風花雪月 ー白蛇の学級ー (ユキユキさん)
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第1部序章 ー必然の出会いー
第1話 ~転生した者。


作者の病気が始まった。


ー???ー

 

ファイアーエムブレムの新作を買い、ホクホク顔で帰宅をしていた。その途中で交通事故に遭い、昔から流行っている転生というものを経験。…したのはいいんだけど、何の世界か教えてくれてもいいんじゃないですかね? 特典はハイスペックと言っていたけど、説明も無しに自覚出来んし。しかも知らん場所故に右も左も分からん始末、どうすればいいのよ。そもそも俺の立場って何さ、それによってはこの先どうすれば? …ってなるじゃん!

 

本当にどうすればいいんだ…と思った時、足下に落ちている紙を発見。確認してみれば、

 

────────────────────

 

転生した貴方のデータです。

 

名前:ルージュ

性別:男

誕生日:青海の節 24日

年齢:12

身長:152cm

 

兵種:兵士

 

紋章:ダフネルの紋章・ラミーヌの紋章

 

【ステータス】

LV:10

HP:32

力:17

魔力:15

技:14

速さ:14

幸運:30

守備:15

魔防:14

魅力:15

 

【技能】

剣術:E+

槍術:D+↑

斧術:E+

弓術:E+

格闘術:D

理学:D+

信仰:C↑

指揮:D

重装:E+

馬術:D+↑

飛行:D

 

【個人スキル】

俊英

 

【スキル】

剣術LV1

槍術:LV2

斧術:LV1

弓術:LV1

格闘術:LV1

理学:LV2

信仰:LV2

指揮:LV1

重装:LV1

馬術:LV2

飛行:LV1

 

【魔法】

ファイア

サンダー

ドーラ△

ウォームZ

ライブ

リブロー

リザイア

エンジェル

 

【戦技】

震炎

 

【装備】

鋼の槍

行軍の指輪

 

【道具】

調合薬

 

【所持金】

5,000G

 

…以上。

 

検証はご自分でお願いします。

 

この世界は死が隣にあります。死なぬよう奮起して下さい。

 

因みにステータスを思い浮かべて念じれば、自身のステータスを確認することが出来ます。

 

───────────────────

 

と書かれていた。………説明が雑どころの問題じゃない、…無しかよ。自分で検証とかって酷くない?

 

………………ざっと見た感じ、この世界ってファイアーエムブレム? もしかして新作の?

 

 

 

 

 

 

…とりあえず、書かれている通りに念じてみればステータスが見えた。紙に書いていなかった項目を発見、それが簡単な経歴であり、

 

────────────────────

 

1156年:コーデリア領の小さな村で生まれる。

 

1157年:両親を殺され、謎の集団に拐われる。

 

1166年:謎の集団から脱走、無事に逃げ切る。

 

1168年:コーデリア領内をさ迷う中で自身が転生者であることを思い出す。

 

────────────────────

 

とあった。……過去の俺ってば悲惨な生活をしていたのね? …っと、記憶が転生者である俺と一つに! ………ぬぉぉぉぉぉっ!?

 

記憶が一つになった俺、それで分かったこと。この世界は俺の知っているファイアーエムブレムの世界ではない、たぶん未プレイの新作だわ。フォドラって聞き覚えがあるもん、…新作の舞台だった筈。

 

…まぁそこはいいとして、…これからどうしようか? 一応脱走した人間なわけじゃん? 見付かったらヤバいよね? 俺ってば逃げ切れるんか? …自身が強いのか弱いのかもステータスを見ただけでは判断出来んし。記憶的には強いんだけど、実感が無いんだよね。

 

頭を抱えて唸っていると、小汚いおっさん達に襲われてしまいましたよ。何が何やら分からんけども、降りかかる火の粉は払わねばならん。ついでに自身がどれ程の使い手か、それを確かめさせて貰う。

 

…結果、おっさん達を余裕で皆殺しに。…俺ってば強いじゃん! 流石は逃亡者、今の今まで逃げて健在しているだけあるわ!

 

…でピンッ! と来た、これ程の使い手なら傭兵になればいいんじゃね? …と。傭兵になれば追っ手に見付かるかもしれない、追われているかは分からんが。まぁそれ以外の道が思い付かんし、このまま何もしなけりゃ賊に成り下がることになりそうだし。…それしか道がない! …やったるぜ!!

 

傭兵になるからには舐められぬようにしなければ! インパクト重視でいきたいと考えている。…そこで考えたのが髪型、装備も目立ちつつ危険な感じで。身嗜みを整えたら、自身の検証もせにゃならんな! 記憶と身体が一致するよう頑張ろう!

 

 

 

 

 

 

…数日後、何を思ってそうしたのか分からないが一人の傭兵が産声をあげた。赤いトサカ頭、所謂モヒカンとトゲトゲショルダーがトレードマークの少年傭兵。彼の物語が始まるのだ、…一体全体どういう軌跡を辿るのか? それは本人にも分からない。

 

ただ…モヒカンとトゲトゲショルダーがイカすでカッコいい! そう思っている少年が一人いるだけである。



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第2話 ~抗う者。

ールージュー

 

赤いトサカ…モヒカン頭の少年傭兵ことルージュ、そんな俺も16歳になりました!…あの転生者であることを思い出した日から4年、色々なことがあったんよ。

 

────────────────────

 

モヒカン少年傭兵になった俺、まだまだガキんちょのぺーぺーなわけで。威圧的な見た目でも侮られました、…俺っちはまだ名を売っていない。そう思った俺は自身の力を見せ付けるにはどうすればいいのか? 本気で考えた。傭兵は実力主義だからね、弱けりゃ消えていくだけなのよ。そうならんようにしなければならんのだ!

 

だから俺は真面目に考えた結果………。

 

 

 

 

 

 

俺が世に名を上げたのは1169年、思い出した日から1年後のことである。俺がいるコーデリア領はフリュム家の内乱に巻き込まれていた、アドラステア帝国までもが介入してきてめちゃくちゃよ。しかもそれを好機と考えたのか見覚えある人拐い集団も活発に活動、コーデリア領は多方面から蹂躙されていったんさ。

 

…全ての記憶を俺のモノにした、だからこそ(よぎ)る人拐い集団。奴等はたぶん、俺の両親を殺し俺を弄くった犯罪集団。そんな奴等に拐われた者達はきっと、俺と同じ目に遭っている筈。…弄くられて生き残れるのはほんの一握り、殆んどの者は死に廃棄される。

 

色々と事情を知る俺、だからこそ思う。そのような悪行を許していいのか! …否、許していい筈がない! このコーデリア領は俺の生まれた地、悲惨な地にして良いわけがない!!

 

一人奮い立ち、反乱軍と帝国軍に挑む。本命の人拐い集団は言わずもがな、コーデリア領を荒らすならず者達全てを駆逐してやる! 俺をただのモヒカンと侮ることなかれ、怒りの修羅モヒカンと知れ! 気炎を上げて討つべし討つべし!!

 

 

 

────────────────────

 

 

ー名も無きコーデリア領民ー

 

唐突に現れた何処ぞの兵が俺達の村から略奪していく。抵抗すれば殺されると思い、泣く泣く言う通りにするしかなかった。最初は食料や金目の物、次いで女…妻や娘を連れていかれたり、幼子であれば男すらも拐っていく。…こんなことになるのなら、死んでもいいから最初に抵抗すればよかった。…これじゃあ生き地獄だ、それにもう…抵抗する気力がない。

 

そんな日々の中、突如として現れた者。トサカ頭? に厳ついトゲ付きの白い鎧が目を引く少年、その少年が一人…ならず者達を倒していく。フリュム領から侵入してきた反乱軍を、それを追ってきた帝国軍を等しく倒していく。そんな日々が続いていく内に、このままでいいのか? …と考えるようになる。

 

聞けば、件の少年はコーデリア領各地に現れるらしい。そして、ここと同じようにならず者達を倒しては再び別の場所へ移動。それが続き、ならず者達の略奪していく頻度が減っていく。何でもコーデリア領には地を這うが如く現れる赤き炎を吐く白き怪蛇がおり、コーデリア領に害を及ぼす者の(ことごと)くを食らうのだとか。コーデリア領の白き怪蛇、それを翼無き竜…リントヴルムというらしい。

 

それを耳にした時、久々に心から笑ってしまった。白き怪蛇とかって…いる筈もなし、それはただの一人の少年だ。ただ一人で戦いならず者達を倒し、コーデリア領を守る少年。その少年一人に敗戦する者達の戯れ言、少年を化物に見立てて恐れる情けない者達の戯れ言だ。

 

…自分達はこんなにも情けない奴等に略奪され続けていたのか? 強者とはいえ一人の少年に討ち取られているこんな奴等に? …自分達が情けない、…こんな奴等に俺達は!! そう考えていたら、いつの間にか武器を手に戦っていた。コーデリアの白き怪蛇と呼ばれる少年、ルージュ君と共にならず者達と戦っていたんだ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ールージュー

 

俺は一人でコーデリア領を荒らすならず者達を返り討ちにしていた、情け容赦なくぶっ殺してますとも。俺自身の才能と行軍の指輪のお陰か、何の苦もなくコーデリア領を巡って戦っとります。出来る限り逃さない方向で、相手に情報を与えたくないからね。そうでなくとも俺が反抗しているから色んな人達に迷惑を掛けてんのに、…悪いね? とは思っているけどやめるわけにはいかんのよ。

 

多少の犠牲はあるかもしれない、けれど今までのように略奪され続けることはなくなっていると思う。…だって俺に続く人達が増えてきたから、俺と共に戦ってくれる人達が出てきたから。この調子で反抗してコーデリア領からならず者達を叩き出そうぜ!

 

 

 

 

 

 

………俺、奴等にリントヴルムって呼ばれているの? 炎を吐く白き怪蛇とかって、…確かにトゲ付きの白い鎧を着ているから分からんでもないような? …因みに炎は吐かんよ? 念の為に言っておくけどさ。




オリジナルスキル

俊英:入手経験値が1.2倍、入手技能経験値が2倍になる。


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第3話 ~リントヴルム傭兵団。

ールージュー

 

略奪されている領民には迷惑を掛けるかもしれないが、俺は領内各地にて単身超反抗中。ならず者達を討ちまくった結果、俺に追随してコーデリア領出身の傭兵達も反抗し始めた。そして領民までもを巻き込んでの超反抗作戦、…否! コーデリア領解放? の為に手を取り合って戦うこととなったのだ!

 

そして1170年、フリュム家の内乱から始まった戦いは俺達の勝利で終わった。好き放題やっていた反乱軍に帝国軍、人拐い集団の全てを領内から一掃。僅か1年で再びコーデリア領は平和な地となった、俺様ちゃん超頑張った結果よ! ぬははははは!!

 

『『『『『リントヴルム傭兵団、万歳!!』』』』』

 

………何だそれ!?

 

 

 

 

 

 

無我夢中で戦っていたら、認められる云々(うんぬん)を通り越して旗頭になっていた。白き怪蛇ことリントヴルムが率いる神出鬼没の傭兵と義勇兵達、所謂俺を中心とした反抗軍…解放軍がリントヴルム傭兵団と呼ばれているらしい。知らんかった! でも悪い気はしない、一応…認められることが目標だったからね。目標を超えた結果に満足っすわ!

 

目標を達成したけど次はどうする? と考えた時、せっかく傭兵団となったんだから次は組織として名を上げようと思い至る。神出鬼没と謳われている通り、フォドラ各地で目立ってやるぜ! …とのことで、各地を転戦し始めました。リントヴルム傭兵団の名を刻むといい、うははははは!!

 

 

 

 

 

 

そんなわけで俺率いるリントヴルム傭兵団は、コーデリア領を本拠地として各地を転戦。各地と言っても帝国だけは除外、内部で貴族同士が争っているみたいだし。…今思えばフリュム家の騒ぎって奴等が原因なんじゃないの? そうだとしたら関わりたくない、そのせいでコーデリア領は多大な被害を出したのだから。

 

帝国を除外しての活動、主に同盟のゴネリル領で戦っとります。常にパルミラという敵がいるからね、頻繁に奴等が攻め込んでくるようで人手不足らしいんだわ。そこで俺達の登場ですよ、ゴネリル騎士団と連携して奴等を押し返す。パルミラへ侵入せずにあくまでゴネリル領から叩き出す、これが重要。侵入、即ち攻め入ることになるからね。後々問題になりかねないから侵入は厳禁、そこは徹底させて貰っているよ!

 

主にゴネリル・パルミラ戦役? で活躍する俺達リントヴルム傭兵団、ゴネリル公爵家の方々に名と顔を覚えて貰いました。特に公爵家のお嬢さん、美幼女のヒルダちゃんに気に入られた。俺のモヒカンが好きみたい、キラキラした眼差しで触ってくる。…見所があるねヒルダちゃん! このモヒカンは俺のこだわりで魂だ、鮮烈な程にお洒落だろう? 傭兵でも身嗜みは大事だからね、覚えておくように。あっはっはっはっはっは!!

 

 

 

 

 

 

ゴネリル公爵家以外だと単発の依頼が殆んどやね、その中でも多いのが宗教団体の奴。フォドラの多くで信仰されているセイロス教からの依頼だな、まぁここも基本は盗賊や魔物等の討伐系依頼が中心。稀に要人護衛とか、士官学校の課外活動に護衛として同行とか。…討伐と護衛が中心、しかも金払いが非常に良い上客である。

 

セイロス教側からよく派遣されてくるのがアロイスって人、セイロス騎士団の手練れで感じの良い人なんだわ。お堅いセイロス騎士団の中でめっちゃ明るいし、冗談とかも言い合えるからやり易い。年齢差はあれど友達的な? ぶっちゃけ彼がいるから依頼を受けると言ってもいいぐらいだ。

 

でも一つだけ、…依頼でガルグ=マク大修道院を訪ねると出るんだよね。士官学校の生徒であるDQN女子、ソイツがよく絡んでくるんさ。年下の俺が異名持ちっていうのが気に入らない、更に傭兵団を率いていることが気に入らないんだって。…そんなん知るかよ! 文句があんならヤるかコラッ!! …と毎回毎回絡んでくるから言っちゃったんだよね。そうしたらさ………。

 

 

 

 

 

 

何か訓練場へと連れていかれて、DQN女子とタイマン勝負となった。しかも大司教のレアさん、その補佐のセテスさん。アロイスさん達セイロス騎士団と士官学校の生徒達、そして我らリントヴルム傭兵団の面々。皆が見ている中でのタイマン、DQN女子ことカトリーヌと戦うハメになったのだ。

 

しかもDQN女子カトリーヌの奴、英雄の遺産とかいう伝説の武具を持ち出してきやがった! 雷霆(らいてい)だ? …知るかボケッ! そっちがそのつもりなら俺も使うぜ? 戦場以外では使わんようにしていたこの槍を、魔物が守りし秘宝であった必殺の魔槍グラディウスをな!!

 

加減はしてやるよ、…伝説の武具とやらの力を見せてみな!!



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第4話 ~実力。

ールージュー

 

雷霆(らいてい)を構えるDQN女子カトリーヌ、対する俺は自然体でグラディウスを構える。…無言で睨み合う中、俺はカトリーヌに対して挑発を行う。何てことはない、ただ自慢のモヒカンを愛用の櫛で整えただけ。グラディウスを床に突き刺し余裕でそれをやる、…どんな反応を見せる?

 

まぁ予想通り、

 

「…オマエ、…ナメるなぁ~っ!!」

 

激昂して襲い掛かってくるではないか。短気は損よ? 怒り任せの斬撃程見切りやすいモノはない、全てを紙一重で避け続ける。時にはグラディウスで受け流してみたりして、…まともに受けたら重そうだしね。彼女は見た目通りに脳筋っぽいし、しかも怒りで単調になっとるしね。…現に俺はこの場から一歩も動いとらんよ? …気付いている?

 

年上かも知れんけどさ、戦いの経験は此方の方が上よ? 戦場で命を懸けて戦う俺と学校でぬくぬく剣を振るう者、…差があって当然だよね? 伝説の武具って言ったっけ? 使うんじゃなくて使われてんじゃん、武器に振り回されている内は俺に勝つこと等…不可能。出直してきな、お嬢さん。

 

振り下ろされる雷霆(らいてい)をグラディウスの刃で弾き、その勢いのまま…石突にてカトリーヌの鳩尾を打つ。勿論手を抜いて、本気でやったら肋骨はおろか内臓をヤっちゃうからな。下手をしたら死んでしまう、それは流石にダメでしょうよ。…手を抜いたとしても痛いものは痛い、その痛みで当分悶絶しな。…後、相手との実力の差をしっかりと見極めなよ? 戦場なら早死に案件よ?

 

軽い説教紛いの助言をした後、乱れた自慢のモヒカンを整えてからのキメ顔。唖然とするセイロス側、拍手をして俺を称えるのはアロイスさんと関わりのある騎士の方々。んで身内の傭兵達は空気を読まずに俺を胴上げ、あっはっはっはっはっ!! 流石にやり過ぎじゃね?

 

 

 

 

 

 

まぁアレだよね、使い手は未熟だったけど伝説の武具はダテじゃなかった。調子に乗ってグラディウスを使っていなかったら、…逆に此方が苦戦してたわ。負けることは無いけれど、俺の威厳が下がっていたよ。雷霆(らいてい)とか言ったっけ? あんな化物武具がまだまだこの世に幾つかあるんでしょ? …気を付けなきゃならんな、…マジで。

 

それはさておき、タイマン勝負を終えて依頼もこなした。そろそろ本拠地であるコーデリア領へと帰りましょうかね、そう思っていたんだけどセテスさんに呼び止められた。…何? 紋章の有無を調べてみないかって? …そういえば俺、紋章持ちだったね。…忘れていたわ。あははははは!!

 

自身でステータスを見れるんで紋章を宿していることは知っている、けれどそれが出来るのはこの世で俺だけの可能性が高い。知られたら問題になると思うから内緒にし、正式な手順で調べて貰った方が良いかもな。…そういえば紋章って何かしらの恩恵があるのかしら? そこらは確認していない、俺っちは無知である。教えて貰うか自身で調べるか、…どちらが良いだろう?

 

 

 

 

 

 

お洒落な髭を持つお方、ハンネマンさんを紹介されました。紋章学者で紋章オタク、前のめりで血と髪の毛の提出を求められた。拒む理由も無し、快く提出すればハンネマンさんは大喜び。近頃の若者は非協力的みたいで、俺のように快く提出してくれる者は稀らしい。

 

血と髪の毛の提出後、変な器具に手を掲げるよう促さたのでやってみた。そうしたらハンネマンさんが大興奮、俺には2つの紋章が宿っているらしい。…まぁ知っていたけど、…そこまで興奮するものなの? 紋章持ちってそれなりにいるんでしょ? と言えば、それなりにいるけど紋章を2つ宿している者はかなり珍しいとのこと。しかも小紋章ではなく大紋章、それが2つ。俺という存在は奇跡的らしい、目を輝かせて熱く語られました。

 

提出された血と髪の毛を分析、調査を終えるのは少し先みたい。綺麗に紋章が浮かび上がったから、まず間違いなく2つの紋章を宿しているみたいなんだけどね。…何度も言うが知っている、…にしても凄いことなんだねぇ。セテスさんも目を見開いて驚いていたし、…自覚が無いんだけどもね。

 

 

 

 

 

 

その後、俺達リントヴルム傭兵団は久しぶりにコーデリア領へと帰還。暫くはのんびりと過ごしましょうかと思ったんだけど、…そうはならなかった。ガルグ=マクからアロイスさん等数人が訪れ、正式に俺が2つの紋章を宿している逸材であることが認定されたとのこと。…認定されると良いことがあるの? と思った矢先、続け様にコーデリア領の領主様が訪ねてきました。………何事?



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閑話 ~ガルグ=マクにて。

ーレアー

 

その少年の名を聞いたのは2年程前、アドラステア帝国フリュム領にて内乱が起きたとの報告で知り得たのです。その内乱は帝国全体を巻き込み、同盟のコーデリア領にも飛び火しました。私達セイロス教は内乱ですので静観という形を取ろうとしたのですけど、コーデリア領をも巻き込んだと聞いた時には動かざるを得ないと思いました。

 

これを見逃してしまえばフォドラ全体をも巻き込んでしまう、さすれば敬虔なセイロス教徒も巻き込まれ心を痛めてしまう。哀しみがフォドラを覆ってしまう、…そうなる前に納めなければならないと考えました。セイロス騎士団を編成し、いざ救済へと思った矢先に立ち上がる者がいたのです。コーデリア領にて単身戦う少年がいる、その名をルージュと言い快進撃を続けていると。

 

 

 

 

 

 

ルージュという名の少年は単身で戦い続け、脅威に晒されている人々を救っている。救いの道には犠牲があれど、それでも彼は戦い続けている。そんな彼に追随し戦う者が増えていき、遂には大きなうねりとなってコーデリア領を守り切った…と。本来であれば私達もセイロス騎士団を派遣し、共に戦うことが早くに争いを納める術だったのかもしれません。

 

ですが不幸にも別件が絡み、セイロス騎士団はそちらの方へ。悔やんでも悔やみきれませんが、あの少年がコーデリア領での争いを納めたと聞いた時は心から安堵しました。…安堵と共にある想いが生まれます、少年…ルージュに会ってみたいと。…どのような理由でガルグ=マクへと招待しましょうか? …悩んでしまいます。…セテスにも相談してみましょう、妙案が浮かぶやもしれません。

 

 

 

 

 

 

招待の理由をセテスと共に考えていましたが、呆気なくそれが叶いました。件のルージュがリントヴルム傭兵団として活動し始め、それを聞き付けたアロイスが賊徒の討伐依頼を出したようでこのガルグ=マクへと訪れるようです。

 

帝国内での争いが続いていますので、フォドラ各地にて賊徒が多数現れていますからね。その対処にセイロス騎士団の殆んどが出払い、ここ最近は深刻な人手不足に陥っていました。その為に依頼を出したのでしょう、アロイスは良い仕事をしましたね。

 

 

 

 

 

 

ガルグ=マクへと訪れたリントヴルム傭兵団、傭兵と義勇兵の寄せ集めと聞いていましたが…見事ですね。それぞれが誇りに満ちた表情、そしてきちんとした統率。これは最早…傭兵団とは呼べません、騎士団と言った方が良いでしょう。

 

統率された彼等の先頭に立つ者、あれが団長である件の少年ルージュですか。まだあどけなさが残っていますが、纏う気が常人を上回っている傑物ですね。奇妙な髪型、そして白を基調とした勇ましい鎧姿。遠目で見ればなるほど、炎を吐く白き怪蛇に見えるやもしれません。白き怪蛇…リントヴルム、翼無き竜の伝説。…何と言いますか、他人とは思えませんね。

 

 

 

 

 

 

会って話をしてみれば気持ちの良い少年、そして彼を筆頭にセイロス騎士団と並び評しても良いぐらいの実力ある傭兵団。このガルグ=マクから出奔したジェラルトに勝るとも劣らない、そう思わせる程の武勇であるとアロイスも熱く語る。それほどの武勇ですか、一度拝見してみたいものです。…ですが大司教という立場がそれを許しません、世知辛いものです。

 

…と思っていたのですが、手塩をかけて育てたカトリーヌがルージュに勝負を挑んだとの報告が届きました。これ幸いと場所を提供し、その実力を拝見させて貰いましょう。カトリーヌはカロンの紋章を宿し、雷霆(らいてい)に認められた者。士官学校を卒業した後、セイロス騎士団への入団が決まっている猛者。故に負けるにせよ、そう簡単に膝を…と思っていたのですが完敗してしまいました。ルージュの使用する見事な槍が雷霆(らいてい)を寄せ付けず、いえ…ルージュ本人の技量もカトリーヌを超えていました。リントヴルム、…その異名に恥じぬ見事な力量です。

 

 

 

 

 

 

勝負を終え、彼等も依頼を完了しましたので帰還することに。彼等の帰還前にセテスが提案した紋章の有無について、その結果は驚くべきものでした。ルージュには2つの紋章が宿っている、ダフネルの紋章とラミーヌの紋章。小紋章ではなく、本来の紋章を宿していたのです。

 

この結果を見る限り、ルージュとは良い関係を築き親しくなることが重要であると結論付けました。…彼の本拠はコーデリア領でしたね? …直ぐ様コーデリア伯爵家に使者を! 彼を野に埋もれさせるわけにはいきません、…セテスはもう分かりますね? …使者はアロイスにしましょう、彼と親しいようですしね。



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第5話 ~貴族。

何となくでやっとります。


ールージュー

 

アロイスさんに続いて領主様の登場、一体何のご用で? …と思ったら、貴族にならないか? だって。何を突然貴族って、そう思ったんだけどこの流れから考えてみれば察することが出来る。2つの紋章を宿す俺は大変貴重な存在、何処の誰かの下へ行く前に引き入れようと考えたんでしょ?

 

そしてこの流れを考えたのはセイロス教の幹部、…そうに違いない。まぁだからと言って何かをする気はないぜ? そうなることは何となくだけど想定していたし。調べてくれたハンネマンさんの様子や話を聞けばね、下手をすれば俺を求めて貴族様達が暗闘するかも…と考えられるでしょ? それは断固としてやらせるわけにはいかんのよ、せっかくコーデリア領が平穏な場所になったというのに自身が火種になるとかって笑えない。

 

…だからさ、その申し出を受けさせて貰うよ。こんなに早く来るとは思わなかったけど、厄介事が早々に潰れるのは歓迎さ。ましてや訪れたのはコーデリア領の領主様、出身地の領主様が一番に訪ねてくれたことが嬉しいワケよ。こんな奇抜な傭兵風情が貴族様とかってさ、…世に受け入れて貰えるんかね? そこが心配何だけど大丈夫っすか?

 

 

 

 

 

 

そんなわけで、この俺が貴族になったのだ。新たに家を興すのではなく、領主様の養子になることで貴族に。大丈夫かな? って思っていたんだけど、領主様…これからは義父上になるか、その家族と使用人達からは歓迎された。コーデリア領を守った英雄が家族に、しかも2つの紋章を宿しているのだから当然のことらしい。

 

傭兵団の仲間達、そして領民達もこのことを自分達のことのように喜んでくれた。これでコーデリア領は安泰だと、お祭り騒ぎになったっぽい。特に喜んだのが義父上の実子であるリシテアちゃん、

 

「お義兄様が出来た!」

 

ってはしゃぐのよ。嬉しいったらありゃしない、モヒカンな義兄をよろしく頼むな!

 

 

 

 

 

 

因みに傭兵団は解散せず、俺がまだ在籍していたりする。解散した方が問題になるっぽいし、…特にゴネリル領に関してで。対パルミラ戦でリントヴルム傭兵団は大きな力になっている、それが無くなるとかなり厳しい状況に陥りかねないとのこと。貴族になるんだから騎士団を率いれば? と思うかもしれない、けれど騎士団の派遣は難しい。

 

そりゃそうだよな? 騎士団は領民の血税で維持されて活動しているんだから。故に他領の為に何度も行くわけにはいかんだろ、血税の無駄使いと取られかねん。…だからこその傭兵団、自腹で動いているから問題なく参戦出来るのさ。それに依頼で参戦するのだから報酬金が支払われる、…コーデリア領が潤いつつ他領と良い関係が築けるわけで。正に良いことずくめなのです!!

 

勿論セイロス教とも良い関係だぜ? 度々依頼が舞い込んでは、アロイスさんと共に依頼をこなしているし。…貴族でありながら傭兵稼業、何とも特殊な存在ね? 俺ってば。

 

まぁ何を言いたいのかと言うとルージュ改め、ルージュ=フォン=コーデリアとして頑張るぜ! 応援よろしく!!

 

 

 

 

 

 

頑張ると言っても基本は通常運転、普段とあまり変わらない生活をしていたりする。傭兵稼業の傍らで貴族の勉強、色んなことを学んでいます。全く苦ではなく楽しんでいる、教養を学ぶって楽しいじゃん? 特に芸術関連に茶会関連、ダンスも良いよね。教育係のお姉さんも珍しい方だと目を丸くしていたし、…勉強を喜ぶってそんなに可笑しいことなんか? よく分からん。

 

まぁ俺の立場は多くを望まない程度らしいから、通常よりもユルいのかもしれない。俺に求められるのは特に武勇、武勇によって立場を確立して欲しいようだ。…と言っても俺としては脳筋になるつもりはないわけで、進んである程度の教養を身に付ける予定である。

 

傭兵団の仲間達からしてみれば、俺はいつ…休んでいるのか? って心配になるらしい。…十分に休んでいるつもりよ? 俺としては先に言ったように、普段通りの通常運転ですわ。…化物? …変態? …そこまで言いますかね!?




クラスチェンジ。

名前:ルージュ=フォン=コーデリア
性別:男
誕生日:青海の節 24日
年齢:14
身長:165cm

兵種:ロード

紋章:ダフネルの紋章・ラミーヌの紋章

【ステータス】
LV:20
HP:42
力:24
魔力:22
技:21
速さ:21
幸運:38
守備:20
魔防:21
魅力:25

【技能】
剣術:D+
槍術:B↑
斧術:D
弓術:D
格闘術:C
理学:C
信仰:B+↑
指揮:C+
重装:D
馬術:C+↑
飛行:D+

【個人スキル】
俊英

【スキル】
剣術:LV2
槍術:LV3
斧術:LV1
弓術:LV1
格闘術:LV2
理学:LV2
信仰:LV4
指揮:LV3
重装:LV1
馬術:LV3
飛行:LV2

【魔法】
ファイア・サンダー・ボルガノン・ドーラ△・ウォームZ・バンジーΘ・ライブ・リブロー・レスキュー・リザイア・エンジェル・オーラ

【戦技】
震炎・ブレイクラッシュ・連撃

【装備】
グラディウス・キラーランス・鋼の剣・行軍の指輪

【道具】
調合薬・女神の像

【所持金】
44,000G



ステータス値は適当です。

槍と魔法を得意とする貴族、馬術にも長けている。


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第6話 ~年下が可愛い。

のらりくらりと適当に。


ールージュー

 

俺が貴族となって1年、特に何事もなく活動しております。普通に傭兵稼業を続けながら、貴族としての教養を身に付ける毎日。特に荒んだ生活をしていないし、荒んだ心も持ち合わせていない。けれど義妹であるリシテアと顔を合わせると、可愛いすぎて…荒んだ心が癒されるという表現しか出来なくなる。

 

彼女は生まれながらに極めて高い魔力を持ち、その影響を受けて白髪で色白の病弱美少女になってしまった。激しい運動が出来ず、魔力も高いことから彼女は魔法の道へ。常に魔法関連の書籍を片手に勉強の毎日、幼いながらにしっかりと先を見据えて生活をしている。大人っぽくあるもののやはり幼子、甘いお菓子をチラつかせればフラフラと寄ってくるわけで。…俺の膝の上で嬉しそうにお菓子を頬張る姿は小動物そのもの、その愛らしさに俺はいつの間にかシスコンを拗らせていた。

 

故に可愛い義妹を外へ連れ出すこともしばしば、屋敷に籠りがちってーのは健康に悪いし可哀想だからね。適度に陽を浴びて自然の風と戯れるのも重要、特に馬上からの景色がリシテアのお気に入りさ。鼻歌を口ずさみながらキョロキョロと周囲を忙しなく見る姿は天使そのもの、その姿を見た後ならばパルミラ如き一人で駆逐出来るのでは? と思う程に気力が(みなぎ)るのですよ!

 

まぁリシテアは体力が少ないから長居が出来ないんですけどね、それには可愛い義妹もしょんぼりですよ。そんな姿に拗らせた俺は心を痛める、故に俺は義妹の為に依頼の傍らで色々と探すのだ。健康に良くて身体の成長を促す貴重な食材を、生命の木の実とか黄金のリンゴ等を入手しては彼女に食べさせています。勿論、この俺自らの手で調理して。リシテアの為ならば料理の勉強も何のその、義妹愛が止まらない。そのお陰で少しずつ少しずつ、彼女の体力…身体能力が上がってきているような気がする。

 

 

 

 

 

 

義妹が可愛いすぎる件は語り足りないけれど置いといて、対パルミラもゴネリル公爵家の方々に依頼されては戦っていたりする。互いに協力して押し返し、両家の親交も深まるばかり。年下のホルスト君と戦場を共にすればする程仲良くなり、今では親友みたいなものです。人のことは言えないけど、小さい内から頑張るよね? ホルスト君は。

 

後、ホルスト君の妹であるヒルダちゃん。失礼ながらリシテアには劣るけれども彼女も可愛い、何かと俺を褒めるんだよね。

 

「ルージュ様の髪型はいつ見ても素敵!」

 

「ルージュ様は武勇だけではなく教養もおありなんですね、凄いです!」

 

「ルージュ様はとてもご器用ですね、尊敬します!」

 

とか色々、だから俺は甘やかしてしまう。お菓子をあげるのはいつものこと、稀にドレスやら手作りアクセサリーやらをプレゼントしてしまう。…貢いでいるよう見えるかもしれないがヒルダちゃんを妹として見ているからね、それにヒルダちゃんはおねだり上手だ。…将来小悪魔にならないか心配ではある、他家のことだけど。

 

 

 

 

 

 

後はあれだ、ガルグ=マクの士官学校にいたカトリーヌ。アイツ、何かセイロス騎士団に入団したっぽい。よく依頼を共にするアロイスさんが言ってたよ、

 

「ルージュに敗北して以来、驕りは鳴りを潜めて真面目に鍛練をするようになったのだ! レア様が感謝の言葉をおっしゃっていたぞ? それにカトリーヌもお主に会いたがっていた、変わった彼女に今度会ってやってはくれぬか?」

 

…と。真面目になったことは良いことだが、会いたがっていたってーのはアレだ。どうせ再戦を狙っているんだろう? …ヤだよおっかない、雷霆(らいてい)ダメ、絶対!!

 

カトリーヌが再戦を企んでいると決め付け、ガルグ=マクへ行っても会わないよう立ち回った。それが後に厄介事となるとは、この時の俺には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

…ああそういえば、なかなかに重要な依頼があったな。アドラステア帝国の政変、…確か七貴族の変だっけ? それに負けたのか犠牲になったのかは分からんけど、帝国貴族のファーガス神聖王国への亡命を手助けしたっけ。何か腹黒そうなおっさんだったな、連れの子は可愛かったけど。亡命ってことだから速やかに、あまり関わらずに依頼を終えた。

 

関わらないと言っても、連れの子だけには多少…絡んだっけ。まだ小さいしさ、ヒルダちゃんぐらい? 容姿もリシテアに似ているから妹感覚で絡んだんだ、…まぁ怯えられたよね。知らない人で傭兵、更にモヒカンだから仕方がない。しかも亡命することから何かあったのだろう、…それに少なからずの嫌悪感もあったと思う。

 

別れる際はモヤついた、…過去の俺とダブって見えたから。この現象…何を示していたのかは謎、…いずれ分かる日が来るのだろうか?



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第7話 ~白蛇騎士団。

ールージュー

 

1174年…貴族になって4年目、重要なイベントがありました。コーデリア伯爵家的には良いことになるか? コーデリア領的には良くないことか? 判断に困るんだけど、この俺ルージュは傭兵から足を洗いました。それに伴いリントヴルム傭兵団も解散、直後にコーデリア騎士団の一つに白蛇騎士団が誕生したのです。

 

何てことはない、単純に傭兵団が騎士団に変わっただけ。個人それぞれの格好も統一され、赤いトサカ付きの白い兜がトレードマークの白鎧一式になりました。…そうです、団長である俺に似せた白蛇騎士団専用の白鎧一式です。団員全員が俺の信奉者、何かセイロスっぽいよね?

 

貴族となっても傭兵稼業を続け、常勝無敗の傭兵団と有名になった。特に俺個人の勇名がフォドラを駆け巡り、赤頭の白蛇…所謂俺は畏怖されるように。

 

『獰猛なパルミラ人も裸足で逃げ出す白蛇ルージュ。』

 

何て言われてるのよ、それにあやかって我が騎士団はその姿に。一目で分かる、白蛇ルージュの騎士団だと! それだけで敵対する者は逃げ出す始末、そして味方は士気がアゲアゲ。嬉しいような悲しいような、俺的には微妙に感じるのです。

 

 

 

 

 

 

騎士団になった理由は単純に妬みっす、同盟領のゴネリル公爵家以外の殆んどの貴族達からのね。コーデリア伯爵家が傭兵稼業で家名を上げている、そして報酬金にて領地を潤わせている…と。これは決して悪いことではない、同盟領貴族の間にあるルールにそれを咎めるものが一切無いのだから。

 

何を問題にしているのか? …それは、俺が傭兵団を率いて縦横無尽に同盟領を駆け巡っていること。即ち、コーデリア伯爵家の者が他領へ許可無く好き放題侵入している、…そう言いたいのだ。傭兵の領地移動は不問とするのが暗黙の了解、故にただの言い掛かりであると主張すればいい。現に他家でも自身の子を傭兵にしている者もいれば、私的に傭兵団を雇っていたりするのだから。

 

…まぁ実際、傭兵がどうのっていうのも微妙なわけで。リントヴルム傭兵団が強すぎて有名になりすぎている、現在ジェラルト傭兵団とリントヴルム傭兵団の二強。その影響で他の傭兵団の名が埋もれ、無駄に俺達を有するコーデリア伯爵家の家名が上がっている。率いている白蛇のルージュはコーデリア伯爵家の子、同盟領にコーデリア伯爵家あり! …っていう世間の評価が気に入らないのだ。…本当に、マジでただの嫉妬なのです。

 

義父上的には俺の勇名は嬉しい、他貴族からの嫉妬も特に気にしていなかった。…が余りにも小言が多かった為、仲の良いゴネリル公爵と共にやらかした。

 

『貴卿等の言い分、承った。なれば義息子率いるリントヴルム傭兵団を解散させ、新たな騎士団を設立させて貰おう。設立後は自領を中心に活動することを約束しよう、…これで問題ありませんな?』

 

と同盟領貴族の集まりで宣言したらしい。義父上に続けてゴネリル公爵が、

 

『それはめでたいことですな、有象無象の賊徒を相手せずに済むのだから。…ということは、対パルミラに期待しても良い…ということですかな?』

 

と言い、

 

『勿論ですとも! 同盟領を守る為に手を取り合いましょうぞ!』

 

と返せば、

 

『ははははは! これで奴等もそう易々と攻勢に出れまい!』

 

最後にゴネリル公爵がそう締めくくり、二人でバカ笑いしてきたとのこと。妬みまくっていた貴族の青い顔が痛快愉快だったみたい、…義父上とゴネリル公爵の性格が悪い。

 

簡単に言えば、傭兵団から騎士団に変えます。傭兵活動はしません、自領の警護・警戒のみにします。よって今までのように賊徒討伐に手は貸さない、自分達で頑張ってね。でも同盟領を守る為にパルミラとは戦います、その際の移動には文句を言わないよね? だってパルミラと戦う為だもの。とにかく、コーデリア伯爵家とゴネリル公爵家はこれまで以上に協力し合います。他の方々は此方を気にせず、どうぞ自分達のことだけを考えてください。

 

ようはもう知らないってこと。賊徒討伐を依頼として助力してきたけれどもうしない、どうぞ自分達の手勢で撃退してねって。…そりゃ厳しいよね? その中にはたまに魔獣が含まれているし。自惚れじゃないけど俺達がいたから犠牲無く討伐出来た、…よってこれからはそうもいかないだろうな。

 

 

 

 

 

 

とにかくこれからは白蛇騎士団として、コーデリア伯爵領とゴネリル公爵領を行き来することになった。…というか、場合によってはゴネリル公爵家に長期間留まることもあったり。まぁ傭兵時代よりは楽かな? 対パルミラのことだけに集中出来るのだから。



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第8話 ~加入。

ールージュー

 

去年リントヴルム傭兵団から白蛇騎士団へ、義父上とゴネリル公爵の手によって。賊徒や魔獣の討伐は自領限定、主にゴネリル公爵領での対パルミラにてその武力を発揮させる日々。騎士団として参加するようになり、数回パルミラ軍と戦った後に恐れられるように。…というか最初に気付けパルミラよ、前とは違う鎧姿だが君らの嫌いな白蛇であると。…パルミラにとって赤トサカの白鎧軍団は恐怖の対象、更に俺の勇名が広まりフォドラに白蛇ありと。

 

 

 

 

 

 

いやもう本当にさ、ゴネリル公爵家とは家族ぐるみの付き合いになっているのよ。今年からホルスト君はガルグ=マクの士官学校へ、

 

『…ルージュさん、ヒルダのことを頼みます! 悪い虫が付かぬようくれぐれも、…どうかくれぐれもよろしく頼みます!!』

 

とヒルダちゃんのことを念入りに頼まれました。…悪い虫って言うけどさ、俺もそれに入ると思うんだけど。まぁ俺の場合、ヒルダちゃんは妹…そう思っているからね。男女の関係にはならんと言える、…だから頼んできたのか?

 

義妹のリシテアも大きく…なってはいないが10歳になった。俺の妹愛で蝶よ花よと育てた結果、病弱は鳴りを潜めて普通の健康体になったと思う。いつも本と杖を持っては庭に飛び出し魔法の練習、俺が見守る目の前でメキメキと魔法の腕を上げている。たまに俺のゴネリル公爵領への遠征に同行、ヒルダちゃんと親交を深めている。…ぶっちゃけ対パルミラに参戦する気か!? …と戦々恐々としていたが、そうじゃないと知って安心しましたよ。まぁリシテアがいるから俺の気力は十分だ、たまたま侵攻してきたパルミラ軍を散々に蹴散らしました。

 

「お義兄様凄いです、…カッコいい!」

 

の一言で俺は天にも昇るぐらいの幸福感を得る、…リシテアは本当に天使だ。…ん? ヒルダちゃんは…妖精じゃないかな? ごめんね? 天使はリシテア専用なんだ。………ってぇ!? 脛を蹴っちゃいけないぞヒルダちゃん!!妖精も十分可愛いじゃないか!?

 

 

 

 

 

 

そんな日々の中でイベントが2つ発生。1つは我が白蛇騎士団に見習いとして一人の少女が、その名をマリアンヌという。…いやダメだろ、まだ少女だし。しかも小領主とはいえ貴族の娘だろ? 行儀作法の勉強なら分からぬもないが、騎士は…荷が重いのではなかろうか? せめて数年後、士官学校入学とその後の卒業を待ってからで良いのでは? …と義父上に進言すれば、

 

「そうしたいのはやまやまだが、どうにも彼女の身の上がな…。何とかしてやりたいと思い、苦渋の決断でルージュの下へ送ると決めたのだ。」

 

…何だそりゃ?

 

わけを聞けばなるほど、それは何とかしてやりたいと思うわ。件のマリアンヌちゃん、どうにも身に宿す紋章のせいで周囲から虐げられているらしい。特に何かをしたわけでもないのに、何か不幸があれば彼女のせいになる。その積み重ねで彼女は自身を呪い子と、存在そのものが罪として日々祈り続けているという。家族として助けてやりたいがどうすれば良いか分からない、考えた結果…他領へ送り出すことに。地元に残っても周囲の目がある、ならば新天地へ…と。

 

そこで頼ったのが義父上、コーデリア伯爵である。それは何故か? と問われればただ一つ、俺の存在があるから。2つの紋章を持ちながらそれをひけらかさない、持たぬ者を差別せず対等に付き合う度量。俺の影響かどうかは分からんけど、我が家族を含めて領民達も差別をしない稀有な領地。故に藁にもすがる気持ちで義父上を頼ったとのこと、…なるほど。

 

白蛇騎士団設立時に他貴族とは距離を置いているが、この件に関しては関係ないとするわけね。俺としても娘を想う親心は理解出来る、だから文句は無いものの本当に良いのだろうか? 騎士団は危険だぜ? 常にゴネリル騎士団と共にパルミラと戦っているし。…え、何? 俺の傍が色んな意味で一番安全? …何で?

 

………俺なら不幸を跳ね返せるし、あっても笑い飛ばせるだろうと? 彼女自身のネガティブ評価を覆させるのは俺しかいない、…そこまで言うなら頑張ってみようか。やるだけやってみるよ、それでいいんだろ? 義父上。

 

会ってみればマリアンヌちゃん、可愛い娘じゃないか! …がしかし、暗い雰囲気が全てを台無しにしている。陰気を纏っているんですよ、話し掛けても…、

 

「私如きに時間を取らせて、………ごめんなさい。」

 

毎回最初にこれなんですよ。この娘を普通に戻す、…手強そうだなぁ。…まぁいつも通りにやれば何とかなるか? めげずに絡めばきっと、…うざったいって思われなければ。

 

 

 

 

 

 

そしてイベントがもう1つ、我が白蛇騎士団にマリアンヌちゃんとは別に一人期限付きで加わった。入団とは違い出向という形で加わった者、その名をカトリーヌ。…お前セイロス騎士団に入ったんだろ? こっち来んなよ! …対パルミラで腕を磨く? レアさんの意向でもあるから受け入れろ? ………マジか。

 

雷霆(らいてい)使いのカトリーヌさんよ、甘やかさずに使い倒すから覚悟しな! …タイマンはやらんぞ俺は、…面倒だしさ。…それ以上に伝説の武具? 何かイヤなんだよね、纏うモノがさ。



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第9話 ~前へ。

台風がコエー!

屋根が飛びませんように!!


ールージュー

 

1175年、今年の白蛇騎士団はある意味大変な年となるだろう。とある小領主の娘であるマリアンヌちゃんを預り、セイロス騎士団からはあのカトリーヌが出向してきている。俺のミッションは2つ、マリアンヌちゃんのネガティブ思考を正すこと。そして要注意人物であるカトリーヌ、彼女をどう扱うか。俺が試される年、…つってもどうにもならんからいつも通り過ごす予定。カトリーヌに注意すれば何とかなるだろう、…雷霆(らいてい)が本当に嫌なのよ。

 

 

 

 

 

 

騎士団の見習いとして傍に置いているマリアンヌちゃん、色々とあって自分に自信を持てないでいる娘である。その原因が紋章であり、その為にネガティブ思考のやや引きこもり状態になっていたらしい。その弊害で暗い、運動不足で非常にどんくさい、関係ないけど部屋が汚い。こうなったのも育った環境が悪い、…とはいえ生活能力が低いな! このまま成長したら嫁の貰い手がいないんじゃ………!?

 

俺の中の妹愛が疼きだした、そして謎の使命感を抱く。彼女を正常な貴族令嬢にする、ネガティブ云々(うんぬん)の問題じゃない。こりゃアレだ、このままじゃ孤独な喪女になっちゃうよ。俺には病弱なリシテアを健康体にした実績がある、故にきっと俺は彼女を真っ当な令嬢に戻すことが出来る筈だ。

 

 

 

 

 

 

謎の使命感を抱いた日から、ウザイと思われようがきちんと指導することにした俺。それはもう自分の子供に構う母親のように、時には頼りがいのある父親のように。ぶっちゃけ義妹のリシテア以上に構う、妹のようなヒルダちゃん以上に構いまくった。…それからというものリシテアは俺を見る度したり顔、それは貴族令嬢がして良い顔じゃないから止めなさい。そしてヒルダちゃんは何故か此方を見る度にガクガク震えている、目に涙を溜めてマリアンヌちゃんを凝視する。…何故に?

 

敬虔なセイロス教徒らしいマリアンヌちゃん、そこを突いて俺は指導する。女神様は常に信徒を見守っている、その女神様にその姿を見せ続けていいのか? …と。苦手であるなら多少の努力を、出来なくともその姿勢が大事。下を向かずに上を…前を向け、見守る女神様に笑顔で感謝を。自身の全てを女神様は見ているのだから、常に良い姿を見せられるよう心掛ける…等。そう言い聞かせながら時には優しく、そして時には厳しく指導した。

 

その結果、マリアンヌちゃんのネガティブ思考が少しずつ改善されていく。纏う陰気な雰囲気は徐々に明るく、諦めの表情も希望が見え隠れする微笑みに変わっていった。運動不足も日々の鍛練で改善されていき人並みに、そこで知った槍の才能。槍は俺の得意な得物だからね、それを知った時は嬉しかったさ。俺が彼女の部屋へよく訪れることから羞恥心を覚え、少しずつではあるが整理整頓をするようになった。うんうんそれでいいんだよマリアンヌちゃん、もう君は立派な貴族令嬢だ!

 

 

 

 

 

 

明るくなってきたマリアンヌちゃんだが、一時期再び暗くなりかけた。その原因はパルミラ戦の時、俺が彼女を庇って怪我をしたことがあった。俺の不注意というか、パルミラの将の一人が切れ者だったというか。

 

…ナデルという名だったか? 奴が他の部隊を囮にして本隊に奇襲してきたんだ。…で狙ってきたのがマリアンヌちゃん、そこを一点集中してきた点は評価出来る。彼女は見習い、当たり前だがまだまだ未熟。故に普通であれば戦場へ連れてくることはない、だが戦場の空気に慣れさせる為…今回は連れてきたんだ。いつもと同じ小競り合い程度の戦い、ゴネリル騎士団共々そう思っていたから。…だが今回は奴等の大攻勢だった、それを読めなかった自身の浅慮に腹が立つ。

 

そんな奴等の奇襲、その部隊の将であるナデルの攻撃からマリアンヌちゃんを庇った。左目下に傷を負い血だらけの俺を見て泣くマリアンヌちゃん、

 

「…私はやっぱり不幸を呼ぶ者。…私に関わると、……だからルージュ様が! …ごめんなさい、………ごめんなさい!!」

 

そんな彼女に俺は笑いかける。

 

「これは私の油断が招いたもの、断じてマリアンヌのせいではない! あっはっはっはっはっ!! 見ていろマリアンヌ、不幸なんぞ私が断ち切ってくれる! その証明に奴等の大攻勢を押し返し、君に勝利を捧げよう!!」

 

槍を掲げて宣言すれば雄叫びを上げる白蛇騎士団、泣く彼女に向かって何をやっているんだか。ただ…抱き締めて慰めるのは違うと思った、目に見える形で不幸ではないと彼女に見せたい。

 

マリアンヌの周囲を手練れで固め、俺は単身躍り出る。血だらけの俺を手負いと見てパルミラ兵が殺到するも、俺は瞬時にオーラを唱えて出鼻を挫くことに成功する。手負いの蛇は暴れるぜ? 頭を潰さぬ限りな!

 

「私自身の不手際は自身の手で! パルミラ兵の諸君、運が悪かったな! 今回は加減無しで槍を振るおう!!」

 

グラディウス片手に突貫、今回は…視界に入ったパルミラ兵は何人も逃さん! 我らに圧倒的な勝利を、大攻勢に出たことを後悔させてやる!!

 

 

 

 

 

 

この日を境に俺は、マリアンヌちゃんのいる戦場では鬼神が如き槍働きをするようになる。圧倒的な武勇でパルミラ兵を討ち払い、血まみれになることから『鮮血の白蛇』と呼ばれ畏怖されるように。そんな俺の姿を見てマリアンヌちゃんも変わった、ネガティブ思考は無くなり前を向くように。そして何故か『白姫』という異名で呼ばれるように、うん………いいね。前向きになればマリアンヌちゃんは美人さんだから、姫という言葉が良く似合う。

 

俺がきっかけで変わったのなら、これ程嬉しいことはない。…しかし何故『白姫』という異名が彼女に?…分からん。



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第10話 ~…正さなきゃならん。

ールージュー

 

この俺ルージュのミッション、マリアンヌちゃんとカトリーヌが関わるもの。主にマリアンヌちゃんのネガティブ思考を正すこと、これを優先してカトリーヌを使い倒す。使い倒すと言ってもパルミラ戦で活躍して貰うだけ、当初は死なない程度にこき使おうと考えた。しかしレアさんの意向であるのなら改めざるを得ない、ある程度世話になっているからね。…それに他人とは思えない、何故かは知らんけど。

 

 

 

 

 

 

そんなわけで、マリアンヌちゃんと並行してカトリーヌと絡むことに。大体いつも一緒にいるよう心掛けているマリアンヌちゃん、故にカトリーヌと二人きりになることは殆んどない。たまになっては身構える、けれど彼女が勝負を挑んでくることはなかった。それどころか口を尖らせて、

 

「…そこまで警戒することはないじゃないか。アタシはアンタが思っている程野蛮じゃないよ? …それにアタシだって女だ、会う度にそんな反応されりゃ傷付くってもんだ。」

 

と八の字眉で言われてハッとした。すまぬカトリーヌ、DQNでも君は女だったね。これからは多少、…優しくするよ。

 

カトリーヌの発言、アレは何だったのか? そう思うに至る姿を目撃した。どんな姿かって? …そんなん女がして良い姿じゃないっすよ。下着姿で空いたワイン瓶を抱き締め、涎を垂らしてブツブツ呟きながら寝とるんですわ。いつ侵入したのか俺の部屋の隅、殺気が無かったから気付かんかった。色気も何もねぇ、…寝起きドッキリか?

 

DQN系でもコイツは一応美人のカテゴリーだぜ? 本来であれば、下着姿のスタイル抜群肢体を見りゃ興奮するもの。素材的に小麦色の肌に白の洒落た下着、最高に色っぽい筈がワイン瓶と寝言で台無し。元傭兵で現騎士の女もさ、こんなはしたない姿を見せたことなんざない。セイロス騎士団から出向してきた自覚無しか? …これは大失態だろ。

 

コイツをどうしようか? 人を呼ぶにしてもどう説明すれば? 人を呼んだらセイロス騎士団の、セイロス教の名が傷付く。色々考えた結果、起きるまで放置しておくことにする。今日は休息日だからな、問題ないだろ。起きた時に事情を聞けばいい、そう思った俺はカトリーヌを置いて部屋を出た。枕元に一筆置いてな…ったく、世話が掛かりやがる。

 

 

 

 

 

 

コーデリア邸の中庭にあるバラ園、そこで静かに紅茶を楽しんでいるとカトリーヌが現れた。その表情はやらかした…と出ている、反省はしているみたいだな。とりあえず向かいの席に座るよう促し、後ろに控える使用人に彼女の分の紅茶を淹れて貰う。そして席を外して貰い、カトリーヌと二人きりに。

 

…暫くの沈黙、最初に口を開いたのはカトリーヌ。あの姿で俺の部屋にて寝ていた理由、たぶん酔って自室と間違えたとのこと。全く覚えていないらしく、彼女の憶測らしい。…彼女の言葉を聞いた俺は、

 

「…愚か者が!!」

 

怒りを込めてそう言った。滅多に出さない俺の怒号にカトリーヌは驚き、身体を強張らせる。

 

後は俺の説教、いつものヘラヘラ口調ではなく真面目な口調で。セイロス騎士団の代表として来た自覚があるのか? 記憶を失くす程に飲む馬鹿がいるか? お前の失態はセイロス教の失態に繋がる、即ちお前を代表として派遣したレアさんの失態になるんだぞ? それにこれが外部に漏れでもしたら俺にも、コーデリア伯爵家の名にも傷が付く。…分かってんのか? それ以上にリシテアやマリアンヌちゃん、たまたま泊まり掛けで遊びに来ているヒルダちゃんに悪影響を及ぼしたら事だぞゴラァッ!!

 

そんな感じで終始厳しく説教をしました。最終的にはカトリーヌのヤツ顔を青くして、惚れ惚れするようなジャンピング土下座を決めてきたんで止めましたよ。一応…次はない! と強い口調で言えば、ビシッと敬礼をしてきたから大丈夫…だと思いたい。…今度ガルグ=マクへ行った時、俺の口からレアさんに報告するからな。その時までに少しは私生活を正せよ、そうすればフォローはしてやる。…分かったな? …つーか、年下に説教させんなや。

 

 

 

 

 

 

…とぼとぼと俺の視界から外れていくカトリーヌ、その後ろ姿は哀愁が漂っていた。…戦闘については優秀な方なのに、私生活がダメすぎる。酒は飲んでも飲まれるなって先人が後世に伝えてるだろ、それを胸に刻めっての。…にしてもアレだな、カトリーヌもマリアンヌちゃんと並行して教育せにゃなんのかね? お淑やかに…とか、淑女たれ…とは言わんけどさ。最低限の礼儀作法、私生活の端正は必須になるね。

 

…もしかしてさ、レアさんの目的ってこれじゃね? カトリーヌの端正。ぶっちゃけカトリーヌのヤツ、士官学校時代は狂犬だっただろ? 変わったって言うけどさ、根本が変わらなきゃ意味無くね? 直さない限りセイロス騎士団に戻れないとかいうの無いよね? ………あったとしたら長丁場になるよね?

 

……………恨むぜ? …レアさん。



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閑話 ~リシテア《その1》

ルージュお義兄様が家族になってからもう5年、わたしも今年で10歳になりました。10歳の誕生パーティーには多くの方が祝ってくれて、それはもう嬉しくて嬉しくて物凄くはしゃいでいました。ヒルダとマリアンヌというお友達も出来ましたし、病弱で一人ぼっちだった頃とは雲泥の差です。全てはお義兄様のお陰、…お義兄様と会わせてくれてありがとう神様!

 

 

 

 

 

 

…うーん、一人で部屋にいると思い出しますね。ずっと一人でいたあの時のことを、…5年前のわたしは本当に小さくて病弱だったんですから。それに心も弱くて、直ぐに悪い方へ考えてしまう癖がありました。例えばお父様とお母様は髪が赤いのにわたしは白い、魔力過多の影響らしいのですが悲しかったです。髪の色だけでわたしは家族とは違う、のけ者になっていると勝手にそう思っていて…。

 

お仕事が忙しいお父様、それを支えるお母様。どちらも忙しく、例え家族であってもなかなか会えない毎日。病弱で外へは出れないわたし、(おの)ずと一人…本を読むだけの生活。お父様もお母様も、使用人達もわたしを大切に…愛してくれているのは分かっています。分かってはいますけど一人はやはり寂しい、…誰かわたしと共に過ごして下さい。

 

そんなわたしの願いが通じたのか、久しぶりにお父様とお母様の二人と過ごせる日が。しかも新たな家族、養子ですがお義兄様が出来ると聞きました。そして会ったのが、勇名広まる白蛇のルージュさん。この方がお義兄様になるのですか!? 驚きと不安があったのですが、ルージュさんは見た目とは違いとても優しい方でした。

 

傭兵のお仕事と礼儀作法等の貴族教育を両立、その間にわたしのことも気に掛けてくれます。わたしの為にお菓子の作り方を学んで作ったり、わたしのことを考えて外の世界へ連れ出してくれたり。…遠征の最中に貴重な食材を手に入れては、私の身体を健康体にする為…お料理にまで手を出すように。…お陰様でわたしは徐々に体力が付いてきまして、遠出さえしなければ一人で外へ行けるようになりました。

 

…お義兄様が家族となった時、有名な傭兵ですから恐い方かと思いました。髪も赤くてお父様とお母様、両親とお揃いでわたし以上に家族っぽい。だからわたしはどうせまたいつも通り、一人で過ごすことになるのだろうと思っていればそうはならなくて。…何か一人で殻に閉じ籠っていたのが恥ずかしいです、そんなわたしもお義兄様のお陰で少しだけ大人になりました。大切なのは理解することなのですね? きちんと向き合わなくては通じ合えないと知ることが出来ました。

 

 

 

 

 

 

お義兄様のお仕事関係の繋がりでヒルダと知り合いました。ゴネリル公爵家の長女で年上、最初は失礼のないように…と思ったんですけど堅苦しいのはイヤと言われまして。ですので社交場以外では普通にお話を、…お話を聞いて知りました。ヒルダには好きな方がいる、…わたしのお義兄様に恋をしていると。お話や態度を見れば明らかに違いますもん、他の男の人とお義兄様に対する態度が明らかに。他の男の人には貴族令嬢特有の作り笑顔、お義兄様にはヒルダ自身の本当の笑顔で傍にいたがるのですから。何かマーキングをしているみたいなんですよね、…あれ。…傍にいるのはまぁ許しますけど、お義兄様の膝の上はわたしの特等席ですからね? …絶対にそこだけは譲りませんから。

 

正直ヒルダの恋は前途多難になるでしょう。何故ならお義兄様、ヒルダのことは妹みたいなものだと言っていましたし。それにヒルダのお兄様、ホルストさんにも常々妹であると強調されていますし。…そういうことで、お義兄様はヒルダを妹であるとほぼ断言しています。…いえ、そう刷り込まれています。ですので恋が実るには多くの時間が必要かと、最大の敵は身内ですよ?ヒルダ。そこに気付いて身内をどうにかしない限り、お義兄様はあなたには(なび)きませんのであしからず…。因みに今のところはそれを指摘しませんよ? お義兄様はわたしのお義兄様なのですから。甘えられる内に甘える、今のわたしの使命です。…ごめんなさいね?

 

 

 

 

 

 

…暫くして新たな刺客が! 我が家預かりでマリアンヌ、そしてセイロス騎士団からカトリーヌさんが来ました。お義兄様ってばわたしやヒルダよりもマリアンヌ、彼女のことを凄く気に掛けています。…ちょっと寂しいけれどいいです、お義兄様がニコニコと笑ってくれているのなら。…それにわたしの見立てではお義兄様、マリアンヌを自分好みに育てて婚約者にしようと企んでいます。大変喜ばしいことです、お赤飯を炊かなくてはいけない事案ですね!

 

…カトリーヌさんは脈なしです、彼女自身が変わらない限り絶対にないです。カトリーヌさん本人も特にそういう感情は見えませんし、やはりお義兄様はマリアンヌを………ってヒルダ!? 何をそんなにガクガクと震えているのですか? …マリアンヌがどうかしたのですか? いつも通り暗くてジメジメしているだけですよ? ジメジメでも良い娘…ですよ?

 

………はっはぁ~ん、さてはマリアンヌにお義兄様が取られると? …それでしたらまず諦めましょう、今のあなたには無理ですよ? …理由? …まぁ教えてもいいですかね。理由はあなたのお父様とお兄様、そのお二人をどうにかしないと。…だってヒルダを妹と刷り込んだのはそのお二人何ですから、嘘ではないですよ?

 

 

 

 

 

 

……………斧はダメですからね!? 話し合い、お話で解決を! ちょっとヒルダ、…おーい!!



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閑話 ~ヒルダ《その1》

あの人、ルージュ様と出会ったのは運命。あたしはそう信じている、今も…そしてこれからも変わらない。例えそれがお友達になったマリアンヌちゃんが相手でも、お父様とお兄ちゃんが妨害してきても負けない! …というかマリアンヌちゃんはともかく、お父様とお兄ちゃんが反省せずに妨害してきたらド(たま)をカチ割ってあげるんだから! 大事な一人娘が、大切な妹が恋をしたのなら応援するものでしょう? …それを妨害するとかって信じられない! …そのせいであたしはハンデを背負うことになったのよ!?

 

────────────────────

 

ルージュ様と初めてお会いしたのは4年前、あの人がリントヴルム傭兵団を率いていた時にお兄ちゃんの紹介でね。お会いする前にお父様からお話を聞いていたんだけど、…正直傭兵ということで恐い人なのかなぁ~って思っていたんだよね。若いと言っても20代後半ぐらいでしょ? あたしから見たらオジさんだよぉ~! …何て勝手な想像をしていたわけ。

 

…でお会いしてみたらお兄ちゃんと同じぐらい! しかも奇抜な髪形をしているけどカッコいい! 荒々しさの中に清潔感があって、見たことのないお洒落な装飾品も身に付けていて…お兄ちゃんよりもイケてる! お話しをしてみれば優しくて、…慈愛の籠った目で見られた時にオチた。

 

そしてお会いする度に好き好きアピールをするけれど、ルージュ様は、

 

「ヒルダ嬢はおませだな、あっはっはっは!」

 

と子供扱い。それでも頭を優しく撫でてくれて、毎回プレゼントまでくれて…。そのどれもが手作りとかって凄すぎ! 流石にドレスは作れないって言うけれど、デザインはしたよってそれも凄すぎ! しかもあたしに似合うようにって、妹のついでで悪いけどって。それでも嬉しいに決まっている、好きな人から貰った物なのだから!

 

元々お洒落には興味があって色々やってきたのよね、だからこそ更に情熱を燃やさなきゃ。ルージュ様には勝てないけれど、近付くことは出来る筈。それと同時に嫌いな鍛練も少しずつだけどやるように、

 

「流石は誉れ高いゴネリル公爵家が長女、ヒルダ嬢と肩を並べて戦える日はそう遠くないでしょうね。」

 

ってルージュ様が言っていたから! その言葉を聞いた時にコレだ! と思ったのよ、強くなれば一緒に戦える。そして少しずつ距離を縮めて最終的に………、ウフフフフフ♪

 

 

 

 

 

 

…それから4年ぐらい? 日々の努力によってこのあたしも強く美しく、そして可愛くなったと思っている。体つきだって女らしく、特に胸が大きくなって困っているのよね。何ていうの? …邪魔ってヤツ? 何をするにも行動を色々と阻害してしまうし、男の人も胸にばかり視線を向けてくるから気分が悪い。ルージュ様が見るならば良いんだけれど、あの人は見ないのよね…。ルージュ様をオトす武器にならないのならば、…邪魔なだけよ!

 

まぁそれはさておき、リントヴルム傭兵団が白蛇騎士団に変わったの。騎士団に変わった時から私達ゴネリル家とは更に親密な関係へ、頻繁にお会い出来るようになるなんて! って気分急上昇。毎日がバラ色になっていた、…更に更に! ルージュ様が自身の妹を我が家へ連れてきて、リシテアっていうんだけれど…めっちゃ可愛い。妹は天使ってよく言っていたルージュ様、…分かる気がするわ。

 

ルージュ様の妹であるリシテアちゃんとお友達に、こうやって周囲の堀を埋めていけば…って。…なのに距離が縮まらない、それどころかいつまで経っても妹扱い! 妹じゃなくて一人の女として見て貰いたいのに、…どうしてよ!!

 

 

 

 

 

 

ルージュ様の意味不明な鉄壁にお手上げ状態のあたし、そんなあたしに追い打ちが! ルージュ様の手元に女性が二人! 女の子の名前はマリアンヌ、異常な暗さを除けばめっちゃ美人。女の人はカトリーヌ、セイロス騎士団の人っぽいけど大丈夫じゃないかな? 美人だけどそれだけっていうか、戦う以外は論外っぽい。正直二人共あたしの敵じゃない、マリアンヌちゃんは本当に暗いしカトリーヌさんは戦闘狂のダメ人間。今のところあたしの圧勝! …と思っていたら、ルージュ様がマリアンヌちゃんにばかり構うの! 何でぇぇぇぇぇっ!?

 

 

 

 

 

 

口から魂が抜けかけたあたし、リシテアちゃんに揺さぶられて正気に戻れたけれど! 何故にマリアンヌちゃん!? ぶっちゃけあたしの方がルージュ様に相応しくない!? どう思う? …リシテアちゃん!!

 

……………えぇ~っ! 諦めろってどういうこと!? リシテアちゃん、…敵なの!!?

 

…違う? …もう、驚かせないでよ! …ん? 何? どうしたの?

 

……………お父様とお兄ちゃんが一枚噛んでるの? 妹? あたしを妹とルージュ様に刷り込んだ?

 

……………るさない、…許さない! 二人のド(たま)をカチ割ってやるんだから!! …止めないでリシテアちゃん、人の恋路を邪魔する奴はド(たま)カチ割り制裁せよってお母様が言ってたもん!!

 

…お父様とお兄ちゃんなんて大嫌い!!

 

………わぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!



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閑話 ~マリアンヌ《その1》

ーマリアンヌー

 

私は呪われた紋章を宿す呪い子、存在自体が世に不幸をもたらす者。…そう思っていました、…そう思わされていました。けれどその呪いはまやかしで、紋章自体は関係なくて…。

 

存在を消された紋章が故に何もかもを押し付けられて、元々の性格から否定も出来なくて…。いつしか私自身も周囲の言葉を信じ込み、目に映るモノが灰色に変わってしまいました。

 

私を癒すのは鳥と動物、身近な人では父様と母様だけです。…そんな日々の中で灯った暖かな炎、太陽のようなルージュ様に出会うことが出来ました。出会った日から私は、私の目には色が戻ったのです………。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

自身に紋章が宿っていると知った時、…その時はとても嬉しかった。父様と母様、両親もきっと喜んでくれる。使用人達や領民達も喜んでくれる、そう思っていました。…けれど運命とは残酷で、…私の紋章は呪われているモノらしいのです。獣の紋章、その異質さの為に存在を消された紋章。宿主は勿論のこと、周囲の者達に不幸をもたらす呪われた紋章と言い伝えられています。 …私の紋章が判明した瞬間、私が思い描いていた明るい未来は音を立てて崩れ去りました。

 

 

 

 

 

 

…紋章が判明した日を境に私は腫れ物を扱うが如く、周囲の者達から距離を置かれるようになりました。何かが起これば全て私のせい、商売に失敗したことも、不作になったことも、怪我をしたり亡くなったりしたことも私のせい。否定しても否定しても否定しても否定しても否定しても、全ての不幸は私のせいになりました。小さな領地故に私のことは知れ渡り、領地に不幸を撒き散らす厄災…呪い子と皆が口にします。人々の怨嗟の声が私を責める、私は…自身の殻へ閉じ籠る他に為す術がありませんでした。

 

…紋章を宿して唯一良かったと思えること、それは鳥や動物と話せることです。私の苦しみを親身になって聞いてくれるのは彼等だけ、いえ…父様と母様も聞いてくれます。苦しみを吐き出してもそれは消えることはなく、ああ…私はこれからどう生きていけば? 自らを死に追いやることは出来ません、私は臆病者だから。…だから私は祈ります、祈ることしか出来ないのです。…(しゅ)よ、私はどうすれば良いのでしょう? …呪い子として(せい)を全うせねばいけないのでしょうか? …幸せになるという権利はないのでしょうか? …教えて下さい(しゅ)よ、私に…私を導いて下さい………。

 

 

 

 

 

 

自身に宿った紋章を憎み、(しゅ)に祈り続ける日々。稀に鳥や動物、両親と会話を交わしながら閉じ籠る私。そんな陰鬱な日々が続く中で、父様が私に悲しい顔である事を命じました。…私をこの家から出すと、所謂縁切りということでしょうか? …悲しいけれど仕方がありません、私のような呪い子は消えた方がいい。…分かっていたこと、…それでもやっぱり悲しいことには変わりありません。

 

この家を出される前に両親と色々なお話をしました、…縁切りは私の勘違いだったようです。父様と母様は、私に幸せを感じて欲しいからこそ家から出すそうなのです。私が預けられるのはコーデリア伯爵家、同盟領で知らぬ者がいない程に有名な白蛇のルージュ様を有する名家。件のルージュ様は2つの大紋章を宿していながら驕ることなく、そして差別を嫌うが故に受け入れてくれるだろうという希望。藁にもすがる想いで私を預ける、…よって断じて縁切りをするわけではないと抱き締められました。…ごめんなさい、父様…母様。…そしてありがとう、私を愛してくれて。

 

 

 

 

 

 

私に希望はありません、何せ呪い子なのですから。両親の願いは成就しないでしょう、私はきっとコーデリア伯爵領でも…。そう思っていたのですがそれは良い意味で裏切られて、コーデリア伯爵家の方々も領民達も私を温かく受け入れてくれました。特にルージュ様、この方は常に私を気に掛けてくれます。普段の生活から自己鍛練まで面倒を見て下さり、時には私の目を見て叱ってくれるのです。…それがどれ程嬉しいことか、私をきちんと見て下さるルージュ様には感謝しかありません。

 

ルージュ様の他に妹であるリシテアさん、ゴネリル公爵家のヒルダさんとも仲良く出来ました。お友達が出来るなんて夢のよう、…一生出来ないと思っていましたから。それに信仰しているセイロス教、虎の子であるセイロス騎士団に所属しているカトリーヌさんとも知り合えました。この地に来てから全てが上向きに、(しゅ)よ…感謝します。

 

 

 

 

 

 

…しかし調子に乗ったからでしょうか? 私に経験を…とのことで、ルージュ様率いる白蛇騎士団の方々と共にパルミラ戦へ。小規模な戦闘で終わる筈が戦争へと変わり、私を庇ってルージュ様がお怪我を…! …私のせいで! そう思い嘆いてしまったけれど、ルージュ様はそれを否定しました。それを証明する為に、…私に勝利を捧げると宣言してからの突貫。極めて不利な戦況をひっくり返して優勢へ転じ、そしてパルミラ勢の(ことごと)く討ち取っての大勝利。命からがらに撤退をするパルミラ勢を余所に、ルージュ様率いる白蛇騎士団と公爵様率いるゴネリル騎士団が勝鬨を挙げました。

 

…全ては私の為に、ルージュ様の姿は太陽のようでした。私を照らして導いてくれる光、陰鬱な私を陽の下へと連れ出してくれる。…いつしか私は真っ直ぐに前を向き、ルージュ様のお役に立てるよう努力を惜しまぬようになりました。

 

 

 

 

 

 

…紋章は関係なく、全ては自身の気の持ちよう。ルージュ様のお陰で見えなかったモノが見えました、私にも守りたいモノ…尽くしたいモノがあったようです。

 

それはルージュ様で、きっと私は…ルージュ様のことが………。



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閑話 ~カトリーヌ《その1》

ーカトリーヌー

 

アタシはアイツに負けた、傷一つ与えることが出来ずに負けたんだ。カロンの大紋章を宿し雷霆(らいてい)にも選ばれた、だからアタシは調子に乗っていたんだ。剣を振るえば右に出る者がいない、同世代最強と持て囃された。セテス様にアロイスさん、何よりレア様がアタシに期待をしている。…レア様に師事する私は負けない、そう思っていたんだけどね。上には上が、…それも年下にいたなんて。

 

伸びた鼻が根元から折れたよ、盛大にポキッ! …とね。

 

………ルージュ・フォン・コーデリア、噂に(たが)わぬ白蛇!

 

 

 

────────────────

 

 

 

白蛇のルージュと出会ったのはガルグ=マクの士官学校にて、セイロス騎士団のアロイスさんが連れてきたんだ。威風堂々とした立ち振舞いを見て、このルージュはかなりの遣い手であると感じ取った。その時はその程度でしかなかった、けど…ルージュが白蛇で勇名轟くリントヴルム傭兵団の団長であると知り、更にアタシの年下って知ったらさ…気に入らないじゃないか。

 

…だからルージュがガルグ=マクへ来ると知れば、わざわざ絡んでは喧嘩を売る。…がしかし相手は毎回軽く流して取り合わない、それどころか馬鹿にするような視線を向けてくる始末。…ムカついたね、めっちゃムカついた。それ以来ウザイくらいに絡む、アタシのプライドが許さないからね。この喧嘩をルージュが買うまで、アタシは懲りずに絡み続ける。ここまで来たらもう意地だよ…!

 

 

 

 

 

 

意地で絡み続けた結果、流石のルージュも苛立ってこの喧嘩を買った。アタシとルージュの勝負にレア様やセテス様、アロイスさん達セイロス騎士団に士官学校の同級生達が見届けるらしい。レア様が見届ける、…アタシのやる気は最高潮だ! …ルージュ、覚悟しな!!

 

…で始まった勝負だがただ一言、アタシは井の中の蛙だった。アタシの磨き上げてきた剣術が簡単にあしらわれる、雷霆(らいてい)が…雷霆(らいてい)の一撃一撃が通用しない。相手の武器を破壊する程の雷霆(らいてい)、…何でコイツに通用しないんだ!!

 

初手でルージュの挑発に乗った、激昂したのは認める。…それでも、…それでもアタシは今まで勝利を掴んできたんだ! こんなポッと出の年下に、選ばれたアタシが手足も出ないなんて!! プライド故か更に攻め立てるが、…一瞬の隙を突かれて一撃。胸を突かれた瞬間に息が詰まり、手にした雷霆(らいてい)を落として悶絶してしまった。…こんな、…こんなことって!

 

悶絶しながらも相手…ルージュを見上げれば、…冷めた目でアタシを見下ろしていた。そしてその口から発せられる言葉に何も言い返せない、悶絶しているから…ではなく本当に言い返せなかった。…ルージュを称える拍手と称賛の声、アタシはそれを聞きながら顔を伏せて涙を流す。不甲斐ない自分に、情けない自分に対して。………くそぉ~っ!!

 

 

 

 

 

 

ルージュに負けた日からアタシは初心に戻って鍛練をしている、同級生との付き合い方も変えた。アタシは自覚無しに皆を下に見ていたようで、意識して同じ目線で見てみれば自分に足りないモノがよく見える。それに進んでセイロス騎士団の仕事を手伝うように、雑用も含めて経験が少ないとアイツに言われたからな。

 

今からでも遅くない筈、コツコツと経験を積めば今以上に成長出来る。怠けていた分を取り戻すんだ、少しでもアイツに…ルージュに近付けるように!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

月日が経つのは早いもので、ルージュと出会い負けてから5年。アタシも強くなったものだと自画自賛する、やはりセイロス騎士団に入団したことが良かったんだな。カサンドラって名を捨てることにしたけど、そもそもカトリーヌという洗礼名で過ごしてきたから何とも思わない。

 

…そんなことよりもルージュ、アイツのことだよ! …この5年の間、一度も顔を合わせていないってどういうことなんだ!? …何て思っていると、レア様から有難いお話を頂いた。…勿論その申し出を受けますとも、是非行かせて下さいレア様!

 

 

 

 

 

 

アタシは今、セイロス騎士団からの出向という形で白蛇騎士団へ。久しく見ていなかったルージュの男前ぶりにちょいと驚きつつも、仲良くやろうと言えば嫌な顔をされる。流石に傷付いた! と言えば態度が軟化、言ってみるもんだと笑みが浮かぶ。

 

これで少しは良い関係が築ける…と思えば、アタシの失態で再び微妙な関係へ。めっちゃ怒られた、凄い剣幕で怒鳴られた。全面的にアタシが悪いです、立場を考えていませんでしたごめんなさい!!

 

……………うぅ~、………ルージュの怒気がハンパない。言われた通り、生活習慣の改善と最低限の礼儀を身に付けないとダメみたいだ。アタシはともかくセイロス教の、いや…レア様の名に傷が付いてしまう!

 

…そんなアタシはルージュの妹であるリシテア、ゴネリル公爵家のヒルダに色々と教わることに。若干の呆れが含まれる視線に堪えて学ぶアタシ、唯一の救いはダメダメ仲間のマリアンヌ。彼女はアタシと違う意味でダメ人間、ダメ同士…頑張って学ぼうじゃないか!

 

………因みにパルミラ戦の参戦は認められるだろうか? …大丈夫? …本当か? …良かった、………本当に良かった!!

 

不肖カトリーヌ、粉骨砕身で頑張ります!!



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第11話 ~ダスカーが大変らしい

ールージュー

 

マリアンヌちゃんとカトリーヌを教育しつつ、パルミラの大攻勢を押し返して勝利をもぎ取った1175年。何だかんだと忙しない1年を過ごしていた時、ブリギッド王国とアドラステア帝国間で戦争が勃発。後にダグザ・ブリギッド戦役と呼ばれるこの戦いでブリギッド王国が敗北、アドラステア帝国の属国となった…とのこと。

 

俺達も大変だったけど、あちらさんも大変だったんだなぁ。もし俺達が騎士団にならず傭兵団のままであったのなら、…間違いなく参戦していたんだろうね。…勿論ブリギッド王国側で、フリュム家の件は未だに許さんよ俺は。

 

 

 

 

 

 

…とまぁ過ぎた件はいいとして、1176年…今年も何かが起こりそうな予感。どうかコーデリア伯爵領とゴネリル公爵領だけは平穏でありますように! たぶんパルミラも当分は攻勢に出れまい、力ある将は去年の大攻勢で十数人討ち取っているからな!

 

…何てことを考えながら元気に過ごしています、良い感じで二人の教育も進んでいるしね。ここ最近仲が良いみたいなんだよね、マリアンヌちゃんとカトリーヌ。それで協力して学んでいるみたいだからそのまま仲良くして欲しい、…このまま行けば二人の教育は今年で終わるだろうと予想する。

 

愛する我がコーデリア伯爵領の発展も誇らしい、…俺調べではレスター諸侯同盟領一の成長率っす。遠くはダスカーからも行商人が訪れる、品質が良いから領内でも人気なんだよね。ダスカー産の武器防具は即買いですよ、お陰様で白蛇騎士団の装備は充実しとります。

 

義妹のリシテアも少しずつ大人になって俺から………離れないんだよな、まだまだお子様ってわけ。まぁそこが可愛すぎるんだけどね! 勿論リシテアを甘やかすことが俺のジャスティス! そんな甘えん坊のリシテアに便乗するのがヒルダちゃん、ここ最近の甘えおねだりが激しい! 第二の妹みたいなもんだからそりゃあ甘やかして可愛がるさ、頭を撫でればふにゃりと笑ってくれるし。…たまにマリアンヌちゃんを威嚇するのが玉に傷、二人は友達…だったよね?

 

 

 

 

 

 

1176年になって4ヶ月ぐらいは平穏だった、しかし俺の嫌な予感が当たってしまった。ダスカーにて、ファーガス神聖王国国王ランベールが謀殺されたらしい。唯一生き残ったのは王子ディミトリ、それ以外の者達は全て討たれたらしい。この謀殺を仕組んだのはダスカー人であるとされ、多くのダスカー人は王国軍の手により虐殺されたとのこと。

 

先に述べたと思うが、我がコーデリア伯爵領はダスカーと親交がある。よってダスカーの者達がこのようなことをするとは思えない、ダスカー人は無実であると領民共々それがコーデリア伯爵領の総意。それ故に俺率いる白蛇騎士団は素早く動き、コーデリア伯爵領へと逃げ込んできたダスカー人を保護する。

 

その時に彼等の追っ手として現れた王国軍と相対、ダスカー人を引き渡せとの言葉に当然拒否をする。それを引き金に王国軍がコーデリア伯爵領へと侵入したことにより激突、なるべく殺さぬよう立ち回り撃退した。その際にカトリーヌが怪我をして動けぬ王国軍の将を捕らえてきた、クリストフという名らしいが…え? カトリーヌの士官学校時代の同級生?

 

クリストフがカトリーヌの同級生、故に助命を嘆願されたわけなんだがね。そもそも殺さんよ? 聞く所によると彼は今回の戦闘に消極的だったらしいし。だからまぁ今回の件が少し落ち着いたら、彼の身柄は王国へと返すつもりさ。それでいいだろう? …と言えばカトリーヌは安堵、捕虜となるクリストフには頭を下げられた。

 

…がしかし激突から数日後、コーデリア伯爵領への侵入はクリストフの独断によるものと王国側からの弁明があった。死人に口無しってわけかい? …当の本人は生きてるぜ? 一応使者を出して伝えた筈なんだがね。………何というか王国軍を指揮していた者は相当なクソ野郎ってなわけ? 捕虜となっているクリストフの呆然とした顔が痛々しい。…どうしたものかね?

 

 

 

 

 

 

ダスカーの悲劇と言われるようになる今回の件、此方としてはファーガス神聖王国に不信感を覚えた。王が謀殺されたからといって虐殺はないだろう、しかもクリストフに罪を着せて切りやがるし。…付き合い方を見直さなきゃならんな、うん。

 

…因みに件のクリストフ、名を変えて白蛇騎士団に入団しました。実家の名を汚し父に迷惑を掛けたと嘆き、自刃しようとしたらしいんだけれどカトリーヌが止めたらしい。彼女にしては珍しく言葉巧みに言いくるめて思い止まらせた、…との報告に感心する俺。やるじゃないかカトリーヌ、お前…口が上手かったのな?

 

………かと思ったら違うみたいだ。カトリーヌの奴、クリストフ…じゃなくて今は名を変えてシーサーか。そのシーサーを気に掛けまくっているんだよね、…何故に? と思ったんだけど、したり顔のリシテア曰く恋らしい。カトリーヌが恋? …マジで? …ヒルダちゃんも同じようで、

 

「…カトリーヌさんいいなぁ~、…シーサーさんも満更じゃないっぽいし。…あたしも恋してるのに、相手は見てくれないもんなぁ~…。」

 

と俺のことをチラチラ見ながら言ってくるんよ。マリアンヌちゃんも似たり寄ったり、…俺にはよく分からん。




この話では、クリストフは処刑されません。


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第12話 ~二人に報告。

遅れたけど、

あけおめ。

今年もゆるゆるヨロシク!


ールージュー

 

ダスカーの悲劇と呼ばれる虐殺にて多くのダスカー人が殺された、保護したダスカー人を巡りファーガス神聖王国軍と激突。出来る限り討たずに退け一人の将を捕らえるも、全ての罪をその将に着せたファーガス神聖王国に不信感を覚えた。行き場の無くなった捕虜の将を迎え入れ、さてどうするか…っていう現状ですわ。

 

…と言っても普段通り過ごすんですけどね。新人のシーサーは団員に任せ、俺はいつも通りの教育です。…カトリーヌ! まずは自分のことを考えろ馬鹿! シーサーは逃げも隠れもせんわ、それよりも己を磨け! …不真面目なら強制送還するぞ、…いいのか? と青筋を立てて言えば、送還は嫌みたいで真面目に取り組むカトリーヌ。

 

…別に邪魔する気はない、恋愛するならお好きにどうぞってね。…がやるべきことはやって貰わないと、当たり前のことです。…ああこの件をガルグ=マクへ…レアさんにも知らせないと、そちらのカトリーヌが恋をしました…ってね。沈着冷静なレアさんでも驚く件だよこれは、セテスさんに至ってはパニクるんじゃないかな? …おっとこれと合わせてダスカーの件も知らせよう、キナ臭いですよ…って。

 

 

 

 

 

 

ダスカーの件とクリストフ…、シーサーの件があるから俺は数騎の騎士とガルグ=マクへ。一応領境の守りを固めておかないと心配だからね、備えは万全に!

 

ガルグ=マクへ到着して直ぐにレアさんと面会、今回の件を俺達側の見解で説明する。ダスカーでの出来事は見えざるナニカと反国王派が絡んでいるのでは? ダスカーは利用されただけで無実の可能性が高い…と。見えざるナニカとは何か? …突っ込まれるかと思ったらスルー、…ということはそちらさんも同じ考えを持っているんだと解釈しておく。

 

そして忘れずにガルグ=マク士官学校の卒業生であるクリストフ、彼の身柄は俺が責任を持って預かっていると報告した。それに至る経緯と彼のこれからを話すとレアさんは顔をしかめ、

 

「…ルージュが反国王派が絡んでいると考えた理由はそれですね? …何と愚かなことをしてくれたのでしょう。私共からも王国側へ口添えを致します、せめてクリストフの実家…敬虔な信徒であるロナート卿に責が及ばぬように。」

 

そして最後にそう締め括って微笑んだ。…うん、それを聞けばシーサーも安堵するだろう。俺は彼の代わりにレアさんへ礼を言って頭を下げた、…頼りになるぜレアさんは。流石は大司教ってか!

 

…で最後に爆弾を、ある意味一番威力が高い情報を伝えよう。

 

「レアさん、そしてセテスさん。…お二人に報告があります、気をしっかりと持ち…聞いて頂きたい。」

 

続けて…、

 

「セイロス騎士団より我が白蛇騎士団へ出向しているカトリーヌが、…あのカトリーヌが恋をしたようです。相手は件のクリストフ、今はシーサーと名乗らせていますが彼に恋をしているのです。何でも士官学校から人知れず意識をしていたようで、…戦場での再会で燃え上がったとのこと。」

 

真剣な顔でそう伝えれば、

 

「「………は?」」

 

二人は間の抜けた顔で静止した。

 

 

 

 

 

 

暫く静止していた二人だが、

 

「…あのカトリーヌが? にわかに信じられんが…嘘でもなさそうだ。」

 

セテスさんが最初に復活し、腕を組んで唸り出す。カトリーヌに対して失礼ではあるが気持ちは分かる、私生活がダメダメな戦闘狂の部類に入る女が恋だからな。俺がセテスさんだったら同じリアクションを取るだろう、いや…爆笑するな!

 

セテスさんが唸り出してから続いて、

 

「…そうですか、…カトリーヌも恋を知る時が来たのですね。よもや士官学校の時から拗らせていたとは、愛弟子ながら気付きませんでした。世間の風潮からして彼女は生き遅れと見られています、それが解消されることは大変喜ばしいこと。ガルグ=マクへ戻った際に祝いの言葉でも贈りましょう、…フフフ。」

 

レアさんが微笑んでいる、…けど黒い笑みに見えるのは何故?

 

…大司教だからって恋をしたことがないというわけじゃないよね? …何て考えていると、

 

「…負けたなレアよ、あの娘はキミの先を行ったようだ。…故にそろそろキミも恋をしてみるべきではないか? 恋はいいぞ? 私も今は亡き妻と………っ!!?」

 

セテスさんが語り出した瞬間、レアさんの気配がががががっ!?

 

「…セテス、…この後は暇ですね? …お話があります。」

 

何の感情も籠らない無機質な声、…セテスさんの顔が青くなっとる。レアさんの気配によって動けない俺にも、

 

「…ルージュ、貴方は何も聞かなかった。…良いですね?」

 

鼻と鼻とが付きそうな程の至近距離でそう言われた。圧倒的美貌のレアさんが間近、本来であれば嬉しい限りであるけれど…ただただ恐い。俺は一歩下がって大きく頷き、回れ右をしてから逃走した。背後から、

 

「ルージュ、見捨てないでくれ!!」

 

というセテスさんの叫びが聞こえたけれど知らん! ぼそりと囁かれた、

 

「………恋をしてみますか?」

 

というレアさんの言葉も俺は知らん! …撤退だ撤退! 速やかにコーデリア領へ戻るぞ!!



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第13話 ~彼女の決断。

ールージュー

 

ファーガス神聖王国との件とカトリーヌの件、それらをガルグ=マクへと赴きレアさんに報告。カトリーヌの件での流れでセテスさんが発言、その直後に出現した黒レアさん。それにビビった俺は逃げた、セテスさんの叫びをこの背に受けながら。

 

ガルグ=マクからの脱出劇? に連れの騎士達が怪訝な顔をしていたけど、…何事もなくコーデリア領へと帰ってきた。帰ってきて早々にシーサーの下へ、レアさんからの配慮を聞いてシーサーは安堵した。ファーガス神聖王国側もセイロス教を敵に回すことはしまい、…よってシーサーの父親であるロナート卿とその領地は守られた。シーサーの不名誉を除くことは出来ないようだが、実家が何とかなったのならそれでいいみたい。自分のことよりも父親を含めた領地が大事…か、その心根や良し! その想いに報いてやらねばならん。

 

…とは思ったものの、やることはいつも通りのことになる。実家へ帰ることは出来ないが、この白蛇騎士団で活躍すれば少なからず名を上げることは出来る。名を上げればロナート卿の耳にも入る、そして安堵しその活躍を喜んでくれるだろう。間接的親孝行大作戦だ、…会えないわけだからな。…一応レアさん達に頼んでロナート卿にのみシーサーのことを伝えてある、よってシーサー? 誰? …とはならない筈。俺に抜かりなし、故に頑張ってくれよ? シーサー。

 

 

 

 

 

 

ダスカーの件をガルグ=マクへと報告してから数ヵ月、その間にセテスさんからの恨みが綴られた手紙を貰ったが気にしない。元々才能があったのであろうシーサー、彼は白蛇騎士団の名に恥じぬ所属騎士になった。その傍らにいるカトリーヌ、女としての自分に目覚めてある意味覚醒。ヒルダちゃんへ教えを請いお洒落に、…狂犬カトリーヌが消えてしまった。シーサーの前で恥じらう褐色の女は誰だ!? …と同時にそろそろガルグ=マクへ戻る頃合いじゃないッスかね?

 

我が愛する義妹のリシテア、彼女は変わらずに元気一杯だ。よく寝て、よく食べて、よく魔法の勉強をして、よく遊んで…ってな感じで充実しているっぽい。カトリーヌに習ったのか、最近じゃあ剣の素振りをやっている。小さい身体に大きな剣、何か萌えるよね? 『…わぁ~っ!?』って剣に振り回されているんだもの、マジで尊く、…そして可愛い。…興味を持ったのが槍であったのなら、俺が教えてあげれたのに! …教えられない分はマリアンヌちゃんに教えるからいいもんね。

 

ヒルダちゃんはコーデリア領に入り浸っている、…ゴネリル領にはあまり帰ろうとしない。公爵である親父様とホルスト君が泣くぜ? …知らない? …何があったんだゴネリル公爵家。それはさておきカトリーヌの影響を多大に受けたのか、どうにも俺との距離が近すぎるような気がしてならない。そして何処で知ったのか、髪型をツインテールからサイドテールに変えたっぽい。…俺がサイドテールを最も好むと誰に聞いた? ………つーかリシテアしかいないか。…全くリシテアの奴、良い仕事をしやがるぜ! そんな髪型にされちまったら今まで以上に可愛がっちまう、…が習い事はさぼらせんからな? ヒルダちゃん。

 

リシテアやヒルダちゃん、カトリーヌ達が各々でやっている中…マリアンヌちゃんの様子が少し変だ。どうしたのだろうか? …と考えていたところ、義父上の口から理由を聞かされた。

 

「マリアンヌ嬢の実家へ養子の話があったようでな、…その報を聞かされ悩んでいるのであろう。相手方はエドマンド辺境伯、立派な方ではあるがマリアンヌ嬢の紋章を考えるとなれば…ってヤツだ。」

 

…なるほど、養子縁組ってヤツか。世話になっているからだろう、義父上にこの話を素直に話した。…と言っても下手に絡むことはせず、本人の意志を尊重する形にしているようだがね。そうであるのなら俺は何も言うまい、彼女がどのような決断を下すのか見守ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

マリアンヌちゃんの養子の件、それを聞いてから暫く、

 

「…ルージュ様、その…お話があるのですけれどよろしいでしょうか?」

 

とマリアンヌちゃんが話し掛けてきた。勿論快く了承し話を聞いてみれば、マリアンヌちゃん…彼女はエドマンド辺境伯の下へ養子に行くことを決めたみたいだ。このまま俺の…コーデリア伯爵家の庇護下から離れ、エドマンド辺境伯の養子として自身を磨きたいらしい。

 

ネガティブ思考だったマリアンヌちゃんが変わったものだ、…この成長を嬉しく思う。俺がうんうん頷いていると、マリアンヌちゃんが真剣な眼差しで俺を見詰めており、

 

「あの…最後に願望といいますか、…お願いがあるのですけれど聞いて下さいませんか?」

 

とのことなので耳を傾けてみれば、

 

「私…、エドマンド辺境伯の養子として精一杯頑張ります。胸を張れるような淑女になれましたら、その時は…その………。よろしければ私と…、ルージュ様と婚約を結ばせては頂けませんでしょうか!」

 

潤んだ瞳、顔を赤く染めた彼女の言葉に俺は面食らう。

 

……………マジで?



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第14話 ~婚約に向けて。

ールージュー

 

マリアンヌちゃんがエドマンド辺境伯の養子となる、彼女がそう決めた。その決意を聞かされた俺は彼女の成長を嬉しく思い、それと同時に寂しく思った。槍を教える相手がいなくなるというのもあるが、それ以上に妹のような…家族だと思っていた娘が巣立つのだ。そりゃあブルーにもなる、けれど顔には出さん。常にマリアンヌちゃん、リシテアやヒルダちゃんの前では強くあれ! …ってね。

 

 

 

 

 

 

…しかしながら、そんな俺でも今回ばかりは本気で驚いた。まさかマリアンヌちゃんから婚約の話が出てくるとは、しかもマリアンヌちゃんが俺に申し入れたんだぜ? まぁ彼女が淑女になったらっていうのが前提だけど。

 

その前提も今のマリアンヌちゃんなら達成出来るだろう、エドマンド辺境伯の下で淑女となる筈だ。それがいつになるかは分からない、…がそれではダメだ。何故なら俺は貴族、それも名の売れている優良物件だ。引く手あまたの男…らしい、義父上の話によると。よって長くは待てんのだよ、マリアンヌちゃんの申し出は嬉しいんだけどもさ。

 

…だから俺は努めて冷静に、

 

「有難い申し出だけど、…条件を付けてもいいかな?」

 

マリアンヌちゃんにそう返した。俺の言葉を聞いて瞳に不安の色が宿るも、彼女は大きく頷いて俺を真っ直ぐ見る。俺も彼女の目を真っ直ぐ見て、

 

「…2年、2年で何かしらの成果を上げてくれるかい? 私は2年後、ガルグ=マクの士官学校へ行かねばならない。その時までに立派な淑女…それに準ずる君となって会いに来てくれ、条件をある程度満たしていたのなら私の方からマリアンヌ…君に婚約を申し入れよう。」

 

そう伝えた。

 

 

 

 

 

 

今は1176年、正確に言うなら後2ヶ月で1177年。2年後、1179年に俺はガルグ=マクの士官学校へ入らなければならない。今更という気持ちがあるけれど、貴族としての顔つなぎをせねばならんのだ。更にそこで婚約を結んでいなかった場合、その相手を探す…という側面もあるようでね。

 

士官学校へ行く前に相手を見付ければいいのでは? と思うだろうが、暇そうに見えて俺はいつも忙しなく動き回っている訳で出会う暇もなし。例え義父上の言う引く手あまたの男だとしても、暇がなければ女性と会えないのは必然というわけなのだよ。

 

だからこそ、マリアンヌちゃんからの申し出には驚いたし嬉しかった。本音を言うならこのまま婚約を結びたい、なれど彼女の淑女になる…という目標をないがしろにするのはね。変な所で生真面目さを出す俺、…我ながら難儀なものだと思う。

 

 

 

 

 

 

2年という条件を聞いたマリアンヌちゃん、賢い彼女はそれで色々と察してくれたようだ。

 

「…2年。…それまでに目標とする淑女になれば、…ルージュ様から私に? ………頑張ります!」

 

察した上でやる気に満ち溢れている。そんなに俺と婚約したいの? …何かこう、…本当に嬉しいね。俺も宣言したようにこの2年間、ないとは思うが婚約話があったとしても断るようにする。

 

一応義父上にも話しておかねばならない事案だ、俺とマリアンヌちゃんの決意を。…反対されるかな? って思ったんだけど、反対されずにぎこちない笑顔。何故にぎこちない笑顔? …何て思っていたんだけど、数時間後に理由が分かった。

 

 

 

 

 

 

その夜、自室にてこれからのことを考えていた時、

 

コンコンッ…

 

という控え目なノックが部屋に響いた。こんな夜更けに誰だ? そう思いつつドアを開けてみれば、そこにいたのは寝間着姿のヒルダちゃんだった。自分の部屋へ戻るよう言おうとしたのだが、

 

…ボスッ

 

と俺に抱き付いてきたかと思ったら、

 

「うぅ~…、うえぇ~………。」

 

と泣き出してしまった。この状態で戻るように言えない俺は、泣き止むまで面倒を見ることに決めた。

 

部屋へ招き入れたヒルダちゃんをベッドの縁に座らせ、俺は椅子へと座って対面する。隣に座って慰めるべきかもしれない、…が妹みたいだとはいえそれはダメだろうと考える。マリアンヌちゃんとの約束もあるし、2年間は女性と親しくならんようにしないと。…っていうか、部屋へ入れた時点でアウトか? と考えている内に泣き止んだヒルダちゃんは潤んだ瞳を俺へ向けて、

 

「…ルージュ様がマリアンヌちゃんと婚約を結ぶ、それに向けて行動すると聞きました。………本当ですか?」

 

そう聞いてきた。義父上にでも聞いたのかな? …ヒルダちゃんが聞いているのであれば、我が愛する義妹であるリシテアも聞いているであろう。…またあの下品なしたり顔で周りをうろちょろしだすな? …何て考えつつ、頷いて肯定し説明しようとしたのだが、

 

「…何故? …何故ですか!? …あたし、あたしの方がルージュ様のことを知っているのに! …共に過ごした時間が長いのに! …ずっとずっと、…ルージュ様のことが好きだったのに。………うぅ、…どぉしてぇ~………。」

 

俺を遮ったヒルダちゃん、その心の内を吐き出した。その吐き出した訴えを聞いた俺、…俺はどうすればいいのだろうか?




因みにこの話の中の淑女とは、そのままの意味の他に戦闘能力は勿論のこと、戦闘時にパートナーの補助を冷静に出来る女性のことをいう。


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