深淵卿に憑依しました リメイク (這いよる深淵より.闇の主人)
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第0章
始まり


 気がつけば暗く、うっすらと霧が漂っているだけの何もない空間に寝っ転がっていた。

 

「え、なに……どういう状況なんだこれ?」

 

 

 俺は学校へと向かっていた筈なんだけどなぁ……と、立ち上がって周りを見渡してみたが、辺り一面は闇と不気味さを感じる霧しかない

 

 

「うおっ!?」

 

「どうも~」

 

 確認した時には誰もいなかった筈だが、視線を正面に戻すと目の前には男性がいた。急だった事から驚いて尻餅をついてしまう

 

 

「ど、どうも……って、アンタ誰だ? 急に目の前に現れたよな? それに此処は━━」

 

「質問が多いよ。まず一つ目の俺は誰かって話だけど……君たちが言うところの神様ってやつだよ」

 

「……神?」

 

 この何もない場所で唯一の手掛かりを持っていそうだと思った男は自身を神と名乗る。だが、それを信じるには証拠が無い

 

「そうそう、神様だ。いや、信じてねぇな……こっちのが早いわ」

 

「急に何を…………くっ!?」

 

 男は人の良さそうな笑みから一転して冷たい表情になると、乱暴な口調で俺の頭を鷲掴みにした。学年でもトップクラスの力を持っている俺が引き離そうにも、男の手はビクともしない。男の顔面を殴ってやろうとした時、頭の中に一つの映像が思い浮かんだ

 

 

「━━━俺は死んだってことか?」

 

「トラックに跳ねられた挙げ句、吹っ飛ばされた先でも車に跳ねられ、その先にあった工事中のビルの屋上から鉄パイプが降ってきて死ぬなんて運が悪かったねぇ」

 

「いやいやオーバーキルすぎだろ……で、神様が死んだ人間に何の用があるんだ?」

 

 

 目の前の男が神様だということを信じることにして、自分は何をすればいいのか問う

 

 

「死んだ人間が神様と会うってシチュエーションは一つしかないだろ?」

 

「地獄に落ちるか天国に昇天するかの裁定……とか?」

 

「アホか、神様転生とか知らねぇの?」

 

 

男は、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら聞いてきたが、俺が見当ハズレな事を言ってしまったせいか、呆れたように答えを言ってきた

 

「……そっちね」

 

 

「知ってるなら面倒な説明はカットな、特典は3つで行き先はランダムって感じで」

 

 

「ランダム……それって転生する世界の候補とかって知れたりするか?」

 

 

 ランダムって言われても候補が何個かあるんじゃないかなぁと思い、聞いてみると……

 

 

 

「うん?確か今回は……《ありふれた職業で世界最強》《とある魔術の禁書目録》《転生したらスライムだった件》《ハイスクールDXD》《fate zero》《ようこそ実力至上主義の教室へ》の……6つだったな」

 

 

「(今回は?)その6つかー」

 

 

 

 取り敢えず、その世界に行ったとしてのメリットを出すことにした

 

 

 

《ありふれた職業で世界最強》なら、数ある作品の中で一番好きなポニテ剣士の八重樫雫がいる。生でポニテ八重樫雫をみてみたいし、尚且つ一緒に剣の稽古がしたい。それで……まぁ、できる事なら付き合いたいなぁ

 

 

 

《とある魔術の禁書目録》は神裂火織の堕天使エロメイドが印象的か……いや、一番重要なのはポニテだけどもね! あの素晴らしき豊かな胸も良いと思うんだよな……あぁ~でもやっぱ神裂って言えば聖人の力だな…魔術無しでも強いってことは是非とも斬り合ってみたい

 

 

 

《転生したらスライムだった件》は……見てないから分からん、行かなくていいってか……行きたくない候補1だな

 

 

 

《ハイスクールDXD》は姫島朱乃さん目当てだな、話はよく分からないけど……とにかくポニテでおっとりしてそうで可愛い。スケベ主人公がいて……確か部長さんアンチが多いんだったか? 知らん

 

 

 

《fate zero》は……間近で英霊の闘いが見たいな。聖杯戦争に裏で関わったり、もしかしたらマスターになったりしてな。楽しそうだ

 

 

 

《ようこそ実力至上主義の教室へ》は軽井沢恵と茶柱佐枝のポニテを拝みたいなぁ~二人とも可愛いし、それか綾小路と組んで面白おかしく裏から指示出されて動いたりな。

 えーと、なんか一通り習ってるんだっけ? 格闘術とか? 剣道はやったことあんのかな? 絶対やり合ったら楽しいだろう

 

 

 

「お前の願望って、ポニテの女に会いたいだとか剣を交えたいとかしかねぇのかよ……戦闘狂(バトルジャンキー)かよ」

 

 

「いや、別に髪型なら一番ポニーテールが好きってだけで、それだけで判断してるわけじゃなくて、その人にはその人の髪型ってもんがあるわけですし? 全人類女子がポニテだったら変でしょ? 俺は喜ぶけどね? 似合う似合わないがあるし……後者はあれだよ、剣や刀で戦うアニメや漫画ばかり見てたからそれに憧れて剣道とかやってたからね。俺のじいちゃんの影響で一通りの武術とか経験したし……例をあげると合気道とか八極拳かな」

 

 

 

「長ぇ……ペラペラ話すようになったなコイツ」

 

 

 

「まぁ、好きなことには全力、興味ないことには不真面目に適当にってのが売りなんでね」

 

 

「へぇ……それで? 特典はどうすんだよ」

 

 

 

「あ~、んじゃあ1つ目は転生先を《ありふれた職業で世界最強》にしてくれ」

 

 

 

「……は?それに特典使うのかお前?」

 

 

 

 

 勿体ねぇ、とか目で訴えてくるが無視する事にした。だって一番行きたくない……というか行っても需要がない《転生したらスライムだった件》だったら嫌だろ。それに一番好きなの八重樫雫だし

 

 

 

 

「後は……直感とか欲しいな」

 

 

「はぁ? 直感だぁ?」

 

 

「困った時に解決策が急にひらめいたり、危険なことや危ない時、負の感情とか……そういったことを感知したり~的な?」

 

 

「なんとなく分かったわ、俺が勝手にアレンジしておくとして……最後はどうすんだ?」

 

 

 

 ん? なんかニヤッとしたような……? アレンジって………まぁいい、気のせいだろ

 

 

 

「家の近くを剣道場とかまぁ、そういった道場があって鍛練ができる場所にしてくれ」

 

 

 

「えぇ……バカなの死ぬのコイツ?あ、もう既に死んでるんだったな」

 

 

 

 ()は信じられないものを見たかのような目をして罵倒してくる。ひ、ヒデェ……

 

 

「その反応は流石に酷すぎないか?」

 

 

 なんなんだ一体、俺にどうしろと? 無双はハジメ君がしてくれると思うんだけど……まぁ、自分に出来る限りの事はするつもりだけどさ。

てか、その為に少しは強くなろうと近くに道場が欲しいって言った訳だし……

 

 

「……とか言いつつ要求した近くの道場が八重樫道場だったらなとか思ってんの分かるからな。俺ってば神だし?

——いや、そうか……魔王のね……いいねぇ……ワンチャンあるぞ」

 

 

 

 おおっと、バレて〜ら。つーかなんだろう………あまり聞こえないが嫌な予感しかしねぇんだけど

 

 

 

 

「んじゃ行ってこいや!」

 

 

 

 

 

 なんか企んでいるであろう笑顔でグッショブポーズをする神様に不安を抱きながら俺の意識は闇へと落ちていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目を覚ますと、誰かは知らないが涙を流しながら俺のことを女性が抱き上げており、隣には一緒になって泣いている男性もいる。どうやら赤ちゃんスタートらしい

 

 

「あい(oh)」

 




リメイクです

勝手ながら話を少し変えて書くので、前作と少し違う所があるかもしれませんが、見てくださると嬉しいです


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おともだちができました

遅くなってしまい、申し訳ありません。頑張って書いていくのでよろしくお願いします

幼少期での話し方が分からなくてオリジナル要素かなり強めですがご了承下さい


 あれから七年の年月が経ち、小学校に入学するまで大変だった事が二つある。

 

 まず一つ目、俺は普通の転生ではなく俗に言う憑依転生というものをした事。

 まぁ、別にそれは構わない……神様がニヤニヤと笑みを浮かべていた時点で何かしらを企んでいるだろうとは思っていたからだ。で、問題は俺が憑依した人物なのだが……《さりげなく人類最強格》や《自動ドアが反応しない男》、《深淵卿》でお馴染みの遠藤浩介(えんどうこうすけ)君である。

 

 そんな遠藤君に憑依して大変だった事といえば一つしかない━━彼の象徴であり唯一誰にも負けないであろう特性……影の薄さだ

 

 俺が憑依してもその凄まじい影の薄さは健在で、親子四人で買い物に出掛けた時に一緒になって隣を歩いているのにも関わらず迷子になったと(ちょっとした)騒ぎになったり……

友達とかくれんぼしていた時なんて俺が隠れているのを完全に忘れられて他のみんなが帰ってしまった……当然その日の夜は遠藤君への同情四割、悲しさ六割で枕を濡らした。

 

 

 二つ目は、特典で要求した剣道場関係だ。歩いて数分の近場に広い敷地と、生前の授業で見たような歴史を感じさせる大きな屋敷を見つけた。

 

 その表札には八重樫とあり、声を上げて喜んだ。理由は簡単、八重樫雫と一緒に剣の稽古をする夢が叶う! と思ったからだ。この時ばかりは心から神に感謝した

 

 父と母へ必死にお願いすると、残念なことに小学三年生になるまでテストで百点を取り続けなければいけないと条件をつけられてしまった。三才から続けている筋トレやランニングにプラスして念のためにと勉強をするようになったのが面倒だったが、夢を叶えるためなので本気でやった

 

 

「え~と、次に浩介君。自己紹介してね~」

 

 そういえば自己紹介をしていたんだっけ? と、席から立ち上がり、第一声を━━

 

「あら? お休みかしら」

 

「先生……います」

 

「あっ……ごめんね? そ、それじゃあ自己紹介お願い」

 

「遠藤浩介です。えーと、剣道や剣術に興味があります。皆よろしく!」

 

「ありがと、浩介くん! えーと、それじゃあ次に━━」

 

 ボーとしてたから今さら気づいたんだが……あのキラキラしたイケメン風のやつって天之河光輝だよな? で、あっちの一回り大きいのが坂上龍太郎、長髪で可愛い子が白崎香織かな? いや、顔が似てるってだけ━━

 

「坂上龍太郎だっ!よろしくな!」

 

「は~い、龍太郎君ありがとう。次は香織ちゃんよろしくね~」

 

「はーい! 白崎香織です。皆仲良くしてね!」

 

 

 

 ……マジか、重要人物が大集合してるよこのクラス!? 

 

 幼少期の話とか原作に無かったから分からないが、原作通りなのか? それとも神様の仕業なのか……遠藤浩介()の家が八重樫道場から近い場所ってのは原作とはかけ離れてるってのは確定だけどな

 

「最後に直方くんお願いね~」

 

「はい!」

 

 

 色々考えていると、最後の人まで順番がまわってしまったようだ……え、ちょっとマイラブリーエンジェル(八重樫雫)は!? 

 

 動揺しすぎて心の中で気持ち悪い呼び方をしつつ慌てながら見渡すと、八重樫雫似の短髪少女を見つけた。あれ、なんで短髪? とか思ったが小学生の時は髪を切って短髪だったことを瞬時に思い出した。

 

(ていうか可愛いすぎんか!?)

 

「残りの時間は~早く仲良くなるために自由に話にいっちゃっていいわよ~」

 

 最初の方って大抵こんな感じで緩いもんな~懐かしい。

 

「ん?」

 

 ボーとしながら白崎香織や天之河光輝、坂上龍太郎と友達になるべく殆どの生徒が押し寄せているのを眺めていると、一人の少女に目がとまる。件の少女である八重樫雫()は席を立つタイミングを誤ったようで、椅子に座ったまんま羨ましそうに眺めている

 

 

「ねぇねぇ」

 

「ひうっ!?」

 

 普通に席を立ち、普通に側に寄って普通に話し掛けたのだが、驚かせてしまった。……うん、可愛い

 

「あ~ごめんね。驚かせちゃったみたい」

 

「……大丈夫。えーと……わ、私、八重樫雫——よろしく」

 

「〜〜俺は遠藤浩介、浩介でいいよ。よろしくね!」

 

「……うん!」

 

 緊張したが、なんとか冷静に挨拶をして握手をする。あぁ~!手がちっちゃいし柔らかい!!恥ずかしげに頬を赤く染めてるのなんてもうっ……!

 

「えーと、浩介君って剣術とかって興味あるんだよね?」

 

「……」

 

「浩介君?」

 

八重樫雫と会って話し、握手したことに感動していた俺は八重樫さんからの質問に反応が遅れてしまった。一生の不覚っ!

 

「うん……まぁ、そうなんだけど━━父さんと母さんが厳しくてさ。三年生になるまでテストで百点を取り続けないと道場に通わせてくれないんだよね~」

 

「あ、そうなんだ……」

 

 どうやら誘おうと思ってくれていたらしいが、俺の話を聞いて無理だと思ったのか、残念そうにしょぼんとしてしまった(可愛い、天使かな?)

 

「あはは……あと二年も待つんだよ? 早く三年生になりたい」

 

「えっと……その、テストは大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ。えーと、八重樫さんの家って八重樫道場だよね?」

 

「お家の隣に道場があって、お爺ちゃんが教えてるの」

 

「八重樫さんも教えてもらってるの?」

 

「うん!」

 

「雫ちゃんと……えーと」

 

「遠藤浩介、浩介でいいよ白崎さん」

 

「ありがと浩介くん、それで二人はなに話してたの?」

 

 気になったのか、クラスメイトに囲まれていた白崎香織が後ろから話しかけてきた。

 

「八重樫さんの家が道場らしくてさ、通いたいけど父さんと母さんに三年生になるまで百点取り続けないと駄目って言われたのを話してたんだよね~」

 

「へ~三年生に……えぇっ!? それって大丈夫なの!?」

 

「大丈夫。余裕のよっちゃんだよ~あれ、そういや二人って知り合いなの?」

 

「お友達だよ! 私と雫ちゃんのお母さんも友達同士なの!」

 

「なるほどね」

 

 いいノリツッコミだなぁとか思いつつ、二人の関係についてさりげなく聞いてみると、既に親同士で面識があり、友達になっていたようだ

 

「俺たちも話に混ぜてくれる?香織ちゃん」

 

 そんな感じで三人で話していると、天之河と坂上を含めた全員も途中で参加し、一日で原作主要人物四人と友達になれたのだった

 

 

 

いや、嬉しいんだけどね!?

 




 オリジナルだと書くのが難しいし、遅いですね投稿が

この二話での原作と違うオリジナルな所

八重樫家の近場に遠藤くん(憑依主人公)の家があること

雫と香織の母同士が友達(多分、そんな設定なかった)

天之河光輝と坂上龍太郎、白崎香織、八重樫雫、遠藤浩介が小学校で一緒のクラス
(幼少期は分からないけど、多分違うと思うからオリジナルね)

次はいきなり小学校高学年にしようかとおもいます。小学生活を一年からだらだらやるよりも原作に早めに入った方がいいと思いますし

お気に入りが50件も!!前の作品からリメイクを見に来ている人もいて本当に嬉しいです!おかしな点やこうした方がいいと思った方がいれば、直しますので活動報告へお越し下さい

次も見ていただけると嬉しいです



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八重樫 雫

大変遅くなり、申し訳ありませんでした!

悩みに悩みまくってたら数ヶ月過ぎてましたors

早めに続きを投稿したいがために妥協したので、少しお粗末な感じかもしれませんが、お許しを~


それでは、どうぞ( ゚∀゚)つ










 俺は三年間ずっと二人(父.母)と約束した通りに満点を取り続けた。最初言われたときは少し不安だったが、生前培った知識と毎日欠かさずにやっていた自主勉のおかげで何の危なげもなく八重樫道場へと入門することができた。

 

 道場へ通えるようになるまでは少しでも感を取り戻せるようにと近くの山で丁度良さそうな棒を木刀代わりに素振りをし、ちょっとした罠や仕掛けを作って避けたりなどをして自己鍛練をしていたのだが……やはり打ち合う相手と師範(先生)がいるっていうのは良いものだ

 

八重樫(雫)さんとの剣術稽古の夢も叶い、それと共に以前よりも話す機会が増えて仲が良くなった(俺がそう思ってるだけかもしれないけど…)

 

 

 だが、そんな幸福な時間をぶち壊す出来事が起きてしまった。……そう、原作であったように八重樫さんは天之河に好意を抱いている女子達からいじめを受けているのだ。

 

 

 

 天之河は勉強、運動共に出来る万能型であり尚且つイケメン、誰でも平等に優しく接し、リーダーシップも取れる正に王子さま的存在なので人気が高く、近くにいる女の子を排除して自分がその間に入ろうとする女子が多かった。

 

その標的になってしまったのが、仲良し五人組の内の一人である八重樫さんだった。

 

 八重樫さんはボーイッシュな髪型と他の女子とは違う地味目な格好、剣術を習っている。という事で天之河の近くにいるのに相応しくないと女子たちから勝手な決めつけをされてしまい、狙われる事になったのだ

 

 そんな事をされれば当然、八重樫さんは信頼のおける人物に守ってもらおうとする。

 

 残念ながら、それは俺ではなく天之河だ。だが、助けを求められた天之河は関係者を集めて話し合いという形をとり、そんな事で解決するはずもなく……更に風当たりが強くなった。それも天之河にバレないように巧妙さが増して……

 

 

 原作通りとはいえ、好きな子がイジメられて悲しんでいるのだ。何もせずに知らんぷりなんて出来る筈もなく、靴にゴミを入れたり等の嫌がらせを見つけたら止め、放課後には一人にならないように注意して見ておいたりなど可能な限りイジメの抑制をしていた。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

イジメも徐々に無くなってきたなと思い始めたある日の放課後……寝不足だった事もあって授業中からずっと寝通していた俺はキーキーと煩い声で起きた

 

「なんでアンタみたいな男女が光輝君と一緒にいるの?」

 

「迷惑よ!」

 

「わ……私は……」

 

「うっさい!」

 

 

寝ている間にとんでもない所に遭遇してしまったようだ。名前は知らないが隣のクラスの女子二人と、同じクラスの女子二人が八重樫さんに詰め寄って言いたい放題言っている

 

「ギャーギャーギャーギャー喧しいんだよ、発情期ですか?この野郎~」

 

椅子から立ち上がると八重樫さんを叩こうとした女子の手を止め、俺はそう言った

 

「ッ……遠藤、なんでいるのよ」

 

「さっきずっといたぞ……寝てたんだけど、煩い声が聞こえてな?」

 

「あっそ、キモッ……みんな帰ろう」

 

 

え、キモい所あった?!と、驚いている間に四人は鞄を持って教室を出てしまった

 

「まぁいいや、大丈夫だった?八重樫さん」

 

「……」

 

「八重樫さん?」

 

「え、あ……大丈夫だよ!」

 

「……それなら良いんだけどさ」

 

 

大丈夫と口では言っているが、言われたことを気にしているようで、落ち込んでいるのが分かる。

 

なんとか元気付けてあげたい……八重樫さんといえば可愛いものが好きなんだよな?……なら、ぬいぐるみとかプレゼントしよう

 

 

「八重樫さん……道場サボってゲーセンに行かない?」

 

「━━へ?」

 

 

 

 

 という事でやって参りましたゲームセンター! 

 

 「稽古があるんだから駄目だよぉ」と可愛い事言って断ろうとした彼女を説得してなんとか連れてくることに成功した浩介は目的のもの(クレーンゲーム)を探しながら何かやりたいものがあるか聞こうと後ろを振り返る

 

 

「八重樫さんはなにや……る?……あら?」

 

 だが、意見を聞こうと後ろを見やるがそこには誰もいない。

 

 あれ? 帰ってしまわれた? 泣いちゃうよ俺? と思ったが少し辺りを周ると、別のクレーンゲームのエリアにおり、それなりの大きさがある犬の人形を眺めていた

 

 

「それ欲しいの?」

 

 声をかけると、驚いたのかビクッとした後に赤面して手をわたわた動かして「ち、違うよ!」と頑張って否定している

 

 

 

 え…………かわええ....

 

 

 

「よし、三本爪のやつね」

 

 

一時期、クレーンゲームを極めようと馬鹿みたいにゲーセンに行って練習した腕を見せる時が来たようだ。さて、ちゃっちゃと取りますか

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 自信満々で挑んだクレーンゲームは結局は二千円使うことになったが、無事にプレゼントすることができた。

 

 

 その後はマリ◯カート、コインゲーム等をして、プリクラを撮って終わった

 

 

「あの……ごめんなさい遠藤君。お人形とストラップ取って貰っちゃって……」

 

 

 

「いつも八重樫さんには剣術のアドバイスもらってるし……それの御返しだから気にしなくていいよ」

 

 

「……ありがとう」

 

 笑顔がス☆テ☆キ!……いやキモいな。一緒に出掛けられたからかテンション上がってるわ。それにしても可愛ぇぇ……

 

 

「私たちサボっちゃったけど怒られないのかな?」

 

 

「たまには息抜きも必要だからね。大丈夫だよ、約束する」

 

 

 と言ったものの、八重樫さんは家に近づくにつれて落ち着かない様子で、人形を抱き締める力が強くなっているのが分かる。可愛ぇ

 

 

 

「おやおや遠藤君、稽古をさぼって雫とデートかい?」

 

 

 

 門前には白髪に皺の深い顔立ちの八十代くらいに見える老人が立ってていた。この人は八重樫流の師範にして雫さんの実の祖父だ

 

 

 

「デートではありませんよ師範、俺が無理を言って付き合ってもらったんです」

 

 

 

「ふむ、そうか……まぁ、たまには息抜きも必要だろう

 

 雫、楽しかったか?」

 

 

 

 

 

 その問いに八重樫さんは少し戸惑ったが、祖父の優しげな表情で安心したのか「うん!」と笑顔で答えた

 

 

 

 

「遠藤君と話すことがあるから先に入ってなさい」

 

 

 

 八重樫さんは此方をチラチラ見ながら家に入るのを戸惑っていたようだが、「また明日ね!」と声をかけると、笑顔で「じゃあね」と家の中へと入って行った

 

 

 

「さて遠藤君、私が何を言いたいのか分かるかね?」

 

 

 

「電話しなかった事に関しては謝りますが、雫さんも女の子ですし可愛い物が欲しくなったり友達と遊んだりしたいと思うんですよね……剣の才能があるのは分かっていますが、少し遊ぶ時間をあげても━━」

 

 

「わかっておるわ。説得されたとはいえ、稽古を休んで息抜きに遊んでくれて嬉しかったわい。

 

 また、雫と遊んでやってくれ」

 

 

 

 

 どうやら怒っている訳ではないようだ。原作の親バカぶりからして、ボコボコにされたりとか思っていたが杞憂だったようだ。

 

 

 

「それとこれでは別だからの、サボった分は明日に回しておくから覚悟しておれ」

 

 

 

 あ、やっぱり少し怒ってます? 

 

 

 

 

 

 

 




後半はリメイク前のから抜いてきました

続きは早くて一週間、遅くて三週間で投稿すると思います


次の話も見下さると嬉しいです!


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異世界召喚

皆さま、遅れて本当にすいませんでした!!!言い訳ですが、携帯が壊れてたり色々と中学生編を試行錯誤して書いてたんですが、今回は諦めてリメイク前のを少し変えて出すことにしました。中学生編やその他のストーリーは思いつき次第、サブストーリーのような形で投稿させていただきます。回想で出すかもしれませんが……

長らく前書きをしてしまいすいません。失踪せずに書ききりたいと、思っているのでよろしくお願いします!




 あれから俺たちは小中と卒業し、遂に高校生になった。

 

 高校生になるまでにあった重要な事といえば、中学の時に天之河や香織、雫とは別のクラスになってしまったものの、ハジメと龍太郎が同じクラスで、しかも席が隣同士だったので、ラノベや漫画アニメの話で盛り上がり友達になった。互いの家に泊まりに行って遊んだり、トレーニングなどをしたりもしているってこと

 

原作で色々と……何というかアレだった中村恵里をランニング途中に見つけたので、俺のありとあらゆる人脈を利用して助けたり……

 

 そして俺の中で個人的に感動したのは登下校の道路で不良に絡まれたおばあさんを助けるためにハジメが大声で謝りながら土下座していたことだ。

 

 何故このような珍場面で感動していたかというと、このシーンはハジメに対して白崎さんが恋心を芽生えさせるきっかけになった場面だからだ。

 

 まぁ、そんなこんなで原作を見てから一度は見てみたい所を見れて嬉しかった

 

 と、話は戻るが高校生になった時点での俺の年は16で、クラスごとトータスに転移させられるのは17歳になった時だったはずだ。そろそろ準備を始めた方が良さそうだな

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

「よう龍太郎、さっきぶり」

 教室に向かって廊下を歩いていると、つい先ほどまで一緒にトレーニングをしていた龍太郎がいたので声をかける。

 

「ぬおっ!? ……なんだ浩介か」

 

「その反応は毎回傷つくんだが……」

 

 俺の落ち込んだ姿に「悪い悪い!」と背中をバシバシ叩きながら謝ってきた

 

「お、そう言えばハジメは大丈夫なのか? 朝のトレーニングも来てなかったし」

 

「さっきLINEしたら「昨日の夜、お母さんに頼まれ物してて寝たの4時なんだ。ごめん無理」って返ってきてたぞ」

 

「…………あ、マジだ」

 

 俺の言葉に急いでスマホを取り出すとLINEを開き、メッセージを打ち始める龍太郎をよそに教室の扉を開けて自分の席に向かう。いつも通り最初に開けて入ってきた俺ではなく龍太郎へ挨拶がかけられるが、慣れてしまったので華麗にスルーする。ホントウダヨ?

 

「おはよう浩介!」

 

「っ?! ……おはよう雫」

 席につき、ハジメからのLINEを見ようとスマホを取り出した所で、隣からかけられた声に少し驚いてしまった。

 

「今日はいつもより遅かったわね?」

 

「まぁ、ちょっとトレーニングが長引いちまってな」

 

 苦笑しながらそう答えると、始業のチャイムが鳴る五分前、本当にギリギリの時間でハジメが教室に到着した。その瞬間、男子生徒の大半が舌打ちやら睨みをきかせている。女子生徒も友好的な視線はない

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモいじゃん~」

 

 と、南雲にダル絡みする4人衆(檜山大介(ひやまだいすけ)斎藤良樹(さいとうよしき)近藤礼一(こんどうれいいち)中野信治(なかのしんじ))がゲラゲラ笑っている

 

 彼らがあのような態度の原因は檜山が言った通りキモオタではないにしろオタクだからだ。理由はそれだけでなく━━

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

 彼女、俺の幼なじみである香織が原因だったりする。簡単に言ってしまえば学校のマドンナである彼女が、オタクで、授業では大抵寝ていたりする不真面目な生徒扱いの彼が話しかけて貰ってるのが気に入らないのだ

 

 南雲は'趣味の合間に人生'を座右の銘にしているため、授業よりも趣味優先になっているため、白崎に注意されたとしても態度を変えないのでそれもあるのだろう

 

 おっと、そういえば一時限目は現代文だったかな? と教科書とノートを取り出す

 

「南雲君。おはよう毎日大変ね」

 

「よう、ハジメ! 朝来れなかった分、夕方は付き合えよ!」

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

 

 

 いつもの面々がが口々に挨拶? をしている中、俺も挨拶のついでに時間が迫っている事を教えることにした

 

「おはようハジメ、香織、天之河」

 その声に殆どのクラスメイトがギョッとする

 

「「「「いたの(か)!?」」」」

 

「いたよ! 龍太郎と一緒に入って来てたじゃん?! はぁ、まあいいや時間だから席に戻った方がいいぞ〜」

 

 俺は硝子の心(ガラスのハート)を少し傷つけながらもハジメ(親友)を助けることに成功したのだった グスン

 

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

 4時限目の社会が終了し、背筋を伸ばすとポキポキと気持ちのいい音が鳴る。テスト前なら苦手な科目な為、質問しに行くのだが……テストまでは時間がある。 俺は弁当袋を取り出して立ち上がると、未だに寝ている南雲の机に向かって歩き出す

 

「zzzz」

 隣に来たのに何時(いつも)の事ながら誰も反応しない

 

 バチンッ

 

「いっ?! たぁぁぁ!」

 決して殆ど座ってるのに俺だけが立っている状況に誰も気が付かなかった事で、イラついてデコピンしたわけではない 本当だ

 

「授業は終わったぞハジメ(親友)?」

 

「わざわざ起こしてくれてありがとう浩介君(親友)

 

 お互いに、はっと笑うと10秒でチャージできちゃう定番のお昼を取り出す。それを乾杯するかのようにコツンと合わせ

 

 ━━じゅるるるる、きゅぽん! 

 

 早々にお昼ご飯を食べ終えた俺達は、家から互いに貸していたラノベを出し合う

 さて、では互いに感想を言い合うか……と、目をキランッとさせたところで、二人のお楽しみタイムは終わることになる

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」

 

「あ~誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」

 

「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」

 

 ハジメ(戦友)が必死に抵抗(時間稼ぎ)をしているのを横目に、去らばだ友よ……と立ち上がり席に戻r、ガシッ

 

「ん?」

 おかしいな? デフォルトスキルのステルス遠藤を発動している俺を捉えるだと?! 

 

「香織の言うとおりだわ……そんなんじゃ今日の手合わせ、私に負けちゃうわよ?」

 あれれ~? こういう時ばかり影の薄さが通じないのズル過ぎない? 

 

「大丈夫だ問題ない」

 

「それって大丈夫じゃない時のセリフよね?」

 そう言い、ため息をついた雫は弁当を一つ差し出してくる

 

「? え、作ってきてくれた感じのあれ?」

 

「そ、そうよ……」

 

「ま、マジで?! すっげぇ助かる!」

 なんてラブコメでありそうなことをしているとハジメと香織の会話に割り込む声で視線を弁当から目の前に移す。

 

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 爽やかにそう言ってのけた天之河だったが、

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

 と返されてしまい、場が少し凍りつく

 

 俺と雫はと言うと、

「「ブフッ」」

 耐えきれず笑ってしまった。

 

 雫が天之河を止めている(宥めている)のを見ていたが、少し気になったので弁当箱に視線を移し、ワクワクしながら開けようとする。

 

 

 すると突然、足元に純白に輝く魔方陣らしきものが現れた

 

 その魔方陣は徐々に輝きを増し、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

 驚きと悲鳴、愛子先生の「皆! 教室から出て!」という叫びと、カッと爆発したように輝いたのは同時で

 

 あとに残ったのは食べかけの弁当に、錯乱する箸やペットボトル、教科書などで、その場にいた人間だけが姿を消していた

 




龍太郎君とハジメ君を少しパワーアップ&仲良くさせてみました。いや〜龍太郎君、意外と好きなんですよねぇ

おかしな所があれば指摘してくだされば直しますのでお願い致します

さてさて、此処からは投稿ペース上げてくぞぉ!→期待しないほうがいいですよ

というかプロローグ見ました!いや〜やっぱり雫が可愛い!!

二期まだかなぁ〜

というわけでまた次の機会に会いましょう!


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第1章:原作開始
トータスへ


どうもこんばんは!今回は早めに投稿できました。まぁ殆どリメイク前のですしね〜

お気に入りが350件以上も!ありがとうございます!感想や評価も大変励みになります!

突然なんですが、なんとなく原作を読み返していたのですが………恵里が可愛そうすぎるんだよなぁ?!何度見ても……

という事でタグ追加させて頂きました。'原作死亡キャラ生存'

ワンチャンヒロイン?

流れで書いていきます。中学生編書けてないのが本当に痛いなぁ

それではどうぞ




 眩い光で目がやられないように眼前へ両手を持っていく事で防いだ俺はざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと手を下ろした。そして、周囲を見渡す。

 

 そろそろだと思ってはいたが、ついに原作開始のようだ。目の前に広がる巨大な壁画には後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物、エヒト(クソ神)が描かれている。

 

 その絵を睨め付けるように見た後、呆然と周囲を見渡しているクラスメイト達に目を向ける。

 

 ハジメ、龍太郎、香織、雫、天之河、鈴、恵里、園部、愛子先生……どうやら欠けている人たちはいないよう……ん? 

 

 必要不可欠なメンバーは全員いるので問題ないだろうと判断した俺は一人の少女に目を向ける。月の初めに転校してきたという本来いるはずのない後輩女子(イレギュラー)へと

 

「浩介、これって……浩介?」

 

「……ああ、すまん。呆気に取られてた」

 

「…無理もないわ。こんな一昨日借りたラノベみたいな展開、普通はあり得ないもの」

 

 あ、見たんだ盾の勇者の成り上がり……とか思いつつ取り敢えず後輩女子は放っておく事にして、いつものメンバーを集めようとしたところで、俺たちを取り囲むようにして一人一人が祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んでいる人達。その中でも特に豪奢で煌きらびやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位はありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然(こうこうやぜん)とした微笑を見せた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 現在、俺達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

(しかし、この状況で誰もたいして騒がないってのは流石カリスマ持ってるだけはあるな天之河)

 

 そう、この状況でクラスメイト達が騒いでいないのは、認識が追い付いてない者も勿論いるが、他は天之河が持ち前のリーダーシップを働かせて、皆を落ち着かせて誘導したからなのだ。涙目の愛子先生に一言……ドンマイ

 

 全員が席に着席すると、絶妙なタイミングでパチモンではない、異世界の……本物のメイドが飲み物を注いでいってくれる。そんな美少女メイドを大半の男子が凝視し、その光景に女子は絶対零度の視線を向けていた

 

 ハジメも俺も男の子で、思春期だ。側に来たメイドを凝視……することはなく、南雲は白崎からの笑っていない笑みを受け、俺は隣の八重樫から笑顔で太股をつねられたあげく何処からかジト目を頂戴してしまった為、二人してメイドから目を反らした。メイド服姿のポニテ少女だったので、服のデザインも中々だし雫が着たら可愛いだろうなんて思っていただけなのに——と、少し残念そうにしていると南雲はビクビクしながら話しかけてきた。

 

「こ、浩介君、これってさ……」

 

「言いたいことは分かる。こんな円卓みたいな席で気分が上がらない筈ないもんな」

 

 俺の発言にズルッと肩を落とすハジメ

 

「いや、まぁそうなんだけど……そうじゃなくて——-」

 

 ハジメの話はイシュタルの説明が始まった事により、中断してしまった。

 

 

 イシュタルの話を要約するとこうだ。

 ・この世界はトータスと呼ばれている場所で、存在している種族は大きく分けて3つで人間族、魔人族、亜人族である

 

 ・人間族は北一帯、魔人族は南一帯、亜人族は東の巨大な樹海のなかで生きているらしい

 

 ・魔人族と人間族は何百年も戦争を続けている

 

 ・魔物と呼ばれる通常の野生生物が魔力を取り入れ変質した異形の存在で、それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣

 

 ・魔人族は人よりも数が少ないが、個人の持つ力が強く最近では数多くの魔物を使役してきているせいで、人間の数の有利が覆りつつあるとのこと

 

 まぁ、此処までは何度も原作読んでいた俺としてはなんとか覚えている。そんな事よりも今後について考えなければいけないだろう

 

 今後の事とは勿論、ハジメ(親友)が奈落の底に落ちていくのを防ぐか否か、奈落の底に落ちなければ未来は確定している。

 

 俺たちは…………全員死ぬ。あの(・・)ハジメと現代兵器たちが必要なのだ。

 

 そこまで考えた所で、愛子先生の抗議の声が上がる

 

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! 

 ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! 

 きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 

 生きて帰るために親友を死地に送るか、親友を助けて全員が死亡するbadend展開か……いや、なにか抜け道がある筈だと悩んでいたところに愛子先生がぷりぷり怒っているのを見て、こんな状況で不謹慎だが頬が緩んだ

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 先程までぷりぷり怒っていた先生は勿論、その先生を見て「かわいいなあ先生」とかほんわかしていたクラスメイトも顔を青ざめさせ、誰もが何を言っているのか分からないという表情でイシュタルをみる

 

「ふ、不可能って…… ど、どういうことですか!? 喚べたのなら返せるでしょう!?」

 

 誰もが衝撃の事実に、何も言えなくなっているが流石は先生、イシュタルに説明を求める

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

 流石の先生でも、そんな事をイシュタルに言われてしまい、脱力したように椅子に腰を落とす

 それをきっかけに、生徒たちは口々に騒ぎ始めた

 

「嘘だろ 帰れないってなんなんだよおかしいだろ!」

「そんなのいやよ! なんでもいいから帰してよぉ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! やるわけねぇだろ!」

「なんで、どうして……」

 

 パニックになるクラスメイトたち

 

 右隣を見ればハジメも多少は平静を保てていた。オタクであるが故にライトノベルでこのような状況のは多々ある。まぁ、一番最悪な展開ってわけじゃないからな

 

 

 他のみんながパニックの中、天之河は立ち上がると、机をバンッと叩いて注目を集めた

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

 天之河の問いに対してイシュタルは、フム……と悩む仕草をすると、そう答えた

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

 

 さて、どうやら勇者様(笑)のカリスマは効果を発揮したようで、さっきまで絶望の表情だった生徒たちは活気と冷静さを取り戻し始めた。女子生徒は頬を赤らめ、熱っぽい視線を送っている。目がハートに見えたのは気のせいではないだろう

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。俺もやるぜ?」

 

「龍太郎……」

 

 それに食い付いたのは第二の親友である龍太郎(ジャンプ脳)だった。こういう展開ホンット好きだよなぁ……とか思いつつこの流れは雫、白崎という原作通りの流れで決定かな……と思ったのだが、隣の雫は俺の服袖をギュッと握ると此方を心配そうな表情で見ている

 

 はぁ、仕方ない……

 

「郷に入っては郷に従えって言うし、自分にできることをやるよ」

 

「……遠藤」

 

「……そうね今のところ、それしかないわよね。私もやるわ」

 

「雫………」

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

「香織……」

 

 原作通りとはいかなかったが、オロオロと「ダメですよ~」と困った顔をした先生を尻目に俺たちはクラス全員で戦争に参加することが決まった

 

 

 

 

 




さて、誰かなぁ後輩ちゃんは〜

最初に言っておきますと、アフターで出てきた後輩ちゃんではありません

前の話の異世界召喚の内容を少し変えたので見ていただけると嬉しいです。ほんのちょっとだけなのでね

次の話をもしかすると3時頃に投稿するかもしれません→あくまでかもです。

それでは、また次のお話もお願いします。


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意外な

こんばんは〜危ない危ない。一日一話投稿できてますねぇ

誤字ってたり、ん?って思うところがあったら後で直す事にして忘れないうちにどんどん思いついたら書いていきます

リメイク前に追いつきたいぜ!

それではどうぞ


 

 さて、全員が戦争に参加することが決定したが、この世界の人たちよりも強力な力を秘めているとはいえ、元は平和主義である日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人達と戦うのは不可能。戦い方を学んだり、寝泊りをする場所を事前に用意していたとのことで聖教教会本山がある[神山]の麓の[ハイリヒ王国]に向かうことになった。

 

 俺らが呼ばれた聖教教会は[神山]の頂上……雲よりも高い場所にあり、太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に全員が感嘆の声をあげ、イシュタルはドヤ顔(偏見)で詠唱をした。〝天道〟という俺たちを乗せた白い台座を動かす魔法を使っ時は、初めて見る〝魔法〟に生徒達がキャッキャッと大騒ぎをしていた。

 できれば後輩女子について話を聞きたかったのだが、香織や他の女子達と一緒になって目を輝かせている雫に声をかける事はできなかった。

 

 しばらくすると豆粒ほどだった地上の様子が明らかになってきた。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町、あれがハイリヒ王国の王都だろう。

 

 

 いつの間にかグッと握り締めていた手が震える。武者震いなのかそれともテンションが上がっているのか……いずれにしてもこれから起こるであろう事について覚悟を決めるのだった

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 王宮に着くと、俺たちは真っ直ぐに玉座の間に案内された。イシュタルに付いていきながら周りを観察しているが、教会にも負けないくらいの煌びやかな内装だ

 

「お、やっぱり最後尾か」

 

 最後尾にいるであろうハジメと話すために歩くスピードを違和感の無いように落とす……と、予想通り1番後ろにいるハジメに話しかける

 

「?! ……浩介君、どうしたの?」

 

「ちょっと言っておきたい事があってな」

 

「イシュタルさんの事?」

 

「……よく分かったな?」

 

「まぁ、なんかあの人いかにもって感じだったしね」

 

「確かにな。ワンチャン教会自体がヤバイ所だったりしてな?」

 

「ありそうだね。盾の勇者見たばかりだからかもしれないけど怪しいって思っちゃうんだよね」

 

「分かる」

 

 そんなこんなで色々と情報共有? していたが、列から少し離れ過ぎていたので急ぎ足で追っていく、天之河達は巨大な両開きの扉を次々と通っていってるところだった

 

 中に入ると、玉座の前で立ち上がって待っている国王らしい人物と王妃のような女性、リリアーナ、ランデル、甲冑や軍服らしき衣装を纏った人達や文官らしい人たちが数十人も並んでいる

 

 イシュタルが手を差し出すと、国王? はその手をとり、軽く触れない程度のキスをした……思うんだが、こんなおっさん達が手にキスするところとか…………な? 

 

 次に自己紹介を受けた

 

 現在進行形で天之河に熱い視線を送っているリリアーナと香織に見惚れているランデルの名前は覚えていたが、どうやら大して目立たない国王エリヒド・S・B・ハイリヒと、王妃のルルアリアを忘れていたようだ。つーか二人って何かしてたっけ? 

 

 続いてメルド団長やその他の高い地位にある者の紹介が簡単にされていたがメルド以外に興味ないし覚える必要あるか? と思って聞き流しておいた。

 

 その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能することになる。見た目は地球の洋食と同じようなものだった。原作では何の異常は無かったから大丈夫だとは思うが変なもの(……)が入っていないとも限らないので、チビチビと様子を見つつ食べながら横目でランデルが香織の席へとアプローチしに行っていたものの、手応えが無かったらしくトボトボと自分の席へ戻っていくのを見た俺は心の中でドンマイと言っておいた。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「さて……と」

 晩餐が終わって解散になると、一人につき一部屋を与えられたので、とある人物を待ちながら机の上に道具を置いていく

 

 棒手裏剣×7、五方手裏剣×6、苦無×4、小柄小刀×1、撒菱(まきびし)×14、目潰し等の投げ物×合計6、薬が少し

 

「アサシンブレードも刀も無い、他のはバックの中か……」

 

 体育無かったし、アサシンブレードくらいなら仕込んでおけたか? なんて考えていると、早めのノックが4回鳴る。待ち人が来たらしいので、扉を開けて招き入れる

 

「ど、どうしたの浩介君?こんな時間に呼び出すなんて——」

 

「おい恵里、おふざけは無しだ」

 

「はいはい、それで? 僕になんか用?」

 

 オドオドとした様子から一変して本性を表す彼女に質問をする

 

「何か持ってきたか?」

 

「ん? …… うわ、そんなに隠し持ってきてたんだ。相変わらずの変態ぶりだね〜うりうり……ひうっ」

 

 ニヤニヤしながら指で脇腹を突き、そんな事を言ってくる彼女に軽くデコピンをすると、その場所を摩りながら渋々といった感じでベッドへと一つずつ置いていく

 

 角指や小型の棒手裏剣、撒菱、苦無、薬、薬、薬

 

「意外と持ってきてたんだな?」

 

「まあね〜、練習しろって言われたからね〜」

 

「練習で学校に持ってくるのかよ……」

 

「……それ、君が言う?」

 

「で、なんだが……もう一つ聞きたい事あってな。あの後輩——」

 

「あの子は光輝君のファンだよ。

 よく扉付近でコソコソしてたから偶然一緒に来ちゃったんじゃない?」

 

「ファン……か……」

 

 原作では確実にいなかった筈だが、俺というイレギュラーがいる事で起きてしまった偶然という事で一旦は納得することにした。

 

「そう言えばさ、戦争に参加する事になったけど……あんな簡単に決めちゃっていいの?」

 

「簡単に決め過ぎではあるが……まぁ、断った事で待遇が悪くなったりだとかがあるから取り敢えずはアレで良かったんじゃないか?」

 

「だねぇ〜と、はいこれ」

 

 聞いてきた癖に適当な返事をして丸薬を二個渡してきた

 

「ナニコレ?」

 

「ビタミン剤」

 間も置かずに即答する恵里へジト目を向けながらデコピンの構えをしつつ「本当は?」と聞く。

 

「チッ、痺れ薬だよ」

 

「何しようとしてんだお前は」

 

「ナニ」

 

「止めなさい。俺が好きなのは雫だって言ったろ」

 

「それなら好きって言えばいいのに……や〜いヘタレ〜朴念仁〜……おやすみ」

 

 いつの間にか荷物を回収していた恵里は最後にそう言い残して自室へと帰っていった。

 

 俺は深い溜め息をつくと、ベッドにぶっ倒れるように眠った。




この作品のメインヒロインはあくまで雫です。恵里さんはパートナー的なアレかな〜

次はステータスプレートのところだから早めに上げられそうです


リメイク前と大分違いますが、引き続き見てくださると嬉しいです。

それではまた明日


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ステータスプレート

そ〜んなに変わってないかな?

ちょっとステータス上げた位か

それでは、どうぞ


 翌日、これからの訓練についての説明があるとメルド団長から召集をうけた

 

 俺とハジメは集合の10分前には並んでいた。時間になると生徒全員が到着したようで、メルド団長が確認する

 

「全員いるか!」

 

「そういや遠藤は?」

「ほんとだ」

「まだ来てない?」

 

 という言葉にメルド団長は側にいた部下に部屋を見てくるよう指示を出す

 

「遠藤がまだ寝ているかもしれん、少し部屋の様子を——」

 

「あの、すいません。此処にいます」

 

「ぬおっ?! い、いたのか。これはすまない」

 

 俺がいきなり現れたかのようなリアクションをするメルドにがっくりしていると、「流石は遠藤、影の薄さは異世界でも健在だな」とか「そういえばコンビニのドアも反応しなかったんだよな」「なにそれ凄い」

とのクラスメイト達からのこそこそ話を聞き、テンションが下がった。

 

そんな俺の事を極力見ないように目を逸らしつつ、メルドはウオッホンと、咳払いをすると俺たちに銀色のプレート……ステータスカードを配っていく

 

 そんなんで誤魔化せるか! と、心の中でツッコミつつ、自分の初期値はどのぐらいなのかの方が気になったので、おとなしくメルド団長の説明を聞く

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、無くすなよ?」

 

「は〜い」と、まばらながら返事が返ってきたのに頷くと、続きを説明していく

 

「プレートの一面に魔方陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔方陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所有者が登録される。'ステータスオープン'と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類いだ」

 

 この程度の説明は覚えていたので、天之河がアーティファクトについて聞いているのを華麗にスルーして、さっさと言われた通り指に針を少しだけ刺して血を垂らし、こっそりと'ステータスオープン'と言った

一瞬淡く輝くと文字が表示された

 

 

 ==================================================================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:1

 天職:暗殺者

 筋力:110

 体力:120

 耐性:85

 敏捷:190

 魔力:60

 魔耐:60

 

 技能:暗殺術《+暗器術》・気配操作《+気配遮断》・影舞・直感・言語理解

 

 ==================================================================================

 

 へぇ、これが初期値か……意外と高いな。天之河のステータスがオール100だとして、筋力と体力、敏捷が優ってるな。技能は暗器と気配遮断が派生である……

 

 

 一人プレートとにらめっこをしていると、説明が終わったのか全員がステータスを見ている

 

「南雲はどうだったんだ?」

 知ってはいるが、確認の意味を込めて一応みせてもらう……お? 

 

 ==================================================================================

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 天職:錬成師

 筋力:15

 体力:15

 耐性:15

 敏捷:15

 魔力:10

 魔耐:10

 

 技能:錬成・言語理解

 ==================================================================================

 

「錬成師……か、鋼錬(はがれん)みたいなもんか?」

 

「それは錬金術師だから違うと思うけど、ていうか遠藤君凄いね? このステータス」

 

「俺なんかより多分、天之河の方がヤバイだろ天職が勇者だったりしてな」

 

「確かに天之河君なら勇者でチート技能持ってそうだよね」

 

 二人で天之河について話していると、メルドの一言で南雲が凍りつく

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

「ぐふっ」

 

「南雲は心に100のダメージを受けた」

 

「はあ、こういうのって俺TUEEEEだと思ったのに」

 ふざけて言ってみたが予想以上に落ち込んでいるようだ。でも原作とは違ってステータス値が少し上がってるじゃん

 

「落ち込むのは早いって、こういう話でのお決まりを思い出してみろよ」

 

「ピンチに陥ると、覚醒する~的なやつ?」

 

「そうそう、諦めんなって」

 話し合っていると、メルドに「二人も列に並んで報告しに来てくれ」と言われて初めてクラスメイト達が一列に並んでいることに気がついた。

 

「次は……遠藤か。ではプレートを見せてくれ」

 

「はい」

 返事をしてプレートを手渡す。因みに少し改竄しているので余り代わり映えしないだろう

 

 

「ほう、暗殺者か……素質はあると思っていたが」

 おっと影が薄いからかな? そうなのかな? ケンカ売ってる? とか思ったが、頑張って表情をつくり、「ありがとうございます」と返した

 

 ついに南雲の順番になり、メルドは先程までのホクホク顔から一転して、「うん?」と笑顔のまま固まり、「見間違いかしらん?」と目をゴシゴシしたり、プレートを叩いたり、光にかざしたりした後に微妙そうな表情で南雲にプレートを返した

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときは便利だとか.」

 と、歯切れ悪く説明するメルド

 

 そこへ、南雲のことをよく思っていない……目の敵にしている者の筆頭である檜山が、ニヤニヤしながら近づいてくる

 

 これから始まるのは原作通り、檜山が南雲をボロクソに言う胸くそ展開だ。

 しかしまぁ、親友をボロクソに言うんなら……それなりの対価が必要だろう?

 

 俺は息を潜め、何を面白いのかニヤニヤしている檜山の足を払う

 

「なっ……おぶっ?!」

 盛大にすっ転んで、顔面を地面にぶつける檜山

 

「何やってるんだよ~」

 と、クラスの殆どが何もないところでひとりでに(・・・・・)転んだ檜山を笑っている。

 

「く、おい南雲! お前そんな非戦闘系でどうやって戦うんだ? メルドさん、錬成師って珍しいんっすか?」

 

「……いや、鍛冶職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っていたな」

 

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

 

 

 檜山が、ウザイ感じでハジメと肩を組む。周りの生徒達──特に男子はニヤニヤと嗤わらっている。

 

 天之河くぅ~ん! ここに仲間を苛めている人がいるよぉ! 的な感じで天之河をみるが、顔をしかめているが助ける気はないようだ。こういう所が少しアレだよなぁ天之河は

 

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

 

 

 本当に嫌な性格をしている。メルドの表情から結果を察している筈なのにニヤニヤ気持ち悪い笑みで手を差し出している。他三人もギャハハ! と笑いながらまくしたてている

 

 白崎さんや八重樫さんなどは不快げに眉をひそめている。

 

 

 ハジメは投げやり気味にプレートを渡す。

 

 

 ハジメのプレートの内容を見て、檜山はわざとらしく爆笑した。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。

 

 

 

「ぶっはははっ~、なんだこれ! ほぼ一般人じゃねぇか!」

 

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

 

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

 

「おい、お前らいい加減に——」

 流石に堪忍袋の尾が切れたのか、注意しようとする龍太郎は

 

「はい、ズドーン」

俺の足払いによって本日二度目の地面へキスをすることになった檜山へかける言葉を失った

 

「ギャーギャー喧しいんだよ。猿かお前」

 

「て、テメェ!この野—-ぶぺぇぁっ?!」

 

「何もない所ですっ転んで恥ずかしいのは分かるが、人に当たるのはよくないぞ?」

 

立ち上がって掴みかかろうとしてきた檜山を三度目の地面へボッシュートした俺は呆然としている三人を無視してハジメのプレートをひったくって返す

 

「ほい、災難だったな」

 

「あ、ありがとう」

 

 や、やり過ぎじゃあ……と、苦笑いするハジメ。龍太郎達も幾分か気分が晴れたようだが、苦笑いだ。

 

「て、てめぇ! この野郎っ」

 殴りかかろうとしてきた檜山だったが、流石にメルドが止めに入ってきた。愛子先生がオロオロしながら自分のプレートを見せてハジメを励まそうとして失敗して場が和み、その後は色々な場所を案内されてその日は解散となった。

 

 

 




悲報:檜山君のファーストキスは地面となりました。

次は原作には無い所書くからオリジナルなんで少し時間かかります。

もう少しでお気に入り400いくかも!
まだ気が早いか………


それではまだ次話で会いましょう

雫可愛いよぉ!!


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訓練

ちょい短めですね。

オリジナルの場所は難しいし、時間がかかります
お気に入り400ありがとうございます!
恵里の人気が意外にあるね〜園部ぇぇ!頑張れよぉぉ!

それではどうぞ!


 次の日から戦闘訓練が開始された。

 

 

「やっぱり西洋の剣だからか振りづらいな」

 

 俺は朝食を済ませると、前日に案内された訓練施設へと直行して素振りを行なっていた。俺に支給されたのは暗殺者にピッタリな短剣だが、その後に頼んで用意してもらった異世界らしい剣を使っている

 

「……微妙だが、こっちはまだマシな方か」

 

 一通り慣れてきたので剣をしっかりと納刀して地面に置き、短刀に持ち替えて素振りをする。やはり小太刀とは違うので違和感があるのだが、慣れるまで時間はかからないだろう

 

「……異様なまで様になってるわね」

 

「……ん? おっす、おはよう雫」

 

 5分くらいすると、天之河を含めた勇者パーティー(暫定)や南雲も集まり、残すところメルド団長を待つのみとなった。人が増えても注目されないので気にする事なく続けていると雫が漏らした言葉に挨拶で返す

 

「おはよ。いつからいたの?」

 

「朝食を食べ終わったら直行してきたから……30分くらい前から?」

 

「ず、随分と前からいたのね……その、次からは—-」

 

「よし、集まれ! 今から説明を行う」

 

 雫が話している途中だったが、メルド団長の馬鹿でかい声で最後らへんが聞こえなかった。

 

「今なんて……」

 

「……別に大した事じゃないわ。行きましょう」

 

 俺の手をガシッと掴んだ雫は「遠藤いなくない?」とか騒いでいるクラスメイト達の元へ「浩介ここにいます」と言いながら向かう。

 

 その後、メルド団長から武器の扱い方や戦いの心構え、王国式の騎士剣術などを教えてもらった後に、騎士団員と少し打ち合って今日の戦闘訓練は終わりとなった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 戦闘訓練が終わると、メイド達に案内された場所で食事を取る事となった。メニューとしてはサンドイッチとスープ、果物だ

 

「はぁ……トレーニングしてなかったら動けなくなってたし、明日は筋肉痛だったよこれ」

 

 正面に座っているハジメが項垂れながらそう呟く

 

「俺に唆されたおかげって事だな。よし、感謝ついでに日本刀作ってくれ」

 

「む、無茶言わないでよ〜。絶対作るの難しいし、無理だって」

 

 未来のお前さんは雫に国宝級アーティファクトの黒刀をプレゼントしてるんだけどな

 

「あ! 隣いい? 南雲君」

 

「え、あー……天之河君と一緒にたべ——どうぞ」

 困った様子で天之河へ白崎を押しつk……任せようとしたハジメだったが、後輩女子に捕まっている天之河を見て、観念したようだ

 

「私も隣いいかしら?」

 

「いいぞ〜」

 

 香織がハジメの隣へと陣取りに来た瞬間からこうなる事は分かっていたのですぐに返事を返す。

 

「ありがと、お昼休憩って何するか決まってるの?」

 

「メルド団長に許可もらったから訓練施設で素振りだな」

 

 俺の返答に「そうなんだ……」と、呟いた後に少し頬を赤らめる雫

 

「わ、私も一緒に……いいかしら」

 

 上目使いなんて何処で覚えたんだよ全く可愛いなぁ……とか思っていると俺の直ぐ後ろから「チッ」と器用に俺だけに聞こえるぐらいの音量で舌打ちをして通り過ぎる恵里。ちょ、止めなさい

 

「来てくれるんならありがたいよ。龍太郎とかも誘ったら来る筈だし……ハジメも来るだろ?」

 

「いや〜、ちょっと僕は……」

 

 快く了承してくれると思ったハジメは頭を片手で少し支えるように、まるで頭痛でも感じでいるかのようにしながら言い淀む

 

「俺は参加するぞ浩介!」

 

 後ろで話を聞いていた龍太郎が元気よく参加を宣言、龍太郎の勢いに負けたハジメの参加も決まった。

 

 

 雫が溜め息を吐いて少し残念そうにしている中、それを眺めてニヤニヤ笑っている者が一人……

 

「あれ? なんか良い事あったエリリン?」

 

「あ、鈴ちゃん。何でも無いよぉ?」

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 昼休憩が終わるギリギリまでトレーニングをした後に午後の訓練がとり行われる部屋へと移動した。

 

 今回習ったのはトータス(この世界)における魔法の仕組みだ。

 その仕組みというのは魔法を使用する時、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動する。というものらしい。どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

 つまりは魔法を使って攻撃するよりも斬り込んだ方が早いって事だ(錯乱)。

 

 さて、冗談はこのくらいにして……魔法陣や式、詠唱だのが必要な魔法だが、例外もあるらしく、適正があれば式を描かずとも魔法陣と詠唱+その属性のイメージをするだけで魔法を発動させることができる

 

 魔法陣にも特殊な紙を使う使い捨てタイプと鉱物に刻むタイプの二種類があるらしく、分かりやすく説明すると、使い捨てはオリアナの速記原典(ショートハンド)の弱体バージョン的な? 後者のはバリエーションが少ない分、何度も使えて威力が充分出るらしい

 

 その他に覚えておいた方が良い事を教えて貰った訳だが、魔法の説明以外は知っている事の方が多かったので、苦無を手首を使って回したりして暇をつぶしているが、誰も気がつく様子はない。それもそのはず、《+気配遮断》を発動しているのだ。

 

 指導してくれている先生? の目の前でアピールするが、全く気がつく様子はない。無駄に格好つけたりポーズしてみるが……やはり気付かれない。

 

 

 …………虚しいし、悲しい

 

 

 座学を終えると、夕食と風呂を済ませて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さ〜て、ちょっと雑かな?

難しいぃ!許してぇぇ

次はオルクス向かう前日の話にいっちゃおうかな?

早い?はっはっはっ

すまんなっ!

次の話も見て頂けると嬉しいです!


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二週間の成果

遅れてすいませんっしたぁぁ!

この話の前に何か書こうと思ったけど止めました。

いや〜恵里が凄い人気だぁ……リリィも

シアティオ愛子先生ぇぇ

お気に入り嬉しいです!目指せ500

それではどうぞ




 この世界に来てから早くも二週間が経過した。

 

 雫との木剣を使った打ち合いを一時終了し、席を外したタイミングでステータスプレートを取り出す

 

 ==================================================

 ====================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル10

 天職:暗殺者

 

 筋力:164

 体力:178

 耐性:133

 敏捷:234

 魔力:108

 魔耐:108

 

 技能:暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術]・気配操作[+気配遮断][+幻踏]・影舞・直感・言語理解

 

 ==================================================

 ====================

 

 派生技能を獲得するのには相当の苦労が伴った。ひたすら短剣を振り回したり、腕が上がらなくなるほど苦無や手裏剣を投げまくったりもした。そのうち徐々に動きが補正されるようになって今に至る

 

 

 苦無や手裏剣などは王国直属の鍛冶職人たちへお願いして作って貰ったので、数はある。あまり出来は良くないのだが、ないよりはマシだろう

 

「さ〜て、これから(・・・・)どうすっかなぁ」

 

「あ、危ないわよ? 浩介」

 ボーとしながら短剣を弄んでいると、あわあわと心配そうに声をかけてくる……どうやら戻ってきたみたいだ

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 

「それ大丈夫じゃない時のセリフよ?!」

 本当に気を付けなさいよ! と少し強めに言われてしまったので、「へいへい、止めるよ〜」と短剣をしまった。

 

「……なんだか浩介って短剣(それ)の扱いが妙に手馴れてるっていうか……」

 

「そ、そうか? いや〜それよりも天之河のやつ、成長早すぎだろ……レベル10で全能力値が200だぞ?」

 話しを全力で逸らそうと、取り敢えず天之河の話を振る

 

「勇者だから補正が入ってるんじゃない? 光輝も凄いけど……浩介も負けずに……す、凄いと思うわ」

 頬を少し赤らめながら、そう言って褒めてくれた雫に可愛いなぁと思って癒されていると、ハジメの姿を遠目で捉えた

 

「お世辞でもそう言ってくれると嬉しいよ。……はぁ、すまんがアイツ達にお説教してくるわ」

 

 赤くなった顔に悟られないよう身体の向きを調整しつつ返答すると、四人を追って施設外へと向かう

 

 

 

 施設を出て人気の無さそうな場所に向かうと、五人を見つけたので乱入する

 

「ここに風撃を望mグホッ?!」

 

 散々ボコボコにした後、檜山が炎弾を撃つが、ギリギリで南雲が避け、避けたのを見計らって斎藤が魔法を放とうとするが、寸前で蹴り飛ばされた

 

「なっ?!」

 

「懲りもせずによくやるな? お前ら」

 

 その声に四人は憤怒の表情を浮かべ、ハジメは乾いた笑みを浮かべる

 

「てめぇ!」

 

「大丈夫かハジメ?」

 

「あはは、いつもありがとう浩介君」

 手を貸して起き上がらせると、敵対心むき出しの四人と相対する。

 

「ハジメのついでにお前も訓練つけてやるよ」

 

 邪魔をされてか、青筋を浮かべて剣を構える檜山たち

 

「安心しろ……峰打ちにしといてやる」

 

「両刃だから峰打ちできないよ浩介君?!」

 

「何やってるの!?」

 

 今にも飛びかかりそうな檜山だったが、怒りに満ちた白崎さんの声が響くとビクリッと直立になった

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

 と弁明しようとしたが、南雲の様子を見て「南雲君!」と駆け寄る。檜山達のことは頭から消えているようだ

 

「特訓にして、随分と一方的みたいだけど? 浩介が止めてなかったらもっと酷いことをしていたんじゃないかしら?」

 

「いや、それは……」

 目を泳がせて必死に言い訳を考えているようだが……

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

 

「次こんな事やってたら容赦しねぇからな?」

 

 二人からのお説教の言葉を受けた四人は愛想笑いをしながら逃げていった

 

「ふぅ……両刃だったの忘れてたぜ。助かったよ雫」

 

「本当に走ってきて正解だったようね」

 

 し、雫さん? 冗談ですよ?! 

 

「いつもこんな事されてたの? それなら私が——-」

 

「そんないつもってわけじゃないから! 本当に大丈夫だから気にしないで!」

 

「俺と浩介で殴り込みに行くか……文字通り」

 

「乗った!」

 

「乗らないで! 二人も大丈夫だから!」

 

 慌てるハジメに顔を綻ばせていると、その空気をぶち壊す一言を天之河が投下する

 

「……だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

「い、いや光輝? ハジメは俺達と特訓を……」

 

「それは龍太郎と浩介が誘っているからだろ? 俺が言ってるのは自主せ—-」

 

「はいはい。もう訓練が始まるから行こうぜ」

 

「浩介! 俺の言葉を遮らないでくれ。俺は南雲のために……」

 

「天之河……行くぞ?」

 

 かなり不機嫌そうな天之河だったが、香織と雫が説得する事で仕方ないといった感じで移動する

 

 もちろん遅れて軽く怒られた

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 いつも通りの訓練が終わると、メルド団長から呼び止めがかかった。いつもなら自由時間で、いつものメンバーを集めて特訓をするのだが、今日は違うようだ

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まあ、要するに気合い入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では解散!」 

 

 

 そろそろだと思ってたら明日かよ

 




次の話は今夜にも上げると思います

なんなら一気に奈落のとこまで勢いで書くか……


それではまた次の話で会いましょう!



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前夜の二人

忙しくて遅くなってすいませんでした。リメイク前と一緒にしようと思ってたから一日で書き終わると思ってたら終わらなかった……

すいませんでしたぁ!

下手っぴだけど許してヒヤシンス!

それでは、どうぞ!


 浩介含めたクラスメイト達(愛子先生以外)は、メルド団長と騎士団員複数人達と共に、【オルクス大迷宮】前の宿場町【ホルアド】へと到着した。着いて直ぐに迷宮へ向かうなんて事にはならず、自由時間に少し町を観光した(ぶらついた)後、新兵訓練によく利用されるらしい王国直営の宿屋で泊まる事になった。

 

 

 

「はぁ……」

 

 明日からは早速、大迷宮に挑戦する事になるので、風呂に入り次第ベッドへ横になったのだが未だ眠れずにいた。

 

「はぁ、まだ悩んでんのか俺は……」

 

 悩み(・・・)というのは明日ハジメの身に起こる出来事、仲間の裏切りで奈落の底へ落ちてしまうという事件。

 

 ……俺ならそれを止める事ができる。しかし、そうすると俺たちやトータスの世界にいる住人だけでなく元いた世界まで終わりを迎える。だから俺は原作通り友達を見捨てる事にした。だが、

 

 もしかしたら原作通り奈落の底へなんぞ落ちなくても(エヒト)を倒す事ができるかもしれない

 

 

 もし、俺が転生するにあたって貰える筈だった特典を[王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)]なんてチート級の物にしておけば悩まずに済んだかもしれない

 

 

 もし、ハジメと友達になんてならなかったら……こんな、悩んでいなかったかもしれない

 

 

 こーすれば、あーすれば……と、次々に出てくる数々のIF(もしも)、身体を動かせば落ち着ける。そう考えた俺は剣を持って外へ行こうとした……その時、微かに扉をノックする音が聞こえた。どうやら隣部屋のようだ

 

(……あぁ、香織か)

 

 向かいの部屋がハジメだった事を思い出した俺はどうするか迷った結果、邪魔をしたくはなかったので剣をベッドに放る。何かしら別の事に意識を向けたかったので、装備を点検する為に一つずつ武器を置いていく

 

 やっとで装備を全て広げ、手前の苦無を持った所で扉をノックする音が響く。今度は隣ではなく俺の部屋だ……恵里ならば3回連続ノックをするか、カチャカチャと強引にピッキングしようとする筈なので候補から除外しておき、もしかして龍太郎か? と思いながら装備の片付けをする

 

「浩介、起きてる? 私よ。ちょっといいかしら?」

 

 そんな声に、なんで雫が? と、驚きつつも、慌てて扉に向かう。鍵を急いで開けると、そこにはネグリジェに、カーディガンを羽織っただけの雫が立っていた。

 

「……嘘やろ」

 

「……へ?」

 

「何でもない、いいから入ってくれ」

 

 俺の一言に首を傾げている雫。取り敢えず廊下に長居させて万が一にでも他のクラスメイト(男)達に雫のヤバイ格好(ネグリジェ姿)を見せる訳にはいかないので、極力見ないようにしながら急いで部屋の中へ招きいれる。

 

「お、お邪魔します」

 

 少し落ち着かない様子ながら部屋に入っていき、雫は窓側にあるテーブルセットへと座った。

 

 何も出さないのは良くないかと思い、美味い物ではないが紅茶もどきを自分と雫の分を作って差し出す。そして、反対側の席へと座った

 

「ありがとう」

 

 そう言って紅茶を受け取り口を付ける雫。月明かりに照らされる純白の彼女はとても美しかった。ずっと見ていたい気持ちをなんとか押し殺し、話を促す

 

「それで、こんな夜遅くにどうした?」

 

 浩介の質問に対して返ってきたのは沈黙だった。顔を俯かせているので表情は読めないが、何となく怯えているように見えた

 

「……雫、大丈夫か?」

 

 一週間前の実戦訓練で魔物を倒した日の夜も精神的に参った状態だったが、今はその時以上かもしれない。どうしようかと迷った結果、頭を撫でようかと手を伸ばし———

 

「浩介は死なないわよね?」

 

 その言葉と共に俺の手は掴まれ、キツく握り締められる

 

「は? ……いやいや、死ぬわけないだろ?」

「絶対?」

「え? お、おう」

「本当の本当に?」

 

「……ま、待て、一旦落ち着けって。メルド団長も言ってたが今回挑むのは20階層まで、俺たちが心配するような事は何も——-」

 

「だって! 夢で、浩介は……」

 

 雫からの質問の連続にたじろぎながらも落ち着かせようとするが、聞く耳を持ってはくれない。だが、何故こんなにも様子がおかしいのか……その原因は分かった

 

 

「ほら、落ち着けって……」

 

 右手は拘束されているので、仕方なく左手で頭を撫でる。ぶつぶつと呪文の高速詠唱をするかのごとく何かを呟いていた雫は一瞬の硬直の後、頰を赤く染めて沈黙する。

 

(頭を撫でた時の反応が猫っぽくて可愛いんだけど……喉を撫でたりしたらゴロゴロとか言ったり……いや、やらないけどっ!)

 

 何となく良さげなタイミングで手を止める。「あっ……」と、心なしか名残惜しそうにしている雫に罪悪感が湧き上がるが、構わず問いを投げる

 

「……どうだ?」

 

「ごめんなさい。落ち着いたわ」

 

「そりゃ良かった。それじゃあ悪いんだが、さっき言ってた夢って何のことだか教えてくれるか? 無理はしなくていいからな」

 

 せっかく笑顔になり始めていたのだが、俺の思った通り(・・)が原因のようで少し暗い表情になるが、今度はしっかりと話してくれた

 

「さっき少し眠ってたんだけど……その、悪夢を……ね」

 

「悪夢?」

 

「うん。え……とね、浩介が暗闇の中で戦ってて……でも、全然敵わなくて……それで……最後……」

 

(成る程な、俺はそいつに殺されたってのか? ……つーか暗闇の中で戦うってベヒモスじゃねぇよな? アイツは全員で相手してた筈だし——-て、今はそれより)

 

「それ以上はいい。嫌なこと思い出させちまったようですまんな」 

 

「……謝るのは私の方よ。その、ごめんなさいね。こんな時間に話を聞いて貰っちゃって……しかも、取り乱して迷惑かけたと思うし」

 

「別に、俺でも香織にでもいいから頼れとか甘えろって言ったの俺だしな。迷惑だなんて思ってないよ」

 

「———うん、ありがとう」

 

「ほら、明日は早い……のかは知らんが早く部屋に戻——」

 

 雫の笑顔に見惚れたのと、お礼を言われた事で顔が赤くなったのを隠そうと目線を横にズラした隙に雫はベッドへ座っており、こちらに手招きをしてきた

 

「浩介、此方に来て」

 

「いや、だから——「浩介、甘えていいん……だよね?」……分かったよ」

 

 反論の余地さえ与えてくれないらしい……有無を言わさぬ笑顔に諦めを込めた返事をすると、隣へ渋々座る。どうすればいいのか困っていると、膝に重みが加わる。

 

「寝づらい……」

 

「なんで膝枕? てか、文句言うなら乗せなきゃいいだろ……」

 

「……」

 

 俺の言葉を無視した雫は、右手を掴んで頭に持っていくと「撫でて」と言ってくる

 

「普通は女の子が男にやるもんじゃないの? 膝枕……いや、やって欲しいって訳じゃないんだけど——」

 

「それじゃあ次は浩介の番ね?」

 

(俺の番って何?!)と驚いているのも束の間、身体を起こした雫は流れるように俺の事を引き寄せると、自分の膝へ俺の頭を乗せた

 

 

(え、なんで膝枕されてるの? てかヤバイ……柔らかいし、いい匂いっていうか……)

 

 こんな状況だけに嬉しさやら羞恥やら色んな感情が押し寄せてきて焦っていた俺は次の一言で落ち着きを取り戻し、それと共に嫌な汗をかいた。

 

「浩介も悩みがあるんでしょ?」

 

「……は? え、いやいや無いって」

 

「本当?」

 

「いや本当だって、何でそう思うんだよ?」

 

「だって浩介が嘘つく時は私と目合わせないし、右手隠そうとするもの」

 

「え、マジ?」

 

(目を合わせないのは恥ずかしいからなんだけど、右手を隠すっていうのは初めて知った)

 

「ええ、今だってそうじゃない?」

 

「——よく分かるな……本人も知らない癖のことなんて」

 

「長い付き合いだもの……それに」

 

「それに?」

 

「そ、それよりも浩介の事が先よ……私でも力になれるかも知れないし、話してみて」

 

 真実を話すことはできないので、それらしい理由を考える。力になりたいと言ってくれた彼女には申し訳ないが、誤魔化すことにした

 

「…………俺の技能で直感ってのがあるだろ?」

 

「浩介が危機察知能力が高くなるって言ってた?」

 

「まぁ、超大雑把に言うとそうだな。その技能のせいで嫌な予感がしてたから気になっててな……明日の大迷宮の件だが、心配する事ないって言ったが、出来る限り注意だけはしておいてくれ」

 

「……分かったわ」

 

「よし、それじゃあ早く部屋に戻れ。香織が心配してるんじゃないか?」

 

「そうね……おやすみなさい」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 別れを済ませ、ベッドへ横になった俺が寝付けたのは数時間後だった。

 

 




さて、次は迷宮ですね

なんかアンケートでの恵里人気ヤバイなぁ。次の話では出番ありますよ!

それでは!


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トラップ

遅れてすいません

お気に入りが増えてくれて嬉しいです!う〜んヒロインにシアはいらないのかなやっぱり……とか思ってきた今日この頃


さて、それではどうぞ!


 次の日、浩介が起きたのは集合時間30分前と普段よりも遅い時間だった。念に念を入れて装備を今一度だけ確認していると、想像以上に時間が掛かってしまい、宿屋の朝飯を味わう事なく急いで口に詰めて集合場所であった広場へ向かった

 

 

 

 

「おはよう雫」

 

「おはよう……て、どこ行ってたの?」

 

「……今さっき起きたばかりで走ってきたんだよ」

 

「あ、ごめんね? 昨日お邪魔しちゃったから——」

 

「問題ない」

 

 急いだ甲斐あって何とか間に合った浩介は近くにいた雫に挨拶をする。どうやら俺の不在に気が付いていなかったようだ

 

「よし、全員揃ったな?」

 

「……あれ、そういや遠藤——」

 

「先に言っておきますが、いますからね〜メルド団長!」

 

 もはや定番となり始めた「あれ、遠藤いなくね?」という流れを断ち切るべく、メルド団長の目の前へ素早く移動して大きめの声で割り込む

 

「安心しろ浩介! お前がいた(・・・)事は分かっていたぞ!」

 

「……そうですか、また俺がいない感じで話が進むのかと」

 

(え、いたって……俺今来たばかりなんだけど……)

 

「お前はいつも集合10分前には来ているからな! 

 よし、それではこれより【オルクス大迷宮】での実戦訓練を開始する。今回挑戦する階層の魔物はお前たちからすれば弱すぎるくらいだと思うが、油断と慢心だけはするな! もし、仲間がピンチになったら皆んな助け合うんだ、どんなことがあってもな、いいなっ!」

 

 メルド団長のいつになく真剣な表情と言葉に、全員が気を引き締めて返事をすると、満足そうに頷いた。

 

「では、行くぞ!」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 初めて入った迷宮の中は予想よりも明るい方だった。といっても奧まで見渡せるわけではなく、壁に埋まっている鉱物のおかげでぼんやり見える程度だ。通路の広さ的には龍太郎二人分くらいなので、剣を振るうには支障ない

 

 辺りを観察しながら指示された隊列を組みながら進んでいると、少し広めのスペースに出た。ドーム状の場所で天井の高さは倍程度はありそうだ。

 

 メルド団長の反応と、直感が何か(・・・)の存在を察知したので、腰の剣に手をかける。すると、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 天之河を含めた7人が相手をするらしいので、剣にかけていた手を離して大人しく戦闘を見る。ラットマンと呼ばれたネズミマッチョな魔物が結構な速度で飛びかかってくると、前衛組の天之河、雫、龍太郎が相手をする。

 

 まずは天之河だが、勇者らしく光属性の性質が付与された"聖剣"と呼ばれるテンプレートなアーティファクトを振るって纏めて葬っている。

 

 龍太郎の天職は”拳士”なので、籠手と脛当てを装備している。これも衝撃波を出すことができるアーティファクトで、本人は「アニメキャラみたいで格好良くね?」とか言っていたが、ちゃんと俺の教えた"八極拳"を駆使して迫りくるネズミ共を流れるように吹き飛ばし、潰している。

 

 最初はラットマンが気持ち悪いらしく、引き攣った表情だった雫も奮闘する二人の姿に気持ちを切り替え、八重樫流の抜刀術や剣術で敵を次々に切り裂いていく。相変わらずの洗練された動きと、美しい太刀筋にガン見をしていると、後衛組の詠唱が響き渡る。

 

「「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ──〝螺炎〟」」」」

 

 鈴、恵里、香織、後輩女子(一之宮楓(いちのみやかえで)というらしい)の四人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

「優秀過ぎるのも困りもんだな」と苦笑いしながらも控えている俺たちに気を抜かないよう注意するメルド団長。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 付け足すように言ったメルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめている。

 

 

 それから何事もなく順調に進んでいき、ついに俺とハジメにも魔物を倒す順番が回ってきた。俺とハジメの二人だけな理由としては単にあぶれたってだけだ

 

「それでは次の二人組は前へ!」

 

「はい、そんじゃハジメ……作戦通りで」

 

「うん」

 

 ハジメに一言そう伝え、犬型の魔物4匹と相対する。ハジメはというと、後ろで地面に手を付いて錬成の準備をしている。

 

「グルルルッ」

 

 まず1匹目が俺を無視して後ろに控えているハジメに駆けて行こうとしたので、右へ横一閃して真っ二つにする

 

「「ガルルッ!」」

 

「ハジメは左頼む」

 

「分かった!」

 

 流石に浩介の存在に気がついたらしく、次は左右同時に2匹が襲い掛かってきた。左をハジメに任せて錬成で足止めして貰っている隙に口を開けて噛みつこうと突っ込んできたもう1匹の顎を蹴り上げ、無防備に宙に浮いた所を縦に一閃して殺し、錬成で動きを誘導されて真っ正面から突っ込んできた1匹も同様に殺す

 

「ハジメ、コイツの動き止めるから埋めてくれ」

 

 残り1匹の攻撃を避けつつハジメにそう伝えると、柄頭を犬型の頭に振り落ろして地面に叩きつける。痙攣しているのか動けない所を錬成で埋めて更に動きを封じる

 

「ハジメって短剣持ってたよな?」

 

「うん、この調子だと使わなさそ——「いや、コイツ埋まってるだけだから殺らないと駄目だろ? ハジメが(・・・)」あ、うん」

 

 何となく察したようで、ハジメは腰に装備していた短剣を抜いて犬型の喉笛を切り裂いて倒した。

 

「メルド団長、終わりました」

 

「う、うむ……良い錬成の使い方だったな! 浩介も見事だ。よし、下がって魔力回復薬を飲んでおけよ! 全員終わったら次の階層に進むからな!」

 

 苦笑いをしつつもそう言ってくれたメルド団長に礼をして列に戻る。今の倒し方を不満そうに思っている奴がいるのを横目に最後尾に向かった。そこには……

 

「やっほ〜」

 

 なぜか、えりがいた

 

「何で此処にいんの? お前」

 

「だって次の階層に進むまでは自由にしてて良いってメルド団長が言ってたんだもん」

 

「雫とか香織、鈴がいるんだがら三人と——」

 

「鈴ちゃんとは昨日いっぱい話したしぃ、香織ちゃんは南雲君ウォッチングに夢中でしょ? 雫ちゃんは昨日の夜、浩介君を独り占めしてたんだから今ぐらい良いでしょ?」

 

(ハジメウォッチングって……確かに香織の視線はハジメに一点集中だけどさ——え、てか何で知ってんの?)

 

「あれ、もしかして昨日の夜いたの? ど、何処に?」

 

 昨夜のことを思い出そうと記憶を辿る。確かに雫を部屋に招き入れた時の廊下は誰もいなかった。扉の前にいたとしたら直感で分かる筈……分かるよな? 

 

「僕はただ、不安に怯えるフリして色々と慰めて貰いに行こうとしてたら香織ちゃんと雫ちゃんの二人が部屋を出ていったからバレないように着いて行っただけだから……ナニしてたかは分からないよ?」

 

「お、おまっ!? そういう(アッチ系)話は止めろって言ったよな? 怒るぞ?」

 

「はいはい、それで昨日は何か進展あった?」

 

「……特に何も」

 

 ニヤニヤとからかうように聞いてきた恵里だったが、浩介の返答を聞くと呆れたようにため息をつく

 

「そ、そんな話よりも……ちょっと頼みたい事があるんだが——」

 

「……?」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 二十階層まで進むと、メルド団長に「浩介、お前も前に出ろ」と言われたので、勇者パーティーと合流することになった

 

 後衛の四人に「よろしく〜」と、軽く挨拶すると、前衛である三人の隣へと並ぶ

 

「頑張りましょ、浩介」

 

「おう」

 

「よろしくな!」

 

「おう、守りは任せたぜ」

 

 龍太郎からの「おうっ!」との力強い返答を聞き、正面に向き直る。「遠藤、俺は——-」と、何かを言いかけた勇者の言葉はメルド団長の「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」という馬鹿でかい声にかき消された

 

「グゴォァッ!」

 

「ぐぅおっ?!」

 

 龍太郎がロックマウントの剛腕を何とか受け止め、三人で反撃をしようと接近した瞬間、急に後ろへ下がると仰け反りながら大きく息を吸った

 

「──っ?!」

 

「グゥガガガァァァァアアアア────!!」

 

 直後、部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 浩介は直感のおかげでギリギリ離脱することができたが、三人は直撃を食らってしまったらしく、麻痺でもしたかのように硬直してしまった。

 

 ロックマウントはその隙に、傍らにあった岩を投擲する。迫る岩を迎撃をしようと杖を向け、魔法を発動しようとした香織達だったが、目の前の衝撃的光景に思わず硬直してしまった。

 

 

 何故ならば飛んできている岩……否、それは岩ではなくルパンダイブで突っ込んできているロックマウントだったからだ。心なしか顔がデレデレしている

 

 詠唱を止めてしまった香織達では対処できないと判断した浩介は技能を使って壁を走り、飛んでいるロックマウントの首を落とした

 

 さきほどまで、「いやぁぁぁ! 変態ぃぃ」とか騒いでいた香織達は別の意味で「ヒィッ?!」と悲鳴をあげた

 

「貴様、よくも香織達を……許さない!」

 

 香織たちの悲鳴を勘違いした天之河が怒りをあらわにすると聖剣が輝き出す

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──"天翔閃"!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルド団長の静止を聞かずに発動したその技は、後方のロックマウントを真っ二つにオーバーキルし、奥の壁を破壊し尽くした

 

 殺りきったぜ! と清々しい顔をした天之河にメルド団長は近付いていき、思いっきり拳骨をした

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうするんだ!」

 

 メルドの言葉に「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪をした天之河。そんな落ち込んだ様子の彼を後衛組が近づいてきて慰める

 

 ふと、香織が崩れた壁の方に目を向けた

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。その美しさに香織を含め女子達は夢見るように、うっとりした表情になった。

 

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい

 この鉱石は加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としても人気だ」

 

 

「素敵……」

 

 と、香織がチラッとハジメの方に視線を向けている。それをニヤニヤ見守る雫と恵里、鈴だったが、その三人をヤレヤレと眺めていると、目が合い、全力で反らされてしまった。why? 

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 ハジメと香織を見た檜山は「チッ」と舌打ちをすると、グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと壁を登っていく

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 その注意を聞いてないフリをして無視を決め込むと、まるで猿のようにどんどん登っていく

 

 すると、トラップがないか探っていた団員は顔を青ざめさせて叫んだ

 

「団長! トラップです!」

 

 しかし、騎士団員の警告もむなしく、檜山は鉱石に触れてしまった

 

 その瞬間、部屋全体に魔方陣が広がった。魔方陣は徐々に白く光輝いていく

 

「くっ、撤退だ! この部屋から急いで出ろ!」

 

 メルド団長の叫び声もむなしく、誰一人として間に合わず、一瞬の浮遊感の後、地面に叩きつけられた

 

 その場所は石造りの橋の上で、俺達の位置はちょうど中間で、両サイドには奥に続く通路と上階への階段が見える

 

 それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 ──まさか……ベヒモス……なのか……

 

 




さてさて、次はベヒモス戦です!あ、そういえばTwitterやってるのでフォローしてくれると嬉しいです

それでは次の話でお会いしましょう!

ではでは


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ベヒモス

遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした!!

お気に入り500件以上もありがとうございます!!

Twitterフォローして下さった方もいて嬉しかったです。

時間をかけた割に下手くそですが、どうぞ!!


 正面の通路からは古代生物のトリケラトプスを彷彿とさせる巨大な体躯と二本の長い角をもった魔物"ベヒモス"が巨大な魔法陣から出現し、背後の通路からは剣を持ったスケルトン型の魔物が次から次へと生み出されている。

 

グルァァァァァアアアアア!! 

「ッ!?」

 

 呆気にとられていたメルド団長はベヒモスの咆哮で正気に戻ったようで、矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も——」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と持ち前の正義感を発揮して踏み止まり抗議する天乃河。

 

 どうにか撤退させようと、再度メルド団長が説得しようとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは全員轢かれてしまう。だが、そうはさせまいとメルド団長達が多重障壁を張る

 

 

「「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず──〝聖絶〟!!」」」」

 

 詠唱が終わると純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ、それと共に凄まじい衝撃波が発生し、橋全体が大きく揺れる。

 

 

「ッ!?」

 

 アランの指示に従い骸骨型の魔物(トラウムソルジャー)を相手取っていた浩介は突如起こった地震のような揺れにバランスを崩しかけるが何とか踏み止まる。しかし、他の生徒たちは突然の揺れに対応できなかったらしくあちこちから悲鳴が上がり、転倒している者が続出する。

 

 何とか戦っていたクラスメイト達も再現無く湧いてくる無数の敵と後ろから迫る強大な敵の気配に戦意を無くしてしまう者が現れ始め、その恐怖は瞬く間に伝染していく。ついにはアランの指示を聞かずに悲鳴を上げて我先にと階段へ向かってがむしゃらに進んでいってしまう。

 

 

 その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまう「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前では一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

 そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 

 死ぬ──女子生徒がそう感じた次の瞬間、キィィンッ! という甲高い音と共に剣は弾かれ、同時に衝撃で体を仰け反らせたトラウムソルジャーの頭部が斬り飛ばされた。

 

「ッ……?」

 

 来るであろう衝撃に目を瞑っていた女子生徒は恐る恐る目を開け、次の瞬間、死の恐怖は驚愕や困惑といったものに変わった。それもそのはず、自分を殺そうとしたトラウムソルジャーは勿論、近づいてきた数体も同じように次々と首を跳ねられ倒されているからだ。

 

「な、何が……?」

 

「怪我はな——」

 

「ひゃっ?! え、この声は……遠藤君?!」

 

「……おう、怪我はないか?」

 

 浩介は何となく分かっていた反応に少し肩を落としながらも倒れたままでいる園部の手を引っ張り立ち上がらせる。

 

「……うん」

 

「よし、なら早くアランの指示に従って移動してくれ。

 ……大丈夫だ、冷静になればこんな骨共どうって事ない。危なくなっても絶対に助けるから頑張れよ!」

 

 言い切ると足早に去って行く浩介を呆然と眺めていた彼女は、次の瞬間には「よしっ!」と気合を入れるとナイフを取りだし、戦闘に加わった

 

 

 自分の特性である影の薄さと派生技能である《気配遮断》を駆使して出来るだけ多くのトラウムソルジャーを斬りつつ辺りを見渡す。

 

 誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは最悪、味方の武器や魔法で負傷する……なんて事もありえる

 

「早めにハジメを行かせたし心配はないだろうが……天之河(アイツ)が来るまでは何とか耐えるしかないよな」

 

 

 

 

「天之河くん!」 

「なっ、南雲?!」

「南雲くん!?」

 

 驚いている一同にハジメは必死の形相でまくし立てる

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「いきなりなんなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて——」

そんなこと言っている場合かっ! 

 

 ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

 

あれが見えないのか!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ! 

 

 光輝の胸ぐらを掴みながら指を差す南雲。

 

 その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

 

一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけだろ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見ろよ! 

 

 呆然と、混乱に陥り、怒号や悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

 

「メルド団長、すいませ——」

 

下がれぇ──! 

 

 先に撤退することを言おうとした瞬間、メルド団長の悲鳴のような叫びと共に障壁は砕け散った

 

 

 

 

 何かが砕け散る音と共に先ほどの揺れと同様に起こった凄まじい衝撃と嫌な予感を感じ、ベヒモスの方に目を向ける

 

 障壁は砕け散り、メルドと護衛3人は吹き飛ばされたのか横たわっている。その中でもメルド団長は直撃を喰らったのか見るからに重傷だ

 

 焦りながらも香織をメルド達の治療へ行くように指示を出した天之河は大技を出すための詠唱を開始し、その間は雫と龍太郎が時間を稼ぐためにベヒモスへ突貫している。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ! ──〝神威〟!」

 

 

 詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。放たれた凄まじい光の暴力は橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

 

 龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱しているので巻き添えを喰らう事はない。だが、ギリギリだったようで二人共ボロボロの満身創痍だ。この短い時間だけで相当ダメージを受けてしまったようだ。

 

 現在の光輝に出せる必殺の一撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「はぁはぁ、だといいんだけど……」

 

 龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。流石の大技だったようで、光輝は莫大な量の魔力を持っていかれ、剣を杖代わりにして肩で息をしている。

 

 そして徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

 

 その先には……

 

 無傷のベヒモスがいた。

 

「な?!」

「嘘……でしょ」

「おいおい、冗談キツいぜ……ッ!」

 

 ベヒモスは天之河達を睨むと、頭を上げる。頭の角がキィ──という甲高い音をたてながらマグマのように赤熱化していく。それが最高に達すると同時に突進し、天之河達のかなり手前で跳躍する。

 

何してんだ早く逃げろっ! 

 

 原作で見たことのあるベヒモスの大技に、急いで駆けつけた浩介は呆然と立ち尽くし、動く気配のない三人を(乱暴になってしまったが)何とかベヒモスから遠ざける。そしてついに、ベヒモスは跳躍状態から隕石のように落下した。

 

 着弾時の凄まじい衝撃波はある程度距離を稼いだ浩介たちすらも軽く吹っ飛ばしたが、それほど影響はない

 

 ……とは言っても雫と龍太郎はベヒモスとの戦闘でボロボロ、天之河は魔力をあらかた使ってしまったので少しフラついている

 

 原作では回復が終わったメルドが此方に来る筈なのだが、相当重症なのか香織の治療が終わる様子はない。ベヒモスはというとめり込んだ頭を抜き出そうと必死に踏ん張っている

 

「動けるか? お前ら」

 

「あぁ、大丈夫だ。サンキューな浩介」

 

「……問題ない」

 

「ええ、平気よ」

 

 

 三人からの返答に「無事で良かったよ」と返しつつ、どうするかを考える。

 まずベヒモスの標的になっているのは先程’神威’を放った天之河だ。このままクラスメイト達が戦闘している所へ撤退するってのは論外だが、天之河は皆んなの道を切り開くのには必要

 

 なら、

 

「……お前ら、団長達を連れて先に行け、俺が時間を稼いでおく」

 

 浩介の言ったことが信じられないようで、三人は驚愕の表情で此方を見つめる。それも一瞬で、雫が反論しようと口を開きかけた所でハジメが駆け込んできた

 

「ハジメか……奴は俺が足止めしておくから雫達と撤退しててくれ」

 

「まって、僕に考えがあるんだ。みんなが助かるかもしれない方法が——!!」

 

 ハジメは一つの提案をする。それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただし、あまり成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を請け負う方法だ。

 

「やめとけ……危険だ」

 

「危険? だったら浩介くんも同じだよね? それに……」

 

 地面から角を抜き終えたベヒモスは既に戦闘態勢を整えており、再びキィ──という音をたてながら赤熱化を開始する。時間がない

 

「……分かった。お前ら、メルドさん達を連れて早く行け、退路の確保と援護は任せたぞ」

 

「おう、任せろ! お前らも頼んだぜ!」

 

「あぁ、みんなの道は俺が斬り開く!」

 

「浩介……」

 

「後で会おうぜ」

 

 今にも泣きそうな雫に手をひらひらさせながら一言そう返すと、まずはベヒモスの興味を引く為に簡易魔法を放つ。どうやら成功のようで、天之河たちに向いていた視線は真っ直ぐに浩介へと向けられている。

 

 赤熱化を終えたベヒモスは兜を掲げると突撃、数メートル手前で跳躍する。大質量が急降下してくるが、それをギリギリまで引きつける為に目を凝らしてタイミングを見計う。そして、激突の寸前に[+幻踏]を使って残像を残しつつバックステップで離脱する。

 

 直後、ベヒモスの頭部が一瞬前まで浩介がいた場所に着弾した。発生した衝撃波の影響で強く吹き飛ばされ、同時に弾丸のような速度で迫りくる石礫が腕や脇腹、太もも等を掠め、直撃する。だが、頭などの急所はガードしていたので多少の怪我は問題はない

 

 再び、頭部を地面へと思い切りめり込ませているベヒモスへとハジメが飛びつき、〝錬成〟を発動する

 

 石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

 

 ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。

 

 

 ハジメが錬成で時間を稼いでいる間、光輝たちはクラスメイトたちに呼びかけ、着々と撤退のための道を確保していく。回復したメルド団長も加わり、ついに階段前を確保する事に成功する。

 

 

「ぐっ……メルドなら魔法で上手くやったんだろうけどな」

 

 バックステップで回避したのはいいが、その時に飛来してきた無数の石礫によって腕や足などを含めた他数カ所に打撲などのダメージを負ってしまった。

 苦痛に顔を歪めつつ立ち上がると回復薬を飲みながら場を見渡す

 

 

 雫や龍太郎たち前衛組はトラウムソルジャーを寄せ付けず、後衛組は遠距離魔法の準備に入っている。ハジメは錬成でベヒモスの足止めを続け、離脱の機会を伺っている。

 

「なっ……クソッ!!」

 

 巻き添えを喰らわぬように雫達のいる通路側へ撤退しようとする。が、足が縺れたのか、地面に倒れ伏すハジメを視界に捉えた浩介は全身が痛むのも構わずハジメの元へ走り出していた。

 

 

 

「あ、足が……早くッ……殺され——」

 

 魔力の大量消耗と急に動いた事が原因で転倒してしまったハジメは焦りや恐怖といった感情により腰が抜けてしまって立ち上がれない。

 

 そうモタモタしているうちに地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮を上げながら抜け出した。そして、鋭い眼光が視界にハジメを捉え——

 

「……ッ!! 危ねぇッ!」

 

 ハジメまでの距離をたった一歩で縮め、角を振り下ろす……が、直撃する前にハジメは浩介が抱えて離脱していた。

 

 仕留めきれなかった事で、再び怒りの咆哮を上げるベヒモス。二人を追いかけようと四肢に力を溜めた。

 

「よくやった浩介ッ! 魔法組、撃てぇぇ!!」

 

 だが、次の瞬間、メルドの馬鹿でかい声と共にあらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

 

 夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

 

 このまま行けば自分だけでなくハジメも助けてしまう。それでは強力な兵器も神水も手に入らず、ユエやシア、ティオなど仲間になるはずの者達までいなくなってしまう。そうなるとエヒトに対抗でき——

 

「浩介くんのおかげで助かったよ、ありがとう!」

 

「……ッ、当然だろ友達なんだから」

 

(違う……俺はただ、お前が死んだらエヒトに対抗できないから助けたんだ。昨日までお前を見捨てるつもりで——)

 

「浩介くん!」

 

 ハジメの必死の呼びかけにハッとした時には既に遅く、二人の進路上に火球が軌道を曲げて飛んでくる

 

(避け……)

 

 どうにか避けようとしてみるが、健闘虚しくその火球は浩介の身体に突き刺さる。着弾の衝撃をモロに浴び、引き返していくように吹き飛ばされる。直撃はしていなかったが、目が回りフラフラする。どうやら平衡感覚が狂ったらしい

 

 立ち上がれないでいると、ハジメが手を貸し手伝ってくれた。二人してなんとか前に進もうとする。だが……

 

 ベヒモスも、いつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。背後で咆哮と共にキィ──! と鳴り響く。三度目の赤熱化をしたベヒモスは二人に狙いを定める

 

 そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながら突進する! 

 

 直撃だけは避けようと、ハジメの背中を押し、先に離脱させてから雫たちを離脱させた時のように[+幻踏]を使って残像を置いて持てる力全てを使って全力で飛び退いた。

 

 直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走り、メキメキと悲鳴を上げる。

 

 そして遂に……橋が崩壊を始めた。

 

「グウァアアア!?」

 

 悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

 

 なんとか逃げようと地を蹴ろうとするが、既に足場は崩れ落ちて無くなっている

 

(クソ……こんな所で……)

 

 そう思いながらクラスメイト達の方へ視線を向けると、香織と雫が飛び出そうとして光輝や龍太郎、恵里に羽交い締めにされて止められているのが見えた。他のクラスメイト達は表情が青褪めていたり、目や口を覆ったりしている。

 

 

 涙ながらに手を伸ばす雫に、届くはずのない手を伸ばしながら浩介の意識と姿は奈落の闇へと消えていった。

 

 




さて、次の話は早ければ今日中に、遅ければ来週には投稿したいです!!(願望)

Twitterの方で進行状況とか出してるので良ければフォローのほどお願いします!!

雫可愛いいぃ!!


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奈落の底での死闘

どうも!徹夜で何とか書き切れました!!

少しアレかな?と思いつつも脳死+徹夜明けのテンションで投稿!!

ちょいグロあるので気を付けて下さい。そんなですけど


それでは、どうぞぉ!!


「う、うぅ……此処は?」

 

 起きた時に感じた事はとにかく'寒い'という事だった。それもそのはず、俺の下半身がどっぷりと川の中に浸かってる状態で、更には上半身も濡れてしまっている。

 

 はっきりとしない意識の中、川から這い出た俺は少し先に人型の何かが打ち上げられているのを発見する

 

 ……ハジメだ

 

「ハ、ハジメ……ッ」

 

 急いで駆け寄ろうとするが、足が思うように動かずバランスを崩してしまった。といっても地面にぶち当たる前に手を付いたので怪我はない

 

 ヒョコヒョコと不格好になりつつ側まで寄ると、脇に手を挟み込んで引き上げる

 

「おい! 大丈夫か?」

 

 頬を軽くペチペチと叩きながら呼びかけると、「うっ」と呻き声を上げてハジメは目を覚ました。

 

「浩介……くん?」

 

 まだはっきりと意識が覚醒していないようで、ボーとしているが次の瞬間には驚きの表情と共に俺の名前を呼ぶ

 

「……はぁ、一先ずは安心したよ」

 

「浩介くんも無事で良かっ——(つぅ)ッ〜、ここは……」

 

 ハジメはふらつく頭を片手で押さえながら、記憶を辿りつつ辺りを見回している

 

「ベヒモスのせいで橋が崩落して、俺たちは奈落の底に真っ逆さまってわけだが、そこん所は覚えてるか?」

 

 そう質問しつつ、最後に「ま、その後のことは知らないんだけどな」と付け足す

 

「覚えてる……確か——ずっと落ちていくと崖の壁に穴があったんだ。そこから水が噴き出てて……そこからは何処かに体を打ち付けて意識が飛んじゃって分からない……」

 

「……俺なんて真っ先に意識無くなってたのに凄いな」

 

「いや、それは多分だけどダメージ量の差じゃないかな? 浩介くんボロボロだったし——は、はっくしゅん! ざ、寒い! こ、浩介くんは寒くないの?」

 

 ガタガタと震えながら手をすり合わせると、気になったのかそんな事を聞いてくる

 

「えーと、あれだ。八重樫道場の門下生達は特殊な訓練を受けていますって言えば分かるだろ?」

 

「……え?」

 

「とはいえ流石にこのままだと低体温症になったりする危険性も……よし、ハジメ服を脱いでくれ。パンツは……いいかそのままで」

 

「ええっ?!」

 

 服を脱ぎつつそう言うが、何故かハジメは驚いたように固まったままだ。気にせず脱いだ服を絞って近くに置き、パンツ一枚だけになると地面に魔法陣の式を刻んでいく。

 

 ペンか何かがあれば良かったが、生憎そんなものは無いので仕方なく近くに落ちている手頃な岩でガリガリと書き上げること約五分……ようやく完成した魔法陣に魔力を通して起動させる。

 

「求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、〝火種〟……ふぅ、なんとか成功したか。どうした? ハジメも来いよ」

 

 服を乾かす俺にならってハジメは急いで服を脱ぐと水を絞り出し、傍に服を並べて乾かしつつ拳大の炎に手を当てて暖をとる

 

「ふぅ、暖まる……近接戦闘も出来るのに魔法まで使えるとか……流石だよね」

 

「簡単なのしか覚えてないし、あんま覚える気は無いんだよなぁ」

 

「どうして?」

 

「ん〜、大した理由じゃないし気にすんな」

 

「ふ〜ん。それよりここどこなんだろう。……だいぶ落ちたんだと思うけど……帰れるかな……」

 

 体が温まり、気持ちが落ち着いてきたのかハジメは不安そうに聞いてくる。その目には涙を溜めて泣きそうになっているが、必死に堪えて涙を拭っている

 

「……ッ、別に泣いてもいいんだぞ? 溜めてても良いことなんて——」

 

「泣いてなんかいられない! 怖がってても何も始まらない……やるしかない。なんとか一緒に地上に戻ろう。大丈夫、きっと大丈夫」

 

 顔を上げ、何度も自分に言い聞かせるようにして決意を固めるハジメ

 

(俺は、お前を——)

 

 

 あれから約二十分ほど暖をとり服もあらかた乾いたので出発することにした。出発前に残っていた回復薬を半分ハジメに渡し、二つのことを頼んだ。最後まで了承してはくれなかったが、言わないよりはマシだ。

 

 俺が先頭となり、極力声と音を出さないようにハンドサインをしながら慎重に慎重を重ねて奥へと続く巨大な通路に歩を進めていく。

 広い通路なので全くと言って良いほど進んだ気はしないが、何よりも大事なのは敵に見つからないことだ。好都合なことに隠れる場所も豊富にあり、物陰から物陰に隠れながら進んでいった。

 

 

 

 そうやってどれくらい歩いただろうか。

 

 

 着いてくるハジメのペースが落ちてきて息が上がり始めた頃、遂に初めてとなる分かれ道にたどり着いた。巨大な四辻である。岩の陰に隠れながら、どの道に進むべきか逡巡した。

 

 しばらく考え込んでいると、視界の端で動く気配を感じ、顔を出そうとしたハジメを慌てて説得し、岩陰に身を潜める。

 

 丁度よくあった岩の隙間から様子を窺うと、俺たちから真正面となる道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねている……俺は一目でソイツが何なのか分かった。

 

 蹴りウサギだ。

 

 戦って勝てなくもないと思うが、戦闘は必要最低限にしておきたいので、直進は避けて右か左の道に進もうと決める。蹴りウサギの位置からして右から入るほうが見つかりにくそうだ。

 

 まずは俺が《+気配遮断》を使用してバレないように渡ると、ハジメはウサギが後ろを向き地面に鼻を付けてフンフンと嗅ぎ出したところで、今だ! と飛び出そうとして……

 

 その瞬間、蹴りウサギがピクッと反応するとスッと背筋を伸ばし立ち上がった。警戒しているようで耳が忙しなくあちこちに向いている。

 

 ハジメは岩陰に張り付くように身を潜めているが、蹴りウサギが反応したのは別の理由だった。

 

「グルゥア!!」

 

 獣の唸り声と共に、白い毛並みの狼のような魔物"二尾狼"がウサギ目掛けて岩陰から飛び出した

 

 そうして一体が飛びかかると、別の岩から二体めの二尾狼が飛び出すと、何処からともなく二尾狼が蹴りウサギへと殺到していく……が、その全てを敵ながら見事な蹴り技で殺し尽くしている。

 

 ハジメはどさくさに紛れて移動しようとしていたが、まさかのウサギによる快進撃で、乾いた笑みを浮かべている。「気がつかれれば死ぬ」そんなことを思ってしまい、無意識に後退る。

 

 後退ってしまった。

 

 カラン 

 

 その音はこの広い洞窟内でやたらと大きく響いた。

 

 ハジメは下がった拍子に足元の小石を蹴ってしまったのだ。あまりにベタで痛恨のミスだ。自分が蹴り飛ばしてしまった石からウサギに視線をむけると、ウサギはばっちりハジメを見ていた。

 

 ハジメは硬直して動けないでいるが、蹴りウサギは体ごとハジメに向き、足にグッと力を溜める。

 

 声を出さずに身を潜めていた俺はほんの一瞬だけ出来た隙を逃すことなく、二本の苦無を蹴りウサギ目掛けて投げつけた。

 

 

 普通は避けてしまうだろうが、生憎と俺は普通ではなく世界一影が薄いと言われる男だ。そんな男が技能と技術を合わせた投合を避けることは流石の最下層にいる魔物といえど出来なかったようで、一本目は顔面に、二本目は胴体へと突き刺さった。

 

 

 いつまでも来ない衝撃と、ドチャッという音にハジメは恐る恐る目を開ける。が、先ほどまで自分を殺そうとしていた蹴りウサギには何か黒いものが刺さっており、既に絶命している。

 

 助かった……と、安堵の表情を浮かべた次の瞬間、何かに体を思い切り吹っ飛ばされて壁へ叩きつけられた

 

「ぐ……ゴホッ! な、何が——」

 

 咳き込みながらも何が起こったの確認しようとして……何かが顔にかかっているのに気付く。それはヌメリと少し温かみを感じる赤い液体

 

 血だった。

 

 ハジメは困惑する。なにせ出血するような傷は受けていない。ならどうして? その疑問は直ぐに解決した。自分ではない他の人間……

 

「浩介……くん」

 

 そう、目の前に立っている浩介のものだった。左耳は半分切られたように無くなり、左腕の肩から肘にかけての皮や肉が鋭利な物に削がれたようになっている。筋肉と骨が剥き出しになっている様は痛々しすぎて見ていられない

 

 

「何やってんだ……こういう時は錬成使って逃げろって言って……ぐっ……」

 

 直感でハジメに危険が迫っていることを察知したが、こうするしかなかった。でなければハジメは真っ二つになり、死んでいた筈だ

 

「血がたくさん出て……ヒィィ!!」

 

 どうやら俺の体で見えなかったようで、心配して近付いてきたハジメは正面にいる爪熊の存在に気が付く

 

「おい、ハジメしっかりしろ! 早く逃げ——」

 

「グゥルァァァッ!」

 

 近くの()を食べ終えた爪熊は次の標的はお前達だと言わんばかりに唸り声を上げて迫る。

 

「グゥルァッ?!」

 

 足場が急に消え、間抜けな声と共に地面に転がる爪熊。ハッとして後ろを振り向くとハジメが床に手をついて錬成を行使していた。

 

「こ、怖いからって……逃げてたまるか! 僕だって……浩介くんと戦うんだ!」

 

 錬成でベヒモスのように足を嵌めようとするハジメだったが、これ以上魔力を消費させるわけにはいかない。と、止めるように言おうとするが、その前に直感が危険だと警鐘をガンガン鳴らす。

 

「避け——」

 

 俺が全てを言い終える前に爪の刃が三つ飛来する。一つは避けようとしたハジメの左腕を切り落とし、残りの二つの内、一つは既にボロボロで動かない左腕を落とした。もう一つは腹を掠めるだけに収まった

 

 ハジメの困惑した声と悲鳴が洞窟に響く、流石に腕が切り落とされれば俺も泣き叫びたくなる。だが、それを歯を噛み締めることで堪え、効果は見込めないだろうが多少はマシになるだろう。と、秘薬といわれている丸薬と共に回復薬を一気飲みする

 

「頼むから逃げてくれ、お前がいると……邪魔なんだ」

 

 絶叫するハジメに一言そう残し、爪熊へと突貫する。

 

「喰らえッ!」

 

 上段に構えた剣を思い切り振り下ろすが、爪の間で上手く捉えられ、そのまま喰らうつもりなのか大口を開けて噛みつこうとしてくる。

 

「……ハッ!」

 

 止められた瞬間には既に剣から手を離していた俺は素早く懐から小さな丸薬を取り出し、一つは口に落とし、もう一つは流れるように鼻へとデコピンの要領で吹っ飛ばす

 

「グゥオァァッ?!」

 

 地球と異世界二つの世界にあるものを使って作った特製の丸薬は効果があったようで、途端に苦しみ暴れだす爪熊。そこへ念のために煙玉を使って視界を奪うとその場から直ぐに逃げ出す

 

 後に残ったのは飛び散った魔物や人間の一部と大量の血、そして苦しみもがき続ける爪熊の咆哮だけが響いていた

 

 

 




浩介の落ち着きのアレは……アドレナリンと八重樫道場での鍛錬のたわものだと思って下さい!!

左腕に関しては話の成り行きと……か、格好いいかなって

すいません!!
この調子で次の話も書いていっちゃいますが、次もお楽しみに!




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再会

一週間オーバーしてしまい、申し訳ありません!!

お気に入り600いきそう!!ありがとうございます

すこーし早足風ですが、どうぞよろしくお願いします!


「早く……急がねぇ……と」

 

 爪熊との闘いから離脱した浩介は負傷した左腕に一時的な応急手当を施しながら慎重に、しかし迅速に来た場所を引き返していた

 

「クソッ、駄目だ。はぁ……はぁ……ここでやるしかない」

 

 浩介は最初に流れ着いた川へ向かっていたものの、流石に距離がありすぎて辿り着いた時には出血多量で危険な状態になると判断、しゃがむと地面に血で魔法陣の式を描いていく

 

「ぐっ……!! 求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、〝火種〟」

 

 ハジメと一緒に濡れた体を乾かすために使用した"火種"を出すと、購入したばかりの短刀を取り出し、火に当てる。

 

 浩介のやろうとしていることは焼灼止血法と言い大昔から伝わる方法で、出血面を焼コテなどでを用いて焼くことで熱凝固作用によって止血する方法である。

 

「……ふっ!!」

 

 ジュゥー

 

「ぐ、う……ああああ゛っ!!」

 

 意を決して左腕の切断面へとナイフを押しつけ……次の瞬間には肉が焼ける音と共に浩介の絶叫が洞窟に響き渡る。

 

 此処は奈落の底であり、自分よりも格上の相手がウジャウジャと存在している危険地帯だ。声を上げる事は自殺行為に等しい。だが、熱と共に引きちぎられるような猛烈な痛みに襲われ、耐えきれずに叫んでしまう

 

「…………!!」

(熱い、熱い、熱い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!!)

 

 浩介は熱さ……痛みを軽減させるためか、それとも声を抑えるためか無意識的に右腕に噛み付いていた

 

 

「ぐっ……うううぅ……!!」

 

 

 それから数分、腕に噛みついたことで幾分か楽になった浩介はチラリと左腕の切断面の様子を見る。血は止まり、うっすらと黒くて焦げたようになっている。

 

「ハァ……ハァ……痛ッ、早く此処から……離れ……ないと」

 

 薬を塗り込み、残りわずかとなった包帯を急いで巻きつつ移動を開始する。普通ある筈の左腕が無いので少し違和感を感じるが剣を振るのには問題ない

 

 

「……ッ」

 

 直感が危険を察知したようで警鈴を鳴らす。即座に剣を抜き放った浩介は左斜め上からの攻撃に剣を払うようにして合わせ、軌道を無理やり曲げて受け流した

 

「……クソッ!!」

 

 勢いそのまま壁に激突すると思われた蹴りウサギは、一回転することで態勢を整え空中を踏みしめると、再び突進してくる。声を荒げながらも迎え撃つように上段に構えた剣を振り下ろし——

 

 

 蹴りウサギの回し蹴りによって浩介の剣は折られてしまった

 

「……なっ!?」

 

 絶句してるのも束の間、またもや空中を踏みしめ隕石のように落下してきた蹴りウサギは着地をすると、どうだ! とでも言わんばかりに鳴き声を上げ、耳をファサッと前足で払う。

 

「キュ!」

 

「……完全に舐められてんじゃねぇか」

 

 折れてしまった剣を捨てると、短剣に持ち替え——

 

「……あ」 

 

 が、体は俺の意思に反して動いてくれない。それどころか目の前がぼやけて見え、いつの間にか俺は地面へ倒れ伏していた

 

(体が……血を流しすぎたのか? 意識が……死……)

 

 薄れゆく意識の中、『少し手をかそう……俺』という声を最後に浩介は意識を闇へと落とした

 

 

 ——————————————————————————

 

 

 

 あれから数日、蹴りウサギに殺されたかに思われた浩介は生きていた。

 

 どうやってあの状況から生き延びることができたのか、その疑問は近くで絶命していた蹴りウサギから他の魔物が運良く現れて殺し、俺の事は持ち前の影の薄さから気付かなかった。という推測で一旦、納得する事にした。

 

 それからは水を飲んでは見つからないように隠れて過ごし、寝ている時に魔物が近くに来れば直感で分かるので直ぐ様《+気配遮断》を発動しつつその場を離れる。という事をずっと繰り返していた

 

(あの時の声はなんだったんだ?)

 

 死なないようにうまく立ち回りながらふと頭の端で浮かんだ疑問がそれだった。寝ようと岩陰に隠れている時、見つからぬように移動している時も異様に気になって仕方がなかった。

 

 

 それから更に数日が経過した

 

(あの時の声はなんだったのか)という疑問は既にどうでもよくなっていた。今の浩介にそんな事を気にしている余裕はない

 

 一時は和らいだかにみえた飢餓感だったが、少しすれば再び、より激しくなって襲い来る。無理やりにでも腹を満たそうと水をがぶ飲みすると苦しみは増す一方、左腕は幻肢痛が酷くヤスリでグチャグチャと削られるような苦痛が続いており、しかもその痛みは日に日に増している

 

(腹が……腕が痛い……こんな、いつまで耐えればいいんだ……いっそ死んだ方がマシに……別に俺がいなくても支障は……雫、恵里すま——)

 

 この苦痛から逃れる為に自殺を考える……が、ふと脳裏をよぎったのは雫と恵里、二人の事だ。

 

(……そうだった……バカか俺は! まだ死ねない……此処で俺が()られれば女の魔族に雫や恵里達が殺される……ハジメ(主人公)だから補正がかかって助けてくれるかもしれないが、その保証はどこにもない)

 

 自殺という楽な道を選ぼうとした浩介は直前で踏み止まる。腹がねじ切れんばかりの猛烈な飢餓感や幻肢痛で気が狂いそうになる程の苦痛だが、それより雫と恵里の身の安全を優先する

 

「……っと」

 

 飢餓感と幻肢痛のせいで最近まともに眠れていなかったせいか、強烈な睡魔に襲われ危うく転倒しかけるが、右手を岩につく事で堪える。すると

 

「…………!!」

 

 遠くない場所で魔物の悲鳴と、微かではあるが誰かが叫ぶ声が聞こえてくる。

 

(ハジメ……なのか?)

 

 この奈落の底で自分以外の声といえばハジメ以外にはあり得ない。しかし、この声がハジメという確証も無ければ、戦う事も視野に入れておくと現在のコンディションで向かうのは危険だ。

 

「ハジメ……!」

 

 危険だ。嫌な予感がする。直感が警鈴を鳴らしている

 

 だが、この声が本当にハジメであれば、左腕を襲うこの尋常じゃない痛みと飢餓感を無くすことができる。そして何より、一人で無力に怯え隠れなくていい

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「グルゥア!?」

 

 おぼつかない足取りながらも何とか魔物の悲鳴が聞こえた場所に辿り着いた浩介が見たのは、体の大半を壁に呑まれ、悲鳴を上げて逃げようともがく二尾狼の姿だった。

 

「錬成……だよな? ……っ、ハジメ! 何処に——」

 

「グルゥア!!」

 

「しまっ……」

 

 ハジメが近くにいる。そう思い気が緩んでしまった浩介は背後から襲いかかってきた二尾狼への反応が遅れてしまった

 

「クソッ……!! ここまできて……死ねるかぁぁ!!」

 

 覆い被さられ、首元に噛みつこうと大口開ける二尾狼の頭を咄嗟に掴んで、わざと肩を噛ませる

 

「ぐ、ああああぁぁぁぁ!!」

 

 激痛に悲鳴を上げつつも掴んだ手を離さず、逆に潰す勢いで力を込める

 

(少しでも手を緩めてコイツが肩から離れれば間違いなく死ぬ……どうすりゃいい?! いつまでも抑えてるわけにはいかない、かといって今の俺じゃあ握力で頭を潰すことなんて……)

 

 まさに絶体絶命、どうしようにも殺される未来しか見えない。何もしないで死ぬよりも一か八かの賭けにでようとしたところで……

 

 

何してんだこのクソ犬がぁぁっ! 

 

 

 怒鳴り声と共にハジメが横から現れ、二尾狼の腹目掛けて武器? をフルスイングして吹っ飛ばす。続けて地面に手をついて錬成を行使、二尾狼は首から上を残して地面に呑まれてしまった

 

「グルァアアー!?」

 

「よくもやってくれやがったなテメェ……ッ!」

 

 焦ったようにジタバタともがく二尾狼へ、ハジメは追撃とばかりに頭部目掛けて何度も武器を振り下ろす

 

「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね……!」

 

 そうして何度も殴りつけていると、断末魔の絶叫を上げていた二尾狼は、突然、ビクッビクッと痙攣したかと思うとパタリと動かなくなった。

 

「はぁ……はぁ……大丈夫か? 浩介」

 

「あぁ、助かったよ。ありが——」

 

「生きててよかった! 俺があの時すぐに……そのせいで浩介が……本当によかった!」

 

「——ハジメも生きててよかったよ……それと、邪魔だ(・・・)なんて言ってごめんな」

 

「もう気にしてねぇよ……それに——」

 

(気にしてたのか……いや、するよな普通……ん?)

 

「それに?」

 

「何でもねぇよ……よっと、着いてきてくれ。安全な場所に案内する」

 

 錬成で壁に穴を開けると、地面から二尾狼を取って担ぎ、開けた穴へと入っていく。少し驚いた様子の浩介もそれを追うようにして後ろを着いて行った

 

 

 




……はい、心が折れそうな時に助けてくれるのは雫と恵里です。

いや〜短めですいません……断食してみたり、経験ある人からどんな感じだったのか聞いてみたりしましたが、難しいものです……

さて、次は爪熊倒すところまでやりたいな〜

それでは次話でまた会いましょう!





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目覚め

皆さん、お気に入りありがとうございます!!

Twitterの方もフォローしてくれる人がいて、とても嬉しいです!!

表現とか難しいですが、頑張って書いていきます!!

それではどうぞ!!


「ほら、これ飲めよ……傷が治る」

 

 案内通りに錬成で作られた洞窟を進んでいくと、少し広いスペースに出る。ハジメは水溜り近くに座ると、容器でその水を掬って渡してくれた

 

「……これは」

 

「一緒に書物を読んでた時にあったろ? この石が神結晶で、そこから流れ出たコイツが神水だ」

 

「…………なるほど、これのおかげで左腕の傷が塞がってたのか」

 

 容器を受け取り、神水を飲む。味は他の水と変わらない……が、その効果は知ってはいたものの、凄まじい物だった……二尾狼に噛まれた箇所やちょっとした傷などが瞬く間に治ってしまった

 

「……凄いな」

 

「だろ? 本当に運が良かったよ……これがあったから死なずに済んだ——なぁ、いつも使ってるナイフとか残ってるか?」

 

「ん、これでいいんなら」

 

「サンキュ〜」

 

 ハジメは俺の短刀を受け取ると、持ってきていた二尾狼の皮を苦戦しながらも剥ぎ取り、肉を取り出し始めた。

 

「……もしかして喰うつもりか?」

 

「当たり前だろ? コイツら魔物ぐらいしか喰える物ねぇんだから」

 

「魔物を喰えば死ぬ……それはお前が教えてくれた事だった筈だが?」

 

 念のための忠告、まぁ喰べるしか生き残る道はないんだが……

 

「大丈夫だろ。魔物の肉が人体にとって有害であっても、この神水さえ飲めばどうなっても治るし……ほら」

 

 ハジメが切り取った肉を渡してくれたが、受け取るのを流石に少し躊躇ってしまう。しかし、「いらないんなら俺が全部喰っちまうぞ?」という言葉に、急いで受け取る

 

 

 そして————

 

 

「あぐ、んぐぅぉ、危うく吐きかけた……クソまじぃ」

 

「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ!」

 

 二人は悪態を吐きながら二尾狼の肉を喰らっていく

 

 酷い悪臭に少し涙目になりながらも、肉を乱暴に噛みちぎり、吐きそうになりながらも耐えて次から次へと飲み込んでいく。ゴムのような感触とただ不味いだけの味、そして久しぶりの食事に胃が驚いたのか、キリキリ痛みが襲う。だが、こんな物でも喰えば喰うほど飢えが満たされていく

 

 次第に味を気にすることはなくなり、ただ飢えを満たすだけの為に一心不乱に喰らい続ける。二人は切り分けた肉を喰いきると、まだ足りないとばかりに二尾狼の亡骸へと直接喰らいつくと食事を再開させる

 

 

 どれくらいそうやって喰らっていたのか、神水を飲料代わりにして喰い進め、腹が膨れ始めた頃……浩介達の体に異変が起こり始めた。

 

 

「——ッ!? がぁぁぁぁぁ?!」

 

「どうし──ッ!? アガァ!!!」

 

 突如として全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側で何かが這いずり回っているかのようなおぞましい感覚。更にその痛みは、時が経つほど激しくなる。

 

「ぐぅああぁっ!?」

 

 浩介は震える手ながら容器に入っていた神水を飲み干す。直ちに神水が効果を発揮し痛みが引いていくが、すぐに同じような激痛が全身を襲う。

 

「ひぃぐがぁぁ!! う、ぐぅおおお!!」

 

 爪熊に左腕を落とされた時とは比べものにもならない壮絶な痛みに堪らず悲鳴を上げてのたうち回る。体全体がドクンッと脈打ったかと思えばミシッ、メキッと体に亀裂が入る

 

 しかし、次の瞬間には先ほど飲んだ神水の効果があらわれて即座に体を修復していく。修復し終われば再び激痛。そして修復。

 

 神水の効果なのか気絶も許されず、徐々に酷くなっていく痛みに絶叫を上げ、無意識に頭を何度も壁に打ち付けたりしながら終わりの見えない地獄のような苦しみを数十分以上もの間味わい続けた

 

 

「う……」

 

 しばらくして、呻き声を上げながら二人は徐々に動き出す。焦点の定まらない目でぼんやりと右手を見つめ、握ったり開いたりをして自分の意思で動かせることを確かめるとゆっくり起き上がった。

 

「大丈夫か浩介——」

 

「あぁ、死ぬかと思ったが——」

 

 無事を確認しようと声を掛けたハジメが途中で言葉を失い、更にそれに応えた浩介もハジメの姿を見て固まる

 

「え、何……お前っていつの間にイメチェンしたんだ? 髪が前より厨二臭いぞ」

 

「……お前こそ髪型が厨二臭くなってるぞ?」

 

 ハジメの言葉にほんの少しだけ青筋を浮かべた浩介は、お前も白髪になってるぞ? と自分だけ変わったわけでは無いと伝える。すると、ハジメは溜まっている神水の水面を鏡代わりに自分の姿を確認する。

 

「マジか……てか、髪色だけじゃなくて全体的に変わっちまってるな」

 

「確かに、なんか妙な違和感あるしな」

 

 座っている時の目線の位置が高くなり、筋肉が前よりも更に発達している。だが、それ以外にも体の奥底が冷たくも温かくも感じる奇妙な感覚。違和感のある場所へ意識を集中してみると腕に薄らと赤黒い線が浮かび上がった。

 

「……うわぁ、言っちゃ悪いが気持ち悪いなソレ」

 

「お前もできると思うからやってみろよ……なんか妙な違和感を感じる場所に意識を集中すればできる」

 

 半信半疑ながらハジメは目を瞑って浩介の言う通りにしてみる。すると……

 

「本当にできたし……なんか魔物にでもなった気分だ。……洒落(しゃれ)になんねぇな。そうだ、ステータスプレートは……」

 

 何かわかるかもしれない……そう考えたのか、ハジメはステータスプレートを取り出し、ステータスを確認し始める。

 

 驚きの声を上げる始めに続いて浩介もステータスプレートを取り出すとステータスを確認する

 

 ==================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:16

 天職:暗殺者

 筋力:252

 体力:466

 耐性:221

 敏捷:422

 魔力:396

 魔耐:396

 技能:暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術][+深淵卿]・気配操作[+気配遮断][+幻踏]・影舞・直感・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

 ==================================

 

 説明にはこうある

 

 効果:凄絶なる戦いの最中、深淵卿は闇よりなお暗き底よりやってくる。さぁ、闇のベールよ、暗き亡者よ、深淵に力を! それは、夢幻にして無限の力……

 

「セイッ!!」

 

 この説明を見た瞬間、浩介がステータスプレートを全力でペイッしたのは言うまでもない。ついでに、何かの間違いだと壁に頭を打ちつけたのも言うまでもない。

 

(いや、なんかの間違いだろ!? 逆になんで発現してんだよ! そんなきっかけなんて無かったはずだろ!?)

 

「お、おい……いきなりどうした? 何かよくない事でも——」

 

「あ……」

 

 ハジメは心配してくれたようで、浩介が地面に叩きつけたステータスプレートを拾い上げると、ステータスを確認していき……問題の技能とその説明に差し掛かる。それを読み切ったハジメは何とも言えない表情になり、気まずそうに浩介へとプレートを渡した

 

「……魔物を喰うとステータスが大幅に上がって新しい技能を手に入れる事ができるみたいだな」

 

 結果、俺の深淵卿(アレ)についてはスルーしてくれるらしい……ありがたい

 

「そうらしいな……増えたのは三つで魔力操作、胃酸強化そして纏雷か」

 

「魔力操作を試してみるか…………おっ、おっ、おぉ~?」

 

 驚いたような声を上げながら魔力操作を試しているハジメを見て、自分も試してみようと、浩介は繵雷をやってみる事にする

 

「え〜と、うん?」

 

 先ほどから感じる奇妙な感じは恐らく魔力で、それを右手に集めるイメージをしてみるが、何も起こらない

 

「……あぁ、電気のイメージを——」

 

 使うには明確なイメージが必要だという事を思い出し、二尾狼の使っていた電撃をイメージをしてみる。すると、手のひらから紅い電気がバチバチッ! と勢いよく弾けた

 

「ぅおっと……すっげぇ」

 

 思った以上に出力が出てしまった為、少し驚きながらも紅く迸る電気に感嘆の声を上げる

 

「うおっ、凄いな……後は胃酸強化ってやつだけど……あれか? 魔物の肉を喰っても次からは苦しまなくて済むとかか?」

 

「……おあっ、不味いのは変わらないけど、あの痛みに襲われる心配は無さそうだな」

 

「そりゃ良かった……これ以外にも獲物は確保してるし、これで食料問題は解決だ」

 

「……? あぁ、なるほど……それで、誰か助けに来るまで魔物喰って待ってるか?」

 

 これ以外? と思ったが、壁に呑まれていった奴がいるのを思い出し、あり得ないとは分かっているが、そう問いかける

 

「冗談だろ? まずは武器を作って、それから……あの熊やろうを殺して喰う」

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あれからハジメは武器作りの為に錬成の鍛錬を開始し、新たに"鉱物系鑑定,,という錬成の派生技能に目覚め、着々と準備を整えていく中、浩介はというと……

 

 

「[+深淵卿]の技能ってデメリットがない段階的な限界突破だったよな……いや、言動が完全無欠の厨二化(アビスゲート卿化)するんだったな」

 

 邪魔にならないように、錬成の特訓をしているハジメとは別の穴を掘ってもらい、[+深淵卿]の技能と向き合おうとしていた

 

「というか言動がアビスゲート卿化って大してデメリットって程じゃないよな? そもそもの話、どうやって発動するんだコレ」

 

 よく考えてみれば、この大迷宮をクリアするまでに、アビスゲート卿化しない(深淵の闇に呑まれぬ)ように制御できていればいいのだと気がつく……だが、そもそもどうすれば扱えるのかが分からない

 

 あの長ったらしい説明を最後まで読んでも、別にどうすれば使えるとかは書いてない。

 

「[+深淵卿]を使う為には何を……」

 

 どうすれば……そう考えに没頭している浩介は知らない。無意識的に苦無を右手でクルクル回し、何度かに一度は格好良く構えてみたり、苦無を置いたと思えば印を組んでみたり、たまに口調がおかしくなっていたり…………

 

 それらを知るのは様子を見に来たハジメが、様子がおかしいぞ? と、指摘する数日後だった

 

 

 

 

 




さてさて、次は爪熊戦かな?

といってもあっさり終わると思います。別のがメインかな?

あらすじに入らなかったタグとかあるので、一度見てくださると嬉しいです!

あ、それとDMでクラスメイトside書いて欲しいとあったので、次の次に投稿しようと思います。上手くできるか心配ですが……

それではまた次の話でお会いしましょう!


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因縁の対決

 
すいません遅くなりました!いや〜今回の話は少し早足っぽくなってしまいました。ま、早く進みたいからしょうがないよネ!


それでは〜どうぞ!!


「…………ふっ!!」

 

 現在、浩介は拠点近くの広い通路で素振りを行なっていた。手に持っているのはハジメが作ってくれた刀のような形状をしている獲物で、名前は試作品第一号[黒妖一鉄(こくよういってつ)]である

 

「……っ、来たか」

 

 素振りをして調子を確かめていると、物凄い速さで白い何かが近づいてきたのに気がつく……その白い何かの正体は言うまでもなく蹴りウサギだ

 

「さて、あの時は疲弊してたって言い訳は……別にいいか。

 来いよ、殺して喰ってやる」

 

 そう言うと同時、足に力を溜めていた蹴りウサギは物凄い速さで突っ込んでくると、そのまま回転する

 

「おっと……うん、普通に対応できてるな」

 

 ウサギの猛攻を物ともせず、涼しい顔で受け流すか避けていく

 

「さて、そろそろ終わらせるか……八重樫流刀術、霞穿(かすみうがち)

 

 拠点へ帰る事に決めた浩介は、何度目かも分からない突進に対し八重樫道場で習った刀術の一つである霞穿を繰り出す。ウサギは浩介の放った三連撃の突きによって為す術なく倒されてしまった

 

「流石だな……浩介」

 

「ん、サンキュー」

 

 岩陰から俺と蹴りウサギが戦闘しているのをこっそり見ていたハジメが声を掛けてきたので、ウサギの耳を持ちながらそれに応じるように返答すると、互いの成果を見せ合いながら拠点へと帰っていく

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「むぐ、むぐ……ウサギ肉ってもマズイことに変わりねぇな……」

 

「……兎肉とはいえ魔物には変わりねぇからな……まぁ、奈落(此処)にいる間の食事は魔物で我慢だ。パワーアップするための手段でもあるから嫌でも慣れるだろ……そのうち」

 

「生きる為だから味なんて気にしてらんないわな」

 

「そゆこと……むぐ」

 

 現在、拠点に戻った浩介とハジメはそれぞれが狩ってきた獲物(蹴りウサギ)をモリモリと喰っていた。二人は武器作成から数週間の内に一人で出歩いて魔物を狩る事ができる武器を手に入れ、それを扱う力を身に付けていた。

 

「……さて、初めて蹴りウサギ肉を喰ったわけだが……ステータスはどうなってる事やら」

 

 肉を喰い終わったハジメは早速といった感じでステータスプレートを取り出し、自分のステータスを確認し始める。浩介も釣られてプレートを取り出して確認する

 

 

 ===================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:18

 天職:暗殺者

 筋力:314

 体力:466

 耐性:289

 敏捷:495

 魔力:412

 魔耐:412

 技能:暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術][+深淵卿]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ]・影舞・直感・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解

 ===================================

 

 ステータスは順調に増えており、耐性以外は300オーバーで体力と敏捷に至ってはもうすぐ500を超えそうである。しかし、浩介が注目したのはステータスの方ではなく、新しく増えた派生技能の[+空力]と[+縮地]だった。

 

(縮地は技術としてのものはできるけど、技能で手に入ったってのは嬉しいな……空力は空中でも回避できるからかなり使えるぞ)

 

 ニヤニヤとステータスプレートを眺めている浩介に対し、ハジメは「うわぁ……」と浩介の様子(分からなくもないが)に少し引きつつ、新しく目覚めた技能を試してみようと拠点から出ていく

 

(——縮地っていえばロマンの一つだよなぁ……何故か(・・・)机の上に置いてあった"BLEACH"とか"るろ剣"を読んでにハマってから師匠(じいさん)の手ほどきを嫌々じゃなくて逆に頼み込んで受けるように……ん? よくよく考えてみれば仕組まれてたんじゃね?)

 

 むむっ……と、唸りながら考えに没頭していた浩介は隣にいるはずのハジメがいないことに今更ながら気が付くと、自分も早速[+縮地]を試そうと外に出る

 

 

「ぐぅおおお!?」

 

 拠点から出ると、案の定ハジメは新しく増えた技能を試していた。地面に顔面ダイブでもしたのか顔を片手で覆って転がっている

 

「大丈夫か、ハジメ?」

 

 そう言い手を差し出すと、「自分(深淵)に打ち勝てたのか?」なんて訳のわからない返答と共に浩介の手を掴み、起き上がるハジメ

 

「深淵って……いや、俺が考えてたのは縮地は男のロマンだよなぁとか、俺が剣術を習うきっかけを思い出してただけだぞ?」

 

「ま、何でもいいや……浩介も新しい技能を試しに来たんだろ?」

 

「……あぁ」

 

 ハジメの返答に(何でもいいって……誤解したまま放っておかないでくれ!)とか思いつつも早く[+縮地]を試したかったので、余計なことを言わないでおく

 

 初見なのでどうすればいいのかよく分からないが、纏雷を試した時は魔力を右手に集中させるようにしながら電気をイメージする事で使う事ができた。なら……

 

「右足……魔力……踏み込み……イメージ」

 

 浩介はブツブツと呟きながら[+縮地]を使う際のイメージを固めていく……そして、蹴りウサギを参考に、足元が爆発するイメージと共に右足に魔力を集中させるようにして一気に踏み込んでみる。踏み込んだ足元がゴバッと陥没し……不格好ながら物凄い速さで数メートルの距離を移動することに成功した

 

「ぅおっと……ふぅ、初めてにしちゃあ上出来か? 」

 

 まだ実戦に使えるほどではないが、なんと一発成功である。これから鍛錬を続ければ蹴りウサギのような動きもできるようになるだろう。八重樫流や爺さん直伝の剣術と組み合わせれば、より強力な武器になる。

 

 

 何となく手応えを掴んだので、もう一つの派生技能である[+空力]を試してみることにする。確かこの技能は蹴りウサギが空中を足場にして何度も何度もしつこく突っ込んできていたので少し印象深い

 

 早速、浩介は、空中に足場があるのをイメージし、その場所を踏み込むよう跳躍してみる。

 

 二度目も一発成功……なんて事があるわけもなく、足に何かを引っ掛けたように顔面から地面に思いっきり突っ込んだ。

 

「ぐぅおおお!?」

 

 鼻血を垂れ流しながら痛みからかゴロゴロと地面をのたうち回る。地面と顔を血で濡らしながら身悶えていると、ハジメが容器に入った神水を分けてくれた

 

「……最初はこんなもんか……神水、ありがとなハジメ」

 

「構わねぇよ……しっかし、盛大にやったな?」

 

「……我ながら情けない、調子に乗った」

 

 盛大に転んでしまった訳だが、転んだのは空中に作った足場が原因なので、作る場所さえしっかりと意識してやれば[+空力]はすぐにでもマスターできるかもしれない

 

「この技能とステータス、そしてドンナー(コイツ)があれば……爪熊(アイツ)を……っ!」

 

「待て……はやる気持ちもわからんでもないが、今は抑えろ

 ……もう少し準備をしてから——」

 

 握りしめた手を見つめ、今にも爪熊を倒しに行きかねないハジメに落ち着くよう注意をする。だが、返ってきたのは意外というかなんというか……一つの頼み事だった

 

「分かってる……それと浩介、悪いが頼みがある」

 

「……頼み? 一体なんの……」

 

「あぁ、それは——」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 迷宮の通路を、姿を霞かすませながら高速で移動する影が二つ……

 

 

 勿論、浩介とハジメである。二人は〝天歩〟を完全にマスターし、爪熊との戦闘に備えてありとあらゆる準備を済ませた。そして現在、〝縮地〟や〝空力〟を使って洞窟内を縦横無尽に駆け回りながら宿敵たる爪熊を探していた。

 

 途中、二尾狼の群れと三回、蹴りウサギ四匹と遭遇したが、それら全てはハジメによって産み落とされた現代兵器……ドンナーによって苦戦することもなく呆気なく殺されていく

 

 そうして洞窟内を進んでいくと、ようやく爪熊の姿を発見した。

 

 その爪熊は蹴りウサギらしき魔物を食べている最中であり、まだこちらには気付いていないようで、食事を続けている。ハジメはニヤリと不敵に笑うと、爪熊の方へ歩き出した。

 

「よお、爪熊。久しぶりだな。俺たちの腕の味はどうだった?」

 

 こっそり影からドンナーを撃てば危険も犯さず、楽に()れたかもしれない。だが……ハジメはそれでは意味がないと真っ向勝負を選んだ。正真正銘一対一(・・・・)のだ。

 

 実質、爪熊はこの階層における食物連鎖のトップに君臨する魔物と言っていい。数多く生息する二尾狼と蹴りウサギだが、確認したところ爪熊はこの一頭しかいない。故にこの階層にて最強にして無敵

 

 だからか、爪熊は不敵な笑みと共に自分に歩み寄るハジメの姿に若干であるが困惑している。しかし、すぐに目の前の生き物を餌と判断して——

 

「リベンジマッチだ。まず言っとくが、俺が捕食者で——」

 

 ニヤリと笑いながら、ドンナーを抜いたハジメは銃口を真っ直ぐに爪熊へ向け……

 

「お前が……餌だ」

 

 そう言ったと同時にドンナーを発砲する。ドパンッ! と炸裂音を響かせながら弾丸が爪熊に迫る。

 

「グゥウ!?」

 

 野生の感か、爪熊は咄嗟に崩れ落ちるようにハジメの弾丸を回避した。流石はこの階層最強なだけはある……だが、完全に避けきれなかったようで、肩の一部が抉れて出血している

 

「ガァアア!!」

 

 ハジメを餌ではなく明確なる敵と判断した爪熊は怒りの咆哮と共に物凄い速さで突進する。ここからが本番、全力での殺し合いが始まる……

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

(……あれ?)

 

 現在、浩介は困惑していた。別に俺の事を完全にガン無視で爪熊戦が始まった事では当然無い。なぜなら、俺がハジメに頼まれた事とは……[浩介は爪熊との闘いに手を出さず、傍観していてほしい]だったからだ。

 

 勿論、始めは少し反論した浩介だったが、トラウマを乗り越える為だろうからと諦めた(ただし、後で何と言われようと殺されそうになったらすぐさま助けに入る気でいた)

 

 

 さて、浩介が困惑していた理由なのだが……目の前で起きている戦闘とはいえないハジメ無双の蹂躙劇を見れば原作を知っている者からすれば誰でも分かるだろう

 

 爪熊は片腕がドンナーによって吹き飛ばされ、至るところを撃ち抜かれて血まみれで満身創痍の状態。逆にハジメは攻撃を余裕を持って躱していたので、怪我を全くと言っていいほど負っていない。

 

 

「ルグゥウウウ」

 

 ハジメの罠に嵌り、電撃を浴びてしまった爪熊は低い唸り声と共に大量の血に染まった地面へ倒れ伏す。だが、殺意に満ちた眼光は依然としてハジメを射抜いている。

 

 その眼光を真っ向から睨み返しながらハジメは爪熊へと歩み寄る。ドンナーでトドメをさそうと、爪熊の頭部に銃口を押し当てた

 

「あばよ……俺の勝ちだ」

 

 その言葉と共に引き金が引かれ、弾丸は爪熊の頭部を完全に粉砕した。

 

 

 迷宮内に銃声が木霊し、やがてその場を沈黙が支配する。ハジメは爪熊から視線を外すと、スッと目を閉じる

 

 そして、一瞬の思考の内……

 

「そうだ……帰りたいんだ……俺は。他はどうでもいい。俺は俺のやり方で帰る。望みを叶える。邪魔するものは誰であろうと、どんな存在だろうと……」

 

 目を開いたハジメは口元を釣り上げながら不敵に笑う。

 

「 殺してやる 」

 

 誰にいうともなくそう宣言するハジメ。それを聞いていた浩介も口には出せないが、一つのことを追加で決めていた。

 

(ハジメが変わってしまったのは、俺にそれを防ぐ力が無かったから……だから強くなって、これからハジメの()う事になる傷や罪を肩代わりできるように……例え俺がどんな事になっても、ハジメがいれば——)

 

 

 

 ===================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:22

 天職:暗殺者

 筋力:414

 体力:566

 耐性:389

 敏捷:545

 魔力:462

 魔耐:462

 技能:暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術][+深淵卿]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ]・影舞・直感・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

 ===================================




いや〜どうだったでしょうか。難しいなぁ

さてさて、次はクラスメイトサイドですねぇ……少し遅れるかもしれませんが、頑張って投稿します!!

感想頂けたらもっと早く投稿できるかモなぁ〜(←ただの欲しがり)

面白くなかったらそれでもいいです!作者が泣くだけです!!私の心は硝子なので!!

それではまた次の話でお会いしましょーー!!


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クラスメイトside

ワタクシ、ガンバリモウシタ。コレガゲンカイ

お気に入り700突破です!ありがとうございます!!


それ……デハドウゾ


 時間は少し遡る

 

 浩介とハジメが奈落の底へと落ちていった後、一行は地上へ無事に帰還、その日はホルアドで一泊し、早朝には馬車に乗って王国へ戻った。

 あんな危険な目にあった手前、誰も迷宮に潜ろうとする者などいなかったし、勇者パーティーから死傷者が二名も出たのだ、メルドはそれを王国へ報告する義務がある。

 

 

 

 ハイリヒ王国ー玉座の間ー

 

「【オルクス大迷宮】で実施された実践訓練にて、死者が2名出ました」

 

 メルドの言葉に、国王やイシュタルは勿論のこと、この場に集められた貴族達の間に動揺と緊張が走る。それもそのはず、召喚された勇者とその仲間たちは皆一様に高いステータスと恵まれた天職を持っていたと聞いていたからである。

 

「な、なんと……魔人族との開戦前に——そ、それで、その者達の名は……」

 

 メルドの後ろに控えているのは天之河光輝、坂上龍太郎、中村恵里の三人、よって勇者が命を落としたという最悪の事態は回避したという事になる。が、白崎香織と八重樫雫の姿がないので、もしや……という嫌な空気が流れる。

 

「はっ、南雲ハジメと遠藤浩介の2名です」

 

「……南雲ハジメとは誰だ?」

「あぁ、確か天職が錬成師、ステータスが子供にも劣る使徒がそのような名だったな」

「なんだ噂に聞く“無能”か」

 

 一時の沈黙の後、誰かがハジメの存在を知らなかったのかポツリと言葉を溢すと。そこから口火を切ったように貴族達は口々に好き勝手言い出す。国王やイシュタルは死んだのがハジメと知った瞬間、ホッとした顔をしている

 

 天之河は仲間(・・)が悪く言われているので眉間にシワを寄せて少し機嫌が悪そうだ。龍太郎は目を見開き、肩を震わせながら飛び出すのを我慢している。

 貴族達は声を抑えているつもりだろうが、この部屋は些か声がよく通る……何よりも三人は通常より高いステータスを持っているので丸聞こえだ

 

「“無能”と後は……遠藤浩介だったか? その者の事は誰か知らないのか?」

「いえ、私は存じ上げませんが……」

「私もです」

「まぁ、“無能”と一緒に死ぬぐらいだ。大した者ではないのだろう」

「まさか、オルクスの低層で命を落とすとは……これが魔人族との戦いであれば他の使徒様たちの戦意を削いでしまっていたでしょうな」

「そうなると早いうちに膿供を切り捨てる事ができて良かったではないですか」

「ですな、足を引っ張る前に死んでくれて良かった」

 

 貴族達の陰口はハジメでは飽き足らず、よく知りもしない浩介にも及び、それはもう酷い言いようで、挙げ句の果てには死んで良かったと口を揃えて言う始末。正義感の強い光輝が声を上げようとして……その前に龍太郎と恵里の二人が動いた

 

「は——? ぶへらッ!?」

「ぐ、ガハッ……ぅぇあ?」

「あぁぁ!? な、目がァァ……ッ!?」

 

 龍太郎は、その体に見合わぬ速さで貴族の眼前まで移動すると面食らっている目の前の男を全力でぶっ飛ばした。床を何度も転がりながら壁にぶつかった貴族はボロボロになって気絶している

 

 恵里はというと、特に酷い言いようだった二人の貴族目掛け、殺す気で棒手裏剣を投合していた。一人は首を貫通し、口と首から大量の血を流して床に倒れ込み踠き苦しんでいる。二人目はというと、連続での投合は上手くいかなかったらしく、狙いは大きく逸れて右眼に当たる。それでも悲鳴と共に大量の血を流して床に蹲った。

 

 

 しばらくの間、苦悶の声とヒューヒューという空気が抜けたような音だけが鮮明に響く

 

「り、龍太郎殿……え、恵里殿まで……な、何を——」

 

 一人がそう口にする。しかし、それが精一杯だった。龍太郎の怒りの表情と、恵里の普段の様子からは考えられない豹変に怯えて息を飲むばかりだ

 

テメェら浩介とハジメのこと何も知らねぇ癖に好き放題言ってんじゃねぇ! 

 

 ビリビリと部屋全体を振動させるかのような怒声とその迫力に貴族や国王、光輝ですらも一歩、二歩と後退さる

 

役立たたず? “無能”? 大した事ない奴だと!? テメェらの都合で連れてきておいて何様だ! アァ!? アイツらは俺たちを助ける為に体張ってベヒモスの野郎を足止めをしたんだ! そんな言うんだったらテメェらがベヒモスと戦ってこいや! 

 

「まて、落ち着けよ龍太郎! ベヒモスと戦えだなんて、そんな危険なことを言うなんておかしいぞ!」

 

邪魔すんじゃねぇ! 光輝(お前)こそおかしいだろッ! なんで親友をここまで馬鹿にされて平気でいられるんだよ! 

 

「確かに、彼らが2人に言ったことは許せない。でもそれは彼らがベヒモスと戦った事実を知らなかったからじゃないのか? それを知っていて2人が俺たちの為に時間を稼いでいてくれたと知っていたなら、悪くは——」

 

「あーあ、気持ち悪い、気分が悪い、気味が悪い、吐き気がする、鳥肌が立つ……」

 

 耐え切れなかったのか、唐突に二人の言い合いに恵里が加わる。体を抱きしめるようにし、光輝に対する嫌悪感を隠そうともせず言葉を吐き捨てる

 

「恵里ッ!」

 

「あー違う違う、龍太郎君じゃなくて頭の中がお花畑な光輝君に言っただけだから」

 

「……恵里、何を言ってるんだ? 俺は——」

 

「聞く気ないから言わなくていいよ……はぁ、お姫様(雫ちゃん)のお世話もあるし、こんな事に時間を割いてられないから一つだけ言っておくと……ご都合解釈(・・・・・)は程々に」

 

 そう冷たく言い放ち、踵を返した恵里は制止の声を聞き入れず去っていってしまう。

 

「けっ……オイッ! またハジメと浩介の事を馬鹿にしてやがったら俺はテメェらには従わねぇ……この戦いから降りさせてもらうからな! 」 

 

 龍太郎もこの場にいたくなかったらしく、大声でそう宣言すると「ッたく……胸糞悪ぃ」と吐き捨てるように言って扉を開けると、玉座の間からでていく。

 

 しばらくして、残った光輝とメルド団長による詳しい説明と、ハジメと浩介に対しての侮辱の言葉について光輝からもう一度指摘され、侮辱していた貴族達はもれなく処分を受けることが決定し、龍太郎と恵里については王国側に非があるという事で処分は無かった。

 

 

 そして、死亡した二人の話題を出すことは密かに禁止されたのだった

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「そんなに多めに盛ってないから起きてもいいんだけど……やっぱり香織ちゃんと一緒かな〜」

 

 ベッドに香織と雫が寝ている側に置いてある椅子へ腰かけ、思い出したように恵里はそう(ひと)()ちる

 

 浩介とハジメが奈落の底は消えていった後、二人はメルド団長と恵里によって気絶させられた。恵里によって寝かされた雫はともかくとして、香織に関してはすぐに起きるはずだが、精神的ショックから心を守るための防衛処置として眠り続けていると医師は言っていた

 

 

「まさかあの(・・・)雫ちゃんがあそこまで泣き喚くとはねぇ……それを言っちゃえば僕も部屋帰ったら泣い——」

 

「……ん……う」

 

「……う」

 

「え、あ……香織ちゃん! 雫ちゃん! 大丈夫!? 私のこと分かる?」

 

 頬っぺたをぷにぷにしながら宿で一泊した時の事を思い出していると、二人は呻き声を上げる。急いで口調を変えて二人の名を呼んでみると、それぞれ虚ながらも目を開けた

 

「恵里……ちゃん?」

 

「恵里? あれ、此処は……」

 

「良かった……えっと、此処は王宮内にある私たち用の部屋だよ! 良かったぁ……五日間もずっと眠ってたから皆んなも心配してたんだよ?」

 

 意識が覚醒して間もないからか、ボーとしている二人だが、恵里がどのくらい眠っていたのかを伝えると二人はそれに反応する

 

「五日? どうしてそんなに……私、確か迷宮に……」

 

「……恵里……浩介は……浩介は何処にいるの!?」

 

「……あ……そうだ……南雲君は……南雲君はどうなったの!?」

 

「えと……覚えてない? その……」

 

「え……そんな……嘘だよ、ね。そうでしょ? 恵里ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ? ここ、お城の部屋って言ってたよね? 皆で帰ってきたんだよね? 南雲くんは……あ、そうかいつもみたいに龍太郎くんや浩介くん達と一緒に訓練してるのかな? 訓練所にいるよね? うん、きっとそう……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんと……あ、浩介くんにもお礼言わなきゃ……恵里ちゃん? 掴んでたら二人にお礼しにいけないから離して……ね?」

 

 次々と言葉を並べながらベッドから抜け出し、ハジメを探しに行こうとする香織の腕を掴んで離さない恵里

 

 そうしていながら恵里は香織と先程からブツブツと聞こえない程度の声量で言葉を紡ぎ続けながら頭を抱えている雫の様子を交互に見ながら二人にとって効果的な言葉(・・・・・)を選んで話す

 

「……はぁ……ま、行ってもいいけど愛しの南雲くんは此処にはいないよ? あ、もちろん浩介くんもね?」

 

「やめて……」

 

「……ッ」

 

「いるとしたら……そうだねぇ。奈落の奥底にいるんじゃかいかな?」

 

「やめてよッ! それ以上言わないで! 南雲くんは……」

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……浩介は……」

 

「今頃何してるかな〜奇跡的にあの落下で生きていても、手負いだから凄い強い魔物に襲われて死にかけちゃうかもね? でも……それでも浩介なら何とかして生き残るだろうし、次いでに南雲君も助けて二人でパワーアップして僕たちの前に現れるってのが王道だと思わない? そうなると次に会えるのは……うん、やっぱり僕たちがピンチに陥ってる時に颯爽と現れて助けてくれるっていうシュチュエーションだと思うな! そうなると準備が大変だなぁ……まずは血糊を用意して大袈裟に怪我を負ったアピールすればキスぐらいはしてくれると思わない? ね、ね? もしかしたらそれ以上のこと——」

 

「ちょ、ちょっと待って恵里ちゃん!」

 

 イヤイヤと首を振って「南雲くんが死ぬわけない!」と言っていた香織は途中からの恵里による妄想話で脳の許容がオーバーし、慌ててストップをかける

 

「え、どうしたの香織ちゃん? 僕、すっごい良いところまで妄想してたんだけど……なんならキスしてたんだよ? 妄想で」

 

「妄想でキス!? いや、私もしたことないわけじゃないけ……じゃなくて! えっと……二人は生きてるの?」

 

「さぁ? 僕が知ってるわけないじゃん」

 

「恵里ッ……ふざけてるなら今すぐやめて!」

 

 恵里の返答に今まで口数が少なかった雫が怒気を含んだ声色でそう忠告する。普通なら萎縮してしまうだろうが恵里は逆に笑みを深める

 

 

「え〜ふざけてないよぉ? 最初……はともかくとして、ほとんど本音で本気の大真面目に話してるけどぉ?」

 

「……そう、今までは猫被ってたってわけね」

 

「まぁねぇ〜浩介とか……まぁ、“特別(・・)”な人には知られてるし、受け入れられてたけどぉ〜」

 

 香織は驚きつつもオロオロしているが、雫は’’特別,,という言葉に反応し、苛ついているのが目に見えて分かる。

 

「……恵里、一つ聞くわ。……私を怒らせて何がしたいの?」

 

「う〜ん、私だってこんな事したくないんだよねぇ……恋敵が勝手に自滅してくれるんなら願ったり叶ったりだし……でもまぁ、浩介からの頼まれ事だしぃ」

 

「……ぇ? それって……」

 

「……浩介君はこうなるって分かってたの!?」

 

「それは無いと思うよ? “死ぬつもりはないけど俺に何かあったら雫をよろしく”って言われた時、僕が聞いてみたけど“直感”じゃアバウトにしか知れないから詳しくは知らんってさ」

 

「あ、そうだったんだ……でも、雫ちゃんって浩介くんに大切にされ……雫ちゃん!?」

 

「……え、なんで泣いてんの? 気持ちはわからんでも無いけど」

 

 恵里から聞かされた浩介の頼み事。それを聞いた香織は、雫に視線を向けて……泣いているのに気がつく。嬉しかったのか、はたまた別の理由か、香織だけでなく恵里も珍しく動揺してしまう

 

「……浩介……私に……相談して……くれてたのに……」

 

「……雫ちゃん?」

「……は?」

 

「迷宮に行く前日の夜……浩介から注意しておけって……言われてたのに……」

 

(えぇ……私に猫被ってるとか言ったくせに……雫ちゃんも普段と変わりすぎ(ギャップありすぎ)じゃない? え、なに……浩介いないとこんな感じなの? 依存し過ぎ……あ、そこは少し僕と一緒かな?)

 

 普段とのギャップに動揺を隠せない恵里、それと共に浩介から頼まれたのにも納得がいってしまったようだ。少なからず恵里が雫に同族意識を持ち始めている

 

 

「雫ちゃん考えすぎだよ……どんなに注意しててもあの時はどうしようもなかったと思うよ?」

 

「……でも……」

 

「……それなら私だって同じ日の夜、南雲くんの部屋に行って話をしたんだけど……そこで私、迷宮に行かないように説得したの……駄目だったけど、私が部屋に縛り付けてでも……手錠と鎖で拘束してでも迷宮に行くのを止めておけばって思ってた」

 

「……え、えっと、それは——」

 

「私、南雲くんが……二人が死んだなんて信じない。恵里ちゃんが話してくれた事を聞いて思ったの、あそこから落ちて生きてる可能性は限りなく低いけど、確認していないならゼロじゃない」

 

「香織……」

 

「後悔は後回し、それよりもっと実戦と訓練をいっぱいして私はもっと強くなる。そして、南雲くんの事を自分の目で確かめる。……雫ちゃんはどうするの?」

 

「私は……」

 

 香織の目は真っ直ぐに雫を見つめている。その視線から逃れるように視線を隣に移して……

 

「浩介にご褒美に何を要求しようかな……キスは再会時にするつもりだし、彼女に……ハッ、今ならいけそうこの勢いなら最後まで要求しても——」

 

妄想に浸っていた恵里は弱々しく此方に目線を寄越した雫を見下すように笑った。

 

ピキッ……雫の表情が笑顔で固まる。ただし、青筋が浮かんでいるので可愛いではなく怖い……それもかなり

 

「……香織、私にも手伝わせて。浩介は強いもの、あんな事じゃ死なない。次にあった時にガッカリされないように強くならなきゃね」

 

「うん、これから一緒に頑張ろうね!」

 

「ええ」

 

 香織は雫を強く抱きしめ、雫もそれに応えるように抱きしめる。少しするとハッとしたように雫が恵里の名を呼ぶ

 

「あ、そうだ。恵里」

 

「——私、拘束されるのも案外……え?」

 

「えっと……別にもう変な演技とかしなくていいのよ?」

 

「演技? これ、僕の素なんだけど」

 

 自分の背中を押すために変な演技をしていたのだと思っていた雫も、キョトンとしていた香織も、恵里の言ったことが原因で固まってしまう

 

「恵里……浩介の事どう思ってるの?」

 

「未来の旦那、夫、彼氏、恋人、運命の人、愛する人、パートナー——」

 

「いや、そうじゃなくて……浩介の事……好きなの?」

 

「え、分からない? 大好きだよ……あ、LOVEの方ね」

 

 この後、鈴が部屋に様子を見に来るまで互いに浩介のことをどれだけ知っているかとか、買ってもらったものを自慢したり、(膝枕など)してもらったり、した事を言い争っていたのだった

 

 




龍太郎君の事、意外と気にいってるんだよね……

中盤から後半はちょっとこれが限界ですかね。最後は無理やり持ってった感あるかもなぁ……

恵里ちゃんの良さ出せてると良いんだけどなぁ……

次の話はすぐにでもあげようと思います(前作を少し変更して書いていくから)

あ、もう少しでヒロインアンケート閉じますね!この調子だと……恵里、リリアーナに+して園部、ティオ、シアがヒロインですかね

それではまた会いましょう!


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脱出の手段

お気に入りめっちゃ増えてる!?

ありがとうございます!!

感想も増えていたので嬉しくて少し早めに出すことができました!!


少なめですが、どうぞ!!


「これだけ探しても上階に続く道は無い……か」

 

「丸二日かけて探しまくったのにな」

 

 爪熊を殺してから三日、浩介とハジメは上階へと続く道を探し続けていた。

 

 既にこの階層は隅々まで探索し終えた。爪熊を喰らい、ステータスが最初の倍以上まで跳ね上がった浩介とハジメの前に脅威になる魔物はいなかったため、探索は急ピッチで進められた。しかし、いくら探しても何も見つからない

 

 といっても見つからなかったのは〝上階〟への道であり、〝階下〟への道なら早い段階で発見していたので、何も見つからなかったというのは少し語弊があった。

 

 なお、錬成で直接上階への道を作ろうとしたハジメだったが、一定の範囲まで進むと錬成ができなくなったらしい。俺も落ちてきた所を’’空力,の技能で上がって行けばいいのでは? と思って試してみたが、結果はハジメ同様に一定の範囲を超えると全ての技能が使えなくなり、失敗に終わった

 

 そういうわけで、上階への道を探しているのだが、それも無駄に終わってしまった。

 

「はぁ……これ以上は時間をかけるだけ無駄……か」

 

「……あそこに行って階段を下りてくか?」

 

「……あぁ、それしか道は無いしな」

 

 心底仕方ないといった様子で上階への道を諦め、二日前に発見した階下への階段を進む事に決め、階段がある場所へ移動する

 

 

 それは階段というには些か乱雑に作られすぎていた。これでは少し凸凹がある坂道といった方が表現は正しいだろう。そして、その先はこの階層と違い、真っ暗な闇に閉ざされており、何やら不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

(暗闇での戦闘か……直感の使い所だな)

 

「さ〜て、どんな危険が待ち受けているのやら」

 

「ハッ! なんだろうと邪魔するものは殺して喰うだけだ」

 

 ハジメはニィと口元を歪め不敵に笑う。そして躊躇う事なく暗闇へと踏み込んだ。浩介も黒妖一鉄に手を掛け、いつでも攻撃に対応できるようにしながらハジメの後に続く

 

 

 その階層はとにかく暗かった。

 

 浩介とハジメが今までに潜ったことのある階層には必ずと言えるほど緑光石が存在し、薄暗くはあるが、先を視認できないほどではなかった。

 

 だが、どうやらこの階層にはその光源となる緑光石がないらしい。壁に手を当てながら慎重に階段を下り切り、先に進もうとする……が、少し進んだところで先頭を歩くハジメが止まったのに気付き、浩介もそれ以上は進まず止まる

 

 

「……仕方ねぇか」

 

 しばらくして、ボソリと呟いたハジメが爪熊の毛皮で作ったリュックから緑光石を取り出し、左腕にそれを括りつける。おかげで暗闇のせいで何も見えなかった視界に僅かながら色が戻る。

 

「こんな暗闇で光源を持つとか普通だったら危険なんだが……俺たちにとってはその方が都合いい(・・・・・・・)

 

「……?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべてそう呟く浩介だったが、ハジメは言った意味を理解できなかったのか、困惑の表情を浮かべている。

 

「まぁ、すぐにわかる(・・・・・)……と、悪いが先頭かわってもらうぜ」

 

 ハジメは、左腕に括りつけた緑光石を外して渡そうとしてくるが、浩介はそれを断ると前方に歩みを進める。

 

 

 しばらく進んでいると、通路の奥で何かが動いた事に気づく。直感も敵がいる事を教えてくれてるので気のせいではないようだ。

 

 ハジメに敵がいる事を伝え、それと一緒にもの陰に隠れるように合図を出し、すぐさま気配遮断を使う。視界が再び暗闇のせいで暗く染まる。そんな中で浩介は目に頼らず直感を使って敵の位置を把握する。そして——

 

「……ふぅ、上手くいったようだな」

 

 確かな手応えにホッとしながら血を払い、黒妖一鉄を納刀する。この暗闇の中、ハジメが緑光石を使ってある程度の距離を照らしてくれたので、その一瞬で地形を把握し、直感で敵の居場所を見つけて安全に倒すことができた。

 

「暗闇なのに瞬殺かよ……流石だなぁおい」

 

「何言ってんだよ、ハジメが照らしてくれたおかげである程度の地形を把握して安全に倒せたんだぞ?」

 

「……いや、まぁ……そういう事にしとくわ。さっさと肉を持って進もうぜ」

 

「……? おう」

 

 ハジメの返答に困惑しつつも蜥蜴のような魔物に近づくと、食べられそうな部位を切り取り奥へ奥へと探索を進める事にした

 

 

 

 

 緑光石で照らしながら浩介の直感を頼りに闇の中を歩き続ける。既に、体感では二時間ほど探索を続けてみたが、すぐに階下への階段は見つかった。だが、道中、倒した魔物や採取した鉱石も多く、そろそろ持ち運びに不便なので、下の階層へ挑む前に拠点を作って休憩する事にした。

 

 ハジメは適当な場所で壁に手を当て錬成を開始する。すると壁に穴が空き、奥へと通路ができた。ハジメは連続で錬成し、二人が入れるほどの空間を作った。中に入った浩介が魔物の肉を取り出し、短剣で切り分けている間、ハジメはリュックからバスケットボール大の大きさの青白い鉱石(神結晶)を取り出し壁の窪みに設置。その下にはしっかり滴る水を受ける容器もセッティングしておく

 

 

「さて、じゃあ、早速メシにしますか」

 

「おう、準備はしといた」

 

 ハジメの言葉に待ってましたとばかりに浩介が返答する。正面に向き直ったハジメは二人の間に置いてあるものに目を丸くさせる。それもそのはず、なんせ——

 

 

「……ハハッ! 豪勢なもんだな」

 

 そうなのである。浩介がハジメに頼んでおいた鉄板状の鉱石に綺麗に盛られた魔物の肉(纒雷でやかれ済み)、グラスに入れられた神水、フォークとナイフ……緑がないので華やかさはないが、それでも食欲がそそられる見た目だろう

 

「何に使うのかと思ってたら……こうしてみるとマジで美味そうだな」

 

「味気ない食事もアレだし気分だけでもな」

 

「それじゃあ……いただきます」

 

「いただきます」

 

 むぐむぐと喰ってみる。やはりというか当然というか味は不味かった。気にせず食べていると、次第に体に痛みが走り始めた。つまり、体が強化されているということだ。そうすると、ここの魔物は爪熊よりも上という事だ。だが、ハジメによる射撃と浩介の’’気配遮断,+影の薄さを使った奇襲の敵ではなかったので実感は湧かなかった。

 

 奈落に落ちてからというものの苦痛続きだった二人は神水をチョビチョビ飲みながら痛みを無視して喰い続ける。

 

「むぐ、ふぅー、ごちそうさま。味は変わらないが、いい食事だった。さて、ステータスは……」

 

 食事が終わるとステータスプレートを取り出して確認する。というのが日課になりつつある二人である。

 

 ハジメがステータスを眺めるのに続き浩介も自分のプレートを確認する

 

 ===================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:26

 天職:暗殺者

 筋力:564

 体力:676

 耐性:439

 敏捷:648

 魔力:562

 魔耐:562

 技能:暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術][+深淵卿]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ]・影舞・直感・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・石化耐性・言語理解

 ===================================

 

 ステータスは大幅に上昇しており、技能欄も三つ増えている。ハジメが作った空間からでて、よくよく見ると先ほどよりも遥かに周りが見える。どうやらこれが〝夜目〟の効果で、暗いところでは常時発動の技能らしい。

 

 ショボイ気もするが、この階層においては強みとなるし今後も使っていくだろうからありがたい

 

 後は、文字通りの技能で、’’気配感知,は浩介にとっては’’直感,があるので微妙ではあるがハジメにとっては大きい。心の奥底から惜しいのは、最初に斬ったトカゲが石化させる眼を持ったバジリスクだったのだが……

 

ソイツの固有能力が何故〝耐性〟であって〝石化〟じゃないのか

 

 ということ。知ってはいたものの「石化の魔眼、’’キュベレイ,! とかカッコイイのに……」という感じにガッカリしていると、己の中にある深淵卿が「呼んだ?」と出てきたので全力をもってねじ伏せる

 

 そんな風に浩介が外で己と格闘しているのをよそにハジメは消耗品を補充するため錬成を始めていた。弾丸を作るのに途轍もなく集中力を使うので、悪いとは思うがハジメにとって浩介が出て行ったのは丁度良かったのだ

 

 

 しばらくして、準備を終わらせた二人は階下へ続く目の前の階段を戸惑いなく駆け下りていった

 

 




 次はユエの所まで行っちゃおうかな〜

アンケート閉じますね!最終は恵里、リリアーナに+して園部、ティオ、ラナ、愛子先生がヒロインですかね!!

最後に盛り返した愛子先生……っ!!流石……っ!

あ、要望があったのですが……中村恵里ちゃんをメインヒロインにした小説とかって読みたいですかね?

詳しく知りたい方は活動報告を見ていただけると嬉しいです。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=245496&uid=236275

それではまた次話で会いましょう!!




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封印部屋

Twitterで、昨日投稿するって伝えていましたが、寝落ちしちゃいました。それに多機能フォームが使えなくなったりしてギリギリになってしまいました……すいません

お気に入り登録と、感想ありがとうございます!!とても励みになっております!

この話からドンドンオリジナル要素入れていきますよォ〜

それでは、どうぞッ!






 あれからどれ程の日数が過ぎただろうか……二人の迷宮攻略は火気厳禁タール塗れ(まみ)の階層で’’気配遮断,,の技能を持つタールザメを倒してから五十階層ほども進んでいた。

 

 それまでに多くの敵を相手にしてきたが、階層を下へ下へと潜っていく(ごと)に敵は強く、戦うのが厄介な相手ばかりになっているので、ほぼ死闘の連続だった。

 

 例えとして上げるのなら、迷宮全体が毒霧で覆われた階層……毒で覆われているというだけでキツイのだが、そこで現れた魔物は毒の痰たんを吐き出す二メートルのカエル(虹色だった)や、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾(見た目モ○ラだった)だった。麻痺に毒という代表的な二大デバフ……ハジメにより渡された簡易的なマスクと、常に神水を服用していなければ探索しているだけで死んでいた

 

 虹色ガエルは移動距離が半端ない程度で何とか倒せたが、モスr……蛾の魔物は飛び続け、毒の鱗粉を撒き散らしているおかげで遠距離攻撃手段がない浩介はハジメに位置を伝えるしか役に立てなかった。

 

 そんな二体の魔物を喰らった時、虹色蛙は一番最初に魔物の肉を喰った時に近い激痛が起こり、神水が無ければ危うく死にかけた。蛾の魔物はというと……羽根部分は湿気ったポテトチップス、胴体部分の食感はカブトムシの幼虫に似ており、口の中がビリッと刺激を感じたが、その味は虹色蛙よりも美味しかった。

 

 

 また、密林のような階層では分裂する巨大ムカデという一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物だがいて、精神的にも倒すのにも苦労したハジメだったが、逆に浩介は「いい鍛錬になる」と嬉々として倒していた

 

 他にはトレント似の魔物がおり、その魔物の頭部には珍しく普通に食べられる実(スイカ味)を付けており、二人は久しぶりの魔物肉以外の食材ということで、しばらくその階層にとどまり、目に入るトレントを駆逐していき、他の階層へ移動する時には、ほぼ全滅させていた。

 

 

 他に、浩介とハジメの動きを真似て攻撃してきた筋肉が異様に発達した猿のような魔物や、五メートルはあるミミズ似の魔物(斬れば切るほど増える)などなど…… そんな感じで階層を突き進んでいくと、気がつけば五十層にもなっていた。

 

 だが、未だ終わりが見える気配はない。ちなみに、現在の浩介のステータスはこうである。

 

 ===================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:53

 天職:暗殺者

 筋力:994

 体力:1096

 耐性:899

 敏捷:1138

 魔力:822

 魔耐:822

 技能:暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術][+深淵卿][+伝振][+遁術]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ]・影舞[+水舞][+木葉舞]・直感・魔力操作・胃酸強化・纏雷[+雷耐性]・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・模倣・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

 ===================================

 

 浩介の元々あった‘’暗殺術,,の派生技能は覚えている限りでは全て覚醒し、気配操作もその感覚を掴んできた。原作には無かったであろう*1’’模倣,,というかなり貴重な技能も手に入れていた。

 

 

 そんな二人は五十階層より下へ潜るための階段を既に見つけはしているものの、それぞれ銃技や剣技、技能の鍛錬を積みながら足踏みしていた。その原因というのが、明らかに異質な場所があったのだ。

 

 そこは不気味な空間だった。

 

 高さ三メートルにも及ぶ豪勢な装飾がなされた両開きの扉と、それを守護するかのように脇に鎮座している二体の一つ目巨人の彫刻が鎮座していたのだ。

 

 異常なまでの存在感を放つ扉と、重い空気感、’’直感,,を持っていないハジメですら感知できる程の命の危機に、二人は即座にその場から撤退し、装備を整えてから調べることにしたのだ。

 

 浩介はハジメと違い、扉の先に何が待ち受けているのかを知っている。(・・・・・)だが、同時に分からなかった(・・・・・・)

 

(この先にいるのはユエとサソリ型の魔物だけの筈……なんでこんなに嫌な予感がするんだ?’’直感,,もさっきから危険だと警告してきている)

 

 

「……ふぅ、さながらパンドラの箱だな。……さて、どんな希望が入ってるんだろうな?」

 

「……あるのは絶望だけかもな」

 

 ‘’直感,,の事もあってか、思わず溢してしまった言葉。それに対しハジメは、自分の胸に手を当て目を瞑る。そして、今一度あの時のように己の内にある願望を口に出して宣言する。

 

「それでも俺……いや、俺たち二人なら(・・・・・)その全てを乗り越えられる。そして日本に、家に……帰る。それを邪魔するものは敵。敵は……殺す!」

 

 先程までは多少の怯えと不安が感じられたハジメも目を開けた時にはいつも通りニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。そして浩介も——

 

 

 

 扉の部屋にやってきた二人は油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。ハジメは扉を開けようと試行錯誤し、仕方なく(・・・・)いつも通り錬成を使い——

 

 バチィイ! 

 

「うおっ!?」

 

 その行いを罰するかのように扉から赤い放電が走り、ハジメの手を弾き飛ばした。少なくないダメージを受けたハジメは悪態を吐きながら神水を飲んで回復する。直後に異変が起きる。

 

 ──オォォオオオオオオ!! 

 

 突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

 ハジメは扉から距離をとると、予定通り(・・・・)ホルスターに装備してあるドンナーを抜くと、右にいる一つ目巨人へ銃口を向ける

 

 雄叫びの正体は浩介から事前に聞かされていた通りだった。

 

「お前の’’直感,,には恐れ入るよ……」

 

 虚空に向かってそう呟くハジメの前で、めり込んでいた周囲の壁をバラバラと砕きつつ、一つ目巨人はその全貌を現す。

 

 見た目はファンタジーでありがちなサイクロプスで、壁の色と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色し、手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている片足を強引に抜きながら侵入者であるハジメに視線を向けた

 

 その瞬間、

 

 ドパンッ! 

 

 凄まじい発砲音と共に赤いスパークを纏った弾丸が右のサイクロプスの目に突き刺さり、そのまま勢いを殺すことなく脳内をグチャグチャに蹂躙した挙句、後頭部を爆ぜさせて貫通し、後ろの壁を粉砕した。

 

 左のサイクロプスが困惑した様子で隣のサイクロプスを見る。撃たれたサイクロプスはしばらく痙攣したあと、前のめりに倒れ伏した。巨体が倒れた衝撃で、部屋全体が揺れて埃ほこりが舞う。

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃないんだよ……俺たちは(・・・・)

 

 ハジメのあんまりな攻撃に非難の眼を向けつつも、危険性を理解したのか大剣を構え、いつでも対応できるように腰を低くしながらハジメを睨む。

 

 睨み合って動かない両者、そんな均衡が唐突に破られることになる。あろうことかハジメはドンナーをホルスターにしまい、興味が無くなったかのようにサイクロプス(左)から視線を外し、扉に向かって歩き始めたのだ。

 

「オォォオオオッ!!」

 

 侮辱以外の何ものでもないその行為に迷宮を揺るがす程の咆哮を上げ、怒りのままに大剣を振り下ろし——

 

「?」

 

 

 ——困惑する。

 

 何故、目の前の人間は生きている?

 

 何故、俺の剣と左腕が地面へ落ちている?

 

 ナゼ、オレは宙を浮いている?

 

 なぜ——

 

 

「——流、閃華」

 

 ‘’気配遮断,,を解いた浩介はカチッと黒妖一鉄を鞘に納める。直後、サイクロプス(左)は最後の瞬間まで何が起きたのか分からないまま切り裂かれ、地面に崩れ落ちた

 

「一瞬でよくそんな斬れるな……流石は深淵卿様だな」

 

「……お前な、危険だから敵から目ぇ離すな」

 

 煽り混じりの称賛をスルーした浩介は戦闘中に敵から目を離した事について注意をしつつ、肉塊となったサイクロプスから魔石を取り出した。手を魔物の血に染めながら二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせる。

 

 直後、魔石から赤黒い魔力光が(ほとばし)り魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

「よし、覚悟はいいな?」

 

「はっ!当たり前だ」

 

 浩介は最大限の警戒しつつそっと扉を開いた。

 

 扉の奥は真っ暗闇で、大きな空間が広がっている。二人は〝夜目〟を持っているのと部屋の明かりが手前から少しずつ灯っていき、その全容を知ることができた

 

 中は、聖教教会の大神殿で見た時に近しい様子で、部屋の中央付近には巨大な立方体の石と、それを見張るかのように甲冑を着た兵士が剣を構えていた

 

「あの兵士がボス……なのか?」

「違う……あんなのよりも奥にもっと強い奴がいる」

 

 奈落へ落ちてからというもの、弱そうな魔物に限って強敵であったことからそう勘違いするハジメだったが、浩介が間髪入れず訂正する。

 

 浩介が注視しているのは中央の立方体に閉じ込められたユエではなく、見えづらいが一番奥にある誰も座っていない玉座と、それにひれ伏す複数の兵士達。その中でも圧倒的な存在感を放っている漆黒の騎士だ

 

「……なんだ、アイツ——」

 

「……だれ?」

 

 かすれた、弱々しい女の子の声が聞こえた。突然の事に二人揃って中央にある立方体の石を凝視する。

 

「人……なのか?」

 

 ハジメは何かいる(・・・・)と気が付いていたようだが、まさかそれが人だとは思わなかったらしく動揺を隠しきれない

 

 その子は、下半身と両手を立方体の中に埋められており、長い金髪が垂れ下がっているので顔はよく見えないが、その髪の隙間から紅眼の瞳が此方を覗いている。随分とやつれているが、美しい容姿だということがよく分かる。

 

 何かあるだろうとは思っていたハジメだが、予想を遥か上へぶっ飛ばした事態に硬直している。紅の瞳の女の子もハジメをジッと見つめている。やがて、ハジメはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

「すみません。間違えました」

 

*1
相手の一挙一動を観察、分析することでその動き(技術)を再現する技能




ふ……模倣の技能に関しては何も聞かないでください……(言えない……HFの三章観てきて衛宮士郎とエミヤ超絶ッ格好良くて入れちゃったとか口が裂けても言えない……ッ)

次回、新メンバー’’ユエ,,絶対見てくれよな!!……下さい


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ユエ

どうも!ちょっと遅くなってしまってすいません!!


いや〜悩みました。頑張って書きましたけど後から訂正するかもです!

11月23日、後半の内容を変えました。続きですが、もう少しお待ち下さい




それではどうぞ!!


「すみません、間違えました」

 

 そう言ってそっと扉を閉めようとするハジメ。それを金髪紅眼の女の子が慌てたように引き止める。といっても、その声は掠れて呟きのようだった

 

 だが、その必死さは十分に伝わった。

 

「ま、待って! ……お願い! ……ここから出して……」

「嫌なこった」

 

 面倒そうに間髪入れずに言うと、やはり扉を閉めようとするハジメ。はっきり言って鬼である。

 

(二人がイチャイチャしてたのが印象的過ぎて忘れてたが……そういや、出会い当時の二人ってこんな感じだったな。まぁ、奈落の底から這い上がってきたんだし、この反応は当然っていえば当然か)

 

「何でもする……だから……私の話を」

「断る」

 

 女の子は時折咳き込みながらも必死に顔を上げて話を聞いて貰おうとするが、ハジメは聞く耳を持たない

 

「ど……どうして」

 

「どうもこうもあるかよ、こんな奈落の底の更に底で閉じ込められてるヤツを信用できるわけないだろう? 見たところ封印されてるようだが……そう見せかけた罠かもしれん。かなりヤバイ奴だってのは容易に想像がつく。そんなものを解放する訳ねぇだろ……それじゃ」

 

 その言葉を最後に閉じられていく扉。女の子はこの機を逃せばもう二度と此処から出ることが出来なくなるかもしれないと、泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

「ち、違う! ケホッ……私悪くない……私は——」

 

 知るかとばかりに扉を閉じていき、あと僅かで完全に閉まり切るという時、女の子の一言がハジメの心を揺さぶった

 

「裏切られただけ!」

 

 女の子の叫びに、閉じられていく扉は止まった。そこから僅かな光が差し込んでいる。助けてくれないと諦めていた女の子が不思議そうに扉を見つめている

 

 十秒、二十秒と過ぎていき、やがて扉は再び開かれる。そこには不機嫌そうに顔を歪めたハジメが扉を全開にして立っていた。

 

「……?」

 

 まさか戻ってきてくれるとは思っていなかった女の子は困惑しながらもハジメを真っ直ぐに見つめる。

 

「——…………なにやってんだかな 俺は……」

 

 少しして、盛大にため息を吐いたハジメが頭をカリカリと掻きながら、女の子に歩み寄る。もちろん警戒は解くことはない

 

「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

 先程までとは打って変わった様子のハジメに呆然としている女の子。

 

 何も答わず、戸惑いの視線を向けてくる女の子にハジメがイラつき「おい。聞いてるのか? 話さないなら帰るぞ」と言って(きびす)を返しそうになる。それに、ハッとした女の子は慌てて封印された理由を語り始めた。

 

「私は先祖返りの吸血鬼、すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……これからは叔父様が王になるって……私……それでもよかった……でも、私のすごい力が危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

 必死にポツリポツリと語る女の子。それを聞きながら所々気になるワードがあったハジメはそれを一つずつ尋ねていく

 

「お前って何処かの国の王族だったのか?」

 

「……(コクコク)」

 

「殺せないってのはつまり……不死って事か?」

 

「……多分? 怪我しても直ぐ治るし、首落とされてもその内に治る」

 

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

 

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

「なるほどな……」

 

「魔力が回復すればあなたの力になれる。だから……」

 

「お願い……助けて……」

 

「……」

 

 真剣に見つめ合う二人と‘’気配遮断,,を使っているからか、完全に蚊帳の外となっている浩介。一応ハジメから少し距離を置いた所で話を聞いている。

 

(この兵士達はなんだ? 俺という転生者がいる影響という可能性が高い……なんだったら転生させた神がそうしたのか?)

 

 といっても、ある程度は知っている二人の会話よりも原作では無かったはずの兵士の銅像が気になっているので、意識はそちらにいっている

 

 浩介がそう思考しているうちに、女の子と見つめ合っていたハジメはため息を吐きながら立方体に手を置くと、錬成を発動させる。

 

 ハジメから濃い紅色の魔力が放電するように迸る。が、本来ならイメージ通りに変形するはずの立方体はその形を変えない。といっても全く通じないわけではないらしい

 

 ハジメは更に魔力をつぎ込む。先程よりも大量の魔力を消費してようやく魔力が立方体に浸透し始める。周りはハジメの魔力光により濃い紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められている

 

「まだまだぁ!」

 

 かなりの魔力を注ぎ込んだものの、まだ足りない。未だに変形しない立方体にハジメはヤケクソ気味に全魔力を放出する。立方体を迸っていた紅い輝きはハジメ自身を覆っている。

 

(……なるほど、〝紅き閃光の輪舞曲(ロンド)〟か、的を得ているじゃないか。うーん、〝疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート〟ってのもっと格好良くならんかな……)

 

 直後、女の子の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

 胸部から腰、そして両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、そんな事が気にならない程に美しかった。そのまま、全てが解き放たれた女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。

 

 限界だったのかハジメも崩れるように座り込んだ。肩でゼハーゼハーと息をしながら震える手で神水を出そうとして、その手をギュッと女の子が握った。

 

 横目にその様子を見ると女の子が真っ直ぐにハジメを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

 そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「……ありがとう」

 

「……おう——んぐっ!?」

 

「邪魔しちゃ悪いとは思うが……神水だ。飲め」

 

 返事をして女の子の手を握り返そうとしたハジメの口に神水の入ったビンを押し込む。突然の事に驚きつつも浩介の言葉を聞くと神水を飲み込んでいくハジメ。対してユエはというと、目を丸くして「!? ……だ、だれ?」と驚愕と共に警戒心を露わにする

 

「ぷはっ……そんなに警戒するなよ。コイツは俺の仲間だ」

 

「……なか、ま……でも、入ってきた時……一人だった?」

 

「コイツの天職が"暗殺者〟でな。"気配遮断〟を使えるのと、異常なほどに影が薄くてな」

 

「……まぁ、そういう事だ。それより早く——」

 

「……二人の名前、教えて?」

 

 ハジメの説明に一先ず納得した女の子が囁くような声で二人に尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかったと苦笑いを深めるハジメと、(やらかした)と、顔を青ざめさせる浩介

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。んでこっちが……おい、浩介?」

 

「……遠藤浩介だ」

 

「……で、お前は?」

 

 女の子は「ハジメ、ハジメ……コウスケ」と、繰り返し呟く。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したようにハジメにお願いをした。

 

「……名前、付けて」

 

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

 長い間、幽閉されていたのなら可能性はあると聞いてみるハジメだったが、女の子はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」

「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

 困ったように唸るハジメは隣で頭を抱えている浩介に意見を聞く……だが、

 

焦り過ぎた……俺に期待しないでくれ。助けたのはお前なんだ。自分で考えてくれ、頼むから」

 

 浩介の様子に首を傾けながら確かに一理あるなと、女の子を見つめる。彼女は期待するかのようにハジメを見ている。少しの間う〜んと唸った末に仕方ないというように彼女の新しい名前を告げた。

 

「……〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるけど……」

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。その金色の髪が月のように見えたんでな……どうだ文句あるか?」

 

 ハジメが少女の名前を”ユエ,,と命名した時、浩介は青ざめていた顔を安堵の色に変えた。

 

(……良かった。危ねぇ……ユエが立方体(アレ)から解放された時、とんでもなく嫌な予感がしたから焦って二人の会話に割り込んじまった。

 ……いや、今はそんな事より此処から早く出ないとな。サソリ程度なら問題なく倒せるが、あの黒騎士と一緒に()りあうのはキツい)

 

 早々に此処から出る事を決めた浩介が二人に出るように言おうとして……

 

「ハジメのエッチ」

「……」

 

「……いちゃつくのは後にしろ……早く出るぞ」

 

「……いやん、浩介もエッチ」

 

 俺の事にハッとしたユエは体を庇うような素振りをして、そうふざけたように言う。ハジメは標的が自分から浩介に移ったので好都合とばかりに知らんぷりしている。

 

「……ッ!? ハジメ!」

 

「……なっ!?」

 

 原作知識と”直感„の技能を持っている浩介は突如として現れた天井にいる存在にいち早く気が付き、声を張り上げる。その数秒後には俺たち三人目掛けて大質量が落ちてくる

 

 目線だけでハジメと意思疎通を行うと、少し離れていたハジメはそのまま”縮地,,を使って回避し、すぐ側にいた浩介はぶかぶかの外套を羽織ったユエを抱き上げると同じように〝縮地〟を使用して回避をする。一瞬で、移動した二人が振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

 目の前にいるのは体長五メートル程もあるサソリの魔物。浩介は見た目も登場のタイミングも原作と全く同じ事に安堵しつつも同時に”直感„による嫌な予感を感じ取り、一抹の不安を残しつつも今にも襲いかかって来そうなサソリモドキへと意識を集中させる

 

(此処は原作通り……だが、これだけでは終わらない気がする。黒騎士や兵士達は未だに動きを見せてはいないし、何も反応はない……いや、何にしても今は目の前のコイツを先に倒さねぇとな)

 

「ユエ……後はハジメに背負ってもらってくれ。あと、これを飲めば多少は動けるようになるから……」

 

 ユエを近づいてきたハジメに任せ、ついでに神水の入った瓶を飲むように言って握らせる。浩介は近接メインで、ハジメは中から遠距離メインなので適任だろう

 

「……ッ!?」

 

 ギィィンッ! 

 

 抜刀の構えを取り、いざ魔物へと突貫しようとした浩介は唐突に真横に現れた黒騎士に斬りつけられてしまう。それをギリギリのところで防御するも、片手ではその勢いをいなすことが出来ず、そのまま押し切られて奥へ吹き飛ばされてしまった

 

「……浩介ッ……テメェ!!」

 

 呆気にとられていたハジメは直ぐ様、黒騎士にドンナーを向ける。しかし、発砲する前にそれを邪魔するかのようにサソリの魔物が尻尾の針を射出する、避けようとするハジメだが、針が途中で破裂し散弾のように広範囲を襲う。

 

「ぐっ!」

 

 ハジメは苦しげに唸りながら、迫りくる針をドンナーで撃ち落とし、〝豪脚〟で払い、〝風爪〟で叩き切る。なんとか凌ぎ切り、お返しとばかりにドンナーを発砲。直後、空中にドンナーを投げ、その間にポーチから取り出した手榴弾を投げつける。

 

 サソリモドキはドンナーの一撃を再び耐えきり、攻撃に移ろうとする。しかし、その前にコロコロと転がってきた手榴弾がカッと爆ぜる。その手榴弾は爆発と同時に中から燃える黒い泥を撒き散らしサソリモドキへと付着した。

 

 流石のサソリモドキも摂氏三千度の付着する炎は効いているようで攻撃を一時中断して、付着した炎を引き剥がそうと大暴れする。その間に、キャッチしていたドンナーのリロードを素早く完了させる。

 

 リロードが終わる頃には手榴弾のタールが燃え尽きたのかほとんど鎮火してしまっていた。しかし、あちこちから煙を吹き上げているサソリモドキにもダメージはあったようで強烈な怒りが伝わってくる。

 

「キシャァァァァア!!!」

 

「行かせねぇって事か……はっ、邪魔者は 死にやがれッ!

 

 




いかがだったでしょうか!

次回、黒騎士vs深淵卿……サソリモドキvsハジメ&ユエの二本立てでお送りします!次話も見て下さいね!

11月23日、後半の内容を変えました。続きですが、もう少しお待ち下さい

あ、そろそろ恵里ルートも書き始めるのでそちらもよろしくお願いします!!

次の話、結構じかんが掛かります。すいません!!

それではまた会いましょう!


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????

遅くなって本当にすいませんでしたァァァァ!!

めっちゃ書き直しました!!本当ならクリスマスプレゼントとか言って朝5時くらいに投稿しようと思ってたんですが……間に合わんかった

早く書いて番外編って形でクリスマス編(雫)(恵里)の両方出したかったんだけどなぁ……

いつも通りの駄文ですが、どうぞよろしく!それでは、どうぞ!!


 ユエをハジメに預けた浩介は正面のサソリモドキを見据えると身体を半身にし、剣に手を掛ける。

 ……目の前の相手は序盤での中ボスクラスだが問題はない。転生者の特権であり強みである原作知識から戦法は既に考えてあるので負ける筈がない。なのに……

 

 

 嫌な予感が、妙な胸騒ぎが、直感による鬱陶しい程の警告が浩介を不安にさせる。落ち着こうとなんとなく(・・・・)で目線を奥の方へ向け——目を見開く

 

(黒騎士がいない?!)

 

 浩介は驚愕しつつもようやく妙な胸騒ぎの原因を理解する。同時に浩介に対して向けられる濃厚な殺意と凄まじいまでの威圧感を察知し、背筋が凍ったような感覚を覚える

 

(何処に——っ、真横からっ!?)

 

 時すでに遅し、いつの間にか接近していた黒騎士と我が身に迫る刃……

 

(こんな所で死ねるかァァ!)

 

「……ッ!?」

 

 ギィィンッ! 

 

 我が身に迫る長剣と身体の間に刀を滑り込ませてなんとか真っ二つにされることは避けたが、勢いそのままに押し込まれ、棟が身体に深く食い込む。息を吐き出し苦悶の表情を浮かべつつ衝撃を逃すためにわざと後ろに飛ぶ

 

「……浩介ッ!? ……テメェ!!」

 

 ハジメの怒声を聞きながら遠くなる意識を必死に繋ぎ止めつつ右手で頭を庇う。そして——

 

バキッ ゴキャッ

 

 

 形容し難い何かが叩きつけられた音と共に骨が折れる音が響く。何度も床をバウンド、しばらく転がるとやっとの事で停止する。

 

 

「……ゴホッ、ゲホッ」

 

 ボロボロになった身体を無理やり起こし、立ち上がろうとする。途中で咳き込んだ口元からビチャビチャと血が吐き出される。あばらに凄まじい激痛を感じるので恐らく何本かは折れているかヒビが入っている。腕や足の骨も当然だが酷い事になっているだろう

 

「二人に渡したの——ゴホッ、失敗だったかな」

 

 まだ使いたくなったんだけどな〜と思いつつも状況がアレなので奥歯に仕込んだ神水入りのカプセルのような物を噛み砕き、身体を癒す

 

「……なんの真似だ?」

 

 タイミングを見計らったようにガチャっと浩介の足元に刀が放られる。忌々しげに飛んできた方を見れば黒騎士がおり、浩介が刀を拾うとガチャッ、ガチャッと音を立てながらゆっくりと此方へ歩み寄ってくる

 

「騎士が不意打ちしていいのかよ……魔物に言っても分からんだろうが、騎士道精神の欠片も——」

 

 やられっぱなしの浩介はせめてもの意趣返しとばかりに煽りを……

 

「はは、マジかよ」

 

 ニヤケ顔が引き攣った笑みへと変わり、乾いた笑いが出てくる。

 鳥肌が立ち、冷や汗が流れる。武者震いか、それとも恐怖なのか武器を持つ手が微かに震える。

 

(ハジメに手榴弾とか貰って爆発させりゃ良かった)

 

 浩介は今更ながら後悔する。この場にいる敵はサソリモドキと黒騎士だけではないのだ。玉座に跪く兵士たち少なく見積もって30体、その全てが黒騎士の背後に控え、浩介に敵意を向けていた

 

(まずい……どうすればいい!? ”隠密”を使って上手く逃げれたとしても標的がユエとハジメに向くだけ、相手をしようにも……ッ)

 

 兵士達だけならば数で押されたとて浩介一人で相手をするのは可能だ。しかし、そこに黒騎士が加わるとなると一気に厳しくなる。それほど黒騎士()は危険な相手だ。それはあの一撃(・・・・)で再確認した

 

 バシュッ! 

 

「来るよなそりゃ……っ!」

 

 黒騎士を先頭に剣士と槍兵が2体ずつ追従して攻めてくる。後ろに控えている弓兵は弓を引き、宝玉を持ったローブの兵は魔法使いだったようで、様々な属性の魔力弾が作り出されていく

 

 

 考えうる中でも状況は最悪、ハジメとユエはサソリモドキに苦戦しており、倒すのにはまだ時間がかかるだろう。

 

(やるしかないッ!)

 

 黒騎士の長剣による大振りと、逃げ場を無くすためだろう左右から兵士達が同時に襲いかかってくる。

 

「——っ、ああァァ!!」

 

 浩介は正面から迫る長剣を刀で横に逸らす事で兵士2人を同士討ちさせるとその勢いを利用して回転、反対側から迫る槍を刀で斬りあげると同時に手離すとそのまま1体を”風爪”で切り裂き、もう一体を”豪脚”で上半身を抉り飛ばす

 

 ドンッ! 

 

 耳をつんざくような爆音と共に様々な属性の魔力弾と矢が放たれる。黒騎士は当然のように離脱しており、浩介も刀を拾うと“縮地”を発動してギリギリ範囲外に逃れる

 

「くっ……」

 

 振り返り、数秒前にいた場所を見れば広範囲が抉られたようになっている。もし一撃でも喰らえば戦闘続行は不可能……浩介の持っている神水のストックが切れてしまっているので死は免れないだろう

 

(どうすればこの状況を打破できる!? なにか……俺に切り札があれば(・・・・・・)!!)

 

「……っ」

 

 “直感”による警告を聞き、背後から迫る刃をしゃがむ事で避け、同時に襲撃者の足を払いバランスを崩させると起きあがる前に兵士の首元に刀を捩じ込んでトドメを刺す

 

「暗殺者までいやがるのかよ……」

 

(相手の残りは、黒騎士、剣士と槍兵が互いに8体ずつ、弓兵が3体、魔法使いが5体で、暗殺者が4体)

 

 忌々しそうに呟きつつも視線を巡らせ、敵の戦力を分析している浩介の元へ剣士と槍兵が2体ずつ迫る

 

「……チッ」

 

 先行していた剣士の攻撃を躱したついでに回し蹴りで吹き飛ばし、続けて来たもう一体は刀で剣を翻すようにして弾くと流れるように心臓部に突きを放つ

 ……が、ここで予想外な事に突き立てた刀を最後の抵抗とばかりに剣士が掴んでしまい抜くことができない。浩介は舌打ちをして刀を手放すと、迫り来る槍の一撃と大量の弓矢による攻撃をバックステップで避ける

 

 弓矢による一斉掃射 を避け切った浩介は“縮地”を使用して槍兵に急接近する。来るとは思わなかったのか動揺していた槍兵だったが、すぐに立て直して突きを放ってくる

 

「ふっ!」

 

 迫り来る槍の一撃を手刀の形にした素手を柄に当てて弾くと、手を握り込み”纏雷”を使って紅い電気を纏った拳で無防備になった腹を殴りつけ、続けて顎へアッパーカットを放つ

 

 衝撃透しで鎧の内部に直接(・・)打撃と電撃を喰らった兵士は身体をビクビクと痙攣させながら床に倒れた

 

 刀を拾おうと死体に近づく浩介だったが、そうはさせまいと残りの剣士と槍兵が立ちはだかる

 

「……邪魔ッ!」

 

 剣士と槍兵がほぼ同時に斬り掛かって(突きを放って)くる。まず浩介は剣士の一振りを半身になって避けると、そのまま持ち手を掴み、合気を使って床に叩きつける。

 槍の一撃は剣士の死体(死んで無い)で防ぐと共に攻撃手段を奪い、先程の兵士と同じように電撃を纏った拳で顔面をブン殴る

 

「……っ、次から次へと——」

 

 即座に刀を拾った浩介はその場から離脱すると、遅れてその場に魔法攻撃が降り注ぐ。逃れた先では長剣を振り上げている黒騎士

 

 バランスを崩している状態でこの攻撃を受け切るのは困難、避けるのも間に合わない。……ならば、受け流せばいい

 

 刀を絶妙な力加減で握り直し、頭上に迫る一撃に合わせるようにして刀を翳し、そのまま一気に受け流す。

 完全には受け流しきれなかったようで、手が痺れてしまったが、真っ二つになる事は避けたので良しとする

 

「——カハッ」

 

 浩介の受け流した長剣が床を破壊し、破片が飛び散る。その威力に冷や汗を流し引き攣った笑みを浮かべていた浩介の腹部に黒騎士の蹴りが炸裂する。

 息と一緒に血を吐き出し、吹っ飛ばされた浩介はバウンドも無しに壁へと叩きつけられた

 

「ぐ……ぁ」

 

 黒騎士は苦悶の表情と共に床で蹲っている浩介に近づき、真横に立つと首に狙いを定める。

 

(斬首のつもりか……? そういう所だけは騎士風にかよ)

 

 心の中でそう悪態を吐きつつも身体を動かせない……ふりをする

 

「う……くっ……」

 

 黒騎士は多少疑いつつも苦悶の表情と共に動けないでいる浩介を見ると長剣を振り上げ……そのまま垂直に振り下ろした

 

 長剣が首目掛けて迫る……が、浩介は動かない。振り下ろしのまだ初動なので反撃をしても返される可能性がある

 

 首までの距離が縮まり、後半分程度になった。確実に殺すのならまだ待つべきだろう。長剣が首を切断しようと触れる0.1秒が狙い時だ

 

 ……しかし

 

 例え相打ちになったとしても黒騎士(コイツ)さえ倒せれば他の兵などハジメとユエの敵では無い。俺が死んでも問題はない

 

 本当にそうか? 

 

 ……ハジメなら雫を助けてくれる。ハジメの方が雫を幸せにしてくれる。だって、本当なら雫は……

 

 本当にそう思っているのか? 

 

 …………俺というイレギュラー、黒騎士というイレギュラー、一之宮楓というイレギュラー、この先にこれ以上の出来事が起こらない確証は? 本当に俺という戦力がいなくなってもいいのか? 対応できるのか? 

 

 

「———ッ!?」

 

(クソッ!!)

 

 死の恐怖がそれらしい理由(甘い誘惑)で心を揺さぶり、浩介の覚悟を奪ってしまう。そのせいで予想よりも早く反撃をしてしまった。だが、黒騎士の首までは刃が届かなかったものの右腕を断つ事に成功する

 

「……ッ、ぐぅ」

 

 黒騎士の右腕を奪った代償に浩介は左肩を深く斬られてしまった。左腕を失っているので支障は無いように見えるが、今の浩介は回復手段が無く、止血をする暇もないので戦えて後5分が限度だろう

 

「————ッ!!」

 

 怒り狂った黒騎士が浩介に急接近し、大振りの一撃を放つ。それは先程より剣速が段違いに上がっているものの、代わりに剣筋が単調になっているので対応は可能——

 

「……っ!」

 

 黒騎士の長剣を受け流そうと己の刃を重ねた瞬間、浩介の目が驚愕に見開かれる。

 理由は単純、想定よりも黒騎士の剣が重かった……要は浩介の見通しが甘かったが故に起こった自業自得である

 

 その代償は——

 

「……はぁ……はぁっ」

 

 どうにか凌いだ浩介は荒く息を吐きつつバックステップで、後ろに下がる。その目元には涙が滲んでいる。

 浩介の右腕は悲惨なものとなっていた。右腕から血が噴き出し、野菜をピーラーで剥いたかのように皮と肉が削がれてしまっているのだ。なんと筋肉、そして骨まで見えている場所がある

 

「————ッ!!」

 

 浩介の負傷など黒騎士には関係ない。雄叫びを上げて突進してくる。

 それに対して浩介はバックステップで距離を取ると跳躍、合わせて”空力”を使って上へ逃れると、”影舞”を使って壁を駆ける

 

「——ッ!!」

 

 黒騎士が何かを怒鳴るように言うと慌てたように今まで(・・・)手出しをせずにいた魔法兵と弓兵が一斉に浩介へ向けて魔法と矢を放つ

 

 逃げ場を無くすように四方八方から放たれる攻撃に、浩介は堪らず地上へ戻る

 

(——ぁ)

 

 壁を駆け回った反動か、血を流しすぎたらしく体の力が抜けて膝をつく。

 動けないでいると近づいて来た黒騎士に顔面を蹴り飛ばされ、数十メートルは飛ばされてしまい、壁に叩きつけられる

 

「———!!」

 

 薄れゆく意識の中で理解できない言葉を放つ黒騎士をぼんやりと眺める

 

「——、——ッ!」

 

 何を言っていたか分からないが、おおかた罵声か何かだろう。言い終わった黒騎士が長剣を構えて疾走する

 

 ——遅い

 

 全てが遅く、スローモーションのようになり、今までの記憶がフラッシュバックする。どうやらこれが走馬灯というものらしい

 

 

 最初に思い起こしたのは前世の記憶、それは祖父と剣術の事ばかりだった。

 祖父は年甲斐もなく騒がしく、イタズラ好きで——強い人だった

 剣道や剣術は勿論のこと、柔道、空手、合気道、などの徒手でも負けた所を見たことがなかった

 

 そんな祖父だが、意外にも道場の門下生は一人もいない。というのも、入門しても皆んなすぐに辞めて行ってしまうのだ。ふざけている(・・・・)、そう言って

 

 祖父に誘導されて色々な武を学んだが、その中でも□□は剣術の才に秀でていた。

 

 大会に出て、道場破りをし、負けて勝ってを繰り返し、残すところ祖父を倒すのみ……

 

 そんな□□も暴走トラック相手ではどうにもならなかった。極め付けにはイヤホンを付けて音楽を聴いて歩きスマホしていれば周囲の忠告は聞こえないし、気付けない。

 

 そこで□□の生涯が終わるはずだったが、違った

 

 名前は知らないが、男神に転生させてもらい、一番好きな子がいる異世界へと転生を果たした。定番である特典を貰ったが、今思い返してみれば自分を過大評価していたのか、あり得ない内容だった

 

 そして異世界に転生を果たすと雫と友達になり、夢だった稽古をして、一緒に出掛けることができた。

 原作から考えると普通ではあり得ない組み合わせだが、ハジメや龍太郎と一緒に特訓をして馬鹿みたいな事をする仲になった。

 厄介事が減ると思い恵里を助けると逆に厄介な事になってしまった。

 八重樫道場は変人の集まり

 

 死にたくないなぁと思う——だが、

 

(どうせ……死ぬんなら……黒騎士(コイツ)を……)

 

 刀の持ち手に力を込めて正面に構える。出血部分から血が噴き出るが、感覚がおかしくなったようで痛みを感じない。

 

 黒騎士が長剣を振り上げて迫る

 

 

「一刀流……」

 

 殆ど死に体である浩介から想像できない程の覇気と存在感が放たれ、青黒い魔力が溢れだす

 

「——!!」

 

 黒騎士はそんな浩介の様子に全く怯む事はなく、逆に絶叫を上げて振り上げていた長剣をそのまま垂直に振り下ろす

 

 そして……

 

「——っ!?」

 

 黒騎士が目に見えて動揺する。それもそのはず、今の今まで目の前にいた筈の浩介が急に消えたのだ

 

 浩介を両断するはずだった長剣は虚しく空を切り、床を破壊する。

 

 

「——”朧”」

 

 背後からの声に急いで振り返ろうとして……異変に気づく

 

 視界に広がる景色が移り変わる

 

 己の下半身、天井、そして、床を眺め……下半身が覆い被さるように倒れてくるのを最後に黒騎士の視界は闇に包まれた

 

 

 力を全て使い切った浩介が同じように床に倒れる。といっても浩介は黒騎士と違い、胴体が繋がっている

 

 近づく複数の足音の方へ目を向けると兵士たちがトドメを刺そうとせまっていた。魔法兵と弓兵も攻撃の準備をしている

 

「後は……任せ……ハジ」

 

 とうとう限界が来たのか意識を手放した浩介。しかし——

 

【任された……ハジメじゃないがな?】

 

 意識を失ったはずの浩介が口元を三日月のように歪めてそう応える

 

【なるほど、黒騎士(コイツ)を倒さない限り、”深淵卿(オレ)”の存在を忘却する仕掛けか……ようやく合点がいった】

 

 床に倒れながら一人でに納得する浩介(深淵卿)、そんな彼に兵士たちが詰め寄る

 

【さて、俺は動けん……アイツを倒したし、使えるか?】

 

 顔を動かせない”深淵卿”からは見えないが、彼の背後では黒騎士の亡骸から黒い煙がもくもくと浮かんでいた

 

【”起きろ”】

 

 彼がそう言うと、影から黒い手が伸びてくる。その黒い手が地面につくと這い上がるかのように自らの身体を引っ張り上げる

 

 なんと、現れたのは今さっき浩介が倒したばかりの黒騎士だった。しかし先程と違い、殺意も敵意も向けていない。逆に——

 

 ガチャ

 

 王に仕える騎士のように地面へ倒れている浩介の前へ跪く

 

【名前は後で決めんだろ……オイ、アイツら全員を殺せ】

 

 その言葉に跪いていた黒騎士が立ち上がり、何処か動揺した様子の兵士たちの元へ駆ける

 

【ん、あっちも終わったみたいだし、大丈夫か……はっ、新しい力だ。上手く使えよ□□(オレ)

 

 

 ===================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:53

 天職:暗殺者

 筋力:994

 体力:1096

 耐性:899

 敏捷:1138

 魔力:822

 魔耐:822

 技能:暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術][+深淵卿][+伝振][+遁術]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ]・影舞[+水舞][+木葉舞]・直感・魔力操作・胃酸強化・纏雷[+雷耐性]・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・模倣・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・影の君主・言語理解

 ===================================

 

 

 




いや〜どうだったでしょうか!

よ〜し、この後は前作のを少し変えた文なので早めに出せるかもなぁ

期待せずお待ちを!!バイバーイ

追伸1:ハジメ&ユエvsサソリモドキは書きません

2:恵里ルートについての活動報告を出したので、見てくださると嬉しいです


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影の軍勢

すいません遅れました。

遅れた理由を正直に言いますと 9-nine-シリーズをプレイしてました

面白いので皆さんも是非

それではどうぞ!


 ——暗い

 

「此処は……なんだ? 俺は一体、どうなった?」

 

 眼前に広がる暗闇一色の景色、それは“夜目„を使っても晴れることはない。

 

 いや、待てよ? 

 

「なんか見覚えが……ってか、似てるなぁと思ったら——アレか、神とやり取りした空間に似てやがる」

 

 ひょっとして神様が出てきて「お前死んだから次の世界に転生な」とか言われるのでは? と、身構えていた浩介だったが、そんな事もなく……

 

「……っ、なんだ?」

 

 ——異変を察知する。未だ視界は利かず、何が起こっているか分からない。だが……

 

何かが迫る

 

闇が纏わりつく

 

闇がどんどん侵食して——

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「っ!? はぁっ、はぁっ、な、にが……」

 

「……浩介っ、大丈夫か!?」

 

 ユエと話をしていたハジメは、あれから丸一日寝たきりの状態だった浩介が起きたので血相を変えて近寄る

 

「ハジメ……か、どうやら勝てたみたいだな」

 

「あんなのに負けねぇよ。ってか、あれだけいた兵士と黒騎士を一人でよく倒せたな」

 

「ギリギリだった」

 

 ……ん? 

 

「俺が倒したのは黒騎士と数体の兵士で、まだ結構いたような……?」

 

「は? いや、しかしだな……俺とユエがサソリモドキを殺って駆け付けた時には終わってたけど」

 

 互いの食い違う話に「「んんっ?」」と、二人揃って首を傾げる。

 

「……浩介は、本当に暗殺者?」

 

 ユエのそんな一言がしばらくの間続いていた沈黙を破る。

 

「あぁ、俺の天職は暗殺者で間違いないぞ? なんだったらステータスプレート見てくれ」

 

 何故そんな事を聞くのか疑問に思いつつも素直にそう答え、取り出したステータスプレートを手渡す

 

「……確かに暗殺者……深淵卿?」

 

(よりにもよって始めに目がいった技能が深淵卿(ソレ)か……)

 

 浩介は恥ずかしげに目線を明後日の方へ向け、その様子を気の毒そうな、生暖かい目で見守るハジメ

 

 技能の多さに、ステータスの高さに驚いたりしながら黙々とチェックしていく。

 

「——影の……君主?」

 

(影の……な、なんだって? そんな技能あったか?)

 

「すまん、ちょっと返して貰っていいか?」

 

「……ん」

 

 ===================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:53

 天職:暗殺者

 筋力:994

 体力:1096

 耐性:899

 敏捷:1138

 魔力:822

 魔耐:822

 技能:暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術][+深淵卿][+伝振][+遁術]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ]・影舞[+水舞][+木葉舞]・直感・魔力操作・胃酸強化・纏雷[+雷耐性]・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・模倣・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・影の君主・言語理解

 ===================================

 

 ユエからステータスプレートを返して貰い、すぐさま技能を確認する。

 

「本当にあるな……」

 

 影の君主

 強さを渇望するあなたの思いは死の谷を彷徨い歩く亡霊を呼び寄せるほど強く、あなたの命令に従う亡者の軍は誰からも助けを借りる事なくただあなたのためだけに道を切り開いてくれるだろう。

 

「ぅわぁ……」

 

 痛い……痛すぎる。「なんで俺ばっかり」っと、悲しみながら頭痛がしたような気がして頭を抑えながら続きを確認する

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 [影の抽出]

 命が尽きた身体から魔力を吸い取り、影の兵士として従わせる。対象が死亡してから長時間経っていたり、対象のレベルが高いと抽出成功率が下がる。

 

 抽出可能な影の数:69/70

 

 影の抽出をする際の命令語:『起きろ』

 

 

 [影の保管]

 影の兵士を術者の影の中に吸収し、保管しておける。

 保管した兵士たちは術者が望むときにいつでも召喚したり再吸収可能

 

 保管した影の数:1/50

 

 [君主の領域]

 影の領域を展開。その範囲内にいる影の兵士たちの全能力を上昇させる

 

 [影の交換]

 自分の影の兵士の位置を交換する。

 

 [影の支配]

 術者、他者を含めた全ての影を自在に操る

 

 ——絶句する。厨二臭い技能名に説明ではあったが……その実、強力すぎる力だった。

 

「は、半端ないな……」

 

「やっぱり……見間違いじゃなかった」

 

 覗き込んでいたハジメは浩介と同じように絶句し、ユエはというと納得がいった、という顔をする。

 

「どう言う事だ?」

 

「……黒い騎士が、浩介に跪いてて……従属させたのかなって」

 

(じゅ、従属って……う〜ん、影の……あ〜、抽出とかってのをした覚えないんだかなぁ。気絶した後に何かあったのかな?)

 

「浩介、ほらコイツ」

 

「……おっと」

 

 済んでの所を”直感„のおかげで投げ渡された物を落とさずに受け取る。自分の刀が側に無いと思ってはいたが……どうやら強化を施してくれていたらしい

 

「魔力を込めた分だけ硬度が増すっつーシュタル鉱石っていうのを使ってる。お前は刀の使い方が上手いから硬度とか関係ないかもしれないが——」

 

【いや、助かる。して……この刀の真名(まな)は?】

 

「どういたし——ま、真名(まな)?」

 

【俺が付けることもできる……が、やはり創造主に名付けて貰うのが幸せだろう。この刀もな】

 

 二人は同時に気が付いた「「あ、これ……深淵卿モード(入ってるな)」」……と

 

「あ〜うん、そうだな……闇鴉(ヤミガラス)とか?」

 

【……闇鴉? フハハハっ! 流石は魔王。素晴らしい真名だ。気に入った!】

 

「そうか、そりゃ良かった——てか、誰が魔王だ! それだと俺がラスボスになるだろうがっ!」

 

【ふ、そうだな。非礼を詫びよう……我が親友っ、南雲ハジメよ!】

 

「なんでフルネームなんだよ……面倒くせぇよコイツの技能」

 

【そう言うな……見た目的に南雲ハジメも厨二(此方)側だろう?】

 

はなっ!」

 

「これが、深淵卿……っ!」

 

 対応に疲れたといった感じのハジメと、噛み締めるようにそう言うユエ

 

【——久しいな。このやり取りも】

 

 急にしおらしくなり、自分たちを見つめる浩介。その様子と発言に違和感を覚えたハジメだったが……

 

「また何やってんだ俺ぇぇ!?」

 

 顔を赤く染め、地面に頭を打ち付け始める浩介の姿を見た事でそんな違和感も吹っ飛んでしまう

 

「……まぁ、落ち着けって。病み上がりなんだから大人しくしろ」

 

「ほんっとうにすまん」

 

「……あ、ハジメ」

 

 二人のやりとりを黙って見ていたユエがタイミングを見計らったように話をふる

 

「コウスケも起きたし、二人のこと教えて?」

 

「ん? あー、そうだな……」

 

 少し考えた後、ハジメはこれまでの経緯をゆっくりと話し始めた。

 

 仲間と共に異世界に召喚されたこと、ハジメはありふれた職業である[錬成師]が天職で能力値も並以下、それが原因で無能と言われていたこと、ベヒモスとの戦いで仲間に裏切られて奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、神水のことや今使っている武器が元いた世界での兵器だということ

 

 すると、グスッと鼻を啜るような音が聞こえだす。発生源を見ると、ハラハラと泣き出すユエがいた

 

「……ぐすっ……ハジメ……つらい……私もつらい……」

 

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

 ポンポンとユエの頭に手をやり、そう言うハジメ

 

(う〜ん、俺って此処にいない方が良いんじゃね? 新しい力も試したいし……出るか)

 

 新たな武器、闇鴉を持った浩介は気付かれないように外へ出て行こうとして

 

「待って……」

 

 ユエに呼び止められる。

 

「コウスケの話も聞かせて……」

 

「別に俺は話すような事は無いしなぁ……」

 

 話す気がない雰囲気を察したハジメが自分の話した内容に少し付け加えた

 

「俺は確かに仲間に裏切られて逃げ遅れ、奈落へと落ちた。でもな、浩介がいなけりゃそもそも俺は此処にいない。ベヒモスの時もそうだが、奈落に落ちてすぐの時も命を救って貰った。前の世界でも、この世界でも……浩介には助けられっぱなしだ」

 

「……大したことはしてない。それに、俺は——っ」

 

 何故か苦しげな表情で言い淀む浩介。どうしたのか気になる二人だったが、敢えて聞かない。その代わりにユエが近づいてきて浩介の頭を撫でる

 

「……なぜ、撫でる?」

 

「コウスケ、命懸けでハジメのこと助けた。偉い」

 

「——、自分の為にしたようなものだ。偉くはない」 

 

「お、おい! 何処に……」

 

「傷が残ってる訳でもないし、病み上がりっても別に動いても問題ないだろ?」

 

「また素振りか——無理すんなよ」

 

「……あぁ」

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「不気味って言うよりは鬱陶しいって感じだな」

 

 ユエが封印されていた部屋へ戻ってきた浩介は、悲鳴のようなものを聞きながら兵士たちの亡骸を前にしてそう呟く。

 

「さて、なんだったか——”起きろ(・・・)„」

 

 新しく手に入れた”影の君主„を試そうと命令語になっていた言葉を口にする

 

 ゴオッ! 

 

 兵士たちの影が一斉に蠢き出す。しばらくすると、影から黒い手が伸び、漆黒の甲冑を纏った兵士が這い上がってくる。

 

「死者の軍団……違うな。影の軍団……いや、軍勢の方がいいか。王の軍勢(アイオニオンヘタイロイ)みたいでカッコいい」

 

 そう言い、ニヤリと笑みを浮かべながら影の兵士たちの事を見ていた浩介はハッとしたように一体の亡骸の元へと駆け寄る

 

(コイツを従える事ができれば迷宮の攻略が楽になる)

 

「”起きろ„」

 

 ——ん? 

 

「あれ、ちょっと?」

 

 兵士たちの時とは違い、何も起こらない。影が蠢いたりだとかの変化も当然ないので流石に焦るが……

 

「っ、そういえば——」

 

 先程ユエが言っていた事を思いだす。

 

《黒い騎士が浩介に跪いて——》

 

 可能性として考えられるのは……気絶した俺は無意識のうちに深淵卿化、”影の君主”を発動して、黒騎士を影の軍勢に加えた? 

 

「……来い、黒騎士」

 

 そう言った瞬間、浩介の影から漆黒の騎士が出現する。どうやら浩介の読みは当たっていたらしい

 

「この調子で影を集めれば……」

 

 雫や恵里は勿論、ハジメ達だって危険な目に合わせる事なく……傷つかずに済むかもしれない。俺一人で全て終わらせる事ができるかもしれない

 

「何故こんな技能()を手に入れる事ができたのか。いや、そんな事はどうでもいいか……使えるものは使う。ありがたく利用させてもらうぞ」

 

 

——最良の未来を掴む為に

 

 




影の君主っていう技能に影の抽出とか保管、などなどをまとめちゃいましたが、お許しを!

アンケートですが、最奥のガーディアンからだと割と早めに投稿できます。そんなに悩みませんからね

Twitterで進展っぽいものを呟いたり、アンケート的なのや意見を聞いたりしてます。できればフォローお願いします

それではまた次回



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最奥のガーディアン《上》

遅くなりました!!

う〜ん、はっちゃけました☆

いや、キモいな

では〜どうぞ!


 ユエが仲間となってから随分と時間が経った。あの後、魔物肉でのステータスアップとハジメによる装備の強化がなされ、万全な状態で迷宮の攻略が開始された。ユエと影の軍勢という反則級技能のおかげか順調に階層を突破していき、かなり早い段階で俺達が落ちてきた場所から百階層目になるところまで来た。

 

 その一歩手前の階層で、俺たちは異様な雰囲気を醸し出している階下へと続く階段を前に準備をしていた。自分の装備を確認しながらチラリと二人をみる

 

 ハジメとユエは時間が経つにつれて仲良くなっていき、今では良いパートナー同士だ。

 

 それは結構なのだが、俺がいる時にイチャイチャしないで頂きたい、拠点で休んでいる時には必ず密着しているし、横になれば添い寝の如く腕に抱きつき、座っている時でも背中から抱きつく。

 吸血させるときは正面から抱き合う形になっているのだが、終わった後も中々離れようとしない。ハジメの胸元に顔をグリグリと擦りつけ満足げな表情でくつろぐ(最近はハジメも満更でもない様子)

 

(……バカップルめ、爆h……末永く幸せになってくれ)

 

 まぁ、そんなおかげで邪魔になるからという理由で拠点を出て技能の修練に時間を割けられたので願ったり叶ったりだ。うん、孤高最高。羨ましくなんかないぞ

 

「んー、オルクス(ここ)だけでも良い影がかなり集まったな。使える技能も揃ってきた」

 

 視線をイチャつく二人からプレートに移す

 

 ===========================================================

 

 

 遠藤浩介 17歳 男 レベル80

 天職:暗殺者

 筋力:2098

 体力:2217

 耐性:2205

 敏捷:2582

 魔力:1822

 魔耐:1822

 

 

 技能: 暗殺術[+短剣術][+投擲術][+暗器術][+深淵卿][+伝振][+遁術]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ][+顕幻][+滅心]・影舞[+水舞][+木葉舞]・直感・魔力操作[+魔力放出][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷[+雷耐性]・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪[+三爪][+飛爪]・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・模倣・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・影の君主・金剛[+部分強化]・威圧・念話・呪術・言語理解

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 [影の抽出]

 命が尽きた身体から魔力を吸い取り、影の兵士として従わせる。対象が死亡してから長時間経っていたり、対象のレベルが高いと抽出成功率が下がる。

 

 抽出可能な影の数:270/480

 

 影の抽出をする際の命令語:『起きろ』

 

 

 [影の保管]

 影の兵士を術者の影の中に吸収し、保管しておける。

 保管した兵士たちは術者が望むときにいつでも召喚したり再吸収可能

 

 保管した影の数:270/270

 

 [君主の領域]

 影の領域を展開。その範囲内にいる影の兵士たちの全能力を上昇させる

 

 [影の交換]

 自分の影の兵士の位置を交換する。

 

 [影の支配]

 術者、他者を含めた全ての影を自在に操る

 

 

 ===========================================================

 

(ラスボスは六つ……いや、七つ頭があるヒュドラ型の魔物。”回復役„盾役”デバフ要員„で三頭、炎と風、氷属性の攻撃を放つ頭が同じく三。それら全てを撃破すると出現する最後の一頭……盾役はいるが、回復要員がいなかったしコイツを軍勢に加えるのもアリだな)

 

「あれ、浩介……?」

 

「……何処に行ったんだろ?」

 

「んじゃ、準備できたみたいだし……行こうか」

 

「「っ!?」」

 

 “気配遮断„を解いて近づき、声を掛ける。二人の予想通り過ぎる反応に苦笑しつつも続ける

 

「此処で恐らく最後だ。イチャつくのも良いが、戦闘中はちゃんと気を引き締めろよ」

 

「……い、イチャついてねぇよ」

 

「……わかった」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 下層に降りると、まず目に入ったのは無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の太さは五メートル程もあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻き付いたような彫刻が彫られている。天井までの高さは三十メートルはありそうだ

 

 その荘厳さを感じさせる光景に見惚れながらも足を踏み入れる。すると全ての柱が光を放ち始め、少しすると柱は浩介達を起点にして奥の方へと順に輝いていく。

 

 身構えていた三人だったが、何も起こらないので警戒を緩める事なく先へ進む。浩介は”直感„を、ハジメも感知系の技能をフル活用して歩いていると前方に行き止まり……ではなく、全長十メートルはある巨大な扉があった。これがまた美しい彫刻が彫られており、七角形の頂点に描かれた文様が印象に残る

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

 

「……反逆者の住処?」

 

 二人はそんな事を口にしながら扉へ近づく程に強くなる異様な気配にうっすらと額に汗を浮かばせる。

 

「……わかってるとは思うが、油断するなよ。最悪——死ぬぞ」

 

 原作知識を持っているからではない。何時かの時に感じたように”直感„が喧しいほど警鐘を鳴らしているのだ。この先は危険だと——

 

「……ハッ、上等じゃねぇか。せっかく苦労して此処まで上り詰めたんだ——それぐらいの方がやり甲斐がある」

 

 浩介のいつになく真剣な表情と言動から先に待ち受けるのはそれほど危険な相手なのだと想像がつく。

 なにより、ハジメ自身の本能が危険を察知して警鐘を鳴らしている。しかし……いや、だからこそハジメは不敵な笑みと共にそう言い放った

 

「……んっ!」

 

 ほんの少しの間ハジメの横顔を眺めていたユエも覚悟を決めたようで気合いを入れ、扉を睨めつける

 

 そして、全員揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

 その瞬間、扉と俺達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる

 

 俺とハジメは、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、俺たち二人が奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。

 だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「コイツは……凄いな」

 

「……あぁ、なんだこの大きさは? ベヒモスなんかの比じゃないぞ」

 

 二人して目の前の魔方陣のデカさに軽く引いてると、背中にポフッと、軽い衝撃が走る。

 

「……大丈夫……私とハジメ、コウスケの三人なら負けない……!」

 

 ユエの言葉にハジメと浩介は「そうだな」と頷き、魔法陣を睨みつける

 

 魔方陣の輝きは更に増していく。俺たちは目を潰されないように手を顔の前に置き、光を遮る。その光が収まると目の前には……

 

 体長約三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラがいた

 

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」

 

 常人ならそれだけで死に至らしめるような凄まじい殺気を放ちながらヒュドラが妙な咆哮をあげる

 

 先制は彼方が取った。赤い模様が刻まれた頭が口を開き、火炎放射を放つ。前方から炎の壁と言っていい規模の攻撃が迫る

 

 三人は同時にその場を飛び退くと反撃を開始する。まずハジメのドンナーが火を吹き電磁加速された弾丸が寸分の狂いもなく赤頭を狙い撃ちにし、吹き飛ばした。しかし、

 

「クルゥアン!」

 

 原作通り白色の文様の頭が奇妙な鳴き声を叫ぶと赤頭を白い光が包み込んだ。すると、逆再生でもしているかのように元に戻ってしまう。続いてユエも遅れて緑の模様の頭を炎弾で吹き飛ばすが、また白頭が元に戻してしまう

 

 事前に分かってはいた事なので初撃から本命の白頭に狙いを定め、闇鴉を振り下ろす。だが……

 

「……チッ、まぁ、こんなので()れるほど甘くねぇか」

 

 “気配遮断„を用いた攻撃を黄色の文様の頭が割って入り、その頭を一瞬で肥大化させる。そして淡く黄色に輝いて浩介の斬撃を受けきってしまう

 

 無防備に空中へ身を晒す浩介へ向けチャンスとばかりに青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出す。それを”空力„を使って何なく回避するついでにハジメ達へ向けて炎を吐き出そうとしていた赤頭を切り落としておく

 

「——っ、さて、どうするか……なるべくは原作沿いにしたいんだがな」

 

 奇妙な鳴き声と共に赤頭が復活していくのを横目に地を駆けながらそう呟く。

 

(影の軍勢を出して手数で押せば楽に倒せるんだろうが……そうすると二人の為にならない……よな?)

 

 二人の経験……成長の為にと影を呼び出す事を躊躇していると、目の端でユエが黒頭と相対しているのが見えた

 

「(まずいっ)ユエっそいつから離れろ!」

 

 黒頭がユエにデバフをかける前に頭を切り飛ばそうとしたが遅かったようだ

 

「いやぁああああ!!!」

 

黒頭を斬り飛ばしたものの青ざめた表情で絶叫を上げ、倒れこむユエに青頭が迫る。

 

 大顎を開けていた青頭だったが、次の瞬間には斬り捨てられた頭が宙を舞う。が、すぐさま別の魔法が飛んでくるので即座にその場からユエを抱えて離脱する

 

 "おい、ユエに何があった?"

 

 "黒頭の能力でやられたらしい。様子を見るにバッドステータス系の魔法だな……嫌な記憶を思い出して恐慌状態にでもされたな"

 

 "何もやってこないと思ったらそういうことか"

 

 “念話„でハジメに状況を伝えつつ、次々と迫る炎弾と風刃を"縮地"と"空力"を使ってユエを傷つけないように細心の注意を払って攻撃をかわす

 

「……浩介?」

 

「大丈夫……じゃなさそうだな。すまん」

 

「……よかった……また暗闇に一人っきりに……」

 

「……っ、俺もハジメもいる……大丈夫だ!お前は一人じゃないっ!」

 

「無事か浩介ッ、ユエッ!」

 

 赤頭と緑頭をドンナーで吹っ飛ばし、〝焼夷手榴弾〟を使って足止めをしてくれていたハジメが近づいてくる。

 

「俺は問題ない。それよりユエを頼む……声を掛けてやってくれ」

 

「お、おい。……ッ、少しの間任せるぞ!」

 

震えながら必死に浩介へしがみついていたユエを引き離し、ハジメに任せる。一瞬迷ったもののユエの尋常じゃない様子を見るとすぐさま離脱し、物陰へ身を潜める

 

(事前にこうなると分かっていながら防げなかった……いや、俺が影を出し渋っていなければこうはならなかった)

 

「くそっ!自分に嫌気がさす。来いランスロット、オルグ、アナト、ザード、スコルプ!」

 

 浩介の影が蠢き、そこから5体の兵士が姿を現す。

 

黒騎士改め“漆黒の騎士„ランスロット

 

ローブを身に纏う鬼型の魔物“呪術鬼„オルグ

 

最大の巨躯を誇るナーガ型の魔物”王蛇„アナト

 

爪熊より大柄な魔物”大熊„ザード

 

“サソリモドキ„スコルプ

 

浩介が100階層へと至るまでに集めた”影の軍勢„その中でも選りすぐりの兵士達*1がヒュドラを睨め付けつつ浩介(主人)の指示を待っている

 

 

殺せ

 

 

 

*1
気に入っているので異名みたいなのと名前も付けた




名前は良さげなのを友人に手伝って貰いました

これじゃない感あったらすいません

では、次回お会いしましょう〜


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最奥のガーディアン《下》

大変遅くなりまして、申し訳ありません!

おかしな部分などは後々訂正いたします!


それではどうぞ!


 

 

 

殺せ

 

 浩介が影の兵士達に命令を下すと同時に足元の影が蠢き、一瞬の内に階層内の床を全て()一色に染め上げる。

 

 “君主の領域„……影の領域を展開し、その影の上で戦う事で影の兵士達のステータスが強化される

 

「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」

 

 突如として現れた未知の敵に対する威嚇か、大絶叫をあげるヒュドラへと君主の領域で強化された漆黒の騎士(ランスロット)が猛進する。

 

 その速度は浩介の所有する影の兵士達の中でも最速。動きが素早くなく、ましてや敵を前にして呑気に吠えているヒュドラでは対応できず、黒頭が斬り飛ばされる。

 

「クルゥアン!」

 

 やはりと言うべきかすぐに白頭の鳴き声が響き、斬り飛ばしたはずの黒頭が時の巻き戻しにあったかのごとく瞬時に再生される。

 

 流石に斬り飛ばした筈の相手が即座に復活すれば動揺する。ほんの一瞬ではあるが硬直してしまったランスロットは赤頭、青頭、緑頭から魔法を一斉に浴びせられ消し飛ばされてしまった。

 

 シュゥゥゥ

 

 影の兵士は浩介の魔力がある限り消える事なく戦い続ける不死の存在。三種の魔法による余波で抉られ、クレーターが生成された場所に影が集うと、消滅したた筈のランスロットが復活する。

 

「「「グルルルッ!?」」」

 

 先程のランスロットのように倒した筈の相手が即座に復帰すれば動揺する。それはヒュドラも同様で、動きが鈍った三つの頭のうち一頭が再びランスロットに斬り飛ばされ、もう一頭が遅れて参戦したアナトに刈り取られる

 

「クルゥアンッ!」

 

 またもや白頭の喧しい鳴き声により復活した頭をランスロットとアナトが相手をしている内に黒頭が浩介に接近する

 

「グルッ!?」

 

 黒頭が浩介の眼を捉え、恐慌の魔法を行使しようとする。しかし、そうなる前にザードが間に割って入り、その剛腕をもって頭を地面に叩き落とす事で妨害する。大きさは中型の個体ではあるものの素早さと力がバランスのよく取れた兵士なだけになかなか優秀である

 

「……ランスロットの攻撃を受けてその程度(・・・・)とは中々に優秀な盾役だ」

 

 何度も再生されていく頭にまずは先に回復役を潰そうと、二頭の頭を潰した瞬間に再生される一瞬の隙をついて白頭に肉薄するランスロット

だが、あと少しのところで黄頭が割って入り”金剛„のような技能を使って斬撃を耐え切ってしまう

 

 その場に留まり、三頭同時に相手取っていたアナトは流石に数的不利をひっくり返すことはできず一度倒されてしまう

アナトが再生しきる前に赤頭は炎の魔法を、青頭は氷の魔法、緑頭は風の魔法を浩介に向け一斉に放つ

 

「——残念だが、優秀な盾役がいるのは此方も同じだ」

 

 前線には出ず、浩介の隣に控えていたオルグが障壁のようなものを展開、浩介に一切届く事なく三種の魔法は呆気なく霧散してしまう

 

 スコルプとオルグは護衛に回し、ランスロットとアナト、ザードで()りきる予定だったが……予想通り原作よりも手強くなっている

 

「仕方ないか……スコルプは護衛。オルグ……終わらせろ」

 

 オルグと同じく後方に控え、散弾針による前線の支援をしていたスコルプが爪で攻撃が通らぬよう覆い隠すよう防御しつつ、散弾針や溶解液を飛ばして牽制している内にオルグが魔術の詠唱を始める。

 

「「「「「「グルゥウウウウ!!!」」」」」」

 

 スコルプの両尻尾から散弾針と溶解液を飛ばされ、ヒュドラ達は絶叫に近い悲鳴をあげてのたうち回りながらも危険を察知したのかオルグを護衛しているスコルプを集中的に攻撃し始める。

 

「キィシャァァアア!!」

 

 悲鳴を上げながらも魔法攻撃を何とか受け切ったスコルプだったが二度目となると流石に受け切れないだろう。そんな事はお構いなしに三頭の頭が魔法を放とうとするが、ランスロット達が一頭ずつ妨害に入り、時間を稼いでくれる。

 

 本来であれば、90階層で影の兵士に加えたオルグは詠唱など数秒程度しただけで容易にデバフや自身に対するバフを行っていたチート級の相手だった。しかし、影の兵士になる事でいくらか弱体化するようで、詠唱時間が倍以上掛かるようになってしまった

 

 詠唱が終わったのを確認すると、それぞれの頭を相手していた3体を下がらせ、スコルプの爪をどかすように命じると同時にオルグの身体が倍以上の大きさに肥大化。その巨大な身体を後方へ少し仰け反らせて喉と口を大きく膨らませる

 

ゴオォォォォッ!! 

 

 オルグの口から全てを焼き尽くすかのような豪炎が吐き出される。三頭が一斉に魔法を放って対抗しようにも威力の差がありすぎたようで呆気なく三種の魔法は飲み込まれる

 

「クルゥアン!」

 

 威力を寸分も落とさずに迫りくる豪炎に対抗すべく黄頭が近くの柱を変形させて即席の盾を作り、自らも白頭を守らんと立ち塞がるが……その奮闘虚しく断末魔の叫び声を残して全ての頭が焼き尽くされる

 

アリーヴェデルチ(さよならだ)

 

 何処ぞの◯◯な冒険のようなセリフと共に定番のポーズを決めていく浩介。

 この階層に足を踏み入れてから発動していた”深淵卿”により言動が強制的に、完全無欠の厨二化(アビスゲート卿化)している

 

(なんだ? 妙な違和感がある……この後は残りの頭が出てきて──いや、それ以前に何かを──)

 

「なるべく急いで来たつもりだったんだがな……」

 

 ハジメの声が聞こえた瞬間、思考に耽っていた浩介は急いで香ばしいポーズから何事もなかったように真顔で振り返る。

 

「……俺も油断した。すまない」

 

 浩介の返答にハジメは「なんでお前が謝るんだよ」と苦笑してくるが、隣にいるユエは顔を俯かせたまま沈んだ表情をしている。どうやら先程のことを気にしているようだ

 

「浩介、ごめんなさい……私、役に立たなくて……」

 

「——いや、ユエは悪くないよ。俺が最初から影の兵士を出しておくべきだった……ごめんな辛い思いさせて」

 

「そんな……浩介は——」

 

(何も悪くない)と言いかけたユエは急に顔を青ざめさせる。それもそのはず浩介の背後で音もなく七つ目の頭が黒く炭化しかけている胴体部分からせり上がり、三人を睥睨(へいげい)していたのだ。

 

「浩介っ!」

 

「なっ、七つ目の頭があったのか!?」

 

 ユエの叫び声とハジメの驚愕の声が階層内に響く。突然の事に一瞬のうちは硬直しつつも直ぐに体制を整えてユエは魔法を放とうとし、ハジメもドンナーを構えて敵に照準を合わせる

 

オルグ! 障壁を張って二人を守……ぐぅ!?」

 

 二人が攻撃をする前に最後の頭である銀頭が予備動作もなくいきなり極光を放つ。避けきれないと顔を青ざめる二人だったが、浩介の指示によりオルグが障壁を展開、極光を何とか防ぐことに成功する

 

「「浩介っ!」」

 

 オルグに指示を出した瞬間、突然現れた何者かに吹き飛ばされた浩介に二人は心配の声を上げる。

 

「問題ない! 二人はソイツ等(・・・)の相手を頼む……オルグ達(お前等)も二人の指示に従って戦え!」

 

「——はっ、マジかよ。確かにそっちに気を回す余裕ないな」

 

「——やり返せなくて不服だったから……丁度いい」

 

 浩介の元へと向かおうとした二人の目の前に浩介が倒したはずの赤、青、緑、黄、白、黒に加えて金、銀の頭が立ち塞がる

 

「上等ォ! 早く終わらせて今度こそ加勢に行くぞ、ユエっ!」

 

「んっ!」

 




かかった時間の割に少ないって?

ご安心を!流れ的に切っただけでもう一話分は夜中に投稿したいと思います!


本当にお待たせしてごめんなさい
完結は絶対に目指すので気長に待ってくださると嬉しいです!


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最奥のガーディアン

忘れていた方が殆どだと思いますが、皆さんこんにちは 這い寄る混沌より.闇の主人です

まずは遅れて本当にすいません!
リアルが大変だったのもありますが、書き直しを続けた結果、納得できなくてずっと投稿できずにいましたが、これ以上引き延ばしても以上は思いつかないと思ったので投稿しました。
内容が最初考えたのからかなり変わっているので皆様に満足してもらえるか不安ですがよろしくお願いします!

それではどうぞ!


 

 謎の襲撃者からの一撃を”金剛„で強化した右腕で防ぎ、背後に跳ぶと同時に体を捻る事で衝撃を受け流す。

 

「……チッ、まずいな」

 

 

(本来なら存在しないはずの金頭(イレギュラー)、能力が未知数なだけにアイツら(ランスロット達)がいるとはいえ二人に任せるのは──)

 

 ほんの僅か思考した浩介だったが、影の兵士達へ的確に指示を出し、戦闘を再開したハジメとユエから視線を外すと目の前に現れた襲撃者に目を向ける

 

(なんだ? 黒い靄がかかっていて姿の全容を把握できない。かろうじて体格(サイズ)が俺の2倍弱はあるって事ぐらいなら分かるが──己が栄光の為ではなく(フォー・サムワンズ・グロウリー )に似た技能を持っているのか?)

 

「全くイレギュラー続きで先が思いやられる」

 

 今の不意打ちは“直感”で事前に察知していたが、身体がそれに追いつかなかった(・・・・・・)

 “深淵卿”発動中……それも最深度に達していないとはいえ、ある程度の時間が経過して強化されているにも関わらず襲撃者の一撃を迎撃ではなく受け流すしかなかった。

 

《──キキッ、この程度の隠蔽スキル(・・・)すら看破できんとはな……次代の君主はこの程度か?》

 

「隠蔽、スキル(・・・)だと? ……というかお前、話せるのか?」

 

 忘れている事を念頭に入れつつ記憶を探る──が、魔物が人語を介する等については思い出す限り覚えは無い。取り敢えず今のところ一旦保留にし、次代の君主(・・・・)(・・・)スキル(・・・)と気になる単語の数々について情報を得ようとするが……

 

《完全に至ってはいないとはいえ仮にも王、姿を見せねば失礼というもの》

 

「……? 何を訳の分からん事——ッ!」

 

 目の前の魔物から黒い靄が完全に消え去り、隠された姿が露わになる。全身は黒く、身体は鎧のような殻に覆われており、その姿は蟻を3〜4メートル程度の人型にしたようで、背中には羽が生えている。

 

(流石はボス部屋のイレギュラー滲み出る強大な魔力とそれを今まで感知させないスキル。更には速さ膂力ともに互角以上ときた)

 

《羽化直前の蛹を嬲るようで悪いが……遠慮なく行かせてもらうぞ》

 

「そうかよ……踏み潰してやるよ蟻んこ」

 

《キエエエエエッ!》

 

 

 雄叫びを上げた蟻型の魔物は拳での大振りの一撃を浩介の顔面目掛け放つ。”直感”により事前に察知していた浩介はそれをギリギリ躱すと、その勢いを利用して遥か数十メートル先にある壁まで吹き飛ばす

 

《キキッ、反応しただけでなく反撃するか!》

 

「この程度が全力か?」

 

「キキッ、いいや? そんなまさかッ!」

 

 壁に叩きつけられる寸前で体制を変えた蟻型は一瞬で目の前に舞い戻り、浩介の挑発に応えるように先程よりも速い猛攻を繰り出す。それを”直感”を使って躱しつつ隙を見て硬い殻で覆われる腹部へと渾身の一撃を打ち込む

 

《……ッ!? がぁ!?》

 

 自らの硬い殻を過信していたのか、まともに喰らった蟻型は口から紫色の体液を撒き散らしながら暴れ出す

 

《キイイイッ!! ギィィィッ、衝撃を内部へと浸透させる……衝撃透しの技術か》

 

(なぜ魔物がこの技術を知っている? 

 いや、その前になんだ? この違和感——)

 

 内臓を掻き回されるような痛みと不快感によって地面をのたうち回った蟻型はそう一言漏らす。

 対して浩介は先程から徐々に膨れ上がる嫌な予感と違和感。早々に勝負を決めようとして──首を捉えたはずの刀が空を斬る

 

《気になるか? 倒せれば(・・・)言える範囲で教えてやろう》

 

「……っ!」

 

 浩介の内心を見透かしたような蟻型の一言が耳元で呟かれる。それと同時に繰り出された鉤爪を薄皮一枚のところで去なし、その勢いを利用して背後へ飛んで距離を取る──筈だった

 

「っ!?」

 

《キキッ、本気にならねば死ぬぞ? 君主よ》

 

 先程までとは比べ物にならない速さに驚愕しつつ背後からの一撃に合わせる(・・・)ようにして回転するとそのままサマーソルトキックの要領で脳天に一撃を喰らわせようとするが容易に避けられる。

 

 当然ながら空中へ無防備を晒す失態を見逃すはずもなく鉤爪を横一閃する蟻型だったが、それを”直感”で察知していた浩介は空中で体を捻り刀で流す

 

 

「はぁっ……はぁっ……力を隠して油断させるとは随分と(こす)い真似をする」

 

 無理矢理にでも笑みを作り、動揺を悟られぬよう蟻型へと強気で煽り混じりに返しつつ状況を確認する

 

(身体が——重いッ!? 先程と打って変わって速さもパワーも確実に落ちている)

 

《キキッ、確かに全力では無かったが、それだけではない。どうだ? 身体の調子は》

 

「——っ」

 

《私が◻︎◻︎◻︎◻︎より与えられた(・・・・・・)”◻︎◻︎◻︎◻︎”により”深淵卿”を封じさせてもらった》

 

「——なるほど、この違和感は技能封じによって俺のステータスが低下した影響か」

 

 一部ノイズが走ったように聞き取れなかったが、何故か知られている自身の技能(ちから)、その中で一つ潰せるならデメリットなく段階的な限界突破を可能にする”深淵卿”を選ぶのは必然か

 

《キキッ、直感があるとはいえ——さぁどうする? 影の君主よ》

 

「……[怒りの唄][強化の唄][鈍化の唄][水魔の唄][喪明の唄][倒懸の唄][灼熱の唄]」

 

 オルグから手に入れた技能”呪術”。最初の二つで自身の強化を、そして五つのデバフを蟻型に使う——が、無効化されているのか効果がない。期待はしていなかったので魔力を纏い更に身体強化をする

 

《キキッ、できうる限りの自己強化を施したか……だが、その程度では——》

 

 ヒュンッ! 

 

 

「後ろに目でもついてるのかよ」

 

 分身体による影からの強襲を避けられてしまう。それも振り返らず首を傾けるだけでだ 

 

 今の浩介と蟻型にはそれだけの差がある。できうる限りの強化を施してもそれを覆えす事はできない。

 

 

”模倣”開始(トレース・オン)

 

 

 原作にはない特殊技能の“模倣”*1を発動させる。

 これだけでは(・ ・ ・)不十分なので自身の身体に影を細かくそれも糸状に纏わりつかせ、失った腕を影で義手を作り代用する

 

「如()流」

 

 これより振るうは祖父の剣、生前(・・・)習得できなかった如()流ほんの一端

 

偽・牙突(がとつ)

 

 弓を引き絞るような構えから放たれた突きは”縮地”と重ねたことで数メートルの距離を一瞬で詰め、蟻型の胸に突き刺さる──その寸前でギリギリ躱され背後を取られてしまう

 

《これで終わり──「つづく、偽・龍巻閃(りゅうかんせん)」──キッ!?》

 

 ”深淵卿”発動時に迫るスピードを躱したことで勝利を確信した蟻型へ流れるように次の技へ移行する。突きの体勢から背後に回った蟻型の一撃を真半身で躱し、そのまま勢いを殺さずに回転して首を狙うが弾かれてしまう

 

《──ッ!?》

 

 蟻型の目が驚愕に見開かれる。全力で(・・・)それも一旦距離を取るつもりで弾いた筈の刀が奇妙な事にピタリと縫い付けられたように止まる

 

「──ッ、偽・龍槌翔閃《りゅうついしょうせん》」

 

 既に飛び上がっていた浩介は空中に留めておいた刀を手にし、動揺した様子の蟻型へ振り下ろす。間一髪のところを避けられたものの問題ない、続く二撃目の斬り上げによってガードを崩すことに成功する

 

 仰け反った蟻型に対しガラ空きの胴体にトドメの一撃を放つ寸前、”直感”(・・・)が脅威を知らせるが無視する。釣りであろうとも浩介の身体は時間経過と共にガタが来てしまう

 

(——ッ、ここで決める!)

 

 

偽・天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)

 

 元の世界において幾度となく見てきた祖父のお気に入りの技であり、成功率が最も低かった技の一つ。

 抜刀時に左足を前に出した際に浅く斬ってしまったが影の糸(仕込み)のお陰で減速することなく超神速の二撃(・・・)が蟻型の腹部へと命中する

 

 

《ギィィッ、流石……我が主人(・・・)

 

 体を三つに分断された蟻型が床へと崩れ落ちる。

 

「……ッハハ、もう一生やらねぇ」

 

 左目と頬が溶かし抉られ、心臓を尻尾のような物に貫かれはしたが昔見たアニメの見様見真似で影の糸で心臓を引っ張ることで直撃を避けた。

 満身創痍ではあるものの魔力は有り余ってるのでヒュドラは二人と影たちに任せる事にする。視界を通して見るに優勢ではあるので最悪の場合は影の糸を使って助けに行く

 

「そうだな、影の操り人形(マリオネット)と命名しよう」

 

 

「グゥルアアアア!!! 

 

 

 新技? の命名が済んだところでユエの蒼天とオルグの詠唱魔術により断末魔をあげてヒュドラは消滅した。感知技能”直感”ともに反応がないので今度こそ終わりで間違いないだろう

 

「新技と第一奥義完成、しかも強い影が手に入った」

 

 この程度(・・・・・)の怪我で二人も無事なら新技も全然ありだな

 

 

 倒れ込んでいる浩介の元へ慌てた様子で駆け寄る二人を最後に浩介はゆっくりと意識を手放した。

 

 

 

*1
実際に見たこと(記憶)体験したこと(経験)を頼りにソレを再現する技能。ただし100%完璧な再現は不可能




いかがだったでしょうか

後々、おかしかった所などは直していきたいと思ってます
この続きもなるべくすぐにあげようと思っているのでどうか引き続きこの作品をお願いします


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