ドラゴンボール外伝~Z戦士たちが悟空と出会うまで~ (究極)
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TO BECOME A LEGENDS…

俺は、孫悟空でもベジータでもない。俺は、貴様を倒すものだ!!

クリリンが殺された...!

魔人ブウ負けろー!!孫悟空がんばれー!!

魔貫光殺砲!!!

武道は勝つためにはげむのではない。おのれに勝つためにはげむんじゃ!

だから滅びた…

俺がバケモノ……?違う俺は悪魔だ……

これですべてが終わりましたよ、ありがとう悟空さんたち

 

ーーーーーーーーーーーーー全ての

 

ギャルのパンティーおーくれーっ!!!!!

受けるが良い!我が刃!

でぇじょうぶだ、ドラゴンボールで生きけぇれる

おめえの出番だぞ、悟飯!

もうちっとだけ続くんじゃ!

カカロットまずお前から血祭りにあげてやる

最高だぜ ベジータ

さ…さすがの俺も今のは死ぬかと思った…このフリーザ様が死にかけたんだぞ…!

ようやく体が…暖まってきたところだぜ!

 

ーーーーーーーーーーーーー戦いの中で

 

な…なんだこの人造人間は… …みんななにと闘っているんだ・・・!?

どうしたのだ?さっきまでの勢いは……笑えよベジータ

ショ…ショートヘアーのほうが…悟飯くんの好み?…

さよなら天さん…

なんどもいうなよ そのムダが楽しいんじゃないか

悟空、手抜きで戦ったりしやがったら一生恨むからな!

じゃ、結婚すっか!

落ちこぼれでも、必死に努力すればエリートを超えることがあるかもよ?

…オレはもう…闘わん…

おとうさんを…いじめるなー!!!!!

 

ーーーーーーーーーーーーー生まれ、刻まれた

 

この地球もろとも、粉々にしてやる...!ギャリック砲!

クリリンのことかー!

たった三匹のアリが恐竜に勝てるとでも!?

やあ、オッス!

さらばだトランクス、ブルマ。そしてカカロット

待てクリリン!オレにやらせてくれ

星は壊せてもたった一人の人間はこわせないようだな

戦闘力たったの5かゴミめ

頑張れカカロット...お前がナンバー1だ!

キェェイ!

絶対に死ぬなよ、親友。

 

ーーーーーーーーーーーーー戦士たちの歴史

 

これが最後の...気功砲だァァァ

バカの世界チャンピオンだ…

宇宙のみんなオラに元気を分けてくれ〜!

私の戦闘力は53万です

俺は・・・サイヤの誇りをもった地球人だー!!!

や 、やめてよお父さん…

少しは効いたぜ

もうダメだ…おしまいだぁ…

だいじょうぶ勝てる!自分の力を信じろ!悟飯!

悟空、今度はぶっちぎりのパワーで、あいつを倒してくれよ!

 

ーーーーーーーーーーーーーそこに今、

 

さよなら天さん...

今度は良い奴に生まれ変われよ、またな!

バイバイみんな……

じっちゃん!仇は取ったぞー!

へっ!きたねえ花火だ

サンキュー!ドラゴンボール!

オレは死なない!! たとえこの肉体は滅んでも!

...貫けー!

これで全てが変わる…!

あっという間に白目を向かせてやろう

オラがいねえと何も守れねえんか!

 

 

ーーーーーーーーーーーーー新たな伝説が刻まれる!

 

か…完全体に………完全体になれさえすれば……!!!

今度の俺はちょっと強えぞ!

さあて……どいつからかたづけてやるかな…

こんな世界消えちゃえ

にどと われわれの前に姿を あらわさないでください

サタンミラクル スペシャルウルトラスーパーメガトン パーーーーーンチ!!!!

お命頂だい!!!とうっ!!!

か…め…か…め…波ーーーーつ!!!!

限界など何度でも越えてやる!

 

 

 

 

 

 

 

これは誰も知らないZ戦士たちの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじまりの物語

 

 



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ヤムチャ編
プロローグ


二次創作処女作


薄暗い夜空に星々がうっすらと見える。そろそろ陽が上ってくる頃だ、なんて思いながら腕時計を一瞥する。

 

はるか彼方の水平線が光で揺らめいた。太陽がいつもと変わらずに顔を見せる。茶色い荒野を眩い陽光が包んだ。あの日の朝もこんな陽だったっけな。

 

陽の周りを靄が縁取って空に飾られた一つの絵画のように浮き出ている。

 

風が吹いてきた。羽織っていた黄色いスーツが風になびいた。男は突然の風にも古くから根付く大樹のようにまったく動じなかった。

 

風が止んだ。

 

ここ最近いつのまにかこの荒野にいることも多くなったような気がする。

 

楽しかったこと、苦しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと。

まあ色々、紆余曲折あって今がある。

 

「あっ!ヤムチャさんじゃないですか!」

どこか懐かしい声が頭上から降ってきた。ふと顔を上げるとそこには額の灸の跡が特徴的な小男が笑いながら空中から降りてくる。ヤムチャと呼ばれた黄色いスーツの男はニヤッと笑った。二人はどうやら知り合いのようである。

 

「クリリンじゃないか!どうしてこんなところに?」

「俺はちょっと残業で。逃げた泥棒追いかけてたら朝までかかっちゃいまして」えへへと白い歯を出してクリリンは笑った。「ヤムチャさんこそどうしてここに?」

 

ヤムチャはすっかり明るくなった空を見上げながら、

「昔が懐かしくてな」

とそっと呟いた。「思い出の場所なんだよ。この荒野は」

 

「ここが、ですか?」

ごつごつした樹木のような岩が点在するだけのだだっ広い荒野を見渡しながらクリリンは不思議そうに言った。

「ああ。見たところは何にもありゃしないが、俺にとっちゃかけがえのない始まりの場所なんだぜ」

苦笑いしながらどこか嬉しそうにヤムチャは言った。

そうですか〜とクリリンは感嘆した。

「そういや。ヤムチャさんって昔は盗賊してたって悟空に聞きましたけどほんとですか?」

 

「ああそうさ。俺はこの荒野を根城にするハイエナ。ヤムチャってもんだ!ってな」

軽くポーズを決めてみる。ポーズも当時は気に入っていたが時が経つと価値観なんて大きく変わるものだ。見事なまでにダサさが際立つ。あの頃着ていた「樂」の文字が刻まれた服は今ではクローゼットの奥に眠っている。

 

ぷっと思わずクリリンは吹き出した。

「すいません。笑っちゃって」

 

「いいんだ。バカみたいだろ?好きなだけ笑ってくれ」

と静かに言った。ヤムチャは大きな傷の刻まれた左頬を照れくさそうに掻いた。

 

 

クリリンはよいしょっと腰を下ろすと胡坐をかいて

「教えてくれませんか。その思い出」

と好奇心の塊を目の奥一杯に輝かせながら言った。

まさかクリリンが自分の思い出話を聞こうとしてくれるなんて思わなかった。

ヤムチャは驚いた顔をして

「ガキの頃のてんでくだらない話だぜ。それでもいいのか?」

と確認した。

 

クリリンは表情変わらず頷いた。

 

「退屈だったら聞き流してくれていいからな。そんじゃあ、ある荒野で育ったお人好しな盗賊の話を一つ・・・・・



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荒野の三人組登場

やっとだせた

あらすじ
ある荒野で一人、黄昏ていたヤムチャ。そこをたまたまクリリンが通りかかり、ひょんなことから昔話をすることになった…


1

耳を聾するような爆音をたててひとつのバイクが道を突き進んでいる。このバイク以外に道を走るものはひとつもない。

 

太陽がじりじりとアスファルトの道路を焼いている。

 

この体にまとわりつくような熱気のおかげで恐竜もさすがに参ってしまったようでどれも岩の陰でじっとしている。

 

 

バイクは忌々しい熱風をもろともしないで、一定速度で進んでいる。急いでる様子はあまりない。

錆びたチェーンに擦り傷のついた車体からかなり年期の入ったものであると窺える。

 

ヘルメットの中のドライバーの目がふとちらついた。

このドライバーはどうも営業マンのようだった。変なところにひっかけてある鞄の口から書類が何枚か覗いている。

彼は何かを発見したようでふっと急ブレーキをかけた。

止まってよく見ればそれは看板だった。

 

 

『この先西の都近道』

 

 

と汚い字で書かれた木の看板が立っているのだ。正確には倒れかけで立ってはいない。

 

たしかに奥に正道からひとつ道がそれているようである。それた道は舗装などされておらず、まっすぐ歪な岩が複数乱立する荒野に向かっている。

 

ドライバーは腕時計をじっと見つめると、「少し冒険してみるか」と口の中でつぶやいた。

 

このドライバーのことは「のんびり屋」とでも呼ぶことにしよう。

勿論、読者様好きな名前で呼んでもらったらいい。

 

 

のんびり屋はバイクのハンドルを握り直し、エンジンをふかすとまた風を切って走りはじめた。

 

少し行くと器用に例の横道にそれてみせた。

 

 

安定のしていないでこぼこ道を突っ切り、荒野に入る。正道より一層、空気には熱気がこもっているとはいえ、のんびり屋は軌道にのった運転に胸を下ろしたようで、暢気に都で流行っている歌を口ずさんでいる。

のんびり屋の心中は穏やかだった。

 

 

そんなのんびり屋な彼が少し離れた切り立った崖の上で何かが光ったことになんぞ気づくわけがなかった。

 

光っていた物体の正体は黒い双眼鏡だった。その双眼鏡を小柄な少年が崖の先ぎりぎりに寝そべって固く目に押し付け、熱心にそれを覗いているのである。

手は小刻みに震えている。

 

少年は暫く覗きながら「やっと来やがった」と嬉しそうに言って歯を見せてしししと笑った。

 

少年はゆっくりと顔を上げた。幼い顔立ちで乱れた金色の髪が金の瞳を秘めた目にかかっている。

少年は大きく振り返ると息を思いっきり吸って

「皆!カモだぜ」

少年は精一杯叫んだ。歓喜に満ちた表情はまさに喜色満面と言えよう。

 

その大声を聞いて地面に空いた穴から小さな白い頭がひとつ土竜のように飛び出した。

「…久しぶりのカモだな。目標は?ピータ」

白髪の少年が頭を掻きながら駆け寄ってきて興奮して立ち上がっている金髪の少年の隣に座った。金髪の少年の名はピータというらしい。

 

さらにひとつ返事をするように大きな欠伸も後ろから一緒に聞こえてきた。

 

「一名のみ。CC(カプセルコーポレーション)製の旧型バイクにのってる。あれもバラせば金になりそうだ」

またしししと不気味な笑い声を最後に添えてピータが報告する。目はとびきり輝いている。

 

 

「しかしまさかサラの作戦がうまくいくとはなあ」

さっきの大欠伸の主がそう言いながら、遅れて二人のもとに到着した。

うーんと背伸びをして体をほぐしている。こいつの髪は黒い。

 

男だらけなので全員髪の色が違うとはなんともわかりやすいものである。

 

「よく言うぜ。ヤムチャなんて何の案も出さなかったくせにな」

そう言って白髪は笑いとばした。白髪の彼の名前はサラであろう。

 

「なんだと!オレはだな…」

何か言いかけたが語彙力の無さなのか寝起きのせいなのか何も言い返せない、この何とも哀れな黒髪の少年がヤムチャである。

 

「いいから特攻はお前らの役目だろ。早く準備しな」

 

 

「…へーい」

サラとヤムチャが同時に返事をし、恥ずかしさからか同時に赤面した。

 

ピータが思わず吹き出すと二人は口喧嘩を始めた。勿論、またヤムチャが負けてしまうわけだが。何事も息ぴったりである。

 

仲がいいんだか、悪いんだか。

 

 

少なくとも三人は長い付き合いのようである。

 

 

 

 

結構時間が経っている感覚は三人もあった。

しかしあののんびり屋の定速運転とピータの素早い状況報告が相まって、仮にも豆粒ほどになって彼らの獲物は何も知らずに荒野をまだ見える範囲で走っているようだ。

 

「そしたら…ヤムチャ準備いいか?」

サラが腕と足をほぐしながらヤムチャに声をかける。

 

「いつでもオッケー!だぜ」

足の腱を伸ばしていたヤムチャが一息ついて答えた。運動の前は準備運動が大切である。

 

そんなやりとりをしているうちにピータがサラとヤムチャの後ろにこっそり立ち、

「よーし、お前ら張り切って行ってこ~い」

と言うと、すぐに二人の背中を崖の先から足で蹴っ飛ばした。げ!と短い悲鳴を空中で上げると二人の背中はみるみるうちに小さくなっていった。文字通りピータはサラとヤムチャを蹴落としたのである。

ピータが蹴る直前にあの不気味な笑い声を上げていたことを彼らは一生忘れることはないだろう。

 

 

それからピータの眼下で二つの砂煙がぽんっと起こった。すぐに煙は尾を引いて煙は真っ直ぐ荒野に直線を作った。時間が経つにつれてどんどん直線はバイクと距離を詰めていく。

 

ピータが思わず「相変わらず速えなあ」と一人言を漏らした。

 

宙を舞った砂が陽光に照らされてキラキラ光った。

 

砂塵を撒き散らす直線の正体はやはりサラとヤムチャだった。白髪で青い瞳のサラ、黒髪で黒い瞳のヤムチャ。どちらも七歳児ほどの体格で、足は裸足。肩を突き合わせて高速で競走でもしているかのように荒野を駆けている。

 

 

「まずどうすんだ?サラ」

走りながら前を向いたままのヤムチャが訊いた。

 

珍しいなと言わんばかりに

「へえ。おめえが作戦を訊いてくるとはな」

と感心してみせると、皮肉っぽく「何も考えずに機械的に暴れてたガキの頃とはもう違うんだな」と続けた。

 

「うるせいよ。でもわりと頼りにしてんだぜ」

サラはリーダータイプでいつもこの三人組を先導してきた。そのためヤムチャも絶対の信頼を置いているのだろう。

 

サラは改めて言われるとちょっと照れたようで

「てか訊かなくてもわかんだろ」

とぶっきらぼうに答えた

 

「また派手にやれ、か?」

 

「おう。あたぼうよ」

とすかさず答えるとサラは不意にスピードを上げた。負けじとヤムチャもフルスロットルでサラの背を負う。

 

二人はまた一段と加速した。ギアがまたひとつ外れたような勢いだ。

 

さすがにかののんびり屋も後方から上がる砂煙とそれに伴う轟音には嫌でも気づいた。しかし気づいた頃にはもう遅かった。

 

次の瞬間、二つの小さな影が飛び上がりドライバーにのしかかったのである。勿論、のんびり屋なドライバーに避けることのできる余裕も与えず。

 

それを見ていた崖の上のピータはうっすら笑みを浮かべ、

「記録7秒28。見事記録更新だね。ボクの蹴りが効いたかな?」

と静かに言って一分の躊躇も見せずに崖を飛び降りた。



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急襲

やっとだせた

あらすじ
荒野に紛れ込んだ西の都を目指して進む「のんびり屋」
その荒野を三人の小さな盗賊が根城にしていて…


血相を変えてなんとか二人を振り払おうとする懸命な努力も虚しく鈍い音をたてて、バイクは転倒し、のんびり屋は地面に放り出された。

 

 

二、三回転すると腰をさすりながらのんびり屋はよろよろと起き上がった。

いつものようにのんびりしているわけにはいかなかいことは本人もわかっていたのだ。

 

 

「じ、時速70キロだぞ!一体どうやって!?」

 

 

のんびり屋ははっとして、目を見張った。背中を汗がゆっくりと伝っていくのをはっきり感じた。

 

この二人のガキの周りには乗り物はない。また、乗り物を隠せるほどの時間は経っていない。つまり彼らは生身だけで走ってきたということになる。

 

 

「へへん!驚いただろ?そこらの奴とは育ちがよくも悪くも違くてね」

 

 

にひっと悪戯っぽくサラは笑った。その子どもながらの表情がどこか不気味でのんびり屋の恐怖をさらに誘った。

 

のんびり屋は恐怖に驚き戦いて、地面に再び転がり、言葉にならない悲鳴を上げていた。顔面はひきつっており、この世の終わりとでも言うようだった。

 

「おーい!まだ縛りあげてねえのかあ?」

ピータが遠くから吠えた。二人を豪快に蹴り落とした後に自分も下りてきたようである。だが歩調は二人に比べるとかなりゆっくりであくまでマイペースだった。

 

「ああ!今やるところさ!」

ヤムチャが吠え返す。しばらくしてわかったー頑張れよーと元気な返事が返ってきた。あいつ手伝う気ねえな、とヤムチャは渋い顔をした。

 

そんな距離間のあるやりとりを交わしているうちにのんびり屋は腰にさしてあった銃に手をかける、と同時に引き抜いた。歯を食い縛り、顔を歪める。

 

サラはのんびり屋を縛る紐が絡まったらしく、ほどくのに苦戦していた。

 

ヤムチャはサラが縄をほどいている中、のんびり屋のバイクを軽く弄りながらどこからバラすか頭を捻っていた。

のんびり屋がここで逃げ出すほどバカではないとさすがのヤムチャも考えていたが、武器を持っているということは想定外であったのだろう。

 

 

構えた銃の銃口が真っ直ぐヤムチャの胸を背中から撃ち抜くべく怪しく光る。

しかし手元が確かに小刻みに震えており緊張感がその銃の握り方に現れていた。焦点も一秒が経つうちに徐々にずれているようでもあった。

 

 

そのとき三人の中で唯一、ピータだけがのんびり屋の行動を目でしっかり捉えていた。

 

ピータはすぐさま足下の砂を一握り掬うとのんびり屋の目めがけて思いっきり投げた。

 

丸くなった砂はその形状を保ったままのんびり屋の眼球にしっかり直撃した。

 

そして先に銃を構えたとはいえ人を標的に引き金を引くことに抵抗があり、また心中で葛藤していたのんびり屋は飛んできた砂を避けることはできず、呆気なくピータの得意技「目潰し」を食らったという次第である。

 

 

この間約3秒とちょっと。

 

 

ピータの物事に迅速に対応できる常日頃から心に置かれる冷静さが活かされたわけである。

 

しゅっと風が切れた音がしてのんびり屋が宙を舞い、どすんと尻餅を付いて地面に落ち、気絶した。銃はその辺りに転がった。

 

サラはその瞬間に丁度、紐がほどけたようで一人歓喜していた。ヤムチャは突然の出来事に愕然となりながらも哀れんだ目でのんびり屋に駆け寄って

「悪いな。あいつ手加減ってもんを知らないんだ」

と小声で言った。

 

ヤムチャは銃がどこかに飛んでいってしまったため、まだのんびり屋が先程まで自分に銃を向けていたことには気づいていなかった。いつまでも幸せなやつである。

 

 

 

ピータがその場に着いたときには地獄のフリーザみたくぐるぐる巻きになったのんびり屋がぐったり白目を剥いて地面に転がっていた。側でもうちょっと綺麗に縛れなかったのか?とサラがヤムチャに文句を言っていた。

 

 

「えーと…死んでないよな?これ」

 

ピータが頭を掻きながら苦笑して言った。やっちゃったか?とピータなりに申し訳なさそうに姿勢を低くしているつもりだ。

 

縄の縛り方の話をやめて二人は振り返った。

「息はあるみたいだぜ」

サラが木の枝でのんびり屋の顔をつつきながら言う。苦しそうにのんびり屋が唸りを上げた。

 

「気絶してるだけか。よかった。で、どーする?」

まあよくはねえんだけど、とサラが苦笑した。

 

「無理矢理起こせばいいんじゃねえか?」

ヤムチャが澄ました顔で言った。

珍しく意見をだしたことにヤムチャの成長をサラはしみじみ感じていた。というわけでもない。

 

「起こすったってどーやって?」

 

「とぼけんなよ。オレのこと起こすときはいつもあーやってんじゃねえか」

サラとピータをヤムチャがじっと睨む。

 

二人は顔を見合わせるとしばらく時間を置いてこっちを向いたときには顔色が恐ろしいほど曇っていた。

「いい!?あれはまずいって。潰れるって。男のシンボル。オレらみたいに体鍛えてないんだぞ、このおっさん」

 

ピータが焦りながら決心したような目付きのヤムチャを諭すように言った。はて、男のシンボルとはなんなのか。作者も書いてはみたもののさっぱりわからない。

 

「潰れたなら…潰れたならそれまでだ!」

ヤムチャがいつになく真面目な顔をして言うもので二人とも吹き出した。

 

「それまでだじゃねえよ、バカ。それで起きたとしてもオレだったらまた気絶するわ」

 

「ならどーするってんだよ」

 

「うーん考えてみたんだけど…火で炙ってみない?この前読んだ呪術の本に火炎儀式は最高の崇拝…」

 

「なんかお前も色々危ないな」

悪い流れになりそうだったのでサラがピータの猟奇的な呪術うんぬんかんぬんを遮った。

 

 

 

結局話は纏まらず、まあ逃げ出さないだろうということでのんびり屋は外に放置されて寒い荒野の真ん中で一晩をすごすことになったとさ。

 

 



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闇の中

やっと出せた
約半年くらいです
気まぐれにもほどがある
今回は結構な鬱回
閲覧注意っちゃ注意です

あらすじ
あっけなく捕まってしまったのんびり屋。
色々あって夜の荒野に放置されてしまった…


のんびり屋はぶるっと一つ身震いした。

夜の荒野の寒さが身に染みて、倦怠感と恐怖感をより一層増長させた。

 

形式上縛られているもののあの三人が去ってから懸命に体を動かしたせいか緩まっており身動きはかなり取れるため、束縛によるストレスはかなりマシだった。

足は縛りがきつく自由がないが両手は完全に動かせる。そのため痒いところをすぐ掻けるのでよかった。

 

なにぶん暇なのでふと空を見上げてみる。

頭上には皮肉にも満天の星空である。満月も煌々と輝いている。

これが都のホテルの窓から見れたらどれだけ気持ちがよかっただろうか、と残念そうに空を仰ぐ。

 

向こう側の崖にはぽつっと灯がともっている。

おそらくあのガキどものねぐらだなとのんびり屋は踏んだ。

 

街の灯はもっと遠い。果ての果てにスタンプを押したみたいな光がぼんやり微かに見える。寂しい目をしてのんびり屋はそっと顔を伏せた。

 

様子からわかるように一刻も早く逃げ出そうなんて考えは最早なかった。

背後の崖から感じる突き刺さるような視線がのんびり屋をその場に止めていたのである。

 

子どもほどおそろしいものはない。子どもはふとした瞬間に予測不能な行動を起こすものだ。娘がプレゼントした一輪車で我がバイクに突っ込んで大破させたことを思い出す。

 

色々考えるとやっぱりこいつはお手上げだと早々諦めるしかなかった。

 

 

背後には忌々しいガキ、目の前にはじっとりとした闇。こんな環境で星の光だけを頼りに逃げ出すというのも無謀だろう。

 

 

そう自分に言い聞かせるとのんびり屋はゆっくりと目を瞑った。

 

 

うまく眠れるか心配していたが意外とすんなりと夢の世界に入っていけた。

不思議な夢だ。白い空間に妻が娘を抱いて立っていて、笑いながらこちらに手を振っている。だが側に行こうとすればするほど二人は遠のいていく。走り出したが二人は見えなくなってひとりぼっちになってしまった。膝を抱えてのんびり屋は腰を下ろした………

 

 

 

 

…少し経った時だ。耳もとで羽音がした。

 

最初は気にならなかったのだが羽音は複数に増え、わんわんと耳が壊れそうなほど大きくなった。頭にまで音が響いて脳を揺らした。

 

のんびり屋は思わず飛び起きた。

顔の周りに大量の蠅がたかっていて、視界を覆っている。

 

驚くやら気持ち悪いやらのんびり屋は蠅を目の前から取り除こうと必死に手を振り回した。蠅はのんびり屋の振り回す手を器用にかわす。

 

すると無数の蠅の中から一匹がのんびり屋の頬に止まった。

焦った彼がそれを反射的に叩き潰すまでそう時間はいらなかった。

 

ぷちっと小さな命が消える音がして気づいた頃には蠅は頬で呆気なく潰れていた。

 

蠅の群れは同胞を殺されたと瞬時に理解したかのように、さーっと後ろに引いていった。

やっと静けさが訪れた、と思って幾分か顔を曇らせながらも安堵したのも束の間、突然、背後でざっと砂を踏みしめる音がした。

 

「おい…」

ガキ達の声変わりのしていない声とは違う太い声がした。低い、腹に轟くような声だ。

「え?」

のんびり屋はゆっくり振り向く。そこには全身を闇に溶け込むかのように黒一色に包んだ長身の男が不安定に立っていた。

目は血走っており、男の右腕にはあの無数の蠅が渦を巻いてまとわりついている。

 

「全て見たぞ?…お前がモスカを殺した…」

落ち着いているようなゆっくりした口調だ。

 

尾を引くように消えていく語尾には怒りと冷静さを両方孕んでいるように聞こえた。

 

こいつはやばいと常人ののんびり屋も直ぐに理解できるほどの異質な喋り方だった。

 

モスカ?いったいなんのことかさっぱりだ。殺した?俺が?

 

様々な情報が頭の中を錯綜する。のんびり屋の脳内容量は既にパンク寸前だった。

 

「な、なんのことかさっぱり_____

「とぼけても無駄だ…」

のんびり屋が言い終わる前に男が遮った。さらに間髪入れずにつづける。「ならお前の右手でくたばってるのはなん、だ?…」

 

右手?早まっていた鼓動がさらに早くなる。頬を叩いたまま固まっていた右手をゆっくりとはがす。先程叩いた蠅の粘液が掌と頬とに繋がってゴムのように伸びた。

 

「まさか!?このハエ_____

「あ?…」

男の右腕に群がっていた蠅たちが一斉に激しく羽音を立て始めた。怒っているように見える。この男の感情に連動しているといった方が表現としては近いのかもしれない。

 

男は息を吐き、俯くとのんびり屋の左腕を指差し、

「…とれ…」

と吐き捨てるように言った。

 

蠅たちは男の言葉を聞くと素早く綺麗に一列に並んで、一気にのんびり屋の左腕目掛けて飛び立った。

 

あっという間にのんびり屋の腕に取り付いた蠅たちはやがて、大きな円を描くように回転し始めた。その回転は恐ろしいほど速く残像しか捉えることができず当然、のんびり屋には手も足も出なかった。

 

円の大きさは時間が経つごとに狭くなり丁度、のんびり屋の腕回りくらいになる。締め付けられるような感覚は遅れてやってきた。

きつくなる、きつくなる。

 

無抵抗のまま何秒か過ぎた。左腕の感覚がない。どうしてだ?神経がやられたか?

 

するとどすっと砂に何かが落ちる鈍い音がした。

次の瞬間、のんびり屋が拝んだ物。それは砂に埋もれる千切れた自分の左腕だった。

「え」

短く悲鳴をあげるとそのまま卒倒する。

目には涙が溢れている。気絶しそうだ。

 

直接的な痛みがないのも一因か意識はなんとか保っていた。

 

気絶した方が幸せなのかもしれない。

 

男はのんびり屋に近づくと胸倉を掴んで無理矢理起こして、

「ハエじゃない…モスカだ…」

と諭すように言った。

涙が滝のように流れに流れた。一生分の涙かもしれない。

下半身の方もだだ漏れだったことは言うまでもない。

 

このままじゃ確実に殺される。蠅一匹潰しただけで殺さられるなんて狂っている、堪ったもんじゃない。理不尽だ。

 

「蠅一匹潰しただけで殺されるなんて堪ったもんじゃないってか?…くくく…言うねえ…」

 

ダメだ心が読まれてる。

 

こうなったら……

浅い望みだが、やらないよりはましだろう。

 

「君のモ、モスカくんを殺してしまったのは申し訳ないと思っている。た頼む。私には妻も娘もいるんだ。見逃してくれ」

 

言いながら頭を下げる。渾身の土下座である。

 

「命乞いか?…見苦しいぞ…諦めろ…小さな命でも尊さは平等…お前の道は死あるのみ…」

 

「わ、私はお前じゃない!フーンという名が…」

勇気を振り絞ってのんびり屋は言い放った。だが息が続かず最後まではいえなかった。

 

男はその言葉に眉をぴくっと動かした。そしてニヤッといやみったらしく笑ってそっと言った。

 

「いんや…お前はお前で十分だ…あばよ…」

 

のんびりの心は絶望の底に落とされた。

なぜこう次から次へと酷い目に遭わなければならないのか。

人より善良に生きてきたつもりだ。

賭け事もやらなかったし、酒も煙草もやらなかった。どれだけ忙しくても日曜日には家に帰ったし、約束は絶対に守った。

自分の何がいけなかった?

 

男が黙って蠅たちに首を落とすように指示するとそれらは鋭く尖って突き刺すべく、のんびり屋の首元めがけて飛び出した。

 

脳裏に妻と娘の顔がよぎって…

 

 

同日同時刻。東の都KYV@L7

 

「お母さん星きれい!」

パジャマ姿の少女が空を指差してきゃっきゃ騒いでいる。長身の女性が近づいて少女を抱きあげた。

「あらほんとね…でももう遅いわよ。早くお布団に入りなさい」

時間は23時すぎ。母親として注意するのも当然だろう。

 

そっけない返しをしたというものの星空の美しさに少し見とれていたのは確かだ。

 

「はーい」

いい返事をしてぱーっと寝室まで少女は駆けていった。母親もその跡を追う。

 

布団に潜ってしばらくたったとき少女が寝ぼけ眼をしばしばさせながら側についている母親に言った。

 

「ねえお母さん」

 

「なあに?」

 

「あの星空、お父さんも見てるかな?」

 

「あんなにきれいなのよ。きっと見てるわ。さあお休みなさい」

 

「お休みなさい…」

母親は少女を起こさないよう静かに寝室を出た。

リビングに戻った母親は写真立てを手に取った。

 

中にはCC製の旧型バイクに乗ったのんびり間延びした顔の男が写っている。口角が上がっておりどこか照れ臭そうだ。

 

「見てる?あなた…」

母親はふと呟いた。はっとして空の方に向き直る。

 

満月はいつのまにか雲に隠れたが星々はさらに煌めき、空を飾っている。

 

流れ星がひゅんっと一筋流れるのが見えた。




設定とか色々あげるとかいってましたがそんなに深い設定はないのでここに名前の由来とか書いときます
ここでかかないと一生かかないと思うので

名前の由来
サラ… 酸辣湯(サンラータン)
ピータ…皮蛋(ピータン)
フーン(のんびり屋)…不運
モスカ…蠅のイタリア語から

東の都の座標の秘密には気づいたらこっそりどうぞ


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確認

二日連続投稿するとかいう快挙
おそらくもう二度とないか!?
あとちょっとだけグロめ

あらすじ
荒野に降り立った怪しい影。
それにしたがう無数の蠅がのんびり屋を襲った…


2

 

暗闇から悲鳴が聞こえて、すぐに消えた。

 

闇に眼がかなり慣れたとはいえ双眼鏡で事態を即座に把握することは不可能だったが、声質的に襲われたのはあの久しぶりの「カモ」の男に違いない。

自分たちのアジトが狭いからと外に放置したが悪いことをした。

ピータは反省する。

 

参ったなと頭を掻くと、見えないと頭ではわかっているがなおも目に双眼鏡を押し付けて懸命に闇を探る。

想定していたハプニングはあの「カモ」の逃走くらいだったので慌てている様子だ。

整理してみよう。このあたりには夜行性の肉食動物、恐竜といったものは環境が過酷なためほとんど生息していない。もし一、二匹紛れ込んでいると仮定しても鳴き声一つ聞こえないのは不自然である。

では問題は何に襲われたかである。

 

それによっては自分たちがどう対処するべきか迫られることになるのだ。

 

ピータが一人、崖の淵で唸りがら指南しているとアジトからひょっこりサラが顔を出した。

ちょうどいい。サラは少なくともヤムチャより頭の回転が速い。力になってくれるだろう。

 

サラは真剣な眼差しで遠くを見つめながらピータの傍までくると腰をどっしり下ろして胡坐をかいた。

 

「おい。聞いたか」

サラが切り出した。視線は遠くを見つめたまま揺らがない。

彼も本能的に不穏な空気を察したのだろう。

 

何か得体のしれないものが眼下に広がる荒野の中にいてあの「カモ」を襲ったと。

 

「ああ。ばっちりな」

頷きながらピータは答えた。あれは聞き間違えなんかではない。

はっきりとした人間の悲鳴である。そう確信していた。

 

「やばそうか?」

問いながらピータの出方を伺いたいとサラはこっちを向いた。

安直で中身のない質問に聞こえなくもないが、やばいorやばくないの二択で答えることのできる単純明快なこの質問は一刻も争うこの状況下で適切な質問であった。

 

「やばいな。イヤ~な感じがする。孤児院のガラス割って逃げたあの日の夜くらいイヤな感じがする」

ピータの額が心なしか汗で濡れているように見える。

 

「…まったく同意見だ」

サラは遠くに視点を向き直して言った。「だが確かめる以外に手はない」

 

「そうだな…じゃあ…気をつけてな」

言いながら手を振って、また見えないのに双眼鏡を覗いている。どうやら癖のようである。心を落ち着かせるのに自然とやっているのだろう。

 

「おう。…ん?え?」

つられてサラも手を挙げたが途中で止めて文字通り目を点にした。

 

「え?何事?いかねーの?」

悪ぶれる様子もなくケロッとした顔で言った。

 

「いや、でも一緒に行ってくれたりしないの?一人より二人の方がさ…」

「俺は武闘派じゃねえし。生憎、お前ら二人みたく化け物級に速く走れねえの。お荷物じゃん。やだよ」

ピータが口を尖らせて反論した。

人より劣っているという点を利用して断るとはさすが『荒野の三人組』の頭脳角だと言えよう。

 

「あ、そう」

呆れたように目を薄めながらちらっと見ると、ピータは慌てて目をそらして親指を立てグッドサインした。

 

「行きたくない」じゃなくて「行けない」。そんな感じに見えた。

 

「おう。まあ精々頑張れや。応援くらいしてやる」

「ああ。じゃあな」

すたっとサラは勢いよく立つと助走をつけてシャンパンのコルクのようにぽんっと飛び出した。

 

落下していると頭上でピータが手をメガホンにして、

「気つけろよ!ヤムチャ起こしとこうか?」

と声高々に叫んでいる。

 

彼なりの最善の配慮なのだろうがヤムチャの性質をサラはよく理解していた。

 

「一回寝たらあいつテコでも起きねえだろ?いいさ。見てくるだけだ」

と澄ました顔で落ちながら答えた。

 

少し間を置いて、

「そうか。本当に気を付けろよ。油断すんなよ」

と返ってきた。

了解と指でサインすると漸くピータは引っ込んだ。

 

心配してくれているのかと思うとほんのり嬉しかったのは内緒である。

彼も何か力になりたかったに違いない。

 

ピータの性質もサラはよく理解していた。彼はただの臆病者ではなく自分ができることをその場で真っ当することのできる人間である。そういう意味で彼は偵察という任務についた。何も間違ってはいない。

 

それに後ろで誰かが自分を見守ってくれていると思うと足取りはちょっぴり軽い。

 

そうこうしているうちに崖の下に着いた。なお着地は失敗した。

 

埋もれてしまった足を引き上げると硬いものがサラの頭に当たった。頭をさすりながらその硬いものを拾い上げるとそれはヤムチャがどっかから五日前に拾ってきた信号拳銃のようだった。

『ほんとにやばくなったらうて!』と殴り書きで書かれた小さな紙がリボルバーに挟まっている。引き出すと『※これやむちゃからぱくったけどないしょな』と続いていた。

 

それでこそピータだ。

サラはピータに向けて拳を突き上げると腰のベルトに拳銃をさした。

 

サラは改めて前を向いた。

ぬめっと肌を撫でるような夜風がなんとも気持ちが悪い。こんな荒野の夜は初めてである。

 

風に乗って血の匂いも運ばれてきた。こいつは慎重に進むのが良さそうだ。腹を括ると目をギラッと輝かせてサラは足を一歩踏み出した。

 

「ザッ」という砂地帯独特の足音を消すのも苦労したが、なんとか音を殺してゆっくりながら着実に進んでいく。

 

 

暫く亀の歩みを続けているうちに足に何かが当たった。

思わずサラは息を呑んだ。

 

それは人の頭部だった。

 

苦悶の表情を浮かべて顔面は膠着、外傷はほとんどなく、切断面も鋭利な刃物ですぱっと斬られたように見える。

 

こうまじまじと観察することができるのはサラの荒野で培われたメンタルの強さがあるからだろう。

 

そして前方にサラは目をやった。

サラの強固なメンタルといえどもそのまま頭部を見つめたまま固まっていたが、視点が前方に移ったのは聞こえる虫か何かの不気味な羽音のせいだろう。

 

頭部と左腕が切り離された無残な死体が数メートル先に転がっていて、それに無数の蠅が集っている。そこまで腐敗していないぶん生々しい。

 

さすがにこれには堪らず、嗚咽が込み上げてきた。しかし、それを慌てて手で押さえる。

 

蠅ばかりに目をやっていたがすぐその奥にいたのだ。闇に溶け込むような漆黒に身を包んだ男が。数匹の蠅は死体から離れてその男の立てた人差し指を軸にしてぐるぐる回っている。

 

そのとき声がした。

「フィラ。何してる。気まぐれがすんだら早く帰ってくる予定だろ?」

声の主ははっきりしない。口を動かしているのは奥の男ではない。不思議な感じである。どこからか誰かに見られているような気もする。

 

「マジックか…皆、久しぶりに馳走にありつけたからな…皆の気が済んだらそのうち帰るさ…」

長身の男が答えた。フィラというのがこの男の名前らしい。さっきの声の主はマジックというようだが姿ははっきりしない。おそらく遠隔にて行われている会話だろう。

 

「おいおい。暢気なことを言ってるがまさか気づいてないわけじゃないよな?そういう作戦か?」

しびれを切らしたようにマジックが尋ねた。フィラはん?と顔を上げて

「ん?何のことだ?」

と聞き返した。

マジックは世話がかかるなあと言うように深く短く息を吐くと、

「蠅使いフィラさんが気づかねえとはなあ。仕方ねえ教えてやる。てめえの近くにガキが一人いるぜ。しかもかなり慎重な野郎だ。足音もほぼ消して近づきやがった」

その伝達を聞いてフィラはすかさず振り返った。眼光を動物のように光らせて辺りを舐めるように見回す。

コンマ1秒差でサラは体を低くして闇に乗じて身を隠したおかげでフィラに見つからずにすんだ。

やはり誰かに見られている感じがしたのは間違いではなかった。

 

「うまく隠れやがったな。小さいぶん有利だったか?どうする?」

言い終わるとひひひとマジックは笑った。ピータには劣るが気色の悪い笑い方をするものだ。

 

フィラはもう一度、周辺を見回すと、

「愚問だ…ミガ、ムスカ、ムーハ…ガキを探せ…」

と言うと、指を回っていた三匹の蠅が三つの方向に分かれて追跡を開始した。特別に調教されているのだろうか。従来の蠅より恐ろしいほど速い。目でやっと追えるレベルである。

 

「そうだ。こいつは一つ貸しだからな。後で杏仁豆腐奢れよ」

マジックがそう言うと「嗚呼…」とフィラはそっけない態度で返し、口論になっている様子だったがそんなことを気にしているわけにはいかない。

 

冷静にと思いながらも呼吸する速さは徐々に上がっていっており、口を手で押さえているとはいえ息が漏れるのは仕方がないことだった。

 

一匹がサラのその僅かな息遣いを探知したのか急に方向転換すると真っ直ぐにサラに向かってきた。

 

おそらく場所はバレている。

 

サラは小さく身構えた。




毎度お馴染み(二回目)名前の由来のコーナー!
フィラ…蠅の英語フライから
マジック…手品(マジック)
ミガ、ムスカ、ムーハ…蠅のギリシャ語、ラテン語、ロシア語

ぶっちゃけ自分の文章力がわからんので、まわりくどいとか説明くさいとかマイナスなことでもいいのでご意見のほどよろしくお願いします


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賭け

サラくんが奮闘しますがはてさてどうなりますことやら…

物語はまだ序盤の序盤!このペースだと完結まで二、三年かかりそう…

あらすじ
危険を承知でアジトを出発したサラ。
ついにその怪しい男、フィラと対峙して…


いちかばちか!

サラは両手に砂を握る。止まらない手汗が滲んでもう固まりかけている。

 

勝負は一撃。一撃を外せばまずい。

 

サラの作戦はこうである。

際限まで蠅を目で追い、片手の砂で蠅の視界を奪う、もしくは蠅を撃墜し追跡を妨害。投げたら全速力で左側にそれ岩陰に身を隠す。それで見つからなくてもマジックというやつがおそらく俺の場所を教える。そこで信号弾を使って相手二人の目を攪乱し、逃亡。これが最も穏便にことが済む方法である。そううまくいくとも限らないが。

 

なんにしても戦闘はできるだけ避けたい!

なぜかというとはっきり言って相手の戦力は未知数である。

おそらく偵察に蠅を使うほどなので相手は蠅をたくみに使って攻撃を仕掛けてくるのだろう。

それにあの死体の切断面から見て鋭利な刃物を所持していることがわかる。間合いに入れば命取りか!

 

あれ?結構戦力わかってんな…

 

ともかく面倒くさいのでやっぱり戦闘は避けたい!大事なことなので二回言った!

 

そんなことを考えてるうちに蠅は段々と近づいてくる。これほどまでに蠅が大きく見えたことはないだろう。あのフィラとかいう奴の邪気も相まって恐ろしいほどの威圧感だ。

 

あと数メートル。できるだけ粘れ。ギリギリを追及しなければ、何もかもが破綻するのだ。待って待って待つ。

 

両手の砂をぎゅっと握り直す。

 

もう一度言う!勝負は一撃‼︎

 

……そこだ!!!

サラの左手から砂が放たれた。固体化した砂はうまく軌道に乗って蠅に見事命中した。ヤムチャとのキャッチボールが役に立つとは。

 

ボシュっと放った砂の塊がわれる音がすると塵状になって煙幕のようになって落ちていく。

 

しめた!ここまで計算してなかったが運がいい。この煙幕に乗じて…

「見つけたぞ…」

サラの前に長身の男が立ちはだかった。フィラである。

「な、なに!?」

思わず声が出てしまった。

同時に後ろに退がる。思いっきり間合いだった。斬られてもおかしくはなかった。冷や汗が顔の側面を伝う。

だがタイミングはほとんど完璧。投げた場所から全速力で離れたのに。

どうして追いつかれた?

 

「どうして追いつかれたか、って?…こたえは簡単だ…単純に吾輩が速かったのだ…また状況判断能力も吾輩が優れていた…実力の差が天と地の差もある吾輩とお前では到底互角に対峙することはできんのだよ…わかるか?…」

自慢げにフィラは語った。フィラの目は死人のように冷たい色をしていた。

 

それにしても齢8歳ほどのガキの作戦なんざ簡単に打ち破られてしまうのか。結構頑張って頭ひねって考えたのに。

 

サラは内心ショックだった。

だがピータだったら切り抜けられたかと言えばそうではないだろう。

 

なにより経験の差が大きいぶん実力の差も大きい。

 

それにこいつはご自慢の状況判断能力に加えて相手の心を直接読むことができるらしい。そんなのお手上げだ。

 

「ご丁寧に解説をどうも。それで俺をどうするんだ?おっさん」

弱味を見せちゃいけないとサラは必死に強い口調で言った。だが声はやっぱり震えていた。

 

相手はあんなに無残に人を解体し、殺す畜生である。

自分がまだ子どもであると言えどいつ殺しにかかってくるかわからない。

 

「決まってるだろう?…その小さな頭でもわかるはずだ…吾輩のムーハを殺したのだ…罪は重いぞ…」

 

「こいつは…参ったなあ」

サラはぼやいた。

背中を汗がゆっくり伝っていくのがわかった。

 

やるしかないか。できるだけ戦いたくなかったが。

恐らくその判断力やスピードから見て自分の二倍くらいの実力か。

 

…やりようによってはなんとかなるかな。

 

勝算はほとんどないかもしれない。

だが戦う前から負けるなんて決めつけない。望みは捨てない。

ガンっと思いっきりぶつかって、重い拳を顔面にお見舞いしてやろう。

…引き分けが理想…

 

「皆よ集まれ…今宵はもう一仕事だ…」

ニヤッとフィラは笑った。あの勝ち誇ったような顔。イラっとする。叩きのめしてやりたい。

 

蠅がフィラを挟むようにして集まって二つの黒い渦が形成された。

あれは厄介そうだ。蠅と言えどあんなにフィラがうまく使いこなすのだ。

 

「来い!」

 

「なるほど威勢がいいな…まずは手始めに…そうだな…両足をとれ…両足だ…間違えるな?…」

フィラはそうやって凄んでみせる。

ガキだからといって容赦はしない。自分なりのやり方でじっくり痛ぶってやるという意味の脅しなのだろう。

 

だが攻撃する場所を言ってくれるのはなんともありがたい。蠅のスピードは速いがなんとか避けようはある。

 

注意するのは奴が持ってると思われる刃物だ。

あれほど切れ味のいいもの自分の貧弱な腕などあっさり肩から落とされてしまうだろう。

つまり、奴はどこかで飛びかかってくるに違いない。

 

油断大敵。この言葉に尽きる。

 

だが奴がまったく身構えてないのは何故だろう。

 

そのとき右足に激痛が走った。本能的にすぐに後ろに退がる。傷はわりかし浅いが血は出ている。

フィラはさっきいた位置から微動だにしていない。砂埃もまったく立っておらず、空気も殆ど変化していない。

 

ひょっとすると…この蠅たちがあの「カモ」の男を…

ほとんど死体に外傷がなかったのもそのためか。フィラ本人は手を下さず、蝿たちがやったのだ。

そうなると「足をとれ」というフィラの命令を蠅を小さなものという印象の先行により、足をもつれさせろ等と言った意味で解釈していたが、「足を取る」すなわち「足を切断しろ」という意味でとれる。

まさか蠅の超高速回転があれほどまでの斬れ味を出すとは。そこら辺の伊達な刀より斬れそうである。

 

まったく予想外なことの連続である。

 

お先真っ暗かとサラは目を瞑ったとき、瞼の裏の暗闇に一筋の光が差した。

 

フィラ本人を叩けば蠅は指揮能力が無くなり、分散するのではないか。

 

蠅たちも所詮は虫。

フィラがどううまく調教しても、集まることでやっと力を持つが個々としては無力な存在にすぎない。

 

また先程の「集まれ」という命令から集合するということにもフィラの指示がいることがわかる。

つまり先導するのは蠅ではなくフィラ。フィラという頭なくしてあの蠅軍団は機能しないのではないか。

 

つまりこの仮定が正しければ、ここから脱するにはフィラを叩くことは必須条件となる。見事に今まで作戦を破られてきたが、やることには変わらない。

さっきは感情的になって、てきとうに「拳をお見舞いする」などと抜かしていたが今は違う。

フィラを一時的に、ほんの一瞬でもいいから身動きがとれぬようにしなければこの場から離れることはできない。奴ははただでさえ速いし、あの蠅も脱出の障壁になる。

サラ8歳ここで人生最大の賭けに出る。

 

まあ全ての話は目前までじりじりと迫ってくる忌々しい蠅の渦を避けてからだ。

サラは両足の太腿をパンっと叩いて、前を向いた。目も思いっきり見開く。

足の傷なんてちゃらへっちゃらだ。あとで唾でもつけておくことにしよう。

蠅の渦がかなり距離を詰めてきている。ぎりぎり足にかからないくらいがタイミング。あまり高く飛びすぎず。

ようするに幅跳びの応用だ。

 

行くぞ。

 

「おらあっ!!!」

サラは気合を入れて飛び上がる。蠅たちの上を無事通過し、着地。まずは第一関門突破である。

歩みを緩めず、このまま突き進む!

 

「ほう…」

フィラは静かに感心した。自分には速さは劣るとはいえ、サラが蠅をうまく回避することは見抜いていたようである。

サラが全力疾走して向かってくる。そこで初めてフィラは構えた。

 

左足を踏み出し、右足は爪先を外に向ける。胸の前に左手を右手は後ろにそっと置くようにして構えた。取り入る隙はほとんどない。

 

正面突破を試みるか。やはりまだ青いな。

 

フィラの元に到着したサラは一分の迷いも見せず左ストレートを繰り出した。

フィラはそれを右手で軽く払うと、左手の手刀で素早く腹を突き刺しにかかる。サラはわずかに脇腹を剃る程度に攻撃をうまくかわすと、屈んですぐさま足払いをかける。

フィラは飛び上がりそれをかわすと、サラの後方で固まっていた蠅に指で合図をした。

まずいとサラは殴りかかったが簡単に手首を持たれてくるっと回され地面に伏せられた。

 

殴りとばすことには失敗した。まったく今回はやられ放題である。こてんぱんである。

せめてこいつの指揮を鈍らせるだけでいい。せめて何かひるむようなことがあればなんとか。

 

…仕方ない。ここで使おう。

 

サンキュー、ピータ。

 

腰の拳銃を思いっきり引き抜いて銃口を空に向ける。安全バーを外すと耳に指で栓をして、ぶっ放した。

 

パンっパンっと朱色の光が二つ。空で割れた。

信号弾の光が辺りを朱色に包む。

 

フィラもさすがにびくっと驚いてサラへ向けていた集中が途切れる。蠅も指示が揺らいだことでぴったり空中で止まった。しめた。

これぞ絶好の機!

 

「くらえ!」

 

慌ててフィラは視点を下ろしたがもう遅かった。もう手遅れな範囲までサラの拳は迫っていたのである。

 

「しまっ_____

「光芒拳!!!!」

サラのストレートパンチがフィラの腹に直撃した。

まともに防御もせず、ほぼ不意をつかれたような状態でサラの全力の攻撃をくらったフィラは何メートルか吹っ飛んで転がると、一度立ち上がろうとしたが腹を抱えて腰から崩れ落ちるように蹲った。サラもしっかり直立はできず、ふらふらしながら息遣いを荒くしている。

 

一発がやたらと重い。おそらく全身全霊を込めた一発か。

子どもだからと舐めていたのがいけなかった。だが気力は今ので果てたか。

 

「ぐっ…ガキが…」

腹部を押さえてよろよろと立ち上がる。面を上げたときフィラは目を疑った。




予定だとヤムチャ編は全部で10(+α)章構成であります

ヤムチャ全然出てこねえジャンって感じがあと何話か続くけどそこからは大活躍…してくれるかな…

そのうちアンケートとかも利用して色々やりたいです

まだまだ書き始めて日が浅いので先輩方にはアドバイスとかいただけると嬉しいです


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敗因

やっとだせた


「い…いない!?…」

言葉の節にも動揺が隠しきれない様子だった。さっきまでちゃんと目の前にいた人間が忽然と姿を消したのである。

 

気配もほとんど感じない。息を完璧に殺している。見事なもんだ。

 

だがあの僅かな気力で素早く長距離を移動したとは到底思えない。

かなり範囲は狭い。安易に移動せず周辺を虱潰しに探すか。

 

「おいおい。いくらすばしっこいとはいえガキ一匹捕まえられないとはねえ。フィラさんよ、腕が落ちたか?」

マジックはそう言ってひひひと笑う。

 

イラっとはくるが取り逃したのは自分の責任。

余裕綽綽とやっていたのがいけなかったと猛省する。敵外見だけで判断するべからずである。

 

…ここでガキ一人仕留めることができなければ一生の恥だ。絶対に仕留める。

 

「安心しろ…すぐに殺る…」

そういうとパチンッとフィラは指を鳴らした。

 

黒い大きな靄のような蠅の大群が密集して薄い板状になった。サーフボードのような感じである。

 

それにぽんっとフィラは飛び乗った。フィラの体重などものともしないようで非常に安定している。

 

「おっ!久しぶりにマジになるか。ひい。こわいこわい」

マジックがわざとらしく悲鳴を上げる。

あれは知っている。あれは「苍蝇板」という形態。フィラの切り札の一つで、超高速飛行をいとも簡単に行い、自由自在に空を駆けることができる。あれの追跡を逃れたものは今までに一人もいない。そう思うと大人気ないと言っちゃ大人気ない。

 

するとギラッとフィラは殺気だった目でマジックを睨んで、

「マジック…お前は手を出すなよ?…」

と釘を刺した。

 

そう言われると人はやりたくなるものだがマジックは

「言われなくても出さねえって。戦いはフェアじゃないとね。ほら早いとこ行った行った」

とここはせかした。

 

フィラの威圧に少々押されたのもたしかだが「久しぶりに本気のフィラが見れるのだ邪魔することもないだろう」という気持ちが先行していた。

ならいい…とぼさっと呟くとフィラは目を瞑り胸の前で腕を組んだ。神経を研ぎ澄ませ、空中で蠅とともに静止すると徐に口を開いた。

 

「おい…ガキ…かくれんぼらしく10秒待ってやる…それまでにどう逃げるかでも考えるこったな…」

放たれた言葉はそんなものだった。

 

10秒という時間。これは戦闘においては十分すぎる時間である。

 

フィラにとっては決して余裕から来る行動ではなく、一度頭の中を整理するために要する時間。敵に時間を与えるのも恐怖心を膨らませるのに効果的面である。

 

「10…」

…地形についてはおそらくこのあたりに住むあのガキの方が詳しいか…ガキの視点から物事を見る必要があるな。

 

「…8…7…」

隠れるなら左手に見えるまばらに岩が転がる岩石地帯か。

足跡もほとんどついていないため早急に逃げ込んだとするなら十中八九、左だろう。また小さな体型なぶん隠れやすい。

フリューゲらをあの一帯に送り込むのも策だがこれ以上皆がやられるのは避けるべきことである。

 

子どもだからと見くびるとさっきみたく足を掬われるが、現実的に考えればあの体力であの僅かな時間では左側にそれることくらいしかできないだろう。

またさっきのガキの目はいざとなったら左に逃げようと言わんばかりにちらちら動いていた。

この勝負勝ったな…左に重点的な攻撃をとる構えに間違いはない。

 

カウントダウンはついに3秒前に差し掛かった。

 

『ひゅんっ』

 

そのとき背後で風を切ったような音がした。そしてそのものがフィラの視界に入ったとき、瞬時に理解したのである。自分の盲点並びに愚かさを。

そのものは紛れもなくあの忌々しいガキ、サラだった。

 

「こいつで…本当に最後だ!…光芒拳!」

 

真っ直ぐ正確にフィラの胸目掛けて繰り出されたその拳は、またフィラをあの苦痛に陥れること…はなんとなかった。

 

フィラの咄嗟に取った怒涛の反撃によって飛び出した二つの手刀が、サラの拳がフィラに到達するよりも前にサラの首を捉えたのである。

フィラは刎ね飛ばそうと心中では念じていたものの突発的な攻撃は思ったより力が籠らなかった。

 

サラは空中で白目を剥いて力なく、空気が抜けたかのように落下していった。目下で小さな砂煙が立った。

 

なぜサラは苍蝇板の上のフィラの背後にいたのか。それは今となっては至極、明白である。

 

サラは高く高く跳んだのだ。フィラが耐えられざる痛みに目を伏せた一瞬の隙を突いて。ただ高く跳び落ちていって技を仕掛ける。単純明快な戦法とは言えど気づかれにくさを含む。だが身動きの取れない空中であるため見つかったときには確実に討たれるというリスクを孕んでいる。

ゆえにそんな一か八かな戦法であるからこそフィラの虚をつきかけた。

 

限られた気力を最大限に活用するために跳び上がったサラを見失ったフィラは左右の地形に固執し、とてもサラが遥か上空に飛び上がっていることは予測できなかったという寸法である。

 

フィラは組んでいた腕をゆるりと解くと苍蝇板も解けた。すたっと音小さく着地すると半身砂に埋まったサラを足から引っ張り上げる。

依然、白目を剥いたままサラの体は膠着している。

 

「哀れなガキよ…敗因を教えてやろうか?…」

サラは答えず宙ぶらりにされたまま一つも揺れも動きもしない。おまけに息もしていないように見える。だが気にせずフィラは続ける。

 

「…腕の長さだよ…お前の腕は吾輩よりわずかに短かった…よくも二度もこのフィラを欺いたな…ん?…」

相変わらず返事はなし。くそったれとフィラは舌打ちしてサラの足を掴んでいた手を離した。サラが音を立て転がった。

「とっくにくたばったか…」

胸糞が悪い。

勝ったのに勝った気がしないとはこのことである。あそこで二度目の『光芒拳』を受けていたら状況は変わったかもしれない。けれど奴は攻撃が当たろうと当たらまいと気力は完全に消え去っていたはずである。

 

つまり両者KOを狙っていた?

 

つくづく恐ろしいガキである。

 

「やっと勝てたなぁ。これで『黒い暗殺者』の名が傷つくこともないわけだ。いやあよかったね。ギリギリ勝てて」

マジックが冷やかした。返す言葉もなく、確かにギリギリである。ただ頭ごなしに煽るように聞こえてマジックの言葉はどこか真をついているのである。

 

若輩とばかり結局は侮ったばかり今、途轍もなく自責の念に駆られている。完璧主義、完全勝利を掲げるフィラにとってこの戦いは失態にも等しかった。

 

「ああ…さて気まぐれはお終いだ…すぐに帰還する…」

沈み濁った目を伏せながら言った。フィラが軽く黒いマントを翻すと蠅たちがわらわらと集まってフィラの体に纏わりついて止まった。

 

「だな。早いとこ帰ってこい。ボスがもうすぐおいでだ…」

マジックはそう言うと黙った。流れていたラジオがぷつっと切れたかのように最後までどうやっていたかはわからない遠隔での通信が途切れたらしい。

 

それを合図にフィラはゆっくり歩き出した。黒一色に覆われた体はあっという間に闇に溶け、あたりを静寂が包んでいった。

 

_____二分後…

遠くからエアバイクか何かのエンジン音が近づいてくるのが聞こえてきた。徐々に大きくなっている。

 

ぱっと光がさしたかと思うとゴーグルをかけた少年が闇の中から現れた。少年はサラを目視するとすぐにエアバイクを飛び降りて側に駆け寄った。

 

「おい!サラ!!」

そう呼びかけながら少年はサラを揺すった。少年はゴーグルを外してなおも揺すり続ける。よく見ればピータである。

ピータは手をサラの鼻の下に当てる。

 

「…まずいな。息してない」

焦った表情でピータは言った。




そのうちまた更新します
次話執筆中です


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