アリスは夢を見る (太陽燦々)
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アリスのワンダーランド
有栖はふと目を開けると知らない空間にいた、さっきまで4畳半の寂しい一室ではなく、暗く、ロウソクの光だけが光源の大きく長い洋屋敷の回廊だった。
暗さと肌寒さにほんの少し恐怖感を覚え、自分の体を抱くとパジャマではなく、まるで大好きな物語にでてくるような華美なドレスを身にまとっていた。
-------これは夢だ。
そう確信した有栖は恐怖心よりも好奇心が沸いてきた。
「せっかくの夢なんですもの、王子さまか騎士さまに会いたいわ」
そう呟き、果てしなく続くように見える回廊を歩き始めた。
回廊は長く、どこまで進んでも扉一つ見えてこないあるのは蝋燭の光と暗闇だけだ、そんな状況に疲れと再び恐怖心が復活してきた。
「せっかくおめかししているのに台無しだわ誰でもいいから来てくれないかしら」
初めから返事は期待はしていないが思わず独りごちた。
「大変お待たせいたしましたありす様、主人がお待ちしておりますのでどうかご同行願います。」
そんな期待とは裏腹に背後から声が聞こえて来た、ふと振り返るとそこには、頭部は黒い馬、その下は執事服の体格のいい執事がいた。
見るからに怪しい変態だが夢ならば仕方ないという思いと他にあてもないのでついていくことにした。
「この扉の先に主人がいます。」
その言葉とともに連れて来られたのは大きな黒い扉の前だった、その大きさは執事の身長はもちろん、有栖のお家より大きく、とてもじゃないが自分では開けることができそうにない、口をあんぐりと開け、扉に気をとられているといつのまにか執事は消えていた。
------いらっしゃいありす。
途方にくれていると声が聞こえた、大人の女性の声、どこか心地の良い声、妖艶な声とともに扉はゆっくりと開いていった。
徐々に開かれていく扉、どこかすえた臭いがする。
まだ向こう側は見えないが空気感が変わる、頭がフワフワする、今まで感じたことのないような未知の感覚だ。
扉が開かれる。
-----女がいた。
美しい、そんな言葉では形容できない、雪のように白い肌、寒気を感じるような冷たい目、恐ろしさすら感じる整った貌、まるで彫刻のような身体、それらを包む身体の曲線が見えるほどフィットしていて、肌の色とは正反対の黒い衣装が彼女の美を、エロスを最大限に引き立たせていた。
女の足元には沢山の口から上を隠す仮面を被り、大事な所以外隠れていないような格好で、あるものは這い蹲り、あるものは椅子にされ、あるものは仮面であまりわからないが恍惚とした表情で倒れていた。
すえたにおいがするがどこか甘い香りに頭がクラクラする。
女の美しさ、妖艶さに目が釘付けになる。
へんな水音がする、恥ずかしい。
淫靡な空気感、いやらしい。
「ようこそありす、私の名前もアリスよ。」
真っ白になった頭が覚醒した、この光景に目をそらしたいのになぜか女、アリスの言葉を五感すべてで感じなければならないと思った。
「こんにちは、いいえこんばんはかしら?。」
有栖はアリスに飲まれかけていた、しかし、挨拶されたからには返さなければならないので、動かない口を無理やり動かし、震えた声で言葉を紡いだ。
「あなたで四人目、私のワンダーランドを強化するためにお願いがあるわ。」
女は足を組み替えた、有栖は同性だが目が足に行った、そして、その美しい唇からポツリと。
------死んで頂戴。
有栖は耳を疑った、何度も何度も言葉を反芻し、噛み砕き、ようやく理解した、してしまった。
足は震え、歯はガクガクと音をたてている、全身から冷たい汗がでてきて寒い。
恐ろしい、そう思った瞬間に部屋から飛び出していた
「ここは私の世界、どこにいっても無駄だけど久しぶりに鬼ごっこでもしようかしら?、行きなさい、よく逃げることね100数えてあげる。」
遠くへ、もっと遠くへ、今までの道とは違い、部屋ができていたり複雑な廊下に変わっていた、追ってくる男たちから必死に逃げる、たまに駆け込んだ部屋はアリスのいた部屋だったりして、疲労感とともに恐怖感が有栖を襲っていた。
鼓動は脈打ち耳の中で響いている。
ドレスは汗でびっしょりと濡れている。
ヒールは走るのに邪魔なので置いて来た。
真綿で首を絞められているような、オオカミに遊ばれているような感覚。
明らかに嬲られている、このまま体力が切れた瞬間にあの女は嬉々とした表情で殺しにくるだろう。
「絶対に諦めない、私はまだ死にたくない。」
そして有栖はどこかもわからぬ部屋へと逃げ込み、回復するために隠れようとした。
--------扉を開けると最初の部屋に戻されていた、多数の男たちに囲まれている、自らの危機を感じた。肉食獣のような表情をしたアリスが肉の椅子から見下ろしている。
「ゲームオーバー、楽しい時間は終わりよ。」
男たちが有栖の四肢を拘束する、ゆっくりとアリスが近づいてくる。
一歩一歩、ゆっくりとした足取りで死が近づく、自らの明確な死を感じとり、今までの人生が走馬灯のようによぎった。
嫌だ、絶対に死にたくない、諦めたくない、私の人生はこれからなのに、あの本を読んでから幸せになるってきめたのに、白馬にのった白金の鎧の騎士さまにもまだあっていないのに。
----------助けて
大きな声で叫ぶ、喉を震わせ必死に懇願する。
懇願虚しく、アリスはすぐ目の前に来てしまった、手が心臓の上に触れる、鼓動は今までにないほど脈打っている。
--------あぁ、いつもそう、結局いつまで待っても助けなんて来ないのね。
有栖は目を閉じた。
「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!」
まるで獣のような声に驚き目を開けると。
白金ではないが真っ黒な鎧。
胸には大きな穴が空いている。
黒い霧に包まれた剣を振るっている。
そんな騎士さまが目の前にいた。
「迷い出たか!、亡霊風情がッ!」
アリスは憤怒の表情を浮かべている、いままでの余裕はなく、その美貌は台無しだ。
黒い騎士は有栖の周りの男たちを切るとそのまま有栖を抱えて逃げ出した。
「無駄だ!ここは私の世界!、どこにも逃げる場所なんてない!。」
黒い騎士さまにどんなに逃げようと隠れようとも見つかってしまうことを伝えると、優しく有栖を抱きしめ。
跳んだ
屋根を突き破り、どんどん高度を上げていく
少し怖いが騎士様の優しい抱擁が恐怖を薄れさせてくれた、冷たく、真っ黒で少し理想と違う騎士さまだがとても頼もしく感じ、瞳を閉じた。
有栖が目を開けると黒い騎士とともに洋館の庭にいた、しかし洋館はどこか薄く、風もなく、温度も感じない、どこか霧がかかっているような世界だった。
男達は涙を流し、震えながらアリスに許しを請うていた、すでに何人も心臓を抜き取られ死んでいる。
「さあ、あなたの番ね、言い残すことはある?。」
私はあなた様のイスとなっていたものです、直接の命令は受けておりません、どうかお許しを。産まれたての子鹿のように震えながら彼はアリスに懇願する。
「黙りなさい、私が求めた回答は遺言よ。」
男は死んだ、情け容赦なく、掃いて捨てるゴミのように。
たしかにここは彼女の世界、しかしここまで感情のある人間を作り出すことはできない、彼らもまた、ワンダーランドに迷い込んだ被害者なのだ。
「まあいいわ、次のありすが来るのもいいし、あのありすを待つのもいいわね、あの騎士と一緒に八つ裂きにしてあげる。」
アリスの世界は自分だけで完結している、男は世界を維持する燃料、もしくはアリスを慰める道具、どんな理由があろうとも彼女の機嫌一つでどうにでもなってしまう、そしてアリスは心臓を食べながら胸に穴が空いた死体を穴に放り投げる。
穴の中には胸に穴が空いた男の残骸が山のように積み重なっていた。
この作品が初投稿です、クイーンオブハートという曲のmvを見て唐突に描きたくなりました、まあ妄想展開なんですけどね笑
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