「信濃」戦記録 (扶桑畝傍)
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1930年・序章「居る筈の無い人間」

第一次世界大戦と呼ばれた戦争が終わり
その傷を癒す為、
より軍備増強に動き出していた。



 

それは日本が、まだ“大日本帝国”を

名乗っていた頃の

1930年“ロンドン海軍軍縮条約”の制定により

軍部は揉めに揉めた

「ふざけるなっ!!」

ある軍人は叫んだ。

「・・・いや、

 アイツならやってのけるだろう、

 誰か、“畝傍”を呼んでくれ。」

「幽閉されて、

 叶わないかと思いましたよ。」

少し痩せてはいたが、

内に秘めた“炎”は消えていなかった。

「まさか、本当に軍縮条約が

 制定されてしまった以上、

 貴殿に“我が軍の強化策”を

 陛下に提示していただく。」

「・・・わかりました、お願いします、

 “戦争で負けても

  ただでは終わらせない為に”」

「うむ、

 して、どれだけ必要なのだ?

 自由に出来る量も限りがあるのだ。」

この軍人も、懐が厳しいのだろう

「スケッチブックがあれば

 俺が記憶していて

 実現性の高い物に限れば、

 30冊ぐらいで済むかと。」

あ、ほっとしてる。

「早速始めよう、

 して、いきなりコレか。」

「はい、

 船越二郎と言う方に

 連絡が必要です。」

「・・・理由は?」

「“表の最強戦闘機”を造って貰う為です。」

「表?」

「俺が覚えているのは

 “陽の目”を見なかった物や、

 戦局悪化により、部品すら作れなくなって、

 計画書倒れの物ばかりです、

 なので、“裏の最強戦闘機”や、

 陸上兵器、海上兵器もそれに伴う物、

 そして、“油田の記憶も無くなる前に”

 書き起こしたいのです。」

「無資源国家ゆえの宿命だな、

 わかった、海軍には

 俺から話を進めておこう。」

「戸木田(ときた)大佐、

 俺を上手く使って下さい。」

「対、中国が来年、

 ・・・対、米開戦まで僅かに7年か、

 間に合うかな?」

「帝国海軍に弱気は要りません、

 違いますか?」

「・・・そうだな、畝傍、

 資料の書き出し、急げよ?」

「は、この命に掛けましても。」

史実をなぞりつつ、“二人の日本人”により

日本は変わって行く

ドタドタと、誰かが走って来る

「畝傍っ!!」

バタンと荒々しく開けられた扉は

取っ手が壁に跡を付けていた

「始まったぞっ!!満州事変だっ!!」

「戸木田さんっ!!

 大至急、これを実現させてくださいっ!!」

「来て早々なんだ?

 ・・・これはっ!?」

「12.7cm砲なら、腐る程造れます、

 単装砲ですから、工程を簡略化出来ます、

 前面装甲に関しては

 チハの装甲板を2枚ずつ重ね、

 隙間を開け三層構造にし、

 チハ二台の資材で

 現状の戦車に対応出来るのは居ません!!」

「しかし、これを陸軍が聞き入れる訳が。」

「誰が陸軍に開発を依頼するんですか?

 海軍ですよ、海軍陸戦隊の

 “主力戦車”にするんです、

 実用性、汎用性、機関部の部品統一による、

 全体資材の消費削減、

 そして艦艇用ジィーゼル(ディーゼル)の

 機関開発部にも、指導を依頼するんです、

 ガソリンを

 ふんだんに使えないのは周知の事実、

 “菜種油”など、植物性油で動く機関を

 造って貰うのです。」

1935年12月

「これが量産試作戦車。」

「あぁ、畝傍さんのトンでも発案で

 出来上がっちまった、化け物戦車だよ。」

「何両、出来たのですか?」

「・・・20両だ、

 まさか、コイツ等を中国に持ってくとか

 言うんじゃねえよな?」

「5両で良いです、

 5両を部品取り、残り10両を、

 南方戦線に送り込みます。」

「あ?南方だぁ?」

「我々の油を求めるには南方以外、

 現状はありません、

 ゴムやそういう工業資源も、

 アメリカから止められている、

 もう、残された時間はないのです。」

「畝傍、輸送船の手配は出来たが、

 護衛はどうする?」

「確か、大湊の第二水雷戦隊があった筈です、

 彼らにお願いしましょう、

 津軽海峡、日本海の荒波を

 重々知っているでしょうから。」

「ちょっと待ってください、

 20両を全て動かすんですか?」

「はい、今はなりふり構っていられないのです、

 南方へはまだ進出出来ないので

 今しばらく10両は残ります、

 その間に、

 “新型の開発を進めて欲しいのです”」

「この試作戦車だけでも

 “嬉しさ半減、金策が苦しい”のです、

 出来る限り進めはしますが、

 追加の資金、資材が無い事には。」

「わかっています、

 御上にも、お伝えしておきます。」

「で、だ。」

「はい。」

「ガーラット式蒸気機関車の資料だと?」

「はい、

 現状のD50では、いずれ力不足になります、

 それを、“国内長距離戦時貨物急行”に

 充当すべく、

 開発を川崎車両に大至急お願いしたいのです。」

「正気か?

 確かに鉄資源が厳しくなるのは周知の事だが、

 残存しているD50を解体、ガーラット式に改造、

 川崎が承認するか・・・。」

「海軍が注目していると言う噂を流すんです。」

「・・・しかし。」

「我が大日本帝国の長距離路線は

 ほとんどが“狭軌”1.067mmです、

 この軌間を最大限使うには

 キツイ勾配、

 曲線をいかに早く駆け抜けるかに掛かっています。」

「機関士、補助機関士の二人で、

 “重連”の能力は魅力的だろうが、

 維持管理はどうするのだ?

 デメリットを鑑みると、

 慣れているD50を素直に重連し、4人で運用すれば。」

「それと並行して、

 単機での馬鹿力担当も試作、

 製造を進めて貰いたい物があるのです。」

「なにぃ?」

スケッチブックを見せる。

「艦船用の蒸気タービンで使う“復水器”を、

 炭水車二両の容量で効率化だと?」

「それと、石炭が不完全燃焼する際、

 “一酸化炭素ガス”を再燃焼に使い、

 さらなる熱量をボイラーに叩き込みます。」

「・・・これは、“艦艇にも?”」

「ソレ用はコレです。」

「“仮称・改・天龍型軽巡洋艦・石炭機関想定計画”

 ・・・魚雷も4連装2基、

 しかし、この主砲は?12.7cm連装高角砲これでは、

 火力不足ではないのか?」

「これは対航空攻撃用です、

 主砲はこれにします。」

「15.5cm三連装砲艦首2基、

 これならば大抵の敵に対処出来るだろうが、

 艦尾のこれは?」

「水偵の甲板です、

 この先の戦いは、“目”の戦いです、

 電探の開発は鈍重と言わねばならない程に遅いのです、

 これは中島飛行機に依頼します、

 恐らく、三菱は“表の最強戦闘機”の製作で

 最大限工場を稼働させるはずです、

 なので、この戦闘偵察機は、

 “裏の水上戦闘機”になります。」

「・・・お前の言う、

 世界大戦の1939年か、1940年は、もはや目前、

 中島飛行機には、海軍からの直接依頼として出そう、

 しかし、改・天龍型の製造をどこにやらせるか。」

「条約脱退前提ですから、

 改装で主砲、高角砲の変更はできます、

 ・・・浦賀船渠では出来ませんか?」

「浦賀を?良く知っているな、

 あそこなら駆逐艦の実績もあるし、

 丁度空いていたな、

 早速発注を掛けよう、

 となると、輸送船やら・・・。」

「だから、

 “国内長距離戦時貨物急行”用の機関車の製造も

 大至急お願いしたいと言ったのです。」

「そうすると、東海道線の“重量対応更新工事”を

 大急ぎでやらねば成らぬな、

 横須賀線は元々の対応工事が進んでいるから、

 大きな問題は無い、まったく、

 お前の頭はどうかしているよ。」

「・・・否定する要素が少なくて困るんですけどね。」

 



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1937年 降臨・赤鬼、青鬼が逃げ出す最凶

1937年6月10日に竣工し、
各種試験・訓練を実地する筈だった
艦艇が一隻あった。

しかし、半月もせず
1937年7月6日
中国国民革命軍の不穏な動きと
日本軍の夜間演習のさい
中国軍(中国国民革命軍・以降・中国軍)からの
“実弾の発砲”と言う
火ぶたが切って落とされてしまった。


1937年7月4日

完成した“軽巡洋艦”は、

名前を

『狩川(かりがわ)』級多機能試験巡洋艦

と、命名され、

35年に除籍、解体されていた

“日進”の乗員を放り込んで、

オマケの新兵も放り込んで、

駆逐艦“深雪”の生き残りも乗せて、

暫定乗員756名を確保し、

“龍驤”と共に、

盧溝橋事件(ろこうきょうじけん)へ

緊急参戦した。

「しかし、

 いきなり実戦とは。」

戸木田さんは頭を抱えながら俺を見る。

「言い方は悪いですけど、

 “中国”には、実験と粗だしに付き合って貰います。」

「だが、ろくに艦内を把握せず、

 兵装の取り扱いもままならん、

 大丈夫なのか?」

あ、この人は艦長の湯浅中佐

第一次大戦を士官候補生として生き延び、

着実に階級を上げて来た人で、

“一番の常識人”

「そこは龍驤の艦長にお願いして、

 “赤鬼、青鬼でさえ、龍驤と聞けば後ずさりする”

 そう言う実戦訓練で身に付ければいいかと?」

あれ?艦橋の人たちも、

戸木田さんも、湯浅さんも固まってる?

「まさか、呼んでないよな?」

「そ、そぅそぅ、呼んでないよな?」

「駄目でした?もう内火艇で向かっていると

 発行信号で確認しましたけど?」

普通はあり得ないが、

この畝傍の頭の中では

“経験者から見て盗み覚える”意味合いで

“龍驤の艦長”を呼んでいたのだ。

「ほっ!?ほうこくしますっ!?」

あ、艦長付きの方だ

「ま、まさか?」

「龍驤の艦長、

 岡田艦長大佐がイラッシャイマシタ。」

「ほぅ、奇妙な巡洋艦が着いて来てはいたが、

 なかなかどうして、良い艦だな。」

「初めまして、岡田大佐、

 私がこの艦の発端である畝傍です、

 一週間もあれば、貴方の乗組員の様に、

 一糸乱れぬ行動、実戦への適応が可能と思い

 お招きした次第です。」

「ふん、当然だ、この艦は竣工したてと聞く、

 現状の問題点は何かね?」

「はい、かき集めた人員であるが故に規律の乱れ、

 搭載航空機要員の練度も

 お恥ずかしながら初心者同様、

 なれば、“赤鬼、青鬼が龍驤と聞けば逃げ出す”と、

 ならば、そこから技術を盗み物にし、

 我が艦の生存率を上げ、

 敷いては

 帝国海軍の勝利の礎になれればと思う次第です。」

「ぶはははっ!?

 貴殿は職人気質なのか?」

「いえ、いずれは“私の構想にある”巨大空母の

 艦長をお願いしたいのもあります、

 だからこそ、空母を運用するノウハウを

 私自身、実際の現場から声を聴きたいのです。」

「巨大空母とは大きく出たな小僧、

 少佐は技官でもあるのか?」

「近い・・・ですね、なにせ、

 実現出来る物を片っ端から試しているだけです、

 出来れば、“水上戦闘偵察機・衝雷”を、

 実際に乗っていただき、

 様々な観点から“改修”の案を教授できれば

 尚嬉しいのですが、如何でしょうか?」

「なに?水上戦闘偵察機?

 どんなものだ?」

「腕は確かな搭乗員は居るのですが、

 何分、“今作戦が初陣”

 最前線を知る岡田大佐なら、

 よりいい経験を授けてくれるものと

 確信しております。」

概要を書いた“衝雷”の説明書を受け渡す。

「ほぉ、

 37mm機関砲を6発も、

 20mm機関銃を4丁、

 7.7mmと20mmの組み合わせに、

 7.7mmと航空写真撮影器、

 なにぃ?爆装も可能なのかっ!?」

「はい、

 25番(250kg爆弾)1発、60kgを3発、

 対潜水艦用爆弾を2発、増槽も付けられます、

 しかし、複座であると、25番を詰めず、

 固定兵装を、37mm機関砲1丁、

 20mm2丁か、7.7mm2丁に限定されます。」

「ふむふむ、

 ならば、複座で60kg2発と、37mmで、

 どれだけ飛べる?」

「・・・おおよそ1000kmですね、

 戦場での機動戦闘を鑑みると、

 作戦半径は、300km前後でしょうか?

 先に投弾し、60kgを降ろした後なら、

 もう少し無理が効く筈です。」

「これだけの高性能水上機、

 なぜ話題に何一つ上がらない?」

「“裏の顔”です、

 表は零戦に任せ、“裏”に徹すれば、

 より凶悪な機体を開発実現出来る物と

 思いこそしますが、受け入れられない事が

 大多数であろうと予測しての処置です。」

「・・・確かに、

 フロートでは無く、着陸装置であれば、

 “零戦”を簡単に上回れるであろうな、

 苦労して造った零戦を

 どこの馬の骨とも分らんヤツに

 追い抜かれるのだからな。」

「はい、それで航空機開発が止まっても困るのです、

 それにそれだけに集中は出来ません、

 岡田大佐に乗って貰う空母も

 造らねばならないのですから。」

「・・・はははっ!!

 ならば複座で準備せよ、

 中国軍に挨拶しに行こうでは無いか!!」

「湯浅艦長、

 十田飛曹長を起こして貰えませんか?」

「・・・はっ!?

 し、しかし、畝傍少佐、

 岡田大佐を勝手に乗せたとなると

 軍法会議物・・・って、これは?」

「戸木田さんに準備して貰ってた

 “岡田大佐が衝雷に乗る為の許可証”です、

 ほら、ちゃんと大本営の物ですよ?」

「・・・わかった、

 おい、直ぐに機体の準備と飛曹長を叩き起こして来い。」

「はっ!!」

「おい、畝傍少佐。」

「はい。」

「あれは偽造品だな?」

「流石岡田大佐、

 直ぐにバレましたか。」

「そうまでして、俺を乗せたい理由は?」

「・・・加賀、を、ご存知ですよね?」

「・・・あぁ。」

「非公式の情報筋では、

 貴方の次の乗艦は、“加賀”と

 噂が立っているのです。」

「・・・それで?」

「現職の声を聴きたいのは事実です、

 それと、

 ・・・加賀と、岡田大佐を、

 失わない為にも、必要だと思っての私の我儘です。」

「・・・そのような海戦が起こると?」

「・・・おそらく。」

「昔からな、

 “良からぬ予感は当たるのだ”」

「・・・えぇ、聞き及んでいます。」

「貴殿からはな?

 それを一切感じないのだ、

 先の加賀と俺を失わない為と言うのも、

 なんら違和感なく受け入れられたのだ。」

「・・・ありがとうございます。」

「だが、貴殿はどこの“日本”から来たのだ?」

「・・・まさか?」

「夢だと思っては居たのだが、

 しかり、“何一つ違わぬ歴史”を、

 繰り返しているのだ、

 だが、貴殿は、今まで“いなかったのだ”

 繰り返して来た歴史の中で、

 貴殿はいなかった、

 だが、ここに居る、

 つまり、変革を求められているのだと

 疑案としていたが、確信に変わったよ、

 お前も、“どこかの日本”から来たのだろう?」

「・・・そうですね、

 西暦で言えば2020年の冬から、

 俺はここ、1927年の春に飛ばされて来たのです。」

「・・・そう身構えるな、

 あの戸木田とか言う奴も“いなかった”のだ、

 貴殿が改変する歴史、

 どの様に転がるか、見せて貰おう。」

がっしりと肩を掴まれた。

「この身に代えましても。」

「意味合いをわかってて言っているのか?」

「えぇ、俺が差し出せるのはこの身一つのみ、

 “来世ならぬ、別世・大日本帝国”を、

 生き残らせて見せます。」

今、『狩川』から初の射出を試みる

『複座・衝雷』が飛び出そうとしている。

「ふむふむ、

 良い発動機の音だ、

 よし、いいぞ?」

「はっ、はぃっ!!」

「大丈夫かなぁ~。」

「よく他人事の様に喋れるよお前は。」

「そう言う戸木田さんこそ、

 “どこの日本”からいらしたんですか?」

「・・・言えぬ、

 だが今世の日本は、

 あのような結末だけにはさせぬと、

 心に誓ったのだ。」

「・・・やれるだけやって、

 それでもダメだったら、

 また、考えましょう。」

「・・・ずるいな、それ。」

「龍驤には伝えてあります、

 直ぐに護衛として、

 九〇式艦上戦闘機を出してくれるそうです。」

「・・・燃料やら、速度差を考慮するのか?」

「・・・失念してましたね、

 まぁ、出さない選択肢はないので、

 攻撃を終えて、帰還する途中で

 合流出来るでしょう、

 37mm機関砲1丁と、60kg2発、

 小型増槽一つの最大荷重装備ですからねぇ、

 好き勝手暴れて来るんじゃないですかねぇ。」

奇しくも、7月8日04:30だった

「なんだぁ?

 陸軍の奴ら、演習してたんじゃないのか?」

「大佐、戦闘ですっ!?

 戦闘が始まっていますっ!!」

「慌てるな、小型増槽の中身はどうだ?」

「は、はぃ、間も無く無くなります。」

「では投棄し、戦闘準備を始め給え。」

「はっ!!」

投下用レバーを引き、

燃料管がきちんと閉じたランプが点く

「飛曹長、爆撃の経験は?」

「それが、模擬弾程度でして、

 実弾はまだ。」

「・・・俺が落とそう、

 その代わり真っすぐきちんと飛ばせよ?」

「りょ、了解しました。」

その正確に落とされた60kg爆弾2発は、

トーチカを瓦礫に戻す手間を省いてあげたのだ。

「命中っ!!命中ですよ大佐殿っ!!」

「馬鹿者っ!!付近を警戒しつつ、

 37mmを準備せんかっ!!

 この機関砲で、

 残りのトーチカを撃ち砕く、

 今度は飛曹長の出番だぞ?」

「トーチカをですかっ!?」

「あたり前だ、撃たれているのは

 “陸軍であるが我が大日本帝国軍だ”

 友軍を助けずしてなんだと言うのだっ!!」

「はっ!!

 では、手荒くいきますよっ!!」

「望む所だっ!!」

この日中戦争最初の頃の戦闘は、

まだ、騎兵や、歩兵が中心だったが、

戦車も幾つか参戦していたが、

中国軍の“トーチカ”を破壊できる力は、

まだ、陸軍に配備されていなかった。

そして、ただ、緊急参戦しただけではなく、

“あの12.7cm高角砲”搭載戦車も陸揚げされ、

既にこの地へ向かっている事を誰も知らなかった。

「腕は確かなのだな、十田飛曹長。」

「お褒め頂き光栄であります!!」

「ただ、妙な流す癖があるな。」

「え?」

「急降下時、ラダーに触っていないか?」

「いえ、私は触っておりませんが?」

「とすると、機体の癖なのやもしれん、

 空技省に再研究させよう、

 精々の500m急降下でそれが出るのだ、

 3000m急降下で、

 どれだけ機体の負担が増えるのか、

 最悪フラッターで、

 空中分解もしかねんだろう。」

「そんな・・・。」

「ったく、こう言う粗だしも兼ねて

 現職の人間の声が欲しいとは、

 上手い事俺は利用されてしまったな。」

「大佐を利用するなんて・・・。」

「いや、なに、俺は、

 根っからの飛行機乗りだってのを、

 思い出させられたと思っているよ、

 ほれ、逃げろ逃げろ、

 見覚えのある敵機が追撃に来ているぞ?」

「うわっ!?大佐っ!!気づいてたなら

 言って下さいよっ!!」

過給機のスイッチを入れ、

一気に10000mに駆け上がる。

「ほぉ~、これが過給機の威力か、

 追撃の奴らをもう突き放しているわ。」

「ただ、今回は上手く作動してくれましたけど、

 “工作制度”によっては、2、3回で、

 壊れてしまう事もあります、

 まだまだ正式には採用されないでしょう。」

「まぁ、常に動き続けていれば燃費に響くが、

 大型艦上機なら回しっぱなしでも支障はなかろう、

 なるほど、小型機には不向きだが、

 大型機には・・・ふむふむ。」

「・・・大佐?酸素マスクしてますよね?」

あ、なにか考え事をしてらっしゃる

「・・・帰ろう。」

今後、

彼は試作機の実戦テストに引っ張りだこにされ、

事あるごとに、岡田大佐と同乗し、

機体の粗だしもとい、

岡田大佐の飛行機乗りの

ストレス発散に付き合わされる。

「十田飛曹長、只今帰還致しました。」

「おぉ!畝傍少佐!

 あの機体の改善点でな?」

「はい、お願いします!」

「戸木田さん。」

「なんですか、湯浅艦長?」

「あの岡田大佐と航空機談義やら、

 構想談義に着いて行けますか?」

「・・・いえ、あんなに楽しそうなのに、

 横やりは入れられませんよ。」

「ですが、次作戦の指示書も来ていますし、

 そろそろ・・・。」

「そうだな、岡田大佐、畝傍少佐、

 大本営から新たな作戦書が届いています、

 大本営を無視するのは

 いささか不味いのでは?」

二人に睨まれた・・・俺のせいじゃないのに

「すまんすまん、

 ・・・畝傍少佐、

 どうやら、正式に“加賀”へ艦長として

 配属が決まったようだ、

 早く上って来い、そして、

 お前の巨大空母に新型艦上戦闘機、

 期待しているぞ!」

「はい、やはり貴方にお話しと

 機体の粗だしをお任せして良かった!

 ぜひとも現場の声代表として、

 ご教授願います!!」

あぁ、がっしりと握手しておられる

てか、残りの一週間で、叩き込まれるのか

「・・・せめて殉職者が出ない事を祈ろう。」

「なにか言ったか?」

「いえ。」

「殉職者・・・まぁ、実戦訓練に

 手を抜く馬鹿は我が大日本帝国軍には、

 “いませんよね?”」

「そうとも、おらんよな?」

龍驤乗員と、狩川乗員が、

死にかけたのは言うまでも無い。

一週間の猛訓練もとい

実戦訓練(中国軍に対して)

撃たれたら“3乗返し”を実地

陸軍から苦情を受けたが、

かの12.7cm高角砲戦車を、

6台あげたら大人しくなった。

自走砲とも言うらしいが、

外付け対応の単装25mm機関銃を

オマケで付けてあげ

弾薬補充も、燃料も、

海軍を通して補給するとし

拠点防衛だけでなく、

進軍の中核を担うようになっていった。

手持ちは4台に減ったが、

諸島にまだ拠点は無いので出番が無い。

砲弾は最大射程の火薬量前提で補給するので、

撃つ時は、射角と、

敵を真ん中に入れる事に注意すれば、

8割から9割の命中率を誇り、

外しても、地面を抉り飛ばし、何らかの損傷を必ず与えていた。

 



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1937年12月暮れ 強制的に表へ

「俺、なにしたんですかね?」
「俺が聞きたいよ、
 まさかアノ人から
 直接呼出しが掛かるなんてさ。」
「アノ人?」
思い当たるのは
どう足掻いてもアノ人なのだが
「山本さんだよ、
 スケッチブックを見られたらしい。」
「あっ。」



 

「して、

 君があの軽巡洋艦を造ったのかね?」

どう言う訳か海軍本部へ呼び出され、

1937年も終わる12月暮れ

「は、はい、山本五十六閣下。」

「閣下?まぁ、よい、

 貴殿は対米戦争を30年頃から

 訴えておったそうだな?」

「・・・どちらでソレを?」

「その山積みの

 スケッチブックは何なのだ?」

「ぁ~・・・。」

「もはや避けようがないのだ、

 ならば使える物を総動員する以外

 なんとすればよいと思う?」

「・・・日・独・伊を維持しつつ、

 “南方諸島の解放と擁護”が

 我が大日本帝国の

 課せられた使命かと。」

考えてる、ん?だよな?

考えているんだよな?

「擁護、これは南方諸島を

 守る事と言う意味で良いのかな?」

「え?あ、はい、

 侵攻ではなく、戦火から守る目的で、

 資源の買い付け、

 または供与して貰おうかと・・・。」

「なるほど、極力強制せずに、

 協力させる方に話を纏めたいのだな?」

「え、えぇ、

 対中国、対米、そして対ソ連も

 今後の課題の一つだと思っています。」

「紛い物とは言え、

 不可侵条約を結んだばかりだぞ?」

「私の耳にも、

 “ヨーロッパ周辺がきな臭い”と入っています、

 ドイツ周辺諸国と考えれば、

 対ソ連もありうると考えるのが妥当です、

 幾ら陸軍国家のドイツと言えど、

 “戦争に出れる人間は限りがあります”

 イタリアも同様に、

 周辺を敵に囲まれています、

 双方を守る為にも、

 “大西洋を手中に収め”

 太平洋に関しては、“迎撃に特化する”しか、

 この戦争を

 戦い続けるのに道は無いかと・・・。」

「対米は迎撃に特化か。」

「はい、

 物量に関して我々の工業力は

 どう足掻いても勝てません、

 軍人の数も敵いません、

 なら、少しずつでもその“意欲を減衰させ”

 日米戦争を続けるべきでは無いと、

 “米国軍人に刷り込んでいくのです”」

「・・・それは超長期化を孕んでいるな?」

「はい、ですが粘り強さ、質で言えば

 我が大日本帝国は

 最大の武器になりましょう、

 そして、大西洋ルートでの、

 イタリア、ドイツの救援が実現すれば、

 途中航路で賛同する国を増やし、

 寄港地として、港を借り受け、

 その国々が抱える“国難”を、

 我々大日本帝国が解決する為に動く、

 植民地支配を主とする

 イギリス、アメリカとは違うと、

 世界中に知らしめるのです。」

「・・・貴殿は外交問題も考えられるのか?」

「専門分野は本職の方々にお任せします、

 あくまで“提示”は出来ますが、

 本職ほどの知識は無いのです。」

「ふむ、貴殿は少佐だったな。」

「暫定です、

 正式な軍人では無いので、戦争が終わり次第、

 一国民に戻ります。」

「・・・俺が掛け合おう、

 少将に抜擢し、

 使える物を全て俺にぶつけて来い、

 それらを俺が精査し、落とし込んで行く。」

「しょっ!?

 んな高級階級は必要ありませんよっ!?

 それに構想はあれど、運用に関しては

 ド素人と変わらないのですよっ!?」

「どこがだ?

 あの“衝雷”空技省が飛び跳ねて

 再調整を進めているぞ?

 再調整機も先日、俺が乗ってな、

 そのまま正式採用したのだ、

 これからは

 南方諸島の迎撃用水上戦闘機として、

 量産体制を確立して行くぞ?」

「い、何時の間に・・・。」

「来年だが、

 海軍航空本部長として兼任が決まってな、

 正式な発表前だが、貴殿には言っておこう。」

「なっ!?もしや、

 岡田大佐からお話しを受けてましたね?」

「ん~、そうだったかの?」

やられた、

せっかく零戦を表に、裏でこそこそやるつもりで

やって来た事が全てご破算だ・・・

「まぁ、今直ぐには変わらんよ、

 零戦は出来たばかり、

 各艦艇も改装を進めているが、

 如何せん時間と資材が足りぬ、

 この“地下工場ライン”も、

 素晴らしい案件だ、

 地下鉄規格を狭軌規格と、

 標準軌規格、馬車規格、

 この三つに分け、

 各支線を地下工場へ直結し、

 そこで組み立て生産、

 そのまま鉄道を経由して、

 各飛行場、港へ搬出、

 現地で最終組み立て、試験飛行、正式配備、

 既存鉄道の地下化事業も面白い、

 極め付けは“植物油による航空機、

 艦艇、陸上兵器の燃料代替え”

 これは地上で出来る事だ、

 我が国は油が無い、

 そこをよくわかっている、だが、

 専門知識はないから

 悪魔で提示のみにしていたのだな?」

「は、はい、

 しかし、少将はやり過ぎです、

 せめて大佐で留めておいた方が

 軍内部の揉め事も少なく済むかと。」

「なんだ、欲があるんだかないんだか、

 日本男児足る物、強欲に生きねば!」

「避けられない開戦をタダでは待ちません、

 使えるドックを教えてください、

 “狩川”級軽巡洋艦を重油燃焼専用缶式で、

 もう2隻は艦隊護衛に付けたいのです。」

「あぁ~、すまんな、それも進んでおるのだ。」

は?このおっさんは今、なんて言ったんだ?

「貴官が運用した“狩川”が

 丁度ドックに入っておったのを、

 耳にしてな、勝手ながら見学したのだ。」

何してくれてんだこのおっさんは~っ!!

「設計図も見たが、

 軽巡にもバルバスバウを搭載するとは

 素晴らしい事だ、

 他の設計図、構想図も拝見してな、

 “対空駆逐艦構想”も、

 来年の暮れには、“一番艦”が竣工するのだ、

 しかし、“重砲撃型重巡洋艦”の構想は

 たまげたよ、

 55口径30cm3連装主砲3基、

 60口径15.5cm3連装2基を搭載、

 40口径12.7cm連装高角砲6基、

 25mm3連装機関砲座8基、

 水上機も“衝雷”で事足りる、

 雷装に関しては

 艦内スペースの制約もあるから

 連装なのは構わん、これも、“一番艦”が、

 同じ来年の暮れに竣工する、

 して、“巨大空母”の構想はどんな物か、

 じっくり話し合おうでは無いか?」

あぁ、あの人、色々ヤバい、

真珠湾攻撃を考えた張本人と知ってはいたけど、

岡田大佐もそうだったけど、

この“別世の大日本帝国軍人”は、

どっか頭のネジ、

外れてんじゃないのかって思う。

「でも、

 これで“信濃”を近代型空母にする事が出来る。」

あの後の話で、

“一号艦(後の大和)”“二号艦(後の武蔵)”を

話題に挙げると、驚かれたが、

その船体を流用した、巨大空母構想を話し出すと、

目つきが冗談抜きでヤバくなった。

「まさかなぁ・・・。」

岡田大佐を呼び戻すなんて話も飛び交っているし、

正直、不味い、非常に不味い、

航空戦艦の構想も話して、

つい、

“扶桑型の扶桑・山城”“伊勢型の伊勢・日向”を

口に出してしまったのだ。

「まぁ、全権は山本さんだし、

 俺は提示とスケッチブックを提出しただけ、

 うん、そう言う事にしておこう。」

書き出しが終わっている物は、

全て山本さんが持って行ってしまったので

「・・・スケッチブック、また買うか。」

次なる構想を書き起こして行く。

 



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1939年 真珠湾迎撃作戦前夜

「ふぅ、さぶっ。」
スケッチブックを
抱えるだけ抱え
台車にも山積みにして
海軍本部へ向かっていた。


1939年冬、

再び海軍本部へ呼び出された、

例によって

大量のスケッチブックを抱え込んで。

「久しいな。」

「はい、対空駆逐艦、

 重砲撃型重巡洋艦も

 “一艦隊分”

 拝見させていただきました。」

そう、このおっさん、

もとい山本五十六大将は、

真珠湾攻撃用艦隊に、

竣工、竣役仕立ての新型艦を、

全て編入し、猛訓練をさせていたのだ。

「しかし、

 10cm連装高角砲を

 両用砲として使うとは

 思い切った発想だったな。」

「ソレに関しては、

 “12.7”は使い慣れている反面、

 砲弾が重いと言う点が

 解決出来ずに困っていましたが、

 10cm砲弾であれば、

 自動装填装置も容易で、

 故障時の人力装填でも、

 左程射撃能力の低下を

 見ずに済むだろうと考えて、

 構想に組み込んだのです、

 そしてソレ用の測距儀を付与し、

 より命中率の向上に

 繋がるように描いた次第です。」

「特型駆逐艦の主砲も、

 長10cm連装高角砲に換装が進んでおるし、

 大型艦艇の対空装備は

 就役時の3倍は増えているぞ。」

「それでも足らなくなるかと思われます、

 それと、潜水艦はどうなりましたか?」

「それは今一つだ、ただ、

 海中輸送船団構想は受け入れられてな、

 順次竣工待ちとなっておる。」

「衝雷の潜水艦搭載は?」

「まだ図面だ、しかし水密扉と、

 カタパルトの問題さえ解決出来れば

 直ぐに起工出来ると返事が来ている。」

「資源の確保はどうでしょうか?」

「フィリピンに関しては

 意外と好意的だったな、

 土木事業に関して

 工作機械の保守保全を売りに、

 海水から真水を作る機械は

 大変喜ばれたそうだ。」

「南方諸島解放の足掛かりが出来ましたね。」

「ただ、

 パプワニューギニア、ソロモン方面は、

 既に米国の手に落ちていたよ。」

「なんですってっ!?」

「オーストラリアが

 アメリカに対して何らかの情報なり

 供与をしたのだろう、

 スパイとして

 潜り込んでいた者から連絡が入ってな、

 “パナマ運河”を通れる艦艇を

 続々とこっちに送っているそうだ。」

「早い・・・ならば、

 ハワイ強襲を早めねばいけませんね。」

「だが、それは出来ん、

 北方艦隊からの情報では、

 北太平洋の艦艇が

 活発に動いていると連絡が来ている、

 ウェーク経由で出来ないか

 今試算させている。」

「それこそ無理があります、

 燃料タンクを作るにも地盤から固め、

 そこから組み立て埋設する、

 それだけでも

 最低4、5カ月はかかるんですよ?」

「わかっておる、だからこそ、

 海中輸送船団を

 前倒しで推し進めているのだ、

 既に竣工各種試験を進めているのが6隻、

 間も無く竣工するのが4隻、

 ぎりぎり間に合うのが2隻なのだ、

 今しばらく大人しくしてはくれんか?」

「“一号艦、二号艦”はどうですか?」

「艤装が間に合わん、訓練もままならんし、

 早くても41年の夏だ。」

「・・・長門、陸奥の艤装強化は。」

「それは終わっておる、

 岡田君の悪い感が働いてな、

 主砲の不具合も発見できた、

 口径を50口径3連装に改め、

 バルジ追加、機関増強、

 対空装備も追加、“試験運用の電探”も今頃

 試験を開始している筈だ。」

「今後も艦隊中核を担うんです、

 不注意の爆沈は洒落にならないですからね。」

「扶桑型、伊勢型も済んでいるぞ?

 速度は25.4ノットまで出せるようになったし、

 主砲は55口径3連装35.6cm3連装砲に改め、

 水上機用プラットホームを付け、

 衝雷・改・乙を12機搭載できる、

 主砲数は減じたが、12門の門数は変わらず

 打撃力は向上したと言えよう。」

「・・・その、出来たら、

 “山城に一度でいいので”

 乗船させて貰えないでしょうか?」

「構わんが、どうした?乗りたいなどと

 初めてでは無いか?」

「いえ、個人的な我儘です、

 一度でいいので、目に焼き付けて置きたくて。」

「・・・丁度、

 横須賀沖で夜間発艦の訓練をしておる、

 明日の昼には出航予定だ、

 見に行くか?」

「叶うならば。」

「ふむ、よかろう、私から

 電話を入れて置く、

 明朝・・・0730、横須賀駅でどうだ?」

「・・・それって、始発でそこに向かっても

 間に合わないですよね?」

「・・・そうだったな、

 先に向かえ、話して置く。」

「ありがとうございます。」

深夜、

横須賀駅に到着するも、

最早真っ暗で何も見えない。

「貴方が畝傍大佐、でありますか?」

「・・・貴方は?」

「山城、艦長の付き人です、

 今宵の内に山城へ案内せよと、

 山本五十六大将閣下から厳命されたと、

 艦長から伝えらえまして、

 迎えにまいった次第です。」

「艦長はまだ起きていらっしゃいますか?」

「えぇ、

 本来なら明日の出航に備え眠る段階でしたが、

 大佐が一度でいいからなどと言わなければ

 睡眠の邪魔をしなかったでしょう。」

「・・・艦長と同階級に対して、

 随分な口だね、まぁ、

 俺はそんなに気にしないのと、

 その階級に見合った経験も、能力も

 持ち合わせに無いと思っているのだがね?」

「・・・まだ、気付きませんか?」

え?

「初めまして、

 私が“五藤(ごとう)存知(ありとも)”ですよ、

 畝傍大佐。」

「は?」

あ、別な若い軍人が服を差し出して来た

それに袖を通し、着替えると

「・・・大変申し訳ございませんでしたっ!?」

反射的に土下座をしてしまう。

「同階級なんですから、

 早く立ってもらえませんか?」

「は、はい。」

「いやいや、

 山本さんから電話で起こされたのは驚いたけど、

 どうして、山城に乗りたいと?」

「・・・私にとっては、

 大事で、思い出のある艦なんです、

 触れる事すら出来なかった時を幾つも過ごし

 ようやくそれが出来る立場を承ったので、

 居ても立っても居られず、

 訓練を終えた直後にお邪魔するとは、

 失礼なのはわかっています、

 でも、戦争が始まる以上、

 “何時会えなくなってもおかしくない”

 そう思うと、我慢の糸が耐えきれずこのように

 事を起こした事を、お詫び申し上げます。」

「・・・わかりました、

 貴方の構想によって、

 生まれ変わった“航空戦艦・山城”を、

 心行くまでご覧になって下さい、

 すぐそこに、内火艇を着けてあります、

 さ、行きましょう。」

「はい、ありがとうございます。」

あぁ、ようやっと会えた。

「これが・・・山城なんですね。」

扶桑と並んで錨を降ろし、停泊している姿は

正に仲の良い姉妹その物

「畝傍大佐、そこまで・・・。」

涙して、側舷に触れて泣き崩れてしまったのだ。

「は、ぃ、

 こうして、ようやく、ようやく、

 会う事が叶ったのです。」

「・・・時間が惜しいです、

 艦橋へ上がりましょう。」

うなずき、辛うじて立ち上がる。

「っ!?艦長っ!?」

「よい、今宵の事は他言無用に。」

「は、了解しました。」

(はて、あの大佐殿は、

 泣きながら艦内を歩っておられた、

 如何様な事があれば、あぁも

 “懐かしみを持つ目で”見られるのだろうか?)

「どうぞ。」

しん、と、静まり返った艦橋は

何時でも死地へ向かう心がけとして、

全ての備品はぴかぴかに磨かれ、

新品同様の月明りを反射していた。

「・・・ありがとうございます、在知艦長、

 そして、“山城”は、

 新しい装備を搭載し、今の姿になった。」

「えぇ、艦尾に水上機用プラットホームを搭載し

 航空戦艦と言う新たな艦種を生み出しました、

 楽しかったですよ?

 戦艦・陸奥、航空戦艦・山城と、

 こうも戦い方に違いがあり、

 癖の強い戦艦は初めてでした。」

「確か、陸奥、八雲を兼任されてたんですよね?」

「陸奥は兎も角、八雲までご存知とは、

 良く調べておられる。」

「はい、ラムを残す艦艇の一つとして、

 記憶しております。」

「まさか、アレがまだ有効だと?」

「・・・実は、

 “ラム”を使う重装甲戦艦も構想にあるのです、

 今の戦艦は

 自身の攻撃力を想定した

 防御を施されるのが通例、

 ですが、“ラム”は違います、

 全力でド突くのです!!

 そこにロマンがあるじゃないですかっ!!」

「・・・ぉ、おぅ、

 急に元気になったな。」

「はっ!?しっ!?失礼しましたっ!!」

今度は普通に頭を下げる。

「ふむ、単艦で敵艦隊に突撃するか、

 そんな事をすれば

 集中砲火にて撃破されてしまうだろうに。」

「そこを、航空隊による援護で、

 “戦艦同士の殴り合いに持って行くのです”

 在知艦長も聞いている筈です、

 “真珠湾攻撃作戦”を。」

「・・・噂が真実になってしまったのか。」

「はぃ、開戦は避けられません、

 五十六閣下も、心を痛めながら、

 作戦書を作成していると

 おっしゃっていました。」

「・・・機密なのでは?」

「最早周知の事実だそうです、

 五十六閣下は、俺が会う方々には、

 伝えていて欲しいとおっしゃっていました。」

「そぅ、か、

 しかし、その航空機による援護があっても、

 “一度止まった戦艦はただの的だぞ?”

 それを如何様に解決するのだ?」

「簡単です、

 “ド突いたまま推し進める強度にて”

 その接触部分を破壊し

 圧し折り、破壊し、

 そのまま引き裂くのです、

 そうすれば“止まる必要はありません”」

「ふは、フハハハハハっ!?

 そんなバカげた戦艦があるのなら

 そのじゃじゃ馬娘、

 私が乗りこなして見せようっ!!」

「・・・言いましたね?」

「男に二言は無いよ。」

「では、

 早速五十六閣下に“起工”を具申して行きます。」

え?

「・・・冗談、なんだよな?」

「流石に真珠湾攻撃には

 間に合わないかもしれませんが、

 “気合で間に合わせます”」

1941年の五藤在知司令の日誌には

「言うんじゃなかった。」

と、書いてあったとかなかったとか。

 



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1940年開戦

1940年

 

史実とは違う3月7日

 

空母、赤城・加賀・蒼龍・飛龍・翔鶴・瑞鶴

 

強襲空母『知床』『硫黄』『羅臼』『海別』『斜里岳』

 

航空戦艦 『扶桑』『山城』『伊勢』『日向』

 

戦艦、霧島、比叡

 

重砲撃型重巡洋艦『由布』『鶴見』『涌蓋』『九重』

 

刈川級軽巡洋艦『刈川』『四十八瀬』『中津』『滝沢』

 

軽巡洋艦 阿武隈

 

相模川級対空駆逐艦『相模川』『姥川』『串川』『小出川』 

 

駆逐艦 谷風・浦風・浜風・磯風・陽炎・不知火

    霞・霰・秋雲

 

輸送船団

油槽船4 物資船5 弾薬船5

 

潜水輸送艦隊

 

キュウ500 キュウ502 キュウ503

キュウ504 キュウ505 キュウ506 

 

「壮観ですね~。」

いや、まじで

「はは、まさか今作戦に便乗なさるとは、

 貴方も大概ですよ?」

「いえ、ここまで焚きつけた一人ですので、責任もありますよ。」

「畝傍大佐、よろしいのですか?操艦しなくて?」

「緒方大佐、『山城』は貴方が艦長です、

 それに、俺は悪魔で『臨時・技術大佐』です、

 操艦における資格が足りません。」

「ご謙遜を、『刈川』の逸話は良く知ってますよ?」

「ぁ~・・・。」

 

まぁ、『刈川』の「改修」が済んで試験航海で

日本海へ出張し、そこでやらかしてしまったのだ。

 

シーアンカーにおける、『水上ドリフト』を

 

流石に錨は切り離さなかったけど、

運悪く空襲に会い、爆撃機に襲われ、

全速力を出したばかりの急旋回は、

旋回範囲が広くなる、そこを突かれ投弾を許し

そのまま直撃になる位置だったのだが

『左舷錨降ろせ!!取り舵一杯!!

 左舷後進一杯!!右舷前進一杯!!

 兎に角避けろぉお!!』と、やっちゃったのだ

 

海底に錨が付く前にギリギリ回避したけど、

着底の瞬間のガッツン制動はマジでキツイ

 

「とは言え、山城でやらないで下さいよ?」

「やりませんよ、

 それに、緒方艦長の腕も聞いてますよ?

 50対1で、避け切ったとか?」

「・・・作戦に集中しましょう。」

「ふぅ、そうですね、我ら『別働航空艦隊』の作戦海域ですね。」

 

史実組と、改装戦艦群を分けただけだが、

『本隊』が史実に近いルートで航空戦力を投入、

まずは滑走路を潰す、

そして港湾区における艦艇へ直接攻撃を仕掛ける。

 

因みにこの作戦書、『今開けたので、誰も目的を知らなかった』

 

「・・・はは、これは。」

「・・・山本大将、あの人と言う人は~っ!!」

 

・『本隊』に置ける第一時攻撃後、

 オアフ島を迂回、直接攻撃範囲まで接近

・航空戦艦・重砲撃重巡洋艦における『砲撃』により、

 港湾区への施設破壊

・第二次攻撃に同調し

 航空戦力展開、港湾区内の艦艇へ攻撃

・日没をもって終了とする

 

「さ、忙しいですよ?」

「はぁ、ですね、緒方艦長。」

「いえ、号令は畝傍技術大佐?貴方で。」

「え゛っ?」

あ、周りも俺見てる・・・はぁ、仕方ない

「艦長、全艦に通達、

 これより、『真珠湾の宝石』を発動!!

 全艦速度30!!とっかん!!」

「了解!!手筈通り、

 先行艦隊は港湾区へ!!

 強襲空母は航空機展開準備と『砲撃用意』

 扶桑以下航空戦艦は、対艦・対地砲弾準備、

 全速にて港湾区へ急行!!同じく航空機展開準備!!

 作戦開始!!」

 

「ぁ~、恥ずぃ。」

「ははは、お疲れ様です。」

「長官。」

「うむ、全艦に通達、作戦開始、

 放送開始から10分後だ、間違えるなよ?」

「はっ。」

 

これをしくじれば、『史実』と同じ轍を踏む

航空機の損失が跳ね上がるだろうが、

こればかりは譲れん

 

「『別動隊』へ、

 ヒトマルマルマルだ。」

「了解。」

「暗号電来ました、

 『ヒトマルマルマル』です。」

「・・・ほんと、同じ轍を踏む事は避けたいですね。」

「畝傍大佐?」

「・・・緒方艦長、

 ヒトマルヒトマルで攻撃を開始出来ますか?」

「えぇ、既に先行組は最大射程に入るころ合いかと。」

「ずらします、

 ヒトマルフタマルから砲撃を開始して下さい。」

「十分、それでは『反撃の準備』の時間を与えますよ?」

「・・・この予感は当たります、

 『本隊』へ、ヒトマルフタマル、これだけです。」

「はっ。」

「大佐、貴方は・・・。」

「緒方艦長、駆逐艦達に警戒情報、

 『潜水艦』が居る筈です、強襲空母にも、『潜爆』を。」

「遠浅なこの海域に潜水艦が?」

「います、

 衝雷の準備もお願いします。」

「わかりました、3方で?」

「5で、増槽、航空爆雷、7.7で。」

「遠距離・・・到達時刻ですと、

 戦艦隊の射程圏内到達と同時に、潜水艦が仕掛けて来ると?」

「『本隊』にも連絡を。」

「潜水艦・・・いや、

 『タガメ』に注意で分かるだろう。」

「タガメですか?」

「あぁ、長官なら解る。」

「変更来ました、ヒトマルフタマルと、

 『タガメ』に注意と来ましたが、これは?」

「・・・くそ、

 やはり居るか、駆逐艦に警戒情報、

 『潜水艦』が潜んで居る、水偵発艦、5重索敵だ。」

「三方で事足りるのでは?」

「いや、畝傍も5重にした筈だ、

 十分遅らせるのも『ヤツの嫌な予感』だ、

 アレは外れん、通達急げ。」

「はっ!!」

 

0955

 

〈ヘ~イお前ら、今日もなんもない日だ、

 このジャック様のラジオ聞いてるかい?

 そのなんもない日に『日本帝国』が

 なんかサプライズを流してくれるそうだぜ?

 耳掃除して待っとけよ~?〉

 

「珍しいですね艦長、艦橋にラジオ持ち込むなんて。」

「副長、どうせ暇なんだ、ここでのんびりさせて貰おうと思ってな。」

ロックアイスかカランと音を立て涼しさを醸し出す

「その上・・・って、スコッチですか?」

「なんだ?やらんぞ?」

まだ昼前だと言うのに、

『ニューオリンズ』艦橋では酒の匂いが溜まっていた

「怒られますよ?

 それに、電力だってドックからです、

 せめて『弾薬庫』のカギぐらい開けて置いては?」

「いや、不味いだろ?

 入渠中だしそれに『日本軍』が来る訳でも無いだろうよ。」

 

〈お前ら?ちゃんと待ってたか?

 サプライズ放送スタートだ!!〉

「終わりましたね。」

「はっ、アイツ等は貿易のぼの字すら忘れたのか?」

「ですね、それにしても、『宣戦布告』ですか、

 忙しくなりますね?」

「っても、入渠中のニューオリンズじゃ

 精々の対空防御しか出来んぞ?」

「そうですね、

 今の内に鍵、開けときますか?」

「火花散ってんだからやめとけっての。」

「ですね。」

 

そして、空襲警報が鳴り響いた時には

ドックは吹き飛び、電力の綱が切れていた

 




強襲(三胴)空母
北海道級強襲空母として
畝傍のスケッチブックから誕生した空母で
両翼を飛行甲板とし
中央部に『重巡洋艦』の武装を搭載した
『三胴体空母』である

『知床』『硫黄』『羅臼』『海別』『斜里岳』の5隻のみ

まず造れるドックが無いので
各船体毎に途中まで建造
海上にて接合一体化と言う方法が取られた

飛行甲板幅は20mと狭いが、これでも目一杯広げている
全長は100mと、何を考えているのかと思うが、
『着艦専用飛行甲板』であり、
発艦を想定していない飛行甲板である

ならば発艦はどうするのか?
簡単だ、『撃ち出せばいい』
飛行甲板の切れ目の下から延びる射出機は
大型艦上機を撃ち出す為に特化された『呉40号改』で、
史実の流星なり彗星なり烈風すら強引に撃ち出す能力を持つ

着艦時のみ遮風板がせり上がり着艦支援をする

その際、主砲は撃てない、てか、旋回出来ないので
着艦時が一番怖い時間である

しかしある程度の不便に目をつぶれば、
僅か15分で全機発艦、
艦上には、
55口径30cm3連装砲3基(艦首2艦尾1)
10cm連装高角砲24基
(艦橋付近に12基、側舷部に12基)
25mm3連装機関銃座24基
(艦中央部に8基、側舷部に16基)
と、バ火力を誇る

甲板が吹き飛ぶ?んなもんわかってる、
先の不便の一つで、
2500m以下を主砲で狙えないのだ。
爆風で拭き取んじゃうからね

そもそもそこまで接近してたら
おかしな駆逐艦に襲われるし
高角砲をギリギリまで下げれば、1200mまで撃てる

ただ、100m飛行甲板の弊害はまだある
搭載機数の少なさだ

改・衝雷(着陸装置と着艦フック搭載)が、
10機ずつで、併せても20機しか搭載出来ないのだ。

バラシてパーツ取り用でも4機分しか積めず、
継続戦闘力は高くない、それは強襲空母と
正規空母を分けた理由でもある

使い方としては、制空を改・衝雷でとりつつ、
陸上砲撃を主眼とした空母である

勿論、改・衝雷のアップデートは怠らない
着陸装置式になったおかげでバランス調整、
よりデカい発動機を積み、パワーを上げ、
『高高度に必須のスーパーチャージャー』を搭載した

燃費・・・は、言うな、フロートよりは伸びたが、
1740kmと、泣きたくなる

高高度迎撃機としての特性を持たせるには仕方がなかったんだ
速度は680km/hに上がったが、まぁ、長くは出せない

武装は20mm連装と定番
換装で57mm砲(23発)詰め込めるようになった

後、零式艦上戦闘機の開発者
船越さんがいじけて
奥さんと山の別荘に引きこもった

ごめんなさい、でも、ここまでやらないと、
アメリカの軍用機の性能工業力に立ち向かうには
やり過ぎでも足りないんです。


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第一次攻撃

米軍司令部

 

「なにが起こったっ!?」

「キンメル大将!!空襲です!!

 『日本軍の攻撃です!!』」

「バカなっ?!

 動ける艦艇はいないのか!?」

「ほぼ全ての艦艇が火を落としています!!

 精々の沿岸警備隊程度です!!」

「全艦艇に通達!!

 急ぎ戦闘に参加せよ!!

 基地の電力を回して対空砲座の一つでも動かすんだ!!」

「はっ!!」

 

誰かが駆け込んで来る

 

「で、伝令!!

 発電所がやられました!!

 島内の至る所で停電が発生!!

 ドック内の艦艇はただの置物になっています!!」

「湾内外縁部に居る

 軽巡洋艦はどうした!!」

「一部艦艇で反撃を開始していますが、

 湾内に艦艇が多く、湾外へ退避したいと

 『発光信号』で連絡が来ています!!」

「兎に角光源で返信!!

 全艦艇は湾外へ退避せよ!!

 反撃は各個の奮闘にて対応しろと!!」

「大将!!どちらへ!?」

「キャンベルに航空支援を伝えに行く!!

 車を出せ!!」

「は!!」

「貴様は、兎に角各艦艇へ伝令を広めろ!!

 電力は最悪停泊中の『戦艦から電力を確保しろ!!』」

「イエッサー!!」

 

「第一次攻撃隊より入電。」

 

トラ・トラ・トラ

 

「始まったな。」

「長官。」

「各攻撃目標は作戦通りに、

 『タガメ』はまだ見つからんか?」

「現在、衝雷3号機より潜水艦発見と報告がありましたが、

 『味方潜水艦と誤認』と報告が上がっています。」

「・・・甲標的と?」

「は、そのように報告を受けています。」

(すると、甲標的は一部は湾内へ入れた・・・)

「参謀、その潜水艦は進行方向が

 どちらに進んでいたか解るか?」

「っ?!詳細を上げさせます!!」

「急げ、

 やむを得ん、『無線封鎖解除』

 『別働航空艦隊』に打電、

 『タガメは既に紛れている』それで解る。」

「は!!」

「長官、封鎖解除の条件は!?」

「参謀、

 甲標的は、先に攻撃を仕掛けていなければ、

 『破壊処分』と定めていた筈だ。」

「しかし。」

「爆撃が始まっても、

 『甲標的』から連絡が入らない、

 つまり、

 『入れなかったか、間に合わなかった』

 と言う事になる。」

「本隊より入電!!」

「・・・甲標的がやられましたか。」

「畝傍大佐?」

「緒方艦長、

 全艦に『カチコミの時間』と通達を。」

「・・・いよいよですか。」

「はい、『アメリカ戦艦との殴り合いです』」

 

「くそっ、ジャパニーズめ、やってくれる、

 滑走路はまだ大丈夫なんだな!?」

「はい、対空砲が爆撃機を近寄らせません!!」

「兎に角飛べる機体は全部だ!!

 じゃんじゃん飛ばせ!!

 ルールなんて構うな!!」

 

どかどかと走り込んで来る大将

 

「キャンベル!!」

「ハズバンド、間違えるから、

 ウォルターと言えと言っただろう?」

「ちっ、口はまだ元気だな、

 戦闘機を上げろ!!兎に角全部だ!!」

「んなもんわかっている!!

 第一波を持ちこたえれば、

 戦闘機が出せる!!」

 

地面の振動が『爆撃では無い事を教えてくれた』

 

二人「砲撃っ?!」

 

後から聞こえる発砲音は『海からの物だった』

 

「双眼鏡を貸せ!!」

 

眺める先には、『三胴体の巨体が砲をこちらに向けていた』

 

「ジーザス、ジャップめ、

 なんて物を造りやがったんだ!!」

「俺にも見せろ!!」

(なっ?!冗談だろ!?)

「なんだ、あの三胴体のヤツは!?

 それに、後方にも『馬鹿でかい戦艦が居るぞ!!』」

「なにっ?!

 おい!!車をもう一度だ!!

 司令部に戻るぞ!!」

「はい!!今すぐ!!」

「ハズバンド!!」

「動かせる艦艇は全て動員する、

 お前も、航空機を出したら

 『戦車の一つでも出して』

 対空砲代わりにでもしておけ!!」

「ハズバンド!!」

「なんだ!?」

「死ぬなよ。」

「はっ、陸で死ぬかよ!!」

 

「『相模川』より入電!!

 『我、通達ニ無キ推進音ヲ発見セリ』

 如何セラレルヤ!!」

「緒方艦長、

 『相模川』と『姥川』で潜水艦を攻撃して下さい、

 砲撃中の重巡達をやらせるわけにはいきません。」

「駆逐艦『相模川』『姥川』で発見した潜水艦を撃沈せよ!!

 各駆逐艦は、近隣の駆逐艦と組み、

 潜水艦攻撃準備を!!」

(来るな)

「緒方艦長、

 衝雷を上空警戒に出して下さい。」

「畝傍大佐?」

「第一波で『滑走路を撃ち漏らした可能性』もあります、

 全機、直掩機として上げて下さい。」

「全機をですか!?」

「急いで下さい、

 『刈川』達も出せる機体は全て、

 『対爆撃機装備』で!!早く!!」

「各艦に通達!!

 全航空機発艦!!装備は『対爆撃機装備』!!

 畝傍大佐、『本隊は?』」

「『猛牛に注意』」

「想定敵爆撃機、『B-17』と『B-18』

 『Aー20』が居る。」

「必ず出てきます、対空砲準備!!」

「別働隊より入電!!

 『猛牛に注意』です!!」

「来るか、零式の残数は?」

「は、各空母、合わせて26機です。」

「時間交代で、10機ずつ出してくれ、

 その26機は、艦隊の直掩機として上げる。」

「了解しました、

 零戦搭乗員は集合!!

 艦隊直掩に当たれ!!

 相手は『重爆撃機』だ!!出し惜しみはするな!!」

 

「相手が、重爆撃機?ほんとか?」

「はい、別働隊からの連絡で

 『猛牛に注意』と。」

「参ったね、

 『改造して置いて良かったよ。』」

「まったくです。」

「畝傍大佐には感謝だな。」

「ただ、継続戦闘力が落ちてるので注意して下さいよ?

 7.7mm、降ろしてるんですからね?」

「わかってるよ、

 それに、『97式陸攻訓練』で、

 距離感の誤認訓練をしこたまやって来たんだ、

 無駄弾を撃つ事もな良いだろうよ。」

「くれぐれも戦闘機は相手しないで下さいね?」

「・・・あぁ。」

「はぁ、やるなら200まで近寄って

 ちょい山なりですからね?」

「助かるよ。」

 




零式艦上戦闘機二一型 改・甲

骨格補強を施し
降下速度が670km/hまで強化された

馬力も栄一二型から『火星二四・改』1760馬力
最高速度574km/hに上昇したものの
航続距離が減少
増槽アリで、2700㎞まで落ち込んだ
(機関砲で重くなったとも言う)

それを補うのが『火力増強』だ

機首2門、翼内各1門
『20mm機関砲・二号・改』計4門の重武装
炸裂弾4曳光弾1か、徹甲2炸裂2曳光弾1の組み合わせ
翼内100発弾倉 機首150発弾倉
対貫通力「鋼鉄20~30mm厚」
有効射程距離300m
最大射程520m
(この場合かなりの山なり弾道となる為
 貫通力は10mm程に落ちてしまう)

最早、零式の面影は、余り残っていなかったりするが
なにを隠そう、
残していた『26機』が、この機体で、
ぶっつけ本番で持って来ていた

これが原因で船越さんが奥さんと引きこもったとも言える

まぁ、徐々に奥さんの体調は良くなっているらしい


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湾内戦闘

「トマホーク、上がります!!」

「ホークはどうした!?」

「宿舎がやられて、パイロット不足です!!

 予備役を招集しています!!」

「ガッデム、

 トマホークを上げ続けろ!!

 フライングフォートレスは、

 500ポンドを積んどけ!!」

「500ですかっ!?」

「艦艇に絨毯爆撃をかましてやるんだ!!

 急げ!!」

 

敵機来襲!!

 

この上がる瞬間を待ち構えていた

『零式二一型』この機体は

船越さんオリジナルの方で

20mm7.7mmの機銃を積んでいた

 

ウィーラー(ホイラー)陸軍飛行場上空で

P-40と零戦の

初ドッグファイトが繰り広げられる形となった

 

「こなくそっ!!中々やりおる!!」

上を抑えた筈の零戦を辛うじて機体を翻し

P-40は負けじと機銃をばら撒いて来る

「ひょぇっ!?」

零戦ならではの『軽い機体から繰り出される機動は』

ややオーバー気味に避けてしまうが

直ぐに立て直し

『7.7mm』をばら撒く

「どや!!当たったでぇ!!」

しかしP-40も黙っては墜とされない

油を吹き出しながらも機首をこちらに向けて来る

「上等!!勝負や!!」

20mm7.7mmを同時に撃ちだす

 

「あぁ、また一機墜ちます。」

「アレが、ジャップの戦闘機・・・。」

(なんて軽い機動なんだ、

 P-40が

 まるでベイビーをあやすように墜とされている)

 

(ふぅ、敵を侮るなかれ、だな)

 

多数の被弾痕を見ながら

「あかん、コレは怒られる。」

キャノピーは大丈夫だが、

翼端から燃料が少しずつ漏れているのが確認できた

「しゃ~ない、帰るか。」

 

「日本機引き返して行きます!!」

「こちらの被害は?」

「今ので滑走路脇に居たP-36がやられました、

 格納庫に後20機です。」

「トマホークは?」

「墜とされたのが少なくても20機、

 損傷機は確認中、

 格納庫に40機はいます。」

「ボロ(B-18)とハボック(A-20)は?」

「フライングフォートレスに積み込みを優先していますので

 ボロはまだ出せません、

 ハボックはMk-13ですよ?使い物になりません。」

「いいや、『直接当てて来い』

 爆弾に付け替える時間が惜しい、

 爆撃の用量でぶち当てれば

 それなりの損傷を期待出来る筈だ。」

「直接!?正気ですか?!」

「ジャップの方が正気かと突っ込みたいね、

 なにせ『我がユナイデットステーツアメリカ』に

 喧嘩を仕掛けて来たんだからね。」

 

「参謀、第一次攻撃隊の損傷は?」

「零式、3、艦爆、1、

 艦攻、5が、未帰還です。」

「長官!!大戦果です!!大戦果ですよ!!」

 

わっと沸き上がる艦橋内だが

 

「第二次攻撃隊、発艦を急げ、

 敵に反撃の準備を取らせるな。」

 

冷えた声で指示を出すと、すん、と、静かになった

 

「ウィーラーの飛行場はまだ健在だった筈だ。」

「しかし、滑走路にも被害が出ている筈です、

 それに、別働航空艦隊が

 砲撃を始めている筈です、大丈夫ですよ。」

「沿岸砲台の数はどうか?」

「は、第一次攻撃隊により、射界の被る砲台は

 全て『九九艦爆隊』により撃破との

 報告が上がっております。」

「畝傍大佐から追加電は無いのか?」

「いえ、今のところ。」

「・・・死ぬなよ。」

 

「取り舵15!!主砲下げ3!!撃てぇっ!!」

 

35.6cm55口径三連装砲12門から撃ちだされる轟音は

確実にアメリカ艦艇の戦闘力を奪いつつあった

 

「緒方艦長、

 ウィーラー飛行場はまだ射程距離に入りませんか?」

「畝傍大佐、先行している

 重巡艦隊が間もなく攻撃に入ります、

 焦らないで下さい。」

「間違いなく『爆撃機』を準備している筈です、

 急がないと手が付けられなくなります。」

「・・・伊勢、日向に連絡、

 扶桑、山城は、

 これよりウィーラー飛行場殲滅に急行する、

 貴艦らは引き続きアメリカ戦艦との撃ち合いを

 楽しまれたし。」

「は、伝えます。」

「緒方艦長!」

「・・・これより、艦の指揮を『畝傍大佐』に一時委託する、

 総員、振り回されても文句を言わない様に。」

 

笑い声が響く艦橋内

 

「ちょっ!?緒方艦長!?」

「畝傍大佐、

 さ、操艦を指揮を。」

「~っ、機関最大船速!!

 主砲対地砲弾装填準備、

 扶桑、『山城』突撃せよ!!

 進路、ウィーラー飛行場!!」

 

全員の了解の掛け声は、嬉しかった

 

 

「艦長!!二隻の戦艦が離れて行きます!!」

「なに!?どこに向かっている?!」

「待って下さい・・・あぁ!?そんな!?

 ウィーラーです!!飛行場が狙われています!!」

「不味いぞ、

 湾内で身動きが取れない上に、

 航空支援も潰す気か!!

 誰でも良い!!

 飛行場に連絡を取れ!!

 飛行場が狙われていると!!」

 

「ペンシルバニアから入電!!

 ウィーラー飛行場が狙われていると!!」

「いかん!!

 爆装の真っ最中に砲弾なんて喰らったら

 火の海になるぞ!!

 伝令!!車を飛ばせ!!

 ドックの電力はまだ回せないのか!?」

「ニューオリンズからの電力!回ります!!」

 

ようやく息を吹き返す無線装置とレーダー機器

ドックを微解放し、注水、

船員区画の半分は水没したが、『機関が回せる』

 

「な、なんて数だ、

 湾外の敵艦艇、約20!!

 内、大型反応10以上!!」

「なっ?!

 ウィーラーに向かって居るのは?!」

「先の2隻を足して6です!!

 ウィーラーが!!」

「軽巡艦艇はどうした!!」

「監視員!!誰でも良い報告を上げろ!!」

 

軽巡洋艦は

同じ軽巡洋艦の『刈川』達によって

『改・五三式酸素魚雷の餌食となっていた』

 

 




改・五三式酸素魚雷

相模川級対空駆逐艦、
刈川級軽巡洋艦、
重砲撃型重巡洋艦に、

標準装備として搭載されていた

史実では61cm酸素魚雷として
デビューしている物を
『先に正式採用』した物

雷速42ノット(30ノットまで調整可)

動力は純酸素で水中に気泡はほぼ発生しない

弾頭は、戦車で御馴染みのHEAT弾頭の改造型で
多段構造を採用し、側舷に着弾時、
先ずは最初の装甲板を破壊し
『第二弾頭』を更に叩き込む
炸裂弾頭は直径40㎝と小ぶりになってしまったが、
『破口』が外向きに形成され
塞ぐのが容易では無い

一発、現代価値で2500万円

高い


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8話

「畝傍大佐、間もなく射程圏内です。」

「重巡を下げて、

 伊勢、日向の援護に回して下さい。」

「畝傍大佐?」

「・・・勘です、

 下手をすると戦艦が他艦艇を押しのけて

 出港して来そうなんです。」

「なるほど、

 アメリカ艦艇ならではの頑丈さで

 押しのけて・・・

 あり得ますか?味方艦艇を

 押しのけてとなると、

 小型艦艇は沈みますよ?」

「緊急!!

 伊勢被弾!!」

「流石に当ててきますか。」

「日向より打電!!

 複数の艦艇に動きがあり!!

 大型艦艇が動いているとの事です!!」

「な゛っ!?」

「緒方艦長!!」

「重巡に発光信号!!

 一斉射後、伊勢、日向の援護に!!」

 

 

「ふむ、せわしないねぇ。」

「艦長、一斉射してからと打電にありますが。」

「間違いでは無いよ、

 今、主砲に入っているのは

 『対地砲弾』だ、

 艦艇には向かない、

 それを吐き出し、

 次発を艦艇弾に切り替えろと言ってるんだ。」

「艦長、

 この作戦の立案者、

 山本長官もそうなんですが。」

「例の臨時大佐か?」

「はい、山城に乗っておられる

 畝傍大佐です。」

「まぁ、なよっちい割にぁ、

 勘はよう当たる、

 それに、この重巡の発案者と来た、

 恐らく長官並みに曲者なんじゃねぇか?」

「それに。」

「『聞いた事が無い』だろ?」

「え?」

「安心しろ、俺も無い。」

「でしたら!!」

「なんで従うか?」

「っ、はぃ。」

「まぁ、いいじゃねぇか、んな事。」

「艦長!」

「それに。」

「それに?」

「重巡を戦艦の援護に回す、

 つまり、

 主砲と『雷撃』で沈めろって事だ、

 格上をぶっ潰せ、

 面白れぇじゃねぇか!」

「はぁ、艦長、

 貴方とは長い付き合いですが、

 『今度こそ次に行けそうですね』」

「あぁ、

 『畝傍大佐』

 コイツが俺達を

 『この地獄から解放してくれるんだろうよ』」

 

「重巡発砲!」

「進路は?」

「反転、取り舵を取っています!」

「よし、扶桑に打電、

 面舵一杯、重巡を回避しつつ、

 『左砲戦用意』

 艦艇砲弾のまま初撃を撃ち

 直ぐに対地弾へ切り替えと、打電しろ。」

「艦艇砲弾のまま?」

「はい、第一砲塔に通話できるか?」

「はい!切り替えます!」

 

〈はい、第一砲塔〉

「砲身に砲弾は入ったままか?」

〈はい、今、薬莢を抜く準備をしていますが〉

「いや、そのまま撃つ、

 直ぐに発射準備を。」

〈おい!手を止めろ!

 直ぐに撃つ!!射撃用意!!〉

〈はっ!〉

「第二、第三、第四は?」

「はっ、各砲から連絡、

 何時でも撃てるそうです!」

「畝傍大佐、

 どちらを撃つ積りで?」

「対空指揮所から直接指示を出します。」

「この状況で上がるのですか?」

「緒方艦長、操艦を頼みます。」

「・・・了解、

 畝傍大佐が対空指揮所に上がられる。」

「畝傍大佐、指揮所へ上がられました!」

「うし・・・

 主砲このまま左回頭。」

〈主砲了解、角度は?〉

「方位60、射角下げ面。」

〈ツラ?平撃ちでどちらを撃つんで?〉

「信管は2のままですね?」

〈はい、対艦用にしたままです〉

「初手を譲って頂きたいのです。」

〈構いません、

 胸のすくむ良い射撃をお願いしますよ?〉

「はは、あんまり期待しないで下さいよ?」

「畝傍大佐、本当にどちらを?」

「・・・まぁ、ちょっと

 卑怯な手を、ね、

 緒方艦長!

 取舵一杯を3秒、そして、

 面舵を6秒願います。」

〈は、3秒取舵で、直ぐに?〉

「はい、第一、第二を取舵3秒で、

 第三、第四を面舵6秒で撃ちます、

 今からです、

 取舵よーい!」

〈了解、取舵よーい〉

「てーっ!!」

〈取舵一杯!!〉

 

「主砲、第一、第二、用意!!」

〈第一了解〉

〈第二了解〉

〈面舵一杯!!〉

「第一、第二、撃てぇっ!!」

 

轟音が響く

「第三、第四、用意!!」

〈第三了解〉

〈第四了解〉

〈舵戻し用意!!〉

「今!」

〈舵戻ーし〉

「第三、第四、撃てぇっ!!」

 

 

「よーし、重巡が離れたな!!

 飛べる奴は飛び立て!!」

「急げ急げ!!」

 

数機、飛んだ

 

「なんだっ!?地面が抉れたぞっ!?」

「なっ!?」

 

格納庫に『爆炎が上がる』

 

「ひっ、被害報告!!」

「か、格納庫全壊!!」

「また地面が抉れたぞ!!」

 

「・・・いっ、たい、なに、が?」

 

激痛に耐え身体を起こす

 

「・・・これ、は?」

 

先程まであった管制塔は崩れ落ち

私が居る指揮所も

瓦礫の山だった

 

_____

 

日没まで後3時間

 

アメリカ被害

 

港湾施設半壊

 

艦艇被害、全艦艇に中破、大破

 

ウィラー飛行場機能停止

 

日本被害

 

戦闘機13機未帰還

爆撃機35機未帰還

雷撃機40機未帰還

 

航空戦艦、伊勢、日向、

砲撃による被弾 中破相当

扶桑、山城、小破相当

 

重巡洋艦

『由布』『鶴見』『涌蓋』『九重』各艦 小破

 



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接収

深夜

 

「別動隊合流します。」

「うむ、畝傍大佐を。」

「はい、『無線』繋ぎます。」

 

《はい、畝傍です、長官》

「畝傍大佐、報告は受けた、

 夜戦はするな、このまま作戦通りに帰投せよ。」

《御冗談を、

 このまま『陸戦隊』の方に便乗します》

「なっ?!馬鹿も休み休み言いたまえ!!

 お前がそこまで背負う必要は無い!!」

《畝傍大佐、短艇接舷しました》

「畝傍大佐っ!!」

《長官、長官の私室に

 また積んでありますので精査をお願い致します》

「おまっ!?」

「無線、切れました。」

「はぁ、なぁ?参謀。」

「なんでしょうか?」

「どうしてアイツは俺の私室を知っているんだ?」

「公然の秘密では?」

「え?」

「夜な夜なの麻雀をお止めいただければ

 バレにくくなるかと?」

「なっ!?」

 

 

「よろしかったのですか?」

「何が?」

「長官ですよ?」

「良いの良いの、

 元々俺が立案した『作戦』だし、

 立案者が現場に行かないでどうするのさ?」

「ほんと、大佐は変わり物ですね。」

「ん?今更だろ?」

「・・・でしたね。」

「艦長、間も無く作戦海域です。」

「よし、潜望鏡深度へ。」

「浮上、潜望鏡深度。」

「タンクブロー開け。」

「ブロー開きます。」

「自動水平機起動。」

「水準器動作確認。」

「深度、20。」

 

「ふむ、周囲に艦艇は?」

「聴音、スクリュー音無し。」

「港湾部の火災は見えるっと。」

「では?」

「よし、各艦の同調に期待しよう、

 作戦時刻確認。」

「了解、開始時刻、2300。」

「5、4、3、2、1、今!」

「浮上!!陸戦隊発進!!」

 

「ぶへっ、づべた。」

「畝傍大佐、先に上がらんでください、

 艦橋塔には、まだ海水があるんですから。」

「でしたね、見事に濡れましたよ。」

「短艇ハッチ開きます!!」

 

艦橋塔と併設されている格納庫から

『ポンプ式推進器型内火艇』が2隻出て来る

 

「行ってまいります。」

「出来れば、全員の帰還を。」

「ぁ~、善処します。」

 

「短艇、行きました。」

「僚艦確認、全部います!!」

「うし、対空警戒厳のまま僚艦の援護を。」

「了解。」

 

 

「状況は?」

「ウィラー飛行場は完全に破壊されました、

 ウォルター中将は重傷ですが

 現場指揮を執っておられます。」

「・・・そうか、

 艦艇は?」

「ほぼ、全艦艇が被害を受け、

 複数の戦艦が擱座、半沈没、大破、

 巡洋艦も上部構造被害が多数、

 稼働艦艇は2隻です。」

「・・・駆逐艦、潜水艦は?」

「まだ、確認中です、

 潜水艦は海面に重油が浮き出ているので

 かなりの数が沈められたと。」

「市街地の被害は?」

「発電所がストップし、

 漁港が損壊、それ以外は特にないそうです。」

「つまり、市街地は。」

「はい、辛うじて

 ニューオリンズから電力を回して

 街路灯は点いています。」

「・・・ドックに居る艦艇で

 機関が無事な艦艇を調べてくれ、

 少しでも電力を確保するんだ。」

「了解。」

 

 

「隊長。」

「なんだ?」

「この推進器、静かすっね?」

「まぁ、普通の内燃機関じゃねぇからな。」

「どういう発想で

 『蓄電池』と発電機に分けた短艇が

 出来るんすかね?」

「そこは、畝傍大佐に聞いてみろよ、

 あの人、結構普通に答えてくれるぞ?」

「まじっすか?」

「あぁ、さて、ここからは

 『苦手な英語で喋らにゃいかん』」

『ですね、

 各隊も準備完了と発光信号来てるっす』

『・・・急に英語喋るなよ』

『え?隊長が言ったんじゃないっすか』

『・・・やるか』

『っす』

 

 

「はぁ。」

「なんだ?溜息ついて?」

「いや、元々夜勤だったんですけど、

 まさか、空襲後の夜勤になるなんて。」

「あぁ、水死体が上がるからなぁ。」

「夜釣りの楽しみが最悪ですよ。」

「お前、夜勤中に何してんだよ?」

 

「あれ?___?」

「・・・に、げ。」

「え?」

 

『まさか、こんな日でも夜釣りする奴が居るとは』

『大分神経図太いっすね』

『短艇固定』

『よし、地形は頭に入ってるな?』

『問題ないっす』

『目標は艦隊司令部の

 ハズバンド・キンメル・・・あれ?』

『隊長?』

『いや、中将で良かったっけ?』

『ぁ~、そう言えば

 大将なのか中将なのか、少将なのか、

 はっきりして無いんでしたね』

『まぁ、閣下でいいか』

『・・・それでいいんっすか』

『ま、大丈夫だろ』

 

『行くっすか』

『行くか』

 

 

「なんだ?胸騒ぎが収まらん。」

「閣下?」

「陸戦隊に警戒態勢を。」

「・・・まさか?」

「わからん、胸騒ぎがするだけだ。」

「了解、直ぐに伝えます。」

 

陸戦隊庁舎

 

「おーい!!誰かいないか!!」

 

「は?」

誰の返事も無い

「うそ、だろ?」

銃を構え、恐る恐る部屋を確かめて行く

 

「うわ・・・マジか。」

 

殆どの隊員が『喉を裂かれて死んでいた』

「閣下の胸騒ぎが現実になったか。」

急いで無線室へ向かう

「頼むよ、誰もいない、よな?」

きぃ

 

ピン

 

「なっ!?」

 

 

『爆発、確認』

『バレたか、急ぐぞ』

 

 

「なんだっ!?」

「わかりません!!爆発音です!!」

誰かが駆け込んで来る

「閣下!!大変です!!」

「何があったっ!?」

「陸戦隊の隊舎から火の手が上がっています!!」

「バカなっ!?

 非常事態宣言!!

 日本軍が上陸しているぞっ!!」

 

『フリーズ』

 

「・・・貴様。」

『ハズバンド・キンメル閣下ですね?』

側近達は既に首を裂かれて絶命している

「・・・どうする積りだ?」

『そうですね、まずは

 《降伏宣言を》』

「・・・拒否は?」

『して見ます?』

 

何やらハンドサインを他の隊員にしている

 

『外を見ていて下さい』

「一体、何を。」

 

拭きあがる水しぶきは

魚雷攻撃だとわかった

 

「くっ、わかった、降伏を宣言する。」

『ありがとうございます』

「兵の安全を第一に。」

『・・・反撃された場合は承服できかねます』

「徹底させよう、

 無線室へ向かわせてくれ。」

 

 

《全島に宣言する、

 私はハズバンド・キンメルだ、

 我がオアフ島守備艦隊は

 日本軍からの降伏を受諾した事を

 ここに宣言する、

 明朝に、日本海軍を向かい入れ

 ハワイ州の占領化を・・・

 受け入れる、

 済まない、太平洋方面司令官として

 皆の命をこれ以上失いたくない、

 むやみに反撃をせぬようここに頼む》

 

これを、5回程言って貰った

 

『さて、家の潜水艦に来て貰えますか?』

「人質か。」

『えぇ、後は貴方の安全を優先するだけです』

「ほぅ、安全ねぇ。」

『タバコはお吸いになられますよね?』

「ん?キミもか?」

『出来れば一本』

「ふふっ、変わった日本人だな。」

『愛煙家にそこまで悪人は居ませんから』

「フハハハハハっ!!」

 

 

この宣言は後の『日本国・ハワイ州県』の

記念日として語り継がれる事になる

 



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会談?

「なぁ?キャンベル?」

「だから言ったろ、ウォルターだ。」

 

日の出と共に現れる日本海軍艦隊

 

「異様、だな。」

「あぁ、この艦艇を考えた奴は

 この時代の人間じゃないな。」

 

『失礼、キンメル閣下、ウォルター閣下』

「おぉ、キミか。」

『はい、彼を連れて来ましたので』

「うむ、入室を許可する。」

〔失礼します〕

「「ん?日本語?」」

〔大日本帝国海軍臨時技術大佐、畝傍です〕

『だ、そうです』

「なんと、キミが流暢に英語を喋っておったから

 てっきり喋れるものだと思っていたわ!」

『まぁ、こうやって流暢に喋れるのは

 帝国に居る、在住アメリカ人の方に

 語学研修を願いまして、

 我が《海軍特殊陸戦隊》は、

 全員、英語は勿論、アジア圏の言語、

 ドイツ語、イタリア語も

 頭に叩き込んでいますので』

「は?」

「ば、バイリンガルだと?」

『ま、この方、畝傍大佐のせいで

 “覚えさせられた”んですよ』

〔あの、神宮中佐?〕

〔なんでしょう?〕

〔話が進まないのですが?〕

 

〔あ〕

「ん?どうした?」

『いえ、我が帝国から持ってきた

 物資をどこなら設置できるか、

 今後のハワイ州の扱いの話を

 すっかり忘れてました』

 

(なぁ?この隊長は大丈夫なのか?)と、

目線で訴えて来るキンメル閣下

 

こめかみを抑えて

(治らないんですよ、コレ)と、

首を振る俺

 

『では説明しますね?』

 

真空管加熱式小規模蒸気タービン発電機

 

「な・・・コレは。」

「確かに、騒音はいずれの技術革新で解決できるな。」

『川か、水資源さえあれば、

 真空管で熱湯を作り、

 その蒸気でタービンを回し発電する、

 そして、2~30世帯は、賄える試算です』

「うむ、これなら空き家を転用し

 幾らでも作れるな。」

「確かに、保水、点検業務の仕事も増え

 新たな雇用を生み出せる。」

『そして、このハワイ州産の

 “塩”を造って欲しいのです。』

「塩、か。」

「確かに周りは海と言う膨大な資源があるが、

 それに向く海岸は対してないぞ?」

『それに関しましては

 持ってきた工作機械があるので

 それを使います』

仕様書を見せ判断を促す

「ふむ、浮桟橋を兼ねるのか。」

「なるほど、海水を直接吸い上げ

 艦内の窯で蒸留し、

 水と塩に分けるのか。」

『いかかでしょう?

 ただ、この方法は

 “海が綺麗な事が大前提”なので、

 海を綺麗に保つ雇用も生み出せます。』

「「おぉ~。」」

 

(いいな~、直接会話出来て、

 まぁ、俺が外国語全般ダメダメなのは

 わかってるけどさ、ねぇ~)

 

〔畝傍大佐〕

〔はい〕

〔大まか賛同を頂きました、

 直ぐに設置場所の選定を始めたいそうです〕

〔良かった、

 “河川級輸送艦”を

 持って来たかいはありましたね〕

〔では?〕

〔はい、どんどん進めて下さい〕

〔では〕

 

『両閣下にお聞きしたい事があります』

「なんだね?」

「言ってみよ。」

『うちの、畝傍大佐に

 誰かいい女はいませんか?』

 

「「は?」」

 

『実は彼、嫁さん募集中なんですよ』

「「ぶはははは」っ!?いだだだっ!?はははっ!?」

 

(ん?施設の話だよな?

 なんで笑ってるんだ?)

 

「なんだ?コイツは嫁探しに

 態々最前線に来ているのかっ!?」

「こんな馬鹿げた日本人が居るとはな!

 あはははっ!?いでででっ!」

『良さそうな子が居たらご紹介願えますか?』

「ふふふっ、わかった、

 そうすると彼の歳は幾つだ?

 離れすぎても良くはないだろう?」

「いや、幼い方が彼の保護欲を

 刺激出来ぬか?」

「ふははは!確かに!」

『まぁ、雑談はここまでで、

 今すぐ救援物資の陸揚げを許可願えますか?』

「良かろう!

 本国の増援もいらんし、

 艦艇の修理も認めて貰えるのだ

 願ったり叶ったりだ!」

「こちらも

 気象観測飛行船の件はぜひとも頼みたい、

 なんせ、ハリケーンの予測は

 未知の分野だ、

 ハリケーン被害も極力抑えたい。」

『了解しました、

 飛行船に関しては明後日に到着予定ですので

 すぐさま滑走路の修理を進めましょう』

 

〔神宮中佐?〕

〔なんでしょう?〕

〔大丈夫ですよね?〕

〔はい、大丈夫ですよ〕

 

(なんだ?この胸騒ぎ?)

 




真空管加熱式小規模蒸気タービン発電機

コレは、畝傍の生前知識より
発案、採用された物

元々は、お湯を作る為の物で
真空管で加熱された水を
屋内に通し
『床暖房』『温水』を使う為の物

「蒸気が出来るなら発電出来ませんか?」
と、真空管を製作している会社に
複数手紙を出し、日本電力と会合、
技術のすり合わせを実行し

1960年台換算の20~30世帯日中分の電力を
発電する事に成功し正式量産が始まっている


河川級輸送艦

これは、二重底を排除し
輸送力に全振りした戦時輸送艦

いずれは二重底に改装できるように造ってあり
暫くは防水隔壁だけで我慢をして貰っている
(鋼鉄資材がかなりヤバいのでこうなった)


気象観測飛行船

航続距離は約地球の半周
限界高度12000m

速力は精々の20ノット
30km/h~35km/hに相当


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プライバシーってあるよね?

翌日

 

〔ひぇ~、車だらけ〕

〔ですね〕

『まぁ、何時もの事だ』

 

キンメル閣下と島内の通りを運転しているものの

 

3時間後・・・

 

〔やっと着いたぁ~〕

〔ですね〕

『今日はまだマシだ。』

〔まだマシだそうですよ?〕

〔うへぇ~、

 益々鉄道整備を急がないといけないですね〕

『しかし、畝傍大佐、

 本気でこのハワイに鉄道を?』

〔本気ですかって?〕

〔でなければこの渋滞の中物資を運ぶ事になりますよ?〕

〔それは嫌ですね〕

『ほれ、そこが事務所だ』

 

 

「は?このダイヤモンドヘッドに鉄道ですか?」

「あぁ、この日本人大佐殿は

 それを指揮して貰いたいそうだ。」

「え?するのではなく、私に?」

「どうもこの日本人は次に作戦があるから

 長居が出来んそうだ。」

「なんとも無責任ですね。」

「そうでもないんだ。」

キンメルが書類と写真を取り出す

「拝見します。」

 

 

「なるほど、これなら行けそうですね。」

「な?コイツの頭がどうなってるか、

 気にはなるが。」

「ですね、この“モノレール”、

 『観光路線』としては良い収入が期待出来そうですね。」

「しかも全線複線とし、幾つかは

 『退避可能』とする、

 つまり急行運転も想定に入れている、

 どう言う頭の中身なのやら。」

「ははは、言えてますな、

 資材の運搬も日本軍が請け負うとは、

 本当になにを考えているのやら。」

「しかもな?」

もう一つの書類を見せる

「なっ!?

 『自治権を認め

  税収は、食料品の輸出にて代替えとする』

 本気でおかしな事をしてますね。」

「しかも、

 俺、キャンベル、現州知事で

 議会を作れと来たもんだ。」

「は?」

「畝傍大佐からの書面にな?」

また一つの書類を取り出す

「・・・ぶはっ!?」

「だろ?」

「「ふはははははっ!!」」

「ワイキキビーチで

 『独身日本人と独身アメリカ人』の

 『婚活パーティー』ですかっ!?

 ぶははははっ!!」

「笑えるだろっ!」

「あははは~、ぁ~、

 ほんと、変な御仁ですね!」

「な!」

 

 

(めっちゃ笑い声が聞こえる)

(さて、次に来る時

 どこまで出来ているのかと、

 畝傍大佐を『必ず連れて来なければ』)

 

 

ハワイ侵攻から半年後

 

〔うっそだろ、マジか~〕

 

確かに、ハワイ州の

『観光事業』の概要をまとめた書類も

『作らされたけど』

ダイヤモンドヘッドから

ホノルル

ダニエル・K・イノウエ空港前

アロハスタジアム前

パールシティ

ワイパフ

カポレイ

コオリナ

と、細かい駅は省くが

モノレールが開業していた

 

〔あの、神宮大佐?〕

(神宮さん、いつの間に大佐なったのやら?)

〔なんでしょうか?〕

〔何をしたんですか?〕

流石に私室の資料が動いてるのは気づいた

〔まぁ、色々前倒ししただけですよ?〕

〔・・・戦争してるのに

 観光事業を前倒しせんでください〕

〔善は急げです〕

〔それに〕

〔それに?〕

〔なんですかこれ?〕

招待状がその手に握られていた

〔はい、『キンメル閣下からです』〕

(うげ~、絶対断れない奴じゃん)

〔読み上げますね〕

 

《よー!畝傍大佐!

 暫くだな!お前のお陰で

 気ままな生活をさせて貰ってるよ!

 今日はなお前ら独身野郎共と

 家のレディー達との

 パーティーをやるんだ!

 絶対来いよ?

 来いよ?来なかったら?わかるよな?》

〔です〕

 

〔閣下ェ~・・・〕

 



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ただの技術大佐では無い

時刻は1300

 

周りの招集された日本男子共は

褌(ふんどし)では無く

俺がしれっと開発依頼を出していた

『試作海パン』を着用している

 

俺は野戦服を着崩して隅っこに居る

 

「畝傍!何をしておる!」

 

あぁ、海パン一丁の

キンメル閣下はまぁ(下の膨らみを見てしまう)

これがアメリカンなんだろうねー

 

〔えっと〕

「おぉ、そうだったな、

 貴殿は英語が喋れんのだったか?

 ふはははははっ!!」

『流石に頭に叩き込みましたよ、

 キンメル閣下』

「おぉ!これは助かる!

 直接会話出来るのは良い事だからな!」

『はぁ』

「ん?どうした?」

『いえ、戦争中なのに、

 何をやっているのだろうなぁって』

「なんだ?貴様が

 このパーティーの発案者だろう?」

『・・・神宮大佐が俺の私室を

 勝手に漁って勝手に

 俺の名前を使って書かれた物です』

「なんだ、例えそれでも

 楽しむ者だろう?ほれほれ!

 酒だ酒だ!のめのめ!」

 

「ん?」

『失礼、野暮用です』

「あ、おいっ!!」

 

『おや、入れ違いでしたかキンメル閣下』

「おぉ、神宮大佐、

 丁度、畝傍の奴が

 血相を変えて飛び出して行ったぞ?」

『・・・いえ、

 特に火急の用事は入っていませんが』

「じゃぁ、アイツは何を。」

 

ドドドドドド

 

「お、日本のバイクか、

 中々良い音を出すじゃないか!」

『あ、畝傍大佐が乗ってますね』

「ん?どこに・・・。」

『どうやらあのライトバンを

 追いかけているようですね』

「どれ。」

双眼鏡で覗く

「随分物騒な恰好だな、

 神宮大佐?アレは・・・って?

 おいおい、主賓が

 二人共いなくなるのは駄目だろうに。」

「閣下?」

「仕方ない、俺も追いかけるか、

 おい、軍警察の部隊と、

 家の陸戦隊も声を掛けとけ、大捕り物だ。」

「は?はぁ、伝えます。」

(さてはて、なにを見たのかね畝傍大佐は?)

 

 

何処かの倉庫

 

「っ!?」

「よーし、お前らは後でな?」

「ったく、しょうがねぇアニキっすね、

 ちゃんと俺にも回して下さいよ?」

「ま、お前のはデカいからな、

 お前の後だとガバガバだからよ。」

「好きでデカくしたんじゃねぇっすよ。」

 

少女は口を布で塞がれ

手は縛られ上に吊り下げられる

 

「このっ!!」

 

必死に抵抗する

 

「大人しくしやがれっ!!」

 

殴打され静かになる

 

「ったく、てこずらせやがって。」

 

手持ちのナイフで服を引き裂く

 

「けっ、泣けばそそるんだよ!!」

 

 

 

ごろん

 

なにかが転がって来る

 

「なんだ?」

 

『抵抗したんでな』

 

「うわぁああっ!?」

 

それはさっきまで話していた相棒の頭だった

 

「なっ!?なんなんだよお前っ!?」

『大日本帝国海軍臨時技術大佐だ、

 貴様を拉致誘拐及び強姦罪で逮捕する、

 これで素直に逮捕されるなら

 裁判だが?』

 

「ふざけんな!」

銃を構え

 

ことん

 

「へ?」

 

『容疑者の抵抗を確認、

 よって、この場で処分する』

 

頭を失いフラフラ歩く身体は

 

『あぁ、これがゾンビの元ネタかね?』

 

蹴とばし、噴き出す血が壁を汚す

 

「おい!畝傍大佐!!」

『キンメル閣下、なぜここに?』

「・・・死体は家で回収しよう。」

『・・・わかりました』

『処理班、行動開始』

 

ハンドサインで静かに死体を回収し

家屋を清掃して行く

 

『レディ、お怪我は?』

 

上着を掛け、包む

 

「あ、なた、は?」

『海軍臨時、技術大佐、畝傍と言います。』

「その、お怪我は?」

『・・・すいません、

 返り血でレディを抱える物では無かったですね。』

「ぁ。」

『・・・動きますね。』

「はぃ。」

 

 

「閣下、死亡した二人の身元確認完了しました。」

「ふむ。」

 

「そう言えば保護した女はどうした?」

「はい、畝傍大佐に

 ぴったり張り付いて離れないそうです。」

「あん?」

「畝傍大佐から事後報告なのですが、

 身元引受人として登録しておいてて欲しいと。」

「・・・はぁっ!?

 軽巡に密航してまで着いて来ただぁっ!?」

「書類には、責任を取るので

 戸籍変更も頼みたいと。」

「・・・ふはははははっ!!」

 




畝傍大佐

なよっちい

もやし

ひょろまつ 等々、余り良い呼ばれをしていない

技術大佐としては
一応功績を立てているので『大佐』止まり
『准将』は断っている

実は海軍陸戦隊の訓練について行ける

そして日本刀と『野戦用甲冑』を
専用装備として持っている

兜に飾りは無い
甲冑は、戦国武将での一般風を
可動域を拡張したカスタマイズ品

防弾性能は十四式拳銃を150mから撃たれ
辛うじて貫通しないが滅茶苦茶痛い

海軍陸戦隊と一緒になって鍛えるうちに

日本刀で人間の首を切り落とせる腕前になっていた



少女

実は畝傍を目撃したのは
『開戦7日目のキンメル閣下と移動中』を目撃

半年の期間を経て再び畝傍を目撃
パーティーに参加はせず、遠目から
畝傍を眺めていた

その時、後ろから襲われ攫われ

その後、畝傍に救助?される

そして、畝傍が乗る『軽巡・刈川』に
泳いで乗り込んだ行動派

湾外に出て、
オアフ島の明かりが見えなくなるタイミングで発見
保護をされる

そして、畝傍にぴったりくっついて離れない


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1939年のドイツ

1939年 ドイツ ウィルヘルムスハーフェン

 

「ふむ。」

「コレは・・・。」

 

そう、例の大佐からの

『機密書類』が完成した

 

「閣下、一応人員は確保出来ましたが。」

「なんだね?」

「この畝傍大佐なる人物を信用しても?」

「現に完成しておる、それに、な。」

 

この『機密書類』には

私はもとより

閣下に置ける機密も書いてあったのだ

 

「ゲーリング君、

 彼にバレている以上

 我々に残されている手段は『大西洋の制圧』

 『ソ連への侵攻』『欧州統一』だ、

 そして最も懸念材料の

 『人心の掌握』だ、手伝ってくれるね?」

「はっ!!」

 

 

アレは1935年だったか

 

突然に送られて来た『一通の手紙』

そこから『私の人生は新たなページをめくり始めたのだ』

『ふむ、これが。』

ハーケンクロイツが良く似合う軍服だが、

背丈はやや低い男性がその“届けられたモノ”を

物珍しそうに眺めていた。

『閣下、如何様に致しますか?

 幾ら同盟国とは言え黄色い猿の作った物、

 信用できますまい。』

『否、この自走砲は直ぐに採用せよ。』

『は?』

『12.7cm砲弾が繰り出す破壊力は

 艦艇の補助砲としても十分にある、

 即刻、この自走砲を基礎とし、

 新型戦車の開発を進めよ。』

『しっ!?しかし!!』

『ゲーリング君、

 君は、“どこのドイツ”から来たのかね?』

『・・・それは。』

『私はね、疲弊しきった2000年から、

 この“別世・ドイツ第三帝国”に来たのだよ。』

『閣下・・・如何様なドイツになったのでありますか?』

『・・・滅んだのだよ、全てがな。』

『全てが?』

『うむ、

 我がドイツから亡命した一部の科学技術者がな、

 “核爆弾”をアメリカにて開発、

 それを、“日本・ドイツ・イタリア”の

 三国同盟国に、見せしめとして落として来たのだよ。』

『・・・そのような未来もあるのですね。』

『それがきっかけでな、

 打倒アメリカに一気に傾き、

 あの“ソ連”を中心とした連合軍が発足し、

 我がドイツからも、

 なけなしの艦艇と戦車、

 かき集められるだけの航空機を動員したよ。』

『ソ連が・・・なれば勝利を?』

『・・・世界中が、

 “核の炎”に包まれたよ、

 その工業力を持って、

 僅か一年で、200発の核爆弾を作り上げたアメリカは、

 ソ連に100発は落とし、

 残りは艦隊、各連合軍の拠点基地、

 果ては各国の首都に核爆弾を落として来た。』

『そんな事をすればっ!?』

『当然、人が住めなくなったよ、

 どこか狂っていたのだろうな、

 アメリカは自国にある核施設を突如として爆破、

 地球全土が放射能の嵐に埋もれ、

 私も、せめて死ぬ時は太陽を見たいと思ってな、

 “2000年、12月25日”

 最後の砲弾で放射能の分厚い雲に穴を開け、

 太陽を拝み、そのまま血反吐を吐き出し、

 倒れ、死んだ筈だったのだ。』

『閣下。』

『ゲーリング君、

 そうならない為にも、

 そうさせない為にも、

 核開発を何としても止めねばならない。』

『・・・私の“2000年”は、

 欧州連合、大東亜連合、アメリカ合衆国の、

 三つの国しか残りませんでした。』

『・・・そんな未来にもしたくは無いのう。』

『はい。』

 

 

「しかし。」

「えぇ。」

 

その巨体は『一号艦』を彷彿とさせる艦橋の高さ

運河を通さない前提で作られたその『戦艦』は

間違いなく『ドイツ海軍最強の戦艦』と言えた

 

〔仮称・改・ビスマルク級超弩級戦艦〕

全長270m全幅40.5m

満載排水量80000t

平均喫水11m

艦艇用ヴァルター機関178500馬力

高出力モーターポンプ補機2軸

スクリュー式推進機2軸

最大速力36.4ノット(過負荷40.1ノット)

15ノット以下にする場合

ヴァルター機関を停止して運用

補機運用15ノット・5600海里

スクリュー兼用20ノットで6000海里

スクリューのみ15ノット7000海里

 

主砲410mm55口径『4連装砲』4基

艦首に3基艦尾に1基

4基16門水平装填装置毎分2発×16門

 

艦中央部副砲203mm65口径『4連装』2基

両舷に1基ずつ

2基8門自由装填装置毎分5発×片舷4門

旋回範囲を

180度とし、前面から側面、後方に対応

 

100mm65口径連装速射高角砲16基32門

最大到達高度13000m

 

20mm三連束砲身回転機関砲発射基8基24門

 

20mm連装機関砲座12基24門

 

艦首61cm魚雷発射管2基

 

艦尾爆雷投射基2基

 

装甲方式は『一号艦』を参考

 

「正に不沈艦が相応しいな。」

「はい、自身の主砲よりも強力な砲撃を想定、

 近接防御として20cm砲の重巡クラスの砲撃。」

「高角砲は13000mに届く、

 全くいつの時代を想定しておるのやら。」

「しかし。」

「まだ納得がいかないかね?」

「戦艦に『爆雷投射基』は・・・。」

「『畝傍大佐』の頭の中には

 何が詰まっているのだろうな。」

「測りかねます、

 この『超弩級戦艦』の設計図に装甲材の資料、

 『各艦艇の強化設計図案』と言い、

 『一つの艦艇に』

 どれだけ詰め込めれば気が済むのでしょうか?」

 

実はこの『仮称ビスマルク級』は

これでも『削って出来上がっているのだ』

 

先の20cm砲ですら妥協して両舷に1基ずつ

原案が、

艦橋構造を挟み込むように

4連装6基が原案であり

技術面、復元力を加味して1基にしたのだ

そのおかげで『バルジ』を追加し

水中防御へ割り当てた

 

「気が済む事は無かろうな。」

「まったくです。」

 

その『仮称ビスマルク級』の脇には

『仮称ビスマルク級』を旗艦とした

 

『水上打撃艦隊』構想として

『仮称アドミラル・ヒッパー級』重巡洋艦2隻

『仮称ザクセン級』護衛艦が4隻

 

出撃準備を整えているのだから

 

「さて、代替え燃料生産の話を進めねばな。」

「ですな、

 この航続距離では

 良くて1年で我がドイツは燃料切れでしょうな。」

「困った物だ。」

「えぇ、本当に困りました。」

 




『仮称アドミラル・ヒッパー級』重巡洋艦

全長220m全幅22m
満載排水量20000t
喫水7.5m
艦艇用ヴァルター機関15700馬力
中央高出力モーターポンプ補機1軸
両舷スクリュー式推進機2軸
最大速力35.4ノット(過負荷41.2ノット)
15ノット以下は
ヴァルター機関を停止する事
中央補機15ノットで4000海里
スクリュー兼用で6500海里
スクリューのみ8000海里

主砲300mm60口径連装砲3基6門
水平装填装置毎分3発
艦首(上段)1基、艦尾2基

艦首(下段)127mm70口径ガトリング砲1基
5門で一つの砲身を形成
自動給弾機毎分50発
艦艇に使用は出来るが
俯角が40度しか取れない為
対空迎撃には向いていない

100mm65口径連装速射高角砲6基12門

20mm三連束砲身回転機関砲発射基4基12門

20mm連装機関砲座8基16門

53.3cm4連装魚雷発射管両舷各1基8門

艦尾爆雷投射基2基

水上機『衝雷』現地製造機2機

『仮称ザクセン級護衛艦』

全長150m全幅17m
満載排水量6000t
喫水5m
試作艦艇用ガスタービンエンジン72000馬力
始動・低速運転用補機ディーゼル500馬力
高出力モーターポンプ補機両舷2軸
スクリュー式推進機1軸
最大速力35.2ノット(過負荷43.4ノット)

15ノット時
ガスタービンエンジン
高出力モーターポンプで5500海里
スクリュー兼用で6560海里
スクリューのみ7000海里

艦首主砲155mm65口径3連装砲2基6門
水平装填装置毎分4発

533mm5連装魚雷発射管1基左右可5門

20mm三連束砲身回転機関砲発射基6基18門

20mm連装機関砲座6基12門

爆雷投射基2基

艦尾『対空用散弾砲塔1基』

「ふむ、ゲーリング君。」
「はい。」
「あの艦尾のアレを
 余は見ていないのだが?」
「え?『機密書類』の
 原案のままですが・・・。」
「見なかった事にしよう。」
「は?」


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