ご注文は記憶ですか? (榎田 健也)
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第一羽「ご注文は記憶ですか?」

初投稿です。学生でなかなか時間がとれませんが、両立できるようにがんばります。


 太陽の眩しさで目を覚ますと、俺はベンチに座っていた。頭が少しぼうっとしている。取り敢えず立ち上がって、太陽を全身で浴びながら背伸びをした。

 

 さて、ここはどこだろう、今は何時だろう。

 

 

 俺は、誰だろう?

 

 

 

 ……頭を整理しよう。

 

 周りには西洋風の街並みが広がっていて、何故かウサギが大量にいる。日本にこんな場所あるのか? って思わせる程に異国情緒溢れる家屋が立ち並び、猛烈に不安が押し寄せてきた。

 

 日は高く上っており、恐らく十二時頃。そんな時間にベンチに寝ていたのか……俺っていったい何者なんだろう。そもそも職はあるのだろうか。恋人は、家庭は、貯金は……そもそも帰る家はあるのだろうか。俺は全く覚えてないし、自分のものと思われる荷物も周りにないし、ポケットにも何も入っていないから全くアテが無いんだけど……。押し寄せてきた不安が俺の心を支配した。

 

 さて、結局俺は誰なのだろう。思考ができているのだから完全に記憶が無い訳では無いのだが、何故か「自分についての記憶」が全く無い。俺の好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味、年齢……そして何より、自分の名前が思い出せない。俺の心を支配した不安が、輪になってマイムマイムを踊り出した。

 

「あ…………」

 

 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

「うわぁぁぁああああ!」

 

 

――後にこの現場を見ていた人に話を聞いたのだが、この時俺は急に走り出したらしい。記憶喪失によるショックから無意識に自分が知っているものを探そうとしてパニックを起こしたとかなんとかかんとか。とにかく、その人は名の知れた小説家で、わざわざパニックを起こした俺を好奇し……心配して追いかけてくれたらしい。

 

 そしてその後、俺は衝撃を受けて我に返った。

 

 

 目の前に銀髪の少女が倒れていた。どういうこっちゃ……って、

 

「うわぁっ! 大丈夫!? キミっ!」

 

 どうしようどうしようどうしようどうしよう水曜どうしよう

 

「大丈夫です……早くラビットハウスに、戻らないと…………んっ」

 

 足首が赤くなっている。どうやら捻ったようだ。

 

 らびっとはうす? 全く聞き覚えが無いが、痛みに苦しんでいる女の子に聞く訳にはいかない。誰か知っている人は居るだろうか。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 よろよろと歩いている女性が目に入った。どうやら疲れているみたいだけど、周りにその人以外いないのだからしょうがない。

 

「すいません、そこのお姉さん!」

 

「はぁ……はぁ……わ、私ですかぁ?」

 

 息を荒げている姿を改めて見ると、「美人」という単語が頭に浮かんだ。意味は分からないが、この人は「美人」なのだろう、恐らく。俺には関係なさそうな事なのに、なぜ意味を忘れているのだろう……?

 

 

「ラ ビ ッ ト ハ ウ スって知ってる?」

 

 

 あれ? 何か違和感が……?

 

「はい……あの十字路を左に曲がるとありますけど……」

 

 指をさしながら親切に教えてくれるお姉さん。結構有名な場所らしい。

 

「ありがとうございます、『美人』なお姉さんっ!」

 

 俺は少女が落とした紙袋を肩に掛け、ずれ落ちないように気を付けながら少女を仰向けのまま抱きかかえた。少し重いが、持てない程ではない。むしろ小柄で軽い方ではなかろうか、俺の筋力が足りないだけで。

 

「しっかり捕まってて!」

 

「ちょっ、急にっ!」

 

 少女は不満げだったが、挫いた足首ではまともに歩けないと分かっているようで、大人しく首に手を掛けてくれた。首が痛いが、仕方ない。

 

 

「び……美人…………」

 

 

 心臓の拍動と足音の合間にそんな呟きが聞こえたような気がした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「すいませんでしたぁぁぁぁぁ!」

 

 例の「ラビットハウス」は喫茶店だったらしくコーヒーの匂いで漂っていた。そして少女の父親が待っていて少女を部屋のベッドまで運ぶと、俺は奥の部屋に通され「色々と訊きたい事があるから待つように」と言われた。そして少女の手当てを終えて戻ってきた父親に事の経緯(分かることだけ)を話し、今に至る。

 

 床に膝と両手と頭を地面に付けるこの姿勢。何故か身体に馴染んでいたのだが、何て言うのかは思い出せない。つまり、この謝り方は俺に関係ある? …………何故か不名誉な気がするのだが……。

 

「娘を送り届けてくれた事は礼を言おう。だが、救急車なり何なり、他に手段はあったんじゃないかな?」

 

「はい、すいません。思慮不足でした」

 

 ダンディな声で柔らかく言ってくるものだから、何だか、申し訳ない気持ちになってくる。

 

「いやまあ、君の言う事が全て本当なら、それも仕方ないだろうけどね」

 

 多くの女性の心をゲッツしそうなダンディな声が俺だけに向けられる。いや、声だけじゃなく妙な……軍隊の上官のような威圧感を感じる。

 

「まあ……信じる方がおかしいですよね。自称記憶喪失の奴なんて。……最も、何も持ちあわせていないので、お詫びの品も何も用意できないんですが」

 

「ふむ……では、示談で手を打とうか」

 

「いや、一文無しなんですが……」

 

 示談って……あれだよな? 裁判沙汰にせず賠償金を払うやつ。無理やん。

 

「さて、娘を怪我させてさらに柔肌を堪能した分を――」「待ってくださいお父さん!」「お前に『お父さん』と呼ばれる筋合いは無い!」「ひいっ!」

 

 

 な、何だこの人! 言動からして娘を溺愛しているタイプなのか!?  手当てもやけに時間かかってたし!

 

 

「すいません許してください! 何でもしますから!」

 

 

「ん? 今何でもするって言ったよね?」

 

 

 あっ、やべ。何かとてもマズい事を言ってしまった気がする。

 

 何でもすると言った手前、断ることは難しいが限度もあるわけで、そもそも人間出来ないことがあるのは当たり前な訳でだな要するに「君には、今日から住み込みで働いてもらう」

 

 

 

「…………ゑ?」



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第二羽「ご注文は人手ですか?」

 感想が嬉しかったので、二時間ちょっとで二話目書いちゃいました。もっと皆さんを楽しませる小説を書けるように頑張ります!


 桃弾頭さん、感想ありがとうございます! 励みになります!


♪ペールギュント『朝』

 

「ふあぁぁぁぁぁ、よく寝たぁ…………って、ここどこ!?」

 

 

 あ……ありのまま今起こった事だ。……目が覚めて欠伸をして、何故か俺の知らない天井が見えた。な……何があったのかわからない、頭がどうにかなりそうだった。

 

 とても恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

 

 

「ここはラビットハウスだ、おはよう」

 

 ダンディな低音が上からかけられた。

 

「あ……おはようございますお父さ――」「私の名前はタカヒロだ」「タカヒロさん」

 

 この人は、俺が昨日ぶつかって怪我させてしまった少女の父親、タカヒロさん。彼女はタカヒロさんの開いている喫茶店「ラビットハウス」を手伝っており、その穴を埋めるためにアルバイトをしばらくする事になった。……そういえば、俺がラビットハウスに運んでから一度も少女に会っていない。謝りに行きたいが、まだベッドで安静にしているのだろうか。

 

「娘さんの足の様子は……」

 

「まだ万全とはいかないな。動けるようになるまでバイト頼むよ。そろそろ開店準備する時間だから起こしに来たんだ。……寝ぼけていたようだがね」

 

 そう言い残し、タカヒロさんは部屋を出ていった。「話をする暇はない、早く準備しろ」という事だろうか。……まあ、今回の件は完全にこっちが悪い。せいぜい労働に従事しよう、俺の記憶喪失を信じているのかは分からんが、部屋を一つ与えてくれたし(ベッドと、趣味じゃない本が詰まっている本棚くらいしかないが)、食事もついてくる(昨夜は冷凍チャーハンだったが)、まあ文句も言っていられない。さっさと準備しよう。

 

 

 

※ 男の朝の準備は需要が無いのでカット

 

 

 

 昨日の昼は、慌てていたのもあって詳しく観察できなかったのだが、喫茶店「ラビットハウス」は割と席は多く繁盛していそうだった。あと、俺の顔は特にかっこよかったわけでもなく、身体は太ってはいないが筋肉が少なかった。

 

「この香り……コーヒー豆!!」

 

 いや、むしろコーヒー豆というよりは喫茶店の香りなのかもしれない。ただ、俺はこの香りを覚えている。自分に関係する記憶だけが抜けてしまっている俺だが、コーヒーの匂いは俺に関係していないのだろうか、う~ん。

 

「キミが新しいバイトくんだね!」

 

 思考に没頭していると、後ろから明るい声がかけられた。思わずびっくりして振り返る。

 

「わっ、ごめんね、驚かせちゃったかな……?」

 

 亜麻色の髪の美少女が申し訳なさそうな顔で立っていた。

 

「先輩バイトさんですか?」

 

 予想をふと口に出してみた。これで客だったら恥ずかしい。

 

「え!? どうしてわかったの?」

 

 どうやら当たっていたらしい。やったぜ。……得意げに解説するとか、何か嫌いな奴の猿真似をするような、何ていうか嫌な感じがするんだけど、まあいいか。折角だし良好な関係の為の掴みにしよう。

 

「お互いに服装ではバイトか判断できないので、『俺を新人バイトだと知っていること』で判断したんです。バイトの皆さんなら、新人が入ったことを事前に連絡があったんだと思って。逆に、お客様にそんな事を伝えても不安にさせるだけなので」

 

 少女の真っ白なシャツの上に桃色のベスト、黒いスカートという恰好では客かバイトかは特定できない。俺も、今は普段はバーで使うらしい白いシャツに黒いパンツ、ロングエプロンといった格好。喫茶店のバイトというよりは、脱走したレストランのバイトといった装いだ。

 

 だから、会話から導き出した。……なかなかの推理だ、タグに「ミステリー」を増やすべきじゃないのか? ……タグって何だっけ?

 

「す、すごいね……」

 

 ……アレェ? 俺、何かやっちゃいました? 引いてるように見えるのですが……

 

 

「……すごいよ、すごいよ君! 探偵みたいだよ!」

 

「へ……?」

 

 ショックの余り、真っ白に燃え尽きて近くの椅子に座り込んでいた俺の右手を掴んで握りしめた両手はホットココアのように温かかった。

 

「あの……恥ずかしいんですが……」

 

「あ……ごめんね、えっと……」

 

 パッ、と手を離す少女。何だか顔が熱い。手の熱が移ったみたいだ。

 

 ふぅ……どうやら名前はタカヒロさんから聞いていなかったようだ。……まあ、折角もらった名前なのだから、名乗っておこう。

 

「植物の『ウメ』に北斗の『ト』で『梅斗』と言います」

 

「……あれ? 自分の名前はわかるの? 記憶喪失じゃなかったっけ……?」

 

 タカヒロさんは、すでに記憶喪失の件を他のバイトにも伝えていたらしく(どうせなら名前も伝えておけば良かったのに)、それで困惑しているようだ。こめかみを人差し指でつんつんしながら「ん~っ」と考え込む姿は大変可愛らしいが、悩ませてしまうのは不本意ではない。

 

「タカヒロさんに付けてもらったんです。名前を含めて自分については何も覚えていません」

 

 昨日「名前が無いと不便だろうから」と付けてもらったが、俺は適当に付けたんじゃないかと疑っている。だって「梅」を音読みして読んだら「バイト」だぞ……?

 

「良い名前だね!」そうかなあ……「私の名前は――」

 

 自分の名前をはにかみながら教えてくれた彼女の表情を、俺はきっと忘れる事はないだろう。

 

 

「ココアっていうの、よろしくね!」

 

 自身に関する記憶が無くてもこれだけはわかる。わかってしまった。

 

 

 …………俺は、彼女に恋をしたのだ。

 



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第三羽「ご注文は新人バイトですか?」

 もしよろしければ、感想、評価等をよろしくお願いします。

 温かいお言葉は励みに、厳しいお言葉は糧になります。


 桃弾頭さん、時間遡行者さん、感想ありがとうございます! 励みになります!


「…………はい、よろしくお願いします」

 

 何故か「即堕ち2コマ」という単語が頭に浮かび、すぐに去って行った。何だったんだ、いったい……?

 

「おっ、お前が新人か!」

 

「リゼちゃん! 紹介するね、今日から一緒に働く梅斗くんだよっ!」

 

 どうやら、「リゼ」という名前の先輩バイトらしい。アメジストのような艶やかな紫色の髪をサイドで縛ったツインテールの美少女が現れた。二人は見る限り仲は良く、年齢も近そうだ。

 

「今日からよろしくお願いします。ココア先輩、リゼ先輩」

 

 自分の年齢が二十代前後としか分からないし、二人の年齢も同じくらいだと思うが一応先輩のため敬語にすることにした。

 

「梅斗くん……」「ウメト……」

 

 …………アレェ?(二回目)パイセンの方が良かったか? 何故かえっちな感じがするんだが(パイ専的な)。

 

「もう一回呼んで!」「は、はぁ……ココア先輩」「わ、私も! 私も呼んでくれ!」「リゼ先輩」「もう一回!」「ココア先輩」「こっちもだ!」「リゼ先輩」「もう一回!」「ココア先輩」「こっちも」「リゼ先輩」

 

 

 

 ※ この後滅茶苦茶リピートした。

 

 

 

「わっ……悪い。新鮮だったからつい……」「ごめんね、梅斗くん」

 

「いや、大丈夫です……開店準備大丈夫ですか?」

 

「リゼちゃん、どうしよっか?」

 

 開店準備というと……掃除とか在庫整理とかぐらいか。場合によっては急いでスーパー等に買いに行ったりするのだろうか、ようわからん。

 

「う~ん、在庫は今のところ大丈夫だから、掃除くらいだな」

 

 リゼ先輩はそう言うと、どこかに行ってしまった。

 

「あっ、ありがとうリゼちゃん」

 

 どうやら清掃道具を取りに行ったようだ。……明日からは下っ端として自分で取りに行こう。後でどこにあるか訊く必要があるな。

 

「よしっ! 持ってきたぞ! ……私達は床を掃くから、ウメトは机を布巾で拭いてくれ」

 

 ココア先輩はホウキ、俺は布巾を二枚受け取った。濡れ拭きと乾拭きをしろ、という事だろう。……まあ、掃除ぐらい誰でも出来るからな。せいぜい頑張りますかね。

 

「そうだ、ウメトは記憶喪失なんだよな?」

 

 片方の布巾を濡らして濡れ拭きをしていると、ふいにリゼ先輩が話しかけてきた。何かこの和やかな感じ、いいな。

 

「はい、自身に関する記憶が一切無いんです。気づいたらこの街のベンチに倒れていて……」

 

 ココア先輩にも話したが、俺は自分が誰なのか全くわかっていないし、手がかりも無い。

 

「ベンチ……周りにウサギさん、たっくさん居た?」

 

 ウサギ……確かに居た気がする……たっくさん。

 

「あっ……ウサギわかるか? 耳が長くて、ふわふわで……」

 

「はい、一応……あれ? ウサギ、ウサギ……?」

 

 ウサギという単語は思い出せるし、何がウサギなのかもおぼろげだがわかる。なのに……今聞いた特徴だったか思い出せない。耳は長かっただろうか、ふわふわだっただろうか。

 

「思い出せないって事は、記憶が無くなっちゃうまではウサギさんと仲良かったのかな?」

 

「確かにな。ウサギという単語は覚えているようだが……何が分からないんだ?」

 

 俺は「何が分からない」のか、か……そうだな。

 

「あれはウサギとはわかるんですが……特徴が分からないんです。特に外見が」

 

 目覚めたばかりだったからかもしれないが、その時の光景を思い出すと地面のタイルに「もや」がかかっていて、「ウサギ」が見えない。何故だろう……。

 

「外見……か。自身に関する記憶ってことは、それ以外は?」

 

「一応、それ以外の記憶は何故かあります。名前は覚えていないので、タカヒロさんに付けてもらいました」

 

「そうか、大変だな……何か困ったことがあればすぐに言ってくれ。力になれるかもしれない」「私にもすぐに相談してね!」

 

 二人とも、とても親切にしてくれる…………疑わないのだろうか。

 

「あの、なんで信じてくれるんですか? 怪しすぎますよ、俺」

 

 タカヒロさんもそうだが、俺の記憶喪失を普通に受け入れている。もし俺が昨日のタカヒロさんの立場だったら即通報している。

 

「なのに、なんで――」「嘘ついているようには見えないからな。だからタカヒロさんもお前を信じているんだろうさ」「優しそうな顔、してるしねっ!」

 

 

「っ……」

 

 おい、何だよ俺。泣き虫だったのかよお前。目が熱いぞ、おい。

 

「……そうですかね」

 

否定しようとしたが、そう生意気そうに返すのが限界だった。乾拭きしたはずの机に雫が付いていた。

 

 

「そうさ。……そっちは終わったか?」

 

 俺は机についた雫を布巾、目をシャツの袖で拭きとってから先輩二人の方を向いて宣言した。

 

「もう大丈夫です、拭けました」

 

 …………何がとは言わないが。

 

「よ~し、じゃあ……開店しよう!」

 

 ココア先輩がささっと「close」から「open」に看板を裏返した。いよいよだ、ちゃんとできるだろうか…………接客。

 

「土曜日だから沢山お客さん来てくれたらいいな!」

 

 喫茶店だからなのか、開けてすぐ客が入る訳でも無いようだ。開店しても二人は談笑していた。

 

「そ……それはそれで接客が大変そうだが……チノもいないし」

 

 ゔっ! それは百パーセント俺が悪い。そうか、あの子そんなに頼りになる子なのか……

 

「すいません、俺のせいで」

 

「いや、気にするな。お前の手腕に期待しているぞ!」

 

 ズブの素人に何を期待しているんですかね、( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

 

 

『カランコロンカラン』

 

 さっそく来たッ! 心の準備すらさせてくれないのかよ!

 

「いらっヂャ――」

 

 

 …………終わった。



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第四羽「ご注文は富士山ですか?」

 もしよろしければ、感想、評価等をよろしくお願いします。

 温かいお言葉はやる気に、厳しいお言葉はバネになります。


 桃弾頭さん、時間遡行者さん、すふぃあさん、感想ありがとうございます! 土曜日に間に合わなくてごめんなさい!


誤字等あったら遠慮なくご指摘ください(急いで書いたため確認不足です)


 

謎の男「さて、今回も始まりました『はじめてのおしごと』!」

 

謎の女「今回の主人公は喫茶店『ラビットハウス』で働く『うめとくん(年齢不詳)』です!」

 

謎の男「うめとくんは記憶喪失で自分のことを覚えていないそうで。いや~大変そうだね」

 

謎の女「そうですね~。さて、しっかりアルバイトできるのか気になりますね、ジョ○ジさん」

 

謎の男「……ねえ、なんで伏せてたのに言っちゃうの? バカなの? 死ぬの?」

 

謎の女「それでは、VTR、どうぞ~!」

 

謎の男「大体、忙しいのに土曜日出すなんて言っちゃって元ネタ見た事ないし無計画にも程が――」

 

 

 ◇

 

 

「いらっヂャ――」

 

 

 …………終わった。

 

「おっ、おい! ウメト! 」

 

 ……終わった。終わったよ、もう。

 

「――――」

 

もう、何も聞こえ『諦めんなよ!』な、え……? 誰?

 

『諦めんなよお前! どうしてそこでやめるんだそこで!』

 

 だって……俺、すぐ失敗しちゃって……

 

『頑張れ頑張れできるできるやれる気持ちの問題だって』

 

 俺……自分の記憶が無いからさ。だからもう『今日からお前は――』

 

 

『富士山だッ!!!』

 

 

 

 意識が何処かから戻ってくると、俺の左に立っていたリゼ先輩が頭を下げようとしていた。

 

「失礼しました。こちらの席にどうぞ」

 

「……ウメト?」

 

 

 俺はリゼ先輩の前に手をかざして動きを制すと、自分で頭を下げた。そして手で近くの席を指してお客さんに微笑みかける。

 

「ココア先輩、メニューをお願いします」

 

 案内した席に無かったようなので、右側に居たココア先輩の方をちらりと見て小声で頼む。

 

「あっ、うん。待ってて」

 

 その間に俺は席に座ったお客さんの方に向かい、話しかけた。

 

「ただいまメニューをお持ちします。冷たいお冷もお持ちしましょうか?」

 

 喫茶店を訪れた記憶、そもそも俺の記憶は昨日目覚めてからだからあるはず無いので、お冷がいるかどうかもわからない。じゃあどうするか……訊くしかないよネ!

 

「あっ、お願い。……新しいバイトさん?」

 

 ……おお、綺麗なお姉さんが話を広げてきた。新人って立場は素晴らしいですね。

 

「はい、先程はとちってしまいすみません。お綺麗なお客さんだったので緊張してしまいまして。リゼ先輩、お冷をお願いします」

 

「まあ、お上手なのね♡」

 

 よし、食いついてきた。可愛いココア先輩やリゼ先輩には可愛いなんて言わないが、お客さんなら話は別だ。自分の尻は自分で拭う。お客さんをそのまま返すわけにはいかない。……先輩方を使い走りにしているわけだが、それはそれ。

 

「事実ですから。はい、こちらメニューになります」

 

 ココア先輩が持ってきたメニュー表を受け取り、お客さんに手渡す。

 

「えっえぇ……? やだ照れるじゃない。……お勧めはなぁに?」

 

 お勧めかぁ……

 

「ココア先輩、お勧めは――」「えっとねぇ」「ココアちゃんのお勧めは特製パンでしょ? アナタのお勧めが知りたいなあ」「だって? 梅斗くん」

 

 う~ん、記憶喪失って正直に言うのも不安にさせるだけだしな。

 

「お冷がおすすめです」

 

 リゼ先輩がトレーに氷がたっぷりのお冷とウサギ柄のコースターを乗せて持ってきてくれた。小声で礼を言って二つを受け取ってお客さんの目の前に置く。

 

「他ので」

 

ですよね。

 

「ちょっと失礼します」

 

 仕方ないのでメニューを覗き込む。ふむふむ、なるほど。

 

「……パンケーキなんてどうでしょう? 甘いシロップがアツアツのふわふわ生地にたっぷりかかっていて、アツアツなコーヒーとの相性が抜群ですよ」

 

 食ったことないのに適当だ適当。ただ、「アツアツ」という言葉で何故か俺の心が昂った。二回言っちゃった。

 

「へぇ……じゃあパンケーキとオリジナルブレンドで」

 

「かしこまりました。パンケーキとオリジナルブレンドお願いします!」

 

「は~い!」「わかった」

 

「少々お待ちください。今先輩方が準備しているので」

 

 俺は今日からバイト、そのため調理に全く参加できない。しかたないので、お客さんの要望に対応できるように、なおかつ一人の時間を邪魔しないように、お客さんから少し離れて待機することにした。調理は時間が開いたら教えて貰って賄いにしよう。

 

「ちょっといいかしら」

 

 と思ったらすぐに要望が掛かった。ちょっぴりの苛立ちを押し殺して近づく。

 

「何でしょう?」

 

「アナタ、これまで接客のバイトした事あるの?」

 

 どうやら、お話好きなお姉さんらしい。まあ、調理は手伝えないし、綺麗なお姉さんなら嫌な気もしないから付き合うとしよう。新人って立場は素晴らしいですね(二回目)。

 

「ないですね」

 

 記憶には。

 

「じゃあ、ここのバイトは?」

 

 どう答えよう。新人とは言ったものの今日からとか不安にならないだろうか。とはいえ常連さんだったら嘘を吐いてもばれてしまうかもしれない。ふむ。

 

「実は、今日からなんです。貴女が初めてですよ」

 

 何か「初めて」という言葉に胸が高鳴ったが、すぐに収まった。動悸ってやつか?

 

「……すごいわね、接客の才能があるんじゃないかしら?」

 

「は、はぁ。どうも……」

 

 何か照れるなぁ。綺麗なお姉さんに褒められるなんて、新人って立場は素晴らしいですね(三回目)。

 

「もし良かったら――」「お待たせしました。パンケーキとオリジナルブレンドです」

 

 邪魔だっただろうか、軽く……いや、割と強く脛を蹴られてどかされた。痛い。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 

「リゼちゃん、嫉妬?」「違いますよ」「じゃあ――」「冷めますよ」

 

 何の話をしてるんだろう。

 

「ウメト、ちょっと来い。ココア、ちょっと倉庫に行ってくる」

 

「う、うん。わかった」

 

 倉庫? 何か取りに行くんだろうか。大人しく付いて行き、言われるがまま倉庫に入った。

 

「ウメト、お前接客初めてなんだよな? なんであんなに手馴れているんだ?」

 

 手馴れている、ねえ。確かに俺も不思議に思っていた。ジョークや褒めなどを交えながら上手く接客が出来ていたと確かに思う。初めての筈なのに。何か心当たりはあっただろうか。確か、挨拶で噛んで頭が真っ白になって……

 

「あっ」

 

「どうしたウメト」

 

 一つ心当たりがある。

 

「俺、自分の名前が分かったかもしれません。頭の中で誰かが教えてくれて」

 

 けど誰だかわからない。海の声? 前前前世からの声? それとも未来からの声?

 

「おおっやったな! その名前は?」

 

 一緒に喜んでくれている。何て良い先輩なんだ。

 

「俺の名前は――」

 

 ……え~と、確か。

 

 

 

「富士山です」「うん、たぶん違うぞ」

 



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第五羽「ご注文はスカウトですか?」

 もしよろしければ、感想、評価等をよろしくお願いします。

 温かいお言葉はやる気に、厳しいお言葉はバネになります。


 桃弾頭さん、時間遡行者さん、すふぃあさん、未雷日機さん、感想ありがとうございます! 今回字数が少ないのはご愛嬌でお願いします。


誤字等あったら遠慮なくご指摘ください(今回も急いで書いたため確認不足です、すみません)


 

 

「俺の名前は――」

 

 

 

「富士山です」「うん、たぶん違うぞ」

 

 リゼ先輩は即座に否定した、なぜだ。

 

「いや、フジヤマならともかくフジサンはいないと思うぞ。名前も流石にな……」

 

 こういっちゃなんだが、ココアやリゼがいるのならフジサンがいてもおか……しいか。そういえば、二人の名前は漢字でどう書くのだろう、休憩時間にでも訊いてみようか。

 

「じゃあ、彼が言ったことはどういうことだったんでしょう?」

 

 富士山に隠語なんてあっただろうか。思い出そうとするものの、日本で一番高い山という情報以外出てこない。

 

「う~ん、軍の隠語では聞いた事無いなあ」

 

「ぐ、軍……?」

 

 女の子の口から出ないような言葉が出てきたぞ、おい。

 

「あ、言い忘れていたな。私の父親は軍人なんだ。一応、私も護身術くらいは出来るぞ」

 

「し、CQCってやつですか……」

 

「あぁ、出来るぞ。私の知り合いにも出来る奴がいてな、今度紹介してやるよ」

 

 出来んのかい。しかも他にもいんのかい。

 

「話が逸れたな。まあ、分からないのなら仕方ないが……お前に関係あるのかもしれないよなぁ」

 

 俺が初めてなのに接客できたという事は、彼が何か力をくれたのだろうか。熱くて、物凄く応援してくれて、恐らくほめ上手で、俺の事を「富士山」と称した、彼が。いつか誰なのか分かるかもしれないが、今は心にしっかりとどめておこう。そして彼にもしまた会えたら、きちんとお礼をしよう。それまでは……うん。

 

「まあ、そのうち思い出しますよ。それまでは梅斗でいいです」

 

 正直、そこまで気に入っていないし思い入れもないが、仕方ない。

 

「わ、私はウメトって名前も好きだ……ぞ?」

 

「…………え?」

 

 それってどうゆう……え?

 

 

「か、勘違いするなよ!? お前の名前を褒めただけだからな!?」

 

 ……何故か心臓が跳び跳ねた。おい、俺はココア先輩が好きなんじゃなかったのか! あの笑顔に惚れてしまったんじゃないのかよ、おい! ……でも、まあ、

 

「俺は、リゼ先輩の事、結構好きですよ」

 

 少しお茶目で、気配りが利いて、後輩のミスをカバーしようとしてくれて、後輩を気遣ってくれる、頼れる先輩。

 

 今日初めてあったばかりなのだが、その人柄に惹かれてしまった。

 

「あ…………暑いな! もう出ようか!」「えっ、あっ」

 

 リゼ先輩は俺が急な大声に驚いている間に出ていってしまった。確かに、暑い。空調の音がするし、倉庫と言うからにはコーヒー豆や小麦粉など、温度に気をつけないといけないものが仕舞われているのだろう、恐らく。だから――

 

 

 少し焦げ臭いのは、気のせいだろう。

 

 

 ◇

 

 

「あっ、梅斗くん。リゼちゃんと何をお話していたの?」

 

 戻ってくるなり、ココア先輩に尋ねられたので、リゼ先輩の方を見ると、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。……嫌われたと思っちゃうので、ノープイッでお願いできませんかね。ていうか、

 

「リゼ先輩に訊けば良いと思うんですが」

 

 俺は念のため、厚い倉庫の中で火元を探していたため少し早くリゼ先輩はここに戻ってきたはずだ。……ここも少し暑いな。冷房ガンガン効いているはずなんだけど。お腹壊しちゃうかな、と思ってお冷やがいるか訊いたのだが確かに、冷たい水が欲しくなる。

 

「リゼちゃん教えてくれなかったの! 教えて!」

 

 リゼ先輩の方を見ると、顔が赤かった。うん、まあ……俺も恥ずかしかった。

 

「二人だけの秘密ってことで」「え~ひど~い! 私だけ仲間はずれ!?」

 

 いや、流石に、ココア先輩にアレは言えねえよ。

 

「お会計おねが~い」

 

 救いの声が聞こえた。お客様は神様って本当なのね。

 

「後で詳しく聞かせてもらうからね」

 

 耳元で囁かれた。俺をどうしたいの?

 

「は~い! 梅斗くん、ちょっと来て」

 

 すぐさま態度をころっと変えたココア先輩に呼ばれて俺はホイホイ付いていった。

 

「レジはこうやってピッとしてポチポチしてガシャーンして……1100円です!」

 

 なるほどわからん。

 

「はい、ちょうど……ウメトくん、よね?」

 

「は、はい」

 

何だ? クレームか?

 

「私の経営しているレストランで働く気はない?」



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第六羽「ご注文は抹茶カフェオレですか?」(レシピ付)

 もしよろしければ、感想、評価等をよろしくお願いします。

 温かいお言葉はやる気に、厳しいお言葉もやる気になります。


 桃弾頭さん、時間遡行者さん、すふぃあさん、未雷日機さん、感想ありがとうございます!

 ……だんだん壊れてきた。


「私の経営しているレストランで働く気はない?」

 

 

 バイト先でこんな事を言われても困る。しかも、先輩の目の前で。……答えは一つだ。断るに決まってい「時給はいくらですか?」るぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

「1980円でどうかしら? 保証もしっかりしてるわよ」

 

 保証ってことは、家賃諸々も負担してくれる可能性があるということだ。それに誘ってきたのはあちらさんだから、結構な待遇のはずだ。ラビットハウスで働いているのは示談の条件だから仕方ないが、「チノ」という名前……だった気がするマスターの娘さんの捻挫が感知して働けるようになれば俺はお役御免、追い出されることになる。折角だからその時にでも――

 

 

「すいません、丁重にお断りさせて頂きます」

 

「梅斗くんっ!」「ウメト!」

 

 まあ、その、なんだ……良い先輩にも恵まれているしな。折角の申し出を断るのも心苦しいが、諦めて貰おう。

 

「あ、アナタの接客が必要なのよ!」

 

「じゃあ、そうですね――」

 

 そんなに俺の事を評価してくれるのなら、お言葉に甘えて。

 

 

「俺がここをクビになったら、こっちから出向きますよ。……誘って頂いたのは嬉しいので」

 

 そのうちクビになるんだけどな。それは内緒で。

 

「……あなた、天然のタラシね」

 

 お姉さんは料金丁度をトレーの上に載せると、そそくさと出ていってしまった。

 

「あ、ありがとうございました~」

 

 取り敢えず誰にも聞こえないお礼を言った。一応最後までやりきったが……

 

いつの間にか俺の後ろを通ってレジカウンターから抜けていたココア先輩とリゼ先輩がジトっと睨んでいる。

 

「天然のタラシ」ボソッ

 

「天然のタラシ」ボソッ

 

 この空気は何だろう。目に見えないエネルギーの流れがぼくの胸を貫いて苦しい。この空気は何だろう。

 

 

「あの、そんな目で見ないで……」

 

「天然のタラシ」ボソッ

 

「天然のタラシ」ボソッ

 

「天然のタラシ」ボソッ

 

「だからそれ、やめ……ん?」

 

 一人増えてる?

 

「って千夜ちゃん!?」

 

「仕事中じゃないのか?」

 

 ココア先輩やリゼ先輩と同じように扉の方を見ると、そこには黒髪の美少女が立っていた。和風美人といった出で立ちで、着物がとても似合っている。……その上にエプロンって折角の着物が台無しじゃないか?

 

「遊びにきちゃった♡ ……あ、そちらの殿方は?」

 

 殿方……俺のことか? そんなに不審に見られているのだろうか、やけに視線が痛い。

 

「今日からバイトしている梅斗くんだよ!」

 

 ナイスフォローですココア先輩、こういうところも好き。

 

「どうも、新人バイトの梅斗です。よろしくお願いします」

 

 ペコリと頭を下げる。常連らしいとはいえ、素人をばらして警戒させてしまわないだろうか。

 

「私は二人の友達で、甘味処甘兎庵の看板娘宇治松千夜よ、よろしくね」

 

 俺の会釈よりもはるかに美しい会釈で返されてしまった。しっかりした子だなぁ。

 

「はい、よろしくお願いします宇治松さん」「千夜」「宇治松さん」「千夜」「……千夜さん」

 

どうやら、押しが強いのはココア先輩と一緒みたいだ。

 

「千夜ちゃん、ご注文は?」「いつものお願い、ココアちゃん、リゼちゃん」

 

 すごい常連って感じだなぁ。お互い名前呼びだし、同級生とかだろうか。

 

「ああ、ココア、サイド頼む」「りょーかいだよ、リゼちゃん」

 

 新人の俺は「いつもの」と言われても分からないが、先輩二人は分かるのだろう。

 

「何か手伝える事はありますか?」

 

 分からなくても、流石に先輩二人だけに任せる訳にはいかない。

 

「じゃあ私の話相手になってもらおうかしら」

 

「え、いや、仕事中なんで」

 

 仕事中にお客さんとお話ししているなんて新人失格だろ。(※第四羽参照)

 

「私達に任せてっ」「お前は千夜の相手をしてやってくれ」

 

「……だって♡」

 

 思わずため息を吐きかけて慌てて止めた。

 

「俺、面白い話とか知らないですよ? 記憶喪失なもので」

 

 ココア先輩にばらされるよりは、自分から話す事にした。二人の友達ならば大丈夫だろう。

 

「あら…………記憶喪失? 何の記憶が?」

 

「自身に関するものは、何も。それ以外は結構わかりますんで、日常生活に支障は無いです。名前はタカヒロさんに付けて頂いて、今は下宿もさせてもらっています。」

 

 むしろ、俺についてわかる人が居るなら教えて頂きたいものだ。チノちゃん……だっけか、マスターの娘さんが働けるようになったら特に何も言われていないが多分クビだ。つまり、それまでに自分の家や家族について分かればオールクリアだ。完全勝利UCだ。

 

「私、知ってるわよあなたの事」「うそぉ!」「私の恋人」「うそぉ!」「嘘よ」

 

 嘘かい、びっくりしたなぁ、もう。

 

「うふふ、ごめんなさい♡」

 

「そういうのやめてくださいよ、思わず許しちゃうじゃないですか」

 

 ちょっとムカッとしていたのが吹っ飛んだ。何この子、小悪魔なの? 天然なの?

 

「……そういえば、さっきの天然のタラシってのは何だったの?」

 

 いや、俺もイマイチ意味わからんのだが。

 

「別に……バイトのスカウトを一時的に断ったらそう言われました」

 

「一時的にというと?」

 

「お客さんに言うのもアレなんですが……クビになったら俺から出向くと言ったら引き下がってくれました。何で俺なんかを欲しがるのか謎なんですがね……」

 

 本当に、世界何でやねんミステリーだ。本当にミステリータグつけちまおうぜ。(※第二羽参照)

 

「それほどあなたに魅力があるって事じゃないの?」

 

「そうですか? ……魅力的な人に言われると説得力がありますね」

 

 出会ってまだ少ししか話していないが、謎の魅力がある。

 

「……ほんと、天然のタラシね」

 

「だから、何ですかそれ」

 

 ただ、ちょっと怖いけどな。

 

「千夜ちゃ~ん、お待たせ!」

 

「抹茶カフェオレ出来たよ!」「わ~い」

 

「ま、抹茶にカフェオレ!? どういう事だ?」

 

 味はどうなんだろうか、合うのか?

 

「む、あれが世に聞く抹茶カフェオレだ。」

 

「し、知っているんですかリゼ先輩!?」

 

 いつの間にか隣に居たリゼ先輩に思わず訊いた。ところで、世に聞いた事が無いから驚いているんですがそれは。

 

「ラビットハウスのコーヒーと甘兎庵の抹茶、この二つが程よい甘さのミルクと共に混ざり合う事でお互いを高め合う……それが抹茶カフェオレだ!」

 

「チノちゃんは邪道だっていうんだけどね……」「あら、そういえばチノちゃんは?」

 

 うっ……! 疲れたら痛いところを的確に突いてきた。やっぱり小悪魔だ! たぶん武器はフォークみたいなやつ。あとココア先輩、遺族みたいにしみじみと懐かしまないで生きてるから。

 

「え~と、俺が怪我させちゃってその穴を埋めるために、このお店で働いているんです」

 

「へえ、そうなの。……じゃあ――」

 

 

「――チノちゃんが働けるようになったら、どうするの?」

 

「「えっ……?」」

 

 …………痛いところついてくるなぁ。




抹茶カフェオレのつくりかた(二杯分)

材料
・ラビットハウスのコーヒー 80ml
・甘兎庵の抹茶(濃い目)  80ml
・牛乳(明〇おい〇い牛乳) 20ml

1. 容器に材料を全部ぶち込みます。

2. 混ぜます。

3. 完成! 独り身は2杯分飲めるね!

梅斗「いや、雑が過ぎるだろ……」
千夜「コーヒーと上手く調和させるために、抹茶は濃い目でね!」
梅斗「何故か二人前か四人前っていうレシピあるあるやってるしそもそも普通の人は最後しか揃えらんねえよ……」
千夜「それでは、またらいしゅ~!」
梅斗「ちょっ、無責任なこと言わないでくださいよっ! ただでさえ更新が危ういのに!」


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第七羽「ご注文はバイト一日目終了ですか?」

 もしよろしければ、感想、評価等をよろしくお願いします。

 温かいお言葉はやる気に、厳しいお言葉もやる気になります。


 桃弾頭さん、時間遡行者さん、すふぃあさん、未雷日機さん、感想ありがとうございます!

 久しぶりの投稿になってしまいました。開始から約半月にしてようやく一日目が終了。梅斗君が記憶を取り戻すのはいつになるのか……。

リハビリにあすみる部、書いてます。読んでくださいお願いします何でもしますから!(なんでもするとは言っていない)




「お疲れ様、もう上がっていいよ」

 

「「「お疲れ様でした」」」

 

ふう、長い一日だった。具体的には5話、文字数は11433くらい。はやく風呂に入ってだぶだぶのジャージで寝たい。おっさんか。

 

「あっ、梅斗。更衣室お先にいいぞ」

 

お、ありがたい。だけど、俺は風呂にも入りたいし、何より俺はここに下宿している。もう夕方だし、美少女二人は暗くなる前に早く帰った方が良いだろう。

 

「いや、後で大丈夫ですよ。ちょっと部屋に取りに行くものもありますし、ごゆっくりと」

 

「ああ、悪いな」「ありがと~梅斗くん」

 

二人を見送り、タカヒロさんと二人きりになる。だが、特に話すことも無い。風呂の承諾を得るだけだ。一応、住み込みの身だからな。

 

「タカヒロさん、風呂入っていいですか?」

 

「ああ、構わない。……下着は頼まれたように買ってきたよ」

 

昨日、部屋に案内してもらったついでにジャージを何着か貸してもらい、明日の日中に下着を買ってきてもらうように頼んだ。ジャージはともかく、ダンディと下着を共有するのはお互い嫌だろう。快く引き受けてくれた。ちなみに昨日は、何故か着ていたダサTとジーンズの格好でベッドの上で寝てしまった。

 

「ありがとうございます、この服は……?」

 

「ああ、シャツと下着は洗濯機の中にでも放り込んでくれたまえ。それ以外は……畳んで明日も来てくれ。……週末洗濯するから、後で渡す除菌スプレーを使うように」

 

やけに親切なんだよな、この人。娘さんに対して過保護なだけで、実は良い人なのかもしれない。第一印象で少し苦手だと思ってたんだが、これなら――

 

「ああ、そうだ――」

 

ん? 何だ?

 

「チノの部屋はドアに指紋認証と虹彩認証がかかっているから、そのつもりで」

 

 

…………やっぱりこの人苦手だ。

 

 

 

※ 男の風呂シーンは需要が無いのでカット

 

 

 

「あ~さっぱりした」

 

タオルを肩に掛けてお茶を呷る。温めた身体を、冷たいお茶をちびちび飲んで冷やしていくのが心地よい。一気に飲むと身体が冷えそうだからな。

 

「はひょ~~~」「あれ、梅斗くん」

 

…………え? 何でいるの?

 

「どうしたんですか、こんなところで」

 

「私もここに下宿してるの! ここでは先輩じゃないから敬語じゃなくていいよ」

 

ある意味ラッキーというかアンラッキーというかなんというか。で、敬語じゃない、と。さん付けは何故か違和感があるし、ちゃん付けや呼び捨ては恥ずかしい。ふむ。

 

「なんて呼べばいい?」「ココアって呼んで!」

 

よりによって。恥ずかしいんだけど。まあ、良い機会であると考えよう。

 

「わかったよ、ココア。で、今日の夕飯なんだが……どうした?」

 

「あ、いや何でもない……ば、晩ごはんだね! どうかしたの?」

 

ん? 挙動不審だな。顔も少し紅い。まあ何でもないのならいいんだが。

 

「担当とかあるのか?」

 

「今日は私の担当なんだけど、チノちゃんはタカヒロさんが作ったのを食べたらしいし、タカヒロさんも仕事だから……私達だけだね。何食べたい?」

 

 

Q.何を食べたいですか?

A.自分の好きな食べ物覚えてないからとりあえずココアを食べたい。

 

 

素直すぎるな。ふむ。……ああそうだ。

 

「メニューの軽食を作れるようになりたい。教えてくれないか」

 

俺は、タカヒロさんの娘「チノちゃん」のシフトの穴を埋めるために働いている。なのに戦力外ってのは駄目だろう。

 

「いいよっ! じゃあ、今日の晩ごはんはナポリタンにしよう!」

 

ナポリタン……そういえばメニューにあったな。今日は注文されなかったが、明日は分からない。ココアにいい所を見せたいし(教わる身ではあるが)、本気で覚えよう。

 

「まず、お湯を沸かす。けっこう時間がかかっちゃうから、その間にパスタソースを作るの。えっと材料は――」

 

冷蔵庫を開けるココア。俺もちょいと覗き込む。

 

「おお……」

 

流石というべきか、当然というべきか、食材は充実していた。飲み物、卵、肉、魚、調味料、スイーツ……その他諸々があった。

 

「それでね――」

 

 

 

 

結論から言うと、俺はナポリタンとカルボナーラ、バター醤油、ミートソースのパスタを食べて。理由は簡単。ココアが作りすぎてしまったのだ。

 

『ど……どうかな?』

『なんだこれうめぇ!』

『わ~い、それじゃあもっと作るね!』

 

を三回繰り返した。ココアはナポリタンとカルボナーラを半分こをして食べたのだが、お腹いっぱいになったらしく、後は俺が食べるのをずっと見ていた。正直、俺もその時点で満足だったのだが、苦しくなるまでどうだったかを聞かれて旨いとしか言わなかった。事実、旨かったし。そして苦しくなり、旨さを感じることすら困難になったところで、俺はもう無理だと言ったのである。

 

「そういえば、ナポリタン以外のパスタってメニューにあったか……?」

 

誰もいない部屋で――強いて言えば自分への問いかけを呟く。……まあいいか、旨かったし。

 

 

考えるのを放棄して、俺は目を閉じた。




実を言うと、

「いいよっ! じゃあ、今日の晩ごはんはナポリタンにしよう!」

までの書き溜めが残っていました。一体、あの頃はナポリタンで何をしようとしていたのか……全く思い出せません。


そして二日目からの構想も、全く思い出せません。さてどうしよう。


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第八羽「ご注文はソーセージですか?」

もしよろしければ、感想、評価等をよろしくお願いします。

 温かいお言葉はやる気に、厳しいお言葉もやる気になります。


 桃弾頭さん、時間遡行者さん、すふぃあさん、未雷日機さん、富富富さん、イギーさンさん(「さん」が重なっちゃった……!)、感想ありがとうございます!

七羽を六羽と書いていたので直しました。疲れてるのかな……?



「う~~トイレトイレ」

 

今トイレを求めて廊下を早歩きしている俺は喫茶店に住み込んでバイトしているごく一般的な男の子。強いて違うところをあげるとすれば記憶喪失ってとこかナ……名前はわからない。今は梅斗って呼ばれている。

 

そんなわけで喫茶店の二階にある居住スペースのトイレにやって来たのだ。

 

トイレのドアを開けると、便座に一人の男が座っていた。マスターだ。ちなみにマスターのマスターは右手で隠れていますたー。

 

うわっ! 気まず……

 

そう思っていると、突然その男は俺の見ている目の前でパンツとズボンをあげはじめたのだ……! 俺はマスターのマスターが見えないように、すっと目線を上げると丁度マスター(本体)と目線があった。

 

じじー(ズボンのチャックを上げる音)

 

「仕事しないか」

 

そういえばこのマスターは、娘さんに怪我させてしまった俺を「示談」として住み込みで働かせるくらいの仕事人間だった。

 

罪悪感に弱い俺は誘われるままホイホイと、あ。

 

「すいません、おしっこさせてください」

 

やばい漏れる。

 

 

 

 

 まだ時間は早いらしいが、店の掃除をすることにした。マスター――タカヒロさんにその旨を言うと、とても旨い朝飯を作ってくれた。昨日の夕食はココアが作ってくれたので美味しさ補正が掛かっていたと思うが、普通に旨かった。ネックがあるとするなら、ソーセージを食べるとき、少し思い出してブルーになったってとこくらい。

 

「そういえば……何の夢だったんだ、あれ……?」

 

 昨日は覚えていないもしくは見ていないが、今日は夢を見た。夢は深層心理うんぬんかんぬんだったような気がするから記憶の手がかりになると思っていたのだが、なんとびっくりココアと戦う夢だった。しかも、会ったことが無いのに見た事がある人と一緒に戦っていた。ココア先輩も剣を持った女性の侍を連れていて、戦わせていた気がする。夢の事だからあまり覚えていないし、どんどん忘れてしまっている気もするが記憶の手がかりになるのだろうか。俺、ココアと戦うならすぐ降伏すると思うんだけどな……。

 

 

「あれ? 梅斗くん早いね!」

 

タカヒロさんから訊いておいた清掃用具入れから取り出したホウキで床を掃いていると、ココアが降りてきた。

 

「おはよう、ココア……先輩」

 

危ねえ、一応今は仕事中だから先輩だ。

 

「まだ正確には仕事の時間じゃないし、大丈夫だよ……?」

 

「まあ一応ですよ、一応。……朝食は食べたんですか?」

 

さっき時計を見たら九時半で、営業開始時間の十時まで三十分もある。平日はココアたちの学校があるためタカヒロさん一人で、学校が終わって帰ってくると仮眠に入るらしい。そしてその後深夜までバーで働くらしい。……ほんと大変だな。よく今までやってこれたものだ。

 

「いや、タカヒロさんから梅斗くんはもう働いているって聞いて、様子を見に来ちゃった」

 

「一人で掃き掃除くらいは終わらせておきます。……ゆっくり食べておいで、ココア」

 

もう少し、夢について考えていたい。そういうと何か「夢を追いかける若者」という感じだが、実際には自分の夢なんて覚えていない無職だ。……ココア、顔赤いぞ、大丈夫か?

 

「ココア先輩、どうしました?」

 

「う、うん…………いじわる」

 

あ、行っちゃった。……どういう事だろう。いや、難聴ではない。しっかり聞き取れた。だが、意味がわからない。親切心全開だったんだけど。

 

「まあ、いいか」

 

俺が今やるべき事は夢の内容を思い出して記憶の手がかりをつかむこと、そして店内の掃除。さて、掃き掃除もざっと終わったし、次は机を『ふむ、しっかり働いているようじゃな』誰だ!?

 

「先日は、ありがとうございました」

 

「……あっ」

 

そこににいたのは、一昨日ぶつかった銀髪の美少女でタカヒロさんの娘さん――「チノちゃん」と――

 

彼女の頭に載っている毛玉がいた。

 

「早くから掃除とは感心感心」「毛玉が喋ったぁぁぁぁぁ!!」

 

なんじゃこの毛玉は! てか声が渋いぞ、おい!

 

「毛玉じゃないです。アンゴラウサギのティッピーです。私の腹話術で喋りました」

 

全ての疑問に答えてくれた。少し不愛想なのが、幼さを感じてとてもいいと思います。

 

「あ、その……一昨日はぶつかってごめん、なさい。チノさん」

 

この前の出来事は100パーセント俺が悪い。年下だとは思うが、下手に出るしかなかった。タカヒロさん怖いもの。

 

「いえ、父が大げさなだけで、あまり大きな怪我じゃないんです。一応、昨日はベッドで安静にしていましたが……」

 

「そうですか、それはよかった」

 

ほっとした。これでどこか異常があったらタカヒロさんに殺されかけない。だってあの人、過保護な余りチノちゃんの部屋のドアに指紋認証と虹彩認証かけてるんだぜ……?

 

「その……特に気負う必要はないのですよ? 私も、その……父以外の男性とあまり話すことが無いのですが……梅斗さんが優しい人なのは、知っていますので」

 

そう言って、チノちゃんははにかみながら微笑んだ。父性愛ってやつか……守りたい、この笑顔!

 

「その、チノ、ちゃん。……頼みたい事があるんだけど」

 

「はい……」

 

実は、少ししてみたいことがあった。

 

「触らせてくれないかな?(ティッピーを)」

 

「え!? (私を)触りたいんですか!?」

 

やっぱり、動物は見知らぬ人に触られるのは駄目だろうか。……あと、話が食い違ってる気がするが、気のせいだろうか。




淫夢に加えく○みそとか、もう救いねえな……。次回、アン〇ャッシュ。

そういえば、自分も梅斗くんみたいに変な夢を見ました。

ガ〇ダムみたいなロボットに乗って、ゴ〇ラみたいな人を捕食する怪物と戦って倒す夢です。怪物が元は人間だったり、「イケニエ」を巡る人々の思惑があったり、戦いの中で失われていた「善」を思い出した怪物が自ら海に落ちようとしていたり、やけに人間ドラマがあった気がします。誰か物語に仕立ててください。自分には人間ドラマは無理です。


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