契約者達への鎮魂歌 -Re.birth- (渚のグレイズ)
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第一章 Re.birth
K.K.の日常 -普段通りの朝の光景-


お待たせ致しましたァ!!!

Re.birthこれよりスタートです!

リメイクに乗じて少し設定とかも変更しております。


それでは、どうぞ御堪能ください………


最近、目が覚める時

この身体が、自分の物ではないような

そんな錯覚に陥る

 

「───────んー」

 

寝起きで回転の悪い頭を起こしつつ、右手を見る。

開いて。

閉じて。

開いて。

閉じて………

 

大丈夫そうだ。さて、お次は左───

 

「──────あ」

 

そうだ。忘れてた。

左腕は昨晩、簡易メンテナンスを行ってからそのまんまだったから作業机の上じゃん。

 

「・・・・めんど」

 

ぼやきながらも、俺はベッドから出る。

きしり、と音を立てて()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「こっちもメンテしないとなぁ・・・・」

 

前回のメンテからそろそろ一年が経つ。あちこちガタが来ていてもおかしくない。というか、俺の扱いがわりと雑だから、関節部とか磨耗してるだろ、絶対。

 

「さて、と」

 

寝間着代わりの半袖プリントTシャツ(でかでかとEXTRAという文字が書かれている、俺のお気に入りだ)を脱ぎ、机の上の左腕を取り付ける。

 

「ん・・・・・よし!」

 

各部正常に稼働中。

問題は特にないっぽいな・・・

 

「さて、今日も今日とて、頑張るゼェ~っと!」

 

背伸びをしながら、俺───煌月輝夜は気合いの一言を叫ぶのだった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「おはようマッキー」

「はい。おはようございます、坊っちゃん」

 

指定の学ランに着替え、鞄を持って二階の寝室から降りてリビングに向かうと、金髪とんがり頭の青年がテーブルに食事を並べていた。

彼の名は、布堂幕切。

家の使用人にして、学校の教師だ。

 

「今日の献立はうどんですよ」

「良いね。梅干し持ってきたから、これも」

「おや、それは良いですね」

 

俺は趣味で梅干しを漬けている。

級友からは「渋い」とか「おじいちゃんみたい」とか散々な言われようだが、そんな連中には俺の梅干しを食わせて黙らせている。

俺の梅干しは絶品なので、一口食えば大抵の奴は虜になる。

 

「俺チャンの絶品梅干し~~♪」

「自分で絶品と言い切る辺り、坊っちゃんらしいですよね」

「実際問題、市販の梅干しよりも旨いだろ?」

「ですから、否定してないじゃあないですか」

「それもそうか」

 

と、こんな感じで、二人だけの食事は進む。

両親は居ない。別に他界してる訳じゃあ無い。離れて暮らしているだけだ。元々この家はばっちゃ──祖母の家で、中学校に通う都合で今も住まわせて貰っている。

そんなばっちゃは一昨年の六月に他界。享年九十一歳。

死ぬ直前までいつも通りにガーデニングしていた事から、大往生だったに違いない。・・・・・・・大往生の意味、合ってるよな?

 

「ふう・・・ごちそうさまでした!」

「ごちそうさまでした・・・・今日は早いですね?」

「勝負の日・・・・だからな!」(キリッ

 

そう・・・・今日は勝負の日なのだ。

こうしちゃいられん。早くしねーと先を越される。

鞄を抱え、玄関へと走る。

 

「んじゃ!いってきます!!」

「はい、いってらっしゃい。また後程学校で」

 

マッキーに軽く手を振って、俺は家を飛び出した。

 

―――――――――――†――――――――――

 

家を出た俺が向かったのは学校、ではなく隣の家。

軋む両足で駆け込むと、玄関口には先客が居た。

艶やかな黒髪を肩口から前に垂らしているその先客は、駆け込んできた俺に気付くと、乗っている車椅子を動かして、こちらに向き直り挨拶してきた。

 

「───あら、お早う輝夜くん♪」

「おはよう。相変わらずはえーな、東郷」

 

彼女は東郷美森。

もう一軒隣の家に去年の三月に越して来て以来、何かと一緒につるんでいる。

 

「その調子だと、今日も俺の負けか・・・・車椅子生活の身の上で、毎朝五時半起きの俺より早いとは・・・・どんな秘訣があるというのか・・・・」

「なんて事はないわ。私、いつも四時には起きているだけだもの」

「単純に俺よりも早起きなだけだった!?」

 

割りと衝撃の事実に驚愕していると、玄関が開き中から赤髪の少女が出てくる。

 

「それじゃ、いってきまーす!」

「おはよう、友奈ちゃん♪」

「おっす、友奈」

「あ!おはよー、東郷さん、かぐやちゃん♪」

 

彼女の名は結城友奈。

俺の幼馴染にして、一番の友人。

 

「お前、まぁーた東郷に起こして貰っただろ?」

「う゛っ!?ソンナコトナイヨー」

「片言だぞ。おめぇそんなんで大丈夫かよ・・・・」

「前にも言ったけど、責任は取るわよ?」

「下手な男よりも男らしい台詞をありがとよ!!」

 

そんな感じで駄弁っていると、東郷がお世話になっているデイサービスの送迎車がやって来た。友奈と協力し東郷を乗せつつ、俺たちもついでに乗せて貰い、学校へ向かうのだった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「おーっす、煌月!この前借りたマンガ、返すぞ~」

 

教室に着いて早々、後ろの席の半田がこの間貸したマンガを返しにきた。

 

「うっす。どうだった?」

「まさか三十五話のゲストがレギュラーキャラになるとは思ってもみなかった」

「なんか、めっちゃ人気で再登場を希望する声が多かったらしいぜ」

「あー、なんとなく分かる。健気な努力家な女の子って、それだけでも応援したくなるからなー」

「なになに?何の話ー?」

 

そこに友奈と東郷が加わる。

言い忘れていたが、この二人とはクラスも同じなのだ。

 

「これ」

「おー、『デストピア・サーガ』!!今何巻まで出てたっけ?」

「確か、四十二巻・・・だったかな」

「随分と多いわね・・・・」

「東郷も読むか?貸すぞ」

「横文字は結構です」

「ブレねぇ奴」

 

相変わらずの護国思想に辟易していると、それまで沈黙していた半田が唐突に大声を上げる。

 

「おっ↑お早う御座います結城さん、東郷さん!!本日はお日柄も良く、絶好の運動日和ですね↑!!」

 

めっちゃ声上擦ってやがるwwww

 

「おはよ、半田くん。いつもかぐやちゃんと仲良くしてくれてありがとね♪」

「おはよう、確かに今日は良いお天気ね」

「う・・・・・うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・」

 

なして感動してんの?こいつ・・・

 

「二人に挨拶してもらえた・・・・・こんなに嬉しい事は無い・・・・・!!」

「大袈裟な・・・・・」

「ちょっと煌月」

「おふっ!?」

 

半田に首根っこ掴まれて教室の後ろへと引きずり込まれる。

 

「ンだよ?」

「お前・・・・東郷さんと結城さんだぞ!?いつも元気で老若男女分け隔て無く接してくれる大天使結城さんと!お淑やかを体現したかの如き大和撫子東郷さんだぞ!!」

「だからなんだよ・・・・」

「そんなお二人と仲が良いだけでなく家も近いとか、お・・・・おま・・・・お前ーーーっっ!!!」

 

両肩を掴まれ、がっくがっくと揺さぶられる。

酔うからやめろ。

 

「家の距離なんざ関係ねーだろ。要はテメエの努力次第だ」

「お前・・・・そうやって簡単に言うけどなぁ・・・・・・それがどれだけ難しいのか、分かってんのか?・・・・分かってんのかァ!?」

「二度も言う事かばばばばばばばばばばばば」

 

再びがっくがく揺さぶられる。流石に気持ち悪くなってきた。

 

「ええい!わーった、分かったよ!!」

 

半田の両手を振り払い問う。

 

「んで?お前俺にどうしろと?」

「東郷さんと仲良くなりたいです」

「友奈じゃないのか」

「東郷さんの方が俺好みだから」

「素直な奴。仕方ねーな・・・・東郷は歴女でな、リットン卿の素晴らしさについてレビューしてみろ」

「なるほどリットン卿────誰?」

「ヒントは教えた。自分で調べな」

「よっしゃあ!!やぁって、やるぜ!!」

 

それだけ叫んで半田は図書室へと走り去って行った。

朝っぱらからうるせぇ野郎だ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、半田は口元しか笑っていない東郷によって吊るされた。

 

「イエーイ予想通り~(爆)」

「おま・・・・お前ーーー!!お前、お前ーーー!!」

 




朝の勝負とは、輝夜と東郷による、「どっちが早く友奈を起こしに行くか競争」のこと。
車椅子のハンデがあるにも関わらず、輝夜の勝率は三割強。
東郷さんは強い(確信)


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K.K.の日常 -勇者部 その①-

新五ヶ条の三番目が遂に解禁されましたね!
あと二つ。
どちらかが『のわゆアニメ化』と小生は見るな・・・

それと、のわゆ組が歌う『キボウノツボミ』と『勇気のバトン』の試聴版も公開されましたね・・・・(感涙)
あれは、良い歌だ・・・・(号泣)


放課後───

 

「友奈、この前頼んだバスケ部の助っ人、今日からだよね?」

「うん!その前に部室に寄ってからだけど、ちゃんと行くよー」

「良かった。それにしても、何時聞いても変な名前だよねー。なんて言ったっけ・・・」

「勇者部、だよ!」

 

そんな会話をしている友奈とその友達の後ろを通り、職員室へ向かう。

今日の日直として担任に日直日誌を届けなければならないのだ。あー、めんどい。

 

「あ、じゃね!かぐやちゃーーーん、待ってよーーー!」

「───────ん」

 

行こうとしたら、友奈が追っかけてきた。

 

「何か用?」

「今日は部活・・・・・来れる?」

「ふむ─────」

 

スマホを取り出して予定を確認。今日は・・・・・特に無いな。

正直、行く気は全く無かったのだが・・・・・・上目遣いでこちらを見る友奈に免じて、行くとするか。

 

「予定は無いからな。行くよ」

「ほんと!?やったあ♪じゃ、一緒に行こ!」

「東郷は良いのかよ」

「もちろん東郷さんも一緒だよ?」

「あ、はい」

 

何言ってんのこいつ、みたいな顔された。

 

―――――――――――†――――――――――

 

東郷を取りに戻った友奈を待たず、俺は職員室へとやって来た。

ノックしてもしもーし。

 

「失礼しまーす。布堂せんせー、いますかー?」

「はいはい、私はここですよー」

 

職員室の窓際で、黄色いつくしが揺れていた。

 

「・・・・・分かりやすいからって、頭揺らすんじゃないよ」

「煌月くん?ここでの私は先生ですよ?」

「へいへい。『公私はしっかり分けるべし』・・・ばっちゃにも良く言われてたんで、理解してるッスよー」

「既にその態度が、分けきれてない証みたいなものですがねー」

 

俺の発言に苦笑するこの人は、クラス担任の布堂幕切先生───つまり、ウチの使用人のマッキーだ。

俺のクラス、なんでこうも親近者が多いんだよ。何かの陰謀か?

 

「はい、日誌は確かに・・・・ところで煌月くん。今日は部活へは?」

「・・・・・・行きますよ。誘われたし」

「両足の具合は?」

「動かせるから全然。でも明日見て貰いに行く予定ッス」

「そうですか・・・・・話は代わりますが、あちらをご覧ください」

「あ?」

 

布堂先生が指したのは職員室の扉の方。そこには───

 

「・・・・・・・・・・oh」

 

膨れっ面の友奈と、苦笑いする東郷が居た。

 

「レディを待たせるのは、良くありませんよ」

「────────────────────うッス」

 

―――――――――――†――――――――――

 

「んもぉ~~~!!!どーして先に行っちゃうの!!」

「いや、だって・・・・俺日直だったし・・・・」

「一緒に行こ、って言ったのにぃ~~~~!!!」

 

職員室を出て早々、友奈が俺の胸板をぽかぽか叩いてきた。

友奈と俺とでは、頭一つ分程の身長差がある為、必然的にこうなるのだ。

 

「言うてお前だって東郷取りに行ってたじゃねーか」

「うぅ・・・・それもそうだけど・・・・」

「あらあら、私は荷物扱いなの?」

「え?あ!違「そうだ」かぐやちゃん!?」

「あらあら・・・・」

 

バチバチと東郷と俺の間で火花が散る。

間に挟まれる友奈はおろおろするばかり。

 

「だってそうだろ?自力で満足に動けねえような奴、有事の際にゃ、お荷物だぜ」

「うふふ・・・・・そんな"お荷物"に散々負け越しているのは、何処の何方様だったかしら?」

「け・・・・ケンカはダメだよぉ~~(汗)」

 

あたふたする友奈が見れたので良し。今日はここまでにしておこう。

 

「冗談だって(東郷、撮ったモンは後で寄越しな)

「いつものおふざけだから、平気よ友奈ちゃん(そっちこそ、撮影した物と交換なの、分かってるわね?)

 

シェイクハンドで交渉成立。

こうして俺と東郷は、喧嘩のふりをして交渉を行っているのだ。

内容は簡単。

『新規に入手した友奈に関する写真データの取引』だ。

ちなみに、今回渡すのは『授業中に居眠りする友奈』の写真だ。

 

「そうなの?だったら良かったー♪」

「心配させてごめんね?」

「よく言うだろーが、『ケンカする程仲が良い』ってよ。俺らはそういうやつよ」

「それにしては、かなり空気が重たかったんだけど・・・?」

「はてさて何の事やら」

 

テキトーにはぐらかして部室へと向かう。

 

「あ、待ってよーーー!!」

「オラ、置いて行くぞー」

 

―――――――――――†――――――――――

 

「ちわーッス」

「こんに・・・・・ひえっ!?」

「ん?・・・・あー!煌月!!」

 

俺たちが所属している部活"勇者部"の部室へと到着したら、机の上にカードをばら蒔いていた少女にビビられ、奥で作業していたもう一人に叫ばれた。と、そこに友奈と東郷が駆け込んで来る。

 

「こ・・・・こんにちはー!!」

「こんにちは・・・・・友奈ちゃん大丈夫?」

「も・・・・もう、待ってって言ってるのにー・・・・」

「・・・・・悪ィ。ちょっとふざけ過ぎた」

 

まさか走って追いかけて来るとは・・・・

 

「あら、なによ煌月。友奈たち苛めたら許さないんだからね。部長として!」

 

腕組み仁王立ちでこちらを睨み付けてくるこの金髪二つ結びの少女は犬吠埼風。この勇者部の部長で創設者だ。学年は一つ上の三年なので、俺は"風さん"と呼んでいる。

 

「別に苛めてはいないッスー。ちょっとからかって遊んでいただけッスー」

「それを"苛めてる"って言うんじゃ・・・・」

「・・・・・・・・言うじゃないの」

「ひっ!!」

 

俺の声にビビって風さんの後ろに隠れたこの少女は犬吠埼樹。風さんの妹で学年は一つ下の一年だ。

 

「───────いい加減馴れてくれよ。ちょっとへこむ」

「ご・・・・ごめんなさい・・・・・くすん」

「こーうーづーきー?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「え?これ、俺が悪いの?」

 

友奈の方を見る。が、もう既にそこに友奈は居らず、東郷がやれやれ、といった表情でこっちを見ているだけだった。

 

「────そういやバスケ部の助っ人に呼ばれてたっけなあ」

「家の妹を泣かすやつはぁ!!こうよ!!!」

 

樹を泣かせた罰として、風さんの鉄拳制裁を食らう事になった。

なんでや、樹泣かせたの俺関係無いやん・・・・ひどいやひどいや・・・・

 

 



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K.K.の日常 -勇者部 その②-

きらめきの章配信記念のログボに、赤嶺ちゃんの姿が・・・・・
今月中にもSSR実装か・・・・楽しみだぜ・・・・!



勇者部というのは、風さんが去年設立した部活だ。

『世のため人のためになることを勇んで行う部活動』

だから"勇者部"なのだそうな。

基本的に、掲示板等から依頼を受けて、他の部活の助っ人をしたり、河川敷のゴミ拾いをしたり………

要するにボランティア部だ。

 

「さて!今日は珍しく煌月もいるから~、ちょっと厄介な依頼をドンドンこなしていくわよ~!!」

「どんな依頼が来てるの?お姉ちゃん」

「えっと・・・・『鶏小屋の屋根修理』に、『職員室の戸棚修理』、『バスケ部の備品庫の扉修理』に───」

「待てや大食い王」

「ちょっ!?失礼ね!せめて"うどん王"と呼びなさい!!」

「そっちなんだ・・・・」

「ンなもんどうでもいいんだよ。なぁ、風さんや。その修理依頼、全部俺にやらせようって、そういう腹積もりな訳じゃあ無いよな?」

「そういう腹積もりだけど?」

「ざっけんなよお前ェェェェェェ!!!!!」

 

この横暴に流石の俺もキレた。

だが、風さんは動じない。

 

「しょうがないでしょ!?あんたここ最近ずっと来ないんだもの!煌月宛ての依頼とか、かなり溜まってんだから!!」

「ぐっ・・・・!それこそ仕方ないだろ・・・俺にだって用事はあるんだ。こっちばかりにかまけてられないんだよ」

「あーあ、昔の煌月はあんなにかわいかったのになー。どうしてこんなワガママな子に育ってしまったのか・・・・」

「オメーは俺の母親か」

 

よよよ・・・と泣き崩れる(嘘泣き)風さんに突っ込みつつ、黒板に貼られた依頼に目を通す。

他にも『生徒会室の扇風機の修理』やら『資料室の書類整理』等々盛りだくさんだ。

 

「・・・・・はぁ、わーったよ。修理系の依頼は俺がやる」

「ホント!?いやあ、助かるわー♪じゃ、そういう事で」

 

即座に笑顔になった風さんから工具箱と依頼書を手渡され、俺はもう一度ため息を吐いた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

昔取った杵柄でDIYはそこそこ得意。

なんて言ったのが運の尽きだったのだろうか・・・・

修理系の依頼を一通り終えた俺は、足取り重たく部室へとやって来た。

 

「修理依頼終わったぞー・・・・あ?」

「お・・・・・・お疲れ様です・・・・・・・」

 

部室には樹一人しか居らず、風さんどころか東郷の姿も無かった。

 

「樹だけ?他は?」

「えっと・・・・・・・い、依頼で・・・・」

「ふむ・・・・そうか。なら、戻って来るまで待つか・・・・」

 

工具箱を棚に戻し、ただ待つのもつまらないので新規に依頼が来ていないか、PCを確認しながら待つことにした。

あ、マジで来てた。

えーと、何々・・・・・・・・迷子の猫探し、か・・・

あ、住所近いじゃん。

 

「よし」

「?」

 

風さんに連絡・・・・っと。

 

 

輝夜>風さん、猫探しの依頼来てた。住所近いし樹連れて片付けてくるわ。

 

 

風>はーい、了解。樹に変な事したら承知しない

 

 

輝夜>ねーよ

 

 

風>なにおう!樹がかわいくないとでも言うつもりかぁ!!!

 

 

輝夜>なんでさ・・・・

 

 

「─────まあ、とりあえずこれでOK。樹ー、行くぞー」

「ふぇ!?え?ど・・・どこへ?」

「ネコ探し。二人がかりならサクっと片付けられるだろ。ほら準備しろー」

 

樹を引き摺りながら、依頼主の下へ向かう。

 

「ふぇ・・・・ふええええええええええ!?!?」

 

 



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K.K.の日常 -樹のココロ-

樹ちゃんとの交流回リメイク版。



私、犬吠埼樹は讃州中学の一年生。

入学して早々、姉が部長を勤める勇者部という部活に入部させてもらい、毎日楽しく過ごしている。

ただひとつ、気がかりというか、苦手な人がいる。

 

「樹ぃ!!そっち行ったぞーー!!」

「え!?あ!?にゃふん!!」

「にゃー」タッタッタッタッタッ

「ナイス顔面レシーブ(笑)でも逃がしてちゃ、世話ねーな・・・・よ~し、ワンモワセッ!!」

「ま・・・・まだやるんですかぁぁ・・・・・・」

 

それがこの人、煌月輝夜先輩だ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

彼についての噂は、私が讃州中に入学するより前から聞いていた。

曰く、『讃州市一帯の不良たちのまとめ役』

曰く、『大人顔負けの腕っぷしを誇る』

曰く、『義手と義足は怪物と戦って生還した証』

───等々いろいろ。

そんな噂から私は、煌月先輩が怖い人だと思っていた。

だから実際に会ってみて、私はすごくびっくりした。

腰まで届く程の長さの艶やかな黒髪を、三つ編みで一纏めにした、女の子みたいな顔立ちの男の人。

服装こそ着崩していて不良っぽい感じだったけど、そのせいで余計に、子供っぽく見えてしまう。

そんな人だった。

 

「ひぃ・・・・ひぃ・・・・ひぃ・・・・ひぃ・・・・」

「お疲れちゃん樹。俺についてこれるとは中々見所あるじゃん」

 

そう言って煌月先輩は、義手ではない方の手で私の頭を撫でた。乱暴な撫で方だったけど、不思議と嫌な気分にはならなかった。

 

「さて・・・・ここまで追い込めば、後はこっちのモンだ・・・・・・っと!」

 

あれからしばらく追いかけっこを続け、気付けば猫は公園の木の上で降りられなくなっていた。

先輩は「これも全て計算の内よォ!」なんて表情で木に登っているが、本当のところは、途中で見失って散々迷った挙げ句、猫の鳴き真似をしながらここまで闊歩して来たのである。

更に「お前も猫の気持ちになるんダヨォ!!!」と、何処から出したのか、猫耳カチューシャを着けさせられた。そして写真に撮られた。

 

「────────はぁ」

 

でもその甲斐あって(なんて言いたくないけど)依頼にあった迷子の猫は見つかった。

あとは先輩がうまく捕まえてくれれば─────

 

 

 

 

 

バギッ!!

 

 

 

 

 

「・・・・え?」

 

何かが壊れるような、そんな音がしたと思ったら、煌月先輩が木から落ちそうになっていた。

 

「こ・・・・煌月先輩!!!」

「わっちゃっちゃー・・・・あぶねーあぶねー。間一髪」

 

その隙に、猫が先輩の身体をうまく伝って降りてきたので、しっかり捕獲。

 

「ナ~~イス♪よっと・・・・あん?」

私が猫を捕まえられたのを見届けると、煌月先輩は木から飛び降りて───────着地に失敗して尻餅をついていた。

おかしい。煌月先輩が尻餅をつくなんて・・・・・・もしかして?

 

「・・・・・うわっちゃー。やっちまった・・・・・」

「ひえっ!?」

 

案の定だった。煌月先輩の右足の足首から先が壊れて外れかかっていた。

義足であることを知っていても、いきなりこんな物を見せられてはびっくりする。

 

「うわぁ・・・・ひどい・・・・」

「参ったなぁ・・・・・次の休みに点検してもらう予定だったのに・・・・・こうも早く逝っちまうとは・・・・」

「─────────あの」

「樹は先に依頼主のとこ、猫連れてけ」

「ふぇ?」

 

私が言うよりも早く、煌月先輩は的確に指示を出してくれた。

 

「俺はこのまま足の修理に行ってくるから、友奈か東郷に俺の荷物を持って帰るよう頼んでくれ」

「え・・・あの・・・」

 

指示を出すだけ出して、先輩は勝手に歩き出した。

 

「ああ、それから───」

「ふぁい!?」

「これは俺の自業自得であって、お前にはなーんも非は無いから。責任とか、感じる必要ねーぞ?」

「っ!?・・・なん・・・」

「どーせ、『あのときちゃんと猫を捕まえていれば』なんて、いらん責任を感じてるんだろ?風さんと言い、樹と言い・・・・まったく、やれやれだぜ」

 

図星だった。

最初に逃したとき、私がちゃんと猫を捕まえていれば、先輩の足は壊れずに済んだかもしれない。そう、思っていた。

でも先輩は、それは違うと言う。

 

「いいか樹。『もし』とか『たら』とか『れば』なんてのは、単なる気の迷いだ。出来なくて後悔したなら、次の時までに出来るようになれ。それだけの努力をしろ。そうして努力を積み重ねた奴が、最後に笑うんだからな」

「・・・・・・・・・・・・煌月先輩」

「分かったら返事!!」

「はっ・・・・はい!!」

「よし。んじゃ、これは未来あるお前さんへの投資っつー事で」

 

そう言って投げ渡されたのは五百円玉。

 

「え?」

「帰りにジュースでも買うと良い。あ、でもちゃんと依頼はこなせよ?その猫を渡すまでが依頼だかんな?」

「は・・・はい!」

「良い返事。そんじゃ、さっさとお行きー!!」

「ぴゃあ!?」

 

ばしーん!とお尻をはたかれた。

・・・・・・ちょっと、痛い。

 

「──────樹よお、お前もうちっと肉付けた方が良いぞ?」

「よ・・・・余計なお世話ですぅ~~~!!!」

 

お姉ちゃん、やっぱり私、煌月先輩のこと、ちょっと苦手だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、猫耳カチューシャを付けたままだったことにはついぞ気付かず、部室に戻ってお姉ちゃんたちに言われて、漸く気付いたのだった。

うう・・・・・恥ずかしい・・・・・・

 

 



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K.K.の日常 -喫茶店"嵐ヶ丘"-

甘露寺さんの隊服着た園子様が見たい。
逆でも良いのよ?(他力本願スタイル)


それと、赤嶺ちゃんhappybirthday!!


さて、樹を見送ったのは良いが・・・・・どうしよう?

足首からポッキリ逝っちゃってるし、まあ、歩き辛いだけだし、よたよた行くか・・・・

そんな事を考えていると、公園の入り口に見覚えのある車が停まっているのが見えた。

 

「・・・・あれは」

「おー!やっぱ輝夜だったかー!!」

 

車から出てきた女性に声をかけられる。

身長150㎝程の小柄な人で、タキシードを少し着崩して着ている。

彼女は土居円吒(まるた)。俺の行き付けの喫茶店の従業員の一人だ。

 

「マルさんは買い出しかい?」

「おう、そうだぞ。新鮮な魚介類はこっちまで来た方が良いやつに出会えるからな」

 

なるほど、今日の日替わりメニューは魚介系か・・・・

 

「それよか、どーした?さっきっから右足引き摺って」

「あー・・・・・それは・・・・・」

「あ!さてはお前、義足ぶっ壊したんだろー?」

「───────────────────────」

「おいマジかよ」

 

マジですよ。

気不味い空気が漂う。どうしよう・・・・・

 

「あー・・・・・んー、まぁ、なんだ」

 

沈黙を破ったのはマルさんの方だった。

 

「ここはさぁ、正直に言って、謝った方が良くないか?」

「・・・・・まあ、そうするつもりだったんスけどね」

「なんだ。なら送ってやるよ」

「うっす。お世話になるッスー」

 

そんな訳で、マルさんの車で送ってもらえることになった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

車に揺られて、夢を見る。

 

夢の中で俺は、見覚えの無い───良く知っている───赤髪の少女と共にいた。

顔はぼんやりしていて見えないが、少女はとても楽しそうだった。

黒い学生服が風に揺れ、少し前を歩く少女がこちらに振り向いて────────

 

 

 

 

 

「おーい、起きろー。もう着いたぞー?」

「───────んにゃ?」

 

マルさんに叩き起こされて、現実へと帰還する。

見知らぬ景色だが、どこか懐かしい、そんな夢を見ていた気がする。もう覚えていないが・・・

 

「ふわぁ~~あ。なんか変な夢見てた気がするなぁ・・・・」

「ふーん?マルに運転させといて、お前はぐっすり爆睡と来たか。こいつめー!!」

「んぎゃ!?ちょっ!?俺まだ免許取れねーンだからしゃーないだろ!つーか、ぐりぐり止めい!!」

 

車を降りた俺に、マルさんがアームロックを仕掛けて頭を拳骨でぐりぐりしてきた。

暴れてやったらすぐに解放してくれた。

 

「・・・・ったく」

「あーっはっはっはァ!おら、さっさと入れって」

 

笑ってマルさんは先に行った。

ここは喫茶店"嵐ヶ丘"。その裏口。

俺の行き付けの店で、俺の義手義足の修理場でもある。

何故喫茶店で?と思われるだろう。まあ、その理由はすぐに判る。

とりあえず店に入る。

 

「あ、お帰りなさいマルちゃん。・・・・あれ?」

「うっす」

 

出迎えてくれたのは身長180㎝のモデル体型美人。

この人は伊予島杏子さん。分かると思うがここの従業員の一人だ。ちなみに、俺もここでバイトさせてもらっている。

 

「輝夜くん、今日は非番じゃなかったっけ?」

「いやあ・・・・そーなんスけどねえ・・・」

「こいつ足ぶっ壊しやがった」

「マルさん!?」

「ええ・・・・また、やっちゃったの?」

 

げんなりした様子で杏子さんが訊ねる。

 

「・・・・・・・・・サーセン」

「謝るくらいならメンテナンスしよう?」

「はい」

 

―――――――――――†――――――――――

 

厨房の奥に『故障中』と書かれた札の貼ってある小さな冷蔵庫がある。

扉を開けると、中身は当然何も無い。それどころか、穴が空いている。

その穴を通り抜けると、下へと続く螺旋階段があり、降りていくと────

 

 

 

 

 

そこには、工場のような場所が広がっていた。

 

 

 

 

 

こここそ、俺の義手義足を作成してもらっている工場"鉄火場"である。

 

「────────ようやく来たのかい」

「・・・・・・・・・ういっす」

 

待っていたのは、額に青筋立てて仁王立ちしている青年。彼が、俺の義手義足を作成してくれている技師、三好春信さんだ。ちなみに"嵐ヶ丘"のオーナーでもある。

 

「どうせ君の事だ。ぶっ壊れたから直せって言うんだろう?」

「あっはっは、よくご存知で───」

「笑い事じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

しぱーん!と何処からか取り出したハリセンで頭を叩かれる。

 

「まったく!何時だって君は僕の作品を台無しにするね!」

「・・・・・すんません」

「謝るくらいならメンテナンスくらいしなさい!!」

 

しぱーん!と再びハリセンで叩かれる。

 

「さっき上で杏子さんにも同じ事言われたなぁ・・・・」

「しみじみと言う事か」

 

ため息を吐き出して、春さんは俺の方に手を差し伸べた。

壊れた右足を外し、春さんに渡す。

 

「お願いしまーす」

「・・・・・はぁ、まったくもう!」

「・・・・・・すんません」

 

文句を言いながらも、春さんは修理してくれている。なんだかんだで良い人だよね。

とりあえず、修理が終わるまで待たせて貰うことにした。

 

「──────この際だから、アレ載せてみるか。試作品の実験に協力して貰っても文句は言うまい」

 

──────────なんだって?

 



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Kの心象、Yの心境 -不良集団、最絶頂期之少年求錬隊(ゴールデンタイム・チルドレンズ)-

今日、ゆゆゆは五周年を迎えるそうですね。

ニュータイプで組んでた特集記事を見たのが、最初のきっかけ。
あれから今日まで、ずっと追い続けてきた。
これからも追いかけ続けていく所存です!!










というのを、10/17の内に投稿してやりたかったんだけど、間に合わず・・・・・・
ちくせう・・・・・ちくせう・・・・・!!


「この際だから、全部オーバーホールしよう」

 

春さんにそう言われ、何故か両足だけで無く左腕まで剥ぎ取られた俺は、仕方ないので仮の義足を着けて店を出る。

向かう先は二軒隣のコンビニ。

 

「らいざーうぃん♪かけぬけ~ろ~♪」

 

『48のカラオケ十八番』の内の一曲を歌いながら、コンビニでフーセンガムを購入。

これ、どうやっても膨らませられないんだよなぁ・・・・あれ、どうやるんだ?

さて、ここからが本題だ。

コンビニの駐車場の一角にたむろしている不良集団がいる。

 

「よーよー諸君。元気かい?」

「・・・・・・・」

 

不良共がこちらを睨み付けてくる。

その内の一人、スキンヘッドのマッチョが立ち上がり、俺の前に進み出る。

 

「──────────────」

「──────────────」

 

睨み合う俺と不良。

しばらくそうしていると不良の方から話しかけてきた。

 

「壁のリカバリー」

「正気かメアリー」

 

ビシ、ガシ、グッ、グッ

 

「煌月の旦那、今日の商品は・・・?」

「まぁまぁ、落ち着け。ちゃんと持ってきているからさあ」

 

うん。まあ、実は知り合いです。

こいつの名は日室日向。

この辺りの不良共を纏めている集団"最絶頂期之少年求錬隊(ゴールデンタイム・チルドレン)"の団長────番長?を務めている。着ている学ランから、この近所の高校の学生だと判る。

 

「さぁて、本日の商品は───────こちら!!」

 

懐から取り出したのは一枚の写真。写っているのは猫耳カチューシャを着けた樹だ。

 

「「「「おぉぉぉぉ!!!」」」」

「本日撮り立ての逸品となっております・・・・・では、百万円から!!」

「百二十万円!」

「百三十万円!」

「百五十万円!」

 

手を上げ、どんどん値段を吊り上げていく不良たち。

そう、これはオークション。

今日ここに来たのはこれの為だ。

何時だったか、新聞部の依頼で勇者部員の写真を撮影して、余ったものを貰ったは良いがこういうのをコレクションする趣味は無いので、日室に「要るか?」と聞いたら「欲しい」と言ってきた。全員が。

なので、こうやってオークション形式にすることで公正な取引とすることにした。これなら喧嘩もなく平和的に解決だからな。

それ以降、時折新しい勇者部員の写真を入手したら、こうしてオークションを開催している。

しかし、参加できるのは合言葉を知っている人間と、その仲間内のみ。壁がどうの言ってたアレが合言葉。

三日三晩寝て考えただけあって、俺のお気に入りだったりもする。この前日室から「旦那のセンスにゃ、ついていけねぇっす・・・・」と言われたが。解せねえ。

 

「八百六十万円!!八百六十万円でよろしいですね?」

 

という訳で、猫耳カチューシャ樹は八百六十万円で落札。落としたのは日室の仲間の一人。でも俺の知らない顔だ。新人かな?

 

「へへ・・・!やった!!!」

「はい、商品の前に出すモン出してねー」

「うっす!!」

 

俺が差し出した右手に乗せたのは八百六十円。まあ、"万円"とはそういう事だ。万単位ついてりゃ、それっぽいしな。

 

「へいまいどー。大事に扱えよ」

「ありあとアス!!」

 

さて、そろそろ春さんの作業も終わった頃かな・・・・と思って腰を浮かしたその時。

 

「こんにちはー!かぐやちゃん居ますかー?」

 

友奈の声が聞こえる。マルさんあたりがメッセージでも飛ばしたのかな?

しかし、見えない。日室の仲間連中は、俺よりも立端が高い。そして現在は、そんな連中が俺の周囲を囲んでいるのだ。友奈どころか周囲すら見えねえ。

 

「おうおうおう!なんじゃワレゃ、ガキはすっこんでろァ!!」

 

さっきの新人がイキって友奈にちょっかいだし始めたもよう。見えないからよくわからんが。

 

「────すんません。躾ときます」

 

そう言って日室が立ち上がり、ようやく友奈の姿を確認。

例の新人にメンチ切られてもまったく動じていない様子だ。

 

「おい」

「あ!日室の兄k────ぐえぇ!?」

 

日室に首根っこを捕まれて、新人はコンビニの裏へと連れ込まれて行った。合掌。

 

「あ、かぐやちゃん居たー!」

「よ、友奈」

「お話、終わったの?」

「おう。もう済んだ」

「そっかー」

 

友奈を始めとする勇者部の連中にはこのオークションのことは『不良集団との話し合い』と説明している。唯一、東郷にはバレたので、友奈の写真を都合して見逃してもらっているが・・・・

 

「終わったなら早く義足取りに行こ!」

「おう、そうだな」

 

とりあえず、この場はこれで解散なので、日室の仲間たちに別れを告げてこの場を後にした。

 

 

 

 




東郷さんへの写真の都合とは、例の写真交換のこと。
あれにはこんな裏があったのだ。
ちなみに、写真交換会にしたのは輝夜がゴネたから。東郷さんは譲歩してくれたおかげ。


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Kの心象、Yの心境 -五年前、傷一つ-

赤嶺ちゃん、実装おめでとうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
さあ、引くぞお!!(フラグ)


「思ったんだけどさ」

「なぁに?」

 

隣に座るかぐやちゃんから、そんな感じで話かけてきた。珍しいなあ。

 

「さっき。ヤンキーにガン飛ばされてて、よく平気だったなー・・・・って」

「あー、あれね。そんなに怖いとは思わなかったし」

「なにさ、慣れたんか?俺の近くにああいうの多いから」

「んー・・・・そんな感じかな」

 

本音を覚られたくないから、適当にはぐらかす。

かぐやちゃんは満足したのか、それきり黙ってしまった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

かぐやちゃんを迎えに行って、春信さんの工房へ戻って来た私たちは、「まだもう少しかかるから待ってて」と言われたので喫茶店で時間を潰している。

杏子さんの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ゆっくりと過ごすこの時間が、私はたまらなく好きだ。

 

「友奈ってさ、怖いと思うモンあるん?」

「今日はよくしゃべるねえ、どうしたの?」

「質問に質問で返すんじゃあないよ」

「はーい」

 

ちょっとふざけたらジト目で怒られた。「いつもはそっちがふざける側じゃん」と思ったけど、こんなにしゃべるかぐやちゃんは久々だから胸の内にしまっておこう。

それにしても、怖いもの・・・・・か─────

 

「─────うん。あるよ」

「へえ。ちょっと意外」

「なんで?」

「お前、物怖じしねーじゃん。何に対しても」

 

そうかなぁ?

 

「そんな事無いと思うけど・・・・」

「ナマコを素手で鷲掴みできる奴の言う事か」

「ナマコかわいいじゃん」

「マジかー・・・・」

 

「信じらんねえ・・・」って顔でかぐやちゃんはコーヒーを啜る。

いつも部活動中は楽しそうなかぐやちゃんだけど、今日は何時にも増して楽しそう。なんか良いことでもあったのかな?

 

「今日はほんと、どうしたの?こういう時のかぐやちゃん、あんましゃべんないのに」

「ん?んー・・・・そうだな・・・・・」

「なんか嬉しい事、あった?」

「─────おい友奈。お前俺の質問に答えろよ・・・・」

「うっ!?な・・・ナンノコトヤラー」

「とぼけんな」

 

ぺち、と頭にチョップされる。

 

「で?何が怖いんだよ。言ってみ」

「──────────────どうしても、言わなきゃダメ?」

「お前は俺の怖いモン知ってるだろ」

「鳥がダメなんだよね。よく突っつかれるから」

「だが俺はお前の怖いモンを知らない。不公平だー!」

「えぇ・・・・そんな理由?」

 

むくれるかぐやちゃんには悪いけど、その様子がちょっとかわいいと思った。

 

「いいから教えろって、そんな減るモンでもねーだろ」

「やーだ」

「おーしーえーろーよぉ~」

「やーだーよー」

 

かぐやちゃんにほっぺたをつんつんされるけど、絶対に教えたりはしない。

あとちょっとかぐやちゃんからかうの楽しい。

 

「ふふふ、仲良しだね~二人とも」

「えへへ・・・・はい!」

「今のやり取りの何処を見て、そんな感想が出るんスか・・・・・」

 

杏子さんが笑ってそう言うと、かぐやちゃんは呆れたようにため息をつく。

と、その時。春信さんからの呼び出しがあった。

 

「んじゃ、取りに行ってくるわ」

「一人で平気?」

「いつまでもガキじゃねーよ。一人で大丈夫だ」

「はーい」

 

手を振って、私は奥へと向かうかぐやちゃんを見送った。

その背中を見ていると、五年前のあのときを思い出す。

私にとって、一番怖いこと。その象徴とも言える、あのときの事故を───

 

―――――――――――†――――――――――

 

当時のかぐやちゃんは今よりもケンカっ早くて、なんだか放って置けなかった。

かぐやちゃんを引き取った文野おばあちゃんの話だと、「施設でも、からかって来た相手をボコボコに痛め付ける程の暴れん坊」だったらしい。その頃から、かぐやちゃんの左腕は無くて、聞いてみたら「物心付いた頃から無い」のだとか。

とにかく私は、そんなかぐやちゃんにケンカばっかりじゃなくて、他の事もして欲しくて一緒に遊ぶようになった。

そんなある日の事だった。

その日は三日ぶりの晴れの日で、私はいつもの様に、かぐやちゃんを連れて遊びに出掛けていた。

何をしたのかは正直あんまり覚えてない。でも楽しかった事だけは覚えている。

事故が起きたのはその帰り道だった。

 

「たのしかったねー♪」

「─────ん」

 

かぐやちゃんの手を引いて先を歩く。

ウキウキ気分で「明日はなにして遊ぼうかなー?」なんて考えながら、横断歩道を渡っていた、その時───

 

「友奈っ!!!」

「ふぇ?」

 

かぐやちゃんに急に呼ばれたと思ったら、後ろに向かっておもいっきり引っ張られた。

 

「いてて・・・・どうしたのかぐ────」

 

 

 

 

 

聞こえてきたのは、急ブレーキの音と、何かがぶつかる音、そして、()()()()()()()

 

 

 

 

 

「か・・・・・ぐ・・・・・・・」

 

顔を上げた先で、かぐやちゃんはトラックと車の間に挟まれていた。その下からは、()()()()が広がっていて──

 

「かぐやちゃん!!!」

「──────ぁあ、無事・・・・だな?」

 

周りから大人たちの声が聞こえてきたけど、その時の私には聞こえないでいた。

 

「よかった」

 

それだけ言って、かぐやちゃんは目を閉じてしまったから。

 

「・・・・・・いや・・・・・・やだよぉ・・・・・かぐやちゃん・・・・!」

 

そのまま、救急車が来るまで、私はかぐやちゃんの手を取って、名前を呼び続けた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

あのときから、私はかぐやちゃんの側にいるようにしている。また何かあったら、次は私が、かぐやちゃんを助けるために。

 

「・・・・だからさ、輝夜くんは普通にしていてくれればいいんだって」

「だからといって実験台はゴメンだっつーの!」

「メンテナンス無料でやってあげてるんだからいいだろう?」

「それとこれとは話が別!」

 

かぐやちゃんが戻って来た。

あの事故は、居眠り運転のトラックが起こした玉突き事故で、かぐやちゃんはそれに巻き込まれたそうだ。そして、その時たまたま通りすがった春信さんの手によって、かぐやちゃんは無事助かった。

あのとき、春信さんが居なかったら、かぐやちゃんは助から無かったかも知れない。そう思うと背筋が凍る。

 

「かぐやちゃんは春信さんに感謝すべきじゃないかな?」

「ほらみろぉ!」

「友奈までそう言う・・・・」

 

がっくりと肩を落とすかぐやちゃんを見て、私は笑う。

その裏で、私は決意を新たにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何があっても、かぐやちゃんを守ってみせる・・・と。

 



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Kの心象、Yの心境 -春信と輝夜-

春さんに呼ばれ、工房に来ると、見慣れないモンが置いてあった。

 

「なんだコレ?ロボか?」

「強化外骨格───所謂、パワードスーツって奴だよ」

「へー」

 

コレがパワードスーツ、ねぇ・・・・

見るからにロボなんだが・・・・

 

鋭角的なシルエットの白いボディ。装飾なのか、装甲の継ぎ目なのか、駆体各所に黒い溝が彫られている。

顔部分にはバイザーがあり、恐らくは彼処にモニター宜しくいろんな情報が表示されるのだろう。そのバイザー横には、斜め上後方に向かって伸びる一対のアンテナが、ファンタジーによく出るエルフって種族の耳の如く、尖っている。

胴体部と腕部分はかなり細い造りになっている様で、デブには無論着れないし、胸部もそれほど遊びが無さそうだから、東郷辺りも難しいだろう。勇者部連中の中だと、友奈と樹ぐらいしか装着できないんじゃなかろうか?俺はどうだろう?腹周りが少し怪しいかんじ・・・・かな?腹筋割れてるし。

そんな事を考えながら視線を下へ向けると、奇妙な物を見つけた。

このスーツの脚だ。

どういう訳か、人間の脚とは形状が違い、足部分が無い。シューズとして分割されている様子も無い。

腕部とは違って太めに設計されている事から、中で爪先立ちの様な感じで着るのだろうが・・・・それ、疲れないか?ま、逆関節じゃないだけマシか・・・・・?つーか逆関節とか、どーやって着るん?足畳むん?

 

「輝夜くん?そろそろ良いかい?」

「うぃッス」

 

春さんに呼ばれたので、ひとまずコレの事は後にしよう。今は俺のおニューの義手義足が先だ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

さて、そんなワケで装着したんだが・・・・

 

「・・・・なんか、前より重くね?」

「お、流石に気付いたね?」

 

ウキウキ笑顔で春さんは、俺の前に的を設置。

 

「ちょっと左腕で殴ってみて。あ、当てる直前くらいに親指付け根のボタンを押してね?」

「?」

 

よく見てみると、確かに親指の付け根辺りにボタンらしき物がある。なんだコレ?

よくわからないがとりあえず、言われるままに的を殴る。

 

 

 

 

 

ガッ!!ガァ・・・ン!!!

 

 

 

 

 

「────────は?」

 

炸裂音が二回して、目の前の的が粉々に砕けた。

 

「うん!ちゃんと機能しているね!じゃ、次」

「おい待てよ」

「お次は足の試験だよ」

「待てって」

「ここに改造ルームランナーを用意したから、ちょっと走っ「待てっつってんやろがい!!!」

 

三度目のツッコミを受けて、春さんも漸く止まった。

 

「なんだい?何か問題でも?」

「問題大アリだボケ。なんだよ今の、俺の左腕に何仕込んだ?」

「よくぞ聞いてくれました!!」

 

俺が問うと、嬉々として春さんは解説を始める。どっから出した、そのホワイトボード。

 

「今回、輝夜くんの左腕に搭載したのは『アームパンチ機能』!火薬の爆発による衝撃を利用して打撃力を引き上げる機能だ。簡単に言えばパイルバンカーの簡易版・・・・かな?ちなみに、ただのパイルバンカーじゃつまらないから一撃に二度、火薬が炸裂するように設計してみたよ!」

「そうか・・・・・・一つ、良いか?」

「なんだい?」

 

笑顔で語る春さん。そんな彼に、俺は一言告げる。

 

「バカかお前!?バッカじゃねえの!?もしくはアホか!?」

「三つだねえ」

「喧しいわ!!!」

 

まったく・・・・なんだってこの人は・・・・

 

「んなもん俺に積んで、どうしろっつーのさ!?」

「使えば良いじゃないか」

「パイルバンカーが必要になる様な日常には生きてねぇから!」

「えー?ホントでござるかぁ~~?」

「ンだよ。急にござる口調になって・・・」

「僕、知ってるんだよ」

「何を?」

 

 

 

 

 

「君が、白鳥先生の()()を、勝手に秘密裏に受け継いだこと」

 

 

 

 

 

「・・・・・っ!?」

 

いつも通りの笑顔で、春さんは言った。

そりゃあ、何時かはバレると思ってはいたが・・・・

よりにもよって春さんにバレるとは・・・・ほとほと運が無い。

 

「別に告げ口はしないよ。安心して良い。君が選んだ君の道だ。それを否定するつもりは毛頭無いよ」

「───────そうか」

「結城ちゃん辺りが知ったら、全力で止めるだろうしね」

「────────アイツには、知らないままでいて欲しい。そう思っている」

「でも、何時かはきちんと話さないとだよ?君がそんな身体になった原因でもあるんだ」

「─────────────」

 

春さんの忠告に対し、俺は、頷くことは、しなかった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

春さんと出会ったのは、五年程前。

俺が事故に逢い生死の行方をさ迷った挙げ句、両足を失ったあの日、()()()()近くを通った春さんに助けられたのがきっかけだ。

 

聞けば、ばっちゃが昔、教員をしていた時の生徒だったらしい。

昔は、大赦で旧暦時代の技術を復活させる部署に就いていたそうだ。ちなみにその部署は、経費削減と署長の失踪を理由に、二年前に解体されたらしい。

そうして職を失った春さんは今、こうして喫茶店のマスター兼この工房の主を務めている。

 

春さんには、ばっちゃが死んだ時にも世話になった。

色々と面倒な手続きを手伝ってくれたのだ。

その結果、俺は今もこうして讃州に居られるってワケなのだから、春さんには下げた頭が上がらない。

 

の、だが─────

 

「だからといって実験台はゴメンだっつーの!」

「メンテナンス無料でやってあげてるんだからいいだろう?」

「それとこれとは話が別!」

 

工房から上がりつつ、左腕の話を進める。

進んでんのか?平行線な気がする・・・・

 

「かぐやちゃんは春信さんに感謝すべきじゃないかな?」

「ほらみろぉ!」

「友奈までそう言う・・・・」

 

いや、友奈が春さんの味方するのも理解できンだがなぁ・・・・・

正直、左腕(コレ)は要らない。重いし、邪魔。

 

「僕の渾身の力作なんだ。無下にしないで欲しいなあ」

「そーだよ、かぐやちゃん。もったいないおばけが出てきちゃうよ」

「・・・・チッ。二人してそういう事を言う・・・・」

 

こうなると弱いって、分かっててやってるんだもんなぁ、こいつら。

 

「あーもう!わーったよ!分ーかーりーまーしーた!!とりあえず今日は大人しくコレで我慢しとくから。次来る時までに普通のを用意しといてくれよ?」

「はいよ~」

 

軽く手を振る春さんに見送られ、俺は友奈と共に"嵐ヶ丘"を後にする。

 

「左腕、そんなに重い?」

「前のヤツに比べると」

「かぐやちゃん、道具の扱い乱暴だし、壊れにくいようにしてくれたからじゃないの?」

「────────それだけだったら良かったンだがなぁ・・・・・」

「ふぇ?なんか言った?」

「別にー」

 

友奈と並んで家へと歩く帰り道。

 

この時の俺は、知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、よもやこの左腕が、陽の目を浴びる日が訪れることになろうとは………

 




-輝夜と友奈が去った後の"嵐ヶ丘"-



「・・・・・・」

「なあ、ハル。アイツに武器持たせたって事はさ────」

「ああ、近々来るらしい。『シルヴァリオ』からの情報だ」

「───────また、戦いが始まるんだね」

「・・・・・・・・・」

「大丈夫だって!杏子が教えた術と、先生の教えた技がアイツにはある!!ハルが渡した武器だってあるんだ。アイツなら、やれるさ!」

「────────そう信じるしか、今の僕たちには出来ない、か・・・・・」


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Attack on Vertex -日常が静止した日-

よ~し、ここから本編幾三~!


「魔王!もう悪いことは、やめるんだ!」

 

友奈の声に、微睡みの中を揺蕩っていた意識が浮上する。

今、俺達勇者部は幼稚園で人形劇を行っている。

 

容姿のせいで悪者扱いを受けていた魔王が村人に嫌がらせを始め、それを知った勇者が魔王の下へと赴き対話による相互理解を図り、見事、魔王を改心させることに成功する。

 

そんな感じの内容だ。

 

「私を怖がって悪者扱いを始めたのは村人たちの方ではないか!」

「だからって嫌がらせはよくない。話し合えば分かるよ!」

「話し合えば、また悪者にされる!」

「君を悪者になんかしない!あ・・・」

 

今、ドンって音したな。・・・て、事は。

 

先の展開を予想した俺は、咄嗟に周囲を確認する。よし、誰も見ていない。今がチャンス!

テンションの上がった友奈が叩いた劇用の舞台が、園児達の方向に向かって倒れゆく。

完全に倒れきるよりも早く、俺は右目を閉じ意識を左目に集中させる。

 

その瞬間、()()()()()()()()()()

 

俺はその線に向かって、左手を差し出し────

 

 

 

 

 

バキン!と音を立てて、舞台が上下真っ二つに割れた。

 

 

 

 

 

そのまま舞台は崩壊。園児達に当たる事は無く、誰にもケガは無い。良かった良かった。

 

しかし良くないのは劇の方だ。

 

「な・・・なんか良くわからないけど、園児達に当たんなくてよかった~~・・・・でもこれ、どうしよう・・・・」

「え・・・えぇと・・・・え~~と~~・・・・・」

 

お、友奈がテンパり始めた。さて、どう動く───

 

「勇者キーーーーック!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「ブッフォォ!!」

 

キックと言う名のパペットパンチが風さんの魔王パペット(左手)に炸裂!!

これには風さんも困惑。そして俺は大爆笑。

 

「おま!?それキックじゃないし!て言うか、話し合おうって言ったばかりでしょ!?」

「だ・・・・・だって~~・・・・」

「こうなったら喰らえ!魔王ヘッドバット!!」

 

唐突に始まるブンドド。あーもう滅茶苦茶だよ。

 

「樹!ミュージック!!」

「ええ!?」

 

そうそう、樹は音楽担当で、東郷はナレーションを担当している。

んで、突然の指示に困惑する樹。よし、助け船を出してやろう(笑)

 

「樹!流すなら13番!」

「13番・・・・これですね!」

 

PCから流れて来たのは、荘厳な曲。

 

「ちょ・・・!?ここで魔王のテーマ!?」

 

そう、俺が樹に指示したのは『魔王のテーマ』。

これにより、風さんのテンションが上がり───

 

「フハハハハハハハハハハ!!!ここがキサマの墓場となるのだァーーーー!!!」

「うぉぉ!?魔王がやる気に!?」

 

「おのれ~~」と懸命に立ち向かう勇者!ハイパーモードへと移行した魔王とどう戦う!?

 

「みんな~!勇者を応援して~~!一緒にグーでパワーを送ろう!!」

 

その時、東郷の煽動により園児達が勇者を応援し始める!

 

「ぬぅぅおぉぉぉぉぉぉ・・・・みんなの声援が私を弱らせるぅぅ~~・・・・」

「お姉ちゃん、ナイスアドリブ!」

 

樹の言う通り、風さんのナイスなアドリブで魔王が弱まった。

その瞬間を待っていたと言わんばかりに、勇者が渾身の一撃を放つ!

 

「今だっ!!勇者パーーーーンチ!!!!」

 

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

あ、友奈のヤツ今の割りと本気で殴ったな。

ともかくこれにて魔王は沈黙。

倒れゆく魔王を、そっと勇者が抱き止める。

 

「これで分かってくれたよね?もう友達だよっ!」

「〆て!〆て!」

 

小声で出される風さんからの指示を受け、東郷が〆のナレーションを入れる。

 

「こうして、魔王は改心し、美しき國は守られたのでした」

「みんなのおかげだよっ♪」

 

沸き上がる歓声と万歳。

トラブルはあったものの、どうにか劇は成功させることができたようだ。

 

めでたしめでたし………

 

―――――――――――†――――――――――

 

「ゴリ押しにも程があるでしょう」

 

翌日、勇者部顧問のマッキーより、そんな評価を貰った。

その上俺と友奈だけ、正座させられている。何故だ。

 

「舞台を倒してしまったのは、まあ事故ですからね。仕方ないでしょう。問題はそのあとです。なんですか、勇者キックって。対話による解決目指していたのではなかったのですか?魔王が釣られてヘッドバット咬ましてきちゃってるじゃないですか」

 

言葉の刃が友奈にぐさくざと突き刺さる。

 

「こふっ」

「マッキーったら容赦無ぇなあ・・・・」

「しかし今回における一番の戦犯は、なんと言っても煌月くんですね」

 

おっと、こっちに飛び火してきたぞぉ。

 

「場の雰囲気を盛り上げるなら『魔王のテーマ』よりも『勇者のテーマ』にすべきでしょう?なんでよりにもよって『魔王のテーマ』を?」

「その方が面白いじゃん」

「どうせそんな事だろうと思ってましたよ」

 

えー・・・・じゃ、なんで聞いてきたんさ。

 

「えー、あの、先生。そろそろ・・・・」

「・・・・そうですね。煌月くんはともかく、結城さんは辛くなってくるころですしね。そろそろ今日の活動を始めましょうか」

 

そう言ってマッキーは、届いた依頼を纏めたファイルを風さんに渡す。

 

「うぅ・・・足が痺れて・・・・」

「なんならマッサージしてやろうか?うりうり」

「み゛ゃ゛っ゛!!ちょっ・・・・止めっ・・・・!!」

 

正座を崩し、痺れる足でなんとか立とうとする友奈の足を突っつく。

涙目の友奈に、割りと本気の力で殴られた。

 

「か~ぐ~や~ちゃ~ん~!!!」

「ははは、ほれ、座りな」

 

友奈の腕を引き上げ、その下に椅子を滑り込ませて座らせる。

「後で覚えてろよー」とでも言いたげに、こちらを一睨みすると、友奈は風さんの話を聞く体制になる。

 

「さて、今日も今日とて張り切って行くわよー!」

 

今日も今日とて、人助け。まあ、張り切らせてもらうさ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

そういえば、マッキーが何故勇者部の顧問をやっているのかを説明してなかった。

それもこれも、今年になって追加された校則のせいだ。

 

『校外へ赴く活動のある部活には、必ず、顧問を一人着けること』

 

去年の暮れに、交流試合の為に校外に出たとある運動部の連中が、通り魔に襲われた事件があった。

幸い、怪我人は出ておらず、犯人もその場で御用となったのだが、このことを重く見た讃州中の理事会は、上記の校則を追加する事にしたのだ。

 

んで、"校外へ赴く活動のある部活"というのは、運動部だけとは限らない。

われらが勇者部もまた、依頼があれば校外へ赴くことがあるのだ。当然、対象となる。

そこで俺は、マッキーに勇者部の顧問となってくれる様に打診した。こういう時、身内が先生であるのは強みなんだなぁ、と改めて思ったものだ。

マッキーは快く承諾してくれた。

 

そして、今────

 

 

「おかわり!」

「風さん、もう三杯目だぞ」

 

部活終わりに俺達は『かめや』といううどん屋に来ている。

かけうどんが一杯百円と学生諸君にはとっても優しい値段設定(リーズナブル)になっており、その上、うまい。

おかげで我ら勇者部一同、すっかりここの常連客である。

 

「風さんよ・・・食うのは結構だが、あまり食い過ぎると肥るぜ?」

「んぐっ!!げほっげほっ・・・・・・だ、だだだ大丈夫よ。アタシの場合、栄養は全部女子力に変換されるんだから!」

 

なんじゃそりゃ。

 

「アタシのことは良いの!それより、本題に入るわよ」

「そういえば、話があるからって理由でここに来てたんだっけ」

「そうよ!今度の文化祭の話をするために来たのよ!」

「文化祭ぃ?」

「もうですか?」

 

讃州中の文化祭は十月に行われる。現在五月の頭。流石に早すぎやしないか?

 

「去年は色々ゴタゴタしてて、何も出来ませんでしたから・・・」

「あー、そういやそうだったな」

 

東郷に言われて去年の事を思いだしつつ、俺は鞄から梅干しのビンを取り出して、一粒口に放り込む。

うん、旨い。

 

「あ♪かぐやちゃんの梅干し、いっこもーらい♪」

 

ひょい、ぱく。

 

「あっ。・・・たくもう。ちゃんと味わえよ?」

「ひゃーい」

 

酸っぱそうに口をすぼめながらも、元気よく返事をする。

 

「あ、私にもちょうだい?」

「いいぞー。ほれ」

「ん、ありがとう」

 

東郷はどうやら酸っぱいのは平気らしく、なんとも美味しそうに食べてくれた。

やはり手間隙かけて作った物を喜んでくれる人がいるというのは、とても良いものだ。

死んだばっちゃも言っていた。「一流(プロ)料理人(シェフ)は、自分の為に料理を作らない。自分の料理を食べてくれた人が、満面の笑みを浮かべて、『ごちそうさま』と言ってくれる。この為に料理を作るのだ」と。

 

「あ・・・・あのー」

「ん?どーした樹。お前も欲しいのか?」

「えっと・・・・・はい。いっこ、ください」

「いいぞ。何事にも挑戦してこその人生だからな」

 

ばっちゃの言葉を樹に投げ掛けつつ、梅干しを一粒取り出して小皿に載せて渡す。

しばらく梅干しを見つめていた樹だったが、意を決し一口で食べたのだった。

 

「ん゛ん゛っ!?酸っぱ・・・・!」

「それが良いんだよ」

「そろそろいい?」

 

そういえば、風さんが話の途中だったな。

 

「今年は猫の手も入ったし、顧問の先生も居るからね♪」

「んえ?(わらひ)?」

「夏休みに入る前に、決めておきたいのよねえ」

「確かに、常に先手で有事に備えることは大切ですね」

「うーん・・・・文化祭の出し物かぁ・・・・」

「どーせならハデなヤツ、やりたいよな!」

「おー♪良いねー!みんなが笑顔になれる様な、素敵な出し物にしたいねー♪」

 

俺の提案に友奈が同意する。そこへ東郷が質問してくる。

 

「それで?具体的にはどんな出し物にするつもりなの?」

「特に、決まって、無い」

「かぐやちゃん・・・・」

 

友奈に呆れられた。そういうお前だって、何も思い付いちゃいねーだろ。

 

「はいはい、とりあえず、全員で各々考えておくこと!これ、宿題ね」

『はーい』

「あ、すいませーん。もう一杯!」

「えぇ!?」

「四杯目・・・・」

「・・・・俺、知ーらね」

 

今日のところはこれでお開きとなった。

しかし、文化祭か・・・・どうすっかなぁ────

 

―――――――――――†――――――――――

 

翌日───

 

結局あの後、出し物の案は出てこず、いつの間にか日を跨いでしまっていた。

出し物、どうすっかなぁ・・・・・

 

「あぁ、なんでもないよ!」

「こら、結城さん。なんでもなく無いですよ!」

 

あーあ、友奈のヤツ、怒られてやんの。

 

「では丁度良いので続きのページを、結城さんに読んで───」

 

先生に言われ、友奈が慌てて教科書のページを開こうとした。

 

まさに、その瞬間だった────

 

 

 

 

 

♪~~♪~~

 

 

 

 

 

「ぅおわっ!?なんだぁ?」

「え?私のも!?」

 

俺と友奈の端末から、これまで聞いた事の無いアラームが鳴り響く。

 

「こら、授業中は携帯の電源は切っておくこと!」

「す・・・すみませーん」

「っかしーな・・・・切っといたハズなんだがなぁ・・・・」

 

画面には『樹海化警報発令』という、見馴れない表示がされている。そして、此方の操作を受け付けない!?

 

「・・・・・・うそ、()()()()!?」

「──────何?」

 

東郷の呟きの真偽を問おうとしたところで、アラームは鳴りやんだ。

 

「ほっ、すみません。アラーム止まりまし、た・・・・?」

 

同時に、クラスメイト達の動きも止まった。

 

「─────え?」

「全員・・・・止まって・・・・?」

 

良く良く確認してみれば、クラスメイトだけでは無い。外を飛ぶ鳥や、揺れる木々、そしてなにより時計の針すらも止まっていた。

 

「友奈ちゃん。輝夜くん。落ち着いて聞いて」

「と・・・・東郷さん?」

 

神妙な面持ちの東郷が、俺たちを見て話す。

 

 

 

 

 

「私達が・・・・・"当たり"だった・・・・!」

 

 

 

 

 

その言葉の真偽を問うよりも先に、光が辺りを包み始め────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば、見知らぬ場所に立っていた。

 

こうして、俺達の日常は、一度終わりを告げたのだった………



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Attack on Vertex -勇者になる-

園子様のUR・・・・・・・
園子様のUR・・・・・・・
園子様のURぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・(ここでも呻く)


「何だよ・・・ここ・・・。何処だよ・・・」

 

景色に見覚えは欠片も無い。

そもそも俺はさっきまで教室にいたハズだ。

 

「わ・・・わたし、夢でも見てるのかな・・・?」

 

隣に立つ友奈が自分の頬をつねる。

どうやら痛かったらしく、ちょっと涙目になっていた。

 

「夢じゃ・・・ないみたい・・・」

 

訪れる沈黙。

それを不意に東郷が破った。

 

「二人とも安心して。ここは悪い所という訳ではないの」

「────その口振り、あのアラームとかについても知ってると見て良いんだな?」

「ええ」

 

こちらを真っ直ぐ見つめて答える東郷に、俺は───

 

「・・・っ!」

「東郷さんっ!」

 

右手で東郷の肩を掴み、力を入れる。

 

「全部話してもらう。分かってンだよな・・・・?」

「────ええ、勿論よ。だから安心して・・・・ね?」

 

諭すように、東郷は俺の右手に両手を乗せた。

 

「─────かぐやちゃん」

 

気付けば、友奈が俺の制服の裾を引っ張っていた。

言葉は無くとも、その泣きそうな表情を見れば、言いたい事は理解できる。

まったく・・・この期に及んで他人の心配かよ・・・

友奈らしいっちゃ、らしいけどよ。

 

「───────────」

 

仕方ない。友奈に免じて、ここは引き下がる事にしよう。

俺は東郷から手を離した。

 

「──────悪かった。ちょっと、冷静じゃなかった」

「・・・・誰だって、何も知らされずにこんな場所に跳ばされれば、冷静でなんて、いられないわよ。輝夜くんは、悪くない」

 

掴まれた肩の調子を確かめつつそんな事を東郷が言う。

やれやれ、まるで俺だけワガママ言ってるみてェじゃねーかよ・・・・ま、概ねその通りか・・・・・

 

「オラ、さっさと説明してくれよ。俺達ァなんでこんな場所に居る?何をすりゃア良いんだ?」

「それを説明する前に、私達にはまず、合流しなくてはならない人たちがいるの」

 

合流しなくてはならない人たち?

この場所に、他にも誰かいるのか?

と、その時。

背後から人の気配を感知した。

 

「誰だッ!?」

 

咄嗟に友奈と東郷を庇える位置に移動。襲撃に備える。

しかし、それは杞憂に終わった。

 

「ちょ・・・!?待った待った!あたしよあ・た・し!」

「──────風さん?」

「ふ・・・風先輩?樹ちゃんも・・・・」

 

茂みから出てきたのは風さんと樹だった。まさか、東郷が言っていた合流しなくてはならない人たちって・・・

 

「良かった。みんな無事ね・・・」

「風先輩・・・・・・風せんぱぁい!」

 

二人の姿を見た友奈が風さんに抱き付いた。安心したのか、少し涙ぐんでいる。

しかし、俺は安心できないでいた。

 

「・・・・風さん。あんた、どうやってここに?」

「これのおかげよ」

 

そう言って見せてきたのは、端末の画面。

この場所の地形データと、東郷以外の俺達の名前が表示されていた。

 

「地図アプリ・・・?」

「このアプリはね、この事態に陥った時に起動するようになっているの」

「えっと・・・・これって確か、勇者部に入る時にインストールしたアプリ・・・・ですよね?」

 

つまり、風さんはこうなる事を初めから知っていた。と言うこと。

 

「──────────」

 

言いたい事は腐る程ある。が、今は言わない。

東郷は、風さん達と合流したら話すと言ってくれた。

これまでの付き合いで、こんな時に東郷が嘘を言うヤツではないのは理解している。

だから、今のところは何も言わず、話を聞く事にする。

 

―――――――――――†――――――――――

 

場所を移して、現在俺達はさっきよりも低い場所にいる。

 

「私と東郷は、大赦から派遣されてきたの」

「大赦ァ?」

「大赦って、あの・・・神樹様を奉っている・・・?」

 

大赦

 

この神世紀の時代に於いて、知らぬ者のいない名前だ。

西暦最期の時代にて、時の政府機関から政権とかその他諸々を譲り受けた組織で、神世紀300年現在でも、その権威は揺るがない。

 

何故揺るがないでい続けられたのか。

その理由こそ、大赦が奉っているモノだ。

 

西暦の時代、突如として猛威を奮った殺人ウイルスの脅威から、人々を救った神樹様。

それだけに留まらず、現在も様々な恵みを与えてくださっている。

今や人類は神樹様無くしては生きていくことが出来ないのだ。

 

「ちょっと煌月?聞いてるの?」

「聞いてるよ。要はアレだろ。この"樹海"ってヤツは神樹サマが町護る為に張った結界で、俺らの役割はここで襲撃者をぶっ倒せば良いんだろ?」

「・・・・・あんたって、案外頭良いのネ」

「あ?ケンカ売ってンのか?」

「かぐやちゃんストップ!?ストーップ!?」

 

流石に冗談だって。

しかし、こんな結界用意しなきゃなんねーような敵か・・・・どんなヤツなんだ・・・・?

 

「っ!風先輩!来ました!!」

「・・・・・遅い奴で助かった。簡単な説明も出来ないままだったら、手遅れになってたかもしれない」

 

東郷の声に、全員がそちらを見る。

 

 

 

 

 

巨大な異形が、ゆっくりと、此方へ向かっていた。

 

 

 

 

 

「あれがバーテックス。人類の敵であり、そして、あいつが神樹様の下へとたどり着いた瞬間、世界が終わる・・・」

 

東郷がそんな事を語る。

大それた話になってきたな。"世界が終わる"・・・ね。

 

「この場所に・・・・私たちだけ・・・・」

「おい、風さん!東郷!アレとどう戦うってンだよ!なんか武器的なモンは!?」

「方法ならあるわ!このアプリを使うの!」

 

そう言って見せてきたのは、先程俺達と合流する際に使用していたアプリ。

 

「戦う意志を見せれば、アプリのロックが解除されて神樹様の勇者になれるの!」

 

なるほどな。

試しに俺もアプリを起動させる。

すると画面に、錠前のマークが画かれたボタンが表れる。

 

「これを使えば、俺も・・・・・」

「みんな!伏せて!!」

 

ボタンを押そうとした時、東郷から警告の声が上がった。

咄嗟に、近くにいた友奈をしゃがませ、東郷に覆い被さる。

 

直後に起こる爆発。

 

確認はしていないが、どうやらバーテックスとやらの攻撃らしい。

 

「あ・・・・ありがとう、輝夜くん」

「気にするな。友奈も無事か?」

「う・・・・うん。なんとか・・・・・」

 

笑顔で答えるが、その声は震えていた。

当然だろう。いきなりこんな場所に連れてこられて、しかもあんな奴と戦えと言われる────普通なら、失神していてもおかしくない。

 

「東郷、このアプリがあれば、アイツと戦えるんだな?」

「え?ええ・・・・でも、変身できるのは神樹様に選ばれた少女だけで────」

「知った事かよ!!」

 

端末を手に、バーテックスと向き合う。

 

「理屈はどうあれ、俺ァ今、樹海(ここ)に居て、バーテックス(アイツ)と向き合っている!ンならやる事ァ一つ!!勇者になって、アイツをぶっ倒す!!!なれなくたってやってやる!!!」

 

覚悟なんか、最初から決まっていた。

俺が友奈と出会った時から、ずっと。

だから─────

 

 

 

 

 

「俺に力を貸しやがれ!!!」

 

 

 

 

 

端末のボタンを押す。同時に、バーテックスから砲弾のようなモノが発射され────

 

「かぐやちゃん!!!!」

 

俺の目の前に着弾。爆風が俺の身体を叩きつける。

 

 

 

 

 

煙が晴れた時、俺の衣服は変化していた。

 

 

 

 

 

普段は着ないような黒いインナーを着て、裾の長い学ランを羽織っている。

長ランは襟元の錠前形の金具で止められており、少し動いた程度ではどっか飛んでいく事は無いだろう。

武器らしき物は見当たらないが、まあ、平気だろう。

俺には、()()がある。

 

「・・・・・・うそ、変身した?」

「────────あれ、が」

「・・・・・・・・・・・・・・・かぐやちゃん」

 

さて、

変身できたって事ァ、バーテックスとも対等って事だ。

 

「ンじゃ、やっちゃるか・・・・仕事の時間だ」

 

()()()()()()()()、スイッチングのセリフを呟き、俺はバーテックスへと突撃して行った。

 

 



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Attack on Vertex -魔術師-

樹海をひた走る。

バーテックスの繰り出すミサイルの雨をくぐり抜けながら、倒す方法を思案する。

 

(左目の力は通用しないって事ァ・・・・・アレは生き物っつー事なんだが・・・・さて)

 

俺の左目には、"目"と呼ばれる、物の一番緊張した部分を見ることのできる能力がある。ここを刺激してやることで、全ての物は一発で粉々にできるのだ。直接触れる事が出来なくとも、左手で"目"を手繰り寄せることができるので、距離にはそれほど意味は無い。ここまで聞くと万能っぽく思えるが、無論弱点はある。『この能力が通じるのは無機物のみ』、という一点だ。生き物相手では見ることすら叶わない。

 

「・・・・ま、やりようはある!」

 

全身に意識を集中。

左腕で辺りの空気を絡めとるように、纏め、固め、拳の形を造り出すと、バーテックスへ向けて打ち出した!

 

「飛んでけ!」

 

 

イ ン パ ク ト烈空拳

 

 

拳形の空気弾がバーテックスに直撃。が、殆どダメージを与えられていない。

 

「ならば!!」

 

同じ空気弾を無数に造り出し、再び打ち込む!

 

 

烈空拳乱舞エ ア ロ ラ ッ シ ュ

 

 

今度はしっかりダメージが入った。頭部と思われる場所にクリティカルヒットし、三割くらいを削りとってみせた。

が、即座に削られた部分が再生を始める。ペース的には削る速度の方が速そうだから、俺の努力次第ではこいつを仕留めることも可能だろうが・・・・

それを実行するよりも前に、風さんがやって来た。よく見れば、制服からきらびやかな衣装にチェンジしている。あれが、勇者の姿ってワケか。

 

「ちょっと煌月!!先走らないの!!」

「来たか、風さん・・・・・と、樹も!?」

 

風さんに続いて、樹まで勇者に変身していた。

まったく・・・・風さんは何を考えて────いや、風さんの事だから、樹は下がらせるか・・・・

となると、着いてきたのは樹の意志っつー事になるな・・・・

 

「樹・・・・お前、分かってンのか?場合によっちゃア命、落とすかも知れないんだぜ・・・・」

「そ・・・・それでも!私はお姉ちゃんに着いていくって・・・・そう決めたんです!!」

 

震えながらも、真っ直ぐにこちらを見つめて言ってのける樹に、俺は「下がれ」と言うことはしなかった。

 

「・・・・・上等だ。援護に回る!魔術師は後衛ってナァRPGのお約束だからな!!」

「え?まじゅ・・・?」

「──────やっぱり、煌月。そういう事なのね」

 

拳形の空気弾を更に追加で数十発打ち込みながら、二人の後ろに下がる。

大赦所属であるが故か、流石に風さんは知っていたようだな。

 

魔術師

 

それこそ、俺がばっちゃから勝手に継いだ役職の名前だ。

大赦的には"蟇目(ひきめ)(かぶら)"と言うらしいが、正直、"魔術師"の方がカッコいいと思う。

役割についての説明は一旦保留しておくとして、魔術師の戦闘方法を紹介しよう。

と言っても、魔術師にやれる事は一つだけ。

 

事前に組み上げた「術式」を用いて自然現象から力を借り、妖魔の類いを滅却する。

 

それだけだ。

ちなみに、先程あのバーテックスに向けて放った魔術は、"風"の魔術だったりする。

もっとも、俺の場合は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()のだが。

 

「んで、風さん!コイツどうやって倒すんだ?少し削っただけじゃ、すぐ治っちまうぞ」

「バーテックスには"御霊"っていう、所謂心臓みたいな物があるの!それを破壊しない限り、バーテックスは倒せないわ!」

「御霊?」

「今からあたしと樹で、御霊を取り出すわ!あんたは───」

「把握した。出てきた御霊をブッ壊せば良いンだな!」

「頼むわ。樹!」

「う・・・・うん!煌月先輩、お願いします・・・・!」

「任せろ」

 

跳び立つ二人をサムズアップで送り出す。

さて、その間に俺ができる事っつったら────

 

「敵の注意を引き付ける!!」

 

土を一握り掴み、バーテックスへ向けて放り投げる。

瞬間、魔力によって土が雷へと変化し、バーテックスに浴びせられる。

 

 

 

 

「うわっ・・・すご・・・・」

「ひえぇ・・・・」

 

雷はバーテックスの表面を焦がし、おかげでコチラに注意を向ける事に成功した。

ミサイルの雨を再び雷を撃ち迎撃。

 

「お姉ちゃん!位置に着いたよ!!」

「よし・・・・!封印開始!!」

 

お、なんか始まった。

 

「えっと・・・・これを読むの・・・?」

 

隠世の大神

哀れみたまい

咲御霊

櫛御霊

 

「おとなしくしろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

樹が祝詞を唱えているのをガン無視して、風さんがなんか叫んだ!?そしてなんか発動。え、それで良いの?

 

「えぇ!?それで良いのぉ!?」

「要は魂込もってさえいれば、言葉は問わないのよ!」

「早く言ってよ~~!」

 

なんつー雑な・・・・・

しかし効果の程は上々で、バーテックスの頭がパッカーンして中から三角錐型の奇妙なモンが出てきた。

 

「あれが御霊ってヤツか!」

「そう!あれを壊せば私たちの勝利!!」

「OKだ!そうと決まればとっておきを喰らえェ!!!」

 

 

メ タ ル ス テ ー

 

杭金射単発

 

シ ュ ー テ ィ ン

 

 

土から金属を抽出し生成した杭を、御霊へと撃ち込む。

俺の腕程もある太さの杭は、御霊に見事突き刺さった。あとは─────

 

 

「勇者ぁ─────」

「ん?」

 

ダメ押しに、左腕に雷を纏わせてからあの杭を殴ろうとしたら、上の方から聞き覚えのある声が。

見上げて見れば────

 

「─────な!?友奈!」

 

勇者の姿に変身したらしい友奈が、バーテックスに突き刺した杭に向かって殴りかかる。

 

 

「パぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁンチ!!!!!!」

 

 

その一撃で、杭は奥深くへと入り込み、御霊は完全に砕け散ったのだった・・・・・

 



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Attack on Vertex -握った拳-

Gジェネが楽しくて執筆してる時間が取れない(笑)

PS装甲持ちに鉄血系MSで挑むのが、最高に泥臭くて楽しいが過ぎるんよ~wwwwww


勇者に変身した風先輩に言われて、私と東郷さんは安全そうな場所に避難していた。

・・・・良いのかな、こんなところに居て。

かぐやちゃんは真っ先に飛び出して行った。

樹ちゃんも風先輩と一緒に行った。

私はここで、なにもしていない。

 

「─────ごめんね、友奈ちゃん」

「東郷さん?」

 

一人、悶々としていたら東郷さんが急に謝ってきた。東郷さん、何かしたっけ?

 

「今までずっと、黙っていたこと。ちゃんと説明していれば、こんな事には─────」

 

ああ、なんだ。そんな事かぁ。

 

「─────うん、そうだね。事前に教えてくれれば、確かに覚悟くらいはできていたかも知れないね」

「─────────」

「でも、東郷さんも風先輩も、みんなの為を思って黙っていたんでしょ?それって、勇者部の活動目的と一緒だよね」

「─────友奈・・・ちゃん・・・・」

「東郷さんは悪くないよ。もちろん、風先輩もね!」

「────────ああ、なんだか・・・友奈ちゃんが眩しい・・・!」

 

そう言って、東郷さんは顔を両手で被って下を向いてしまった。どうしよう?なんか変なことでも言っちゃったかな・・・?

 

「私、少し怖かった。もし私達が"当たり"だったとして、勇者部の真実を知った時、友奈ちゃんたちに嫌われてしまうんじゃないか──って」

「そんなこと・・・!?」

「そうね。私の考え過ぎだったみたい」

 

そう言って、東郷さんは笑ってくれた。良かった・・・・東郷さん、元気になってくれたみたい。

 

「友奈ちゃん」

「何?東郷さん」

「私のことは気にしなくて良いから、行ってあげて」

「─────え?」

 

真剣な表情で、東郷さんが言う。でも、そんなことしたら────

 

「私の端末は確かに、今は修理中で手元に無いけれど、バーテックスの攻撃が飛んで来たって平気よ。私の精霊が護ってくれる」

「────東郷さん」

「だから、友奈ちゃんは行って。輝夜くん達を、助けてあげて・・・・!」

 

精霊が何の事なのかよくわからないけど、真っ直ぐ見つめてくる東郷さんの真剣な眼差しを、私は信じることにした。

 

「──────わかった!行ってくるね!」

「うん。行ってらっしゃい」

 

東郷さんに見送られて、私は走り出す。

目指す目標はただ一つ。目の前のバーテックス。

 

「・・・・・・私は」

 

あんなのと戦うのは、ちょっと怖い。でも・・・・!

 

「・・・・・・・・・・・私はっ!!」

 

かぐやちゃん達が頑張ってるのに、私だけなにもしないなんて・・・・・そんな事はできない。だから・・・・!

 

「勇者になるっ!!」

 

握り締めていた端末から、光と花弁が溢れだし、気がつけば私の着ている服が変わっていた。

これが、私の勇者服・・・・?

なんだって良い。これで、みんなを守れるならっ!

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

 

雄叫びを上げて、おもいっきりジャンプ。

樹海の木々を飛び越えて、バーテックスへと立ち向かう。

バーテックスは頭から三角形のよく分からない物を出しており、その物体にはでっかい杭が突き刺さっている。

丁度良いや、あれを殴ろう。

 

 

「勇者ぁ──────パぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁンチ!!!!!!!!!!!」

 

 

全身全霊の勇者パンチで、杭は三角形の物体を突き抜けて行った。

でっかい風穴を空けられた物体は砕け散り、いくつもの光が空へと昇っていった。

 

「・・・・やった!」

 

それと同時に、バーテックスが砂になって崩れて消える。もしかして、さっきのはバーテックスの心臓みたいな物・・・・だったのかな?

 

「友奈~~!」

「あ!風先輩!樹ちゃん!」

 

ぼーっとバーテックスが消える様を見ていたら、風先輩と樹ちゃんが跳んで来た。

良かった・・・・二人とも無事だった。

 

「あれ?かぐやちゃんは?」

「煌月なら、多分無事よ。あいつが本当に魔術師なら、きっと、私の誰よりも戦い慣れているはずだから」

「まじゅ・・・・・なんですか?それ?」

 

私の質問に風先輩が答えるよりも先に、視界が目映い光に包まれ─────

 

―――――――――――†――――――――――

 

「・・・・・・・あれ?ここ、学校の屋上?」

 

気が付くと学校の屋上に立っていた。

 

「神樹様が戻して下さったのよ」

「ほへぇ~」

「樹、怪我は無い?」

「うん・・・・お姉ちゃんは?」

「あたしはホラ、女子力高いから────おっと」

 

その時、樹ちゃんが風先輩に抱き付いた。

 

「ふぇぇ・・・・怖かったよぉ・・・・もう何がなんだか・・・・」

「よしよし、頑張ったわね。冷蔵庫のプリン、食べていいわよ」

「あれ、元々私のぉ~~・・・」

 

そんな微笑ましい姉妹愛をほんわかした気持ちで眺めていたら、

 

「友奈」

「あ、かぐやちゃ────」

 

 

 

 

パシン───!

 

 

 

 

 

乾いた音がして、頬に痛みが走る。

顔を上げて見れば、無表情でこちらを見るかぐやちゃんがいる。

やっぱり、怒るよね・・・・勝手に飛び出しちゃったもん。

 

「なんで出てきた」

「ちょ・・・・煌月!?」

「黙ってろ」

 

仲裁に入ろうとした風先輩を一喝して、かぐやちゃんは私の返答を待つ。

 

「答えろ。なんで、出てきた」

「─────────かぐやちゃんは、優しいね」

「あぁ?」

 

叩かれた頬を撫でる。ちょっと赤くなっているけど、もう痛くない。かぐやちゃんが手加減してくれたからだ。

 

「今だってこうして、左手じゃなくて、右手で叩いて・・・・"叱る"ってどうするのか、ちゃんとわかってる」

「──────────」

「私、かぐやちゃんのそういうところが好き」

「─────そーかよ」

「かぐやちゃんだけじゃない。風先輩も、樹ちゃんも、東郷さんも・・・・みんな大好き。だから、守りたいって思うんだ」

 

真っ直ぐ、かぐやちゃんの眼を見て話す。

 

「戦うのは怖いよ・・・死んじゃうのは、嫌。でも、大好きな人たちが、居なくなっちゃうのは・・・・もっと嫌だから・・・・・」

「あー、もういい。解ったから・・・・・ったくよォ・・・・こっちの心配も知らないで・・・」

「えへへ・・・・わがまま言って、ごめんね?」

「何時もの事だ。馴れたよ」

 

やれやれ、と頭を振るかぐやちゃん。

 

「怪我は無いか?お前そういうの、直ぐに言わねーからな。痛いとこあるなら、さっさと言え」

「うーん、今はほっぺたが痛いなぁ~~」

 

ほんとはもう痛くないのだけど、ちょっとだけ、かぐやちゃんをからかってみる。

 

「我慢しろォ、そんくらい!────────悪かった

 

相変わらず、素直じゃないなぁ、かぐやちゃんは♪

 

 



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歪んだL、正すはW -鏑矢-

バーテックス撃退後、俺たちはそのまま帰宅して良い事になった。なんか、大赦が話を通してくれたらしい。

そんなワケで、俺は今、徒歩で帰路についているのだが───

 

「はぁ・・・・・」

 

その足取りは、正直言って、重かった。

理由は明白。先程の屋上での一幕だ。

 

(久しぶりに、叩いちまった─────)

 

いつだって俺はそうだ。言うべき言葉が思い付かないからといって、直ぐに手を出す。

それが原因で何度も要らぬ誤解を受けた。その度に、友奈やばっちゃに迷惑をかけた。

 

「はぁぁ──────」

 

二度目のため息を吐き出す。あー、めっちゃ憂鬱だ・・・・

ん?暗いって?

元来そういう性格なんだよ、俺は。

本来の俺は、口数は少ない。細かい事を気にし過ぎる。逆に気に入らない事はとことん嫌う。短気。オマケにすぐ手を出す。そんな奴なんだ。

 

─────友奈の奴は、よくこんなロクでなしとつるんで居られるな・・・

 

普段は無理にテンションを上げているから、こうやって一人きりになると反動が出る。

大概、友奈かマッキー辺りが一緒に居るので、すぐに立ち直れるが、今は居ない。

陰鬱な気分が更に加速したその時だった。

俺の端末が震えだし、着信を報せる。

開いて見れば、差出人不明のメール。内容は数字の羅列のみ。

はいはい、仕事の時間ね・・・・・まったく・・・・

 

「この鬱憤は、連中相手に晴らすとするか・・・」

 

愚痴りながらも、数字の羅列が意味する場所へと向かう。

 

―――――――――――†――――――――――

 

西暦の時代。

突如として蔓延した致死性の高いウイルスによって、人類は滅亡寸前まで追いやられたそうだ。

それを見かねた土地神たちは、四国に集まり一つとなった。それが"神樹"だ。

ちなみに、四国以外の土地にも、結界を張った神々がいたそうだが、内乱だったりパワー不足で結界を維持出来ずにダウンしたりで、ほとんどが滅んでしまったそうな。

 

話を戻そう。

 

神樹は、人類を護る為に二つの根を四国中に張り巡らせた。

一つは、四国をぐるっと囲む神樹の"壁"。

神樹の神力によって形成されているらしく、高く分厚いその壁は、ちょっとやそっとじゃ破壊することも登坂するとこも出来そうに無い。

なんでそんな事知っているかって?

────────────察しろ。

 

で、もう一つは、"気脈"。

"レイライン"とか、"竜脈"なんて呼ばれ方もする、エネルギーの流れのことだ。

神樹はそれを、自らを中心に据えるように張り直し、四国全体に"恵み"を与えた。結果、本来なら気候等の関係で四国では育てられない農作物を育てられるようになった。

まさに神樹様々である。

しかし、『因果応報』とでも言うのか、神樹が気脈を張り直した影響が、思いもよらぬ形で表れた。

 

それこそが、神世紀初頭に起きた"集団自殺テロ事件"だという。

 

歴史の授業において、ちらりと名前だけ聞かされるだけのこの事件は、気脈の歪みから生じた邪気が原因なのだそうな。詳しい事は知らない。

 

さて、そろそろ本題に入ろう。

 

俺たち"鏑矢の魔術師"こと、"蟇目鏑"の役目は、気脈の歪みから生じた邪気を祓うことである。

邪気はそのままにしておくと、人や物に宿り、"妖忌"という化け物となって悪さをしだす。

その規模は溜め込んだ邪気の量に比例し、小さいものはガキんちょのイタズラ程度のものから、大きいものならば前述のテロ事件レベルのものまで。

基本的に放っておいて良い事はまったく無いので、感知したらさっさと祓う事にしている。

 

「オオゥラァ!!」

 

 

纏炎拳イ ン パ ク ト

 

 

炎を纏った左腕による正拳突きで、妖忌の邪気は祓われた。後に残るのは、邪気を溜め込んでいた物のみ。

今回は・・・・・・・フライパン?

そこそこ新品のフライパンだ。恐らくだが、このフライパンは、『試しに買ってみたけど、使い辛いから捨てた物』なのだろう。そういう物は、意外と邪気が溜まりやすい。

逆に邪気が溜まり難いのは、『使い古された物』だ。

物には使っている人物の"想い"が込もっていく。それが邪気をある程度寄せ付けないでいるのだ。尤も、溜まり難いってだけで、使い古しの道具でも邪気は溜まるし、妖忌にもなるが………

 

「さて─────」

 

とりあえず、仕事は終わったのでクライアントに連絡メールを送り帰宅することにした。

 

―――――――――――†――――――――――

 

俺が魔術師になったきっかけは、ばっちゃが死んで数日後に届いた、ばっちゃ宛てのとある一通の手紙。

そこには、驚きの真実が記載されていた。

 

曰く、『魔術師としての適性があった母さんの代わりに、ばっちゃは老体に鞭打って妖忌と戦っていた』事。

 

そして、『その適性は俺にも有り、それもかなり高い数値を出している』という事。

 

これを知った俺は、魔術師になる決意をした。

玉藻市に住む両親とは滅多に会うことは無いが、ばっちゃが死んだ後でもこの家に住む事を許してくれたし、何より、()()()()()()()()()()()()()()()俺を、実の息子同然に接してくれた。

 

だからこれは、ちょっとした恩返しのつもりだった。

 

「─────二人が知ったら、怒るだろうけどな」

「どうかしましたか?坊っちゃん」

「なんも」

 

マッキーがキッチンから顔を覗かせて聞いて来たので、なんでも無いと答えておく。

マッキーも、俺が魔術師をやっている事を知らない──────ハズ。

というのも、マッキーはどういうワケか、俺の隠し事を的確に見抜いてしまう。

今日にしたって、帰宅早々に「勇者のお役目、お疲れ様でした」等と言って出迎えてくれたので、かなりビビった。

友奈辺りが言う事には、俺は「かなり分かりやすい」らしいが・・・・・それにしたって・・・・

 

マッキーと言えば、コイツの来歴も不可思議な点が多い。

マッキーと俺が知り合ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()の事だった。

ばっちゃの知り合いであるらしいマッキーを、最初の頃は警戒していたが、なんだかんだで今では公私に渡って世話になりっぱなしである。

 

「──────────」

 

まあ、コイツに関しては深く考えるだけ無駄だろう。

ばっちゃも言っていたが、"来歴とかよりも、今、マッキーが俺にとってどうなのか"が重要なのだから。

 

「さて、できましたよー。今日のうどんはだんびろチックです!」

「─────だんびろ?」

 

不安はまだまだ多いが、マッキーは俺にとって、信頼できる大人達の一人なんだ。

それはきっと、マッキーの正体を知ったとしても、変わらないだろう。

 

幅のめちゃくちゃ広いうどんを、四苦八苦して食べながら、とりあえず俺は、そう結論付けることにした。

 



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赦しあうF、再びのV -勇者のお役目-

新五ヶ条の四つ目、まさかの新しいお話だとは・・・!!しかも最初は巫女がメインのお話で、全三章構成だとか!
新キャラはぐんちゃんに関係あるらしい・・・・・って事は、この作品にも絡ませられそうかも知れない。
何はともあれ、来月が楽しみだせぇ!!!


───翌朝

 

「昨日の事故知ってる?」

「あー、隣町で起きたやつでしょ?二,三人怪我したっていう・・・・」

「私その時、現場の近くに居てさー」

「え、ウッソ、マジで!?」

「写メ送ろうとしたんだけど、電池切れてて・・・」

「あるあるー。大事な時に限って電池切れ起こすんだよねー」

 

クラスメイトのそんな会話を聞きながら、私は日直の仕事をする。

今日は東郷さんはお休みだ。

学校には「足の検査に行く」と言っていたらしいが、本当は違う。大赦まで端末を取りに行っているのだ。

 

(・・・・・・・そういえば、風先輩がかぐやちゃんのこと、"魔術師"って言ってたな・・・・)

 

私の知らないところで、私の大切な人たちが大変な事に巻き込まれていた。

その事実に、私の背筋は震える。

 

(大丈夫・・・・今の私には、勇者の力がある・・・・・これなら、みんなを守れる・・・・!)

 

自分を奮い起たせて、震えを止めようとする。けれど震えは収まらない。

 

「何ボケーっとしてンだよ」

 

その時、頭になにかが乗っけられて、後ろからかぐやちゃんの声がした。

乗っけられたのは、紙パックのりんごジュースだった。かぐやちゃんが買ってきてくれたのかな?

 

「あ・・・・ありがとう・・・・」

「オラ、それ飲んだらとっとと日直の仕事、片付けろって」

「うん・・・・」

「────────大丈夫だ」

「ふぇ?」

 

りんごジュースを飲もうとしたら、かぐやちゃんが小さな声で呟いた。

 

「何が有ろうとも、俺がどうにかする。だからお前らは、大丈夫だ」

「───────────────────」

「その代わり、俺の方はお前らに任せるから。持ちつ持たれつ、ってヤツさね」

「─────ふふ、かぐやちゃんらしいや」

 

もう、背筋の震えは収まっていた。

大丈夫。かぐやちゃんやみんなが一緒なんだ、怖いものなんかありはしない。

 

「よぉし!」

 

私はかぐやちゃんから貰ったりんごジュースを一気に飲み干すと、空になったパックをゴミ箱に投げ入れた。

飛んでいく紙パックは、綺麗な放物線を画いてゴミ箱へホールインワン。

 

「お、ナイッシュー♪」

「んへへ~♪」

 

―――――――――――†――――――――――

 

時間は流れて放課後───

部室に着いた私は、端末を操作し、私の精霊"牛鬼"を呼び出す。

アプリの説明書によると、精霊は、私たち勇者に力を貸してくれる存在で、バーテックスから御霊を引き出す"封印の儀"や、勇者のサポートをしてくれるのだとか。

私は気が付かなかったけど、昨日の時もサポートしてくれてた・・・・のかな?

 

「その子、友奈さんになついているんですね~」

「うん。名前は"牛鬼"っていうんだ!」

「かわいいです~♪」

「ビーフジャーキーが好きみたいなんだ」

「牛なのに!?」

 

そんな樹ちゃんの精霊は"木霊"というらしい。頭に葉っぱの生えた緑色の毛玉みたいで、こっちもかわいい。

 

「さて!みんな無事で何よりだワ!」

 

と、その時、風先輩が黒板からこっちに向き直って、話を始めた。

 

「戦い方はアプリに説明があるから置いといて、今は戦う目的を話すわね」

「お願いします」

 

私が返事をすると、風先輩は黒板の謎の絵をビシッと指差して言った。

 

「こいつ!バーテックス。こいつら人類の天敵が、向こう側から壁を越えてやってくる事が、神樹様のお告げで分かったの。その数、十二体。この前倒したから、残り十一体ね」

「それ、こないだのやつの絵だったんだ・・・・」

「き・・・奇抜な様子をよく表しているよねっ!?」

 

樹ちゃんのツッコミに対し、フォローを入れる。

 

「・・・・バーテックスの目的は神樹様の破壊。以前襲って来た時は追い返すのが精一杯だったんだけど、御霊の存在が確認された事で、状況は一変。大赦は神樹様の御力を借りて"勇者"と呼ばれる姿に変身するシステム───勇者システムを作りあげたの。人知を超えた力には、こちらも人知を越えた力ってワケ!」

 

続けて風先輩は、神樹様(っぽい何か)の絵から線を引っ張り、四つの人(のような何か)の絵に繋げて丸で囲んだ。

 

「それ私たちだったんだ・・・・」

「げ・・・・現代アートってやつだよ!(汗)」

「結城さん。それはフォローになってませんよ?」

 

いつの間にか後ろにいたマッキー先生に突っ込まれた!?

というか、先生にお話聞かれて大丈夫なの?

 

「ああ、私のことはお構い無く。大赦の知人から、大体の事情は聞き及んでおりますので・・・・」

「あー・・・・ありがとうございます先生。じゃ、続けるわね」

 

なんかよくわからないけど、大丈夫らしい。

 

「えーと・・・・ああ、そうだ。注意事項として、樹海が何かしらのダメージを受けると、日常に戻ったときにその分、何かの厄災となって現れるそうよ」

「厄災・・・・」

 

思い出したのは、今朝の事故の話とバーテックスの足下で黒く変色していく樹海の姿。

あの事故が、樹海での戦闘の影響・・・・?

 

「派手に壊されて大惨事!・・・なんてことにならない為にも、私たち勇者部が頑張らないと・・・!」

 

 

 

 

 

「その勇者部も、大赦からの指示で意図的に集めたんだよな・・・?」

 

 

 

 

 

それまで黙っていたかぐやちゃんが、突然にしゃべりだした。

 

「───ええ、そうよ。大赦の調べで勇者の適性がある人はだいたい分かっていたから」

「知らなかった・・・・ずっと一緒に居たのに・・・・」

「・・・・黙ってて、ごめん」

「次、敵はいつ来るんですか?」

「わからない。一週間後かも知れないし、明日かも知れない」

「だったら、なんでもっと早くに言わなかった?」

「それ、は・・・・でも、他のチームが当たる可能性だってあって───」

「そ・・・そっか。他にも、ここみたいなチームがあるんですね?」

「うん。人類存亡の危機、だからね」

「なら、なおのこと事前に言うべきだろ」

「──────────」

「友奈も樹も、下手したら死んでいた可能性だってあっただろうに」

「ゆ・・・勇者の適性が高くても、どのチームが選ばれるかは、敵が来るまではわからなかったのよ!だから・・・・」

「ふーん・・・・・・なら、東郷は?」

「え?」

 

え・・・・どうしてここで東郷さんの名前?

 

「あいつは、風さん以上にヤツの事を知っているような雰囲気だった。て、事ァよ・・・・もしかしてなんだが、東郷は以前にもバーテックスと戦ったことがあるんじゃないのか?」

「────────え?」

 

かぐやちゃんの指摘に、風先輩は呆然としている。

 

「だとしたら、勇者部が当たる事はほぼ確定だったんじゃないか?」

「─────そん、な」

「・・・・・・その様子だと、そこまでは知らなかったようだな」

「───────────ごめん」

「謝って済む話じゃないだろうが」

「うん。分かってる・・・・・でも、これだけは信じて。勇者部を創ったのは、大赦からの指示があったからだけど、それだけが理由で創った訳じゃないってこと」

 

風先輩のその一言に、かぐやちゃんは────

 

「分ぁーってるよ、ンな事ァ」

「──────へ?」

「東郷が言わなかったのは『心配させたくないから』。風さんが言わなかったのも『心配させたくないから』。どっちも他人を思ってやった事だ。別に咎めるつもりはねーよ。でもな・・・・」

「うん」

「勇者部五ヶ条一つ、"悩んだら相談"。一人で抱え込んでんじゃねーよ。せめて俺くらいには話せって」

「うん・・・・ごめん」

「ていっ」

 

ぺちん、とかぐやちゃんが風先輩にデコピンした。

 

「あいたっ」

「ごめんはもう聞きあきたぜ。こういう時はよ───」

「・・・・・ありがとう」

「うむ、よろしい」

「─────年下のクセに生意気」

「なら、年上らしい事してみろっての」

「言ったなー!このー!」

「ぬわっ!?ぐりぐりは止めい!────ったく」

 

良かった・・・・二人とも、ちゃんと分かり合えて・・・・

と、その時。

 

 

 

 

 

♪~~♪~~

 

 

 

 

 

「────まさかの二日続けて!?」

「人気者は辛いねえ・・・・・東郷から連絡は?」

「──────────来てないわね。仕方ない、向こうで合流しましょ」

 

さっきまでのふざけあっていた空気は消え去って、真面目な表情で話し合う二人。

間には割り込めそうにないので私は、隣で緊張している樹ちゃんに話しかけることにした。

 

「・・・・・・・・・」

「大丈夫!私たちならやれるよ。勇者部五ヶ条一つ!"為せば大抵なんとかなる"だよっ!」

「・・・・・はいっ!」

 

うん。大丈夫みたい。

 

「話は蒸し返すようだが風さんよ。別に俺は咎めるつもりは無いが、怒ってはいるんだぜ?」

「うっ・・・・・・うぅ、仕方ないわね・・・・・バーテックス全部倒せたら、なんでも一つ言うこと聞いてあげるワ」

「よしなら噂に名高いチアコスで撮影会な!」

「はぁ!?」

「いよーし!俄然ヤル気が出てきたね!!バーテックスちゃんイラッシャーイ!!なんなら十一体全員で来てもいいのよ?」

「フラグ・・・・ですかね?」

「あ・・・・・あははは・・・・(汗)」

 

 

 

 



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Attack on Vertex -星の再来と、襲い来る牙-

久しぶりにGEAR戦士電童を見たくなった。
電童良いよね。タービンアクションがカッコいいんよ~♪
一番好きなデータウェポンはもちろん輝刃。
輝刃ストライカーのファイナルアタックは尋常じゃないくらい大好き。ドリル持って突撃とかロマンの塊だよなぁ!!


世界が樹海に包まれたのを確認すると、俺は変身した。

今回の相手はなんと三体同時。レーダーによると、手前の二体がそれぞれ、スコーピオンとキャンサーで、奥にいるのがサジタリウスというそうな。

蠍座とか射手座とか・・・・コイツら、黄道十二星座から名前取ってきてんのかよ。そういや昨日のは乙女座(ヴァルゴ)だったか?名前。

 

「三体同時とか・・・・ちょっとモテすぎでしょ・・・・」

「あわわわ・・・・・」

「落ち着け樹、あと風さんは何を言うとるか」

 

そして友奈は黙って端末を構え、変身していた。

『ヤル気は充分!』ってか?結構な事だが、先走るようなマネはしないで欲しいねぇ。

 

「おい友奈。あんまり気を張り過ぎるなよ?」

「うん。大丈夫」

 

あ、ダメだわ。予想通りに気負い過ぎてやがる。

やれやれ仕方ねぇな・・・・ここは俺が───

 

と、その時だった。

 

「ガっ!?」

「かぐやちゃん!?」

「えっ?えぇっ!?」

「な・・・!?いったい何が!?」

 

突如として、後方に向かってぶっ飛ばされた。

三人の俺を呼ぶ声が急速に遠さかり、訳も分からぬまま俺は樹海の地面に叩き付けられる。

 

()っ!!てェ・・・・・なぁ!!!何しやがるンだゴルァ!!!!!!」

 

飛び起きて、俺をぶっ飛ばした奴の顔を見る。

 

 

 

否、見ようとした。

 

 

 

「・・・・お前、そのお面」

「───────」

「・・・・だんまりかよ」

 

ボロ布みたいな衣服を着たそいつは、見馴れたマークの印された面を被っていた。

紡錘形の鏃をした矢を象ったモノ───即ち、"鏑矢"のマーク。

 

「俺が樹海に入れるんだから、当然、他の連中だって入れるとは思っていたが・・・・いきなり攻撃されるたァ思ってもみなかったぞ」

「──────────」

「・・・・・・チッ。俺がこれだけ話しているんだからよ、ちったァ返事くらいしやがれってンだよォ!!!」

 

 

 

 

 

雷の魔術を、拡散率高めで放つ。

別に攻撃する目的で撃っていない。目眩ましをして足止めをできれば良かった。

 

「─────無駄な足掻きだ」

 

しかし、どうやらコッチの思惑は読まれていたらしく、俺の行く手を阻むように先回りされた。

 

「──────クソ。おいお前!!今この四国はなァ!未曾有の危機に瀕しているンだよ!バーテックスっつー、人類の・・・・敵?だっけか?そいつらが大挙して攻め込んで来て────」

()()()()()()

「何ィ・・・・?」

 

コイツ今、知っていると言ったか・・・?

 

「バーテックスの事も、この世界の事も、全て、知っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。人類の存続の為に・・・・」

 

いきなり喋りだしたと思ったら、なんかワケわからん事抜かし始めやがったぞコイツ・・・・あと、声的にコイツ女だ。もしかしたら女っぽい声の男かもしれんが・・・・

 

「・・・・・って、試すだァ?俺をか?いったい何の為に?」

「お前は知らなくて良い事だ」

 

それだけ言うと、仮面女は背中に両手を回す。

シャリンッという金属特有の音を響かせて何処からともなく取り出したのは、二振りの大剣────と思いきや、剣なのは刀身のみで、柄の部分は銃になっていた。なるほど、ガンブレードか。なかなか通じゃないの。

 

「って、言ってる場合じゃねェな・・・・」

「─────ふっ!!」

 

仮面女が右手のガンブレードを振りかぶって突撃してくる。

それをギリギリまで引き付けて、回避。

 

「うぉっ!?」

「──────」

 

顔面スレスレを掠めて地面に大穴を穿ったガンブレードを見て、流石の俺も肝を冷やした。

もし当たっていたら・・・・潰れたトマトじゃ済まねーだろうな・・・・

 

「はぁッ!!」

 

おっと、悠長に考え事してる場合じゃねぇ!!

仮面女の奴、中々にガンブレードの扱いが上手い・・・・!

近付かれて漸く気付いたのだが、この女、身長が友奈とどっこいか少し欠けるか位しかない。

そんな低身長で、自身と同じ丈がありそうなガンブレードを自在に、しかも二振り同時にブン回せるとなれば、ただ筋力があるだけじゃないと理解できる。

 

(コイツァ、歴戦の勇士(俺より強ェヤツ)だ・・・・!)

 

今は回避優先でいるために拮抗しているが、いつまでも続くワケが無い。

それに、防戦一方なのは趣味じゃない。

 

「おぅらァ!!」

「っ!?」

 

横凪ぎに振るわれたガンブレードを、タイミングを見計らって蹴り飛ばす。

仮面女の手から離れ、上空を舞うガンブレード。

しかし、それで戦闘は終わりにはならない。

もう一振りのガンブレードがまだ、奴の手に残っている。

 

「・・・・シッ!」

 

案の定、奴は弾かれて後ろへ飛んでいった方のガンブレードには目もくれず、持っている方を両手持ちして攻め込んで来た。

両手持ちしているせいか、先程よりも振りが速い。が、見切れないワケではない。

 

「セイ、ヤーッ!!!」

 

同じ手が二度も通じないであろう事は察している。

だから俺は、()()()()()()()()()()()使()()()()()()

 

 

ガキンッ!!!ガッ─────バギンッ!!!

 

 

「・・・・・!?」

「・・・・・・砕けるとまでは思ってもみなかったわ」

 

俺はただ、ガンブレードに向かって左腕のアームパンチを当てただけ。

春さんはこんな威力の武装を俺に持たせて、いったい何をさせたかったんだよ・・・・・

 

「────────」

 

それにしても、さっきからこの女・・・・・動き方が単調と言うか・・・・何と言うか・・・・

今のだって、ガンブレードのトリガーを引けば、左腕を弾く事もできただろうに、それをしなかった。

ガンブレードは、柄の銃部分に仕込んだ火薬を炸裂させて、その振動で刃の切断能力を高めることができる武器だ。それ故に、かなりの重量があるワケだから、振り回しているだけでも殺傷能力はかなり高い。

にしたって、こんな簡単に砕けるようなモンか?

 

「──────この程度か」

「武器も無ェのに、言うじゃねーか・・・・」

 

チクショウ、やっぱコイツ手ェ抜いてやがった・・・・!

 

「─────────やはり、起動してはいないようだな」

「あ?起動?何の話だ」

「これから死ぬお前に、話す必要は無い」

 

それだけ言うと、仮面女は再びガンブレードを取り出した。

あー、こりゃダメだ。武器が無限湧きとか対処仕切れねェよ・・・・

と、諦めかけたその時だった。

別方向から仮面女に向かって銃弾が飛来し、奴はそれをガンブレードで切り払った。

その瞬間、銃弾から蔦植物が生え、仮面女の身体を縛りつけた!

 

「っ!?」

「な・・・・なんだ?」

 

疑問符を頭に浮かべる俺だったが、銃弾の飛来してきた方向を見て、理解した。

 

「輝夜くん!無事!?」

「───────東郷か!助かったぜ!!」

 

スナイパーライフルを片手に、青いぴっちりスーツを身に纏った東郷が、救援に駆けつけてくれたのだった。

 

 



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Attack on Vertex -"六一番目の総裁"-

祝!レンち実装おめでとう!!!!

武器はまさかのビームサーベル。
戦闘スタイルが若葉様に似ているとの事。

二十連でお迎えできたよ。やったぜ!


「かぐやちゃん!?」

 

突然現れた何者かに、かぐやちゃんが吹っ飛ばされた。

風先輩と樹ちゃんには見えなかったみたいだけど、とにかく追いかけなくちゃ!

 

「友奈!危ない!!」

「後ろです!!」

 

え?

かぐやちゃんを追いかけようと飛び出した私は、二人の声に後ろを振り向く。

 

 

私目掛けて、針の雨が襲ってきていた。

 

 

「うわっ!?わ!わ!わ!わぁ!!」

 

拳で全弾弾いて、なんとか回避。危なかったぁ~・・・

なんて一息ついた次の瞬間、地面から何かが飛び出して、私の身体は空中に投げ出されていた。

 

「っ!?」

 

そして、空中で身動きの取れない私は、何か長いものによって叩き落とされてしまった。

一瞬だけ見えたのは、前にいた二体のバーテックスの内、エビっぽい形の方のしっぽ。

 

「かはっ・・・・・!?」

 

成す術もなく墜落した私に向かって、更にしっぽの先の針を何度も何度も突き立ててくるバーテックス。

牛鬼がバリアを張ってくれているけど・・・・これもいつまでも持たないよね・・・・

 

「うぅ・・・・・どう、したら─────」

 

 

 

 

 

ズガンッ!!!

 

 

 

 

 

「・・・・え?」

 

何かが爆発するみたいな音がした、と思ったらバーテックスがよろめいていた。今がチャンス!

 

「勇者パンチ!!」

 

今までのおかえし!ってつもりでバーテックスの針を勇者パンチで叩き折った。

 

「・・・・さっきの、いったい誰が?」

「ナイスパンチ!お見事です」

 

少し離れた場所に、金髪の男の子がいた。誰だろう?知らない子だけど・・・・・

 

「結城友奈さん、ですね?美森から貴方を援護するよう言付かっています」

「東郷さんから?」

 

この子は東郷さんの知り合いみたい。でもなんで樹海の中に・・・・

 

「ああ、申し遅れました。僕の名は晴乃(はるの)と言います」

「晴乃くんかあ・・・・東郷さんにこんな知り合いがいたとは、知らなかったなぁ」

 

なんて会話してる場合じゃなかった!?

慌ててバーテックスの方を見れば、もう既に私が壊した針は治っている。

 

「・・・・発芽せよ『萌植生轍(エクスペリエンス)』」

 

パチンッ♪

 

私が戦おうとするよりも先に、晴乃くんが指を鳴らした。

すると、バーテックスの身体から、にょきにょきと蔦が伸びてバーテックスの身体を縛り付けてしまった!?

 

「僕の能力『萌植生轍』は、掌サイズの無機物を種子に変える能力。その種子は一定以上のエネルギーを感知すると、それを吸い上げて急成長する」

「な・・・・なるほど」

「ちなみに、その種子は切り裂かれようが、バラバラに砕かれようが、エネルギーを感知すれば全て成長するから、避ける以外に回避する術はない」

 

うーん・・・・なんだかよくわかんないけど、とりあえず、晴乃くんはスッゴい技を持ってるってことで良いのかな?

 

「さあ、今のうちにバーテックスを!僕では奴を倒すことはできないんです!」

「うんっ!任せて!!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

身動きの取れないバーテックスを掴んで投げ飛ばすと、私はそこに飛び乗った。

一回やってみたかったんだよね~♪

 

「そろそろかな・・・・」

 

見れば、風先輩と樹ちゃんは遠くからちくちく針を飛ばしているバーテックスともう一体の連携攻撃に圧されていて、身動きが取れないでいた。

なら、私のするべき事は────

 

「てえい!!」

 

遠くのバーテックスの針を反射しているもう一体に向かってエビをぶつける。

 

「な・・・何事!?」

「風先輩!樹ちゃん!そのエビ、連れてきたよ~!」

「友奈さん!」

「いや、エビってかサソリでしょ!?」

「どっちでもいいよ・・・・」

 

よーし!このまま封印の儀、いっくよー!!

 

 

 

 

 

・・・・・・・あれ?なんか忘れてる気がする。

 

 

 

 

 

 



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魔術のL、『鏑矢』のS

「んで?あの仮面の女にボコボコにされていた俺のことは、すっかり忘れちまった・・・・・と」

「あー、うん。だいたいそんな感じ」

 

 

「何がそんな感じだボケァ!!!!!!!!!」

 

 

しぱーん!と、友奈の頭をハリセンで度突く。

 

「いっっっったーーーい!だって~・・・」

「だってもクソもあるかってンだよ!!!」

 

涙目でぶーぶー文句を垂れる友奈にもう一発ハリセンを見舞う。

 

「輝夜くん、今日はもうその辺りにしたら?友奈ちゃんだって悪気があった訳じゃないだろうし」

「うわーん。東郷さ~~ん・・・・かぐやちゃんがいぢめるよ~~。暴力亭主だ~~~~」

「誰が亭主か」

「突っ込むとこ、そこですか・・・・」

 

友奈に泣き付かれて恍惚としている東郷と、オーバー気味に東郷に泣き付く友奈を眺めつつ、ここに至った経緯を思い返す。

 

―――――――――――†――――――――――

 

東郷の放った弾丸が、蔦となって仮面の女を簀巻きにした後、仮面の女はとりあえず放置し、東郷と共にバーテックス退治へと向かった。

合流できた時には既に封印の儀が始まっており、サソリの持つ"友奈のパンチをジャスト回避する"御霊を風さんが、カニの持つ"複数に分身する"御霊を樹が、それぞれ粉砕した瞬間だった。

そこで俺は、最後に残った奴の御霊を破壊しようとしたのだが、俺が動くよりも早く、東郷の華麗なスナイプによってバーテックスは殲滅された。

 

──────俺、活躍できてねーぢゃん。

 

ま、皆が無事ならそれで良い。しかし疑問が一つ残る。

 

「なー、友奈?なんで俺ンとこ、救援来なかったんだ?連中、そんなに強かったのか?」

「────────────────あ(汗)」

「あ?(怒)」

 

―――――――――――†――――――――――

 

「以上が、ここまでの経緯だ」

「誰に話してんのよ」

「気にしたら負けだぜ、風さん」

 

にしてもあの仮面女、いったい何の目的で俺を狙った?

どうやら俺の事を試していたようだが・・・・そういや、起動してないとか何とか言ってたな・・・・・何の話だ?

 

「あ、ところでかぐやちゃん」

「んー?」

 

何の気無しに返事をした俺だったが、友奈からの一言で頭ン中が真っ白になる。

 

 

 

 

 

「"魔術師"って、なぁーに?」

 

 

 

 

 

「───────────────────────」

 

無言で友奈の顔色を伺う。

いつも通りのニコニコ笑顔だ。しかし、俺には判る。

 

(やべぇ・・・・友奈の奴、ガチで怒っていらっしゃる・・・・・)

「・・・・ね?かぐやちゃん」

「アッハイ、なんでござんしょ?」

「"魔術師"ってぇ、なぁ~にぃ?」

 

ねっとりと、絡み付いて締め付けるように、ゆったりとした口調で話す友奈。相当怒っていらっしゃりますよこれはァ!?

もうダメだぁ・・・・おしまいだぁ・・・・(野菜王子感)

 

「・・・・・そ、そういえば私も、よく知らないワね!ねぇ煌月。せっかくだし、ちょっと説明して頂戴!」

 

あまりの空気の重さに耐えかねたのか、風さんが助け船を出してくれた!ありがとう風さん!!

 

「よ・・・・よーし、そこまで言うなら仕方ない!俺チャン様の魔術講座を始めちゃるぜ~!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

「────以上が、魔術師の役割と魔術の基本だ。なんか質問あるかー?」

「はい、先生!」ビシッ

「はい、風さん」

「よくわかりませんでしたー!」

 

なんでやねん。

 

「要するに、自然界に対して行えるハッキング行為、と言ったところかしら?」

「あー、なるほど・・・・・確かにそうかもな。流石だぜ東郷」

 

俺の雑説明を聞いて、それだけ噛み砕いて説明できるとは・・・・流石だぜ、東郷・・・・!

 

「自作したプログラムに基づいて、魔力を用いて自然現象をハッキングする────うん。確かにこの方が分かりやすいな」

「ふーん・・・・」

「ふーんって、分かったのかよ?」

「・・・・・・・・・・まあ、一応?」

 

あ、ダメですねこれは。

 

「あの!」

「はい、樹!」

「ちょっと!?私を無視しないでよ!!」

 

ならちゃんと理解してよ・・・・

風さんは無視して樹の質問を聞く。

 

「あの、魔術って・・・・私にも使えたりしますか?」

「うーん・・・・・・難しい質問だな・・・・」

 

魔術師にも、勇者同様に適性があるらしい。

俺の場合、偶然にも適性がある事が判明したから良いものの、適性検査のやり方なんて、俺は知らない。

その旨を伝えると、樹は少ししょんぼりしたように返事をする。

 

「そう・・・・ですか・・・・」

 

──────ふーむ

 

「適性検査じゃねーけど、それっぽいことならできるな」

「え?」

「魔術の基本を学ぶ上で最も重要な要素に、"魔力を練る"って要素があるンだがな?それのレッスンをやろうぜ。みんなでさ」

 

―――――――――――†――――――――――

 

やることは簡単だ。

掌の上に、石でも何でもいいから、小さく丸い物体を置く。後はそれに向かって『動け』と念じるのみ。

 

「ねぇ、かぐやちゃん。こんなんで本当に魔法が使えるのー?」

「魔術が使えるかどうかは別。コイツぁその前準備の段階なんだから」

 

しかし懐かしいなぁ。

この石ころが動かせるようになるまで、杏子さんにかーなーり、しごかれたんだよなぁ・・・・・(しみじみ)

ま、動かせるようになってからは、トントン拍子であらゆる事ができるようになったがね!!

その証拠にほぉ~ら♪

俺が少し念じただけで石ころはぎゅるんぎゅるん回転しまくってるぜ!

 

「うわっ・・・凄・・・・逆に引くワ・・・・・」

「こんなん序の口だぞ?魔術師は魔術を使ってナンボなんだからな」

 

石ころを回している手とは反対の手を広げ、指先に意識を集中する。

 

「現代の魔術は、風水が元になっているそうだ。だから、扱える魔術の属性も五行に基づいているんさ」

 

そう言い、初級魔術の『コモン・ボール』を発現させる。

 

「木・火・土・金・水。『全属性を同時に扱えるようになってからが一人前だ』ーって言われて、めっさスパルタされたなぁ・・・・・」

 

親指から順に、風・火・雷・金属・水の小さな塊が指先に出現した。

これが『コモン・ボール』。威力はピストル程度の初級魔術だ。

 

「・・・・・・木って言うのに、どうして風なの?」

「お、良いとこ気付いたな東郷」

 

それよりお前の石、なんで盆栽みたいになってんの?

 

「これはまあ、ちょっと・・・・・」

「ふーん・・・・まあ、良いか。どういうワケか、俺は木と土の属性魔術を使おうとすると、風と雷に変質しちまうんだ。俺の魔術の先生曰く、『風と雷の魔力変換資質がある』とかなんとか・・・・」

「へんかんししつ?」

 

きょとんとする友奈にも分かりやすく説明する。つっても、杏子さんからの受け売りだけどな。

 

「なんでも、『ある属性魔術を発現させた際に、別の属性に変質して発現する特異体質』・・・・らしい」

「へぇ・・・・要は、煌月が特別ってワケね」

「そんなとこ」

 

と、その時最終下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いた。

 

「あら、もうこんな時間」

「んじゃ、今日はもうお開きってコトで・・・・」

 

そんなこんなで、今日も一日無事に乗り切ることが────

 

「かぐやちゃん。()()()()、ね?」

「────────────はい」

 

できなかったようです。とほほ・・・・・

 




-魔力変換資質について-

体内を循環している魔力が体外の魔力と反応を起こし、指定した属性魔術の属性を変質させてしまう体質のこと。
基本的には一つだが、輝夜は風と雷の二つを持つ。
余談だが、資質を二つ持つ者を"ダブルエレメントホルダー"と呼ぶ者もいる。


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Kの心象、Yの心境 -覚悟と信念-

銀ちゃんの満開というロジックエラーに脳の処理が追い付かねぇ・・・・・・
(UR銀ちゃん実装おめでとう!!!!!!!!!)


かぐやちゃんは、私に黙って"魔術師"っていう危険なお役目を、既にやっていた。

いっつもそうだ。かぐやちゃんは、みんなに黙って危険な事をやってしまう。

それは、五年前に出会ったころから変わらない、かぐやちゃんの美点であり、欠点。

 

『自分がなんとかしなくちゃ』って思うのは、私だってよくあるけど・・・・・・でも、私は・・・・・・・

 

「ところで友奈さんや?」

「なぁに?かぐやちゃん」

「そのー・・・・・何時まで家に居るおつもりで・・・・・?」

 

おずおずといった感じに、かぐやちゃんが聞いてきた。

なので私は笑顔で答える。

 

 

「今日はかぐやちゃん家にお泊まりするから!」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

きょとんとしてるかぐやちゃんを余所に、私はメール画面を開く。

 

「お母さんには連絡済みだから平気だよ。ほら」

 

端末の画面をかぐやちゃんに向ける。

私から端末をひったくったかぐやちゃんは、信じられない物を見るような目でメールを読んでいる。

 

「──────『かぐやくんだったら平気ね。楽しんでいらっしゃい。PS,お母さん、いつでもお赤飯を炊く準備、できてるからね♪』だとぉ!?!?」

「なんでお赤飯なんだろ?かぐやちゃん、わかる?」

「───────────────────知らん」

 

げんなりした顔で、かぐやちゃんは端末を投げ返してくれた。

それからしばらく黙っていたけど、ふと時計を見て、席を立った。

 

「・・・・・風呂沸かす。先、()ってこい」

「えー?一緒に入らないのー?」

「お前バカか?トシ考えろよ」

 

昔は、よく一緒に入ってたのになぁ・・・・・

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

「はふぅぅ~~・・・」

 

久しぶりのかぐやちゃん家のお風呂~♪

ここのお風呂、ちょっと広いからゆったりできるんだよねぇ~~・・・

 

「湯加減どうだー?」

「丁度良いよ~~・・・♪」

 

湯船に浸かっていると、入り口の方からかぐやちゃんの声がした。

弛みきった声で返事をしてあげると、かぐやちゃんは「そうか」と一言。

 

「───────────────」

「・・・・?かぐやちゃん?」

 

どうしたんだろ・・・・扉の前から動かないでいるけど・・・・

 

「あくまでこれは独り言なんだが・・・・」

「・・・・・・・・・」

「俺が鏑矢の魔術師になったのは、簡単に言えば、『誰かの明日を守りたいから』・・・・・なんだ」

「─────────」

 

やっぱりなぁ・・・・・そんな理由だと思ってたよ。かぐやちゃんらしいや・・・・・

 

「つっても、知らん誰かまでは流石に面倒見切れんし、そこまで責任取れもしねーからな・・・・」

 

でも、とかぐやちゃんは言う。

 

「でもよ・・・・せめて、見知った連中くらいは、俺なんかを"友達"だとか、"家族"だとかって言ってくれる奴らくらいは・・・・守りたいじゃんか」

「・・・・・かぐやちゃん」

「だから俺は、持てる俺の総てを使って、俺の大切な人たちを守る」

 

「その結果、俺が傷付いて倒れても、みんなが笑える明日を守れるならそれで良いとすら、俺は思っているんだ」

 

それは・・・・・・

 

「まっ!そんな事、万に一つも有りはしないだろーがな!なんせ、俺だしなー!」

 

かぐやちゃんが強がりを言う。きっと、私を心配させないために・・・・・

いてもたっても居られなくなった私は、お風呂から飛び出してかぐやちゃんの背中に飛び付いた。

 

「ぅわっ!?・・・・・・と、どうした?」

「───────────」

 

ぎゅ・・・とかぐやちゃんを抱き締める。

かぐやちゃんは何も言わずに、その手を握ってくれた。

 

「・・・・・・私が」

「ん?」

「私が、させない。かぐやちゃんのこと、絶対守る・・・・・守るから・・・・・だからっ!!」

「ン・・・・・そうか」

 

しばらく、私たちはそのままでいた。

 

「くちゅんっ!」

「・・・・・・・・・ん」

 

突然、かぐやちゃんが私から離れてバスタオルを被せてきた。

 

「早く身体拭け、服を着ろ。風邪引くぞ」

「あ・・・・ありがと」

「─────────にしても、お前もちゃんと性長してンだなぁ」

「?成長してるよー?」

「いやいや、そういうことじゃなくてだな・・・・?」

 

かぐやちゃんが視線を下に向ける。んん?下・・・・・あっ

 

「っっっっ!!!//////」

「いやはや・・・眼福眼福♪」

「────────────しゃ」

「ん?」

 

 

 

 

「勇者ぁぁぁ・・・・・パンチ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「ふぶォ!?」

 

み・・・・・みられた・・・・・かぐやちゃんに・・・・・/////

 

「─────────『一緒に入る?』とか聞いておいて、この仕打ちは無ぇだろ」

「ぅぅぅぅぅぅ・・・・・・いいから早く出てって!!!/////」

「へいへい・・・・あー、鼻痛っい・・・・」

 

去っていくかぐやちゃんの服、よく見たらびちょびちょだった。

─────なんというか・・・・かぐやちゃん、ごめんなさい。

 



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ある日のM.T. -一欠-

Gジェネにて、ついに念願のスペリオルドラゴン様をお迎えできたぞぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!


ぼくらの勇者・・・・騎士ガンダムの真の姿。
心の底からカッコいいゼ・・・・!!(ゆゆゆ関係無ェ!?)


あれから二週間。バーテックスの侵攻も、妖忌の出現も無く、平和な毎日を過ごせている。

平和なのは良いことだ。趣味の梅干し作りが捗るというものよ・・・・

 

「・・・・・・・ん?」

 

そんなワケで、梅を漬ける為に紫蘇の葉を買ってきたその帰り道。

東郷家の前を横切ろうとした俺の前に、見知らぬ少年がいた。

誰だ?あいつ・・・・・・

 

「─────ん?」

「おっと」

 

少年がこちらを向いたので、急いで物陰に隠れる。

アイツが誰かは分からんがなんか面白そうな空気がしているから、このまま隠れて様子を伺うとしよう!

 

「お待たせ!」

「す────東郷さん」

「ふふ・・・・良いのよ?別に。無理に今の名前に合わせなくたって」

「そんなわけには・・・・・」

 

ほうほう────

こりゃあ、"昔の男"ってヤツだな・・・?(キリッ

 

「あ!東郷さーん!・・・・と、どちら様?」

 

なんて下らないことを考えていたら、向こうから友奈がやって来た。

不味い・・・・非常に、不味い。

ここは早々に立ち去るべきだと、俺の勘が告げている。

 

「─────むむ?かぐやちゃんの気配がする」

「え?」

 

気配ってなんだよ。

って、ツッコミをしている場合じゃねえ!

友奈の方を見つつ、後ろに向かって抜き足差し足忍び────

 

「かぐやちゃん見ーつけた♪」

「──────お前いつの間に後ろに」

 

こいつ・・・・瞬間移動をいつの間に!?

 

―――――――――――†――――――――――

 

「えっと・・・・・はじめまして。三ノ輪鉄男です」

「俺は、『“(かがや)“ける“月“となり、(すべ)ての“夜“道を“(てら)“す者』───煌月輝夜だ」

「かぐやちゃんのそれ、久しぶりに聞いたなぁ」

 

うっせーやい

さて、友奈に見つかった俺は、仕方ないので物陰から出て来て自己紹介をすることにした。

しかし・・・・鉄男とな

 

「不思議な事が起こって、パワーアップしそうな名前だな」

「だから気に入ってます!」

「良い事だな!」

 

ビシガシグッグッと友情コンボを酌み交わす。これからは彼のことを"テツ"と呼ぼう。

 

「ふふふ・・・・鉄男くんと輝夜くんが、仲良くなれそうで良かった」

「うん!」

「んで、テツはなんで東郷ン家に?」

「ああ、ちょっと須美ね─────東郷さんに渡したい物があって」

 

須美?東郷のことか?

 

「昔、ある家に養子に出ていた時の名前よ」

「へー」

「それで、私に渡したい物って・・・・・」

「これです」

 

そう言い、テツはズボンのポケットから四つ折りにした一枚の紙を取り出して東郷に渡した。

 

「・・・・・()()()からね?」

「はい」

 

例の人・・・・?

渡された紙を開き、東郷は内容を読む。

 

「──────『満開には気をつけろ』」

「まん、かい・・・?───満開って、なんだ?」

「──────わからない」

 

キナ臭ぇな・・・・意味は分からんが、何か重要な事だってことァ、察する事ができる。

 

「んじゃ、僕はこれで────」

「あ、上がっていったら?お茶くらいしか出せないけど」

「えっと・・・・」

「特に用事が無ェなら、別に良いだろ?東郷とどういうご関係なのか、知りてェしな!」

「はいはい、無粋なかぐやちゃんは下がろうね~~」

「友奈にだけは言われたく無痛でででででででで!?」

「それじゃ、お二人はごゆっくり~~♪」

 

耳引っ張んじゃねぇ!?

そしてそのまま、俺は友奈に引っ張られて帰宅した。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「まったくもう!あそこは空気読んで二人だけにしてあげるべきでしょ!」

「普段空気読まねェお前にだけは言われたく無いぞ」

 

尤も、友奈は"空気を読んでいない"のではなく、空気を読んでいない()()をしているだけなのは、ちゃんと理解している。

 

「・・・・はぁ、しゃーない。東郷とテツ坊の関係については、また次回にでも」

「無粋だよ」

「だって・・・気になるだろーよ。ならないの?」

「────────────」

 

俺の質問に対し、友奈は沈黙を持って答えた。しかし、俺には分かる。友奈も気になっているということが・・・主に顔で。

 

「気になるんだろ~?」

「───────それは、まあ・・・・少し」

「ほれ見ろぉ!」

「むぅぅ・・・・・・」

 

指摘された友奈は、頬を膨らませて抗議の唸りを上げる。フグみてーな顔しやがって。

えいえい

 

「ぷひゅ~~~~」

 

膨らんだ頬を突っつくと、友奈の頬風船は息を吹き出してしぼんだ。

面白い事するじゃないの・・・!

 

「さて、梅干しの仕込みも終わったし・・・・・そろそろ昼飯だな。喰ってくだろ?何にする?」

「かぐやちゃんシェフのおまかせで!」

「んじゃ、『釜玉カスタム』だな」

「わーい♪」

 

説明しよう!"釜玉カスタム"とは!?

 

単なるカルボナーラ風うどんのことである!!

 

以上!説明終わり!!

 

「よーし・・・んじゃ、作ってい────ん?」

 

ピン、ポーーン・・・

 

冷蔵庫内を確認しようとしたその時、ドアベルが鳴り響く。

誰だぁ?こんな時間に・・・・

 

「私が出るね?」

「頼む」

 

来客は友奈に任せて俺は昼飯の準備を────

 

「あのー・・・・かぐやちゃん・・・・」

「どうした?新聞なら断れよ?」

「じゃなくて・・・・ね?」

「あ、お邪魔しまーす」

「えと・・・・お邪魔します」

「なんで東郷とテツ坊がいるんだよ」

 

どうした事か、友奈が二人を連れてきた。いったい何があったし・・・・

 

「煌月さんって、梅干し作りの天才だとお聞きしました!僕、ぜひ見てみたくて・・・・」

「そいつァ構わんが・・・・・とりあえず、昼飯にしようや」

 

そんなこんなで、四人分の釜玉カスタムを作り、ちょっと遅めの昼食タイムを取ったのだった。

 

 

 



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ある日のM.T. -記憶ノ彼方-

最近、FGOを辞めてメダロットSを始めました。
チュートリアルガチャは☆3メダロット五体の中から一つ選ぶ形式なんだが、メタビーとロクショウと他色々が出てな・・・・・・・三十分迷った末にロクショウを選びました。近接こそ最強。


目が覚めた時、私は、見知らぬ部屋の寝台で寝ていた。

 

「ここは────」

 

辺りを見回して、ふと、右手に巻かれている心辺りのない(見覚えのある)リボンを見つけ、そこで私の意識は途切れた。

 

 

再び目を覚ました時には、お母さんやお医者様が居た。

どうやら私は、瀬戸大橋の崩落事故に巻き込まれてしまったらしい。そのせいで、両足は動かなくなり、ここ半年程の記憶も失ったのだと、お医者様はおっしゃった。

 

「────────」

 

でも、どれだけリハビリを重ねても、足も記憶も元に戻らない。もしかしたら、もう二度と元には戻らないのでは無いか。そんな暗い考えすら過る。

 

 

そんなある日だった。

 

 

「あの!・・・・ここ、わし───じゃない、東郷美森さんの病室ですか?」

 

 

私の前に、失った過去を携えた彼が、やって来たのだった………

 

 

 

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

「───────んで?話って何だよ」

 

昼飯後、テツ坊は用事があると言って帰宅した。友奈もお使いを頼まれていたのを思いだし、駆け足で出ていった。

手持ちぶさたな俺は、さて何をしようかと考えていたところ、東郷に話があると呼び出され、現在俺は東郷家にいる。

 

「─────これを見て」

 

東郷は机のパソコンを操作し、メール画面を表示すると、俺に見るように促した。

 

「───────────『瀬戸大橋崩落事故の真実』?」

「あの事故は、本当は事故じゃないのよ」

 

なんだと?

 

「あの日、私達先代勇者は、瀬戸大橋でバーテックスと戦闘していた・・・・・・らしいわ」

「らしいって何だよ。自分の事だろーが」

「───────記憶が無いの」

「はあ?」

 

記憶が無いってお前・・・・・

 

「私には、この頃の記憶がほとんど無いのよ。だから・・・・」

「─────実感が湧かないってか?」

 

俺の言葉に東郷が頷く。なるほどなァ・・・・

 

「風さんに、自分が先代勇者だって言わなかったワケは、"それ"か」

「・・・・・その通りよ」

 

なんとなく、合点がいった。

恐らく東郷は、この情報が間違いであると、そうであって欲しいと願って、誰にも言わなかったのだ。

 

しかし、現実はそう上手くいかなかった。

 

樹海、勇者、バーテックス、このメールに書かれている事は全て本当の事だった。

 

「情報としては知っていても、お前自身が覚えてなけりゃ、本当かどうかなんざ、わからんよな・・・・」

「──────ごめんなさい」

「何故謝る?お前が悪いワケじゃねーだろ、コレは」

「でも・・・・・」

「大橋ひしゃげる程の戦いだぞ?ンなモン命があっただけめっけもんだろう」

 

東郷の頭を撫でつつ思考する。

 

東郷の事だ、大赦に事実関係を問いあわせたりもしただろう。しかし東郷の反応から察するに、「知らぬ存ぜぬ」を決め込まれたに違いない。

それが良心から出た嘘なら、何も問題は無い。『記憶がトぶ程の戦いがあったのだから、平穏な日常くらい何も気兼ねなく暮らして欲しい』と思っての事なら・・・

問題なのは、()()()()()()()()()()だ。

 

もしそうなら、俺は─────

 

「─────────」

「・・・・・?どうした東郷。さっきから黙りこくって」

「────────え?ああ、いえ、なんでもないわ!」

 

???

なんかよくわかんねーけど、大丈夫って顔じゃ無いような・・・・・・?赤くなってるし、ぽーっとしてるし。

 

「大丈夫だってば!・・・・それより、このメールの送り主なんだけど」

「・・・・・・ふむ?」

 

なんか慌てて話題反らしたカンジだな、おい。まあいいか。

さて、メールの差出人ね・・・・シルヴァリオ?

 

「バリバリの偽名じゃねーか」

「─────やっぱり、そう思う?」

「そうとしか思えねーだろ・・・・・まさか、知り合いか?」

「わからない・・・・・でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「───────まさか、さっきの?」

 

昼前に東郷がテツ坊に貰っていたあの紙、あれを送ったのが・・・・このシルヴァリオなる奴?

 

「それだけじゃないの」

「まだあるのか」

「私の入院先の住所と部屋番号、彼が最初にこの人から受け取ったメールにはそれが書かれていたそうよ」

 

んん?住所と部屋番号?んなモン調べりゃ直ぐに判るだろうに・・・・

 

「どうも私の入院先の場所は、家族以外に伝えられていなかったみたいなのよ」

「うっわ、キナ臭ぇ」

「それと、鉄男くんのお姉さん─────三ノ輪銀も、行方不明になっていたそうよ。私が、記憶をなくしたあの日から・・・・・・」

「──────ますます、キナ臭いな」

 

死んでるなら多少はぐらかしはするが、そう言うだろう。が、あえて"行方不明"と言うって事ァ・・・・本当の事、なんだろうな。

 

む?"銀"・・・・?

 

「・・・・・・思ったんだが、このシルヴァリオが三ノ輪銀って奴の可能性は?」

「ちょっとは考えたけど・・・・でも、ならどうしてメールで?」

「うーん・・・・・なんか理由でもあるんじゃね?」

「どんな?」

「知るかよンなモン。だが、もしシルヴァリオが三ノ輪銀なら、そいつも東郷みたいにどっかの病院で入院中で身動き取れない状況になってる・・・・かも知れない」

「──────やっぱり、輝夜くんに話して良かった」

「お?なんだ?俺に惚れたか?」

「そういうのさえ無ければ、普通に格好いいのになぁ」

 

なんか残念そうな顔をされた。なんでさ。

ともかく話はそれで終わりらしく、東郷お手製のぼた餅を頂いて帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、およそ一ヶ月ぶりにあの音が鳴り、俺達は再び樹海へと足を踏み入れる事となった。

 

 



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Kの襲来、Hの真実 -紅の勇者-

先日、メダロットSにて、初代最強のラスボス『ビーストマスター』が実装。
見事入手したので、漫画版を購入しました。
漫画のビーストマスター、めちゃくちゃこえぇぇぇぇ・・・・


一ヶ月ぶりのバーテックス襲来。

今回来た奴の名は山羊座(カプリコーン)。山羊の名が示す通りな四本の角っぽいご立派なモノをお持ちだ。

しかし一月も間があったのに、来たのは山羊座が一体のみとは・・・・・・まさか連中、サボりか?

 

「一ヶ月ぶりのお役目・・・・ちゃんとできるかな・・・・・?」

「ええっと・・・・ここを、こうで・・・・こう!」

 

友奈と樹が端末の操作を確認し合っている。やれやれ、緊張してんな・・・・よっしゃ、ここは一つ俺が二人の緊張を解してやろう。

 

「大丈夫だって、なせば大抵なんとかなる。緊張してンなら、俺の歌でも聴いてリラックスしな」

「・・・・・ただ歌いたいだけだよね?かぐやちゃんは」

「バレてーら。しかし、構うもんか!俺の歌を聴けぇぇぇぇぇ!!」

 

 

でっかく生きろよ男山~♪

よぉこ道反れずにまっしぐら~♪

 

 

「何の歌ですか?」

「旧暦時代の、ロボットアニメの歌らしいよー」

「・・・・・煌月、やっぱり歌うまいわね」

 

 

かぁげきに生きてrズガーン!!!

 

 

「何の爆発ゥ!?」

 

気持ちよく歌っていたら、急にバーテックスが爆発したぁ!?なんだなんだ?いったい何がどうなってやがる?

 

「え?今の東郷さん!?」

「─────違う、私じゃない」

 

端末から東郷の否定の声が上がる。ちなみに東郷は今、俺達とは少し離れた場所にてバーテックスのスポットをしてくれている。

しかし、東郷じゃないとなるとマジで誰が────

 

「あ、あれ!」

 

樹が何かに気付いて上を指し示した、その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょろいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空より飛来した赤い勇者服のそいつは、勝ち気な笑みを浮かべて両手の剣をバーテックスへと投擲した。

剣は狙い過たずバーテックスの頭頂に刺さりそして、爆発した。

 

「なるほど、さっきのはアイツの仕業か・・・・」

 

更に追加でもう一振りの剣が──────あれ?バーテックスの前に刺さったぞ?

わざとか?だとしたらなんで?と思っていたら、急にその剣が光だした。何の光ぃ!?──────いや、知ってるけど。

これは確か、そう、『封印の儀』の時の─────

 

「思い知れ・・・・私の実力(ちから)ぁ!!」

 

新しい剣を呼び出して、そいつはバーテックスから出た御霊に相対する。

 

「あの子、まさか一人でやるつもり!?」

「無茶をやるねえ」

 

しかし世の中上手くはいかない。

御霊から紫色の煙が噴出し、こちらに襲いかかってきたのだ。

 

「なんかヤバそう─────セイヤー!!」

 

 

旋 空 斬サ イ ク ロ ン ス

 

 

風圧の斬激を翔ばして煙を払う。払った先の樹木が腐って枯れていることから、この煙は毒ガスだと思われる。

なんつー危険な・・・・

 

「ふんっ、目眩ましなんか・・・・・」

 

いいえ、毒ガスです。

 

「気配で見えてんのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

赤服の剣士チャンは真っ直ぐに毒ガスを突き抜けて、御霊を真っ二つに切り裂いた。

 

「殲・・・滅・・・・!」

『諸行無常』

 

なにあれ、ちょーカッコいい・・・・!

これにてバーテックスは撃退。結局、あの女一人で片付けちまった。

 

「・・・・・ふぅ」

「えっと・・・・・誰?」

 

バーテックスを倒した赤い勇者サマが、俺達の前にやって来た。

そして俺達を一瞥すると・・・・・・・・鼻で笑った。

 

「揃いも揃ってボケっとした顔して・・・・こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって?ハッ!」

「なるほど、ア○カ枠だな」

「この人、"あすか"って名前なの?」

「違うわよ!?」

 

と、そこに東郷が合流。改めて、赤い勇者が自己紹介をする。

 

「私は三好夏凜。大赦から派遣された、正真正銘、正式な勇者よ!!」

 

 

 

んん?三好だと?

 

 

 

「つまり、あんた達はお払い箱って事!はい、お疲れさまでしたー」

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~!?!?!?」

 

 

まさかの解雇宣言。だが、それよりも────

 

(こいつまさか・・・・・春さんの妹かぁ!?)

 

そっちの方に驚いていた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

三好春信

 

 

 

俺が、ばっちゃに続いて、心から尊敬する人物の一人。

 

文武両道。眉目秀麗。

 

基本的に物腰は柔らかく、誰に対しても優しく接する。

 

そんな彼の最愛の妹が・・・・

 

 

 

「転入生のフリなんてめんどくさい・・・けど、私が来たからにはもう大丈夫。完全勝利よ!!」

 

 

こんな・・・面白い性格をしていたなんて・・・・!!

 

 

「なぜ今になって?どうして最初から来てくださらなかったんですか?」

「私だって、最初から出陣したかったわよ。けど大赦は、二重三重に万全を喫していたの。最強の勇者を完成させるためにね!」

 

東郷の問いに、自身の端末を取り出して語る。

最強の勇者とは・・・・また大きく出たモンだ。

 

「私の勇者システムは、あんたたち先遣隊のデータを元に対バーテックス用の最新のアップデートを施してあるわ!そしてなにより、あんたたちトーシロと違って専用の訓練を長年受けている!!」

 

カッコつけて振り回した長箒の柄が黒板に当たり、ガン、と音を立てた。

さっきからなにこいつ、かなり面白いぞ。

 

「黒板に当たってますよ・・・」

「こりゃ躾甲斐がありそうね」

「なんですって!?」

「け・・・・ケンカはダメですよ・・・!」

 

 

 

む、ちょっと険悪な空気。

 

春さんの手前、こいつとは仲良くしておきたい───というのは建前で、ぶっちゃけこいつ、かなり面白い性格してるから勇者部においておきたい。

 

というワケで友奈、よろしく。

 

目配せして友奈に合図。友奈もちゃんと答えてくれた。

まあ、元よりこいつと仲良くなりたがっていたみたいだが・・・・

 

 

 

「フン・・・まあ良いわ。とにかく大船に乗った気持ちでいなさい!」

「そっかー!よろしくねっ、夏凜ちゃん!」

「い・・・・いきなり下の名前!?」

「イヤだった・・・?」

「別に・・・名前なんてどうでもいい・・・」

 

 

 

照れた風に視線を反らして答える。

なんだろうな、この気持ち。こいつのこと、めっちゃ、からかいたい。

まさかこれが・・・・・・恋煩い!?

・・・・・んなわきゃねーよな。ガキじゃ有るまいに。

 

 

 

「ようこそ、勇者部へ!」

 

 

 

笑顔の友奈が夏凜に告げる。

 

「は?誰が?」

「夏凜ちゃん」

「部員になるなんて一言も言ってない!」

「ええ、もう来ないの?」

「・・・・来るわよ。あんたたちの監視をしなくちゃだし」

「だったら部員になっちゃった方が良いよ!」

「お、そうだな」

 

その方が絶対に面白いことが待ってるに違いないからな・・・・

 

「・・・・お姉ちゃん、煌月先輩がなんか良からぬことをたくらんでる・・・」

「樹、煌月のアレは、"獲物を見つけた蛇"の顔だから、近付いちゃダメよ」

 

失礼な。俺はただ、夏凜と"仲良く"したいだけだぜ?

 

さて、とりあえずまずは─────そこでジャーキー食ってる牛に働いて貰おうか・・・・(愉悦)

 

「そーら牛チャ~ン、こっちにおいで~~」

 

食い終わったタイミングで新しいビーフジャーキーを牛鬼の前でちらつかせる。

大口開けて食らいつこうとしたら、即座に引っ込める。

移動した事を確認したら、再びジャーキーをちらつかせる。

これを繰り返し、夏凜の精霊に近付かせるのが作戦だ。あとはこの食い意地のはった牛がなんかイロイロとやってくれるだろう。

 

なんて考えていたら、牛鬼が大口開けて大ジャンプ!

そのまま俺を通り越して───────

 

 

 

 

 

かぷり、と牛鬼が鎧武者に噛みついた!

 

 

 

 

 

──────よっし!!!作戦成功!(という事にしておこう)

と、ほぼ同時くらいに

 

「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

 

夏凜が気付き、牛鬼を引き剥がす。

 

「何してんのよ!?この腐れ畜生め!!!」

『ゲドウメ・・・』

 

うお、こいつしゃべるぞ!?ますます面白い・・・!

 

「外道じゃないよ、牛鬼だよー。ちょっと食いしん坊なんだよねー」

「みんな、牛鬼に齧られてしまうから精霊を外に出しておけないの」

「なら、そいつをしまって起きなさいよ!!!」

「勝手に出てきちゃうんだよー」

「ハァ!?あんたの端末、壊れてるんじゃないの!?」

「夏凜さん、どうしましょう・・・・」

「今度は何よ!?」

「夏凜さん死神のカードが・・・・」

 

おやまぁ、そいつぁなんというか・・・・

 

「不吉ね」

「不吉だワ」

「不吉だな」

 

「勝手に占っておいて、勝手な事言うなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

いやあ・・・・・めっちゃ楽しい!!!!

 

「──────先輩がイキイキしてる」

「今の樹にだけは、言われたくないんじゃないかしら・・・」

 



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Kの襲来、Hの真実 -説明会-

翌日───

 

今日は学校のプール解禁日。が、水泳の授業は女子と男子で別々なのだ。

そんな訳で、女子がプールできゃっきゃうふふしている間、俺達男衆は短距離走のタイム測定となっている。

 

「はぁ~~あ・・・・・今頃、女子はプールできゃっきゃうふふしてるんだろうなぁ~~」

「似たような事言うんじゃねーよ」

 

隣で順番を待つ半田の愚痴に付き合いつつ、測定結果を記録していく。

 

「ほら、お前の番だぞ」

「おっ!んじゃ、いっちょ頑張って良いとこ見せてやろうかな!」

「見せる相手もいないのにか?」

「悲しいこというなよ・・・・」

 

ちなみに、俺が記録係をやっている理由は、義足によって正確なタイムが測れないからだ。

今日ほど義足で良かったと感謝した日は無い。

・・・・・・・まぁ、水泳の授業も受けられないんだがな。そればっかりは仕方ない。

 

「ふっふっふっ・・・・」

「ふっふっふー・・・・」

「ひっひっふー・・・・」

 

と、その時。背後から気持ち悪い笑い声が聞こえてきた。しかも三つ。

呆れつつ振り返れば、そこには三人の男子。

こいつらは通称"三バカ"。右から順に"御留我(オルガ)""黒斗(クロト)""沙仁(シャニ)"と言う。

 

「・・・・・んだよ。気持ち悪ぃ声して。あと、最後のはラマーズ法じゃねーか」

「ふふふ・・・・調子に乗っていられるのも今のうちだ・・・・」

「ふふふー・・・・今日こそ、僕らの目的を果たす!」

「ひっひっふー・・・・・ひっひっふー・・・・・」

 

目的ってなんだよ・・・・・あと沙仁の奴はなんでラマーズ法をやっている。

と、そうこうしている内に、予鈴が鳴り響く。

 

「ふっふっふっ・・・・よし!授業終了のチャイムだ!」

「ふっふっふー・・・・さあ、今年こそ・・・いや!今日こそ僕らの悲願を!!」

「ひっひっふー・・・・・!ひっひっふー・・・・・!!」

 

それだけ言うと、三バカは走り去っていった。

 

「・・・・・あの方向、プールの更衣室か。なるほどなるほど」

「─────良いのかよ?放っといて」

「どーせ近付けもしねーよ」

「あ?」

 

記録簿を担当の先生に渡して、俺は教室へと戻った。

 

―――――――――――†――――――――――

 

そして放課後───

 

「仕方ないから情報交換と共有よ!あんた達が不甲斐ないから来てやってんだからね!?」

 

そう言って、昨日同様、部室の黒板の前に立つ夏凜。

昨日と違うところがあるとするならそれは・・・

 

「煮干し?」

 

煮干しの袋を抱えて、バリバリ食べてるところか。

つーか、こいつもか。春さんも煮干し喰ってたな、そういえば・・・

 

「なによ。ビタミン!ミネラル!カルシウム!タウリン!BTA!DHA!煮干しは完全食よ!!」

 

同じ事を春さんも言ってたなぁ。

やっぱこいつら兄妹だわ・・・・

 

「あげないわよ」

「いや別にいらないわよ」

「じゃあ、このぼた餅と交換しましょう?」

「はぁ?何よそれ」

「さっき家庭科の授業で作ったの」

「東郷さんはお菓子作りの天才なんだよー♪」

「いらないわよ!」

 

─閑話休題─

 

「これまでバーテックスの襲来は周期的なものと考えられてきたけど、相当乱れている。これは、異常事態よ。帳尻を合わせるために、今後は相当な混戦が予想されるわ」

「確かに、一ヶ月前も三体来ていたな」

 

あのときは・・・・てか、あのときもなんだが、俺、バーテックス戦だと全く活躍して無いなぁ・・・・・

 

「あ、そうだ。あのとき邪魔してきたあの仮面女、アイツは結局何者なんだ?」

「話なら聞いてるわ。彼女の名前は"鉛"。あんたと同じで鏑矢所属の魔術師・・・・らしいわ」

「────やっぱ、そうなんだな」

「ただ、それ以外の経歴はわからなかったみたいよ」

「え?なんで?」

 

友奈の疑問は尤もだ。

 

「鏑矢は、大赦の所属っつー扱いではあるが、そもそもあそこは私設組織なんだよ」

「しせつ・・・?」

「よーするに、個人が所有してる組織ってワケ」

 

頭にハテナマークを浮かべる友奈。

しゃーない、無視だ無視。

 

「確かに、鏑矢は赤嶺家の所有だけど、元を辿れば大赦の組織なのよね・・・・まあ、そんな事は良いわ」

「良いのかよ」

「鉛が何を考えて行動しているのか、それは分からないけど、今後も現れると見て間違いないわ。よくよく注意する事ね。ま、私は別に何が来ても対処できるけど、あんたたちは気を付けなさい。命を落とすかもしれないわよ!他にも・・・」

 

そう言って夏凜は、黒板に何かを書き足す。

これは・・・・紋様か?

 

「戦闘経験を貯めることで、勇者はより強くなれる、これを『満開』と呼ぶわ」

「満開・・・・!」

「あれ?どこかで聞いた事が・・・・?」

 

満開

それは、一昨日テツ坊から東郷が預かった紙に書かれていた単語。

 

「満開を繰り返す事で、勇者は更にパワーアップする。これが、現在の勇者システムよ!」

「──────三好さんは、既に満開経験済み何ですか?」

 

東郷の問いに、夏凜は顔を背けて「まだだけど・・・」と答えた。

 

「・・・・・強すぎる力には、大体反動があるのが相場だ。んなモンに頼らずにいられるなら、そうするべきだと俺は思うね」

「は・・・・・?」

 

俺の一言に疑問符を浮かべる夏凜が何かを言おうとした。それよりも先に、友奈が口を開いた。

 

「あ!じゃあ私たちも朝練やろうよ!運動部みたいに!」

「良いですね!やりましょう!」

「樹、あんた朝起きられないでしょー」

「あ・・・・」

 

図星を突かれる樹。そんな彼女を友奈が笑う。

 

「友奈ちゃんも、朝苦手だったよねー」

「う・・・・」

 

そんな友奈も、東郷に図星を突かれる。

やれやれ、まったく・・・・友奈のやつ、空気読んで和ませにかかったな。

 

「・・・・・・・・なんなのよ、こいつら」

 

そんな俺達を見て、夏凜は呆れていた。

そこへ再び、友奈が声をかける

 

「『なせば大抵なんとかなる』!」

「はぁ?なによそれ」

「勇者部五ヶ条だよっ♪」

 

そう言って、黒板の右上に貼られた五つの条文の書かれた紙を指す。

 

 

 

 

 

・勇者部五ヶ条・

 

一つ 挨拶はきちんと

 

一つ なるべくあきらめない

 

一つ 良く寝て、良く食べる

 

一つ 悩んだら相談

 

一つ なせば大抵なんとかなる

 

 

 

 

 

「なるべく、とか、大抵、とか・・・・あんたたちらしい曖昧な文章ね・・・私の中で諦めがついたわ・・・」

「あたしたちは・・・・・・アレよ!現場主義ってやつ!」

「それ、今考えたでしょ」

「あーハイハイ。考え過ぎると将来ハゲるわよ」

「ハゲないわよっ!!」

 

うーん、このツッコミの切れよ・・・・!

 

「さて、とりあえずこの話はここでおしまい!次の議題、行くわよー」

 

風さんが仕切って、樹がプリントを配る。

 

「はーい、そんな訳で次の日曜、子供会でレクリエーションを行いまーす!」

「具体的には?何するか決めてるんだろ?」

「ええっと、まずは折り紙教室で、次は一緒に絵を描いたり・・・」

「うわぁ!楽しそう~~♪」

「ふっ・・・・俺の画力が唸る良いレクリエーションだな・・・・(キリッ」

「自分で言うんか!」

「夏凜にはそうねー・・・・暴れ足りない子のドッジボールの的にでもなって貰おうかしら~~?」

「はぁ!?ならないわよ!ていうかちょっと待って、私もなの!?」

 

夏凜が反抗しようとするが、それよりも先に風さんが一枚の紙を夏凜に見せつける。あれは・・・・入部届けじゃん。

 

「昨日入部したでしょ?」

「あ・・・・あれは形式上、仕方なく・・・・」

「んだよ、入部届け出してンなら、活動への参加は義務だぜ?」

「煌月の言うとおり!ここにいる以上、部の方針に従ってもらうからねー」

「だからっ!それも形式上───」

 

更に反論を重ねようとするが、それを遮って友奈が問いかける。

 

「夏凜ちゃん、日曜日用事あるの?」

「べ・・・別にない・・・・」

「だったら、親睦会も含めてやろうよ♪」

「わ・・・私はやるなんて一言も・・・・!」

「嫌・・・・?」

 

悲し気な顔で訪ねる友奈に、夏凜はしどろもどろである。

うんうん、判るなぁその気持ち。友奈にあんな顔されたら断るに断れないよなぁ。

 

「し・・・・・仕方ないわね・・・・その日はちょうど空いてるし、行ってやらなくもないわよ・・・・」

「やったぁ♪」

 

夏凜からの肯定の言葉に、にぱっと華やかな笑顔を咲かせる友奈。

 

「・・・・・緊張感の無い連中」

 

なんて言ってるが、満更でも無い表情の夏凜ちゃんなのでしたー(笑)

 

「──────フン!」

 

此方のニヤケ面に気付いたようで、夏凜は俺の向こう脛を蹴飛ばして荷物をまとめて出ていってしまった。

 

 

 

 

 

ピシャッと閉じられた扉の向こうで「アイツ、足に何着けてんのよ・・・・」という呻き声が聞こえてきたが、彼女の名誉の為にも黙っておくとしよう。

 

「いやあ・・・・高飛車のツンデレは最高だな♪」

「─────うわぁ」

 

樹にドン引きされた気がするが、気にしたら負けだと思うことにする。




輝夜の義手、義足に使用している金属は、普通の物よりも軽くて頑丈な特別な物。鍛えているとはいえ、JCのキックごときでは傷一つ付かないのだ!(笑)


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Kの襲来、Hの真実 -夏凜と輝夜 その①-

ミーティングが終わり"嵐ヶ丘"へ向かう途中、浜辺で木刀を振るう夏凜の姿を見つけた。

 

「精が出るねー」

「──────煌月輝夜。こんなところで何してるの?」

「これからバイトなんだよ」

「ふぅん・・・・そうだ、今、時間良いかしら?」

「なんだい、改まって・・・・はっ!まさか、愛の告白!?」

「んなわけあるかぁ!!」

「ですよね~(笑)あと思い付くのは・・・・あ、今度のレクリエーションの話か」

「それも違う!!」

「えー?だとすると・・・・・ああ、プールと更衣室の周りに設置した、覗き撃退トラップについてか!」

「それも違────待って何それ私知らない」

 

違うのか・・・・じゃあ、なんだ?他に思い当たる節は──────はっ!まさか"例の計画"がもうバレた!?

 

「─────いや、それは無いな。決めたのついさっきだし」

「は?」

「何でも無ェよ・・・んで、結局何の用事さ」

「────────腑に落ちないけど、まあいいわ」

 

夏凜はジト目で一睨みすると、咳払いをして問いかける。

 

「あんた、自分の"魔装神衣"についてはどれくらい知ってる?」

「まそーかむい?なんだそりゃ?」

「あんたの端末に登録されている武装のこと!!こんな奴が、神樹様に選ばれた魔術師だなんて・・・・!」

「へー、そんな名前なのか・・・・」

 

アプリを起動して確認。

ふむふむ、個体名称は『ミストルティン』と・・・

死なない神様をぶっ殺した冥界の木の枝の名前と同じじゃん、超カッケー。

 

「神サマだって殺せそうな名前してんなぁ~」

「不謹慎なこと言わない!」

「ジョークだよ、ジョーク」

「ぐぬぬぬ・・・・・!!」

 

あー楽しい♪

 

なんだろうね、この、"打てば響く"って表現であってるのか?友奈たちと一緒にいるときとはまた違った楽しさがあるね♪

さて、そろそろ夏凜の堪忍袋が切れそうだから、真面目に聞いてあげましょうかね。

 

「で?俺の『ミストルティン』が何だって?」

「だからっ!扱いきれているのかって話!!─────ま、名前も知らないようじゃ、たかが知れてるけど」

「ほう、言うじゃないか。そういうお前さんこそ、勇者の力に随分と御執心だな」

 

安い挑発だが、ケンカっ早い俺はあっさりと乗ってしまう。

 

「・・・・・なんですって!?」

「他の連中との交流も無視して、こんな場所で訓練に明け暮れて・・・・"勇者である事"がそんなに大事なのかよ」

「─────────だったら、何?」

 

どうやら俺の一言は、夏凜の地雷を踏み抜いたらしい。しかし、もう時既に遅し。

 

「特別だか何だか知らねーけどよォ・・・・開発に二年も掛かったモンが、なんでお前のだけ一月も遅れた?調整が必要だとか言っていたが、俺達のシステムは調整とか受けて無ェんだぞ?怪しいと思わねえの?なぁ?」

「──────────さい」

「ンなモンにすがって、必死こいて努力して、あんたはいったい何を求める?まっ!どーせ、ロクなモンじゃないんだろーけどな」

「うるさい!!!」

 

夏凜の叫びが聞こえた直後、木刀が飛んで来たので左手で掴む。

 

「──────で?」

「勝負しなさい」

「なるほど、実力で黙らせようって魂胆」

「それ、貸してあげる。無手の相手に勝っても嬉しくないもの」

「言ってくれる・・・・なら尚更、木刀(コレ)は返す」

 

木刀を投げ返すと、夏凜の表情は更に険しくなる。

 

「─────怪我じゃ済まないわよ?」

「やってみろよ。出来るものなら」

「上っ等!!吠え面かかせてやる!!!」

「コッチのセリフだボケァ!!!!!!」

 

売り言葉に買い言葉。

俺達の"交流"はこうして、幕を開けた。

 




・・・・・夏凜ちゃん、こんなキャラだっけ?(唐突)


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Kの襲来、Hの真実 -夏凜と輝夜 その②-

書いてて夏凜ちゃんめっちゃ動かしやすかった!!
流石完成型勇者だぜ!!!


私には兄がいた。

 

何でもこなせる天才で、両親はそんな兄貴にいつもべったりだった。

 

そう、兄貴にべったりだった。

 

父も母も私には何の反応も示さなかった。

兄貴の描いた絵は飾るけど、私のは飾らなかった。

私が努力して百点を取ったとしても、二人は何も言わなかった。

家は兄貴が中心だった。

 

 

 

 

 

──────そう、中心"だった"。

 

 

 

 

 

五年程前のこと、突然兄貴が蒸発した。何の素振りも見せずに消えたのだ。

書き置き等も無し、当然、両親は血眼になって探した。

でも結局、見つかることは無く、以来、二人は日々を生きるだけの無気力人間になってしまった。

 

こんな状況になっても、私のことは見てくれなかった。

 

そんなある日、大赦から連絡が来た。

なんでも、『私に神樹様からのとある重大なお役目を受けて欲しい』とのこと。

 

チャンスだと思った。

 

両親を、そして、消えた兄貴を見返せる。そう思った。

だから、勇者システムが選抜式と知っても文句も言わず、血反吐を吐くような訓練の日々にも耐え抜いた。

他の候補生の中には、私より凄い奴が何人も居た。

激しい訓練に耐えきれなくて倒れた子や、逃げ出した子、怪我が原因で辞退した子も居れば、最後まで諦めようとしない子も居た。

 

私は、そんな彼女達の中から選ばれたんだ。

 

今日のプールの授業中、結城友奈が私に言った。

『夏凜ちゃんは凄いね!』と。

当然だ。そうでなくては勇者になんて成れなかったのだから。

 

(私は、勇者として選ばれた。だから、選ばれなかった子達の分も、私が頑張らなくてはいけないんだ・・・・・それが、選ばれた者の持つべき責任)

 

それを・・・・こいつは・・・・・!!

 

 

 

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・!!」

「ぜはー・・・・・・ぜはー・・・・・・」

 

気が付けば、私達は浜辺に仰向けで倒れていた。

倒れたのはほぼ同時。これでは決着が着かない。

・・・・いや、なんかもう、疲れたし、いいや。

 

「───────なかなか、やるじゃん」

 

そう言って煌月輝夜は右腕を上げた。

 

「───────あんたこそ」

 

その右腕に、私の右腕をこつんと当てる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・悪かったな、挑発するような事言って」

「・・・・・なによ、急に素直になって」

「こういうの、煩い人に育てられたからねー・・・・聞いてもいいか?」

「勇者に拘る理由?」

「話したくないなら、別にいい」

 

少し迷って、私は、話すことにした。

 

「私は───────」

 

輝夜は、黙って聞いてくれた。

何も言わずに、ひたすら黙って。

私がひとしきり喋ると、輝夜は起き上がって口を開いた。

 

「昔話をしよう。バカなクソガキの、ひどい失敗話さ」

 

そう言って、輝夜は話始めた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

そいつは、所謂"拾われっ子"でね、両親とは血の繋がりも無し、ましてや拾ってくれたのはばっちゃ───祖母と来た。

だから最初の頃、そのガキは両親に対して遠慮ばかりしていてな・・・・・そのせいで、ある事件に巻き込まれちまうんだ。

 

六年ぐらい前に起きた誘拐事件なんだが・・・・覚えてっか?それに巻き込まれたのさ。

 

ガキは足りねェ頭で必死に考えて、誘拐犯と正面切ってやり合う事にした。

『拾ってくれたばっちゃや、両親に迷惑をかけたくない』

その一心でな。

 

結論から言えば、ガキは額を少し縫う程度の怪我で済んで、犯人グループは全員御用。これにて一件落着・・・・・とはまぁ、行くワケもなくて・・・・

当然ながら、ガキは両親に無茶苦茶叱られた。『どうしてそんな無茶をしたんだ』ってな。

けどな、無茶苦茶叱ったそのあとで、こう言ってくれたんだ。

 

 

 

 

 

「良くやった。流石、家の子だ」

 

 

 

 

 

あのときは泣いたよ、嬉しくてさ。

そんでもって、気付いた。

 

結局俺は、認めて欲しかっただけなんだ・・・・ってな。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

「夏凜、今のあんたはあのときの俺と同じだ。親にも兄貴にも自分を、自分の努力を認めて欲しいんだ。違うか?」

「────────そう、なのかしら」

「多分な。でなけりゃ、そんなに頑張れるかよ」

「──────────────よく、分からない」

「いいんじゃねーか?それで。無理に答え見つける必要も無いだろ」

 

そう言うと、輝夜は立ち上がり、こちらに手を差し出してきた。

私がその手を握ると、手を引っ張り起こしてくれた。

 

「夏凜、今から時間あるか?」

「え?」

「少し付き合え」

「えぇ!?つ・・・つつつ付き合う!?」

「おう、バイト先の喫茶店、そこのコーヒー奢ってやるからさ」

「─────あ、なんだそういう」

「よっしゃ、んじゃ行くぞ~~!!」

 

有無を言わせず、輝夜は私の手を引いて走り出す。

しばらく走った先は、私が借りているマンションの近くだった。

 

「・・・・ここ、軽食屋だと思ってた」

「ん?なんだ見たことあったのか」

「あそこのマンション、私ん家」

「マジで?」

「正しくは、私が借りている部屋があるって話なんだけど・・・・」

「なんだよ、近所だったのかぁ・・・・ま、コーヒー奢ってやると言った手前、無かった事にはしねェけど」

「律儀ね・・・・両親の影響?」

「どっちかってーと、ばっちゃの影響」

「ふぅん・・・・会ってみたいわね、その人」

「もう死んだ」

「・・・・・・・・・・・・ごめん」

「気にするな。さ、入ろうぜ?」

 

促されるまま、私は喫茶店"嵐ヶ丘"へと入店していった。

 



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Kの襲来、Hの真実 -夏凜と輝夜 その③-

輝夜と共に喫茶店"嵐ヶ丘"へと入店した途端、輝夜の顔面に向かって何かが飛んできた。

 

「んごォ!?」

「うわぁ!?いきなり何!?」

「くぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!遅いぞ!輝夜ァ!!!」

 

 

店内から叫び声が聞こえてきたので見てみれば、そこには私と同じか少し高いくらいの身長のウェイター服の女性?(男性にも見える)が、仁王立ちしていた。

 

「痛って~~なぁ!!!物を投げるンじゃねーよ!!マルさん!!!」

「るっせい!!!お前が遅刻なんかするからだろーが!!!」

「メールで連絡したろーが!!!『用事でちょっと遅れる』って!!!」

「ンなもん知るくわぁァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

マルさんと呼ばれた女性(たぶん)が、追撃の飛び蹴りを輝夜に食らわせる。

 

「理不尽っ!!!!!!」

 

そんな断末魔を残して、輝夜は店の外へと弾き飛ばされてしまった。なんなの、この店・・・・・(汗)

 

「あはは・・・・ごめんなさいね?いきなりこんな歓迎方法で」

 

後ろからかけられた突然の声に振り向けば、そこ居たのは、背の高いモデル体型の女性。

 

「輝夜くんが連れてきたってことは、新しいお友達だよね?私は伊予島杏子。で、あっちのカッコカワイイのが、土居円吒」

「あ、はじめまして。私は三好夏凜で──────え?伊予島?土居?もしかして、()()?」

「あはは・・・・うん、その"伊予島"と"土居"だよ」

 

目の前の女性が、苦笑いして頬をかく。

まさか、あの『六花』の内の二家の人が居るなんて・・・・

 

「なんだか騒がしいね、輝夜くん、来たのかい?」

 

その時、カウンターの奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「─────────────え?」

「あ・・・・・夏凜」

 

なんで・・・・・こんなところに・・・・・?

 

「兄・・・貴・・・・・?」

 

そこには、六年間も音信不通だった兄貴、三好春信が居た。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「・・・・・・えっと、久しぶり。元気にしてたかい?」

「────────────」

「・・・・・・・・・・・・・ええっと、父さんと母さんは、どうしてる?」

「────────────」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・んーと・・・・・えーと・・・・・・・・うぅ・・・・」

「────────────」

 

奥のテーブル席に案内された私は、黙ってコーヒーを飲んでいる。あ、ここのコーヒーすごく美味しい・・・

 

「夏凜よォ~~、いい加減で春さん無視すんのやめたらどうだ?」

「あんたは口を挟むな」

 

というかこいつ、知ってて案内したんじゃ・・・・?

でも、まぁ、しょうがないか・・・・・

 

「・・・・・なんで家を出ていったの」

「───────────すまん、言えない」

「っ!」

 

兄貴のその一言に、私が掴みかかろうとしたら・・・・・

 

「あだぁ!?」

「んな・・・・!?」

 

カウンターの方から"足"が飛んできて、兄貴の頭に当たった。見れば、輝夜が自分の右足を外して投げた様子。なんつー事を・・・・・というか義足だったんだ・・・・

 

「おいおい春さんよ・・・・そりゃあんまりじゃねーのか?夏凜は、あんた達に認めてもらう為に頑張ってきたんだぜ?」

「ちょ・・・!?」

「──────────流石だね、夏凜」

「え?」

 

兄貴は、寂しそうに笑っていた。

 

「僕はね、夏凜。頑張る事が苦しくなってしまったんだよ・・・・・」

「兄貴・・・・・・」

「周りからの期待を、重荷に感じたってワケじゃない。ただ・・・・・・」

「ただ・・・・・・なによ」

 

兄貴は、片足でここまでやって来た輝夜に右足を渡しつつ、昔話を始めた。

 

「─────僕には、好きな人が居たんだ」

「へぇ・・・・・・・え?"居た"?」

「名前は藤森優芽、ここにいる杏子ちゃんとマルと僕の四人で昔、チームを組んでいたんだ。輝夜くんのおばあさんをリーダーにしてね」

「・・・・・・その話ならばっちゃから聞いたことあるな。たしかチーム名は─────」

「"ワザリングハイツ"。この喫茶店の名前は、そこから取ったんだ」

 

チーム"ワザリングハイツ"は、旧暦時代の技術を復活させて、後世に伝えるべく発足した部隊だと、兄貴は語ってくれた。

なるほど、さっき輝夜が『誘拐された』とか言ってたけど、こいつ、良いとこのぼんぼんだったのね・・・・本人、それらしい部分全く無いけど。

 

「六年前、僕達はある施設の調査をしていた。そこで見つけたのが────────輝夜くん、君だ」

「・・・・・・・こりゃまた、以外な関係が浮上したモンだ」

 

兄貴の暴露に苦笑いする輝夜。

 

 

 

 

 

「でも、その数日後─────優芽が死んだ」

 

 

 

 

 

「「────────え?」」

 

あまりにも、あまりにも衝撃的な告白に、私も輝夜も言葉を失う。

 

「僕には、何もできなかった。知らない間に好きだった人が死んで────────だから僕は、全てを投げ出した」

「────────────」

 

そんな・・・・・そんな事があったなんて・・・・

 

「───────でも、春さんは俺を助けてくれたな」

「・・・・・・・・・・あれは、たまたまだよ。それに、目の前で知り合いが死にかけてたら、助けない訳にもいかないよ」

 

兄貴らしい持論。腐っても兄貴は兄貴だったってワケね・・・・

 

「───────兄貴が、家を出ていった理由は、わかった。ここにいる理由も」

「・・・・・・・」

「だから、次からは私に話しなさい!私が助けてあげるから!!」

「・・・・・・・え?」

 

兄貴はきょとんとしている。

 

「昔の私ならいざ知らず、今なら・・・・この完成型勇者たる私なら!!きっと兄貴を─────」

「勇・・・者・・・・・?"勇者"、だって・・・・!?」

 

突如として、兄貴の顔が険しくなる。

 

「ええ、そう!私、勇者になったの!!兄貴も大赦にいたから知ってるでしょ?私、頑張ったんだから」

「───────────なんてことだ」

「兄貴・・・・?」

「・・・・・・今日は、もう帰ってくれ」

「え?兄貴!?」

 

そのまま兄貴は、店の奥へと去っていった。

なんなのよ・・・・・・・

 

「なんでよ・・・・・・兄貴・・・・・」

 

 



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Kの襲来、Hの真実 -夏凜と輝夜 その④-

「──────あの態度は、流石に酷くねーか?」

 

春さんに突っぱねられ、呆けている夏凜にコーヒーのおかわりを差し出した俺は、慌てて春さんの後を追っかけて工房まで来た。

 

「・・・・・・・・・・・」

「だんまりかい。あと、何を弄ってん?」

 

春さんは人型の何かを修理していた。あれは・・・・確か、この前見たな・・・・なんて言ったっけ?パワードスーツとかなんとか・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・」

「まァた、だんまり・・・・夏凜はなぁ、懸命に努力して勇者になったんだぞ?なんか言ってやったらどうなのさ」

「─────────そんなの、僕は望んでない」

「なら尚の事、言ってやれよ。『対話による相互理解こそが、家内安定への第一歩』だぜ?」

「・・・・・・・・・・ああ、先生の言葉か」

「こんなカッコいい台詞、ばっちゃくらいしか言わねーだろ」

 

不敵に笑ってみせると、春さんは苦笑を返してくれた。

 

「ま、夏凜とは後でじっくり話し合ってもらうとして・・・・・何してんの?」

「"ジェフティ"の整備だよ」

「ジェフ・・・・・・?」

「旧暦の時代にあった企業"へリオポリス"が造り上げたパワードスーツ『Ennead Number's』の一機だよ」

 

Ennead(エネアド)───へリオポリス─────確か、どちらもエジプトなる外国の神話に出てくる単語だったな・・・・どういう意味かは知らない。

 

「現存するNumber'sは三機って言われててね・・・・ある人から譲り受けたのがこの機体なんだよ」

「ある人?」

「僕が大赦に所属していた頃、お世話になった人さ」

「ばっちゃじゃなくて?」

「先生とは別の人だねえ」

 

ふむ・・・・誰だろう・・・・?

まあ多分、俺の知らない人なんだろうけど。

 

「ちなみに、君の左腕はこの機体の武装を流用して造った物だよ」

「え!?マジで!?」

 

武装付きとはまた・・・・・物騒なマシンだこと。

 

「・・・・・・着てみたい?」

「良いのか?」

「そろそろ、試着して性能を試してみたかったからね。輝夜くんなら、良い被験体になってくれるよ」

「それ絶対誉めてねーよ」

 

なんて言いつつも、喜んで被験体を努めさせてもらう。

なかなか楽しかった。

古い技術も、バカにしたモンじゃないね!

 

―――――――――――†――――――――――

 

それから数日後

 

特に何事も無く、レクリエーションの日がやってきた。

やってきた・・・・のだが、

 

「夏凜ったら遅いわね・・・・・」

「迷子になっちゃった・・・・とかかなあ?」

 

夏凜が来ない。

こういう時、だいたい十分前くらいから来ていそうな奴なのに・・・・

樹の言うとおり迷子とかか?

 

「電話は?」

「今からかけるところだよ」

 

友奈が端末を操作し、夏凜に電話をかける。

しばらくして・・・・・

 

「───────あ」

「どうしたの?」

「切れちゃった」

「は?」

「なんか、向こうから切ったみたいな感じで・・・・」

「もっかいかけ直してみろよ」

「うん」

 

・・・・・・・・・・

 

「───────今度は繋がらないよ」

「・・・・・・なんかあったのかも」

「えぇ!?」

 

やれやれ・・・・仕方ねぇな。

 

「俺が様子を見てくる。お前らはそっちを頼む」

「分かった。夏凜をよろしくね、煌月」

 



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Kの襲来、Hの真実 -夏凜と輝夜 その⑤-

兄貴に突っぱねられてから、数日経った。

今日は幼稚園でお遊戯会をやる日。

私はいつも通り勇者部の部室に来ていた。

こんなこと、勇者のやることじゃない。

でも、今は、そんなことでも良いから、とにかく何かをしていたかった。

兄貴のことを、なるべく、考えないように・・・

 

「来てやったわよ」

 

部室の扉を開ける。中には誰もいない。

ちょっと早く来すぎた?

仕方ないから待つことにした。

 

 

 

 

 

三十分後──

 

 

 

 

 

「遅い・・・・」

 

十時集合だったんじゃなかったの・・・・?

全く、弛んでる・・・・

 

 

 

 

 

更に三十分後──

 

 

 

 

 

いくらなんでも遅すぎる。

 

「まさか・・・」

 

渡された用紙を確認する。そこには──

 

「『現地集合』・・・・しまった。私が間違えた・・・・」

 

こういう時は、ちゃんと謝らなきゃ。

ああ、でも、なんて言おうか?

正直に話す?

どうしよう・・・・どうしたら・・・・

 

と、その時、手にしたスマホが鳴動する。

 

「うわぁ!?この番号・・・・結城友奈!?」

 

向こうからかけてきた!

どうしよう!?とりあえず、出て・・・・

 

 

 

 

 

 

「あ・・・」

 

 

 

間違えた。出ようと思っていたのに、切っちゃった。

どうしよう。

かけ直す?なんて言って?

こういう時、兄貴なら─────

 

 

 

 

 

そこまで考えて、ふと、まるで冷や水でも浴びたみたいに、頭が冷静になった。

 

「・・・・・なにやってんだろ・・・・私」

 

そうだ。私は勇者として、バーテックスと戦うためにここにいるんだ。

幼稚園でお遊戯会をやるためでも、兄貴のことに悩まされたりするためでもない!

だから・・・・・良いんだ。

 

「・・・・・・・・・帰ろ」

 

部室を出て、階段を駆け降りる。

今はなんとなく、ここに居たくない。直ぐにでも帰って、訓練したい気分だった。

だから────

 

「ぐえっ」

「あっ!?ご・・・・ごめんなさ────────あ」

 

踊場で誰かとぶつかってしまった。しかも、その相手が────

 

「痛って~~・・・・・む!夏凜じゃん!!ンだよ、やっぱ部室に居たのか」

「───────輝夜」

 

―――――――――――†――――――――――

 

「ったく・・・・なァにやってンだよ、集合場所間違えるとか」

「────────ごめん」

「・・・・・・・・・はぁ、とにかく行くぞ。もうすぐ時間だが、急げば間に合うだろ」

「え・・・・あ・・・・ちょ」

 

輝夜が私の手を取って走り出す。

階段を降り、下駄箱の前まで走ったところで、私は無意識の内に輝夜の手を振り払っていた。

 

「?どーした?」

「あ、いや・・・・・えっと・・・・・」

 

正直、自分でもなんでこんな事をしたのか、分からない。

 

 

私は、私が何をしたいのか、分からない・・・・

 

 

「───────────ふぅ、やれやれ」

 

思い悩む私を余所に、輝夜は端末を取り出して何処かへ電話をかけていた。

 

「──────────────あ、風さん。俺。煌月」

 

相手はどうやら犬吠埼風のようだ。そりゃ当然か・・・一応アイツがこの勇者部の部長だし・・・・

 

「・・・・・・うん。夏凜だろ?実はさぁ───」

 

きっとこいつは全部しゃべる。私が間違えたことも、結城友奈からの電話を間違えて切ってしまったことも。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・」

 

 

 

 

 

え・・・・・?

 

「うん。そっちはこれから。その場合はもう俺ら合流できないと思うから、そん時はよろしく。んじゃ!」

 

 

「・・・・・・・・なんで?」

「なにが?」

「なにが・・・・・って・・・・・」

 

輝夜の、黒い瞳に見つめられ、私は何も言えなくなる。

どうしてだろう・・・・。こいつに見つめられると、なんだか、心の中まで、見透かされているような気分になる。

しかもそれが、嫌じゃないだなんて・・・・・本当、どうかしている・・・・・・

 

「行くぞ。風さんに、お前ン家行くって言っちまったからな」

「・・・・・・・・うん」

 

反抗する気力も無くなって、私は大人しく、輝夜と共に帰宅した。

 

 



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Kの襲来、Hの真実 -夏凜と輝夜 その⑥-

この作品の外伝小説『鏑矢達の月光歌』を初めました。
詳しくは、活動報告若しくはあらすじのリンクへ、どうぞ~♪


夏凜を連れだって、"嵐ヶ丘"隣のマンションに向かう。

 

「そーいや、お前の部屋何処?」

「・・・・・・・こっち」

 

今度は逆に夏凜に連れられる。

案内された夏凜の部屋は、かなり殺風景だった。

 

「家具が備え付けの奴しか無いとか・・・・・女子中学生としてどーなの・・・・?」

「ほっとけ!!」

 

別の場所には一丁前のルームランナーが置いてある。その辺りは流石春さんの妹だな。

 

「さて、それでは冷蔵庫チェ~~~ック」

「ちょっ!?勝手に見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

夏凜の静止を振り切って、冷蔵庫の扉を開く。

 

「───────────水しか無い・・・・だと!?」

 

2リットルペットボトルに入った水が、冷蔵庫内を充たしていた。

 

「・・・・・食材は?」

「は?」

「野菜類は!?」

「無いわよ」

「肉は!!!」

「だから無いって!」

「・・・・・・・・・・・飯は、どうしているんだ?」

「基本、コンビニ弁当だけd「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」ぅわっ!?びっくりした!?」

 

あまりにも、あまりにも酷い答えに、俺は思わず叫び声を上げてしまった。

 

「な・・・・なによ。栄養バランスには気を使っているわよ。足りない分はサプリメントで補えば───」

「夏凜、座れ」

「え?」

「座れ」

「きゅ・・・・急に何を」

 

 

 

 

 

「 座 れ と 言 っ て い る 」

 

 

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

――――――――‡五時間後‡――――――――

 

 

「───────故に栄養を取るならばサプリメント等という補助食品などに頼らず、素材を調理して」

 

ピンポーン♪

 

「む、来客か。今日はこの辺にしといてやる。」

「────────────────」

 

何故か夏凜は真っ白になっていたので、俺が代わりに出迎える。まぁ、どうせアイツらだろうけど。

 

「はーい、どちら様ですかー?」

「あ、かぐやちゃん!」

 

扉を開けると、そこには予想通り友奈達がいた。

 

「煌月、夏凜の様子は?」

「なんか真っ白になってる」

「・・・・・・・は?」

 

とりあえず中に入れる。

 

「・・・・・・・夏凜さんが、真っ白になってる」

「いったい何があったのよ・・・・・(汗)」

「わー!水しかない」

「あー、なるほどそういう・・・・」

 

友奈が冷蔵庫チェックをして、東郷がなんか察して俺の方を見る。解せねぇ。

 

「おーい、夏凜~~」

「────────────はっ!?」

「あ、起きた」

「え?あれ?なんであんた達が!?」

 

起きた夏凜が友奈達を見て戸惑う。

 

「なんでって、あんた電話かけても出ないじゃない」

「あ・・・・それは・・・・・」

「かぐやちゃんから寝込んでいる訳じゃないって連絡あったけど、無事で良かったよー」

「んじゃ、パパっと準備しましょ!」

 

そう言って、風さんは持ってきた袋からジュースやらお菓子やらを取り出して、机に並べ始めた。

 

「ちょ・・・・なんなのよ、いきなり!!!!」

「あのね、夏凜ちゃん」

 

友奈が持ってきた箱を開けて、中身を見せる。

そこには、イチゴのショートケーキが。

 

 

 

 

 

「ハッピーバースデー!夏凜ちゃん!!」

 

 

 

 

 

「・・・・・え?」

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

「めでたいなぁ!」

「おめでとう!あと煌月は後で説教ね」

 

解せねぇ。

 

「なんで、知って・・・・」

「入部届けに書いてあったのよ」

「友奈ちゃんが気付いたのよね」

「うん!『あっ!』って思っちゃった♪」

「本当は、幼稚園でやろうと思っていたんですけど・・・」

「夏凜ってばぜんぜん来ないし、連絡もつかないしさ~~」

「─────────」

 

夏凜は俯いて、沈黙していた。

 

「夏凜ちゃん?」

「どうかしましたか?」

「あら~?もしかして、自分の誕生日忘れてたとか~?」

「・・・・・・・・・・・ばか」

 

ああ、この反応は、知っている。

 

「・・・・・・あほ、おたんこなす」

「ちょっと!いきなりなによ!」

 

風さんは憤慨するが、俺には、夏凜の気持ちが身に沁みて理解できる。

 

 

かつての俺も、同じ気持ちだったから………

 

 

「うっさい!!誕生日なんて・・・・祝われた事なんか無いから、なんて言ったらいいか、分からないのよ・・・・・」

 

夏凜のその一言に、全員が押し黙る。

ふと、壁のカレンダーが目に止まった。

今日の日付の場所に、赤いサインペンで丸印が書かれている。

 

「夏凜ちゃん、お誕生日おめでとう」

 

俺が言うよりも先に、友奈が言った。

やれやれ、相変わらず美味しい所を持っていくんだからさ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

誕生日パーティーが終わり、友奈達を先に帰した俺は、夏凜と共に跡片付けをしていた。

 

「手伝ってもらって、悪かったわね」

「気にするな。『旅立つならば、跡を濁すべからず』って、ばっちゃからの教えがあるからな」

「なによそれ」

 

夏凜が笑う。

 

「なんだ、笑うとふつーに可愛いじゃん」

「ふぇ!?」

 

おっと、声に出てた。ま、本音だし別にいいか。

 

「なぁ、夏凜」

「え!?なななな、何!?」

「何を緊張しているか。別に、大したことじゃねーけどよ・・・・」

 

 

 

 

 

「春さんもお前も、もう一人じゃないんだ。辛い時にゃ、頼れよ。そういうのが、仲間ってモンだろ・・・?」

 

 

 

 

 

「────────仲間、か」

「おう!同じ卓を囲って、飯を食った仲だからな!」

「飯って・・・・お菓子じゃない」

「固いことは言ーわなーいのっ!んじゃ、お休み!」

「うん。お休み」

 

夏凜が春さんと、どう接するのか。

それは、もう夏凜自身に任せて大丈夫だろう。

笑って手を振る夏凜に見送られながら、俺は心からそう思った。

 



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KとH、対話の時

途中にオーガニック的な台詞が出てきますが、使いたかったとか、そんな事、無いんだからねっ!!(謎ツンデレ)


みんなに誕生日を祝ってもらった翌日、学校が終わって直ぐに、私は喫茶店"嵐ヶ丘"へと向かう。

 

カランカラ~ン♪

 

「いらっしゃ・・・・・・あら、この前の」

「兄k─────兄は、いますか?」

 

カウンターの女性(確か、伊予島杏子さんだっけ)に兄貴の居場所を訪ねると、黙ってカウンターの奥へ案内してくれた。

 

「良かった、もう来てくれないのかと思った」

「え?」

「春信くんったら、貴女の事が心配な癖に、変に意地張っちゃってねえ・・・・」

「はぁ・・・・」

「勇者に選ばれたのでしょう?春信くん、優芽ちゃんが亡くなってから、誰かがいなくなることを怖がって・・・・」

 

ああ、そうか・・・・・だから兄貴はあんな・・・・

 

「えっと・・・・夏凜ちゃん、って言ったっけ」

「はい」

「春信くんの事、頼んでも良いかな・・・・?私達には、どうすることもできないから・・・・・」

「──────元より、そのつもりです」

「そっか・・・・良かった」

 

杏子さんは、そう笑って最奥にある『故障中』の札が貼られた冷蔵庫を開けた。

冷蔵庫の中には地下へと続く階段が設けられていた。これはつまり、兄貴はこの先に居るってこと・・・?

 

「もし、春信くんが昔の春信くんに戻れたら、その時は、このお店で一番高いコーヒー、ご馳走してあげる」

「・・・・・ありがとうございます」

 

杏子さんに見送られ、私は、地下へと向かった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

地下室は思ってたよりも広かった。

よく分からない機械が周囲に沢山置いてあるというのに、そんな感想が出るくらいだから、どのくらい広いのか・・・・・ちょっと想像し辛い。

 

「───────────」

「───────────」

 

兄貴は奥の台で、パソコンに向かっており、静かな室内にはキーボードを叩く音だけが響いている。

 

「───────────兄貴」

 

意を決し呼び掛けると、一瞬だけ、キーボードを叩く音が止まった──────────が、また何かを打ち込み始めた。

 

「───────────────ねえ、兄貴ったら」

 

兄貴は何も言わない。良いだろう。

そっちがその気なら………!!

 

「今日は、あんたと話をしに来たのよ?それなのに、こっちの事は無視?どうせあんたにとって、私なんてその程度ってこと・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?・・・・ぅわぁぁぁぁ!?!?!?」

 

先日のこともあり、堪忍袋の尾が限界値だった私は、兄貴の襟首を引っ付かんで投げ飛ばした。

びっくりしたのは、兄貴の体重が予想していたよりも軽かった事と、投げ飛ばした先にあったガラクタの山に受け身も取らずに突っ込んだ事。

 

「───────随分と、弱っちくなったものね。昔のあんたなら、あんなの簡単にいなせたでしょ?」

「──────────────うるさいよ。夏凜には・・・・・関係無い」

「あるわよ!!」

「無いったら・・・・・」

「あるっつってんでしょうが!!!」

「────────────しつこいなあ!!いい加減にしてくれよ!!!」

 

ようやく、兄貴が私の方を見てくれた。

 

「・・・・・・父さんも、母さんも、他のみんなも、僕のことを『天才だ』って褒めてくれた・・・・それが嬉しくて、僕は色んなことをしてきた・・・・・」

 

知ってる。そんな兄貴の背中を、私はずっと見てきたのだから・・・・・

 

「でも・・・・優芽は死んだ・・・・・・それも僕の預り知らない所で・・・・・・・優芽だけじゃない、僕が好きだった人達は、みんな僕の知らない内に逝ってしまった・・・・・・」

 

泣きながら、兄貴は語る。

ああ、これが・・・・・・兄貴の本心なんだ・・・・・

 

「もう、嫌だ・・・・・どうしてみんな僕の知らない内にいなくなってしまう?・・・・辛いよ・・・・・怖いよ・・・・・ならもう、ここに閉じ籠るしか無いじゃないか!!!!!!」

 

・・・・・・・・兄貴の心って、こんなに、繊細だったんだ。知らなかったな・・・・

だからこそ、私が言わなくちゃいけない言葉は────

 

「私は死なないわよ」

「嘘だよ。人は簡単に死ぬ」

「兄貴が生きてる内は、死なない」

「優芽も一正くんも、僕にそう言ってくれた・・・・けど、結局逝ってしまった・・・・・・」

「何があっても生きてちゃんと帰ってくる!!」

「そんなの・・・・信じられないよぉ・・・・・」

 

泣き言を言って項垂れる兄貴に近付き、再び襟首を掴むと

 

「ふんッ!!!」

「んぎっ!?」

 

勢いに任せて頭突きをかました。

 

「な・・・・なにを────」

「八歳と九歳と十歳と、十一歳と十二歳の時も、私は!!ずっと!!!待ってた!!!!!!」

「は・・・?え・・・・?なに・・・を・・・?」

 

 

 

 

 

「あんたが、帰ってくるのをでしょうがっ・・・・!」

 

 

 

 

 

「っ!?」

「あの日、あんたが出ていった時────私、怖かった。見捨てられたって・・・愛想を尽かされてしまったのかと思って・・・・」

 

言葉を紡ぐ度、視界が滲む。袖で拭ってもすぐに滲んで兄貴の顔がぜんぜん見えない。

それでも、溢れだす想いを、抑えることは出来なかった。

 

「あんたはっ!今ここに居る、あんたの事を想っている奴を!!それでも無視するつもりなの!!!!!!」

「────────────かり、ん」

 

言ってしまった・・・・・兄貴がどんな顔をしてるのだろう・・・・見たいのに視界はぜんぜん見えない。拭っても拭っても、滲んだ視界が元に戻ることはなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ごめんよ」

 

ぎゅ・・・・と、暖かい感触に包まれた。

それが兄貴の物と理解した瞬間、私の心は爆発した。

 

「バカ!・・・・・おにーちゃんのばかぁ・・・・・・・!!」

「うん・・・・・・ごめんね・・・・・・夏凜・・・・・ありがとう・・・・・・」

 

頭を優しく撫でてくれる手の温もりを感じながら、私はしばらく、泣き続けた………

 

 



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KとH、対話の時 -その後-

俺が工房へ降りてきた時には、既に夏凜と春さんは口喧嘩を繰り広げている最中であった。と思っていたらいきなり夏凜が春さんへ頭突きをかまし、急に泣き出し、それを見た春さんは夏凜を抱き締めるのだった。

 

・・・・・・・うん。なんだかよく分からないが、とにかくヨシッ!!

さて、これにて一件落着ってなワケで、俺はここらでお暇させて──────

 

「・・・・・・・・あんた、そこでなにしてんのよ」

 

頂く前にバレた。マジかよ(汗)

 

―――――――――――†――――――――――

 

「・・・・・・うん、まぁ、とにかく二人が仲直りしてくれて良かったよ」

「─────────ま、一応、あんたにもお礼は言っとくわ・・・・・ありがと、私をここに連れて来てくれて」

 

それは何よりなんだが、何故俺はボッコボコにタコ殴りされた挙げ句、簀巻きにされて床に転がされているのだ?

 

「あははは・・・・まあ、あれだね。タイミングが、悪かったよね・・・・・」

「笑い事じゃねーですよ、春さんや」

 

よいしょっと

とりあえず起き上がると、左手親指の付け根に内蔵されているナイフでロープを切断し脱出。

ふぅ・・・・これでヨシ!

 

「・・・・・・・・・・兄貴、あんたなんてモン造ったのよ」

「いや~~・・・・・ちょっと盛り過ぎちゃった♪」

「『盛り過ぎちゃった♪』じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!中学生になんて危険な物持たせてんのよあんたは!!!!!!」

「ま・・・まあまあ落ち着いて」

「ていうか、この前はスルーしちゃったけど!輝夜は中学生でしょ!?なんでアルバイトなんかしてるのよ!?!?」

「そりゃまぁ・・・・義手と義足代賄うため?」

「なんでそこで疑問系!?」

「ぶっちゃけ俺、春さんに誘われたからやってるだけだし」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・?」

「こ・・・・怖いよ夏凜ちゃ~~ん。もっとほら、スマイルスマイル♪ね?」

 

夏凜の怒涛のツッコミ技が冴え渡る!これには春さんも苦笑い。

 

「・・・・・・・・・・まあ、良いわ。色々助けてくれたし、見なかった事にしてあげる」

「多分、学校側も知ってて黙ってンだろうけどなー」

「うっさいわ!」

 

※後日、マッキーに確認した所、『勇者部の活動として許可されている』とのこと。つまりはボランティアかぁ・・・・なるほど。それで良いのか、教育委員会よ・・・・・?

 

「・・・・・んで?あんたはなんでここに居る訳?」

「シフトだから」

「あれ?輝夜くんは今日、休みじゃなかったっけ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

春さんェ・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・うん、まぁ、あれだ。そのー、なんと言うか、な・・・・」

「夏凜が心配だったとか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「え、そう・・・・なの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだよそうですよそうなんですよーっだ!!!」

「急にキレた!?」

「・・・・・・なんか、ごめんね?」

 

ちくしょーめぇ・・・・!!

 

「・・・・・・・・・ま、本題は別にあるんだけどな」

「別?」

「ほい、ハッピーバースデー、夏凜」

 

カバンの中から取り出したのは、ラッピングされた小さな箱。それを夏凜に手渡す。

 

「・・・・・・誕生日プレゼント?」

「本当は昨日渡したかったンだがなぁ・・・・造り変えるのに手間取って・・・・・」

「は?()()()()()?」

 

夏凜は頭に疑問符を浮かべつつ、俺の渡した箱を開けた。

 

「これ・・・・・リボン?」

「春さんのチョイスだ。んで、俺はそこにワンポイント追加した」

「ワンポイント・・・・?あ、これ・・・・・ツツジの・・・・・?」

 

持ち上げられたリボンの先端には、ツツジの花を模したチャームが結われていた。

 

「・・・・・・鈴?」

「おう。その辺にあった鈴から錬成してみた」

「へぇ・・・・・・・・・え?錬成?」

 

リボンを揺らし、チリンチリン♪と音を鳴らしながら、夏凜は問う。

 

「杏子さんの蔵書にさ、『錬金術の本』があってだね・・・・ちょっと試しに造ってみたんよ」

「『錬金術の本』とか・・・・・胡散臭いわね・・・」

「だが本物だぞ?でなけりゃ、造れなかったからな」

「──────────それもそうね」

 

無理矢理納得したらしい夏凜は、今着けているリボンをほどき、渡された新しいリボンを身に着けた。

 

「───────うん。似合ってるよ、夏凜」

「ほう・・・・中々良いじゃねーか。流石、春さんのセンスだ」

「ん・・・・・そう///」

 

夏凜の奴、照れてやんの~~♪

 

「はっはっは~~可愛い奴め~♪」

「~~~~~~~~っ!!!//////」

 

顔を真っ赤にして、夏凜はそっぽ向いてしまった。

チリン♪という鈴の音と、俺と春さんの笑い声が、地下室に響き渡るのだった。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「僕からもお礼を言わせてくれ。僕と夏凜を会わせてくれた事、感謝しているよ」

「・・・・・・俺はただ、余計なお節介を焼いただけさね」

 

要件は済んだので帰宅しようと店を出たところで、春さんが追いかけてきて、呼び止められた。

態々お礼の為に店から出て来たのか・・・・・以前は何があっても店から出ようともしなかったのに。

 

「・・・・・・・もう、情けない兄ではいられないからね。とりあえずは、外出できるようにならないと・・・・・ね?」

「良い心掛けじゃないか」

「─────────────もう一つ、良いかな?」

 

・・・・・・?

なんだ?急に改まって・・・・・

 

「僕は君に・・・・・謝らないといいけない事が・・・・・・っ!」

「じゃあね、兄貴、輝夜。また明日」

「おう夏凜。またなー」

 

春さんが何か言おうとした所に、夏凜が通りすがって行った。

出鼻を挫かれた春さんは、しばらく口をパクパクさせ、そして閉口した。

 

「んで?話ってなんだい?」

「─────────いや、なんでもないよ。呼び止めて、すまない」

「?・・・・・そうかい?んじゃ、俺も帰るな」

「ああ、気をつけて・・・・・」

 

少し寂し気な表情を浮かべる春さんに見送られ、俺も帰宅への徒についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時俺は、春さんが言おうとしていた事を、無理にでも聞いておくべきだったのだ。

そうすれば、あんな悲劇は起きなかったはずだったのに………

 

 



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K.K.の日常 -幼馴染とプラモデル-

URメブ実装記念!!!


・・・ってワケでも無いけど、今回は、リメイク前にもあった輝夜の帰郷回です。


俺の両親、煌月夫妻の家は玉藻市にあり、そこで果樹園を営んでいる。

白鳥家の分家ということもあって、そこそこの農地を持っており、シーズンになると、地元民向けに『収穫体験』を行っていたりする。

 

「兄ちゃーん!このぶどう、どこにしまうのー?」

「あー?さっき貰ったかごはどうしたー?」

「わかんなーい!」

「何ィ?かごは人数分しか用意してねーンだぞォ!?」

「まぁまぁ、かぐやちゃん。はい、私ので良ければどーぞ♪」

「わーい♪ありがとーおねーちゃん!!」

「おい友奈・・・・・・チッ、しゃー無ェな・・・・あのガキんちょが無くしたかご、探してくらァ」

「あ、私がやるよ!」

「なら手分けしよう。お前向こうな。俺はあっち」

「うん!」

 

現在、俺と友奈は、俺の実家である『キラ☆ヅキ果樹園 』にて行われている子供達向けのイベント"収穫体験会"の手伝いをしている。ちなみに、勇者部への正式な依頼として受けている。

 

「態々依頼として出さんでも、言ってくれりゃアやるってんだよ・・・・・ったく」

「なァに言ってんだい。アタシはね、『勇者部のかわい娘チャン達に手伝って欲しかったから』依頼したのさ!誰が好き好んで野郎の仏頂面なんざ拝みたいと思うのさね?」

「・・・・・相変わらず、随分とハッキリ物を言うなあ、母さんは」

 

この、風さんと俺を足して2で割ったような人物が俺の義母親。

昔、不良をやっていたらしく、俺の口調とかは、この人の物を参考にさせてもらった。

 

「HEYハニー♪きゃわい~女の子にゲットアイズされるのは分かるけど、ボクのことは、どう想っているんだい?」

「・・・・・・・・・言わせンなよ、恥ずかしい////」

「ハニィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!」

「ダーリィィィィィィィィィィィィン!!!!!!」

 

ひしっ!

 

「───────────あー、相変わらずですねー・・・・」

 

そして、後から来て母さんと抱き合っているこの男が、俺の義父親。ちなみに口調で理解できると思うが、こっちがばっちゃの子供である。噂に聞いた話だが、ばっちゃには子供が三人いて、その内の末っ子が親父なのだとか。

 

「あ、そういえば輝夜。楠チャン、戻って来てるわよ?」

「・・・・・・・・・・ふぅん」

「こっちはもうオールオッケーだから、会って来たらどうだい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ふう!かご見つけて来たよー!・・・・って、あれ?どうかしたのかぐやちゃん?」

「──────別に」

 

よりによってこのタイミングで戻って来るなよ・・・・

 

「やあ結城チャン。そのかごをボクにプリーズ!片付けて来るよ」

「はーい!お願いしまーす」

「・・・・・・友奈、ちィとばかし出掛けてくる」

「え?どこ行くの?」

「んーと・・・・・・・昔馴染みの家!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

家を出て十分ほど。

細い路地の入り組んだ住宅街。その一角に目的地はある。

幼い頃、ばっちゃに「指先のトレーニングだ!」と言って連れて来られた、老舗のプラモ屋。

アイツの事だし、多分来ている筈・・・・居た。

 

記憶にある背中よりも、少し大きくなった少女の背中。

 

棚の上にあるプラモを取ろうとしているらしく、爪先立ちで手を伸ばしている。

その手が箱を取るよりも先に、俺がそれを掠め取る。

 

「あっ!?」

「早い者勝ちだ。悪く思うなよ?」

 

かつての、初邂逅の時と同じ言葉を、こちらを振り向いた少女に投げ掛けた。

二つ結びにした髪を前に垂らした少女。纏う制服は、近辺の中学校の物で、あの誘拐事件さえ無ければ、俺もこの学校の制服を着ていたかもしれないと思うと、少し感慨深くなる。

 

「・・・・・・・・・・・」

「んー?どうした?まさか俺の事、忘れちまったんじゃ・・・・」

「それは無いわよ!?・・・・・・・・・・・久しぶり、輝夜」

「ン。久しぶりだな、芽吹」

 

楠芽吹。

それが、俺の幼馴染であるこの少女の名前だ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「二年ぶり・・・・になるのかしら?」

 

プラモを買った俺は、芽吹と共にそのまま彼女の家に向かっている。

芽吹の父親は宮大工をしており、職人気質で少々気難しいところがある。そんなだから、奥さん───つまりは芽吹の母親と離婚してしまったのだとか。

それでも芽吹は、父親の背中を見て育ち、「いつか自分も父親のような立派な人になるのだ」と、俺に夢を聞かせてくれた。

 

「えっと・・・・・・・・小六の時、お前が大赦にお呼ばれして以来だから・・・・・・だいたいそんくらいかな」

「・・・・・随分と、印象が変わった」

「そうかぁ?」

「ええ、前より・・・・・明るくなった」

「・・・・・反対にお前は、暗くなったな」

「────────────」

 

俺のその一言に、芽吹は押し黙る。

やっぱりな・・・・なんか様子がおかしいと思ったんだ。

 

「原因は何だ?やっぱ、大赦にお呼ばれした時のか?どんな要件だったんだよ?」

「───────────ごめんなさい、言えないの」

 

"言えない"か・・・・・大赦お得意の『守秘義務』ってヤツかい。やれやれ・・・・なんか違う気がする。

 

「・・・・そうか。なら、聞かなかったことにすらァ」

 

なんて会話していた、その時だった。

 

「あ・・・・あの、もしかして、勇者部の方ですか?」

「んー?」

「・・・・・っ!?」

 

突然現れた二人の少女に呼び止められた。着ている制服は芽吹の物と同じ・・・・って事ァ近所の連中か。

それよりも、今芽吹のヤツ、"勇者"って単語に反応しなかったか?・・・・・・・・・・まさか、な?

 

「・・・・・あれ?楠さん?なんでこの人と・・・・まさか、知り合いとか!?」

「え・・・・えぇ・・・・」

「なぁ~~んだ~。それなら早く言って欲しかったよ~~。あのあの!私、ちょっと勇者部に憧れてて!」

「あ!ずるーい!私も!私もなんですー!!」

 

・・・・・・・・さっきから、芽吹の顔色が悪い。

固く口を噛み締めて、両手からは血が滲み出るほど強く握り締めている。

やれやれ・・・・しゃーないな。

俺は咄嗟に、少女二人に見えない位置で、芽吹の左手をほどき、そこへ俺の右手を滑り込ませた。

 

「あー、盛り上がってるとこ悪いんだけど・・・・ごめんよー。俺、讃州中に在籍してはいるけど、勇者部とは何の関係無い、ただの一般生徒なんだー」

「ええ~~?」

「そ・・・そうなんですか?」

「この辺に、俺の祖母が暮らしていてね。その祖母が危篤だーって連絡が来たから、学校休んでこっちに来てただけなんだよ。あ、でも芽吹とは昔からの親友なのは本当さ。じゃ、俺達はこれで・・・・・」

 

適当にまくし立てて、俺は芽吹を連れてその場から立ち去ったのだった。

 

 

 



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K.K.の日常 -芽吹と輝夜-

結局、そのまま小走りで芽吹家の前まで来てしまった。

 

「ふぅ・・・・・お前ん家に着いちまったか・・・・・大丈夫か?」

「誰に言ってるのよ?」

「それもそうだな・・・・・上がらせてもらうぞ」

「ええ、いらっしゃい」

 

久しぶりに上がった芽吹の部屋は、相変わらずプラモでいっぱいだった。

 

「・・・・・前見た時よりも増えてね?」

「当たり前でしょう。作っているのだから」

「だな。よし!んじゃ、コイツも組もうゼ~~♪」

「ええ!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

パチ・・・パチ・・・とニッパーでランナーからパーツを切り取る音だけが響く。

芽吹と共同で先程購入したプラモ、『スーパー安土城ロボ・パーフェクトアーマー』を作成している。

 

「にしても、相変わらず女っ気の無い部屋だこと」

「なによ、ぬいぐるみでも置いておけっての?」

「ほう、ぬいぐるみかい?」

「・・・・・そうね、私なんかには、似合わないわよね」

 

自虐的に、そんな事を言う芽吹。だが───

 

「んー、案外そうでも無いと思うなぁ」

「・・・・・・・慰めかしら?」

「なんでさ。確かに、意外に思われるかも知れねぇけど、似合わないなんて事ァねーよ」

「・・・・・・・なんでそう言い切れるのよ」

「んー。根拠は無い!」

「自信たっぷりに言うな」

「はっはっはー」

 

よっし、右腕完成。

 

「素組だけ?塗装は?」

「持って来るの忘れた」

「戸棚の上から二番目奥」

「ん、遠慮なく」

 

がさがさと戸棚の中を漁る。

 

「─────────勇者」

「っ!?」

「って単語、嫌いか?」

「・・・・・・・・・・別に」

 

一瞬、芽吹の顔が強張ったのを、俺は見逃さなかった。

大赦に呼ばれた芽吹がどんな目に合ってきたのか、俺は知らない。が、なんとなく、察する事はできる。

判断材料は三つ。

 

一つ目、芽吹の「言えない」という言葉。

 

二つ目、夏凜が大赦で訓練を受けた期間。

 

そして三つ目、これも夏凜からの情報だが、"勇者候補生は複数いた"という事実。

 

このことから、多分、芽吹は夏凜との競争に負けたのだろう・・・・

負けず嫌いの芽吹のこと、今日までそれを引き摺っているとか、そんなところだろうな・・・・

 

「・・・・昔さ、『どっちが上手にプラモ組めるか』ーっつって、勝負した事あったよな」

「・・・・・・・・・・そんな事も、あったわね」

「最初はお前に敵わなかったけど、俺も練習して、ついにお前に勝てるようになった時は、嬉しかったなァ」

「・・・・・・・・・・・・・・・そう」

「今のお前、あのとき、俺に初めて負けた時と同じ顔してるぜ・・・?」

「───────────────────」

 

ふい・・・と顔を背けられる。

その顔を、無理矢理此方に向ける。

 

「でも、あのときとは違って・・・・今のお前の瞳は、腐り切っちまってる・・・・情けない顔だな」

「ッ!!」

 

その一言に、芽吹の顔を掴む手が払い除けられた。

 

「あんたにッ!何が分かるって言うの!?パパの様になりたいと思ってッ!!必死に努力してッ!!!でも結局、全部無駄になった・・・・・・」

 

襟首を掴まれ、押し倒された俺は、芽吹の心の叫びを一身に受ける。

 

「何もかも棄てて、血反吐を吐いて、痛みに耐えて努力した結果がこれよ!!!何も残らない・・・・私には、もう・・・・何も無い・・・・・・」

 

両目に涙を溜め、心中を吐露する芽吹の目元には、隈が浮かんでいた。

眠れていないのか・・・・・相当追い込まれているな・・・・・

 

「・・・・ねえ、私はどうすれば良かったの?どうすれば私が選ばれた?私に、いったい何が足りなかったって言うの・・・・?教えてよ・・・・もう、私には、何も分からないよ・・・・・・」

 

あの日、芽吹が大赦にお呼ばれした日。

見送る誰かが言っていた。

 

『車輪の下敷きにならないように』と

 

「──────お前は、下敷きになんか、なっちゃいねーよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

車輪の下敷きとはつまり、『落ちぶれる』という意味らしい。

芽吹が、落ちぶれる?ふざけんじゃねえよ。

 

「お前はただ、ちょっちズッコケただけさ。そこまで腐るような事じゃ無ェよ」

「────────あなたは、知らないから」

「そうだな。俺は確かに、お前が何をしてきたのか知らない。けどな、お前がどういう奴かは知ってる」

「は?」

 

きょとんとする芽吹の頭を撫で、俺は芽吹に告げる。

 

「俺ね、お前のその真っ直ぐさに、憧れていたんだよ」

「・・・・・・え?」

「『いつか、パパみたいな人になる』そう言って、努力するお前の姿はさ・・・・正直言って、格好良かった」

「・・・・・・・・・そう」

「でもよ芽吹。おじさんみたいになりてェってンなら、お前には捨てちゃいけねェモンがあったんだよ」

「捨てちゃ、いけない・・・?」

「なあ、芽吹よォ。人一人で、家が建てられると思ってンのか?」

「はあ?できる訳無い─────────あ」

「お前はさっき、"何もかも捨てた"って言ってたが、まさか、()()()()()()()()()()!なァんて事ァ・・・・無いよなあ?」

 

芽吹は、呆然としていた。

どうやら、図星だったらしい。

芽吹は時折、その生真面目さ故に、周囲の人間を蔑ろにしてしまう事がある。それが原因でケンカしたこともあった。

・・・・・・というか、今思い出したけど、俺が誘拐される直前にも、そのことでケンカ別れしてなかったっけ・・・・?誘拐された後の事がインパクト有りすぎて忘れてたけど。

 

俺、なんでこんなハードな人生歩んでんの?

 

「・・・・・・・・私」

「芽吹、手ェ出せ」

 

有無を言わさず芽吹の右腕を引き寄せ、ずっと、渡しそびれたままだった物を着けた。

 

「これ・・・・ブレスレット・・・?」

 

渡した物は、ゼラニウムの花を模したブレスレット。桃色の糸を使って作ったので、ブレスレットというよりミサンガに近いかもしれない。

 

「本当は、お前が大赦にお呼ばれした日に、渡す予定だったんだがな・・・・・お前、口も聞いてくれなかったし・・・・・」

「─────────そう」

「お前はもう、気付く事ができたんだ。失敗は、明日の糧にすれば良い。前を向けよ。立って歩け。お前さんにゃ、立派な足があるじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「ばっちゃが昔言っていた。『努力を積み重ねるのも、そいつを台無しにするのも、全部自分自身だ』ってさ」

「自分自身・・・・・」

「これを見る度、俺の言葉を思い出せ。そうすりゃ、万事上手くいくさ!」

「・・・・・・・・・気休めじゃない?」

「病は気から、とも言う」

「その喩えは違うと思う」

「気にしたら負けってことで一つ」

 

芽吹はため息を吐いて、ブレスレットに触れる。

 

「ありがとう輝夜。まあ、ちょっとくらいは、頑張ってみるわ」

「おう、そうしろ」

 

もう、芽吹は大丈夫そうだな。戸棚の物色に戻るとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────なぁ、ホントにここにあるのか?お前のパンツしかねーぞ?」

「───────────────右じゃなくて、左の戸棚よ(怒)」

 

 




赤いゼラニウムの花言葉はゆゆゆ民にはお馴染みの、『君ありて幸福』ですが、
ピンクのゼラニウムは、『決意』なんだとか。
ちなみに、ゼラニウム全般だと、『尊敬』って花言葉があるそうな


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Kの訓練、Iのお悩み

実家から帰って来て早々、春さんに頼んでおいた物が届いていたので開封する。

 

「・・・・・これが、ミスリル鋼って奴か」

 

俺の義肢にも使われている特殊な金属『ミスリル鋼』。

天然物は、神樹様の霊脈が通っている場所でのみ採掘可能な希少金属で、そのレア度故に市場には出回っていない。

そんなレアメタルを何故春さんが持っているのか、あまつさえ俺に渡せたのか。

実はこのミスリル鋼、金属を魔力に漬け込むだけで簡単に精製できるのだ。尤も、漬け込む為に必要な魔力量は、かなりの量らしいが・・・・

 

「さて・・・・・春さんの話だと、人工ミスリルは天然物に比べて錬成の耐久度合いが低いって事だけど・・・・」

 

パン!と、音を起てて両手を合わせ、魔力を滾らせる。

作りたい物の形状を頭に思い浮かべ、ミスリル鋼に触れる。

 

バチバチバチッ!!

 

「・・・・・・・・・・失敗、かぁ」

 

馬の形の置物でも造ろうと思っていたのだが、出来上がったのはお彼岸の時に仏壇に飾るナスビ牛(名前なんだっけ?)だった。

 

春さんの書庫から借りた錬金術の本に書かれていた、錬成陣無しの錬金術。もしこれをマスターできたならバーテックスとの戦闘でも利用できると思っていたのだが・・・・

 

「これじゃ、実戦は厳しいだろうな・・・・・」

 

ふと思い立ち、ナスビ牛を再錬成。

 

バチバチバチッ!!

 

今度は上手く出来た。

 

「・・・・・・アイリスの花。花言葉は確か、『吉報』とか、そんな意味合いだっけ」

 

以前、夏凛の誕生日プレゼントを錬成した時同様、花を錬成してみたら、本物顔負けのアイリスがナスビ牛から生えてきた。

 

「とにかくチャレンジあるのみだな」

 

そうして、何度も再錬成を行った。

 

 

眼鏡────失敗

 

茶碗────失敗

 

稲穂────成功

 

仏飯────失敗

 

バラ────成功

 

百合────成功

 

 

そうして、試行錯誤を繰り返す事、およそ五十回。

ミスリル鋼が完全に反応しなくなった時点で、訓練を終了した。

結果として、俺はどうやら植物に関する物ならば錬成可能なようだ。

 

例えば、最後に錬成した笹の葉。見た目こそ只の葉っぱだが、実はこれナイフである。その切れ味は素晴らしく、プラ板を軽く真っ二つにできるほど。

 

今日はもう訓練できないが、次回からは植物形の何かを中心に錬成してみようと思う。

 

「・・・・・やっべ、もうこんな時間じゃん。風呂沸かしてこないとマッキーに怒られる」

 

時間を確認した俺は、ミスリル鋼を窓際に置いて一階へと降りるのだった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

翌日、俺が部室に入ると、樹が占いをしていた。

 

「おっ!タロットじゃん。何占ってンだ?」

「あ・・・・・・えっと、今度やる歌のテストなんですけど」

「歌のテスト・・・・・ああ、アレか。曲名忘れたけど、俺達もやったなぁ」

「何々?何の話~?」

 

騒ぎを聞きつけたのか、迷子猫のポスターを作っていた夏凛や、勇者部新聞に貼る写真を吟味していた友奈等、他の連中も集まってきた。

 

「・・・・なぁ、夏凛さんよォ。お前のその絵は・・・・・何だ?鵺か?」

「どう見ても猫でしょうが!?」

「・・・・・・・・・・・・・そうか。まあ、この際どんでも良いんだがな」

「じゃあ何で聞いたのよ!?」

「んで、占い結果は───────────死神やん」

「うぅ・・・(泣)」

 

ワンオラクルで結果は死神ってーと・・・・意味は確か、『破滅』とか『終焉』とか・・・・・・

 

「・・・・・・・・まぁ、アレだ。ドンマイ♪」

「かふっ」

「ちょっ!?かぐやちゃん!?そこは元気付けてあげるところでしょー!?」

「だってよぅ・・・・」

「うーん、もう一度占ってみたら?別の結果が出るかもだし」

 

風さんの助言に従い、もう一度。

 

が、駄目っ!

結果はやはり死神っ!

 

「・・・・・・・・・あ、そうだ。小アルカナも混ぜてツーオラクルでやってみろよ。結果、変わるかもだぜ?」

「煌月先輩・・・・!やってみます!」

 

俺からの助言に従い、カバンから小アルカナのデッキを取り出して再びトライ。

 

 

 

 

 

「─────────────くすん(泣)」

「・・・・・・・・死神と、ソードの十、かぁ(白目)」

「えっと・・・・・どんな意味?」

「簡単に言えば、『壊滅的な終わり』」

「ごふっ(吐血)」

「樹が倒れたーーーーーーーーー!!!!!!」

「ちょっと輝夜!!止め刺してどうすんのよ!?」

 

最早てんやわんやである。

 

「あーもう!わーったよ!俺が占っちゃる!!」

「ホントですか!?」

「あ、復活した」

「魔術の師匠に昔教えてもらったからな、ワンオラクルとツーオラクルくらいならできらぁ!!」

 

そんな訳で、手を清めていざ!

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・なんか、ごめん」

「しくしく・・・・・(さめざめ)」

「まさか同じように二回占って、両方とも同じ結果とは・・・・・」

「えーと、ほら!四枚揃ってフォーカードだよ!これは良い役だよ!」

「死神のフォーカード・・・・・・(泣)」

「うーん・・・・嬉しくは、無いよなぁ・・・・」

「いや・・・・えーと・・・・・(汗)」

「ええい!!作戦会議よ!!!!!!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

職員会議から戻ってきたマッキーも参加しての、緊急会議。

議題はズバリ『樹が歌のテストで合格できるようになるには!?』

 

「良い?樹ちゃん。良い歌声には、α波が含まれているのよ」

「そうなんですか!?」

 

おい東郷、なんだその動きは・・・・・怪しい動きを伝授すんじゃない。

 

「うーん・・・・樹さんの歌は、別に下手では無いと思いますけど?」

「そうなのか?風さん」

「そうねえ、お風呂入っているときとか、一人の時だと結構上手なんだけどねぇ」

「そっか!なら、習うより慣れろ!だね♪」

 

どうやら、友奈が何か思い付いたらしい。

さて、それが鬼と出るか蛇と出るか・・・・

 

「鬼も蛇も一緒ですよ、煌月くん」

「ナチュラルに頭ン中見透かしやがってェ・・・・」

 

 




小アルカナの『ソードの十』は、大体『死神』と同じ意味を持ってます。
つまり、フォーカードどころかストレートフラッシュ(爆)


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Iのお悩み、Hの葛藤

リメイクなので、少し手を加えたくらいで内容はほとんど一緒。考えなくて楽チンじゃのぉ~~♪


あと、happybirthdayメブ~~♪


「そんなワケで、俺達は今カラオケ屋に来ているのぜ~」

「輝夜、誰に話てんのよ?」

「気にしたら負けさね」

 

夏凛のツッコミを受けつつ、ノリノリで歌う風さんを見る。友奈と東郷がそれに合わせて合いの手やらマラカスやらで盛り上げている。

 

「イエーイ!聞いてくれてありがとー♪」

 

さて、点数は─────────────ほう!92点か!

 

「良かったよ、お姉ちゃん」

「さんきゅー♪」

 

樹の言葉に風さんが答える。

さて、お次は──────

 

「夏凛ちゃん夏凛ちゃん。この曲知ってる?」

「ん?知ってるけど・・・・」

「じゃ、一緒に歌おうよ!」

「はぁ!?ちょ・・・・冗談じゃないわよ!馴れ合う為にここにいる訳じゃないんだから!!」

「そうよね~~。私の後じゃあねぇ~~。ゴ・メ・ン・ねぇ~~~」

 

風さんが自分の出した点数を指差して、夏凛を煽る。

 

「───────────友奈。マイクを貸しなさい」

「へ?」

「早くっ!!!」

「は・・・・はいっ!!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

友奈と夏凛の抜群のコンビネーションによるデュエットで、叩き出された点数は──────92点!

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

「はぁ・・・・はぁ・・・・夏凛ちゃんすっごい上手~~♪」

「ふ・・・・・フンッ。この程度、どうって事無いわ!」

 

相変わらずのツンデレ台詞、頂きましたァーーーーーーーーー!!

 

「─────ちょっと輝夜。なによ、こっち見て」

「いえいえ別に何も~~?2828」

「ぐぅ!!こ~~い~~つ~~・・・・!!」

「まぁまぁ、次は樹ちゃんの番だよっ♪」

「は・・・・・はいっ」

 

緊張気味の樹が歌う。

結果は──────まあ、言わぬが花だな。

 

「あうう・・・・」

「まだちょっと硬いかなぁ」

「誰かに見られていると思うと、それだけで緊張しちゃって・・・・」

 

だいぶ重症だな、こりゃ。

 

「まぁまぁ、今は練習なんだし。ほら!お菓子でも食べて──────って、無い!?」

「お菓子なら牛鬼が全部喰っちまったぞ?」

「んなぁ!?!?!?」

「あはは、牛鬼は食いしん坊さんですね~」

「ううう~~・・・・食べ過ぎだよぉ~~・・・・」

 

涙に濡れる友奈をなだめていると、突然、軍歌が流れ始めた!

これは────!

 

「あ、私の入れた曲」

 

東郷がマイクを握ると、夏凛以外の俺たち四人は立ち上がり、敬礼する。

 

「ぅえっ!?何!?」

 

呆然とする夏凛を他所に、東郷はがっつり歌い切る。

音楽が止み、採点画面に切り替わったところで四人同時に着席。

 

「──────何、今の?」

「私たち、東郷さんが歌う時はいつもこんなだよ~♪」

「こうしないと、後が怖いんさー・・・・『護国の心が足りーん!』って────」

「そ・・・・・そう・・・・・」

「そうよ。という訳で・・・・・・・・・夏凛ちゃんには後でお話があります」ゴゴゴゴゴゴ・・・・・

「ひぃ!?」

 

あーあ、東郷の心に火ィ着いちまったな・・・・

おっと、そうだ忘れてた。東郷の次は俺の曲だ。

 

「よし───────俺の歌を聞けェ!!!!」

 

今回歌うのは、俺の『48のカラオケ十八番』の一つ。

旧暦時代、初の合体変形ロボットアニメとして有名になったシリーズの三大OVA作品の一作目にて、物語後半のOP曲として使用された曲だ。

 

「───────上手いわね、輝夜」

「そりゃそうだよ!なんたってかぐやちゃんの『48のカラオケ十八番』の一つだもん!」

「───────────突っ込んだら負けかしら?」

 

気持ちよく歌い上げた俺は、採点結果を期待して待つ。

さて、結果は────────────────83点か。

 

「まぁまぁだな」

「でも上手でした!さすがです、煌月先輩!」

「フッ─────まあな!」(ドヤァ)

「それじゃ、次はなに歌おっか?」

「そうねぇ───────」

 

いつも通りに雑な扱いを受けつつ、次に歌う曲を選んでいると、風さんが部屋から出ていった。

なんだろ、便所かな?

 

───────view,change:風────────

 

水の流れる音が響く中、私は洗面台の鏡に写る自分の顔を見た。

ひどい顔だ。とてもじゃないけど、みんなには見せられない。

 

「大赦からの連絡?」

 

その時、髪紐の鈴を鳴らしながら、夏凛が入ってきて私に訪ねる。

 

「─────『最悪の事態を想定しておけ』、って」

「ふぅん・・・私には連絡してこない癖に・・・・・」

 

夏凛はそうぼやくと、私を見据えてはっきりと言った。

 

「怖いの?」

「──────────」

「なら、あんたは統率役には向いてない。私の方がうまくやれるわ」

 

夏凛のその言葉に、私はそれまで流しっぱなしにしていた水道の蛇口を止める。

 

「これは私の役目で、私の理由なのよ」

「──────────」

 

黙る夏凛の横を通って外に出る。

 

「後輩は黙って先輩の背中を見てなさい」

 

通りがかりに、一言だけ告げて。

 

―――――――――――†――――――――――

 

夕暮れの帰り道。

カラオケの後は、勇者部のみんなでこうして並んで帰ることが多い。

 

「歩いて帰るのって久しぶりね・・・・」

「うん。でも、樹ちゃんの歌の訓練にはならなかったねえ・・・・」

「でも楽しかったです!」

「そりゃなにより。昔、死んだばっちゃも言っていた。『楽しむ事こそ、上達の道』とね」

 

前を歩く樹たちが、楽しげに会話している中、私は、大赦から送られてきたメールの事で、頭が一杯だった。

 

「風さん?聞いてる~?」

「ぅえ?な・・・何?」

 

だから、煌月の声に反応するのに、ワンテンポ遅れてしまった。いつもなら即座に反応していたのに・・・・

 

「樹の歌のことよ」

「あ・・・・ああ・・・そうね」

 

夏凛がフォローを入れてくれる。

おかげで私は会話に追い付く事ができた。

 

「うーん・・・・樹はもうちょい練習が必要かな?」

「α波出せるように・・・・・!」

「α波から離れなさいよ・・・・」

「東郷お前、まァだα波信仰してンのかよ・・・・」

 

何気ない平凡な中学生らしい日常。

私たちは、この平和な日々を守るために、戦わなくてはならない。

 

(もしもの時は──────)

 

大赦がああ言ってくるという事は、最悪の場合、この中の誰かが─────

 

「ふ~~~う~~~さんっ!」

「ぅわっ!?びっくりしたぁ!」

 

いつの間にか、目の前に煌月が居た。

 

「なんか、悩み事?」

「───────やっぱ、分かる?」

「分かりやすいねぇ。風さんが会話に乗っかってこないもん」

「────────そっか」

 

幼馴染なだけあって、友奈と煌月の二人は、他人の感情にとても敏感だ。

本当、素直に凄いと思う。

 

「敢えて聞くようなことはしないよ。でもね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・もしもの時は、私がなんとか致します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────煌月?」

 

少し、機械的な口調の煌月に少し驚く。

でも、それだけじゃない。

さっきまで黒かった瞳の色が、何故か一瞬、()()()()()()()()()()()()()()

目をこすり、もう一度見直す。

けれど煌月の瞳は、いつも通りの黒い色。

 

「──────今のは・・・・いったい・・・・」

「ん?何、風さん。俺に惚れた?」

「それは無い」

「ひどーい」

 

良かった。いつもの煌月だ。

 

「─────ありがと、煌月」

「your welcome」

 

腰まで届く長い三つ編みの黒髪を揺らして、煌月が笑う。

その笑顔を眩しく思いながら、私たちは帰路に付くのだった。

 

 



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My Dreamar ~目指す目標は遥か先~

リメイク前は間違えていた時系列を、今回、ちゃんと戻しました。
なんで間違えて覚えていたのやら・・・・


みんなでカラオケに行った日の翌日。

部室に行くと、机の上に大量の薬瓶が置かれていた。

夏凛がドヤ顔しているから、十中八九夏凛の私物だろう。というか、この中でこんな大量に薬瓶持ってるの、夏凛ぐらいだよな。

 

「ついにヤク中女が他の連中をシャブ漬けにしようと────!?」

「んな訳あるかぁ!!」

 

話を聞くと、どうやら樹の為に喉に効果のあるサプリを多種用意したとの事。やっぱシャブ漬けじゃん。

 

「さあ樹!これを飲みなさい、全種類!!」

「えぇ!?」

「いやいや、無理でしょ」

「流石の夏凛ちゃんでも難しいと思うわ」

「そうだぞー。自分で出来ない事を他人にやらせようとするなよー」

「上等だコラー!!やってやろうじゃないの!!!」

 

最後の俺の煽りが効いたのか、夏凛がキレて机のサプリ全種類をイッキ飲みしだした。

 

※彼女は特別な訓練を受けています。絶対に真似しないで下さい。※

 

最後にオリーブオイルを一気に煽って全制覇達成。いやー、めでたくねぇなあ。

 

「ぷはぁ・・・・・どうよ!」

 

と、次の瞬間顔色を青くした夏凛は、口元を押さえて部室から駆け足で出ていったのであった・・・・・

そして、帰還後の一言。

 

「・・・・・樹はまだビギナーだし、一つか二つくらいで充分よ!」

「ブフォ!!」

 

この一言に、俺は爆笑の渦に巻き込まれた。あー、お腹痛い!

 

「輝夜ァァァ!!!!!!」

「オサラバッ!」

 

キレて襲い掛かってきた夏凛から逃亡する為、窓からダイナミック脱出!ほとぼりが冷めるまで、しばらく逃走した。

んで結局、樹には効果がイマイチだったようで特に何も起こらなかった。

まぁ、当たり前だよなぁ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「暇ー、退屈ー」

「だからって入り浸るなよ・・・・」

 

そして放課後、諸事情で飼えなくなった子猫の受け取り依頼をこなすために、友奈、東郷、夏凛のチームと、犬吠埼姉妹チームに別れて行動している。が、俺は体質───雷の魔力変換資質により、常に帯びている微弱な電磁波の影響───で動物に嫌われてしまうため、一人ハブられることとなった。

なので、暇な俺は"嵐ヶ丘"に来ていた。ちなみに、今日はシフトは入ってないので、完全に客として来ている。

 

「そんな暇なら勉強しろー、学生」

 

今日の担当はマルさんだけのようで、杏子さんは見当たらない。春さんは、最近こそ夏凛が来れば出てくるが、基本的には滅多に工房から出ないので論外。

そんなマルさんに、カウンターの上に頭を乗せてぐでーっとしていた俺は、その頭をぺちぺちとお盆で叩かれる。

 

「だぁって~~・・・・」

「勉強はしといた方が良いぞー・・・本当に」

「急にマジなトーンしてどーしたんスか?」

「いや───────先生にどやされた時のこと、思い出して・・・・・・・」

 

青い顔をして、ガクガクブルブルと震えだすマルさん。

なるほど、現役教師時代のばっちゃ、そんな怖かったんか・・・・・

 

「ほら、コーヒーやるから今日はもう帰れ。んでもって勉強しろ」

「へーい・・・・」

 

仕方ないので、差し出されたコーヒーをイッキ飲みして、今日の所は帰る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じ・・・・・・っと、こちらを見る、誰かの視線を、背中に感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

特に何も無いまま、更に翌日。

今日は遂に樹の歌のテストの日。

なのだが、早朝から樹に屋上へ呼び出されたのだった。

 

「んで?話って?」

「あの・・・・実は」

 

どうも樹は、姉と違って自分には戦う理由が無い事に悩んでいるようだ。勇者部に入ったのも、風さんに勧められたから。

 

「私には・・・・何も無い・・・・」

「いやいや、あるでしょ」

「───────────え?」

「今は気付いてないだけさ。何も無いなんて、そんなこたァ無ェよ」

「でも─────」

「なら、なんで勇者部に居続けられるんだい?」

「え?それってどういう・・・・?」

 

きょとんとする樹の頭を撫でながら、俺は告げた。

 

「樹。キミが風さんの後ろを、ただ何も考えずに追いかけているだけの人間なら、こんな大変なお役目を背負わされた部活、さっさと辞めてる。でも、キミはまだ続けているだろ?それはつまり、続けたいと思うだけの"何か"がキミの中にあるからさ」

「私の・・・・中に?」

「それがなんなのか、俺にはわからないし、見付けてあげることも出来ない。これは、樹自身が見付けなくちゃならない事だからな」

「────────────」

「そろそろ始業のチャイムが鳴るな・・・・・オラ、お前もさっさと教室に戻りな。今日は歌のテストだろ?」

「あ、そうでした!」

「がんばれよ樹。俺は応援してるぜ。テストも、理由探しも」

「──────────煌月先輩、ありがとうございます!」

 

ペコリと頭を下げて、樹は去って行った。

 

―――――――――――†――――――――――

 

そして、放課後。

俺たちは部室にて、樹の来訪を待っている。

 

「樹ちゃん、大丈夫かな・・・・」

「大丈夫よ。なんたって私の妹だもの!」

 

とは言う風さんだが、さっきから作業に集中できていないのが目に見えて明らかだ。

と、その時、件の人物が部室に到着した。

 

「樹ちゃん。結果は────?」

「─────────────────バッチリでした!」

 

晴れやかな笑顔と共に告げられた結果に、部室内は歓声に包まれた。

 

「やったね樹ちゃん!」

「きっと、みんなをカボチャだと思ったのが良かったのね!」

「ふ────ふん!良くやったじゃない!」

「おめでとう。信じてたぜ、樹」

 

「みなさん────────ありがとうございます!!」

 

 

その後、風さんの提案で、樹の歌を聞くこととなった。

先日、カラオケで聞いた時よりも、綺麗で、澄わたっていて、思わず聞き惚れてしまった程の、素敵な歌声だった

 

―――――――――――†――――――――――

 

「いやぁ!樹、歌のテストで合格できて、良かったな!」

「そうね────────って、なんで付いてくるのよ!?」

 

帰り道、今日は夏凛と一緒に帰る。

帰るというか、"嵐ヶ丘"に向かっている。

 

「なんでって・・・・今日シフトだし」

「・・・・・・あー、そう。じゃ、仕方ないわね」

「そうそう、仕方な~い仕方な~い♪」

「・・・・・・・・・ウソだったらはっ倒すから」

「ウソチガウ、ウソチガウ(棒)」

「絶対嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

なんてふざけあっていた、その時だ。

 

「あのー・・・・お兄さん達、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・・良ーい?」

 

俺達の目の前に、突然、五歳くらいの幼女が現れた。

 

「どうした?迷子か?」

「お家は何処?お父さんかお母さんは?」

「あ、平気だよ。迷子とかじゃなくてね、人をさがしているんだー」

 

此方の心配を余所に、幼女は質問を投げ掛けてくる。

 

 

 

 

 

「あのね・・・・・・"三好春信"って人を、捜しているんだ・・・・知らない、かな・・・・?」

 

 

 

 

 

「──────────知らないな」

「えっ?」

「そっかあ・・・・・・そっちのお姉さんは?」

「え・・・・わ、私は・・・・・」

 

目配せで合図を送る。ここは嘘をついておけ、と。

 

「・・・・・・・わ、たしも、知らない、わ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・そうなんだ」

 

少し寂しそうに顔を伏せた幼女。

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてウソ付くの・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ!?!?」」

 

突如として幼女から沸き上がった殺気に思わず後退る。

 

「・・・・・良いよ。それなら、身体に直接聞くから」

 

意味深なセリフを吐いて、幼女は何かを呼んだ。

 

 

 

 

 

「来て、『ヴェルク・セル』!!!」

 

 

 

 

 

幼女の呼び声と同時に、上空より飛来したのは、筋骨粒々なツギハギだらけの巨人。

 

 

「■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

そいつは、声にならない雄叫びを上げて、真っ直ぐにこちらに襲い掛かって来たのだった!

 



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Verk.Cell Impact

ぐんちゃん・・・・良かった・・・・ちゃんと弔ってもらえて・・・・・ホントに・・・・・・(感涙)


閑静な住宅街に響く、鈍重な雄叫びと破砕音。

それら全てが、目の前のツギハギ大男が出しているというのだから、近所迷惑も甚だしいったりゃありゃしない。

 

「・・・・なァんて現実逃避した所で、現状を打開できる訳も無し・・・・っとと!?」

「ボケッとしてんなぁ!!」

 

勇者服を纏った夏凛から叱責の声が上がるが、こんな筋肉モリモリマッチョマンの変態相手に、どーしろっつーのさ・・・・

 

「・・・・・思い出した」

「お、何か打開策あるのか?」

 

大男の攻撃を寸での処でかわしつつ、夏凛に問う。

 

「ねえ、あんた!!その服装・・・・大赦の巫女でしょ!?しかも一番位の高い『神有月』の巫女!!違う!?」

「・・・・・へえ~、良く知ってたね。もう良いよ、ヴェルク・セル」

 

夏凛からの問いかけに幼女は答えると、大男を静止。にこやかな笑みを称えて、こちらに歩み寄って来た。

 

「それじゃあ、私を巫女と見抜いたご褒美に、私の名前を教えてあげるね?私は()()()()。貴女の言う通り、『神有月』の巫女だよ」

 

・・・・・・・・今、なんつった?

 

「藤森・・・・優芽?それって確か、兄貴の────」

「うん。春くんとはちょっとの間だけどお付き合いしていた間柄だよ」

「・・・・・まさか、春さんがロリコンだったとは」

「いやいやいや!?!?絶対違うわよ!!!あいつが私達をからかっているだけでしょ!?」

「あはははは♪そういう反応、春くんそっくりだね~。安心して、見た目こそ五歳くらいだけど、私ホントはそろそろ三十路なの」

 

最早衝撃的過ぎて空いた口が塞がらん・・・・・

 

「まさか、ヴェルク・セルと契約の対価が、『年齢』だなんて・・・・・流石に予想もできなかったよ」

「契約・・・だと?オイちょっと待てよ。まさかそいつ・・・!?」

「ご明察~♪()()()()()()()()()()()()。それも、72体の中で唯一、『肉の体を持った』悪魔。それがこの子の正体なんだ」

 

肉の体を持った悪魔・・・・・それはつまり、

 

「──────悪魔序列十一位、グシオン」

「え?輝夜?」

「わっ。そんなところまで知ってるんだ~~!」

 

・・・・・・あれ?なんで俺、そんな事を知ってるんだ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・・・・・ねぇ、あんた本当に、輝夜なの?」

「は?何を言って─────」

「だって、あんた・・・・目の色が・・・・!!」

 

目?

色がなんだって?

 

「─────────これはちょっとびっくりだなぁ。まさか労せずして、目的の一つが見つかっちゃうなんて」

 

藤森優芽を名乗る幼女の声が、混乱する頭の中を更にかき乱す。

 

「でもまさか、自分の事をお兄さんの様に慕っている子を実験台にするなんて・・・・・・春くんも外道なことをするなあ~~」

「っ!?・・・・・兄貴を悪く言うなぁ!!!だいたいあんた、兄貴の事捜してるみたいだけど、今更出て来て何をしようってのよ!!!」

 

吠える夏凛を、冷たい眼差しで見つめながら、優芽は語る。

 

「・・・・・・それは貴女が彼のやった罪を知らないから言える事よ」

「────────────え?」

「今更出て来て何をするのかって?良い質問ね。春くんに返してもらいに来たのよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・ね?」

 

盗んだ・・・・春さんが?

 

「・・・・・・そん・・・・な・・・・兄貴が、そんなこと・・・・・」

「疑うなら、今度会った時にでも聞いてみてよ。『ジェフティは何処?』ってね」

「ジェフティだと・・・・!?」

 

なんてこった・・・・それじゃ、マジで春さんは・・・・?

 

「・・・・・・・・・・・嘘よ・・・・・そんなの嘘・・・・・兄貴が・・・・・兄貴がそんなこと・・・・するわけ無い・・・・・するわけが無いっ!!!!」

 

夏凛の悲痛な叫びが木霊する。

が、俺には、それを肯定してやることは、できなかった。

 

「・・・・・別に、春くんが盗ったのかどうかは問題じゃないんだよね。ただ、お爺様───"神樹の神子様"の命令だからね。ちゃんと返してもらいたいんだ。まあ、今はそっちよりも、もう一つのおつかいを果たしちゃうのが先かな」

 

そう言って、優芽はヴェルク・セルに命令した。

 

「お爺様の失せ物、『フォトン・ドライヴ』、返してもらうよ」

 

さっきからずっと、衝撃的な事実を突き付けられまくりで混乱した頭では、ヴェルクセルことグシオンが腕を伸ばしてきていても動けずにいた。

そのまま俺は、頭を掴まれ─────

 

 

 

 

 

「まったく・・・・だからさっさと覚醒させちまえば良かったんだ!」

 

 

 

 

 

る事はなく、俺とグシオンの間に、一人の少女が立っていた。

 

「お前・・・・なんで・・・・!?」

「別に。単に、今お前に死なれては此方が困るだけの事だ。気にするな」

 

鏑矢の仮面を被ったその女は、一本のガンブレードだけでグシオンの腕を防いでいた。

 

「・・・・・・・お姉さん、まさか鏑矢の人?名前は?」

「無い。どうしても呼びたければ『鉛』とでも呼べ」

 

それだけ言うと、仮面の女改め"鉛"は赤子をあしらうように、グシオンをひっくり返したのだった。

 




─藤森優芽─

想定CV:門脇舞以


見た目こそ五歳児程度だが、実年齢は二十代後半。
悪魔グシオンの契約者。六年前の契約の際、対価として『年齢』が支払われた為に、身体が零歳児にまで退化してしまっていた。
大赦での位は『神有月』で、『神樹の神子』の側近クラス。
春信に対して執着を見せているようだが・・・・

―――――――――――†――――――――――

ヴェルク・セルの名前の由来はベルセルク───つまり、バーサーカーです。

???「やっちゃえ!バーサーカー!!」


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Attack on Vertex -総攻撃-

─補足説明─

大赦の巫女はその適性でランク分けされており、『睦月』~『神有月』までの六段。
ちなみに、修行により、適性値を上昇させればランクも上がる。
各ランクの名前の由来は陰暦の1月から6月まで。
ランクが高ければ高い程、大赦での権威も上がる。
特に『筆頭巫女』と『神子の巫女』は大赦創設の"六花"に対しての発言権が与えられるほどである。

(本来、6月は神無月だが常に神樹が居るので神"有"月にした。余談だが、6月が神無月と呼ばれる由縁は、神様が出雲に帰郷するからだとか。そのため、出雲では6月は神有月と呼ばれているそうな)



小柄な少女が、倍以上もある大男をひっくり返す。

武道の達人であるならば、それも出来ない事では無いそうなのだが、目の前で起こった出来事は、そんなチャチなモンでは無い。

 

「もっと、恐ろしい何かを見せつけられている感じだ・・・・」

「何言ってんのよ」

 

夏凛にツッコまれる間にも、状況は変わってゆく。

投げ飛ばされたグシオンが起き上がり、雄叫びを上げたのだ。

 

 

「■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「──────────────なんだ、まだヤル気か?もう時間も無いっつーのに」

 

それに対して鉛は余裕の表情である。仮面で顔見えないけど。

鉛の挑発に乗ったのか、グシオンが鉛へ向かって突撃してきた。

 

「ヴェルク・セル。ステイよ」

「!?・・・・・・・・・」

 

が、優芽の静止であっさりと引いた。なんだ?いったい何を──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪~~♪~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?バーテックスだと!?このタイミングで!?」

「まあ、そういう事だ。バーテックスに救われたな」

「イヤミか貴様!!!」

「言ってる場合か!!!!」

 

再びの夏凛のツッコミを受けつつ、世界は樹海に包まれていった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

周囲が木々に覆われた樹海へと変化したのを確認し、ついでに優芽とグシオンが居ないかも確認。

────────よし、居ないな。

 

「・・・・・・さて」

「っ!」

「警戒しなくて良い。お前にはもう手を出さない」

「・・・・・・信用でき無ェな」

「『勝手な真似をするな』と、雇い主に叱られたんだ。無理に覚醒を急がせるような事は、もうしない」

 

それだけ言うと、鉛は立ち去ろうと背中を向けた。

・・・・・マジでなんもしないの?

 

「・・・・・・一つだけ、忠告してやる。"覚悟"だけは、しておけ」

 

去り際に一言残して、鉛は何処かへ跳び去って行ってしまった。

 

「──────覚悟、ね」

「なんかよくわからないけど、とにかく皆と合流しましょ」

「・・・・・・・・・・・・・そうだな」

 

―――――――――――†――――――――――

 

無事、友奈達と合流できた俺達は、先程までの経緯を簡単に報告する。

 

「──────ってな事があってだな」

「だ・・・大丈夫だったの!?」

「でなけりゃ、ここにゃ居ねーよ」

「そ・・・・そうだよね・・・・・良かったー・・・・」

 

ちょっと泣きそうになっている友奈がほっと胸を撫で下ろす。

 

「ったく・・・・心配性なヤツだなァ」

「だって・・・・・」

 

友奈の頭を撫でて安心させてやる。

 

「ん・・・」

「俺が大丈夫って言ってンだ。夏凛も居たし、お前が心配する様な事にゃならんよ」

「輝夜の言う通りよ。この私が居るんだもの!大船に乗ったつもりでいなさい!!」

「夏凛ちゃん・・・・・・ありがとう」

 

友奈に笑顔が戻ったところで、偵察に出ていた風さんが戻って来た。

 

「敵さん、壁の外から仕掛けて来るみたい!」

「なんで連中、あんなお行儀良く整列してンだ?」

「さぁね・・・・ただ、『壁の外に出てはならない』って神樹様の教えがあるから、連中がこっちに来るまで攻められないけど」

「あーあ、纏めてぶっ飛ばしてェ~~なァ~~。丁度良い感じに集まっているのによォ~~~」

「かぐやちゃん・・・・・」

「・・・・・まあ、気持ちはわからないでもないワね。あの感じだと、多分、残りのバーテックス全部来てると思うし・・・・・」

「まったく────気合い入り過ぎてこっちもサプリ増し増しよ・・・・・樹もキメとく?」

「いえ・・・・遠慮しときます・・・・」

 

と、ここで風さんが一つ咳払いをして告げた。

 

「よし・・・・みんな!気合い入れて行くわよ!!と言うわけで・・・・・ここはアレ、いっときましょ!」

「アレ?なによ、アレって・・・」

 

風さんの言葉に、夏凛を除いた全員が肩を組んでわっかを作る。コイツぁいわゆる────

 

「え・・・・円陣!?」

「気合い入れるならこれが一番女子力高いのよ!」

「意味わからんわ!!」

「ほらほら~♪夏凛ちゃんも早く~~」

 

友奈が自身の左側を空けて、夏凛を招く。ちなみに友奈の右側には東郷が陣取っている。いつの間に・・・・

 

「・・・・・・ったく!しょうがないわね!」

 

ツンデレ台詞を吐きつつ、夏凛も円陣に加わった。

うむうむ。仲良き事は平和かな~♪

 

「何やってんのよ煌月!あんたも早く入りなさいよ!」

「え?・・・いや、俺はいいよ。勇者じゃないし」

「勇者じゃなくても、勇者部の一員でしょ?ほら、ここ空けてあげるから・・・・とっとと入りなさい!!」

 

・・・やれやれ、そこまで言われちゃ仕方ない。

遠慮なく友奈と夏凛の間に加わらせて貰う。

 

「あんた達!これが終わったら、何でも好きなもの奢ってあげるわ!だから、死ぬんじゃないわよ!!」

「やった♪じゃあみんなでお腹いっぱい美味しいもの食べよう!肉ぶっかけうどんとか♪」

「良いねェ~~♪なら俺はカレー南蛮蕎麦!!」

「何故そこで蕎麦!?」

「ふんっ、言われなくても殲滅してやるわ!」

「わ・・・私も、叶えたい夢があるから・・・・!」

「頑張って皆を────国を護りましょう!」

 

「よぉーーし・・・勇者部ファイトーー!!」

 

『おぉーーー!!!』

 

 



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Attack on Vertex -覚醒の時-

『出陣ー!!』

 

パパパパパゥワーードンドン!!

 

「おいちょっと待てさっきの音なんだよ!?」

「何って・・・・義輝の法螺貝でしょ?」

「法螺貝以外の音色も聞こえたから質問してンだよ!!」

「グダグタ言ってると一番槍貰っちゃうわよ!!」

「あ!?おい待てやコラァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

開幕からグダグタだがとにかく、真っ先に飛び出した夏凛に追従する。

目標は、バーテックス共の中から一体、突出して来た奴。名前は牡羊座(アリエル)。なんつーか、羊っつーか・・・・・なんだこれ?時々思うけど、バーテックスって珍妙キテレツなモンが多いよなぁ・・・・

 

「一番槍ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

そんな牡羊座の頭に、夏凛が一撃入れる。そこへ追撃を加える。

 

「テメェはそのまま這いつくばってろォ!!!!!!」

 

 

ライトニング

ステーク

ブラスト

 

 

電気を帯びた巨大な金属杭を、夏凛が付けた切り口に撃ち込み地面に縫い付ける。

 

「よっし!これで・・・・・うげ!?」

 

が、その途端に牡羊座が尻尾を切り離した。その尻尾は姿形を変え、新たな牡羊座になった。

 

「わぁ!増えたぁ!?」

「任せろ!お前らは封印の準備しとけ!!」

「わ・・・・わかりました!」

 

 

ライトニング

ステーク

ブラスト

 

 

もう一本の杭を増えた牡羊座に撃ち込む。だがそれだけでは先程の二の舞だろう。だから、

 

「ぶっつけ本番だが、やるっきゃねェ!!」

 

両手を合わせて魔力を練る。

練り上げた魔力を右手に集め、指を鳴らす。

音と共に飛ばした魔力に反応し、杭に溜め込まれた電気が放出される。その出力、およそ30万キロワット。火力発電機一機分とだいたい同じ位の出力だ。

増えた牡羊座は電撃を食らい、黒焦げになって崩壊した。

 

「テメェがどういう生き物かはわかんねーけど・・・・これだけのモンを食らえば、流石に死ぬだろうさ」

 

さて、本体の方はどうなった?

 

「おー?なんかめっちゃ回っとるんだが???」

 

封印の儀によって出てきた牡羊座の御霊は、その場で超速回転を始めていた。

 

「何回ってんのよぉ!!!」

 

夏凛が剣を投げるが、当然ながら弾かれる。

 

「ちぃ!」

「ならっ!」

 

変わって、友奈が飛び出す。

 

「東郷さーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!」

 

友奈が殴って回転を止めると、尽かさず遠距離からの弾丸が御霊を撃ち抜いた。東郷の狙撃だ。

 

これにより、牡羊座は撃退。とりあえずまずは一体だ。

 

「しかし、こいつの動き・・・・まるで囮みてーな・・・・・・まさか!?」

 

気付いた時には遅かった。

 

 

 

 

 

ゴーン♪

 

ゴーン♪

 

ゴーン♪

 

 

 

 

 

突如として鳴り響く鐘の音に、友奈達の動きが止まる。

 

「な・・・・何この音~~!?!?」

「くっ・・・・こんな事で・・・・・」

 

重低音の衝撃波が友奈達を締め付けているようだ。

俺は特に影響は無い。ちょいとばかり喧しいくらいか。

そして、友奈達が動けない間に、二体のバーテックスが神樹様に向かって侵攻を開始。このままじゃ不味い。つか、東郷は何をしてンだよ。こういう時にこそ狙撃だろーが・・・・仕方ない、俺がなんとかするか。

 

「どれが原因・・・・・あのバーテックスか!」

 

音の発生源は頭に鐘を持ったバーテックス。名前は牡牛座(タウラス)

 

「チィ!・・・いい加減その音────」

「──────────音はみんなを幸せにするもの」

 

おん?

 

「こんな音は・・・・こんな音はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

キレた樹がワイヤーで鐘を縛り上げた。

 

「ヒューッ!ナイスだ樹ィ!!風さん!!」

「オッケー!!」

 

 

音が止まったその隙に、先行していた二体のバーテックスへ風さんと同時に攻撃を仕掛ける。

大剣の一撃と、雷と風の乱撃が、二体の身体をズタズタに引き裂いた。

 

「よっしゃ!後は・・・・・・ん?」

 

封印の儀を行ってもらうだけ、と思ったその時。視界の端で、何かが高速で横切るのを見かけた。

慌てて端末のレーダーを確認すれば、双子座(ジェミニ)が時速250㎞で神樹様に向かって特攻を仕掛けていた。

 

「不味いな・・・・風さん達はこっち頼む!俺はあのすばしっこいのをどうにかしてくる!!」

「え?あ、ちょっと!?」

 

風さんに呼び止められたが、双子座が今にもタッチダウンしそうなので無視してそっちへ急行。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その選択を、俺は直ぐに後悔する事になる。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「待てってンだよゴルァ!!!!!!」

 

地面から複数の蔦を錬成し、双子座を捕らえる。

退路を塞いでしまえば、案外楽勝だった。

 

「えっと、ここからだと東郷が一番近いな・・・・」

 

そんなワケで、東郷に封印してもらう為に連絡。

 

「東郷!ジェミニ捕まえたから封い────」

『え?何?ちょっと待って!』

 

電話越しに聞こえる爆発音に、東郷が別動隊に絡まれていた事を知った。

 

「今加勢に行く。それまで踏ん張れ!」

『平気よ。相手が今潜ったとこ・・・ろ・・・・』

「・・・・・?どうした」

『何・・・・・あれ・・・・・』

 

東郷の姿が見える距離まで双子座を連れて来たところで、俺も気付いた。

 

「なんだよ・・・・アレは・・・・・」

 

滅茶苦茶デカいバーテックスが、そこに居た。

レーダーには『UNKNOWN(詳細不明)』との記載。そして、他のバーテックスは全て居なくなっていた。

 

「・・・・・まさか、合体した?」

 

さっき風さんと俺がズタズタにした二体と、樹が縛った一体、そして最奥で動かずじっとしていた一体。

それらが一つになってアレになったとしたら────

 

「・・・・・こういう敵、絶対強い奴だろ」

 

なんて事を考えている間に、超巨大バーテックスが炎の玉をグミ撃ちしてきた。

あっと言う間に風さん、樹、友奈がやられ、懐に飛び込んだ夏凛も、傷一つ付けられずにやられた。

 

「オイオイ・・・・圧倒的過ぎだろ・・・・・」

 

精霊がバリアを張ってくれるおかげで、全員気絶した程度で済んでいるが、俺にはそんな物は無い。かと言ってここで指咥えて見てるだけなのは、勘に障る。

 

「くっ・・・・!」

「っ!止せ、東郷!!」

 

俺の制止も聞かず、東郷が狙撃を行うが、やはり無傷。そして直ぐ様反撃が飛んでくる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!もう!!!!!!こうなりゃ自棄(ヤケ)だ!」

 

連れていたジェミニを錬成し、向日葵型の防壁を造りあげると、東郷の前に飛び込んだ。

・・・・サラッとやっちまったが、こいつ、錬成素材にできるんだな(汗)

 

「輝夜くん!?」

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

超巨大バーテックスの一撃は、向日葵防壁によって防がれた。流石にバーテックスから造っただけあって頑丈だぜ。

だが、それも無意味である事を思い知らされた。

超速連射で放たれる火球の弾幕に向日葵がドンドン削られていく。このままじゃ、東郷共々やられる・・・!

 

「止めて輝夜くん!貴方だけでも・・・・」

「言ってる暇があったらテメェは逃げてろ!!!」

「でも・・・・!」

「補助しか出来無ェ俺より、連中を封印できるお前が生き延びる方が、優先度高いに決まってンだろ!!判れよ!!!」

「それじゃ、輝夜くんは────」

「うっせ!!!いい加減にとっとと行けよォ!!!」

 

ゴネる東郷の腕を掴んでぶん投げる。

それと同時に、向日葵が砕け散り─────

 

「・・・・・・必ず、倒せよ」

 

閃光と爆音で、聞こえたかどうかはわからないが、最期に一言だけ遺し、俺は吹き飛ばされるのだった………

 

あーあ、結局活躍できなかった。カッコ悪ィなァ・・・

守るどころか、守ってもらってばかりじゃね?情けない。

 

しかしもう、意味の無い事だ。

悔しくて仕方ないが、後の事は任せて─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『状況把握 システム 起動します』」

 

 

 

 

 

────────────は?

 

「『おはようございます 戦闘行動を 開始します』」

 

俺の口から、俺じゃない別の誰かの声が聴こえて、それを最後に、俺の意識は、途切れた。

 



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Attack on Vertex -華、開く-

こっちだと初めて?な三人称視点。
今回、目まぐるしく状況変わるから、こっちのが書きやすいんよ~~

あと、今回いつもより長いです。


爆煙の中を、風に舞う木葉の様に宙を飛ぶ輝夜に、東郷は自責の念に駈られる。

 

(私のせいで・・・・私が、もっと速く動いていたら・・・・こんな事には・・・・・)

「ごめんなさい・・・・・輝夜くん・・・・」

 

 

 

 

 

「『おはようございます 戦闘行動を 開始します』」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・え?」

 

爆煙の中から聞こえて来たのは、どこか機械的な、見知らぬ女性の声。

東郷がいぶかしんでいると、煙を振り払い、その声の主が立ち上がった。

 

「かぐ・・・・や・・・くん・・・・?」

 

「『敵性個体を確認 名称不明 登録無し 計測出来るエネルギー量から 暫定個体名を"スタークラスター"で登録します』」

 

全く此方を見ず、真っ直ぐにスタークラスターと呼んだ超巨大バーテックスを見つめ、輝夜?が歩き出す。

 

「あ・・・待って・・・・!」

「『───────』」

「っ!?・・・・ぁ・・・その・・・・顔・・・・」

 

東郷の呼び掛けに振り向いた輝夜?の顔を見て、東郷は驚愕した。

 

 

 

 

 

顔面の右半分の肉が削げ落ち、中にあった金属製のスケルトンが剥き出しとなっていたのだ。

 

 

 

 

 

「『────────』」

「ひっ!?」

 

歩み寄る輝夜?に、怯えを見せた東郷だったが、足が動かせないので、下がることができない。

 

しかし、それで良かったのかもしれない。

 

「─────────え?」

「『─────────』」

 

感情を感じ取れない、無表情な顔のまま、輝夜?は東郷の頭を優しく撫で、目元に溜まった涙を拭ってあげたのだ。

 

「──────輝夜くん」

「『・・・・・・私は 煌月輝夜ではありません』」

「え?」

 

「『私は 人智の及ばぬ敵性体との 戦闘を想定して創造さ(つくら)れた 量子演算式小型人工知能(フォトン・ドライヴ)。個体識別番号"AIーNo.La:6(セスタ)"です』」

 

その、淡々とした口調に、東郷は呆然とAIを名乗るモノを見つめるのみ。

 

「『敵性個体"スタークラスター"の 戦闘能力を計測 此方の予想数値を大幅に上回る結果が算出されました よって 全力稼働にて迎撃を開始します』」

 

東郷からの反応が返ってこないと、AIは再びスタークラスターへと向け、歩み始める。

その途中で、AIは端末を取り出すと、魔装神衣のアプリを開き、五色に塗り分けられた花のボタンをタップ。

 

上空から、五つの光がAIの周囲に降り注ぎ、五種類の武具へと変化した。

 

一つは、薙刀

一つは、巨大な扇

一つは、二振りの小太刀

一つは、大筒

一つは、拳当て(ナックルガード)

 

その中から、大筒を選び取ったAIは、砲身横の二つのツマミを操作すると、スタークラスターに向けて撃つ。

 

放たれた弾丸は、スタークラスターの身体に、風穴を開けたのだった!

 

しかし、その程度ではバーテックス故に倒れない。

そこでAIは大筒を投げ棄て、身の丈程もある巨大な扇を選び取る。

パンッ!と音を立てて扇を広げると、AIは舞う様に詠唱を始めた。

 

「『凪ぐ風が断ち そよぐ風穿つ』」

 

扇を中心に風が集まっていき、小さな竜巻を作り出す。

だが、それを黙って見ているバーテックスでは無い。即座に火の玉を撃ち、AIを迎撃する。

 

「『天風は吹き荒れ 神風は止む』」

 

「『大地を削ぎ落とし 山河を産み出せ』」

 

「『大いなる風は 今こそここに吹き乱れん!!』」

 

 

 

 

 

「『偉大なる風の太刀 『刃翔乱(ばしょうらん)』!!!』」

 

 

 

 

 

扇を扇ぎ、溜め込んだ風を解放すると、巨大な竜巻が火の玉ごとスタークラスターを巻き上げ、風の刃で切り裂いた!

 

「─────すごい」

「あれが・・・・上級魔術・・・・」

 

しかしそれでも、スタークラスターの表面が傷付いたのみである。

扇も棄てたAIは、今度は小太刀を取り────

 

「『敵性個体より 高密度の水珠を確認』」

 

それより先にスタークラスターから巨大な水球が放たれ、AIに向かって一直線に迫る。

 

「『──────位置関係を確認 回避は非推奨』」

 

ちらりと後ろを振り返ったAIは、棒立ちのままその水球に呑み込まれたのだった。

 

「え・・・なんで避けなかったのよ・・・?」

「──────風先輩が、後ろに居たから?」

 

AIは、気絶していた風の前で戦っていたのだ。

先程漸く起きたばかりの風では、水球に気付けても回避は間に合わない。故にAIは、避けることなく受け止めたのだ。

 

「くぅ・・・・アタシの、せい・・・・で・・・・」

 

「『──────────穿ち水月』」

 

水の中から、武器の名を呼ぶと、薙刀がAIの元へと飛んで来た。

 

「『波風を揺らせ』」

 

そして再びの呪文詠唱。

 

「『綾波を束ねよ』」

 

「『打ち(ひし)ぐ潮騒』」

 

「『荒れ狂う水面』」

 

一つ一つ、呪文を唱える度、水球が小さくなっていき、三節唱える頃には、全ての水が薙刀に巻き上げられていた。

 

「『湖処(ここ)に錨を』」

 

「『水底(そこ)(かばね)』」

 

「『凡て呑み込み 原始に還せ!!』」

 

 

 

 

 

「『翻す水の怒号 『磨波姫(まなひめ)』!!!』」

 

 

 

 

 

薙刀の鋒をスタークラスターに向け、集めた水を解き放つ。

大洪水にも匹敵する水量がスタークラスターを呑み込み、洗い流していった。

 

「・・・・・圧倒的過ぎでしょ」

「『敵性個体沈黙 なれど 反応は未だ衰えず』」

 

またも薙刀を棄て、次の武器を取ろうとした、その時であった。

 

突如として、AIの動きが停止した。

 

「え?何?」

「止まった・・・・?」

「『しゅ・・・・つ力・・・の・・・・低下・・・・を 確に・・・ん・・・・生命・・・・維持・・・を・・・・優・・・・・せ・・・・ん・・・・し・・・ま・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」

 

バタリ、と糸の切れたマリオネットの様に、輝夜の体が倒れる。

 

「かぐやちゃん!!!」

 

そこへ慌てて友奈と夏凛が駆け寄る。

 

「かぐやちゃん・・・・・かぐやちゃんっ!!!」

「・・・・・・・気を失ってるだけみたいね」

「よ・・・良かった・・・・かぐやちゃん・・・・・」

「良く無いわよ!あのバーテックス、起き上がって来てんのよ!?どうすんのよ!」

 

現状の戦力では、スタークラスターに対抗できない。それを身を以て理解した夏凛が吠える。

戦力が足りないならば、どうすれば良いか。

 

「・・・・・・だったら!」

 

友奈が右手の甲にあるゲージを見る。

と、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

友奈達の背後で、大輪の華が、咲き誇った。

 

 

 

 

 

「煌月が作ってくれたチャンス・・・・無駄になんて出来る訳ないでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

風が"満開"を使用したのだ。

 

「アタシはね、先輩なのよ・・・・部長なのよ・・・・それなのに・・・・!!」

 

起き上がったスタークラスターから火の玉が風に向かって放たれるが、それを回避し、

 

「後輩にばっかり、いい格好させる訳にはいかないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

スタークラスターにも匹敵するサイズの大剣を呼び出し、スタークラスターを地面に叩きつける!

 

「よっし!次ィ!!」

 

更にその後方で、青い華が咲き誇る。

 

「東郷さん!」

 

宙に浮かぶ戦艦に乗って、東郷がバーテックスを睨め付ける。

 

「・・・・・これ以上は、許さない!輝夜くん、私、もう逃げない!!!」

 

懐から日の丸の書かれた鉢巻を取り出すと、それを巻いて、宣戦布告する。

 

「我、敵軍ニ総攻撃ヲ仕掛ケル!!!」

 

そうはさせないと言わんばかりに、それまで地中に潜っていた魚座(ピスケス)が東郷の射線を遮った。

 

が、戦艦より放たれた砲撃の弾幕は、魚座をあっと言う間に粉々に砕き、封印無しで御霊を露出させるに至った。

 

「この程度なら、封印の儀は必要ないみたいね!」

 

傲ることなく、冷静に御霊を撃ち抜き、魚座は消滅した。

しかしここで、もう一つの伏兵が現れる。

 

「・・・・・え!?嘘!?いつの間にこんな距離まで!?」

 

後数百キロの場所まで侵入していたのは、双子座。

 

「そんな!?あのバーテックスは、さっき輝夜くんが壁にしていたはず・・・・双子・・・・まさか、二つで一つ・・・・!?」

 

確かに今神樹に向かって走る双子座は、先程輝夜が壁にした個体とはカラーリングが別だ。しかし、そんな事を気にしている余裕は、今の東郷には無い。

急ぎ、砲撃を敢行するが、双子座は見事なステップでかわしていく。

 

「軽やかにかわされた!?このままじゃ・・・!」

 

 

その瞬間、心優しき華が、咲き誇る。

 

 

「私達の日常を・・・壊させない・・・・!」

「樹ちゃん!!」

 

樹が"満開"を使用したのだ。

 

「そっちに行くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

樹がやった事は輝夜と同じだ。双子座の退路を絶ち、足を止めた瞬間にワイヤーで絡めとる。

がんじがらめに縛り上げられた双子座は、そのまま樹の元へと引き寄せられ、

 

「おしおきっ!」

 

粉微塵に引き裂かれ、双子座はその御霊を露出させた。

 

「ていっ」

 

御霊にワイヤーを突き刺して、双子座は消滅した。

 

これで残るはスタークラスターのみである。

 

「樹やるぅ~~♪・・・・・・ん?」

 

急に周囲が赤くなったので、空を見上げれば───

 

「・・・・なぁによ、この元気っぽい玉(汗)」

 

地面にめり込んで身動きの取れないスタークラスターが、最後の力を振り絞り巨大な火球を生成していたのだ。

 

「ふ・・・風先輩!!」

「総員、封印準備ぃぃぃぃ!!!!!!」

「!?」

「アタシがこいつを抑えているうちに、早く!!!」

「わ・・・・わかった!」

「了解!」

 

風が、放たれた火球を大剣で受け止めている間に、友奈達が封印の儀を執り行う。

 

「「「「封印開始!!!!!!」」」」

 

無事、儀式は成功し、スタークラスターより御霊が現れる。

しかしそれよりも先に、風が抑えていた火球が爆発。

激しい爆風が友奈達に襲い掛かる!

 

「きゃああああ!!!お姉ちゃん!!!!!!」

 

樹が悲鳴を上げる。が、風は最期の力で一言だけ叫ぶ。

 

「そいつを・・・・そいつを倒せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」

 

それは、後へと託す願い。

しかと受け取った四人は、いざ、御霊と向き合う。だが、

 

「何よ・・・・あれ・・・・・」

 

そう呟いたのは誰だったか。

摘出された御霊を見て、一同は絶句していた。

 

 

 

 

 

とてつもなく巨大な御霊が、宇宙空間に出現していたのだ。

 

 




─五武具足─

煌月輝夜の魔装神衣。
纏う衣装は、学ランをモチーフにしている。
五武具足の名の通り、五種類の武器を用いて戦う。

以下はその名前↓

・水属性の黒い薙刀"穿ち水月"

・木属性の青い扇"無花果(いちじく)"

・火属性の赤い二振りの小太刀"双炎義(そうえんぎ)"(それぞれ、矛勇(むゆう)鎖羅(さら)という銘がある)

・土属性の黄色の大筒"ヴァジュラ・カノン"(砲身の横に二つのツマミがあり、それを操作して弾丸の収束性と速度を調整できる)

・金属性の白い拳当て(ナックルガード)"金剛拳"

―――――――――――†――――――――――

作中に出てきた呪文は、PSのゲーム『俺の屍を越えて行け』を参考にしました。
詠唱はテキトーに考えたモノ。こっちの参考資料はBLEACH。



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Attack on Vertex -結城友奈は勇者である-

かぐやちゃんと風先輩のおかげで、合体バーテックスに封印の儀を行えた。けど────

 

「なんつーデカさよ・・・しかもアレ、出てる場所が・・・・・・」

「宇宙空間・・・・・」

 

みんな、疲れきっていた。

あれだけの激戦だったから、仕方ないけど・・・・

こんな時、かぐやちゃんならなんて言うかな・・・・

 

「くっ・・・・これじゃ、輝夜と風の頑張りも、全部無駄に・・・・」

「大丈夫!!」

 

私の一言に、みんなが私を見る。

 

「友奈ちゃん・・・?」

「あれだって御霊なんだ!今までと同じようにすれば、きっと大丈夫!!」

 

かぐやちゃん達が、ここまで繋いでくれたんだもん、どんなにでっかくたって、あきらめるもんか・・・・!!

 

「友奈ちゃん、行こう!今の私なら、友奈ちゃんを連れて行ってあげられる!」

 

東郷さん・・・・!

 

「ありがとう東郷さん!それじゃ、行ってきます!」

「必ず殲滅してくるのよ!!」

「お二人とも、気をつけて!!」

 

夏凛ちゃんと樹ちゃんからエールをもらって、東郷さんの戦艦に飛び乗る。

 

「振り落とされないようにね!」

「うんっ!」

 

落ちないように、東郷さんと手を繋ぐ。

 

「前進全速!ヨーソロー!!」

 

みんなの想いを背負って、私たちは宇宙へと出航した。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「わぁ・・・・ほんとに宇宙に出ちゃったぁ・・・・」

 

宇宙空間には空気が無いって聞いたけど、普通に息ができる。精霊バリアのおかげかな?

 

「見えてきた・・・・・・っ!?」

 

東郷さんの声に前を見れば、御霊から、沢山の岩みたいなのが降ってきていた。

 

「み・・・御霊が攻撃!?」

「迎撃するわ!地上へは落とさせないっ!!」

 

東郷さんが戦艦を操って御霊からの攻撃を迎撃していく。でも、向こうの方が数が多くて、東郷さんだけじゃ対処しきれない。

 

「東郷さん、私も────」

「駄目!友奈ちゃんはじっとしてて!!」

「でもっ!」

「私はもう、諦めない・・・・だからっ!!」

「東郷さん・・・・」

 

鬼気迫る表情で、東郷さんは撃ち落としていく。それでも、幾つかすり抜けて、地上に落ちていってしまう。

 

「このままじゃ・・・・・・」

 

と、その時レーダーが何かの急接近を知らせてきた。

 

「え?」

「な・・・・何?」

 

近付いてきたそれは、東郷さんが落とせなかった岩を撃ち落とすと、私たちの元まで飛んで来た。

 

それは、犬の頭をしたロボットみたいな人だった。

 

なんか、前に春信さんの工房で見た"ぱわーどすーつ"って言うのに似てるかも・・・

 

「・・・・・・鷲尾須美」

「っ!?どうしてその名前を・・・・?」

 

え?東郷さんの知ってる人?でも今、別のひとの名前言わなかった?

 

「奴の攻撃は私が捌く。お前達は奴を倒す事に専念しろ」

 

それだけいうと、犬頭のロボットさんは再び飛んで行ってしまった。

 

「・・・・・どうしよう?」

「何にしても、今が好機よ!友奈ちゃん跳ばすからしっかり掴まってて!!」

「あ、うん!!」

 

再び降ってきた岩を迎撃しながら、私たちは御霊へと近付く。

東郷さんが撃ち漏らした岩は、全部あの人が落としてくれたみたい。けっこう凄い人なんだ・・・

そうして、二人のおかげで御霊のすぐ近くまでたどり着けた。

 

「やった・・・・!やったよ東郷さん!抜けたよ!!」

 

御霊からの攻撃はもう無い。あとはこのまま────

 

「うぅ・・・・」

「と・・・・東郷さん!?」

 

東郷さんがよろめいたので、慌てて支えてあげる。

 

「平気・・・・でも、私はここまでみたい・・・・」

「大丈夫、あとは任せて」

「うん・・・・・」

「・・・・・・・」

 

東郷さんに、目一杯『大丈夫』の視線を送って、私は行く。

 

「じゃあ見ててね、行ってきます!」

「いってらっしゃい・・・いつも見てるよ」

 

東郷さんに見送られ、私は戦艦から飛び立つ。

 

「──────満開!!!」

 

溜め込んだエネルギーを解放して、私は"満開"する。

背中から生えた二つのでっかいアームを動かして、

 

「私は・・・・勇者になるっ!!!!!!」

 

御霊へと突撃する!

 

 

「勇者ぁぁ・・・パぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁンチ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

私が勇者パンチを当てるよりも先に、後ろから二つ、ビームが飛んで来て、御霊に傷を着けた。

見なくてもわかる。東郷さんと、さっきの人だ。

 

 

「そぉぉぉぉぉぉこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

二人の開けた道を、私が殴って切り開く!

穴を掘るみたいに御霊の中を殴って進む。

殴って

殴って

殴って─────、

 

 

 

 

 

ガギンッ!!

 

 

 

 

 

「っ!?硬い・・・・・」

 

だいぶ進んだ先で、私の拳は止められてしまった。

同時に、どんどん私の開けた穴が塞がっていく。

このままじゃ、押し潰されちゃう・・・・・

 

「きゃあっ・・・・!?」

 

そんな・・・・・ここまでなの・・・・?

みんな頑張ってきたのに・・・・これで、おしまい・・・・?

 

「あぁ・・・・・・・」

 

ごめんね・・・東郷さん。

ごめんね・・・夏凛ちゃん。

ごめんね・・・樹ちゃん。

ごめんなさい・・・風先輩。

 

ごめんね・・・かぐやちゃん。

 

 

 

 

 

『らしくねェじゃん、諦めるなんてよォ』

 

 

 

 

 

かぐやちゃんの声が、聞こえた気がした。

 

「っ!!!そうだ・・・・私は、諦めない!!!そんな私は、らしくないっ!!!!!!」

 

一回でダメなら十回!十回でダメなら百回!!百回でもダメなら千回!!!御霊が砕けるまで、何度だって殴る!!!!

 

「勇者部五ヶ条ひとーーーつ!!!なるべく・・・・・諦めないっ!!!!!!」

 

硬い御霊にヒビが入っていく音がする。暗くてよく見えないけど、きっと、もう一発!!

 

「さらにぃ・・・・勇者部五ヶ条ひとーーーつ!!!なせば大抵、なんとかなるーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

渾身の勇者パンチをおみまいして、御霊はとうとう崩れ始めた。

やった・・・・!ついに倒した・・・・!!

バーテックスを倒した時に出る光に包まれて、私は落下していく。

ああ・・・・もう、力、入らないや・・・・

このまま落ちていったら、私、どうなっちゃうのかな・・・・

そんな事を考えていたら、誰かに優しく抱き止められた。東郷さんだ。

 

「えへ・・・美味しいとこ、もらっちゃった」

「かっこよかったわ、友奈ちゃん・・・・・」

 

ふと見れば、私たち以外にも誰かが近くに居た。

 

「晴乃・・・くん?」

「おや、覚えていてくれて嬉しいですね」

「私がお願いしたの。『友奈ちゃんを助けたい』って・・・」

「なので、緊急の大気圏突入ポットを造ってみました」

 

よく見ればおっきな朝顔の花の上に、私たちはいたみたい。

これが、突入ポット?

 

「無事に突入できれば、お二人は地上へ帰還可能です」

「・・・・・そっか」

「ごめんね友奈ちゃん・・・・・このくらいしかできなくて・・・・」

「大丈夫だよ・・・・・神樹様が、守ってくださるよ・・・」

 

そうして、私たちは花に包まれた。

 

 

 

 

 

神樹様、どうか私たちを、みんなの元に帰してください。

 

 

 




「さて・・・・・おや?」

閉じた花に向かって、何かが飛来してくる。

「ああ、貴方か・・・これから大気圏突入ですが、如何です?」
「・・・・・・・・ああ」

飛来してきたのは、先程の犬頭のパワードスーツを装着した少年。

「二名での運用しか想定していないので、貴方はこれを盾にでもして、突入に備えてください」
「構わん」
「───────────」
「───────────」
「・・・・・・・()()()()()()()、彼女を守ってますよ。大丈夫。今のところ、()()()()()()()()()()()()()()()()
「家を戻したのが、効を成した・・・か」
()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
「しかし、奴が直接須美に接触した場合は、その限りでは無い」
「理解してます。だからこそ、貴方は今まで表舞台に出てこなかった・・・・でしょう?」
「─────────」

少年は、晴乃の問いに答えず、大気圏突入の時を待つ。

「では、僕はこれで・・・・良い旅を」

それだけ言って晴乃は消えた。

「ありがとう。晴乃─────いや」


「悪魔序列第六十一位、ザガン」


少年も乗せたポットが、地上へ向かって降下していく。

その後、無事友奈と東郷は仲間達の元へと帰還できた。
しかし、ポットが着陸した時には、少年は何処にも見当たらず、その行方は、誰も知らない。


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after care ー目覚めー

鬼滅最終回、とても良かった・・・・(感涙)

特に甘露寺さんと伊黒さんの生まれ変わりさんが『一緒に』(←ここ重要。)食堂を経営してるの、本当に好き。

素敵な作品をありがとう、本当にありがとう。
それしか言葉が見つからない・・・


「・・・・・・・・んぁ」

 

普段の寝起きは良い筈の俺だが、今回ばかりは流石に頭がまだぼやけている。

時間は─────あれ、時計無いや。ナースコールナースコール・・・・と。あった。ポチッとな。

さて、ここは何処だ?病院なのは判る。こう見えて病院に入院するのは三度目の経験だ。──────胸張れる事じゃねーな。

 

―――――――――――†――――――――――

 

やって来た看護婦さんに色々聞かれたり聞いたりして、情報を共有。どうやら俺は一週間寝っぱなしだったらしい。マジかー・・・・

 

「かぐやちゃん!!」

「お、ゆうな゛っ!?!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!かぐやちゃんのばかぁ!!!ばかばかばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

俺が起きたのを聞いたらしい友奈が病室に突撃してきた上に、俺に飛びかかってきてぽかぽかと叩いてきた。

 

「うぐぅ・・・・いってぇな・・・・飛びかかンの止めろよ・・・・ったく・・・・」

「うぅぅぅ・・・・そんなの、かぐやちゃんが悪いんじゃん・・・・・」

 

半泣きの友奈の頭を撫でると、友奈は叩くのを止めた。相変わらずぐずっているが。

 

「あーはいはい、俺が悪うごぜーました・・・・だから許せって、な?」

「やだ」

「あのなぁ・・・・・」

 

参ったなぁ・・・・こういう時の友奈って滅茶苦茶頑固なんだよな。

どうやって友奈の機嫌を治そうか考えていた時だった。

 

「輝夜!!」

「輝夜くん!!」

「煌月!!」

「────!!」

 

夏凛を始めとする、他の連中が病室に飛び込んできた。

 

「お前らよォ・・・・病院なんだから、静かにしろよなー」

「人に心配かけといて・・・・何言ってんのよぉぉ・・・・!」

「ま~~ったく・・・・そういうとこ、あんたらしいワ!」

「良かった・・・・本当に、良かった・・・・」

「───────!!」

 

熱烈歓迎じゃないの。俺ってそんなにモテモテかい?

 

「・・・かぐやちゃんがろくでもないこと考えてる」

「うわー、煌月ったらサイテー」

「輝夜・・・・あんたって奴は・・・・」

「あらあら・・・吊るされたいのかしら・・・?」

「───────────(冷ややかな眼差し)」

「結局こんな扱いかよチキショーめェェ!!!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

その後、夏凛が持ってきてくれた義足─どうやら夏凛が春さんに頼んで修理してもらってくれたらしい─を装着し、談話室までやってきた。他の連中は皆もう既に退院済みのようで、病衣ではなく制服姿だった。

それは良いんだが・・・・

 

「なぁ、風さん。その眼帯どーした?」

「フフフ・・・・これは先の大戦のおr「あ、そういうのいいんで」ちょっとぉ!?」

 

風さんのボケを華麗にスルーして、本題に入る。

 

「で?本当は?」

「・・・・・・うん。なんか、右目の視力が落ちてるみたいなのよ。どうもあの戦いの影響みたいなのよねー」

「─────────ふぅん。そっか。治るの?」

「医者の話だと、そのうち治るそうよ」

 

そう、夏凛が言う。

 

「そう・・・・か。医者が言うなら・・・・大丈夫かな?」

 

不安な点は幾つかあるが、専門医の言うことだ。間違いは無い─────筈だ。

 

ちょんちょん

 

「??どうした樹。なんか用か?」

 

袖を引っ張り樹がスケッチブックを見せる。

 

『こうづき先輩はどこもおかしいところ、ないですか?』

 

「ん?俺かい?へーきへーき。心配ありがとう、でもどうしたんだ?スケッチブックなんざ持って。そういやさっきから一言もしゃべって無ェけど───────まさか」

『おねえちゃんとおなじです。わたしは声が出なくなっちゃいました』

 

なんと

 

「─────それも、いつか元に戻るって?」

『そうきいてます!』

 

にこやかに笑ってスケッチブックを見せてくる樹。

その笑顔に、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。

 

「・・・・・俺、結局なんにも出来なかったな」

「「「え?」」」

「・・・・・・え?」

 

東郷以外の四人が、『こいつは何を言っているんだ?』という表情で俺を見る。

 

「何言ってんのよ。あんたがあのバーテックス弱らせてくれたから、なんとかなったんじゃない!」

 

は?

 

「かぐやちゃんすごかったよね~♪」

「噂に聞いてた上級魔術。まさか、敵の攻撃を吸収して倍に返すだなんて・・・・流石に認めざるを得ないわね・・・・!!」

『せんぱい、かっこよかったです!』

 

いやいやいや!え?なんで俺、こんなに賞賛されてんの!?なんかした?

戸惑っていると、東郷から目配せ暗号が送られてくる。

 

『輝夜くんは、そのまま賞賛を受け取って。理由は後で話す』

 

うーん・・・・なァんか気が引けるが・・・・

 

「フッ・・・!まァな!!俺にかかれば、あんなもんよ!!!」

 

とりあえず、東郷の指示通りにしておくことにした。

 

―――――――――――†――――――――――

 

その後、談話室にて行われた祝勝会にて、友奈の様子がおかしい事に気付いたが、お祝いムードの中をぶち壊すのも嫌だったので、その時は敢えてスルーする事にした。

そして、病室に戻りしばらくすると、扉がノックされた。

 

「・・・・輝夜くん、居る?」

「・・・・・・東郷」

 

入って来たのは東郷だった。

要件は・・・・・まあ、分かりきっている事だな。

 

「んじゃ、説明してもらおうか?あの戦いで何が起きたのか、それと、俺が寝てた一週間に起きた出来事を」

「ええ。でもその前に、輝夜くんは、どの辺りからの記憶が無いの?」

「記憶っつーか・・・・合体したバーテックスに吹っ飛ばされて、なんか、頭ン中から声が聞こえてきてから先は、全く記憶が無いな」

「─────────やっぱり」

「ん?」

「落ち着いて聞いてね。実は─────」

 

―――――――――――†――――――――――

 

「────以上が、輝夜くんが気を失ってから今日までの出来事よ」

「・・・・・・・・・・」

「輝夜くん?」

 

よもや・・・・・そんな事が起きていたとは・・・・

 

「AIを名乗る謎の人格。突如現れた犬頭の少年。そして、満開の後遺症・・・・・頭痛が痛いぜまったく」

「頭痛が痛いだと変よ、輝夜くん」

「わーってるよ・・・・・・そのくらい、頭が痛いって言ってンだよ」

 

さっき、友奈の様子が変だったのも、後遺症のせいなのだろう。

 

「・・・・・あいつのあの様子だと、味覚かその辺りってところか」

「ええ、そうみたい」

「東郷は?」

「・・・・・・・・・私は、左耳の聴力が」

「聴こえなくなってるワケね・・・・・夏凛は、満開してないんだったか・・・・無事なんだな?」

「うん」

「なるほど・・・・・医者が『治る』と言っている以上、その言葉を信じたくはあるが・・・・・」

 

しかし、それが嘘である事を裏付ける証拠もある事もまた、事実だ。

 

「・・・・・もし」

「ん?」

「もし、私の記憶とこの足が、満開の後遺症による物だとしたら・・・・・」

「それが真実だとして・・・・果たして、アイツ等はそれを受け止めきれるのか?」

「・・・・・っ!?でもっ!」

「真実を語ることが、常に正しいってワケでも無いだろ・・・・・時には優しい嘘も必要なんだよ」

「・・・それは、理解しているつもりよ・・・でも」

 

東郷の言い分も理解できないワケじゃない。しかし、大赦職員だって人間なんだ。俺達みたいな子供(ガキ)にだけ戦わせることに、負い目を感じている連中も、少なからずいることだろう。

 

むしろ問題なのは、()()()()()()()()()

 

『尊い犠牲』

『必要な贄』

『コラテラルダメージ』

『人柱』

 

そんなクソみたいな"キレイゴト"を並べて、後遺症の件を正当化しようとする人間も、世の中には居る。

だからこそ、あの日大惨事に─────

 

「───────あれ?」

「輝夜くん・・・?」

「・・・・・・いや、別に」

 

 

()()()()()()()()()()

というか、()()()()()()()()()()()・・・・?

 

 

「───────────」

「・・・・輝夜くん」

「・・・・・・悪ィな、東郷。今日は、帰ってくれると、助かる」

「・・・・・・・お大事に、ね」

 

突然の激しい頭痛に見舞われた俺は、東郷を見送ることも出来ず、そのままベッドへ倒れるように、眠った。

 



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after care ーこれからの私たちー

翌朝、何事もなく目覚めた俺は、簡単な検査を受けてすぐに退院となった。

元々、身体に異常はなく、単純に一週間も寝てただけだったからこそのスピード退院らしい。寝てただけとはいえ一週間も入院していたのだから、スピードもクソも無いな。

 

「退院おめでとう!かぐやちゃん!!」

「おう!シャバの空気が懐かしいぜ・・・!」

「はー、何を言っているんだか・・・」

「そういうところも、煌月らしいワね」

『みんな、なんともなくて、よかったです』

「ええ、本当にそう・・・・」

 

笑う仲間達を見て思う。

 

俺は、この日常を守ることができたんだ、と。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「良い眺め~・・・」

 

夕暮れ時の学校の屋上。

病院を出てすぐ、俺たちは学校へ赴き、ここからの町並みを眺めている。

 

「私たちが、守ったんだよね」

「普通に暮らしている連中は知らないけどな」

「それでも、誇れることだと思うわ」

「・・・・・・・そうだな。誰も知らない、俺達だけの勲章だ」

「おー、なんか格好いい響き!」

「だろー?」

「うふふふ♪」

 

ふと、夏凛と風さんが端末を見る。

その後の反応は対照的で、夏凛は笑い、風さんは暗い顔をしていた。

 

「なにか良いことでもあった?夏凛ちゃん」

「ふぇ!?べべ・・・別に何も!」

 

友奈の問に照れ隠しする夏凛を尻目に、風さんに声をかける。

 

「風さん」

「え?何?」

「・・・・・大丈夫だよ。何があっても、なるようにするさ。無責任な発言なのは、わかってるけどな」

「────────煌月」

『どうかしたの?お姉ちゃん』

「─────ううん。なんでもない。ありがと煌月」

「Your welcome」

 

そう言ってウインクしてやると、ようやく風さんも笑った。

そうして話題は、夏休みにやりたいことにシフトする。

やりたいことを語り合う中、俺は一人、何があっても大丈夫なように、準備だけはしておこうと、心に決めるのであった………

 

―――――――――――†――――――――――

 

「────以上が、アタシからの報告だ」

「うんうん、勇者部のみんなは、なんとか生き延びることができたんだね~」

 

先程まで輝夜が入院していた病院の一室。

そこでは、仮面の少女───鉛と、全身包帯に巻かれベッドに寝る少女が話し合っていた。

 

「私が預かった"あれ"も、無事起動したみたいだし、今後の準備は万端・・・かな~~?」

「だと良いけどな」

 

鉛が、その仮面を外してベッドの隣の机に置く。

 

「正直な話、アイツが何を考えて、AIを奴に埋め込んだのかわからないんだよな」

「彼には彼なりの考えがあるんよ~。だからこそ、貴女を・・・・・ミノさんを彼のサポーターとして送った」

「それは理解してるし、アタシだって、アイツの近くに居られるんだ。わからないなりきに頑張ってはいるんだけど・・・・・」

「ミノさんも、彼のこと、大好きだもんね~♪」

「─────────────ばーか///」

 

包帯少女が、鈴を転がしたような声で笑う。

それに釣られてか、"鉛"ではなく"ミノさん"と呼ばれた少女も笑った。

 

「・・・・・それにしても、たった二年であんなになっちまうとは・・・・」

「・・・・・・仕方ないよ。私たちだって、こんな風になっちゃったんだし」

「体、大丈夫か?」

「うまく動かせないだけだからね~。本当は、私が彼の隣に行きたいんだけど・・・・あーあ。体がもっとちゃんと、動かせたらな~~~~~~~~~~~~」

「へっへっへー。このまま園子よりもリードしてやるー♪」

「あー!ずるーいミノさん!抜け駆けはNGなんよ~~!!!」

「あー、あー、聞こえなーい」

 

そうやってふざけあう姿は、年相応の少女達だった。

しかし、一瞬の間を空けて真顔に切り替わってからの二人の様子は、熟練の戦士が持つ()()であった。

 

「じゃあ、"鉛"。彼───アヌビスのこと、宜しくね」

「お任せあれ、私の雇い主(クライアント)。必ずや、彼の計画を遂行してみせます」

 

仮面を被り、鉛は退室していった。

 

「───────かずくん」

 

残された少女────乃木園子が、ポツリと呟く。

 

「必ず、わっしーのこと、助けてあげようね・・・・!」

 

その瞳に、決意を宿して………

 




これにて第一章は完結です。
次回からは第二章となります。
こう、ご期待!!


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EXTRA.1 春、出会い、"産まれた日"

友奈ちゃんお誕生日おめでとう!!!!!!






とか言いつつ、話の内容は友奈ちゃんほとんど無関係という詐欺回。
extraだから許して~~!



神世紀300年3月21日

 

この日は友奈の誕生日であり、そして───

 

「友奈!煌月!誕生日、おめでとう!!」

「二人とも、おめでとう!」

 

俺の家で行われているバースデーパーティー。

風さんと東郷の二人が友奈と俺の誕生日を祝ってくれている。

 

「ありがとう!東郷さん!風先輩!」

 

満面の笑みを浮かべて、友奈が二人に礼を言う。

双方共に料理上手な事もあって、テーブルに並べられた料理はどれもとても旨そうだ。

内装も、二人で飾り付けたらしいが、なかなかに綺麗で───

 

「ほらっ、かぐやちゃんもお礼!」

「─────────────ん、さんきゅ」

「あら~~、もしかして照れてる?」

「照れてますね」

「あははっ♪かぐやちゃん耳真っ赤~~♪」

 

うるせーやい。

 

「にしても、煌月って友奈と同じ日が誕生日なのね」

「別に、今日が誕生日ってワケじゃねーですよ?」

「は?」

 

きょとんとする風さんに、簡潔に説明する。

 

「今日は、俺がばっちゃに拾われた日───俺が『煌月輝夜』になった日なんスよ」

「拾われたって・・・・・本当の両親は?」

「さあ?そもそも、そんなのが居たかどうかすら、怪しいモンだし・・・・」

「え?どゆこと?」

「・・・・・そういえば、私も知らないなぁ。かぐやちゃんと文野おばあちゃんとの出会いのお話」

「友奈ちゃんも知らないの?」

「まあ、あんまり公に話すような事でも無いしな」

 

だからと言って、秘密にしておきたい事でもねーけど。

 

「んー・・・・折角だし、聞いてくか?俺とばっちゃの馴れ初め話」

「良いの?秘密なんじゃ・・・・?」

「別に?そんなつもりはねーですよ?」

「随分とあっさりしてるワね・・・・(汗)」

「んで?聞きたいの?聞きたく無いの?」

 

俺の質問に対し、風さんは少し悩んで「聞きたい」と答えた。東郷と友奈も同じだ。

 

「んじゃ、ジュースでも飲みながら聞いてくれや」

 

冷蔵庫のお手製梅ジュースを三人に振る舞いながら、俺はあの日の事を語り始めた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

物心付いた時から、俺は何かの培養槽の中に居た。

無数のケーブルに繋がれ、周囲には白衣の大人達。

今思えば、何かの実験台にでもされていたのかも知れないが、今となってはその真偽を確かめる術は無い。

 

ある日を境に、白衣の大人達がぱたりと来なくなったのだ。

 

埃をかぶり、朽ちていく機器を眺めながら、俺は、自分の死期が近いことを悟っていた。その時だった。

 

 

 

 

 

「こんな場所にベイビーかい?連中も非道な事をするねえ・・・LD計画とやらを発案した奴のフェイスが見てみたいモンだ!」

 

 

 

 

 

久しぶりに聞いた人間の声は、今まで聞いたどんな声よりも温かく、優しさに溢れていた。

 

「おや、しかもまだ息があるじゃあないか!なら、レスキューしないのは白鳥の名に恥じる行いさね!!」

 

そう言って培養槽から抱き上げてくれた腕のぬくもりを、今も覚えている。

 

そうして俺は、白鳥文野────ばっちゃに拾われた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「んで、その日は満月が綺麗な夜だったから、『"輝く月の夜"で"輝夜"にしよう』ってなって、輝夜の名前をもらったのさ」

「うぅ・・・・ぐすっ・・・・なんて良い話なのぉぉぉ!!!」

 

風さんは号泣していた。そこまで泣く程だったかぁ・・・・?

 

「か~ぐやちゃ~ん!」

「え?────どわっふ!?」

 

突然、友奈にタックルされた。え?なして?どゆこと?

 

「そーんらくらい話よりぃ・・・・・・よいひょっと」

「なんだよ突ぜ────ちょっとぉ!?なんで上脱いでんのォ!?!?」

「んへへ~~♪かぐやちゃんかぐやちゃん!私の腹筋どお~お?」

「良い腹筋なのは知ってるからはよ服を着ろ!」

「さわって確かめるのぉ~~~!!」

「何を言う!?東郷!!友奈を止め─────」

「────────────」

「東郷?なんで目ぇ据わって・・・・?」

「────────────輝夜くん」

「アッハイ」

「正座」

「え?なして?」

「せ・い・ざ」

「アッハイ」

 

物を言わせぬ圧力に、さしもの俺も従うより他に無かった。

 

なんなんだ、この状況・・・・東郷に説教されつつ、友奈に引っ付かれて、風さんは向こうでおいおい泣きながら梅ジュースのボトルを抱えてて─────

 

「ただいま帰りました」

「マッキー!!丁度良かった!助けてくれぇ~~~~」

 

そこに救いの神(マッキー)が現れた!

 

「どうかしましたか坊っちゃ───酒臭!?まさかとは思いますが、私の梅酒飲みました?」

「・・・・・・・・あ」

「何やってんですか。この前言ったでしょう。『梅酒用のボトル、一つ壊してしまったから、ジュース用のボトルを借りますよ』って!」

「ンなモン覚えてねーよぉ・・・・」

「全くもう・・・!過ぎたるは及ばざるが如し。とりあえず今はこの酔っぱらい達をなんとかしましょう。ところで坊っちゃんは平気ですか?」

「応よ。酒には強い体質だって、マッキーも知ってるだろ?」

「───────そうでしたね。さて、いい加減になんとかしましょうか!」

 

 

とりあえずその日は、マッキーのおかげでなんとかなった。

 

 

 

 

 

翌日、俺以外の勇者部員は全員二日酔いで、活動処ではなかったのは、完全に余談である。

 




そういえば、あのときばっちゃは四人の部下を率いて、あの施設を探索していたそうな。

その時の部隊名は確か─────"ワザリングハイツ"だったっけ


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第二章 上里一正は天才児である
はじまりのひ


鏡がある。何の変哲も無い、普通の姿見。その前に立つ。

「────────」

全身を、自身で改造した強化スーツに包んだ、己の姿がそこに映る。
犬のような形状をしたヘルメットから、エジプト神話に出てくる冥府の審判"アヌビス"を連想させる。

故に、おれは自身の名を、『アヌビス』と名乗る。

「──────木乃伊が、冥府の審判とは・・・・皮肉だな」

おれは、このスーツを脱ぐ事が出来ない。生命維持装置も兼ねている為に、脱いだ瞬間、おれは絶命してしまうのだ。

「───────────」

何度となく頭を過る言葉、"何故、こんな事になってしまった"

その疑問に回答を得るべく、おれは、今日までに起きた出来事を思い返してゆく………




上里一正(カズマ)

 

それが、おれの名前であり、そして、おれに与えられた役割を示すものでもある。

 

 

上里家は代々、この閉ざされた四国の内政を司る者として、今日まで大赦を率いてきた家柄。

 

 

─────と、言うのは表向きの話。

 

 

実際の処は、『御社』と呼ばれる大赦の裏組織が、政を担当しており、上里家は『御社』の決定を民衆に伝える為の伝令役に過ぎない。

 

 

"一正"と言う名は、『己の正義を一心に貫く』という意味で与えられた。

こんな、操り人形の家系に、正義なんぞ在るものか。

己の名の意味を知った日から、おれはずっと、その想いを抱えて生きていた。

 

 

彼女に出会う、その日まで………

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

その日、両親に連れられて訪れたのは、上里家と同じく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()である『乃木家』。

 

「あなたと同い年の子もいるそうだし、仲良くしてあげるのよ?」

「──────────はい」

 

母の言葉に渋々頷いてみせるが、正直、仲良くするつもりなど、微塵も無かった。

使用人に屋敷の客間に通されてしばらく、暇をもて余したおれは単身、屋敷内の散策に向かうことにした。

両親と使用人の許可を取ったおれは、無駄に広いこの屋敷中を巡り、間取りを記憶しようと試みた。

 

半周程した所で、突然、少女の悲鳴が聞こえてきた。

 

直ぐ様駆けつけて見れば、和室にて、二人の男女が倒れており、少女が泣きながら二人に声をかけていた。

 

「どうした!?」

「え?だれ~?」

「後にしろ!容態は?脈は?呼吸は?」

 

おれからの質問に、涙と鼻水で顔中ぐしゃぐしゃになっている少女は的確に答えていった。

 

「救急車は?」

「もう呼んだよ~~。お母さ~~ん・・・・お父さ~~ん・・・・」

「──────安心しろ、もうすぐ来る」

「・・・・・・・・うん」

「呼び掛け続けろ。息があるなら、絶対に助かる」

「うん!!お父さん!お母さん!しっかりして!!」

 

 

これが少女────乃木園子とのファーストコンタクト。

結論からいうと、二人は無事助かった。というよりも、二人は只の仮病だった。

話を聞く限り、どうやら園子の将来を案じて、一芝居打って出たらしい。

 

「傍迷惑な話だ・・・・・・」

「えへへ~~♪」

「───────────なんだ?」

「さっきはありがとう~~、わたし、乃木園子って言うんだ~~」

「・・・・・そうか、お前が。おれは上里一正。礼は必要無い。当然の事をした迄だ」

「でも、あなたが居たから、お母さんもお父さんも、助かったんよ~~」

「・・・・・たかだかおれ一人居ても居なくても、結果は変わらなかっただろう」

「ううん。そんな事ないんよ」

 

そう言って、園子がおれの手を掴む。

 

「止せ。おれはそんな風に言って貰えるような人間じゃない」

 

だがおれは、園子のその手を振りほどいた。

沈黙と、気まずい空気が流れる。

居たたまれなくなったおれは、足早にその場を立ち去ろうとした。

 

「う~~~~ん・・・・・・かずくん!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「"かずま"だから、かずくん!どうかな~?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

 

我ながら、すっとんきょうな声が出たと思う。よもや、おれの渾名を思案していたとは・・・・

 

「だめ・・・?」

「────────────好きに呼べ。おれはお前と仲良くするつもりは無い」

「わ~~い、やった~~♪これからよろしくね、かずくん!!」

「・・・・・だから、宜しくするつもりは無い!!」

「まぁまぁ、そう照れなさんなって~~」

「誰の真似だそれは!!!」

「おお~!ナイスツッコミ~~♪」

「────はっ!?しまった!?」

「ふっふっふっ~。お主はもう、ワシの手中よ~~」

「何ぃ・・・?馬鹿を言うな!」

「次にかずくんは、『誰がお前の手の平で踊るか!?』と言うんよ~~!!」

「誰がお前の手の平で踊るか!?───────はっ!?」

「イエーイ!!バッチリ命中~~♪」

「ぐぐぐ・・・・・こ、このおれが・・・こうも手玉に取られているとは・・・・!」

「あはは~♪かずくん、すごい顔~♪」

 

 

そんな、無意味な会話を、おれと園子は繰り広げた。

普段のおれなら、「興味無い」と言って即座に切り捨てていただろう。しかし、園子との会話は(何故かは理解出来ないが)、母に呼ばれる迄、続けていた。

中身等無い無用な会話。だがそれが、とても心地好かった。

帰宅時、おれの心には、以前ネットで見つけた相対性理論に関する論文を読破した時以上の充実感と、一抹の寂寥感があった。

 

「・・・・・乃木園子。興味深い、な」

 

その日の就寝時、珍しくおれは、明日を待ち焦がれながら、眠りについた。

 

 

 

 

 

これが、おれにとっての総てのはじまり。

 

 

恐怖に怯えながらも懸命に立ち向かっていた、彼女の友になれたあの日があるからこそ、おれは今………

 

 

 




─上里一正─

上里家の一人息子。
五歳で自作OS搭載PCをジャンクパーツだけで組み上げられる程の天才児。
天才故に他人から気味悪がられ続けていたので、若干の人間不信に陥っている。


―――――――――――†――――――――――

イメージ元は『仮面ライダーフォーゼ』の歌星賢吾。別に虚弱体質では無い。

神世紀300年では、パワードスーツを纏い『アヌビス』と名乗る彼が、どのような経緯でそうなったのかを追っていく第二章。
次回もお楽しみに!!



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みのわ ぎん

「たっだいま~っす」

陽気な声を上げて入室してきたのは、仮面の女、鉛。

「んー?鏡なんか見て、なぁに黄昏てんだよ」
「・・・・・・・・首尾は?」
せめて一言くらいツッコミ入れてくれたって・・・・・問題無いよ、資金援助はこれからも続けてくれるってさ」
「ならば良い。しかし、お前が勝手に対象と接触した際は、流石に肝を冷やしたが・・・・何はともあれ、アレの起動は確認できた」
「結果オーライってね♪」
「振り回される此方の身にもなれ」

にゃはは~、と笑う鉛に近付き、彼女の面を取る。

「・・・・・・・・どした?」
「──────────────────いや」

そこにあったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──────────────済まない。おれがもっと早く、駆けつけていれば・・・・」
「気にすんなって・・・・もう痛みだって無いんだし。まあ、左側が見えないのは、ちょっと不便だけど」

そう言って、鉛───否、銀は少し哀愁の漂う表情で笑った。

「───────銀、おれは」
「はいストップ」
「む」

口元に指を押し付けられた。尤も、ヘルメット越し故に、その行動にあまり意味は無いのだが・・・

「アタシのことを思って、償ってくれようとしてるのは分かってる。でも、それは今じゃない。ここに、園子と須美を加えて、いつもの四人になった時に、まとめて返してくれ。な?」
「──────────お前は、そうやっておれの行動をいつも・・・」
「へへっ♪だって、これじゃフェアじゃないからな」
「・・・・・・・そうか」
「そーだよ」

銀は、いつもの笑みを浮かべて言う。

「そういや、初めて会ったときも、こんな感じの会話をしたよな?」
「ああ、そうだな………」



園子と知り合った翌日。

下らない学校の授業を全て終了し、帰宅する為に教室を出ようとした、その時だった。

 

「・・・・・・・・なんだあれ?」

 

窓の外に見えたのは、木に登る一人の少女の姿。

良く良く観察してみれば、どうやらボールが枝に引っ掛かり、取れなくなった様子。

 

「よっし、取れた!落とすぞー?」

「わっ!・・・とと、ありがとー!!」

 

少女がボールを下に落とすと、下にいた低学年の男子達が手を振ってお礼を言い、去って行った。

 

「さて、アタシも・・・・・うわっ!?」

「っ!?」

 

少女が降りようとしたところで、手を滑らせて木から落ちてしまう。が、なんとか枝に掴まり、滑落は免れた。

このまま放置するのは寝目覚めが悪い。窓を開けて少女に向かって手を伸ばす。

 

「おい、こっちだ。手を伸ばせるか?」

「え?だれ?」

「良いから早くしろ。枝が持たないぞ」

「・・・・・えいっ」

 

振り子運動による助走を付けて、少女はおれの手を掴んだ。

・・・・・今日ほど、自分の筋力の無さを恨んだ日は無い。人一人引き上げようとしただけで右腕が悲鳴を上げている。

 

「ぬっ!ぐぅぅぅぅぅぅ・・・・・」

「だ・・・・大丈夫か?」

「しん・・・・ぱい・・・・は・・・・・必要・・・・無いっ!!!」

 

死力を尽くして、少女を引き上げる。

 

「うお・・・らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

テコの原理を利用して、どうにか少女を引き上げる事に成功できた。

が、少々勢いが強すぎたようで、少女が空を舞い、おれの上に落ちてきた。

 

「ぐぇ」

「あいたたた・・・・あ、大丈夫か!?」

「──────平気だ」

 

直ぐに少女はおれの上から退いて、此方に手を差し出してきた。

少女の手を借り、立ち上がる。

 

「・・・・・っ」

「どうした?」

「・・・・・・・・何でも、ない」

 

嘘だ。

どうやら少女に手を掴まれた時に、右腕をやってしまったらしい。引っ張られる際に、痛みを感じた。

しかし、この程度ならば湿布でも貼って安静にしていれば、平気だろう。

 

「・・・・・怪我は無いな」

「え?ああ・・・アタシは平気」

「そうか。なら、おれはもう帰る」

 

少女の無事を確認したおれは、帰宅するべく踵を反す。

 

「あ、ちょっと待って!」

「痛っ!?」

 

急に右腕を掴まれたので、声を我慢出来ずに少々悲鳴を上げてしまった。

 

「・・・・・・やっぱり、怪我してんじゃん!」

「・・・・・・・・・・この程度、湿布貼っておけば平」

「保健室へ行こう!!!」

「だが・・・・」

「悪化したらどうするんだよ!!!いいから行くぞ!!!」

「お・・・・おぅ・・・・」

 

あまりにも圧しが強すぎた為に、おれは気圧されそのまま保健室へと連行された。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「捻挫で済んで良かった~~」

「・・・・・だから、平気だと言ったのだ」

 

養護教諭に処置して貰った後、おれは保健室のベッドに座り、ため息をつく。

 

「だって、アタシを助けたせいで怪我したんだろ?」

「この程度、怪我の内にもならん」

「そう言って放置してたら悪化したーって話、良く聞くんだよなー・・・・」

「放置等しない。帰宅したら適切に処置する予定だった」

「こういうのは早い方が良いんだよ」

「・・・・・むぅ。ああ言えばこう言う」

「どっちがだよ」

 

半眼で睨まれ、二度目のため息をつく。

 

「・・・・・この借りは必ず返す」

「いーよ別に。こんなの、全然フツーのことじゃん」

「だが、それではおれの───」

「んー、だったら、さっき助けてくれたお礼ってことで・・・・それなら良いだろ?」

「────────何故」

「ん?」

「何故、お前は礼を求めない?それだけの事をしたんだぞ?求めたって、別におかしくないのに・・・・」

「そんな事言われてもなぁ・・・・」

 

少女は困ったように笑うと、少し考えてから語った。

 

「別に、お礼とか、そんなのの為に頑張ってる訳じゃないからね。単に困ってる人をほっとけないだけ・・・・まぁ、そのせいで遅刻とか、結構しちゃうんだけど・・・・・」

「───────お前、は」

「ん?」

 

初めてだった。

そんな風に考えると事の出来る者に、おれは初めて出会った。

おれの近くには居なかったタイプの人間に、おれは正直、心惹かれつつあった。

 

「あ、そうだ!」

「なんだ?」

「そんなにお礼がしたいって言うならさ、あんたの名前、教えてよ♪」

「名前?そんな程度で良いのか?」

「ダメか?」

「──────────────上里一正だ」

「上里・・・・?え!?あの上里!?」

「他に何がある?」

「ま・・・・マジかぁ・・・・えぇと・・・・・なんか、その・・・・あのー・・・・・」

 

急に萎縮してしまった。まあ、そうだろうな・・・・なんたっておれは────

 

「上里家の子、怪我させたって聞いたら、母さんも父さんも怒るだろうなぁ・・・・ヤベーよ・・・・どうしよう・・・・・」

「そっちかよ」

「へ?何が?」

「・・・・・・・まあ、良い」

 

家柄の差を気にしての事だったようだ。

 

「別に気にする事では無いだろう。少なくとも、おれは気にしない」

「そりゃそうだろ。上里家よりも上なんていないもんな・・・」

「・・・・・・そうかお前、市位の出か」

「は?なんて?」

「何でもない」

 

此所、神樹館小学校は大赦が経営している。故に、通う学生の殆どが大赦内でも高い地位の職員の子供たちだ。

しかし、一般市民が通えない訳では無い。学費こそ掛かるが、そうした子供たちもこの学校には複数人在学している。

彼女も、その中の一人なのだろう。

それならば、先程の反応も多少は納得できる。

 

「おっとそうだ、忘れるところだった。アタシは三ノ輪銀。気軽に銀って呼んでくれよな!」

「───────覚えておこう」

 

左手で握手を交わす最中、おれは、彼女の名を心に刻んだのだった。

他者の名前を記憶したのはこれで、園子に次いで、二人目だった。

 




うひみ最終話、とても良かった・・・・(感涙)

外史はあと二編。

誰の話になるのやら・・・・・先が怖いような、楽しみのような・・・・


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わしお すみ

それから、一年が過ぎた。

 

あれ以来、園子と銀とは仲の良い友人として接している。

中でも銀の『巻き込まれ体質』には舌を巻いたものだ。

犬も歩けば~とは言うが、よもやそれを連日連夜体験しているとは・・・・

流石に心配になったので「全部に構っていたら、体が持たないぞ?」と言ってみたところ、「目の前で困ってる人をほっとけないでしょ」と以前にも言われた言葉を返された。仕方がないので、今後何か巻き込まれた場合はおれに一報入れるように厳命しておいた。

 

 

そうして過ぎた一年は、これまでの数年よりも、時間の流れがあっと言う間に感じた。

 

きっと、今後もこんな風に、園子に振り回され、銀を手伝いながら、日々を過ごして行くのだろうと、柄にもなく、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神託が下った、あの日迄は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

その日、父と共に訪れたのは、大赦本庁の一室。別名"謁見の間"。

神樹様からの託せんを受けた"筆頭巫女"が、その内容を上里家代表に伝える為の場だ。

 

現在の"筆頭巫女"は、上里の血筋ではなく、別の家柄の巫女だ。上里家には()()()()()()()()()()()()、代々上里家が継いでいた"筆頭巫女"の座は別の者に委ねられたのだ。

 

だからと言って、上里家の役割は変わらない。

神の代理として、大赦を、そして民を導くこと。

それを為す為に、こうして父とおれは"筆頭巫女"に謁見しているのである。

 

「本日、神託がありました」

 

おれと、然程変わらない年であろう"筆頭巫女"が、緊張した様子で厳かに神託の内容を語る。

 

 

 

「近く、バーテックスの侵攻が再開されるであろう・・・と」

 

 

 

その内容に、後ろに控えていた神官達がざわめく。

皆口々に「どうしたら・・・」等「もうおしまいだ」等「とうとうこの日が」等、喧しいったらありゃしない。

 

「お静かに。この神託を受け、神子様が直々に次代の勇者様方をお選びくださりました」

 

 

神樹の神子

 

旧暦の時代から今日まで、ずっと生き続けているという神の子供。

旧暦最期の戦いである『終末戦争』において、乃木や白鳥等、現在"六華"として語られる家々の先祖と共に、バーテックスを退けたのだとか。

 

「これより、勇者様の名を読み上げます」

 

高々と読み上げられたその二人の名前に、おれは驚愕と動揺を隠せなかった。

 

 

 

 

 

乃木 園子

 

 

 

三ノ輪 銀

 

 

 

 

 

「───以上が、神子様の選ばれた勇者様です」

「お・・・・お待ちください!たった二名・・・ですか!?」

 

神官の誰か(もしかしたら父だったかも知れない)が、"筆頭巫女"に向かって声を上げる。

 

「これは、大赦内部の者で執り行うべき神事。大赦に連なる家柄の中では、この両名のみが、適性を持つのだと、神子様が────」

「しかし、これではあまりにも心許ない!」

「それに・・・・両名はまだ中学生にも満たない幼子!!いくらなんでもこのような・・・・」

「ではこのままバーテックスに滅ぼされるのがお望みか!?」

「私は人道の話をして───」

「連中に人道など通じぬ!!それが分からぬ訳ではあるまい!!」

「しかし────!」

 

一人の叫びを皮切りに、神官達が喚き出す。"筆頭巫女"はそれを黙って見ているだけ。

 

(────下らない。人道だ何だと言っている暇があるならば、自分達がバーテックスと戦えるように出来るシステムでも造れば良いのに)

 

等と考えてもみたが、あの無能共には無理な話。

仕方ない。この日の為に密かに造っていた"アレ"を使うとしよう・・・

 

 

Hello Under Forester

 

 

耳元に装着した、マイク型インターフェースに暗号音声を入力。

数秒と待たずに無機質な音声が返ってきた。

 

『ヨウコソ マスター 御用件ヲ ドウゾ』

 

ジュカイネット接続。勇者適性リスト上位五名迄を呼び出せ

 

『検索シマス』

 

しばらくして、返ってきた答えを聞いたおれは、それを踏まえて思考する。

 

どうすれば、園子と銀を守れるのかを………

 

 

「一つ、宜しいですか?」

 

 

プランが纏まったので、挙手して名乗り出る。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

"筆頭巫女"からの許可も出たので、編み出したプランを提案する。

 

「神子様が見出だされた勇者の候補。大赦外にもまだ数名いるそうですね?」

「─────はい。ですが」

 

「では、その内の一名を『鷲尾家』に養子として迎えるのは如何でしょう。かの家ならば家柄としても申し分は無いですし、なによりあの家には子供が居ない」

 

おれの提示したプランに、その場に居る全員がざわめいた。

 

「な・・・何を言うか!!そんな言い訳じみたこと、通用するわけが」

「ならば何か?たった二人だけの勇者に、人類の命運を背負わせるお積もりか?」

「う・・・・それは・・・・・」

 

一睨みしただけで、その内神官は沈黙。

 

「であれば、もう一名追加しては如何か?養子として迎えられる家が無ければ、鷲尾家に二人でも───」

「その必要はありません。私に策が御座います」

「で・・・ですが」

「分かりました」

 

渋る神官の言葉を遮るように"筆頭巫女"がおれのプランを採用した。

 

「上里一正。貴方の案を採用し、勇者候補の者を鷲尾家に養子として迎え入れるよう手配します」

「ありがとうございます」

「して、誰を迎えるのですか?」

「失礼」

 

一言謝罪を述べ、端末を操作。

 

「・・・・この者を」

「────────成る程。承りました。すぐに手配を」

「御意に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

おれのクラスに、"鷲尾須美"と名乗る少女が、転校してきた。

 

 

 



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おやくめ かいし

それから更に一年が経過し、おれ達は小学六年となった。

大赦からのテコ入れによって、おれと園子達は同じクラスに纏められた。

 

「zzz……zzz……」

「・・・・・乃木さん、そろそろ起きないと、朝礼が始まってしまうわよ」

「無駄だ、そんな起こし方ではこいつは起きない」

 

園子の隣の席に座る鷲尾が、園子を起こそうとしているのを見て、おれは自分の席を立つ。

 

むに

 

「んにゅぅ~」

「起きろ園子。でなければこのままお前の頬を餅にして遊ぶぞ」

 

ぐにぐに

うにょ~ん

ぺちんっ

 

「あぶっぷぁ!?」

「あ、起きた」

「おはよう園子。もうすぐホームルームの時間だ」

「う~~ん・・・おはよう~、かずくん。起こしてくれてありがと~」

「礼は鷲尾に言え」

「えっ・・・でも私、何も・・・・」

「そっか~~、ありがとうね、鷲尾さん~」

「いえ、だから、その・・・・」

 

そうこうしている内に担任の安芸先生が入室してきた。

 

「皆さん、席に着いてください。朝の学活を始めますよ」

「っゴール!!!間に合った~~」

「・・・三ノ輪さん、間に合ってませんよ」

「あたっ・・・・へへ、すんませ~ん」

 

安芸先生に続くように、銀が教室に駆け込んで来た。あいつ・・・・またおれに連絡もせず────

 

「──────今度は何をしていた」

「ひぃ!?お・・・・怒ってらっしゃる・・・・?」

「何をしていたか、と聞いている」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

「ひぇっ!」

「さあ言え。何をしていた・・・・?」ゴゴゴゴゴゴゴ

「い・・・・今はダメだ!学活が始まる!」

「──────終わったら、拷問の時間だな」

「勘弁してくれよ~~」

 

平穏な日常が続く。

願うなら、この日々がずっと続いて欲しいと思う。

 

しかし、世の中そうは上手くいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『"鳴子"ノ作動ヲ感知シマシタ 樹海化発動マデ 三十秒』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・来たか」

 

耳元のインターフェースより届いた報告。

それは、戦うべき時が訪れた事を報せる物だった。

 

Hello Under Forester ジュカイネット接続

 

『接続開始・・・・・・・・樹海化発動マデ 残リ十秒』

 

心を落ち着け、来るべき時に備える。

 

『九・・・・捌・・・・漆・・・・』

 

大丈夫だ。システムはしっかり作動している。理論上では上手くいくはずなのだ。

 

『陸・・・・伍・・・・肆・・・・』

 

ここで上手く作動しなければ、今までの苦労が徒労に終わる。それだけなら別にどうって事は無いが、問題なのは────

 

「・・・・誰一人、死なせない」

「ん?カズマ?」

『參・・・・弐・・・・壱・・・・』

 

 

 

 

 

『樹海化 発動シマス』

 

 

 

 

 

瞬間、おれの意識は肉体を離れ、変様する世界に呑み込まれていった………

 

 




─ジュカイネット─

「hello under forester」

一正が開発した、"神樹の力を万人が扱えるようになれる"システム。
神樹にハッキングを行い、勇者の力を無理矢理抽出する事で、男でも勇者になれる他、神樹が保有するありとあらゆる情報も閲覧できる。
が、必要最低限のコンピューター知識と、膨大な情報を処理しきれるだけの脳力がなければ、脳が情報により圧殺されてしまう、という欠点がある。

上の言葉は、ジュカイネット起動に必要なパスコード。



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じゅかいか

気が付くと、辺りは見知らぬ場所だった。

 

『成る程、これが樹海と言う物か』

 

大地を這うように覆う神樹の根。

建造物の類いは一切存在せず、遠くには神樹がうっすらと見える。

 

『防衛目標を確認・・・・で、おれ達の戦闘フィールドは・・・・・』

「あれ~?かずくんだ~~!!!」

 

その時、後ろから園子の声がして────

 

「わ~~、ぶっ!?」

 

飛び付いてきた園子が()()()()()()()()()()()()()

 

「え?カズマ?なんか透けてね?」

「それよりも、どうやってこの場所に?ここは神樹様に選ばれた勇者しか入れないはずでは・・・?」

「わたしの心配もしてよ~~」

 

あーはいはい、と苦笑する銀に起こされた園子がおれの体に触れようとする。

が、やはりその手は体をすり抜けてしまう。

 

「どうなってるの~?」

『今のおれは精神だけの状態だ。肉体が無いから何人も触れられないし、おれも触れる事が出来ない』

「へー?」

 

神樹をハッキングする事で、おれはあらゆる知識を得ると同時に、樹海への干渉方法を確立させた。

それこそが、『肉体から精神を切り離す』事。

 

そうして魂だけとなった状態をおれは、"精霊体"と呼んでいる。

 

「えっと、それでは上里くんは、私達の補佐役として、この樹海に?」

『否、()()()()()()()()()()

「それはどういう────」

 

鷲尾の質問を無視し、おれは足元の根に手を入れる。

沼に手を入れるような感触がするが、気にせずまさぐると、指先に硬い物が触れた。それを掴んで引き上げる。

 

『あった。これだ』

「・・・端末?」

「何に使うの~?」

 

三人が怪訝そうに此方を伺う中、おれは引き上げた端末の画面を確認する。

表示されているのは、枯れた華のマーク。

躊躇う事無くそのマークをタップすると、画面中に"ERROR"の表示が現れ、樹海の根から蔦が伸び、おれの身体を縛りつけた!

 

「かずくん!?」

『慌てるな。こういう仕掛け(トラップ)だ』

 

騒ぐ三人をなだめ、蔦に触れる。すると、蔦がベルトのような物へと変化した。バックルに該当する部分には、四つのレバースイッチと、スロット穴が一つある、変わったベルトだ。

 

「うおー!なんか変身アイテムみたいなの出たー!!」

「わくわく♪わくわく♪」

 

銀と園子が、何かを期待する眼差しでおれを見ている。やれやれ・・・仕方ないな。

ベルトを腰に装着し、レバースイッチを左から順に入れていく。

 

『─────変身』

 

未だにERROR表示が消えない端末を、スロットに差し込む。

瞬間、ERROR表示が消え、『complete』という音声が流れた。

 

そして、ベルトから液体のような物が溢れ、おれの身体を包み込み───

 

「ふんっ」

 

液体を振り払った後には、おれの身体は強化スーツに包まれていた。

 

「「おぉーー!!!」」

 

特殊ラバー素材のタイツの上に、アーマーを付けただけのスーツだが、どうやら二人には好評価のようだ。

 

「────ふむ、動作は正常だな。後は・・・」

 

バックルに装填した端末の画面を操作し、武装を呼び出す。すると、根からコンテナがめきめきと生えて来た。

コンテナに入ると、壁面から伸びるアームが、武装をスーツに装着させていく。

完全に装着が完了すると、コンテナは枯れ、消失した。

 

「うおー!!なんかロボットみたい!!!」

「きゃ~~♪かずくんカッコい~~!!!」

 

今回選択した武装は、『ギガント・ローダー』

 

背中のランドセルから伸びた二本の巨大なアームハンドが主武装で、内部には様々な武器を備えている。

 

「──────よし。此方の動作も正常だな」

 

さて、それでは行くか。

ランドセルのバーニアを吹かして、跳躍しながら戦闘フィールドへと向かう。

 

「あ、ちょっと!?」

 

鷲尾の声が聞こえて来たが、無視して進む。

 

「・・・・・漸くだ、バーテックス。おれは、お前達になど、負けはしない」

 

 

 




DX変身ベルト的なこのベルトのイメージ元は、555とフォーゼのベルト。
武装の方は、SEEDアストレイのパワーローダーがイメージ元。
コンテナに入って換装するシーンはSEEDやらゾイド/0なんかのイメージ。


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はつせんとう

戦闘フィールドである瀬戸大橋の付近に到着した時には、既にバーテックスは橋の中程まで進行していた。

 

「渡り切られたら終わりだ。さっさと終わらせる!」

 

ランドセルから伸びる二つのグリップを握り、アームを操作する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アームによる打撃を慣行するが、バーテックスへのダメージは欠片も無い。

当たり前だ。このアームはその様に使用する為の物では無い。

 

「武装選択・"ベイルバート"」

 

バックルの端末を操作し、選択した武装を呼び出す。

ランドセルから身の丈程の棒が現れ、それをライトアームで保持すると、先端からエネルギーの矛先が出力された。

 

これが『ギガント・ローダー』の主兵装、『ベイルバート』

 

剣槍(グレイブ)戦斧(ハルバート)大鎌(サイズ)の三種に切り替えが可能な武装で、近~中距離戦での運用を想定して造り上げた物だ。

 

「とりあえず、戦斧形態(ハルバートモード)で・・・・」

 

バーテックス相手に、どれだけやれるのかはわからない。

故に、三形態の中で一番切断力のある戦斧形態を選択した。

 

不意に、バーテックスから泡のような物体が放たれた。

 

おれはそれを避け、切り裂き、バーテックスへと接近する。

神樹内部の情報を参照すると、あのバーテックスは『水瓶座(アクエリアス)』というらしい。

あの泡のような物体は水の塊で、あれに取り込まれると脱出出来ずに溺死してしまうらしい。

ベイルバートで切断すれば、弾けて消失するので、本当に只の水なのだろう。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

バーニアを吹かし、バーテックスへと斬りかかる。

 

瞬間、バーテックスが水をチャージし始めた。

 

「っ!?」

 

気付いた時にはもう遅い。激しい水流が襲い掛かって来る!

 

「かずくん!!」

 

水流に呑み込まれるよりも速く、横からの衝撃に吹き飛ばされた。

変身した園子が、おれを助けたようだ。

 

「くっ・・・済まない、助かった」

「えへへ~♪かずくんに褒められた~♪」

「褒めてはいない」

「おーい!!」

 

そこに銀と鷲尾も合流。

 

「上里くん、一人で勝手に───」

「合流できたなら丁度良い。作戦がある」

「ちょっと!」

「まぁまぁ。とりあえず、カズマの話を聞こうぜ?」

 

怒る鷲尾を銀がなだめてくれたので、おれは思い付いた作戦を提示した。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「よし、それでは作戦開始(ミッションスタート)だ!」

 

おれの合図で、銀と園子がバーテックスへと突撃する。

鷲尾は後方から、おれは二人の近くで、バーテックスの水球を破壊していく。

 

「当たって・・・!」

 

鷲尾の放つ矢がバーテックスへと迫る。が、小さな水球が連なり、バーテックスに届く事は無かった。

 

「そんな・・・・!?」

「鷲尾は援護に徹しろ!」

「でもっ・・・・!」

「与えられた役目をこなせ!!」

 

そうこうしている内に、水球の数が増えていく。

このままでは被害が出る・・・・それだけは、防がなくては!

 

形態変形(モードシフト)・"大鎌"!」

 

大鎌形態は広範囲攻撃に特化した形態。

威力こそ戦斧形態に劣るが、その分、攻撃範囲は広く、数の多い敵を掃討するのに役立つ。

が、それでも対処し切れず、水球の一つがすり抜けて行ってしまった。

 

「不味い・・・・!鷲尾!!!」

「え・・・?」

 

水球が鷲尾に向かって一直線に飛ぶ。それを追い駆けるが、間に合わない・・・!

 

「鷲尾さん!」

「きゃ・・・!?」

 

おれよりも速く、鷲尾と水球の間に割り込んだ者が居た。銀である。

 

「銀っ!!」

「ゴボゴボゴボ・・・!」

「わ・・・・私のせいで・・・・」

「言ってる場合か!!なんとかしなければ・・・・!」

 

ベイルバートの出力を調整すれば水だけ蒸発させられるか?だが下手をすれば銀を傷付ける事になる・・・・どうする?

 

「んぐ・・・・んぐ・・・・」

「──────ん?」

 

おれと鷲尾がしどろもどろしている間に、水球が段々、小さくなっている。

と、そこへ園子がやって来た。

 

「んぐ・・・・んぐ・・・・ぷはぁ!」

「こいつ・・・バーテックスの水を飲みやがった・・・!」

「ふっ・・・神樹様の加護を受けたアタシならば、このくらいの事、造作も無い!!」

 

ガッツポーズでドヤ顔を決める銀。

 

「で、味は~?」

「何聞いてんだよ」

「最初はソーダっぽい味だったんだけど、途中からウーロン的な味に・・・」

「お前も真面目にレビューすんな」

「うぇ~、不味そう・・・」

「でもこれ、意外とクセになる味」

「へ~、良いなぁ~。わたしも飲みた~い」

「そもそもバーテックスの攻撃を飲もうとすんな!!」

 

二人の頭を叩いて叱る。「すみませ~ん」と謝罪する二人。

やれやれだ・・・・そう言えば、鷲尾がさっきから一言も発しないな・・・・・

 

「・・・・・・・私」

「鷲尾」

「・・・・・・・・・あ」

 

鷲尾は一人、意気消沈していた。

今はそんな場合じゃ無いと言うのに、まったく・・・

 

「反省も後悔も後にしろ。今はとにかく、目の前の敵を倒す事に集中しろ」

「・・・・・・はい」

 

駄目だな。まだ少し引き摺っている。やれやれ、手の掛かる事だ・・・・

仕方ないので、鷲尾の頭を撫で、言葉をかけてやる。

 

「あ・・・・」

「いいか鷲尾。お前達はチームだ。三人で一人前なんだ。一人で突っ走るような真似はするんじゃない。良いな?」

「いやー、一人で先走ったヤツが言うと、説得力あるなぁ」

「嫌味か貴様」

 

軽口を言う銀の頬をつねる。

 

「──────」

「すみすけ、大丈夫だよ~」

「え・・・?」

「かずくんは、ぶきっちょなだけなんよ~。今のだって、すみすけの事を心配して言ってるんだから」

「・・・・乃木さん」

「おいそこ、勝手な事を言うな」

 

そんな会話をしている間にも、バーテックスは進み続けている。

そろそろ、かなりの危険域だな。

 

作戦変更(プランB)だ。全員、園子の元に集まれ」

「どうするの~?」

「園子。お前の武器は傘になったよな」

「うん」

「全員でその傘を持って、強行突破する。もうこれしか方法が無い」

「よっしゃ、その作戦乗った!」

「すみすけはどう?」

「・・・・えっと、はい。大丈夫、です」

「─────よし、やるぞ!!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

この作戦は、案外効果的だった。

バーテックスの水球も水鉄砲も、園子の傘ならば受けきれる。

但し水鉄砲は威力が有りすぎるので、全員で園子を支えてやらないと進行すら難しい。なのでこうして協力して行軍を行う。

 

「オーエス!オーエス!」

「オーエス!オーエス!」

 

運動会の大玉転がしかよ。

 

「ほら、カズマも鷲尾さんも!」

「えぇ・・・?」

「仕方ない・・・・やるか」

 

『オーエス!オーエス!』

 

四人の声が重なり、一つになる。

次第に縮まるバーテックスとの距離。ついに突撃可能距離まで到達した。

その瞬間、バーテックスからの攻撃が止んだ。

 

「今!突撃ィィィィィィィィィィ!!!!」

 

おれの号令に全員散開。

水球を鷲尾が封殺し、左からは銀と園子が、右からはおれが攻める。

 

「園子!そのまま振り回せ!!」

 

「うん!」

 

園子の槍に掴まった銀が叫ぶ。

 

「うんとこしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

気合一閃。槍を薙ぐ。

勢いを付けた銀は、斧から炎をほとばしらせる。

 

「こっから・・・出ていけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

その一撃で、バーテックスの左半分が消し飛んだ。

おれも負けていられない・・・!

ベルトから端末を外し、変身ボタンをタップしてスロットに挿入。

 

『Finish Blow』

 

音声が鳴って、()()()()()()()()()()()。そこへ腕を突っ込むと、アームが閉じ腕と一体化した。

これぞ、対バーテックス用に開発した必殺形態。エネルギー消費と()()()()から数分しか維持できないが、バーテックスに一撃喰らわせるには充分だ!

 

「これで終わりだ・・・・・!」

 

ベイルバートを剣槍形態(グレイブモード)に変形させ、バーテックスへと投擲する。

ベイルバートがバーテックスに突き刺さる。しかしそれだけではバーテックスにダメージを与えられない。

 

だから、跳ぶ。

 

跳躍し、ベイルバートを掴むと、全エネルギーをベイルバートへと注ぎ込む。

 

「弾けろ・・・バァァァァァァテックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」

 

過剰にエネルギーを送られた発振器がその負荷に耐えきれず、爆発。万感の想いを載せて放った一撃は、バーテックスの右半分を吹き飛ばしてみせた。

 

「へぶっ」

 

しかし、着地に失敗。

最後の最後で締まらねぇ・・・ちくせう・・・

 

「かずくん、平気~?」

 

「大丈夫か、カズマ?」

 

「いま、顔から落ちなかった?」

 

「おまえらよってたかって・・・・・・いや、それよりバーテックスは!?」

 

痛む身体を無理に起こしながら、三人に問う。

 

「大丈夫だよ~。ほら、見て」

 

園子に言われて。空を仰ぎ見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大橋が、咲き誇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際には花吹雪が舞っているだけなのだが、神聖なその空気に、どうしても、そんな風に見えてしまった。

 

「すげえ・・・・・・これが・・・・・・『鎮花の儀』か・・・・・・」

 

『鎮花の儀』

 

バーテックスをある程度弱らせることで実行可能になる、バーテックスを壁の外へと追い返す儀式。

これが発動した、ということはつまり・・・・・・

 

「おれたち・・・勝った・・・のか?」

 

花吹雪がバーテックスと共に消え、辺りに静寂が流れる中、ぽつり、と呟いた。

 

「勝った・・・?」

 

「勝ったんだ・・・!」

 

「勝ったのね・・・!」

 

 

『やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

四人全員で抱き合う。

ちょっとしたおしくらまんじゅうだ。しかし気にしない。

 

おれたちは、お役目を成し遂げたんだ!!

 

そんな充足感が、四人を満たしていた。

 

 

 



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のろい

樹海化が解け、意識が肉体に戻る。

 

「────────ふぅ」

 

教室では、突如三人が消えた事に気付いた誰かを皮切りに、てんやわんやの大騒ぎ。おかげで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「静かに!」

 

担任の安芸先生の一声に、教室が静かになる。

 

「三人は神樹様のお役目に呼ばれました。これから迎えに行ってきますので、みんなはそのまま自習を。それと─────」

 

む?

 

「上里くんは先生と一緒に来てください」

「・・・・・はい」

 

どうやら、先生は気付いたらしいな。目敏い事だ。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

「────何があったのか、説明してくれますね?」

 

車を運転する安芸先生から訪ねられ、おれは大人しく説明した。

 

「つまり、貴方は神樹様にハッキングを仕掛けて、彼女達と共に戦っていた・・・と?」

「ええ、そういう事です」

「─────────なんて、恐れ知らずな」

「上層の爺婆連中とは違って、『罰当たり』とは言わないのですね」

「・・・・・・」

 

おれの軽口に、先生は睨み付けるだけ。

 

「・・・・まあ冗談はさておき、他に聞きたい事はありますか?」

「────神樹様に選ばれた訳でも無し、ましてや無垢な少女ですら無い貴方が、神の力を無理矢理扱った。なら、何らかの副作用があるんじゃなくて?」

 

本当に、察しの良い人だよ────

指摘を受けおれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・・・・・っ!?」

 

流石に、これを見せつけられては、誰だって絶句するだろう。

 

 

 

 

 

今、おれの右腕は、指先から肘までが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「それ・・・・・は・・・・・?」

「神の力を無理に扱った代償・・・といった処ですね。おれはこれを『樹浄化』と名付けました」

「──────────」

「ああ、ご心配無く。上里家に伝わる神楽舞で祓えば元に戻ります」

「────────────そうまでして、貴方は」

「それが、上里の役目です。勇者を護る事。かつて、上里ひなたが大赦を改革し今の形にした時のように・・・・」

「─────────そう。そこまで考えて・・・・・」

「・・・・・この程度で苦しんでいるくらいなら、お目付け役は代わってもらうべきです。下手をすれば、人の形の樹木が出来上がるか、死t」

 

キキッ───!!

 

突然の急停車に、舌を噛みそうになった。

外を見れば、目的の場所に到着していた模様。

 

「──────なんです?事実を述べただけですよ?」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

先生は沈黙したまま、おれを抱き締めてきた。

 

「・・・・・・一つ、約束して。どんな形でも良い。必ず、皆の所に帰ってきなさい」

「───────────」

「良いわね?」

「───────────了解」

 

返事を返すと、先生は何事も無かったかの様に、園子達を迎えに行ったのだった。

 

 

 

 




─樹浄化─

選ばれざる者が神の力を扱った際に起きる現象。
扱った量に応じて、肉体が変質していき、最終的には、人の形をした樹木へと変わってしまう。


一正がこの現象に直面したのは、去年、勇者の選別が行われた数日後。
ジュカイネットによる変身システムの最終調整を行った際に発症。
その時は両足が樹木に変質した。
上里の血筋によるものなのか、巫女神楽による穢れ祓いを行うことで症状は回復できる。



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しんぼくかい

「そういや知ってるか?イネスのジェラート屋、近い内に辞めちゃうんだって」
「──────それは残念な知らせだな」

何時襲撃してくるかも分からない敵に対し、万全の態勢を整えている最中、銀が話を振ってきた。

「あそこのジェラートは絶品だった」
「カズマをも唸らせるイネスのジェラート!あーあ、話してたら無性に食べたくなってきた」
「銀」
「────────分かってるよ。今はまだダメだって事くらい」

仮面で表情は判別不可能だが、声のトーンからして、確実にテンションが下がっている。

「・・・・・全部終わったら、また皆で食べに行こう」
「それまでやってると良いんだけどなぁ」
「テンションの下がる様な事を言うなよ」

銀の笑い声が部屋中に響く。

そういえば、あのジェラート屋を最初に教えて貰ったのは、初戦闘の翌日だったな………







「えっと・・・親睦を深める為にも、これから祝勝会をしない・・・?」

 

そんな提案を受けたのは、バーテックスとの初戦闘後、翌日の放課後の事であった。

しかも驚くべき事に、提案者は鷲尾である。

 

「おお!良いね♪丁度アタシも同じ事考えてた!」

「わーい♪親睦、親睦~♪」

 

鷲尾からの提案に、銀と園子はノリノリである。となると────

 

「かずくんも一緒に行こうね~」

「ちなみに、拒否権は無いっ!」

 

ほら、こうなった。

これから武装の見直しをしなければならないというのに・・・・

 

「悪いがおれにはやるべき事が────」

「よっし!行くぞー!!」

「場所は何処にしよっか~?」

「えっと・・・・イネスはどうかしら・・・・?」

「良いね!イネスならなんでもあるからなー♪」

 

両腕を銀と園子にガッチリホールドされ、おれは祝勝会の会場に決定されたイネスへと連行されて行く。

体力なんて人並み以下のおれが、抵抗できるはずも無く、「やめろー!はなせー!」と口で抵抗するしか為す術は無かった。無論、それも無駄に終わってしまったが────

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「今日を無事に迎えられたことを、大変うれしく思います。えー・・・・本日は大変お日柄もよく、神世紀298年度勇者初陣の祝勝会という事で、お集りの皆様の今後ますますの繁栄と健康、そして明るい未来を─────」

「長い、それと固い」

「そうだぞー、固いぞー。かんぱーい!」

「いえ~い♪かんぱ~い♪」

 

イネスのフードコート。

そこの四人掛けの机を陣取ると、各々好きなドリンクを片手に着席する。

すると鷲尾が、長ったらしい前置きを始めたので、さっさと切り上げて乾杯する。

 

「かずくんも!かんぱ~い♪」

「ドリンクを押し付けるな!乾杯なぞ幾らでもやってやるから!!」

「いえい♪いえ~い♪」

 

園子の奴・・・・酔ってるのか?まさか。只のジュースだぞ?

 

「それよりカズマ!昨日のお前、凄かったな!!」

「・・・・・別に。あんな物、まだまだ発展途上だ」

「つまり、まだ上があるってコトか・・・・!?」

「当然だ。そうでなければ、奴等には勝てん」

「いや~~、かずくんはカッコいいこと言いますな~~」

「ですな~~」

「・・・・・・・何を呑気な事を」

「──────────」

 

ふと、鷲尾が先程から沈黙したままなのが、気になった。

 

「・・・・・遠慮する事は無いぞ、鷲尾」

「ふぇっ!?」

「そもそもがお前から提案してきたんだ。ならば遠慮なんて不要だろう」

「カズマの言うとおり!みんなで楽しもう!!」

「それより、誘ってくれてありがとうね~。私もすみすけ達を誘うぞ~誘うぞ~!って思ってたんだ~」

 

こいつ、珍しく放課後に寝て無いと思ったら、そんな事を・・・・

 

「でもなかなか言い出せなかったから、すっごく嬉しいんよ~~♪」

「えっと・・・・あの・・・・」

「ん~~?なぁに、すみすけ~?」

「さっきから呼んでる、その、"すみすけ"というのは?」

 

沈黙が、流れた。

 

「・・・・あ~~。私、いつの間にかあだ名で呼んでた~」

 

そのあだ名、本人不許可かよ。

 

「あだ名は嬉しいけど、その"すみすけ"っていうのはちょっと・・・・」

「え~?せっかく考えたのに~・・・・じゃあ、ワッシーナとか?アイドルみたいで可愛いでしょ~♪」

「い・・・嫌よ!」

 

即答である。そりゃそうだ。

 

「え~?」

「乃木さんだって、"そのりん"なんて呼ばれるの、嫌でしょう?」

 

いや、園子の場合は恐らく────

 

「わ~♪可愛い~♪じゃあ私の事はそれで」

「ごめんなさい。私が悪かったからそれはやめて」

 

だろうと思った。

 

「そっか~・・・・ん~~・・・・じゃあ、わっしー!わっしーなんてどう?」

「んー・・・・それなら、まあ・・・・」

「そういう事なら、アタシの事も"銀"で良いぞ。代わりに鷲尾さんの事、これからは"須美"って呼ぶから。ついでに、カズマの事も"カズマ"って呼ぶと良い」

「勝手に決めるな」

 

園子に便乗して、銀が鷲尾に名前呼びを提案する。それは良いが、おれまで巻き込むんじゃない。

 

「・・・・・・えっと」

「・・・・・・・好きに呼べ。上里でも一正でも。お前の呼びやすいようにしろ」

「はあ・・・・」

「ぃよっし!そんじゃ、仲良くなった記念に、アタシオススメのお店を紹介して上げようじゃないか!」

 

オススメの店?いったい何だ?

 

―――――――――――†――――――――――

 

案内された先は、同じフードコート内に併設してある『コッティモ』という名のアイスクリーム屋。

 

「アイスクリーム屋じゃなーい!ジェラート屋さんだ!!」

「・・・・違いが判らん」

「何ィ!?神樹館一のヒデサイが判らんと申すか!?」

「ヒデサイって何だ。秀才だろーが」

 

銀と漫才をやっている間に、園子と鷲尾がアイスク・・・・・ジェラートを買ってきた。

 

「えへへ~♪迷いに迷ってメロン味にしたんよ~♪」

「・・・・・・・・・・むぅ」

「鷲尾は何故そんなに眉根を寄せている?」

「・・・・・・・・・・じぇらーと等という軟派な氷菓に、和三盆と抹茶が合うとは思えないけれど」ぶつぶつ

 

何をぶつくさと・・・・

 

「さて、全員分揃ったし、いっただっきま~~す♪」

 

ちなみに、おれと銀は既に購入済みだ。

おれが選択したジェラートは、チョコミント。やはりアイスはチョコミントに限る。

対する銀は、『しょうゆ豆』なる味。

どんな味だよ・・・・・

 

まあ良い。兎も角頂くとしよう。

 

「はむ──────────────っ!」

 

こ・・・・これはっ!!!

 

 

 

 

 

うーーーーーーーーーー

 

 

まーーーーーーーーーー

 

 

いーーーーーーーーーー

 

 

ぞーーーーーーーーーー

 

 

!!!!!!!!!!!

 

 

お・・・・・思わず心の中で叫んでしまった・・・・

なんて絶品なんだ!!!このジェラート!!!!!

 

「ふっふっふ・・・・その顔、気に入ってくれたみたいだな!」

「──────そうだな。素直に称賛しよう。これは旨い!!」

「───────────」

「あれ?須美は気に入らなかった?」

「──────いいえ、とても合うのが衝撃的で・・・・」

「つまり旨かった、と」

 

おれの補足説明に頷く鷲尾だった。

 

「わっしー、あんまり深く考えちゃダメだよ~。おいしいものはおいしい。それで良いんよ~♪」

「・・・・・・・・・そうね!はむっ♪」

 

園子の一言に、考えるのをやめた鷲尾は自身のジェラートにかぶり付く。

その後も、下らない会話を繰り広げながら、おれ達の親睦会は続いた。

端から見れば、なんて事無い普通の小学生たちの交流に、改めて、この日常を護れた事を実感できた。

そんな感慨に耽りながら、おれは自分のジェラートを食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、ジェラート・・・・もとい、アイスクリームはチョコミントが王道だと思うのだが」

「おっと!聞き捨てならない言葉だねえ・・・・ジェラートで一番ウマイのはしょうゆ豆味に決まってる!」

「否、チョコミントだ」

「しょうゆ豆!」

「チョコミント!」

「しょうゆ豆!」

「チョコミント!!」

「しょうゆ豆ーっ!」

 

バチバチバチバチバチバチ

 

「ふ・・・・二人の間に火花が散っている・・・・!?」

「あはは~♪どっちもがんばれ~♪」

「いやいや!?そんな事を言ってないで乃木さんも止めて~~~~!!」

 

 

 

 



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かくしごと

親睦会から翌日。再びバーテックスが侵攻してきた。

 

今回おれは、前回の反省を生かし、後方支援用武装『バスターアームズ』を装着した────のだが、

 

「完っ全に、選択ミスだな・・・・・」

 

今回の敵は『天秤座(ライブラ)

 

名は体を表すと言うが、その名の通りの姿形をしたバーテックスで、自転する事で生み出す突風と、回転エネルギーを乗せた分銅による一撃を特技としている。

 

現在おれは『バスターアームズ』のアンカーで身体を固定しており、そこに園子達が突風に飛ばされないように掴まっている。

 

「くっそー・・・・これじゃあ近付けない・・・・」

「台風みたいだから~、まんなかは風が吹いてないと思うけど~~・・・・!」

 

それはおれも考えた。が、銀を彼処へ投げるなり跳ばすなりするにしても、この突風では・・・・

 

「ッ!!園子!」

「かずくんはふんばってて~!!」

 

その時、バーテックスの分銅がおれたちを襲った。園子に盾を展開してもらいどうにか防ぐものの、このままでは奴に良いようにされっぱなしだ。

 

「こうなったら・・・」

「あ?鷲尾?」

 

さっきから沈黙したままだった鷲尾の声が聞こえたと思ったら、風に飛ばされていた。アイツ、何をしてんだ・・・・まさか!?

鷲尾は飛ばされつつも、どうにか姿勢を制御して矢をつがえる。いや、それ無理。届かないから。

 

「鷲尾ぉ!!この風で矢は跳ばない!!無駄なことは止せ!!!」

「・・・・・・・・」

 

聞こえていないのか、聞こえていて無視しているのか、鷲尾はつがえた矢をバーテックスに向かって放った。

が、案の定、放たれた矢は風に飛ばされ、奴に届くことはなかった。

 

「そんな・・・・・きゃああ!?!?」

 

その鷲尾も風に吹き飛ばされ、遠くの方へと飛んでいってしまった。何をやっているんだ、まったく・・・・!

 

「仕方ない・・・・・最後の手段だ」

「なんか手があるのか?カズマ」

「銀と園子はおれを支えろ!」

 

ベルトから端末を外し、変身ボタンをタップしてスロットに挿入。

 

『Finish Blow』

 

音声が鳴ると、腰の"リニアライフル"が展開。続いてバックパックから細いアームが伸び、おれの頭に対閃光防御用ゴーグル付きのヘルメットを被せる。

 

『"バスタークエーサー"モード ニ 移行』

 

"バスタークエーサー"

リニアライフル間に霊力による力場を張り、そこへ一定方向に向け電流を流すと、歪みが生じ、所謂"湾曲空間"が生まれる。この湾曲空間を重力レンズに見立て、莫大な量の霊力を照射する最終兵器がコレだ。

 

「かずくん!」

「踏ん張ってろ!撃つぞ!!」

 

迫り来る分銅に向け、"バスタークエーサー"を照射。

尋常ならざる霊力の奔流が、分銅ごと、バーテックスの半分を消し飛ばした!

半壊したバーテックスは、バランスを保てなくなり回転を止めた。

 

「今!突っ込め!!!」

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

おれの号令に、園子と銀が突撃。半壊したバーテックスを砕いていく。

バーテックスがほぼ全壊となった時点で"鎮花の儀"が発動。

今回のお役目も、どうにか終わらせることができた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

さて、樹海化が解け、園子達を迎えに行く時間が来た。の、だが………

 

 

 

 

 

「───────っ!?」

 

 

 

 

 

息が・・・・できない・・・・!?

 

落ち着け。うっすらとだが呼吸は可能だ。酸欠になるような程じゃない。大丈夫・・・大丈夫・・・

 

「上里くん?どうかしましたか?」

「っ」

 

安芸先生がいぶかしんでいる。早く、先生の下に行かなくては………

 

急いで立とうとした所為か、足が縺れて倒れてしまった。

 

「上里くん!?」

 

不味い不味い不味い・・・!早く立たねば・・・・!

しかし、身体が動かない。もしかしたらパニック障害に近い状態になっているのか?

 

落ち着け。大丈夫だ。

 

教室がざわついているが、その喧騒も遠退いていく。

 

あれ?これは、意識が、もう・・・ろう・・・・

 

 

 

 

 

誰かに抱き上げられたような感触を最後に、おれの意識は完全に落ちた。

 




─バスターアームズ─

後方支援用武装。
腰の"リニアライフル"の他、バックパックには複数の火器が内蔵されている。
必殺技の"バスタークエーサー"を放つ関係上、唯一、アンカーを装備している。


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おかあさん

花澤香菜さん、ご結婚おめでとうございます。

最初知った時、正直、びっくりし過ぎて30秒程思考停止していたのは内緒のお話。
でも、お二人が幸せならOKです!!


「あれ~?かずくんは~?」

 

樹海化が解け、大橋公園に戻された私達を出迎えてくれたのは、安芸先生()()だった。

 

「─────────」

「先生?カズマ、どうかしたんですか・・・・?」

 

沈黙したままの先生に、三ノ輪さんが訪ねる。

 

「──────上里くんは」

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

学校に戻って来た私は、全速力で保健室へと走る。

 

「どうしよう・・・・私のせいだ・・・・」

 

先刻、安芸先生に告げられた事が、頭を過る。

 

 

 

 

 

『上里くんは、樹海より帰還後に・・・・・倒れて気を失ってしまいました』

 

 

 

 

 

先生は、「疲労によるもの」とおっしゃったが、私にはそうは思えない。

 

嫌な予感がする・・・・

 

焦燥に刈られて足を動かす。

『生徒休息中』の貼り紙が貼られた保健室の扉を開けると、そこには─────

 

「あら?」

「・・・・・・え?」

 

知らない人が、居た。

美しく長い黒髪の女性。神官の正装をしていることから、大赦の関係者だと思うけれど・・・・

 

「・・・・ああ、一正さんのお友達?」

「え?あ・・・はい」

「そう・・・・!心配になって、急いで来てくれたのね?嬉しいわ~~♪」

 

明るい笑みを浮かべて、女性は傍らの寝台に眠る少年─────上里くんの頭を撫でた。

 

「今、やっと眠ったところだから、静かに、ね?」

「・・・・・・・・・はい」

 

女性の側まで歩み寄って、上里くんの様子を伺う。

女性の言うとおり、上里くんは眠っているらしく、掛け布団が少しだけ、呼吸に合わせて規則正しく上下に動いている。

 

「─────────良かった」

「・・・・・・・」

「わ・・・・私のせいで・・・・ぐすっ・・・・大変な事に・・・・・・」

 

安心したせいか、涙が溢れて止まらなくなってしまった。

ふと、柔らかい何かに包まれる感触がした。

 

「よしよし・・・・怖かったでしょう?もう、大丈夫だから・・・・・ね?」

「うぅ・・・・・・」

 

いつの間にか私は、女性に抱き締められて、頭を優しく撫でられていた。

 

その温かさに、私は、堪えようとしていた涙を、沢山流した。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「──────ありがとうございます」

「良いのよ。気にしないで。それに─────」

「・・・・・・何をしている?」

 

寝台からの声に、驚いてそちらを見ると、上里くんが既に起きていた。

 

「うううううう上里くんっ!?もう起きて・・・・」

「問題無い。そもそもこの程度、大したことでわばっ!?」

 

ゴッ!

 

「もう!駄目ですよ、一正さん。心配して駆けつけて来てくれたお友達に、そんな態度は」

「げ・・・・拳骨で殴らんでも良かろうよ!!だからといって!!!」

「おやおや・・・・母の愛をもう一発喰らいたいようですねぇ・・・・・・」ゴゴゴゴゴゴ…

「こ・・・・この暴力ゴリら゛っ゛!?゛」

 

ゴッ!

 

「ふぅ・・・・まったくもう。母に対してゴリラだなんて・・・・・失礼しちゃうわ」

「─────────────」

 

目の前で起こった出来事に、私は口を開けて見ているより他に方法がなかった。というか今、『母』って言った?

 

「ああ、そうそう。自己紹介を忘れていたわね。丁度、一正さんも眠ったことだし、改めて・・・ね♪」

 

まるで何事も無かったかのように、女性が自己紹介を始める。

眠った、というか、眠らせた、というか・・・・

 

「母は一正さんの母で、上里佳南と申します。よろしくね♪」

「あ・・・はい。鷲尾須美、です」

 

―――――――――――†――――――――――

 

佳南さんに連れ立って、保健室から退出すると、乃木さんと三ノ輪さんがやって来た。

 

「あ~、かずくんのお母さん~!」

「あら、園子ちゃん。一正さんのお見舞い?ありがとうね~♪」

「え?カズマのお母さん・・・・・って、この人が!?」

「そっちの娘は・・・・・ああ!分かったわ!貴女が銀ちゃんでしょ?一正さんが、よく話していたわ~♪」

「えっ?あー、はい・・・・はじめまして・・・・」

 

流石の三ノ輪さんも、佳南さんには敵わないみたい。

 

「そうだわ!立ち話も何だし、これからイネスに行かない?おばさん、奢っちゃうわよ~♪一正さんのことも、色々聞きたいし」

「わ~い♪イネスイネス~♪」

「良いですね!行きましょうイネス♪」

「えっ」

「須美ちゃんもいらっしゃい。たくさんお話しましょうよ」

「えっ、ちょっ・・・・!?」

 

こうして私は、無理矢理イネスへと引っ張られて行った。

 




─上里佳南─

一正の母親。
先々代の『筆頭巫女』で現在■■歳。
イメージCVは特に考えてないが、なんかこう、『あらあらまあまあ♪』とか言って、微笑みながら拳骨かましてきそうな感じで(投げやりスタイル)



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みーてぃんぐ

母さんに気絶させられて次に目覚めた時には、時刻は15時を過ぎていた。

 

「────まったく、なんだってこう、あの人はさ」

 

文句を言った処で何も変わる訳が無いのだが、それでも愚痴という物は出て来てしまうものだ。

そんな訳で愚痴りつつも保健室を出る。

 

「─────あ」

「・・・・・鷲尾?何をしている?」

 

廊下には鷲尾が立っていた。扉に手をかけようとしていたらしく、微妙な格好で固まっている。

 

「えっと・・・・上里くんは、身体はもう平気ですか・・・・?」

「・・・・・・ああ。76時間ぶりに充足した睡眠を取れたからな。体調は万全だ」

「そうですか──────待って、今、何時間と?」

「76時間だが?」

「ちゃんと寝なさい!!!!」

 

突然押し掛けて来ておいて、唐突な叱責とは此如何に・・・・

しかしその心は理解出来る。正確には76時間29分56秒ぶりの睡眠だが、本来おれ程の年齢ならば、24時間内に六時間以上の睡眠を取らなくてはならないのだから。

 

「御叱りは御尤もだが、おれにはやらなくてはならない事が山積みなんだ。寝てなんかいられない」

「だからと言って、ちゃんと睡眠を取らないとすぐに体調を崩してしまいますよ!!」

「───────改善できるよう、努力はする」

 

その一言で良しとしたのか、鷲尾はそれ以上叱責を続けなかった。

 

「・・・・・眠れない程、忙しいのですか?」

「そうだな」

「それは・・・・・・・・私の、せいで・・・・?」

「は?」

 

こいつは突然に何を言い出す?

 

「私が、迷惑ばかりかけるから・・・・・だから上里くんは眠る時間が取れない程に」

「自意識過剰」

「なっ・・・・!?」

「お前の暴走一つで、おれが何故眠れない程忙しくなる?その程度で崩れる作戦ならば、そもそも立案などしない。お役目の内容上、おれ達の内、誰かしらが欠ける可能性も考慮しておかねばならないのだからな」

「な・・・何のことを言っているの・・・・?」

「察しが悪いな?・・・・いや、理解したくないだけ、か。それは只の『逃げ』でしか無い」

「止めて・・・・」

「いいか?おれ達が相手をしているバーテックスという存在は、人類の常識が通用しない相手だ。一手読み違えただけで大惨事に陥る。最悪の場合は─────」

「止めてっ!」

「───────誰かが死ぬ事になる」

 

 

パンッ

 

 

鈍い痛みが、左の頬に走る。

 

「・・・・・・・・・・・・っ!!」

 

おれの頬を叩いた鷲尾は、何処かへと走り去って行ってしまった。

 

「あーあ。わっしーを泣ーかせたー」

「女の子泣かせるとは・・・・罪な男だなー、カズマは」

 

いつの間にか、おれの背後に園子と銀が居た。

 

「・・・・・・だが真実だ。どれだけ目を背けたくとも、いずれは直面する」

「かずくん」

「・・・・・・・・・・言い過ぎた事は、認める」

 

園子からの圧を感じ、己の非を認める。

が、それでも、このままであれば、いずれ誰かが犠牲となるのは避けられない。

 

「──────そうならない為に、あいつが居るんだ」

「どういうことだ?」

「そういえば、さっきかずくんのお母さんが言ってたけど、わっしーをお役目に選んだのって、かずくんなんだって?」

「そうだな」

「わっしー、びっくりしてたんよ~」

「・・・・だろうな」

「・・・・・なんで須美を選んだんだ?なんか理由でもあるのか?」

「─────────それはあいつに話すことで、お前達に話すことでは無いな」

「ケチ」

 

―――――――――――†――――――――――

 

「ゴリ押しにも程があるでしょう」

 

ミーティングの開幕一番、安芸先生からお叱りの言葉が飛び出した。

そりゃそうだろう・・・・前回の戦闘は、無茶苦茶が過ぎた。

 

「あなたたちに足りないもの。それは、『連携』です」

「連携───」

 

それはおれも考えていた。

個々の戦闘力は十分に足りている。が、おれたちはそれを活かせるだけの戦場造りが出来ていない。樹海の話ではなく、位置取りの話だ。

どんなに強い戦士であろうとも、適正距離というものが存在する。弓兵に近接戦闘をやれ、というのは『死ね』と言っているようなものだ。

そこで重要になるのが、"連携"だ。

 

「神託によると、しばらくは侵攻が無いので、あなたたちには明日より数日間、大赦が用意した宿泊施設にて合宿をして貰います」

「合宿?」

「わぁ~合宿だってかずくん~」

「楽しそうだな・・・・」

 

合宿の意味を理解しているのか?こいつは・・・・

 

 

「そして、連携の訓練をするにあたって、あなたたちの中から、隊長を決めたいと思います」

 

・・・・・・まぁ、確かに必要か。

おれを含めたこの四人を纏められるような奴────少なくとも、おれには無理だな。

となると───

 

「乃木さん。お願いできるかしら?」

「え?わたしですか~?」

 

だろうな・・・。

この中で選ぶとしたら、園子か、おれだろう。だが、おれにはそういうのは向いてない。従って、リーダーは園子一択しか無い。

 

 

「かずくん・・・どう思う~?」

「何故おれに聞く?」

「だって~・・・」

「おれにはそんなもの不向きだ。だがお前なら出来る。少なくとも、おれはそう考えているが?」

「うぅ~~・・・・・」

 

園子が他二人の様子を伺う。

 

「アタシはパス!リーダーなんてガラじゃないもん」

「・・・・私も、乃木さんが適任だと思うわ」

「と、言うことだ。従って、お前しかいない」

「かずくんでも充分イケると思うんよ~・・・」

「自信が無い?」

「─────────うん」

 

まったく・・・・

何時まで経ってもコイツは───

 

「大丈夫だ、園子」

「わぷっ」

 

ぐりぐり、と園子の頭を撫でる。

 

「お前になら出来る。なんならおれが副隊長として支えてやる。だから、やれ。心配するな、みんながいる」

「かずくん・・・・」

「────────うわぉ」

「────────はわわ」

 

何故だか銀と鷲尾が顔を赤らめてこっちを見ている。お前らが照れる要素なんぞ、いったい何処にあった?

 

「んん!こほん・・・では、隊長は乃木さん。副隊長は上里くんで決定します。よろしいですね?」

 

全員が頷く。

この日のミーティングはこれにて終了した。

 

 



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くんれんかいし!

「─────遅い!」

「zzzz・・・・」

 

合宿開始日当日。

校門前にて集合したおれ達は、訓練場へ行く為のバスに乗って、一人遅刻した銀を待つ。

アイツ・・・・またなのか・・・・・

遅刻した銀に対し鷲尾はカンカンで、園子に至っては、おれの膝枕で眠っている。

いい加減で迎えにでも行こうかと、園子を退けようとしたその時だ。

 

「はざまーす!間に合った~~・・・・・」

 

噂をすればなんとやら、集合時刻より十分を過ぎて、銀が漸く到着した。

 

「三ノ輪さん!いくらなんでも遅すぎよ!何をしていたの?」

「いやぁ、これには事情が・・・・ああ、いや、どんな理由があろうと遅刻したのはアタシだからな・・・ごめん、須美」

「────もう、次は気を付けてよ」

「あはは・・・」

 

何はともあれ、これで全員集合だ。

おれたちはバスに揺られて、目的地へと向かって行った。

 

―――――――――――†――――――――――

 

バスに揺られて数時間。

おれたちは讃州市内のとあるビーチに来ていた。

現在ここは大赦によって貸し切り状態。

おれたちの連携訓練はここでやる様だ。

 

「では、これから訓練を開始します」

 

安芸先生が号令をかける。

 

「これからあなた達には、三ノ輪さんにピッチングマシーンのボールが当たらないよう援護しながら、彼処の廃バスまで無事に送り届けてもらいます」

「私は動いちゃ駄目なんですかー?」

「駄目です。与えられた役割をしっかりとこなす事。これも訓練の一環です」

 

与えられた役割。

銀がアタッカー。園子がディフェンダー。鷲尾がスナイパー。そしておれは・・・・

 

「先生」

「はい」

「おれの役割、コマンダーって・・・・?」

「そのままです。上里くんは私の隣で、三人に的確な指示を出して下さい」

「・・・・・・・おれの役割って、そっちなのか」

「では、それぞれの役割が理解できたところで、訓練開始!」

 

安芸先生の号令により、ピッチングマシーンからボールが射出される。

 

「────園子、銀は直進!鷲尾、仰角三度・左に十二度!三秒後に一射後、仰角そのまま右二十一度に一射!」

 

「は・・・・はい!」

「りょうか~~い!」

「おう!!」

 

こうして、おれたちの訓練は始まった。

 

――――――――――五分後―――――――――

 

「銀はまだ飛び出さない!園子は五秒制止!鷲尾は園子の頭上スレスレに向けて射て!」

「あぐ」

「飛び出さないって言っただろう!?」

「うぅ・・・・・ごめん・・・・・」

 

――――――――――十分後―――――――――

 

「次!銀はまだ!園子は盾を少し右!鷲尾はその反対!」

「えっと~?」

「あだっ!?」

「園子ォ!?!?」

「ふぇぇ~・・・かずくんごめんなさ~い・・・」

 

―――――――――二十分後―――――――――

 

「鷲尾!次射は三秒後だ!!」

「ご・・・・ごめんなさい・・・」

 

―――――――――三十分後―――――――――

 

「園子!!!」

「ふぇぇ~ん」

 

―――――――――一時間後―――――――――

 

「あー!くっそぉ!?」

「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!!」

 

――――――――――そして―――――――――

「今日はここまでね」

 

安芸先生のその一言で、銀と園子がぶっ倒れ、鷲尾がへたれこんだ。

 

「─────今後の課題が多すぎる」

 

早速、作戦の練り直しだな。

 

 

 



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えらんだりゆう

電童がスーパーミニプラで発売するそうですよ!!!

第一弾は電童とユニコーン、レオ
第二弾はオーガとバイパー、ブル


データウェポンフル装備はちゃんとできるのかなぁ・・・?


連携の訓練が目的とは言え、普段通りに授業は行われる。

 

「─────ではここを乃木さん」

「zzzz………」

「起きろ園子。ご指名だ」

 

鼻ちょうちんを割って、園子を起こす。

 

「ぷぇっ!?あー・・・・当時の科学力では治療不可能な未知のウイルスが蔓延したからです~~」

「正解です」

「・・・・・なんでさっきまで寝てたのに質問が分かるんだ?」

「園子だからだろ」

「まぁたテキトー言って・・・・」

 

―――――――――――†――――――――――

 

訓練は実技だけでは無い。

座禅を組んでの精神修行もカリキュラムの内に入っている。

 

「─────────」

「zzzz・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「うぅ・・・ぐぅ・・・・ぬぁぁ・・・・!」

「銀。五月蝿いぞ」

「いや・・・・だって・・・・・あー!もう無理ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

開始五分と経たず、銀は足を崩して倒れるのだった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「ふぅ・・・・」

 

夜。園子達が寝静まったであろう時間。

おれは一人、寝室としてあてがわれた部屋にて、幾つかの連携パターンを考案していた。

思い付いたパターンを脳内でシミュレートし、バーテックス戦において一定以上の効果を見込めそうな物を採用していく。

そうして十種程採用した、その時だった。

 

コンコン、と扉が控えめにノックされた。

 

「上里くん、起きてます、か?」

「・・・・・鷲尾?」

 

訪ねて来たのは、鷲尾だった。

 

「こんな時間にどうした?」

「えっ・・・と・・・・・」

「────────とりあえず、上がれよ」

「おっ・・・・お邪魔します・・・・・」

 

鷲尾を部屋に上げ、適当に座らせる。

 

「ま・・・・まだ交際していない殿方のお部屋に上がるなんて・・・・・」

「旅館の一室だろうに」

 

何を言っているのだ、こいつは・・・・・

 

「はぁ・・・・それで?何の要件なんだ?」

「えっと・・・・・その・・・・・・」

「────────『何故、自分を選んだのか』?」

「っ!?」

 

鷲尾の顔が強張った。やはりか・・・・・確かにそろそろ教えるべきだと考えていたところだし、丁度良い。

 

「『異能者』という単語に、聞き覚えは?」

「いのうしゃ・・・・・?」

「無いようだな。当然といえば当然か・・・・・」

 

鞄から自前のノートPCを取り出して立ち上げる。

 

「鷲尾、こっち」

「え?あ、はい・・・・・」

 

おれの隣に座らせ、とあるファイルを呼び出す。

 

「『異能者』というのは、端的に言うと"常人よりも優れた能力を持つ者"の事を指す」

「常人よりも・・・・優れた?」

 

映像データを再生し、それを見るように鷲尾に促す。

音声は無く、画像のみではあるが、樹海のような場所で勇者と思われる鞭を持った少女が戦っていた。

相対するのはバーテックス────ではなく、両手に炎を纏わせた少女。

その少女が両手で地面を叩くと、勇者の足下から間欠泉のように炎が吹き出した。

場面は変わり別の場所、クロスボウを持った勇者が弾幕を展開するが、少年が回転させているボールに吸い込まれ、逆に撃ち返されてしまう。

 

「これ・・・・は・・・・・」

「『終末戦争』の記録映像だよ」

「・・・・諸外国からの難民と時の政府が共謀し、大赦に反旗を翻した事から始まったという、あの?」

「・・・・・・・・ああ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()『終末戦争』の始まり。

神樹様から力を授かった少女達が、政府軍の侵攻から四国の民を守りつつも粘り強く話し合いを求め続け、凡そ一年後、難民達が神樹様の比護下に下った事による政府軍の全面降伏という形で終結を迎えた。

・・・・・・という顛末となっている、()()()()()()()

 

「それで・・・・この映像と異能者との関係は・・・・?」

「何のために見せたと思っている。()()()()()()()()()

「えっ!?この、炎を出したり、球体を回転させたりしている人が!?」

「ああ」

 

驚愕の表情で、己の両手と画面の少年少女達を見比べる鷲尾。

 

「そ・・・・それじゃあ、私も・・・・あんな風に・・・・?」

「成れるかどうかは不明だ」

「えぇ・・・・?」

 

怪訝な表情へと変えた鷲尾に対し、別のデータを呼び出す。

 

「異能者であるか否かはこのように、数値として見る事が出来る。これが一定値以上確認されれは、そいつは"異能者となれる可能性がある"と見なされる」

「可能性・・・?」

「特別な能力────即ち異能が発現するかどうかは、そいつ次第だ」

「・・・・・・・・・・」

「鷲尾、お前の数値は四国随一だった。どのような異能なのか、本当に発現するのか、分からない事だらけではあるが・・・・・それでも、おれはお前を推薦した。ありとあらゆる可能性を考慮し、想定できる障害を全て排除する。それが、おれのやり方だからな」

「───────もし、私が異能を発現出来なければ・・・・」

「それはあり得ない事だな」

「どうしてそう言えるの・・・・?」

 

不安で表情を陰らせ、鷲尾はおれに訪ねた。

 

「言ったはずだ。お前の数値は四国随一だ。異能者は数値が高ければ高い程発現し易い。お前程ともなれば、誰かに何かされなくとも発現していただろうさ」

「そう・・・・なの・・・・?」

「あとは・・・・・・そうだな・・・・・・『自分なら絶対できる』と信じること・・・・かな」

「信じる、って・・・・・」

 

今度は呆れた表情でこっちを見る。どうでも良い事だが、今日の鷲尾は表情がコロコロ変わるな・・・・

 

「自分を信じる。ということは、結構大事なことだぞ?『無理だ』と思ったら簡単なことだって出来ないし、『辛い』と思ったら何をしてもしんどくなる」

「病は気から・・・・ということ、ですか・・・・」

「概ねそうだ」

「────────ありがとうございました」

 

一言礼を言って、鷲尾は席を立つ。

 

「鷲尾」

「はい」

「だからといって、無理に頑張る必要は無い。お前のペースでやれ」

「・・・・・・はい」

 

退出する鷲尾の表情は、戦闘時のように険しいものだった。

下手に気負わせてしまっただけだっただろうか・・・・

だが、今後語る機会があるとも思えない。そういう意味では今日がベストだった。

気休めの言葉を心に浮かべ、おれは気持ちを整頓したのだった。

 

 



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おんせんにて

「「「はふぅ~~~~・・・・・♪」」」

 

 

合宿三日目。

今日の訓練が終わり、アタシ達は温泉でその疲れを癒している最中だ。

 

「毎日毎日、バランスの良い食事と厳しい訓練、そんでもってしっかりとした睡眠────なんというか、勇者って言うより、運動部の合宿みたいだよなぁ・・・」

「私たちの連携のための訓練なんだし、仕方ないわよ」

「なんかこう、必殺技とか授かるイベントはないものかねぇ」

「だから連携の訓練なんだってば・・・」

 

須美にジト目で諭された。

あーあ、カズマみたいな必殺技が欲しいなぁ。

なんて事を考えていると、園子が話しかけてきた。

 

「ミノさん。身体の傷は大丈夫?」

「えへへ、へーきへーき!そう言う園子の方は?」

「どっちかと言うと、こっちの方が~」

 

そう言って園子は自身の右掌を見せる。

潰れたマメの上に、更にマメが出来ていた。

 

「年頃の女の子のやることじゃないよなぁ・・・・」

「そうは言っても、私たちがやらなかったら我が国があんなよくわからない奴らに滅ぼされてしまうのよ」

「それはわかってるって。そ・れ・よ・り・~・・・」

 

アタシは両手をわきわきさせて須美に近付いて行く。

 

「な・・・・なに・・・!?」

「クラス一の大きさを誇るお胸を拝んでおこうと思ってね♪」

「はぁ!?」

「前々から思っていたけど、須美のはまるでチョモランマだよなぁ!親父!その桃くれぇ!!」

 

須美のチョモランマを揉みしだこうと襲いかかる。そんなアタシの襲撃に須美は抵抗する。

 

「ちょ!?・・・・・止めなさい銀!!」

「いーじゃん!事実を言ったまでだろ!むしろそこまでおっきいクセして恥ずかしいなんて、贅沢言うな!!」

「ふ・ざ・け・な・い・で・!!」

 

アタシ達が激しい攻防を繰り広げている中、園子はのんびりと「サンチョも入れてあげたかったなぁ~」なんて呟いている。

と、そこに───

 

 

 

 

 

すこーん!

 

「あだぁ!?」

 

 

 

 

 

突如、壁の向こうから風呂桶が飛んできて、アタシの頭にクリティカルヒットしたのだった。

 

「いったぁ────なぁにすんだよ!カズマ!!」

「バカ騒ぎは他所でやれ。露天風呂は静かにゆっくり浸る物だ」

「そんなこと言って、どうせお前も須美のチョモランマが気になるんだろ~?」

「ちょ!?・・・・銀ってば!!」

「脂肪と乳腺の塊なんぞに興味無い」

 

 

 

 

 

「「えぇ・・・・」」

 

 

 

 

 

あんまりな言い様に、アタシ達二人は絶句してしまうのだった。

 

「かずくんはね~、うなじが好きなんよ~♪」

 

すこーん!

 

あ、更に飛んで来た。

 

「ふぇぇ~・・・・なんでわたしも~?」

「余計な事を言うからだっ!!」

 

ガラガラガラ

 

「こら、あなた達。少し騒ぎ過ぎです!」

 

そこに安芸先生が入って来た。

 

「上里くんも。旅館の方の迷惑になるような行為は慎みなさい!」

「・・・・・すみません」

 

カズマの投げた風呂桶を壁の向こうへと返し、先生は湯船に浸かる。

そんな先生を、アタシと須美はじぃーーーー、と見ていた。

正確には、先生のプロポーションを。

 

「───────すっげー・・・・・」

 

あれが大人の女性か・・・・

 

「そうね・・・・・例えるなら、戦艦長門────」

「長門?なにそれ?」

「知らないの?・・・・・良いわ、教えてあげる!!」

「え゛?」

 

この後須美は、温泉から出るまでずっと戦艦長門の話をしていたとさ・・・・・・

 

 

 



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くんれんしゅうりょう!

そして迎えた、合宿最終日───

 

一正の指揮の下、園子が守り、須美が援護して銀を一定の位置まで運んで行く。

 

「今だ!行け!銀!!!」

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

一正の指示に、銀が跳ぶ。

彼女を迎撃せんと、ピッチングマシーンから多数のボールが放たれる。

それを、両手の斧を振り回して叩き落としていく。

が、如何せん斧は大振りになってしまうために、攻撃後の隙が大きい。その隙を狙ってのものか、はたまた偶然か、迎撃仕切れなかったボールが一つ、銀目掛けて迫り来る。

誰もが、「また失敗した」そう思っていた。

 

 

 

 

 

たった一人を除いて

 

 

 

 

 

「良い位置だ。作戦通り」

 

一正は銀の跳躍と同時に展開していた、『バスターアームズ』の腰のリニアライフルでボールを狙撃。放たれた弾丸は狙い過たずボールを撃ち落としてみせた!

 

「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

彼女を止める物はもう全て排除された。

徐々にバスと銀との距離が縮まっていき───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォン・・・!!!

 

 

 

 

 

「ゴーーーーーーーーーーーーッル!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスを叩き割った後、今までの鬱憤を晴らすかの如き、回転乱舞によって、バスは粉々に砕け散ったのだった。

そんな様子を見て、園子と須美が遠距離ハイタッチをする。

 

「よし、作戦完了(ミッションコンプリート)だ」

 

喜びにうちひしがれる一正だったが、そこに水を挿すかの様に、安芸先生が彼の肩を叩く。

 

「おめでとう。ですが、上里くんはルール違反なので厳罰です」

「─────────なんでさ」(白目)

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

一正への罰則は、訓練に使用した道具の片付けであった。

 

「ぐぬぬぬぬ・・・・・!!」

 

一人片付けを行う一正。基本的に彼は頭脳労働を主としているので、肉体労働は不向きである。

ピッチングマシンを漸く一つ片付けたところで、その場にしゃがみこんでしまった。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・あー!!もう!!!おれはこういうの苦手なんだよ・・・・・・ったく」

 

悪態をつきながらも、一正は立ち上がり次のマシンを運ぼうとする。

 

「よっと、これを持っていけば良いのか?」

「───────銀」

「ふんぬらば~~っ!!!ぬわぁ~~~~!!!!!!」

「──────園子」

「ほら乃木さん、遊んでないで早く片付けてしまいましょう」

「──────鷲尾まで」

 

いつの間にか、三人が片付けを手伝ってくれていた。

 

「なんで・・・・・」

「なんでって・・・・・カズマ一人にだけ片付けさせて、アタシ等だけ遊んでいるなんて、出来ないだろ?」

「そうそう!遊ぶなら、みんな一緒が良いんよ~~♪」

「まぁ、そういう事だから・・・・・先生から『手伝うな』とは言われていないですし・・・・・」

「──────────そうか」

 

それだけ言って、一正は園子の持つマシンを運ぼうと手を貸す。

 

「・・・・・・それだけ?」

「言ってやるなって須美さんや。ありゃ照れてんだよ」

「あはは~♪かずくん耳まで真っ赤っか~~♪」

「────────────るっせ」

 

そうして、四人は一致団結してマシンの片付けを行うのであった。

 

 

 

 

 

「そういやカズマ。お前、アタシと園子は名前呼びなのに、なんで須美だけ名字呼びなんだ?」

「なんだよ急に」

「あー、それ私も気になってたんよ。良い機会だし、かずくんもわっしーのこと、あだ名で呼びなよ~~」

「結 構 だ !」ざっざっざっ………

「あーん、行っちゃった・・・・」

「ま、その内どうにかなるだろ」

「というか、そういうのって本人の承諾を得てからするものでしょう・・・・?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「うわっやべ・・・・逃げろーーーーー!!!」

「わーい♪逃っげろ~~~~~~!!!」

「こら!二人とも待ちなさーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!」

 

 

 



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なかよくおやすみ

「合宿も今日で最後なんだし、かずくんも一緒に寝よ~~よ」

「断る」

「それじゃ、れっつご~♪」

「断ると言っているだろうがぁぁぁぁぁ・・・・!!」ズルズルズル

 

 

 

 

 

なんて事があって、現在おれは女子部屋に居る。園子曰く、安芸先生の了承は得ているとのこと。いやなんでさ。

 

「へいかずくん!うぇるか~~~む♪」

「お前が引っ張って来たのだろうに」

「まあいいじゃん。合宿最後の夜なんだし」

「良い訳あるか」

「婚約もしてないのに殿方と────」

「鷲尾は何を言っている?」

 

三者三様の反応に辟易する。

それにしても意外なのは銀の反応だ。彼女はアレでいて乙女だ。鷲尾ほどでは無いにしても、何かしら文句の一つでもあると思ったのだが────まぁ良いか。

 

「はぁ・・・・・仕方ないか。おれは寝る」

「待てって、直ぐに寝るなよ」

 

そう言って、銀はにやけ面を隠そうともせずにこちらを見てくる。

 

「───────なんだ?」

「合宿最期の夜なんだぜ?簡単に寝られると思うなよー?」

「愛用の枕があるから寝られるよ~」

 

そういう意味ではない。

しかし、この流れは不味い。相当面倒な事になる。

 

「駄目よ!夜更かしなんて!」

 

ああ、良かった・・・・鷲尾が真面目で・・・・

 

「早く寝ない子には・・・・夜中迎えに来るわよ・・・・」

「む・・・・迎えにぃ~~!?!?」

 

なんだろう。園子と鷲尾の想像している物に差が感じられる・・・・

 

「そんな怖いのじゃなくてさ!恋バナしようよ!」

 

ほら来た。この中で唯一普通の女子らしい女子と言えば銀位だし、彼女がその話題を言い出すのは察しが付いていた。

 

「みんなで一人ずつ好きな人の名前を言い合いっこしよう!」

「というならばお前、誰か好きな奴、いるのかよ?」

「うぐ・・・・・えと・・・・・」チラリ

 

ん?

 

「あえて言えば・・・・・弟、とか?」

「家族はズルよ」

「そ・・・・そういう須美はいるのかよー!?」

「う・・・・わ・・・・私も・・・・いない・・・けど・・・・」

 

なんだ?今一瞬、銀が此方を見たような・・・・?

 

「わたしはいるよ~♪」

「「え!?!?」」

 

園子の発言に、二人が驚愕の声を上げる。

 

「え・・・誰!?クラスの人!?」

「ついに恋バナ来たんじゃない!?」

「あのね~、ミノさんと、わっしー!」

「「───────えぇ?」」

 

だろうと思った。

 

「ちなみにおれもいない。さて、おれはもう寝るぞ」

「あっちょっ・・・」

「zzzz………zzzz………」

「寝付くの早っ!?」

 

───────view,change:銀────────

 

すやすやと寝息をたてて眠るカズマの寝顔が、すぐ近くにある。

まったく、眼鏡掛けたまま寝ちまいやがって・・・・

そっと手を伸ばして眼鏡を顔から外してやる。

 

「んぅ・・・・」

「っ!?」

 

一瞬、カズマが起きたのかと思い、思わず身構えてしまう。が、カズマは寝返りをうっただけで起きてくる様子は無かった。

 

「ふぅ・・・・ビビらせやがって・・・・」

「ねぇねぇミノさん」

「んー?どした園子」

 

園子がニコニコ笑顔で告げる。

 

 

 

 

 

「私、ミノさんには負けないよ~~」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・え?」

「それじゃ、おやすみ~・・・・zzzz……zzzz……」

 

困惑するアタシを余所に、園子はさっさと寝てしまった。

 

「負けないって・・・・・何のことだよ・・・・」

「乃木さんも寝てしまったし、私達も寝ましょう?」

「・・・・そーだな」

 

釈然としないまま、アタシは眠る。

自分の気持ちにも、園子の気持ちにも、気付かないままで・・・・・

 



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ひみつをさぐる

合宿前からも思っていたけれど、三ノ輪さんの遅刻癖をどうにかしたいと思っている。

今日だって遅刻して先生に怒られていた。しかも上里くんまで・・・・・

 

「・・・・・・真面目な人だと思っていたのに」

「わっし~?何か言った~?」

「乃木さんはちゃんと起きて。もう朝の学活の時間よ」

 

まったく・・・・・乃木さんはこんなだし、やっぱり私がしっかりしなくちゃいけないわね!

 

―――――――――――†――――――――――

 

「という訳で、三ノ輪さんの身辺調査を行うわ!」

「すぴ~~・・・・」かくん

「乃木さんも乗り気ね!!さあ、行くわよ!!!」

 

乃木さんの手を引いて、私は三ノ輪さんの家へと向かう。

その途中、

 

「・・・・・あら?上里くん?」

「ふぇ?・・・・・・・・あー♪かずk(モゴモゴ」

「待って、乃木さん。一度隠れて!」

 

上里くんを見つけた乃木さんが、声をかけようとしたので止めて近くの路地へと隠れた。

 

「ぷはぁ!わっしーどうしたの~?」

「上里くん、今日は用事があるって言ってたのに・・・・どうしてこんな所に・・・・?」

「聞いてる~?」

「気になるわね・・・・・そういえば、この前も三ノ輪さんと一緒に遅刻してたわね・・・・・どう思う乃木さ─────いない!?」

 

辺りを見回すと、乃木さんは路肩の蟻の行列に話しかけていた。

 

「ありさんだ~~♪ヘイヘイ元気~?園子だよ~~」

「乃木さん!こんなところで油を売ってないで、上里くんを追いかけましょ!」

「あ~~~~れ~~~~~~」

 

乃木さんを引き摺りながら、上里くんの後を追うと、そこは三ノ輪さんの家だった。

 

「───────上里くんの用事って、ここ?」

「わっしーわっしー!どうする?ピンポンダッシュする?」

「何て恐ろしい事を!?慌てないで、こんな時の為にある物を用意したんだから」

 

背負った鞄から潜望鏡を取り出して生け垣の上から屋内を覗く。

 

「おぉ~♪なんかスパイみたーい♪」

 

─────居た。縁側で赤ちゃんと遊んでいるみたい。

 

「・・・・・・こら、眼鏡を引っ張るんじゃないと言っているだろう」

「だーぅ」

「止めろと言っているのが分からんのか」

「きゃっ♪きゃっ♪」

「────────全く、仕方ない。ほら」がさごそ

「う?」

「お前専用の眼鏡。名付けて『叡智の結晶』だ!」

「うぁーーい!!きゃっ♪きゃっ♪」

「・・・・・なーんかマイブラザが喜んでると思ったら、カズマお前、可愛いアタシの弟に何渡してんだよ」

「なんだ?銀も欲しいなら今度造ってやるが?」

「いるかぁ!そんなもん!!」

「えー?ねーちゃんいらないのー?」

「鉄男!?友達ん家に遊びに行ったんじゃ・・・・」

「これから行くのー。で、ねーちゃんいらないの?いっつもにーちゃんの話してるくせ「にょわわわわわわわわわわわ!?!?!?!?そろそろ行かないとヤバいんじゃねーの!?ほらさっさと行け!!!」痛ってー!!!蹴んなくたっていーじゃんかよー!!!」

「うっせー!さっさと行ってこいっての!!!」

「・・・・・なんなんだ?」

「だぅあ」

 

・・・・・・・・なんというか、混沌としているわね。

 

「良いなぁ~~。私も『叡智の結晶』欲し~~い」

「えぇ・・・・・?」

 

ただの眼鏡が欲しいなんて、乃木さんは本当に変わった娘ね・・・・

 

―――――――――――†――――――――――

 

その後、買い出しに出掛けた二人を尾行すると、二人は行く先々でトラブルに遭遇していた。

公園を通りかかれば、蹴球を木の上に引っ掻けた子供たちに出会し………

横断歩道では、立ち往生しているお婆さんがいて………

駐輪場に立ち寄れば、突風により自転車が薙ぎ倒され………

買い出し先のイネスでは、お姉さんがリンゴを落としていた。

他にも迷子や喧嘩している子、等々………

 

「ミノさんとかずくん、息ぴったりのコンビネーションだったんよ~♪」

「というより、上里くんの出した作戦に基づいて、三ノ輪さんが行動する感じだったわね」

「っ~~~~~~///か・・・・かーずーまぁぁ・・・・///」

「良いだろ別に。全て本当の事なのだから、それほど照れる要素は無い」

 

とか言いつつも、上里くんもちょっと耳が赤くなっている。

 

二人がリンゴ拾いを始めた時点で、見ていられなくなった私達は、そのまま二人と合流し少し遅めの昼食を摂っている。

 

「でもこれで、三ノ輪さんが何故遅刻するのか。その理由が判ったわ」

「ミノさんいつもああなの~?」

 

調査結果としては、三ノ輪さんは重度のトラブル巻き込まれ体質、ということだった。

行く先々でトラブルに遭遇しては、それに対処していたが故の遅刻。

ここで『無視する』という選択をしない辺り、三ノ輪さんは勇者なのだと感じさせる。

 

「うん。そうだよ。いつもいつも、行く先々でトラブルに遭遇してさ・・・・宝くじだって当たったこと無いもん」

「くじ運とお前のソレは別問題なんだが・・・」

 

と、その時だった。

 

「っ!?────来た」

「かずくん?」

 

不意に、上里くんが耳元に手を当てたと思いきや、彼の動きが止まった。いったい何が・・・・?

 

 

 

 

 

鳴り響く鈴の音

 

 

 

 

 

光が全てを飲み込み

 

 

 

 

 

日常が、非日常へと切り替わる。

 

 

 

 

 

「ほらな?アタシって運が無いだろ?」

「ミノさんはアンラッキーガールなんよ~・・・・」

「なんて言ってないで、お役目よ!」

 

大丈夫。合宿でも、あれだけ特訓したんだもの・・・!

私が三人をまとめてみせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな私の決意を余所に、遠き過去からの遺物が、私達へと悪意の牙を向けていた。

 

それに気付いた時には、既に──────

 

 

 




思ったけど、銀と一正のトラブルバスティング、スザルルのあれと一緒じゃん(笑)


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かこからのしゅうげき

三度目ともなれば、流石に対応も早くなるというもの。

 

「っ!?────来た!お役目の時間だ!!」

 

おれの端末から樹海化警報(アラート)が鳴り響いた事を三人に伝えるべく言葉を発したが、それよりも先に三人は消えていた。

 

「・・・・・・アラートの改良が、必要だな」

 

静止した時の世界で一人呟きながら、自分の意識を肉体から切り離した。

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「今回の相手は、山羊座(カプリコーン)か・・・・・」

 

壁の向こうから現れた異形を眺めながら、おれは神樹から情報を引き出す。

 

「どんな敵なの~?」

「下に垂れている角があるだろう?アレで振動を起こして攻撃してくる」

「振動・・・・・ということはまさか!?」

 

鷲尾が何かに気付いたその時、バーテックスが地面を叩き、地震を起こした。

 

「うわぁ!?」

「ひゃあ!?かずくん、これは~!?」

「神樹様の情報に無かった攻撃・・・・・奴め、学習したってのか!?」

 

地震によって崩された体制を整えている間に、バーテックスは鷲尾の射程圏外へと上昇。このままでは、こちらは攻撃できない。

 

「制空権を取られた!?」

「まずいぞ・・・・・どうするカズマ!」

「問題無い。対策は講じてある!!」

 

樹海の樹木をそのままコンテナに改装し換装。

今回の武装は、空中戦闘用の『スクランダーブーツ』

内蔵武装は、ブースターを兼任した背中のバックパックに装備された二本の『ソニックブレイド』のみ。

これだけでバーテックスを倒せる等とは、流石に思っていない。

要は、奴を上空から引き摺り降ろせれば良いのだ。

 

「おれがコイツで、奴にダメージを与えて落とす。お前達はその隙を狙って攻撃するんだ」

「は~い♪」

「早いとこ終わらせようぜ。アタシまだ食べてる途中なんだよー」

「お気を付けて・・・・」

 

両足のメインスラスターと背中のバーニアスラスターを吹かし飛翔。

あっと言う間にバーテックスと同じ高度まで到達した。

後はこのソニックブレイド(鉛筆削り)で適度にダメージを与えるだけ………

 

 

 

 

 

「『わーっはっはっはーーーーー!!!ところがぎっちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!!』」

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

しかしそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「『とあぁッ!!!』」

「がっ!?」

 

何者かは、バーテックスから此方へ飛び乗ると、そのままおれと共に地面に墜落した。

 

「かずくん!!!」

「な・・・・・なんだぁ?」

「人・・・・?でも、樹海は神樹様に選ばれた勇者しか入れないはず・・・・」

 

完全に墜落する直前で、どうにか姿勢制御を行い着陸。

先に落ちていたそいつは、片膝を立てて着地後、そのままのポーズでおれが落ちて来るのを待っていた様だ。

 

「『フッフッフッフッフ・・・・あんな古臭い木材の張った結界なんぞ、このオレにかかれば秒でFuckingさ!!』」

 

・・・・・何を言っているのかは理解出来ないが、少なくとも、コイツはおれと同じく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事。それだけは、はっきりと理解出来る。

 

「お前・・・・・このジュカイネットシステムは、現状おれしか扱えない筈。どうやって使用している?」

「『ハッハー!そんなモン無くとも、()()()()()()()()()()()()()!!』」

「っ!?まさか、お前は・・・・・だが、有り得ない!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・」

「『へぇ・・・・やっぱりあんたが持ってたんだナァ~』」

 

しまった・・・・!?思わず口が滑ってしまった。

 

「『んじゃ、改めて自己紹介でもしようかねェ?そっちの嬢ちゃん達が話に着いて行けねェ、って顔してるしナ』」

 

そうして男は、恭しく一礼し、名乗りを上げたのだった。

 

 

 

 

 

「『俺は 量子演算式小型人工知能(フォトン・ドライヴ)"AIーNo.Do:1(ファスト)"!個体名は"ファウスト"だァ!・・・・夜路死苦(ヨロシク)ナァ!!』」

 

 

 

 

 

自ら人外であると名乗った男────ファウストは、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 




─スクランダーブーツ─

ブーツの名の通り、両足に装着される武装。
背中のバックパックはバーニアスラスターと少し大きめのカッターナイフの様な武器"ソニックブレイド"を装備したブースターユニットに換装されており、両足と背中のバーニアで空中戦を行う為に設計された。
が、飛行する為に必要最小限の武装しか積んでいないので、戦闘能力は他に比べてだいぶ低い。



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キューロノイド

─ファウスト─

想定CV藤原啓治


存在事態が記録から抹消された、七機ある量子演算式小型人工知能(フォトン・ドライヴ)の内の一機。個体識別番号は"AIーNo.Do:1(ファスト)"
どのような経緯で肉体を得たのかは不明だが、細身の中年男性の駆体を使用している。





量子演算式小型人工知能(フォトン・ドライヴ)───

 

 

大赦の記録から消された、"名前を消された天才(ネームロス)"の造りだした最高傑作であり、それを搭載したロボット、或いは()()の事を"キューロノイド"と呼称する。

神樹の記録によると、全部で七機製造されたそうだが、その全てが破壊、若しくは喪失したとされており、現存する物は皆無とされていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………

 

 

「『あの時消えちまったモンが見つかったんだ・・・・()()()()()()()()()()()()()位、有り得ネェ訳じゃネェだろう?』」

「まさか・・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

有り得ない話、とは言い難い。

フォトン・ドライヴは、内部に小型の量子演算処理機を複数搭載しており、それが一つや二つ壊れた程度では完全な起動停止には至らない。尤も、完全な状態の時と比べればその機能はだいぶ落ちるのだが・・・・

 

「・・・・なんだかよく分かんないけど、かずくんを攻撃してきたって事は、私達の敵ってことで良いんだよね・・・・」

「園子・・・・?」

「リーダーの意見に同感だ・・・・アタシ等の邪魔しようってんなら、容赦しないぞ!!!」

「銀まで・・・・・!?」

 

おいおい・・・・急にどうしたんだ?

 

「ちょ・・・・ちょっと待って二人とも!?今はバーテックスの方が先よ!」

「嗚呼、鷲尾は平常か・・・・良かった・・・・」

「カズマ、ここはアタシ等に任せろ」

「かずくんとわっしーはバーテックスの方をよろしく~」

「な・・・何を・・・?」

 

・・・・ここで戦力を分断するのは、正直得策では無いのだがな。

しかし、ファウストと名乗るコイツが居る限り、バーテックスへ近付く事すら叶わないだろう・・・・・・よし。

 

「判った。銀!園子!お前達はファウストの相手を。その間におれと鷲尾でバーテックスを引き摺り降ろす!」

「了解っ!!」

「任せて!!」

「えぇ!?私と上里くんだけでなんて・・・そんなの無理よ!ってあ、乃木さん!三ノ輪さん!!」

 

おれからの指示が飛ぶや否や、園子と銀は真っ直ぐにファウストに突撃して行った。

 

「『なんだなんダァ?俺の相手はお前等カァ??良いぜ良いゼエ!!来いよ・・・・遊んでやろうじゃネェか!!!!!!!!!』」

「悪いけど、あんたみたいなオッサンは、アタシの趣味じゃない!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

二人がファウストと衝突し始めたのを見計らい、鷲尾を抱えて再び飛翔。

 

「口閉じてろよ!舌噛むぞ!!」

「き・・・・きゃああああああああああああ!?!?」

 

バーテックスと同じ高度まで到達した・・・・!今度は妨害も無いだろう。

 

「鷲尾!最大チャージで射て!!」

「は・・・はいっ!」

 

負けじとバーテックスも、四本の角を跳ばして迎撃してくる。が、その程度、鷲尾を抱えたままでも避けられる!

そうこうしている内に鷲尾のチャージが終わり、射撃体制を取ろうとした─────────の、だが

 

「うぐっ・・・・!?」

「え?上里くん?」

 

なんだ?全身から、力が抜けていく・・・・・?

 

「え?え?こ・・・・高度が落ちてる!?上里くん!!」

 

時間切れ、という事らしい。今はまだどうにか変身を保っているが、それもすぐに解除されてしまうだろう・・・・・・

 

 

「くそ・・・・・射て!鷲尾ぉ!!」

 

ならばせめて・・・・・命に代えても、作戦は遂行する!

 

「ええ!?で・・・・・でもっ!」

「良いから射てよ!まだ射程範囲内だろうがっ!!!」

「でも・・・・こんな・・・・落ちながらなんて・・・・・」

「迷ってる暇があるかよ!!このままじゃ、バーテックスを倒せなくなるぞ!!!!」

「っ!」

 

おれのその一言に、鷲尾の顔が強張った。

 

「射てよ!須美ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

「───────────南無八幡、」

 

 

鷲尾が、弓を再び構え────

 

 

「大菩薩っ!!!」

 

 

最大チャージされた一矢を射った。

 

 

その一撃はバーテックスの角の根元に突き刺さり、大爆発。

バランスを失ったバーテックスはそのまま落下を始めたのだった………

 

 



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のうりょく

鷲尾を庇いつつ墜落したおれは、その衝撃で変身が解けた。変身が解けたおれの身体は精霊体へと戻る。

 

「『あーあ、落ちちまいやがった・・・・』」

 

気付けばおれ達の近くにファウストが立っていた。園子と銀は・・・・?

おれのその疑問に答える様に、二人が後からファウストを追いかけて来た。

 

「待て~~!!!」

「この野郎・・・・二人から離れろッ!!!!」

「『おっと、流石にもう限界か・・・・』」

 

ファウストは大きく跳躍すると、大橋の支柱に降り立った。

 

「『今日はこの位にしてあげマス。次はこうはいかネェからナァ!!!』」

 

捨て台詞を吐いてそのまま海へと落下していった。あれでは追跡は難しいな・・・・・

 

「あーっ!逃げた~~!!」

『追わなくて良い!それよりも、バーテックスを!!』

「カズマは大丈夫なのか!?」

『この状態のおれに触れられる者は居ない!気にせずヤれ!!!』

「分かったよ~!!」

「二人が作ってくれたチャンス・・・・無駄にはしないッ!!!」

 

 

 

「「でやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

 

 

二人の猛攻により、バーテックスがどんどん削られていく。

もう邪魔も居ないことだし、どうにか今回もお役目を果たせそうだな・・・・・

と、安堵したその時だった。

 

『ぐっ!?』

「上里くん?」

 

いつの間にか、おれの両足が樹海の根と一体化していた。まさか、こんな時に樹浄化だと!?

樹海化中に変身解除した際のデータが無かったから、知らなかった。

 

「あ・・・・あ・・・・その・・・・足、が・・・・・」

『・・・・・気にするな』

「気にしますっ!どうして・・・・こんな・・・・」

『選ばれなかった者が無理矢理に割り込んだ、その代償だ。お前が気にする事では無い』

「・・・・そんな」

 

悲し気な顔で、樹木と化したおれの足を見つめる鷲尾。

バレたらこうなる事が予想できたから、今まで隠してきたというのに・・・・・まったく。

 

「私に、出来る事はありませんか!?」

『無い。これは上里家に伝わる神楽舞でしか解呪出来ない』

「・・・・・・・・・」

 

それでも諦められないのか、鷲尾がそっと、おれの足に触れた。

 

 

 

 

 

その瞬間、樹木と化したおれの両足が暖かな光に包まれて元に戻った。

 

 

 

 

 

『なっ!?』

「も・・・・戻った・・・・?」

 

これにはおれも驚きだ。

樹浄化の解呪には巫女の力が必要になるのだが、どういう訳か、鷲尾が触れただけで解呪されてしまった。

何故だ?鷲尾は勇者。巫女の力なんてある訳が無いのだが・・・・

一つ、思い当たる節があるとするならば………

 

『まさか・・・・それがお前の能力か?』

「え?これが?」

 

これは詳しく調べる必要があるな・・・・・

 

「かずく~~ん!終わったんよ~~♪」

「おーい!カーーズマーーーーー!!」

 

・・・・どうやら鎮花の儀が始まったようだ。

 

『何はともあれ、お役目終了だ。みんな、ご苦労』

「お疲れ~~。大変だったね~」

「だな。アタシくたくただよ」

「・・・・・・・」

『おれは一足先に戻っている。お前等は後からゆっくり来ると良い。なに、昼食は逃げたりしないさ』

 

それだけ告げると、おれは現実世界へと帰還したのだった。

 

 



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ともだちになる

現実世界に戻り、しばらく経過。

大橋公園から戻って来た鷲尾は、何故か泣きはらした瞳をしていた。しかも、二人と仲良く手を繋いで。

 

「・・・・どうした?」

「えへへ~♪聞いて聞いて、わっしー、ようやく私のこと"そのっち"って呼んでくれたんよ~♪」

「へぇ・・・良かったな」

 

何か、心境の変化でもあったのだろうか。

 

「ほら須美、言うんだろ?」

「・・・・えっと」モジモジ

「?」

 

おれの前に来た鷲尾が、気恥ずかしそうにしながらも、言葉を紡ぐ。

 

「・・・・今まで、ごめんなさい。これからは、その・・・・私、みんなのこと、ちゃんと見るから。信頼できるよう・・・・がんばる、から・・・・だから・・・・・その・・・・」

「そうか」

「───────────」

 

沈黙し、俯く鷲尾に手を差し伸べる。

 

「これからも、宜しく」

「!・・・・・はいっ!」

 

そうして鷲尾は、年相応の笑顔を見せてくれたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで~~・・・・"呪い"って、なんの事~~?」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

どうやら、良い話では終われないようだ。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

園子達にも"樹浄化"の件を話した後日────

 

「いらっしゃい」

「お・・・・お邪魔します・・・・」

「おじゃましま~す♪」

「こんちはー!」

「いらっしゃ~い、ゆっくりしていってね♪」

 

三人をおれの自宅へと招待した。

表向きは親睦を深める為だが、その真の目的は、鷲尾の能力を解明する事だ。

 

「んじゃ、おれは準備があるから、先におれの部屋にでも行っててくれ。場所は園子が知っている」

「あいよ、ベッドの下でも探ってっから」

「残念だったな、おれは布団派だ」

 

銀と軽口を言い合いながら、おれは一人、別邸の工房へと向かう。

 

上里邸は、乃木邸よりも屋敷面積自体は少ない。が、代わりに敷地内に別邸が本邸と合わせて三つある。

と言っても二つある内の一つは蔵として使用していたので、実質本邸と別邸が一つずつあるという事になる。

おれが今向かっている工房は、その蔵にある。

昔はちゃんと屋敷として使用していたらしく、本邸程では無いが幾つか部屋がある。

その内の半数を工房として改装させて貰ったのだ。

 

「えーと・・・・・あった」

 

"研究室"と銘打ったプレートが掛けられた部屋にて、目的の品は見つけた。

装着した者の霊力を測る為の機器だ。

 

「あとの道具は部屋にあるから・・・・とりあえずはこれだけだな」

 

そうしておれは工房を後にした。

 

 

───────view,change:銀────────

 

 

「今、戻った」

「おかえり~」

「なあなあカズマ!これ、どうやって動かすんだ?」

「・・・・・・・・・あまり下手に動かすなよ。丁寧に扱わないと爆発する物もある」

 

棚に乱雑に置かれた発明品の一つを、戻って来たカズマに見せたらとんでもない事を言われた。

 

「爆発って・・・・どうしてそんな危険な物を・・・・」

「正しく扱えば害は無い」

「そういう問題では無いかと・・・・・」

 

なにやら須美とカズマが言い合いを始めたので、アタシは再び棚の中を物色。

 

「・・・・ん?なんだこれ」

 

出てきたのは一枚の写真。

真ん中には、おばあさんに肩車されて笑うカズマ。

その両サイドには四人の男女。

 

「集合写真かな?」

「え・・・・・・ちょっと見せろ」

「カズマ・・・?」

 

言われるがまま、カズマに写真を渡すと、カズマはひったくるみたいに写真を取って、穴が開くほど見つめていた。

 

「もしかして・・・・・見ちゃいけなかったやつ?だったら、ゴメン」

「・・・・・・・いや、そういうのでは・・・・・無いよ」

 

ただ、と一言添えて、カズマは語る。

 

「四年前に解散して以降、音信不通で・・・・・何処に居るのか、そもそも生きてるのかすら・・・・・わからなくて・・・・・・・」

 

カズマの頬を雫が伝う。

 

アタシは、須美と園子と顔を見合わせて、それからカズマと手を繋いだ。

 

「・・・・・・・銀?園子?」

 

右側に園子、左側にアタシ、そして、アタシと園子は須美と繋いで輪になった。

 

「アタシ等はどこにもいかない!」

「少なくとも、黙って消えたり、音信不通になったりなんてしないわ」

「私たちはずっと友達────ズッ友だよ♪」

 

カズマを安心させたくて、笑顔でアタシ等は、そう言った。

 

「────────────ありがとう」

 

写真と同じ笑顔で、カズマは応えてくれた。

──────あー、なんか顔が熱いな!繋いだ手が熱いから、その熱でも伝わったかなー!!

 

「ふふ、銀ったら顔が真っ赤よ?」

「う・・・・うるさいなー!!」

「えへへ~♪良かったね、かずくん」

「フッ・・・・・そうだな」

 

そうして、アタシ等は"ともだち"になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで・・・・・かずくんはわっしーのこと、いつまで名字で呼んでるの~?」

「へ?」

「そういや、須美もだよな。カズマのこと、ずっと名字呼びしてる」

「良い機会だし、わっしーもかずくんのこと、あだ名で呼んでみたら~?」

「えぇ・・・・それは、ちょっと・・・・・」

「でも、せっかくズッ友になったんだしさ・・・」

「うーん・・・・・・・」

「鷲尾、無理に呼ばなくていいから」

「────────一正くん」

「何?」

「これからは、一正くんって呼ぶから」

「マジかよ」

「ほらほら、須美だってそう言ってる事だしさー。キミも乗ったらどうかねー?カっズマく~~ん♪」

「──────楽しそうにしやがって」

「・・・・・・・」

「ドキドキ♪ワクワク♪」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・須美

「声小っちゃ!?」

「五月蝿いな・・・・・!おれもちゃんと呼んだだろ!」

「声小っちゃ過ぎて聞こえませーん」

「小さかろうがなんだろうが、言ったモンは言った!」

「聞こえない!」

「言った!」

「聞こえない!!」「言った!!」

「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない!!!」

「言った言った言った言った言った!!!」

「一正くんって、変なところで張り合うのね・・・・」

「そこがかずくんの可愛いところなんよ~♪」

 

 








「────それで、あの後ずっと言い合いを続けたっけなぁ」
「そんな事もあったな・・・・・何もかも、懐かしい・・・・・」

工房を兼任している隠れ家にて、鉛と、昔話に華を咲かせる。

「そういや結局、須美の能力ってなんだったんだ?」
「ああ。そういえば話してなかったな・・・・・」

パソコンからデータを呼び出し、鉛に見せる。

「───────これって」
「そうだ。()()()()()()()()()だ」
「これが観測されたって事は、つまり・・・・」
「そうだ。あいつの能力は"()()()()()()()()()()"能力だ。おれの樹浄化を解呪できたのも、そのおかげって訳だな」

尤も、それが判明した時には諸事情により、それを本人に伝える事が出来なくなってしまっていたのだが・・・

「──────でも、イマイチ何が凄いのかよく分からん」
「考えてもみろ、神託を受ける事の出来る勇者だぞ?未来を先読みし、敵を欺き屠る事が出来る」
「・・・・・・・・すげぇじゃん」
「尤も、それだけという訳では無いのだが・・・」
「?」

懸念材料は、まだまだ多い。
再び連中が動く前に、準備が整えられれば良いのだが………

「大丈夫。勇者は気合いと根性だよ」
「───────おれは勇者じゃ無いが、な」

こうやって、鉛と軽口を言い合っている時は、あの頃に戻れたような気分になれる。


もう、二度と戻れない、あの頃のように………



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しんへいき

アサルトリリィ、なかなか面白いじゃない・・・・!武器の変形ギミックが凝ってるアニメは大好きなのですよ、小生。

そういえば、武器が起動する時に文字が浮かび上がるけど、あれ、ルーンだよね?何かしら、意味があるのかな・・・・?



「お休み・・・・?」

「ええ」

 

本日の訓練が終了すると、安芸先生からそんな通達が下された。

なんでも、しばらくバーテックスの侵攻が無いと神託があったそうな・・・・

 

「お休み・・・・・ちゃんと休めるかしら?」

「何処の社畜だ、須美」

 

まったく・・・・ん?

 

「ニヤニヤ」

「・・・・・・なんだ、園子」

「いやあ、上里さん家のかずくんも、随分と丸くなられたもんですなぁ~~」

「・・・・・・・名字で呼ぶ度不貞腐れ続けられてみろ、名前呼びに馴れるより他に成す術は無いだろうが」

「へいへい。左様にござますか~♪」

 

このやろう・・・・

 

「・・・・だがまあ、休める時に休むのも、務めの内か」

「そうだぞカズマ!特にお前と須美はすぐ無茶するからな!」

「・・・・・・・・銀にだけは言われたく無い」

「一正くんに同意だわ」

「ふぇ!?」

 

ともかく、明日からは休日となる。

訓練が休みなだけで学校とかは普通にあるけどな。

・・・・ふむ、丁度良いか。

 

「みんな、明日おれの家に来てくれ。ちょっと相談に乗って欲しい事があるんだ」

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

翌日────

 

三人を工房の一室へ案内したおれは、早速相談の内容を話した。

 

「実は、おれの新しい兵装を思案しているんだ」

「新しい武器?」

「今ある物だけでは駄目なの?」

「樹浄化の事を知られたからな・・・・なるべく呪いを受けない様な兵装を考えなければならなくなった」

「それは絶対に必要なんよ」

 

・・・・園子の奴、いつになく真面目じゃないか。どうしたんだ?

 

「かずくんの兵装は、全部身体にくっ付けるタイプだから余計に影響が出やすいんじゃないかな?」

「なら、剣や弓のような・・・普通の武器はどうかしら?」

「弓だと、わっしーと被るんよ。銃とかにしたらどうかな~?」

 

────────なんか、おれを置いて話がどんどん進んで行ってるのだが?

 

「フッ・・・・・甘いな、二人共」

 

あーでもないこーでもないと、園子と須美が言い合っている最中、銀が何かを思い付いたらしく、不敵な笑みを湛えている。

 

「ミノさん?」

「銀?何か思い付いたの?」

「カズマ、お前の武装って今出せるか?」

「ホログラムなら」

 

端末を操作し、三つのホログラムを部屋の中央に写し出す。

 

「左の巨大なアームが『ギガント・ローダー』。ミスリル製武器の試験を目的とした装備で、本来は戦闘用では無い」

「先っぽがカニさんみた~い」

「試作品第一号だからな。後で改良を施して戦闘にも充分耐えうる物にするつもりだ。次『バスターアームズ』」

「これ・・・竜巻起こしてたバーテックスをぶっ飛ばした奴か」

「そうだ。後方支援を主目的とした兵装で、『finish blow』時に放てる必殺の一撃、『バスタークエーサー』が最大の売りだ」

「でもそれのせいで、一正くんは・・・・・」

「・・・・・・・ああしなければ、お役目を果たす事は出来なかった。それどころか、全員やられていた可能性だってあり得た。気負うなよ」

「────────」

「・・・・・・・最後だ。空戦用の兵装『スクランダーブーツ』」

「須美を抱えて飛んだやつか。んで、須美。空の旅はどうだったんだ?」

「どうって・・・・別に、何も?」

「えぇー?ほんとにー?」

「何よ、その言い方。本当に何もなかったんだってば」

「──────『スクランダーブーツ』は飛行する為の兵装で、それ以外には何も取り柄は無い。軽量化の影響で防御力は三つの中で一番低くなってしまっているし、武器だって鉛筆削りが二本ある程度。しかし、高速で空を飛行できるだけの推力を持っているから、それを何か、別の事に活かせられれば・・・或いは・・・・」

 

さて、一通り説明も終えたところで、本題に入ろう。

 

「で、銀。お前の案を聞かせてくれ」

「ふっふっふ・・・・よくぞ聞いてくれました!アタシの出す案は─────これだぁ!!!!!!」

 

部屋に備え付けのホワイトボードに書いたのは・・・・・なんだこれは?メカ?

 

「カズマの三つの兵装。それを合体させて、ロボットにすれば良いんじゃね?」

 

銀の案を聞いたその瞬間、園子と須美に衝撃が走った(様に見えた)

 

「ミノさん・・・・・ナイスアイディアなんよ!!」

「そうね!それなら、一正くんが直接戦わなくてすむわ!!」

 

二人はどうしてもおれを戦わせたくないらしい。

まあ、それは、別に、構わない。

 

「・・・・とりあえず、組んでみるか」

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

ロボット製作はあっさり上手く出来た。

『ギガント・ローダー』を脚に、『スクランダーブーツ』を胴とバックパック、『バスターアームズ』をそのまま武器腕にする事で、それらしい物が完成したのだ。

 

「おお、なんか強そうじゃん!!」

「でも頭が無いんよ~」

「ならば端末でも載せるか」

「──────これなら、一正くんはもう、樹浄化に苦しまなくて済む」

 

それは、どうなのだろう・・・・・

しかしまあ、こうして新たな兵装が完成したのは喜ばしい事だ。

 

「名前を決めなくてはな」

「名前~・・・名前~・・・『ビクトリーサンチョ』とか!」

「却下だ」

「そんなぁ~~・・・・」

「では桜花号で!」

「特攻兵器はNGに決まっているだろうが!!」

 

秒で却下され涙目になっている園子と不貞腐れている須美は放っておいて、名前を考える。

 

「・・・・・・・ゼノン」

「ん?」

「なんちゃらゼノン、って感じの名前はどうだ?」

「─────────ふむ」

 

ゼノン

確か、ギリシアという国の主神ゼウスが語源とされる"神"を示す言葉・・・だったか。

 

「む、閃いた!」

「お!ホントか?」

「"機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)"から準えて、マキーナゼノン──────いや、"マギウスゼノン"、なんてどうだ?」

「マギウスゼノン・・・・・・カッコいいじゃん!!」

「えぇ~~"グランドサンチョオー"が良い~~」

「七福神から準えて、"七神"なんてどうでしょう?」

「残念だったな、もう"マギウス・ゼノン"で登録した」

 

ぶーぶーとブーイングする二人を余所に、おれは、出来上がった"マギウスゼノン"を眺める。

 

「・・・・・どうせなら、自立制御システムでも組み込むか」

 

やれやれ、急に忙しくなってきたな・・・・・!

自然に浮かぶ笑みを隠そうともしないで、おれは"マギウスゼノン"のAI設計を始めるのであった。

 

 



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てんこうせい

リメイク前には最初からいた彼女達、ようやく登場です。


「なあカズマ、知ってるか?隣のクラスに転校生が来たんだってさ」

「こんな時期にか?」

 

現在六月の末。もうすぐ一学期も終わりの時期だ。

そんな今時分に転校生・・・・

 

「怪しいな」

「だろ?だからさ、昼休みに隣のクラス───」

 

 

 

 

 

「たぁ~~のもーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

教室の扉が勢いよく開かれ、入ってきたのは見知らぬ女子二人。

鼻歌を歌いつつ教壇に立つシニヨン頭の少女と、その後ろをついて歩く垂れ耳みたいな髪型の少女だ。

 

「・・・・・なんだあいつ等」

「あの二人だよ。さっき話してた・・・・」

「マジかよ」

 

「ボクの名前は枢木明日香!!!この学校の全員と友達になる乙女だぁ!!!!!!」

 

いきなりしゃしゃり出てきてとんでも無い事を言う・・・・!

 

「そしてこの娘はボクの友達第一号にして、一番の親友である────」

「・・・・・・・山伏しずく」

「ずっく共々、ヨロシクね!!!」

 

抱き合って二人仲良くダブルピース。

騒々しい連中が転校してきたものだ・・・・

と、そこへ安芸先生がやって来た。教壇に立つ二人を見て、ギョッとした顔をしている。

 

「えーと・・・・枢木さんと山伏さん?貴女達のクラスは隣ですよ・・・・・?」

「あ、はい。知ってます。ボクら、挨拶しに来ただけなんで」

「はぁ・・・・挨拶?」

「ボクの夢は、全人類と友達になること!!その第一歩として、まずはこの学校の全員と友達になります!!」

 

どえらくデカイ夢を語るものだ・・・・

 

「その為の挨拶、ということ?」

「イエーイ♪ざっつらーい!!」

「・・・・・・・イエーイ」

 

あの山伏とかいう奴、無表情の割にノリが良いな。

 

「・・・・・事情は理解しました。けれどもうすぐ朝のホームルームが始まるから、自分達のクラスに戻りなさい」

「はーい」

「・・・・・・・」(コクリ)

 

こめかみを押さえる安芸先生の指示に大人しく従い、二人は仲良く手を繋いで教室から出ていったのだった。

 

「・・・・・・なんだったの、あれ?」

「・・・・・・おれが知りたい」

 

少なくとも、今理解できるのは、あの二人に関わったらロクな目に逢わないだろうということだな・・・・・

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「再びのたぁ~~のもーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

二人が再来したのは、昼休みに入った直後だった。

 

「勇者のお役目ってのに選ばれたのは、どこのどいつだーーーーーーーーーーー!!!」

「あたしだよぉ!」

「おいバカ乗るな園子ォ!?」

 

とまぁそんな訳で、二人にはあっさりバレた。

 

「よぉし、早速ボクらと友達になろーぜ~~♪」

「うん♪良いよ~」

「軽っ!?」

 

友達イェイイェーイ♪

と謎のダンスを踊りながら、園子と枢木は友達になった・・・・・・・らしい。

 

「流石ね、そのっち・・・・・彼女の乗りについて行けるなんて・・・・・」

「見習おうとは思うなよ?」

「─────────────」

「おい待てなんだその沈黙は」

「それじゃ、今度の日曜日にね~♪」

 

なんて言ってる間に遊ぶ約束交わしてやがる!?

まあ良いか。

こうやって、普通の日常を送ることも大事なことさ。

 

「ところでキミ!」

「え?私?」

 

なんて考えていたら、今度は須美の両手を取ってずずいっと顔を近付けていた。速ぇーなこいつ・・・・いったい何をいうつも─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっぱい、でっかいねえ」(無駄なイケボ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、おれと山伏によるダブルラリアットが、枢木の頭に炸裂した。

 

「メメタァ………!!」

「おどれは何を言うとるとかァ!!!」

「本能が叫びたがってたので」

「死ね」

「ぬわがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

山伏の死刑宣告を受けた枢木は、そのままチョークスリーパーを受けて教室の床に沈んだ。

で、セクハラを受けた須美はと言うと、顔を真っ赤にしておれの背中に隠れている。いや、なんでおれなんだ?

 

「でも分かるよ・・・・須美のお山は、クラスでもご立派だもんな」

「とても良い顔で何を言う」

「だよねだよね!これぞまさしくチョモランマ!!って感じのがァァァァァァァァァ!!!!!!」

「沈め、変態野郎」

 

一瞬、山伏の拘束を解いた枢木が、銀に同意。その後直ぐ様山伏に再び首を絞められた。

 

「もう・・・!銀!!」

「まあまあ、そうカッカすんなって」

「合宿の時も、そうやって私の胸を触ろうとしてきたでしょ!」

「ちょっと待って!!その話詳しぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

「割って入るんじゃねぇよ沈めオラ」

 

・・・・・なんか、山伏の性格変わってないか?まあ良いか。

そして園子は、満面の笑みを浮かべて超高速でメモ帳に何か色々記入していた。

 

「えへへ~♪メモメモ~~♪はぁ~~楽しみだな~~日曜日~♪」

「・・・・・・・・はぁ、大変そうだな、日曜日」

 

 

 



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さつえいかい

ゆゆゆ六周年おめでとう!!!!!!

しかし六周年とは・・・・・いつの間にか、こんなに時が経っていたのか・・・・


日曜日────

 

 

「ヘ~イわっしー⤴️レッツ!!エンジョイ!!キャガワラーイフ!!!!!!」

「むぐーーーーーーーーーーー!!!むぐむぐむぐーーーーーーーーーーー!!!!!!」

「・・・・・・・・・・・うわぁ」

 

そのっちのお家で遊ぶ約束をした日。家までお迎えを出すと話していたけれど・・・・・

 

「あの・・・・一正くん、大丈夫ですか?」

「むぐむごむぐぐ・・・・!」

「あはははははは♪カズヤ~、何言ってるかわかんないよ~?」

「────────猿轡されてるから、当然」

「いや、一正くんが猿轡噛まされているのも簀巻きにされてるのも、理解出来ないんですが・・・・(汗)」

 

なんなの、これ・・・・?どういうこと・・・・?なんでそのっちのお家の車の中で、一正くんが縛られているの???

と困惑していると、メッセージが届いた。一正くんからだ。

・・・・・どうやって操作してるのかしら?

 

 

一正>休日テンションでかなりhighになった園子にやられた。猿轡は枢木に噛まされた。なんでそんなん持ってんの・・・・・

 

 

須美>・・・・・・こっちが知りたいわよ

 

 

銀>草wwww

 

 

園子>おハーブ生えますわwwww

 

 

明日香>ますわーwwww

 

 

一正>主犯共ォォォォァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

しずく>ほんと草

 

 

「─────大変な休日に、なりそうね」

 

これから起きるであろう混沌の時間を予見した私の心は、どうしてなのか、わくわくしていた。

 

──────view,change:一正────────

 

「────という事があったんだ」

「そうか・・・・・大変だったな」

「現在進行形で大変な目に合っているお前に言われると、身に沁みる思いだよ」

 

死んだ目で見つめあい、同時にため息を吐いた。

現在銀は園子達によって着せ替え人形とされていた。

園子の保有する可愛らしい衣服を、園子と枢木によってとっかえひっかえに着せ替えさせられていた銀は、若干憔悴している。

 

「はふぅ・・・・・・良かったわ・・・・・!」

「オゥ、イェース・・・・・ビューリホー・・・・・」

 

部屋の真ん中では、カメラを抱えて恍惚とした表情で横たわる須美と枢木の姿がある。

先程まで銀のファッションショーを独占取材していた両名は、「アリアリアリ」とか「ウリィィィィィィィィ」とか叫びながら写真を撮りまくっていた。

なんだよウリィィって・・・・テンション高過ぎだろ・・・・・正直、引くわ。

 

「それじゃ、次はわっしーね~♪」

「ええ・・・・・・・・・・・・・・・えぇ!?」

 

やっぱまだ続けるつもりか・・・・・そうだろうと思っていたけど・・・・・

そんな園子が衣装タンスの中から取り出してきたのは、純白のドレス。フリルがふんだんにあしらわれており、実に園子好みの衣装だ。

 

「これなんてどうかな~?わっしーに似合うと思うんよ~♪」

「そ・・・・そんな非国民な衣装・・・・!?」

 

非国民ってなんだよ。

 

「いやいや!アタシも似合うと思うぞ!!」

「銀っ!?」

「純白肩出しドルェェェェェェェェッス!!!!!!!これにはテンション上がらざるを得ないッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

これ以上テンション上がるんかい。

 

「さあさあさあ!わっしーにも着替えてもらうんよ~♪」

「須美の艶姿、撮影させてもらうからな~!!」

「撮影する者は、撮影される覚悟のある者だけだッ!!!!!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

園子、銀、枢木の三人に追いかけられ、須美はほどなく捕縛され着せ替えられる。

 

「─────────後はごゆっくり」

 

須美のあられもない姿を見る前に、おれはその場から逃げ出した。

 

うらぎりものぉぉぉぉ………という須美の声が聞こえてきた気がするが、気のせいだな。

 

 

 



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およぎのとっくん

七月に入れば、プール開きが行われる。

おれ達はその前にプールを貸し切り、遊ばせてもらっている。

 

の、だが………

 

 

「ヒャッハァーーーー!!プールだ!水着だ!ラッキースケベだァーーーー!!!」

「・・・・・・・・・・へんたいが生き生きしてる」

「縛り付けて置いた方が良いな・・・・アレは危険だ」

 

 

おれの一言に頷いた一同は、変態(枢木)を簀巻きにしてプールサイドに放置。ついでに『罰ゲーム中』という張り紙を顔面に張り付けておいた。

これで安全。

 

「よっしゃ、遊ぼう!」

「んむー!!んむむむーー!!」

 

・・・・・・いつの間に猿轡つけた?え?須美が?

・・・・・・・・そうか。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「んで・・・・・なんでプール?」

「んも~、ミノさん忘れたの~?今日はかずくんの泳ぎの特訓なんよ~」

 

そう、今回プールに来たのは他でも無い。おれが泳げるようになる為の訓練を行う為だ。

 

「上里、泳げないの・・・?」

「ん・・・・・まあ、な・・・・」

 

水泳だけでなく、おれは運動全般が苦手だ。

しかしだからと言って、苦手を苦手のままにしておく訳にもいかない。

そんなこんなで園子達に協力を仰いだという訳だ。

まさか山伏と枢木も着いて来るとは思わなかったが………

 

「それで、一正くんはどのくらい泳げるの?」

「少なくとも、水中で目を開けられる程度だな」

「それって、泳ぐ以前の問題じゃね?」

「・・・・・・・・・・・そうだな」

「─────前途多難」

 

ぐぬぬ・・・・

 

「えーい!勇者は根性!!何事もチャレンジしてこそでしょ!」

「そうだな。おれは勇者じゃないから、そこに努力も追加させてもらうとしよう」

 

そうして水泳訓練は始まった。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

しばらく訓練を続け、段々泳ぐ事にも馴れてきた。

 

「後はもう少し速く泳げるようになれれば・・・・」

「カズマは何を目指しているのさ」

「上里の名を預かっている以上、醜態は晒せないだろう」

「ふーん・・・・・そんなもんかね」

「そんなもんさ。理解して欲しくは無いけど」

 

できる事なら、銀にはこの重圧を背負って欲しく無い。

そんな風に思えるようになったのも、きっと、彼女たちに会えたおかげなんだろうな・・・・

 

「そういう責任感の強い処は一正くんの美点だけど、もう少し肩の力を抜いたら?私が言うのも変かもしれないけど」

「そうだよ~、わっしーの言うとおり。かずくんは真面目さん過ぎるんよ~」

「そういうお前は不真面目過ぎるがな」

「えへへ~♪」

「褒めてねーよ」

 

全く・・・・・

 

「・・・・・上里、楽しそう」

 

山伏が温かい眼差しでおれを見ている。そういうのやめろ。

とりあえずおれはプールサイドに上がり、休憩を取ることにした。その間、須美と銀が競泳を始め、浮き輪でのんびりと浮かぶ園子がどちらも応援したりしていた。

───────と、その時だった。

 

 

 

 

 

「ヒャッハァァーーーー!!!隙アリィィィーーーーー!!!!!!」

「わひゃあぁ~~!?!?」

 

 

 

 

 

いつの間にか脱出していた枢木が園子の背後から出没。そのまま園子に絡み付く。

 

「ぐへへ、のっこはええカラダしとりますの~」

「あっ、やめ・・・ひゃうん!?」

「ほれほれ~、ここがええのんかー?んー?」

「あはははははは!!やめっ・・・・かずくっ・・・・助けっ・・・・あはははははは!!!」

 

やべーな、触り片が変態の其だ・・・・・早くなんとかしなければ・・・・・・だが・・・・・

 

「あっ・・・・・ぅん・・・・・ひゃうぅ・・・・・」

 

頬を紅潮させて、艶かしい声を上げる園子。暴れる所為か若干水着がズレてきている。それが更に艶やかさに拍車をかける。

ヤバい。

色々な意味でヤバい。

 

「・・・・・・・・・・・・・てい」

「あばぁ!?」

 

そうこうしている内に、山伏が枢木の頭を叩き、園子から引き剥がした。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・た・・・・助かったんよ・・・・・」

 

浮き輪の上で息を荒げる園子。

───────────────────うむ。

 

「ぬわぁ~~~にが・・・・『うむ』だ、この変態ィ!!!」

「────────待て、不可抗力だ」

「一正くん・・・・・見損ないました・・・・!!罰として貴方を簀巻き罪に処します!!」

「解せねえ・・・・」

 

この後、須美と銀によって簀巻きにされたおれと、亀甲縛りにされた枢木は、顔面に『スケベ罪』と書かれた張り紙を貼られて、プールサイドに放置されるのであった。

 



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きになること

自分でも最低だとは思うのだが、山伏と枢木の家の事について、少し、調べさせてもらった。

 

どうやら山伏は─────彼女の両親から、虐待を受けていた、らしい。

そんな彼女に手を差し伸べたのが、枢木だった。

 

「だから、あんなに────」

 

ずっと、気になっていた。二人の関係について………

 

「──────データだけでは、判断が着かないな」

 

おれは意を決し、直接二人・・・・否、()()に聞いてみる事にした。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

翌日────

 

「すみません。山伏はいますか?」

 

昼休み。隣の教室へ山伏を訪ねる。

 

「おん?カズヤじゃんー。ずっくに何の用事?」

「・・・・・おれは一正だ。呼んでもいないのに、何故出てきた?」

 

山伏を呼んだはずが、枢木が現れた。と、良く見れば枢木の後ろに山伏がいた。

 

「・・・・・・・・・なに?」

「いや、大した用事では無いのだが・・・・・放課後、時間あるか?」

「え?・・・・・・うん」

「そうか。少し、誰にも聞かれたく無い話がしたい。放課後に屋上で待ってる」

 

要件だけ告げると、おれは早々に立ち去った。

 

 

───────view,change:園子───────

 

 

それは、私がお昼寝を堪能している最中のこと・・・・

 

「須美!園子!大変だ、カズマがしずくを屋上に呼び出したぞ!!」

「ふぇ・・・・?ミノさんどうしたの~?」

「はぁ・・・・一正くんが?」

 

ミノさんに叩き起こされて真っ先に聞かされたのは、かずくんがしずしずを屋上に呼び出したという話。

 

「それがどうかしたの~?」

「園子お前なぁ・・・・・あのカズマがだぞ?きっとこれは、何かあるに違いない!」

「はぁ・・・・例えばどんな?」

「例えば・・・・・そう!()()()()とか!!」

 

─────────────────え

 

「あ・・・・あああああああ愛ぃ!?何故そこで愛!?」

「そりゃ、屋上に呼び出して誰にも聞かれたく無い話をするって言うんだから、愛の告白でしょ」

「そうなの?」

「そーなの!」

 

二人の会話が遠くに感じる。

かずくんが・・・・告白?

なんで?

どうしてしずしずなの?

ああいう娘が・・・・かずくんの好みなの?

 

「──────園子ー?」

 

相手がミノさんやわっしーならまだ分かる。

けれど、しずしずとはこの前会ったばっかりだよね?

 

「──────そのっち?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かめなくちゃ」

「え?あ、おい園子!?」

「そのっち!?何処へ行くの!もうお昼休みは終わってしまうわよ!!」

 

二人の静止を振り切って、私はかずくんのところへと駆け出して行った。

 

 



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ふたりのしずく(シズク)とかれのもくてき

今の時間なら、次の授業の準備のために、先生のいる準備室にかずくんは向かっている。

 

「かずくん見~~っけ♪」

「む・・・・園子か。どうかしたか?」

 

かずくんに向かって勢いよく突撃。そのまま抱き付くフリをして、ズボンのポケットに盗聴器をしかける。

 

「─────いきなりなんだよ」

「あはは~~、ちょっと勢い付けすぎちゃったんよ~~」

「で、何の用だ?」

 

用事がなくちゃ、いけないの?

 

「ううん。何でも~~・・・・・かずくんを手伝おうと思って・・・・」

「珍しい・・・・明日は雨かもな」

 

なにそれ。私がかずくんのお手伝いをするのが、そんなに珍しいの?

 

「えぇ~?そうかな~?」

「少なくとも、いつもならこの時間は昼寝してるだろう、お前は」

「えへへ~~、ちょっとね・・・・」

「まぁ良い。手伝ってくれるなら有難い。早速なんだが・・・・・」

 

釈然としない気持ちのまま、私はかずくんのお手伝いをした。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

────そして放課後。

 

「カズマの奴、行ったな。よし!アタシ達も行動するぞ!」

「・・・・・・・やっぱり、覗きなんて良くないわ」

「なんだよー。須美は気にならないのか?」

「そりゃ、気になるけれど・・・・・」

「それじゃ行こう!園子も─────」

「Zzzzz………」

「────────寝てる」

「────────起こしては悪いし、そのっちは置いて行きましょう」

「うーん・・・・・まあ、良いか。すまん、園子。寝てるお前が悪い」

 

ごめんね、ミノさん、わっしー。本当は起きてるんよ・・・・・

腕の隙間からチラリと覗いて、二人がかずくんの後を追っかけて行ったのを確認し、私は仕掛けた盗聴器からの音声を聞く。

 

『──────誰にも聞かれたく無い、と言ったはずだが?』

『・・・・なんか、ごめん』

『だってさー、カズヤがずっくに告るかと思ったら・・・・・そんなん見届けないとじゃん!!』

 

どうやら、くるるんも一緒のようだ。

くるるんはすごいな・・・・いっつもあんなに堂々としてて、ちょっと、羨ましい・・・・・

 

『は?告る?何を?』

『何って・・・・そりゃもちろん、愛の告白でしょ!!!』

『────────────あー、なるほど。園子達の様子がおかしかったのはそのせいか』

 

ほぇ?

 

『おれはただ、聞きたい事があったから呼んだんだ。多分、他の誰にも聞かれたく無い話だろうからな』

 

それって、どういう・・・・?

 

 

 

 

 

『単刀直入に聞こう。()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 

 

 

 

『──────────質問の意味が分からないなぁ』

『とぼけるな。おれは全て知っているぞ』

『っ────』

『お前達が越して来た少し前・・・・()()()()()()()()()()()()()()()

『─────────────────へぇ』

『男性と女性は死んでいたが、奇跡的に一人娘は生きていたそうだ。そして、その娘は隣に住む一家に引き取られたと・・・・』

『──────────────────だから?』

『気になって調べてみた。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と』

『───────────────────────』

『枢木家は、旧暦最期の首相の血族だそうだな。更に言えば、源流は暗殺を生業とする一族だったとか』

『そうなの・・・・?』

『───────────────────────』

『そして、その暗殺技は"護身術"として今も尚、受け継がれている・・・・と』

『なるほどなるほどー・・・・・・じゃ、その護身術を食らってみる?』

 

次の瞬間、聴こえてきたのは取っ組み合う音。

 

『おい!止めろって!!』

『待って・・・!待ってください!!明日香さん!!!』

 

更にわっしーとミノさんの声が聴こえてきた。

かずくんが危ない・・・・!

いてもたっても居られなくなって、私も屋上へと向かった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「かずくん!!」

 

屋上に到着した私が見たのは、かずくんに掴み掛かろうとしているくるるんと、くるるんを抑えているわっしーとミノさんの姿。

 

「ああっ!そのっち、良いところに!!お願い、明日香さんを抑えて!」

「くっそ・・・・なんで二人がかりで抑えきれないんだよ!?」

「──────────────」

 

くるるんは、見たことも無い無感情な顔で、二人を振り切ろうとしていた。

 

「───────かずくん、これが、かずくんのやりたかったことなの?」

「・・・・・・・・・・・・枢木」

「何かな。命乞いでもするつもり?だとしたらそれは無駄。"決めた"以上、貴方には死んでもらう。ずっくの両親と同じように」

 

淡々と話すくるるん。

これが・・・・あの子の素なの?

 

「ふっ────それで良い」

 

 

『はぁ?』

 

 

思わずすっとんきょうな声が、全員から出た。

かずくんは何を言ってるの?

 

「別におれは、このことを公表しようとは考えていない。安心して良い」

「──────────────」

「信用出来ないと言うならば、ここでおれを殺せば良い。だがおれは、こんな所で死ぬつもりなぞ無い」

 

と、その時、しずしずがくるるんの手を掴んで止めた。

 

「止めとけアスカ。んな事したって、意味なんか無ェよ」

「───────しずっち」

 

あれ?しずしず・・・・だよね?なんだか雰囲気が別人みたいな・・・・・

 

「おい、上里。なんだってこんな事をする?場合によっちゃ、お前死んでたぞ」

「そうまでしてでも知りたかったからな。枢木が、どれだけ"出来る"のか」

「・・・・・・んで?ボクはカズヤのお眼鏡に叶ったのかな?」

「一正だ。結論から言えば、文句なしの合格だよ。大切なモノの為に、そこまでヤれる覚悟がある奴を、おれは欲していた」

「どういう意味だ?」

 

しずしず(?)からの質問に、かずくんは屋上からの景色を見ながら答える。

 

「─────この世界は狂っている。大赦による統治が永く続き過ぎたお陰で、神樹信奉が生活の基盤となってしまっている。まあ別にそれは良い。神を崇める事自体は悪い事じゃない。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・!」

「ひと・・・・ばしら・・・・?」

 

今、一瞬かずくんが怖い顔をしてた・・・・

かずくんは、いったい何を知ってるの?

 

「おれは、そんな世界を変えたいと考えている。そして、その為の仲間を求めている。枢木の覚悟は見せて貰った。頼む、おれに協力して欲しい」

 

そう言ってかずくんはくるるんに頭を下げた。

 

「・・・・・・・・・・・・(ぽかーん)」

 

対するくるるんは、ぽかーんと口を開けて呆然としてる。

 

「・・・・・・・お前まさか、その為にこんな危険な賭けに挑んだってのか?」

「先程も言ったが、それだけの価値があったからな。命の一つや二つ、安い物だ」

「かずくんはさぁ・・・・・・・・」

 

思わずため息が出た。ミノさんも同じだ。

 

「・・・・・一正くんは、もっと自分の事を大切にして下さい」

「そうは言うが─────」

「言い訳は聞きたくありません!!!」

 

あーあ、わっしーがお説教モードになっちゃった。

 

「・・・・・・・・・園子、銀」

「私、知ーらない」

「カズマが悪い」

「────────────────解せねぇ」

 

かずくんが"なんでさ"って顔をしたのと同時くらいに、後ろから笑い声が聞こえてきた。

くるるんとしずしずだ。二人とも、お腹を抱えて笑ってる。

 

「ひぃ・・・・・ひぃ・・・・・上里お前・・・・頭良い様に見えて、実はバカだな!?」

「ち・・・違うよしずっち~~。カズヤは頭が良すぎて一周回ってバカになっちゃったんだよ~~あははははは!!」

 

ミノさんと顔を見合わせ、釣られて私達三人も笑い出す。

一人、笑われているかずくんは、更に遠い目で私達を眺めていた。

 

「はぁ・・・・・あー、お腹痛い!良いよカズヤ!ボクと同盟を組もうじゃないか」

「同盟、か・・・・善し、交渉成立だな」

「あ~、じゃあじゃあ!私達でクラブ活動しようよ!」

「は?クラブ活動?」

 

私の提案に、かずくんが怪訝な声をあげる。

 

「私、前にミノさんとかずくんがいろんな人のお手伝いしてるのを見て、ずっと思ってたんだ~~。『私もあんな風にできたらなー』って」

「ならやれば良いだろ」

「そうだな。カズマの言う通り」

「流石に、ミノさんみたいには上手にできないよ~~」

 

こほん、と咳払いを一つ。

 

 

 

「なので!ここに『神樹館勇者倶楽部』の発足を宣言するんよ~~~~!!」

 

 

 

「勇者倶楽部・・・・?」

「それが、倶楽部の名前なの?」

「良いんじゃねーか?カッコいいしよ」

「じゃ、決ーまりっ!メンバーはここに居るみんなだよ♪」

 

こうして、『神樹館勇者倶楽部』が誕生した。

それからの日々は、とても楽しくって、毎日が宝石みたいにキラキラしていた。

 

こんな毎日が、ずっと続けば良いな・・・・・

 

そう、思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日────7月10日までは………

 




次回、"7月10日"


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7月10日 -序-

オ ワ リ ノ ハ ジ マ リ


今日は遠足の日だ。

事前に須美から渡されたクソ重い手製のしおりをどうにか読み終え、万全の準備をした今のおれに、死角は無い。

 

「いってらっしゃ~い」

「いってきます」

「お土産、待ってるからね~」

「───────────いってきます」

「あらあら~?今の間は何かしら~?」

 

お土産のことを忘れていたなんて、口が裂けても言えないので、急いで集合場所に向かう。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもので、本日の遠足、最後の場所に到着した。

 

「わわわっ!?揺れる揺れる~~!?」

 

枢木と山伏と合流したおれたちは今、アスレチックコースを攻略中。

まあ、園子も楽しんでいるようでなによりだ。アイツらしい独特な楽しみ方をしているが。

 

「そのっち、頑張ってー!」

「勇者は気合いと根性だぞー!」

「むむっ、勇者は気合いと──────」

 

勢い良く、園子が飛び出す。

 

「根性~~!!」

「・・・・っと」

 

それを銀が見事なお姫様抱っこでキャッチ。

 

「よくできました!えらいえらい♪」

「えへへ~~♪ミノさんに撫でられると、テレるんよ~~///」

「・・・・・・・むー」

 

あ、須美が二人の間に割り込んだ。

 

「何やってんだ、お前」

「・・・・・・・だって、そのっちばかりずるい」

「まるで、犬・・・・」

 

んで、結局銀に撫でられてご満悦の須美であった、と。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

アスレチックコースもいよいよラスト。ほぼ垂直の壁を垂らされたロープを掴んで登るアスレチックだ。これを越えればゴールとなる。

 

「ふふん♪この程度、銀さんならヨユーヨユー♪」

「ちょっと銀!危ないわよ!」

 

銀が片手だけでロープを登っていく。あれは・・・・不味いな。と思った傍から────

 

「痛っ─────あっ!?」

「銀っ!!」

「わわっ!?ミノさん!!」

「っ!!!」

 

手を滑らせて(?)銀が落ちる。ダッシュで銀の落下地点を予測しつつ、そこに飛び込む。

 

「ぐえ」

「あた!?・・・・・・うわっ!カズマ!?」

「二人とも大丈夫!?」

「かずくんナイス飛び込み~」

「───────本当は上手い事キャッチしたかったんだがな」

 

銀がおれの上から退いた後、ゆっくりと立ち上がる。うん、銀にはどこも怪我は無いな。

 

「・・・・・・ごめん、カズマ。アタシのせいで───」

「ん?何がだ?」

「え?」

「おれなら無事だ。そしてお前も無事だ。なら、今回の事を反省すれば、それだけで良い」

「──────カズマ」

「駄目よ」

 

須美の奴がピシャリと言い放つ。あーあ、相当ご立腹なようで・・・・

 

「もう!危ないって言ったじゃない!!はしゃぐのは結構だけど、もうちょっと慎重に行動して!!」

「うぅ・・・・・ごめんなさい・・・・」

「まあまあ、ミノさんも反省してるみたいだし・・・・ね?」

「むー・・・・」

 

園子が須美を宥め、銀は俯く。

 

「うん・・・・反省してるよ・・・・・これからは──────口数を減らします♪」

 

テヘペロ♪なんて言いそうな顔で銀は宣言した。

 

「──────反省してない」

「あははははは♪」

 

まったく・・・・・やれやれだ。

 

「何はともあれ、ゴールしたんだしさ。アレやろうよ、アレ」

「アレ?・・・・どれ?」

「やだなぁ~。アレって言ったら、アレじゃん」

 

そう言って、枢木はゴールの向こうにあるものを指差した。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

アスレチックコース全制覇の鐘が鳴り響く中、おれはアスカと共に先に展望台に来ていた。

 

「で?話ってなんだ?」

「───────ボクの家のこと、全部知ってるんだよね?」

「───────ああ、知ってる」

「そっか・・・・・・」

 

沈黙が流れる。

 

「────────────枢木家は」

 

不意に、枢木が沈黙を破り、語り始めた。

 

「枢木家は、この四国において、"呪われた一族"って呼ばれているんだ」

「────────────」

 

 

"呪われた一族"

 

旧暦の時代に、高知のとある村で起きた事件が原因で、彼女の一族はそう呼ばれている。

枢木家の人間が、村の住民を惨殺。それを止めたのは一人の勇者だったと言う………

 

「枢木の血を引く者はね、『愛する誰かを何をしてでも護る』呪いにかかっているんだ」

「呪い・・・・・」

 

本当かどうかは不明だが、その惨殺事件も『呪い』のせいなのだと、神樹の記録には残っている。

 

「ボクがずっく────しずくに出会ったのは六歳の頃だった。当時から両親に虐待を受けていて、身体中にアザができてたんだ・・・・・・そんな彼女を、ボクは見過ごせなかった」

「それが、二人の馴れ初めか」

 

うん、と枢木が頷いた。

 

「しばらくは、ウチで預かったりして、しずくを匿っていたんだけど・・・・・・・こっちに引っ越してくる少し前に、事件が起きた」

「事件?」

「しずくの両親が無理心中を謀ろうとしたんだ」

「────────なるほど、そうだったのか」

 

これで合点がいった。

枢木家が如何に富豪であろうとも、完全な証拠隠滅は不可能だ。

にも関わらず、完全に自殺と認定されているのは─────そもそもの状況が自殺としか認定できない状況だったから。

 

「しずくもろとも死のうとしてたあの二人を殺して、ボクはしずくを助けた。あとは多分、知ってる通りだと思う」

「────────何故、今話した?」

「んー、なんだろ・・・・・?今しか話す機会が無いような気がしたんだよ」

「・・・・・・・・・そうか」

 

再びの沈黙。

 

「─────んー、ま!ともかくだよ。ボクが言いたいのは、イロイロあるけど、今後ともシクヨロだよ、()()!」

「!・・・・ああ、此方こそ。()()()

 

友情のシェイクハンドを交わす。

なんだか、枢木─────否、アスカとは上手くやっていけそうな気がすr

 

「さぁて、それじゃあすみちーの着替えを手伝ってくるとしようかねぐへへへへ」

「須美に殺されるぞ、お前・・・・・」

 

───────と、思っていたが、気のせいだったらしい。

 

 



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7月10日 -破-

そういえば、11月10日って銀ちゃんの誕生日やね。おめでとう!





沢 山 苦 し ん で ね ♪ (鬼畜スマイル)



楽しかった遠足も終わり、おれたちは帰路に着く。

アスカと山伏とは自宅が別方向なので、ここには園子たち三人とおれしか居ない。

夕焼けに照らされる帰り道、遠足の楽しかった思い出を語り合うおれたち。

 

 

 

 

 

しかし、そんな平穏は、音を立てずに崩れ去る。

 

 

 

 

 

「・・・・?」

 

最初に気付いたのは銀だった。

少し遅れてアラートが鳴り、おれも気付く。

 

「────お役目の時間か」

 

遠足中に来なくて良かったと取るべきか、否か・・・・

 

「帰るまでが遠足だ。とっとと片付けるとしよう」

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

改良した『ギガント・ローダー』こと、『マキシマムローダー』を装備し合流したおれが目撃したのは、壁の向こうからやって来る()()()()()()()()()()姿()

確か、蠍座(スコーピオン)蟹座(キャンサー)だったか・・・・

奴らは知恵を持っている。そして、おれたちとの闘いを経て学習しているのだ。今まで一体ずつで追い返されてきたのだから、二体同時に出撃させればどちらかが神樹にたどり着けるだろう・・・・なんて策を思い付くのも当然だ。

だから冷静に、二手に別れてバーテックスに対処していた。

蠍の針に毒が仕込まれている事も、蟹の装甲が硬い事も、神樹から得た情報で知っていたおれは、それにも対応できるように作戦を練り、バーテックスを着実に追い詰めていっていた。

 

 

 

 

 

だが、それを嘲笑うかの如く、空から絶望が降り注いだ。

 

 

 

 

 

園子が傘を広げ、その中に全員で入りやり過ごす。降ってきたのは針の雨だった。

 

そして、おれたちは無防備にも針の雨の中で立ち止まっていた。

その瞬間を待っていたと言わんばかりに、蠍が尾を振り払い攻撃してきたのだった。

再生力に物を言わせた捨て身の一撃は、咄嗟に作り出した壁代わりのコンテナを破壊して、おれたちを凪ぎ払った。

おれと銀は、それぞれの武器でガードした為に致命傷は避けられた。

が、問題は傘を広げていた園子と、後衛故に盾を持たない須美だった。

尾の一振りに吹き飛ばされる二人を、おれは只、呆然と見ているしか出来ずにいた。

 

「──────そ、の」

「カズマぁ!!!!!!」

「ッ!?」

 

銀の叫び声で正気に戻ったおれは、背後から迫り来る矢弾を間一髪で弾き、それにより、奇襲を掛けてきた相手が射手座(サジタリウス)である事を理解した。

 

「銀っ!!プランZ(全力で逃げろ)!!!お前は須美を!おれは園子を担いでいく!!!」

「りょーかい!!」

 

『マキシマムローダー』に新たに増設した肩のビーム砲を乱射し、バーテックス共を撹乱しつつ、園子を回収。

 

「園子・・・・」

 

園子に声をかける。が、返事が無い。呼吸は小さいが脈はある。大丈夫、ちゃんと生きてる。

 

「・・・・・・畜生」

 

なんで、こんな事に・・・・

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「────ふぅ・・・・で、どうする?」

「───────────────────ぇ」

 

安全地帯の崖にどうにか逃げ込めたおれたちは、須美と園子に応急措置を施した。しばらく安静にすれば、歩くくらいはできるだろう。しかし、それだけでは駄目だ。

 

「アタシとカズマであの三バカ、どうにかしなくちゃだろ?なんか一発逆転の作戦ないの?」

「────────────────────」

 

しばらく思案して、「ある」と頷く。

 

「あるの!?さっすがー♪で?アタシはどうすれば良い?」

「・・・・・・・・・ああ。うん、そうだな・・・銀は──────」

 

 

 

 

 

とん、と銀を押し出して、崖から突き落とす。

 

 

 

 

 

「え?・・・・・・なっ!?とぁ!!」

「─────流石に素直に落ちてはくれないか」

 

ギリギリで崖に掴まって、銀は落ちずに残ってしまった。

 

「ちょ・・・・・ちょっとカズマ!?ふざけるなよ!危ないだろ!!」

「下は海だ。今のお前なら平気だろ」

「冗談キツイっての!!!いいから早く持ち上げて────」

 

 

 

 

 

「悪い。これしか、今のおれに思い付ける作戦が無いんだ・・・・・・」

 

 

 

 

 

銀の手を蹴飛ばし、ようやく銀は海へと落下していってくれた。

 

「カズマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────────」

「──────こうしなければ、お前を護れない。だから、ごめん」

 

自らの非力さを呪いつつ、おれはバーテックス共の下へと向かって行った。

 

 

───────view,change:銀────────

 

 

「ぷはぁ!・・・・・くっそー、カズマのバカ野郎・・・・・・」

 

カズマに突き落とされたアタシは、どうにか岸にたどり着き、上陸を果たした。

 

「うぅ・・・・びっちょびちょじゃん。これ、元の服に戻ったら乾いてるかな・・・・・」

 

と、そんな事気にしてる場合じゃない!急がないと・・・・・

 

「カズマ、無事でいろよ!」

 

全速力でバーテックスを追いかける。どうやらいろいろやってる間にだいぶ進んでしまっていたようだ。

 

「──────見えた!」

 

戦闘の光。なんとか間に合ったみたい。

 

「カズマ!」

 

だが、アタシの目に飛び込んで来たのは──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背中から、杭で貫かれる、カズマの姿だった。

 

 



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7月10日 -糾-

泣き声みたいな雄叫びが聞こえて、おれは目覚めた。

 

 

どうやら、血溜まりの中に、倒れている、ようだ。

 

 

痛みは無い。むしろ、身体の感覚が、無い。

 

 

端末から、アラートが、鳴り響く。

 

 

どうやら、心臓が、止まっている、らしい。

 

 

いまいち、はっきりしない、視界を動かして、戦場を見る。

 

 

三体のバーテックスと、銀が、戦っていた。

 

 

・・・・駄目だ。このままでは、銀が──────

 

 

「・・・・くそ・・・・・・寝てる・・・・・場合じゃ・・・・・・ない・・・・・・・な」

 

 

動かない腕を無理矢理動かし、ベルトの端末を操作する。

 

 

『システムF起動。各アーマメント、全機装着。全魔力タービン、回路接続』

 

 

待ってろ、銀・・・・・・今、たす・・・・け・・・・・

 

 

───────view,change:3rd────────

 

 

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

泣き叫びながら、銀は三体のバーテックスと戦っていた。

今、彼女の心は、一正がやられた事への絶望と、憤怒と、後悔でいっぱいだった。

感情が、濁流のように押し寄せて、自分でも抑えきれなくなっていたのだ。

 

故に、バーテックス達を圧倒していた。

 

故に、バーテックス達の連携を許してしまった。

 

「・・・・・・・しまっ!?」

 

気付いた時にはもう遅い。先程、一正がやられた連携攻撃─────キャンサーの反射板を利用したサジタリウスの連携射撃と、サジタリウス必殺の大型の杭による挟撃が空中の銀を狙う。

 

(くそぅ。ここまでか・・・・・ごめん、須美、園子・・・・・カズマ)

 

自らの死を予見した銀は、次に襲い来るであろう衝撃に備えて瞳を瞑る。

 

 

 

が、衝撃は来なかった。

 

 

 

「・・・・・・・間に合った、な」

「─────────────え」

 

瞳を開けば、目の前には、ヘルメットのバイザー越しに生気の亡くなった瞳で銀を見つめる一正の顔。

 

「カ・・・・・・ズマ・・・・・・・おま・・・・・」

「話は、後だ・・・・・・この、ファイナル、フォームは、三分、しか、もたな、い」

 

バーテックス達を飛び越して背後に一正が着地する。その時になって漸く銀は、自分が一正に抱き抱えられて─────所謂、"お姫様抱っこ"をされている事に気付いて身悶える。

 

「あ・・・・ああああああの!カズマ!!」

「わかってる・・・・今、下ろすから・・・・・暴れる、な」

 

あっさりと自分を下ろしてしまった一正に対し、銀は少し複雑な心境。

 

「そこで、じっと、してろ・・・・・あとは、おれが、なんとか、する」

「カズマ・・・・・・」

 

下ろされて初めて銀は見た、一正の今の姿を。

 

 

両腕には『マキシマムローダー』

 

背中には『バスターアームズ』

 

そして、両足には『スクランダーブーツ』

 

全ての武装を装着していたのだ。

これぞ、システムFの真骨頂。

 

 

その名も『ファイナルフォーム・カタストロフ』

 

 

電気エネルギーを魔力エネルギーに変換する動力炉"魔力タービン"を、各武装にそれぞれ二つずつ増設した事により、可能となったフォームだ。

全ての武装の魔力タービンを直列接続する事で、莫大な魔力を精製する事が出来るようになり、その出力は単純計算でも、通常の十倍以上。

しかし、その莫大過ぎる出力故に、一正の身体が耐えられず、起動させただけでも相当な負荷がかかってしまう。限界時間まで稼働させ続ければ、()()()()()()()()()()()()

 

それを一正は、今、使用している。

全ては、バーテックスを倒し、仲間達を護る為に………

 

「行くぞ、バーテックス・・・・・生命(いのち)残弾数(ストック)は充分か?・・・・・なんて、な」

 

柄にもない事を言い放ちつつ、一正はバーテックスへと飛び立つ。

 

真っ先に仕掛けてきたのは、スコーピオン。尾針による突きを繰り出した。

 

「邪魔、だ・・・!」

 

腰のレールガンと両肩のビーム砲による一斉射。

出力の増した状態の一撃は、スコーピオンの尾を消し飛ばしたのだった。

 

「──────ベイルブレード」

 

続いて一正が取り出したのは、ベイルバートの先端にある発振器部。この部位は本体から分離して、エネルギーの剣"ベイルブレード"となるのだ。

 

「一撃で、終わらせる・・・・・!」

『final limit burst』

 

ベイルブレードを掲げ、エネルギー充填を開始。

光の刃は天へと伸び、そればまるで、摩天楼を想起させる・・・・

 

 

「天網・・・・恢恢」

 

サジタリウスが針弾を発射しようとしているが、時既に遅し。

 

「疎にして・・・・失わず!!」

 

摩天楼が、揺らぐ。

野球のバッティングフォームのような格好で、ベイルブレードを構え、そして、振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天網劍・悪鬼爆恢

 

 

 

 

キ・・・・ン

天網劍・悪鬼爆恢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

樹海の中を、二人の少女が歩いている。

 

園子と、須美だ。

 

一心不乱に歩いて行き、そして、目的のものを見つけた。

 

「──────銀!」

 

小さな樹木の側で踞っていた少女が、名前を呼ばれて顔を上げる。

 

少女───銀は、泣き腫らした顔を、二人に向ける。

 

「・・・・・・須美・・・・・・・・園子」

「ミノさん・・・・・かずくん、は・・・・・・?」

 

園子の一言に、銀は再び、涙を流す。

 

「───────────まさ、か」

 

そうして、漸く、目の前の樹木に、見覚えがあることに気付いた。

 

 

 

 

 

人のような形をした、樹木に………

 

 

 

 

 

「あ・・・・ああ・・・・・・」

「・・・・・・かず・・・・・く・・・・・・」

 

少年は、少女達の為に、命を棄てて、戦った。

 

その成れの果てに、遺された少女達は只、泣く事しか、出来なかった………

 

 




─ファイナルフォーム・カタストロフ─


改良した三つの武装を全て装着した、最終にして最強の形態。
動かすには莫大な魔力が必要で、それ故に、魔力の無い者は起動させるだけで精一杯な程。
今回一正は、己の生命力と引き換えに稼働させ、そして………





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おわかれのそのあと

「・・・・・あの時、お前が死んだと思って・・・・すごい、悲しかった・・・・・・・」

スーツ越しの背中に、温もりを感じる。銀が抱き付いているのだ。正直作業の邪魔なのだが、邪険にあしらうような真似はせず逆に、腰に回された手に自身の手を重ねる。

「───────実際、一度死んだから・・・・な」
「大赦がお前の葬式を執り行った時とか、アスカが大暴れして大変だったしさ」
「───────苦労をかけた」

おれは、この温もりに答える事は出来ない。否・・・・許されないのだ。
あの日、この身は息絶えた。
だがそれは、ある者達との出会いによって保留となった。
以来おれは、彼に協力する形で己の目的を果たす為に、このロスタイムを使っているのだから………

「なあ、どうやって助かったんだ?」
「ああ・・・・それはな」

と、その時。部屋の扉が急に開かれた。入って来たのは、白髪で褐色肌の男だ。

「居るか?アヌビス・・・・・・っと、悪ィ。出直すわ」
「─────はっ!?いやいやいや!?別に大丈夫ッス!ご用件はなんでしょーか団長どの!!」

銀がおれから素早く離れる。
・・・・・・今更、そんなに照れるような事も無かろうに。

「団長って呼ぶンじゃねェよ・・・・まあ良い」

彼こそ、おれを助けてくれた人の一人。
名を"赤嶺逸華(イツカ)"と言う。
彼は大赦から独立した組織、"鏑矢"を纏める長で、銀なんかは"団長"なんて呼んでいる。本人は嫌っているようだが………

「例の連中がとうとう動きを見せた。イチャ付くのも結構だが、6に接触しようとしてくるやも知れん。早々に対処してくれ」
「っ!────とうとう、この日が・・・・!」
「出来る準備はギリギリまで行う。鉛、先行していてくれ」
「了解・・・・・!」

"鉛"の仮面を着け、銀が部屋から出ていく。
その背中を見送りつつ、おれは逸華団長と出会った時の事を思い返す。








目覚めた時には、見知らぬ大部屋の、培養槽のような物の中にいた。

 

『─────ここ、は?』

 

現在、得体の知れぬ薬液に漬け込まれ、呼吸器で繋がれた状態だという事は、どうにか理解した。問題なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということ。

 

肉体の方の運搬は簡単だろう。しかし、魂はそうはいかない。

あの時おれの魂は、力を使い過ぎた反動で樹海の一部となった筈………

 

「うん。だから、俺の能力で生命力を吹き込んでやったんだ」

『・・・・・!?』

 

いつの間にか目の前に、おれと同い年位の少年が立っていた。

軍用コートを羽織りポケットに両手を突っ込んだ状態で、少年はじっ・・・と此方を見ている。まるで、品定めでもするかの如く………

と、そこへ、少年の背後の扉が開かれ何者かが入って来る。白髪で褐色肌の男だ。

 

「おいミカ、急にどうし・・・・・・・・なるほど、そういう事かい」

『────貴方が、おれを?』

「身体の方は、な。オレは赤嶺逸華。"鏑矢"のリーダーをやっている者だ」

 

鏑矢。その名は聞いたことがある。

神世紀初頭に起きた集団自殺テロ事件を解決した組織の名が、それだった筈。

 

『だが鏑矢は、もう既に解体されていた筈だが・・・』

「そいつァ、大赦ン中の話だ。大赦から独立したオレ等は今も尚、活動してるのさ」

『そうだったのか・・・・』

 

しかしそうなると、おれを救ったという少年の能力もだが、それ以上に彼等がおれを助けた理由が気になる。

 

『・・・・・では、本題を聞きたい。おれを助けた理由は、なんだ?』

「あんたが、あいつと接触したから」

『あいつ?』

「オレ等が着けなきゃなんねェケジメ・・・・・その一つだ」

『それは・・・・どういう・・・・?』

 

おれの質問に答えるよりも先に、誰かが入室してきた。

 

「逸華、奴が動いた。瀬戸大橋に向かっているぞ!」

「何だと・・・・!?」

『・・・・大橋、だって!?』

 

入って来たのは筋骨隆々の大男。その腕には飾り気の無い真鍮製の腕輪があった。

 

「・・・・・む?そいつ、目を覚ましたのか」

「自己紹介くらいしなよ?」

「むぅ・・・・・・・分かっている」

 

少年に言われて大男は、こほん、と咳払いを一つしてから名乗った。

 

「安芸政弘(まさひろ)。歳は21。鏑矢の魔術師──"蟇目鏑"をやっている」

『・・・・・・・安芸?うちの担任と同じ名字だが・・・・』

「・・・・・多分、姉貴だ。他に、安芸って名字が居なけりゃな」

 

安芸家は大赦所属の巫女の家系ではあるが、上里家と違い分家は無いそうだ。従って、この政弘さんが安芸先生の弟という事が証明された・・・・・って、マジか。

 

『─────先生、弟居たんだ』

「・・・・・・あまり、自分の事を語りたがらないからな、姉貴は。ボロが出るから」

『・・・・・確かに』

 

記憶に新しい遠足での事。昼食のバーベキューにて焼きピーマンに苦戦する先生の姿を思い返し、政弘さんの言葉に同意した。

 

「よし・・・・マサはこいつ連れて大橋に向かえ。ミカ!」

「分かった」

「・・・・・・良いのか?」

 

逸華さんの指示で、カプセルから出される。

外に出た瞬間、呼吸困難となって身体が動かせなくなった。

 

「──────!?」

「おちつけ」

 

少年が、おれに触れる。

その瞬間、身体に活力が戻り、呼吸も出来るようになった。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・なに・・・・が・・・・・?」

「俺の能力を使った。しばらくは持つと思う」

「・・・・・・・・そう、か」

 

どうやら今のおれは、この少年の能力とやらで生かされている状態のようだな。

 

「・・・・・自立、出来るように・・・・しなければ・・・・・」

 

スーツに生命維持装置を増設するべきだな・・・・これでは動く事すら儘ならない。

 

「・・・・・何を考えているかは知らんが、行くぞ」

「・・・・・・大橋へ?何故?」

「連中が動いたからだ」

 

おれの質問に答えたのは逸華さん。

 

「奴等─────キューロノイド共がな・・・・」

 




─赤嶺逸華─

鉄華d────鏑矢を纏める現代の長(団長じゃないよほんとだよ)。
政弘以外の構成員は各地に散らばっているので、基本的にはメールで指示を出している。
団長と呼ばれるのを嫌がる。



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瀬戸おオ破氏ノ使徒羽(せとおおはしのしとう) ~魔転化生~

少年に支えられつつ、樹海化した瀬戸大橋に出たおれが見たのは、苦悶の表情を浮かべ倒れている三人と、それを眺めている男の後ろ姿………

 

「園子!?銀!須美・・・!」

「─────遅かった」

「の、ようだな・・・・注意を惹き付ける。お前達はその間に」

「うん」

 

少年と頷きあうと、政弘さんが男に向かって突撃して行く。

 

「・・・・む?やれやれ、面倒事は御免被るのだがな」

「やはりお前か、"AIーNo.SO5"『ラプラス』」

「唯でさえ面倒な実験に付き合わされているというに・・・・」

「マンデリン!!」

『応、俺を呼んだか?』

 

突如として珈琲豆の銘柄を叫んだと思いきや、政弘さんの頭上に色黒の少年が現れた。

あれってまさか・・・・

 

「悪魔だよ。()()()()

「っ!?」

 

あれが悪魔・・・・いや、それよりも!

 

「あんたも、悪魔だったのか・・・・通りで・・・・」

「不思議な力を持っていると思った?」

「ああ・・・・・」

 

おおおおおおっ!!!

 

政弘さんの叫び声が聞こえてきたので其方を見れば、政弘さんの背中から二本の腕が生えていた。

 

「なっ!?」

「マンデリンの契約特典。『肉体改造(エンチャント・マッスル)』だよ」

「契約特典・・・?」

 

等と会話していると、政弘さんは四本の腕でラプラスと呼ばれた男(多分キューロノイド)をがっちりとホールド。そのまま何処かへと跳び去って行った。

 

「ほら、今のうち」

「あ・・・・みんな!!」

 

少年に促され、三人の下へと向かう。

銀と園子はおれを見るなり、驚いた顔をしている。しかし、須美からは何の反応も無い。まさか───────

 

「───────────」

「須美っ!・・・・脈はある。気絶してる・・・・だけか」

 

須美がまだ生きている事に安堵するのも束の間。次は園子の様子を見る。

 

「かひゅ・・・・かず・・・・く・・・・・」

「しゃべるな園子!!・・・・呼吸が出来ていないのか?なんなんだこの首輪は・・・・」

 

外そうと試みるが、全く動じる気配が無い。と、その時。隣まで銀が歩み寄って来た。

 

「カズマ・・・・お前、本当に・・・・?」

「銀、お前・・・・その顔・・・・」

 

銀の顔面は、まるで焼鏝でも当てられたかのように焼け爛れ、眼球に至っては抉り取られていた。

 

「顔と右目(コレ)は自分でやった事だから・・・・それより、須美と園子は!?」

「須美は気絶してる。今問題なのは────」

「かず・・・・し・・・・を、たす・・・・け・・・・」

 

園子がおれの足を掴んで訴えてくる。

 

「分かっている。今、この首輪をどうにか─────」

「違う!今すぐどうにかしなくちゃいけないのは、()()()()()っ!!」

「それは─────」

 

どういう事だ。と聞くよりも先に、銀の言葉の意味は、須美の上げた絶叫を以て示された。

 

「なっ・・・・!?」

「くっ・・・・遅かったか・・・・・」

 

須美の身体から尋常ならざる量の魔力が発せられる。

勇者であるならばあり得ない現象に、おれは、動揺を隠せないでいた。

 

「なんだよ・・・・何が起きているんだよ・・・・!!」

「───────魔転化生」

 

魔力はやがて、蔦の形となり、須美の身体を呑み込んで、巨大な生物へと、変化していったのだった。

 

 

 



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施戸尾惡波紫盧弛斗羽(せとおおはしのしとう) -契約-

お久しぶりです!!!!
そしてカズマの物語は、ここで一度終わりです!!!!

最近は全然書けなかったけど、どうにか書けて一安心。どうぞ、御堪能あれ。


目の前で、須美が化け物へと変化してしまった。

なんなんだ・・・・いったいここで何が行われていたと言うのだ!?!?

 

「ムシュマッヘに酷似してる気がするけれど、蛇じゃなくて蔦だし・・・・なんだろ?」

「そんな事はどうでも良いから!!とにかく今は一度下がるぞ」

 

怒涛の展開についていけずにいたおれは、銀の一声に正気に戻る。

 

「そ・・・・そうだな。とりあえず、園子を頼む。それと────」

「いいよ。そいつについて行けばいいんだろ?」

 

先程まで須美だった怪物を尻目に、おれたちは一旦撤退した。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「それで・・・・いったい須美はどうしてあんな風になってしまったんだ?」

 

安全な場所まで退避したおれ達は、まず、銀に事の次第を問いただす。

 

「詳しくは・・・アタシにもわからない。一つだけ確かなのは、須美は()()()()()()()()()()()ってことくらい」

「───────────なん、だと?」

 

悪魔と・・・契約した?何故?何時?何処で?

様々な疑問が浮かぶが、それを銀にぶつける様な真似はしない。そんな事をしても無意味だと理解しているからだ。

それをすべき相手は──────

 

「──────キューロノイド達が、自分達の一部を使って『強制契約』したんだよ」

「強制・・・契約・・・・無理矢理に、悪魔と契約させたのか・・・・!?」

 

連中と対抗しており、自身も悪魔である三日月がおれの視線に答え、語る。

 

「うん。そうやって、()()()()()()()()()()()()()()()だから」

 

人類を・・・・進化・・・・?

 

「壁外の大地で暮らせるようになるには、悪魔と契約した方が良いからね」

「待て。どういう、事だ・・・・?」

 

壁外の世界がどの様な状態になっているのかは知っている。

しかし、それと悪魔との契約がどう関係してくるという・・・?

 

「契約すれば、最悪、人の形を棄てる事になるけど、それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね。契約が続く限りは」

「─────────それが、人類の進化、だと?」

「連中はそう信じて行動してる」

「ふざけている・・・・!」

「連中は真面目なんだって」

「余計にふざけているっ!!!そんな事をして・・・いったい何になると言う!」

「さぁ?そこまでは知らないし、興味もない」

「貴様は・・・・!!!」

「よせよカズマ」

 

銀に静止させられるが、おれの怒りは収まらない。なんなんだコイツは・・・!

 

「まあ、でも、連中はプログラムされた命令に従って動いている訳だし、誰かがそれを命じたってことじゃない?人類の進化を、さ」

 

誰かが・・・・命じた・・・?

 

「誰かって・・・・誰だよ?」

「知らない。興味も無い」

「なんじゃそりゃ」

 

銀と三日月のやり取りを他所に、おれは一人思案する。

キューロノイドに命じた人間。それはつまり連中を創造した者────即ち、神樹様によって名を、大赦によって存在を、記録から抹消された者─────"名前を消された天才(ネームロス)"。

奴はいったい、何を考えてそんな命令を遺したのだろうか・・・・・

 

「──────────────」

「カズマ?おーい、カーズマー」

「────────────ん?あぁ、すまん。考え事をしていた」

「大丈夫か?」

「おれは平気だ。寧ろお前の怪我の方が問題だろう」

「アタシはへーきだよ。焼いたから血も出てないし・・・・右側が見え辛いのは、ちょっとめんどくさいけど」

 

どう見ても無理をしている。だが、今は手数が足りない。

 

「──────おい、悪魔。須美を救出することは可能か?」

「できるよ。っていうか、たぶんオレにしかできない」

「どうすれば良い」

「じゃ、オレと契約してよ。話はそれから」

「わかった」

「ちょ・・・!?カズマお前!!」

「それしか方法が無いのであれば、躊躇う必要は無いだろう?どのみち、おれの身体はコイツに生かされている状態なんだ。他に道は、無い」

「・・・・・・・・・・・カズマ」

 

哀しげな表情でおれを見る。

 

「・・・そう悲しむな。二度と会えないはずだったのに、こうしてまた会えた。それだけでおれには、充分だ。だから─────」

 

三日月を見やる。

 

「ああ。やろう。契約だ」

 

おれの視線に答え、三日月が手を伸ばす。おれはその手を取る。

 

「上里一正だ。お前は?」

「知ってる。呼ぶなら“三日月”で」

「そうか。どうすれば良い?」

「契約は結んだ。オレの真名は知ったね?」

「真名・・・?っ!?」

 

瞬間、一つの名前が頭の中に浮かび上がる。これのことか?

 

「口に出しちゃダメだ。それは最期の手段だから」

「──────了解。それで、須美を救出する算段は?」

「特典を使って契約を書き換える。それであいつの命は助けられる」

「特典?」

「悪魔と契約した時、契約者には契約した悪魔の能力が使えるようになる。それが契約特典」

「了解した。作戦を開始する」

「待ってくれ!アタシも行く!」

「・・・・分かった、援護を頼む」

「おう!」

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

そうして、おれ達は須美をなんとか救出した。

契約したことをなかった事には出来なかったが、契約内容を書き換えた事で須美の特典能力は安定。数年分の記憶と引き換えに、彼女を人の形のままにすることができたのだ。

 

 

だが、それもいつまでも保てる訳ではない。

 

 

契約者の精神状態によって、特典能力は暴走する。その上、三人に植え付けられたキューロノイドの一部、通称“擬似真鍮核”は、そもそもが不安定な代物。故にこそ、須美の特典能力が暴走し怪物へと変化したのだ*1。今は平気だが、いずれ再び暴走する時がくるだろう。

 

 

そして、奴らはまだ須美達の事を諦めていない。

 

 

次点で魔転化生となる確率の高い園子は、現在大赦に匿われている。本来なら須美もそうするべきなのだが、精神安定の為には元の親元に還す方が得策だった。

彼女達には、辛い思いをさせているとは思う。

だが、真に三人を救うには、おれだけでは無理だ。

 

「──────今度こそ、救ってみせる」

 

準備は整った。決着を着けよう。

 

 

*1
三日月はこれを“魔転化生”と呼んでいた




これにて第二章“わすゆ編”はおしまいです。
次回第三章“ゆゆゆ後編”にてお会いしましょう。
それでは、またね♪


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第三章 煌月輝夜は魔術師である
変化した日常


第三章!
輝夜の物語後編、スタートです。


最近、身体の調子がおかしい。

いや・・・・本当におかしいのは身体じゃなくて“俺”の方か・・・・

あれから時々、意識がトぶようになった。トんでいる間の事は、当然覚えていない。

魔術を行使した痕跡があることから、トんでいる間に“なんか”しているのは確かだが・・・・・その“なんか”がわからない。

 

「よもや俺の中に別人格でもいるワケ──────」

 

そう呟いて思い出したのは、先日の最終決戦の時に現れたという、量子演算式小型人工知能(フォトン・ドライヴ)とやらの事。

東郷の話では、まるで別人のようだったと言うが────

 

と、その時ベッドの上に放置していた端末が震えだす。鏑矢の仕事か・・・・

 

「────────行くか」

 

一暴れすればスッキリすンだろ。

そう思い、指定ポイントへ向かおうとした時─────

 

 

 

 

 

「『任務了解 これより 作戦行動を 開始します』」

 

 

 

 

 

いつぞや聞いた、謎の声が聞こえ、俺の意識は、途切れた。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

「───────ちゃん?」

「ん・・・・」

「おーい。起きて~!!」

「ふぁ・・・・あ?」

「あ、起きた」

 

気がついたら目の前に友奈が居た。

 

「ぅおっ!?びっくりした・・・・何で友奈が?」

「・・・・覚えてない?」

「何を・・・?」

「────────ううん、なんでもない。かぐやちゃん、『明日の事で話がある』って言って、うちに来たんだよ?」

 

よく見りゃここ、友奈ン部屋()じゃねーか。奴がここまで俺を運んだのか?

ったく・・・・あンのAIめ、何を考えてやがる?友奈に何をしようとしてた?何にしても、勇者部の連中に手ェ出す様だったらこっちだって

 

「私がお茶を用意してる間に寝ちゃってたみたいだけど・・・・疲れてるの?」

「別に。問題ねーよ」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・かぐやちゃん」

「ンだよ?」

 

呼ばれた方を向くと、ベッドの上で友奈が正座して、自分の膝をぽんぽん叩いてた。

 

「───────────」

「久しぶりに、ね?」

「───────────ん」

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

 

友奈に膝枕をしてもらっている。

絵面的には、ただそれだけだ。なんだが────

 

「・・・・・・・中坊にもなって、情けねェな」

「なんでー?」

 

頭を撫でられ、抗い難い眠気に襲われている自らの有り様を憂う。

 

「疲れてるなら、お休みしなくちゃ」

「だからってよぉ・・・・膝枕は・・・・」

「いやだった・・・?」

「─────────────────────別に」

「じゃあ、良いよね」

 

あー、ダメだわ。うまく考えが纏まらん。

心地よい眠気に敗北した俺は、そのまま安らかな眠りへと意識を沈めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみ、かぐやちゃん・・・・・()()()()()も、ね」

 

 

 




「おはよう、かぐやちゃん!そういえば、明日の準備って・・・できてる?」
「明日ぁ・・・?なんだっけ・・・?」
「んもー!勇者部のみんなで合宿に行くんでしょー!?」
「・・・・・・・あー、忘れてた」
「えー!?しょうがないから、私も一緒に準備手伝ったげる!」
「要るかぁ!ンなもん!!」
「まぁまぁ、そう遠慮しないで」
「遠慮じゃねーよ!!自分で出来らぁ!!」


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夏休み、真っ最中~♪

サンタクロース、来ないけど♪
お年玉、貰えっこないけれど♪



夏休みが恋しいなぁ・・・・(切実)


「夏休みになりました。

バーテックスをぜぇーんぶ倒したお祝いにと、大赦が夏合宿をプレゼントしてくれました!やったー♪

というわけで、私たちは海にいまーす♪」

「誰に話してるの?友奈ちゃん」

俺等には見えない隣人(この作品の読者)たちじゃね?」

 

メタ発言を交えつつ、俺達三人は砂浜を歩く。

東郷は水陸両用の特別な車椅子に乗っており、友奈がそれを押している。ちなみに俺は春さんに拵えて貰った水陸両用の特殊な義足を着けている。

しかし・・・・お役目終了のお祝い、ねぇ・・・・

そんな理由でこういうモンを用意されると、逆に疑いたくなるんだよなぁ・・・・

なんて考えていたら突然、友奈が東郷と共に走り出す。慌ててそれを追いかけていく。今は変に邪推なんかせず、楽しめってか?まったくもう・・・・・!

 

「ちょ・・・待てぇ~~!」

「へっへーん♪こっこまーでおーいーでー♪」

「きゃあああああ♪」

 

―――――――――――†――――――――――

 

友奈と東郷と追いかけっこをして、パラソルの下へと戻ってくる。二人はあの後、海へと入っていった。

去年、春さんに海中用の義手と義足を造ってもらっているから海で泳ぐことは可能なのだが、今回はパス。ちょっと疲れた。

 

『およがないんですか?』

 

パラソルの下には樹がいた。風さんと夏凛は見当たらない。泳ぎにでも行ったか・・・・あの二人め・・・・

 

「ちょっと休憩。流石に、普段履き馴れない義足(アシ)で砂浜は難易度高かったわー・・・・」

『???』

 

どうやら普段の義足とは違いが分かりにくいらしい。

いいだろう・・・・説明しよう!

 

「海水用にポリカーボネイドで造られているんだ。構造自体も、普段使ってるのよりかなり単純化されているから、後始末も楽チンなんさ!」

『へぇ~』

「しかも!ポリカーボネイド製だから、耐久力もそこそこで、熱にもそこそこ強い!」

『へぇ~』

「関節に使用されている人工筋肉は空気圧式だから、ちょっとラグと遊びが発生しちまうのが難点だが・・・・競泳するワケでもねェし、普通に泳ぐ分には問題無いレベルさ!」

『へぇ~』

 

3へぇ~頂きました。ありがとうございます。

そろそろ樹の目が死んできたので止めとくか。

 

「樹は?泳ぎに行ったらどうだい?荷物番なら俺がしてるからさ」

『いいですか?』

「モチロン。楽しんで来いよ」

『いってきます!』

 

樹が砂浜の熱さに跳び跳ねながら海へと向かう。それと入れ換えに夏凛が海から戻って来た。

 

「おかえり」

「輝夜?友奈たちと泳ぎに行かなかったの?」

「歩き疲れた。いつもの義足(ヤツ)とは違うからさ~・・・」

「ふぅん・・・・そういうもんなの?」

「そういうモンなの」

 

クーラーボックスからドリンクを取り出して夏凛に放る。

受け取った夏凛はそのままゴクゴクと喉を鳴らしてドリンクを半分ほど飲み、俺の隣に座った。

 

「・・・・・ふむ」

「?なによ」

 

うーむ・・・・こうして見ると、今まで訓練を受けてきただけあって、引き締まった身体してるんだよなぁ・・・・

そして、友奈ほども無いが、無くは無い・・・・・と。

 

「────────視線がやらしいんだけど・・・・」

「そりゃまあ、水着の美少女が目の前に居りゃあな」

「ばっ!?!?ばばばばばば・・・・バッカじゃないの!!!!!!」

 

 

持っていたドリンクを投げつけられたので、すかさずキャッチ。その間に夏凛は走り去って行ったのだった。

そんな夏凛と入れ換えに、今度は風さんが来た。

 

「おかえり~」

「ただいま~、夏凛が顔真っ赤にして逃げてったけど、煌月ぃ、なんかしたの~?」

 

ニヤニヤと笑いながら、風さんが訪ねてくる。

別に何もしてないんだがなぁ・・・

 

「ただ、『夏凛って、アスリート並みに引き締まった身体してるよなぁ』って思いながら観察してただけなのに・・・」

「それ、立派なセクハラだから」

「ぐへへ、知ってる」

 

知っててやったんかい、と脳天にチョップを貰いつつ、風さんにもドリンクを渡す。

 

「煌月は泳がないの?」

「歩き疲れた(ry」

「友奈と東郷、待ってるわよ?きっと」

「うーん・・・・・そうかな?」

「そうよ」

「ン。そんじゃ、逝ってきますかあ!」

「いってらっしゃ~い──────なんか字、変じゃない?」

 

気のせいだぜ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

友奈たちと合流し、一緒になって素潜りして遊び、それが一段落したら浜辺でサンドアート。

東郷がかなり精巧な高松城を作ったのに対抗して、俺は本腰入れて、東郷に負けず劣らず精巧な善光寺本殿を作ってみせた。

 

「少しは自重しろォ!」

「あー!!俺の善光寺さんがぁぁぁぁ!!!!!!」

「うーわ、見事に真っ二つ」

「あ!そうだ♪」

 

夏凛の木刀により、真っ二つにされた俺の善光寺さんを見た友奈が何かを思い付いたらしく、パラソル下の荷物へと向かう。

帰ってきた友奈が抱えていたのは大玉スイカ。

 

「なるほど、西瓜割りね」

「良いじゃな~い♪なかなか女子力高いわよ♪」

「やったー♪風先輩に褒められた~♪」

 

スイカ割りの何が女子力高いのか。

まあ、それは別にいいとして、スイカ割りには賛成だ。

そんな訳で、夏凛に叩き割られた善光寺さんを蹴り崩し、シートを敷いて場所を確保する。

そこに間髪入れずに友奈がスイカを置いて、準備完了。

 

「誰からやる?」

「ジャンケンで決めよう」

 

―――――――――――†――――――――――

 

公正なるジャンケンの結果、樹がやることになった。

使用する棒は、先程俺の善光寺さんを壊した夏凛の木刀だ。

 

「目標、二時方向!」

「樹ちゃんから見て右だよ~!」

 

東郷の指示を友奈が翻訳しながら、樹をスイカへと誘導していく。

 

「まったく・・・こんな程度で熱くなって、て樹ィ!そこよ!!おもいっきり振り下ろして!!」

「夏凛も熱くなってんじゃねーか(爆)」

 

ピタリ、とスイカ手前で樹が立ち止まる。

何を思ったのか、樹は足を肩幅程度に広げ、ゆっくりと木刀を振り上げていった。

 

「あはははwww樹何よその構え~~www」

「あれ、あんたの真似でしょ」

「えっ!?私あんなん?」

「あんなん」

 

樹らしい模範で納得である。

さて、そんな樹は振り上げた木刀を力強く握り締め、振り下ろそうとする。

 

「樹ィ、振り下ろす時は脇を締める!」

 

俺の指示に、樹は開いていた脇を閉じ、木刀を振り下ろした。

スイカに命中した木刀は、見事、スイカを真っ二つにしてみせたのであった。

 

「樹ちゃんすっご~~い!!」

「樹ちゃんは光る原石ね!磨けば磨く程輝くわ、きっと!磨かなくっちゃ!」

「でも護国思想に染めるのはNGな」

 

この後、割ったスイカはみんなで美味しく頂きました。

 



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温泉回だよ!ばばんば~♪(温泉シーンがあるとは言ってない)

とうとう・・・・とうとうゲッペラー様がアニメに・・・!!
まだ見れてないが、ゲッペラー様の合体シーンとか、ド迫力なんだろうなぁ(wkwk)


海で思い切り遊び、旅館へとやって来た俺たちを待っていたのは、類い稀に見ない豪華な料理だった。

 

「うわぁー・・・・・・!」

「すっごい豪華ぁ・・・・」

『見てください!カニですよ!カニ!』

「うわぁホントだ!カニさんだ!お久しぶりです、結城友奈です!」

 

カニと握手する友奈を微笑ましく思いつつ、風さんと仲居さんとの会話を聞く。

 

「あの~・・・部屋間違えてませんか?」

「とんでもございません・・・・どうぞ、ごゆっくり・・・・」

 

仲居さんはそれだけ告げて、去っていってしまった。

 

「うーん・・・・私たち、好待遇みたい?」

「ここは大赦絡みの旅館だし、お役目を果たしたご褒美って事じゃない?」

「て事は・・・・食べ放題!?これ全部食べちゃっても良いの!?」

『でも、友奈さんが・・・・』

 

樹の指摘に、友奈の方を見る。件の人物は、刺身を口に放り、その食感を堪能していた。

 

「ん~~♪このお刺身の食感が堪りませんなぁ~♪」

 

更にしらすを食し、「何でもないよ」と言うかの如く、食レポを続ける。

 

「んんっ♪このつるつるしたのど越しも良いね!」

 

やれやれ・・・・全く友奈は・・・・

 

「こーら、いただきますくらい言え」

 

いつもの調子で、軽く友奈の頭を小突く。

 

「あた!?えへへー、ごめ~~ん」

 

友奈もそれに答えて笑って謝る。

 

「ありとあらゆる手段で味わってる・・・」

「・・・・友奈には敵わないわ」

『尊敬します!』

 

さて、なんやかんやあったものの、この豪華料理を全員で堪能する事となった訳だが・・・・

 

「場所的に私がお母さん役をするわね」

「東郷が母親か・・・・厳しそうね」

「門限を破る子は柱にくくりつけます」

 

柱・・・・・くくりつけ・・・・・・うっ頭が・・・!

 

「ちょ!?輝夜どうしたの!?顔が真っ青よ!?」

「あー・・・・・大丈夫・・・・ちょっとトラウマを思い出しただけ・・・・・」

「え?トラウマ!?今の会話から思い出すトラウマってどんな!?」

「まあまあお前、そこまでしなくても・・・・かぐやも反省してるようだし────」

「あなたがそうやって甘やかすから────」

「そしてあんたらはこんな輝夜放って夫婦漫才すんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

―――――――――――†――――――――――

 

「しっかし・・・いつかこういうのを日常的に食べられるようになりたいわよねぇ・・・・・自分で稼ぐなり、良い男見つけるなりして」

「無理でしょ、風さんだし」

「煌月ぃ!」

『後者は女子力が足りませぬ』

「樹まで!?」

 

最愛の妹にまでツッコまれ、風さんはショックを受けていた。

 

「女子力いうなら、東郷と輝夜の所作を見習いなさい」

 

夏凛がそんな事を言って、俺と東郷へ視線を向ける。

東郷はともかく、俺の所作なんざ見習うようなモンは無いんだが・・・・

 

「かぐやちゃんも東郷さんも、キレイに食べるよね~」

「もう、友奈ちゃん・・・・じっと見られると恥ずかしいよ・・・・///」

「ばっちゃがマナーにうるさい人だったからなぁ・・・・ペナルティ一回毎におかずが一品減るシステム。白飯残してくれるだけ有情さ。でももう白飯だけの晩飯はこりごりだよ・・・・・」

 

うわぁ・・・・といった表情でこっちを見る犬吠埼姉妹。

でも、そのおかげで俺もマナーには少し詳しい。

なんやかんや言って、ばっちゃにはとても感謝している。

 

「ま、私もマナーにはそこそこうるさいけど、ね!」

 

と言ってるそばから、

迷い箸でワンアウト

刺し箸でツーアウト

手皿でスリーアウト

 

「はい、スリーアウトチェ~ンジ」

「ぬぐっ!?べ・・・別に良いでしょ!?」

「そうだそうだー!」

「食事はおいしく、そして楽しく~♪」

『ここで結託するの!?』

 

こうして、夏凛、風さん、友奈による謎の同盟が組まれた。

訳がわからないよ・・・・

 

―――――――――――†――――――――――

 

食事の後は露天風呂。

今、この薄壁の向こうでは、勇者部の女子五人が"裸のお付き合い"をしているわけで・・・・・

それが少ぉし、気になる小生な訳でして・・・・

 

「────────────止めよう。後で確実に東郷に吊るされる」

 

でも、聞き耳たてるくらいなら、許されるよな?

そんな訳で壁に耳を当て、向こう側の様子を伺うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後に俺の鼓膜が息絶える事になる事等、この時の俺には知る由もなかった………

 



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帰るまでが遠足です。

遂に始まった大満開の章!!!
よもやよもや・・・防人組がアニメ進出とは!
大満開の章は、勇者の章の補完ってことなのかな?


「まさか、友奈が俺の気配を察知して、耳元(壁越し)に大声だして怯ませてくるとはな・・・・」

 

おかげでびっくりした俺はひっくり返って風呂で溺れかけた。

 

「自業自得でしょ」

「ぐうの音もでねぇな」

 

会話しながらも作業の手を止めない。

現在俺は、両足を解体して水気の拭き取りを行っている。

両足が終わったら次は左腕だ。

 

「よっと・・・・あ、やべ。届かねえ」

『これですか?』

「お、サンキュー樹」

 

何かあった時の為に持ってきていた予備の義手を樹から受け取ると、今着けている左腕を外し、予備のを取り付けて外した左腕を解体(バラ)す。

 

「───────」

「・・・・じっと見てても気持ちの良いモンじゃねーぞ?」

「(フルフル)───────♪」

「んー・・・・・樹が見ていたいなら、止めはしないけどな」

 

こんな物に興味があるとは・・・・樹も変わってんなぁ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

バラした義手義足は元に戻してバックの中へ。

そして俺は・・・・・・・何故か友奈と東郷の間に挟まれた。

 

「・・・・・・俺、そこの押し入れン中で寝ようと」

「だと思いました」

「かぐやちゃんは私たちの間!ね?(威圧)」

「アッハイ」

 

ちくしょう────それもこれも大赦が部屋を一つしか用意しなかったせいだ。大赦め・・・・・いつか報復してやる・・・・・!

 

「輝夜がなんかアホな事考えているわね・・・」

「うるへー」

「はいはい、そこはそろそろ黙ってね~」

 

風さんが何か言いたいようなので黙る事にする。

 

「さて、女だけの旅の夜「俺、男だけd」友奈、煌月の口塞いで」

「はーい♪」

「んんんーーー!!!」

 

タオルを猿轡にして、口を塞がれた。友奈のヤロウ・・・・いつの間にこんな芸当を・・・・!?

 

「さて、女だけの旅の夜、どんな話をするか分かるわよね?」

「え?・・・・・・・つ、辛かった修行の体験談・・・・とか?」

「違う」

「正解は、日本という国の在り方について存分に語る事です!」

「それも違う!」

 

夏凛と東郷の答えに半眼になって否定する風さん。

 

「はぁ・・・・樹、正解は?」

『コイバナ?』

「そう!コイバナ!恋の話よ!!」

「すみませんもう一度お願いします」

「こ・・・・・恋の話よ・・・・」

 

真顔の東郷に気圧され、風さんが口ごもる。

 

「え・・・えっと、じゃあ・・・・今、恋してる人~・・・」

 

友奈が手を挙げて全員に問う。

がっ!駄目!!

流れるのは気まずい沈黙のみっ!!

 

「なによみんなして~。女子力足りて無いんじゃないの?」

「そういう風はどうなのよ」

「ふっふっふっ──────そうね、あれは・・・二年の時だったわ。私がチア部の助っ人をした時、私のチア姿に惚れたやつがいてねー・・・・まあ、『デートしないか』とか、言われたりしたもんよ~。もんよ~!」

「な・・・なるほど・・・・ん?あんたたち、落ち着いてるわね?」

 

そりゃまあ・・・・

 

『この話十回目ッス』

「えぇ・・・・それしか自慢できる話が無いんかい」

「あるだけ良いじゃない!」

 

風さんの言葉には、一理あるんだよなぁ・・・・

俺なんか下駄箱に果たし状が入ってることはあっても、ラブレターとかが入ってた試しが無いよ・・・・

 

「ええい、こうなったら、話題変更よ!あんたたち、我が勇者部の黒一点たる煌月のことをどう思ってるのか、この場で洗いざらいしゃべっちゃいなさい!」

「「「えぇ!?」」」

 

おい待て風さん、それはどんな拷問だ!?つーか、俺の真ん前で言わせるんか!?

 

『じゃ、私から』

「お、珍しく樹が・・・・じゃ、どーぞ」

 

樹が挙手して名乗り出る。

うーん・・・・樹のことだし、"怖い"とか、"近寄り難い"とか言うんだろうなぁ・・・・

 

『こうづき先輩は私にとって───────お父さんみたいな人!』

 

ほらな、やっぱりそういうと思うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?

 

「お父さん?輝夜が?」

『?なにか変ですか?』

「いやいや別にぃ?」

 

くっそ、風さんの奴・・・・・露骨ににや付きおってからに・・・・

 

『最初は、ちょっと怖そうで近寄り難いイメージでした』

「そうかなぁ?かぐやちゃん、こんなにいい子なのに・・・」

『でも実際に話してみたら、全然そんなことは無くて、優しくて、時々怖くて、なんだかお父さんみたいだなぁって、思ったんです!』

 

───────猿轡されててよかった。

なんか、もう、ここまで誉め殺しにされると、奇声上げそうになるよ・・・・・

 

「んじゃ、次は私の番ね!」

 

樹に続き、今度は風さんが名乗り出た。

 

「私にとって煌月は・・・・・んー、そうね──────相棒、かな?」

「相棒ですか?」

「そう。あ、別に深い意味は無いわよ?ただ、なんとなく、煌月には色々お世話になってるし、勇者部唯一の男って事で、私たちじゃ対応しきれない事にも対応してくれてる。煌月に励まされることもあったりしたし・・・・・なんだかんだで煌月には助けられてるのよ、私」

「それで相棒?」

「そうよ?」

「だって、かぐやちゃん!よかったね♪」

 

にこやかに言うなし・・・・・・

あー、もう・・・・・早く寝ちまいたい・・・・・

 

「さて、私と樹は言ったわよ!次は誰!」

「風先輩」

「ん?───────あれ」

 

東郷が"静かに"のジェスチャーをして、ある一点を指差す。

 

「───────zzzzzz」

 

いつの間にか、夏凛が寝ていた。こいつ寝付き良い方なんだなぁ─────ちょっとうらやましい。

 

「─────私たちも寝よっか」

「はぁい」

『それじゃ、電気消しまーす』

「おやすー」

「おやすみなさい」

 

樹が電気を消し、辺りは暗闇と静寂に包まれる。

 

 

その後、東郷が怪談話を始めようとする気配を感じたので、なんとか外したタオルの猿轡を東郷の口にねじ込んだのは、完全に余談である。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

「ただいま~~・・・・あ、マッキー居ないんだった」

 

合宿から帰宅した俺を出迎えてくれたのは、静寂だった。マッキーは確か、私用でしばらく留守にするだとか言ってたっけな・・・・・

 

「しゃーねえ・・・・ん?」

 

突如端末が震えた。確認すれば蟇目鏑のお仕事メール。

 

「ったく・・・・・勇者のお役目が終わっても、こっちの仕事にゃ終わりはねーな」

 

愚痴りつつ、家を出ようとした瞬間────

 

 

 

 

 

「その必要は無いよ」

 

 

 

 

 

家の中に誰かの気配を感じ、振り返ればそこには、鉛のヤツが居た。

 

「──────何でここに居る?」

「布堂幕切とは知り合いなんだ。今日は居ないの?」

「残念だったな。今は居ねーよ」

「ふーん・・・・・行き先は?」

「知らん。喩え知ってたとしても、テメェにだけは教えねー」

「ケチだなぁ。ま、いいや。今日用事があったのはあんただし」

 

俺に用事・・・・ね。

 

(コレ)のコトかよ?」

「いいや、()()()()()()()

 

どういう意味だ・・・・・?

 

「近い内に、大赦から追加のお役目が来る」

「っ!?」

「が、それはあくまで建前だ。連中は、勇者システムを彼女達に預けておきたいんだ」

「・・・・・・何故?」

 

衝撃的発言に、俺は、絞り出すような返事しか、返せなかった。

 

「自衛のため・・・・と言えば聞こえは良いけど、その実態は───────いや、これはアタシから言うべきことじゃないな」

「ここまで言って、黙りかよ」

「じきに分かるよ。ああ、そうだ。さっきの仕事は別の奴が終わらせてくれたから、気にしなくて良いぞ。じゃーな」

 

言うだけ言って、鉛は玄関から出ていった。

 

「─────────大赦。今度は何をやらせようってンだよ」

 

俺の呟きは、夕闇の中へ消えていった………

 



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延長戦、と言う名の────

「バーテックスに生き残りがいて、戦いは延長戦に突入した・・・・・・と」

「だいたい、そういうことね・・・・・・・」

 

鉛を見送った直後、風さんから呼び出された。

内容は、鉛の言った通り。まさかこんな早くに来るとはな・・・・

 

「みんな・・・・・ごめん・・・・・」

「風先輩だって、さっき知ったばかりじゃないですか」

 

項垂れる風さんを東郷が慰める。

今はとりあえず、東郷に乗っておくか。無駄に心配事を増やす必要も無いだろ。

 

「でもさ、そいつさえ倒しちまえばバーテックスは全部倒したってコトだろ?んなら、パパパっとやっちまおうぜ」

「もう、かぐやちゃん!バーテックスは壁の外から来るんだよ!どうやって倒すの?」

「・・・・・・・こっちから攻め入ることってできないん?」

「ったく、神樹様の教えにあるでしょ。『壁の外に出てはならない』って」

 

あー・・・・・あったなぁ、そういえば。

 

「・・・・・・輝夜、あんた忘れて・・・・・?」

「まー、大丈夫だって!今更一体や二体程度、あの猛攻を凌いだ俺たちだせ?」

「話をそらすなァ!!」

 

ちょ!?待っ!?チョークブリーカーはやめ────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!

 

『成せば大抵なんとかなる!だよ、お姉ちゃん』

「樹─────そうね!」

 

続いてコブラツイストをかけられている俺を無視して、風さんが窓から大声で叫ぶ。

 

「何時でも来なさいバーテックス!!勇者部六人がお相手よーーー!!!」

 

それはいいから早く助け─────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!

 

―――――――――――†――――――――――

 

「なぁーんて言ってたのに、もう一ヶ月過ぎちゃったよ」

 

新学期が始まり、数日しての放課後。

俺たちは三人で、部室に向かいながら駄弁っていた。

 

「平和が一番さね」

「輝夜くんの言うとおりだわ。でも、気が弛みすぎても駄目よ?」

「わーってるって」

 

と、その時、赤い猫が唐突に現れて俺の頭の上に乗り丸くなった。

 

「わっ、だめだよ火車。戻って戻って」

 

友奈が慌てて端末を操作し、火車と呼ばれた赤猫は消えた。

 

「・・・・・・・・・あの牛もそうだけど、俺、友奈の精霊になつかれてる?」

「っぽいねぇ。よかったね!かぐやちゃん♪」

 

ちっとも良くねー・・・・・

そんなこんなで部室に到着。どうやら俺たちがラストの模様。ちょっち悔しい。

 

「うぃーッス!」

「ちっす。遅かったじゃない」

「日直にもなると、いろいろあるのさ~」

「またテキトー言って・・・・」

 

なんて他愛も無い会話をしていると、視界の端に何かが過った。

気になってそちらを見ると、尻尾が鎌になった謎の生き物に東郷が絡まれていた。なにあれ?

 

「ああ、ごめん東郷。その子まだ私の言うこと聞かなくて・・・・」

 

どうやら風さんの精霊らしい。

友奈の火車同様、大赦が今回用にシステムをアップデートしたらしく、夏凛以外の四人に新しい精霊が追加されたようだ。

 

(なんで夏凛だけ・・・・・・・・関係あると考えられるのは、やっぱ・・・・・・・)

 

なんて事を思考していると、またもや視界に何かが横切る。なにこれ?鏡?

 

『私の木霊と雲外鏡も出てきちゃいました』

 

雲外鏡。

なるほど、だから鏡・・・・・・いや、やっぱワケわかんねーや。

そうこうしていたら、牛と火車も出て来て、更には東郷が自分の精霊を出して・・・・・いやいやちょっと待て。

 

「いくらなんでも多過ぎィ!?」

「ちょっとした百鬼夜行ねー・・・・」

「も・・・もう文化祭の出し物、これで良いんじゃないかな?」

「駄目よ」

「ですよねー・・・・」

 

―――――――――――†――――――――――

 

牛が義輝にかぶり付いたり、俺が東郷の精霊ズに取り囲まれたり、ともかくいろいろすったもんだしたが、全員が自分の精霊を無事端末に戻すことに成功した。

 

「やっと戻ってくれたわね・・・・・」

「なんつーか、めっちゃ疲れた・・・・・」

 

肩で息をしながら、夏凛を見る。何か引っかかる事でもあるのか、夏凛は釈然としない顔をしていた。

まぁ、理解はできる。大方『なんで自分だけ、追加の精霊がいないのか』とか思ってんだろ。

精霊の追加。単純に、戦力が増した・・・・・・ってだけじゃないだろうな・・・・

考察ポイントは一つ。ズバリ、()()だ。

精霊追加の条件が、満開の使用であるのならば、かつて夏凛が言っていた『勇者は満開する度に強くなる』という言葉にも説明が付く。

ということは、東郷の精霊が最初から三体いたのは─────

と、そこまで思案したところで袖を引っ張られる感触。

振り向けば樹が、心配そうな表情でこちらを見ていた。

怖い顔でもしてたかな・・・・?

 

「んー?どうした樹ー」

 

なるべく笑顔をつくりながら、樹の頭を撫でてやる。

すると、スケッチブックを取り出して文字を書く。

 

『バーテックス、いつ来るんでしょう?』

 

文字の下には顔文字まで書いてある。緊張してる顔か?

 

「うーん、そうね・・・・・私の読みだと明日あたり怪しいわね!」

「うぉ!?夏凛お前いつの間に後ろに!?」

「実は神樹様の勘違いで、バーテックスの生き残りなんていなかったー、とか?」

「風さんもか・・・・!?」

 

お前ら人の後ろを取り過ぎィ!!

と、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪~♪~♪~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ!?」

「樹海化警報・・・・!?」

「これはアレね。神樹様からのツッコミね」

「そういう夏凛だって外してんじゃないの!」

「はいはい、二人共ケンカしてんじゃないのー。行くぞ、正真正銘のラストバトルだ」

 

そんなワケが無いと分かっているが、それでも、皆を鼓舞する意味で、嘯いて、俺は樹海へと赴く。

 

 



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正体

さて、久しぶりの樹海だが・・・・

 

「・・・・あれ?」

「友奈ちゃん?どうかしたの?」

「なんか・・・・レーダーの表示が・・・・」

 

友奈に言われてレーダーを確認すると、そこには『未確認悪魔』の文字。

悪魔って・・・・・アレか?72体の内の一体の・・・・?

 

「こっちに近付いてきてる」

「みんな!注意して!!」

 

徐々に近付く敵性体に警戒し─────そして、

 

「来る・・・・・・・・・・・・・え?」

「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

茂みから現れた()()を見て、俺達は思わずとぼけた声を上げてしまった。

 

 

 

 

 

「なんで・・・・・なんで、()()()()()()()()()()?」

「─────────さて、何故でしょうねぇ?」

 

 

 

 

 

レーダーに映っていた反応は、マッキーのものだった。

と、いうこと・・・は・・・・・・

 

「うそ・・・・悪魔・・・なの・・・・?あのグシオンとかいうのと・・・・同じ・・・・?」

「ああ、そういえば彼をご存知なのでしたね。彼は我々の中で、唯一()()()()()()()()()()()()()()なんですよ」

 

にこやかに、いつも通りに、マッキーは夏凜に答える。

その様子が逆に、どこか異質に見えてしまう。

 

「一つ、後学の為に教えてあげましょうか・・・・我々72体の悪魔達───通称“レメゲトンの悪魔達(ゴエティア・ナンバーズ)”の正体は、かつて“神”と呼ばれたり、“指導者”として民を先導していた()()()()なんですよ」

 

いきなりよく分からない話を始めたんだが・・・・・

 

「当代の王は、魔術に長けた賢王でしてね・・・・我々のような者達に味方でいて欲しかったようなのです。私は元より、かの賢王に従う事には賛成派だったので構わないのですが・・・・・問題だったのは、()()()()()()()でした」

 

そのまま、マッキーは話を続ける。

 

「そこで賢王は、ある一つの決め事をしたのです。『お前達には、今より人の身を捨てて貰う。永久に朽ちぬ真鍮器(からだ)で以て、我が後継を懸け争うがよい。条件として、この身が朽ち果てる迄は私に従ってもらう』と・・・・」

「・・・・それが・・・・何の関係が、あるってンだよ」

「さて、お勉強回はここまで。そろそろ私も本来の目的を果たすとしましょう」

 

ようやく絞り出した声で出した問いを、マッキーは無視した。

 

「目的って・・・・・まさか、神樹様を!?」

「あんなものに興味はありませんよ。人類の行く末にもね。私はただ、交わした契約を果たすのみ・・・・・!」

 

言うや否や、いつの間にか所持していた朱く輝く刀身の剣を閃かせ──────

 

 



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裏切り

ガギィ・・・ン

 

一瞬だった。

一瞬で布堂は輝夜へと接近し、その首を斬り落とそうとした。対する輝夜は、その一瞬に対応出来ず、棒立ちのまま。

 

故にこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────────ほう」

「・・・・え」

 

驚愕と動揺を隠せないでいる輝夜と、自身の刃を受けた左腕を見て、布堂は満足げに頷く。

 

瞬間、輝夜の瞳の色が変化した。

 

「おっと」

「───────────」

 

それと同時に輝夜は、布堂の刀を掴みかかる。が、寸でのところで布堂は回避。輝夜から距離を取ったのだった。

 

「おはようございます。お目覚めは如何です?」

「─────────────────『ファリ・ドゥ=マクギリウスに 疑問を 提唱 どういうつもりですか?』」

 

輝夜の口から、輝夜とは別人の声が発せられる。

 

「随分と、懐かしい名ですね。今となっては誰も知らない名前でしょう?AIーNo.La:6」

「『疑問への 返答を 願います 何故 私を 殺害しようと したのですか?』」

 

頑なな態度を見せるAIに、布堂はやれやれと肩をすくめ

 

「貴女を回収する為ですよ。頭を割るよりも首を落とした方が早いですから」

「『理解 同時に 拒絶 私は この躯体から 離れるつもりは ありません』」

「──────なるほど・・・それでは仕方ありませんね」

 

改めて刀を構え直し、布堂はAIと対峙する。

 

「やめてください!!!」

 

その二人の間に、友奈が割って入る。

 

「どうして・・・・どうしてこんな事をするんですか!?」

「それが、我が主人との契約だからです」

「そんな・・・・・」

「『結城友奈 そこは 危険です 早急に 退去を』」

「やだ!!!」

「『退去を』」

「やだ!!!!!!」

 

頑なな態度を取る友奈とAIのやり取りを、布堂は微笑ましく見つめ─────

 

「ふむふむ・・・・ここまで成長していたとは──────やはり、このままその躯体に入れておくのは勿体無いですね」

 

小さく呟くと布堂は、AIを()()()()刀で貫こうと突撃してくる!

 

「っ!?」

「友奈ちゃん!!!」

 

東郷が叫ぶが、友奈の反応は間に合わず──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テメェ・・・・何をしてやがる・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友奈に刺さる直前で、AI───()()()()()()()()刀を掴んで止めていた。

 

「かぐやちゃん・・・・」

「おや・・・・だいぶシームレスに切り替えられるようになったのですね」

何をしてやがるって聞いてンだよ・・・・!!

 

怒りの形相で布堂を睨む輝夜は、刀を握る左手に力を込めて、そのまま握り潰した。

 

「おっと・・・・」

テメェが何考えて動いてンのかなんざ知らねぇ・・・・けどなァ

 

右手で抱き寄せていた友奈を背後へ押しやると、へし折った刀の鋒を錬成し、二振りの小太刀を造りだした。

 

「『展開 五武具足 “双炎義”』」

オレの仲間にまで手ェ出すっつーなら、容シャしねーぞ・・・・!!!

「そうですか・・・・ですが私にも、私の為すべき事がありますので」

 

輝夜の怒りを受け、布堂は折れた刀を手放し新たな刀を二振り取り出して構える。

 

「ファリ・ドゥ=マクギリウス・・・改め、布堂幕切。主命を果たします」

やってみやがれァ!!!!!!

 

決して逃れられぬ宿命(戦い)が今、始まった。

 



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煽り

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

型も技もなく、ただ我武者羅に振り回すだけの双剣術。しかし、だからこそ、過激な猛攻となって布堂を攻め立てていた。

 

「『警告 体力の 消耗量が 著しく 増えています 冷静な 対応を』」

「うるせぇ!!!!!!人の口でガタガタ抜かすなッ!!!!!!!!!」

「『─────────』」

「おやまぁ・・・・酷い言い様ですね。彼女も貴方の一部なのですから、もっと仲良くするべき「うるせぇっつってンだろーーが!!!!!!!!!」

 

叫んだ輝夜は双炎義を再錬成。白い拳当てを呼び出す。

 

「『展開 “金剛拳”』」

 

得意な武器に持ち替えた輝夜は、更なる猛攻を加えようとする。

のだが─────

 

「さっきの方が、やり辛かったですね」

「なっ・・・!?」

 

布堂は輝夜の拳を、一発で受け止めていた。

 

「不得意な得物故の読み辛さ・・・・その利を捨てて、得意な得物に持ち替えたのは、ミステイクでした・・・・ねっ!!」

「ぬ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

そのまま輝夜を投げ飛ばした。

 

「かぐやちゃん!!!」

「・・・・・・勢い余って投げてしまった。どうしましょう?」

「なら、暇潰しに私達の相手でもしてよ」

 

苦笑いして肩をすくめる布堂に、夏凛が戦闘態勢で突っ掛かる。

 

「うーん・・・・申し訳ありませんが、貴女では相手にならないかと」

「言ってなさい!!!」

 

構えていた剣を布堂の足元に投げ、爆破。目眩ましにした後、突撃を仕掛ける。

 

だが─────

 

「単調ですね」

「な・・・・!?」

 

受け止められ、夏凛はその場でひっくり返され足蹴にされてしまうのだった。

 

「夏凛ちゃん!!」

「あんた・・・・いい加減に!!」

「まあまあ、落ち着きましょうよ皆さん。私はただ、主命を果たしたいだけなのですから」

「だったらこの足・・・・退けなさいよっ!」

 

自分を踏みつける足を退けようと奮闘する夏凛。

そんな彼女を、布堂は一瞥すると──────

 

「退けたら襲って来ますよね?私はこれでも忙しい身なので、相手にしている暇は無いんですよ・・・・なので」

 

剣を逆手に構え

 

「少し、そこにへばりついていて下さい」

 

躊躇う事無く夏凛の心臓へ、突き刺した。

 

「・・・・あ」

「────────かり・・・ちゃ・・・」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!!!!」

 

逆上した風が布堂へ飛び掛かる!

が、一瞬の内に地面に叩き付けられ、両手を剣で刺し止められてしまう。

 

「ぐ・・・・・この・・・・!!」

「ご安心を。彼女は死んでませんから」

「ふざけるなっ!!!!!!」

 

東郷が叫び、散弾銃を撃つ。

 

「厳密には、()()()()、と言うべきですが」

 

それを躱しつつ、布堂は続ける。

 

「どういう・・・・」

「言葉通りの意味です。()()()()()()()()()()()()()()()()

「ごほっ・・・・げほっげほっ」

 

咳き込み血反吐を吐き出しつつも()()()()()()()()()によって、布堂の言葉が真実であると裏付けられてしまう。

 

「な・・・・え・・・・?」

「精霊達のバリアには、そういう機能も備わっているのです。先代勇者達の、“大切な友達を亡くしたくない”という願いを、あの大木が不器用ながらも叶えた結果です」

「神樹様・・・・が・・・・?」

「先代・・・・勇者・・・・」

「ええ、そうですよ。それすらも忘れてしまったのですか?鷲尾須美?─────いいえ、()()()()()()?」

 

言葉の矛先が、東郷に向けられる。

 

「わ・・・・たし?」

「聞く耳を持たないで」

 

その瞬間、東郷の端末から一人の少年が現れる。

 

「こうして直接会うのはお初でしたね。君が晴乃くんですね?」

「答える義理は無い」

「連れませんね・・・・作り物とはいえ、君も私達の同類ではないですか」

「黙れ」

 

叫び、東郷の拳銃を取り出して布堂に撃った。しかし布堂はそれを新たに呼び出した剣で弾く。その瞬間─────

 

「『萌植生轍(エクスペリエンス)』!!」

「っ!?」

 

弾かれた銃弾から蔦が生え、布堂の剣を腕ごと縛り付ける!

 

「無駄ですよ?」

 

──────はずだった。

 

「何・・・・!?」

 

蔦が腕に触れた瞬間、蔦は成長を止め、逆に晴乃の方へ伸びていき、縛り付けてしまったのだ。

 

「晴乃くん!?」

「ぐ・・・・これは一体・・・?」

「『呼笛集角(ギャラルホルン)』・・・・私の能力です」

「悪魔の・・・・力か!」

「条件等の難しい話を抜きに、簡単に説明しますと・・・・・・・『()()()()()()()()』能力です」

「そうか!それで・・・・」

「晴乃くん、どうにかできないの!?」

 

東郷の声に、晴乃は必死にもがくが・・・・

 

「───────ダメ、ですね・・・びくともしません」

「そんな・・・・」

「さて、もう邪魔は居ませんね?では─────」

 

歩き出した布堂の四肢に、樹のワイヤーが絡み付く。

 

「──────!」

「樹さん・・・・・どうやら、立派に成長なされたようですね。私相手でも狼狽えなくなる程度には」

「・・・・・・」

「ですが────!」

「っ!?」

 

萌植生轍(エクスペリエンス)』が発動し、ワイヤーが蕀へと変わり樹の身体に巻き付き動きを封じる。

 

「樹っ・・・・!?」

「・・・・っ!」

「成長に免じてその程度にしておいてあげます。さて、残るは友奈さんだけですが────」

 

無言で友奈は、布堂の行く手を阻む。

 

「まぁ、そうなりますよね」

「───────たとえ、マッキー先生が相手でも、かぐやちゃんはやらせない」

「身体、震えてますよ?」

「・・・・・・・」

「無理はいけません。別に私は貴女方と敵対したい訳ではないのですから、見ないふりをしてくだされば──────」

「かぐやちゃんは・・・・私が守る!!!」

「・・・・・・やれやれ、仕方ありませんね」

 

再び、新たな剣を呼び出した布堂は、その鋒を友奈に向ける。

 

「貴女の場合、四肢を切断しない限り何をしても妨害してくるでしょうから・・・・・・本気で、()ります」

「っ!」

 

事此処に到って、布堂は初めて殺意を表した。それが却って友奈にとって、気を引き締める要因となったのは行幸であった。

 

何故なら──────

 

 

「参りま゛ッ゛!?!?!?」

 

「ぐっ゛!!!」

 

 

 

友奈達の遥か後方から吹き上がった()()()()()()()()()が、二人に襲いかかってきたのだ!

それに触れた樹海の木々は枯れ、直撃を受けた友奈も変身が解けてしまった。そして布堂は霧ごと吹き飛ばされ近くの樹木に叩き付けられその身をめり込ませていた。

 

「友奈ちゃん!」

「うぅ・・・・なに?今の・・・・」

「─────────あは」

 

布堂が、笑った。

全身ボロボロになって、樹木に身体を埋め込まれて、そんな状況で、布堂は笑った。

 

「ハハハハハハハハ!とうとう・・・・・・ここまで達したのか!」

「達した・・・?なにが─────」

 

そんな東郷の疑問に答えるように、上空から何者かが落ちてきた。

片膝立ちで着地した、その者の名は───────

 

 

 

「───────かぐやちゃん!」

 

布堂に投げ飛ばされた輝夜だった。だが、

 

「蜿榊ソ懃「コ隱堺サイ髢鍋┌莠句ク??ょケ募?谿コ謌ョ豎コ螳」

 

「え・・・・・・・?」

 

様子がおかしい。どこか機械的だが、どこか野生の獣じみた動きをしている。

 

「譛?螟ァ蜃コ蜉帶シ皮ョ鈴幕蟋」

 

何か呟いた瞬間、輝夜の側頭部が開き、先程友奈達を襲った黒い霧のようなものが放出され始めた!!

 

「・・・・なに・・・・これ?」

「──────輝夜くん、なの?それとも・・・?」

「“SYSTEM-zero time shift”襍キ蜍 謾サ謦??髢」

 

その姿はまるで、黒い翼を広げた、悪魔のようであった………

 

 



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Foton-Drive

何が起きているの・・・・?

私の目の前で、かぐやちゃんの頭から黒い霧みたいなのが吹き出した、と思った次の瞬間にはかぐやちゃんの姿は消えていて、マッキー先生は吹き飛んでいた。

 

「・・・・・かぐや、ちゃん?」

 

まるでお手玉のように空中を跳ね回るマッキー先生を、私はただ、呆然と眺めている事しかできない・・・・

 

「うぅ・・・」

 

今の声・・・・!

 

「っ!?夏凛ちゃん大丈夫!?」

 

見ると、夏凛ちゃんが自分の胸に刺さった剣を引き抜こうとしていた。

 

「ぐ・・・・」

「無茶しちゃダメだよ!私がやるから・・・・・」

「こっちは良いから・・・・あんたは、輝夜の方を・・・・」

「でもっ」

「あいつを・・・・止めないと・・・・私は・・・・平気、だから」

「でも・・・・」

「ぐっ!・・・・ああああああああああ!!!!!!」

 

雄叫びと共に、夏凛ちゃんが剣を引き抜いた。瞬間、夏凛ちゃんの胸からたくさん血が─────

 

「夏凛ちゃん!?」

「げほっ!?げほっ・・・・はぁ・・・・はぁー・・・・ふぅー・・・・ほら、平気でしょ?」

 

苦しそうに、それでも、心配させないように、夏凛ちゃんは笑ってみせた。

 

「だから、ほら・・・・先に行って。私は・・・・他の連中、助けてから・・・・行くから」

「───────────────うん。わかった!」

 

夏凛ちゃんに背を向けて、私は勇者アプリを起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────はずだった。

 

 

「・・・・・・・・・・あれ?」

 

勇者に・・・変身できない!?

 

「な・・・・なんで!?」

 

アプリの画面を見ると、『残り霊力が危険レベル迄低下中。セーフティモード起動により、使用できません』と書かれている。

 

「セーフティモード・・・って、何それぇ~~!?」

「あー、そりゃアレだ。あんたの霊力がかなり減ってるから、“これ以上変身したらヤバい”ってことで制限かけられちゃったんだな」

「え・・・・」

 

声のした方を見れば、そこには赤い服の仮面の人。

 

「・・・・・鉛、いいえ、貴女は────」

「おっと、その辺の話は後にしてくれ!今はとにかく、アレを止めるのが最優先だ」

 

そう言って指し示したのはかぐやちゃん。

 

「ちょっと待った。あんた・・・・いや、あんた達の目的は何?」

「────────そんな状態で、よく喋れる。マジで尊敬するよ」

「はぐらかすなッ!!─────げほっげほっ」

 

夏凛ちゃんが出した質問に、鉛は答えなかった。

それに怒った夏凛ちゃんが怒鳴り、咳き込んでしまう。

 

「大丈夫!?」

「あんま無理すんなって・・・・アタシ等の目的だろ?それは─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界を、ひっくり返すため・・・なんよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声がしたのは、私達の頭上だった。

 

「よっと」

「お、来た来た。遅いぞ、園子」

「えへへ~~、ごめんね。神官さんを説得するのに、時間かかっちゃって~」

 

そうして、白と紫を基調とした勇者服を纏った少女が、私達に向き直る。

 

「一応、はじめまして。私は乃木園子。貴女達の、先輩勇者なんよ~~」

 

そう、名乗ったのだった。



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