オルタズinラスベガス (えすぷれっそ・2)
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オルタズinラスベガス

ラスベガスのホテルの一室

 

そこで彼女はベッドで不貞寝していた

 

カジノが沢山あるのだからやらなくては損だ、儲かればあの聖女サマにも、いけ好かない冷血女にも自慢出来る。

 

そんな淡い期待を胸に、勇んでカジノへ突撃したのはいいものの、ポーカーは何度繰り返しても役が揃わないし、ルーレットは出目が当たらないどころか色すら一度も当たらない始末。

 

では、となけなしの残金で挑んだスロットは負けに負けてから、そもそも自分のやるべきタイプのゲームではないことに気が付いた。

 

そう、己の性質上、事前に知識の必要なものであれば努力は惜しまないが、全てを運に任せるようなものは手を出すものではなかったのだと。

 

成る程、これがギャンブル。負けが続けば精神的にも焦りが生まれ、正常な判断が出来なくなるものか。

 

と、苦し紛れに自分はまた一つ学んだと言い聞かせるものの、軽くなってしまった財布に落胆の色は隠せず、そこまで減らしてしまった少し前の自分へのやるせない怒りも湧いてくる。

 

元はといえば自分の責任でしかないのがわかっている為、八つ当たりすら上手く出来ない苛立ちに、ただただ落ち着く為にベッドで横になっていた。

 

窓の外は気が付けば薄暗くなっている。気持ちも落ち着いてきた、夕食でも摂りにホテルの階下へ降りようかと支度をしていると部屋に備え付けのインターホンが鳴る。

 

マスター?いや、マスターは今年もなにやら面倒に巻き込まれていた筈。などと思案を巡らせている内に何度もインターホンが鳴る。

 

「うるさいわねえ、誰よ」

 

と悪態を吐きつつ、ドアを開けるとそこには見慣れた、否、見たくもない筈の女の姿。

 

「なんだ、アンタか。何か用かしら、見ての通り今凄く機嫌が悪いんですけど」

 

「貴様の機嫌が悪いのはいつものことだろう。そうだな…さしずめギャンブルで負けた、そんなところだろう?」

 

態とらしく睨みつけるも、コイツは一切気にした風もなく、それどころか忘れようと隅に追いやったことを突いてくる。相変わらず嫌味な女だ。

 

「…うっさいわね、だったら

なによ?アンタには関係ないでしょ」

 

「嗚呼、貴様がギャンブルで負けていようと関係ないな。だから行くぞ」

 

…コイツまた言った。本当にムカつく。

 

「……何処に行くってのよ?」

 

「フ…馬鹿か貴様は。ここはラスベガスだぞ?ラスベガスの夜に出向くといえばカジノしかないだろう」

 

「…アンタ嫌味にも程があるわよ?金が無いの、私は行かない。」

 

「誰が貴様に賭け事をしろと言った、それこそ金を捨てることになるだろうが」

 

…この女、私にはまるで勝ち目がないとでもいう口振りだ。然し、一度の勝ちも拾えなかったのは事実で、思わず押し黙ってしまった。

 

彼女が黙ったのを見て、片口端を僅かに吊り上げ勝ち誇ったような笑みを見せて、言葉を続ける。

 

「そんな負け犬の貴様には特別に私の供をさせてやるというのだ。分かったか?では下で待っている、今すぐに支度してこい」

 

押し黙った隙に、此方が口を挟む暇もなく、一方的に用件を伝えてはドアを閉めて行ってしまった。

 

…そういえば、さっきのアイツはドレス姿だったっけ。

 

––––––––エレベーターを使って階下に降りると、仏頂面とも、無表情とも取れる面持ちでアイツが立っていた。

 

「遅い」

 

私が近付くと一言、それだけ呟く。

 

「なに言ってんのよ、そもそもいきなり部屋に来て勝手なこと言って出て行ったのはアンタでしょ。来てやっただけ有り難く思いなさいよね」

 

「フ…金もないのだ、どうせ暇を持て余していただろう?寧ろ私の供を出来ることを有り難く思え」

 

そう言ってはアイツは先に歩き出した

 

「ちょ、待ちなさいよ!」

 

人を呼んでおきながら、さっさと歩き出したアイツにイラつきながら、慌てて後を追いかける。

 

 

…久々に身に付けたドレスは少し歩き辛い。

 

 

 

 

 

 

冷血女について歩くカジノは自分一人で行ったカジノとは別物に思えた。

 

入店するなり迷わず最高レートの席に着く。最初はその行動に驚いたが、驚くのは更にその後だ。

 

ポーカーではディーラー相手に正にポーカーフェイス。役が出来ていようと、出来ていなかろうと全く悟らせずに常に勝ち越し続ける。

 

ルーレットは無謀な一点賭けをしているにも関わらず、吸い込まれるようにボールは選んだ数字へ。

 

次々と勝ち続けるが、数回勝ち越すとあっさりと店を出て他のカジノを探しに歩く。

 

私はアイツについて歩くだけだけど、ここまで勝ちっぷりを見せ付けられると此方まで気分が良くなるものだった。

 

スロットは?と訊いたら

 

『駆け引きのない勝負はつまらん』

 

だそうで。私からすれば全て運に大きく左右されるものだと思うのだけれど、アイツにとっては違うらしい。

 

勝っては店を変えてを繰り返している内に、夜は更けていく。

 

日付も変わった頃には満足したのか、カジノではなくバーに入ろうとするが、そこは明らかに高級店だ。

 

口惜しいけど、今の私にそこまでの余裕はない。カジノ巡りが終わったのなら充分だろう。

 

「じゃ、私は帰るわ」

 

「なにを言っている?私は供をしろと言ったのだぞ」

 

一言だけ告げて、ホテルに戻ろうと思ったが、手を引かれて強引に入店させられてしまった。

 

カウンター席に二人で座るのだと察しては、なんとなく。ただなんとなく、一つ席を空けようと思っていたのだけれど

 

「貴様の席はここだ」

 

と一番端の席に座らされ、アイツが隣に座った。

 

バーテンダーに注文を聞かれる前に

 

「マティーニ。コイツには…スティンガーを」

 

と私の注文まで勝手に決める始末。

 

「…アンタねえ」

 

思わず文句を言おうとするも

 

「なんだ?どうせ貴様払えないのだろう。なら私が決めてもなんの問題もあるまい」

 

「ん……むぅ…」

 

最初から持ち金がないと決めつけられるのは癪だが、暗に奢ると言われてはこれ以上口を返す気にもなれない。

 

なにより注文された後に『それなら貴様が自分で払え』などと言われてはたまったものではない。

 

「お待たせしました」

 

バーテンダーの言葉と共に目の前にカクテルが置かれる。

 

勝手に注文されたカクテルを見てから、隣に視線を移すと既にグラスを傾けているのが目に映る。

 

バー特有の仄暗い灯りに照らされ、カクテルを傾ける白い肌に整った横顔。

 

…見惚れてなんかいない、絶対に。

 

グラスを置いて、視線に気が付いたのか此方を見るアイツと視線がぶつかる。

 

なにもなかったかのように、視線をすぐ正面に戻しては私もグラスを傾ける。

 

アイツがこっちを見ている気もしたけど、それは気の所為だろう。

 

私とアイツは特に言葉も交わさず、ただアイツが注文する酒を黙々と飲む。

 

その様子を見て、私とアイツがただの相席だとでも思ったのか、スーツ姿の男が笑顔を貼り付けて私の方に近寄ってきた。

 

「今晩は、綺麗な方ですね。もしよければ私と「マスター」」

 

スーツの男が私に話し掛けている途中で、その声を遮るように冷血女がバーテンダーを呼ぶ。

 

男はやや不機嫌そうに冷血女を見るも、一瞬硬直して、ただその横顔を見つめている。

 

…まあ、黙っていれば整っている顔なのは確かだし、並の男であれば当然の反応

なのかも知れない。

 

「コイツにマルガリータを」

 

男が何も言わずにいるうちに、冷血女は私用のカクテルを注文する。

 

私に話し掛けてきた男は一瞬目を見開いた気がするが、それだけで何も言わずに離れていった。

 

冷血女の殺気にでもあてられたのだろうか、それとも私…?どちらにせよ関わるとヤバい奴だと思われたのだろう。

 

いまいち理由はハッキリしなかったが、既にアルコールの入った頭で考えるのは面倒で、目の前に置かれたカクテルを呷った。

 

 

 

 

 

–––––––どれだけの時間、どれくらい飲んでいたのかは分からない。

 

ただ分かるのは今、隣のアイツに肩を貸された状態で歩いているということだ。

 

金だけ払って、置いていってもおかしくないと思うのだけど、何故かコイツはそうしなかった。腐っても騎士王、その『騎士』の部分が染み付いていて放っておけないのだろうか。難儀な奴。

 

覚束ない足取りで、未だに煌々と灯りの満ちる夜の街を歩き、ようやくホテルの正面玄関に着く。

 

「着いたぞ、突撃女」

 

「…エレベーター」

 

隣で小さく溜息が聞こえた気がするが、関係ない。付き合ってやったのだから最後まで付き合わせてやる。

 

エレベーターに乗って上がり、私の部屋の前まで着く。

 

「…おい」

 

アイツの言葉にただルームキーを取り出す。

 

一瞬間をおいて、それを私の手から取ると鍵穴に差し込み、ドアを開ける。

 

ホテルの入り口からずっと肩を貸されたままの姿勢で歩き、私もアイツも靴を適当に脱ぎ捨てて部屋の中へ。

 

冷血女は、ようやく解放される、とばかりに溜息を吐き、ベッドの上に私の身体を雑に下ろす。

 

「…ではな。今度は飲み過ぎるなよ」

 

と、余計な一言を付け足して、部屋を出ていこうとするアイツの後ろ姿に、私は何か言い返してやろうと思って口を開いた。

 

 

 

 

 

–––––翌朝、何故か冷血女が隣で寝ていた。

 

先に目を覚ましていたらしいアイツはニヤリと、意地の悪い笑みを、目を覚ましたばかりの私に見せている。

 

何を言ったかは覚えていない。

 

……覚えてないったら、覚えてない!

 

 

 




夏イベの舞台でオル邪ンを絡ませたいと思ったらこうなってました。

カクテルには一応全て意味があります。

マティーニはカクテルの王様なので、オルタにはそれしかないと。

スティンガーは皮肉屋、といった意味を持つので彼女に。

マルガリータは「無言の愛」
ジャンヌオルタに悟らせず、絡んできた男に「自分の女だ」と主張する為に、態々遮って注文してます。勿論邪ンヌは分かってない。

最後に去り際のオルタに邪ンヌはなんと言ったのか、二人はあの夜どう過ごしたのか。

それはご想像にお任せします。


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