出してくるか……。

 

「まさかッ! オイッ! キャプテン・クロ! それだけはやめてくれッ! この距離じゃおれたちもやられちまう!」

 

 すべてを察したジャンゴが大声で喚き散らす。倒れていた船員たちもよろよろと立ち上がり逃げようとする。

 そう、この場にいる全員が被害を受けるヤツの最強の技……。それが――。

 

杓死(しゃくし)……!」

 

 その刹那、音もなくクロの姿は完全に消えた。

 あたりの岩や岸壁が斬られる音だけが不気味に聞こえてくる。

 

 しかし、それは物だけに留まらず……。

 

 

「うわっ!」

 

 船員のうちの一人が突如血を吹き出して倒れた。

 

「きっ、きたァ! ぐはっ!」

 

 今度はそこから離れた位置の船員が斬られた。

 

「うわっ!」

「まただっ!」

 

 クロネコ海賊団の船員たちはドンドン斬られていった。

 

「キャプテン・クロ! もう、やめて下さい!」

 

「無駄だ! これは”抜き足”での無差別攻撃! 速さゆえ、本人だって何斬ってるかわかっちゃいねェんだ! 疲れるまで止まらねェんだ!」

 

 クロに助けを懇願する船員に別の船員が技の説明をする。

 そう、この技は完全に無差別な攻撃だ。

 

「この技で船員が一体何十人巻き込まれて……、ぐえっ!」

「ぎゃァァァ!」

「助けてェ!」

「できるだけ身をかがめろぉ!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれる。元船長が昔の仲間を切り裂くことによって――。

 

 当然、私も肩や腰に傷を負った。見えない斬撃によって……。

 だが、それよりも驚いたのは遠くに逃げられるはずのルフィとゾロが斬られながらも微動だにせず血を流しながら腕を組んで私を見ていたことだ。

 まるで、私が勝つことを信じてくれているように……。

 

「まったく、とんでもない連中の仲間になったもんだよ。私もね……」

 

 苦笑いしながら、私は愛銃を両手で構える。そして、全神経を研ぎ澄ませた――。

 聞こえるのは生命の息吹……、すなわち万物の呼吸である。

 その間にも私の体は斬り刻まれて、ズタズタになる。しかし、そんな些細なことは気にしない。

 この一発にすべてを懸けているからだ。

 

「――必殺ッ! 鉛星ッッッッ!」

 

 弾丸が発射される音が鳴り止んだ後に訪れたのは――静寂……!

 

 恐ろしいほどに、静まり返ったこの空間の真ん中で黒服の男は腹と背中から大量に血を噴射させて倒れた。

 

 そう、最大限まで研ぎ澄ませた感覚はクロ自身すらも分からない未来の彼の姿を確実に捉えたのだ。

 

 ふぅ、ようやく終わったか……。安堵した瞬間に足に力が入らなくなり、よろけて倒れそうになってしまった……。

 

「おっと、勝者も倒れちまったら締まんねぇだろ」

 

 いつの間にか、私の後ろにいたゾロが優しく体を支えてくれた。

 すまないね。君たちを傷付けてしまった。

 

「うっひょーッ! ライア、やっぱすげェなァ! おれ、全ッ然見えなかったぞ! あの悪執事!」

 

 ルフィは私の肩をバシバシ叩いてきた。うん、興奮するのはわかるけど、そこ傷口だから。痛いから。

 というか、漫画では見えないけど、倒してたよな。私よりも随分とあっさりと……。やっぱり、とんでもないな……。

 

「ちょっと待て、お前って前は睡眠薬とか凍らせる銃弾とか使ってなかったか? それを使えばもっと楽に倒せたんじゃねェか?」

 

 ゾロは思い出したかのようにそう言った。

 

 バレてしまったか……。

 

 ゾロの疑問には理由がある。

 私はこの戦いを自らの卒業試験にしていた。試験の課題は無能力者であるクロを鉛弾だけで倒すということ。

 少なくとも、そのくらいの実力が無くては、この先に生き残れないと思ったからだ。

 

 もちろん、万が一のときはズルをしようと思ってたけど……。

 

 しかし、こんな縛りはこれっきりだ。もう二度やらない。性に合わないし、何より意味がない。

 ルフィとゾロが想定と違って逃げようとしなかったときの罪悪感が半端なかった。彼らを傷付けてしまった。その件についてはきちんと謝罪しよう……。

 

「全部、家に忘れてしまっててね。この銃弾しか使えなかったんだよ。だから、君たちを傷付けてしまった。申し訳ない」

 

 私は嘘をついて、そのあと本当の謝罪をした。頭を深く下げて……。

 

「気にすんなよー。おれたちが好きで見てたんだ! 早くライアと冒険に行きてェぞ!」

 

「そういうこった。なかなか面白ぇもん、見せてもらった。見物料にしたら安すぎらァ」

 

 ルフィは相変わらず傷口をバシバシ叩き、ゾロはニヤリと口角を上げる。

 これが、仲間ってやつなのかな? はぁ、暑苦しいけど、悪くないな……。

 

 

「ちっ、ちくしょう……」

 

 地面に這いつくばっていたクロが何とか立ち上がろうとしていた。

 

 私は彼の元に駆け寄り、銃口を彼の頭に突きつける。

 

「まさか、おれが……、こんなガキに……! クソッタレ……、早く殺りやがれッ! 生き恥をかきたくねェ!」

 

 クロは顔だけを私に向けてそう言った。

 言われなくても、そうするつもりさ……。お前のやったことは万死に値する。

 

 

 しかしッ――。

 

 ――引き金が重い。これを引いたら私は修羅に堕ちるだろう。だけど、そんな覚悟もなく何が海賊だ。

 

 私は覚悟を奮い立たせて引き金を――。

 

「ライアさん! 止めてッ!」

 

 突如、聞こえたカヤの大声に私の手は止まる。

 途中から彼女がナミたちと共に陰でこっそりみていたことには気付いていたが、このタイミングで声をかけられるとは思わなかった。

 

「ライアさん、お願い。クラハドールを撃たないで……」

 

 カヤはフラフラとした足取りで私に近づき懇願する。

 まさか、彼女はまだクロのことを……。

 

「いいえ、違うわ。私はライアさんが、私のためにその手を汚すことが耐えられないの……」

 

 彼女は私の考えを見通したようなセリフを言う。でも、だからって、この男は……。

 

「カヤ、ごめん。でも、私は許せないんだ。君を殺そうとした、この男が――!」

 

「でも、私は生きてる。これからのあなたとの未来を夢見て……。ライアさんは隣に居てくれるんでしょう? 私はそれだけで十分よ」

 

 カヤは血まみれの私の背中から抱きついて、額をくっつける。

 私はどうすることが正解なのか分からなくなっていた。

 

「――っ! 所詮、半端もののガキか……。殺しの覚悟もねェ……。てめェみたいなの――ガハッ」

 

 クロが私に何か言おうとしたとき――何故かルフィがいきなり彼の頭を思い切り殴りつけた。

 クロは頭を地面にめり込ませて、ピクピクしている。

 

「ライア! 悪ィ、手が滑った!」

 

 ニカッと笑顔を向けたルフィはおもむろにクロを掴んで持ち上げた。 

 

 そして、ズタボロにやられて、震えながらこちらを見ているクロネコ海賊団の面々を睨みながら――。

 

「持って帰れェェェェッ!」

 

 クロを思いっきり連中に向かって投げつけたのだった。

 

「匕ィィィィッ!」

「化物〜!」

「逃げろォォォォ!」

 

 クロネコ海賊団は蜘蛛の子を散らすように船に乗り込んで逃げ帰ってしまった。

 ルフィ、君は私に気を遣って……。

 

「ははっ、君には敵わないなぁ。ありがとう、ルフィ」

 

「ん? 何のことだァ? わかんねェこと言ってねェでさ! 飯行こうぜ、飯! なっ、ライアー!」

 

 またまたバシバシと傷口を叩くルフィ。でも、こんなに心地よい痛みは初めてだった。

 

 今なら心の底でこう思える。君と出会えて良かったよ。モンキー・D・ルフィ!

 

 かくして私たち麦わらの一味はクロネコ海賊団との戦いに勝利した。

 

 私は戦いに協力してくれたルフィとゾロ、そして、カヤの安全を確保してくれたナミにお礼を言った。

 

 そして、ナミにはクロネコ海賊団が船を出してしまったのでお宝が手に入らなくてすまない、と謝罪をした。

 

「えっ? お宝? ああ、大丈夫よ。あんたたちが何か揉めてたから、その間に潜り込んで、ほら、こんなにいっぱい」

 

 ナミは金品がぎっしり入った袋を私に見せた。

 まさか、あの短時間に堂々と船に忍び込んで泥棒をしてくるとは……。泥棒猫の凄さを私は思い知った。

 

 私たちはひとしきり飲み食いをして体を休めた。

 そして、次の日……、私たちは全員、カヤの屋敷に呼ばれた。

 そう、とうとう来てしまったのだ。私と私の最愛の人との別れの時が――。




ライアとクロの戦いはいかがでしたでしょうか?
ライアの縛りプレイは迷ったんですけど、彼女の素の実力をこの機会に書いて置かないと、中々この先にチャンスがなかったので、このような形にしました。
スキあらば百合と思ってましたが、今回はちょっとしか出せませんでした。残念です。
次回はメリー号ゲット、そして別れの時……。よろしくお願いします!


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ゴーイングメリー号


いつも、感想をありがとうございます!
ついにカヤとの別れのときが……。
正直、残念です!でも、シロップ村に留まるわけにはいきませんので先に進みます!


 私とルフィたちはカヤの屋敷を目指して歩いている。

 

 それにしても、あのクロを相手に勝てたのは良いけど課題が山積みだった。

 まず、先読みしても銃撃があまりに当たらない。

 それは私の身体能力の無さが原因だ。

 

 引き金を引いて銃弾を放つのにどうしたって時間がかかるし、脳が命令を出して銃口を相手に向ける動作も遅い。

 身体能力が高い相手に攻撃を当てるのは、とっさに危機を察知して避けるのとは難易度が違う。

 要するに、身体能力のある程度高い相手と戦うと、どちらの攻撃も当たらない状態が続きそうなのだ。

 

 クロの敗因は杓死を使ったことだ。あれは超スピードだけど自分の意志がない。

 だから、時間をかけて精神を集中させた時にだけ発動する見聞色の極みである未来視を使って確実に当てることが出来た。

 私は最初からクロに杓死を使わせるまでが勝負だと思っていたのだ。

 

 しかし、杓死と同等の速さと言われる六式使いの(ソル)なんかを使われたら、未来を見る前にやられるか、未来が見えても避けられるかの、どちらかの結果になることが浮き彫りになってしまった。

 

 だからこそ、私は考えなくてはならない。工夫して攻撃を当てる方法を――。

 

「おーい、ライアー。どうしたんだァ? さっきから黙ってて」

 

 首を伸ばしたルフィの顔が逆さまになって目の前に出てきた。

 

「うわっ! ルフィ、君は普通に話しかけられないのかい!?」

 

 私はビクッと少しだけ跳ね上がり、ルフィに抗議する。

 ゴム人間なのは知ってるけど、間近で珍妙な動きをされると死ぬほどびっくりするものだ。

 

「しかし、悪魔の実の能力者なのには驚いたな。私も海には何度も出ているが、初めて見たよ」

 

 私はルフィのほっペを引っ張りながらそう言った。なるほど、面白いくらいに伸びるな……。

 やっぱり、悪魔の実は凄いなぁ。漫画だとバーゲンセールでもやってるみたいに能力者っていたけど、実際、東の海(イーストブルー)では全くと言っていいほど能力者には出くわさなかったんだよねー。

 

 悪魔の実は本当に貴重品なのだ……。

 

 

 そんなことを話してる内に私たちはカヤの屋敷についた。

 

「カヤ、昨日はよく休めたかい? 辛かったらいつでも言うんだよ」

 

 出迎えて、冷たい飲み物まで用意してくれたカヤに私はそう声をかけた。

 

「もう、ライアさんたら、皆さんが見てるのに子供のような扱いをしないで。あのね、ライアさん。私、あの夜からちょっとだけ元気になったの――。私の病気って両親を失った精神的な気落ちが原因だったんだけど、あの時、あなたから元気をもらったから――」

 

「へっ? あの夜って、ああ……」

 

 カヤが言っていることがナニを指しているのか理解した私は顔が熱くなるのを感じていた。

 彼女も自分で言って自分で赤くなっている。

 

「なんだァ? あの夜ってェ? どうして、お前ら、顔が赤いんだァ?」

 

 ルフィが私たちの顔をチラチラ見て不思議そうな声を出したので、私たちはハッとする。

 

「そっそれより、私たちを呼んだのって何かがあったのかな? カヤ……」

 

「えっ、ええ。ライアさんが旅に出ることは知ってたから、プレゼントを内緒で用意してたの。どうせなら、お仲間さんたちにもお見せしようと思って……」

 

 私たちは話題を変えようとドキドキしながら、話していた。

 胸に寂しさを抱えながら。

 

「プレゼント? ライアへのプレゼントが、何で私たちにも関係があるのよ?」

 

 ナミが当然の疑問を口にする。

 カヤには悪いが、彼女のプレゼントには察しがついていた。

 しかし、私へのプレゼントととなると、些か申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「ナミさん、それには理由があるのです。お呼びしていて申し訳ありませんが、岬まで歩いて貰えませんか? そろそろ、メリーが準備を終わらせている頃ですから」

 

 

 そんな訳で私たちは岬に向かって歩いて行った。

 

 

 そう、そこにはあの船が停泊していた。

 

 私はこの船の名を知っている――

 

 

「少々古い型ですが、これは私がデザインしました船で、カーヴェル造り、三角帆使用の船尾中央舵方式キャラヴェル、"ゴーイングメリー号"でございます。航海に必要そうなものは全て積んでおります」

 

 にこやかに笑いながら私たちに船の説明をする。

 私の予想どおり、待っていたのは麦わらの一味と大冒険を繰り広げた船――“ゴーイングメリー号”だった。

 

 しかし、生で見ると迫力があるなぁ。いや、そこまで大きくないんだけど、色んな補正がかかって凄い船に見えてしまう。

 

 この子に無茶をさせることが分かっているから少々申し訳ない。なるべく大事に扱おう。

 

「すっげェ! ライアぁ、お前! すっげェもン貰えたなァ!」

 

 ルフィは表情筋をフル活用して、活き活きとした表情で喜びを顕にする。

 

「カヤ、こんな素敵なモノを良いのかい? 正直、驚いてるよ。君は私が海に出ることを嫌がっていると思ったからね」

 

 私はカヤの瞳を見つめながら、そう言った。

 彼女の寂しそうな顔が長い付き合いの私には通じていたから。

 

「もちろん、寂しいわ。体の半分がどこかに行ってしまうくらい……。でもね、それでライアさんを縛り付けるような嫌な女にはなりたくない。だから、待ってます。帰ってくると信じて」

 

 ちょっと困り顔をしながら、カヤは笑顔を作る。目に溜まっている涙を流すのをグッと堪えて……。

 

「――別れの挨拶なんて、さ。もう会えないみたいだから言わないけど、帰ってくるよ、絶対に! 愛してるよ、カヤ! 君を世界中の誰よりも!」

 

 そう言うと私は彼女を思いきり抱きしめた。

 もう、しばらく彼女に会えない。でも、私の心はいつだって君と共にいる。

 

「ライアさん、私もあなたを愛してる! だから! どんなことがあっても生きていて、お願い!」

 

 泣かないって決めてたのに、いつしか2人揃って泣いていた。

 お互い繋がっていた魂が引き裂かれるような感覚に耐えられずに……。

 

 

 

「ということで、船は手に入ったから良かったね」

 

 私はルフィたちに向かってそう言った。

 

「お前、よく何事も無かったって顔で話を戻せるな」

 

「あなたたち、少しは人目ってモノを気にしなさい! こっちがリアクションに困るわよっ!」

 

「にしし、おめェら仲いいなァ! あっはっは!」

 

 抱きしめ合って、泣きながら「愛してる」とか10分くらい言い合っていたが、すっかり彼らのことを忘れていた。

 

 ゾロは気まずそうに顔を背け、ナミは呆れ顔をしており、ルフィは平常運転だった。ルフィは凄いな、さすが海賊王になる男だ。

 

「あはは、ごめんごめん。カヤは大切な人なんだ。やはり、これから別れるとなると、寂しくてね」

 

 私は笑って誤魔化そうと必死だった。だって、カヤに会えないの辛すぎるんだもん。

 

「ライア……、寂しさのあまり私に手は出さないでね……」

 

 ナミは自分の体を守るような仕草をする。人を見境なしみたいに言わないで頂きたい。

 好きになった人が偶々女の子だっただけで、女の子だから好きになった訳じゃないから、その点は誤解しないでほしい。

 

「出さないから、それだけは心配しないでほしい。いくら君が美人で魅力的な女性でも、そんな事はしないよ」

 

「「そういうとこを、直しなさい!」」

 

 私がナミにそう言うと、なぜかカヤまで怒り出して、同時に同じセリフを言ってきた。

 別に思ったことを口に出しただけなんだけどなぁ。

 

 

 そして、出港のときは訪れた――。

 

「ライアさん、私は医者になる! そして、今度会うときはもっと強くなるわ。あなたが私にしてくれたことに応えたいから」

 

 最後にカヤはそう私に宣言をした。

 

「そっか。優しい君にはピッタリだね。楽しみにしてるよ。――あれ? そのコインは……」

 

 カヤの右手には、先日、私が射抜いて穴を空けたコインがあった。

 

「これは私のお守り。あなたが頑張って、努力して、強くなった証拠だから、これを見て私も頑張るの!」

 

 そう彼女は言うと大事そうにコインを握りしめた。私は彼女がこれまでにない強い意志を見せてくれたことが堪らなく嬉しかった。

 

「じゃあ、私もお守りを貰おうかな」

 

 私はカヤの顔を見ながらそう言った。

 

「えっ、私はそんなの用意……んっ……」

 

 彼女の顔を両手で撫でるように触りながら私は彼女の唇を奪った。

 

「んっ……、はぁ……、もうライアさんたら、いきなりなんだから……」

 

 頰を紅潮させながらカヤは俯き私に抗議する。

 

「海賊になったからね。一番最初に一番奪いたいものを奪ったまでさ」

 

「――絶対に浮気したらダメよ。ぐすっ……、行ってらっしゃい」

 

 そして、真っ直ぐに私を見て彼女は送り出してくれた。ありがとう、必ずここに戻ってくるからね……。

 

 

 麦わらの一味を乗せたゴーイングメリー号はシロップ村を出発した――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「できたぞ! 海賊旗! あっはっはっは!」

 

 ドンと、自信満々の顔をしてルフィは自らがデザインした海賊旗を私たちに見せてくる。

 

 いやはや、これは中々前衛的だなぁ。

 

 ゾロもナミもあからさまに嫌そうな顔をしている。私もちょっと個性的すぎて嫌かなぁ……?

 

「ルフィ、面白そうなことをしてるじゃあないか。どれ、私も一つ描いてみよう」

 

「おう、いいぞォ! どっちがうめェか勝負しよう!」

 

 ルフィはニコリと笑って私に筆を貸してくれた。

 

 

「――よし、こんなものでどうだろうか?」

 

 私は前世で見たデザインを出来るだけ思い出して麦わらの一味のトレードマークの海賊旗を描いてみた。

 

「うん、すっごく上手!」

「ほう、やるじゃねェか!」

 

 ナミとゾロは内心ホッとしたのか、やたらと私の描いた海賊旗を褒めてくれた。

 

「うォォォ! かっけェ! よし、ライア! 今度はこっちだ!」

 

 ルフィも素直にクオリティの差を認めてくれて、今度は帆に大きく同じマークを描くように急かしてきた。

 

 というわけで、ゴーイングメリー号は見事に海賊船となり、長い航海に出かけたのであった。

 

 

「なぁ、ライア。大砲をちょっと使ってみてくれよ」

 

 海賊旗の次は大砲に興味が行ったルフィ。まったくもって落ち着きがない。

 まぁ、テンションが上がるのもわかるけど。

 

「いいよ。一回、試運転がてら使ってみよう」

 

 彼の熱意に押されて私は大砲を使うことを承諾した。そういえば、この流れって……。誰か名前は忘れたけど犠牲になったような……。

 

「へぇ、銃以外もイケるのか興味がある。おれも見せてもらおうか」

 

「そうね。もしも、海戦になったらあなたが頼りだもん」

 

 私の大砲での狙撃の腕を確かめるべく、ゾロとナミがマジマジと見つめてくる。やだ、照れちゃう……。

 

「船長命令じゃあ仕方ない。大砲は扱ったことないから大したことは出来ないかもしれないが……」

 

 私は敵襲とかではないので、十分に集中して――大砲の砲弾を放ったッ――。

 

 轟音と共にすぐ手前の海中に砲弾が沈み、大きな水しぶきを上げる。

 

「――あら、銃撃は凄いけど、こっちは失敗?」

「まぁ、気にするな、ライア。失敗するときも――。――ッ!? 何だ!? これは――」

 

「さっ、魚だァ! 魚が空から降って来たぞォ!」

 

 船内に降ってくる魚たちを見て、ルフィたちは驚きの声を上げていた。これは、食料不足の時に使えるな。

 

「その辺に魚群の気配を感じたからね。狙ってみた」

 

「おっ、お前、魚の気配までわかるのかよッ!」

 

 ゾロはギョッとしたような表情で私を見た。

 

「うん、集中すれば、生きものだけじゃなくて、植物や物質の気配もわかるよ」

 

「やっぱり、これって超能力なんじゃない?」

 

 ナミはビチビチと動いている魚たちを眺めながらそんなことを言う。

 

「どうかな? 誰でも使える技術だと私は思ってるけどね。ルフィやゾロだって、そのうち出来るようになると思うよ」

 

「へぇ、おもしれェ……。誰でも使える技術か……」

 

 ナミの言葉に返事をしたら、ゾロは目をギラつかせながらニヤリと笑った。

 ちょっとは、いい刺激になったかな? 残念ながら、私も理論的なことが分からないから口で説明は出来ないけど、彼らのセンスなら見て真似られそうだ。

 

 そんなふうに、私が質問に答えていると、ルフィがトントンと、私の肩を叩いてきた、

 

「じゃあさ、次はあれを狙ってくれよ」

 

 ルフィは孤島にある岩を狙うように指示を出した。

 私は孤島から2人の人間の気配を感じた。1人の気配はかなり弱っている。

 そうだった、確か壊血病にかかって死にそうな人が居たんだった。

 

「構わないけど、あそこには人がいるみたいだ。2人ほど、ね。しかも1人は死にかけてる……」

 

 私がそう言うと、ルフィはあの孤島に船を近づけるように指示を出した。

 

 

 孤島に居たのはゾロの知り合いの賞金稼ぎ、ジョニーとヨサク……。居たな、こんな人たち……。賞金稼ぎやってたけど、一回も出会わなかった。

 

 ヨサクが壊血病で倒れていたので、ライムを絞って飲ませると、すぐに彼は回復した。

 ん〜、どう考えてもそんなに直ぐに元気になるはずないんだけど……。あっ、倒れた……。

 

 

「申し遅れました。おれの名はジョニー!」

 

「あっしはヨサク! ゾロのアニキとはかつての賞金稼ぎの同志! どうぞお見知りおきを!」

 

 サングラスをかけた黒髪の男、ジョニーと、変な額あてと、短パンにコートという独特のセンスの男、ヨサクが私たちに自己紹介した。

 

 

「それにしても、壊血病に限らず日々の体調は食べ物に依存するからね。ヨサクのことは私たちにも他人事じゃないんだよ」

 

 私は海上レストラン、『バラティエ』に向かう方向に話を持っていこうとした。

 

「確かに、だが、おれは料理なんざできねェ。ライア、お前は器用そうだから出来るんじゃねェのか?」

 

 ゾロは私にそんな質問を投げかけた。

 

「いや、まったく出来ないわけじゃないが、素人の域は出ないよ。長い船旅に限られた食材。これをバランス良く配分するのは、やっぱりプロの料理人じゃなきゃ」

 

「お金取って、私がやってもいいって言おうと思ったけど、そこまでは無理ねぇ」

 

 私がゾロの質問に答えると、ナミが首を横に振ってそう言った。

 

「そっか〜! コックかー! そうだよなァ! コックが居れば毎日うめェもンが食えるもんなァ!」

 

 ルフィはコックの加入に興味を持ったみたいだ。よし、この流れなら。

 

「なるほど、コックをお探しなら、海上レストラン『バラティエ』はどうですかい? 確かこの近くの海域にあるはずですぜ」

 

 上手いこと、ジョニーがそんなセリフを言ってくれたおかげでルフィが乗り気になり、私たちは海上レストラン『バラティエ』に行くこととなった。

 

 『バラティエ』には次の仲間のサンジが居る。仲良くなれるか不安だけど、早く会ってみたいなぁ。

 そんなことを考えてると、ゾロがジョニーに何事かを耳打ちされて、殺気を漲らせていた。

 

 そうだよね。『バラティエ』では彼が――。

 

 麦わらの一味の次の目的地は海上レストラン『バラティエ』……。私の冒険が始まった――。




百合展開の霊圧が……、消えたッ……だとッ!? でも、復活させたいです。
浮気はさせませんけど、ライアのイケメン設定は思う存分暴れさせたいと思います!
次回はいよいよ、コックの王子様の登場です!


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海上レストラン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回はサンジとの出会いです。
それでは、よろしくお願いします!


「着きやした! 海上レストラン! ゾロの兄貴! ルフィの兄貴! ライアの兄貴! ナミの兄貴!」

 

 ジョニーの大声が私たちの船が海上レストランに着いたことを知らせる。

 

「ライアはともかく、なんで私がアニキなのよ……」

 

「おい、失敬だな。君は……」

 

 ナミの「ともかく」に私は反応してツッコミを入れる。

 今さらだが、本当に初対面の人に女の子扱いしてもらえない。

 

 ジョニーもヨサクも当然、初対面では私のことを男だと思ってた。

 言いたくなかったけど、《魔物狩りのアイラ》と同一人物だという話をすると、アイラは女じゃなくて男だったのかと、私の期待の真逆の反応で悲しかった。

 

「どーですかっ! みなさん!」

 

 ジョニーが自分の船のようにドヤ顔を示す。

 

 どーんっと、目の前に浮かぶのは海上レストラン『バラティエ』――。

 魚のようなデザインがオシャレなレストランだ。

 

 私たちは感嘆して、わくわくしながらバラティエに進もうとした。

 

 しかし、一隻の海軍の船が隣にいることに気付くとピリッとした空気が流れる。

 なんせ、海賊船の横に海軍の船があるのだ。水と油みたいなものだ。揉め事がないほうがおかしい。

 

 この海軍の船には確か海軍本部のフルボディ大尉が乗ってたはずだ。

 メリケンサック付けてた人だってことくらいしか覚えてないけど……。どんな人だったっけ?

 

 

「見かけない海賊旗だな……。おれは海軍本部大尉“鉄拳のフルボディ”。船長はどいつだ? 名乗ってみろ」

 

 考えごとをしていたら、フルボディ本人が登場して丁寧な自己紹介をした。

 

「おれはルフィ、海賊旗はおととい作ったばかりだ!」

 

 ルフィは堂々とした態度でフルボディに返す。

 なんだか嬉しそうなのは、海賊だと認めてもらったからだろうか?

 

 しかしフルボディはルフィよりも、その後ろのジョニーとヨサクに目を付けたみたいで2人を挑発するような発言をした。

 

「そういや、てめェら二人……、見たことがある。確か……、小物狙いの賞金稼ぎ、ジョニーとヨサクっつったか……。ついに海賊に捕まっちまったのか?」

 

 フルボディにそんな挑発されて怒ったジョニーとヨサクは彼の船まで喧嘩をしに行ってしまった。

 さて、この間に準備しとくか。

 

 

 ボコボコにされたジョニーとヨサクが返品されて、フルボディは食事に来ただけだからと(うそぶ)く。

 

 だが、少し船を走らせると彼はこちらに大砲を向けてきた。

 まったく、カヤがプレゼントしてくれた船に無粋なことをしてくれる。

 

「ちょっと! あいつ、大砲を撃って来たわよ!」

 

「何ィ!?」

 

 ナミの言葉にゾロもびっくりした声を出す。

 

「――目には目をってねッ!」

 

 私は準備しておいた大砲を撃ち出した――。

 

 

 海軍の船とゴーイングメリー号の間で爆発音が鳴り響く……。

 

 私の撃ち出した大砲が海軍の大砲の弾に命中したからだ。

 漫画だとルフィがゴムゴムの風船で大砲の弾を弾くんだけど、それが『バラティエ』の料理長であるゼフの部屋に直撃して多大な迷惑をかけるんだ。

 さすがにわかってて止めないのは向こうに悪いし、ルフィが雑用で働くなんて可哀想だ、バラティエが!

 

「あー、良かった。船が無事で……」

 

 私は船を撫でながらそう言った。万が一船が傷付けられたら、今度は私がフルボディと喧嘩しなきゃならんところだった。

 

「あなた、とんでもない事を平気な顔してするのね」

 

 船に頬ずりをしてると、ナミが話しかけてきた。よかった。奇行はスルーしてくれた。

 

「ん? そりゃあ、この船も仲間だからね。仲間を傷付けられそうになったら助けるさ」

 

 私はナミの言葉にそう返す。

 

「仲間ねぇ……。じゃあ、もし私がピンチになったら――」

 

「うん、もちろんナミがピンチなら、言ってくれ。絶対に助けるから。ルフィもゾロも一緒に、ね」

 

 ナミの事情を知ってる私は出来るだけ優しく彼女にそう返した。

 

「ライア……、あなた……」

 

「ん?」

 

「そっ、その顔禁止! ――ったく、油断もスキもないんだから!」

 

 ナミは顔を紅潮させてそっぽを向きながら、私の顔のダメ出しをした。

 禁止って言われてもなぁ。ゴーグルつけたくはないし……。 

 

 そんなこんなで、私たちはようやく『バラティエ』に着いたのだった。久しぶりに美味しいモノが食べられそうだ。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ジョニーとヨサクに船番を任せて、私たちは海上レストラン『バラティエ』の中に入って行った。

 

「へェ、ここが海上レストランか」

 

「中もきれいにしてあるのねぇ」

 

「うっひょー! 美味そうな匂いがするぞォ!」

 

 私たち4人はテーブルに通されて、適当に注文して料理が運ばれるのを待った。

 さて、サンジはどこかなぁ?

 

 おや、あそこにはさっきのフルボディがいるぞ。そういえば、デートに来てたんだったな。

 

 なんか、ワイン飲んで興奮してるな……。私もワインは好きだ。

 

「うまい……! このほのかな香りは……、北の大地ミッキュオの大地の香りか……。軽い酸味にコクのある辛口……。このワインは――イテェルツブルガー・シュタインだな! 違うかウエイター?」

 

 大声でウンチクを語りながら、フルボディはドヤ顔でワインの銘柄を言い放つ。

 これは、近くで見なければ……。私は席を立ってフルボディのテーブルに近づいた。

 

()()()()()()、お客様……。ちなみに私は副料理長。ウェイターは昨日、全員逃げ出しまして」

 

 金髪とグルグル眉毛が特徴的な男、サンジがスープを持ってワインクイズの不正解を告げる。

 

 周りのみんなはクスクス笑ってる。いやぁ、いいなぁ、ああいうスマートな感じ。

 

「スープです。熱いうちにどうぞ!」

 

「ふーん、優しくていい香りだね。多分グロリール・シャトーだろう。辛口のイテェルツブルガーじゃ、この料理の味を損ねちゃうから、美味しく食べられるように気を使ってくれたんだね。自信はないけど、当たってるかな? 副料理長」

 

 私はフルボディと相席していた女性にグラスを借りて、ワインの匂いを確かめてサンジに尋ねた。

 

「――せっ、正解です。いやぁ、それにしてもキレイなお嬢さんだ! ワインが好きならおれと一緒に向こうで飲みませんか?」

 

 やった、正解したぞ! ――って、えっ?

 

「ええと、副料理長? 今、お嬢さんって私に言った?」

 

「おや、お若く見えましたが、年上の方でしたか?」

 

 当然という表情で私を見るサンジ。やだ、人生で初めてナンパされたんだけど。女の子に見られるのってこんなに嬉しいなんて……。

 

「おっと、こちらのお姉さんもこれまた美しい! お姉さんもこちらのお嬢さんと一緒にどうですか?」

 

 サンジはその上でさらにフルボディの連れにもナンパをする。凄いなぁ、あんなに自然に口説けるなんて……。

 私の中で既にサンジの好感度は上がりまくりである。

 

「副料理長、それは彼氏さんがいるのに悪いよ。グラス貸してくれてありがとう。こういう料理にはきっと合うと思うよ。優しいお姉さん」

 

 私はサンジを窘めて彼女にグラスを返した。

 

「――あっ、あの! 私この人とは別に付き合ってません!」

 

「えっ?」

 

 女の言葉にフルボディは愕然とした表情をする。まっまぁ、付き合ってなくても食事くらいは行くよね……。

 

「そっ、そうなんだ。それは失礼をしたね……。じゃあ、私はこの辺で……」

 

 気まずくしてしまった私は自分の軽率さを呪いながら、この場を離れようとした。

 

「待って!」

 

 私は彼女に腕を掴まれてしまう。なんだろう? やっぱり雰囲気を台無しにしたことを怒られるのかな?

 

「あ、あの。本当にこの人とは何でもないの。だから、わっ、私と付き合ってくれないかしら? ねぇいいでしょ?」

 

 彼女は私の腕に絡みつきながら、そんなことを言う。何それ、怖い……。

 

「はっ、はぁ? いやいや、私はこちらの副料理長が言ったとおり女だし、心に決めた人が……」

 

「なっ、何を言ってるんだ? おっおれがワインを外したことがそんなにいけなかったとでも言うのか?」

 

 私とフルボディが同時に早口で言葉を吐き出し、何ともカオスな状況になってしまっていた。

 

「だから見つめるなって、言ったのよ! いい加減に学びなさい! このバカ!」

 

「ああ、待って! せめてお名前を!」

 

 それを見兼ねたナミが私の頭を叩きつけて、服を掴んで物凄い力でテーブルまで引っ張って行った。

 

「ごめん、ナミ。でもね、私! ナンパされたんだよ、ナンパだよ! 信じられないよ」

 

「はいはい、良かったわね。私は異様に喜ぶあなたが信じられないわよ」

 

 ナミは私の言葉に呆れたような声を出すが、嬉しいものは仕方ない。君のような女性としてのアレやコレに恵まれた人には分からんのだ。

 

 しかし、私などがナンパされるのだから、当然、ナミは……。

 

「ああ海よ。今日という日の出逢いをありがとう。ああ恋よ。この苦しみにたえきれぬ僕を笑うがいい。どうも、あなたの下僕でございます!」

 

 ナミの放つ圧倒的な美女のオーラは怒り顔でも消せるはずが無く、サンジは私たちのテーブルにもハイテンションで現れた。

 

 うん、本人に自覚はないかもしれないが、力の入り度合いに差があるよね。当たり前だけども……。目がハートマークに見える。

 

「なぁ、ルフィ! あの人良いと思うんだ! 彼を仲間にしよう!」

 

「お前、よっぽど女だと気付いてもらえて嬉しかったんだな……」

 

 興奮気味にサンジを推す私を可哀想な人を見るような目でゾロは見ていた。

 

 

 そんな中、気まずい空気に耐えられなくなったのか、フルボディは連れの女の手を引いて帰ろうとしていた。

 すごい悪いことをした気がする……。そしてあの女の人、めっちゃ私に手を振ってる……。

 

 

 彼が会計を済ませて店を出ようとしたとき、店の入口が開き海兵が慌てた顔で口を開いた。

 

「海賊クリーク一味の手下を逃してしまいました! “クリーク一味”の手がかりにと、我々7人がかりでやっと掴まえたのに!」

 

「馬鹿な! どこにそんな体力がありやがる! 三日前に餓死寸前で以降何も食わせてねェんだぞ!」

 

 海兵の言葉にフルボディは驚愕の表情を浮かべた。

 

「申し訳あり――」

「おい、どうした!? うっ――!」

 

 海兵とフルボディは撃たれてその場に倒れてしまう。そして、外からヨロヨロとふらつきながら、海賊が入ってきた。

 

 彼はクリーク一味の幹部のギンだったけな。

 

 ギンはテーブルに腰掛けて食事を要求する。そんな彼のもとに大柄なボウズ頭のコックが接客に向かった。

 名前はええーっと、誰だっけ?

 

 私が名前を思い出してる内にそのコックがギンをボコボコにしてしまう。金のない人は客ではないと……。まぁ、正論と言えば正論。

 

 そして、ボロボロになったギンは外につまみ出されてしまった。

 

「ルフィ、ちょっと外を見に行かないか?」

 

 私はサンジの動いた気配を察知してルフィを外に誘った。彼にはサンジの人となりを見てもらう必要がある。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「食え……」

 

 空腹で倒れているギンにサンジはちょうど料理を渡していた。

 

「面目ねェ……、こんなにうめェ飯を食ったのは――おれは初めてだ……。――面目ねェ、面目ねェ……! 死ぬかと思った……! もう、ダメかと思った……!」

 

 涙と鼻水を大量に流しながら料理にがっつくギン。よほど、空腹だったのだろう。美味しそうに食べていた。

 

「――クソうめェだろ」

 

 それを満足そうな笑顔でサンジは見つめ、タバコを吹かしている。

 やはり、この人は誰よりも優しい男だ……。

 

「にしし、ライア! あいついいコックだなぁ! よしっ! あいつを仲間にしよう!」

 

 ルフィはサンジの良いところを感じ取り、ニコリと笑った。

 よかった。これで、彼はサンジを仲間にしようと頑張るはずだ。

 

 ルフィはさっそくサンジに声をかけた。

 

「よかったなーお前っ! メシ食わせて貰えてなー! おいコック! お前、仲間になってくれよ! おれの海賊船のコックに!」

 

「ルフィ、それはいかにもストレート過ぎやしないか?」

 

 彼のまっすぐ過ぎる物言いに私はついつい、ツッコミを入れてしまう。

 

 サンジとギンはチラリと私たちの方を見た。

 

「やぁ、副料理長。さっきは騒いでしまって悪かったね。私はライア。こっちは船長のルフィだ。一応は海賊をやってる。副料理長も良かったら名前を教えてくれないか?」

 

 ルフィとともに彼らに近づきながら、私はサンジに自己紹介とルフィの紹介をした。

 

「へぇ、お嬢さん。ライアちゃんって言うのか。可愛い名前だな。おれはサンジ、よろしく」

 

「えっ? 可愛い……かな?」

 

 サンジからの言葉に私はつい、過剰反応してしまう。いかんいかん、彼は誰にだってこんな感じなんだから。

 照れている私を余所にルフィはサンジの獲得のための勧誘を続けていた。

 

 サンジは男の人を相手にも気さくで、楽しそうにこの店が元々名のある海賊のコックが作った店で、その人にとっては宝のような店だと言うことを楽しそうに語っていた。

 

「なぁ、サンジ……、仲間になってくれよ」

 

「断る。おれはこの店で働かなきゃいけねェ理由があるんだ」

 

 サンジはやはりルフィの勧誘を断った。そうだよね。最初はきっぱり断るんだよね。

 

「いやだ! 断る! お前が断ることを断る! お前はいいコックだから一緒にやろう!」

 

 ルフィの無茶苦茶な理論にサンジは呆れた顔をする。

 

「おい、ライアからも言ってくれ。海賊の楽しいところとか」

 

 そしてルフィは私にまで無茶ぶりをしてきた。

 

「そうだね。さっき、君が声をかけていたオレンジ色の髪の美人が居ただろ? あの子も私たちの仲間なんだ。彼女とひとつ屋根の下で暮らすことになるのは刺激的じゃないかい?」

 

 私は彼に効果的な言葉を選んだ。まぁ、意志が固いからこれくらいじゃ――。

 

「えっ? あの天使みたいな彼女もかぁ! 確かにそりゃあ刺激的だ! ぐっ……、ぐぐ」

 

 今、一瞬だけすごく乗り気になった気がする……。

 そして、すごい形相で煩悩と戦ってるような……。

 

 こうして、私たちはサンジと出会った。しかし、この海上レストランは間もなく大きな戦いに巻き込まれることとなる――。

 




色々とサンジに会ったらどうなるのか、と予想してくださった方が多かったので、こんな感じで良いのか不安ですが、いかがでしたでしょうか?
ワンピースのキャラクターってブレないところが魅力的なので、サンジはサンジらしく女性には誰にでも紳士的な態度でいってもらって逆にライアにときめいて貰いました。

そして、海に出て最初にライアに迎撃されたのは、フルボディ大尉の連れの女性でした。予想が当たった方はいますでしょうか?

あと、フルボディ大尉はそれなりに強いのでフラフラのギンに負けないとは思うのですが、傷心中にいきなりの展開で不意討ちされて敢えなくみたいな解釈でお願いします。
次回もぜひご覧になってもらえれば、嬉しいです!


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嵐が来た日

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!とても元気を頂いております!
クリークの船がやってきました。
ここから戦闘に入りますが……、その前に……。という大事な回です。


「話割ってすまねェが――」

 

 ここまで、私たちの話をじっくりと聞いていたギンが口を開いた。

 この人、割とお人好しそうなんだけど結構強いんだよね。

 

「おれはクリーク海賊団のギンって者なんだが……、あんたたちも海賊なんだろ? 目的はあんのかい?」

 

 ギンは私たちに海賊としての目的を聞いてきた。人の目的なんて興味あるものなのか? いまいち理解できない。

 

「おれはワンピースを目指してる。偉大なる航路(グランドライン)へ入るんだ!」

 

「私は父親がそっちに居るからね。会いに行くのが目的だよ」 

 

 私たちはグランドラインを目指すことをギンに伝えた。

 

「コックを探してるくらいだからあんまり人数揃っちゃいねェんだろ?」

 

 ギンは私たちの様子から少人数だということを見抜いた。

 

「今こいつで5人目だ!」

 

「何でおれが入んだよ!」

 

「まぁまぁ、少しくらい考えてもいいじゃないか」

 

 ルフィの図々しい発言にサンジはすかさずツッコミを入れる。私は彼を抑えて、前向きに考えてもらえるように頼んだ。

 まぁ、今の段階じゃ無理だろうけど。

 

「悪いやつらじゃなさそうだから忠告しとくが――、グランドラインだけはやめときな。あんたらまだ若いんだ。生き急ぐことはねェ。グランドラインなんて世界の海のほんの一部にすぎねェんだし海賊やりたきゃ海はいくらでも広がってる」

 

 彼は真顔でグランドラインに行く私たちを止めた。なんか、自殺を止めようとするオジサンみたいだ。

 

「へーそうか……、なんかグランドラインについて知ってんのか?」

 

「――いや何も知らねェ……。何もわからねェ、だからこそ怖いんだ――!」

 

 ルフィの言葉にギンは怯えたような仕草をする。よほど、《鷹の目のミホーク》にトラウマを与えられたんだろうな。

 

 しかし、ツイてないのは間違いないな。グランドラインに着いて早々ミホークに狙われるなんて、スライムが出てくると思ってたらバラモスが出てきたようなもんだ。

 

「あのクリークの手下ともあろう者がずいぶん弱気だな」

 

「クリークって?」

 

 サンジの言葉にピンと来ないルフィ。彼はクリークのことなんて知らないに決まってる。

 

「ルフィ、首領(ドン)クリークだよ。東の海(イーストブルー)で最強の戦力を持つと言われてる海賊さ。その艦隊の総数は50隻ほどで確か1700万ベリーの懸賞金がかかってたはずだ」

 

 私はルフィに一応クリークについて説明をした。多分、1ミリも理解してくれないだろうけど……。

 実際、50隻って凄い数だ。でも管理とかも大変そう……。

 

「ほう、あんたは詳しいんだな」

 

 ギンが私の方を向いてそんなことを言う。そりゃあ賞金稼ぎやっていたし。

 

「船長がこんな感じだから、色々とね……」

 

 私はそう言って誤魔化した。元賞金稼ぎなんて言ったら絶対に警戒されるから、黙っておくにこした事はない。

 

 その後、ルフィがどうしてもグランドラインに行くと宣言したり、料理長のゼフがサンジを注意したりした。

 

 サンジは本当に気のいい男で、怒られているのに、ギンに小船を渡して海に帰してやろうとしていた。

 

 

「悪ィな、怒られるんだろ……、おれなんかにただメシ食わせたから」

 

 親切にしてもらったギンはサンジに申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「なーに――怒られる理由と証拠がねェ」

 

 爽やかな顔で食器を海に落とすサンジ。この感じはやはりカッコいい。

 ギンもサンジの行為に心を打たれたのか、ずっと土下座しっぱなしだった。

 

 やはりサンジは私たちの一味に必要だ。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 さて、それから2日くらい経った訳だが、やっぱりサンジはなかなか折れてくれない。

 それにはやはり料理長でありオーナーのゼフの存在が大きいようだ。

 そりゃそうだ。彼はサンジの命を救った大恩人。

 彼に報いる義務みたいなものがサンジの胸の中にあるのだろう。

 まぁ、だからこそサンジのような人間を仲間として欲しいわけだけど……。

 

 しかし、そろそろだろうな。ギンが彼を連れてくるのは――。

 

 

 予想通り、この日の昼間、巨大なガレオン船が海上レストラン『バラティエ』の前にやってきた。

 私たちはメリー号からその様子を見ている。

 

「あの海賊旗はクリーク一味のものだよ。ルフィ……。彼もまた海賊王を目指してるんだ」

 

「ちょっと待て! 海賊王になるのはおれだぞ!」

 

 私がクリークのことを話すとルフィは首を伸ばしてそう言ってきた。

 

「あはは、分かってるさ、ルフィ。さて、クリークは何のために海上レストランに来たんだろう? 少なくともギンの恩返しじゃないだろうね」

 

「ええーっ! 違うのか〜!?」

 

 私はルフィにクリークの目的について疑問を投げかけてみた。どうやら彼はクリークが恩返しに来たと考えてたみたいだ。

 

「海賊の目的なんざ、略奪に決まってる。そう言いたいんだろ? ライア」

 

「そうだね。私の聞くクリークの人となりだと、その可能性が高そうだ」

 

 ゾロの言葉を私は肯定する。

 

 そのとおり、クリークはバラティエ自体を乗っ取るつもりでやってきたんだ。

 

「そっか、じゃあおれ見てくるよ! クリークって奴!」

 

 ルフィはそれだけ言うと、腕をバラティエまで伸ばして、レストランの中に行ってしまった。

 

「ったく、すぐに行っちまった。どうする? おれらも行くか?」

 

 ゾロは戦闘の気配を感じ取って、ルフィを追いかけようとした。

 

「よし。私も行こう。ナミはどうする?」

 

「えっ? 私? 嫌よ、パスに決まってるじゃない。怖いもん」

 

 ナミはいつもどおりの仕草でバラティエに入ることを拒否した。

 しかし、彼女の目はどこか寂しそうだった。

 

「――わかったよ、ナミ。じゃあ、君には船番を頼む」

 

「うん、任せて。ライア」

 

 ナミは私の言葉に返事をした。目は合わせてくれなかったけど……。

 そっか、やっぱり君は――。

 

 

 私はゾロと共にバラティエに向かった。そして――。

 

「すまない、ゾロ。船に忘れものをしたんだ。先に行っててくれないか?」

 

「なんだ、また忘れものか? 仕方ねェやつだな」

 

 彼は少しだけ呆れたような顔をしたが、一人でレストランに入って行った。

 さて、忘れものを取りに行かなきゃ。

 

 

 

 私は再びメリー号へと戻って行った。

 

 

 

「――おや、随分と高額な賞金首の手配書じゃないか。どうしたんだい?」

 

「――きゃッ! らっ、らっ、ライアッ!? なんであなたがここに? だって、レストランに行くって……」

 

 手配書を眺めていたナミは私が後ろから声をかけると跳び上がって驚いた。

 

「ちょっと忘れものをしてね。戻って来たんだよ」

 

「へっ、へぇ。そうだったの。じゃあ、早く取りに行きなさいよ」

 

 顔を引きつらせながら、彼女は私を見ていた。どうやら、かなり動揺させてしまったらしい。

 

「まぁ、焦らなくてもいいさ。ルフィもゾロも私なんかより強いんだから。しばらく君と雑談でもしたら行くとするよ」

 

 私は努めて笑顔を作って彼女と話をした。

 

 ナミはここで私たちを裏切ってアーロン一味の元に戻ろうと考えてる。メリー号を奪って……。

 それを私は止めに来た。エゴなのかもしれないが、放っておけなかったのだ。

 

「その賞金首、知ってるよ。魚人海賊団、《ノコギリのアーロン》、2000万ベリー。東の海(イーストブルー)の最高額だ。なぜ、君がそんなものを?」

 

 私はナミに質問した。意地悪な質問を……。

 

「元賞金稼ぎだけあって詳しいのね。別に意味なんて無いわよ。随分と高い賞金首だと思って眺めていただけだもん」

 

 彼女はやれやれというようなポーズを取って誤魔化そうとしていた。

 まぁ、簡単に話してくれるとは思わなかったけど……。

 

「そっか、わかったよ。――そういえば前にルフィにさ、海賊のイメージが悪いって話をしたのを覚えてる?」

 

「言ってたわね。そんなこと」

 

 私がナミに以前の話を振ると、彼女は覚えてるみたいで首を縦に振った。

 

「このアーロンのやり方は噂になっててね。彼は縄張りの町や村を支配してるそうだ。長い間、ね。その町村の人はそれは高額な貢金を納めさせられ、出来ない人が一人でも居たら町を壊滅させるくらいのことはやってるらしい。その上、海軍に賄賂まで渡して、手を出せなくしてるみたいなんだ。噂だけど、ね」

 

 実際、そこまで具体的な噂は聞いたことないけど良いだろう。私は嘘つきなんだから。

 

「そ、それがどうかしたの? だから、アーロンなんて知らないって言ってるでしょ!」

 

 その声は悲痛な気持ちが伝わるほど、か細く聞こえた。

 私は彼女のトラウマを抉っているのではないか? 罪悪感で胸が締め付けられそうになる。

 

「もう一つ話をしようか。魚人海賊団には一人だけ人間が居るみたいなんだ。女性がね。それでこの前、君が着替えてるときにふと見えちゃったんだよね。君の左肩にアーロン一味のトレードマークがあるのを」

 

 私がそう言うと、彼女はハッとした顔で左肩を右手で庇うように押えた。

 まぁ、着替えなんて覗く趣味はないから嘘なんだけど……。

 

「ライア……、やっぱり私をいやらしい目で見てるんじゃないの?」

 

「今は君の精一杯の冗談に応える気はないな」

 

 ナミはわざと戯けたような声を出したが、私は真っ直ぐ彼女を見据えて、話を変えさせなかった。

 

「――ったく。その目で見つめるなって何回言ったらわかるのよ」

 

 彼女は顎に手を置いてそっぽを向きながら、悪態をつく。

 

「そうよ。私は魚人海賊団の幹部なの。認めるわ。はい、これで満足かしら? で、私は出ていけば良いの?」

 

 そして、ヤケになったような口調で魚人海賊団に所属していると話した。

 

「出ていくなんて言わないでくれよ。寂しいじゃないか」

 

「はぁ? 私を追い出したいから、追及したんでしょ? アーロンの部下となんか、誰も居たいとは思わないわよ」

 

 ナミは両手を広げて訳がわからないというような仕草をとった。

 私のほうがわからないよ。君を追い出したいなんて思ってもないから――。

 

「追及した理由は、君を助けたいからだ。仲間としてね……。そして私は君と居たいと思ってる! 関係ないよ、君の立場も過去も全部。ルフィたちもきっと同じ気持ちさ」

 

 私はナミに感謝している。あのとき、出会ったばかりの私の頼みを聞いてくれた。

 カヤを守って一緒に居てくれた。自分の命が危険になる可能性があるにも関わらず。ルフィたちみたいな戦闘力もないのに……。

 

 要するに私は恩返しをしたいのだ。

 

「もう、顔が近いわよ……。私は別に助けてほしいなんて――」

 

「海賊を嫌っている君が何もないのに魚人海賊団に入るわけないだろう? 脅されてると考える方が自然だよ」

 

 海賊嫌いを公言していて海賊をやってるという矛盾があるなら、そういう答えが見えてくる。

 

「はぁ、何でもお見通しなのね。あなたのそのキレイな瞳は……」

 

 ナミは私の髪を触りながら、ジッと私の瞳を見ていた。目を合わせるなって言ってたから気をつけてたのに……。

 

「――そうよ。私はアーロンに飼われている。故郷の村をあいつが支配してるから……。あとは言わなくても分かるでしょ?」

 

 諦めたようにナミはアーロンに村が支配されているのを引き合いにされて、今の立場にあると話した。

 

「うん、大体は察しがつくよ。じゃあ、私たちがアーロンを――」

 

「――それは絶対に止めて! 私、あなたたちを良い奴らだと思ってる。本当よ! だから、死んでほしくないの! 大丈夫よ。私は助かる見込みがあるの。もう少ししたら……」

 

 ナミは真剣な顔で私の言わんとすることを否定した。彼女の助かる見込みは一億ベリーをアーロンに支払って、村を買い取る事なのだろうが、あいにくその約束を彼は守る気がない。

 

 でも、それを言っても無駄だし、彼女は聞かないだろう。

 

「死んでほしくない、か。君の気持ちはわかるよ。でもね、君はルフィのことを見くびってる。彼は強いし、君のためなら命懸けで勝利を掴むことが出来る男だ。ナミ、私もこの話を聞いたからには引くわけにはいかないんだ。だから、1つ私とギャンブルをしないか?」

 

 私はナミに賭けをしようと持ちかけた。彼女にウチの船長を頼ってもらうようにするために。

 

「ギャンブル? いきなり何を言ってるの?」

  

 ナミは私の髪を触るのを止めて、首を傾げて不思議そうな声を出した。

 

「これから、ルフィは必ず首領(ドン)クリークと戦う。彼もまた、アーロンに匹敵する1700万ベリーの賞金首でこの海では最強の一角とされている。私は一対一でルフィが勝つ方に賭けよう。私が賭けに勝てば、君はルフィに助けを求めるんだ」

 

 私はルフィの実力をもっと知ってもらうために彼女にこのような提案をした。

 

「じゃあ、私が勝ったらどうしてくれる気なの?」

 

 ナミは私が賭けるモノについて尋ねてきた。

 

「そうだな。君が勝ったらこのメリー号を君にあげよう。私がこの船を賭ける意味はわかるよね?」

 

 私はある意味、命よりも大事なこの船をギャンブルの賭け金に選んだ。そうでもしないと、本気さが伝わらないと思ったから。

 漫画通りルフィが勝てなかったら、死ぬほど間抜けだとわかっていながら。

 

「――ライア、あなたってすっごくバカなのね。だけど……、そのバカな賭けに乗りたくなっちゃった。いいわよ。私が勝ったらこの船をホントに貰うから後悔しなさい」

 

 ナミに私の本気さが伝わったのか、彼女は賭けに乗ってくれた。バカとは心外だな……。

 

「わかってるよ。そのかわり私が勝ったら、約束を守ってくれ」

 

「――っ!? わかったわ……。あいつらにも話すって約束する……」

 

 ナミは少しだけ迷って首を縦に振った。

 

 こうして、ルフィの知らぬところで彼は私とナミの賭けの対象になった。

 ルフィ、お願いだから勝ってくれ。 

  

 と、そんなことを思っていたら……。今までに感じたことがないくらいの巨大な気配の接近を私は感じ取ったのだった――。

 

 




ということで、ナミも一緒にクリーク戦を見守ることとなりました。その前にミホーク戦がありますが……。


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鷹の目のミホーク

いつも、誤字報告や感想をありがとうございます!
そして、アンケートにお答え頂いてありがとうございます!
1日で思った以上の量の回答が得られましたので、ここで締めさせて頂きます。
結果は以下の通りになりました。

(492) いる
(1247) いらない

よって、タグはいらないという回答がかなりの割合でしたので、付けないでおくことにします。
しかし、その代わりのタグとして、感想に書いていただいた《天然女たらし》や《ヒロインはカヤ》に加えて《イケメン女主人公》を付けさせてもらうことにしました。
それでは、よろしくお願いします!


「――こっこんなにも、強いっていうのか……」

 

 私は迫りくる気配を感じて膝から崩れ落ちそうになった。

 なんだ、この力……? ルフィたちや、クリークとは比較にならないほどの凄まじい力を感じる……。

 

 この力の正体は《鷹の目のミホーク》のモノに違いない。

 今日、彼が来るのは知っていたけど、ここまで規格外の大きさの力だったとは――。

 まだ、かなり距離があるのに、心臓が握り潰されそうだ。

 

「ナミ! 船をあのガレオン船から離すぞ! ジョニー、ヨサク、船を動かすのを手伝ってくれ!」

 

「船を動かすって、どうしてよ?」

 

「理由はすぐにわかる! とにかく早くするんだ!」

 

 クエスチョンマークを浮かべるナミを急かして、ゴーイングメリー号をバラティエの前に動かして避難させる。

 

 こうしてる間にもミホークの気配はドンドン近づいてくる。おそらく、あと10分以内に到着する。

 私は初めてグランドラインの大物のレベルを感じていて、このレベルが集まる頂上戦争を想像していた。

 ああ、私は普通に世界一派手な自殺の方法を実践しようとしているんじゃあないだろうか……。

 

 そんなことを考えてる間に、バラティエから食料を持ったクリークが自分の船に戻ったりしていた。

 この間にナミと一緒にバラティエの中に行くか……。

 

「うん、この場所なら安全だ。よし、ルフィたちのところに行くぞ」

 

「これからあいつら、クリーク一味と戦うんでしょう? 近づくの怖いんだけど」

 

 私は間近でルフィたちの戦いを見ようと、ナミを誘った。しかし、彼女はあまり乗り気ではないみたいだ。

 

「大丈夫、怖くないよ。私が君を守るから……、どんなことがあってもね」

 

「ライア、あなた……」

 

 私がそう言うと、ナミの肘鉄が私の胸に突き刺さる。

 

「だからそれを止めろって言ってんのよ!」

 

「――痛いじゃないか」

 

 目を閉じて、真っ赤な顔をして彼女は苦言を呈する。

 そんな、思ったことを素直に言っただけなのに……。

 

「それにしても……、あなたホントに女の子なのね……」

 

「肘で胸をグリグリしながら、しみじみ言うのやめてくれるかな? 誰もが君みたいな素敵な体形に成長するわけじゃないんだよ」

 

 ナミの今さらな一言に私は苦笑いして答えた。

 何それ、嫌味なの? 別に悔しくないんだからね。

 

 そんな会話をしながら私とナミはバラティエへと入って行った。

 

 

 

 中へ入るとサンジから熱烈な歓迎を受けたり、ゾロやルフィからは遅いと怒られたりしたが、戦慄したムードは消えなかった。

 サンジはナミが入ってきた瞬間、天使が戦場に舞い降りたとか言ったのには笑っちゃったな。

 

 そして、クリーク一味のギンはグランドラインのトラウマについて口にしていた……。

 

「そりゃあ……、鷹の目の男に違いねェな……。お前がその男の目を鷹のように感じたかはどうかは確かに証拠にならねェが、そんな事をしでかす事そのものが奴である充分な証拠だ……!」

 

 料理長であり、元海賊で《赫足》と呼ばれていた男、ゼフがギンの話を聞いて推測を話した。

 

「鷹の目……、恐らくジュラキュール・ミホークだね。そりゃ、クリークは運がなかった」

 

「ライアー、知ってんのかァ? どんなやつなんだァ?」

 

 私は彼の言葉を聞いて、名前を口にするとルフィは興味がありそうにこちらを見ていた。

 

「おれの探してる男さ……」

 

 そんなルフィにゾロはミホークを探してる男だと宣言する。そう、このミホークは世界一の大剣豪。

 要するにゾロが目標にしてる男なのだ。

 

 

「――艦隊を相手にしようってくらいだ。その男、お前らに深い恨みでもあったんじゃ?」

 

 サンジはギンに恨まれるようなことをしたのではないかと質問する。

 

「そんな憶えはねェ! 突然だったんだ」

 

「昼寝の邪魔でもしたとかな……」

 

「ふざけるな! そんな理由でおれ達の艦隊が潰されてたまるか!」

 

 ギンは突然やられたという物言いに、ゼフが一言かけると、彼は激昂した。

 

「そうムキになるな。もののたとえだ。偉大なる航路(グランドライン)って場所はそういう所だって言ってるんだ」

 

 ゼフはグランドラインの理不尽さを語ってるだけだと言った。実際、そのとおりなんだろう。

 ミホークはマジで暇つぶしだったみたいだし。

 

「何が起きてもおかしくねェってことだろ」

 

 ゾロがゼフのセリフの真意を捉える。

 

「くーっ! ぞくぞくするなーっ! やっぱそうでなくっちゃなーっ!」

 

「あなたはもっと危機感を覚えなさい!」

 

「怒ってるナミさんも素敵だァ!」

 

 喜ぶルフィに危機感の無さを注意するナミ。サンジは平常運転みたいだ。

 

「でもこれでおれの目的は完全に偉大なる航路(グランドライン)にしぼられた。あの男はそこにいるんだ!」

 

「ばかじゃねェのか。お前ら真っ先に死ぬタイプだな」

 

 ゾロが嬉しそうにグランドラインを目指すと言うと、サンジはそんなゾロをバカ扱いする。

 

「当たってるけどな……、バカは余計だ……。剣士として最強を目指すと決めた時から命なんてとうに捨ててる。このおれをバカと呼んでいいのはそれを決めたおれだけだ」

 

 しかし、ゾロは野望のためなら命は惜しくないと語る。そう、この人は本当に口だけじゃないから恐ろしい。

 

「あっ! おれもおれも」

 

「こういう人たちだからさ、なんかほっとけないんだよ。だから、私も共に旅をしてる」

 

 そして、もちろんルフィだって、まっすぐに死を受け入れるくらいの覚悟は持っている。だから私は彼らの助けがしたいのだ。

 

「ライアちゃん……。いや、おれにはわかんねェよ」

 

 サンジは私の顔を見て、そして彼らが理解できないと言った。やはり、実際の彼らを見ないと何とも言えないかもしれない。

 

 

「おいおい! このノータリン共! 今のこの状況が理解できてンのか!? 今店の前に停まってんのはあの海賊艦隊提督首領(ドン)・クリークの巨大ガレオン船だぞ! この東の海で最悪の海賊団の船だ! わかってんのか!? 現実逃避はこの死を越えてからにしやがれ!」

 

 以前、空腹時のギンをボコボコにした、コック。名前はパティというらしいが、彼が話を現実に戻した。

 目の前にクリークの船があるから、至極まっとうな意見だよね。でも、そのガレオン船もそろそろ……。

 

 私の見込みどおり、ちょうどクリークの一味がこちらに向かってくる瞬間に轟音が鳴り響いた。

 

「――何、なにが起こったの? なんであの大きなガレオン船が真っ二つに……?」

 

 ナミは外で起きた異様な光景が信じられない様子だった。

 

「斬られたんだよ。ズバッとね……」

 

「斬られた? 何をバカなことを? そういえば、あの辺りってさっきまで私たちが居た……」

 

 巨大ガレオン船が斬られたというと、ナミは信じられないという表情とともに大事なことに気付いたみたいだ。

 

「うん、まさかここまでの事が起きるとは思わなかったけど。とんでもない力の持ち主が近づいてくるのが分かったから、船を遠ざけたんだ」

 

 私は船を移動させた理由を話した。

 

「ライア、ちょっといい?」

 

「へっ? ――痛いッ!」

 

 ナミが私の額にチョップする。結構強めに……。

 

「あんなことする奴が近づいてるなら、どうして逃げ出さなかったのよ! ここに居たら意味ないじゃないの!」

 

「あー、そういえば! 君は頭がいいんだね」

 

 確かにナミの言うとおりだ。私はミホークの目的を知ってるから呑気にしてたが、実際は即撤退が正しい判断だろう。

 漫画の知識にばかり頼っていると想定外の事態にやられる可能性もあるかもしれない。

 これは戒めなくては……。

 

「バカッ! このバカライア! 約束守りなさいよね!」

 

「約束?」

 

 ナミが怒りながら私に顔を近づけた。文字通り目と鼻の先くらいの近さまで。

 

「私を守るって約束よ」

 

「ああ、当たり前じゃないか。何があっても、君は守ってみせるよ。天に誓ってね」

 

 私はここまで付き合ってくれたナミを何としてでも守るつもりだ。私のエゴに付き合ってくれたんだから。

 

 

「――――はっ! そっ、そうよ。キチンとするのよ。約束なんだから」

 

 ナミはしばらくの間ボーッと私の目を眺めてたかと思うと、約束を守れと念を押した。

 そして、自分の顔を両手で2回くらい叩いて首を横に振っていた。

 やはり、クリークや鷹の目が怖いんだろうな……。

 

 

 そんなやり取りをして、私たちが外に出ると、既にゾロが鷹の目のミホークに喧嘩を売りつけているところだった。

 

「おれはお前に会うために海へでた!」

 

「――何を目指す」

 

「最強ッ!」

 

 ゾロはミホークと対峙して、目標を問われてそれに返事をする。黒いバンダナを頭にまいて……。

 

 おや、いつの間にかジョニーとヨサクもこっちに来ていたか。まぁ、あんな音がしたら無理はないな。

 

 クリークたちも三刀流から、ゾロの正体を察したようだ。

 

「ヒマなんだろ? 勝負しようぜ」

 

「哀れなり、弱きものよ……。いっぱしの剣士であれば剣を交えるまでもなくおれとおぬしの力の差を見抜けよう。このおれに刃をつき立てる勇気はおのれの心力か……、はたまた無知なるゆえか」

 

「おれの野望ゆえ――そして親友との約束の為だ」

 

 ゾロの凄まじい殺気をそよ風程度にしか感じてないような、ミホークの余裕そうな態度。

 やはり最強の剣士の風格はとんでもない。この距離ならさらに理解できる。ゾロとミホークの気が遠くなるほどの力の差が……。

 

 

 ゾロとミホークの戦いが始まった。彼は東の海の相手如きにはナイフだけで十分だと言い放ち、実際にそれだけでゾロをあしらっていた。

 

「嘘でしょ、あのゾロがまるで子供扱い……」

 

「いや、それ以上の差だよ。ナミ……。あのゾロの鬼斬り……、一度撃たれた私ならわかる。アレはナイフで止まるような技じゃない……」

 

 三本の刀とナイフのぶつかり合いから、伝わるのは絶望――。誰が見ても実力の差ははっきりしていた。

 

 

「何を背負う? 強さの果てに何を望む? 弱き者よ……」

 

「アニキが弱ェだと! このバッテン野郎ォ!」

「てめェ思い知らせてやる! その人は――」

 

「やめろ手ェ出すなヨサク! ジョニー! ちゃんとガマンしろ――!」

 

 ミホークに対して斬りかかろうとするジョニーたちをルフィは取り押さえる。自分も飛び出したいのを必死で堪えて……。

 

「ルフィ……、なんであそこまで……」

 

「汲んでいるのさ。私がクロと戦っているときもそうだった。彼はそういう男だ」

 

 そんな様子をハッとした表情で見ていたナミに私は彼の心情を語る。ルフィはあの時も力強く見守ってくれていた。

 

 

「虎――狩りッ!」

 

 ゾロの決死の必殺技も虚しく、彼の胸に深々とミホークのナイフが突き刺さった。

 

「このまま心臓を貫かれたいか、なぜ退かん?」

 

「さァね……、わからねェ……、ここを一歩でも退いちまったら何か大事な誓いとか約束とか……、いろんなモンがヘシ折れてもう二度とこの場所へ戻って来れねェような気がする……」

 

 ゾロがまったく引かないことに初めてミホークの表情が変わった。

 

「そう。それが敗北だ」

 

「へへっ……、じゃなおさら退けねェな」

 

「死んでもか……?」

 

「死んだ方がマシだ」

 

 ゾロは敗北よりも死を取ると断言した。まったく、この死にたがりが……。本気で言ってるから質が悪い……。

 

 

「小僧……、名乗ってみよ」

 

「ロロノア・ゾロ……」

 

「憶えておく。久しく見ぬ強き者よ。そして剣士たる礼儀をもって世界最強のこの黒刀で沈めてやる」

 

 ミホークはゾロを敵として認めて、ついに剣を抜いた。アレが……、ミホークの剣……最上大業物――《夜》か……。

 威圧感がさらに増したように感じる。

 

 ゾロは精神を集中しながら構えていた。

 

「散れ!」

  

 ミホークが間合いを詰めて剣を振り下ろす。

 

 ゾロはそれを大技をもってして受けようとしていた。

 

「――三刀流奥義! 三・千・世・界!」

 

 彼のこの技は私が今まで見た彼の剣技の中でもっとも力強く見えた。目を奪われるほどに美しい剣技だった。

 

 しかし、ゾロは斬られた上に、親友の形見の刀である《和道一文字》以外は粉々に砕かれてしまった。

 

 そして、彼は振り向いて正面からミホークを見据えた。

 

「何を……?」

 

「背中の傷は剣士の恥だ」

 

 彼はニヤリと笑ってそう言い放つ。最後までこの男は……。

 

「見事」

 

 ゾロはミホークに胸を斬られて、海へと沈んだ。

 私は気付いたら、ナミをサンジに任せて海へと飛び込んでいた……。

 ゾロ……、当然、無事だよな……?

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ゾロは何とか無事だった。そして、ルフィに向けて「もう二度と敗けない」と誓いを述べる。すると、ミホークは満足そうな顔をして去って行った。「この俺を超えてみよ」という言葉を残して……。

 

 私はジョニーとヨサクにゾロをメリー号へ運んで、応急処置をするように指示をして、バラティエの開かれた足場である《ヒレ》の上に舞い戻った。

 

 そして、遂にクリークたちとの戦闘が始まった! 

 

 ルフィはクリークに狙いを絞って戦いを挑んでるみたいだ。ナミとの賭けもあるからクリークは彼に任せよう。

 

 サバガシラ1号とかいうのが吹き飛ばされたのを皮切りに続々と海賊たちがこちらに攻め込んで来たのだ。

 

「さて、と。久しぶりに暴れさせてもらおう。ナミ、君は下がってな」

 

「言われなくても下がるわよ」

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を構えて、侵入して来ようとする海賊たちを次々と海に撃ち落とした。

 

「こういう勝負の場合、銃は有利だよね」

 

「ライアちゃん、やるな〜。惚れ直したっ! 素敵だっ!」

 

「やだ……、素敵だなんて……」

 

 海賊を撃ち落としていた私はサンジの一言に危うく撃ち落とされそうになる。

 

「あの銀髪と赤い銃……! まさか、あいつ《魔物狩り》!?」

 

「血も涙もない……、凶暴な賞金稼ぎがなんでここにっ!」

 

「《海賊狩り》の次は《魔物狩り》かよっ!」

 

 クリーク一味の一部は私に気がついたみたいだ。えっ? ホントに凶暴って噂になってるの?

 

「次はそこだっ!」

 

 そこはかとなくショックを受けながら、私はヒレに上がってくる気配を察知して銃弾を放つ。

 

 しかし、私の銃弾は見事に弾かれてしまった。

 

「ハァーッハッハッハハ! てっぺき! よって無敵!」

 

 体中が盾に覆われている伊達男、鉄壁のパールが私の前に立ち塞がってきた。

 うーん。ちょっと相性が悪いかもしれないなー。

 




ミホークとの戦闘は原作と同じなのでライアとナミの会話を多めにしました。
そして、ライアのバラティエ編の相手は鉄壁のパールです。
次回もよろしくお願いします!


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ライアVS鉄壁のパール

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回はライアとパールの戦いからスタートです!
それではよろしくお願いします!


「ハァーハッハッハ! 君の活躍もこれまでだ。おれの殺人パンチ、パールプレゼントを食らうがいいッ!」

 

 パールは手に付いた盾で殴りかかってきた。見た目によらず、結構スピード速いな……。

 

「――へぇ、面白い技だね……。当たると痛いんだろうな」

 

 私はバックステップでパールの一撃を躱して、銃弾を放った。

  

「――ッハ! 貧弱な攻撃だねぇ、どうも。首領(ドン)クリークのような武力ならともかく。そんなチンケな銃でおれを倒すなんざそりゃ無理だ」

 

 パールは自慢の盾で私の銃弾を防ぎつつ、パンチを繰り出し攻めてきた。

 やはり硬い。そして、攻撃力も高い。多分、一撃でも受けたら結構効いちゃう。

 

「チンケな銃とはずいぶんな言い様じゃないか。これでも、結構気に入ってるんだ。悪いが、君もこの銃で、仕留めさせてもらうよ」

 

 私は銃弾を繰り出しながらパールの言葉にそう返した。

 どうやって仕留めるとかは今から考えるけど……。

 

「仕留めるう? 君が、おれを!? 無理だねそりゃあ! おれは過去61回の死闘を全て無傷で勝ってきた鉄壁の男だ。おれは君の銃弾を防ぎ、全身を守りながら戦える。おれは戦闘において一滴の血も流したことがねぇ〜のよ。血の一滴たりともだ。無傷こそ強さの証! クリーク海賊団鉄壁の盾男パールさんとはおれのことよ。――おれはタテ男でダテ男だ。イブシ銀だろ」

 

 長々とした口上を述べたパール。61回の死闘を無傷で乗り越えて来たか……。そりゃ、自信満々になるよね。

 

「なるほど、その盾で全部守って来たということか……。わかった。じゃあ、その盾を壊そう。いろいろと考えたけど、それしか無さそうだ」

 

 私は次から次へと銃弾をパールに向かって放った。

 

「おれは軍艦の大砲でも正面から立ち向かうことができるんだ! そんな銃弾、何発受けようと効きはしない! ――パールプレゼント!」

 

 パールは自慢の右拳を振り下ろしてきた。

 

「待ってたよ。この瞬間を――。土色の弾丸(クエイクスマッシュ)ッ!」

 

 パールの振り下ろされた拳にカウンターの要領で銃口を密着させてから銃弾を発射させる。

 

 大きな破裂音と共に、私とパールは互いに吹き飛んだ。

 

「やっぱり、かなり痛いな。銃で受けたのに衝撃がもの凄い……」

 

 私は右手をさすりながらダメージを実感していた。

 

「――おっ、おれの盾が……。たかが銃撃で……」

 

 パールは弾け飛んだ右手の盾を見ながら愕然としていた。

 私は闇雲に銃弾を撃っていたわけじゃない。

 彼は盾に関しては無防備だったので、同じ箇所をことごとく狙って微細なヒビを入れておいたのだ。

 

 そして、最後の一撃は《土色の弾丸(クエイクスマッシュ)》を使った。

 これは銃を密着させたとき限定で効果がある銃弾(もはや銃撃の意味合いが無い)で、超振動と共に銃弾が破裂する効果がある。私の数少ない近距離用の技なのだ。

 

 私はようやくパールの鉄壁とやらを破った。右手がめっちゃ痛いけど……。

 

「あっ、パールさんの腕に盾の破片が刺さって血が……」

 

「バカっ! 余計なことをいうな!」

 

「血だっ! ヤベェエ!」

 

 あれ? 血が出ると何か起きるんだっけ? クリーク一味の慌てぶりを見て、私は大事なことを思い出した。

 そうだった、この人血を見ると……。

 

「気を静めて下さい! パールさん!」

 

「おれの鉄壁がくずされた! コイツら危険だぜ!」

 

 パールは右腕の血を見つめながら目を見開いてそう言った。

 

「よせパール! たかが血でうろたえんじゃねェ! ここはジャングルじゃねェんだぞ!」

 

 ルフィと戦ってるクリークまでもパールを止めようとする。まぁ、彼はこの船を乗っ取るつもりだからそう言うだろうな。

 

「身の危険! 身の危険! 身のキケェーン!」

 

 左手の盾をガシガシと胸の盾に叩きつけながらパールは泣きそうな顔をして身の危険をアピールして――全身から炎を吹き出した。

 

「やべェ! 出ちまった! ジャングル育ちの悪いクセ!」

 

「猛獣の住むジャングルで育ったパールさんは、身の危険を感じると! 火をたいちまうクセがあるんだっ!」

 

 クリーク一味たちもこれには参ってるようだ。自分らも巻き込まれるから……。

 

「おれに近づくんじゃねーっ! ファイヤーパァ〜ル! 大特典っ!」

 

 パールは全身から火の玉を放った。火の玉が無差別に飛んでいき辺りの人間を襲う。

 迷惑な奴だな。それなら――。

 

「燃えろォ! この炎と炎の盾でおれはそりゃあもう超鉄壁だ!」

 

「ならば消火しよう。蒼い弾丸(フリーザースマッシュ)ッ!」

 

 私はパールの盾を狙って、冷気の弾丸を撃ち出した。

 すると冷気と炎が互いに打ち消し合い、パールの体を纏う炎が消えてしまった。

 

「ハァァァァ!? どうやっておれは危険から身を守れば――」

 

「危険が嫌なら海に出るなよ。危険だからこそ楽しい――。ウチのクルーはそういう連中だぞ、ダテ男――」

 

 私は動揺するパールの懐に潜り込み、銃口を胸の盾に付けた小さなキズに密着させる。

 

土色の銃弾(クエイクスマッシュ)ッ!」

 

 引き金を引いたその瞬間――パールの一番大きな盾が弾け飛んだ。

 

「必殺ッ――鉛星ッッ!」

 

 さらに私はパールの両肩を銃弾で撃ち抜く。あのパンチを打てなくするために。

 これで私が有利になるはず――。

 

「ハァーッ、ハァーッ、血ッ、血がこんなにいっぱい! かっ……、かっ……」

 

 そんなことを思っていたら、パールは自分の血がたくさん流れていることにショックを起こして、そのまま気絶してしまった。

 

「ぱ、パールさんがヤラれちまった〜ッ!」

 

 ふぅ、何とか倒すことが出来たけど、やっぱり体力がないからクタクタ……。

 

 と、その時である……。私の頭に向かって何かが近づく気配を感じた。

 これは……、クリークの鉄球? 避けなきゃ……、あっ、足がもつれて……。

 油断したところへの不意討ちに動揺して、私は体を上手く動かせずにコケてしまう。これはやばいかも……。

 

 私は覚悟を決めた。が、しかし鉄球は飛んでこなかった。

 

 

「レディにンなもん飛ばしてんじゃねェ!」

 

 なぜなら、サンジが蹴り技で鉄球を弾き返して私を守ってくれたからだ。

 

「大丈夫かい、ライアちゃん。すまねェ、おれらの店の為に……。立てるかい?」

 

 優しくサンジは私に手を貸して立たせてくれる。

 

「あ、ありがと……」

 

「ライアちゃんは少し休んどいてくれ。後はおれが……」

 

 そうサンジが声をかけてくれて、私はその言葉に甘えたくなったが、しかし……。

 

「――そこっ! やらせないよ!」

 

 私は振り向きざまにゼフに向けて弾丸を放った。

 

「ライアちゃん、なんでジジイに……!? なっ! ギンッ! てめェ!」

 

「ちっ、なんて腕してやがる!」

 

 私は背後からゼフに向かって突きつけようとしたギンの銃を弾き飛ばした。

 

「せっかく、平和的に話をつけてやろうとしたんだがな。あんた、この場の全員の命を危険に晒したんだ」

 

 ギンはこちらに歩きながら、そんなことを言う。やはり、腕には自信があるようだ。

 

「そうか、それは悪いことをした。私はそれなりに教養を積んでいると思っていたが、人質を取ることが平和的なんて知らなかったよ。君は単純に臆病なだけさ。クリークにも逆らえなきゃ、恩人のサンジを手にかけることも出来ない。ただ怖いから、卑屈な手段しか取れないんだ」

 

 ギンはサンジに命を救われた恩義があるけど、クリークの言うことは絶対だと思っている。

 要するに今の彼は板挟みなのだ。

 

「――くっ、そうかもしれねェな。おれにはサンジさん! あんたを殺す勇気はねェ! 聞いてくれ! 今、全員が船を降りたら、首領(ドン)クリークはおれが説得する。あんたらの命だけは見逃してくれるようにな! 命が助かるんだったらいらねェだろ、船なんか!」

 

 ギンはサンジを説得しようと声をかけていた。

 

「船を降りろ? やなこった。おれを殺す? 舐めんじゃねェぞ、下っ端! おれには死んでもこの船を降りねェ理由があるんだ。何を言っても聞けねェよ!」

 

 タバコを吹かせながら、サンジはギンを正面から見据える。

 

 

「そうか……、あんたには傷つくことなくこの船を降りてほしかったんだが、そうもいかねェようだな」

 

「あぁ、いかねェな。降りるなんざあり得ねェ」

 

 サンジとギンがにらみ合い一触即発の空気が流れている。

 

「だったらせめておれの手であんたを殺すことが……、おれのケジメだ」

 

「――ハッ……、ありがとうよ。――クソくらえ」

 

 サンジは吸っていたタバコの吸い殻をポイッと投げながらそう言った。

 

 そして――。二人の戦いが始まった。

 

 ギンがサンジに向かっていく。かなりのスピードだ。

 そして鉄球が付いたトンファーでサンジを殴りつけようとした。

 

 しかし、サンジは宙に高く舞い上がり、得意の蹴り技を放つ。

 ギンとサンジは一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「なっ、なんなんだ。このコック! 鬼神と呼ばれたウチの総隊長と互角だなんて」

 

「総隊長がやられたら、残るは首領クリークのみ! やべェぞ!」

 

 クリーク一味はサンジの強さに驚愕していた。

 

「どうしたギンッ!てめぇ、相手に手心を加えてるんじゃねェだろうな!」

 

 クリークもサンジに押されてきたギンにシビレを切らせて怒鳴り込んだ。

 

「お前の相手はおれだろッ!」

 

 しかし、そんなクリークも、いつの間にか近くまで詰め寄られたルフィからの攻撃を受けそうになっている。

 

「くだらねェ!」

 

 クリークは体中から銃弾を乱射してルフィの接近を許さなかった。

 こっちはまだかかりそうだな……。

 

 

 サンジとギンか……。確か、ギンってサンジに勝った上で彼を殺せないって言ってきて、怒ったクリークが毒ガスを撒いたんだよなー。

 

 

 しかしこの戦い、どう見てもサンジが押している。これはどういうことだ?

 

 あっそうか。私がパールを倒しちゃったから、その分のダメージが今のサンジには無いんだ。

 

 だったら、この勝負は見えている……。

 

首肉(コリエ)! 肩肉(エポール)! 背肉(コートレット)! 鞍下肉(セル)! 胸肉(ポワトリーヌ)!」

 

 サンジの蹴り技のラッシュがギンに次々と突き刺さる。

 

 そして――。

 

羊肉(ムートン)ショットッ――!」

 

 彼の必殺の蹴り技を受けたギンは回転しながら吹っ飛んで、ヒレに体を叩きつけられた。

 

 これで、決まりかな? そう思っていると、ギンはよろよろと立ち上がった。

 

「――ってェ……。痛てェよ、サンジさん……。はぁ、はぁ……、結局、ボコボコに……、されて……、少しだけ……、ホッとしちまってる……、自分も居るんだ……。そっちの(あん)ちゃんの言うとおり……、おれには……、あんたを殺す覚悟が……なかった……」

 

 息を切らせながらフラフラのギンはサンジに向かってそう言った。

 というか、そっちの兄ちゃんって、私のこと? 

 

「サンジさんから蹴られて……、あんたがどれだけこの店を守りたいかが、わかったよ……、おれとは違う……、真剣な覚悟だ……。おれとあんたとはそれが決定的に違ってた……。――大事なんだな? この店が命よりも……」

 

 今にも倒れそうなギンは、確かめるようにサンジに質問を投げかけた。

 

「――ふぅー。ああ、この店はジジイの夢だ。てめェらなんざに死んでも渡さねェよ……。ギン、まだやるか?」

 

 サンジはタバコに火を付けて煙を吐き出し、ギンの質問にそう返した。

 

「……いや、この勝負は悔しいがおれの負けだ。おれは自分にこれからケジメをつける……、首領(ドン)クリークッ!」

 

 ギンは声を張ってクリークに向かって話しかける。

 

 ちょうど、ルフィはクリークの鉄球によってこちらに吹き飛ばされたところだった。

 

 

首領(ドン)クリーク、この船を……、見逃すわけにはいかねェだろうか!?」

 

 なんとギンはクリークにこの船を見逃せないかと言いだした。結局、この人の心はそっち側に傾いたんだな。

 

「艦隊一忠実なお前が戦闘に負けるだけに飽き足らず! このおれに意見するとはどういうイカれ様だ! ギンッ!」

 

 クリークは大きな盾をこちらに向けている。あれには、猛毒弾《M・H・5》が仕込まれている……。

 まったく、何でもありなところは海賊らしい海賊だ。

 

「しかし首領――!おれ達は全員この店に救われて……」

 

「もういいッ! ギン、これから猛毒弾《M・H・5》を放つ。ガスマスクを捨てろ、てめぇはもうおれの一味じゃねェよ……!」

 

 クリークは毒ガスを使うからと、ギンにガスマスクを捨てるよう促した。

 

「おい、ライア。あいつ、何を言ってるんだ?」

 

 ルフィは状況が読み込めず私に質問をする。

 

「ヤツは毒ガスを使うつもりなのさ。猛毒のね……。クリーク一味はガスマスクを持ってるんだろう。ギンにはそれを捨てさせようとしてるんだ。彼を確実に殺すために……」

 

「あいつ……、仲間を殺そうとしてんのかッ!」

 

 そのセリフを聞いたとき、ルフィから発せられる何かが背中に突き刺さりドキリとしてしまった。

 仲間を殺そうとするクリークの非情さが彼の逆鱗に触れたのかもしれない。

 

「おれは首領(ドン)の意向に……、背いた……。これは報いだ……」

 

「おいっ! お前、何やってる!」

 

 ギンは観念した表情でガスマスクを投げた――。

 

 そして、その瞬間にクリークは猛毒弾《M・H・5》を放った。

 

 この事態は――想定済みだッ!

 

「必殺ッ――煙星ッッ!」

 

 

 《M・H・5》に向けて放った銃弾は共に砕け散り……。二種類の煙が辺りを覆った。

 ルフィ以外のみんなは海の中に避難したみたいだな。上手くいくか自信がないから良かった。ルフィもガスマスクをつけてるみたいだし……。

 

 

 そして、煙が晴れた後にクリークは驚きの声を放った。

 

「どういうことだッ! なぜ、ギンもそこの銀髪も倒れてねェ! 毒ガスを食らったんだぞ!」

 

 そう、私もギンも無事だった。なぜなら……。先ほど放った、私の煙星は《M・H・5》の中和剤だからだ。

 これは、賞金稼ぎをしていたときに、武器商人が売っていたものを買い取り弾丸から撃ち出せるように改良したものだ。

 海に出る前に何年もあったんだ。私が何の準備もしてないはずがない。

 出来る準備は出来る限りしておいたのだ。

 

 さぁ、後は頼んだぞ! 船長(ルフィ)

 




ライアのクエイクスマッシュはインパクトダイヤルみたいなイメージです。もはや銃撃じゃないとか言わないで……。

次回はルフィとクリーク戦からスタートです!


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首領クリークを打ち破れ

いつも、誤字報告や感想をありがとうございます!
海上レストラン編のラストです。
それではよろしくお願いします!


「なんだ?何も起こってねェみてェだぞ。ライア、お前はマスクしなかったのか?」

 

 ルフィは私がマスクを付けてないことに違和感を覚えたらしい。

 

「ちょっと、手が痺れて上手く掴めなかったんだ。ゴメン、ルフィがせっかく投げてくれたのに……」

 

 これは本当だ。まさかルフィが私の分までマスクを手に入れて投げてくれると思わなかった。念の為に拾おうとしたが、手が痺れてて掴めなかった。

 その上、銃も落としてしまって、まったくもって冴えない感じになってしまった。

 

「しかし、クリークの毒ガスは不良品だったみたいだな。時々あるんだよ。毒の効果が無くなった不良品が武器商人の間で出回ることが……」

 

 不良品が出回ること自体は本当だ。毒ガスは生成過程で毒の効果が打ち消されることも少なくなく、粗悪品がよく流通している。

 中和剤の説明が面倒なのでクリークが粗悪な毒ガスを使ったことにしちゃおう。

 

「ルフィ、どうやら私はこの辺が限界みたいなんだ。頑張れと言われれば頑張るけど、あのクリークを倒すのに助けはいるかい?」

 

 私はルフィに援護射撃がいるかどうか質問した。

 

「いらねェよ! あいつはおれがブッ倒す!」

 

 そう言い放つとルフィはクリークの元へと再び駆け出して行った。

 

「バカが、まるで学習していねェようだ。知能はサル以下みてェだな! 海に落ちたらてめェは終わりだ! ここがてめェの墓場となる!」

 

 クリークは爆弾で海の水を隆起させて目くらましをして、その上で無数の槍を盾からルフィに向かって飛ばした。

 

 しかし、彼は止まらない。愚直に前進し続ける。槍が体に刺さろうとお構い無しでクリークに突っ込む。

 

「だからどうした! この剣山マントに手ェ出してみろ!? どうだ! 手も足も――」

「ゴムゴムの――銃弾(ブレット)!」

 

「――ッ!?」

 

 クリークは棘だらけの冗談みたいなマントで身を包んだが、ルフィは剣山ごと思い切り彼を殴りつけた。

 クリークは吹き飛び地面に倒れる。

 

「ここは、おれの墓場か、お前の墓場だろ!? こんな針マントや槍なんかで、おれの墓場って決めんじゃねェ!」

 

 おびただしい量の血を流しながら、ルフィはクリークにそう言い放った。

 

 

「あのバカ、なんてことするのよ。あんな戦い方じゃ死んじゃうじゃない……」

 

 ナミは口に手をあててルフィの戦い方に驚愕していた。

 

「そうだね。まるで無茶苦茶な戦い方だ。理屈とか計算とかそういうのをまるで考えてない。だからこそ、ルフィの拳は幾千の武器にも勝る」

 

 ルフィの愚直さは理解を超えてる。しかし、理解出来ないものにこそ、人は恐怖する。果たしてクリークの目にはルフィはどう映っているのか……。

 

「ライアちゃんは、いいのかい? あんな無鉄砲が船長で。ありゃ死にに行ってる。肉を切らせて骨を断つどころじゃないぞ」

 

 サンジもルフィの戦い方が異常に見えてるようで、私に気を使うようなことを言ってくれた。

 

「良いも悪いもないよ。あんなことが出来るからこそ、私は彼の後ろに立ちたいんだ。保身を考えずに走ることが出来るからこそ、彼は強い。もちろん、出来る限り死なないようにサポートしたいけどね」

 

 私はルフィという人間に惹かれている。目的の為に付いていくだけというドライな感情はいつの間にか霧散していた。

 

「サンジ、そっちの姉ちゃんの言うとおりだ。ああいうのが、時々いるんだよ。敵に回すとこの上なく厄介。まぁ、おれはああいう奴が好きだがね」

 

 ゼフはルフィがさらにもう一撃クリークに入れるのを見ながらサンジにそう声をかけていた。

 

 ここから戦いはクライマックスに向けてヒートアップする。

 

 クリークが持ち出したのは大戦槍(だいせんそう)――槍で突き刺すと爆発を起こす、彼の切り札みたいだ。

 

 これにどうやってルフィは立ち向かったのかと言うと……。

 

「えっ!? なんで自分から!?」

 

 そう、ルフィは自分から槍に突っ込んで爆発を浴びていたのだ。

 これって、本当によく生きていられるな。無茶なのはわかっていたけど、思った以上に大きな爆発を大戦槍が起こしていたので、それでも動けるルフィの体力に私は手が震えた。

 

「がっ――バカなッ! てめェ! 何しやがった!」

 

 爆発の煙が晴れて、クリークは驚いた顔をしていた。なぜなら、大戦槍の槍の部分が粉々に砕けてしまっていたからだ。

 

「五発パンチを入れてやった! これで、お前をぶっ飛ばせる!」

 

 高らかにそう宣言したルフィ。

 ここからは彼の独壇場だった。

 

 クリークに対してラッシュを仕掛けるように無数のパンチを彼に与える。

 それでは効果が薄いと悟った彼は――。

 

「ゴムゴムの――! バズーカ!」

 

 クリークの爆弾をものともせずに、彼はゴムの特性を十分に活かした両手での掌撃を繰り出す。

 

「効かねェな! 所詮これがてめェの限界だ! だが、この最強の鎧にヒビを入れたコトは褒めて――」

「ゴムゴムの――!」

 

 クリークがセリフを言い終わらないうちに、ルフィは第二撃目を放つ。

 

「――バズーカッ!」

 

 その掌撃はクリークの鎧を完全に破壊して、彼の腹に深々とダメージを与えた。

 

 だが、これで終わりではなかった。クリークは網を飛ばして、ルフィを捕獲し、海の中に引きずり込もうとする。

 クリークのこの手数の多さは感心するな……。

 

 ルフィはというと、それでも諦めない。手足を網から出したかと思うと、足を伸ばしてクリークを捉え、ぐるぐると捻りを作り――。

 

「ゴムゴムのォォォォッッッッ! 大槌ッッッッ!」

 

 クリークを思い切り頭からヒレに叩きつけて、彼の意識を断ち切った。

 ルフィは見事に首領(ドン)クリークを打ち倒したのだった。 

 

 

 さて、ルフィを海の中から助けないと――。って、あれ?

 

 私がそう思うよりも先にナミは走って海に飛び込んでいた。

 

「ナミさん、なんで慌てて海に?」

 

「悪魔の実の能力者は海に嫌われてカナヅチになるんだ。彼がクリークに苦戦した一番の理由はそれだよ」

 

 ナミの行動に疑問を持ったサンジに私が答える。

 

「どうだい? サンジ……、ウチの船長(キャプテン)は中々に見所があると思わないか?」

 

 とりあえず、サンジの感触を確かめてみる。彼がルフィから感じ取ったものはどんなことか……、それが気になった。

 

「ああ、すげェやつだと思ったよ。野望のために命を張ってさ」

 

「じゃあ……、サンジも……」

 

「ごめんな。ライアちゃんが誘ってくれんのは本当に嬉しい。女の子の誘いを断るなんざしたくねェんだけど……、この店だけは――」

 

 サンジはものすごく悲痛な表情を浮かべて私の勧誘を断った。

 ゼフはそんな私たちを腕を組みながら見つめて、そして店へと戻って行った。

 

 その後、クリークは気を失いながら暴れだしたが、ギンが一撃を入れて再び気絶させ……、そして彼はクリーク一味を引き連れて小船に乗って帰って行った。

 

 ルフィはナミが助けて、重傷のゾロとともにメリー号で寝かしつけた。

 二人の応急処置は念入りに行ったので、とりあえずは大丈夫だろう。

 

 

 私は今日の戦いで使った銃のメンテナンスをしていた。うわぁ……、銃口の傷付き具合が半端ないな……。クエイクスマッシュは封印したほうが良いかもしれない。

 

「ライア、まだ休まないの?」

 

 同室で横になっているナミが私に話しかけてきた。

 

「ん? ああ、ごめんね。うるさかったかな?」

 

 私はナミの眠りの妨げになったと思い、片付けの準備をしようとした。

 

「ああ、いいのよ。気にしなくて……。あの、賭けのことなんだけどね。確かにルフィなら何とかしてもらえるかもって、思えたわ……」

 

 ナミは思い詰めた表情でそう言った。彼女にルフィのことがかなり伝わったらしい。

 

「でもね。それ以上に、ルフィが死ぬまで戦いを止めないんじゃないかって心配になった。私の為に命を懸けるなんて、そんなこと――」

 

「うん、君の言うとおりルフィはナミが困っているなら命を懸けると思うよ」

 

 ナミの言葉に被せるように私はそれを肯定した。

 

「だったら、私は――」

 

「賭けを反故にする。もちろん、私はそれを止めようがない。とりあえず私が出来ることは、ルフィより先に君のために命を懸けると約束することかな。一人で悩まなくても良いんだよ。仲間なんだ。命くらい張るさ」

 

 私はナミの震える手を掴んで、目をまっすぐ見ながら宣言した。

 

「――本当に私のために命を懸けてくれるの?」

 

 ナミは上目遣いで目を潤ませながら私を見つめた。 

 

「本当だよ。私の力は確かに微力だけど、本気でそう思ってる……」

 

 大きく頷いて私は答える。仲間というのはこういう関係だと私は思うから……。

 

 

「じゃあ……、キスして……」

 

「うん……、って、はぁぁぁ? 唐突に何を言ってるのかな?」

 

 急に意味がわからないセリフを言われて私の心臓は飛び出そうになった。どうしてそうなる?

 

「お願い、そうしてくれたら、勇気が出るかもしれないの……。大丈夫よ、キスくらい友達同士でもするもの」

 

「――えっ、そうかな? いやいや、しないって絶対に! そもそも、私にはカヤが居るって知ってるじゃないか」

 

 私の肩に手を回して顔を近づけてきながら、ナミはそんなことを言ってきたが、私には全く大丈夫な話じゃなかった。

 

「分かってるわ。だから、そんなに深い話じゃないのよ。少しだけ、慰めてくれれば良いの。仲間なんだから、それくらいは良いでしょ?」

 

「全然よくないよ……。――えっ、えっ、ほっ、本気なの?」

 

 ナミの唇が私の唇に向かってドンドン近づいてくる。

 

 そして――。

 

 

「――やーい、引っかかったわね」

 

「へっ?」

 

 彼女は私の鼻を人差し指で押して、悪戯っぽく笑っていた。

 

「あははっ、いつもドキッとさせられてるから、たまには仕返しをしてやろうと思ったのよ」

 

 ナミはヘラヘラと笑いながら種明かしをするようにそう言った。どうやら私は一本取られたらしい。

 

「まったく。悪い冗談はやめてくれ……」

 

 こっちは恥ずかしいやら、何やらで苦笑いするしかなかった。

 

「それにしても、あなたってそんなに抵抗しなかったわね。もしかしたら、そんなに嫌じゃなかった?」

 

 ニヤニヤした顔のナミを見ていると少しだけ悔しくなってきた。

 

「そうだね……、君の顔を見てると、そこまで嫌じゃなかったよ。ほらっ、目を瞑ってごらん、慰めてあげるよ」

 

「えっ? ちょっとライア……」

 

 私は今度はナミの口元に顔を近づける。ナミは目を本当に目を閉じた。だから――。

 

「んっ……、あっ……」

 

 

 

 

「あははっ、さっきの仕返しだ」

 

 私もナミがさっきしたように彼女の鼻を摘んでみせた。

 

「――ッ!? ライアのバカっ! もう、引き返せなくなったら責任取ってもらうからね!」

 

 同じことをやり返しただけなのに、ナミはかなり怒っていた。結局、彼女がどうするのか有耶無耶のまま私たちは眠りについた。

 

 

「こうやって、気兼ねなく話せるのも良いわね……」

 

 眠りにつく前にひと言、そう口に出した彼女の表情はとても穏やかだった。

 

 

 さて翌日になり、ルフィは驚異的な回復力でもうピンピンしていた。

 元気百倍って感じで大量の食事を口の中に掻っ込んでいる。

 

 しかし、順調なことばかりじゃない。私が変に漫画よりも出しゃばった弊害が起きていた。

 

 それは――。サンジが仲間になると言ってくれない……。

 

 ルフィはこの旅では海上レストランの雑用をやっていない。

 これは意外と大きな事みたいで、飽くまでも客と料理人の関係なので距離がそこまで詰められてなかったのだ。

 

 店を守ってくれた恩人ではあるが、そこまでであった。

 

 そして、もう一つは私がパールを倒してしまったことと、ゼフが人質にされるのを阻止したこと……。

 

 この行為自体はサンジの怪我が少なくて一見良かったように思えるが、これはこれで、他のコックたちへの心象が全然違って事が終わってしまったのだ。

 

 なぜなら、ボコボコにされながらも、ゼフの為に手を出さずに耐えるという過程を見せつけることで、彼の同僚たちにサンジがゼフのことを想っているということが伝わったのである。

 

 それが丸々カットされれば、サンジはホントに料理長の座を狙って居座ってる人だと少なからず思われたままになる。

 つまり、彼の門出を促そうとする動きが起きないのだ。

 

 この齟齬を何とかするのには苦労した。

 何故、サンジがゼフの元を離れないのかを聞き出しつつ、これを他のコックたちに聞かせ、それが伝言ゲームのように全員に伝わらせるということを頑張って実行した。

 

 そして、その間にルフィとサンジが二人きりで話す時間を作ったり、ナミに頼んでサンジの勧誘を手伝って貰ったりした。

 

 サンジはずっとオールブルーを探したいと思っていたから、本音では海に出たいはず。

 それでも、ゼフへの想いが強く、それを実行出来ずにいたのだ。

 

 最終的に呆れた顔をしたゼフに……。

 

「お嬢ちゃんも、麦わらも、そんなにあのチビナスがいいのかい? だったら、頼む、一緒に連れて行ってやってくれねェか。あいつの夢の偉大なる航路(グランドライン)に……」

 

 とまで言われてしまった。ルフィはサンジの意思がなきゃ嫌だと言っていたが、そのサンジはゼフのこの言葉をバッチリ聞いていたのである。

 

「お前の船のコック。おれが引き受けてやる。付き合ってやろうじゃねェか。お互いに馬鹿げた夢をみるもの同士。おれにはおれの夢のためにだ。いいのか、悪ィのか?」

 

「いいさー! やったな! ライア! サンジが仲間になるってよ!」

 

 サンジのこの宣言でようやく彼が仲間になった。

 おそらく漫画よりも数時間は出発が遅れたと思う。

 

 

「オーナーゼフ! ――長い間! くそお世話になりました! この御恩は一生! 忘れません!」

 

 サンジがゼフに土下座して挨拶を済ませたところで我々は出航した。

 

 そして、重傷のゾロもようやく歩けるようになり、全員がデッキに集まった。

 サンジの挨拶もそこそこに、ナミが手を上げて話したいことがあると言い出した。

 

 ここから、私たちの次なる冒険が始まるが、私はこれから思い知ることになる。漫画の知識など当てにならないということを……。

 

 まさか、アーロンパークであんなことが起こるなんて――。

 




次回からはアーロンパーク編が始まります!
戦闘シーンが終わって、少しだけ百合シーンがかけてほっこりしました。


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進路をココヤシ村へ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回からアーロンパーク編がスタートです。
それではよろしくお願いします!


「ルフィ、みんな……、私は偉大なる航路(グランドライン)には行けない……。行けないの……」

 

 ナミはゆっくりと私たちに告げる。グランドラインに「行きたくない」、ではなく「行けない」と……。

 

「ナミさんっ! まさか、どこか体調でも悪いんですか! おいっ! ルフィ! 医者だっ! 医者のいるとこ連れてくぞ!」

 

 こんな感じのナミを見て、サンジは彼女が病気だと勘違いをしてしまった。

 

「お、おう! 医者だなっ! なぁ、ゾロ! 医者ってどっちに行けばあるんだァ?」

 

「おれが知るか! 医者にかかったことなんざ一度もねェ!」

 

「そっかー! おれもそうなんだよなァ! あっはっは」

 

 なんか会話がおかしな方向に行っちゃってる。医者にかかったことないって……、もはや、身体構造から差があるんだな。

 

「笑ってる場合かクソ野郎共! だが、おれも知らねェ。なぁ、ライアちゃんは知ってるかい?」

 

 サンジは頭を抱えながら、今度は私に聞いてきた。

 

「いや、医者なら町に行けば大抵一人は居るものだよ。でもね、多分ナミは病気じゃない。何か言いたいことがあるのさ」

 

 私は彼女が言いだしやすいよう話した。

 

「言いたいこと?おーい、ナミ!なんだ、言いたいことって?」

 

 ルフィはナミに向かってそう尋ねた。そういえば、ルフィって人の話を聞く事あんまりなかったような……。

 

「お金が必要なのよ。ルフィ……。私が自由になるためには1億ベリー必要なの……」

 

 ナミは問題となっているお金の話を始めた。確かにココヤシ村をその値段で買い取るってアーロンと約束してる。そういうやり方で彼女は縛られてるんだ。

 

「1億ベリー?ライア、それって多いのか?」

 

「多いのか少ないのか、それは人によるけどね。ナミの価値が1億ベリーなら、私は安すぎると思うな」

 

 ルフィの発言に対して私は思ったままを口にする。仲間としての価値を度外視しても1億は安い。なぜなら彼女の才能は唯一無二。アーロンがたかが1億で自由にさせるはずがないのだ。

 

「そのとおりだぜ、ライアちゃん! おれだったらナミさんに10億、いや100億……っ! だっ駄目だ! 眩しすぎて値段なんざつけられねェ!」

 

 サンジはオーバーなリアクションで一人盛り上がっていた。なんか、楽しそうだ……。

 

「話が進まねェから黙りやがれアホコック!」

 

「んだと、マリモ頭! 三枚に下ろすぞ!」

 

 そして、イラッとした口調で苦言を呈するゾロに喧嘩腰で言い返していた。

 

「まぁまぁ、二人とも。とりあえず、ナミには纏まった金額が必要なんだね。話し辛いこともあるかもしれないけど、出来る範囲でいいから、私たちに話してごらん」

 

 私は二人を諌めて、ナミには出来る限りで構わないと話を進めることを促した。

 

 

「わかった……。どこから話せばいいのか分からないけど――」

 

 こうしてナミは話し出す。ココヤシ村での幼い日の話から……。

 ルフィは最初から興味なさそうにして寝てしまったが……。

 

 彼女は元軍人のベルメールという養母によって姉のノジコと共に育てられた。

 貧しかったが、明るく楽しく生活していたのだそうだ。

 魚人海賊団が村にやって来るまでは――。

 

 船長のアーロンを中心として、またたく間に村を支配した彼らは村人たちに毎月の上納金を要求する。

 金額は大人10万ベリー。子供5万ベリー。払えない者は見せしめに殺すという無茶苦茶なことを言い出した。

 

 貧しかったベルメールの所持金は10万ベリーがやっとだったらしい。

 ナミとノジコは実の子供ではないから、そのことを誤魔化して、黙って自分の分だけ払えば命は助かった。

 

 しかし……。

 

「ベルメールさんは私たちを家族じゃないって嘘でも言えなかったの。だから、それは私とノジコの分だって言って――」

 

 ここまで話してナミは少しだけ沈黙した。

 

 ルフィは相変わらず寝てるし、ゾロも寝てしまった。半分寝るって……。

 

 そして、再び彼女は話を再開した。

 

 海図を書く才能があった彼女はアーロンに目をつけられる。

 そして、海図を書き続けることを条件にある程度の自由を約束してもらった。

 さらに1億ベリーで村を売り渡す約束も……。

 

 だから、彼女は憎い海賊から宝を盗み続けてお金を貯めた。もうすぐ1億貯まるから、自由になる。そう彼女は語ったのだ……。

 

「――って、ライア。あなたが話せって言ったのに、ルフィもゾロも寝てるじゃない」

 

 ナミはごもっともなツッコミを入れた。いやぁ、自由だね。二人とも……。

 

「ああ、何ということだろう。やはり君は囚われの麗しきお姫様だったのですね。今、駆けつけます! あなたの為に戦う愛の戦士が!」

 

 サンジはキチンと話を聞いてたよね? このリアクションは平常運転なんだよね?

 

「よし、ナミの話も終わったなっ!」

 

 寝ていたルフィがサンジの大声で目を覚ました。

 

「ルフィ、君は話を聞いてなかったろ?」

 

「うん。だって、ナミの過去とか全然興味ねェもん。で、おれは誰をぶっ飛ばせばいいんだ? 居るんだろ? ナミをこんな顔にさせた奴が!」

 

 ルフィは両拳をバチンと合わせてそんなことを言う。

 この男の恐ろしいところは過程をすっ飛ばして、核心にたどり着くところだ。

 

「そうだね。とりあえず、ノコギリのアーロンをぶっ飛ばしたら解決かな? このお話は……」

 

「あなたも何聞いてたのよっ!」

 

 私はナミから額にチョップを受ける。

 

「痛いじゃないか。聞いてたよ。1億ベリーだったね。アーロンがそんな口約束を正直に守るとは思えない。君が財産を隠してるなら、何か理由を付けて没収するだろう」

 

「それはないわ。あいつは約束を守る。今までだって一度も……。だから私はここまで――」

 

 ナミは私の言葉を即座に否定した。なるほど、アーロンは約束を守る主義だったか。

 

「彼は1億ベリーなんて要らないのさ。君さえいれば……。その金は盗品だろ? 約束を反故にしないつもりなら、手駒の海軍あたりに言えばすぐに回収に来るんじゃないかな? そしたら、君をまた縛れる。永遠に……」

 

「――そっ、そんな。そんなことされたら、私……」

 

 ナミの顔が青くなる。アーロンの悪辣なところは希望をチラつかせて人を動かすところだ。

 絶望的な状況で見える希望という光は実に魅力的で、人から冷静な判断力を奪い取る。

 

「試してみるかい? 君の貯めたお金に、私の持ってる現金を足せば1億近くにはなるはずだ。一度、それを持っていってアーロンのリアクションを見てみるといい」

 

 私は懐から現金の札束を取り出して、ナミに差し出した。ホントはローグタウン辺りで武器の改造道具とかを買いたかったけど、彼女の気持ちに踏ん切りをつけさせる方が大事だ。

 

「――ううん。ライア、このお金は必要ないわ。本当はずっと不安だったの。大きくなるにつれて、世間を知るようになってから。私は騙されて使われてるんじゃないのかって……」

 

 ナミはうつむきながらポツリポツリと声を出した。

 

「でも、信じたかった。大好きな村のみんなを守れる可能性を潰したくなかった……。アーロンの野望は世界中の海を支配すること。私の海図は全然足りてない……。きっと、あの男は私をまだ手放さない」

 

 そして、彼女は確信をもってその結論にたどり着く。元々賢い人だ。理詰めで話せば理解は出来ると思った。

 しかし、今までは意識的に考えないようにしていたのだ。自分の中の何かが壊れるかもしれないから……。

 

 

「どうしよう……。このままじゃ村が救えない……。私はこのまま飼い殺しにされて――」

 

 ハッとした表情のナミの瞳から一筋の涙が頬をつたって、零れ落ちた……。

 

「おっし! 野郎共! アーロンってやつの所に行くぞッ! ウチの航海士を泣かせたんだ。喧嘩を売りに行こう! ライア! 場所わかるか!」

 

 その瞬間にルフィは今までにないほどの大声を出す。精悍な顔立ちはすべてを包み込むような、そんな器の大きさを物語っているようだった。

 

「もちろん、わかるさ。私は野郎じゃないけどね」

 

「おっ! 戦闘か……!? なんだ、思ったより楽しそうな話だったんじゃねェか!」

 

「ナミさんを泣かせた魚野郎共! 一匹残らず刺し身にしてやらァ!」

 

 私たちは口々に声を出して進路をココヤシ村へと向ける。

 目的はただ一つ! 仲間を泣かせた大馬鹿者に喧嘩を売りに行くことだ。

 

「ライア、こうなることが分かってたの?」

 

「全部が全部わかってたわけじゃないよ。君が勇気を振り絞って話をしたことが伝わったんだ。みんなにね」

 

 実際、みんながどう動くなんてわからなかった。ルフィはきっと話を理解しようともしないと思っていたし……。

 

「ルフィもゾロも寝てたじゃない」

 

「それでも、伝わるんだよ。大事な仲間のために何をすれば良いのかぐらいは、ね。ほら、たくさん話して喉が乾いただろ? 飲み物を飲むといい」

 

 私はナミのツッコミにそう返した。

 

「飲み物って……、そうね。何か取ってくる」

 

「その必要はないよ。だってそろそろサンジが……」

 

 私にはサンジがこちらに向かってくる様子が手に取るようにわかっていた。

 

「ナミさーん! この暑い日に喉を潤す、スペシャルトロピカルドリンクをお持ちしましたァァァァ! ライアちゃんもどうだい?」

 

「くすっ……、ありがと。サンジくん!」

 

「ぬはっ! 天使だッ! ここに天使が居るッ! もったいないお言葉です! ナミさん!」

 

 ナミに微笑みかけられたサンジは心臓を押さえながら大袈裟な言葉を放ち、満足そうな笑顔を向けていた。

 彼の明るさも今のナミには必要だ。ありがとう、サンジ。

 うん、ドリンクは最高に美味しいよ。女性に生まれて良かったと思えるくらいにね。

 

 

 さて、話も纏まったところで、ここで計算外の出来事をおさらいしよう。

 まずは最初に、ジョニーとヨサクとお別れしたことだ。

 戦力的には大して影響はない。彼らには悪いけど……。

 

 しかし、問題はゾロの武器だ。確か六刀流のハチっていう魚人と戦うはずだったけど、その時、彼ら二人から刀を借りたんだったよなー。

 怪我さえしてなきゃ、刀一本でも勝てるんだろうけど、ミホークに大怪我を負わされている彼には厳しい戦いになるかもしれない。

 ていうか、普通は戦えない。

 

 この点は何とかフォローしなきゃな。

 

 あともう一つは出航がかなり遅れたこと。これはかなりまずい……。

 なぜなら、ココヤシ村ではナミの理解者である駐在のゲンゾウという男が武器の所有を理由に処刑されるかもしれないからだ。

 

 メリー号の快速とナミの航海術をもってすればジョニーやヨサクの船よりもかなり早く着くはずだが、ココヤシ村に着いた瞬間にアーロンと一戦交えることになる可能性はあるかもしれない……。

 

 実はこのとき私はかなり焦っており、大きく後悔していたのである。

 知っているということは残酷だ。何もしなければ好転するかもしれないとか、してしまった結果の責任がズドンとのしかかるのだから。

 

 私は自分の無能さを呪っていた……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 恐ろしいほどの幸運……。ルフィという男が天に愛されているからなのか、メリー号は追い風を目一杯受けて最速でココヤシ村までの最短距離を突き進んで行った。

 

 これなら、間に合うかもしれない。そんなことを思っていたら、早速船着き場付近で魚人に見つかってしまった。

 

 ナミの姿は確認されてないが、見慣れない海賊船を連中が放っておくはずがない。

 このまま、強引に上陸するか? 下手したらアーロンと鉢合わせする可能性もあるが……。

 

 何の準備もなくアーロンとやり合うのはさすがに危険すぎる……。私は頭をフル回転させて囮になることを選んだ。

 

「ルフィ! 私が彼らを引きつけて、村で騒ぎを起こす。そのスキにこっそりと上陸してくれ!」

 

 そう言いながら、私は船着き場に向かってジャンプして魚人たちに向かって発砲した。

 

「何者だっ……zzzz」

 

「きっ、貴様なにを……zzzz」

 

 二体の魚人はぐっすりと眠りに……。

 

「なんだ、今のは? ちょっと眠気がしたが……」

 

「わからん。お前! 何をした!」

 

 ――つかなかった。

  

 あれ? 睡眠薬の効きが悪いな……。魚人だからか? 理屈は分からないけど、実力行使しかないようだ。

 

 私は大きなゴーグルで顔を隠して、今度は鉛の弾丸で彼らの足を貫いた。

 

 そして、一目散に村の中央まで駆け出した。

 

「まだかなり時間があったか。村では騒ぎは起こってないみたいだ」

 

 建物の陰に身を隠した私は、アーロンが来るまで待っていた。今ごろルフィたちは無事に上陸しただろうか?

 

 そんなことを考えていたときである。大きな気配がこちらに近づいて来ているのを私は感知した。そして、その姿を私はすぐに目にすることが出来た。

 ノコギリサメの魚人――アーロンが仲間を引き連れてやってきたのだ……。

 

 頭に風車を付けた駐在であるゲンゾウに物申す為に……。

 

「武器の所持は立派な反乱だ。おれ達の支配圏の平和を乱す要因になる。以後てめェの様な反乱者を出さねェためにもここで殺して他の町村の人間どもにみせしめなきゃいけねェ!」

 

 アーロンはゲンゾウを見下ろしながら理不尽なことを言い放った。そして、彼の頭を掴む。

 

「そんな勝手な話があるか。アーロン! あたし達はこの8年間かかさずちゃんと奉貢を納めてきたんだよ! 今さら反乱の意思なんてあるわけないだろう? ゲンさんから手を離せ!」

 

 水色の髪に赤いカチューシャを付けた女がアーロンに反論していた。

 おそらく、彼女は先ほどナミが話していた、ナミの姉のノジコだろう。

 

「武器の所持が反乱の意思だとおれは言ってんだ。この男には支配圏の治安維持のため死んでもらう! それともなにか? 村ごと消えるか……」

 

 アーロンは独自の理論で反乱分子を潰すと宣言した。逆らうなら村ごと運命を共にさせるとも。

 やはり、この男は……、どこまでも人間を下に見ている。

 

「みんな家へ入れ……! ここで暴れては私達の8年の戦いが無駄になる! 戦って死ぬことで支配を拒むつもりならあの時すでにそうしていた! だがみんなで誓ったはずだ。私達は耐え忍ぶ戦いをしようと! 生きるために!」

 

 ゲンゾウはそれでも動じずに自分だけが犠牲になる道を選んだようだ。

 彼を亡くすわけにはいかない。それも、私のせいで……。これは私の自分勝手な償いだ。

 

「高説だな! いいことをいう。そう、生きることは大切なことだ。生きているから楽し――! ――ぐはっ! なんだっ! くそっ!」   

 

 アーロンのセリフが言い終わる前に私は彼に炎の弾丸を放った。

 彼はマトモにそれを食らったが、ゲンゾウを手放すだけで、さほどダメージを受けてなかった。

 

「――紅い弾丸(フレイムスマッシュ)を受けてもほとんどノーダメージか。さすがは2000万ベリーの賞金首……、ノコギリのアーロン!」

 

 私は魚人たちの前に立ちはだかり、彼らに向かって姿を晒した。

 

「そのゴーグルに銀髪、そして緋色の銃……、アーロンさん! あいつはおそらく“魔物狩りのアイラ”ですよっ!」

 

「賞金稼ぎかッ! アーロンさん! まっ、まずい!」

 

「下等な人間がッ! 魚人のおれに何をしたァァァァァ!」

 

 魚人たちは私の正体に気付くと同時に激怒したアーロンに焦り顔をしていた。

 

「さて、今日は挨拶代わりだ。君の首を私はいつでも狙っている。せいぜい恐怖するがいい」

 

 そう言いながら、私は煙玉を使い、煙幕で視界を封じて姿を隠した。

 

 魚人たちは私を探す者、アーロンを宥めながらアーロンパークに連れて帰ろうとする者に分かれていたが、結局どちらも、ココヤシ村からは去っていった。私が遠くへ逃げたと勘違いしたらしい。

 

 

「何だったんだ……。今のは……?」

 

「賞金稼ぎ……、とか言われていたわね……」

 

 ゲンゾウとノジコはあまりの展開にボーッとしてるみたいだった。

 

「うん、私は元賞金稼ぎなんだ。今はこの村の出身のナミって子の仲間で海賊をやってる」

 

 そんな二人の前に私は姿を見せる。ゴーグルを取り外して……。

 

「何っ! ナミの彼氏だとっ! 許せん!」

 

 ゲンゾウは何を思ったか、自分の家から銃を取り出して、私に向けてきた。

 えっと、ソレって鑑賞用じゃなかったの?

 

 私は早速窮地に立たされてしまっていた――。

 

 

 

 

 




ライアのイケメン力はゲンゾウにとっては驚異でしかないみたいです。
次回もよろしくお願いします!


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準備万端

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!すっごく元気になれます!
今回はノジコやゲンさんとの会話からスタートです。
よろしくお願いします!


「その顔でナミを誑かしおったのか!? 覚悟しろっ!」

 

 ゲンゾウは本気で私を狙って銃を構えている。いや、天に誓ってナミに手出しなんてしてないし……。

 彼女だってそんなことを疑われて不本意だと思う。

 

「ちょっと、待ちなよゲンさん。この人のおかげで助かったんだろ? それにこの人はナミの彼氏だなんて言ってないよ」

 

 ノジコがゲンゾウの肩を叩いて声をかけた。

 

「むぅっ! そっそうか……。それは失礼した。若いの……」

 

 ゲンゾウは銃を下ろして、頭を下げた。

 

「いや、私こそ急に悪かったね。ナイーブになっているときに不躾だったと思うよ」

 

 私はようやく普通に会話が出来ると思い、ホッとしていた。

 しかし、ナミのためにここまでするとは彼女も溺愛されているな。村の人から嫌われてると思い込んでるみたいだけど。

 

「だけどさ、あんた何考えてるんだい? アーロンに手を出すなんて、バカとしか思えないよ」

 

 ノジコは私に近づいてきてアーロンを挑発したことに関して言及してきた。

 

「ああ、文字通りアーロンに喧嘩を売ろうと考えてるんだ。私は海賊でね。仲間たちとここに来て、彼から力づくで奪い取ろうと思ってるんだよ」   

 

 彼女の質問に私は答える。

 

「奪い取るって、何を?」

 

「ナミを貰ってくつもりだ」

 

 そう、アーロンからナミを奪い取ることが海賊としての私たちの目的だ。他に何の目的もない。

 

「はぁ? あんた、正気なの?」

 

「生憎、まともになろうってあまり思ったことないからさ。正気じゃあないのかもしれないね」

 

 ノジコが呆れたような表情を見せると、私は自分の心情を吐露した。

 

「でもね、ナミは苦しんでる。それを黙って見ているのが正気っていうんだったら、私は迷わず狂気に身を委ねるよ。それが仲間だ」

 

 こんな状況に置かれてる仲間を放っておける方が私にとってはそれこそ、どうかしている。

 何とかしようとしない、なんて選択肢はない。

 

「こりゃ本気みたいだねぇ。ナミも変なのに目を付けられたもんだ。仲間か……、あの子にそんなこといって、ここまでくるバカがいるなんて……」

 

「若者よ、帰りなさい。気持ちは嬉しいが、アーロンの支配に耐え忍ぶ戦いを私たちは選んだんだ。命を粗末にするな」

 

 ノジコの言葉に続いて、ゲンゾウは私に帰れと言う。自分たちはアーロンの支配から耐えて生き残ることを選んだから、と。 

 

「そうもいかないんだ。仲間たちがもうこの村に入ってる。ちょうど、この道をずっと奥に行ったところかな? ナミも一緒だ。船長(キャプテン)は私以上に頑固な人だからね。止めても無駄だよ」

 

 私はルフィたちの気配を察知して指をさした。

 

「あっちは、ノジコ、お前の家の方向……。では、本当にナミが……」

 

「帰って来てるみたいだね。あんた、超能力みたいな力があるのかい?」

 

 私の言葉を聞くと、二人は顔を見合わせて頷きあっていた。

 

「ナミはあたしの妹でね。あっちに居るんだったら、多分、あたしの家に居るんだろう。付いて来な。案内してやるよ」

 

 ノジコは私を家まで案内してくれると言ってくれた。ナミと彼女は血が繋がっていないと聞いたけど……、関係ないな。

 二人とも優しくて強い人だ……。

 

「ありがとう。ナミは幸せ者だね。君みたいな妹想いの強い人がお姉さんなんだから」

 

 ノジコの目を見て、私はお礼を言った。

 

「――ふぅ……。あの子大丈夫なの? あんたと一緒だと色々とやられてそうだけど……」

 

「やはり、貴様! ナミに! ナニをした!」

 

 ノジコがため息をついてナミの身を心配するような事を言い出したものだから、ゲンゾウが再び銃を私に向けてきた。

 

 いやだから、それって武器コレクションで鑑賞用じゃ……。待てよ、武器コレクション?

 

「ちょっと待って。そんなことより頼みがあるんだけど――」

 

 私はノジコと家に行く前にゲンゾウに頼みごとをした。それは――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「本当に帰ってたんだね。ナミ……」

 

 ノジコに彼女の家まで案内された私はルフィたちを見つけた。

 やはり、ナミは姉である彼女の家に彼らを連れてきていたらしい。

 

「すぐに出るわ。ちょっと休ませてもらってるだけ。って、ライアも居るの!?」

 

 ナミはノジコの後ろに私が立っていたので驚いたみたいだ。

 

「おう! 待ちくたびれたぞ、ライア!」

 

「――ったく。急に飛び出しやがって。待たされる身になってみろッ!」  

 

「ああん! レディがいくら遅れても待つのが漢だろうが! ライアちゃんお帰り〜」

 

 ルフィたちも私に気付いて声をかけてくれた。というか、強引に飛び出したのに、当然のように待っててくれたんだ。

 合流出来ると信じて……。

 

「うん、ちょっとしたゴタゴタがあってね。偶然、君のお姉さんと知り合ったんだ。ラッキーだったよ」

 

 私はノジコとここに来たいきさつを話した。

 

「ン……、ナッ……、ナミさんのお姉さま! さすがにお綺麗だぁぁぁぁ!」

 

「うるせェ。はしゃぐな。みっともねェ」

 

「ンだと! このッ!」

 

 サンジが盛り上がってる所にゾロが水を差して、また二人はケンカを始めようとする。

 二人とも沸点が低いというか、なんというか……。

 

「アーロンを撃ったくせに、それをちょっとしたゴタゴタで済ますって、ナミ、あんたってこういう男が好きだったの?」

 

「はぁ? ちょっと、何を勝手なこと言ってるの!? ライアは女の子よ……、ギリギリ……」

 

 ノジコの言葉にナミが反応する。えっと、私ってギリギリだったの?

 

「うっそ、信じられない……。へぇ、悪かったわね。ずっとキザな男がナミを陥落させるために頑張ってると思ってたわ」

 

 上から下までジッと私を観察しながらシミジミ彼女はそんなことを言ってきた。

 途中から、そんな気はしてたけど、言うタイミングがなかった。

 ていうか、自分は女ですって上手く言えるタイミングがあるなら教えてほしい。

 

「慣れてるから気にしないで。言わなかった私も悪いんだ。それに、ここに連れてきてくれたんだから、感謝してるよ君には――」

 

「――そっ、そう。それなら、良かった……。あっ、あたし、お茶でも入れようかな」

 

 私を観察してるノジコに顔を少しだけ近づけてお礼を言うと、彼女は何故か目を逸らせてそそくさとお茶を入れに行った。

 何か気にさわることでもしたのだろうか?

 

「人の姉を口説くな!」

 

「痛いじゃないか。私はお礼を言っただけだよ」 

 

 ナミに頭を叩かれて、身に覚えのないことを言われる。感謝の気持ちを伝えたかっただけなのに……。

 

 

「で、アーロンのヤツをぶっ飛ばすんだろ!? 今から行くか!?」

 

「うん。引き伸ばしても仕方ないから、連中のアジトに乗り込むのが一番早いかな」

 

 私はウズウズしてるルフィの言葉にそう返した。実際、海戦とかになると勝ち目がないし、村の中で戦うと色々と迷惑がかかりそうだから、アーロンパークで戦うのが最善だろう。

 

「おっし、ようやく暴れられるな。ストレス溜まってんだ。戦闘は大歓迎だぜ」

 

「あー、屈辱の敗戦の後だもんな。そりゃストレスも溜まるってか?」

 

「ああん!?斬るぞ!てめェ!」

 

 ゾロがサンジに向かって刀を抜こうとした。

 

「だから、その体力はとっときなよ。特にゾロ。君は重傷なんだからさ」

 

「別に……、これぐらいどうってことねェよ」

 

 ゾロはそう言うけど、普通は動けること自体が奇跡みたいな怪我をしている。それで、戦えるのだから彼は化物なんだ。

 

「まぁ、私が出来ることは武器を借りてくることぐらいだったよ」

 

 私はゾロに刀を二本手渡した。

 

「おっ、お前、これをどうしたんだ?」

 

「武器コレクターのゲンゾウさんって人から借りてきた。言っとくけど、借りただけだから、丁寧に扱うんだよ」

 

 そう、武器をコレクションするのが趣味なら刀くらい持ってそうだと尋ねてみれば、持っていたので、貸してもらえた。

 

「あなた、ゲンさんにも会ったの?」

 

「うん。君はとても彼からも大切に想われてるね」

 

「ゲンさんが私を……?」

 

 私が彼に対しての印象を語ると、彼女は意外そうな顔をしていた。

 

「知ってるってことさ。君が歯を食いしばってるのを、ね。聞こえたんだ。彼の心の想いが……」

 

 私はナミの肩を叩いた。

 

「あんたら、本気でアーロンのところに行くつもりなんだ。まったく、呆れたバカとしか言いようがないよ。殺される前に精々上手く逃げるんだね」

 

 ノジコは私たちの様子を見て、本気だということが伝わったらしい。

 

「ははっ、ありがとう、ノジコ。お茶、美味しかったよ。君の優しさが伝わるようでさ。また、飲ませてくれないかな? 私たちが勝った後で……」

 

「――ばっ、バッカじゃないの? こっ、こんなもんで良ければいつでも飲みに来な……。死んだら飲めないんだから、生きて……、帰って来るんだよ」

 

 私がノジコにお茶のお礼を言ったら、バカって言われてしまった。どんどん声が小さくなってるけど、体調が悪いのだろうか?

 

 

「もちろんさ。勝った報告を伝えたいからね。君に……」

 

「――う、うん。わかった……」

 

 彼女の言葉に返事をすると、彼女は俯いて静かにそう答えた。あれ? こういう人だったっけ?

 

「だから、それをやめろって言ってるでしょっ!」

 

 ナミは私をノジコから引き離そうと服を後ろから引っ張った。あっ、危ないじゃないか……。

 

「ライア、早く行くぞ! もう待てねェ!」

 

「ルフィ! やっぱり、アーロンに手を出すのは……」

 

 ルフィが私を急かすと、ナミは何を思ったか彼を止めようとした。

 

「うるせェ! 黙って待ってろ!」

 

 彼は麦わら帽子でナミの頭を押さえつけるようにして、それを制した。 

 それは、預けるってことかい? 君の帽子(たから)を……。

 

「行くぞ! 野郎ども!」

 

 ルフィを先頭に私たちはノジコの家を出てアーロンパークへ足を進めた。

 野郎じゃないって言うのは野暮なんだろうなー。

 

 

 そんなこんなで、私たちはアーロンパークを目指していた。

 

 私はここまで、一応は漫画の動きを出来るだけなぞろうとしていた。しかし、それは無駄なことであった。

 なぜなら、私という存在が漫画の中には無かったからだ。

 

 自分を鍛えるために過ごした“魔物狩りのアイラ”としての日々……。これが今になって波紋となり、この世界に小さな影響を与えていたのだ。

 

 

「その銀髪と緋色の銃……、お前……、“魔物狩りのアイラ”だな? お前をスカウトに来た。大人しく付いてきて貰おうか……。」

 

「ようやく見つけたわ……。痛い目に遭いたくなかったら、言うことを聞いたほうが身の為よ……」

 

 アーロンパークへの道中、オレンジ色の髪の王様の格好をしている男と水色のポニーテールの女に急に話しかけられた。

 

 えっと、確か彼らはMr.9とミス・ウェンズデー……。なんで、この人たちが東の海(イーストブルー)に居るの?

 




書く時間がなくて、短めの更新で申し訳ありません。
ノジコさんはナミ以上にガードが固そうなイメージです。百合をどうにかして挟みたかったので、ライアにはかなり攻めてもらいました。
そして、最後はまさかのあの二人が早めの登場。
次回もよろしくお願いします!


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勧誘と開戦

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!いろいろと参考にさせて頂いてますし、応援は素直に嬉しく思っております!
今回はバロックワークスに勧誘されたライアのシーンからです。
それでは、よろしくお願いします。


 

 まさにアーロンパークに向かう最中に突如として現れたバロックワークスのエージェント、Mr.9とミス・ウェンズデー……。

 

 私をスカウトに来たとか言ってるけど、どういうことだ?

 こんなの漫画にない展開だし。どうすれば……。 

 

「ライア、そいつら知り合いか?」

 

 ゾロがそんなことを言いながら、もう刀に手を置いている。えっ? 知り合いじゃなかったら、もう斬るの? 早すぎない?

 

「ええーっと、どうしたものだろうか? そうだね。少しだけ話してくるよ。そう、平和的に……。すまないが、待っててくれ」

 

 私はみんなにそう告げて、木陰に二人を連れて行った。

 

 

 

「ほう、仲間と離れて話をしようとはいい度胸――。って、いっ、いつの間にっ!」

 

 Mr.9が話しかけた瞬間に私は彼と肩を組み、喉元に銃を当てた。

 

「時間がないんだ。全部話してくれ。おっと、お嬢さんも妙なマネをすると、こいつが火を吹くことになるぞ」

 

 私はMr.9に銃を突きつけつつ、ミス・ウェンズデーを牽制した。

 

「ひっ、卑怯よ! まだ、何もしてないのに!」

 

 ミス・ウェンズデーは怒りながら私を卑怯者扱いをしてきた。確かにまだ何もされてないから、過剰反応かもしれないな。

 

「そうだね。マナー違反なのは、わかってる。でも、時間がないんだ。許してほしい。ダメかい?」

 

 私は精一杯の誠意を込めて、ミス・ウェンズデーの目をジッと見て謝罪をした。申し訳ないが、アーロンを何とかしなきゃならないときにこの人たちを構ってられない。

 でも、どうしよう。ミス・ウェンズデーに何かあったら今後が色々と詰むかも……。

 

「――はっ、はい。許します……。――じゃなかったわ! Mr.9を離しなさい!」

 

 ミス・ウェンズデーはボーッとした表情でコクンと頷いたかと思えば、頭をブンブン振ってMr.9を解放するように言ってきた。

 一人でボケてツッコミを入れるとは……。王女なんだよね? この人……。

 

「それは私の質問に答えてからだ。君たちは何者だ? 私に何の用事があってやって来た?」

 

 私は二人に改めて目的を問うた。

 

「私たちは秘密犯罪結社バロックワークスのエージェント。私がミス・ウェンズデー。彼は私のパートナーのMr.9よ」

 

 ミス・ウェンズデーが私に自分たちの紹介をした。

 

「おれたちはボスからの指令で世界中で犯罪活動をしている。さらに、ボスが力を入れているのは腕の立つ同志の勧誘だ。東の海(イーストブルー)で《海賊狩り》と肩を並べるほどの腕利きと噂の賞金稼ぎ、《魔物狩り》を組織に勧誘しろという指令が入ったのでな。こうして遥々偉大なる航路(グランドライン)からこっちにお前を探しに来てやったんだ」

 

 Mr.9は私のもとに来た目的を話した。

 なるほど、確かにゾロもバロックワークスからスカウトされたことがあるって言ってたもんなー。断ったら襲われて返り討ちにしたとか言ってたけど……。

 

「ところが、私たちがこの海に来てからというもの、まったくと言っていいほどあなたの消息が掴めなかったの。賞金首を捕まえたって話も全然聞かなくなった。私たちは焦ったわ。ボスの指令に応えることが出来なかったら、下手したら殺されるから……」

 

 あー、それは私がルフィを待つために活動を止めたからだね。

 というか、ルフィに会う前に勧誘されてたら非常に面倒だったな……。私は思わぬ罠が潜んでいたことを知って戦慄していた。

 

「たまたま、海上レストランに行って助かったぜ。そこのコックがよ、気のいい兄ちゃんで《魔物狩り》の戦いを見たって言うんだよ。んで、行き先を聞いたら船の進んで行った方向を教えてくれてな。そして、聞いていた特徴そっくりの船が止まっているのを見てこの島に乗り込んだっていうわけだ」

 

 Mr.9はここまで来た流れを話した。ホントに偶然じゃないか。

 ていうか、そんなヒントでよくここにたどり着けたな。

 

「わかった。でも、頑張ってくれたところ悪いんだけどね。私はもう賞金稼ぎをやめて、海賊になったんだ。せっかく来てくれたのに申し訳ない」

 

 私は彼らに現状を伝えて謝罪した。話を聞くとかなり苦労したみたいだったから可哀想とまで思っていた。

 

「ちょっと! 申し訳ない、じゃないの! それを聞いてハイそうですかって引き下がれないわよ! こっちだって命が懸かってるんだから!」

 

 ミス・ウェンズデーは武器である孔雀(クジャッキー)スラッシャーを私に向かって構えた。

 

「まぁ、待つんだ。平和的に話し合おう」

 

「人質をとって平和的になんて、言わないでちょうだい!」

 

「そっそうだ! おれたちは犯罪者だし、卑怯なこともするけどよォ! されるのはごめんだぜ!」

 

 犯罪組織を名乗ってるにしては、甘いところが目立つ二人が、私に対して抗議する。

 しかし、ミス・ウェンズデーをあまり刺激したくないな……。

 

「大人しくしてれば、何もしないって約束するよ……。暴れても仕方がないだろ?」

 

 私は出来るだけ笑顔を作って彼女を諌めた。

 

「――そっそれもそうね……。わかったわ……」

 

「おっおい! 何を言い包められているミス・ウェンズデー!」

 

 ミス・ウェンズデーが大人しく武器をしまい込むと、Mr.9が悲壮な顔でツッコミを入れた。

 

「まぁまぁ、君も落ち着いて。取り引きをしようじゃないか」

 

「落ち着けるわけねェだろっ! とっ、取り引きだとォ!?」

 

 Mr.9は私の取り引きという言葉に反応した。

 どう考えても、この二人を放置するのは怖すぎる。少なくともウィスキーピークまでは目の届くところに置いておかないと……。

 

「今から、私たちは2000万ベリーの賞金首を狙いに行くんだ。ノコギリのアーロンっていう大物をね……」

 

「にっ、2000万ベリー……。確かにこっちの海では破格の金額だな」

 

「賞金首は資金稼ぎとして私たちもよく狙ってるけど、2000万もあれば貢献度合いとしてはかなり大きい……」

 

 私の言葉に二人とも一定の興味を示してくれた。

 ここからが本題だ。

 

「私たちは海賊だから、賞金首を倒しても1ベリーの得にもならない。君たちがアーロン討伐に力を貸してくれるなら、彼の首をやってもいい。ほら、手土産としてはまぁまぁだろ?」

 

 私は二人をこっちに引きずり込むことにした。

 何かと理由をつけてともにグランドラインに向かわせようと思ったのだ。

 

「それとも、ここで任務失敗をしたということで帰るかい?」

 

 私はゆっくりと銃口を押し付ける力を強くしていった。

 

「――わっ、わかった! わかったから……、離してくれッ! その話に乗ってやろうじゃねェか! なァ? ミス・ウェンズデー」

 

「ええ、それしか選択肢はなさそうね。Mr.9」

 

 二人が観念した表情で私の条件を受けることにしたようだ。

 

「あっ、そうそう。一緒にいた彼ら三人だけど……、三人とも私なんかよりも強いから、変な気は起こさない方がいいよ」

 

 最後に私はそう言って、Mr.9を解放した。

 二人はそれを聞いてゴクリとツバを飲み込んで、素直に私と一緒にルフィたちが待ってるところに付いてきた。

 

 

「やぁ、すまないね。大事なところで足踏みさせてしまって」

 

「待ちくたびれたぞー!で、何なんだお前らは?」

 

 ルフィは退屈そうな顔をして、Mr.9とミス・ウェンズデーの顔をジロジロ見ていた。

 

「おっ、おれは謎の男、Mr.9!」

「オホホホホ、同じく謎の女、ミス・ウェンズデー!」

 

 ビシッと、腰に手を当てて自己紹介する二人。そんないい加減な自己紹介があるか……。

 

「そっかー! 謎かー! なんか、カッコいいなー!」

 

「ミス・ウェンズデーちゃん! ミステリアスで素敵だァ!」

 

 ルフィとサンジはこの無茶苦茶な自己紹介を受け入れていた。まぁ、このほうが都合がいいけど……。

 

 問題は……。

 

「Mr.9? ミス・ウェンズデー? どっかで聞いたことがあるような名前だな? お前らもしかして――」

 

 マジマジと顔を見て、凶悪な視線を送るゾロに二人の目は泳ぎ始めていた。

 

「ゾロ、ここは呑み込んでくれ。この二人は怪しいけど、偉大なる航路(グランドライン)から来てるみたいだから、色々と情報が聞けると思ったんだ。責任は私が取るから、さ。頼むよ」

 

 私は見兼ねて助け舟を出す。ゾロは以前勧誘されてるから遅かれ早かれ気付くはずだ。

 

「ふーん。お前が責任か……。まっ、それなら何も言わねェよ……」

 

「ありがとう。そうしてくれると、助かる」

 

 私はゾロにお礼を言った。彼がそう言ってくれて良かった。

 

「じゃあ、今度こそ行こうか。アーロンのところへ……」

 

 私たちはアーロンパークまで足を運んだ……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「うちの航海士を泣かすなよ!」

 

 ルフィはアーロンを見下ろしてとんでもない剣幕で彼にそう怒鳴る。

 

 いやはや、びっくりした。

 アーロンパークの門をぶん殴って壊したかと思えば、「アーロンはどいつだ」と叫び、彼が返事をすると、問答無用でラッシュを仕掛けて彼をぶっ飛ばしたのだ。

 ルフィはここまで漫画ほど怒ってないと思っていたけど、静かに怒りを溜めていたらしい。

 

 

「てめェ! アーロンさんに何を!」

 

「ぶっ殺す!」

 

 魚人たちがルフィ目掛けて攻撃を仕掛けていた。彼にはアーロンを倒すという仕事があるし、露払いは私たちの仕事だな。

 

 

「クソ雑魚は引っ込んでろッ!」

 

「悪いけど、退場してもらうよ!」

 

「「ぐああああッ!」」

 

 サンジの蹴りと私の銃弾で向かってきた魚人たちは戦闘不能になる。

 

「あっ、あいつらとんでもなく強いぞ。ミス・ウェンズデー」

 

「落ち着きなさい。私たちはあくまでも彼らが倒した首を持ち帰るだけ。慎重に動くわよ。Mr.9」

 

 二人は早くもルフィたちの力に驚いていた。喧嘩売らなくて良かったね……。

 

 

「おい、てめェ……、“魔物狩り”だろ? こいつは海賊って名乗ってたがどういうことだ? 何しに来やがった」

 

 意外にもアーロンは冷静さを保っていて、私の姿を確認するとそう声をかけてきた。

 

「ああ、ごめん。今は私は海賊なんだ。君たちから奪いに来たんだよ。ナミという女をね。彼女は私たちが連れて帰る」

 

「そうだ! ナミはおれの仲間だ!」

 

 私の言葉にルフィも同調して大声を出す。

 

「シャハハハハッ! こりゃ傑作だ。たった4人の弱小海賊団がうちの測量士を奪いに来ただって? おい! てめェらっ! 種族の差ってものを教えてやれっ!」

 

「「(ウオ)ォォォォォッ!」」

 

 アーロンは私たちを嘲り笑い、部下の魚人たちをけしかけてきた。

 

「ゴムゴムのォォォォォ! 銃乱打(ガトリング)ッ!」

 

「だから、てめェばかり獲物を独り占めするなって!」

 

「けっ、準備運動にもならねェ……!」

 

「くっ、おれたちも見物しに来たわけじゃねェ! 行くぞ、ミス・ウェンズデー! 熱血ナイン根性バットォォォォォッ!」

 

「ええ、Mr.9! 孔雀(クジャッキー)スラッシャー!」

 

 私たちは魚人海賊団の猛攻を跳ね除け、向かってきた魚人たちは次々と倒れて行った。

 動ける敵はもう少ないな……。

 

「あいつ悪魔の実の能力者だ……」

 

「関係ない。所詮は下等種族……、チュッ」

 

 魚人海賊団の幹部、クロオビとチュウはルフィの力を見て少しだけ表情を変えた。

 

「ニュー、こうなったら! 出て来い……、巨大なる戦闘員よ! 出て来いモーム!」

 

 そして、ハチはモームという巨大な海獣を呼び出して、こちらを攻撃に仕掛けさせた。

 

「モォォオオォォッッ!」

 

「ゴムゴムの(ピストル)ッ!」

 

羊肉(ムートン)ショット!」

 

 しかし、ルフィとサンジの同時攻撃によりモームは撃退する。

 よし、これで残るは幹部のみ。これなら――。

 

 そう思った刹那、チュウがミス・ウェンズデーを狙って水鉄砲を放った。

 いかん、これは直撃するとただじゃ済まない!

 

「危ないッ! がぁっ!」

 

 私は咄嗟に彼女を突き飛ばして、腹に一撃食らってしまう。

 水圧は思ったよりも凄まじく、脇腹を貫通してしまうほどだった。

 

「大丈夫かい?」

 

「えっ……、なんで私を……。――じゃなかった! 何を余計なことをやってる!」

 

 私が彼女の身を心配すると、彼女は目を逸らしながら悪態をついてきた。

 大丈夫そうなら、良かった。

 

「まだ生きていたか、運のいいやつだ、チュッ」

 

「生憎、私は律儀な性格でね……。一発食らったら、一発返さなきゃ、気が済まないんだよ」

 

 私はよろよろと起き上がり、チュウに銃口を向ける。いかん……、やっぱり耐久力だけはルフィたちと比べ物にならないくらい低いみたいだ。手に力が入らなくて、銃口がぶれて狙いが定まらない……。

 

「まったく、バカなやつ。でも、助けてもらった借りは返すわ」

 

「ミス・ウェンズデーの恩人とあっちゃ、おれも黙っちゃいねェ! 色男、おれも力を貸してやる!」

 

 ミス・ウェンズデーとMr.9が私の隣に立ち、チュウを見据えた。

 

「ありがたいけど、ひと言だけ言わせてくれ……。私は女だ……」

 

「「ええーっ!!!」」

 

 目と舌が飛び出して大袈裟な反応をする二人……。

 

 あんまりな二人の反応に、私は今日一番のダメージを受けた。“魔物狩りのアイラ”って女だってちゃんと伝わってないのか……。

 

 私たちと魚人海賊団の幹部であるチュウとの戦いが始まった。

 




最後の二人のリアクションはエネル顔をイメージしてください。
ということで、次回はチュウとの戦いからです。


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麦わらの一味VS魚人海賊団

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!毎日の執筆のモチベーションとなっており感謝しかありません!
今回でアーロンパーク編は終了です。
それではよろしくお願いします!


「おっ、女だったのか。てめェ……、マジかよ……」

 

「うっ、嘘よ……。だって、私は……。でも……、それでも……」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーはよほど衝撃的だったのか、まだ驚いた顔をしている。

 ミス・ウェンズデーにいたっては俯いて虚ろな目をして何やらブツブツ言っている。

 

 人の性別でそんなにショックを受けないでいただきたい。

 

「おい、あの魚人野郎の攻撃……、結構ヤバそうだな。どう戦うつもりだ? レディ・ライア」

 

「その、妙に女を強調したあだ名……。私に気を使ってるのか、それとも煽ってるのかどっちだい?」

 

 Mr.9に変なあだ名を付けられて私は思わず反応してしまう。

 

「すまねェ。こうでもしなきゃ忘れちまいそうでよォ……」

 

「泣いていいかい? まぁいいや。君の場合はあの水鉄砲を金属バットで受ければ何とか防げるんじゃないかな?」

 

 私はMr.9に戦い方のアドバイスをした。

 この人もミス・ウェンズデーも一応バロックワークスの中では一応コードネームが貰えるくらいの強さだ。

 ゾロやルフィにはまったく及ばないけど、それなりの実力はある。

 

「ほう、なるほど。じゃあ、ここはおれに任せな! 熱血ナイン根性バットッ!」

 

 無駄にアクロバティックな動きで翻弄しながら金属バットで殴りつけるというシンプルな技でチュウに向かっていく。

 

「水大砲ッ!」

 

 チュウはいつの間にか大量の水を体に蓄えており、巨大な水の砲弾を吐き出した。

 

 幸運なことにアクロバティックな動きで空中に高くジャンプしたMr.9はギリギリで水大砲を躱して着地。水大砲は壁に巨大な穴を空けた。

 そして、Mr.9は何を思ったか、チュウに攻撃をすることを忘れて私の方に駆け寄ってきた。

 

「バッキャロー! あんなもん、バットで受けられるわけねェだろうが! おれを殺す気かっ!」

 

 思いもよらないチュウの攻撃の威力に彼は苦情が言いたかったみたいだ。

 

「確かに安易なことを言ったのは悪かったよ。でも、もうちょっとくらい頑張ってもいいじゃないか」

 

 私は運良くチュウの攻撃を躱して、彼に肉薄した彼に対して苦言を呈した。

 

「雑魚共が! このまま蜂の巣にしてやるッ! 百発水鉄砲ッ!」

 

 チュウは私たちに向かってマシンガンのように水鉄砲を放ってきた。

 

「――うわっ! あいつ、見境なしだッ!」

 

 慌ててMr.9は柱の陰にダイブする。

 

「ボサッとするな! ほら、こっちに逃げてッ!」

 

「あっ……!」

 

 まだ、虚ろな目でブツブツ言ってるミス・ウェンズデーを抱きかかえて、建物の陰に避難させる。

 

「くらえっ!」

 

 私は立て続けに2発銃弾を放った。

 しかし、やはりいつものように手に力が入らず、僅かにブレてしまう。

 正確に当てるのはかなり近付かないと無理かもしれないな……。

 

「何とかヤツに接近しないと……」

 

 私がそう呟いたとき、腕の中にいたミス・ウェンズデーが小さく声を出した。

 

「わた、私がスキを作ってやるわ……。ライアさん……、じゃなかった、お前はその間にヤツに近付いて攻撃するのよ!」

 

 彼女は私に接近させる為のスキを作ってくれると言った。

 どんな手を使って? そんなことを思いつつも、彼女を信じるほかに手段はない。

 

「じゃあ、任せたよ。ミス・ウェンズデー!」

 

「ええ! 任せるといいわ!」

 

 チュウの攻撃が止んだ瞬間に彼女は飛び出して、彼の前に立った。

 

 そして――。

 

「魅惑のメマーイダンスッ!」

 

 ぐるぐるとした模様の服を着ているミス・ウェンズデーがくるくるとした踊りをチュウに見せる。

 あー、あったな。こんな技……。これって効くのかな?

 

「うっ――!」

 

 チュウは苦悶の表情を浮かべて顔を手で押さえて、膝をぐらつかせた。

 がっつり効いた。よしっ、このチャンスを逃してなるものか!

 

 私は腹の出血も忘れてチュウに向かって走り出した。

 

「鉛の弾丸だと外したときが痛い……、ならば、緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)いや、――必殺ッ! 火炎星ッッッ!」

 

 必殺の気迫で私はチュウに向かって弾丸を撃ち出す――。

 

 それは彼の左肩に当たって――彼の上半身を燃やした。

 

「――ヌワァァァァァァッ」

 

 彼はたまらず水の中に飛び込もうとする。

 

「おっと、逃さねェぞ! 魚野郎! よくもおれらを雑魚呼ばわりしてくれたな! カッ飛ばせ仕込みバットッ!」

 

 Mr.9はワイヤーが仕込まれたバットの先端を射出して、チュウの足に絡ませて転倒させ、彼の動きを止めた。

 

「悪いね。倒れた敵を撃つのは気が引けるんだけどさ……。生憎、今日の私にはそんな余裕はなくてね……。――必殺ッ! 鉛星ッッッ!」

 

 私は両手で銃を持って至近距離からチュウの腹を目掛けて弾丸を放つ。

 彼は炎熱と銃撃によるダメージに耐えられずに白目をむいてようやく意識を失った。

 

 あー、のっけから大ダメージを受けたときはどうなることかと思ったよ。

 やはり、この世界は耐久力が物を言う……。

 

 私は自分の不利をしみじみと実感した――。

 

「見たか! レディ・ライア! おれとミス・ウェンズデーのナイスアシスト!」 

 

 Mr.9は渾身のドヤ顔でサムズアップのポーズを決める。

 今回は彼らの助けがなかったら危なかったな……。というか、ミス・ウェンズデーはともかく、この人も憎めないキャラだよね……。

 

「ああ、ありがとう。助かったよ。Mr.9……、それにミス・ウェンズデーも、見事なダンスだった」

 

「えっ? そっそうね……。うん……」

 

 私がMr.9とミス・ウェンズデーにお礼を言う。

 ミス・ウェンズデーは何やら複雑そうな顔をして目を背けた。何か、あったのだろうか?

 

 

 こうして、私たちは魚人海賊団幹部のチュウを倒すことが出来た。

 

 同じ頃、仲間たちの決着もつこうとしていた……。

 

 

「龍――巻きッッッ!」

 

 ゾロは六刀流の使い手であるハチを撃破。私よりも重傷なのにこの強さ……、まったくもって理不尽である。

 

羊肉(ムートン)ショットッ!」

 

 サンジは魚人空手の使い手であるクロオビに連撃を加えて見事に勝利をおさめていた。

 サンジも強いなぁ。危なげなく勝ってる……。

 

 

 

 残すはルフィとアーロンの戦いとなった――。

 

 私が彼を見守ろうとしたとき……。この場所に三人の気配が近づいた。

 

 

「信じられない……、本当に魚人海賊団が……」

 

「ほとんど全滅してるねぇ。驚いたわ……」

 

「なっ、なんてことだ。これをさっきの奴らが起こしたとでも言うのか……。どうなってしまうんだ? これから……」

 

 ナミとノジコ……、そしてゲンゾウがアーロンパークに様子を見に来たようだ……。

 

「もうすぐ終わると思うよ……。ルフィが決めてくれるさ……」

 

 私はゲンゾウの疑問に答えるように声をかけた。

 

「ライアと言ったな。あの男がアーロンに勝つ。そう確信しているみたいだが、根拠はあるのかね?」

 

 ゲンゾウは私の言葉に対して質問した。

 

 彼がアーロンに勝つ根拠か……。そんなの決まっている。

 

「彼は海賊王になる男だから……。こんなところで立ち止まる道理がない……、と言ったところかな?」

 

 私は彼の質問にそう答えた。モンキー・D・ルフィという男の器はここで消えるほど小さくないんだ……。

 

 徐々にアーロンはルフィに追い詰められて、本気を出すどころかキレて我を忘れて彼を攻撃していった。

 ルフィは傷だらけになりながらも、ゴム人間の特性を活かした技を次々と繰り出して、ことごとくアーロンの上をいく。

 

 そして、激闘はついに終焉のときを迎えた――。

 

「ゴムゴムのォォォォォ――!! 戦斧(オノ)!! だァァァァァァァ!!」

 

 アーロンパークの最上階から天高く伸びたルフィの足がアーロンに対して振り落とされる。

 

「ああああああああッッ!」

 

 それはアーロンを踏み潰しながら、地面まで建物ごと落とされて――。

 

 ついには建物はガラガラと崩れ落ちていった。

 

 立っていたのは……勝者(ルフィ)だ――。

 

 

 彼はナミが見ていることを確認すると、大声で叫んだ。

 

「ナミ! お前はおれの仲間だ!!」

 

「うん!」

 

 ナミは涙を流してルフィの問いかけを肯定した。

 いや、これでめでたしめでたし……。と、思っていたんだけど……。

 

「おいっ! アーロンの首をホントに持って行って良いんだな!?」

 

「約束したんだからね! 守りなさいよ、絶対!」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーがアーロンの首についての確認をしに来た。

 

「ちょっと、ライア。誰よ、このいかにも怪しい二人組は……!」

 

 ナミは突然現れた珍妙な格好をした二人を見て訝しげな顔をした。

 

「ああ、この怪しい二人は一応アーロン一味を倒すのを手伝ってくれたんだ。一応ね……。で、海賊の私たちがアーロンを倒しても懸賞金は貰えないだろ? だから、それは好きにしたらいいって……」

 

 私は彼らのことを掻い摘んで紹介した。まぁ、アーロンの懸賞金に関しては問題なく――。

 

「ダメよ。バカねぇ、取り引きの仕方も知らないの? こっちの取り分もちゃあんと主張しなきゃ。――じゃあ、私たちの取り分が8で、あなたたちは2で!」

 

 ナミは頭の中でそろばんを弾いて、笑顔でそんなことを主張した。

 

「暴利だァァァァ! おい、聞いたか? ミス・ウェンズデー……。とんでもなく、がめつい女が居たもんだな」

 

「そっそうね。ライアさんとの関係はどうなのかしら……、じゃなかった! おっ横暴よ! せめて半分は寄越しなさい!」

 

 ナミと彼らはさっそく言い争いを始めた。

 

 おや? なんだ、この気配? ってあれは海軍じゃないか!?

 

 私が気配を感じてその方向を見るとアーロンパークに海軍の人たちが入ってきた。

 

 

「驚いたな。ゴザからの通報があって駆けつけてみれば……。噂のアーロンパークが落ちているではないか……。これはどういうことだ?」

 

 紫色の蟹みたいな髪型をしている、階級の高そうな男が驚いた表情をしていた。

 ええーっと、この人誰だっけ?

 

「ん? 三本の刀の男に、銀髪に緋色の銃を持った男……、じゃなかった女が居るな。“海賊狩り”と“魔物狩り”か……。君は確か“魔物狩り”のアイラだったな賞金稼ぎの……。私は海軍77支部の准将プリンプリンだ」

 

 プリンプリンと名乗る紫色の髪の男。はて、こんな人居たっけ? まぁいいか。彼らは私たちのことを賞金稼ぎだと思ってるみたいだし……。

 

「ライアは賞金稼ぎじゃない! 海賊だっ!」

 

 血まみれのルフィがプリンプリンの言葉に反論する。

 

「ん? 海賊? 君たち海賊なのかね?」

 

「ノコギリのアーロンを確保しました! 他の海賊たちも拘束します」

 

 そんな押し問答をしている内に、テキパキと海軍の人たちは倒れているアーロンパークの海賊たちを捕まえて船へと運んでいるみたいだ。

 

「海賊と聞いては私たちは正義に懸けて見過ごすことは出来ないのだが……」

 

「おれは海賊王になる男だっ!」

 

 プリンプリンの問いかけに対してルフィは高らかに海賊であると宣言をした。

 

「ふむ、では彼らも拘束しろ! 海賊は正義の名のもとに滅ぼすべきだ! 精鋭77支部の実力を見せてやれ!」

 

 海軍77支部の海兵たちが我々に戦闘を仕掛けてきた――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「まったく、バカ正直に海賊だって言うから、無駄なことをしてしまったじゃないか」

 

 私はルフィに苦言を呈した。

 

「まぁ、気にすんなよ。ライアー。おれたちは海賊なんだからさー。あっはっはっ」

 

 海軍77支部の皆さんにはちょっとだけ不幸な目にあってもらって、アーロンをお持ち帰りしてもらった。

 

 プリンプリンはルフィに殴られて、絶対に許さないから覚えてろとか言っていた。

 まぁ、アーロンの後処理やってくれそうだし、まともそうな人だし、この周辺の人にとっては良かったのかな。

 

 

 その後、青天の霹靂みたいにアーロンが居なくなった報せをゲンゾウから聞いた村の人たちから熱烈に歓迎されたり、ゾロがようやくちゃんとした医者から治療を受けられたり、ナミが肩の入れ墨のデザインを変えたりいろいろあった。

 

「おい! 貴様! 本当にナミに手を出しとらんのだろうな!」

 

 酒を飲んだゲンゾウから5回目のこの言いがかりである。

 

「あのね、ゲンゾウさん。何回も言いたくはないんだけど。私は女だから手の出しようがないんだけど」

 

 私は彼に対してそう反論した。

 

「むぅ、信じられん……」

 

 ゲンゾウはめちゃめちゃ私に疑いの視線を送っていた。

 

「あのさ、ノジコからも言ってくれないか? 私とナミは安全だって……」

 

 私はノジコの肩を抱いて彼女に耳打ちした。彼女なら彼から信頼されているし上手く言ってくれると思ったからだ。

 

「――あっ……。えっと、あたしが? いや、そのう……」  

 

 ノジコは顔を赤くしてどうも歯切れが悪い感じになっていた。

 

「きっ、貴様! ノジコにまで手を出しおったか! そこに直れ! あの剣士から先ほど返してもらったこの刀で叩き斬ってくれる!」

 

 血管が切れそうなくらいの剣幕で、ゲンゾウは本当に二本の刀の切っ先を私に向けた。

 

「ナミと海に出ることは断じて許さァァァァん!!」

 

 私は出航までゲンゾウから身を隠すこととなった。

 これって、私が悪いのかな?

 

 

 

 

 

「じゃあね! みんな! 行ってくる!」 

 

 そして翌朝、ナミはココヤシ村を出ていった。満面の笑みを村の人たちに向けて――。

 

 彼女の笑顔は今日の空のように晴れやかで美しかった――。それをそのまま伝えたら、彼女に頭を叩かれたけど……。

 

 

「どうした、故郷から離れてセンチメンタルなのか?どう思う?ミス・ウェンズデー」

 

「きっとそうよ。感動的な別れで私も貰い泣きしちゃったわ。Mr.9」

 

「そっ、そんなことないわよ。私はただ――」

 

 ナミはMr.9とミス・ウェンズデーに話しかけられて反論しようとしたが、ちょっと間を空けて首を傾げた。

 

「――って、どうしてこいつらが船に乗ってるのよ! ルフィ!」

 

 ナミはようやく彼らがこの船に当然のように乗っていることに気が付いてルフィに抗議した。

 

「船無くしちまったって言ってたから、面白ェ奴らだし乗せてやった! 王様だぞ! 王様!」

 

「聞いた私が悪かったわ……」

 

 シンプルな答えにナミは頭を抱えていた。

 

 彼らの乗ってた船は魚人に見つかっており、アーロンパーク近くに運ばれていた。

 そして、海軍が去り際に放った砲弾が不運にもその船に直撃してしまって沈んでしまったのだ。

 

 困った彼らは船長であるルフィに偉大なる航路(グランドライン)まで乗せてくれと懇願。彼はそれを快諾したという流れである。

 

 

「そんなことより、面白いものを見つけたよ。ルフィ、君はお尋ね者になったぞ」

 

 私は新聞の中に入っていた手配書をルフィに見せた。

 

 モンキー・D・ルフィ――懸賞金3000万ベリー。

 あれ? なんで、私の横顔まで見切れてるんだ?

 

 ゴーイングメリー号は偉大なる航路(グランドライン)に入るための下準備をするために、始まりの町(ローグタウン)を目指していた――。

 

 




アーロンパーク編が終わり、次からローグタウン編ですね。
ようやくグランドラインが見えてきました。
次回もよろしくお願いします!


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ローグタウンの武器屋

いつも誤字報告と感想をありがとうございます!
感想で、ライアのパーソナルな情報や武器の情報を詳しくほしいというご意見があったので書いたのですが、気付いたらその感想が消えてしまいました。
でも、せっかく書いたので載せておきます。

興味のない方は読まなくても全然問題ないので読み飛ばしてください。

ライア

所属:麦わらの一味狙撃手
年齢:17歳
誕生日:4月1日
身長:178cm
スリーサイズ:B76・W58・H80
星座:おひつじ座
血液型:S型
髪色:銀色
出身地:東の海 ゲッコー諸島 シロップ村
懸賞金:なし
好きな食べ物:大根おろし

使用武器は装飾銃――緋色の銃(フレアエンジェル)
単発式で弾丸を使い分けて戦う。
見た目は原作の1話で山賊やルウが持っていたような一般的な拳銃とさして変わらないが、緋色に塗装されていて、特殊な弾丸が撃ち出せるように改造されている。
ライアの銀髪と共にトレードマークになっている。

身長はゾロと同じくらいで、ルフィよりも高いです。その上、声も低く、スタイルもアレなので男に間違われるというわけです。

それでは、本編をよろしくお願いします!



「ローグタウン……、始まりと終わりの町か……。なかなか風情があるね」

  

 東の海(イーストブルー)では比較的に大きな町であるローグタウン。

 私たちはここで偉大なる航路(グランドライン)に入るための下準備をすることとなった。

 

 スモーカー大佐にだけは気をつけなきゃなぁ……。

 

「ここで、海賊王は死んだのか……。よっし、おれは死刑台を見てくる」

 

 ルフィは死刑台を見に行くと言って歩き出した。あそこは観光スポットだし、ルフィとしては絶対に見ておきたいに決まってるよなー。

 

「いい食材が手に入りそうだ。うーん、あと、いい女の気配……」

 

 サンジは食材の調達、そしてナンパかな? 食材は本当に大事。命に一番関わるから、サンジを仲間にできたことは本当に大きい。

 

「ふん! 田舎者はこれくらいの町ではしゃぐ。みっともないよなー? なぁ、ミス・ウェンズデー」

 

「ライアさん、どこに行く……? ――えっ? オホホッ! みっともないわねー! ねぇ、Mr.9!」

 

 この人たちは本来ここに居なかった人たちだ。正直言って、この二人が一番怖い。揉め事だけは起こさないでほしい。

 

「おい、ライア。ちょっと買いてェもんがあるんだが……」

 

「ああ、刀を買うんだね。いいよ、好きなのを買って。私が出そう」

 

 ゾロが買いたいものがあると言ってきたので、私は金を出すと言った。

 漫画通りなら貰えるはずだけど、もはやそんな保証はないから、もし貰えなくても出来るだけ良いものを買おうと思っている。

 

「いや、さすがに出してもらうっつーのは……」

 

「遠慮は要らないさ。君には350万ベリー分の借りがあるんだから」

 

 珍しく遠慮を口にするゾロに私はそう伝えて、私は彼の買い物に付き合うことにした。ついでに自分の武器も調達しておこう。

 

「Mr.9、ミス・ウェンズデー、君たちも一緒に来ないか?」

 

 私はバロックワークスの二人組を見張るために誘ってみた。

 

「おれたちは早く偉大なる航路(グランドライン)に戻りてェからここにいるんだ。馴れ合うつもりは――」

「はい、行きま……、――オホホホッ! そうよ! 別に馴れ合う気はないんだから!」

 

 彼らはやはり断った。うーん、やはりダメか……。

 

「なんか、一瞬だけ別人になってなかったか? ミス・ウェンズデー」

 

「きっ、気のせいじゃないかしら? Mr.9」

 

「じゃあ、あんたたちは私の荷物持ちね。言っとくけど、あんたたちを信じて船に残すなんてしないわよ!」

 

 漫才を繰り広げる二人はナミが見張ることとなり、私たちは自分たちの目的のために町の中へと入っていった。

 

 

 ゾロと武器屋を目指してしばらく歩いていると二人の大声が私たちの耳を刺激した。

 

「オウ! 今日はあの化け物と一緒じゃねェんだな!」

 

「ウチの頭はてめェらのせいで監獄の中だ! どーしてくれんノォォォォ!」

 

 二人の荒くれ者が黒髪の女に絡んでいる。あの女性は確か……。

 

「まだ、懲りないんでしたら、私がお相手しますけど……」

 

 黒髪の女は挑発するようなことを言う。

 

「おれたちの相手をするって?」

「してもらおうじゃねェノォォォォ!」

 

「「うぉぉぉぉぉっ!」」

 

 案の定、二人の男は彼女に襲いかかる。ゾロは刀を抜こうとしていた――。

 

 しかし――。

 

 二人の男は彼女によって斬り伏せられた。ああ、この女性は間違いなくスモーカー大佐の部下のたしぎ曹長だな。

 見事な剣技だ――。

 

「あっ……、とっ、とっ、と……。あれ?」

 

「大丈夫かい? 見事な剣技だったから、思わず見惚れちゃったよ」

 

 私は転けそうになった彼女の腕を掴んで抱き起こした。

 

「――っ!? あっ、すっ、すっ、すみません。あっ、あれ、めっメガネが……」

 

 彼女は恐縮するような態度と共に頭を思い切り下げると、足元にメガネが落ちてしまった。

 なんか、冴えない感じだな……。

 

「おい、落としたぞ?」

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

 ゾロはたしぎの落としたメガネを拾って渡した。

 

「――うぉっ!?」

 

 そして彼女の顔を見ると驚愕したような表情を見せた。

 確か彼の亡くなった幼馴染と彼女が瓜二つなんだっけ……? ゾロの和道一文字の元々の持ち主と……。

 

「歩けるかい? どこか捻ったりは?」

 

「ひゃいっ……! だっ、大丈夫です……。すっすみません。本当に……」

 

 たしぎは恥ずかしがっているのか、顔を真っ赤にして首を横に振った。

 

「怪我がないなら、良かった。気を付けるんだよ」

 

 私は彼女にそう声をかけて、ゾロと共に武器屋探しに戻った。

 

 

「びびった……! クソ……」

 

「どうしたんだい? ゾロ……、さっきの子は知り合いかい?」

 

 何も聞かないのは不自然と思ったので、私は動揺している彼に質問した。

 

「んなわけねェだろ。似てたんだよ、知ってる奴にな」

 

 ゾロはぶっきらぼうにそう答えた。うん、漫画で見たときは似てるどころじゃなくて同じだったし。彼も思った以上に驚いてたんだな……。

 

「ふーん。それは、初恋の人とか?」

 

 私はつい、思ったことをそのまま口に出してしまった。

 

「ぶった斬るぞ! てめェ!」

 

「冗談だよ、冗談。怖いなぁ……、君は。よし、お詫びに私の初恋の話をしてあげよう」

 

 本当に刀を抜いてきたので、私は両手を上げて笑って誤魔化そうとした。

 

「聞いてねェよ! バーカ!」

 

 彼は呆れた顔をして刀を鞘に戻した。

 いや、これは彼の傷を抉った私の失言だったな……。

 

 

 それから、適当にぶらついていると武器屋が見つかったので、私たちは入ることにした。

 

「刀が欲しいんだが……」

 

 ゾロは店内に入って開口一番にそう口に出した。

 

「はいはい、いらっしゃいませー。うちは老舗だからね。色々と取り揃えてるよー。好きなだけご覧になってくださいねー」

 

 ニコニコと店主が愛想笑いを浮かべながらゾロを接客しだした。

 

「おい、ライア。予算ってどれぐらいだ?」

 

「予算かい? とりあえず手元には100万ベリーあるよ。船の金庫には私の貯金もまだあるから、必要なら持ってこれるし……」

 

 私はゾロに札束を見せた。現金はそれなりに貯めて持ってきた。私の武器って金がかかるし……。

 

「はぁ? お前、そんなに金持ってんのか?」

 

「逆に私と同じく賞金稼ぎをしていた君が持ってないことが不思議だよ」

 

 ゾロのような名うての賞金稼ぎが文無しの方が私には信じられない。

 モーガンに捕まったときに財産没収でもされたのかな?

 

「とにかく、そんなに貰えるかよ。みっともねェ。店主、出来るだけ安物で間に合わせる。安い刀はどこだ?」

 

「はっ! 安物のナマクラでいいってか? そいつが金出すって言ってんのに遠慮すんなよ」

 

 安物という言葉に店主は顔を露骨に曇らせた。そりゃそうだ。100万ベリー出すという会話がまる聞こえだったんだから。

 

「こっちにもプライドがあんだよ。この際、刀の質には文句は付けねェ……」

 

「だったら、そこの……。――んっ!?」

 

 ゾロの言葉を聞き流していた店主は彼の持っている刀をガン見した。

 それはもう食い入るように見ていた。

 

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待て! おっ、おっ、お前さん! そのそのその刀を見してみな!」

 

「ああん? 何、動揺しまくってんだ?」

 

 ゾロはそう言いながら店主に言われるがままに自分の刀をみせた。

 

「おっおい! こっこの刀……、ボチボチの刀だ……。だから、提案がある。この刀をおれが50万ベリーで買い取ろう。そしたら、お前さんもまぁまぁの刀を三本揃えることが出来る。他人に金を出してもらわなくてもいいんだ。プライドも傷付かずに済むし、そっちの兄ちゃんも金を出さなくて済む」

 

 そして、ゾロの和道一文字を安値で買い叩こうと提案したのだった。

 

「いや、この刀は幾ら積まれてもだな……」

 

「よし、65万ベリー出そう! これでどう――」

 

 ゾロは当然、形見の刀を手放すつもりはない。そして、商談をしているつもりの店主に横槍が入る。

 

「あーっ! この刀は!」

 

「げっ!?」

 

 先程のたしぎがゾロの和道一文字に気付き大声を上げたのだ。店主は嫌そうな顔を見せる。

 

「これって和道一文字でしょう!? “大業物21工”の一本……、ほら、これを見てください売れば1000万ベリーは下らない逸品です!」

 

 たしぎは全部話してしまった。そう、ゾロの和道一文字は紛れもなく名刀。

 この先の激戦でも決して折れることなく付いてくる凄いモノなのだ。

 

「クソ女! 全部喋っちまって! ほら、“時雨”を取りに来たんだろ!? ひょろ剣士が立派な“業物”持ちやがって!」

 

「あっ、わっ、とっと……。あれ?」

 

 店主に刀を投げつけられて、また転びそうになったたしぎを私は再び抱き止める。

 

「また、危なかったね。剣士のお姉さん」

 

「――あっ、あなたはさっきの?」

 

 私が声をかけると彼女は私の顔に気が付いたみたいだ。

 

「まさか2回も転びそうなところを受け止めるとは思わなかったよ」

 

「ひゃい……、すすす、すみません……。ご迷惑かけてます……」

 

 私がそう言うと彼女はまた深々と頭を下げて謝罪してきた。この人、こんなに弱気な人だったっけ?

 

「いや、君に怪我が無かったんだから良かったよ。それだけでもこの偶然の出会いには価値があるんじゃないかな」

 

「――ッ!? 出会い……、ですか?」

 

 たしぎは人見知りなのか、それとも転けそうになって恥ずかしい気持ちが強いのか、耳まで赤くして私の言葉を復唱した。

 

「君は刀に詳しいみたいだし、彼を手伝ってあげてくれないか? 出来るだけ良い刀を安く手に入れたいみたいなんだ」

 

 とりあえず、漫画の流れにすることが良さそうなので、彼女にゾロの刀を選んでもらうことにした。

 

 彼女はゾロに色々と話しかけて“業物”三代鬼徹に目を付けた。

 そして、妖刀だと気が付いたゾロは店主が止めることも聞かずにこれを買うと言い出して、三代鬼徹を放り投げて、その落下地点に腕を出す。

 

 そして――。

 

「――もらってく」

 

 三代鬼徹はゾロの腕を避けて床に突き刺さった。

 私は驚愕した。何を隠そう、私の目にはゾロの腕を切断するように刀が落ちてきたように途中まで見えており、漫画を知っていても大事故を予感していたのだ。

 

 しかし、三代鬼徹はゾロの腕をぬるりと避けた。意志を持っているように――。

 それは、なんとも不思議な光景だった……。

 

 

 さらにこのゾロの異常な立ち振る舞いで店主の心が動かされたのか、“良業物”である雪走まで彼はゾロにプレゼントした。

 確かにあんなことをされたら、ただの剣士だと思う方がおかしい。

 

 かくして、ゾロの刀はやっぱり無料で手に入ったのだった。

 

 さて、私の買い物をしなくちゃな。とりあえず、弾丸とそれからバラしてパーツとして使うように銃を何丁か買っておくか……。

 

「店主、私には銃を見せてくれないか? この銃の銃口部分と同じパーツが使われてる銃が欲しいんだけど」

 

「ああ、金持ちの兄ちゃんか。ん? これだったらこの辺のやつだな」

 

 へぇ、さすが老舗の主人だ。すぐにわかるんだな。

 私は言われるがままに銃を物色し始めた。

 

「あっ、あなたは銃を使うんですね。しかも緋色の銃なんて、今度は“魔物狩りのアイラ”みたいです。知ってますか? 東の海(イーストブルー)で一番凶暴な女って言われている賞金稼ぎを……」

 

 たしぎは腰が抜けて立てないところを私が手を貸して立たせたら、しばらく固まってボーッとしていたのだが、ようやく落ち着いて話しかけてきた。

 よほど、ゾロの行動にびっくりしたんだろうなー。

 

 それにしても、ホントに凶暴な女って感じでこの海中に知れ渡っているんだ……。

 

「不本意だけど、聞いたことはあるよ」

 

 私は思ったままを口にした。

 

「不本意? そっそうなんです。せっかく男に負けないくらい強いって噂になるほどの女なのに……。賞金稼ぎなのは勿体無いです。賞金稼ぎは感心できませんが、少しだけ憧れてるんです。ロロノア・ゾロより強いって噂も聞きましたから」

 

 たしぎは私が賞金稼ぎなんて勿体無いと言う。だって、海軍なんてガチガチに身元確かめられるし……。

 

「ほう? そいつは面白ェ噂だな」

 

 その上、余計な一言が加わったせいで、ゾロの殺気が私の背中にグサグサっと刺さってきた。

 勝てるわけないじゃないか。大怪我していても魚人海賊団の幹部を圧倒するような人だぞ。

 

「私には詰まらない噂だよ。ゾロの方が強いに決まってるからねー。あははっ!」

 

 私はゾロの殺気に耐えられずに笑って誤魔化した。

 

「えっ? やっぱり、あなたも女が男に敵わないと思ってるんですか? 男の人ってやっぱりそんな感じに女の人のことを思っているんですね……」

 

 すると、たしぎは心底残念そうな顔をして私を見ていた。私の言葉を違う風に受け取ったのだろう。

 

「――店主、コイツを全部買おう。釣りはチップだと思ってとっておいてくれ……。待たせてしまったね。行くとしよう」

 

「おう。待ちくたびれたぜ」

 

 私は手早く買い物を済ませてゾロと一緒に店を出ようとした。

 

「――ちなみに私は女だよ。よく間違われるけどね。男女の差とかは考えたことないな。考える暇があったら自分を研鑽することに使えばいい……」

 

 しかし、どうしても悲しそうなたしぎの顔が頭から離れなかったので立ち止まって彼女にそう伝えた。

 

 

「えっ?」

 

 彼女の驚いたような声を背中に受けて、私たちは店外に出た。

 

 私はこれからとんでもない男たちが殺し合いをしている現場に飛び込もうと計画している。

 そんなときに女だからなんて理屈は当然通じない。

 何としてでも強くならなきゃいけないのだから……。 

 

 とは思っているけど、正直、現時点でたしぎの上司であるスモーカー大佐と戦闘は避けたいよなー。

 

 そんなフラグみたいなことを考えながら、私たちは自然に処刑台へと足を向ける。

 そこで私は目にすることになる。伝説の幕開けを――。

 




結構書いたつもりなのに話が進みませんでした。申し訳ありません。
とはいえ、ローグタウンのイベントはそんなに無いはずなので、近いうちにグランドラインに行けるでしょう。

次回もよろしくお願いします!


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伝説は始まった

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!本当にありがたいです!
今回はローグタウン脱出までです。
それでは、よろしくお願いします。


「罪人“モンキー・D・ルフィ”はおれ様を怒らせた罪でハデ死刑ぃぃぃぃぃぃッ!」

 

 死刑台でバカ騒ぎしている道化のバギーとその仲間たち。

 あの、派手なのがバギーか。初めて見た。

 

「あいつ、なんであんなところにいんだ?」

 

 サンジがエレファントホンマグロを背負いながら、ルフィを呆然とした表情で見ていた。

 

「お前らの船長はどうかしてるのか!? 何があったらあんな状況になるんだよ!?」

 

「おれが知るか!」

 

 Mr.9は指をさしてゾロに説明を求めるが、あんなことになった状況なんてわかるはずがない。

 

「じゃあ、あんたたち、何とかルフィを連れてきなさい。もうすぐ嵐が来るから早く出航させたほうがいいわ」

 

「そっ、そんなことが分かるの?」

 

 ナミは冷静に天候を読んで、私たちを急かした。ふむ、肌で天候を感じ取る天性の才能。

 彼女の力はグランドラインでは重宝するだろうな……。ミス・ウェンズデーも両手いっぱいに荷物を持たされながら驚いている。

 

 

「これより! ハデ死刑を! 公開執行するぅぅぅぅ! 何か言い残すことはないか?」

 

 バギーはルフィに最期の言葉を質問した。どう見ても絶体絶命……。

 この状況で彼の放ったひと言はもちろん――。

 

「おれは! 海賊王になる男だァァァァァァ!」

 

 ルフィはこの状況で、この町で、巨大な野望を口にする。

 あまりに果てしなく、そして大きすぎて口に出すことすら憚られるその野望を叫ぶルフィに町の住人は少なからず度肝を抜かれたようだ……。

 

「はっはっはッ! 言い残すことはそれだけか! それでは、ハデに死ねぇぇぇッ!」

 

 バギーは勝ち誇った顔をして剣を構えた。

 

「その死刑待ったァァァ!」

 

 私たちはバギー一味に向かって行ってルフィを救出しようとする。

 あの奇跡が起きなきゃどうすればいい? この距離ならバギーの剣を撃ち落とす事も可能かもしれない。

 でも、この町であの奇跡を見せつけることが出来れば、ルフィの今後のアドバンテージは相当高くなる。

 

 迷いが判断力を鈍らせて、引き金を重くする。

 

 ――バカなのか、私は……。未来を知っているというのは錯覚だ。正確には知っているかもしれない、だ。

 既に漫画とは違った動きをしているのだから……。

 

「ここで、あるかわからない奇跡を信じて……、救える命を救わないことこそ――。あり得ない!」

 

 私は愛銃、緋色の拳銃(フレアエンジェル)を構えてバギーの剣を狙った。

 

「ゾロ! サンジ! ライア! ナミ……!」

 

 ルフィが私たちの名前を告げる。

 

「わりい! おれ死んだ!」

 

「必殺ッ! 鉛星ッッ――!!」

 

 笑顔で彼が死を受け入れたのと、同時に私は引き金を引いた。

 

 しかし、私の弾丸はバギーの剣に届かなかった――。

 

 

 なぜなら……。

 

「奇跡だっペ……、おれァ奇跡を見た……」

 

 私の近くに立っていた男が涙を流して感動していた。

 奇跡だという言葉はまさにこの場にピッタリだろう。

 

 なぜなら、私の弾丸がバギーの剣に当たるよりも早く雷がその剣に向かって落ちて死刑台が崩壊したのだから――。

 ふぅ、奇跡の可能性も捨てきれなかったからギリギリのタイミングを見極めるのは大変だったな……。

 

 私は結局どちらも捨てきれなかった。だから、刹那のタイミングを狙ったのだ。

 

 そのせいで、雷による爆風で浮き上がったルフィの麦わら帽子に弾丸が当たってしまい、穴が空いてしまったが……。

 あとで彼に謝って直さなきゃ……。

 

 

 1つわかったことがある――それは、奇跡は未来視で見ることは出来ないということ!

 

 モンキー・D・ルフィという男の運命を私などが推し量るなど無理な話なのかもしれない。

 

「ライアちゃん、君は神を信じるかい?」

 

「そうだね。もしそういった存在がいるならば、(ルフィ)はよほど神に愛されているんだろう」

 

 サンジのセリフに私はそう返した。しかし、グズグズしてはいられない。

 早く海に出なければ、あの男がやってくる……。海軍本部、大佐――白猟のスモーカー……。おそらく東の海(イーストブルー)で最強の男が――。

 

 

 

「ロロノア・ゾロ! あなたがロロノアで! 海賊だったとは! 私をからかってたんですね! 許せない!」

 

 船に向かってしばらく走っていると、たしぎが我々を待ち構えていた。どうやら、ゾロに対して怒ってるみたいだ。

 

「こいつも黙ってたじゃねェか!」

 

 ゾロは隣で走ってる私を指さした。余計なこと言わないでよ……。

 

「私は別にからかってないもん。ねぇ? 剣士さん」

 

「ひゃうっ! 《魔物狩り》のアイラっ……。 ――とっ、とにかくロロノア! あなたの和道一文字を回収します!」

 

 私がたしぎの顔を覗き込むように話しかけたら、いきなり声をかけたからなのか、彼女は驚いた顔をして、私から顔を背けて、ゾロの刀を回収すると宣った。

 

「やってみな! おい、お前らは先に行ってろ!」

 

「おう!」

 

 ゾロはたしぎの挑戦に受けて立ち。そして、彼女の刀を受け止めた。

 

「おい、お前! レディに手を出すとは――」

 

「あー、ゾロって普通に女の子とも戦うんだ。じゃあ、私はあのとき危なかったんだねぇ」

 

「行くぞ!」

 

 サンジと私が後ろを向いてそんなことを言っていたら、ルフィに襟を掴まれて先に進んだ。

 こういう空気は読めるんだよなー。この人は……。

 

 

 

 さらに走っていくと大きな気配が私たちの進行方向に猛スピードで先回りして待ち構えているのを感じた。

 

 なるほど、何かしらの乗り物を使っているのか――。これは逃げるのもひと手間だな……。

 

「ルフィ! この先に強い気配を感じる……、おそらくマトモに戦えば私たちが全滅するほどの――。回り道をした方がいい!」

 

「嫌だ! おれはこの道がいい!」

 

 ルフィは私の忠告を聞かずにスモーカーの居る方に走っていく。

 やはりダメか……。まぁ、自然(ロギア)系の反則さ加減を知るにはスモーカーはまだマシな方かもしれない。

 だけど彼は海楼石の十手も持ってるからなー。

 というか、弱点を突くならそれを奪うのが一番なんだけど……。

 

 

「来たな! 麦わら!」

 

「誰だ!? お前は!?」

 

「おれの名はスモーカー。海軍本部の大佐だ! お前を海には行かせねェ!」

 

 スモーカー大佐がルフィの前に立ちふさがり、モクモクの実の能力で彼を捕らえる。

 

 ちっ、やはり実物は思った以上の化物……。

 

 それならば……!

 

「ほら、良いものをくれてやる!」

 

 私はスモーカーに向かって度数の強い酒瓶を投げた。彼はモクモクの実の能力者――炎なら何とか彼に多少はダメージを与えられるかもしれない。

 

 

「必殺ッ! 大火焔星ッッッ!」

 

 瓶が彼の伸ばした煙の腕に触れる瞬間を狙って私は緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)を撃ち出した。

 どの程度の火力になるのか見当もつかないな……。

 

「――なっ!? くそっ、この雨で炎か――!? てめェは魔物狩り! おれの能力を対策してきたつもりか!」

 

 スモーカーの伸ばした腕は炎によって断ち切られて、ルフィを落とした。

 

「なるほど、これくらいじゃ無傷ってわけか。参考になったよ。じゃあ、私たちはこの辺で!」

 

「逃がすか! バカッ! ホワイトブロー!」

 

 スモーカーが伸ばしてきた腕を私は寸前のところで躱す。

 

「――おっと、危ない。やはり逃げるのが最善だな。しかし、どうやったら逃げられる?」

 

 彼の攻撃スピードは速く、不意討ちの炎など二度と受けてくれなさそうなのだ。

 

「ライア! おれの腕と拳を燃やせ! あいつをぶっ飛ばす!」

 

「はぁぁぁ? そんなことして何の意味が?」

 

 突然、ルフィがとんでもないことを言い出した。何を考えてるんだこの男は……。

 

「ライアちゃん、そいつは何かしら考えがあるはずだ。おれが時間を稼ぐから言うことを聞いてやってくれ」

 

 サンジがスモーカーに向かっていく。しかし、彼はすぐに殴り飛ばされてしまった。

 

「早くしろ!」

 

「くっ、分かった。酒はもう一つあるから、これを腕と拳に――。そして、雨が降ってるから、マッチを濡らさない様に気を付けて……。点いた……。腕が煌々と燃え上がっている……」

 

「ゴムゴムのォォォォ! 火銃(レッドピストル)ッ!」

 

「ぐおっ――!」

 

 炎を纏った拳がスモーカーの腹に直撃すると、彼は吹き飛ばされた。

 ていうか、ルフィってこんなに頭が良かったの?私とスモーカーのあの短いやり取りを見てモクモクの実の対策と、ダメージを与える方法を思い付いたってこと?

 

 私は驚いていたが、スモーカーという男がただ自然(ロギア)系というだけの男ではないということを忘れていた。

 

 彼は吹き飛ばされたが、そのままルフィの腕を掴み、炎が消えたことを確認するとモクモクの実の力で即座に彼を完全に取り押さえてしまった。

 

「どうやら、幸運はここまでのようだな……」

 

「そうでもなさそうだぞ――」

 

 スモーカーが十手を掴もうとしたとき、彼の手を止めたのは黒いフードの男……。

 

 彼は来てくれたか……。ルフィの父親――革命家のモンキー・D・ドラゴン……。

 

 しかし、驚いたな……。戦いに夢中だったせいなのか彼の気配になぜか気付けなかった……。

 

「世界は我々の答えを待っている……!」

 

 ドラゴンがそう言い放ったその瞬間――!

 

 

「なっ――! 突風だっ!」

 

 凄まじい突風が吹き荒れて、私たちは吹き飛ばされてしまう。

 逃げ出すチャンスだ――。

 

「ルフィ、走れっ! バカでかい嵐がくる! 島に閉じ込められるぞ!」

 

 走ってこちらに来たゾロと合流して、私たちはゴーイングメリー号へ向かって行った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ああ、危なかった。危うく取り残されるところだったよ。ありがと、ナミ。それにMr.9にミス・ウェンズデー」

 

「まったくグズグズしやがって」

 

「ライアさん、無事で良かった……、じゃなかった! 本当よ! これじゃ、先が思いやられるわ!」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーに文句を言われる。

 

「まぁ、あの騒ぎで逃げられただけ、幸運よね。あなたも連中のお守りは大変だったでしょう」

 

 ナミは温かい飲み物を手渡しながら、私にそう言った。

 

「そうでもないさ。ルフィには助けられたよ。やはり、我々の船長は凄い。もちろん、ゾロもサンジも凄いけど……。彼らのことは素直に尊敬するよ」

 

 私は飲み物に口をつけながらそう思い返していた。

 本当にルフィの立ち振る舞いには感動した。

 

「ふーん。あなたって、男の人に興味がないと思ってた。女の子ばっかり口説いてたから」

 

「はぁ? まったく身に覚えのないことを言わないで欲しいな!」

 

 私はナミの事実無根の言い草に反論した。

 

「身に覚えのない? あなた、本気で言ってるなら病気を疑うレベルよ! 見境なく手を出して!」

 

 しかし、ナミは譲らなかった。その上言いようが辛辣だった。

 見境なくなんてことは絶対にない。

 

「そっそんなことあるもんか。なぁ? ミス・ウェンズデー」

 

「えっ? そっそうね。私はまったくそうは思わないわよ! オホホッ!」

 

 私がミス・ウェンズデーに同意を求めると彼女は顔を俯かせて同調した。

 なんで目を合わせてくれないんだろう?

 

「ごめん、何か悪いことをしたかい? 君の顔を見たいのだが……」

 

 私は彼女の顎を触って、私の顔が見えるようにクイッと動かした。

 

「あっ……、あっ……」

 

 ミス・ウェンズデーは驚いた顔をして声を発しなかった。そんなに驚かせたかな?

 

「そういうのを止めなさい! バカッ!」

 

 そして、私はナミに頭を思いきり殴られた。

 仲良くしようと思っただけなのに……。

 

 

「おいおい、そんなことよか、導きの灯が見えたぞ! お前らは覚悟した方がいいんじゃねェか? 偉大なる航路(グランドライン)に入ることをッ!」

 

 Mr.9は灯台の光を指さしてそんなことを言っていた。

 

「導きの灯ー? なんだそれ?」

 

「あの光の先に偉大なる航路(グランドライン)があるの! どうする? 何かする?」

 

 ルフィの質問にナミがそう答える。そうだ、あの海にはここまでの冒険とはスケールが違う冒険が待ち構えている。

 私はこれからある事を色々と思い浮かべて身震いした。

 

「よっしゃ、偉大なる航路に船を浮かべる進水式をしよう!」

 

 サンジが樽を置いて足を乗せる。

 

「おれはオールブルーを見つけるために!」

 

「おれは海賊王!」

 

「おれは大剣豪に!」

 

「私は世界地図を描くため!」

 

「私は父親に会うために!」

 

「「行くぞ! 偉大なる航路(グランドライン)!!」」

 

 私たちが同時に踵を樽に落とすと、軽快な破裂音が嵐の海に響き渡る。

 

 麦わらの一味がいよいよ、偉大なる航路(グランドライン)に殴り込みを開始した――。




ルフィのレッドピストルはレッドホークと似てますが、威力は普通のゴムゴムのピストルと同じくらいです。水を手に付けてクロコダイルを殴るのと、同じイメージをしてもらえればありがたいです。しかし、本当に有効なのかは勝手な解釈なので独自解釈のタグを付け加えておきます。

あと、前回のまえがきでライアのプロフィールを載せたところ、感想欄で服装を質問されまして、あまり考えてなかったのですが、第一話の最初の部分に付け加えておきます。ご興味がある方はぜひ読み返して見てください。物語の進行にはまったく関係ないですが……。


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アラバスタ王国編 グランドライン突入!

いつも誤字報告と感想をありがとうございます!いろんなご意見を拝見させてもらうことが出来て楽しいです!
今回から大雑把に分けるとアラバスタ編がスタートです。
なので、そろそろ章を分けてみました。



「おおっ! 見えたぞ! 偉大なる航路(グランドライン)ッ!」

 

 リヴァースマウンテンにはMr.9とミス・ウェンズデーの協力もあってあっさり辿り着き、ゴーイングメリー号は海を登り、グランドラインに到着した。 

 

 しかし、この後が大変だ。漫画と同じなら、ここからすぐに私にとって強大な敵が現れるのだ。

 

 それは、アイランドクジラのラブーン……。

 

 あいつは、その巨体で進路を塞ぐことで、私のゴーイングメリー号を傷付けようとしている。

 漫画ではルフィが機転を利かせて大砲を撃ち込んだおかげで、船首が折れるだけで済んだ。

 

 でも、私はカヤからもらったこの船の船首が折れる事も許したくない。

 まだ会ったことないブルックとかいう人には悪いけど、私はこのクジラが憎くて仕方がないのだ。

 

「ブォォォォォン!!」

 

 案の定、バカでかいクジラが雄叫びを上げている。

 そして、壁の正体がクジラだということにもみんな気付いたようだ。

 

 

「ルフィ! 私が大砲で船を減速させる! 君はさっきのゴムゴムの風船とやらで、船首を守ってくれ!」

 

 私は船を最も減速出来る絶妙なタイミングと角度を狙いながら、ルフィに頼み事をした。

 

「ん? よし任せとけ!」

 

 ルフィは私の狙いを理解して右拳をパシッと左の手のひらにぶつけながら、返事をした。

 やはり彼は機転が利く……。

 

「おい、ライア! アレを撃つのか!?」

 

「バカなことは止めなさい! もし、あのクジラが怒ったら!」

 

「大胆なところがライアちゃんらしくて、素敵だ!」

 

 みんなは様々なリアクションをとって私を眺めていた。

 

「今だっ!」

 

「ゴムゴムの風船!」

 

 私がブレーキ代わりの砲弾を撃ち出す――そのタイミングでルフィは膨らみエアバッグの代わりをする。

 するとどうだろう? 思ったとおりルフィがクッションの役割を果たして、船はほとんど無傷で停止してくれた。

 

「よし! ルフィ! 手を伸ばしてくれ!」

 

 私はすかさず手を差し出して、彼は私の方に手を伸ばして、私の手を掴み、海に落ちることから逃れた。

 

「ふぅ、良かった。船が無事で……」

 

 私は船首を撫でながらそう言った。いやー、本当に良かった。

 

「自分たちの無事に感謝するのが先でしょ。どんだけ、船が好きなのよ」

 

 ナミはバカな人を見るような目で私を見ていた。

 だって、カヤがプレゼントしてくれたんだよ。

 あー、早く会いたい。空から頂上戦争降って来ないかな?

 

「とりあえず、これ以上クジラを刺激せずに、こっそりあの隙間から抜けよう」

 

「クジラに大砲ぶっ放した奴がなんか言ってるぞ……。ミス・ウェンズデー」

 

「ワイルドで素敵……、じゃなかった……、無茶ばかりしてバカみたいよね。Mr.9」

 

 私の言葉に二人がツッコミを入れる。確かに安易だったかもしれない。クジラがそのあと暴れだす可能性について考えてなかった。

 

「よし、もう少し後ろに下げるか!」

 

 ズドンという轟音と共に船が僅かに後進する。

 ルフィがラブーンに向かってもう一発大砲を撃ったのだ。

 

「ブォォォォォン!」

 

「えっ――?」

 

 2発目の大砲にはさすがのラブーンも気付いたみたいで叫び声を上げながら……。ゴーイングメリー号はクジラに飲み込まれた。

 ルフィには文句言えないけど……。船がァァァァァァッ!

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「私はクロッカス、双子岬の灯台守をやっている。歳は71歳、双子座のAB型だ」

 

「あいつ斬っていいか!?」

 

「良いわけ無いだろ。できるだけ下手に出て、頭を下げてでも状況を確認するべきだ」

 

 クジラの腹の中で灯台守のクロッカスと出会った。

 

「その顔でプライドのないことを言うな!」

 

「顔は関係なくない?」

 

 ナミの理不尽なツッコミに私は首をひねる。

 

「なぁなぁ、ここってあのでっかいクジラの中なのかー?」

 

 漫画とは違い、一緒に飲み込まれたルフィがクロッカスに質問をする。

 

「ここがどこか、みたいな間抜けな質問よりもマシだな。どう見てもここがネズミの腹の中には見えんだろ?」

 

「まぁ、ルフィの言うとおりクジラの腹の中だと考えるのが自然だね。まるで、おとぎ話の世界みたいだ」

 

「なんで、あんたはそんなに落ち着いてられんの!? クジラに消化されるかもしれないのよ!」

 

 クロッカスは私たちにこの場所がクジラの腹の中だと教えてくれた。

 それと思ってることを呟いたら、ナミにまた叱られた。

 

「出口ならあそこだ――」

 

 クロッカスが出口の存在を教えてくれた頃に、ラブーンがレッドラインに頭をぶつけ始めた。

 

 彼は鎮静剤をラブーンに射ち込み、そして教えてくれた。

 このクジラは海賊に付いてきたクジラで、この場所に置いていかれたという話を。

 そして、また会いに戻ってくるという約束を信じて50年もの間このように待っているということも……。

 その海賊たちは既に亡くなっているというのに――。ブルックは生きてるような死んでるような状態だけど……。

 

 うーん。話を実際聞くと実に切ない。敵視していて申し訳なかったよ。ラブーン……。

 

「で、君は今、何をしようとしたのかな? ルフィ……」

 

「あっ、ライア。ちょっと、あいつに喧嘩を売ろうと思って……」

 

 危なかった、ルフィがメリー号に乗り込んで行って何かしようとしている気配を察知して、慌てて来たから、間に合った。

 

「喧嘩を売るのにメインマストは関係ないよね? この船は私の宝物なんだ……。君にはそのことをよぉく理解して欲しいな」

 

「――そっか、わりいなライア! んーじゃあ、どーすっかなー」

 

 彼はメインマストを叩き折って、ラブーンにぶつけようとしていたのだ。まったく、この船をなんだと思ってるんだ……。

 

 

 で、そんなもの使わなくてもルフィは強いから巨大なクジラと十分喧嘩をすることは出来た。

 彼は敢えて、戦いの決着をつけずに終えて、もう一度戦う約束をラブーンと取り付けた。

 ルフィはラブーンに待つ意味を新しく上書きしたのだ。

 

 そして、ラブーンの件が落ち着いてサンジが食事を作ってくれていた頃、ナミが大声を出した。

 

「あーっ! 羅針盤(コンパス)が狂ってる!」

 

 羅針盤がグルグル回転しっぱなしで役に立たない様子を見て彼女は狼狽した。

 

「なーんだ、お前らそんなことも知らないで、こっちに来たのか?」

 

「この偉大なる航路(グランドライン)では、この記録指針(ログポース)を使って航海するのよ! ちなみにこれは、常識よ!」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーがドヤ顔で説明を開始した。

 この人たちはウィスキーピークを最初の行き先に選んで貰いたいから主導権握りたいんだろうなー。

 

 クロッカスは彼らの言葉に続けて説明をする。偉大なる航路(グランドライン)に流れる特殊な磁気のこと、そして、この島からはそれを利用して7つのルートが選べること、最後にはラフテルという島に通じているということを……。

 

 

「そこで、だ。お前らにこれをやろうと思う!」

 

 クロッカスの説明が一段落して、Mr.9はログポースを私たちにくれると言い出した。

 

「ヘェ、急にそんなこと言い出すなんて何を企んでいるんだ?」

 

 ゾロは最初から彼らを怪しむ。無理もないけど……。

 

「うっ……、Mr.ブシドー……。だから、その代わりに私たちの町であるウィスキーピークを最初の航海に選んで欲しいのよ。それで、私たちは町に帰れるから」

 

 ミス・ウェンズデーは自分たちの目的を告げて取引を持ちかけた。

 

「航路は慎重に選んだ方がいい。ラブーンの件もある。私の記録指針(ログポース)をお前たちにやろう。これで、好きな航路が選べる」

 

 クロッカスが親切心で自らの記録指針(ログポース)を渡そうとした。

 

「おいっ! クソジジイ! 何勝手なこと抜かしてんだ! コラァ!」

「それじゃ、取引出来ないじゃない! 営業妨害よ!」

 

 当然、二人はクロッカスに食って掛かる。帰りたいから必死なのだ。

 

「いいよ。おれたち、こいつらのを貰って冒険するから」

 

「むっ、麦わら……、お前……」

 

 ルフィはそんな中、迷いなく自分の結論を出した。こういうところが彼らしい。

 

 ということで、我々の偉大なる航路(グランドライン)での最初の目的地はウィスキーピークに決まった。

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーはガッツポーズしてたけど、この人たちどうするつもりなんだろう?

 正体は私にバレてるし、彼らの強さも知ってるはずだ。まさか、宴会を開いて有耶無耶にしたところを襲ってくるとかベタな手段を使うのか……?

 

 そんなことを思っていると、ミス・ウェンズデーが私にこっそり話しかけてきた。

 

「ライアさん、警戒しないでください。あなたたちには手を出させないように必ず私が説得します……」

 

「えっ? ミス・ウェンズデー?」

 

「ずっと苦しかったけど……。あなたと出会えて良かったです……」

 

 ミス・ウェンズデーはいつもの調子とは違った感じを見せて、私たちには手出ししないと約束をした。

 急に素の表情を見せるんだもん。驚いたな……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)の航海は困難を極めた。

 

 嵐、春一番、氷山、目まぐるしく変わる天候、そして気づいた頃には逆走しているほど気まぐれな海流。

 

 ナミが自信を持って自分の航海術が通用しないと言わしめるほど厄介な航路であった。

 

 それでも、船員が一丸となれば何とかなるもので……。

 

「最初の島が見えてきたな。あれがウィスキーピークか……」

 

 巨大なサボテンが目立つ島……。ウィスキーピークに我々はたどり着いた。

 

「しかしだなぁ、ミス・ウェンズデー、このまま何の成果もなく戻るとなると我々の面子が……」

 

「面子にこだわって、受けた恩を仇で返すほど落ちぶれて良いのかしら? Mr.9、あなただって感謝くらいはしてるでしょう?」

 

「――くっ!? 仕方ねェな……」

 

 ミス・ウェンズデーとMr.9はブツブツと話し合いをしていた。本当に私たちには手を出さないように説得をしているようだ。

 

「おい! お前らに言っておくことがある! ウィスキーピークは賞金稼ぎの町だ! 死にたくなかったら着いたらログが溜まるまで船から出るな! この船にゃ、手を出さねェようにおれが話をつけてやる」

 

 Mr.9はウィスキーピークの秘密をぶっちゃけた。

 これは意外な展開だけど、どうなるんだろう?

 

「嫌だ! おれは冒険がしたいからここに来たんだ! 着いたら冒険するぞ! 野郎ども!」

 

 ルフィは当たり前のように彼の要求をつっぱねる。性格的におとなしくするはずがない。

 

「いや、悪いね。気を使ってもらったのに。だから急いだほうがいいよ」

 

「急ぐ? 何をだ?」

 

「このままだと、君たちの仲間が全滅するってことさ。ルフィたちに喧嘩を売らないように、強く警告した方がいい」

 

 私はMr.9に忠告した。ルフィたちに手を出さぬことこそ身のためだと。

 実際、ゾロ一人に全滅させられてるんだもん。

 

 

 そうこうしている内に私たちの船はウィスキーピークの港にたどり着いた……。

 

 町は活気のあるムードに包まれて、私たちを大歓迎してくれているみたいに見えた。

 なるほど、こうやってグランドラインに来たばかりの海賊を油断させて仕留めているのか……。

 

「なんだー、楽しそうなところじゃんかー!」

 

 ルフィはこの歓迎ムードを素直に受け取った。

 

「そういう手だろ。まったく、おれたちはクールに行かなきゃって、――可愛い子多いじゃねェか! 天国かよ! この島は!」

 

 途中までクールに決めていたサンジの目がハートマークになったことがわかるくらいだらしなくなる。

 

「ライアを含めて3バカね」

 

「えっ? 私ってあっちの括りなの?」

 

 ナミの言葉が私の心に深く突きささった。不本意どころじゃないよ……。

 

 

 私たち5人は上陸した。ルフィが冒険に出ると言っているので当然だ。

 しぶしぶ、Mr.9とミス・ウェンズデーも降りてくる。

 

「いら゛っ……、マーマーマーマーマ〜♪ いらっしゃい、私の名前はイガラッポイ。ここはもてなしが誇りの町です。あなた方の旅の話をぜひ聞かせてください。宴を用意――」

 

「ちょっと良いかしら? イガラッポイ……」

 

 イガラッポイ、彼はMr.8にしてアラバスタ王国の護衛隊長……。

 彼のセリフを遮るようにして、ミス・ウェンズデーは彼を少し離れたところに連れていき密談を開始する。

 

 彼はチラッと私を睨んだような気がした。気のせいだと思うけど……。

 

 

「うーむ。わかった。麦わら一味の3000万は正直惜しいが……。――ぐはぁぁぁぁッ!」

 

 イガラッポイが何やらそんなことを呟いていると……。

 彼の体が――突然爆発した。

 

 これって……、まさかボムボムの実の能力!?

 

「人が突然爆発した? どういうこと?」

 

「きっ、貴様! どういうつもりだ! Mr.5! まさか、任務失敗したおれたちを消しに来たか!?」

 

 ナミの疑問と同時にMr.9が叫び声を上げる。やはり彼らが来ていたか。こちらも漫画よりもかなり早いな……。

 

「はっ! フロンティアエージェントのてめェごときを消しに誰がこんなところまで来るかよ! おれらがここに来た理由。それは社長が『おれの秘密を知られた』と言ったからだ。そして調べていくと、ある王国の要人がバロックワークスに潜りこんでいることがわかった――」

 

 サングラスをかけたワカメみたいな髪型をした男、Mr.5と、帽子をかぶった金髪のショートヘアの女、ミス・バレンタインが建物の屋根の上に立っていた。

 

 彼の存在に気づいた、イガラッポイは立ち上がり、ロールしている髪から散弾銃を彼らに向かって繰り出した。

 

「お逃げください!」

 

 彼はミス・ウェンズデーに大声でそう告げた。

 

 おそらくMr.9も含めて誰もがこの展開についていけてないだろう。

 

 ルフィたちは呆然として事態を眺めていたのである。

 

「誰が逃がすか! 罪人の名は、アラバスタ王国護衛隊長イガラム! そしてアラバスタ王国王女、ネフェルタリ・ビビ――! お前たち二人を、バロックワークス社長の名の下に抹殺する!」

 

 鼻くそをほじりながらそんなセリフを吐くMr.5を尻目にミス・ウェンズデーいや、アラバスタ王国の王女であるビビは走って逃げようとした。

 

鼻空想砲(ノーズファンシーキャノン)ッ!」

 

 彼から爆弾となった鼻くそが放たれる――。

 もっと、色々と能力の使い道あっただろうに……。

 

 爆炎がウィスキーピークの港で巻き上がる。

 

「――あれ? 当たったと思ったのに……?」

 

「こうやって、君を庇うのは二回目だね。怪我はない?」

 

 私はMr.5の爆弾が彼女を捉えるギリギリで、あのときのように彼女を突き飛ばした。

 

 チュウのときみたいに大怪我は負わなかったけど――。足を捻ったみたいだ。

 

「キャハハッ! 庇って倒れちゃうなんて間抜けね! 死ぬがいいわ! 私のキロキロの実の能力で! 1万キロプレス!」

 

 ビビを庇って転けた私を最初に潰そうとしたのか、ミス・バレンタインが自らの体重を1万キログラムに増大させて落下してきた。

 

 私は避けることが出来ずに彼女を睨むことしか出来なかった……。くっ、こんなところで終わるのか……。

 

 彼女がとてつもない勢いで私の背中に落下してきた――。

 

 あれ? どういうことだ……?

 

「――すっごく軽いんだけど……? 1万キロ?」

 

 どういうわけか、私の背中には子猫くらいの重量しか乗っていなかった。

 力の調節を間違ったのかな?

 

「…………」

 

「…………」

 

 ほんの一瞬だが沈黙が辺りを支配した。誰一人としてひとことも発しない……。

 

 そして――。

 

「えっと、キャハッ……、ちょっとダイエット中?」

 

 ウィスキーピークでついに私たちはバロックワークスと衝突することとなった――。

 

 

 




原作よりも長く居たバロックワークス組が今さら騙し討ちをするとは思えなかったので、今回は展開を色々とすっ飛ばしてしまいました。
原作の100人斬りからのルフィVSゾロとかすっごく好きなんですけどねー。
ゾロの懸賞金にも関わるかなとか思ったんですけど、ここは深く考えずに金額は原作と同じにする予定です。
次回はウィスキーピークでの戦いからスタートです。


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ウィスキーピークの戦い

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ミス・バレンタインの予想以上の人気ぶりに驚きました。
今回はそんなバレンタインとか正体がわかったビビを中心としたストーリーです。
それではよろしくお願いします!


「何をふざけてる! ミス・バレンタイン!」

 

 しばらく呆気にとられていたMr.5は怒鳴り声を上げる。

 あー、ふざけてるのか。確かにこのまま体重を増やしていく技とかあったよね。危ない、早く跳ね除けないと……。

 

「とりゃあっ!」

 

 私は背中に乗っているミス・バレンタインを思いっきり跳ね飛ばそうと力を入れた。

 

「キャッ……ハッ……!」

 

 思った以上に彼女は簡単に飛ばされて、宙に浮かび上がる。どういうつもりだ……?

 そして、私は足の痛みに耐えて何とか立ち上がった。

 

「私の狙いはミス・ウェンズデー! いや、アラバスタ王国の王女! ネフェルタリ・ビビ! とりゃっ!」

 

 ミス・バレンタインの足技がビビの髪留めを破壊しながら彼女の頭を掠める。

 

「くっ……、私のせいでライアさんまで……!」

 

 ビビは自分のピンチなのにも関わらず私の身を案じるようなことを言う。

 

「キャハハッ! トドメよ! 地面に埋めてあげるわ!」

 

 ミス・バレンタインはフワリとジャンプしてビビに攻撃を加えようとした。早く銃を抜かなきゃ……。

 

「やめろ! ミス・ウェンズデーに手を出すな!」

 

「はいっ!」

 

 私が銃を構えようとしながらミス・バレンタインに向かって怒鳴ると、彼女は何を思ったか攻撃を止めて、そのまま着地した。

 

「「――えっ?」」

 

 私とビビは状況がわからずに困惑して顔を見合わせた。

 まさか、本当に攻撃をやめるとは……。

 

「あっ……、キャハッ……。えっと……、あまり見ないでくれない……?」

 

 ミス・バレンタインは頬を桃色に染めて俯きながらそんなことを言い出した。

 

「君は何を言ってるんだい? とにかく、彼女を攻撃するのは許さない…。この距離なら外さないよ、私は……」

 

「キャハハ……、わかったから……、これ以上睨まないで……。せめて睨むのだけはやめてちょうだい……」

 

 私は彼女がふざけていると感じて、嘗められないように銃口を彼女に向ける。彼女は私の目つきが気にいらないようで、チラッチラッとしかこちらを見ない。

 なんで俯きながら上目遣いでこっちを見るんだ? 戦いにくいと思うんだけど……。

 

「おいっ! ミス・バレンタイン! お前はマジでどうしやがった!? もういいっ! 社長命令だテメーら! Mr.8及びミス・ウェンズデーを消せ! ついでにあそこにいる邪魔者もだ! 消したやつには、おれが奴らの後釜に推薦してやるっ!」

 

 Mr.5はそう言ってウィスキーピークの賞金稼ぎたちをけしかけてきた。

 連中は長いものに巻かれる主義なのか、リーダー格のはずのイガラッポイ、もといイガラムやビビに遠慮なしに襲いかかる。

 

「とりあえず! レディに手を出すやつァ許さねェ!」

 

「ライア! こいつらをぶっ飛ばせばいいのか!?」

 

「まぁ、いいや。とりあえず試し斬りしたかったし、理由は後で聞いてやろう!」

 

 サンジ、ルフィ、ゾロの三人が私とビビ、そしてイガラムに襲いかかる100人近い賞金稼ぎたちを次々と蹂躙していく。ナミはこっそりと私の後ろにしがみついて様子を窺っていた。

 

 ナミがしがみついた瞬間にビビとミス・バレンタインの表情が一瞬変わったような気がするが、今はそんなことを気にしてられない。

 

 それにしても圧倒的というか何というか……。

 ホントに一瞬でほとんどの賞金稼ぎたちが倒されてしまい、Mr.5は沈黙していたが、少しだけ腕がプルプルと震えていた。

 ミス・バレンタインが何故か動かない今、自分の不利を悟ったのかもしれない。

 

「しっ、信じられん! この町の賞金稼ぎたちが一瞬で……!」

 

「彼らは強いのよ。イガラム……。特にあのルフィさんは3000万ベリーの懸賞金に見合うだけの強さだわ……」

 

 ビビはルフィたちの強さをもちろん知っている。アーロンパークで、アーロンを圧倒していたところを見ていたから……。

 

「おいっ! ミス・バレンタイン! このままだと社長におれたちが殺されちまう! さっさと王女を始末して戻ってこい!」

 

「――動くと撃つよ! ミス・バレンタイン!」

 

 Mr.5が堪らずミス・バレンタインにビビを抹殺するように指示を出したので、私はさらに彼女に近づいて銃口を突きつける。

 

「うっ……、撃てばいいじゃない! 何よ! 彼女の前だからってカッコつけて! キャハハッ! 私がバカみたいじゃん!」

 

 なぜか涙目で自分を撃てと言うミス・バレンタイン。

 いやいや、なんかよく分からなくなってきたぞ! これってどんな状況なんだ?

 

「いや、ナミは彼女じゃないし……、君は何を勘違いしているんだ? というか、そんなことどうでもいいだろ?」

 

 とりあえず、ナミにも迷惑な勘違いなので私はそれを訂正した。

 

「――えっ? そっ、そうなの?」

 

「ほっ……」

 

 ミス・バレンタインは涙目だった表情が一瞬でポカンとした表情に変わり、なぜかビビが胸をなでおろすような動作をした。

 

「ちょっと! ライア! あなた、戦闘中に女の子を口説くなんて信じられないんだけど!」

 

 ナミが突然、荒唐無稽なことを言ってきた。

 

「なっ、何を言ってるんだ? 私がそんなことをするわけがないじゃないか!」

 

 私はナミに反論する。大体、私はミス・バレンタインとはほとんど会話していない。

 

「どう考えてもあの人の態度がおかしいじゃない! 絶対に何かしたでしょ!?」

 

「そりゃあ、ちょっと変だなーとは思ったけど……」

 

 それでもナミはまったく信じない。いや、確かにおかしな態度を取っているから、ふざけていると――。

 

「キャハハッ! 覚えてなさいッ! この借りはいつか返してやるんだから!」

 

 ミス・バレンタインは私とナミが言い争いをしているスキをついて、捨て台詞を吐きながら戦線を離脱しようとした。

 

 

「Mr.5ッ! 撤退するわよ! あれ? Mr.5!?」

 

 ミス・バレンタインはMr.5がさっきまで居た場所に向かったが、彼はそんなところには居なかった。

 そして、彼女は愕然とした表情を浮かべたのである。

 

「ん?こいつのことか?何か暴れてたぞー!持ってくかー!?」

 

 ボロ雑巾のようになったMr.5を片手でブンブン振り回すルフィ。

 

 そして、そんな彼をミス・バレンタインに向かって投げつける。

 

 ミス・バレンタインはMr.5をキャッチしてそのまま逃げ出してしまった。

 

「Mr.5……が、いつの間に!? まさか、オフィサーエージェントをこうも容易く……!?王女はその実力をご存知だったから、私に手を出さぬように忠告されたのか!」

 

「えっ? ええ、そうね。もっ、もちろんそれもあるわ」

 

 ビビはチラッと私を見ながら気まずそうな顔をしていた。

 どうしたんだろう。巻き込んで悪かったとか思っているのだろうか……。

 

 とにかく展開が早すぎて、みんなは状況が掴めてないと思う。

 私ですら呆気にとられているのだから。

 

 そんなわけで、ビビとイガラムから事情を聞く流れに持っていこう。

 

「なぁ、ミス・ウェンズデー。君がアラバスタ王国の王女、ネフェルタリ・ビビとか言われていたけど、本当なのかい?」

 

 私は当然の質問を投げかけた。ミス・ウェンズデーが実は王女だったというのは急展開すぎる……。

 

「――ライアさん。ええ、本当よ。私はアラバスタ王国の王女――。訳あって、このバロックワークスに潜入していたの……」

 

 ビビは申し訳なさそうな顔をして、私の質問を肯定した。

 

「そっか。王女様がそんなことをするなんて、よっぽどの事があったんだね。君たちさえ、良ければさ……、理由を話してくれないか?」

 

「ちょっと、ライア! 何、面倒に首を突っ込もうとしてるのよ!」

 

 私がビビに理由を聞こうとすると、ナミが慌てて止めに入る。

 おそらく面倒ごとの気配を察知したのだろう。さすがに勘がいい……。

 

「だって、気になるじゃないか。一緒に旅してた人が突然、王女様って言われたらさ」

 

「うう……、そりゃあそうだけど。危ない話だったら、逃げるわよ!」

 

 私が少しだけ押すと彼女は折れてくれた。なんだかんだ言ってもナミは優しい。

 

「おれも聞かせてもらうぞ。長くペアを組んでたんだ。――まさか、王女様であらせられたとは……! ご無礼をお許しください!」

 

「ちょっと、あっ、頭を上げてよ。Mr.9!」

 

 格好をつけて現れた、と思いきや速攻で土下座するMr.9と、それを止めようとするビビ。

 一緒に行動してわかったけど、この人って結構、情に厚いから悪人になりきれないタイプだ。

 

「Mr.8、私もこいつと一緒だよ。あんたとは長くペアを組んだ。ミス・ウェンズデーとも友人だと思ってた。だから、手は出さなかったけど、理由を聞く権利くらいあるはずだ」

 

 さらに筋骨隆々な女性がイガラムの元に現れて彼にそう語りかけた。

 

「ええーっと、お姉さんはどちら様で?」

 

 私はミス・マンデーだと知ってたけど、それを口にするのも変だと思ったので、彼女にそんな質問をした。

 

「えっ? お姉さんって、柄じゃないんだけどな……」

 

 よく分からないけど、ミス・マンデーは私から目を背けて恥ずかしがる動作をする。

 いや、人見知りなの? この人って……。

 

「だから、あなたが口を挟むと面倒なの!」

 

 ナミにはなぜか頭を叩かれた。私が悪いのか? まったくわからん。

 

「彼女はミス・マンデー。私の護衛として一緒に潜入したMr.8――イガラ厶とペアを組んでいる人よ」

 

 そして、見かねたビビが彼女に代わって紹介をする。

 

「ミス・バンッ! マーマーマーマーマ〜♪ ミス・マンデー……、あなたが望むなら話そう」

 

 イガラムは彼女の気持ちを汲んだのか、訳を話そうとしてくれた。

 

「別にお前らに興味はねェが、ライアが聞きたがってんならついでに聞いてやるよ」

 

「ミス・ウェンズデーちゃん。王女様だったのかー。可憐だと思ったんだよなー」

 

「どーしたー? 冒険の話かー?」

 

 そして、賞金稼ぎたちを見事に全滅させたルフィたちがこちらに来て、全員でビビとイガラムの話を聞くこととなった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そして、ビビとイガラムは語った。自分たちの国、アラバスタ王国が内乱中だということ、その原因がバロックワークスだという噂を聞いて潜入したということ、さらにバロックワークスの社長の正体を突き止めたということ。

 

「社長の正体か……。そりゃあマズイな。おれたちゃ、これ以上聞いたら命を狙われちまう。わりいがこの辺で身を隠させてもらう。まぁ、なんだ……。ミス・ウェンズデー、オメーの武運を祈ってるぜ……。――バイバイ、ベイビー」

 

「Mr.8、ミス・ウェンズデー、表立って応援は出来ないけど、死ぬんじゃないよ……」

 

 バロックワークスのエージェントの二人は身の危険を感じてこの場を去って行った。

 賢明な判断だと思う。

 

「社長って、そんなにヤバイやつなのかー?」

 

 二人が去ってから、ルフィはビビにそんなことを質問する。

 ヤバイどころじゃない。正直、この時点のルフィがあの男に勝てたのは奇跡なんじゃないかとすら思う。

 

「ルフィ、当たり前でしょ。国を乗っ取ろうとする奴なのよ。ヤバイやつに決まってるわ」

 

 ナミは一般論を口に出す。

 そのとおりだ、アラバスタといい、ドレスローザといい、国の乗っ取りを企むヤツって個人の実力も組織力もズバ抜けている。

 

「ええ、あなたたちがいくら強くても、Mr.0、王下七武海の一人、サー・クロコダイルには決して勝てはしないわ」

 

「おっ、王女ッ!」

 

 うっかりどころじゃない口のすべらせ方をしたビビに対して、イガラムが顔を青くして声を荒げる。

 

「へぇ、社長って七武海なんだ。そりゃ、大物だね……」

 

「はっ――!」

 

 私の言葉がそれに続いて、ビビは自分が失言したことに気が付いたらしい。もう口を押さえても無駄だと思うが……。

 

「じぃーっ……」

 

 それをしばらく眺めていたラッコとハゲタカ……。確かアンラッキーズとかいう伝令やお仕置きをする役割をもつ動物だ。

 ラッコはハゲタカに乗って空に飛んで行ってしまった。

 

「ちょっと、何なのよ! 今の鳥とラッコ! あんたが私たちに秘密を喋ったこと聞いてたんじゃないの!?」

 

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

 ナミはビビの胸ぐらを掴んで必死で抗議していた。こうなったら、そんなことをしても、もう無駄なんだけどな。

 

「こうなったら逃げるしかないわ! 来て早々に七武海に狙われるなんて、あんまりよ! 幸いまだ顔はバレてないんだから!」

 

「そうでもないみたいだよ。ほら、なかなか上手に描くもんだ。器用なラッコだね」

 

 ナミは逃げようとしていたが、ラッコが上手に私たち5人の似顔絵を描いてそのまま飛び立とうとしていた。

 

「言ってる場合か〜! 早く撃ち落としてよ! 狙撃手でしょ!」

 

「え〜。可愛い動物を虐待って気が進まないんだけど」

 

 ナミはそう言うけど、小さな動物を狙うのはちょっとな……。

 

「何よ! 可愛い女の子は何人も撃ち落としてるくせに!」

 

 ナミがまた身に覚えのない言いがかりをつけてくる。

 

「人を女たらしみたいに言わないで欲しいな。まぁ、仕方ないか――。この睡眠弾で――」

  

 しかし、彼女の言うことはもっともだ。クロコダイルに私たちの情報を渡す道理はない。

 私は緋色の銃(フレアエンジェル)でハゲタカを狙って引き金を引こうとした。

 

「ぶぇっくしょんッッ」

 

「わっ――! 手元が狂った!」

 

 そのとき、隣にいたルフィが思いっきり大きなくしゃみをした。私は驚いてしまって、的を外してしまう。

 くっ、この程度で動揺して外すなんて修行不足もいいところだ……。

 

「ルフィ! 何やってるのよ!」

 

「虫が鼻に入ってムズムズした」

 

「これで逃げ場がなくなっちゃった〜! どうしてくれんのよ〜!」

 

 ナミはルフィに怒鳴り、そして頭を抱えて涙目になっていた。

 

「怒ってるナミさんもお美しい〜!」

 

「これでおれたちは5人ともバロックワークスの抹殺リストに追加されたわけか」

 

「なんかゾクゾクするな〜!」

 

 ナミとは裏腹にルフィたち男3人はこんな状況でも平常運転だった。これが、彼ららしさなのだが……。

 

 

「で、これから君はどうするのかな? 国は一大事、その上あの王下七武海であるクロコダイルが敵に回ってる。次の刺客が来るまでさほど時間はないと思うよ」

 

 私はビビにそう話しかけた。彼女の意志を確かめたかったからだ。

 

「もちろん、国に帰ってこの危機をみんなに伝える。クロコダイルの思いどおりにはさせられないもの」

 

 ビビは当然のように危険でも国に帰るという確固たる意志を示した。うん、やっぱりこの子は強い子だ。

 

「そこで、恥を忍んであなたたちにお願いさせて頂きたい。どうか、この王女を無事にアラバスタ王国まで連れて行って欲しいのです」

 

「ん?いいぞ。」

 

 ビビの言葉に続けてイガラムが私たちに彼女の護衛をして欲しいと頼んできた。

 それに対してルフィは即答する。

 

「ちょっと、ルフィ。何を勝手なことを! 七武海よ! 七武海!」

 

「まぁまぁ、どっちみち狙われてるんだから一緒だよ」

 

 当然のようにナミは怒りだす。気持ちはわかるけど、私は何とか彼女を宥めた。

 

「へっ、七武海か。楽しみだな」

 

「ビビちゃん、おれがあなたの騎士になります! 大船に乗ったつもりでいてください!」

 

 ゾロもサンジも概ね乗り気なのでこの件は引き受ける方向で固まった。

 

「では私に提案があります! それは――」

 

 ビビをアラバスタ王国に送り届けるという依頼を引き受けた私たちにイガラムはここからの作戦を話した。

 

 まずイガラムがダミー人形を用意してビビのフリをしながら海に出て永久指針(エターナルポース)でアラバスタ王国を目指し、バロックワークスからの刺客を引きつける。

 そして、私たちは通常の航路を経てアラバスタ王国を目指すという作戦だ。

 

 漫画ではイガラムは出航した途端に沈没させられていたけど大丈夫かな? まぁ、ミス・オールサンデーことニコ・ロビンは敢えて彼を生かしたみたいだから安心だとは思うけど……。

 逆に変なことを言って警戒される方がリスクは高いか……。

 

 そもそも、漫画とは若干出航のタイミングも違うはずだから、ミス・オールサンデーが来ないという可能性もあるよな……。

 

 

 そんなことを考えていたが、やはりというべきか……、私たちのログが溜まったタイミングで出航したイガラムの船は我々と別れたあとに直ぐに爆発してしまった。

 

 

「――立派だった!」

 

 ルフィはそう一言だけ残してゴーイングメリー号を目指した。

 

 私は思った以上の大きさの爆炎が立ち上った船を見て呆然と考えていた。

 知ってて止めなかった私は彼を見捨てたも同然なのでは、と。無論、彼は生きている可能性が高い。

 しかし、爛々と炎上する船を見て私はそう思わずにはいられなかったのだ。

 

「――ッ!?」

 

 血が出るほど唇を食いしばって、駆け出したい衝動を抑えているビビ。

 彼女は私よりも年下のはず。なのに、なんて気高くてそして強い心を持っているのだろうか……。

 

 イガラムに報いることが、私の罪の償いになるならば、私は――。

 

「ビビ、大丈夫だよ。私が命に代えてでも君を守り、無事に故郷に送り届ける。約束しよう!」

 

 私はビビを抱きしめて頭を撫でながら彼女に一方的に約束を押し付けた。

 

「らっ、ライアさん。わっ、私……」

 

「うん。不安なのはわかってるよ。いつでも寄りかかって良いから。君の弱音だって、何だって受け止めるくらいしてみせよう。私だけじゃないよ。強い仲間が君にはあと4人も付いているんだ。誰にも負けないさ――」

 

 こうして、私たちはゴーイングメリー号に乗り込んで、次の島を目指し出発した。

 

 この船に仲間以外が乗り込んでいることに気付いているのは――まだ、私しかいない……。

 

 




キリの良いところまで書いていたら過去最長に……。
5000字前後を目指しているのに、上手く行かないものです。
原作とは違ってクロコダイルは麦わらの一味を5人だと最初から認識することになりました。
次回はオールサンデーとか、リトルガーデンとか、そんな感じです!


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進路はリトルガーデン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!本当に書く力となってますのでありがたいです!
今回はミス・オールサンデー登場からです。
それでは、よろしくお願いします!


「知らないカルガモが乗ってたときには何だと思ったけど、君の友達だったんだね」

 

 カルーが何故かゴーイングメリー号に先に乗っていたので驚いた。でも、カルー可愛いな。

 

「ええ、居なくなったと思ったから焦ったわ……。その、ええーっと……」

 

 ビビは何やら言いたげでモジモジしていた。

 

「あっ、ごめんごめん。ずっと手を握りっぱなしだったね。子供じゃないんだから、もう大丈夫か」

 

「あっ、私は別に……」

 

 私は彼女の手を引いてここまで来ていたので、ずっと握りっぱなしだった手を離した。

 なんか、王女様に失礼なことをしてる気がする。

 

「しかし、あっという間だったな。おれァ、ビビちゃんと旅が出来て嬉しいが」

 

「まっ、試し斬りが出来ただけ良しとしてやるぜ」

 

 サンジとゾロは出航の準備を終えて勇ましい言葉を放っていた。この二人は居るだけで頼りになる。

 

「なァ! 追手ってどれくらい来てんのかなァ?」

 

「1000人くらい来たりして」

 

「あり得るわ。社長の正体の情報はそれだけのことだもん」

 

 ルフィとナミの言葉に返事をするビビ。実際は1000人も動員はされなかったが、Mr.3とミス・ゴールデンウィークは派遣された。

 さらにMr.5とミス・バレンタインとも再び相まみえるだろう。

 

 うーん。私の戦力では果たして悪魔の実の能力者に勝てるだろうか? Mr.3の能力は緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)で何とかなるかもしれないが、なるべくルフィに任せて援護に徹しよう。

 

 

「どっちみち、ここからは油断は禁物だね。気を引き締めていこう。既に追手のうちの一人がいる訳だし……」

 

 私は欄干に腰掛けているミス・オールサンデーに話しかけた。

 

「あら、気付いてたの? 気配を消すのは得意なのに」

 

 ミス・オールサンデーは不敵な笑みを浮かべて私を眺めていた。

 

「この一味の狙撃手をやってるんでね。狙った獲物を逃さないように感覚を鍛えてるのさ」

 

 私は彼女の挑発的な態度に対してそう言葉を吐いた。この人もかなり強いな。幼少から賞金首になって生き残ってるだけはある。

 

「ふぅん。なるほど」

 

「あっ、あなたは!? ミス・オールサンデー! なんであなたがここに居るの!」

 

 ビビはミス・オールサンデーの存在に気付き彼女を睨みつける。

 

「さっきそこでMr.8に会ったわよ? ミス・ウェンズデー」

 

「――くっ!? やっぱりあなたがイガラムをっ!」

 

 さらにミス・オールサンデーの言葉でビビはより一層怒りを顕にした。

 

「今度はMr何番のパートナーなの?」

 

Mr.0(ボス)のパートナーよ。この女だけが社長(ボス)の正体を知っていたから、私は彼女を尾行して社長の正体を知ったの」

 

 ナミの質問にビビは答える。そう、ミス・オールサンデーはMr.0――つまりクロコダイルのパートナーだ。

 

「正確には私が尾行させてあげたの。本気でバロックワークスを敵に回して国を救おうとしている王女様があまりにもバカバカしくてね。ふふっ……」

 

 ミス・オールサンデーはビビをバカにするような態度をとった。

 うーん。彼女には彼女なりの理由があることは知っているけど、その言い様はやはりムカッとするなぁ。

 

「へぇ、だったら迂闊にこの船に乗り込んだ君を捕まえれば色々とわかるんじゃないかな? ねぇ、サンジ」

 

「ライアちゃんの言うとおりだ。ビビちゃんには指一本触れさせねェ」

 

 私とサンジは同時にミス・オールサンデーに向かって銃口を向ける。

 

「そういう物騒なもの……、私に向けないでくれる」

 

「うおっ!」

 

 ミス・オールサンデーの発した言葉と共にサンジは投げ飛ばされた。

 そして、私は彼女の腕が私の右腕に生えてきたのを察知してその手を掴んだ。

 

 

「なるほど、面白い。きれいな手をしてるじゃあないか。ミス・オールサンデー……。この能力……、何の実の能力かな?」

 

 私は左手で彼女の手のひらを撫でながら、そう言葉を吐いた。

 恐ろしいな、この能力。近距離で戦うと私じゃ絶対に勝てそうにない。

 

「――ッ!? 驚いたわ……。さっきの立ち振る舞いといい、なかなか面白い坊やじゃない。ちょっと気に入っちゃった」

 

 ミス・オールサンデーは少しだけハッとした表情をして妖艶に微笑んだ。

 そして、彼女は私の両肩から手を生やして、私の髪の毛を撫でてきた。くっ……。今のは気付いてもどうしようも出来なかった……!

 

「坊やじゃない! 私は女だっ!」

 

「あら、もっと驚いちゃった。ますます面白い子ね」

 

 ミス・オールサンデーはそのまま私の襟を掴んで放り投げる。

 

「うわっ!」

 

「ライア! 大丈夫か!?」

 

 投げ飛ばされた私はルフィに抱きとめられて事なきを得た。ふぅ、びっくりした。やっぱり近距離じゃ勝ち目がないや……。

 

「よく見ればキレイなお姉さん!」

 

 そして、サンジはようやく彼女の顔をしっかりと見たのか、いつもどおりの反応をした。

 

「あなたが麦わらの船長ね。モンキー・D・ルフィ」

 

 ミス・オールサンデーは能力を使ってルフィの帽子を自分の方に投げてそれを掴む。

 

「――ッ!? お前を敵だと見切ったぞ! 帽子返せ! コノヤローッ!」

 

 ルフィはそれに対して激怒して怒鳴るが彼女は動じることなく微笑んでいた。

 

「不運ね、B・Wを敵に回したあなたたちも、頼みの綱がこんな少数海賊という王女も……。そして何よりの不運はあなたたちの行き先、リトルガーデン。あなたたちは、私たちに手を下されるまでもなく全滅するわ。クロコダイルの姿を見ることはおろか、アラバスタ王国にも辿り着かないで……」

 

 ミス・オールサンデーは言いたい放題だった。確かにリトルガーデンは巨人とか恐竜とか居て恐ろしいところだったけど、他に何があったっけ?

 

「知るかコノヤロー! 帽子を返せっ!」

 

「ふふっ、この永久指針(エターナルポース)をあげるわ。行き先はアラバスタ王国のひとつ前の何もない島。うちの社員も知らない航路だから、追手も来ない」

 

 怒るルフィを無視してミス・オールサンデーはビビに永久指針(エターナルポース)を投げる。

 

「何? あいつ良いやつなの?」

 

「罠だろ、どうせ」

 

 ナミの言葉にゾロはそう返す。

 

「どうかしら……?」

 

 ミス・オールサンデーは不敵に笑って二人の言葉を受け流す。

 

「――くっ、どうしたら……」 

 

 ビビは真剣な表情で悩んでいるみたいだ。

 ミス・オールサンデーは信用できる相手じゃないが、安全な航路という言葉は彼女には魅力的に聞こえるだろう。

 

「悩む必要は無いさ。そうだろ? ルフィ」

 

「ああ、そんなことどっちでもいい!」

 

 私が彼に声をかけるとルフィはビビの手元にある永久指針(エターナルポース)を握りつぶした。

 

「アホか! お前ーっ! あいつが良いやつだったらどうすんのよ!?」

 

 ナミはそんなルフィを蹴り飛ばした。

 割と本気で蹴飛ばしてるけど、「もしかしたら良いやつかも」で行動するのも危ないよ。

 

「この船の進路をお前が決めるなよ!」

 

 ルフィはハッキリとミス・オールサンデーに自分の意志を伝えた。

 彼には駆け引きなんてものは通用しないんだろうなー。

 

「という訳さ、ミス・オールサンデー……。君は私たちを不運と断じているけど、私はそうは思わない。次は君に再び出会えた幸運に感謝するつもりでいるよ」

 

「そう……、それならあなたのその口説き文句が聞ける日を楽しみにしておこうかしら……。ふふっ……」

 

 私とミス・オールサンデーの視線が交錯する。

 彼女は機嫌良さそうに笑って去って行った。

 

 

 

「さて、飯だ、飯だ! サンジ、朝飯にしよう!」

 

 ミス・オールサンデーが去ってから開口一番、ルフィはサンジに朝食を要求する。

 

「おう、さっきの町からたっぷり食材持ってきたから、ビビちゃんの歓迎も兼ねて力のつくもんを作ろう!」

 

 ウィスキーピークでログが溜まるのを待っているときにたっぷり補給をしたので食料には余裕が出来た。

 

「ふわァ。眠ィ……。ライア、飯が出来たら起こしてくれ」

 

「ん? わかったけど、君は相変わらずよく寝るな」

 

 ゾロは眠たそうな顔をして私にひと眠りすることを伝える。

 

「あれ? どうしたの? ボーッとして」

 

 ナミはポカンとした顔で我々を見ているビビに話しかけた。

 

「前から思ってたけど、この海賊団ってずっと自然体だなって」

 

 ビビはあまりにも我々の緊張感がないとでも言っているようだった。

 

「そうよね〜。どいつもこいつも……。まぁ、やらなきゃならない時は真剣なんだけど」

 

 ナミの言うとおり、きちんとしなきゃ死ぬような場面では皆ちゃんと動くし、よく働く。

 

「そういうビビだって、もっと自然体になって良いんだよ。あんまり張り詰めてたら、いつか折れちゃうだろ?」

 

「私も? でも難しい……、状況が状況だし……」

 

 私の言葉にビビは深刻そうな顔をして眉をひそめる。

 

「ほら、こうやってニコって笑って。うん、いい顔だ」

 

「…………」

 

 私は彼女の両頬を摘んで口角を無理やり上げて笑顔を作ろうとしたら、ビビは顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 どうやら、また無礼なことをして怒らせてしまったみたいだ……。

 

「あなたはスキあらば人を口説くクセどうにかしなさい! ちょっと、ビビ! あなた、大丈夫?」

 

 ナミに尻を蹴られて強烈なツッコミを入れられる。

 そして、彼女は放心状態のビビの体を揺らしていた。

 

「はっ――。えっええ、大丈夫。あっ、あの、ライアさん!」

 

 ビビはハッとした状況で返事をして、私に少しだけ大きな声で声をかけた。

 

「ん? どうした? 急に改まって……」

 

「わっ、私、ライアさんが……。――ごっ、ごめんなさい。やっぱり何でもない!」

 

 私が彼女の顔を見ると、ビビはブンブンと頭を振って何でもないと言った。ふむ、国が心配で精神が不安定なのかもしれないな。

 

 

「あなた、どうせ責任取れないんだから……、本当に気を付けなさいよ。じゃないと――」

 

「ん? ナミ、君もいきなりどうしたんだ?」

 

 私はナミがボソリと呟いたのに反応した。

 

「はぁ……、ビビに同情してんのよ……。まぁ、良いか。国の心配で気落ちするよりは……」

 

「ナミさーん、ライアちゃーん、ビビちゃーん、ついでに野郎共! 飯が出来たぞー!」

 

 ナミは意味深なことを言っていたようだが、サンジの声にかき消されて、我々は朝食を頂いた。

 

 

 グランドラインの2回目の航海はそれほど荒れなかった。ビビが言うには最初の航海は7本の磁気の影響であれほど天候が荒れ狂ったみたいだ。

 

 いや、そういう細かいところは覚えてないからな。

 漫画を読んでたのってすっごく昔だし……。これでも、よく覚えてる方だと思う。

 

 ――ということで、リトルガーデンに我々は無事に辿り着くことが出来た。

 

 

 

 

 

「冒険のニオイがする! サンジ! 弁当!」

 

 鬱蒼としたジャングルに太古の植物を彷彿とさせる見慣れない風景、そして不気味な物音……。

 このリトルガーデンの如何にもな雰囲気がルフィにはたまらなかったらしい。

 率直に彼の状態を伝えるなら、彼はイキイキしていた。

 

 危険な香りがするから、船でログが溜まるまで待とうと言うナミの言葉を尻目にルフィは冒険がしたいと張り切って、サンジに海賊弁当を要求したのだ。

 

「――ねェ! 私も一緒に行っていい?」

 

「あんたまで、何言うの!?」

 

 唐突にルフィの冒険に付いていきたいと声に出したビビにナミがツッコミを入れる。

 

「色々と考えてしまうから、気晴らしに。大丈夫よ。カルーも居るし」

 

 ビビは気分転換をしようと思ってるみたいだ。ふーむ。なるほど。

 

「――ッ!? ――――!!!?」

 

「この子は言葉が通じなくてもわかるくらいの驚きを見せてるね……。よし、私も行こう。君たちだけじゃ、どうも心配だ。構わないだろ?」

 

 私はルフィたちに同行することにした。多分、トラブルが起こるとしたらこっちだし……。

 

「おう! ビビもライアも来い来い!」

 

「んじゃ、ビビちゃんとライアちゃんに愛妻弁当を」

 

 サンジは私とビビの分の弁当、そしてカルーのドリンクを用意してくれて、出発の準備が完了だ。

 

 

「よし! 行くぞォ!」

 

「じゃあ、船は頼んだよ!」

 

 私たちはゴーイングメリー号から降りて冒険に出発した。

 

 

 

「これ、アンモナイトによく似てる……」

 

「うん、そしてあれは恐竜によく似てるね……。というか、そのものだねー」

 

 ビビがアンモナイトっぽい生き物を眺めている頃、私は巨大な生き物に目を奪われていた。

 

「うはァ! 恐竜!?」

 

 ルフィは恐竜を見て目を輝かせている。

 

「まさか、ここは太古の島!」

 

「なるほど、生命の進化から取り残された島というわけか。いやはや、グランドラインとはとことん常識外れだ」

 

 私は実物の恐竜やアンモナイトを見てつくづくと実感した。やはり実際見ると知っていても驚くものだ。

 

「ところでルフィさんは?」

 

「ああ、ルフィならあそこさ」

 

 ビビの言葉に反応して私はルフィの居る位置を指差す。

 

「すっげェ!」

 

「恐竜に飛びついてる!? ライアさん、止めないの?」

 

 恐竜の背中に当然のように乗っかってるルフィに驚愕しながらビビは私にそんなことを言う。

 

「うん。無駄なことってあまりしたくないからね。ルフィなら、大丈夫さ。ああ見えてしっかり――」

 

「たっ食べられてんじゃないのよー!」

 

 私の言葉が言い終わらないうちにルフィは恐竜にパクっと食べられてしまった。

 

 しかし、その刹那――。

 

「「――ッ!?」」

 

 ズバンと一閃――恐竜の首が胴体から切り離される……。

 そして、ルフィは大きな手の上に落ちていった。

 

「――ゲギャギャギャギャ! 活きの良い人間だな! 久しぶりの客人だ!」

 

 このリトルガーデンに住む二人の巨人族の一人。青鬼のドリーがルフィを助けてくれたのだ。

 

「うっは〜! でっけェなーっ! 人間か!?」

 

「巨人族だね……。なんて迫力だ」

 

「初めて見た……」

 

 私たちはその圧倒的な存在感に唖然としながら口々に感想を漏らした。

 

「ゲギャギャギャギャ! 我こそはエルバフ最強の戦士ドリーだ! ()()()()をうちに招待しよう!」

 

 そして、ドリーは機嫌良さそうに大笑いしながら、私たちをもてなすと言ってくれた。

 やっぱり、いい人そうだな。

 

「見つかってた」

 

「みたいだね。でも、悪い人じゃなさそうだよ」

 

 私たちは巨人族のドリーの住処へと案内されることとなった。

 さて、私はここから、どういう立ち振る舞いをすればよいか……。

 




ミス・オールサンデー、つまりロビンは今までと毛色を変えてみました。進行上の都合もありますけど、向こうから主導権を握って迫ってくる偶には良いかなと思いまして……。
リトルガーデン編はどう考えてもヌルゲーっぽくなりそうなので、何とか面白い展開に出来るように頑張ります!
あと、ライアはリトルガーデンのログが溜まるまで1年という設定を見事に忘れてます。こういうところが彼女の抜けてるところなんです。





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放たれた刺客たち

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!アドバイスも助かってます!ご期待に添えられないところもありますが、参考にさせてもらってます!
それではよろしくお願いします!


「だーはっはっはっ! こりゃうめェな! おっさん!」

 

「ゲギャギャギャギャ! おめェの海賊弁当とやらもなかなかいけるぜ! ちと足りねェがな」

 

 私たちはドリーから恐竜の肉をごちそうになっていた。

 ルフィと彼は既に意気投合して楽しそうに話している。

 

「めちゃめちゃ馴染んでる……」

 

「まぁ、気のいい人だし。気が合うんだろう」

 

 呆れ顔でその様子を見ているビビに私はそう語りかける。

 

「そういや、おっさんはなんでこんなところに一人で住んでるんだ? 村とかはねェの?」

 

「村ならある。エルバフという村だ――」

 

 ルフィの質問にドリーは答える。エルバフには掟があり、互いに引けない争いになると、二人はどちらかが死ぬまで決闘をする。

 ドリーはこの島でかれこれ100年決闘し続けていると話した。

 知ってはいたけど、スケールの大きな話だ。

 

 火山の噴火が決闘の合図――彼は立ち上がり本気の殺し合いに向かった……。

 

「100年もの間……、憎しみ合うなんて、争いの理由は一体――!?」

 

 ビビがそんなことを叫んだ瞬間に彼女の口はルフィの伸ばした手で塞がれる。

 

「やめろ、そんなんじゃねェ」

 

「そんなに長く戦うと引けないだろうね。誇り高い戦士ならなおさら――」

 

 ルフィの言葉に続けて私も頷く。

 

「ふっ、わかってるじゃねェか。姉ちゃん……。そう! 理由など、とうに忘れた!」

 

 ドリーはそう言って、武器を振るった。

 二人のそれも腕利きの巨人族の戦士たちの死闘は圧巻であった。

 

 

「ぷはァ……! まいった……。デっけェ!」

 

 ルフィはごろんと地面に仰向けになり、彼らの戦いにただ感嘆していた。

 

「まいったな……」

 

「ライアさんまで……」

 

 私も巨人族の素晴らしさに感動をしていた。

 

「あの人! 私のこと姉ちゃんって言ったんだ。エルバフの巨人族だからかな? それなら、いつか巨人族の村に行ってみたいなー!」

 

 ドリーは私をひと目で女だと見抜いた。普通の人間では最近はサンジしか気付いて貰えなかったのに。

 今のところ巨人族は100パーセントの正答率である。まぁ、巨人族の知り合いはドリーしかいないけど……。

 

「……ごめんなさい。あのとき、あんなに驚いて……」

 

「しみじみ言わないでくれ……。悲しくなるだろ……」

 

 ビビが心底申し訳ない顔をしたので、私は首を横に振ってこれ以上はこの話題を進めないように頼んだ。

 

 

 

 

 ドリーは戦いを終えたあとに、もう一人の巨人であるブロギーのところに行って、戻ってきた。

 どうやらナミとゾロとサンジは向こうにいるみたいだ。

 

 そして、私たちはドリーから衝撃の発言を聞く。この島のログが溜まるまでの期間はなんと1年……。

 えっ? そんなに長いの? 

 あれ? どうやってアラバスタ王国に行ったんだっけ?

 

 私の頭は真っ白になる。何とかどうやったか思い出さなきゃ。

 

 

「そんなに待てねェよ。なんかいい方法は無いか、おっさん」

 

永久指針(エターナルポース)なら1つある。ただし、行き先はエルバフだが。おれたちはそれを巡って今争っているわけだ。強引に奪ってみるか?」

 

 ん? この島の永久指針(エターナルポース)……!? あっ、そうだった。サンジがアンラッキーズからMr.3あてのアラバスタ王国への永久指針(エターナルポース)を奪ったんだった。

 

 でも、今回はサンジは単独行動してない……。ブロギーのところに行ってる。

 なんとか、私がMr.3の隠れ家を見つけて、クロコダイルからの連絡を受けないとならないな……。

 

 

「ライアさん? どうしたの? さっきから深刻そうな顔をして……。やっぱり、ログのことを考えてるの?」

 

 私が黙って考え込んでいると、ビビが私の顔を覗き込んできた。

 概ね当たっている。さらに、私はもう一つ思い出したことがあった。

 

「うん、そうだね。あと、もう一つ問題があってさ。ドリーさん、その樽の酒……、ちょっと私にくれないかな?」

 

 私はドリーの持っている酒樽を指さした。

 

「なんだ、姉ちゃんも一杯やりてェのかい? いいぞッ! 持ってけ!」

 

 彼はニヤリと笑って私が指さした樽を渡してくれた。こいつをとりあえず……。

 

「ありがとう。――じゃあ、この辺でいいかな? よっとッ!」

 

 私は渡された酒樽を少し離れた場所に置いて、銃でその樽を撃つ。

 

 すると轟音を響かせながら樽は大爆発を起こした。

 さすがの巨人もこんなのを飲んだらタダじゃ済まないだろうな。

 

「酒が爆発した!? こんなのを飲んだら今ごろ……」

 

 ビビが青ざめた顔をして、爆発している樽を見ていた。

 

「ほんのりと火薬のね……、ニオイがしたんだ……。普段から銃火器を扱うからその辺には敏感でね……」

 

 これは本当だ。微かにその香りがしなかったら、見逃していたかもしれない。

 

「どうなってんだ!? これはおれたちの船にあった酒だろ!?」

 

 ルフィもさすがに私達の船からドリーに渡った酒が爆発したという事態は看過できないみたいだ。

 

「まさか、相手の巨人がッ!?」

 

「お前、何見てたんだ!? 100年も戦ってきたヤツらがこんなくだらねェことするか!」

 

 ビビの発言にルフィが怒鳴って否定する。彼は相当腹を立ててるみたいだ。

 

「そうだ。ブロギーじゃない。おれたちは誇り高きエルバフの戦士……。だが、そっちの姉ちゃんは酒の爆薬について教えてくれた……。ならばお前らでもない……。どういうことだ?」

 

 ドリーはブロギーでも私たちでもないなら誰がこんなことをしたのか見当がつかないというような顔をしていた。

 

「簡単だよ。ドリーさん。この島には他に私たち以外の人が居るんだ。おそらく、私たちを追ってやって来た刺客だと思われるが……」

  

 私はようやくこの島にいる4つの気配を察知することが出来た。これがおそらくMr.3たちだろう。ならば、隠れ家もおそらく――。

 

「そんな! B・Wの刺客たちが? 何の目的でドリーさんたちを!?」

 

「ドリーさんを怒らせて、私たちを始末させようとしたとか、元々私たちに爆薬入りの酒を飲ませようとしたとか、色々と想像はできる」

 

 ビビの疑問に私は思いついた事を答える。あとは、巨兵海賊団の懸賞金とかそんな事情だったっけ?

 

「そんなことはどうでもいい! 二人の決闘を汚そうとしたヤツがこの島に居るんだろ!? 絶対に許せねェ」

 

 ルフィの眼光は完全に怒りによって鋭くなっていた。

 

「ルフィ……。うん、そうだね。元々は私たちがこの島に来たから起こったイザコザだ。始末は私たちがつけよう。黙っていたら、連中は次の手をさらに打ってくるだろうし……」

 

 私もルフィに同意して早めに彼らとの決着をつけようと言った。

 長引かせると面倒が増えそうだし……。

 

「ちょっと待って、だったら、もう一人の巨人やMr.ブシドーやサンジさんが爆薬入りの酒を飲む可能性もあるんじゃない?」

 

「何ッ!? ブロギーがッ! そんなことが――!?」

 

 ビビの言葉にドリーの顔色が変わった。そりゃ、決闘に影響が出るんだから当然か……。

 

「うん、その可能性もある。とにかく連中の場所はわかったから、みんなで合流して――。って、ルフィは!?」

 

 私は全員で合流してから、敵を叩こうと提案しようとした。

 しかし、いつの間にかルフィがこの場から消えていた。

 

「ルフィさん!」

 

「決闘を邪魔しようとしてる奴をぶっ飛ばす!」

 

 既にかなり遠くまで走って行ってるルフィは私たちの制止も聞かずにジャングルに入ってしまった。

 

「――まいったな。話をする順番を間違えたか。まぁ、ルフィなら大丈夫だと思うけど……。ビビは危険だから私から離れるなよ」

 

「はっ、はい」

 

 ビビは私がそう言うとピタリと密着するように寄り添う。思ったよりも不安なんだな。でも……。

 

「いや、そこまでくっつかなくてもいいよ……。大丈夫だから。――ん? 火山の音……」

 

 私が彼女にそう告げたとき、火山の爆発音が鳴った。

 

「ふっ、今日は景気がいいな。客人が多いからなのか……」

 

 ドリーは苦笑いしながら立ち上がった。どうやらさっきのことを気にしてるらしい。

 

「ドリーさん。決闘の最中も気を付けて……。悪魔の実の能力者が邪魔をする可能性もあるから」

 

「――ッ!? ゲギャギャギャギャ! こんなちっこいお嬢ちゃんに心配されるほど、エルバフの戦士は弱くねェ! おめェらは自分らの心配をすりゃ良いのさ!」

 

 私がドリーに忠告すると、彼はハッとした表情となり笑ってそれを受け流した。

 さすがに歴戦の戦士だけある。もう平常心を取り戻している。

 

 ドリーは雄大に歩みを進めて再び決闘に向かって行った。

 

「私たちはゾロたちと合流しよう。この決闘で奴らは作戦が失敗したことを知るだろう。連中が次の手を打つ前に、こちらから先手を打ちたい」

 

 私はブロギーの住処にいる仲間との合流をするために動き出した。

 

「わかったわ。でも、ルフィさんは……」

 

「もちろん、彼とも合流するさ。でも、動き回ってるルフィよりも居場所がわかってる方を先にしたほうが効率がいい」

 

 ビビの言葉に答えながら、私たちもジャングルの中へと足を踏み入れた。

 敵はもちろんだけど、猛獣とかにも気を付けなきゃ……。私なんかはルフィたちと違って簡単にパワー負けしそうだもんなぁ。

 

 

 辺りを警戒しながらしばらく歩くとビビが突然、声を上げる。

 

「あっ、ナミさん! あなたもこっちに歩いてきてたのね!」

 

 ビビの視線の先には木にもたれかかって腕を組んでいるナミが居た。

 いや、ナミの性格的に一人でここに居るのは無理があるでしょ。なによりアレは人の気配じゃない! それに――。

 

「――緋色の弾丸(フレアスマッシュ)ッ!」

 

 私はアレをめがけて炎の弾丸を撃ち出した。

 

「らっ、ライアさん! 仲間を撃つなんて! ――えっ! ナミさんが溶けてる……、いや、違う……、あれは人形?」

 

 ビビは一瞬だけ動揺していたが、すぐにアレが蝋人形だということに気が付いたみたいだ。

 

「まったく、姑息なマネをするじゃないか。B・Wのオフィーサーエージェントで悪魔の実の能力者なのに……、随分と臆病なんだね」

 

 私は近くにいる二人の気配の方向に話しかけた。

 

「――けっ! てめェらみたいな雑魚にこんな手はいらねェって言ったんだ。Mr.3の奴め!」

 

「キャハハハッ! 痛い目に遭いたくなければ大人しく捕まりなさい!」

 

 Mr.5とミス・バレンタインが私とビビの前に現れた。

 ミス・バレンタインは木の太い枝の上に立ってる。能力をうまく使うためか……。

 

 思ったよりも接近してくるスピードが速かった……。ブロギーの住処にはまだ距離がある……。

 悪魔の実の能力者を二人を相手にして私が勝てるか――。

 顔色には出さないようにしていたが、実は私は焦っていた……。

 

「ビビ、私の後ろに下がって。いざとなったらカルーを全速力で走らせて皆の所まで逃げろ」

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を右手に持って構え、彼女にそう指示を出す。

 

「そっ、そんな! 私はライアさんを見捨てて逃げるなんて出来ない!」

 

 ビビは私の左手をギュッと握りしめてそんなことを言ってきた。

 

 ――そのときである。ミス・バレンタインから殺気が放たれる。

 ウィスキーピークの敗戦がよほど屈辱だったのか……。とんでもない殺気だ。

 

「その殺気――安心したぜミス・バレンタイン。おれ一人でもこいつら如き楽勝だが、この前みたいなことがあっちゃ、この先――」

 

 Mr.5がセリフを言い終わる前にミス・バレンタインは私たちに向かって飛び出してきた。

 

「キャハッ! 絶対に許さない! 埋めてあげるわ! この一万キロプレスでッ!」

 

 彼女の狙いはビビみたいだ。しかし、その技はモーションが大きいから避けるのはわけない。

 

「おっと、おれの存在も忘れるなよ! (ノーズ)空想砲(ファンシーキャノン)ッ!」

 

 Mr.5も同時に攻撃を仕掛ける。大丈夫、どこに逃げればいいかくらいはわかる……。

 

「こっちだ!」

 

 私はビビに避ける方向を告げる。

 

「わかったわ! ――って、カルー逆よ!」

 

 彼女は頷いたが、カルーが逆方向に動いてしまい、ビビはカルーを追って行った。

 

 くっ、このままじゃ彼女がミス・バレンタインに押し潰されて――。

 

「あんたみたいな、いい子ちゃんが一番虫唾が走るのよ!」

 

「危ないッ!」

 

 私はウィスキーピークのときのように彼女を突き飛ばして、ミス・バレンタインの落下地点に入ってしまった。

 くっ――どうにか一撃くらい耐えてやる!

 

「ライアさん!」

 

 ビビの叫び声がした瞬間――ミス・バレンタインの攻撃が私の背中に再び突き刺さ――。

 

「――ッ!? あれ? また、ポスッとしたんだけど……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 風が木の葉を揺らす音がスッと耳に入るほどの静けさだった。

 Mr.5もビビもちょこんと小動物のように私の背中に腰掛けるミス・バレンタインを呆然と眺めていた。

 

「うぉいッ! ミス・バレンタイン! てめェ! 何考えてやがる! おれたちァ、もう後がねェんだぞ! この役立たずがッ!」

 

 Mr.5は怒り心頭でミス・バレンタインに苦言を呈する。

 

「うっ、うるさいわねッ! このワカメ頭! 人の気も知らないで!」

 

 それに対してミス・バレンタインは涙目になって彼に対して逆ギレした。

 

「ああンッ! てめェ! 今、なンつった!?」 

 

 Mr.5は彼女の思わぬ逆ギレに対してさらに怒り出した。

 

「無理なのッ! 悔しくてムカつくけど! こいつに攻撃出来ないのよ!」

 

 よくわからないことを喚くミス・バレンタイン。私に攻撃が出来ないって、どういうことだ?

 

「――ハッ! ミス・バレンタイン……、まさか、あなたも……!」

 

 ビビは何かを察したような顔をした。

 

「もういい! てめェも一緒に始末してやる! 知ってるよなァ! おれは息も爆弾に出来るんだ! そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)ッ!」

 

 Mr.5はリボルバー式の拳銃を取り出して、息を弾倉に吹き込もうとした。

 

「言い争う時間のおかげで私も随分と集中出来た。リボルバー式だと、手数は負けるが! 銃口は1つだろ! 必殺ッ――鉛星ッッ!」

 

 それを私が黙って見てるはずもなく、私は立ち上がり、彼が引き金を引く前に銃口目掛けて銃弾を撃ち出した。

 

「――なッ! バカなッ! ぐわァァァァッ!」

 

 Mr.5の拳銃の銃口に私の放った弾丸が入り込み、彼の拳銃が大爆発を起こして彼を飲み込む。

 ふぅ、何とかスキを突いて倒せたか。相手がこっちの土俵に上がってくれたおかげだな……。

 

 

「わっ、私を守ってくれた? キャハッ――」

 

 ミス・バレンタインは何を勘違いしたのか、私の腕にしがみつく。

 

「うわっ、ちょっと! 腕を離せッ!」

 

 私は驚いて、彼女の体を引き剥がそうとした。

 

「なッ――!? あなた! 敵のクセに何やってんの!? 離れなさいッ!」

 

 ビビは怒りの表情を浮かべながら彼女を私から引き離そうと腕を引っ張る。

 

 そして、ようやくミス・バレンタインが離れた、と思ったその瞬間である――。

 

「嘗めやがって! おれには爆発の類は効かねェんだよ! もうてめェだけは許さねェ! このおれの切り札! 全身起爆で木っ端微塵にしてやる!」

 

 完全にブチ切れた声色のMr.5が私をガッチリホールドして全身を爆発させると言い出した。

 冗談じゃない。私の体がそんなのに耐えられるわけがない!

 

「――くっ!? 振りほどけないッ――!?」

 

 私の身体能力では彼を振り払うことは出来ず、必死でもがいても無駄だった……。

 くそっ、こんなことなら――近距離戦も出来る上に、緋色の銃(フレアエンジェル)よりも格段に威力がある()()()をさっさと完成させておくんだった……。

 

「Mr.5がライアさんに――」

 

「抱きついてるッ!?」

 

 私が後悔をしていると……、ふと、背中からとんでもない殺気を感じた。

 

「「ぶっ殺してやるわッッッッ!!」」

 

「へっ? ――ぶはぁッッ!」

 

 ビビとミス・バレンタインが私にしがみついているMr.5を信じられないパワーでぶん殴り、吹き飛ばした。

 

 さらに、彼女らは吹き飛ばされた彼に向かって行き――。

 

孔雀(クジャッキー)ッ!」

「一万キロッ――!」

 

 各々の必殺技の構えを取る――。

 

「スラッシャーッッッ!」

「ギロチンッッッ!」

 

 そして、吹き飛ばされたMr.5が何とか起き上がろうとした、そのタイミングに――。

 彼女らの必殺技が炸裂した。

 

「――ヘブッ! がっハァッッ!!」

 

 これにはMr.5は耐えられず、口から、そして全身から血を吹き出して再び倒れてしまう。

 

「まだ、こんなもんじゃ終わらないわよ!」

 

「死ねッ! このワカメッ!」

 

 そして、彼女たちは倒れたMr.5をさらに蹴飛ばしていた。

 いや、そこまでしなくても良いんじゃないか? というか、ミス・バレンタインはなんで仲間割れをしているんだろう?

 

 私はこの異様な状況を呆然と眺めていた――。

 




Mr.5がライアをホールドした状態は、簡単に言えばサイバイマンがヤムチャに抱きついて自爆したあの状態。
それにビビとバレンタインがキレたわけです。リトルガーデンの最初の犠牲者は彼ということに……。
次回もよろしくお願いします!


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リトルガーデンでの戦い

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ライアに能力者の疑いがかけられていますが、こんな感じでこの先も進めようかと思ってます。
今回はミス・バレンタインがどうするかという話とか、Mr.3ペアとの戦いとかです。
それではよろしくお願いします!


 

 

「ええーっと、そろそろ良いんじゃないかな? 彼も意識を失ってることだし……」

 

 私は前にルフィにやられた以上にボロボロにされているMr.5が憐れになってきて、彼女らを止めた。

 

「そう? ライアさんがそう言うならやめるけど……」

 

「――まだ足りない気がするわ」

 

 ビビとミス・バレンタインはあれだけボコボコにしておいてまだ物足りないみたいだ。

 何が彼女らの逆鱗に触れたのだろう?

 

「ところで、君には助けられたけどさ。思いっきりB・Wを裏切った感じになってるけど大丈夫なの? というより、なんで敵の私を助けたりしたんだい?」

 

 私はミス・バレンタインが組織を裏切るという行為を行ったことに疑問を呈した。

 あんなことして、大丈夫なのかな? 理由もわからない……。

 

「――なんでって……。そっ、そんなの言えないわ! 裏切り? キャハッ……、あっ、あれ……? どうしよう……」

 

 ミス・バレンタインはようやくハッとした顔になり、そのあと真っ青になった。

 

「要するに何も考えてなかったんだね……。だけど、ありがとう。君のおかげで助かったよ。あっ、もちろんビビも……、ごめんね。私が守らなきゃいけない立場なのに……」

 

 私は助けてもらえたお礼を二人に言った。情けないが、彼女たちが居なければ危なかった。

 

「ぜっ、全然大したことないから! べっ、別にお礼が言われたくてやったわけじゃないし……」

 

「私もライアさんが穢されると思ったから、気付いたら体が勝手に……」

 

 なぜか二人とも焦ったような口調になって頬を赤く染めながらそう言った。

 照れてるのかな? よくわからないが……。

 

「でも、行くところはあるのかい? B・Wは裏切り者を許さないんだろ?」

 

 私はミス・バレンタインの身を案じた。助けてくれた彼女が危険に晒されるのは、どうにも寝覚めのいい話ではない。

 

「――ッ!? だから何なの? キャハハッ! でも、私は何一つ後悔してないわ! どうするかは今から考えるわよ!」

 

 彼女はムッとした顔で不機嫌な声を出した。

 しかし、ログが溜まるのにも一手間なこの島で取り残されるとなると、刺客から逃げることもままならないはずだ。

 

 だから――。

 

「私たちと一緒に来るかい? まぁ、B・Wに追われる立場は変わらないけど、一人よりはマシだと思うよ」

 

 私は彼女を船に誘った。とりあえず、安全が確保されるまでは共に旅をしたほうが何かと良いのかと思ったからだ……。

 

「はァ? 私はさっきまでそっちの王女様を殺そうとしてたのよ。そんなこと許されるはず……」

 

 ミス・バレンタインは馬鹿馬鹿しいと言うように肩をすくめてそう言った。

 

「でも、ライアさんを守ってくれた……。私は反対しないわ。ルフィさんたちが何と言うかわからないけど」

 

 ビビは自分の刺客だった彼女のことを拒まなかった。やはり器が大きい子だ……。

 

「うん、そうだったね。君さえ良ければ船長のルフィにも上手く口利きするよ。ミス・バレンタ――」

 

 私が彼女のことを呼ぼうとしたとき、ミス・バレンタインは口を開く。

 

「ミキータ……。それが私の本名よ――。キャハハッ、あなたたちはきっと後悔するわ。私は決して良い人じゃあないんだから」

 

 ミス・バレンタインは自分の本名を名乗った。へぇ、ミキータっていう名前だったんだこの人……。知らなかった……。

 

「そっか、それじゃあ。よろしく、ミキータ」

 

 私は笑顔を作ってミキータに手を差し出した。

 

「――ううっ……、あなたみたいな男はどんな女にもそういう態度なんでしょ? ずるいわ!」

 

 しかし、ミキータは顔を背けながら手を握ってはくれなかった。

 というか今更だけど、やっぱり、私のこと男だと思ってたんだ……。

 

「あっ! ミス・バレンタイン……。ライアさんは男じゃなくって女の子よ」

 

 ビビが私が言い難そうにしているのを察して代わりに私の性別をミキータに教えた。

 

「――キャハハハハッ! ミス・ウェンズデー! やっぱり私に殺されかけたことを根に持ってるってわけね! そんなバレバレの嘘を誰が信じるって言うのよ!」

 

 ミキータは大声で笑いながら私が女だということを信じてくれなかった。随分と頑なだな……。

 

「いや、ビビの言うとおり私は女だよ。ああ、気にしないでくれ。よく間違えられるから、慣れてるんだ」

 

 私は努めて冷静さを失わないようにして、彼女に自分の性別を伝える。やはり、少しだけ悲しい……。

 

「キャッ……ハッ……、まっマジ……?」

 

 ミキータはB・Wを裏切ったことを認識したとき以上に顔を青くした。

 

「えっと、そんなにギョッとした顔をしないでくれないか……?」

 

 あまりに彼女がショックを受けていたような表情をしていた。

 

「――だったら、本当に私ってバカみたいじゃない……!」

 

 吐き捨てるようにミキータはそう言った。

 私が女でそんなにショックなのか?

 

「あなたはバカじゃないわよ。ミス・バレンタイン……。私はそれでも構わないと思えたりしてる……」

 

 いや、ビビも大げさ過ぎるだろ! 何かに妥協してるような言い方だな。

 

「ミス・ウェンズデー、やっぱりあんたも……。まぁいいわ。とにかく、後から厄介者みたいに言わないでよ。忠告はしたんだから」

 

 ミキータはようやく落ち着きを取り戻してくれた。

 

「ああ、それは約束するさ。それじゃあ、一緒に付いてきてくれ」

 

 私は彼女の言葉に対して頷いて、付いてくるように促した。

 

 ゾロたちは大丈夫だろうか? まぁ、簡単に負けるはずがないと思うけど……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「お茶がうめェな」

 

「ああ、なんでだろうな。ゾロ……」

 

 ゾロとサンジが仲良く並んでお茶を飲んでいる。

 

「ちょっと、あんたたちッ! なにを呑気にお茶を飲んでるのッ! 今のうちに巨人から逃げるわよ! 早く逃げましょう……、ぐすッ……。なんで、こんなに悲しいのよ……」

 

 そして、それを見ながらひたすら泣いているナミ……。

 これはカラーズトラップとかいう能力のせいだな……。

 ちっ、ミス・ゴールデンウィークは戦闘をするタイプじゃないから、ゾロたちは油断して彼女の術中にハマったのか……。

 

「よくやったガネ! ミス・ゴールデンウィーク! 戦って厄介な者は戦意を削いでしまえば良いのだ! こうやって、拘束すれば、あとはどんなに強かろうが関係ないガネ!」

 

 そして、ちょうど彼らの元に私たちが着いたとき、Mr.3はゾロたちを蝋を使って拘束していた。

 

「お前がMr.3か! みんなを返してもらうぞ!」

 

 私は大声で彼にそう呼びかけた。正直、今の私では彼に勝てる気はしないが、何とかスキを見てゾロたちを助け出さなくては……。

 

「なっ!? 初対面でなぜ私がMr.3だと見抜いたのカネ!? これほどの切れ者がこの一味にいるとは思わなかったガネ!」

 

「いや、見ればモロバレだろ?」

 

 ガーンとショックを受けた顔をしているMr.3。これはボケているのだろうか?

 

「Mr.5とミス・バレンタインはしくじったのカネ? まったく、役にたたん奴らだ。まぁいい。お前らくらいなら正面からでも問題ないガネ」

 

 Mr.3はやれやれという表情で私と向かい合った。まったく、腹の立つ言い草だ。

 

「嘗めるなッ! 緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)ッ!」

 

 私は彼に狙いをつけて、炎の弾丸を撃ち出した。

 

「ほう、炎の弾丸とは面倒だガネ……」

 

「ライアさん! どこを狙って?」

 

 しかし、腕組みをしているMr.3とはまったく別の方向に私は弾丸を撃っていた。

 

「カラーズトラップ……、闘牛の赤……」

 

 ミス・ゴールデンウィークが赤色の絵の具を使って的を作り、暗示にかかった私はそちらを狙っていたのだ。

 絵の具は炎で消えたけど、また新しく描き足されている……。

 戦闘力はないけど、なんて能力だ……。

 

「フハハハッ! ミス・ゴールデンウィークの恐ろしさを理解したカネ!? キャンドルロック!」

 

「――ッ!? そう簡単には当たらないよ!」

 

 Mr.3は勝ち誇った顔をして蝋を投げつけて、私を拘束しようとしてきた。

 私は攻撃の軌道を読んで、それを躱す。

 

「なかなか素早い奴だ! しかし、いつまで逃げ切れるカネ!?」

 

 Mr.3は次から次へと私に向かって蝋を投げつけてきた。

 確かに捕まるのは時間の問題かも……。

 

「このっ!」

 

 私は何度か鉛の弾丸をMr.3に向かって撃つが、カラーズトラップは強力で全部闘牛の赤を狙ってしまっていた。

 暗示というのはすごいな……。しかし、もうすぐ――。

 

「どこを狙っているのカネ? そろそろ観念したらどうカネ?」

 

 Mr.3は機嫌の良い笑みを浮かべて挑発してくる。

 

「くっ……!? ビビ! 敵の狙いは君だッ! 君だけでも逃げてくれ! ルフィの元へ!」

 

 私がビビにそんな指示を出すと彼女は頷いてカルーを走らせて行った。

 

「私がそれを黙って見てると思うのカネ? キャンドルロック!」

 

 Mr.3は今度はカルーに向かって蝋を放つ。

 彼の足を封じるつもりのようだ。

 

緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)ッ!」

 

 私は炎の弾丸でそれを溶かして相殺した。

 

「――なッ!? ミス・ゴールデンウィーク!? カラーズトラップはどうしたのカネ?」

 

 Mr.3はようやく驚いた表情を見せた。そう、こっちにはもう一人仲間が居たのだ。

 

「キャハッ――! ミス・ゴールデンウィークなら、ここよ!」

 

 ミキータが闘牛の赤を消した上で、ミス・ゴールデンウィークを羽交い締めして捕まえていた。

 

「血迷ったのカネ? ミス・バレンタイン!? ちっ、裏切り者の粛清まで仕事をせにゃならなくなったガネ! まぁいい! まずはお前を殺るガネ! キャンドルチャンピオン!」

 

 Mr.3は怒りを顕にしながら、蝋で自らの体を覆う鎧を形成した。

 

「あれは、かつて4200万ベリーの賞金首を倒したという――Mr.3の最高の美術!」

 

 ミキータはキャンドルチャンピオンを知っているみたいで、汗を額から流しながら焦りの表情を浮かべる。

 

「フハハハッ! 多少動きが素早いくらいじゃどうしようもないガネ! どうした? もう、炎は使わないのカネ? もしかして……弾切れなのカネ?」

 

「ご明察――もうあの弾丸は一発も残ってないんだ」

 

 私が炎の弾丸を使わなくなったことを直ぐに察知した彼はニヤリと笑った。

 特殊な弾丸は量産が難しいからちょっとずつしか補充が出来ない。

 最近はこれから必須になる()()()()ばかり作っていたし……。

 

「そりゃあ不運だガネ! やはり、勝負というのは切り札を最後までとっておいた者が勝つのだ! チャンプファイトッ! 『おらが畑』!」

 

「――ぐはぁッ!」

 

 Mr.3の強力かつ素早い連撃が私を捉えて、私は吹き飛ばされてしまう。

 全身に針が刺さったみたいに痛い……。

 

「さすがに疲れてたのカネ? こちらの動きが読めても避けられなかったら意味がないガネ!」

 

 彼は勝ちを確信したような表情でよろよろと立ち上がった私を見ていた。

 

 しかし、そのときだ――。

 

「ライアさん! 準備が終わったわ!」

 

 ビビが私に向かって大声で叫んだ。

 

「フハハハッ! まだ逃げてなかったのカネ!? 今さら何をしようと無駄だ!」

 

 Mr.3はそんなビビを一瞥もせずに私を攻撃しようとしてきた。

 

「ビビッ! 何度もすまない……! 必殺ッッ――火炎星ッッッ!!」

 

 私はとっておいた最後の炎の弾丸をゾロたちに向けて放った。

 

「――ッ!? しまったッ! 蝋と絵の具が消えて――!? おっお前、弾切れだとさっき……」

 

 Mr.3が驚愕した表情で私を見る。

 ビビには予め、ブロギーに渡した酒をまんべんなく彼らを拘束している蝋に塗りたくるように指示を出していたのだ。

 

「うん。嘘つきなんだ。私は……。それに――切り札を最後までとっておいた方が勝つんだろ?」

 

 私が本当に弾切れを起こしたのならそれを正直に話すわけないじゃないか。

 

「くッ!? フハハハッ! だが弱小海賊団の雑兵ごとき私一人でも十分倒せるガネ」

 

 しかし、本気なのか虚勢なのかわからないが、彼はやる気に満ちた表情に戻ると、シャドーボクシングのような動作をしながらそんなことを言い出した。

 

「ほう、クソメガネ、言うじゃねェか。てめェ、ライアちゃんを殴ってタダで済むと思ってるのか?」

 

「どけ、アホコック! こいつはおれの獲物だ!」

 

 そこにストレスが溜まって苛ついた表情のコックと剣士がやってきた。

 すべてを貫くような凶暴な殺気と共に――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「鬼――斬りッッ!」

 

羊肉(ムートン)ショットッ!」

 

 ゾロとサンジの必殺技が決まってMr.3は倒される。

 

 キャンドルチャンピオンは強いと思ったんだけど、サンジは私の戦いを見ていて、酒をMr.3にかけたかと思うと、タバコを投げつけてあっさり溶かしてしまった。

 

 生身の彼がゾロとサンジを同時に相手をして敵うわけがなく……。

 Mr.3は文字通り瞬殺されてしまった。

 

 まぁ、ちょうどドリーとブロギーの戦いも終わったみたいだから、こっちに彼が戻ってきたら更に詰んでいたと思うけど……。

 

 さて、あとはMr.0……、つまりクロコダイルからの連絡をMr.3の隠れ家で受けるだけだ……。

 

「ミキータ! 君に頼みがある!」

 

「ひゃいっ! わっ、私に頼み? 何かしら?」

 

 私はミキータにMr.3の隠れ家の場所を聞こうとした。

 

「ちょっと、待って。そういえば、この人って敵じゃなかった? なんで、味方みたいなことをしてたの?」

 

 ナミがごもっともな疑問を口にするが、今は答える時間がない。

 どのタイミングでクロコダイルが連絡を取るのかわからないから、なるべく早く隠れ家にたどり着きたいのだ。

 

「ミキータ、とにかく、こっちに来て」

 

「あっ……、手を……、キャハッ……」

 

 私は彼女の手を握って走り出した。ミキータは疲れているのか、俯いて顔を赤くしていた。

 

 

「Mr.3が拠点にしていた場所? なんで、あんたが隠れ家のこと知ってるの?」

 

「あっ、ああ。隠れ家かどうかはわからないが、私がMr.0なら必ずビビたちを仕留めたかどうか直ぐに確かめると思うんだ。だけど、Mr.3は電伝虫を持ってなかったからね。連絡を受ける拠点みたいな場所があると読んだわけさ」

 

 漫画で読んだから知っていると、言える訳もなく、私は思いつきをベラベラと話した。

 

「キャハハッ、よく見てるのね……。もう少し先に彼がドルドルの実の能力で作ったキャンドルハウスがあるわ。こっちよ……」

 

 ミキータは納得したという表情で、私をキャンドルハウスまで案内してくれた。

 

 よし、あとはクロコダイルからの連絡を受けるだけだな……。私はキャンドルハウスのドアを開けた。

 

 あれ――? なんか話し声が聞こえるぞ……。

 

 

『おれが指令を出してから随分と日が経つぞ、どうなってやがるMr.3!?』

 

「おれはMr.3じゃねェ!」

 

『何ッ! 貴様ッ! 誰だッ!』

 

「おれはルフィ! 海賊王になる男だッ!」

 

 電伝虫に向かって大声で叫ぶルフィ……。

 私の頭の中は真っ白になった――。




Mr.3とルフィが戦わなかったので、インペルダウン編でこの辺りの影響はありそうですね。この辺もしっかり練ってストーリーに組み込みたいです。

ミス・ゴールデンウィークとライアを絡ませるの忘れてたので、次回に回します!


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運び屋ミキータ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!応援のおかげで頑張って書くことが出来ております!
今回でリトルガーデンのお話は終わりです。ミキータ加入でどうなるのか? それではよろしくお願いします!


 

 

『ルフィ? そうか、てめェが麦わらか……。Mr.3はどうしたッ!? てめェが殺ったのか!?』

 

 クロコダイルは状況を判断して、ルフィがMr.3を倒して電伝虫を奪ったと解釈してるみたいだ。

 

「――みすたー、もごぉっ! もごもご……」

 

 これ以上、ルフィを喋らせるわけにはいかないので私は必死でルフィの口を押さえる。

 ここから何とか誤魔化さなきゃ……。

 

「失礼しました。ボス……。麦わらのルフィを今、始末しました。逃げ足が速いやつでして、多少手間取りましたが任務はこれで完了です」

 

 私はちょうど今、ルフィを倒したとクロコダイルに報告をした。

 これで彼が納得してくれればいいけど……。

 

『てめェ……! おれを嘗めてるのか!? この流れでてめェをMr.3だと信じるバカがどこにいる?』

 

 やはりやらかした後にすんなり私の言うことを信じるほど、クロコダイルは甘い相手では無かったか……。

 どうしよう……。すごい怒ってるし……。

 

「なるほど、私を偽物だと疑っているわけですね。ボス……」

 

 私は努めて冷静に淡々と事務的な口調で彼と会話をする。

 相手にこっちの動揺を悟らせてはならない。

 

『疑っているんじゃねェ! 確信してるんだ、偽物野郎! このタイミングで都合よく麦わらを殺っただと? 誰がそれを信じる!?』

 

 クロコダイルは私を偽物だと決めつけているみたいだ。まぁ、当たってるんだけど……。

 

「ボス! 私も見てました。Mr.3が麦わらを殺るところを――!」

 

 私が次の言葉を探していると、突然、ミキータが口を開いた。

 どうするつもりだ?

 

『誰だてめェは! 女か!?』

 

 クロコダイルはミキータに対して怒鳴った。

 

「私はミス・バレンタイン。それとも、運び屋ミキータと名乗ったほうがよろしいでしょうか? 麦わらの一味は私の本名を知らないので騙ることは出来ないはずです」

 

 ミキータは自分の本名を名乗り、クロコダイルに信用してもらおうと考えているみたいだ。

 そうか、彼はミキータがこっち側についたことを知らないから、それを利用しようとしているのか……。

 

『――ほう、なるほど。いや、疑って悪かった。Mr.3……。計画も最終段階でな。こっちも慎重になっているんだ』

 

 ミキータのファインプレーでようやくクロコダイルの信頼を勝ち取ることができた。

 

「いえ、理想郷を作るというボスの計画を思えば当然です。任務遂行が遅れていたのは事実ですから、私に落ち度がありました」

 

 私は思ってもないことをペラペラと話す。こういうのは嘘つきの土俵だ。

 

『クハハッ! 殊勝な態度を見せるじゃないか。Mr.3……。ともあれ、任務遂行ご苦労だった。今、アンラッキーズをそちらに向かわせている。ある届け物をもって、任務完了の確認をしにな』

 

 クロコダイルは完全に私を信じてくれたようで本題を切り出してきた。

 

「届け物……、ですか?」

 

『アラバスタ王国への永久指針(エターナルポース)だ……。これから、最も重要な作戦を実行する……。詳細はアラバスタに着いてからの指示を待て……』

 

 私がクロコダイルの言葉を復唱すると、彼は私の目的である永久指針(エターナルポース)の話を振ってきた。

 よし、これでほとんど作戦は上手くいったようなものだ。

 

 ちょうどこっちに向かって来てるアンラッキーズ――今回は手加減しないよ。

 私はまずはラッコを睡眠弾で撃ち落とした。

 

「承知しました。アラバスタ王国にまっすぐ向かえばよろしいんですね?」

 

 そして、クロコダイルに話しかけるのと同時にハゲタカを撃ち落とす。

 

「――なんて、早撃ち……」

 

 ミキータはゴクリと生唾を飲みこんで、私の射撃に対する感想を漏らした。

 

『そのとおりだ。なお、電波を使った連絡はこれっきりだ。海軍が嗅ぎ付けても厄介だからな。以後の連絡はこれまでどおり指令状によって行う。――以上だ。幸運を……Mr.3』

 

「ええ、お任せください……」

 

 私はクロコダイルの話にうやうやしく返事をすると、彼は通信を切った。

 

「ふぅ……、何とか誤魔化せたな……。君のおかげだよ、ミキータ……」

 

 私はミキータにお礼を言った。彼女の機転がなければ危なかった。

 

「キャハッ……、そんなことより、あんたらの船長……、長いこと息してないみたいだけど大丈夫なの?」

 

「あっ!?」

 

 ミキータの言葉で私がルフィの鼻と口を押さえっぱなしだということを思い出した。

 

「――ぷはぁっ……。ぜぇ、ぜぇ……。ライアー! 死んじまうとこだったぞ!」

 

 ルフィは顔を青くして私に苦情を言ってきた。

 

「ごめんごめん……。てか、君の力なら簡単に振りほどけたのでは?」

 

 私はルフィが力づくで抜け出さなかったことに疑問を呈した。

 

「ノリだ!」

 

「ああ、ノリか……。――って、ノリで君は死にかけてたのかい?」

 

 堂々とノリだと宣言するルフィ。いや、そこは命に関わるからノリで済まさないでほしい。

 

「あんたら、運がいいのね。追手が来なくなるだけじゃなくって、都合良くアラバスタへの永久指針(エターナルポース)を手に入れるなんて……」

 

 ミキータは当然、私が永久指針(エターナルポース)目当てだということは知らない。

 クロコダイルが追手を差し向けることを避けるためだと解釈している。

 

「ん? 傘のヤツじゃねェか。なんでここに居るんだ?」

 

 ルフィはようやくミキータに気が付き彼女に話しかけた。

 

「ああ、彼女はミキータ。私の命を助けてくれた恩人なんだ。行くところがないから、一緒に船に乗せたいんだけどさ……」

 

 私はルフィに彼女を紹介した。私の命を救ってくれたことを付け加えて……。

 

「そっか。いいぞ! よろしくな! ミキータ!」

 

 思った以上にあっさりルフィは了承してくれた。反対はしないとは思ったけど……。

 

「キャハッ……!? 軽っ! あんたらのところの船長(キャプテン)軽くない!? もっと、じっくり舐め回すように疑いなさいよ!」

 

 ミキータはあまりにも軽いルフィの態度が逆に不安だったらしく、彼にもっと疑えと言っていた。気持ちはわかるけど……。

 

「別にいいじゃないか。許可してもらったんだから……。これから一緒に旅するんだ。改めてよろしく」

 

 私はもう一度、彼女に対して手を差し出した。

 

「いっ、一緒に……。そっそりゃ、そうよね。えっと、うん」

 

 ミキータは照れくさそうに目を背けながら、右手で頬を掻きながら、左手で私の手を握ってくれた。

 

「ところで、ライア! 巨人のオッサンたちの決闘を邪魔した奴らは見つけたのか?」

 

「ああ、それならゾロとサンジがやっつけちゃったよ。ドリーもブロギーも何事もなく決闘してたし、問題なさそうだ。ラッキーなことに永久指針(エターナルポース)が手に入ったし、みんなの所に行こう」

 

 私はルフィの質問に答えて、彼にみんなの元に戻るように促した。

 ふぅ……、今日は精神をすり減らしたからなのか、Mr.3との戦いのときからやたらと体がダルいな……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「「ああ〜、お茶がうめェ〜!」」

 

 戻ってみたら、ドリーとブロギーが揃ってお茶を飲んで和んでいた。

 

「何これ、どういう状況……?」

 

 私はビビにそう尋ねた。意味がわからない。どうしてこうなった?

 

「ああ、ミス・ゴールデンウィークが出したお茶が美味しかったって、この二人が……」

 

 ビビが彼らが和んでいる理由を話す。ミス・ゴールデンウィークが? どうしてまた……。

 

「チビ人間は器用なもんだな」

 

「こいつらをふん縛ってれば大丈夫だろ。おれは女を縛る趣味はねェ」

 

 感心するような口調のドリーと、縛られたMr.5とMr.3を指さすサンジ。

 まぁ、彼女には戦闘力はないけれど……。

 

 

「ビビから聞いたんだけど、あなた正気なの? 敵だった女を一緒の船に乗せたいなんて」

 

 ナミが私の姿を確認すると、ミキータを乗せることについて渋い表情をした。

 確かに彼女の主張が正論だよね。

 

「うん。いろいろと助けて貰ったし」

 

「助けられたねぇ。それだったら、ここに1年も居なきゃいけないって状況も助けてほしいものね」

 

 ナミは私の言葉に対してそう返す。やはり、ログが溜まるまで1年という話がかなり効いているみたいだ。

 

「それも含めてさ。ミキータのおかげでほら、アラバスタ王国への永久指針(エターナルポース)も手に入った」

 

 私はミキータの機転のおかげで手に入った永久指針(エターナルポース)をポケットから取り出した。

 

「えっ! そっ、その永久指針(エターナルポース)って本当にアラバスタ王国まで続いてるの!? これをミス・バレンタインが!?」

 

 永久指針(エターナルポース)を取り出すと、ナミよりもビビが食い付いてきた。

 

「うん。彼女が上手く、Mr.0を騙してね。何とか私たちはここを脱出出来そうだよ」

 

 私はミキータの功績を彼女に話した。

 

「キャハッ……、別に私は大したこと――」

 

「ミス・バレンタイン! ありがとう! あなたのおかげで私は国を助けられる!」

 

 私の言葉を聞いて、ミキータは両手を振って謙遜しようとしたが、ビビは彼女を力いっぱい抱き締めて大きな声でお礼を言い出した。

 

「ミス・ウェンズデー……。ちょっと、離れてくれる? もう、わかったから離しなさいよ!」

 

 ミキータは顔を真っ赤にしながら、ビビを引き剥がそうとした。

 ビビは国の情勢がかかっているから本当にありがたかったんだろうな。

 

「ほう、裏切り者って聞いたからどんな奴かと思ったが、やるもんだ。言っとくがおれは信用してねェからな」

 

「普通そうよね〜。まともな奴がいて安心したわ」

 

 そして、そんな様子を眺めていたゾロは彼女に忠告するが、彼女はそれをどこ吹く風だと言わんばかりに受け流した。

 

「ああ、今日ほどこの船に乗って良かったと思える日はない! ミキータちゃん……、君はなんて可憐で美しいんだ!」

 

 さらに可愛い女性が船に乗るという出来事にハイテンションになっているサンジがクルクル回りながらやってきて盛り上がっていた。

 

「キャハハッ、よく言われるわ。あんたは扱いやすそうね……」

 

「どうぞ、何なりと扱ってください。おれは恋の下僕になる決意が今できた!」

 

 ミキータのそんなひと言にもサンジはニコニコしながらきれいなお辞儀をする。こういう所は絶対にブレないよなー。

 

「はい。サンジくん、黙っててね。まっ、永久指針(エターナルポース)のことはお礼を言っとくわ」

 

 ナミも最後にこの窮地を脱することが出来る事に対して彼女にお礼を言っていた。

 

 

 

「はぁ、どうやらみんなそれなりに彼女を認めてくれたみたいだ」

 

「ちょっと、あなた。私たちの負けでいいからMr.3たちを解放してくれない?」

 

 私がミキータが問題なく船に乗れそうなことを確認していると、ミス・ゴールデンウィークが話しかけてきた。

 

「君はミス・ゴールデンウィークか。仮に解放したとして、永久指針(エターナルポース)も無しに、どうするつもりなんだい?」

 

「決まってるわ。何とかこの島を出てB・Wのために戦うの」

 

 私の言葉に対してミス・ゴールデンウィークは混じり気のない瞳でまっすぐ私を見据えながらそう答えた。

 

 そこからは一切の邪気を感じられず、ただひたすら純粋な気持ちに溢れていた。

 

「はははっ、君は正直だし仲間想いなんだね。でも、それなら簡単に解放はできないよ……」

 

 私は彼女の受け答えに対してそう言った。それにしても、なぜ彼女はB・Wに所属してるのだろう。

 

「………これあげる」

 

「あっ、ありがとう」

 

 ミス・ゴールデンウィークは唐突にせんべいを私に渡してきた。ん? これはどういう?

 

「また、アラバスタ王国で会いましょう。カラーズトラップ……友達の黄緑……!」

 

 ミス・ゴールデンウィークがそう言葉を言い放つと、プテラノドンが飛んできて彼女を背中に乗せる。

 

「へっ!? いつの間にプテラノドンにッ! カラーズトラップを!?」

 

「うっひゃあッ! すっげェな!」

 

 私は呆気にとられ、ルフィは目を輝かせてその様子を見ていたら、彼女は素早く縛られているMr.5とMr.3を回収して空へと舞い上がって行った。

 

「感心してる場合か! あいつ、仲間を連れて逃げちゃったじゃない!」

 

「ほう、チビ人間が恐竜を従えるとは……」

 

 ナミはプテラノドンを指さし、ドリーは感心したような声を出した。

 

「くっ、逃がすか……。必殺ッ――あれっ?」

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を構えたが、手から力が抜けて銃を地面に落っことしてしまう。

 

「ライアちゃん、大丈夫かい? 拳銃を落とすなんてらしくないな」

 

「ごっ、ごめん。手が滑ったみたいだ……」

 

 サンジがいち早くそれに気づいて、私を気遣うような言葉をかけてくれる。やはり、疲れが溜まってるみたいだ。

 

「まずい……。ミス・ゴールデンウィークがMr.5とMr.3を連れて行っちゃったわ。グズグズしてると、社長(ボス)に気付かれるわね」

 

「出航を急ぎましょう。せっかく永久指針(エターナルポース)も手に入ったことだし……」

 

 ミキータとビビが顔を見合わせて深刻そうに話し合っていた。

 そうだな。急いだほうが確かに良さそうだ。

 

「ふむ、客人は旅立つか。ならば、うまい酒とうまい飯の恩を我らも返すとしよう」

 

「ゲギャギャギャギャ! そうだな、ブロギー。久方ぶりに見た面白い連中だ。死なせるのは惜しい」

 

 そして、私たちの会話を聞いていた二人の巨人がニヤリと笑って立ち上がった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「――覇国ッッッッッ!!」

 

 島食い――育ち過ぎた金魚なのだそうだ。その大陸と見紛うほどの巨大な金魚に飲み込まれたメリー号……。

 しかし我々は二人の巨人のアドバイスどおり“まっすぐ”に進み続けた。

 

 するとどうだろう。ドリーとブロギーによるエルバフに伝わる巨人族の奥義が炸裂し、島食いは海ごと抉られて、ゴーイングメリー号は再び青天の下へと還ってきたのである。

 

 ともあれ、私たちはこのリトルガーデンを脱出することに成功したのだ――!

 

「すっげェ! でっけェな! 巨人っていうのは!」

 

「ああ、いつか見てみたいものだね。エルバフという巨人族の村も」

 

「よし、行こう! エルバフ、エルバフ! 巨人族の村へ!」

 

 ルフィは二人の巨人のスケールの大きさに感動してリトルガーデンをずっと眺めていた。

 

 さて、漫画だとこのあとナミが原因不明の高熱にうなされることになり、進路を急遽変更して元ドラム王国があった場所へと向かった。

 

 そこで、次の仲間であるチョッパーと出会うことになるはずなのだが……。

 

「どうしたの? ライア。人の顔をジロジロ見て」

 

 ナミが不思議そうな顔をして私を見ていた。おそらく私が彼女をガン見していたからだろう。

 

「いや、今日も可愛い顔してるなって思っただけだよ」

 

「ばっ、バカっ! サンジくんみたいなこと言わないでよ!」

 

 私が誤魔化そうとそう言うと、ナミの顔がみるみる赤くなり彼女は怒り出した。

 今のって、サンジっぽいかな?

 

「お呼びですか〜。ナミさん! 暑いですからね。冷たい飲み物なんていかがです?」

 

「じゃあ、お願い。サンジくん」

 

 自分の名前が呼ばれたのを聞いて、サンジは超特急でナミの元に駆けつける。

 そして、直ぐに気遣い……、これはなかなか出来ることじゃない。

 

「かしこまりましたー! おら、どけクソ剣士! おれァ急いでるんだ。そんなところで暑苦しいマネしてたら、レディたちが余計に暑がるだろうが!」

 

「知るかよ、ンなこと!」

 

 ルンルン気分でキッチンに向かうサンジの道を塞ぐようにして鍛錬をするゾロに彼は悪態をつく。

 ゾロは鉄の硬度のキャンドルチャンピオンが斬れなかったことが気に障ったらしく、鉄を斬れるようになるために修行してるのだそうだ。

 

 まぁ、そうしてくれないとスパスパの実の能力者であるMr.1には勝てないし……。

 

 

 

「キャハハッ、緊張感の欠片もない船ね〜」

 

 ミキータはそんな彼らを見てせせら笑っていた。

 

「でも、確実にアラバスタ王国に向かってる。これで、私は生きてアラバスタに帰れる」

 

 ビビはそれを聞いていたが、アラバスタ王国に進路をとっていることに有り難さを感じており、引き締まった表情をしていた。

 

「あんたは、もちっと、楽にしたらいいんじゃない? キャハハッ、どうせ緊張してようが戦闘じゃ大した戦力にならないんだから。リラックスして、逃げ足だけはいつでも早くしときなさい」

 

「ミス・バレンタイン……」

 

 そんなビビにミキータは明るく力を抜くようにアドバイスしていた。

 割と仲間になると義理堅いところもあるのか、それとも命を狙っていた負い目なのかわからないが……。彼女なりにビビを気遣っているのだろう。

 

「へぇ、あんたが誑し込んだ彼女、意外とまともなこと言ってるじゃない」

 

「だから、誑し込んでないって。それよりナミ、体調とか悪くないか?」

 

 私はナミに向かって率直に体調について尋ねた。

 そろそろ熱が出なきゃおかしいんだけど……。

 

「はぁ? 体調? 別になんとも無いわよ。どうしたの急に」

 

「本当かい? ビビに気を遣って黙ってるんじゃ……」

 

 なんともないという、ナミの言葉を疑って、私は彼女の額に自分の額をくっつけた。

 

「んっ……、何? 急に――。――って、ライア! あなた、ひどい熱よ!」

 

「えっ? あっ……!?」

 

 ナミの額は氷のようにひんやりしてた。彼女って低体温だっけ……? えっ? 私の熱がすごいって……、それじゃあまるで私が……。

 

 気付いたら、私はそのまま倒れてしまっていた――。

 まさか、ナミじゃなくて、私が発病した――?

 




リトルガーデンを脱出させようと思ったら、いつの間にか7000字近くなってしまってました。

ミキータの機転でエターナルポースを手に入れたのは良かったのですが、ミス・ゴールデンウィークがいち早く仲間を連れてリトルガーデンを脱出。
彼女らはアラバスタでも再登場させます。
ミス・ゴールデンウィークって、B・Wになんで居るのかわからない感じのキャラクターですよね。懸賞金もMr.3より高いし……。

そして、ケスチアを発症したのはナミではなくライア……。
感想欄で予測されちゃったみたいですが、こんな感じで元ドラム王国に向かうことになりそうです。


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医者を求めて

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ミキータの加入が割と好意的でしたので、安心しました。
今回は文字通り元ドラム王国を目指す話です。
それではよろしくお願いします!


「いや、まいったね。ちょっと、体がダルいなー、とは思ってたんだけど……。まさか、このタイミングで私が……」

 

 私はナミが感染するはずだった病気に自分が感染してしまったことに驚いていた。ベッドに寝かされながら……。

 まぁ、彼女が苦しむよりはいいと思ったけど……。

 

「黙ってなさい。熱が40度もあるじゃない。ちょっと体がダルいなんてものじゃないわよ。何かの感染症かもしれない」

 

 ナミが真顔で低い声で私に注意する。ここは素直に言うことを聞こう。

 

「40度? それって辛ェのか?」

 

「ルフィさん、辛いなんてものじゃないわ。さっきまで立っていたのが不思議なくらいよ」

 

 ルフィの疑問にビビが答える。そういえば、彼は病気になったことないんだったな。

 私も40度の熱は出したことないけど……。

 

「ナミ゛ざん! ライ゛ア゛ぢゃん()んぢゃうのがな゛ァ!?」

 

 サンジは思ったよりも私の体が悪いということを知って、涙ながらに私を心配してくれた。

 すごく嬉しい。サンジって優しくていい人だよなー。

 

「ええいっ、縁起でもないことを言うな! でも、原因がわからなきゃ治療も出来ない……! 私のにわか仕込の医学の知識じゃ、この症状の()()まではとても……」

 

 ナミは狼狽するサンジを諌めながらも、私の症状から治療法を診断出来ないと嘆いていた。

 

「肉食ってたら、病気なんて治るだろ!」

 

「キャハッ……、何言ってんのよ。そんなので治ってたら世の中には医者はいらないじゃない。ていうか、この船に船医は居ないの?」

 

 ルフィの謎理論にミキータが呆れ顔でツッコミを入れ、船医は居ないのかと尋ねる。

 

「あのね、あの修行バカが医者に見える?」

 

「質問した私が悪かったわ。どーすんのよ? こいつ、本当にヤバい病気かもしれないわよ」

 

 ナミはそんな彼女の問いに悲しそうな顔をして答えると、ミキータは素直に謝った。

 いや、そうなんだけど、ゾロのことをディスってない?

 

「ミス・バレンタイン、脅かさないで……。でも確かに偉大なる航路(グランドライン)では屈強な海賊でも原因不明の病で突然死亡するなんてことも――」

 

 それを聞いてビビも顔が青ざめて、首を横に振る。

 だんだん私まで怖くなってきたぞ……。

 

「おいおい、怖いじゃないか。大丈夫だよ、このくらい……」

 

 だから、私はベッドから身を起こしてビビに声をかけた。

 

「「「ダメよ! 寝てなきゃ!」」」

 

 すると、ビビとナミとミキータが凄い剣幕で私に怒鳴る。

 

「えっ、あっ、はい……」

 

 私は3人の迫力に負けて布団に潜った。あれ? この人たちこんなに息が合ってたっけ?

 

「とにかく、早く医者に見せなきゃ」

 

 ナミは焦った表情で私の顔を見ていた。あんなに普段は私と目を合わせようとしないのに……。

 

「ビビちゃん、アラバスタにはどれくらいで着くんだ? 当然、大きな国だし医者は居るんだろ?」

 

「わからない……。でも、確実に一週間以上はかかるわ」

 

 そして、それに合わせてサンジがビビに質問をする。ビビも焦りの表情を浮かべながらアラバスタに着くまでの日数はかなりかかる事を伝えた。

 

「じゃっ! もっと近くの医者を探すぞ!」

 

「そうね。このままじゃライアさんが……」

 

 そして、ルフィは近くを探そうと意見を出して、ビビもそれに同調しかけていた。でも――。

 

「ちょっと待つんだ。ナミ、あの新聞記事をビビに見せてやってくれ」

 

「――ッ!? あなた、そんなことをしたらビビが……」

 

 私はナミにアラバスタの記事が書かれている3日前の新聞を彼女に見せるように頼んだ。しかし、ナミはそれを良しとしないような顔をした。

 

「だとしても、だ。私を思いやる気持ちは嬉しいけど……。こうなったら、知らせないわけにはいかないだろ?」

 

 しかし、私がもう一度彼女に頼むとナミは気が進まないという表情をしながらもビビに新聞記事を読ませた。

 

 

 

「そっそんな……、革命軍の数がいつの間にか国王軍を上回っていたなんて……。このままじゃ、100万人が無意味に殺し合いをしてしまうことに……」

 

 アラバスタ王国は王国軍の多くが革命軍に寝返って、反乱の鎮圧が難しくなっているという状況になっていた。

 これは下手をしたら一気に国が落ちる状況だ。

 

「私だって命は惜しい。生きて帰る約束もしてるからね。でも、君の国でも大きな数の命のやり取りが行われそうになっているんだ。だから――」

 

 私は本音ではカヤとの約束もやりたい事もあるので助かりたかった。しかし、この事実を内緒にすることは不義理だと感じてしまい、できなかった。

 

 ビビには悩ませることになる。私はそう思っていたのだが、しかし、彼女の決断は一瞬だった。

 

「でも、私には……、ライアさんが必要なの……! 国を救うために……、絶対に力を貸してほしいと思ってる! だからッ! 医者を探しましょう! 一刻も早くライアさんに体を治してもらって、それからアラバスタ王国へ!」

 

 ビビは躊躇わずに自分の国を救うのに私が必要だと言ってくれた。

 だから、私の治療を先にしようとも……。彼女の思いやりは私の胸にとても響いた。

 

「にしし、当たり前だ! ライアはウチの狙撃手なんだ! 死ぬのはおれが嫌だ!」

 

 ルフィは笑顔で彼女の意見を支持した。

 

「ビビちゃん! おれァ惚れ直したぜ!」

 

「キャハッ……! コイツを見捨てるとか言ったら私があんたを埋めるとこだったわ」

 

「あんたもお人好しよね。でも、ありがとう。このバカに早く元気になって貰いましょう。キザなセリフが聞けないのも寂しいしね」

 

 それに合わせてサンジとミキータとナミも私の治療を先回しにすることを喜んでくれた。

 みんな、いい人たちだ……。まったく、こんな私のために……。

 

「基本的な病人食は任せとけ! しかし、この病状……、昼間はもちろん夜中だって誰かが看病する必要があるな」

 

「「じゃあ、私が!」」

 

 サンジが夜通しの看病の必要性を説くと、またナミとビビとミキータが同時に声を出した。

 なんか、すごい圧力を感じるんだけど……。

 

「いや、そんなに気を遣って貰わなくても……、寝てれば大丈夫だし」

 

 私はそれは如何にも申し訳ないと思って彼女らにそこまでしなくて良いと言ったのだが、聞く耳を持ってくれない。

 

「ライアとは私が一番長く旅をしてるわ。彼女のことも一番よく知ってるし……」

 

 ナミは胸を張って私の頭を撫でながら自分が看病すると主張した。

 

「ナミさんが航海士として神経をすり減らしていることはわかってる。クルーの命に関わる大事な仕事だもの。睡眠はしっかりとった方がいいわ。だから私が――」

 

 ビビはナミの航海での仕事量を気遣った。確かに彼女は海の上では人一倍働いている。でも、なんでビビは私の右手を握っているんだろう。

 

「キャハハッ、そういうあんただって国のことで頭がいっぱいでしょう? ここは何の憂いもない私が看ててあげるわ!」

 

 そして、ミキータはビビは国の心配事も多いだろうから心に負担のない自分が看病をすると主張した。私の左手を握りながら……。

 別にそんな言い争いみたいにしなくても良いのに……。

 

「「――ッ!?」」

 

 しかし3人はなぜか対抗心を燃やしていた。今までにない迫力を醸し出しながら……。

 

「なぁ、サンジ! あいつら、なんで喧嘩してんだ!?」

 

「黙ってろ! くぅ〜、何か見ちゃいけねェと思えば思うほど新しい何かが目覚めようとしてる気がするぜ!」

 

 そして、それを見守るルフィとなぜか興奮気味の口調のサンジ。

 いや、これはどうやって収拾をつけるつもりなの?

 

 

 結局、順番で看病するという方向で収まるまで、実に1時間近くかかった。

 その間に大型のサイクロンが来たりして割と大変だったみたいだ。

 

 

 彼女たちが甲斐甲斐しく看病してくれたのはもちろん嬉しかったのだが、寝間着に着替えるのを手伝うときにビビとミキータが私の体を見て「本当に女なのよねぇ」と何とも言えない表情で呟いていたので、少し悲しかった。

 

 

 

 

 

 翌日……、妙な胸騒ぎがして目が覚めると、船がとんでもなく揺れた。

 そして、間もなく大量の人間が船に乗り込んでくる気配を感じた。

 

 うーん。おそらく、元ドラム王国の国王であるワポルが率いるブリキング海賊団がやって来たのだと思われるが……。

 彼はバクバクの実の能力者で……、ん? バクバクの実……?

 

 私は猛烈に嫌なことを思い出して、未完成の新しい武器である、マスケット銃――銀色の銃(ミラージュクイーン)を持ち出して、よたよたと走り出した。

 

「ちょっと、ライアさん! 何を!?」

 

 急に私が動いたことに驚いたビビが慌てて私を追いかけてきた。

 

 

「おれたちはドラム王国に行きたいのだが――」

 

 ナイフを食べているワポルを私は見つけて、メリー号が食べられるシーンを思い出す。

 熱で意識が朦朧とするが、メリー号だけは命を懸けても守るっ!

 

 ブリキング海賊団の連中に気付かれないように、私はワポルに向けて新兵器、銀色の銃(ミラージュクイーン)の銃口を向ける。

 

 そして――。

 

「小腹が減ったな」

 

 メリー号を食べようと大口を開けるワポルの腹を私は狙って引き金を引く。

 

碧色の超弾(ブラストブレット)ッ!」

 

 命中した瞬間にすべてを吹き飛ばす突風が繰り出される強力な弾丸がワポルにクリーンヒットする。

 

「へぼッ!? ぎゃァァァァァッ!」

 

 ワポルは叫び声とともに遥か彼方に吹き飛ばされる。

 

 やっぱり、未完成だから銃口が砕けちゃったな……。今度……、修理しなきゃ……。ワポルが海に落ちるのを見守りながら、私は茹だった頭でそんなことを考えていた。

 

 

「えっ、ワポル様……?」

 

「「ワポル様ァァァ!!」」

 

 ワポルの部下たちは突然の事態を飲み込めずにいたみたいだが、海に彼が落ちたことを認識すると慌てふためいて自分たちの船に戻っていった。

 

「よかった……、船は……、ぶっ……、無事か……」

 

 私は外の寒気を認識して、熱がグングン上がっているのを感じていた。

 

「らっ、ライアちゃん!? なんて、無茶しやがったんだ! あんな連中おれたちが……」

 

「そうよ、いきなり走り出すんだもん。びっくりしたわ」

 

 私の元に駆けつけたサンジとビビが青ざめた顔をして私を抱えようとした。

 

「ごめん……、でも……、この船だけは私の手で守り……、たかった……か――」

 

 私は最後まで言葉を言い切れないまま意識が遠くに行ってしまった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「体温が……、42度!? こっ、これ以上体温が上がると死んでしまうぞ……」

 

 聞き覚えのない声で意識が戻り、薄っすら目を開けると見知らぬ家の見知らぬベッドで私は寝ていた。どうやら、元ドラム王国に着いたらしい。

 

 あの大柄な男はおそらくドルトンという男だろうな。漫画で見た感じそのままだ。

 

「へぇ、私の体温も……、随分と……、頑張っちゃってるんだね……はぁ、はぁ……。どうりで体が重いわけだ……、うっ……」

 

 私は彼の言葉を聞いた感想をもらした。

 

「あなた、気付いて第一声がそれ? まったく、無茶して。船のために死んだらあの子だって悲しむでしょ!」

 

「「あの子……?」」

 

 ナミは私がワポルを撃ったことを咎めた。カヤのことを持ち出して。

 ビビとミキータは「あの子」という言葉に反応している。

 

「ははっ……、反論……、出来ないよ。はぁ、はぁ……、君の言うとおりだ。ナミ……」

 

 私は彼女の言ったとおりだと思った。確かにバカなことをして死んでしまったら、死ぬなというカヤとの約束を破ることになる。

 

「わかったら、黙ってなさい」

 

 ナミは体力を無駄に消費しないように喋るなと言った。彼女の言うことを聞かなきゃな……。

 

 その後、ドルトンはこの国にいるという唯一の医者について話し始めた。

 魔女と呼ばれるその医者、まぁ、Dr.くれはのことだが、彼女は非常に高い雪山の上にある城に住んでいる。

 

 そして、彼女は気まぐれに山を降りるからいつ来るのか、わからないのだそうだ。

 そっか、だから漫画だと雪山をルフィがナミを担いで登っていったんだよな。

 

 ドルトンは次に彼女が山を降りるのを待つべきだと言っていた。

 

 しかし、ルフィは……。

 

「おーい、ライア! 山登らなきゃ医者居ねェみてェだから、山を登るぞ」

 

 ルフィはやはり私と山を登ると言ってきた。彼ならそう言うだろう。そして、それが唯一の私が助かる道なのだ。

 

「バカなの!? ライアが山を登れるわけないでしょ!」

 

「ああ、おぶってくから、大丈夫だ」

 

 ナミはルフィに反論するが、彼は譲らない。

 

「常人よりも6度も体温上がってるんだぞ。ライアちゃんの体力が保つわけねェ」

 

「そうよ、あんな断崖絶壁! 登れるわけないわ!」

 

 サンジもビビも私を登山させることに否定的だ。

 しかし、これ以上、時間をかけるとアラバスタ王国がより深刻な事態に陥ることになる。

 

「ああ、頼むよルフィ。はぁ、はぁ……、山の上まで連れて行ってくれ」

 

「おう! 任せろ!」

 

 私とルフィはタッチして笑いあった。やはり、私の船長は頼りになる。絶対に何とかしてくれるって思わせてくれる。

 

「ちょっと待ちなさい! キャハッ……、運ぶんだったら私に任せると良いわ。これでも西の海(ウエストブルー)では“運び屋”って呼ばれていたのよ。山登りも私のキロキロの実の能力を使えば多少は楽になるはず」

 

 ミキータは私を運ぶのは自分の役目だと言ってきた。

 確かにキロキロの実は運搬用の能力だとは思うけど……。道中が大変なんじゃなかったっけ。

 

「わかったッ! 運ぶのは任せた! でも、おれも付いてくぞ!」

 

 ルフィはあっさりミキータに私の運搬役を任せた。まぁ、ルフィが自由に動ければ戦闘になっても大丈夫か。

 

 

「ルフィさん! 私も付いていってもいい!?」

 

 ルフィとミキータと私で登山することに決まりかけていたその時、ビビが突然自分も付いていきたいと言い出した。

 

「ビビ……、君は危険だから……」

 

「ライアさんは2度も私を助けてくれた! 今度は私が少しでも助けるために役に立ちたいの! 待ってなんかいられない!」

 

 私はもちろん過酷な道を彼女が歩むことを止めようとしたが、ビビの決意は固そうだった。

 

「よしっ! 良いぞ!」

 

 ルフィはそんな彼女の気持ちを汲んだのか、あっさりと許可を出す。

 

 というわけで、雪山を越えてDr.くれはの城を目指すのは、私に加えてルフィとミキータ、そしてビビの4人――。

 

 私たちはナミとサンジに見送られながら過酷な山登りに挑戦することとなった。

 




ライアが病気になることにより、女性陣の静かな争いが勃発し、登山メンバーも変わってしまいました。

さらに今回はワポルの暴食を防ぐためにライアの新兵器ミラージュクイーンが初登場。未完成なので壊れてしまったのですが、威力が格段にアップした上に近距離戦もこなせる仕様になってます。
この辺のことは正式に装備するアラバスタ王国編の後半でもう一度説明します。


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ラパーンと雪崩と元国王

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!頑張ろうって気にさせてもらっております!
今回はミス・バレンタインことミキータが活躍しますが、キロキロの実の能力に関する描写は独自解釈で補ってる部分もあります。
多少の違和感を感じる部分もあるかもしれませんが、ご了承ください。
それではよろしくお願いします。



 

「キャハハッ……、しっかり掴まってなさい。どこにだって届けてあげるわ」

 

 ミキータは私を軽々と背負ってスタスタ歩く。

 

「なんだ、お前。意外と力があるじゃねェか」

 

 ルフィが感心したような声を彼女にかけた。うん、私もそう錯覚してしまいそうだ。

 

「違うわルフィさん。これはおそらくキロキロの実の能力……。ミス・バレンタインは身に着けたモノを含めて体重を操作できるみたいね……」

 

「正解よ、ミス・ウェンズデー! だから、私はどんなものだって素早く運ぶことが出来るの!」

 

 おそらくはこれがキロキロの実の真骨頂……、身に着けたモノまで体の延長上として捉えて軽くしたり重くしたりする能力。

 そういえば、名前は忘れたけど、ドフラミンゴの部下のトントンの実の能力者は重そうな荷物ごと担いで浮いていた気がする……。

 

「そっかー、要するに不思議な体をしてるってことだな」

 

「ゴム人間に言われたくないわよ!」

 

 ルフィはよくわからないけど、不思議で済ませてるようだ。

 

「とにかく、君たちは山を目指すならラパーンというウサギに気をつけてくれ。熊ぐらいの大きさの非常に凶暴なウサギが雪山には居るんだ」

 

 ドルトンが雪山に生息する凶暴な生き物である、ラパーンに気をつけるように私たちに忠告する。

 

「凶暴なウサギ……」

 

「キャハッ……、たかがウサギでしょ。そんなのこの船長がやっつけてくれるわよ」

 

 ビビの呟きにミキータは楽観的な言葉をかける。まぁ、ルフィなら問題なく処理出来そうだが……。

 

「おう! 何が来てもぶっ飛ばす!」

 

「はぁ、はぁ……、油断しないことだ……、この世界には……、恐ろしい生き物が多い……」

 

 ルフィは自信満々にそう言っていたが、私は油断大敵だと忠告する。

 

「心配すんな! お前は死なせない!」

 

「ふっ……、お節介だったね……。頼むよ、みんな……」

 

 しかし、ルフィは凛々しい精悍な顔立ちで、はっきりと心配は無用だと言ってくれた。

 まったく、こんな大きい男を信じないでどうするんだ。彼が心配ないと言うのならそうなのだろう。

 

 

 こうして私たち4人はDr.くれはの居る城へと向かったのである。

 

 

 

 

 雪山を歩いて少し経つとドルトンが忠告したとおり巨大なウサギが現れた。

 

 うーん、見るからに凶暴そうだ……。

 

「――キャハハッ、出発したときはウサギって言うからにはもっと可愛いかと思ってたけど……」

 

「なんて大きさ。それに――」

 

「すっげェ跳んだぞ! あいつ!」

 

 みんなが口々にラパーンに対する感想を述べると、ラパーンはこちらに向かって飛び跳ねて攻撃を仕掛けてきた。

 

「で、この力……、まるでゴリラみたいね……」

 

 地面の雪が粉砕して四散するのを見てビビは見た目どおりにパワーに舌を巻いていた。

 

「何言ってんだ! ゴリラじゃなくて白くまだぞ。ビビ!」

 

「あいつはウサギなんだからどっちでもないわよ! ていうか、どうでもいいわよ!」

 

 ビビとルフィの会話にイライラしながらミキータが割り込む。

 確かにそんな悠長なこと言ってられなさそうだ。

 

「待って、ルフィさん。あの数……、それにこの動きはまずいわ……。ミス・バレンタインにちょっとでも攻撃が加えられると、それだけでライアさんが……」

 

 ビビはおびただしい数のラパーンがこちらを睨みつけていることに気が付いたようだ。

 

「じゃあ、守りながら戦うぞ!」

 

「でも、あんなに沢山を守りながら相手にしていたら時間が……」

 

 ルフィは私を守りながら戦うと言っていたが、ビビはそれでは時間がかかると懸念していた。

 

「ちょっと、船長! 私を空に投げ飛ばしなさい!」

 

 そんなとき、ミキータが突然、自分を空に投げるようにルフィに頼んだ。

 

「ん? わかった! うぉッ! 軽いなァ、おめェ! とりゃああああッ!!」

 

 ミキータは自身の背負ってる私を含めた体重を極限まで落としてルフィに空高くまで私ごと投げさせる。

 

「えっ? ミス・バレンタイン!? 何を!?」

 

 ビビは突然の行動に驚きの声を上げた。

 

「で、私が着地するまでにあいつらを出来るだけ倒して道を作るのよ!」

 

 傘を開いてふわふわとゆっくり落下しながら、ミキータはルフィにそんな指示を出す。

 

「そっか、ライアさんと一緒に空に避難したのね……」

 

「あいつ! 頭いいなァ! うっし! ゴムゴムのォォォォ! ガトリングッ!」

 

 ミキータの意図に気付いたルフィは目にも留まらぬ連撃で次々と目の前のラパーンたちを薙ぎ倒していく。

 

「キャハッ……、あの船長……、とんでもないわね……。着地するまでまだ随分と時間があったのに……」

 

「一気にあれだけいたラパーンの群を一掃しちゃった……」

 

 ミキータとビビはルフィの戦闘力に改めて驚きの言葉を吐いた。

 

「そりゃあ……、ルフィは……、はぁ、はぁ……、海賊王になる男だから……、これくらいはやるさ……」

 

 私も彼を称賛した。やっぱり、ルフィは只者じゃない……。

 

「これなら、この先も大丈夫そうね」

 

「あと、ミキータ……、君の機転にも……、はぁ、はぁ……、感謝するよ……。一緒に来てくれて良かった……」

 

 ミキータが安心した顔をしてるところに、私は彼女の能力の使い方にも感謝をした。

 この人が仲間になってくれて本当に助かった。

 

「――ッ!? キャハッ……、バカなこと言って体力無くなって死んでも知らないわよ……。その煩い口を閉じないと雪に埋めてやるんだから……」

 

 彼女は照れているのか、顔がほんのり赤くなっていた。素直な性格じゃないんだな……。

 

 

 

「ルフィさんが吹き飛ばしたラパーンたち……、あんなところで何をやってるのかしら?」

 

「――キャハハッ、ダンスの練習だったりして……」

 

 だが、ラパーンもやられっぱなしではない。吹き飛ばされたラパーンたちは、雪の地面をドシドシと踏み鳴らして揺らしていた。

 

 これは――。まずいっ――。

 

 私は漫画の一場面を思い出して、力を振り絞って声を出した。

 

「はぁ……、はぁ……、ミキータ……、笑ってる場合じゃない……、雪崩を、起こそうとして――」

 

「だから、黙ってなさいって……、えっ? 雪崩?」

 

 ミキータは雪崩というワードに反応して顔を青くする。

 

「あのウサギたち……、なんて事を……。どっどうすれば……!? あっ、そうだわ! ルフィさん、前みたいに風船のように膨らむことは出来るかしら?」

 

「こうか!? ゴムゴムの風船!」

 

 ビビはルフィに風船状に膨らむように指示を出す。

 

「ミス・バレンタイン! ルフィさんの上で限界まで体重を増やして、その反動を利用して大ジャンプして!」

 

 そして、さらにミキータにルフィの上で1万キログラムまで体重を操作して大きく沈み、その反動でジャンプするという指示を出した。

 

「キャハッ! なるほど。それなら、さっきよりも高く飛べそうね……! よしッ――、いい感じだわ!」

 

 ジャンプする準備をしたミキータはニンマリと笑った。

 

「ルフィさん、ミス・バレンタインが跳んだらすぐに手を掴んで!」

 

「よしっ! ビビも手を離すなよ!」

 

 ルフィとビビが手を繋ぎ、さらにミキータが大ジャンプした瞬間に彼女に向かって手を伸ばして2人も一緒に空高くまでエスケープする。

 

「すごい能力……、雪崩もやり過ごせるなんて……」

 

「この船長の能力が無かったらあんなジャンプ出来ないわよ。あんた、咄嗟によく思いついたわね」

 

 ビビはミキータの能力を称賛していたが、ミキータは一瞬でこの作戦を思いついたビビを褒めていた。

 

 とにかく、ビビの作戦とルフィとミキータのコンビネーションのおかげで私たちは雪崩にはまったく巻き込まれずに地上に着地することができた。

 

 

 

「あれ? このラパーンは……」

 

 再び歩きだしてすぐに私たちは雪に埋もれたラパーンの手と、小さなラパーンが涙目で埋もれたラパーンを助けようとしてる光景が見えた。

 

 おそらく親子なんだろう……。

 

「大方、群れに置いてきぼりにされてた鈍くさい親子のウサギが雪崩に巻き込まれちゃったんでしょ」

 

 ミキータはこの状況をそう推理した。

 

「はぁ……、はぁ……、ミキータ……、君の能力なら助けられるだろ……、可哀想だから、助けてやりなよ」

 

 私は彼女にラパーンを助けるように頼んだ。見ていられないくらい可哀相だったから……。

 

「キャハハッ……、まったくもう。仕方ないんだから……。ほら、これでいい?」

 

 ミキータは軽々とラパーンを引き上げて助け出した。

 

「――なんだァ! お前、良い奴だな〜!」

 

「かっ、勘違いしないでくれる。気まぐれよ、こんなの」

 

 そんな彼女の様子を見てルフィはニコニコしてミキータを褒めると、彼女はまた照れながらそっぽを向いた。

 

「クスッ……、照れなくても良いのに……」

 

「煩いわね! ミス・ウェンズデー! 雪の中に永久に埋めるわよ!」

 

 その彼女の態度を楽しそうに見つめていた、ビビの一言に腹を立てたミキータはぷりぷり怒って早足になった。

 この人も根は悪い人じゃないんだろうなー。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 さらにしばらく足を進めると、ラパーン以上に厄介な奴らに出くわした。

 ワポルとその部下である、幹部のチェスとクロマーリモだ。

 

「マハハッ! 麦わらの小僧! このおれに無礼を働いた狙撃手を出せ! そいつを惨殺しなきゃならねェ!」

 

 ワポルは私に吹き飛ばされたことを根に持っているみたいだ。

 

「ワポル様! そこで背負われてる奴がおそらくスナイパーかと!」

 

 チェスが私に気が付いて、ワポルに告げ口をする。

 ワポルを撃った瞬間に目が合ったと思ったけど、覚えていたか……。

 

「なんだ、死にかけか。つまんねェ! だが、お前らに命じる! そのクソ銀髪をぶっ殺せ!」

 

「「仰せのままに……!」」

 

 ワポルが2人に指示をだすと、チェスとクロマーリモが襲いかかってきた。

 

「ミキータ! お前はさっさと逃げろ! おれはこいつらを片付ける!」

 

「キャハハッ……、バカ言わないでちょうだい! あんた以外に誰があの断崖絶壁を登れるって言うのよ! 全員であそこまで行かないと意味ないの!」

 

 ミキータに逃げろというルフィに対して彼女は反論した。

 そういえば、そうだ。あんな絶壁、ルフィしか登れない……。

 

「逃げながら戦うしかないみたいよ。ルフィさん。ライアさんはやらせない! 孔雀(クジャッキー)スラッシャー!」

 

「――ッ! こっち来んなッ! ゴムゴムのピストルッ!」

 

 ビビとルフィは襲いかかってきた2人に攻撃するが、この2人はなかなか手強いみたいでスルリと攻撃を躱した。

 

「うぉっと!」

 

「なかなか活きがいいじゃねェか!」

 

「マーハッハッハ! 他の奴らはどうでもいい! その狙撃手を殺せッ! 雪国の戦い方を教えてやりながらなッ!」

 

 そんな2人に対してワポルは私を殺すことを優先するように檄を飛ばしている。

 

「「はっ!」」

 

 2人は同時に返事をしてミキータにまっすぐ向かっていく。

 ミキータは彼らから何とか逃げようとして急いで走っていたが、彼らの姿が忽然と消えてしまった。

 

「――ッ!? 消えた!?」

 

 彼女は驚いて首をキョロキョロさせながらスピードを緩めた。

 

 しかし、そのときである――。

 

「くっくっ、油断したな! これぞ、雪国名物……! 雪の隠れ蓑、その名も……」

 

「雪化粧! それだけ弱ってりゃ即死だ!」

 

 雪の中から突然現れるチェスとクロマーリモ。

 彼らは上手く雪で身を隠して攻撃の機会を窺っていたようだ。

 

「「チェックメイトッ!」」

 

 2人の攻撃がミキータを捉えようとする。

 

「ミス・バレンタインッ!」

 

「キャハッ……、こりゃ避けられないわ……」

 

 私もミキータも観念した表情をしてしまっていた。

 

 だが、攻撃は私たちに届かなかった。

 

「「――ぐはぁッ!!」」

 

 届いたのは、2つのうめき声である。そう、2体のラパーンがチェスとクロマーリモを殴り倒したのだ。

 

「ラパーン!?」

 

 ワポルは驚愕の表情を浮かべた。

 

「ヤツを庇ったのか!?」

 

「バカな! ラパーンは決して人に懐かない動物だぞ!」

 

 チェスとクロマーリモもラパーンの援護に驚いている。

 

「あんたは――さっきの!? キャハハッ……、気まぐれに動いてみるものね。でも、ありがとう。助かったわ」

 

 ミキータはラパーンの背中に乗っている小さな子供のラパーンを見て、さっき助けたラパーンだということに気が付いたようだ。

 

 彼女はラパーンにお礼を言って駆け出した。

 

「今のうちに逃げるぞ!」

 

「ええっ! 急ぎましょう!」

 

 そして、ルフィとビビもそれに続いて走っていった。

 

 

 

 そのあと少し歩いていくと、ようやく城へと続く断崖絶壁にたどり着いた。

 

「キャハッ……、近くで見ると果てしないわね」

 

「てっぺんが見えない……」

 

 ミキータとビビはその断崖絶壁の高さに唖然としていた。

 

「じゃあ、登るか!」

 

「待ちなさい! ここからはフォーメーションを組むわよ」

 

 すぐに登ろうとするルフィをミキータが制止する。

 

「フォーメーション!? なんか、カッコいいな! それ!」

 

「時々、この船長を見ていると猛烈に不安になるわ」

 

 ルフィの変な食いつきにミキータは嫌な顔をした。まぁ、それも含めて彼の魅力だから……。

 

「そんなことより、どうするの?」

 

「ほら、手を絶対に離さないでいるのよ」

 

 ミキータはビビに手を差し出しながら、そう言った。

 

「で、船長は私たち全員を背負いなさい。しっかりロープで固定して……」

 

 ミキータは早い話が3人を背負うようにルフィに指示を出した。

 

「3人抱えるのか!? そりゃあ、重すぎるぞ!」

 

「バカッ! 女の子3人捕まえて重いとか言うんじゃないわよ! 大丈夫なの! 重さを限界まで落とすから」

 

 さすがのルフィもこれには驚いたが、ミキータは3人分の体重を含めて軽くすると言う。

 

「うォォッ! 綿飴みたいに軽いぞ! これなら楽勝だッ! よっと! 医者のところまで一気に行くぞォォォォ!」

 

 そして実際に3人を担いだ状態になったルフィは本当にほとんど重さを感じていない様だった。

 その証拠にスイスイと断崖絶壁を登っている。

 

「気をつけなさいよ! 落とすなら私ごと落としなさい! ライアやミス・ウェンズデーだけが落ちたらお陀仏よ!」

 

 そう、私とビビはミキータから離れた瞬間に元の重さに戻るから、高いところから落ちた瞬間に死が確定してしまうのだ。

 

「わかった! ウォォォォ! 医者ァァァァッ!!」

  

 ルフィは掛け声と共にドンドン高くまで登っていく。

 

「ちっとも、わかってない! でも……!」

 

「すごい! これだけの人数を抱えて、この断崖絶壁をとんでもない速度で上がっている」

 

 そんな無茶をこなすルフィに苦笑いを浮かべるミキータとビビだったが、思った以上のスピードで登っている彼の力に安心しているようにも見えた。

 

 そして、ルフィは見事に登山に成功して、Dr.くれはの住む城に無事に辿り着いたのだ。

 はぁ、私は結局……、助かった――のかな……。私はホッとした瞬間に……、再び意識が途切れてしまった――。

 




原作と違ってルフィがフルで動けたり、雪崩を避けたりしたので、体力に余裕を持って城に辿り着くことが出来ました。
そしていよいよ次回はDr.くれはとチョッパーが登場します!


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トニートニー・チョッパー登場

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ミキータを残留させてほしいというお声が多かったので驚いています。彼女は愛されキャラですね。
愛されキャラといえば、このトナカイ。今回はチョッパーが登場します。
それではよろしくお願いします。


 気が付くと私は暖かい部屋の中でベッドに寝かされていた……。

 ルフィたちは無事に私をDr.くれはの元に連れて行って、治療を頼んでくれたみたいだな……。ありがたい……。

 体も幾分と楽になった気がする……。

 

「助かったのかな……?」

 

「――ッ!?」

 

 私がそう呟くと、側で作業をしていた小柄なトナカイのようなタヌキのような見た目の生き物がビクッと驚いて身を隠そうとした。

 ああ、チョッパーがいる……。知ってたけど、めっちゃ可愛い。抱きしめたい……。

 

「ふふっ……、多分、逆なんじゃないかな?」

 

「――ッ!?」

 

 私はチョッパーの全身を見せつけるようにして、隠れようとする仕草がいじらしくて、笑みがこぼれてしまった。

 

「うん。そっちが正解だね。でも、そんなに怖がらなくたっていいじゃないか。私はか弱い病人だ。何も出来やしないよ」

 

「うっ、うるせェ!あっ、あと、熱は大丈夫か?」

 

 私が彼に声をかけると、チョッパーは警戒心を丸出しにしながら私の体調を聞いてきた。

 

「そうだな。かなり下がった気がする。いい薬を頂けたみたいだ」

 

「あっ、当たり前だ! 特別な薬なんだぞ!」

 

 私は体調が良くなっていることを伝えると、チョッパーは私が頂いた薬は特別だという。

 効果はてきめんだし、思った以上に回復したからもちろんそうなのだろう。

 

「そっか、じゃあその特別な医者にお礼を言わないとね」

 

 私はチョッパーの言葉を受けてそう返した。

 

「――おっ、おい!お前はおれが怖くないのか!?なんで普通に喋ってるんだよ!?」

 

 すると彼は自分のことが怖くないのかと聞いてきた。いや、君よりラパーンとかのほうがよっぽど怖いからね……。

 

「ん? それって、変かな?」

 

「変だ! お前もお前の仲間も変なやつだ!」

 

 チョッパーは私とルフィたちが変だと言いながら、どこかに駆け出して行った。

 ああ、ルフィたちは体力に余裕を残してこの城に辿り着くことが出来たから既にチョッパーとも話をしてるのか……。

 

「うるさいよ! チョッパー!」

 

「あー、行っちゃった……」

 

 途中でガシャンという大きな音が聞こえたから余程焦ってたのだろう。

 チョッパーに注意する声も聞こえる。

 

 そして、その声の主は彼と交代で部屋に入ってきた。

 

 

「ヒーッヒッヒッヒ! 熱は多少引いたようだね。小娘! ハッピーかい!?」

 

 ファンキーな服装をした高齢の女性――Dr.くれは……。

 私の治療をしてすぐにここまで回復させる手腕から察しても凄腕の医者であることに疑いの余地はない。

 

「ああ、天国に行った気分かな。実際には行ったことないけどね」

 

「ヒーッヒッヒ! 面白いね、お前。ん? 37度8分……、なかなか早い回復だ」

 

 私の返事とともに彼女は私の額に指を当てる。体温ってそれだけでわかるのか……。すごいな……。

 

「ああ、やっぱりあなたが医者なんだ」

 

「そうとも。あたしゃ、Dr.くれは。ドクトリーヌと呼びな」

 

 私が当たり前のことを口にすると、彼女はそれを肯定した。

 

「承知した。ドクトリーヌ、素晴らしい治療に感謝するよ。あと――」

 

「若さの秘訣かい?」

 

 私が質問をしようとすると彼女はお決まりのフレーズを出してきた。

 確かに100歳を軽く超えた年齢でその若々しさは気になるけど……。

 

「それも是非とも拝聴したいけど、その前に――私をここに連れてきてくれた3人はどこにいるのかな?」

 

 私は仲間たちの居所を尋ねてみた。体調が悪くなったせいなのか、見聞色の精度がガクンと落ちているみたいなのだ。

 

「ああ、あいつらならお前の治療がひと息つくまでずーっと起きて見守っていたからね。今は疲れて隣の部屋で眠ってるよ」

 

「なら、良かった。みんな元気なら何よりだ……」

 

 私は彼女の言葉を受けてホッとした。まぁ、ルフィたちなら大丈夫かとは思っていたが……。

 

 

「お前の首元……、後で見てみな。原因はここにある……」

 

 Dr.くれはことドクトリーヌが言うには私の首元にケスチアという有毒のダニに刺された形跡があるという。

 

 この毒に含まれる細菌は5日間、体内に潜伏して人を苦しめて、死に至らしめるそうだ。

 やはりリトルガーデンで刺されていたのか。本来は露出度の高いナミの方が刺されていたはずなんだけど……。首元じゃ仕方ない……。

 

「100年前に絶滅したのか……。なるほど、あの島ならそういう生物がいても不思議じゃないな」

 

「おや、心当たりがあるなんて、やんちゃな娘だねぇ」

 

 私がなるほど、という表情をしているとドクトリーヌは呆れたような声を出していた。

 

「ところでドクトリーヌ。質問なんだけど、私はあとどれくらいで良くなる?」

 

 そして、私は最も気になっていた完治までの時間を質問した。

 既にかなり動けるくらいには良くなっている。明日にでも動きたい気持ちはある。

 

「ん? そうだねぇ。お前は回復が早いみたいだけど、3日は大人しくしてな」

 

 彼女の返答は私が思っているよりも長かった。まぁ、病気を嘗めるなと言うことなのだろうが……。

 

「なるほど。何とか早めに出来ないかな? 明日とか。――ぐっ!」

 

「馬鹿言うんじゃないよ。あたしの前から患者が消えるのはね……、()()()()()()だ!」

 

 私がちょっとした我が儘を口にすると、ドクトリーヌは馬乗りになってメスを首元に近づけてきた。

 あー、どうやら気分を害するような言い方をしてしまったらしい。

 

「そっか。ドクトリーヌ……、あなたの優しさは十分に伝わったよ……。私の態度が良くなかった」

 

「――ッ!? まったく、道理で女二人のお前を見る目がピンク色な訳だ! 治療のついでに目玉をくり抜いてやれば良かったよ」

 

 私がドクトリーヌの言葉を真剣に受け止めて返事をすると、彼女は吐き捨てるようにそんなことを言い出した。

 ビビとミキータの目がどうかしているのだろうか?

 

 

 

「ぎゃあああッ!!」

 

 そんな折に、チョッパーの叫び声が部屋の外から響き渡っていた。

 

「見つけたぞォォッ! トナカイの化物ォォォッ! おれたちの仲間になれ!」

 

 ルフィがさっそくチョッパーに目をつけて仲間にしようと勧誘しているらしい。

 

「ルフィさん! 待ちなさい! そんなに強引に追いかけたらトニーくんが怖がるでしょ!」

 

「キャハハッ! 面白いトナカイもいるものね〜!」

 

 ルフィを追いかけているのか、ビビとミキータの声が聞こえる。

 

「おや、もう起きたのかい。お前の仲間たちは……。騒がしいったらありゃしないね。そういえば、お前たち海賊やってるんだって?」

 

「ええ。ドクトリーヌもルフィに勧誘されたりしたんじゃないかな?」

 

 ドクトリーヌの言葉に私はそう返事をする。

 

「はんっ! 礼儀のなってないガキだったんでね。蹴飛ばしてやったよ」

 

 多分、「ばあさん」とか言って怒らせたんだろうな。ルフィが何を言ったのか私は容易に想像が出来た。

 

「ははっ、ウチの船長が失礼したみたいだね。さっきの、チョッパーくんだっけ? 彼は駄目なのかい? 連れて行っては……」

 

「ヒーッヒッヒッヒ! お前たちは揃いも揃って物好きだねぇ。いいよ。持って行きたきゃ持って行きな」

 

 私がチョッパーを海に連れて行っても良いのかどうか尋ねると、彼女は意外とあっさりオッケーしてくれた。

 

「それはありがたい。私たちは船医が欲しかったからね。助かるよ」

 

 なので、私は彼女の許しを素直に喜んだ。

 

「――だがね。一筋縄じゃいかないよ。あいつの心は大きな傷を負っている。それは、医者(あたし)でも治せない大きな傷さ……」

 

 ドクトリーヌは話した。チョッパーが鼻が青いという理由で親からも仲間からも疎んじられていたと……。

 そして、ヒトヒトの実を食べていよいよ群れから追い出され、だからといって人にも受け入れてもらえずに、ずっと一人で暮らすことになってしまったのだとも……。

 

「お前たちにあいつの心が癒せるかい?」

 

 ドクトリーヌはチョッパーのことを真剣に想っているのだろう。彼女も彼女なりに彼の心を何とかしてあげようと思っているのかもしれない。

 

「さぁ? どうだろう……。ウチの船長は人たらしだけど、トナカイがその範疇なのかどうかイマイチ謎だからね……」

 

 我が船長、モンキー・D・ルフィは人から好かれる才能がある。だからこそ、行く先々で彼は敵以上に味方を作っていく。

 基本的に彼は無欲だ。打算が出来ないという訳ではないが、感覚を大事にする人間だ。

 ルフィの凄いところは理屈を抜きにして相手と衝突することで、いつの間にか懐に入り込むことができる所である。

 

「ヒーッヒッヒッヒ! そうかい。お前たちの船には人たらしと女たらしが同居してるんだねぇ」

 

「はぁ?」

 

 ドクトリーヌは私の話を聞くと機嫌良さそうに笑って、よくわからないことを言ってきた。

 ルフィは女たらしには見えないけどなぁ。

 

「さて、やかましい連中をそろそろ黙らせて来ようかね」

 

 そして、さっきから外で大騒ぎしている主にルフィを止めるために部屋の外へと出ていった。

 

 

「それにしてもすごいな……、ドクトリーヌは……。もうほとんどダルさを感じない」

 

 私は体の調子を確かめるように動かしながらそう呟いた。

 

「駄目だぞ。まだ、体を動かしちゃ」

 

「そうなのかい? 随分と良くなった気がするんだが……」

 

 ちょっと立ち上がろうとしてみたらチョッパーが部屋に入ってきて私を止めた。

 うーむ。まだ動いてはいけないらしい。

 

「ドクトリーヌの薬はよく効くから、熱はすぐに引くんだ。でも、ケスチアの細菌は体の中にまだ残っている」

 

 チョッパーが私に現在の病状を伝えてくれる。

 

「ふむ。なるほどね。チョッパーくん、だっけ? ありがとう。君が私の看病をしてくれたんだろう?」

 

「うっ、うるせェ! 人間にお礼なんて言われても嬉しくないんだぞ! コノヤロー! 大人しく寝てろ!」

 

 私は彼が看病してくれていたことを察してお礼を言うとチョッパーは嬉しそうな仕草をしながら悪態をついてきた。

 そんなところが堪らなく可愛いと思う……。

 

「はははっ、承知したよ。チョッパーくん。あと、ウチの船長が少しばかり強引に勧誘して済まないね」

 

 私はルフィが追いかけ回していることを彼に謝った。もちろん、ルフィには悪気は無いのだろうが、怖がらせたかもしれないし……。

 

「おっお前ら、本当に海賊なのか? 海賊だから、誰もおれを怖がらないのか?」

 

「うーん。海賊なのは本当だ。あと、君の場合はその、怖いというより可愛いってタイプだからなー」

 

 私はチョッパーの問いについ本音で答えてしまった。

 

「可愛い……? ばっ、バカにすんな!」

 

 案の定、彼は不機嫌な顔をして怒り出す。

 

「別にバカにしてるわけじゃないさ。しかし、気分を害したのなら謝ろう。君の話はドクトリーヌから聞いたよ……」

 

「ドクトリーヌが……?」

 

 私は彼に謝罪をして、ドクトリーヌの名を出すとチョッパーは彼女の名に反応する。

 

「君が受けた迫害や、君の感じた孤独がどれほどだったのか、分かるなんてことは私には言えない。だけど、私たちで良かったら――君の仲間になろう。だから……、一緒に海へ出ないか?」

 

 私は自分なりに言葉を選んで彼を勧誘した。

 彼が歩んできた過去の痛みや苦しみは想像もつかない。しかし、未来は共有できる。孤独を癒やすことくらいは出来るはずだ。

 

「――ッ!? バカ言うな! にっ人間がトナカイの仲間になれるか! それに、おれはバケモノなんだぞ。二本足で歩くし、――青っ鼻だ――」

 

 チョッパーは私から背を向けて、人間はトナカイの仲間になれないと言ってきた。

 気持ちはわかる。だから、私は――。

 

「仲間にはなれるよ。それは間違いないさ。大事なのは見かけじゃない。心なんだよ。チョッパーくん……」

 

 チョッパーが言葉を言い終える前に私は彼の忠告も忘れて立ち上がり、しゃがんで彼を後ろから抱きしめた。

 

「おっお前……。本当におれを……」

 

 チョッパーが私の顔を見ようと振り返ったとき、ミキータとビビが部屋に入ってきた。

 

「キャハハッ……、あんたも物好きね。ついに人だけじゃなくてトナカイにも手を出したの。てか、元気そうじゃない。安心したわ」

 

「羨ましい……、じゃなかった。ライアさんも、トニーくんを仲間にって考えてるの? でも良かった。ライアさんにもしものことがあったら私……」

 

 彼女らは私の回復した姿を見て安心してくれたみたいだ。かなり心配をかけていたようだな……。

 

「やぁ、随分と心配かけたね。何とかこの子を口説こうとしてるんだけど……。難しいものだね。ナンパというやつは。私にはハードルが高い」

 

 私は上手くチョッパーを勧誘できないことを自嘲気味に彼女らに話した。

 

「ミス・ウェンズデー。まだ、こいつには熱の影響があるみたいよ」

 

「落ち着いて、ミス・バレンタイン。こういうところも含めてライアさんだから」

 

 すると2人はなぜかやれやれと言うような口調で顔を見合わせていた。

 なんか、短い間にこの二人は結構仲良くなってるみたいに見えるな。

 

「おっ、お前らもおれを仲間にしようとするこいつらを止めなくて良いのかよ! バケモノ相手にこんなことしてるんだぞ」

 

 チョッパーはそんな彼女たちを見て、私やルフィを止めなくて良いのか確認する。

 ああ、私とルフィが勝手に暴走してると捉えているのか……。

 

「バケモノって。キャハハッ……、私もそうだけど、バケモノ具合で言ったらあの船長の方が断然上でしょう」

 

 ミス・バレンタインは自分やルフィが悪魔の実の能力者であることを言っているのだろう。

 まぁ、確かに特にルフィはバケモノと言えばそうだよなー。

 

「ライアさんやルフィさんもそうだけど、他のみんなもトニーくんを怖がったりしないと思うわ」

 

 ビビも他のクルーたちもチョッパーを怖がらないと断言した。

 それは間違いないと思う。

 

「お前ら絶対に変だ! おれなんか……! おれなんか……! ――あれ? くんくん……、こっ、このにおいは……、ワポル!!」

 

 チョッパーはそんな私たちをおかしい奴らだと叫ぶ。

 そして、何かの気配を察知したからなのか、四足歩行の形態に変化してスルリと私の腕から飛び出して行ってしまった。

 

「おっと、どこに行くんだい?」

 

「ドクトリーヌ!」

 

 私が声をかけても振り返りもせずに彼はドクトリーヌの名を呼び走り出す。

 

 彼はワポルの名を呟いていた。

 おそらく、ワポルたちがここに来たのを察知したのだろう。

 

 うーむ。ルフィなら負けないとは思うけど……。

 

「ちょっと、ライアさん。何をしてるの?」

 

「キャハッ……、あんた……、その体調で戦いでもするつもり……?」

 

「まぁ、素晴らしい治療のお礼くらいはしようと思ってね」

 

 私は緋色の銃(フレアエンジェル)を取り出して、戦闘の準備を行った。

 

 この国を巡るワポルたちとの戦いが始まろうとしていた――。

 




今回はあまりお話が進みませんでしたね。
ただ、ヒルルクの下りは回想なので全部カットになりますから、割と早く元ドラム王国編は終わるのではと見込んでいます。
ライアが大人しく寝てたら戦闘シーンも全部カットになってしまうので、Dr.くれはにこっ酷く叱られて貰いましょう。


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名もなき国での戦い

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!応援してもらえてとっても嬉しく思っております!
今回はワポルとの戦いを最後まで。
それではよろしくお願いします。


「ゴムゴムのォォォォォ! ブレットオオオオオオッ!!」

 

「「――ッ!!」」

 

 私が城の外に出たとき、ちょうどルフィがワポルを殴り飛ばしているところだった。

 

「しっしっしっし! ライアをよくも殺そうとしてくれたな! 今、あいつは弱ってるんだ! 手は出させないぞ!」

 

 ルフィは私を彼らから守るために戦ってくれたみたいだ。

 彼にも気を遣わせてるな……。

 

「あっ、あいつ伸びたように見えたぞ」

 

「そりゃあ、伸びるさ。彼はゴム人間。君の言い方を借りると立派なバケモノだ」

 

 チョッパーがルフィの腕が伸びたことに驚いていた。

 

「うェェッ! ライア! おっお前、元気になったのか!?」

 

 ルフィは私が歩いてきたことに驚き顔をした。確かにちょっと前まで死にかけてたから、驚くのも無理はない。

 

「ああ、おかげさまでこの通りさ」

 

「そんなわけないだろ! あたしの忠告をこんなに早く無視するバカは初めてだよ! さっさとベッドに戻んな!」

 

 私が右手を上げて彼の言葉を肯定すると、ドクトリーヌは怒ってベッドで寝るように言ってきた。

 

「ドクトリーヌ。それは聞けない命令だ。私にも私の流儀がある。命を救ってもらえた恩を返せないなんて、死んだも同然なのさ。――へぶッ」

 

 ドクトリーヌに言葉に反抗すると彼女は私の腹を蹴飛ばしてくる。

 

「カッコつけて流儀なんて語ってんじゃあないよ。こんな蹴りも避けられないくらい、ヨロヨロの癖して……」

 

 彼女は私への説教を途中で止める。目の前で矢が吹き飛ばされたからだ。

 

「なっおれの矢が防がれただとッ! いつの間に()()()()()()()()()……!」

 

 チェスは自分の矢が私に撃ち落とされたことに驚愕する。ドクトリーヌの蹴りはマトモに受けたけど、何とか防ぐことが出来たぞ。

 

「キャハハッ……、そんな体でも得意の早撃ちは健在みたいねぇ」

 

「君はチェスくんだったかな? 親に習わなかったかい? 敬老精神を持てってね」

 

 ミキータの声を背中に受けながら、私はチェスに向かってそう言い放った。

 まったく、不届きな男だ……。

 

「コラッ! 何をしくじってやがる! ここには殺したいやつが大集合してンだぞ! 容赦せずに一人残らずやっちまえ!」

 

 ワポルはそれを見て不機嫌そうな声を上げていた。

 

「ドクターのあの“信念”は絶対に下ろさせない!」

 

 ドクトリーヌが襲われたのを見たからなのか、はたまた彼の信念によるものなのか、チョッパーの顔付きが真剣な表情に変わり、人型の大男の形態に変化する。

 

「トニーくんが……、大きくなった」

 

「キャハッ! 動物(ゾオン)系特有の形態変化ね」

 

 チョッパーの変化にビビとミキータが反応した。

 

「チョッパーくん。私も君の大切なモノを守るのを手伝わせてもらうよ」

 

 私もチョッパーの隣に立って銃を構える。

 

「――ッ!? おっ、お前……、いや、駄目だぞ! 病人は寝てなきゃ!」

 

「ドクターストップだ。いい加減に医者の言うことを聞きな。小娘……」

 

 しかし、チョッパーもドクトリーヌも私に戦うなと忠告をしてきた。

 まぁ、言ってることは2人が正しいのは分かるけど……。

 

「だから、私は……。ぐっ! ビビっ! ミキータ! 何をする!」

 

 私が2人に反論しようと私はビビとミキータに後ろにグイッと引っ張られた。

 

「いいから、そこで見てなさいよ。一歩でも動くと雪に埋めるわよ」

 

「ライアさんがトニーくんを助けたいのなら、私が代わりに助ける!」

 

「そゆこと〜。キャハハッ! 病人は病人らしく大人しく見てなさい」

 

 ミキータとビビは口々に私に向かって代わりに戦うと言ってきた。

 はぁ、どうやら従うしかないみたいだな。

 私はみんなの言うことを聞いて下がっていることにした。

 ミキータもビビもこんなに頼もしかったんだ……。何か漫画と印象がかなり違うな……。

 

 

「よーしッ! ケンカだ! ――って、なんか寒いぞッ!?」

 

「あんた、その格好じゃ寒いに決まってるでしょ。暖かい格好してきなさい」

 

 ルフィが今さら薄着で寒がっているのを見て、ミキータは呆れ顔でツッコミを入れる。彼女もそろそろルフィに慣れてきたみたいだ。

 

 ルフィは防寒具を取りに城に戻って行った。

 

 

「要するに皆殺し希望って訳だな! まずはワポル様に狼藉を働いた、お前からだ狙撃手! 死ねっ! 静電気(エレキ)マーリモッ!」

 

 その時である。クロマーリモが私目掛けてアフロを千切ったものを飛ばしてきた。

 

「ライアさんには触れさせない! 孔雀(クジャッキー)スラッシャー!」

 

 ビビはすばやく孔雀(クジャッキー)スラッシャーでそれを受け止める。

 技の精度は大したものだ……。

 

「へぇ、見事ね。って言いたいけど、なんか付いてるわよ」

 

「きゃあああ! 何これ、取れない! あっ、取れた」

 

 しかし、ミキータが言うように静電気(エレキ)マーリモがビビの武器に張り付いてしまっていて、彼女はそれを焦って取ろうとした。

 

「私に付けてんじゃないわよ!」

 

 しかし、取れた静電気(エレキ)マーリモはミキータの衣服にくっついてしまっていて、彼女はムッとした表情でビビに苦情を言い放つ。

 

「まだまだ増えるぞ! 静電気(エレキ)マ〜〜〜リモッ!!」

 

 そうこうしてるうちにクロマーリモはどんどん静電気(エレキ)マーリモを放っていき。

 彼女らの体には多数の静電気(エレキ)マーリモが張り付いてしまった。

 

「ちょっと、あんたに元々付いてたものじゃない! ほらっ!」

 

「やめなさい! これは返すわ!」

 

「何やってるんだい? 君たち……」

 

 そんな状況で、2人は互いの静電気(エレキ)マーリモを押し付け合いケンカを始めてしまった。いや、そんなことしてる場合じゃ……。

 

「やかましいだけの女どもか。チームワークがなっちゃいないな! その静電気(エレキ)マーリモはよく燃えるんだぜ!」

 

 チェスはそんな様子を見ながら彼女らを嘲り、火矢を2人の静電気(エレキ)マーリモ目掛けて放った。

 

「まずいわ! ミス・バレンタイン! あいつ、これを燃やす気よ!」

 

「キャハハッ! ここが雪上ってことに感謝するわ! ほらっ、こっちに来なさい!」

 

 しかし、ミキータは余裕の表情でビビを抱き寄せて、抱えてジャンプする。

 

「えっ!」

 

「一万キロ雪洞(ビバーク)ッ!」

 

 そして、彼女はそのまま雪の中に凄い勢いで身を隠して火矢をやり過ごした。

 なるほど、体重を勢いをつけて重くすることで雪の中に避難したんだな。

 

「きっ消えた!」

 

「バカッ! どうやったか知らんが、雪の中に入っただけだ!」

 

 チェスとクロマーリモは思惑通りにいかずに少し動揺していた。

 

「ゲホゲホッ! 雪が口の中に入っちゃった」

 

「キャハハッ! 無傷なんだから、良いじゃない」

 

 ビビは口から雪を吐き出しながら、穴から這い上がって、ミキータは笑いながら彼女の苦情を聞き流す。

 

 

「この国から出ていけ!」

 

 さらにその瞬間、チェスがミキータたちに驚いているスキを狙ってチョッパーが力いっぱい彼を殴ろうとした。

 

「どけ! チェス!」

 

「危ない!」

 

 しかし、チョッパーの拳はチェスには届かない。なぜなら、大口をあけたワポルに捕まり、彼の口の中に入ってしまったからだ。

 

「うォおおおおお」

 

 その時である。防寒具を着たルフィがこっちに向かって走ってきた。

 

「船長! 掴まりなさい!」

 

 そのルフィに向かってミキータは両手を伸ばす。そして、ルフィと手を繋ぎ彼を勢いをつけて振り回し始めた――。

 

「ゴムゴムのォォォォォ! 加重量(フルウエイト)(ウィップ)ッ!」

 

 ルフィは目一杯足を伸ばしてワポルの腹に遠心力を加えた一撃を放つ。

 どうやら、ミキータの能力でルフィ自身の重さが極限まで引き上げられているらしい。

 

「んぬァにィ! ブふゥッッ!!」

 

 ワポルは文字通りの重たい一撃を腹に受けて、崖から落ちそうになるくらい吹き飛んだ。

 カバのような乗り物が邪魔をして落ちてくれなかったみたいだが……。

 

「キャハハッ! ナイスショットッ!!」

 

 その光景を嬉しそうに眺めるミキータ。彼女は今の一撃に手応えを感じたらしい。

 

「悪魔の実の能力者が二人揃うと恐ろしいな……」

 

「なるほど、あっちのニヤけた小娘も能力者か」

 

 私は能力者同士のコンビネーションに舌を巻いた。

 ドクトリーヌは私の言葉を聞いて納得したように頷く。

 

 

 

「くそっ! 絶対に殺すぞ! あいつら――!」

 

「「ワポル様!?」」

 

「見せてやる! “バクバクファクトリー”」

 

 しかしワポルはタフな体をしており、まだまだ元気そうだった。

 そして、自らの体を家のような形に変化させた。

 

 

「マーハッハッハ! ワポルハウス! そして、奇跡を見るが良い!」

 

「「ぎゃあああッ」」

 

 ワポルはその状態でチェスとクロマーリモを食べだした。うわっ……、生でみるとグロいな……。

 

「仲間を食べた……!」

 

「何をしようとしてるの?」

 

 ルフィもビビも彼の意図が掴めないでいるみたいだ。

 

「いでよ! ドラム王国最強の戦士」

 

「「チェスマーリモ!」」

 

 チェスとクロマーリモが合体した姿でワポルの中から出てきた。

 ルフィは目を輝かせてカッコイイとか言っている。悪いけど、同意はしてあげられない。

 

「キャハハッ! 肩車しただけじゃない」

 

「侮るんじゃないよ。あいつらが強くなかったら、医者の追放なんてバカなマネ……、国民全員で止めてたさ」

 

 ケラケラ笑ってるミキータにドクトリーヌは忠告する。実際、奴らが恐怖政治の中枢に居たんだもんな。そのとおりだ。

 

「この国で王様の思いどおりにならんやつは死ね――ドラム王国憲法の第一条だ。よりによって、あんなヘボ医者の旗なんぞ掲げるんじゃねェ! 城が腐っちまうぜ!」

 

 そして、ワポルは城の上に掲げられたヒルルクのシンボルであるドクロの旗を大砲で撃ち落とす。いちいち、この男は下衆なことをするやつだ……。

 

「海賊旗……。おい、トナカイ……。あの旗……」

 

 ルフィは折れた海賊旗を眺めながらチョッパーに話しかけた。

 だが、彼はルフィの言葉には反応せずにまっすぐワポルに殴りかかろうとする。

 

「おれはお前を殴らない。殴らないからこの国から消えてくれ!」

 

 彼は拳を止める。恩人であるヒルルクが彼を救おうとしたから……。

 

 結局、彼の優しさもすべては無駄だった。ワポルは容赦なくチョッパーを攻撃した。

 彼は為すすべもなく血まみれになって倒れてしまった。世の中には煮ても焼いても食えない奴がいるってことかな……。

 よくもチョッパーに酷いことを……。私は静かに怒りを溜めていた。

 

 

 その時だ、ルフィは城の上からワポルに向かって叫び出した。

 手にはヒルルクのドクロマークの付いた旗を持って。

 

「お前らはこの海賊旗(はた)のもつ本当の意味を知らねェ!」

 

「うるせェ! 何度でも折ってやる! そんな目障りな旗!」

 

 そんなルフィの言葉を歯牙にもかけず、ワポルは再び大砲を彼に向かって発射した。

 

「よけろ! 危ない!」

 

 チョッパーは大声で彼に向かって叫ぶがルフィは微動だにしない。

 

「このドクロマークは“信念”の象徴なんだ!」

 

 案の定、ルフィは砲弾をマトモに受けてしまった。

 

「キャハ……、あの船長……。マジでイカれてるんじゃない?」

 

「ルフィさん……」

 

 ミキータとビビはルフィの姿を目を丸くして凝視していた。

 

「ほらな――折れねェ……!」

 

「まったくもって、彼に敵う気がしない……」

 

 私はこのモンキー・D・ルフィを間近に見てこのような感想を何度持ったことだろう。

 

「これは()()()()旗だから。へらへら笑ってへし折っていいものじゃないんだぞ!」

 

「ぐぬぅ……」

 

 ルフィの気迫に圧されたせいなのか、ワポルの顔色が青くなっていた。

 

「おいっ! トナカイ! おれは今からあいつをぶっ飛ばすけど……。お前はどうする!?」

 

 ルフィはチョッパーに質問をした。

 

 しかし、ルフィの言葉にチョッパーが反応するより早く、ワポルは再び彼を攻撃しようとする。

 

「やめろっ!」

 

 チョッパーはそれを止めに入った。

 

 彼は戦うつもりのようだ。大切な人の信念を守るために。

 

 ルフィはワポル。チョッパーはチェスマーリモと戦うみたいだ。

 うーん。私たちの出る幕がなくなってしまいそうだな……。いや、まだやり残したことがあるか……。

 しかし、無茶をして私の体もあまり良くない。どうしたものか……。

 

 チョッパーはランブルボールを口にして優勢……。おそらく漫画と同じく彼は勝つだろう。

 

 ワポルはそのスキに城に入って行く……。

 

 よし、彼を追うか……。ルフィはチョッパーに見惚れて動きそうにないし……。

 

「ミキータ、君に頼みたいことがある。聞いてくれるかい?」

 

 私はミキータにこっそりと話しかけた。今からワポルとやり合うために……。

 

「はい! ――くっ、違うって! しっ仕方ないわね。聞いてあげるわよ」

 

「ありがとう。悪いけど、私をここに来たときみたいに背負って城の中に入ったワポルを追ってくれ――」

 

 ミキータは私の頼みを快く聞いてくれて、私を背負ってくれた。

 彼女とはいい友達になれそうだなぁ。本当に優しい……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

「武器庫にさえ行けば、このバクバクの実の能力で人間兵器になることが出来る! そうしたら、あんな奴ら皆殺しだ!」

 

「そうはいかないよ! 食らえっ!」

 

 私はミキータに背負われながらワポルに発砲した。

 

「パクっ! マーハッハッハ! 食らうか! そんなへなちょこ!」

 

 しかし、ワポルは私が放った弾丸を大きな口を開けて食べてしまった。

 

「キャハハ……、あいつ銃弾食べたわよ……」

 

「ああ、よく考えたら砲弾も食べるような奴だった……」

 

 私とミキータは唖然として顔を見合わせた。

 

「十倍返しだ!」

 

「ミキータ! 浮くよ! 錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)

 

 そして、ワポルが大砲を私たちに撃ち出して来たので、私は命中すると爆発を起こす錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)を地面に撃ち、爆風を起こす。

 

「キャハハッ! 良いわね! なかなかの風よ……!」

 

 ミキータと私は爆風に乗って浮上して、ワポルを見下ろした。

 

「カバめっ!わざわざ的になりやがって!」

 

「そんなの撃ち落とすのはわけない! 必殺ッッ! 火薬星ッッ!」

 

 ワポルが私たちに向かって再び大砲を撃ち出したので私は錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)を大砲の弾に当てて相殺する。

 

「チッ! 大砲の弾をあんなやり方でッ! まぁいい! それよりも武器庫だ!」

 

 ワポルは武器庫の鍵を取り出して鍵を開けようとした。よし、この瞬間のために私はミキータに浮き上がって貰ったんだ。

 

「ミキータ! 頼みたいことがある――」

 

「マジ!? そんなこと出来るの!?」

 

 私はミキータに作戦を話す。彼女は作戦を聞くと驚いた表情をした。

 

「――必殺ッッ! 鉛星ッッッ!!」

 

 そして、私は上から床を狙って鉛の弾丸を放つ――。

 

「マーハッハッハ! どこを狙って――! うぎャあああああッ! そんなカバなあああッ!」

 

 その弾丸は上からでないと跳ねない角度で跳ね上がり、ワポルの持っている鍵を弾き飛ばした。

 

「キャハッ! ホントにこっちに鍵が飛んできたわ!」

 

 弾き飛ばされた鍵はゆっくりと落下していたミキータの手元に届き、彼女はそれを難なくキャッチした。

 

「ちくしょう! 鍵を返しやがれ!」

 

「見つけたぞ! 邪魔口ィィィィ!」

 

 ワポルは怒りの形相を浮かべてミキータに襲い掛かろうとしたが、ルフィがこちらまで駆けてきて、足を伸ばしてワポルを蹴飛ばした。

 

「ヌベェッッ!!」

 

 ワポルは吹き飛ばされて壁に激突する。

 

「ライア! ミキータ! 大丈夫か!」

 

「この隙にッ! 最後の奥の手だッ!」

 

 ルフィは私たちを気遣うが、ワポルは彼の意識が逸れたのを確認して、階段を登って逃げてしまった。

 

「私は大丈夫だ! ルフィ! やつを追ってくれ!」

 

「わかった!」

 

 私は自分たちに構わずルフィにワポルを追うように頼むと、ルフィは頷いて彼を追っていった。

 

「ふぅ、とりあえず……。私の役目は終わりかな」

 

 私はルフィの勝利をひと足早く確信して、ミキータに床に降ろしてもらう。

 

「キャハハッ! 随分とあんたも無茶をするのね。ちょっと前まで死にかけてたクセに……。そんなにあのトナカイちゃんが大事なの?」

 

 彼女はチョッパーのために私やルフィが動いていることを不思議に思ってるみたいだ。

 

「うちの船長が仲間にしたいみたいなんだ。だったら、私も彼をたとえ今だけだとしても仲間として扱いたい」

 

 私は本心からそう言った。たとえ、チョッパーが漫画と違って仲間にならない選択をしたとしても、この瞬間は彼の仲間でありたいと素直にそう思ったからだ。

 

「ふうん。イカれてるわね。そんなことに船長もあんたも命を懸けるんだもん。じゃあ、もし私が仲間になったとしてピンチになったら……」

 

「助けるさ。ていうか、ミキータはもう仲間だよ。私の大切な、ね……」

 

 ミキータがまるで自分がまだ仲間ではないみたいな言い方をするので、私は思っていることを口に出した。

 

「――ッ!?」

 

「どうしたんだ? 急に真っ赤になって……。熱でもあるのか?」

 

 するとミキータの白い顔がりんごみたいに赤くなった。もしかしたら、寒さにやられた?

 

「――もっ、もう知らない! 本当にバカなんだから。キャハッ……、人の気も知らないで……」

 

 ミキータは顔を背けながら、そう言った。

 どうしたんだろう? 一体、私が何をしたというのだ?

 

 

「ゴムゴムのォォォォォ! オオオオオオ! バズーカッ!」

 

 そんなことを彼女と話していると、上の方からルフィが必殺技を叫ぶ声が木霊した。

 

 やはりというか、当然というか、ルフィはワポルを宣言どおりぶっ飛ばしたらしい。

 我々の勝利が決まった瞬間であった。

 




ミキータとルフィの合体技なんですけど、ミキータがルフィを伸びる武器として扱うみたいなイメージです。
武器であるルフィの重量を上げて破壊力を増すみたいな感じですね。
キロキロの実でホントにそんなことできるのか分かりませんが……。悪魔の実を利用し合った合体技を出したかったのでやってみました。
次回からいよいよアラバスタ王国に入ります。


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新たな仲間と新たな友情

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!いろいろと力不足ではありますが、なんとか更新できているのは応援のおかげです!
今回からアラバスタ王国編がいよいよ本番に突入します。
それではよろしくお願いします!


 

 

「うるせェ! 行こう!」

 

 ルフィは漫画さながらの強引な勧誘でチョッパーを誘う。

 

 さかのぼること数時間前、ワポルたちを倒したとロープウェイでやってきたドルトンに報告した。その際に、ゾロとサンジとナミと合流した。

 どうやら、下でもひと悶着あったみたいだったが、ワポルの部下はゾロとサンジによって一瞬で片付けられたそうだ。

 

 私はベッドに逆戻りしたが、ドクトリーヌに武器庫の鍵を渡すと治療費を負けてくれた。

 退院に関しても口では認めなかったが、彼女の独り言は暗にこっそりと城を出ろと言っているように感じた。

 

 というわけで、残るはチョッパーの勧誘のみとなったが、彼の心の傷は大きい。

 私たちと多少は打ち解けたが、オッケーの返事はなかなか得られなかった。

 

 そんなやり取りをする中で彼は自分のコンプレックスを大声で晒す。トナカイで青っ鼻のバケモノだと……。

 

 チョッパーも本当は海に出たいけど、自分という存在に自信がないから一歩前に出ることが出来ないでいたのだ。

 ルフィのあの強引な一言はそんな彼の抱えるしがらみとか怖れとかそういったものを一瞬で破壊した。

 

 こうして、私たちはチョッパーを仲間に引き入れることに成功したのである。

 

 ドクトリーヌからの手荒い別れを背に我々はチョッパーと共に船へとソリで向かった。

 

 まぁ、その向かう道中でドクトリーヌの計らいでヒルルクが長年研究していたというピンク色の雪を降らせることで作られた“ヒルルクの桜”を見ることが出来たわけだが……。

 

 これが幻想的でそれは美しい光景だったんだ。

 

 チョッパーはソリを止めてしばらく泣いていた。それで、いいと思う。あの桜には彼の故郷の両親ともいうべき存在である――ヒルルクとくれはの想いが詰まっているのだから――。

 

 そして、私たちはアラバスタ王国に向かって出航をした――。

 

 

 

 さて、新しい仲間が入ってきたのだ。こんな夜にすることと言ったら決まっている。この出会いを祝した宴である。

 私たちは“ヒルルクの桜”を見ながら酒を飲んでいた。

 

「いやぁ、絶景だね。君は幸せ者だよ。チョッパー……」

 

「えっ――?」

 

 私がちょこんと座って“ヒルルクの桜”を眺めているチョッパーに話しかけると彼はポカンと口を開けて私を見た。

 

「だって、そうだろ? あの素晴らしい景色は君のためのモノだ。君も大切な人からの愛情を感じ取ったから泣いてたんじゃないかい?」

 

「うん……。おれは一人じゃなかった」

 

 私が彼に理由を話すと素直にチョッパーは頷いた。

 やっぱり、ぬいぐるみみたいで可愛いな……。

 

「ふふっ、これからは一人の時間が欲しくなるかもしれないよ――」

 

「ライア? それはどういう――」

 

 そして、私は彼に教える。これからは果てしなく賑やかな人たちに囲まれることになり、孤独を感じる時間など無くなってしまうということを……。

 

「おーい! チョッパー! ライア! 一緒に騒ぐぞ! コノヤロー!」

 

「よしっ! 騒ぐかッ!!」 

 

 ルフィが私とチョッパーに声をかけてきたので私は手を上げて高らかに宣言をした。

 酒の席ではハメを多少は外さないとね……。

 

「おおっ! ライアちゃん、何をするつもりだ?」

 

「あり得ないモノマネシリーズ! もしも、ゾロが床屋さんだったら――」

 

 サンジの言葉に続いて、私は得意のモノマネ芸を始めた。ゾロのモノマネを――である。

 

「あははっ! 似てる!」

 

 ナミは手を叩いて笑ってくれた。

 

「斬るぞ! てめェ! バカにしやがって!」

 

 ゾロは私がモノマネで彼を弄ったので、刀を抜いて威嚇してくる。

 まぁ、殺気はなかったけど……。

 

「斬るぞってところ、そっくりじゃねェか。マリモ野郎」

 

「んだと! コラァ! おめェはつまみでも作ってろ!」

 

「なんだと蹴り倒すぞ! オラァ!」

 

 サンジはニヤニヤ笑ってゾロを挑発すると、いつの間にかそっちと喧嘩になってしまった。

 

 

「キャハハッ! なんで、あんたのペットは凍ってたわけ?」

 

「笑い事じゃないわ! ミス・バレンタイン! でも、どうしてなの? カルー」

 

 船の近くで凍っていたカルーを見て笑うミキータと心配をするビビ。

 最初はゾロと船番してたはずなんだけど……。

 

「足でも滑らせたんだろ? ドジな奴だ」

 

 ゾロはニヤリと笑いながら、震えているカルーを見ていた。

 

「クエクエ――クエ〜」

 

 カルーは苦しそうな声を上げる。

 

「ゾロってやつが川で泳いで居なくなったと思ったから、助けようとしたら凍ったんだって」

 

「あんたのせいじゃない!」

 

 そんなカルーの言葉をチョッパーが訳すと、ナミがゾロにツッコミを入れる。

 そういえば彼は動物の言葉がわかるんだった。人間以外の動物って共通語を使ってるのかな?

 

「へぇ、君は医術に加えて動物の言葉がわかるんだね」

 

「凄いわ! トニーくん!」

 

「褒められても嬉しくないぞ〜。コノヤロー」

 

 私とビビがチョッパーを褒めると彼は盆踊りのようなリズムをとって嬉しさを全面に出す。

 何、この子……。抱きしめたい……。

 

「キャハハッ! チョッパーちゃん。全身から嬉しそうじゃない」

 

「嬉しくないって言ってるだろ〜」

 

 そんなチョッパーのほっぺをツンツンしながらミキータは笑ってた。

 

「ところで、ライア。医術ってどういう事?」

 

「ああ、それはね――」

 

 私はチョッパーについて簡単に紹介をした。彼がドクトリーヌから医術を習い、私の体を診てもらっていることも含めて。

 

「何ィ! チョッパー、お前……、医者なのか!?」

 

 ルフィは今さらのようにそれに驚く。

 あれ? ルフィって、それを知らないんだっけ?

 

「逆にルフィさんはなんでトニーくんをあんなに頑張って勧誘してたの?」

 

 熱心にチョッパーを勧誘していたルフィを見ていたビビは当然の疑問をルフィに投げかけた。

 

「七段変形の面白トナカイだからッ!」

 

「諦めなさい。ミス・ウェンズデー……。この船長の思考を読むなんてことは……。私はとっくに諦めたわ。あの人はノリと本能で生きてるのよ」

 

 ドヤ顔でそう言い放つルフィに絶句するビビ。

 それに対してミキータは彼女の肩を叩いて核心に迫るようなセリフを吐いた。一緒に戦ったからなのか、ルフィの本質をよくわかってる。

 

「ははっ、ミキータちゃんもこいつに慣れてきたってか。どうだい? もう一杯」

 

「キャハッ! 気が利くわね、コックくん。頂いちゃうわ」

 

 そんなミキータを見ていたサンジは笑顔を見せながら空いた彼女のジョッキに酒を注いでいた。

 チョッパーもミキータも上手く馴染んで良かった……。

 

 

「しまった! おれ、医療道具を忘れてきた」

 

「ああ、これだろ? ドクトリーヌのことだ。全部お見通しだったんだよ。これはソリに置いてあったんだ」

 

 その後、しばらくしてチョッパーが青ざめた顔をして忘れ物の存在に気が付いたみたいなので、私はソリから持ってきた彼の医療道具を見せる。

 

「そっか。ドクトリーヌ……」

 

 チョッパーはドクトリーヌの気遣いに気が付いて遠い目をしていた……。

 彼女は優しくて気高くて――素晴らしい女性だったなぁ……。私もあんな歳の重ね方をしたいものだ。

 

「おーい! ライア! もう一回モノマネやってくれ!」

 

「おれもやりたい! ゾロってやつのモノマネ! 教えてくれ」

 

「やるな! 斬るぞ!」

 

 ルフィが私にモノマネのおかわりを要求すると、チョッパーがやり方を教えてとせがんできた。

 するとゾロは不機嫌そうにツッコミを入れる。

 

「なるほど、そういう斬るぞのパターンもあるわけだ」

 

「お前もいい加減に……」

 

 私が次のネタに出来そうだと頷いてると、ゾロは再び刀を抜いた。

 うん。彼で遊ぶのはこのくらいにしておこう。

 

「まぁまぁ、飲みの席くらい許してくれよ。良いじゃないか。ウケたんだから。それはそうと……。そろそろ改めて乾杯しないか?」

 

 私はゾロを宥めて、もう一度乾杯をしようと提案した。

 

「おおう! いいぞ! やれやれ!」

 

「よし、今日は新しい仲間に“船医”チョッパーが! そして、先日は命の恩人であるミキータも仲間になった! 2人の乗船を祝して――新しい仲間に! 乾杯!」

 

 ルフィの景気のいい後押しを受けて私が大きな声で乾杯の音頭をとった。

 

「「カンパーイ!」」

 

 ジョッキを掲げて笑い合う私たち……。このなんでもない安い酒を飲む瞬間が冒険している中で一番楽しいときかもしれない。

 

「おれ、こんなに楽しいの………、初めてだ!」

 

「キャハハ……。こんなのも……、悪くないわね……」

 

 チョッパーもミキータも満面の笑みを浮かべながら宴を楽しんでいた。

 

 この宴は翌日の早朝まで続く……。ふわぁ……、寝不足だよ……、まったく……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「つまりクロコダイルは英雄(ヒーロー)ってことか……、君の国では……」

 

 翌日の昼時、みんなで雑談をしている中でクロコダイルのアラバスタ王国での評判の話題となった。

 どうやら彼は民衆のヒーローとして捉えられているようだ。

 

「ええ、国を襲う海賊を追い払ってくれるから……。民衆からするとありがたい存在なの」

 

 ビビは悔しそうな顔をして私の言葉を肯定した。

 

「しかし、その英雄様がアラバスタを乗っ取ろうとしていることは、みんなは思ってもいねェんだろうなァ」

 

「とにかく、そのクロコダイルってやつをぶっ飛ばせばいいんだろ!」

 

 サンジの言葉に続いてルフィが拳を握りしめてそう言った。まぁ、ざっくり纏めるとそうなんだけど……。

 

「ちょっと待って。キャハッ……、えっ、社長(ボス)の正体って……、あの王下七武海のサー・クロコダイルなの!?」

 

 ミキータの顔がみるみる青ざめていって、驚きの声を上げた。

 そういえば、言ってなかったな。Mr.0と電伝虫で会話したりしてたから知ってるものだと思ってた。

 

「あなた、何を今さらなことを言ってるの?」

 

「キャハハ、あんたたちイカれてると思ったけど、よくボスの正体を知ってアラバスタに向おうとか思えたわね……」

 

 ナミの言葉にミキータは苦笑いを浮かべながらそんなことを言う。

 まぁ、普通は七武海に喧嘩を売ろうとか思わないよな。この人数で……。

 

「ミス・バレンタイン。もしこのままアラバスタ王国へ行くのが――」

 

「行くわよ。どうせ逃げられやしないんだし……。まっ、私の場合は自業自得なんだから、ケジメくらいはつけるわ」

 

 ビビはミキータとかなり親しくなっていたから、彼女に気を遣おうとしたのだろう。

 しかし、ビビがセリフを言い終わる前に出たのはミキータの覚悟である。

 

「あっ、ありがとう。これからはオフィサーエージェントとの戦いになるはずだから、あなたがいるととても助かるわ」

 

「戦力としてはあまり期待しないでね。Mr.4以上のエージェントには正直勝てる気がしないから……」

 

 ミキータはビビの言葉に静かにそう付け加えて神妙な顔をしていた。

 オフィサーエージェントの彼女はよく知っているのだろう。Mr.4以上のエージェントの誇る高い戦闘力を……。

 

「ミキータ……」

 

 私はそんなに彼女の横顔を眺めていた。Mr.4以上のエージェントか……。

 

 

 

 

 それからさらに時が流れて、ドラム王国を出て5日後のことだ。私たちは食材不足という問題に直面していた。

 魚群とか、なかなか遭遇しないものだね……。

 釣りをしても昨日までノーヒット。うーん。困った……。

 

 そんなわけで、今日は釣りを一休みしてミキータと部屋で一緒にある作業をしていた。

 

「ちょっとルフィたちを手伝って来るよ」

 

「わかった。あとは私一人でもできるわ。そもそも、私のための作業だし……」

 

 私は自分の作業が一段落ついたので、ルフィたちの様子を見にデッキへと向かった。

 

 

「オカマが釣れた〜!」

 

 私がデッキに足を踏み入れたとき、ルフィが高らかにMr.2を釣り上げていた……。うわぁ……、なんか、すごい光景だな。

 

 漫画と同じく色々と濃いキャラクターの彼を見ながら、私の脳みそはフル回転していた。

 

 彼をどうすべきか……。Mr.2だということを暗に伝えてここで片付けるという手もあるけど……。どうしよう……。

 

 しかし、後々のことを考えるとそれも悪手のような気がするんだ。

 なんせ、ここでルフィとMr.2が友人になっておくことが今後の展開で大きく作用することになる。

 少なくとも、漫画ではMr.2は2回ルフィを救っている。

 アラバスタ王国脱出とインペルダウンからの脱出だ。

 

 おそらく、ここで彼を叩いたらルフィとの友情は芽生えないだろう。

 どちらが正しいのか分からないが、ここは静観したほうがいいか……。

 

「おーい! ライアー! オカマが海に落っこちちまった。助けてやってくれねェか?」

 

 ルフィは再び海に落下したMr.2を助けるように私に要求した。

 あー、サンジは昼飯の準備、ゾロは二度寝中か……。

 順番的に私になるよね……。ナミがあの奇怪な生き物を助けようとするはずないし……。

 

 私は若干気が進まなかったが、Mr.2を海から助け出した。

 

 

「いやー、ホントにスワンスワン。こんなイケーメンな海賊さァんに救ってもらえるなんて、あちし超ラッキー。この御恩は一生忘れません。あと、温かいスープをくれないかしら?」

 

 Mr.2はお礼と厚かましい要求を口にした。

 

「「ねェよ!」」

 

「あと、私は女だ。最初に言っておくが」

 

 みんなは空腹で気が立っていたので口を揃えてツッコミを入れた。そして、私は面倒なので自分の性別を付け加えた。

 

「あらァ! 残念、ご同業の人〜? 大丈夫。オカマもオナベも仲間よ! ナ・カ・マ! 食っちゃったりしないわ〜! チュッ♡」

 

「誰がオナベだ! 撃ち落とすぞ!」

 

 Mr.2に同業扱いされて、私は思わずキレて銃を抜いてしまった。

 どういう発想をしたら、そんな発想になるんだ……。

 

「ライアがキレた……。珍しいわね……」

 

 そんな私をナミが物珍しそうに見つめていた。

 

「お前、泳げねェのか?」

 

「そうよう。あちしは悪魔の実を食べたの。そうだ。お近づきの印に余興代わりに見せたげるわ」

 

 Mr.2はルフィの言葉を受けてマネマネの実の能力を披露する。これは右手で触れた者の姿とまったく同じ姿に変身する能力である。

 その上、メモリー機能付きで何人もの人間の姿に化けることができる。

 この能力は使いようによってはとても便利な能力だ。

 

 Mr.2は私の姿にも化けてしまった。なんか同じ顔があると気味が悪いな。

 

「おー、ライアもそっくりじゃねェか! あははっ! 面白ェな。それでなんかやってみてくれよ!」

 

「いいわよ〜! じゃあこういうのはドゥーかしら?」

 

「どっ、どうしたの? こっちを見て」

 

 ノリがいいMr.2がルフィのリクエストに答えようと、ナミに近づいて行った。

 何をしようとしてるのだろう。

 

 ナミも不安そうな表情をしている。

 

「おい、お前……。オレの女になれよ……」

 

「はぅぅ……」

 

 ナミは顔を真っ赤にして、立ちくらみを起こしたようにフラフラになった。

 

「ん? ナミの顔がすげェ赤くなってっぞ!」

 

 ルフィは面白そうにナミの顔を見ていた。

 

「ほら、お前も目一杯愛してやるぜ――。ベッドでな……」

 

「へっ? あっ、ベッドで愛してって……」

 

 ビビはMr.2にそう言われて足から崩れ落ちそうになった。

 なんだ? あのオカマは何がしたいんだ?

 

「おっおい、ビビ! しっかりするんだ。というか、私の姿で変なことを言わないでくれ!」

 

 私はビビに駆け寄って、彼女を支えながらMr.2に苦情を言った。

 

「どーうだったあ? あちしの()()()()っ! 普段は決して人には見せないのよう」

 

 そんなことはどこ吹く風のように彼は笑い飛ばして、ルフィと肩を組んで楽しそうに踊っていた。

 

 まぁ、こういう感じでルフィとMr.2は仲良くなったが、彼の正体は簡単にバレた。

 迎えに来た彼の部下が“Mr.2ボンクレー”とはっきりコードネームで呼んだからだ。

 

 正直言ってビビはその前から気付いても良いくらいの情報は持っていたんだけど……。

 

 彼のことに気付かなかったビビは落ち込んでいたが、私はもっと質が悪い……。自分勝手な理由をつけて彼を見送ったのだから……。

 

 特にナミはMr.2に触れられたことを懸念した。仲間が信じられなくなると……。

 

 そして、その打開策を口にしたのはゾロだった。

 

「むしろ、ここでヤツに出会えたことをラッキーだと思うべきだ。対策が打てるだろ」

 

 ゾロが自信満々な声を出して対策を話しだした。

 アラバスタ王国に間もなく到着するというときだった――。

 




ライアに会ったボンちゃんの反応の正解は同業者(オナベ)だと思う――でした。当たった方はいらっしゃるでしょうか?
そして、彼はライアの顔を手に入れました。これも色々と影響が出てきそうです。
次回はいよいよ、アラバスタ王国に突入! 
あの人気キャラクターも登場します!


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火拳のエース

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回はタイトルどおりの回です。
それではよろしくお願いします!


「よし! これから、何が起こっても……。左腕のこれが――仲間の印だッ!!」

 

 私たちは左腕に✕印をつけて、そこに包帯を巻いた。

 仲間が疑わしかったときに、包帯をとって✕印を見せ合えば自分たちの疑いが晴れるという算段だ。

 

 

 アラバスタ近海はオフィサーエージェントの部下である通称ビリオンズの船が多数確認されており、クロコダイルの計画が最終段階であることは間違いないみたいだった。

 

 さて、無事に上陸出来たことだし、まずは――。

 

 

「メーーシーー屋〜〜ッ! メシ屋はどこだァ!」

 

「「ちょっと待てー!!」」

 

 とか考えてると既にルフィは彼方までメシ屋を探して走り出していた。

 ふむ、マイペースというか欲望にまっすぐというか……。

 

「あいつ、敵陣の真っ只中ってことわかってんのか?」

 

 サンジは呆気に取られた顔をしてルフィの後ろ姿を見ていた。

 

「仕方ない。私が彼を探してこよう。彼の気配なら少し離れていても感知できるし……。みんなは旅支度を整えてくれ」

 

「お願いするわ。B・Wのエージェントもいるかもしれないから、なるべく早めに連れ戻して」

 

 私はルフィを見つけて連れ戻すと伝えると、ビビは大きく頷きながらそう言った。

 仲間の位置を感知できる力はこういうとき便利だな……。

 

「うん。わかってるよ。ルフィじゃないけど、食事は済ませておいてくれ。じゃあ――」

 

 私はそう言い残してルフィの後を追った。

 

 

 少し歩くと町並みが顔を出した。

 ここが港町ナノハナか……、見たところのどかな感じだな……。

 

「それにしても暑い……。だが、肌を露出すると紫外線が心配だし……」

 

 そんな独り言をつぶやきながらルフィの気配がする方に向かって歩みを進める。

 

「あとは、これを運んで……。きゃっ、よっととっと……。――あっ、すみません! ありがとうございます」

 

 ルフィの気配が止まったことを感知したとき、目の前で女性が大きな荷物を持ちながら転びそうになっていたので、私は抱きとめた。

 

「大丈夫かい。手伝おうか?」

 

 私はその女性にそう話しかけた。

 あれ? この人って……。

 

「そっそんな。悪いですって――」

 

「あっ――。いつかの海兵さんか……」

 

 お互いが顔を確認すると見知った者同士だということがわかった。

 たしぎ曹長か……。そういえば、スモーカー大佐もこの町にいるんだっけ。

 まずいな。ルフィより先に私がトラブルに足を突っ込んでしまった。何とかしないと……。

 

「まっ、魔物狩りのアイラ! やはりアラバスタ王国にッ! もごもご――」

 

「静かにしたまえ。たしぎ曹長……」

 

 私は即座に彼女の後ろに回り込んで背中に銃口を押し付ける。荷物を手にした彼女は刀を抜くことが出来なかったので背後を取ることは容易だった。

 そして、彼女を階級も含めて呼んでみた。

 

「――ッ!?」

 

 すると、彼女はハッとした表情を浮かべた。

 さて、どうしたものか……。

 

「君が居るのなら、スモーカー大佐もこの国にいるのだな? 大声を出すと撃つ。小声で答えろ……。あと、とりあえず荷物は下に置け。重いだろ?」

 

「そっ、それがどうしたっていうんですか?」

 

 私が静かに低い声で彼女に話しかけると、彼女は荷物を置きながら小さな声でそう返した。

 

「ならば彼には伝えておきたまえ。王下七武海――サー・クロコダイル。彼はこの国を乗っ取ろうとしている」

 

 私はとりあえず今後のためにクロコダイルのことを彼女に話しておいた。

 クロコダイルの処分は海軍にやってもらったほうが何かと都合がいいし……。

 

「あの、サー・クロコダイルが? そんな戯言を……。あっ、あなた何者なんですか? 海賊なんじゃ……」

 

「理由あって立場は明かせない。察して欲しいとしか……。しかし目指す正義は君と同じだとは言っておこう。同じ女性として君には期待してるよ」

 

 彼女はクロコダイルが国を乗っ取ろうとしている荒唐無稽な話は信じられないみたいだった。

 なので、私は適当なことを言って誤魔化すことに決める。

 とりあえず、味方っぽいことでも言ってみるか。偉そうな感じを出して……。

 

「正義は同じ……。まさか……、諜報――」

 

「しーっ……。そこまでだ。たしぎ曹長。それ以上、喋ることは許されない。わかるね」

 

 私は彼女の唇に人差し指を当てて言葉を止める。

 諜報とかを明言すると色々とツッコまれて面倒そうだし……。

 

「あっ……」

 

 私の指が彼女の唇に当たると、たしぎは頬を赤くして息を呑むような仕草をした。

 

「私の言葉が信じられないなら、犯罪組織バロックワークスとサー・クロコダイルの関係性を調べると良い。この国には既に何人ものエージェントが侵入している。ミスターのあとに数字が付いたコードネームを持つ怪しいやつを見かけたりしなかったか?」

 

「たっ、確かにMr.11と名乗る怪しい人を先日捕まえました」

 

 たしぎは私の言葉に思い当たる節があるような言葉を出した。

 あー、フロンティアエージェントの一人を捕まえたんだっけ。

 

「なるほど、やはり彼は優秀だな。スモーカーくんにはまた君を通して情報を伝える。しかし彼は敵を作りやすいタイプだからな……。君がしっかりフォローしておいてくれたまえ。頼むよ……、うん。いい目だね君は……」

 

「顔が近っ……、きゃっ……」

 

 私は適当なキャラクター設定を作ったことを後悔していたが、もうこれで押し通すしかないと思って、銃を構えながら彼女の正面に立ち顔を近づけた。

 

「危ない。気を付けなきゃダメだよ。君の体は民衆を守る大事な体なんだら」

 

「ひゃっ、ひゃい。すみません……」 

 

 腰から砕け落ちそうになったたしぎを片手で支えながら私はゆっくりと諭すように声をかける。

 彼女の殺気は既に消えて、惚けたような顔をしていた。どうやら、敵だとは認識してないみたいだ……。

 

「では、スモーカーくんによろしく。おっと、敬礼は結構だよ。私は海賊だからねぇ」

 

「はっ、はい」

 

 なので、私はそのまま彼女に手を振ってその場を去った。

 あくまでも堂々と毅然に……。焦りを悟らせないようにして……。

 

 

 

「ふぅ、なんとか――」

 

「誤魔化せたってか? すげェな。どうやって海兵を黙らせた?」

 

 私が独り言を再び呟こうとしたとき、背後にとても強い人間の気配がした。

 この気配……、確実にルフィよりも強い……。誰だ……。

 

「私の背後に立つとはいい度胸じゃないか――」

 

「おっと、待て待て! おれはお前に喧嘩を売りに来たわけじゃねェ。ちょっと、人探しをしてるんだ。この手配書のこれ……、お前だろ?」

 

 私は即座に振り向いて引き金を引こうとすると、オレンジ色の帽子をかぶった、そばかすが特徴的な男が慌てた顔をして、ルフィの手配書の隅っこに映ってる私を指差した。

 この男は……。まさしく……。

 

「――きっ君は。まさか……。ポートガス・D・エース……!? 白ひげ海賊団の2番隊隊長の……」

 

「へぇ、おれのことを知ってんのかい?」

 

 私がルフィの兄であるエースの名を呼ぶと、彼はそれを肯定した。やっぱりそうか。まさかルフィより先に彼と遭遇するなんて……。

 

 そもそも、この人の処刑が発端なんだよな。頂上戦争って……。

 だから、あまり会いたい人ではなかった。情が移るとやり難くなるから……。

 

「もちろんだ。ウチの船長のライバルのところの幹部くらいはチェックしてるさ。これでも元賞金稼ぎなんでね」

 

 私は後学のために四皇とその幹部の手配書には一通りチェックを入れていたので、この言葉には嘘はない。

 彼の懸賞金は5億5千万ベリーだったかな? 当たり前だけど、この辺の海賊とはランクが違う。

 

「だっはっはっ! ルフィはオヤジのライバルってか。流石はあいつの仲間だ面白ェ」

 

「私は冗談を言ったつもりはないよ。彼は海賊王になる男だ」

 

 私は笑われてイラッとしたので、はっきりとルフィは海賊の頂点に立つ男だと明言した。

 

「冗談じゃねェこたァ、目を見りゃあわかる。笑ったのはそういう理由じゃねェんだ。なんつーか嬉しかったのさ」

 

 エースは笑った理由は私の勘違いだと話す。そして、私のセリフが嬉しかったとも。

 

「嬉しい? そういえば、君はどうして私に絡んできた? 海兵を煙に巻いたことが理由じゃないんだろ?」

 

「おっと、いけねェ。お前さん、その反応だとドラムで伝言を聞いたわけじゃなさそうだな」

 

 エースが私に話しかけてきた理由を質問すると、彼はドラムで何かしらの伝言を頼んだようなことをつぶやいた。

 

「伝言……。ふむ、ドラム王国()()()場所には行ったが心当たりはないね。言動から察するとルフィの知り合いみたいだが……」

 

 私は彼にそう伝えた。ルフィとの関係性を話すように促しながら……。

 

「ああ、おれはルフィの兄貴だ。お前、絶対に弟の世話を焼いてるだろ? なんとなく想像がつく」

 

 ニヤリと笑いながらエースはルフィの兄だということを告げた。世話を焼いてるといえば、現在進行形で焼いてる。

 

「へぇ、あの火拳のエースがルフィの兄か……。それはびっくりだ」

 

「そう言ってるようには見えねェぜ」

 

 私のリアクションが薄かったからなのか彼は興味深そうな顔をして私の表情を見ていた。

 

「すまないね。あまり感情を表に出さないタイプなんだ。要するにルフィに会いたいんだろ?」

 

「ああ、案内してもらえると助かる」

 

 彼の要望を察して問いかけると、エースは頷いてルフィのところに連れて行くように頼んできた。

 まぁ、それは構わないんだけど……。

 

「案内する必要はないさ。ルフィはもうすぐこっちに来る。ほら」

 

 私はルフィが猛スピードでこちらに向かってくることを察知していた。

 案の定、ルフィは私が指差した方向から走ってこっちに来ていた。

 

「おっ、本当だ。よう、元気そうじゃねェか。久しぶりだな。ル――」

 

 エースは嬉しそうに笑って彼に向かって手を振ったが、ルフィは思いきり無視してそれを横切ってしまう。

 

「うぉおおおおお!」

「待てェ! 麦わらァ!」

 

 それもそのはず、逃げるルフィを鬼のような形相をしたスモーカーが追いかけていたのだ。

 

「…………」

 

「あー、スモーカー大佐だったか。知ってる気配だったから何かに追われてるとは思ったけど」

 

「ったく。世話が焼ける弟だ」

 

 エースはやれやれというような口調でつぶやき、信じられない速度で2人を追いかけて行った。

 なるほど、メラメラの実の力だけではなく、本人の力も相当だな……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 それから、エースはスモーカーを足止めしてくれた。

 なので、私はルフィの首根っこを掴んで船に戻って行った。あーあ、ご飯食べそこねたなー。

 

 そして、船に戻った私たちは急いで出航する。カルーにビビの書いた手紙を託して――。

 彼は有能だから、きっと任務を果たすだろう。水をがぶ飲みしてたけど……。

 

「なんで、ライアちゃんはおれの買ってきた踊り子の服を着てくれないんだい?」

 

「絶対に似合わないだろ? というか、こういうのはナミたちみたいな色々と持ってる可愛い子が着るから良いんじゃないかな?」

 

 サンジが私に踊り子の衣装を着せようとしてきたので拒否した。

 だって、あの3人の横であんな格好したくない。明らかに私だけ貧相だし……。

 

「私はこういうゆったりしたやつで良いんだよ。武器も隠せるしね……」

 

 私はサンジやゾロと似たような格好の服を自分で購入していたのでそれを着た。

 なぜか、ナミやビビやミキータはホッとした表情をしていた。どういうこと?

 

 

「で、ルフィの兄貴ってのはどうだったんだ?」

 

「強いね。私たちの中の誰よりも」

 

 ゾロがエースの印象を聞いてきたのでその問いに対して端的に答えた。

 強い、というのは本当に第一印象だった。

 

「ほう」

 

「ルフィよりも強いって言うの?」

 

「キャハハッ、そりゃあ、とんでもない化物ね」

 

 私の、誰よりも強いという言葉には男女で反応がキレイに分かれた。

 ゾロはわかりやすい反応だ。

 

「だっはっは、エースには1回も勝ったことねェからな。だけど、ライア! 今やったらおれが勝つぞ!」

 

 ルフィはそれでも私の言葉を笑って受け流し、それでも勝つと宣言する。

 そんなこと言ってると後ろから――。

 

「お前が……、誰に勝てるって?」

 

「エ〜〜〜ス〜〜っ!!」

 

 ルフィを叩き落とすかのように船に飛び移ってきたエース。

 ルフィは彼の顔を見るなり大声で彼の名を呼んだ。

 

 エースと再会したルフィは本当に嬉しそうにしている。

 

 彼は黒ひげを追ってグランドラインを逆走していたのだという。仲間を殺した落とし前をつけさせるために。

 

 そして、ルフィに会いに来た目的は彼にビブルカードを渡すため。

 この白い紙切れが相手の居場所を示すアイテムっていうことなんてノーヒントでわかるわけない。

 

 まぁ、彼は敢えて黙ってたんだろうけど……。それがわかるくらいの位置まで進まないと意味を成さないだろうし。

 

 

「できの悪い弟を持つと……。兄貴は心配なんだ。おめェらもこいつには手ェ焼くだろうが……。よろしく頼むよ」

 

 エースは私たちにルフィのことを託すような言葉をかけてきた。

 義理堅い人なんだろうな。そして、ルフィを大切に想っている。

 

「エース……、もう行くのか?」

 

「ああ、ここに来たのはさっきも言ったがついでだからな」

 

 ルフィはエースが立ち去ろうとしているのを見て、声をかけると、エースは頷いて船を動かそうとした。

 

「じゃあ、私から一言いいかい?」

 

「おっ、ルフィの世話焼き係か? どうした?」

 

 私は彼からルフィを任せるというような言葉を受けたからなのか、つい口が動いてしまった。

 

「あまり生き急がない方がいい。ルフィの為にも生きることを諦めないでくれ……。まぁ、深い意味はないけど、覚えててくれたら嬉しいな」

 

 何故なのか分からないが、そんな言葉が出てしまった。

 未来のようなモノを知っている罪悪感からなのかそれとも……。

 このとき、私は頂上戦争など起きなくても良いから彼に生きて欲しいと思ってしまったのだ……。

 

 甘い……。非情になれないクセに保守的だなんて、半端者だ私は――。

 

「はっはっはっ! やっぱ、おもしれェ奴だな。お前……。まっ、覚えといてやるよ。次に会うときまでな」

 

 そんな私の冷たくなった心を知っているのか知らないのか、彼は笑った。

 その笑い声は朗らかで非常に心地よい響きだった。

 

「ルフィ! 次に会うときは――海賊の高みだ」

 

 エースは最後に弟にそう言い残して、去っていった。

 海賊の高みか……。今の私たちではとても届かないな……。

 

 この戦いで私も成長しなくては……。この先、果てしなくエスカレートしていく死闘を生き残るために――。

 




ライアが適当なノリをたしぎに見せたせいで、変な勘違いをされてしまいました。
あと、頂上戦争の原因となるエースに対しても彼女は思うところはあるみたいです。


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ユバを目指して

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!応援に応えられるように、さらに面白く出来るように頑張ります!
それではよろしくお願いします!


 “ナノハナ”から“エルマル”に着いた私たちは、反乱軍が本拠地にしているという“ユバ”を目指して砂漠を歩いていた。

 

 しかし、ルフィにはまいった。クンフージュゴンという勝負をして負けたら勝った人に弟子入りをする変わった生き物を大量に倒してしまい、クンフージュゴンたちがぞろぞろと弟子入りしてしまったのだ。

 

 クンフージュゴンはずっと付いてくるつもりだったみたいだが、チョッパーが交渉して大量の食べ物と引き換えに諦めてもらう。

 

 エルマルは緑の町と言われていたみたいだが、干ばつによってゴーストタウンと化していた。

 これは、クロコダイルが国王に不信感を募らせる目的でこの国の首都である“アルバーナ”でダンスパウダーという《雨を呼ぶ粉》を利用したことが原因だ。

 

 ビビは怒り嘆きながら彼の所業について語る。

 クロコダイルがやり難い相手だという最大の理由は本人が強いクセに暗躍することを好むことだ。

 

 まったく、こういう陰湿なやり方は本当に――腹が立つ。

 

 クロコダイルへの怒りを胸の中で増幅させて、私たちは先に進んだ――。

 

 

 しばらく歩いた後に、私はナミに話しかけた。

 

「そうだ、今のうちにコイツを渡しておこう。君に頼まれて作った武器。天候棒(クリマタクト)だ」

 

 私は元ドラム王国を出発したくらいのときにナミから依頼されて作った武器、天候棒(クリマタクト)を彼女に見せる。

 

「もう出来たの? 仕事が早いわね」

 

 ナミは天候棒(クリマタクト)を見て感心したような声を出す。

 

「まぁ改良の余地はあるけど、一応は注文どおりにはなってるはずだよ。1回、使ってみせよう」

 

 私は天候棒(クリマタクト)を構成する三本の棒について説明を開始した。

 

熱気泡(ヒートボール)冷気泡(クールボール)電気泡(サンダーボール)……。こうやってボタンを押すと三本それぞれから特性のある気泡が飛び出す。スピードはないけど……」

 

 私は三種類の気泡を出しながらナミに説明した。

 

「ライア、何だこれ?」

 

「ルフィ! 触っちゃダメだ!」

 

 すると、それを見ていたルフィが熱気泡(ヒートボール)を人差し指でつついた。

 

「あっぢぃぃッ!」

 

「そりゃあ、熱いよ。緋色の弾丸(フレイムスマッシュ)錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)にも使っている、発熱剤を利用してるんだから」

 

 叫ぶルフィに気泡は危険物だということを話す。当たれば、それなりにダメージは与えられるように作ったけど、気泡のスピードが遅いのが難点なんだよなぁ。

 やっぱりナミが漫画で使ったようなやり方が一番だと思う。蜃気楼とか出してたし……。

 

「へぇ、すっごーい。ありがとう。ライア」

 

「あとはこうやって水を噴射したりとか、詳しいやり方は説明書に書いてある。しかし、あくまでも護身用の範囲は脱しない武器だ。天候に詳しい君ならこの説明書以外の使い方も思い付けると信じてるけどね」

 

 説明書にはサイクロン・テンポや再現できたか不安だがトルネード・テンポについても書いてある。

 

「説明書以外の使い方……。そうね、考えてみるわ」

 

 ナミに敢えて使い方を自分で考えるように促したのは、その方が自由な発想が出来るようになり、戦術の幅も広がると考えたからだ。

 

「あと、ミキータの武器もメンテナンスが終わったから……。これなら君の能力をフルで活かせるはずだ」

 

 そして、私はミキータにも新しく作った武器を渡す。

 

「キャハハッ、なかなか面白い武器よね〜。気に入ってるわ」

 

 ミキータは楽しそうに笑って武器を受け取った。

 キロキロの実は重量のコントロールを自由自在に行うことが出来る。彼女の能力は武器を使ってこそだと私は思った。

 

 だが、ミキータは武器の心得がないと言っていた。だから、とりあえず誰でも扱える簡単な武器にしてみた。

 

「――あの、ライアさん? そのう、ナミさんとミス・バレンタインに武器を?」

 

「うん。そうだよ。B・Wのオフィサーエージェントと戦闘になる可能性が高いからね。備えは必要だろ?」

 

 ビビの質問に私は答える。ナミはもちろん、ミキータも自分の力不足を口にしていた。

 だから、私は彼女たちの武器を作ることにしたのだ。

 ミキータは手先が器用だったので作り方を教えると半分くらいは自分で何とかしていた。

 

「えっ、ええ。そうよね。あ、あの私には武器を――」

 

「ああ、ビビの武器か……。ごめん。用意してないや……」

 

 そういえば、ビビの武器については考えてなかった。

 守るべき対象だから戦う機会を作らないようにするつもりだったが、考えてみたら護身用の武器くらい持たせておけばよかった。

 

「そっそうよね……。ナミさんやミス・バレンタインと違って私なんて……。戦力外だろうし……」

 

 するとビビはあからさまにうつ向いてしょんぼり顔をする。思ったよりも傷ついてる? なんだか申し訳ない……。

 

「いや、決してそんなこと思ってるわけでは……。じゃあ、この国にいる間だけ私の緋色の銃(フレアエンジェル)を貸しておくよ。いくつか、弾丸も渡しておこう」

 

「えっ? ライアさんの武器を……?」

 

 ビビの顔がパッと明るくなる。そんなに嬉しいもんかな?

 

「あっ、でも使い慣れない銃を渡されても――」

 

「そっ、それがいい! ライアさんの銃を持っていたい!」

 

 ビビが思いの外大声を出したので驚いた。急にそんなに大きな声を出さなくてもいいじゃないか。

 

「ああ、そうかい? 銃が使いたいとは思わなかったな……」

 

「ライアさんの銃……。持っているとまるで、一緒に居るみたい」

 

 よくわからんけど、ビビに私の愛銃を渡すと彼女はそれを大事そうに胸に抱えてしばらく歩いていた。

 そんなに銃が使いたかったのかな?

 

 

「お前、自分の武器を渡しちまって大丈夫なのか?」

 

 そのやり取りを見ていたゾロは私にそんな質問をする。

 

「うん。これがようやく完成したからね。この銀色の銃(ミラージュクイーン)が……」

 

 私は先日、ワポルに向かって使ったマスケット銃、銀色の銃(ミラージュクイーン)を取り出した。

 

「おおッ! かっけェ!」

 

「この前、ライアちゃんが使ってたやつか。ありゃあ、すげェ威力だったもんな」

 

 ルフィとサンジが私の銃を見て感想をもらす。

 威力は確かに格段に上がったと思う。緋色の銃(フレアエンジェル)より重いからスピードは落ちちゃうんだけど……。

 

「なんとかこれでオフィサーエージェントにも対抗してみせるつもりだよ」

 

 そんなやり取りをしながら暑い砂漠をひたすら進んで行った。

 

 途中、ルフィがワルサギという鳥に引っかかって荷物を取られそうになったところで銃を使って威嚇したり、サンドラ大トカゲと戦ったり色々とあったが、何とか夜にはユバに辿り着いた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「私はね……、ビビちゃん! 国王様を信じてるよ……! あの人は決して国を裏切るような人じゃない……、そうだろう!? 反乱なんてバカげている……! あのバカ共を――頼む! 止めてくれ!」

 

 ユバの町はエルマルと変わらないくらい枯れてしまっていた。

 そこで水を得るために砂を掘っていた男がビビに気が付き声をかけた。

 彼は反乱軍のリーダーであるコーザの父親、トト。ビビとは彼女が子供のころからの知り合いらしい。

 

 反乱軍は既にナノハナの東側にあるカトレアに本拠地を移しており、ここには居ないとのことだ。

 彼はビビに懇願していた。反乱を止めることが出来るのは彼女だけだと……。

 

「トトおじさん、心配しないで……。――反乱はきっと止めるから!」

 

 トトに笑顔でそう応えたビビ。

 

 しかし、彼女の表情(かお)は笑っているのに――泣いているようにも見えるほど、痛々しかった――。

 

 彼女はかなり心が追い詰められている。

 そりゃそうだ。100万人が殺し合いをしようとしてるのだから――。

 

 

 彼女の顔を見て頭に過ったことがある。

 漫画だとこのあと、ルフィとビビが喧嘩してクロコダイルを直接叩くためにこのあとレインベースのカジノに向かうが……。

 無策で突入するというのは、今回はかなりリスクが高い。

 

 なぜなら、リトルガーデンを去ったMr.3たち……、彼らがクロコダイルと接触していれば、私たち全員の生存はもちろんミキータの裏切りもバレていることになる。

 

 ミス・ゴールデンウィークはクロコダイルの理想郷の建造に協力すると言っていたから、当然アクションを起こそうとしているだろうから、そろそろ接触してる頃だと考えられるのだ。

 

 ともすると、クロコダイルは私たちがレインベースに来ることも想定するだろうし、全員の存在がバレているので漫画のように油断をして、そのスキをサンジに突かれるようなマネもしないだろう。

 

 だから、今回は漫画のように罠に引っかかって捕まるのだけは避けなくてはならないのだ。

 

 いっそ、ビビの最初の提案どおりカトレアに向かうのも1つの手か? クロコダイルが一番警戒してるのはカトレアでビビがコーザと接触することなのだから……。

 

 うーむ、レインベースでクロコダイルを倒せれば……、と考えると悩むところだ……。

 

 なんせカトレアに行くにはかなり時間がかかる。その間の反乱軍の動きも把握できない。

 

 そういう面でもルフィが立てたクロコダイルをぶっ飛ばすという戦略は実に理に適っていたのだ。

 

 だが、クロコダイルはルフィが2回も負けた相手だ。ちょっとでも歯車が狂っていたら3度目の勝負だってないかもしれない……。

 レインベースに行くなら最初の1回目で倒すくらいの気持ちで策を練らなくては……。

 

 私はそんなことを考えていたのである。

 

「ライアさん? みんな宿に行ったわよ。難しい顔をしてるけど、何を考えていたの?」

 

 気が付けばルフィは穴を掘るのを手伝っていたが、他のみんなは宿に行ってしまったらしい。

 ビビは私がしかめっ面で考えごとをしていたので、それが気になっているみたいだ。

 

「ああ、いろいろと作戦をね。クロコダイルは恐ろしい奴だからさ。力だけじゃ倒せないだろ?」

 

 私はクロコダイルを倒す方法を考えていたと彼女に伝える。

 

「そうね。でも、その前に反乱軍と王国軍の衝突を避けなきゃ」

 

 ビビの頭はやはり反乱軍を止めることでいっぱいのようだ。

 余裕がない顔をしている……。

 

「前にも言ったけどさ。あんまり、張り詰めると折れちゃうぞ。少しくらい私にも君の背負ってるモノを分けてくれ。一緒に背負うよ。あまり力持ちじゃないけどね」

 

 私はゆっくりと彼女の肩を抱いて、少しでもビビの悩みを軽くしようとした。

 

「…………」

 

 すると、彼女は無言で私の胸に頭をつけて、抱きついて来た。

 

「ビビ? どうしたんだい? 急に……」

 

 彼女の突然の行動に私は驚いたが、声に動揺は出さずにどうしたのか尋ねた。

 

「ごめんなさい……。しばらく、こうさせて……」

 

 ビビは小さく体を震わせながら、懇願する。いろんな事が破裂してしまいそうになるのを必死で堪えるように……。

 

「大丈夫。みんな君の仲間なんだ。助けるよ、君が抱える何もかもを……」

 

 私は彼女の頭を撫でながら、静かにそう伝えた。

 妹を持つとこんな気持ちなのかな? 守りたいという気持ちが際限無く強くなる。

 

「あのね……、ライアさん。私……、ずっと、ライアさんのことが……」

 

 しばらく、彼女の頭を撫でていると、ビビは口を開いて何かを話そうとしたが、途中で言葉が途切れてしまった。

 

「ん? 私がどうかしたって?」

 

「――やっぱり、止めておく。全部終わってからにする……。―こうしてると落ち着くわ……。出来るなら、ずっとこうして……、いたい……、な……」

 

 彼女は私の問いかけには答えなかった。そして、よほど疲れていたのかそのまま寝てしまった。

 

 

「お帰り、王子様。この国の王様はクロコダイルの次はあなたを警戒しなきゃならないんじゃない?」

 

 私が寝ているビビを抱き上げて宿まで連れて行くと、ナミがそんなことを言ってきた。

 確かに多少は無礼なのかもしれないけど、こうするしかなかったし……。

 

「誰が、王子だ。疲れて寝てるだけだから」

 

「キャハッ……、さっきはあんな顔してたのに幸せそうな寝顔だこと……」

 

 私に抱えられながら、ベッドに運ばれるビビの寝顔を見て、ミキータはそんな感想をもらした。

 少しは肩の重荷が取れたのかな?

 

 

 

 

 そう思ってルフィとビビは喧嘩したりしないかもしれないとか思っていたが、そんなことはなかった。

 

「人は死ぬぞ」

 

 ルフィは自分たちが反乱軍の元に行ってもすることがないと主張した後に、当然のことのように、そう言い放つ。

 

 ビビはその言葉に腹を立ててルフィに殴りかかった。

 

 ルフィはそれでも続ける。ビビが自分の命を懸けるくらいではとても足りないと。

 

 そして――。

 

「おれたちの命くらい一緒にかけてみろ! 仲間だろうが!」

 

 彼は私たちの命もまるごと懸けるくらいのことをしろと大声でビビに向かって叫んだ。

 本当はビビだってクロコダイルが許せなくて倒したいという気持ちが大きい。

 

 だからこそ私たちが優先すべきことはそのクロコダイルを討伐することなのだ。

 

 こうして私たちの目的地はやはりレインベースとなってしまった。

 敵の本拠地だし、クロコダイルはもちろんミス・オールサンデー、そして海軍もいる。

 

「クロコダイルのところに乗り込むのなら話を聞いてほしい……」

 

 そこで私は昨日の夜に考えた作戦を話すことにした。

 レインベースに向かう道中で……。




今回の最後のほうとかカヤに見られたら多分ライアは怒られるでしょうね。
知らない内にビビの依存度だけかなり上がってる気がする……。
天候棒は概ね原作通りですが、威力が若干強化されおり、ちょっとした新機能をつけてます。
レインベースでの話はかなり原作と異なる感じになります。いろいろとバレてることも多いですし、ライアもクロコダイルの手の内を知っていますので、そういった点が作用することになります。


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クロコダイル登場

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
皆様の応援のおかげで何とか1ヶ月間毎日投稿することができました。これからもよろしくお願いします!


「クハハハハッ! 策士策に溺れるッつーのはお前のようなガキのための言葉だな……。おれを誘い出す文句を使っておびき寄せ、暗殺でも企んでたってか。如何にも小物が考える狡い手だ」

 

 私は後ろ手に縛られて、レインベースの地下にあるクロコダイルのプライベートルームに放り投げられた。

 

「てめェらのような小物海賊団が浅知恵を働かせたところで、所詮はこの程度。他の仲間も捕まったと、連絡が入った。さて、銀髪……。王女ビビをどこに隠しやがった!」

 

 クロコダイルはやはりビビの所在が気になっているみたいだ。

 まぁ、彼女だけが彼の計画を狂わせる可能性があるだろうから当然だな……。

 

「ビビをコーザに会わせると君の計画が崩れる可能性があるというわけか。この国を乗っ取るなんて、計画を立てた目的はなんだい? なぜ、アラバスタ王国自体を手に入れようとする?」

 

 私はクロコダイルを睨みつけながら、質問をした。

 もっとも、彼の目的は知っているが……。

 

 

 ここまでは、作戦どおりだ。このあとが一番大事だが……。さて、どうしたものか……。

 

 私はクロコダイルと対峙しながら数時間前のことを思い出していた――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「作戦って……、ライアさんもルフィさんと同じでカトレアに行くつもりじゃなかったの?」

 

 私がレインベースに行く前提で話を考えていたように伝わったからなのか、ビビは首を傾げて私に質問をした。

 

「うーん。正直迷ってたよ。クロコダイルはビビがカトレアで革命軍のリーダーであるコーザと接触するのが一番嫌だと思ってるだろうし」

 

 私はビビに正直に思ってることを伝えた。

 

「おいおい、ライアちゃん。だったら、もっと早く言ってくれよ。もうおれたちはレインベースに向かっちまってる」

 

 サンジの言うとおり私たちはユバの北であるレインベースに向かっている。

 

「だけど、カトレアは遠い。首都のアルバーナに反乱軍が出兵を始めていたらもっと遠くなる。ルフィの話を聞いて私も確信したよ。まずは頭であるクロコダイルを叩くべきだ」

 

 私は時間的にもこのままクロコダイルを叩くことが最善だという結論に達したということを話した。

 

「ふーん。それで、ライアの作戦っていうのは?」

 

「あえて、私がクロコダイルに捕まるっていう作戦だ」

 

 そこまで話してようやく私は自分の立てた作戦について話しだした。

 

「キャハハッ、とってもユニークでバカな作戦に聞こえるわ」

 

 ミキータはそれを聞いてバカって言ってきた。確かにあまり賢くはないかもしれないけど……。

 

「意味がわからねェな。わかりやすく話せ」

 

「けっ、どうせライアちゃんが上手に説明してもわからねェ癖に」

 

 ゾロのツッコミに対してサンジは悪態をつく。この流れは――。

 

「ンだと!」

 

「やんのかコラァ!」

 

「やめなさい! 暑苦しい!」

 

 やはり喧嘩を始めようとしたので、ナミが2人にゲンコツを繰り出す。本当に暑い……。

 

「これを知ってるかい?」

 

「これって電伝虫? 随分と小さいけど……」

 

 私はカバンから取り出したのは2匹の電伝虫だ。

 

「携帯用の子電伝虫さ。通話出来る範囲は狭いけどね。持ち運びには便利なんだ。実はもう1匹持ってたんだけど、これをある人に渡しておいたんだ」

 

 この子電伝虫こそ今回の作戦の鍵となるアイテムだ。

 旅に出る前に何とか改造してシロップ村のカヤと会話できないかと頑張ったんだけど無理だったから、子電伝虫だけ残っちゃったんだよね……。

 

「ある人って誰よ?」

 

「海軍のたしぎって人。ローグタウンでゾロと戦った」

 

 ナミの質問に私は答える。そう、私は彼女の元から去るときにこれを渡しておいたのだ。

 こうしておけば、何かしら便利に動いてもらえるかもしれないと思ったから……。

 

「あっ、あのパクリ女にか!? お前、何考えてんだ!?」

 

「キャハッ、よりによって、海軍ってあんた正気?」

 

 ゾロとミキータはギョッとした顔で私を見ていた。

 まぁ、海賊が海軍に通信手段を渡すなんてありえないだろうから当然だな。

 

「正気も正気さ。考えてみなよ、クロコダイルが国の乗っ取りを企んでる。本来、これを何とかするっていうのは海軍の仕事だ。あの男もそっちにバレないように骨を折っていたはず」

 

 そう、王下七武海という立場上、海軍には国の乗っ取りが完了するまで彼の野望が漏洩するなんてことは、絶対にあってはならないんだ。

 だからこそ、彼は慎重にことを進めてきたのである。

 

「まさか、ライアちゃんの作戦って海軍を動かすつもりっていうんじゃ……」

 

「さすが、サンジだ。大正解」

 

 ここまで話すとサンジはいち早く私の考えを言い当ててくれた。

 

「まずは、これを使ってクロコダイルの野望を白日の下に晒す。そうしたら、海軍だって動くだろう。そうなると、焦った彼は必ずレインベースのカジノを出るはずなんだ。その後、彼をある場所までおびき寄せ、そこを叩く」

 

 電伝虫を持った私がクロコダイルに捕まり、彼の口から自らの野望を語ってもらい言質をとる。

 当然、それを聞いた海軍は黙っていない。レインベースのカジノに突入するだろう。

 そうなると、クロコダイルは国の乗っ取りを急ぐはず。この国にある彼の目的のモノを手に入れるために。

 

「なんだかまどろっこしいな。カジノに斬り込んだ方が早くねェか?」

 

「クロコダイルだけを相手にするならそれでもいいけどね。私たちを追って海軍が来てるから、2つ相手にするのは面倒だよ。海軍の目をクロコダイルに向ければ、我々も1つの相手に集中出来るだろ?」

 

 ゾロの言うこともわかる。

 しかし、レインベースには既に海軍が居るだろうから、下手したらクロコダイルに辿り着く前にやられてしまうリスクがあるのだ……。

 

「なんだっていいぞ! おれはクロコダイルと戦えるんだな!?」

 

「それは約束するよ。だけど、必ず勝ってくれなきゃ困る。だから、クロコダイルと戦うときは――」

 

 ルフィが大事なことを確認してきたので、私は頷いて、彼にあることを教えた――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 レインベースに着いた私は単独でカジノに向かって歩き出す。

 

 うむ、やはり海軍の人間もレインベース入りしてるようだな。私はたしぎの持っている子電伝虫に向けて通信を繋いだ。

 

『すっ、スモーカーさん。どっどうしましょう。例の海賊から通信が……』

 

『バカヤロウ! もう繋がってるじゃねェか! わかりやすく動揺するンじゃねェ! てめェ、魔物狩りか!? 海賊がこんなモン送りつけて何のつもりだ!?』

 

 子電伝虫からたしぎとスモーカーの声が聞こえる。

 

「やぁ、ご無沙汰してるね。スモーカー大佐。景気はどうだい?」

 

『お前のとこの船長でもとっ捕まえたらちったァ良くなるんだがなァ!』

 

 私がスモーカーに挨拶すると、彼から不機嫌そうな返事がきた。

 何度かルフィに逃げられているのは屈辱なのだろう。

 

「それは、業務熱心だね。君のような海兵ばかりなら、世の中はもう少し平和なんだろうな」

 

 私は本心から彼の仕事に対する姿勢を褒めた。海賊が言うセリフじゃないけど……。

 

『海賊が抜かしやがる。いや、お前……、本当に何者だ? なぜ、お前らの船にネフェルタリ・ビビ王女が乗っていやがった!?』

 

 スモーカーはやはりビビが私たちの船にいることに気が付いていた。

 そしてその理由を当然質問してきた。

 

「もうそこまで知ってるのか? さすがだね。ビビ王女に関しては私を通して()()()()()()()()()()()()彼女を護るように依頼があった。たしぎ曹長から聞いているだろ? この国に渦巻く陰謀を……。だから、レインベースに君もいる。違うかい?」

 

 護衛依頼は本当だけど、あえてこういう言い方をしてみた。

 勝手にいろいろ無いこと無いこと想像してくれるとありがたい。

 常識で考えれば世界政府に所属してるアラバスタ王国がこんな少人数の海賊団に護衛を頼むなんてあり得ないだろうし。

 

『クロコダイルのヤツがアラバスタ王国を乗っ取ろうとしてるって話か? 証拠はあるんだろうな?』

 

「それは証拠があれば海軍が動くと解釈していいのかな?」

 

 スモーカーの言葉に対して私は大切な質問をした。

 

『見逃すわけねェだろ』

 

「話が早くて助かる。じゃ、確かな証拠を示しに行ってくる。頼んだよ」

 

 私は彼の返事を聞いて彼との会話を終えた。彼の性格上、クロコダイルは見逃さないだろうし、この一件が終わるまではそちらに集中してくれるだろう。

 

 そして、私はそのままレインベースのカジノに入った。クロコダイルと会うために……。

 

 

 

「このカジノのオーナーである、サー・クロコダイルに至急取り次いでくれ。海軍の動きとビビ王女についてと言えば分かってくれるはずだ」

 

 フロアの中で一番偉そうなスーツの男に私は話しかける。

 クロコダイルの興味を引く話題を添えて。

 

「はぁ……。あなたはどちら様で?」

 

「ああ、私か。私のことはMr.1からの使者とでも言ってくれればいい」

 

 スーツの男は奇妙なモノを見るような顔で私を見ていた。

 まぁ、急にこんなことを言われれば無理はないか。

 

 しかし、彼は面倒そうな顔をしながらも一応は連絡をとってくれた。

 

 そして、程なくして――。

 

 

「サー・クロコダイルがお会いになるそうです」

 

 笑顔でスーツの男は私にそう伝えた。どうやらクロコダイルの興味を引くことには成功したらしいな。

 

「それはありがたい。では、さっそく……。――なっ、何をする!」

 

 私がスーツの男の言葉に反応した瞬間、大柄な男が後ろから私を羽交い締めしてそのまま手足を縄で縛ってきた。

 

「それでは、クロコダイル様とお会いください」

 

 私はそのまま担がれて、地下にある部屋に投げ込まれてしまった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「なぜ、アラバスタ王国を手に入れようとする、だと?」

 

 そして、私は勝ち誇った顔のクロコダイルと対面することとなったのだ。

 

 

「バカか? てめェは……。んなこと、わざわざ教えるわけがねェだろ。そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()理由なんざ、小物にゃ到底理解できることじゃねェよ」

 

 クロコダイルは見下して馬鹿にした表情で私に向かってそう言い放った。

 

「そうか。それは失礼した。興味があったんだ。海賊が国を欲しがる理由とやらが」

 

「気に入らねェな。この状況で余裕面してるてめェが。何を考えてやがる」

 

「それは、もうすぐわかると思うよ。ほら、君の電伝虫に連絡が入ってきた」

 

「はぁ? てめェの仲間をぶち殺した報告だろ? どうせ……」

 

『クロコダイル様! 海軍がガサ入れに! なんでもクロコダイル様がアラバスタ王国に対して謀略を――。ぐわぁっ!』

 

「海軍だァ!? なぜ、このタイミングで……」

 

「口には気を付けたほうがいい。自分で自分のことを頭が良いと思っている人は尚更ね。“()()()()()()()()()()()()()()()()理由”なんて言葉を吐いちゃったら認めたも同然じゃないか。この国を乗っ取ろうとしていることを……」

 

 私は懐から電伝虫を取り出して、クロコダイルに見せた。

 

「いっ、いつの間に縄を解きやがった。そっそいつは何だ!? 電伝虫はどこに繋がってやがる!」

 

 クロコダイルは明らかに動揺を見せていた。

 

「あー、部下にはもうちょっと上手な縛り方を教えてあげた方がいいよ。ちょっと空間を作るだけでゆるゆるだったから、この結び目」

 

 私は雑に拘束されていたので、いつでも抜け出せる準備は出来ていた。

 

「そんなこたァ、どうでもいい! 誰に繋がってやがるんだ! それは!」

 

『王下七武海、サー・クロコダイルだな? おれァ、海軍本部大佐スモーカーだ。お前に事情聴取がしてェ、とっとと出てきてくれねェか?』

 

 クロコダイルの質問に答えるように、電伝虫からスモーカーの声が発せられた。

 

「海軍本部大佐だとォ!? なぜ、弱小海賊団が海軍と繋がってやがる!?」

 

 さすがに海軍本部の将校に自分の陰謀がバレたと思っていなかったのか、クロコダイルからは完全に余裕のある表情が消えていた。

 

「さてね、私は君のようにペラペラ情報を喋ったりしないんだ」

 

「殺すッ!」

 

 あえて挑発的な言動で彼を揺さぶった。まっすぐ私に殺意を向けるように。

 

藍色の超弾(スプラッシュブレット)ッ!」

 

 銀色の銃(ミラージュクイーン)から私は床に向かって弾丸を放つ。

 服の中に隠していた武器が没収されなかったのは幸運だった。

 

「クハハハハッ! どこを狙ってやがるッ! ――ッ!?」

 

 床に当たった藍色の超弾(スプラッシュブレット)は破裂して、クロコダイルに向かって水を噴射した。

 彼は顔から胸にかけてに水がかかってしまう。

 

「おっと、失礼。暑いから水遊びでもどうかと思ったけど、気に入らなかったかな?」

 

「てっ、てめェ……! なぜ……。ぐっ――!」

 

 私がクロコダイルに向かって鉛の銃弾を放つと、彼は咄嗟に躱したが頬にそれがかすり、そこから血が流れていた。

 

「銃弾で傷付いたのは久しぶりかな? 王下七武海のサー・クロコダイルがスナスナの実の能力者だということは知ってる。自然(ロギア)系は無敵に近いから、私がダメージを与えるには弱点をつくしかない」

 

 私はそう言いながら、銃口を彼に向けた。

 はぁ……、なんとか自然(ロギア)系の能力者にダメージを与えることが出来た。

 

「ぐっ……! それくらいでおれを倒せるつもりか! ふざけやがって!」

 

 しかし、クロコダイルは即座に濡れていない部分を砂に変えて私に近づき――。

 

「――がはぁッ!」

 

 フックを私の腹に突き刺した。動きを読んだはずなのに……、思った以上に速い不規則な動きに対応出来なかった……。

 なんてことだ……。

 

「認めるぜ。おれの計画をあっさりぶち壊したやがった小賢しい頭はな。クソッタレ」

 

 クロコダイルはそう吐き捨てると、血塗れで地面に伏している私を置き去りにして部屋から去っていった。

 

 海軍から逃げるつもりだな……。彼は必ず首都アルバーナを目指すはず……。

 そこを待ち伏せしてるルフィたちが叩ければ――。

 

 私の意識はそこで途切れてしまった――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ライアちゃん。無事か? クロコダイルのやつ、ひでェことしやがる」

 

 目を覚ましたとき、目の前に海軍の格好をしたサンジの顔があった。どうやら、私は彼に抱えられているらしい。

 なるほど、海軍の服を奪って自然にこの中に入ってきたのか……。

 

「チョッパーがライアちゃんの匂いをたどって来たんだ。応急処置もその場でやってくれた」

 

「もう少し遅かったら危なかったぞ」

 

 サンジとチョッパーの声を聞いて、私はようやく自分の無事を実感する。

 

「こっちも作戦どおりに事を進められた。クロコダイルの部下をとっちめて、偽の報告をさせて、その後ヤツが出てくるのを待った。ライアちゃんの言うとおりアルバーナの方角にヤツは向かって行ったよ。ミス・オールサンデーと共にな」

 

 サンジは作戦が上手く行ったことを私に伝えてくれた。

 

「そっか、上手くいったなら良かった……」

 

 私は作戦が概ね成功していてホッとした。

 

「今ごろ、ルフィとクロコダイルは一騎討ちしてるかもしれねェな。ナミさんたちがビビちゃんに成りすまして、ヤツを誘い出すことに成功していればだが……」

 

 サンジは他のみんなの動きに関して話してくれる。

 

「ビビは、ビビはちゃんと隠れてるのか? アルバーナに行く前に彼女と合流しないと……」

 

「私ならここにいるわ。ライアさん」

 

 私が最も気にしてることを口にするもビビの声が後ろから聞こえた。

 

「ビビ!? なんで、ここに!?」

 

「ライアちゃん、ごめんな。どうしてもって、ビビちゃんにせがまれて断れなかった」

 

 サンジはビビにお願いされてここに彼女を連れてきたのだと言う。

 まぁ、確かにチョッパーと隠れている予定だったから、一人で残すよりも一緒の方が安全か……。

 

「こんな酷い怪我までして……。ごめんなさい……」

 

「ははっ……、怪我は私の油断だよ……。それより、もう一つやることがあった……」

 

 ビビの心配そうな顔に、なるべく笑顔を作って答えながら、私は重要なことを忘れていた事に気が付いた。そして、それと同時にその解決策も……。

 

 忘れていたこと……。それは乗り物だ。

 確か、漫画では大きなカニみたいな生き物に乗って高速でアルバーナに向かったから、なんとか事が大きくなる前に間に合った。

 しかし、今回は違う。あのカニって確か道中で知り合ったラクダの友達だったはずなんだ。

 

 だから、今の私たちには移動手段がない。

 

 その問題を解決するために私はカジノを出る前にすることをサンジたちに話すことにした――。




原作とは違って完全に海軍を利用した作戦でクロコダイルの計画を狂わせることに成功しました。
ただ、どうしてもライアの視点になってしまうので、他の仲間の動向を描写しきれない部分が出てしまってます。
この辺りの補足も含めて次回を投稿できればと思っております。


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決戦はアルバーナ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!ライアを参謀っぽい感じにしてみたのは良いのですが、作者の頭の弱さを忘れているという……。雰囲気だけでも賢そうな感じに出来るように頑張ります。
それでは、よろしくお願いします!



 

「クロコダイルは計画を開始したというような口ぶりだった。今ごろ反乱軍たちはアルバーナへ向かっているはずだ……。止められる可能性があるとすればビビ、君が反乱軍より早くアルバーナに着くこと……」

 

 私はビビに現在の状況を教えた。そして、反乱軍を止めるためには早くアルバーナに着く必要があることも。

 

 クロコダイルの計画は一応、漫画通りには進んでいる。

 ルフィが彼に勝てていれば、あとはビビをアルバーナに送ってコーザと引き合わせるだけだが……。

 

「そんなの……、今から歩いていたら、とても間に合わない……」

 

 ビビは私の話を聞いて、顔を青くした。

 そう、アルバーナはナノハナやカトレアほどではないがここからそれなりに距離がある。

 

「うん。だからこそ移動手段を考えなくてはならない。例えば、速く大きな動物を上手く利用するとか……」

 

「ライアちゃん、まさかチョッパーに頼んで交渉するとかそういう作戦か?」

 

 サンジは動物という言葉を聞いてそんなことを質問してきた。

 

「友達になれそうなヤツなら何とか出来るけど、そんなヤツばかりじゃないぞ」

 

 そして、それを聞いたチョッパーが首を振りながら難しそうな顔をしていた。

 

「いや、もう少しだけ現実的な作戦がある。リトルガーデンでの出来事を思い出してほしい。ミス・ゴールデンウィーク……。彼女たちを乗せた恐竜が居ただろ? あれを利用出来ないかと考えている」

 

 私はミス・ゴールデンウィークの乗っていたプテラノドンでアルバーナに行く計画を立てていた。

 

「ミス・ゴールデンウィークって、それこそどこに居るのかわからないじゃない」

 

「そうでもないのさ。ミス・ゴールデンウィークとMr.3はあのテーブルクロスの下に居る! どうやったのか知らないが、さっきから気配を感じるようになったんだ」

 

 ビビの疑問に私は答える。

 そう、意識を取り戻してサンジの顔をみたのと同時に私はある気配がこの部屋にあることを感じ取った。

 クロコダイルと対峙したときには感じられなかった気配だ。

 

「おれもさっきから、アレの下から急に匂いがして驚いた。何か居るのは間違いないぞ」

 

 チョッパーも鼻をクンクンしながらテーブルを見ている。

 

「この下にって、ちょっとライアちゃん。下ろしても平気かい?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 サンジが抱えていた私を下ろす。うむ……。反射的に体を捻ったおかげでそこまで酷い怪我にはならなかったみたいだ。

 激痛で気を失ったけど、チョッパーの打ってくれた痛み止めが効いて動く分には問題ない。

 

「じゃあ、引っ剥がすぞ」

 

「その必要はないわ。カラーズトラップ――隠密の紫……。ジッとしてれば誰もその存在に気付かない……」

 

 サンジがテーブルクロスを剥がそうとしたとき、ミス・ゴールデンウィークがMr.3とともに出てきた。

 

「水が欲しい……」

 

 Mr.3はミイラのように体中から水分が抜けてカサカサになっていた。

 

「私たちはMr.0に頭を下げて、挽回の機会を貰おうとしたの。でも――」

 

 ミス・ゴールデンウィークによると、クロコダイルは失敗して帰ってきた彼女らを許さなかったらしい。

 Mr.5はこうなることを予期してスパイダーズカフェに行ったところで離脱したのだそうだ。

 

 クロコダイルがMr.3の水分を吸い取って殺そうとしたところで、ミス・ゴールデンウィークはカラーズトラップによって身を隠しながら、Mr.3を救出。

 そのまま、外にも出れずにここにずっと身を潜めていたそうだ。

 

「ふむ、Mr.3が殺されかけたところを救出したが、外に逃げられぬまま、そこに隠れていたのか……」

 

「やっと逃げられると思ったけど、外には海軍。Mr.0の計画を止めようとしてるあなたたちと交渉しようと思ってたの。アルバーナに早く行きたいのはわかってるわ」

 

 ここまでの成り行きを話して、ミス・ゴールデンウィークは私たちにここから出ることを手伝ってほしいと交渉してきた。

 

「我々が移動手段を欲してるのを知っているなら頼む手間が省けるよ」

 

 利害が一致してることを悟った私はミス・ゴールデンウィークの交渉に乗ることに躊躇はなかった。

 

「だったら、おれたちについてきな。レディを縛るのは趣味じゃねェが、今回ばかりは仕方ねェ」

 

 私はミス・ゴールデンウィークの言葉を聞いて頷く。

 そして、サンジには何かいい手があるみたいで、縄を取り出してミス・ゴールデンウィークとMr.3、そして私を縛った。

 

 

 

「おっと、まだ海賊が紛れ込んでいたか! ご苦労! 連れて行け!」

 

「了解〜♪」

 

 サンジは海賊を連行するフリをして私たちをあっさり外に出した。

 

 

「なるほど、連行中に見せかけて連れ出すとは考えたね」

 

 私たちはカジノを出てレインベースの外の砂漠まで足を進めている。

 

「まァな。ライアちゃんにばかり頭を使わせてられねェだろ?」

 

 サンジはニヤリと笑って頭を指さした。こういうときは彼が一番頼りになる。

 

「無事に外に出したんだ。約束は守ってもらうぞ」

 

「もちろん。取り引きで嘘はつかない」

 

 私がミス・ゴールデンウィークに確認すると彼女はこくんと頷いた。

 

「それよりも……、みっ、水を早く……」

 

「しょうがないやつだなー。コノヤロー」

 

 チョッパーは脱水症状どころじゃないくらいカラカラになっているMr.3を見兼ねて水を手渡す。

 

 Mr.3は物凄い勢いでそれを飲み干した。

 

「ふぅ……。生き返ったガネ〜ッ! そして、ビビ王女は頂く! ミス・ゴールデンウィーク、ここまでよくやったガネ!」

 

 Mr.3は水を飲み干した瞬間に蝋をビビに向かって伸ばして、彼女の喉元に蝋で作った刃物を突き付けた。

 

「Mr.3! お前!」

 

 しまった。まさか、水を飲み干してすぐに裏切るとは……。私は自分の無能さ加減に苛ついた。

 

「こうなったら、王女を人質にして逃げ切ってやるガネ。ミス・ゴールデンウィーク、早く逃げる準備を……」

 

「カラーズトラップ――癒やしの緑……」

 

 Mr.3がビビを人質にして逃げようとしたとき、ミス・ゴールデンウィークはMr.3に向かってカラーズトラップを使った。

 

「お茶が上手いガネ〜! あれ? ビビは……」

 

 Mr.3はビビを手放して、座ってお茶を飲み始めた。

 

「てめェ! 自分が何やったか分かってんだろうな! 反行儀(アンチマナー)キックコース!」

 

 そんなMr.3をサンジが許すはずもなく、彼の蹴り技がMr.3の腹を突き上げるように決まる。

 Mr.3は体力をよほど消耗していたからなのか、その一撃で倒れてしまった。

 

「Mr.3……、嘘はダメよ。じゃあ、外に連れ出してもらえたことだし、約束を守るわ。ピィー」

 

 ミス・ゴールデンウィークは顔色一つ変えずに、そうMr.3に言い放ち……、そして口笛を吹いた。

 

「すげェ! 恐竜だ!」

 

 チョッパーは興奮気味にプテラノドンを見る。

 

「よしっ、これなら! 何とか間に合いそうだ!」

 

 私はプテラノドンの速度を見てアルバーナに間に合う確信が出来た。

 

「トニーくん、言葉は通じそう?」

 

「おう、任せとけって言ってるぞ」

 

 ビビはチョッパーにプテラノドンと会話が出来るか確認すると、彼はコミュニケーションが取れていると返事をした。

 

「じゃあ、この恐竜は連れて行くよ?」

 

「好きにするといいわ。結局、この国を手に入れたとしても私の願う理想郷には程遠いもの」

 

 ミス・ゴールデンウィークはプテラノドンを好きに使え言ってくれた。

 彼女の目的が何なのか結局わからなかったが、助けられたな……。

 

「そっか。また、縁があったら会おう。ありがとう、ミス・ゴールデンウィーク」

 

「これあげる……」

 

「また、せんべい……」

 

 私がミス・ゴールデンウィークにお礼を言うと彼女はリトルガーデンのときのようにせんべいを手渡してきた。

 

「ライアさん、行きましょう」

 

 ビビはプテラノドンの上から手を差し出して、私はその手を掴んだ。

 

 そして、私たち4人を乗せたプテラノドンは砂漠を飛び立って行った。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 空の上から探索すると、すぐにナミとゾロとミキータを発見することが出来た。

 どうやら、海軍やB・Wとひと悶着あったみたいで3人とも岩場の陰で身を潜めて休んでいた。

 

 仲間と合流を果たした私たちはルフィを探した。

 ルフィはすぐに見つかったが、クロコダイルと戦うことは叶わなかったらしい。

 

 時間を少しでも取られることを嫌がった彼は、ルフィが戦闘を仕掛けようとするのを見るなり砂嵐を起こして、彼を吹き飛ばしてしまったのだ。

 

 私が必要以上に彼を焦らせたせいだな……。まさか勝負すらしてくれないとは……。

 

「あいつは勝負から逃げた! 許せねェ!」

 

 ルフィは怒りの表情を浮かべていた。

 

「すまない。ルフィ……。私が彼を挑発しすぎた。その上、警戒心も煽ってしまった……」

 

 ルフィの相手をしなかったのは、私が彼の弱点を突いたことも原因だろう。

 水を使って戦いを挑まれたら負けはしなくても時間を取られる可能性がある……。おそらくクロコダイルが気にした点はそこにあるのだと思う。

 

「とにかく急ごう。ミキータが居る限り重量制限はないはずだし……」

 

「でもさすがに7人はスペースの関係で厳しいんじゃ」

 

 私の言葉にビビがツッコミを入れる。確かに厳しいどころじゃないな。4人でもチョッパーは私の腕の中に居たし……。

 

「ビビ様! ご無事で何よりです!」

 

 そんな中、大きな鳥が私たちの近くに着地したかと思えば人間の姿になった。

 

「ペルっ! あなた来てくれたのね……!」

 

 現れたのはアラバスタ王国の最強の戦士と呼ばれているトリトリの実の能力者ペル。

 どうやら彼はレインベースに偵察に出て戻る途中に私たちの姿を発見したらしいのだ。

 

「――なるほど、事情は分かりました。ビビ様! 私にお乗り下さい……。アルバーナまで最速でお届け致しましょう」

 

 ペルは形態変化をしながら、ビビを背中に乗せようとした。

 

「待って、ペル。ミス・バレンタイン……、お願いがあるんだけど……」

 

「キャハッ! これなら()()()()()()()全員で行けそうね」

 

 ミキータはビビの言葉から何を言いたいのか察してニヤリと笑った。

 

 

 こうして私たちはペルとプテラノドンに分かれて乗ることでアルバーナの王宮まで飛んで行くことが出来たのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 王宮は既にクロコダイルが荒らしたからなのか、兵士たちが多く倒れていた。

 

「おお、ビビ。よくぞ、戻って来てくれた。賊が侵入したが、何とか撃退することが出来た」

 

 宮殿の中庭でビビを迎えたのは、この国の王であるコブラだった。

 漫画ではクロコダイルに捕まっていたはずだけど……。

 

「お父様! よかった、無事だったのね! 早く、この動乱を止めなくては!」

 

「そうだな。お前には危険を承知で頼みたいことがあるのだよ。こちらに来なさい」

  

 コブラはビビを手招きして近くに来るように促した。

 そして、彼女もそれに従ってコブラに向かって歩き出した。

 

「ビビ様! 行ってはなりません! この王宮は既に奴らが――! ゲハッ――」

 

 ビビが一歩足を踏み出したとき、目の前の扉が開き血塗れの男出てきて彼女を止めようとする。

 しかし、背中を何者かに斬られたみたいで、倒れてしまった。

 

「チャカ!」

 

「まだ生きてやがったか」

 

 ビビが血塗れの男の名を叫んだとき、坊主頭の男――Mr.1が扉から出てきた。

  

「キャハッ! Mr.1……!」

 

「ということは……」

 

 Mr.1の存在に気が付いた私はコブラの顔を睨みつける。

 

「あらァ! バレっちったら、仕方ないわねェ」

 

 コブラの顔はMr.2に変化してビビに向かって襲いかかる。

 

「やらせないよ!」

 

 私は銀色の銃(ミラージュクイーン)を発砲しながら、Mr.2との間合いを詰める。

 

「いつかのオナベちゃんじゃなぁい!」 

 

 Mr.2はニヤニヤと笑みを浮かべて戦闘態勢を作った。

 

「まったく、Mr.0もたかが小娘一人を殺すために慎重すぎだね。“シン”だね。いや、“シッ”だよ!」

 

「フォー」 

 

 さらにMr.4とミス・メリークリスマスも城の中から出てきた。

 クロコダイルは宮殿の中にオフィサーエージェントを侵入させていたのか!? 

 私は漫画とは違う動きをしているクロコダイルに戦慄していた。

 

「ここで王女を殺しておけば、反乱は止まらない。理想郷(ユートピア)計画は完了よ。既にMr.0は計画の最終段階に向けて動き出した。コブラ王と共に……」

 

 ミス・ダブルフィンガーまで出てきて、オフィサーエージェントは勢揃いしたことになる。

 クロコダイルは既に“プルトン”を手に入れるために“ポーネグリフ”の在処までコブラを案内させてるみたいだな。

 やはり、彼は漫画よりも焦って動いてるらしい。

 

「とにかく、クロコダイルは国王と共にどこかに行ったというわけだな。――ルフィ!」

 

 私が彼女の言葉から状況を確認したところで、ルフィは宮殿から猛スピードで出ていった。

 

「そのクロコダイルって奴を探して、今度こそぶっ飛ばしてくる!」

 

 彼はクロコダイルを探すと言い残してこの場から姿を消したのである。

 

「ビビ様! 早くお乗り下さい。奴らの狙いはあなたです! ――ガハッ!」

 

 それを見ていたペルは再び鳥型に姿を変えてビビを乗せて避難させようとしたが、体中から手が生えてきて関節技を決められて倒れてしまう。

 この能力は……。

 

「空を飛ぶ能力者なんて居たのね。余計な邪魔をされるところだったわ」

 

「ペル! ――くっ、ミス・オールサンデー!」

 

 中庭に続く門の上で腰掛けているミス・オールサンデーをビビは睨みつける。

 

「のんびりしてる暇はないわよ。あと30分くらいで、あの宮殿広場から半径5キロ圏内は爆弾によって吹き飛ばされるようにしているの……。ふふっ……。私たちに構っている暇はあるのかしらね。これで、コブラ王も素直になってくれたわ」

 

 ミス・オールサンデーは大きな爆弾の存在を仄めかした。

 やはり、爆弾は仕掛けていたか……。

 

「なんてこった。あの野郎ここまで周到に手を回してやがったのか……!」

 

「なぁに、30分もある。おれたちでこいつら全員ぶっ倒して、ビビが反乱を止める。それでいいじゃねェか」

 

 サンジは焦りを口にして、ゾロは殺気を高めた。

 しかし、ゾロの言うとおりだな。こっちも戦力は揃っている。早く連中を倒して、爆弾を処理すれば何とか……。

 

「あら、強気ね……。あなたたちの勇姿も見ていたいけど……。私も忙しいから」

 

 ミス・オールサンデーはこの場から姿を消した。おそらく、クロコダイルの元へと向かったのだろう。

 

「ビビ! 君は幼馴染とやらを早く探せ! チョッパー! 君も付いていってやってくれ。ビビを守るんだ」

 

 私はビビとチョッパーに指示を出す。チョッパーなら、いざというとき彼女の治療も出来るし心強いからだ。

 

「行かせないよ! “イッ”だよ! Mr.4」

 

 そのやり取りを見ていた、ミス・メリークリスマスはモグモグの実の能力で地中に入って、土の中からビビの足を掴んだ。

 

「フォー!」

 

 そのスキを突いてMr.4が巨大なバットをビビの頭に向かって振った。

 

「うっ動けない! ――あれ?」

 

 Mr.4のバットはビビには届かなかった。なぜなら、途中で受け止められたからである。

 受け止めたのは、ゾロでもサンジでもなく――。

 

「キャハハッ! ()()()のバットが自慢のようね。Mr.4……」

 

 ミキータは巨大なハンマーを片手に持ってMr.4のバットを受け止めていた。

 

「てめェは裏切り者のミス・バレンタイン。馬鹿な、Mr.4のバットをなぜ止められる?」

 

 ミス・メリークリスマスは驚愕の表情でミキータを見ていた。

 

「これが私の新しい武器“キロキロパウンド”――。悪いけど、私のハンマーの重さは1()0()()()よ……。これで、大好きな地面に埋めてあげるわ。ミス・メリークリスマス!」

 

 “キロキロパウンド”は折りたたみ式の巨大ハンマーである。

 故にミス・バレンタインが使わないと丈夫なだけで重さは非常に軽い、殺傷能力が皆無の武器だ。

 デカデカとハンマーに書かれている1()0()()の文字は彼女が能力を発動することで初めて本当になるのだ。

 

「ちっ……」

 

 ミキータの10トンのハンマーに威圧された、ミス・メリークリスマスは苦虫を噛み潰したような顔をしてビビから手を離した。

 

「ビビ! おれの背中に乗れッ!」

 

「トニーくん。その必要はないわ。カルー!」 

 

 チョッパーの声かけに首を横に振ったビビはカルーを呼んだ。

 

「クェー!」

 

 すると、どこからともなくカルーが走ってきて、ビビはカルーに跨った。

 

「コーザの元へ行ってくる。みんな、後はお願い!」

 

「「任せとけ!」」

 

 カルーに乗ったビビの声に私たちは同時に返事をして、彼女とチョッパーを見送った。

 

 こうして、私たち麦わらの一味とB・Wのオフィサーエージェントとの最後の戦いがスタートしたのである――。

 




思った以上に展開が早くなってしまいました。
クロコダイルの性格を考えると、一刻も早くプルトンを手に入れなきゃって急ぐと思うんですよね……。
ミキータの新武器の“キロキロパウンド”は原作でウソップがMr.4に使用した“ウソップパウンド”とほとんど同じ仕組みの武器です。ミキータが使うと嘘表記も本当になりますが……。
厳密に言えばミキータの重量も含めて10トンなので、表記に関しては嘘といえば嘘になりますね。
ということで、アラバスタ王国編は一気に佳境です。
ライアはMr.2ボンクレーと戦います!


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4と2と1

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!そろそろ、アラバスタ王国編も終わりに近づき、今後の展開も色々と考えなくてはならなくなりました。
今回はバトルシーンばかり。ライアとMr.2の戦いをご覧になってください。


「オカマ拳法! どうぞオカマい(ナックル)!」

 

 Mr.2はサンジにも勝るとも劣らないほどのスピードで拳を繰り出す。

 

「――錆色の超弾(ボンバーブレット)ッ!」

 

 私は爆発する弾丸でMr.2の拳を狙う。しかし、彼は体を反らして弾丸を避け、尚かつ速度を落とすことなく私に攻撃してきた。

 

「ちっ……! 重いッ!」

 

 私は銃を盾にしてどうにかMr.2の拳を受けるが、その重さによって数メートルくらい後方まで押されてしまう。

 

「当たり前よーう。来る日も来る日もレッスン、レッスン……! 磨き上げたオカマ拳法が軽いわけないのよ〜う!」

 

 Mr.2はドヤ顔で自らの力を誇示してきた。

 くっ、やはり非力さというのはこういうときに大きく不利になるな……。

 

「力じゃ敵わないなら、受け流す――」

 

「あら?」

 

 私があえて力を抜くと、Mr.2の体が若干バランスが崩れて倒れそうになった。

 そのスキに私は彼の足元を狙い発砲する。

 

蒼い超弾(フリーザーブレット)ッ!」

 

「ちべた〜いッ! 足が凍っちゃったじゃなーい! ジョーダンじゃな〜いわよーう!」

 

 Mr.2の右足を掠った蒼い超弾(フリーザーブレット)は彼の右足を一瞬で凍り付かせる。

 

「――必殺ッッ! 鉛星ッッッ!」

 

 そして、彼が怯んだスキに私はさらに追撃をする。

 

「アウ〜〜チッ! 痛ァァいッ!」

 

 Mr.2の脇腹を私の放った鉛の弾丸は貫通したが、彼はまだまだ元気そうだった。

 

「痛いじゃ済まないはずなんだけど……」

 

 私は常識じゃ考えられないほどのタフな体をしているこの世界の住民に辟易する。

 鉛玉を腹に受けたんだよ。なんで平気な顔して立っていられる……。私なんてクロコダイルのフックで刺されて気絶したんだぞ……。

 

「オナベもなかなかやるものねィ! 仕方ないわ〜。オカマ拳法に古くから伝わる――! ちょっと、まだ喋ってる途中じゃなーい! ジョーダンじゃな〜いわよーう!」

 

「オナベじゃないし! セリフが長いッ!」

 

 私はMr.2の長セリフを聞くのもバカらしくなって銃弾を放った。

 

「本気のオカマにそんなものは通じないわ……」

 

「メリケンサックッ――!?」

 

 しかし、Mr.2は私の弾丸を拳で弾いた。そんな馬鹿なと思い、彼の拳をよく見ると両手にフルボディ大尉みたいなメリケンサックがはめ込まれていた。

 何これ、漫画と違う……。

 

「名付けてメリケンオカマ拳法!」

 

「ネーミング、そのまんまだなッ!」

 

 次々と銃弾を弾きながらドヤ顔をするMr.2に私はツッコミを入れる。ともすると、彼は漫画よりも強いということか……。

 

「弾丸をも弾き返す拳は銃弾よりも強いのよ〜う! アンッ! ドゥッ! オラァッ! “白鳥のアラベスク”!」

 

 凄まじいスピードの連撃が私を襲う。私は銃を盾にしたり、体を捻り必死で彼の拳を躱した。

 そして、Mr.2は必殺の蹴り技を放ってきた。

 

「結局、蹴り技じゃないかッ! ――必殺ッッ! 火薬星ッッッ!」

  

 私はツッコミを入れつつも、彼の蹴りが直撃する瞬間に錆色の弾丸(ボンバースマッシュ)を放った。

 

「「――ッ!!」」

 

 私たちは互いの攻撃の威力に押されて吹き飛んだ。

 ここまでは若干私が与えたダメージが上……、しかし、フィジカルの差は歴然……。

 ちょっとの油断で簡単に逆転されてしまいそうだ。

 

「やるじゃな〜い! ただの貧弱なスナイパーかと思ってたわ」 

 

「そりゃあ、どうも」

 

 Mr.2は私のことを称賛する。こっちはそんな余裕ないっていうのに……。

 

「でも、こんな手はどう? かつてこんなヤツが居たわ! 友情によって手も足も出なくなった男がね……」

 

「ゾロの顔に変わった……」

 

 Mr.2は友人の姿になって手も足も出なくなった男の話をしながら、ゾロの姿に変身した。

 

「ドゥーかしらッ!? 攻撃できるものならしてみなさ〜い!」

 

「くっ……! これでは、攻撃が……」

 

 得意気な顔をするMr.2と顔を歪める私。

 

「おバカねい! スキありッ!」

 

「まぁ、ゾロなら良いかー」

 

 Mr.2がスキだらけの状態で攻撃を仕掛てきたので私は彼に向かって発砲した。

 

「おい! そりゃ、どーいう意味だ! コラァ!」

「血も涙もねェのか! てめェ!」

 

 Mr.1と戦闘中のゾロと弾丸を肩に掠めて血を吹き出しているMr.2が同時にツッコミを入れてきた。

 

「ああ、ゾロはMr.1と戦ってるんだ。その人強そうだけど、勝てそうかい!?」

 

「負けるはずねェだろッ! バーカ!」

 

 私はツッコミを入れてきたゾロに向かって勝てるかと聞いたところ、彼は当然というような顔をしながら、悪態をついてきた。

 

「おっと、これは失礼。信じてるよ」

 

「お前こそ、負けたらぶった斬るからな」

 

 ゾロは私が負けたら許さないと脅してくる。これは、藪ヘビだったか……。

 

「それは怖いね。じゃあMr.2には負けてもらわなきゃ」

 

 私はMr.2に銃口を向けながらそう口に出した。

 

「あちしが負ける? ジョーダン言ってるんじゃな〜いわよーう! だったら、女の顔はドゥーかしら!?」

 

 Mr.2は今度はナミの体に変身した。

 

「今度はナミの顔か……。そんな衣装でも可愛く見えるね」

 

「バカなこと言ってないの!」

 

 私がナミに変身したMr.2に関する感想を述べると、ミス・ダブルフィンガーと天候棒(クリマタクト)を駆使して戦うナミが顔を真っ赤にして怒り出した。

 

「顔だけじゃなくて体も変わってるのよーう!」

 

 Mr.2はガバッと上着を捲くる。あー、これじゃ、ナミがトップレスになっちゃったみたいだね。

 

「なっ、なっ、ナミさん! なんて、あられもない姿に! ぐはぁッ!」

 

 それを見ていたMr.4と戦っていたサンジは漫画みたいな量の鼻血を噴射して、倒れてしまった。

 

「キャハハッ! コックくんがダメージ受けてるんだけど……」

 

 ミキータはミス・メリークリスマスをモグラ叩きの要領でハンマーを駆使して狙ったり、イヌイヌの実を食べた銃の吐き出す爆弾を打ち返したりしていた。

 彼女は武器を持っただけで、見違えるくらい強くなったな……。

 

「くっ、これじゃ攻撃できない!」

 

「今度こそ、終わりねいッ! ――あぢャァァァッ! なっ、なぜ!?」

 

 そして、Mr.2は攻撃できないと怯んだ顔をした私にまたもやスキだらけで攻撃してきたので、今度は緋色の超弾(フレイムブレット)を撃ち出す。

 

 Mr.2の左肩に今度は銃弾が掠り、彼の肩は炎上して涙目になる。

 

「悪いね。嘘つきなんだ私は……。そういう手はもっとピュアな人に使うべきだよ」

 

「こうなったら、見せてあげるわ! オカマ拳法――その、主役技(プリマ)!!」

 

 私のセリフが言い終わるのと同時にMr.2は白鳥の顔をした変わった靴を装備した。

 

「メリケンサックの次は奇妙な靴か……」

 

 あの靴の攻撃力は侮れないはずだ。気を付けなければ。

 

「これだけは言わせて! あんたから見て、右側がオスで左側がメスよーう!」

 

 靴を履いてご満悦なMr.2は両足の白鳥の性別を叫んだ。へぇ、そんな設定あったのか……。

 

「あー、道理で右側の子の方が吊り眉毛なんだ」

 

「えっ、本当かしらァ?」

 

 私がそれを受けて適当なことを言うと、Mr.2は自分の靴をまじまじと観察しようとする。

 

「嘘だよッ! そもそも、眉毛なんてないじゃないか。錆色の超弾(ボンバーブレット)!」

 

「ガハッ――!? 嘘つくなんてひどーいじゃないのよーう!」

 

 なので、私はまたまたスキだらけになったMr.2に向かって発砲すると、彼は爆発に飲まれて吹き飛ばされた。

 

「犯罪組織の人間がよく言う。国王の姿で騙そうとした癖に……」

 

「まぁ、良いわ! あんたのそのしょぼい銃弾と比べてみなさーい! オカマ拳法! “爆弾白鳥(ボンバルディエ)”!!」

 

 私の不意討ちをまぁいいと流したMr.2は必殺の威力を込めた蹴りを放った。

 

「――なッ!? ぐっ――!」

 

 私の左腕を掠めた蹴りは燃えるように熱く、そして鋭かった。

 腕からじんわりと血が流れて、私はもしこれが直撃したらと想像して息を呑みこんだ。

 

「が〜はっはっは! 掠っただけでも威力は伝わったはずよーう! しなる首に鋼のくちばし――一点に集中された本物のパワーはライフルに匹敵するわァ……。弾はあんたの銃弾よりも少々大型だけどねい!」

 

 得意気に技の説明をするMr.2。ライフルとは言い得て妙で、銃使いの私もその威力に感服するしかなかった。

 

「ちっ……! その上、速いときたか……」

 

「あんたの華奢な体に風穴を開けたるわァ! アンッ! ドゥッ!」

 

 私が舌打ちをすると、同時に彼は鋭い蹴りを放つ。

 

「――ッ!? 怒涛の嵐のような連打……!」

 

 私は何とかMr.2の動きを読んで、それを躱そうと必死になる。

 

「オラァ!」

 

「傷口がッ――!?」

 

 脇腹を彼の蹴りが掠めたとき、チョッパーが巻いてくれた包帯が切れてしまい、クロコダイルに付けられた傷口から血が再び流れ始めた。

 あーあ、こりゃあ、体中血塗れだな……。

 

「あらあら、とーっても血が出ちゃってるじゃなーい! でも、あちしは手は抜かないわァ! 飛ぶ! 飛ぶ! 飛ぶあちし! “あの冬の空の回顧録(メモワール)”!!」   

 

 Mr.2は勝利を確信したのか、大技の準備に入り、宙を舞った。

 大技で一気に決めるつもりだな。だが――。

 

「目が霞む……。力もほとんど入らない……。しかし……! 無駄に長いモーションのおかげで……、()()()()()()が出来た! ――必殺ッッ! 鉛星ッッッ!」

 

 私は未来を完全に読むことでMr.2の攻撃を避けた上で、彼の右足のアキレス腱を銃弾で撃ち抜くことに成功する。

 

「――ぶへェェェェッ!? あちしの足がァァァッ!」

 

 Mr.2は苦痛に顔を歪めて地面を転がり回っていた。

 

「もう諦めろ。はぁ、はぁ……、Mr.2……。君のアキレス腱を撃ち抜いた。もう、満足に動けまい」

 

 私は息を切らせながらも、Mr.2に降参を促した。

 

「はぁ、はぁ……。ジョーダンじゃな〜いわよーう……! 片足でやってやろうじゃねェか!」

 

 しかし、Mr.2はやはりこれくらいでは負けを認めず、よろよろと起き上がり、私に向かって拳法の構えをとった。

 そう簡単には勝たせてもらえないな……。

 

「――片足では踏ん張りも利かない分……。先程までの技の()()がない……」

 

「あんただって、血を流し過ぎて半死人みたいじゃないのよーう! アンッ! ドゥ! オラァ!」

 

 私がMr.2の技の弱体化を指摘すると、彼も私の体が限界に近づいていることを口に出す。

 悔しいけど、そのとおり……。そろそろやばいと思っている。

 

「――うっ! 当然、傷口を狙ってくるか……」

 

 私は執拗に弱点を狙ってくるMr.2の動きに全集中力を傾けた。

 

「「――ッ!!」」

 

 そして、決着の瞬間はついにやってきた。

 

「――爆弾白鳥(ボンバルディエ)アラベスクッ!!」

「――必殺ッッ! 爆風彗星ッッッ!!」

 

 Mr.2が最終奥義とも言える強力な一撃を私に向かって放ち、私がそれを迎撃しようと引き金を引いたのだ――。

 

「「…………」」

 

 2人の体が交錯したその瞬間……、一瞬だけ、時が止まったように感じられた。それが永遠の時間のようにも……。

 

「ぎゃアアアアア!!」

 

 しかし、静寂はMr.2の断末魔に近い叫び声によって打ち消される。

 彼は私の放った突風を繰り出す弾丸を腹に受けて宮殿の壁に激しく体を打ちつけて大の字になって倒れたのだ。

 

 

「まったく……。はぁ、はぁ……、大した強さだったよ。Mr.2……。勝てたのが不思議なくらいだ……」

 

 私は本心からそう思い、彼の強さを讃えた。

 単純な戦闘力で言えば完全に上を行かれていたと思う。今まで真剣勝負した相手の中で一番強かった相手だ……。

 

「くっ、あぢし……、の負けよ……、さっさと、トドメを刺しなさァい……」

 

「驚いたな。まだ意識あるのか……」

 

 私は悔しさに顔を歪めているMr.2のタフさに対して若干呆れ顔していた。

 

「オナベに負けたのなら、悔いはな――ガハッ! まだ喋ってるじゃなーい……、ぐふッ……」

 

「だから、オナベじゃないって……! 睡眠弾だ……、ダメージのある体には効くだろう……」

 

 彼の発言にムッとした私はMr.2の体に睡眠薬入りの弾丸を打ち込んで眠らせた。

 はぁ……、いろんな意味で疲れる相手だったよ……。

 

 

 さて、と。他のみんなは――。

 

 

「一刀流――獅子歌歌(ししそんそん)!」

 

 ゾロは鉄の硬度を誇るMr.1を神速の居合で斬り伏せた。

 この人はこの一戦で確実にレベルアップしたみたいだな……。

 

「トルネード・テンポッ!」

 

 私が作った天候棒(クリマタクト)を最初から上手く使いこなしていたナミは意外にもミス・ダブルフィンガーを終始圧倒していた。

 

 そして、天候棒(クリマタクト)に搭載している最強の切り札であるトルネード・テンポを見事に炸裂させてナミはミス・ダブルフィンガーを相手に快勝した。

 

「一万キロフルスイングッ!」

仔牛肉(ヴォー)ショットッ!」

 

 ミキータはサンジと組んでMr.4とミス・メリークリスマスのペアと戦闘をしていた。

 女性に手を上げない主義のサンジは徐々にMr.4とのタイマンに近い状態に勝負を持っていったので、ミキータも必然的にミス・メリークリスマスと一対一のような状態になっていった。

 

 ラッスーというイヌイヌの実を食べた銃から繰り出される爆弾がMr.4から打ち出されたが、ミキータはそれを打ち返すし、サンジもそれを蹴り返す。

 

 よってサンジとミキータは終始Mr.4ペアを圧倒してほとんどダメージを受けることなく完封してしまったのだ。

 

 ミキータは跳ね返した爆弾の爆発によって地面の穴から飛び出てきたミス・メリークリスマスに向かってハンマーをフルスイングして吹き飛ばし、サンジはMr.4に向かって怒涛の蹴り技のラッシュから必殺の仔牛肉(ヴォー)ショットを決めた。

 

 こうして我々5人はクロコダイルの集めた精鋭中の精鋭である5人のオフィサーエージェント全てに勝利したのである。

 

 あとは、戦争を止めつつ爆弾の処理……。そして、クロコダイルの討伐か……。

 ルフィはクロコダイルと戦えているだろうか……。

 

 アラバスタ王国を巡る戦いは最終段階に進んでいた――。




原作と同じ組み合わせのゾロとナミはほとんど同じ展開で勝利しました。
そして、サンジとミキータはMr.4ペアを圧倒しました。
戦力的にも相性的にも負ける要素がなかったので、一番ダメージが少ないのはこの二人ですね。
ダメージが一番大きいのはもちろんライアです。
いよいよ残すはクロコダイルのみとなりました。
次回には終結が見えてくると思います!


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雨が降った日

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
アラバスタ王国編もクライマックス。
それではよろしくお願いします!


「とにかく、優先すべきは爆弾の処理だな……」

 

 爆弾が爆発してしまえばクロコダイルを倒せても元も子もない。

 

「しかしライアちゃん、こんだけの人数が暴れ回ってる中で爆弾を探し出すのは並大抵じゃないぜ」

 

 サンジが現実的な問題を口にする。しかし、それに関しては問題ない。なぜなら、私は爆弾の設置場所を知っているからだ。

 

「いや、爆弾の在処なら目星はついてるよ。ここに来る前に時計台が見えたんだ。あそこなら、見通しもいいし、爆弾を撃ち出すにはうってつけだ。おそらくそこにある」

 

 私は時計台に爆弾があるという話を予測という形で伝えた。

 

「そういうことか。ならとっとと時計台に行くぞ」

 

「待ちなさいよ。あんな高いところ簡単には登れないわ。時間もおそらく10分あるかないかだし……」

 

 ゾロが動こうとするが、ナミがそれを制止する。

 

「キャハッ……、船長がいればジャンプで行けないこともないんだけど」

 

 ミキータとルフィのコンビネーションなら、確かに何とかなりそうだな。しかし、あそこに行くのに最もうってつけの人物は――。

 

「わっ、私が行こう……。すまない。ビビ様だけでなく、宮殿まで守っていただき――」

 

 ペルがよろよろと立ち上がり、私たちに頭を下げようとする。

 そう、飛行能力を有するペルの力こそ今一番必要な力だ。

 

「まだ、終わってないよ。守るのは、宮殿じゃなくて国なんだろう? ミキータ、一緒に来てもらえるかい?」

 

 私は彼の言葉を遮り話しだした。そして、ミキータの力もあれば心強い……。

 

「なんか作戦があるのね。ここまで来たら最後まで付き合ったげるわよ」

 

「ありがとう。じゃあ、ペル。私たちを乗せて行ってくれ」

 

 ミキータがいつになく真剣な顔をして頷くのを確認した私はペルに声をかける。

 

「わかった。しかし、私が人のことを言える立場ではないが君も重傷だ。なぜそこまでして動くことができる?」

 

「仲間を助けるのに理由なんか要らないよ。うちの船長がそんな人だから、私たちも自然と感化されたのかもしれないね」

 

 ペルの疑問に私はそう答えた。ルフィが仲間のために命を懸ける姿を私を含めてみんなが見ている。

 だからこそ、私たちもそれに付いていこうと思うし、そうありたいと思うのだ。

 

「私も短い間に甘くなったものだわ。あんたらの船長はイカれてる。でも、それも悪くないって思ったもの……」

 

 ミキータもルフィの無鉄砲とも思える行動に多少影響されたみたいだ。

 

「ビビ様が君たちを信頼した理由がわかったよ。アラバスタ護衛隊の名にかけて、必ず君たちを時計台まで届けよう」

 

「よろしく頼む。空を飛べる君がいるなら確実に爆弾は処理できる」

 

 ペルは嬉しそうに微笑み、私たちを乗せて時計台へ飛び立った――。

 

 

 

 時計台に近づいた私は2人の人間の気配を感じた。

 それは、爆弾を撃ち出す任務を請け負っているMr.7とミス・ファザーズデーペアの気配だ。

 こちらに向かって銃を向けているな――。

 

 いいだろう、狙撃(それ)は私の土俵だ。負けるつもりはない。 

 

「アジャスト! “ゲロゲロ銃”! 邪魔はさせないの! ゲーロゲロ!」

 

「ペル、右に旋回! 必殺ッッ! 鉛星ッッッ!」

 

 私はミス・ファザーズデーが引き金を引く瞬間を見極めてペルに指示を出す。

 

 そして、その瞬間にミス・ファザーズデーの利き腕を撃ち抜いた。

 

「ゲロッ!? ぎゃアアア!」

 

 ミス・ファザーズデーは銃を落として、膝をついた。

 

「この距離で移動しながらだというのに、なんて狙撃精度だ!?」

 

 ペルが回避行動をとっているスキに狙撃を成功させたので、彼は驚いた口調だった。

 

「ミス・ファザーズデー? オホホホ! まぐれ当たりは一度きりってスンポーだね。アジャスト! ――ぐはぁッ!」

 

 そして、続けざまにMr.7も狙撃して無力化させる。

 さすがに銃撃戦では負けたくない。

 

「その怪我でも、狙撃に関してはとんでもないわね……。Mr.7も名のあるスナイパーなんだけど……」

 

「これだけが取り柄だからね」

 

 ミキータの感心したような声に対して、私はそう答えた。

 よし、時計台の中へ入るぞ……。

 

 

 時計台の中には大砲と砲弾として巨大な爆弾が設置されていた。

 

「キャハッ……、このでっかい爆弾、時限式なんだけど」

 

 爆弾をいち早く確認したミキータは焦ったような声を出した。

 やはり、時限式だったか……。

 

「何ッ!? クロコダイルのヤツ……。どこまで悪辣なんだ……。こうなったら、私が……」

 

「早まるんじゃない。あれを外に運び出すなんて真似したら君の命が無事で済むはずがないだろう」

 

 ペルが自分を犠牲にして砲弾を運ぼうとしたので、私はそれを止める。

 漫画だと、この人が爆弾の爆発と共に死んだと見せかけて生きていたけど、この世界だと同じようになるとは限らない。

 

「だが、もうこれしか方法は……」

 

 ペルが困った顔をしてそう言ったが方法はある。

 

「ミキータ、君ならこの巨大な大砲ごと持って行けるだろ? 爆弾が爆発する瞬間に最高地点になるように私が砲撃をする」

 

「キャハハッ! 最っ高じゃない。もしもタイミングをミスしたら仲良くお陀仏ってわけね」

 

 私が作戦を話すと、ミキータは何故か喜んだ顔をしていた。うーん、彼女のツボがわからない……。

 

「すまない。君の力にはいつも助けられてる」

 

「バカ……。今さらよ、そんなの。あなたが望むなら私は――」

 

 私が彼女に謝罪すると、ミキータはボソリと聞き取れないくらいの声で何かを呟きながら大砲を持ち上げた。

 キロキロの実の能力って何気に凄くないか? 

 

「なっ、キロキロの実の能力というのは、これほど巨大な大砲の重さもコントロール出来るのか……」

 

「ちょっと、失礼するわよ」

 

 ペルも私と同様、ミキータの力にあ然としていると、彼女は大砲を抱えてペルの背中に乗った。

 

「なるべく高い位置まで行ってほしい」

 

「承知した」

 

 私もペルの背中に乗って、彼に出来るだけ高度を上げるようにお願いした。

 

 

 

「すまない。この辺が限界だ……」

 

「これぐらいなら、爆発の影響が地上にまで及ぶことはほとんどないはずだ」

 

 地上からかなり高い位置まで舞い上がったペルの背中の上で私は砲弾を撃ち出す準備をした。

 

「撃ち出した瞬間に私たちの重さを1万キロにコントロールする。爆風からの影響を抑えられるはずよ」

 

 ミキータは気を利かせてそう言ってくれた。やはり、彼女は機転が利く。

 

「わかった。何から何まで済まない……。よしっ! 砲撃を開始する!」

 

 私は時限爆弾の爆発する時間と砲弾の打ち上がる高さを計算して、導火線に火をつけて爆弾を空中に撃ち出した。

 

「――一万キロプロテクト!」

 

 ミキータが全体の重量を最大に変化させ、爆風に吹き飛ばされないように防御する。

 

「ぐっ――さすがに爆風がッ!」

 

 もの凄い爆風を感じるが、一万キロの重量の私たちはビクともしない。

 

「だけど……、上手く行ったわね……。あとは、船長があのサー・クロコダイルに勝てるかだけど……」

 

 ミキータは遠い目をしながらルフィとクロコダイルの勝負のことを口にした。

 

「ルフィなら、勝つさ……。彼は負けない。負けるはずがないんだ」

 

「だといいけど……。って、あれは――」

 

 私がルフィの勝利は確実だと口にすると、ミキータが驚いた顔をして指をさした。

 

「くっ、クロコダイル? なんてことだ――。あの男が王下七武海の一角を本当に落としたというのか」

 

 ミキータが指さした方向には文字通りぶっ飛ばされたクロコダイルがいた。

 やはり、勝ったか……。信じてたよ……。

 

「ほらね……、ルフィは勝った……、だろ……」

 

「ちょっと、あんた大丈夫!?」

 

 私がふらつくと、ミキータは心配そうな声を出す。

 

「大丈夫さ。せっかく戦いが終わるんだ。最後まで見届けるよ」

 

 そうだ。ここまで頑張ったのだから、この国に平和が戻る瞬間まで意識は保ちたい。

 いつも気絶してばかりだし……。

 

「戦いが終わるか……。ビビ様が奮闘してるとはいえ……。ん? まさか、雨が……」

 

「奇跡が起こると、人の意識は一瞬でも1つになる。そうなれば――」 

 

「キャハ……、ずいぶんと静かになったわね……」

 

 雨が降った。この国は渇いていた。

 そこに天から恵みが降り注いだのだ。

 

 あれだけ激しく争っていた人々はその一瞬に静まり返った――。

 

 これが千載一遇の好機となったのである。

 

「あそこに居るのはイガラムさん……それにチャカも……」

 

「ふぅ……。ようやく終わったか……」

 

 ペルの言葉を聞いて、私はこの国の動乱にピリオドが打たれたことを察した。

 

 

 

 

 

「悔やむことも当然――やりきれぬ思いも当然。失ったものは大きく、得たものはない。が、これは前進である! 戦った相手が誰であろうとも、戦いは起こり、今終わったのだ! 過去を無きものになど、誰にもできはしない! ――この戦争の上に立ち! 生きてみせよ! アラバスタ王国よ!!」

 

 アラバスタ王国の国王であるコブラは、クロコダイルの陰謀により踊らされて反乱を起こした者たちにそう声をかけた。

 

 国というものは人がつくる。確かに壊れたモノ、失ったモノは多いけど……。民衆の意識は確実に前を向いた。

 だからとて、この惨劇の上で前進だとはっきりと宣言できる為政者がこの世界に一体何人いるだろうか――。

 

 

「お疲れ様。よく、頑張ったね。ビビ」

 

「ライアさん! あはっ! 無事で良かった!」

 

 ペルがビビの近くに着陸して、私とミキータを下ろすと、ビビが笑顔を見せて私に飛び付いてきた。

 

「わっ、どうしたんだい? 国が無事で嬉しいのはわかるけど」

 

 ギューッと抱きしめてくるビビの勢いに少しだけ私はびっくりする。

 いや、たくさん人がいる中でちょっと恥ずかしいような……。

 

「――ちょっと、私も無事なんだけど」

 

 ミキータが不機嫌そうな顔をして呟いた。

 

「ビビ様、国王様も見ておられます。あまり、そのう。激しいスキンシップは如何なものかと……」

 

「王女様! いくら国の恩人とはいえ、気軽に男性に抱きついてはなりませんぞ」

 

 ペルとイガラムはそんなビビを諌めていた。というか、イガラムに至っては私のことを男だと認識してたし、もの凄い殺気を私に放っている。

 

「まぁ、待て。イガラム……。ビビも年頃の娘……。この国は彼らによって救われた――。恋心の1つや2つ……」

 

 そして、国王のコブラは優しい表情でイガラムを宥めていた。いや、海賊に恋しちゃまずいでしょ。

 それ以前に――。

 

「ちょっと、待ってくれ。私は女だ! 血が足りないから、あまり叫びたくないが……」

 

「「ええっー!」」

 

 私が性別を告げると、周りの人間が一斉に驚く。コブラも先ほどの威厳が吹き飛ぶくらいの驚きようだ。

 

「恩着せがましいことは言いたくないんだけど……。なんで、国一つ助けてこんな仕打ちを……」

 

 私は少しだけ悲しくなって愚痴をこぼした。

 

「まぁ、それはそれで、アリだが。逆に……」

 

 コブラの表情は一転して威厳のある顔つきでそんなことを言っている。アリってどういうこと?

 

「ナシに決まってます! 王家が滅びますよ! 何を真顔で仰ってるんですか!」

 

 イガラムはそんなコブラにツッコミを入れている様子だった。

 

「ほっ……良かった……」

 

「あんた、マジでホッとしてるでしょ?」

 

 コブラの反応を見ていたビビは何故か安心しきった顔をして、ミキータは呆れた顔をしてツッコミを入れていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 それから3日が過ぎようとしていた。

 ルフィはよほど激闘だったのか、ずっと眠り続けていた。

 さすがに彼の弱点を突くために私が彼に持たせた“ヌメヌメボール”を使っても、クロコダイルを倒すのは骨が折れたか……。

 

 “ヌメヌメボール”は強く握ると拳が水で覆われるという単純な仕掛けのアイテムであり、対クロコダイル用に私が用意したものである。

 

 まぁ、漫画だと2回負けてるし、その分の経験を補ったと考えれば妥当か……。

 

 

「ライアさん、おはよう!」

 

 私が宮殿から外に出ようとしたときにビビから声をかけられた。

 

「おはよう。悪いね。宮殿でお世話になっちゃって」

 

「もう。当たり前でしょう。みんなは国を救ってくれた恩人なんだから」

 

 ビビは宮殿で私たち全員がまとめて面倒を見てもらっていることを当然だと言う。

 それでも、海賊を匿うリスクは高いので申し訳ないと思っている。

 

「そうか……。で、そのう……。君はどうして手を握っているんだい?」

 

 クロコダイルを倒した日から、ビビのスキンシップが激しくなったような気がする。

 ナミやミキータには普通の態度なんだけど……何故か私にだけ……。

 よく、抱きつかれたり腕を組まれたりして、イガラムにそれを見られる度に注意をされていた。

 

 そして、コブラはなぜか嬉しそうな顔をして頷いていた。“尊い”とか言ってたけど何なんだろう。

 

「あっ……。これは、えっと。別に深い意味はないの。そっ、外に用事があるんでしょ? 行ってらっしゃい」

 

 ビビは無意識にやっているのか、ハッとした表情をして顔を赤らめて話題を変えた。

 

 深い意味はないのか。それならいいけど……。

 

 

 私は目的の場所に向けて歩いていった。

 

 

「やぁ、たしぎ曹長。先日はどうも」

 

「――私たちは何も出来ませんでした。あなたたちが全部終わらせたから……」

 

 私は電伝虫でたしぎから呼び出され、人目に付かない場所で2人で会っていた。

 スモーカーの気配を感じたら逃げようと思ってたけど、本当に誰もいないみたいだな。

 

「そんなことはないさ。海軍があのタイミングでクロコダイルの確保に動いてくれたから、彼は焦って動きが雑になり――そして最後には崩れた。自分の功績を卑下する必要はない」

 

 私はふてくされたような表情の彼女にそう言った。

 実際、そのおかげでかなり楽をさせてもらえた部分がある。

 

「スモーカーさんが言ってました。海軍には海賊になったフリをして諜報活動を行う機密部隊があるって噂を聞いたことがあると……」

 

「そうなんだ。へぇ、それは面白い風聞だね」

 

 たしぎから聞いた話は確か本当だった気がする。あれは大変そうな仕事だ……。

 

「だからといって、海賊である限り誰であろうと心を許すな、とも言われました」

 

「当然だね……。だったら、私を捕まえるかい?」

 

 たしぎのセリフに私は頷いた。

 そうかもしれないから、という理由で海賊を捕らえることを躊躇するなんて、スモーカーは許すはずないよな。

 

「今はやめておきます。しかし、もうじきあなたにも懸賞金がかかると聞きました。ロロノア・ゾロと共に……」

 

「ちょっと待ってくれ。ルフィとゾロはともかく、2人よりも圧倒的に戦闘力が劣る私になぜ懸賞金が!?」

 

 たしぎはこの場は見逃すと言ったが、それよりも聞き逃せないのが、私に懸賞金がかかるという話だ。

 なにそれ? 面倒くさい……。

 

「お忘れですか? 懸賞金はその人物の危険度を表しているだけです。単純に強ければ高いということではありません。あなたは巧みな誘導であのクロコダイルの計画を崩した。海軍まで利用して……。上層部はそれを危険視したみたいです」

 

 なるほど、調子に乗って海軍を利用したのが気に食わなかったのか……。

 そりゃあ、海賊に踊らされたんじゃ面子が潰されたも同然だもんな。

 

「そっか。教えてくれてありがとう。敵だから頑張ってとは言えないけど――いつか、自分の正義が貫けるくらい強くなるといい。そしたら、そんな顔をせずに済むのだから……」

 

「――ッ!? 悔しくて仕方ないんです。力がない自分が。何も出来なかった自分が……」

 

 私がたしぎに声をかけると彼女は顔を歪ませて、無力を嘆いていた。

 あのとき、動乱の中で海軍の姿も確認したけど、プライドが傷つけられる何かがあったのだろうか?

 

「何も出来なかったなんてことはないよ。クロコダイルを捕まえたのは君たちだ。これは海賊(わたしたち)にはどうやったって出来ないからね。それにこれだけの動乱の後にも関わらず治安もそれほど荒れてない。それは海軍(きみたち)のおかげさ」

 

 とはいえ、私たちじゃどうにも出来ないことをやってくれるんだから、海軍はアラバスタ王国にとってありがたい存在である。

 私たちなんて基本的に倒したらそれで終わりだし……。

 

「あなたは一体何者――」

 

「しっー。それは知らない方がお互いのためだよ。うん。目に少しだけ力が戻ったみたいだね。君はその方が美しい」

 

 私はたしぎの唇に指を当ててそれ以上の詮索をやめさせる。

 これ以上話すとボロが出そうだからだ。

 

「うっ、うっ――ッ! かっ、からかわないで下さい! 本気にしたらどうするんですか?」

 

「からかってなんか無いさ。真剣に正義を貫こうとしている君は良い表情(かお)をしていた……。それだけだ……」

 

 ゾロから刀を奪おうと意気込んでいた彼女は凛々しかったし、気迫もすごかったので、私はそれを伝えた。

 

「………………はっ! えっ、えっと、とにかく伝えることは伝えました。そして、この電伝虫はお返しします。スモーカーさんが二度と利用されるのは嫌だから突き返せと言ってましたので」

 

「ふーん。彼らしいな。じゃあ、縁があったらまた会おう」

 

 たしぎは数秒間ボーッとしていたかと思えば、急に電伝虫を手渡して、プイとそっぽを向いた。

 私はそれを受け取り宮殿に戻った。

 

 宮殿に戻ると、ちょうどルフィが目を覚ましたと連絡を受ける。

 

 彼が目を覚ましたということは……。この国から出航するのは今夜あたりになりそうだな……。

 

 このときの私は何もわかってなかった。いつか、ナミが私に言った“責任”という言葉の重さを――。

 まさかビビがそこまで私のことを――。

 




ライアに懸賞金かけるかどうか迷ったんですけど、ウォーターセブン編が終わるまで待てなかったので、つい……。
ルフィVSクロコダイル戦は全カット。原作よりも盛り上がりも欠けそうでしたし、ライアは爆弾の処理をしてましたからやむを得ずです。
次回でおそらくアラバスタ王国編は終了となります。
百合を全面に押し出せるように頑張ります!


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アラバスタでの最後の夜


いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
前回、アラバスタ王国編のラストとか書きましたが、終わりませんでした。お風呂シーンを長々と書いてたら終わりませんでした。すみません。
それでは、よろしくお願いします。


 

「15食も食い損ねてる!」

 

「なんでそういう計算は早いのよ。あんた」

 

 起きるなり、1日5食計算で食べられなかった食事の回数を素早く計算するルフィを、ナミは呆れた顔をして見ていた。

 

「ふふふ、食事ならいつでも取れるようにしてるから平気よ」

 

 イガラムの奥さんであるテラコッタがルフィに朗報を伝える。

 

「おばちゃん! おれは3日分食うぞ!」

 

「任せときな! 存分にお食べ!」

 

 ということで、目覚めたルフィを含めたみんなで食事会が開かれた。

 

 

 

「いつにも増して素晴らしい食欲だな。惚れ惚れするよ……」

 

 ルフィはとんでもない量の食べ物を、まるで手品のように体の中に消し去っていった。

 私はそれを見て感嘆していた。

 

「ほっ、惚れる? ライアさんはよく食べる人が好きなの?」

 

 隣で食事をしていたビビが私の言葉に反応してそんなことを聞いてきた。

 

「えっ? まぁ、そうだね。あれくらい豪快だと清々しいと思うよ」

 

 私は質問の意図が掴めず、ルフィを見たままの感想を伝えた。

 

「よしっ! 私も――もぐもぐ……。おかわり!」

 

 するとビビが今までにない食欲を見せて、凄まじい勢いで食べ始めた。

 

「おれ! この肉のやつをもっと!」

 

「わっ、私も……!」

 

 ルフィのおかわり、に対してビビもそれに張り合っておかわりを要求する。

 

「ちょっと、あんた。もしかして船長と張り合ってんの? やめなさいって」

 

 ミキータが心配そうな顔をして、それを止めようとする。

 

「ライア……。あなた、また余計なこと言ったでしょ」

 

 そして、ナミはじぃーっと私の顔を見て、ビビが変なのは私のせいだと言ってきた。

 そんな心当たりがまったくないけど……。

 

 

「うぷっ……」

 

「ビビ、食べ過ぎだよ。大丈夫かい?」

 

 私はビビの背中をさすりながら、彼女に声をかけた。

 

「ごっ、ごめんなさい。ルフィさんには敵わないみたい」

 

 ビビは何を考えているのか、当然のことを口にする。

 

「あっ、当たり前だろ。あははっ! でもビビって面白いね。こんな一面もあったんだ。一緒に居て楽しいよ」

 

「いっ、一緒に居て楽しい? えへへ……ふふっ……」

 

 私が笑うとビビもヘラっとした笑顔を見せて楽しそうな表情を見せてくれた。

 こういうお茶目なところも彼女の魅力だと思う。

 

「キャハハ……、見てられないわ。だらしない顔しちゃって」

 

 そんなビビを見て、ミキータはやれやれというようなポーズをとっていた。

 

 

 食事のあとは国王のコブラの勧めで、宮殿の自慢の大浴場を利用することとなった。

 本来は雨季にしか使わないので特別のようだ。

 てことは、みんなで風呂に入るってこと? 気が乗らないんだけどな……。

 

 

「ううっ……本当にみんなで入るのかい? あまり体を他人に見せたくないんだが……」

 

「何言ってんの。そういえば、あなた病気のときも極力見せないようにしてたわね。サンジくんが買ってきた服も着なかったし……」

 

 私が服を脱ぐことを躊躇っていると、ナミがハッとした表情で今までのことを思い出してきた。

 私が極力露出の少ない格好をしていることに気が付いたみたいだ。

 

「だから、それは……」

 

「キャハハ、まさか上半身だけ女で下半身は男だったりして。そういう人もいるって聞いたことがあるわ。つまり下には――」

 

 私が言葉を詰まらせるとミキータがとんでもないことを口にしてくる。

 私の下半身を指さしながら……。

 

「えっ……? ううん。だっ大丈夫よ、ライアさん。もし、ライアさんの下半身に、その……。男性のええーっと、なんて言えば……」

 

「言わんでいいし。そんなわけ無いだろう」

 

 私の下半身を顔を真っ赤にしながら見つめていたビビが王女が言ってはイケナイことを言おうとしてたので、私は素早くそれを否定した。

 

「だったら、良いじゃない。ほら、脱ぎなさいって」

 

「ちょっと、ナミ……。そんな乱暴な脱がせ方はないだろう」

 

 すると業を煮やしたナミが強引に私の服を脱がせてきた。

 

「キャハッ……観念しなさい。私がこっちを押さえておくわ。ほら、あんたも手伝って」

 

 さらにミキータが後ろから私の体を取り押さえてきた。

 

「わっ、私? なんだかイケナイことしてるような……」

 

 ビビはまだ顔を赤くしてこの状況に戸惑っている。

 

「何言ってんの。ミス・ウェンズ……いや、ビビ。だから、楽しいんじゃない」

 

「ミス・バレンタイン……。私の名前……」

 

 ビビはミキータから自分の名前を呼ばれてハッとした表情をした。

 二人ともなぜかずっとコードネームで呼び合ってたもんな。

 

「会社もなくなったんだから。コードネームで呼び合うのも馬鹿らしいでしょう。キャハハ」

 

「くすっ、それもそうね。ミキータ……」

 

 ミキータが笑ってそう言うと、ビビも笑って彼女の名前を呼んだ。

 いや、いい話なのかもしれないけど……。

 

「友情を育んでるところ悪いけど……自分で脱ぐから離してくれないかな?」

 

「キャハハッ! だから、()()()()()()()から面白いのよ。わかってないわね」

 

 私がミキータに解放を要求すると、彼女はエスっ気たっぷりの笑みを浮かべて、彼女の趣向を話してきた。知らんがな、そんなの……。

 

「そゆこと。いつもしたり顔して、カッコつけてるんだから。たまにはこういうのも良いでしょ」

 

「まったく。何が楽しいのか理解出来ないよ」

 

 ナミもミキータに同調している。何だかんだ言って、この2人も気が合うみたいだ。

 

「キャハッ……。ビビは、どっちかというとライアに無理やり脱がされたかったりして」

 

「――ッ!? ライアさんに脱がされる……」

 

 ミキータはさらにビビに対して変なことを言うと、ビビは何とも言えない表情をしてボーッとしていた。

 

「こらこら、だらしない顔しないの。何を想像してるの? エッチなんだから」

 

「ちっ、違うわ。そんなこと考えてないもん」

 

 ナミがジト目でビビを見つめると、彼女は慌てて両手を振って否定するような仕草をした。

 

「キャハハ、正直ね〜」

 

 ナミとミキータはお喋りをしながら、あれよあれよという間に私の服を脱がして、あっという間に下着姿にされてしまった。

 

「ああっ……」

 

「ほら、そんなに恥ずかしがらなくても……って、そういうこと――」

 

 私が体を縮こまらせて隠そうとすると、ナミは察したような顔をした。

 

「ライアさん……なんでこんなに傷跡が……」

 

 ビビはビックリした顔をして私の体を見つめていた。

 

「子どもの頃から強くなるために鍛えてたんだけどね。上手くいかないもので、傷が増える一方だったんだ」

 

 そう、特訓漬けの毎日で私は体中に傷を負っていた。

 生まれつき色素が薄いこの体は跡が残りやすく、至るところに生々しい傷跡を刻む結果となっていた。

 

「増える一方って、あんた……。なんでそこまでして……」

 

「父親がいるところというのが、ちょっとした努力くらいじゃ届かない場所だからさ。ごめん、こんな体を見せ――って、ビビ……」

 

 四皇である赤髪の船に乗ってる父に会うには、頂上戦争を最後まで意識を保って生き残るというバカみたいな難易度をこなさなきゃならない。

 それを言おうとすると、下着姿のビビが私の背中の傷を撫でながら抱きついてきた――。

 

「ライアさんは初めて会った日も傷を作って、私を守ってくれた。私はそんな体だなんて、思わない……。素敵だし、憧れてるわ……」

 

 静かにはっきりと彼女は私のこの体を肯定してくれた。

 ビビはとても優しい子だ……。

 

「そう言われて嬉しいよ……。でも、下着姿同士で抱き合うっていうのは、ちょっと……」

 

「そっ、そうよ。キャハッ……どさくさに紛れてナニやってんのよ。あんた」

 

 私が困った顔をしていると、ミキータがポカリとビビの頭を小突いた。

 

「――えっと、そのう。わぁ、すごい腹筋……」

 

「誤魔化したわね……。まぁ、いいわ。早く温まりましょう」  

 

 ぺたぺたと私の腹を触るビビを見ながら、ナミは早く服を全部脱ぐように促した。

 確かに脱衣所で時間かけすぎたとは思ってる。 

 

 

「これは見事だ……」 

 

「キャハッ……広ーい」

 

「ホント、素敵ねー」

 

 私たちは口々に大浴場の感想を口にした。いや、本当に立派なものだ。

 装飾から何からこだわりを感じられる……。

 

 

「あ、あの。ライアさん……、背中を流してもいいかしら?」

 

「ん? そんな改まって言うことかい? じゃあ、せっかくだからお願いしようかな?」

 

 浴場を眺めていた私にビビがモジモジしながら遠慮がちに声をかけてきたので、私はそれに応じた。

 

「「むっ……」」

 

 その瞬間にナミとミキータからただならぬ視線を感じたのは気のせいだろうか?

 

「しゃあないわね。私はナミちゃんの背中で我慢したげるわ」

 

「我慢って……じゃあお願い。あなたって、割とお人好しよね」 

 

 そして、ミキータはナミの背中を流すみたいだ。

 最近、ミキータは徐々に名前で私たちのことを呼ぶようになった。ゾロのことを『ゾロくん』って呼ぶのは彼女くらいだ。

 

「キャハハ、それ以上言うとお湯の中に沈めるわよ」

 

「はいはい」

 

 何だか、あっちはあっちで楽しそうに話をしているな……。

 

 

 そして、腰掛けた私の背中をビビが洗い始めた。

 

「うん。気持ちいいよ。ビビ……。上手だね……」

 

 ビビは上下に絶妙な力加減で手を動かしてくれるので、とても気持ちがいい。

 

「そっ、そう? 良かった。嬉しい……」

 

 彼女はホッとしたような声を出して、私の反応に安堵していた。

 

「どれ、交代しよう。今度は私が君を気持ちよくしてあげなきゃな」

 

「――う、うん。ありがとう……」

 

 今度は私がビビの背中を洗う。とはいえ、上手くできるか些か心配である。

 

「どうかな? 痛くないかい? こういうのって慣れてないからさ」

 

 ゆっくりと優しく手を動かしながら、ビビの反応を窺ってみる。

 

「大丈夫……。気持ちいいわ……」

 

 すると彼女は噛みしめるような感じでそう返事をした。

 

「そうか……。なら、良かった……」

 

「私、今――とっても幸せなの……」

 

 ビビは本当に幸せそうだった。おそらく国の危機が去っていったことを実感したからだろう。

 

「ははっ……! 大袈裟だな、ビビは。――ところで、さ。彼らが先ほどからこっちを見てるのが気になって仕方が無いんだが……」

 

 私はビビの返事に反応しつつ、ずっと気になっていた視線について話をした。

 

「「じぃ〜〜〜」」

 

「ちょっと、みんな! 何してるの!?」

 

 壁の上から男性陣が覗いてることにビックリしたビビは大声を上げていた。ていうか、国王が自分の娘の入ってる風呂覗くなよ……。

 

「あいつら――。幸せパンチ!! 1人10万ベリーよ」

 

「「ぐはっ!」」

 

 その様子を呆れた顔で見ていたナミは惜しげもなく自分の裸体を晒した。

 といっても、金はきっちり請求するみたいだが……。

 

「ほう。さすがはナミだね。やるもんだ。私なら、ああは行くまい」

 

「絶対に止めてね。ライアさん」

 

 私が感心したような声を出すとビビが真顔になってナミの真似は止めろと言う。いや、しないから。絶対に誰も喜ばないし……。

 

 

「――ふぅ。こんなに大きな湯船に浸かるのは、初めてだな」

 

「ねぇ、ライア。出航のことなんだけど。今夜はどうかしら?」 

 

 私が今世では間違いなく最大の風呂に浸かってしみじみとしていると、ナミが出航について相談してきた。

 

「そうだね。ルフィも目を覚ましたし、長居をする理由もないか……」

 

「ていうか、海軍がもう黙ってないでしょ。キャハッ……、船も危ないかも」

 

 私がナミの意見に同調すると、ミキータも冷静に船の心配をした。

 海軍が漫画よりも少しは遠慮がちになってくれればいいんだけど……。

 

「…………」

 

「迷ってるんでしょう? ビビ」

 

 黙っているビビにナミが声をかける。そっか、ビビは一緒に来るかどうか最後まで悩んだんだっけ。

 でも、結局国に残ることを決めた。

 

 私は正しい判断だと思った。大体、この麦わらの一味はここから世界の至るところに喧嘩を売って歩いて行くことになるし……。

 

「う、うん。でも、1つだけ決めたことがあるわ。ライアさん、あとで2人きりでお話できる?」

 

「私と? ああ、もちろんいいよ。じゃあ、風呂を上がったらでいいかな?」

 

 私が考えごとをしていたら、ビビが私と話がしたいと言ってきたので了承した。

 なんの話だろう? 海賊になるための相談? いや、それで私と2人でっていうのも変だ……。

 

「ありがとう――」

 

 思いつめたような表情でビビは静かにそう言った。

 しばらくして、十分に体を癒やした私たちは風呂を上がった。

 ああ、なんていい湯だったんだろう。まるで命を洗濯したようだった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「どうしたんだい? 2人で話がしたいって?」

 

 ナミとミキータには先にルフィたちのいる部屋に行ってもらって、私たち女3人が3日間寝泊まりした部屋にビビが入ってきた。

 

 私たちは同じベッドに腰掛けている。

 

 ビビはしばらく黙っていたが、意を決した表情で私の顔をまっすぐに見て口を開いた。

 

「ライアさん……あのっ……。わっ私、ずっと……あなたのことが……好きでした――」

 

「えっ? ビビ……それって……」

 

 私は思いもよらない彼女の言葉に面食らってしまった。

 

「最初に会ったときから素敵な人だと思ってた。気付いたら目で追いかけているようになっていて……」

 

「あっ……」

 

 ビビは今までにない力強さで、私をベッドに押し倒してきた。

 両腕を押さえられて、私は彼女の顔を見上げるような形で見ていた。

 

「女の人ってことがわかっていても、気持ちが抑えられなくなっていた。あなたに触れられるだけで胸がドキドキするの。見つめられるだけで、夜も眠れなくなる日もあったわ――」

 

「そんな、私は……」

 

 ビビは私に出会ってから抱いていた感情を吐き出していた。

 全然、気付かなかった。彼女がそんな気持ちを私に抱いてるなんて――。

 

「私はライアさん、ずっと、ずっとあなたのことが好きでした――。こんな気持ちになるのは初めてなの……。あなたが出航する前に、どうしてもこの気持ちだけは伝えたかった――」

 

「ビビ……えっと、その。顔が近いよ……」

 

 ビビはゆっくりと覆いかぶさるように私に顔を近づけてきた。

 私はあまりの展開に力が入らない。彼女の唇はすでに私の唇と3センチも離れていない。

 ビビが話すたびに吐息が私の口元にかかり、その表情はいつもよりも幾分大人びて見える。

 彼女の青く長い髪からはさっき一緒に使った石鹸の匂いがした――。

 

 一国の王女が海賊のしかも、女の私に――。

 でも、こんなことをするってことは……本気なんだろうな……。

 

 こんなときに私の頭に浮かぶのはシロップ村に残してきたカヤの顔である。

 最後に見た彼女の顔は、今のビビの表情とよく似ていた――。

 

「ねぇ、お願い……。私を攫ってちょうだい――」

 

 しばらく見つめあった後に、ビビは絞り出すように声を出した。

 私は一国の王女になんてことを言わせたのだろうか? 

 アラバスタ王国の最後の夜は――私には忘れられない夜となっていた――。

 




アラバスタ王国編で一番書きたかった回が投稿できて満足しております。
個人的には最近で一番楽しく書けたのですが、如何でしたでしょうか?
次回こそ、アラバスタ王国編はラストになる予定です。


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ビビの冒険


いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回でアラバスタ王国編は完結します。
ビビの告白の行方とか、そういったところに注目してみてください。
それではよろしくお願いします。


 

「――攫うって、穏やかじゃないね。どうした……? こんなの君らしくないよ」

 

 努めて冷静に、私はゆっくりとビビにそう声をかけた。

 

()()()()? 今、全部正直になっているわ。これ以上ないくらい自分らしく振る舞ってる」

 

 ビビはジッと私を力強い視線を送りながら返事をする。

 私を押し倒すことが自分に正直になった結果というのは何とも大胆だな……。

 

「そうか――。ごめん……、ビビ。君の気持ちにまったく気が付かずにいた……。配慮が足りなかった、と思うよ……」

 

「うん。ライアさんはちっとも気付いてくれなかった。でも良いの。そんなところも好きだから……」

 

 私が謝罪すると、ビビははっきりと私に好意を再び伝える。

 妖しく光る瞳は彼女の表情を艷やかに魅せる。

 

「わかった。君の気持ちはよく伝わったよ。正直……、戸惑ってるけど……。ちゃんと応えようと思う……」

 

「…………」

 

 私はビビの真剣な気持ちを理解して、はっきりと自分の気持ちを伝える覚悟をした。

 

「ビビ、君はとても美しいし、良い子だ。一緒に居て楽しいと言ったのも本当だ……。でも……、君の気持ちには応えられない。ごめん……」

 

 彼女の瞳を見つめて私ははっきりとした声で返事をする。

 

「それは……、私が女だから?」

 

「いや、あえて言うつもりは無かったんだけど……。故郷に恋人がいるんだ。()()を裏切ることは出来ない……」

 

 ビビの言葉を私は否定する。カヤの存在を口にすることによって。

 私が愛しているのは彼女しか居ないのだから……。

 

「――ッ!? じゃあ、ナミさんが言ってた“あの子”って……」

 

「ああ、私の恋人だ……」

 

 前にナミが口に出した“あの子”という言葉をビビは覚えていたみたいだ……。

 

「……そっ、そうよね。ライアさんだもん。ほっとかれるはずないわよね……。なんで、私……、気が付かなかったんだろう――。しかも、()()()だなんて……」

 

「ビビ……」

 

 ビビは特に女性が私の恋人だったことがショックだったらしく、泣きそうな顔をしていた。

 

「でも、嫌だ……。諦めたくない。身も心も全部、あなたのモノになりたい。どうしてもあなたが欲しいの!」

 

 しかし、ビビは私を掴んでいる手の力を更に込める。そして、涙をポタポタと私の頬に落としながら叫びに近い声を上げる。

 

「そこまで、想ってくれて嬉しいけど……、どうしても君の気持ちには応えることはできないんだ。――責任をとる代わりに出来る限り何でも言うことを聞くから、それで勘弁してくれないだろうか……」

 

 自分の意志は曲げられない。しかし、どうやって責任を取るかというとそれはまったく思いつかなかった。

 

「何でも言うことを――?」

 

「私はカヤを裏切れないし、裏切るつもりもない。だけど、君を苦しめた罪は重いと感じている。君が本気ということは痛いくらい伝わった。だから、私に出来ることがあるのなら、なんでも言ってほしい……」

 

 私は声を震わせているビビにゆっくりと自分の意見を伝えた。  

 自分の不徳のせいで彼女を苦しめたことに対する贖罪の気持ちを込めて。

 

「――そこまで、カヤさんという方を愛してるの?」

 

 ビビは言葉を出し、そして唇を強く噛み締める。

 

「安っぽい言い方だけど、世界中の誰よりも……。私は彼女を愛してる」

 

 私はストレートに自分のカヤへの気持ちを伝えた。

 

「世界中の誰よりも……か。カヤさんが羨ましくて堪らないわ。でも、ライアさんが本気だということがわかった――。何でもいいのね?」

 

 ビビはそれを聞いて、何かを決意したような声を出す。

 

「もちろんだ。二言はないよ。嘘つきだけど、君を裏切るようなことは言わない……。って、あっ……、んっ……」

 

 私が彼女の言葉を肯定した瞬間、ビビは私の唇を奪った。柔らかな感触が私の五感を支配する。

 

「――ん、はぁ……、んっ……」

 

 ビビは少しだけ唇を離したかと思うと、今度は最初よりも激しく唇を押し付けてきた。

 まるで私のすべてを奪おうとするように、彼女から感じる温かな感触と柑橘系の香りのせいで、頭の中が真っ白になりそうだった。

 

「はぁ……、はぁ……、ビビ……?」

 

 私はビビとキスをしてしまった。多分私は、信じられないというような表情をしていたと思う。

 

「振られちゃったから、海賊っぽいことをしたの。あなたの想い出の一部を無理やり奪ったわ……。忘れてほしくないから」

 

 妖艶に微笑みながらビビは私の頬に両手を撫でるように這わせる。

 

「そんなことを――、んっ……、んんっ……」

 

 それを聞いた私が言葉を発しようとしたとき、ビビは再び私と唇を重ねた。

 今度は何度か軽く口づけをして、そして最後に私の唇を甘噛みするように激しく――。

 

「――んはぁっ、んんっ……」

 

 彼女の舌が私の下の歯に当たるのを感じる。

 ビビは興奮しているのか、喘ぎに近いような声を上げていた。

 

「――ぷはぁ……、はぁ……、確かに何をしても良いとは言ったけど……」

 

 私はビビの顔が離れたのを確認して、彼女に言葉をかけた。

 

「――はぁ、はぁ……、これで……、私のことを忘れないでいてくれる……?」

 

 ビビは今さら顔を真っ赤にして、瞳を潤ませながら私に確認するようにそう言った。

 

「……忘れるわけないさ。今日のことは多分一生忘れられないと思うよ……」

 

 どう考えてもこんな体験は記憶に刻まれて離れなくなると思う。

 

「でも、故郷の恋人さんにもこのことを正直に話すのね……」

 

「うん。カヤには誠実でいたいから偽りなく話すさ」

 

 ビビはすべてを見透かしたようなセリフを聞いて私はそれに頷く。

 カヤには今日のことも話すだろう。すごく怒られるだろうけど――。

 

「もしそれで、ライアさんが振られたら――。ううん、何でもない……」

 

 ビビは私の言葉を聞いて何かを小さな声でつぶやくと、首を振って微笑んだ。

 

「私のことを許してくれるのか?」

 

「許すも何も、私が勝手に好きになって舞い上がってただけだから。でも……、ファーストキスがライアさんで嬉しかった」

 

 私の質問にビビは笑いながらそう答える。何というか、こんなファーストキスで良かったのだろうか?

 

「――積極的というか、何というか……。でも、よく考えたら犯罪組織に潜入するくらいだもんなー」

 

 そう、この子はB・Wに王女という身分ながら飛び込んでスパイをするような子だ。

 彼女は私が思っている以上に直情的だったのかもしれない。

 

「ねぇ、ライアさん。もしも恋人が居なかったら……。もしも、私と先に会っていたら――」

 

「もしものことは、わからないさ。でも、君は誰が見ても魅力的だし、美しい。だから、私なんかよりも素晴らしい人間と巡り合える」

 

 私はビビが言いたいことを察してそれに答える。

 彼女にはいい人をキチンと見つけてほしいと思う。その気持ちは偽善なのかもしれないけど……。でも、本気でそう思ったから、それを口に出した。

 

「もう、意地悪なんだから……。嘘でも夢を持たせてくれれば良いのに」

 

 しかし、ビビは頬を膨らませながらそう言った。夢を持たせるって……。そんなの残酷じゃないか……。

 

「ごめん。じゃあそろそろルフィたちの所に行こう。君も迷っているんだろ? 私たちと来るかどうか。君のことを攫うことは出来ないけど……。来てくれるなら、歓迎するよ」

 

「うん……。もう一度考えてみる」

 

 私は立ち上がりビビの頭を軽く撫でて声をかけると、彼女は静かに頷いてそう声を出した。

 

 

 

 

 ビビと共にルフィたちがいる部屋に入ると、ちょうどMr.2から電伝虫に連絡が入ってきたところだった。

 彼は私たちの船を奪い移動させたと言ってきたのだ。

 ああ、そういう流れで彼に助けてもらったんだったっけ。私はこの辺の流れをすっかり忘れていた。

 

 彼から船を受け取るためにはアルバーナの西側にあるサンドラ河に行かなくてはならない。

 

 それを聞いたビビは私たちにどうしたら良いかと尋ねてきた。

 

 ビビの質問に対して、地図とにらめっこしていたナミが答える。

 

「今夜王宮を発って、サンドラ河で船を奪い返したら、明日の昼12時ちょうどに「東の港」に1度だけ船をよせる。その一瞬だけが船に乗るチャンス。その時は歓迎するわ、海賊だけどね!」

 

 つまりビビに与えられた猶予は約12時間。

 その間に彼女は自らの進退を決めなくてはならない。

 

 ルフィは絶対に来いよ、とは言ってたけど……。私はやはり彼女は残るべきだと思っていた――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 超カルガモ隊のおかげで我々はサンドラ河に最速でたどり着いた。

 

「あちしがこの船を移動させてなかったら、海軍に確実にやられていたわよ! 今、この島は海軍船で完全にフーサよ! 封鎖っ! スワン一匹も逃げられない!」

 

 Mr.2と再会した私たちは彼からこの島周辺の状況を聞いた。

 どうやらスモーカーが近海の海軍を集めたらしい。海軍を利用したのはミスだったかな?

 

「こんな状況だからこそ! つどえ! 友情の名の下に! 力を合わせて頑張りましょ〜〜う!」

 

 Mr.2は共に協力しあって窮地を脱しようと提案した。

 

「「うおおおおっ!」」

 

 ルフィもチョッパーも乗り気になって返事をする。

 

「キャハハっ! 友情ねぇ……」

 

「あら、ミス・バレンタイン。元オフィサーエージェント同士のよしみじゃなーい。仲良くしましょ〜う」

 

 ヘラっと笑うミキータに対して、Mr.2は手を差し出した。

 

「はぁ、あんたと争っても何の得もしないし。戦わないようにしとくわよ」

 

 ミキータは差し出された手を握って、共闘して海軍の包囲網を掻い潜ることとなった。

 

 

 海軍の包囲は思ったよりも厳重だった。

 八隻の海軍の船に囲まれた私は大砲を使って、船から放たれる鉄槍を撃ち落とす作業をしていた。

 

 

「ちっ、鉄の槍か……。厄介だね。私が一気に相手の陣営に穴を開ける。全速力でそのスキを突くぞ! ――くらえっ!!」

 

 私は海軍の船がもっとも密集している地点を狙って砲撃をした。

 

「おっ、マストを折って一気に3隻沈めるたァやるじゃねェか。やっぱ、狙撃の腕はすげェな」

 

 ゾロがニヤリと笑って私の砲撃を褒めてくれた。

 

「すっごいじゃなーい。さすがは同志ねい!」

 

「誰が同志だ! とにかく、このまま――!」

 

 私はMr.2にツッコミを入れてこのまま何とか包囲網を突破しようと考えた。

 

 しかし、海軍もそれをなかなか許してくれない。

 黒檻のヒナ――海軍本部の大佐の船がこちらに近付いてきた。

 

 くっ、このままじゃ、ビビを迎えに行けないじゃないか。私はいつの間にか、彼女にもう一度会うために必死になっていることに気付いた。

 

 そんな中、事情を聞いたMr.2が涙をながしながら決意した顔を私たちに見せた。

 

「いいか野郎ども及び麦ちゃんチーム……、あちしの言うことをよォく、聞きねい!」

 

 なんと、彼は自ら囮になると志願した。そして、彼はそれを実行する。

 

 私たちに成りすまして、黒檻のヒナをおびき寄せたのだ。

 

 

「Mr.2……、君から受けた恩は決して忘れない……。確かに君は――友情にアツいヤツだった……!」

 

「ボンちゃん! 俺たち! お前らのこと! 絶っっ対に忘れねェがらな゛ァ!!」

 

 私たちは彼の勇姿を見送りビビを迎えに行くために船を全速力で進ませた。

 

 

 

 東の港に着いたとき、拡声器によって、王国中に響き渡るビビの声が聞こえた。

 

『少しだけ……、冒険をしました――』

 

 彼女のスピーチは私たちとの冒険を指すような言葉だった。

 しかし、徐々に漫画とは異なる方向に進んでいった。

 

『――そして、初めて人のことを好きになり、見事に失恋してしまいました――』

 

 そう、ビビは私とのことまで話しだしたのだ……。

 これ、王国の人がみんな聞いているんだよね?

 

「ビビ……」

 

 私は昨日の夜のことを思い出して、気付けば人差し指で唇をなぞっていた。

 

『でも、やっぱりまだ、私はあなたのことを! 愛してる! だから、一緒には行けません! きっと辛くなるから!』

 

「あなた、あの子のことを……」

 

「想像にお任せするよ……」

 

 ビビの言葉でナミは敏感に何があったのか察して、私の顔を見た。

 

『――私はここに残るけど……! いつかまた会えたら! 仲間と呼んでくれますか……!?』

 

「あっ……、むぐっ」

 

 最後のビビの問いかけにルフィは答えようとしたが、ナミは彼の口を塞ぐ。

 

「海軍がビビに気付いている……」

 

「私たち海賊との関わりが公になると、彼女は“罪人”にされてしまうかもしれない……」

 

「このまま……、黙って別れるのが彼女のためよ……」

 

 私たちは口々にルフィに対して現状を告げた。

 私は確かにスモーカーに王国とつながってると匂わせたことを言ったことはあるが、あんなのは海賊の戯言と捨て置ける。

 

 しかし、今、海軍の目の前で彼女の言葉に反応をすると流石に言い訳はできない。

 

 だから……、私たちは――。

 

 

「これから何が起こっても、左腕のこれが……、仲間の印――か」

 

 私たち7人は左腕の✕印を掲げながら、彼女の元から去る――。

 

 これは――私たちだけに通じるサインだから――。

 

 さようなら、ビビ――。最後の君の質問に答えられなくてごめん。

 そうだね。もしも、君と先に会っていたら私は――。

 

 

 淡い想い出を胸に秘めて、私は次の冒険に視線を向けていた。

 別れというのは、思ったよりも痛いんだな――。

 

 

 

「なァに? キャハッ……、ビビのこと振ったの後悔してんの?」  

 

 ミキータがボーッとアラバスタ王国の方向を眺めている私に声をかけてきた。

 別に……、後悔はしてないんだけど……。

 

「まさか……。彼女は私なんかよりも、よほどいい人と出会うことになるさ」

 

「それはどうかしら?」

 

 私が彼女の言葉に返事をすると、ミキータは懐疑的な表情で私を見つめていた。

 

「ていうか、ミキータ。君はこのままウチの船員(クルー)になっていいのかい? もう刺客に狙われることはないんだぞ」

 

「そうね。でも、思ったよりもあんたらと居るのが楽しくなっちゃったから……」

 

 私は彼女に我々と共にいる利害関係がなくなったことを伝える。

 

 しかし、彼女は麦わらの一味に愛着みたいなのが芽生えたらしく、このまま共に旅をするつもりらしい。

 

 まぁ、特にルフィがミキータのことを気に入ってるからな。完全に仲間として扱ってるし、合体技とか出来て、すごく嬉しかったみたいだし……。

 一緒に旅を続けることは誰も反対しないだろう。

 

「そっか……」

 

「キャハハ……、軽くなることくらいが取り柄の私だけど、寂しさくらいは紛らわせてあげるわよ」

 

 私が短く返事をすると彼女は肩を組んで慰めるような言葉をかけてきた。

 

「ありがとう。でも、しばらくこの気持ちも大切にしときたいかな」

 

「はぁ、あんたがそんな奴だから。あの子も――」

 

 私は彼女の好意に対してそう答えると、ミキータはため息をついて私を呆れ顔で見ていた。

 

 しばらくしてルフィはミキータを海賊団の“伝令役”に任命する。

 ずっと彼女の役割についてそれなりに真面目に考えてたらしく、フットワークが軽いことに目をつけて任命したらしい。

 

 そして、ミキータの役職も決まったころ、ビビが居なくなった寂しさを忘れられない私たちはもう一人の仲間と出会うこととなった――。

 

 

 




積極的なビビを書いてると止まらなくなってしまって、やり過ぎた感もありましたが、ライアに忘れられない想い出を刻んでいきました。
振られてしまったビビは残念ながらアラバスタ王国に残るという結果に……。
そして、アラバスタ王国編の終わりにビビと仲良くなって護衛団入りする予定だった、ミキータが何か知らない内に船に乗っててびっくり。
ということで、書いてる内にドンドン愛着が湧いてしまったミキータは麦わらの一味に“伝令役”として正式に加入しました。
ムードメーカー的な存在になってほしいと思ってます。こうなったら最後まで連れていきますとも。
身勝手にも前言を撤回してしまって申し訳ありません。


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空島編 空島を目指せ

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ミキータ加入が好意的に受け入れられて嬉しいです!
今回から空島編がスタートします!


「何言ってんだ、お前! おれはなんもしてねェぞ!」

 

「いいえ、耐え難い仕打ちを受けました。――責任とってね」

 

 ゴーイングメリー号に密航していたミス・オールサンデーことニコ・ロビンがルフィが自分に対してした事の責任を取るように告げてきた。

 

 サンジはルフィの胸ぐらを掴んで怒鳴っているけど、君が考えてるようなことはしてないと思うよ。

 

「意味わかんねェ奴だな。どうしろって言うんだよ?」

 

「私を仲間に入れて――」

 

 ルフィの問いに対して、ロビンは自分を仲間に入れるように要求をした。

 ロビンか……。彼女の人生も壮絶だよな……。

 バスターコールとか、一生体験したくない……。

 

「「はぁ!?」」

 

 ロビンの唐突な要求は船員(クルー)たちにとっては驚くべきものだったみたいだ。

 

「――死を望む私を生かした。それがあなたの罪……。私は行くあても帰る場所もないの。――だから、私をこの船に置いて」

 

「なんだ、そうか。そらしょうがねェな。いいぞ!」

 

 そして、行くところがないと主張する彼女にルフィはあっさり許可をした。

 

「「ルフィ!」」

 

「心配すんなって! こいつは悪いやつじゃねェから!」

 

 許可を即答で出したルフィに対して、一斉にツッコミが入るが、彼はあっけらかんとした態度で笑って流した。

 そんなわけで、ロビンはあっさりと麦わらの一味に加入した。

 

 

 しかし、納得してない面々が多かったので、私が面談のような形を取りロビンにいくつか質問をすることとなった。

 

「ふむ。8歳まで考古学者……、そして賞金首……。なかなかハードな人生だね」

 

「ええ、そのおかげで裏で動くのは得意になったわ。お役に立てるはず」

 

 ロビンは概ね漫画と同じような人生をたどっているみたいだった。

 うーん。まだ、そこは掘り下げないほうが良さそうだな……。

 

「そっか、何か得意なものはあるのかい?」

 

「――暗殺」

 

 そして、私が彼女に特技を質問すると、暗殺という答えが返ってきた。  

 まぁ、彼女の能力は暗殺向きだよね……。

 

「なるほど。うん、一通り聞いたけど問題ないみたいだね」

 

「問題あるわよ! バカ! 今、物騒な言葉を言ってたのが聞こえなかったの!?」

 

 私がロビンへの質疑応答を終えたという感じを出してると、ポカリとナミからげんこつを食らった。

 

「痛いじゃないか。いや、だってさ。8歳で賞金首になったんだよ? 暗殺くらい特技にしないとやっていけないじゃないか」

 

 私は頭を擦りながら、生きるために仕方ないことだと主張した。

 海賊が倫理を説いてもしょうがないし……。

 

「ふふっ、やっぱり面白い人ね。狙撃手さんは……。へぇ、肌きれい……。食べちゃいたい」

 

 するとロビンは私の肩から腕を生やして、両頬を撫でてきた。

 肌はきれいかな? 日焼けには注意してるけど……。

 

「ちょ〜っと、何やってんの? 元副社長」

 

「ミス・バレンタイン……、大好きな狙撃手さんが取られると思ったのかしら?」

 

 そんな様子を見ていたミキータがムッとした表情でロビンの顔を覗き込むと、彼女はすました顔でそう返した。

 まさか、ミキータも……。私はビビの件があったのでビクッとした。

 

「そんなわけないでしょ! バカなことを言わないで!」

 

 あー、良かった。そりゃそうだ。危ない、自意識過剰になるところだったよ……。

 もう少しでミキータにまで好意を向けられているのかと思ってしまうところだった。

 

「こらこら、ムキになると相手の思うツボよ。犯罪組織の元副社長……。ルフィは騙せても私は騙されないわ。妙なことしたら、叩き出すわよ」

 

 さらにそのやりとりを見ていたナミがミキータの肩に手を置いて、ロビンに疑いの眼差しを向けた。

 

「さすが、ナミちゃん。ごめん、私が熱くなっちゃったわ」

 

 ミキータは感心したような顔でナミを見ていた。

 

「そういえば、クロコダイルのところから少し宝石持ってきちゃった」

 

「いやん! 大好きよ。お姉様っ!」

 

 だが、ロビンが宝石の入った袋を出すと、ナミの態度は一変する。

 

「キャハッ……、早くない?」

 

「悪の手口だな……」

 

 それを呆れた顔でミキータとゾロが眺めるという構図となった。

 

「漂う恋よ……。僕はただ漆黒に焦げた体を――」

 

 ちょうどそのとき、おやつの準備をしていたサンジがいつものように大袈裟な詩の朗読をしながら、ロビンにおやつを差し出していた。

 

「キャハハ、サンジくんはあんな感じよね〜」

 

「まぁ、()()は当然ああだよな」

 

 それもミキータとゾロは並んで頷きながら見ている。案外、この船で最も冷静なのはこの2人なのかもしれない。

 

「いいじゃないか。サンジもナミもロビンを受け入れてるんだから、ゾロもミキータも受け入れてあげなよ」

 

 そんな2人に私は諦めてロビンのことを認めるように促してみる。

 

「なるほど。裏切りなんざ恐れねェで、ほっとけということか。確かに、そのときが来れば、躊躇わずに斬っちまえばいいだけだからな。ライアらしい考え方だ」

 

 ゾロは凶悪な笑みを浮かべて勝手に納得していた。

 

「えっ? 発想が怖いんだけど……。君の中での私のイメージってどうなってるんだい?」

 

 私はゾロからどう思われているのか急に不安になってきた。

 

「まっ、私を受け入れたあんただもん。来る者は拒まないのはわかってる。仕方ない。私が代わりに警戒しといたげる」

 

「その必要はないと思うけどな〜」

 

 ミキータはミキータで、義務感を燃やしながらニコリと笑った。

 B・Wに長く居たからこそロビンへの畏怖みたいなのがあるのかなぁ?

 

 

 

「ところで、航海士さん。ログは大丈夫?」

 

 少し時間が経って、ロビンはログの心配をした。

 

「西北西にまっすぐ! 平気よ、ロビン姉さん!」

 

「文字通り現金だね。君は……」

 

「絶対に宝石もらっただろ……」

 

 ナミの変わり身に私とゾロがツッコミを入れる。

 

「ナミ、次の島は雪降るかなァ?」

 

「あんた、また雪みたいの?」

 

 ルフィは雪がお気に入りみたいである。ナミはそうでもないみたいだけど……。

 

「アラバスタからのログを辿ると次は秋島よ」

 

「秋かァ! 秋もいいな!」

 

 ロビンの情報によると次は秋島のようだ。あれ? 空島じゃなかったっけ?

 

 そんなことを思っていると、空から何かの破片が落ちてきた。

 

「ん? 雨か?」

 

「いや、雨じゃねェ……」

 

 ゾロとサンジも異変に気付いて空を見上げる。

 

「これは驚いた――」

 

「空から……、なんで?」

 

「ガレオン船――!?」

 

 私たちは空から降ってくるモノの正体を見て驚愕する。

 なんと巨大なガレオン船が落ちてきたのだ。

 

「キャハハ! 嘘でしょ! 何これ!?」

 

「とっとにかく、船にしがみつけ!」

 

「「うわあああッ!」」

 

 ガレオン船が落ちてきた影響で海は大きく揺れて、私たちは外に放り出されそうになり、慌てて船の至るところにしがみついた。

 

 

「なんで、空から船が降ってくるんだ?」

 

「ああっ! 記録指針(ログポース)が壊れちゃった! 上を向いて動かない!」

 

 ルフィが疑問の声を上げたとき、ナミが大声で記録指針(ログポース)の異変を主張した。

 

「違うわ! より強い磁力を持った島にログを書き換えられたのよ……。指針が上を向いているなら……、“空島”にログを奪われたということ――」

 

「なるほど、空島か……。偉大なる海(グランドライン)の中でも特に変わったスポットだと噂だが……。たしか、雨にならない何層にも渡る雲が海の役割を果たしてるとか……」

 

 ロビンの空島という発言に私も頷く。一応、旅の準備のために偉大なる航路(グランドライン)の情報を頑張って集めていたが、その中でも空島の存在は都市伝説のレベルだった。

 それだけ異質な存在みたいだ。

 

「すっげェ! 空に海が浮いてて島があるのか! よし、すぐ行こう!」

 

「おおっ! 面白そうだ!」

 

 ルフィの言葉にチョッパーも目を輝かせて楽しそうな声を出す。

 

「ちょっと待ちなさい! ロビンも、ライアも何言ってるのよ! 常識で考えて空に島なんてあるわけないでしょう!」

 

「じゃあ、常識を捨てて考えよう。この海に常識は通じないっていうのは、今までの航海でもわかってるだろ? 指針が上を向いてるなら私たちがすることは1つだ」

 

 ナミの言葉に対して私は持論を述べる。本音を言うと船が心配なので空島には行きたくないという部分もあるが、妙な意見を出して漫画と違うルートになるのも怖いので、行こうという結論が自分の中で出来ていた。

 

「空に行く方法を考える。そう言いたいんでしょう? 狙撃手さん」

 

「うん。とりあえず、この船に落ちてきたモノから何か手がかりが掴めないか探ってみよう」

 

 ロビンの言葉に私は頷き、空島への手がかりを探そうと提案した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 探せば何とかなるもので、スカイピア――つまり空島の地図らしきモノは発見できた。

 しかし、手がかりはそこまでで、残りは海に沈んだガレオン船からサルベージして手に入れようという話になった。

 

 

「おい、ライア! これは本当に大丈夫なんだろうな!」

 

「うん。設計上は無理しなきゃ問題ないはずだよ。本当は私も潜りたいけど、上から指示を出さなきゃいけないからさ。まぁ、もしものときはミキータの能力で簡単に引き上げられるから」

 

 間に合わせで作ったサルベージセットに懐疑的なゾロの質問に私は答える。

 ミキータのおかげで引き上げがとても楽になるから安全性はかなり高い。

 

「キャハハっ! いつだって浮かべてあげるわ」

 

「ミキータちゃんに浮かべてもらったら、天国まで行っちまいそうだぜ! ナミさん! おれに任せてくれ!」

 

 ミキータとナミに手を振るサンジ。最近、彼は私たちが並んで立っていると何故か嬉しそうにする。

 

「よろしくね♡」

 

 ナミもなんだかんだ言って空島には興味があるらしく手がかり探しに積極的になってきた。

 そして、ルフィ、ゾロ、サンジの3人はガレオン船を探索するために海に潜った。

 

「こちら、チョッパー。みんな返事して」

 

『こちらルフィ、怪物がいっぱいです。どうぞ』

 

『ここは巨大海ヘビの巣か!?』

 

『こちらサンジ。うわっ!? こっち見た!』

 

 チョッパーが面白そうだと志願をして彼らの引き下げ作業を行っており、彼の問いかけに3人は返事をする。

 

「オッケー」

 

「よし、このまま続けてくれ」

 

「キャハッ……、あんたら、割と容赦ないわよね……」

 

 私とナミが彼らの言葉を流していると、ミキータが少しだけ引いた顔をして私たちを見ていた。

 だってルフィたちだよ? 心配ないとか思ってはいけなかったのだろうか?

 

 

 作業を始めてしばらくすると、少しだけ離れたところから歌が聞こえてきた。

 

「「サ〜ルベ〜〜ジ♪ サルベ〜ジ♪」」

 

園長(ボス)!? そいつァ、おれのことさ! 引き上げ準備! 沈んだ船はおれのもんだァ! ウッキッキー!」

 

 歌の正体はマシラ海賊団。そして、現れたのはマシラという猿顔の巨漢だ。

 大きな船で私たちと同様にガレオン船のサルベージを行うみたいだ。

 

 マシラたちは勘が悪いのか、私たちの目的もサルベージだということに気が付かなかった。

 

 その後の展開は予想通りだった。案の定ルフィたちとかち合って争うことになる。

 

 そして、マシラが業を煮やして海に入った直後、事態は一変する。

 

 巨大な生物の気配がルフィたちに近付いて来たのだ。

 

「ミキータ! すぐに引き上げてくれ! ルフィたちが危ない! みんな! 早く樽を被るんだ!」

 

「キャハハッ! 何よいきなり! わかったわ!」

 

 ミキータがキロキロの実の能力でルフィたちの重量を最小限まで減らしてグイッとチョッパー共に引き上げ作業を開始する。

 

「どうしたんだい? ライアちゃん、急に……」

 

「急に大声が聞こえたから焦ったぜ……」

 

「なぁ、船の中に猿がいたんだ! いきなり暴れ出したから驚いたぞ!」

 

 ルフィたちは袋を片手に樽とともに引き上げられた。良かった無事だったか……。

 

「でも、ライア。なんで、急に大声を出して引き上げようと……。って、何よあれ?」

 

「亀が船を食べてるわね。あのままだったら、みんな仲良くお腹の中に行って……」

 

「キャハッ……、相変わらずエグいことを平気な顔で言うのね……」

 

 ナミたちは巨大な亀が海上に上がってきてガレオン船をムシャムシャと咀嚼している様子を見て口々に感想をこぼした。

 あれに食べられたら危なかったかもしれない……。

 

 そんなことを考えていると、マシラが怒りの形相で私たちの船に乗り込んできて暴れようとしていた。

 

 しかし、急に辺りが暗くなり事態はまたもや一変する。

 なんと巨人族のドリーやブロギーよりも何倍も大きな人影が目の前に映し出されたのである。

 

「「怪物だああああ!」」

 

 みんなは絶叫して、猛スピードで船を動かして巨大な影から離れていった。

 実際は空島の人が映し出された像なんだっけ?

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「さすがにビビったね。あれには……、どーも」

 

「「ふぅ……」」

 

 巨大な影から逃げ出して落ち着いた私たちは口々に今日あった出来事をおさらいする。

 最後にマシラがそれを締めくくると、私たちは一斉に深呼吸をした。

 

 いや、実際に見てみると知っててもびっくりするものだな……。

 

 というか、マシラはまだ乗ってたんだ……。

 

 私がそんな感想を持ってマシラの顔を見た刹那――。

 

「「――出ていけ〜〜!」」

 

 ルフィ、ゾロ、サンジが同時にマシラを蹴り上げた。

 彼は彼方まで吹き飛ばされて行った。容赦ないな〜。

 

 マシラが吹き飛ばされたあと、ルフィたちの戦利品をチェックしたがガラクタばかりで、ヒントになりそうなものはなかった。

 

「完全に行き先を失ったじゃない! ねぇ、ライア〜。どうしましょう」

 

 ナミは涙目になって私に相談してきた。

 確かにルフィたちはこういうとき、呑気だから焦るよね……。

 

「いやァ。どうしようって……。そういえば……、ロビン。君はさっきあの男から何かを盗ってたみたいだけど……」

 

 私はロビンがハナハナの実の能力を発動させて、マシラから何かを盗っていたのを感知していた。

 

「ふふっ、狙撃手さんは目ざといわね。はい、どうぞ」

 

「君ほどじゃないさ。ありがたく受け取っておくよ」

 

 ロビンは微笑みながら、マシラから盗んだモノを私に渡した。

 

「キャハッ、永久指針(エターナルポース)じゃない。やるじゃな〜い。元副社長」

 

 ミキータは私が受け取った永久指針(エターナルポース)見てニヤリと笑った。

 

「“ジャヤ”と……、書いてあるね。彼らの本拠地ってことか」

 

「ジャヤ? そこに行くのか?」

 

 私の言葉にルフィが他人事のように反応する。

 

「アホか! あんたが決めるんでしょうが!」

 

「オ〜〜シ! ジャヤ舵いっぱ〜〜い!」

 

 そんなルフィにナミがツッコミを入れて、ルフィは次の行き先を“ジャヤ”に決めた。

 あれ? ジャヤに行って空島へのヒントを手に入れるんだったっけ? この辺のことよく覚えてないんだよな。

 

 なんか、ルフィに一撃で倒された男が居たことはよく覚えてるんだけど……。ベラミーとかいう名前の――。

 それが強烈過ぎてジャヤの記憶がほとんどない……。

 

 というか、空島辺りの記憶って正直言ってアラバスタやウォーターセブンと比べてかなり薄い……。

 

 あやふやな記憶に一抹の不安を抱きながら私たちはジャヤへと向かった――。

 




ロビンが加入して空島編がスタートしました。
ライアが空島の記憶が薄いのは他意はないです。決して作者が空島編が嫌いとかそんなのではないのですが、読み返して忘れてる箇所が今までの章と比べて圧倒的に多かった……。
ストーリーの完成度はめちゃめちゃ高いし、面白いんですけどね。
新章も百合要素も忘れないようにして面白く出来るように頑張ります!


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モックタウン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
空島編も盛り上げることが出来るように頑張ります!
それではよろしくお願いします!


 

「まだか?ライア」

 

「うん、近付いてはいるけど。まだ見えないね。だけど、もうすぐさ。ここからでも分かるくらいの大きな力の気配をいくつか感じるんだ」

 

 ルフィの言葉に私は返事をする。大きな力の正体はおそらく黒ひげ海賊団だな。

 

「まっ、猿男が縄張りって言ってたくらいだ。そんなに遠くはねェだろ」

 

 ゾロの言うとおりジャヤはマシラが拠点にしている島なのだから近所にあって然るべきなのだ。

 

「ジャヤはきっと春島だな。ポカポカとして気持ちのいい」

 

 ルフィは日向ぼっこしながら機嫌よく笑っていた。

 

「春はいい気候だな。カモメも気持ち良さそうだ。――ってわあああ!! 撃たれた〜〜!」

 

 チョッパーも空を見上げてカモメを見ていたようだが、バタバタとカモメが船の上に落ちてきているのを見て驚愕している。

 

「そのカモメが銃で撃たれた……? ということは、銃弾はこの船の正面の方向から飛んできたことになるな」

 

 私はチョッパーの言葉を聞いて、船の進行方向を双眼鏡で注意深く見てみた。うーん。島はまだ見えないか……。

 

「そうだ。ほら、この銃弾……、角度から見て船の正面からだ」

 

 チョッパーはカモメの死体を観察しながら私にそう申告した。

 殺ったのは十中八九、黒ひげ海賊団の狙撃手だろうな。しかし、とんでもないことをするもんだ。

 

「まだ、見えてもない島から狙撃を? そんなのあなたでも無理でしょ? ライア」

 

「うん。そもそも、この銃の射程じゃ届かないよ。もっとも射程の問題が解決しても()()私じゃ難しいかな」

 

 ナミの質問に私は銀色の銃(ミラージュクイーン)を見せながら答えた。

 本当は出来るって言いたいんだけど……。

 

「キャハッ……、あんたが無理なら無理でしょ」

 

「そんなことはないさ、私よりも凄腕の狙撃手は何人も居るよ。この海には、ね」

 

 ミキータの言葉に私は首を横に振りながら、謙虚そうな言葉を返す。

 とはいえ、ゾロみたいに世界一とかは目指してないけど、目の前で明らかに自分を上回る技量を見せられると存外ストレスは溜まる。

 Mr.2との戦いで少しだけレベルアップした自覚はあるけど、見聞色をもう少し鍛えないとこの先が思いやられそうだなー。

 

「ちょっと待ちなさいよ。そんなヤバイやつがいる島に行くの?」

 

「わくわくしてきたな! サンジ! これ、焼き鳥にしよう!」

 

 ナミはジャヤに対して嫌な予感がしているみたいだが、ルフィは私の言葉を聞いてニヤリと笑った。

 

 

 

 しばらくすると、観光地のように見える島が肉眼で確認できるようになった。

 

 

「うっは〜〜! いい感じの島が見えるぞ」

 

「キャハハッ! リゾートっぽい島じゃん」

 

「あっ、本当だ。ちょっとゆっくりしたい気分〜〜」

 

 ルフィの言葉にミキータが続き、ナミもさっきの不安な気持ちも忘れてニコリと笑った。

 リゾートと言えばリゾートなんだろうけど、ここって確か……。

 

 

 

「でも、海賊船がたくさん停まってるね。その上、至るところから殺気も感じる」

 

 思ったとおり、ジャヤにあるモックタウンという町の港には多くの海賊船が停泊していた。

 ここは無法者が金をばら撒いて遊んでいくような町みたいだ。

 

「へへっ、面白くなってきたじゃねェか」

 

「楽しそうな場所だな。ここは」

 

 私とルフィとゾロは船を降りて町を散策しようとしていた。

 空島の手がかりをここで見つけなくてはならないからである。

 

「ちょっと、待ちなさい! あなたたち、3人が歩いて騒動を起こさないはずがないわ」

 

 しかし、それにナミが待ったをかける。私たちの監視を名乗り出たのだ。

 

「いや、ルフィとゾロはともかく私も?」

 

 私はまるで私をこの2人と同類みたいな感じで扱おうとしていたので、不満を口にする。

 

「あなたは女絡みとか別の理由よ」

 

「――納得したくないけど、そうなのか?」

 

 するとナミは私が女性関係のトラブルを起こすというようなこと言ってきた。

 先日のビビのこともあったので、私は反論したかったができなかった。

 

「ワタクシはこの町では決して喧嘩をしないと誓います」

 

「よし! ゾロもいいわね!?」

 

「あー、わかったよ」

 

 そしてルフィとゾロに喧嘩禁止の誓いをさせて、私たちは町の散策へと向かった。

 

 町を歩いてすぐに病気で死にかけてそうな男が落馬した。

 その男を助けると、ルフィは男からりんごをもらってそれを食べる。

 その瞬間である……。後方から爆発音が聞こえた。どうやらりんごを食べた者が爆発したらしい。 

 そう、この病弱そうな男は意味もなくルフィを殺そうとしたのだ。確か、こいつも黒ひげの一味の一人だった気がする。

 

 あと、建物の屋根で暴れてる“チャンピオン”とか言うやつも……。

 

 

「殺気立った町だと思ってたけど、やはり強い奴の気配が1つや2つじゃないな」

 

 ルフィがりんごを食べてからしばらくして、私はそうこぼした。

 

「そっかァ! で、どこに居るんだ? 強い奴」

 

「そうだな。例えば……」

 

 私の発言に反応したルフィの質問に答えようと口を開くとポカリと頭を殴られた。

 

「バカライア! トラブルの種を蒔こうとすな! さっき、意味もなく殺されかけたのよ!」

 

 ナミは怒りの形相で私の言葉を封じた。すまない。うっかりしてた……。

 

「ちっ、つまんねェ……」

 

「あんた、今、舌打ちしたでしょ!」

 

 さらに私が黙ったことでゾロが舌うちをすると、ナミはゾロの頭もポカリと叩いた。

 

 そんな感じで適当にぶらついていると、いつの間にかきれいなリゾートっぽいところにたどり着いた。おおっ、ここは素敵な場所じゃないか。

 

「あっ、あの。と……、当、『トロピカルホテル』は只今ベラミー様御一行の貸し切りとなっておりまして……」

 

 私たちが辺りを見渡していたら、支配人風の男が謎のフェイントをしながら近づいてくる。

 

「ホテル? ホテルなのか、ここは……」

 

「ベラミー様に見つかっては大変です。どうかすぐにお引き取りを!」

 

 ゾロの言葉に男は答えず、とにかく出ていってほしいみたいな態度をとった。

 

 

「オイ! どうした? どこの馬の骨だ? その小汚ねェやつらは」

 

 男が我々に声をかけた直後、長髪の男がサングラスをかけた女を引き連れて大声を出しながら、こちらに近づいてきた。

 

「さっ、サーキース様!? こっこれは――」

 

「言い訳はいいから、早く追い出して。いくら払ってここを貸し切りにしてると思ってんの?」

 

 支配人風の男がしどろもどろになっていると、今度は女が彼に向かって文句を言っていた。

 多額の金を払って貸し切りか。それは悪いことをしたな……。

 サーキースって確かベラミーのところの副船長か何かだっけ?

 

「そうか、いやすまない。不快な気持ちにさせるつもりはなかったんだ。すぐに出ていこう」

 

 私は文句を言っていた女に謝罪して、立ち去ろうとする。

 

「――あっ、えっと……。待って! すっ、少しくらいなら良いわよ……」

 

 だが、なぜか女は頬を桃色に染めて、サーキースに絡めていた腕を離してモジモジしだした。

 

「オイ! 何をいきなり言ってやがるリリー!」 

 

 サーキースはリリーが急に態度を翻したことに対してツッコミを入れた。

 

「なんだ、お前ら割と良い奴らじゃねェか」

 

「んじゃ、遠慮なく」 

 

 ルフィとゾロはリリーのセリフを受けて本当にのんびりしようとする。

 

「ったく。あなたが来るとこうなるから……」

 

 そして、ナミはジト目で私を見ながら首を横に振った。えっ? 私のせいなの?

 

「待てや! コラァ! 誰が居て良いって――」

 

「あなた、そんな貧弱そうな海賊団辞めてうちに来ない?」

 

 サーキースの怒鳴り声を遮ってリリーは私をベラミー海賊団に勧誘してきた。

 まぁ、百歩譲って勧誘するのはいいけれど……。

 

「よく知りもしないで、貧弱とは失礼だと思わないのかな?」

 

「ごっ、ごめんなさい。気を悪くしちゃったかしら? ほっ、本当にごめんなさい……」

 

 私がムッとした声で彼女を咎めると、リリーはしおらしい態度で頭を下げて謝ってくる。

 意外と素直な人だな……。

 

「ざけんな! リリー! てめェ! おれの目の前で男口説くたァ、いい度胸じゃねェか。しかも媚びるような態度取りやがって!」

 

 するとサーキースは短剣を抜いて、リリーに突きつけようとした――。

 まったく、無粋な男だ……。ビッグナイフとかいう二つ名だったはずだから、おそらくあれは本来の武器じゃないな……。

 

「仲間にそんなもん向けるなよ。私で良かったら喧嘩を買うぞ? 言っとくけど、脅しでこいつは向けてないからな」

 

「――なっ、てめェ! いつの間に!?」

 

 私はサーキースの殺気がリリーに向いた瞬間に彼の喉元に銀色の銃(ミラージュクイーン)の銃口を突きつける。

 

「――わっ、私のために……」

 

 リリーはサーキースが怖かったのか、尻もちをついて私を見上げていた。

 

「喧嘩するなって言ったでしょう! さっさと行くわよ! まったく!」

 

 すると、そのやり取りを見ていたナミは私の腕を強引に引っ張ってこの場を離れようとする。

 そういえば、そんな約束したような……。

 

「ずいぶんと腕上げたじゃねェか。ライア。今度手合わせしようぜ」

 

「あっはっは、おれより先に喧嘩しそうだったな」

 

 そして、ゾロとルフィは上機嫌そうに笑いながら私の顔を見ていた。

 まさか、私が最初に手を出そうとするなんて……。もう少しクールにならなきゃいけないなぁ。反省しようっと。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 トロピカルホテルとやらを出た私たちは情報収集のために酒場を訪れた。

 酒場のマスター曰くここの島のログは4日なのだそうだ。

 

 そんなことを話してる最中に、ルフィが髭面の巨漢と言い争いを始める。

 奴が黒ひげ……。マーシャル・D・ティーチか……。

 エースの処刑のきっかけを作った男で、2年後には白ひげに代わって四皇と呼ばれるヤミヤミの実の能力者……。

 

 なるほど、他の連中とは明らかに異質……。異形と言ってもいい得体のしれなさを感じる。

 

「おめェ海賊か……? 懸賞金はいくらだ!?」

 

「3000万!」

 

「3000万!? お前が!? そんなわけあるか! 嘘つけ!」

 

「嘘なんかつくかァ! 本当だ!」

 

 ルフィの懸賞金の額に難癖をつけるティーチ。

 まぁ、これは少なすぎるという意味みたいだが……。実際はルフィには現在1億ベリーの賞金が懸けられてるから、彼の見る目は確かだ。

 

 

 そんな争いもティーチがチェリーパイを受け取ったことで終わりとなった。

 しかし、まだ争いの火種はやってくる。さっき因縁をつけてきたサーキースとリリーの船の船長であるベラミーがやってきたのだ。

 

 

「“麦わら”を被った海賊と“銀髪”の海賊はいるか?」

 

 あら、ルフィだけじゃなくて、私もご指名か……。

 さっき、サーキースとちょっと争ったからかな?

 

「お前が3千万の首で、お前がうちのサーキースに上等な口を利いた野郎か?」

 

 ベラミーは私とルフィをヘラヘラとした表情で見下すような顔付きで覗き込んできた。

 

「何だ?」

 

「ふぅ、いい加減言い飽きたんだけど、私は――」

 

 ルフィに続き私がベラミーに性別を告げようとすると――。

 強い殺気を伴った攻撃が私に向かってくる気配を感じた――。

 

「見つけたぜ! 銀髪のクソ野郎! おれの屈辱を100倍にして返してやるっ! 大刃斬(ビッグチョップ)

 

 ククリ刀のようなものでサーキースが回転しながら斬りかかってくる。

 

「――まったくもって……。イライラするよ……」

 

「ガハッ――」

 

 私は油断しきって突撃してきたサーキースの斬撃を躱して、鉛玉と睡眠弾を連続して撃ち込む。

 

「ルフィやゾロじゃなくって。トラブルの種を蒔いたのが私だという事実がね……」

 

 大の字になって寝転ぶサーキースを見下ろして、私はそうつぶやいた。

 思ったよりも私って喧嘩っ早いみたいだ。知らないうちに凶暴って噂を流されてたけど、こういう事の積み重ねなのかもしれない。

 

「ばっ、バカな!? サーキースさんは3800万ベリーの賞金首だぞ! たかが、3000万の船長の部下が……!」

 

「ハッハハハッ! 黙ってな! 今のは油断してかかっていったサーキースが悪ィ! なるほど、リリーがこいつに惚れたのもわかる。合格だ“新時代”への船員(クルー)に加えてやってもいい」

 

 裸にジャケットなのに暑苦しいニット帽を被るという妙なファッションの男が驚いた声を出しているのを、制したベラミーは私に訳のわからない勧誘をしてきた。

 

「言ってることがよくわからん。私たちは空島に行くんだ。君たちには付き合う暇なんかないんだよ」

 

 私は早く話を終わらせて帰りたかったので、手短に目的を話す。

 

 すると辺りがシーンと静まり返った。

 

「空島?」

 

「「ぎゃっはっはっはっ!」」

 

「「ハッハッハッハ!」」

 

 私の空島というワードは酒場中の笑いをかっさらう結果になってしまった。

 あー、思い出した。こいつらそういう奴らだった。

 

 ベラミーはひとしきり笑ったあとに空島とか、黄金郷とか、ワンピースとか、そういう夢を追いかけるのはバカだと言ってきた。

 

「そういう夢追いのバカを見ると虫唾が走るんだッ! サーキースを倒したお前は見どころがあると思ったが……、見込み違いだったな!」

 

 酒瓶をもってベラミーは私の頭を殴ろうとする。

 

「はぁ……、えっ!? ――るっ、ルフィ!?」

 

 私がベラミーを撃とうとすると、ルフィが私を突き飛ばして、酒瓶を自分の頭で受けた。

 私を庇った訳じゃなさそうだな……。

 

「ライア……、ゾロ……、この喧嘩は絶対に買うな!!」

 

 ルフィはムッとした表情で私とゾロに無茶ぶりをする。

 まぁ、船長命令なら従うほかないか。彼には彼の流儀ってものがあるんだろうし……。

 

 私はサーキースを撃ったから、ベラミーは主に私を狙うのだろうと思った。

 しかし、なぜか分からないけどやたらとリリーとかベラミー海賊団の女たちが私を庇ってきて、思いの外仲間想いのベラミーは首を傾げながらも私を攻撃して来なかった。

 リリーたちは、なんか、サーキースをやっつけたところがカッコよかったとか言ってたけど、よくわからん。

 

 すごく気まずい。原因を作った私が無傷でルフィとゾロが血まみれって……。罪悪感が半端ない……。

 

 なんだか、妙な雰囲気になってベラミーもシラケたのか、酒場を出ていけと早々に我々に対して言ってきたので、さっさと立ち去ることにした。

 

 

 帰り際にティーチにこの喧嘩はお前らの勝ちだとか、言われたけど私はただ恥ずかしかった。

 よく分からないけど、こういうのってボコボコにされても手を出さないから、カッコいいのであって、私は思いっきり手を出した上で無傷なんだから、めちゃめちゃかっこ悪いような気がしてならなかった。

 

「人の夢は! 終わらない! そうだろ!?」

 

 ティーチはそんな私の心情も知らずに大声を出してそんな主張をした。

 

「ゼハハハハッ! 行けるといいな、空島へ!」

 

 彼は私たちを激励してチェリーパイを噛っていた。

 マーシャル・D・ティーチ……、こいつはこいつで自分の美学みたいなものがあるんだろう。

 とりあえず、今はこいつらと戦うようなことにならなくてラッキーだった――。

 

 結局、何も空島のヒントを得ることが出来ずに我々はメリー号に戻ることとなった。

 今日は反省する点が多い。なんせ、私は何の役にも立たないどころか迷惑すらかけてるのだから――。

 

 意気消沈してメリー号に戻ると、ロビンが何食わぬ顔をして、「モンブラン・クリケット」という男の情報を仕入れてきていた。

 そうだった、そうだった。この人が昔の冒険家か何かの子孫で空島に行く方法を知っているんだった。

 というわけで、私たちはモンブラン・クリケットという男に会うために船を出した。

 やっぱり、忘れてることが多いなぁ……。




反省したと言いつつも、相変わらずのライアでした。
次回あたりから徐々に原作と違う展開をお見せ出来ればと思ってます。


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バカとロマン

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
今回でジャヤでのエピソードは最後です。
それでは、よろしくお願いします!


「いや、今日はなんて酒のうめェ日だ! お前らみたいなバカがやってくるなんて思わなかったからよォ」

 

 私たちは今、モンブラン・クリケットの家で食事をご馳走になっている。

 

 モンブラン・クリケットのところに向かう道中にショウジョウというマシラの兄貴分みたいなのに絡まれるトラブルはあったが、私たちは無事に彼の家に到着することが出来た。

 

 その家の近くでナミが見つけた古い絵本――『うそつきノーランド』。

 サンジによるとこれは彼の生まれた北の海(ノースブルー)では有名な童話なのだという。

 

 冒険家のノーランドが黄金郷を見つけたと、王様に報告して行ってみたら何もなかった。彼は『黄金郷は海に沈んだ』と言い張り、死刑になって死ぬまで嘘をつくのを止めなかったという話だ。

 

 確か、黄金郷は実在していて、その部分が突き上げる海流(ノックアップストリーム)で吹き飛ばされて空島に行ったとかそんなのが真実だったんだっけ?

 あっ、思い出した。空島に行くのって、その突き上げる海流(ノックアップストリーム)で船を空に打ち上げるんだった――。

 

 メリー号大丈夫かな? 何とかしないと私の大事なメリー号が本当に壊れてしまう……。

 

 そんなことを考えてると、モンブラン・クリケット本人と遭遇して黄金泥棒だと疑われてしまう。

 しかし、彼は潜水病になっておりその場に倒れ、チョッパーを中心に彼を看病することとなった。

 

 そこに、マシラとショウジョウが現れて、クリケットを慕う彼らは、クリケットを診ている私たちと意気投合し、和解する。

 

 クリケットはやはりノーランドの子孫で嘘つきの子孫として人生を狂わされた自分に決着をつけるために、黄金郷の有無を人生を懸けて探ろうとしてるのだそうだ。

 

 そして、彼は空島についても知っていた。その行き方についても。

 やはり、私が思い出したとおり突き上げる海流(ノックアップストリーム)を利用する方法だった。

 

 船を積帝雲という雲の化石と呼ばれる空の海に飛び込ませるのだそうだ。偶然にも明日が突き上げる海流(ノックアップストリーム)と積帝雲が重なる日らしく、そのことを考えると私たちは幸運であったと言わざるを得ない。

 クリケットたちは夢を追いかける私たちを気に入ってくれて、そのために必要な強化もやってくれると言ってくれた。

 

 という背景もあって私たちは彼の家で食事をしながら騒いでいるのである。

 

 

「これを見ろ!」

 

「うわっ! 黄金の鐘!」

 

 酒も入って上機嫌になったクリケットは私たちに小さな黄金の鐘を見せてくれた。どうやら、海底でこれを3つほど見つけたらしい。

 

「こんな小せェのじゃ、何の証拠にもなんねェがな。まだあるぞ。おい、マシラ!」

 

「こんどは、黄金の鳥か……。こっちは大きいじゃないか」

 

 マシラが袋から取り出したのはペンギンみたいな造形の鳥の黄金の像だった。

 ナミは目を輝かせてこれを見ていた。

 

「ははは、10年潜った対価としちゃあ割に合わねェよ。嬢ちゃん」

 

 私の言葉にクリケットは笑いながらそう答えた。この人は久しぶりにひと目で私のことを女だってわかってくれたから良い人だ。

 

「キャハハ、あんたは女扱いされると露骨に機嫌がいい顔をするのね。ていうか、さっき言ってた奇妙な鳥の声って」

 

 ミキータがニンマリ笑って私を横目で見ながら、先ほどクリケットが話していたノーランドの逸話に触れた。

 

「おっ、そっちのレモンの嬢ちゃんは勘がいいじゃねェか。そうだ、ノーランドの航海日誌にあった奇妙な鳴き声の鳥っていうのはこいつのことなんじゃねェかと思ってる」

 

 ミキータの声にクリケットは頷く。

 

「鳴き声が変なのか?」

 

「ああ、“サウスバード”って言ってだな。この島に現存する鳥なのさ――。あっ! しまった!!」

 

 ルフィが今度は質問して彼はそれに対して答えると、クリケットは突然思い出したかのような大声を上げた。

 

 目指す場所が海ということは記録指針(ログポース)に頼らずに方位を正確に知る必要がある。

 そのためにサウスバードという、必ず南を向く特性のある鳥を捕まえる必要があるのだそうだ。

 

 私たちは早く森でサウスバードを見つけるように急かされ、みんなで森の中に入った。

 

 

 

「――瑠璃色の超弾(スパイダーブレット)ッッ!」

 

「ジョ〜、ジョ〜ッ!」

 

 私の開発した粘着性の網が飛び出す弾丸によってあっさりとサウスバードを確保する。

 なんか、森中で叫び声が聞こえるけど、何かあったのかな? 変わった虫が多いから、ナミとかが怪我してなきゃ良いけど。

 

「さすが、狙撃手さんね。姿も見えないのによく当てるわ……」

 

「音だけでも大体の位置は掴めるから、集中すれば当てるのはわけないさ。見えたら、君の能力のほうが楽だったんだろうけどね」

 

 森に入って10分ほどでサウスバードを籠に入れることに成功した私は、バラけた仲間たちを集めに歩き出す。

 ん? クリケットの家の方に何者かが近づく気配がする……。これは、昼間のベラミー海賊団か……。

 

「みんな、クリケットたちが危ない! 早く戻ろう!」

 

 ルフィたちに声をかけて、私たちはクリケットの家まで走り出した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「さァ、行こうぜ! 金塊を船に積み込め!」

 

「ジジイ! 幻想(ユメ)は決して叶わねェって知るべきだ! ハハッ……!」

 

「待て、小僧! 幻想に喧嘩売る度胸もねェヒヨっ子が……、海賊を語るんじゃねェ」

 

「何だと」

 

 私たちが急いで戻ってきたとき、既にマシラとショウジョウはやられており、金塊はベラミー海賊団に奪われようとしていた。

 

 ベラミーはクリケットをあざ笑うが、彼は立ち上がり、ベラミーを相手に啖呵をきっていた。

 

 それを受けてベラミーはクリケットを睨みつけ、バネバネの実の能力を活かした技を発動させるためにしゃがみ込むような構えをとった。

 

「スプリング……狙撃(スナイプ)!」

 

 ベラミーの能力であるバネの特性を活かした、高速の突撃技がクリケットを襲う。

 

「――ッ!? なっ……、てめェは麦わら……」

 

 しかし、ベラミーの拳はクリケットには届かなかった。

 なぜなら、ルフィがクリケットを庇うようにベラミーの前に立ち塞がり、彼の頭を左手一本で止めたからである。

 

「ベラミー……、お前はひし形のおっさん達に……、何をした!?」

 

 ルフィは静かに怒りを燃やしながらベラミーを睨みつける。

 こういうときの彼は迫力が凄い。なんというか、ビリビリとした力の波動を感じる……。

 

「ちっ、まぐれで受け止めたからって調子に乗りやがって! 海賊として金塊を奪ってやろうとしただけだ! お前にとやかく言われる筋合いはねェ!」

 

 昼間とはまったく違うルフィの態度にイライラしたのか、ベラミーは拳を構えながらルフィの問いに返事をした。

 

「あるさ! おっさん達は()()だ! だから、おっさん達の宝は奪わせねェ!」

 

「ハハハハッ! 臆病者の船長の海賊団がおれらに喧嘩を売ろうってか!? 油断したサーキースを部下が倒したくらいで調子こいてんじゃねェぞ! お前ら! あの小物どもに世の中の厳しさを教えてやれ!」

 

 ルフィの言葉をあざ笑いながらベラミーは自らの仲間たちに声をかける。

 

「「うぉぉぉぉぉっ!」」

 

 するとベラミー海賊団の面々は私たちに向かって襲いかかってきた。

 

「なんだ、せっかく昼間は見逃してやったのに結局、戦闘か?」

 

「ナミさんに失礼な口利いたバカどもってのはあいつらだな?」

 

「ふぅ……、私にそんな物騒なモノ向けないでもらえる?」

 

「キャハハッ! そんなに埋めて欲しいの?」

 

 ゾロ、サンジ、ロビン、ミキータが戦闘態勢を取り彼らの相手をする。

 相手をすると言っても時間は数秒だったが……。

 

「「ぎゃあああああっ!」」

 

 一瞬で蹂躙されてしまうベラミー海賊団……。

 まぁ、ゾロもサンジも強いし、ロビンとミキータは悪魔の実の能力者だ。並の海賊たちでは、歯が立たないのも無理はないだろう。

 

 仲間たちの戦闘を観察しつつ私はメリー号の元に向かっていた――。

 

「おい、お前……。この船に何をするつもりだ?」

 

 メリー号の船首に向かってククリ刀を向けているサーキースに私は話しかけた。

 

「てってめェは銀髪……! 何をするつもりかって!? クソみてェな幻想を抱かねェように、ぶった切ってやるんだよ! バーカ!」

 

 サーキースはベラミーの命令なのか知らないが、私たちの船を破壊しようと目論んでいるみたいだ。

 

「はァ……、1つだけ忠告してやる。他人(ひと)の誇りに干渉するんだったら覚悟をしとけよ――」

 

 彼の無遠慮な返答を受けて私の中で抑えてた理性が弾け飛びそうになる。

 

「あんだと!? 不意討ちで1回勝ったくらいでいい気になりやがって! もう、おれは油断しねェ!」

 

 サーキースは自分が油断したから負けたと考えており、殺気を漲らせて私に向かってククリ刀を向けた。

 確かに彼の身体能力は高い。自信があるのもわかる。けど――。

 

「うん。命があってよかったね。だったら、願っているといい。私が3回も君の命を見逃すくらいのお人好しだってことを――」

 

 2回も殺されかけて学ばないのはいただけない。

 この男は私を格下だと侮る心を捨てきれてない。

 

「うるせェ! 死ねッ! お前に負けたせいでおれァ笑われたんだ! 絶対に許さねェ!」

 

 サーキースは怒りに任せてククリ刀を私に向かって振り回す。

 当たれば大きなダメージを受けるだろうが、殺気によって分かりやすくなった彼の斬撃の軌道は私を捉えることは出来なかった。

 

()()()()?」

 

「くっ、なんで当たんねェんだ!? こんなトロそうな優男に! ――ぐはッ」

 

 上段から私の頭をめがけて刀を振り下ろすサーキースの攻撃を躱して、私は彼の右太ももを撃ち抜く。

 

「許さないのは私だ。沸点の低いのを反省しようと思ったんだけど……。メリー号(たからもの)に手を出されそうになったのを見たら、私も笑えない――」

 

「ひっ……!」

 

 私が太ももを手で押さえながら尻もちをついている彼の腹に銃口を向けると、彼の表情は歪んだ。

 

「――必殺ッッ! ――爆風彗星ッッッ!」

 

 私は躊躇いなく引き金を引く。放たれた弾丸から繰り出される突風によりサーキースは吹き飛ばされていった。

 

 さて、ルフィもそろそろ終わった頃かな?

 

 サーキースが起き上がらないことを確認した私はベラミーの方に目をやる。

 

「夢を見るような時代は終わったんだよ! 海賊の恥さらし共ッ! ――ッ!!!」

 

 ベラミーは殴りかかった拳が避けられたのと同時に顔面を殴りつけられて地面に激突して気絶してしまった。

 

「うっ、嘘だろ! ベラミー、サーキース! こいつらなんて懸賞金も低い雑魚だって言ってたじゃないか!」

 

「ダメだ……、完全に気絶してる……。悪夢だ……」

 

 比較的に怪我が少なかったベラミー海賊団の船員たちが船長と副船長が意識を失っているのを青ざめた表情で確認していた。

 

「あっ……、あっ……、ごめんなさい……。ベラミーが……、その」

 

「悪いと思ってるなら、彼らを連れて帰ってくれるかな? それに、謝るのは私にじゃないし、クリケットも謝罪なんて欲しくないだろう」

 

 さらに怯えきったリリーは私に頭を下げてきたので私はベラミーたちを連れて帰るように促す。

 

「はっ、はい! すぐに! あと……、昼間はありがとう……。嬉しかった……」

 

 リリーはそう言い残して仲間とともに大急ぎでベラミーとサーキースを回収して船に乗って逃げて行った。

 

「驚いたな……。お前ら、強いじゃねェか。おれたちのために、すま――」

 

 ベラミー海賊団が蹂躙されたのを見て、クリケットは私たちに頭を下げようとする。

 しかし――。

 

「ひし形のおっさん! 金塊取られなくて良かったなァ! あっはっはっ!」

 

 ルフィはバシバシとクリケットの肩を叩いて朗らかに笑った。

 すべてを洗い流すような気持ちのいい笑い声だと私は思った。

 

「ギブアンドテイクだよ。クリケットさん……。船長は礼なんかいらないってさ。船の強化……、よろしく頼む」

 

「――大した連中だよ。お前らは……。船の強化は任せとけ! お前たちを何があっても空島に送ってみせる! マシラァ! ショウジョウ! いつまで寝てんだ! 起きやがれ!」

 

 私がクリケットに大事なメリー号の強化を改めてお願いすると、彼はニヤリと笑ってボロボロになって倒れているマシラとショウジョウに活を入れて強化作業を始めてくれた。

 いや、もう少し休んでからでもいい気がするけど――。

 

 彼らが奮起してくれたおかげでゴーイングメリー号は“フライングモデル”へと強化を果たしたのである。

 凄いけど……。なんか、トサカとか付いててニワトリみたいなんだけど……。ニワトリって飛べないんじゃあ……。

 

 

「一つだけ、これだけは間違いねェ事だ! "黄金郷"も"空島"も、過去誰一人"無い"と証明できた奴ァいねェ! バカげた理屈だと人は笑うだろうが、結構じゃねェか! それでこそ! "ロマン"だッ!!」

 

 クリケットの言葉を背中に受けて私たちは空島を目指して出航したのだった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 積帝雲が思ったよりも早く来るという事態もあったが、猿山連合軍の全面的なサポートのおかげで、メリー号は突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生する巨大渦の中心に向かうことが可能となった。

 

 まぁ、向かうというか……、飲まれてるというのが状況の説明としては正しいのかな?

 

 そうこうしている内に巨大渦の中心にメリー号は飛び込んだ。積帝雲が完全に真上にあるので、辺りは夜みたいに暗くなっていった。

 

「行くぞ〜! 空島!」

 

 ルフィはテンションが最高潮に達しており興奮しきっている。

 

 そして、いつの間にかさっきまであった巨大な渦穴が消えていた。

 

 おそらく、渦が消えたというのは、突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生する前兆だと思われる。

 

 つまり、我々は空に向かう直前というわけだ。

 

 そんな中、私たちに接近する巨大ないかだのような船が接近してきた。

 黒ひげ海賊団である――。

 

「ゼハハハハッ! 追いついたぞ麦わらのルフィ! てめェの1億の首をもらいに来た! 観念しろやァ!!」

 

 ティーチはルフィに向かって大声で叫ぶ。やはり、漫画同様ルフィのこの時点の懸賞金は1億か。

 

「おれの首!? 1億ってなんだ!?」

 

「おめェの首にゃ1億ベリーの賞金がかかってんだよ! そして、“海賊狩りのゾロ”てめェにゃ6000万ベリー、さらに“レディキラーのライア”にゃ5600万ベリーだ!」

 

 ルフィの問いに答えるようにティーチは親切にも私たちの新しい手配書を見せてくる。

 私に5600万は高すぎだろ……。それに……。

 

「新しい手配書が出来てるみたいだね……。ゾロと私の……。――って、そんなのはどうでもいい。レディキラーって、なんだ?」

 

 私って“魔物狩り”じゃないの? いや、確かにアイラって偽名を使ってたけど……。

 まさか、ビビの件が海軍にバレて……? でもいくらなんでもそれだけで……。

 

「キャハッ、海軍すら認識してるのに、あんたときたら……」

 

 私が疑問を口にしたら、ミキータがバカにしたような表情で私を見ていた。

 だから、どういうこと?

 

「ライアちゃんにまで賞金がかかってるのに、おれにはないのか……」

 

「ちっ、お前とほとんど変わらないくらいかよ。不満だぜ」

 

「聞いたか!? おれ、1億だ!」

 

 サンジは悲しみ、ゾロは私と似たような金額が不満で、ルフィはひたすら喜んでいた。

 

「喜ぶな! ああ……、アラバスタの件で懸賞金が跳ね上がったんだわ……」

 

 そして、ナミが憂鬱そうな顔で頭を抱えた、そのとき――。

 

 メリー号の真下の海面が盛り上がり――。

 

「「うわあああああっ!」」

 

「「ギャアアアア!」」

 

 私たちの叫び声と、黒ひげ海賊団の悲鳴が同時に響き渡る。

 

 突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生してメリー号は一気に空へと舞い上がったのだ――。

 

 いよいよ、空島に突入か……。アラバスタではクロコダイルに殺されかけたけど――。

 今度の相手はちょっと間違えたら本当に殺されるかもしれない。

 

 まだ見ぬ世界への好奇心と強敵への不安を抱えつつ、私はどんどん高度を上げていくメリー号を見守っていた――。

 




ライアの二つ名はもっと良いものが思い付いたら変更するかもしれません。ネーミングセンスがなくて辛いです。
懸賞金は高すぎる気もするんですけど、海軍が戦闘能力以外も警戒してるという解釈でお願いします!



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空島上陸

いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
ライアの二つ名に関してもいろいろとご意見を頂けて嬉しいです!
今回からいよいよ、本格的に空島編がスタートします。
それではよろしくお願いします!


「何だ! ここはっ! 真っっっ白っ!」

 

「雲の上! なんでっ?」

 

 辺りを見渡すとまるで天国にでもたどり着いたと錯覚するような白い空間に囲まれていることがわかった。

 

「そりゃ乗るよ、雲だもん」

 

「「いや、乗らねェって……!」」

 

 当然という顔で雲の上に船があることに納得してるルフィにゾロやサンジがツッコミを入れる。

 

 ナミが海流と風を読み、ミキータの能力で最大限まで軽くなった船は猛スピードで空まで飛んでいって積帝雲を突き破り、真っ白な空間にふわりと着地した。

 

 キロキロの実の力で着地のショックは防げたけど……。

 

「――ああ、止めとけば良かった……。空島なんて……」

 

「一気にボロボロになったわね……」

 

 ロビンが指摘したように積帝雲を猛スピードで突き破ったのがまずかったのか、ゴーイングメリー号は所々にヒビが入ったりしていた。

 ここまで、出来るだけ負担をかけないように努力したんだけどなぁ。

 

「キャハッ……、翼は折れちゃったけど、船体自体はまだまだ行けるわよ」

 

 落ち込んでる私を慰めてようと、明るい調子でミキータは私の背中を叩く。本当にミキータが居てくれてよかった。

 彼女が居なかったら、着地のショックも半端なかっただろうし……。

 

「そうだね。無事にみんなでたどり着けたことを喜ぼう。ナミ、記録指針(ログポース)の向きはどうなってる?」

 

 私は気を取り直してナミに指針の示してる方向を質問した。

 

「それがまだ上を指してるのよ」

 

「まだ、積帝雲の中層みたいね……」

 

 ナミの言葉にロビンが頷く。そうか、ここより上にさらに島があるということか……。

 

「ここから、まだ上に行くのか? どうやって……?」

 

「とりあえず、人の気配がする方に進んでみよう」

 

 チョッパーの疑問に私は彼に双眼鏡を手渡しながらそう言った。

 

「ライアちゃん、おれらの他に人が居るのかい?」

 

「うん。向こうの方に人の気配を感じる」

 

 私はサンジの質問に指をさしながら答えた。

 どうやら我々の他にも空島に来た人たちがいるみたいだ。

 

「あっ、本当だ。船がある。って、爆発した――!」

 

 双眼鏡で私が教えた方向を見ていたチョッパーが驚いた声を出した。

 

「なんだって!? こっちに高速で強い気配が接近してくる。みんなっ! 気をつけてくれ!」

 

 その声を聞いた刹那、私は強い力がこちらに近づいて来ることを感じ取った。

 ルフィたちに比べたら大したことはなさそうだが……。

 

 どこかの部族のような仮面をつけた小男が跳び上がり、メリー号の中に入って来ようとした。

 

「排除する……」

 

 謎の男は殺気を漲らせて戦闘態勢をとる。

 

「――やる気らしい」

「上等だ」

「何だ……?」

 

 それに対してサンジ、ゾロ、ルフィの3人が受けて立とうとした――。

 しかし――。

 

「「ぐはっ――」」

 

 なんと、3人はあっという間に倒されてしまう。

 どういうことだ? いや、待てよこの空間の空気は――。

 

「キャハッ、うっそでしょ……。この三人が……」

 

「ちょっと、どうしたの三人とも……」

 

 ミキータとナミは3人が蹂躙されたことが信じられないみたいだった。

 

「多分、急に高いところに来たから空気が薄くて体が慣れてないんだ……。下がってくれ、私の武器なら身体能力はほとんど――」

 

 私の射撃なら集中して当てられさえすれば、なんとかなる。

 小男が跳び上がりバズーカのような武器をこちらに向けていたので、それに対して私も受けて立とうとした。

 

「そこまでだァ!」

 

 だが、私が引き金を引く前に、空飛ぶ馬に乗った騎士が小男を槍で吹き飛ばして我々を助けてくれた。

 

「ウ〜厶、我輩、空の騎士!」

 

 銀色の鎧兜を装備した白い髭を生やした男は自らを“空の騎士”と称す。

 ええーっと、この人って確か……。ここの元神様とかだっけ? 頼りにならない記憶を辿りながら、私は空の騎士の顔を眺めていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「1ホイッスル、500万エクストルで助けてやろう」

 

 空の騎士は自らを傭兵だと話していた。この辺にはゲリラがいるらしく、よく空の戦いを知らない冒険者がよく危険な目にあってるらしい。

 

「エクストルというのは、こっちの通貨の単位かい?」

 

 私はとりあえず気になることを質問した。情報を出来るだけ仕入れたかったからだ。

 

「なっ、何を言っておるおぬしら……、ハイウエストの頂から来たのだろう? ここまでに島の1つや2つ通ってきたのではないか?」

 

 空の騎士は怪訝な顔をしていた。あっ、そうか。私たちが利用した、突き上げる海流(ノックアップストリーム)で空に行く方法って無茶な行き方なんだっけ……。

 

 

「なんと、あのバケモノ海流を使ってきたのか! そんな度胸の持ち主がまだ居たとは……」

 

「普通のルートじゃなかったのね、やっぱり……」

 

「キャハハッ! よく考えたらナミちゃんが居なかったら、全員今ごろ死んでるもんね〜」

 

 空の騎士の呆れ顔にナミが普通の方法ではなかったと気付き、ミキータはヘラヘラと笑いながら核心をつく。

 

「あれは、0か100の賭けみたいな方法だ。他のやり方では全員無事に着くなどは無理だっただろう。なるほど、なかなかの度胸と実力のある冒険者だと見受けた」

 

 空の騎士曰く他の行き方だと必ず何割か脱落者が出てしまうらしい。

 逆に突き上げる海流(ノックアップストリーム)は全滅か全員生還かの2択のギャンブルということみたいだ。

 

「1ホイッスルとは一度この笛を吹くこと。さすれば我輩、天より助けに参上する。本来、空の通貨500万エクストル頂戴するが、1ホイッスルはプレゼントしよう」

 

 彼は自分を呼び出すための笛を我々にプレゼントしてくれた。それは頼りになって嬉しいんだけど――。

 

「あのさ、サービスはうれしいんだけど、500万エクストルって、何ベリーになるんだい?」

 

 私は空島の通貨のレートについて空の騎士に尋ねる。これは重要な情報だった気がする。

 

「ああ、そうだった。おぬしら、青海から来たばかりだったな。確か1ベリーが1万エクストルのはずだ」

 

「1回500ベリーってこと!? それって、とっても安いじゃない」

 

「うむ。格安であろう! 我輩にも生活があるのでな、これ以上は負からんぞ!」

 

 ナミが素早く計算して感想を口にすると、空の騎士は満足そうに頷いて立ち去ろうとした。

 

「我が名はガン・フォール! そして、こやつは相棒のピエール!」

 

 “空の騎士”ガン・フォールは名を名乗り、相棒のピエールに乗って去っていった。

 ピエールはウマウマの実を食べたトリらしく、ペガサスのようだった。

 

 

「ねぇ、狙撃手さん。レートはわかったけど、上への行き方は聞けなかったわね」

 

「あっ……、忘れてた」

 

 ロビンに指摘されて私は一番大事なことを聞き忘れたことに気が付いた。

 どうも、うっかりが多いな……。

 

「適当に進めば、なんとかなるだろ」

 

 ゾロは彼らしい言葉を述べたが、それも楽しそうだということで私たちはとりあえず気になるところに移動することにした。

 滝のような雲があるところをチョッパーが発見して、そこに行ってみようという話になったのだ。

 

 途中、盛り上がった固い雲が障害物になって、それを躱しながら動いたりしたが、特にトラブルもなく、滝のように流れる雲がある場所にたどり着いた。

 

「“天国の門”か……」

 

「天国かァ! 楽しそうだ!」

 

 当然のようにルフィは興奮して、天国の門にメリー号は入って行った。

 

「上層に行くなら1人10億エクストル払っていきなさい。それが法律……」

 

「10億エクストルってことは、10万ベリーね……。あの、私たちはベリーしか持ってないんだけど……」

 

 天国の門で待ち構えていた老婆は私たちに入国料を請求してきた。

 ベリー換算で1人10万ベリー。払えない金額ではない。

 しかし、問題は我々が空島の通貨を持ってないことだ。ナミもそこを気にしてるらしい。

 

「通っていいよ。別に払わなくても」

 

「キャハハッ! 変なこと言うわね。だったら、なんであんたはそこにいるの?」

 

 老婆は払わなくてもいいというセリフにミキータは笑いながら彼女の居る意味を尋ねた。

 

「あたしは門番や衛兵じゃない。お前たちの意志を聞くだけ。もちろん、通らなくてもいい」

 

「じゃあ、金がねェけど、行く――」

「待つんだ! ルフィ!」

 

 老婆の怪しい答えが私の記憶を呼び覚まし、ルフィの言葉を遮った。

 ここで入国料を払ってもどうせトラブルになりそうだが、これ以上メリー号を危険に晒したくはない。

 違法入国者にならなければ、しばらく動き方を考える時間はできるはずだ。

 

「ご婦人、ここに80万ベリーある。青海の通貨だが、これを通行料として払うことは可能かい?」

 

 私は自分の鞄から札束を取り出して、彼女に差し出した。

 

「ふーむ。本来は空島の通貨が望ましいが……。お兄さんは男前だから、サービスして、あたしが換金しといてやろう」

 

 老婆は札の数を確認しながら、私にそう返した。いや、サービスはいいんだけどさぁ……。

 

「ちょっと、私は――。もごもご」

 

「キャハハ、ありがとう。サービスしてくれて」

 

 私が老婆に物申そうとすると、ミキータが慌てて私の口を塞いできた。

 まさか、有耶無耶にしたほうが得だと判断したのか……。

 

「悪いわね、ライア。奢ってもらって」

 

 そして、ナミは奢りということを強調しながら私にウィンクした。

 まぁ、奢りは別に良いんだけど……。

 

「白海名物、“特急エビ”……」

 

「うわあっ! 動き出した!」

 

 そんなやり取りをしていると、老婆が札を数え終えたのか、雲の下から巨大なエビが現れて、せっせとメリー号を上まで運んで行った。

 

 そして、我々はあっという間に空島に辿り着いたのだった。

 まるで夢のような世界だな。きれいだし、何というか……、幻想的だ。クリケットの言うロマンって意味がよくわかる。

 漫画と違って違法入国者にもならなかったし、方針を考えつくまでのんびりするのも悪くない……。

 

 

「は〜〜っ! ここは何だ! 冒険のにおいがプンプンすんぞ! 早く行こう!」

 

「――えっ? あっ、ちょっとルフィ、それにチョッパーも!」

 

 ルフィとチョッパーはいち早く船から降りて雲の上を走り出した。なんか、違法入国じゃなくても、のんびり出来ない気がする……。

 

 というより、こんな風景を見てテンションが上がらない方が難しいみたいで、ナミやミキータ、そして彼女らを追いかけて