月の聖杯戦争RTA (ぴんころ)
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Part1

 はーい、よーいスタート。

 

 平行世界の全てを見通せる願望機を使ってやろうとしていることはお嫁さん探しなRTAはーじまーるよー。

 

 計測開始は予選開始初日、月海原学園の校門で身だしなみ検査が行われ始めたタイミング。ここで私が操ることになる主人公くん、通称ホモの名前や略歴を決めることになった瞬間です。ゲーム的には、ムーンセルがホモのデータを照合し始めたタイミングですね。

 

 ここで決めることになるのは主人公の名前、性別、出自、魔術回路の数、魔術回路の質、得意な魔術系統、そして最後にアライメントです。名前は入力速度などの諸々の事情を考慮してホモとしたいところでしたが、このゲームでは名前だけではなく名字も設定しないといけない関係でそのあたりが難しいと判断しました。というわけでここではデフォルトネームである岸波白野にしておきましょう。略称はホモです。無論、ホモなので男ですね。

 出自は当然サイバーゴースト……に見せかけたムーンセルのNPCです。これは肉体がない関係で使える魔力量が無制限になったりファイアウォールなどの突破に際しての対抗プログラムを無視できるという利点が大きすぎます。これに伴い魔術回路の数と質はほぼほぼお飾りとなります。この二つと得意な魔術系統に関してはランダムで決定されるのですが、もしも魔術回路の数が一桁だった場合はリセットです。あと、リセットを繰り返しすぎて間違えて素晴らしい数を叩き出したにもかかわらず何も考えずにリセットする、なんてことはないようにしましょう(五敗)。

 アライメントに関しては、今回は混沌にしておきましょう。善悪に関しては固定できません。ちなみに、アライメントの選択によって今回召喚されるサーヴァントから秩序と中立が消滅しました。混沌を選んだのは聖杯戦争を終わらせることによって世界に蔓延る混沌を思ったからです。嘘です、本当は混沌属性に作家系サーヴァントがいないからです。

 

 さて、それでは予選の開始です。ここからは二周目でもない限りはスキップできない上に見所がほとんどないお遊戯ごっこみたいな学生生活が行われた後、チュートリアルとなる戦闘をくぐり抜けてサーヴァント召喚に至るまでの間は特別やるべきことはないので、その間に本RTAについて説明したいと思います。

 

 本RTAは月の聖杯戦争終結ルートです。縛りという縛りはありませんが、あえてあげるならグランドサーヴァント、ビーストといったゲームを崩壊させかねない存在の使用はレギュレーション違反ですね。これはRTAであって無双ゲーではないので、勝利確定の処理なんて楽しくないです。

 さてさて、選んだのは月の聖杯戦争を今回で終わらせるルート。ぶっちゃけた話、月の聖杯戦争は途中脱落で地上に生きて帰るルート以外はラストで叶える願いが違うだけです。さて、そんなラスト以外特に違いはないこのルートですが、これに行くためには出自がサイバーゴーストであることが必須です。サイバーゴーストで記憶がなければ『聖杯戦争の中で願いを見つける』というルートに入るので、これ以上の犠牲を消すルートにたどり着けます。

 

 このゲームは楽しむ分においては何も問題はないのですが、RTAを行おうとすると地獄になります。その原因は二つありますがそのうちの一つが皆大好き、サーヴァント。共に戦うことになるサーヴァントに関しては完全ランダムなんですよね、このゲーム。基本的にはどんなサーヴァントが来ても問題ないようにチャートは組んでいるのですが、もしも作家系サーヴァントが来てしまった場合は諦めてリセットしましょう。(なので今回サーヴァントによるリセットは)ないです。

 二つ目は、単純に月の聖杯戦争の日程ですね。六日間のモラトリアムがあって、七日目に決戦、それを七回繰り返す。他の参加者の存在も加味すれば、六回戦終了までで確実に四十二日使用することになります。そのため、大体の記録は四十三日〜四十九日までになってしまい、長丁場になってしまうんですね。

 

 さて、そんなことを話している間に自由に操作することができるようになったので、この予選をさっさと抜けることにしましょう。予選を抜けるには本戦でアリーナに入るために使用される扉があった場所……このタイミングにおいてはただの壁でしかない体育倉庫の奥に特攻する必要があります。恐れずに突き進みましょう。ちなみに今回のホモは魔術回路は二十四本、質はAランク。質が最高峰なので喜んでいいです。

 中に入ると人形(ドール)がそこにありますが、無視しても問題ない……とは言えません。これに関しては召喚場に辿り着くまでの間は身を守る手段として必要ですからね。ただ、魔術師としてのカスタマイズをする必要はありません。所詮はこの予選の間だけの関係、すぐにでも乗り捨てることになりますから。

 

 召喚場に辿り着くまでの間に、今回のホモにできることを説明しておきます。戦闘における補助手段としてのコードキャスト、基本的にホモはそれを使用することしかできません。礼装の作成ができないわけではないのですが、用意された素材を使用するならともかく、一から自分で作るのは時間の無駄と言わざるを得ないので、素材となる礼装が揃ってない今の所はやる予定はないです。

 というのも、基本的にウィザードは魔術を扱う場合、その魔術式(プログラム)のコードを予め設計・製造しておき、これに魔力を通すことで起動させます。これは大きく分けると、外付けの消耗型(ワンオフ)と、自身の体の霊子構造に組み込む修得型(インストール)に区別されるのですが、前者だとその名前の通り一回で消費されてしまい、後者だと本人に影響があります。

 

 前者だと一回一回作る必要があり、後者だと最悪のタイミングで影響が出てくる可能性がある。どちらにせよロスにしかなりません。よってそれらの中間となる礼装にインストールした魔術式を魔力を通すことで起動する形が好まれるのですが、ムーンセルはそんな礼装を大量にばらまいてくれているのです。すでに礼装が用意されている以上、自分で一から作るよりもそれらの礼装を改造する方が時間の短縮になりますからね。一回一回コードを打っている暇もありません。というわけで礼装を手に入れるまではコードキャストを使用することはないので、ご了承ください。代わりに華麗なまでの完封勝利を見せてやるから見とけよ見とけよ〜。

 

 コードキャストの一切を使用せずとも簡単にくぐり抜けることができる練習用のステージを攻略したならば観光にはちょうど良さそうな感じの教会っぽい場所に出ますので、そこで先に死亡した参加者が引き連れていた、再起動を開始した人形とのバトルになります。

 この人形戦ですが、ここまでの練習で得られる経験値という名前の魔力リソースはゼロなので、こちらの戦闘能力が相手を上回ることはどうあがいてもあり得ません。さらには操作も不可能なので、ここの戦いは負けイベントとなっています。

 ここで本来ならば負けた後にこちらが人形によって生命を奪われ、そこからサーヴァントの召喚という流れなのですが、これはRTA。この空間自体が魔法陣みたいなものなので、イベント戦闘をしている間にこちらもサーヴァントを召喚してしまいましょう。戦闘中に詠唱を終えることができないと、イベントシーンが入って大幅なロスになってしまいます。

 

 詠唱に成功したならサーヴァントガチャが開始されます。ここで狙うべきサーヴァントはやはり、ジークフリート、アーラシュ、ロムルスといった大英雄や、エレシュキガルやカーマ、アビゲイルといった神霊です。これらを引き当てることに成功したなら鯖ガチャには勝利したと言えるでしょう。

 これらの大英雄、および神霊はこちらの魔術師としての力量の多寡を問わずにある程度の能力を発揮してくれます。こちらがサイバーゴーストだった場合魔術師としての力量はたかが知れているのですが、それでもステータスにすればオールD。これは大きくない、と思われるかもしれませんが普通のサーヴァントならばオールEから始まってステータスに魔力リソースを割り振っていくことを考えれば、これはとても大きな数字です。

 

 ここのステンドグラスが割れてからのサーヴァント召喚はスキップできないイベントムービーですので、割り切って見ることにしましょう。サーヴァントの姿が見えたら、それ以外のサーヴァントのチャートを片付けてしまいます。以前、他のサーヴァントのチャートと混ざってしまって無駄な時間を使ってしまったので、これはちゃんとしておかないといけません。

 ちなみに、召喚されるのがキャスターだった場合にはクラス別スキルである『道具作成』が存在するので礼装の作成に補正がかかります。とはいえ、キャスターは真正面から戦うクラスではないので決戦場での戦闘で色々と手間取ることになりそうなので、そこまで早くなるわけではないのですが。

 

 というわけで、サーヴァント召喚です。現れたのは……あ、沙条愛歌ですね。大英雄や神霊とは比べるべくもありませんが、可もなく不可もなく、なサーヴァントです。このサーヴァントのクラスはキャスター。月の聖杯戦争という舞台ではそこまで悪いサーヴァントではないのですが、ちょっとだけ面倒なサーヴァントでもあります。評価は5段階で3.5といったところでしょうか。

 彼女がサーヴァントとなった場合、特殊イベントが発生しますがここで言及するのは二つ。まず一つ目は『七日目の決闘に対戦相手がやってこない』というものです。沙条愛歌がサーヴァントになると、体感四割程度で七日目の決闘よりも前に対戦相手が死んでいます。一体何があったんでしょうね? 二つ目は、会話の中で発生する選択肢です。これはミスをすると沙条愛歌に見限られることになるので、決してミスしてはいけません。ミスはリセット案件です。

 

 沙条愛歌の登場とともにホモの左手に令呪が発現したことを確認したらバトル開始です。ここはスマートにさらっと片付けてしまいましょう。ここでの片付けにかかる時間も彼女へのアピールポイントになりますが、RTAである以上は最高値を叩き出す以外の選択肢なんてないんだよなぁ。

 

 沙条愛歌は基本的にただの人間でしかないのでステータスはオールEとなります。ですが、この人形との戦いにおいては問題ありません。曲がりなりにもサーヴァントとして召喚されている以上、この戦いはイベント戦闘に近いですからね。この一戦はただのチュートリアル、ここで手間取っている程度では聖杯戦争を勝ち抜けません。相手の行動は全て手に取るようにわかっているので、それに合わせて指示を行いましょう。かけていいのは六手、つまり一ターンだけです。

 どうでもいい話ですが、彼女の攻撃モーションはキャスター……玉藻前の流用です。愛歌ちゃん様が腕を振るえば影から愛歌ちゃん虐殺ウィップが現れて敵を攻撃してくれる、ってやつですね。今はまだスキルは使用不可なので、愛歌ちゃん虐殺ウィップで潰しましょう。

 

 倒し終えると謎の声による説明が入りますが、知っていることだらけなので無視しても問題ないでしょう。今回重要なのはホモに向けて謎の声からの祝辞が入っているかどうかだけです。令呪、サーヴァント、そういう説明の最後に入って来るので、聞き逃さないようにしましょう。

 

 ……はい、どうやら今回はないようですね。こちらがサイバーゴーストであるにもかかわらず祝辞がやってこなかったということは、今回はトワイスが存在しないということです。一戦分の時間が短縮されることになるので喜んでおきましょう。

 ちなみに、もしもサーヴァントがホモくんと性別が違った場合、ホモくんが一目惚れする可能性が高いです。特に、過去が何もないサイバーゴーストだと確率はさらに上がります。生まれて初めて見た美しいものなのでね、見惚れてしまうのはしょうがないでしょう。ホモのくせにノンケとかよくわかんねえなお前。

 

 さて、手の甲に走る激痛によって意識を飛ばしても問題ないので、ここはゆっくりと眠ってしまいましょう。愛歌ちゃん様もお姉ちゃんとしての威厳を発揮してこちらのことを殺そうとしたりはしません。え、原作では殺そうとしてきた? そんなことは忘れてしまったなぁ。

 

 目覚めると保健室です。保健室では聖杯戦争で必須となる携帯端末を受け取ることができるので、決して忘れてはいけませんよ。せっかくなので、愛歌ちゃん様から説明を受けている間に端末を使用してできることについてもここで説明しておきます。

 この携帯端末でできることは基本的には聖杯戦争のためにムーンセルから支給されている道具の管理、礼装の管理、そしてハッキングの三種類です。一つ目、二つ目に関しては量子化して端末の中にデータとして入れておく程度なので説明不要。三つ目に関しても、ムーンセルにバレることなくハッキングできる、となるとカスタムアバターを持てることが最低限必須な能力になるので、今のままではどうしようもありません。必要となったタイミングが来たならば、その時にでも説明しましょう。

 

 さて、ここからするべきことは月の聖杯戦争RTAでは必須となる行動。校舎内ショートカットがまだ解禁されていないので歩いて玄関にまで行って、そこにいる言峰神父から聖杯戦争本戦に参加したことを祝ってもらってから、まだ一回戦の敵がわかっていないことを伝えましょう。そうすれば明日までに対戦相手を決定してくれて教えてくれるらしいですから。……ところで、他の参加者の相手が決まってるなら、残ってる二人がそのまま対戦相手になるんじゃないんですかねぇ? なんでそんな一日も悩む必要が?

 とりあえず、言峰神父と話をしたらマイルームについての情報とアリーナについての情報を教えてもらえます。情報をもらい次第アリーナに行く、と言いたいところですが、まだ校内でやらないといけないことが一つだけ残っています。遠坂凛に会いに行きましょう。これは早めにしておかないと、沙条愛歌ルートだと致命的なことになります。とはいえ、今回は遠坂凛との間に面識を作っておくだけで問題はないので、会話は早めに切り上げましょう。

 

 遠坂凛と面識を作ったら一日目にやれることはもう残っていないので、アリーナに入りましょう。今回出てくる魔力リソース(エネミー)について順に説明します。やるべきことは一の月想海第一層の踏破と第一暗号鍵(プライマリトリガー)の入手。とは言っても、この状況下ではまだ暗号鍵についてわかってはいないので、『謎の物質』にしかならないんですけどね。暗号鍵を用意してない、対戦相手もわからない、だと初日に何をすればいいのか、わからなくなってしまうので、最初から用意されているようですよ。

 

 今回戦える敵は二つの直方体が繋がったような見た目の『KLEIN』、盾っぽい見た目の『INSPIRE』、蜂のような見た目の『CRIX』の三体です。

 まずKLEINですが、こいつはただの脳筋です。こちらのガードを抜けるほどに強烈な一撃をこちらにどうにかして叩き込むことしか考えていないので、こちらは繊細な攻撃を繰り返して相手の行動を封じていけば問題はないです。アリーナに入って一番最初に戦える相手であるということも加味すれば、単純すぎる思考ルーチンなのも納得できることですね。

 基本的にキャスタークラスということで愛歌ちゃん様は筋力がそこまで高くないです。いえ、無論筋力がEなのはホモが弱いので当然のことなのですが、それを除いても彼女は最初から筋力はEです。なので倒すには結構な頻度で繊細な一撃を叩き込む必要があります。その回数、およそ九回。1.5ターン程度です。この戦いは愛歌ちゃん様が自分の状態を確認するために必須となる戦闘ですので、完璧に導いてあげましょう。

 

 INSPIREは見た目通りの防御思考。形を盾にしたせいでまともに攻撃を行うルーチンが組まれていないのではないでしょうか。つまり、やらないといけないことは簡単、防御を崩せるレベルの破壊力を持った一撃を放てばいいのです。

 とはいえ、愛歌ちゃん様も元は人間。コンスタントに破壊力重視の一撃を放ち続けるのは力んでいる必要があって少し難しいところもあるかと思われます。その息切れを狙って攻撃を差し込んでくることがあるので、そこにはしっかりと気を配っておきましょう。

 

 CRIXも見た目通りと言ってもいいでしょう。『蝶のように舞い、蜂のように刺す』を体現した敵です。蜂のくせに。基本的にこいつは防御という言葉を辞書には入れていないので、こちらは防御を抜いてくるだろう攻撃を立ち上がりから潰しながら、相手が速度で翻弄しようとしてきたら防御して反撃しましょう。

 そこの見極めはマスターであるホモの仕事です。愛歌ちゃん様に見限られてしまわないように、しっかりと判断しましょうね。

 

 さて、全てのエネミーに対して完封を行なったことで愛歌ちゃん様からお褒めの言葉をいただけます。ただ、その言葉を聴きながら動くのが当たり前なので、普通に第一暗号鍵を探しながら聞き流しましょう。暗号鍵を発見したならそのまま奥に進みます。二日目以降ならばここでリターンクリスタルを使うのが一番いいのですが、今日はまだ売りに出されていないので、歩いて帰るしかありません。

 愛歌ちゃん様ならば転移魔術が使えるのですが、まだこちらのために使ってくれるほど好意的ではないので、期待してはいけません。ここで転移魔術を頼んで機嫌を悪くされては面倒ですからね。

 また、帰還するためのアドレスを調べて帰還用の術式を作るという手もないわけではないのですが、それを作る時間がとんでもないので、普通に歩いて帰った方が早く済むという結果もあります。諦めて普通に歩きましょう。

 今日に関してはまだ敵が決まっていないこともあって、相手とは出会うことはないです。なので安心して探索できるので、今のうちに稼げるだけリソースは稼いでおきましょう。翌日以降だとホモくんとか、愛歌ちゃん様とか、疲れが出てしまってうまいこと稼げない可能性がありますからね。

 

 さて、暗号鍵を手に入れて、アリーナの出口にもたどり着きました。アリーナから帰るとすぐに校舎の内部からあてがわれたマイルームに戻ることになります。ここで愛歌ちゃん様が弱くなっているということを聞いてから眠りにつきましょう。

 

 翌日、携帯端末に対戦相手の情報が出たという連絡が入るので、掲示板で間桐慎二の名前を確認したところで今回は終了です。ご視聴、ありがとうございました。




いつかオリジナルサーヴァントでの月の聖杯戦争も書いてみたいですね。

《現在の愛歌ちゃん様の開示情報》
属性:混沌・善
ステータス:オールE


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裏話その1

 そして、開幕の鐘は鳴らされた。

 その目覚めは誰のものか。問う声は知らず、答えることもできず、されど一つだけ。

 

 まず間違いなく、自分のものではないだろう。

 

 開幕の鐘とは何か。何を以って開幕とするのか、それを知ることのない己のものでは。

 

 

 

 

 目覚めはいつも唐突だった。

 夢を見た感触なんて、もう覚えていない。

 気がつけば通学路を歩いている。

 頭痛は一歩進むごとに強くなっていき、その日、ついに警鐘へと変化したそれは、日常生活にすら支障をきたす、脳を犯す響きとなった。

 

 あまりにも強い痺れは、平時より二分だけ早く意識を肉体へと戻した(役割を果たし始めた)

 

 朝の通学路を歩く。

 午前七時半、雲ひとつない晴天、けれどそこにあるべき記号はなく。

 今日は何月? 何日? 一体春夏秋冬どの季節?

 考えようとすると『お前は眠っていろ』と甘く囁く声が脳裏に響き、目眩がその思考を奪い去る。

 気が抜けたなら最後、自分の中からその疑問は永久に消え、自分のこの平穏が永遠に続いていくと信じているような──。

 

 ……?

 

 まるで、自分が過ごしている平穏は永遠には続かないような、そんな思考に、思わず自分の正気を疑ってしまう。

 自分の日常は永遠に続いていく。

 通学路を急ぎ足で歩くクラスメートたち。

 進むにつれておしゃべりの声で賑わってくる通学路。

 いつも通りの登校風景。

 壊れることなんてあり得るはずもない、何一つとして変化はない平穏。

 深く考えれば目眩で視界が真っ白になりかける、そんな光景。

 

 今日は/今日も

 校門の前は混み合っている。

 登校してきた生徒たちが呼び止められているらしい。

 何が起こっているのかを考えようとして、もう一度目眩が発生する。

 刷り込まれるようにして、今の状況が何かを理解した。

 

 校門の前に立っているのは黒い学生服の一人の生徒。

 生徒会長である/と記憶している

 自分の友人/という役割(ロール)を与えられている

 柳洞一成(NPC)の姿がそこにはあった。

 

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 そして、この初体験はすでにわかっている。

 この検査が抜き打ちのものであるということではない。

 この展開を、自分はすでに知っている。

 

 一成は自分の視線に気がつくと、人波をかき分けてこちらにやってくる。

 

 

「おはよう! 今朝も気持ちのいい朝で大変結構!」

 

 

 こちらに対して一切口を挟む暇を与えない。

 

 

「ん? どうした、そんなに驚いた顔をして」

 

 

 彼は初めて開示する情報のように、そんな丁寧なチュートリアルを口にする。

 こちらは、そんな情報を求めていないというのに。

 

 

「先週の朝礼で発表しただろう、今日から学内風紀強化月間に入ると」

 

 

 知っていた。

 知っている。

 その情報は、この展開は、頭痛がするほどに、目眩がするほどに、幾度となく知らされた。

 もう、この現実がおかしいことなど疑う必要がない。

 目眩が、一日の始まりまで自分を強制退出(ログアウト)させようとする。

 その濁流を、意識を噛み殺すことで耐えた。

 

 そして、その瞬間。

 

 ──魔術師(ウィザード)

 

 何かの単語が、頭の中を駆け抜けた。

 

 ああ、そうだ。自分は魔術師だった。

 それを、なぜかすんなりと受け入れることができた。

 魔術師とは何か、わかってはいない。

 それでも、その単語を思い出してしまえばもう止まってはいられない。

 友人/としての役割を与えられている一成を押しのけて先に進む。

 

「うむ、実に素晴らしい。どこから見ても文句のつけようのない、完璧な月海原学園の生徒の姿だ!」

 

 誰もいない虚空に向かって高らかに独り言を続ける彼の姿に、誰一人として違和感を覚えない。

 頭痛がする。

 悪寒をのむ。

 確信がある。

 ここは決して、自分がいていいはずの場所ではない。

 

 行かないと(目覚めろと)

 早く行かないと(目覚めろと)

 何もかもが手遅れになる(早く目を覚ませと何かが急かす)

 そんな焦燥に駆られて、走り出す。

 行かなければならない場所はわかっている。

 けれど、ああ──

 

 この目覚めには──いったい、どんな意味が──

 

 

 

虚構(フィクション)学園生活(テクスチャ)にある瑕疵を問う。

 

 

 気がつくための要素はこの学園生活の中に散りばめられていた。

 《どこにも記載がない日付》《人が消える廊下》《人が消えているのに何事もなく続いていく学園生活》

 目を背けるな。

 ここは現実ではない。

 自分たちの現実は、その廊下の先にきっとある。

 

 人が消える廊下で真実に目を凝らせば、何の変哲も無いコンクリートの壁に扉ができていた。

 迷うことなく扉の先へと向かう。

 そこにはもうあの偽りの学園生活の世界観は残っていない。

 異界の入り口とでも表現するべき場所にあったのは、つるりとした肌の人形(ドール)

 こちらに付き従うそれは何かを語ることはなく、何かを理解させることもない。

 

 

『ようこそ、新たなマスター候補よ』

 

 

 その声は、どこからともなく響いた。

 

 

『それは、この先で君の剣となり、盾となる人形だ。命ずれば、その通り動くだろう』

 

 

 その声は、こちらの脳裏にすっと入ってくる。

 違和感すら抱けない。当然のものとして。

 

 

『さあ、進みたまえ。君の求める真実は、この先にある』

 

 

 そして、何をすればいいのかだけはこちらに示された(インストールされた)

 この先にきっと、違和感に対する手がかりがあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 都合四度、チュートリアルのような思考ルーチンを組まれたプログラムを人形で撃破した。

 その果てにたどり着いた最奥、ここがゴールなのだと直感で理解した。

 息苦しさすら感じる荘厳な空間。

 失われて久しい、神が宿る場所。

 

 そんな空間の端に、一つの人形(ひとがた)を発見した。

 倒れ伏した生徒の姿は、一度たりとて見たことがない。

 だが、土気色の顔と冷え切った肉体、そしてそばで崩れ落ちている人形(ドール)を見ればすぐにわかる。

 ここはゴールであり、同時に選別の場でもあるのだと。

 

 カタカタと音を立てて、崩れ落ちている人形が立ち上がる。

 まず間違いなく友好的な存在ではない。

 四度の戦いは、これが敵性プログラム(エネミー)なのだと告げている。

 

 人形に指示を出す/人形が体を大きく振る

 二つの人形が、死体と自分の間で激突した。

 

 そして、一瞬で理解する。

 この戦いに勝ち目などないということを。

 こちらの考えを全て理解しているかのような相手の人形の動きは、自分では乗り越えることができない。

 

 ──このまま、終わるのか?

 

 一瞬、頭の中を弱い思考が巡った。

 その思考に自らが気がつくよりも先に、この口は言葉を紡ぎ始めていた。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を」

 

 

 言葉の意味なんて、自分にわかるはずもない。

 けれど、その言葉は止まることはなかった。

 

 

「四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

 性能(スペック)は向こうが上。

 こちらの動作の起こりすら叩き潰される。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」

 

 

 魔術師ならば足りないものは他所から持ってくる。

 そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

 この詠唱、その意味を自分でも理解していないのに、やらなければならないとだけ理解している。

 

 

「告げる」

 

 

 だからこそこれは、自分の魂に根付いた、この状況を打開するにふさわしい何かなのだと理解した。

 

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

 体内で見知らぬ何か(魔術回路)が軋みをあげる。

 久方ぶりの使用に体がついてこない。

 それでも、言葉は止まらない。

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善となる者。我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

 こちらの人形が破壊される。

 むしろよく保ったものだと感心すらできるような結果だった。

 そして、あの人形が次に狙うのはこの場にいるただ一人の生者たる自分。

 けれど、もう遅い。こちらの詠唱はすでに最終段階にまで入っている。

 

 

「汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────っ!」

 

 

 それは、自らの身を守る存在がいないこの状況で、迫り来る死を回避するための唯一の手段だった。

 まず間違いなく成功すると思われたその詠唱は。

 

 

「え……?」

 

 

 なぜか、何の事象も発生させることなく終焉を迎えた。

 

 思考が真っ白になる。

 なぜ、どうして。

 そんな疑問が頭をよぎり、

 

 答えを得るよりも先に、人形の腕がこちらの肉体を切り裂いていた。

 

 

『……君もダメか』

 

 

 ……遠く、声が聞こえる。

 

 

『そろそろ刻限だ。君を最後の候補とし、その落選をもって今回の予選を終了しよう』

 

 

 声が告げるのは、終焉の証。

 

 

『──さらばだ。安らかに消滅したまえ』

 

 

 声は、そう言い放った。

 もう否定するだけの力も残っていないこの体では、ぼんやりと床を見つめることしかできない。

 ……このまま、死んでいくのだろうか。

 

 自らの死を悟ったところで突然、霞んだ視界に先ほどまでは映ることのなかった土色の塊がいくつも浮かび上がってきた。

 いや、もしかしたら今になって見えただけで、元からそこにあったものかもしれない。

 夥しい死体の山。

 それは、その塊は、今ならばわかる。

 幾重にも重なり果てた月海原学園の生徒たち。

 先ほどの彼だけではないのだ。

 此処までたどり着き、しかしこの試練をどうにかすることができず、此処で果てていった者たちは。

 そして間も無く、自分もその仲間入りをすることになる。

 

 ──このまま、目を閉じてしまおうか。

 

 やれることはやった。

 もう、終わりにしてもいいのかもしれない。

 

 ──あら、諦めてしまってもいいの?

 

 ……いいや、諦めていいはずがない。

 諦めたくない、と心を燃やしている以上、此処まできて諦めたくはない。

 もう、出口は見えているのだ。

 そう思って、もう一度戦うために起き上がろうと力を入れる。

 けれど、体を走る激痛はその動きを阻害して、こちらの体が動くことを許さない。

 

 それならば、いや、例えそうだとしても──

 

 ──諦めて、たまるか

 

 叫び、力を入れる。

 声はかすれて、ほとんどか細い息が漏れたようにしか聞こえない。

 それでも、心は確かに脈動を開始した。

 

 このまま終わることは許されない。

 全身を駆け巡る痛みは、すでに許容できる限界をぶっちぎっている。

 あまりに痛すぎて、目から火が出るどころの話ではなく、痛みによって死にそうなのに痛みが意識を失わせないことに一役買ってすらいる。

 語感が指先から裁断されていく感覚。

 

 恐い。

 

 痛みが恐い。感覚の消失が恐い。先ほど見た死体と同じになることが恐ろしい。

 そして、何よりも──

 

 無意味に消えることが、きっと一番恐ろしい。

 

 此処で消えることはおかしいと意識が訴える。

 此処で死ぬのはおかしいと心が訴える。

 

 だって、此処で消えてしまうならば、あの頭痛は一体何のために。

 だって、此処で消えてしまうならば、此処で倒れた彼らは一体何のために。

 

 ──立て。

 

 心に喝を入れる。

 立ち上がるために必要なのは、痛みを度外視する心だけだ。

 恐怖に負けてしまえば、二度と立ち上がることができない。

 だから──

 

 恐いままでいい。

 痛いままでいい。

 その上で、もう一度立って戦うんだ。

 今までの戦いとは違う、自分自身の戦いを。

 

 だってこの手は、まだ一度も──

 

 自分の意思で戦ってすらいないのだから──!

 

 

『ふふ……いいわ、なかなか面白そうね』

 

 

 声が聞こえた。

 その持ち主は一体どこにいるのかなんてわからない。

 可憐で、蠱惑的で、そしてどこか恐怖を感じさせる声音。

 天上から響く声は、どこか危うさを孕んだ少女のものだった。

 

 

『英雄になる素質、って言うのかしら。死を前にして、恐怖を前にして、それでも一歩前に踏み出せる。ええ、とっても懐かしいわ。まるで御伽噺の騎士様みたい。そんな騎士様がいるのなら、もちろんそれに手を貸す魔女も必要よね?』

 

 

 ガラスが砕ける音がして。

 共に、部屋に光が灯った。

 軋む体をどうにか起こし、頭痛に耐えながら辺りを見回す。

 教会のような見た目をしていたはずの場所は、0と1のデータによって形成された広大な電子の海を漂流する小さな箱舟に。

 かつて部屋だった箱舟、その中央にはいつのまにかぼうっと何かが浮かび上がっていた。

 

 それは、少女の姿をしていた。

 無邪気を体現したかのような足取りでこちらに歩いてくるそれは、身に纏う覇気からして人間とははるかに違う。

 此処までで出会った敵とは比べ物にならぬほどの人間を超越した力。

 触れただけで蒸発しそうな圧倒的なまでの力の滾り。

 それが彼女の内に渦巻いているのが嫌でも感じ取れる。

 

 翠のフリルドレスで着飾ったその姿は、童話に出てくるお姫様のようで。

 光を反射するプラチナブロンドのショートカットは彼女が歩くに連れてゆらゆらと揺れる。

 こちらを見つめる蒼の瞳は、まるで人が人に向けるようなものではない。

 

 それでも、美しかった。

 

 広大な電子の海を泳ぐ中で、唯一の(しるべ)となる灯火。

 そう思ってしまうような、人間離れした美しさ。

 だからきっと、見惚れてしまったのはしょうがないことなのだろう。

 

 

「ちょっとだけ、見定めさせてもらったわ。うん、まあ合格をあげてもいいかしら。私の王子様にふさわしい程度にはあなたの勇気を見せてもらったもの」

 

 

 幼さの中にある、確かな芯を持つ力強さ。

 小さな子供が持つ残酷さ。

 それを併せ持った少女が、自分の前に現れた。

 

 

「それじゃ、聞くまでもないけれど、改めて聞かせてもらうわ──あなたが、私の王子様(マスター)かしら?」

 

 

 言葉を、数瞬失っていた。

 あまりにも美しいものを見た為に、何を口にすればいいのかわからなかった。

 その言葉を自分の中で噛み砕いても、少女の放った言葉の意味も、意図も、何一つとして理解できたわけではない。

 理解できるのは、この問いが重要なものであるということだけ。

 だから、返す言葉に迷うことだけはしなかった。

 

 

「俺が……マスター、です」

 

「ええ、そうでしょうね。ここにいるのはあなただけだもの。だからこれはただの儀礼みたいなもの。あなたの宣誓によって、私とあなたの間には契約がなされたわ。あなた自身がそれを認めたのだから、もうクーリングオフはできないわよ」

 

 

 クスクスと笑う少女に手を引かれて立ち上がる。

 その小柄な肉体のどこにあるのかと問いたくなるような力強さを発揮した彼女は、けれど同時にその力を完璧に使いこなしている。

 そうでもなければきっと、自分の手は握りつぶされていただろう。

 

 

「……っ」

 

 

 握られた左手に、わずかな発熱と鈍い痛み。

 思わず視線をそこに向けると、三つの模様が組み合わさった紋章にも見える奇妙な印があった。

 それは刺青のように皮膚に染み込んでいる。

 

 呆気にとられてその模様と目の前の少女を交互に見る。

 何が起こったのかさっぱりわからない。

 それでも、ここで行わなければならないことは全てが終わった、ということだけは確信を持つことができた。

 どこに向かえばいいのかわからないが、ここに留まっていても仕方がない。

 行きましょう、と促す彼女に手を引かれその場を後にしようとした途端、半ば背景と同化していた人形が再起動を果たす。

 この短い人生の中で唯一殺意を持って襲ってきた自分の恐怖の象徴が現れたことに、思考に恐怖が混ざり始める。

 

 

「あら、ちょうどいいガラクタね」

 

 

 しかし、それを少女はガラクタと言い切る。

 自分と人形の間にするりと入り込んだ少女は、人形をそもそも相手として見ていない。

 こちらが恐れたからこそ、それを認識しているだけなのだろう。

 

 

「ねえ、どうするのマスター?」

 

 

 小首を傾げてこちらに問う少女。

 もう、迷っている暇はない。向こうは今すぐにでもこちらへと距離を詰めてきそうだ。

 

 

「あいつを、倒してくれ……!」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

 自分が叫んだ瞬間、少女の影が蠢きだす。

 それは漆黒の触手となって斬撃を放ち、人形の四肢を紙屑を引き裂くようにして分割する。

 それが、現実世界には存在しない虚ろなものだというのは、きっと誰が見てもわかったことだろう。

 立ち上がるための足も、害するための腕も切り捨てられた人形は機能を停止して、すぐに塵となって霧散していく。

 

 死への恐怖という緊張状態を抜けて、ようやく左手に刻まれた紋章の発熱が強くなっていることに気がついた。

 それは今や耐え難いほどの激痛へと変貌し、意識を白く焼き焦がす。

 この痛みこそは生ある証、と言えれば話は簡単だったのだが、そこまで簡単なことではない。

 少女はこちらを眺めているだけで、特別に問題視しているようには見えない。

 そんな中、突如として自らに終焉を伝えたあの声が天より聞こえてくる。

 

 

『手に刻まれたそれは令呪。サーヴァントの主人となった証だ』

 

 

 ”従者(サーヴァント)”。

 それが言葉通りの意味ではないことはわかるが、一体どういう存在を示す言葉なのかまではわからない。

 ただ、この紋章が出現するに至った経緯と、現れた少女の放ったマスターという単語からある程度のあたりはつけられる。

 

 

『使い方によってはサーヴァントの力を高め、あるいは束縛する、三つの絶対命令権。まあ、使い捨ての強化装置とでも思えばいい。ただし、それは同時に聖杯戦争本戦の参加証でもある。令呪を全て失えば君からはマスターとしての権利は消滅し、死ぬ。注意することだ』

 

 

 淡々と告げる声。

 その声が一切の嘘をついていないとするならばこれは三回限りの命令権でありながら使用を許されているのは二回だけなのだという。

 三度目はつまり死を示す。

 

 

『困惑していることだろう。しかし、まずは……』

 

 

 そこで、一度言葉を区切った謎の声は。

 

 

『おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。主の名の下に休息を与えよう。とりあえずは、ここがゴールということになる』

 

 

 そんな、祝うような言葉を。

 さっきまでの発言からして、そんなことをする知能があるとは思わなかったから、少しだけ意表を突かれた。

 ただ、この声は未だ終わりを告げていない。

 この偽りの世界観(テクスチャ)から抜け出すという行為は終わりを告げたが、それは同時に”聖杯戦争”という新たな何かの始まりでしかないらしい。

 

 

『随分と未熟な行軍だったが、だからこそ見応えあふれるものだった。誇りたまえ。君の意思は、未熟ではあれど確かな輝きを放つ原石だった』

 

 

 発熱は未だに止まらない。

 痛みは、際限なく上昇していく。

 ここに至るまでの行軍は、今の自分には重荷だったと言っても過言ではない。

 その代価を支払う時が来たのだ。

 

 

『では、洗礼を始めよう。君にはその資格がある。変わらずに繰り返し、飽くなき回り続ける日常。その日常(微睡)に背を向けて踏み出した、その決断。──それをもって、君は生き残るにたる資格を得た』

 

 

 ──ああ、もうダメだ。

 耐えられない。

 限界が追いついて、思考がホワイトアウトしていく。

 そのまま気を失う一瞬前に、あの声の最後の言葉が聞こえて来た。

 

 

『君の決断はすでに見せてもらった。もはや疑うまい。その決意を代価とし、聖杯戦争への扉を開こう』

 

 

 ──では、これより聖杯戦争を始めよう

 

 ──いかなる時代、いかなる歳月が流れようと、戦いをもって頂点を決するのは人の摂理

 

 ──月に招かれた電子の世界の魔術師たちよ

 

 ──汝、自らを以て最強を証明せよ

 



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Part2

ライザのアトリエ楽しい


 初っ端から友人と殺し合わないといけないことになってしまった悲劇の主人公と、特に友達なんていない根源のお姫様が二人三脚でやっていくRTAはーじまーるよー。

 

 はい、前回は間桐慎二が対戦相手だということを掲示板で知ったところで終わりましたので、今回はその続きからやっていきたいと思います。

 

 さて、間桐慎二が対戦相手だとわかったことでホモくんは愕然としてしまいました。ですが、動かないわけにはいきません。ちょうどよく端末に第一暗号鍵(プライマリトリガー)を取得せよとの文言が出てきたので、言峰神父に話を聞きにいきましょう。

 話を聞きに行ったら昨日手に入れた謎の物質が暗号鍵だということを教えてくれます。そしてそれと同時に、暗号鍵とは何かについても。このRTAを覗いている皆さんには説明するまでもないことかと思われますが一応説明しておきますと、暗号鍵とはつまり決戦場への鍵です。二つ揃わないと決戦場への扉が開かれることはなく、その時点で敗北が確定してしまいます。絶対に逃さないようにしましょう。

 

 話を聞き終えたなら、そのまま購買に直行です。ここでは今日から絶対に逃すことができない本RTAでは最重要となる、ある意味宝具と呼んでも差し支えない道具が手に入るようになります。その名もリターンクリスタル。

 名称の通り、アリーナからマイルームにまで強制帰宅をさせてくれるアイテムなのですが、これがあるのとないのでは探索終了後の帰宅にかかる時間が段違いです。絶対に必須と言えるので欠かさないようにしましょう。とは言っても、今持っているPPTでは三つ買うのが関の山です。これでは一回戦の間の分にすら足りません。あとでもう一回買いに行きましょう。

 

 今日のアリーナでは、間桐慎二がライダーとともに待ち受けています。アリーナに入る手前で煽ってきてくれますが特に気にする必要はありません。むしろ気にしてしまっては怒りで操作をミスする可能性だって多少なりとも存在します。ここは冷静になっておきましょう。というかぶっちゃけた話、向こうの煽りが『お前みたいなのろまに暗号鍵を取れるかな?』ってことなので、すでにとってるこっちからしたら『二日目なのにまだ暗号鍵とってないの?』って返せるんだよなぁ。

 

 アリーナの中に入れば愛歌ちゃん様も実体化してくれるのでエネミーを相手にしても問題ないです。ホモの魂にはムーンセルに出現する全てのエネミーの行動パターンが刻み込まれているので、華麗なる闘争をお見せしましょう。

 さあ、先に進みま……って、あれ、何かのミスですかね? 愛歌ちゃん様がまだ出現しません。ちょっとー運営ーどうなってるのー? ……あ、出現しました。よかったよかった。もしも出てこなかったらここから一歩も進めませんでしたからね。特に、今日に関しては慎二がそこにいますから。一体なぜ出てこなかったのかはわかりませんが、とりあえず進みましょう。

 

 基本的には前日と同じようにエネミーを倒しながら進めばいいです。経験値稼ぎは基本、奥でイベントが発生する日付に行うのがミソ。無駄に周回回数を増やす必要はありませんからね。なので今日は稼ぎ時です。奥の方にいる慎二とそのサーヴァントであるライダーに会いに行きましょう。

 

 さて、今回の戦闘では基本的にはライダーに勝利することは不可能です。

 というのも、今現在のホモくんと愛歌ちゃん様は間違いなく最弱の組み合わせと言っても過言ではありません。そして、一応慎二(八歳)は慎二(高校生)ぐらいに見えるように自分のアバターをカスタムできる程度には優秀な魔術師(ウィザード)です。さらにそこに『こちらは何も情報を持っていない』という状況も追加です。もう勝てる要素が何も見当たりませんね。

 ……おや、更に地獄になるようです。慎二はどうやら暗号鍵をまだ見つけられていない様子。それによって癇癪を起こしてこちらに対して攻撃を仕掛けてきます。三ターンどうにかして耐えましょう。ここは基本、わかっている手には有効打を、わからない部分には防御を入れておきます。そうすれば相手が防御を抜くほどの一撃を放たない限りはダメージはそこまで大きくなりませんからね。

 さて、耐えたら向こうは溜飲を下げたのか、その場で転移して帰ってくれますからね。ついでにアーチャーではないかという頓珍漢なマトリクスを入手して帰りましょう。

 

 戻ったところで、特別重要な会話が行われるわけではないのでここは聞き流して問題ないです。選択肢が出てくるような事態になったらログを開きましょう。そちらの方が短いです。マイルームでの会話は基本的にはスルーして寝てしまっても問題ないですから、二日目はこれで終わりです。

 

 さあ、三日目です。歓喜の叫びをあげましょう。ついに魂の改竄が解禁されます。いえあっ!

 ですがまずは慎二から情報を色々といただきましょう。遠坂と話している間に『艦隊』というキーワードが出てきましたから、もうほぼほぼクラスはライダーで確定ですね。しかも慌てて逃げてくれるので、もうあれがブラフではないとはっきりと言っているようなものです。いい感じに情報をくれた慎二くんには感謝の代わりに決戦で完封してあげるとしましょう。

 

 完封するとは言っても、今のままの能力値ではどうしても時間がかかってしまいます。そんなこの状況をどうにかするための手段が教会。そこで行われる”魂の改竄”です。先ほども少し口にしましたね。これは、わかりやすくいうならステータスポイントの振り分けです。これをしないと愛歌ちゃん様のスペックは最低値のままなので、できるようになったら必ずすぐに向かいましょう。

 教会で行われる魂の改竄はサーヴァントのステータス同様に『筋力』『耐久』『敏捷』『魔力』『幸運』の五種類から選択することになります。愛歌ちゃん様の本来のスペックは筋力:E、耐久:E、敏捷:E、魔力:EX、幸運:Cだったはずですから、基本的には魔力をあげていけばオッケーです。何せ、彼女の攻撃は虚数魔術によって生み出される対サーヴァント用の愛歌ちゃん虐殺ウィップなのでね。魔力が上昇すればそれで攻撃の威力は上がります。

 

 今現在のレベルは4。手に入れたステータスポイントは9。これらを全て魔力につぎ込むと言いたいところですが、一応耐久も上げておきましょう。7:2ぐらいで。え、それ以外の能力ですか? 筋力はそもそも魔術以外での攻撃をしないので関係ないですし、幸運に関しても根源接続者として因果を書き換えることでどうにでもなります。敏捷に至っては転移魔術があるので関係ないですね。

 というわけで少々ロスにはなりますが、ステータス上昇を終えた後はアリーナでレベル上げに勤しみましょう。今回の目標はレベル5。翌日から解禁される次の階層で安全に戦えるレベルです。ゲームオーバーになってリセット、なんてことは決して許されません。でも、今更になって考えてみれば相手の行動パターンは全て覚えていたので、安全マージンを取らなくても負けませんよね。この時の私は何を考えていたんでしょう。……というわけで、愛歌ちゃん様の上がったスペックをご覧ください。

 ちなみに、前日の間にこの階層にある『鳳凰のマフラー』については確保しています。愛歌ちゃん様による改造が待たれるので、しばらくの間は使うことはありませんが。

 キャスターのサーヴァントを召喚した場合にのみ発生するイベントである礼装改造。これは二、三日の間その礼装を使用できなくなる代わりに一個上位の礼装に改造してくれるという代物です。確保次第どんどんやっていって構いません。

 

 愛歌ちゃん様の性能を確かめ、エネミーを刈り尽くしたならばその時にはレベルは5に至っているはずです。このステータスポイントは翌日割り振るのではなく、七日目の決戦前にまとめて割り振りましょう。一回一回行ってはロスにしかなりませんからね。翌日以降に解放される第二層に思いを馳せながら、今日も眠りにつきましょう。

 

 では四日目です。ここからは第二層に向かうことになるのですが、それよりも先に一つ情報を仕入れておきましょう。ここは、ある意味リセットポイントの一つです。レオのサーヴァントが一体何者なのか、というところ。もしも彼のサーヴァントが俗にいうプロトアーサー、男の父上だった場合には諦めてリセットです。愛歌ちゃん様は確実にアーサーを勝たせるために動き始めますからね。

 今回はRTAとして皆様に見せることができていることからわかる通り、アーサー王ではなかったようです。ガウェイン卿ですね。これで、一回戦におけるリセットポイントは全て通り過ぎました。え? 慎二が原因のリセットポイント? やだなぁ、そんなものあるわけないじゃないですか。

 

 ガウェイン卿だということが発覚したならば、図書室でガウェインについての情報をさらっと調べておきましょう。図書室に行ったら慎二がいます。彼は自分のサーヴァントについての情報を隠したと自信満々に言ってくれますが、『自分のサーヴァントの情報は図書室にあった』『その本だけが抜かれている』『アリーナに隠した』と、もうわざとやっているのではないかと言いたくなるような発言の数々をこちらにしてくれます。ありがたすぎて涙が出てきそうなので、その情報はしっかりと役立ててあげることが彼への礼儀ですよ。

 

 さて、今日からはアリーナの第二層が解放されて第二暗号鍵を取得できるようになりました。今日の目的は第二暗号鍵の取得と彼が隠したというサーヴァントの情報が書かれた本です。……それにしても、自分で持ち運べばいいのに、どうして彼は隠すことなんてしたのでしょうか。

 

 アリーナの第二層から敵は二種類増えました。

 四足歩行の動物に巨大な二本の角をつけた『CLUSTERHORN』と、蛇のような見た目の『VIPER』です。

 CLUSTERHORNは六回行動で一ターンとなるこの戦いにおいて、前半と後半でまるで同じ動きを行なう敵ですね。三種類の行動を一回ずつ入れてくるのですが、その選択肢は三種類だけですから簡単です。見切って倒しましょう。

 VIPERは防御するか重たい一撃を放つかのどちらかしかしません。動きを見ればどちらを狙っているのかはすぐにわかりますので、それに合わせた攻撃を放ちます。

 

 これらに第一層でも出会った三種類の敵、合わせて五種類の敵との戦いが繰り広げられることになりますが、今のホモにはそれらはただの雑兵にしか見えません。蹂躙してあげましょう。彼らを倒しながら道なりに進んでいけばいい感じに経験値も獲得できてレベルも上げることができます。

 そしてその最中、愛歌ちゃん様が慎二が隠したデータを発見しました。これを回収すると慎二くんが焦ってこちらにやってきます。まだ暗号鍵を回収していないので仕方ありません。翌日以降もつきまとわれるとロスになってしまうので、ここで一旦戦ってしまいます。情報も会得できたので、いい感じに向こうを追い詰めることができますよ。

 

 おっとこれはもしや……。

 

 戦いが終わると、向こうがちょっとしたイベント発言をしてくれました。まだ第一層の鍵を取得していないとのことです。どうせなら第一層に隠してしまえばよかったものを、なぜ第二層に隠そうと思ったのか。それが私にはわからない。

 この第一層の鍵を取得していない、というのは沙条愛歌、あるいはアビゲイルをサーヴァントにした時に低確率で起きるイベントです。具体的には、相手が取るはずの暗号鍵を破壊することで相手が決戦場にやって来られないようにする、というイベントなのですね。ただし、このイベントは七回の戦いの中で一度しか起きません。七日目に言峰神父からお叱りを受けてしまいますからね。ちなみにホモくんはその時になるまで彼女がやらかしたことを知りません。

 それにしても、向こうはどういうことをしているのでしょうか。こちらは一日に一回しかアリーナには入れないのに向こうは『本を隠す』→『図書室に戻ってきてこちらを煽る』→『もう一度アリーナに入ってこちらに勝負を仕掛けてくる』とやっているのなら許せませんし、もしも『前日までに隠していた』ならこちらが図書室にやってくるまで毎日のようにあそこで待っていたということになるので笑えます。まあ、第二層が開いたのが今日からなので、奴は一日に二回入っているのでしょう。ワカメを許すな。

 

 さてさて、そんな会話をしている間にライダー……フランシス・ドレイクをボコることに成功しました。これが今RTAでの最後のフランシス・ドレイク戦です。こちらが勝利したら慎二が現実逃避をしながら帰ってくれるので、こちらは煽ってあげましょう。そしてそのまま、今のうちに暗号鍵を取得しておきます。

 

 五日目に入ると、慎二がアリーナの入り口を封鎖したということを聞くことができます。これ、普通に考えたらアウトですよね。聖杯戦争の運営NPCから文句を言われるのではないでしょうか。……ま、まあいいです。今回の封鎖の起点となっているのは教室にある予選の時に慎二が使っていた机の上と保健室の前です。

 まず向かうのは保健室です。無論、これにも理由があります。というのも、一つ目の魔法陣(アンテナ)を破壊したところでショートカット機能が解放されるのです。お前のことが好きだったんだよ。ショートカットの移動先は『一階廊下』『二階廊下』『三階廊下』『教会』『購買部』の五つ。ショートカットを使用して二階廊下に移動すると、そこはなんと教室の目の前。これはもう、保健室から先に向かってロスを減らしなさいというお告げに違いありません。

 保健室前への直行ショートカットもなく、また保健室前の魔法陣は一階廊下にあるためショートカットではそこに向かうことができません。アリーナとは反対方向に保健室があるため、これは当然保健室から向かうべきです。そちらの方が時間がかかりません。

 

 魔法陣を破壊し終えたなら、アリーナの前に陣取る慎二を狙撃……と行きたいところですが、すぐに消えてしまうのでそれはできません。それと、愛歌ちゃん様の前でそれをしようものなら殺される可能性もありますから、そういう意味でもできません。最も気をつけるべき敵は愛歌ちゃん様です。

 さて、アリーナに入りましたが今日はやるべきことがありません。今日の間にアリーナで少しレベル上げをしてもいいですし、明日のイベントの時にレベルを上げても問題ないです。

 

 六日目は、ハンティングです。第二層で行われるイベントで、一個につき2000PPTの換金アイテムを五つも慎二が用意してくれているのです。とはいえ、走る速度を上昇させる系統の魔術(コード)を紡いでいない以上は取れても三つ。総取りは二周目以降のホモに任せましょう。というかこいつ、まだ暗号鍵取ってないと思うんですけど、こんなところでハンティングやってる暇なんてあるんですかね?

 今回のハンティングの終了条件は『慎二と遭遇して遭遇戦を行う』『五つある財宝が全て取得済みになる』のどちらかです。最短ルートを進めればこちらが三個、向こうが二個取って終了となりますが、エネミーと戦っている間も向こうは動き続けるのですれ違いざまに切り裂く形で殲滅して行きましょう。それで獲得した魔力リソースは七日目にレベル上げに使います。できればここでレベルは8まで上げておきたいところですね。

 

 

 はい、七日目になりました。ここで慎二が暗号鍵を取得できなかったことでこちらが勝利になったと言峰神父からの通達があります。それと同時に愛歌ちゃん様への忠告も。次回以降は暗号鍵を破壊してもすぐに新しいものが生成されて、一回それをするたびに実行犯のステータスとレベルを下降させるとのことです。……案外甘い裁定ですね。

 

 というわけで、今日は教会で魂の改竄をして終わりです。魔力と耐久に振っておきましょう。

 あ、おまけとはなりますが、すでに勝ちは確定していますがマトリクス埋め(真名看破)もマイルームで可能です。一回試しておいた方がコツを掴んで真名看破技能が上昇し、これからの真名看破のタイム短縮につながるのでやっておきましょうか。

 

 では、真名看破をしながら今回はここまでとなります。ご視聴、ありがとうございました。




裏話は今から書き始めるから待ってね。


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裏話その2

今回は結構ダイジェスト気味ー


1.awakening/progrmized heaven

 

 

泥濘の日常は燃え尽きた。

 

 

魔術師による生存競争。

 

 

運命の車輪は回る。

 

 

最も弱きものよ、剣を鍛えよ。

 

 

その命が育んだ、己の価値を示すために。

 

 

999人→128人

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 それは、聖杯戦争の本戦が始まってから七日目の夜のこと。

 すなわち、一回戦が終わり半数が”死”という形を以てこの世界から強制退出(ログアウト)したということだ。

 そして、自分が生き残っているということはつまり、対戦相手が……予選で友人という役割を与えられていた間桐慎二という男が死んだということ。

 

 自分が勝利し(生きて)、慎二は負けた(死んだ)

 その結果、慎二は消滅──死を迎えた。

 

 ……本当に?

 

 そんな疑問が湧いて出てくるのは、どうにも実感がないからだ。

 本当に命が一つ、永久に消え去ったのだろうか。

 決戦の場に辿り着く資格を得られなかっただけのことで?

 何の説明もなく、何も価値を得られることもなく。

 

 それは、ある種の現実逃避の色を含んだ思考。

 彼は、実力不足で消滅()を迎えたわけではない。

 明確に、こちらの妨害によって死を迎えたのだ。

 それを思えばこそ、意気消沈してしまうのは隠すことができない。

 

 

「彼のことを悼んでいるのね」

 

 

 そして、それを成した者こそ自分のサーヴァント。

 正面からの戦闘を不得手とする魔術師(キャスター)のクラスに割り当てられた少女。

 そのクラスを思えば、確かにあの手段はおかしなことではないのかもしれない。

 だが、頭で理解はできても、心が納得はしていなかった。

 さらにそこに”自分を勝利させるため”、つまり自分を死なせないためということも合わされば余計に思考が混沌としてくる。

 

 気がつけば、彼女に膝枕をされるような形で横になっていた。

 この七日間で彼女の持つ摩訶不思議な様々な能力は見せてもらったからこの行為にも、されたことに対しての驚きはあれど、まあ彼女ならできてもおかしくはないなという納得もあった。

 

 

「戦場でその優しさは重荷にしかならないわ。特に、生きたいと願ったあなたは、最後までその願いを抱き続ける必要があるの。それを捨ててしまえば最後、あなたはあの時の自分を裏切ることになる」

 

「……うん、わかってる」

 

 

 この聖杯戦争に参加した自分以外のマスターとは違って、自分には誇れるような願いなんて存在しない。

 勝利に足る強い意志が、自分の中には存在しない。

 覚悟以前の問題だ。

 生き残りたいという願いはあれど、それは流されるままに生死をかけた戦いに参戦した結果でしかない。

 自分がすがるべきものが、あまりにも脆弱なものでしかないのだ。

 

 だが、それでも──

 

 

「……勝たないと」

 

 

 ──負けることは許されない。

 

 だって、間桐慎二という友人を覚えているのは自分だけしかいないのだ。

 レオも、確かに間桐慎二という人間との間に偽りの友人関係を築いていた。

 だが、それは西欧財閥の御曹司として過ごしてきた十数年に及ぶようなものではなく、彼にとって間桐慎二という人間は大して価値はない。

 自分のように、あの偽りの人間関係が全てではないのだ。

 

 だから、忘れないことにしよう。

 間桐慎二という人間と過ごしたわずかな時を。

 たった七日間しかなかった、本当の意味で自分と彼の関係が築かれた時間のことを。

 そこで見出した、彼という人間についてを。

 

 

 

 

 

 

 聖杯戦争本戦開始。

 それを知ったのは、保健室で目を覚ました時のことだ。

 あの謎の声を聞き届け、目覚めたのは保健室。

 そこで改めて、聖杯戦争という代物についての説明をしてもらえた。

 一瞬、倒れて運ばれてきただけであの空間、そしてそこで起きた出来事は全て夢だったのかと思ったが、それは聖杯戦争について説明してくれた相手……少し後にキャスターというクラス名を名乗ることになる少女の存在が、それを否定した。

 

 

 ──聖杯戦争

 

 それはあらゆる願いを叶える万能の願望機、聖杯を求める数多の魔術師たちによる闘争。

 マスターと呼ばれる存在は、その聖杯を求めて聖杯戦争に参戦した魔術師(ウィザード)たちの総称。

 無論、魔術師たちがただ競い合うだけではマスター個人の戦闘能力で全てが決まってしまう。

 無論、例外となりうる存在は多々いるだろうが、それでは始まった時点でほとんど勝者が決まっているようなものだ。

 ゆえに、この聖杯戦争に参戦するにはとある特殊な使い魔を使役することになる。

 それこそが”サーヴァント”。

 この手に刻まれた三画の令呪とつながりがある、あの時に自分を助けてくれた少女のような存在を示す言葉。

 あらゆる時間の軛を超えて、後の世で信仰されることになった英雄英傑。

 信仰対象となった彼らは精霊の一種──英霊と呼ばれる存在となり、聖杯戦争のルールに従って現界するにあたり、七つのクラスのどれかに割り振られることになる。

 

 剣士(セイバー)

 弓兵(アーチャー)

 槍兵(ランサー)

 騎乗兵(ライダー)

 暗殺者(アサシン)

 魔術師(キャスター)

 狂戦士(バーサーカー)

 

 聖杯戦争とはこの七つのクラスに分けられた英霊たちに魔術師の代理戦争をさせること。

 自分以外の全ての魔術師を殺し終え頂点に立つ者となった暁に、聖杯をその手中に納めることになる。

 そういう魔術儀式に、記憶を失う前の自分は参戦することを選んだのだと、そこで初めて知ったのだ。

 

 

「あ、ちなみに聖杯は『願いを叶える』って言っても、その叶え方は千差万別よ。それこそ『お金持ちになりたい』って願ったら『自分よりもお金を持ってる人間を皆殺しにする』なんて叶え方をするものもあるらしいわ」

 

 

 ──そんなことも教えてくれた。

 

 そうしてある程度の知識を得られたところで、この保健室のNPCである間桐桜がやってきた。

 彼女からは端末を受け取り、次に何をするべきかを教えてもらえた。

 

 

 ──あ、それから岸波さん。言峰神父に会っておいてくださいね。

 

 

 やるべきことが何一つとしてわかっていない以上、それに従うしかなかった。

 とは言っても、言峰神父という人物がどこにいるのか、どういう姿をした人物だったのかはまるでわからなかったので校内の全てを回る羽目になったのだが。

 神父のくせに教会にいないとはどういうことなのだろうか?

 彼を探して屋上にまで行くことになった時にはどうしたものかと思ったものだが、そこで遠坂凛と出会えたことだけは良かったというべきか。

 彼女から色々な情報をもらうことに成功したので、自分が置かれている状況、自分がいる世界、そういったものへの理解が深まったのだから。

 そうして色々と基礎知識を得て時間を潰すことも功を奏したのか、言峰神父もその後すぐに見つかった。

 

 

 ──本戦、出場おめでとう。

 

 

 ……とても胡散臭い人物ではあったが。

 

 彼からは本戦におけるルールを教わることになった。

 百二十八人によるトーナメント。

 六日間の猶予期間(モラトリアム)

 マイルームの存在。

 アリーナの存在。

 聖杯戦争の運営側でなければ渡せないルール説明の数々。

 

 未だ一回戦の相手の通達が来ていなかったことだけは疑問だったが、それも尋ねれば翌日までには決めておいてくれるとのこと。

 彼に促されるようにして、アリーナへと足を運んだ。

 

 

「今日のところは、行けるところまで行ってみましょう。初陣ってこともあるから、私がもうこれ以上はダメって判断したらちゃんと聞いてね?」

 

 

 アリーナに入った直後のキャスターの言葉がそれ。

 結局、その日のうちにアリーナを踏破して、翌日に暗号鍵という名称を知ることになる謎の物質も手に入れたのだが。

 

 

「なんだか、使える魔術回路(サーキット)の数に制限がかかってるみたいね。力のほとんどが発揮できないわ」

 

 

 それほどの大立ち回りを広げておいて口にした言葉が上述のもの。

 直前まで『二人の愛の巣ね』なんて言葉を放っていた姿を見て苦笑していたのに、その言葉でいきなり現実に戻された。

 しかも、ほとんど世間話のノリで放つのだから一瞬聞き逃しそうになってしまった。

 申し訳ない気持ちになりながらも彼女に促されるようにして、その日は眠りについたのだが、彼女が弱くなってしまっていたという事実が大きな障害だということに気がついたのは翌日のこと。

 

 

 ──マスター:間桐慎二

 

 

 それが、示されていた対戦相手の名前。

 記憶のない自分にとって、唯一の友人であった一人の男の名前だった。

 

 彼との最初の戦いは、その日のうちに発生する。

 

 暗号鍵が生成された、という言葉が携帯端末に表記されたのだが、その時点での自分には暗号鍵なんて何かわからない。

 言峰神父に聴きに行けば、暗号鍵というものの役割について教えてもらえて、そして同時に、本来ならば前日には生成されていないはずの暗号鍵を自分がすでに取得していたということまで発覚した。

 言峰神父が頭を悩ませている姿はなかなかにシュールだったのだが、それはそれで別にいい。

 とりあえず、自分にできることはアリーナに行くことだけ。

 慎二の名前を見つけ、慎二と出会ったことで、彼が『友人と戦わなければならない』という現実に酔いしれていたのはわかった。

 言葉を尽くしても意味などないのだろう。

 

 アリーナに入った時点で戦わないといけないのかもしれないという可能性は理解していた。

 少しだけ、キャスターが霊体化を解除するのが遅かったのが疑問だったが、その疑問を抱き続けていられないぐらい、その日は大変だった。

 

 

「な、岸波! もう来たのか。こっちはまだ暗号鍵を見つけてないってのに。……いや、別に問題なんてないか。どうせ勝てないんだから、僕のサーヴァントを見せてあげるよ」

 

 

 アリーナで出会った慎二はそう言って、自らのサーヴァントを出現させた。

 それは赤い髪をした女。

 クラシカルな銃を持つ、慎二みたいな小悪党にはよく似合う姉御肌なサーヴァントだった。

 

 

「僕ですら暗号鍵を手に入れられないんだ。君みたいな凡俗が暗号鍵を手に入れられるはずもないからさ。ここでゲームオーバーになったとしても同じことだろう? さあ、やっちゃってよ!」

 

「うん、おしゃべりはもういいのかい? もったいないねぇ。なかなか聞き応えはあったのに」

 

 

 そんな時だった。

 そういうことなら、もう少し聞き応えのある雑音(会話)をしてあげましょう、なんて。

 ぼそりとキャスターが呟いた声が聞こえたのは。

 

 

「あら、まだ手に入れてなかったの? こっちはもう昨日のうちに手に入れてしまったというのに」

 

 

 止める間も無くキャスターの煽りが慎二相手に炸裂する。

 それを聞いた慎二は顔を真っ赤にしてチートだの何だのと喚き始め、未熟者でもできるレベルのハッキングなのにあなたはできないのね、とさらにキャスターによって煽られることになった。

 

 

 だが、そんな会話をしていても、現実は何も変わらない。

 舌戦ではこちらが……キャスターが上でも事実として魔術師としての力量は慎二がこちらをはるかに上回っている。

 たった数十秒の戦闘なのに、こちらは防戦一方で。

 戦いが終わった時点でこちらとあちらの戦力差はかけ離れていることが露骨に出ていた。

 その事実に慎二は気を良くしたのかすぐに帰っていったことだけが唯一の救いだった。

 

 

「うん、そうね」

 

 

 そしてそれを見送るしかなかった自分は、キャスターに縋るような視線を向けることしかできなかった。

 

 

「さっき、あのサーヴァントは飛び道具を使っていたでしょう? ああいうところからアーチャーなんじゃないかって考えたりするのが、この聖杯戦争で重要なことよ。まあ、アサシンとして召喚されるハサン=サッバーハは短剣を投げたりするから(飛び道具を使うから)、一概には言えないんだけどね」

 

 

 ピン、と指を一本立ててレクチャー。

 どうやらキャスターはここで敗北したことについてはそこまで問題視していないようだ。

 

 

「今日のところは相手も帰ったみたいだし、どうする? このままアリーナで戦うのもいいし、もう戻ってしまってもいいわよ」

 

 

 彼女の、判断を促す言葉に少しだけ考えて、帰るという選択肢を取ることにした。

 相手の情報を得られたのは良かったのだが、それでもこのままでは勝ち目はない。

 相手の真名がわかっていても、それを役立てることができるだけの実力がなければ……。

 

 そして、その足りない分の実力を補ってくれるものの情報が三日目に得られた。

 

 ”魂の改竄”と言うらしいそれは、サーヴァントの魂と自分(マスター)の魂を連結(リンク)させる行為。

 マスターの魂の位階が上がれば、それだけ強く連結することもできる。

 どう連結させるかを決めて、直接魂にハッキングする……らしいのだが、自分にはよくわからないことだ、ということだけがわかった。

 まあ、要するに、教会でキャスターの本来の能力を取り戻すことができるらしい。

 今重要なのは、その事実だった。

 

 特に、直前に廊下で慎二が遠坂相手に大量の情報を漏らしていたので、それを役立てることができるだけの力が欲しかった。

 ”無敵艦隊が敵なのではないか”というアナライズを遠坂は出していた。

 無論、それを鵜呑みにするわけにはいかないが、慎二のあの慌てっぷりを見るに、そこまで的外れということではないのだろう。

 

 

「つまり、あなた好みに育ててもらえるってことね。それなら、弱くなったことも悪いことばかりじゃないのかしら?」

 

 

 そんな軽口をキャスターは口にしていた。

 結局その日は、彼女が取り戻したというスキルなどの試運転をするに留めておいた。

 力の一部を取り戻したとは言っても、それは彼女に無茶をさせる理由にはならない。

 改竄前と後では彼女の能力に明確な違いが見えて、これなら多少は戦えるようになったのではないか、とそう思えるような変化だったが、逆に言えば戦えるかもしれない、という程度だ。

 スキルを使用したこともあって、魔力を吸われたことによる多少の疲弊が自分にはあった。

 そのため、結構早めに戻ったのだ。

 

 そして、その魂の改竄の成果が見えたのは四日目のことだった。

 その日、予選の最中に転校生という枠にいたレオと出会ったのだが、彼は自らのサーヴァントの真名を普通にバラしていた。

 その真名をガウェイン。

 偉大なるアーサー王伝説に登場する円卓の騎士が一人、太陽の騎士。

 勝ち進めばいずれ戦うことになるかもしれない相手でもある。

 図書室で調べておこう、という考えに至るのは当然のことであり、慎二のサーヴァントについても情報をもう少し得られたならば調べられるかもしれない、という思考に至るのも当然のことだった。

 更に言えば、前日にキャスターが取得したスキル……『聖都炎上(ゴモラズフレイム)』についても調べておきたかった。

 そこから、彼女の真名について近づければと思ったのだが、そちらに関しては失敗だったと言える。

 

 だが、図書室ではそれらを探すよりも先に慎二に出会ってしまった。

 そこで気がついたのだが、慎二はちょっとおバカだったのかもしれない。

 こっちに対してバラした情報は『銃を使う』『無敵艦隊と関わりがある……かもしれない』程度のはずなのに、明確に『自分のサーヴァントに関する本のみを隠した』と、それも『アリーナの第二層に隠した』なんてはっきりと言ってくれたのだから。

 そして同時に、このタイミングでの第二暗号鍵の生成の報告。

 二つの必須の物がそこに揃っているのならば行かない理由もない。

 

 そうして行ったアリーナの第二層で、『黄金の鹿号(ゴールデンバインド)』について書かれた航海日誌、そして第二暗号鍵を取得した。

 けれど、一番重要だったのはそれらではなく。

 相手のサーヴァントのクラスがライダーだとわかったことでもなく。

 相手の真名についてほとんど確定したということでもなく。

 

 遭遇しての戦いで一歩も引くことなく戦えたという事実である。

 

 ここまで来て、ようやく真名などの情報が役に立ってくる。

 向こうの情報がわかっていても、それを役立てることができないのであればある意味がない。

 集めた情報が無駄にならないという事実は、それだけで嬉しくなるものだった。

 

 ただ、ここで止まるわけには行かない。

 自分が教会で初めて魂の改竄をした時、教会の前には慎二がいた。

 彼ももしかしたら魂の改竄をするのかもしれない。

 そう思えば、こちらも出来る限りの事はしておきたい。

 そのため、四日目もアリーナでエネミーを倒して魔力リソースを回収することにしたのだ。

 

 そして、それは五日目に起きたことを考えると正解だったと言えた。

 五日目、アリーナの入り口が慎二の手によって封鎖されていた。

 

 その封鎖自体はたった二つの魔法陣(アンテナ)を起点とした簡単なもので、そこまで大したものではなかったのだが、それを探すのが面倒だったと言える。

 結構な距離を走り回り、アリーナに入る頃には体力を使い果たしてしまっていたのだ。

 結果として、すぐに帰宅することにした。

 腕が鈍らないように最低限だけ戦って、慎二とは出会うことなく帰ったのだ。

 

 猶予期間の最終日、そこで慎二と戦いではない形で激突することになったので、その判断は功を奏した。

 行った戦いの名前はハンティング。

 慎二がどうやらムーンセルをハッキングしたらしく、そこに用意された五つの財宝を奪い合うという戦い。

 こちらも向こうも動きを早くする系統の魔術は組んでいなかったので、純粋にどちらの足が速いかの勝負になった。

 そうなると、しっかりとアリーナの構造を理解している自分と、財宝を出現させた張本人であるためにどこに用意したのかわかっている慎二ではほとんど互角。

 ギリギリでこちらが三つ目を取ったことでその勝負は終了した。

 

 そして、決心がつかないまま迎えた七日目(今日)

 

 

「間桐慎二は暗号鍵を揃えることができなかったため、ここで敗退だ」

 

 

 その時がやってくるまで教室で心落ち着けていた自分の元に現れた言峰神父から告げられたのは、そんな一言。

 一瞬、言葉を失ったのは仕方がないことだと言えるだろう。

 

 

「それと、君のサーヴァントによく言い聞かせておくといい」

 

「何を、ですか」

 

「ふむ……気がついていないのかな? 間桐慎二が暗号鍵を手に入れられなかったのは、君のサーヴァントが彼の分の暗号鍵を破壊してしまったからだ」

 

「え……」

 

 

 あまりにも予想外の言葉。

 思考は停止しながらも、それでも言峰神父の言葉は止まらない。

 

 

「二回戦からは、暗号鍵を破壊した時点でペナルティが入る上、破壊した直後から新しい暗号鍵がランダムにその階層に配置されることになる。そのことをよく覚えておきたまえ」

 

 

 全ての参加者が公平でなければならないから、とアリーナは解放しておいてくれたが、正直に言えば自分がどのようにして今日を過ごしたのかは覚えていない。

 マイルームで一応行った相手の真名看破、キャスターもあっているだろうとお墨付きをくれた。

 

 結局、慎二と本当の関係性を築くことができたのはこの七日間だけ。

 それも敵というものでしかない。

 死に際すら看取ることができなかった彼のことを思えば涙が出そうだ。

 

 

「辛いなら、眠ってしまえばいいわ」

 

 

 そして、するりと入り込んできたキャスターの言葉に意識が落ちて──

 

 

 

 

 

 

「眠ったみたいね」

 

 

 キャスターのサーヴァント、沙条愛歌は岸波白野の頭を自らの膝の上に乗せて、その頭を撫でる。

 その目は愛おしいものを見るような目であり、同じ人間を見る目ではなく、何か空恐ろしいものを感じさせる。

 

 

「今は泣くといいわ。存分に、心が落ち着くまで」

 

 

 ──でも

 

 

「狂うことも投げ出すことも、許さない。これを乗り越えて、ようやくあなたは私の王子様に近づくんだから」

 

 

 クスクスと笑う少女の姿。

 それはどこか。

 恐ろしい、見てはいけない未来を、見ているような……




あ、ちなみに今度からは多分1〜6日目までと7日目で二回に分けて書くと思うよ……多分


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Part3

評価バーが赤からオレンジになったので初投稿です


 実は一番タイムが安定しない二回戦になってから初めて他のマスターと戦うことになるので、まだまだ覚悟が決まらないRTAはーじまーるよー。

 

 二回戦の最初は慎二くんについての回想から始まります。とはいえ、今回は慎二が目の前で死んだわけではないということと、それに伴って凛ちゃんから色々と言われたりしていないので、そこまで回想に時間は使いません。ところで、慎二が暗号鍵を取得できなかったということは戦場に来ていないわけですが、凛ちゃんはそれを知っていたのでしょうか? 知らなかったなら一日中あの決戦場の前で待っていたということに……? 凛ちゃんのうっかりさん。

 

 そんなことをしている間に端末に通達が来ました。第二回戦の対戦相手が決まったようです。掲示板に向かいましょう。

 向かった先で出会えるのは掲示板に記された敵です。今回の相手はダン・ブラックモア。わかりやすくいうなら超人です。彼の逸話は様々あれど、月の聖杯戦争はサーヴァントとマスターの関係性と能力値に重きを置きます。というわけで、彼の個人的な戦闘能力については気にしなくていいでしょう。

 それがわかったなら、夕方になる前に遠坂凛に会いに行きましょう。本来なら夕方になって初めて遠坂凛に会いに行くという考えが湧いてくるのですが、別に会いにいけないわけではないのでここでわざわざ時間を無駄にすることはないです。マスター個人の戦闘能力には特に意味はないこの聖杯戦争ですが、マスターの性格は結構重要となります。相手の重んじるであろう戦術の傾向がわかるということですね。

 

 先ほど、遠坂から言及されていない事実を良いことに、回想の時間を短縮することに成功しました。その揺り戻しがやって来ます(白目)。ふざけるな! ふざけるな! 馬鹿野郎! 凛ちゃんが勝手に自分が先に勝ったと思って待ってただけなのに、なんでそれをこっちの不手際にされないといけないんでしょうか。まあ、向こうもちょっとだけ遣る瀬無い気持ちがあっただけでしょうし、そこまで気にしないでいいでしょう。

 というか、そんなことを言っていてもしょうがないです。凛ちゃんからもらえるダン・ブラックモアについての情報はみなさん知っているでしょうから無視します。今回重要なのは宝具という概念について。宝具についての情報をもらったらそれで凛ちゃんとの話は終わりです。愛歌ちゃん様に宝具について聞いたら、アリーナに向かう前に購買部に向かいます。

 

 購買部で買うべきものは二種類。リターンクリスタルと、二回戦になって販売されるようになった『空気撃ち/一の太刀』です。リターンクリスタルについてはすでに前回で説明を終えていますし、もう一つの方、礼装について説明しましょう。

 これはサーヴァントに魔力放出を一時的に付与して相手の行動を阻害させるほどの一撃を放つことができるようになる礼装です。相手の動きを阻害して、一手必ずこちらがもらえるということの有利は説明するまでもありませんよね?

 

 さて、購入を終えたならアリーナに向かいましょう。アリーナの前で今回の対戦相手とそのサーヴァントが会話をしています。その間に今回気をつけないといけないことを話しておきましょう。

 まず、今回の相手サーヴァントですが、クラスはアーチャー、真名はロビンフッドです。二回戦でのイベントは色々とありますが、その中でもかなり重要なイベントをいくつかここで説明します。

 

 一つ目は、今日発生するイチイの木を起点とした結界、わかりやすくいうなら毒ですね。これが存在している間は、歩いている時、常にホモが魔力ダメージを受けることになります。サーヴァントには通用しなくともマスターには通用すればそれで良い。マスターを殺してしまえば終わりだということを理解しているからこその結界ですね。

 

 二つ目は、三日目に発生するイベントです。校舎内部で敵のアーチャーに狙われることになるイベントで、逃げる方向を間違えれば即デッドエンドです。RTAである以上はそんな間違いを犯すはずもないのですが、ここでこれを説明したのはつまり、『相手のアーチャーは正々堂々なんて度外視した戦術を使ってくる』ということを理解してもらうためです。

 

 というわけで、基本的に相手の能力が封じられている状態でもない限りは戦闘を行ってはいけません。

 今回は特に最たるものですね。起点を探す最中ではありますが、通路でダン・ブラックモアとロビンフッドが会話をしているところに出くわします。ここは息を潜めて彼らの会話を聞きましょう。決して、この場で戦いを挑もうなどと考えてはいけません。こちらは毒のダメージを常に受け続けているのですから。

 

 会話の内容に関してはスキップしますが、要するに二人は戦略性の違いで喧嘩をしているようです。

 ダン・ブラックモアは正々堂々と誇りをかけた決闘をして勝利することを考えていて、ロビンフッドは勝利できればそれで良い、という考え方ですね。

 個人的にはロビンフッドに賛成……というか、そもそも弓兵(アーチャー)のクラスに真正面から剣士やら槍兵やらと戦わせようとするムーンセルってどこか狂っているような気すらします。同じことがアサシンやキャスターにも言えますが。

 

 彼らの不仲を確認したところで、彼らは帰ってくれるのでこちらは探索を続けましょう。結界の起点となる矢と、それによって生成されたイチイの木が少し先に進んだ行き止まりには存在するので、それを愛歌ちゃん様に破壊してもらいます。愛歌ちゃん様がこういうものなのね、と言いながらその毒をラーニングしている様を見ている、理解できていないために首をかしげるホモには翌日にアリーナ中を走ってもらうので、暗号鍵はその時に取得してもらうことにして帰ってもらいましょう。レベル上げと暗号鍵の取得は、必ず二日目に行いましょう。理由は後で説明します。

 

 さて、二日目に入ります。二日目は特別大した内容ではありませんが星詠みであるラニと知り合うことになります。五日目までにあの英霊所縁の品を集めることで、あの英霊の真名に近づくことができるのです。こっちはすでにあのサーヴァントの真名を知っていますが、それはこちらの話。ホモくんは未だ知りません。ありがたくその申し出を受けるとしましょう。

 今回、アリーナの中で見つけられる遺物は三つ。結界の起点があった場所に落ちている鏃、広い部屋の橋に落ちている棒、入ってきた方向から見て西側の通路の端に落ちている羽根の三つです。全部合わせれば一本の矢になりますね。それを回収したらもうやることはありません。ここでレベルを10、できることなら11にまで上げておきましょう。

 

 ああ、そう言えばまだエネミーについて説明していませんでしたね。この階層で出てくるエネミーは四種類。前回の『KLEIN』が緑になった『MEBIUS』、緑色の『VIPER』こと『SWINDLE』、緑色の『CRIX』こと『INSANITY』、そして新しく出てきた鰐の口みたいな形をした『FISHBITE』です。

 彼らの行動パターンは多少複雑になっているのですが、それでも初動を見れば対応できる程度ですので、ここもしっかりと完封しましょう。相手がスキルを使用するなら完封できなくとも問題ないですが、それすらも読んでhackをぶつけることができないようではRTAを走る資格はありません。一回戦のアリーナマラソンで取得した礼装とさっき購入した空気撃ちをしっかりと活用しましょう。

 

 さて、二日目のレベル上げも終わったところで三日目は少々地獄のようなスケジュールとなります。先ほど言っていた二日目までにレベル上げをしておかなければならなかった理由でもありますね。

 まず、一階の廊下に降り立った瞬間にイベントが発生します。このイベントは先ほど説明したアーチャーによる狙撃イベントなのですが、このイベントが発生したら最後、その日はもうアリーナに直行することになるのです。それだけならばまだ許せるのですが、途中まで進んだところでホモに毒矢が突き刺さり時間経過でダメージを受けることになります。しかも、それで体力が0になったらその時点で死亡。よって、その日の経験値稼ぎは少々体力管理が厳しくなるのです。そして、翌日の昼間は毒のせいで保健室に行かなければならないという事態になって動きを制限されます。

 前日までにレベル上げをしてだいたいレベルを10にしておけば、毒矢を受けてからでも簡単にエネミーを粉砕できるので体力に余裕を以て帰ることができるのはすでに検証済みです。そういう理由で、前日までにレベル上げをしておかなければならなかったのですね。

 

 さて、そんなゴミカス以下の価値しかないイベントですが、こちらのサーヴァント次第ではその狙撃に対する防御を完遂してくれて一切のダメージを負わないことだって可能です。それに成功した場合は翌日の昼間はフリーとなります。まあ、翌日はダン・ブラックモアと出会わなければマトリクスは得られないので、そこまで大した内容ではありませんが、それでもアイテムの購入に時間を使えるというのは便利です。

 

 そんなことを言っている間にイベントはどんどん進んでいきます。一階の廊下に来たことでそのままアリーナに直行。そしてそのまま広場に向かいます。あとは運よくこちらのサーヴァントが攻撃を完全に防いでくれることを祈りましょう。

 

 

 

 ………………

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

 

 よし、運が良かったです。愛歌ちゃん様が完全に防いでくれました。これで四日目の昼も操作可能になります。とはいえ、今はまだ三日目。今の状況は相手の狙撃を一回防いだにすぎません。今すぐにでもアリーナからマイルームに戻りましょう。ここで相手のクラスがアーチャーであることが確定します。

 

 はい、では四日目に入りましょう。前日に校舎内で襲われたことを言峰神父に報告する……つまり相手のルール違反を伝えに行けば、言峰神父との会話をしている最中にダン・ブラックモアもやって来ます。普通なら保健室で行われる会話を言峰神父(監督NPC)の目の前で行ったことで、自らの罪を告白し、さらにはこちらにサーヴァントの宝具の真名を教えるということをした彼を見送って、アリーナに向かいましょう。今日から第二暗号鍵が取得できるようになっています。別に手に入れる必要まではありませんが。翌日一番奥まで行く必要があるので、その時に取っても構いません。

 が、翌日はイベントとしてアーチャーと戦うことになります。その時の彼らのいる場所が問題で、そこにたどり着くまでに無数のエネミーに襲われることは当たり前。そしてアリーナ第二層のレベル基準は14。というわけで、今日のうちに鍛えておかないと五日目で敗退させられる危険があります。今のうちにレベルを上昇させておきましょう。

 

 では五日目です。今日はやるべきことが結構多いですね。まずは三階にいるラニのところに行きましょう。二日目に取得した一本の矢として完成する遺物を彼女に渡せば彼についての情報をこちらにくれます。その情報をもらったらアリーナの第二層に向かいましょう。

 アリーナの最奥に彼らはいます。今回得られた情報を利用しての効率的な煽りを愛歌ちゃん様がしてくれるので任せましょう。そうすると彼が『シャーウッドの森』という情報をこぼしてくれます。これで、ようやくホモもアーチャー=ロビンフッドと認識できますね。戦闘そのものはだいたい互角程度になりますが、それはそれで問題なんて何もないです。

 

 六日目は、正直に言ってやるべきことなんてないです。真名がわかった時点で準備を始めるのは当然なので、アリーナで強化をしたら、もうその日にはやるべきことが残っていてはいけないのです。七日目の決戦に向けて疲労を残さないようにしましょう。やっていいのは愛歌ちゃん様とのコミュぐらいです。

 

 では、本RTAで初めてとなる七日目の決戦といきましょう。今回はまともに対戦をします。直前ではありますがしないといけないことは決まっています。今回やらないといけないことは『状態異常回復用の礼装の用意』『教会での魂の改竄』の二つだけ。それを終えたなら言峰神父に話しかけて決戦場に向かいましょう。

 

 さて、では決戦です。ロビンフッドの行動パターンは二十七種類。その内の三種類は宝具使用パターンなので、通常攻撃の場合は二十四種類ですね。この全てが最初の一手は防御から始まります。やはり弓兵なので近接戦となると少し守りに入りたくなるのでしょうか?

 ではここで、おそらくはプレイしたことのないみなさんが気になっているであろう『状態異常回復用の礼装』を用意した理由について語っておきましょう。BGMはロビンフッドが愛歌ちゃん様に殴られている音声です。

 

 今回の対戦相手であるロビンフッドはスキルとして『矢尻の毒』というものを使います。これはこちらのサーヴァントに毒を付与する攻撃なのですが、これを解除するのに先ほどの状態異常回復用の礼装を使うのです。

 ただの毒でも持続ダメージである以上は戦闘が長引けば無視できないダメージになるのは当然のことと言えます。……とは言え、これがRTAである以上はそもそも戦闘を長引かせる方がおかしい、と思う方々もいるでしょう。もちろん、そんな人たちを納得させる理由もあります。

 それがロビンフッドの宝具である『祈りの弓(イー・バウ)』です。これはカタログスペック……あるいはフレーバーテキスト的な説明をすると、標的が腹に溜め込んでいる不浄(毒や病)を瞬間的に増幅・流出させる力を持ち、対象が毒を帯びていると、その毒を火薬のように爆発させる宝具です。

 さらに、この宝具は非常に悪辣な事に、矢が対象に命中する事は毒を爆発させるトリガーでしかないため、かすり傷どころか矢を弾いたり受けたりして防いだとしても効果は発動します。また、単に武器としての効果の他に、基点となる地面に矢を刺すことで周囲をイチイの毒で染め上げ毒の空間にすることが可能という、彼がこれまで取って来た暗殺者的な手法にまさしく合致する宝具なのですね。

 そして、ここまではフレーバーテキストとしての説明をして来ましたが実際にこのRTA内部での彼の宝具の効果はというと、発動条件は相手が毒状態であること。そして発動した場合、その毒を強化(ダメージ増大プラス効果ターン延長)させるという、単純ながらも悪辣なものです。

 結構な頻度で行ってくる毒付与と、それを行われた次のターンには放たれる宝具。確実に、こちらが殺し切るよりも先に毒で死にます。なので必須だったわけですね。そして、その毒付与は遅延行為です。許してはいけない。一回一回使用されるたびにこちらも礼装を起動させるのですから、合計タイムがどれほど伸びるのか、考えたくもありません。……彼がどれだけの頻度で毒付与スキルの使用(遅延行為)を行ってくるかがわからないのが、この二回戦のタイムが安定しない一番の理由ですね。

 

 さて、それでは実際に見てもらいま──

 

 

 

 え……?

 

 

 なんで、毒状態になってないんですか?

 

 いや、都合がいいことには間違いがないんですけど、それでもどうし──

 

 

 ”愛歌ちゃん様がこういうものなのね、と言いながらその毒をラーニングしている様”

 

 

 あ、これかぁ……。そりゃ、毒をラーニングしたなら対策だってちゃんと練ることができますよね。まあ、今回のこれはいい方向に進んだガバなので許しましょう。もう一つの宝具である『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』を使用された場合はスキルを使います。聖都炎上(ゴモラズフレイム)で周囲全体を焼き払うことで隠れても意味がない状況にする、ということですね。

 

 では、愛歌ちゃん様の手で順当な勝利を手にしたならばそこで今回の戦いは終了です。相手の宝具を意味のないものとした以上、あとは基本的なスペックなどで決まりますが、こちらは愛歌ちゃん様です。根源接続者です。たかが大英雄級でもないサーヴァント一騎に遅れをとることはないですから。

 

 はい、それでは今回はここまでとなります。次回はちょっとした幕間の物語から。ご視聴、ありがとうございました。



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裏話その3

ひゃっはー。めちゃくちゃ長くなったぞー


2.arousal border alliance

 

 

目的のない旅。

 

 

海図を忘れた航海。

 

 

君の漂流の果てにあるのは、

 

 

迷った末の無残な餓死だ。

 

 

……だが、

 

 

生に執着し、魚を口にし、

 

 

星の巡りを覚え、

 

 

名も知らぬ陸地を目指すのならば、あるいは。

 

 

誰しもは始めは未熟な航海者に過ぎない。

 

 

骨子のない思想では、聖杯には届かない。

 

 

128人→64人

 

 

 

 

 

 

 一回戦の翌日、携帯端末から鳴り響く無慈悲なまでの電子音で目を覚ました。

 与えられたマイルームで過ごす一時は唯一心を休めることができる瞬間なのだが、その音が否応なく未だ自分が戦いの中にいることを思い出させる。

 

 ……慎二の死。

 

 目撃したわけではないからこそ、実は嘘だったのではないかと思いたくなるが、そんなに甘いわけがない。

 その事実をきっと、この二回戦で知ることになるのだろう。

 それを知るのが自分の死によってなのか、それとも相手を殺すことによってなのかまでは、まだわからないが。

 

 

「大丈夫。そんなに恐れなくても問題ないわ。あなたは絶対に負けないもの。だから、願いを叶えられないかもしれないなんて心配しないで」

 

 

 手が震えていたのがバレたのか、キャスターはそんなことを言う。

 ……一回戦の七日間で少しだけ彼女についてわかった気がする。

 彼女は、人の心を慮るということができない。

 俺の手が震えているのを、次は自分がああなるかもしれないという恐怖によるものだけだと考えている。

 『何も覚悟を持たない人間が人を殺して悩む』という当然であるはずの思考にまで、思い至っていない。

 

 ただ、それでも。

 

 彼女は彼女なりにこちらのことを思っている。

 こちらの不安を取り除こうと思っている。

 その事実だけは確かにある。

 ならば、覚悟を決められずとも先に進まなければならない。

 彼女の献身に対して応えなければならない。

 

 この先にあるのが地獄だけだとわかっていても、もう立ち止まるわけにはいかない。

 

 

 ──マスター:ダン・ブラックモア

 

 

 掲示板に向かえば、そこに書かれていたのはそんな名前。

 聞いたことのない人物だ。

 遠坂に聞きに行けば多少はわかったりするだろうか?

 

 

「……ふむ。君か、岸波白野というのは」

 

 

 そんな声が聞こえて、隣を見れば、そこに立っていたのは老人だった。

 髪の色はすでに白く、顔にも体にも老いの色が深い。

 だが、この人物からは衰えらしきものが感じられない。

 それはきっと、揺るがぬ芯があるから。

 迷ってばかりの自分とは違う、何があろうと変わらないたった一つの願いがあるから。

 

 

「若いな。実戦の経験も無いに等しい」

 

「何を、根拠に……」

 

「相手の風貌に臆するその様が何よりの証拠だ」

 

 

 こちらの全てを暴く、というような不可思議な目では無い。

 ただ純粋に鍛え上げられた観察眼だけでこちらのことを見据えている。

 その事実が恐ろしい。

 特殊な能力だというのならまだ、救いはあった。

 だが、これが歴戦の戦士故のものだというのなら、数多の経験によって積み上げられたものだというのなら、記憶すらないこちらがその観察眼に及ぶことはない。

 

 

「それに君の目……迷っているな」

 

「っ」

 

「案山子以前だ。そのような状態で戦場に赴くとは……不幸なことだ」

 

 

 こちらに対して憐れむような瞳を向けて、ダン・ブラックモアは去っていく。

 彼には油断も慢心もない。

 慎二のようにはいかないだろう。

 

 

「あのマスター、とっても強そうね。でも、サーヴァントはどうなのかしら? マスターがいくら強くたって、サーヴァントが勝利できないと意味がないもの」

 

 

 ダン・ブラックモアを見送ると、途端キャスターが霊体化を解除した。

 その瞳は言葉とは裏腹に、ダン・ブラックモアをそもそも認識すらしていないような気配すらある。

 

 

「まあ、あなたには良い薬になるのではないかしら? 彼、覚悟に関しては決まってそうだし、そんな彼を超えたならきっと貴方の不安も晴れるはずよ」

 

 

 ……確かに、彼には迷いはなかった。

 他の祈りを無下にしてまで貫くことができる願いが、彼にはある。

 未熟な自分が勝てるとするのなら、きっとその願いの強度だけ。

 まだ未熟なその願い、その強度、それを七日目までに勝利に足るものへと磨く何かを、彼から自分は得られるのだろうか。

 答えはわからない。

 けれど、探さなければ見つからない。

 

 ならばまずは彼という人物について教えてくれる人物のところに行くべきだろう。

 幸いにも、教えてくれそうな人物には心当たりがある。

 今日も、あそこにいればいいのだが──

 

 

「聞いたわよ、貴方の二回戦の対戦相手」

 

 

 いた。

 屋上に行けば、そこに今日も今日とて遠坂凛がいた。

 そう、彼女こそが教えてくれそうな人物。

 地上での記憶が一切ない自分にとって、唯一頼りになりそうな人物だった。

 生き残ったんだから色々と情報をあげた私に挨拶に来ないなんて、と少しの愚痴を見せたが、すぐに彼女は冷静になってそんなことを口にした。

 

 

「彼は名のある軍人よ」

 

 

 尋ねれば、あっさりと教えてくれた。

 曰く、匍匐前進で1キロ以上進んで敵の司令官を狙撃することすら日常茶飯事。

 そんな、超人的な精神力の持ち主。

 相手が軍人である以上は、学園にいる間だったとしても油断すれば背後から撃ち殺される可能性もある、と。

 

 

「勝利への執念は目的から生まれるもの。ただでさえ弱いのに、記憶が戻ってないってハンデは結構大きいわよー」

 

「ハン、デ……?」

 

 

 聖杯戦争は個人の願いを叶えるための戦い。

 記憶の有無は正直、そこまで影響するとは思えないのだが……。

 

 

「いや、関係あるに決まってるじゃない。勝利への執念は『何が何でも勝つ』って気迫なんだから、それはそのまま集中力に直結するものよ。貴方にはそのどちらもが不足している。一回戦を勝ち抜けたのにまだふわふわしているのはそういうことよ」

 

「あら、確かに私のマスターはふわふわしてるかもしれないけれど、そもそも一回戦に関しては相手が暗号鍵を取れなかったんだからしょうがないじゃない。そもそも勝ち抜いたって前提が間違ってるわよ」

 

「……ふうん。あいつ、あんなに自信満々なことを言っといて、最低限の条件すら満たせなかったんだ」

 

 

 キャスターが出現して内容を訂正したところで、遠坂の中で自分と慎二の株が下がったような気配を感じた。

 それは視線からも、少女が多少こちらを蔑視していることからもわかる。

 

 

「ま、いいわ。それならなおさらよ。たとえ貴方のサーヴァントの宝具がどれだけ強くても、このままならサー・ダンにあっさり殺されるだけでしょうね」

 

 

 宝具……?

 

 

「って、何鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるのよ、宝具よ宝具」

 

 

 ああ、そうか。

 そういえば、キャスターも無論サーヴァントなのだから、英霊を英霊たらしめる武器……彼女の逸話があるはずだ。

 確かに、これまで一切会話に出なかったから忘れていたが、……そもそも宝具を持っていない、なんてことはないと思う。

 

 

「……宝具を使ってない? それって、サーヴァントの力完全に使ってないってわけ? その状況で七日間生き残ったってこと? あんなのでも、慎二は一応優秀な魔術師だったのに?」

 

 

 そういうことになるだろう。

 こちらは確かに宝具を解禁していない。

 そもそも彼女がそれを持っていることすら認識していなかった。

 自分の態度からそれを見て取ったのか、遠坂は少し意外そうな顔をしていた。

 

 

「へえ……少し見直したかも。私は貴方のサーヴァントの宝具が桁違いに強いから猶予期間の勝負でも耐え忍べたものだと思ったもの。……まあ、それはそれとして貴方のパーソナルデータの問題が増えただけなんだけど」

 

 

 宝具が使えないことと記憶が戻っていないこと。

 それら二つが問題なのだ、と。

 ただ、会話はそこで止まる。

 携帯端末に、第一暗号鍵が生成されたという連絡がやってきたからだ。

 なので、ちょうどいい区切りではあったので遠坂と別れることにした。

 目的であったダン・ブラックモアという人物についての情報は得られたのだから。

 

 

「マスター、アリーナに行く前に購買部に寄っておきましょう。マスター達に合わせてエネミーのプログラムが複雑になっている可能性もあるし、ね」

 

 

 屋上を出たところで、キャスターは霊体化を再度解除してそんなことを言ってきた。

 確かに、ずっと同じエネミーを続けていても強化が見込めないことはムーンセルにだってわかっているはずだ。

 それを考えれば、回復用の道具などの購入をしておくのも必要なことだろう。

 

 ……そして、それはともかくとして。

 

 

「どうしたのかしら?」

 

 

 こてん、と首をかしげる彼女に聞きたいことがある。

 先ほどの遠坂との会話の中でも出てきた単語。

 彼女の”宝具”について。

 

 

「私の宝具? そんなに気になるの?」

 

「それは、まあ当然……」

 

 

 むしろ、気にならないはずがない。

 

 

「そうね……貴方がそこまでいうなら教えてあげたいところだけど、まだ内緒。使わなかったら勝てないっていうようなタイミングなら使うけど、今はまだそんなタイミングでもないでしょ?」

 

 

 そう言って、少女は軽い足取りで階段を降りて行く。

 まるで妖精か何かのような軽やかさで踊りを披露した少女は途中で霊体化した。

 直前に『そろそろ始めましょう』なんて言葉を残して。

 

 

 

 

 それは、アリーナに入った直後のこと。

 入る直前にダン・ブラックモアとそのサーヴァントである緑衣の青年の会話を見ていたこともあって、遠坂から聞いた『学園内でも背後からズドン』なんて言葉も頭の中をよぎっていたのですぐに気がついた。

 纏わりつくような空気が脳に危機感を告げていることに。

 

 

 ──立ち止まるな

 

 

 脳裏を過ぎたのはその一言。

 止まれば死ぬ、その単純な事実がこのアリーナを包む理。

 早く逃げなければならないと本能は叫び、心も同じように早く逃げろと叫んでいる。

 

 

「動ける?」

 

「……うん、大丈夫」

 

 

 足は動く。

 手も動く。

 ならば、進むことができないはずがない。

 

 

「このアリーナ全体を包んでるみたいね。この規模だったら議論するまでもなく宝具よ。……こういう結界系統は、確か起点があるのだったかしら? それにしても悪趣味ね。どうせ用意するなら入った瞬間溶かすぐらいの勢いは欲しいものなのだけれど」

 

 

 呼吸をするたびに体を蝕む毒の世界。

 ただそこに存在するだけで命を削られるような空間で、まともに探索などできるはずもない。

 だから、早く起点を見つけなければ。

 だが、焦り過ぎてもいけない。

 今のように、目の前の通路で会話しているダン・ブラックモアとサーヴァントを見つけたからと言って、毒をどうにかするためにこの場で倒すことを決意して戦いに挑むような、そんな愚行はしてはいけないのだ。

 

 息を潜めて会話を聞いていれば、どうやらダン・ブラックモアと相手のサーヴァントはそこまで仲が良くないようだ。

 それでも一回戦を勝ち残ったという事実が、彼らの戦闘能力を保証しているのだが。

 ……先に進もう。

 こんなことを考えていても、何も変わらない。

 変わることがあるのなら、自分がこの毒……彼らの言葉を信じるならば『イチイの毒』によって死ぬまでのタイムリミットだけだ、それも減る一方に。

 

 少なくとも、彼らが退出したことでこちらのアリーナ探索の邪魔をする人物はいなくなった。

 刻一刻とこちらの命を削る毒の結界は如何ともしがたいが、その起点を発見したところで背後から狙い撃ち、なんて事態は今日に限っては避けられるはずだ。

 そうして走っている中で、半透明な通路の先にはおそらくは結界の起点と思われる、この電子の空間には似つかわしくない木が存在しているのを発見した。

 

 

「とりあえず、破壊しちゃいましょう」

 

 

 その言葉とともに、キャスターが影を蠢かせる。

 結界の起点となる樹、その中心たる矢を影に吸収して、その場には一切の痕跡を残さない。

 そしてそれに伴うようにして、身体を支配していた重圧と、蝕む痛みから解放された。

 

 

「身体、大丈夫? 暗号鍵を取得できるのは今日だけじゃないんだから、今日はもう帰ってしまうのも手よ」

 

「……うん、そうしようか」

 

 

 痛みから解放されたとはいえ、すでに蝕まれた部分に関してはどうしようもない。

 今日無茶をして翌日以降に響いてもしょうがない。

 今日の探索はここまでにしておいて一旦戻るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 二日目の探索は、前日の途中終了を挽回するように隅々まで行われた。

 それは暗号鍵を見つけた後もなお、止まることなどはなく。

 というのも、ここに来る前にラニという少女に出会ったのだ。

 キャスター曰くホムンクルスだという彼女は、ダン・ブラックモアのサーヴァントの遺物を持ってきて欲しいのだ、と言った。

 それによって占星術を行い、彼のサーヴァントの真名に近づくことができる。

 そうして探索した中で、鏃と(シャフト)と風切羽根、そして暗号鍵を取得したのだが、翌日にはこれが正解だったということを身を以て理解する羽目になった。

 

 

「振り向いちゃダメよ、マスター。こっちが気がついたことを向こうに気がつかれたら攻撃されるわ」

 

 

 それは三日目、アリーナに向かうために一階に降り立った瞬間のことだった。

 通電するかのように体を走った悪寒が間違っていないことは、霊体化したままのキャスターがそんな言葉を口にしたことが何よりの証拠。

 この場で戦うのは自分たちの状況を考えて不利と言わざるを得ない。

 ここで戦ってこちらの力を他の人間に見られかねないということも、戦闘禁止エリアで戦闘を行ったことによるペナルティも、どちらも自分たちにとっては重たすぎる罰則だ。

 迎撃という選択肢が元より無いらしいのはきっと、キャスターの方がそのことを良くわかっているからだろう。

 彼女の指示に合わせて呼吸を小さく、できる限り気取られないように息を合わせて。

 どこか楽しそうなキャスターに合わせて、アリーナに向けて一気に駆け出した。

 アリーナに入ってもなおその殺気は途切れることなく、こちらは体力の限界まで走らされる。

 そうして走り、たどり着いたのはとある広場。

 そこに入った瞬間を狙った矢は──

 

 

「哀れね。そんな分かり易すぎる死角からの攻撃なんて、防げるに決まってるじゃない。あまりにも考え足らずじゃないかしら?」

 

 

 矢を撃ち落とす形ではなく、こちらの身に攻防一体となる彼女の影が纏わり付いたことで防がれた。

 全身が覆われているにもかかわらず視界が確保されたその影は、アーチャーのサーヴァント──ここまで正確無比な狙撃をしている以上まず間違いない──が放った矢がその影に沈み込んでいく様をはっきりと見せてくれた。

 いかなる理由によるものなのか、彼女の考えはわからないが、彼女が必要と感じたことなのだろう。

 ならばこちらもその判断を信じるだけだ。

 

 

「今のうちかしら。逃げるわよ、マスター。さすがにあのアーチャーがいるところで潰している間にあなたがエネミーに襲われたら困るもの」

 

 

 驚きによるものか、こちらの身を苛んでいた彼からの殺気は縮れている。

 確かに逃げるなら今のうちだ。もう、ここから出口までは遠くない(数歩程度)

 あとは、こちらが辿り着くのが早いか、向こうが立ち直り第二射を放つのが早いかの勝負。

 

 そして、その勝負には勝つことができた。

 

 こちらは何も問題なく、出口にまで辿り着くことができたのだ。

 無論、相手がこちらを油断させるための演技だったという可能性も捨てきれないのでマイルームに入るまでは警戒していたのだが。

 

 

「それにしても、校舎の中なのに狙ってくるなんてひどいことをするのね。一応明日、言峰神父(運営NPC)のところに行ってみましょう。聖杯戦争のルールを破った相手だから、ちゃんと処罰してくれると思うわ」

 

 

 マイルームでの会話。

 彼女の言に従って翌日に言峰神父を探していたら、ダン・ブラックモアと出会ってしまった。

 

 

 ──イチイの矢の元になった宝具を破却した。

 

 

 そして、そこで信じられない発言を耳にすることになった。

 

 

 ──令呪を以って命じる

 

 

 三回限りの絶対命令権の使用。

 それそのものは別におかしなことではない。

 三回目が死亡につながるとはいえ、二回までなら使用できるのだから。

 

 ただ──

 

 

 ──学園サイドでの敵マスターへの”祈りの弓(イー・バウ)”による攻撃を永久に禁ずる

 

 

 それを、相手に有利になるような行動のために使用するなんて、きっと誰も考えなかっただろう。

 

 

「ふうん」

 

 

 ぞくりとするような一言。

 これまで聞いたことがないような冷たい声。

 それが隣にいるキャスターから漏れた。

 

 

「ああいう輩って、ちょっと厄介なのよね。きっちりと潰さないとダメ。森に隠れるなら森に火を放てばいいし、街に隠れるなら街ごと海に沈めないと」

 

 

 携帯端末が第二暗号鍵の生成を告げるまで、そんな空恐ろしい言葉の羅列が止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 五日目、ラニの星詠みが始まった。

 集めた遺物を彼女に渡せば、あの英霊がどういう気質なのかはだいたい理解できたようで。

 アリーナの奥で出会ったアーチャーから、さらなる情報を引き出すことにも成功した。

 

 

 ──シャーウッドの森

 

 

 真正面から戦ったアーチャーは、ペナルティの影響もあって確かに弱くなっているはずなのだが、それを感じさせないぐらいに戦がうまかった。

 無論、アーチャーとしての本領を発揮する暇もないぐらいの近接戦ではあったのだが、これまでに得られた様々な情報から得られる真名を考えれば、その戦上手もそうおかしなことではないのかもしれない。

 

 もう、これ以上真名を割り出すために労力をかける必要はない。

 純粋に自らの強化、相手の毒への対策に時間を使うことができるのだ。

 

 よって、六日目は朝からアリーナにこもりエネミーから魔力リソースを得られるだけ得ていた。

 時間の許す限りの強化はできた。

 やれるだけのことはやったのだから、後は明日の決戦でそれを出し切れるかだけ。

 ……あの高潔な人を相手に、自らの全てを見せられないという事態だけはあってはいけない。

 

 そして、七日目の決戦がやってくる。




次回でようやく、愛歌ちゃん様がまともに戦闘する……


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裏話その4

 ──アーチャー

 

 ──祈りの弓

 

 ──シャーウッドの森

 

 

 これら三つの情報から、敵対サーヴァントの真名がロビンフッドだということは五日目の時点でわかっていた。

 そして事ここに至ってもそれを覆すような情報は何も出なかったのだから、もうそれで確定させても問題ないはずだ。

 練れるだけの対策は練った。

 自分にできる限界までの準備を整えて自分は……いいや、自分たちは初めてとなる決戦場に向かうエレベーターに乗り、ダン・ブラックモアと向き合っていた。

 

 

「……」

 

 

 会話は発生しない。

 戦場で敵と話すことはない、軍人たるダン・ブラックモア。

 そもそも初めての戦場で緊張している自分。

 相手と会話をするような理由(余裕)など、存在するはずもない。

 向こうのアーチャーも、こちらのキャスターのことを警戒しているのか何も話さない。

 キャスターも、にこにこと笑うだけで何も語りはしない。

 

 

「さあ、行きましょう」

 

 

 キャスターが口を開いたのは、エレベーターが停止したタイミング。

 謳うように、何も知らぬ童女のように、魔術師は謳う。

 

 

「彼の夢は、ここで結実することもなく終わるの」

 

 

 一歩、足を踏み出す。

 騎士への憧憬を持つ男、ロビンフッド。

 彼の夢が叶うことはない、と無慈悲なまでの宣告を。

 

 

「ここで決めるぞ、アーチャー」

 

「おうよ! つーわけで、夢見がちな怪物王女(ボトニアテローン)にはここで退場願いましょうか」

 

 

 怪物王女……?

 それは、キャスターを示す言葉だろうか。

 未だ分からぬ彼女の真名に繋がりかねないキーワードに思わず気を取られるが、今は気にする必要はない。

 あとで調べればいいのだ。

 勝ちさえすれば、調べる時間はあるのだから。

 

 

「あら、退場するのはあなたたちの方でしょう? ここは月の舞台。踊るのにふさわしいのは狩人ではないはずよ」

 

「それを言うなら、怪物でしかないお前もだろうが。ガキの(ナリ)をしてようが、てめえみたいな怪物を受け入れる土壌はどこの世界にもないってことを知っときな!」

 

 

 

Sword or Death

 

 

 

 初動はほぼ同時。

 『空気撃ち/一の太刀』によってキャスターに付加された『魔力放出』のスキルが、アーチャーとの距離を埋めるに足る瞬発力を彼女に与える。

 軽く、舞うように跳んだ少女は瞬きの間にアーチャーへと近づいていた。

 対してアーチャーも、その速度には目を見張りながらも腕は止まることなく、すでに弓から毒矢を放っている。

 

 

「んなぁっ!?」

 

 

 当たるかと思われた毒矢。

 自分から見ても絶対に当たるタイミングで放たれた一撃だった。

 しかしそれは、少女の姿が掻き消えたことで虚空を打ち抜くにとどまった。

 

 起きた現象、キャスターが無詠唱で起こした現象の名前は転移。

 かつて地上に神秘が残っていた時代ですら、高位の魔術師が大掛かりな儀式を使用してようやく使えたような魔術を無詠唱で一呼吸にやってのけた。

 イチイの木を使用した結界、それを使用できる程度には魔術をかじっているロビンフッドだからこそ、驚きは強かったのだろう。

 それでも一切動きを止めることがないのはさすがと言う他ないが。

 ただ、これで彼らにも敏捷値は意味がないということはわかっただろう。

 常に剣が届かない距離を保ちながら戦う射手に対しては致命的な相性を持つのだということを。

 

 

「無貌の王、参る」

 

 

 数度の矢を全て躱されて何を思ったのか、アーチャーはその姿を虚空に消す。

 ──顔のない王(ノーフェイス・メイキング)

 ロビンフッドの宝具の一つ、彼自身の姿を消失させるもの。

 完全なる透明化と背景との同化を為すその宝具は、まさしくアサシンの『気配遮断』の上位互換。

 攻撃態勢を取ればランクが下がる『気配遮断』とは違って、そのような弱点はない。

 これを解除させるための手段は、もうわかりきっている。

 

 

「キャスター、やってくれ!」

 

「紅蓮の夢で踊りなさい」

 

 

 ──瞬間、世界が赤に包まれた

 

 

 聖都炎上(ゴモラズフレイム)

 初めて魂の改竄を行った時に彼女が取り戻したスキル。

 試運転をした時には一体のエネミーに絞って放ったからか、それとも実力が足りていないのか、あるいはその両方か、そこまで範囲が広くなることはなかったが、今はガツンと魔力を持って行かれる感覚と共にこの決戦場全体に炎が広がっている。

 そして、その上でムーンセルが執り行う聖杯戦争、その基本ルールとしてある『サーヴァント同士の戦い』を行うためにサーヴァントに課せられた『マスターを狙ってはいけない』というルールに従って、自分にもダン・ブラックモアにも一切の被害が出ないように精密にコントロールされている。

 

 これこそが、ロビンフッドが持つ姿隠しの宝具たる”顔のない王”への対策。

 いくら隠れたとしても関係がない。

 隠れる場所の全てを焼き尽くしてしまえば、どこにいようと攻撃は当たるという理論。

 

 熱気が伝わる。

 その充満する煉獄のような熱に汗が吹き出る。

 これで終わってくれていると楽なのだが……。

 

 

「あら、まだ死んでなかったのね」

 

 

 キャスターの言葉に正面を見据えれば、そこにはロビンフッドの姿がまだある。

 霊核まで焼き尽くされていなくとも、それでも負傷は大きい。

 彼のトレードマークでもあった緑の外套はすでに焼け落ち、宝具としての機能を十全に発揮するには及ばない。

 肉体にも決して軽くはない火傷が刻まれていて、ダン・ブラックモアが治療のための魔術(プログラム)を走らせているとはいえ、もはや死に体と言われても否定はできないはずだ。

 それでもなお、ロビンフッドの眼光は鋭く、敗北を認めることもなければ戦いを諦めることもしていない。

 

 英霊という存在を見誤っていたということを実感した。

 それは、自分のサーヴァントに対しても同じことが言える。

 無論、種類は千差万別だろうが、一握りだろうと本気になれば世界そのものを滅ぼせるのではないかと思えるほどの力を持つなどとは、思ってもみなかった。

 

 けれど、戦いは未だ終わっていない。

 自分が彼女のことを甘く見ていたことを謝るのならば、それは戦いが終わった後でいい。

 

 

 ──次は何を仕掛けてくる?

 

 

 思考を止めるな。

 一瞬でも思考を止めたなら、今は有利に運んでいるこの戦況がまるで意味をなさなくなる可能性だってある。

 自分の知る限りのアーチャー……ロビンフッドの攻撃手段はそこまで多くはない。

 顔のない王による隠蔽(ステルス)からの狙撃、矢を起点としてイチイの木を作り、それを中心として猛毒の結界の生成、あとはロビンフッドという英霊のあり方からして罠もあっておかしくない。

 ただ、顔のない王が今は使用できない状態になっているということ、罠に関しても同時に決戦場に入った以上は仕掛ける時間なんてそこまで多くなかった。

 顔のない王を使用している間に仕掛けることはできたかもしれないが、聖都炎上が使用されるまでのラグを考えればそこまで複雑な罠はないと思って問題ないだろう。

 

 

 ──ならば

 

 

 思考が及んだ途端、アーチャーが新たな行動を行う。

 こちらも、それと同時に一つの礼装を握る。

 そして最後に、マスターであるダン・ブラックモアがその行動を後押しする。

 

 

「援護する、アーチャー」

 

 

 仕掛けられた魔術はサーヴァントを構成する霊子を崩すことでスタンさせるもの。

 それが、アーチャーの行動を阻害させないために放たれる。

 次々と放たれる魔術はキャスターに転移という行動を取らせるためのものと、アーチャーに近づけないためのものの二種類。

 影から出現する黒い触手がそれを防ぎ、崩し、確実にアーチャーとの距離を詰めるのだが、それでも間に合わない。

 

 そうして行われたアーチャーの次の一手は、こちらの想像通りだった。

 

 

「根を張りな! シャーウッドの森よ!」

 

 

 言葉と同時に展開されたのは初日の結界。

 今の彼に残された宝具──祈りの弓。

 放たれた無数の矢はどこを狙ったというわけでもない。

 キャスターをそもそも狙ってすらいないその一撃では、可憐な少女の体を捉えることなどできはしない。

 そんな、弓の腕前を頼りにして英霊となった証である弓兵(アーチャー)のクラスとしては許容しがたいであろう矢は、予想通り地面に刺さる。

 だが、彼らにとってはこれでいいのだろう。

 そもそも普通に狙っても矢はキャスターに当たらない。

 ならば、普通ではない手段でキャスターの体にダメージを蓄積させるしかないのだ。

 

 その手段を、自分は1日目の時点で目撃していた。

 

 

 途端、キャスターとアーチャーが結界の中に閉じ込められる。

 この中は毒の結界のはずだ。

 握った礼装……『癒しの香木』と呼ばれるそれをキャスターが持つクラススキルである『道具作成』によって改良されたもの。

 ネックレス型に改良されたそれに付属する魔術は毒の解除。

 結界が毒を与え続ける以上は常にかけ続けないといけないわけだが、それでも相手の宝具の効果がただ単純に『毒の結界を生み出す』だけだとは考えづらい。

 弓兵である以上は、その宝具は間違いなく弓にまつわる何かのはずだ。

 

 

 

 

 

 

「あら、なかなか面白い趣向ね」

 

 

 今回展開されたのは一本の矢を元に構成された木を起点とした結界ではなく、複数の矢を起点として構成された森のような結界。

 毒々しい大気の中、されどそれをまるで気にしないのがキャスターのサーヴァント。

 毒が解除されているのではなく、そもそも通用すらしていない。

 

 

「それで、このあとはどうするの、ロビンフッド?」

 

 

 返答は、ない。

 どこかに隠れて、彼女の隙を狙っているのか。

 

 

 ──森の恵みよ、圧制者への毒となれ

 

 

「……いいわ、乗ってあげる」

 

 

 くすりと微笑んだ姿はあまりにも美を体現している。

 されどその口から放たれた言葉は他のサーヴァントやマスターが聞けば頭がおかしいと思うことだろう。

 彼女の力があれば即座にこの結界を破壊できるというのに、わざわざ相手に宝具を発動させる隙を与えるとは。

 

 

「”祈りの弓(イー・バウ)”」

 

 

 そうして放たれた矢を、キャスターは影の一振りで薙ぎ払う。

 何一つとして効果のない姿を目撃して、ロビンフッドは瞠目する。

 

 

「おいおい、効いてねえのかよ……」

 

「むしろ、なんで効果があると思ったのかしら?」

 

 

 ──あなた、私の真名にたどり着いているのでしょう?

 

 

 その言葉に沈黙を以って返答とするアーチャー。

 ”祈りの弓”は、標的がその体の内側に溜め込んでいる毒や病などの不浄を瞬間的に増幅・流出させる力を持ち、対象が毒を帯びていると、その毒を火薬のように爆発させる効果がある。

 そして、『矢が対象に命中する』事は毒を爆発させるトリガーでしかないため、かすり傷どころか、先ほどのキャスターのように矢を弾いたり受けたりして防いだとしても効果は発動する。

 

 これをどうにかする手段は大まかに二つ。

 そもそも矢を受けないということ。

 当たることがトリガーなのだから、当たらなければ問題はない。

 

 そしてもう一つが、体内に毒を持たないこと。

 ただしこちらは本当に難しい。

 何せ、ロビンフッドはイチイの毒を使用するため、彼が宝具を使わなければならない事態になれば相手にはすでに毒が行使されているのだから。

 耐毒スキルを持つようなサーヴァントならば話は別だが、このキャスターはそんなものを持っていない。

 

 ただ、それでも彼女がそれを防げるのはおかしくはないとアーチャーは知っている。

 

 

「根源接続者、だったか」

 

「ええ」

 

 

 それは、月の聖杯戦争でのみサーヴァントとして呼び出される可能性のある存在。

 願望機ではなく観測機としての機能があるために召喚される可能性が生まれた存在。

 他の聖杯戦争では決して呼び出すことができないその少女の名は沙条愛歌。

 『世界を滅ぼそうとした怪物』としての属性を持って反英霊として登録された少女。

 西欧財閥が聖杯戦争に参加するに当たって万全を期すために月から持ち帰った情報、その中にとある世界の東京で行われた聖杯戦争が存在した。

 それがいかなる理由によるものか流出したことで、恐ろしくあやふやな存在ながらも彼女は、月の聖杯に英霊として認識されたのだ。

 

 

「あなたの毒はもう全部見たもの。それなら、後はその対抗策を用意しておくだけでしょう? いくら毒の規模を大きくしたところで、結局使ってるものは同じなんだもの」

 

 

 とはいえ、それをマスターである白野は知らない。

 愛歌は教えることを忘れていた。

 一応、状況そのものはわかっていなくても、契約の経路(パス)から無事は伝わるのだが。

 

 

「もう、あなたの毒は見飽きたわ」

 

 

 手元で広がる炎。

 それは神罰の業火。

 溢れ出る業火は少女の身を美しく彩りながら、この世界()を焼き尽くす。

 

 

「……っ! させるかよ!」

 

 

 彼の言葉、そこに含まれた感情は憤怒の色を持つ。

 この森はロビンフッドの戦場にして住処。

 彼にとって誇れるものではないとしても、英雄として駆け抜けた戦場の具現。

 そこを焼き払おうとする行為をそうやすやすと見逃すわけにはいかなかった。

 

 だが、無意味。

 

 

「ちぃっ……」

 

 

 炎を前に全てが焼き払われていく。

 その炎を見るに、まず間違いなく先ほどの一撃よりも威力は上。

 あれ以上の温度を出せばたとえ触れることなくともマスターの命が危ないと判断して、威力が抑えられていたがこの結界の中であるならばそれを気にする必要はない。

 生前もその全能を十全に振るいながらも、今とは違って外付けの魔力タンク(マスター)がなかったために振るえる力には限度があった。

 だが、今はそれを気にする必要はない。

 彼女の見立てでは、彼女のマスターには魔力量での制限がない。

 ゆえに、その炎は森を、命を呑み尽くすまで止まることを知らない。

 

 

 アーチャーが敗北するのは、時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

 そして、その時は訪れる。

 結界が解除されたのだ。

 中にいるキャスターにコードキャストが通用しなかったために、その瞬間を緊張とともに見届ける。

 果たしてどちらが立っているのか、と。

 

 

「キャスター!」

 

「アーチャー」

 

 

 ダン・ブラックモアも、そのような姿を見せなかったが、どうやら自分と同じような心境だったのだろう。

 二人揃って自分のサーヴァントの名前を呼んだ。

 そして、内側から姿を見せた二人は全く真逆の姿で──

 

 

「私たちの勝ちよ」

 

 

 まるでダメージを負った様子もなく、ただ足取り軽く少女はこちらの元へと戻り。

 

 

「すまねえ、旦那……」

 

 

 緑衣の弓兵は、その体に火傷のない場所など一切ないような姿で、それでもなお膝をつくことはなく立っていた。

 

 その決着をどこか驚きを含んだ面持ちで見ていたのはダン・ブラックモアだ。

 彼はどこか天啓を得たかのような表情で、その場に立ち尽くす。

 

 キャスターがとある部分を踏み越えた途端、こちらとあちらの陣営を分ける壁が出現した。

 それに、思わず目を開いた。

 

 

「おや、一回戦を超えたというのにこれを見るのは初めてかな?」

 

 

 すでに体は末端から消滅を始めていた。

 ……これが、電脳死。

 慎二の時には見ることのなかった、聖杯戦争で敗北した者の末路。

 

 

「……しかし、意外だ。初めて見た時には君は迷っていた、いいや、この決戦場に入る前、昇降機に乗っている時ですら。だが、戦いが始まった時にはその動きに迷いはなかった。──言葉にできずとも、譲れぬ何かがあったのだろう」

 

 

 老騎士からはすでにこれまでの苛烈さが消えている。

 こちらに向ける視線はつい先ほどまで殺しあっていたとは思えないほどに穏やかで、祖父が孫に向ける視線というのはこういうものなのだろうかと幻視してしまう。

 

 

「迷いながらも進むがいい、若人よ。その迷いが、いずれ敵を穿つための意思となるのだから」

 

 

 アーチャーとダン・ブラックモアの会話は聞かない。

 聞いてはいけない。

 これは彼らの間の会話であって、こちらが口を挟んではいけないものだ。

 本来ならば、聞くことすら許されない。

 それでも勝者として彼らの言葉を聞かざるを得ない。

 

 

「最後に、年寄りの戯言を聞いてほしい」

 

 

 だから、アーチャーが消滅した後、ダン・ブラックモアがこちらに話しかけてくるなんて思ってもみなかった。

 それでも、戯言と呼ぶにはあまりにも彼の姿勢は誠実だ。

 

 

「これから先、誰と戦うことになったとしても、誰を殺すことになったとしても──その結果だけは受け入れてほしい。迷いも悔いも、消えないのならば消す必要はない。ただし、結果だけは拒んではならない。そこで得た全てを糧として進む。それが覚悟というものだ。そのことを忘れて進めば、君は未練を残してしまう」

 

 

 頷く。

 彼の言葉は金言だ。

 未だ覚悟も何もない自分、ただ生きたいと願うだけの自分の戦いに色をつける言葉だ。

 色をつける下地すらない自分に、これから先の戦いで忘れてはいけない言葉。

 彼はそんな言葉を残して、最後に誰か女性の名前を呟いて消滅した。

 

 

「ほら、戻りましょうマスター。もうこれ以上ここに留まっていてもしょうがないわ」

 

 

 消滅したダン・ブラックモアがいた場所を見つめていた自分に声をかけてきたキャスター。

 そこに彼らへの興味は感じられない。

 『怪物王女』と彼女のことをロビンフッドが呼んでいたことを思い出す。

 お姫様のような少女は、自らが興味を抱いたもの以外の存在をまともに認識していない。

 そこになぜか、危うさのようなものを感じて、自分たちの二回戦は終了した。




別にこの危うさが何かしたりするわけではない(何もないとは言ってない)


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Part4

 幕間の物語とかいうロスにしかならないイベントは全力で回避していくけれど三回戦のアリーナとかいう隠し通路が多すぎて投げ出したくなる難所を迎えてトントンになるだろうRTAはーじまーるよー。

 

 はい、まずは今回最初のイベントとしてやってくる幕間の物語……ユリウスのアサシンとのイベントをこなしましょう。ここは愛歌ちゃん様の転移魔術によってあっさりと抜けることができます。ですが、実はここで引っかかっておかないと五回戦までユリウスという名前を知ることはなく、それどころか三回戦の後のラニ・凛救出イベントが発生しない可能性すらあります。あれはユリウスのことを知っていたからこそ視聴覚室を覗こうとしたわけですしね。

 とはいえ、馬鹿正直にアサシンと戦ってやる必要はありません。閉じ込められるのと同時に転移魔術で脱出しましょう。そうすれば向こうはこちらのことを脅威とみなしてくれます。凛ちゃんに助けられたなら、これでフラグは立ちました。あとはいつものように三回戦も走るだけです。今のところガバらしきガバは一つも出ていないので、このまま突っ切りたいものですね。

 

 

 さて、三回戦の対戦相手はありすです。ひらがな表記でありすなので間違えないようにしましょう。端末に連絡が来るよりも先に掲示板にたどり着いていたホモですが、どうやら私の知らない間に端末に連絡が来ていたようですね。相手であるありすもそこにいます。見た目は幼い少女ですが、ここまで勝ち残って来たということはその実力は本物。油断はフヨウラ!

 

 というわけで、今日も今日とて遠坂ちゃんを頼りましょう。頼れるのは彼女程度です。情報を得るためには敵であっても媚を売りましょう。とは言っても今回の相手に関しては凛ちゃんは何も情報を持っていないようです。役に立ちませんね。普通に考えたら、一回戦で消える多くの人物の情報を持っていないのはともかくとしても勝ち残って来るような連中についての情報を持ってないのは致命的だと思います。

 

 一日目には何があろうと暗号鍵を入手することはできません。というのも、相手の情報を得るために鬼ごっこを行うことになるのですが、その際に最終的に相手が呼び出したジャバウォックがレベル99なのです。それが道を塞いでいる以上、こちらは先に進むことができなくなるのです。一部ユーザーはこのタイミングでジャバウォックを倒すことを成し遂げるらしいですし、そもそも愛歌ちゃん様ならば負けることはないと思いますが、これはRTAなのでロスになると分かり切った行動をする必要はありません。

 

 ちなみに、このタイミングでありすのサーヴァントがわかります。有志の手によってありすのサーヴァントがナーサリーライムではない場合もすでに発覚していますが、今回はナーサリーライムでない場合はリセットです。というのも、ナーサリーライムでない場合のありすのサーヴァントというのは『ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ』です。もう一度言います、スパムです。

 ナーサリーライムの場合は全ての行動が確定していますが、スパムの場合は逆に全ての行動に規則性がありません。スキル三種類とアタック・ガード・ブレイクの三種類の合わせて六つ、そこに宝具を加えて合計七つ、それぞれランダムに配置されています。117649通りの組み合わせなんて判断できるわけありませんし、そもそも公開される手は三手だけです。無理です。さらにそこに『絶対に真名にたどり着けないサーヴァント』なわけで、宝具のタイミングもつかめません。そんなのと戦うのはジャバウォックの分のロスをはるかに超える厳しさです。そういうわけでナーサリーライムじゃないとダメだったんですね。

 というわけで撤退です。撤退したところでマトリクス『バーサーカー?』を取得しました。どう考えてもまずサーヴァントに見えない……それは今更ですね、UMAとかもサーヴァントになってるんですし。とりあえず、ナーサリーではなくジャバウォックをサーヴァントだと思ったホモくんは見当違いなマトリクスを取得しましたが、一切役に立たないので気にしなくていいです。戦いをしていたならばSE.RA.PHから警告が出ないことでサーヴァントではないとわかるのでしょうが、今回はそもそも戦わなかったので関係ないですね。

 

 

 さて、二日目に入りました。二日目は自由行動の前にサイバーゴーストについての情報をレオから得られます。が、それはこのRTAにおいては関係ありません。まず相手の情報を探りにかかります。そこらへんで出会ったありすとかくれんぼをしましょう。かくれんぼと言いながらアリーナの前に一切隠れることなく立っています。そこで見つけたら、今度は宝探しだと言って『ヴォーパルの剣』を探してくればジャバウォックをどかすことができると教えてくれました。

 本来ならばここで凛ちゃんに話を聞きに行き、そこでヴォーパルの剣が何かを尋ねて、ラニのところでマラカイトが必要と言われて、遠坂凛から『ルビーと交換』という条件を出され、そこから購買部のNPCに桜弁当と交換なら、と言われるのですが、今回は愛歌ちゃん様なのでそこの一連の流れをオールカットして愛歌ちゃん様が錬成してくれます。やったぜ。すぐにでもジャバウォックを倒しに行きましょう。愛歌ちゃん様の作ったヴォーパルの剣はラニの作ったものより強いぜ!

 とはいえ、ここまで頑張ったのに意味がありませんでした。愛歌ちゃん様からあの怪物はサーヴァントではないということを教えてもらえますから。でもしょうがありません。警告が出ませんでしたからね。倒し終えたのでちゃんと暗号鍵を取ってから帰りましょう。こういう強敵を倒すと、それだけで安堵して暗号鍵の存在を忘れて帰りかねませんからね(一敗)。

 

 今度は三日目です。今回は珍しく、三日目から第二層が展開されていますので、ありすの呼び出しに従ってそちらに向かいましょう。情報を得るためですからね、こんな幼女と遊ぶのが楽しいわけないじゃないですか。楽しんでたらホモの名を返上しないといけません。

 今日やらなければならないことは『名無しの森』についての情報を得ることと、できる限りのマップ作成です。というのも、今日に関しては『名無しの森』が生成されたことによってこの階層のエネミーは全て存在が消滅させられているからレベル上げもできず、ありすとの追いかけっこを時間制限以内に成功しなければゲームオーバーになるのです。そこまで時間制限が厳しいわけではありませんが、ちょっと試走の最中にミスしたので、安定をとって普通に追いかけます。三回行き止まりに追い詰めれば終わりなのでちょっと急いで走りましょう。

 

 

 走り回っておめおめと逃げ帰った翌日。ようやく落ち着いたので前日の最後に取得した紙を確認します。『あなたの名前はなあに?』と書かれていることを確認したら、一応凛ちゃんに相談しに行きましょう。ここで凛ちゃんに相談しないとありすがサイバーゴーストであることにたどり着けません。ありすが固有結界を使用したということを相談しましょう。

 さて、相談をしたらもう問題ありません。アリーナに向かいましょう。アリーナに向かえばホモの伝家の宝刀を放ちます。さあ、皆さんご一緒に──

 

 

 ──フランシスコ……ザビ!?

 

 

 よし、これでノルマは達成です。ただのロスですが気にしてはいけません。固有結界が解除された以上、もう何も恐れることはありません。エネミーを撃破しながら先に進み、レベル上げに今日は勤しみましょう。三回戦のこれからのイベントを考えると、もうアリーナで行われるイベントがないのでいつ暗号鍵を取得しても問題はないです。なので忘れないうちに拾っておきましょう。

 

 ……そういえばまだエネミーの説明をしていませんでしたね。ですが、そろそろエネミーの行動パターンを文字に起こすのがめんど……難しくなってきました。動きが複雑すぎる。

 というわけで、今回は旨味なエネミーについてだけご紹介します。まずは第一層からエントリーした鳥型エネミーこと『WHEATHER DRIVE』くん。彼は三手目に直前のものとは違う二択を入れてくるのですが、50%の確率で外れることを除けばとても経験値が美味しい敵です。見つけ次第狩って焼き鳥にしてやりましょう。

 第二層は蜂型のエネミーこと『EARTHCALL』だけがまず味です。それ以外の二種類はうま味なので色々と狩って、レベル上げに勤しみましょう。ここの基準は18です。

 

 では、そろそろ先ほどまで展開されていた固有結界についても説明をします。名無しの森という名前については先ほどちょろっと口にしましたが、その効果は『名前を忘れてしまう』というものです。名前を忘れるだけ、と思われるかもしれませんが実際には名前を忘れることで自己を定義するものが消滅し、それに伴ってだんだん存在そのものが消失していくという悪魔的なものなのです。 

 

 名無しの森とかいうどう考えても重要すぎるワードを手に入れたので、これを学園に戻ってからしっかり調べてマトリクスを3にしま……せん。この三回戦に限ってはマトリクスを最大まで埋める必要がないのです。ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィの可能性の際に説明をしましたが、この三回戦に関してだけは相手の行動は完全に固定されています。マトリクスなんて必要ないんだよ!

 

 なので、ここからは完全にただのレベル上げなので99倍速で終わらせます。

 

 

 ………………

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

 

 はい、というわけで当日です。五日目は本来ならば凛ちゃんから『ありすは最初から死んでいる少女なのではないか』という考えをもらえます。そしてその後、魂の改竄を行ってくれる教会にいる、蒼崎橙子から話を聞くことでキャスターかバーサーカーか、固有結界という存在と強大な戦闘能力のそぐわなさについて教えてもらえます。さらにそこにありすが落としていった鏡文字の文章。それらがナーサリーライムの真名に近づけてくれます。

 六日目は本当にただの確認でしかありませんでした。ですので特筆するべきことは何もなくアリーナでのレベル上げです。結果、今の愛歌ちゃん様はレベル20です。魔力はすでにBランクまで上がっているので、まず間違いなく倒せるでしょう。

 

 では、今回の相手であるナーサリーライムについて説明します。彼女は本来明確な形を持たないサーヴァント。英語の「わらべうた」。実在の人物を英霊としたものではなく、実在する絵本の総称。

 イギリスで子供達に深く愛されたこのジャンルは、多くの子供達の夢を受け止めていった絵本のジャンルは、一つの概念として成立、その結果として「子供たちの英雄」という概念としてサーヴァントとなりました。のちにルイス・キャロルという著名な作家を生み出す下地になったものでもあります。

 サーヴァントが固有結界を作るのではなく、固有結界そのものがサーヴァントであり、あの少女の形をかたどっているというある種の特殊事例。

 「物語」であるため本来決まった形は無く、マスターの心を映し、マスターが夢見た形の疑似サーヴァントを作り上げる、そんなサーヴァント。

 

 では、なぜそんな彼女がありすと同じ姿をしているかといえば、それはありすが「お友達が欲しい」と夢見ていたから。

 彼女は現実ではすでに死んでいる、いわゆるサイバーゴースト。生前の国籍は第二次世界大戦末期のイギリス。ナチスドイツの空爆によって瀕死の重傷を負い余命幾ばくも無い状態に陥ったが、魔術回路が確認されたために強制的に延命させられ、数年間に及び研究用実験に使われた後に肉体は絶命。しかし、精神は繋げられたネットに残り続け、電脳魔として生き続けることになった少女。

 ネット上を彷徨い続けていた彼女がこのムーンセルにやってきたのは『人がたくさんいて楽しそうだった』から。参戦した理由は自分と似たマスター……つまり肉体を持たないホモくんとお話ししてみたかったから。

 

 

 ……人物背景重すぎませんか?

 

 

 気を取り直してナーサリーライムとの戦闘です。

 彼女の宝具『永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)』はゲーム的にいうならば体力の全回復。その本質は詠唱によって行われる時間の巻き戻し。ただしあくまで巻き戻し繰り返しを行うだけであり、時間を操るとされる第五魔法とは違い自身とその召喚物にしか効果は適用されません。

 そして、巻き戻し繰り返しをするために行動パターンは全て決められているのです。

 

 

 1ターン目。スキル、アタック、アタック、ガード、ガード、ブレイク。

 2ターン目。ブレイク、スキル、アタック、ガード、アタック、ガード。

 3ターン目。アタック、ブレイク、スキル、ガード、ガード、アタック。

 4ターン目。ガード、ガード、ブレイク、スキル、アタック、アタック。

 5ターン目。ガード、アタック、ガード、ブレイク、スキル、アタック。

 6ターン目。アタック、ガード、ガード、アタック、ブレイク、スキル。

 7ターン目。アタック、ブレイク、スキル、ガード、ブレイク、スキル。

 8ターン目。ガード、ブレイク、アタック、ブレイク、ブレイク、スキル。

 

 そしてその直後に宝具発動。よって合計四十八回の行動で倒し切らないと削り落とされます。

 

 スキルに関しても全てが固定で、1ターン目のスキルは補助スキルの『白の女王さまのなぞなぞ』。

 2ターン目のスキルはガードで軽減可能な攻撃スキルの『冬の野の白き時』。

 3ターン目のスキルは攻撃スキルで対ガードスタンの効果付き、つまりガードしても軽減できない上にガードするとスタンする『三月兎の狂乱』。

 4ターン目のスキルは3ターン目と同じ。

 5ターン目のスキルは2ターン目と同じ。

 6ターン目のスキルは1ターン目と同じ。

 7ターン目の3ラウンドのスキルは2ターン目と同じで、6ラウンド目のスキルは3ターン目と同じ。

 8ターン目の6ラウンドのスキルは2ターン目と同じでその直後に宝具です。

 

 

 こちらのレベルが十分であれば普通に倒しきれます。もしも全手わかりきった状態で倒しきれなかったなら、それはリセット案件ですからね。そんなことにはなりません(三敗)。

 勝利した後に学園に戻ってくるとレオくんからのお出迎えです。ホモからしたら嬉しいはずのお出迎え。ここで彼が参戦理由を語ってくれますが、正直どうでもいいです。

 

 今回はもうちょっとだけ続きます。具体的には幕間その2。ヒロインを決める選択肢です。え? ヒロインは愛歌ちゃん様だろって? 私もそう思います。ですが、これがシナリオなのでね、しょうがないことなのです。では、分岐点イクゾー!(デッデッデデデデ! カーン!)

 

 

 今回の分岐点は凛とラニの戦いです。ここで彼女たちのどちらを助けるのかを選ぶことでこの作品の協力者が決まります。RNとRN、どっちを選ぶか悩みますね。その決戦日、ユリウスが視聴覚室で何かをしているのを見かけたので、俺も仲間に入れてくれよーって感じに行きましょう。友達ですからね(まだ友達とは言ってない)。視聴覚室に入ったら機械に触りましょう。そしたら勝手に機械が決戦場を映し出してくれます。

 では垂れ流しとなります。このRTA中唯一の休憩時間です。トイレに行ったりと色々しておきましょう。ただ、のんびりしていると普通にムービーが終わったりしています。少し急ぎましょう(五敗)。

 

 この勝負は凛ちゃんが勝利するようです。やはり型月が誇るFateシリーズの元祖ヒロインは格が違いますね。決着まで見たら帰りましょう。まあ、『このままいけば』の話なんですがね。そんな簡単にはいきません。そもそも『このままいけば』がちゃんと成立するなら、岸波フランシスコホモとかいう男がここまで勝ち残ってるはずがありません。

 

 ラニの体は爆弾になっているらしく、聖杯が手に入らない場合は聖杯を破壊するように指示を受けていたようです。これも凛ちゃんがどうにかしてくれるはずなんですが、何を思ったのかホモくんは助けたいと思ったようですね。愛歌ちゃん様の可愛らしい嫉妬が見られますが、正直こっちは冷や汗ものです。そんなことを考えるぐらいならと監禁されたらRTAはリセットでしたからね。

 

 さて、それでは選択の時です。一体どちらを助けるのかは──

 

 

 次回です。というわけで今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。



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裏話その5

なんかいつもよりも短くなったので初投稿です


 第二回戦を終えた翌日、携帯端末にまた次の戦いのゴングが鳴り響いた。

 無機質に次の殺し合いを求める電子音に重たくなる体を動かして掲示板の元にまで向かう。

 そのために一歩、二階の廊下に足を踏み出した時のことだった。

 

 ──突然、背筋が総毛立った。

 

 奇妙な悪寒。

 正体はわからずとも、これが良くないものだというのは考えるまでもなく明らか。

 サーヴァントを呼ぶ間も、自ら構える暇も与えられることはなく、正体不明ながらも圧倒的な力によって勢いよく後方へと──校舎の壁へと向けて跳ね飛ばされる。

 ぶつかる、そう思って痛みをこらえようとしたが、いつまで経っても壁にぶつかった感覚はなく、その代わりに周囲の風景が見覚えのない場所へと変わっていた。

 

 

「ここは……決戦場……?」

 

 

 事態が急変しすぎて思考が追いつかない。

 けれど、見覚えがないはずの場所はよく見てみればどこか決戦場に似た要素を持っている。

 海の底のような空気、何処と無く暗く沈んだ雰囲気は、人がいない決戦場に、細部(ディティール)は違えど似ている。

 おそらくはキャスターが普段から使用する転移魔術と同質のそれ、けれどこれは不正規(イレギュラー)な手段を以って運ばれたのだと、そう理解した。

 

 ここの構造(システム)がもしも闘技場のそれなのだとしたら、ここには敵がいるはずだ。

 

 そのことに思い至った瞬間、意識が凍りついた。

 緊張で息が詰まる。

 感じる殺気はまるで人間のものとは思えない代物で、これは怪物なのだと言われた方が納得できるような殺意の塊だった。

 息がつまるほどの緊張をもたらすその殺意の根源に、視線を向ける。

 

 

「脆弱にも程がある。魔術師とはいえ、ここまで非力では木偶にも劣ろう。鵜をくびりころすのも飽きた。多少の手ごたえが欲しいところだが……」

 

 

 そこに立っていたのは、一人の男だった。

 濃密な殺意の量に似合わず、形は人間のもの。

 されど疑う余地などどこにもありはしない。

 彼はサーヴァントであり、その五体こそがただの一度で自分を十度は殺して余りある凶器なのだと──!

 

 燃えるような衣装に身を包んだ鋭い目つきをした偉丈夫は、まさしく”死”そのもの。

 伝え聞いていただけの単語でしかない暗殺者(アサシン)というクラスが頭をよぎる。

 一瞬でも目を離せばそこでやられる、そう確信したところで──

 

 

「小僧、お主はどうかな?」

 

 

 来る──そう確信した時にはもう遅かった。

 キャスターが放つ無数の影はその肉体を捉えること能わず、ただ魔拳を前に砕け散る。

 ここはセラフが未だ感知していない戦いの場、マスターという枷があってはキャスターの全力の破壊をもたらすことができない。

 

 

 ──だから、キャスターはそもそも戦うことを放棄した。

 

 

 軽い浮遊感の後、気がつけば、先ほどまでいた場所に戻っていた。

 初めて経験したが、おそらくはキャスターがよく使う転移魔術だろう。

 彼女が普段使っているそれは、光の速度である擬似霊子で万物が構成される電脳空間においてであれば光速行動が可能となるので転移のようなことも可能となる魔術師(ウィザード)とは違って、世界に神秘が満ちていた頃の転移魔術。

 それを難なく扱える時点で、他人に対してかけられないなんて考える方が間違っている。

 

 あの達人を相手に今の状況で戦うのは間違いなのだと自分の全てが叫んでいたから、それは何も間違いなどではない。

 

 だが、先ほどの魔の闘技場を抜け出したからと言って安堵などしていられない。

 今もまだ異常は続いている。

 校舎に変わりはなくとも、廊下に漂う異常は明確に、先ほどのいろんなマスターを殺していたサーヴァントとは違う、自分だけを狙う鋭い殺気がそこにはあった。

 日常の中に潜む異常、これを危険と言わずに何を危険というのか。

 視線を移した廊下の先、そこには幽鬼と呼ぶ他ない男が立っていた。

 

 

「……その実力で、どうやって生き延びた?」

 

 

 音もなく数メートル先に現れたのは、予選の時に異彩を放っていた教師。

 烏のごとき漆黒のコートを羽織り、顔にかかる長い髪の下から、刺し貫くような視線をこちらに向けている。

 葛木と呼ばれていた男の凍てつくような気配は予選の時から何一つとして変わることはない。

 ここに至って疑う余地など存在しない。

 ──彼は、マスターだ。

 

 

「ただの雑魚かと思ったが、上級のサーヴァントを引き当てたか、それとも爪を隠した腕利きか。どちらにせよ、あの魔拳から生き延びたのだ」

 

 

 男の纏う気配が変わる。

 辺りに放たれていた強烈な殺気が怜悧な刃物のように研ぎ澄まされて、一点に向けられる。

 

 

「ここで始末するに越したことはない」

 

 

 向いた先は、こちらの首。

 汗が頬を伝って床に落ちる。

 逃げなければならないとわかっているのに、体がまるで動かない。

 男が一歩足を踏み出したその時──

 

 

「ふうん。やっぱりあなたがマスターを殺して回っている”放課後の殺人鬼”だったのね」

 

 

 その足を静止させたのは、一人の少女の声。

 このような状況に誘い込むことを考えれば、まず間違いなく標的以外からの邪魔が入らないようにしているだろうにもかかわらず、教室から現れたのは赤い服の少女。

 

 

「……遠坂凛か」

 

「あら、私のことはご存知なのね。さすが世界に誇るハーウェイ財閥の情報網。それとも、あなたの耳に入るぐらい派手にやりすぎたかしら。ねえ? 西欧財閥における叛乱分子対策の大元──ユリウス・ベルキスク・ハーウェイさん?」

 

 

 ユリウスと呼ばれた葛木は、薄い唇を歪めてかすかに笑う。

 その姿に見覚えがあったのはユリウスだけではない。

 この聖杯戦争における優勝候補筆頭はレオではあるが、それは別にレオ以外に優勝候補がいないというわけではない。

 そんな、優勝候補にのし上がれるほどに優秀な、赤い服が印象的な魔術師の名前は遠坂凛。

 

 

「……敵を助けるとは、随分と気が多いな。この男を味方に引き入れるつもりか?」

 

「まさか。そいつは私の仕事とは無関係よ。殺したいなら勝手にしたら?」

 

 

 叛乱分子対策の大元という遠坂の言葉が本当であれば、彼女とユリウスは因縁浅からぬ仲ということ。

 敵の敵は味方という理論でユリウスを撃退することも可能かもしれない。

 静かな敵意と、確かな殺意がこの廊下に満ち満ちて──

 

 

「……テロ屋め。その隙に後ろから刺されるのではたまらんな」

 

 

 ──ユリウスが、戦闘態勢を解除した。

 

 唇の端に皮肉な笑みを浮かべたまま、ユリウスはゆっくりと廊下の壁に向かって後ずさる。

 遠坂に向けられていた凍てつくような視線が、こちらに向き直る。

 

 

「……確か、岸波と言ったな」

 

 

 ただし、それはあまりにも最悪な宣言。

 貴様を標的として認識したぞ、という宣告。

 ただの有象無象として殺戮する相手のことなど気にも留めていなかった自分を、注意すべき相手として認識したということ。

 元からなかった油断に、彼はこちらを固有の人間として判断したことで慢心すら消えた。

 遠坂やラニと同じように、叩き潰すべきものとして見据えている。

 

 

「……覚えておこう」

 

 

 殺意のこもった瞳をこちらに見据えたまま、ユリウスは壁に溶け込むようにして消えていった。

 

 管理者側(システム)のキャラクタープロフィールをハッキングしていた。

 そんな反則(ルールブレイク)を平気でやってくるような相手。

 ここからの聖杯戦争はさらに過酷になる。

 彼自身にも個人としての聖杯戦争があるにも関わらず、こんなことをしている余裕があるということは、これからの戦いでは対戦相手ではないからといって、ユリウスが殺しに来ないと思わないほうがいいだろう。

 

 気がつけば、遠坂もいなくなっていた。

 礼すらも言えなかったのが残念だが、今は三回戦の対戦相手を確かめに行かなければ……。

 

 

 

 

 

 

3.disillusion/coma baby

 

 

死を悼め。

 

 

失ったものへの追悼は恥ずべきものではない。

 

 

死は不可避であり、

 

 

争いがそれを助長するのなら、

 

 

死を悼み、戦いを憎み。

 

 

死を認め、戦いを治めるがいい。

 

 

64人→32人

 

 

 

 

 

 三回戦の対戦相手、掲示板に書かれていたのは少女の名前。

 ありすという少女。

 もはや幼女と呼んだほうが正しいような見た目であるにも関わらずこの三回戦まで勝ち残ってきたこと。

 その才能を今日、確かに味わった。

 ありすの鬼ごっこに付き合う形で行われたアリーナ探索。

 そこで二人に増えたありす(マスター)と、バーサーカーと呼ぶにふさわしい化け物(サーヴァント)

 ……あのサーヴァントをどうにかしないことには、暗号鍵を取得することができない。

 ならばどうするべきかというと……

 

 

「やっぱり、明日も”遊んで”あげるというのが一番の近道なんでしょうね」

 

 

 キャスターの言う通りだろう。

 サーヴァントとはすなわち英霊……つまり必ずその人生に終わりを迎えているのだ。

 ”無敵”の英雄なんて存在しない。

 必ず、最後には弱点を突かれるか、それとも自分よりも強大な英雄に殺されて幕を閉じる。

 アキレウスの踵のように、あるいはジークフリートの背中のように。

 無敵性の裏には、それを裏付けるための弱点が存在する。

 

 ならば、あの幼い少女からその弱点を聞き出すと言うのが一番の近道。

 

 

「ただ、あれはサーヴァントではないわ」

 

「え……?」

 

 

 あれほどの規格外の力を持つ化け物が?

 キャスターの言葉に、思わず言葉を失う。

 アリーナすらも耐えられないというように鳴動させる化け物。

 ムーンセルが作り出した、サーヴァントが暴れることを前提とした空間ですら耐えきれないような代物。

 なるほど、確かにムーンセルによって召喚される”サーヴァント”という規格には収まりきらないそれは、確かにサーヴァントではないのかもしれない。

 ただ、それでもなぜ言い切れるのだろうか。

 

 

「逃げるためにちょっとだけ戦ったじゃない。あの時、警告は鳴り響いていなかったんだから、サーヴァントではないわよ」

 

「……なるほど」

 

 

 だが、そうなると──

 

 

「なら何かって? そんなの決まってるじゃない。あれは『サーヴァントによって呼び出された存在』よ。伝承の中の怪物を呼び出すというのは、そこまで難しいことではないわ。他のクラスなら自分に密接に結びついた存在を宝具として持ち込むのが限度かもしれないけれど──」

 

魔術師(キャスター)なら、話は別」

 

「よくできました」

 

 

 柔らかい笑みを浮かべてこちらの頭を撫でるキャスター。

 自分よりも年下に見える少女に頭を撫でられるのはちょっと気恥ずかしい。

 

 だが、彼女の言っていることは基本的には全て間違っていない。

 今回の対戦相手は慎二とは違う意味で情報の大事さをわかっていないだろうから、多分遊んでいれば教えてくれるだろう。

 

 そして、実際その通りだった。

 翌日、かくれんぼと称して学校中を探し回った結果、ありすは『ヴォーパルの剣』があの怪物を打倒するには必要なのだと、そう言った。

 

 

「なら、答えは簡単ね」

 

 

 キャスターの言葉に頷く。

 『ヴォーパルの剣』が一体何に出現するかは、考えるまでもない。

 あの怪物の真名はジャバウォック。

 

 ただ、ここでもう一つ問題が。

 ヴォーパルの剣をどうやって手に入れるのか。

 それに関しても、解決策はキャスターからもたらされた。

 

 

「必要なのはこれね」

 

 

 キャスターが、気がつけば作り上げていた。

 普段とは違う錬金術の分野にまで精通しているとなると、この少女は一体どういう英霊なのか余計にわからなくなる。

 気にならないはずがない。

 けれど、聞いてはいけないとも思う。

 彼女が教えるつもりがないのなら、こちらが勝手に調べるのはともかくとして、向こうに聞こうとするのは間違っていると思うのだ。

 

 彼女の錬金術の腕前が天才の域にまで達していることはその日のうちにわかった。

 ヴォーパルの剣が、自分が思っていた以上の効果を発揮したからだ。

 影の一撃で殺傷せしめるレベルにまで弱体化したという事実が、少女の錬金術の腕前をはっきりと表していた。

 

 ただ、相手もさるもの。

 三回戦まで勝ち残ったのは伊達ではないということは、その翌日に理解させられた。

 

 

 ──固有結界。

 

 

 魔術の秘奥。

 最も魔法に近いとされる魔術の一種。

 それを、アリーナ全体に長時間にわたって展開された。

 その固有結界の真名を”名無しの森”。

 ただそこに存在するだけで名前を忘れ、自己を定義するものを失い、最後には自らの存在そのものが消えてしまうという恐ろしい代物。

 けれどそんな固有結界にも弱点は存在した。

 三日目の時点でアリーナ第二層に配置されていた、おそらくは固有結界に関わる断片。

 

 

 ──あなたの名前はなあに?

 

 

 そんな、固有結界の外では普通に答えられる、けれど固有結界の中では非常に困難となる質問。

 それに対しての対策をくれたのは遠坂凛。

 『手のひらに自分の名前を書いておく』なんていうわかりやすい対策とともにアリーナに向かって──

 

 

「さあ、マスター。あなたの手のひらに書いてある文字はなんて読むの?」

 

「フランシスコ……ザビ──」

 

「ちょっと待ちなさい。一体何を書いているの!? なんで全く関係ないそんなものを書いたの!」

 

 

 ──読み上げようとしたら怒られた。

 

 ただ、その時の自分でもこのフランシスコな方の文字列ではないだろう、とはわかった。

 書いた時の自分の心境はわからなかったが。

 とりあえず、このフランシスコな言葉の下に書いてあるもっと控えめな単語を口にしてみよう。

 

 

「……岸波、白野……」

 

 

 瞬間、世界が崩壊した。

 通常のアリーナが戻ってきた。

 そしてそれに伴い、自分の状況を思い出す。

 だが、今回の戦いにおいては得られた情報はここまでだった。

 ここまでに得られた情報だけで、その真名を推理する必要がある。

 六日目はありすを見つけることができずに、アリーナでただ魔力リソースを稼ぐだけになってしまった。

 

 だから、情報が完全には集まっていない状態で戦いに赴く必要があった。

 相手の実力はおそらく自分よりも上。

 あれほどの大魔術を息をするようにポンポンと使用することができるその豊富な魔力についての疑問も結局解けずじまいなままだが、どうにかして活路を切り開くしかない。

 

 

「行こう、キャスター」

 

 

 キャスターに声をかけて七日目の決戦場へと足を運んだ。



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裏話その6

 ──バーサーカーを彷彿とさせる怪物、ジャバウォック

 

 

 ──名前を喪失することになる固有結界、名無しの森

 

 

 もしもあの怪物がサーヴァントであるならば、マスターが二人ということになる。

 もしもあの怪物がサーヴァントであるならば、バーサーカーが固有結界を使用したということになる。

 だが、それはあり得ない。

 SE.RA.PHのルールは絶対だ。

 二人がマスターになるなどとはあり得ないし、

 そして、ジャバウォックと戦った時に警告が鳴り響かなかった事からも、あれがサーヴァントではないことは明白。

 

 だから、サーヴァントは黒い方のアリス。

 

 そして、そこにたどり着く上でまず思いつくべきは『ジャバウォックと名無しの森は両方とも宝具である』という考え方。

 固有結界と怪物が両方同じ宝具となるのはなかなかにあり得ない事態なのだろうが、それでも今回に至ってはその二つが両方とも同じ作品群に出てくることから、その作品群そのものを宝具として持っている、そういうサーヴァント。

 ならば作者であるルイス・キャロルがあの黒いアリスの正体なのかというとそれも違う気がする。

 そもそも作者がサーヴァントになったからといって無制限に怪物や固有結界を使用できるのであれば、おそらく最強のサーヴァントは作家系サーヴァントだ。

 それこそ、”自分と敵対している相手は絶対に倒せない魔獣”なんてものを書いてしまえばそれでおしまいとなってしまう。

 

 多分、あの少女には正しい意味での真名は……少女を示す固有の言葉はない。

 何と呼称されるべきかはわからないが、それでも名前をつけるとするのならそれは──

 

 

「キャスター……黒いアリスを、ナーサリーライムを倒してくれ」

 

 

 “あわれで可愛いトミーサム、いろいろここまでご苦労さま。でも、ぼうけんはおしまいよ。”

 

 “だってもうじき夢の中。夜のとばりは落ちきった。アナタの首も、ポトンと落ちる。”

 

 “さあ──”

 

 ”嘘みたいに殺してあげる。ページを閉じて、さよならね!”

 

 

 少女が告げた決戦(遊戯)の開幕の言葉。

 それに対して応じるようにこちらもキャスターに指示を出す。

 

 ともに魔術師(キャスター)のクラスに納められた者同士、戦いは当然のごとく魔術戦へと。

 

 魔術師同士が戦う以上、そこに剣士たちの技巧を凝らした見応えある戦いは発生しない。

 代わりに、魔術師たちが頼りとする色鮮やかな魔術が戦場を彩る。

 ナーサリーライムが突き出したその手に氷晶の蒼を宿せば、キャスターが同じ動作をして炎獄の赫を宿す。

 どことなく楽しそうにキャスターは相手に合わせた動きで魔術を放ち、ナーサリーはその炎に氷をぶつけて相殺する。

 

 凍てつく氷は焼き尽くす炎に飲み込まれ蒸発し、されど炎もまた勢いを緩め消滅する。

 

 

「じゃあ、こんなのはどうかしら?」

 

 

 魔術師同士の戦い、と言われれば旧態依然とした魔術師ならばきっと『自らが研究して作り上げた魔術(研究成果)によって競い合う』などと夢見てしまう。

 そして、今この場で起きているのも、それに近い。

 だが、決定的に違うのは、そもそも彼女たちにとって魔術はただ便利なだけの代物でしかないというところだろう。

 魔術師同士の戦いにもなれば、魔術の詠唱速度、威力、回転率、魔力消費量、そして何より、それを操る本人の判断がモノを言う。

 ならば、無詠唱で魔術を使用することができて、威力もアリーナ一つ程度ならば焼きつくせるほどの炎を出して、無詠唱ゆえに延々と魔術を連射することができて、外付けの魔力タンク(マスター)を持っていて、転移によって相手の魔術に自分を捉えさせない、そんな存在がいたならば一体誰が勝てると言うのか。

 

 キャスターが踊った軌跡に、全てを焼き尽くす紅蓮の炎が舞い上がる。

 ナーサリーライムが手を振れば、その軌道に沿ってキャスターの倍はあろうかという巨大な氷塊がキャスターを飲み込もうとする。

 二つ、三つと増え続ける氷塊と、無限に広がり続ける獄炎。

 それでも、どちらが勝つというわけでもなくただ対消滅を繰り返すだけ。

 

 

 ──そして、幾度目かの対消滅の直後、キャスターの胴体に穴を開けようと風の弾丸が飛び込んできた。

 

 

 幼い少女の肉体を貫き、穿とうとするそれも、くるりくるりとステップを踏みながら踊る少女には届かない。

 そして、ふっと少女の姿が消えて氷塊が虚空を押しつぶした。

 転移魔術、キャスターがよく使う移動手段。

 それはありとあらゆる空間へと一切の行動を抜きにして移動するための手段。

 今回の出現場所は──

 

 

「……だめぇ!」

 

 

 ナーサリーライムの上空。

 そこに、ありすのコードキャストが迫る。

 『火吹きトカゲのフライパン』

 炎のコードキャストにナーサリーライムが風を送り、さらなる業火へと変貌するが、しかしキャスターの陰に阻まれ届かない。

 幾つもの魔術を動物のように跳ね回らせて、まるでここが不思議の国(ワンダーランド)になったかのよう。

 互いへの殺意が彩る夢幻の国。

 一度見せてしまった以上、もうこれ以上隠しておく必要もない。

 少女は転移を繰り返しながらナーサリーライムに向けて様々な魔術を放っていく。

 

 炎、氷、風、雷、岩、影、様々な魔術が幼い少女の肉を抉り、砕き、壊死させ、存在そのものを否定するためにナーサリーの元へと殺到する。

 もはや死の嵐に等しいそれをナーサリーは懸命に迎撃する、ありすが懸命に援護する。

 けれど、焼け石に水、全くといっていいほど手数が足りていない。

 前から迫る攻撃を防いだ段階で既に右から、左から、後ろから、上から別々の攻撃が迫っている。

 身を翻してそれを避ければ、彼女の影からキャスターの影の鞭が出現して無理矢理に引き止めながら少女の肉を切り裂く。

 

 そして、その殺戮のための動きは徐々に的確化していく。

 ナーサリーライムはわらべ歌。

 「物語」そのものがサーヴァントになった存在。

 そして物語である以上は──

 

 

「どう頑張っても、物語の中身は変わらないものね」

 

 

 物語が終わり、一ページ目を開いても、それは物語が続いているのではなく同じ行動を繰り返しているだけ。

 ナーサリーライムが取れる行動は、どうしても決まりきっている。

 それは宝具を使用したとしても同じこと。

 

 だから、こちらの地力が足りている以上、勝負の決着は二種類しかありえない。

 すなわち、こちらが倒し切るよりも先に魔力切れに陥って敗北するか、向こうが宝具を使用するまでにこちらがナーサリーを倒し切れるか。

 

 そして、それは数度の宝具『永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)』の後に訪れた。

 

 完全に相手の動きを封じる行動を取れるようになったキャスターの魔術が、ナーサリーライムの霊核を貫いたのだ。

 

 その瞬間、自分たちとありすたちの間を電子の壁が封鎖する。

 これにて生者と死者は分けられた。

 ありすの世界はありすとアリスの二人だけで閉じている。

 彼女の声は一度たりとてこちらにかけられることはなく、ただ二人だけで消滅していった。

 

 後のことは覚えていない。

 覚悟していたとはいえ、幼い少女を手にかけたこと。

 それはあまりにも心に重たかった。

 戻った時にはレオや遠坂がいたような気がしたが、彼らとの会話すらも思い出せない。

 

 ……自分には何もない。

 彼らは彼らなりの理想を持ってこの聖杯戦争に挑んでいるというのに、自分には何もないまま人の命を奪い続ける。

 それがこの仮想世界(つくりもの)における規則(ルール)だからなんて言い訳は通用しない。

 

 だから、自分も何かを見つけないといけない。

 このまま、死んだ彼らが無価値な人間に殺されたなんてことを言わせるわけにはいかない。

 無論、容易なことではないだろうし、それを行える時間だって限られている。

 四回戦が始まれば、それをしている時間すらないだろう。

 

 だが、これ以上自分をごまかすことはできない。

 

 何もないまま一歩を踏み出すには、背負った命は重すぎる。

 自分の方が価値がある。

 自分の方が生き残るべき。

 だから競争者の死も仕方がない。

 そこまで言い切れる根拠がない。

 

 だから、見つけなければならない。

 立派ではなくとも、誰かに胸を張って言える、戦う理由として恥じない何かを。

 そんなことを考えている横で──

 

 

『ふふ……』

 

 

 霊体化したキャスターが、わずかに笑ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 珍しいこともあるものだ、と三回戦の翌日に思うことになった。

 三回戦の日付がずれていた。

 一回の戦いを七日間かけて行う、それを七回休む間も無く続ける。

 そういうものだと思っていたのだが、どうやらそういうわけではなかったようだ。

 

 それを、廊下を通りかかった時に実感した。

 緊張に支配されたその空間、その空気に覚えがある。

 対戦相手の組み合わせが発表された時のものだ。

 けれど、自分の呼び出しは未だに来ていない。

 

 だから、そこにいた二つの見知った顔は、彼女たちが戦うのだということを如実に示していた。

 

 赤い服の少女、遠坂凛。

 白い制服を着た褐色の少女、ラニ=Ⅷ。

 

 彼女たちは一瞬だけ互いを確認しあい、会話どころか殺気すら応酬することなく、ごく自然に視線を外し左右に分かれた。

 静かに、けれど運命が定められたことだけは必定。

 七日後にはどちらかは消滅しているのだ。

 

 

「……遠坂凛にラニ=Ⅷ。実力伯仲だな。このレベルの敵が潰しあってくれるとは都合がいい」

 

 

 そして、それの目撃者は自分だけではなかったようだ。

 ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。

 あの不気味な暗殺者(アサシン)が、二人が去った後のあの掲示板を見つめている。

 

 

「勝者も手の内を隠せる戦いではないだろう。見ることができれば有益な情報になるな」

 

 

 こちらには一瞥もせずに去っていくその姿。

 呟いた言葉の意味はよくわからないままではあるが、その姿には何故か不穏なものを感じさせた。

 

 

 

 

 

 

 そして七日後。

 遠坂凛を見かけた瞬間に、その時が来たのだと実感した。

 特別なそぶりなんて一切ない。

 けれど、その冷淡なまでの目つきで伝わってくる。

 どちらか一方が死ぬ戦いへと赴くのだと。

 

 だが、一つだけ気になることがある。

 

 ユリウスの姿がないということ。

 それそのものは普通のことだ。

 だが、対戦の組み合わせが発覚した時の彼の振る舞いが気にかかっている。

 ……少し、探してみたほうがいいだろうか。

 

 そう思って歩き出せば、怪しいところはすぐに見つかった。

 あの時の彼が呟いた、『見ることができたなら』という言葉。

 それを思えば、『何かを見る』場所である視聴覚室に思考が及ぶのは当然だった。

 そして、その思考の正当性を裏付けるように、中からユリウスが出て来た。

 ユリウスはこちらに一瞥をくれることもなく、去っていく。

 中に何かあるのだろうか?

 それは入って確かめるしかない。

 

 とはいえ、一度は自分を殺そうとした相手。

 少しだけ迷ってから一度も入ったことのない視聴覚室の中に入ってみれば、そこは普通の教室よりも幾分か大きい。

 教室前方には黒板を覆い隠すようなスクリーンが配置されている。

 こんな仕掛けがあるのなら、本来は天井にプロジェクターがありそうなものなのだが、その代わりに中央に置かれたのは、電脳世界であるにもかかわらず旧式の映写機。

 訪れるような機会も特に存在しないので普段の状態に関してはよくわからないが、見た感じは特に変わったところは──

 

 

「あるわよ。あの機械、ちょっとおかしくないかしら?」

 

 

 キャスターが指差したのは部屋の中央に陣取る映写機。

 その周囲の空気(データ)にわずかながら乱れが見られる。

 おそらくはユリウスの手によって、何某かの細工がされたのだ。

 何が目的なのか、それについては大体わかっているが、それでもあっているとは限らない。

 つい調べようと手を出してしまって──

 

 

菴輔□縺句℡縺★些髯コ縺ェ繝▼♀繧そク

 

 

倮♭ッΨ○髪√倮a倮芦祷後§繧・紋繧魭↑縺

 

 

九▲縺涛㊨縺ァ繧ゅ≧縺。繧▲縺ィ倮────!!

 

 

 瞬間、バチンと弾かれた。

 おそらくは、この映写機のセキリュティ。

 攻撃的な呪い(プログラム)が脳内に侵入して、かき回し、火花を散らす。

 だが、突然に抜けていった。

 

 後は静かなもので、多少はくらくらとしたがダメージに関しては全くない。

 ユリウスが残した罠、というような様子ではない。

 そんなことをするぐらいなら、こちらを普通に殺しに来たほうが早い。

 

 だが、それ以上を考えている暇はなかった。

 

 そんな思索から強制的に戻したのは、刃が交わる剣戟の音。

 空を裂き、地を割る勢いには必殺の意思がある。

 網膜越しではなく、直接的に電脳に写っている映像は、ラニとそのサーヴァント。

 

 ならば、それと相対するように、刃をぶつけ合いながら戦っている人物こそは──

 

 

「遠坂……」

 

 

 それは当然のこと。

 だが、この二人が写っているということは、これは決戦場の戦いということで。

 これは敵の情報無しで戦わされることになる聖杯戦争においては圧倒的優位に立てる。

 だが、だからこそまず間違いなく違法。

 こんなことをするのは闇討ちなどの反則を一切辞さないユリウスだからこその企みと言えるだろう。

 しかし、それならどうしてユリウスは半ばで立ち去ってしまったのか。

 何か意図があるというのか、それとも問題(アクシデント)が──

 

 

「考えるのは後にしましょう? あなたからしたらあの戦いはとっても見応えがあるものではないかしら」

 

 

 キャスターの言葉にハッとして画面に意識を戻す。

 対峙する二人とそのサーヴァント。

 マスターの姿はともかくとして、サーヴァントの姿は判然としない。

 かろうじて武器が長柄であることがわかる程度だろうか。

 それで突き、弾き、薙ぎ払い、受ける。

 軌跡を目で追うこともできず、飛び散る火花が戦いの存在を示す中、まるで互角に見える戦いを見て、キャスターはぽつりと呟いた。

 

 

「中華の大英雄と、アイルランドの光の御子。勝敗はマスターの差ね」

 

 

 あまりにも突然の、彼らの真名の暴露。

 思わず目を見開く。

 なぜ、どうして、そんな言葉が頭の中を渦巻く。

 どちらかだけならば同郷ということで納得もいくが、その二人は同時に知り合うことはありえない英雄──

 

 

「あら」

 

 

 だが、その言葉を問いかけることは叶わない。

 ラニが馬鹿げた行為に、見ているだけでもわかるほどに強烈なエネルギーを集め始めたのだ。

 あれでは、本人も含めた決戦場の全てが融解してしまうのではないか……!?

 

 

「令呪を使ったみたいね」

 

 

 キャスターの言う通りだ。

 だが、それだけではありえない。

 あれは、元からそう言う機能があった以外の答えはありえない。

 画面の中で遠坂とランサーも構えを取る。

 高まる力と力のぶつかり合い。

 

 

「次で決着がつくわね。あれだけの魔力なんだから、令呪の剥奪なんて待つまでもなく消滅するでしょう。勝者も、絶対に無事で済まないことを考えれば、これからの戦いがちょっと楽になりそうね」

 

 

 そこまで言って、キャスターはこちらを向いた。

 それはどこかつまらなさそうな、されどどこか期待をしているような、そんな如何とも形容し難い顔だった。

 

 

「まさかとは思うけど、あなたはあの二人を助けたいなんて言うの?」

 

 

 いつの間にか、そんな表情をしていたのか。

 しかし、今はそれよりも気になることがある。

 キャスターの言葉の微妙なニュアンス。

 救う手段なんてない。

 そういう言い方ではなかった。

 ……何かあるのだろうか。

 

 

「……ええ、あるわよ。その左手に」

 

 

 左手。

 予選が終わって以来、今の今まで一度たりとて意識しなかったそれの名前は、令呪。

 

 

「あの場所が写っているってことは、この空間とあの決戦場はその(スクリーン)を通して繋がっているわ。移動することだけは不可能じゃないわ。でも、いくら繋がっているように見えても実際には隔絶した場所。しかもそこへの道を作るんじゃなくて瞬間移動するんだから、ムーンセルの縛りがある以上は私でも令呪が必要よ」

 

 

 そう、それはそもそも不可能な話。

 だが、令呪は不可能なことすらも可能にする三度限りの絶対命令権。

 

 

「もちろん、行って終わりじゃないわ。巻き込まれたらおしまいだもの。ここに戻るために令呪を使わなければならない可能性だってあるの」

 

 

 それは令呪を……キャスターとの間の繋がりを示すものを不完全にするということ。

 ただ、それでも……

 

 

「はあ……助けたいっていうのね。いいわ、それなら使いなさい。……全く、どうしていつも、私の王子様になれそうな人間っていうのは……」

 

 

 融解の時は近い。

 熟考しているような時間はない。

 令呪を失ってでも、彼女を救う。

 自分の意思を言葉にして命令を下すとキャスターは、不満の声も表情も見せることもなく、即座に動く。

 ラニの心臓が爆弾としての機能を果たすまでの時間には一刻の猶予もないのだ。

 全ての力は両足に。

 繋がったことで、爆発しそうな滾りがこちらにまで伝わり、床がその熱にたわむ。

 空間が歪み始める。

 歪みが広がり、スクリーンを道へと変化させる。

 瞬間、キャスターがその道を固定して跳ねた。

 全ての世界が後方に流れ去り、急激な加速が視界を暗闇に染め上げ、失った令呪の熱だけが手のひらで疼く。

 目を開ければそこは決戦場。

 フライパンの上のような熱さを、ラニを中心として融解しだしたアリーナの大気中に放電する魔力の火花が作り出している。

 

 

「……!」

 

 

 こちらの意図は伝わっていない。

 それよりも自分がこの決戦場に現れたことへの驚愕の方が大きいのだろうか。

 

 

「頼む、キャスター!」

 

 

 だから、誰かが何かを口にする前に、自分が口を開いた。

 そしてキャスターは、新たなサーヴァントとマスターの出現に襲い来るラニのサーヴァント、バーサーカーの迎撃に移った。



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Part5

 そろそろこのRTAも折り返しに入ってきたのでガバが発生しても許してほしい四回戦、なRTAはーじまーるよー。

 

 ここからは雑魚敵も強くなってきたので雑魚戦での事故率が跳ね上がります。これまでの雑魚が可愛いものです。エネミーさん、死ぬのだけは許してくださいなんでもしませんから。

 

 今回の四回戦と六回戦は選んだヒロインによって変わります。もしも凛ちゃんを助けたなら四回戦の相手はランサーのドラキュラ、ラニを助けたならばバーサーカーでアルクェイド・ブリュンスタッド。ちなみにどちらも助けないを選んだ場合は、凛ちゃんルートと同じようになります。

 

 さて、今回は四回戦の開始から。前回助けたのは……凛ちゃんです。では、なぜ彼女を選んだのかその理由を説明します。まず、実機プレイ時間ではラニルートが今のところ走っている走者兄貴たちの平均速度が六時間と四十五分程度。これは凛ちゃんルートと比べた場合、大きなガバを除くと凛ルートが六時間を切るので、かなりの差があります。おそらくはアーチャーやセイバーなど、どちらかと言えばスタンダードなサーヴァントならば各回戦で最低限のレベリングで済むこちらのルートの方が早くなります。私もその恩恵に預かります。キャスターに関しては未検証です。ですが、前半がっつり、後半は最低限のレベリングなキャスターはなんとも言えません。

 

 そして何よりも、ここで二人を見捨ててレオを助けるルートを選んだ場合。この場合は五回戦のアサシンとの対戦、七回戦のセイバーとの対戦において、それぞれ『圏境』と『聖者の数字』を自力で破るために魔術(コード)を組むことになり、ロスが発生します。これは六回戦がどちらかを助けた場合よりも楽勝になるとはいっても無視していいロスではありません。

 

 ですが、これらは別に凛ちゃんを助けた理由にはなりません。ラニルートを走っても同じことですし、そうでなくとも、別のルートを走っている以上はチャートの記録は別に保有されることになるのですから。ならばこのルートを選んだ理由はというと、そこまで誇れるものではありません。ただ単純に凛ちゃんルートだけは未プレイだったからです。……ええ、そうです。まさかの一度もプレイしたことのないルートをプレイしているんです、私。なのでここからはガバはありません。一敗もしてませんよ! 何せ通しでの試走もしてませんから! ……はい、自慢にもなりませんね。いや、少しだけ言い訳をすると、これも試走のつもりだったんですよ。思っていた以上のタイムが出たから投稿しているだけで。

 

 まあ、そういうわけでランルーくんとの戦いです。掲示板で名前を確認したら、凛ちゃんに会いに保健室に行きましょう。凛ちゃんからは文句を言われて追い出されますが、その後にラニと出会うことになります。ラニからはナイフをかたどったペンダントをもらえますので、暗号鍵を取得するついでに”揺らぎ”に行って残留魔力(ノイズ)を吸収してきましょう。

 今回の対戦相手はランルーくんとランサー……ヴラド三世です。彼女たちに関しては気にする必要はありません。あの二人から得られる情報は限られていて、言峰神父から趣向として催される『狩猟』で勝利しない限りは情報がそろいません。翌日の遭遇戦は必ず行うことになりますが、今日に関しては遭遇戦を無視できますので絶対に行わないようにしましょう。情報がわかっている状態で太陽系列のサーヴァントがいるのならば陽光を弱点として倒すことができますが、今回は絶対に不可能です。諦めましょう。

 暗号鍵前に居座られるので、ここは諦めて道中の隠し通路にある『空気撃ち/二の太刀』だけは回収をしておけばいいです。それで今日やるべきことはおしまいですからね。

 

 二日目も、凛ちゃんに会いに行きます。今日も文句を言われますが、これも明日には解除されます。ちょろいですね。あ、それとラニにも会いに行きましょう。主人公が普通の人間ではないことを指摘されますが、愛歌ちゃん様からしたら今更です。もともと『過去の亡霊(サーヴァント)に恋をしていた』愛歌ちゃん様からしたら、その程度の差異はあってないようなものでしょう。

 二日目はその気になれば戦いを行えますが、今日の対戦では特別情報を得られません。なので、戦いは無視して歩きながらこの階層の敵について述べておきます。まず、初日にも戦った魚型のエネミー『AGITATOR』は基本的に経験値的には不味味です。7パターンの動きに加えて一体あたり経験値が300程度。二層の敵が400程度であることを考えるとちょっとねぇ……? 加えて、捕捉範囲も広く、追尾性能も高いので空気撃ちでの無視が安定です。

 他の連中もだいたい似たようなものなので経験値稼ぎは二層で行います。それで十分間に合いますので、後続の走者たちも覚えておきましょう。どれだけ頑張っても一手判断をミスっただけでズルズルと引きずって負ける可能性があります。というわけで、今度はそんな事故率の高いエネミー。今チャートではそいつ以外を狩る予定はありません。五回戦でレベル25にまで上がるようにしておけばいいので、ここではレベル21を目指しましょう。

 さて、ここにいるのが事故率No1のクソ強ナメクジこと『NEPHILIM:α』です。こいつが事故率No1と言われるのはその行動パターン。αが一番の雑魚だからと言っても一切の油断はできません。何せこいつ、攻略本曰く行動パターンが一切決まっていないのです。決まっているのは六手全て『直前の手を除く二手の中からどちらかを選ぶ』だけ。つまり、あてになりません。ほんまつっかえ。

 そんなパターンと呼べるパターンもなく、当然のようにその拳の一撃は重たい。ならば一体どうやって倒すのかというと、そりゃスキル連打以外はあり得ません。そしてそんな強敵の名に恥じない彼から得られる経験値は驚異の1080。さらに稀にエリクサーまで落とします。これは強い。二層の敵でも500を超えないことを考えると、かなりのうま味でしょう。

 

 はい、三日目に入ります。三日目はレオとの会話をしてからこれまでの敵のことを思い出すイベントが強制的に入りました。ここでは慎二のことを思い出しておきましょう。彼については思い出すほどのことはありませんが、カーソルを動かす必要がないというのが一番嬉しいところですね。今回に関しては思い出す内容も少ないので、かなり早めに終わってくれます。

 それが終わり次第、保健室にいる遠坂に会いに行きます。遠坂に会いに行くとラニの発言を教えることになり、そこから『今、肉体とのリンクが途切れてデータだけの存在になっているのではないか』という仮説をもらえます。さらにここでキャスターがオリジナルスマイルを浮かべるほどに素敵なまでのツンデレを発揮してこちらに協力してくれることになります。その笑顔に怯えましょう。

 そして、アリーナ手前にまで行くとランルーくんと出会えます。ここで信徒を気取っているランサーの姿が見られますので、マトリクス『信仰の加護』を取得できました。では、今日はアリーナでやることもないので帰りましょう。

 

 四日目。まずは日課と化している凛ちゃんへのお見舞いをしましょう。凛ちゃんが協力者になってくれたことで聖杯戦争も順調に勝ち進める……と、いいなぁ。とりあえずさしあたっては最近よく見る夢のこと、ではなく相手のサーヴァントについても調べてくれるようです。あんなの調べて出てくるんですかねぇ……。

 さて、今日はちょっとした強制イベントが入ります。アリーナに向かうために玄関前を通り過ぎる時に暗号鍵生成の連絡が入ってくるのですが、それに気を取られていると黒塗りの言峰神父に追突してしまいます。マスターを庇うことなく隣で話を聞いていたキャスター共々言い渡された示談のための条件は、敵マスターとのハンティング勝負。二日間、アリーナ第二層で特定のエネミーを狩った数で競い合います。狩る順番次第で事故る可能性もかなり高いので気をつけましょう。

 

 では、改めてルール説明です。この第二層には狩り対象である『MANEATER』が一日に七体出現します。こいつらに限ってはこのハンティング期間にリスポーンすることはありません。十四体の奪い合いになります。報酬は敵のマトリクス一つ。絶対に勝ちましょう。

 ハンティングに勝利するだけならば日に四体、二日で合計八体狩ればいいのですが、正直こいつの経験値は美味しくありません。こいつは攻撃パターンが多い、パンチが痛い、なのに経験値は美味しくない、という三点コンボ。そんなのをまともに相手する気になりません。というわけで五日目にはインチキをします。……皆さんもなんとなく察しはつくでしょうが。まあ、五日目にしかできないので、今日は諦めて普通に四体狩ります。敵主従には気をつけましょう。

 こちらと敵で今日の分の狩対象を全て倒し終えると向こうは帰ってくれるので、こちらは暗号鍵を取得しておきましょう。暗号鍵を入手したらあとは経験値を稼いで帰ります。ハンティングは今の所4:3で勝っていますが、トータルでの討伐数なので、明日もちゃんと狩りましょう。

 

 さあ、五日目はいつものごとく凛ちゃんのお見舞いです。こいつら滅茶苦茶イチャイチャしてんな。お前ホモだろうが。さて、そんなことを言っているうちに保健室にランルーくんがやってきました。さすがに保健室で戦うわけにはいきません。彼女を連れてアリーナに行くのですが、それよりも前に教会で魂の改竄をしておきましょう。ここでレベル21になったことで手に入るスキルがとても重要です。その名も根源接続。1ターンの間、スキル以外の手で勝利した場合に体力と魔力をわずかに回復する強スキルです。これがあるのとないのではとんでもない違いになります。何せこれはRTA。相手の手を全て理解している以上は体力が削られるのは『相手がスキルを使った時』か『ガードをした時』だけなので、それぐらいならば1ターン残りの全ての手で勝利すれば十分に補填できるレベルです。

 

 今回はランルーくんと接触することでマトリクスその二こと『吸血鬼/ドラキュラ』を取得することができます。ついでにハンティングに勝利しないとマトリクスその三を手に入れることができないので、ぶつかる場合はアリーナ中央付近にしておきましょう。四日目通ったルートとは別のルートを通らないと激突できないので、そこだけは留意しておいてください。

 では、ぶつかりましょう。先ほど言っていたインチキというのは至極単純。相手がこちらよりもハンティング数が下の状態でぶつかることだけです。ぶつかったら相手がマトリクスを落とした上で勝手に帰ってくれるので、この時点でハンティングの数が勝利していたならばあのまず味な人食いを倒す必要はありません。稼ぎが足りているならそのまま帰ってもいいでしょう。ただ、こちらはレベル22にまで上げておいた方が安定を取れるので、今日はレベル22にまで上げます。あと一体倒せばレベル22になるのでちょうどいいですね。

 

 さあ、最後となる六日目です。今日も凛ちゃんのお見舞いからスタートしましょう。レオや蒼埼橙子と会話をしたならば聖杯やドラキュラについての知識をもらえますが、ぶっちゃけた話、この会話を聞く時間が無駄になりますので無視してもいいです。今回必要となるのは言峰神父からの趣向の結果としての勝利報告だけです。今回も最奥にまで行けば『NEPHILIM』が待っていますが、ぶっちゃけメリットとデメリットがあっていないので普通に帰ってしまっても構いません。

 

 

 というわけで六日目にはやることもほとんどなく、七日目にほとんど直行みたいなものです。ただし、七日目に入る前に六日目時点で真名看破をしておきましょう。七日目、決戦に向かうまでの真名看破分をロスしないで済みます。

 では、今回の相手であるランサーについての説明。

 まず1+3nターンの一手目に発動する反逆耐性。これは耐久が上昇し、三ターンの間ガードによる反撃の威力が三倍になります。頭おかしい。そして四手目に発動するのが二つ。呪縛の槍と粛清の儀です。基本的には粛清の儀が使用されるのですが、毒状態だと稀に呪縛の槍も使用されます。粛清の儀は『残りHPが少ないほどにダメージ量が増加する魔力ダメージを与える』スキルであり、呪縛の槍は『筋力ダメージと呪いを相手に与える』スキルです。そして、肝心の宝具である『串刺城塞(カズィクル・ベイ)』はHPが50%を切った場合に使用してくるものであり、生贄効果という継続ダメージを与える状態を伴う魔力貫通ダメージをこちらに与えてきます。

 

 なので、決戦に至ってはまず最初に購買部に売られている『純銀のピアス』による魔力強化のコードキャストを使ってこちらの攻撃の威力を上げておきます。ついでに今のうちにこちらも根源接続を使っておきましょう。そうすれば三ターンの間はこちらも色々と便利な効果が得られますからね。この時の行動パターンは比較的わかりやすい……というか数が少ないので結構読みやすいです。なので今のうちにダメージを稼いでおきましょう。相手のコードキャストにも気をつけておいてください。もしかしたらこちらの行動を一部封じるものかもしれませんからね。

 この行動封じを解除する手段はこの時点では四回戦で桜から配布される支給物である桜弁当だけです。三回戦のヴォーパルの剣関連のイベントで本来なら聞くはずだった『これからの戦いで配布する予定だ』という話の代物です。

 はい、ボーナスタイムです。敵がこちらの行動を見極めようと全手ガードなので、その全てをこじ開けて上げましょう。そうすれば相手の体力ゲージが見えてくると思います。ですが、それは同時に少しでも判断ミスをした場合は死に直結する事態に陥ったということでもありますので、わからない部分はできる限り相手に攻撃をさせないようにスキルで行動を潰しにかかりながら、短期決戦を狙います。

 短期決戦を狙う理由はというと先ほど説明した粛清の儀の効果です。体力が減るにつれて威力が上昇するスキルなんて、できる限り使われたくないからです。ここまで……それこそ宝具を使えるぐらいにまで減らしてしまったら、ガードしていない限りは一撃で死んでもおかしくはありません。

 では、ここまで来たら次のターンの六手目は宝具を使用してくることは間違いありません。その直前に大欲を回復できればいいのですが……これだとちょっと厳しいですかね。しょうがないのでこのターンで決めるぐらいの勢いで行きます。

 

 あ、やべ。粛清の儀食らってしまった(体力ゲージが四桁から二桁になるのを見ながら)。

 

 

 ああああああああああああああ!!(毒のコードキャストを食らった時の顔)

 

 

 え、ちょ、さすがにちょっとまずいんですけど。幸いといってもいいのかは謎ですが、猛毒によるダメージでの敗北はあり得ません。が、これは次のターンに確実に宝具が飛んでくる以上、こちらはどうあがいても回復をしないという選択肢は存在せず、毒を回復している暇はありません。『桜の特製弁当』を使用したなら毒も解除されて体力の回復までできますが、それでも最大HPの半分しか回復できないあのアイテムでは決して宝具に耐えきれるほどの体力は維持できません。

 ……こうなったら予定変更です。宝具が来る以上、このターン向こうが粛清の儀を使用して来ることはありません。それを利用して公開されている全ての手をこちら側が勝利できるように埋めて、向こうの伏せられている手とアタックに関してはスキルを使用することで宝具直前に回復。これしかありません。

 

 

 

 ………………

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

 

 よっし! 成功です!

 

 こちらが勝利しました。今回は決戦後のイベントは特にないです。というわけでここからは倍速。皆さんはちゃんとこの辺りの戦いは見ているでしょうからね。ランルーくんが悲しい人だったのだとわかったところで四回戦は終わりです。決戦後に誰かが見に来たりすることもないので、普通にこれで終われます。

 

 

 というわけで今回はここまでとなります。ご視聴、ありがとうございました。



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裏話その7

4.CREATURE/parapsychology home sick

 

 

力を持つが故に道を踏み外す。

 

 

道を踏み外すために逸脱した力を願う。

 

 

この矛盾もまた、人間の証である。

 

 

紛争の無い世界、

 

 

調和に満ちた世界でさえ、特例は表れる。

 

 

なんのために。

 

 

32人 → 16人

 

 

 

 

 

 

 二回掲示板で次の対戦相手を発表する。

 

 そんな連絡が端末にやってきたのは遠坂とラニの激突の翌日だった。

 四度目の通知。

 それは、敵を倒すための七日間の始まりを告げる鐘。

 この手はすでに三度、血に濡れている。

 一度は自分がその手にかけたものではないが、死ななかったという事実そのものが自分が殺害しているのだということを示している。

 ──あんな、小さな子供の命まで奪って。

 自分が生き残ってよかったのか?

 その資格、その存在理由(レゾンデートル)が何か。

 

 慎二に関しては想像する他ない。

 だが、そこまで的外れな想像ではないと思う。

 彼はこの聖杯戦争をゲームだと思っていた。

 そんな彼ならば、きっと死の間際に死ぬということが事実なのだと理解して思っていたことと現実の違いに叫んでいてもおかしくはない。

 特に、自分のような最弱……彼のいうところの凡人と、戦いの場にすら上がることができずに死んだのだから。

 

 ダン卿は、その真の思いがどこにあったにせよ、戦いに意義を見出し、覚悟を持ち、その結果を全て受け止めて果てていった。

 

 ありすは──あの子は寂しかっただけだ。

 寂しくて、遊び相手が欲しいだけの子供だった。

 

 それらすべてを乗り越え(ころして)この場に立っているのは自分。

 

 ならば、この命には彼らの命に釣り合うだけの目的はあるのだろうか。

 戦う目的すらも未だ見出せない自分にも、気がついていないだけでそれはあるのだろうか。

 ただ──死にたくない、たったそれだけの願望で。

 

 ダン卿は言った。

 戦いに意味を見出して欲しい、と。

 そんなものが自分に見つけられるのだろうか?

 自分が誰なのかもわからない自分に。

 学生生活(よせん)を始めるときに消去されたという記憶が戻ったならば、それが戻ってくるのだろうか。

 

 そんなことを考えながら掲示板にたどり着く。

 大きく書かれた自分の名前の横に書かれている次の対戦者の名前はランルー。

 現れた次の対戦相手はハンバーガー店のチラシにいた陽気なマスコットのような姿で、されど陽気さとは程遠い 。

 ぽっかりと開いた穴の奥から覗く双眸は蛇のようにぬらぬらと光り、じっとこちらを見つめていた。

 

 

「……オイシソウ」

 

 

 次の対戦者はくぐもった声でそう呟くとその場を立ち去った。

 

 未だレゾンデートルに悩む自分とは違って、あのどこか狂気的な瞳の持ち主ですらも理由は胸の内にあるのだろう。

 その事実がひどく羨ましい。

 自分は空っぽなのだ。

 だから、自分の中を探してもその答えは見つからない。

 

 ──ああ、だからもしも、自分にも何か見つかるというのなら、それは。

 

 自分の行動の結果たる、一人の少女の存在からだろうか。

 そんな考えに至り、彼女の容体も気になったので保健室に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「あんた、なんてことをしてくれたのよっ!」

 

 

 開口一番怒られた。

 唯一の救いは保健室の扉を閉めた後だったことか。

 少なくとも、閉めた後ならば外に声が漏れることはないだろう。

 

 

「この聖杯戦争に参加している以上、私達は皆敵なのよ。なのに、なんで助けに来ちゃってるわけ?」

 

 

 ご機嫌は斜めのようだが、どうやら怒り狂っている、というわけではなさそうだ。

 これなら問答無用での殺害というのはありえないだろう。

 ちょっとだけホッとした。

 

 

「私が死にそうだったから……なんて言わないでよね。十分に勝算はあったんだから。確かにラニの自爆は脅威だったけど、私のランサーならサーヴァントごとラニを止められたわ」

 

 

 だいたい、と言って遠坂がこちらの左腕を掴んでくる。

 そこには、確かに三画揃っていたはずの赤い紋様。

 すでに一画分が光を失ったその輝きを目にして、遠坂はため息を吐いた。

 

 

「はあ……やっぱり使っちゃってる。まだ一画は残ってるみたいだけど、残りは二画。後一回しか使えないのよ。この後の戦い、どうするつもりよ!」

 

 

 少し、笑ってしまいたくなる。

 こんな状況で、文句を言いながらも、それでも彼女の口から出たのは自分に対する心配だ。

 

 

「何を笑ってるの。答えなさい。この後の戦いに残しておくべき令呪を使ってまで私を助けた理由を。あんたは私を蹴落としたんだから。せめて私が納得する程度の理由を答える義務があるわ」

 

 

 だが、その笑いもすぐに消えることになる。

 遠坂の本気の瞳がこちらを射抜く。

 助けてほしい、などと一言も彼女は言わなかった以上、そしてキャスターが言ったあの真名が本当ならば、彼女には確かにあの状況をどうにかする手段はあったのだ。

 ゆえに、彼女の今の状況は自分のエゴでしかない。

 だからこそ、こちらは彼女が最低限納得できるだけの理由を上げなければならない。

 

 

「正直、あの時は何も考えてなかった」

 

「……でしょうね」

 

 

 あの時、彼女を助けようと思ったその時の感情をしっかりと口にする他ない。

 何もない自分が、あの瞬間だけは何も迷うことなく行動に移すことができたのだ。

 後のことを考えていたなら、きっとためらっていたはずだ。

 

 ならば、今考える時間を得て、あの行動をしたことは後悔に値する行為かと考えるとそういうわけでもない。

 

 ただ、結局のところそれ以上にはならない。

 答えを出せたのは六日目になってからだ。

 

 何もない自分は、だからこそこの月の聖杯戦争で得たものが全てである。

 自分のことを形作ったのは、この三回の戦いを行なった七日間と遠坂たちが戦いを行うまでの七日間だけだ。

 それはつまり、普通ならきっと小さいだろう出来事も自分にとっては大きな意味を持つということで。

 今の自分を形作るのは遠坂もきっと大きなピースなのだ、と。

 だから、結局のところ自分にとって大事だから助けようと思った。

 たったそれだけのこと。

 だから後悔なんてするはずもないし、そして、それに気がつくまでにあまりにも時間がかかりすぎたとも思う。

 そして同時に、これが自分なのだと誇れるものが得られた。

 明確に、この命が自分だけのものではないのだという思いが、勝利への意思を高めてくれた。

 

 だが、それは少し未来のこと。

 一日目の時点では一切そんな答えは出せなかった。

 だから彼女にも追い出されてしまった。

 

 

 一日目、追い出されてしまった以上はいつも通りに携帯端末に通達が来てからアリーナで暗号鍵を探すしかない。

 そのため、購買で魔術礼装を買ったり、アイテムを買ったり、あとはマイルームに戻って来たりなんかもしていた。

 そして、その最中にラニと出会った。

 あの一件のもう一人の張本人。

 彼女にも何か言われたとしてもしょうがないことをしたと理解している。

 だから、彼女の言葉を待っていたのだが──

 

 

「あなたは、何者ですか」

 

 

 そんな、自分にも答えに困る、今の自分が探していることを尋ねられた。

 無論、答えられるはずもない。

 結果、彼女からは自分を知る手がかりになるかもしれない礼装をもらうことができた。

 アリーナの”揺らぎ”から残留魔力(ノイズ)を獲得することで、もしかしたら自分が何者なのかを知ることができるかもしれない、と。

 

 

「あら、今日はあのピエロがいるみたいね。これまでのサーヴァントとはちょっと違う気配もするし、気をつけたほうがいいかもしれないわ」

 

 

 アリーナに入った直後、出現したキャスターがそんな言葉を呟いた。

 ただ、どこか怒っているようにも見える。

 

 

「怒らないとでも思っていたの?」

 

 

 すみません。

 すぐに謝ってしまった。

 残留魔力を探しに行ったら、すぐに帰って今日はキャスターのご機嫌とりに従事したほうがいいかもしれない。

 

 ……ただ、今のまま帰るのは危険かもしれない。

 せめて相手が帰ったのを確認してからじゃないと、彼女が気をつけたほうがいいというのだから気をつけないといけないのだろう。

 そう思ったのだが、世の中はそんなに甘くはない。

 残留魔力を取得している間に、向こうから接触されることになってしまったのだ。

 だが、運がいいのか悪いのか向こうはどうやら今日はこちらと戦うつもりはなかったようで、どうにか一日目は終えることができた。

 

 そして、その残留魔力が一体何だったのか、それは翌日に知ることになった。

 

 

「え……」

 

 

 ラニに持って行ったら、言われた言葉に呆然としてしまう。

 

 使用者の脳に大きな負担をかける。

 生身ならばフィードバックによって使用者の命にすら危険があるほどの。

 そして、その事実が自分は普通の人間ではないのだということを示しているのだ、と。

 二日目も遠坂に会いに行って、それからアリーナに行ったが、遠坂との会話で少しだけホッとした。

 

 

 ──あなたが私を満足させる答えを返す時を待ってあげるわ

 

 

 その言葉で、許されたわけではなくとも焦る必要はないとわかったから。

 何が一番ダメなのかと言われれば無論、彼女を助けた責任を果たせないこと。

 ゆえに、すぐにでも返さなければと焦っていたのだが、答えを出さねばならないとはわかっていても、少しだけ猶予ができたのだ。

 それに、少しだけホッとした。

 

 だからだろうか。

 二日目の探索は順調に進み、暗号鍵も取得には成功した。

 敵とも会うことはなく、かなり順調な進み方だったと言える。

 

 だが、順調なのはそこまでだった。

 

 遠坂を待たせるわけにもいかないので、翌日には自分が持つ唯一の手がかり……『聖杯戦争の参加者』という立ち位置だけを頼りにして、これまでの戦いを思い出す。

 思い出したのは慎二のこと。

 その最期を看取ってやることすらできなかった”友人”のこと。

 ……自分は、そんな彼の友人を名乗るにふさわしいのだろうか?

 

 

そんなことを悩む必要はないわ

 

 

 キャスターの声が聞こえた。

 ああ、そうだ。

 そんなことを考える必要はない。

 

 ……?

 

 今、何を考えていたのだったか。

 

 

「思い出せないなら、大したことではないのでしょう」

 

 

 そうかもしれない。

 キャスターの言葉に頷いて、思考を戻す。

 ……確か、今日も遠坂に会いに行く予定だった気がする。

 自分の心配なんて余計なことなのかもしれないのだが、彼女と会話をすれば、あるいは何か見つかるかもしれない。

 そう思って会いに行けば──

 

 

典型的(テンプレート)なツンデレね」

 

 

 キャスターが少し怖い笑顔でそんなことを呟いた。

 本当に、そのレベルのツンデレだったのだと、少ししてから気がついた。

 彼女が協力してくれることになった時の会話は、どう考えてもツンデレ特有のものだったのだと。

 

 少しだけ気が楽になった状態でアリーナに向かえば、探索を終えたタイミングの敵主従と出会うことになった。

 あわや、戦闘か──

 そう身構えたが、相手には戦意はない様子。

 

 そして──

 

 

「あのサーヴァント、あんな狂人っぽいことをしておいてどこかの神様を信仰しているみたいね。それも重度の」

 

 

 そう、会話の中で確かに『信仰の加護』といったのだ。

 はっきりとした証拠ではなくとも、相手の来歴にまつわる可能性はある。

 もしかしたら、という程度の淡いものではあるが、あのサーヴァントはどこかの宗教に帰依した人物なのかもしれない。

 少しだけ、記憶と同時に相手のサーヴァントの正体に近づいていっている。

 そんな確信を得られた。

 

 そして、その翌日。

 遠坂からはこちらの対戦相手のサーヴァントについて調べることを提案された。

 

 

「あれは提案っていうよりも意見を強引に押し通そうとしているだけに見えたけれど……」

 

 

 以前のような怖い笑みを浮かべて、キャスターはそんなことを呟いた。

 今度は、一体どういう理由なのだろうか。

 

 

「ここにいたか、128人目のマスターよ」

 

 

 ただ、アリーナに向かわないわけにはいかない。

 ちょうど第二暗号鍵を生成したという連絡も来たので、そちらに足を向けようとしたところで言峰神父から声をかけられた。

 

 

「……何か?」

 

 

 この人のことは少し苦手だ。

 なんというか雰囲気が。

 だが、監督役である以上、彼の言葉を無視するわけにもいかない。

 そして、今回のそれも無視してはいけないものだった。

 

 

「趣向……?」

 

「ああ」

 

 

 特別ルール。

 猶予期間の四日目と五日目、対戦相手と敵性プログラム(エネミー)を倒した数を競い合う。

 そして、何よりも無視してはいけない理由は、その報酬。

 

 

「この追加ルールだが、六日目、その勝者には対戦相手の戦闘データを一つ開示しようと思う」

 

 

 つまり、相手の情報を手に入れられるチャンスだというわけだ。

 それも、対戦相手との接触もなしに。

 相手には、自分がどんな情報を手にしたのかまるでわからない。

 その優位は、考えるまでもなかった。

 

 

「あの神父さん、結構面倒なことをするわね。賞品が戦闘データってなると参加しざるを得ないもの。……これは倒したエネミーの数を競うものだから、敵のマスターに関しては放置したほうがいいかもしれないわよ?」

 

 

 キャスターの言葉通り。

 ここで無駄にロスをするべきではない。

 敵の場所に関してはアリーナのマップを見れば大体はわかる。

 問題は、そこにたどり着くまでの通路に関してはそこまでわかっていないことなのだが。

 それでもできる限りはランルーくんに会わないような通路を通って、こちらが四体倒したところで今日のハンティングは終了した。

 

 

「あら、このエリアの目的のエネミーは全部倒れちゃったみたいね。向こうも撤退したみたいだけど、今日はどうする?」

 

 

 もちろん、まだ探索を続ける。

 暗号鍵を取得しておかなければ、たとえハンティングで勝利したとしても何も意味をなさないのだから。

 ただ、もしかしたら明後日に得られる情報が何か、相手のサーヴァントの正体に繋がるヒントになるかもしれない。

 今日、相手のサーヴァントについて調べてくれている遠坂にもハンティングのことは伝えておかなければ。

 

 

 ──そう、思ったのだが。

 

 

「ミツケタ」

 

「お前は──!」

 

 

 保健室にランルーくんがやって来た。

 別にここに彼……彼女? がやってくるのは、ここがマイルームではないのだからおかしなことではない。

 ただし、その瞳にわかりづらいながらも確かな戦意がなかったならば、という条件はつくのだが。

 ペナルティを辞さないというわけではない。

 ただ、この相手は何も考えていないだけだ。

 

 

「何をバカなことを言っているのかしら。ここは戦いの場ではないわ。どこもかしこも戦場だというならばともかく、今回はちゃんと戦う場を与えられているのだから、そっちでやりましょう」

 

 

 そうだ。

 ここはキャスターの言う通りアリーナへと移動しよう。

 ユリウスや二回戦のアーチャーと言った例はあったが、さすがに三人も中立区域(こうしゃ)で戦おうとする連中と会うのは予想外すぎる──!

 

 

 ハンティングのこともあったので、相手を迎え撃つにふさわしい広い空間を探す中で狩りの対象となるエネミーたちを狩っていく。

 キャスターだけならば転移魔術を連続すれば倒した数で負けることはないのだろうが、自分がここに来て足手まといとなってしまっている。

 キャスターが別行動をしている隙にエネミーに襲われたらひとたまりもない。

 そうしてたどり着いた場所で、また新しい情報を手に入れることに成功した。

 

 

 ──時空を超えてすら、我らを怪物(ドラキュラ)と蔑むか!

 

 

 ドラキュラ。

 それは、とある英雄が愛用した通称のこと。

 そして、それは怪物を示す場合の言葉として使った場合、高確率で吸血鬼(ヴァンパイア)を指す。

 このサーヴァントが本当に吸血鬼ならばともかく、本当にただの英霊だったとするならばその真名は──

 

 

 その考えがあっていたことは六日目に確定した。

 五日目、相手と接触して遭遇戦を行なった後、相手は帰ってくれたのだが、相手がどれだけのエネミーを狩ったのかがわからなかったので、残ったエネミーを全て狩ることになったのだ。

 それでもまだ不安は消えず、言峰神父と出会った時には緊張してしまった。

 こちらの勝利を聞いてようやくほっとしたところで、彼から与えられた戦闘データは彼の槍の名前。

 その名は拷問魔城(ドラクリヤ)

 だからこそ、その真名についても理解できた。

 

 

「それで、明日の決戦はどうするつもり?」

 

 

 その日の夜。

 得られた戦闘データを確認する最中、そんな言葉をキャスターからかけられた。

 相手の宝具について調べていることを彼女に説明している最中のことだった。

 

 

「あのランサーの宝具。基本的には戦いを生業としている英霊の天敵よね」

 

 

 そして、彼の持つ中で宝具と呼ぶにふさわしいものは串刺し刑の具現だろう。

 それは、おそらくはその由来から相手が持つ不義、堕落の罪に応じて痛みを増すという特性を持つと考えたほうがいい。

 特に粛正の対象、『逃走』『不道徳』『暴力』を犯している相手ほど破壊力が増加するだろう。

 それを前提とした場合、殺し合いによって英霊となった存在には破壊力が必ず上昇した状態で放たれるということ。

 そして何より、ここでそんなことを口にしたということは、彼女もそれらの対象に当てはまるということなのだろうか。

 

 魔術師、というクラスはどちらかといえば直接的に相手を傷つけるような存在ではないと思うのだが。

 特に彼女のような、おそらくは神代の魔術師と思わしき存在ほど、特別『誰かを害した』という逸話は少なく思う。

 どちらかといえば、魔術の成果によって名を残しているような、そんな存在だと思っていたのだが、違うのだろうか?

 

 

「ええ、そうね」

 

 

 私自身、自覚はないのだけれど、と前置きをして。

 

 

「ムーンセル曰く、私は反英霊らしいわ。恋のために全力を尽くしただけだっていうのにね」

 

 

 ……それはつまり、恋は盲目ということなのだろうか。

 少女がどこかずれているのは感じていたが、それでも日常生活すらも崩れるレベルのものではないのだと思っていたのだが。

 反英霊になれるレベルのやらかし、と考えると結構酷いものだったのかもしれない。

 

 

「さあ、その辺りは私にはよくわからないわ。あれぐらいの犠牲なら……いいえ、多分国を一つ潰してでも、好きな人のために尽くせるって嬉しいものではないかしら」

 

 

 ……どうなのだろうか。

 そこまで人を好きになったことがないから、よくわからない。

 あるいは、記憶を失う前の自分ならば、とも思うのだが、今記憶はないのだ。

 それは嬉しいことなのだ、などと答えられるはずもない。

 ただ、一つだけ答えられることがあるのなら──

 

 

「普通の感性を持つ人だったら、そこまでされたら何か思うんじゃないかとは思うよ。もしかしたらそこまでしてもらえるほどに愛してもらっているのを嬉しく思うのかもしれないし、逆に自分のせいでやらなくていい犯罪をさせてしまったって悩むかもしれない」

 

 

「……そう」

 

 ただ、彼女の想い人が一体どういう人物だったのかはわからないからなんともいえないが。

 そこまで口にしたところで彼女は沈黙して、マイルームの中を居心地の悪い空気が満たす。

 けれど翌朝には普通に戻っていて。

 

 そして、決戦の時がやってきた。




別に愛歌ちゃん様にあの時のプーサーの気持ちがわかったりしません。「あの時何を考えてたのかしら」とか思っても、答えにたどり着くことはないです。たどり着いたら……


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裏話その8

 ──精神に、人格に異常をきたす程高ランクの『信仰の加護』

 

 

 ──彼自身が言及した『怪物』を示す単語としての『吸血鬼(ドラキュラ)

 

 

 ──そして、言峰の趣向によって得られた戦闘情報こと相手の武器の名前、『拷問魔城(ドラクリヤ)

 

 

 ここまで揃ってしまえばもう迷うことはない。

 彼こそは吸血鬼伝説の大元。

 人狼を起源とする怪物伝説ながらも、小説家ブラム・ストーカーによって吸血鬼(ドラキュラ)の名を与えられた。

 そんな怪物たちの代名詞、モデルとなった存在。

 ドラキュラ(竜の息子)を名乗った清貧な教徒にして残忍な串刺し公、ヴラド三世。

 だが、だからこそ負けるはずがない。

 彼は人間をやめた怪物であり、こちらはそんな怪物を退治して民に安寧をもたらす、ある意味では彼らの天敵となる英雄を駆るマスターなのだから。

 

 その怪物性を確かめている今だからこそ、強くそう思う。

 決戦場に足を踏み入れて、彼らの会話を眺めている今だからこそ。

 

 

「ふうん。あなたとは相容れそうにないわね」

 

「然り。獣の女、恋に全てを投げ打った女よ。我が神は貴様を許さぬ。我が槍をもって煉獄に落ちるがいい!」

 

 

 珍しく、キャスターが相手に一言だけ漏らして。

 それを合図に闘争が始まる。

 

 

反逆など許さぬ。悪しきは全て串刺しよ(反逆耐性)

 

さあ、出し惜しみ無しで行くわ(根源接続)

 

 

 初手はどちらも動くことはなく。

 周囲の魔力(データ)だけが揺らめいた。

 そして、ランサーが飛び出す。

 

 飛び出したランサーの血濡れた槍をキャスターの魔術によって生み出されたサーヴァントすら殺傷せしめる漆黒の影が受け止める。

 美しい顔を少し歪めて少女が転移を行えば、その直後に彼女がいた場所が影を粉砕してランサーの槍によって薙ぎ払われた。

 転移したキャスターはどこに、なんて考えるまでもない。

 その姿は、薙ぎ払いを放ち槍を構え直そうとするランサーの懐に──!

 

 

「ぬぅっ!」

 

「固いわね」

 

 

 長柄ゆえに懐にまで潜り込まれれば為す術はない。

 特に、ランサーのクラスにありながらも槍に関わる逸話を持たないヴラド三世では。

 そしてそれはゼロ距離での魔術の炸裂を彼が受けることを意味する。

 その衝撃に踏鞴を踏んだランサーだが、鎧にはダメージはあれど本人にはダメージが通っているようには見えない。

 彼の所有スキルである『信仰の加護』によるものだ。

 精神と肉体の絶対性を保証するスキルは、だからこそ目に見えるような不調は表さない。

 

 鎧ごと腹をぶち抜くなんてことができたならあるいは話は別かもしれないが、少なくとも今の一撃では何もわからない。

 攻撃を叩き込んだ時点でキャスターは顔をしかめてすでに転移の術式を紡いでいた。

 ランサーがその細身の体を突こうとしたが、それは虚空を貫くにとどまった。

 

 

「今まで戦った中で一番固いんじゃないかしら? あのホムンクルスのバーサーカーはこれよりも硬かったけれど、あれは凌げばいいだけだったし」

 

 

 こちらに戻ってきたキャスターがそんなことを呟く。

 そんなことを言いながらもその耐久には一切頓着していないようだ。

 何か、貫く手段でもあるのだろうか。

 

 

「こういうタイプは多少の損傷だったら普通に攻め込んでくるから──」

 

 

 とん、とつま先で地面を蹴った。

 軽く、踊るように。

 そしてそれと同時に──

 

 

「重たいのを連発したほうがいいのよ」

 

 

 世界が揺れた。

 

 

 聖都陥落(ソドムズフォール)

 キャスターが二つ目に手にしたスキル。

 今の今まで一度たりとて解禁したことのないスキルをこの場で解禁して、これまでも散々披露した紅蓮の炎を放つ。

 

 

「この、程度でっ!」

 

 

 地面をその手に持った槍で叩き、反動で飛び上がるランサー。

 空間すらも揺らすキャスターのスキルで身動きがまともに取れない中、槍で払うことも難しい劫火への対処の方法としてはあまりにも正しい。

 だが、それはキャスターの魔術がそれで終わりの場合。

 白魚のように美しい指を踊らせて、少女は新たな魔術(コード)を紡ぐ。

 

 

「どーん」

 

 

 くすくすと笑って少女が完成させたのは三回戦の時の魔術の連撃を、より繊細に、より強靭に、より上位の魔術に仕立て上げたもの。

 

 

「ぬ、おおおおおおっ!」

 

 

 ランサーはそれを視認して、視認できない分に関しては直感で、英霊と呼ばれるヴラド三世の武人としての側面が故に持つ戦闘経験を元にして、危険度の高いもの……鎧を貫きうるものから順に槍で薙ぎ、払い、突き、粉砕していき、衝撃が中に伝わるだろうものに関してやブラフのそこまで威力のないものに関しては鎧で受けて無理矢理に耐える。

 滞空時間はそこまで長くはないはずなのに、たった数秒程度の連続攻撃がもたらした破砕はあまりにも大きい。

 それでもその数秒の嵐の脅威を思えば、あまりにも被害は小さかった。

 

 

「不義不徳の奴腹め。その罪、”粛清の儀”にて禊ぐがいい」

 

 

 次の一手は、あまりにも衝撃だった。

 ランサーがその損傷に見合わず、これまでの言動に比べてあまりにも静かな声で自らに槍を突き刺した。

 自傷行為など、この月の聖杯戦争で無意味に行われるはずがない。

 その一手は必ず何かの意味があるはずなのだと、それが何かを判断して対処するのが自分なのだと必死に目を凝らしていたから、気がついた。

 

 

「キャスター!」

 

「ええ、わかってるわ」

 

 

 鎧が破損し、羽織った血濡れのマントもボロボロになったヴラド三世は、さらに己の体に槍を突き刺しても今もなお通常時と同じように動いている。

 そして、腹部に突き刺さった槍に彼の流した血が纏わり付き、徐々に魔力を高めていく。

 体液には魔力が多く含まれているために、サーヴァントの血を吸った武器がどれほどの神秘を吸収したのかなんて考えるまでもない。

 ランサーは、そのさらなる力を手にした槍をキャスターに向ける。

 けれど、槍という攻撃方法を考えれば突き刺すか薙ぎ払うか、どちらにせよ接触しなければならない。

 転移魔術がある以上それは簡単ではないと思っていたのだが──

 

 

「え……?」

 

 

 槍の穂先が向けられた瞬間、キャスターのいた座標が炸裂した。

 土煙が上がり、少女の姿が掻き消される。

 彼女が直撃したのかどうかがわからない。

 転移魔術があるからこそ、当たったのかどうかわからない。

 

 

「ぬん!」

 

「あら、どうしてわかったのかしら?」

 

「穢らわしい獣の匂いがしているからな!」

 

 

 だから、こうして彼女の声がランサーの背後から聞こえた瞬間にほっとして。

 土煙が完全に晴れて少女の姿が見えた時、もう一度驚きの声が漏れた。

 キャスターに対する迎撃として振るわれた槍を少女がどうにかする手段は二つ。

 先ほどまでのように転移で避けるか、あるいは魔術で迎撃するかだ。

 

 

「それにしても、魔術師が俺に接近戦とはな」

 

 

 ただ、自分の知る中には──

 

 

「最近の魔術師は魔術以外にも武術ができないとダメらしいわよ」

 

 

 彼女がそれほどの──Bランクの(彼女をはるかに超える)筋力で振るわれた槍を受け止めるほどの剣の素養を持っているなんて知識はなかった。

 彼女が普段使いする影の触手と同色の、影を固めたかのような剣。

 彼女が握る一本に加えて周囲に浮かぶ八つの剣。

 

 魔術で作ったらしき周囲の八本は別にいいのだが、槍を受け止めているキャスター自身が握った剣は話が別だ。

 少なくとも、これまでの彼女の動きと敵対してきたサーヴァントの動きを見比べても『戦闘を生業とする者』らしき動きはなかったはず。

 それなのになぜか少女は、武で名を残したわけではないとはいえ、英霊の攻撃を凌ぎ続けることができている。

 八本の剣の援護を受けながら、ランサーの攻撃を凌ぎ続けていたその姿は、あまりにも異質だった。

 

 

 ──無論、そこにはちょっとしたペテンがある。

 

 後で聞いた話だと、この戦いでキャスターが最初に使った『根源接続』というスキル。

 あれはわかりやすく言えば『なんでもできる』ことが売りのスキルらしい。

 彼女は生前、根源に常に接続していたらしいのだが、サーヴァントとして召喚されるにあたり、無条件に使えた場合『相手の真名を常に調べる必要もなくわかってしまう』『相手のサーヴァントに対してあらゆる特攻を用意できる』という事実から『聖杯戦争の根底を崩しかねない』という事実があり、制限がムーンセルによってかけられている、ということ。

 けれど、それを潰してしまえば少女の戦闘能力はそのほとんどが使用できなくなる。

 よって、基本的には『魔術師(キャスター)のクラスを逸脱しない範囲』での使用しか許されていない、とのこと。

 

 このスキルは一時的にその制限を一部取っ払うらしい。

 さすがになんでもできるように、とまではいかないが。

 それでも、他の英霊と打ち合えるほどの剣技をその身に反映(フィードバック)させる、程度のことはできる。

 技術だけがあっても体がついてこないのでは意味がないので、それを使用する場合は常に体を強化しておく必要があるらしいが。

 未来視や、あるいは因果の改変などの力は許されなくとも、その力はあまりにも強大で。

 

 少なくとも、ランサーの意表をつくということには成功していた。

 

 

「ぬうっ……猪口才な!」

 

 

 槍を向けながら”粛清の儀”とやらが空間に炸裂していく。

 薙ぎ払えばその軌道に沿って魔力による空間侵食が起こり、ねじれ、空間そのものにダメージを与えていく。

 されどキャスターは転移魔術を駆使した上で、宙に浮いた八本の剣と手に持った一本の剣でその槍の向きを反らしながら炸裂する攻撃を全てかわしている。

 ランサーの血を浴びてその攻撃を放っている以上、その血の魔力が途切れた瞬間に”粛清の儀”の再度の発動にはもう一度突き刺す必要があるのだろうが、それでも先ほど浴びた血の量は半端なものではない。

 それでも動きが鈍らないのは、あのスキルの発動にもおそらくは使われているのだろう『信仰の加護』。

 確実に霊核を穿たぬ限り、彼は止まることはないだろう。

 

 

「やっぱり、私にはこっちの方が合ってるわね」

 

 

 そんなことを呟きながら、キャスターは八本の剣を構成する影を解き、普段使いの影の触手に変えてランサーに向けて襲い掛からせる。

 そこにはよくよく見てみれば影にわずかに凹んでいる部分があって。

 普段のそれとは違う、紋様のようなそれを刻まれた触手群は常のそれとはどこか違う様子を見せてランサーの肉体を貫こうとする。

 それと同時にキャスターがその翠のフリルドレスのスカートをふわりと揺らして、手に持っていた剣を、柄の部分を腰のひねりも加えて殴ることで、その部分で爆発を起こして打ち出した。

 

 それは、先ほどまでの動きとはまるで違う。

 魔術そのものを攻撃方法に最初から組み込んでいる英雄の一撃を再現している。

 とはいえ、模倣は模倣。

 相手の虚をつくことには成功してもそこまでのダメージを望むことはできない。

 

 

「この、程度!」

 

 

 ランサーの血濡れの槍がその影の剣を粉砕して、ついにキャスターの手元から武器が消える。

 代わりに、左手に劫火を、右手に吹雪を携えて少女は背後に転移した。

 槍が少女の肉を貫くにはわずかに時間が足りない。

 少女の美しい体が血に彩られるよりも先に、必ず二つの破壊はランサーの血肉を消滅させる。

 そのはずだったのだが──

 

 

「粛清は未だ終わっていない!」

 

「きゃ……!?」

 

 

 触れるよりも先に炸裂する魔力。

 意表を突かれたという様子で、キャスターが転移するよりも先に彼女の体を傷つける。

 わずかに覗いた肌には深い裂傷が刻まれ、次の行動が行われるよりも先に転移したキャスターに魔術(コードキャスト)による治癒をかけるが、その痛みそのものが消えるわけではない。

 そうして、わずかに距離が開いたタイミングでランサーに視線を戻せば、魔力の猛りを感じた。

 

 

 ──宝具。

 

 

「妻よ! これなる生贄の血潮をもってその喉を潤したまえ!」

 

 

 思った時にはもう遅い。

 ランサーの槍が重力に逆らって空中に浮かんで行く。

 周囲にも魔力は充溢し、地面が励起する。

 転移を行い空中に飛び、飛行魔術でその位置を維持するキャスター。

 

 

「”串刺城塞(カズィクル・ベイ)”!」

 

 

 その励起した魔力から生まれたのは、全て彼が成した串刺し刑。

 大小様々な刃が本来ならば敵の動きを封じるのだろうが、今この時に至ってはそれは成されなかった。

 地面から屹立する巨大な刃がヴラド三世の代名詞である串刺し刑を実行しようとするが、キャスターは転移を繰り返しながらその刃をかわし続ける。

 

 

「これで終わりね。久しぶりに痛かったもの。ちゃんとお礼はさせてもらうわ」

 

 

 そして、徐々に刃が追いつかなくなる中でキャスターは背後に出現する。

 その手には先ほどの焼き直しのように吹雪と劫火が。

 それを叩き付けようとした瞬間──

 

 

「もう、それは見切っている」

 

 

 武人としての戦闘経験。

 先ほどまでのキャスターの動き。

 そして直感。

 それらによって彼女が背後に出現することを読んでいたランサーの槍が、空中からキャスターに向けて飛んできて突き刺さり──

 

 

「ええ、そろそろ見切ると思っていたわ」

 

 

 ランサーの目の前に、無傷のキャスターが出現した。

 手には二つ、背後のキャスターと同じ魔術を顕現させていて。

 目を見開いたランサーは背後の、槍が突き刺さったキャスターに視線を向ければ、それはポロポロと崩れ落ちて行く偽物。

 

 そして。

 

 

「これで終わりよ」

 

 

 キャスターの魔術がランサーの肉を抉り、その霊核を撃ち抜いていた。

 そのままの体勢でしばらくの間ランサーは固まり、そしてぐらりと傾いた。

 鋭さを失った双眸からは、血の色をした涙が滴り落ちている。

 

 

「……不覚。獣をその身に飼う女よ。眼前にしながらもその首を貫くことができぬとは。だが、これも良しか。我が最愛の妻に、貴様の狂気の血を飲ませるほど、俺も悪魔にはなりきれぬ」

 

 

 そして、その言葉を残したランサーは、敗北を認めたことで近くにいたキャスターとの間に絶対に超えることを許されない炎の壁の存在を視認している。

 

 

怪物(ドラキュラ)と創作されるのは、多くの同胞を串刺しにした俺にのみ相応しい末路だろうよ」

 

 

 身体中からの流血によって生まれた血だまりに崩れ落ちた狂気のサーヴァントは、それでも不敵な笑みさえも浮かべながら囁く。

 

 

「アレ? ランサー、シンジャウ、ノ?」

 

 

 そこに近づけるのは彼のマスターであるランルーくんのみ。

 勝者である自分に、敗者である彼らに近づくことは許されない。

 

 

「ナラ、タベナイト。哀シイケド。トッテモ哀シイケド、食べナイ、ト──」

 

 

 彼女の言葉は狂気に満ちている。

 けれど、ランサーの『俺にのみ』という言葉が真実ならば、彼女はきっと──

 

 

「いえ、それには及びません。この身は貴女に愛される資格などない。怪物はこのまま地の底へ」

 

 

 そして、それを裏付けるようにランサーの言葉が紡がれる。

 

 

「……ふふ、食べる食べると望みながら、その実、倒した相手を一口も口にしなかった哀しい女よ」

 

 

 ランルーくんは、あの狂気の中にありながらそれでもまだ人間だった。

 自らの生命より守るべきもの。

 愛するものを侵す、という行為を、今際の際であるこの瞬間もなお行なっていない。

 

 

「その魂には未だ救いの余地があるのです。はは……故に、あなたは煉獄へ。我が体は地獄に落ちるが定め」

 

 

 それではしばしのお暇をいただこう。

 そう言って、血に溶けていくようにしてランサーは消え去った。

 マスターであるピエロはそれをぼんやりと見つめた後、ぽっかりと開いた大きな瞳でこちらに視線を戻した。

 獲物に注ぐ視線なのか、愛しい者を見つめる眼差しなのか──

 それは付き合いが短い自分には判断などできるはずもない。

 もしかしたら彼女にとってはその二つは同じことなのかもしれないけれど。

 仮面に覆われたその真意は分かりはしない。

 サーヴァントの残した血だまりの中、ピエロは手足をばたつかせる。

 それは苦しみにもがいているというよりは、駄々っ子のようで──

 

 壊れたおもちゃのように手足を振り回し、言葉を吐き続けているランルーくん。

 ランルーくんはこれまでのように狂気に満ちた、けれどランサーの言葉を聞いた後ならばわずかに狂人とは思い難い『愛してあげられるのに』なんて言葉を吐いて。

 唐突にその姿を消した。

 敗者の定めとして消失したのだ。

 まるで誰かがテレビの電源(スイッチ)を切ったかのように。

 それは狂ったピエロにはよく似合う、けれど正気を残している人間ならば惨さすら感じる最期だった。

 

 

 そして、四回戦は終わる。




ファニーヴァンプなアルクェイドと行く聖杯戦争はどこ……ここ……?

実はフランシスコなザビエルに気がつかなかったのは「白野がそれを書いた」というのを根源から見れていなかったからだったり。


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Part6

風邪引いた


 なんだかそろそろ色々おかしなことになってきて、宝具を使えるようになって万々歳なのに目が点になりそうな状態でホモくんを罵るRTAはーじまーるよー。

 

 

 今までこちらだけ宝具が使えない状態で戦い続けてきたことで、戦闘も少し盛り上がりに欠けていましたが、ついにこの五回戦からこちらの宝具も解禁されるので、愛歌ちゃん様が持ち込んだ宝具を……使えません。何せ彼女の宝具は単純に言ってしまえば『ビーストの召喚』。レギュレーションでビーストの使用を禁じているため使用することは許されませんよ。

 通常プレイならばともかく、このRTAではこちらには一切の利益がない宝具解禁に伴って道中の敵の実力も尋常じゃないくらい強化されています。下手しなくても死にますし、道中の遭遇戦も運ゲーが混じってきます。

 

 動くことができるようになったらまずは対戦相手の確認。掲示板にはユリウスの名前が書かれています。もしも弓道場にいる六回戦でレオと当たるまで生き残ってる子が当たったらリセットです。ユリウスだということを確認したならば凛ちゃんに伝えに行きましょう。彼のサーヴァントは三回戦の前の幕間で出会ったあのアサシンです。このサーヴァントというのが曲者で、初日には必ず暗号鍵を取れません。アリーナ内部で接触したら諦めて帰りましょう。

 まあ、それよりも先にすることがあるんですけどね。具体的には購買です。あそこにRTA必須となる礼装が……強化スパイクが売り出されています。これの効果はホモくんの行動速度が速くなるというものです。思っている以上に早くなります。ね? RTAには必須でしょ?

 さて、そんなことをしているうちにアリーナに来ました。彼のサーヴァントは李書文。圏境というスキルを使用して姿を隠しています。そんな彼によってこちらのサーヴァントは絶対に心血とやらを突かれてしまうらしいのです。愛歌ちゃん様、肉体の強度は普通の一般人っぽいのにそんなものを受けて体が残ってるのがちょっと不思議ですが、とりあえず愛歌ちゃん様を連れてアリーナから帰りましょう。……自分の未来を見ていればどうにかなったのかもしれませんが、見ていなかったんです。だからこの話はここで終わりです。

 

 

 アリーナから帰ると二日目に移行します。こういう場合は一人で悩んでいても仕方ありません。凛ちゃんに相談しましょう。凛ちゃんに相談すると、さすがは凛ちゃんと言いたくなるような頼りになるところを見せてくれます。凛ちゃんが頼りになるところを見せてくれたおかげで三日目には愛歌ちゃん様が消滅することがわかります。消滅したほうが世界のためではありますがこのRTAのためにはなりません。

 

 凛ちゃんが魔力供給が成されていないことが原因だということを教えてくれて、今からキマシタワーを建てて魔力供給をするということも教えてくれたので、その前準備をします。実は愛歌ちゃん様……というかサーヴァントの好感度が一定以上だとマスター本人と魔力供給(意味深)をすることになるのですが、凛ちゃんがやってくれたほうがタイム的にはめちゃくちゃ早いです。殺されない程度の好感度に留めておいたので今回はそんな事案は発生しませんが、これからRTAを走る人たちは忘れないようにしましょう。

 ついでに、サーヴァントがこういう状況なので凛ちゃんが用意した人形(ドール)を借りましょう。これも好感度が一定以上だと一部サーヴァントにぶっ壊されるのですが、今回はそんなことは起こりません。気にしなくていいです。人形(ドール)のスペックは凛ちゃんのランサーと同じです。強い。まあ、そんなことを言ってもただの人形(ドール)ですので自分で考えることは特になく、マスターであるこちらの指示に従うだけなのですが。

 ちなみに、サーヴァントが無理やりついてきた場合、極力戦闘を避けるというお話の都合上、ゲーム的には戦闘はいくらでもできるのですが、この状態では実は通常の半分の性能しかありません。普通に人形を借りた方が楽ですが、経験値は入らないのでできる限り戦いは避けましょう。与ダメ半分、被ダメ二倍とか笑えませんからね。

 さて、そんな二日目ですが、ショートカットを使用して敵と当たる確率を最低限にまで減らし、設置候補は一番最後が固定で正解なので、そこに割込回路(バイパス)を仕込んだらそれで終わりです。帰りましょう。

 

 

 はい、三日目ですね。ここで凛ちゃんと愛歌ちゃん様がキマシタワーを建てるのですが、その間は暇です。覗くのもロス(ロスとは言ってない)なのでそんなイベントは発生させません。というわけでレオと会話をしましょう。こいつのお別れの言葉とかめちゃくちゃムカつくので今この場でできることなら吹き飛ばしたい……。

 とりあえず、凛ちゃんから連絡がやってきたら一階の中央で愛歌ちゃん様を引き取りましょう。そしたらそこにユリウスもやってくるので、アリーナで故意の遭遇からの遭遇戦です。ところで、言峰神父にアリーナでやれって言われるのですが、そもそも猶予期間の間は戦っちゃダメだよって言ってたあんたらが推奨してどうするんだって感じがしますよね。

 とりあえず、三日目の戦いではこちらの攻撃は一切通用しません。当ててもダメージはゼロです。愛歌ちゃん様は中国武術なんて身につけていないのです。ですが、今回は耐えるだけでよくて、さらに先ほどの遭遇時点でマトリクスは二つ目まで回収済みです。『気配遮断』と『二の打ちいらず』の二つですね。ぶっちゃけた話、『二の打ちいらず』なんてワードが出ている時点でその真名はわかったようなものですが、今の時点ではまだわからないことになっています。諦めて遭遇戦をしましょう。強化スパイクを使って走り回っているので、コードキャストは一つ使えません(白目)。

 ちなみに、翌日から第二層が開くので、第一層を何も問題なく散策できるのはおそらくこれが最後。忘れないうちに暗号鍵を取得しましょう。

 

 

 では、四日目です。なんだか今回はとってもはやーい。

 四日目は、凛ちゃんから相手のサーヴァントをどうにかする方法を練ってみる、という言葉とこちらの正体がサイバーゴーストであるという言葉をもらうことができます。ですがそんなことは私には関係ない。なんか悟ったような様子のホモくんを動かしながら、凛ちゃんに用意してもらったトラップを設置しましょう。対装具トラップ、対魔術トラップ、対精神トラップの三つです。これを設置したならば、もう今日やるべきことはないです。

 さて、設置している間にアリーナ第二層の敵でも説明しておきましょうか。一層の説明をしなかったのは二層の方が美味しい雑魚がたくさんいるからです。残念ですが奥の方にいる美味しい鳥とか熊がいますが今日のところは狩れません。しょうがないので蜂とカエルで我慢しましょう。

 あ、ちなみに今日のところは暗号鍵は取得できません。二つ目のトラップを仕掛けた三叉路、そこから左が暗号鍵のあるところなのですがスイッチ扉があるのでまだ空いていないのです。凛ちゃんがユリウスの動きの選択肢を封じるためにスイッチ扉で封じているのか、それとも違うのか。とりあえず、五日目のトラップが終わった後ならば問題ないので、今日はもう終わっておきましょう。

 

 

 さあ、五日目です。凛ちゃんと最後の打ち合わせを行うのですが、その中で突然ホモが凛ちゃんのことを抱きしめます。突然抱きしめても許される主人公の特権をバッチリと使うホモの面汚し。でも、これを見ているキャスター的にはどうなんでしょう。最低限の好感度稼ぎなのでおそらくは問題ないと思うのですが、以前掲示板で『サーヴァントの好感度を上げすぎているとここで、拗ねるか、戻ってきたらヒロインが消えている』なんて報告があったりしたのでちょっと恐ろしいです。

 とりあえず、彼女が用意してくれたトラップですが、内容に関してはよくわからないものの結局のところ『相手の透明化を剥がす』という一点に特化しています。相手の透明化が身につけている装飾品、あるいは防具だったりする場合に反応する対装具トラップ。相手が魔術によって透明化している場合に反応する対魔術トラップ。相手が精神的な修練で透明化しているというよくわからない状態の時に反応する対精神トラップ。反応するのは一番最後であり、ここはユリウスがアリーナを動かないとどうしようもない部分なのでRTA的にはイライラタイムです。お前暗殺者なのに、ちょっと礼装で強化された脚力にすらまともに追いつけないレベルの速度で動くってどういうことだよ。

 三つ目のトラップのところに行く前に礼装を変更しておきましょう。回復のためのそれと守り刀です。相手のスキルモーション分の時間を削ることができます。ところで、この三つのトラップですが、最後の一つにも引っかからなかった場合ってどうするつもりだったんでしょうね。

 

 では、あとは焚き付けてマトリクスを奪うだけです。今回手に入るマトリクスは圏境。ダメージが通る以上はスタンだって取れます。完封だって不可能ではないでしょう。不可能ではないだけでできるとは一言も言ってませんが。わかっているパターンは毎ターン一手目に確定スキル。あとは二連続で同じ手を打つということは少なめ。二、三ターン目の該当する手に追加でスキル。最初の一戦目のようにこちらに三手くれるわけでもないので、スキルをバンバン使って死なないようにしましょう。

 ちなみに確定で使うスキルは『周天、気を収める』であり、次の手の筋力ダメージを倍にするとかいう白目を剥きたくなるような効果。つまり二手目だけスキルを使えばその効果は一切意味をなさなくなります。

 二ターン目は一手目にスキルは変わらず、五手目にスキルとコードキャストが固定。五手目のコードキャストがガード封印なので、六手目のアタックもおそらくは固定。さらに五手目のスキルはアタックの効果を上昇させる『周天、気を高める』。殺意増し増しですね。アタックの威力を上げた上で勝てなくするのやめろよお前。守り刀によるスタンは五手目のスキルに。そうでないと六手目に殺されることになります。

 三ターン目は一手目と四手目がスキル固定。それ以外は通常手なのですが、こちらはガード封印をされているのでアタックによる対処はスキル以外では不可能です。覚えておきましょう。まあ、ここは被弾するのは三流。結構楽に凌ぎ切れるので完封してなんぼです。

 

 あとは稼ぎつつ暗号鍵を取得するだけ。一応ここには『NEPHILIM』の新型もいますがそちらに関してはわざわざ説明するようなこともないので飛ばしても問題ないですよね。ここでアサシンとの戦いを終えたことによって通路を封鎖していた扉が開かれます。ということで、しばらくの間は見所のない場面が続きますので──

 

 

 み な さ ま の た め に ぃ 

 

 

 愛歌ちゃん様の好感度稼ぎについて話そうと思います。

 

 ぶっちゃけた話、彼女の好感度、上がり方はともかく下がり方は一気になります。相手にエクストラアタックを一回取られただけで好感度が一下がる糞仕様。代わりに完封した場合は好感度が0.5程度上がります。0.5ってなんだよオイ。そんな彼女ですが、最初の時点での好感度が10。これがゼロになった場合は見限られて殺されます。ちなみに今の好感度は私の計算が間違っていなければ20。そもそもRTAだからね、毎回完封するぐらいの勢いじゃないとRTAとは名乗れません。ちなみに三回戦でザビエルを叫べば好感度が一時的に3下がって、そのあとに4上がります。あの状況でふざけたことは許せなくても自分の知らぬことをしてくれたことにちょっとだけ面白かったようです。

 それに……おっと

 

 

 どうやら稼ぎは終わったようです。レベルは25。結構今回は稼げる時間が短かったのでこの程度なのですが、それでもレベル的には新しいスキルの獲得が許されるレベルですから、問題はないです。ここで獲得できるのは防御スキル『怪物女王』。こんな名前の割に一時的に大地母神の生命力をアップデートすることで一時的に体力を表記されている体力の十倍にする、という能力です。ただし、相手の『体力の○%ダメージを与える』という技の場合は表記されている体力の%でやるので、実際に受けるダメージはかなり小さくなります。そしてその一手が終わった後に体力が十分の一に戻るので、受けたダメージも十分の一に、という技。今回のアサシンの宝具が『現在体力の90%のダメージを与える』らしいので、ここで真価を発揮しますね。

 

 六日目にはやることはほとんどありません。唯一やらないといけないことは愛歌ちゃん様の真名と宝具についてだけです。今回は宝具は解禁されませんがね、それでも代わりとなるスキルはもらえるんですよ。そもそもビーストの召喚なんて許されるはずがないですからね。

 真名に関する情報は戦闘が終わった後にでも。宝具に関するチュートリアルが入るのでそれをスキップしながら翌日の対戦に備えてもう終わります。マトリクス精査による相手サーヴァントの真名当ては順番に一番下の「気配が感じられない」、上の「相手の回路を乱す打撃」、真ん中の「完全な体術による気配遮断」です。それにしても記憶がない割には英霊の宝具と真名についてすんごく詳しいですね。

 

 では、ハーウェイの黒蠍ことユリウスの撃破に……イクゾー(デッデッデデデデ)!

 

 

 

 (カーン!)

 

 

 エレベーターに乗ればいつもの戦闘前会話です。ここでは「自分からは特に何も……」を選びましょう。もう一つを選ぶと会話続行、そこから最大で選択肢が五つあります。色々と話を聞けますが、選択肢が出る以上スキップはできません。RTAではあまりにも不要な時間です。

 

 さあ、決戦です。相手はターンの最初に必ず「周天、気を収める」を使用します。先ほども説明しましたが「周天、気を収める」の効果は次手のみ攻撃力倍化というもの。二手目の行動が分らない場合は攻撃スキルで潰してしまったほうが良いですね。パターンは一手目と特定ターンの二手目、ついでにコードキャストタイミングから割り出せる手が固定です。なので、毎ターン一手目に守り刀のコードキャストによるスタンを当てれば、一手目のスキルに関しては問題ないですね。

 ちなみに、先ほど説明した宝具に関して模範解答は打たせない、です。宝具は{4(n-1)+1}ターン目に1度使用し、使ってくるのは必ず二手目。そこから四手を読み切ってどうにかするなんて考えたくもありませんからね。一手目がスキルで確定していて、使ってくるターンもわかっているのならば守り刀でスタン余裕です。お疲れ様でした。

 ついでに、今回に関しては三つ目のスキルがあります。「周天、気を満たす」という耐久アップのスキルです。与ダメが100減るのですがこれは耐久アップなので魔力ダメージが基本のこちらには関係ないと言っても過言ではないでしょう。ちなみに最初の使用は四ターン目の四手目です。

 この五回戦は宝具パターンに合わせて守り刀を使用し、さらに宝具を展開するのが一番安定します。八ターン以内に決めるのが理想。

 

 

 おっと、そんなことを言っている間に終わりましたね。一手目のスキルと宝具使用ターンに使う手までわかっているんだから、四回戦よりも雑魚なんてそんなの一番言われていることですしおすし。

 敗者にふさわしいエンディングがあるんだからちゃんと死んでて欲しいものですが、こいつは七回戦で復活してきます。

 

 

 ………………

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

 ──────────────────────え?

 

 

 

 何 で ユ リ ウ ス を 助 け よ う と し て い る ん で し ょ う か ね ぇ ?

 

 

 ユリウスを助けるシナリオは女性主人公にのみ用意されているはずなんですけどね。なんかユリウスを助けようとしています。この主人公はホモの鑑ですね。

 それでもユリウスは助けられません。令呪が二画あったならば話は別なのかもしれないですが、一画しか残っていない以上、彼に令呪を与えて生き残らせることはできないのです。

 ですが、どうやら運はいいようですね。ここでユリウスが完全消滅してくれるようです。七回戦で行われるはずだった戦いは消滅しました。喜べ〜!

 

 

(あ、ユリウスの持ってるハーウェイのアレがないと七回戦でアリーナの照明落とせない……まあ、いいかって顔)

 

 

 さて、それでは今回は五回戦が終わったところで終了……ではないです。出待ちしていたインチキ騎士を携えた金髪ショタことレオくんとの会話が残っています。彼との会話を終えると愛歌ちゃん様の真名についての会話になりますが、ここは面倒なのでスキップです。

 

 では、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。




ちなみに条件は発覚していないが、一切役に立たない状態のユリウスが仲間に入る可能性もあるらしい(RTA的にはユリウスとの会話が六回戦以降増えるのでただのロス)


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裏話その9

中国拳法とか全く知らない


5.un born/dead end

 

 

避けようのない死、

 

 

逃げようのない終わり。

 

 

結末を前にした時、本質は表れる。

 

 

祈りも救いも不要。

 

 

戦いは今日、ここで終わる。

 

 

その狭間で――――どうか、見せてほしい。

 

 

かつてそうであったように、

 

 

人間の全てが、

 

 

絶望の中で光を見出せるのかを。

 

 

16人→8人

 

 

 

 

 

 

「ユリウス……」

 

 

 五回戦で戦った、友人になれた一人の男の名前を呟く。

 そう、今はもう七日目の夜。

 五回戦で戦った相手の名前は、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。

 敵であり、幾度もぶつかり、そして最後には友人になることができた相手。

 慎二のように偽りの友情を与えられたわけではなく、遠坂のように対等な相棒というわけでもない。

 自分が、自分の意思で友達になることができた相手。

 そんな彼のことを思い出していた。

 

 

「悼んでいるのね」

 

 

 そう言って、自分の横で姿を現した少女……魔術師(キャスター)のクラスで現界した、この戦いで沙条愛歌という真の名をこちらに教えてくれたサーヴァント。

 彼女という英霊についても思い出す。

 

 

「キャスター」

 

「もう、こういう場でぐらい名前で呼んでくれてもいいのよ」

 

 

 沙条愛歌。

 英雄という存在では決してない、ただの少女。

 されど、恋のために世界を滅ぼそうとしたことがあって、『英雄に殺された』という事実が逆説的に彼女を反英霊(怪物)として確定させた、そんなサーヴァント。

 その宝具は世界を滅ぼそうとした時のことを、その時に使用した存在を召喚することらしいのだが、流石にそんなものを使わせるわけにもいかないので、宝具に関しては目下封印中。

 そんな、調べた限りでは彼女が人理定礎を破壊するために参加した聖杯戦争においても自分が戦ってきた強大なサーヴァントを数多追い詰めた、ある意味ではこの聖杯戦争で出会ったありとあらゆる存在を上回る危険度を誇る愛歌(キャスター)が、これまでの中でもっとも危ない目にあったのが、今回の相手だった。

 

 ユリウス・ベルキスク・ハーウェイとそのサーヴァントことアサシン、李書文。

 

 その脅威を知ることになったのは五回戦の初日だった。

 

 

「あの時は大変だったわよね」

 

 

 キャスターの言葉に頷く。

 あの時、姿をたった一人で見せたユリウスはサーヴァントを連れてはいなくて、サーヴァントは……その当時はクラスまではわかっていなかったがアサシンは、突如の出現とともにキャスターの心血とやらを撃ち抜いていた。

 結局それはアサシン曰く「決定的な瞬間だけはうまく避けた」とのことらしいのだが、真名を知った今となっては肉体的にはただの少女でしかないキャスターがどうやってそんなことを実行できたのかということが気にならないわけがなかったが──

 

 

「どうかしたのかしら?」

 

「いや、なんでも……」

 

 

 答えてくれそうな感じではない。

 にこりと笑って拒絶するキャスターの姿を見てそう感じたので、聞くことに関しては諦めている。

 そして、同じように聞くことを諦めていることがもう一つ。

 一日目に心血を打ち抜かれ、魔術回路をめちゃくちゃにされたことで魔力供給の経路がしっかりと機能していない状態になったキャスター。

 二日目に彼女を助けるための策を遠坂が練ってくれたことによって活路は見い出せたのが、その時はユリウスとそのサーヴァントに見つかって結構ギリギリだったと言える。

 そして、三日目。

 この時の出来事が、どうしても気にはなっているのだが、同時に聞こうとすると怖い笑顔で拒絶されるので聞くことを諦めていることである。

 

 魔術回路を乱され、魔力供給をできなくなってしまったキャスターに対して、遠坂が予備の供給源(サブタンク)となって契約の経路を結び、魔力を送る。

 

 ただ、そのための経路を結ぶ際に『見るんじゃない』と常の遠坂を考えれば妙なほど力強く念押しされたので、気になっているのだ。

 

 まあ、答えてくれそうにないので、無理に聞き出して関係を悪くする必要はないと思っているのだが。

 

 

「それで正解よ。もしも聞き出そうとしていたら……」

 

「していたら?」

 

 

 ふふふと笑うキャスター。

 少し……いや、かなり怖い。

 頬がほんのりと赤く染まっているような気がするのは気のせいだと断じて、とりあえず三日目の他の出来事を思い出す。

 

 ……確か、あの日はキャスターの魔力供給問題が終わった直後にユリウスと出会った覚えがある。

 その時に、相手のサーヴァントが扱った技がわかった。

 打撃の瞬間に、拳に乗せた自分の魔力を相手の体内に巡らせて全身の陽気と陰気を逆転させる発勁の奥義。

 天地万物と武を同一と見る中国拳法が、彼の使用した技。

 そしてその直後に、アサシン自身から『二の打ちいらず』というキーワードを引き出すことにも成功した。

 その場であわや戦闘か、というような事態にも陥ったのだが、そこは言峰神父がやってきたことによって戦いは行われることはなかった。

 だが、アリーナに行って、魔力供給の問題も終わったからまともな戦いになると思ったのに、実際にはまともな戦いにはなることはなかった。

 

 五日目にわかったそのスキルの名前は圏境。

 

 気を使い、周囲の状況を感知し、また、自らの存在を消失させる技法。

 極めたものは天地と合一し、その姿を自然に溶け込ませることが可能となる技。

 そして、彼はその『極めたもの』という領域に入っていた。

 それがわかる前日、つまりは四日目に自分がそもそも地上に肉体なんてないことを遠坂から教えてもらえた。

 ……もっと、驚いたりわめいたりするのかとも思ったのだが、実際にはそんなことはなかった。

 もしかしたら、どこかでそうなのかもしれないと思っていたのかもしれない。

 ありすの言葉も、自分を仲間(同類)と認識していたのだからある意味当然。

 自分はそういう存在なのだと、ようやく理解できた。

 

 

「それで、あの時はまだ願いはわからなかったみたいだけど、今は何かあったりするの?」

 

 

 その言葉に、曖昧に頷く。

 データに過ぎない仮想の命。

 それに従ってくれているキャスターがいて、ならば自分には何もないわけではない。

 今はまだはっきりとした願いは思いつかないけれど、……ああ、今の自分には命がないのだから命を手に入れるなんて願いなら叶えてもいいかもしれない。

 きっと、どんなところだってキャスターがいたならば面白くなりそうだ。

 ただ、それはもちろん自分の願いだというだけであって、キャスターが嫌ならばそれは連れて行く理由にはなりはしない。

 ああ、遠坂も地上に返さないといけない、ということも忘れてはいけない。

 ……そして何よりも、慎二のような『命を失うことをただの脅し文句だと思って聖杯戦争に参加する』なんて人間がいないように、この聖杯を閉じる必要がある、ということだけは何よりも一番上に。

 

 

「そう……つまり、あなたは”死にたくない”じゃなくて、”生きたい”って思ってるのね」

 

 

 そういうことかもしれない。

 明日にでも遠坂に『自分は新しい命が欲しいのだ』ということを伝えてみようか。

 彼女はどんな反応をするのだろう。

 もしかしたら、『地上に来るなら色々と案内をしてあげる』なんて口にするかもしれない。

 面倒見のいい彼女のことだから、普通にありえそうだ。

 

 まあ、それに関しても五日目のような無茶を彼女がしなければの話にはなるだろうが。

 

 五日目……というより作戦そのものは四日目の時点から開始していたか。

 相手がいかにして透明化を行なっているのか、その時点ではまるでわからなかったために推測を立ててそれをどうにかするしかなかった。

 その時点で考えられたのは三つ。

 二回戦のロビンフッドのように身につけた宝具、あるいは装身具で透明化をしている可能性、魔術で透明化を行なっている可能性、そして、精神的なもの……気功などで透明化をしている可能性。

 四日目に対精神トラップ(マインドブラスト)対魔術トラップ(キャストブラスト)対装具トラップ(ドレスブラスト)を仕掛けて五日目にユリウスをそこに追い込む。

 そのために遠坂を危険に合わせるのはためらったのだが、それでも彼女の強引なところに押し通された。

 

 そうして実行された作戦は、最終的には一番最後に仕掛けていた対精神トラップによってアサシンの圏境が破られるという結末に終わった。

 取り逃がしたのか、それとも見逃されたのか、どちらであったのかはわからない結末に終わったが、それでも相手に攻撃が通用するようになったという事実が大きかった。

 

 

「それにしても」

 

「うん?」

 

「あなた、あんな風に情熱的に女の子を抱きしめたりできるのね」

 

 

 ジト目のキャスター。

 一体なんのことだろう、と思ったが、思い出してみれば確かに彼女が言った通りだ。

 情熱的に、というところには意見が分かれるだろうが、彼女が口にしているのは五日目、遠坂が自分を囮にしてユリウスをアリーナ内部に叩き込むと宣言した時のこと。

 確かにあの時、遠坂のことを抱きしめた。

 だがあれは、無茶をしないでほしいやら、自分が死ぬだけだと言った彼女が心配になったやら、自分でも言葉にし尽くせないほどの感情に襲われたから行ったのであって、普段ならば決してしないことを主張する。

 

 

「何を言ってもやったことに変わりはないわよ」

 

 

 ……それでも。翌日の会話からして嫌がられたわけではなさそうだった、と言い訳になりそうもない言い訳を行う。

 もちろん、彼女が納得するわけもないのだが。

 

 

「それでも、よ」

 

 

 こんなことを言っているキャスターだが、それでもこちらのことは信頼してくれているのだろう。

 そうでもないと、六日目に真名と宝具を教えてくれるなんてことにはならなかったはずだ。

 

 そうして、七日目。

 

 

 

 

 

 

Sword or Death

 

 

「ハッ──!」

 

 

 決戦の幕が上がると同時、アサシンがキャスターへと突っ込んでくる。

 五体という絶殺の武器を持って迫るそちらに注意を割きたい気持ちは無論あるが、こと今回に至ってはそんな余裕など一切ない。

 

 

「ユリウス……」

 

 

 そう、今回の相手はユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。

 これまで幾度となく反則(ルールブレイク)を駆使して、数多のマスターの命を奪ってきた暗殺者なのだ。

 一体、誰がそんな相手から注意を外すことなどできるだろう。

 そんなことをすれば、次の瞬間には心臓に刃を突き立てられていてもおかしくはないのに。

 

 

「岸波、お前の存在だけは認めるわけにはいかない。お前だけは──」

 

 

 ──レオと戦わせるわけにはいかない!

 

 

 叫んで、ユリウスはこちらに迫る。

 当然だ。

 そもそも、これは魔術師同士の闘争をサーヴァントに代理してもらっているに過ぎない。

 ならば大元の、願いを持ってこの月の舞台に上がった魔術師が戦わないなどと、口が裂けても言えない。

 その手には魔力(データ)の揺らぎ、まず間違いなく違法コードキャスト──!

 

 

「っ──」

 

 

 こちらも、魔術(コードキャスト)を紡ぐ。

 あれに当たれば一貫の終わりだと全身が叫んでいる以上、当たってやるわけにはいかない。

 視界の端にあるキャスターとアサシンの戦闘は頭の中から追い出す。

 自らの肉体を強化して、並行してユリウスの進撃を食い止めるための魔術を放つ。

 対サーヴァント用の礼装から放たれる魔術は、やはりこちらも人間(ユリウス)に当たればただの一度で終わるような代物。

 それを余分な動きなど一切なく躱し、手元の魔力(データ)をナイフの形に構築する。

 

 

「終われ」

 

 

 神速の突き。

 されど強化された肉体ならば、サーヴァントならざる人間の攻撃などギリギリで避けることができる程度のものにしかならない。

 避けろ、避けろ、避けろ。

 反撃などもう考える暇もない。

 一撃でも当たれば終わりな以上、近づかれた今は避けることにのみ専念するほかない。

 

 決戦場は、今もなお推移を続けている。

 ただの海底らしき場所から、キャスターが作り変えている。

 ならば、まずはそこまで耐えるのが彼女のマスターとして当然のこと。

 

 

「なぜだ」

 

 

 だが、ユリウスは一度動きを止めた。

 それがあまりにも不可解で。

 こちらも、相手が動いたタイミングで動けるようにしながら、相手の言葉に耳を傾ける。

 

 

「お前は何も持っていない。人間ですらない。ただの情報体、SE.RA.PHでのみ存在できる仮初の命だ」

 

 

 なぜ、それをユリウスが知っているのか、なんてわからない。

 驚きはあれど、それは足を止める理由にはならない。

 ユリウスがいつ動き出すのかがわからない以上、その疑問は後に置いておけばいい。

 

 

「だからこそ、お前には倒されない。他のマスターに負けたとしても、お前にだけは負けるわけにはいかない。他のマスター達はまだこの世界を生きている。滅びであれ、生存であれ、それを選ぶ権利は確かにある。だが──」

 

 

 聞いてはいけない/聞かなければ。

 ここで聞かない限り、自分の正体をはっきりと知覚する機会は、二度と現れないような気がする。

 

 

「お前のような過去の人間が、現代に意見することは許されない!」

 

 

 ……そうか。

 自分は、情報(データ)だけの存在であって。

 そして何よりも、今の世界に自分の居場所はない。

 だが、それでも。

 悩むことはない。

 もうすでに自分のアイデンティティーに関しては盛大に悩んだ。

 その果てに出した答えは、新しい情報ひとつで簡単に揺らいではいけない。

 それは、今の自分を形作ってくれた皆に顔向けできない。

 

 そして、彼がこちらに対して憤激する理由もそれ。

 彼の言葉を信じるのならば、それ以上の理由はないはずなのだが。

 

 ……本当に?

 

 

「ああ、その通りだ。ハーウェイも、聖杯もどうでもいい。今の俺にあるのは、幼い頃の約束ひとつだけ。弟を守れと口にしたあの女のためにも──」

 

 

 同時に、ユリウスの周囲の揺らぎが大きくなる。

 動く──そう確信した時点で、体は迫り来る死から遠ざかるために動き出していた。

 

 

「──ここで死んでくれ!」

 

 

 ──間に合わない。

 

 確信は遅く。

 走馬灯が流れるように、スローモーションとなったユリウス。

 ただ、自分の時間感覚が長くなっているだけなのだろうが、だからこそ間に合わないと理解した。

 

 

 そしてその瞬間、世界は泥に包まれた。

 

 

「っ!?」

 

 

 キャスターの行為だとわかっていても、驚きは消えない。

 ユリウスも目を見開いていて。

 自分とユリウスの間にその泥の津波が襲いかかり、世界は闇に閉ざされた。

 

 黄金の杯(アウレア・ボークラ)

 

 キャスターから聞いた、彼女が持ち込んだ、持ち主の厚顔で自分勝手な願いを叶える負の聖杯。

 その本領はビーストの召喚にあるのだが、己のマスターは世界を滅ぼしかねないビーストの存在を認めなかったために、今回の聖杯戦争では本領を発揮することはない。

 だが、それは別に杯の力を一切使えないことを意味するわけではない。

 彼女が今回行ったのは聖杯の中にある『負の魔力』を無尽蔵に引きずり出すこと。

 まともな英霊であれば、触れただけで地獄を見ることになる。

 

 

「ようこそ、私の世界に」

 

 

 固有結界とはまた似て非なる空間。

 泥に満ち溢れ、自分もユリウスも既にまともに動けない。

 アサシンも、その足場が泥に満ちていく以上、ほどなくしてその泥に汚染されて死ぬだろう。

 つまり、ここで詰んだのだ。

 泥は常に広がり続け、アサシンはその泥に触れれば一貫の終わり。

 そして、キャスターのことを守るようにして泥が周囲に海となっていて、アサシンが一息に飛び出したとしても泥に触れるよりも先に、少女の細い体を折ることは不可能。

 彼にできるのは泥によって沈むよりも先に自害するか、あるいは──

 

 

「呵呵────!」

 

 

 こうして、泥によって汚染されるよりも先にたどり着くことを信じて飛び出すしかない。

 

 

「意味はないわ」

 

 

 そして、その無謀を、キャスターは全てを焼き尽くす炎によって終わらせた。

 

 

 

 

 

 

「俺は、負けたのか」

 

 

 既にアサシンはその姿を残していない。

 霊核ごと全てを焼き尽くされたアサシンは消え、壁の向こう側にただ一人、ユリウスが残っているだけだ。

 

 

「不思議だ。俺はあれほど負けられないと思っていたはずなのに、彼女の願いを叶える自分にしか意義を見出せなかったはずなのに、なぜかこうして負けた途端、それがどうでもよく感じる」

 

 

 そして、その顔は。

 これまでに見てきた彼の、どんな姿よりも和らいでいて。

 暗殺者(プロフェッショナル)であるハーウェイの黒蠍ではなく、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイという個人としての本来なのではないか、なんて思って。

 

 

「俺も、お前も、その起点は過去にある。お前は過去に記憶を求め、俺は過去の約束に意義を求めた。なのに、お前は未来を見据えていた。そこが憎くもあり、羨ましいとも感じたのかもしれん」

 

 

 令呪が。

 ユリウスの令呪が、赤く輝いている。

 もう、消えるしかないはずの令呪が。

 

 

「餞別だ、くれてやる。俺にはもう無用な代物だからな。俺と同じように過去に”何か”を求めながら、それでも(未来)を見据えて歩くお前に」

 

 

 三画残っていた令呪が、二つ消滅し、そして最後に残った一つがさらに消滅。

 そして、自分の左手に焼けるような痛みが。

 これは、確か──。

 

 

「できることなら、未来を見て歩いてほしい。それは俺にはできなかったことだからな。そのための力になるなら、それはそれで面白そうだ。面倒な男に付き合わせた詫びでもある」

 

 

 そう言って、ユリウスは消滅し。

 そして左手の、自分の左手の完全ではなくなっていたはずの令呪が、完全な状態になって。

 

 そうして、五回戦は終了した。



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