海神絶唱シンフォギア~海の化身と装者たち~ (サミン)
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プロローグ

タイトルやタグにもあるように、この作品の主役ウルトラマンはアグルです。


この世界には、人間にとって最も危険と言われている『ノイズ』が存在している。ノイズとは、人間のみを大群で襲撃し、その身に触れた者を自分もろとも炭素の塊へと変えてしまう特性を持っている。そんなノイズは10年ほど前から特異災害認定されており、現在でもニュースで被害報告がされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………!」

 

そして、今もノイズに襲われようとしている女性がいた。その女性は、恋人の男性とデートをしていたのだが、その帰りにノイズと出くわしてしまったのだった。その時、男性は彼女だけでもと思い女性を庇い、ノイズに触れられてしまい、炭素と化してしまったのだ。

 

女性は悲しみながらも、助けてくれた彼のためにも生き残るために、ノイズから逃げようと走り続けていた。

 

ノイズによる炭化を防ぐための対処法としては、ノイズが一定時間で自壊するまで逃げることのみとされている。そのため、女性は今もなお走り続けていたのだ。

 

しかし、ノイズは大群で襲ってくるので、1体が自壊してもまだ何体もいるため、いつ触れられてもおかしくはない。

 

「ハァ、ハァ…………きゃっ!?」

 

とうとう限界が来てしまったのか、躓いて転んでしまった。

 

「いや、来ないで……!来ないでぇ!!」

 

そう声を出すもノイズは止まることなく近づいてくる。

 

そして彼女と1体のノイズの距離が0になり―――

 

 

「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!!!!!」

 

 

断末魔の悲鳴と共に女性は炭素と化してしまった。

 

そして、残ったノイズたちが自分達の一定の範囲に人間がいるかどうかを確認しようとしたその時―――

 

 

「―――くそ、遅かったか……!」

 

 

突然ノイズたちの前に1人の少年が立ちはだかった。走ってきたのか、少し息切れをしている。

 

「よぉ、ノイズ……何度も何度も罪のない人たちの命を奪いやがって……!俺はお前らを絶対に許さないッ!!」

 

そう言って少年が右腕を見せると、その右腕には三角形をした金縁と、同じく三角形をした水色の水晶が金縁に埋め込まれ、古代文字のようなものが書かれた2つの銀色のブレードが折り畳まれている、ブレスレット型の謎のアイテムが装着されていた。

 

そして少年が右腕を振り下ろすと、2つのブレードが左右に展開し、水晶が激しく点滅しながら青く発光し、握り拳のまま胸の前へ掲げるとブレスレットが180度回転した後、強烈な青い光が彼を包み込んだ。

 

そして光が晴れるとそこにいたのは、普通の人間と同じサイズをした、青い体に黒い部分と銀色のライン、胸と肩に連なる銀縁のプロテクターと胸の中央に青く光るランプを持ち、銀色の顔に鋭くつり上がった光り輝く両目を持つ謎の超人だった。

 

そして、謎の超人は右腕をノイズに向けて垂直に伸ばす。すると青い電撃のようなものが走ったと思ったら右手から光弾が何発も放たれ、ノイズたちに当たって爆発した。

 

突然の攻撃でノイズたちは驚くが、反撃しようとして走り出すと、超人が右手から今度は青く光る剣が形成させた。

 

『ハァアアッ!』

 

掛け声を出すと同時に超人は剣を振るい、ノイズたちを斬り裂いていく。そしてその攻撃を食らったノイズたちは炭素と化していった。

 

しかしノイズはまだいる。1体のノイズが跳躍して突撃を仕掛けてくるが、超人はそれを慌てることなく華麗に躱す。突撃してきたノイズはそのままうつ伏せに倒れてしまい、その隙に超人に両足を掴まれてしまう。

 

すると、驚くべきことに超人はノイズに触れてもその身が炭素化することがなかったのだ。そして超人はノイズの両足を持ち上げて何回も回し、そして他のノイズたちのいる方へ投げ飛ばした。

 

『ハァッ!』

 

その後に超人は両腕を額の前でクロスした後に振り抜くと、彼の両手の間にエネルギーが発生し、そのまま両手を握り拳にして右手を上、左手を下にして胸の前で組むと青い光弾が形成された。

 

『デヤッ!』

 

そして右手を下、左手を上に組み替えるとそのまま両手を突き出し、青い光弾をノイズたちに何発も放った。

 

光弾が何発も放たれ、結構の数がいたはずのノイズも残り1体となった。超人は残りの1体に向け、挑発するかのように左手でクイクイと手招きをする。それに怒ったノイズは思いっきり走ってきて突進してくるが当然避けられてしまい、足を払われてしまう。

 

超人は足を払われて倒れかけたノイズの胴体に蹴りを入れるとノイズは高く飛ばされ、それを追うように、なんと超人は空へと飛び上がった。

 

そして空中へと飛ばされたノイズをさらに蹴り飛ばし、自分が浮遊している場所まで落ちてくると今度は降下する速度を早めるために蹴り落とした。

 

『ハァッ!オォアアアアァァァ……!』

 

ノイズは勢いよく落下し、超人は着地した後、超人はもう一度両腕をクロスする。そして右腕を上に左腕を下に伸ばす。すると彼の額に青い光の渦が発生し、それが集まってくるとやがてそれは青く輝く光の刃を作り出し、それは空へと立ち上るように伸びていく。

 

そして―――

 

 

『デェアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

伸ばしていた右腕を振り下ろし、光の刃をノイズめがけて撃ち出した。

 

ノイズは立ち上がった瞬間にそれを食らってしまい、そして頭部から次々と粉々に爆発四散していった。

 

粉々になったノイズの断片は炭素と化していった。

 

 

 

 

 

ノイズたちを一掃した後、超人は先程倒したノイズたちによって炭素化されてしまった女性のいたところへと歩いていく。

 

そこには当然、炭素化された女性の肉体だった(・・・)ものが広がっていた。

 

超人はその場で片膝をついてその炭を片手で掬い、それを見つめる。すると、風が吹いて手にあった炭はもちろん、その場にあった炭は風にさらされて消えてしまった。

 

それを見届けた超人はゆっくりと立ち上がり、超人―――その姿になった少年は心の中で呟いた。

 

 

(すまなかった……早く助けに来られなくて……!本当に、すまなかった……!!)

 

 

彼はもっと早く助けてやれなかったことへの後悔と、それによる謝罪をした。その悔しさによって彼は手を強く握りしめていた。

 

(……次こそは……。とりあえず今日はこれだけのようだな……さっさとここから消えるとするか)

 

心の中でそう呟き、空を見上げたままでいると胸のランプから青い光が溢れ出て、彼の体は光となってその場から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃―――

 

 

「ノイズの反応、全て消失しました」

 

どこかの施設の指令室と思われる場所で、ノイズの反応を確認していたオペレーターがそう報告をする。

 

「そうか……。その時の映像は残っているか?」

 

「いえ、ほとんどブレているものしか残っておりません……」

 

「分かった。しかし……シンフォギア(・・・・・・)以外でノイズを倒す者がいるとすれば―――」

 

「―――ええ、今ネットでも話題になっている、突然現れてはノイズを倒し、倒した後は跡形もなくその場から消え去る存在……そして、あの事件(・・・・)の時にも姿を現した。その名も―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――『ウルトラマン』」

 

 

逆立った赤い髪にワインレッドのシャツを着た、まさに屈強の男という言葉が似合う男―――ここ、『特異災害対策機動部二課』の司令『風鳴(かざなり)弦十郎(げんじゅうろう)』は腕組みをしながらそう呟いた。




完全な思いつき作品ですが、是非見てくれたら嬉しいです。
アグルの変身者については次回になります。ちなみこのアグルはV1であります。


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1話 吉宮(よしみや)一翔(かずと)


今回は前回より少し短めです。


ギィ……ギィ……

 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……!」

 

ノイズを倒した翌日の日曜日。超人―――ウルトラマンに変身していた少年『吉宮(よしみや)一翔(かずと)』は朝から自宅でトレーニングをしていた。

 

汗をかき、呼吸が荒れそうになりながらもリズムよく呼吸を整え体を動かしていく。

 

 

[続いてのニュースです。昨夜、梶尾地区で特異災害ノイズの出現が観測されました。しかし、残念なことに観測された場所のピンポイントに男女二名が遭遇してしまったことで、その後の調査により、男女二名はノイズによる死亡が確認されました]

 

点けていたテレビからそんなニュースが流れてくると、ちょうど一段落終えたのか一翔はトレーニングマシンから降り、テーブルの上に置いてあったペットボトルの中の水を飲みながらニュースを見始める。

 

「はぁ……あれは決してノイズ出現を予知するアイテムじゃないことは十分理解してるが、やっぱり悔しいな……事前にノイズから人を守ることが出来ないと言うことが……」

 

一翔はテレビを見た後、ペットボトルの隣に置いてあった、ウルトラマンに変身するために使用したブレスレットを見つめてそう呟く。

 

[続いてのニュースは、現在ネットなどで注目されている謎の存在・ウルトラマンについて―――]

 

 

「……ウルトラマンか……良い名前だな……と言いたいところだが、犠牲者を出さずにノイズを倒したことなんてほんの少し程度しかない俺が、そんな名前を持ってても無意味だな……」

 

自虐気味に笑いながらそう呟いた後、一翔は再びトレーニングを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、トレーニングを終えてシャワーを浴び、着替えた後に一翔は外出した。

 

ちなみに彼の服装は、グレーのインナーに黒いジャケットを羽織っており、これまた黒いズボンを穿いているという、いわゆる黒ずくめの服装をしていた。

 

ちなみに、髪の毛の色も黒である。

 

(今日は……いや、今日もあそこ行くか)

 

心の中でそう呟いた一翔は近くのホームセンターで様々な道具を買い、目指すべき場所へと足を運ぶ。

 

 

 

 

 

そして数十分後、一翔はとある一軒家へとやって来た。

 

そこには―――

 

 

「やっぱりか……ったく、あの事件(・・・・)から結構経ったってのに、まだこんなことする奴らがいるのかよ……」

 

 

一翔が訪れたそこには、『死ね』『犯罪者』『消えろ』『人殺し』といった暴言が書かれた紙が貼られており、スプレーでもそういった暴言が述べられていた。

 

一翔は先程ホームセンターで買った道具を一通り並べ、まずは貼り紙を一枚一枚剥がし始める。そしてそれを近くにあったゴミ箱にまとめて捨てた。

 

そこへ―――

 

 

「あ、一翔さんじゃないですか!」

 

「こんにちは、一翔さん!」

 

「ん?おぉ、立花に小日向か。また来てやったぜ」

 

一翔が先程の貼り紙を捨てたところで、茶髪でボブカットの少女『立花(たちばな)(ひびき)』と、黒髪ショートで大きな白いリボンでハーフアップにした髪型をしている少女『小日向(こひなた)未来(みく)』がやって来た。

 

「なんか、いつものことながら本当にすみません……一翔さんには何の関係もないことなのに……毎日毎日、家の壁とかの掃除とかしてもらっちゃって……」

 

響が一翔にそう謝罪すると、一翔はそれに対し首を振って答える。

 

「勘違いするな。俺はあくまであの事件で生き残った罪のない人たち(・・・・・・・・・・・・)のためにやってるんだ。お前だけのためにやってるわけじゃない」

 

「ふふっ、そういうところは相変わらずですね、一翔さんは」

 

「うっせぇよ、小日向……」

 

未来がクスクス笑いながらちゃかすと一翔は照れ臭そうにそっぽを向いた。

 

「にしても……ここに来たときも思ったが、たぶん他の人たちもこんな状態だろうな……」

 

「ええ……あれから半年経った今でもこんなことが続くとなると、色んな意味で心が痛みます……」

 

「響……」

 

一翔の言葉を聞いて響も同意するような言葉を言って顔を俯かせ、未来はそんな響を心配そうに見つめる。

 

「ま、それがあの事件で死んだ人(・・・・・・・・・)の遺族、または友人に恨まれるならまだ仕方ないと思うかもしれんが、俺にとっちゃ憎むべき相手が違いすぎる。そもそも、あの事件の発端はノイズだったんだ……ノイズさえいなければ……!」

 

そう言う一翔は拳を強く握りしめていた。

 

(そして……俺がもっと早く駆けつけていたら……立花も、他の人たちもこんな仕打ちは受けなかったのに……!!)

 

そして悔しさを感じると同時に、一翔は半年前に起こったあの事件を思い返していた。




一翔の服装はもちろん原作ガイアの藤宮がモチーフです。決して一翔の読み仮名が“かずと”だからってあっちの“かずと”をモチーフにしたわけではありませんので……。

ちなみに、次回はライブでの事件のエピソードですが、一翔自身の過去に関するエピソードはまだ先となります。


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2話 悲劇の前の日常


1ヶ月以上経ちましたがお待たせしました(待ってくれてる人いるのかな?)

今回の話の時点では一翔はもうアグルの力を手にしてます。

あと、ご存じかもしれませんが自分はこの作品自体が初投稿であるので、とりあえず最初のうちは文字数少な目な感じで投稿していきます。

タイトルのように今回はライブ事件の前の話となるので予めご了承ください。


半年前

 

桜ヶ丘中学校―――一翔はここに通っており、現在一翔は中学3年で受験生である。そんな彼の教室では授業が行われている。

 

「―――であるからして、生命の源とも呼ばれている海から生まれた生物たちが、私たち人間の先祖であることが考えられている」

 

ちなみにやっていたのは生物に関する教科の理科であり、海の生物などに関することが担当の教師の口から述べられていた。

 

しかし昼食を食べた後、つまり午後の授業であるため、いくら今年は受験シーズンと言えど、ほとんどの生徒たちにとっては眠たくなったりしてしまうつらい時間である。

 

「…………」(カリカリ)

 

だが一翔はその例外で、あくびをすることなく真面目に先生の話を聞きながら授業内容をノートに書き写していた。

 

そして海に対して強い思い入れがあるのか、この授業の内容を聞いた時に一翔は表情には出さなかったが内心では少し楽しそうな感じになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数回の授業が終わり、最後の授業も終えたところでHRも終了し、放課後となった。

 

「なぁなぁ、知ってるか?今度『ツヴァイウィング』のライブがあるんだぜ!!」

 

「おぉ、俺も知ってる!新曲とかも出たんだろ?俺も行きてぇよ……」

 

帰り支度を始める一翔の近くでそんな話をしている男子たちの声が聞こえてくる。

 

「ふっふーん、そうだろうと思って……じゃじゃーん!お前の分のチケットも手に入れておいたぜ!!」

 

「マジか!?すげぇな!」

 

「だから一緒に行こうぜ!せめてもの息抜きとしてよ」

 

「あぁ、いいなそれ!」

 

その会話は一翔の耳に入りはするが、当の本人は特に気にすることなく支度を終えると教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その帰り道、一翔は自宅ではなくとある水族館へと足を運んだ。

 

「あの、すいません。館長は今いらっしゃいますか?」

 

受付の方へ行き、入場の手続きをしながら一翔は受付スタッフにここの館長がいるのかどうかを尋ねた。

 

「申し訳ありませんが、館長は現在外出中でして……」

 

 

「僕なら今、戻ってきたところだよ」

 

 

そこへ、青いシャツに白いズボンを穿いている40代くらいの男性が現れた。その胸には館長と書かれた名札が付いている。

 

「それじゃ、手続きが終わったらいつもの場所へ来てくれ」

 

「はい、分かりました。木戸さん」

 

「おいおい、この場では今は館長と呼ぶんだぞ」

 

「あ、すいません……」

 

 

 

 

 

その後、手続きを終えた一翔は関係者以外立入禁止の通路を見つけると、人がいないことを確認してその通路を歩いていく。

 

すると、先程受付で出会った館長がエレベーターと思われる1つの扉の前に立っていた。

 

「やぁ、人に見られずにちゃんと来れたかい?」

 

「大丈夫ですよ、何回も来てるんですから(・・・・・・・・・・・)……」

 

「ははっ、そうだったな。よし、行こうか」

 

館長はそう言うとエレベーターのボタンを押し、扉が開くと二人はその中へ入る。

 

「さて……また来てくれて嬉しいよ、一翔。最近来てくれなかったから他のみんなも寂しがってたんだ」

 

「仕方ないでしょ、今年は受験シーズンで色々と大変なんですから……」

 

「そんなこと言って、本当はもう内定とかは一発合格でもらってるんだろ?」

 

「まぁ、そりゃそうですけど……」

 

目的地へと向かいながらエレベーターの中で談笑を交える2人。

 

そして、目的地へと着いたエレベーターの扉が開くと、辺り全体がガラス張りの通路があり、その外には抜群の透明度を誇る海と、その中を泳ぐ魚や海洋生物がたくさんいるという美しい景色が広がっていた。

 

「……やっぱり、何度見ても綺麗だな。まるで疲れた魂がこの海の方へ戻っていく感じだ……」

 

「その年でお爺さんみたいなことを言うのは本当に君しかいないくらいだよ。ま、何はともあれ今日も彼らに顔出してやりな。あの子達(・・・・)も喜ぶことだろう」

 

「はい」

 

会話を交えながら2人は通路の先に見える、海の中に設置されている1つの建物へと足を進める。

 

 

 

 

 

そしてその建物の中に入ると、先程の水族館より近未来的な仕上がりとなっている広い部屋がそこにあった。その場には館長と同じ服装をした、職員と思われる人たちが様々な作業をしていた。

 

「みんな、久々に一翔が来てくれたぞ」

 

「お久しぶりです、皆さん」

 

館長がそう言うと一翔も挨拶をする。

 

「おぉ、来てくれたか一翔!」

 

「なかなか来てくれなかったから寂しかったのよ?」

 

屈強な体格をした男性と何かのメカを製作していた女性が一翔に声を掛けながら歩み寄ってくる。

 

「真壁さん、日向さん、ここに来る時に木戸さんにも言いましたけど、俺は今年受験なんだから―――」

 

「そんな事言っておきながら、天才頭脳の持ち主である君なら一発合格だったんだろ?」

 

「狩野さん……それ、木戸さんにも同じこと言われましたよ……」

 

コンピューターで何かを操作していた物静かな感じがする男性が館長と同じようなことを言い、一翔は苦笑いしながらそう言葉を返す。

 

すると―――

 

 

「グワァ、グワァ」

 

「キイィッ!」

 

1つの大きな水槽から、緑の体色に丸い目、赤い唇をしたトカゲのような小さな生物と、水色の体色にクジラとノコギリザメが合わさったような姿をした小さな生物が顔を出してきた。

 

「よぉ、チビスケにジョリー。元気にしてたか?」

 

「グワァ」

 

「キイィッ!」

 

一翔はトカゲのような生物に『チビスケ』、クジラとノコギリザメが合わさったような生物に『ジョリー』と呼び、2匹は嬉しそうな鳴き声を発する。

 

 

ここで彼らの説明をしよう。

 

彼らは、民間の水族館の職員として働いているがそれは表向きであり、本来は海洋専門に関する研究やチビスケやジョリーといった海で生まれた未知の生物を保護するために結成された組織である。

 

その名も『Oceanography Research Circle(海洋学研究サークル)(通称ORC)』

 

表向きの水族館側の職員もこの組織に属しているが、現時点でここでメインとして働いているのが以下の4人。

 

日向(ひゅうが)(りょう)

この組織の中では紅一点であり、海に潜るためのメカを開発、操縦を担当する。

 

狩野(かのう)浩平(こうへい)

海洋生物学の専門家。物静かで、コンピューター操作を得意とする。

 

真壁(まかべ)孝信(たかのぶ)

データリング担当。屈強な体格の持ち主であることから、格闘家と思われているが……それとは裏腹に臆病な一面があるらしい。

 

 

そして『木戸(きど)慎吾(しんご)

水族館の館長兼ORCの隊長で、落ち着いた性格であるが時々他の隊員たちや一翔と明るく接するムードメーカーでもある。

 

 

一翔はここに属しているわけではないが、幼い頃から木戸との交流があることもあり、名目上はORCの関係者及び、協力者という立場にある。

 

「チビスケたちがここで保護されてもう大分経つんだな……結構それなりに成長もしてきてるし」

 

一翔はそう呟きながらチビスケにチョコレート、ジョリーに骨抜きの魚を食べさせていた。

 

「まぁ、ここである程度保護して、もう海に帰しても良い具合になれたらその時はしばらく会えなくなっちゃうけどな」

 

「……そうですね。けど、大丈夫ですかね?こいつらは結構遠くの海から来たらしいけど、今でも帰りたがらないんでしょ?」

 

「そうなんだよなぁ……まぁ、帰りたがらないのは一翔が恋しいのかもしれないしな」

 

「フッ……そうだと良いんですけどね」

 

 

 

 

 

その後、チビスケやジョリー以外の他の生物たちのことや最近の海の変化などのことを色々知った後、そろそろ水族館の方が閉館時間となるため一翔は帰宅することにした。

 

「それじゃあ、また時間があれば来ます」

 

「あぁ、いつでも待ってるぞ」

 

木戸に出入り口まで見送ってもらった後、一翔は自宅へと帰るために歩き始める。

 

「一翔」

 

と、そこで木戸が呼び止めたため振り向くと、真剣な表情をしながら木戸は一翔に問いかけた。

 

「君は今もずっとノイズと戦っているのか?」

 

「……はい。そのために俺はこの光を手にしたんです」

 

一翔はそう言うと胸ポケットの中からウルトラマンに変身するブレスレットを取り出した。それを木戸に隠すことなく見せる。

 

「……君の気持ちは僕も……いや、僕たちも痛いほどよく分かる。けど……無茶だけはするな。そんな事じゃ、僕たちだけでなく彼ら(・・)も悲しい思いをするんだ」

 

木戸が以前ノイズに襲われかけた時に一翔は彼の前でウルトラマンに変身したことがある。そのため、木戸や他のメンバーは一翔がウルトラマンであることを知っている。

 

そして、一翔はその時の戦いで結構無茶な戦い方をしていたため、木戸はその時のような無茶な戦いを続けているのではないかと案じていた。

 

その言葉に対して一翔は―――

 

 

「無茶かもしれないけど無理じゃない……ノイズが現れ続ける限り、俺も戦い続けるだけです」

 

 

なんとも冷たい眼をしながら一翔は今度こそ歩き出して水族館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、完全に日が沈んだ頃―――

 

 

『ハァッ!』

 

 

一翔はウルトラマンとなってノイズと戦っていた。その後ろには1人の人間がウルトラマンとノイズの戦いの場から遠ざかるように逃げていた。

 

ノイズが現れた場所に一翔が偶然その近くを歩いていたため、炭化される前に早く駆けつけることが出来たようだ。

 

『デェアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

そしてとどめに額から光の刃『フォトンクラッシャー』を放ち、ノイズたちを一掃した。

 

(ふぅ、なんとかすぐに駆けつけられたか……今日はこれまでだな)

 

ノイズの一掃を確認すると、ウルトラマンはその場から飛び去ろうとする。

 

すると―――

 

 

『ッ!』

 

 

彼の背後から突然青く光る何かが向かってきた。ウルトラマンはいち早く気づき跳躍して回避する。すると謎の衝撃で辺りに煙が舞い上がる。

 

「見つけたぞ!」

 

そして煙が晴れるとそこにいたのは、青い長髪と左側で結わえたサイドポニーという特徴的な髪型をし、機械的なアーマーを身に纏って、1本の刀を構えている謎の少女だった。

 

(何だこいつ……?人間らしいが、ただ者じゃなさそうだな……)

 

突然現れた謎の少女に警戒しながらウルトラマンは少女を観察する。

 

「噂や二課での情報通りのようだな。ノイズを倒し、人間を襲わないということは人間の敵ではないのは確かだろう。しかし、正体が分からない以上、安易に味方だと断言することも出来ない。だからここで貴方を拘束し、正体を暴かせてもらう!」

 

(なるほど……どうやらこいつはその二課って言う組織に属していて、身に纏っている鎧のようなものはその組織のもの……そして、その組織の命令かどうかは知らないが俺を捕まえようと……少なくとも、ORCのような秘密組織であるのも間違いなさそうだな)

 

その考えに至ると、ウルトラマンは胸のランプ『ライフゲージ』から青い光を発生させてこの場から消えようとする。

 

「させるかッ!!」

 

『ッ!?』

 

しかし、光が発生しかけたと同時に少女はウルトラマンとの距離を積め、手に持っていた刀で彼に斬りかかる。

 

だが、間一髪のところでウルトラマンは斬撃を免れることに成功する。

 

「やはり光となって消え去るということも本当のようだな。だが、ここでみすみす野放しにするわけにはいかんッ!!」

 

そう言って少女は再びウルトラマンに斬りかかる。しかしウルトラマン―――一翔は人間とは戦いたくないため、ただただ避け続けるだけだった。

 

(くっ……!このままじゃ埒が明かねぇ……!)

 

先程のノイズとの戦いの後ということもあり、このままではまずいと思い、ウルトラマンは目にも留まらぬ速さで移動する『高速移動能力』で少女の背後に回り込む。そしてその直後にウルトラマンは飛び上がり、光となって消えていった。

 

「なっ!?待てッ!!」

 

目の前から突然消えたことに少女は一瞬驚愕するも、背後に回り込まれたと瞬時に気づき振り返るが、すでにウルトラマンは消え去ってしまったため追いかけることができなくなった。

 

「くっ、逃げられたか……!」

 

悔しそうに少女は呟くと、謎のアーマーは解除されていくかのように消え、どこかの学校の制服姿になる。

 

「何者なのだ、一体……?」

 

1人そこに残った少女はウルトラマンが消えた場所を見つめながらそう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日経ったある日―――

 

 

(一体何だったんだ、あの女……?恐らくあの女が言っていた二課って言う組織の本来の目的は俺と同じようにノイズを倒すこと……しかし、あの見たことのない鎧は何だ?)

 

一軒のラーメン屋で椅子に腰掛けながら、注文した品を待っている間に一翔は前に現れた謎の少女や彼女の言ってた二課という組織について考えていた。

 

(にしても、俺を捕獲か……ま、他人から見れば俺が手にした力は未知のものだ。調べるために捕獲しようとするのにも納得がいく。けど、俺だってまだ訳の分からん組織にこの力のことを教えるつもりは毛頭ないがな……)

 

「へい、醤油ラーメン1丁お待ち!」

 

考えてる途中で注文したラーメンが出てきたため、考えることは一度中断して食事を摂ることにする。

 

そして、一翔は割り箸を取り出して2つに割り、出されたラーメン―――そこに入っているなるとを

 

 

ブスッ

 

 

……ぶっ刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、店を出た一翔は見知った人物と遭遇した。

 

「ん?立花じゃないか」

 

「あ、一翔さん!こんなところで会うなんて奇遇ですね」

 

その人物とは響だった。

 

響と未来は一翔と同じ中学に通ってる後輩であり、一翔は時折2人の勉強(特に響の)を見てくれることもあるので、2人からは結構信頼されている。

 

「今日はどうしたんですか?」

 

「ただの気分転換だよ。そういうお前こそ、小日向がいないみたいがどうしたんだ?」

 

「今日はツヴァイウィングのライブがあってこれから向かうんですけど、未来は急な用事があって来れなくなって……それで、私1人で行くことになっちゃったんです……」

 

見て分かるほど響は本当に残念そうに落ち込む。

 

「私、呪われてるかも……」

 

「その口癖は聞き飽きた。まぁ、行ってやりたいがチケットはもう完売してるだろうし、あまり知らないアーティストのライブを楽しむのもどうかと思うし……悪いとは思うが、俺たちが後悔するくらい1人で楽しんでこい。今度俺と小日向で焼肉奢ってやるから」

 

「やったー!じゃあ思いっきり楽しんできますね!!絶対にライブに来なかったことを後悔させてやりますから!!」

 

そう言って響はさっきまでの落ち込みが嘘のように元気よく返事して走っていった。

 

「ったく、現金な奴だな……」

 

響の変わり様に呆れながらも一翔は微笑ましく響を見送った。

 

 

しかし、この時一翔は知らなかった

 

この後に起こる悲劇により、別の意味で後悔することに……。




原作やアニメだと響と未来の通ってた中学の名前は出てなかったと思うので、仮にあったとしたもオリジナル設定に基づいて敢えてここは主人公の通ってる中学と同じという設定であります。

あと、今回登場したORCという組織とそこに所属するメンバー……分かる人には分かります。

この後にやるライブ事件エピソードは2回に分けて投稿する予定です。


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3話 最悪のライブ


年が明けて2週間が過ぎましたが、明けましておめでとうございます!今回が今年初の投稿となります。

一応、歌詞コードは入力したから本当にこれで大丈夫かな?


『ツヴァイウィング』

 

それは、世界でも人気を誇る2人のボーカルユニットであり、その名を知らない者は数少ない。

 

そんなツヴァイウィングのライブ会場では、既に楽しみにしている観客たちが団扇やサイリウムを手に持って今か今かと待ち構えている。もちろん、響もその観客の中に混じっている。

 

「はぁ~。ああは言ったものの、やっぱり1人だけで楽しむなんてちょっと気が引けるなぁ……いや!何がなんでも2人を後悔させてやるんだから!おまけに焼肉奢ってもらえるし!」

 

未来だけじゃなく、一翔も今日のライブを一緒に観てやることが出来なくなったことがやはりショックではある響だが、なんとか気を取り直してライブ開始を待つ。

 

といっても、最後の言葉の部分が一番の本音に聞こえなくもないが……。

 

すると、ライブ会場が暗くなり始めた。

 

「おい!始まるぞ!」

 

「気合い入れていくよ!!」

 

暗くなったことでライブ開始間近になったことに気づいた観客は準備を整える。そして、ついにツヴァイウィングのライブが始まった。

 

『『『ワアアアアァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――!!!!!』』』

 

開始直後から観客のテンションは絶好調である。

 

「奏さーん!!翼さーん!!」

 

響は、ライブ会場を飛ぶように羽を舞い上がらせながら登場した、ツヴァイウィングである2人の少女―――鳥の羽がモチーフとされる特徴的な形をした赤髪の『天羽(あもう)(かなで)』と、青い長髪と左側で結わえたサイドポニーというこちらも特徴的な髪をした『風鳴(かざなり)(つばさ)』の名を叫びながらサイリウムを勢いよく振り回して元気よく声援を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃―――

 

 

[ま、そんなところだ。言ってしまった手前、お前にも協力してもらうからな、小日向]

 

「もう……私を抜きにしてそんな約束させないでくださいよ、一翔さん」

 

未来は一翔からの電話で響に会ったことや、ライブに行ってやれなかったお返しとして焼肉を奢るという約束をしたことを伝えられ、その内容を聞いた未来は少し呆れていた。

 

[仕方ないだろ?どうしても手が離せない急な用事が出来たとはいえ、約束を破っちまったんだからな。それ相応の対価が必要だろう]

 

「……まぁ、それは確かに言えますけど……けど、わざわざ一翔さんまでそんな対価を払う必要はないんじゃ―――?」

 

[―――だからこそだ。先に口約束した奴がちゃんと約束守らねぇと、先輩として示しがつかねぇしな]

 

「……分かりました。そういうことでしたら協力しますよ。それにしても―――ふふっ」

 

[?なんだ?急に笑って……]

 

「……いえ、初めて会った時なんていつも辛辣な言葉を言ったり、誰とも関わりたくない雰囲気を晒し続けてたこともあったけど―――やっぱりなんだかんだ言いながら一翔さんは優しいなぁって思って……」

 

[うっせぇ!!]プツッ!ツー、ツー……

 

「あ、切られちゃった……」

 

未来にからかわれたと思った一翔は思いっきり大声を出して通話を切った。

 

 

 

 

 

「ったく、人をからかうのも大概にしろよな……」

 

海が見える高台へと来ていた一翔は顔を赤くしながらも通話を終了させてスマホをしまうと、ジャケットの内ポケットの中からハーモニカを取り出した。

 

「音楽なんて趣味程度だが、たまにはいいよな。今度またあいつらにも何か聴かせてあげるか」

 

そう呟くと、一翔は海を見据えながらハーモニカの吹き口に口を当て、ゆっくりと目を閉じてから綺麗な音色をハーモニカから奏でさせた。

 

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

 

その心が落ち着くようなメロディに、同じく高台に来ていた人たちも魅了されていた。子供達に至っては好奇に満ちた笑顔で一翔を見続けていた。

 

吹いている一翔自身もこの曲によって心が落ち着きかけていったその時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───お父さあああん!!お母さあああん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!!」

 

突然の謎の光景を見たことによって一翔は目を見開いて演奏を止め、思わず倒れかけそうになるが近くにあった手摺に掴まり、なんとか体勢を立て直す。

 

「あの、大丈夫ですか!?」

 

当然それを見ていた人たちは心配して一翔に駆け寄ってくる。

 

「はぁ……はぁ……す、すみません……ちょっと目眩がしただけなんで、大丈夫です……」

 

「そう?ならいいんだけど……」

 

「お兄ちゃん、これ」

 

なんとか駆け寄ってきた人たちに言葉を返すと、倒れかけた際に落としたのであろうハーモニカを、1人の子供が拾って一翔に渡してくる。

 

「あぁ、拾ってくれてありがとうな」

 

「ねぇ、もう1回さっきの吹いてくれない?」

 

「あー悪い、今日はもう吹けねぇや」

 

「「「えぇ~!?」」」

 

「こら、さっきのこともあるんだから無理にお願いするのはやめなさい!」

 

「そうだぞ。あまりお兄さんを困らせるな」

 

もう一度ハーモニカの演奏を子供達に頼まれるも、先程のこともあるために一翔は断り、それぞれの子供の親御さんも一翔の身を案じてやめさせるように子供達に注意する。

 

「じゃあ、俺はこれで……」

 

「気をつけてくださいね」

 

「「「じゃあねー!」」」

 

周りの人たちに見送られながら一翔は高台を後にした。

 

 

 

 

 

その後、一旦自宅へと帰ってきた一翔はジャケットを着たままベッドに仰向けになって倒れる。

 

「はぁ……」

 

ため息を吐くと、一翔はテーブルの上に置かれている、1枚の写真が入った額縁を見つめる。その写真には、海を背景に6~7歳くらいの少年と、彼の両親と思われる2人の男女の姿が写っていた。

 

「戦い続けなきゃ……ならないんだ……!ノイズを全て倒すまで……例え、どんな無茶な戦いになろうとも……ッ!」

 

自分に対して強く言い聞かせていると、ふと、ジャケットの右ポケットに違和感を感じた。ポケットの中に手を入れ、取り出すとウルトラマンに変身するためのブレスレットの水晶部分が点滅していた。

 

「ノイズか!」

 

ノイズが出現したのだと瞬時に気づくと、すぐさまベッドから降り、靴を履いて外へ出て急いで出現ポイントへと向かう。

 

すると、ブレスレットの点滅が段々激しくなっていく。

 

「ッ!?やべぇ、恐らく1人や2人なんてレベルじゃない!結構な団体が襲われてるかも―――!!」

 

そう思い、一翔はちょうど誰も入っていない証明写真撮影機を見つけ、その中に入りカーテンを閉めた瞬間にブレスレットを右腕に装着し、ウルトラマンに変身―――ではなく、青い発光体となってそのまま目的地へと飛んでいく。

 

 

 

 

 

そして、発光体の状態のまま目的地に到着する。

 

しかし、そこは―――

 

 

(なっ!?ツヴァイウィングの……ライブ会場だと……ッ!?)

 

 

一翔は目的地の上空から、そこはツヴァイウィングのライブ会場であることに驚愕していた。

 

さらに―――

 

 

「生きるのを諦めるなッ!!!!」

 

(ん?あれは……立花!?)

 

 

ウルトラマン特有の聴力と視力で、胸から大量出血を起こしながら気を失っている響と、彼女を揺さぶって呼び掛けるツヴァイウィングの1人である奏の姿を確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること数分前―――

 

 

『『『ワアアアアァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――!!!!!』』』

 

 

ライブはまさに絶好調である。響や他の観客たちのテンションも最早下がることがない。そんな中、ライブ会場の天井が翼を広げるように開いていく。

 

それにより、観客たちのテンションはさらにうなぎ登りとなっていく。

 

「まだまだ行くぞー!!」

 

1曲目を終えて、熱狂が冷めないうちにもう1曲歌おうと奏がマイクに口を当てた。

 

 

その次の瞬間―――

 

 

ドオオオオンッ!!!

 

 

ライブ会場の中央から大きな爆発が起きた。それにより、ライブは一気にパニック状態に陥る。そして、次に現れた存在により熱狂から一瞬で阿鼻叫喚の叫びへと変わる。

 

「―――ノ、ノイズだあぁ!!」

 

「きゃああああああああっ!!」

 

ノイズ出現に観客たちは我先にと一目散に逃げ出す。

 

「あああああぁぁぁぁぁ―――」

 

「嫌だ!!死にたくない!!死にたくな―――」

 

しかし、逃げ遅れた人たちはノイズにより次々と炭化されていってしまう。

 

「うっ!くっ……!」

 

響もノイズに触れられまいと必死に逃げようとするが、人混みが激しいが故に上手く逃げられる状態ではなかった。それ故に、取り残されてる人たちは次々と炭化されていく。

 

 

 

 

 

「ちっ、今日は厄日かよ。ノイズまであたしらのライブ邪魔しに来やがって……」

 

そんな中、ステージに残ったままの奏は大量に溢れ出したノイズに悪態をついていた。

 

しかし、その目には恐怖というものが全く感じられなかった。

 

「いくぞ翼!この場に槍と剣を携えているのはあたしたちだけだ!!」

 

「ええ!」

 

奏の言葉に翼も恐れることなく応え、ステージを降りる。すると、2人はどういうわけか歌を歌い始めた。

 

 

━━━Croitzal ronzell gungnir zizzl

 

━━━Imyuteus amenohabakiri tron

 

 

2人はそれぞれの歌を歌い終えると、ライブ衣装が消えたかと思ったら、奏は朱色、翼は青の機械的なアーマーを身に纏っていた。

 

そして、アーマーを纏ったと同時に奏は槍、翼は刀を手に持ち、ノイズたちを蹴散らしていく。

 

その光景に、観客たちはノイズから逃げるのに必死で気づいていなかった―――否、見ている余裕がなかったというべきか。

 

「うりゃあっ!」

 

「はぁっ!」

 

奏の持つ槍がノイズを突き、翼の持つ刀がノイズを両断する。しかし、まだまだノイズはたくさんいる。それでも、2人は決して怯むことなくノイズを一掃していく。

 

だがそこで、空を飛ぶノイズが体を細めて翼に向かって突進してきた。翼はなんとか避けるが、その拍子に奏と引き離されてしまった。

 

(くっ……これでは連携が!)

 

なんとしてでも奏と距離を積めようとするも、ノイズが次々と邪魔してきてなかなか近づけない。

 

一方、奏は苦虫を噛むような表情をしていた。

 

(ガングニールの出力が上がらない!制御薬を断っていたのが裏目に……!)

 

『ガングニール』という、自身が纏っているアーマーを見て悪態をつく。すると、ガングニールは徐々に光を失い始めていく。

 

「くそっ!時限式じゃここまでかよ!?」

 

恐らくタイムリミットが迫ってきてるということで焦りが募ってくる。

 

すると―――

 

 

「きゃあっ!?」

 

「ッ!?生存者!?」

 

 

恐らく上手く逃げられないがために別の避難ルートを探していたのであろう響が、奏たちが戦っている場所の近くまでやって来たのだが、その場が崩れ落ちてしまって彼女も地面に落とされてしまった。

 

「おい大丈夫か!?」

 

なんとか目の前のノイズを倒し、響に駆け寄ろうとする奏。しかし、後ろからノイズがうじゃうじゃと湧いて出てくる。

 

「か、奏さん……う、後ろ……!」

 

「ちぃ!」

 

相方である翼とは引き離されたが彼女はまだ戦えていると信じ、奏はなんとしてでも響を守るために目の前のノイズを相手に槍を構え、一掃していく。

 

だが、段々とガングニールからピシリ、という嫌な音が響いてくる。

 

「くっそぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

そして、ついにガングニールが砕けて飛び散る。

 

「あっ―――」

 

さらに、最悪なことにその砕けて飛び散った欠片の一部が響の胸を貫いた。胸から大量に出血を起こし、響は気を失って倒れる。

 

「大丈夫か!?……おい、死ぬな!目を開けてくれ!!生きるのを諦めるなッ!!!!」

 

悲痛な面持ちで奏は叫ぶ。すると、僅かながら響は息を吹き返し、小さな唸り声をあげて少しだけ目を開かせた。

 

「よかった……!」

 

その事に奏は安堵するが、肝心なノイズがまだ後ろにおり、他のノイズは翼が1人で蹴散らしているため、まだ終わってはいない。

 

しかし、今の自分では恐らく全てのノイズを倒すことは不可能に等しい。ならばと、奏はこの現状を打破するためにある考えに至った。

 

「一度……心と体を全部、空っぽにして歌ってみたかったんだよな……」

 

響を守るように立ち上がり、決意を固めたかのような表情でノイズと対峙する奏。しかし―――その表情は、まるで自分の死を受け入れようとして(・・・・・・・・・・・・・・)いる(・・)かのような表情でもあった。

 

(奏!まさか、絶唱(・・)を……!?)

 

翼は奏が何をしようとしているのかを理解し、ノイズを倒すと奏を止めようと叫びながら近づこうとする。

 

「いけない!奏!歌ってはダメェェェェェェェェ――――――――――!!!!!!」

 

だが、戦闘中に引き離されてしまった時の距離が大きいため、叫んでも奏を止めることは出来ない。その上、ノイズが邪魔をしてくるので近づけない。

 

(翼……ごめんな……)

 

奏は目を閉じ、心の中で翼に謝罪しながら『絶唱』という歌を口ずさもうとする。

 

その時だった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━生きるのを諦めるなと言ってた奴が、生きるのを諦めるような顔をするな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

突然、奏の頭の中に誰かの声が響いた。その直後、奏の目の前にいたノイズが空から降り注いだ青い光弾によって一掃された。

 

「なっ!?これは―――」

 

突然の出来事に奏だけでなく、翼も何が起こったのかと目を見開く。しかし、それにより隙が生じてしまい、1体の巨大型ノイズが翼に襲いかかろうとする。

 

「しまっ―――!?」

 

だが、その巨大型ノイズも空からの光弾の直撃を受け、爆発四散して炭と化した。

 

まだ大量なほどの数がいたノイズも、先程の光弾によりかなりの数が一掃された。それでも、まだ数十体残っている状況だった。

 

「……何だよ、今のは……?」

 

「さっきの攻撃……まさか!?」

 

2人は先程の攻撃が何だったのか考えていると、翼はある存在が思い当たった。

 

その時―――

 

 

ドガアアアアアアン!!

 

 

「うぅっ!?」

 

「な、何だ!?」

 

突然の爆発が起こり、辺りがその衝撃で煙が舞う。その衝撃になんとか耐える2人。

 

そして段々煙が晴れていくと、眩い光に包まれている人型のシルエットが見えた。

 

「あ、あれってまさか……!」

 

さらに光が晴れていくと、片膝立ちで両腕を立てた構えをしている青い超人―――一翔が変身したウルトラマンが降臨していた。




他のウルトラマンネタやオマージュがあることはタグを見る限りわかると思いますが、それ以外にも主人公の一翔には、原作ガイアの藤宮以外の一部の歴代ウルトラマン(またはその変身者)の要素が取り入れられています(さすがに全部入れるのはどう考えても無理があるので)
なので、今回は某銀河の風来坊のようなシーンも書かせていただきました。

ついでに言うと、アグレイターにも様々な要素が取り入れられてます。


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4話 ライブ会場での戦い


タグにもあるように、自分は原作知識は多少ある程度なので、もし「このシーン捏造してあるじゃねぇか」とか、「これって作者の解釈だろ」とか、「ご都合主義すぎるな」みたいなことがあれば、「あ、オリジナル設定・展開ありってタグがあるから当然か」というような感じで見てくれれば幸いです。
要は、捏造や独自解釈、ご都合主義はオリジナル設定・展開に含まれてると思ってください、ということです。それでもタグに付け加える必要があるのであれば追加します(入りきらなくなる可能性もありますが)

そして、タグや前回の話で既に分かっていたと思いますが、この話では二次創作では最早定番になりつつある奏生存ルートになってます。

あとは、後書きにも書きますが、この話のアグルには、本来のアグルには無いオリジナル技・能力が備わっております。


あと、ごめんなさい。ライブ事件エピソードは確かに終わりましたが、回想編はまだ終わってないです。次回で一応、今回の回想編を終わらせられるように頑張ります!


最後に(まだあったのかよ)
今現在、新型コロナウイルスでやばい状況ですが、本作を見てくれてる読者さんや他の作者の皆さんもお体にお気をつけて、感染予防もしっかりとしておきましょう。

では、長い前書きもここまでにして、今回の話をどうぞ!


「あ、あれってまさか……!あいつが、最近噂になってるウルトラマンか……!?」

 

奏はウルトラマンの存在を噂で耳にしていたが、実際に生でウルトラマンを見た事で様々な思いを募らせる。

 

「…………」

 

一方、翼はウルトラマンに対して特に驚いている様子は無く、ただ見つめていた―――というより、ウルトラマンを睨んでいた。

 

それも、まるで一度逃がしてしまった相手(・・・・・・・・・・・・)を睨むような眼で……。

 

すると、ノイズたちが今度はウルトラマンを標的にして一斉に向かって突進してくる。

 

『……』

 

ウルトラマンは立ち上がると、右腕をノイズたちに向けて垂直に伸ばし、ノイズたちとの距離が近くなる寸前で高速移動能力を使って背後に回り込んだ。

 

「速い……!」

 

奏はウルトラマンの素早い動きに感嘆の声をあげる。しかし、翼はまたしても特に驚く様子はなく―――

 

 

(……またあの能力を……)

 

 

―――と、まるで一度体験したことがある(・・・・・・・・・・・)ような感じに心の中で呟いていた。

 

そんな中、高速移動能力で背後に回り込まれたノイズは瞬時に振り返り、再びウルトラマン目掛けて突進してくる。

 

ウルトラマンは後ろを向いたまま、右手を光らせる。そして、ノイズの方へ振り向いた瞬間に右手から光の剣を形成させ、それを振るって接近してきたノイズたちを両断する。

 

しかし、その隙を突こうと1体の飛行型ノイズが飛んだまま襲いかかろうとする。

 

「危ねぇ!!」

 

咄嗟に奏はウルトラマンに向かって叫ぶ。だが、ウルトラマンは至って冷静に、振り向くことなく後ろから迫ってくる飛行型ノイズを剣で突き刺した。

 

 

ノイズ自身に意思はない。ただ、人間を炭化させようと襲ってくるだけ。それ故に、怒り、悲しみ、喜びといったような感情も本来は持ち合わせてはいない。

 

しかし、先程まで奏や翼が苦戦するほどであったノイズを圧倒的な力で一掃していくウルトラマン―――その強さに、残りのノイズたちには“恐怖”という感情が渦巻いていた。

 

その恐怖を拭い去るためか、残りのノイズたちは1ヶ所に集まっていき、なんと次々と合体していき、十数メートルくらいにまで巨大化した。

 

『ハアアァァァァァァァ……!!』

 

だが、そんな事は関係無しにと、ウルトラマンは剣が形成されている右手を空に掲げる。すると青い稲妻のようなエネルギーが剣の方へ集まってくる。

 

合体したノイズは、ウルトラマンが何かしてくると瞬時に理解し、何かされる前にこちら側から仕掛けようと距離を積めてくる。

 

『ドゥオアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

しかし、それより先に合体したノイズに向けてウルトラマンは剣を振り下ろすと、剣にまとわりついていた青い稲妻が合体したノイズに向かって襲いかかる。

 

それを受け、抵抗するように合体ノイズは負けじとウルトラマンとの距離を積めようとする。だが、ついに合体ノイズに限界が訪れ、頭から次々と爆発四散していき、その断片は炭化されていった。

 

 

ライブ会場を襲ったノイズは、謎のアーマーを纏った奏と翼、そして途中から加入してきたウルトラマンの手によって殲滅された。

 

「……ははっ、こりゃすげぇや……あたしたちより断然強ぇ……」

 

ウルトラマンの強さを目の当たりにした奏は、ただそう呟くしかなかった。

 

「まっ、何はともあれノイズどもは全部やっつけられたわけだし……翼ー!とりあえず旦那のところに―――」

 

「はああああぁぁぁぁッ!!!!」

 

「―――って、おい!?翼!!」

 

奏が翼に向けて撤収の言葉をかけようとすると、翼は突然ウルトラマンに向かって刀を構えて斬りかかろうとする。

 

『ッ!』

 

ウルトラマンもそれにいち早く気づき、消えかけていた剣をもう一度出現させ、翼の斬撃を防ぐ。

 

(くっ!ノイズを倒したと思ったらこれかよ……ん?そういえば、前にも同じような……それに、この女どこかで……?)

 

翼と鍔迫り合いをしながら一翔は彼女に対して何らかの既視感を感じていた。

 

「まさかこの戦場(いくさば)で再び相見えるなど思っても見なかった。あの時は逃がしてしまったが、今日こそ貴様を捕まえさせてもらうッ!!」

 

(あの時?……ッ!)

 

そう言われて一翔は、翼の今の容姿を見て気づいた。青い長髪と左側で結わえたサイドポニーという特徴的な髪型、身に纏っている機械的なアーマー、そして自分に斬りかかろうとしていた1本の刀―――

 

 

(まさかこいつ、俺を捕まえようと急に現れたこの前の……!!)

 

 

そう、翼が数日前に自分を捕まえようと襲いかかってきた少女と同一人物であることに気づいた。

 

その時―――

 

 

ピコン、ピコン、ピコン、ピコン……

 

 

胸のライフゲージが青から赤に変わり、音を鳴らしながら点滅を始めた。

 

(しまった!リキデイターやブレードの使いすぎでエネルギーが……ッ!!)

 

一翔は、最初にノイズを一掃する際に放った光弾『リキデイター』を大量に使った上、光線技を放ち続けている状態に等しいがためにエネルギー消耗が激しい剣『ブレード』を使用しすぎたからライフゲージが鳴ったのだと苦虫を噛んでいた。

 

『デアッ!』

 

「ぐっ!?」

 

仕方なくウルトラマンは翼の腹部を蹴り、一旦距離を離した。その後、ブレードを戻してこの状況をどうするべきかを考える。

 

「うっ、うぅ……!」

 

「あっ、おい大丈夫か!?」

 

その時、まだ傷が塞がっておらず意識が朦朧としながらも小さな唸り声を上げる響と、そんな彼女に寄り添うボロボロな状態の奏が視界に入った。そして、奏ほどではないが同じくボロボロな状態である翼を再び見る。

 

(正直、あの青髪の女にもこれ(・・)を使うのは気が滅入るが仕方がない……とりあえず―――)

 

一翔は3人のボロボロな状態を見た後、自身に蹴られた腹部を押さえていた翼に向けて右手を伸ばしてクイクイと挑発する。

 

「ッ!!挑発のつもりか……ッ!!危険信号のように胸のランプを点滅させてる者が調子に乗るなッ!!」

 

ものの見事に挑発に乗ってしまった翼は怒りに任せて、刀を握ってウルトラマンに向かい突っ込んでくる。

 

だが、ウルトラマンには高速移動能力で回避できることを、翼は怒りの感情に任せたことで忘れてしまっていた。

 

『フッ』

 

そして、距離が縮まる瞬間にウルトラマンは高速移動で翼の背後に回り、その直後に空へと飛び上がる。だが、この前とは違い十数メートル飛び上がったところでその場で停止する。

 

『ハァッ!オォアアアアァァァ……!』

 

するとあろうことか、ウルトラマンは突然フォトンクラッシャーを放つ構えを取り始めた。その先には、先程挑発した翼と、その近くに響に寄り添ったままの奏がいた。

 

「まさか!私だけじゃなく奏もやるつもりか!?」

 

「なっ、嘘だろ!?」

 

攻撃を仕掛けてくると思い込んだ2人は思わずそう叫ぶ。それでも、ウルトラマンは両腕を上下に伸ばして発射前の態勢を取る。するとどういうわけか、ウルトラマンの額には光の渦が発生しても光の刃が出現することはなく、そればかりか光の渦が右手に集まっていく。

 

『デェアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

そして光の渦が集まった右腕で半円を描き、一度ライフゲージのところに持ってくると右腕を垂直に伸ばしてフォトンクラッシャーとは違った光線を放った。

 

しかも、奏と響、翼がいる方向へと……

 

「くっ!」

 

「翼!!」

 

翼は2人を守るために前に立ち、両手を広げて防ごうとする。そして、死を覚悟した翼は目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、いつまで経っても何の痛みも感じなかった。

 

「うっ……あ、あれ?」

 

恐る恐る目を開くと、ウルトラマンの右手から放たれてる光線は自分に直撃してるが、ダメージが全く伝わってこない。それどころか、先程までノイズと戦ってたことでボロボロだった体がどんどん癒えていく。

 

「か、体が……」

 

それは奏や響も同様で、ウルトラマンから放たれた光線により傷が癒えていき、響の胸の傷口も塞がった。

 

『デュオアッ!』

 

3人の傷が癒えたのを確認すると、ウルトラマンは上空の彼方へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンが飛び去っていったのを見届けた後、数人の謎のスタッフたちがやって来て、謎のアーマーを纏ってノイズ殲滅に専念し、その途中でガングニールが砕け散ってしまい、最終手段として絶唱を歌おうとしたところでウルトラマンが現れたと奏は伝えた。

 

「一応、こちらの方でもウルトラマンの反応は感知していた。その体の状態を見る限りだと、彼に救われたみたいだな」

 

「旦那……」

 

そこへ、逆立った赤い髪をした男―――弦十郎が現れた。

 

「それにしても、命を落としかねないというのに、シンフォギアを失った状態で絶唱を使おうとしていたとはな……」

 

「うっ!わ、悪かったってぇ~……」

 

弦十郎からの言葉を受けて奏はバツが悪いように苦笑いしながら謝る。

 

しかし、彼がなぜ奏が歌おうとしていた絶唱という用語を知っているのか―――それは、奏と翼が纏っていたアーマー『シンフォギア』が、弦十郎が司令を務める特異災害対策機動部二課に所属している“ある人物”によって生み出されたものだからだ。

 

そして彼らの会話を聞く限り、奏と翼も二課に所属していることが窺える。さらに聞いたところによると、どうやら絶唱は命の危険に曝されるらしい。奏が絶唱を歌おうとした際に死を覚悟した表情をしたのもその為だからだろう。

 

「……けどよ、あいつが……ウルトラマンが来てくれて、あたしたちは助かった。それに―――」

 

ふと、担架に乗せられて運ばれていく響の姿が目に入る。あの時のウルトラマンの光線によって傷口は完全に塞がりはしたが、それ以前に大量出血を起こしていたのでまだ意識は戻らず、ひとまず近くの病院へと運ばれることになった。

 

「思わずウルトラマンがあたしたちにまで襲いかかってくるんじゃないかって思ってたけど違った。あいつは、ノイズの戦いでボロボロだったあたしたちの傷や、あの子の傷だって癒してくれた……ウルトラマンはきっと―――いや、絶対にあたしたちの味方だ!」

 

奏は自分が正直に思ったことをまっすぐに言葉にして弦十郎に伝える。

 

「フッ、そうか……お前が言うのであれば間違いないだろう。だが……俺の姪はそう簡単にはいかないらしいぞ」

 

やれやれといった感じで弦十郎は別の方向へ視線を向けると、シンフォギアは既に解除されてるが悔しがってるかのごとく拳を強く握りしめている翼の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏と翼、響の傷を癒したウルトラマンは飛び去った後、発光体となって移動していき、証明写真撮影機の中へと戻ってきた。

 

そして光が晴れると一翔が姿を現す。

 

「はぁ……はぁ……ライブ会場なんて規模じゃ、さすがに全部までは救えなかった……けど、立花がなんとか無事でよかった。それにしても―――」

 

一翔は以前自分を捕まえようと現れた少女が、トップアーティストの1人である風鳴翼であることにまだ驚いていた。

 

しかも、途中から加入したため実際には見てないが奏もノイズと戦っていた可能性があるため、2人はトップアーティストでありながら、翼が以前言っていた二課という組織に属しているのだろうと一翔は推測した。

 

「いや、トップアーティストが表向きで本来は二課って組織に属して……?なんにせよ、あの鎧のこととか色々と訳が分からないことが多いし、またあの女が捕まえようとしてくるかもしれないから気をつけとくか」

 

今後のことで色々と考えた後、一翔は帰路につこうとする。

 

その際に、証明写真撮影機から[ご利用ありがとうございました!]という音声が聞こえたので何かと思ったら、一翔がブレスレットを装着して光に包まれる瞬間の写真が出てきたため、一翔は慌ててそれを取り出し、証拠隠滅のためにビリビリに破いて近くにあったゴミ箱へ捨てた。

 

 

 

 

 

ノイズによるツヴァイウィングのライブ襲撃事件はこうして幕を閉じた。

 

 

しかし、また新たな残酷な事件が起こることを、一翔はまだ知らないままだった……。




今回使用したアグルのオリジナル必殺技・能力

1.アグルライトニングブレード
本文でも言ってたように、アグルブレードを空に掲げることで青い稲妻のようなエネルギーがブレードに集まっていき、それを標的めがけて振り下ろすことでその雷撃を放射する。
原作ガイアで、アグルが地球怪獣たちを呼び起こすために使用した『アウェイクニングインパクト』が基であり、アグルブレードに稲妻のようなエネルギーが集中した描写があるのもそのためである。

2.アグルヒーリング
名前の通り、相手の傷を癒すことの出来る技。この技を放つ際の動作は本文にもあるようにフォトンクラッシャーを放つ前の構えをした後、右手に集まったエネルギーを前に突き出して放つことで対象者の傷を癒す。
原作ガイアのガイアヒーリングと同様、無理矢理操られたりしてる者や、暴走状態に陥ってしまった者を浄化させる役割も持つ。ただし、どんな要因であれ死んでしまった者を生き返らせることは出来ない。あくまで傷を癒したり心を浄化させるだけ。


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5話 いわれなき迫害


お久しぶりです、自粛生活を理由に全く投稿する気が起きないサミンであります

もし初期の藤宮だったら“人間がいなければ”なんてことを言って癌細胞扱いするんだろうなぁ……まぁ、ここまで新型コロナが広まってしまったのは実質人間がちゃんとしてないからってのも一理あると感じてしまってる自分もいます


ノイズによるツヴァイウィングのライブ襲撃事件の翌日。一翔は未来と一緒に響が入院してる病院へと足を運んだ。未来はお見舞いにと花束を持っている。

 

「……まさかライブ中にノイズに襲われかけたなんて、響にはすごく嫌な思いさせちゃいましたね……」

 

「あぁ。立花には本当に申し訳がないな……。まぁ、無事に帰ってこれただけでもよかったよ」

 

「そうですね」

 

受付を終えた2人は雑談を交えながら、響のいる病室へと向かう。

 

そして、『立花響 様』と書かれてるプレートがある病室の前にやって来た。一翔は扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

中から響の声が聞こえ、入室の許可を貰ったところで一翔は扉を開ける。

 

「失礼するぞ、たちば……な?」

 

「響ー、お見舞いに来た、よ……?」

 

扉を開けて病室へ入りかけると、2人は愕然とした。

 

なぜなら……

 

 

「ガツガツ……あっ、一翔さんと未来!モグモグ……お見舞いに来てくれたんだ!ありがとー!バクバク」

 

 

昨日ノイズに襲われかけた上に重傷を負っていたはずの響が、まるでそうとは思えないほど元気な様子で病院食を平らげていたからだ。しかも、どう考えても普通の女の子では食べれないほどの量をペロリ、と……。

 

とはいえ、響の重傷を治したのはウルトラマンとしてあの場にいた一翔自身なため、本人は一瞬愕然とするも“実質自分が治したわけだからこうなるのは当然か”と納得した。

 

しかし、一翔が響の傷を治したこと、ましてや一翔がウルトラマンであることを知らない未来からすれば驚くのも無理はない。

 

「えっと、響……聞いた話によれば結構重傷だったって聞いたけど……?」

 

「ん~?ゴクン……あぁ、自分で言うのもなんだけど、私って結構出血が酷かったと思うんだよね……でも、どういうわけかまるでそんな感じは全く無いし、目が覚めた時にはもうお腹ペコペコでさぁ~!」

 

「まぁ、相変わらずバカでよかった」

 

「バカってなんですか一翔さん!!」

 

一翔のバカ発言に頬を膨らます響。

 

「でも、本当によかった。……ごめんね、響。嫌な思いさせちゃって」

 

「大丈夫だよ、そんなに気にしないで。何はともあれ、奇跡の生還を果たしたわけだからさ!」

 

「……奇跡、ねぇ……」

 

その奇跡の生還をさせたのが一翔本人なのだが、そんなことを言ってしまえば自分はウルトラマンであることをバラしてしまうことにもなる為、一翔は敢えて言わないでおいた。

 

(……それに自分からバラそうなんてとんだ自慢野郎になっちまう)

 

「―――そういえば、未来は最近噂になってるウルトラマンってどう思う?」

 

一翔は1人で考えていると、響は未来にウルトラマンの事について質問していた。

 

「ウルトラマン?ん~……実際に見たことないからまだよく分かんないけど、どうして?」

 

「ウルトラマンってさ、ノイズを倒してくれることで有名じゃん?もしかしたらあのライブ会場にもウルトラマンが来てくれたんじゃないかって!もしそうだとしたら、ウルトラマンに会ってお礼が言いたいんだよね!」

 

「……まぁ、気持ちは分からなくもないけど、会いたいからってすぐに会いに来てくれるとは限らないよ?」

 

(悪いけど、そのウルトラマン本人はここにいるって……)

 

ウルトラマンの正体を知らない2人の会話を聞いて、一翔は思わず心の中でそう呟いていた。

 

(だが……今まで未知の存在として認識されてきたウルトラマンの正体が俺だったなんて知ったところで、木戸さんたちはしっかりと受け入れてくれたりしたが、こいつらが木戸さんたちみたいに、はいそうですかと受け入れてくれるとは限らないしな……)

 

その後、響から退院できる日、学校に復帰できる日を伝えられ、一翔と未来は病院を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後

 

響は無事退院し、今日は響が学校に復帰する日でもあった。

 

「さーて、また立花の勉強を見るはめになりそうだなぁ……ま、やるっきゃねぇか」

 

入院していたとはいえ、休んでいた分の成績を上げなきゃいけない響の為にまた勉強を教えてやらなきゃいけないことに、一翔は嫌そうになりながらも気を引き締めて学校へ向かおうとする。

 

その時―――

 

 

「何でお前なんかが生き残ったんだよ!!」

 

「そうだそうだ!!」

 

「ふざけんじゃねぇよ、この人殺し!!」

 

「や、やめてよぉ……!」

 

 

路地裏で一翔と同じ桜ヶ丘の制服を着た男子生徒3人が、同じく桜ヶ丘の制服を着た女子生徒1人に暴行を加えていた。

 

「何やってんだあいつら……ったく」

 

見過ごせなかった一翔は路地裏に入り、仲裁役を買って暴行を止めさせる。

 

「おいやめろ!」

 

「あぁ!?なんだてめ……って、吉宮先輩じゃないですか」

 

一翔が仲裁に入り、男子生徒は一翔にも敵意を向けかけるが、同じ制服である一翔の姿を見て手を止めた。どうやら彼らは一翔の1年下の後輩らしい。

 

「何やってんだよ、こんな朝っぱらから……それに、よってたかって女子1人をいじめるとか……何でこんな酷いことするんだよ?」

 

「はぁ?吉宮先輩、知らないんすか?こいつ、あのツヴァイウィングのライブの事件で生き残った犯罪者なんすよ」

 

「そうだよ、だから俺たちが罰を与えてんのさ!何もないくせに生き残って他の人たちを死なせたこいつらにさ!」

 

男子たちの口から、“ツヴァイウィングのライブの事件”という言葉を聞いて、いじめられていた女子生徒は響と同じライブ事件の生存者であることが分かった。

 

しかし、彼らの言う、“生き残った犯罪者”、“生き残って他の人たちを死なせた”という言葉に疑問を持った。

 

「……どういうことだ?何で生き残った彼女が犯罪者なんだ?それに、こいつらってことは……?」

 

「いや、だからですね?こいつのせいであのライブにいた他の人たちが死んじまったんすよ。こいつだけじゃない、あのライブで生き残った他の奴らも」

 

「知らないなら見せてやりますよ、ほら!」

 

すると、1人の男子が鞄の中から一冊の週刊誌を取り出す。そしてあるページの記載部分を見せる。

 

その内容を見て、一翔は絶句した。

 

 

「“ライブ事故の大量死者の原因は人災”、“逃走中の将棋倒しによる死亡”だと……!?」

 

 

記載された内容は、ライブ事件で死んだ人々は生き残った人たちによる人災だというものだった。

 

 

 

 

 

週刊誌に記載されたもっと詳しい内容はこうだ。

 

ツヴァイウィングのライブ公演中にノイズが出現した事件―――その被害者は観客と関係者を合わせて約12000人にも及んだ。

 

その内、ノイズによる被災で死亡したのは3分の1程度であり、残りの3分の2以上は逃走中に起こった将棋倒しによる事故によるもの―――つまり、事故の大半が人の手によって引き起こされたものであるということが述べられていた。

 

それにより、生存者たちに向けて苛烈なバッシングが始まったのだ。それはライブ事件の生存者たちが生き残ったことで、死者の遺族、友人たちから生じた妬みや怒り、行き場のない感情が生き残った人たちに向けられていたのだ。

 

それが段々と肥大化していき、ついには社会現象となってしまった。

 

 

一翔が助けた女子生徒も、最初は特にいじめられてることはなかったが、このような経緯もあり、とうとう学校内だけでなく登下校中にもいじめの対象としてみられていたのだ。

 

ただ、“生き残った”という理由だけで……

 

 

「……まぁ、大体は分かったよ。とりあえず、お前らは先に学校に行け。後のことは俺に任せろ」

 

「ちぇ、分かりましたよ……あーあ、行こうぜ」

 

一翔の言葉に男子たちは渋々といった感じに学校へと向かっていった。

 

「さてと……」

 

「ひぃっ!?」

 

「あー、安心しろ。ああでも言わないと引き下がってくれなさそうだったからな。とりあえず、立てるか?」

 

「あ、ありがとうございます……うっ、うぅ……!!うあーん!!!!」

 

「あっ、おい……」

 

女子生徒は思わず一翔の胸で泣き出してしまった。それほどまでに彼らからのいじめは酷かったのだろう。

 

「とりあえず、学校に着いたら先に保健室に行け。お前の担任の先生には俺が伝えておいてやるから」

 

「グスッ……は、はい……」

 

「とはいえ、1人で行かせたらまたいじめに遭いそうだからな……ひとまず一緒に行ってやるよ」

 

そう言い、一翔は彼女を守りながら学校へと足を運んだ。しかし、一翔は週刊誌に載ってた内容といじめられてた彼女を見てあることに懸念していた。

 

(ライブ事件の生存者への迫害……もしかしたら、立花にも影響が……)

 

響もあの事件で生き残った当人だ。今日は学校への復帰日だが、彼女もいじめに遭ってる可能性がある。そういう不安が一翔の中にあった。

 

そしてその不安が、的中していた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ!!」

 

「あうっ!!」

 

響が学校に復帰してから1週間後。放課後の正門前で、一翔は十数人の男子生徒を痛め付けていた。

 

「このぉ!!」

 

「…………」

 

立ち上がった1人の男子生徒が一翔に殴りかかるが、一翔はそれを受け止め、腹部に膝蹴りを食らわした。

 

「うっ!?」

 

それを食らい、男子生徒は地に伏せた。

 

「……お前らさぁ、何でこんなに酷いことなんて出来るわけ?」

 

「う、うるさいっすよ!前にも言ったじゃないっすか……あんたの後ろにいるそいつらは、俺たちに罰を与えられて当然なんすよ!」

 

一翔が痛め付けていた男子生徒の中に、1週間前に1人の女子生徒をいじめていた男子3人の姿もあった。

 

そして彼の言う、一翔の背後には恐らく殴られたであろう顔に痣が出来てる響と、そんな彼女に寄り添う未来、さらに一翔が助けた女子生徒にそれ以外の男女数名の姿があった。そして響と同じく顔に痣が出来ている。

 

彼らもライブ事件で生き残ったことでいじめを受けていたようだ。

 

そして、なぜ一翔がいじめを行っていた男子生徒を痛め付けていたのか……。

 

 

それは、響が学校に復帰した当日。やはり響もライブ事件で生き残ったことでバッシングを受けていた。

 

響の机の上には罵倒の言葉が綴られた紙が置かれたり、給食の際には足を引っかけられたことでその拍子に手に持っていた食器を床に落とされてしまったり……さらには学校内だけでなく彼女の家にまでその迫害は及んだ。

 

窓ガラスは割られ、壁には落書きの要領で暴言をスプレーで書かれ、『死ね』『犯罪者』『消えろ』『人殺し』といった暴言が書かれた紙が家の外にたくさん貼り付けられたり、と……。

 

 

“生き残ったから”という理由だけで、このような理不尽な事をされていく人たちを見て、一翔は思わずバッシングを続ける者たちを懲らしめてやろうかと思っていた。

 

しかし、そんな事をしてしまったら今度は一翔にまで被害が及んでしまうと思った響は「平気、へっちゃらです!」と言って一翔の手を汚させないようにした。

 

響からそう言われたことで、一翔は怒りを抑えつつ未来と一緒にせめて守ってあげるだけでもしてあげようと思った。

 

 

だが……バッシング行為は減っていくことはなく、日に日に増え続けていくばかりだった。その度に響は何度も「平気、へっちゃら……」と、どう見ても無理してるとしか思えない様子を見てついに一翔の怒りは頂点に達し、今のような状況になってしまった。

 

「……なぁ、1つ聞いていいか?あのライブ会場にお前らの家族や友人はいたのか?」

 

「は、はぁ……?いないっすけど……」

 

「俺も別にいなかったけど……」

 

一翔からの質問に男子生徒全員がいないと答えた。

 

「―――じゃあ、何でお前らはこいつらをいじめるんだ?」

 

「い、いじめだなんて人聞きが悪いっすよ……俺たちはそいつらに罰を……ぐえっ!?」

 

「罰だと……?笑わせるな……ッ!!」

 

一翔は右手で思いっきり男子生徒の胸ぐらを掴み、宙に浮かす勢いで持ち上げた。

 

「お前らがやってるのはなぁ、家族も友人も殺されたわけでもないのにただ他人がやってるから自分もやってるという、意思の無いただのいじめだ!!自覚の無い暴力だ!!お前らは周りの影響に流され過ぎた能無しだ!!!」

 

「んなっ……!」

 

その言葉を聞いて、胸ぐらを掴まれてる男子生徒だけでなく、地に伏せていた他の男子たちも驚きを見せる。

 

「もしあの場にお前らの家族、友人がいて、それに対する怒りであるなら、心は痛むが目を瞑ってやる!それが立花たちが背負うべき罪だからな。だがな!そうではなく、ただ情報や影響に流されただけで、他人がやったからという理由でこんなくだらないことをするのなら容赦はしない!!何があっても俺はこいつらを守る!!」

 

「いでっ!!」

 

そう叫んで一翔は手を離し、男子生徒は尻餅をついて地面に落下する。そんな彼に目もくれず、一翔は周囲の野次馬となっている他の生徒たちにも叫ぶ。

 

「そこで見ているお前たちもだ!もしちゃんとした理由もなしにこいつらに手を出したら許さないからな!!」

 

思わず他の生徒たちはビクッ!となるも、一翔はそんなことにも目もくれずに響たちの元へやって来る。

 

「立てるか、みんな?」

 

「は、はい……」

 

「とりあえず行くぞ」

 

「う、うん……」

 

響たちはそれぞれ手を貸してもらったりしながら立ち上がり、一翔を追う形で学校を出てその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、しばらくして一翔たちは大きな公園へと足を運んだ。すると一翔はベンチに座るなり大きなため息をついた。

 

「―――はぁ~……ったく、ああは言ったけど、俺も結局は奴らと同類なんだよな……」

 

「……え?」

 

「さっき言ってただろ?家族や友人からの怒りなら目を瞑ってやるって……けど、そんなのただ見て見ぬふりをしてる事と同じなんだ。迫害を受けてる人がいるのに助けてやろうとしない、そんなもんだ」

 

「そんなこと……」

 

「それに―――本当は憎むべき相手が違う、あの場でノイズが現れなければこんなことにはならなかったんだって、立花たちは人を殺したりなんかしていない……って、言おうとしてたんだが……結局俺も流されてお前らが人を殺してしまったんだと遠回しに認めてしまったもんだからな……」

 

一翔の言葉に響たちは何も言えなかった。

 

「なぁ……これからどうするつもりだ?」

 

「どうって……?」

 

「いずれ迫害は終息する。けど、それまでの間はお前たちは今までと同じいじめを受ける。立花たちだけじゃない。小日向だって目をつけられる可能性もある。手を打つべきは今かもしれんぞ」

 

一翔からの提案とも言える言葉に響たちはどうするかと顔を見合わせる。

 

「まぁ、もちろんこれはお前たちが決めることだ。俺は別に異を唱えるつもりはない」

 

最後にそう付け加える一翔。

 

すると―――

 

 

「……生きるのを、諦めるな……」

 

 

響はあのライブ会場で奏から言われた言葉を思い出して呟き、それを聞いた一同は響に視線を向ける。

 

「……未来や一翔さんは知ってると思うけど、私あそこで瀕死の重傷を負ったの。その時、ある人からその言葉を言われて、それで今もこうして諦めずに生きてきたから―――だから今は世界に拒絶されていたとしても、私は生きるのを諦めません!世界に負けません!まっすぐに!一直線に!この世界で前向きに生きていきます!」

 

前向きな響の言葉に感化され、他の生徒たちも頷いて言葉を出す。

 

「私も……今はとてもつらいけど、世界に打ちのめされないように頑張ります!」

 

「僕も、なんとか乗り越えられるようにします!」

 

「俺だってこんなことくらいで負けてたまるかよ」

 

「あたしも負けない!」

 

みんなの言葉を聞いて、心配は不要だと感じる一翔。そして未来の方にも視線を向ける。

 

「私も、何があっても響を独りにはさせません。世界と戦ってるのは響たちだけじゃありませんから」

 

「そうか……心強いな、お前たちは」

 

響たちの様子を見て一翔は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一翔は響や未来以外の生徒たちを家まで見送った後、2人を連れて一軒の焼肉屋へと足を運んだ。

 

「今日は俺の奢りだ!遠慮せずに食ってくれ!」

 

「やったー!!焼肉焼肉ぅ~!!」

 

「一翔さん、いいんですか?せめて私も払いますよ」

 

「いや、やはりここは言い出しっぺの俺が果たすべきことだ。金なら問題ないし……それに、小日向は俺以上に立花のことを守ってくれてたんだ。だからここは俺に持たせてくれ」

 

「……分かりました」

 

「てゆーか、本当に一翔さんって結構お金持ってる感じですよね?バイト、ではないと思うけど何かお金稼ぐことでもやってるんですか?」

 

「ボランティアみたいなやつだよ。まぁ、内容は企業秘密だから教えられないけどな」

 

響や未来は知らないが、ORCの関係者及び協力者である一翔はとても中学生とは思えないほどの収入をもらっている。

 

さすがにORCに正式に所属してる訳じゃないからもらうわけにはいかないと一翔は木戸たちに言うが、彼らは一翔に対して過保護なところもあり、本人が断っても普通に受け取らせることがある。

 

その為、一翔は特に金に関して不自由ない状況となっている。

 

「さてと、肉もいい具合に焼けてきたから食おうぜ」

 

「はーい!では―――」

 

 

「「「いただきます!」」」

 

 

3人は手を合わせ、談笑を交え賑やかに楽しみながら食事をした。




一翔のバッシングを続ける生徒たちに向けるセリフ、いい具合にちゃんと書けただろうか……。

てゆーか、もしかしたら見る人によっては今回はいい加減な感じになってるかもしれませんが許してください。初心者である自分にはこれが精一杯なので(苦笑)

また1ヶ月以上は過ぎるかもしれませんが、何卒『海神絶唱シンフォギア~海の化身と装者たち~』をよろしくお願い致します!


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6話 進むべき未来、与えられた意味


ウルトラマンZ(ゼット)、見ました!ウルトラ面白かったですねぇ!

にしても、もう既にウルトラ怪しい匂いがプンプンとしてくるんだよなぁ……ヘビクラ隊長とか、ヘビクラ隊長とか、ヘビクラ隊長とか……。2話なんかもう完全にあれでしたからね。かといって、怪しく見せつつ役者が同じだけの全くの別人だったってなったらそれはそれで……(苦笑)

そんなわけで(←いやどんなわけで!?)、今回は今までより結構短いです


一翔が半年前の事件を思い返してる現在。

 

「―――まぁ、過ぎた事を悔やんでいても仕方ないよな……」

 

「え?何か言いましたか?」

 

「ん?あぁ、半年前のライブ事件に俺や小日向もいたとしても結果は変わらなかっただろうし、そんな事を悔やんでいても無意味だよなって考えてたんだ」

 

「確かに―――今更あの場に私たちもいれば、なんて悔やんでも何も変わらない……過去なんて変えられないんですよね」

 

「うん……どんなに抗ったところで、過去の出来事を覆すことなんて出来っこない」

 

一翔の言葉を聞いて、2人はお互い暗い表情になって俯き始める。

 

2人は理解しているのだ。特に未来は、仮に響と一緒にあのライブへ行けたとしても結果は変わらなかっただろうし、万が一あの場に自分がいれば少しでも何かが変わっていたのかもしれない、なんていう淡い気持ちを持ったとしても過去の出来事は変えられない、と……。

 

すると、一翔は響と未来の頭にポン、と手を乗せる。

 

「そんな顔をするな。確かに過去を変えるなんてこと、タイムマシンでも無けりゃ無理な話さ。だからこそ、俺たちは過去を受け入れて未来へ進む―――よく言うだろ?“過去は変えられないが、未来は変えられる”ってよ」

 

「……ですね。過去に囚われすぎてたら、それこそ生きるのを諦める事になる……過去の出来事を受け入れてこそ、未来は素晴らしいものになる」

 

「うん、そうだね。どんな出来事だろうと、それを受け入れなければ明日なんてやってこない」

 

「そういうことだ。―――さて、とりあえず作業再開といくか」

 

「はーい!」

 

その後も3人は談笑を交えながら響の家の手入れを行い、それが終わった後には他のライブ事件の生存者の家へと赴き、同じように手入れをしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なんて、一番過去に囚われてる(・・・・・・・・・・)俺みたいな奴が、何偉そうなこと言ってんだって言われてもおかしくないことをあいつらに言っちまったんですよ」

 

「なるほどね……」

 

手入れ作業を終えた後、一翔はORC基地へとやって来て、木戸たちに昼間に響たちに言った事を話していた。

 

「全く、自分にほとほと呆れてしまいます……」

 

「でも良いじゃないか。自分が過去に囚われているからこそ、自分と同じようになってほしくないって言ってくれてるようなものさ。一翔が言ったことは間違いじゃない」

 

そう言って木戸はコーヒーが入ったカップを一翔に差し出す。それを受け取り、一口飲み込む一翔。

 

「ありがとうございます……―――美味い。また、あの店(・・・)から良い豆をもらったんですね?」

 

「あぁ。悔しいけど、黒星さんの作るコーヒーは僕たちは疎か、色んな店にはない程の素晴らしい出来だからな。そういや、今度はラーメンを作ってみようなんて言ってたよ」

 

「いや、コーヒーにラーメンって……カフェやるのか別の料理店にするのかどっちかにしろってんだよ……」

 

「ははは!まぁ、何でもありの店だと思っておけば良いだろう。ほら、『あるよ』しか言わないマスターがいるバーみたいな」

 

「どこぞの検事ドラマですか……」

 

 

 

 

 

その後、木戸と共にORC基地から水族館へと赴き、水族館内に設置されている、海に関する本が主に並べられている本屋へと足を運び、どのような本を買うのか見定めていく。

 

「これと、これくらいか……」

 

そして、数札ほど手に持ってレジに向かう。

 

「そういや、一翔は城南高校に進学するんだったな?」

 

「ええ、午後の授業は選択式で学びたい科目を決められるそうですし、海洋学を学ぼうと思ってます」

 

「ふふ、相変わらず海が好きだな……まぁ、その気持ちもあったからこそその力(・・・)が一翔に与えられたんだろうな」

 

木戸にそう言われて立ち止まり、一翔はジャケットのポケットの中からウルトラマンに変身するためのブレスレットを取り出す。

 

「……だといいんですけどね」

 

そう言う一翔は悲しみがこもった眼をしていた。その後、ブレスレットをポケットにしまいレジへと歩く。

 

「それじゃあ、今日はこの辺で失礼します」

 

「あぁ。言うまでもないと思うが、頑張れよ!」

 

会計を済ませた後、一翔は木戸と別れ、自宅の方へ向かう。

 

だが、その途中で足を止め、もう一度ブレスレットを取り出してそれを見つめる。

 

「木戸さんはああ言ったけど、何でお前は俺に力を与えてくれたんだ……?最初はノイズを倒すために光を手にしたんだと思ってたけど、今思えば結局まだ分からない……お前が俺に光を託してくれた本当の意味が」

 

ブレスレットに問いかけるように呟くが、何も反応は起きなかった。

 

「……自分で探すしかないのか、その答えは」

 

最後にそう呟き、ブレスレットをしまって帰路につく一翔だった。



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7話 何気ない日常、覚醒の序曲


ガンマフューチャー……ウルトラかっこいい!!
世代じゃないとはいえ、物心ついた時に最初に見たウルトラマンたちの力が宿ったフォームだから興奮が収まらなかったなぁ……!特に、ガンマイリュージョンでガイアがスプリーム・ヴァージョンになったのが良い意味でウルトラやばかったw

しかも、次の話でもV2とはいえ、もう一度ガンマイリュージョンを使ってくれたのがもうウルトラ嬉しい限りっす!!


1年と半年―――ライブ事件から2年経った平日

 

灰色のブレザーに黒い学生ズボンを身に纏い、青と黒の配色がされたバイクを走らせる少年がいた。

 

そして1つの学校が見えてきて、そこのバイク専用の駐輪場へとバイクを停める。

 

「よいしょっと……」

 

エンジンを切ってバイクから降り、ヘルメットを外した少年―――一翔はヘルメットをホルダーに掛け、昇降口の方へ歩いて行く。

 

「吉宮先輩、おはようございます!」

 

「おはよう、吉宮!」

 

「あぁ、おはよう……」

 

同じく昇降口へと歩いて行く生徒たちが一翔を見ると、元気よく挨拶をし、一翔もぶっきらぼうではあるがきちんと挨拶を返す。

 

「よぉーっす一翔!今日も良い天気だな!!」

 

「ちょっと俊!そんなことしたら一翔がビックリしちゃうっていつも言ってるじゃない!」

 

「いや……もうとっくのとうに慣れたよ、野々川」

 

そこへ、明るく元気に一翔に肩組みをしてくる男子と、その後を追いかけるように走ってきた女子が注意してくる。そんな彼女に、一翔は慣れたというより最早諦めたと言いたげな表情をして言ってくる。

 

 

男子の名前は『千山(せんやま)(しゅん)

明るく人懐っこそうな性格で、一翔を見かけると何かと肩組みをしてくる。

 

女子の名前は『野々川(ののかわ)深生(みお)

俊に振り回されたりと苦労している事が多いらしいが、決して彼と居ることに対しては不安は無いと感じている。

 

 

2人は一翔と同じ、ここ『城南高等学校(じょうなんこうとうがっこう)』に通う一翔と同学年の生徒であり、選択式で学びたい科目を選ぶことの出来る午後の授業では、これまた一翔と同じ海洋学を学んでいる。

 

 

ちなみに余談だが、2人は所謂恋人同士であり、付き合っているのである。どういう経緯があったのかを語る機会があるのかもしれないが、敢えて省くとしよう。

 

 

「おっ、そうだ。バイト終わりにお裾分けしてもらった昨日の余りだ。昼に食おうぜ!」

 

「余り、というより廃棄物だろ?もったいないと思うのは分かるが、貰いすぎて食べると逆に体に悪いぞ」

 

「言われなくても分かってるって!こう見えても、俺は自分の体のことはちゃんと大事にするように心がけてるしさ!」

 

そう言って俊はピースサインを作り、満面の笑みを浮かべる。それを見ていた深生は感慨深そうに見つめる。

 

「ん?どうした、深生?」

 

「別に……ただ、去年までは自分の体の事なんて(・・・・・・・・・)みたいな感じだったのに―――やっぱ俊は変わったね、って思ってたのよ」

 

そう言われて、俊は照れくさそうに頬を掻くと、一翔を見て言う。

 

「……自分で言うのもなんだけど、別に変わってないよ。でも―――もし、そうだとしたら……それは一翔のお陰だな」

 

笑みを向けられて言われた一翔は、至って真顔でいたが顔が少し赤くなっていた。

 

「別に俺のお陰なんて……俺はただ―――……いや、何でもねぇ」

 

「おいおい、言いかけたんなら最後まで言っちゃえよぉ!気になるだろぉ~!」

 

「うっせぇ、とにかく先に行くぞ」

 

これ以上はと思い、一翔は歩くペースを早める。

 

「まったく、確かに一翔のお陰なのはそうなんだけど、あまりからかうのも良くないわよ?」

 

「いや、別にからかってないだろ……ま、あいつはただ単に恥ずかしがってるだけで―――」

 

「―――おい、無駄口叩いてないで早く教室行くぞ!」

 

「「おう!/ええ!」」

 

昇降口で内履きに履き替えた一翔は2人に呼び掛け、それに応えた2人は一緒に昇降口へ歩みを進める。

 

「ま、要はあいつは口ではあんな感じだけど、根は優しい奴なんだよな」

 

「そうね」

 

歩みを進めながら2人はそう言葉を交え合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城南高校の午前の授業は、一般的な高等学校レベルの内容が主に行われている。国語、数学、理科、社会、英語はもちろんのこと、体育や家庭科などの実技授業も午前の方に分類される。

 

その午前の授業が終わり、昼休みに昼食を摂り、午後の授業が始まった。

 

「―――で、少なくとも現段階では皆もご存じの通り、まだまだ海の全てを解明する事が出来てないわ。ましてや、よくテレビとかで取り上げられている未確認生物もそこまで確認はされてないわね」

 

海洋学担当の女性教師が教科書にある一部の文を黒板に書き写しながら、説明をしていく。

 

「とはいえ、今ではノイズ事件の被害者の中に有名な海洋学者がいたり、探査中に原因不明の事故によって皆、帰らぬ人となったりする事が多く、結局迷宮入りとなったりしてるのよねぇ……」

 

教師は少し悲しみがこもった様子で語る。

 

「まぁ、そんな亡くなってしまった人たちの分も私たちは引き継いで、まだ知られていない海の新たな発見を見つけていくしかないわ」

 

しかし、気持ちを切り替えて意気込む様子を見せる。

 

「さて、それじゃあ今回の内容は海洋生物の生態について―――」

 

 

 

 

 

その後、一部の授業時間が終わり、休憩時間となった。

 

「ん~」

 

「どうしたの、俊?」

 

「いやぁ~、去年と同じ科目を選んだとはいえ、やっぱこうやって海のことを知っていくのも魅力的だなぁって、改めて実感してるんだよ」

 

「そりゃ、1年の時に習った科目を2年生になってからもやってたらそんな気持ちにもなるわね」

 

俊の言葉に深生も同意する。ちなみに、深生の言葉から3人は去年も海洋学を学んでいることが窺える。午後の選択授業は1年間変わらず、2年目からは違う科目を選ぶことが出来る。しかし、中には3人のように連続で同じ科目を選ぶ生徒もいるのだ。

 

すると、深生は海に関する本を読み続けている一翔の方へ視線を向ける。

 

「でも、一翔にとってはそんな気持ち以上なんじゃない?私たち以上に海に思い入れがある感じだし……」

 

「……まぁ、否定はしねぇよ。ただ……」

 

「「ただ?」」

 

「逆に人間は海のほんの上っ面しか知らない……地球の7割は海だというのに、どの国も……自分とこの優秀さをひけらかそうと宇宙ばかり行きたがる。それ故に、宇宙学や天文学といった宇宙に関する科目に参加する生徒が比較的に多く、この科目は最少と言ってもいいほどだ」

 

一翔はいつも以上に真剣な表情で語る。そんな彼の言う通り、この学校の海洋学は10人にも満たさない数しか生徒はおらず、文学系の科目の中では興味を持たれるような印象は無に等しい。

 

「それでもさ、あっちはあっち、こっちはこっちで普段通りにやってけば良いじゃん。この科目はすごいんだぞ!っていう、証を残したいためにこの科目を選んだんじゃないし」

 

「そうね、私たちはただ海のことについて、もっとたくさん、知らなかったことを知りたいだけなんだもの。なにも目立つようなことなんてしなくたって良いんだから」

 

俊と深生は前向きな言葉を綴っていく。一翔は、そんな2人に対して無意識ではあるものの、小さく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

その後、休憩時間が終わり、2部、3部と滞りなく授業は進み、1日の授業が終了し、放課後となった。

 

「はぁ~」

 

「どうしたのよ?今度はそんなに深いため息ついて……」

 

「いやさ、さっきは改めて魅力的だと実感したって言ったけどさ、それと同時に罪悪感を感じてさ……」

 

「どういうこと?」

 

「海って綺麗だけどさ、必ずしも汚れてないって訳じゃないじゃん?さっきの授業でもさ、海が汚染されてるのは人間のせいでもあるって先生も言ってたからさ……」

 

今日は一翔が日直であるため、その仕事を終えるまで待ち続ける2人。その間に雑談を交わす中、俊が言い出したことに、深生も複雑そうな顔をする。

 

「あぁ、あれね……確かに罪悪感を感じちゃうわ。事故によるオイルや油の流出、大量の産業廃棄物の投与による汚染……前者は事故によるものだからまだ少しだけでも目を瞑れるかもしれないけど、後者は確実に人が意図的にやっちゃってるから……特に昔はその廃棄物が原因で大変なことがあったらしいし」

 

「そうそう。だからさ、俺たちも含めて人間って愚かなんだな、とも思えてくるよ。しかも、それは海とかの環境だけじゃなく、他人までも傷つけていくんだなって……」

 

「……あぁ、2年前のあのライブ事件の後に起こった迫害事件ね。確かに、あれは度が過ぎていて目に余っちゃうわ。でも、それに関しては一翔や響たちの方が一番思い知らされたはずよ」

 

俊と深生は一翔からの紹介で響と未来とは友人関係となっている。そして、響がライブ事件で生き残ったことで迫害を受けたこと、その際に一翔と未来が守っていたことを聞いている。

 

迫害事件に関しては、2人も実際に響を罵ったわけじゃないとはいえ、もし自分が他の人たちのように度が過ぎた正義感を持っていたらと思い、改めてあの事件は愚かしいものだと感じていた。

 

「―――あれに関してはノイズが悪い。ノイズさえいなけりゃ良かっただけの話だ」

 

そこへ、日直の仕事を終えてきた一翔がやって来た。

 

「あ、一翔」

 

「日直の仕事、終わったんだな。てゆーか、聞いてたのかよ?」

 

「まぁな……それより、さっき俺が一番人間の愚かさを思い知ったって話だが、確かに俺たちを含めた人間は愚かで、醜い部分がたくさんある生き物だ。でも、それと同時に美しく、優しい心を持った生き物でもある。人間には美しい面と醜い面があることを自覚しなきゃいけないんだ」

 

一翔はそう語り、昇降口へと足を運び始めた。そんな彼を追うように2人も足を運ぶ。

 

「ま、確かに人間はそういう2つの部分を持った生き物だし……一翔に至っても愚かな部分は無いにしても2つの部分を持った生き物だって思うよなぁ~」

 

「は?どういう意味だよ?」

 

「一翔は普段素っ気なくて、無愛想で、近づいてくるなっていうオーラがプンプンしてくる奴だ。でも、それと同時に面倒見が良く、困っている人を見ていると放っておけない―――そんな優しい部分もあるって意味さ。それに、お前は自覚が無いだろうけど、その優しい部分のお陰で……ムフフ」

 

「……何だよ、急に天然水柱みたいな笑い方して……」

 

「いや……やっぱ何でもない……ムフフ」

 

結局何も教えてくれず、俊はずっと笑い続けたままだった。

 

 

 

 

 

その後、一翔はバイクで登下校しているため、2人は駐輪場で一翔と別れ、2人で帰路についていた。

 

「まったく……からかうのは良くないって言ったじゃないの」

 

「だから別にからかってねぇって。少しはあいつに自覚させてほしいだけだよ」

 

「自覚させてほしいって……まぁ、確かにそうなってほしいって気持ちは私にもあるけど……一翔ってば、さっき俊が言ってた優しい部分のお陰で、先輩後輩を問わずに慕われたりしてるのに気づいてない。ましてや―――」

 

「その優しい部分を垣間見た大抵の女子からは好意を寄せられている、なんて微塵にも思ってないからなぁ~」

 

2人の言う通り、一翔は普段は近寄りがたい程の雰囲気を出し過ぎてるが、それと同時にちゃんとした優しいところもあり、それに加えて一翔は誰から見てもハンサムな顔立ちをしているため、学校内での評価は高く、大半の女子からは好意もしくはそれに近い感情を寄せられている。

 

「でも……自覚させる以前に、一翔は少しくらい俺たちみたいに楽しいことにも目を向けてほしいって思うんだよな……。外食とかにはたまに付き合ってくれるけど、それ以外の娯楽をあいつが楽しんだとこなんて見たことないし」

 

「そうよね……それに去年の時からずっと思ってたけど、一翔は何か無茶してる気がするのよね。学校とかそういうのじゃなく、なんか……違う何かに執着しすぎてるって言うか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俊と深生が一翔のことで語らっている中、当の本人は自宅とは別の方向へ向けてバイクを走らせていた。そしてたどり着いたのは、数々の墓標が建てられている海沿いの丘だった。

 

そこへ足を運び、『R.YOSHIMIYA』と『H.YOSHIMIYA』という、一翔と同じ苗字と名前の頭文字(イニシャル)がローマ字で刻まれた1つの墓標の前に立つ。

 

「お父さん、お母さん……俺は、今でもこの力を使ってノイズを倒し、救えなかったものも少なくないが人間を守ってきた。けど……2年前のあの事件の時から、俺は人間に対して不信感を抱くようになってきた。千山たちにも言ったように、人間には美しい部分と醜い部分があるのは、俺も十分理解している」

 

一翔が墓標に向けて父、母と呼んで語りかけているのを見ると、やはりこれは一翔の両親の墓である事が解り、恐らく2年前よりも以前に亡くなっていることが窺える。

 

「けど……それでも、もしかしたら俺は人間の醜い部分という片方の局面しか見ようとしなくなってきてしまうかもしれない……俺は、それが怖い……!」

 

一翔は墓標の前で両膝をつき、自身の体を抱くようにして震えていた。

 

「……そうやって、俺が一番本当に愚かな存在になってしまったらと思うと……怖くて仕方がない……ッ!!」

 

そう言って一翔は震えが止まらぬまま顔を俯かせ、さらに体をうずめていく。そのまま、一翔はしばらく動けないでいた。

 

 

 

 

 

それから5分後、震えをなんとか抑えた一翔は立ち上がり、もう一度墓標へ向けて語っていく。

 

「……正直、俺には自信がない……今は大丈夫だとしても、これからもずっと人間を信じ続けてやれることに。けど……」

 

一翔はブレザーの左の内ポケットからブレスレットを取り出す。

 

「それでも今は、俺は戦うよ。ノイズから罪のない人たちを守るために……!」

 

表情を引き締め、決意を改めた後、ブレスレットを左の内ポケットに仕舞い、一翔はその場を後にしようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃―――

 

 

「はぁ、はぁ……!早くしないと、ツヴァイウィングの初回限定特典のCDが売り切れちゃうぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 

少女―――立花響は全力疾走していた。

 

響は現在、未来と一緒に『私立リディアン音楽院』という、音楽を学ぶ学校へ入学し、今は高等科1回生である。

 

そんな彼女は今、リディアンでの1日の授業を終えた後、現在も活動を続けているツヴァイウィングのCDを買いに外に出ていたのである。走っているのは、その発売日が今日であることを本人はすっかり忘れていた為、慌てていたのである。

 

ちなみに、響がリディアンに入ったのは、ツヴァイウィングの1人であり響の憧れの人物でもある風鳴翼が通っているからというのが動機である。未来もピアニストを志望のため、リディアンに入学している。翼の相方で響のもう1人の憧れの人物である天羽奏もリディアンに通っていたが、響と未来が入学する前に卒業していたため、現在はOGとなっている。

 

未来はともかく、中学時代から一翔に教えてもらえなければダメなほどあまり勉強が出来ない響が、憧れという理由で入学したことに、一翔は感心しながらも若干呆れていた程だ。

 

「はぁ、はぁ……!あそこを曲がれば、CDショップに―――ッ!?」

 

その時、走ったことで荒くなっていた呼吸を整えていると、ある臭いを嗅いでしまった。

 

「―――炭の臭い……もしかして……!?」

 

嫌な予感がしながらも、響は炭の臭いがする方向へ足を進める。その方向は、響が向かおうとしていたCDショップと同じ方向であった。

 

そして、響は見てしまった。不自然に山積みとなっている大量の炭―――それを見て、響は戦慄する。

 

「ノイズ……!!」

 

そう、ノイズだ。さっきまで人の肉片だった(・・・)ものが炭化され、その場に広がっていた。

 

「逃げないと……!」

 

響はなんとか足を動かし、ノイズから逃げようと走り出す。

 

「うわああああん!!!!」

 

そんな時、どこからか子供の泣き声が聞こえてくる。

 

「ッ!近くに子供が!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、バイクを走らせて自宅へと向かっていた一翔は、途中で赤信号に差し掛かったため停車していた。

 

「ん?」

 

その時、ブレザーの左側の内ポケットに違和感を感じた一翔は、ポケットの中に入れていたブレスレットを取り出す。ブレスレットは点滅していた。

 

「ノイズか……!どこか近くに人目のつかない場所は―――」

 

ノイズが出現したと気づいたが、赤信号で止まっている上、人も結構周囲にいるためウルトラマンに変身することが出来ない。そのため、人目のつかなさそうな場所を探している。

 

「―――ん?あそこのコンビニに行くか……コンビニの外の裏で変身すれば、監視カメラに映らんし人目もつかんからな」

 

近くにコンビニがあったため、青信号になったと同時にバイクを走らせてコンビニに停める。

 

その後、コンビニの裏に回って誰もいないことを確認し、監視カメラも無いことを確認した後、一翔はブレスレットを右腕に装着し、青い発光体となって現地へと飛び立った。




そういえば、ガンマフューチャーが登場した日は『MEGザ・モンスター』が土曜プレミアムでやってたんですよね……。偶然だろうけど、ガンマフューチャーは実質アグルの力も加わってるわけだから、それが登場した日に“海”と“サメ”がテーマの映画がやるなんて思いもしなかったなぁ……。

ちなみに、サメがモチーフのベリアルと海の力を宿したアグルの組み合わせであるサンダーストリームは、僕の推しフォームの1つであります。

まぁ、僕の推しフォームは何なのかなんてどうでもいい話は置いといて、次も何週間……いや、何ヵ月掛かるか分かりませんが、何卒、本作品をよろしくお願い致します!


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8話 覚醒と邂逅


今更ながらに気づいたこと……他のシンフォギアの小説を書いてる作者さんの作品を見てみたら、別に聖詠の歌詞コードを入力してなくても、普通に投稿出来たんだなぁ、と……

まぁ、でも一応歌詞なのだから、めんどくさくはありますが、僕は歌詞コードを入力してやっていきます

あと、今回も短いうえ、展開が早い感じがしますが、どうぞ!


ノイズから逃げようとした響は、子供の泣き声が聞こえたので、泣き声がする方向へ駆けつけると、1人の女の子がいた。

 

どうやら女の子は母親とはぐれてしまったようだ。響はなんとか女の子を連れて再び逃げようとする。

 

しかし、ノイズから逃れるためのシェルターとは反対の方向へ走ってきてしまったようだ。響はどこか隠れられそうな場所を探す。

 

その後、なんとかビルの屋上へ逃げ込むことに成功した。しかし、ノイズが自壊するまでは油断は出来ない。

 

「……私たち、死んじゃうの……?」

 

女の子は恐怖のあまり、涙を流して響に問い質してくる。響はなんとか女の子を元気付けようとする。

 

「大丈夫だよ。絶対に死なない、必ず助かるから……だから―――」

 

響は、2年前に奏から言われた言葉を口ずさんだ。

 

 

「生きるのを、諦めないで!!」

 

 

すると、それがトリガーとなったかのように、彼女の心の中に歌が浮かんできた。

 

 

━━━Balwisyall Nescell gungnir tron

 

 

響は自然とその歌を歌っていく。

 

そして歌い終えると、彼女の体が光に包まれていく。

 

 

 

 

 

同時刻―――

 

 

「反応、絞り込みました!位置特定!」

 

「ノイズとは異なる高質量エネルギーを検知!ウルトラマンの反応とも異なります!」

 

特異災害対策機動部二課の指令室で、ノイズともう1つ別の反応を確認し、オペレーターたちが報告していく。後者の反応は、恐らく響が歌った後の光に関係がある。

 

「……まさか、これって……アウフヴァッヘン波形……!?」

 

アウフヴァッヘン―――ドイツ語で“覚醒”を意味するその波形をもっと詳しく調べていく。

 

「解析結果、出ます!」

 

1人のオペレーターがそう報告を入れると、モニターに解析結果が表示された。

 

そこに表示されていたのは―――

 

 

『GUNGNIR』

 

 

―――ガングニールという文字だった。

 

「ガングニールだとォッ!?」

 

それは、2年前に奏が身に纏っていたアーマー―――シンフォギアの名称であり、その名が出たことに、指令室で解析結果を見た弦十郎は驚愕の声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?あ、あれ?私……って、えぇ!?」

 

歌を歌ったことで突然体が光り出し、思わず目を閉じていた響だったが、光が収まって目を開くと、なんと橙色の機械的なアーマーを身に纏っていた。

 

それはまさしく、2年前に奏と翼が身に纏っていたシンフォギアであった。しかも、色は全く別で形も所々変わってはいるが、響が身に纏っているのは奏と同じガングニールだった。

 

「ええええええっ!?何で!?どうなっちゃってるの!?」

 

体が突然光り出しただけに留まらず、全く知らないアーマーを身に纏っていることに、響は仰天していた。

 

「お姉ちゃんかっこいい!!」

 

女の子は響の今の姿に目を輝かせていた。

 

「そ、そうかな?……って、今はノイズが来てるんだった……!」

 

そう言うや否や、響は女の子を抱き抱え、迫ってきたノイズたちから逃げるように飛び上がった。

 

「えい―――って、うわあああああああああああっ!?!?!?」

 

しかし、何も考えずに飛んだためか、勢いよく飛び上がったは良いものの、重力に従って落ちていく。

 

 

ドォーンッ!!

 

 

だが、シンフォギアを纏っているお陰か、普通の人間なら死んでしまうであろう高さから落ちたものの、無事に着地することに成功した。

 

「これ、すごい……!―――てゆーか、土煙が舞い上がるなんて演出はなかったから良いものの、私が先にこんな派手な着地してよかったのかな……?いや、あくまでクロスしてない原作では私が主役だったわけだし……」

 

「お姉ちゃん、何言ってるの?」

 

シンフォギアに対し感嘆な声を挙げつつ、何やらメタいことを呟き、女の子から疑問の声が掛けられる。

 

「えっ?あっ、いや、何でも―――って、ノイズが来てる……!」

 

なんとか気を取り直すと、響たちを追ってくるようにビルの屋上からノイズたちが降りてくる。

 

着地に成功したものの、現在自分が纏ってるシンフォギアが何なのか自体知らない響は、女の子を抱き抱えたままノイズから逃げるために走り出す。

 

しかし、ノイズは逃がさんといわんばかりに響に襲いかかろうと迫ってくる。その際、響は逃げるのに必死で前方にしか向いていなかったため、横から突っ込んでくる1体のノイズに対して反応が遅れてしまう。

 

「マズい!!(せめて、この子だけでも守らないと……!)」

 

そう思った響は、突っ込んでくるノイズに向けて腕を突き出した。その瞬間、ノイズは弾かれていき、響は炭化せず、ノイズのみが炭化していった。

 

「えっ!?なんで……?でも、これなら……!」

 

自分は炭化せず、ノイズのみが炭化したという思わぬ事実に響は驚愕するも、これでならノイズを倒し、女の子を守れると確信した。

 

「何だかよく分からないけど、やれるだけやってみよう!」

 

そう叫び、突っ込んでくるノイズめがけて響は拳を作ってそれを振るい、ノイズを倒していく。

 

だが、戦うこと自体したことがないうえに、まだ女の子を抱えたままでいたため、思うように戦えない。そして、少しではあるがノイズの数も増えていっている。

 

早く女の子を安全な場所へ逃がしてやりたいが、ノイズが周囲にたくさんいるこの状況で逃がそうとしたら、ノイズは間違いなく女の子の方へも襲いかかってしまうだろう。しかし、だからと言ってこんな危険と隣り合わせな状況にずっと居させることも出来ない。

 

「くっ!どうすれば……!」

 

苦虫を噛んだその時、突如上から青い発光体が現れ、響とノイズたちの間に割り込んできた。その発光体は着地すると共にもっと眩い光を放ち始めた。

 

「えっ、な、なになになに!!?」

 

突然現れた青い発光体がさらに眩い光を発したことで響は当然驚き、眩しさに思わず顔を背ける。

 

すると、段々と光が晴れていき、顔の向きを戻すとそこにいたのは、響に背を向けて立っているウルトラマンだった。

 

「えっ……?あ、あなたはいったい……?」

 

突然現れたうえに初めて見るウルトラマンに思わずそう問いかけると、ウルトラマンはゆっくりと響の方へ顔を向け、目を合わせる。

 

「ッ!?」

 

その瞬間、響は背筋がゾッとするような感覚に見舞われる。

 

そんなことを知ってか知らずか、ウルトラマンはノイズの方へ向き直り、右腕を垂直に伸ばす。そして青い電撃のようなものを走らせた後、そこからリキデイターよりも小さな光弾『スラッシュ』を放った。

 

何発も放たれたスラッシュを受けたノイズは爆発していき、怯んだ隙にウルトラマンはノイズへと突っ込んでいく。

 

『アイッ!オォアアアアッ!!デヤッ!!』

 

ノイズを蹴り倒し、またはノイズの足を掴んで投げ飛ばし、空を飛ぶ飛行型ノイズにはジャンプキックなりと、ウルトラマンは次々とノイズを殲滅していく。

 

「すごい……とてもすごいとしか言えない……!」

 

「かっこいい……!」

 

先程まで背筋がゾッとするような感覚に見舞われていた響だが、ウルトラマンの戦いを見てそのような感覚はなくなり、ただすごいとしか呟くことが出来なかった。女の子もウルトラマンに対し憧れを込めた眼差しを向けていた。

 

その時、ウルトラマンは何かを感じ取ったのか、ある程度ノイズを倒した後、高速移動でどこかへと去っていった。

 

「……って、あれ!?ちょっと、何でどっか行っちゃ―――」

 

 

━━━Imyuteus amenohabakiri tron

 

━━━Croitzal ronzell gungnir zizzl

 

 

ウルトラマンが突然去っていったことに驚愕していると、バイクの走る音と共に2つの歌が聞こえてきた。

 

「はぁっ!」

 

「おりゃあっ!」

 

その瞬間、2つの斬撃がノイズたちを蹴散らした。その正体は、シンフォギアを纏いそれぞれ刀と槍を手に持った翼と奏だった。ちなみに、バイクは2人がシンフォギアを纏ったと同時に飛び上がったため、実質乗り捨てられる形でノイズの方へと突っ込んでいき、壊れてしまった。

 

「あーあ、まーたバイク壊しちまったな。いつになったら乗り捨てるって概念を捨てるのかねぇ」

 

「何言ってるの。バイクは乗り捨てるものよ」

 

「はいはいそうですか」

 

「それと―――」

 

壊したバイクのことで会話した後、憧れのツヴァイウィングが2人も揃って目の前にいることで困惑したまま動けないでいる響へと視線を向ける翼。

 

「呆けない、死ぬわよ。あなたはそこでその子を守ってなさい」

 

そう言い捨て、刀を構えてノイズの方へと走っていく翼。奏も翼に続こうとする前に、響の方へ近づいていく。

 

「よっ、久しぶりだな」

 

「は、はいっ!お久しぶりです!奏さん!ま、またお会い出来て光栄です!!」

 

憧れの人物から話しかけられたことに、響はガチガチになりながらも返事をする。

 

「ま、お互い話したいことや聞きたいことはあるだろうけど、とりあえず今はその子を守っておけ。残りのノイズどもはあたしたちに任せな」

 

「は、はいっ!」

 

「あっ、あとそれから―――」

 

奏は響の頭に手を乗せ、優しく撫でる。

 

「ふぇっ!?あ、あの……!!」

 

「ありがとな。あの日から2年間、生きるのを諦めないでいてくれて」

 

「ッ……!」

 

響にそう言った後、奏は槍を構えてノイズの方へと走っていった。響は、奏からの言葉に嬉しさによる涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ツヴァイウィングが来ることを感じ取って高速移動で姿を消したウルトラマンは、物陰に身を隠しながら様子を窺っていた。

 

(……まさか立花まであの鎧を身に纏っていたとはな……。だが、立花の様子からするとあいつは何も知らないみたいだし、たぶん偶発的な何かがあったんだろう)

 

一翔は、響まで見たことのない鎧を身に付けていることに内心驚愕しながらも、先程までの様子を見たことで何かしらの偶発的な要因があったのだろうと結論付けた。

 

(とりあえず、今回ばかりはあいつらにここを任せるか。あの青髪の女にまた出くわすのも厄介だし)

 

そう考え、翼たちがノイズと戦ってる隙を突いて飛び上がり、光となってその場を後にした。

 

 

 

 

 

その後、ノイズは奏と翼の活躍により殲滅され、響が助けた女の子はノイズ殲滅後にやって来た二課のスタッフたちにより保護された。

 

「あ、あの……これって一体どうしたら……?」

 

「着ていた服をイメージしなさい。そうすれば、ギアは解除されるから」

 

未だにシンフォギアを纏ったままの響が尋ねると、翼がそう答えたことで響はシンフォギアを纏う前の服をイメージする。するとギアは解除され、元の服装に戻った。

 

「暖かいものどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

スタッフの1人が暖かい飲み物を響に差し出し、それを受け取った響は礼を言う。

 

「よっ」

 

「あ、奏さん……!二度も助けていただき、ありがとうございます!!」

 

「なぁに、気にすんな。むしろ礼を言いたいのはこっちなんだ。改めて、生きるのを諦めないでいてくれて、ありがとな」

 

「ッ、はい……!」

 

改めて奏から礼を言われたことで、嬉しさのあまりまた泣きそうになった響だが、なんとかこらえた。

 

「そういやよ……お前さん、あたしたちが駆けつける前にウルトラマンがいたりしなかったか?」

 

「えっ、ウルトラマン?……もしかして、青い体をした、胸にランプのようなのが付いてる……」

 

「そ。でもその反応からすると、いたんだな?」

 

「はい。でも、奏さんたちが来る直前にどっかに行ってしまいましたけど……てゆーか、あれがウルトラマンだったんですね」

 

「そうか……はぁ、あたしもあいつにもう一度会ってみたかったのにな……ま、翼がいたんじゃ無理もねぇか」

 

 

 

 

 

それからしばらくし、スタッフたちが作業を一通り終えたのか、退散の準備を始める。

 

「あ、あの……そういえば、お2人が着ていたあの鎧みたいなのって……それに、私もなぜかそれを着ていたことなんですけど……」

 

「あぁ、その説明をしてやるんだがその前に―――」

 

 

ガチャン

 

 

「……へ?」

 

「わりぃな、ちょっと着いてきてもらうぞ」

 

「え……えええええええええええ!?!?!?」

 

突然憧れの人物から手錠を掛けられたことに、響はただ絶唱ならぬ絶叫するしかなかった。




今回のアグルの活躍はほんの少しだけだという……まぁ今回はあくまで響のガングニール覚醒に加え、響がアグルとツヴァイウィングとの邂逅を果たすのがメインだったので、ご了承ください


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9話 秘密


オリキャラと原作キャラとの会話はあるものの、今回は地の文と主人公の語りがほとんどだという……そして短い(泣)

次回はなんとかアグルを参戦させるようにします。本当にごめんなさい


奏と翼、響がノイズと戦っていた場所から去り、発光体の状態でバイクを停めていたコンビニの裏へと戻ってきた一翔は変身を解いた。

 

その後、バイクを停めただけでは失礼だと思い、コンビニである程度の食材を購入し、バイクに乗って自宅へと戻っていく。

 

(まさか立花までもがツヴァイウィングと似たような鎧を身に纏うとはな……でも本当に意図的にではなく、偶発的になったんだとしたら……恐らく2年前か)

 

一翔は、2年前にウルトラマンとしてライブ会場に駆けつけた際、響が胸から大量出血を起こして気を失っていたのを見ていた。しかし、何が原因でそうなったかまでは見ていない。

 

(それによく見たら形や色は違えど、あの赤髪の女と立花が纏っていた鎧が似ていたんだよな……たぶん、あいつが気を失っていた立花に何かしたって可能性も……まぁ仮にそうだったとしても、そのお陰で立花は助かったのも事実だしな)

 

一翔はあくまで推測として、響が謎の鎧―――シンフォギアを纏っていた理由を心の中で述べていた。

 

(ただ―――ツヴァイウィングは二課という組織に属し、その組織が開発したであろう鎧を立花も纏っていた。恐らく、立花は二課という秘密組織に必然的に入ることになる。そうなると……小日向には何があっても秘密にしなくちゃいけなくなっちまうな)

 

さらに一翔は、響がシンフォギアを纏っていることで必然的に二課に所属し、秘密組織とされていることから家族であろうと友人であろうと口止めさせられると思った。そして、響は一番身近な親友である未来にも、シンフォギアや二課のことを秘密にさせておかなければならないとも思った。

 

(世の中には、秘密のままにしておいた方が良いこともあるとは言うが―――それにだって限界がある。それに立花の性格上、上手く隠し通せるとも思えんしな……。さて、これからどうなることやら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

「―――で、立花が最近は何か怪しい感じがするから、俺たちに相談ってか?小日向」

 

「……はい」

 

案の定、響はシンフォギアを纏ったことで二課に所属し、機密事項なのでシンフォギアや二課のことを秘密にするように言われた。そして響が二課に所属してからここ数日、未来は響が何か隠してるのではないかと疑問を持ち始めていた。

 

そこで、未来は放課後に一翔の他に俊と深生も呼んで、ファミレスにて3人に相談していた。

 

「う~ん……連絡はたまにするけど、俺からすれば特に何もなかったけどなぁ……」

 

「私も、特に心当たりはないわね……」

 

俊と深生は特に思い当たることはないと未来に伝える。

 

「そう、ですか……」

 

「ま、あいつが本当に何か隠し事したとしても、決して悪事に手を染めたなんてことはないだろう。少なくとも、小日向のためを思って敢えて何かを隠してるってこともあり得る」

 

「う~ん……でも、やっぱり何かを秘密にされるのは……」

 

全てとまでは言わないが、響のある程度の事情を知った一翔がそう語るも、未来は不安そうな顔になる。

 

「まぁまぁ未来ちゃん、なんだったら俺たちも軽く聞いてみるよ」

 

「そうよ。1人だけ不安にさせるわけにはいかないもの。形だけの友達関係にならないように、私も協力するわ」

 

「……ありがとうございます。俊さん、深生さん」

 

 

 

 

 

その後、ファミレスを出て一翔はバイクで自宅へと戻っていく。その際、来月に“こと座流星群”が観られるとのことで未来から誘いを受けたが、一翔は適当に理由をつけて断っていた。俊と深生は快く承諾したが、一翔が断ったのを見て、少し複雑そうな顔をしていた。

 

(……ま、俺も結構重大な秘密を抱えてるんだよな。ORC、そこに保護されてるチビスケやジョリーたち、そして―――俺が手にした光……)

 

一翔も、自分は響と同じくらいの秘密を隠していることを改めて自覚していた。

 

(少なくとも、正式に所属してるわけではないがORCと関係を持っていること自体は別にバレても問題ないだろう。それに、千山と野々川のような奴ならチビスケやジョリーたちのことを知られても問題ない。だが―――)

 

1つだけ、一翔にとってこれだけはなんとしてでも隠し通さなければならないと思う秘密がある。

 

それは、先程一翔が心の中で言ってた、自分が手にした光―――ウルトラマンの力を手にしていることだ。

 

奏と翼、そして響はシンフォギアを纏った時、少なくとも彼女たちは顔を出した状態となるため、他人から見れば武器を纏った人間だと認識される。

 

しかし、ウルトラマンの場合、無表情な鉄仮面のような顔な上、ライフゲージやプロテクターを除いた部分は人間で言う生身に等しい。

 

そのため、“鎧を纏っているがちゃんと人間として認識される”響たちとは違い、“生身で鎧がなくても戦える人間を遥かに越えた超人として認識される”ウルトラマンが、実は人間が変身していたなどと知られてしまったら響たち以上に大問題となると思ったのだ。

 

幸い、木戸を始めとしたORCのメンバーとは幼い頃から交流があったお陰で、ウルトラマンの正体は自分だと知られながらも受け入れてもらい、変わらず温かく接してもらっている。

 

だが2年前にも思っていたように、響や未来、そして俊と深生とはそれなりに関係は築けているものの、木戸たちのようにしっかり受け入れてもらえるとは限らない。最悪の場合、自分から離れていくのではないかと一翔は不安になっていた。

 

 

だから、一翔は何があっても、自分がウルトラマンであることだけは絶対に秘密にすべきだと考えていたのだ。

 

(自慢じゃないが、俺は立花よりは秘密を隠し通すことに長けている。それに、もしウルトラマンの正体が人間だと知ったところで、俺だということには気づくまい。だが―――だからといって油断は禁物だな)

 

一翔はそう考えながら、バイクを走らせていった。




Zのボイスドラマでゼロが“生身”発言した際には一瞬、は?って疑問を抱きましたが、よくよく考えてみれば、生身じゃなけりゃパワードや原作ガイアでのアグルの流血(?)シーンはあんな感じに描かれませんよね……

ゼロの場合、プロテクターは備わっているけど、ベリアルアトロシアスはそれをも貫く程の威力を見せたから、右肩があんな風になったんだろうなとも思いました


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10話 共闘と対立


大変お待たせしました!お待たせしすぎたのかもしれません!(←すみません、やってみたかっただけです)

ギャラファイTACが終わって、1つの楽しみが消えたと思ったら、まさかの次回作が決定していた!まぁ、尺的には終わりそうにないなとは薄々思ってたので、続編に繋げる形になってよかったです

さて、今回はアグルがある人物と共闘するのですが、後半辺りで別のある人物が初期頃の某副隊長並みに嫌なキャラになってしまっています

まぁ、誰なのかは恐らく皆さんからすれば予想はつくと思いますが……


「ノイズの出現を確認した!」

 

二課の指令室で、弦十郎の声が響いた。指令室のモニターには地図が映し出され、ノイズが出現した場所が2つ表示されていた。

 

「今回は2ヶ所に同時に出現した!しかも距離も大分離れているため、二手に分かれてもらう!A地点には奏、B地点には翼と響くんが向かってくれ!」

 

弦十郎からの命令を受け、3人の少女は指令室を出て、それぞれ指定された地点へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

その頃、バイクで帰宅途中だった一翔は、ノイズ出現による警報のサイレン音が耳に入ってきたのでバイクを道路脇に停め、確認のためブレザーの内ポケットからブレスレットを取り出した。

 

「ノイズか……どうやら近くに出現したようだな」

 

ブレスレットの点滅を確認し、ノイズのいる方向へとバイクを走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイクを走らせて数十秒、一翔はノイズの群れを確認し、バイクを少し離れた場所に停車させ、背負っていたスクールバックを座席に置き、ヘルメットを被ったまま掛け出す。

 

そして、ブレスレットが装着された右腕を胸の前に掲げる。掲げられたブレスレットは180度回転し、光を放って一翔を包み込み、ウルトラマンへと姿を変えさせた。

 

『オゥラァッ!』

 

ウルトラマンへと姿を変えたと同時に高速移動でノイズのいるところまで移動し、その直後に回し蹴りを浴びせる。さらに周囲にいた他のノイズたちにはスラッシュを放ち、それを浴びたノイズは炭化する。

 

『デヤッ!オアッ!』

 

さらに近づいてくるノイズにはパンチやチョップ、距離を置いてるノイズにはスラッシュやリキデイターを放ち、ノイズの数を減らしていく。

 

(……けど、なんだか数が増えていってる。増殖してるんだろうけど、今までより多くなってる気がする……)

 

そんなことを考えていると、数十体ほどのノイズが集まっていき、合体して十数メートルにまで巨大化した。

 

もちろんウルトラマンはそれを察知し、目の前のノイズをブレードで一掃した後、合体ノイズより少し高めの位置へ飛び上がる。

 

『ハァッ!オォアアアアァァァ……!』

 

そしてフォトンクラッシャーを放つ構えを取り、額に光の刃が出現する。

 

『デェアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

そして合体ノイズに向けてフォトンクラッシャーを放った。

 

しかし、放ったと同時に合体ノイズは分離し、フォトンクラッシャーを躱した。

 

(なっ!?)

 

躱されたことにウルトラマンは驚愕し、分離したノイズは飛行型へと変化した。

 

(こいつら、学習能力でも備わってるのか!?フォトンクラッシャーを躱すなんて……!)

 

ノイズは本来、意思も感情も持たなければ知能も持たないが、先程の回避能力を見て、一翔はそう考えずにはいられなかった。

 

すると、その隙を突いてノイズは一斉にウルトラマンに詰めより、動きを封じてしまった。

 

(しまった!!)

 

振りほどこうとするがノイズは中々離れず、先程分離した飛行型ノイズがウルトラマンめがけて突っ込んでくる。

 

(マズい、このままじゃ……!!)

 

 

━━━Croitzal ronzell gungnir zizzl

 

 

ウルトラマンが危うい状態になったその時、歌が聞こえてきたと同時にウルトラマンへと突っ込んできた飛行型ノイズが大量の槍に貫かれ、空中でそのまま炭化した。

 

さらに、突然の竜巻によりウルトラマンはなんとかこらえ、ウルトラマンの動きを封じていたノイズは竜巻に耐えられず炭化していった。

 

(今のは……?)

 

 

 

 

 

「よぉ、また会ったな」

 

竜巻が晴れて声がする方へ顔を向けると、ガングニールを纏った奏が立っていた。先程の槍と竜巻は彼女によるものだった。

 

(こいつ、確かあの青髪の女の相方……)

 

一翔は奏の姿を確認すると、もしかして翼もいるのではと思い警戒する。

 

「あー、安心しろ。翼なら今、新人と一緒に別の場所のノイズ殲滅に行ってるからよ」

 

(……ならよかったが、まさか別の場所にもノイズが……)

 

ウルトラマンの考えを察したのか、奏はウルトラマンに対してそう伝える。それを聞いて安堵したウルトラマンは警戒を解いた。

 

「へぇ、ウルトラマンって何語喋ってんのかなぁとか、日本語通じるのかなぁって思ってたけど、普通に日本語通じるんだな」

 

(そりゃあ、もとより俺はバリバリの日本人だからな。まぁ、色んな外国の言葉も話せたり通じるけど……)

 

奏からの感心の言葉を呟かれると、一翔は心の中で思わずそう呟いた。

 

「ま、それはさておき―――ウルトラマン、あたしも一緒に戦わせてくれ」

 

(……何?)

 

「あんたをバカにしてるわけじゃねぇけどよ、最近はノイズの量が多くなってきてるし、こればかりはさすがのあんたもヤバいだろ?」

 

ノイズの方へ槍を構えながら、奏はウルトラマンに向かってそう言葉を紡ぐ。

 

「決して仲間になってほしいってわけじゃない。あんたにだって何かしらの事情はあるだろうしな。でも今はお互いノイズを倒すのが目的なはずさ。だから―――あたしも一緒に戦わせてくれ」

 

奏の言葉にウルトラマンは少しだけ考える。

 

(……まぁ、確かに今回のノイズは俺だけじゃ無理そうだし、こいつはあくまで一緒に戦いたいだけなのだろう。なら―――)

 

槍を構える奏の横に移動し、ウルトラマンは奏の方を向いて頷いた。

 

「―――っ、そうか……!光栄だぜ、ウルトラマン!命の恩人様と一緒に戦えるのがよ!!」

 

そう叫び、奏は勢いよくノイズの方へ飛び出していき、ウルトラマンも右手からブレードを生成した後、駆け出していった。

 

「うおぉりゃあああっ!!」

 

『デヤァッ!!』

 

両者はお互いに斬り、貫いてノイズの数を減らしていく。しかし、ウルトラマンの使うブレードはエネルギーの消耗が激しいため一旦戻し、再びパンチや蹴り、スラッシュを放つ。

 

「おらよっとぉ!!」

 

奏の方は槍にエネルギーを溜め、思いきりジャンプして叩きつけるようにして放ち、その激しい爆発によりノイズたちは炭化する。

 

そして着地した奏だが、背後に回ったノイズがその隙を突こうと迫ってくる。

 

「やばっ……!」

 

奏はそれに反応するのに少し遅れてしまい、思わず身構える。

 

『オゥラッ!』

 

しかし、間一髪ウルトラマンが奏とノイズの間に入ってノイズに蹴りを入れ、スラッシュを放ったことで事なきを得た。

 

「助かったぜ、ウルトラマン!」

 

奏はウルトラマンに礼を言い、体勢を立て直してノイズ殲滅に専念する。

 

 

 

 

 

そして、奏の介入もあったことでノイズの数も残り数十体となった。

 

「そろそろ決めますか!」

 

『ハァッ!』

 

槍を構えた奏がそう叫び、ウルトラマンも両腕を額の前でクロスした後、振り抜いて両手に発生したエネルギーをリキデイターに変える。

 

『デヤッ!』

 

━━━STARDUST∞FOTON

 

そしてウルトラマンはリキデイターを何発も放ち、奏は槍を投擲し、投擲された槍は大量複製され、ノイズを貫いていった。

 

大量のリキデイターと槍の嵐にノイズは耐えることなく炭化していった。

 

 

 

 

 

その後、奏は自分の向かったポイントのノイズはウルトラマンと共に殲滅に成功したと二課の本部へと報告した。そして、奏はまだその場に残っていたウルトラマンの方へ歩み寄る。

 

「一緒に戦ってくれてありがとよ、ウルトラマン。あと、助けに来たつもりがあたしが逆に助けられちまって、すまなかったな……」

 

奏はウルトラマンが一緒に戦ってくれたことに感謝しつつ、逆に助けられてしまったことに対して謝罪した。

 

しかし、ウルトラマンは後者に対しては特に気にしておらず、首を横に振った。

 

「そうか……ま、あんたが気にしないならそれで……おっと、すまん。通信が来た……」

 

そう言って奏は通信機を取り出し、ウルトラマンに背を向けて連絡を取る。

 

(今のうちにここから去るか……バイクはあそこに置きっぱだが、頃合いを見計らって取りに行けば―――)

 

「はぁ!?翼が響に刃を向けてるだと!?」

 

(ッ!?)

 

奏が背を向けてる隙に立ち去ろうとした瞬間、連絡を取っていた奏からの言葉を聞いて立ち止まるウルトラマン。

 

「何してんだあのバカ……!とりあえずなんとか翼を止めてくれ!あたしの迎えは後回しで―――」

 

『デュオアッ!』

 

「うわっ!?」

 

奏の言葉でウルトラマンは一気に飛び去っていき、その勢いで思わず前に倒れそうになった奏はなんとか体勢を保つ。そしてウルトラマンは青い光となり、翼と響がいると思われる場所へと向かっていった。

 

「あいつ、まさか翼を止めに……?大丈夫かよ」

 

奏は、本人に聞いたわけではないが見て分かるほどに翼がウルトラマンに対して良い印象を持っていないことを知っている。そのため、ウルトラマンが止めに入ったところで、翼はさらに殺気立ってしまうのではないかと思っていた。

 

「まぁ、なんとか翼に捕まらずに済むことを信じるしか―――ん?」

 

ウルトラマンを信じるしかないと思い、ギアを解除して辺りを見渡すと、奏はあるものに目がいった。

 

 

 

 

 

その頃、光となった一翔は一直線に響と翼がいる場所へと向かっていた。

 

(あいつと一緒に戦ってる最中に、立花たちが戦ってる別のノイズがいる方向を察知しておいたから、間違いなくこの先だ。それにしても……)

 

一翔は奏の言葉を聞いて、翼に対し怒りを募らせていた。

 

(なぜあの女は人に刃を向けやがる……!!ウルトラマン()という未知の存在に対してならまだ納得できる余地はあるかもしれんが、それでも立花は仲間なのに、ましてや人が人に刃を向けるとは何を考えてやがるんだ!!)

 

怒りを隠せぬまま一翔は光の状態のまま現場へと急行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること数分前―――

 

 

「翼さん、ごめんなさい!何度も何度も足引っ張るようなことをしてしまって……!」

 

 

翼と響が担当していたB地点のノイズは殲滅したが、響はシンフォギアを纏ってからまだ日が浅く、戦闘も不慣れだったため、翼に助けられるばかりでほとんど何も出来なかったことに謝罪していた。

 

「謝らなくていいわ立花。二課に所属して日が浅いあなたの実力はまだ半人前どころか3分の1人前なんだから、それくらいどうってことないわ」

 

「さ、3分の1ですか!?そんなはっきり言われるとさすがにショックですよ……」

 

翼から現状の力の差分を言われたことに響はショックを受ける。

 

「まぁ、確かに周りから見れば私はまだまだその程度か……よし!翼さん!」

 

自分の実力の差分を受け入れた響は翼のところへ駆け寄る。

 

「私!今はまだ足手まといだとしても、一生懸命頑張ります!そして、いつかウルトラマンさんと(・・・・・・・・・)も肩を並べられるように(・・・・・・・・・・・)!」

 

「(ピクッ)……ウルトラマンと、肩を並べるだと……?」

 

ウルトラマンという単語と、肩を並べるという言葉を聞いて、翼の中で苛立ちの感情が渦巻いていた。それに気づかず、響は翼に話しかける。

 

「だから翼さん!奏さんと共に、私と一緒に戦ってくださいッ!」

 

響は気合い充分といった感じで翼に宣言するが、当の本人は先程の響の言葉によって苛立ちが渦巻くばかりであり、“一緒に戦う”というのを悪い方向へと変えてしまった。

 

「そうね……貴方と私、戦いましょうか」

 

「……え?」

 

翼はそう言い、響へ刀を向けた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!そういう意味で言ったんじゃありません!私はただ、力を合わせて戦うという意味で―――」

 

「分かっているわ、そんなこと」

 

「―――え?だったら、どうして……?」

 

「私が貴方と戦いたいから。私は貴方を受け入れられない。ウルトラマンと肩を並べるなどとほざく者と共に戦うなど、風鳴翼が許せるはずがない」

 

翼が響に向けて刀を向ける理由―――それはただ単に、響がウルトラマンを味方扱いし、肩を並べようなどと言うのが気に食わなかったのである。

 

「な、なんでウルトラマンと肩を並べようとするのがダメなんですか!?」

 

「そんなの簡単よ。ウルトラマンは私たちと同じくノイズを倒し、人間には危害を加えてこなかった。しかし、だからといって安易に味方だと断言することも出来ない。ましてや正体も分からぬ者が肩を並べてくれるとも限らない」

 

「そ、それは……」

 

「それに今は危害を加えてなくとも、ウルトラマンもいずれはノイズと同じく人間の脅威になりうることだってあるわ」

 

翼の前者の言い分には何も言い返せない響だったが、後者の言い分を聞いて、さすがの響もこれには言い返そうとする。

 

「う、ウルトラマンさんが人間の脅威になるなんてことは絶対にないです!それに私は聞いてます。2年前、あのライブ会場にウルトラマンさんも駆けつけてくれて、重傷だった私や戦いでボロボロだった翼さんと奏さんを救ってくれたって!」

 

意識不明な状態だったため覚えてなかったが、響は奏から2年前のことを聞いていたので、響はウルトラマンが人間の脅威になるなんてことは絶対にないと思っていた。

 

しかし―――

 

 

「本当に救ってくれたと思ってるの?」

 

 

「え?」

 

「確かに、あの時は私を含めて3人ともボロボロだったわ。でもそんな状態で私たちに危害を加えてもウルトラマンは何も得しない。だから敢えて私たちの傷を癒して逃がしただけかもしれないわ」

 

「そ、そんな……!」

 

それでもなお、翼は響に対し、ウルトラマンは脅威になりうる存在かもしれないと主張する。

 

「さぁ、ウルトラマンと肩を並べるなどとほざいたことを取り消すのならば、私は貴方と力を合わせて戦うことを受け入れる。取り消さないのならば―――私と戦いなさい」

 

翼はそう言って、刀の先端を響の額に当たる寸前まで近づける。

 

そんな状態の中、響の中で葛藤が続いていたが、思ったことをついに口にする。

 

「私は……私は、翼さんたちと力を合わせて戦いたい気持ちがいっぱいです……でも、それと同じように……ウルトラマンさんとも力を合わせて戦いたいという気持ちもあります!さっきの言葉を取り消すなんて出来ませんッ!!」

 

「……そう―――ならば!」

 

━━━天ノ逆鱗

 

響の答えを聞いた翼は勢いよく跳躍し、刀を巨大化させてそれを蹴り込んだ。

 

響は避けようにも思うように体が動かず、咄嗟のことで思わず身構えてしまう。そして死を覚悟して目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、何の痛みも伝わってこないことに違和感を感じ、目を開くと青い光が巨大化した刀を受け止めていた。

 

「ま、まさかこの光って……」

 

すると光が段々と収まってくると、なんとウルトラマンが白刃取りの要領で巨大化した刀を受け止め、響を守っていたのだ。

 

『ハアァ……!デヤッ!』

 

ウルトラマンはなんとか押し返すと、刀は元のサイズに戻り、翼の手に戻った。

 

「ほぉ……わざわざ自分から来てくれるとはな。お陰で手間が省けたというものだ」

 

ウルトラマンが自分からやって来たことに、翼は少し邪な笑みを浮かべながらそう言う。

 

(こいつ、まさか俺を誘き出すためにわざと立花に刃を向けたのか……それなら尚更許せねぇな……!ノイズを倒す者以前に人としてどうなんだよそれは!!)

 

一翔はそう思い込み、翼に対して怒りをどんどん募らせていき、両手を拳にして強く握りしめる。

 

「丁度いい……ウルトラマン、今から私と戦え。わざわざそちらから来てくれたのに、逃げるなどと考えない方が身のためだ」

 

翼はウルトラマンに向けてそう見得を切るが、響はそんな2人の間に割り込んだ。

 

「やめてください!そんなことしたら、どちらかが死ぬかもしれないんですよ!?」

 

「だとしても、私はそいつと肩を並べるつもりは一切ない」

 

「私はウルトラマンさんを信じたいんです!!確かに正体も分からない存在ではありますけど、それでもウルトラマンさんと力を合わせて戦いたいんです!!」

 

「そう……ならば次こそ―――お前をも斬るッ!」

 

響に対してもそう一蹴する翼。そしてウルトラマン―――一翔は2人の様子を見て、翼が響に刃を向けた本当の理由を悟った。

 

(まさかこいつら、俺と一緒に戦う戦わないってことで意見が食い違っていたのか……だとすれば、こうなったのは俺の責任でもあるのか……)

 

本当の理由を悟ったことで一翔は責任を感じていた。

 

(……でも今は、この状況を何とかしなければ……!)

 

するとそこへ―――

 

 

「―――ひとまずその辺にしておけ」

 

 

「「!?」」

 

(誰だ?)

 

恐らくウルトラマンが来なければ自分が割って入ろうと思っていたであろう弦十郎が、この一触即発の状況の中へと歩いて現れた。

 

「まったく、どんな理由であれ同じ二課の装者である者が仲間に刃を向けるなど見るに堪えなかったぞ?」

 

「うっ……」

 

弦十郎にそう苦言され、翼は刀を下ろし、シンフォギアを解除する。そして黒いリディアンの制服へと戻った。

 

「響くんもとりあえずギアを解除したまえ」

 

「は、はい!」

 

響も弦十郎にそう言われ、ギアを解除してリディアンの制服へと戻った。

 

「さて―――」

 

次に弦十郎はウルトラマンの方へ振り向くと、ウルトラマンは警戒するように身構える。だが、それを察した弦十郎は両手の平を上げる。

 

「あぁ、勘違いしないでくれ。俺自身は別に敵対するつもりはない。ただお礼と謝罪をさせてくれ。まず、響くんを守ってくれてありがとう。そして俺の姪が失礼なことをしてしまって申し訳ない」

 

両手の平を上げながら頭を下げてそう述べてきたので、ウルトラマンはそれを純粋なものとして受け入れ、警戒を解いた。

 

「ほぉ、ウルトラマンは言葉通じるのかと思っていたが、これは予想外だったな」

 

弦十郎は感心したようにウルトラマンを見つめながらそう呟く。

 

「まぁ、俺個人としても君が何者なのかを知りたいのは確かだが、せっかく響くんを助けてくれたのにその恩を仇で返すのも大人として良くはないからな。さぁ、今のうちにこの場から去りたまえ」

 

弦十郎にそう告げられ、ウルトラマンは潔くその言葉に甘えてその場から飛び去っていった。

 

「…………」

 

その様子を見た翼は、踵を返して何も言わずに自分もその場から去ろうとする。

 

「あっ、翼さん……!」

 

響は慌てて翼を追いかけようとするが、弦十郎がそれを止める。

 

「今は1人にさせてあげたまえ。今の状態じゃ、何も聞き入れてくれはしないさ」

 

「でも……ッ!分かりました……」

 

弦十郎にそう諭され、響はただこの場から去っていく翼の背中を見つめることしか出来なかった。




はい。ということで翼が初期頃の某副隊長並みに嫌なキャラになってしまいました。まぁ、僕からすれば原作の初期頃でも嫌なキャラ感はありましたけど、たぶん原作以上に嫌なキャラになっちゃってるかも(←自分で書いておいて何を言っておるのやら)

ただこれだけは念のため言っておきます。決して翼アンチな作品ではないので、どうか嫌いにならないでください(緒川さん風に)

そもそも僕は翼推しなので(←いや誰も聞いてない)

ちなみに、翼が響に刃を向けた理由は本文にもあるようにウルトラマンを味方扱いしていたのが気に食わなかっただけであり、ガングニールに関しては本作では奏は生存して奏専用のガングニールも健在のため、お咎めなしといった感じになっております

では、また次回……


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11話 予感と謎


どうも、良いサブタイトルがなかなか思いつけないサミンでございます(苦笑)

今回は、前回の戦闘回の後ということでまたまた日常回へと舞い戻って参りました。さすがに2話続けて戦闘シーン入れるのは現時点ではまだ無理そうです(泣)


弦十郎によって見逃してもらったウルトラマンは、光の状態のまま奏と共に戦った場所へと戻ってきた。

 

周囲を確認すると、奏はすでにその場にはいなく、二課の者に迎えに来てもらったのだろうと思い、自分のバイクのところに降り立ってから変身を解き、一翔の姿に戻った。

 

「はぁ……あの大男が来てくれなかったら、間違いなくやばい状況だったな」

 

ヘルメットの口当てを後頭部の方へと回し、先程のことで呟いていた。

 

(……にしても、ウルトラマンに対する意見の食い違いで本当にああなったんだとしたら、間違いなく俺の責任でもあるのは確かだろう……ウルトラマンというノイズよりも未知であり、さらにはノイズを倒すだけで本当に味方なのかどうかも知らない存在がいるせいで……)

 

一翔はさらにそう思い、翼と響の間に出来てしまったであろう溝を自分が生んでしまったのだろうと思い込んでいた。

 

(けど……だからと言って、無責任ではあるが俺にはどうすることも出来ないのも確かだ。無闇にウルトラマンは味方ですアピールなんてしたところで、逆効果になる可能性もある。俺は俺で今まで通りにノイズを倒すのに専念すればいい)

 

最後にそう結論付け、バイクの座席に置いておいたスクールバックを背負い、ヘルメットの口当てを口元に戻してバイクに跨がる。そしてエンジンをかけ、バイクで走って自宅へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。土曜日ということもあり、部活自体はあるものの授業が休みの日なのだが、一翔はそんなことなど関係なしに朝早くから自宅でトレーニングを行い、現在は学校で出された課題に取り組んでいた。

 

「あのなぁ……バカなところは相変わらずバカだと思っていたけど、さすがに高校生になってまで自力で勉強が出来ないバカだとは思ってなかったぞ立バカ」

 

[バカって何回も言わないでください!!しかも最後にさりげなく私の苗字とバカを足さないでください!!てゆーか、全国の立花さんに謝ってください!!]

 

その最中、響から電話が来たので相手をしていた。しかし、電話が掛かってきて通話相手が響ということで一翔の中で嫌な予感がしていた。そして案の定、響は中学の頃のようにもう一度勉強を教えてもらえないかと思い、一翔に教えを乞うて来たのだった。

 

「そもそも、小日向にも見てもらった方が良いだろうが。あいつもお前と違って人に教えられる程度には勉強出来るんだからよ」

 

[「お前と違って」は余計ですよ……ッ!!]

 

「事実だろ?」

 

ぐぬぬ……と、響は何も言い返せなくなってしまった。一翔はとりあえずこの話題を終えて、昨日の未来に相談された時の話題を持ちかける。

 

「……そういや昨日、小日向から数日間のお前の行動について俺や千山たちに相談してきたぞ」

 

[……えっ?]

 

課題の件から未来に相談されたとの話題を振られたことで、響は通話越しに言葉に詰まった。

 

「ここ数日、お前が小日向に対して何か隠し事してるんじゃないかって不安がってたぞ。まぁ、決して悪事に手を染めたなんてことはないだろうとは言ったが、それでもやっぱり何か隠し事されるのは嫌な感じだったぜ」

 

[そう、なんですか……?未来に不安を……]

 

恐らく自覚してなかったのか、響は未来に対して不安な思いをさせていたことに罪悪感を感じていた。

 

「とりあえず、一番身近な小日向だけには隠し事するなとは言わんが、あまりあいつを騙すようなことだけはするなよ。それじゃあな」

 

[え、あ、ちょ!?一翔さ―――]ピッ

 

半ば強引に通話を終わらせ、一翔は再度課題に取り組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、とりあえず全部終わったな」

 

響との通話を終えてから1時間も経たないうちに、一翔は全ての課題を終わらせた。

 

「……フッ、何が『隠し事するなよ』だ……立花たちと同じくらい俺も重大な隠し事をしてるってのに……盛大なブーメランになることしか言えてねぇじゃねぇか……。あの時だって、過去に囚わ(・・・・・)れてる(・・・)俺みたいな奴が言うべきことじゃないことを言いやがって……」

 

すると自嘲気味に笑いながら、何かと自分はブーメランとなる発言しかしてないことで、自身に対し嫌悪感を露にしていた。

 

「……いつも立花のことをバカ呼ばわりしてるけど、本当の意味では俺の方が一番バカなんだろうな……こうやって、何度も何度も自分に跳ね返ってくるブーメランになることしか言えないとは―――我ながら恥ずかしい……」

 

さらにそう呟きながら、一翔はベッドの方へ赴き、うつ伏せになって倒れ、その後に仰向けになって天井を見つめた。

 

「それでも―――俺はこれからも戦っていくしかない。ノイズを全て倒すまで、何度も何度もブーメランを食らいながら戦い抜いてやる」

 

ブレスレットを見つめてそう意気込むと、ダイニングキッチンの方から炊飯器のブザーが聴こえてきた。

 

「とりあえず、飯作るか……」

 

そう言ってベッドから降り、服の袖を捲った後にダイニングキッチンの方へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから十数分後、出来上がった料理をテーブルの上に載せ、椅子に座って食事を始めた。

 

 

ちなみに、彼が作ったのはチャーハンだ。それもただのチャーハンではなく、買い置きしておいたインスタントの袋ラーメンの麺を粉々に砕き、それを水で浸してふやけさせて使うという、いわば『袋麺チャーハン』である。

 

他にもサラダやわかめスープなど、中華料理店にも引けを取らないほどの出来映えとなっていた。

 

 

「モグモグ……うん、今日もなんとか上手くいけたかな」

 

我ながらいい出来だと自負しながらチャーハンを食べていく一翔。

 

 

完全に説明が遅れてしまったが、一翔の自宅は、普通の高校生が一人暮らしするにしてはあまりに大きな2階建ての一軒家である。少なくとも、あと4~5人ほどの空き部屋が残っている。リビングに至っては十数人が床で寝ても平気なほどの広さだ。

 

たまにORCのメンバーや響と未来、俊と深生が食事に来たり泊まったりすることもあるため、空き部屋があろうとなかろうと一翔は特に気にせずにこの家で暮らしている。

 

ちなみに、この家には地下室があり、一翔はそこでトレーニングを行っている。地下室ということもあり完全防音となっているので近所迷惑にならずに済んでいる。

 

 

一翔の自宅の紹介が終わり、食事の場面に戻ると、彼のスマホが鳴り出した。画面を見るとそこに表示されていたのは木戸だった。一翔は口の中に残ってたチャーハンを飲み込んだ後、木戸との通話を始めた。

 

「はい、一翔です」

 

[やぁ、今は何をしてるんだい?]

 

「今は昼飯を食ってるところですよ」

 

[そうか……なら、食事を終えてしばらくしてからでも良いから、本部に来てくれないか?最近の海の感じとか、チビスケたちのことでちょっとね……]

 

「……チビスケたちに何かあったんですか?」

 

[あったと言えばあったんだけど……でも安心していい。病気とかそういう類いのやつではないんだ]

 

「分かりました。じゃあ後で」

 

そして通話を終了し、一翔は食事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後、一翔はORC基地へと足を運んできた。

 

「来てくれたか、一翔。では、早速だがモニターを見てくれ。狩野」

 

「了解」

 

狩野がキーボードを操作すると、大きなモニターに1つのグラフが表示された。

 

「ここ1ヶ月間のここを中心とした海の調査結果だが、以前のように海水温、水質、濃度など、多少の変化はあれど異常と呼ばれるレベルでないことが確認されている。既に存在する魚や海洋生物はもちろん、チビスケやジョリーたちが普通に暮らせる状態にはなってる、のだが……」

 

「?狩野さん、どうかしたんですか?」

 

「……実はな、今日チビスケとジョリーが突然騒ぎ出したんだ」

 

「騒ぎ出した……?どういうことですか?」

 

チビスケとジョリーが騒ぎ出したというのはどういう意味なのか、一翔は疑問を抱いた。

 

「僕たちも最初は何が起きたのか分からなかった。ここ数年、特に騒ぎ立てることもなく大人しくしていたはずの彼らが、突然騒ぐなんて驚いたよ」

 

狩野に続いて木戸もそう答える。

 

「……それで、チビスケたちは今は……?」

 

「今はなんとか落ち着いてる状態よ」

 

「しかし、今日だけってわけでもないかもしれないし、またいつ騒ぎ出すか……」

 

チビスケたちの今の状態を日向に教えてもらうが、真壁の言うように、またいつかは今日と同じように騒ぎ出すかもしれないと不安になっていた。

 

「それにな、水族館側の方の魚やイルカたちも、チビスケたちのように騒ぎ始めたとの報告を受けてな」

 

「……そういえば、ここに来るときに水族館の職員たちが慌ただしい様子になっていたのを見ました。水族館の方でもこんなことが……」

 

水族館側の方も同じ状況になっていたことに、一翔は何が起きているのかと考え込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――とりあえず、さっきのは一翔の耳にも入れておいた方がいいと思ってね。呼び出しておいてあれだけど、後からまた詳しいことが分かったら連絡するよ」

 

「分かりました。じゃあ、今日はこれで」

 

その後、もっと詳しいことが分かったら後日連絡してくれるとのことで、一翔は水族館の方を後にした。

 

「チビスケやジョリーたちが突然騒ぐとはな……狩野さんの言ってたように、海に関しては普通の状態なんだろうけど、本当にどうして急に……」

 

そう呟いていると、ジャケットの右ポケットに違和感を感じてその中に手を入れ、中に入れていたブレスレットを取り出した。すると点滅こそしてないが、数秒だけずっと光り続けたかと思ったらそのまま消えていった。

 

点滅してないことからノイズが出現したわけではないことは分かったが、ブレスレットの方も謎の反応を起こしたことで、一翔はさらに疑問を抱かざるを得なかった。

 

「何だか知らないが、何か妙な予感がしてきたな……その予感が外れてくれればいいんだが」

 

具体的には分からないが、妙な予感を感じつつ、駐輪場に停めてあったバイクを走らせて自宅へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~っと、えっと……あっ、あったあった!」

 

「やっと見つけた?もう、俊ったらたまにダメなところがあったりするんだから……」

 

その頃、俊と深生は学校へ来ていた。2人で課題をやろうとした時、俊がうっかり参考書を学校の方に忘れてきてしまい、日曜なら完全に学校は閉鎖されるが、土曜の今なら行くしかないと思い立ってきたのが理由である。

 

俊が1人だけでも行こうと思ったのだが、さすがに待たされるだけになるのは癪だと思い、深生も一緒について来た次第である。

 

「ごめんって!帰りにソフトクリームとか奢ってやるからさ!」

 

「べ、別に詫びの品がほしいなんて言ってないじゃない!とにかく、戻ったら課題始めないと」

 

「はいよ」

 

仲睦まじく学校を出る2人。

 

そして学校から少し距離のある場所に2人だけになったところで―――

 

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

 

突然、カジュアルな服装で黒いキャスケットを頭に被り、長い赤髪を1つに纏めてサングラスをかけた謎の女性が2人に声をかけてきた。

 

「えっと……私たち、ですか?」

 

「おいおい、この場であんたたち以外に誰がいるんだい?」

 

深生の問いに女性がそう答えると、俊が少し警戒しながら次は自分から問い質した。

 

「俺たちに何か用ですか?」

 

「まぁまぁ、そう警戒しなさんな。世間じゃあたしはちょっとした有名人だが、決して悪い意味での有名人じゃない。それでも、さすがに外に出る時はこうやって変装しなくちゃいけないのでね」

 

警戒を解かせるために女性は2人にそう言い聞かせる。まだどんな人物か知らないので不安にはなるが、俊はひとまず警戒を解いた。

 

「警戒を解いてくれて何よりだ―――さて、ちょっとあんたたちに尋ねたいことがあってね。その制服とスクールバック(・・・・・・・)、城南高校の生徒で間違いないよな?」

 

「ええ、私たちは城南高校の生徒ですけど……それが何か?」

 

「実はね、これ(・・)について聞きたいんだけど―――」

 

そう言って女性はスマホの画面を2人に向け、とある画像を見せた。

 

「ん?これって―――」

 

「あれ?これは確か―――」

 

 

 

 

 

その後、ある程度の事情を2人に話した後、女性はどこかへと去っていった。

 

「う~ん、まさかあいつ(・・・)に助けてもらったなんてな」

 

「やっぱりなんだかんだ良い人なのよね。それにしても……あの女の人、どっかで見たことあるような……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俊と深生と別れた後、女性は人目のつかない路地裏に入り、メモ帳に記載したメモを読んでいた。

 

「なるほど……もし本当にこいつ(・・・)がそうだったとしたら、あの時にあたしを救ってくれたのもこい(・・)()で間違いないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“吉宮一翔”本当にこいつがそうなら、是非とも会ってみたいもんだ」

 

どうやら女性は2人から一翔のことについて尋ねていたらしい。その証拠に、メモ帳には一翔のフルネームが記載されている。

 

 

この女性は一体何者なのか……なぜ一翔のことを調べているのか……救ってくれたというのはどういう意味なのか、謎に包まれたまま女性は路地裏を出て街中を歩いていった。




まぁ、女性の正体なんてもう丸わかりでしょうね(苦笑)

一翔が料理するシーンですが、やっぱり主人公はプロ並みにとまでは行かなくても料理が上手だという要素くらいは入れてみたいなと思い、入れてみました


−追記−
よくよく考えたら、料理が上手いのは某超獣退治の専門家(に変身する人)の要素でした。というのも、彼は原作では元はパン屋である他に、とある劇場版ではシェフとして働いていたからです


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12話 遭遇、今とこれから


どうも、また結構経ってしまいました、サミンでございます

もう自分は今、今後の展開という上ばっか見ており、現状の展開という目の前の課題に全く集中出来ておりません。このままだと下手したら10年以上は掛かるだろうなぁ……


日曜日

 

「やはり地震を予測して騒ぎ出すと言われているナマズのような生き物がいるわけだし、チビスケやジョリーたちにもそういう知能がついていてもおかしくはないだろう」

 

一翔は自室で海に関する本を数冊開き、昨日チビスケたちがなぜ騒ぎ出したのかやはり気になっていたので、それに関する情報を見つけようとしていた。

 

「ただ―――何かを予測して騒ぎ出したんだとしても、その日はノイズも出なければ地震が起きたわけでもないし……」

 

しかし、調べれば調べるほど、やはり何が原因でチビスケたちが騒ぎ出したのかが不明のままである。

 

「はぁ……こればかりはさすがに解らないな。まぁ、また何かあれば報告してくれるって、木戸さんたちが言ってくれたから気長に待つしかないな」

 

そう言って、開いていた本を閉じて棚の方にしまい、時計を確認した。

 

「昼までまだ時間はあるし、少し走りに行くか」

 

そう言って、部屋着から黒いランニングウェアに着替え、走るために外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

少しと言う割りには大分長い時間ランニングを続ける一翔。しかし、普段朝からトレーニングを続けている彼からすれば、容易いものであるのだろう。今は橋を降り、河川敷を走ってる最中だった。

 

「はぁ……はぁ……おっと、また結構長く走り込んでたみたいだな……とりあえず帰ろ―――ん?」

 

自宅へ戻ろうとして振り返ると、自分がさっきまで走ってた橋の下に1つの人影が見えた。気になったので、一翔はそこまで足を運んで近づくと、パーカーを身に纏い、パーカーに付いているフードで顔を隠している小柄な人物が座り込んでいた。

 

もう少し近づこうとすると、パーカーを着ている人物は突然横に倒れ込んでしまった。

 

「―――ッ!おい、大丈夫か!?」

 

一翔は一目散に駆け寄り、謎の人物の安否を確認した。

 

「おい、どこか怪我してるのか?しっかりしろ!」

 

「うっ、うぅ……」

 

一翔の問いかけに、パーカーの人物はなんとか意識を覚醒させようとしていた。

 

「なんとか生きてはいるな。とりあえず、救急車呼ぶから一旦このまま―――」

 

 

グゥゥゥ~

 

 

「―――え?」

 

「……は、腹が……減った……」

 

突然の腹の虫の鳴りように、思わず一翔は間の抜けた声を出してしまった。どうやら、パーカーの人物は単なる行き倒れをしていただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バクバクバクバク、モグモグモグモグ、ズズー」

 

「いや……食い方、汚すぎだ。行儀悪いな……」

 

最終的に一翔はパーカーの人物の肩を担ぎ、自宅へと連れ帰ってきた。行き倒れとはいえ、パーカーの人物は特に体が汚れてたりしていなかった。しかし一翔はランニングしてたために汗もかいていたため、パーカーの人物をリビングのソファーに休ませてからシャワーを浴びた。

 

その後、あらかじめ予約しておいた米の炊飯も完了し、ちょうど昼時だったため、ある程度簡単な料理を何品も作ってパーカーの人物に振る舞っていた。

 

そして、一翔の料理を見た瞬間に思いっきりこれでもかと口の中に入れていったのだが……よほど腹が減っていたにせよ、あまりの行儀の悪さにさすがの一翔もドン引きしていた。

 

まぁ、一翔自身も食べ物を箸でぶっ刺すという行儀の悪いことをしてはいるが……。

(※詳しくは2話を参照)

 

「俺は吉宮一翔だ。とりあえず食える分だけ食え。材料ならまだ結構残ってるからよ」

 

「ゴックン……あぁ、わりぃな。あたしの名はクリス『雪音(ゆきね)クリス』だ」

 

パーカーの人物―――クリスはフードを外し、自己紹介した。クリスは女の子だった。銀髪が特徴的であり、名前からしてハーフだろうと一翔は思った。

 

「どうしてあんな場所にいたんだ―――って言いたいところだが、他人の事情に首突っ込むわけにもいかんから、聞かないでおいてやるよ」

 

「サンキューな……でも、せっかく厄介になってもらったんだ。少しくらいなら教えてやるよ」

 

ある程度の料理を食べ終えた後、クリスは一翔に事情を説明した。

 

「ちょっとした人探し?みたいなのをしてたんだ。けど、そいつはどうもあまり積極的に現れるわけじゃないみたいだから、今日は思い切って朝から探してたんだが……あたしとしたことが、うっかり財布をアジt―――家に忘れちまって、朝メシも思わず抜いてきちまったから、あのまま行き倒れてたってわけさ……」

 

「いや、財布忘れるのは仕方ないにしろ、朝飯抜くのはどうかと思うぞ……」

 

クリスの説明を聞き、一翔はそのような経緯に呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはー……ごちそうさんな。結構美味かったぜ、あんたの料理」

 

「お粗末様。雪音はこれからどうするんだ?その誰かをまた探しにいくのか?」

 

「まぁな……そもそも、そんな簡単に見つけられるような奴じゃないから、そいつが現れるまで気長に待ってみ―――」

 

そう言いかけたところで、テレビの横に置いてあった一翔のハーモニカに目がいくクリス。

 

「……なぁ、あんたって音楽やってるのか?」

 

「ん?あぁ、そのハーモニカか……趣味程度にやってるくらいさ。俺、将来は海洋学者になろうと思ってるんだ」

 

「……言われてみれば、このリビングってそれなりに海の写真とか貼ってあるな」

 

改めて一翔の家のリビングを見渡すと、様々な場所から撮影した海の写真が貼られており、クリスは少しばかり感心していた。

 

「とりあえず、世話になったな。また機会があれば……」

 

「あぁ、気をつけていけよ」

 

クリスを玄関から見送り、リビングの方へ戻ってくる一翔。

 

「……あいつ、タダ飯とはいえ本当に行儀悪すぎだな……」

 

しかし、テーブルの上が汚れた食器で溢れ返っており、愚痴りながらもなんとか使った全ての食器を洗っていった一翔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「……」

 

「ムフフゥ~」

 

午前の授業が終わった昼休み、一翔は俊と深生と共に食堂で昼食を摂っていたのだが、なぜか俊はいつかの日と同じような笑い方をしており、一翔は鬱陶しそうに無視し、注文したラーメンを食べていた。

 

「また俊ったら……」

 

それを見ていた深生は、俊の一翔に対するからかいがまた始まったと呆れていた。

 

「いや~だってさ、メシを奢るくらいならコンビニの弁当とかおにぎりやパンにしてもいいのに、わざわざ自分の家で料理作って振る舞ったんだぜ?しかも初対面の女の子に……これはもうムフフ以外ないって」

 

昨日、行き倒れしたクリスを一翔が助け、自分が作った料理をクリスに振る舞ったということをなぜか知っている俊。

 

というのも、いつものように朝から俊に肩組みされた時、土日に何をしていたのかと尋ねられたのだ。

 

その際、土曜日はORCのことは伏せて普通に課題に取り組んでいたと話し、日曜日はチビスケたちが騒ぎ出した理由を調べていたということも伏せ、その後のクリスとの出会いを一翔は話した。

 

ウルトラマンのことやORCのことは基本伏せておくのだが、それ以外のことは伏せる必要もないので正直に話す一翔。だが、日曜の出来事は俊にとっては完全に―――彼曰くムフフな出来事のため、今のような俊がからかうという状態となってしまったのだった。

 

「でもさ、改めて思うと本当に一翔って良い奴だよな。行き倒れで死にかけてた人を放っておかずに助けたり、いつ死んでも構わないような奴(・・・・・・・・・・・・・・)なんかに、もう少し長生きしてもいいかなって道を築いてくれたり……」

 

「俊……」

 

そう言うと、俊は笑ってはいるがどこか影のあるような笑い方をしており、それに気づいた深生は複雑そうな顔をして俊を見つめていた。

 

「どのみち、結果(・・)は変わらないかもしれない……それでも本当に―――一翔には感謝してるよ」

 

そして、真剣な表情を一翔に向けて俊はそう言葉を紡いだ。

 

それに対し、一翔は―――

 

 

「千山、お前―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事の時にそんな居たたまれないような空気出すなっていつも言ってるだろ!」

 

 

ビシッ!

 

 

「いったぁ!?」

 

俊に向けてそう叱ったと同時に彼の額にデコピンを食らわし、デコピンを食らった俊はあまりの痛さに当たった箇所を片手で撫でた。

 

「……ったく、これから先どうなるか考えるより、今をどう過ごして生きていくか考えろ。そうすりゃ、お前が思っていた未来が変わるかもしれないんだからな」

 

一翔はそう言い残し、2人よりも先にラーメンを食べ終えて食器を返却口へと持っていき、食堂を後にした。

 

「いてぇ~……あいつ、わざわざデコピンまでする必要ないのに……」

 

「まぁ、でも一翔が言ってたことは私も概ね同意見よ。これから先のことも大事だけど、今をちゃんと生きてもらわないと、せっかく俊と恋人同士になれたのに意味がなくなっちゃう……」

 

「深生……そうだな。去年の時から誓い合ったもんな。そんじゃ改めて、これから先どうなるかはまだ分からないけど、今という時間を一緒に生きるためにずっとそばにいてくれ」

 

「もちろんよ、俊」

 

互いに見つめ合いながら、俊はプロポーズ染みた台詞を言い、深生は優しい笑顔でそれを快く受け取った。

 

 

 

ちなみに、食堂で、ましてや昼休みという生徒が多く集まる時間帯に2人はそのようなやり取りをしており、それを見ていた他の生徒たちは大半が口の中が甘くなるような感覚になったり、食堂スタッフ(特に女性陣)は「青春ねぇ~」などと呟いて2人を生暖かく見守っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、食堂を出た一翔は屋上に上がっており、フェンスに寄り掛かりながら、先程の俊に言った言葉を思い返していた。

 

「はぁ……また俺は、自分のことを棚に上げて偉そうなことを……」

 

一翔は、自分が言える立場ではないことをまた言ってしまったと思い、我ながら何をやってるんだと頭を抱えていた。

 

「未来も今も全く見てない……それどころか過去のことしか考えてない俺なんかが、またしてもああやって偉そうに……本当に、俺はバカだ……」

 

自分自身をそう罵り、一翔はその場に座り込んだ。

 

「でも、今の俺は全てのノイズを倒すために戦っているんだ。せめて、それだけはちゃんと忘れないようにしないと……」

 

そう呟き、そのまま予鈴のチャイムが鳴るまでの間、一翔はずっとその場に座り込んだままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、午後の海洋学の授業を終えて放課後となり、駐輪場で一翔は俊と深生と別れ、自分のバイクの元へと歩いてきた。

 

「千山……せめてお前だけは、俺みたいにならずに有意義に長生きしろよ」

 

バイクに跨がった後、俊に対してそう呟き、ヘルメットを被ってエンジンをかける。

 

その時、ブレザーの左側の内側のポケットに違和感を感じ、その中に入れていたブレスレットを取り出すと、ノイズ出現を知らせるようにブレスレットが点滅していた。

 

「来たかノイズ……まぁ、やるしかねぇ!」

 

そう言って、バイクを走らせて駐輪場から出ていき、ノイズが出現した場所へと一翔は去っていった。

 

 

 

 

 

バイクを走らせて数十秒、ノイズの群れを確認すると、まだ数人がノイズから逃げている最中だった。

 

「まだ間に合う!!」

 

道路脇にバイクを停車してから降り、ブレスレットを掲げてウルトラマンへと変身を遂げた一翔。そして、高速移動で逃げてる人たちとノイズの間に入るように移動し、数体のノイズに蹴りを浴びせ、逃げてる人たちとの距離を離した。

 

「た、助かったのか……?」

 

「あれって、もしかしてウルトラマン……!?」

 

逃げてた人たちは、ノイズが追ってこなくなったので思わず後ろを振り向くと、ウルトラマンがノイズと戦っているのを確認した。それに気づいたのか、ウルトラマンは背を向けたまま右腕を伸ばし、顔を後ろに向けて“早く逃げろ”と言うように顎をクイッと動かした。

 

「とにかく逃げよう!ウルトラマンがノイズを止めてくれてる間に」

 

「うん!」

 

ウルトラマンの意図を理解したのか、逃げていた人たちは再びノイズから離れるために走り出した。

 

『ハァッ!』

 

逃げていったのを確認すると、ウルトラマンはノイズの方へ駆け出して膝蹴りを浴びせ、他のノイズにはスラッシュを何発も放った。

 

しかし、やはり今回のノイズも学習能力を有しているのか、数体はスラッシュを浴びて炭化したが、他のノイズたちは飛行型になって回避したりなどをして難を逃れていた。

 

『ハァッ!デヤッ!!オォアアアアァァァ……!デェアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

ウルトラマンはそんな飛行型ノイズたちにはリキデイターを放ち、さらにフォトンクラッシャーを放つが、それでもやはりある程度のノイズは回避していく。

 

(こうなったらあの技を使うしかねぇな……エネルギー消耗が激しいし、あの女が来たら今度こそやばいかもしれない……でも、手っ取り早く終わらせるにはこれしかない!)

 

心の中でそう呟き、右手からブレードを生成すると、それを空に掲げて青い稲妻エネルギーを集中させていく。

 

『ハアアァァァァァァァ……!!ドゥオアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

そして、ブレードに集中した稲妻エネルギーを放射する『ライトニングブレード』を飛行型ノイズや地上にいるノイズたちに向けて放射した。

 

地上にいたノイズはそれを食らって炭化したが、飛行型ノイズはそれをも回避しようと飛び回った。しかし、分離した複数の雷撃がロックオンしたミサイルのように飛行型ノイズを追い詰めていき、ついに全てのノイズを殲滅させることに成功した。

 

 

ピコン、ピコン、ピコン、ピコン……

 

 

『ウアァ……!(リキデイターにフォトンクラッシャー、ブレードと結構使ったから今回は少しやばかったな……)』

 

ノイズを殲滅した後、ライフゲージが鳴ったことで、今回は今まで以上に少々ハードな戦いだったと一翔は痛感していた。

 

(……とりあえず、どこかに隠れてないと……まだあの女が来ないうちに……)

 

心の中でそう呟き、翼が来ないうちに光になって一旦その場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、二課の指令室では先程までの戦いの反応を確認していた。

 

「ノイズの反応、全て消失。ウルトラマンの反応も消失したため、その場からいなくなったと思われます」

 

「そうか……ひとまず、翼と響くんに戻ってくるように連絡しておいてくれ」

 

「了解しました」

 

弦十郎にそう指示され、1人の男性オペレーターはウルトラマンより後に出撃していた翼と響に戻るように連絡をした。

 

「これは翼さんがまた苛立った感じで戻ってくるのが目に見えますね、司令」

 

「そうだな……」

 

黒いスーツに身を包んだ男性がそう言えば、弦十郎もやれやれといった感じに頷いた。

 

「そういえば司令、奏さんから、少しの間だけ一時的に戦線から離れるとの旨を司令に伝えてくれと僕の方に伝言が来ました」

 

スーツの男性『緒川(おがわ)慎次(しんじ)』はツヴァイウィングのマネージャーであり、奏と翼をサポートしつつ、二課のエージェントとしてこの場に身を置いている。

 

「……そうか、分かった。戦力が少しとはいえ減るのは少々心苦しいが、何か考えがあってのことだろう」

 

そんな慎次の伝言を聞いた弦十郎は少し間を取ったが、確実にとは言わないが何かを悟ったのか、奏からの伝言を了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約5分後、青い光となった一翔が先程ノイズと戦った場所へと戻ってきた。そして光の状態から一翔の姿へと戻った。

 

「はぁ……改めて今回は本当に少しやばかった

な……もしかして、今まで以上に知能を発達させてきてるのか、もしくは誰かがノイズを操ってい(・・・・・・・・・・・)るのか(・・・)……」

 

この前の戦いや今回の戦いで、ノイズは確実に知能を発達させてきてるのか、誰かが裏でノイズを(・・・・・・・・・)使役してるのか(・・・・・・・)と一翔は疑問を抱き始めた。

 

「どちらにせよ、今後はハードになりそうだな」

 

そう呟きながら、バイクを停めていた場所へと戻っていき、ヘルメットを被ってバイクに跨がろうとする。

 

その時―――

 

 

「結構いいバイクに乗ってんだな」

 

 

「ッ!?」

 

突然、背後から誰かの声が聞こえ、バイクに跨がりかけてた一翔はすぐさま降り、後ろを振り向いて身構えた。

 

するとそこにいたのは、前に俊と深生に一翔のことについて尋ねていたカジュアルな服装に黒いキャスケットを被り、長い赤髪を1つに纏めた女性が立っていた。

 

「……誰だ?」

 

「なぁに、ただ純粋にお前さんのバイクがカッコいいなって思っただけだよ」

 

警戒する一翔だが、女性は朗らかな感じに話しかけてくる。それでも一翔は警戒を怠らない。

 

「別にカッコいいバイクぐらいその辺にあるだろう」

 

「ま、それもそうだな。でも、あたしにとってはお前さんのバイクの方が結構カッコいいぜ」

 

そう言いながら、女性は一翔の方へ近づいていき、キャスケットと髪を纏めていたヘアゴムを外した。

 

 

「あたしの名前は天羽奏。自分で言うのもなんだが、世界的に有名なアーティストの1人だ」

 

 

キャスケットとヘアゴムを外した女性―――天羽奏は一翔に対してそう自己紹介をした。

 

「へぇ、世界的に有名なアーティスト様が俺みたいな一般人に何の用だ?」

 

「一般人だなんて……まぁ、表向きはそういう類いに分類されるか」

 

一翔の問いかけに苦笑いした後、奏は一翔の目の前まで来て、その横を横切ろうとしたところで足を止めた。

 

そして―――

 

 

「単刀直入に聞くぜ。結構前から噂になっているウルトラマンの正体、そして―――2年前にあたしたちを救ってくれたのも、お前で間違いないか?」

 

 

まっすぐ一翔を見つめながらそう問い質してきた。




今回の話とは関係ないのですが、今になって気がついたことが―――10話で翼が初期頃の某副隊長並みに嫌なキャラになった件なんですが……よくよく考えれば原作だと奏が死んで精神的に不安定になっていたから嫌なキャラ感(僕からすれば)があったのに対し、この話だと奏は生存して奏専用のガングニールも健在なのに、響とのウルトラマンに対する意見の食い違いで嫌なキャラになった

これはもう10話の後書きでも言ったように、この話の翼は現時点では(・・・・・)完全に原作以上に嫌なキャラになっちゃってましたね……

それでも、僕は翼推しであることに変わりはありませんので!(←だから誰も聞いてない)


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13話 接触


ウルトラマントリガー始まりましたね!ちょっと展開が早い気がするなぁとは思いつつも、楽しく見ることが出来ました!

それとは関係ないですが、今回はやってみたかった展開の1つに辿り着けたので、前回より早めに更新致しました


「ウルトラマンの正体、そして―――2年前にあたしたちを救ってくれたのも、お前で間違いないか?」

 

ノイズを倒した後、誰もいないことを確認して変身を解いてバイクで帰ろうとしたところ、なんと奏が一翔の方へと自ら接触してきた。そして、ウルトラマンの正体と、2年前の事件で自分たちを助けてくれたのも一翔なのかと問い質してきた。

 

「……何のことだ?」

 

しかし、当然一翔はその問いに対してシラを切る。すると、奏はズボンのポケットからスマホを取り出し、画面を開いてとある画像を見せた。

 

「この画像のバイクの座席に置いてあるスクールバック……調べてみたら城南高校の指定バックだってことが分かった。そして、ある2人組の男女の生徒にこのバイクを見たことないかと質問したら、同じく城南高校に通ってる“吉宮一翔”っていう男子生徒の所有物ということが分かった」

 

奏からの説明を聞き、恐らく俊と深生から聞いたのだろうと一翔は推測した。

 

そして、なぜ奏が一翔のバイクの画像を持っているのか……それは一翔がウルトラマンとして奏と共にノイズを倒した日、翼が響に刃を向けていたというのを聞いてその場から去った時、周囲を見渡した奏が一翔のバイクを見つけ、撮影したからだった。

 

「まぁ、確かに俺の名前は吉宮一翔で合ってる。その画像のバイクも恐らく俺のだろう。だが、それがウルトラマンの正体と何の関係があるって言うんだ?」

 

自分の名前は合ってることと奏のスマホの画像のバイクは自分のものだと言うことを一翔は認めるが、それでもウルトラマンの正体と関係のあるものではないと主張して問いかけてくる。

 

「そりゃまぁ、これだけじゃ確実な証拠にはならないけど、どうにも不自然だったんだよ。この画像を撮ったのがこの前ノイズが現れた時で、しかもバイクと一緒に置かれてたのがスクールバック―――それを見た時、帰宅途中の学生がノイズに襲われちまったのかと思ってたんだが……調べた結果、その日にあの場所でノイズに襲われた人の中には城南の生徒どころか学生すらいなかった。ノイズが現れた時に逃げたんだとしても、わざわざバイクとスクールバックを捨ててまで逃げるのはどう考えてもおかしかったんだ」

 

奏の推理とも取れるような説明をされても、一翔は至って冷静に黙って聞いているだけだった。

 

「ま、おかしかったってだけで証拠にはならないが……あたしは、それでもお前がウルトラマンじゃないかって思ってるんだ」

 

「……ほぉ、それはなぜだ?」

 

一翔が聞くと、奏は少し間を置き―――

 

 

「―――生きるのを諦めるなと言ってた奴が、生きるのを諦めるような顔をするな……」

 

 

―――と、2年前のライブ会場で絶唱を歌いかけた自分に向けられた言葉を呟いた。

 

「確かにバイクが同じってだけで確信はなかったけど、お前と話をして声を聞いた時、2年前にあたしを止めてくれた声と同じだってさっき気づいたんだ。あの時、さっきあたしが呟いた言葉を言ってくれなかったら、あたしは今頃この場にはいない……そんな言葉と声をあたしは一度たりとも忘れたことはない」

 

懐かしむように目を細め、そう言葉を綴っていく奏。そんな彼女を見た一翔は少し考えた後、首肯した。

 

「……分かった、認めてやるよ。あんたの言う通り、ウルトラマンの正体は俺で、2年前のあのライブ会場に駆けつけたのも俺だ」

 

そう言いながら、右腕から外していたブレスレットを奏の方に向ける。

 

「そっか……なら、1つ言わせてくれないか?」

 

「何だ?」

 

奏は一翔の前へと向き直り、頭を下げた。

 

 

「あんたのお陰であの日、あたしは命を落とすことなくこうして生きていくことが出来た……ありがとう、ウルトラマン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、2人は近くのファミレスへと足を運んだ。その際、奏は変装のためにもう一度髪を纏めた後にキャスケットを被り、眼鏡をかけて入店した。

 

「せっかくだから好きなもん何でも頼んでいいぞ?あたしの奢りだしな」

 

「別にそこまで気を遣わなくても……俺、金に関しては特に問題はないし……」

 

「いいからいいから!黙ってあたしに奢ってもらえ」

 

そう言って、奏はメニュー表とにらめっこを始めた。一翔は仕方ないと思いつつ、奏に倣ってメニュー表を見始めた。

 

そしてメニューを注文した後、互いにドリンクバーで飲み物を注いでテーブルに戻ってくると、開口一番に奏が改めて自己紹介を始めた。

 

「改めて、あたしの名前は天羽奏。ツヴァイウィングの片翼であると同時に、とある組織に所属している」

 

「……吉宮一翔。城南高校2年。うちの学校は午後が選択式の授業になってて、そこで俺は海洋学を学んでいます」

 

「へぇ、海好きなんだな。音楽とか他の何かをやってたりしないのか?」

 

「まぁ、趣味程度だがある程度の楽器を使いこなすことは出来ます。特にハーモニカやギターの類いですね」

 

「ほほう、結構多彩なもんで」

 

自己紹介の後にそのような雑談も交えたところで、奏はさっき自己紹介した際に言ってた、とある組織について一翔に話そうとする。

 

「雑談もひとまずこの辺にして……せっかくお前さんがウルトラマンの正体だって教えてくれたのに、あたしだけが何も教えないってわけにもいかないからな。さっき自己紹介した時、あたしはとある組織に所属しているって話だが―――」

 

「あぁ、二課って言う組織のことですか?」

 

「―――ッ!知ってるのか!?」

 

奏が説明する前に一翔が二課という単語を出したことで、奏は驚きを隠せなかった。

 

「まぁ、完全に詳しく知ってるわけではないですよ。天羽さんの相方の青髪の女に初めて襲われた際にその単語を聞いただけなので……」

 

一翔がそう教えると、奏はバツが悪いような顔になり、両手をテーブルに置き、頭を下げる。

 

「あー、その……悪かったな、翼のこと……あの堅物防人、なぜか知らんが一翔のことを良く思ってなくてな。響っていう新人をお前さんが助けに行ってくれた際、捕まったりするんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだよ……」

 

「……まぁ、最終的に二課って組織のリーダーなのか何なのか知らんけど、大男が来てくれたお陰でなんとか事なきを得ましたよ」

 

「けど、本当にすまなかったな……2年前は助けてくれたのに、その恩を仇で返すように襲いかかったり……この前だって新人を助けるためにわざわざ自分から行ってくれたり……本当なら本人が一番謝るべきなんだけど、今は相方のあたしの謝罪で勘弁してくれ」

 

そう言って、再度両手をテーブルに置いて頭を下げた。

 

「……まぁ、結果的に俺も立花も無事で済んだので大丈夫です」

 

「そっか―――ん?一翔、さっき立花って言ってたけど、もしかして……?」

 

「あぁ、立花響は俺の中学の時の後輩ですよ。この間、あいつが天羽さんが身に纏ってたのと似たような鎧を同じように身に纏ったのを見ました。そして、恐らく二課に所属することになるんじゃないかと思ってたら案の定……」

 

「お前さん、結構洞察力あるんだな……響があたしたちの組織に入ったことまでお見通しとはな……」

 

「……けど、さっきも言ったように完全に詳しく知ってるわけじゃない―――だから教えてほしい、あんたたちが纏ってたあの鎧は何なのか……二課という組織は一体何なのか―――」

 

 

「―――お待たせしました!ハンバーグカレードリアお1つと、ナポリタンお1つになります」

 

 

一翔が問いかけてきたところで、店員が2人の注文した品を持ってきた。一翔はすぐさま一旦この話題を出すのを止め、自分から品をもらっていく。

 

「ありがとうございます。ハンバーグカレードリアは俺で、ナポリタンはその人にお願いします」

 

「恐れ入ります。伝票はここに置かせていただきます。ごゆっくりどうぞ」

 

注文した品がそれぞれ互いに自分の前に置かれると、先程の一翔の切り替えの良さと対応の仕方に奏は少々驚きながらも感心していた。

 

「すげぇな……よくある話だと何も知らない第三者が割り込んできたことでテンパることが多いが、お前さんのその冷静な切り替えとか比べ物にならねぇくらいだよ……それにわざわざ自分から手伝うとか」

 

「“お客様は神様”っていう言葉があるでしょ?俺はそんなもん関係なしに、あくまで“人”として対応すべきことは対応するようにしてる主義なので」

 

「ふぅ~ん……ま、それはさておき、お前さんの質問に答えてやるその前に―――もう品が来たからとりあえず食おうぜ」

 

そう言って奏はフォークを取り出してパスタを巻いていき、一翔もスプーンを取り出してハンバーグをぶっ刺すといういつもの行儀悪いことをした。

 

「あぁ~、美味いなぁ……!うちの組織にはもちろん食堂があって美味いのは美味いんだが、たまにはこういった店で食べるメシってのも捨てがたいもんだよな」

 

「まぁ、否定はしませんね」

 

 

 

 

 

そして料理を食べ終えて、違うドリンクを注いで持ってきた後に本題に入ろうとする。

 

「―――じゃあ改めて、天羽さんたちが身に纏っていた鎧、二課という組織が何なのかを教えてほしいです」

 

「あぁ、もちろんいいぜ。ただし、その前に敬語とかさん付けとかやめてくんないか?年下とはいえ、命の恩人様にそういうのされると申し訳なくなっちまう」

 

「えっ?いや……まぁ、あんたがそう言うのなら敬語もさん付けもやめま―――やめるよ、天羽」

 

「いや、そこはせめて名前で呼んでくれよ!?」

 

「あー悪い……俺、基本的に苗字で呼ぶタイプなんだ。ま、もし気が向けば名前で呼んでやってもいい」

 

「……一翔がそうするタチなら……まぁ、仕方ねぇな……」

 

どこか納得がいかない様子の奏だが、ひとまず一翔の質問に答えるように、まずはシンフォギアについて説明を始めた。

 

「まず、あたしたちがノイズを倒すために使っていたあの鎧―――名称はシンフォギア。聖遺物って聞いたことないか?」

 

「あぁ、確か超古代の異端技術の結晶の総称で、世界各地の様々な伝説に登場してるってやつだな。でも伝説ってだけで、歴史上では実在してないんじゃないか?」

 

「まぁ、そう思うのが妥当だな。けど―――実際にはいくつか実在してるものもある。といっても、それはほんの一部の欠片に過ぎないけどな。そして、その欠片の力を歌によって増殖させ、鎧へと変形する……それがあたしたちの使ってる鎧―――シンフォギアだ」

 

奏からシンフォギアの説明を聞いて、歌によってそれは生まれるものだと知った一翔は、奏や翼が現れる際に歌が聞こえたのはそのためかと納得した。

 

「なるほど……」

 

「―――んで聖遺物の話だがな、あたしと響が使ってるのはガングニールって言う聖遺物で、翼が使ってるのは『天羽々斬(あめのはばきり)』って言う聖遺物で、それら全てを総称して、あたしたちはシンフォギアと呼んでいる」

 

聖遺物の説明を聞いた後、一翔は1つ疑問になっていたことを問いかけた。

 

「そういえば、何で立花はそのガングニールっていう、天羽と同じシンフォギアを纏えるようになったんだ?」

 

「あー、それはなぁ……」

 

一翔からの問いかけに、奏はどう説明すれば良いかと頭を悩ませるが、全て包み隠さずに話すべきだと口を開いた。

 

「まず、長くなるが2年前の事件……その原因とも言える事の発端を話さなきゃいけない……実はあの事件、ノイズが出現したのは実質あたしたちのせいでもあるんだ」

 

「……どういうことだ?」

 

「実はライブ当日、あたしら二課はガングニールや天羽々斬とは違う聖遺物『ネフシュタンの鎧』を起動させるため、表向きはツヴァイウィングのライブという名目の起動実験を行っていたんだ」

 

「なんだと……?もしかして、そのネフシュタンの鎧ってのも歌によって誕生させるためにわざわざライブを行ったのか?」

 

「鋭いな。そんで、結果的には起動成功までは行ってたものの、最終的にエネルギー制御に失敗して暴走……それからノイズが現れて、後は知っての通り……」

 

事の発端を説明していく奏は罪悪感を感じているのか、顔を俯かせて自嘲気味に笑っていた。

 

「あたしも最初はただノイズが邪魔しに来たのかと思ってたけど、後からその原因を知って、実質あたしたちのせいなんだなって思い知った。そして……ライブ事件が終わった直後に起こった、響を始めとした生存者へのバッシングにも、あたしたちはただ見てることしか出来なかった……―――“生きるのを諦めるな”なんて言ってたくせに、余計に生きるのを諦めたくなるようなつらい思いをさせちまった」

 

「……それでも、あのバカは天羽のその言葉で、自分を奮い立たせて生きていったよ」

 

段々と自責の念に駆られていく奏だが、一翔がそう口を開いて呟いた。

 

「そして、立花の前向きさに感化された他の生存者たちも、世界に負けないようにと生きていった。あの事件があったからこそ、未来をもっと素晴らしいものにさせるために過去を受け入れて進んだ。あんたたちがそこまで責任を負う必要はない」

 

そう締め括り、一翔はドリンクを飲んだ。そんな一翔の言葉を聞いて、奏は少し心が楽になったように感じた。

 

「一翔って、案外優しいとこあんだな」

 

「その話はやめろ。立花の親友で俺の後輩の1人と同級生にそのことでいっつもからかわれるんだからな」

 

奏がそう口を開けば、一翔は少し顔を赤くしてこの話題を終わらせようとしてきた。

 

「それより―――事の発端は知ったが、どうして立花がガングニールを纏えるようになったのかを聞きたいんだが……」

 

「あ、そういやそうだったな。シンフォギアってのは、当然だが必ずしも誰でも扱えるわけじゃない。響がガングニールを纏う前までは、あたしらの中では翼だけがシンフォギアに適している適合者だったんだ」

 

「適合者……でも、言ってしまえば天羽は適合してないってことだろ?何でシンフォギアを纏ってるんだ?」

 

「ま、そう思うよな。あたしの場合、『LiNKER』って言う制御薬を投与してもらって、後天的な形で適合者になったんだ。だが、もちろん時間制限付きなものだから翼みたいに長く戦えるわけじゃない。そしてライブ当日、制御薬を断っていたのが裏目に出て、あたしのガングニールは砕け散った。その時だったんだ―――砕け散ったガングニールの破片が、偶然にもあたしの後ろにいた響の胸を貫いちまった」

 

一翔はウルトラマンとしてあのライブ会場に駆けつけた際に響が胸から大量出血を起こしていたのを見ていた。そして奏からの説明を聞き、そうなった原因を知ることが出来た。

 

「なるほど……あいつが大量出血を起こしたのはそういうことだったのか」

 

「そ。んで、響の体内に残ったその欠片によって後は知っての通りってわけさ」

 

シンフォギア、そして響がそれを纏った理由を知り、残るは二課についてだった。

 

「そんじゃ最後に、あたしらが所属してる組織についてだ。あたしらが所属してるのは特異災害対策機動部―――その部内の二課に所属してる」

 

「特異災害対策機動部……名前自体は聞いたことあるけど、そこにあるのは一課じゃないのか?」

 

「まぁ、確かにテレビとか一般的には主に一課とかが話題に出るな。二課ってのはシンフォギアを保有してノイズと戦い、情報操作をしながら活動している」

 

「情報操作?シンフォギアを世間から隠すためにか?」

 

「これまた鋭いな。シンフォギアってのはノイズに対抗するために必要な戦力であると同時に、現代の兵器をも凌駕するほどの厄介な代物でもある。だから二課はシンフォギアでノイズを倒すと同時にシンフォギアを隠し通さなきゃならない」

 

それを聞いて、一翔は二課も自分と同じような立場にあるのだろうと思った。

 

ウルトラマンの力もシンフォギアと同じかそれ以上の強さを持っており、そんな力を人間―――ましてや一翔たちのような10代前後の子供が使ってたとなれば色んな意味で問題となってしまう。

 

「ま、シンフォギアと二課についてはひとまずこの辺までだな」

 

「そうか……色々と教えてくれてありがとう。それじゃ、俺はそろそろ―――」

 

説明も終わったところで会計をしようと立ち上がろうとすると、奏が待ったをかける。

 

「待てよ、あたしが奢るっつってんだから、もう1品くらい何か頼んでけ。最後のデザートくらいだって頼んでもいいぞ」

 

「いや、だからそういうわけには……!」

 

 

と言いつつも、結局は奏が自分を含めた2人分の代金を支払ってくれた。一翔は少し罪悪感を感じていたが……。

 

 

 

 

 

その後、互いの連絡先も交換してもらい、一翔はもちろんバイクで、奏も自分用の車で来ていたので、2人揃って駐車場へと足を運んだ。

 

「―――んじゃまぁ、とりあえず今回はお互いの情報交換ってことで、また機会があれば会おうぜ」

 

「あぁ……」

 

「じゃあな、ウルトラマン!」

 

周りに人がいないことを確認した上で敢えてそう呼び、車を走らせてファミレスを出ていった。

 

「……ORCのこととか言ってなかったけど、それもいつかは話すかもな。まぁ、その時はその時で説明しとけばいいか」

 

そう呟いて、一翔もバイクに乗ってファミレスを出て自宅へと帰っていった。



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14話 戦いの火蓋


本当に……本当に大変遅くなりました!これはもうマジで10年以上掛かってもおかしくなくなってきました。それでも、なんとかめげずに書いていこうと改めて決心致します。……ただ、今回も展開が早い上に短いです(土下座)

今回もアグルのオリジナル技が披露されます。といっても、FE3をやって使ったことのある人なら見たことある技ですが……

あと、この度ハーメルンだけでなくpixivでも同小説を投稿していくことにし、タイトルの表紙となる挿絵もあらすじの方に付け加えさせました。……こんなことしてるから余計に投稿速度が遅くなってしまうんでしょうが……(苦笑)
まぁそれでも、これもスランプから抜けるための息抜きだと思ってやっていきます



そして、ついでとなってしまいましたが、遅ればせながら石室コマンダー役の渡辺裕之さんのご冥福を心よりお祈り致します

※サブタイトル入れるの忘れてました(恥)


奏はウルトラマンの正体が一翔だと知って、一翔本人は奏からシンフォギアと二課の情報を提供してもらってから1ヶ月ほど経った。

 

ノイズの出現は1ヶ月の間も当然のようにありはしたものの、一翔も当然ウルトラマンとなって戦っていた。

 

しかし、やはりと言うべきかノイズは知能が発達してるようなのか、それとも誰かがノイズを使役してるのか、どっちにしろ殲滅に成功したものの、かなりの苦戦を強いられた時もあった。

 

そして、戦ってる最中に翼と響が来る気配を察知し、仕方なく残ったノイズは彼女たちに任せるために姿を消すこともあった。

 

その際、翼と響の戦いの様子を見ていた時もあるのだが―――

 

 

「つ、翼さん!すみません、こっちのフォローもお願いします!」

 

「それぐらい自分で何とかしなさい。前にも言ったけど、私は貴方と一緒に戦う気はない」

 

「ッ……!」

 

 

誰から見ても、まさに酷いの一言である。本来ならば先輩である翼が、まだ日の浅い後輩の響をフォローすべきなのだが、ウルトラマンに対する意見の食い違いの時から完全に明らかな私情で切り捨てており、指導なども全くしていなかった。

 

奏はまだ一時的な戦線離脱状態ではあるものの、二課に所属してる身としては、ちゃんと響をフォローする言葉をかけたりしてくれていた。

 

そして―――

 

 

「あたしも私情で戦いから一時的に身を引いてるから別にそういうのは構いやしない。でも、明らかにお前は、あたし以上の私情で動いて響に何もしてやってない。あたしが言えた立場じゃないが、ちゃんと響を見てやって―――」

 

「……いくら奏からのお願いでも、立花と一緒に戦うのは御免被るわ。出来れば、奏がそろそろ復帰してもらえると助かる」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!翼!」

 

 

―――相方として奏は翼に注意していたのだが、翼は完全に響と一緒に戦うことが眼中になく、奏の注意をも無視して、そろそろ復帰してほしいとまで言ってくる始末であった。

 

 

それ以降、仲違いこそ起こさなかったものの、奏は今の翼とでは戦線に復帰したとしても、一緒に戦うことも、ツヴァイウィングとして共に歌っていくことも出来ないと思い、しばらくの間はまだ復帰せず、アーティストとしても一時的に離脱することにした。

 

それが影響して、ツヴァイウィングの表舞台への活動も、しばらく休止となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日の放課後。帰宅した一翔は自室に入り、部屋着に着替え、バックから教科書とノートとプリントを取り出し、すぐさま出された課題をやり始めた。

 

「……そういや、今日は確か流星が観られる日だって小日向が言ってたな」

 

以前、未来から響のことに関しての相談を終えた後にそう言われていたのを思い出し、時計を確認すると、まだ流星が観られる時間ではなかった。

 

「……もしノイズが現れたら俺が行けばいいだけだし、立花にわざわざ来てもらうわけにもいかないからな。念のため―――」

 

すると一翔は一旦課題を中断し、スマホを取り出してどこかへと電話をし始めた。

 

「もしもし、天羽か?」

 

[よー、わざわざそっちから電話してくるなんてな。何かあったのか?]

 

電話を掛けた相手は奏だった。一翔はすぐに用件を伝えようとする。

 

「悪いが、立花のことでな……あいつ、これから親友と俺の同級生とで流星群を観に行くって約束をしててな……」

 

[あー、そういやあたしも、響は今日は友達と一緒に流星群観に行くってのを聞いたな……んで、それがどうかしたのか?]

 

「万が一だが、もしノイズが現れてしまったら、あいつは否が応でも約束を破らなくちゃいけなくなっちまう。だから、ノイズが現れたとしても、現場に来ないで流星観測を楽しむようにと言っといてくれ。立花からしたら事情を知らない俺が言ったんじゃ困惑しちまう」

 

そう用件を伝えると、奏は通話越しにため息をついていた。

 

[はぁ~……まぁ、確かにお前の方から伝えるよりはいいかもしれねぇけどよぉ……お前さぁ、あたしは便利屋でもなければ伝言係でもねぇんだぞ?]

 

「分かってるよ。それでも敢えて、現時点での二課の中では立花の他に信用してる奴が天羽なんだから、こうして頼んでるわけさ」

 

[そ、そうか……一翔がそう言うなら、分かったよ。響だけに言うわけにはいかないから、弦十郎の旦那にも伝えとく]

 

「頼む。ノイズが現れたら、それは俺が片付けておくよ。もし天羽の相方の女が来た時はそいつに任せて逃げるしかないがな……」

 

[そっちに関してはあたしの方がすまねぇな……あたしが戦線に復帰すればいいだけの話なんだけど、今の翼とじゃなぁ……]

 

「天羽が謝る必要はないだろ。とにかく、立花のことは頼んだぞ。それじゃあな」

 

そう言って通話を終了し、再び課題に取り組み始めた。

 

 

 

 

 

それから数十分後、特に多く出されたわけではなかったので、今日の分の課題の全てを早く終わらせ、一翔は夕飯の下準備を始めようとする。

 

「今日は久々にカレーでも作るか。えーっと、材料は……」

 

夕飯のメニューを決めたところで、その具材となる玉ねぎやニンジン、ジャガイモに豚肉を取り出した。そしてニンニクと生姜といった香味野菜も取り出す。

 

 

 

 

 

それから数分後、玉ねぎやニンジン、ジャガイモの皮を剥いてから食べられるサイズまで切り、豚肉と共に油を引いた鍋に入れる。そして野菜全てがしんなりするまで炒めたら水を入れて蓋をしてから煮込んでいく。

 

「さて、煮込んでる間にサラダも作っておくか」

 

そう呟き、冷蔵庫の野菜室からレタスやトマト、キュウリを取り出してまな板の上に置き、スライスしようと包丁を手に持ちかけたところで、部屋着のズボンの右ポケットに違和感を感じたため、ポケットに手を入れる。

 

そして、そのポケットの中に入れていたブレスレットが点滅しており、ノイズが出現したと気づいた。

 

「こんなタイミングでか……まぁ、仕方ない。火は一旦止めといて、サラダの野菜もひとまずは戻しとこう」

 

そう言って鍋の火を止め、サラダに使う野菜も野菜室に戻した後、黒ジャケットを羽織って玄関で靴を履いて外に出た。

 

そしてブレスレットを右腕に装着し、それが180度回転して一翔を光が包み込み、光の状態のまま現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから十数秒後、上空からノイズの群れを確認し、光の状態のまま猛スピードでノイズの方へと降下していく。

 

その衝撃で辺りに煙が舞い、その隙に光が晴れてウルトラマンが現れ、ノイズに攻撃を仕掛ける。

 

『デヤァッ!アイッ!』

 

さすがのノイズも対応が遅れたようであり、ほんの数秒だけで十数体までが倒され、炭化されていった。

 

『ハァッ!デヤッ!』

 

すかさずウルトラマンはリキデイターを何発も放ち、着々とノイズの数を減らしていった。

 

(だが、序盤はよくてもこの後が問題だ。今回もすんなり行けるかどうか……!)

 

だが、一翔の思うように、最近のノイズはかなり手強くなってきている。また苦戦を強いられるかもしれないという不安があった。

 

(……いや、ノイズがどれだけ強くなろうが、俺はその上を行ってやる。いつも同じ技しか使えないなんて思わないことだな)

 

それでも、なんとか不安を拭い去り、集まってるノイズに向かって走り出し、その勢いのまま体をスピンさせ、ドリルのように回転しながら突進していく。

 

そして、右手からブレードを形成し、回転した勢いを利用してプロペラのように高速回転させ、行く先にいたノイズたちを次々と斬り裂いていく。

 

『オゥラッ!』

 

さらに、着地した直後にもう一度、ブレードを出したまま体をスピンさせ、同じように残ったノイズに向けて突進していき、斬り裂いていった。そのお陰で、ノイズを多く殲滅させることに成功し、残るノイズは3体となった。

 

『ハァッ!』

 

着地した後、ブレードを戻して背を向けたまま、両腕をクロスした後に再びリキデイターを放つ構えを取った。

 

 

その時、何かの気配を察知して、完成したリキデイターを放たないまま顔を後ろへ向けると、突如巨大な何かがウルトラマンの背後のノイズを3体もろとも両断し、ノイズはそのまま炭化されていった。

 

(おいおい、マジかよ……)

 

それ(・・)を見て、リキデイターを放つのを中断したウルトラマン―――一翔は、出会いたくない相手が来てしまったと苦虫を噛んだ。

 

その相手とは―――

 

 

「また会えたな、ウルトラマン」

 

 

シンフォギア―――天羽々斬を纏った翼だった。巨大な何かの正体は、以前に響を守るために自身が受け止めていた、巨大化した刀だったのだ。刀は元のサイズに戻り、翼の手に戻った。

 

「相も変わらずノイズ討伐に勤しんでいるようだが、そこに関しては感謝しておこう。しかし、ノイズを倒すだけで完全に味方だという確証はない。それにいずれは人間の脅威になりうることもある。だから今度こそ、貴様を捕まえ、正体を暴かせてもらう!」

 

翼はウルトラマンを鋭く睨み付けながら宣言してくる。

 

(俺からしたら、そっちも相変わらずだな。まぁ、確かに俺が違う立場だったら味方だと確証するのは難しいし、正体を暴こうとするのも無理はない……って、うおっ!?)

 

一翔は翼を見つめながら思っていると、翼がものすごい勢いで迫ってきたと同時に斬りかかってきた。しかし、すんでのところで回避した。

 

「そうやって、貴様は避けるばかりで何もしてこないつもりか……だがそれも、本当は私たちを油断させるためなのだろう……立花のような愚か者は騙せても、この私を騙すことは出来ん!」

 

ウルトラマン―――一翔が本来、人間と戦いたくないのは、ただ戦いたくないだけであるのだが、翼はそう思っておらず、言いがかりにも等しい言葉をぶつけてくる。

 

そして、正体が分からずとも、自分を信用してくれる響のことを愚か者呼ばわりしてくる始末である。

 

そんな言葉を聞いて―――

 

 

『自分の意見ばかり押し付けるな』

 

 

「ッ!?」

 

一翔―――ウルトラマンが言葉を発し、そう問いかけてきた。今までウルトラマンは掛け声を発することはあるものの、まさか日本の言葉で話すことが出来たという事実に翼は驚愕していた。

 

「こ、言葉が話せるのか……!?」

 

『話せるさ。といっても、お前の頭の中に語りかけているようなもの―――いわば、テレパシーだ。普段ノイズとばかり戦っているから、こういう機会が全くなかっただけだ』

 

ウルトラマンは翼の問いにそう答えるが、テレパシーだとしても、それでも人間と同じ言葉を話せることに翼は驚きを隠せないでいた。

 

『それより、お前が俺のことをどう思おうとそれは別に構わん。しかし、だからといって意見の食い違いによる力による捩じ伏せはよくない』

 

「……ふ、ふん……!ウルトラマンに説教される筋合いはない……!そうやって善人ぶっていても私は騙されん!必ずこの力で貴様を捕まえ、その化けの皮を剥がしてやるッ!!」

 

ウルトラマンからの忠告もただの説教だと吐き捨て、翼は刀を握りしめ構える。

 

『……仕方がない。人間と戦うのは心苦しいが、そっちがその気なら―――こちらも敢えて力でお灸を据えてやろう』

 

そう言い放った後、ウルトラマンも翼と向き合いながら戦いの構えを取る。

 

 

 

そして、ついに翼とウルトラマンの本格的な戦いの火蓋が切られていった。




今回使用したアグルのオリジナル必殺技・能力

スピニングブレードクラッシャー
原作ガイアで実際に使ってたスピニングクラッシャーに、アグルブレードを追加させた技。FE3で、アグルブレードを出した状態で走りながら〇ボタンを押した際に、実際にブレードを出したまま回転して突進していたので、前書きでも言ってたように、それを基に思いついた技(←要はその技に名前を付けただけ)


あと、今回アグルが言葉を発する(厳密にはテレパシー)シーンがありましたが―――あくまでこれは僕の推論ですが、ウルトラマンが変身者もしくは別の宇宙人以外の人間と会話する際は、現実世界とは別の空間内(例えばインナースペースとか)でないと出来ないため、現実世界で人間と会話する際はテレパシーで行う、もしくはエックスやザラブのように何かしらの翻訳機や通信機を通して会話をする必要があると思っております


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15話 翼対ウルトラマン


ついに翼とアグルが本格的に激突!

そして、ガイア本編でもあったあの現象が……


ただ、タイトルの割には後半はほのぼのしてます。でも、ラストはかなり不吉な予感を思わせるシーンが……


『人間と戦うのは心苦しいが、そっちがその気なら―――こちらも敢えて力でお灸を据えてやろう』

 

「そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだ……必ず貴様を捕まえる!」

 

お互いに睨み合い、構えを取る両者。すると、ウルトラマンは構えを解いたと思ったら右手を伸ばした。そして、ウルトラマンの右手からスラッシュが放たれた。

 

「ッ!」

 

翼は一瞬驚愕するも、すぐさま刀でスラッシュを斬り裂いた。

 

『……』

 

それを見たウルトラマンは、続けて何発ものスラッシュを放つ。翼は決して怯むことなく、次々と放たれるスラッシュを全て斬り裂いていく。

 

『デアッ!』

 

すると今度は、ウルトラマンは左手からスラッシュを3発ほど、翼の足元めがけて放った。翼はかろうじて避けるが、地面に当たったスラッシュが爆発したことで煙が舞った。

 

「くっ……!」

 

視界を遮られたことで、翼は後ろの方へ後退る。しかし、ウルトラマンはそれを見越していたのか、上空からキックを繰り出してきた。翼は反応が遅れるも、かろうじてウルトラマンのキックを避ける。

 

「次はこちらから参る……!はぁ!」

 

キックを避けた翼は、着地したウルトラマンの隙を突こうと距離を詰め、斬りかかる。だが、ウルトラマンはそれをも見越していたのか、翼が距離を詰めてきたと同時に既にブレードを出しており、それで翼の斬撃を防ぐ。そして振り払い、翼との距離を置く。

 

「せいっ!」

 

それでも、翼は再び距離を詰め、ウルトラマンに斬りかかるが、ウルトラマンはそれをブレードで防いでいく。

 

「どうしたウルトラマン!敢えて力でお灸を据えるのではないのか!先程の勢いはどこへ行った!?」

 

『あくまであれは見定めだ。今はお前の攻撃がどんなものか見定めているところだ』

 

「くっ……調子に乗るなッ!」

 

ウルトラマンの言葉が気に食わなかったのか、今度は刀で突く戦法に出る。しかし、ウルトラマンはそれをも防ぎ、振り払うなどをして自分からは斬りかかってこない。そのことに翼は苛立ち、振り払われた勢いを利用してウルトラマンの顔面めがけて刀を振るった。

 

だが、これもやはり右手のブレードによって防がれてしまう。

 

『ハァッ!』

 

そして、ウルトラマンは空いていた左手を拳にし、翼の顔面めがけて裏拳を放つ。

 

「しまっ―――!?」

 

さすがにやられてしまうと思ったが―――なんとウルトラマンは翼の顔面スレスレのところで寸止めしていた。

 

「―――……ッ、はっ!」

 

一瞬呆気に取られた翼だったがすぐに我に返り、少し後ずさった後にウルトラマンの胴を狙い斬りかかってくる。しかし、先程のことで若干焦りが募ってきたのか、翼の動きがウルトラマンに読まれ、再び翼の斬撃が防がれる。

 

『オゥラッ!』

 

今度は膝蹴りを繰り出してくるウルトラマン。だが、これも翼の顔面スレスレのところで寸止めする。

 

「くっ……この!」

 

なんとしてでもウルトラマンに一撃だけでもと思い、もう一度後退ってから今度は足を狙おうと斬りかかる。だが、それももう見透かされており、三度(みたび)防がれてしまう。

 

『デアッ!』

 

そして、またしてもウルトラマンは左拳を翼の顔面めがけて放つ―――が、これも寸止めした。

 

『……いちいち後退りするなど、無駄な動きが多いな。そんなんじゃノイズ相手ならともかく、俺に一撃与えるなど無理だな』

 

「ぐぅ……!だ、黙れぇ!!」

 

━━━逆羅刹

 

ウルトラマンの言葉に何も言い返せないまま、翼は平静を保つことも出来ずにバク転したと思いきや、逆立ちしたと同時に横回転して脚部にあるブレードを展開し、ウルトラマンを切り裂こうとする。

 

それに対して、今度はウルトラマンが後退りして距離を置き、ブレードを戻した。

 

「私は……!私は、この国を守らんがために防人として―――剣として生き、精進してきた……貴様のような得体の知れない者を捕まえるためにも、あの日から2年間、準備をしてきたのだ……!絶対に負けるものかッ!」

 

━━━千ノ落涙

 

自分に奮い立たせるように叫び、跳躍すると空間から大量の青いエネルギー剣を具現化させた。そしてウルトラマンめがけて大量のエネルギー剣を落下させた。

 

『ハァッ!デヤッ!』

 

ウルトラマンはそれを難なく回避し、リキデイターを何発も放ち、続けて動作を省いて簡略化させたフォトンクラッシャーも放ってエネルギー剣と衝突させていく。

 

━━━天ノ逆鱗

 

その隙を突くため、翼は自身が落下する勢いを利用し、刀を巨大化させて蹴り込み、ウルトラマンを両断しようとする。

 

『ンッ!』

 

これにはさすがにウルトラマンも対応が遅れかけたが、すぐさま体制を立て直して自らも跳躍し、蹴りを放った。

 

そして互いに激突―――すると突然、謎の光エネルギーが発生し、そのエネルギーは上空へと消えていった。

 

(何だ?今のは……)

 

ウルトラマン―――一翔は先程の現象に疑問を持つが、それを考えるのは後回しにし、翼の方へ向き合う。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!負けない……絶対に負けない……!」

 

地面に着地した翼は息切れしているが、ここで負けるわけにはいかないと、再び自分を奮い立たせる。

 

「私は……私は絶対に、こんなことで負けるわけにはいかないのだッ!!」

 

━━━炎鳥極翔斬

 

そう叫び、刀からなんと青い炎を放出させ、自身を青い火の鳥と化し、ウルトラマンめがけて突貫してきた。

 

『オゥラッ!』

 

それに対し、ウルトラマンは再びブレードを出して体をスピンさせ、先程のノイズ戦で新たに繰り出した技『スピニングブレードクラッシャー』で対抗した。

 

「食らえええええええええええッ!!!!」

 

『デェアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

お互いに叫び、そして両者は激突した。

 

すると激突したと同時に、先程激突した時よりも膨大な光エネルギーが発生した。そしてそのエネルギーの衝撃でウルトラマンと翼が吹き飛ばされた。

 

「ぐあぁっ!?」

 

『ウゥオアアァッ!?』

 

光エネルギーは先程と同じように上空へと消え、そのエネルギーによって吹き飛ばされた勢いで両者は地面に叩きつけられ、翼が身に纏っていた天羽々斬は強制解除された。

 

 

ピコンッ、ピコンッ、ピコンッ、ピコンッ……

 

 

ウルトラマンは変身こそ解除されなかったが、さすがにブレードを使いすぎたせいでライフゲージが赤になり、点滅のテンポが少し早くなっていた。それでもなんとか立ち上がり、倒れている翼のいる方へ歩いていく。

 

「うっ、うぅ……!」

 

シンフォギアのお陰でダメージは軽減されているが、戦いの疲労からか翼は自力で起き上がれそうになかった。

 

『……どうやらここまでのようだな。それから、これではっきりした―――今のお前では俺を越えるどころか、俺と同等になることは出来ん』

 

「ッ……!?」

 

ウルトラマンの言葉にショックを受け、言葉が出ない翼。そんな翼に、ウルトラマンは2年前に翼たちの傷を癒やした光線『ヒーリング』を放つ。

 

「……何の真似だ?」

 

『さすがにこのままにしたのでは後味が悪いからな。それに、俺は人間の命を奪うことはしない。例え愚かな部分が多くても、美しい部分がわずかにでも残っている人間の命を、俺は絶対に奪わない』

 

「……騙されないぞ……!私は認めない……貴様も、貴様を信用している立花も、私は決して認めない……ッ!!」

 

『そうか……まぁ、俺を信用するかしないかはそっちの自由だ。だが―――あの女だけはせめて信用してやれ。お前たちは仲間なんだから』

 

最後にそう告げ、ウルトラマンは踵を返し、光となってこの場から去っていった。

 

 

 

 

 

ウルトラマンが去ってから数十秒後、まだ倒れ込んだままでいた翼の元に、ある人物がやって来た。

 

「どうやら結構派手にやられたみたいだなぁ……ま、ウルトラマンのあの光線のお陰で傷こそ癒えてるみたいだが」

 

「奏……」

 

その人物とは奏だった。

 

「いい加減、諦めたらどうだ?いくらシンフォギア装者とはいえ、人間がウルトラマンと戦うなんて、本当の意味で死にに行くようなもんだぞ?あたしが2年前、絶唱をして死のうとしてたみたいによ」

 

「……」

 

奏からの忠告に対し、翼は何も答えない。そして無言で立ち上がり、何も言わずに立ち去ろうとする。

 

「お前がウルトラマンをどう思ってようと勝手だけどよ、これだけは言っとくぜ。響だけじゃなく、あたしもあいつのことは認めているし、信用している。なんたってあいつは、あたしの―――いや、あたしたちの命の恩人様だからな。またあいつにちょっかいかけるようだったら……今度はあたしがお前の相手になるからな」

 

その言葉を聞き入れたのかは知らないまま、翼はそれにも何も答えずに去っていった。

 

「はぁ……もし翼があのまま何も変わらないようだったら、響や一翔はこれからも翼相手に苦労しそうだな」

 

奏は去っていく相方の背を見つめながらため息を漏らし、相方の意見が食い違ったままの後輩の響と、自分たちを救ってくれた恩人のウルトラマン本人である一翔のことを憂えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃―――

 

 

「いやー、すっごく綺麗だったよね!こと座流星群!」

 

「本当にな!天気が悪くなくて、まさに絶好の観測にもってこいって感じの夜でよかったよ。ただなぁ〜……さすがに女子3人の中に男1人なんて、肩身が狭かったなぁ……」

 

「でも、それに関しては一翔さんが未来の誘いを断ったことが要因でしょ?」

 

「全くだ!いい加減、一翔はもっと楽しいことに目を向けるようにだな―――」

 

「そんなことより、もう少しで出来上がるからせめて食器を出すだけでもしろ。小日向と野々川を見習え、バカどもが……」

 

「「あはは……」」

 

一翔はキッチンでカレーを作りながら、リビングで談笑を交える響と俊に対して怒るように言葉を発し、同じくキッチンで一翔の手伝いをしている未来と深生は苦笑いしていた。

 

 

なぜ響と未来、俊と深生が一翔の自宅にいるのか―――それは、翼との戦いを終えて自宅へと戻ってきた一翔は、かなり疲労があったものの、せめて作りかけの料理だけでも完成させなきゃと思い、ダイニングキッチンへと足を運んだ。

 

そして、煮込みを中断していた鍋に火をかけ、再度煮込んでいき、カレールウを入れたところで一翔のスマホに俊からメッセージが届いた。

 

[流星群観終わったんで、今からお前んち行くからな!]

 

「……は?」

 

突然のメッセージの内容に、一翔は思わず間の抜けた声を出していた。

 

 

その後、数分も待たずして流星群を観に行った4人が一翔の自宅へやってきた。

 

「お邪魔しまーす!う~ん……!カレーのいい匂いがするぅ〜!」

 

「おいこら、タダ飯食らいに来ただけならお帰り願おうか?」

 

「まーまーまー、そんな固いこと言うなよ。差し入れだって持ってきたんだぜ?ということで、俺たちの分も追加で作ってくれよな」

 

「差し入れ持ってきさえすれば図々しく出来ると思ってんのかお前は……!」

 

「ごめんね、一翔……俊がどうしてもって言って聞かなくて……」

 

「響も俊さんに便乗しちゃって……」

 

「……ったく、仕方ねぇな……少し時間が掛かるけど、待ってろよ」

 

 

 

 

 

……ということもあり、未来と深生が手伝いを買って出てくれたこともあり、少し時間は経ってしまったが、カレーを完成させた。

 

そしてサラダも無事作り終え、5人分のご飯をよそってカレーを盛り付け、響と俊をダイニングキッチンのテーブルに移動させ、談笑を交えながらの食事が始まった。

 

「いやー、流星群を観終わった後に食べる一翔さんのご飯って、それはそれで格別ですよねぇ〜」

 

「まぁ、確かにそれはそれでいいような気もしちゃうかな。ただ、今回は便乗した形とはいえ、響は少し遠慮を覚えた方がいいと思うよ……」

 

「少しどころか大いに覚えるべきだと思うがな」

 

「俊にも言えることね、それは……」

 

「まぁ、少なくともこの2人が遠慮を覚えるのは無理そうだな」

 

「「いやーそれほどでもー」」

 

「「「褒めてない」」」

 

 

 

 

 

その後、カレーを食べ終えて、俊が持ってきたという差し入れはスイーツだったのでそれも食べた後、リディアンの寮でルームシェアしてる響と未来はそろそろ門限の時間になるため帰ることにした。

 

「外食ならいつでも付き合ってやるが、わざわざ俺の家に来てまで食事する必要性はないだろ」

 

「まーたそんなこと言っちゃって……本当は俺たちが来てくれて嬉しかったくせに」

 

「……そんなわけねぇだろ」

 

「今の間は何だ?今の間は」

 

(また始まった……)

 

一翔は食器の片付けを行い、その手伝いを今回は俊がやり、深生はテーブルでお茶を飲みながら休ませてもらっていた。

 

その後、俊と深生もそろそろ帰らなきゃいけない時間となったため、片付けを終えた後に2人も一翔の自宅を後にした。それを見送り、一翔はベランダの方へ足を運び、夜空を見上げながらお茶を飲む。

 

「はぁ……あまり他人と関わりを持つのは避けたかったが、こうなってしまった以上、何があっても俺がウルトラマンだってことは隠し通さなきゃな」

 

以前、俊が言ってたように、一翔は基本的に他人に対して素っ気ないが、それは自分がウルトラマンであることを隠すためや、それとは別の理由(・・・・)があるためなのだが、ORCや奏という例外も含めて俊たち4人とはかなりの関係を築いているため、改めて自分がウルトラマンであるという秘密は隠そうと一翔は思った。

 

「ま、少なくともあの女とは悪い関係が続きそうだがな……」

 

未だに自分を信用していない翼のことが頭に浮かび、思わずそう呟いた。

 

「とりあえず、シャワーだけでも浴びて寝るか……」

 

そう言って中へ入ろうとする一翔。

 

 

「ッ……?」

 

 

すると何かの気配を感じたのか、周囲を見渡し、空を見上げる。だが、何も変なことは起きていなかった。

 

「気のせいか……?」

 

そう思い、一翔は今度こそ中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、一翔は気づいていなかった。ほんの一瞬だが、空の一部が歪みかけていたことに……そして、その時にチビスケやジョリーたちが再び騒ぎ出していたことに……。




翼を嫌なキャラから開放させるのは、もう少し先かもしれないです……まぁ、嫌なキャラってのはそんなすぐには良い方向へ変わりはしませんしね(←自分で嫌なキャラに設定させておいて何を言っておるのやら)

ラスト、一翔は一体何の気配を感じていたのだろうか……


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16話 風鳴翼という“人間”について


今回も日常編になります。タイトルの割には翼は登場しません。翼という1人の“人間”について一翔と奏が語り合います

ただ、前半は翼とタイトルは関係無しに不穏な感じになってます……


翼と対決した翌日の放課後、一翔はORCの基地へとやってきていた。

 

「……またチビスケたちが騒ぎ出した?」

 

「あぁ、そうなんだ」

 

前回と同様、ここ1ヶ月間の海の状況を報告された後、またチビスケやジョリーが騒ぎ出したということを木戸たちから説明された。

 

「騒ぎ出してから1ヶ月間は大人しくしてたんだが、昨日の夜にまた騒ぎ出してな」

 

「……えっ?昨日の夜?」

 

「あぁ、昨日の夜に騒ぎ出したものだから、かといって水族館側も閉館してるし、一翔をわざわざ呼び出すわけにもいかないと思―――って、一翔?」

 

チビスケたちが昨日の夜に騒ぎ出したと聞いて、一翔は昨日の出来事―――翼と戦ったことを思い出した。

 

「……でも、戦ったってことくらいでチビスケたちが騒ぐもんか……?」

 

「一翔……何か心当たりがあるのか?」

 

「……へ?あ、いや……考えてみたんですけど、何も思い当たらなくて……すみません」

 

「いや、謝らなくていいさ。こっちだって、何の収穫も無しなんだ。ただ、これは僕の憶測なんだが……どうも何か不吉なことが起きる前触れのような気がするんだ」

 

なんとも神妙な表情をしながら、木戸はそう予感した。

 

 

 

 

 

それから数日、一翔は学校から帰った後に自室でチビスケたちが騒ぎ出した原因―――数日前の夜の出来事について思い返していた。

 

(あの日はノイズが現れ、その後に風鳴翼が現れ、俺は戦った。だが、本当にそれだけで騒ぎ出すものなのか……?)

 

さすがにそれだけではないと思い、もう一度あの日の出来事を思い返す。すると、翼と戦った際に起こったあの現象を思い出した。

 

「……そういえば、何回か激突した際に光が発生してたな。まさか、それでチビスケたちが……」

 

一翔の言う通り、あの日の夜の戦いで、翼と2回ほど激突した時、謎の光エネルギーが発生していた。その時は特に気にも留めていなかったのだが、今思うと恐らくそれが原因でチビスケたちが騒ぎ出したのだろうと一翔は推測する。

 

すると―――

 

 

ピンポーン

 

 

インターホンが鳴ったので、モニターで誰が来たのか確認する。

 

[よー、今いいか?]

 

「天羽か」

 

そこには変装中の奏の姿があり、一翔はドアのロックを解除して奏を中に入れる。

 

「わざわざ(ウチ)に来るなんて、どういう風の吹き回しだ?」

 

「んな固ぇこと言うなよ。それより、先日はあたしの相方が世話になったみてぇだな」

 

「……まさか、お前―――」

 

「あー、勘違いすんな。別に文句言いに来たとかじゃねぇよ。むしろ、ああしてくれた方が翼にはいい薬になったと思うぜ。まぁ、まだ考え方を改めてくれなさそうだけどよ……」

 

やれやれといった感じに話す奏。

 

「―――んで?文句言いに来たわけじゃないなら、何しに来たんだ?」

 

「なぁに、食事も兼ねて話すことがあるからさ、ちょっと付き合えよ」

 

「今からか?食事はともかく、話ならここでも聞くけど……?」

 

「ま、それもそうか……じゃあちょっとソファー借りるぜ」

 

そう言って奏はリビングのソファーに座り、一翔は反対側のソファーに座る。

 

ちなみに、なぜ奏が一翔の家を知っているのか……それは、初めて顔を合わせた後も何回か会うようになり、以前ファミレスで奢ってもらった借りを返そうと一翔自身が奏を自宅に招き、料理を振る舞ったことがあったからだ。

 

「それで、話すことってのは?」

 

「一翔、ここ1ヶ月間、ウルトラマンとしてノイズと戦ってきて、何か感じることはなかったか?」

 

「ノイズに関しては特に何もない、と言いたいところだが……最近のノイズは、どうも一筋縄ではいかなくなってきてる」

 

「―――というと?」

 

「光線技を避けたりだとか、ノイズ自身に学習能力が備わってきて、知能が発達してるような気がするんだ。あくまで俺の推測だが、どうにもそう考えざるを得ない」

 

「学習能力、ねぇ……」

 

一翔の言葉を聞いた奏は神妙な表情をし、持ってきていたノートパソコンを開き、キーボードを叩いてとある画像を見せる。それは地図であり、更にその地図には無数の点が表示されていた。

 

「これは?」

 

「ここ一月(ひとつき)で出現したノイズの箇所だ。避難警報が出ている場所とそうでない場所、それら全て含んで表示されてる」

 

「いや、さすがに多すぎやしないか……?」

 

奏の説明を聞き、そしてノイズ出現箇所を示す点の多さに一翔は驚きを通り越して無心になる。

 

「さっき、ノイズは学習能力でも備わってるんじゃないかって言ったよな?でもな、基本的にノイズってのは感情も知性も持たない、人間を襲うだけの化け物だ。そんな奴らが自力で学習すると思うか?」

 

「……まさか?」

 

「あぁ……ノイズは自力で学習能力を得たんじゃ(・・・・・・・・・・・・・)ない(・・)、学習能力を与えられた(・・・・・)んだ。つまり、これまでのノイズ出現は人為的なものなんだ。この前、お前さんが翼と戦う前に相手したノイズもその一部だ」

 

以前からノイズが手強くなってきたのは人為的なものであると聞かされ、改めて地図の点の数を見ると、奏の言うことは断言出来るだろう。

 

「……ということは、これまでのノイズ出現には黒幕がいると?」

 

「そういうことになるな。二課の方もそう判断してる……つってもまぁ、どういう奴かは今のところ、皆目検討もつか―――一翔?」

 

奏が説明していくが、一翔は右手で口元を抑えながら黙り込んでいた。

 

(……天羽の言うように、もし本当に黒幕がいるとしたら……そいつのせいで、これまでたくさんの人たちが犠牲になったんだ……!そして何よりも―――)

 

一翔は内心で、ノイズを使役してるであろう黒幕に対する、今までノイズの犠牲になった人たちがいることや、ある出来事(・・・・・)による黒い感情が芽生えていた。

 

(……何があろうと「なぁ」必ずそいつを見つけ出す……「おーい」そしてそいつを「おい一翔!」ッ!?な、何だ?天羽」

 

「いや、こっちが何だなんだけど……どうした?急に黙り込んだりしてよ……」

 

「あ、すまない……―――というか、前から気になっていたんだが、天羽のやってることは良くも悪くも情報漏洩―――バレたりしたら天羽がやばいんじゃ……?」

 

「なぁに、心配いらねぇよ。実はここだけの話、二課の情報を漏洩してるのがあたし以外にもいるんだ。しかも、その漏洩先は米国政府だ」

 

奏からそのような事実を伝えられた一翔は、なぜ奏が現在単独で動いているのかが分かった。

 

「なるほど……天羽はその内通者を炙り出すためにも、囮として敢えて一時的に戦線離脱したってことか」

 

「ははっ、また鋭いこと。ただまぁ、ここ一月のノイズ出現の黒幕が誰なのか皆目検討もつかんように、その黒幕が米国政府に情報漏洩してる内通者と同一人物なのか別人なのかも、今のところ分からずじまいだ。それに、あたしが情報漏洩したのがバレたらそれはそれでいいとしても、漏洩先の相手がまさかのウルトラマン本人だと知られたらどうなるか心配だ……」

 

「いや、心配なら初めから情報漏洩するなよ……―――まぁどの道、その黒幕と内通者がそれぞれ別人だとしても、そいつらはそいつらで手を組んでやってるってこともありうるな。だからどっちにしろ、何が何でも炙り出す他ねぇってことか……」

 

「そういうこと」

 

そう言って奏はノートパソコンを閉じる。

 

 

 

 

 

その後、一翔の自宅を出て、2人はお好み焼き屋『ふらわー』に赴き食事をすることにした。ここは響と未来の行きつけの店であり、それを聞いていた奏が今回の食事の場と選んだ。基本的に外食なら付き合う一翔も、響たちと何回か来たことがあるので、特に異を唱えることなく承諾した。

 

「いらっしゃい。おや?カズちゃんじゃないか。今日は4人と一緒じゃないのかい?」

 

「まぁ、今日は最近知り合った別の知り合いに誘われまして……2人の席、空いてます?」

 

「空いてるよ。どこでも好きなとこに座りな」

 

ふらわーの店主と思われるおばさんと軽いやり取りをし、空いてる席を見つけて2人でそこに座った。

 

「お前さん、ここの人と仲良いのか?」

 

「いや、立花たちに何回か誘われたことがあって、そうしていくうちに顔馴染みになっただけだよ」

 

「……響たちとよく来るのか?」

 

「あぁ、立花がよく前置きを無しにして突然誘ってくることもあるから、たまに困ることもあるけどな」

 

「ふぅ~ん……」

 

一翔の説明を聞いて、奏はどこか面白くなさそうな感じに生返事した。

 

 

 

 

 

それからメニューを注文し、運ばれてきたお好み焼きの生地を鉄板で焼いていきながら2人は雑談を交わしていた。

 

「そういや、先日はあたしの相方が世話になった件なんだが……一翔は翼のことをどう思ってる?」

 

「どうって……まぁ俺から見たらだが、一番自覚すべき点を自覚出来てない感じがするな」

 

「自覚出来てない点?」

 

「あぁ、風鳴翼は自分のことを、国を守るための防人―――剣として生きてきたって言ってな。だがな、誰だって初めから防人として、剣として生きている奴はいない。まぁ、何が言いたいかというと……風鳴翼は防人や剣である以前に、自分はただの人間なんだと自覚すべきなんだ」

 

一翔の言葉を聞いた奏は、一瞬呆気に取られる。

 

「そういったところをちゃんと自覚してない感じがするし、そんなんじゃ自分を防人や剣だなんて言えはしないってことさ。まぁ、あくまで俺の持論だけど……」

 

「……ただの人間であることを自覚か……フッ、そうかもな」

 

すると、言っていることを理解したのか知らないが小さく笑った。一翔は奏が笑ったことに疑問を持つが、敢えて何も聞かずに翼に対することを話した。

 

「まぁ、そこを自覚したところで、俺と風鳴翼との関係がどうこうなるわけでもないんだがな……」

 

「ははっ、そうかもな。でもよ、一翔……出来れば翼のことは悪く思わんでくれるとありがたい」

 

「急にどうした……?」

 

「あぁ、いやな……翼は今でも、お前のことを信用してないし認めてもねぇんだけどよ……あたしもな、2年前にお前と出会うよりもっと前だったら翼のようになってたかもしんねぇんだ」

 

「どういう意味だ?」

 

「まぁ、メシ屋に来てるわけだから、一部省略させてもらうと……翼がいなかったら、あたしもお前のことを目の敵にしていたかもしんねぇってことだ」

 

そう語ってくる奏に対し、一翔は黙ったまま耳を傾ける。

 

「でもな、翼と一緒に戦って、ツヴァイウィングとして一緒に歌って―――そうしていくうちに、ウルトラマンに対する敵対心もなくなっていってな。翼と一緒じゃなければ、あたしも今の翼くらいにガッチガチになってたかも、なっ!」

 

奏はそう語りながら、片面が焼き上がったお好み焼きをひっくり返した。

 

「だからな、今の翼はあんなだが、それでもあたしが変わるきっかけを作ってくれた人物でもあるわけだから、どうかあいつのことは嫌いになんないでやってほしい」

 

「……」

 

そう言われ、一翔は少しばかり考えた後、口を開く。

 

「……俺は風鳴翼がどんな人物だったのかは知らないが、少なくとも天羽の言う今の風鳴翼は苦手だ―――が、だからといって嫌いなわけではない」

 

そう答え、奏がひっくり返したお好み焼きの片面にソース、青のり、マヨネーズを手際よくかけていき、かつお節も手際よく盛り付けていく。

 

「そっか……ま、翼はああ見えて結構抜けてるところが多いからな。翼と素のお前さんと比べたら、一翔の方が日常生活において何でもそつなくこなせてるよ」

 

「別に俺と比べなくても……風鳴翼にも何かしらの欠点はあるだろうけど、俺とは比べ物にならないくらいそつなくこなせてるような気が―――」

 

「悪いが一翔、その逆だ」

 

「……へ?」

 

「実はな、翼は欠点が少なからずなんてレベルじゃないくらい欠点がありすぎなんだよ。女子力が0と言っても過言じゃない。部屋だって何も片付けられてない汚部屋だぜ」

 

「えぇ……」

 

奏から翼に関する話―――所謂衝撃な事実を伝えられ、一翔はいつも見ていた翼とは違いすぎる面があったことにドン引きしていた。しかも、奏は全くオブラートに包むことなく暴露していた。

 

「……俺が言うのも何だが、相方としてフォロー入れて説明してもいい気が……そもそも、俺は素の状態で風鳴翼に直接会ってるわけじゃないんだし……」

 

「いいや、こればかりは愚痴らせてもらわないとあたしの気が済まん。そもそもあいつは―――」

 

(……嫌いになんないでやってほしいって言う割には、実は意外と腹に据えかねてたんだな、今の風鳴翼の状態に……)

 

実は、一翔の思ってた以上に奏は今の翼の状態をよく思ってなかったようで、先程の話題を皮切りに相方に対する愚痴をこぼしていた。一翔は奏の愚痴を聞き流しながら、焼き上がったお好み焼きを半分に切って自分側と奏側の鉄板へ移す。

 

そして自分の分のお好み焼きを食べやすいサイズまで切った後、その一部を箸でぶっ刺して口へ運ぶ。最初の一口だけとはいえ、一翔はこういうところだけは相変わらず行儀が悪い……。

 

「―――そんでもってだな、あたしは……って、なに呑気に先にお好み焼き食ってやがる!」

 

「いや、食べないと焦げるし……天羽の方も食べねぇと焦げるぞ?」

 

「あー悪いな……―――じゃなくてっ!いやじゃなくもないんだが一翔、あたしの話聞いてなかったろ!?」

 

「いやいや、聞いてたよ。要するに、天羽は風鳴翼に一言“バーロー”って言いたいんだろ?」

 

「全然違ぁぁぁう!!いや違くもないし怒ってやりたいのもあるかもだが、そもそもそれはあたしの中の人のネタだ!!」

 

「自分で言うか?あとな、天羽―――」

 

「何だよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ここ、食事するところだってのを忘れるなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっ……」

 

一翔のその一言で奏は我に返り、周りを見渡す。すると、カウンターの方にいるおばさんと目が合い、ニッコリとした笑みを向けられる。

 

“次騒いだら出禁よ”という威圧を込められた笑みを……。

 

「ご、ごめんなさいぃ〜……」

 

それを向けられた奏は、ただそう謝るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、食事を終えて会計も済ませた2人はそれぞれ帰路についていた。ちなみに、今回は割り勘で会計した。

 

(まぁ、腹に据えかねているようではあったが、少なくとも天羽なりに風鳴翼のことを思ってくれてるようだな)

 

一翔はそう思いながら自宅へ足を運ぶ。すると、ジャケットの右ポケットに違和感を感じ、その中からブレスレットを取り出す。ノイズ出現を知らせる点滅をしていた。

 

「……腹ごなしに行くとするか」

 

そう言って、一翔は人目のつかない場所を見つけ、ブレスレットを装着して光となって現場へと向かっていった。




どうでもいいですが、一翔と奏がどうして割り勘にしたのかは皆さんの想像にお任せします

次回、ついにアグルの状態で一翔があの少女と出会い、そして……!?


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17話 ネフシュタンの鎧


1年近く待たせて申し訳ありませんでした

そして予め言っておきます。クリス推しの皆さん、ごめんなさい


奏との食事を終え、ノイズの出現を確認し、光となって現場へと向かう一翔。

 

その頃、二課では―――

 

 

「ノイズの出現を確認した!既にウルトラマンも向かってるだろうが、今回も翼と響くんで行ってもらう。ただし、決してチームプレイを崩さぬように!そしてウルトラマンと会した際は、彼と共闘してノイズを殲滅させることを最優先するように!」

 

「了解です!」

 

「……」

 

 

弦十郎の指示を聞き入れた響は気合いの入った返事をするが、翼は聞き入れたのかどうかも分からず、何も言わずに黙ったまま速足で指令室を出ていった。

 

「はぁ……まったく、やれやれとしか言えんな、今のあいつは……」

 

「あっ、えと……い、行ってきます!」

 

先程の翼の様子を見た弦十郎はため息を漏らしながら嘆き、響はオロオロしながらも翼の後を追うように指令室を出た。

 

「何かきっかけがない限り、翼さんは一生あのままになりそうですね」

 

「そうだな……せめて、あくまで二課の司令という立場としては、奏が戦線復帰してくれればいいんだが……あいつはあいつで、やるべきことをやってくれてるだろうから、無理に戦線復帰をせがむわけにもいかん」

 

「ですね。となると―――成り行きを見守るしかありませんね」

 

今の翼の状態に、弦十郎と慎次も不満はあるものの、ただ見てやることしか出来ないことに歯痒さを感じていた。

 

 

 

 

 

場所は変わり、ノイズ出現の場では、ウルトラマンが先に駆けつけており、戦闘を開始していた。

 

『デアッ!』

 

ウルトラマンは連続でノイズに蹴りを繰り出し、そしてノイズの動きが鈍ったところですかさずリキデイターを至近距離で放つ。

 

『ハァッ!』

 

そして、他のノイズが近づいてきたと同時に、ウルトラマンは上空へと飛んだ。しかしその後、1体のノイズに向けて降下し、その勢いを利用して飛び掛かり、そのまま回転投げに持ち込んだ。そして投げ飛ばされたノイズは他のノイズと激突し、その隙にリキデイターを放たれる。

 

(ノイズは痛みや疲れを感じることはないし、決して隙を見せねぇだろうから、なるべく攻撃の手を休めずに格闘戦で完全に動きを封じるしかねぇな……)

 

一翔は、これまでのノイズとの戦いを振り返り、回避能力を得たノイズに対抗するにはノイズの動きを封じなければならないと考え、まずは格闘戦に持ち込んでいくことにした。

 

(……前までは普通にパンチやキックの一撃でも倒せてはいたが、恐らくそれに対抗するために強度も増してるだろうからな)

 

そうも考え、今に至っているのだが、ノイズは増殖もするため、今のペースのままでは、ほんの数体倒せたとしても、この場の全てのノイズを殲滅させない限りは増えに増える一方だ。

 

『オゥラッ!オアッ!』

 

それでも、ウルトラマンはめげずに目の前にいる敵を倒していく。

 

『デェェアァッ!!』

 

さらに1体のノイズの足を掴んで何回も回し、ノイズが多く集まってる箇所へと投げ飛ばす。

 

『デェアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

そして怯んでる隙にフォトンクラッシャーを放った。

 

しかし、放ち終わったと同時に別のノイズがウルトラマンに体当りし、ウルトラマンは体制を崩してしまった。

 

(くっ……!これはちょっとやべぇかもな……)

 

さすがにこれ以上はキツくなると苦虫を噛んだその時―――

 

 

━━━千ノ落涙

 

 

『ッ……!』

 

上空からエネルギー剣が降り注ぎ、数十体のノイズを殲滅させた。

 

「やああああああああああ!!!!」

 

すると今度は叫び声がしたと思ったら、橙色に光る何かがノイズの群れへと降下し、1体ずつ次々と殲滅されていった。

 

「お久しぶりです、ウルトラマンさん!」

 

その何かの正体は、ガングニールを纏った響だった。その場のノイズ殲滅を確認すると、ウルトラマンに駆け寄ってくる。

 

「えっと、確かウルトラマンさんは言葉が通じるはずだから……まともにすることも出来なかったので、自己紹介します!私は立花響!15歳!誕生日は9月の13日で血液型はO型!身長はこの間の測定では157cm!体重は……これはさすがにウルトラマンさん相手に仲良くなっても教えるべきかは分かりませんが、とりあえず省きます!趣味は人助けで、好きなものはごはん&ごはん!あとは、彼氏いない歴は年齢と同じです!」

 

そして、ウルトラマンに対して元気よく自己紹介したのだが、突然自己紹介されたウルトラマン―――一翔は、こんな状況でも呑気に自己紹介してくる響に対して呆れながらも、いつもと変わらない感じに少しばかり感心していた。そして、ウルトラマンは立ち上がってからもう1人の方へ顔を向ける。

 

『さすがに今のこの状況で、この前のリベンジを果たそうなどとは無理があるぞ―――風鳴翼』

 

ウルトラマンに名前を呼ばれ、天羽々斬を纏っていた翼が姿を現してきた。

 

「……そのことだが、確かにこの状況では私たちが戦うのは無理がある。だから貴様や立花と共に、この場にいるノイズの殲滅を優先する」

 

『ほぉ……賢しい選択だ』

 

「勘違いするな。私はあくまで、司令の命令に従っただけだ」

 

そんなやり取りをしている2人だが、ウルトラマンは翼に対してのみテレパシーを送っているため、響から見ると翼が独り言を言ってるように見えてしまっていた。

 

「とにかく、不承不承ながら今回のような場合は貴方と共闘することに、と命令を受けている。決して貴様を認めたわけではないからな」

 

そう言い捨て、翼はノイズの方へ駆け出していった。

 

(何もそこまで釘を刺さなくていいものを……)

 

「え、えっと……翼さん、さっきから誰と話をして―――」

 

『立花響と言ったな』

 

「―――うええぇっ!?う、ウルトラマンさんが喋った!?」

 

響は、自分から見て独り言のように喋っていた翼のことを疑問に思っていると、ウルトラマンが次は響の方にテレパシーを送って語りかけてきた。当然、響にとっては初めてのため、結構なリアクションをしていた。

 

『風鳴翼にも説明したが、テレパシーを使って語りかけている。先程までは風鳴翼に対してのみだったから、お前には聞こえていなかっただけだ』

 

「へ、へぇ〜……すごいな、ウルトラマンさんって……やっぱり万能って感じが伝わってきます!」

 

ウルトラマンの能力に響は嘘偽りなく正直に称賛した。

 

しかし、ウルトラマンは先程の“万能”という言葉を聞いて―――

 

 

『決して万能ではないさ……』

 

 

「えっ?」

 

そう呟き、ウルトラマンも翼に続いてノイズの方へ駆け出す。

 

「あっ!わ、私も……!」

 

遅れて響が最後に駆け出し、3人でノイズ殲滅を開始した。

 

「ふんっ!はぁっ!」

 

翼は1体のノイズを斬り裂いた後、目の前に現れた別のノイズに対し、ほんの少しだが後退りした後にその別のノイズを斬り裂いた。今の翼は、ノイズを相手しているとはいえ、ウルトラマンから見ればまだ無駄な動きが少々見られがちである。しかし、以前よりは少しばかり改善されているようだ。

 

『デェアッ!オゥラッ!』

 

そして、ウルトラマンは相変わらずシャープでスマートな戦闘スタイルでノイズを翻弄、ノイズの動きが鈍ったところで光線技を放った。

 

そんな2人に対し、響は―――

 

 

「えいっ!この……やあっ!うわっ!?」

 

 

二課に所属して1ヶ月は過ぎている響なのだが、まともに戦闘訓練に参加することが出来なかったうえ、ウルトラマンに対する意見の食い違いによって翼から指導してもらえてなかったため、標的も定まらないまま拳を振るってるだけであり、ノイズからの攻撃を食らってしまうばかりだった。

 

(……さすがに見ていられねぇな……)

 

見かねたウルトラマンは、響のところへ駆け寄ってくる。

 

『手こずっているようだな、立花響』

 

「ウルトラマンさん……!」

 

『あまり無茶はするな。ここは俺が引き受けよう』

 

そう言って響の前に出て、スラッシュを何発も放ち、ノイズが怯んだところで格闘戦に持ち込んだ。そして、フォトンクラッシャーを放ち、ノイズを倒した。

 

「や、やっぱすごい……!もう語彙力が……!」

 

もはやどういう言葉を出したらいいのか、響はもう分からなくなっていた。

 

 

 

 

 

そして、翼とウルトラマンによってノイズはあっという間に殲滅された。

 

(いや雑だな)

 

一翔は思わず心の中でそう呟いた。

 

『この前やり合った時よりは動きに無駄がなくなったようだな、風鳴翼』

 

「ふん……認めたくはなかったが、確かに貴様の言う通り、あの時は無駄な動きが多すぎた。だが、これで貴様と互角になるための一歩は少なからず歩めたはずだ」

 

『そうか……。それと、立花響』

 

「は、はいっ!」

 

『見た感じ、お前はその鎧で戦うには日が浅く感じられる。敢えて悪い言い方をするが、そんな状態で来られてはさすがに足手まといだ』

 

「うっ……」

 

自覚していたとはいえ、ウルトラマンからそう言われたことで、響は何も言えない状態だった。しかし、響はそれでも思ったことを口にしようとする。

 

「……確かに、私はこのシンフォギアをまだ完全には使いこなせません……以前、翼さんからも半人前どころか3分の1人前だって言われました。それでも、翼さんや奏さんと同じ力を持ったからには、私だってやるべきことはちゃんとやりたいんです……!この力で、守るべきものを守りたいんです!だから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから?で、何だよ?」

 

 

「「ッ!?」」

 

(誰だ?)

 

突然その場に響いた謎の声。その声がした方向へ顔を向ける3人。

 

そこには3人に近づいてくる1つの人影があった。そして、雲に隠れていた月の光によって声の主の姿が露になった。

 

「そ、それは……ッ!!」

 

『風鳴翼、あれが何か分かるのか?』

 

声の主の姿を見た翼は絶句した。その様子を見たウルトラマンは疑問に思って翼に問う。その問いに答えたのかどうかは知らないが、翼は口にする。

 

「ネフシュタンの……鎧……!!」

 

(何!?あれが天羽の言ってた……?)

 

翼の口からネフシュタンの鎧という名前が出て、以前奏から聞いていたものが目の前にあることに驚愕するウルトラマン。

 

 

 

 

 

同時刻―――

 

 

「そんなバカな……!」

 

二課の指令室にて、モニターに表示されている『NEHUSHTAN』の文字を見て、弦十郎たちも驚愕のあまり目を見開いていた。

 

「現場に急行する!なんとしてでも、ネフシュタンの鎧を確保するんだ!」

 

弦十郎はそう言い、自ら現場へと赴いていった。

 

 

 

 

 

「へぇ……てことはあんた、この鎧の出自を知ってるんだ?」

 

鎧の人物はそんな翼に対して挑発的な笑みを浮かべる。

 

「当然よ。忘れもしない……私たちの不始末で奪われたそれを!」

 

(奪われた?そういえば、ネフシュタンの鎧がその後どうなったのかを聞いてなかったが……なるほど、その疑問が解けたぜ)

 

翼は鎧の人物を鋭く睨みながら言葉を発し、それを聞いたウルトラマンはネフシュタンの鎧が2年前の事件後どうなったのか知ることが出来た。

 

「私は二度と過ちを繰り返すわけにはいかない。なんとしてでもそれを返させてもらう!」

 

そう見得を切り、翼は刀を構える。

 

「……へっ、取り返せるもんなら取り返してみろよ」

 

対する鎧の人物は右手に杖のようなもの、左手には紫色に光る棘のある鞭を手に持って構える。

 

「ち、ちょっと待ってください翼さん!相手はノイズじゃなくて人です!同じ人間です!!」

 

それを見た響は翼を止めようとするが―――

 

 

 

「「戦場(いくさば)で何をバカなことをッ!?」」

 

 

 

翼だけでなく、鎧の人物にまで怒鳴られてしまった。

 

「うえぇっ!?」

 

(なんとなく気が合いそうだな、この2人)

 

響は2人から怒鳴られたことに思わず変な声を出してしまい、ウルトラマンは思わずハモってしまった2人を見て思わず呑気なことを心の中で呟いた。

 

「あなたとは気が合いそうね」

 

「だったら仲良くじゃれ合うかい!」

 

その直後に鎧の人物は3人めがけて鞭を振るう。

 

「ッ!」

 

『デヤッ!』

 

「わわっ!?」

 

翼はそれを跳躍して避け、ウルトラマンは響に鞭が当たらないように離れた場所へ押し飛ばしながら自身も跳躍することで回避した。

 

━━━蒼ノ一閃

 

翼は跳躍したまま青い斬撃を放つ。しかし、鎧の人物の振るう鞭によって簡単に弾かれてしまった。

 

「くっ!」

 

そのまま地上へ着地した翼は接近し、刀を振るう。だが、鎧の人物はそれを軽々と躱し、刀を鞭で絡めて受け止める。そしてガラ空きとなった翼の腹部に蹴りを入れる。

 

「がはっ!!」

 

思い切り蹴り飛ばされた翼だが、なんとか受け身を取って立ち上がる。

 

「言っておくが、ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよな?あたしのてっぺんは、まだまだこんなもんじゃねぇぞ?」

 

鎧の人物はそう言って今度は自分が跳躍し、そのまま翼に対して鞭を連続で振るって攻撃してくる。

 

「くっ、この!ぐあっ!?」

 

翼はなんとしてでも反撃の隙を伺おうとするが、死角からの鞭の攻撃を避けられずに受けてしまう。

 

(このままでは……ッ!!)

 

焦りが募り、冷静さが失われていく翼。

 

「もう一丁、これでどうかなぁ!!」

 

鎧の人物は鞭を大きく振るい、さらに強力な攻撃を翼に与えようとする。

 

(これが……ネフシュタンのポテンシャルなのか……)

 

思わず翼は目を閉じたまま身構えてしまう。

 

「翼さん!」

 

響は居ても立ってもいられずに思わず飛び出そうとする。

 

その時―――

 

 

『フッ』

 

 

突然速く動く何かが翼を抱きかかえ、鞭の攻撃を回避させた。

 

「なっ!?」

 

「あっ!」

 

突然の現象に鎧の人物と響は驚愕の声を上げる。

 

「どこに行った!」

 

鎧の人物は周辺を見渡す。すると背後から声がした。

 

『こいつにとっては不本意だろうが、さすがに見てられなかったのでな』

 

背後へ顔を向けると、なんとウルトラマンがそこにおり、翼を抱きかかえたまま立っていた。実は、鞭が当たる直前にウルトラマンが高速移動で翼を間一髪のところで救出していたのだ。

 

「うぅ……なっ、ウルトラマン……!?」

 

『何だ?今の動きは。まるでこの前戦った時に逆戻りしていたぞ?』

 

「や、やかましい……」

 

図星を突かれたのか、翼は歯ぎしりしてそう言い返す。すると、自分が今どういう状況になっているのか認識すると、急に顔が赤くなった。

 

「う、ウルトラマン!は、早く私を降ろしてくれ!」

 

『どうした?』

 

「どうしたじゃない!早くしてくれ!!」

 

突然顔を赤くしながら慌てふためく翼に疑問を感じるウルトラマン。

 

すると、それを見ていた響が―――

 

 

「すごい!ウルトラマンさんにお姫様抱っこされ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)()なんて、結構貴重な体験じゃないですか!」

 

 

―――と、ある意味で爆弾発言をかました。

 

そう、今の翼はウルトラマンに横抱き―――つまりお姫様抱っこという、女性のほとんどが憧れることをされていたのだ。

 

「う、うるさい立花!は、早く降ろしてくれウルトラマン!!」

 

『あ、あぁ……すまない』

 

ウルトラマンは謝罪の言葉をかけ、翼を降ろして立たせる。

 

(何で顔を赤くしてたのかよく分からんが、ちゃんと人間としての一面があったんだな)

 

赤面状態になった翼を見て、ウルトラマンは思わずそう感じた。

 

「ちっ、急な横槍を入れやがって……お前はお呼びじゃねぇんだよ!」

 

『横槍ってのは案外急に来るものでもあるだろう?それに―――立花響も言ってたように、いくら敵とはいえ、人と人が争うのなんて見ちゃいられない』

 

「言葉話せるのかよ……でもな、正体も分からんような奴に人間同士の争いにとやかく言われる筋合いもねぇんだよ!!」

 

そう吐き捨てた鎧の人物はウルトラマンに向けて鞭を振るう。ウルトラマンはそれを難なく躱し、スラッシュを放って鞭の攻撃を防ぐ。

 

「ウルトラマンさん!」

 

「おっと、お前もお呼びじゃないんだよ。こいつらの相手でもしてな!」

 

響は思わず再び飛び出そうとすると、鎧の人物は左手に持っていた杖を響に向ける。すると杖の先端が発光して光が放たれた。

 

そして、放たれた光の中から―――

 

 

「うそっ!?ノイズ!?」

 

 

なんとノイズが4体も出現した。ダチョウのような形をしたダチョウ型ノイズだ。

 

『ッ!?』

 

それを見たウルトラマンは驚愕する。そして、ウルトラマンに変身している一翔の脳裏にあるものが浮かんでいた。

 

 

 

───ノイズは自力で学習能力を得たんじゃない、学習能力を与えられたんだ。つまり、これまでのノイズ出現は人為的なものなんだ

 

 

 

奏から伝えられたこれまでのノイズ出現―――それは人為的によって起こされたもの。その言葉が脳裏に浮かんでいた。

 

そして、一翔の脳裏には別のあるものが浮かんでいた。

 

「ノイズが操られてる!?どうして!?」

 

「そいつがこの『ソロモンの杖』の力なのさ!雑魚は雑魚らしく、ノイズとでも戯れてな!』

 

ノイズを操るというソロモンの杖。その力に目を見開く響。一方、ウルトラマンは立ったまま俯いていた。

 

「お前はなにボーッと突っ立ってやがる!」

 

それを見た鎧の人物はウルトラマンへと鞭を振るう。しかし、ウルトラマンは鞭の攻撃をそのまま受け、吹き飛ばされて倒れてしまい、動かなくなった。

 

「んだよ、あっけねぇな。ちったぁやり合えるもんだと期待してたのによ」

 

鎧の人物はウルトラマンがあっけなくやられたことで軽蔑の視線を向ける。

 

「ウルトラマンさん!くっ……えええい!!」

 

響はそれでも果敢にノイズに挑もうとするが、4体のダチョウ型ノイズは口から粘液を吐き出し、響を拘束した。

 

「うわあああっ!?」

 

「ふん、これなら手も足も出まい」

 

拘束されてる響を見て鎧の人物は余裕そうに呟く。

 

「そいつらにかまけて、私を忘れたかッ!」

 

「ッ!?」

 

鎧の人物が油断してる隙を突こうと、翼は回し蹴りを繰り出し、両脚部の展開したブレードを振るう。だが、鎧の人物も負けじとその脚を鞭で受け止め、啖呵を返す。

 

「この……お高く止まるなッ!!」

 

鎧の人物はブレードを受け止めたまま翼の足を掴み、力任せに放り投げた。

 

「ぐあああああっ!!!」

 

放り投げられた勢いで地面に叩きつけられた翼。鎧の人物は跳躍し、翼の元へ着地するとその頭を踏みつけた。

 

「のぼせ上がるな人気者!誰もかれもが構ってくれるなどと思うんじゃねぇ!!」

 

翼を見下しながらそう罵り、拘束されてる響とまだ倒れたままのウルトラマンを見ながら言った。

 

「この場の主役と勘違いしてるなら教えてやる。狙いは端っからそいつと、そこで倒れてる奴を掻っ攫うことだ」

 

「え……私、たち……?」

 

「何だと……!?」

 

「あのオレンジの奴はともかく、ウルトラマンはかなりの強さを持ってるもんだと思って警戒はしていたが―――とんだ期待外れだぜ。まぁ、お陰でスムーズに事が進んだけどよ」

 

鎧の人物は不敵に笑い、再び翼を見下した後、後退りする。

 

「ということだから、さっさとあんたを片付けて、あいつらを掻っ攫っていくとしようか」

 

「くっ……!」

 

鎧の人物は鞭を構え、翼に迫ろうとする。翼はなんとか立ち上がろうとするが、力が入らない。

 

「ほぉ……まだ立ち上がろうとするかい」

 

「言ったはずだ……二度と過ちを繰り返すわけにはいかないと……!ここで倒れるわけには―――……はっ!」

 

「あん?」

 

立ち上がろうとした翼が鎧の人物を―――というよりは鎧の人物の背後(・・)を見て目を見開いた。その様子に疑問を持った鎧の人物も後ろを振り向く。

 

「なっ!?」

 

それを見た鎧の人物はたじろいだ。

 

なぜなら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オォアアアアァァァ……!』

 

さっきまで倒れていたはずのウルトラマンが立ち上がっており、フォトンクラッシャーを放つ構えをしていたのだ。

 

『デェアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

そしてフォトンクラッシャーを鎧の人物めがけて放った。

 

「やばい!」

 

すかさず鎧の人物はソロモンの杖をかざし、ノイズを出現させて盾にし、フォトンクラッシャーの直撃から逃れた。

 

「ウルトラマンさん!」

 

拘束されたままの響はウルトラマンが立ち上がったことに歓喜の声を上げる。すると、ウルトラマンは響を拘束させたダチョウ型ノイズにリキデイターを放ち、それを受けたダチョウ型ノイズは炭化した。さらにスラッシュを数発放ち、響を拘束している粘液を取り払った。

 

『……』

 

そして鎧の人物の方へ向き直り、ゆっくりと歩みながら近づこうとする。

 

「けっ!あっけなくやられたくせに余裕ぶるな!」

 

そう言い放ち、鞭を何回も振るってウルトラマンを攻撃する。しかし、先程と違い何度攻撃を受けてもウルトラマンはものともせず、鎧の人物と距離を詰めようとする。

 

「な、なんなんだよ!さっきはあっけなくやられたのに、なんで急に頑丈になるんだよ!!」

 

さっきまでの様子と違うことに焦るが、それでも鞭を振るってウルトラマンの動きを封じようとするが、全く止まる様子がない。ウルトラマンはさらに距離を詰める。

 

「く、来るな……!来るなぁ!!」

 

さすがに恐怖を感じたのか、今度はソロモンの杖を前にかざして再びダチョウ型ノイズを出現させ、粘液で拘束させる。

 

『オアッ……』

 

さすがのウルトラマンも動きが止まり、ダチョウ型ノイズはウルトラマンを囲む。

 

しかし―――

 

 

『ハアアァァァァァァァ……!!』

 

 

ウルトラマンが両腕をクロスすると、彼の周りに青い光の粒子が集まってくる。

 

『デヤアアァァッ!!』

 

そして両腕を振り抜くと、拘束させていた粘液が弾かれていき、その衝撃でダチョウ型ノイズは吹き飛ばされた。

 

「嘘だろ……!?」

 

それを見た鎧の人物の恐怖心が募り始め、体が震え始めた。

 

そして、瞬きしたその瞬間―――

 

 

『デアッ!』

 

 

高速移動で一瞬のうちに鎧の人物の間合いに入ったウルトラマンは腹部を思いきり殴り、鎧の人物を吹き飛ばした。

 

「ぐはぁっ!?」

 

殴り飛ばされた鎧の人物は地面にバウンドしながら叩きつけられた。

 

「くそっ!」

 

腹部を押さえながらなんとか立ち上がると、既にウルトラマンは背後にいた。

 

「しまっ―――!?がぁっ!!」

 

しかし反応が遅れてしまい、パンチの連打を背中で受けてしまい、さらに蹴りを入れられうつ伏せになって倒れる。

 

ウルトラマンは高速移動し、うつ伏せのままの鎧の人物の両足を持ち上げ、何回も回して空中へ投げ飛ばした。

 

「くっ、このぉ……!」

 

鎧の人物はなんとか力を振り絞り、ウルトラマンめがけて鞭を振るう。だが、ウルトラマンはそれを片手でキャッチして引き寄せる。

 

「うわぁ!?ま、待ってくれぇ!!」

 

引き寄せられた鎧の人物は思わずそう懇願するも、それは叶わずウルトラマンとの距離が縮まったと同時に強烈なカウンターキックを食らった。

 

「やっぱりすごい……ウルトラマンさんはとても強い……!でも、なんだか……怖い……」

 

先程まで翼が苦戦していた相手を追い詰めていくウルトラマンを見た響は改めて彼の強さを絶賛するも、鎧の人物と同様に彼に対する恐怖をも感じ始めていた。

 

「うっ、うぅ……!」

 

ネフシュタンの鎧のお陰でダメージは軽減されてるが、立て続けにウルトラマンからの攻撃を受け続けたことで、鎧の人物は上半身を起こすだけでもやっとだった。

 

『お前が……』

 

「ひぃっ!」

 

ウルトラマンは再びゆっくりと歩み始め、それに対し鎧の人物は逃げようとするも、恐怖で体が思うように動けなかった。

 

『お前が……お前が……お前が……!』

 

ウルトラマンは同じ言葉を何度も繰り返し、鎧の人物に歩み寄る。

 

『お前が……これまで多くの人たちの命を奪ったノイズを操っていた黒幕か……!!』

 

そして、怒りと憎しみに満ちた声でそう言い放つ。

 

そう、ウルトラマン―――一翔は以前、奏からノイズ出現は人為的であるということを聞かされていた。そして、つい先程に鎧の人物がソロモンの杖でノイズを操っていた。

 

つまり、これまでのノイズ出現は、今自分の目の前にいるネフシュタンの鎧を纏っている人物によるものだと確信したのだ。

 

『お前のせいで……罪のない多くの人たちが命を落としたんだ……!それによって、他にも多くの人が悲しみ、さらには多くの人が酷い目に遭った……!お前さえ……お前さえいなければ……!』

 

そう言ってウルトラマンは右手にブレードを生成する。

 

 

 

そして、ブレードを天に掲げてから斬り裂こうとしていた。





改めて、クリス推しの皆さん、本当にごめんなさい

いくら人間とは戦いたくない一翔でも、ノイズを操っているのなら話は別というような感じでボコボコにさせてしまいました

それと、アンケートの件ですが、投票していただきありがとうございました。ただ、個人的な事情でしばらくは同票のままにしておきますので、どうかご了承ください


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18話 絶唱

『お前のせいで……罪のない多くの人たちが命を落としたんだ……!それによって、他にも多くの人が悲しみ、さらには多くの人が酷い目に遭った……!お前さえ……お前さえいなければ……!』

 

これまでのノイズ出現の原因が、目の前にいるネフシュタンの鎧を纏った人物であることを知ったウルトラマンは、今まで多くの人間がノイズによって命を奪われたことに対する怒りと憎しみを露にし、右手に生成したブレードを天に掲げる。

 

『お前にも、その計り知れないほどの痛みを味合わせてやる……!』

 

そう吐き捨て、ブレードが生成されてる右手を大きく振り被る。

 

『お前を今、ここでこr―――ッ!!』

 

そして鎧の人物に向けてブレードを振り下ろして斬りかかろうとする―――が、ブレードが鎧の人物に当たる直前に寸止めした。

 

なぜなら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……あぁ……や、やだ……やめて、くれ……やめて……」

 

 

鎧の人物は先程までウルトラマンからの攻撃を食らい続けたために、彼に対する恐怖が頂点に達してしまい、完全に怯えていた。そして、バイザー越しに見えるその目から涙が流れ、鎧の人物の頬に伝っていた。

 

(俺は……さっき、何を考えていた……!?)

 

それを見たウルトラマン―――一翔は我に返ったように、先程までの自分の行動を振り返った。

 

目の前の鎧の人物は、ソロモンの杖を使いノイズを操っていた。それはつまり、これまでのノイズ出現は鎧の人物によるものであり、それを知るや否や、怒りと憎しみを糧にして自分は鎧の人物を徹底的に懲らしめた挙げ句―――

 

 

(俺は……ノイズを操ってる黒幕とはいえ、立花が言ってたように人間であるこいつを―――殺そうとした……!!)

 

 

一翔は人間と戦いたくないうえ、愚かな部分が多くても人間の命は奪わないことを信条にウルトラマンとして戦ってきた。しかし、先程まで怒りと憎しみに心を支配され、危うく人間の命を奪うところだった。

 

そのことに気づき、ウルトラマンはブレードを戻し、右手を降ろした。

 

『す、すまない……俺は―――』

 

「くっ……おらぁっ!」

 

ウルトラマンが斬り掛からなくなったことで、鎧の人物はその隙を突いて鞭を振るい、ウルトラマンの体を鞭で巻き付けた。

 

『オアッ……!』

 

「へ、へへ……殺意マシマシだったくせに、急に大人しくなりやがって……まぁいい、さっきやられた分を倍返しさせてもらうぜ……!」

 

鎧の人物はまだ恐怖心が残るものの、気力を振り絞ってソロモンの杖をウルトラマンに向ける。ウルトラマンは先程の動揺からか、自身を巻き付けている鞭を剥がそうとするも上手く力が入らずにいた。

 

「そんじゃ、次はこっちの番―――ッ!な、何だ!?う、動かねぇ!?」

 

ソロモンの杖をウルトラマンに向けながら言いかけると、急に自身の体が動かなくなってしまった。

 

「―――倍返しというのなら、私もそうさせてもらう」

 

すると、いつの間にか鎧の人物の背後に回り込んでいた翼が、鎧の人物の影に向けて小刀を投擲し、突き刺すことで動きを封じていた。標的の影に短刀や手裏剣を刺して身動きを止める忍の術である『影縫い』だ。それにより鎧の人物は身動きが取れなくなり、ウルトラマンを巻き付けていた鞭の力が弱まったことで、その隙にウルトラマンは鞭を振り払って抜け出した。

 

『……すまない、風鳴翼。助かった』

 

「ふん、これで借りは1つ返したからな。さぁ、次は貴方よ……付き合ってもらう、地獄の果まで!」

 

「ッ!まさか、歌うのか―――絶唱を!」

 

(ぜっしょう……?)

 

背後にいる翼が何をするのか理解した鎧の人物がそう叫び、そんな鎧の人物の口から出た聞き慣れない言葉に疑問を浮かべるウルトラマン。

 

「翼さん、それって……!」

 

響は絶唱という言葉を聞いて焦り出した。そんな響の方へ翼は顔を向ける。

 

「防人の生き様、覚悟を見せてあげる……貴方のその胸に、焼き付けなさい!」

 

そして、響の方からすぐに鎧の人物の正面へやって来てそちらに視線を移しながら豪語し、手に持っていた刀を天高く掲げて、翼はゆっくりと唱え始める。

 

 

━━━Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 

「クソッ!動けぇ……ッ!」

 

鎧の人物は必死に動こうとするも、全くそれは叶わずにいた。

 

 

━━━Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl

 

 

天高く掲げていた刀を収めた翼はゆっくりと鎧の人物に近寄り、絶唱を歌い切ったと同時に鎧の人物に密着した。

 

その直後、翼を中心に強力な衝撃波が巻き起こり、その場にいた全てを吹き飛ばそうとする。

 

「うぅっ!」

 

『(立花……!)デヤッ!』

 

ウルトラマンは衝撃で吹き飛ばされそうになっていた響の前に高速移動で駆け寄り、サークル状のバリヤーを展開して響を守りながら耐えていた。

 

「うわああああああああっ!!!!」

 

しかし、鎧の人物は影縫いで動きを封じられたうえ、ほぼゼロ距離からだったため、防御することも出来ずに絶唱を食らい、悲鳴を上げていくうちにネフシュタンの鎧やバイザーにヒビが入っていった。

 

そして、衝撃により影に突き刺さっていた小刀が吹き飛ばされたことで影縫いが解け、鎧の人物もついに吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

「ぐっ……!うぅっ……!がはっ!!」

 

吹き飛ばされた鎧の人物はその先々にあった木々をなぎ倒し、ネフシュタンの鎧にさらに傷が入り、近くの水辺に突っ込んだことでようやく止まった。

 

ウルトラマンの攻撃に加え、ほぼゼロ距離からの絶唱を食らったことで、鎧の人物の体を鈍い痛みが襲う。

 

「あっ、あぁ……ッ!あぅあ……ッ!」

 

すると突然、鎧の人物の顔が歪み、苦悶の声を漏らし始めた。どうやらネフシュタンの鎧が自己修復を始めたようだ。その際、鎧の人物の体を侵食する痛みが伴ったらしい。

 

「はぁ、はぁ……くそっ!ネフシュタンの本気も出せないままやられちまった……!この借りは―――必ず返すッ!!」

 

なんとか立ち上がりながらそう吐き捨て、誰にも見つからないうちに鎧の人物はその場から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……大丈夫か?立花響』

 

絶唱による衝撃も収まり、ウルトラマンはバリヤーを解除して響の安否を確認する。

 

「あっ、はい!大丈夫です!ウルトラマンさんのお陰で無事です!」

 

ウルトラマンからの問いに響は答えると、ライフゲージが赤になって音を鳴らしながら点滅しているのが目に入った。

 

「あっ……もしかして、それって危険信号ってやつじゃ……!」

 

『……まぁ、確かにそうだが、このくらいのテンポならまだ少しは余裕だ。それより、ぜっしょうとやらを行った風鳴翼はどうなった?』

 

「ッ!そうだ……翼さーん!!」

 

ウルトラマンが翼の名を出したことで響は思い出し、翼が絶唱を行った場所へ向かう。

 

そこにはクレーターが出来ており、その中心に翼は立っていた。

 

「翼さーん!!うわっ!?」

 

翼の名を叫びながら駆け寄ろうとした響はクレーターの凸凹に躓き転んでしまった。するとそこへ、1台の黒い車が響の横を通り抜け、急ブレーキが掛かったと同時にドアが開いて中から弦十郎が出てきた。

 

「無事か!?翼!!」

 

弦十郎は険しい表情をしながら翼が無事かどうか確かめようとする。

 

「私とて、人類守護の使命を果たす防人……」

 

その呼びかけに応えるように、そう呟きながら翼はゆっくりと振り返ると―――

 

 

「こんなところで、折れる剣じゃありません……」

 

 

ボロボロになったシンフォギア、足元には真っ赤な血溜まり、そして虚ろな目をしながら両目と口から血を流している翼の姿が露わになった。

 

「あっ、あぁ……!」

 

起き上がった響は完全に直視してしまい、ショックのあまり瞳が揺らいでいた。

 

そして、翼はそのまま糸が切れた人形のように地面に倒れかける。

 

すると―――

 

 

『なんて無茶なことを……』

 

 

ウルトラマンが高速移動で間一髪のところで抱き留め、ゆっくりと翼を地面に仰向けで寝かせる。

 

「……ウルトラマン……」

 

『待ってろ、今ヒーリングでお前の傷を―――』

 

「……いや、しないでくれ……」

 

ウルトラマンは少し距離を離してヒーリングを放とうとするが、翼は手を突き出して待ったをかける。

 

「……私の、防人としての覚悟が……無駄に、なる……」

 

最後にそう呟き、翼は完全に力が抜けてしまい、突き出していた手も地面に落ちてしまった。

 

(そんな状態で見栄を張るなよ……)

 

ウルトラマンはヒーリングを放つ構えを解きながらそう思っていた。

 

『……すまないが、俺はここで失礼する』

 

「むっ!言葉が話せるのか!?」

 

『詳しいことは立花響に聞いておいてくれ……』

 

そう言い残し、ウルトラマンは光となってその場を後にし、消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、翼はリディアンのすぐ側に隣接する総合病院に運ばれた。医師によれば、幸いにも一命は取り留めたものの、まだ予断の許されない状態にあるようだった。

 

「ふむ、彼はテレパシーを使って相手に語りかけてくるというのだな?」

 

「……はい。たぶん、ウルトラマンさん次第では複数人にも同時にテレパシーを送ることが出来るみたいです……」

 

「なるほど……今後はウルトラマンとは本格的にコミュニケーションを取ることが可能かもしれないな」

 

翼の診断結果を聞いた後、待合室にて、弦十郎はウルトラマンが言葉を発したことについて響に問い質しており、彼はテレパシーを使うことで意思疎通を行うということを響は教えた。

 

「教えてくれてありがとう、響くん。さて―――」

 

ウルトラマンのテレパシーについて教えてくれた響に礼を言った後、弦十郎は二課のスタッフである複数人の黒服の男性たちの方へ向き直る。

 

「これより、ネフシュタンの鎧の行方を追跡する!どんな小さい手がかりでも見落とすな!」

 

弦十郎の号令と共に、黒服の男性たちは外へと出ていく。そして弦十郎もその後に続くように外へと出ていった。

 

弦十郎たちが出ていったことで、待合室で1人になった響は、ソファーに座ったまま俯いていた。

 

「……私がもっと強ければ、こんなことには……」

 

翼が絶唱をしてボロボロになってしまったのは自分が弱かったからだと思い込み、響は段々と自責の念に駆られ始めていく。

 

そこへ―――

 

 

「響さんが気に病む必要はありませんよ。命に別条はなかったんですし、それに―――絶唱は翼さんが自ら望み、歌ったんですから」

 

「緒川さん……」

 

 

端末を自販機にかざして飲み物を買っている慎次が声をかけてきた。

 

「絶唱は装者の負荷を省みずにシンフォギアの力を限界以上に解放する歌……その説明は既に聞いていると思いますが、それがどれほど恐ろしいものなのか、実際に見て判ったでしょう?」

 

「……はい」

 

「ですが、先程も言ったように、決して響さんが気に病む必要はありませんから、そんなに気を落とさないでください」

 

“響が気に病む必要はない”という慎次からの励ましの言葉をもらうものの、響は俯いたままだった。

 

「……突然ですが、響さんは翼さんのことをどう思っていますか?」

 

「えっ……?えっとぉ……翼さんは私にとっては憧れの人です。同じツヴァイウィングの奏さんと同じようにアーティストとして、そしてシンフォギア装者として……」

 

慎次からの問いに響は嘘偽りなく正直に答えるが、それを聞いた慎次は―――

 

 

「では、“今”の翼さんについてはどう思っていますか?」

 

 

―――と、“今”という部分を少し強調させて響にもう一度質問する。

 

「い、今の翼さんって……どういう意味ですか?」

 

「……この際だからはっきり言わせていただくと、少なくとも僕は―――いや、奏さんも含め僕ら二課の職員ほぼ全員からすれば、今の翼さんに対する評価はあまりよろしくない感じです。ウルトラマンに対する意見の食い違いが起こっただけならまだしも、仲間に刃を向けたり、先輩として指導しなかったりと、色々と……」

 

「あっ……!」

 

慎次のその言葉を聞いて、響は察した。自分と翼はウルトラマンに対する意見の食い違いによって対立状態になっていることを。といっても、翼が一方的に響を拒絶してるだけなのだが……。

 

それでも響は決して翼を拒むことなく共に戦場に赴くことがあるのだが、それでも今の翼に対して響は実際どう思ってるのかと慎次は問い質してきたのだ。

 

「僕らは正直不安でした。翼さんから一方的に拒絶され、もしこのままの状態が続けば響さんが嫌な思いをし続けるんじゃないかと……でも響さんは、あの時から変わらず翼さんと一緒に戦おうとしている。しかしその度に翼さんから拒絶され続けている……そんな状態が続いて、響さんは実際どんな心境なのか不安でして……」

 

慎次のそれは二課の職員ほぼ全員の心情と取ってもいい言葉だった。決して翼を邪険にするわけではないが、それでも今の翼に対する評価はよろしくないため、そんな翼と響を同じ戦場に行かせることは見ていられなかったからだ。

 

「……確かに、あの時は刃を向けられたり、この1ヶ月間は指導させてもらえなかったりと……奏さんが何かとフォローしてくれましたけど、それでも何度か心が折れそうになりました……」

 

そう声を発する響はまだ俯いたままだったが、意を決したように表情を引き締めて顔を上げた。

 

「……でも、私はそれでも、翼さんと一緒に戦いたいです。今は翼さんから拒絶されたままでも、いつかきっと一緒に戦えるって……!だって私たちは、同じ仲間なんですから!」

 

響の自分なりに考えて出した答えを聞き、慎次は微笑んだ。

 

「そうですか……響さんは強いですね。翼さんに一方的に拒絶されても、それでも翼さんと一緒に戦いたいなんて考えてくれてるなんて」

 

慎次はそう称賛し、先程購入した飲み物を一口飲み込んでからもう一度口を開く。

 

「……でも、僕らも概ね響さんとは同意見です。先程、評価はよろしくないと言いましたが、それでも同じ二課の仲間ですから、決して翼さんを邪険に扱うつもりはありません。なので響さん、その想いが届くのはまだまだ先かもしれませんけど、それでも必ず翼さんに届きますから、翼さんに対するその想いは決して忘れないでいてください」

 

「……はい!」

 

慎次からのお願いに対して響は間を置きながらも力強く返事した。




原作での緒川さんの“嫌いにならないでください”というセリフですが、既に奏に言わせてしまったため、どんな感じのセリフを言わせたらいいかと考えたんですが、いい感じに伝えられただろうか……


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