インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ (filidh)
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本編開始前
少年/青年の夢


本当に久しぶりにSSを書こうと思ったらにじファンが無くなってた……
とりあえずリハビリ作品でもあるのでお手柔らかにお願いします。


おそらくフランスのとある町。人が多く集まる広場の噴水。

笑顔で多くの人が歩いていく中、その噴水のふちに腰をかける一人の少年がいた。

見た目はどう見ても日系、しかし身なりは少し汚らしくそれでいて悩んでいるように見えた。

(………どうしてこうなった)

彼はただわけのわからぬ現状にため息をつかざるを得なかった。

この少年、普通ではない。

っといっても『超能力を使える』や『空を飛べる』といった意味では無い。

言うなれば別の世界の記憶を断片的に持っている、いや覚えているのである。

少年はその世界ではどこまでも普通の生活をおくっていて年齢はすでに20代後半。

少年どころか青年、むしろ大人といわれる部類であった。

そんな青年は特に特別なことをするわけでもなく、いつものようにベッドに入り

明日のことを考えながら眠りについたとき『彼』が夢に現れた。

 

 

 

~青年の回想~

夢の中で青年は何も無い真っ白い空間で少し豪華な椅子に腰掛けていた。目の前にはギターのような楽器を持つピエロのような格好をした男性。おそらく吟遊詩人といわれるものでないだろうか?と言うことはアレはリュートか?いや、両方見たことがあるわけではないがなんとなくそう思ってしまっただけですが…。

彼はよくわからない曲をリュートで奏でながら、ふとこちらに目を向ける。

 

「ようこそ、扉の世界へ」

 

…自分はそれほど厨二病では無いと思っていたが。病状は深刻だったようだ……

夢とはいえこんなメルヘンと言うか…こんな夢を見るとは思ってもいなかった。

彼はこちらをじっと見ている。顔には目のあたりを隠すようにマスクをしており頬にはなにやら(つた)のようなメイク。顔はしっかりとはわからないがおそらくイケメン、もてるであろう。うらやましい……と馬鹿なことを考えているが彼も一向に何も言わない。さすがに居辛い・・・もしかして返事待ちか?恐る恐る返事をしてみる。

 

「え~っと……ハジメマシテ?」

「はじめまして。ではこの夢の世界で『何を』見たいですか?」

 

……ああこの夢は、日ごろ夢の中ですら都合のいいものを見られなかった、俺の『自身にとって都合のいい夢が見たい』という欲求のせいでできた夢なのか。ははっ、なら、適当に『都合のいいハッピーエンドの夢』を頼もうか?いや待てよ、ここは『ヒーローが活躍する夢』などもありかも知れん。それとも『ほのぼのとしたラブコメ』もありかも知れん。

うむ~いざ選ぶとなると迷う。ここは夢の中、時間をかければこの考える夢だけで終わって目が覚めてしまうやもしれない。そう考えるとハッと良いことを思いつく。

ここは夢の中。適当に言っても勝手に見たいものが見られるだろう。それに先がわかってしまう物語ほど退屈なものはない。って言っても王道展開はそれはそれで好きなんだけどね。

 

「よし、お任せで、『いい夢』を見させてくれ。」

「ええ……ではあちらの扉をどうぞ。」

 

そう言われて手を向けられたほうを見ると先ほどまでは無かった扉がそこにあった。

(まあ夢の中だから何でもありなんだろう。)

そう考え椅子から立ち扉のほうへ歩き出す。

 

 

 

扉に手をかけようとしたとき、突然リュートの音が止まり彼が声をかけてきた。

 

「そこの中に行く前にひとつだけ教えてもらえませんか?」

「うん?なんだい?」

「あなたにとっての英雄を一人だけ教えてもらいたい。」

 

英雄?ヒーローか……一人だけなら彼しかいないだろう。

とても強く、やさしく、何よりもカッコイイ。

赤いコートを身にまとい砂漠の星を歩き続けたガンマン。

誰よりも人を傷つけることを恐れ、人を助けるためなら自身の身をも省みない。

ヒューマノイド・タイフーン、600億$$の男、愛と平和(ラブ&ピース)を追い続けた英雄。

 

「ヴァッシュ・ザ・スタンピードかな?漫画のヒーローだけど。」

「……ありがとう。止めてしまって悪かった。ではよい旅を。」

「?ああ、ありがとう?」

 

こんなとき歴史の偉人を上げられないということはやはり厨二病なのだろうか・・・まあこんな夢を見てるところで大差はない。

夢の中でお礼を言い合うという貴重な経験をしつつ扉を開ける。

さぁ、目が覚める前にできるだけこの夢を楽しもうじゃないか。

目が覚めたら覚えてはいないだろうがそれでもいい夢を見たら目覚めはいいはずだ。

そう考え扉をくぐり先に進む。光に包まれたと思った瞬間。

自分の目の前には見たことも無い景色が広がっていた。

 

 

 

~現在~

(そこから少しまでだったな……楽しかったの…)

彼は深くため息をつきながら思わずに入られなかった。

その後少しの間いろいろと見て回るまではよかった。のどかな町並み、活気にあふれた市場、見たこともない建物。本当に海外旅行に来た気分だった。

しかし、現地の言葉(おそらくフランス語)はわからない、自身の体はとても幼くなっているため、色々な人からご両親はどこかな?と聞かれそのたびに言い訳をする、荷物はかばんの中にあるものだけ、しかもどう見ても危険物あり。となるとだんだんつまらなくなってくる(正確には夢の中でおまわりさんの世話に遭うのは勘弁したかった)。

もういいか、と思い夢の中で昼寝をすることにした。昼寝でもすれば目が覚めるかと思ったのだ。

そして目が覚めればもう次の日の朝になっていた……『夢の世界の』である。

それから何度もいろいろなことを試してみたが元の世界に帰ることはできず、解ったことは次のことくらいである。

・寝ている間は襲われない(すでに1週間ほど野宿しているが一度も襲われていない)

・手荷物にはお金もそれなりにある。通帳もあるが文字化けしており使えるかどうか解らない。

・さらに自己防衛のためだろうか、型は詳しく解らないが銃も持っている。

・『風音』という苗字か名前かわからないものが自身の名につくこと。

・現実世界の記憶が断片的であること。

(ヤバイなぁ~何より身分証明できるものを持っていないのがヤバイ。その上銃を持ってるとか夢の世界でもポリスメン呼ばれたら一発だぞ…っていうか夢の世界じゃないよなぁ…ここ。来た当初に馬鹿なことをしなかったことを幸運に思おう、うん。それにお金もこれだけあればまぁ……しばらくは困らないだろう…しばらくは……)

と現状の不幸を少しでも和らげようとするがどう考えても泣きたくなるのであった。

(まぁいざとなったら日本大使館に行こう。って言っても俺戸籍自体あるのかなぁ?……はぁ、こんなことになるならあの時よく考えて夢の世界で発言すればよかった。たとえば自由に寝続ける夢とか、ハーレムでムッハムッハとか、漫画の世界に……ってのは勘弁だな、どうなるかわからん、あとは腹いっぱい飯を食べられるとか・・・)

ギュルルルルル~~~~~

自身がどうしようもない現状の前で泣き出す前に、腹の虫が鳴き出した。

(……腹が減った…まぁお金は幸いまだあるし、いざとなったら文字化けした通帳を使って見よう。どうしてもだめだったらその時は……そのときになったら考えよう。

とりあえずどこかの店で旅行客の振りをして買い物をしよう。“お使いできたの~”みたいにすればたぶんいける。きっと……)

我ながら情けない……そう考えながら噴水のふちから立ち上がりどこかにいい店は無いかと捜し歩き始めたのであった。

 

 

 

~扉の世界~

一人しかいない白い空間でリュートを奏でながら

吟遊詩人の男は誰も座っていない椅子に話しかけた。

「ではよき旅をおくりください……いざI.S(インフィニット・ストラトス)の世界へ」

 

 

 

1つのドアが閉まれば、もう1つのドアが必ず開きます。

それはバランスをとるための、自然の法則なのだ。

~ブライアン・アダムス~

 



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フランスでの出会い①

今回から次の話にかけて年が一気に飛びますがご了承ください。


あの夢から三年。かれこれ色々と聞きまわって何とか英語とフランス語はカタコトながらしゃべれるようになっていた。とりあえず三年間生きてわかったことは神様という奴が居るのならこの上なく俺のことが嫌いなのだろう……

この世界はある程度元の世界と同じだがひとつだけ、かなり違うところが有った。それは『IS(インフィニット・ストラトス)』の存在だ。女性しか動かせない宇宙空間マルチフォーム・スーツのことらしいが、まぁ…もっぱら今は軍事用のパワードスーツ扱いだ。つまるところこの世界はインフィニット・ストラトスの世界だということだ。現実世界ではある程度読んでいたはずだがストーリーはほとんど覚えていない、それどころかキャラクターの名前すら出てこない。まぁ自身の名前すらこのところあやふやになってきていることを考えれば何もおかしくはないか。

このIS自体には何等問題はない。むしろ宇宙進出とかの面で考えればすばらしい技術なんだろう。しかしこのIS、乗れるのは女性のみ。さらにそのせいで広がった女尊男卑というか『女性最上主義』みたいなのが広がっているのだ。もちろんそんなこと関係ないといった感じで生きている女性もたくさんいる。しかし都市部や人が集まるところではその動きが強いらしい。

まぁ現在ストリートチルドレンとして生きている男の俺には何等関係はない事……ではないのだ。田舎ならまだしも都市部を歩けばそのような傲慢な女性が俺のことを指差し汚らしいと言う。言うだけならまだしも飲み物をかけられたり物を投げられ、果てには警察を呼ばれたりもする。回りは見ているだけだ。ああ、なんと生きづらい世の中だろうか……もし神様に会ったらとりあえず一発チョップを決めよう、うんそうしよう。

 

 

 

この三年間で自身についてわかったことは大まかに4つある。ひとつは銃についてだ。リボルバー式の銃。実際それほど使うことはないがこの銃自体にはおそらくおかしな点はない。問題は弾丸ケースである。はじめ何発ほど銃弾があるのか確かめようと人気のないところで数えてみたが子供の両手に乗るようなサイズの箱の癖にいくら数えても終わらない。つまるところ弾切れの心配はないようである。

二つ目に周りからの認識である。さすがにはじめは小学生くらいの子供が一人で歩いていると誰かに心配され通報されると思ってが。三年間そういうことは一切無かった。心配して話しかけてくる人にも、

 

「旅行中です。」

「そうかい、じゃあ気をつけるんだよ?」

 

といわれるだけである。

コレには本当に助かった。おかげでしつこく話しかけてくる奴は犯罪者か人攫いといった悪意を持った接触であることがすぐにわかった。

三つ目に自身の能力の高さである。現在の正確な年齢はわからないが体つきや身長からおそらく10歳くらいだと仮定している。10歳でありながらどう考えても体力、筋力の面から見ておかしい。と言っても10歳としてなのでもしかしたら体が小さい男性(現在身長130cmほど)では?と言う可能性もある。無いと願いたい……切実に。

最期に文字化けした通帳。アレはとんでもないものだということがわかった。

ATMで使ってパスワードを適当に打つとなんとそのまま限度額までお金を引き落とせるのだ!!

すごいぞ!!コレで俺も億万長者!!って考えてたけど連続して使えないことと、どこから出た金だかわからないので慎重に使うことにしている。

ただ仮に現実世界に帰れるのならコレだけは持って帰りたい。

まあ色々なことをこの三年間で味わいながら俺は欧州をうろちょろしていた。一箇所にとどまるとどうしても目立ってしまうのだ。そりゃストリートチルドレンがなぜか通帳を持ってしかも大金を持ち歩いている……いくら身体能力が高いといってもただの人。囲まれて奪われたら終わりである。そういった面から俺はできるだけ都市部をさけ田舎の町などを転々としてきたのである。

 

 

 

そして現在。俺はフランスののどかな町に来ている。

なんだかんだでこちらの世界で一番長く使っているフランス語の使えるところが安心できるからである。実際には初めの内はどうにかして日本にいけないかと考えていたが結論としてもう少し年をとらなければ日本には戻れないと判断したため次点としてフランスが良いだけではあるが、まあ居やすいことには変りがない。都市部で無ければの話だけど……

しかしここは風景もよく飲食店も多い。そして山奥に川がある。かれこれ三年間まともに家の中で生活していないのでもっぱらきれいな川の上流での水浴びが基本になってしまった……だんだん野生児と化してきているが仕方が無いことだと割り切ろう。

そうやって現状をあまり深く考えないようにしながら街中を歩いている時突然大声が上がった

 

「クソ!!引ったくりだ!!」

 

見ると一人の身なりの良い男性が倒れており、逃げる男二人を指差している。

回りにいる人たちは「警察を呼べ」や「大丈夫ですか」と声をかけたりはするが犯人のほうには目はいっていない。

俺だって普通かかわる事じゃない、なんたってこっちはまだ自称10歳児。見ぬ振りをしたって怒られやしない。……しかしなぜかこんな時頭に浮かぶのだあの赤いコートの男の姿が。どれだけ他の記憶が薄くなってもあのやさし過ぎる男の記憶だけは少しも薄れないのだ

 

「……はぁ…取り戻すことだけでもがんばりますか…」

 

そうボソっと口に出しとりあえず逃げた男たちのあとを追った。

 

 

 

男たちを追いかけるとある程度はなれた暗い路地、そこから声が聞こえる

 

「おい!?何だこれは!?金目のものなんてありやしねぇ!!」

「知るかよ!!あんな良い身なりだったんだ!!金ぐらい有ると思うだろうが!!」

 

隠れながら路地を見てみると男たちが言い争いながらかばんの中を覗いている。一応書類等にはまだ手はつけられていないようだが……犯人の身なりを見ているとある作戦を思いつく。

よし。この作戦で行こう。まずはとりあえずダミーの財布をひとつ用意し日本円で2万円ほど突っ込んでおいた。そしてその財布を持って弱々しい印象を与えるように注意して、身なりは……十二分にみすぼらしいな…よし行こう。

 

「あの……お兄さんたち?」

「!?何だガキか。おいクソガキ!!あっち行ってろ!!」

「オイ!!かまうな!!早く金目のもの見つけないとサツが来るぞ!!急げ!!」

 

おお、あせってるあせってる。さてここからが本番だ……

 

「あの……これ落としましたよ?」

「「!?」」

 

ふふふ、驚いてるな?実際は盗んだ荷物を落としたはずなんて無いことはこの二人のほうがわかっているだろう。しかしこの目の前に居る馬鹿なガキはわざわざどこかから財布を持って来たのだ。

 

「オイガキ。それをよこせ……」

「……はい。」

 

財布を渡そうとすると奪い取るように財布を受け取り中を見る。その瞬間お互いにニヤリとしたかと思うと

 

「オイ坊主。礼にこのかばんをくれてやる。だからここで俺たちを見たとか言うなよ?」

「そうだなぁ…ぬいぐるみも入っていたしちょうど良いな。コレをもってどっかに失せな!!」

 

と言った後俺を押しのけて走って去っていった……よしよし急いで散らばった荷物をかき集めこの場を走って去る。あのふたりが気がついて怒り狂う前に。

話としては簡単である。あせりにあせったあの二人は逃げ去るときにもう手に入れた財布と金。あとは警察に見つからないように必死だった。だからこそ気がつかなかったのである二人の自分自身の財布がすられた(・・・・)ことに。ある程度走って人通りの多いところで歩きながら二人の財布の中身を見たところ合わせて3万とちょっとのお金があった。

悩みに悩んだあげくとりあえず3万のうち2万だけ取り後は財布を落としてしまうことにした。運がよければ二人に戻るだろう……ほぼ無理だと思うが。

 

 

 

先ほどのひったくられた男性の場所に戻ると、おお!運がいいことにまだひったくられた男がいた。さすがに立ち上がっているがどうしようもないようにたたずんでいる。あたりを見渡して警察がいないことを確認しながら近寄る。やったことは無いがさすがに警察官に職質されて現状がばれたりしたら洒落にもならん。少し関係ないことで緊張しながら声をかける。

 

「あの、ごめんなさい。さっきかばんを取られたおじさんですか?」

 

ある程度の敬語を使いながらできるだけ子供のようにもじもじとした感じで話す?

少し疲れたようにしながら振り向いた男は年齢としてはまだ30代後半と言ったところだろうか。身なりは良く確かに金を持っていそうではあった。

 

「さっきお兄さんたちがかばんを捨てて、ここでかばんを盗んだって言ってたのが聞こえたから……ぬすまれたおじさんですか?」

 

うむ。我ながら気持ち悪い。しかし外から見ると礼儀正しいやさしい男の子に見えているのではないだろうか。そのほうが盗まれたかばんを持ってきた時に違和感が無いのでは?と考えての行動だが中身はほぼ30代の男である。どう考えても気持ち悪いものは気持ち悪い。

そんなことを考えながら男のほうを見ると先ほどまでの疲れが吹き飛んだかのように話し始めた

 

「本当か!?すまない。中身を確認したいので渡してもらってもいいだろうか!?」

 

口早にこういうので少し驚き、押されながらもとりあえずかばんを渡す。受け取ったかばんをあけ、中身を覗きほっとしたようにあるものを取り出す。サイズとしては15cmほどのサイズのクマのぬいぐるみだ。

……え?そっち?てっきり重要な書類が入ってるものだと思ってたんですけど……いや待てよ?もしかしてぬいぐるみの中にSDチップとかが入ってるとかかな?そう思い男の顔に目をやると、男はそのぬいぐるみを見つめやさしい顔をしながら涙を浮かべて見つめていた。

 

 

 

貴方の心が正しいと感じることを行いなさい。

行なえば非難されるだろうが、行なわなければ、やはり非難されるのだから。

                              ~エリノア・ルーズベルト~




女尊男卑についての考え方は多分こうなんじゃないかな~と言った推測も入っています。


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フランスでの出会い②

かばんをひったくられた男性はクマのぬいぐるみを見続けたかと思うとハッとしたような顔をしてこちらに目を向けた。

 

「ありがとう…私の大切なものを取り返してくれて……君のおかげだ本当にありがとう…」

 

と涙汲んで肩をつかまれながらお礼を言ってくる。いやお礼を言われるのはうれしいんですが……10歳児としてどう反応すればいいのかわからなくてうかつなことはいえない…いったいどうすれば良いのか。

そうしていると相手のほうもそれを見て俺が驚いているのかと思ったらしい。

すぐさま肩から手をはずし少しあわてるように話し始めた。

 

「すまない。これは私にとってとても大切なものでね。お礼がしたいんだが名前を教えてもらえるかな?」

「ええっと……」

 

……やばいぞ。なんだかんだで『風音』を名前か苗字か決めかねてたのがここに来てこうなるか!?

こうなったらとりあえず現実世界の名前を……あれ?名前なんだっけ……いやさすがにそれは忘れちゃだめだろ!?俺!!

現実世界の名前を思い出せず焦る俺を見て男は何を思ったか笑顔で話し始めた

 

「な~に、おじさんは悪い人じゃない。安心していいぞ?」

 

悪い人は皆そういう…ってそんなこと考えてる暇が有ったらさっさと名前を思い出せ!!

 

「……じゃあほかの人には内緒で私のことを教えてあげよう」

 

小さい声で内緒話をするように俺に顔を近づけて話し始めた

 

「おじさんはね、あのデュノア社の社長なんだよ?ISを造っている会社さ。」

「!?」

 

え?あのISを製作してる会社?って言うよりなんか引っかかるがとりあえず何か話さねば。

 

「……お金持ち?」

「そうさお金持ち、だから安心して名前を言ってご覧?」

 

社長さん……お金持ち以前にその言い方は間違ってると思いますよ…まぁとっさに出てきた言葉がお金持ちって俺も人の事言えないけどさぁ…

俺の発言が面白かったのか少し声を抑えながら笑う社長さん。むしろちょっとは子供っぽい話かたができたか?

そんなことを考えてるとパッと本当の名前だけは思い出すことができた。なら苗字は仕方ない『風音』をそれにして

 

「…ぼくの名前は『風音 奏(かざね そう)』です・・・」

 

そういうとデュノア社長は少し考えた顔をした後名刺を俺に渡した

 

「カザネくんか……あとでこの名刺を持ってどこでもいいからデュノア社に関係あるところにいきなさい。必ずお礼を渡すからね。」

 

しまった・・・名前のことだけ考えてたせいで名前を言う順番を間違えた……まぁいいか。それっぽく聞こえる苗字だし。とりあえずここは素直にお礼を言って逃げよう。さっきから色々と目立ちすぎて居心地が悪すぎる。

 

「は、はい。ありがとうございます。」

「いやいや、お礼を言うのはこちらだよ。本当にありがとう、カザネくん。」

 

そう言ってデュノア社長は片手にクマのぬいぐるみを持ちながらその手を振りながら去っていった。

 

 

 

 

 

その後、俺は薪になりそうな枝を集めながら山を登って行った。理由は二つある。

ひとつはそこに山があったから……とか言うどこぞの登山家みたいな理由ではない。

町で出た、あの引ったくり二人である。寝ている間は大丈夫なのでは?と考えるだろうがこの世界がそんなに俺にやさしいはずが無かった。

確かに寝ている間は何にも襲われない。物も取られない。しかし一度目を覚ませばそれは関係ないのだ。一度山で寝ている最中目を覚ますと近くで野犬がスタンばってた時には正直苦労した。よって眠る時は昼間の公園や人が多く集まるところと決めているのである。

ふたつめに水浴びがしたい。野生的だなんだいっても正直一週間に一度水浴びをするの何度もするのではぜんぜん違うのである。幸い山のほうに家は無く夜なので水浴び中に荷物を取られる心配も無い。……ただ風邪には気をつけなければいけない。

まぁ何度もやってるからそれほど不安は無い。初めのうちはどこかに温泉は無いのか!?と探したものだがそういうところには確実に女尊男卑の方がいらっしゃるので泣く泣くあきらめているのである。ああ、シャワーでいいから暖かいお湯が欲しい……でもそれほどの火をおこすとなると薪集めで一日が終わる、さらに目立つ。それはどうあっても避けたい。そんな考えをしていると上流の水がきれいな所でちょうどいいポジションを見つけた。

緩やかなカーブ上の川に遠浅になった砂地。コレなら砂地で火もおこせるため水浴び後も寒くない。

てきぱきと薪に火を熾す。さすがライター、文明の発明品!!火も簡単に熾せるぜ!!とISが活躍する世界でたかがライターで人類の叡智を感じているのであった。

火がある程度大きくなったら川の水をなべに入れ火にかける。こうすれば水からあがったあと温かいお茶が飲めるであろう。

さてそろそろ川に入ろうかと覚悟を決め服を脱ぐ。いくらこの生活に慣れてもこの水浴びだけはぱっぱと終わらせたかった。

覚悟を決め水に入ろうとした瞬間

 

「ガサッ……」

 

後ろの茂みから物音がした。……火に寄ってきた獣だろうが油断はできない。もしかしたら野党の可能性も無いわけじゃない。

俺は音がすると同時にすかさず服のそばに置いた銃を両手で構えた…いくら身体能力が高かろうと所詮人間。クマや野犬相手に素手では勝てない。人間が相手ならなおのことだ。

しばらく構えているが物音はしない。コレが獣の類ならおそらく既に逃げているだろう。しかし野党の場合…緊張ながらもできるだけ大声で声をかけた。

 

「オイ!!誰かいるのか!!」

「ガサッ!……」

 

確実に何かいる。しかもおそらく人間。最悪の事態を考えながらジワリ、ジワリと音のした場所に歩く。茂みまでの距離は一メートルほど。それでも目に姿が映らないということはおそらく人数は一人。それも小さめの体だ。

そう考え警告の言葉を出す。

 

「……今から3秒数える…でてこなければ撃つ!!」

 

そう言って数を数え始めようとした瞬間、

 

「や、やめて!!」

 

女性の声が聞こえる。しかし姿は見えない。おそらくまだ音がした茂みの後ろに隠れているのだろう。しかし油断はできない。相手がどんなに小柄でもここで銃をおろした瞬間こっちが撃たれる可能性もある。

 

「わかった。でも姿が見えないとこちらも銃をおろせない……手を上げて茂みから見えるようにしてくれないか?」

「は、はい……」

 

おびえる声を聞く限りおそらくかなり若い女性だろう。そしておびえているということは武器を持っていない可能性のほうが高い。

油断しないように銃を構えたまま茂みを見続ける。すると茂みの後ろから『にゅ』っと手が伸びた。それはどう見ても子供の手さらに武器などは一切無い。安心して目を閉じながら銃を下げ再び彼女を見ると彼女はこちらに背を向けたまま手を上げて立っていた。そして良く見るとおびえて震えていることもわかった。

(あちゃ~、悪いことしちゃったかも?)

と仕方ないことながら少し罪悪感を覚え、できるだけ明るい声で言葉をかけた。

 

「うん。こっちからも見えたから銃はもう向けて無いよ。安心して。」

 

そういうと少女は恐る恐るこちらに眼を向けた

 

「ほ、ほんとうに?だいじょう………」

 

途中彼女の言葉がとまり見る見る顔が赤くなる。何かと思いふと自身の姿について思い浮かべる。

あ……そういや今、俺…裸だったわ…

 

「ご、ごめ「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」」

 

夜も森に響く少女の悲鳴とビンタの音。眠る鳥たちもいっせいに目を覚ましたのか羽ばたく音が聞こえる。

そんな中、俺はビンタのダメージと目の前での悲鳴、さらに裸を見られた羞恥心と(あれ?俺のせいなの?これ?)と言った感情を頭の中で混乱させながら倒れて動けないのであった。

 

 

コレがこれから先何かとめぐり会うことになる『シャルロット・デュノア』との出会いである。

 

 

 

貴方がたとえ氷のように潔癖で雪のように潔白であろうとも、世の悪口はまぬがれまい。

                              ~シェイクスピア~




と言うことで主人公の名前とこの物語のヒロインとなるシャルロット・デュノアちゃんとの出会いでした~
っていうか話の構成が未熟だな・・・まさか主人公の名前が3話まで出せなかったとは。
このあともしばらくオリジナルの話が続きますがどうかお付き合いいただけるとうれしいです。


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フランスでの出会い③

「……ごめんなさい…」

 

こちらに目を背けながら顔を赤くしながら少女は謝る。体つきからおそらく同年代。服装は紺色のロングスカートに上は……詳しいことはわからんが薄いクリーム色?の薄手の長袖を着ている。

髪の色はブロンドで顔つきはとてもかわいらしいのだが、先ほどの事件のせいで複雑な顔をしながら焚き火のそばに座っている。

一方俺はと言うと、ビンタのせいで右頬を赤くしながらとりあえずお茶を入れている。当たり前だが既に服は着ている。

いや~命の危険を感じていたからなんとも思わなかったが、今考えると裸の男に銃を向けられるとか下手なトラウマになってもおかしくないなぁ…

そう考えるとこちらもなんだか申し訳なくなりとりあえず謝ろうと思う。

 

「あ~うん、僕の方もごめん。あわててたとはいえ…ひどいことを・・・」

 

さすがに自分の体を『ひどいものを見せた』と言うのはなんだか嫌なので少し言葉に詰まりながらもこう謝りながら一応お茶を渡す。

少女は少しびくっとしながらも一応お茶を受け取ってくれた。さすがにこのまま変質者扱いは嫌だったのでどう話そうか……いやここは適当に話をした後、このまま別れの挨拶をして切り抜けようか……よしそうしよう。とこちらが口を開く前に少女のほうが口を開く。

 

「あの?こんなところで何をしていているの?」

「あ~……キャンプ?」

「?」

 

さすがに『ぼくはストリートチルドレンで山に水浴びに来ていたのさ。』なんていえない。

言ったらさすがに引かれるだろう。

しかしこちらの自信の無い声に疑問を持ったのか納得してくれた顔では無い。

いかん話を逸らさねば。

 

「そういう君はどうしたんだい?君もキャンプかい?」

 

そうなるべく余裕が有るような声で話しかける。少女は首を横に振った後こちらをようやく見てくれた。

 

「ううん。私は少しはなれたところでお母さんと住んでるんだけど、お母さんが寝た後に森のほうから煙が見えてもしかして山火事かと思って見にきたの。」

 

あ~そうなのか。本当に悪いことをしてしまったな。また少し罪悪感を覚えた後、はにかむように笑いながら声をかける。

 

「それは本当に悪いことをした。うん。でもそういう時は大人と一緒のほうがいいよ?」

 

と一人でこんなところでキャンプをしている小さい子供に言われても説得力は無いだろうが一応言っておく。

すると少女は少し目を伏せ声を弱めて話す。

 

「お母さん…最近具合悪くて…お父さんもいないから…」

 

じ、地雷を踏んでしまった…突然のことでそのまま笑顔が固まる。い、いかん。空気がこのままじゃもっと重くなってしまう。それよりもさっきから俺の罪悪感がたまってしまってこっちの方がもたない。話を変えてさっさと分かれよう。

 

「ご、ごめん。つらいこと言わせちゃって。」

「ううん。大丈夫……」

 

といいつつ顔は暗いまま。話を変えねば。

 

「そういえばお家に帰らなくて大丈夫?お母さん心配するんじゃない?」

「あ、うん。そうだね。じゃあ…バイバイ。」

「バイバイ~。」

 

さらば名も知らぬ少女。もう会う事もあるまい。そう思いとりあえず先に飯にしようとかばんに手を伸ばすが少女は一向に歩き出さない。何かあったのだろうか?

 

「どうしたの?」

「…ライトが…点かないの。」

 

見ると彼女は泣きそうになりながらライトのボタンを押している。

 

「ちょっと貸してもらっていい?」

「うん…」

 

ライトを借りてみると、良く見なくても明かりのところが割れていた。コレ絶対さっきあわてて隠れた時逝っちゃたんだよなぁ…横目で少女のほうを見ると目に涙を浮かべながらこちらを見ている。もう罪悪感がもたなかった。

 

「だ、大丈夫!!僕がライト持ってるからおくってあげるよ!!」

「………本当に?」

 

涙声になりながらも返事をしてくれた。お願いですから泣かないでください。

こっちが罪悪感で泣き出しそうです。本当に。

 

「ホント、ホント。だから安心して。」

「……うん。」

 

流石にまだ泣きそうだが一応は少しは安心してくれたらしい。ふぅ、良かった。

 

「え~っと、自己紹介しようか。僕の名前は奏 風音。ソウでもカザネでも好きなほうで呼んで。」

「……シャルロット・デュノア…」

 

デュノアって言ったら昼間のデュノア社長を思い出すなぁ。まぁこの子とは関係ないだろう多分。

 

「よろしくねシャルロット。じゃあ、準備するからちょっと待っててね。」

「うん…」

 

いまだに不安そうにしている彼女のためにも手早く動かなければ。はじめに広げた荷物を適当にかばんにつめる。その後シャルロットにライトを渡し薪に水をかけさらに砂で埋める。よし。本格的に準備をする前でよかった。って言ってもすべての荷物を広げてもそれほど多くないから、さほど時間は変わらないとは思うけどね。

荷物を背負いシャルロットの横に行き笑顔で声をかける。

 

「よし、じゃあ行こうか。シャルロット。」

 

彼女は何も言わずに小さく頭を下げた。

 

 

 

 

 

「……~~~でさぁ。荷物を取られたのを何とか野犬から取り返しただけど中に入れてた服は全滅。参ったよアレには。」

「へぇー。ソウはそのあとどうしたの?」

 

と明かりを持つシャルロットの横に立ち、話しながら森を歩く。

初めの内はお互いに黙って歩いていたが俺の方が沈黙に耐えられなかった。

はじめはお互い他愛の無いことを話して言ったのだがだんだん口が乗っていき、今は旅をしている時のアクシデントを話している。こうなるとシャルロットは聞き手に回ってしまうが彼女は何も気にせずに聞いてくれていた。

 

「どうしようもないよ。泣く泣くその服はあきらめて使えるものだけ拾って逃げたよ。今頃彼らが着てるんじゃないかな?穴だらけの服を。」

「あはは、犬は服を着ないよ。多分寝床に使われてるんじゃないかな。」

「そうだろうね~。お、あそこから明かりが見える」

 

かれこれ15分ほど話ながら歩いていたが、ようやく彼女の家の近くについたのであろう。そこまでボロ屋と言うわけではないが、年季の入った家に見えた。

コレを見るにおそらくデュノア社長とは何も関係の無い人たちなのだろう。まぁ関係有ったら何か有るのか?といったら何も無いのだが。

そのまま歩くとすぐに家のそばについた。よし、ここまで送れば後は良いか。と思いライトを受け取り分かれようとすると家の中から女性が出てきた。

 

「シャル?どこに行っていたの?」

「あ…お母さん。」

 

シャルロットにお母さんと呼ばれた女性はシャルロットをそのまま成長させたような印象を受けた。ただしその見た目はシャルロットから感じたかわいいというものではなく、美人。それもそこらへんの女性など歯牙にもかけないレベルの美人であった。コレだけ美人だと森の中で遭遇したら女神やエルフと勘違いするのでは無いだろうか?それは無いか。

頭の中でそんなことを考えていると目の前でシャルロットとその母親が話をしていた。美女の登場で話に聞き耳を立ててすらいなかったがおそらく何が有ったのかを説明しているのだろう。終わり次第ライトを返してもらって歩くとしよう。いやその前にいい加減腹も減った。何か食べ歩きできるもの買っていただろうか?

そんなことを考えているとシャルロットの母親が声をかけてきた。

 

「えっと…カザネ君?迷惑をかけてしまったみたいね。」

 

おお、シャルロットと話していたときには気がつかなかったが声もとてもきれいな人だ。これは旦那さんがうらやましい。っていないんだっけ。また地雷に触れるのはごめんだ。

 

「いいえ、たいした事じゃないですよ。じゃあこれで。」

 

とシャルロットからライトを受け取り去ろうとした。がここでシャルロットの母親が引きとめた。

 

「もしよければ泊っていかない?ベットはひとつ余ってるから大丈夫よ。」

 

!?べ、ベットだと!?かれこれ三年間ホテルなどにもろくに泊まれず温かいベットなど夢のまた夢だったのだが……

い、いかん。動揺するな……なんでも無い様な感じで断るんだ……

 

「いえ~遠慮しておきますよ。」

「でもこんな時間にまたキャンプの準備をするのは酷でしょう?時間もじかんだし。」

 

まぁここで慣れてるといっても信用してもらえるとは思えないし、押し切ろう。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

「じゃあせめてお風呂だけでも入っていかない?水浴びしようとしていたんでしょ?

それにご飯もご馳走するわよ?」

「!?」

 

…シャルロット、君はそこまで話したのかい?…目線をシャルロットに向けるとまた赤くなっていた。おそらく思い出したんだろう。勘弁してくれ。

しかし風呂……温かいお湯…温かいご飯……イカンかなり心がゆれてるぞ。落ち着け、落ち着いて考えるんだ……

あれ?そこまで拒否する理由が無いぞ?

別に目立つ行動してるわけでも無いし。何よりこちらのデメリットがほとんど無い。それよりも何よりも温かい飯、風呂、布団。

もう完全にそれら温かい三つのものに俺の心奪われていた。

 

「……すみません。では泊まらせてもらってもいいでしょうか…」

「ええ、こちらこそ喜んで。」

 

こうして俺はシャルロットの家にお邪魔することになった。

その後何だかんだで一週間ほど泊めさせてもらうがそれはまた別の話。

 

 

 

 

「運」ってやつは、たえず変わる。

いま後頭部にがんと一撃くらわせたかと思うと、次の瞬間には砂糖をほおばらせてくれたりする。

問題はただひとつ、へこたれてしまわないことだ。

 

                                      A・シリトー




と言うことであと少しでフランス編終了です。
一応フランスでの出来事の内細かいところは後に番外編として書かせてもらうつもりなのでよろしくお願いします。


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別れの後に

この話でまたもや時間が跳びます。ご了承ください。


さて俺がシャルロットとその母親の家に泊めさせてもらってから丁度1年…って訳ではないが一年ほど経った今、俺はドイツに訪れていた。理由はと言うとストリートチルドレンの仲間の一人が

 

「次のISの世界大会がある町だ。俺たち見たいなのでも働いて生活できるかも?」

 

と言う言葉を聴き、とりあえず目的があるわけでは無かったので付いてきたのである。実際大都市のような町につくと次回のモンド・グロッソ?とか言う世界大会の開催地に選ばれたらしくとても観光客も多くそれにともなうように仕事も増えていた。

だが俺のような戸籍もわからず年齢もわからない、さらに見た目は子供のような奴が雇ってもらえるわけも無くどうしようもなく国内をうろついていたのである。

 

「金の面では問題は無いが一般生活ができないのはなぁ……」

 

誰に言うわけではないがつい口から声が漏れる。

しかしその言葉に耳を傾けるものは居るはずも無く、また目的も無いため仕方なく現在訪れている小さな町をうろついていた。

この世界に来てもう4年ほどの月日が経ち身長も少しずつ伸びている。(むしろこのまま身長が伸びなければどうしようかと……)見た目はまだ子供と言った感じだがもう少し成長できれば青年としてある程度の仕事にはありつけるだろう。そうすれば自分の意思で自分のことを守ることもできるし、何よりあの通帳もあるためもしかしたら元の世界よりもいい生活がおくれるかもしれない。

まぁ全部仮定の話なのでその時にならなければわからないだろう。

ただ問題は時期的にもうすぐ冬だ。昨年はシャルロットの母親のおかげで冬にあまり寒くない地域まで移動できたが今はそんな移動手段は無い。下手をすればまたはじめの年のように森に小屋を作り生活することになりかねない。これはコレで冬を越すだけなら問題は無いのだが、もしなにかかしらの事件に巻き込まれたら助けは期待できないだろう。そう考えるとやはりどこかで職を見つけ何とか冬をすごせるようにしたい。しかしそのためには見た目が……と言ったように考えが堂々巡りしているのである。

はぁ……ため息が出る。もうちょっと見た目が大人びていれば仕事も見つかるのでは?と言ったことを考える11歳児、ただし中身は約30代。

現実世界ではたびたび『子供に戻りてぇ』なんて考えてはいたがこんな展開はノーサンキューである。そんなことを考えながら町を歩き続けるのであった。

そうしてしばらく歩くともう町外れまで来てしまった。いろいろと町の中を歩いてみたがやはり働き手を捜している所はどうしても大人を求めていた、子供ではいけないのである。この際大人を名乗ってみるか?と考えたことは何回もあるがばれた時の危険性と証明のしようが無いのでどうしようもないと言う風に考えは落ち着いている。あ~やっぱり神様なんて存在しないのか?むしろ居たとしたら俺のこと、絶対嫌いだろ?俺もあんたが居たとしたら言いたいことがいくつも有るわ。

…………そうだ、神様を頼ろう。今までなぜ気がつかなかったんだ!?いや頭がおかしくなった訳ではない。正確に言えば神様を頼るのでは無く、『神様の家』つまり教会を頼るのだ。この町を歩いてる時一箇所だけかなり寂れた教会を見つけた。アレだけ寂れていればおそらく誰も住んではいないだろう。ならせめて冬くらいすごさせてもらっても罰は当たらまい。仮に当たったとしても現状この上なく運が悪いのだから仕方が無いだろう。

そう自分に言い訳をしながら俺は現在地から見て町の反対側にある寂れた教会に向かった。

 

 

 

教会につくころにはもう町も暗くなりあたりは静かになっていた。

夜の教会って不気味だなぁ……しかも全体的に荒れ放題だしなんか出て来ても逆に驚かないほどのレベルである。

おそらく昔は小さな、きれいな広場のある教会だったのであろう。しかし今は草は伸び放題で大きいものになると腰のところまであるものもある。さらに建物にはところどころひびが入っておりコケがはえているところもある。ここで中に入って棺桶があったら完全にバンパイアの住処である。ニンニクを持ってくればよかったなどと考えながらとりあえず扉に向かう。

教会の扉は両開きでところどころ腐ってはいるがとりあえず隙間風などは吹かないだろう。力を入れて引っ張ると片方は完全に動かないがもう片方は何とか動きそうだった。何とか力をさらにこめ引っ張ると

ギィィィィィィィ……

とある意味お約束の音が鳴った。中を見るととりあえず荒れた様子は無いがやはりボロボロではあった。しかしそんな中目を引くのは月明かりの入り込む小さな丸いステンドグラスだろう。大きさで言ったらせいぜい直径50cmほどだろうが時間次第で丁度良く祈りを捧げるところに光が入るようになっているのだろう、興味が無いわけでもないし時間を置いてその風景を見てみよう。あと一応十字架の下に棺は無いかと見てみたがあるはずも無く少し安…いやがっかりしたのは秘密だ。さてその風景を見るまで時間がかかることだしとりあえず今日寝るところだけでも華麗に掃除するとしますか。

 

 

 

 

そうして時間として大体4時間ほど経っただろうか。少しだけ掃除するつもりがまさか一部屋全体をきれいに掃除することになってしまうとは。まぁ他にやることが無くて暇つぶしにやっただけですけどね……

最前列の椅子に座りながら祭壇の前に床を見ると丁度丸く光が当たり床にもきれいな色が映し出される。ステンドグラス自体の絵は良くわからないがおそらく聖母マリア?ではないかな?宗教なんて今だかつて学んだことも無いので知らないが、芸術としてみるのなら個人的にはとても気に入った。

このまま最前列で見るのもいいが、いい機会だ。一応祈りでも捧げてみることにした。と言っても祈りの言葉なんて一節も知らないから頭の中で考えるだけですけどね。そうやって祭壇の前に跪くき両手を頭の前で組む。そして目を瞑り祈り…と言うか願いを捧げた。

 

(とりあえず仕事が見つかりますようにとあと寝床がこのまま使えますように。さらにできることなら断片的な記憶を元に戻せますように、と言うか元の世界に戻れますように。第一なんで俺がこんな目にあってるんだよ、普通こういうのは事故で死んだ~とか、神秘的な場所に居た~とかが原因だろ?普通。あと仮に召還とか転生したとしても、初めからチート能力もちとか、そばに美少女が居るとかだろ?なんで特にチートみたいな能力もなく実質ホームレス生活せにゃアカンのや!!物語の設定生かしきれて無いでしょ?俺が編集者ならもう一度まとめなおして書き直しなさいって言うレベルだぞ!?あと~~~~~……)

 

と後半になるにつれただの愚痴とかしてしまったそんな風に愚痴を頭の中で神様とやらにしていると突然鍵がかかって開かなかったドアが開いた。

目を開けそちらを振り返ると一人の老女が立っていた。こちらを見ると少し驚いたようにして俺の顔を見ていた。

……いかん、傍から見たら俺は完全に強盗だ、逃げ出すわけにも行かないし事情を説明して最悪通報だけは勘弁してもらおう。

 

「あの、すみません!!僕は旅をしている……いえ、家が無いのでいろいろと住めるところを探していたのですが、仕事も寝床も見つからずに仕方なくこの教会で…一晩過ごさせてもらおうとしただけなんです!!誰かが住んでるとはまったく知らず…スイマセンでした!!!」

「………教会の中をきれいにしてくれたのは…坊やなのかい?」

「はい…今日泊めさせてもらうだけでもできるだけ綺麗にしようと……」

「………」

「…あの、すみません。一晩だけで良いんです…この教会に泊めさせてもらえませんか?明日の朝には出て行きますから……お願いします…それがだめなら今すぐ出て行くので通報だけは…」

「………………だめだねぇ…」

「っ!?」

 

仕方ないこうなったら全力で逃げよう。荷物は広げていないし走ればこの婆さんに負けるとは思えない。通報されるまでの間に走れるだけ走って何とか距離を稼ごう、そうすれば逃げ切れるだろう……

 

「こんなところで一晩過ごしたら風邪を引いてしまうよ?」

「………はい?」

「『生き甲斐や、神の救いを求めている方々の為に、教会の門はいつも開かれています。』こんなボロボロでもここは教会なんだ。坊やが頼っちゃいけないはずが無いだろう?ただこんなところで夜を過したら風邪を引いてしまう。だから離れにある家のほうに来ないかい?」

「良いん…ですか?」

「むしろ仕事を探しているといったね?寝床だけなら家を使ってくれてもいいよ。その代わりといっちゃなんだけど少しずつでいいからこの教会を綺麗にするのを手伝ってもらえないかね?」

「そんなことでよければ!!ぜひ!!」

「私の名前はアストリット・ヘンゲン……坊やの名前を教えてもらっても良いかい?」

「僕の名前は奏 風音です。本当にありがとうございます。」

「こちらの方がお礼を言いたいぐらいさ…よろしくね?ソウの坊や。」

「ハイ、こちらこそよろしくお願いします。」

 

こうやって何とかしばらく住めそうな所を見つけることができた…ふと上を見るとステンドグラスの聖母さんが笑っているように見えた。

……もし神様に文句を言う機会ってのがあるとしたら、ついでにお礼も言うことにしよう。

彼は静かにそう心に決めながら、お婆さんの後を付いて教会から出て行くのであった。

 

 

 

求めよ、さらば与えられん。

探せよ、さらば見つからん。

叩けよ、さらば開かれん。

                 「新約聖書」-マタイによる福音書(マタイ伝)7章7節




はい、ここからさらに年がとびます。
オリジナルの教会のおばあさんですが今後出る予定は今のところほとんどありません。
シーンとしては後2~3回出ればいいほうでは無いでしょうか?
と言うことで今回も読んでいただき真にありがとうございます。


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第二回モンド・グロッソ開催

今回からやっと原作キャラクターと絡みます(少ないけど)。
お楽しみくだされば幸いです。ではどうぞ。


さて俺がアストリットの婆さんに拾われてから3年が経過した。

コレくらい時期が経つともう互いにそれほど気を使うわけでもなく、居候としてではなくある程度家族として生活をおくっていた。婆さんには流石に俺の身の上をすべてではないがある程度のことを教えている。7歳までの記憶が無いこと、今まで旅をしながら記憶を探していたこと、自身のことでわかるのは《風音》という文字だけで、おそらくこの文字から自身は日本人だと考えており、いつか日本に行って自身について調べたいということ。婆さんに本当の事を言えないのはなんだか少し心苦しいが『布団で寝てたと思ったらいつの間にか別世界に来てました』なんて言ったら確実におかしくなったと思われるだろう。

婆さんは周りの人に俺を孫として紹介してくれたおかげかご近所さんも俺と言う人間を受け入れてくれていた。俺もこの世界でできた俺だけの空間を大切にし人助けや婆さんの教会での手伝いなどを通してさらに絆を深めていた。

そんな時ドイツでついに2回目のモンド・グロッソが開幕したらしい。当然開催国であるドイツではかなり話盛り上がり、自国の選手を応援しようと多くの観光客が訪れていた。

ただ俺はこの頃にはもう婆さんの後を継いで牧師か神父になるのも良いかなぁ~とも考えていた。ただ俺自身『神様なんて信じない。居たとしたら一発殴る。』そういう考えなのであまり人に神の教えをいえるような人間ではないので悩んでいたのであった。そうなると正直ISだろうがSFだろうがどうでも良く、正直勝手にやっててください。と言った感じだった。

しかし近所の方々はそういうわけでなくISの試合を見に行きたい!!と言った人が多かった。ただ自国とはいえチケットは馬鹿みたいに高い。そんなのが手に入るわけも無く皆テレビに噛り付くように見続けるのであった。婆さんもその一人だったのだが家のテレビはお世辞にもいいものとは言えず、見ている途中に電源がおちることもあるくらいだった。そんなテレビで楽しみにしている試合を見続けるのも、何かかわいそうでせめて決勝戦くらいは良いテレビで見させてやろうと思い婆さんに

 

「ちょっとISの試合場のある町まで行って来る。お土産に期待して。」

 

といい小さな町からIS開催地の都市まで小さな旅行に出かけたのである。都市についてからすぐに大型テレビを購入し婆さんの家に設置コミでお願いした。コレなら後2日後の決勝戦には余裕で間に合うだろう。金に関してももともとバイトなどもしていたため買うことができてもおかしくない……と思ってくれればいいんだが。

そんなこんなでモンド・グロッソ決勝戦の開催地で、話の種になるだろうと決勝終了まで宿泊しようと思っていたのだが甘かった……なんと綺麗にすべてのホテルが満室、さらにテントで泊り込みをしている観客まで居るのだ。おそらく今この町は世界一人口密度が高いのでは?とそんなことを考えてしまうほど人にあふれかえっていた。

仕方ないから家に帰ろうにも帰りのチケットは既に買ってしまい払い戻しもできなかったのであきらめた。俺は仕方なく昔を懐かしむように野宿することにし、この都市の郊外にある廃墟でとりあえず泊まらせてもらうことにした。

その後は残りの2日間、都市内を観光して周回ることにした。初日にIS関連のおみあげを買い後はまぁ、帰りのバスの時間まで待つだけだ。そんなことを考えながら町を歩くがおそらく現在ISの試合がおこなわれているのだろう。あれだけいた人が一切見えない。あれだけの人数が入るアリーナってどれだけでかいんだよ……とそんなことを考えていると目の前を一人の少年が歩いてきた。

その少年はどう見ても日系、しかもイケメン。おそらく日本人だろう。試合時間中にこんなところを歩いているとはおそらくISにではなくドイツに興味があって来たのかな?

と自分以外の日本人を久しぶりに生で見ていると突然目の前に車が走ってきた。それは少年の前で止まったかと思うと降りてきた数人の男性により少年は拘束、車に引っ張りこまれた。途中「たすっ!!!!」って声がしたなー

…………どう見ても誘拐だ!?しかも途中少年と目があっちまったよ!!こっちに助けを求めるように見ていたが、などと考えている間に車が発進した。

ええい!!仕方ない!!俺は路肩に止めてあった自転車を勝手に借り車を追った。後ろから男性の声がしたが、緊急事態だということで勘弁してもらいたい。

 

 

 

 

自転車を走られること10分。付いたと思われる場所は俺の2日間の宿泊場所、あの廃墟であった。辺りを見渡すと視界の影になるように男たちの車を発見した。良く見てみるが中には誰も居ず既に全員建物の中に入ったのだろう。

俺はタイヤに穴を開けた後二日間のうちに見つけた侵入可能な場所の内一番目立たない小さな窓から侵入した。

中に入り静かに屋根裏を這って行くと男が三人、女性が一人何か話している。隠れながら聞き耳を立てていると何を話しているか解らないがおそらく話し方から女性がボスなのだろう。こんなとこまで女尊男卑か?いや、この考え方は男女差別だな、イカン、イカン。

 

「~ス~まだ~~軍~」

「~やく~~!!~~こ~~時間~!!」

「~しま~……~織斑~~」

「~部屋~~閉じ込め~~~~~…」

「~~~」

「~~~~~~~~~」

「「「了解しました」」」

 

おっと?何か行動を開始するのか?とりあえずしっかりと聞こえた単語は『軍』『時間』『織斑』『部屋』『閉じ込め』か……

『軍』『時間』に関してはよくわからないが『織斑』『部屋』『閉じ込め』は、隙間から話してる所を見ている限り、しきりに鎖で閉められている扉を見ていた。おそらくあそこに部屋に『織斑』少年が閉じ込められているのだろう。

……『織斑』?どっかで聞いたことがあるな、しかもかなり昔に……『織斑』『おりむら』『オリムラ』……!!!!そうだ!!原作主人公だ!!って事はあいつが『織斑一夏(しゅじんこう)』か。って待てよ?……確か原作だとこの後何もしなくても姉の織斑千冬(おりむらちふゆ)に助けられるはず……でも助け出すのに早い方がいいことには変わりないよなぁ、失敗しても後があるし。んじゃあ、がんばりますかとまた天井裏を一夏少年のいる部屋に向けて這っていった。

一夏少年のいる部屋の上の辺りに行くと一箇所だけ中が覗けそうな亀裂があった。俺がそこを覗くと拘束されながら息を切らしている一夏少年の姿が見えた。息を切らしてるところを見ると逃げ出そうと抵抗してたんだろうなぁ、中学生であの人数相手に抵抗するとかガッツあるなぁ……と流石物語の主人公と考えていると「クソ、なんでこんな目に!!」と悪態をつく一夏。悪態をついた後足を思いっきり踏み鳴らした瞬間に俺は亀裂を殴って大きくした。コレで顔を余裕で出せる程度には大きくなった。そこから顔と手を覗かせると一夏は目を丸くして口をパクパクさせていた。何か言われる前に俺は自身の口の前に人差し指を立てながら『しーーーーーー!!』と音を出した。一夏もそれを察してくれたのか口を閉じる。その後顔を引っ込めた後亀裂に手をかけ少しずつ上に削っていく。ボロボロの廃墟でよかった。そう考えているともう人一人なら出られる位に亀裂は広がりもはや穴になっていた。降りるかと考えると扉のほうで音がした

 

「おい!!ガキ!音がしねぇがいきてんのか!!」

「っつ…うるせぇ!!こっから出せよ!!」

 

誘拐犯からの言葉に対しここでもまだ強気。いや~すごいなぁ……

と感心しながら一夏がまた暴れだしたのでそれをみて天井裏から下に降りる。一夏の激しく暴れる音でおそらく外の誘拐犯には気が付かれて無いだろう。

一夏のそばにいくと乱暴に鎖で手が柱に拘束されており、暴れたせいか血がかなり服ににじんでいた。

とりあえずどう話そうか……一応頭で考える時使うのは日本語だが、実際に日本語を使うのは本当に久しぶりだ。うまく話せるだろうか……

 

「うわぁ…痛そ~…」

「……第一声がそれかよ…」

「Oh、うん……大丈夫か!?助けに来たぞ!!(キリッ)」

「色々と台無しだよ!!」

 

と小さい声で話しか、少しでも場を明るくして元気つけようとしたがまだ全然元気だった。さてどうやってこの鎖をはずしたものか。一応南京錠で止めてあるが鎖自体は結構新しい……うん?一箇所だけなんか歪になってるぞ…これ一夏がやったのか?だとしたら恐ろしいな……これが主人公のスペックだというものなのか。

 

「オイ……はずせそうか?」

「……たぶんいける。ちょっと音がするからまた大声で暴れてくれない?」

「わかった」

 

と言うと一夏は大声で「ここから出せよ!!」などと叫びながら足をばたつかせる。俺もできるだけ静かにだが急いでゆがんだ鎖を石で殴った。5分ほどそれをやると鎖に少し隙間ができたのでそれを思いっきり左右に引っ張ると隙間がかなり広がった。

 

「よし、もう暴れなくていいよ。」

「畜生!!……外れたのか!?」

「ちょっと待って……良し。」

 

ジャラジャラと音を立て鎖が外れた良し良し後は逃げるだけだ。

 

「助けてくれてありがとう。俺の名前は織斑一夏、日本人だ。」

「僕は風音奏。詳しい話は後にしてまずは逃げよう。」

「どうやって?ここは窓も無いぞ?」

「屋根裏があるじゃないか」

「そういやそうだったな」

 

できるだけ音を立てず穴を開けた場所に向かう。一夏に先に上がってもらい俺が後から続く。

二人とも何とか屋根裏に入る。そして俺が先頭に立ちながら後ろから一夏についてきてもらい出口から出る。

さて、後はばれる前に逃げるだけだ。二人で廃墟から離れる。すると中から男の声がした。

 

「ガキが逃げたぞ!!」

 

………主よ、こういうときくらい簡単に終わらせてくれてもいいでは無いでしょうか?

 

 

神は、その人が耐えることのできない試練を与えない。

                       「新約聖書」-コリント人への手紙Ⅰ 10-13




次回ようやく戦闘描写入れられるかな?
読んでいただきありがとうございました。


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風時々豪雨

「おいガキが逃げたってどういうことだ!?」

「俺が知るかよ!?オイ!!早くボスに伝えろ!!」

 

廃墟のほうから男たちの声がする。思ったより早く気がつかれてしまった。

このまま二人で逃げてもおそらく彼らが、いや彼女がアレを持っていると考えるとすぐに捕まってしまうだろう。

そして彼女らの狙いはおそらく一夏。つまり一夏さえ逃がしてしまえばいいのだ。

俺は考えをまとめると一夏に話しかける

 

「おい、一夏。この先をまっすぐ行ってすぐに曲がるとそこに自転車があるはずだ。君はそれに乗って逃げろ。」

「!?おい奏!?何言ってるんだよ!?」

「あいつらの狙いは多分君だ!!早くしないとあいつらが来る。行け!!」

「多分って!?」

「いいから!!俺ここら辺に詳しい!!一人だけなら隠れられる!!だから君は早く警察に!!」

「っつ……わかった…」

 

苦虫を噛み潰したような顔をしながら一夏は走り出しすぐに見えなくなった。

さて隠れようにも本当はここら辺はそれほど詳しくないが何とか切り抜けよう。

そう覚悟を決め腰の後ろに隠すように付いている銃のホルダーをいつでも抜けるようにはずしておく。

しばらくすると男たちが廃墟から出てきて車の周りでまた何か言い争っている。

 

「クソ!!タイヤがやられてる!!」

「おい!?どうするんだよ!!」

「どうするも探すしかあるまい」

 

このまま言い争いてつづけてくれれば逃げられそうだな~と思うと後ろで気配がする。

ハッと思い振り向くとボスと呼ばれていた女性がそこにいた。

服装は女性用のビジネススーツだがいろいろと改造されているのだろう、色気が目立つ。顔もとても整っておりブロンドの長い髪をしている。

彼女はこちらに微笑みかけながら話しかけてきた。

 

「はぁい、坊や。こんなところで何をしているの?」

「いや~モンド・グロッソを見に来たんですけどチケットが手に入らずに、仕方なくこうして観光をしていたんです。」

「観光、ねぇ…こんな町外れに?」

「はい。僕の住んでるところはとても田舎でこういう風景もものめずらしくて。」

「ふぅ~ん……そうなの。」

「お姉さんはこんなところで何を?」

「私はお仕事でここに来ていたのよ。」

「そうなんですか。じゃあ邪魔にならないように別の場所に行かせてもらいます。」

「あら?たとえば…織斑一夏の場所とか。」

「何のことですか?」

「しらばっくれなくてもいいのよ?私はあなたがさっきまで一緒にいたのを聞いていたから(・・・・・・・)。まあ見つけることは彼が隠れてしまって出来なかったけどね。」

「……………ふぅ。バレバレでしたか。」

「ええ、バレバレ。」

 

彼女と話している間に、男たちは俺を囲むようにYの字で立つ。

後ろに立った男がリーダー格なのだろう的確に他の二人に指示を出している。

 

「あなたを殺す前に、聞きたいことがあるのだけどいい?」

「答えられることならば。」

「そう。じゃあ一つ目にあなたはどこの所属の人間?二つ目に織斑一夏はどこ?」

「二つ目は僕もわかりません。多分今頃夕日に向かって走っているのでは?一つ目はそうだなぁ……強いて言うなら教会所属の愛と言う名のカゲロウを追い続ける平和の狩人・・・みたいな感じ?」

「テメェ…なめてんのか?それとも頭がおかしいのか?」

 

男たちが怪訝な顔でこちらを見る中、女性の方は笑いのつぼにでもはまったのだろうか、狩人の辺りで口に手を当て声を殺して笑っている。

やった。このセリフ一回言ってみたかったんだよね。こんな風に言えるチャンスまたとないし言えるうちに言っておこう。

男たちは女性が笑っていることに驚きながらもそれぞれ自分の武器がある場所に手をやっている。

後ろと右側は腰、左側の方はおそらく胸のほうにあるのだろう、先ほどからそこを何度も見ている。

男たちの武器を確認していると彼女の笑いがようやく収まったようだ。

 

「…ックク…っ……ああ、可笑しい。久しぶりに笑ったわ。」

「じゃあこのまま笑顔でさよならしませんか?」

 

だめもとでそう口に出す。

このままだと確実に撃ち合いになるだろう。

俺も銃で人を撃つのは初めてじゃない。常に鍛錬も行なってきたし、人を撃つという覚悟もしているつもりだ。だがどんなに覚悟をしていても避けられるものなら避けたいし、逃げられるものなら逃げたい。この緊張感に慣れることは絶対に無いのだろう。

そう思いながら改めて覚悟を決める。

 

「だ~め。約束したでしょう?『あなたを殺す前に』って。」

「美女なら約束を破ったって大丈夫ですよ。」

「あら、ありがとう。それじゃあ………さよなら。」

 

彼女がそう言うと男たちはすぐに動き出し何発も銃声が響いた。

 

 

 

 

目の前にいる女性は考えていた。織斑一夏の誘拐。そのミッションはもう既に成功している(・・・・・・・・・・)。今やっていることはミッションにとってはただの蛇足であり自分自身の意地返しだ。

はじめはどこかの国の諜報員か何かだと思ったが、こんなマヌケで愉快な諜報員がいるとは思えなかった。

服装は濃紺のジーズンに赤いチェック柄のワイシャツ。武器は腰についている型遅れのリボルバーのみ。顔は日系で髪は艶のかかった黒、見た目も悪くなく魅力的な笑顔だ。もう2~3年したらいい感じの青年になるのでは?と考えてしまう。

ISが世界に広まってからはこんな風に女性に話しかけれる男は本当にいなくなった。私のような人間に対しては特にだ。

そう考えていると、ここで始末をつけてしまうのが少しもったいなく感じてしまうが仕事なので仕方ない。『ケジメ』はつけさせてもらう。

『さよなら』そう周りに殺すように合図を出し、目の前の坊やを見続ける。まったく笑顔を崩さずにこちらを見ている。それならば最期までその笑顔を見ていてあげよう。そう思い目を逸らさず彼を見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さよなら。」

 

彼女がそう口にした瞬間男たちが動いた。

まずはじめに動いたのはリーダー格の俺の後ろにいる男。彼女が言い終わるや否や。すぐさま腰にある銃にすばやく手を伸ばした。

そこからツーテンポかスリーテンポ遅れて右側にいる男が動く。

そして左側にいる男に限っては完全に出遅れていた。

俺も相手が動いた瞬間に行動を開始していた。

まず手を後ろに回し腰から銃を引き抜き後ろを向かずに狙いをつける。リーダー格の彼は今まで動きが正確だった。そして誰よりも早く動いた。なら動きは予想しやすい。

周りを見渡したときのイメージを思い浮かべながら引き金を引く。一発、二発。打金によって轟音と煙を出しながら二発の弾丸がリボルバーから撃ち出される。

弾丸はまるで後ろが見えているかのように正確に飛び、男が銃を構える前に両腕を撃ち貫いた。

そしてそのまま二発撃った勢いを利用するようにして銃のみ右に向ける。

右側の男はあと少しでこちらに銃を向けられるところまで来ていた。だが遅い(・・・・)、俺は再び引き金を引き相手の銃ごと右手を打ち抜いた。

最期に左側に体を向けるようにして銃を構えると左側の男は驚いたような顔をしながら手を止めてしまっていた。そのまますばやく引き金を二度引きまたもや両腕を撃ち抜いた。

男たちを無力化するまで約2秒。俺はそのまま最後の一発がこめられたリボルバーを女性に向け、真面目な顔をしながら声をかける。

 

「動くな……」

 

彼女は今目の前で起こったことに驚いたような顔をしながら俺を見る。

コレが俺がこの世界に飛ばされて手に入れたおそらく最後にして最大のものである。

英雄(ヴァッシュ)の再現』。そう言ってもまだまだ未熟で本物とは比べ物にならない程度のものである。

俺は男三人無力化するのに2秒もかかったが(・・・・・・・・)、もしコレが本物の英雄(ヴァッシュ)ならば一秒もかからない(・・・・・・・・)だろう。

だが現在の俺の再現でも一般人相手なら負けることは無いし、軍属が相手だったとしても一対一なら確実に勝てるであろう。『唯一の例外を除けば』であるが。そして彼女はおそらくその例外なのだろう。

先ほどから銃を向けているが一切怯むことなく今は面白そうなものを見つけた様な顔をしている。

 

「何が教会所属の愛の狩人よ。とんでもないカウボーイじゃない。」

「いえいえ。教会所属は本当ですよ?僕は教会に住まわせてもらってますし。」

「あらぁ。神の使途が人に銃を撃ってもいいの?」

「僕は神をあまり信じていませんしね。もし神様がいるって言うなら一発くらい殴ってやりたいですし。あ、コレ秘密でお願いします。ばれたら婆さんに説教じゃ済まされないんで。」

 

そういうと彼女はまた面白かったのか今度は声を出して笑い始めた。

周りにいる男たちは信じられないものを見たような顔をした後、ハッとしたような顔をして立ち上がり離れていった。

 

「あー面白い坊や。いいコメディアンになれるわよ。さっきから笑わせられてばかりいるしね。」

「そいつはどうも。」

「ねぇ、私と一緒に来ない?腕も確かだし優遇するわよ。」

「すみませんが将来は神父か牧師に決めてるんでお断りさせてもらいます。」

「あらどうしても?」

「すいませんね。」

「う~ん……じゃあ勝負で決めない?」

「勝負ですか?」

三分間私から逃げ切って見せなさい(・・・・・・・・・・・・・・・・)

「……鬼ごっこですか?それにお姉さんはそのままじゃないんでしょ。」

「両方正解。私はドレスアップさせてもらうわ。」

「じゃあ、僕もタキシードに着替えたいんで一回家に帰ってもいいですか?」

「だめよ。シンデレラの魔法は後10分しか持たないの。」

「そいつは残念。ちなみに拒否権は?」

「レディからの誘いを断るの?」

「時と場合によりますねぇ……」

「それじゃだめよ。『相手』をつけなかったところは評価してあげるけど。」

「うわぁー、うれしいな(棒)。……はぁわかりましたよ。」

 

ここはどうやっても逃げられないようだ。俺はそう察するとあきらめたようにため息をつきながらリボルバーの弾丸を入れ替えながら距離をとる。

弾をこめながら考える。彼女はあと十分と言っていた。自身の今の実力であの兵器相手に3分、場合によっては10分……どう考えても分の悪い賭けだ。そう考えるとだんだん体が硬くなっていくような気がしてきた。

コレじゃあいけない、初めから悪く考えてどうする。俺は心の中で(今だけは自分があの英雄(ヴァッシュ)だと思え。ヴァッシュならどんな相手でも切り抜けられる。)と自身に気合を入れなおした。

弾丸をすべて込め終わり十分距離をとった後彼女と向き合う。彼女は武器も一切持たずこちらを見ている。

 

「準備はいいかしら?」

「何とかですがね……あと始める前にひとつ聞いてもいいですか?」

「ひとつだけね。」

「お姉さんの名前。教えてもらっても。」

「女性に先に名乗らせるの?」

「こいつは失礼、やり直します。僕の名前は風音奏、あなたのお名前を聞かせてもらっても?」

 

そう言うと彼女は満足げに微笑み自身の顔の前に手をかざす。

すると手についていた指輪が輝き光の柱が現れた。目を細め目線を逸らさないようにしていると光が収まり、そこには体に機械の鎧が身に纏っている彼女がいた。

 

「専用機は整備中とはいえ…まあいいわ。じゃあ名乗るわね。私の名前はスコール、スコール・ミューゼルよ。それじゃあはじめるわよ、がんばって逃げなさい。」

 

彼女はそういいながら飛び掛るように身をかがめこちらに笑いかける。

 

「カザネ。」

「………なんでしょうか?」

 

楽しそうに笑いながらこちらを見る。

一方俺は額に汗を浮かべながらその一瞬に身を構えていた。

 

「Shall We Dance?」

「……I would like to.」

 

そういい終わると同時に彼女が飛び出す。

ここに今、生身対ISの結果のわかりきった戦いが始まった。

 

 

 

 

競争は速い者が勝つとは限らず、戦いは強いものが勝つとは限らない。

                        ~イギリスのことわざ~




と言うことで亡国機関のエロいお姉さん登場です。
いまさらですがキャラクターは大分変わると思いますのでご了承ください。
あと書き溜めてたデータが消えた……
せめて本編開始までは一日二話の約束を破らないようにがんばります。


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『人』対『IS』

それじゃあ題名の通りの戦闘。お楽しみください。


(くそ!!速い!!)

(かわされた!?ありえない!?)

 

最初のぶつかり合いはお互いにすれ違うように通り抜けるだけだった。

スコールは内心驚いた。

確かに自身はISを使っている。だが彼女の目的は『奏を捕まえること』だ。

全速力で捕まえようにも普段自身が使っているわけではないこの緊急時の脱出用に用意したどこからか盗んでこられた量産機『打鉄』では正確なコントロールができず全速力でやろうものなら確実に彼を殺してしまう。

そう考え全力を出してはいない、否出せないのである。だがそれだけではない。その程度のこと彼女は初めからわかっているし、それだけなら自分はこの坊や一人簡単に捕まえられる。そういう自信が彼女には有った。ならばなぜ彼女はこの男を捕らえきれないのか、それは自身が想定していないことが今二つ起こったせいである。

一つは彼の早撃ち。自身が飛び出すと同時に目を狙うようにして二発弾丸が打ち出された。しかも撃つ瞬間はISを起動していたにかかわらず見えなかった(・・・・・・)。その弾丸は正確に彼女の両目に向かってきたが当たることは無い。ISによるシールドバリアーにより弾丸は防がれた。

二つ目は一瞬で彼が目の前から消えたのである。おそらく私が両目に向かってくる弾丸に目を奪われた瞬間に動いたのであろう。気が付くともう自身は彼を追い越していた。

彼女はさらに顔を輝かせながら彼を見た

 

(絶対に自身の手に入れてみせる)

 

そう心に決め再び奏へと向かっていく。

 

 

 

 

一方奏は内心悪態をついていた。

 

(くっそ!!想定していたよりも全然速い!!)

 

彼が想定していたよりもISは速く、そして固かったのだ。

いざと言う時、弾丸を同じ箇所にあて動きを逸らす。原作で本物(ヴァッシュ)がやっていたことをやろうとも考えていたが、このリボルバーから放たれる弾丸ではISにかかっているバリアーすら貫けず、まるで見えない壁にぶつかるかのようにして弾丸が空中に止まっていた。

自身の想定ではバリアーは生身の部分や装甲の薄い部分にかかっていると考えていた。だがそのバリアーは全体を覆うようにかかっていることが判明したため銃はもはや相手の気をそらすことにしか使えないのであった。

さらに自身の体捌きも彼をさらに焦らせた。彼は自身が英雄(ヴァッシュ)の再現ができるとわかってから自身の体を鍛え続けていた。それでも全然足りないのだ。本物と比べるとまるで競う気にもならないレベルの動き、コピーを名乗るのもおこがましい。紙一重でかわすのもやっとの動きで服を指先で破かれながらも何とかかわし、隙をみて相手の顔めがけて弾丸を打ち出すのであった。

 

(残り2分!!)

 

自身の能力不足に嘆きながらも何と相手の手をかかわし時間切れを待ち続けた。

 

 

 

 

(のこり2分ね……)

 

時間を確認しながらスコールは、自身がこの勝負をとても楽しんでることに気が付いた。

誰が想像するだろうか。生身でそれもまだ少年と言えるような年齢のこの坊やが、量産機相手とはいえISあいてに鬼ごっこをやり、逃げ続けているなど。

こんなことができる相手などそれこそあのブリュンヒルデ位ではないだろうか。

 

(ほしい、なんとしても彼が欲しい。)

 

そう思いながらISを操縦するが彼は紙一重とも神業ともいえるくらいの身の捌きでISのアームをかわしていく。

さらに時々飛んでくる弾丸はどれも正確に顔、いや瞳を狙うようにして飛んでくる。それに銃を向ける瞬間はよくよく集中しなければわからないほど速いのだ。そして腕の動き、瞳めがけて飛んでくる弾丸に注意が行くとまるでそこから消えるように居なくなり距離をとられる。

 

(『ゴールデン・ドーン』が整備中なのが痛いわね……いえ、ここは素直に相手のほうを認めるべきね。)

 

彼女は自身の整備中のISが今使えないことを少し後悔しながら自身のギアを入れ替えた。

もはや無事に無傷で捕まえることはかなわない。仕方が無いからどこかの骨が折れるくらいは勘弁してもらおう。そう思いさらに鋭く動きを速めた。

 

 

 

 

(残り一分……っ。だが……)

 

どうみても彼女の動きが速まった。

今までですら何とか紙一重だったのがさらに速くなったことにより少しずつ肌が切り裂かれていく。

こちらもペースを上げようとするが今現在でも全力といっても過言ではないのだ。

 

(残り45…44…43…)

 

頭の中で時間を数えながら考える。

仮に自分が3分間見事に逃げ切れたとしよう。だがそれは彼女が言い出しだ時間なのである。言うなれば彼女がさらに1分追加といわれればいくらこちらが断ろうとも。無効に無理やりやられればこちらは逃げることもできず捕まる。もし先ほど言った『シンデレラの魔法は10分』と言う言葉を信じるのならあと最低でも6~7分耐えないといけない。

何か手は無いか!?そう考えながらも体の傷はさらに深くそして増えていく。

 

(30…29…28…27…26…25…24…)

 

時間が経過するのが遅く感じる。

彼女は逆なのだろう、最早顔からは笑みが消え全力で俺を捕らえようとISを操る。

こうなったらこちらも意地だ。もう後のことを考えるのはやめて残り20秒、逃げ切ってみせる。

俺はそう心の中でそう思い、力を振り絞った。

 

 

 

 

(のこり15秒……!!)

 

彼女は内心焦る。

まさか本当にISあいてに3分間逃げ切るのか。30秒を切った時点で彼女は最早手加減などほとんどしていなかった。ただひたすらに彼の体のどこかを掴もうと手を振るうがどこまで行っても紙一重なのである。ここまでくると相手に恐怖すら感じる。

 

(本当にこの坊や、何者なの!?)

 

 

 

(10…9…8…7…6…)

 

頭の中では最早時間だけしか考えていなかった。

相手の手が伸びる、かわす。こちらに突っ込んでくる、潜る。隙を見つける、撃つ。

無心の動きで、ただ当たり前に動くかのように単純に普通はできない動きをする。

 

(3)

 

スコールが最早半笑いになりながら手を伸ばす

 

(2)

 

奏はなんでもないような顔をしながら体中から汗と血を流しかわす

 

(1)

 

残り1秒になった瞬間、奏は全力で距離をとり銃を上に向け弾丸を撃つ。

 

「0……俺の勝ちだ……」

 

空に向かって撃ち出した弾丸と、空に響く轟音がその勝負の終わりを告げた。

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…、僕の…勝ちだね…」

「…………質問してもいい?」

 

こっちが笑顔で彼女に話しかけると彼女は真剣な顔で質問をしてきた。

 

「あなた本当に何者?」

「言ったでしょ?ただの教会に住んでる平和の狩人だって。」

「本気で言ってるの?それ。それによくよく考えればあなたの言う名前だって日本語で考えれば『風の音を奏でる』なんてそのまんま偽名じゃない。」

「………」

 

………確かに。

言われてみると『カザネ ソウ』と言う名前はそういわれると偽名にしか聞こえない。まぁ実際半分は偽名なんだ、仕方が無いだろう。

改めて気が付いた新事実に俺が驚いていると彼女はあきれたような顔をした。

 

「何いまさら気が付きましたって顔してるのよ。まさか本名じゃないでしょ。」

「……………」

「……本名なの?」

「……ハイ。」

 

少し気まずい空気が流れた。まぁこのまま時間経過してくれればいいんだけど。

そうすると彼女がはっとした顔をし、顔に笑みを浮かべながら話し出した。

 

「そ、そうなの。……まぁいいわ。それで勝負のことについてだけど。」

「え、ええ。僕の勝ちですよね。」

「ええ、勝負はね。ただご褒美としてあなたを好待遇で連れて行ってあげる。私たちの組織に。」

「……いくらなんでも、それはずるいでしょう。」

「女はずるいものなのよ。」

「僕は優しくて素直なほうが良いな~。」

「あら、ならなおの事、丁度良いじゃない。」

「………」

「何か言いなさいよ。」

 

ジト目で相手を見ながら内心焦っていた。やはりこうなったか。こうなるともう時間との勝負だ。もう体力は限界に近いが何とか時間を稼がなければ。会話と先ほどの戦闘あわせて約5分。なら後もう5分稼げば何とかなるはずだ。

とりあえずは時間を稼がなければ。

 

「いやーうれしいな(棒)」

「そう、じゃあ行きましょうか。」

「え!?まだ心の準備が。」

「早くしなさい。ちなみに時間稼ぎしても無駄よ?後10分で魔法が解けるって言うのも嘘だから。」

「………うそが多すぎじゃないかな?それ。」

「お仕事ですから。それにあなた美人は嘘をついてもいいって言ったじゃない。」

「……」

 

ああ、なんで俺はあんなこと言っちまったんだ。

状況的にも戦力的にも時間的にも口ですらすべて負けている。個人的には最後のが悔しい。

向こうも勝った!!っと言う風に顔をほころばせている。畜生。

だがまだ完全に負けたわけではない、最後まで悪あがきさせてもらおう。

俺は構えるように脚に力を入れ腰を落とし逃げる準備をした。

 

「あら?往生際が悪い男は嫌われるわよ?」

「しぶとく生きていきたいんで。」

「そう、じゃあ無理やりにでも連れて行くわよ!?」

 

そういうと彼女は先ほどの動きと変わらないほどのスピードで動いた。

対する俺は疲れからか明らかに動きが鈍い。

距離をとっていたのに掠るどころか深く腕に傷が付いた。

ここが戦力での決定的な差だ。戦闘の継続力が違いすぎる。

どれほど速く動けようと生身の力で動くのと機械の力で動くのでは、どう考えても前者に勝ち目は無い。

さらにISと言う機械は生半可な攻撃は効かない。そうなるとこの結果は誰がどうみても分かりきった結果である。

 

「っつ!!」

「あきらめたくなったら何時でも言ってね?」

「誰が!!」

 

彼女はますます顔を輝かせてこちらに突っ込んでくる。

なんとかかわすがやはり切り裂かれる。しかし人を傷つけて喜ぶとか、確実にこの人『どS』だ。どこが『優しくて素直』だ。

そこから何とかかわし続けるが、5回目辺りでとうとう彼女のアームに太股の辺りを深く傷つけられ足がやられた。

ガクッと疲れと足の傷からか、腰が落ちそうになるのを何とか踏ん張り踏みとどまる。

 

「……っ。ハァ…ハァ…ハァ…」

「ゲームオーバーね。それじゃあおしまいね。」

「まだ……こっちは諦めちゃ…いないぜ…?」

「そんな風に言われても説得力が無いわよ。」

「……っ」

 

実際どうしようもなかった。彼女はそう言って俺を捕まえようと距離をつめた。

そのとき突然横の方から木の棒が勢い良く彼女めがけて飛んでくる。彼女はそれをかわそうとも受け止めようともせずにバリアーで受け止め足が止まった。

俺は突然の出来事に訳がわからなかった

 

「…っ……?」

「うおおおおおおおおおお!!」

 

掛け声がする方を見ると鉄パイプを持った織斑一夏(ヒーロー)がそこに現れた。

 

 

 

いかに弱き人といえども、その全力を単一の目的に集中すれば必ずその事を成し得べし。

                                    ~春日潜庵~




今回はここらへんで終わりです。
また次回お楽しみください。
データの復旧は無理だけどもともと開始前と番外編4話と本編数話だけだから、大丈夫(遠い目)
実際一回書いた奴だからあとは思い出して書くだけですね。
一回編集者に没されたと考えよう、うん。(白目)
と言うことでまた読んでいただければ幸いです。


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雨上がり

「うおおおおおおおおおお!!」

 

ここで織斑一夏が乱入する前まで一旦時間を戻してみよう。

 

(クソ!!誰も居ない!!)

 

彼は自転車を走らせながら人を探した。

はじめは警察署に向かおうと考えていたのだが、自身が警察署の場所を知らないということに気が付いたのは自転車をこぎ始めて1分も経たないうちの事であった。

そこで自身の電話で助けを求めようにも連れ去られる時に男たちに奪われたままでありどうしようもなかった。

そうなると誰かに助けを求めようと自転車を走らせていたのだが、町の郊外であることが原因なのか、それともモンド・グロッソ開催中だからなのか不幸にも人とすれ違う事はなかった。

彼はそれでもあきらめることなく自転車を走らせた。

そうしていると目の前にモバイルを持った外国人の男性が現れた。丁度話が終わったのかモバイルをいじった後ポケットに入れようとしていた。彼はそれを見つけると大急ぎでその男性に駆け寄った。

 

 

 

 

汗だくになり息を切らしながら駆け寄る俺を見て、男性のほうも驚いたのか目を丸くしている。

 

「スイマセン!!あの!!」

「What gives!?」

「………」

 

英語だった……自慢じゃないが俺は英語はまったくわからない。話すどころか授業中は聞いてるだけで頭が痛くなる。

だが今はそんな事を言っている場合じゃない。早くしないと今俺を助けるためにわざわざ危険を冒した彼の身が危ない。

何とかしてそれを借りないと。

 

「ソーリー!!え~っと…・・・プリーズ!!カシテ!!」

 

最早最後は英語ですらないが必死な形相でそのモバイルを指差して頭を下げているのを見て、何か察してくれたのかモバイルと俺を交互に見た後に恐る恐る俺にモバイルを差し出した。

 

「サンキュウ!!」

 

大急ぎでそのモバイルを受け取り警察に電話する。

確かドイツの警察は日本の警察と同じ110番だったとドイツに来る前に調べていた。

急いで1.1.0と数字を押し電話をかける。ワンコール、ツーコール、つながった!!

 

「もしもし!!警察ですか!?」

「ザァッ……ザザァ……ッザザザザザザ………」

 

しかしテレビ電話として設定されているのだろうが浮かび上がったスクリ-ンに映し出されたのは、まるで砂嵐のような映像と音声だった。

試しにもう一度電話するがまたしてもつながったのは砂嵐であった。

男性もおかしいと思ったのか電話を一度返してもらい別の場所に連絡すると今度は普通につながった。

 

(なんで警察につながらない!?クソ!!どうする!?このままこの男性に説明しても、それこそ話が通じるまでどれくらい時間がかかるかわからない。それにここでこの人と話しているうちにあいつら(誘拐犯)に見つかったら今度はこの人を巻き込んでしまう……)

 

俺がそう考えていると遠くから連続して何発かの銃声が響いた。

 

(!?奏!!)

 

何も関係が無いのに街中で見かけた俺を助けるために追いかけてきた男。

俺を逃がすためにわざわざ危険を冒して逃がしてくれた男。

何も関係が無いことに俺が巻き込んでしまった男。

もう自分の感情なんて関係なかった。今はあの男を助ける事だけを考えなければ。俺は再び目の前の男性から電話を借りある番号へと電話をかけた。

 

 

 

 

そして時間を少し進めよう。

何とか無事に連絡を終えそれでも続く銃声に彼は奏のことが心配になり駆けつけずにはいられなかった。

そして自転車を走らせ元の場所に戻り建物の影から覗くととんでもないものを目にする。

 

(クソ!!なんでISがこんな所に居るんだよ!!)

 

状況は最悪だった。

おそらく誘拐犯たちにボスと呼ばれていた女性だろう。ISを身に纏い、奏めがけて手を伸ばし飛びかかっている。

対する奏は全身ボロボロでそれでも何とかかわしているようだった。

しかしIS相手に生身の人間が攻撃をかわせるはずが無い。(・・・・・・・・・)

おそらく今まで少しずつダメージを与えるようにして弄ばれていたのだろう。その証拠に奏を傷つけている女性の顔は満面の笑みだった。

沸々と一夏は怒りがこみ上げてきた。なぜ彼がこんな目にあわなければいけない。もしかしたら自分がああされるはずだったのかもしれない事を奏が代わりに受けている、そういう風にも思えてしまった。

そう考えると目の前で笑いながら攻撃をする女性が許せなかった、何もできない自分に対しても怒りがこみ上げてきた。

 

「ッッッツ!!」

 

奏のかみ殺すような叫びが聞こえた。見ると足にダメージを食らったのか腰が落ちそうになっているのを何とか踏みとどまっているように見えた。

 

(もう限界だ!!何とかしてあいつを助けないと。)

 

周りを見わたしてみるが鉄パイプと短めの木の棒。その程度しか武器になりそうなものはなかった。

他に何か武器になりそうなものは無いか探そうにも、今にもとどめ(・・・)をさそうとするように女性が奏へ向かって近づく。

 

「っ!!うおおおおおおおおおお!!」

 

とどめをささせるものか!!相手に向かって木の棒を投げ覚悟を決める。こうして一夏は奏を救うために鉄パイプを手に持ち駆け出したのだ。

 

 

 

 

(……………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?)

 

奏は見てはいけないような物を見たような顔をしながら驚いた。

 

(なんで!?どうして!?君がここに来るんだよぉぉぉ!?君、さっき警察署かどこかに逃げたはずでしょ!?第一ここで君が現れたら何のために俺はここで戦ってたんだよ!?ちょっと勘弁してよ!?)

 

言葉に出そうとするが疲労と怪我からか、なかなか口から言葉が出ない。

 

「なん…で?……どうして……っ!?君が・・・」

「どうしてもあるか!!警察に電話は通じないし銃声がするから駆けつけてみたらお前今にも殺されそうになってるじゃないか!!俺だってお前に助けてもらったのにお前のこんなピンチに隠れていられるはず無いだろ!!」

「……え?」

「安心しろ別の助けは呼んである!!後は何とか時間を稼ぐだけだ!!」

 

………ああうん。そういやそうだね。

普通『IS相手に男が生身で張り合ってました。』なんていったら真っ先に黄色い救急車呼ばれるだろうね。

それに理由がわからずにこの状況見たら勝負してたとは思わないね。

どちらかといったら『男一人がIS乗りの女性に嬲られて殺されそうになってる』って言ったほうが説得力あるわ。うん。

彼女のほうを見ると唖然としながらも一夏の発言が面白くなかったのか不満そうな顔をしている。

 

「ちょっと…誰が誰を殺そうとしてるですって?」

「しらばっくれるな!!さっきから俺は見ていたんだ!!お前が満面の笑みで奏を弄んでいたところをな!!」

「弄ぶって!?……私はカザネと勝負していただけよ!!」

「ISと生身で勝負になるはず無いだろう!!何を言ってやがる!!」

 

鉄パイプを構えながら一夏は叫ぶ。

そして二人の間に沈黙が漂う。

スコールも何か言い返そうとするがどう考えても分が悪かった。

一夏の言う事に何も間違いは無い。間違いは無いのだ。

しかし先ほどまで奏と勝負をしていたスコールは言いたい事がたくさんある。

だがどう話そうにもあの勝負を見ていない者には説明しても信じてもらえるはずが無い。自分だって自分の事でなければ出来の悪い、笑えもしない冗談だと思うだろう。

彼女は顔を赤くしながら俺の顔を見るが俺は俺で目を逸らす。どうせならこのまま口で負けてしまえ。

 

「あぁん、もう!!いいわ、それでも!!でもカザネは連れいかせてもらうわ!!」

「させるか!!お前らの目的は俺だろ!!」

「織斑一夏はもういいの!!私がほしいのはそっち!!」

「はぁ?」

 

一夏は一夏でおそらく再び連れ攫われるのを覚悟の上で身代わりに出て来たのだろう。

しかし相手には『もういい』と言われ何がなんだかわからないのだろう、気の抜けた声が出てしまっている。

 

「もういいから行くわよ!!カザネ!!」

「ハァ…ハァ…、っく、また連れて行って…俺を弄ぶのか……っ!?」

「!?やっぱりお前!!」

「違うって言ってるでしょ!!このガキ共!!」

 

わざとらしく吐き出す息切れと少しおびえたような声。我ながらいい仕事をした。

一夏は完全に相手に警戒をしているし。スコールにいたっては怒りからか顔を真っ赤にしている。

すべての状況で負けていた展開から今は時間と口がこちらの味方になっていた。

何とかこのまま時間を稼げば一夏の言う別の助け、おそらくあの人(・・・)が助けに来てくれるだろう。

その時顔を真っ赤にしたスコールが突然声を上げた。おそらく無線か何かだろう

 

「何!?今こっちはいそがしい………なんですって?」

 

声を荒げながらはしていたのに向こう側からの連絡で突然冷静になる。

黙って話を聞いた後小さな声で「了解」と言った後、苦虫を噛み潰したような顔で一夏を睨む。

 

「織斑一夏……あんたなんて奴に助けを求めてるのよ……」

「……俺だって頼みたくなかったさ…」

 

そう言って一夏も一夏で情けない顔をする。

スコールは俺を恨めしそうな顔で見ながら浮かび上がる。

 

「次は絶対連れて行くからね……覚悟してなさいよ!?カザネ!!」

「お断りします。」

 

俺が言葉を言うか言わないかのところで既に彼女は空高くへと浮かび遠くへ去っていった。

おそらく捨てセリフのつもりなのだろう。まるで小悪党である。

俺は彼女が居なくなった後に一夏と目を合わせた

 

「「…………ふぅ…」」

 

お互い同時にため息を吐きドサッと地面に座った。

俺にいたっては座るのも煩わしく地面に大の字で寝転がり一夏に声をかける。

 

「君……助けに来てくれたのは良いけど…鉄パイプって…」

「仕方ないだろ!?あの時近くにこんな物しか無かったし、お前はとどめをさされそうだったし。」

「とどめねぇ……」

 

確かにあのまま行けば遅かれ早かれ俺は連れ攫われていただろう。意味は違うがお礼を言っておこう。

 

「確かにそうか。ありがとう、助かったよ。」

「それはこっちのセリフだって。あの時町で見かけた奴だろお前。」

「気が付いてたの?」

「そりゃ外国で日本人を見つけたら目がいくだろ?それにモンド・グロッソの開催場も教えてもらおうと思ってたし。それより傷は大丈夫なのか?」

「うん、…それほど深い傷はないと思う。ただ疲れて足が動かない。」

「ああ、そりゃあれだけやられればなぁ……気が付いてたか?」

「何が?」

「あの女、お前を攻撃する時満面の笑みだったの。」

「ああ、気が付いてた。あれは『真性のドS』だよ。きっと。」

「だよなぁ。正直かなり怖かった……」

「僕も僕も……」

「「女ってこえぇ……」」

 

と顔を合わせもせずマヌケなことを二人で話していると突然突風が吹いて近くに一人の人影が現れた。

 

「一夏!!無事か!?」

「千冬姉!!」

 

そこに現れたのは世界最強の女(ブリュンヒルデ)でありさっきのスコールとは別の意味で『怖い女性』。そして一夏の姉『織斑 千冬』の姿であった。

 

 

 

 

だれが女心を読むことができよう?

                   ~シェークスピア~




ということでスコールさんはいなくなりもっと恐ろしい……失礼。
一夏の姉の千冬さんの登場です。
一応この後掲載するつもりの番外編でスコールさんについて少し書くつもりなのでそちらも見ていただければ幸いです。
では今回も読んでいただきありがとうございました。


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切符(チケット)の行方

今回は結構長めです。
これ以上本編前で長引かせたくないのでまとめちゃいました。
ではどうぞ、ご覧ください。


「一夏!!無事か!?」

「千冬姉!!」

 

そう言って一夏へと駆け寄る女性。一夏も立ち上がりその女性へと駆け寄る。

彼女こそおそらくこの世界で最強の人間。『織斑 千冬』である。最早断片的にしか無い現実世界の記憶の中でも確かにそれを覚えているし。自身が英雄の再現が出来るからだろうか、見るだけでも相手の恐ろしさが解る。

二人は駆け寄ると千冬さんのほうは心配した顔で一夏を見ている。俺への警戒を忘れずに。……この人こそどっかの国の諜報員じゃないのか?

 

「一夏!!大丈夫か?怪我は無いか!?」

「大丈夫だよ、千冬姉。俺よりも奏のほうが!!早く病院に連れて行かないと。」

 

……あ、やべぇ。この後の展開まったく考えていなかった。

俺、病院に連れて行かれても保険証どころか身分証明書も無いし下手すりゃ戸籍も無いんじゃないか?

だとしたらばれたら面倒くさい目にあうな。

 

「い、いやぁ。俺は大丈夫だよ。」

「大丈夫なわけ無いだろ!?そんな傷だらけで!!」

「深い傷は無いし、唾でも付けてれば治るさ。それよりも早く大会に戻ったほうが良いんじゃない?」

 

俺は話を逸らそうと千冬さんの大会について話を逸らす事にした。

 

「そうだ!!千冬姉!!大会は!?」

「………棄権した。」

「!?」

 

あ、ちょっとやばい方向に話逸らしちゃった?

一夏は下をうつむきながら言葉を吐き出す。

 

「………ごめん…千冬姉…俺のせいで…」

「お前のせいではないさ一夏。それにお前に頼られる前に既に大会は棄権していたんだ。そんな事よりお前が無事で本当に良かった。」

「………うん…」

 

優しい顔で一夏を諭すように声をかける千冬さん。だが一夏は自分が迷惑をかけてしまったとかなり落ち込んでいる。仲のいい姉弟だなぁ…と見ていると千冬さんが俺に声をかけた。

 

「君が私の弟を助けてくれたらしいな。本当にありがとう。」

「い、いやぁ。結局最後は一夏君に助けてもらいましたしおあいこですよ。」

「それでも弟の恩人だ。手当てをしたいので病院に来てもらうぞ。」

「……い、いやぁ…」

 

顔つきは微笑んでいるようなのに目が笑ってない。おそらく俺が断る事を見越して圧力をかけているのだろう。一夏も一夏で不安そうな顔でこちらを見ている。

……断れない…ええい!!こうなりゃ腹をくくろう!!

 

「解りました。」

「よろしい。」

「でも千冬姉。どうやって病院まで運ぶんだ?」

「安心しろ。そろそろ来るはずだ。」

「「何が(ですか)?」」

 

そう言うと同時に車が三台猛スピードでこちらにやって来る。こちらの近くまで来ると十数人の男たちが車から降り廃墟へと足早に向かっていった。

俺と一夏は唖然としながらその光景を見ているとさらに数人こちらへと向かってきた。

千冬さんは何も警戒していないのでおそらく味方なのだろうけど正直付いていけず訳がわからない光景であった。

千冬さんはこちらに来た人と何か話したかと思うとそばに居た男たちが俺を突然担いだ。

 

「ちょ!?」

「お前たちはこの人たちと先に病院に行け。」

「千冬姉は!?」

「後ですぐに行く。」

「ま、まって!?誰ですか!?この人たち!?」

「ドイツ軍だ」

「「ドイツ軍!?」」

 

こうして俺たちはドイツ軍人たちに連れられて、病院へと運ばれていった。

 

 

 

 

病院に担ぎ込まれた俺と一夏はすぐさま医者の手当てを受けた。

一夏のほうはわからんが、俺のほうは縫い傷が計7箇所。特に足の傷は深かったらしい。他も体中傷だらけで手当をされ包帯を巻かれた結果、ほぼ全身包帯巻きになってしまった。

その後安静にするため病室にはこばれると一人部屋でそこで寝ているように言われた。

俺は初め、どうにかして逃げ出そうかとも思ったがごっつい軍人さんが俺を見張ってるし銃も奪われているためそれは無理だった。

では、その後の対応を想定しようとも考えたが、俺がこの後どうなるかもわからないので想定のしようが無かった。

そういや今日帰るつもりで買ったチケットどうしよう……こんなこと気にしても仕方が無いか。

やる事がなくなり先ほどまでの疲労、さらにベットの上で安静にしているというのが重なり。俺は猛烈な眠気に襲われそのまま寝る事にした。やはりかなり体力を使っていたのであろう。入り口辺りでこちらを見続ける視線など気にもならずに俺は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「…~~わ…~~~~というのか!?」

「可~~~~~!?~~~~~~~。」

「あま~~~!!~~~~」

「~~~~!?~~~」

「~~~……私~~~」

 

周りで声がする……婆さんたちが何かやっているのか?

しかしこっちはありえないほど眠いのだ。少し静かにして欲しい。

 

「とにかく!!私たちは「もう、婆さん。静かにしてくれよ……」…………」

 

俺は寝ぼけながら声を出しいつもよりもふかふかのベットから起きる。目を擦りながら周りを見ると…あら?知らない部屋だ。

周りを見ると2人の軍人さんと織斑姉弟がそこに居た。あ~そういや病院に居たんだった。ってことはさっきまでの会話はこの人らか……なんで皆、今はそんなに静かなの?

と横を見ると鬼が、いや鬼のような形相の千冬さんがそこに居た。

 

「おはよう。だがさっき何か聞こえたような気がしたんだが?『婆さん』とかな?」

「ち、千冬さん?」

 

アカン…何とか誤解をとかなければ。

 

「い、いえ!?寝ぼけけただけなんです!!つい家にいるつもりで婆さんに返事をしただけで!?!?」

「………」

 

く、空気が重い……お願い、一夏さん!!助けて!?そこで俺に向かって拝んだりしないでさぁ!!って言うか少しずつ部屋から出て行かないで!?行かないで一夏さ~~ん!!……あいつ本当に見捨てやがった……

 

「…………まぁ、良いだろう。具合はどうだ。」

「ハイ。大丈夫です。」

 

一夏が部屋から出て行ったのを確認すると千冬さんは許してくれた。

あれ?もしかして俺、一夏をここから追い出すために利用された?まぁいいや。

そう考えながらも俺はしっかりとハキハキ返事を返す。やはりこの人は怖い。下手にからかおうものなら、命を懸けなければ。

俺は心の中でそうしっかりと心に決めた。

千冬さんからの脅威から何とか助かり。俺が安堵の息を吐くと近くにいた軍人の男性が声をかけた。

 

「はじめまして。『風音 奏』君…と言ったね?私の名はランベルトだ。ドイツ軍人の……まぁ偉い人とでも思ってくれて良い。」

「はぁ……」

「君にいくつか質問があるのだが良いかね?」

「………どうぞ。」

「では初めに。あの誘拐犯たちについて君の口から聞かせてもらっても良いかね。」

「はい。じゃあまず~~~~~」

 

俺がやった事見た事をそのまま口にした。まぁISと戦ったところだけは弄ばれたという風にしたが。

俺が話し終わるとランベルトとか言う人は怪訝な目でこちらを見る。

 

「ふむぅ…偶然にも織斑一夏の誘拐現場にいたのを認めたとしてもなぜわざわざ救助に?警察に連絡したりしなかったのはなぜ?」

 

やはりそこを突かれたか。

まあ理由は「自分の目標にしている人ならそうしたから」というものだが言っても信じてもらえまい。どうしようか……まぁ適当に言うか。

 

「警察に連絡しなかったのは、僕、携帯とか持って無いんですよね。」

「この時代に?」

「家が貧乏なんで。それに近くにいた人が連絡してくれそうだったんでとりあえず追跡しようかと思ったら助けられそうだったんで。」

「ほう?自分の身の危険を顧みずに?」

「主はおっしゃりました『与えよ。そうすれば、自分にも与えられるであろう。』。こんなんでも一応教会で暮してるんで見捨てたら目覚めが悪かったんですよ。」

 

ちょっと無理があるかなぁ…とも思ったが、事実として俺は自分の身の危険を顧みずに一夏を助けようとした事実は変わらない。

言うならば理由が何であれその事実は変わらないのである。納得できるかどうかは別として。

 

「じゃあ次に。君は誰だ?」

「……どういう意味ですか?」

「わが国の国籍どころか他国の国籍でも今のところ君の存在は発見されていない。」

「…そうですか……」

 

やはりか。自身の国籍がどこにも無いことは正直わかっていた。

しかしどう説明したものか……

 

「ほう、君は自分の国籍が無いことを察していたというのかね?」

「いや、そうなんじゃないかな~とは思っていたんですよ。」

「………それはなぜ?」

「僕、7年より昔の記憶が無いんですよ。一番最初の記憶はフランスの町で一人ぼっちでいた記憶ですね。」

「「!?」」

 

おお、千冬さんの反応がすごいな。そういや一夏も小学校一年生以前の記憶が無いんだっけ?てことはこれある意味一夏との共通点なのか。

 

「それで、しばらくその町をうろついたんですが両親とか俺を探す人がいるどころか、いろいろやられましてね……怖くなって逃げ出したんですよ。」

「………」

「その後はストリートチルドレンというか、ホームレスみたいな生活ですよ。いい人だと1週間とか泊めてくれたりもしましたけど基本野宿や廃墟の中で生活ですね。」

「………つづけて。」

「初めの持ち物に金がかなり入ってたんでそれを守るように転々と町を逃げ歩いてました。一箇所にとどまると目をつけられたんですよ。」

「………誰かに助けを求めようとは思わなかったのかね?」

「出会う人が基本こわいひとにみえましたからねぇ…金を持ってるのがばれると奪いに来るんですよ。そうなると当時の僕は『自分以外は全員敵』って思ってたんです。」

 

俺の話があまりにも想像にしていなかった物なのか、全員聞き入っていた。

この話はノンフィクション7割フィクション3割でお送りしております。

実際金が奪われそうな時も会ったが銃で撃退していたし、結構楽しみながら旅行気分の時も合った。

ただやはり自分以外は全員敵という感情が無かったとは言えない。成長してからが本番と考えていたが成長しきれるかが勝負とも考えていた。

実際アストリットの婆さんに拾われたのはとてつもない幸運だと俺は思っていたしね。

質問がランベルトさんから千冬さんに移った。ランベルトはさっきからうつむいている。

 

「続きを聞いてもいいか?」

「はい。んで3年前の冬にはいる頃に金が底を着き始めまして、何とかしようと考え教会に忍び込んで、そこに住んでた婆さんに拾ってもらったんですよ。」

「……そのときはなぜ逃げなかったんだ?」

「しばらくすれば婆さんの方が早く死ぬだろうしそうすれば安全に色々と手に入ると当時は思っていたんですよ。」

「・・・・・・今はどう思っているんだ。」

「婆さんの信じる神様は信じていませんが、世の中にはこういう人もいるんだな~って考えてますね。んで婆さんとの約束でなるべく人助けをしようって決めてたんで一夏…君を助けたんです。」

「そうか……」

「「「……………」」」

 

……く、空気が重い…確かに面白い話じゃないけどさ。俺の身の上話なんて。

本当の事言えないし。『実は僕異世界人で布団で寝てたと思ったらいつの間にか別世界に来てしまってたんです』なんて言えるはずが無い。

っていうか軍人さんがた?なんか泣いてません?扉の前の彼なんかさっきから上を向いたまんまずっと震えてるんですけど。ランベルトさんにいたってはさっきから鼻をすする音しますし。

 

「・・・ズズッ…すまない。それで君はそのあとどうしたんだい?」

「そのあと行方不明者とかをネットで探したり唯一の手がかりの『風音』って言う文字で色々と調べたりしたんですけど一切自分の情報は見つからなかったんですよ。んで今の婆さんとの生活も気に入ってたんでそれで良いかな~って思ってたんですよ。コレくらいですかね?僕の僕に関してわかる事は。」

「そうか…つらい事を聞いてしまったな……」

「い、いえ…大丈夫ですよ。」

 

コレでいいのか!?ドイツ軍人!?俺の知ってるドイツ軍人のシュト●ハイムはうろたえてりはしなかったぞ!?…いやあいつはかなりうろたえてたな。って事はコレくらいドイツ軍人としては普通なのかもな。

この世界中のドイツ軍人に謝らなければいけないようなことを考えながら話は進む。

 

「われわれは初め、君がどこかの国の、いや日本の諜報員だと考えていたんだよ。しかしながら君の話は我々が手に入れた調査資料と矛盾するところは無かった。」

「すごいっすね。短い間にそんなに調べられたんですか?」

「いや?………ああ君は自分がどれだけ寝ていたか解らないのか。」

「へ?」

「かれこれ君は5日間寝ていたんだ。」

「………婆さんは!?」

「安心したまえ、病院に入院している事は伝えてある。」

 

そうか……俺はひとまず安心しながら話を進めた。

 

「……この後俺はどうなるんですか?」

「とりあえず調査を進めて問題が無いようなら日本国籍を手に入れる事になっている。そこのブリュンヒルデが一枚噛んでな。」

「はぁ…」

 

俺は千冬さんの方に目をやると千冬さんは少し目を赤くしていたが気にしないことにした。

 

「君のお婆様から頼まれてな。お前を日本に連れて行ってやれないかとな。」

「え!?マジですか!?」

「本当だ。こう言っていたぞ『あの子はあまり口にしていませんでしたが本当に何度か日本に行って自分を探したいと言っていました。どうかあの子を日本に連れて行ってもらえませんか?』とな。」

「婆さん……」

「私もお前には感謝している。お前次第だが場合によっては日本で暮す事もできるだろう。もちろんその後、ここドイツで生活する事もできる。お前はどうしたい。」

「………スイマセン千冬さん。よろしくお願いします。俺日本で自分を探してみたいです。」

「そうか……わかった。ただお婆様にはしっかりとお前から話せよ。」

「ハイ解りました。」

 

こうして俺は念願の日本へと向かう事が決定したのである。

このときドイツ軍人たちは涙を流して感動していた。……もうこいつらがそういう奴らなんだろうと考えよう。

俺は深くため息をつき再びベットで眠る事にした。

 

 

 

 

未来への切符は…いつも白紙なんだ

                         ~ヴァッシュ・ザ・スタンピード~




ということでコレで本編開始前は終了です。
次からは3~4本番外編を書いた後本編へと進みます。
次から少しペースが落ちますがご了承ください。


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番外編 老婆の見た天使

ということで番外編第一弾逝かせてもらいます。
ここで書かれている話は基本読まなくてもストーリー上関係ありません。いわば蛇足のようなものです。
その上一話一話が短めとなっておりますがそれでも読んでいただけるのならば幸いです。
ではどうぞ~


奏が病院で眠り続けていた時の話である。

夜、彼の暮す教会の祭壇、その前に跪き祈りを捧げる老婆がいた。

彼女の名前はアストリット・ヘンゲン。この教会の修道女であり持ち主だ。彼女は奏のために祈った。彼が存在しないと思っている神に代わりになるように祈った。

彼が病院に入院していると聞いたときには本当に生きた心地がしなかった。命に別状は無いということだが彼が入院してから既に4日が経つのに彼からの連絡は無い。

 

(神様どうかあの子をお守りください……)

 

老婆は自身に救いを与えてくれた彼のためにただただ神に祈るのであった。

 

 

 

 

彼女が彼、風音 奏に最初に出会ったのは冬に入る寸前の時期であった。

その当時彼女は疲れきっていた。自身の所有する教会はボロボロになり整備をする気力は当時の彼女には無かった。

しかし彼女はこの生き方以外知らなかったのである。ただひたすらに己が身を神に捧げ祈る。そうして今まで生きてきた。

だが近年現れたISという存在は宗教にも影響を与えた。

『人はすべて神の前に平等である』という考えは『女尊男卑』という考え方をする人には到底受け入れられずむしろ『神の前に平等であるなら、なぜ男はISに乗れないのか。』と言い出すものまで現れた。

彼女はどこまでも人は平等であるという考えの下生きてきたのである。いまさら女性の方が上であるという考えは到底受け入れられなかった。

しかし『女尊男卑』を推進する人たちからするとその考えは受け入れられなかったのである。

大きな妨害がされているわけでも無いし直接手を下されたわけでもない、強いて言うなら『小さな嫌がらせ』である。しかしその『小さな嫌がらせ』は確実に彼女の心の負担になっていた。

そして彼女は彼が来るその前日に祈ってしまったのである。今まで自信のためで無く人のため、世界のために祈りを捧げていたのに小さく

 

(どうか誰か助けてください)

 

と神に祈ってしまったのである。自身は人のために祈る側であり自身のために祈る人間ではないと思い生きてきた彼女にとってそれは許しがたい事であった。

そして彼女はそれを恥じ入りながらも、その日も自身の住む離れから教会へ祈りに向かうのであった。

自分の所有する教会。その教会の小さなステンドグラスから差し込む光が丁度祭壇の目の前に来る時間に彼女は毎日恵まれない人々へと祈りを捧げていた。

それが彼女の生き方であり、自身の譲れない事だった。

教会は長年の雨風からかボロボロになり正面の扉は老朽化のせいか自身の力では開けられなくなっていた。彼女は裏の勝手口から中へと入り祭壇のある部屋への鍵を開け中を見た。

そこに広がる光景は驚くものであった。今まで誇りまみれで所々ゴミが散乱していた床や長椅子は綺麗にされており、祭壇にいたっては磨かれたのか月明かりに反射して輝くようであった。

唖然としながらその光景を見ていると普段自身が祈りを捧げる場所に誰かが祈りを捧げていた。

ボロボロながらも黒く輝く髪、静かに祈るその顔、月明かりによって描かれた丸い舞台のなかで祈りを捧げるその姿はまるで

 

(天使さま?……)

 

と彼女が思い浮かべてしまうほどであった。

その後彼と話をすると住むところが無い、仕事を探しているというので自身の家に住まわせた。

そこから3年間はまるであの時の神に助けを求めた祈りが、通じたかのように変わっていった。

教会の整備や掃除などは彼が進んでやってくれ近所の人々にも話しかけてくれたおかげか、だんだん教会にも人が集まるようになってくれた。嫌がらせも彼が何らかしらの策を効したのかいつの間にか無くなっていた。

何よりも彼は常に自分に笑いかけてくれた。周りに彼のことを自分の孫だといっているときには彼は少し恥ずかしそうにしながらもうれしそうに笑ってくれた。自身に本当の孫が出来た、そんな風に感じさせてくれたのである。

彼も私に色々と自身の事を話してくれた。記憶の事、今までの事、そして日本にいつか行きたい事。私に気を使ってかあまりそういう事は言わなかったがあの子がいつも自身の事について調べている事は知っていた。

自身も何か助けになる事は無いかとも思ったがむしろ自分があの子を縛り付けているとしか思えなかった。

 

 

 

 

そんな時彼が病院に入院したという知らせをあのブリュンヒルデから受けた。

聞く所によると彼女の弟を命がけで助けたらしい。彼女は言った

 

「彼に恩返しがしたいのだが、何か自身やりたいことや欲しいものなどを言っていないだろうか。」

「ではひとつだけ。私からのお願いでもありますが……」

 

このチャンスを逃させてはいけない。

私がしっかりしなければあの子は行くのを躊躇うであろう。

ならばこそ私が後ろを押してあげなければ。なんてことは無い、どんなに離れることになってもあの子は『風音 奏』は私の家族(テンシ)なのだから。

 

 

 

 

愛情には一つの法則しかない。それは愛する人を幸福にすることだ。

                                ~スタンダール~




ということでオリジナルキャラクター、アストリット・ヘンゲンさんの話でした。
おそらく次は亡国機関のエロいお姉さんの話になると思います。
今回も読んでいただき誠にありがとうございます。


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番外編 雨雲のその後

番外編第2回目。
今回は亡国機業のエロいお姉さんスコール・ミューゼルについての話です。
前回と同じく本編進行上読まなくても大丈夫な話ですが。読んでいただければ幸いです。


第2世代IS『打鉄』で空を飛びながら彼女は考えていた。

 

(結局あの勝負には負けてしまった。)

 

実際のところ本気で戦えば1分もかからずしとめる事はできたであろう。しかしあれは『戦い』ではなく『勝負』だったのだ。

最初のルールでは『三分間逃げ切れば勝ち』、つまりISが生身の人間に負けたといっても過言ではないと彼女は考えたのだ。

そのとき自身のISからエネルギーが切れ掛かっているという知らせが来た。

この第2世代IS『打鉄』。量産型のいわば型遅れのような機体だがひとつだけ普通の打鉄と違うところがあった。

この打鉄にはおそらくどこかの国で開発されたのであろうほぼ完璧なステルス処理がされていた。

ただ欠点としてIS自体の性能、武器の搭載量共に低下する上、ステルスを使用しての戦闘は全力でやろうものなら10分と持たないほど燃費も悪いという未完成品であった。

そのため使用する機会は緊急時の脱出時などに限られており今回のミッションでも戦闘は想定されていなかったためこのISが渡された。

彼女は自身のISのエネルギー切れが間近なのを確認すると森の中へと降りていった。

 

 

 

 

「~~~~~~にて救助を待つ。」

「了解。至急そちらに迎えを出す。」

 

森に降り立った後すぐにそこから離れあらかじめ決められていたポイントに付くと仲間に連絡をいれ救助を待った。

おそらく迎えが来るのは1時間ほどかかるであろう、それまで何をしていようか。とスコールは考えていた。

まず始めに浮かんだのは今回のミッションについてだった。

内容は簡単だ、『ブリュンヒルデを大会から棄権させる』ことである。そのために彼女の弟、『織斑一夏』を誘拐しあえて決勝戦ギリギリにドイツ軍に情報を流す、途中までは計画通りうまくいっていたのだ。

だが彼のせいでそのすべては滅茶苦茶になった。

街中の目撃者の一人だったはずの彼はなぜか織斑一夏の救出をし、その後私たちの前に立ちはだかった。

最初に私はどこかの国の諜報員か何かだと考え声をかけた。しかし彼は私に対して愉快な会話をして来るではないか。IS(こんなもの)が開発されてからひどい目を見ているのは何も男だけでは無い。女でも被害にあっている人はいるのだ。自身がそうであるとは言わないがそれでも何かと面白くない事が増えた事には変わりなかった。

特に男たちの変わりようは彼女にとって面白いものではなかった、話しかけてくる男は何かと下手に媚を売るような話かたの男が大半であった。

ところが彼はそんな事まるで気にしていないどころか一昔前の映画の中に出てくるような男性のように私に話しかけてきたのだ。私もそれが面白く調子に乗って話していたが『仕事』はしなければいけなかった。

ミッションは織斑一夏が逃げ出した時には最早達成されていたが、彼が計画の邪魔をしようとしていたことには変わりなかった。しかも私たちの顔を見られているため消し去るしかなかったのだ。

このとき私は最後の瞬間までこの面白い彼から目を離さないでいようと微笑みながら始末をつけるよう命令を下した。

次の瞬間目に映ったものは本物の映画のヒーローであった。

まるで西部劇のワンシーンを見ているかのような早業。そして私に銃を向け「動くな・・・」と声をかける。周りを見ると部下たちは全員手を撃たれているだけで致命傷は受けていなかった。彼の後ろにいた(・・・・・・・)男も含めてである。

彼は自身の目に映っていない男の腕ですら正確に撃ち抜いていた、つまりその気になればあの瞬間全員の頭を撃ち抜いて終わらせる事もできたのである。

彼の顔を再び見ると私の顔を真面目な顔で見ながらもどこかいやな事をしているかのように感じられた。

ここまで来ると最早本当に映画の中のカウボーイである。

 

(この坊やが欲しい)

 

私はそう考え彼に無理やり勝負を持ちかけた。絶対に不可能で不平等な勝負であった。それを受け入れた彼は本気でその勝負に挑むのかのように距離をとりこちらを見た。その目にはまるで諦めの色など浮かんではおらず目を逸らすことなくこちらを見ていた。そして『踊りましょう?』私のその合図で勝負は始まった。

勝負の最中も彼は私を驚かせそして楽しませてくれた。

まさか予想できる人がいただろうか?IS相手に生身で互角に勝負を出来る相手がいるなんて。

戦っている最中にも彼の顔を見るとどこまで追い込まれてもその瞳の色は変わる事はなかった。ISという巨大な力を前にしても諦めてすらいないのである。

たまらない、未だかつてここまでISという存在に挑んだ男はいるだろうか?否いるとは到底思えなかった。

まぁISを受け入れるのでもなく拒否するのでもなく、自身の技量で挑むなど考える方がおかしいが。

それでも彼は諦めることなく挑みそして私に勝ったのである。

それでも私は彼を諦めきれず勝負を反故にした。

もちろん彼は納得できなかったが口で打ち負かすとなぜかとても悔しそうな顔をしていた。それを見ると先ほどの勝負に負けたことがどうでもいいように感じてしまったほどだ。

そして彼を連れて行こうと声をかけるが彼はここまで来てもまだ諦めていなかった。体は打鉄によって傷だらけで体力も限界なんだろう、呼吸も速くなっていた。

試しに諦めて見る様に声をかけてみるが全然そんなつもりは無いようだった。

ならば最後まで付き合ってあげよう。おそらく彼は最後の最後まで諦める事は無いのだから。

しかしそんな時に乱入してきた織斑一夏によって状況は一変する。彼に呼ばれたブリュンヒルデによって私は撤退せざるをえなかったし、何より私が彼をいじめて喜んでいるといわれた。私が笑顔だったのはすばらしいものを見つけそれが自身の手に入りそうだったからであってその行為自体を楽しんでいたわけではない。

彼女は一夏の言葉を思い出しまた少しイライラし始めていた。

 

 

 

 

そこまで思い出してふと気が付く。

任務について振り返ろうと思っていたのに自分がいつの間にか彼の事しか考えていない事に。

その有様に苦笑する。この私がまさかあんな年下の男にここまで心奪われるとは。

だがそれも仕方ない事かもしれない。彼は今までであったすべての人の中で一番好い人(いいひと)に思えて仕方なかったのだ。

 

(平和の狩人さんにしとめられてしまったのかもね。)

 

そう考えながら彼女は笑う。次にあったら絶対に彼を手に入れてみせると考えると同時にあの子(・・・)にやきもちを妬かれそうと考えながら自身への迎えを待ったのであった。

 

 

 

 

恋は目で見ず、心で見るのだわ。

                           ~ウィリアム・シェイクスピア~




ということでスコールさんのお話でした。
始めそこまで書く気じゃなかったんだけどなぁ……ww
今回も読んでいただきありがとうございました。


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番外編 少女との夢

番外編第三回目、逝きます!!
今回も本編を読む上で飛ばしてもかまわない話ではありますが読んでいただければ幸いです。
あとこの話は決してシャルロットへのテコ入れではありません。ありません。



奏が病院退院まで数日前の話である。

このとき彼はとてつもなく暇であった。傷はほぼ完治したというのに5日間目を覚まさなかったせいか安静にしているように医師には言われるし、軍の方では一応重要参考人なのか常に一人の護衛が付いていた。

ちなみのこの護衛、俺の身の上話を聞いて泣いていた軍人さんでここ数日でかなり仲良くなったが、そのせいか余計に外に出してもらえなかった。

織斑姉弟は既に日本に帰国していたし、婆さんも一度見舞に来た後に既に帰ってしまった。

俺は部屋の中で何をするわけでもなくボーっと横になって気が向いたら眠る。このサイクルをかれこれ1週間続けている。

 

(体がなまってしまいそうだ……早くもっと強くならないといけないのに……)

 

あのISとの戦闘を思い出し、俺は自分の無力を実感していた。

攻撃さえ通じれば何とかなる、そう考えていたが結果は攻撃すら満足にかわせず弄ばれていただけであった。

こんな事ではあの英雄(ヴァッシュ)の再現が出来るなど考える事すらおこがましい。まだまだ努力が足りない…そう考えてこれからのトレーニングをさらにきつくしようと考えていたが常に軍人さんに見張られている今、トレーニングをやろうとしようものならすぐに止められてしまう………おっさん、別の仕事は無いのかよ…

そんなこんなで体を動かす事も出来ず俺はベットの上で眠ることにした……

 

 

 

 

夢を見た。

髪が短く身長も小さい。おそらくこれは…シャルロットの家に泊まらせてもらった時の記憶だろう。あそこでの一週間は本当にすばらしかった。現在の生活と同じくらいに俺はあの生活に安息を感じていた。まぁそれでも俺はあそこに居られなかったんだけどね。

ここはおそらくシャルロットの家の前だろう…何をしていたんだっけ・・・

と過去のことを夢の中で考えていると俺は勝手に口を動かしていた

 

「シャルロット~買い物行くんじゃね~の~。俺、先に行っちまうぞ?」

 

完全に素の口調である。

このころはまだあまり意識していなかった頃だから仕方が無いだろう。

今は現実世界の『俺』とこの世界の『僕』で一人称を使い分けるよう意識している。そうしないと元の世界に戻れない気がしてしまうのである……それでも時々素は出てしまうが。

そう昔の自分の発言を聞いていると家の中からシャルロットが走ってきた。

 

「待ってよ!!ソウ!!」

「置いて行かんから走るな、転ぶぞ?」

「転ばないよ~っだ」

 

と言いながら俺に舌を出すシャルロット。

夢の中の俺は笑いながらシャルロットと共に町に向かって歩いていった。

何か話しているが夢だからだろうか、良く聞こえないし自分が何を行っているのかも解らない。

しかし本当にシャルロット、久しぶりに見たな~今頃何してるんだろ?まぁ、おばさんと仲良くやってるだろ多分。

おばさんに少しは似てきただろうか、だとしたら良いんだが。あいつ何だかんだでおてんばだったしなぁ……

などと妹を心配する兄の気持ちになりながらシャルロットについて考えていた。

その後はそのまま買い物を続け、シャルロットにプレゼントを渡し何かを話していた。何を話したんだったかなぁ……

お、だんだんなんか聞こえてきたぞ?

 

「~~~~って~し~?~~少し家で暮せばいいじゃない?」

「う~ん………」

 

ああ、この会話か。

なら忘れられるはずも無い、俺があの家を離れなきゃ行けない理由を何とか説明しようとしていた時なんだから。

俺があの家を離れなければ行けない理由、それは『あの家の安全のため』であった。

この町に着いて、すぐにあったあのひったくり犯。あいつらはここらへんでは有名な犯罪グループらしくひどい時には暴力事件なども起こしているらしい。

そんな奴らに俺は狙われていた。あの財布をスッたのが俺とばれたのかどうかはわからないが俺を探している事とだった。

俺も対策として伸ばしたい放題の髪をおばさんに短く切ってもらい服装も出来るだけ清潔にして一見解らないようにはしていた。だが突然シャルロットの近くに現れた少年に犯罪者共が気が付く可能性が無いわけじゃない。

襲われる時俺だけなら当時もなんとかなるが、仮にシャルロットやおばさんにその手が伸びたとしたら……考えるだけで恐ろしくてたまらなかった。自分があの家族をさらに不幸にする存在に思えてならなかったのである。

しかしそんな事を二人に話すわけでもなく俺は『家に帰るため』という理由でこの家を出ることにしたのである。

 

「だめなの?」

「……父さんと母さんもそろそろ心配するだろうし。」

「……そっか…」

 

そういうとあからさまに気を落とし顔をふせるシャルロット、どうしようもないが何とかせねば……確かそう考えて必死に頭を使ってたんだよな。懐かしい…

 

「まあ、またいつかこっちに来る事があったら、そのとき必ず寄るよ。」

「……うん…」

「指きりやってもいいよ?」

「ユビキリ?何それ?」

「日本の約束する時のおまじないさ。」

「……やってみる。」

 

興味を持ったのかシャルロットはこちらを向いた、うん少しは元気になってるな。

 

「じゃあやるからこう小指を出して」

「……こう?」

「そう。んで『指きりげんまん嘘ついたら「~カ~~ザネ!!~~カザネ!!」」

 

指きりの最中に聞こえた、ごっついおっさんの呼び声によって俺は夢の世界から目覚めた

 

 

 

 

寝起きで目に入ったおっさんの顔。

先ほどまで美少女と言っても過言ではない相手の夢を見ていたのに……

そういやあの後シャルロットと続けて何か指切りしたんだよな……なんだったけな?と考えていると、おっさんは俺がまだ寝ぼけていると思ったのか声をかける。

 

「カザネ!!起きろ!!」

「~~ぁあん?……なんだよ軍人のおっさん……」

「おっさんじゃない。お兄さんと呼べ。」

「んでおっさん。僕を起こしてどうしたの?」

 

あくまでもおっさんと呼ぶ俺に少ししょんぼりするおっさん。どうでもいいや。

すぐに持ち直した後におっさんは話す。

 

「……お前の日本の国籍が認められたらしく係りの者がこちらに来るらしい。」

「お?本当に?何時ごろ日本にいけるの?」

「そこらへんの詳しい話もするらしい。目を覚ましておいて着替えておけ。」

「了解~。ハァ~~」

 

返事をした後、大きくあくびをし準備を始める。

夢見も良かったしこの後もうまく行きそうだ。そう能天気に考えながら俺は準備を始めた。

 

 

 

過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える。

                              ~ニーチェ~




ということでこれで番外編は終了です。
本来は外国語で話していますがそれだとニュアンスが通わら無いためこのように表現させてもらっています。
次回一度本編開始時の主人公『奏』のプロフィールを流した後、本編開始とさせていただきます。


しかしあまり関係ない話ですが、これを読んでいる友人Aから
「ヒロイン、シャルじゃなくてスコールじゃね?」
と言われた……き、気のせいです(目線逸らし)なぁ!!友人B!!
「……アストリットさんのほうがヒロインだろ。年齢が若ければ問題ないぞ?」
………そ、そんな事ありませんよwwwww……ね?


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IS本編
主人公設定


本編開始前に現在の『風音 奏(カザネ ソウ)』の設定です。
本編開始前だと時間経過が早く安定していなかったため発表がここまで伸びてしまいました。
ではどうぞ~


【名前】カザネ ソウ(風音 奏)

 

【年齢】不明

    (おそらく15~18歳の間。とりあえず本編開始時は一夏と同い歳にしている)

 

【性別】男

 

【体格】身長175cm 体重65kg

    一見痩せ型の体格に見えるが、鍛えられ絞られているだけである。

 

【容姿】長めの黒髪に悪くない顔つき。見た目はひょろっとした印象を受ける。

    一見するとカッコイイ顔だが一夏と並ぶと大半の人は一夏のほうが良いと言うだろう。

    さらに彼自身の性格も相まって周りからは

    『残念なイケメン』『黙っていればカッコイイ』『友達としてならいい』

    などおおむねそのような評価を受ける。

    いわば【二枚目半】の立ちどころである。

    髪型にはあまりこだわりが無くある程度伸びたら後ろでまとめ、邪魔になったら切る。

    そんな風にしているため『髪長くなったね~』と言われたら『じゃあ切る。』と言って

    髪を切りにいく感じである。

 

【性格】基本的にはお人よし。一人称は『僕』。

    しかしどこか抜けたところがある上にお調子者のためどちらかと言えば

    『トラブルメーカー』として扱われる。

    中学生時代は『奏』が巻きこまれ『一夏』が突っ込み『弾』が尻拭いといった流れが出来

    ていたほどである。弾としてはたまったものではない。

    そんな彼だが誰にでも優しく争いを止めそれでいてどこか落ち着きがあるため

    よく年齢査証を疑われる。

    実際年齢が解らないので大半の人はもっと年上だろうと考えるようだ。

    ここまでが他人の評価である。

    本人は自身がお人よしである事を自覚しているが。関係ないことすべてに首を突っ込む訳

    ではない。『自身の知り合い』や、『あからさまに被害にあって原因が被害者に無い』場

    合、『巻き込まれただけで助けを求めている人』というようにある程度判断基準はある。

    ただその判断基準はとてもゆるい事には自身も気が付いていない。

    抜けたところやお調子者であるところはあえてそうする事によってのらりくらりと、人を

    自身の懐に入れないためである。

    仮に懐に入れても深いところでは完全に他者を拒絶している。

    なぜならば『自身はこの世界の住民ではないから』である。

    あと何だかんだでヴァッシュを目指している事には変わりないため考える時に『彼ならど

    うするか』を主軸にしてしまう癖がある。

    本来の一人称は『俺』で、意識して無いときや油断しているとき、焦っている時などに口

    から出てしまうときがある。

 

【趣味】音楽鑑賞(現実世界と共通のものを良く聞く)

    料理(食べる方が好きだが、作る方も出来ないわけではない)

    トレーニング(知る人曰く、「奏はドMに違いない」と言われるレベル)

 

【好きなもの】・赤い物

       ・面白い相手

       ・音楽

       ・旅行

 

【嫌いなもの】・理不尽

       ・どうしようもない暴力

       ・神様

       ・あの吟遊詩人




【備考】
この主人公ですが基本的なスペックの『伸び白は』作中最も長い設定です。
元になってる人が人なんでwww
ですがそれを生かせているかと言えばまったく生かせていません。IS相手にギリギリどころか普通に戦えば負けていた事からもそれが伺えられます。
しかしそれを何とかしようにも修行期間が本編開始までの一年間しかありません。
彼の名を汚したくなければがんばりましょう、と言った感じです。
では次からは本編開始。本格的にISの世界に突入していきます。
これからが本番と言っても過言ではないのでどうかよろしくお願いします。


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第一話 神様からの押し付けられし物

ではここから本編開始と逝かせてもらいます。
ではどうぞ!!


俺が日本に住むようになってから1年とちょっとが経過した。

元の世界で住んでいた日本とほとんど変わらないためか環境にもすぐ慣れ友人もそれなりに出来た。

生活面も千冬さんからの手助けや一夏と共にバイト、さらには時々送られてくるアストリットの婆さんからの物資。これらにより助けられながらほぼ普通と同じ生活を送っていた。

時々自身についても探しては見たもののやはりどこにも『風音』という名の行方不明者は存在しなかった。まぁ気にしてはいなかったが。

そんなこんなで二月の中旬。俺と一夏は私立藍越(あいえつ)学園の受験をするために雪道を歩いていた。

藍越学園の入試を受けることになったのは2つ理由がある。

1つ目は学費が安く就職率の高いという点である。

金に関しては問題は無いが、実質ほとんどあの通帳は使えなくなってしまった。あまりにも大金を使うと千冬さんに感づかれてしまう事になりかねないからである。

あの人の勘の良さは異常である。俺や一夏の考えが見抜けるのか下手な事を考えようものならきつい視線ともれなく拳がついてくる。まぁお得!!

とまぁ、話はそれたが自由に金が使えない今藍越学園という学校は丁度良かったのである。

さらに卒業後の就職先にはカトリック系の教会に行っている者がいるらしくそこが気になったのも理由と言っちゃ理由ではある。

二つ目は一夏である。

こいつはなんと中学卒業後はすぐさま働きに出ようとしていたらしく、俺の説得と千冬さんの調きょ…説教(肉体言語)によりとりあえずは俺と同じ藍越学園を受けることにしたのである。

その試験会場にむけ俺たちは歩いていたのだが

 

「寒ぃ……」

「一夏、あと少しだ……」

「……おう、これで何回目のあと少しだ?」

「……まだ十回は言っていない……はず…」

 

俺たち雪まみれになりながら、まるで遭難者のようになっていた。天候は吹雪、視界は50m先も解りづらい。

こうなったのには理由がある。今日の試験日に記録的な豪雪が重なったのである。

おかげで電車はもちろん交通機関はほぼ麻痺。何とか試験会場がある近くの駅まで付いたがその後は歩いて行くしかなかったのである。

はじめこんな状況なんだ、試験日だって延期されるだろうと思い連絡をしてみるが雪のせいか、つながらずとりあえず会場に向かおうと言う事にしたのだが…

 

「……雪を舐めすぎていた…」

「……だな……。…奏」

「……どうした?……」

「………これで試験延期だったら…どうする?」

「…言うな……考えたくも無い…」

 

げっそりとしながら吹雪の中を進む。

その後10分ほど進むと大きな建物が見えてきた

 

「一夏……!!多分あれだ・・・!!」

「………早く行こう!!」

 

最早何でもいいからこの吹雪から開放されたい俺たちはとりあえず中へと駆け込むのであった。

 

 

 

 

中に入り試験場を探すがなかなか見つからない。というかこの建物まるで迷路なのだ。なぜ普通の建物にここまで行き止まりがあるのだろうか……

さらに途中人とすれ違う事もなく俺たちは行く当ても無く建物の中で迷子になっていた。

時間を確認すると既に試験開始10分を切っていた……

 

「一夏ぁ~もうこのままダンジョン探索で一日終わらせない?正直この後試験受けてもどうしようもないと思うんだが……」

「そんなことしたら千冬姉に殺されるぞ?」

「……はぁ…でもどうする?最早自分がどこにいるのかもわからないぞ?」

「……良し。次に見つけたドアを開けるぞ俺は。それが多分正解なんだ。」

「何を根拠に?」

「……勘だ。」

 

もうどうでもいいかと半分やけになっていた俺は一夏に続いた。仮に違ったとしても人がいればその人に場所を聞けばいいし。

一夏は近くにあった扉を開け中に入っていった。

 

「「失礼します。」」

 

中を見るとカーテンで半分に区切られた部屋があった。確実にハズレである。

 

「違うッぽ「だれ?次の子は?早く着替えてね」」

 

とカーテンの向こうから声がする。

見ると30代くらいの女性影が机に向かいながらこちらに声をかけていた。

影から察するに俺たちの方は一切向いていない

 

「あ~こんな日に限って大雪なんて……しかも受験者全員がバラバラに来るから休み時間も無いし…」

 

どう見てもイライラしてらっしゃる。俺は一夏と顔を見合わせるととりあえず彼女に近づくためにカーテンの向こうに行く事にした。

カーテンを潜り抜けるとそこには二体の甲冑が…否、甲冑ではない。俺たちはこれを近くで見た事がある。

 

(ISか……)

 

目の前にあるのは一夏を誘拐し俺が戦ったISと良く似たものがそこにあった。

そういやあのスコールとかいうお姉さんどうなったんだろ?一応ドイツ軍にも伝えてたけどつかまったんだろうか?

などと懐かしい人を思い出しながら一夏を見ると一夏は嫌なものを見たような顔をしている。

まぁ、千冬さんが棄権した原因であるISと同じものが目の前になるんだ。仕方ない事と言えばそうなのかもしれない。

などと考えているときつめの大声がかかった。

 

「何してんの!?着替えたならさっさとそれに触れなさい!?時間は無いのよ!!」

「「は、はい!!」」

「………はい?……男?」

 

と言いながら振り向くよりも早く俺たちは声に押されて同時にISに触れた。

とたんに頭の中にさまざまな情報が流れてくる。基本動作、操縦方法、機体性能、機体の特性……

ハッとして手をはなす。一夏のほうを見ると俺と同じようにしていた。お互いに目を合わせ沈黙する。

一夏は再びISに手を当てると今度はISの手が動いた

 

「……なぁ…奏…今俺…ISを動かしてなかったか?」

「……ああ。……お前…女だったのか?」

「そんなはず無いだろ……」

 

互いにボケと突っ込みにハリが無い。ためしに俺も再び触れて動くように念じるとISが動き出した。

 

「……俺も動かせると言う事は…これ新型のISとかなんじゃね?」

「……そうなのかな…」

「ち、違いますよ……」

「「え?」」

「それは訓練用のISで…て言うよりなんでISを男の人が!?そんな事より早く連絡しな…そういえば今携帯通じないんだった!!ど、どうしましょう!?!?」

 

と言いながら慌てて部屋から出て行く女性。

俺たちは放置か……仕方ないか。今思い出した。これ原作での一番最初のとこ『世界で唯一ISを動かせる男』が見つかったシーンだわ。そりゃ誰だって焦るわな。

……あれ、俺も動かしてね?……これヤバイんじゃないか?これ否応無しにあの空間(・・・・)に俺も送り込まれるんじゃないか!?

そんな事を考え、うつむきながら青くなりそうな俺に対して、一夏はISをじっと見つめ何かを考えていた。

 

 

 

 

その後は大変だった。

世界初の男性のIS操縦者が二人も、それに日本に同時に現れたのである。

世界に衝撃が走った…というより全世界で男性に対するIS適正の調査が行なわれる事になった。

しかしその後の調査でも男性のIS操縦者は見つからず。結局『世界に二人しか居ない男性IS操縦者』に俺たちはなったのである。

しかしそのとき問題が発生した。

一夏はまぁ生まれも育ちも日本人だからそのまま日本所属で収まった。だが問題は俺の方だ。元無国籍の現日本国籍の男、その国籍を争ってさまざまな対立が起きたらしい。

日本は『今も昔も彼は日本人だし彼もそれを望んで日本にいる』と言い、

ドイツは『彼の一番長く居る国はわが国である。よってわが国がその国籍を主張する』と言った。

フランスも負けじと『最初の記憶があるのはわが国でありおそらく彼はわが国の国民である』とも言っており、そうすると他の国も勝手にいろいろと言っていた。一番遠い国だとブラジルとかもなんか言っていたらしい。

まぁつまり俺は世界各国から取り合いになっていた。どこの国も簡単に言うと

 

『世界に二人しか居ない男性操縦者が両方日本に居るなんてズルイ!!』

 

と言うことだろう。

結果的に俺は日本国籍を奪われ暫定的に日本に住んでいる無国籍扱いになった。………これ人権侵害とかに当たらないの?と言ってもどこの国もならばうちに来いと言うだろう。

そして結果的にというか、やはりというか、俺も一夏と一緒にあの学園に送り込まれる事になった。そう『IS学園』にである。

 

 

 

誰の人生にも雨は降る、暗く悲しい日がある。

                                 ~ロングフェロー~




ということで第一話終了です。しばらくはそれなりのペースで掲載できると思います。
では次回もお楽しみくださ~い。
今回も読んでいただきありがとうございました。


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第二話 IS学園

第二話投稿させてもらいます。


ISを動かしてからIS学園に入学するまでの一ヶ月間、俺はいろいろな目に遭った。

まずありえない数のマスメディアである。

よほど俺の過去が面白いのか連日わざわざ俺の家の前に張り込むためランニングすら出来ない。まぁこれは政府の方で何とかしてくれたらしく半月ほどすると収まった。

ただしテレビで連日面白おかしく放送されたため、多くの人に顔と名前を覚えられたのではないだろうか……それに俺がISを動かせたからと言って過去も関係ないような……まぁ外国でも放送されていたためか俺の姿を久しぶりに見れたと婆さんが心配しながらも喜んでいたからそれは良しとしよう。

これでようやく元の生活に戻れたかと思った……

がそれは違った。今度は各国と各企業の勧誘争いである。

それもマスメディアが居なくなった後連日押しかけてくるのだ。いろいろとご機嫌窺いにおみあげと称してプレゼントを置いていくところもあれば、家に押しかけて説得しようとするところもある。こういうところならまだ良いが、まるで金魚の糞みたく俺のやる事すべてについて来るのにはほとほとまいった。

俺は『IS学園に入学するまでだ…』と我慢していたのだが、俺の我慢の限界の前に2~3日で元世界最強の女(オリムラ チフユ)が切れた。

俺を突然に織斑家に泊まらせ、どこかの国のお偉いさんが来ようものなら問答無用で追い払ってくれた。

お礼を言うと

 

「私はお前のお婆様から、お前を預かっているんだ。あんな状況にお前をおいて置けるはずが無いだろう。」

 

流石千冬さん、イケメンである。

さらに話を聞くと織斑家には元々マスコミや勧誘などそういう奴らが来るのが禁止されているらしく、IS学園に入学するまでここに泊まるように言われた。

なるほど、だから連日テレビで出てくる名前が俺だけで一夏の名前がほとんど出てこないわけだ。

ならば俺のときにもそういう風に規制してもらいたかったんだが、まあ今となっては後の祭りである。

そんなこんなでIS学園に入学する試験でも一悶着あったが、俺と一夏は無事にIS学園に入学する事ができたのである。

 

 

 

 

(そんな風に考えていた時期が俺にもありました…)

 

俺と一夏は入学式終了後完全に教室の自身の席に座りながらダウンしていた。

席は先生方が気を使ったのか俺と一夏は隣同士にされていた。

しかし、どこを見ても女性!!女性!!!女性!!!! 女 性 !!!!!

他の男性にとっては楽園かもしれないが正直俺には嬉しくないのだ。

相手に必要以上に気を使わないといけないし、先ほどから俺と一夏を見ながら何かを話している。おそらく2~3年生の生徒と思われる人も見えるし……

完全に上野動物園のパンダの扱いである。そういやこの世界にも上野動物園にパンダって居るのだろうか…まぁどうでもいいが。

あのマスメディアたちを経験した俺からすればまだ何とかなるレベルだが一夏は大丈夫だろうか?

横へ首だけ動かして一夏に話しかける。一夏も一夏でこちらをゆっくりと向く。

 

「(おい、一夏!?無事か!?)」

「(………早く家に帰りたい…)」

 

完全にグロッキーだった。

 

「(…同意…でも耐えないと始まらないぞ。極端な事を言えば3年間こうなるわけだから。)」

「(……………)」

 

言葉無く一夏は机に顔を伏せた。一夏……生きろ。

と言っても俺も平気なわけではない。さっきから視線は気になるし俺の名前が時々聞こえる。もし現実世界に戻れたら何があろうと有名人の追っかけや野次馬は止めよう。覚えている限りは。

と考えていると生徒たちが引いていく、先生が来たのか?……確かあの人は入学試験のときも会ったな。名前はえ~っと……だめだ思い出せない。

 

「初めまして。私がこのクラスの副担任をされる『山田真耶』といいます。よろしくお願いします。」

 

ああ、そうだ。山田真耶先生だ。やっと思い出した。……射撃がすごい、元日本代表候補だっけ?

やはり現実世界の記憶はだんだん思い出しにくくなっている。……仕方ないことかもしれないな。

かれこれ7年近くこっちの世界に居るんだ。実際七年前に読んだ小説を正確に思い出せるかといわれたら自信は無い。

と周りの自己紹介を聞きながら考えていると一夏の自己紹介になった

 

「……お、織斑一夏くんっ」

「は、はい!?」

「ご、ごめんね。で、でもね、出席番号順に自己紹介をしていって、「あ」から、今は「お」なんだよね。それで織斑君の番だから自己紹介をやってくれるかな。だめかな?」

「………え?」

「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? え~と――」

 

お、やっと気が付いたか一夏。先生もびっくりしているがなぜあそこまで低姿勢なのか。

それに……あいつ別の事考えて聞いて無かったな。

 

「い、いえ!?大丈夫です!!自己紹介しますから、先生落ち着いてください。」

「ほ、本当に? や、約束ですよ! ありがとう織斑君!」

「え、えぇと…織斑一夏です。よろしくお願いします。」

「「「「「…………」」」」」

「……以上です。」

(((((ガタッ)))))

 

クラスの大半がずっこけた。まぁあれだけ引っ張って落ちが無ければこうなるか。

……助け舟くらい出してやるか。

 

「えっ!?お、俺何か悪いこと言った!?なぁ!?奏。」

「一夏~おまえ、小学生の自己紹介ですらもう少し話すぞ?」

「って言われてもなぁ……」

「じゃあ一夏君、質問です。あなたの趣味は?」

「えっと……カメラかな?」

「へ~それはなぜ?」

「癖になっちゃてるのもあるけど出来るだけ覚えておきたい事は写真で撮ることにしてるんだ。」

 

良し、乗ってきたな。

 

「じゃああなたの特技は?」

「特技!?……家事?」

「料理ですか?」

「いや、家事一般はとりあえず全部こなせる。」

「へ~まるで主夫ですね。」

「う、うるさいな。別にいいだろ?」

 

良し良し、いつもの感じに戻ってきたな。

じゃあ仕上げに行くか。

 

「最後に好みの女性のタイプは!?」

「え~っとな……」

((((((((ガタッ))))))))

 

クラス中の女子が身を構えた。って言うか山田先生、なぜあなたも身を構えてるんですか?

 

「…って奏!?これ自己紹介と関係ないだろ!?」

「っち、だまされなかったか…」

 

あからさまにクラスの女子たちも残念そうにしていた。

…山田先生も残念そうにしないでくださいよ。

って言うかこの人、本当に先生なのか?実は同級生でした!!って言われても納得できるぞ。まぁISの戦闘技術を除けばな。

俺と一夏はその後もコントのように掛け合いを続けてもう少しで切り上げようとしていたが。

ゴンッ!!という鈍い音と共に俺と一夏の頭に拳骨が落ちた。

頭を抑えながら後ろを見ると千冬さんがそこに居た。

 

「千冬姉!?なんでここに!?」

「ここでは織斑先生だ。それとあまり馬鹿なことをしているんじゃない。」

 

と言いさらに頭を叩いた。

 

「あっ、織斑先生。もう会議は終わったのですか?」

「あぁ。任せてすまなかったな、山田先生」

 

と山田先生と話し、教壇の前に立つ。

 

「諸君。私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。お前たち新人を一年で使い物にするのが私の役目だ。私の言うことをよく聴き、理解しろ。できない者はできるまで指導してやる。いいな」

 

おお、まるでどっかの軍隊の教官みたいだな。っていうか教官やってたな、千冬さん。

すると突然教室が黄色い悲鳴に包まれた。

 

「「「キャァァァァァァァァァ!!!!!!」」」

「千冬様、本物の千冬様よ!!」

「ずっとファンでした!!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しくも本望です!」

 

耳が痛てぇ…まぁ先ほどの拳骨で頭のほうが痛いけどな。

 

「……はぁっ。毎年毎年、よくもこれだけ馬鹿者共がたくさん集まるものだ。ある意味感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者だけを集中させるように仕組んでいるのか?」

 

おそらくそういう人たちだけ集まっているのではないかと。あと千冬さん本気で頭抱えてるなぁ……あれ。

 

「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 鞭で叩きながら罵って!」

「でも時には優しい笑顔を見せて!」

「そしてつけあがらない程度に躾して!!」

 

ええい、この教室にはマゾしかおらんのか!?

いや、待てよ?確実に千冬さんはSだからある意味問題ないのか?

よくよく考えると千冬さんという一人の『どS』に対してこの教室のMたちだと、どれほど集めれば間に合うのだろうか…

と考えていると千冬さんがこちらをにらんだ。

 

「風音、お前失礼な事を考えてはいないか?」

「いえ、滅相もございません。」

「………二度目は無いぞ。」

 

……こえぇ!!なんで頭の中で考えてる事がわかるんだよ!?それも悪口限定で!?奴隷にだって頭の中で舌を出す権利ぐらいは与えられてるって言うのに。

これ以上考えたらまた千冬さんにやられそうだからここら辺でやめておこう。

 

「っち、たく。それにお前らはまともに挨拶位して見せろ。」

「わかりました。千…織斑先生。」

「はい先生。」

「じゃあ次風音奏君、お願いするね?」

「え?あ、ハイ。」

 

と山田先生に言われ気の抜けた返事をしてしまった。どうやらこの時間の進行は山田先生が続けるようだ。

 

「え~っと先ほどはいきなり馬鹿なことをしてすみませんでした。僕の名前は風音奏。日本語で風の音を奏でると書いてその漢字をそのまま抜き出して書きます。趣味は旅行と音楽鑑賞ですね、基本なんでも聞きます。ISに関してはそれほど詳しいわけではないですがよろしくお願いします。あとさっき話してた隣の織斑一夏とは中学時代からの友達です。……後の詳しい話は学校生活で話しましょう。以上です。」

 

と一応、一夏との関係も話しながら無難な自己紹介をおこなった。

その後は特に問題なく自己紹介はそのまま一時限目までつづいた。

 

 

 

 

「俺……もう無理……」

「しっかりしろ一夏……まだ一時限目が終わっただけだぞ…」

 

俺たちは机に伏せながら話す。

一時限目が終わった後も続々と人が集まってきており、廊下には俺たちを見るために二年生、三年生の先輩たちまでもやってきており、廊下はぎゅうぎゅう詰め状態だ。

これだけ人が来るのなら見物料でもとれば大儲けできるのではないだろうか?課金制とかにして一番お金を入れてくれた人には一夏のサインつきツーショット写真プレゼントとかすれば。

そう考えていると回りがザワっとざわめいた。俺は顔を上げて見ると一人の女子生徒が一夏に向かって歩いてきていた。

確か彼女は篠ノ之 箒。一夏の幼馴染で剣術娘。一夏のことが好きな娘……だったはず。記憶が正しければの話だが。

彼女が近寄ってきているのに一夏は机に伏せたままである。

 

「一夏~お前にお客さん。」

「っつ!?」

 

と一夏に声をかけるとなぜか少しうろたえる箒。

 

「あれ?違った?」

「い、いや。……ちょっといいか。」

「……箒?」

 

一夏は顔をあげ箒の方を向く。少したじろいだ後まっすぐに一夏を見つめ返す。

 

「………………」

「………………」

「……いや、なんか話せよ。」

「……あ、ああ。何の用だ?」

 

一夏、お前……

いつもの事とはいえ、そこは『久しぶり』とか『おお!?箒か!!変わりすぎて一瞬わからなかったぞ!?』とか言えよ……

『何の用だ?』は無いだろ、流石に……

しかし箒の方は気にする様子も無く話を続ける。流石一夏の幼馴染、そこら辺は解っているのか?

 

「廊下でいいか?」

「あ、ああ。」

「早くしろ。」

 

と言い、先に廊下に出て行く。話方を聞く限り結構似たもの同士なのか?

一夏はというと立ち上がるまでは良かったが俺の方をチラッと見てくる。俺は付いていかんぞ?

 

「ほら、さっさと行ってこい色男。」

「ち、違うって!?あいつはだな!!」

「後で聞くから。女の子を待たせない。」

「あ~…後でちゃんと聞けよ!?」

「わかったから、さっさと行った行った。」

 

といい一夏を手で追い払うように送り出す。

そうすりゃ女子生徒たちもお前を追って行ってくれるはず………なぜ誰も付いていかないの?

…みんな空気が読める子なのね。じゃあ俺から発せられるこの嫌がってる空気読んでくれないかな?無理ですか、そうですか。

頭の中でそう思っても女子生徒が少なくなる事はなかった。

 

 

 

苦しい時には、自分よりもっと不幸な男がいたことを考えよ。

                            ~ポール・ゴーギャン~




ということで第二話でした。
リアルの都合上、一週間に3話~4話くらいのペースならいけそうかな?
そこら辺は現在調整中なのでしばらく投稿ペースがめちゃくちゃです。

それはともかく今回も読んでいただき本当にありがとうございまーっす。
次回、少しだけですがメシマズ代表…失礼イギリス代表候補生の登場です。


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第三話 女性の国での一日

一夏がいなくなってから数分、俺は上野動物園のパンダ状態だった。

廊下では少しずつ移動しながら俺を一目見ようかと歩いているのだろうか常に動き続けていた。

この際名前をカンカンに改名してパンダのキグルミでも着ようか……まぁやらないけど。

……よし、気にしても仕方が無いんだ。もう無視しよう。

そう心に決め俺は携帯音楽プレイヤーを鞄から取り出そうとした。するとある一人の女子生徒がこっちに向かってきていた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「(えっと……おかしいな?ここに入れたはずだったんだけどな?)」

「ちょっと!?聞いてらっしゃるの!?」

「………僕ですか?」

 

おお、この状況で俺に話しかけてくる生徒が居るとは!?辺りの生徒たちも一斉に静かになる。

彼女はそれを気にもせず話を続けた。

 

「まぁ何ですの?その返事の仕方は。このわたくしが話しかけていると言うのに」

「はぁ……えっと……確か君は……セシリア・オルコットさんだったけ?」

「あら。わたくしを知っていらっしゃるのね。褒めて差し上げますわ。」

「そりゃ、さっき自己紹介してましたし。」

 

と気の抜けた返事を返す。

一応思い出せた記憶では最初高飛車で後すぐデレる俗に言うチョロインだったはず。なんで高飛車だったんだっけなぁ……まぁそこは一夏が何とかしてくれるらしいし任せよう。

 

「……じゃあ私がイギリス代表候補生という事は?」

「あ~スイマセン。僕今までそういうこと気にして生きていく余裕無かったんですよ。」

「へ?」

 

予想外の対応だったのか今度はセシリアが気の抜けた返事を返した。

俺は気にせず話を続けた。

 

「いや~恥ずかしながら、僕幼少期の記憶が無い状態でフランスに一人で居たんですよ。大体8年前くらいかな?んでそこから4年間ほどほぼホームレスみたいな生活してまして。」

「は、はぁ…」

「んで4年位前でしたかね。すごい追い詰められていた時、教会のお婆さんにありがたい事に拾ってもらってそこから3年間育ててもらったんですよ。でもやっぱり生活は苦しくてISとかも気にして生活する余裕も無かったんですよ。」

「そ、それで?」

 

完全にこちらのペースである。

そろそろ授業の時間だし適当なところで相手にペースを返すか。

 

「だから代表候補生とかそういうことに興味を持つ時間も余裕も無くて、そういうこともこの学園生活で覚えていければな~って考えてたんですよ。」

「という事は解らないんですね?」

「恥ずかしながらそうなりますね。」

「では、教えて差し上げますわ。代表候補生というのはIS操縦者のなかでもさらに選ばれた存在。つまりエリート中のエリートなのですわ!!」

「へーそうなんだ。わざわざ教えてくれてありがとうございます。」

 

と言うとセシリアも何とか自分のペースに持ち直せたらしい。

 

「あら、良い姿勢ですわね。つまりそのわたくしと同じクラスになれただけでもあなたには光栄なことなのですわ。」

「そうですか。じゃあ僕は足を引っ張らない程度にがんばらせてもらいます。」

 

というと丁度先生と一夏たちが教室に戻ってきた。

 

「あ、オルコットさん。先生が来ましたよ。」

「あら、では話はまた。」

 

と言い機嫌よく自分の席に戻っていくセシリア。

そして周りの野次馬たちも何かこそこそ言いながら去っていく。

 

(記憶が無いって……やっぱりテレビの~~~)

(本当?じゃああの噂も本当なのかな?)

(解らないよ?もしかして~~)

 

と口々にしながら彼女たちは去って行った。

まぁ、これに関しては遅かれ早かれバレる事だし、別に話しても問題ないだろう。

それよりもセシリアの話し方。原作でこういう子じゃないと知っているからだろうか何か無理をしているように聞こえる。

なんというか力が入りすぎているのだ。まるで自分を強く見せようとしているかのように。

まぁセシリアに関しては一夏に任せると俺は勝手に決めたのだ、後は任せよう。

と考えていると二時限目が始まった。

 

 

 

 

 

(こりゃ思ったよりも大変だ……)

 

俺は喰らい付くように教科書を見ながらノートを書き取っていた。

山田先生の授業がわかりやすいからか何とか喰いついているが、それでも専門用語が多すぎる。

 

(こりゃあれだな、とりあえず授業中に言われた事やかかれた事すべてメモるつもりで書いて、その後教科書で調べながら別のノートにまとめよう。じゃないと大変な目に遭うな。)

 

とテストのことを考えながら必死にノートに書き記していた。

ちらりと一夏の方を見ると、完全に顔が凍りついていた。

 

(あいつ大丈夫なのか?)

 

俺がそう不安を覚えると

 

「織斑くん、風音君、何かわからないところがありますか?」

 

と山田先生が不安げに聞いてきた。それに対して一夏は

 

「先生!!」

「ハイ!!なんですか?」

「ほとんど全部わかりません」

「えっ……ぜ、全部…ですか……」

 

ああ、あからさまに気落ちしちゃってるよ。

 

「せ、先生。僕は専門用語みたいなとこ以外は何とか理解できてますよ!?」

「!!ほ、本当ですか!?」

「ホント、ホント。一夏もそんな感じだよな!?」

「いや俺は「な!!!!」……おう…おれもそんなかんじです(棒)。」

 

棒読みしてんじゃねぇよ。ったく俺は小声で話しかける。

 

「(おい、一夏ここはあわせろ!!)」

「(でも本当にわからないんだって!?)」

「(後で出来る限り教えるから、とりあえず黒板と先生が大切って言ったとこだけはノート取っとけ!!)」

「(あ、ああ……)」

 

俺たちの話に興味を持ったのか山田先生が話しかける。

 

「どうしたんですか?やっぱり……」

「い、いえ!!お互いがんばろうなって話してたんです!!なぁ奏!!」

「あ、ああ。そうですよ先生!!」

「そうですか!!」

 

と何とか山田先生が元気を取り戻してくれた。これで一安心かと思ったらそうは問屋がおろさなかった。

教室の隅にいる千冬さんが一夏に向かって声をかける。

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

「…古い電話帳と間違えて捨ててしまいました。」

 

一夏、アウトー!!

 

パアンッ!

 

という音と共に一夏の頭に千冬さんからの指導(物理)が入った。

 

「ったく、何をやっているんだお前は。あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

「一週間はちょっと……」

「良いな!?」

「はい…」

 

哀れ一夏。まぁ流石に捨てるのはいけないがな。

その後特に問題なく授業が進んだ。

 

 

 

 

放課後。俺たちは椅子に座りながら魂が抜けたようになっていた。

 

「奏~~俺、これ以上ここ続けていける自信が無い……。」

「言うな一夏。住めば都だ。」

「いくらなんでも無理だろ…。」

「……家に帰ったら、とりあえず今日のノート取り直して復習するぞ。」

「……マジかよ…」

「千冬さんに殺されたいなら一人だけでどうぞ。」

「……ハァァァァ…」

 

と話しながらゆっくりと帰り支度を始めた。

すると向こうから山田先生が歩いてきた。

 

「ああ、織斑くん、風音くん。まだ教室にいたんですね。よかったです。」

「山田先生どうしたんですか?」

「えっと、寮の部屋が決まりましたのでそれを知らせに行こうかと。」

「「はい?」」

 

え、寮に関しては一週間後じゃなかったっけ?俺の勘違い?

参ったなぁ…荷物もってくるの忘れちまったよ……ってそんなはず無いか。一夏も驚いてるし。

 

「えっと山田先生、僕や一夏の部屋はまだ決まらない筈では?」

「一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど……」

「確かにお二人の言うとおりなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。……二人とも、そのあたりのことって政府から聞いてます?」

 

と山田先生は最後は声を小さく話しかける。政府…って事は嫌な予感がする。

 

「先生、僕たちの部屋って同室なんですよね?」

「おい、奏。じゃなかったら互いに一人部屋かよ。いくらなんでもそれは無いだろ。」

「……実は風音君は一人部屋なんです。」

「風音君は?って事は俺は?」

「織斑くんは女子と一緒です。」

「はぁ!?」

 

ははは、嫌な予感はしたが俺の方ではなかったらしい。

 

「え!?女子と一緒って?」

「ごめんなさい!!でも無理やり決めたせいでこうなってしまったらしくて……」

「で、でも…それなら俺と奏の相部屋でもいいじゃないですか!?」

「それは…その…」

 

と困った顔をしながら俺の方を見てくる山田先生。

やっぱり原因は俺ですか。

 

「一夏。先生に言っても仕方が無いだろ。それに原因は僕だ。」

「え?何でだよ奏。」

「ヒントは僕の国籍。」

「え……お前が無国籍なのは知ってるけどそれがどうして…」

「多分お偉いさん方は僕と部屋を一緒にした相手が僕を勧誘しないか不安なんだろうさ。」

「俺でもか?」

「多分な。出来るだけ機会を平等にしようとしてるんじゃないか?ッチ、馬鹿らしい。」

 

と話すと山田先生は否定もせず「あはははは…」と乾いた笑い声を出している。それに最後は素が出てしまっている、気をつけねば。

とここで愚痴を言っていても仕方があるまい。とりあえず急いで荷物を取りに行かなければ。

 

「じゃあ先生、僕と一夏はとりあえず荷物を取りに言ってきますね。」

「その必要は無い。」

 

声がするほうを振り向くと千冬さんが荷物を抱えこちらに来た。

片方は俺の鞄か。でも普通女性がもてるほど軽い荷物じゃないと思うんだけどな……やはり世界最強の女は違うという事なのだろうか。

と考えていると俺たちめがけて荷物が飛んできた。何とかキャッチするがやはり重かった。

 

「まあ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう。何か他に必要なものが有ったら休日に取りに行け。」

「ああ千…織斑先生、解りました。」

「あと風音。とりあえずお前に与えた部屋に有った鞄を持ってきたがそれでいいか?」

「ええ、一週間くらいならこれで何とかなりますし。」

「そうか、ならいい。」

 

といって千冬さんはうなずいた。

続けて山田先生が説明を始めた。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーが備え付けてありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、お二人は今のところ使えません」

「残念だったな一夏。」

「はぁ……昨日が最後の風呂だったのか…もっとゆっくり入ればよかった。」

「い、いずれ使えるようにはなると思いますけど、今のところは部屋のシャワーで我慢してください。」

「「は~い」」

「お前ら?」

「「ハイ!!解りました!!」」

 

と返事をし俺たちは千冬さんから逃げ去るように自分たちの部屋に向かった。

 

 

 

 

神様は私たちに、成功してほしいなんて思っていません。

ただ、挑戦することを望んでいるだけよ。

                                 ~マザー・テレサ~




ということで第3話終了です。
作者は仮にIS世界に行ったら授業中一夏と同じようになる自信が有ります。
って言うかあれ?いつの間にか一日一回以上投稿してる……ストック大丈夫か?
……まぁいいか。
では読んでいただきありがとうございました。


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第四話 ファースト幼馴染

今回はファーストさんのお話です。


俺と一夏はとりあえず寮に向かった。

寮に向かう最中にもすれ違う女子生徒はこちらを見てくるし何かひそひそ話していた。

だが俺はもう既に開き直りこちらを見ながらすれ違う相手には軽く手を上げ『やぁ』と声をかける程度には既にできるようになっていた。

 

「奏…お前慣れるの早くないか?」

「もう一夏も開き直っちゃいなよ。そうしないとストレスたまるよ。」

「…もう既に部屋の相手のことを考えるとストレスでどうにかなりそうだよ……」

 

そういや一夏の最大の心配はそれか……

 

「あ~そっか……相手のほうが認めてくれないかもしれないか…」

「それなんだよなぁ……はぁ…」

「まぁ、追い出されたとしたら僕の部屋に来いよ。先生にばれない限りは泊まらせてあげる。」

「………今日から泊まって良いか?」

「流石に一度部屋に行ったほうが良いんじゃない?」

 

完全に一夏はネガティブになっていた。

そりゃどんなイケメンでも知らない男と生活しろって言われて、喜ぶ女性がいるとは想像しにくい。

まぁ正直相手は誰か少しは予想付くけどね。でも『俺』は知ってるから予想できるけど『僕』はまだその情報知らないし、どう伝えようか……

考えているうちに俺は自分の部屋に付いた。一夏は気落ちしたまんまだ。……仕方ない、ちょっと元気つけておくか。

 

「お、一夏。僕ここが部屋だから何時でも来なよ。あとガンバ。」

「……おう。」

「あとこれは僕の勝手な予想だけど良いかい?」

「どうした?」

「千冬さんがお前をわけのわからない相手と一緒にすると思うかい?それにあの……シノノさんだっけ?知り合いなんでしょ。」

「篠ノ之(シノノノ)だ。あいつは俺の幼馴染だよ。」

「じゃあ彼女なんじゃない?千冬さんも知り合いとなら一緒にしてもいいと考えそうだし。」

「そっか……そう言われたら、なんかそんな気がしてきた。」

「全部僕の予想だから本当かどうかはわからないけどね。」

「いや、でも少しは希望はでてきたよ。サンキュ、奏。」

 

そう言って一夏は自分の部屋にへと向かっていった。

俺はそうだな……トレーニングの前にノートをまとめなおそう。

そう考え荷物を広げずとりあえず筆記用具と新しいノート、更に既に大量に消費されているノートを取り出した。

 

 

 

 

まとめ始めてから3分と経たない内に部屋のドアが叩かれた。

おそらく一夏だろうと思い鍵を開けるとすごい勢いで部屋に入ってきた。

 

「お、おい、一夏。どうした!?」

「た…助けてくれ奏!!殺される。」

「……警察署へどうぞ?」

「冗談言ってる場合じゃないんだよ!?」

「落ち着け、僕にも解る説明を頼む。」

「あ、ああ。実は~~」

 

と話を聞き要約したら『ルームメイトの幼馴染にラッキースケベした後に挑発しちゃった♪』といった感じだった。

弾がここにいたらおそらく『また一夏か!!』と声を上げていただろう。

女性関係のトラブルは一夏の専売特許だったしな。

さてこれに関してはどう収めたものか……このまま一夏を放り出すのも目覚めが悪いなぁ…

よしある程度作戦は立てたしこれでいこう。

 

「まぁ篠ノ之さんも今は怒ってるだろうから、しばらく僕の部屋に居ろよ。」

「ああ、すまない。」

「10分位したら一緒に行ってやるから謝りに行こう。」

「ああ、悪いな奏。ありがとう。」

「気にしなくていいさ。そんな事よりノートをまとめるの手伝ってくれ。教科書が5冊もあるから用語を探すだけでも大変で仕方ないんだ。」

「………後でノート見せてくれない?」

「…後で何か奢れよ。」

「OK。じゃあまず何から調べればいい。」

「ええっと、まずは~~」

 

こうして復習をしながら俺たちは時間を潰していた。

 

 

 

 

 

「……おい、一夏。」

「どうした?」

「君の幼馴染は修羅か何かなのか?」

 

一夏の部屋の前に立ちながら俺は唖然とする。

ボコボコにゆがんだ入り口。そして人力で覗き穴まで作られていた。

一夏は少し口を引きつらせながら話し始めた。

 

「あいつ、剣道やっててな、木刀でやったんだ。」

「木刀!?……よく生きてたね。」

「まぁ手加減してくれたのかもな。あいつ中学生時代全国大会で優勝もしてるんだ。俺なんかがかわせるわけが無いさ。」

「いや…お前がそういうならそうなんだろうけどさぁ……」

 

俺は再び扉を見る。『剣道やってたら女性でも綺麗にドアに穴を開けられます』なんて普通無理だろ。

何だ?剣道じゃなくて『ケンドー』なのか!?『テニヌ』みたいな感じで『テニス』とは別物ですみたいな。

そう思いながらも俺は恐る恐る扉に近づきノックをする。

 

「篠ノ之さ~ん…同じクラスの風音奏で~っす…」

「………何の用だ。」

「一夏を連れて謝りに来ました。入ってもいいですか?」

「……ドアは開いてる。」

「おじゃましまーす……。」

 

と中に入る俺、盾にしようとする一夏。入るとやはり部屋の中も悲惨だった。いたるところで物は壊されあげく床に木刀が突き刺さっていた。

箒はベットの上に体育座りをしながら小さくなりこちらをにらんでいた。

 

「……す、すげぇ…」

「ほ、箒?ごめん。大丈夫か…」

「………」

 

反応は無い……まあ彼女が怒る理由もわかるが正直これはやりすぎだ。

さて、どうしたものか……一夏の幼馴染だしなぁ、一肌脱ぐか。

 

「悪い一夏。一旦僕の部屋に行っててくれないか?」

「え?どうして?」

「ちょっと篠ノ之さんとサシで話したくてさ。頼む。」

「………わかった、でも箒の事をあまり…」

「安心しろって、別に説教するわけじゃないんだから。な、信じてくれ。」

「…おう。箒、本当にごめん。」

 

そう言って一夏は部屋を出た、あいつは素直だから部屋の前で聞き耳なんて立てないだろう。

 

「さてっと。一応自己紹介しようかな。同じクラスの風音奏だ、好きに呼んでくれ。」

「……篠ノ之箒だ。呼び方は箒でいい。」

「そっか。じゃあ箒さん、ちょっと木刀見せてもらってもいい?」

「……いいぞ。」

「ありがとう。これ、結構重いね……」

「……鍛錬にも使うからな。」

「ふ~ん、こんな感じ?」

「……ぜんぜん違う。」

 

俺がそういいながら離れて木刀を振るう。対して箒は俺が何を言いたいのかわからずただにらみながら返事をしていた。

 

「あはは、僕は剣の才能は無いんだろうな。」

「………」

「でもこれくらいはいけるかな?」

「……?」

 

そう言って俺は木刀を自分の頭めがけて振りながら頭を打ち付けた。箒もびっくりしながら俺に駆け寄る。

俺は床に座り込み木刀を置き頭を抑えた

 

「何をしているんだ!?一体!?」

「イッテェ!!マジでイテェ!!うわ、ちょっと血が出てる。」

「ちょっと待ってろ、救急箱がある!!」

 

箒はあわてながらも救急箱を取り出して手当てをしようとしてくれた。

 

「ありがとう、使わせてもらうわ。あ、手当ては自分でやるよ。」

「そ、そうか。でも突然何をやるんだ!!」

「うん?……実験?」

「あんな事の何が実験だ!!」

「僕みたいなへなちょこの木刀で人を怪我させられるか。」

「!!」

「いや~木だからってこれ、本当に危ないわ。ちょっとなめてた。」

「……」

 

箒は俺の言葉に何か思うことでもあるのか俯きながら話を聞く。

俺は自分に手当てをしながらかまわず話を続ける。

 

「僕みたいなへなちょこですら殴れば血が出るんだ。全国大会優勝者の太刀筋なら下手すら大怪我じゃすまないんじゃないか?」

「ッ……そんな事はわかってはいるんだ!!」

「ああ、別に責めてるわけじゃないんだ。多分さっきの出来事は我慢できなかったのと突然の事で混乱しただけだと思うし。」

「………」

「まぁ一夏はあんな奴だけどさ、デリカシーがあるとは言いがたい上に、話を聞いて無いのかと思うような時もある。極めつけに女心がわからないどころか、お前わかってやってるだろ?って言いたくなるような行動をして女性を怒らせてるときもあるくらいだ。」

 

俺は頭に包帯を巻きながら話を続ける。

箒はいまだに俯いたままだ。

 

「……でも……あいつは…」

「いい奴なんだよな。そこは多分箒さんのほうが知ってるでしょ?」

「……ああ。」

「だからさ、今回の事も確実に悪気が会ったわけじゃないんだ。」

「……それもわかっている。」

「うん、だからさ。今度こういうことが無いとは言い切れないじゃないか、あいつ。……ごめん、多分確実にあるわ。あいつの事だし。中学時代もそうだったし。」

「……そうなのか?」

「うん、僕の知る限りでも両手足の指じゃ足りないほどある。」

「そ、そうなのか。」

「でもさ、今度から注意するときは口と最悪手だけにしてやってやれないか?ビンタとかチョップとか。」

「………善処する。」

「よし。治療完了。あ、それと箒さんのライバルは多いから気をつけてね。」

「……なんのだ?」

「一夏争奪戦。」

「そんな!?一夏に…ブッ!!」

 

一夏争奪戦という言葉に驚いて顔を上げた箒はおもいっきり噴出した。

目の前には頭どころか顔まで包帯で巻かれた上にどっからだしたかサングラスまでかけている奏がいた。まるで月光仮面である。

さっきまで真面目に諭すようにこちらに話しかけながらこんな事をやっていたのかと箒は思ったに違いない。

俺としては何時までもこんな暗い雰囲気で話すつもりは元々無い。

 

「あいつ何だかんだでフラグ立てるからな……詳しい話聞きたい?」

「ちょ、ちょっと…待ってくれ。笑いすぎてお腹が……」

 

箒はつぼにはまったのか笑って腹を押さえている。

うん、いい顔になった。やっぱり女の子は暗い顔より笑顔に限る。

 

「うん。OKOK。」

「な、なにがいいんだ!!」

 

ヒーヒーいいながら腹を押さえる箒を尻目に俺は包帯を解いていきながら話を続けた。

 

「いや一夏争奪戦だけどさ、あいつ基本的にそんなの興味ないって言いながら目を奪われるのは笑ってる女性だからさ。」

「そ、そうなのか?」

 

いきなりの一夏攻略情報に箒は顔をまじめにして聞き始める。

 

「そうそう、あいつ自分では気が付いて無いんだけどいろいろと近くで見ていた結果、笑顔でいる女性の方がかわいいって言うんだ。」

「他には何かあるのか?」

「他にはかぁ……まあ好みのタイプは基本的に千冬さんだ。結構シスコンだからな、あいつ。後は…」

「後は?」

「出来るだけ素直にストレートに言葉を伝えること。あいつの言葉の歪曲ぶりは本当に恐ろしいからな。」

「す、素直にか……」

「ま、っていっても僕から見た一夏だしね、これも。積極的にアタックすれば何とかなるさ。ただしやさしくね。」

「……本当か?」

「これは本当。個人的には応援しているよ、箒さんのこと。」

「………ありがとう。」

 

少しは素直になってるな、よしよし。もう一夏を呼びに行っても大丈夫だな。一応箒に確認を取ってからにするか。

 

「じゃあもう一夏を呼んでも大丈夫かな?今、多分かなり心配してると思うぞ?箒さんのこと。」

「そうか……後私の事は呼び捨てでいい。」

「お、本当?じゃあ僕の事も呼び捨てでお願い。呼ぶほうはソウでもカザネでもどっちでもいいけどさ。」

「そうか、では奏と呼ばせてもらおう。」

 

うんうん。かなり明るくなった。じゃあ仕上げといこう。

俺は扉を開け顔だけ室内に入れて箒に声をかける。

 

「後、最後に箒にアドバイス。」

「なんだ?」

「さっきの爆笑してた時の笑った顔、すごくかわいかったからあれを一夏に見せればあいつもイチコロさ!!」

「な!?」

「じゃ、お休み~。」

 

何かを箒に言われる前に俺はドアを閉め自身の部屋に向かった。

さて部屋に戻ったら一夏を自分の部屋に向かわせよう。

その時に必ず謝る事と一言『かわいい』といわせる事にしよう。

きっとお互いにとっていい時間になると思うしさ。

そういたずらをするような顔をしながら彼は自身の部屋へ向かっていった。

 

 

 

 

愛されることは幸福ではない。愛することこそ幸福だ。

                            ~ヘルマン・ヘッセ~




ということで箒さんとすこしなかよくなる話でした。
個人的には箒さんは自分の感情が抑えられない子と把握していたので、誰かが諭してあげれば言葉が理解できない子ではないと考えています。
箒さんもISのせいで家族と離れ離れになっていた上、普通では無い生活をおくっていた為そういうこと経験する機会もしっかり教えてくれる人がいなかったのでは?と考えこの小説内ではその考えを元に書かせてもらっています。
では今回も読んでいただきありがとうございました。


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第五話 のほほん三人組

一夏を自分の部屋に送り出した後自分の机の上を見るとおそらく一夏がやってくれたのであろう、教科書のいたるところに用語が書いてある付箋が貼ってあるのを見かけた。

 

(あいつ多分、俺が箒と話してる間にこれやったんだろうなぁ…しかも送り出す時に俺に何も聞かないし。あいつこういうところは本当にイケメンだよな。)

 

と俺は一夏に感心しながらノートをまとめた。一夏のおかげかそれほど時間はかからず30分も経たない内にノートはまとめ終わった。

その後飯を食う気にもならなかったので俺はそのまま眠ることにした。

 

 

 

 

翌朝まだ朝日すら昇っていない時間に俺は目を覚ました。

欠伸をしながらも服をジャージに着替え部屋の外に行きランニングをしようとしてふと気が付く。

 

(この寮って朝は何時から外に出ていいんだ?)

 

時間を確認すると時刻はまだ午前4時にもなっていなかった。この時間に外にでて後に問題になったらそれはそれでいやだなぁ……

よし、今日は室内オンリーの静か目な奴でいこう。

そう考え俺はトレーニングを開始した。ゆっくりと柔軟をした後体中の筋肉を動かす。体に負荷をかけ続けるようにしっかりと動かし続けると時間は既に午前5時を回っていた。

 

(後1時間はアレをやってしめにしよう。初日からあんまり派手にやって問題おこしたくないし。)

 

そう考えながら俺は鞄から弾丸の入って無いリボルバーと財布から一枚のコインを取り出した。

リボルバーを片手でまっすぐ構えた後、先端にコインを置き目を閉じ集中する。

目を開けた瞬間、俺はリボルバーを腰の辺りまで下げ、すばやく元の位置まで構えなおした。当然コインは宙に浮くが、この動きをコインが下に動く前に終わらせる。これを1時間できる限りやり続けるのだ。

 

 

 

 

(っと…もうこんな時間か…前回に比べて+23回か……)

 

時計を見ると既に6時を過ぎていた。自身の今日の結果をふまえながら俺はとりあえずシャワーを浴びた。

身支度を整えいろいろと今日の準備をした後時計を確認すると6時45分ほど…少し早いが食堂に向かうかと考え部屋を出るのと同時に思いつく。

 

(どうせなら一夏たちも誘うか……食堂なら二人きりにはなれないから箒も許してくれるだろ、多分。)

 

思いついたら即実行。俺は一夏たちの部屋に向かった。

部屋の前に立つと昨日の事件の傷跡がくっきりと扉には残っていた。しかし一応修理はしたのか穴は内側から何かで覆われていた。

 

「一夏。いるか?僕だ、奏だ。」

「………」

「一夏?いないのか?」

「……ふぁ?」

「寝てるなら起きろ。もう少しで7時だぞ?」

「………おい!!箒!!起きろ!!」

「………どうしたんだ?一夏?」

「もう7時だ!!準備しないとやばいぞ!?」

「何!?ど、どうしよう?」

 

おお、あせっるな。

まぁ昨日いきなり知り合いとはいえ一緒の部屋に寝たんだ。緊張して眠れなかったって落ちだろう、きっと。

すこし声を笑せながら声をかける。

 

「一夏、箒。おはよう。扉越しじゃ何だから入っても良いか?」

「いいぞ!!ってか準備手伝ってくれ!?」

「一夏!?まずその……着替え終わるまで待ってて欲しい。」

「あ……奏ごめん!!ちょっと待って!!もう少し待ってくれ。」

 

俺はこらえくれず扉の前でクククッと笑っていた。

その後も室内から聞こえてくるいろいろな音と声を聞きながら俺は時間を潰した。

 

 

 

 

「あ~面白かった。」

「お前、他人事だから好き勝手言いやがって。」

 

何とか7時半には準備を終わらせた一夏たちは俺と共に食堂に向かっていた。

 

「おやおや?そんな事言ってもいいのかな?一夏君。今日僕が気まぐれで起こしに行かなければ今頃まだ寝てたんじゃないか?」

「くっ、そんな事は……」

「ほう、起きていたと?」

「…無理だな。ありがとう奏。」

「こういう時お前本当に素直だよな。まぁ気にするな。てか二人ともなんで寝坊なんて?」

「……一夏が帰ってきた後、ちょっと話して、その後部屋の片付けをやってたせいで遅くまで起きていたんだ。」

「そういうことか…」

 

そう語る箒の顔が少し微笑んでいたのを俺は見逃さずぼそぼそっと箒に話しかける。

 

「(何かいいことあったんだろ?)」

「(!!なぜそれを!?……お前の差し金か!!)」

「(何の事でしょう。でも良い目は見れたでしょ?それに笑いかけてあげた?)」

「(……ああ。)」

 

と言いながら赤くなる箒。こいつもこいつで一夏と違った意味でからかってて面白いな。やりすぎれば怒るとは思うけどな、そこら辺はさじ加減だ。

話していると一夏も気が付いたのかこちらに話しかけてきた。

 

「どうしたんだ?二人とも?」

「……なんでもない。」

「いや、ちょっと剣道について聞いてたんだ。」

「ふ~ん。そっか、箒はすごいからな。聞くだけでも何かつかめるかもしれないしな。」

 

おお、ほめられたのがうれしいのか箒がますます赤くなってる。

流石一夏さん!!こういうときのほめ方は一流だ!!

しかしこの後こうして立てたフラグを放置するのも一夏なのであった。

 

 

 

 

食堂に着くと俺たちは食券を買い注文をした。

箒と一夏は和食。俺も同じく和食にしたが食券3枚分である。

 

「……奏。お前はいつもこんなに食べるのか?」

「うん?ああ、成長期なんで。」

「箒、こいつはよく食うぞ。正直見てるだけで腹いっぱいになるくらい食う。」

「……そうなのか…」

 

箒は俺の食べる量に少し驚いていた。

一夏はいつもの事をわかっているのか気にせずに席を探していた。

俺も一緒に探してはいたがなかなか丁度良い席は見つからなかった。

 

「仕方ない散らばって食べよう。」

「そうだな。じゃあまた後で。」

「………」

 

箒は多分一夏と一緒に食べたかったのであろう、残念そうな顔をしていた。

こればっかりは俺もどうしようもないからなぁ、と考えていると俺と一夏に声がかかった。

 

「あ~~オリムーとカゼネだ~」

「うん?えっと……布仏さんだっけ?あと僕の名前はカザネだよ。」

「ってことは俺はオリムーか…て、どうしたの?」

「ううん。おはよ~って声かけただけ~」

 

うん、すっげえマイペース。

この子は布仏本音、同じクラスの女子生徒でキグルミ系マイペース女子、通称のほほんさん。今も狐みたいなキグルミを着ている。

おそらく一夏のどうしたの?はなぜキグルミを着ているかについても聞いているのだろうが、返答は帰ってこなかった。

そうだ、一応聞いてみよう。

 

「布仏さん、僕ら今、席探してるんだけどいいとこ知らない?」

「う~ん?じゃあ私たちと一緒に食べる?」

「いいのか?見つかったぞ箒!!」

「う、うん。」

 

喜んでるな、箒のやつ。わかりやすい性格してるな。

そしてそれに気が付かない一夏もよっぽどである。

そのまま俺たちがのほほんさんの後を付いて行くと端の方の席に二人の生徒が席を取っていた。

確かあの二人は……原作知識に該当はなし、昨日の自己紹介では『谷本癒子』と『夜竹さゆか』だったはず。

彼女たちは俺と一夏の姿を確認するとかなり驚いていた

 

「えぇ!?本音!!どうしたの!?」

「え、なんで織斑くんと風音くんが!?」

「え~、席を探してたから連れてきちゃった~、だめだった?」

「「むしろよくやった!!」」

 

一夏と箒はポカーンとしていたが俺は苦笑した。

とりあえず挨拶とかだけはやっておくか。

 

「え~っと谷本さんと夜竹さんであっていたかな?おはよう。突然押しかけてごめんね。僕たち席が見つからなくてさ。」

「いえいえいえ!!大丈夫!!」

「そうそう、ささ!!座って。」

「そっか。ありがとう。ほら一夏と箒も座りなよ。時間は過ぎていくぞ~」

「お、おう。」

「……わかった。」

 

そうやって俺たちは席に座り飯を食べ始めた。

 

「風音くんってたくさん食べるんだね。」

「私、見てるだけでお腹一杯なりそう。」

「あはは、成長期と言う事で見逃して頂戴。」

「オリムーはそんなに食べないんだね~。」

「そりゃ奏に比べりゃ食べない方さ。」

「へぇ~そういえば織斑くんと風音くんって中学時代からの友達なんだっけ。」

「ああ、奏とは中学三年からの付き合いでこっちの箒は幼馴染で小学4年生まで一緒だったんだ。」

「……そうだ。」

「通称『織斑夫婦』って呼ばれてたんだろ?」

「「「え!?」」」

 

俺が笑いながら一夏をからかうと、全員がびっくりし、その後一夏は顔を真っ赤にして否定してた。

 

「おい!!奏!!いきなりなんて事言いやがる!!っていうかお前そのころはいなかっただろうが!!」

「冗談だって、それにそんな事はなかったんだろ?」

「で、でだなその後箒が引っ越した後は連絡は取ってなくてここに来て再会したんだ。」

 

あ、こいつ逃げやがった。女子三人組もなんとなく察しているのかニヤニヤしている。

これはまた一夏をいじるネタが手に入ったかな?一応わかってはいるが箒の方をちらりと見る。

さっきまで一夏が女子と話していて面白くないような顔をしていたのに今はニコニコしている。

こいつは本当にわかりやすい奴だな……それでもわからない一夏はどれだけ鈍感というか唐変木というか、苦労するだろうなこいつを落とすのには。箒に少し同情するよ。

と考えながら飯を食べ終えた。

 

「ごちそうさんっと、じゃ皆さんまた教室で。」

「食べ終わるのもはやっ!?」

「もう食べたの!?」

「食べるのもはやいんだね~」

 

と驚く女子三人組。箒はもう少しで食べ終わりそうだけど一夏はまだまだだな。無駄だと思うけど注意はしておこう。

 

「みんなも早くしたほうがいいよ~後時間10分無いし。」

「「「「あ、…」」」」「ご馳走様」

「じゃ、じゃあ織斑君、また教室でね。」

「私たちもう食べ終わってるしね。じゃあね。」

「またね~オリムー。」

「ちょ、ちょっと。」

 

一夏に挨拶をしながら離れていく三人組。

 

「ほ、箒!?っていない!!」

「箒なら先に行ってるって言ってたぞ。」

「……奏、お前は置いていかないよな?」

「一夏……僕は織斑先生の指導(物理)はごめんだ。」

 

そう言って俺は一夏の願いを笑顔で切り捨てた。

後ろからいろいろと一夏の声が聞こえたが無視した。

結局一夏はホームルームにギリギリ遅刻し千冬さんに指導された。

 

 

 

 

 

あなたの友人があなたを裏切るようなことをしたからといって、

あなたは友人の悪口を人に語ってはならぬ。 長い間の友情がゼロになるから。

                           ~ジョン・ミリントン・シング~




以上五話でした~
ここら辺でモブたちと絡み合わせないとこの後メインキャラしか絡まなくなってしまいそうなのでこうさせてもらいました。
しかしISのモブキャラの名前がほとんどわからんw
今回も読んでいただきありがとうございました~


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第六話 プライドの問題

二日目もとりあえずは普通に授業は進んで行った。

昨日と違うところを強いて言うのなら山田先生が俺と一夏に気を使ってか、専門用語も簡単に説明してくれる上に詳しい説明が書いてある教科書とそのページ数までしっかりと教えてくれたことだろうか。

本当に頭が下がるな…後でとりあえずお礼だけは言っておこう。

そうして時間は5時限目まで過ぎていった。

 

 

 

 

この時間は確か千冬さんの実習に向けた説明だったはず。

とりあえずあんな危険な兵器に乗るのだ、一字一句聞き漏らさないようにしなければ。

失敗して自分が怪我をするだけなら別にかまわない、だがここは学校で周りには多くの人がいるのだ。最悪周りを傷つける可能性もある。

自分が危険なものを手にしようとしている。自覚を持ち続けろ、忘れるな。

そう考えながら必死に授業に取り組む気合を入れていた。

 

「さて、今日は実習についての説明をするが……と、その前に再来週のクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならないな」

 

と千冬さんが思い出したかのように話し始めた。

 

「クラス代表者は対抗戦だけでなく生徒会の会議や委員会の出席など・・・・まあクラス長と考えてもらえばいい。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

と言われましても昨日の今日でクラスメイトの事もほとんどわからない状況でそんな事を言ったら、

 

「はい!織斑くんがいいと思います!」

「はいはい!私は風音君を推薦します。」

「私は織斑くん!!」

「風音君」

「え、えぇぇぇ!?」

 

こうなりますよね。

一夏、変な声を上げるな。

こんな状況になったらクラスで目立っている男の、俺かお前になるに決まってるだろうが。

さて逃げ道を探すとするか。

 

「一応言っておくが、他薦されたものに拒否権はない。選ばれたからには覚悟を決めろ。」

 

うわぁーい、千冬さんが先に逃げ道塞いじゃったよ。

やばいぞ、あまり面倒な事や争うのはやりたくないんだ…それに原作だと一夏のイベントのはずで、これが原因で面倒ごとに巻き込まれてくんだ。なんとしてでも逃げねば。

って言うかこの時点でも巻き込まれるはず……

 

「納得いきませんわ!そのような選出は認められません!男がクラス代表だなんて・・・・・いい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

そうだここでセシリアが切れるんだよなぁ~

多分、実力もなにも関係無しに決められるこの環境と、ただ男であると言う事で選ばれると言う状況が我慢できないんだろう。

 

「大体!文化としても後進的な国に暮らさなくてはならないこと自体が私にとって耐え難い苦痛で・・・・」

「まぁまぁオルコットさんも落ち着いて、まだ決まって無い話なんだしね。それに国の事に関してはあまり関係ないしね?ね!?」

 

セシリアさんそれはちょっといけない発言だわ。回りもあまりいい顔をしていない、このままじゃまずいなぁ…早い所話しをそらそう。頭が冷えれば多分発言を取り消すぐらいするだろうし。

俺はセシリアの方を向きながらおちつかせるように笑顔で話した。

と思ったら今度は俺の隣の男が切れた。

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ。」

 

い、一夏さーん!!気持ちはわかるけど落ち着いて!?ここで喧嘩しても何の意味も無いか、ら?……いやここは誘導すれば……よしやってみよう。

 

「なんですって!?」

「まぁまぁ一夏も落ち着けよ。」

「でも!?」

「聞けって。日本もイギリスもいいところだ。それは両方に行って住んだ事がある僕が保障する。それにイギリスの料理も悪くないんだぜ?」

「へ~例えば?」

「向こうで食ったピザは本当にうまかったな。あとポトフとかテリーヌも美味かった。でも僕も日本人だから普段食べるなら和食だけどね。」

「「「「「「へ~~~~」」」」」」

 

クラスのみんなもイギリス=メシマズだと考えていたんだろう、俺の言葉に感心する。

よしこれでお互いのメンツは保てただろうし足りないようならどっちかをほめてやればいい。

その後に『お互いそれでも我慢できないなら戦って決めればいいんじゃないか?ISで。』とでも言えば本編と同じ展開になるはず。

セシリアの方は自分の国の名誉が回復された事で少しは落ち着いたようだ。

しかしさっきから一夏は何か考えている…どうしたんだ?

 

「…………なぁ…奏…」

「どうした、一夏。」

「それってイギリス料理じゃなく無いか?」

「「「「「「……あ。」」」」」」

 

畜生!!こいつ気が付きやがった!!クラスのみんなもそういえばと言った風だ。

俺もイギリスで食ったイギリス料理はそれほど美味く感じなかった。

まずいわけでは無いのだ、ただ他の料理の方がおいしいと感じるだけで。

そもそもイギリスって国は美食文化って物が無いから自国民ですらそれをジョークにするほどだろうが!?

大体イギリスにいた頃に料理を頼んだら『こんなの食べるのかい?』ってイギリス人にも言われるようなものをどうほめろって言うんだよ?

横目でセシリアを見ると、あら~怒ってらっしゃる。な、何とかせねば。

 

「い、いや。おいしいものはあるって話で。」

「じゃあ、美味かったイギリス料理は?」

「……お茶とお菓子は美味かった記憶はある。」

 

事実上の敗北宣言である。

実際に美味かった料理の名前が出てこないので仕方が無い。

ただメシマズではないのだ、料理に気をかけないお国柄なだけであって。

しかしこれではセシリアも納得できまい。さらに怒りで顔まで真っ赤になっていた。

 

「あ、あなたがた…わたくしの国を侮辱しますの!?」

「い、いや僕はそんなつもりは!?」

「先に侮辱したのはお前だろ!!」

「い、一夏もオルコットさんも落ち着いて話し合おう。それからでも怒るのは遅く無いだろ!?な!?」

「決闘ですわ!」

「ああ、いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい。」

「二人とも僕の話しを聞いて!?」

 

最早賽は投げられた状態だった。いかん、お前らが勝手に喧嘩をするんだったら俺も止めない。

しかし代表生徒に立候補させられているのに俺の名前も入っているのだ。

そうなると千冬さんのことだから……

俺は恐る恐る千冬さんのほうを見る。

 

「……わかった、ではお前らで戦って代表を決めろ。試合日は一週間後だ。」

「がんばれよ一夏!!応援してる!!」

「お前もだ風音!!計三名で競い合え。」

「デスヨネー」

 

しかしISに乗ったことも無い生徒が代表候補生相手に一週間で戦えとか千冬さん、いくらなんでも無理がありません?

やっぱり『どS』なの?俺と一夏をいじめて楽しんでるの?

恨めしそうな顔で千冬さんの顔を見る。

 

「何だ文句でもあるのか?」

「メッソウモナイデスー」

 

畜生、あの顔は内心笑ってやがるな。

俺がうじうじしていると一夏はセシリアに対し話しかけた。

 

「ハンデはどのくらいつける?」

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」

 

流石にクラスに笑いが起きる。

 

「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「織斑くんは、それは確かにISを使えるかも知れないけど、それだけでしょ?」

「やめときなよ。今の女に男が勝てるわけ無いんだから」

 

フム……気持ちいい状況ではないが今の俺たちには実績は無いんだ。

甘んじて受け入れるしかあるまい。

言われるのがいやなら結果を出すしか無いだろう。

しかし予想もしないところから援護射撃が入った。

 

「そういうわけでもありませんよ?」

 

え?山田先生?突然どうしたの?

千冬さんも続くように半分笑いながら話を続ける。あ、なんか嫌な予感…

 

「その通りだな。はじめに言っておくが、このクラスの生徒内で一番強いのは間違いなくそこの男だ。」

「一夏おめでとう、織斑先生にほめられたぞ。」

「いや、確実にお前の事だろ。でも織斑先生どういうことですか?」

 

おい一夏、詳しく聞くな!!

しかし千冬さんも言いふらさないと約束したしな、多分言わないだろ。

あ、山田先生に口止めしてねぇ……

 

「そこにいる風音君は試験官相手に実質IS展開せずに2回勝って、その上そのままIS展開した織斑先生相手に5分間互角に戦ってたんですよ。」

「………え?ISを…使わずに?」

「IS相手に…勝って?」

「織斑先生と……互角に戦ったですって?」

「……千冬姉……本当なの?」

「………ああ、事実だ。」

「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」」」」」」

 

このクラス始まって以来最大級の叫び声が教室中に響いた。

俺はもう好きにしてくれと思いながら明日のジョー見たく燃え尽きていた。

神様、僕に平穏は無いのでしょうか?

 

 

 

Still waters run deep.(静かな川の水は深く流れる)

                           ~著者不明~




ここからある意味風音君にとっての試練が始まります。
彼はどうやってIS相手に勝ったのか?
そしてVSブリュンヒルデ!?
そこら辺は次回の話になります。
では今回も読んでいただきありがとうございました~


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第七話 試験官Y

クラス中が先ほどのありえない発言に沸き立つ中、俺は試験日の事を思い出していた。

あの時適当に受けていれば今頃こんな目に遭わなかったんだろうな…と考えながら思い出す。

 

 

 

 

 

~半月前~

 

【IS学園 入学試験控え室】

こう書かれた部屋の中で俺は一夏の試験が終わるのを待っていた。

試験内容に関しては詳しい事はわからないが全力で向かえば合格できると千冬さんも言っていたし、まぁ何とかなるだろう。

そうしていると一夏が部屋に戻ってきた。とりあえず声をかけるか。

 

「おお、一夏。どうだった?」

「ああ……なんか何もしないうちに終わった。」

「はぁ?」

「いや、詳しい事は口止めされてるからいえないけど、お前なら余裕だと思うぞ?」

「ああ、ありがとう。」

 

俺はお礼を言いながら首をかしげた。

何もしないうちに終わるってどういう試験なんだ?まぁ受ければわかるか。

俺は係りの人に呼ばれ試験会場へと向かった。

試験会場はアリーナと呼ばれる場所らしく俺は辺りを見渡したかなりの広さだ、こんな中でISを使って戦うのか……と考えていると係りの人と思われる人が話しかけてきた。

 

「ではそこにあるISを装備してください。その後武器を出そうとすれば出せるはずなのでそれもお願いします。」

「了解しました。」

 

そう言って目を向けるとそこにあったのは何かと縁があるIS。

千冬さんいわく第2世代IS『打鉄』と言うらしい。

あの一夏誘拐事件時に戦っている時はまさか自分がこれに乗ることになろうとはまったく想像してなかったな……

俺はISを装備し神経を集中する。

またはじめに触れたときと同じように頭に情報が流れてきたが何か違和感があった。

 

(うん?……俺がこれに慣れないせいか?それともISごとの適性見たいのモノか?問題は無いレベルだが……)

 

俺はそう考え武器を出すイメージとやらをやってみた。

目の前にあるリストの中から一番小型の銃を選ぶ。

すると右手に自身からすると大きいがISが持っていると小さく見える銃があらわらた。

さて次の指示は何かな?

 

「終わりました。」

「ハイ、ではアリーナ内まで歩いて行ってみてください。」

「わかりました。」

 

指示通りにISを動かす…これって飛べるんだよなぁ…なんかコツでもあるんだろうか?

と考えながら歩いていると頭の中に連絡のようなものが聞こえた。

 

『ではフィールド上に試験官がいるはずですので好きに動いて戦ってみてください。』

 

突然実戦かよ!?

これか!!一夏の言っていた『何もしないうちに終わった』というのは。

不意打ちなんてなかなか実践的じゃないか、俺はそう思いすかさず身を構えた。

すると向こうから同じように銃を構えたISが低空飛行しながらこちらに向かってくる。おそらくアレが試験官だろう。

向こうからの射撃攻撃、これがハイパーセンサーという奴か、いつもより遅く見えるな。

俺は攻撃を余裕を持って避けようとしてかすった(・・・・)

 

(っ!?反応が鈍い!!)

 

銃を構え狙いをつけるがやはり遅い。

相手に当てることはできるが、体の動きは遅いのに頭の判断だけ少し(・・)早くなっているのだ。これではリズムどころか狙いをつけることすらやりづらい。

 

(クソ!どうする!!何か作戦は…)

 

俺が頭を悩ませているとISが何か問題があるのかといろいろな情報を提示してくる。

その中でいいもの(・・・・)を発見し俺は行動を開始した。

 

(さ~て頼むぜ、打鉄ちゃん。)

 

 

 

 

 

試験官である山田真耶は先ほどの試験をふまえ考えていた。

『先ほどのわざとバリアーに突っ込むのはやりすぎだ』と周りから注意されていたのだ。

ちなみに彼女自身はわざとやったつもりなど毛頭無い。

 

(今度はしっかりやらないと。)

 

手加減もしつつ攻撃を加える、こちらにも攻撃を当ててくるし何とかこちらの攻撃もかわすという事は彼はとても良い線をいっている。

おそらく適正判定は最低でもB、もしかしたらA判定までいくかもしれない。

そう考えそろそろ終わりにしようと手に持つサブマシンガン状の銃の引きがねを引く。

先ほどまでの彼の動きならばこの攻撃は確実にかわせない。

その弾丸が発射された瞬間だった相手の男性が考えられない行動をしたのは。

 

 

 

 

俺は試験官の攻撃をかわしながら単純に考た。

頭と体の動きをおかしくするくらいなら『こんなものいらないと』。

俺は打鉄にシールドバリアーと右腕部以外の装甲、そして銃以外のものすべて(・・・)をキャンセルさせた。途端に打鉄の横に浮いている二枚のシールドや脚部パーツまでもが消えた。少し宙に浮いた後着地した奏は対戦相手を見る。

その瞬間相手の動きは少し早くなったが同時に俺の動きも元に戻った。相手がこちらにとどめを刺そうとした弾丸もすべて見えている。

 

(あの程度の弾幕なら簡単にかわせる。)

 

そう考え一瞬の内に相手に狙いを構え引きがねを連続して引く。

銃の反応が遅く10発程度しか発射されなかったがそれでも十分だろうと考えた後、体捌きのみで相手の弾丸はすべて紙一重でかわした。

そのまま試験官の方を向くとISが解除され呆然としていた。これはどうなるのだろうか?

 

「あのー……これって僕の勝ちで合格なんでしょうか?」

 

と試験官のほうに声をかけるとはっとしたようにこちらを向いた。

 

「あ、あの、少し待ってください!?一度先ほどのアリーナ控え室まで戻っててください。」

「はぁ……」

 

俺は言われたまま元の場所へと腕にだけISを展開させたまま戻っていった。

 

 

 

 

「D判定ですか!?あの動きで!?」

「機材の方ではそう判断しているんだ…だがあれを見たあとでは…」

「何かのミスでは無いのかね?」

「いえ、機材の方は最初から一貫してD判定であると提示しています。仮にどこかおかしいのなら先ほどの織斑一夏の方もBでなくDになるのでは……」

 

試験を行なっていた教師たちは頭を抱えていた。

それも仕方が無いだろう。最低レベルの動かす事もやっとのようなIS適正の持ち主が、あろうことか今までの生徒たちの中で一番良い動きをしているのだ。

そんな相手に『君は最低ランクのIS適正だ』ともいえるはずも無くどうしようかほとほと困っていたのである。

 

「山田先生、本当に手を抜いていたわけで無いんですよね?」

「当たり前ですよ!!むしろ織斑君の時よりしっかりとやっていた自信があります。」

「そうよね……どうします。もう一度機材を変えた後に試験を受けてもらいますか?」

「それがいいでしょう。山田先生。」

「はい。」

「今度はかなり本気を出してもらってもいいでしょうか?もちろん試験としてですが。」

「わかりました。」

 

こうして完全なイレギュラーである風音奏の再試験が決定したのである。

 

 

 

 

待合室で奏は説明を受けていた。

 

「再試験……ですか?」

「はい。と言ってもあなたの合格は既に決定しています。しかしこちら側の手違いでデータの記録がうまく取れていなかったためこのような事になってしまいました。申し訳ありませんがお願いできますか。」

「い、いえ。大丈夫です。ただ…ひとつだけお願いできませんか?」

「……なんでしょうか?」

「このまま戦ってもいいかということと、銃なんですがもう少し精度がいいのってありません?」

「はぁ?」

「さっきの戦いで無茶しちゃったらしくこの通り、引きがねがおかしくなっちゃってるんですよ。」

 

現在唯一展開されている腕部を見ると引きがねがカチャカチャ音を鳴らしている銃があった。

試験担当の先生がたは、頭を悩ませながら打鉄の整備とできる限り壊れにくく高性能な小型の銃を渡し、彼をアリーナへと送り出した。

アリーナに付くと先ほどとは違い既に同じ試験官がフィールドに立っていた。違うところは先ほどまではこちらと同じ打鉄だったのに対し今回は緑色のISに変更されているくらいだ。

相手のISを観察しているとアリーナ内に声が響いた

 

『今回の試験は相手に20発攻撃を当てた方が勝ちと前もって宣言させていただきます。』

「わかりました。」

「こちらも了解しております。」

 

先ほどとはルールが違うと言う連絡を受け互いに了解し、開始の合図を待った。

 

 

 

 

山田真耶、彼女の今回の状態はほぼ本気と言っても過言ではなかった。

装備こそ相手を考慮して単発式の銃に変えているがこのデュノア社製の第2世代型量産機、「ラファール・リヴァイヴ」自身が乗りなれた機体だ。

開始と同時に先ほどまでとは違う、と動きで見せて彼の実力を測ろう。

そう彼女は考えあえて戦意を隠そうともせずに発した。

対する風音奏、彼は楽しくなって仕方が無かった。

一年ほど前、弄ばれ完敗したIS相手に勝ったばかりか今度はもっと強そうな物まで出てきたのだ。試験と言う事で手加減はされているだろうがそれでも前に戦ったスコールの打鉄よりは今回の相手は明らかにいい動きをしていた。

さらにこれは命のとりあいではなく競技だ。ならば全力で向っても問題ないだろう。

自身は今、どこまで彼に近づいているのかがわかる。そう考えワクワクしていた。

 

『開始3,2,1……開始!!』

 

声がかかると同時に彼女は相手に突撃しながら銃を手早く彼に向けて唖然とした。

既に目の前には30発以上の弾幕が迫りきっていたのである。

 

(かわせない!?)

 

そう考えながらも回避行動を取った彼女だがあえなく20発以上の弾丸をくらい試験は1秒ほどで終了した。

 

 

 

 

(おお、この銃すげぇ!!弾のリロードしなくていいからどんどん撃てるし何よりさっきの奴と反応がダンチだ!!ただ、弾のブレがひどいな……)

 

彼は目の前の結果を理解するよりも銃の性能にはしゃいだ。

モニタールームでは教員たちは開いた口がふさがらなかった。

なぜなら彼はISの機能のうちほとんどを封印しており、まともに機能しているのはコア・ネットワークとシールドバリアー、あと強いて言うなら腕部装甲位だ。

それに対して山田教諭のISは制限があるとしてもそれ以外は普通に動いているのだ。

いわばスパコン並みの処理速度を持っても見切ることの出来ない速さで彼は動いているのだ。

 

「なんなんですか……彼…」

「……IS適正はどうなっている」

「試合中の記録と言えるほどのものを出す前に試験が終了していますが現在も常にD判定の範囲内です」

「「「「…………」」」」

 

最早どうしようもなかった。

正確な試験結果を出そうとした結果、さらに理解できない現象を目撃してしまったのである。

全員声を出せずにいると一人の女性が動き出した。

 

「私が試験をしよう。」

「織斑先生……」

「最早それしか無いでしょう。それにこのままじゃこの試験の意味すらなくなってしまう。」

「……ではお願いしましょう。ISの方は打鉄で大丈夫ですか?」

「問題ない、では行ってくる。」

 

彼女がそう言うと部屋を出て行った。

ではこちらの方はもう一度あのイレギュラーにお願いをするとするか。

教員たちは最早半笑いになりながらアリーナに放送を流した。

 

 

 

 

不可能なんてありえない。

                              ~モハメド・アリ~




ということでVS山田先生でした。
主人公強すぎじゃない!?って思ったあなた。
原作のヴァッシュならこの程度朝飯前です。実際戦ったら相手に気づかれる前に終わらせる事が可能でしょう。
ということで次回こそ本当にVS千冬さんです。
読んでいただきありがとうございました。


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第八話 VSブリュンヒルデ(上)

今回はどうやっても多くなってしまったので、上下に分けました。
それでも(下)はさらに長い……
ま、まぁ…ではどうぞ~


もう一度控え室に送られた後も俺の興奮は覚めなかった。

まず自身がボロボロにされたIS相手にあそこまで戦えた事に喜びを覚えた。

次に他のIS相手にも互角に戦える力が自身にあることに自信を持てた。

そして何よりも英雄(ヴァッシュ)に近づいている事を自覚できた。

このまま行けば俺は英雄(ヴァッシュ)に近づける。そして……そして?

俺は自身の状態に気が付く。

彼に近づいている?本当に?あんなただ暴力を振るうような戦い方でか?

ただ自身の成長を計る事ができたのを喜ぶのならまだ知らず、俺は今自身が手に入れた力を喜んでいた。

こんなものが俺が追い求めていた英雄か?あこがれた姿なのか!?

違う……確実に違うと言い切れる。

 

彼は何よりも力を恐れた。          【ただ力を求める俺とは違う】

彼は誰よりも優しかった。          【力に喜び相手のことを気にしない俺とは違う】

彼は人々と愛と平和を分かち合った。     【自身の力に酔い一人で喜ぶ俺とは違う】

 

なんという無様だろうか。俺は今戦った相手の名前すらわからずその引きがねを引いたのだ。相手のことを気にもせず暴力を振るったのだ。

何時からだ、俺の引きがねがここまで軽くなったのは。

いくら勝負だ、試合だと言っても俺にとってはその事実の方が重大だ。

この、今俺が身に着けているのはどんな言葉で着飾ろうとも兵器だ。人殺しの道具に過ぎない。

それを軽々しく使っていたと言う事実に俺は控え室で一人頭を抱えていた。

 

 

 

 

『織斑先生……カザネ君の状態がおかしいんです。』

「!?至急向う。」

 

私が久々にISを身に纏い戦いの準備をしているとそう山田先生から連絡が入った。

聞くところによると『先ほどの試験終了後からしばらく後にバイタルの様子がおかしくなりとても試験が出来るようではない』とのことだった。

何があったかはわからないが彼は私と一夏の恩人でもあるのだ。

心配になりISを装着したまま風音の元に駆けつけた。

控え室に入ると彼は椅子から立ち上がりいつもと変わらない様に笑っていた、否、変わらない様に笑って見せていた。

それは少しでも彼とかかわった事がある人物ならわかるであろう違いだ。

彼の笑顔に濁り(・・)を感じたのだ。

 

「………風音、なにがあった。」

「…え?千冬さんが相手ということで緊張してるのばれました?」

「冗談はいい、話せ。」

「ははは、緊張しているのは本当ですよ?」

 

と言いながら笑う声は知らない人なら緊張で乾いた笑いをあげていると感じるのかもしれない。

しかし弟同然に生活していた事もある私には痛々しく見えてならなかったのだ。

 

「お前はそんな柄ではあるまい。もう一度聞く、何があった。」

「……ちょっと弱気になってました。」

「何に対してだ、まさか私とは言うまい。」

「…かなわないな。ここで敗北宣言してもいいですか?」

「いいから話せ。言う事も出来ない事か?」

「いえ、単なる自己嫌悪ですよ。これ秘密でお願いしますね?」

「……ああ」

 

そう言って椅子に座りながら自身の腕部にのみ展開しているISを見た。

 

「僕、IS(これ)を手に入れて調子に乗っていたんですよ。」

「……」

「一度僕、一夏を助ける時にこれと同じIS相手に手も足もでませんでした。」

「IS相手に生身で打ち勝てるはずが無いだろう。」

「そうですね、でも僕の、いや俺の目標とする人は勝てると思います。」

「……」

 

実際に先ほど目の前で勝たれているのだ、千冬は何も言わずに話を聞いた。

彼はただただ思っていることを口に出しているのか言葉を吐き出していた。

 

「俺もそれに追いつきたかった、追いつけないまでもせめてその道を歩みたかった。」

「………」

「でも俺はその背中(生き様)を追っていたはずなのにいつの間にか見失って力だけを追い求めていました。」

「………」

「さっきの戦い、見てました?あの下手な暴力。ただ相手に当てようとするだけの攻撃。俺あの程度で彼を追いかけているって考えてたんですよ。」

「………」

「傑作なのは俺があこがれていたのは彼の力に対する姿勢と優しさだったのに、追いかけていたのは力だったんですよ。ね?無様でしょ。」

「………」

 

風音は痛々しい笑顔のまま話しを続けた。

なんて事は無い、彼は自身の理想が高すぎて、それから大きく外れた事を後悔しているだけなのだ。

 

「多分千冬さんは聞いてて意味がわからないでしょ?スイマセン。俺の尊敬する人とかまったくわからないですしね。」

「………いいや、言いたい事はなんとなくだがわかった。」

「はは、まあ、ガキみたいな理由でへこんでただけですよ。」

「そうだな。お前はガキと言ってもかまわない年齢だしな。」

「手厳しい、まぁそのとおりですけどね。」

「だから間違ってもいいんだ。」

「………」

 

私の言葉に風音は黙り込んでこちらを見る。

 

「お前はまだ子供なんだ。間違う事など山ほどあるだろう。それは別にいいんだ。」

「……でも俺の(これ)はただの暴力で、いま身に着けてるIS(これ)もどんな言葉で着飾ろうとも人殺しの道具ですよ?一歩どころか半歩でも間違えば人を殺してしまいます。」

「それを何とかして止め、導くのが大人の仕事だ。それに…」

「…それに?」

「……それに、おそらくだがお前の尊敬する人とやらも、その力に悩みながらも進んだのではないのか?」

「……そうですね、そうかもしれません。」

「しかしそれでもお前の言うように優しくあり続けようとしていたのだろう。」

「……はい。」

「ならばお前がすべき事はここで後悔しとまる事ではなく、前に進むことではないのか?」

「……ええ。」

「まだ納得できないか?ならば自分に自信がもてない時やどうしても道からそれてしまいそうだと感じた時には時は私のところに来い、大人の務めだ、叩き直してやる。」

「……ははは、そりゃ曲がる訳には行きませんね。」

 

いつもの笑顔に戻ったな、もう心配は無いだろう。

 

「ならば曲がらずに追い続けろ。そうすれば私が叩きなおす必要も無い。」

「そうですね、でも弱音を吐くのはありですか?」

「吐いた後に説教をされても良いならな。」

「そいつはごめんですね。……ありがとうございました。何とか落ち着きました。」

「そうか、ならば良い。」

「後試験は全力でいかせてもらいますよ?」

「誰に物を言っているつもりだ?叩き潰してやるから安心しろ。」

「おお、怖い。じゃあ、よろしくお願いします。」

「ああ、では行こうか。」

 

私たちはそのままアリーナへと向った。

 

 

 

 

(しまった…弱りきってて弱音を吐いちまった……それも(ヴァッシュ)についても話すとか……)

 

アリーナに向う途中俺は頭の中で悶えていた。

普段なら隠し通せただろうが相手が千冬さんでそれも見たことが無い顔で心配してくるのだ。

普段の気を張った凜とした顔ではなく、不安そうに心配するような顔だったのだ、こちらもペースが狂ってしまった。

不意打ちに不意打ちが重なってとうとう弱音を吐いてしまう事になった。まぁ千冬さんなら言いふらしたりしないだろうから安心だ。

それにISの脳内無線?(コア・ネットワークの事である)もなぜか切れてたから千冬さんが黙ってくれるなら広がる心配も無い。

俺は自身を落ち着かせるように頭の中で言い聞かせた。

それにしても精神年齢も下がっているのだろうか?

現実世界の俺はここまで青いことを言う人間だったろうか?

 

(まぁ今はこの後の戦いを意識しろ。)

 

俺は頭の中の情報を一新し、集中した。

なんといっても相手はあの世界最強の女性、ブリュンヒルデと呼ばれた女性だ。

そして俺のトレーニングをする上での仮想敵対者(・・・・・)だ。

彼女の専用機『暮桜』では無いとしてもその実力は油断できる相手ではない。

彼女の戦いぶりは過去の大会の映像で何度も見ている。その強さは他の操縦者と比べ、『ものが違う』レベルである。

もしかして世界大会を総合優勝者(ブリュンヒルデ)だけでなく各部門の優勝者(ヴァルキリー)などと作ったのは他の人も『彼女は別格だ』と考えたからでは無いだろうか?

まぁ話はそれたがそれほど油断できない相手なのである。

俺は自身の覚えている千冬さんの動きを頭の中で思い浮かべた。

 

(トレーニングのシャドウだと何とか勝てるまではいけてはいるが、そんな事関係ないと考えるべきだな。)

 

そう考えているとアリーナに到着した。

先ほどの無様な有様が頭に浮かび集中が乱れる。

落ち着け、今は試合のことだけを考えろ。

自身が振るう力に関しては今は考えるな。

ただ自身が持っている物が何の道具なのかだけは忘れずにいろ。

自身がこれからする事を認めるな。

戦いから逃げられる事なら逃げるようにしろ。

そう考えていると千冬さんからの無線が入る。

 

『ふ、お前は真面目だな。では私から最後の忠告とアドバイスだ。』

「なんでしょう?」

『このフィールドにたった時点で逃げ場は無いのだ、それに相手のことを気にかけすぎるのも相手に対する侮辱だぞ?』

「……わかりました。」

『あとアドバイスだが、……お前では私を倒せないんだ、気にせずに思いっきりこい。』

「………了解しました!!」

 

最後の言葉に笑いがこみ上げた。

そうだ勝てるかどうかもわからない相手にもし傷つけたらどうしようと考えるのはある意味失礼だろう。

それにここで手を抜くのは千冬さんに対する侮辱になる。

なら今回だけは全力で戦おう。

俺はそう心に決めふと頭の中で打鉄に言葉をかける。

 

(多分これで最後だと思うがよろしく頼むぜ?打鉄ちゃん)

 

腕部の装甲とシールド以外は使ってないが何だかんだで3回目の戦いなんだ。

一応声はかけておこう。そうするとアリーナ内に放送が響いた。

 

『今回の試験は相手のシールドエネルギーをゼロにするか、5分経過で終了となります。双方よろしいでしょうか。』

「把握している。」

「了解です。」

 

放送を聴き俺と千冬さん、いやアリーナを覗くすべての人にも緊張が走った。

 

『開始3』

 

千冬さんがブレードをかかげる。

 

『2』

 

俺は銃のグリップに力を込める。

 

『1』

 

モニタールームの観客たちにも緊張が走る。

 

『開始です!!』

 

その言葉と同時に二人は瞬時に行動を開始した。

 

 

 

 

 



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第八話 VSブリュンヒルデ(下)

試験開始直後、奏は大きく後ろに飛び跳ねながら引きがねを引いた。

打ち出された弾丸は先ほどの山田先生との戦いの時と同じように弾幕をつくっていた。

奏は自身の頭の中で考えていた。

 

(映像で見た千冬さんは凄まじい踏込みの速さと鋭い太刀筋で多くの相手に勝っていた。ならば今回も開始早々に突っ込んでくる、そこにカウンターのように弾幕を張れば大きなダメージを与えられるはずだ…)

 

しかし彼は予測は外れた。

千冬(ブリュンヒルデ)も奏と同じように距離をとっていたのだ。

理由は二つある。

一つは先ほどの試験での『早撃ち』である。

いくら自身が世界大会優勝者だからといってもあの早撃ちは早すぎる。

暮桜(愛機)ならまだしも打鉄(数打ち)ではかわしきれない。

しかしかわす手段が無いわけではない。なぜなら早いのは彼の早撃ちなのであって弾丸ではない。

先ほどの山田先生は開始早々に前に飛び出したため弾丸との距離が近くかわす時間が無かった。

ならば距離をとれれば相手の武器は普通なのである。かわす事は不可能ではない。

その通り千冬は奏の弾丸に当たることなくかわす事ができた。

だが本来接近戦をするはずの千冬が距離をとったのは次の理由が主である。

それが二つ目の理由、彼に自分は言ったのだ。

『全力を受け止めてそれを潰してやると。』

そこまで言ったのにまだ全力を出していない(・・・・・・・・・・・)あいつと戦うつもりは無かった。

そう考え奏の弾丸をかわしながら、コア・ネットワークを奏の打鉄と繋いだ。

 

「どうした?私相手にそんな不意打ちが通用すると思ったか?」

『いやぁ~、千冬さんの公式試合を見る限りどんな時も開始と同時に突っ込んでいたので……』

「あれはそれが十分通じる(・・・・・・・・)相手だったからだ。」

『…僕の事過大評価しすぎじゃないですか?』

「IS相手に生身で勝っておいて何を言う。それにお前はまだ本気じゃあるまい。」

『いえいえ、本気ですよ。』

「本気の人間がここまで話しながら戦えるか。」

『………………』

「突然黙るな、わざとらしい。そして一言言っておく。」

『あはは、なんでしょう?』

「全力で踏み込む。出来るだけかわせよ(・・・・)?」

『!?』

 

その掛け声と同時に先ほどまで20m以上あった千冬と奏の距離が一瞬で縮まった。

そして上段から振りぬかれた千冬の打鉄のブレードが奏に当たりバリアーが展開された。

続く二太刀目を紙一重でかわしながら奏は距離をとり、銃を撃つが今度は同じような速さでさらに距離をとられ当たったようには見えなかった。

 

 

 

 

「さすがブリュンヒルデってことですかねぇ…。」

「ですね~やっぱりイレギュラーでもねじ伏せますか。」

 

モニタールームでは二人の試験を見ながら教員たちが話していた。

試験を見ている限り現在はやはり千冬先生が押していて、奏のほうはそのまま状況を打開できないでいる。それが映像のみを見ている教員の判断だった。

だが数人、その映像を見ながらも二人の装着しているISのモニタリングをしている人物は固まっていた。

それに先ほどまで奏と戦っていた山田先生は気が付くと声をかけた。

 

「どうしました?風音君の適正に変化がありましたか?」

「……いえ…あの…現在の互いのシールドエネルギーの残量なんですが…」

「何か問題が起きましたか!?」

「少ないんです…」

「ハイ?」

「はじめは織斑先生の一太刀で風音さんのシールドエネルギーが一気に減ったんですけど、その後はなぜか織斑先生のほうのシールドエネルギーがじわりじわりと減っているんです。」

 

その言葉を聴きアリーナ内を映している画面に目を戻すが先ほどから織斑先生の太刀を何とかかわしながら接近しようとしている風音しか映っていなかった。

確かに銃を撃ってはいるが2~3発ぐらいの銃声しか聞こえない。

だが織斑先生のISモニターを見ると確かにシールドエネルギーが少しずつ無くなっているのだ。

 

(まさかISの方に問題が!?)

 

そう考え彼女は自身の先輩へと連絡を取る。

 

「織斑先生、こちらの方でシールドエネルギーの不自然な減少が見られます。何か問題は起きていませんか!?」

『……安心しろ。……問題は!!…ない!!』

「しかし!?実際にエネルギーが!!」

『……攻撃を!!……くらっているだけだ!!切るぞ!!』

<―ブツン!!―>

 

そう言って通信がきれた。

教員たちは顔を見合わせる。

 

「攻撃って言ったって…かわしてるだけよね?」

「時々撃ってはいますけど、2~3発でこんな風にはなりませんし……何が起こっているんでしょうか?」

「……撃っているんですよ。弾丸を」

 

モニターの先生が半笑いになりながら言う。

 

「見てください、彼の弾丸の使用数。一瞬で10発ずつ無くなっています。しかもそれが先ほどからすごい勢いで起きているんです。」

「はぁ、でもモニターでは2~3発の銃声しか聞こえませんよ?」

「多分ですが……一度の銃声の間に10発ずつ撃っているのでは無いかと…」

「……いくらなんでもそれは…」

 

教員たちは顔を見合わせながら全員半笑いになった。

誰もいえないのである、『そんな事はありえない』と。

なぜならこの風音 奏(イレギュラー)はIS相手に生身で勝つほどでたらめなのである。

いまさら一瞬の間に弾丸を10発撃てると言われても否定できる人物はこの中にはいなかった。

 

「本当に…なんなんですかね…彼。」

「……彼が入学するなんて頭が痛くなってきたわ…私あんな子に教える技術なんて無いわよ?」

「……それを言ったら私なんて既に負けてますよ…それも生身に…」

 

教員たちは引きつった笑い顔になったまま試験を眺め続けた。

 

 

 

 

(やっぱり千冬さんは強い。)

 

迫り来る太刀を紙一重でかわしながら奏は思った。

最初に見せられた踏み込み、あれにはほとんど反応は出来なかった。

一太刀目はかわせないと判断しそのまま早撃ちで相手のシールドエネルギーを削ったがおそらくこちらの方が多く削られただろう。

その後こちらが少しでも距離をあけようとするとすかさず相手も距離をとろうとするのだ。

 

(距離をあけられ過ぎるとこちらが危ない。)

 

今の自分ではあのありえない速さの踏み込みには反応しきれない、そしておそらくもう一撃喰らえばこちらのシールドエネルギーは尽きるだろう。

そう判断した奏は、銃で戦う身でありながら相手の懐、いわば超至近距離での戦闘を余儀なくされた。

 

(まるで操られているようだな、だがこれしかあるまい。)

 

そう考え千冬(ブリュンヒルデ)の距離である領域で何とかかわしながら戦闘を続けるのだった。

 

 

 

 

(まったく、こいつはどこまででたらめなんだ……)

 

打鉄のブレードを振るいながら千冬は考えた。

あの踏み込みの後ヒット&アウェイをされたら不利だと判断したのであろう。

こいつは(世界最強)の得意な領域に躊躇無く踏み込んだのである。

しかしここまでは自身の想定の範囲内であった。でたらめなのはここからである。

私は全力を出しているわけではないので距離を取るために宙に浮くなどの方法は取るつもりは無かった。よって確かに彼に接近戦が出来ないわけではない。

しかし仮にも接近戦は自身の距離だ、全力で無いまでも現在出している力でもこいつを制しきる自信はあった。

だがこいつは私の距離で私の攻撃を捌きながら攻撃を加えてきているのだ。

体裁きで紙一重でかわす、かわせないようならブレードの一点を弾丸で撃ち隙をつくりかわす、距離をとって立て直そうと身構えると即座に多数の弾丸でシールドエネルギーを削ってくる。

 

(……いったい、これで満足していないとはこいつの目標とやらはどんな化け物なのやら。)

 

そんなことを考えていると残りシールドエネルギーが1/3になっている事に気が付く。

相手のほうは自身の手加減が間違っていなければ既に1/4になっているはずだ、だがこのまま行くとこちらが削り殺される。

そう考えた彼女は自身のギアを一段階あげる事を決めた。

 

 

 

 

(っち、攻撃をして相手を削る余裕がなくなってきた!!)

 

相手の得意な距離での攻撃をかわしながら奏は考える。

ちょっと千冬さんも本気を出してきているか?

なにも彼女がやっている事はそれほど変わったわけではない。

宙を飛ぶわけでも、新たな武器を使うわけでも、戦術を変えるわけでもない。

ただ太刀筋をさらに鋭くさらに早くするだけだ。

それだけでもかわすタイミングが早くなり、隙をつくるために武器を撃つ弾丸の量が増え、距離をとられそうになるのを必死になって喰らい付かなければいけなくなった。

 

(これが世界最強か!!)

 

自身の現在の全力をもってしても底が見えない相手。

しかしまだ喰らいつけないわけでは無い。

覚悟を決め千冬さんに連絡を入れる。

 

「千冬さん…」

『……どうした!!』

「…もう少し…底の方を見させてもらいます!!」

『…やって見せろ!!』

 

自身も全力を振り絞ろうとした瞬間

 

『し、試験終了です!!!』

 

頭の中に声が響き、ぴたりとお互い止まる。

………このタイミングで?

千冬さんの顔を見ると彼女も不完全燃焼みたいだ、顔から窺うことができた。

アナウンスをした先生も悪い事をした考えているのかちょっとあわてているようにも感じた。

 

『え、え~っと……時間が少し経過しすぎてしまいましたがこれで試験は終了とさせていただきます。お疲れ様でした。』

 

あ~うん……終わったんならいいや。時間なら仕方ないし。

俺はとりあえずISを解除するために控え室へと向った。

 

 

 

 

控え室で俺はISを解除し係りの先生に待つように指示され、そのまま椅子に座っていた。

 

(ふぅ……とりあえず驕った気持ちは振り払えたかな?)

 

そう苦笑しながら自身の現状を考えた。

戦闘を始めたときの暗い気持ちは最早ほとんどなくなっていた。

一通り暴れて落ち着くとはやはり精神年齢も体に引っ張られているようだ。

その後真面目な顔になり目を閉じ自身の感情に整理をつける。

 

(俺の目標は『ヴァッシュの強さ』じゃなくて『ヴァッシュの生き様』なんだ、別に力自体は大切じゃない。ただあの生き方をあの世界でするのに必要だっただけだ。なら俺もこの世界で彼の生き方を真似出来るだけの力を求めよう、彼の力が必要な時が来るかもしれないから鍛え続けはするが闇雲に力を求めるのはもうおしまいだ。これからは力じゃなく生き方で彼を目指そう。)

「よし……やるぞ。」

 

小さくそう呟きながら静かに目を開けると、にやついた顔をした千冬さんがいつの間にか控え室内にいた。

 

「…………何時からいました?」

「お前がにやついた後に目を閉じてやるかと言うまでずっとだ。」

「へんな言い方しないでくださいよ。」

「ふふ、冗談だ。どうだ、何かつかめたか。」

「ええ、おかげさまで何とかなりそうです。」

「そうか…良かったな。」

 

そういいながら千冬さんは微笑みかけてきた。

この人も多分聞きたい事はあるんだろうけどあえて聞かないんだろうな……世話になりっぱなしだ。

そして再び千冬さんが口を開いた。

 

「おまえのIS適正に関してだがD判定らしい。」

「へ~そうっすか。」

「なんだ、何も言わんのか?今期で最低値だぞ?」

「うわぁ、ぼくおちこぼれになっちゃった~(棒)」

「あまりふざけるなよ?」

「いや、スイマセン。ただ武器を使うのがうまいかどうかってことでしょ?」

 

笑いながら俺がそういうと千冬さんは少し悲しい顔をしながら話し始めた。

 

「お前ははっきりと言うのだな、武器や人殺しの道具だと。」

「……どちらかと言えば自分に自覚させるためですけどね。自分が何を使っているかどうかを。」

「……そうか。」

「個人的な意見だと、早いところこれを正しい使い方で使える時が来て欲しいんですけどね~。」

「………どういう意味だ?」

「え?これいわば個人用の宇宙船でもあるんでしょ?だったら行ってみたいじゃないですか、宇宙。」

 

千冬さんははっとした顔をした後優しい顔に戻った。

そうだ、このISは元々彼女ともう一人の科学者が共に宇宙を目指して造った物なのだ。

いまはこのような使い方をされているが正しくは宇宙を目指すために造られたもの、ならば正しい使い方をするべきだろう。

そしておそらく千冬さんもそれを望んでいる。再びそれを思い出せたのか笑いながら話した。

 

「そうだな、いずれはそういう時が来てくれるだろう。」

「出来るだけ早く来て欲しいですね~」

「なぜだ?お前ほどの力があれば現状でもいい生活がおくれるぞ?」

「戦ったりはもうごめんだと今決めたので。あと宇宙って浪漫があるじゃないですか。」

「そうだな、戦うよりはましか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

その後は係りの人が来るまで二人で話しながら時間を潰した。

一応その時に会った先生方には今見た光景を言わないようにお願いすると全員快く受け入れてくれた。

まぁ実際はどう言っても下手なジョークにしか聞こえないからだろう。

そのときに山田先生に会ってなかったのだがその事を忘れたのが今になって自身に襲い掛かってきているのである。

ああ、この騒ぎどうやって収めるつもりなの?千冬さん。

後もしかしてあの時の試験の事恨んでた?山田先生。

嘆いても現在のこの騒ぎは収まらないのであった。

 

(……神よ、これ超えられる試練なんですか?僕心が折れそうなんですけど)

 

この後のことを考えると頭が痛くなってくる彼はこの後どうしようと悩みながら信じてもいない神様に祈った(恨んだ)

 

 

 

 

 

 

何事かを成し遂げるのは、強みによってである。

弱みによって何かを行うことはできない。

できないことによって何かを行うことなど、到底できない。

                              ~ピーター・ドラッカー~




ということでちょっと長くなってしまった入学試験編でした~~。
しかし基本3500~5000の間に収めるよう努力しているのですが実力不足かオーバーしてしまう……精進あるのみですね。
今回も読んでいただきありがとうございました~


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第九話 戦いの理由

「だ~か~ら~、僕がISの操縦が下手なだけだって!!」

 

今日何回目になるかわからない言葉を一夏に言う。

授業終了後俺はすぐさまクラスメイトに質問攻めにあい、どう言う事かを聞かれた。

『本当に生身で戦ったの!?』、『流石に冗談だよね!?』、『先生相手に互角って何をやったの!?』、『織斑先生のなんなのあなた!!』などなどである。

まぁクラスメイトの質問に対しては適当に答えてその後逃げ回ったが、放課後に一夏につかまってしまったのである。近くには箒と未だに納得できないクラスメイトたちも居てこちらも聞きたそうにしている。

 

「でもそれなら勝てるはず無いだろ?何をやったんだ?」

「初心者だったからか、僕がISをあまりうまく扱えなくて動きやすいようにISをほぼ解除したから向こうも攻めづらかったんじゃない?」

「………ではどうしてその後織斑先生が試験をおこなったんだ?」

「そこらへんの手加減が一番上手だったからじゃないかな?僕は良くわからないけど。」

「「「「…………」」」」

 

全員納得がいかない顔をしている。

まぁなんといわれようが俺はこのことに関しては深く話すつもりは無いし既に山田先生には詳しく言わないように言ってある。

先生も悪気があったわけではなく『えっ!?スイマセン!!言っちゃいけない事だとは思わなくって……本当にごめんなさい!!』と涙目になって謝られた。

これではこちらがいじめているような気がしてあわてて『いいんですよ!?』と言ってしまったがあれをわざとやっているなら相当の策士だ……そんな事は無いと願いたい。

さてまだ納得していない一夏の意識を逸らすか。

 

「そんな事より今は一週間後の試合だ。どうするつもりなんだ?」

「……戦って勝つさ。」

「一週間で?機体はどうするの?」

「やる前から諦めるわけ無いだろ。機体は……」

「機体についてなら織斑、お前に話しがある。」

 

と俺たちの会話に突然千冬さんが入り込んできた。

このタイミングを狙っていたのだろうか?そういうことは無いだろう、うん。

千冬さんは話しを続ける。

 

「お前のISだが準備まで時間がかかる。学園で専用機を用意するそうだ。」

「へ~そうなんだ。」

「良かったじゃん一夏、専用機だってよ。」

 

と軽い雰囲気の男二人、しかし周りのクラスメイトたちは違った。

 

「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ。」

 

と、とても驚きながらもうらやましそうに一夏を見ている。

俺と一夏は理解できず顔を見合わせて話す。

 

「一体何がうらやましいんだ?」

「テストパイロットみたいなもんだからじゃない?」

「……教科書を読めお前たちは。」

 

と箒にあきれながら言われ教科書を二人で探すとすぐにその項目は見つかった。一夏が声に出しながら読む。

 

「え~っと。代表操縦者および代表候補生や企業に所属する人間に与えられるIS。現在はテスト機や最新技術で造られた物が大半である。最初からパイロットの特性がコアに入力されているわけでなく、「初期化」「最適化」を経て、専用機としての性能を発揮する。……つまりどういう事だ?わかるか奏。三行で頼む。」

「……一夏、こんな時にふざけるな。」

「・お前にぴったりの最新機体をわざわざ政府からプレゼント。

 ・しかもお前は企業に所属する人間や代表候補生じゃないため異例中の異例。

 ・おそらくはお前から男性操作時のISのデータを取るのが目的。

ってことだろ。どうだ、三行でまとめたぞ。」

「……奏も乗るな。」

 

箒はとうとう頭を抱え始めた。

一夏は笑っていたが何か思いついたかのようにふと止まった。

 

「あれ?じゃあなんで奏には専用機は無いんだ?データを集めるためなら奏にも渡すんじゃないか?」

「どこの誰が僕に渡すんだ?ちなみのお前の場合は多分日本だ。」

「えっと……じゃあ奏の場合は…どうなるんだ?」

「何も無しなんじゃない?そうじゃないんですか織斑先生。」

 

と千冬さんに声をかけるとうなずいた後に話しをはじめた。

 

「残念ながらその通りだ。現在風音はどこかの企業や機関、それどころか国にすら所属していないためいろいろあってな、仕方なく学校にある機体を長期で貸し出すことになっている。」

「らしいぞ一夏。」

「お前あまり気にして無いな。」

「僕は戦いは嫌いなんで、できることなら今回の試合も逃げ出したい。」

「覚悟を決めろ、馬鹿者め。」

 

と言いながらもどこか千冬さんは笑っているように見えた。

さーてどうしよう。このまま適当に戦ってすぐ負けるのもありだがそれだともしかしたら一夏のがんばりを無駄にしかねないしな……

とりあえず原作一夏と同じように『がんばったけど負けました』を目指そう。そう目標を定め千冬さんに話しかける。

 

「じゃあ先生。僕に渡されるISって何時ごろにもらえるんですか?」

「明日、現在学園にある打鉄を訓練用からお前に合わせて通常状態に戻す作業をおこなう。よって早ければ明日遅くても3日後ぐらいだろう。」

「了解しました。あとこの学園内に射撃場とかあります?」

「訓練用の射撃場は無いが武器の試験用としての射撃場ならある。そこを使え、あまり使われていないからすぐに借りられるだろう。」

「ありがとうございます。ということで一夏、後はお互いがんばろう。」

 

といい俺は一夏とわかれて訓練を開始しようとした。

が一夏につかまれ止った。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。」

「うん?どうしたの?」

「お前ISの訓練するのにIS無しで何をする気なんだ?」

「射撃訓練。」

「IS無しで?」

「IS無しで。」

「意味はあるのか?」

「……さぁ?」

「一応意味はあるぞ。」

「本当に、ち…失礼しました、本当ですか?織斑先生。」

 

一夏、いい加減慣れろ。そろそろ千冬さんも怒るかもしれんぞ?

今回はセーフだったようでそのまま千冬さんは説明をしてくれた。

 

「ISは基本的に操縦者のできることなら一通りはこなせる。要は操縦者自身の力量で強くもなるし弱くもなる。基本的(・・・)にはな。では後は個人個人で努力しろ。以上だ。」

 

と千冬さんはある程度の説明をした後居なくなった。

あとなぜか『基本的』のところを強調していた。なぜだろう。まぁいいや。

とりあえず一夏に別れを告げて訓練を始めよう。

 

「ということで無意味じゃないらしいし僕は訓練を開始するよ。」

「じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ。」

「一夏。お前の特技は?」

「…家事?」

「ちげぇよ!?ここで言ってるのは戦闘面だよ!?お前剣道やってたんだろ?」

「でも俺中学はほとんどやって無いし…」

「………」

 

と一夏が弱気になると隣に居る箒も顔色が暗くなる。

多分一夏が中学時代に剣道をやっていないと言うところが原因だろう。

この程度の問題既に想定済みで解決策も考え済みだ。どうなるかは知らんけど。

 

「一夏、なら箒に鍛えなおしてもらったらどうだ?」

「「え?」」

 

と声を上げる二人。かまわず俺は話す。

 

「いや、同門なんだろ箒は。なら一夏の鍛錬を全国優勝者の箒に見てもらえば少しは足しになるんじゃない?」

「…そっか!!箒、頼む!!手伝ってくれ!!」

「……え!?、ええっと……」

「…だめか?」

「……い、いや…」

 

となぜか悩む箒、まぁこちらの手札はまだある。

俺は箒の近くによって耳元で話しかける。

 

「(箒、これはチャンスなんだぞ?)」

「(そ、奏…でも何を教えればいいんだ!?)」

「(簡単な型を見るのとお前の打ち込みをかわさせるようになるだけでも鍛錬になるだろ?)」

「(でも…それが一夏の力にならなかったら…)」

「(安心しろ、ちゃんと力になる事は僕が保証する。それにほとんど意味が無くても一夏はお前を責めるやつじゃないだろ?)」

「(そ、そうだな…わかった。)」

 

と、何とか箒を説得した。

保証云々言っているがぶっちゃけた所、俺にも良くわからない。

だが本編でそれをやった結果一夏はギリギリ勝てそうなところまで行ったんだ。ならば無意味にはならないだろう。

ただ、え~っと一夏が負けた最大の理由ってなんだっけ……

まぁ試合前に思い出したら伝えよう。伝える事が無意味じゃなければの話だが。

一夏は俺と箒が何を話してるのか気になっているのだろう、話しかけてくる。

 

「どうしたんだ二人とも?」

「いや。箒が何から教えればいいか悩んでそうだったからある程度アドバイスしただけだよ。」

「…その通りだ。」

「そうか…悪いな箒。俺のためにそんなに考えさせちまって…でもお前の力が俺には必要なんだ。頼む手伝ってくれ。」

「!?そ、そうか。私が必要か。」

 

と一夏が箒のやる気を引き出した。ナチュラルに俺の援護したなこいつ。

箒は自分が一夏に必要だと言われてうれしそうだ。

さてそろそろ二人と別れるか。俺はそう思い回りに別れを告げる。

 

「じゃ、皆さん。僕は訓練をやらせてもらいますのでここらへんで失礼。後一夏と箒もまた。」

「おう、奏もがんばれよ。」

 

そう言い一夏と分かれた後俺はすぐに射撃場へと向った。

学園からかなり離れたところにその射撃場はあった、千冬さんの言うとおり利用者は居ないためすぐに使用許可が下りた。

さーて射撃場って言っても流石IS用の射撃場だな。最低でも100mくらいの的しかねぇ。

まぁ丁度いい(・・・・)か。

俺は自身の持つリボルバーに弾丸を込め的を狙い引きがねを引く。

轟音の鳴り響いた後撃ち出された弾丸は的のど真ん中にヒットした。

 

 

 

 

 

30分ほど撃ち続けただろうか。俺はまだ的をめがけて銃を撃ち続けていた。

そんな時俺に声がかかった。

 

「あら、あなたがここに居るなんて。」

「………<ドンッ>……<ドンッ>……<ドンッ>」

「ちょっと聞いてますの!?」

「……え?誰か呼びました?あ、オルコットさん。どうも。」

「あなたわたくしに対してわざとやってるんじゃないでしょうね?」

「何がですか?」

「…………まぁいいわ。あなたこんなところで何をして?」

「はぁ、ISが俺のところに来るの明日になりそうなんでとりあえず射撃訓練を。」

「射撃訓練ねぇ……いつごろからやってらっしゃるの。」

「え~っとまだ30分くらいですね。」

 

と言うとセシリアは笑い出した。

 

「あなた30分もやって一発しか的に当たって無い(・・・・・・・・・・・・)じゃないですの。」

「え?……ああ、そうですね。」

「まぁど真ん中に当たってはいますがそれもまぐれでしょう?こんな腕で私と一週間後に戦うつもりで?」

「ええ、一応。」

「今私に謝れば試合であなたをいじめるのをやめて差し上げますわよ。」

「はぁ……」

「…………あなたにひとつ言っておきたい事がありますわ。」

 

俺の態度が気に食わなかったのかセシリアは真面目な顔をしながら俺に話しはじめた。

 

「わたくし、あなたのようなプライドも無くそして女性に媚を売るような男が大ッ嫌いですの!!それにあの織斑一夏もわたくしの祖国を何も知らない男の癖に馬鹿にして……」

「ははは、僕は確かにそういう人間かもしれませんが、一夏があの時オルコットさんに言ったのには理由がありますよ。」

「…なんですって?」

「多分あいつ日本を馬鹿にされたことだけじゃなくてその国に住んでいる自分の大切な人まで馬鹿にされたような気がしたから怒ったんですよ。まぁ僕も思うところが無いわけじゃないですし。」

 

と俺が苦笑いしながら言うと、セシリアは少し落ち着きながらも俺をにらみながら話し始めた

 

「ならなんであなたは怒らないの!?」

「喧嘩や争い事が嫌いだから。」

「………あなたは自分の大切なものが馬鹿にされても怒らないというのですの!?」

「それが取り返しの付かない事じゃなければ。あの時ならお互いの国の良い所をしっかりと説明出来れば綺麗に終わると思ったんですけどねぇ…失敗しましたけど。」

 

そう苦い顔をしながら話すとセシリアは心底不思議そうにこちらに質問をしてきた。

 

「……あなたはなぜそこまでしますの?あなた私に馬鹿にされて腹が立たないの?」

「う~ん、腹が立たない、プライドも無いって言ったら嘘になるけどそれより大切な事があるからかな。」

「………それは一体…?」

 

セシリアは俺の言葉に息を呑んだ。

そして俺はこういった。

 

ラブ() アンド() ピース(平和)。」

「…………はぁ?」

 

きりっとした顔でそういう俺に対し、セシリアはガクッと肩の力が抜けてあきれた顔をしている。

俺はかまわず笑顔になり話す。

 

「だって争うだけなんて悲しいじゃないですか。そんな事より愛と平和を歌いながら笑いあってたほうが……もしも~し。オルコットさ~ん。聞いてます?」

「あ・な・た・は!!わたしくしのことをどこまで馬鹿にしていますの!?」

「え!?何!?どこがいけなかったの!?」

「全部ですわ!!もういいですわ、せっかくあなたのことだけは見逃してあげようと考えていましたのに!!ギッタギタにしてさしあせますので覚悟してなさい!!」

「ちょ、ちょっと!?オルコットさん!?」

 

そう言ってセシリアは怒りながら去って行った。

何が癇に障ったんだろうか。原作知識が断片的だとこういうときに困る。

 

「馬鹿にしてるわけじゃないんだけどなぁ……」

 

俺はそうつぶやきながらまた銃を的に構え引きがねを引いた。

撃ち出された弾丸はまっすぐ的のど真ん中に飛び的に当たらずに(・・・・・・・)終わった。

 

 

 

 

 

 

貴方は他人の責任をとる必要はない。

貴方が他人に対して負っていることといえば、それは愛と善意だ。

                              ~マーフィー~




ということでセシリアさんに完全に敵視されました。
次回、奏にISが渡される!?
今回も読んでいただきありがとうございました~


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第十話 IS

今回はオリジナルキャラが登場します。
そこら辺をご了承の上読んでいただければ幸いです。
ではどうぞ~


次の日の放課後、俺は山田先生に言われある場所へと向っていた。

何でも打鉄のコアを俺にあわせることが出来るように設定するらしい。

 

(って言ってもなぁ……俺適正Dランクだったからほとんど意味無いんじゃない?)

 

と考えながらその一室に向うと既に数人の技術者と思われる人々が打鉄をいじっていた。

俺が来たことに気が付くとその中でも一番もじゃもじゃヘアーのおっさんが声をかけてきた。

服装はくたびれた不清潔な白衣、顔は無精髭が生えたいかにもな研究員だ。

 

「お前が噂の坊主か?」

「はい、噂がなんだか知りませんが多分、僕か一夏のどちらかかと。」

「僕か一夏って事は僕ちゃんのお名前は?」

「風音 奏です。おっさんは?」

「おっさんって…まぁいい、まずは自己紹介だ。オレの名は栗城 修(クリキ オサム)。倉持技研の研究者、兼技術者で今回お前のISのお守りをさせれれることになった。」

「しっかり面倒見てくださいね?うちの子まだ小さいので。」

「……へっ言うね。いいだろういい子かどうかはお前次第だ。」

「了解です、でなにをすれば?」

「ぶっちゃけた話したいした事はしない。お前のデータは入学当初のやつがあるからそれを元に設定するだけだ。」

「じゃあ帰っていいですか?」

「ネグレクトはいけないぞ?」

「認知した記憶が無いんで知りませんよ。」

「男らしく認めろよ、そこは。しかしお前のデータ、低いな。Dランクなんて今まで見た中で一二を争う低さだぞ。」

「僕おちこぼれなもんで。」

「まぁISの方はそこまでひどくならないから安心しろ。後10分もすれば設定は終わる。その後一回装着してテストだ。それまで適当にしてろ。」

「了解しました。ちなみにおっさん。」

「おっさんじゃなくてせめて名前で呼べ。何だ僕ちゃん。」

「おっさんのことなんて呼べばいい。」

「OK。互いに苗字で呼ぼう、それでいいか風音。」

「了解ですよ、栗城さん。」

 

『口の減らねぇガキだな。』とにやけながらつぶやき栗城のおっさんは打鉄の調整に戻っていった。

なんだあのおっさん、面白い人だな。そう考えながら自身の相棒になるであろうISを眺めながら時間を潰した。

 

 

 

 

 

「何が落ちこぼれだ?Dランクって言うのは『でたらめ』の略か!?」

 

ISの試し乗りを終えた俺に栗城のおっさんは頭をかきながら話しかける。

打鉄の調整が終わった後、俺は栗城のおっさんに言われ打鉄を動かした。

『お前度どれほど合っているか調べるから全力で動け、安心しろ前よりはお前でも動きやすくなってるからこける事は無いだろうよ。あんよは上手って歌ってやるか?』

と言われたのでとりあえず動きまくったらISから煙が出た。

整備の人間は頭を抱えありえないものを見たような顔をしている。

とりあえず俺は栗城のおっさんに返事をした。

 

「実は『出来る子』の略だったのかもしれませんね。」

「いいや、断じてそれはねぇ。『でたらめ』かもしくは『デストロイヤー』だ。」

「そんな人を化け物みたいに。」

「今なら化け物の方がまだかわいいね。クソ、こりゃ完全にハードの方でやられていやがる。」

「うちの子は大丈夫なんですか!?先生!!」

「全治一週間のオーバーホールだ、くそったれ。」

「そっすか。じゃあ、試合は無理か、いや~残念だな。」

「笑顔で言ってるんじゃねえよ。って試合って何だ?なんかイベントあったか。」

 

笑顔で話す俺と忌々しいものを見るかのように俺を見るおっさん。

とりあえず詳しい話しをおっさんに話すことにした。

 

「ってことは何か、お前ともう一人の坊主は日本と男の名誉のために戦うのか?」

「僕は違いますけどね。」

「結果的に同じだろうが。しかしこの状態でどうする気なんだ?」

「練習用の打鉄しか使えないんで仕方ないしそれでいくしかないんじゃないんですか?」

「お前それで勝てると思うか?」

「今ある手札で戦うしか無いでしょうに。」

 

そう俺が言うとおっさんはいたずらをするような顔をした。

あ、嫌な予感。さっさと逃げるが吉だな。

 

「じゃあ僕、試合に向けた練習があるんでこれで。」

「まぁ待て、お前に良い話がある。」

「僕にはおっさんの言葉が悪い話という風にしか聞こえません。」

「いいから聞けって。お前に試作機をくれてやる。」

「いりません。僕はこの子で戦います。」

「いいぞ、こいつを使う予定だしな。」

「やめて!!うちの子に何する気!?」

「な~にちょっとだけ改造するだけだ。」

「……真面目な話、何するんですか。」

 

改造という話を聞き、とりあえず話を聞く事を決めた。

おっさんはさらに悪い顔をしている。

 

「いやな、最初に言ったと思うが俺は技術者兼研究者だ。今俺のアイディアの中に一つだけお前が使えそうな改造プランがある。もちろんハード面もほぼ完成していて後はISに組み込むだけだ。」

「そんなのおっさんが勝手にやっていいはず無いじゃないですか、それは倉持技研の物になってるんだろうし。」

「いや、使える。なぜなら既に廃棄された物だしな。」

「…………はぁ?」

「作ってアイディアを提出したは良いが『こんなアホなもの誰が使うんだ!!』って言われて廃棄命令出されてよ、それで仕方なく保管してたんだ。」

「いや、そこは廃棄しろよ。って言うかいい加減何をするつもりか説明してくれ。」

 

そういうとおっさんは俺に改造のプランを説明してきた。

聞いてる最中に俺は何度『このおっさんはアホだ!!』と思ったのかは、あえて言わない。

なぜなら話の始めから終わりまで常に思っていてカウントすらして無いからだ。

改造プランの話が終わるとおっさんはニヤニヤしながら俺に話を続けた。

 

「どうよ?この改造プラン。」

「おっさん。」

「どうした。」

「あんた本当にアホでしょ?」

「馬鹿なガキに言われたくねぇよ。」

「馬鹿なガキでもわかるアホだぞ?第一乗れるかそんなもん。」

「そんな顔で言われても説得力ねぇよ。」

 

そう言われた時の俺の顔はおっさんと同じく悪巧みをしている顔だった。

このおっさん、良い意味でも悪い意味でも頭がおかしい(・・・・・・)

 

「試合まで今日を入れて6日間、間に合うの?」

「徹夜すれば余裕で『ギリギリ』だ。恐らく試合当日の朝には間に合う。」

「ぶっつけ本番で行けと?」

「勝ち目ゼロよりはマシだろ。」

「ほんととんでもないおっさんだな、あんた。って言うかいまさらだけどここに居る人たちに言ってもいいの?そんな事。」

「安心しろ、ここに居るのは俺の直属だ。今この部屋の中には似たような奴しか居ないって事だ。」

「いくらなんでも失礼だろ、おっさん。あんたと一緒なんて。」

「ばーか、存在がでたらめなガキに言われたくはねぇよ。」

 

その後俺と少し話した後おっさんたちは俺のISになる予定だった打鉄を連れて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということでISは今俺はもって無いんだ。」

 

俺は一夏と箒と共に俺の部屋で話していた。

ちなみにはじめは俺のノートを一夏が写しに来るだけだったのだがなぜか箒もついてきたのだ。

まぁ別に困る事でも無いし、わからないことを聞けば彼女がわかる限りのことを教えてくれるからむしろ助かるのでかまわないが。

まとめ終えた後一夏が今日の出来事について聞いてきたから簡単に教えていたのだ。

 

「ISの改造って……いいのか?そんな事して。」

「怒られたらごめんなさいだ。それに勝つためなら何でもやら無いとな。」

「……めちゃくちゃだな。」

「箒の言うとおりめちゃくちゃなおっさんだったよ。」

「「いや、お前もだ。」」

 

織斑夫婦のツッコミを受けてしまった。いじり倒してやろうか?覚えとけ。

そういや一夏の方はどうなってるんだ?

 

「そういや一夏、箒。一夏の方の訓練はどうなってるんだ?」

「一夏が腑抜けきってることがわかった。」

「し、仕方ないだろ!?3年近く触ってなかったんだから。」

「それにしてもあそこまでなまっているとは……」

「まぁまぁ箒も落ち着いて。で箒、真面目に聞きたい事があるんだがいいか?」

「……なんだ?」

「一夏の現在の状態で一番優秀なのはどこだ?」

「……現在の一夏の現在の能力でもっとも優秀なのは『目』だな。」

「やっぱりそうか…」

「『目』?箒も奏も何を言っているんだ?」

 

俺と箒の話しについていけず、一夏は頭にクエッションマークを浮かべながら首をかしげていた。

ここの解説は箒に譲ろう。箒は俺のことを見ていたので手を一夏の方にむけ『どうぞ』と言ったようにした。

 

「……一夏、お前今日だけで何回私の打ち込みをかわせた?」

「………悪い、まったく覚えてない。」

「……10回打ち込んだとしたらお前は3回はかわせている。腑抜けた状態でな。」

「腑抜けた状態って……」

「腑抜けているのだから仕方あるまい、初日にはまったく私の打ち込みがかわせなかったお前が一日でそこまでかわせるようになっているのだ。このまま鍛錬を続ければISでもそれなりに動けるようになるだろう。」

「そうか、なるほど。…ちなみになんで奏は俺の『目』が良いって思ったんだ?」

「初日にお前が箒の木刀をすべてかわして俺のところに逃げてきたから。」

「………サイですか。でもただ打たれるだけの訓練に意味があるってわかってよかったよ。箒、容赦なく俺に打ち込みまくるからほんとに自分が強くなってるかわからなかったんだよな…そうか、箒は俺の長所の『目』を伸ばすためにあの訓練をしていたのか。ごめん、ちょっと疑ってたわ、悪い箒。」

「べ、別にわかれば良い。」

 

………箒の顔を見るに深く考えないで訓練してたなあれ。

多分箒の事だ。『自分から一本取れるまで試合をすれば強くなる』とでも考えていたのだろう。

確かにそれでも長い目で見れば強くなるだろうが1週間しか無い今、それでは一夏が自信が持てなくなるだけで終わりかねない。

どこか成長している、自分の武器になるところを自覚させないと意味があるまい。

恐らく箒の言う『腑抜けた状態』とはただ撃たれ続ける訓練に意味があるのか一夏がわからなくて悩んで身が入らなくなったからだろう。

まぁ問題は解決したし後は二人でがんばるだろう。そう考え俺は一夏に話しかける。

 

「まぁ残り5日間何とかがんばるしかないなお互いに。」

「そうだな出来るだけがんばろう。」

「ちなみに一夏、お前オルコットさんのことどう思ってる?」

「……どういう意味だ?」

 

一夏より先に箒が反応した。おい、別に好きか嫌いかの話じゃないんだ、今はステイしてなさい。

一夏は少し悩んだ後こう続けた。

 

「……疲れそう?」

「……どういう意味だ?一夏。」

「箒、ちょっとステイ、待て。一夏話を続けてもらっていいか?」

「いや、日本についての発言の時は頭に血が上って気が付かなかったが今お前に言われて思い出してみるとなんていうか……常に気を張ってるようにしかおもえないんだよな。」

 

ふむ、一夏がこういうのならそうなんだろう。

一夏は女心はわからないが女性のこういう機敏なところに関してはかなりの精度を誇っていた。俺もそう感じて一夏がそういうのなら恐らくこれで正解なんだろう。

俺は再び頭を悩ませた。そしてその瞬間箒が爆発した。

 

「一体何の話をしているんだ!!お前たち!!」

「い、いや、俺もわかんねぇよ。ただ俺の思ったことを言ってるだけだし。」

「戦う相手の気持ちなどかんがえてどうする!!そんな事より自身の状況を考えろ!!」

「そ、奏、助けてくれ。お前の発言のせいでもあるんだしさ!?」

「夫婦喧嘩は犬も食わん。」

「ふ、夫婦!?」

「だから違うって言ってるだろ!?こいつとはただの幼馴染で!?」

「…………」

 

あらら、箒の機嫌がさらに悪くなっちまった。

せっかく助け舟を出してやったのに、まぁ穴を開けたのはお前だ。責任は取れ、一夏。

 

「箒、この怒りは明日の剣道場で発揮しろ。その分一夏は強くなるだろう……たぶん。」

「多分ってどういうことだよ!?」

「………わかった。一夏覚悟しておけよ?」

「え!?どうしてこうなるんだよ?」

「「わからないお前(一夏)がわるい。」」

 

一夏は本当に訳がわからないのだろう。なぜだ…とつぶやきながらうつむいている。

さて考えたい事もあるしそろそろこの二人を部屋に帰そう。

一夏の嘆きを無視し俺は頭の中で考えを深めていったのであった。

 

 

 

 

貴方の知る最善をなせ。もし貴方がランナーであれば走れ、鐘であれば鳴れ。

                              ~イグナス・バーンスタイン~




ということで栗城 修(クリキ オサム)さんの登場です。
男性科学者(おっさん)です女性(ヒロイン)ではありません。
このおっさんのモチーフは解る人には解るトライガンのガンスミス『マーロン』さんたちですwww見た目もそれに近いですww
正直おっさんとの掛け合いは書いてて楽しかったwww
では読んでいただきありがとうございました~


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第十一話 『彼』のプライド

試合日の前日の放課後。

俺はまた射撃場で銃を撃っていた。

自身が成長しているかどうかはわからないが一応いつも以上に気合は入れているつもりだ。

一夏の方も今では箒の攻めを回避重視で8割はかわせるようになっているらしい。

箒としては一夏と打ち合って試合をしたいのだろうがかわせる様になればなるほど喜びながら自身に話しかけてくる一夏を見ると強くいえないようだった。

まぁ役に立っているならいいだろう。そのうち一夏も埋め合わせはするだろうし……多分。

そう考えていると射撃場にようやく待ちかねた人が来た俺は今度は自身から話しかける。

 

「どうしました?オルコットさん。」

「あら、今度はあなたから話しかけてくるのね、カザネソウ。」

「流石にさっきから覗かれていれば気が付きますよ。」

「気づいてましたの?」

「偶然ですけどね?」

 

少し驚いたようにするセシリアに対し俺は少しおどけたような風に話しかける。

そしてそのまま話を続けようとする。が、先に話し始めたのはセシリアの方だった。

 

「偶然ではないのでしょう?」

「いえいえ、偶然ですよ。」

「それほどの実力を持っているのに嘘をおっしゃい。」

「何の事でしょう?」

「とぼけなくても結構ですわ。もう解っていますもの、あなたのその出鱈目といっていいほどの射撃の腕については。」

 

セシリアも馬鹿では無いし無力ではないのである。

はじめに不審に思ったのはあの怒って帰った後でふと奏の射撃の姿を思い出した時である。

彼の射撃の姿勢を見る限りあのまま撃てば銃がよほどでなければ弾丸は的に当たっている。

自身も射撃を得意とする身、それくらいの事はなんとなくではあるが理解できた。

しかし彼は30分間撃ち続けて的に当たっていたのは一発。一発分の穴のみしか(・・・・・・・・・)確認できなかったのである。

これに違和感を覚えたセシリアは自身で彼の射撃姿をISを利用しながらも確認し唖然とした。

確かに彼は的には一発しか当てていない。

残りの弾は一発目の銃弾の穴を見事に貫通し続けているのだ。

ワンホールショット。ISを利用しても出来るものが少ないこの技術を彼は生身でそれも100m先の的でおこなっているのだ。

セシリアは自身が気が付いたこのような説明をしたのち奏に再び話しかけた。

 

「以上のことに違いはありますか?カザネソウ。」

「……お見事ですよ。オルコットさん。あとフルネームって呼びづらくありません?どちらかだけでいいですよ。」

「結構ですわ、わたくしまだあなたのことを認めておりませんの。」

「さいですか。面倒になったら何時でもどうぞ。」

「質問に答えていただきますわ、カザネソウ。」

「なんでしょうか?」

「あのあなたが愛と平和と言った後わたくしあなたの事を観察させていただきましたわ。」

 

それストーカーじゃないですか?

と言おうとも思ったがジョークが通じる相手ではなかったので奏は黙って聞く事にした。

 

「あなたはなぜ自身があれほどの力を持ちながら女性に媚びるようにしているのですか?プライドはあなたには無いのですの!?」

「その答えを言う前に僕も質問していいですか?」

「………いいですわよ。」

「なぜ君はそこまで肩の力をはって必要以上に強く見せようとするんだい?」

「!?……な…何の事ですの?」

 

明らかに動揺している。これ余りつきすぎるとまた怒ってどっか行っちゃいそうだな~。

仕方ない先に相手のほうを答えるか。

 

「言いたく無いなら別にいいですよ。じゃあ先ほどの質問の答えですが力が強いからといってなぜ威張らないといけないんですか?」

「……力あるものが率先して誇りある自身の立場を示さなければいけないからですわ。そうでなければ守れるものも守れませんわ。」

「僕の考えではちょっと違うんですよ。誰かに自身を示す時にもっとも必要なのは生き様だと。」

「………生き様ですか?」

「ええ、力はそれを示すための一つだと僕は考えています。ちょっと話は変わりますがあなたにとってISってなんですか?」

「……簡単に言えば選ばれたものの力ですわ。」

「そうですか、これは僕の意見だとはじめに言っておくので怒るのは最後にしていただきたい。僕に言わせてもらえばISは人殺しの道具、暴力に過ぎません。それ以上でもそれ以下でも無い。」

「なっ、なんてこと「スイマセン!!…最後まで聞いてください。」っ!?…………」

「ありがとうございます。IS一つあれば凄まじい力が確かに手に入る。それは一個師団にも匹敵するほどのものもある。でもその程度です、力は力でしかない。」

「………」

「僕はそれほどの力は要らない、自分の手に収まる力で十分です。あとは誰かと話し合い分かち合う、笑顔で共に話し合う。その生き方のほうがたかが一個師団程度の力より何百倍も価値がある。そこで笑って、笑顔でいるためなら媚びるような事でもするし、争い合う誰かと誰かの間にも立つ。殴られても馬鹿にされてもへらへら出来る。」

「……」

「プライドは無いのかってさっきおっしゃいましたよね?オルコットさん。」

「………ええ、確かに言いましたわ。」

「僕にとってのプライドはこの生き様で手に入れた今までの笑顔です。」

 

あの砂漠の星で愛と平和を歌い続けたあなたもそうだろう。

そして俺もその生き様を貫いてみせる、そう自身に誓ったのだ。

 

「ではあなたはなぜ力を鍛え上げているの?それほどの力があればもう十分なのでは?」

「腕を落とさないための訓練と言うのもありますが一番はまだ足りないと感じているからですかね?」

「そこまでの腕前で足りないとおっしゃいますの!?」

「僕の目標はどんな状況からも逃げられるようになる事ですからね。」

 

彼のように。たとえ町ひとつがすべて敵になっても誰一人殺すことなく逃げ回れるほどの実力が今の俺には無い。だからこそ、それを目指し鍛えているのだ。

だがセシリアは俺の逃げると言う発言がわからないようだった。

 

「逃げる?なぜですの!?それほどの実力とISがあれば……」

「力に力で向えばその後、またさらに大きな力とぶつかりあうことになりかねない。それだと回りの力ない人もただじゃすまない……それなら、もし誰かに力に襲われるとするのなら…」

 

彼はこう言ったんだ、誰かに力で襲われようとなじられようと攻撃されようとただひたすらにこれを貫きとおしたんだ。

 

「『もしもそうなったら僕は急いで逃げよう。そしてまたほとぼりがさめたら静かに寄りそうよ。』 これが僕の目指す力の使い方ですよ。」

「…………そんなの……」

 

そんなの認められないって言いたいのかい?

でも彼はそれを貫き通した。最後の最後まであの過酷な星でだ。

それに比べればたかがどんなに長くなっても100年程度、やれないと言えないだろう。これほどの力をあたえられて。

しかしセシリアは納得できないのだろうかまだ頭を悩ませていた。

まあとりあえず結論だけは伝えておこう。

 

「質問に簡単に答えるのなら『誰かと笑顔でいること。それが僕の生き様でプライドは得た笑顔。力に関しては誇る気はさらさら無い。』こういうことですかね。もちろん守るべきものが有って逃げられないと感じた時には戦いますがね。納得できるかどうかは別として理解はしていただけたでしょうか。」

「……ええ、理解は出来ましたわ。」

「そいつは良かった。」

「……あなたの質問に関しては後で…試合後にでもお教えしますわ。それまで考えさせてください…」

「ごゆっくりどうぞ。」

「ええ……」

 

そう言ってセシリアはゆっくりと射撃場から離れていった。

………ふう、とりあえず言いたい事はすべて言えたかな?まぁ後は一夏がとどめを刺してくれる。

ここまで援護したんだ、きめなかったらただじゃおかん。

そう考えながら奏は射撃場の訓練を続けたのである。

 

 

 

 

 

試合当日、俺と一夏と箒はアリーナ横の控え室で待ちわびていた。

 

「なぁ奏、お前のISって今日の朝には届くんじゃなかったけ?」

「………来ないんだから仕方が無いだろ。」

「試合開始予定時間まで後10分しかないぞ?」

「10分あればカップラーメンくらい作れる。」

「3分じゃないかそれ?」

「お湯の沸騰込みでの時間だ、今から食うか?」

「いいよ、遠慮しとく。」

「……一夏落ち着け。」

「って言ってもさぁ……」

「……いいから静かにしてろ。」

 

箒さん、キレかかって無いですか?

一夏は自身のISも俺のISも届けられない事に不安を覚えているのか先ほどから落ち着かない。

俺のほうもおっさんは朝には届けると言っていたのに連絡も無い。あのおっさん何やってるんだ?

そうしていると五分後、おっさんが走ってきた。

 

「すまん。間に合ったか!?」

「女性相手なら、おっさん今頃ビンタされてるよ。」

「へっ、野郎相手なら関係ねぇな。早くしろ、準備は出来てる。」

「了解、じゃあ一夏、先に行ってるわ。」

「おう、がんばれよ奏。」

「……行ってこい奏。」

「おう。あ、最後に一夏、忠告だ。」

「何だ?」

 

そう言った瞬間俺は人差し指を銃のようにし一夏に最速で向ける。

恐らく一夏には見えなかっただろう。

 

「今のが見えたか?一夏。」

「い、いや。見えなかった。」

「そうか、じゃあ相手がこれくらい早いと思え。もしくは突然訳の解らない攻撃をしてくると考えろ、そうすりゃ負けないだろう。ようは油断するなよ。」

「お、おう。」

「じゃお前もがんばれよ。」

 

あっけに取られる一夏をおいて俺とおっさんはアリーナの控え室の一室へ向った。

部屋に入ると山田先生が半べそになっていた。

 

「か、風音君!?これなんですか!?」

「僕の打鉄です。」

「打鉄って……原型無いじゃないですか!?」

「そりゃ80%近く別のパーツだしな。」

「……おっさん、最初60%位って言わなかったか?」

「そんな事いったかな?おっさん年だからわかんねぇな。」

「っち、覚えとけ。…山田先生。」

「なんですか!?風音君?」

「後で説明もしますし、反省文や謝罪ならするんで今は行かせてください。」

「………必ずですよ!?」

「了解しました、あ、おっさん。」

「何だクソガキ。」

「このISの名前は?打鉄のまんま?」

「いいや、元になった機体の仮称は『赤銅』。言うなれば『打鉄改-赤銅-』だ。」

「赤銅でいいだろそれ。」

「うるせぇ、一応改造機だろうが。」

「そういやそうだったな、じゃあ行ってくる。」

 

俺はそう言い放ちISを展開した。

その姿は元となった打鉄の姿は最早無かった。

特徴的な宙に浮く二枚のシールドは無くなり、代わりにボデイアーマーが追加されている。

両手共に丸みを帯びていたはずの腕部は四角く、重装甲のような印象を受け、更に左腕部にはチェインガンが付いている。

下半身の方の和風の甲冑のような特徴的なアーマーは印象ががらりと変わりもはや近代兵器の装甲板のような印象を受ける装甲にすべて変更されている。

そして何よりも大きな変化は全体の配色である。

黒ずんだような赤、全体的に赤銅色に染められているのである。

機体の反応はかなりいい。本当に打鉄なのか疑うくらいだ。

これならある程度の力を出せる、そう考えながらアリーナ内に入ると既に青いISを展開したセシリアがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

もしもそうなったら僕は急いで逃げよう。そしてまたほとぼりがさめたら静かに寄りそうよ。

                            ~ヴァッシュ・ザ・スタンピード~




ということで主人公の専用機もとい改造機『打鉄改-赤銅―』です。
全体的に印象ががらりと変わったせいで最早別物です、山田先生他の先生方への説明がんばってくださいwww
さて次回はようやくVSセシリアです。
奏に与えられたISの性能は!?お楽しみに~
では今回も読んでいただきありがとうございました~


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第十二話 蒼い雫

さて試合が始まる前だけど早速問題だ。

既にハイパーセンサーが働いていない、しかもそれどころか脳内に送られてくる情報もノイズが入っているかのように断片的だ。何とか相手のISの名前はわかるが装備とかの情報も断片的だ。…大丈夫か?これ。

流石に6日で仕上げるなんて無理をさせすぎただろうか……まぁいまさら言っても仕方ないな。

さてどうしたものかと考えているとセシリアがコアネットワークを通して声をかけてきた。

 

『カザネソウさん…戦う前に言いたい事といくつか聞きたいことが有るのですが……』

「どうぞ?かまいませんよ。」

『……まずあなたに言われた事を考えてあなたがどのような人かということが少しだけわかりましたわ。』

 

……どういう人間に思われているのだろうか?

まぁ、この後の話を聞けば解るか。俺は何も言わず話をそのまま聞いた。

 

『そしてそのようなプライドと力の考え方があることが初めてわかりましたわ。それではじめにあなたに対して失礼な事を言った事を謝ります。』

「いいですよ。僕も覚えていませんし。」

『ふふ、ありがとうございますわ。あとあなたに聞きたい事は…』

 

なんとなくセシリアの雰囲気は柔らかくなってるな……このまま行けばいい感じに終わりそうだな。

セシリアが何か話そうとしていたがその前にアリーナ内に千冬さんの声が響いた。

 

『これより一年一組のクラス代表生を決めるための試合を開始する。両名準備は言いか?』

「…質問は試合後でいいでしょうか?」

『そうですわね。しかし試合は手は抜きません事よ?』

「お手柔らかにお願いしたいんですがねぇ…」

 

俺の言葉にセシリアは少しだけ微笑んでいる。

機体は相変わらず不調のままだ、この際不調を宣言して逃げるのもありだろう。

だがここで俺が逃げたらセシリアは俺の……いや…断片的な記憶だが恐らく父親について(・・・・・・)本当にわからなくなるだろう、そしてそれは多分彼女のためにはならない……腹を括るか。

そう覚悟を決め声を上げる。

 

「こちらは準備OKです。」

「こちらも何時でもいけます。」

『そうか……では試合開始!!』

 

そして千冬さんの掛け声と共に試合は始まった。

 

 

 

 

開始早々彼女は俺にライフルで攻撃をしながら叫ぶ。

 

「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

そうセシリアが叫ぶとセシリアのISから何かが四つ飛び出してきた。

ISの方が何にか情報を出しているのだろうが残念ながらノイズで解らない。

 

(ミサイルか?頼むからもってくれよ『赤銅』!?)

 

そう考えると四つの何かから突然レーザーが撃ち出された。

始めから回避行動を重視していた俺は何とか不意打ちをかわす事ができたがその後も俺を取り囲むようにして連続してそれが攻撃してくる。

 

(フ●ンネルか!?ってことはセシリアは強●人間!?)

 

アホなことを考えながらも回避をしながら自身のISに慣れる。

流石におっさんが自信を持って言うだけあり普通に動く分にはまったく違和感が無い。

しかしハイパーセンサーは働いていない、送られてくる情報はノイズ入り、下手したら他にもバグあるんじゃねぇの?これ。

……シールドバリアー無しとかは無いだろうな?おっさん。

そう考えながらしばらく回避を重視しながら相手の観察をする事にした。

セシリアのIS「ブルー・ティアーズ」。イギリスの第三世代ISだ。

第三世代ということは特殊兵器の搭載を目標とした世代のはず、ということはこのビットが彼女のメインの武器だろう。

面倒だがかわせないわけではない。だが切り札も恐らくあるだろう。とりあえずまだ見に徹することにしよう。

 

 

 

 

モニタールームで山田真耶、織斑千冬、両先生がたは現在行なわれている試合を見ていた。

公平のため一夏は見学をしておらず箒も一夏と共にいるためここの空間には二人しか居なかった。

試合を見ながら山田先生は話した

 

「風音君、今回はあまりめちゃくちゃに動きませんね、織斑先生。」

「変な話だがISを着ているせいだろう。それに聞くところによるとしっかりと動かすのは今日が初めてだそうじゃないか。」

「本当に変な話ですよね…ISのせいでまともに動けないなんて。」

 

真耶は苦笑いをしながら考えた。

自身の実力が高すぎるためにISに乗ると弱くなるなどでたらめもいいところだ。

だが逆に彼に教えるべき事はISの使い方についてだな、そう彼女は教師として考えた。

一方千冬は不審に思っていた。

現在ISに慣れるため回避を重視しているのはわかる。

だが(あいつ)の動きはそれを考慮しても悪すぎる、いまになって相手をなめる行為を(あいつ)がするとも思えなかった。

おかしいと思った千冬はあのISを造った研究員を呼び出すことにした。

 

 

 

 

一方その頃奏はようやく操作にも慣れさらに何とかノイズのする情報を少しずつ読み取り反撃の準備を整えていた。

回避もはじめは大きく動く事でかわしていたが今では最低限の体捌きのみでかわしている。

そしてセシリアの弱点、恐らく彼女はビットを動かしながらライフルを撃つ事はできない。

 

(よし、大体慣れたし相手の観察も終了。何とかこの機体の使い方についても把握した。あとはこのISがどこまでもつかだな……)

 

先ほどから少しずつではあるがノイズがひどくなってきている。

そろそろ攻めに入るかそう考えているとセシリアから連絡が入った。

 

『どうしましたの?まさかかわすので限界とはおっしゃいませんよね?』

「いや、ワルツなんて踊った事がなくて…どうすればいいのかわからずに困っていたところなんだ。」

『あら、じゃあここでフィナーレにして差し上げますわ。』

「いえいえ舞踏会はここからさ。オルコットさん一つ聞いていいですか?」

『とどめの前に聞いて差し上げますわ。』

「情熱的なフラメンコはお好き?」

『はい?……な!?』

 

奏がそう言った瞬間『赤銅』のスピードがありえないほど上がった。

セシリアは驚きながらも必死に縦横無尽に自身の周りを飛び回るそれを追うが、ハイパーセンサーのおかげで何とか見失わないで済んでいるだけで、体の方はまったく付いていっていなかった。

逃げ出そうとしようにも出ることができず彼女はいわば一人に包囲されていると言っても過言で無い状況だった。

『赤銅』の最大の特徴、それはこの高速戦闘である。

『赤銅』に取り付けられている下半身部の装甲板。それは装甲ではなく8機の大型ブースターユニットである。

さらに脚部に取り付けられたブースターも含めれば計10機のブースターがこの機体に取り付けられていることになる。

奏はこの機体をコントロールしながら頭の中で考えた。

 

(こんなもんで戦わせるなんてやっぱりあのおっさん頭おかしいぞ!?)

 

少しでも操作中油断すれば別の方向に飛んでいきかねない。さらに操作中に必要な反応速度も普通の人間なら反応できないレベルだろう。

 

 

 

栗城の考えとしてはこうである。

『現在のISでの試合はいわばエネルギーの削りあいだ。いくら重装甲でも結局シールドエネルギーは削られちまう。なら最初から回避特化にしちまって誰も追いつけなくしちまえばいい。一応俺の試作機はブリュンヒルデの踏み込み速度を元に造ってあり理論上その速度を維持したままでも戦える。何がだめだったんだろうか…』

と言うアホな考え方と他にもいくつもツッコミ所が満載なのがこの機体だ。

一つ目の突っ込みどころは『機体性能維持するために拡張領域がほとんど潰されている』というところである。

よって積める武器はせいぜい小型の武器2つほどで小型の銃やナイフのみで戦わざるをえないのである。

よってもちろん特殊な武器など積めやしない。

次に『そんな速度で戦える操縦者が居ない』のである。

一応試作した機体に乗ってもらったところ1分もしないうちに叩き返されたらしい。

当たり前だ、戦闘機内から逃げ回る鳥を拳銃で撃てと言っているようなもんだ。やれる人間を探す方が時間がかかる。

最後に『基本的な操作性は確かに高いが、それほど重視されていない』という事である。

なぜなら現在のふつうのISすら使い潰す事ができる人間など居なかったため、現在で十分要求を満たしている。それなのにそれ以上にするために機体の特性を殺すなど馬鹿としかいえないということだ。

こんな改造を施すくらいなら新しい機体を作った方がいいと大半の人は考えるだろう。

だがそんな機体なら俺なら使えるかもしれない。

そう考え俺はおっさんの悪巧みに乗った。

 

 

 

 

 

そして現在セシリアはありとあらゆる方向を必死に撃つが俺にレーザーがかすることすらなかった。

 

(なんてスピードですの!?でもこれならあちらも……いえ、彼ならできるでしょうね!?)

 

そう考えながらセシリアはなんとかこの包囲から抜け出そうとしていた。

しかし俺は逃げ出せないように動きながらチェインガンをセシリアめがけ撃ち、同時におっさんに頼んで造ってもらった特注の銃を領域内から取り出しセシリアではなくビットを狙って撃った。

反応して自身の回避とビットの回避をしようとするがそれが同時に出来ない事は先ほどの観察で解っている、結果的に自身も削られながらビットに多数被弾していく事になった。

俺はそのまま削りとおそうとしたが四つ目のビットを落としたときにアクシデントがまた起こった。今度は8機の大型ブースターユニットすべてが停止したのである。

仕方なく高速戦闘を止めセシリアのほうを向く。

セシリアはまだ諦めておらず手に持つライフルでこちらを狙う。

 

『……どうしましたの?踊りはもうおしまいですの?』

「フラメンコのリズムを取るのにこちらの方が息切れしまして。」

『………じゃあ終わらせてもらいますわ!!』

 

そういうとセシリアはライフルを俺に向け撃つと同時にミサイルを発射した。

俺はライフルを少しの動きでかわした後ほぼ同時に発射直後のミサイル二機を撃ちぬく。

近距離で爆発したためセシリアにダメージが入っただろう。

俺はそのまま脚部ブースターのみで距離をつめセシリアの頭に銃を突きつけ引き金を引く。

 

<―カチン―>

 

弾切れ!?いやISに弾切れなど無いはずだ……

しかし左手のチェインガンで撃つ前にセシリアは自身の状態を建て直し距離をとった。

セシリアは俺がなぜ撃たなかったのか不審でならないようだ。

イカン、どうごまかせばいいのだろうか…

それ以前にそろそろ限界か!?しかし左手のチェインガンはまだいけそうだが…相手のシールドエネルギーも恐らくもう残りわずかだ。ならばギリギリでいけるはず。

俺が思考をまとめていると、アリーナ内に放送が響いた。

 

『クソガキ!!さっさと帰ってきやがれ!!テメェそんな状態で戦ってるんじゃねぇ!!』

『ちょ、ちょっと、落ち着いてください。』

 

栗城のおっさんの叫び声と山田先生の声だ、その後もおっさんの叫び声が聞こえる。

 

『おい!!クソガキ!!お前にそれをくれてやったのはテメェを危険な目にあわせて殺すためじゃねぇんだ!!ヤバイならさっさとそう言え!!』

『風音そういうことだ、試合は中止だ。至急お前は戻れ。』

 

千冬さんの声もする。やべぇ、声から怒りが感じられる。

俺が冷や汗を搔いているとセシリアが声をかけてきた。

 

「どういうことですの!?説明しなさい!!」

「ちょっと機体に不備が起きただけだよ、詳しい話は一夏との試合終了後でいい?」

「………わかりましたわ。」

 

そう言ってセシリアは俺とは不満そうにしながら逆側の控え室に向っていったのだった。

結局俺とセシリアの試合はノーゲーム。そして俺はおっさんに一発殴られ一夏の試合開始前まで千冬さんの説教を受け続けた。

 

 

 

 

すべてをいますぐに知ろうとは無理なこと。雪が解ければ見えてくる。

                                ~ゲーテ~




あ~~~これで第十二話終了ですww
この話だけで3回書き直しましたwww
それでもまだなっとくできねぇ……がんばります……
読んでいただきありがとうございました


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第2回 主人公設定

機体設定とか、作者の話とかそんなの聞きたくねぇえよ!?と言った方はぜひ飛ばしてくださいwww


【名称】 打鉄改―赤銅―

 

【装備】 ・30口径IS用ハンドガン

     ・20口径左腕部チェインガン

                   以上

 

【機体説明】

高速戦闘を仮定して造られた第2世代IS『打鉄』の改造機。

最大の特徴は通常のISでは考えられない高機動戦闘仕様である。

本来の下半身部の装甲は装甲が薄くなっている上に8機の大型ブースター。

さらに脚部にも上記の8機のブースターには劣るものの各足に1機ずつブースターが付いる。

この機体の元となった『赤銅』は通常の第2世代では考えられない機動性と反応速度を実現していた。

だが同時に弱点も多く存在し、

・拡張領域の小ささ(左腕部チェインガンを除けば武器を2つ積めれば良い方)

・操縦性の悪さ

・装甲の薄さ

・攻撃力の低さ

など通常のISと比べると考えられない仕様で、製作側のほうでも既に廃棄が決定した機体である。本来はそのまま廃棄されるはずだったのだが製作者の意向により保持。

その後しばらく放置されていたが『風音奏』の出現により打鉄への改修が決定。打鉄の形状に合わせられ完成した。

セシリアとの戦いでは早急に仕上げたせいかコアと機体、さらには操縦者との接続が悪く戦闘が中止されたが機体自体の問題ではなくどちらかと言えば早急に仕上げたためのバグと言っても過言ではなかった。

これを受けて研究者側のほうで今回の試合で得たデータを元にさらに奏の体に合わせた仕様にする予定である。最終的にはランク適正Dでもまともに動かせる機体を作りあげようとしている。

なお現在このISで奏が出せる実力は約0.4倍である。

ちなみに現在奏から得ている男性パイロットデータはすべて世界に公開されております。

 

 

【IS適正ランクについて】

この小説内でのIS適正ランクについてです。これは作者が勝手に考えてことで原作や他の作者様の作品とは違うと言う事をご了承していただければ幸いです。

・ランクS

 ISを操縦した時の操縦者の能力が1.5倍になる

・ランクA

 ISを操縦した時の操縦者の能力が1.2倍になる

・ランクB

 ISを操縦した時の操縦者の能力が1.0倍になる

・ランクC

 ISを操縦した時の操縦者の能力が0.8倍になる

・ランクD

 ISを操縦した時の操縦者の能力が0.6倍になる

 

他にも一応いろいろと設定はありますがそこら辺はまた別の機会に話させてもらいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【備考っていうか駄弁り】

この打鉄、元になったのは友人の妄想設定です。

このような会話で生まれたのを事後承諾で使いましたw

A「ISってさぁ……ブースターとかでエネルギー消費無いっぽいから回避特化最強じゃね?」

作「いや、追尾弾とかあるだろ。」

A「かわせばいいじゃん。」

作「いやすげー追尾性高いぞ?聞く限り。」

A「じゃあそれより早く動けばいいんじゃね?」

作「無理だろwwww」

A「そっかwwwww」

という厳密な協議の元作成されました。

この作品で使ってるよ~と言うと

A「てめぇ…何していやがる!?おい、マジでやめろ。」

というお褒めの言葉までいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。(※ちゃんと許可は取りました。)

 

そしてその設定を考える上で一番頭を悩ませたのが原作ISでの武器の設定です。

IS内の口径表示は恐らく砲弾の直径を示す言葉だと仮定して書かせてもらっています。

そして普通の機体だと面白くないのでもう回避と反応速度以外はほとんど無能にさせていただきました。

 

これによりなんとこのISでならば奏の実力がなんと0.4倍になります!!……

はい、ぶっちゃけISに通じる高威力のハンドガンがあれば生身で戦った方が断然強いです。

しかしISで戦う事が大前提のIS学園の試合には生身枠などあるはずも無く、むしろ生身で戦うってここに何を学びに来たの?って話です。

よって現在の彼にとって最高のISと言うものがあるのなら『自身の動きの邪魔にならなくて全力で動いても壊れないIS』です。




これを書かせてもらっている1/27現在600達成……もう何がなんだかわからなくなっております。友に『書けよwww』と言われて見切り発車で書き始めたこんな小説ですが楽しんでいただければ幸いです。


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第十三話 父親の記憶

試合が終わった後の更衣室、今頃一夏とセシリアが戦っているのだろう。

俺は制服に着替えながら考えた。先ほどまでおっさんに謝られながら説教されると言うなんともいえない行為をされていて着替える時間が無かったのだ。

試合が終了しアリーナの控え室に戻るとそこには鬼の様な、いや鬼の千冬さんが居た。

千冬さんから指導(物理)を三回受けた後説教をされたのである、途中一夏の試合が開始されなければ恐らく未だに説教をされていたのではないだろうか……多分間違い無い。

鬼が居なくなった後続いてはおっさんの番だった。

『すまん!!』と言いながらの拳骨、これは殴ったことへの謝罪だろうか、それとも殴りながらISについて謝ったのだろうか。間違いなく後者だろう。

その後おっさんはISをしっかり仕上げられなかった事への謝罪7割、俺が自身を大切にしなかったことの説教3割で話し始めた。

最後におっさんは『今回は俺が無茶させちまったところもあるからあまり強くはいえないが次にこんなことしたらただじゃおかねぇからな。あと赤銅はしっかりと仕上げるから安心しろ。あと今回の事は本当にすまなかった。』と言いながら研究所に帰っていった。

しかし今回の事について、これはどう考えても俺が悪い。

言うなればISの不調を感じた時点で試合を棄権していればよかったのだ、そうすれば千冬さんに説教される事もおっさんにあそこまで言われる事は無かったのだ。

おっさんは自身のせいもあると言っていたがまったく関係が無い。

これは俺のわがままだったのである。セシリアからあの時逃げればセシリアの悩みを解決できない、俺はそれがいやだったのだ。

千冬さんも俺が無茶をした理由が俺のわがままだと解っていたからあそこまで怒ったのだろう。

着替えが終わりもっとうまいやり方は無かったのだろうか…そう考えていると更衣室のドアがノックされた。

 

「一夏か?」

「いえ……わたくしですわ。」

「ムラサメさん?」

「……いったい誰ですの!?セシリア・オルコットですわよ!?」

 

と言いながらセシリアはドアを開けて入ってきた、着替え中ならどうするつもりだったのだろうか?

まぁ気にせずに話を進めよう。

 

「二試合目も終わりましたか?お疲れ様です。結果は?」

「……わたくしの負けですわ…試合上は一応勝ちですが、ただの初心者にあそこまで追い詰められるなんて……」

 

と悔しそうにするセシリア。

あ~やっぱりそこは負けちまったか、一夏。でも追い詰められたって事は原作以上に相手のシールドエネルギーを削ったんだろう。

一応いい方向にはいけたのかな?そう考えているとセシリアは話続けた。

 

「一夏さんに聞きましたわ、あなたが今までもそういう風にしてきたことも。そして今回もわたくしの事を気にかけながら戦っていた事も。」

 

一夏の野郎、ばらしやがったな!?……あいつにおごりをさせる時ただじゃ済まさんぞ!!いつもの二倍は食ってやる。

そう一夏の財布を破産させる事を俺は静かに心に決めた。セシリアはそんな事はまったく知らずそのまま話す。

 

「なぜあなたはそこまで人を気にかけますの?それにあれほどあなたの事を馬鹿にしていたわたくしの事を!?」

「う~ん…だってオル…セシリアさんも気にかけてくれたじゃですか?僕の事。」

「……何の事ですの?」

「ほら、僕が初日に射撃場で練習していた時、あの時セシリアさん言ってたじゃない。『せっかくあなたのことだけは見逃してあげようと考えていましたのに』って。それって巻き込まれたようになってた僕のことを気にかけてくれてたんじゃないんですか?」

「……それは…でもわたくしはそれ以外にもいろいろとあなたに失礼な事を…」

「出合って1週間程度で何も失礼な事をしない人間が居るのなら教えてもらいたいくらいですよ。それにせっかくクラスメイトになったんですもん、仲良くしないと損でしょ。」

「………ふぅ、降参ですわ。それがあなたなんですね。」

「そう、これが僕の生き方ラブ() アンド() ピース(平和)さ。」

 

お互いに笑い会うとセシリアはふと真面目な顔になった。

 

「奏さん……一つだけ意見を聞かせてもらえませんか…」

「どうぞ。」

「これは私の父の話なのですが…」

 

そう言ってセシリアは自身の身の上話をしてきた。

簡単に言うと自身の父はとても男らしいとは言えず、いつも母に媚を売っているような印象しかなかった。この父親のせいで男に対しての偏見を持ち、両親の死後擦り寄ってきた連中のせいで気の張った生き方をしなければならなかったらしい。

身の上を話し終えた後セシリアは話を続けた。

 

「男の人に対する偏見と気を張り続けるのは一夏さんと奏さんのおかげで消えましたわ、そういう風な男性も居るとわかりました。でも…」

「自分の父親についてはまだわからないから似たように思える僕の意見が聞きたいって事?」

「……そのとおりですわ。」

「う~ん…僕は君のご両親には会った事が無いから断言は出来ないけどそれでもいい?」

「!!何かわかりましたの!?」

「い、いや、解ったってほどの事じゃないんだ。ただ君のお父さんみたいに僕が行動するとしたら、多分よっぽど君のお母さんの事が好きだったんじゃないの?」

「……どういうことですか?」

「いや、君のお母さんがいくら立派だって言っても足を引っ張ろうと難癖つける奴はいくらでも居るじゃないか。」

「………確かに居るでしょうね…」

「でも横にどうしようもない男が居れば攻められるのは基本的にその人だ。多分いろいろ他の大人たちにも言われてたんじゃないの?」

「……ええ、言われておりましたわ。」

 

セシリア自身の記憶にもある。大人たちが影で自身の母親の事を『あの女は男の趣味が悪い』と言っていたり、『あの男こそオルコット家をあらわしているな』『あんな男を婿入りさせるとはオルコット家は頭がおかしいのでは?』などと馬鹿にされていた。

奏はそのまま話を続ける。

 

「多分だけど君のお父さんはお母さんが悪く言われるのが嫌だったんじゃないの?自身ではどうやっても君のお母さんより優秀ではいられない、いわれの無い悪意から守る力は無い。ならいっそうの事役立たずを演じていれば非難や馬鹿にされるのは自分だけになるんじゃないか、ってね。」

「そんな!?……」

「でも君のお母さんだって優秀な人なんだろ?なら本当に役立たずな人を、噂になるようなところに出したりすると思う?そうしたら馬鹿にされるのは自分の家なのに。」

「………」

「だとしたら多分、きみのお母さんもお父さんに頼っていたんじゃないかな、自身を守るためにどこまでも誰からにも馬鹿にされることを選んだ男性の事をさ。結構苦しいんだよ、ずっと馬鹿にされ続けるって。僕もそんなことになるくらいなら説得して誤解や悪口を消そうとするし、それを我慢し続けるのは今の僕には無理だ。」

「………そうなのでしょうか…」

「いや、あくまで可能性の話だよ。本当にそうだったのかは、わからない。でも僕はそう感じたって話さ。」

「……ありがとうございますわ。話を聞いてくださって。」

「いえいえ~困ったときはお互い様ってことで。」

「あと…この話は人に言わないでもらってもよろしいでしょうか?」

「何の話でしたっけ?僕これから織斑先生に提出しなくちゃいけない反省文で頭が一杯で何にも覚えていませんね。」

 

そうとぼけた風に言うとセシリアはくすくすと笑い出した。

さてこの調子なら一夏の所に言っても大丈夫そうだな。

 

「さて、じゃあ一夏の方にも顔を出すとしますか。セシリアさんはどうします。」

「!?え…あ、わたくしのことは呼び捨てで結構ですわよ、奏さん。」

 

………今の反応、一夏の所に行くと言った瞬間の顔、そして露骨な話題の変更…間違いないな。

あいつどこまで撃墜数を稼ぐつもりなんだ!?

試しに俺は真面目な顔でボソっと言葉を発する。

 

「………ほれたな。」

「!?え!?ち、違いますわ!?わたくしは…でも嫌いって訳でもなくて!!ただですわね、一夏さんのことが!?」

「………僕は既に一夏を振り向かせるために箒に少しだけ協力している。」

「!?なんですって……」

 

盛大にあわてた後俺の言葉を聞いてシシリアも真面目な顔をした。

これもう白状してますよね。まぁ話を続けよう。

 

「セシリア、お前が一夏のことをどうとも思っていないなら僕はそれでもいい。だが仮に一夏に対してしっかりと好意があるのなら協力するのもやぶさかではない…」

「……何を要求しますの?」

「いや、要求は一切無い。ただ本当に一夏のことが好きかどうか宣言してくれれば良い。」

「……いいでしょう、確かにわたくしは一夏さんのことが…す、好きですわ。」

「認めるんだな?」

「認めますわ。」

「何を認めるんだ?」

 

と声をかけながら一夏が更衣室に入ってきた。

とたんにセシリアは顔を真っ赤にさせた。

俺は気にせず話しかける。

 

「おう、一夏お疲れ。どこから聞いてた?」

「いや、セシリアの認めますってとこだけ。」

「ああ、うん。ただ僕と仲直りしてただけだよ、お前の方はどうなんだ。」

「おう、試合の後に少しだけ話してお互いに謝りあったさ。な、セシリア。」

「は、はぃ!?」

 

完全に不意打ち過ぎて感情がパンクしかけてるしてるなこれ。

多分恥ずかしいのを我慢して俺に言ったことと、突然の一夏の襲来に聞かれていたのではと言う恥ずかしさと少しばかりの期待。そして、まったく聞かれていなかったと言う落ちが一挙に頭の中に入ってきて一杯一杯なのだろう。

目がぐるぐる回っているようにも感じる。よし、さらにいじろう。

 

「そういや一夏、お前セシリアになんて謝ったんだ?正確に話せよ。」

「いや、セシリアが男の事を馬鹿にしてたのは今までろくな男が居なかったからだって言ってからさ、『じゃあ俺がしっかりとした男であり続けるから、それを近くで見続けてくれ』そうすればしっかりとした男も居るってわかるし。あとお前との話でセシリアが無理してるって感じたからさ『これからは周りの人を頼ってもいいんだぜ?俺も何かあれば必ずセシリアを助ける、約束する』って約束を…奏?どうした?」

「…………」

 

こいつ…やはりすごいな……いろんな意味で尊敬する。

たぶんこいつとしては『俺みたいな奴でもそういう風にしていられるんだ、他にもいい男は一杯いるさ。』的な台詞と『周りを頼ってもいいんだぜ』って感じの台詞を言ったつもりなんだろう。

だが、今までろくな男に会っていないで一人でがんばってきたという彼女からしてみれば、他の男からのその発言はほぼ告白みたいなものじゃ……

横目でセシリアを見るとその台詞を思い出したのか完全にパンクして意識が朦朧としてる。南無。

とりあえずセシリアを更衣室から出そう、このままここにおいても問題はなさそうだけど。

 

「セシリアさーん…大丈夫ですか~。」

「……はひ…」

「おい、奏。セシリアはどうしたんだ?」

 

お前のせいだよ!?

と言おうと思ったがその前に一夏が動いた。

 

「まさかセシリア!?病気か!?顔が赤く見えるが熱は無いよな?」

「え!?ちょ、いいいい一夏さん!?」

 

といいながらセシリアのおでこに手を当てて真面目な顔を近づける一夏、先ほどよりもさらに顔が赤くなるセシリア…もうどうにでもなれ。

 

「え!?い、ちょ……だ、大丈夫ですわ!!!失礼します!!!!」

 

といいながらセシリアは更衣室から逃げていった……よし、俺は何も見なかったことにしよう。

 

「……なんだったんだ?セシリアの奴。」

「一夏、お前はいつか絶対に大物になる。」

「何言ってるんだ?奏も?」

 

もしくは腹を刺されてNice boatだ。

まぁこの話はもういいや、あまりかかわるとこっちが危ない。

 

「まぁいいや、で一夏、試合はどうだった。」

「もう少しのところでエネルギー切れ。何とか互角には戦えていたんだけどさ…奏は?」

「機体不良でノーゲーム。おまけに千冬さんの説教に反省文。」

「……やっぱり無茶してたのか、セシリアが疑問にしてたぞ?」

「そうか?何にも言われなかったけど。」

「なんか思うところでも有ったんじゃないか?」

「そうなんだろうか?」

 

一夏は少し笑いながらそう言ってきた、何か知ってるな?まぁ詳しく説明したらまたセシリアに怒られそうだし良いか。

 

「まぁ次は負けないようにがんばろうぜ奏。」

「僕は逃げる。敵討ちは一夏に任せた。」

「自分でやれよ。でも鍛錬は続けるんだろ?」

「一応はねぇ~僕IS動かすの苦手だし。訓練あるのみだね。」

「そうだな、俺もがんばらなきゃ…千冬姉の名前を潰すわけにはいかない…」

「……そっか…」

 

他愛も無い話をしながらその後俺たちは着替えを終え、自身の寮に戻っていった。

 

 

 

 

努力する人は希望を語り、怠ける人は不満を語る

                                    ~井上靖~




はい、ということで今回はこれで終了です。
セシパパは友人との微妙なキャラをどこまでかっこよく出来るかの話に出てきたのをそのまま書きましたww
今回も読んでいただきありがとうございました~


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第十四話 クラス代表

クラス代表決定試合の翌日、俺は死んだような顔をしながら朝の時間を過していた。

近寄りがたい雰囲気が出ているのか一夏すら話しかけてこない。

何が有ったのかというと、あの試合の後寮の自室に戻り夕飯を食ってさて何をやろうかと考えている時に千冬(おに)が襲来したのである。

何かと思うと説教の続きが始まった。

逃げる事も出来ず俺は結局午前2時ほどまで説教を受けた。だが最後らへんは最早俺に対する愚痴のようになっていたが……まぁ気にしないで置こう。

これだけなら別にこんな風にはなりやしない、問題はその後である。反省文を朝のS.H.R(ショートホームルーム)までに2000文字×20枚。適当な事を書こう物なら確実にまた説教をされるだろう。

そう考え俺は睡眠時間も関係無しにペンをはしらせた。反省文を何とか書き上げた頃には既に6時半、つまり徹夜したのである。

ああ、もうこの文のなかに何度『生まれてきてごめんなさい』とか『息を吸ってスイマセン』とか『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ』と永遠に書きたくなったことか。

いろいろと終えた俺は静かに自分の席に座りながら燃え尽きていたのだった。するとS.H.Rがそろそろ始まるのか先生がたが教室に入って来た。

千冬さんは俺を見るとふっと笑いながら話しかけてきた。

 

「風音、反省文の調子はどうだ?」

「自信作ですよ、多分ご満足いただけるものが書けたと思います、ゴメンナサイ。」

「そうか、それは楽しみだ。ちなみに一つ言っておこう。」

「なんでしょうか織斑先生、スイマセン。」

「お前の書いた反省文の内、私が気に入らなかった所のある紙はカウントされない。もちろん書き直しだ。」

「了解しました。許してください。」

「ええい、めんどくさいから話すときの最後に一々謝罪を入れるな!!」

「解りました……」

 

やっぱこの人ドSだ、絶対俺のことをいじめて楽しんでやがる。

そう考え俺は机にガクッと顔をつける。

一夏そんなかわいそうなものを見る目でこっちを見るなよ、本当に泣きたくなってくる。

そして山田先生が教壇に立つとS.H.Rが始まった。

 

「皆さんおはようございます。では、まずはじめの連絡として一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

クラス内の女子生徒たちが騒ぎ出す。ああ、頭に響く。

隣を見ると一夏がきょとんとした顔をしている。そしてはっとしたような顔をして挙手をした。

 

「先生、質問です!!」

「はい、織斑くん。」

「なんで俺がクラス代表に選ばれたんですか!?勝ったのはセシリアですし、それに奏だって!?」

「それは――」

「わたくしが辞退したからですわ。」

 

と言いセシリアは席から立ち上がって教壇の近くに行きクラス全体を見るようにして話し始めた。

 

「わたくしはあの戦いで確かに勝つことが出来ましたわ、でも一夏さんはわずか一週間であそこまでわたくしに対し互角以上に戦う事ができましたわ。それにわたくしは頭に血が上っていたとはいえクラスメイトに対して言ってはいけないことを言ってしまいましたわ。今謝っても遅いかもしれませんが皆さんすみませんでした。」

 

そう言ってセシリアは深々と頭を下げてクラス全員に謝罪した。

 

「そんなことをした私がクラスの代表になる事などできませんわ。」

「セシリア……お前がそういうならわかったよ。みんなも許してあげてくれないか?俺からも頼む。」

「そういうことなら僕からもお願いするよ。」

 

そう言って俺たち二人も立ち上がり後ろを向き頭を下げた。

喧嘩をしていた当人たちがこうすれば回りも強くはいえないだろう。

一夏はそんなこと考えずに、ただ一緒に謝っただけだと思うけど。

クラスメートの反応も悪くないようだしこの問題はこれで大丈夫かな?

 

「ということでクラス代表は一夏で決定だね。良かったね。」

「いや、奏。なんでお前は入ってないんだよ。」

「僕のIS、改造機で現在も安定して無いから何時今回の試合と同じことになるか解らないからね。仕方ないでしょ。」

「畜生、お前狙ってやったわけじゃないよな?」

「そんなわけ無いだろ!?まぁがんばれよ。よっ!!クラス代表。」

 

一夏は心底うんざりした顔をしている。

ははは、どうだ途中いろいろと面倒な事になったが結果的には原作よりいい結果に終わったんじゃないか?だったらいいじゃないか一夏君。

俺がそう考えてニヤニヤしていると一夏もはっとした顔をした後、顔をにやっとさせた。こいつ何を考えやがった?

 

「先生、クラス代表に補佐をつける事は可能でしょうか?」

「ハイ、可能ですよ。ね、織斑先生。」

「ああ、前例が無いわけじゃないしな。」

「………おい、一夏さん?」

「風音 奏。クラス代表権限でお前をクラス代表補佐にする。」

「はぁ!?そんなことお前の勝手でできるはず無いだろ!?」

「いいえ、皆さんも問題ありませんよね?」

「セシリアさん!?」

「賛成!!」「そういえば二人の喧嘩を止めようとしてたしぴったりかも」「いいと思いますよ。」

「皆さ~ん!?」

 

クソ!!セシリアもニヤニヤしてやがるし他のクラスメイトもすごく乗り気だ。って言うか千冬さん俺のこと笑ってますよね?絶対。

そうだ!山田先生なら……ああ、あの顔はいい案だって顔だわ。

俺は一夏をにらむと今度は一夏が俺のことを見ながらニヤニヤしている。お前俺に面倒な事は押し付ける気満々だろ。

クラス全体が落ち着き始めると一夏はボソっと話し始めた

 

「しかしクラス代表戦か……」

「あ、それと一夏さん」

「はい?」

 

セシリアに声をかけられ気の抜けた返事をする一夏。

 

「一夏さんのIS訓練お手伝いさせてください。そうすればみるみるうちに成長を遂げ――」

<―バンッ―>

 

という机を叩く音がする見ると箒が机を叩いて立ち上がっていた。

箒はセシリアをにらみつけるように見つめセシリアもそれを余裕の態度で見つめている。

おお、女の戦いが勃発か!?

 

「あいにくだが、一夏の教官は足りている。私が、直接頼まれたからな。」

「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに何かご用かしら?」

「ら、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ。い、一夏がどうしてもと助けてくれと懇願するからだ」

「え、箒ってランクCなのか……?」

「一夏、俺はDランクだぜ。」

「「「「「「「………え?」」」」」」」

「座れ、馬鹿ども。」

 

二人の女の戦いは俺のDランク発言によるクラス中の注目を集めた発言と千冬さんの出席簿アタックにより痛み分けで終了した。痛そうだな……

 

「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優劣を付けようとするな。」

 

なんと千冬さんらしい情け容赦ないお言葉で。セシリアは何か言いたそうだが千冬さん相手じゃ何もいえないだろう。

 

「それに篠ノ之が言うようにランクなど強さ、優秀さとは関係が無い。今言ったようにオルコットをあそこまで追い詰めた風音はランクDだ。」

「どうも、このクラス一番の落ちこぼれです。」

「ふざけるな馬鹿者め。昨日のこいつの試合を見た者なら私の言っている事がわかるだろう。どんなにランクが高かろうと低かろうと大切なのは自身の戦い方とどれほど自身のことを理解しているかだ。だが馬鹿な無茶をしようものなら現在の風音のようになるぞ。」

「昨日から一切眠らず朝まで反省文書いてました。眠くて仕方がありません。」

「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ。自重しろ。後風音、私の発言に補佐をしようとしているのか、それとも茶々を入れているのかどちらだ。」

「もちろん前者ですよ。」

「………まぁいいだろう。」

 

あぶねぇ、頭を無心にしてからかうのも楽じゃない。って言うかなんで俺こんなにがんばって茶々入れてるんだ?まぁいいか。

千冬さんはS.H.Rを終わらせるためか教壇の前に立った。

 

「クラス代表は織斑一夏。そしてその補佐に風音奏。全員異存はないな。」

 

はーいと言うクラス中からの返事で朝のS.H.Rは終了した。

 

 

 

 

S.H.R終了後俺は席に座りながら一夏と話していると、箒、セシリアに机を叩かれた。

一体どうしたと言うんだ?

 

「ど、どうしました?お二人とも。」

「どうしましたもこうしましたもありませんよ!!」

「奏、お前一体なんなんだ!?」

「箒もセシリアもおちついて?一夏なんだと思う?」

「いや、箒はお前の実力が良く解らなくてセシリアはお前が本当にランクDなのかの確認。」

「箒、僕の実力なんてただ逃げ回ることを目的に鍛えてるだけだ。」

 

と俺が言うとセシリアが口を出した。

 

「それにしては異常じゃありませんこと!?100m先の的でワンホールショットするような実力で何から逃げるつもりですの!?」

「奏~ワンホールショットって何だ?」

「弾丸で穴をあけた後その穴狙って弾を通す技の事。」

「………でたらめだな。」

 

箒は唖然として俺の見る。

 

「それにセシリアも俺がランクDなのかは本当。昨日の試合も不意打ちに機体性能で自分のフィールドで戦ったから勝てただけでまた戦ったらどうなるか解らないぞ?」

 

その俺の発言に今度は箒が反応した。

 

「……山田先生から聞いたのだがお前のISは、昨日始めからハイパーセンサーが働いていない上に普通ならまともに戦えない状況だったらしいじゃないか。」

「本当ですの!?」

「いや、途中からだって。それに山田先生も大げさに言ってるだけだって!!」

「ははは、奏は大変そうだな。」

「「一夏(さん)も何か言ってくれ(ください)!!」」

「………二人に一つだけ言うと、こいつのでたらめは今に始まった事じゃないんだ。つまり……」

「「つまり?」」

「諦めろ。」

「一夏、それじゃあ僕がでたらめみたいじゃないか。」

「「「お前(あなた)はでたらめだ(ですわ)、自覚しろ(しなさい)!!」」」

「……解せぬ。」

 

その後すぐに次の授業の先生が来て一日が始まった。

しかし何とか今回の事件は丸く収められた。原作だとここらへんどうまとめてたっけ…

まぁ俺が介入しているせいでもう普通には進まないんだ、静かに隠れてればいいんだろうけどそれは性に合わないからな。思い出せて何とかできれば介入しよう。静かに今後の予定を考えながら授業を受けた。

 

 

 

 

 

昨日より今日、今日より明日、明日より明後日、日々変わり続ける事が大切です。

                                  ~パスカル・バルボ~




ということでクラス代表決定試合はこれで終了とさせていただきます。
次からはセカンド幼馴染登場!!とさせたいのですが数話はさんでからになります。
では今回も読んでいただきありがとうございましたwww


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第十五話 打鉄という機体

時間は過ぎそろそろ四月も終わりに差し掛かった頃放課後におっさんに呼び出されまたもや俺はアリーナ近くの控え室に向っていた。

ようやく俺のISも完成したらしく、テストもしっかりと行いバグはもう無いらしいが今回は念には念を入れしっかりと俺が着た状態でテストをおこなうらしい。

アリーナに向うとおっさんがISの最後のチェックをしていた。こちらがきたことにも気が付いていないようなのでとりあえず声をかけよう。

 

「おっさん。来たぞ?」

「おお、クソガキ。調子はどうだ?」

「何とかこの女性の国で暮してるよ。正直今すぐにでも逃げ出したい。」

「贅沢言うねぇ。他の男なら代わって欲しいって言う奴だって居るだろうし。」

「じゃあおっさん。代わるか?」

「は、頼まれてもごめんだね。どうせ見世物にされるのが落ちだろうが。」

「上野動物園のパンダを就職先に選ぼうかと思うくらいにはね。」

「パンダのほうがまだましか、そりゃご愁傷様だな。じゃあそろそろISのチェックは終了だ。お前に合わせてさらに調整はしてある、だが少しでも違和感があればすぐに言えよ?」

「了解。じゃあ一回ISスーツに着替えてくるわ。」

「ああ、それについてだがこれを着ろ。」

 

と言って思いだしたようにおっさんは何かを渡してきた。

 

「あん?……何この全身タイツ。」

「ウエットスーツって言えよ。このISスーツはお前のIS適正の低さを補うための苦肉の策だ。」

「ふーん…どんな効果があるんで?」

「元々ISスーツってのは体を動かす際に筋肉から出る電気信号等を増幅してISに伝達する役割がある。」

「あ~授業で言ってたわ、そんな事。」

「勉強はしっかりしろ。お前の場合ISとの適正が低いからどうしても頭からISに命令をする形だとラグが出来ちまう。それを出来る限り減らすためにほぼ全身タイプのISスーツを作らせてもらった。特殊装備とかを使う際には意味が無いが通常に動く分なら少しはマシになるだろうよ。」

「テスト前に必死になるタイプなんで………あとおっさん、わかっていると思うが僕はどの企業にも所属出来ないし、するつもりはないからこういうの渡されてもうごかねぇぞ?」

「ガキが馬鹿なこと言ってるんじゃねぇよ。これは前に中途半端なISを渡した謝罪だ。」

「いいって言ってんのに、まあありがたくもらうわ。」

 

俺はおっさんに礼を言ってスーツに着替える。

通常のISスーツって言っても俺が知ってる男性用は当たり前だが一夏だけなんだよな……前回俺は着たのも学園側から渡された奴だし。

まぁそれと比べ袖が長く、へそも出てない。完全なウエットスーツに近い形だった。

その後おっさんの所に戻るとおっさんが話しかける。

 

「は、様になってるぞ?」

「そいつはどうも。」

「嫌味じゃねぇよ。あとこれがお前のISの待機形態だ大事に扱えよ?」

「……誰のデザイン?」

「さぁそこら辺は俺は知れねぇ、気に食わなかったか?」

「いや、いいセンスだと思ってさ。」

 

そう言って驚きながら俺は待機形態と言われたサングラスを受け取る。

オレンジ色掛かったレンズに稲妻のようなデザインの左右のフレーム。

完全にヴァッシュのサングラスだ。

俺は顔にそれを付けてみる。

 

「別に顔につけなくても発動はするぞ?たとえば手に持っておくとか首に下げるとかでもいける。」

「そうなの?でもつけてみたくはなるじゃない。邪魔になるわけでもないし。」

「それもそうだな。こっちは何時でもいけるぞ?」

「じゃあ離れて、発動させる。」

「やりづらかったらISの名称を呼べ、こい!とかつけてもいいらしいぞ。」

「了解、来い、『赤銅』。」

 

そう口に出すとISが展開する。

見た目は前回と変わらないが今回はしっかり360°すべてが見える。

情報にもノイズは無く今のところ問題は無いかと思ったときふと気が付く。

 

「おっさん、サングラスが消えないんだが。」

「あん?何だ、問題でも起きてるのか?少し待て、こちらの方で調べる。」

「いや、動くのには問題はなさそうだし、何かのバグじゃなければこのままでもいいよ。」

「……何か少しでもおかしいと感じたらすぐに知らせろ、コアネットワークは大丈夫か?」

「今のところノイズもなし、アリーナ内に出てもいいんだっけ?」

「ああ、少しだけだがな。」

「じゃあちょっと行ってくるわ。」

 

そう言って俺は「赤銅」でアリーナに飛び出す。

前回より動く時に抵抗がない、まるで厚着をしていたのを脱いだかのようだ。

しかしそれでもまだ自身にまとわり付く様な感覚があるな…これは俺のIS適正が低いせいだろうが。

しばらく体を動かすとおっさんから連絡が入った。

 

『調子はどうだ?』

「前回と比べてもいいね。動くだけなら普通に動ける。」

『全力はいけそうか?』

「壊してもいいのなら。」

『勘弁しろよ、俺とISへの虐待だぞ。』

「やりませんよっと、武器に関しては何か変更点は?」

『基本的に無しだ。装着型のチェインガンは命中精度を高めるように調整している程度で、ハンドガンは出来るだけ弾速と精密射撃ができるよう精度を高めている。お前の要求のとおりだろ?』

「ありがとうございますよ、少し撃ってみても?」

『許可は取ってある、ターゲットは一つしかないけど我慢しろ。』

 

俺はターゲットが現れた方を向き距離を出来るだけとる。

右手にハンドガンを構え狙いをつける、軽く200mは離れているのによく見えるなぁ。

ただISの機体自体が問題だな、構えには問題は無いが早撃ちをやろう物ならどこまで持つか……とりあえずいつもの癖で6発、弾丸を撃つ。

宙に浮かぶ半透明のターゲットのど真ん中の同じ箇所にすべてヒットした。

 

『お見事。』

「いや、いい銃だね。お世辞抜きに。」

『はっ、お褒め頂き誠にありがとうございますってか。まぁうちの技術者が丹精込めて作ったんだ大切にしろよ?』

「おっさんからもお礼いっといてよ。」

『おう。で、どうする?もう少しやるか?』

「いやもういいや。今からそっちに戻る。」

『了解、問題はなさそうか?』

「あったら今頃クレーマーのごとく吼えてるさ。」

『おーこえぇ、解ったからさっさと戻って来い。』

「了解。」

 

そうおっさんと笑いあいながら俺のISの最終調整は終了した。

 

 

 

 

俺は制服に着替えおっさんの所に戻るとおっさんは何かを考えているようだった。

 

「どうしたおっさん。」

「いやな……ちょっと悩んでただけだ。」

「僕関係?」

「いや違…わないか。なぁ坊主。」

「なに?」

「お前のISのデータ使わせてもらえないか?」

「………世界に公開されてる所ならご自由に。」

「いや、パイロットデータじゃなくてISの方の蓄積データだ。」

「はぁ!?あんな出鱈目なデータで何する気だよ?また同じようなの作るつもりか?」

 

俺がおっさんを茶化すように言うとおっさんは真面目な顔をしたままだ。

 

「……ネタじゃなくてマジな事でもあるの?」

「……この学園内でな、現在うちの研究所の協力で新型の第三世代ISを造ってる嬢ちゃんがいるんだ。」

「その子にこんな出鱈目な機体作らせるのか?」

「いや、流石にその子にこんなもん乗らせる気はない。」

「製作者がこんなもん言うなよ……」

「でだな、その子の作っているISなんだが、現在雲行きが良くない。」

「研究が挫折でもしてるの?」

「いや、もう一人の坊主に与えられた白式(びゃくしき)の研究の方が優先されててな、事実上の研究停止になってるんだわ。」

「それで僕になにができるって?」

「お前の『赤銅』は一応『打鉄』の改造機だ。現在作られてる第三世代ISも『打鉄』の発展系で防御よりも機動性を重視している。」

「つまりほしいのは僕のめちゃくちゃな機動で得られる、高速機動時の『打鉄』系統のISのデータってこと?」

「自分でめちゃくちゃ言うなよ。つまりそういうことだ。」

「……おっさんわかって言ってる?」

「……ああ、俺の個人的な頼みとはいえ、言っている事はいわばお前に『うちの企業のIS開発を手伝え』って言ってるようなもんだ。これを知ったほかの企業がお前に協力を求めてきかねないことは十分承知している。もちろんこちらでも最大限、情報管理は徹底する。だから頼めないだろうか……俺に出来る事ならなんでもする。」

「いや、そっちじゃなくてさ。」

「…なんだ?」

「困ってる女の子がいるって言われて助けに行かないとか男じゃないでしょ?」

 

笑顔で俺がそういうと、おっさんはさっきまで苦虫を噛んだような顔をしていたのに俺の言葉を聞いた後一瞬きょとんとした後苦笑いをしだした。

 

「………ばーか、かっこつけてるんじゃねぇよ。」

「それにおっさんに出来る事ならなんでもするって言われてもなぁ……かわいい女の子ならやる気も出るんだけど。僕も。」

「言ってろ……すまん、恩に着る。」

「気にしないでよ。おっさんは何を手伝ってるの?」

「一応兵器の開発関係は俺のチームで手伝ってるんだが、いかせん人数が足りなくてな。」

「本体の方は彼女が?」

「ああ、一人で作ってる。」

「一人!?おっさんもそっち手伝えよ!?」

「彼女がそれを拒否してるんだ。」

「……もしかしてかなり面倒ごと?」

「いや、それなりに面倒ごとだ。」

「大差ないよ…はめたなおっさん。」

「困ってる女の子のためなんでな。それに嬢ちゃんとお前なら俺たちのチームなら嬢ちゃんを迷わず選ぶ。」

「それは仕方ないか、僕だってそうする。」

 

誰だってかわいい女の子と男だったら女の子を選ぶだろう。

しかし現在のデータだけで大丈夫なのだろうか?

 

「おっさん、データはどうやってわたすつもりなんだ?」

「面倒な事に俺は直接彼女に会うといろいろとあってだな、後でお前にまとめたデータを送る、その後お前から渡してくれ。」

「了解、おっさんも彼女への連絡頼むよ?」

「ああ、こちらからも頼むよ。」

 

こうして俺は秘密裏にISの開発にかかわる事になった。

 

 

 

 

 

そしてその日の夕食時、俺は一夏、箒、セシリアと共に夕食を食べに来た。

 

「ということで僕のISはサングラスになりました。」

「いいな~、俺なんてガントレットだぜ?アクセサリーじゃ無いし。そういやセシリアはなんなんだ?」

「わたくしのはこのイヤーカフスですわ。」

「「へ~」」

 

と言った風に話す、箒は話に入ってこれないが嫌なのかムスっとしている。

一夏、本来こういうとこの管理はお前がやるべきじゃない?そう考えながらも気づいてしまったんだ放置は出来まい。

 

「んで一夏、これからも箒との訓練は続けるんだろ?」

「うん?ああ、今もやってもらってるし箒さえ良ければこれからも続けて行きたいと考えてる。セシリアとの試合であそこまで戦えたのは箒のおかげだと思うしさ。」

「!?…そ、そうか。なら私ももっときつく鍛えてやるとしよう覚悟しろよ?」

 

と箒の機嫌が良くなると今度はセシリアのほうがしょぼんとする……お前はさっきまで一夏と仲良くしてたでしょうが、我慢しなさい。

もうかまわずに飯を食べていると端末の方に着信がある、おっさんからだな。

一夏が俺に気が付き話しかける。

 

「どうした奏?」

「いや、僕のIS作った人から連絡。」

「なんだって?」

「……一夏、あまりそういうことを聞くな、言えない話だと奏が困るだろう。」

「いや、それほどあれな話じゃないよ、箒。ただデータをある人に渡して欲しいってだけ。」

「誰にですの?」

「え~っと……一年四組の更識 簪(さらしき かんざし)?」

 

おい、一年生でIS造ってるってどういうことだ?まだ学校生活が始まってから一ヶ月経つかたたないかってくらいだぞ?

一夏と箒はふーんと言った顔をしているがセシリアが何か考えている、知り合いか?

 

「セシリア、知り合い?」

「いえ、更識と言ったら確か現在のロシア代表もそのような名前でしたの、もしかして関係者かと。」

「ふーん、まぁいいか。問題は僕は彼女の顔は知らない事だな。」

「普通に渡しに行けばいいんじゃないか?」

 

一夏は当たり前のことのように言う。

 

「一夏、お前未だに僕たちは他のクラスの前を通るたびにじろじろみられてるんだぞ?クラスに入って声をかけてみろ、大混乱が起こりかねんぞ。」

「いや、そんな大げさな……」

「じゃあ代わりに一夏、お前が行くか?」

「……いや遠慮しとく。箒とセシリアは会った事は?もしくは4組に知り合いとか。」

「私は無いな。」

「わたくしもですわ。」

 

どうしよう、もう手詰まりか?こうなったら大混乱を覚悟で突っ込もうか……

そうすると近くの方から声がかかった。

 

「確か本音ちゃんの知り合いが居るんじゃなかったかしら?」

「「「「え?」」」」

 

驚き振り向くとそこにはクラスメイトの鏡ナギと鷹月 静寐が居た。

恐らく彼女たちも夕食だろう。手には夕食が乗ったお盆を持っている。

鷹月の方がこちらに話しかけてくる。

 

「こんばんわ、あなたたちも夕食?」

「僕は今食べ終わったとこかな、あと本当に?それ。本音さんと?」

「確かそんな事言ってたわよね。四組に知り合いのカンちゃんが居る~って。」

「鷹月さんそれ本当?」

「嘘を言っても仕方ないじゃない。ねぇナギ。」

「私ものほほんちゃんがそんな事言ってた気がする。」

 

と二人は話す。

かんちゃんが誰だか知らないが一応簪という名前からその知り合いの彼女が更識簪かな?違っても問題ないし四組に知り合いが居るならそこから話をつなげる事も出来なくはない。

 

「わるい、三人とも。ちょっと行ってくる。」

「了解、じゃあまた。」

「では、また明日。」

「あ、奏、今日の授業で聞きたい事あるから後で聞きに行っていいか?」

「箒とセシリアの二人に聞け、僕より優秀だ。あと二人とも情報ありがとうね。」

「どういたしまして、あ、風音君。」

「うん?鏡さんどうしたの?」

「さっき向こうでのほほんちゃんご飯食べてたからまだ居ると思うよ?」

「お、本当に助かったわ。ありがとう。じゃーね。」

 

そう言って俺は指差された方向に向っていく。探しながら歩くとすぐに彼女は見つかった。あんな猫のキグルミで歩く人間など彼女くらいだろう。

近づいて声をかける。

 

「本音さん?ちょっといい?」

「うん?あ、カザネだ~。どうしたの?」

「ちょっと聞きたいことあるんだけど、更識 簪って子知り合いで居る?」

「うん。かんちゃんのことでしょ~」

 

おお、見事にヒット。ありがとう鷹月&鏡コンビ。

おれはそう心に思いながら話す

 

「彼女に渡さないといけないものがあるんだけど紹介してもらってもいい?」

「う~ん……カゼネだったらいいよ~。」

「ありがとう。後でデザート何か奢るよ。」

「ほんと!?わ~い。じゃあかんちゃんの部屋に行こう?」

「今からっすか!?」

「今からっすよ?」

 

と笑いながらオオム返しをする本音。

まあ別に今から行っても困る事があるわけでもないしいいか。

 

「じゃあお願い。」

「りょ-かいしました~。付いてきて~。」

 

と俺は本音を先頭に後を付いて更識 簪、通称かんちゃんに会いに行った。

 

 

 

 

この地上には、 男性だけがその費用をひきうけるにしては、あまりに美人が多すぎる。

                                    ~リガリエン~




ということでヴァッシュのトレードマークゲットです。
ISもついでに手に入りましたね。
おそらく奏君もそちらの方がうれしいはず!?
ということで次回あの二人の登場です。


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第十六話 更識姉妹

「かんちゃ~ん、わたしだよ~あけて~」

 

と寮の一室の前でドアを叩いた跡に話す本音。

この話し方から察するにそれなりに仲がいいんだろう。

しばらくすると返事も無くドアが開いた。

 

「一体どうしたの?」

「う~んとね。カゼネがかんちゃんに渡したいものがあるんだって。」

「……なんでしょうか?」

 

うっ、なんかこの子めっちゃ俺のこと警戒してる。

まぁ、だからといって態度を変える俺じゃない。

 

「はじめまして。僕の名前は風音奏。どっちでも好きな方で呼んでよ。」

「………ご用件は?」

「…あれ?おっさんから何か聞いてない?」

「おっさん?……あの、どなたの事でしょうか?」

「いや、倉持技研の栗城修っておっさんから何か知らされてない?データ持って来る奴が居るとか……」

「いえ、一切連絡は来ていないですね…」

 

おっさんこの子に連絡してねぇな…ヤバイ、この子の警戒度かなり上がってる。

ここは普通に説明するか。

 

「え~……じゃあ一応僕の説明を聴いた上で判断してもらえません?」

「……」

「だいじょーぶだよ、かんちゃん。カゼネはいい人だから。」

「……わかりました。では部屋の中にどうぞ。」

「え?入って大丈夫なの?ルームメイトは?」

「今居ませんしそういうことを気にする人でもなかったと思うので。」

「おっじゃましま~っす。」

「じゃあお邪魔します。」

 

そう言って俺と本音は部屋へと案内された。

しかしあのおっさん、もしかして説明とかも俺に全投げしたのか?

くそ、おっさんに良いように使われている気がしてならねぇ……後で2~3文句を言ってやろう。

まぁ既に相手のテリトリーに踏み込んでしまった後だ、とやかく言っても仕方あるまい。

部屋に入ると椅子を出されそれに座る。

見たところこのかんちゃんこと更識 簪ちゃん、かなり気が弱い。そして男には慣れていない。おっさんも苦手なのか?まぁ話す分には関係ないだろ。俺は出来る限り笑顔でやわらかく話しかける。

 

「え~っと、さっきも言ったと思うけど一応もう一回挨拶しとくね。僕の名前は風音奏、一年一組所属で一応『男性のIS操縦者』やらせてもらっています。」

「……えっと、更識 簪です。一年四組のクラス代表生です。」

「おお、すごい。僕は落ちちゃったからな。それ。」

「でもカゼネもすごかったよ~。」

「ありがと本音さん。」

「……それであの…データって一体何の…」

「ああ、ごめん。えっとね、栗城修って人は知ってる?」

「……はい。私のIS開発に協力してもらっていますし…」

「その人に頼まれて僕のISのデータを君に渡すよう言われたんだ。なんか端末から情報落とせる奴ない?」

「……どのような情報かわかりますか?」

「『打鉄』系列の高速戦闘時のISのデータだって言ってた。多分どう動けばどこに負荷がかかるとかじゃないのかな?詳しいところはわからないけど。」

「………」

 

彼女また悩んでるな……なんでだろ、ちょっとカマかけてみるか。

 

「君も納得できないかい?倉持技研がいまさらなぜって。」

「!?い、いえ……」

 

反応を見るに既に彼女には事実上の停止については伝えられているんだろうな。

んで協力したいっておっさんが直接言っても『面倒なこと』のせいで説明しにくいっと。

さて、どう説明しようか。まあ普通に話してから考えよう、俺は真面目な顔で話し始める。

 

「これは僕がおっさん…クリキさんから言われた事そのまんまね。」

「なんでしょうか……」

「『自分に出来る事ならなんでもする、頼むからあの子のIS開発に協力してやってくれ。』だってさ。」

「………どういうことですか?」

「一応、僕いま面倒な立ち位置に居てね、勝手に一つの企業に肩入れしたら面倒な事になるのよ、僕もそんな抜け駆けをした会社もね。もっと言えば個人で勝手に会社追い込んでるわけ、あのおっさん。で、その事はおっさんも良くわかってる。」

「……なんでそんな事を?」

「さぁ?そこはおっさんに聞いてくれ。ただおっさんはそうまでして君に協力しようとしてる。これは本当。」

「………お姉ちゃんは、関係ないんでしょうか?」

「…………だれ?」

「へ?」

 

意を持って聞いたのであろうその質問は俺のマヌケな答えにより肩透かしを喰らってしまったようだ。

この隙に一気に決める。俺は笑顔でさっきまでの真面目な雰囲気を吹き飛ばした。

 

「かんちゃん、お姉さん居るの?」

「か、かんちゃん!?」

「あ~!!かんちゃんだけニックネームずるい~私も~」

「じゃあのほほんさんでいい?」

「いいよ~。カゼネはどうする?カゼー?カザー?ソウソウ?」

「最後のはパンダみたいだね。ちょっと親近感を感じる。」

「あ、あの……」

「うん?なんか良いニックネームひらめいた?」

「ち、違います…あの本当に知らないんですか?」

「自慢じゃないけどIS関係の有名人だったとしても、僕が知ってるのは千冬さんぐらいしか居ないから解りません。」

 

キメ顔のような顔をし二人を見ると本音の方は指をさして笑っているし、簪にいたってはぽかーんとしている。

さて順調に頭の中がかき回されているだろう、ここら辺できめるか。

 

「冗談はここら辺までとして何も裏は無いよ。僕はね。だから受け取ってもらっても良いかい?このデータ。」

「……解りました。ではいただきます。」

「そ、良かった。でもあのおっさんひでえよな。僕に説明全部押し付けやがった。」

「カーゼだからしかたないね~。」

「なんか車の複数系みたいだからそのニックネームは却下。あと仕方ないってなにさ。」

「いいひとだから頼んだんだよ~。きっと。」

「面倒だったからじゃないんだろうか?ねぇ、かんたん。」

「そ、その呼び方も止めてください。名前で呼んでください。」

「OK、簪ちゃん。あとデータのほうは写し終わった?」

「ちゃん…まぁいいです……ハイ、終わりました。あと中に説明が書いてあるデータを発見しました。おおよそさっきの説明と一緒の事が書いてありました……」

「多分、僕が自主的に協力したって書いてあるでしょ。あと僕がうそつきだとか。」

 

そういうと簪は驚いた顔をしながらうなずいた。

 

「なんで解ったんですか?」

「あのおっさん。おっさんのくせにツンデレだからさ多分照れ隠しで僕のことを犠牲にするだろうな~って考えただけ。」

「……仲がいいんですね…」

「どうだか。それと後何か書いてあった?」

「他にほしいデータがあれば奏さんに連絡をつけろと連絡先が書いてありました。」

「そうか、じゃあよろしくね。」

 

と手を差し出すと一応握手はしてくれた。

あのおっさん人の連絡先勝手に教えてるんじゃないよ。

まぁおっさんが教えなかったら俺が自分でやってたけどさ。

しばらく二人と話すとそろそろいい時間だ、もしかしたら彼女のルームメイトも来るやもしれない。

ここら辺で帰るとしよう。

 

「じゃあ、僕はそろそろ自分の部屋に戻るよ、これからよろしくね。」

「じゃ、わたしも~、かんちゃんまたね~。おやすみ~。」

「はい…おやすみなさい。」

 

といい部屋から出た。

さてじゃあ本音とも分かれるか。

 

「じゃあ、僕も部屋に戻るね。紹介してくれてありがと。後あの話は秘密でね。」

「了解しました~。ソーも、ありがとね、かんちゃんに協力してくれて。あと気をつけてね。」

「うん?何に?」

「えーっとね、秘密。」

「そこは秘密なの!?まぁいいか、じゃあお休み。」

「おやすみ~」

 

そう言って本音と分かれる。

 

 

 

 

 

本音と分かれた後に考える。

気をつけろ、って言う事は何かあるんだろうな……しかもあの本音が言うのだ、よっぽどだろう。

恐らく何かかしらの危険が有る、しかも予測できる事だ。……状況を考えよう。

現在俺はおっさんに言われ簪にデータを渡した。

そのダータも問題なく渡され協力する事もできるようになった。めでたしめでたし。

………何に気をつければいいんだ?現状問題になりそうな箇所はない。

いや、待てよ。

おっさんの言っていた面倒って何だ?

さらに簪の言っていたお姉ちゃんなる人物。

この人がクレーマーか何かなのか。そうすれば友達の本音も知っているだろう。

まぁ文句や嫌味程度なら適当に逃げよう。そうすれば問題なしだ。

そんな事を考えていると自分の部屋に着いた。鍵を開けて部屋に入ろうとすると何か違和感を感じる、誰か侵入している………よし、逃げよう。

そう思い俺はそのまま部屋のドアを開けようともせず背を向け適当なところに行く事に決めた。

盗まれて困るものはないし、恐らく一夏の部屋にはまだセシリアも居るだろうしそこで時間を潰そう、そうしよう。

その時後ろのドアが<―ギギギィ…―>と音を立てて開く。あれ俺の部屋のドアこんな音なったけ?

恐る恐る後ろを向くと一人の女性がなぜか俺の部屋の中に居た。

 

「気が付くなんてすごいじゃない。今までそんな人居なかったわよ。」

「……」

「さすがはIS相手に生身で勝ったって噂があるほどね、そして代表候補生相手に互角以上に戦うランクDのパイロット。」

「……あの一ついいですか?」

「なに、言って御覧なさい。」

「……あなたは…どなたでしょうか?」

 

その女性何事も無いかのように話をしているが状況がまずおかしい。

まずなんで俺の部屋に勝手に入り込んでいるのか、次にそれを無かったかのように俺の前に現れ話し始める。極めつけに目がまったく笑ってない(・・・・・)

こいつはヤバイ。とりあえず話を進めるか…

 

「とりあえず今は更識楯無とだけ言っておくわ。」

「更識……もしかしてかんちゃんのお姉さん?」

かんちゃん(・・・・)…?」

「いえ、失礼しました。簪さまのお姉さまでございましょうか?」

 

やべぇ!!この人今絶対俺に攻撃しようとしていた!?なんなの一体!?本当に俺なんかやった!?簪に変な事なんてしてないし……

まぁ話を聞こう、そうすれば解るだろう……多分。

 

「……その通り。私はあの子の姉よ。いくつか聞きたいことがあるんだけど良い?」

「何なりとお聞きください。」

「そう……まず一つ目、あの子に何をしようとしたの?」

「データを渡しに行きました。ISのデータらしいです。サー。」

「あなたがなんでそんなものを?」

「倉持技研の栗城修という研究者からです。自分が渡すよう依頼されました、サー。」

「………そう。じゃあ次の質問。」

 

顔を見ると少し落ち着きを取り戻しているな。多分今のが本題だったんだろう。

次からの質問はおまけ、もしくは今の問題と比べてそれほど重要じゃないって感じかな?

そう考えていると楯無と名乗る女性は話を続ける。

 

「二つ目にあなたは何者?」

「CIAのエージェント…ごめんなさい!!そんな怖い顔で見ないで!?ただの普通の生徒ですよ!?男である事を除けばね。」

「……一般生徒が生身でISと戦ったり100m先の的でワンホールショットしたりするのね。」

「たかが噂でしょ?それ。」

「後者は確認済みよ。まだCIAのエージェントって方が納得できるわ。」

 

事前に調査もしています…っと。この人が何者かはわからないけどそれなりに始めから僕がターゲットだったと……さてどう落ちをつけようか。

 

「っていわれてもな~僕としてはそれ以外に言えないし。」

「……それを信用できると思う?」

「それなら僕について調べていただいてもいいですよ。むしろ僕の過去について解ったら教えていただきたいほどですね。あと一つだけこちらからもいいですか?」

「……なに?」

「妹が心配なのはわかりますが過保護過ぎじゃありません?それと僕は彼女の敵じゃありませんよ。」

「………どういうこと。」

「採点の点数、足りませんでした?じゃあ詳しく説明して加算点を狙わせてもらいます。」

 

そう俺は笑顔で話し始めた。

 

「まず一つ目の質問ですがこれはあなたが一番聞きたいことですよね?でもそれに関して聞くのならどう考えても一緒に居た本音の方が聞きやすい。そして僕が部屋に行ったことを知っているのなら一緒に本音が付いて来たことも知っていなくてはおかしい。それなのにあなたは僕の方に聞きにきた。つまり自分で僕に尋問して邪な考えはないかを知りたかった。」

「………」

「二つ目に関してですがこれは単なるあなたの僕に対する採点ですよね。本当にそう疑っているのなら僕に何者なのかなんて聞きませんよ。話の内容からあなたが僕について調べている事も解りましたしね。そこに気が付く事が出来るか、そして圧力的な尋問に耐えることができるかのテストですか?恐らく簪ちゃんの手伝いをする上で役に立つかどうかのテスト……かな?」

「………」

 

笑顔を崩さず話し続ける。

楯無さんの方はいまだに表情は変わらず険しいままだ。

さーて、これで間違えているのなら恥ずかしいじゃすまないぞ?

 

「このことをふまえて恐らくあなたが僕に対してテストをしているのではないのかと考えさせてもらいました。そしてかなりわざとらしく情報渡してくれましたしね。ただやり方がいくらなんでも過剰では?と感じたので過保護といわせてもらいましたけどね。」

「……本当に尋問されてるとは思わなかったの?」

「だったらはじめに自分の妹のことを聞きませんよ。自分から弱点を言っているようなものですもの。この考え方でいかがでしょうか?」

「……100点満点あげましょう。」

 

そう言って楯無さんは笑顔になり扇子を開いた。

扇子の真ん中には三文字。『お見事』と書いてあった。

心臓に悪い人だな……

 

「ふぅ…ここまでかっこつけて間違ってたらどうしようかと思っていましたよ。」

「あら?それにしては終止笑顔だったじゃない。」

「笑顔を貼り付けてただけですよ。それにあなたの演技が怖かったんですよ。特に僕が『かんちゃん』って言った時の反応、あれ本当に攻撃されると思いましたもん。」

「当たり前よ、アレは本気だったもの。」

「……さいですか。」

「それにしてもよく気が付いたわね…今までの人の中で一番早く気が付いたわよ、あなた?」

「ということは合格ですか?」

「まぁ許可を出しましょう。」

 

許可がでなかったらどうなっていたのだろうか……

まぁでたんだから考えても仕方あるまい。とりあえずずっと廊下で話すのはアレだし部屋に入るか。

 

「そいつは良かった。じゃあ話はこれでおしまいですか?」

「えっと……そうなるわね。」

「……お茶の一杯くらい飲んでいきますか?」

「……せっかくだからいただくわ。」

「じゃあどうぞ…って言っても既に部屋の中に居ますね楯無さん。」

「あら、私はたっちゃんでもいいのよ?」

「気が向いたらそう呼ばせてもらいますよ。」

 

軽口を叩きながらとりあえず部屋の中で話を続ける事にした。

なんか本当に面倒ごとに巻き込まれてる気がするけどおっさんそこまで考えて依頼したんだろうか。

とりあえずおっさんに恨み言を言う事を決め部屋の中で話すことにした。

 

 

 

 

 

この世は絶え間のないシーソーだ。

                                  ~モンテーニュ~




ということで更識姉妹の登場です。
原作と比べかなり序盤に出させてもらいました。
この後どう物語に絡んでいくのかお楽しみにwww
では読んでいただきありがとうございました~


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第十七話 学園最強

楯無を部屋に入れとりあえずお茶を出す。

さて俺が聞きたいのは彼女の事についてだ。

現在わかってるのは現実世界の記憶の『かなり強い人』と『悪い人ではない』いうことと

こちらの世界の『簪の姉』『厄介でその上何らかの立場に居る』と言う事ぐらいだ。

どこまで話を聞きだせるか解らないが聞き出してみますか。

 

「粗茶ですがどうぞ。」

「あらありがと。それで私を自分の部屋にまで入れて何をする気?」

「そうですね……ちょっとした質問してもよろしいですか?」

「スリーサイズなら教えてあげるわよ。」

「わぉ、魅力的。最初の質問ですけど妹さんと仲悪い?」

「!!…いきなり突っ込んでくるわね…」

 

と言いながら苦虫を噛んだような顔をしている。

まぁあまり時間をかけるつもりもないし、ちゃっちゃといこう。

 

「なんでそう思ったか聞いてもいい?」

「たいしたことじゃないんですよ。ただ簪ちゃんが僕の説得の中、一番気にしたのがあなたが関わっているかどうかだったってことです。そして僕にニックネームで呼ばれると嫌がり、名前で呼んで欲しいと言ってました。普通恥ずかしがるなら苗字とかで呼んで欲しいもんじゃないか、と感じたのもあり二つのことと勘から、もしかしてあなたと喧嘩をしている、もしくは根本的に仲が悪いと考えただけです。」

「そう……次の質問の後に答えてもいい?」

「了解です。次はたいしたこと無いですよ。あなたの役職って言うか正体ですね。それなりのところに居ますよね。」

 

と言うと今度はにやっとした顔になる。

この人コロコロと表情変わるな…

 

「それもどうしてか聞いてもいい?」

「僕の試験はもう終わったんじゃ?」

「じゃあ追試と言う事でどう?」

「了解しました。単純な話、僕が射撃の練習をしている時に近くにいたのはセシリアくらい。ということはあなたが確証を持って確認するためにはどうするか。」

「どうしたんでしょう。」

「監視カメラでも見たのでは?」

「正解。それでどうして役職についてるって考えたの?」

「それはカメラを見て動いたという前提の元の話ですが、仮に一般生徒がそんな事をする事を許さない人を知っているもので。」

「……織斑先生ね。」

「その通りです。そしてそれが許されているって事はそれなりの立場なんじゃないかなって思っただけですよ。」

 

そういうと楯無はさらに面白そうにわらう。

そしていたずらをするような顔で俺に話しかける。

 

「じゃあ問題、私の役職はなんでしょう?」

「え……そこは解りませんよ。」

「ヒントは学園最強。」

「え!?まさか……」

「ふふふ、その想像通りよ。」

「この学園にはチャンピオンって役職もあるの!?」

 

というとガクッと肩を落とした。

やっぱりこの人面白いな。まぁ遊びすぎると怒られそうだからそろそろ止めよう。

 

「冗談ですよ、スイマセンが解りません。」

「学園最強って言っても?」

「それが何を意味するのかさえわかりません。」

「もう少し学園の事に興味を持ちなさいよ。」

「気が向いたらそうします。」

 

今度は頬を膨らましている。

この人簪と顔とかの雰囲気は似てるけど全然違うタイプだな。

その後楯無は説明をするかのように話し始めた。

 

「この学校で最強を意味するのは生徒会長よ。いわば学生の長。」

「へーそうなんですか。」

「……それだけ?」

「え?………オサ スゴイ! オサ サイキョウ! イダイナセンシ!!……こんな感じでいいでしょうか?」

「何それ。どこの原住民族よ。」

 

と言いながら笑い出す。

これは自然な笑顔っぽいな。

一通り笑ったあとふぅとため息を付いた後話し始める。

 

「普通そこは『すごい』とか『まさかあなたが』と言った反応するんだけどね。まぁ君にそういった反応は気にしてなかったけど。」

「ご期待にこたえられたようで幸いです。」

「じゃあ最初の質問の答えだけど……今は仲が悪いわ。」

今は(・・)…ですか。まぁ解りました。」

 

と答えると楯無はへーっと言った反応をした。

 

「詳しく聞かないんだ。」

「残念、好感度が足りません。」

「あら、それは私が言うべき台詞じゃない?」

「そう言われればそうですね。言ってみます。」

「そーね……言ってもいいわよ?理由。」

「あまり興味ないんでいいです。」

「へ?じゃあなんで聞いたの?」

「いや、仲悪いなら『姉妹あるあるネタ』はあまり言わない方がいいかな~って。仮に知りたくなったとしても詳しくは簪ちゃんと仲良くなってその後、彼女が言いたいって言ったら聞きます。」

 

と言うと彼女はおもいっきり笑い出した。さっきよりも自然な顔だ。

まぁ笑わせようと思ってやってるんだこれくらい笑ってもらわなきゃ。

しばらく笑った後ひーひー言いながら話し始めた。

 

「何、そんな事のために聞いたの?本当に?」

「当たり前です。それ以外に何の理由があるって言うんですか?」

「………私たちを仲直りさせるため。ってのはどう?」

 

そう言って楯無は真面目な顔をした。

さっきまでの笑顔はここで終わりか。

 

「……仲直り難しいんですか?」

「……結構長い事この状態でね。誰でもいいから仲直りさせて欲しいって思うことはあるわ。」

「おっさん…倉持技研の栗城 修って人にも頼んだ?」

「いえ、でもあの人のほうから仲をとりもってくれるって言ってくれたわ。失敗しちゃったらしいけど。」

 

確定。おっさんここまで俺に任せやがったな。

あのおっさん何がちょっと面倒だ、めちゃくちゃ面倒じゃねぇか。

 

「解った、でも僕はなんで仲が悪いかとかは簪ちゃんのほうから聞けたら、それから行動する。それでもいい?」

「ええ、十分よ。でもどうして?突然、さっきまで乗り気じゃなさそうだったじゃない。」

「こういうのはよほど憎しみあってるわけじゃなきゃ、第三者が動くとろくなことにならない事が多いからね。」

「………ええ、そうね。よほどの事じゃなければね。」

「まぁ気長に待ってよ。悪いようにはしないと思うし。」

「ありがとう、じゃあ私はここら辺で帰らせてもらうわ。」

「じゃあおやすみなさいたっちゃん生徒会長。」

「今度は生徒会長をはずしてくれればうれしいわ。今度生徒会室に来たらおいしい紅茶ご馳走してあげる。」

 

そう言って彼女は俺の部屋を出て行った。

あ~クソ。何が少し面倒だ。姉妹喧嘩の仲裁なんてやったことなんて無いぞ?

 

 

 

 

 

 

「おっさん、適当言ったな?」

『悪いが使えるものは使う人間でな。』

 

楯無が居なくなった後俺はすぐさまおっさんに連絡を取った。

電話をするとすぐさま『成功したか?』と言ったので確信犯だと言う事が発覚した。

 

「おい、せめて簪ちゃんに連絡くらいはしろよ。」

『俺が言うとな、彼女は楯無が何とかしたんじゃないかって考えるんでな。多分今も考えているだろうよ。』

「はぁ……これ別口で貸し一な。つうかおっさんはなんで失敗したんだ。」

『どんどんお前に貸しが増えていくな。失敗した理由は多分俺は簪にじゃなくて楯無のために動いちまったって思われちまったからだ。』

「そりゃ、失敗するわ。……どれくらい喧嘩してるかは解る?」

『詳しくは知らんがかなり長いらしい。』

「左様で…」

 

ということはこれは本当に気長にやらないといけないな。

 

『……無理だったらやめてもいいぞ。もとは俺がやるって言っただけだしな。』

「もう楯無生徒会長とも接触した後でそれは無理でしょ。」

『本当にすまないな。』

「そこは終わった後でありがとうございました、でお願い。」

『ふ、カッコイイなお前。』

「格好つけてるだけだよ。」

『様になってりゃ問題ないだろ。じゃあ頼んだぞ?』

「おまかせあれ…と。」

 

こう言って電話を切る。

さて何をするにも俺がまず簪と仲良くならなければ。

途中で嫌われでもしたらゲームオーバー、楯無からの命令と思われてもゲームオーバー

さてまぁしばらくは牛歩のごとくだしほどほどにがんばろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う事で一夏。クラスの事は任せたぞ。」

「お前、何をやってるかと思えば……」

 

と食堂で一夏と話す。現在箒とセシリアは昼食を取りに行っていていない。

とりあえずしばらく俺はそっちの方にかかりっきりになりかねんし、一夏には説明しといた方がいいだろう。そう考え翌日にタイミングを図って説明したのである。

一夏は少し考えた後話を続ける。

 

「……お前が俺にそう言うって事は俺も何か手伝った方が?」

「いや、今のところは大丈夫。ただ後で少し力借りるかも。」

「了解。しかしお前は相変わらず首突っ込んでるな…」

「今回は僕の意志じゃなくておっさんにだまされただけだよ。」

「お前の事だ、頼まれなくてもやっただろ。」

「黙秘権を使わせてもらいます。」

 

と笑いながら飯を食べる。しばらくするとセシリアと箒が来た。

箒は相変わらず和食、セシリアはサンドイッチかな。

席に座って食べ始めると一夏が何か考えているのにセシリアが気が付いた。

 

「あら?一夏さんどうされましたの?」

「いや、ちょっと考え事。」

「何をだ?」

「僕が一夏に頼み事をしただけ。それより一夏のIS修行の調子はどう?」

 

結構露骨に方向転換したが一夏ネタにこの二人が食いついてこないわけがない。

案の状待ってましたとばかりにセシリアが口を開く。

 

「ISアリーナの使用許可がもう少しでおりますの。そうしたらわたくし(・・・・)が一夏さんに付きっ切りで教えて差し上げますわ。」

「結構だ。一夏の修行は私が(・・)依頼されたものだ。」

「あら?一夏さんの剣術に関してならまだしもISに関してならわたくしの方が適任では?」

「結構だと言っている。私が頼まれた事だからな。」

 

普段仲がいいけどこういう時すぐさま臨戦態勢に入れるお二人はすごく優秀ですね。

それぞれ自身がやると言うところを強調して笑顔で話している。

だがこれだと対一夏には逆効果だ。

 

「一夏、飲み物なんか買ってきて、3分な。」

「おい、俺パシリじゃないぞ?後で金渡せよ?」

「了解、何でもいいから、って言ってもあまりにもひどいのは勘弁な。」

 

そう言って一夏を席からはずさせる。一夏もこれ幸いと言った風に逃げ出した。

それじゃあとりあえず説得するか。

二人も一夏が席をはずすと俺が何か言おうとしているのを察したかこちらを見る。

 

「……箒、セシリア。それだと一夏には逆効果だぞ?」

「「な、なぜ!?」」

「簡単だ、あいつの事だ、今頃『喧嘩されるくらいなら二人に頼まないほうがよかったかな……』なんて考えてるぞ。」

「で、ですがIS関連の修行をするなら誰かに師事を仰ぐべきでは?」

「そ、その通りだ。」

「お前たちは大切な事を忘れている。互いにしか目がいってなくて一番の強敵を見失っている。」

「だ、誰のことですの!?」

「まだ一夏を狙っている奴が居たのか!?」

 

二人は強敵という人物に心当たりが無いのかうろたえている。

 

「ある意味箒より一夏の剣について詳しく教えられ、セシリアよりISについても教えられる。そして誰よりも一夏に近い。」

「一体…」

「誰ですの?」

「いや、ここまで言ったら流石に気が付けよ。織斑千冬大先生しかいないだろ。」

「「………あ。」」

「千冬さんも何だかんだで一夏には厳しくも甘いからな。多分頼まれたらそれなりに稽古をつけて練習のプランも立てるだろう。」

「た、確かに。」

「言われてみれば。」

「さらに一夏はかなりシスコンだ。千冬さんから言われた練習を愚直にこなすだろう。そうするとセシリアのいうIS訓練ばかりか箒との鍛錬も無くなる可能性もある。」

「そんな……」

「まさか、そこまで…」

 

そんなすべてが終わったような顔をするなよ。可能性の話しか、してないだろうが。

 

「解ったらあまりこういうことで喧嘩はしないほうがいいぞ。僕もあいつが何時そう思って千冬さんのほうにいくかは見当つかないし。」

「わかりましたわ。では箒さん、剣道の鍛錬であなたは二人っきりですからせめてISの訓練は私メインでよろしいでしょうか?」

「う、うむ。仕方ないな。そうなってしまったらもうどうしようもないからな。」

 

と話が付いたとき丁度一夏が戻ってきた。

手には何かホットものの缶を持っている。

 

「奏、買って来たぞ。後で120円。」

「お、一夏サンキュー。何買ってきた。」

「おしるこ。あと喧嘩はおわったのか?」

 

一夏のおしるこ発言に女性二人は『なぜおしるこ?』と言った顔をしている。

一夏も自身の分のお茶を飲もうとする。

 

「ありがと。後喧嘩ってほどのもんでもないだろ。お前がいなくなった後すぐに終わったぞ?」

「そうなのか、じゃあ勘違いだったか。……じゃあなんで俺に飲み物買いに行かせたんだ?」

「お前が喧嘩だと思ってそうだったから頼めば行ってくれそうだな、って思ったから。」

「お前…まぁ俺も飲み物買いに行くつもりだったから良いけどさ…」

 

と、何事も無いかのように話を進める男二人。

流石に突っ込もうと考えたのか意を決したように二人が話す。

 

「あ、あの…一夏さんも奏さんも平然と話進めてますけど…」

「一夏…なぜおしるこなんだ?」

「うん?ああ、こいつ結構甘党でな。こういう甘いものでも平然と飲むんだ。」

「結構うまいぞ?一回飲んでみろよ。」

 

という単純な理由だった。

別に一夏が嫌がらせをしたわけではないのだ。

ただ俺がこういう飲み物が嫌いじゃないだけで。

 

「……よくそこまで知ってるな。」

「いや、一年近く友達やってればそれくらいすぐわかるだろ。」

「……そういえばお二人はよく一緒に行動してますわよね。」

「そりゃ、学園内の唯一と言っていい男同士なんだ。一緒に行動くらいするでしょ?」

「「…………」」

 

一体どうしたと言うんだ二人とも?

二人とも何かを疑うような目でこちらを見ている。

まさかだが……ボソッと二人につぶやく。

 

「(……僕に嫉妬するとか勘弁しろよ?)」

「「!?ま、まさか(ですわ)!!!」」

「うおっ、一体どうしたんだ突然。」

 

と突然叫ぶ彼女たちに驚く一夏。

アホかお前ら。男に嫉妬してどうするんだ。

こんなんだと横から一夏が連れてかれちまうぞ。

疑問に思った一夏の追求を逃れるように言い訳をする二人を見ながら俺はおしるこ缶をすすった。

 

 

 

 

 

「真面目になる」ということは、

しばしば「憂鬱になる」ということの外の、何のいい意味でもありはしない。

                                  ~萩原朔太郎~




ということで十七話終了です。
おしるこ缶ですが作者は時々飲みたくなりますが
買って飲んでる最中に後悔するタイプです。
よんでいただきありがとうございました。


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第十八話 授業

数日後の授業中。うちのクラスはISの実習をやっていた。

クラスの大半はISに触れることを喜び流石に皆浮き足立っていた。

しばらくすると白いジャージを着た千冬さんと紺色がかったジャージ姿の山田先生がやってきた。

 

「静かにしろ貴様ら。これより授業を開始する。」

 

Sir, yes, sir!!と言いたくなる様な千冬さんの声で授業が開始した。

さてどう進めてくのかな…と考えていると千冬さんがこちらを向く。

 

「まず専用機持ち、今すぐISを展開してみろ。」

「解りましたわ。」

「来い、『赤銅』」

「了解しました。」

 

千冬さんの命令でISを展開する。

やはり慣れからか一番早いのがセシリア。続いて掛け声を出した俺。

一夏は少し手間取ったようだが掛け声無しで呼び出した。

 

「早く展開できるようになれ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ。後風音、発動時は機体名を出さないで済むようにしろ。」

 

早い所慣れろ、目標は1秒。そういうことですか。

千冬さんの言葉の意味を把握しながら考える。

言葉遣いはきついが明確な目標を出してくれる分やりやすいな。

そしてこれが一夏のIS、白式か。その名のとおり白い装甲に左右のスラスターが特徴的だな。

一夏も俺のISをじっと見ている。まぁ似たような事考えてるだろうな。

すると千冬さんが次の命令を出す。

 

「では飛べ。」

「どこまででしょう?」

「とりあえずアリーナの上に向え。」

 

その掛け声で俺たちは飛び出す。

やはり順番はセシリア、俺、一夏だ。

ただ一夏のISのスピードが遅い、どうしたんだ?

 

『何をやっている。スペック上の出力では白式がトップだぞ。』

 

無線で一夏を叱る千冬さん。

相変わらず一夏にはきついっすね。その分甘いところもあるけど。

多分弟に早く強くなってもらいたい姉の気遣いって感じかな?

 

『……風音、お前失礼な事考えてないか?』

「はい?何の事でしょう。」

 

白を切るが恐らくばれたな。

何を命令される事やら……しばらくすると一夏が俺たちと同じ高さまで到達する。

 

「一夏どうした調子悪いのか?」

「いやなんていうか『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』で行うようにって言われても、全然感覚が掴めなくって……」

「戦闘中はどう動いてたんだ?」

「夢中で覚えてない。」

 

さいですか、まあ次第に慣れていくもんなんじゃないのか?

そう考えるとセシリアが話す。

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法でやったほうがうまくいきますわよ。」

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いてるんだ、これ。」

「説明しても構いませんが、長いですわよ? 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの。」

 

一夏が自分の2対のスラスターを見るとセシリアが笑顔で話しかける。

さすがセシリア、それ全部覚えているんですね。

一夏は即座に声を返す。

 

「わかった。説明はしてくれなくていい。」

「それは残念ですわ。」

 

そう言いながら笑うセシリア。

彼女も拒否されるってわかって言ってるな。

しかし彼女も良い笑顔で笑うようになったな。純粋に楽しんでいる顔だ。

そう考えていると一夏がこっちに話をふる。

 

「ちなみに奏はどんなイメージ。」

「なんだろ……飛ぶイメージって言うか風に乗るイメージ?」

「どういう意味ですの?」

「ほらよく、『風と一体化した感覚』とかあるじゃん。それ。」

「……自分が風になった感じってことか?」

「あ~それ近いかも。」

 

ふーんと納得する二人。

しかし一夏はまだ自身のイメージを掴みきれてないのか考える。

 

「一夏さん、よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ。そのときはふたりきりで――」

 

ここでセシリアが誰も居ない空中で一夏に手を出した。

これは通りそうだな…と思うとしたから声がする。

 

「一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りてこい!」

 

おっと!?箒がまさかのディフェンス。

箒は山田先生から無線を奪ったようだ。

しかしなぜ解ったんだ?あいつIS展開してないからコアネットワークわからんのに。

……まさか勘か!?勘で今のに反応したのか?

まあ結果的には一夏は悩んでいたため先ほどの話には反応できず『なに?』っと言った顔をしている。

箒さんの見事なディフェンスが輝く結果に終わった。

しかしISってのはよく見えるな。ここから地面まで百数メートルはあるはずなのに箒の怒った顔がしっかり見える。

一夏も同じことを考えていたのか口に出ていた。

 

「すごいな……ここからでも箒たちの顔が良く見える…」

「ちなみに、これでも機能制限がかかっているのでしてよ。元々ISは宇宙空間での稼動を想定したもの。何万キロと離れた星の光で自分の位置を把握するためですから、この程度の距離は見えて当たり前ですわ。」

「「へーー」」

 

と納得する俺たち。

やはりこういう基本的な知識だとセシリアのほうがかなり上だな…テスト前には頼らせてもらおう。

しばらく上空で待機していると再び千冬さんから連絡が入った。

 

『急下降と完全停止をやって見せろ。目標は地表から10cmだ。』

「解りましたわ。ではお先に。」

 

そう言ってセシリアが先に下へ向っていく。

見ていると見事地上10cm上で停止したようだ。

 

「うまいもんだな~」

「そうだな。次どっちが行く?」

「僕先に行ってもいい?」

「どうぞ。」

 

と言われ下に向かって加速する。

僕の場合機体反応がそれほど良くないから早めにブレーキをかけるつもりで行こう。

そう考えギリギリ手前辺りでエアブレーキをかけたつもりが勢いが足りず地上30cmほどのところで止まった。

 

「あらら、失敗してしまいました。」

「風音、お前の場合自身の機体に関しての理解が少ない。もっと自身の手足のように使えるようになるまでISに乗るんだな。」

「了解しました。」

 

あら?以外にもお叱りの言葉はなかった。

先ほどの事で嫌味の一つか二つ言われそうだな…と考えていたのだが。

そして一夏がこちらに向ってくる……あいつ勢いつきすぎじゃないか?っていうかそろそろ止まらないと危ないような……こいつはやばそうだ。

 

「先生ちょっと下がりますか?」

「その方がよさそうだな。」

 

そのままそこを離れると

 

<―ズドォォンッ!!!―>

 

という音と共に一夏は地面に不時着した。

あ~なんかドラゴ●ボール思い出すな~サ●ヤ人襲来の辺り。

土煙が収まるとグランドには大きなクレーターが出来ていた。

 

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

「いてて…スイマセンでした。」

 

と言いながら立ち上がる一夏。

クラスメイトたちのくすくすとした笑い声が起きる。

しかし痛いと言いながら白式と一夏に傷は見えない。これがISの防御力か……

そう考えていると一夏に駆け寄る二人、箒とセシリアだ。

 

「大丈夫か?一夏。」

「一夏さん、無事ですか?」

 

と同時に一夏に駆け寄る二人。

そしてお互いににらみ合う。あんまりやると千冬さん(レフリー)からレッドカードが出ますよ。

すると

 

「おい、馬鹿者ども。邪魔だ。端っこでやっていろ。」

 

千冬さん(レフリー)はレッドカードの前に警告を出した。

こえ~、まぁ授業中にやることではないから仕方が無いか。

その後グランドの穴はそのままにまた少しずれた別の場所で授業が続いた。

 

「続いて武装を展開しろ。織斑お前からだ。それくらいは自在にできるようになっただろう。」

「は、はい。」

 

そう言って構えを取るようにして武器を出す。

光が流れるように形を作り一振りのブレードが握られていた。

近接ブレードか……アレが噂のエネルギー無効武器かな?赤銅の情報では『雪片弐型』、それが名称か。

それなりに早く出せてたと思うが千冬さんの顔は険しい。

 

「まだ遅い。0.5秒で出せるようになれ。」

 

流石に厳しすぎじゃありません?

まぁそれだけ早く強くなって欲しいって事だとは思いますけど。

まぁ千冬さんのことだ後で何かかしらの手段で一夏のやる気を出すだろう。

 

「続いてオルコット、武装を展開しろ。」

「はい。」

 

そういうとセシリアは左手を肩の辺りの高さまで上げ、真横に腕を突き出す。

次の瞬間光があふれあのビームライフルが現れた。

赤銅の情報を見るに『スターライトmkⅢ』って言うのか。

……しかし銃口がこちらに向けられているのはなぜ?

 

「オルコット。確かに貴様の展開が速い。だがそんなポーズで横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ。」

「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要な「直せ。いいな」……はい。」

 

さすが千冬さん、問答無用である。

セシリアの次は俺かな?と思っているとまだセシリアへの指導は終わってないようだった。

 

「オルコット、近接用の武装を展開しろ」

「えっ。はっ、はいっ」

 

セシリアは『スターライトmkⅢ』をしまうと近接用の武装を展開使用とする。

普通そうだよな。一夏の白式や俺の赤銅みたいに武器が遠距離のみ、近距離のみの機体がそんなにあるはず無いよな。

そんなことを考えているとまだセシリアは武器を出せていないようだった。

 

「ああ、もうっ!『インターセプター』!」

「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせません! ですから、問題ありませんわ!」

 

そりゃいくらなんでも無理でしょ。それに一夏にかなり削られたんじゃないの?キミ。

千冬さんもそこを突っ込む。

 

「ほう、織斑との試合であそこまで削られた後でまだそんな事がいえるのか。」

「それは…その…」

「いいか、自分の得意な状況で戦いたいならどんな時でも何にでも対応できるようにならなければ話にならん。まずは自身のできること苦手な事を把握し弱点を減らせ、自身の弱点をそのまま放置しておけば必ず試合ではそこを突かれるぞ。たとえばオルコット、お前が今の状態で近距離戦闘をされたら確実にお前は対処できないだろう。現にお前は織斑との試合でそこをつけれてあそこまで削られているんだからな。」

「……わかりました。」

 

ここまで言われたら納得せざるを得ないか。

実際間違った事を言ってるわけじゃないしな。もちろんセシリアの言う近接の間合いに入らせないように戦えればそれが一番だ。だがもし入られたときの対策をまったくしないのならそれは単なる弱点だ。

まあ一番は戦わない事だと俺は思うけどね。

 

「では最後に風音、お前の番だ。」

「ハイ。」

 

早撃ちのイメージ……

俺は目を閉じあけると同時に一瞬で武器を展開し構えた。

一瞬の光が収まる頃には俺は既に右手の銃を前に構えていた。

多分この中でも一番早かった自信はある、だが遅い(・・)

これでは自身の実力の4割もだせて無いだろう。

だが千冬さんは俺の展開を見てほめる。

 

「ほう、流石にこの手の技術ではお前が最速か。」

「……本当ですか?」

「ただ私との試合の時の方が早かった気がするが?」

「このIS壊しちゃうと整備のおっさんに怒られちゃうんで。」

 

クラス内にくすくすと笑いが起きる。

俺のISを壊してしまう発言が冗談だと思われたんだろう。

だが千冬さんと山田先生、一夏とセシリアはそれが事実だと恐らく解っているのか笑っていなかった。

箒に関してはこの程度の冗談では笑わないからか、信じているのかもしれないからかは判断できなかった。

 

「まったく、お前という奴は……まあいい、見たとおりISのクラス適正がどれだけ低かろうと練習次第ではこいつのようにしっかりと動く事ができる。今の通りこいつは二人より適正が低い状態で織斑より飛行がうまく二人より早く武器が展開できる。このクラス内にはこいつより適正が低いものはいないからな、自身の適正の低さを言い訳にする事は出来んぞ。」

 

先生、人を落ちこぼれの最低ラインにするのは止めてください。

イジメの原因になりかねませんよ、それ。

まぁ仮にこのクラスでいじめなんて起きようものなら確実にただじゃすまないけどね。

千冬さんはそのまま話を続ける。

 

「自身のIS適正が高いものは油断などするな。お前たちはただスタートラインが一歩先に出ている程度だ。その程度、少しの努力ですぐに追いつかれる程度のものだ。全員油断などせずに精進する事。わかったな。」

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

「よろしい、では時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、風音グラウンドを片付けておけよ。」

「はい…」

「はい?先生、なぜ僕も?」

「どうした風音?お前私に対して失礼な事を考えていただろう。これで済ませてやるんだ感謝しろ。」

「わーやさしいなー(棒)。わかりました。」

 

ここでそれが来るか。

一夏てめぇ、にやついてるんじゃねぇよ。

はぁ……しばらく頭の中でも千冬さんをからかうのは止めよう。

 

「さて一夏。さっさと終わらせよう。」

「了解。奏よろしく頼むぞ。」

 

そう二人で話しながら俺たちはISで穴埋めをやっていた。

 

 

 

 

人生で何度も何度も失敗してきた。 だから私は成功した。

                            ~マイケル・ジョーダン~




ということで授業風景でした。
原作だと先生結構ぼろくそに言いますが多分こういうことが言いたかったんだろうと作者は解釈しています。
千冬さんはツンの中にデレを見出せないといけない、どM御用達の人物だと思いますww
では読んでいただきありがとうございますwww


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第十九話 パーティー

俺と一夏が穴埋めを終えた後、俺が先に教室に戻るとなにやらクラスの女子生徒たちが一箇所に集まっていた。

何をしているんだ?と思い近づくとこちらに気が付かない。声をかけてみるか。

 

「なにしてるの?」

「!?何だ、風音くんか……驚かさないでよ。」

「え?なんか悪い事した!?」

 

とおどけてみせる、反応からしてみるにそれほど大事な話をしているわけでもあるまい。

まぁ関係ないようならこのままなぁなぁで済ますか……

と思うとこちらに話しかけてくる女子が数人居た。確か相川清香と岸原理子…だったかな?

 

「ねぇねぇ、風音君。…風音君って料理作れる。」

「一応、それなりには……何やるの?」

「あのさ、織斑君のクラス代表就任祝いでパーティーをしようって考えてたんだけどさ。ちょっと問題があってさ。」

「料理の作り手が少なかった…と。」

「そういうこと。頼めない?織斑君には内緒で。」

 

なるほど、つまり一夏には秘密でクラス会をやろうと考えている訳か。

まぁクラス内交流、つまり親睦会にもなるし問題はなさそうだな。

 

「どれくらいのもの作ればいいの?」

「え~っと…何作れるの風音君は?」

「どちらかと言ったら洋のほうがレパートリーは多いな……パーティー向けだと7~8種類は硬いかな?」

「じゃあ5種類頼んでもいい。」

「了解。開催日と場所、あと材料費は?」

「4日後の食堂を借りてる。材料費の方はもう集めてあるから頼めば買って来るよ。」

「じゃあ今日中に必要なもの頼むよ。あと一口いくら?」

「えっと……あんま決まってないかな?」

 

と話している間にも周りがどんどん騒いでいる。

うむ、こんな騒ぎをやるのはこっちの世界じゃはじめてだな。やれる限りやりますか。

そう思い俺は財布から3万円を取り出す。

 

「これで一口お願い。」

「ちょっと!?流石に多いって!!」

「いいから、こういうときにお金を使うタイプなんだ、僕。後ほかの人どんな料理作るかわかる?」

 

そう言ってとりあえずそれを無理やり渡す。

まあ実際そういうタイプなのは本当だし、ここでけちけちしても仕方がない。

しばらくすると一夏が戻って来たのでその場はお開き。

俺は必要な材料を紙に書き、後でこっそり相川に渡した。

 

 

 

 

 

4日後の放課後俺は自身の部屋で料理を作っていた。

っと言ってもたいしたものじゃない。

サンドウィッチ、クラッカー&チーズ、スライスしたローストポークと薄切りのオニオン、カットフルーツなどの簡単につまめるものと

あとはアクアパッツアというイタリア風の魚介の煮込み料理だ。これはなべのままで持っていくとしよう。

から揚げやサラダなどのポピュラーなものは他の方で作ってくれているし、まぁこんなものでいいだろう。むしろ余るんじゃないか?

仕込みなどは昨日からやっていた上に、授業終了後にすぐ取り掛かったのだが、既に開始予定30分前だ。

予想より時間がかかったな…まぁ約30人分作るなんて経験したことはないがそれなりに早く仕上げられたのでは?

と一人自己満足に浸っているとドアがなった。

まさか一夏か?いや、一夏の足止めは箒とセシリアに任せている。来るとしても俺に連絡が来ていないのはおかしい。

そう思いドアをあけるとそこにいたのは更識簪だった。

 

「あの……今大丈夫でしょうか…。」

「簪ちゃんか…入って入って。」

 

と部屋の中に入れる。あまり変な噂をながされても面白くない。

 

「大丈夫だけどどうしたの?」

「…いえ…栗城さんに必要なデータをもらいたいと思って風音君に連絡しようと思ったんですが。…文章で説明できなかったので直接言おうかと。」

「それなら電話すればよかったのに。」

「……電話番号わからなくって。」

「「……」」

 

なんだろ、この俺がいじめてるって感じの雰囲気。

気にしたら負けだ。俺は気が付かないように話し始める。

 

「そっか、それじゃあ仕方ないか。……おっさんのことまだ信用できない?」

「………」

「ま、しゃあないか。詳しくは聞いてないから俺もわからんことだし。ただあのおっさん何時でも連絡くれって言ってたよ。」

「本当に…あなたは違うんですか?」

「お姉さんの事?あの後会ったよ。」

「!?じゃあ!!」

「んでなんかわけわからない質問されたから適当に答えてた。」

「え?」

「その後いろいろ話したけど特にIS開発云々はいわれなかったね。」

「……お姉ちゃんと…会ったんですか?」

「なんか話しちゃまずかった?」

「…私がお姉ちゃんと仲が悪い事知ってますか。」

「うん、何でかは知らないけど。」

「……じゃあおねえちゃんについては?」

「この学校の生徒会長で学園内でIS最強ってだけ。」

「……おねえちゃんのISについては?」

「一切解りません。強いの?」

「…栗城さん……怒ってましたか?」

「むしろ情けないって自分のことを嘆いてた。」

「そう…ですか……」

「他に質問は?」

 

とニコニコしながら話しかける。彼女方はと言うと沈黙している。

多分彼女は本当に俺について解らないのだろう。

まあ本当の事もあれば嘘もついているが彼女にはどれが嘘でどれが本当だかは解らないだろう。

いろいろと信用できるか悩んでいるように見えた。

まあ俺のことをすぐ信用するはずもないしまぁここは疑ってもらいましょう。

実際なぜ喧嘩したのかの原因や悪化した理由なんて俺知らないから聞かれても答えられないし。

そんな時突然ドアが開き、気の抜けた声がする。

 

「あ~かんちゃんとソー。なにしてるの~。」

「お、のほほんさん。準備できたの?」

「うん。料理取りに来たよ~。」

 

と言って来たのはのほほんさんもとい本音と谷本&夜竹の三人組だった。

この三人良く一緒にいるよな…仲が良いんだろうか。

 

「ちょっと簪ちゃん待ってちょうだい。」

「は、ハイ。」

 

そう言ってとりあえず三人にサンドイッチとローストポークを渡す。

鍋の方にも火をかけ暖めなおす。

 

「いい香りするけどそっちは?」

「一回暖めなおしてからかな?あとクラッカー&チーズとカットフルーツも有るからそれも後で取りに来て、もう三人いれば2回でいけるかも。」

「了解、じゃまたすぐ来るから。」

「よろしくね。」

 

と言って彼女たちは料理を運ぶ。

簪は何がなんだかわからないんだろう、こちらに聞きたそうにして見ている。

まぁ説明しても問題は無いだろう。

 

「いやね、クラスで今日親睦会やるってことになっててさ。それの料理作ってたんだ。」

「料理できるんですね…。」

「僕よく食べるから自分で作ったほうが安上がりなんだよ。」

「……親睦会をやるなら今日説明するのは止めておきます…」

「かんちゃんもくればいいじゃ~ん。」

 

とまたもや気の抜けた声。

本音がさらに数人連れて部屋にやってきた。

この短い時間で、しかもさっきまで本音が持っていた料理を持っていないって事は恐らく近くに始めから数人スタンバイしてたんだろう。

 

「わぁ…いい香り、風音君これなんて料理?」

「アクアパッツアっていうイタリアの魚介の煮込み、日本語に直訳すると『水狂い』。鍋ごと持っていくから鍋敷きも持っていこう。」

「ここがカザネ君の部屋……他とあまり変わらないわね。」

「そりゃ寮だもん、違うはず無いでしょ。」

「うわぁ何このフルーツ、どうやって切ったの?」

「ちょっとコツがあるんだ、あとそこの君たち!?早く持っていこうよ!?なんで僕の部屋視察してるの!?」

 

普段は広く感じる部屋も最低でも8人も入れば狭く感じる。

って言うか絶対それ以上の人数いるよね。何、皆やる気満々なの?

とりあえず適当に近くにいた人に料理を渡す。簪にもわざと手伝わせた。

食堂に着くと一角に結構な人数が集まっていた。

あれ?クラスの親睦会みたいなものじゃなかったけ?2~3年生の姿も見えるぞ?

まあこんだけ人が居れば簪が居ることもばれないだろう。

しかしあの『織斑一夏クラス代表就任パーティー』の看板は必要だったのだろうか……まぁいいか。

 

「ほら、メインの料理のお通りだよ。なんとシェフも顔を出してくれた。」

「ちょっと、勘弁してよ!?」

 

この空間で持ち上げられるのは流石に恥ずかしい。

なんたって周りは女性しかいないのだ。

こんな空間を原作の一夏は味わっていたのか……まぁこっちの一夏には関係ない話か。

周りから声がする。

 

『え!?このフルーツとか風音君がやったの?』     『なにこの鍋?』  ザワ

  ザワ『へー料理とかできるんだ。』     『そういえば織斑君も家事得意なんだっけ。』

『ねーねー主役はまだ?』     『水狂いって料理だっけ?』      ガヤ

   ザワ 『フルーツを切るだけって言ってもかなり細かく切ってるわね…』

   『そういえば一番出資したのは風音君なんだっけ。』  ガヤ  『オリムーおそーい。』

 

(一夏……早く来てくれ…)

 

一人女性に囲まれながら一夏の到着を待つのだった。

 

 

 

 

 

「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

<―パァン―> <―パァン―> <―パァン―> <―パァン―>

 

と鳴り響くクラッカー。

一夏が来て何も説明されないままパーティーは始まった。

一夏も一夏で状況が判断できずポカーンとしている。

そしてもう一人ポカーンとしている人物が、ここに居る簪である。

 

「なんで私、こんなところにいるの?」

「まーまーかんちゃんも楽しもうよ。」

「いや~巻き込んじゃったね。じゃあ楽しんでて~」

「ちょ、ちょっと!?」

 

と言って簪は本音に任せ俺は一夏の方に行く。

あの状況で友達の本音もいるんだ、とりあえず一組メンバー数人とは仲良くなれるだろう。

問題はあの主役だ。未だに混乱してポカーンとしているので声をかける。

 

「一夏、クラス代表決定おめでとう!!」

「………奏…これ一体なんだ?」

「お前のクラス代表決定の祝いという名のクラス親睦会。」

「……そうか、お前は知ってたのか?」

「料理を作らせていただきました。お味はいかが?」

「お、おう…」

 

まだ混乱してるよ。まぁそのうち楽しみだすだろう。

隣を見るとセシリアは他の女子と話しているが箒は鼻を鳴らしてお茶を飲んでいる。

声をかけておくか。

 

「(箒、何怒ってるんだ。)」

「(怒ってなどいない。)」

 

それにしては声、めっちゃ不機嫌ですがな。

まぁ箒の不機嫌な理由なんて横の唐変木についてぐらいだろう。

機嫌ぐらい取っておくか。

 

「(箒、一つ言っておくがこの騒ぎの中、一夏の好感度を上げられるのは親しい人物じゃないと無理だぞ?)」

「(!?…どういう意味だ。)」

「(いや、あいつの今の顔見ろよ。何がなんだかわからなくてポカーンとしてる。)」

「(ああ。確かにそんな顔をしている。)」

「(あんな状態であの一夏が良く解らない人がいろいろ言っても通用するっていうか覚えられると思うか?)」

「(……無理だな。いつも以上に言葉の歪曲がすごい事になりそうだ。)」

「(だったら一緒に一夏と楽しめ。その方があいつも喜ぶだろうよ。)」

「(……そうだな。)」

 

そう言うと箒の機嫌も少しは良くなったようだ。

ふう……これでしばらくは問題は起きなさそうだな。

とりあえず飯でも食うか、と思うと女子の集団に囲まれる。

えっと…相川、鏡、鷹月、岸原、田嶋…だったかな?

 

「お疲れ様、風音君。悪かったわね、いろいろ作らせちゃって。」

「いやいや、こっちも久しぶりに料理を作って楽しかったよ。」

「この魚料理なんていったけ?すごくおいしい。」

「そう言ってもらえれば幸いさ。それでどうしたの?」

「いえ、お金がちょっとだけ余っちゃって、だったら一番渡してくれた風音くんに渡そうって話になったの。」

「そう…いくらくらい?」

「千円とちょっとね。」

「だったら飲み物でも買って来るよ。それとも君たちが行く?」

「それで良いの?……そうね。だったら私たちで買ってくるわ。あ、風音君の料理残しておいてよ?」

「もうほとんど無いわよ?」

「ねえねえ風音君!!本当にフランスとかイタリアとかで暮してたの?」

「いや、そんなに楽しい話じゃないよ!?大体はテレビの方が詳しく説明してたんじゃない?」

「だって一部テレビだとあなたギャングみたいな扱いだったのよ、知らない?」

「え、僕が!!なにそれ!?初耳!?」

「え?だってテレビだと~~~」

 

しばらくそんな風にクラスの女子と話していた。

しかし話すほうが忙しく口に物を運ぶ暇がない……どうしましょう。

ちらりと簪の方を見てみると本音と共にいろいろと楽しんではいるようだった。

一夏は箒とセシリアに引っ張られながらも何とかやっている。

そんな時声を上げる女性が居た。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」

「えぇ!?俺!?」

「一夏君カッコイイ!!」

「奏!?てめぇ!!」

 

俺の掛け声でどっと笑いが起きる。

 

「あ、私は二年の黛 薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺。」

「は、はぁ…」

「ではではずばり織斑君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」

「えーっと……まあ、なんというか、がんばります。」

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」

 

はは、むちゃくちゃ言うな、あの人。

一夏も助けてくれと言った視線をこちらに向けている。

貸しにしといてやるか。

 

「あまりうちのクラス代表いじめないでやってくださいよ。」

「あ、君はもう一人の男性IS操縦者、いろいろな噂が飛び交ってる風音奏君だね?」

「どんな噂かはしりませんが……たとえばどんな噂が?」

「一番有名なのは『生身でISに勝った』とか。」

「ははは、そんなはずないじゃないですか。」

 

そういうと一夏、箒、セシリア辺りがジト目で見てくるが気にしない。

 

「そうよね。流石にふざけすぎよね。」

「そうですよね。あと一夏に関してですが『寡黙な性格だが内に熱いものがあり』、とでも書いといてください。」

「え~でもそれじゃあ書くことが出来る量が少なすぎて……」

「そこは『一週間の修行での異常な成長速度』とか『修行内容はまさかの剣道のみ』などいろいろ書く事は困らないのでは?」

「なにそれ!?君、面白い情報もち!?」

「そこを探すのは記者さんの腕の見せ所でしょう。」

 

と笑顔で言う。

黛と名乗る彼女はムムムっと言った感じだ。

だがただじゃ情報は渡せないな…どうする?

 

「そこを説明してくれない?」

「僕も人の又聞きなもので。詳しくは解りませんよ。」

「そんなはず無いんじゃないの?織斑君の親友のあなたなら。」

「僕は同時にライバルでも有りましたしね…詳しく知ってるはずが無いでしょ?」

 

セシリアと箒は『こいつ、どこからそんな言葉が出てくるんだ』と言いたげにこっちを見ている。

 

「じゃ、仕方ないか。でも今度聞くときには話してもらうからね。」

「気が向いたらそうさせてもらいます。」

「まったく…たっちゃんの言うとおりね。」

「なんと言ってました彼女。」

「するりするりと捕まえられない掴み所の無い人間。」

「僕は霞かなんかですか?」

「そこら辺は彼女に聞いて。じゃあ最後に一組の専用機持ちで写真撮影ね。」

 

と言われセシリアは嬉々として一夏に駆け寄り箒はムッとしている。

そしてクラスメイトはこそこそ話して何かしている。

一夏を中心に右に俺、左にセシリアと言った感じだ。

黛さんがカメラを構え声をかける

 

「じゃあ撮るよ~1+1は?」

「「「「「「「「「「「2!!」」」」」」」」」」」」」」

「のわ!?」

「おぉい!?」

 

とクラスメイト全員が写真の中に無理やり写りこんでしまった。

ちなみに俺と一夏は後ろから押されてしまって写真を撮った後にこけた。

 

「ちょ、ちょっと!?みなさん!!」

「セシリアだけ抜け駆けは禁止だよ!?」

 

怒るセシリアとちゃっかり俺と一夏の間に入り込むように写真に写れたのだろう、うれしそうな箒。

そしてこけて床に座り込んだままの俺たち。

 

「黛先輩~写真焼き増しって出来ますか?」

「もちろん。」

「あ~だったらもっとかわいい服着てくればよかった。」

「私目つぶっちゃたかも。」

 

こけたまんま俺は一夏と目を合わせてお互いのマヌケな顔を見て噴出してしまった。

このパーティーは結局千冬先生に怒られるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

自分で自分を楽しませるすべを知っている人間ほど強い

                         ~シャーリー・マクレーン~




ということでクラス内のパーティーでした~
料理は基本的に自身が仲間内で飲む時に作るものですwwww
面白いもので騒ぎながら食べる飯はいつも以上にうまく感じます。
ということで読んでいただきありがとうございますwww


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第二十話 セカンド幼馴染

パーティーから数日後特に大きな変化は無く俺はIS学園での日常を過していた。

強いて変化が有ったといえば、少しだけだがパーティーの後簪と仲良くなれてことくらいか?

っと言っても未だにかなり警戒はされてるが……だがまあ信用はされてそうだから良しとしよう。

現在俺は一夏と共にクラスに向って歩いている。そういや最近のISの特訓の方はどうなっているんだ?

 

「一夏~最近ISの訓練の方はどうよ?」

「うん?まぁ自由に空は飛べるようになったな。」

「セシリアのおかげか?」

「……どちらかと言えば慣れかもしれない。」

「……セシリアにはそれ言うなよ。」

 

少し考えた後半笑いをしながら言う一夏。

どんな訓練をしているんだ?一度見に行ってみるか……

そう考えながら歩くとクラスに到着した。

席に座るとすぐさま声をかけられる。

 

「織斑君、風音君、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

「この時期に?そんな事ってあるの?」

「なんでも中国の代表候補生なんだってさ。」

「へ~。」

 

と声を上げる一夏。

恐らく他国への牽制なども入っているのかな?

そうなると恐らく今後も転校生が増える可能性もあるな。

……ってこんな時ぐらい現実の記憶を使えよ!?えっと転校生は…中国のセカンド?

なに、エヴァのパイロットかよ。もっとしっかりと思い出せ。

俺が唸りながら考えているとセシリアが近くにやってきた。

 

「一夏さんおはようございます。あら?奏さん、何を唸ってらっしゃるの?」

「ああ、おはようセシリア。奏は…俺にもわからん。そういやセシリア転校生って知ってるか?」

「ええ、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら。」

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい。」

 

と何時の間にか箒が近くにいた。

こいつ案外寂しがりやなことが最近わかってきた。

あまり話に参加するわけではないのに集まるところには居るといった感じだ。

一方俺は未だにう~んと唸り声を上げながら悩んでいた。

 

「……一夏、奏は一体何をしているのだ?」

「気にするな箒、良くある事だ。」

 

こいつ適当言いやがって。

しかしあと少しのところまできてるんだよな……

中国のセカンド……二番目の幼馴染で…

凰…だっけ?んでパンダみたいな名前…じゃなくて鈴……鈴音だ!!

漢字は思い出せたがどう読むんだったけな……

と考える間にも話はクラス代表戦の話に流れていく。

 

「織斑君!!私たちのためにもがんばってね!!」

「目指せ優勝!!そしてデザート食べ放題。」

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ。」

「おう。」

 

と返事をする一夏。

その時クラスの扉の影に誰か居る事に気が付く。

あの顔……昔一夏に見せてもらった写真の子にそっくりだ。

名前は確か……

 

「その情報、古いよ。二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから。」

「…あ!!鳳鈴音(おおとりすずね)!!確かそんな名前だったよな!?な!!一夏!!」

「…誰よ、それ?」

 

えっ!?と言った鈴音(すずね)ちゃん(仮)の反応。

あれ?昔一夏に言われた時はそんな名前じゃなかったけ?

一夏の方を見るとあちゃ~と言った顔をしている。

 

「……奏。ごめん。俺お前の事、からかってそのままにしてたわ。」

「………え?本名は?」

「……(ファン) 鈴音(リンイン)、通称鈴。」

「……鈴さん、盛大に名前を間違ってゴメンナサイ。後、一夏後で絶対しめる。」

 

微妙な雰囲気が流れる中とりあえず鈴に謝りながら一夏をしめる事を決定した。

周りも付いていけずポカーンとしている。

 

「いや、本当にすまん。弾と面白がってそのままにした後放置しちまった…って鈴。なんでお前こんなところに?」

「ここに来たのは宣戦布告、中国代表候補生、(ファン) 鈴音(リンイン)。私が2組の代表としてクラス代表試合出ることになったから。」

 

と胸を張る鈴…正直身長がちっちゃ過ぎてあまりかっこよくない。

一夏もそう感じたのか口に出す。

 

「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ。」

「な、何よ!?一夏!!」

 

と口げんかになりそうになる。

しかしこのタイミング(・・・・・・・)での口げんかは止めるべきだ。

 

「え~っと鈴さん?そろそろクラスにもどった方がいいよ?」

「誰だか知らないけど何よ!?」

「鈴、後ろ。」

「なに!?」

「おい」

「だから何よ?」

 

と鈴が振り向く前に頭に出席簿が落ちる。

 

<―パァンッ―>

 

と気持ちいい音と共に現れたのは千冬さんだった。

 

「もうSHR(ショートホームルーム)の時間だ。さっさと自身のクラスにもどれ。」

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ。」

「す、すみません。」

 

さすが千冬さんのことを知っている相手だ、下手に逆らわずに素直に行動している。

 

「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」

「さっさと戻れ。また喰らいたいか?」

「い、いえ!?失礼しました!!」

 

脱兎のごとく駆けていく鈴。

あ~そうだったある程度思い出したぞ。

彼女と一夏が何だかしらの喧嘩をして試合中にアクシデントが起きるんだったよな。

………どんなアクシデントが起きるんだったか思い出せねぇ…

再び頭を悩ませる俺。

一方一夏は箒とセシリアに詰め寄られていた。

 

「……一夏、今のは誰だ? 知り合いか? えらく親しそうだったな?」

「い、一夏さん!? あの子とはどういう関係で?」

 

そりゃ二人にしてみればいきなり現れた強力なライバルだしな。

しかも一夏とかなり親しそうに見える。まぁ心中穏やかじゃないわな。

そしてそれに便乗するようにして他のクラスメイトも一夏を質問攻めにするがそれは千冬さんによって中断された。

 

<―パァンッ―><―パァンッ―><―パァンッ―><―パァンッ―>

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

千冬さんのその一言でクラスメイトたちはしぶしぶ席に付くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ!」

 

昼休みになった途端、箒とセシリアがすぐさま一夏に文句を言った。

理由は簡単だ。恐らく鈴と一夏の関係が気になって仕方がないこの二人は午前中、千冬さんにかなり絞られたのであった。

まぁ確かに原因は一夏だが悪いのは君たちだろうに…一応一夏を庇う。

 

「ストップ、ストップ。今回ばかりは一夏は悪くないよ。確かに普段の事の大半はこいつが悪いけど今回ばっかりは悪くないから。」

「……お前、庇ってくれてるの?けなしてるの?」

「両方。」

「なんでだよ……」

 

そこら辺が解らないから一夏は一夏なのである。

一夏は俺の言葉にがっくりとした後すぐに元にもどり提案する。

 

「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ。」

「了解。」

「む……。ま、まあ一夏がそう言うのなら、いいだろう」

「そ、そうですわね。言って差し上げないこともなくってよ」

 

と、とりあえず食堂に行って飯にすることにした。

食堂に着き食券を買うと通路の途中に彼女が居た。

 

「待ってたわよ、一夏!」

「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ。」

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

あら、案外素直。

結構箒と同じタイプを連想してたけど結構違うのかな?

とりあえず同じ席で飯を食う事になった。

席に座ると一夏が鈴に話しかける。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど一年くらいになるのか。元気にしてたか?」

「ふんっ! アンタも相変わらずね。少しは怪我とかしたらどうなの?っていうか私が聞きたいのはそこの奴と何であんたがここにいるかよ。」

「ここに居る理由はISを偶然にも試験会場で動かしちまったからで、奏に関しては鈴、お前にも話しただろ?俺の2年近く前の事件。アレから俺を救ってくれた奴が奏。」

「!?ってことはあんたが話に良く上がった風音奏ね。」

「どんな話かはわからないけどその風音奏です。」

 

一夏、お前俺のことどういう風に説明してたんだ?

まぁこれは後で聞くとして、それよりも既に横の二人が爆発寸前だ。

 

「一夏さん!そろそろどういう関係なのか説明して欲しいですわ!」

「そうだぞ!まさか付き合ってるなんてことはないだろうな!?」

「べ、別に付き合ってるわけじゃ・・・・」

 

おお、爆発した。二人とも一夏との関係が気が気でなかったんだろう。

しかも笑顔で照れる鈴。これを見る限り満更では無い様だし、ポジション的には一夏の友達でそこから恋人を狙うといった感じか。そして既に一夏との仲も良い……

これは下手をすれば鈴の独走になりかねんぞ?

 

「そうだぞ、なんでそんな話になるんだ?ただの幼馴染だよ。」

「……」

「え~っと鈴さん?自己紹介お願いしても良い?僕らまだ君から直接聞いてないしさ。」

 

相手が一夏で無ければの話だが。

俺は一応この雰囲気を入れ替えるために自己紹介を促す。

ここまで好意を寄せられて気が付かないとか……もはや病気かなんかなんじゃないの?

むしろ女には興味は無い!!って感じなの?……それは無いよな…

ちょっと身の危険を覚えながらも話は進む。

鈴はアレだな、一夏の事は好きだけど面と向っては言えないって感じだな。

これは解らなくなってきたぞ。一夏は鈍感なくせに素直だから。

仮に鈴の好意に気が付いても『違う』って言われたら『そうか』で終わらせる男だ。

せめて最後くらいは素直にならなきゃな。

 

「まぁ前に一夏から紹介されたとは思うけど改めて、(ファン) 鈴音(リンイン)。鈴で良いわ、よろしく。」

 

鈴が自己紹介を終えるともう一人のなかなか素直になれない()が疑問を持ち出した。

 

「幼馴染?私は知らないぞ?」

「あ~……えっとだな、箒が小4の終わりに引っ越しただろ?鈴は小5の頭に越してきて中2の終わりに国に帰ったんだよ。」

 

なるほど、って事は中学三年から入学した俺とも入れ違いってことか。

 

「鈴、前に話しただろ?篠ノ之箒、俺の通ってた剣術道場の娘だ。箒がファースト幼馴染、お前がセカンド幼馴染ってところだ。」

「ファースト……」

 

初めてという言葉に喜ぶ箒。

って言うか幼馴染ってそういう感じだったけ?

じゃあそう考えると俺はこの中じゃサード幼馴染(チルドレン)?シ●ジ君かよ!?

とアホなことを考えて居ると場の空気が動いた。

鈴が箒の方を向くと笑顔で話し出す。

 

「ああ、そういえば聞いたわね……ふーん、そうなんだ…はじめまして、これからよろしくね。」

「篠ノ之箒だ。こちらこそよろしくな。」

 

対する箒も満面の笑みだ。

しかし雰囲気は一発触発だ…なぜだろう彼女たちの後ろに竜と虎が見える。

まぁ気にせず飯を食おう。一夏は何度も二人を見直している。

お前に見えているものは恐らく俺にも見えているから安心しろ。

 

「私の存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生凰鈴音さん。」

 

おっと、セシリアもこの中に乱入か?

と思いきや鈴は微妙な反応だ。

 

「……あんた誰?」

「なっ!?イギリス代表候補生のこの私をまさかご存知ないの!?」

「ごめん、私他の国とか興味ないから。」

「なっ、なんですって!?言っておきますけど!私あなたのような方には負けませんわ!」

「あっそ。でも戦ったら私が勝つよ。悪いけど私強いもん。」

 

まぁ反応を見るに鈴の言う事は本気だろう。

始めから目的は一夏。さらに中国政府からの命令もほとんど無いようだ……

中国は完全に『俺』を目標からはずし『織斑』を手に入れるつもりか?

牽制など考えずにストレートに狙いに来たか。

 

「第一クラスの子に聞いたけどあんた初心者に負けそうになったんでしょ?」

「!?そ、それは……」

「そんな奴に負ける気なん「ハイストップ!!」……何よ、奏。」

 

とりあえずここは止めに入らせてもらうか。

 

「鈴ちゃんが国を背負ってる事はわかるけど戦っても居ない相手を馬鹿にするのは止めた方が良いんじゃない?今後の関係的にもさ。」

「何?でも負けそうになったのは事実でしょ?」

「ああ、でも勝ったのはセシリアだ。その理論でいくと負けた上に代表になった一夏も馬鹿にしているようなものだぞ?」

「……でも一夏は初心者でしょ、追い詰めただけすごいじゃない。」

「追い詰めたけど負けましたって言っても結局負けは負けだ。それに完全なノーデータの相手に勝ちを収める方もなかなかだと思うけど?なぁ一夏。」

「ああ、セシリアの強さは戦った俺が一番良く解るし、もう一度戦ったら勝てる気がしない。だからあまりそういうことは言わないでくれ、鈴。」

「一夏さん……」

 

とあえて一夏に話題をふった。

一夏がセシリアを馬鹿にするわけが無いし、一夏としてもここに居るメンバーは仲良くして欲しいと考える事はわかっていた。

鈴にしても一夏の言う事なら無碍にはしないだろう。

セシリアにしても一夏に自身が認められているほうがうれしいはずだ。

我ながらかなりずるい方法だな…まぁ喧嘩になるよりは10倍マシだ。

しかし鈴はあまり納得がいかないようだ。

 

「ふ~ん…まぁ一夏がそういうんだったらあまり言わないでおいてあげる。まぁでもこの中で一番強いのは絶対私だけどね。」

 

と自信満々に言う鈴。

セシリアが怒らないかと心配したが彼女にとっては一夏に認めてもらったほうが重要なようで気にもしていないようだった。

しかし…自分が絶対に強いか…恐らくこれは慢心が混ざってるな、戦った事も無い相手に『絶対』なんて無いのだ。

挑発に言う分なら問題ないだろうが彼女の顔を見るに本当にそう思っている。

まぁ俺が戦う相手じゃないんだ。分析しても仕方あるまい。

鈴は周りを気にせずに話を進める。

 

「ということで一夏。よかったら私がISの操縦見てあげてもいいけど?」

「え?」

 

ほぅ……先ほどまでの自信の持ちようはここにつなげるためだったのか?

…いや、顔を見るにアレは素か。だが効果は一応有りそうだな。

さてそれに対し他の二人はどう出るかな?と考えていると二人が言葉を発した。

 

「必要ない!一夏の教えるのは私の役目だ!」

「あなたは2組でしょう!敵の施しはけませんわ!」

「私は一夏に言ってるの。関係ない人たちは引っ込んでてよ。」

「一夏さんは一組の代表ですわ。だから一組の人間が教えるのは当然のこと、あなたこそ後から出てきて図々しいですわよ!?」

「後からじゃないわよ。私のほうが付き合い長いし。」

「それを言うなら私のほうが早いぞ!一夏とは家族ぐるみの付き合いで何度も家で食卓を囲んでいたしな!」

 

ああ、話が関係ない方へと流れている……

一夏、お前も茶をすすりながらうまいなんて顔してないで話をまとめるよう努力しろよ。

しかしそんな事は関係なく三人娘の話は続く。

 

「食事?それなら私もあるわよ。」

「…何?」

「…一夏さんそれはどういうことですの?」

 

おっと?矛先が一夏に向いた。

箒は固まり、セシリアは陰のある笑顔で一夏を見る。

えっ?と言った顔をする一夏。

……しかし飯ぐらいどこで食ったていいだろうが。

 

「あ~それか。千冬姉がIS操縦者として活躍するようになってから一人で食事することが多くなってな。一人の食事ってのは作り甲斐がなくて…それで鈴の家でよく食べてたんだ。鈴の家は中華料理屋だったからさ。」

「な、なんだ店なのか…」

「それなら不自然なことは何一つありませんわね。」

「む・・・・・」

 

胸をなでおろす二人に不満そうにする鈴。

まぁここら辺で一旦話を閉じようか、そう考えていると一夏が爆弾を投下する。

 

「それに一番多く飯を一緒に食ってるのはどう考えても奏だぞ?」

「「「………え?」」」

「…おい、一夏。」

「いや、だって半年近く一緒に生活してたじゃん。千冬姉が居ない間。」

「…ってことは」

「…二人だけで」

「…共同生活?」

 

おい、馬鹿やめろ。三人とも変な風に解釈するな。

あと一夏誤解を招く奴らしか居ない状況でその話はするな。

だが一夏は話を止めようとしない。

 

「そういやこの前のパーティーで食った魚料理も久しぶりだったな。こいつの味付け俺かなり好きなんだよね。後いろいろ料理のレパートリー広いんだよな、奏って。」

「お、おう、一夏。ここら辺で止まれ、いや止まってください。」

「…いえ一夏さん?」

「……もう少し詳しく」

「…教えてもらってもいいわよね?」

 

おい三人娘、何で目に光が無い顔でこちらを見てるの?

って言うかさっきまでめっちゃ言い争ってたじゃない?君ら。

なんで今はそんなに仲良さげに笑ってるの?

この三人を説得するのにかなりの時間を要したのは説明するまでも無いだろう。

 

 

 

 

すべてを納得すれば、心はきわめて寛大になる。

                                    ~スタール夫人~




鳳鈴音(おおとりすずね)に関しては友人Aの読み間違いが元です。
っていうか漢字がまずちがいますよね、これ。
○凰
×鳳
ちなみに友人はずっとそれに気が付いておらずしっかりとISを読むまで解らなかったそうです、馬鹿ですねwww
ということで今回からセカンドチルドレンもとい二人目の幼馴染、鈴の登場ですww
これからどういう風に話が続いていくかお楽しみにww
では読んでいただきありがとうございました。


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第二十一話 訓練

「まったく…僕に嫉妬してどうする。」

 

説得を終え一息つく、これじゃもうすぐ昼休みも終わる……

三人への説得は困難を極めた。

結局俺の『仮に一夏が“そっち”だとしたらお前らどうするんだよ!?』という根本的な一言で事態は収拾した。当の一夏はなぜこんな事になったのか解らないと言った顔だ。

 

「い、いえ。少しわたくしたちも混乱しておりまして……」

「そ、そうだ。ちょっと混乱していただけだ。」

「……本当に何にも無いんでしょうね…」

「無いよ!?」

 

という風に納得してくれたか?…詳しくは考えないようにしておこう。

さてそろそろ昼休みも終わるし先ほどの話の結論を言うか。

 

「あと鈴。君の言った訓練についてだけどせめて君との試合が終わってからで良いかい?」

「!?何でよ。」

「そうしないと一夏の勝率が下がるから。基本的にいくら一夏が優秀だからといってもISの熟練度がどう見ても君とは比べものにならないほど低い。そうなるとこちらの勝つ方法と言えば不意打ち位だ。ってことで一緒に訓練しちゃうとその不意打ちすら出来なくなりそうだしね。」

「そういうことですわ。」

「そうだ。」

 

お前らは……調子に乗らないように釘はさしておくか。

 

「もちろん試合終了後は好きにしてくれ。むしろ一夏もその方が良いんじゃないか?」

「ああ。鈴に教えてもらえるなら助かる、断る理由もないしな。」

「もちろん二人もそれなら反対は無いよな?」

 

箒とセシリアが何か言う前に圧力をかける。

二人とも納得はいかないが反論はでき無いようなのでうなずいた。

 

「う……わかったわよ……じゃあ対抗戦が終わったあとにたくさん教えてあげるわ。」

「おう、頼むぜ鈴。」

 

鈴の方もここが落とし所と判断したのであろう。

しかし…なんで俺がこいつのハーレム管理じみた事やらなくちゃいけないんだ…

そう考えていると昼休みが終わった。

 

 

 

 

 

 

放課後俺は一夏たち三人と共にアリーナを借り練習をしていた。

箒は貸し出しされている打鉄を纏っている。

普段俺が参加する事は無いのだが今回は簪に頼まれたデータ収集と一夏の鍛錬に付き合うことにしたのである。

一夏とセシリアは何か話した後向かいあっている。

さてどう訓練をするのか見せてもらおうか。

 

「じゃあいきますわよ。」

「ああ!!こい!!」

 

と言って突然試合を始めた……いきなりスパーですかい……

これは箒に確認した方がいいな。

 

「箒、いつもこんな感じなのか?」

「ああ、だがただ試合をするわけではない。」

 

という箒。

って事は何かかしらの目的があるのか。聞いてみよう。

 

「ほう…どういう風に?」

「言ってはなんだが私はあの二人と比べてISを動かすのが下手だ。だからこの訓練では私は一夏の動きを観察し、悪いところや攻め時が有れば後で自分の剣ならどう動くかを一夏に伝える。」

「……」

「一夏は一夏で自身の武器が近距離用の物しかない事は解っているからな。どれだけ遠距離の相手と戦えるかを伸ばすように戦っている。」

「セシリアは?」

「セシリアは一夏に懐に入られないようにする相手のコントロールの訓練と自身の弱点の克服らしい。」

 

話しながらも箒は二人の試合から目を離していない。

ふむ……一夏が箒と一緒の剣術で戦うという事なら問題は無いかな…

ただ問題点を挙げると

・箒の鍛錬が出来ない事

・一夏のISは聞くところによるとどちらかといえば一撃離脱なのだがそれを生かせる戦術になるか不明

と言ったところか?ただ前者は今必要かといわれれば必ずしもそうではないし後者は今すぐにそれ専用の訓練をひらめくかと言ったらまったくひらめかない。

つまりしばらくはこの訓練でも問題は無いのか?

前者については俺が箒に教えれれるコツを説明する事は出来るな。

しかし後者か……後で一夏に言ってだめもとで試させてみるか。

とりあえず今は箒の方だな。

 

「箒。一応僕の知る限りのISの動かすコツなら教えられるけど、どうする?」

「……試合が終わった後の時間にでも教えてもらえるか?」

「いや、そんなたいした事じゃないし今すぐそのままできる訓練。」

「……教えてもらってもいいか?」

「簡単のこと。常にどこかISを動かしてタイムラグの感覚を掴むだけ。」

「……どういう意味だ?」

 

そう聞きながらも彼女は一切こちらを向かず試合を見ている。

 

「え~っと、僕の感覚なんだけどISを装着している時なんか動きが自身のイメージした動きと違う感覚無い?」

「動き自体は早くなってるが細かいところだと違和感があるな。」

 

なるほど、普通はそうなのか。

こっちは動きは鈍いし細かい動きはすばやくできない、無茶をしようものなら壊れかねん。

ぶっちゃけ着る必要無いんじゃない?…まぁそこら辺は今は良いとして話を続けよう。

 

「その違和感になれるように動かすんだ、手をゆっくり動かすのでも良いし、石を上に投げ掴む動作でも良い。箒の場合素振りでもいいんじゃないかな?ひたすらに違和感を感じなくなるまで動くんだ。」

「なるほど…感謝する。」

「あと紙一重で避けようとしないことかな?どうやっても動きにくいから生身で紙一重をやってる感覚で動くと被弾する。」

「……奏、お前何か武術でもやっているのか?」

「いや、ただ逃げるためにひたすらに回避を鍛えてただけ。」

 

と笑顔で場を濁す。

流石に誰も殺さないで無理を通すために鍛えているとはいえない。

そうしていると二人が降りてきた、試合は終わったようだ。

 

「ほら箒、行ってきたら?セシリアと二人っきりはまずいんじゃない?」

「わ、解っている。」

 

と言って箒を二人にけしかける。

まぁ一夏強化の訓練はあの三人で十分だろ。じゃあ俺も俺でがんばるとするか。

とりあえず今日必要なのは脚部ブースターだけでの機動データ。

世界に公表もされるわけだから動き回る訓練をしているようにするか。

訓練の最中でもそこら辺を気にしないといけないとは……

どこか何かのデータを取ってるように見られるだけで疑惑が広がるからな……本当に面倒だな。

頭の中でぼやきながらも自身の訓練(データとり)をはじめる。

しかしやはりISは動きにくい。空を飛べるという利点があっても武器としては使いたくないな……

出来る事なら何もしがらみがない状態で飛び続けたい、もしくはこのまま宇宙開発に使うべきだろ、個人でここまで細かい作業が出来る宇宙船なんてどこまで利用価値があることか。

たとえば月にあるであろう資源の回収や危険な実験施設の建築。

もっと言えば月に前線基地を作って、その後火星のテラフォーミングも可能かもしれないのだ。

なぜそれほど浪漫にあふれた発明品をを武器利用しなければならないか…やはりそれだけ白騎士事件が強烈だったんだろうな…

約2400発近くのミサイルが日本へ向けて発射されるも、その約半数を搭乗者不明のIS「白騎士」が迎撃した上、それを見て「白騎士」を捕獲もしくは撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦闘艦などの軍事兵器の大半を無力化した事件。

ISの兵器としての側面が世界に知らしめられたこの事件、これのせいでISは『宇宙開発のマシーン』から『効率的な戦争のマシーン』となったのだ。

こうなったら世界は我先にその『効率的な戦争のマシーン(IS)』を開発するだろう。

そしてそれには終わりが見えない。そうするとどんどん宇宙は離れていく…

 

(ああ、製作者のことを考えてるとやるせないわ……)

 

恐らく宇宙を夢見て作られたこれが今じゃ地球のしがらみに縛られてるとか……

そう考えながら空を飛ぶ。

何も考えずに飛べるのなら気持ちがいいんだろうがあいにく今はデータ取りだ。

そろそろデータも取れたし今度はIS状態での武器の挙動を確かめるか。

下に降りて今度は壊れない限りのスピードで銃を構える。

遅い…では一回銃をしまいもう一度…やはり遅い。

これ以上の訓練は無駄だな…逆に変な癖が付いてしまいそうだ。

最後に一回全力でいってみるか……

目を閉じ集中して構える。

 

<―バチッ―>

 

という音と共に構えることに成功するが今の音は……

[右腕部装甲にダメージあり]の表示、全力一回でこのザマか……

よし、やはりISで逃げに徹しよう。戦う時も時間稼ぎか囮だ。

正直この状態で戦うのは危険すぎるし何より責任が持てない力を振るうのは性に合わない。

そうしていると一夏が近寄る。

 

「奏どうした?さっきから飛び回ってたかと思えば今度は銃を構えて。」

「いや、動いてみたんだけどやっぱり慣れなくて動作の確認をしていたんだ。ただやっぱり武器を構えるのは性に合わないなって思っただけさ。」

「その実力で?」

「あわないものは仕方ないでしょ?」

「そうか。お前本当に喧嘩とか駄目だもんな。仲裁に入ってもいつも逃げ回ってたし。」

「そういうこと、僕は飛び回るほうが性に合ってるみたい。悪いけど一夏、先上がらせてもらうわ。」

 

そう言って俺はアリーナを後にした。

 

 

 

 

アリーナの控え室にもどるとそこには鈴の姿があった。

こちらに気が付いているようだし一応声をかけておくか。

 

「や、鈴。一夏ならまだ訓練中だぞ?」

「ああ、奏。……ありがとう。」

「うん?これくらいどうって事ないさ。」

「そうじゃなくてさ、一夏の誘拐事件のこと。」

 

と口に出す鈴。

その事はあまり広めるべきじゃないんだが…あいつ親しい奴には知らせたのか?

 

「……鈴知ってたんだっけ?」

「一夏の話してた事はあんたに助けてもらったってだけ。このことは中国で知ったの。」

「…一応どういう風になってるか教えてもらってもいい?」

「詳しくは解らないけど一夏が誘拐されたってこととあんたが助けたって事はわかった。」

 

中国にはばれていたか……だが詳しく知っている訳ではなさそうだな。

もし中国が完全にその情報を掴んでいたら

『日本に世界の宝の男性IS操縦者を任せるのは不安だ』

とでも言って奪おうとするだろう。

そして鈴もあまり広めるべきことではないと思っているようだな。

ならここで適当に答えて終わらせよう。

 

「助けたのは偶然さ。おかげで僕は日本にこれたしむしろお礼が言いたいくらいさ。」

「そっ。じゃあこの話はおしまい。次に聞きたいことがあるんだけどいい?」

「……一夏の周りについて?」

「……そ、そうよ。」

「箒とセシリアが現在一番近いかな?ここら辺は僅差だね。後は五反田 蘭は解るでしょ?」

「ええ、もちろん。」

「彼女はとりあえず一歩引いてるところら辺かな?どちらかと言えば一夏も妹だと思ってるって感じ。そのほかはぶっちゃけ把握しきれません。」

「やっぱり…あの歩くフラグメーカーは…」

 

とわなわなと肩を震わせる鈴。

そしてこちらを見て話し始める。

 

「聞きたい事はそれだけ。あとあんたがどっちに肩入れしてるかはわからないけど残念ながら私の勝ちって伝えておいて。」

「二人に伝えておくよ。」

「何だ、まだ中立だったんだ。そういえばあんたはなんで訓練やめてもどってきたの?」

「ちょっと調子が悪くてね。あとISの整備もしたかったし。」

「ふーん、あんたもそれなりに強いって聞いたんだけど?」

「よしてくれよ。僕ランクDの初心者だよ!?多分噂の勘違いだよ。」

「そう。まっどっちにしても一番強いのは私だけどね。」

 

と胸を張る鈴。

やはり似合っていない。

なんというか小学生が威張っているようなイメージを感じる。

なんか頭を撫でたくなるなぁ…怒られそうだからやめよう。

さてそろそろISのデータをおっさんに送って偶然にも頼み事をされる予定(・・・・・・・・・)の時間だ。話を切り上げて先に行こう。

 

「じゃ悪いけどそろそろ僕も行くわ。」

「そ、じゃまた後で。」

「夕食にでも合えればね。」

 

そう言って俺は鈴と離れるのであった。

 

 

 

 

 

友を得る唯一の方法は、自分が良き友たるにある。

                                  ~エマーソン~




一夏のホモ疑惑……
作者の友人の内半数は『あいつはホモだ』と言っております
では次の話まで~
読んでいただきありがとうございました。


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第二十二話 告白

夕食後俺は部屋に簪を呼んだ。

簪の部屋に行くとルームメイトに注意しながら話さなくてはならないため正直詳しく内容を話せないのだ。

そうなると周りの目を気にせずに話ができる空間は寮内だと俺の部屋くらいしか思いつかなかったのだある。

まぁ別のクラスの女の子を部屋に連れ込んで二人きりって別の意味でばれたらいろいろと困るが(特に生徒会長とか…)……言い訳を考えておこう。

そんなこんなで現在俺が今日とったデータを簪に見てもらっている状況なのである。

 

「………終わりました。あの、風音さん。このデータを栗城さんにわたしてもらってもいいでしょうか?」

「了解。え~っと簪ちゃんのIS今のところどんな感じなの?」

「本体の方は何とか形になりましたが武装の方はまったくと言って良いほど進んでいません。」

「……おっさんサボってるのか?」

 

ぼそっと口から出てしまう。

たしかあのおっさんは自身が武装製作をするといっていたはずだが…

そう言うと簪はあわてて否定する。

 

「い、いえ!!今栗城さんたちは『打鉄弐式』の本体のパーツ製作をしてくれています。正直なところ人手が足りなさすぎるんです……」

 

終わりになるにつれ尻すぼみに声が小さくなっていく。

しかしその情報を持っているということは。

 

「おっさんに連絡取ったんだ。」

「……はい。」

「どうだった?」

「謝られました……そんな必要無いのに…」

「まぁ、おっさんが謝りたかっただけだと思うよ。あのおっさんそういうところ頑固だから。」

「…そうなんでしょうか…」

 

俺はそう言って笑うが簪は一切笑わない。

う~ん、やっぱり警戒されてるな、いつも以上に……まぁここら辺は気にしても仕方ないんだ。

しかしおっさんと連絡が取れると言う事は…

 

「ねぇ、簪ちゃん。」

「なんでしょうか?」

「おっさんと連絡取れるって事はさ。僕、もしかして要らないんじゃない?直接おっさんからデータ送ってもらえば良いじゃ……。」

 

それで問題ないんじゃないか?

そうすれば簪の俺への疑念も払拭されるだろうし。安全性も高まるだろう。

しかしそう簡単に話が進むわけではないらしい。

 

「……いえ、実は今作っている『弐式』のパーツも、風音さんの『赤銅』の試作パーツの失敗品として製作しているらしいんです。」

「…どういうこと?」

「風音さんもご存知のとおり『打鉄弐式』の開発は実質停止されていています…」

「それはおっさんから聞いたわ。」

「現在の倉持技研全体のの方針は『白式のデータをとること』『織斑一夏からのデータを取り男性でも動かせるISのヒントを見つけること』……そして…」

「そして『風音奏()のご機嫌を取って倉持技研が風音奏()を手に入れること』…かな?」

「……そのとおりです。そのために栗城さんのチームは、風音さんの使用しているISの強化パーツや武器を製作しています。」

 

この話は恐らくおっさんが言っていたんだな…

って事はこれから先、他の企業も同じことをやりかねないってことか…

本当に面倒だな……俺本気で戦うつもりなんてないからぶっちゃけ赤銅(これ)で十分なんだが…

まぁそこは今気にしても仕方ないか。

つまりおっさんが俺に協力して欲しいって言った事はこれの事だったのか。

 

「つまりおっさんは『僕へのプレゼント』名義の開発資材を使って『打鉄弐式』のパーツを作っているってことか…」

「…そういうことです…なのでデータもパーツも風音さんがこう言うのが欲しいといってもらわなければ渡す事も造る事もできないらしんです…それにどんなにがんばっても1チームだけでそれも風音さんのパーツと一緒に作るわけですから…」

「人手が足りません…っと。なるほどね……だから僕が仲介役にならなきゃいけなかったのね。」

 

言葉無くうなずく簪。

しかし、おっさん…本当に無茶するな…

こればれたらただじゃすまないんじゃないか?

しかも俺がそこまでISに詳しいわけでもないのにそんな開発データを使って試作案を作るとか…無理があるだろ。

ちょっと頭使わないといけないかもしれないな。

 

「簪ちゃん…後で君に話を合わせてもらうことになるかも…」

「どんな風にですか?」

「ごめん、まだはっきりとわからないけど開発の邪魔にはならないと思う。」

「……わかりました……あの、一つ聞いても良いでしょうか?」

 

真面目な顔で考えていると簪が質問をしてきた。

このタイミングで一体なんだろう。

 

「なに?」

「……栗城さんが風音さんを信用している事もわかります。風音さんが悪い人じゃないこともなんとなくですがわかります。」

「いや、結構悪い人だと思うよ。僕。現に今悪巧みしてるし。」

「そ、それでも、……なぜ私に協力してくれるんですか!?風音さんにはまったく関係のない話じゃないですか!?」

 

あ~そこか。

栗城のおっさんが協力してくれるのは何とかわかったが、今度は俺が自身のIS開発に協力する理由が見つからないと。

なんで具体的なメリットが見つからない中、面倒ごと覚悟で自身に協力してくれるのか?背後に本当に楯無はいないのか?って感じかな?

多分これを聞くのにも勇気を出したんだろうな、『え?じゃあ止める。』なんて断られたら、そのまま『打鉄弐式』の開発は停止だ。

さて…ここで『かわいい子の前でかっこつけたいから』なんて言ったら確実に信用を得られずに終わりだろう、前から考えていた言い訳を使うか。

 

「…これ、人には広めないでね?秘密だよ?」

「……なんでしょうか?」

「僕さ、喧嘩とか戦いとか苦手なんだよね。根本的に嫌いって言っても良い。」

「……」

「でもこのIS学園に入っちゃたらどうやってもISで戦わざるをえないじゃないか。」

「……そうですね。」

「でもIS開発の方に進めば戦う機会はグッと減る。だったら少しでもそこに進めるように早いところからIS開発にかかわっておきたかったんだ。」

「……でも、IS開発なら普通に進学もできるじゃないですか。」

普通(女性)ならね。僕はレアケース()だから、もしかしたら男性のISの戦闘データを取るために戦闘方面の方に強制的に進められるかもしれない。」

「……そんな事って…」

「既に僕、国籍無理やり取られてるんだよ?それに比べればそれくらいありえそうじゃない?あ、言ってなかったけ?今僕が国籍無しだって事。」

「……し、知りませんでした……」

 

一応ここまでは信じてもらえたかな?

さてじゃあ仕上げに入ろう。

 

「だから自身でもISを強化できる天才…って位の肩書きが欲しかったのさ。そしてその技術もね。だからこの『打鉄弐式』の製作協力は僕にとっても渡りに船だったて言うこと。」

「……じゃあ誰に命令されたわけでもなく?」

「そ、自分の意思で自身のために協力してる。ちなみにさっき簪ちゃんに『栗城さんと連絡取れるようになったのであなたはもう必要ありません』って言われたら頭下げて『何でもするので協力させてください!!』って頼んでいました。」

「そ、そうなんですか…」

 

真面目な顔で情けない事を言う俺、簪も少し引いている。

だが顔を見るに一応納得はしてくれたのかな?

これで簪の認識が『よく解らない協力者』から『持ちつ持たれずの関係』になってくれれば良いんだが…

まぁそこは時間の問題だと考えよう。うまくいかなかったらそのときはそのときだ。

 

「ま、そういうことで理由はわかってくれた?言っちゃえば君を利用してるって事だけど。」

「はい、でも理由がわかった分納得できました。それに…」

「それに?」

「今現在、私『打鉄弐式』のために奏さん利用していますし、責める事は言えませんよ。」

 

お、呼び方が『奏さん』になった。

一応信頼が増したのかな?だが油断せずに行こう。

 

「じゃ、これからもよろしくね。…共犯者さん?」

「はい。よろしくお願いします。」

 

と言いようやく微笑んでくれた。

何とか笑わせれたけどまだ硬いな……まぁ出合って十数日でここまでいければ上出来だろう。

さてそろそろ簪を部屋にかえそう。

 

「簪ちゃん、悪いけど俺そろそろ一夏の所に行かなくちゃいけないから、今日はここら辺で良い?」

「…わかりました…ではおやすみなさい。」

「お休み~。」

 

と言って簪は部屋を出て行った。

さて一夏の所に言ってちょっとアドバイスっていうかお節介をするとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏の部屋に向かい寮の通路を歩いていると

 

<―バタンッ!―>

 

とかなりの勢いのドアの閉める音がする……あ~なんか嫌な予感…

その予感が当たらない事を祈りながらも足を速めると一夏の部屋の近くを走り去る鈴を目撃する……確定だな…

一応一夏の部屋に向かうか…

 

<―コン、コン―>

 

ドアをノックするとすぐさまドアが開く

 

「鈴か!?…ああ奏か…」

「あからさまにがっくりするんじゃねぇよ…何があった?」

「いや…良く解らないが俺、鈴を怒らせちゃって…」

「……さっきまでここにいたのか?後箒は?」

「ああ、さっきまでここで俺と箒と話していたんだが…」

 

こいつ何を言って怒らせたんだ?

箒に聞いてみるか。

 

「悪い一夏。部屋の中に入っても良いか?」

「あ、ああ。良いぞ。」

 

そう言って部屋の中に入れてもらった。

入ると箒がこちらに気が付く。

 

「奏どうした?」

「その前に箒、何があったか教えてもらっても良いか?」

「……アレは100%一夏が悪い。」

「…詳しく聞いても?」

 

話を聞くと事の発端はこの部屋についてらしい。

箒と一夏の二人部屋。そこに鈴が箒と代わって欲しいという事でやってきたのだ。

箒と鈴は口論になるが平行線、だが問題はそこじゃなかったらしい。

その後に鈴が一夏との約束を持ち出す。

詳しい内容はわからないが箒もわからないが。一夏いわく

 

『鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚をおごってくれる』

 

というものらしい………どう考えてもこれ、アレでしょ?

日本で言う「毎日味噌汁を作ってあげる」って言った感じのプロポーズですよね?

『毎日酢豚か~、胃もたれしそうだし高カロリーだから毎日はちょっと…』とかそういうことは、この際まったく関係ない。完全にこれは普通の人から見るとプロポーズだ。だが一夏の中では

 

『鈴が料理出来るようになったら、俺にメシをごちそうしてくれるって約束』

 

に変わっていたらしい、さすが一夏。

これは両方悪いっちゃ悪いな……

約束について深く考えなかった一夏も悪いといえるし、一夏にこの手のプロポーズは効かないということを解りきれなかった鈴も悪いといえる。

だがこれはひどいな……

流石に手を頭に当て悩ませる。箒の説明も以上のことだった。

 

「そして鈴は泣きながら走り去って行った……これが先ほどまでこの部屋で起こっていたことだ。」

「……何というか…悲しいすれ違いだな…」

「怒った理由がわかったのか!?奏!!」

 

と俺に聞いてくる一夏。

むしろお前はなぜわからん?

 

「あ~~~……すまんがこの手の事は自分で気が付かないと意味がないな…うん。」

「でも…俺なんて鈴に謝れば…」

 

悪い事をしたんだと自覚はしているが怒り出した理由がわからないと…

しかしそのまま解らないけど御免なさいとはいえないとな……

あ~……めんどくせぇ…

 

「アレだ素直に自分が悪いと思ったところを謝れ。約束についてはその時に聞け。」

「そうか…」

「(そ、奏!!)」

 

と悩み始める一夏と近くに来て小声で話す箒。

 

「(それでは一夏が鈴に取られてしまう!?)」

「(…それはないな。)」

「(なぜそう言い切れる!!)」

「(もし鈴が、謝られた時にもう一度、一夏に意味を説明できるような奴だったら、さっきの時点で既に説明しなおしているからな。そうすれば一夏も今頃告白に関しての答えで悩んでいるだろうさ。)」

「(あ……)」

「(仮にもし一夏が謝った時点で告白したとしても一夏がそれを素直には受け止められないだろうな…)」

「(そ、そうなのか?)」

「(たぶん『俺に気を使って…』とかそういう風に考えるだろうよ。)」

「(そうか…)」

 

そして口には出さないけど鈴は既に勇気を出して一夏に告白しているんだ。

もう一度チャンスを与えるくらいのアドバンテージをあたえても罰は当たるまい。

しかし…なんでどっかのショートコントみたいなことやってるんだよ!?

笑えないのはこれが俺の友人が現実にやっていることということだろうな…

まぁそんなにひどい事にはならないだろう…たぶん。

俺は当初の目的のアドバイスを言う事を思い出し一夏にだけ聞こえるように話をした。

箒に何かは聞かれたが適当にごまかして一夏が質問攻めになっていたのを無視して部屋にもどった。

現世の記憶がほとんど使えない今出来る限りの事はしよう、そう心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

愛とは相手に変わることを要求せず、相手をありのままに受け入れることだ。

                                 ~ディエゴ・ファブリ~




ここで簪の信用を得ることと一夏が爆弾を爆発させました。
しかし一夏ほどではありませんがリアルに意味を間違えた経験は作者にもあります。
そのときは笑い話で済みましたが……
一夏のこれをあまり強く攻められない作者でしたwww
ということで読んでいただきありがとうございましたwww


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第二十三話 赤銅改造計画

鈴と一夏の喧嘩の後から数日後、二人の喧嘩の状況はまったく変わっていなかった。

一夏から聞く所によると鈴が一夏のことを避けているらしい。

一夏としてはすぐに謝って怒っている理由を聞きたいそうなのだが、鈴が逃げ回っているらしく、なかなか会話が出来ないらしい。

まぁ喧嘩した後すぐに仲直りできるとは思っていないし仕方ないんだろう。

鈴が何を考えているかはわからないが恐らく自身との折り合いがまだ付いていないのだろう……たぶん。

喧嘩についてはセシリアにも伝えられた。

彼女は一夏が取られなかったことを喜べば良いのかそれとも一夏が鈍感すぎるのを怒ればいいのかわからないような顔をしていた。

結局一夏に対して一言

『一夏さん…それはあんまりですわ…』

と悲しげに言うだけに終わった。

対してこちらの『打鉄弐式』の開発の方はと言うと、ある意味いろいろと変化があった。

一つ目に俺と簪とおっさんの表向きの関係だ。

俺は『弐式のデータを利用して自身のISを強化するために簪を利用している。』

簪は『俺を利用して打鉄弐式の開発をしている。』

おっさんは『俺の顔色を伺って、俺を倉持技研引き込もうとしている。』

ということに表向き(・・・)はそういう風に口裏を合わせている。

もちろん本当の目的は『打鉄弐式』の完成であり俺に関してはほとんどメリットはない。

さらにこの場合、おっさんが両方に利用されている様に見えるが、技術者側にはすでにおっさんによる根回しが通っており実際のところは主犯である。

二つ目に俺が簪からISの整備や開発についての知識を教えてもらっているところだ。

俺のこの前の言い訳を信用しているためだろう。

だが実際のところ俺は将来ISにかかわる仕事をするつもりはない。神父か牧師になるつもりなのだ。それに戦うのは嫌だから整備の方に進みたいのは本音だが、実際のところ数少ないどころか二人しか居ない男性操縦者なのだ。データ収集からの側面から見て整備科のほうに進むのは無理だろう。

だがまぁ、簪と仲良くはなれるから問題はないのだが……勉強量が増えたのが問題っちゃ問題だ。

三つ目に俺の『赤銅』の改造、および強化についてだ。

俺の『赤銅』の改造、改修および新兵器のテストで今日の放課後におこなわれる予定だ……

という名目になってはいるが実際は『打鉄弐式』の組み立てである。

計画としては以下のとおりだ。

俺は『赤銅』の改造パーツや強化パーツをテストするが技術的にも操作性的にも俺には使えないパーツで残念ながら(・・・・・)廃棄される事になってしまう。しかしそれを簪の『打鉄弐式』に組み込んでみたところ偶然にも(・・・・)開発に使用できたため廃棄されるべきパーツが横流しされてしまうのである。こういう風に既にプランが立っている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)らしい。

以上の名目で『打鉄弐式』が組み立てられるらしい。

だがまだ武装面は『背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲【春雷(しゅんらい)】』と『マルチロックオン・システムの48発ミサイル【山嵐(やまあらし)】』は完成していない。

現在何とか形になっているのは『対複合装甲用の超振動薙刀【夢現(ゆめうつつ)】』のみらしい。

この夢現もおっさんが急ピッチで仕上げたもので実際結構無茶をしたらしい。

実際、他にも俺用にいろいろなパーツを作りながら『打鉄弐式』の開発をやっているのだ、本当に頭が下がると簪は言っていた。

そういうことで今日の放課後アリーナで失敗が決定しているテストする事になっている。

まぁ適当にがんばろう、本番は簪の方なのだから。

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、クラス対抗戦の一回戦の相手が提示された。

 

 1-1    1-2

織斑一夏 ‐ 凰鈴音

 

わぁお、タイミングが良いんだか悪いんだか。期日は3日後か…

しかし俺の現実世界の記憶ではこの試合はアクシデントが起きてつぶれるのだ。

となると簪は戦うことなく終わるのか……簪の『打鉄弐式』のテストが出来ないなぁ…

そこらへんはどうしよう。まぁおっさんと相談するか。

一夏を探してみると俺と同じように一回戦の相手をじっと見ていた。

 

「一夏、どうするよ。」

「ああ、まぁがんばるさ。」

「……このあいだ言った事は試してみたか?」

「ああ結構良いアドバイスをもらえて今それの練習中だ。」

「そっか…ま、がんばれ。僕たちのデザートのために。」

「…そういわれるとやる気がなくなるな…まぁ今日の訓練でも試してみるよ。奏は参加するか?」

「いや?僕は今日はISのテストおこなう予定だから多分間に合わない。」

「そっか。まぁ気が向いたら来てくれよ。」

 

俺はそこで一夏と別れ別行動をする事にした。

 

 

 

 

 

 

アリーナの控え、そこに向うとおっさんと簪が既にいた。

まぁ本来はそちらの方がメインなのだ、前座はさっさと引っ込もう。

 

「おーっす、おっさん。僕の機体は?」

「一応いろいろ組み込んでみたんだが半分近くはお前の『赤銅』には組み込めんな。」

「そうか。じゃあ武装面は?」

「一応容量ギリギリで作ったつもりなんだが搭載できないのもいくつかあるな。」

「じゃあそれはどうするの。(棒)」

「はいきするしかないんじゃないか?(棒)」

「うわーもったいない、かんざしちゃんつかう?(棒)」

「え!?えっと……」

「テメェ、そこで嬢ちゃんに振るんじゃねぇよ。困ってるじゃねぇか、馬鹿野郎。」

「うわ、僕に対する扱いひどくない?」

「いや普通だ。」

 

そういうと周りの整備の方々もしっかりとうなずいている。

畜生、ここには敵しか居ないようだ。

 

「まぁいいや、んで僕は何すれば良いの?」

「一応武器はともかく装甲を使えるのいくつかと新型脚部ブースターのデータだけでも欲しい。周りにお前のために作ったって言う証拠が必要なんでな。」

「了解。まぁ簪ちゃんのほうメインでがんばってよ。」

「当たり前だ、ここに居る奴全員そのつもりだ。」

 

そう言っておっさんは作業にもどって行った。

さて暇つぶしでもするかそう考えていると簪がこちらに話しかけてきた。

 

「…あの…ありがとうございました。」

「え!?僕もうクビ!?」

「へ?…あ!ち、違います!?えっとそういうことじゃなくて。奏さんのおかげで何とか形にする事は出来ました、本当にありがとうございます。」

「いいって、こっちも利用してるようなもんだし。それにまだ形が出来ただけでここから本番なんでしょ?がんばって。」

「はい!!」

 

というと簪が整備班から呼ばれる。こっからの設定は簪がおこなうらしく真剣な顔でISに向っている。

10分ほどするとおっさんがこちらに来て話し始めた。

 

「どうよ、『打鉄弐式』。」

「外見は打鉄とまったく違うね。」

「まぁな。コプセントからしてまったく違うからな。どちらかといったら『赤銅』の方が近いくらいだ。」

「まぁ『赤銅』よりはまともなんでしょ。」

「当たり前だ。目標の完成形は従来の第三世代よりかなり優秀だ。」

「白式より?」

「理論上はな。だがあっちは既に存在しているのに対しこっちはやっと形になった程度だ…」

 

だからそっちのデータ取りが優先でしたと。

簪からすればたまったものじゃないな。

 

「……僕はこれからおっさんに何を要求すれば良いの?」

「俺のシナリオ上、お前は今回のテストで機体強化は諦め、強力な武器を求める…てことになってる。」

「そうだな~僕ちん~、荷電粒子砲とか~欲しいな~。…こういえば良いの?」

「おう、馬鹿っぽくてすげぇ似合ってる。」

「アリガトウゴザイマス……実際どこまで協力できるのさ。おっさんの方は。」

「……荷電粒子砲に関してはお前が何も考えずに『打鉄弐式』のデータを流用したってことにすれば何とかなる。だが山嵐に関しては第三世代の技術だからな…正直俺が手伝うと簪のことがばれかねない。」

「形を作る分には問題ないの?」

「……正直それも難しい。」

「OK、こっちでもなんか考えるからそっちも勝手に動くの無しね。」

「お前が何をするって言うんだよ。」

「最悪生徒会長さんの名前を使ってでも良いだろ?」

 

俺がそういうとおっさんは頭をかきながらつぶやく。

 

「……残念だがそれは簪が望まないんだ…」

「……例の喧嘩?」

「そういうことだ。」

 

はぁ…じゃあ別のアプローチも考えないといけないのか……

なんか面倒ごとばかり増えていくな。

 

「こちらでも嬢ちゃんの協力を出来るように努力はする。」

「解った。こっちでも簪に注意だけはしておくよ。」

「よし、話したいのは以上だ。次はお前のISのテストだ。」

「立派に仕上がった?」

「それはお前次第だろ。」

「了解。」

 

そう言って俺のテストが始まった。

 

 

 

 

 

結果から言えば俺のテストは20分ほどで終わった。

武器の大半が使いづらい、もしくは今の方がマシ。残りもどちらかと言えば現在の銃が良い。

装甲については機動性がバイクから自転車並みに下がるのに装甲は紙からダンボールと言った感じだ。

ただ唯一脚部ブースターだけは『打鉄弐式』のデータを流用しているためかなり良い仕上がりでこれだけは組み込むことになった。

俺がピットにもどるとおっさんが声をかけてきた。

 

「どうだ?脚部ブースターは。」

「防御力アップで機動性、最高速度は変わらずだからね文句なし。」

「まぁそれは嬢ちゃんの研究の結晶でもあるからな。」

「……本当に僕のISに組みこんでも良いの?」

「嬢ちゃんがそうしてくれって言ってるんだ、ありがたく受け取りな。」

「了解。」

 

まぁそれならそれで仕方ないか。

俺の方は文句があるわけでもないし。

簪の方を見ていると未だに真剣な顔で何かを打ち込んでいる。

 

「おっさん。僕後、邪魔みたいだから帰るわ。」

「…そうか。じゃあまた後で俺に意見を送ってくれよ。」

「荷電粒子砲の開発は頼むよ。」

「そっちも頼むぞ。」

「了解。」

 

最後のは山嵐についてじゃなくて仲直りについてだな。

まぁどちらも受け持ったからには最後までやらせていただきますよ。

そう考えて俺は控え室を後にした。

 

 

 

 

 

中途半端にやると他人のマネになる。

とことんやると他人がマネできないものになる。

                              ~著者不明~




ということで打鉄弐式の本体は完成しました。
武装面は薙刀だけですがこれからどうなっていくかは作者次第です。
ということで読んでいただきありがとうございますwww


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第二十四話 約束の行方

何か思ったよりも早く終わったし一夏たちの訓練に顔を出してみるか。

ISは調整中のため参加は出来ないが見ているだけでも一応ためになる。

この時間だとまだ控え室にいるだろうと、控え室に向うとそれらしき人影を発見する。

一夏たちの方に向っていくと何か話し込んでいるし人数が一人多い。

あのちっこいシルエットは恐らく鈴だろう。

仲直りなら良いんだがな……

 

「今~~~~なの~~~~~でて!!」

「~~~~だと!?」

 

うん、どう考えても仲直りはないな……

しかし鈴はなんというか……ガキ大将を連想してしまうな。

弾や一夏から聞いていた鳳鈴音(おおとりすずね)の印象とは結構違うんだが…

『結構強気だがやさしく、何より一緒にいて楽しい奴。』だったが現在は『回りを一切気にせず一夏に突撃している奴』にしか見えん。

まさかこれを含めてだまされていたのか?

まぁ昔のことを気にしても仕方あるまい、実際今喧嘩がおきそうなのだから。

俺はペースを上げ一夏の元に駆け寄る。

 

「だ、か、らっ!あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!しかもあんた、すぐに探しに来ないし!!」

「いや、そう言われても……鈴が避けてたんじゃねえか。」

「あんたねえ……じゃあなに、女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ!?」

「おう。」

 

それが一夏クオリティ

何とか近くまで来たが険悪なムードの箒とセシリア、一夏に怒り心頭の鈴。

そしてそれにまったく動じない一夏。

とりあえず二人に話を聞くか。

 

「(箒、セシリア。何があった。)」

「(訓練しようとしていたところに鈴さんがやって来て…)」

「(その後は無理やり一夏と話をして謝れと言っている。)」

「(って事は最初とほとんど状況は変わらないってことか…)」

「(そういうことだ。)」

 

しかし一夏も悪いと思った事は謝るって言っていたと思うんだが?

それなのになんで話がまとまっていないんだ?

そう考えていると一夏が口を開く。

 

「それにさっきから俺、何度も謝ってるじゃないか?『鈴との約束が俺の覚えてる奴と違うようだ。しっかり覚えてなくてごめん。』って。」

「謝るべき事が違うでしょうが!!」

「だから何がどう違うんだよ!?俺確かにお前がこう言ったって記憶してるんだぜ!?」

「言葉があってても意味が違うの!!」

「じゃあどういう意味なんだよ!!」

「……ああ、もうっ!」

 

お互い語尾が強くなってるな…

これは放置するのは危ないかもしれないな。

特に鈴の方は完全に頭に血が上ってる。

 

「ちょっと二人とも一旦落ち着いて。」

「あんたはすっこんでなさいよ!!これは私と一夏の問題なの!!」

「でもこのままじゃまとまるものもまとまらないし一旦落ち着いて。ね?」

「うっさい!!邪魔よ!!」

「っ!?」

 

と言いIS展開して拳をこちらに向けて構えてくる。

この子、これ以上邪魔したら俺に攻撃するつもりだ…

おい、ISで生身に攻撃する気とかいくら脅しだったとしてもヤバイだろ。

一夏も感じたのか声をさらに強くする。

 

「おい、鈴!!やめろ!!何考えてるんだ!?」

「何!?関係ないからさがっててって言っただけでしょ!?」

「だからってISで脅すってどういうつもりだ!?」

「一夏、僕のことはいいからまず喧嘩はやめろ。」

 

ヤバイな一夏も完全に頭に血が上っていやがる。

俺の言葉を聴いてすらいない。

 

「なによ!?元をただせばあんたが悪いんでしょ!!謝りなさいよ!」

「だからお前の言いたい事がわからないんだって!!説明してくれたらそれについてだって謝ってやるって言ってるだろ!!」

「せ、説明したくないからこうして来てるんでしょうが!」

 

ここで理由を説明すればワンチャンあるんだけどね……

でもそれが出来ないからここまで話がねじれてるのか。

何よりこの状況の一夏に言っても伝わるかどうかも問題だな。

 

「じゃあどうしろっていうんだよ!?」

「……じゃあこうしましょう! 来週のクラス代表戦、そこで勝った方が負けた方に何でも一つ言うことを聞かせられるってことでいいわね!?」

「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明してもらった後と、奏に謝ってもらうからな。」

「一夏、僕のことはいいからまずは冷静になれ。」

 

一夏が頭に来てるのはそこか。

力で無理やりものを言わせるやり方、お前も嫌いだもんな…

だがその命令って一つだけじゃなくないか?まぁ鈴がそれで良いならそれで良いけど。

だが鈴は後半は聞こえておらず前半の『説明してもらう』の所しか聞いていなかったようだ。

顔を赤くして止まってしまった。

 

「せ、説明は、その……」

「何だ? やめるならやめてもいいぞ?」

「誰がやめるのよ! あんたこそ、あたしに謝る練習しておきなさいよ!」

「なんでだよ、馬鹿。」

「馬鹿とは何よ馬鹿とは! この朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタよ!」

 

もうお互いに低レベルな暴言の応酬だ…

この程度の喧嘩ならいいんだけど、こいつらは今とんでもない武器を身に纏っているんだ、仮に事故なんかおきてみろ、最悪の事態になるぞ?

ここにいる人間なら何とか対処できるかもしれないがヒートアップして対処できない人に流れ弾に当たってしまう可能性だってあるのだ。やるんだったらせめてアリーナでやれ。

だがこのままいけば確実に暴言だけで終わるだろう。頼むからそれで終わらせてくれよ。

 

「この唐変木!!」

「うるさい、貧乳。」

 

その言葉の後空気がぴたっと止まる。

一夏もヤベッといった顔をしている……何か来るか?

次の瞬間鈴はIS展開している手を壁めがけて振ろうとしている…

俺はすかさず右手のみの装甲展開と銃の生成を一瞬で終わらせ鈴の装甲を撃つ。

グォン、というシールド音と共に鈴が動く前に装甲に衝撃をあたえる

その後鈴がこちらを目尻に涙を貯めながら鋭く睨みつける。

 

「……なに!?あんたもやられたいの!?」

「落ち着いて、物に当たるのは止めよう。」

「うるさい!!言ってはならないことを言ったのよこいつ!!」

「す、すまん!今のは俺が…」

「今の『は』!?いつもよ!いつもあんたが悪いのよ!……もういいわ。少しは手加減してやるつもりだったけど、どうやら死にたいみたね……全力で叩き潰してあげるわ!!」

 

鈴は目尻に涙を貯めながら一夏に鋭い視線を送ったのち去って行った。

しかし『手加減してやるつもり』とか『許して差し上げますわ』とか流行ってるの?代表候補生の間で。

一夏はやっちまった…と言った顔をしている。声はかけてやるか。

 

「…頭に血が上りすぎだ、一夏。」

「……すまん。」

「それは鈴に言ってやるべきだな…まぁ今は聞かないだろうけど。」

 

今一夏に注意しても意味はないしこいつが一番それをわかっているだろうし言うだけ意味がないな。

こりゃもう一夏が何とかするしかないな。俺が介入できるとこふっ飛ばしちまった。

そう考えているとセシリアが話しかけてきた。

 

「……一夏さん、今日の訓練は対近距離戦闘の訓練にしましょう。恐らく鈴さんのISは中~近距離戦を主にしておりますわ。」

「どうしてそう思うんだ?セシリア。」

 

一夏が疑問を口にする。

 

「まず彼女の装甲、奏さんの弾丸をものともしない強度でした。通常遠距離使用の機体は重装甲より高機動が普通ですし、何より一夏さんは普段の訓練で対遠距離の戦闘には慣れています。ならばこれから三日間は近接戦闘の方に慣れるべきかと。」

 

セシリアの言う事はもっともだがそれが本当だとしてもどう訓練するかだな…

 

「どういう訓練にするの?残念ながら僕もセシリアも近距離は得意じゃない。」

「そうですわね……」

「私がやろう。」

 

と名乗りを上げる箒。しかし

 

「箒、いけるのか?」

「ああ、何とか戦う事はできる。」

「……ですがそれでは…」

 

何とか、か…それで間に合うような相手だといいんだけど仮にも代表候補生相手だ。

織斑姉弟との関係を考慮された可能性もあるがこのIS学園にまで送り込まれるということはかなりの実力者と見たほうがいいだろう。

そう考えるともう一段階訓練をきつくしたい。

 

「セシリア、君箒の援護をしながら戦う事って出来る?」

「もちろんですわ。」

「じゃあ2対1でいこう。セシリアは箒が近距離戦闘をしている時だけ攻める感じで。」

「奏!!私だけで十分だ!!」

「箒、最悪を常に考えろ。お前にとっての最悪は一夏が負けたときだろ。」

 

そういうと二人とも負けた一夏が鈴と付き合うところを想像したのだろう。

すぐさま考えが変わったようだった。

 

「箒さん、今回ばかりはお互いに協力して全力を尽くしましょう。」

「そうだな、今回ばかりは仕方がない。」

 

うん、目的が一緒だと協力しやすいね。

いつもこのくらいでいれば一夏も一緒にいやすくて好感度稼ぎやすいのに。

まぁ、今はこれで良いか。

一夏の方を見ると勝手に話が進んでいることについていけてないのと自身が鈴にやってしまったことを後悔しているのだろう、微妙な顔をしている。

とりあえずやる気だけは出させるか。

 

「一夏、すべてはお前次第だ。負けられないんだろ?千冬さんのためにも。」

「…ああ、そうだな。」

 

と言うと視線を鋭くする一夏。

やはりこいつシスコンだよな、好みのタイプも千冬さんだし。

そういえばその千冬さんで思い出したがそっちはどうなったんだ?

 

「(で、修行のほうはどうだ?)」

「(後は俺が掴みきれるかどうかだってさ。)」

 

へぇ。既に千冬さんにそこまで言われるとは……やはり姉弟だからなのかな。

いや、ここは単純に一夏の才能だと思おう。

 

「さてじゃあ俺はそろそろ行きますか。」

「何だ、奏は訓練に参加していかないのか?」

 

と不思議そうにする箒。

まぁこのタイミングでいなくなるとか空気は読めてない自覚はあるが理由はある。

 

「いや、さっき調整中なのにIS展開したせいで絶対おっさん怒ってるだろうから謝りにいこうかと。」

「そうか、じゃあ仕方ないな。」

 

そう言って三人とも納得してくれた。

本当の理由はさっきの動きで既に『ISの右腕部が壊れている』からだ。

調整中だからか動きが格段に悪く無茶をしたせいだ。

やはりこの強度の低さは問題だな…いざと言う時使えないなんて話にならない。

一応おっさんと相談はしてみようか…と考え、とりあえず謝りにいくのであった。

 

 

 

 

 

人は誤れる事を言うべきにあらず。ただし、真実なることは黙すべからず。

                           ~マルクス・トゥッリウス・キケロ~




ということで完全に鈴音を怒らせました。
この時期の鈴音はちょっとおそろしいですね。
平然とIS展開して攻撃してきますし。
この後も………そ、それは…ぎゃ、ギャグ空間だから(震え声)

読んでいただきありがとうございますwwww


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第二十五話 VS甲龍

今回の主人公は一夏で、奏はかなり脇役ですww
ではどうぞ。


時間は進み試合当日、第二アリーナ。

俺はそのアリーナ内をうろついていた。

一夏と鈴の試合はかなり注目のカードらしく多くの人が集まっている……

しかし今日の試合は途中で終わるのだ、何らかしらのアクシデントのせいで。

しかし俺はそのアクシデントがおきると言う事は解ってもアクシデントの内容がわからない。

タイムリミットも正確にはわからないのだ。

判断できる材料は時間は一夏と鈴の試合の結果が判る前にアクシデントが起きる事とそのアクシデントの後もIS学園は継続されるという事からIS学院側に非がない事態である事。

さらに言うなら恐らく人員的な被害もない。

だがこれはあくまで『俺の世界での物語の中のIS(こちらの世界)だ』今俺のいる、『僕が介入した事によるIS(こちらの世界)』と同じ結果になるわけではないのだ。

最悪の事態を考えると俺は何時でも動けるように準備だけはしてひたすらに問題になるものは無いかを探した。

試合開始直前になるが問題になるものは見つからなかった。ISのセンサーを使いながら探したので問題はないだろう。

となると何が起きるんだ?……考えていても仕方がない。

とりあえず最悪の事態にだけはならないようにして俺はアリーナ脇から試合を観戦する事にした。

 

 

 

 

 

 

一夏はアリーナ内で考えていた。

鈴との約束の事、暴言を言って泣かせた事、周りの歓声、珍しいものを見るかのような目線、自身の友人への態度、そして何よりも親友(ソウ)人を殺せる道具(武器)を突きつけ脅した事。ありとあらゆる事が頭の中に浮かんでいた。

だが今は考えるのはよそう、今はただ目の前にいる相手のことだけを考えよう。

俺のためにいろいろと協力してくれた箒とセシリア、何より自身の目標()に追いつくためにも今はただ目の前の戦いについてだけ考えよう。ただ今は目の前にいる相手を倒すだけ…

それだけを考えよう…

…何時だったか千冬姉が真剣を持たせてくれたな……

アレは本当に重かった…千冬姉はなんていってたっけ………

それが命の重さだったけっかな?…………

アレは本当に必要以上に重く感じてて見た目も鋭くて……

………鋭く………………もっと鋭く集中しろ…………………

自身をただ一振りの刃とするために……………………目の前の相手を切る事…………………………

 

イヤ、コロス(・・・) コトダケ ヲ「一夏!?聞いてるの!?」

 

鈴のかけ声にはっとして気が付く。

自身(オレ)今何を考えていた(・・・・・・・・)?集中しすぎて何を考えていたかも覚えていない(・・・・・・・・・・・・・・・)とは……結構緊張していたようだ。

そんな事も関係無しに鈴はこちらをじっと見てくる、一体なんだろう?

 

「ちょっと!?さっきからボーっとしちゃって!?何かあったの!?」

「いや、ちょっと考えすぎたようだ、問題ない。」

「ふーん……何考えてたの?」

「いや、覚えてない。」

「……あんた本当に大丈夫なの?」

 

そう鈴は心配するように話しかける。

 

「大丈夫だ、問題ないさ。」

「………フン!!、よく逃げずに来たわね。今謝れば少しは痛めつけるレベルを下げてあげるわよ!?」

「手加減なんかいらない。真剣勝負だ……全力で来い!!」

「どうあっても気は変わらないっていう事ね。なら……微塵も容赦はしないわ。この甲龍で叩きのめしててあげるわ!!……あと約束は忘れてないでしょうね……」

「そっちこそ負けても泣くなよ?あと約束はそっちが忘れてなくて安心したぜ!!」

 

そう言って自身に気合をかける。

最早賽は振るわれたのだ、後は勝敗のみが結果だ。

 

『一組、織斑一夏。二組、凰鈴音。両者規定の位置に移動してください』

 

そうだ、今は他の事なんて関係ないんだ。

ただ鈴に勝つ。それだけに集中しろ……

あまり気負う必要はない…ただ目の前で起きた事だけを考えろ。

 

『それでは両者……試合開始!』

 

かけ声と同時に雪片弐型を取り出し鈴の攻撃を受け止める。

近接武器…白式からの情報だと名称は双天牙月(そうてんがげつ)、やはりセシリアが予測したように鈴は近距離で来るようだった。

踏み込みの速さも力強さも箒以上だ。だが受け止めれないほどというほどでもないしかわしきれない訳でもない。

鈴の攻撃を理解しながら鍔迫り合いを続けたのちどちらからというわけでもなく距離をとる。

 

「ふうん……初撃を防ぐなんてやるじゃない。」

「そいつはどうも。」

「と、そうそう。あんたの試合映像、見させてもらったわよ。確かに雪片のバリアー無効化攻撃は厄介だわ。」

「そうか…」

「でもね、雪片じゃなくても攻撃の高いISなら絶対防御を突破して本体に直接ダメージは与えられるのよ。……勿論この甲龍もね。」

「………」

「なに?一夏怖気づいた?」

「……御託はいいからかかって来いよ。」

 

カチンと来たような顔をしながら再びこちらに向ってくる鈴。

まずは相手の攻撃を良く見ろ。今の鈴は怒りでパターンが単調だ。

箒や奏にも認められた俺の最大の武器、『眼』で相手の動きに集中するんだ。

鈴の攻撃を捌きながら観察する。

10撃目辺りまでは雪片で受け止めその後は受け流すように剣先で攻撃を逸らす……

数分ただ攻撃を受け止め続ける…大体パターンは覚えられたかな?

そう考えていると攻撃の手を止めた鈴が再び叫ぶ。

 

「なに!?一夏。さっきから防ぐので精一杯!?」

「……いやそろそろ攻めようかと考えていたところだ。」

「…何言ってるの!?虚勢を張っても…無駄よ!!!」

 

叫びながら鈴が突っ込んでくる。だがどう動くかは丸見えだ…

これなら雪片を使うまでもない。俺は鈴のブレードをかわす。

再び鈴は猛攻を開始するがどれもこれもすべて見える(・・・・・・)

回避で距離をとらずに近距離で体裁きだけで何とかかわす。

鈴も当たらない攻撃に焦ったようで大きな隙が出来た。

その隙を雪片で切りつける。

驚いた顔をしながら鈴は俺から距離をとった。

そんな驚いた顔をするなよ鈴。勝負はまだこれからなんだからさ。

俺はそう考えながら白式の単一仕様能力、零落白夜を起動した。

 

 

 

 

 

 

一方その頃管制室では千冬と山田先生、そして特別に許可をもらった箒とセシリアがいた。

そして全員試合を見ながら唖然とした。

千冬は理解できなかった。

いくらなんでも一夏が強すぎるのだ(・・・・・・)

現在一見すれば一夏は何とか攻撃をしのいでいるように見えるが、良く見ると一夏は余裕を持って対処をしているのだ、まるで鈴がつぎになにをするのかが判るように。

一夏がどれほど特訓をしたとはいえ、たかが一ヶ月程度の訓練しかしていないのだ。

そんなペーペーが仮にも国家代表候補生をここまで圧倒するなど誰も予想できないだろう。

そして一緒に訓練をしていたという横の二人を見ても彼女たちは驚いていた。

彼女たちも恐らく今一夏の強さに驚いているのだろう。

 

「……オルコット、篠ノ之。あいつは訓練中もあんな動きをしていたのか?」

「…いえ…私と箒さんの二人がかりの攻撃を何とか裁ききれるようにはなりましたが……」

「…一夏は練習でもアレほどの動きは……」

 

二人とも呆然としながら試合を見ていた。

そしてセシリアがはっとして連絡を取ろうとISを少しだけ起動する、恐らく今彼女は私と山田先生と同じことを考えているのだろう。

『あの動きはあの風音奏(もうひとり)と同じ感覚がする』と、

実際比べると風音の回避の方がかなり上だろう。

しかし一夏がこんな事をできる原因などあの男以外には考えられなかったのである。

 

「奏さん!!でてください!!」

『……セシリア!?何か問題が起きたか!?』

 

とこちらに凄まじい勢いで聞く奏。

セシリアもびっくりして声を弱める。

 

「い、いえ。問題は起きていませんわ…」

『そうか、すまん大きな声を出して。』

「いえ、そ、そんなことより…」

『ああ、見てるさ。一夏の動きだろ?セシリアよく教えたな。僕の動きにそっくりだな。』

 

と笑いながら話す奏。

セシリアは声を大きくして話す。

 

「何を言ってるの!?あなたが一夏さんに教えたんでしょうに!!箒さんから聞きましたわよあなたが一夏さんに何か言っていた事は!!」

『………はぁ?僕あいつに言ったのって、お前の機体って千冬さんのと戦い方が似てるから千冬さんの戦い方を参考にしてみたらどうだって事だけだぞ。』

「え?」

『……第一口で言っただけであの動きは出来ないだろ。よほど練習でもしない限り。』

「確かにそうですが……」

『……今近くに千冬さん、いや織斑先生は?』

 

奏はこちらに何か聞きたいことがあるようだ。

私は無線を使い会話に入る。

 

「どうした風音。」

『始めから聞いてましたか……先生、一夏のあの動きに心当たりは?』

「…強いて言うならお前の動きだ。」

『先生が教えたって事は?』

「…一切ない。私が教えたのは瞬間加速(イグニッション・ブースト)だけだ。他は一切教えてはいない。」

『……本当ですか?』

「本当だ、むしろお前の方はどうなんだ?」

『…口だけであそこまで教えられるなら今すぐISの教師を目指しますよ。』

「そうか…」

 

風音の言う事は本当だろう、風音自身ISの操縦はそこまでうまい訳ではない。

そしてオルコットや篠ノ之がここまで一夏にあの動きを教えられるとは思えなかった。

 

「一体どうやってあそこまで……」

 

篠ノ之が口からこぼす、ここにいる全員それを考えていた。

 

 

 

 

 

 

(おかしい!?いくらなんでもおかしすぎる!?)

 

一夏から何とか距離をとろうと鈴は双天牙月を振るう、既に両手に持ちながら攻めるが一夏はそれがすべて見えるかのようにかわす。

何とか一夏の攻撃を喰らわないように距離をとりたかったが一夏はこちらの攻撃など関係ないように前に進んでくる。

こんな事態になる事は鈴は一切考えていなかった。

映像で見た一夏は確かに一週間しか訓練していないIS乗りとしては異常なほど強かった。

だが自身の実力と比べると確実に劣っているように見えたし一ヶ月程度の訓練では追いつける差では無かったはずなのである。

だが現在、試合をやってみるとどうだ?

圧倒的と言ってもいいほどの回避力。先ほどから何とか相手に攻撃を当てようとするが掠る程度でまったく当たらない。

 

「っつ!!喰らえ!!」

 

鈴は叫びながら自身の切り札(龍咆(りゅうほう))を使用する。

流石にこれはかわしきれずダメージを与えられた。

鈴はそのまま攻撃をしながら距離をとる。

一夏も回避を続けるが、この龍咆は見えない砲弾(・・・・・・)だ。

空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲、それがこの龍咆である。

いくらISが優秀だといってもパイロットに見えなければかわせまい。

そう考えひたすらに一夏を近づけまいと龍咆を撃ち続けるのだった。

 

 

 

 

 

一夏は何発か攻撃をくらったがかわしながら考えた。

見えない砲弾。これが恐らく鈴の武器で切り札だろう。

何とか移動してかわしているがこのままかわし続ける自信はない。

 

(どうする!?…何か打開する手段は!?)

 

顔に出さないように焦る。

……いや、焦るな。俺の武器はこの『眼』なんだ。

砲弾が見えなくても他のところを見ろ。

そして何も見えないようならその時に焦れば良い…

今すべき事はかわしながらの観察だ。

鈴も俺に当てられる武器を見つけてそれを使い続けている。

観察するのには十分だろう。

 

(……一発正面から喰らってみるか。)

 

俺は回避を止め鈴を正面にする。

すかさず鈴は俺に見えない砲弾を撃つ。

……当たる。再び距離をとり自身の見たものを回避をしながら考える。

今ので残りS.E(シールドエネルギー)は半分になった。

だがそれでも突破口は見つかった。

まず見えない砲弾は完全に見えないわけではない。

しっかりと砲弾のあるところはゆがんで見えた。まるで蜃気楼のように。

続いて鈴の目線だ、あいつはこれを撃つときに当てるところを見る癖がある。

ならばもうかわす方法は解った。

俺は大きく回避するのをやめ、ある程度距離をとった状態で鈴の正面に立つ。

あいつが今見ているのは俺の腹の辺り…難なくかわす。

続いて胸の辺りと右肩……左側にそれるようにかわす。

左右に少しそれたところ……動く必要はない。

…かわす…かわす…かわす…かわす…かわす……

鈴も俺に既に自身の切り札が見切られていることに気が付いたのだろう、かなり焦っている。

ではそろそろ踏み込むか、瞬間加速(イグニッション・ブースト)の準備をして俺は雪片を握る手に力を込める。瞬間、

 

『二人とも!!上だ!!かわせ!!!!』

 

突然の奏からの叫ぶような通信で反射的にかわそうとするが鈴は『え?』と言った風に目線を上に向けている。

すかさず瞬間加速(イグニッション・ブースト)で鈴を抱きかかえその場を離れる。

その瞬間上からアリーナのシールドを突き破るレーザーと共に何かが降りてきたのである。

 

 

 

 

 

すべては、待っている間に頑張った人のもの。

                                 ~トーマス・エジソン~




謎の一夏の強化。
一体何があったんだ!?
次回をお楽しみにwwww


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第二十六話 乱入者

乱入者が現れる数分前、奏は試合を見続けながら考えていた。

この自身の知る『織斑一夏』は、現実での物語の主人公『織斑一夏』と比べ、考えられないほど強いのである。

確かにこの時点での原作の一夏は、一ヶ月での成長とは思えないほど強くなっている。

しかしここまで強くなっているはずがないのだ。

何よりあの動きは自身の動きを連想させる。

 

(これも俺が介入した結果か?だが一体なぜあの動きが出来る!?)

 

いくら俺がこちらの世界に介入したとはいえ俺は一夏自身の修行に直接関わった記憶はない。

だが現にあいつはたどたどしくも俺に近い動きをしているのだ。

何が原因かわからないまま試合を見続ける。

猪突猛進の戦い方しかしないはずの一夏が異常なほど落ち着いているのがわかる。

しかも先ほどはわざと(・・・)鈴の攻撃をくらって分析しているようにも見えた。

すると一夏が大きく逃げるのをやめ鈴の見えにくい攻撃を完全に見切っていた。

これは勝負は決まったか…と思うと上空から接近する何かが目に入った。

瞬間に現世の記憶がよみがえり急いで千冬さんに連絡を入れる。

 

「千冬さん!!上空から何か来ます!!」

『何!?こちらでは把握できていないぞ!?』

(やはり把握できていない…くそ!!)

 

俺はISを展開し全速力で突っ込む。

向こうの謎の機体……いや『無人IS』は速度を弱めず腕を一夏たちに向けている……

銃を展開し左腕部チェインガンと同時に撃つ、しかし相手は怯むことなく突き進みレーザーのチャージをしている。

間に合わないか!?

 

「二人とも!!上だ!!かわせ!!!!」

 

コアネットワークで二人に警告を出した瞬間レーザーは発射された。

腕を狙って撃ったため狙いは逸れただろうが危険なのには変わりない。

無人ISは俺にかまわずシールドの破壊された部分に突っ込みアリーナに侵入する。

後を追うように俺もアリーナに侵入、次の瞬間にはシールドは修復された。

そのまま下に着地した無人ISを見ながら一夏たちと合流する。

一夏は鈴を抱きかかえながらぼうっとするような視線で無人ISを眺める。

……こいつ一体何を考えている?

 

「おい!!一夏!!無事か!?」

『……』

「一夏!!!!」

『……?ああ奏か。』

「……お前大丈夫か?」

 

流石に心配になる。

現在の一夏は異常なほど集中しすぎているのだ、恐らく先ほどの試合の最中もこの感覚だったのだろう。

鈴も何か違う一夏を感じているのか、何も言わずに抱きかかえられたまま一夏を見続けている。

このままじゃヤバイ…具体的に何がというわけではないがそう感じてしまう。

とりあえずこの雰囲気を砕こう。

 

「っていうか一夏。何時まで鈴を抱きかかえているんだ?」

『……え?』

『!?ちょ、ちょっと一夏!!いい加減離しなさいよ!!』

『お、おう…』

 

指摘されて鈴は顔を真っ赤にして一夏から離れようと一夏を押す。

一夏も何かに驚きながら離す。

 

「え~っと…僕お邪魔なようならかえるけど?」

『ち、違うって奏!!そんなんじゃない!!たださっき助けた時に…』

『そんなんじゃって何よ!!一夏!!』

「あ~…やっぱり邪魔しちゃったみたいだね。」

『違うって言ってるだろ!?』

『お前らふざけるのも大概にしろ!!』

 

俺が二人をからかうと千冬さんからの通信が入った。

一夏を見るといつもの雰囲気にもどっていた。

代わりに鈴は顔を真っ赤にしていたけど。

さてこっからは真面目に行かせてもらおう。

 

「スイマセン千冬さん、緊張してたんで場を和ませようと。」

『いいからお前らはそこから避難しろ。』

「スイマセンがそれは出来ません。」

『……なに?』

「まずゲートが閉じたまんまなんで出れません。恐らくそちらでも開けないのでは?」

『……織斑先生!!遮断シールドがレベル4に設定されており、…しかも、扉がすべてロックされています!!』

『なんだと!?……風音お前なぜわかった?』

「始めから勝てない勝負しに来る奴がいる訳ないじゃないですか。」

『奏?どういうことだ?』

 

山田先生からの情報と千冬さんの疑問。

まぁ原作で知ってますともいえないし適当な理由を言おう。

俺は墜落するように地面に着陸した無人ISから目を離さないようにして離し続ける。

 

「僕の予想ですけどあいつは何らかしらの目的で鈴か一夏を狙っています。それを大量のISが存在するIS学園内で、それも堂々とですよ?そんなことをする相手が何の作戦もなしに突っ込んでくると思いません。」

『そういわれればそうだけどさ……』

「とりあえず詳しい話は後。今はあのレーザーを観客席にむけられないようにしないと、アレならシールド関係無しに人を狙える。避難が終わってない今撃たれたらとんでもない事になる…取り合えずこっちで何とかしよう。織斑先生、許可はいただけますか?」

『……わかった、ただし無茶はするなよ?』

「無茶は僕が一番嫌いな言葉なんで。早いとこ援軍お願いしますね?」

 

と言い通信を終える。

さて…どう戦おうか。

とりあえずあいつについてわかる事は

・原作知識より無人ISであり普通じゃない動きをする事。

・先ほどの戦いより強力なレーザーもち。

・同じく先ほどの戦いよりかなり装甲が厚く生半可な攻撃は通用しない。

大まかにわかるのはこのくらいか。

鈴の龍咆がどれほどの威力かはわからないが貫通性は無い印象を受ける。

そして俺の豆鉄砲だと単発だとまったくダメージを受けず……か。

やはり攻めるとしたら一夏の雪片弐型ぐらいか…

現在おそらくアリーナのコントロールを奪い返すように動いてはいるだろうが何時までかかるか解らないし、それを頼りに行動する事はできない。

途中で無人ISが、目標を避難が終わっていない観客席に向ける可能性が無いとは言いきれない事も考えねば…

頭の中で考えていると無人ISが動き出す。

 

『おい、奏。どうする。』

「……とりあえず回避重視で、観客席に武器を向けない限り攻撃はよそう。」

『!?どうしてよ!!私と一夏の二人なら勝てるわよ!!』

「……どれくらいの確立で?」

『?どれくらいって言われても…』

「たとえば八割勝てる相手だったと仮定しても2割の可能性で負けるんだ。負けたら被害に遭うのは僕たちだけじゃない、観客席にいる人たちだって巻き込まれる。ISを纏ってる僕らなら死ぬ事は無いだろう、でも巻き込まれる人は確実に死ぬ。」

『それは…そうだけど…』

「別に攻めないって言ってるわけじゃ無いんだ。はじめは様子見にしようってだけさ。攻めるときはよろしく頼むよ。」

『……解ったわ。』

 

と鈴の説得をしている間も一夏は無人ISを見続ける。

さて動き出しはしたけど何をするつもりだ?

と考えるとこちらに腕を向けてレーザーのチャージし発射する。

それぞれ別の方向に逃げると無人ISは俺のほうに向ってきた。

 

(!?狙いは鈴や一夏だと思ったがアリーナ内にいる奴全員なのか?)

 

突然だったがかわしきる。

確かに普通のISと比べると異形な形状の上、リーチは独特だがかわしきれないわけではない。

見切れるスピードだし油断しなければ当たる事は無いだろう。

俺は何発かセンサーらしきところを狙い、撃ち込むが反応は無い。

近距離で難なく攻撃をかわし続けると無人ISは目標を変えた。

突然腕を通常ではありえない方向に向ける。目標は鈴か。

すかさず銃を腕に向け連続で一点に打ち続ける。

何発か撃つとバランスを崩し目標がそれる。結果、鈴とはまったく別の方向に向けてレーザーが飛ぶ。

振りほどくように無人ISは腕を振るうがまったく距離をとらずに近距離でかわし続ける。

すると今度は俺を離れ鈴に対して近距離戦闘をおこない始めた。

しかも俺の事は完全に無視してだ。

試しに何発か弾丸を撃ち込んで、動きの妨害をこころみるが完全に無視。

……これは完全独立型じゃなくてどこからか指示を受けているのか?

となるとこのままこちらが時間稼ぎをする姿勢では観客席を狙う可能性があるな……

鈴が何とか距離をとったようなので二人に通信をつなげる

 

「一夏、鈴。そろそろ攻めに出る。このままだとヤバイ。」

『こっちはまだまだいけるわよ!?』

 

と声を強める鈴。恐らく自身がしのぎきれないと判断されたと思ったんだろう。

とりあえず誤解は解いてせつめいをする。

 

「問題はキミじゃなくてあいつは恐らく誰かから命令を受けて動いている。」

『……どういうこと?』

「理由を話している時間は無い、だがこのままじゃあいつが観客を狙うのは時間の問題だ。仕方ないからこちらから攻めよう。後もう一つだが…」

『もしかして無人機かもしれないってことか?』

 

と一夏が意見を出す。

現在無人ISの相手をしながら話しかけてくる。

雪片を使いながら回避し距離をとることに努めている。

こいつ本当に何があったんだ?……今、この戦力はありがたいしこのまま行こう。

 

「そのとおりだ。それを前提にしてこいつを撃墜する。」

『ちょっと、二人とも何を言ってるの!?』

『鈴、今は俺を信じてくれ。こいつは確実に無人機だ。』

『…解ったわよ。でも一体どうするの?』

 

一夏の一言で信じる鈴。

まぁ信じてくれるのならどんな理由でも良い。

とりあえず作戦を話す。

 

「とりあえず僕と鈴で隙を作る。一夏、零落白夜は全力でいける?」

『全力でなら一発だけいける。』

瞬間加速(イグニッション・ブースト)は?」

『………鈴が協力してくれれば何とか!?』

『私が?』

「とりあえず両方使えるなら全力で奴を切れ。鈴の分も俺が隙をつくる。」

 

と言いながら雪片で思いっきり無人ISに一撃を入れ距離をとる。

無人ISは動くのをやめこちらに構えている。

やはり誰かに見られて…いや聞かれて(・・・・)いる可能性もあるな。

しかし目的は何だ?俺は無人ISの前に向う。

一夏は鈴と何か話している。鈴は何か叫んでいるが一夏の作戦って一体…

まぁ無人ISの気を逸らさせてみようか。

それにしてもこちらの……いや一夏の会話中に攻撃はしないなんて…なんなんだ一体。

声だけでもかけてみるか。

 

「やぁ…とりあえず日本語で挨拶させてもらうよ。」

<………>

「反応は無しか……これを聞いているだろう人物に向けて言うよ。ここでおしまいにしない?これ以上は無意味じゃないかい?」

<………>

 

反応はやはり無い。元々話す機能は無いのか、それとも聞いている人物など元々居ないのか、俺の言葉なんて聴いていないのか……

とりあえず動かないならそれで良いが…

と考えていると一夏から連絡が来る。

 

『奏、こっちの準備は出来た。後は隙を頼む。』

「了解、突っ込むタイミングは任せたぞ。」

 

そういうと無人ISも動き始める。

やはりこちらの話が聞こえているのは間違いないようだ。

そしてこいつは一夏に反応している……

詳しくは終わってから考えよう。いまは無人機に集中する。

そしてアリーナ内が緊張に包まれる。

一夏のタイミングにあわせ隙を作る。この際ISの限界など気にしない。

自身の出来る限りの速さで隙を作ってみせる……。そう思い銃を握る手に力を入れる。

誰も動けていないと突然アリーナ内に声が響く。

 

「一夏ぁっ!…男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

っつ!!箒!!あいつ何やっていやがる!?

箒は既に人が居なくなっているアリーナ全体を見渡せる位置に立っていた。

しかし千冬さんたちは一体何を!?

そうしていると無人ISは右腕を箒の方に向けて構えレーザーのチャージをはじめる。

しかし

 

(!?このまま撃っても……レーザーは当たらない(・・・・・)ぞ!?)

 

その腕の向きだと撃ち出されたレーザーは箒の近くには行くだろうが当たるどころか10mはそれるだろう。

しかしそんな事関係無しに焦る一夏は声を上げる。

 

『奏!!鈴!!突っ込む!!』

「!?っ、解った!!」

『ああもうっ……! どうなっても知らないわよ!』

 

そう言って鈴は一夏めがけて(・・・・・・)衝撃砲を撃った。

一夏が衝撃砲を受けていると、雪片弐型が展開してるエネルギー状の刃が一回り大きくなった上にそのまま龍咆の勢いを利用して突進する。

 

 

(あの馬鹿…無茶しやがって!!)

 

一夏のやった事は簡単だ。

元々瞬間加速(イグニッション・ブースト)は自身のスラスターからエネルギーを放出し、それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する技術のはずだ。

だが恐らく白式の残りエネルギー残量は零落白夜を使いながらの瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使うためには足りなかったのだろう。

それを補うために瞬間加速の原理を利用して、『鈴の龍咆のエネルギー』をスラスター翼で吸収、吸収したエネルギーを利用する事をひらめいたのだろう。

だがそれはエネルギーが吸収できても衝撃は消えない、その上何回も出来る事ではないしタイミングはシビア。

さらに龍咆は見えにくい弾丸なのである。

それに絶妙のタイミングで吸収、すかさず龍咆の衝撃を利用し加速するというなんとまぁ……

とんでもない事をするな。

 

一夏(バカ)がここまでやったんだ…全力で隙をつくってやる!!)

 

俺はISの事など関係無しに全力の早撃ちをする。

ISからのアラートなど無視し、両腕部から火花がちる。

無人ISがこちらに気がつき左腕で振りほどくように動こうとしているがそれすら許さない。

すばやく撃ち出された数多の弾丸は列をつくるように敵へ向い相手の腕を押し動かす。

弾丸のすべて当たった頃には無人ISはまるで万歳をするように両腕を上げ、伸びきった状態だ。

スラスターで動こうとするがそこは既に一夏の間合いの中。

 

<―ズザンッ―>

 

一閃。

一夏の振るう光の刃が相手の右肩から斜めに切り裂き機体がずれる。

一夏もそれでエネルギーがギリギリのようで下に下りると続けて無人ISも落ちる。

しかし切り裂かれてなお頭の方は動けるようで一夏の方に左腕だけで這いよってくる。

こっちで迎撃しようにも両腕が完全に壊れて動かせない。

一夏は一夏で龍咆の衝撃のせいか動けていない。

鈴も向ってはいるが間に合わない。

クソ、俺が突っ込んで体当たりで吹き飛ばそう、そう考えていると自身のISに情報が入り、突っ込むのをやめる。

一夏の顔を見るとあいつも気が付いているようでにやりとしている。

 

『……狙いは?』

『完璧ですわ!』

 

次の瞬間、レーザーが無人ISの頭を撃ち貫く。

レーザーの撃たれた方を見るとアリーナの屋根の上から「ブルー・ティアーズ」を身に纏ったセシリアのスターライトmkIIIが向けられていた。

しかし頭が撃ちぬかれた後も一夏に手を伸ばす。

 

『いい加減往生際が悪いですわよ!!』

 

さらに何発かのレーザーが撃ち込まれる。

やはり貫通性のあるレーザーならある程度始めから通用していたようだ。

無人ISは完全に動きを止めた。

鈴はふぅ…とため息をつくようにして地面に着地しISをといた。

一夏とセシリアはプライベート・チャネルで何か話している。

あ、セシリアの顔が赤くなってる…気にしないでおこう。

先ほどの動きを見れば解るが一応確認してみる。

やはりボロボロの左腕からは煙と電流が流れており原型がほとんどつかめないが機械の様だった。

そういや切り離されたもう片方は……

 

「一夏!!かわせ!!」

「!?」

 

俺が声を上げるが一夏も反応しきれていない。

見ると切り離されたはずの右腕のついた下半身と言っていいような体が、幽鬼のごとく揺らめきながら右腕を一夏に向け腕部の発射口でレーザーのチャージをしている。

 

(間に合え、っ!?)

 

無理やり右腕を動かして弾丸を連射するが最早ISが耐え切れずIS自体に強制キャンセルされた。

現在撃ち出された弾丸だけでは射線はそらしきれず、ギリギリ一夏に当たる。

ところが一夏はかわそうとするどころか無人ISに突撃している。

後数mのところでレーザーが発射され一夏はその光に飲まれながらも相手の発射口を切り裂いた。

切り裂かれた無人ISは役割を終えたように倒れ、続けて一夏も気を失い倒れた。

ISがまだ作動しているって事は怪我は無いだろうが俺と鈴は急いで一夏に駆け寄った。

こうして一夏と鈴の試合は幕を閉じたのである。

 

 

 

 

こうしようか、ああしようか迷った時は、必ず積極的な方へいく。

                                   ~ジェームス三木~




ということでVSゴーレムでした。
この事件のせいで物語がどう動くか?
お楽しみにwww
ということで読んでいただきありがとうございます。


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第二十七話 襲撃者の正体

ちょっとしたアンケート活動報告でやってます。
ぜひご意見をいただければと考えています。



あの乱入者との戦いが終わってしばらく後俺はアリーナ脇の通路で頭を悩ませていた。

よみがえった現世の記憶でもあの機体について解った事は名称のゴーレムという事ぐらい。

そのほかはどのようにして戦ったかなどである。

現在あの機体について解っている事は

・まだ世界的に存在しない無人機であるという事。

・強力なレーザー兵器持ちでその威力は類を見ないほどであるということ。

・狙いは恐らく一夏だということ。

・できるだけ人的被害は出さないようにしていた。

このくらいであろう。

何よりも問題は無人ISだ。

こんなものがつくれると世界に公表したらとんでもない事になる。

それこそ世界中がこぞって手に入れようとするだろう。

よってIS学園はこれを公開する事は無いだろう。

続いて狙いの一夏についてだ。

戦いの最中まず俺と鈴を狙ったのは恐らく邪魔者の排除。

さらに一夏主体の話中に攻撃しないのは一夏の会話を聞いていたか、もしくは一夏の邪魔をしたくなかったから?

だがなぜわざわざこのタイミングで攻め込んできたんだ?

まるでこの試合の結果が出てはいけないかのように……

さらにあの機体、なぜ今まで叫びながら逃げる観客には手を向けようともしないのにあのタイミングでわざわざ隙をつくってまで攻撃の意思を示したんだ?

しかもその攻撃はほおっておいても当たらないものだ。

ますます謎が深まる……なんにせよ情報が足りないのだ、考えても仕方あるまい。

とりあえず人的被害はゼロに収めたんだ。最悪の事態は避けられて良しとしよう。

そう考えていると後ろから人の気配がする。

なんだと思って顔を向けるとそこには千冬さんがいた。

 

「ああ、織斑先生、お疲れ様です。」

「……風音、いや奏。今は普通に話していい。」

「あ、じゃお言葉に甘えて、千冬さんどうしましたか?僕に用でしょ?」

「ああ。まずお前にお疲れ様と言うことと、聞きたいことがあってだな。」

あいつの狙いは一夏かどうか(・・・・・・・・・・・・・)ってことだったら恐らくイエスですね。」

「……やはりか。」

「しかもその上本気で手に入れようとしているわけでも、消そうとしているわけでもない。」

「……」

 

千冬さんは俺のことを見ながら考えている。

とりあえず一方的に話させてもらうか。

 

「手に入れるためならあの状況からどうやって一夏を連れ出すのかが解りませんしね。あの隔離された空間だったから戦えたものを他の教員や専用機持ちたちが戦える状況ならまったく戦いになりませんしね。僕だったら誘拐するのなら別のタイミングを狙います。」

「……」

「一夏を消すって言ったって理由は?男性操縦者が邪魔って言うのなら俺を無視したのはおかしいですし戦いの最中に一夏が話すたびにわざわざ待つ、なんてバカとしか言えません。」

「……」

「最後に一つ言わせてもらうならあいつが最後に箒に攻撃を仕掛けようとしましたよね。」

「……ああ。」

「あれ、撃ったとしても当たりませんでした。」

「!?どういう意味だ?」

「今まで正確に狙いをつけて撃っていたのにあの時あのまま撃ったとしても箒から10m以上離れた所に着弾していました。」

「……そうか。」

 

と言ってまた考え込む千冬さん。

この顔は……

 

「……千冬さん、僕からも質問いいですか?」

「……いいだろう。」

犯人に心当たりは(・・・・・・・・)?」

「…あの無人機についてだが先ほど調査がひと段落した。っと言っても大まかなところだがな。」

「…それ僕に話して大丈夫なんすか?」

「ああ、既に無人機という事は知っているだろうし想像はつくだろう。」

「……無人ISですか…」

「そのとおりだ。」

 

どうしようもなく頭に手を当てる。

一応知っていた情報だが確認が取れるとやはり頭が痛くなる。

そんなばかげたもの発表でもされ製作されたら、『ここ数年間、虐げられたと感じた男性が何をしでかすか解らない』。個人への仕返しならかわいい物だろう、テロ行為などされてみろ。

それがISによるものといわれれば『責められるのは女性だ』。

下手をすれば男と女の戦争なんてSFものがおきかねない。

まぁ俺に言わせてもらえばこの世界も絶賛SFワールドなんだが。

俺が頭を抱えている理由を察したように千冬さんは話を続ける。

 

「お前の考えているだろう事態を懸念してこの事は内密にな。」

「……もう悪い情報は無いですか?」

「……あの無人機から出てきたISコアは現存するISコア467個の内どれとも一致するものではなかった。」

「……悪い夢を見ているようなんで目覚ましてきます。」

「馬鹿者、これは事実だ。受け止めろ。」

 

そう言っている千冬さんも頭を抱えたくなりそうな顔をしている。

簡単な話である、この事実はいわば

『どこかかしらの組織、もしくは個人がISコアの生成に成功した』。

『ISの製作者、篠ノ之束(しのののたばね)がこの学園をおそった』。

このどちらかなのである。

前者ならばとんでもない敵、後者なら自身の親友がやったことなのである。

千冬さんが頭を抱えたくなる理由も良く解る。

しかしそうなると…俺は頭にとんでもない事を思いついてしまった。

 

「どうした奏。変な顔をしているが。」

「失敬な、生まれつきですよ。」

「輪をかけて変だったといっているんだ、いいから話せ。」

 

ひどい言われようだが結構なれたもので今まで織斑家で暮していた時はこの程度の暴言は日常茶飯事だった、むしろ懐かしいと感じた。

こっちが言ったらひどい目に遭うことは言わずもがなだが……

俺は半笑いになりながら話すが笑いきれていない。

 

「……とんでもない馬鹿な話しますよ?」

「…話してみろ。」

「これは今回の襲撃者が篠ノ之博士であるという前提で話します。」

「!?…いいだろう、はなしてみろ。」

「…まず、今回の試合の一夏と鈴ですが賭けをしていた事はご存知?」

「…ああ、一夏が話していた。」

「それによって仮に鈴が勝ったら多分あいつは一夏に自分と付き合うように命令したでしょう。」

「…だろうな。」

「負けたにしても一夏のことだから何だかんだで仲直りをして鈴も馬鹿じゃなきゃ距離を縮めるでしょう。一夏も鈴のことを嫌いじゃないですしチャンスは増えます。」

「……何が言いたい。」

「そうなると困るのは他に一夏を狙っているセシリアと…篠ノ之博士の妹、箒です。」

「……まて。お前もしかして…」

「…箒のためにあのタイミングで乱入したら有耶無耶にできません?その約束。」

「……」

 

千冬さんは頭を抱えている。

恐らく『そんな馬鹿な』もしくは『あいつならやりかねん』と思っているのでは?

俺は気にせずに話しを続ける。

 

「その後は邪魔者の鈴を圧倒的な強さで倒した後、一夏があの乱入者相手に一人で勝つ…」

「…しかしそれはお前の存在と凰の予想外の強さで出来そうになかった。」

「だからプランをどうするか迷っている時に箒の乱入、そして狙われる箒…」

「…お前の言い分が正しければ始めから攻撃を当てるつもりは無し。」

「しかし箒の危険に焦る一夏は決死の覚悟で突っ込み見事無人機を倒す。結果ピンチのヒロインを助けたヒーローのごとく…」

「…だが最後に一夏に攻撃をしたのはなぜだ?」

「はじめの方は箒が何らかしらの行動をすれば奇跡の(都合のいい)ように動きが止まる。最後の攻撃はISの製作者なら白式に当たっても一夏は大丈夫って判断できたからじゃないですか?」

「……」

「仮に怪我をしたとしても少しだけ、そうすれば箒が一夏の見舞いに行って仲を縮められる、鈴の約束も言っている場合じゃなくなる。」

「…確かに馬鹿な話だな。」

「…ええ、馬鹿が考えた話っす。」

 

そういいながらお互い顔色はいいものではなかった。

千冬さんは完全に頭を痛そうに抱えていたし俺は乾いた笑いと引きつった笑顔しか出せないで居た。頼むから馬鹿が考えたありえない想像であって欲しい。そう思わずに居られなかった。

この雰囲気を何とかすべく俺は無理やり話を方向転換した。

 

「バカな話で思い出しましたがもう一人のバカはどうです?」

「二人の間違いじゃないのか、箒は先ほどまで私が絞り上げた。今頃反省文を書いているだろうよ。」

「うわぁ…ご愁傷様…」

「これくらいで済んでよかったと思わせねば。」

「…実際そうですしね。」

 

あの状況でもし始めからゴーレムが狙っていたら?

もし俺のISの限界が来て腕を逸らしきれなかったら?

もし一夏の太刀を受けた後も箒を狙い続けたら?

そう考えると箒が無事な事は運が良かったとしか言えないのである。

千冬さんの話は続く

 

「一夏に関してだが体に別状は無い。恐らく緊張の糸が切れて疲れが押し寄せただけだといっていたからじきに目を覚ますだろう。」

「…そっすか。これで一安心ですね。」

「お前のISはどうなんだ?」

「明日にでもおっさ…栗城さんに渡して修理ですよ。完全に逝っちゃってて自己修復に任せたら何時までかかるかわかりません。」

「まったく出鱈目なやつだな、貴様は。」

「誰かを助けるためだったらいくらでも出鱈目しますよ?僕は。」

「ふっ、無茶苦茶だな。ではまた、しっかりと休めよ風音。言わずもがなこのはなしは誰にも言うなよ?」

「了解しました、織斑先生。」

 

そう言って俺は千冬さんと別れた。

さて一応一夏の見舞いに行ってやるか。

起きていなかったら顔に落書きでもしてやろう。

そう考え俺は医務室に向った。

 

 

 

 

 

 

 

医務室の扉の前で鈴が去って行った。

恐らく一夏の見舞いに来ていたのだろう。

去って行ったと言う事はまだ起きていないのか?それとももう話終わったのか?

中を覗いて見ると一夏は起き上がっていた。

こちらにも気が付いたようで手を上げている。

俺は一夏の方に向いながらマジックペンを見せ、話しかける。

 

「何だ、一夏起きてたのか…せっかく顔に落書きしようと思ってたのに。」

「お前やめろよ?ほんとに。」

「一割ジョークだ。んで体の調子は?」

「九割本気かよ。体は問題無いけど大事をとって今日は一日医務室だって。」

「ご愁傷様、さっきまで鈴来てたろ?あれどうしたんだ?」

「ああ、何とか仲直りできたよ。アレはお互いに勘違いだったらしい。」

「……鈴がそういったのか?」

「?ああそうだっていってたぞ?」

 

鈴…自ら諦めるとは…次会ったらヘタレと言ってやろうか…

いや、もっと良いシチュエーションにあこがれているのか?

一夏相手に、それは『モグラに空を飛べ』って言ったほうがまだ可能性があるぞ。

鈴がそれを目指すって言うのなら俺は止めないけどよ。

しばらく適当に話していると俺は疑問に思っていることを聞いた。

 

「そういや一夏、お前今回すごい回避しまくってたけどあれなんだ?」

「ああ、あれか。アレはお前を真似てみたんだ。」

 

やはりか…しかし俺はこいつの前で回避を見せた事なんてなかっはず……

と考えている間も一夏は話し続ける。

 

「…僕のって…どの?」

「え~っとな、俺も鈴に負けないために自分の試合を見直してみようと考えたんだ、でその時にちょっと思ったことがあってさ。」

「何を?」

「お前はどうやってセシリアと戦ったか。そしたらお前はじめは完全に相手を見てだんだん紙一重で回避してたじゃないか。」

 

ああ、なるほど。

あの試合を見たからか。

しかし見ただけで簡単に出来るものでもないはずなんだが…

やはり現世の俺の知る『一夏』とここに居る『一夏』は別物だと考えた方がよさそうだな。

……これも俺の介入の結果だというのか?

俺の考えなど知らずに一夏は話す。

 

「しかしアレはどうやれば出来るんだ?俺も鈴が怒って攻撃パターンが単調になってたから出来たけど…」

「?あの無人機相手にも出来てたじゃないか。」

「……それなんだけど俺と戦った時だけなんかおかしかったんだよな…」

「どういう意味だ?」

「いや、奏と鈴と戦ってた時のパターンっていうかリズム?って言えば言いのかな?それが俺のときだけ単調って言うか弱いって言うか……勢いが無かったんだ。」

「……具体的に言うと。」

「…弱くなってた?」

 

これは…ますます俺の馬鹿な話の可能性が高くなってきた……

馬鹿な話で終わったら笑い話で済むが、事実だとしたらこの先、箒のいやなことがあるたびにこういうことがおきかねないのだ……

ああ、出来る事なら二人の秘密にしておきたいが……

疲れた顔をしながら話す。

 

「一夏…それ千冬さんに言ったか?」

「いや?千冬姉には起きてからまだあって無いぞ。」

「わかった。俺が今探してくるから必ず伝えとけ、僕からも一夏に聞くように伝えておく。」

「お、おう?」

 

突然疲れたような顔をした俺に困惑している一夏。

もう俺も知らん。千冬さんに任せる。

そう考え医務室から出ようと思うが言い忘れていたことを思い出し振り向く。

 

「あ、言い忘れてたわ。」

「うん?何だ?」

「一夏、僕はあの勝負はお前の勝ちだと思ってる。すごい強いよお前。」

「……そうか、ありがとう奏。」

 

そう一夏に告げた後俺は千冬さんを探しに医務室をでた。

 

 

 

 

 

 

希望はいいものだよ。多分最高のものだ。いいものは決して滅びない。

                               ~ショーシャンクの空に~




これで一応原作一巻分が終わりました。
なぜか予定より二話多い…
…まぁ少ないよりは良いでしょう、そう考えますwww
これでやっとメインヒロインを登場させられる二巻に入れます!!
っと言いたいのですが途中何話かはさんだ後に行かせてもらいます。
では読んでいただきありがとうございますwww


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第二十八話 協力要請

無人IS乱入事件から数日後、とりあえず生活は元にもどった。

IS学園側はこの事件を調査中として公開するつもりは無いようだった。

まぁ、妥当な判断だろう。さらに今後このようなハッキングがあった時のためにその手のシステムを強化するつもりらしい。

だが相手が篠ノ之束という天災科学者だったとしたらあまり期待できないだろう。

そして案の定クラス対抗試合は取り止められた。

デザート食べ放題はなくなったがまぁ…被害がでなかっただけ良しとしよう。

だが問題がいくつか起こった。

一つは鈴とセシリアについてである。

この二人未だにどちらが強いかで張り合っている。

まぁ張り合うだけなら良いが今度はどちらが一夏にIS訓練をつけるかで争っているのだ。

その結果戦って勝ったほうが一夏に稽古をつけるということで戦うらしい。

二つ目に箒である。

本当に千冬さんに絞られたらしく二人の争いにも参加せずしょんぼりしている。

反省しているから仕方ないっちゃ仕方ないがルームメートの一夏が落ち着かないのである。

事あることに

『なぁ…奏どうしよう…』

と聞いてくる一夏…正直一夏の方がうっとうしい。

三つ目に簪の打鉄弐式についてである。

簪自身の開発したデータを俺の手によっておっさんに送ってはいるが、データが足りずなかなかうまくいっていないらしい。

そのため近接戦闘のデータを取りたいらしいのだがあいにく俺は近接武器は使えない。

よってデータが取れないのである。

『弐式』VS『赤銅』でデータ取りをするのは流石に協力している事がばれてしまう。

最後は俺自身。

問題と言っては何だが、今後こういうことがあることを考えると『赤銅』では戦いきれない。

このままでは助けるどころか足を引っ張りかねないのだ。

おっさんにもその事を伝えてはいるのだが、企業間の取り決めで『1企業による風音奏(・・・)への専用機の開発』は禁止されているのだ。

ぶっちゃけ『赤銅』ですらレッドラインギリギリらしい。

おっさんも何とかするとは言っているが正直どうしようもないだろう。

しかしどうしようか…と食堂で一組メンバー+鈴で昼食を食いながら考えているのだが…

 

「ふん!!あんたしっかり首を洗って待ってなさいよ!!」

「こっちの台詞ですわよ!?泣いた後に涙を拭くハンカチでも準備してなさい!!」

「なんですって!?」

「そっちこそ!?」

「…………はぁ……」

「なぁなぁ…奏……やっぱり箒何とかできないか?」

 

………………

 

「第一あなたは二組でしょう!?一組の事は関係ないじゃないの!!」

「私は一夏の関係者!!あんたこそクラスでやってるんだったら必要ないでしょ!!」

「…………はぁぁぁ………」

「奏…俺何か出来る事は無いか?」

 

…………考え事が出来る雰囲気ではない。

言い争うセシリアと鈴、ネガティブオーラを出し続ける箒、言い争いの原因で箒が気になる一夏。

ここの空間だけで既にとんでもない騒ぎになっている。

頼むから俺をそこに巻き込むな…

言い争いは一夏が止めれば止まるのだろうが一夏は箒のことが心配でそれどころじゃない。

箒は一夏に心配されると自身がやってしまったことを思い出し、ただ『……大丈夫だ』といってさらに暗くなる。

どうしろって言うんですか!?

こっちは簪の近接戦闘データも集めなければいけないって言うのに…

………まてよ?この状況はあわせれば使えるかもしれん。

そう考え俺はこの惨状を放置して行動を開始した。

一夏が何か言っていたがとりあえず無視した。

 

 

 

 

 

俺はあまり人が居ない影で簪に電話をする。

 

「~ということで簪ちゃん。今日放課後あいてる?」

『………でも…彼も居るんですよね?』

「ああ、一夏も居るよ。」

『………』

「簪ちゃん。ちょっときつい事かもしれないけど言わせてもらうよ。【弐式の開発停止は一夏のせいじゃない】。」

『!?…でも!?』

「白式を優先するって決めたのは企業であって一夏の意思じゃない。それに確かに一夏が現れなければって思うかも知れないけどそんな事言ったってどうしようもないんだ。今大切なのは弐式のデータ集め。違うかい?」

『……そのとおりです…』

「まぁすぐに仲良し子良しになれって言ってるわけじゃないしデータを取りに来ているってくらいに考えてもらえないかな?」

『……とりあえず今日行ってみます。』

 

そう言って電話を切る簪。

さて次は箒だ。

俺は箒を探して歩き始めた。

食堂にもどると案の定まだあの惨状のままだった。

変わった事と言えば一夏がセシリアと鈴の言い争いに巻き込まれているくらいだ。

これはタイミングが良かったと思い席にもどり箒に話しかける。

 

「(箒、まだ立ち直れないか?)」

「(奏……大丈夫だと言っているだろ。)」

「(……自分は一夏の近くにいない方が良い。)」

「(っ!!)」

 

ボソッとそうつぶやくと箒は面白いくらいに反応した。

こいつ本当に隠し事できないのな…

その後平然とした表情にもどったが逆に怪しくなる。

 

「(…何の事だ。)」

「(いや、隠しきれて無いから。ちなみにそんな事考えてるなら僕が怒ります。)」

「(でも……今回の事件で私は邪魔をして一夏を危険な目に…)」

「(その一夏を強くしようとがんばってたのは箒だろ?)」

「(…でも…私のせいで。)」

 

やはり頑固だ。

こうと決めたらよほどの事では変わらない。

そんな箒をここまで弱めるとは……やはり千冬さんは『どS』だな。

そこは今は関係ないか、そのまま話す。

 

「(じゃあ一夏に聞いてみろ。)」

「(……一夏はやさしいから許してくれるだろう…)」

「(良いから聞いてみろって。放課後あいてるだろ?今日の試合の時に来てみろ。)」

「(……)」

「(安心しろ。悪いようにはしない、絶対に。)」

「(……わかった。)」

 

そう言って俺は話すを止め一夏を見る。

完全に両方にもみくちゃにされてぐったりしている。

……放置しよう。

 

 

 

 

 

 

そして放課後。

セシリアと鈴は第一アリーナを貸切にして試合をするらしい。

俺、一夏、箒、簪は観客席だ。

試合が始まりお互いに譲らず戦っている。

 

「さてこの子が俺が前に話してた簪ちゃん。一夏は知ってるだろ。」

「えっと…例のアレか?」

「それ。あ、箒。この事は後で一夏に聞いてくれ。一夏も箒にだけは知らせても良い。」

「………」

 

反応は無し。だが聞いていることを前提で話を進める。

二人の試合はさらに加速している。

現在手数が多いセシリアが現在若干優勢か?

 

「んでこっちが前に話した織斑一夏、そして篠ノ之箒だ。」

「……よろしくお願いします。」

「………」

「おう、よろしく。え~っと前に言ってた協力ってこれか?」

「いや、どちらかと言えば箒に手伝ってもらいたい。」

「……え?」

 

ようやく言葉を発する箒。

首をかしげる一夏と簪。

試合は現在鈴の龍咆により状況は鈴のほうに流れている。

セシリアも一度見ているから予想は出来ていたのだろうがいざ戦ってみると対処に困るようで回避しきれていない。

 

「箒、お前に頼みたいのは簪のISとの近接戦闘の練習だ。やり方を教えるのでも良いし打ち合うのでも良い。」

「だ、だが私は……」

 

箒は完全に一夏との訓練が出来なくなったと思っているのだろう焦っている。

しかし俺の悪くしないという言葉を一応信じてはいるため即答で断る事が出来なかった。

焦りながらも箒が何か言おうとした時に一夏が先に口を開いた。

 

「ちょっと奏、待ってくれ。」

「うん?どうした一夏。」

「それだと俺の方の訓練はどうなるんだ?」

「お前まだ箒との訓練必要?もうやらなくても良いんじゃない?」

「そんな事は無いさ。まだ俺箒に教えてもらわないといけない事たくさんあるんだ。」

「一夏……」

 

そう話す一夏。まぁ多分そういうとは思ってたけどね。

さてこのまま恋する乙女の邪魔をする悪者を続けて終わらせますか。

試合も終盤に差し掛かっている。

セシリアのレーザーとビットにより鈴はかなりけずられているが龍咆でかなり持ち返したらしく現状互角だろう。

 

「それは千冬さんじゃだめなのか?」

「確かに俺の目標は千冬姉だ。でもただ後を追うだけじゃ、千冬姉の真似をするだけじゃ意味が無い。俺は俺として千冬姉を超えないといけないんだ!情けない話だけどそのためには箒の協力が必要なんだ…」

「って言ってもそれは箒次第じゃないか?どうだい箒、どっちにする。」

「……すまない、奏。悪いが私は一夏の鍛錬の方に行かせてもらう。」

「ありりゃ、そりゃ残念。」

 

箒の表情は一夏に再度必要にされているといわれてかなり良くなった。

後は自身の考え方次第だろう。

丁度試合のほうも終わった……ダブルノックダウンって…

この後考えていたプランが台無しだ…まぁ良いかむしろ良いほうに進んでいる。

一夏と箒は二人で何か話している、恐らく先ほどの必要云々についてだろう。

一方簪は何かにショックを受けている。

恐らく一夏の姉に対する考え方にショックを受けたんだろう。

……ちょっと揺さぶるか。

 

「一夏が千冬さんを目指してるって聞いてびっくりした?」

「……はい、本当に目指してるんですか?」

「いや、超えてみせるって言ってるよ。」

「超える…ですか。」

「あいつの事全部わかるとは言わないけど結構友達長くやってるからね。本気だってことくらいは解るよ。」

「……強いんですか?織斑君。」

 

この話を聞くって事は恐らく一夏の試合は見て無いんだな。

まぁ興味が無いって言うより自身のISの方が大事ってだけだろうけど。

 

「強いって言ってもまだまだ。千冬さんを超えるなんていったら指を指されて笑われるレベル。適正もBランクって感じでそれほど高いわけじゃない。それでもこいつは挑むんだって。」

「……どうしてですか?」

「自分の姉をバカにさせないためだと。詳しくは知らない。でもそれだけ知ってればあいつがどんだけ馬鹿かわかるだろ。」

「……馬鹿ですか?」

「うん。見てて気持ちよくなる馬鹿。だからこそ応援してやりたい。」

 

そう言うと簪は何かを考えていた。

一方一夏は何かを思い出したようにこっちに声をかけてきた。

 

「なぁ、奏。」

「何だ、馬鹿。」

「馬鹿って!?まぁいいや。その簪さんのテストって俺たちと一緒の訓練の中で出来ないのか?」

「いや、出来るよ。」

「じゃあ一緒にやろうぜ、簪さん。俺も出来る限りなら協力するし。」

 

ちょっとムッとする箒。恐らく一夏が彼女に近づくのが面白くないんだろう。

だが何かを思い出したかのような顔をした後こちらに来る。

 

「一夏、頼まれたのは私だ。お前は自分のことをしろ。」

「え?でも一人より二人の方が……」

「……いえ、出来れば篠ノ之さんにお願いしてもらっても良いでしょうか…」

「だってさ、一夏。今のお前の相手は後ろの二人だ。」

「え?奏、二人って?」

 

そう言って後ろを見ると鈴とセシリアがこちらに走ってくる。

 

「「一夏(さん)!!先に攻撃を当てたのは私よね(わたくしですわよね)!!」」

「え!?……えぇ!?」

 

アレを見るに一夏、試合をろくに見てなかったな。

今回は一夏を使ったところもあったし助け舟を出すか。

 

「いや、同時だったよな、一夏。」

「!?あ、ああ。俺たちも見ていたときも同時だと思ったんだ。」

「…本当ですの…」

「…ちゃんと見てたんでしょうね?」

 

疑いの目を一夏に向ける二人。

こちらに目を向ける一夏、だが無視をする。

助け舟はだしたんだ、後は自分で何とかしろ。

そうしていると一夏も諦めたようで自身で説得を始めた。

箒と簪のほうを見るとなにやら話している。

 

「うん?どうしたの箒に簪ちゃん。」

「いや、一夏がいつもどおりだと思ってな。あとなんで簪だけちゃん付けなんだ?」

「女の子らしいから。」

「………私たちは違うと?」

「だったらもう少し一夏に素直になりましょう。まぁそれは冗談だとしても慣れちゃったのもあるかな。簪ちゃんはどうする?呼び捨てが良い?」

「あ……どっちでも大丈夫です。」

「そ、じゃ簪ちゃんで行こう。」

 

話しているとある程度箒とは仲良くなったみたいだ。

じゃあ一夏のほうがまとまり次第訓練をするか。

………ISが無い俺は参加できないが。

としまらない事を考えながら空を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

天才になるのに遅すぎるということはない

                                     ~作者不詳~




ということで訓練に時々簪が加わります。
なぜかと言うとそれは秘密ですww(オイッ)
一応言うと作者の趣味ではありません。理由はあります。

読んでいただきありがとうございます。


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第二十九話 奏の休日

さて今回は主人公風音 奏の休日の一日をお送りします。


【04:00】

目覚ましよりも先に目を覚ます。

一応時間は四時にあわせているが鳴る事は無い。

そのままジャージに着替え体を動かしながら寮を出る。

 

【05:00】

この時間まで全力で走り続ける。

今日のトレーニングはそれほどきつくしないで置こう。明日からまた学校だし。

そう考え逆立ちし腕立てをする。

これだけでもかなりきついが動きになれたら片腕で始める。

特に右腕はしっかりとやらねば。

これを出来なくなるまで続ける。

 

【06:00】

これくらいになると少しだが起きだしてランニングしている人が居る。

はじめは数人だったのだが最近どんどん増えている気がする……

気のせいという事にしておこう。

クールダウンがてら一緒に走る。

 

【07:00】

シャワーを浴び着替えをする。

その後食堂に向かい朝食を食べる。

今日は一夏と出かけて奢ってもらう予定なので控えめにする。

食堂のおばちゃんたちに心配され魚を1匹おまけしてもらった。

良いことがありそうだ。

 

【08:00】

自室にもどり少し銃を手入れする。

試しに何回か早撃ちのまねをするが納得できない。

やはり修行が足りないようだ。さらにきつくしよう。

しばらくすると一夏が部屋にやってきた。

とりあえず出かけるか。

 

【09:00】

ただいまモノレール内。

あからさまにこちらを監視している奴が3人いるが無視する。

一夏は気づいていないようだ。

 

【10:00】

市街地に到着。

取り合えず今日の俺の予定は生活必需品(大半食材)と一夏のおごり。

一夏は適当に見て回りたいところがあるらしい。

まぁその前に少しやら無いといけないことがあるな……

 

【11:00】

一夏を引っ張って人ごみにまぎれて後ろをついてくる3人の背後に回り脅かす。

案の定箒、セシリア、鈴だった。

なぜ始めから声をかけなかったんだ?

別に友人同士で遊びに行ってるだけなんだから声でもかければ良いだろうに……

声をかけなかった理由は考えない事にした。

 

【12:00】

昼飯にする。

一夏も考えていたようで時間制バイキング店にした。

畜生、財布を空にするのはまた今度にしてやろう。

他のお客の迷惑になら無い程度に食べ続ける。

元の値段の2倍は取れただろう。

満足げに店を出る。

一夏以外の三人は目を本当に丸くしている。

「食べるとは聞いていたし普段から多く食べていたがここまでとは……」

「本当に見ているだけでおなかがいっぱいになりますわ…」

「あんた、食べたものどこに行ってるのよ…」

……ひどい言われようである。

 

【13:00】

はじめに一夏の予定を終わらせようと家電コーナーに向う。

やはりISという存在のせいか全体的に現実世界より技術的に進んでいるようだ。

と言ってもどう使うか解らないようなものは存在せず、ただ技術が数歩先に進んでいるという印象を受けた。

一夏が何を見ているかと思えばカメラのようだった。

 

【14:00】

女子三人組に連れられて服を買いに行く。

まぁここで大切なのは一夏だろうから俺は関係ない。

一夏を見捨て別行動を取る。

その後歩いていると泣いている迷子の男の子を見つける。

いまどき迷子を男性が助けると誘拐したといわれる事があって誰も手を出さない。

女の子じゃ無くても相手の母親がそういう人物の可能性があり怖いのだ。

構わず声をかけ泣き止ませてお母さんを探す。

 

【15:00】

男の子を肩車しながら声を上げて歩いていると母親を見つけたようだ。

一応逃げる準備はしていたが普通にお礼を言われた。

やはり女尊男卑といわれてもそうで無い人はいるのだ。

ちょっと良い気分になり歩く。

 

【16:00】

一夏たちと合流し食材を買いに行く。

最近晩飯を自身で作るのにはまっているのだ。大半は食堂ですますのだが。

見て回ると一夏が何か見つけたようだ。

見ると1匹まんまのマグロが置いてあった。

このまま売るわけも無く数時間後に解体ショーをやるらしい。

と言ってもマグロは目当てじゃ無いんだ。

俺は安い魚介類と適当なパスタ、豚肉、卵などを冷蔵庫に入るだけ買っていった。

鈴にボソッと

「なんか主夫みたいね…」

といわれたが気にせずに無視する。

 

【17:00】

またもモノレール内。

朝とは違いそれほど人は乗っていない。

まぁこの先IS学園しかないからしょうがないか。

来たときとは違い5人で談笑しながら乗る。

 

【18:00】

寮につきみんなと別れる。

俺は部屋にもどり料理を開始する。

今日は簡単にカルボナーラにでもしよう。

とりあえず2人前ほどのパスタをゆでながら

厚めに切ったベーコンとスライスしたキノコをフライパンいためる。

ベーコンから染み出る油と肉汁をキノコが少しずつ染み込ませている。

ベーコンの油がこげる香りやその他の食材の香りが十二分に出たらこしょうを挽き塩と共に振る。

しばらくするとパスタも茹で上がりそのまま炒めだ食材の入ったフライパンにいれる。

冷蔵庫から卵を4個ほど取り出し粉チーズと共に混ぜる。

塩コショウで軽く味付けをしパスタと絡める。

卵に火がとおり半熟になったところで皿に移しこしょうを振る。

これで完成だ。

 

【19:00】

パスタを口に運びながらISの整備についての専門書を読む。

実際勉強してみるとぶっちゃけまったくわからない。

何とか簪の解説が合ってようやく頭に入ってくる程度だ。

それではいけないのでひたすらに基本的なところを読んでいるのだが……

まぁ俺は天才じゃないんだ、鍛錬と同じくゆっくりと、しかし厳しく行こう。

俺はさらに参考書を読みながら飯を食べる。

 

【20:00】

左手で厚い参考書をめくりながら右手でいつもの訓練をする。

今回はコインの代わりに卵を使った。

何回かやるとだんだんとブレがでてきた。

回数は最高記録+2……まぁ成長はしているんだろうが納得はいかない。

やはりもっと根本的に別の訓練をするべきなのだろうか…まぁ今は信じて続けるだけだ。

 

【21:00】

体を動かすのをやめシャワーを浴びる。

一夏は風呂に入りたくて仕方が無いようでたびたび俺を自身の家に付き合ってくれという。

そんなに入りたいのならば一人で行けば良いものを……

そこで俺を誘うからホモだのなんだの言われるのでは?

シャワーから上がり体の柔軟をし布団に入る。

また明日からハチャメチャな学園生活だ。

それを考えると楽しみなようなまた何か起きるんだよな…とあきれたような感じにおちいるが、まぁ楽しみにしているという事にしておこう。

 

 

 

 

 

 

私たちの人生は、私たちが費やした努力だけの価値がある。

                                    ~モーリアック~




という風にトライガンのおまけの短編風に生かせてもらいましたwwww
『良いから本編進めろよ』と言われそうですが
書いてみたかったので仕方ないのです…

読んでいただきありがとうございますwww


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おまけ 作者のIS設定

まずはじめにここで語られる事はすべて作者の考えや考察を基に書かれているため

【 原 作 と は 一 切 関 係 あ り ま せ ん 。 】

そのことをご了承の上お読みください。
なおこれは読まなくて大丈夫です。本編とは関係ありません。
『ISの本編読みたいだけで作者の考えなんていらん。』
というひともいるでしょうし。
それでも興味があるという方はお読みください。
ではどうぞ~


【ISの設定】

○エネルギーについて

作者の頭の中にあるISのエネルギーは大きく分けて二つあります。

一つが作中でも良く使われるシールドエネルギーなどで消費されるエネルギー

仮称として『戦闘エネルギー』とします。

もう一つがその他のところで使われていると思われるエネルギー

仮称として『基本エネルギー』とします。

この二つがISの中に存在していると考えています。

それぞれのエネルギーを説明させてもらいますと。

 

・『戦闘エネルギー』

読んで字のごとく戦闘などに使われるエネルギー。

シールド使用時やエネルギー攻撃、瞬間加速などを使用するときに消費されるものです。

基本的にISの公式戦で使用されるエネルギーという表現はこれですね。

 

・『基本エネルギー』

コアネットワークの維持、瞬間加速以外の移動使用、武器の展開、自身の基本的な保護などの

ISの基本動作に使われるエネルギーです。

 

実際にある車で例えると『基本エネルギー』がガソリンで『戦闘エネルギー』がラジオや車内エアコンなど用のバッテリーですね。

なぜこのように考えたかと言うと大まかに分けて三つありますね。

①戦闘時フルで戦っている時にもエネルギーがじわりじわりと削れている表現が見当たらなかったため。

②宇宙開発用として作られたものなのだから生命保護と作業では別のエネルギーが使われているのでは?

③作中の一夏の無茶をする時に何かとエネルギー大丈夫なの?っと言った時の理由のこじつけ。

 

①に関しては作者がみる限り戦闘中にそのような表現は見当たりませんでした。

ということは何かマスクデータ的なエネルギーが別にあるのでは?と考えたからですね。

②は宇宙での活動を目的とするのに生命を保護するエネルギーと作業時のエネルギーを一緒にする場合何かと不便があるのでは?と考えたからです。

③はどう考えても作中の一夏エネルギー間にあわんだろ…と言った疑問を解消するに当たって

仮に白式というISが

『一夏の判断に関係なく基本エネルギーを戦闘エネルギーとして使用しているのでは?』

と考えれば何とか納得できたからです。

はじめ言っているように【これはあくまで作者の考えで公式ではありません】。

ただし作者の作品中ではこのように扱わせていただきます。

 

 

○絶対防御について

絶対防御に関してですが基本的にこれは戦闘エネルギーを使用して発動させます。

ただどうしても足りない時は基本エネルギーを使用して軽減させます。

例で言うと下のようなISがあります。

 

打鉄

戦闘[||||・・・・・・]

基本[||||||||・・]

 

これがシールドバリアーを貫く攻撃をくらったと仮定します。

そのときのシールドエネルギーで-2さらに絶対防御に-6必要だとします。

 

打鉄           打鉄

戦闘[||||・・・・・・]-2 ⇒ 戦闘[||・・・・・・・・]-6

基本[||||||||・・]      基本[||||||||・・]

 

となって足りません。

そういうときに使われるのが基本エネルギーだと考えます。

そして下のようになり試合終了ですね。

 

打鉄           

戦闘[・・・・・・・・・・]

基本[||||・・・・・・]

 

このとき自身を保護する事に使われていたエネルギーが急激に減少するため装着者にダメージが出る場合がある。

そのように作者は考えています。

 

 

○拡張領域および機体の改造について

ISと言う機体を説明するにあたり何よりも大切な事は拡張領域ですね。

恐らくISと言う機体にはISコアから拡張領域を引き出し維持するそれ専用のプログラムが組み込まれたハードが積み込まれているんだと思います。

しかし作者の中でその拡張領域は正確には二つあるのでは?というのが作者の考えです。

一つが武器などを積む『武器庫』としての拡張領域。

もう一つが銃火器の弾薬を積む『弾薬庫』としての拡張領域。

この二つです。これは完全に作者の妄想です。

ですがこう運用した方が使いやすそうだったためこうなのではないかという考えですね。

改造に関してですがまたもや例として打鉄を使って説明します。

まず作者の中の打鉄をデータ化してみます

 

打鉄

機体性能・3

防御性能・5

武器庫[○○○○○]

弾薬庫[○○○]

 

初期の武器庫スロットが5弾薬庫スロットが3の合計8ですね。

なぜ近接戦闘向きの打鉄に弾薬庫があるのかというと打鉄は第2世代ISですからね。

兵器としてのISの基本形態といってもいいのがこの世代です。

そんな中打鉄は量産機として使われるほど優秀な機体です。

ならば近接戦闘に力を入れておきながらも一応射撃戦も出来るとしたほうが量産機としては自然だと考えたためですね。

ということで、これが基本にして考えます。

まず白丸(○)これが空きスロットだと思ってください。

例えばこの打鉄にコスト3のブレード、さらにコスト2の銃Aを積み込みます。

それにコスト2の弾薬を3つ見込んだとしましょう。

 

打鉄

機体性能・3

防御性能・5

武器庫[●●●(ブレード)●●(銃A)]

弾薬庫[●●●(弾薬)]

 

しかしこの打鉄のパイロットは近接戦をするつもりはありませんでした

よってコスト3のブレードの代わりにコスト2の銃Bを積みます

 

打鉄

機体性能・3

防御性能・5

武器庫[●●(銃A)●●(銃B)○]

弾薬庫[●●●(弾薬)]

 

こうすると武器庫拡張に少し空きが出ますね。

このときに自身の武器の拡張領域に合わせた専用のハードをつけることが通常の改造です。

つまり『武器庫スロット5、弾薬庫スロット3』のハードから

『武器庫スロット4、弾薬庫スロット4』のスロットの拡張領域専用のハードにかえる、と言った感じです。

 

打鉄

機体性能・3

防御性能・5

武器庫[●●(銃A)●●(銃B)]

弾薬庫[●●●●(弾薬)]

 

これが基本的な改造ですね。後は根本的に装甲などのハードを入れ替えるなどです。

しかし両方やってさらに内容量を大きくするハードを組み込み、さらに機能性も特化させるなんて魔改造などをした場合最早それは改造ではなく製造ですね。

ちなみに栗城さんが作中でやった改造は拡張領域専用のハードを要領の小さなものにする代わりにそこにあるはずの容量に機体制御や維持などのデータをぶんこんでさらに軽量化した感じですね。

データ化すると

 

打鉄改―赤銅―

機体性能・6(ブースト使用時8)

防御性能・2

武器庫[○○]

弾薬庫[●○]

 

こんなんです。しかもその弾薬庫のうち1は固有武器の左手のチェインガンの弾薬です。

ぶっちゃけ無駄弾は撃てません……しかも威力はそんなんでも無い……

ひどい話です。一体誰がこんな馬鹿機体を……

 

 

○第二形態について

第一形態から大きく形まで変化する第二形態。

原作では主人公の一夏の白式と銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がそれを発動させていますね。

その第二形態ですが共通点を挙げると以下の事がわかります。

・基本性能の強化。

・元の性能の低下は見られない。

・武装の変更または強化。

・人の手を借りずに装甲の変化および増量。

………整備班泣かせですね。

こんなもの整備しろって言われたら泣くしかありません。

まぁ問題はそこではなく、以上の事柄から第二形態とは

『単純な機体の底上げ強化および武装の強化を基本的なデメリットなしでおこなえる。』

とさせてもらいます。いわば『進化』ですね。

ただ一夏の白式については単一仕様能力のせいでひどい目を見ていますが……

 

 

○ワンオフ・アビリティー(単一仕様能力)について

単一仕様能力は基本的に拡張領域の武器庫スロットを使います。

しかしながら強力な能力の場合スロットが足りない場合があります。

そうした場合弾薬庫の方も削っていく感じですね。

いわば単一仕様能力のみ『両方の拡張領域をまたがってスロットを使える』と思っていただければ。

もちろん削る事ができれば他のデータでも構いません。

それは原作の一夏の白式から射撃武器使用時のセンサー・リンクが削られていることからもわかります。




え~っとパッと思いつく限りは書かせてもらいました。
まだ『これって作者の中ではどんな感じなの?』
と言った質問があれば随時更新していきます。
なにか疑問があった方は活動報告の『この前の質問ですが……』に書き込むか
感想の方にでも書いてください。


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第三十話 五反田家

しばらく時間が経ち五月の下旬の休日。

俺と一夏は一夏と俺の共通の友人五反田 弾(ごたんだ だん)の家に遊びに行っていた。

五反田 弾。

こいつは俺は中三の一年間、一夏にとっては中学時代からの悪友である。

実家が五反田食堂という食堂で時々三人で食べに来たりもした。

少し調子がいい奴ではあるが気の良い奴で俺たち三人組の被害者担当である。

現在弾と一夏はテレビゲームをやっている。俺はこの手のテレビゲームがめっぽう弱く参加してもすぐに負ける。

なので雑誌を読みながら見学中だ。

雑談をしながらしばらくそうしていると弾がふと思い出したように話始めた。

 

「一夏、奏。そういやIS学園にかわいい子いた?」

「え!?……どうだろ奏。」

「お前が僕に聞くのかよ!?……まぁかなりいるって言うか基本皆かわいいぞ?」

「マジかよ!?うわぁ~良いな!?俺も入れないかなぁ……」

「だが基本的に扱いは珍獣の域を出ないぞ?本当に上野動物園のパンダのほうがまだ楽そうなぐらいだ。なぁ一夏。」

「パンダはともかくかなりきついぞ……先生は千冬姉だし…」

「うぇ…何、もてたりしないの?」

 

そう言って弾は顔をしかめながら話す。

とりあえず話の方向性を変えるか。

 

「弾隊長!!一夏は既にフラグを大量に立てておりそのうち三つはすごい争いをしているであります!!」

「はぁ!?何言ってるんだ奏?」

「一夏、お前は黙れ。本当か?奏。相手は?」

 

驚く一夏とそれを無理やり止める弾。

俺はそのまま話続ける。

 

「一人は黒髪のスタイルの良い幼馴染。もう一人はブロンドの髪のイギリスのお嬢様風であります。」

「ほう…で風音三等兵、最後の一人は?」

「『おおとりすずね』………弾!!テメェ一夏と一緒になって僕の事だましやがったな!!恥かいたじゃないか!!」

 

弾は一瞬誰?って顔をした後あっ…という顔をして笑い始めた。

 

「鈴の事か!!あいつ日本に帰ってきてたのか!!ってマジでお前鈴にそれ言ったの!?」

「おう!!『何言ってんの?こいつ?』って顔されたわ!!」

「一夏、本当かよ!?」

「ああ、初対面でいきなりな。」

 

そういうと弾と一夏は一緒になって笑い始めた。

恐らく一夏もそのときの事を思い出して笑っているのだろう。

弾はヒーヒー言いながら話し始めた。

 

「いや、奏。すまんかった。まさかそんなタイミングで出会うとは思わなかったんだ。」

「まったくお前らと来たら。」

「いや、本当に悪かったって。でも鈴か、かれこれ一年以上経つのか…一夏、今度一緒に遊ぼうって伝えといてくれよ。」

「おう、伝えとく。」

 

とけらけら笑いながら話していると

 

<―ドンッ―>

 

という扉を蹴る音と共に弾の妹、五反田 蘭(ごたんだ らん)が現れた

 

「お兄!!さっきからお昼出来たっていってるで……」

「よ、久しぶり蘭。」

「おひさ~相変わらずだね~」

「一夏さんに奏さん!!なんでこんなところに!?」

 

と驚く蘭。

彼女は五反田 蘭、弾の妹で絶賛一夏に恋する乙女だ。

ちなみに弾は彼女に弱く、いつも尻にしかれている。

まぁここに一夏がいるってことがわかった今、彼女の狙いは既に一夏だろう。

 

「あのっ、き、来てたんですか……? 全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど…。」

「ああ、今日は外出許可が取れたから家に一回帰った後、暇だったから丁度良いし、奏と一緒に弾と遊ぼうってことになってさ。」

「……お兄…私知らない。」

「い、いや…俺も突然だったから伝える時間無くってさ…」

 

妹ににらまれてちっちゃくなる弾。

少し助けてやるか。

 

「そういうこと今度から一夏、お前も蘭ちゃんに連絡してやれよ。」

「え?なんで?」

「仲間はずれみたいだろ?俺蘭ちゃんのアド知らないし。」

「じゃあ教えよっか?」

 

なんでこういうときだけしつこいんだよ!?

素直に応じろよ。たく…

 

「女の子のアドレスはしっかりと本人からもらわないとね?な、蘭ちゃん。」

「え?…あ、そ、そうですよ!!」

「ふーん…そういうもんなのか。」

 

そう言って一夏は納得したような顔をした。

話の流れも別の方向に向いたしそのまま良い方向に持っていくように弾にアイコンタクトをする。

弾も気がついたようで話をそのまま流す。

 

「じゃあとりあえず飯食ってけよ。そして家の食堂に金を落とせ。」

「ええ!?そこはおごりじゃないの?」

「馬鹿!!奏、お前みたいなのにおごりしたら俺が爺さんに殺される。」

「そうだぞ奏、ただでさえでも山盛りにしてもらえるだけ良いと思え。」

「わかってますよ、と。じゃあ食べにいこうか。」

 

と言ってその場を何とか収め下へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

蘭と別れ下に下りて少し進むと、客足もそれなりの五反田食堂がそこにあった。

一応一番忙しい時間は過ぎたんだろう。

軽く弾の母親の蓮(れん)さんと祖父の厳(げん)さんに挨拶をし席に着く。

とりあえず何を注文しようか、と考えていると蓮さんが話しかけてきた。

 

「奏君、お願いがあるんだけど良い?」

「なんですか?」

「実は今日のお昼のあまりが結構偏っててね、それ食べてもらっても良いかしら?」

「いくらっすか?」

「食べるのは決定してるのかよ…」

 

と呆れ顔の弾。

しかし俺はきりっとした顔で話を進める。

 

「弾、ここの飯は何でもうまい。だったら俺はどれでもしっかり食べられるのを選ぶ。」

「真面目な顔してくだらない事言ってんじゃねぇよ…おふくろ、何余ってるの?」

「うん?週替わり定食なんだけどね、今日はウケが悪かったみたいなのよ。」

 

そう言って考え込むように顔に手を当てため息をつく蓮さん。

一夏もそれを聞いて話す。

 

「じゃあ俺もそれで良いですよ蓮さん。」

「一夏君も本当?じゃあ週替り定食四つね。」

「あ、僕二人分は食べますよ。」

「そこはおまけでご馳走するわよ。足りなかったら何かまた頼んで頂戴。」

「わかりました。」

 

と言って去っていく蓮さん。

すると上のほうから蘭が降りてきた。

さっきまでかなりラフな服装をしていたのに今はしっかりと綺麗に着飾っている。

弾もそれに気がつくとボソッと声に出す。

 

「なに着飾ってるんだか…」

「お兄、何か言った?」

「いえ、なんでもないです。」

 

蘭ににらみつけられるとすぐさま言葉を訂正した。

相変わらず弱いな…弾…

一夏も気がついたように声をかける。

 

「うん?蘭。なんで着替えたんだ?さっきと服装違うよな。なんか用事でもあるのか?」

「え、えぇっとそれは……」

「ああ、もしかして…」

 

いかん、嫌な予感しかしない。

 

「デー「蘭ちゃん、その服似合ってるね!新しく買ったの!?」。」

 

声を重ねて無理やり消す。

厳さんににらまれたが蘭のためと判断されたのかスルーしてもらえた……あぶねぇ。

俺の一言で蘭も何かひらめいたようで言葉を続ける。

 

「そ、そうなんですよ。見てもらって感想もらおうかなって…」

「へー奏、どう思う。」

「僕はさっき言った。今度はお前の番。」

 

どうせお前の事だ、適当に俺の意見から取って話すに違いない。

そんな事はさせん。自分で考えて話せ。

蘭は期待した目でおそるおそる一夏に聞く。一方一夏はう~んと唸り声を上げている。

 

「ど、どうですか?」

「うーん……涼しそうで良いんじゃないか?ただまだその服装は寒くないか?」

 

違う、そういうことじゃない。

蘭が聞きたいのは自身に似合ってるかどうかで服の機能性なんて聞いて無いんだ。

案の定蘭はそのまま凍りつき、弾は『ざまぁ見ろ』と良いたげにニヤついている。

弾、お前後でどうなっても知らないからな。

俺はとりあえず蘭の解凍を始めた。

 

「…一夏。で蘭ちゃんにとって似合ってると思うか?」

「うん?ああ、かなり似合ってると思うぞ。なんていうか蘭らしさがする。」

「ほ、本当ですか。」

「ああ、かわいいと思うぞ。」

「ありがとうございます!!」

 

そういってぱぁっと笑顔になる蘭と『けっ』と言った風にツマランと言った顔の弾。

すると厨房からお玉が飛んで弾の頭にヒット。

スリーアウトだ弾、まだツーアウトのつもりだったんだろうが厳さん(主審)がそう言うんだ。それで確定である。

 

投げられた方を見ると厳さんと蓮さんがお盆を持って来る。

ようやく食べられるようだ。

持ってこられた料理を見ると通常の三倍はありそうな量のものがある。

厳さんは何も言わずにそれを俺の前においた。

俺は笑顔で話しかける。

 

「こんなに良いんですか!?」

「…余ったんだ、食え。」

「ありがとうございます!!」

 

そう言って厳さんはお玉を拾って去って行った。

なぜここまでひいきしてくれるか気になり、前に一度だけ弾に聞いたことがあるのだが

『うちの爺さん、お前の食いっぷりが結構好きらしくて気に入られてるぞ』

とのことらしい。

なんとうれしい言葉だろうか、こっちとしてはうまいものを食っているだけでほめてもらえ量も増えるのだ、本当にありがたい話である。

さて冷める前にいただくとするか。

 

「いただきます」

「いただきます」

「いただきます!!」

「いただきます……」

「おう、食え。」

 

一夏、蘭、俺に続いて頭を抑えながら言う弾。

厳さんの声を聞いて、俺は笑顔でうまそうに食べる、斜め向かいの蘭は俺の食べっぷりを見て呆然としている。

 

「相変わらず奏さん…よく食べますね…」

「おいしいから仕方ないね。この量ならもう一回同じのいける。」

「お前は本当に変らないな。しかも太らないんだから食ったもんはどこに行ってるんだか…」

 

と笑う弾。食事の合間に話しながら食べる。

しばらくすると蘭がふと話し始める。

 

「そういえばIS学園ってどんな感じなんですか?」

「う~ん……女の子しかいない。」

 

という当たり前のことを言う一夏。

まぁ軽く説明するか。

 

「そうだなぁ……基本的にISでの戦い方を学びながら高校卒業資格を手にいられるって感じかな……正直将来IS関係の仕事につく気が無いならお勧めしない。」

「どうしてだ?」

 

と首を傾げる一夏…

お前俺と同じ生活してただろうが……

 

「例えば一夏、お前今の勉強状況で資格を取る勉強しろって言ったら出来るか?」

「ああ、無理だ。」

「ということだ。何か明確な目的が無い限りお勧めできないね。」

「ふーんそうなんですか……」

 

……蘭のこの顔を見るに何か考えているな……

悪い方向に向わなきゃ良いけど…

そう考えながら俺はさらに飯を食べ続けるのだった。

仮に蘭がIS学園に行くというならそれはそれでいいだろう。

だがあそこで学べる事はISでの戦い方。

言い方を変えれば効率的な人殺しの仕方を覚悟なしに学ばせる場だ。

そう考えるとそんなところに知り合いを送りたくは無いが……

これは俺が別世界の人間だからこう考えてしまうのだろうか。

一応後で弾にちょっとだけ注意をしておこう。

飯を食いながら俺は考えた。

その後、食事を終え五反田食堂を出たあと俺たち三人は遊び歩くのであった。

 

 

 

 

 

時間の価値を知れ。

あらゆる瞬間をつかまえて享受せよ。

今日出来る事を明日まで延ばすな。

                                ~チェスターフィールド~




という風にここから二巻が始まります。
今回以降五反田一家がどういう風に関わってくるか?
そこもお楽しみにww
ということで読んでいただきありがとうございます。


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第三十一話 『再会』

意識が虚ろだ……

今俺はどこにいるんだ?

 

「~き~~~~ん嘘つ~~~~は~せん~~のー~す。~~~~た。」

 

ああ、なんだ。また夢をみているのか…

本当に久しぶりだなこの夢…

最初の約束はなんだったけ……

ああ、シャルロットとの再会だったな…

そういえばあいつはいま何をしているんだろう。全世界で俺結構有名になったけど……

あいつの耳には届いているのだろうか?

まぁいずれはいつか顔を出すつもりだ……その時に聞いてみよう。

 

「ねぇ……奏?も~一つ~束し~う?」

「うん?~?」

「あのね、次あった時~~~~~~~~~~」

 

 

夢が醒める、そういや何の約束したんだったけかな……

そう思いながら俺は目を覚ました。

 

 

 

 

時間は流れ朝食時、俺はみんなと飯を食いながら考えていた。

あの後シャルロットとした約束についてだ…何を言ったんだったけな?

出来ない約束はしない主義だから多分無茶はして無い……はず。

そう考えているとセシリアがこちらに話しかけてきた。

 

「奏さん、さっきから何をお考えで?」

「うん?ああ、たいしたことじゃないよ、ただ学年別トーナメント?だっけ、アレはどういうイベントなのかなぁ…って。」

「ああ、アレね確か専用機持ちも関係なしのトーナメント試合でしょ?何?あんたも出るの?」

 

と声をかけてくる鈴。

 

「まさか!?僕戦うのはイヤだっていってるでしょ?」

「あんたは本当によくわかんないわ……だったら何で訓練したりしてるのよ。」

「僕は落ちこぼれだからね、人の倍は練習しないと。」

 

と笑顔で返すと皆に白い目でみられた。解せぬ…

まぁ気にせずに今は飯を食べよう。

ただ箒が少し何か考えているな……ただ悪い事ではないようなので気に止めておくだけにしておこう。

しかし今日から専用機持ち以外は本格的にISに触れるわけか……

そこら辺は千冬さんも何か考えているだろう。俺が気にしても仕方が無い。

そして今日は何か原作でも大事なイベントがあったはずなんだが……なんだっただろうか…

やはりどんどん記憶に靄がかかってきているな、ただそのイベントに会えばそれは少しは晴れるんだが……そこら辺はやはり不便だな、何かしっかりと思い出す方法は無いのだろうか…

朝食を食べながら俺はそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

鈴と別れみんなと教室の入るとクラスメイトたちが何か騒いでいた。

なんについてだか解らないがとりあえず挨拶だけはしておくか。

 

「やぁ、みんなおはよ。」

「おはよう、風音君。そういえば風音君のISスーツって見かけない型よね?どこの会社の奴?」

「あ~ごめん知らないんだ。これ研究者からもらった奴で僕のIS適正の低さを少しでも補うための奴らしいよ?」

「ふーん…ってことはやっぱりオーダーメイドなのか……あ、織斑君おはよう、ねぇねぇ織斑君のさ~」

 

話が一夏の方にずれた。

みんな今日のIS訓練が気になってしょうがないようだ。

みればISスーツのカタログをみて、かわいいだの性能的がいいだの高いだの安物だの話している。

そういや俺のISスーツはおっさんが『作ってみた』って言ってたけどまさか自作じゃ無いだろうな…

頭の中で針を持ちながらISスーツを縫い上げていくおっさんをイメージした。

実際はそうやって作るわけではないことは解っているがシュールな光景をイメージしてしまった。

しかし女子生徒たちの話が弾んでいるな…と思うといつの間にか山田先生が教卓に立ち話していた。

教室に入ってきたことにも気がつかないとは…今日はいろいろと調子が悪いのか?

今はISスーツの説明を終えたところだ、クラスメイトたちもへー、とうなずいている

 

「山ちゃん詳しい!」

「一応先生ですから。……って、や、山ちゃん?」

「山ぴー見直した!」

「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。……って、や、山ぴー?」

 

とニックネームで言われてえっ、と言った顔でおろおろしている。

確かもう既に7~8個はニックネームできてるんだっけ、山田先生。

しかし…山田先生もおろおろしてないでいやならやめてくれって言えば良いのに、ただ自身が生徒に慕われている感覚もするから強く言えないのだろう。

とりあえず山田先生に

『私にはちゃんと先生とつけてください。』

という言葉で一応落ち着いた。

先生、それだと『山ちゃん先生』とか『山ピー先生』になりません?

そんな事を考えていると千冬さんが教室に入ってきた。

 

「諸君、おはよう」

「「「「「おはようございます!」」」」」

 

とたんにクラス中が静かになる。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。」

 

という千冬さんのお言葉。

最後の『忘れないようにな』が嫌に強調されていた。忘れたら一体どういうことになるのやら…

恐らくクラス中がそう思ったに違いない。

千冬さんもわざとそういう風に言ったんだろう。良し、と言った顔をして山田先生にバトンタッチした。

 

「では山田先生、ホームルームを。」

「は、はいっ、ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」

「「「「「「えええええっ!?」」」」」」

 

と声を上げるクラスメイト。

これがイベントか……二人の転校生、ここまで来て俺の頭の中にある記憶はいまだに霞がかかってままだ。

まぁ、顔でもみれば思い出すだろう。

しかしこちらの世界の俺の認識では来てもおかしくは無いと思っていたので叫ぶ事は無く、ただこれがどんなイベントになるかだけを考えていた。

すると居室のドアが開く音がして二人が入って来た。

まぁ顔をみれば思い出すだろうと思い、顔を二人に向けて……

 

 

 

 

……記憶を思い出すどころじゃ無くなった。

一人のちっこい方はいい、確かそいつは千冬さん関連というとこだけはすぐに思い出せた。

だがもう一人。男性生徒の制服を着ているがどっからどうみても顔がシャルロットにしか見えない…

え?何?俺とうとう変な病気になっちゃた?

それともまだ夢の中なの?

いや、もしかしたら他人の空似という可能性もある。

しかしその希望もすぐになくなる。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入をしたシャルル・デュノア(・・・・)です。」

「き…」

「「「「「「キャァァァァァァァァァァァアアアアアア!!!」」」」」」

 

と叫ぶクラスメイト、一緒になって「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」と叫びたい衝動を何とか抑え考えた。

落ち着け、もしかしたら俺の記憶は既におかしくなっていて実は始めから『デュノアちゃん』は『デュノアくん』だったのかも……そんなはず無いだろ!?

シャルロット普通にスカートとかはいてたよな!?

え?何で?千歩譲ってお前がここに来るのは良い、百歩で男装で来るのも理由はなんとなくだがわからないでもない。

でもなんで偽名がそれ!?もっとがんばって考えて来いよ!?

『ル』と『ロット』の違いしかないじゃないか、それ!?

何、これ突っ込み待ちなの?実はドッキリでクラスメイト全員仕掛け人とかそういうのなの?

と思い疑心暗鬼に周りをみながら声を聞く。

 

「男子! 三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれて良かった~~~!」

 

ああ、うん。相変わらずで逆に落ち着けたわ。

まぁ落ち着いたところで状況は変らないんだけどさ……

ああ、頭がイテェ……って言うかそうだ落ち着いて現世の記憶を思い出せ。

なんだったけ……えっと…シャルロットに関しては…落ち着いてから思い出そう。

今考えたらいろいろとツッコミどころが多過ぎて耐えられん。

俺は魂の抜けたような顔をしながらもう一人の少女の方を眺めた…

ああ、なんか自己紹介してるけど頭に入ってこないわ。

こいつの名前は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』、ドイツのどっかの部隊の隊長さんで千冬さん関連。

もうそれで良いや、なんかもう思い出すのも煩わしい 。

もう俺に問題を持ち込まないでくれ。

そう思っているとそのラウラがこちらに来る。

 

「貴様が織斑一夏か?」

「……はい?」

 

いや一夏はあっちだろ?顔、結構千冬さんと似てるところあるし間違える事は無いだろ。

と思って教えようとした瞬間、突然のラウラのビンタ、俺は混乱していたためかかわす事すらせずヒット。

ビンタの勢いで椅子から落ちる。

 

「ぶべら!?」

「織斑一夏……私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!!」

 

そう俺を見下しながら声をかけてくる……

クラスが微妙な空気に包まれた……

『ちょっと~叩く人、間違ってますよ~…やべ…なんて突っ込もう…って言うかそんな雰囲気じゃない…』

といった笑えば良いのか、それとも教えてあげれば良いのかわからない状態だ。

山田先生はおろおろしてるし千冬さんにいたっては頭を抱えながらもあきれている。

そんな中俺に声をかける奴が居た。

 

「大丈夫!?奏!!」

「え?あ、ハイ。」

 

と言って手を貸すデュノア。

お前ここで俺の名前言って良いの?

一応俺たち初対面じゃない?

しかしそのデュノアはそのままラウラに噛み付く。

 

「ボーデヴィッヒさん、なぜこんな事を。」

「貴様には関係ない、下がっていろデュノア。」

 

と険悪ムード。

とりあえずここは雰囲気をぶっ壊して終わらせよう。

そう思い俺はデュノアの手を借りて立ち上がり声をかける。

 

「ボーデヴィッヒさん、いろいろ言いたい事あるけど…とりあえず一言良いかい?」

「なんだ?」

「……一夏はそっち。」

 

そう言って俺は隣の席の一夏を指差す。

一夏はビビリながらも一応『どうも…』と言った感じだ。

クラスメイト&山田先生はこの後どうなる!?と言った感じだ。

一方ラウラは俺の顔をみた後一夏の顔をみてもう一度俺に声をかける。

 

「貴様……先ほど私が聞いたときはそうだといったではないか!?」

「い、いや。アレは君の突然の質問で聞き返す意味で言ったんだけど…勘違いさせちゃってごめんね?」

「っち、紛らわしい。」

 

そう言ってラウラは一夏の方に近づこうとする。

おい、まさかテイク2行く気か!?ライブでそれはアカンぞ。ネタもすべるし何より醒める。

 

「ちょ、ちょっと!?一夏を叩くのはなしで頼むよ。」

「邪魔だ、どけ。貴様には関係ないことだ。」

「いや、もう僕の事一回叩いたじゃないか、それで勘弁してよ。」

「邪魔だ、二度は言わない。」

 

もう二回目じゃね?と言った疑問は口にしない。

さてここで俺のカンが正しければ……

 

「ボーデヴィッヒ、いい加減にしろ。私の管理下で勝手をするとはどういうつもりだ。」

「………すいません、教官。」

「教官ではないと先ほど言ったはずだが?良いから席に着け。」

「はっ、了解しました。」

 

やはり千冬さんの止めが入った。

千冬さんの方をみると頭を抱えていた……

アレは問題生が入ってきたからあんな顔をしているわけじゃなさそうだな…

顔をみただけじゃ詳しくはわからないが……タイミングをみて聞いてみるか。

そう真面目な顔で話しているとデュノアくんがこちらに話しかけてくる。

 

「大丈夫かい?奏…君。」

「ええっと…デュノア…くんで良いのかな?さっきはありがとう。」

「どうって事無いよ。」

 

お前さっき呼び捨てにしてなかった?

まぁいいや、もういろいろあって俺は何も考えない事にした。

このまま流れに身を任せよう。

そう疲れ果ていろいろと諦める俺だった……

 

 

 

 

 

女は大きな危害は許すが、小さい侮辱は決して忘れない。

                                 ~T・ハリバートン~




ということでようやくメインヒロイン登場です!!
いやぁ~長かった……本当に。
ということでこれから物語が少しずつですが原作から離れ始めます。
では次の投稿まで~
読んでいただきありがとうございます。


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第三十二話 女子生徒の包囲網

俺がラウラにビンタをされた後、少しだけHRで山田先生から連絡を受けた。

連絡がすべて終わった後山田先生から千冬さんへ、話す人が変った。

 

「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でISの訓練を行う。解散!あと織斑と風音。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう。」

 

ああ、うん、同じ男子ですね…

…マジで着替えとかどうする気なんだこいつ。

一緒に着替えるつもりは無いだろうし…

まぁとりあえず今は急ぐか。

そう思い俺はシャルロ…シャルル・デュノアくんの元に向う。

俺が動き始めると一夏も後ろをついてきた。

何から話そうか……って時間が無いんだよな。

 

「君達が織斑君と…か、風音君?僕の名前は「すまんデュノアくん。話してる時間も惜しいんでついて来てくれ。」…え?」

「今はとにかく移動が先だ。ここで女子が着替え始めるから。」

「え?ああ、うん…」

 

何なんだ?

一夏に人見知りしてんのか、こいつ。

とりあえず更衣室へ行こう。

俺と一夏は走り出した。

 

「ちょ、ちょっと。何で走るの!?」

 

シャルロットは……デュノアは何とかついてくるが出遅れているため距離がある。

とりあえずデュノアが追いつくまで少しペースを落とし話しかける。

 

「男子は空いてるアリーナ更衣室で着替えってことになっていてね。実習のたびに急がないと織斑先生にしばかれる。」

「奏、しばくってのは言いすぎ……でもないな。」

「そんなにひどいの!?」

 

と話しながら急ぐ。

さてこのままのペースでいければまったく問題は無いんだが……

 

「ああっ! 転校生発見!」

「しかも織斑君と一緒!」

「風音君までいる。」

「……見つかったな一夏…」

「…ああ、そうみたいだな。」

「え?何が?」

 

……そうは問屋がおろさないってか!?

前方から数人の女子が来る。

気がつくと後ろからも声がする。

 

「いたっ! こっちよ!」

「者ども出会え出会えい!」

 

後ろからも大量に来る。

ええい、何時からここは武家屋敷になったんだ!?

このままじゃ遅刻するな、仕方ない。

 

「デュノアくん、ちょっと担ぐよ!?」

「え!?きゃぁ!!」

「一夏、道は作れると思うから突破しろ。」

「了解!!」

 

デュノア、お前今の悲鳴はやめろよ。本当に隠す気あるのか?

俺はデュノアを俗に言うお姫様抱っこで担ぐ。

とたんに黄色い悲鳴、

 

「きゃぁぁぁああ!!見てあれ!!」

「うそ!?お姫様抱っこ!!」

「やだ!!織斑君が嫉妬しちゃう!!」

「誰かカメラ無い!?」

 

おい、そこのちょっと黙れ。

あと一夏が嫉妬するとか怖い事いうのはやめろ!?

だがこれで奴らの目線はこちらの釘付けで一夏からは離れたはず!!

俺は叫び声の事など関係なしに前に突っ込む。

とたんに女子生徒が壁を作るようにこっちに迫ってくるが、俺は通路の壁を蹴って飛び越えて逃げる。

俺が通路脇の壁に迫った時にそちらを注目したせいか彼女たちの包囲網に隙間が出来て一夏はそこをすり抜け後を付いてくる。

その後も俺がデュノアを担いで派手に逃げ回る事で注目を集め、それのせいでできた隙を一夏がすり抜ける。後はここの階段を駆け下りればアリーナまですぐだ…というところで完全に囲まれた。

口々に何か言っている。

 

「黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね。」

「見て!!お姫様抱っこ!!はじめてみたわ!!」

「ちょっと私にも見せなさいよ!!」

「しかも瞳はエメラルド!」

「いいな~…私も頼んだらやってくれないかな…」

「日本に生まれて良かった!ありがとうお母さん!」

「なに!?織斑君怒ってないの!?」

 

母親に感謝するならもっと別のところで感謝しろよ!?

って言うか腐ってる奴多すぎない?

無駄だと思うがとりあえず説得してみるか…

 

「え~っと…ちょっと君たち?通してもらっても良いかな?」

「ちょっとだけ、ちょっとだけ話すだけで良いからさ。」

「そうそう。少しだけで良いから……」

 

なんかわからないけど狂気をかんじる…

うん。このままじゃ確実に遅刻だな。

俺は一夏とデュノアを見る。

一夏は完全に焦っているがデュノアは状況をつかめていない。

 

「囲まれたぞ。奏、どうするこのままじゃホントに遅刻しそうだ。」

「な、なに? 何でみんな騒いでるの?」

 

って言うかデュノア。お前完全に俺の首に手を回してるよな…まぁ安定するからいいんだけど。

周りを確認する…通路脇の窓ガラスが空いてるな。

……仕方ないか、すまん一夏。

 

「………あ!!織斑先生!!助けてください!!」

 

俺は突然遠くに千冬さんを見つけたように叫びながら手を振る。

 

「「「「「「「「「「えっ!!」」」」」」」」」」

 

俺以外の全員一斉に全員そっちを向くがそこには誰もいない。

俺はその一瞬の隙を狙いデュノアを担いだまま全力で飛び跳ね、包囲を飛び越えた。

そしてそのままの勢いで開いた窓から外へ飛び降りる。

地面から1メートル辺りで脚部のみISを展開して地上10cmで止まる。

うん、結構出来るようになったな。俺も。

そう考えていると一夏の悲鳴が上がる。

 

「奏!!テメェ!!裏切りやがったな!!」

「すまん一夏!!さっきのビンタを受け持った分だ!!許せ!!」

「ちくしょーーーーーーーー!!」

 

一夏。君はいい友人であったが、君の姉上がいけないのだよ。

千冬さんこういう理由で遅刻になっても許してくれないし。

そう考え俺はデュノアをおろし更衣室に走った。

 

 

 

 

 

更衣室の前に着いたところでデュノアはこちらに話しかけてくる。

 

「ね、ねえ。あの人たちはどうしてあんなに騒いでいたのかな?」

「あ~……男が珍しいって事と…人の趣味はいろいろあるってことかな。」

 

そう言って適当に流す。

それよりも今の問題はお前だ。

とりあえず適当な理由で先に着替えさせよう。

 

「そうなんだ…」

「えっとデュノア、お前先に更衣室で着替えてろ。」

「いいの…じゃなくて!ど、どうして?」

 

もう隠しきれて無いだろ!?

もうこればらした方が良いのか!?

そういう展開がお望みか!?

俺半分あきれながら理由を説明する。

 

「一夏を助けに行って来る、一分ほどでもどるからそれまでに着替えとけよ!?」

「え、あ、うん!!」

「着替え終わったらとりあえず更衣室の前に居ろ。いいね?」

「うん、わかった。」

 

もう勘弁してくれ。

デュノアにツッコミを入れたい衝動を抑え、俺はとりあえず来た道をもどり一夏の足止めに向った。

アリーナの入り口に向うと一夏がゼーハー言いながらこちらに向っていた。

っち、まだ流石に着替え終わらないだろう。

俺は会話で時間を潰す事にした。

 

「一夏!?無事だったのか!?」

「ソォォウ!!お前!!よくも見捨てたな!!」

「すまんかったて!!今助けに向ってたとこだから許してよ。」

「……解ったよ、ただし今までの貸しは無しな?」

「それは無理だ。」

「せめて一回は消せ。」

「了解、ちなみにどうやって逃げたの?」

「………聞くな…」

「お、おう…」

 

遠い目をしながら話す一夏に何もいえなくなった。

ちなみにその後しばらく女子生徒の間で

『ねぇねぇ!!織斑君に触れた!?』

『うん!!何とか!!』

『いいなぁ…私も触りたかったな…』

といった会話が聞こえたがあえて何も聞かなかったことにしたことだけは言っておこう。

さて時間はある程度稼げた。

とりあえず更衣室に向ってみるか。

更衣室に向っていると丁度デュノアが更衣室から出てきたところだった。

 

「おう、シャルル。着替え終わったのか。俺も急ごう。」

「織斑君。大丈夫だった?」

「………何とか。」

「そ、そう…」

 

またもや遠い目をして話す一夏。

こいつ、なんか哀れになってきたな。

重ねて心の中で一夏に謝りながら俺も着替えることにした。

と言っても制服の下に着ているので制服を脱ぐだけなのだが。

一方一夏は一々着替えるタイプなので服を着替えるのに時間がかかる。

ものの1分ほどで俺は着替え終わったが一夏はまだだった。

……時間稼ぎはしてやろう。

 

「一夏、デュノアを遅刻させるわけには行かないから先に行く。」

「……仕方ないか、解った。」

「一応千冬さんに対して時間稼ぎはやっておくが失敗したらすまん。」

「いや、無理だったら良いからな!?」

 

そう言って更衣室から出て横を見るとデュノアが立っていた。

なんというか……やりづらい。

いや、気にしないで話そう、うん。

 

「デュノア、一夏はおいていくから先に行こう。」

「え?大丈夫なの?」

「許可は取ってある。行こう。」

「う、うん。」

 

そう言って俺の後ろをひょこひょこと着いてくる。

なんとなく幼少期を思い出して懐かしい感じがした。

 

 

 

 

 

 

さてアリーナ内に向うとまだ先生たちは来ていないようだった。

生徒たちはこちらを見てくるが基本無視だ。

さてどうしようか…と思うと向こうのほうから千冬さんが歩いてくる。

 

「しゃ…デュノア。ちょっとここで待っててもらって良いか?」

「うん、解った。」

 

俺は千冬さんのほうへ向った。

千冬さんもこちらに気がついたのかその場に立ち止まってくれた。

 

「織斑先生、スイマセン。」

「どうした風音、授業前だ。早くしろ。」

「では手早く。ボーデヴィッヒさんについて後で教えてもらっても?」

「……理由はなんだ?」

「ちょっとビンタのお礼をしようかと思って。」

 

と言って笑顔で話す。

千冬さんならそのままの意味で捉えたりはしないだろう。

そして千冬さんはまた何か考えている。

ここで問題ないと言わないという事はやはりあの子に対して何かあるんだな…

とりあえず返事を待つ。

 

「……後で話そう。今は授業前だ。」

「了解しました、ただボーデヴィッヒさん、何時何をしでかすかわかりませんよ?」

「既にされた奴なだけあるな。…すまんが私が動いては意味が無いんだ。」

「了解しました。とりあえず見える限りは緩和剤くらいはやってみます。」

「頼んだ。詳しくは後で話す。」

 

そう言って千冬さんと共に集団に向う。

見ると一夏が何とか間に合ったようでデュノアの横で息を切らしていた。

一方ラウラは俺のことを気に食わないといった感じににらんでいた。

こりゃ図らずとも俺を狙ってくれるかな?

後で千冬さんにはばれていたようで俺たち二人は頭を軽くはたかれた。

 

 

 

 

 

 

その後授業が始まりはじめは千冬さんからの説明があった。

まぁ簡単に言うとこれから学ぶ事は戦闘どころかISで動くときの基本でこれが出来ないと話にならないぞ、という感じだ。

まぁいつもどおり言葉はきつめだが。

あと途中セシリアと鈴が一夏に絡んで頭を叩かれていた、話はちゃんと聞こう。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!前に出ろ。」

 

そう言ってこの二人には罰として戦わされるようだ。

と言っても二人は文句があるようでぶつぶつ何か言いながら前に出る。

その後千冬さんが近くに来て何かをボソっと口にした。

そのとたん二人とも一気にやる気を出した。

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」

 

……千冬さん、多分一夏を使ったな……

まぁそれでやる気が出るなら良いか。そう考えよう。

一夏も一夏で何か考えているが……あの顔はくだらない事だな…

そしてそのまま話は進む。

 

「それで、相手はどちらに?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが。」

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ。」

「慌てるなバカども。対戦相手は――」

 

と言うとどこからか

 

<―キィィィィン……―>

 

という独特の風切り音が聞こえる。

上を見るとこちらに向ってくるな…

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

という声と共に何か突っ込んできた!?

俺は急いでそこから離れるがくだらない事を考えていた一夏は一歩反応が遅れた。

 

<―ドカーンッ!―>

 

という音と共に一夏は突っ込んできた何かに巻き込まれた。

あの声は恐らく山田先生だろう…

ISを展開してたから怪我は無いだろうけど……

言っちゃなんだが大丈夫か?山田先生。別の意味で。

土煙が晴れそこを見ると一夏は山田先生を受け止めるように押し倒されていた。

しかし問題点を挙げるなら一夏の手が山田先生の胸に当たっている事くらいだろうか。

……ああ、あいつやっぱすげぇわ。

あの状況でラッキースケベするとか悪魔に愛されてるか神に嫌われてるわ。

同じ男としては……この後のことを考えるとまったくうらやましくない。

一夏は何が起こったのかわかっていないのだろう押しのけるように山田先生の胸を押す。

それに対して山田先生は変な声を上げる。

 

「あ、あのう、織斑くん……ひゃんっ!」

「……うぇ!?や、山田先生!?」

 

ここでようやく自身に覆いかぶさっていたものが何か気がつく一夏。

そしてあわててどけようとして転び、今度は逆に押し倒す姿勢になる。

そして妄想が加速する山田先生。

 

「そ、その、ですね。困ります!…こんな場所で……。いえ!場所だけじゃなくてですね!私と織斑君は仮にも教師と生徒でですね!……ああでも、このまま行けば織斑先生がお義姉さんってことで、それはとても魅力的ではありますけど!?」

 

……お~い山田~。かえってこ~い。

山田先生の突然の妄想を聞いて押し倒す姿勢のまま一夏はぽかーんとしている。

そんな妄想が進む中その状況を許さないのが三人。

そのうち二人は臨戦態勢だ。

 

「一夏、早いとこどけた方が良いぞ?」

「え?っうおわ!?」

 

はっとした一夏は急いでそこをどける。

その瞬間セシリアのレーザーが一夏の顔があった地点を通った。

セシリアと鈴を見ると顔は笑っているのに目に光が無い……こわ!?

 

「ホホホホホ……。残念です。奏さんが余計な事を言ったせいで外してしまいましたわ……」

 

セシリアさーん。IS纏ってるからって不意打ちでヘッドショットはやめようぜ?

止めに入ろうとも思ったが既に鈴が動いていた。

 

<―ガシャン―>

 

という音と共に鈴の双天牙月が連結しダブルブレードにして振りかぶって投げた。

 

「一夏ぁ!!くらえ!!」

「ちょ!?」

 

凄まじい勢いで回転しながら飛ぶ双天牙月。

一夏は何とかかわすが双天牙月はブーメランのように一夏めがけて戻ってきた。

最初の回避でバランスを崩した一夏にはかわせそうに無い。

仕方なく介入しようかと銃で撃とうとした瞬間、山田先生が動いた。

 

<―ドンッドンッ!―>

 

という音と共に正確にバランスを崩すポイントを撃ちぬいた。

バランスを崩した双天牙月はそのまま一夏をそれ、鈴の近くに刺さった。

あそこまで狙ってやったとするならちょっとやそっとの修行や訓練じゃ無理だぞ、あれ。

しかも先生は今倒れた姿勢から少し体を起こした程度だ。

あらゆる状況下で撃ちなれてるんだろう、流石はIS学園の教師って訳か。

 

「お見事。」

 

俺は先ほどまで構えていた銃をしまい素直にそういった。

するとさっきまで真剣な顔で構えてた山田先生ははにかみながら立ち上がってこちらに話してきた。

 

「いえ、あんな動きが出来る風音君ほどじゃないですよ。」

「いやいや、ご謙遜を。あれほどの精密射撃、なかなかできるもんじゃないですよ。そんな口径の武器で、しかもたった二発で一夏からそらすなんて、よほどの実力者じゃないと無理ですよ。お世辞とか一切抜きですごいです。」

「そ、そんなにほめないでくださいよ。」

 

と顔を真っ赤にして話す山田先生。

一方その他の生徒たちはポカーンとしていた。

それもそうだろう、普段の山田先生からは想像できない動きを今目の前でやって見せられた上に。

しかもさっきまでカッコ良かった山田先生が、急にいつもの可愛らしい山田先生に戻ってしまった。

その上俺のわざとらしい解説、今の技術がすごい事はそれこそ馬鹿でもわかるだろう。

ただラウラはたいしたことは無いといわんばかりに鼻を鳴らしているな…

山田先生を利用して調べさせてもらった感じにはなるが、それだけの実力者なのか、それとも比べる対象がでかいのか…とにかくプライドは高いようだな。

そんなことを考えていると千冬さんが口を開いた。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない。」

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし。」

 

って事は簪の先輩に当たるのか。

そのままの流れで千冬さんセシリアと鈴に対して話を続ける。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ。相手は山田先生だ。」

「え? あの、二対一で……?」

「いや、さすがにそれは……」

「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける。」

 

その言葉にセシリアと鈴が瞳に闘志を滾らせてる。

確か前にセシリアが言ってなかったけ?入学試験時に山田先生と一度戦って勝ったって。

だが全然本気は出されてなかったと思うけどな、試験だし。

ただその事実があるためにセシリアは慢心しているな。

そしてその話を聞いている鈴も対抗心を燃やしているセシリアが勝ったのなら自分も勝てると単純に思ってそうだ。

一方山田先生は何か考えているけど目の前の試合に集中してるな。

こりゃ戦う前から姿勢が違うわ。

しかしそんな事は関係なしに千冬さんは試合開始の合図を出す。

 

「では、はじめ!」

 

こうして山田先生VSセシリア&鈴の試合が始まった。

 

 

 

 

 

スペシャリストになれ。 「この仕事は絶対に負けない」という得意分野を作れ。

誰もがそれを狙っているが、 もし、あなたが最初になれたら、気分は最高だ。

                                ~カリン・アイルランド~




ということで山田先生の実力が明らかに!?
というところで今回は終了です。
また明日!!
読んでいただきありがとうございます!!


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第三十三話 戦いのヒント

千冬さんのかけ声と同時に中に向うセシリアと鈴。

気合は十分って言ったところか。

 

「手加減はしませんわ!」

「さっきのは本気じゃなかったしね!」

 

なんというか…やられキャラみたいな台詞だな。

そんな台詞を言ったからと言って強さが変るわけでは無いんだ別にいいだろうけど。

その後一歩遅れて山田先生が飛び立つ。

 

「い、行きます!」

 

そのかけ声を言うまではいつもどおりの先生だったが、宙に浮いた瞬間その顔つきは真剣そのものだった。

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい、デュノア。山田先生が使っているISの解説をしてみせろ。」

「あっ、はい。山田先生の使用されているISは――」

 

とデュノアが説明をしていたが俺はそれを聞くどころではなかった。

現在試合の状況は山田先生が二人に押されているように見える。

セシリアはビットで山田先生を狙い、鈴は衝撃砲で攻めている。

完全に手数で封殺するつもりだろう。

一方、山田先生はいまだにハンドガンのみで当たるか当たらないかのギリギリのところを単発的に撃ち、一方的に攻められているように見える。

だが実際は二人が優位に見えているが山田先生はほぼダメージを受けていない。

逆にセシリアと鈴が攻撃でエネルギーを消費している方が多いのではないかと思うほどだ。

さらに山田先生は本気で攻めていない。

どこか押されながら戦っているようにして攻撃をし、相手の油断と動きの誘導をしているようだった。

山田先生の今行なっている戦い方。

それはある意味俺でも出来る別の戦い方であった。

俺の現在の戦い方はヴァッシュならどう戦うか、と言ったイメージを元に戦っていた。

もちろんこの戦い方でも十分に戦えているとは思う。

だが俺がよくても機体が駄目なのだ。

俺の今の戦い方では、俺に機体がついてこれず無茶をすればすぐに壊れる。

そう考えると今の俺から見てあの動きは参考になるどころか戦闘を持続させるという意味では理想であった。

そして山田先生は少しずつギアを上げていっている。

対して二人は動きが単調な上に誘導されている。

しかも誘導されている事には気がついておらず攻め落とす事しか考えていない。

山田先生がすばやく二発の弾丸を撃つ。

二人は攻めながらその弾丸をかわす、が互いに同じ方向に逃げるように誘導されていた。

そしてそのまま誘導されるがまま、互いにすごい勢いでぶつかる。

 

「な!?」

「ちょ!?」

 

互いに互いの事など気にしていなかったのだろう。

完全に不意をつかれた上に対応がまったく出来ていない。

これは決まったな。

山田先生がその隙を逃すはずがなくグレネード弾を二人めがけて撃ち込む。

二人がそれに気がついたときには既に遅し。

真ん前から被弾しその衝撃で地面に墜落する。

 

「くっ、うう……。まさかこのわたくしが……。」

「あ、アンタねえ……何面白いように回避先読まれてんのよ……。」

「り、鈴さんこそ! 無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

「こっちの台詞よ! なんですぐにビットを出すのよ! しかもエネルギー切れるの早いし!」

「「ぐぐぐぐっ……!」」

 

と言い争う二人。

まぁ勝負ありだな。

千冬さんはそれを無視してこちらに話をする。

 

「さて今目の前で何が起こっていたか……風音お前が説明しろ。」

「はい。まず二人が負けた理由ですが、この試合で二人の連携がまったく取れていない所と、山田先生の実力を二人とも見誤っていたというところが大きな敗因でしょう。」

 

と俺が話し始めると山田先生も降りてきた。

表情を見ると全然余裕そうだ。

下手な話もう一度この説明をした後、それをふまえてセシリアと鈴が突っ込んでももう一度軽く撃墜させるくらいは出来そうだな…

そう頭に思い浮かべながら話を続ける。

 

「一つ目ですが連携が取れていないというところは突然の事態だから仕方ないかもしれません、ですがお互いに連絡を取りながら戦うくらいは出来るでしょう。しかし二人はどちらが山田先生を墜すかで争っているようにも見えました。」

 

そういうと二人とも覚えがあるようで明後日へ目を背けている。

恐らく一夏にいいところを見せるつもりだったのだろう。

 

「二つ目に山田先生の試合前に見れた銃の腕から、少なくとも山田先生は遠距離戦が強い、もしくは慣れていることがわかります。それなのにわざわざ相手の距離で二人は戦っていました。そりゃISに乗っている時間から技術まですべて負けている相手に相手の得意分野で戦えば勝てるはずがありません。」

 

そういうと千冬さんは俺の答えに一応満足したようにうなずいた。

その時ラウラの視線に気がつく、ただ千冬さんと口を利くのも駄目か……

 

「そのとおりだ。いいか、ISでの戦いだけでなく戦いにおいて数は確かに多い方が有利だ。だがそこで思考を止めるようなら数の差など意味は無い。その油断をつかれてそこにいる二人のように足の引っ張り合いをして終わりだ。」

 

といわれてますます悔しそうにする二人。

まぁ今回は勝てなくても仕方ないだろう。恐らく千冬さんも天狗の鼻を折るつもりだったんだろう。

 

「さらに言わせてもらうと、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように。」

 

と言って千冬さんは手を叩く。

あ~…普段クラスメイトからなめられている山田先生の事を問題だと思ってたのね、千冬さん。

それでこういう場面を見せました……ってことね。

結果は十分得られたでしょう。ここにいる全員目が点になってます。

 

「では続いて全員での訓練を開始する。まずは専用機持ちの6人前に出ろ。」

 

そういわれてまずはそのまま前にいるセシリアと鈴、その横に一夏としゃ…デュノア、最後に俺とラウラの順に横一列に並んだ。

 

「では9人と10人の班に分かれろ。」

 

そういうと案の定、男三人(仮)の所に人が集まる。むしろ囲まれた。

なんというか…肉食獣に囲まれた草食動物の気分…

君たちあんまりそういう風にやってると千冬さんが本気で怒るぞ?

千冬さんのほうを見ると頭に手を当て声を上げた。

 

「この馬鹿どもが・・・・出席番号順に分かれろ!!」

 

この声を聞いてようやく俺たちは包囲網から開放された。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ISも持ってきたし始めようか。」

 

俺は練習用の打鉄を担いで持ってきてから話す。

俺の班で名前がわかるのは四十院に箒、岸里に田嶋、あとは夜竹か。

残りの5人は2組の方々で名前はわからない。

さてどういう風にやればいいんだ?と思い周りを見るとそれぞれやり方が違った。

まずはセシリアは理論を口にして動かし方を意識させてるな…

鈴のほうはいきなり挑戦させてるな…

シャル…ルくんはなんというか意識的なコツを説明している。

一夏の方は……それどころじゃないな、うん。

そしてお隣のラウラさんは…なんというかやり方だけ言って後は放置。メンバーが困ってらっしゃる。

さてじゃあこっちはこっちでやらせてもらうか。

 

「え~っとまずISを動かす事になるけど、この中で箒以外に訓練してるって人いる?」

 

と言うと訓練をしているものはいないようだった。

ではその事を前提にやらせてもらおう。

 

「じゃあまず箒、お手本としてそこを一周してきて。」

「ああ、わかった。」

「えっとまず箒の手本を見ながらコツを説明させてもらう。」

 

そう言って箒はISに乗り歩き始めた。

さてその間にコツだけは説明しておこう。

 

「まずISに乗ったときのコツだけど適性がA~Bの人は多分かなり反応速度がいいと思うんだ。その事をふまえて動いた方がいい。基本的に動かす時に意識しなくても自然と動く事ができる。だから機械に乗って動いているイメージより自身の手足と同じような感覚でいけるらしい。」

 

そうラウラたちのチームにも聞こえるほどの大きな声で話す。

向こうも気がついたようでこちらの話を聞いている。

 

「次にCの人と、いないと思うけどDの人はいる?」

「Dって…そんな人いるの?」

 

とくすくす笑う2組の生徒。

まぁある意味冗談にも聞こえない事も無いか。

俺はそれを気にすることなく話を続ける。

 

「あ~…残念ながらここに僕一人いるからさ。」

「え…あ、ごめんなさい!!」

「いいよいいよ、気にして無いから。えーっと話を戻すけどCの人は恐らく体は軽くなったけど反応が少し遅いんだ、それに細かいところになると意識しないとしっかりと動かせない。なんというか違和感みたいなものを感じると思うんだ。」

 

2組の子があわてて謝ってきたが気にしないように笑いかけながら話を進める。

 

「だから皆乗ったときに一度、手や腕を動かしてみて欲しい。」

「歩行訓練なのに?」

「そう。何でもいいんだ、グーチョキパーをやってみるとか好きに動かして自身で反応の感覚を掴んでから意識して足を動かしてみて欲しい。歩いている間も違和感を意識しながら動いてくれ。そうすれば段々違和感がなくなってくると思う。A~Bの人もちょっとやってから歩いた方が歩きやすいと思うよ。ということで動くイメージをしてから動いてみよう。」

「「「「「「はい!!」」」」」」」

 

って向こうのラウラ班のほうまで返事してるよ。

しかしラウラはこちらを一切気にしてないようだった。

さてラウラのチームも歩行訓練開始してるみたいだし後は個人的にアドバイスを言いながら動くとしよう。

 

 

 

 

時間が経過し授業終了間際の時間になったとき千冬さんが声を上げた。

 

「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行う。各人、格納庫で班別に集合すること。専用機持ちと風音は訓練機と自機の両方を見るように。」

 

という言葉で全員解散する。

うちの班は時間的余裕があったため既に格納庫内にISを運び終わっている。

一方一夏の班は時間ギリギリまでやったせいかまだISを格納庫に入れていない。

一夏は女に甘いから多分自分で運ぶと言うだろう。

さてじゃあ、一夏を手伝ってる最中に先にデュノアを着替えさせよう。

そう考え一夏とデュノアに話しかける。

 

「一夏、手伝うか?」

「奏、サンキュウ、頼むわ。」

「え~っと……デュノア。先に行って着替えててくれ。俺一夏を手伝ってから行くからさ。」

「えっ、あ、ソ…風音くん、ありがとう。」

「あ、そうだ。シャルル、昼飯一緒に食おうぜ!!」

「え、織斑君…うん。いいよ。」

 

そこはありがとうじゃなくてわかったでいいだろうが…変なこと言い続けるとばれるぞ?

………いや、既に学園にはばれているのか?

そこら辺は考えないとな……俺はそう考えながら一夏の方へ手伝いに向おうとした。

しかし途中で千冬さんに呼び止められる。

 

「おい、風音。話がある。来い。」

「…了解しました。織斑先生。すまん一夏。手伝えそうに無い。」

「ああ、じゃあ昼食で。」

「了解。」

 

こちらを見る一夏を尻目に俺は千冬さんの後を追った。

その時ラウラがまたこっちをにらんでいることに俺は気づいていた。

 

 

 

 

 

アリーナ脇の狭い一室。

そこに俺と千冬さんがいた。

ここは入学試験時に千冬さんに弱音を吐き出したところだな……

一応ISのレーダーだけ起動させ話を聞くことにした。

 

「さて呼ばれた理由はわかるな。」

「……先生、出来心だったんです…」

「ふざけなくてもいい、ラウラについてだ。」

 

まぁそれしか理由は無いよな。

俺は真面目な顔をして話し始める。

 

「織斑先生を教官と呼んでいたということはドイツの?」

「ああ、私の教えていた部隊の一人だ。あと普通に話せ。正直お前に先生と言われると気持ち悪い。」

 

ひでぇ。

いや、ほんとにひどい。

俺じゃなかったら泣いているくらいだろう。

まぁ気にせずにいつもどおりに話そう。

 

「では、千冬さん。ボーデヴィッヒに何をしたんですか?」

「…お前から見てあいつはどう見える。」

「千冬さんを尊敬、いえむしろ信仰しているって感じですかね。考えの中心に千冬さんがいて関係の無いものには興味が無い…今のところかんな感じですかね。」

「……そうか…奏。お前ならどうするか聴いていいか?」

「……なんでしょう。」

「一人落ちこぼれで自身の価値を信用できない子供が居たとしよう。」

「僕みたいなのですか?」

「真面目に聞け。まぁお前みたいに何か目標があるならいい、自身に一本芯があるなら気にもならないだろう。それすらも無く自身に非があるわけでも無いのに、落ちこぼれの烙印を上から押され、それのせいですべてに対して無気力になっている子供が居たらお前ならどうする。」

「愛を語ります。」

「……真面目に言っているんだな。」

「当たり前です。誰がどんなにその子の事を落ちこぼれと言おうが僕だけは味方であり続けます。」

 

真面目な顔でそういうと千冬さんはふっと笑って話し始めた。

 

「私はその子を鍛え上げた。誰からも落ちこぼれなど言わせないほどに。その結果その子は部隊最強になった。」

「いい話じゃないですか。」

「問題はな、その子はその後私のことを神のように崇める様になった。その上今までの経緯からか人を信じず、それまでの生き方から他者を寄せ付けないようになった。」

「……」

「悪いが風音、私から話せるのはこの程度だ。これ以上は契約違反になってしまう。」

 

なるほど、千冬さんは一夏とラウラを重ねてしまってたんだろう。

姉の千冬さんと比べ何も出来ないと自身を蔑んでいた一夏。

役立たずと上から言われて落ちこぼれといわれたラウラ。

確かに似ているといえば似ているだろう。

千冬さんはそこを気にかけていたのかもしれん。

そして千冬さんの言う契約違反。

これは恐らくドイツ軍、いやドイツ政府とおこなった取引だろう。

つまりドイツにとってあまり大きな声で言えないようなことをした結果、ラウラは無気力になった…と。

後はラウラ本人、もしくは別のところから聞こう。

 

「ありがとうございます、千冬さん。とりあえずこっちでも何とかしてみます。」

「……私からは正直ほとんど何も出来ん。援護はできそうに無い。」

 

今のラウラにとって千冬さんからの命令は絶対だ。

それを利用しても任務として関わったりする事はあっても自身からこちらに関わる事は無いだろう。

それは俺も千冬さんも望むところじゃない。

 

「まぁ、大体わかります。」

「そうか…すまんが頼む。」

「まぁ同じクラスになったのも何かの縁ですし、仲良くしますよ、織斑先生。」

 

そう言って俺と千冬さんは部屋を出て分かれた。

さてやる事がまた増えてきたぞ…

そう考えながらラウラとデュノアのことをどうするか考えながら一夏と合流するべく急ぐのであった。

 

 

 

 

 

平凡な人生こそ真の人生だ。 虚飾や特異から遠く離れたとことにのみ真実があるからだ。

                                   ~フェーデラー~




とりあえずラウラに関しては奏が表立って動く事になりました。
さてこれがどういう結果になるのでしょう?
ということで次の話でまたwww


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第三十四話 昼食会

千冬さんと別れた後すぐさま飯を食うために一夏と合流する事になる。

一夏からの連絡だと今日は屋上で食うそうだ。

昨日の夜からいろいろとあり今日は弁当だ。

と言っても量が量なので3段の30sm四方の三段の重箱に紙袋につめたサンドイッチだが。

屋上のに到着し扉を開けて目に入ったものは

…いろんな意味ですごい雰囲気だった。

怒りのオーラが見える箒。

『出し抜けると思っていたのか?』と言いたげに笑うセシリアと鈴。

訳も解らずおびえるシャ……デュノア。

どうしてこうなったか解らない一夏。

……よし、別のところで食べよう、そう思い扉を閉めようとすると一夏に気がつかれた。

逃げる前にこちらに走って来た一夏に捉えられた、離せ。

 

「そ、奏!!よくきたな。」

「チガイマス、別人デス。」

「それでいいから一緒に食うぞ。」

「勘弁シテ下ダサイ。」

「お~い、奏も来たしそろそろ飯食おうぜ。」

 

こいつごり押ししやがった。

引っ張られながら俺は放り込まれた。

さてまずこの雰囲気におびえてるのから何とかするか。

 

「えっと、一夏。既にデュノアの自己紹介は終わったのか。」

「え!?ああ、まだだったな。」

「じゃあまずそれから行こう、うん。だからまず一時休戦。」

 

そこで初めて一旦険悪な雰囲気は収まる。

しかし箒の機嫌は悪いままだ。

まぁ大体理由はわかるけどな。

恐らく朝間に考えていたのは一夏を昼食に誘うかどうか。

だがこいつはそれを『みんなで』屋上で食べようという風に勝手に解釈して全員を誘ったんだろう。

しかし自己紹介もまだの内にあの空間に放り込まれたのか……控えめに言ってひどいな。

そんなことを考えているときにデュノアが微笑みながら口を開いた。

 

「じゃあ改めて、僕の名前はシャルル・デュノア。フランスの代表候補生でデュノア社のテストパイロットもやってたんだ。」

「あれ?シャルル・デュノアの名前とデュノア社ってことは…」

 

とそこに気がつく一夏。

一方俺はやはりそうか…と思ったが顔に出さないでいた。

しかしだとしたら…いや、詳しい話は本人から聞いたほうが良いだろう。

 

「そう、僕の父がデュノア社の社長なんだ。」

「へー、でもフランスか……奏、お前も行った事あるんだよな。」

「むしろ2年弱ほど住んでたな、家は無かったが。」

「え?どういうこと?」

 

と反応するデュノア。

あれ?全世界的に公開されてたけど知らなかったのか?

まぁ立場って言うか役つくりとして聞いているのかな。

 

「うん?ああ、僕、子供の時に記憶無いままフランスの町に放置されててね。それからしばらくホームレスだったんだ。まぁ4年程度だけどね。」

「え?……でも…」

 

と不思議そうな顔をしているデュノア。

頼むからぼろを出すなよ。と思っていると一夏が話始めた。

 

「4年程度って言っても…人生の1/4はそうだったてことだろ?その上さらに7歳ぐらいまでは記憶が無いから……」

「奏さんって、今何歳くらいでしたっけ?」

 

とセシリアにふと聞かれる。

 

「うん?設定上15歳ほど。」

「設定上って…奏、あんた何言ってるのよ。」

 

とあきれる鈴。

そういわれてもこれには理由があるのだ。

 

「だって本当の年齢、何歳かわからないんだもん。だから一夏と同い年ってことにしてたんだ。」

「ということは記憶のある限りだと約半分はホームレスか。」

 

とつぶやく箒。

なんというか雰囲気が暗くなる。

とりあえず雰囲気を変えるため俺は笑顔で話し出す。

 

「いや、楽しい話じゃないけど気にしなくていいよ。なんたって本人が気にして無いんだし。それにそのおかげでここにこれたって感じだしね。」

「……お気楽ね、あんた。」

「そういう性分なんで。まぁともかく昼食にしようよ。」

 

そう言って飯を食べるように促す。

しかし鈴に『お気楽』と言われたがそういうわけでもない。

ただ単にその時期は現実感が無かっただけなのである。

突然自分が寝ている間に別世界に来たといわれて納得できる奴などいるのだろうか…

それに今も現実感があるかといわれるとそれほどあるわけではないのだ。

何時布団に入って起きたら元の世界に戻るかもしれない期待と不安がいまだに胸の中にある。

ただそれを考えても仕方が無いから気にしないようにしているだけなのだ。こんな事誰にも話すことはできないが。

そして自身が目指すあの(ヴァッシュ)ならこの程度の事で暗くなったりしないだろう。

まぁ深く考えても仕方ない、この事は俺がどんなにがんばろうとなるようにしかならないんだからな。

俺が頭の中で結論付けている最中に事態は動いた。

恐らく購買からパンでも買ってきたんだろう、一夏がパンを取り出したときにふと箒の方を見る。

 

「あれ?箒どうして弁当箱二つなんだ?」

「……これはお前の分だ。」

「俺に!?ありがとな箒!!」

 

そう言って笑顔で弁当箱を受け取る一夏。

一方箒は顔を赤くして顔を背ける。

 

「あ、ああ。…気にするな。」

 

と言いながら嬉しそうにしている。

だが弁当を持ってきたのは箒だけではないのだった。

 

「き、奇遇ね!!私も一夏に作ってあげたわ!!はいこれ、一夏が食べたがってた酢豚よ!」

「私も今朝は早くに目が覚めましたので。一夏さんに手料理を作ってきましたわ!!」

 

セシリアはわかっていたが鈴もか…

何でこいつら今日箒が一夏を誘おうとしていたこと知ってたんだ?

セシリアなんて昨日わざわざ俺の所にまで来て作り方を聞きに来たんだぞ!?

これが乙女の勘という奴なのか……

と考えているとデュノアが俺の服を引っ張りひそひそと話し始めた。

 

「(ねぇ、そ…風音君。)」

「(奏でいい。言いづらいだろ。)」

「(うん、わかった。あの三人ってもしかして…)」

「(そっ、一夏のことが好き。しかもその事に一夏はまったく気がついていません。)」

「(ああ…だからあんな雰囲気だったのか…)」

 

と納得するデュノア。

一方、一夏は食べる準備を終えまずは箒の弁当を手に取った。

 

「鈴もセシリアもありがとな。それじゃあまずは箒の弁当から……」

 

一夏はから揚げを箸で取り口に含んだ。

そしてその後目を見開いて驚いたように話す。

 

「うまい!!箒、本当にうまいぞこれ。」

「そうか美味しいか。それは良かった」

 

と言ってさらにから揚げを口にする一夏。

それを見て箒はほっとしたように自身の弁当のふたを開けた。

それを見た一夏がふと気がついたように話す。

 

「あれ?箒の方にはから揚げ入って無いのか?」

「え?あ、いやそれは……うまくできたのはそれだけだから…」

 

と最後の方は小さな声で話す。

しかし一夏には聞こえていなかったらしく首をかしげている。

箒もなんと説明するべきか考え、ひらめいたように口に出す。

 

「わ、私はダイエット中なんだ!だから一品減らしただけだ。」

「え?何でダイエットなんてしてるんだ?」

 

ときょとんとした顔をしながら箒を見る一夏。

まぁ普通に考えても箒は痩せている方だ。むしろこれ以上痩せたら病気を疑う。

だが女性からしてみればそれくらいは普通なのか?

言い訳として通用するのか俺が悩んでいると箒が顔を赤くして叫ぶ。

 

「一夏!!お前どこを見ている!!」

「どこって…体?」

 

まあお前からしたら『見た目は別に太っては無いよな?』

と言った疑問を覚えたからそう言ったんだろうがそれ完全にセクハラ発言だぞ?

 

「女性の体を凝視するなんて……紳士的じゃありませんわ!!」

「あんた…なに胸ジロジロ見てんのよ!!それにダイエットって言うのは太ってるからやるもんじゃないの!!」

 

案の定、他の二人から厳しいツッコミが入る。

助けを求めるようにこっちを見るな、まったく。

俺は苦笑いしながらまぁまぁとなだめるように話し始める

 

「多分一夏は箒にそんなことする必要は無いって事と、本当においしいから食べれないのはもったいないって思ったんだよ。」

「そ、そう。そういうことが言いたかったんだ。」

 

と言ってうなずく一夏。

そうして一夏は自身の箸でから揚げをつまむと箒に突き出す。

 

「ほら、あーん。」

「「「「!?」」」」

「え!?一夏!?」

「いや、おいしいから自分でも食べてみろって。あーん。」

 

驚く俺、セシリア、鈴、シャルロット…あ、シャルルだった。

セシリアと鈴は一夏をにらんでいる。

デュノアは顔を真っ赤にしながらその光景を見ている。

俺は驚いた顔をしながらも一夏を尊敬していた、普通自然に出来るもんじゃないぞ?これ。

一方箒の方は本当に食べてもいいのか恐る恐るそして少し恥ずかしそうにだか一夏の差し出すから揚げに口を近づけ……食べた。

一夏は笑いながらから揚げの味を聞く。

 

「どうだ!?」

「……いいものだな…」

「な、すげーうまいよな!!」

「そういう意味じゃないが…ああ、そうだな…」

 

箒は完全に顔がにやけて緩みきっていた。

それを見てデュノアは顔を赤くしながら、

 

「まるでカップルみたい…」

 

と小さな声でボソっとつぶやく。

しかしそれは怒れる二人の乙女には聞こえているようだった。

 

「ちょっと!!二人のどこがカップルみたいですって!?」

「適当なこと言ってんじゃないわよ!!」

「え、あ、ごめんなさい…」

 

と勢いに押されて謝るデュノア。

間に入るようにおれは笑いながら両手で『どうどう』と落ち着かせるようにやる。

その勢いのまま二人は一夏に突っ込む。

 

「一夏さん!!私のサンドイッチもぜひ!!」

「一夏!!私の酢豚も食べなさいよ!!」

 

と言ってセシリアは昨日の内に俺に作り方を聞いたサンドイッチを、鈴は自身の酢豚を箸でそれぞれ一夏に向けて突き出した。

なぜ二人がここまでするかわからずあわてる一夏。

見ていて楽しいがこっちも飯を食べるとしよう。

俺は重箱を広げた。

適当に冷蔵庫の中にあるもので作ったおかずだ。

豚肉はこんがりとオーブンで焼き上げた後に薄く切り極薄のスライスオニオンと共にマスタードと白ワインビネグレットであえてさっぱりと仕上げている。

魚はスライスしたアーモンドを衣にまぶしてこんがりと揚げ、さらに自家製のタルタルを添えている。

野菜類は一度軽く茹でた後にゴマドレッシングで軽く味付けをしそれを生春巻きの皮で包む。

後は適当なあまりものの野菜をトマトソースで炒めたものを生パスタと絡めた物や、この前に作ったピクルスなど詰め込めるだけ詰め込んでいる。

メインとなる主食の方はセシリアのサンドイッチとはまた一風変ったバケットを利用して作ったサンドイッチだ。

デュノアが目を丸くしてこっちを見る。

 

「奏…これ全部食べるの?…」

「ああ?そうだけど?」

 

と平然と食べ始める。

即興で作ったものばかりだが結構いけるな。

それを見て一夏が話し始める。

 

「なぁ…その豚肉だけでも俺にくれないか?」

「お前は三人からいっぱいもらってるだろ…むしろデュノア、食うか?」

「え?あ、ありがとう…」

 

そう言って紙袋からラップにくるまれたサンドイッチを取り出し渡す。

長さ5cnほどのそれにはレタスとトリハム、さらにスライスされた茹で卵がはさまれておりマヨネーズで味付けされていた。

さきほどからデュノアを見ると弁当を持っているようにも見えないし少しぐらいあげても問題は無いだろう。

こちらを見ながらそれを食べるとデュノアは驚く。

 

「おいしい!!これ奏が作ったの!?」

「おう、一応バケットって言うかそのパンのほうも手作りだ。」

 

そういうとさらにハムッと言った効果音がつきそうな感じでサンドイッチを口にするデュノア。

それを見て鈴が反応した。

 

「何、あんたパンも焼けるの!?」

「まぁ…種類はそんなに多くないぞ?大体両手で数えられるくらいだし。」

「……あんた料理人にでもなるつもりなの?」

「いや?そんなつもりは無いよ。ただの趣味さ。」

 

そう言ってさらに食べ続ける。

デュノアは俺のサンドイッチを気に入ってくれたようでニコニコしながらそれを食べる。

他の四人はそれをうらやましそうに見ている。

 

「はぁ…とりあえず食べてみる?ただし一夏はもらった奴ちゃんと全部食えよ?」

「おう、わかってるって。」

「私この魚もーらい。」

「じゃあパスタを少々いただきますわ。」

「生春巻きもらってもいいだろうか。」

「わかったから一斉に突っつくな。後デュノアも適当に食ってもいいからな。」

 

そう言って俺は重箱を解放した。

最終的にいろいろと持っていかれて俺の食べる量は減ったが、皆笑いながらうまそうに食べてるから良しとしよう。

そうやって俺たちは談笑しながら昼休みを過していった。

 

 

 

 

 

時はその使い方によって金にも鉛にもなる。

                                  ~プレヴォ~




ということで少しずつですが物語が動いていきます。
話は変りますが弁当なんて最近って言うか軽く4~5年は作ってないですね……
パンなんかは暇な時焼きますが…夜中に一人生地こねてる時なんか悲しくなってきますねwww
作者はサンドイッチならフランスパン派です。関係ないですねwww


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第三十五話 一夏の素質

放課後俺は一夏たちの自主鍛錬に参加する事にした。

理由としては簡単だ。確実にあのラウラが一夏か俺にちょっかいを出してくるはずだ。

あいつが授業中にこっちにちょっかいを出さなかった理由、それは単に『千冬さんの監視下だったから』であいつ自身がやめようと思ったからではない。

ならば放課後、それも自身の実力が発揮できるところにいる一夏を狙わないわけが無い。

そう考え自主鍛錬に参加したのだが……

 

「一夏さん!!本気を出してくれませんこと!!鈴さんとの試合の動きどころかわたくしと戦った時よりも動きがにぶいじゃないですの!!」

「って!!言っても!!よ!!」

 

現在一夏とセシリアの試合だが、一方的に一夏が撃たれ続けて懐に入ることすら出来ていない。

それを見て鈴も納得できないらしく声を上げる。

 

「一夏ぁ!!あんた何手抜いてるのよ!!」

「違うんだって!!ああ!!もう!!」

 

と言いながらまたセシリアの攻撃が被弾する。

これでこの試合はセシリアの勝ちである。

試合を終え二人とも地上に降りる。

お互いに納得できないといった顔で不満げだ。

これが今現在一夏の抱える問題だ。

訓練に参加している箒、セシリア、鈴は少しずつだが確実に成長して言ってるのが目に見えている。時々だが参加している簪ですら接近戦になれかなり動きがいい。

ちなみにデータのほうがある程度たまったらしく何度目かの俺用という名目の簪の荷電粒子砲が製作されている。試作がいくらか送られては来ている物の俺には使えない上に簪は納得いかないらしくさらにデータ集めをしている。

話はそれたがこのように全員進歩して先に進んでいる。

だが一夏のみ、あの鈴との戦いで見せた動きが出来なくなっているのである。

その他の基本的な動きはもちろん成長はしている、だが回避や踏み込みのタイミングに関しては贔屓目に見ても格段に下がったとしかいえないのだ。

それに対して現在、実戦方式でいろいろとやってみてはいるのだが一度もあの動きは出来ていない。

 

「あああああ!!クソ!!何で出来ないんだろ…」

「…正直私たちにもわかりかねますわ。」

「別に手を抜いてるわけじゃないのよね…」

「当たり前だろ、試合と同じ意識で臨んでる。」

 

と三人で話している。

一応俺の意見も言ってみるか。

俺は三人に近寄り一夏に話しかける。

 

「一夏、お前試合と同じって言っても具体的にどう考えてるんだ?」

「え?これは試合だぞー、後は無いぞ、って感じかな。」

 

そう語る一夏。

大体理由はわかったかな。

 

「多分わかったわ。お前があの動き出来ない理由。」

「本当か!!」

「どういうことですの!?」

「一体何がおこってるの!?」

 

と一斉に俺に詰め寄る三人。

そんなことしなくてもしゃべるから。

 

「多分だけどな、お前セシリアと戦った時も鈴と戦った時も乱入者の時も自分のために(・・・・・・)戦って無いだろ。」

「「「え?」」」

 

とどういうことかわからず疑問を持つ三人。

構わずに話を続ける。

 

「一回目のセシリア戦。お前が戦った理由はあまり意識して無いまでも自身が馬鹿にされたより、この国と千冬さん、何よりセシリアのことを考えながら戦ってたんじゃないか?」

「どうなの一夏?」

「……そういわれるとそんな気がする。」

 

と鈴に聞かれると考え込む一夏。

 

「二回目の時は怒り云々より勝って鈴と仲直りする事や……僕にISを向けて脅したことを謝らせようと考えてた。」

「ああ、それは確かに考えてた。」

 

と即答をする一夏。

ここら辺でセシリアは何か気がついたようだった。

 

「最後にあの乱入者はたくさんの観客、そして箒を守らなくちゃいけない戦いだった。」

「ああ、そうだな。……で、それがどうしたんだ?」

 

納得しながらも何を言っているかがわからない一夏。

結論を言おうとする前にセシリアが口を挟んだ。

 

「つまり奏さんは一夏さんが本気を出すためには、自身以外の何かのためじゃないと本気が出せないのでは?と……」

「セシリアの言うとおり。ただこれは全部僕の意見で本当かどうかはわからないけどね。」

 

と最後に付け加えるように話し終える。

一応三人とも納得してくれたようだ。

だが問題はだからどうすればいいのか、と言ったところだ。

一夏の素質が俺の世界での創作の登場人物の一夏と比べ高い事はわかっている。

だが心構え一つでここまで実力が変るとしたら…なんとムラの大きい奴だ。

そんな時にシャルロ……デュノアがこちらに来た。

先ほどまで他の女子生徒と軽く話をしていたのだ。

 

「どうしたの?4人とも。」

「あ~…ちょっと一夏のことでな、まぁ今話しても仕方ない事だ。他の訓練をしよう。」

 

そう言って一夏の訓練を一旦やめることにした。

そういや箒はどこに行ったんだ?さっきから見えないが……

そう考えているとデュノアが一夏に話しかける。

 

「一夏、ちょっと相手してくれる?白式と戦ってみたいんだ。」

「おう、いいぞ。ちょっと行って来るわ。」

 

セシリアと鈴が何か言う前に一夏は飛び立ち追うようにデュノアが飛ぶ。

二人は止める前に行かれてしまったせいでムッと顔をゆがめた。

またか、と思いながら苦笑いをしながら嗜める。

 

「おいおい、前にも言ったけど男に嫉妬してどうする。」

「でも一夏の奴、何かと男と一緒に居ようとするじゃない!!」

「そうですわ!!そう考えると仕方ないじゃないですの!!」

 

こいつらはどちらかといえば嫉妬って言うよりどちらかと言えば寂しいのか…

だが一夏の疑惑だけは解いておこう。

 

「あ~……ちょっと考えてみてくれない?」

「何を?」

「突然自身が男しか居ない空間に突っ込まれて三年間でれないって。」

「え、でも一夏は男だし…」

「男でもそういう空間はきついよ?だって女性相手じゃどうしても気を使うし、何よりも下手な事ができない。」

「それはそうですけど…」

「で、話は戻るけどさっきのイメージした空間で二人とも互いを見つけたら一緒にいたいと思わない?」

「…ですが一夏さんは既に奏さんとも仲がいいですし。」

「そしたらデュノアは一人ぼっちでその空間にいることになる、多分ほっとけないんだろ。あいつ。」

 

と言って一夏たちのほうを見る。

あ~一方的にやられてるな、一夏。

デュノアはなんか高速で武器を入れ替えて戦ってるな。

どの距離で戦っても攻められてるわ。

あと少して試合は終わるな。

横の二人を見ると一応頭のほうでは納得しているようだったが感情では納得できていないようだった。

俺は笑いながら二人に話しかける。

 

「まぁ、僕の方で、あいつが男に付きっ切りにならないようにはしておくよ。だから心配しなくても大丈夫。」

 

二人はため息をつきながら話し始める。

 

「……前から思ってたんですけど、奏さんって本当はもっと年上なのでは?」

「あ~なんかわかるわ、あんた落ち着きがありすぎ。多分っていうか絶対そうよ。」

「え゛……そんなに年上に見える?」

「見えるというよりはそう感じてしまうと言った感じですわ。」

「今日の授業のせいか、あんたうちのクラスですごい言われてたわよ。」

「……どんな風に?」

「一番多かったのが『なんか…先輩みたい!!』で次に多かったのが『お兄ちゃん』。」

「お兄ちゃん!?」

「奏さん、うちのクラスでもあなたを兄みたいと思ってらっしゃる方は多いですわよ。」

「そんなの僕知らないよ!?」

 

わざとらしく反応して見せると二人はくすくすと笑っている。

そんな事いわれても中身は既に三十代よ?

いくら体に精神年齢引っ張られててもこれくらいの落ち着きはあるさ。

しかし…年上や先輩ならともかくお兄ちゃんか……一人っ子だったから想像がつかん。

二人の言葉に苦笑いをしていると一夏とデュノアは別の訓練を始めているようだった。

さて俺はあっちの方に顔を出してみるか、と考え飛び立つ。

鈴とセシリアがついてこないところを見ると何か考えがあるのだろう。

俺は二人に構わず一夏たちの所に向う。

そばに行くと二人はデュノアが一夏に覆いかぶさるようにして重なりながら銃の訓練をしていた。

あの銃はデュノアの銃だな。

 

「おう、二人して何やってたんだ?」

「一夏に銃の使い方と、どういう風なのかを覚えさせようかって思って射撃訓練してたんだ。」

 

なるほど一夏に基本的なことを教え込んで満遍なく成長させようって感じかな。

確かに白式は近距離武装しかないが一夏が遠距離での戦い方を覚えれば対処もしやすいな…

俺も近距離武器の使い方を覚えた方がいいのだろうか?でも俺この銃で近距離から超遠距離でも戦えると思うんだけどな……それじゃ意味が無いのだろうか。

俺が『う~ん…』と唸っているとデュノアが声をかけてくる。

 

「どうしたの?奏。」

「いや、俺も近接武器使えた方がいいのかなぁ…って。この機体近距離装備無いんだけどだからといって俺が使えないで良いって訳じゃないし。」

 

と自身の『赤銅』の右手を見る。

今の所ヴァッシュみたく銃ひとつで強敵と戦うのは難しい。

やはり戦い方を変えISの性能をすべて生かせる戦い方を探した方がいいのだろうか…

まぁ最終的に守りきる事ができればどんな戦い方でもいいのだ。

そう考えるとやはり後者だな。

いろいろと模索してみよう。

 

「ねぇ、奏。その機体だけどさ。見たこと無いしデータとしても浮かんでこないんだけどなんなの?」

「打鉄の改造機。名づけて『打鉄改―赤銅―』。通称赤銅だな。」

「へぇ~、どんな改造されてるの?」

 

とデュノアが疑問を投げかけてきた。

俺は何も考えずそのまま伝える。

 

「反応速度および最高速度の底上げ。それのせいで操作難易度の上昇、装甲および拡張領域の低下。運動性は約2倍まで上がったが武器は左手の基本装備およびハンドガン一丁のみ。装甲にいたっては従来の半分以下の紙装甲で、基本的な考えが『当たらなければ問題ない』だ。」

「…………ごめん、すごいめちゃくちゃで全部は理解できなかったんだけど、すごい無茶な事言ってない?それ。」

 

と頭を抑えるデュノア。

無茶な事ではあるができないわけでも無いだろう。そう言ってやろうと思うと一夏も話に入ってきた。

 

「そういやシャルルの機体は何なんだ?山田先生の機体と似てるように感じてたけど。」

「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前はラフォール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。基本装備をいくつか外して、その上で拡張領域を倍にしてある。」

「倍か。それはまた凄いな。俺の白式にもそれくらいあれば良いんだが…」

「あはは。そうだね、そういう機体だから今量子変換している武器だけで軽く20はあるよ。」

「20ってそんなにか!?」

「それだけがとりえみたいなものだからね。」

 

へぇ。簡単に聞こえるけど結構中身はいじってるんだろうな。

たかが基本装備をはずした程度で拡張領域が倍になるのなら既におっさんが左腕のこれをはずしているはずだ。

もしくはデュノア社の技術者はそっちのソフト面の方が優秀なのか?

聞いてみようかと考えているとアリーナがざわめき始めた。

原因を探してみるとすぐにそれは見つかった。

アリーナの上の入り口からこちらをにらむように見つめるラウラ・ボーデヴィッヒがそこにいた。

周りの女子生徒たちの話に耳を傾ける。

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ。」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

なるほど、ここまで騒ぎになるほどの機体って訳か……

見たところメインウェイポンは右肩に浮かぶ大口径の恐らく砲弾。

拡張領域内にどんな装備を入れているのかは解らないが相手は第三世代と呼ばれる機体。

何らかしらの特殊能力がある、それは間違えは無い。

このまま彼女も訓練をして帰ってくれればいいのだが……それは無いんだろうな…

そう考えこの後起こるであろう事態に身構えるのであった。

 

 

 

 

人間には幸福よりも不幸のほうが二倍も多い。

                                   ~ホロメス~




ということでここから主人公が戦い方を具体的に模索し始めます。
まぁ……実際はISに通用する武器があれば生身で戦ったほうが楽なんですけどねw
ですがそれをするわけにはいかないのが難しいところです。


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第三十六話 その呼び名

さてラウラ・ボーデヴィッヒがアリーナ内に来てからかなりアリーナ内は騒がしくなったな。

周りを見ているとセシリアと鈴がラウラのことをにらんでいる。

恐らく朝の出来事であいつが一夏を狙っていることを知っているのだろう。

他の場所を見てみると簪と箒が一緒になってラウラを見ていた。

箒の目線はかなりきついものだが、簪はデータを集めようとしているのだろう。

さて、この後ラウラはどう動くのか、と考えるとコア・ネットワークがこちらにつながれた。

 

「織斑一夏。」

「……なんだよ。」

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え。」

「イヤだ。理由がねえよ。」

「貴様にはなくても私にはある。」

 

そう言って戦いを申し込んでくるラウラ。

これくらいなら一夏でも対応できるだろう。

一夏には一夏自身に対しての挑発はきかないからな。

 

「お前にあっても俺には無いの。第一、俺、お前とちゃんと話したことも無いのに何でここまで言われなくちゃいけないんだ?」

 

一夏にそう言われるとラウラはさらに視線を鋭くして一夏をにらむ。

 

「貴様が…貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だが貴様のせいで教官は……私は貴様を――貴様の存在を認めない。」

「!!っ……」

 

ラウラが一夏を狙う理由はそれか。

千冬さんの二連覇を妨害した原因とも言える一夏。

だがドイツ軍でそこまで解っているのなら原因は一夏ではなく誘拐犯、もしくはしっかりとした防衛をおこったった日本政府。さらに言うならドイツ国内でそのような事件を起こさせたドイツ側のほうが責められるべきだとわかるはずなのだが。

だがラウラは一夏さえ存在しなければよかったという考えで止まっているのだろう。

恐らくそこには一夏に対する嫉妬も含まれているのだろうな…

一夏は先ほどのラウラの言葉を受けて動揺はしたもののその程度の事こいつは既に自身で十分に悩んだ後だ、そこまでショックはでかくあるまい。

 

「だったら学年別トーナメントで戦えるのだからそこでいいだろ。」

「……どうしても今戦わないというのか。」

「そういうことだ、じゃあな。」

「では戦わざるをえなくしてやる。」

 

そう言ってラウラは自身の右肩に装備されている大型の武装の狙いを一夏に向け警告もなしに発射した。

こいつ何考えてやがる。

次の瞬間デュノアが動いた。

自身の左腕にシールドを展開して一夏の前に立つ。

恐らく自身が盾になるつもりだろう。

だがその必要は無い(・・・・・・・)

デュノアが盾を展開している頃には既に俺は数発の弾丸をラウラが発射した砲弾に当てており、狙いはそれていた。

撃ちだされた砲弾は大きく狙いをそれ一夏から左にかなりそれたポジションに着弾する。

デュノアもラウラも何が起こったか理解できないようで不思議な顔をしている。

まああいつらから見たらありえない曲芸を見せられたようなもんだしな。

その後俺はラウラに通信をつなぐ。

 

「ボーデヴィッヒさん、ちょっと落ち着いて、ね?」

「貴様……今のアレは貴様がやったのか。」

「うん?何のこと?」

「……既に二度目は無いといったはずだが?」

 

そう言って今度は俺に武器を向けて俺を脅す。

先ほど撃ちだされた砲弾。

撃ちだされた速度、破壊力、何より砲弾の大きさと独特の発射音。

恐らくレールガンと見て間違いは無いだろう。

しかしラウラとの戦闘か…正直戦いたくないな…

 

「って言われても友人が狙われたんだ。こうやってやめてくれって言葉くらいはかけるでしょ?」

「……」

 

そう俺はラウラに向けて笑顔で話しかける。

一方ラウラは返事の代わりにレールガンを俺に撃ちこむ。

デュノアがこちらの盾になろうとしたが距離的に間に合わないだろう。

だがそんな事は関係なしに俺は、今度は発射される前にレールガン本体を撃ち射線をずらした。

結果俺の頭の上を高速の砲弾が通り過ぎ、後ろで土煙を上げながら着弾する。

 

「やはり貴様がやっていたのか……」

「ねぇ、もうやめにしない?」

「邪魔をするなら貴様から…」

 

といいもう一度俺に狙いをつけようとするがラウラの顔付近、少しそれたところに銃弾が撃ちこまれた。

撃ち込まれた弾丸はアリーナのシールドに着弾する。

そちらを見るとデュノアがラウラに銃を向け攻撃の意思を示していた。

 

「誰と構わず喧嘩を売るのがドイツ人の礼儀なのかな?それともそういう風にしろと軍で教えられてるのかい?」

「フランスの第二世代型ごときで私に喧嘩を売るというのか?」

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型よりはマシだと思うけど。」

 

そう言って敵意をぶつけ合う二人。

頼むからここで戦うのだけは勘弁してくれ。

 

「ちょっと二人とも落ち着いて頂戴!!ここで戦っても何にもならないから。」

「ソウ!!でも!!」

 

怒り心頭のシャルロットを落ち着かせる。

こいつ完全に呼び方が昔の呼び方に戻ってるな…

まあ今はそっちよりラウラを引かせるほうが大切だ。

笑顔のまま俺は二人に話しかける。

 

「いいからデュノアも落ち着いて。それにボーデヴィッヒさん。今ここで戦っても途中で止められかねない上に、下手をすれば本人に問題性ありとみなされて本国に送り返されるかもよ?」

「…………」

 

返事は無いが『ありえない話では無い。』そういう風に捉えられたと判断し話を続ける。

 

「それは君の望むところじゃ無いはずだ。だったら誰にも邪魔されず最後まで戦いぬける学年別トーナメントにでも参加した方がいいんじゃない?」

「………」

「それに僕ははじめっから誰かと戦う気は無いんだ。だからここは引いてくれないかい?頼む。」

 

そう言いながら俺はラウラに深々と頭を下げる。

ラウラは俺を見下しながらこちらを見ている。

これで引いてくれるといいんだが……

その時にアリーナ内に放送が響く。

 

『そこの生徒!何をやっているの!学年とクラス、出席番号を言いなさい!』

 

ようやく監視の先生が気がついたのだろう。

二度の横槍にやる気をなくしたのか、それとも俺の説得に納得したのかラウラはISを解除した。

そして鼻を鳴らしたあと一夏をにらみつけ俺を見下した後に背を向けアリーナを去って行った。

 

「Feigling.」

 

去り際にそう俺だけに一言のみ言ってラウラは去った。

Feigling……『腰抜け』ね…

そりゃ俺に一番ふさわしい呼び方だろうよ。

ラウラが去って行った後に一夏とシャル…いやデュノアがこちらに駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か!?奏!!」

「あー怖かった。一夏も平気?」

「こっちは大丈夫だけどお前はどうなんだよ。」

「怖くって足がったがた。デュノアもありがとうね、助かったよ。」

「どうって事無いよ、二人とも無事でよかった。話は変るけど奏、あの砲弾をそらしたのは?」

「一応狙ってだね。僕が使える武器は限られてるし、だったら完璧に使いこなせないとね。」

「そ、そうなんだ…」

 

と少し引き気味のデュノア。

まぁ自分でもめちゃくちゃ言ってる自覚あるけどさ、そんな反応しなくてもいいじゃない。

しばらくすると箒、セシリア、鈴の三人も寄ってきた。

 

「無事か!?一夏。」

「大丈夫ですの!?一夏さん。」

「怪我は無い一夏。」

 

と皆さん一夏の心配。

すこしからかってみるか。

 

「みなさ~ん、一夏の方が心配でしかたないのはわかるけど僕もボーデヴィッヒさんに襲われたんだけど。」

 

と三人に言うと一旦ぴたっと止まった後顔を見合わせてそれぞれ話し始めた。

 

「……奏、お前の事は心配するだけ無駄だという事はわかっている。」

「奏さんならあの程度問題ないと信じていましたから。」

「なんていうか……奏なら狙われても大丈夫か、みたいな感じね。」

「みんなからの信頼がうれしいよ……」

 

そう言ってわざとがっくりと肩を落としてみせる。

それを見てくすくすと笑い始める5人。

うん、暗い雰囲気はなくなったな。

 

「じゃあ、もう時間も時間だし練習はやめにしよう。」

「おう。そうだな。あ、シャルル、銃サンキュ。色々と参考になったわ。」

「うん、それなら良かった。」

 

と言いながら帰る準備をする。

しかし……着替えはどうしよう。

仕方ない、ちょっと用事があることにして着替える時間をずらそう。

 

「デュノア、ちょっと付き合ってくれ。あと一夏、先に行って織斑先生に伝言頼んでいいか?」

「うん、なんだ?」

「ラウラがこちらを狙ってきた。これだけ言えば織斑先生も動くだろう。」

「お前らはどうするんだ。」

「一応二人でボーデヴィッヒさんのことを監視の先生に伝えに良く。ボーデヴィッヒさんの性格上、素直に話をしているとは思えないし。」

「じゃあお前だけでいいんじゃないか?」

「アリーナのシールドに当てたのはデュノアだしあとアリーナ内の道案内もかねてだよ。それに俺が織斑先生に説明しに行ってもいいけどお前しっかりと監視の先生の質問に答えられるか?」

「あ~……解った。じゃあな。」

「おう、飯時にでも。」

 

そう言って一夏、箒、セシリア、鈴は飛び去って行った。

さて一応監視の先生の元に説明しに行くか。

俺はデュノアの方を向くと少しほっとしたような顔をしていた。

理由はわかるが露骨な態度はやめなさい。

 

「さてデュノア、ちょっとだけだが付き合ってもらう。」

「うん、大丈夫。………ねぇ奏。」

「どうした?」

「………今日、夜に時間空いてる?」

「問題ないが。」

 

というとデュノアは少し不安そうな顔をしながらもこちらを真面目な顔で見る。

 

「話があるんならいい?」

「飯の後でよければ。」

「……うんわかった。じゃあいこう?」

 

そう言って監視室のある部屋まで向かい何があったのか起きた事だけを告げて俺はその日の訓練を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

更衣室で先にデュノアを着替えさせたあと俺も着替えを終え一人寮へと向う。

先にデュノアの方は自身の部屋に向わせている。

今日の終わりのH.Rで既にデュノアの部屋は一夏と同じだという事はデュノアも解っているため問題は無いだろう。

しかしことはデュノアをシャルロットだと一番最初に気がつく可能性が高いのは一夏か……

いやもうすでにこの学校の理事、もしくは教師の一部。

さらには楯無生徒会長辺りは気がついていても不思議では無いだろう。

だが一体なんのメリットがあってデュノア社はこんな事を?

こんな事をしてもほとんどメリットよりもデメリットの方が大きい。なのにそれを推し進めるとは……さらにデュノアの話を聞く限りあいつの父親はあの昔会ったデュノア社長だ。

そこまで悪い人のような気はしなかったのだが…

まぁ何とか調べてみるか……って言っても今現在情報を得ることができるものが少なすぎる。

しかもこれと同時進行をしながらラウラについても解決しなくては……

まぁこちらは一応情報源が存在する上に、切り札もある。

ならばまずはラウラのほうから情報を集めてその後にデュノアの方をやるか。

どっちもどうやって情報を手に入れるかが鍵だな。

考えがある程度まとまったところで後ろを振り向き声をかける。

 

「楯無生徒会長、少しいいですか?」

「………いつから気がついてたのよ。」

 

そう言ってぬっと通路の横から楯無が現れた。

 

「いや~管理室の辺りからついてきている事はなんとか。」

「始めからじゃないのそれ。まぁいいわ、話は何?」

 

といってにやりとこちらを見る楯無。

さてこれが第一関門だな。

 

「スイマセンがデュノアに関してどこまでわかってますか?」

「デュノアくんは実はデュノアちゃんってこと?」

「いや、それ以外です。」

「あら?私がそれに気がついてることには驚かないのね。」

 

そう言って少しつまらなそうな顔をする。

 

「いえ、楯無生徒会長ならそれくらいは気がつくだろうなって思いまして。」

「う~ん……っていってもそれほど多くはわかって無いわよ?ただその気になれば何時でも排除できるけどね。」

「あ~……それ勘弁してもらってもいいですか?」

 

そういうと楯無の表情が真面目になる。

 

「悪いけれどそれは無理よ、私はこの学園を守らないといけないからね。危険だと判断したらすぐさま排除するわ。」

「……ならせめて少しだけでも待ってもらうことは?」

「どれくらい?」

「1ヶ月…せめてこれくらいは?」

「無理ね。長くても一週間よ。入学を許した時点でこちらとしては納得がいかないのに。」

 

『納得がいかない』とね……

ということはそれに納得して動いている人が居るということか。

 

「そこを何とか。お願いします。」

「………わからないわね。」

「何がでしょう?」

「何であなたがそこまでするかよ。」

 

そういうと楯無は俺に近寄り首に扇子を突きつける。

そのまま真面目な顔で俺に話す。

 

「まさか惚れたとかいうくだらない理由じゃ無いでしょうね?」

「愛する人のためとかかっこよくありません?」

「茶化さないで正直に答えなさい。理由によっては考えてあげる。」

 

ここは真面目に話したほうがよさそうだな。

俺は楯無に微笑みかけながら話す。

 

「………顔見知りって言うか恩人なんですよ。ホームレス時代のね。」

「……」

「その時に受けた恩を僕はまだ返し終わってないもので。」

「……ここで私が無理といったらどうする?」

「そうですね……簪ちゃんとの仲直りの時に簪ちゃんにある事無い事いろいろ吹き込みます。それはもう『お姉ちゃんって……そんな人だったんだ…』ってショックを受けるくらいに。」

 

笑顔でそう返す俺に楯無はため息をつきこちらをにらむ。

 

「そこは『簪に協力しない』とかせめて『仲直りできると思うなよ?』とかじゃないの、普通。」

「約束は約束ですし守りますよ。ただしばらく簪ちゃんが生暖かい目で『隠さなくていいんだよ、お姉ちゃん……私知ってるから…』って言うくらいにはあなたについてある事無い事を言い続けます。」

「なんというか…地味だけど本当に嫌な嫌がらせね。」

 

そう言いながら楯無は扇子を首からはずす。

俺は笑顔のまま話かける。

 

「ということになりたくなければ僕に従うのだ~~」

「く、なんて卑怯な!?」

 

と乗ってくれる楯無。

これはいけそうかな?

 

「ということで2ヶ月お願いしますね?」

「増えてるわよ。まぁ1ヶ月ね。その途中でばれた場合も私は処理するからね。」

「え~~~そこはおまけしてくださいよ。」

「おまけって何よ、おまけって……そういうのならあんたがしっかり守りなさいな。」

「解りましたよ。」

 

そう言って了承を受ける。

さてこれで途中でばれない限りデュノアの身は一ヶ月は保障されるのか……

それまでの間にデュノアについて何とか落ち着きを見させる、もしくは危険性が無いことを楯無に証明しなければいけない。

さらに言うならデュノアのことを解りながらも入学させた人物についても何を考えているのかを含めて突き止め無ければいけない……

リミットが伸びたのはいいけどかなりきついな…

そう考え悩んでいると楯無が声をかけてきた。

 

「どうする?諦める?」

「それは無いですけどやはり難しいな…って考えてたところです。」

「協力してあげよっか?」

「………何が目的ですか?」

「そうね……私のことをあだ名で呼んでくれたらいいわよ。」

「それくらいならお安い御用ですよ。」

「じゃあ呼んでみて。」

「ではよろしくお願いします……『オサ』。」

 

そう俺がにっこり笑いながら言うと楯無はずっこけ俺にツッコミを入れる。

 

「そっちじゃないわよ!?そこは普通『たっちゃん』でしょ!?」

「オサ 強イ オサ 優秀 オレ オサ 尊敬スル。」

「そんな風に言わなくてもいいから!!普通にしなさい普通に!!」

「そうですか、じゃあよろしくお願いしますね、会長。」

 

とからかうようにそう呼ぶ。

楯無ははぁ…とため息とつく。

 

「本当にあなた一筋縄じゃいかないわね。」

「いえいえ、生徒会長様ほどでは。」

「私だってここまでひどく無いわよ。」

 

という楯無。

自身がひどい事は自覚していたのか。

さて真面目に話しますか。

 

「冗談はここまでにするとして実際のところ協力する理由は?」

「一つ目にあなたが調べるからといってもたかが知れてるでしょうし、あなたが調べるからと言って私が調べなくていい理由にもならないからね。それを少しだけ教えてあげるってだけよ。」

「まぁ…そのとおりですね。」

「二つ目は私が『無理といったら』と言った時の答えが約束は守るだったからかしらね。私も自身に対する恩はしっかりと返す方なの。」

「そいつはありがとうございます。」

「まぁある程度はつかめるとは思うけどあなたが欲しい情報は手に入らないかもしれないわよ。」

「それでもお願いしますよ。」

「解ったわ。………あと、簪ちゃんの打鉄弐式についてだけど……」

「『残念、好感度が足りないようだ』。」

「ちょっと!!今かなり伸びたんじゃないの!?どこまで上げれば解るのよ!!」

「『残念、好感度が足りないようだ』。」

「ええい、もう頼まれたって聞かないわよ!!ということで簪ちゃんのことよろしくね!!」

 

そう言って楯無は去って行った。

具体的にタイムリミットが解ったのと情報が手に入るのはありがたいが……

どこに落としどころを決めればいいか検討もつかない。

まずは焦らずに情報を集めよう。

そう考えながら寮へと進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

過去のことは過去のことだといって片付けてしまえば、

それによって、我々は未来をも放棄してしまうことになる。

                                   ~チャーチル~




ということで次はいよいよヒロインとしてのシャルロットをえがけると思います。
ここまで本当に長かったなwww


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第三十七話 ラプンツェル

夕飯を食ったあと俺は自身の部屋でベットに座って考えていた。

恐らくこれから来るデュノアは自身のことについて語るのでは?

まぁ語らなかったとしても俺が話させる。

そして聞ける限りの情報を聞かなければ。

 

<―コンコン―>

 

とドアを叩く音がする。

少し早いがそろそろ約束の時間だな。

そう考え俺は部屋のドアを開けるとそこにはなぜか箒が居た。

 

「おう、箒どうした?」

「……奏、ちょっといいだろうか。」

「うん、どうした。」

「……」

 

と聞いたが答えは無い。

ここで追い返すのは考えられんし何より箒には簪の手伝いもしてもらっているのだ。

相談くらい受けてやろう。

 

「ここじゃ話しにくいなら中で話すか?」

「……すまない。」

 

そう言って箒を部屋にいれ椅子に座らせる。

さてこいつは何を悩んでいるんだ。

 

「さて、箒。一体どうした。」

「……」

 

何か悩んでいるか解らなければ相談に応じようが無い

適当にいろいろ言ってみるか。

 

「……部屋が一夏と一緒じゃなくなった事か?」

「…違う。」

「新しいルームメイトについてか?」

「違う。」

「一夏がシャルルと一緒にいることに関してか?」

「違うんだ…奏。」

 

さて、じゃあ後はなんだろうか。

次に箒の吐き出した言葉に俺は自身の耳を疑った。

 

「……トーナメント試合で私が一夏に勝ったら私と付き合ってくれと言った。」

「…………誰が?」

「…私がだ。」

「………一夏に?」

「…そうだ。」

 

言葉の意味が一瞬わからなかったが俺は次の瞬間に叫ぶ。

 

「箒!!お前一夏に告白したのか!!」

「っ!?……そ、そうだ。」

「マジか!!あいつはなんていってた!!」

「……平然と『わかった』とだけ言ってた。」

 

その答え方。

恐らく一夏は言葉の意味がわかっていない。

だがそんな事は関係ない。

 

「箒、いいか、最後まで僕の話を聞け。」

「え、う、うん。」

「恐らく一夏には言葉の意味は伝わってないと思う。多分買い物に付き合ってくれとかだと思ってるだろうよ、あいつ。」

「え?………あ。」

 

そう言って俺の言っている意味がわかった箒は顔を青くする。

だが俺は言葉を続ける。

 

だがそんな事関係ない(・・・・・・・・・・)。」

「!?どういう意味だ?」

「いいか、箒。ぶっちゃけた話お前、セシリア、鈴の三人は今現在一夏にとってただの友達だ。」

「……確かにそのとおりだ。」

「だがお前が仮に一夏に勝つことが出来た後に、お前がもう一度一夏にこの事を説明できたらお前は一夏の中で『ただの友達』から『自分と付き合いたいと思っている奴』に変る。」

「つ、つまり。」

「他の二人より一歩どころかかなり一夏に近づく事ができるチャンスだ。僕としては今回の箒の動きはかなり良いと思うぞ。むしろ褒め称えたい。」

「ほ、本当か!?」

「本当だ。それで相談したいのはそれだけか。」

 

そういうと箒は俺のことを真剣な顔で見ながら話しかけてくる。

 

「奏、お前に頼みたいのは私に稽古をつけて欲しいという事だ。」

「僕に!?」

「私から見てお前はかなり強い。変な言い方だが機体の強さではなくお前自身の強さがそれを表しているんだと思う。」

「いや、でも学ぶならもっと良い人が居るんじゃない?僕近距離戦なんて教えられないよ。」

「だがお前は自身の適正の低さを関係無しに戦っている。頼む、その動きを教えてくれるだけで良いんだ。」

 

そう言って俺に頭を下げる箒。

正直な話あまり乗り気ではない。

一ヶ月以内にシャルロットの問題にめどをつけなければいけない上にラウラの問題の解決。

さらに簪のISの開発すらめどが立っておらずそちらも何とかしなければいけないのだ。

それに箒の修行もつけるとなると………

だがあの箒が、一夏に対して勇気を振り絞り告白して、さらにここまで俺に話して頼ってきているのだ。

何とかしてやりたい。

 

「……わかった、とりあえず基本的な動きと回避重視の相手への攻め方は教えられると思う。」

「じゃあ!!」

「ただし僕に教えられるのはその程度だ。せいぜい身のこなしと回避位だ。一夏を倒す剣は箒自身の剣だけなんだからね、それは忘れないように。」

「わかった、では練習はどうする。」

「そうだなぁ……」

 

と約束を決めようとしているときに

 

<―コン、コン―>

 

とドアを叩く音がする。

もうデュノアが来たのか。

仕方ない一旦話はここで切り上げて追って連絡をする事にしよう。

 

「箒、練習の予定はこっちで立てて明日にでも教える。だから今は帰ってもらっても良いかい?」

「一体誰が来たんだ?」

「シャルルさ、ちょっと大事な話し合いをしなくちゃいけなくてね。」

「………わかった。」

 

そう言って箒は部屋の出口に向う。

扉を開けると案の定デュノアがそこにいた。

デュノアは俺の部屋に来たのに、なぜ箒がここにいるのかわからず目を丸くしているが箒はそれに構わず俺に話しかけた。

 

「じゃあ奏。これから頼んだぞ。」

「りょーかい。まぁ…とりあえずよろしく。」

「こちらの台詞だ。本当によろしく頼む。」

 

そう言って箒は俺に一度頭を下げた後自身の部屋に帰っていった。

デュノアはそこでようやくはっとして俺に話しかける。

 

「奏、箒はどうしたの?」

「一世一代の勝負に出た…って感じかな?」

「どういうこと?」

「まぁ立ち話もなんだから部屋に入れよ。」

 

そう言ってデュノアを自身の部屋に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

デュノアを部屋に入れた後俺はデュノアを椅子に座らせた。

さてこいつかなり緊張してるな。

まぁとりあえず緊張を解くか。

 

「………」

「……告白したんだって。」

「…え?」

「うん?さっきの箒の話。一夏に『自分がトーナメント試合で勝ったら付き合ってくれ』って言ったんだって、箒。」

「ほ、本当に?」

「マジもマジ。それで俺に稽古を頼みに来てたの、あいつ。」

「そ、そうだったんだ。」

 

そう言ってデュノアに笑顔で話しかけると。

箒の話を聞いてか顔を真っ赤にしている。

さてそろそろ本題に入るか。

 

「さ~て、どうする。互いに質問形式で行くか?それとも一気に話し合うか?」

「……ソウからも何か聞きたいことあるの?」

「むしろ聞きたい事だらけでどれから聞けばいいのかわからん。」

「あはは。私も。」

 

そう言って笑うデュノア。

なんというかデュノアはようやく俺の知っているシャルロットに戻った。

このとき本当にシャルロットと再会できた気がした。

 

「じゃあはじめにソウから聞いてよ。」

「じゃあ…『お前は本当に男か?』。」

「……ちょっとソウ、わかってるんでしょ?」

「いや、再会したときに男装でしかも似たような名前とか自身の記憶をまず疑った…」

「あ~…そういうことか。」

 

そう言ってシャルロットは苦笑いをしながら話し始める。

 

「私は女で名前は『シャルロット・デュノア』です。これで良い?」

「ありがと。いや、本当に今日の朝は焦ったぞ…」

「あはは、ごめんね。」

「いや、そこはもう良いよ。じゃあ今度はそちらの質問をどうぞ?」

 

そうおどけたように聞いてみるとシャルロットはちょっと考えた後俺に話し始めた。

 

「……あなたは本当に『風音奏』ですか?」

「いいえ、私はトムです。……OK、怒るな。そうです、私は『風音奏』です。」

「証拠は?」

「証拠!?」

「そう、私の知ってる『風音奏』だって証拠。」

 

俺にからかわれてちょっとムッとした後にいたずらをするように笑うシャルロット。

ちょっと仕返しをしてやろう。

 

「そうだな……とある山奥で俺が水浴びをしていたら、ある少女にノゾかれてその後にビン「もういい!!もういいから!!!」……ちなみにその後じぶんの「ちょっとソウ!!」冗談だから怒るなって。」

 

顔を真っ赤にして怒るシャルロット、恐らく顔が真っ赤なのは怒りだけでは無いだろう。

俺は面白くなり笑いながら話す。

 

「いかがでしょうか?これで俺が『風音奏』だという証拠にはなったでしょうか?」

「ハイ!!もう十分です!!もぉ~…」

「あ~面白ぇ、次はこっちの質問で良い?」

「ちょっと……変な質問はなしだよ?」

「安心しろ、質問はまともだから。質問はな。」

「答えもしっかりしたのにしてよ。」

 

そう言いながらもシャルロットはこの質問を本当に楽しんでいるようだった。

今日一日一緒に生活いていたがこいつの笑顔はどこか作り物臭かったのだ。

なぜかなど考えれば思い当たるところは大量にある。

だからこの少しの時間だけは本気で楽しませてやろう、そう考え俺はくだらなく、それでいて懐かしくなる質問を続けた。

俺の好きな食べ物は何か、俺は今幾つでしょう、別れ際にお前はどんな感じだと思っていたでしょうか?と言った質問を面白おかしく話し続けた。

しばらくそうやって笑いあいながら質問を続けたがそこまで互いに楽しい質問ばかり持っているわけで無い。

どうしても聞かなくてはいけない質問があるのだ。

俺がシャルロットに踏み込みかねているとシャルロットがこちらに質問してきた。

 

「ソウ、質問です。『私はどうして男の振りをしてIS学園に来たんでしょうか?』……わかる?」

「……すまん、はっきりとはわからない。」

「うん、多分そうだと思うよ……じゃあ次はソウの番。」

「……『シャルロット、お前はどうして男の振りをしてIS学園に来たんだ?』」

 

シャルロットのほうからこの話をしてきたんだ。

話す覚悟は決まったんだろう。

あいつの顔を見るとまた昼間にみせた作った笑顔を俺に向けえていた。

 

「お母さんがね……今から二年前くらい前に死んじゃったんだ。」

「っ!!…そうか…」

「その後に私のお父さんが私を見つけたらしくて私はデュノア家のお屋敷に連れて行かれました。」

「………」

「そこにはお父さんの……父の本当の奥さんが居ました。」

「………」

「私……愛人の子だったんだって……」

「……そうか。」

 

話すのもつらい話だろうがシャルロットは笑顔を崩さなかった。

いや、笑顔のままで固まっていた。

俺はあえて何も言わずに聞くことにした。

 

「それからはお屋敷の離れに住む事になったんだけど一回も奥様と父にはあわなかった。」

「……」

「それからどれくらいか時間が経ったか解らないけど私はISの適正があることがわかって非公式だけどデュノア社のテストパイロットになりました。」

「……」

「でも一度も父からの連絡は一切なくて、連絡はデュノア社の誰かからのしかなかったんだ。」

「……」

「でもね、私がんばって…がんばって強くなったんだ。」

「…おう。」

「そしたらお屋敷の本邸の方に一度だけ呼ばれたんだ。」

「……」

「そしたら奥様からビンタされたよ、今朝のソウみたいにさ。」

「…俺みたいに変な声上げたか?」

 

一旦話を途切れさせようかと思って話を変えようと考えたが

シャルロットはあはは、と乾いた笑いをした後関係なく話し始めた。

 

「……どうだったんだろ…びっくりして何も出来なかったと思う。ただ奥様からの『この泥棒猫の娘が!』って言葉しか覚えてないや。」

「………そうか…」

「それからしばらくテストパイロットとして生活してたらさ会社の方が経営危機におちいったんだ。」

「……」

「ISの開発ってすごいお金がかかるんだ、それこそどこの会社も国からの支援があってやっと成り立っているところばかり。」

「ああ、それは知ってる。」

「デュノア社はね、第三世代ISの開発がうまくいって無いんだ。」

「そうなのか。」

「フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。フランスは第三世代型の開発は急務なの。」

「それのせいか。」

「そう、だからフランスは一刻も早く量産のできる第3世代を作らないといけないんだけど今のデュノア社に作れるのはせいぜい私のラファール・リヴァイヴ・カスタムIIくらい。いわば2.5世代くらいなんだって。」

 

なるほど、なぜフランス代表候補生がある意味国家間の縮図と言っても良いIS学園に第三世代ISを送り込んでこなかったのは『送り込まなかった』のではなく『送り込めなかった』のか。

そうなるとなぜフランスは、いや、デュノア社はシャルロットをこうやってIS学園に送り込んだんだ?

考えられる理由はいくつかあるが…

 

「だから…時間稼ぎとしてか。」

「そう、『デュノア社には男性パイロットが始めから居て、そのデータ収集で第三世代の開発がうまくいっていない。だから第三世代の開発を本格的にはじめればすぐに第三世代をデュノア社は作れる』そう言い分として出すんだって。」

「そんなの通るわけ無いだろ、普通に考えれば。始めから男性操縦者のデータだって無いんだ。」

「だから私がここに来たんだ……他の第三世代ISのデータ集めおよび……」

「男性操縦者のデータ集めか……」

「あはは。……そういうこと。」

 

そう言ってシャルロットは話すのをやめた。

恐らく後は何を話すか迷っているのだろう。

 

「それが……IS学園に来た理由か?」

「……本当はね…」

「うん?」

「本当はただソウに会いに来たんだ。」

「……どういう意味だ?」

「私がお屋敷で暮している時はね…外からの情報はほとんど解らなかったんだ。勝手に町を歩く事もできないし私に伝わってくる情報は全部管理されてた。私に伝わってきたのも、ただ男性もISパイロットが日本で二人見つかったってだけ。」

 

軟禁生活だったのか…

そんな生活を2年間も…

 

「そして3ヶ月ほど男の振りをする練習をした後はじめて男性操縦者の名前を知ったんだ。」

「その時にはじめてか。」

「本当に驚いたんだよ。何でソウの名前がここにあるの?って。もう他の事は考えられなかった。」

「一応仕事に来たんじゃなかったのか?」

「そんな事どうでも良かった。ただソウに会いたかった。朝にねソウの顔見て私泣きそうだったんだよ?」

「でもクラスの女子とラウラのおかげで感動の対面はありませんでしたと。」

「あはは。そうだね。でも本当にうれしかった。私のことを知っている人が居て…本当に……」

 

そう言って顔を伏せるシャルロット。

もういろいろと限界だったんだろう。

恐らくこの二年間回りに味方もなく逃げる事もできない。

ただただあるがままにされるだけだったのだろう。

その上最後はほぼ捨て駒扱いだ。

ばれたら全責任をどこかに押し付けて……押し付けられるはずが無い(・・・・・・・・・・・・)

よく考えてみろ、どんな事を言われようと愛人の子だろうがシャルロットはデュノア社長の娘だ。

それを送り込んだ後知りませんでしたでとおせるはずが無い。

何かこの計画はおかしい、目的は本当に『第三世代ISのデータ集めと男性操縦者のデータ集め』なのか?

俺が考えているとシャルロットは顔を伏せたまま話はじめる。

 

「ねぇ…ソウ。次の質問……いい?」

「ああ。」

「私をこの後どうするの………」

「決まってるだろ。助ける。」

「……え?」

 

そう言って顔を上げるシャルロット。

俺は何か言われる前に話し始める。

 

「お前がなんと言おうが俺はお前を助ける。既に生徒会長から一ヶ月間の許可をもらって、その間にお前は危険性が無いことを証明できればお前はここに居ても良いことになっている。」

「え?何時の間に?」

「何時の間にって……2~3時間前?」

「で、でも…」

「でももクソもあるか。もうお前を助けるために既に俺動いてるんだから協力しろ。それにもう生徒会長に大見得切ったんだ。断る事は出来ないぞ。」

「……本当に?」

「今このタイミングで嘘ついてどうするんだよ…」

 

と俺は呆れ顔ではなす。

さてもうシャルロットの前でここまで言い切ったんだ。

後には引けない。無論始めから一歩も引く気は無い。

だがここまで言ってもまだこいつは安心できていないようだった。

ここには別れを告げるつもりで来たんだろうが自分に都合がいいように物事が運ばれていて信用できないんだろう、情けない顔をしている。

最後に安心させてやるか…

俺はいつもどおりの笑顔でシャルロットの頭を撫でる。

 

「シャルロット、今まで良くがんばった。後は俺に任せろ。な?」

「っ……うん…うん…」

 

そういって泣きはじめたシャルロットの頭を俺は彼女が泣き止むまで撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

愛情には一つの法則しかない。それは愛する人を幸福にすることだ。

                               ~スタンダール~

 




ふぅ……ようやくこの話でシャルロットがヒロインっぽくなった気が……
気のせいとは言わないでくださいww


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第三十八話 守るために

シャルロットが泣き止むまで撫でていたらいつの間にかシャルロットは眠ってしまっていた。

顔も泣いたせいでぐちゃぐちゃになった顔で寝息を立てている。

まったく泣き止んだら眠ってるとは……よほど疲れていたんだろうな。

こんな状態で一夏の部屋に背負っていくわけにもいかず、仕方なく俺は自身の普段使っていないベットにシャルロットを眠らせて部屋を出た。

シャルロットのことを守るためにまず一番最初にやらなければいけないことがある。

そう考えて俺は一夏の部屋に向った。

一夏の部屋の前に着きドアを叩く。

眠ってないと良いんだが…そう考える暇もなくすぐさまドアが開いた。

 

「奏か、どうした?っていうかシャルルがそっちに向かってなかったけ?」

「一夏、それについてだが話がある。」

「うん?なんだ。」

「部屋で話をしても良いか。」

「ああ、解った。」

 

そう言って一夏は俺を部屋に入れた。

恐らく俺の真面目な雰囲気を感じ取ってくれたのだろうすぐに話を聞いてきた。

 

「話ってシャルルについてか。」

「ああ、同時にお前に協力してもらいたい事でもある。」

「どういうことだ?」

「…これを聞いたらお前もこの問題に巻き込まれる、知らなかったってことには出来ない。そして理由を説明してからの協力ってのは無理だ。先に協力できるか出来ないか答えてくれ。」

「……理由を聞いたら、必ず協力しろってことか?」

「そのとおりだ。もちろん断ってくれてもかまわない。正直こんなばかげた条件で協力できないといわれても仕方ないと思っているからな。」

「…奏、お前に俺どれだけ助けられてると思う?」

「覚えてない。」

「とりあえず確実に俺がお前を助けた数よりは多い。だから気にせずに頼ってくれよ。俺はお前のことを親友だと思ってるんだぞ。」

「……そうか、解った。」

 

こういうとき本当にこいつは頼りになるよ。

俺は少し笑いながら一夏に説明を始める。

 

「まずはシャルルと僕は昔からの知り合いだ。」

「え?そうだったのか。」

「ああ、昔あいつの母親と一緒に短い間だが生活していた事もある。」

「そうだったのか……あれ?でもシャルルはデュノア社のところの…」

「そこら辺の詳しい話はシャルルから聞いてくれ。問題は今あいつはデュノア社に捨て駒にされている。」

「どういう意味だ?」

 

俺が捨て駒という言葉で一夏が顔をしかめる。

 

「あいつは今かなり危険な橋を無理やり渡されていてな、ばれたら退学どころか下手をしたら刑務所送りだ。」

「……本気で言ってるのか?」

「ああ、だがあいつは言ったとおり捨て駒で自身の意思も関係なしにここに送り込まれた。」

「でも男性操縦者ならどこだって守ってくれるんじゃ…」

「男ならな……一夏、あいつの本名はシャルロット・デュノア、女だ。」

 

俺が頭をかきながらそう言うと一夏は首をかしげる。

 

「………え?ごめん、今なんていった。」

「シャルルは偽名であいつは女だ。」

「………はぁぁぁぁぁああああああああああああ!?」

 

一夏が今朝の俺の代わりに叫ぶ。

俺も今朝同じように叫びたかったよ。

一夏は混乱しながら俺に尋ねる。

 

「いや、何で!?って本当に!!」

「ああ、残念ながら本当だ。」

「いや……いや…え?もしかして今までの全部嘘?」

「嘘だったらどれだけいいか……」

 

そう言って俺は頭を抱える。

 

「いや…奏がそこまでなるって事は本当なんだろうけどさ…今どこにいるの?シャル…ロットは。」

「俺の部屋で泣きつかれて寝てる。」

「そ、そうか…なぁもしかして協力して欲しい事って…」

「そうだ、お前にはどうやってもいずればれる未来しか見えなくてな、そこら辺を協力して欲しい。」

「いやいや、いくら俺たちで隠せても学園側が…」

「学園側は解りながらあえて入学させていている事はわかってるし、既に生徒会には一ヶ月の猶予をもらっている。」

「奏……流石に仕事早すぎじゃないか?」

「まぁこれはほとんど偶然だ。だがこっから先は偶然に期待できそうになくてな、俺が全力でいろいろ探ってりしている間あいつの事を守ってやって欲しい、頼む。」

「……解った。でも具体的に何をやれば良いんだ?」

 

具体的にか……どういえばいいのだろうか。

思いついたままに口に出す。

 

「常に俺かお前のどちらかがシャルロットの近くにいてできるだけばれないようにアシストする。今日の俺みたいにな。」

「ああ、だから今日お前何かとシャルルの近くにいたのか…解った、ほかにはどうする。」

「後は寮内の生活でお前とどうしても一緒の時間が増える。あいつも女だからそこら辺を気にしてやってくれ。」

「え、…後はお前の部屋で暮すんじゃないの?」

「勝手に部屋をかえるなんて出来るか。それがばれたらそのままアウトだろうが。」

「………つまりお前が頼みたい事って。」

「簡単に言えば『シャルロットという女の子と一緒にばれないように生活してね』ことだ。」

 

そういうと一夏ため息をつきながらは肩を落とす。

まぁやっと男同士気にせずに部屋で生活できると思ったらこの仕打ちだ。

流石にこたえたのだろう。

 

「すまないな。でもこればっかりはどうしようもないんだ。たまになら俺の部屋に泊めさせてやってもかまわないとは思うがばれた時が怖くてな。」

「そうだ!!千冬姉を味方にすれば!!」

「そのための情報が必要なんだ、いま千冬さんにこれを教えたら千冬さんの迷惑になる。」

「そ、そうか…どれくらいの情報が必要なんだ?」

「具体的に言えばシャルロットの危険性がなくなれば問題なく進められるとは思うが……正直裏がまったく見えない。どれくらい時間がかかるかも不明だ……」

 

そう言って俺は頭を抱える。

一夏に頼んだが正直一ヶ月もの間隠し通すのはほぼ不可能だ。

運よく隠しぬけたとしてもしっかりと対策をしなければそのままアウトだ。

出来るだけ早く解決しなければならないな。

 

「……わかった。俺も努力するからできるだけ早めに頼む。」

「すまないな一夏。ある意味僕のわがままみたいなもんなのにさ。」

「いや、シャルルは俺の友達でもあるんだ、だったら助けるのは当たり前だろ。」

「そうか……ありがとう、今日のところはこれくらいで良いだろう。あと今日くらいはシャルロットはこっちで面倒見る。」

「解った。じゃあお休み。」

「お休み一夏。」

 

そう大きく言ってみたもののどうやって解決したらいいのか。

今回ばかりは敵が大きすぎて見えないな……弱気にならないようにしてもどうしても不安が心に残る。

頭の中で今後どうするか考えながら一夏の部屋のドアを開けようとすると一夏に呼び止められる。

 

「奏!!……」

「どうした?」

「……がんばれよ。俺には応援しかできそうに無いけど…」

「ありがとよ、おかげで負ける気がしないわ、親友。」

 

そう言って手を振りながら部屋を出る。

さて、一夏まで巻き込んだんだ、弱気になるのも、もう手段を選ぶ余裕も無いな。

覚悟を決めろ、俺の今の目的はシャルロットを救うことだ。

そう考え俺は自身の財布の中にある一番古い名刺を引っ張り出した。

 

 

 

 

自身の部屋に戻り電話をかける準備をする。

一応シャルロットのほうを見ると寝かしつけたままの姿勢で静かに寝息を立てていた。

恐らく今までかなり緊張していて、それが先ほど泣いたおかげで緊張の糸がきれて安心した…そんなところだろう。

起こさないようにキッチンの辺りで電話をかける。

昔デュノア社長からもらった名刺。

その名刺に書かれている電話番号。

それを自身の携帯からかける、この名刺に書かれた電話番号のうち恐らく社長の電話番号と思われる番号に電話をする。

つながるか……と考えつながると同時に声を出す

 

「もしもし!?」

『おかけになった電話番号は、ただいま使―――――』

「やっぱりか……」

 

というメッセージが聞こえたためすぐ様に切る。

これで一つ目の連絡先は消滅か……

まぁいい、正直これはつながるとは思っていなかった。

では次はラウラについての情報だ。

俺があいつに話しかけても情報が手に入るとは思わない。

ならば直接ドイツ軍に聞いてやろう。

一応切り札はあるが……分の悪い賭けになりそうだな…

そう考え携帯の『ランベルト』と書かれたところに電話をしようと考えると突然知らない電話番号から電話がかかる。

…タイミング的にデュノア社長だと良いんだがそれは無いだろう……

俺が電話に出るといつか聞いたことのある声が聞こえる。

 

『ハァイ、こんな時間にデュノア社長が元々使ってた電話番号にかけるなんて――』

「……なんであんたが俺に電話して来るんだ?」

『あら?美女からラブコールをされるなんて光栄じゃなくて?』

 

と愉快に話すこの甘い声。

間違いないあの『ドS』だ。

 

『ちょっと、今失礼な事考えなかった?』

「気のせいじゃないでしょうか?というかどなたでしたっけ、あなた?」

『あら、今それはちょっと遅いんじゃないカザネ。』

「……ハァ、あんたとは二度と話したくなかったんだがな……スコールの姉さんよ……」

 

知らない電話番号からかかってきた電話。

それは間違いなくあの亡国機業の『スコール』その人からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、電話してもらったところ悪いんだけど切るわ。」

『ちょっと、待ちなさいよ!!美女の電話を切るってどういうつもりよ!!』

「こっち台詞だ、何で俺の電話番号をあんたが知ってる。」

『愛の前には不可能は無いのよ?』

「怪奇現象だな、お払いに行こう。」

『その結果残るのは赤い糸だけよ?』

「その糸、首に巻きついてるんですね。怖いから切らせてもらいます。」

『相変わらずの減らず口ね、まぁそこが良いんだけど。』

 

楽しそうに会話をしてくるスコール。

なんというかこの女性、口の相性はすこぶるいいのだ。

性格のほうはどうだか知らないが。

とりあえず相手の真意が解らない少し引き出してみよう。

 

「あんた、どSの上にMっけまでであるのかよ、救えないね。」

『それはすべてあなたのせいよ。責任を取りなさい?』

「今すぐ豚箱に入れば治るんじゃない?本題はなんだ。」

『愛の墓場に入るならすぐに治るわよ。本題ねぇ……あなたの声が聞こえたから電話したのよ。』

 

マジで考えなしかよ……

いや、ということは先ほどのデュノア社長の携帯番号をこいつがなぜか盗聴していた……

そういうことか。

 

「盗聴癖はお勧めできないね。」

『仕事ですもの仕方ないわ。』

「はぁ……なんでデュノア社長の盗聴を?」

『う~ん……教えても良いけど…言う事を聞いてくれればね。』

「……なんだ?」

 

こちらが不利になる条件じゃなければいくらでも飲もう。

 

『まずは私の事は【あんた】じゃなくて【スコール】と呼びなさい。』

「了解しました、Ms.スコール。これでいいかい?」

『じゃあ次はね――』

 

ここで追加条件を許したらこちらがどんどん押される。

そう考えすかさず言葉を挟む。

 

「要求一つに対し答えは一つだ。駄目だって言うのならこのまま切る。」

『いけずね……まぁ良いわ【私たちが今探しているものを見つけるため】ね。』

 

探し物……しかも国ではなく企業への盗聴……

もしかしてアレを探しているのか?

だがなぜこいつらがアレを探しているとしたら……

こちらが勝負に出る事はできるな。

 

「探し物ね……じゃあそれは何?」

『そうね……じゃあ次は【愛してる】ってささやいて。』

 

このアマ……とんでもない事言いやがる。

恐らく電話越しで彼女は今ニヤニヤしているだろう。

 

「……別のじゃ駄目?」

『ダ~メ♪』

「ジーザス……『愛してる…』これ良いかい?」

『う~ん……どこかやらされてる感があるけど良しとしましょう。』

「そいつはどうもありがとさん。」

 

当たり前だ無理やり言わされてるようなものなんだからな。

俺はため息を付きながらその答えを待つ。

 

『【VTシステム】……知ってる?』

 

ビンゴ、やはりこいつらの探しているものはそれか。

ラウラのことを思い出しているときに一番最後に思い出したのがそれだ。

それがトーナメントマッチ中に発動して試合はめちゃくちゃになるといったもの。

だがなぜこいつらがそれを?

正直な話そこまですごい性能は秘めていなかったはず。

後に出てくる銀の福音の方がはるかに性能が良いはずだが……

まさか…

 

『じゃあ次はどうしましょう?』

「篠ノ之束」

『………彼女がどうしたの?』

取引はどこまで行っている(・・・・・・・・・・・・)。もうISを開発してもらっている…のは無理か。そちらが差し出すものでは彼女の興味を引けるものがなさ過ぎる。」

『ふぅん…こけおどしで言ってるわけじゃないのね?どうしてそれが?』

「俺は【VTシステム】がどこにあるか知っている、といったら?」

『………話が見えないわ。』

「あの程度のおもちゃをあ…君たちの組織が求めるとは思えない。ならばなぜそれを求めるか、答えは単純、取引上の条件かなんかじゃないのか?」

『………』

 

緊張しながら返事を待つが反応は無い。

だが否定もしないという事は……攻めてみるか。

 

「沈黙は答えているようなものだぞ?」

『あら?隠す程度の事じゃないもの。ただやっぱりあなた良いわ。最高。身震いしちゃった。』

「………さいですか。」

『じゃあ本格的な取引と行きましょう。あなたがその情報を渡したら私があなたのものになってあげるわ。』

「何で二重に損しなきゃいけないんだよ。渡してもいいが条件が二つ。」

 

というと考えているのか、それとも他の上司と連絡を取っているのか返事は無い。

強気に出てみようかと考え口に出そうとした時、向こう側が爆発した。

 

『損って何よ!!損って!!』

 

そこ!?そこに反応してるのあんた。

ため息をついて話す。

 

「……スイマセン、話進めてよかでしょうか。」

『まず損って発言をあやまりなさいよ。』

「どーも、スイマセンでした!!私が悪うございました!!コレで良い!?」

『仕方ないから許してあげましょう。』

 

そう言って満足げに許してくれた。

もうやだこの人。

すごい疲れる、だが情報を得るためだ……ここは我慢しよう。

 

「はぁ……こっちの要求はデュノア社の内情および社長への直接の連絡先、後は手に入った【VTシステム】のデータを渡してくれ。」

『前者はともかく後者は何で?』

「言う必要がある?無理ならいい、がんばって世界各国の会社や研究機関を探してちょうだい。」

『………良いでしょう、ただ【VTシステム】についてはどのくらいのデータが欲しいの?』

「開発場所から責任者まで一切すべてだ。」

『…欲を張りすぎじゃない?』

「じゃあ篠ノ之博士の機嫌を損ねるかい。どうやって彼女の機嫌を取り戻すかは解らないけど。」

『……わかったわ、それで条件を飲むわ。』

 

そう言って彼女は条件を飲んだ。

別に俺の取引相手はこいつらじゃないんだ。いくらでも情報はくれてやる。

まぁあんまり話し合いたい相手でも無いけどな……

そう言って俺はドイツの部隊の内一つ『シュヴァルツェ・ハーゼ』の整備付近を洗うように情報を渡す。

 

『なるほどね…ドイツ軍か…本当だったら一週間くらいで返事をしてあげる。』

「それを過ぎたら失敗したって事?」

『いいえ?あなたの情報が嘘だったってだけよ。』

「そうですか、まぁこれで取引は終了だ。アドレスはさっき言ったところに頼む。」

『解ったわ、じゃあまた一週間後に、バァイ。』

 

そう言ってスコールは楽しそうに電話を切る。

ただで情報を渡したような感じだが既にこちらは『亡国機業が篠ノ之束とコンタクトを取っている』という情報は手に入れたんだ。コレは使い様によってはIS学園とのお偉いさんとも交渉が出来る可能性もある。

ならば後もらえる情報はほとんどおまけのようなもの。

こちらからも電話を切り同時に録音も切った(・・・・・・・・・)

さ~てこっからさらに忙しくなるな…

そう考えながら俺はシャルロットの隣のベットで眠りに付いた。

なお翌朝シャルロットを起こしたときに凄まじく混乱していたがそれはなぜだかは解らない事にした。

 

 

 

 

 

 

命と引き換えに金を欲しがるのは強盗であるが、女はその両方とも欲しがる。

                                    ~バトラー~




ということでまさかのスコールさん登場です。
ここからちょくちょく出てくると思います。
ということで読んでいただいてありがとうございますwww


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第三十九話 軍人交渉

俺がスコールからの電話を受けたあと1週間後の夜。

予定上は今日には向こう側からの連絡があるはずでそれを待っていた。

まぁ仮にこのまま放置されたとしてもほとんど問題は無い。

ドイツ側、いや『ランベルト』と交渉する時の手札として既に

『VTシステム』と『亡国企業がそれを狙っておりデータはほぼ抜かれている』

という事態を伝える事ができる。

前者はほぼ見せ札だ、俺がそれを知っているぞ?といった脅しといってもいい。

しかし最終的にはどのような事態になっても両方の情報は知らせる。

そこを見抜かれなければ良いんだが…と考えながら連絡を待った。

 

しかしたった一週間でもかなり疲れた。

一夏が協力者になった事はすぐさまシャルロットは納得してくれた。

だが問題はシャルロットは確かに話し方や身の振るい方は上品な男性のそれに近いが、考え方にいたっては女性と何等変らない。

そのたびに俺が茶化したり庇ったりしていると……俺のホモ疑惑が広まり始めた。

広まっているのはごく一部というかそっちっけの趣味の人だけではあるのだが…いい気はしないな。一夏もホモ疑惑をかけられていたときはこんな気持ちだったのか…ネタとしても控えるようにしよう。

 

だがこれでわかったこともある。

『デュノア社は本気でシャルロットをスパイとして送り込んだわけではない』

送り込んできた男装したこいつがこの程度ならすぐにばれる事は十分承知できるはずだ。

しかも時間稼ぎとして送り込んだとしても、その情報を世界に発信してすら居ない。

世間一般ではいまだに男性操縦者は俺と一夏の二人のみ、シャルルの存在はいまだに公表されていないのだ。

これはデュノア社が『男性操縦者のデータを持っていないから』と言った可能性もある。…がだとしたら一刻も早くシャルロットから情報が欲しいはずだ。

だが『シャルロットが情報を送るのは一ヶ月に一度』と決められているらしい。

これではシャルルの存在が時間稼ぎにもならない。

しかも仮にデュノア社長がシャルロットのことが邪魔で仕方なくこちらに送ったとしたら。

ならば男性としておくる意味が無い。

公表するならまだしも公表する気が無いなら始めから女性として送り込めば良い。

ここまで来ると『どこか』おかしいではなく『すべて』おかしい。

それについて楯無からの情報はほとんど無い、不気味なほどに外部からの介入が出来ないのだ。

もし探るとしたら本格的にことを構える覚悟が居るらしく割に合わないらしい。

さてこうなってくると本格的にスコールの情報が欲しくなってくるが…

 

と考えていると携帯に連絡がある。

見ると膨大なデータと共に見知らぬアドレスの相手からの連絡がある。

さて、では開いてみるか…と思いデータを開けると目に付いたのは三つ

 

・デュノア

・VT

・ラブコール

 

………一つ目と二つ目は良いだろう、ありがたい。

これで彼女が契約を守る人間だという事もわかった、だが最後のこれはなんだ?

俺は二つのデータを開けるより前にラブコールを開いた。

中には音声が録音されておりますます嫌な予感がしてくる。

恐る恐るだが俺はそのファイルを開く。

 

『ハ~イ、私のカザネ。一週間ぶりね。おかげで私の欲しいものは何とかなったみたい。ありがと。今度はこちらから会いにいくわ、最後に私に勝った御褒美を上げましょう。私からのあなたへのご褒美は……VTシステムは無くなるわ、あと福音に気を付けなさい。それだけよ。じゃあね、バァイ。』

 

そう言って音声データは途絶えた。

下手なメリーさんの電話よりも恐怖である。

VTシステムは無くなる……これは恐らく破壊工作を進めるといったところか?

そして最後の福音………おそらく銀の福音のことだろう。

なるほどこの時点で既に亡国機業は銀の福音のデータを持っていると同時に抹消させるために動いていたのか……ある意味この音声データも使えるな。

だが…これを誰かに聞かせるのはいやだな。なんというか…関係を疑われそうで身震いがする。

そしてその後デュノア社内部についてとVTシステムに関連するデータを見る。

デュノア社内部については以下の事がわかった。

 

・社内は現在大きく荒れており開発どころの状況ではない。

・早急に第三世代ISを開発しなければ援助の打ち切りとISの開発権の剥奪が決定している。

・現在、経営責任として社長おろしが進んでいる。

・社長が現在会社の6割を上層部に奪われている。

・そのうち3割が反社長派であり残りの3割は風見鶏である。

・現在風向きは完全に反社長派であり風見鶏の大半はこちらについている。

・社長が現在社内のコントロールを取り戻すのはほぼ不可能である。

 

……こりゃもう一度シャルロットに詳しく話を聞かないとな。

だが大体向こう側の状況との交渉の糸口はみえたな。

一方VTシステム関連だが眺めるだけで正直胸糞が悪くなった。

 

・研究は現在も持続中。

・VTシステムに関しては現在パイロットに知らせずに複数のISに搭載されている。

・有事時の対処として発動した場合パイロットの死亡まで解除は原則できない。

・トカゲの尻尾きりの準備は出来ている。

・軍内部でも秘密裏に動いている。

 

大まかに分けて言うとここら辺が交渉に使えるだろう。

胸糞悪くなる原因、それはここでのラウラの記載のされ方だ。

基本的な書き方で『廃品』『モルモット』と言った書かれ方。

ただの資料でここまでなのだ、実際はどんな扱いをされていたというのか…

そして彼女に関してのみVTシステムの発動設定が甘めなのである。

いわば発動してもそれほど強いわけでもないが解除は出来ず、ラウラの死後VTシステムを搭載したのはラウラの独断であるとされるのだ。

仮にも彼女は部隊長のはずだ、それがなぜここまでの扱いをされなければならない。

それを含めて聞かなければいけないことが増えたな。

同時に書類でのこの書き方、恐らく軍部の一部の独断だろう。

でなければもう少しまともな書類になるはずだ。

そう考え俺はようやくランベルトへと電話をかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰だ、この電話番号は知らない相手には教えてないのだがね。』

「スイマセン、僕です、風音奏ですよ。お久しぶりですランベルトさん。」

 

電話に出たときの彼ははじめ不機嫌そうに俺に声をかけるが相手が俺だとわかるとかなり声が柔らかくなる。

 

『ああ、君か。こんな時間にどうしたというんだね。』

「早急にあなたに知らせなくてはいけない事がありまして……いま話しても大丈夫ですか?」

『……わが国の代表候補生についてならすまんが私の管轄外だぞ?』

国そのものに被害をあたえかねない(・・・・・・・・・・・・・・・・)情報です。」

『どのような情報かね、それをどこで?』

「…それを含めてお話したいのですが大丈夫でしょうか?」

 

ランベルトは少しばかりの時間黙った後に電話を切った。

これで折り返すように電話が来れば良いんだが……

そうしていると俺の携帯にまた着信がある。

急いででると電話の相手はランベルトだった。

 

『今の状態なら傍受はされない、話してみろ。』

「では…ドイツでVTシステムの研究をしている情報を手に入れました。」

『……今自分が何を言っているのかわかっているのか?』

「…ここ一週間以内にドイツ軍がハッキングを受けた事は?」

『ない…と言いたいが私にははっきりといえない。』

「篠ノ之束がVTシステム、それを邪魔に思っています。」

『……次は篠ノ之博士がでた来たか…情報はどこから?』

「……亡国機業。」

『……なぜそれと君がパイプを持っているのかね?』

「向こうから連絡を取ってきて一方的に伝えられました。僕では判断がつかない上に本当だったらドイツが危ないと思い電話を。」

 

とりあえず伝えたい事はすべて伝えた。

後は彼が信じてくれるかどうかだ。

 

『……証拠はあるのかね?』

「あちらから渡されたデータを今僕は持っています(・・・・・・・・・・・・・)。ここまでいえば信じてもらえますか?」

『……データをこちらにもらえるか。』

「はい、良いですよ。」

『……要求はなんだね?』

「…強いて言うならラウラ・ボーデヴィッヒの情報をいただきたい。でもいただけなくてもデータは渡しますよ。」

『それはどういう意味かね?』

 

疑いが声に乗るランベルト。

まあ普通ここは強気で押すところだろうがあいにくもう目的はほとんど達成しているんだ。

俺の目的、それは彼女からVTシステムを切り離すこと。

それさえ出来ればラウラ・ボーデヴィッヒの情報などほとんど要らない。

 

「単純に恩返しですかね。あなた方のおかげで今僕がここにいれるっていっても過言じゃないんで。」

『……交渉で信頼や恩という言葉は意味が無いぞ?』

「僕は始めからあなたに情報を渡すために電話をしただけですし、交渉なんてする気は無いですよ。それに僕はこのデータをもらっただけで本物かどうかの判断つきませんし。あ、ただラウラ・ボーデヴィッヒの情報が欲しいのは本当ですね。」

 

そう軽い口調で話す。

実際はこの俺が教えた場所から盗まれたもので、さらに俺の記憶からVTシステムの開発は決定している、いわば始めからこれは本物だとわかっている状態なのだ。

さてこれでこの言葉を信用してもらえれば良いだが。

 

『……ブリュンヒルデに伝えろ【カザネソウにはボーデヴィッヒに関するすべての情報を伝えても良いとな】彼女が持ちえる情報なら君に伝えても良い。なんなら私から電話しておこう。』

「ありがとうございます、では情報を今から送ってその後は削除します。データはどう送れば?」

『メモはあるかね?今から言うところにおくってもらえれば大丈夫だ。あとこの話は内密に。話したら身の安全は保障できんぞ?』

「解りました。では。」

 

そう言って電話を切り言われた住所にメモリーカードを送る。

この時代にアナログか……データ上のやり取りよりは安心できるのかな?後は向こうが動いてくれるのを待つだけだ。

 

さてそろそろラウラについては終わらせたいところだが……

そうなると次の相手はIS学園と、史上最強の女か…気が重くなる。

しかしこんな体になってまで交渉のまがいごとをやらされるとはな。

現実世界でも……あれ?現実世界でこういうことをしていたのだろうか?俺は。

いや、普通の一般市民がこんな事を…こちらに来たときに身についた才能か何かか?

それとも俺の生まれ持っての才能なんだろうか?

まぁ今は使えるものは何でも使わないと。そう考え俺は次の話し合いの準備をした後に眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺が朝食を食べていると一夏とシャルロットが近くに来た。

一夏とシャルロット、両方とも目にクマを作っている。一体何があったというんだ?

 

「おはよう、二人ともお疲れみたいだがどうした?」

「……奏、一晩だけで良いから俺を一人にしてくれないか?」

「…昨日何があった?」

 

そういうとシャルロットが頬をかきながら俺の耳元で話す。

 

「え~っとね…一夏が三人に嫉妬されて……昨日なかなか自身の部屋に帰ってくれなくてね…」

「了解、把握した。」

 

簡単な話である。

俺がホモ疑惑をかけられるのと同じくらい一夏もそれを疑われているのだ。

その程度ならいいのだろうがあの三人が嫉妬しているのか……

頭の中で解っていても感情は別と言った感じか…まぁわからないでも無い。

 

「よし、じゃあ今日はデュノアはこっちに泊まれ。」

「本当か!?良いのかよ奏!!」

「え!?…わ、わかった!!」

 

お前の期待する様な展開は無いぞ、シャルロット。

まぁ、今日うまくいけば千冬さんの協力は得られるしな。

 

「ちょっくら覚悟を決めたからな。」

「え?何の?」

「後で話す。デュノア今日放課後に少し付き合ってもらって良いか?」

「うん、頼んだよ、ソウ。」

 

さてこれで逃げ道はなくなった。

後は突っ込ませてもらいましょうか。

覚悟を決め気合を入れていると一夏が何か首をかしげている。

どうしたんだ?一体。

 

「どうした?一夏。」

「いや、なんか奏がデュノアって呼んでるの聞いて違和感があってさ。」

「…ソウは僕のことは名前で呼ばないよね。」

「………気をつけないとそのまま名前を言っちゃいそうでね。」

「「あ~…」」

 

と納得する二人。

なんというかシャルルと呼ぶときにいまだにシャルロットと呼びそうになるのだ。

慣れればいい話なのだろうがそれならデュノアと呼んだほうがどちらにしても問題は無いはず。

その時一夏がふと提案をする。

 

「じゃあ呼び方を変えるか?」

「うん?どういう意味だ。」

「いや、単純にシャルル、じゃなくてシャルなら問題無いいんじゃないか?」

「あ、それ良いかも、…シャル。どうよ、こんな感じで。」

「う、うん!!それで良いよ!!」

 

とうれしそうにするシャルロット。

その後一夏とこそこそ何か話しているな。シャルロット、そいつに何を吹き込まれているんだ?

とくだらない事を考えながらふと一夏に話しかける。

 

「そういや最近ボーデヴィッヒさんはどうよ?」

「一切こっちに絡んでこないな。多分千冬姉から注意されたんだろうよ。」

 

それなら良いんだが…なんと言うか嫌な予感しかしないな。

彼女に関してはかなり難しい。

まず俺の持っている記憶の彼女は大半が一夏と仲良くなった後の彼女なのだ。

使えそうな記憶は『千冬さんを尊敬している』ことと『VTシステム』。

このくらいだ。

いわば彼女自身についての情報はほとんどわからないと言ってもいい。

だが俺はあの子の笑顔だけはしっかりと覚えている。

今は何も信じられずすべてを拒絶しているあいつがあそこまで笑える未来があるんだ。

それならば全力であがいて手に入れる価値は十二分にある。

飯をかきこみ授業の準備をする。

今日の本番は放課後だが途中の授業も気が抜けないのだ。

……俺はテストは大丈夫なのだろうか……ちょっとだけ心配になるのだった。

 

 

 

 

 

自分が行動したことすべては取るに足らないことかもしれない。

しかし、行動したというそのことが重要なのである。

                             ~マハトマ・ガンディー~




ということで次回VS『IS学園』ですね
なんでIS書いてて内政物みたいなことしてるんでしょ?
作者にも不明ですwww


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第四十話 化かし合い

放課後、俺はシャルロットと共に理事長室へと案内された。

はじめは千冬さん相手に

『話したいことがある、この学園にとってもかなり危険な事なので出来れば直接上の立場の人に言いたい』

といったところ、ここに連れて来れれたのである。

正直いきなり理事長室に連れてこられるとは思ってもいなかったのだが……

緊張だけは顔に出さないように気を引き締める。

シャルロットが緊張していないか見てみるが予想外にまったく緊張しているようには見えなかった。ただ少しだけだが何か考えているな、これ。

部屋の中には現在千冬さんと山田先生。後は俺とシャルロットのみ。

さて、あとは理事長の到着を待つだけだな。

と思っていると千冬さんが声こちらにをかける。

 

「かなり重大でそれでいて緊急性のある話とはいっていたが……なぜデュノアそこにいる。」

「いやぁ…ちょっとした理由がありまして。」

「……どういうことだ?」

「それは理事長さんが来てからで良いでしょうか?」

「……わかった、しばらく待て。今こちらに向っているはずだ。」

 

そう言って千冬さんは話すのをやめた。

沈黙のまま5分ほど時間が過ぎると清掃のおじさんが入ってきた。

何度か会った事があったな……名前を聞いた事は無かったけど。

先生方の顔を見るとかなり驚いている。

どういうことだ。

 

「おや。君は噂の風音奏くんじゃないか?こんなところで一体どうしたんだい?」

「いや~怒られる様な事をした記憶は無いんですが…連れてこられました。」

「おやそれはひどい事もあるもんだね。」

「本当ですよ。」

 

と言いお互いに『はっはっは』と笑う。

それを見て千冬さんは頭を抱え山田先生は固まっている。

シャルロットは何が起こっているのかもわからずポカーンとしている。

この反応を見るにこの人が俺の話を聞くのか。

 

「さて自己紹介をしてもいいでしょうか?理事長殿(・・・・)?」

「おや、……既にばれていたのかい。」

「いえ?カマかけですよ。」

「おや、それは一本取られたようだ。」

「お、やった先取点はいただきました。」

 

そうやってまたお互いに笑い合う。

このじいさん、笑いながらこちらを観察してるな…

間違ってもマヌケでは無いだろうし恐らくたぬきの部類か。

下手を打ったらひどい目に遭うのはシャルロットなんだ、このたぬきに化かされないように気合を入れねば。

 

「僕の名前は風音奏、こっちのほうは…理事長先生の方がご存知では?」

「おや、自己紹介はなしかね?そいつは残念だ。」

「話の流れによりますかねぇ…さて本題、ここにきたのはちょっと先生のお耳に入れたいこととお願いしたい事がありまして。」

「ふぅ…こんな老いぼれにできることなどたかが知れてるがね。」

「こんな若造を助けると思って、そんな事言わずに。」

「はっはっは。君は乗せるのがうまいようだね。」

「先生がお上手なだけですよ。」

 

こっちに乗りながらも尻尾は見せてこないか。

そんな具合にやっていたところ、とうとう千冬さんからの指導(物理)が俺に入った。

頭への拳骨一発、視界がかなりぶれた。本当にいてぇ……

 

「風音…お前はここに何をしに来たんだ?」

「イエス、マム。今すぐ話します。」

 

俺は真面目な顔をして理事長に話し出す。

 

「先生…今回の話というのは織斑先生の指導の破壊りょ――スイマセン千冬さん!!冗談ですからその手を下ろして!!お願いします!!」

「………次は無いぞ…」

 

マジで恐ろしい顔してるよ、千冬さん。

一方理事長を名乗るこの男性、まったく動じずに笑っている。

さて向こうはどう動くかな?

 

「いや、君は本当に愉快な人だね。」

「お褒めいただきありがとうございます。」

「では私も自己紹介から行かせてもらおうか、私の名前は轡木 十蔵。この学園の理事長をやらせてもらっている者です。」

「あれ?入学式では女性が理事長だったと思ったのですが…」

「アレは私の妻でね、二人で理事長をやらせてもらっているのだよ。…では私の耳に入れたい事とは何かね?」

 

さっきまで笑っていた気のいいおじさんが今じゃかなり貫禄を感じる老紳士に変っていた。

さて……こっからが本番かな。俺は笑顔で話し始める。

 

「えっと、篠ノ之博士に関しての新しい情報を手に入れました。」

「!?なぜお前がそんなことを!!」

「それについての理由は後で話します。大切な事はこの後です、『亡国機業が篠ノ之博士にコンタクトを取りました』。」

「ほぅ……亡国機業がねぇ…だがそれがどうしたと言うのだね?」

 

そういって俺に笑いかける轡木理事長。

このじいさん、あからさまに圧力かけてくるな…

さてこっからが本番だ。

 

「いえ、生徒の一人として心配になって連絡しただけですよ。そんなことになったら恐ろしくて仕方ないですしね。」

「何が怖いと言うのかね?ただ単に取引をしたと言うだけで。」

「その取引内容が無人ISだとしたら?」

 

俺が真面目な顔をしてそう告げる。

シャルロットは聞き覚えの無い話が出てきたが何も言わずに聞いている。

ただ向こうの顔色は微妙にだが変る。

 

「この前の無人ISの襲撃。アレの記憶は新しいと思います。」

「ああ、その危険性も十分承知しているよ。」

「アレがもしかしたら篠ノ之博士のものではないかという事は?」

「一応織斑先生から聞いてあります。たしか…君がそう言っていたんではなかったかな?」

「ええ、ではそれを亡国機業がそれを取引で手に入れた後にばら撒くとしたら?世界各国にいる現状に不満を持つものに渡されるとしたら?もう怖くて怖くて仕方ありませんよ。」

 

誰も反論は無い、どうやら俺の言いたい事を理解してくれたようだ。

口に出してはいないがあの無人ISの危険性は十分先生がたも理解したはずだ。

そして同時に誰だって解るはずだ、アレがどれほど金になる(・・・・・・・・・・・)かということも。

倫理観も無くただ金を求めるのならアレの存在はまさに金の卵を産む雌鳥だ。

仮に売り出されたとしたらとてつもない富を手に入れるだろう。

それだけでない、無人ISと言う事は材料とコアだけあれば大量に生産も可能、裏切る事も無いある意味最強の軍隊も作れる。

無人IS、それは今の世界では確実に公開してはいけない技術なのである。

それに対して注意を発する、この程度の事をするだけでどれだけのリスクが抑えられるか、その程度どんな人間でもわかるだろう。

 

「君の言いたい事は十分わかった。ではこちらのほうで対策をさせてもらおう。」

「それは一安心です、あ、この情報ですが亡国機業の方からコンタクトを取ってきたんですよ。なんというか……スカウトされたといえばいいんでしょうか?電話番号がそのたびに変るのでこちらからはコンタクト取れませんけど。一応証拠としてその部分だけは録音できてますよ?」

「そういうことなんですか、では後でそれをいただきましょう。おっと、それとお願いとはなんだね?それが君にとって本題だろう?」

「簡単です、こいつの事を守るために結構無茶することになるんですけどIS学園側からの許可をいただきたい。」

 

俺がシャルロットへ向き話す。

そういう風に言うと山田先生は首をかしげ、千冬さんは何を言っているのかわからないといった風に顔をしかめる。

ただこの理事長だけはわかっているようで顔を笑わせる。

 

「無茶ですか…しかし彼女についてはすべて生徒会長に一任しているのですよ。」

「既に一ヶ月の猶予はもらってあります。」

 

そう俺が口に出すと理事長は少し驚く。

俺が既に楯無に接触している事に驚いたんだろうか?

話を進めようと考えるとその前に千冬さんが介入してきた。

 

「……理事長、今『彼女』とおっしゃいましたか?」

「ええ、確かにそういいました。」

「……奏、どういうことだ?」

「シャル、自己紹介頼んでいいか。」

「………うん、先生。僕の、いえ、私の本名は『シャルロット・デュノア』。…私は本当は………女です。」

 

そういうと山田先生は完全に固まり動かなくなり、千冬さんは頭を抱え、理事長は楽しそうにしている。

頭を抑えながら千冬さんが話す。

 

「……理事長、あなたはご存知で?」

「もちろんですよ、解っていて入学させました。」

「……奏、お前は何時から気がついていた。」

「会った当初から解ってました。」

 

本気で頭を抱える千冬さん。

なんというか……スイマセン。

 

「今まで言えなくてすいません。ですがこいつを守れる確証も無いまま先生に話すわけにはいかなかったもので。」

「ということは今は確証があるので?」

「いえ、ただ最低限、守る段取り程度は出来ています。」

「そうですか………仮に私が許可できないといったらどうしますか?」

 

と言ってこちらに笑いかける理事長。

俺も真面目な顔をやめて笑顔で返す。

 

「そうですね……泣いて土下座でもするしかないですね…なんなら靴でも磨きましょうか?」

「出来れば肩をもんでくれたほうがうれしいのですが、最近どうも厳しくて。」

「それくらいならお安い御用ですよ。では?」

「ええ、学園側として風音くん、君の行動を許可します。ただあまりにもめちゃくちゃだとかばいようがありませんからね?そこは了承してくださいよ。」

「ハイ解りました、ありがとうございます。では自分はこれで。」

「ええ、お気をつけて。」

 

そう言って部屋を出る。

最後の最後まで食えない爺さんだったな。

これ以上話せばこちらがボロを出しかねない、正直何時ぼろが出るか解らない化かし合いなんてごめんだ。しかし多分この考えも向こうには見抜かれているんだろうな…

そこら辺は気にしても仕方がないか

そう考えながらシャルロットを連れて俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理事長、本当に良かったので?あいつが無茶をするといえばとことんやりますよ?」

 

奏の居なくなった後の理事長室で話し合う三人。

千冬が懸念している事はあの風音が自身から無茶をするといっているのだ。

本当に凄まじい事をやりかねないことを千冬は知っていた。

だが一方理事長は笑顔でこれを返した。

 

「大丈夫ですよ。彼はそこまで人に迷惑をかけるひどい人間では無いでしょう。それに最低限度守る手段とは、最後の砦として私のことを利用する気ですよ彼。」

「どういうことですか?」

 

今まで固まっていた山田先生が話す。

今聴いた限りの内容では奏はただ理事長に頼んでいただけだ。

だが理事長には違ったように見えていた。

 

「いえ、シャルロットさんの前で彼は言わなくてもいいような情報を言い続けた。あそこまでいろいろ知られてしまっては(・・・・・・・・・・・・・・・・・)この学園から追い出すことは難しいですね、仮に彼が失敗して彼女をここに置けない、となったら恐らく彼はそれを利用させて彼女だけはここに居られるようにするつもりでしょう。」

「……そこまで考えてあいつはシャルロットを連れてきたというのですか?」

「さぁ?そこまでは解りませんが結果的にそうなってしまったのは事実ですな。」

「理事長はなぜデュノアを入学させたので?男の振りをして入ってくるなんてどう考えてもスパイなのでは?」

「そうなんですよ、おかしすぎて興味を持ってしまいまして。その謎を風音君が解き明かしてくれる事を期待してるんですよ、私は。」

 

本当に楽しそうに笑う理事長を見て教員二人はため息をつくのであった。

そして真耶はふと思い出したようにはなす。

 

「しかし、あの風音君。なぜあそこまでデュノアさんのことを気にかけるか解りませんね。」

「……そういう奴なんですよ。見知らぬ誰かの身代わりになるような奴です、あいつは。」

 

そう言って頭を抱える千冬。

あいつは既にボーデヴィッヒについても何かやっているはずだ、それと同時にデュノアの事をやるなんて、どこまで背負い込む気なのだろうか。

 

「理事長、デュノアの件ですがいかがいたしますか?」

「そうですね…対応等は今までどおりにしましょう。問題が起きていないという事は恐らく彼の方で何かかしら対応はしているのでしょう。そういえば彼女の部屋は今誰と相部屋になっているのですか?」

「現在は私の弟の織斑一夏と共にしてあります。」

 

もしかして一夏もこの事に関わっているのでは?

と思ったがあいつの場合気がつかない可能性もある。

そう考える千冬。どちらにしても面倒な事に巻き込まれていそうだった。

いや、あの二人なら既に一緒に動いているだろう。

そう考えるとますます頭が痛くなる。

一方理事長の顔を見るといまだに楽しそうに笑っていた。

 

「そうですね……ちょっと提案があるのですがよろしいでしょうか?」

 

そう言っていたずらをするように笑う轡木。

それをみて無茶を言われるのでは?と身構える二人であった。

 

 

 

 

現状維持では 後退するばかりである。

                          ~ウォルト・ディズニー~




ということでVS理事長でした。
こちらの方が押しているように見えるかもしれませんが
結果的には
理事長⇒マイナスなしで情報ゲット。奏の人柄もわかる上に対策を考える時間も手に入れる。
奏⇒ただ許可をもらい向こう側がこっちをどこまで知っているか解らず。情報渡すから見逃せよ?
というほぼ敗北です。
ぶっちゃけどこまでがんばってもこの方々には勝てませんww
ということでこちら考えとして被害を最小限にするために先手を打った感じですね。


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第四十一話 仕返し

理事長室を出てとりあえずその場を離れる。

今日はあと一体どうしようか……考え事をしながら歩く。

箒の訓練は今は出来ない恐らく今は一夏たちと訓練をしているだろう。

その間にも一夏の戦い方を見ておくように箒には言ってある。

一夏は今現在回避等は成長が微妙だがその他のところは普通に成長している。

ならばそれを覚えさせるのも一つの手ではある。

簪のデータ集め……って言っても現在荷電粒子砲のほうが忙しくアリーナにはこれないはずだ。

山嵐に関してもまったくめどが立っていない。

ならばラウラのデータ集め……と言っても今現在あのランベルトの動き次第だ。

最悪試合前までにVTシステムが取れればラウラに危険な橋を渡らせなくて済むし、時間にも余裕が出来る。

となるとデュノア社についてだがこれも今現在頭の中で整理中だ。

なんというかいくら考えてもデュノア社についてわからないことが多すぎる。

目的を考えてみよう。

まずは表向きのシャルロットへの命令。

 

・他の第三世代ISのデータ集めおよび男性操縦者のデータ集め

・情報を送るのは一ヶ月に一度

・男性として振舞う事

 

大まかに言えばこの三つだ。

この情報だけ見れば矛盾は無い。

だがデュノア社には時間が無いはずなのだ、それをふまえてみるとどう考えてもおかしい。

さらにこの程度の振る舞いで完全に男だとだませると思っているのか?

だとしたらよほどデュノア社はマヌケの集まりだと見える。

そう考えていると服が引っ張られる。

 

「うん?どうした。」

「……ソウ、ありがとうね。ここまで私のためにやってくれて。」

「突然どうした?」

「ううん、私のためにこの一週間いろいろがんばってたんでしょ?いざとなったら私の正体をみんなにばらしてもいいよ。そうすれば多分ソウは大丈夫だと思うから…」

「どういうことだ?」

 

シャルロットはうつむきながら話そうとする。

俺の不安が伝わったか?しまったな、表面上はいつもどおりのつもりだったんだが。

だがここで話し続けるのはまずいな……

 

「良し、シャル。一旦俺の部屋にいこう、そこで話そう。」

「……うん。」

 

突然ここまで暗くなっていったいどうしたんだ?

シャルロットを先導するように歩くとこいつは後ろを歩くようについてくる。

出来れば隣で歩いて欲しいんだが、これだと俺がお前に怒ってお前が落ち込んでるみたいじゃないか。まぁ途中人とすれ違うことはなかったからいいんだが。

とりあえず俺たちは俺の部屋へと向った。

 

 

 

 

 

 

 

部屋についてもシャルロットはなぜか落ち込んだままだ。

さて、とりあえずお茶でも出すか。

俺はシャルロットを椅子に座らせた後話しかける

 

「シャル、紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「…紅茶でおねがい。」

「あいよ。入れるのうまくないけどかんべんな。」

 

俺はあえていつものように話す。

向こうが落ち込んでいるからといってこっちまで暗くなっても仕方が無い。

そう考え俺はお茶と適当なクッキーを持ってシャルロットの所に向う。

 

「ほれ、適当に菓子も持ってきたからたべよ。」

「……うん。」

 

なんというか…今のシャルロットはどっか見覚えがあるぞ。

…ああ、あの指切りをしたときだ。

あの時もこいつこんな感じで何にも言わないで黙ってうつむいてたよな。

そう考えるとこいつ何にも変ってないな……

懐かしくて笑いがでてしまう。

それを聞いてシャルロットが不思議そうに顔を上げる。

 

「ソウ?……どうしたの?」

「いや、すまん。なんか懐かしくてさ。」

「…なにが?」

「今のシャルが。お前を見てたら指切りしてた時のお前を思い出して変らないなぁって。」

「どういうこと?」

「あの時のお前も黙ってうつむいて何も言わなくなってたじゃないか。今も同じ風だったからさ、やっぱり人間変わらないところは変らないんだなぁ、って。」

 

そうくすくす笑いながら話すと、しばらく不思議そうにしていたシャルロットはクスッと笑った。

 

「よく覚えてるね、私そこまでは覚えてないよ。」

「あの時のお前も何言ってもうつむいたままで何とかしようとこっちは焦ってたからな。」

 

と俺はしみじみ語るように、そしてそのまま続けざまに話す。

 

「それにあの一週間は俺の記憶にあるはじめて人間じみた生活を送った時間だったからね、忘れようが無いさ。」

「……ソウは何であの時私の家を出て行ったの?」

 

少し黙った後シャルロットはぼそぼそと聞き始める。

多分俺が記憶が無いって知った時に一番はじめに聞きたいことだったんだろうな、これ。

これは……正直に話すか。

 

「あの町にさ、なんというか若い犯罪グループみたいなのあったの知ってる?」

「うん、お母さんも心配してたから…」

「あの町にはじめてきたときにちょっと一悶着あってね、俺さ狙われてたんだよね。」

「……でも警察とか…」

「そしたら俺のことがばれて連れて行かれちまう、それにやっぱり俺のせいでシャルロットの家をめちゃくちゃにしてしまうって考えてらさ……怖くなったんだよ。」

「…どうして?」

「初めて俺が人間らしく扱ってもらえた場所が無くなるのがさ怖くて、何よりも俺のせいでお前やお前のお母さんが傷つけられる、その原因が自分にあるって考えたらもっと怖くなって…最終的に離れる事にした。必ずまた合いに行くって決めてさ。」

 

そういうとシャルロットはまたクスッと笑った。

 

「ソウも変らないね…なんというかいつも人の事ばかりで、一夏もそう言ってたし……それにお母さん心配してたよ、ソウのこと。」

「そうか…心配かけちまってたか…」

「うん…でもソウが居なくなった後もよく話に上がってたな…ソウのこと。」

「なんて?」

「…ヒミツ。」

 

そう言って顔をちょっと朱に染めながらくすくす笑うシャルロット。

ちょっとは調子が戻ってきたか…

 

「シャルロット…お前を守るっていうのは俺が勝手に決めて勝手にやってるだけだ。だからお前が悪いとかそういったのは一切考えなくていい。」

「ッ!!……でも私のせいでソウすごく大変そうだし…」

「そんなこと無いって。第一そんな事言ったらこの学園来てからずっとだぜ?一夏の面倒見ながら喧嘩の仲裁入ったり、クラスのまとめもほとんど俺だぜ?一応クラス委員長は一夏なのに。」

「…一夏も言ってたよ、ソウはずっとそうやってきたって。だから今回も大丈夫だって。」

 

一夏の奴…他になに言ったんだ?

変なこと言ってなきゃ良いんだが……

 

「他になんていってた?」

「自分を助けるために無茶した時のことや…この学校に来てからセシリアに馬鹿にされながらも仲良くなるためにいろいろしたり、乱入者が現れた時もいち早く気づいて観客の事を守ることを第一に考えたりしてたって聞いた。」

「……他には?」

「…誰にも言うなって言われたけど簪って子のIS開発を秘密裏に手伝ってるとも聞いた。」

 

あいつ、勝手に話しやがったな……軽く注意だけはしておこう。

その後にシャルロットは顔をまた伏せ小さな声で話す。

 

「ねぇ……私を助けたのもそれと一緒?」

「……ちょっと違う。」

「…どういうこと?」

「そのときはどちらかといったら『誰かのため』に…って考えながら助けた、一夏のため、セシリアのためって感じにな…シャルロット、お前の場合は俺がどうしても助けたいから『俺自身のため』にお前を助けた。」

 

そう言って笑顔を向けてシャルロットの頭を撫でる。

 

「だからさ、そんなに暗い顔するなよ。俺の調子が狂っちまう。」

「…うん、わかった。」

 

そう言ってうつむいたまま小さい声だが確かにしっかりと返事をするシャルロット。

よし、と思いながら話を変える。

 

「しかし一夏、話すなと言ったことを平然と話しやがって…後でいろいろいじってやろう。」

「あはは、でも許してあげてくれないかな?私に自分を信用させるためにこっちの秘密をいくつか言うって言ってそれのせいだから。」

「そうなのか…仕方ない、いじるだけで済ましてやろう。」

「…変ってないよ、それ。」

 

そう言うシャルロットの顔は少しは明るくなった。

 

「それもそうか。でもシャル、お前思ったよりも一夏と仲良くなるのが早くてよかった。…お前今日の朝間何話してたんだ?」

「え?な、何のこと?」

「いや……まぁいいか。」

 

隠しきれてないがここで聞いても答えないだろう。

そう考え俺が追求するのをやめるとシャルロットは安心し、ため息をつく。

だが甘いな、シャルロット。答えないなら一夏の(聞きやすい)方に聞けばいいだけだ。

そう考えた後に話を変える。そろそろシャルロットからもデュノア社について聞かなければ。

先ほど言っていた『自身のことをばらしても俺は無事ですむ』の意味も聞きたい。

しかしこの状態のこいつから聞くのは少しばかり…いや、かなり気が引ける。

さてどうしたものか……そういえば今朝一夏からの頼みでこいつを部屋に泊めるんだったな。

今ようやく思い出した、ならばこれで行くか。

 

「シャルロット、今日お前は俺の部屋に泊まる事になっているよな?」

「え!?…う、うん!!」

「だったら晩飯ここで食わないか?なんか作るからさ。」

「え?ここで?」

「そう、ここで。」

「うん!!そうしよう!!」

 

と元気になりこちらに顔を近づけるシャルロット、扱いやすくてありがたい。

さてこうなれば適当な材料で飯を作ろう。

しかしいまさらだがここの寮のキッチンの設備はすごいな…

これが使いたい放題でさらに全室にあるとは……それだけIS操縦者が優遇されているということなのだろう。料理を作る側としてはありがたいことである。

さてその前にだな……

 

「じゃあシャルロット、一旦自身の部屋から必要なものとって来い。一々取りに行ってたら一夏も落ち着かないだろう。」

「わ、わかった、すぐ戻ってくるから。」

「急がなくていいから一々取りに戻らなくてもいいようにしろよ。」

 

そう言って部屋を出ようとするシャルロットを笑顔で見送る。

その後結局走るように去るシャルロットを見送った後俺は料理の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットが部屋を出てから約20分後。

ゆっくりでいいとは言ったが、いくらなんでも遅すぎじゃないか?

そう考え迎えにいってみるかと考えた時に部屋のドアを叩く音がした。

 

<―ココンッ―>

 

シャルロット…いや、このドアを叩く音…

さらに人の気配が最低でも二人居る……

誰かわからないが…いや、このノックの仕方はまさか…

 

「織斑先生ですか?」

「……そうだ、開けろ風音。」

 

やはりそうだった。

ドアに向かい部屋を開けると千冬さんとシャルロットがそこに居た。

 

「あら、お二人でどうしたんですか?」

「少し前に丁度デュノアと会ってな、丁度いいから一緒に行動していただけだ。」

 

そう言いながら千冬さんの顔はわかる人にしかわからないが少し楽しそうだ…

そしてなぜか俯き気味のシャルロット…

なんか急激に嫌な予感がしてきたのだが…

というかシャルロット、お前荷物多すぎじゃない?

………まさか!?

 

「先生、少し聞いてもいいでしょうか?」

「その前に伝えておく事がある。風音、今日からお前はデュノアと同室だ。」

 

……いや待て、それはおかしいぞ?

 

「先生、僕は国際会議上、誰とも同室になれないはずでは!?」

「ああ、そのとおりだ。」

「だったら―「だがデュノアはお前のことを国に密告する事は出来ない上に、他の人物との交流も無い。それともデュノアが今になってお前を裏切ると?」……」

 

そういうとこちらを上目遣いでみるシャルロット。

見えない事にしよう。

しかし…畜生、そう来るか!!

 

「ですがルールはルールでしょう。俺に同室の人物が居ると知れた―「そこは楯無の奴が協力していてな、外部からほぼばれることは無い。内部だろうとばれて困る相手やお前が言い訳できない奴が近くにいるのか?」……」

 

……たっちゃん生徒会長、あんた優秀すぎやしませんか?

だがまだだ、まだ諦めん!!

 

「ですが書類じょ―「そこはいまだにデュノアは織斑と同室とされており問題は無い。私も許可したしこれは理事長が指示されたことでもある。」……」

「え~っと…理事長が?」

「そうだ、『私との会話すら利用するのはいい発想ですが、その仕返しを想定していない訳ではありませんな?』これが理事長からの伝言だ。」

 

あのたぬき親父、やりやがった!!

確かに利用したかって言われればそのとおりだが、こういう仕返しは想定していなかった…

もっとこう、『自身の計画の手伝いしろ』とか『生徒会に入れ』とか『お前のデータを取らせろ』とかそういうのだと思ってそれの対策は考えていたが……

その時、頭に思い浮かんだのは楽しそうに高笑いをする楯無と轡木理事長の姿だった。

反論のしようが無く、がっくりと肩を落とす俺を見て千冬さんは満足げだ。

 

「どうだ?まだ何か言いたい事はあるか?」

「……いいえ…ありません…」

「そういうことだデュノア。書類上、貴様はまだ織斑と同室だがこれからは風音の部屋で生活してもらう、いいな。」

「ハイ!!」

 

二人とも楽しそうですね…

 

「シャルこれからよろしく……織斑先生話があるんですけどいいですか?」

「うん、よろしくソウ。」

「…何の話だ?」

「ボーデヴィッヒさんについてです。」

「…部屋に入るぞ。」

「了解しました。」

 

そう言って千冬さんとシャルロットを部屋に入れる。

千冬さんは椅子にシャルロットは奥の普段使っていないベットに座る。

さてどこから話したものか……

千冬さんに話せる事は今の所『ランベルトからいずれ連絡が入る』と言った程度だ。

あともう一つ伝えておきたいのは俺とシャルロットの関係だ。

誤解されたままでは困る。

 

「さて、織斑先生。ボーデヴィッヒさんについてですがもう少ししたら恐らくランベルトさんから連絡があると思います。」

「ランベルト?………ドイツ軍の外務担当者か。」

「ええ、多分後一週間以内に連絡があると思います。それからでいいのでボーデヴィッヒさんについての情報もらってもいいでしょうか?」

「……奏、どうやって許可を得た。」

「頼み込みました。何回も本気で頼めばわかってくれるものなんですね。」

 

俺が笑顔でそういうと千冬さんはじっと俺をにらむ。

 

「……それで通せると思うか?」

「…駄目でしょうか?」

 

にが笑いをしながら言う、一方千冬さんはにらんだままだ。

もし千冬さんに理由を説明するなら『VTシステム』についても言わなければいけない。

この情報を渡しても千冬さんは動けない。そしてその情報を知ればかなり彼女は悩むだろう。

ならば最初から知らなかったとした方がいいだろう。

 

「スイマセンが話せないんですよ、ご勘弁を。」

「……いいだろう、だが後でしっかり説明してもらうぞ。」

「そこは了解しました。後先生、僕とシャルロットの関係聞きました?」

「いや聞いていない。なんだ、またお前が勝手に助けに動いただけじゃないのか。」

 

そう言って少しだけ驚く千冬さん。

あはは…と笑いながら頬をかく。

 

「いやぁ…ホームレス時代に助けてもらった恩人なんですよ。」

「……本当か、デュノア?」

 

そう言ってシャルロットに顔を向ける千冬さん。

シャルロットのほうは俺と同じように少し困ったように笑いながら話す。

 

「そう言っても一週間だけ一緒に暮しただけですけどね。」

「………この際だからお前がこの学園に来た理由を聞いてもいいか?」

 

そう言って千冬さんはシャルロットに鋭い目を向ける。

恐らく始めから聞くつもりだったんだろう。

しかし俺に一度話したとはいえ、話しづらいことには違いあるまい。

気になってシャルロットを見ると彼女はこっちを見ていた。

 

「……俺から話すか?」

「ううん、自分で話すよ。」

 

そう言ってシャルロットは自身の身の上を話し始めたのであった。

 

 

 

 

人生では無理はいつかほころびてしまうものだ。

                                  ~中村真一郎~



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第四十二話 突破口

シャルロットの話を千冬さんは目をつぶりながら黙って聞いた。

自身がどう生きてきたか、デュノア社での生活、そしてなぜこのIS学園に来たのか。

すべてを千冬さんから目を逸らさずに話していた。

ちなみにその間俺は晩飯を作っていた。

いや、一緒になって聞いてもいいんだがそれじゃあシャルロットが自分で話せないと心配している過保護な奴みたいに思え、何よりあいつを信頼していないような気がしてしまった。

よって俺は千冬さんとシャルロットにお茶を出した後一人台所で飯をつっくっていた。

しばらく料理に集中していると向こうでシャルロットがすべてを話し終えたようだった。

しばらく俺の料理を作る音のみが部屋に響いていた。

 

「奏、こっちに来い。」

「うっす。今行きます。」

 

千冬さんに呼ばれ俺も話に再び参加する。

料理をやめ自身のベットに座る。

 

「……奏、単刀直入に聴こう。お前はこの話をどこまで信じた。」

「っ!!…」

 

千冬さんは俺にそう指摘する。

シャルロットは自身でもわかっていたのだろう。

指摘された後も少しびくっとしただけで何も言わない。

まぁ言いたい事がわからないでも無い。

俺が男性のISパイロットになり

偶然にもデュノア社長の娘のシャルロットが俺の知り合いで

偶然にもデュノア社のテストパイロットにシャルロットが居て

偶然にもデュノア社の経営危機のせいで捨て駒にされた

偶然にも厳しい監視がシャルロットについてすら居ない。

そこまで偶然がそろうなら、最早必然的に狙ってやったと言ったほうが説得力がまだある。

だが俺は笑顔で千冬さんに答える。

 

「余すとこなく全部ですね。」

「私の言いたい事を解って、そう言っているんだな?」

「ええ、シャルロットが嘘を言っている可能性があることが解らないわけじゃありません。」

「それでもか?」

「はい。もちろんですよ。」

 

そういうとシャルロットはホッとしたような顔をしている。

安心しろ、千冬さんも本気で疑ってるわけじゃない…たぶん。

 

「……理由は?」

「強いて言うなら僕の勘と……女の涙ですかね?」

「まったく当てにならないな。」

「そんなぁ…」

 

とがっくりしてみせる。

その後顔を上げ笑顔で話し始める。

 

「まぁ正確に言いますと、シャルロットの言っている事は全部本当。と思っています。」

「……まだ解っていないことがあるとでも?」

「シャルロットも気になることをいってましたしね。」

 

といいシャルロットに目線を合わせる。

 

「なぁシャルロット、さっき言ってた『お前の正体をばらしても俺には被害は出ない』ってやつ教えてもらってもいいか?」

「うん、私が送り出されるときに思ったんだけど『フランス政府が検査をしないっておかしい』って。だって国の代表候補生だよ?検査をするのが普通じゃないの?それなのに私、国からの検査も無しにここにこれたんだよ?」

 

自身の疑問に思っていることを話すシャルロット。

しかし、そういわれても俺は代表候補生じゃないのでなんともいえない。

 

「……千冬さん、こういうことってあるんですか?」

「普通の女性パイロットならありえ無い話でも無いだろうが男性の場合はありえんだろう。国だって男性操縦者のデータが欲しいはずだ。何かと理由をつけて検査をしようとするはずだ…」

「だから、始めからフランスはわかって私を送り込んだんじゃないかなっておもって。なら他の国の迷惑になるような事はしないと思うんだ…」

 

まぁまともな神経だったらやらんよな。

男と偽った上にそれを知っていた周囲を批判する前にまともな国ならフランスのほうを批判する、その程度の事フランスだってわかっているはずか…

だがそれならなぜフランスはこんな事を?何のメリットがあってこんな事を……まてよ?

 

「シャルロット聞きたいことがあるんだがいいか?」

「うん。」

「『他の第三世代ISのデータ集めおよび男性操縦者のデータ集め』この命令をお前に告げたのは誰だ?」

「……多分父だと思う。」

「違う直接(・・)お前にその命令を言ったのは誰だ?」

「え、デュノア社の人だと思う。僕に基本的な説明をしたのは多分会社の上層部の人。」

「じゃあ『情報を送るのは一ヶ月に一度』と『男性として振舞う事』は?」

「『男性として振舞う事』はさっきの会社の人が同じ時に言っていたけど『情報を送るのは一ヶ月に一度』は最後にこの国におくられるときに一緒に来た人に言われたよ。」

 

俺は口元に拳を当て考える。

千冬さんは俺が何か気がついたと思ったのだろう、俺に話しかける。

 

「奏、突然どうした。」

「いえ、引っ掛かりが取れそうなんです、ちょっと考えさせてください……」

 

考えてみろ。

始めからシャルロットに与えられたこの命令は明らかにおかしい。

なぜなら『矛盾しか無い』からだ。

急いでいるのか、ゆっくりなのか。

ばれないほうがいいのか、ばれたほうがいいのか。

つまり意思が統一されていない(・・・・・・・・・・・)

それはなぜか、こう考えればすんなり納得できる。

始めから二つのグループ(・・・・・・・)からシャルロットは似たような命令を受けていると。

そしてその二つのグループとは?

決まっている『社長派』と『反社長派』だ。

 

「お前がデュノア社長に会ったのは何時と何時だ?」

「『社長婦人と会ったときと』、『ここに来る時の命令のとき』だけだよ、もっともどちらの時も私の事は見ていなかったけど……」

「その時社長からはなんといわれた?」

「何も言われなかったよ……」

 

そう言って顔をふせるシャルロット。

さてそろそろ最後の質問にさせてもらおう。

 

「シャルロット…最後に一つだけ。デュノア社長にお前以外の子供は?」

「居ないよ。これは確かだと思う。」

 

俺の想像通りならまだ最悪の目はでてないな。

後はもう少しデュノア社長との交渉に備える準備と倉持技研(・・・・)のほうにも連絡をつけないとな。さてそろそろシャルロットのことをこの煩わしい鎖から開放してやれそうだな。

俺は考えをやめにっこり笑う。

 

「引っかかりは取れたのか?」

「いえ、全然。さっぱりわかりません。」

 

そういうとがっくりするシャルロットと俺をにらむ千冬さん。

 

「では、糸口は見えたのか(・・・・・・・・)

「何とかですが突破口がありそうな場所は検討がつきました。」

「本当なのソウ!!」

 

俺の言葉に驚くシャルロット

俺はさらに笑みを深くする。

 

「いや、見えそうなだけだよ、後はもう少し考えないといけないね。」

「ふっ、そうか。あまり無茶をするなよ。」

「………」

「返事をしろ。」

「お、覚えている限りは…」

「…お前、そこまで言えない事をするのか?」

「場合によってはそうなるかと……」

 

俺は先ほどまでの笑いを引きつらせながら答える。

正直な話俺も自身がどこまでいけるかまったくわからないのだ。

最悪、俺が全世界のモルモットになりシャルロットはIS学園に残ると言う風に、最高でラウラのこと以外はすべての問題が解決する(・・・・・・・・・・・)

どこまで俺の運が続くか次第だな……

 

「いざとなったら私を頼れ。私の名を使ってでもお前を守ることくらいはしてやる。」

「やだ、千冬さんかっこよすぎ…って冗談ですから叩こうとするのやめてくださいよ。」

「こっちは真面目に話してると言うのに…あとデュノア。」

「は、はい。」

 

千冬さんは鋭い目線でシャルロットを見る。

シャルロットは息を呑み真面目な顔で千冬さんの目を見る。

その瞬間千冬さんがふっと笑いはなす。

 

「お前がこいつに頼る選択をしたのは何等間違っていない。ならば最後まで頼り切ってやれ。」

「え?……」

「返事はどうした!?」

「は、ハイ!!」

 

とシャルロットに無理やり返事をさせる。

 

「では私はそろそろ失礼しよう。」

「そうですか…千冬さん待ってください。」

 

そう言って部屋を出ようとする千冬さんを呼び止める。

 

「どうした。」

「お土産いります?」

「……つまみになりそうなものはあるか?」

「少々お待ちください。」

 

俺は千冬さんに笑いかけながらタッパを用意した。

千冬さんに酒のつまみを渡すと千冬さんは顔には出さないがうれしそうにしている。

あの人に渡したのは自家製ピクルスと豚肉のマスタード漬け、酒を飲むのにはぴったりだろう。

廊下に出た千冬さんを俺は見送る。

去り際に千冬さんには本当の理由はいっておくか。

 

「千冬さん、そう言えば俺があいつの話を全部信じた理由しっかり言ってませんでしたね。」

「なんだ、アレが本音じゃなかったのか?」

「まぁ勘って言うのも本当ですが、ぶっちゃけたところ理由なんてありません。助けたかったから助けました。」

 

俺が満面の笑みでそう告げる。

言ったとおり理由なんて無いのだ、ただ助けたいと思ったから助ける。

特に今回はヴァッシュならそうした云々すら関係なく俺がそうしたかったから助けるのだ。

千冬さんは俺の話を聞いた後頭を抑える。

 

「はぁ…そんなことだろうと思っていた…」

「それに相手があいつでしたし。だったらだまされてもいいかなって。」

「……それは恩人だからか?」

「友人だからです。」

「そうか…」

「納得してもらえましたか?」

「ああ、はじめの下手な理由よりはよっぽど…さっきも言ったがいざとなれば頼れよ?」

「了解しました、では。」

「ああ、また。」

 

そう言って千冬さんは俺の前から去って行った。

ここまで話せば一応教室内や千冬さんの目が届く範囲ではある程度庇ってくれるだろう。

今の所シャルロットについて知っているのは俺の知る限り一夏、千冬さん、山田先生、楯無、理事長か…最初に思っていたよりは少なく済んだか?だがこれ以上増やすのは危険だし、協力者をこれ以上増やすのはきついだろう。

しかし…たぬき親父とOsa.楯無のせいでシャルロットが同室か。頭が痛くなってくるな…

……ポジティブに行こう。下手な難題を押し付けられなかっただけよかったと考えろ。

だがなぁ…シャルロットが恐らくだが俺に好意を持っている事はわかっている。

俺もあいつの事が嫌なわけではない、むしろ好きと言ってもいいくらいだ。

だが下手な話、『俺があいつを好きだから助けた』となると面倒事になりかねん。

よし、これは俺はあいつが俺に恩を感じていると思っているという事にしよう。

その方が安全だ、俺の精神的にも周りの認識的にも。

さてこれ以上の考えはいろいろと俺が危ない。

そう思い部屋に入るとシャルロットがこちらに寄ってくる。

 

「ソウって織斑先生と仲がいいんだね。」

「まぁ…何だかんだで結構一緒に生活していた時期もあるしなぁ…まぁどちらかと言えば近所の姉さんみたいな感じだな。それも凄まじく怖いの。」

「ふぅん……」

 

少し機嫌が悪いな…やきもちか?

そこを指摘するとまた話が面倒になりそうだから気にせずに流そう。

 

「まぁとりあえず料理の続きをしよう。シャルロットも何か作るか?」

「うん、私も少しは手伝うよ?」

 

そう言って一緒になってキッチンに立ち料理を作り始めた。

俺は適当にいくつか料理を作る。先ほど千冬さんに渡した豚にキッシュでも焼けばいいだろう。

一方シャルロットが作っているのは恐らくポトフだろう。

そういやシャルロットの家で食った記憶があるな…なんか楽しくなってきたな。

俺はシャルロットと談笑をしながら料理を作り続けた。

料理を作り終えた後一緒に飯を食べる。

既に一夏には連絡済だ。箒、セシリア、鈴の三人組も一夏と一緒にいられるほうを選ぶだろう。

しかしあの三人を味方に引き込むことが出来ればかなり仕事は楽になるんだが…これはあまりにも欲張りすぎるか。

まぁ今は難しい事は無しにしてこの食事二人で自由気ままに楽しもう。

 

 

 

 

他人のように上手くやろうと思わないで、自分らしく失敗しなさい

                                  ~大林宣彦~




ということですこしずづですが答えが見えてきそうですね。
次回からどうなっていくのでしょう?
ということでまた明日ww


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第四十三話 ほころび

投稿の日にちがずれてた……危ない危ない


飯を食べ終えシャルロットが先にシャワーを浴びている。

さていまさらながら問題がある。

俺のトレーニングについてだ。

今までは毎日食後に少しと朝間にそれなりと言った感じだったが流石にシャルロットの前で全力でやるのは気が引ける。

だがトレーニングをしないと言う選択肢は無い。

だとしたらやはりもっと朝早くおきてトレーニングの密度を高くするしかないか……

まぁやるだけやってから考えよう、これを失敗しても困るのは俺だけなんだ。

失敗しちゃいけないのはシャルロットやラウラ、簪の問題だ。

それに箒の訓練も手を抜くわけにはいかない。

自身のことに集中したせいで三人を助けるのを失敗しましたなんて事は何が起きてもあってはいけないし、手伝うと言ったのに箒のことをないがしろにすると言うのは考えられない。

そうなるとしばらくトレーニングをやめることも視野に入れたほうがいいかもしれん。

さてプランを遂行するためにはやはりデュノア社長との交渉が必要だ。

そして倉持技研の方もおっさんへの協力要請、駄目なら脅しをかけることも視野に入れよう。

一応現在の考えでは文句や邪魔をする国や組織は無いはずだ。

問題はいくら男のIS操縦者だからと言ってどこまでわがままが許されるかどうかだ。途中止められるだけでも面倒な事になりかねん。

頭をフル回転させていると突然声をかけられる。

 

「…ソウ!!」

「うん?突然大きい声だしてどうした?」

「さっきから何回も呼んでるよ。ソウ、シャワー空いたよ?」

 

そういうシャルロットのほうを見るとバスタオルで髪の毛を拭きながらシャルロットはこちらに話しかけていた。

服装はジャージを着ている……

え?お前そんなに胸大きかったの?

というかどうやって今までそれ隠してたんだよ!?

普通の服装じゃ隠し切れないだろそれは!!

もしかしてデュノア社がシャルロットをここに送り込むのに時間がかかった理由はこの胸を隠すための何かを開発するのに時間がかかっていたのでは?

と馬鹿なことを考えてしまう。

まぁ…深く考えないでおこう、そこを指摘すると確実にセクハラだ。

という青少年らしいか親父臭いかは別としてそのショックを顔に出さないで話し始める。

 

「ああ、ごめん。考え事をしていて聞こえてなかったわ。」

「………私のこと?」

「まぁ……デュノア社のことだね。あ、今の内に言っておいた方がいいね。」

「なに?」

「俺はシャルロットを騙して利用しているって事にするから。って言うかそう風に動く。」

「どういうこと?」

「そうした方が話がすんなり進むんだ…あとかなりデュノア社を利用していろいろと俺の問題を解決させるつもり。」

 

そういう風に言うとシャルロットは何か考えている。

 

「ねぇソウ、話は変るけど聞いていい?」

「何を?」

「さっき織斑先生にラウラのことを話してたけど…」

「ああ、ちょっとね。頼まれ事って言うか首突っ込んでいるだけ。」

「……どうしてラウラのことをそこまで気にかけるの?」

「どういうこと?」

「だってソウ、あの子にいろいろやられてるのに何かしようとしてるんでしょ?多分仲良くなるつもりで。」

「…まぁ、そのとおりだね。」

「どうして?」

 

って言われてもなぁ……

シャルロットに『ラウラの笑顔を知っているから』って言えるわけ無いし…

それにヴァッシュなら迷わずこうしていただろうからあまり深く考えてなかった。

だが普通の考え方だったら関わろうとしない方が普通だ。

なぜこうしたかったかの理由か……

 

「う~ん……性分っていうか、そういう人間を目指してると言えばいいのか……もったいなかったからかな。」

「もったいない?」

「そう、だってこれから三年間一緒に生活する事になる相手をはじめに喧嘩をしたからずっと嫌い続けるってもったいなくないかい?どうせだったら仲良くなって三年間笑顔で過した方がいいじゃないか。」

「だから無茶をするの?」

「そうさ。それに話してみたら結構いい奴だったって結構あるんだぜ?例えばセシリアなんて俺に対して『わたくしあなたのことを認めておりませんの』って感じだったんだぜ?」

「本当に!?今はすごいソウたちと仲がいいのに。」

「ホント、ホント。あ、これはセシリアには内緒ね?言ったってばれたら俺が怒られる。」

「あはは、ソウの秘密を一つ手に入れちゃた。」

 

と俺の弱みを握ったつもりのシャルロット。

俺は悪い顔をしながら言い返す。

 

「言ったら、お前が俺のことをノゾキしたことを…」

「もう!!その話はやめてよ!!……それにみんなに話せないでしょ?それは…」

 

と言って暗くなるシャルロット。

こいつ多分『自身に良くしてくれている人に嘘をついている』ことを気にしているのだろう。

そんなシャルロットに俺は笑顔で話しかける。

 

今はね(・・・)。」

「…え?」

「そりゃ今すぐそれをいえるわけが無いさ。ただ何時までもお前に男の振りをさせるつもりは俺は始めから無いぞ?いずれ必ずみんなの前で本当のお前の事を話せる機会を作る。俺を信じろ。」

「そっか……わかった。」

 

と言ってとりあえずは少しだけ明るくなるシャルロット。

……もう少しいじってやろう。

 

「だから仮にお前がさっきの俺の秘密を話したとしたら、その時にあること無いこと話される覚悟はしておけよ?例えばノゾキについて面白おかしく話されたり、他にもあんなことやこんな事を…」

「ちょっと!!わかったからやめてよ!?」

「………ワカリマシタ、イイマセン。」

 

俺はそっぽを向きながら声色を変えて話す。

シャルロットは顔を真っ赤にしてこちらに話しかけてくる。

 

「ソウ!!こっち見てちゃんと言ってよ!!」

「ア、ボク シャワー アビテキマスー」

「逃げないでよ!!ねぇったら!!」

 

面白がっていじり続ける俺と少し涙目になり気味のシャルロット。

そうやってシャルロットとの共同生活の一日目の幕が閉じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後の放課後のアリーナ。

俺は箒の訓練をするために早い時間のアリーナを借りていた。

理由としては他の人物にばれたくないから、特にセシリアと鈴のことだろう。

そしてもう一つ、なぜか箒の訓練に簪が参加しているからだ。

大体この訓練は現在三回目だ。

簪は二回目から参加している。

箒に聞いてみると

 

「……簪も協力してくれるらしい…」

 

とのことだった。

お前ら何時の間にそんなに仲良くなったの?とも思ったが拒む理由も無いし一緒に訓練していた。

俺がいま教えているのは、箒には回避をするためのコツと簪には銃で狙い撃つ時のコツだ。

二人とも三回目とはいえ結構さまになっている。

しかし時間が時間だ。そろそろアリーナ内に人が来る。

 

「簪ちゃん~。そろそろ人が来るぞ?」

『え?う、うん。わかった。』

「箒はどうする?」

『私はもう少し訓練をしている。簪、先にあがっていてくれ。』

『わかった。じゃあね。』

 

うん、完全に友達の雰囲気だ。

この中だとむしろ俺が浮いている感じすらしてくる。

本当に仲良くなったんだな二人とも……ちょっと聞いてみるか。

俺は二人が仲良くなった理由を聞こうと訓練を止め下に下りてきた簪に近寄って話しかける。

 

「おつかれ、簪ちゃん。訓練はどんな感じ?」

「あ、はい。動く相手を狙う感覚はつかめてきたと思います。」

「そいつはよかった……ひとつ聞きたいことあるんだけどいい?」

「え?なんですか。」

「いや、簪ちゃんすごい箒と仲良くなってたからさ、なんかあったのかなぁ……って。」

 

と俺が簪に話しかけると簪は笑いながら俺に話しかける。

 

「箒ちゃんとはいろいろと話してたら話が合って仲良くなりました。なんというか……仲間みたいな感じですね。」

「そっか、それだけなんだ。変なこと聞いてごめんね。」

「い、いえ。全然大丈夫です。」

 

仲間ねぇ……おそらく『対姉同盟』みたいなものか。

この二人の共通の話題と言われるとそれが一番初めに思いついた。

出鱈目で世界一の天才の姉を持つ箒。

自身のはるか上をいく万能の姉を持つ簪。

まぁ……いろいろと話は合いそうだな。

そう考えていると今度は簪が俺に話そうとしているは何か悩んでいるみたいだ。

こっちから聞いてみるか……

 

「簪ちゃんどうしたの?」

「い、いえ……奏さんは箒ちゃんの約束知ってますよね?」

「一夏とのやつ?」

「は、ハイ。それです。それの話って奏さん広めました?」

「まさか!?そんなこと僕しないよ!?」

「そ、そうですよね……」

 

と考えながら話す簪……まさか噂が!?

 

「まさか箒の事が噂に!?」

「………正確には広まって無いんですけど、『トーナメントに優勝したら付き合える』って感じの噂がいま広まってるんですよ…」

「うわぁ……一夏大変だな…」

 

と俺が言うと簪ちゃんはさらに何か言いたげにしている。

首をかしげて言うのを待っているとぼそぼそっと話し始めた。

 

「それなんですけど……噂に奏さんもいるんです…」

「……へ?」

「優勝したら織斑君か奏さんかデュノアさんのうち、誰かと付き合えるってことになってるんです。」

「…マジ?」

「ほ、本当です。」

 

おい、何時の間に俺に勝ったら付き合えるってことになってるんだよ。

しかも現状ラウラの暴走イベントは無しだから……一夏が優勝しないともしくは箒に負けないと駄目ってことか…まぁ俺は出る気無いから関係ないか。

 

「まぁ、僕トーナメントには出場しないから別にいいや。」

「え?でないんですか?」

「だって僕、争うのいやだもん。だったら始めから戦わないさ。」

「そうなんですか…」

 

といってホッとしたような簪。

この反応を見るに別に僕を狙ってるって訳ではなさそうだな。

じゃあ何でホッとしたんだ?

まぁそこら辺は考えてもわからないから気にしないでおこう。

そう考えていると携帯の方に連絡が入っていることに気がつく。

ISコアとつなげればそういう機能もあるらしい。

相手は……ランベルト?

なぜ今になってこの人が?

 

「………ごめん箒、俺ちょっと席はずすわ。」

『わかった、私もそろそろ一旦やめようと思っていたところだから気にしなくてもいい。』

「すまん、じゃあまた今度。」

 

と簪と箒に手を振り俺は人気の無いところに向う。

なんだこの猛烈に嫌な予感は……不安を覚えながらも俺はアリーナ脇の人気の無い場所に向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ無いの端、人気の無いポジションにつくとまたもやランベルトからの電話を受けた。

嫌な予感を感じながらも俺は電話に出る。

 

「やあ、いま電話は大丈夫かね。」

「ハイ、一体どうしましたか?」

「……まず君がくれたあの情報はかなりの高確率で本物であるという事がわかったため、ラウラ・ボーデヴィッヒについてブリュンヒルデに話す許可は先に出しておいた。」

「ありがとうございます。」

 

よし、これでラウラの問題はほぼ解決された、俺はそう確信できた。

だが彼が次に話す内容を聞いて俺は愕然とした。

 

「……そして残念ながら君の心配するラウラ・ボーデヴィッヒ関しては我々は手が出せん。」

「………どういう意味ですか?」

 

そんな電話を受けて俺は焦りはじめる。

全世界レベルでお偉いさん方が見ることになる次の大会でVTシステムの開発をしている事がばれかねないんだぞ?

機体の回収するか、それが無理でも試合への出動停止にするのが普通じゃないか?

俺の考えがわかったのかランベルトはさらに口を続けて話す。

 

「……君の考えている事はわからないでもない。だがあのシステムを開発していたのは軍の『技術部』であって『実戦部隊』ではない。軍部の方で仮に『技術部』を摘発するときいろいろと問題があってね。」

「っ!!」

 

つまり、確固たる証拠があるが攻める時の味方が少なければ黒幕に逃げられる。

そして包囲網を強いてるときに別のところから邪魔をされたくないと言う事だ。

ドイツ軍としては非難する仲間として実働部隊も引き込みたいため、わざわざ喧嘩を売る事は好ましくないと判断されたのか…

だがそんなことを言う以前の問題が……

そうか、この世界で現在『ラウラがVTシステムを起動させる』という未来を知っているのは俺だけだ。ラウラはドイツの最強部隊の隊長だったはず。そんな奴がたかが学生の大会で機体の損害がレベルDまで追い込まれ負の感情を最大限まで感じる…なんて軍として考えるはずが無い。

そしてそんなことを理由に『ISの性能発表』の場からドイツが逃げ出す事ができるはずが無い。

クソ!!あてが外れた!!

このままじゃラウラに危険な橋を渡らせなくてはいけなくなる。

大会まで後約一週間を切っているというのに……

 

「君の渡した資料にしっかりとした開発データがあればまた話は別なんだがな…」

「……スイマセン、肝心なところで役に立てずに…」

「いや、これだけでも十分すぎるくらいだ、本当に礼を言うよ。」

「……仮に彼女からVTシステムを回収できるとしたらどれくらいの期間がかかりますか?」

「………正確には言えないが速くても二週間後、いやもっとかかるかもしれない。」

「……わかりました、ではわざわざ電話してもらってありがとうございました。」

「いや、礼はこちらがするべきことだ。本当にありがとうではな。」

 

そう言ってランベルトからの連絡はきれた。

残されたのは電話を握りながらどうすれば言いか考える俺だった。

やばいぞ…ラウラが危険な目に遭ってそれでも一夏によって助け出される…そういう未来が来るのならまったく問題は無い。

だが俺のせいで(・・・・・)ここの世界の未来は変っているのだ。

今まではなるべくいい方向に動かすように努力してきた。そして未来は少しだけ変った。

セシリアは父親についての考え方が変った。

結果的に係わり合いが少なかった鈴は一夏の方の変化が大きく俺が関わらなくても未来は変わると言う事がわかった。

だがつまりそれは悪い方向に行くかもしれない(・・・・・・・・・・・・・)という事なのだ。

俺のせいでラウラが最悪死ぬ可能性もある。

つまりラウラは今までのセシリアや鈴相手と違い絶対に失敗してはいけない相手でもあったのだ。それを軍に情報を渡したから大丈夫だろうと言う俺の油断のせいで追い込まれてしまった。

どうすればいい?ここまで来ると最早対策は見つからなかった。

 

<―ドン!!―>

 

アリーナ内での突然の爆発音。

何があったか解らないが俺はアリーナへと向った。

 

 

 

 

 

悪法も、また、法なり。

                                  ~ソクラテス~




ということでラウラのVTシステム取り外し作戦は失敗しました。
大会から一週間をきっているこのタイミングでこうなってしまいました。
機体の損害がレベルDまで追い込まれ負の感情を最大限まで感じる二つの状況って普通の大会だとありえませんしね。
ラウラのことを知っていて、さらに一夏のことを恨んでいることもわかり、そして取り外す前に一夏と戦って負ける……知っている事だから起こるといえますが、そこまで想像出来る人はなかなかいないのではないでしょうか?


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第四十四話 怒り

アリーナに着くと遠くで戦っている奴らがいる。

一機のISに二機のISが追い込まれている……

っ!!今になって記憶が浮かび上がってくる。

そうか、このイベントを忘れていた、セシリアと鈴がラウラと戦っていたところか。

今になって浮かびあがっても意味が無い。

間に合えと焦りながら俺は即座にISを展開しフルスピードで突っ込む。

ラウラは突っ込みながら銃を向ける俺に気が付いたのだろう。

ワイヤーのような武器と動かし拘束しているセシリアと鈴を盾にするように俺に向ける。

かまわずに俺はそこに弾丸を撃ち込む。

二人を拘束しているワイヤー状の武器と盾にされていた二人の隙間からラウラを狙い撃つ。

 

「ちっ!!」

 

舌をならしながらラウラはセシリアをこちらに投げつけさらにレールガンでこちらを狙う。

だが遅い。

既に俺は弾丸を撃ち出しておりその弾丸はセシリアと鈴には一切当たらずにラウラに被弾する。

何発かラウラのワイヤー状の武器に当たるといまだに盾にされ続けている鈴の拘束が緩んだ。

それを確認し、すかさず銃弾を雨のように撃ちこみ弾幕をつくる。

流石にラウラも動かなければと思ったのか鈴を盾にしたまま動こうとする。

俺は突撃しているスピードを殺さないようにセシリアを受け止め鈴に叫ぶ

 

「鈴!!いまだ!!」

「無駄だ!!こいつは動けん!!」

『なめんじゃ……無いわよ!!』

「何!?」

 

そう叫びながら鈴は自身を拘束していたワイヤー状の武器をはずす。

少し驚いたラウラだが、すかさず再び鈴を盾にしようとワイヤー状の武器を鈴に発射する。

だが俺がそれをすべて撃ち落とす。

そして限界で倒れそうな鈴を抱えラウラから距離をとる。

現在俺はラウラからかなりはなれた上空で二人を両脇に抱えた状態だ。

鈴はまだ意識があるがセシリアは意識が無い。

二人のISはかなり破壊されており戦闘は不可能だろう。

 

「鈴、大丈夫か!?」

「…余裕よ…」

 

と軽口を叩く鈴の顔は痛々しく全然大丈夫そうではない。

その時にラウラから通信が入る。

 

『ふ、腰抜けにしてはやるではないか……だが何のつもりだ。』

「お褒めいただきありがとうございます。そうだね…喧嘩を止めにきましたって感じかな?」

 

と笑顔をラウラに向けながら話かける。

今やらなくてはいけない事は二人を一刻も早く医務室に届けることだ。

特にセシリアは意識が無い、急がなければ。

 

「ねぇ、お願いがあるんだけど二人を医務室に連れて行ってもいいかい?流石にやりすぎだと思うし。」

『ふん、強者が弱者に気を使って何の意味がある。連れて行きたくば私を倒せ。』

 

そう言ってラウラはこちらにレールガンを撃ち込みながらこちらに突撃してくる。

完全に逃がすつもりは無いわけか…体をそらして弾丸をかわす。

動きづらいがかわせないわけじゃない。そしてこちらに迫るワイヤー状の武器、ようやく名称がわかるがワイヤーブレードか…それが俺を拘束しようと迫ってくる。

ブースターを起動しひたすらに逃げ回る。

その後は逃げ回る俺を捕まえようとするラウラとの追いかけっこだ。

ラウラはワイヤーブレードとレールガンで俺を捕らえようとするがすべてかわしきる。

しばらく逃げ回っていると痺れを切らしたラウラが叫ぶ。

 

『貴様…いい加減に戦え!!』

「いやです。それより早く医務室にいかせてよ。第一この状態で戦えるはずが無いじゃないか。」

『足手まといなど捨てればいいだろう。』

「じゃあ医務室に捨ててくるからちょっと待ってて。」

『ふん、切り捨てる覚悟も無いのか腰抜け!!』

「そんなもの持った事も無いね。」

 

このままじゃ平行線か……その時俺に連絡が入る。

 

『奏!!』

『ソウ!!大丈夫!!』

「一夏、シャルロット!!」

 

アリーナ内に二人がやってきており、こちらに向っている。

いいタイミングで来たな。

ラウラの方を見ると一夏をにらみつけている。

 

『織斑……一夏ぁ!!』

 

そう叫びながら一夏にレールガンを撃ち込む。

しかし一夏にもそれはかわされ、さらに俺がラウラに銃を突きつけたことにより彼女は攻撃を一時的にやめた。そのまま二人は俺と合流する。

 

『奏!!無事…鈴、セシリア!!大丈夫か!?』

「…うるさいわね…一夏…」

「…このくらい…どおって事…っ」

 

セシリアも意識を取り戻したか…

だが速めに医務室に連れて行ったほうがいいことには変わりない。

 

「シャル、二人を医務室に。あいつの狙いは一夏か俺のどちらかだ、頼む。」

『わかった!!』

 

そう言って鈴とセシリアをシャルロットに渡す。

ラウラはまだ動かないが隙は狙っているな……

 

「一夏さん…彼女のISは不可解な機能を持っています…」

「突然動けなくなるから…注意して……」

『ああ、わかった。』

 

二人はそうこちらに言いながらシャルロットに抱えられ運ばれる。

そしてシャルロットはラウラから背を向けてアリーナを後にしようとする。

だがラウラはそれに照準を向けレールガンを撃ち込む。

だが弾は下に曲がりシャルロットとはまったく違う方向に飛んでいく。

既に俺が撃ちだした弾丸がラウラの砲弾の軌道を変えていたからだ。

 

「ちょっと…逃げる相手に撃ち込むのはなしでしょ。」

『弱った相手から落とすのが戦場の基本だ。』

「ここは戦場じゃ無いんだけどね……」

 

やはりな…

ラウラにとってここにいる人間は全員敵なんだろう。

だから逃がしてくれと言ってもそれは敵からの言葉であって聞く意味が無い言葉だ。

 

『ふん、こんな兵器を使っていて何が戦場じゃないだ。寝言を言うのもいい加減にしろ。』

「じゃあ寝てから言うから帰っていい?」

『奏!!こいつをこのままにしておくって言うのか!?』

 

一夏が俺に向って叫ぶ。

俺はラウラに話しかけながらハイパーセンサーで後ろを見ていた。

シャルロットは今ようやくアリーナのフィールドを出たところだ。

さてこのまま逃がしてくれればいいんだけどそうは行かないだろう。

 

『ふん、腰抜けらしい発想だな。しっぽを巻いて逃げ出せばいい。』

「後ろから撃たないって言うんなら喜んでそうするんだけどねぇ…君後ろから撃つでしょ?」

『当たり前だ。敵に背を向けるほうが愚かなだけだ。』

 

逃げるのは……無理だな。

現状どうあがいてもこいつは俺たちと戦うつもりだ。

それに一夏は先ほどからラウラに対し頭に血が上っている。

冷静な行動は期待できないだろう。

 

『だが織斑一夏をおいていくなら貴様も逃げればいい…』

「やっぱり目的は一夏か…」

『おい、ラウラ。俺を狙うのはかまわないがなぜ二人を巻き込んだ…』

 

一夏は怒りを押さえ込みながらもラウラに言葉を発する。

ラウラは挑発するように一夏に話しかける。

 

『ああ、あの二人か。あいつらは喧嘩を売ってやっただけだ。歯ごたえがなさ過ぎて正直売ったことを後悔してしまったほどだよ。あの程度で国家代表とは…イギリスと中国はよほど人材不足と見える。まぁサンドバッグとしては優秀だったかもな。』

 

二人を嘲笑うようにに語るラウラ。

こいつ…あの二人を痛めつけて楽しんでやがったな…

そして俺が何か言う前に一夏が怒りのまま飛び出る。

手には雪片弐型が握られており完全に攻撃をするつもりだろう。

だが一夏がラウラに接近する前に一夏は見えない壁に止められた様に動かない。

 

『ふ、馬鹿め!!くら…っ!!』

 

そう言ってラウラは一夏にレールガンを向けるが撃つ事は出来なかった。

目の前から俺の作り出した銃弾の壁と言ってもいいほどの弾幕が迫ってきていたのだ。

ラウラは攻撃するのを止め、弾幕を急降下する事でかわす………がかわした先にさらにさらに銃弾が迫っておりかわしきれず数十発被弾する。

 

『くっ…なめるな!!』

 

そう言ってラウラはまたも見えない壁を形成する。

弾は空中に止まったように停止する。

俺はその間に一夏のそばに行く。

 

「…一夏……頭に血上りすぎだ。怒るのは解るけど突っ込むのは勘弁しろよ。」

『あ、ああ。すまない…』

 

さて先ほどの攻撃で完全に俺を敵だと彼女は認識しただろう。

そして俺のISも今の無茶をしたせいでかなり具合が悪い……

さらに俺の我慢も限界だった。一夏には頭に血が上りすぎと言ったが俺も人のことが言えないほどラウラに怒りを覚えていた。ある程度はこういうことを言われるのは覚悟していた。

だが実際に言われるとなんともいえない怒りが俺の中に渦巻いた。

仕方ない、完全に俺だけを狙ってもらうことにしよう。俺も全力で相手してやる。

俺は地面に着陸しISを解く。否、片腕の装甲を残して銃を片手に持ち全力で戦う準備をした。

ラウラはそれを見て俺を笑う。

 

『おい、奏!!何やってるんだ!?』

『はっ、とうとうこの腰抜け、武器まで捨てて逃げ出すのか?』

「はぁ……あまり言いたく無いんだけどさ……黙ってろ、ハタクぞ。お前が言葉を発するたびに呆れてものが言えなくなる。」

 

俺は心底つまらないものを見るような目でラウラを見る。

突然の俺の豹変のしようにラウラは驚き一夏は呆然としている。

俺はあきれたように話す。

 

『なんだと?』

「お前を見ていると、正直ドイツが低く見られそうで虫唾が走るから黙ってろって言ったんだよ。とうとう言葉すらわからなくなるほど頭がおかしくなったか?」

『貴様…私を侮辱するか!!』

「それ以前にお前はドイツを侮辱してるだろ。お前のように我侭で周りを気にせずに暴れあげくの果てに戦えない相手を襲う。そんなのがドイツの代表なんて思われたら俺の知り合いのドイツ軍人まで悪く見られそうだからさ、国に帰れよお前。正直お前、ドイツの恥だぜ。」

 

そういうとラウラは俺の近くにレールガンを撃ち込む。

俺は気にせずになおもつまらないものを見るようにして言葉を続ける。

 

『奏!!』

「大丈夫だ一夏。さらに言わせてもらえばお前の行動は織斑先生のことすら侮辱している。」

『なんだと!?私が何時教官を侮辱したと言うのだ!!』

「今までの自分のやったこと思い出してみろよ。織斑先生の指導した軍人はこの程度の軍人になるのか?ISを兵器だと自覚しているくせにそれで喧嘩を売り、平然と戦えない相手を殺しかねないほど攻撃する。さらにそれを自慢するかのような口調で話す……軍人云々以前の問題だ。それともお前はあの人からの指導で、こんな暴力や我が物顔で暴れ回ることを教えられたのか!?」

『っ!!貴様が教官を語るな!!』

 

ラウラが叫ぶ。

否定しないと言う事はやはり何か思い当たる節があるのだろう。

俺は声を強めながらラウラに叫ぶ。

 

「俺ですらあの人の指導がその程度で無い事はわかるっていってるんだよ!!言われたくないのならお前の受けた教えを答えてみせろ!!ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

『っ!!黙れぇぇええええ!!』

 

そう言って片手からブレードを展開して突撃してくるラウラ。

俺は攻撃をかわし銃弾を撃ち込む準備をした。

とりあえずこいつは今、全力で潰す。

あと少しで戦闘に入ると言う瞬間に俺たちの間に入りこむ人影があった。

ラウラのブレードを恐らく打鉄の近接ブレードを構えた千冬さんが受け止めていた。

 

「き、教官。」

「やれやれ…これだからガキの相手は疲れる。」

「千冬姉…」

 

一夏も俺のそばに下りてきて千冬さんに驚いている。

まぁ……ISも無しにISの一撃を止めるとかそりゃ誰でも驚くって。

しかしおかげで落ち着けたな……

 

「教官ではないと言っただろう。聞くが、奏、一体何をしている。」

「…スイマセン。頭に血上ってました。」

「そこまで血の気が多いなら大会までとっておけ馬鹿者が。」

 

そう言って千冬さんは俺をにらむ。

その後周りを見て全員に話し始める。

 

「模擬戦をやるのはかまわん、だがアリーナのバリアーを破壊されるような事態になっては教師として止めざるを得ないのでな、この決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか、なぁ風音。」

 

そこでわざわざ俺のことを名指しするとは……出ろと言う事か。

 

「教官がそうおっしゃるなら。」

「お前らもそれでいいな。」

「…おう…」

「教師にはハイと言わんか、馬鹿者が。」

「は、ハイ!!」

 

と一夏はにらまれながら返事をする。

千冬さんはそのまま俺のこともにらむ。

返事をしないわけにはいかないな

 

「……ハイ解りました。」

「では学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する…では解散!!」

 

千冬さんはそう言ってアリーナから去る。

ラウラはそれを見届けた後俺をにらむ。

 

「貴様には必ず先ほどの言葉を取り消させてやる!!」

 

それだけ言うとISを解除して去って行った。

一方俺は頭を抱えてため息をついていた。

あそこで怒りに身を任せて吼えてしまうとか……

愚か者としか言いようが無い。

これではラウラを説得してVTシステムについて認識させる事すらできないではないか。

なにがヴァッシュを目指すだ、これでは笑いものにもなりやしないぞ。

頭を抱えて考えていると一夏が近寄ってくる。

 

「奏……大丈夫か?」

「…情けなくて穴があったら入りたい。一夏そのまま埋めてくれない?」

「いや、まぁ…」

 

と歯切れの悪い一夏。一体どうしたんだ?

 

「どうした一夏。」

「いや、お前があそこまで怒ったのはじめてみたからさ…ちょっと驚いてるだけだ。」

「……そういやそこまで怒った事なかったよな…ああ、一夏に『頭に血が上りすぎ』って言った後にあれだぜ?もう考えられないよな…ありえなさすぎだよなぁ……」

「まぁお前があそこまで怒ると思わなかったけどそこまで落ち込む事無いんじゃないか?」

「いや……もう本当にありえないよ、恥ずかしいのと情け無いので死にたくなってきた……」

「そこまでか!?」

 

その後がっくりとテンションが下がった俺は一夏に慰められながら

セシリアと鈴の様子を見に行くために引っ張られていくのだった……

 

 

 

 

自分がなりたいと思うような人間に、既になった気持ちで行動せよ。間もなく必ずそうなる。

                                ~ジョージ・クレイン~




ということで奏の未熟さが出てしまう結果に終わりました。
ここでヴァッシュなら今までの経験からいろいろと話を変える事が出来たでしょうが。
残念ながら奏は生き方を知っていて力はありますが経験がありません。
よってこのような結果に終わってしまいました。


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第四十五話 作戦開始

一夏に医務室へと引っ張られるとベッドで鈴とセシリアが寝そべっていた。

意識はあるようでシャルロットと何か話している。

俺たちが医務室に入ったことに気がつくとシャルロットはかけよって来た。

 

「ソウ、一夏……ねぇ何でソウそんな風になってるの?」

「い、いや…俺にも良く解らん…」

 

完全に魂の抜けたような感じになっている俺を心配そうな顔で見ている二人。

俺はそこは一切気にせずにベッドに横になる二人に話し始める。

 

「僕の事はいいよ…それより二人とも大丈夫?」

「……むしろあんたの方が大丈夫?」

 

と怪訝な顔でこちらを見る鈴。

セシリアも何があったのか解らず心配している。

 

「だいじょーぶ。怪我は無いから…怪我は…ただ無性に死にたくなっているだけだから…」

「一夏さん…奏さんに何があったんですか?」

「いや…こいつアリーナでラウラに対して本気で怒ったんだよ。その後はこの調子。」

 

一夏…言うなよ…

って言っても黙っててもいずればれるか…

 

「怒ったって何に対してよ。」

「ラウラがお前たちのことを馬鹿にした発言をしたからだと……あ、あと知り合いのドイツ軍人の人と千冬姉も馬鹿にしてるって怒ってたな、恥とか軍人失格とか……口調が変るだけ怒ってた。こいつがあそこまで怒ったの見たの俺も初めて。」

「……一夏…せめて僕のいないところでしゃべってよ…情けなくて死にたくなる。」

 

そう言って盛大にため息をつく。

一夏も俺が本気で落ち込んでいる事に気がついたのだろうあわてて話すのをやめる。

セシリアもシャルロットも、なんとなく俺の落ち込んでいる理由がわかっているようだった。

だが鈴だけは納得がいかないようで俺に話しかける。

 

「何?あんたその程度の事でそんな風になってるの?それにどんな人間でも普通怒るじゃない。」

「いやぁ…僕も怒る事くらいあるよ。ただその後の対応がさ…相手に喧嘩を売って力で解決しようとしちゃったから…それだけは絶対にやらないって思ってたのに怒りに身を任せちゃってさ…うわぁ、自分で言っててまた落ち込んできた…」

 

そういってさらにネガティブになる。

鈴は少し悩んだ後また話を続ける。

 

「じゃあ、あんたはどうしようもないほどの悪党相手でもそうするの?」

「いや、流石にそれは力ずくでも止めるよ。」

「じゃあラウラがそうだったと思いなさい。それなら問題ないでしょ。」

「無理やりだなぁ…」

 

そう名案を言ったように威張る鈴。

俺は苦笑いするしかなくあはは…っと言った感じだ。

まぁ鈴の言いたい事がわからないでも無い。

確かに今のラウラはどうしようもない奴かもしれん。

だが頭でわかっていても感情ではどうしようもなく情けないと思えて仕方ないのだ。

俺は一度深くため息をついた後に気持ちを入れ替える。

やってしまった事はどうあがいても変えられないのだ。

だったら今は別のことを考えたほうがまだ建設的だ。

俺は笑顔を作りながら話を変える。

 

「まぁ考えててもしょうがないか。二人とも怪我の方は大丈夫なの?」

「こんなの怪我のうちに入らな――いたたたっ!」

「そもそもこうやって横になっていること自体無意味――つううっ!」

 

と痛そうにする二人。

まぁ…一夏に心配されたくないんだろうなこいつらは。

 

「機体の方はどうだったのさ。」

「……完全にオーバーホールが必要だって…」

「あらかじめ相手のデータさえあればあそこまでやられることはありませんでしたのに…」

 

悔しそうに話す二人…

そしてハッと重大な事を思い出したような顔をして二人は一夏に話す。

 

「一夏!!あんた大会に出るんだったら絶対優勝しなさいよ!!」

「そうですわ!!負けたら承知しませんわよ!!」

 

突然一夏の応援なんか始めて一体どうしたんだ?

……ああ、この二人もあの噂は知っていたのか。そりゃ負けられたら困るよな。

一方一夏はそんなこと知らないから単純に敵をとってくれといわれたと思っているだろうな……

 

「ああ、かならずラウラには負けない……」

 

二人が言いたい事はそういうことじゃないんだろうが……

しかしこのままの流れじゃVTシステムが作動してしまうだろう。

そしたら大会どころじゃなくなるからなぁ…気にしなくてもいいだろう。

問題は仮にVTシステムが作動したときに俺がどうやってアリーナ内に乱入するかだ。

原作では一夏&シャルロットVS箒&ラウラだったはず。

そうなるとこの中に俺が乱入するためには……と考えていると

 

<―ドドドドドド―>

 

という音と共に校舎が揺れる。

なんだ!?この振動は…と思うと医務室に大量の女子生徒が流れ込んでくる。

俺を含め始めから医務室にいた全員は驚いている。

 

「ちょっと、君たち。医務室では静かにね。それにみんなで一体どうしたの?」

「「「「「「「「「「これ!!」」」」」」」」」」

 

と俺が笑顔で言葉をかけるが彼女たちは興奮しながら紙を俺たちに押し付けてくる。

一夏がそのうちの一枚を受け取る。

 

「え~っと…今月行われる学年別トーナメントはより実戦的な模擬戦闘を行うためスリーマンセルで行なう。あらかじめチームを組む事は可能だが人数が集められない場合、ランダムで選ばれた生徒同士で組むものとする。あらかじめチームを組む場合用紙にクラスと名前を記載し――」

「ということで私たちと組んで!!織斑君!!」

「私たちと戦いましょ!!デュノアくん。」

「お願いします!!組んでください風音くん!!」

 

と最早祭りの会場以上に大賑わいだ。

しかしスリーマンセルでの戦闘か……これは渡りに舟だな。

 

「ごめん皆!!もう男三人で組む事になってるんだ!!」

「「「「「「「「「「え~~~~~~~~~~!!!!」」」」」」」」」」

「本当にごめん!!もう織斑先生に提出しちゃったからどうしようもないんだ。」

 

俺がそういうと皆諦め、しぶしぶと医務室から出て行った。

全員いなくなってからふぅ…っとため息をつくと一夏が話しかけてきた。

 

「お、おい、奏。何時の間に申し込みなんてしたんだよ。」

「いや、して無いよ?」

「はぁ?いやでもさっき。」

「こうでも言わないとあの場は収まらないだろ?」

「まぁ…それもそうか。」

 

と納得する一夏。

次の瞬間セシリアと鈴が一夏の両脇を抱えた。

 

「「一夏(さん)!!組む(組みます)わよ!!」」

「ちょ!?おい、お前ら!!」

 

とあわてる一夏。

この二人は今がチャンスと思って必死だが…

シャルロットが苦笑しながら二人に聞く。

 

「体は大丈夫なの?」

「このくらいなんてこと無いわ!!」

 

このくらいって…今も痛そうに顔しかめてるじゃないか…

俺も一応聞いてみる・

 

「機体はどうするの?」

「いざとなれば学園から借りてでも参加しますわ!!」

 

んな無茶苦茶な…

と思っていると両腕を何とか離してもらった一夏が二人を向く。

 

「いや、お前たち本当に大丈夫なのか?」

「無論大丈夫ですわ!!」

「本当に?」

「当たり前よ!!」

「……じゃあその場で思いっきりジャンプしてみてくれ。」

「「………」」

 

と言われて黙る二人。お前らジャンプをためらうほど体が痛いのかよ……

俺も二人のそばに行き諭すように話しかける。

 

「二人とも、今回は休みなよ。」

「試合までには治せます!!」

「そうよ!!だから大丈夫よ!!」

 

正攻法じゃ言う事聞かないか、じゃあちょっとずるさせてもらいましょう。

俺は二人の耳元で話し始める。

 

「(もし怪我や機体のせいで試合に負けたりしたら一夏がどうなるか考えてみな?)」

「「っ!!」」

 

二人とも自身の怪我のことや機体のせいで全力で戦えない事をイメージしたのだろう。

おそらく今頭の中では、一夏に勝った相手が一夏告白していているシーンでも思い浮かべているのではないだろうか。

さらに追い討ちをかける。

 

「(さらに言わせてもらうと今大会で一番の強敵は間違いなくラウラだ。だが僕はラウラへの対応策も既に思いついている…ラウラとチームを組んだ相手に一夏をとられたくなければ……)」

「一夏さん!!シャルルさんと奏さんと一緒に優勝してください!!」

「シャルル、奏!!あんたら絶対勝ちなさいよ!!」

「う、うん。」

「なんだ?奏、何を言ったんだ?」

 

突然の二人の変りように驚く一夏。

俺はなんでもないように話す。

 

「いや?普通に男だけでチームを作りたいって話しただけだよ?」

「そ、そうか……じゃあ奏、早いとこ用紙を提出しに行こうぜ。」

「了解。シャルもそれでいい?」

「うん、僕の方も問題ないよ。一緒にがんばろう?奏、一夏。」

 

そう言ってシャルロットはこちらに笑いかける。

とりあえずラウラに関しては大会中に何とかするしかないだろう…

さてじゃあそろそろシャルロットの事について動き出そう。

このまま足踏みしてラウラのことのようになってはいけない、そう動き出す覚悟を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日俺は倉持技研からおっさんを学園に呼び寄せた。

名目上は『俺の機体の修理』だ。

だが実際のところおっさんと話す方が目的である。

放課後になり整備室に行くとおっさんは俺の打鉄をいじっている。

周りには誰もおらず気配もしない。

俺は機体をいじっているおっさんに話しかける。

 

「おっさん、赤銅はどうよ?」

「まぁ……正直いろいろなパーツに疲労がたまってるな。大会が終わったら一旦ばらして整備しないとイカンな…」

「いろいろ無茶させてるからなぁ……」

 

とこの『打鉄改―赤銅―』を見る。

俺にとっては使いにくいものではあるが同時に愛着もある機体なのだ。

出来る事ならこれで戦い抜きたいが残念ながらそうも言ってられないのだ。

今回俺のミスでラウラに危険な橋を渡らせてしまっている。

さらに俺一人の力で救えればいいのだが残念ながら俺の力だけでは無理なのだ。

ならば今後どのような事態になっても俺自身で解決させられるような強い力が必要だ。

守るための力が……

 

「そっか…前におっさんが言った仮の専用機のプランはどうなってる?」

「……紙に書いた限りでは恐らくお前が全力で動かせるレベルの物が作れる…だが動かすだけで限界で兵器がつめるほどの拡張領域を確保できないな…いわばガワだけ作ることが出来るって訳だな。それですらかなり費用がかかる。」

「……弐式の開発再開は?」

「絶望的だ…上層部は完全に白式の解析以外やる気が無い。」

 

なるほど、現在日本は既に第三世代『白式』を手に入れているからそれほど開発を急いでいるわけではないと言う事か……俺が頭の中で考えをまとめている間もおっさんは機体をいじりながら話し続ける。

 

「……この間、楯無からも同じことを聞かれてな、『いざとなったら私の名前を使ってもいい』と言っていたよ。」

「会長がねぇ……」

「本当に情けない話だよ。俺の力じゃ何もできん。仮に無理やりつっくたとしても後が続かないときている……」

 

と声に出すおっさん……

口調からは感じられないが子供が必死にがんばっているところに何も出来ない大人の自身が本当に情けないのだろう…よし、じゃあ俺の賭けにおっさんを巻き込むとしよう。

 

「おっさん。俺の専用機問題も開発費用も打鉄弐式の完成も一気にいける作戦があるとしたら乗るか?」

「どういう意味だ?」

「簡単な話、俺とおっさんがある程度無茶をすればすべて解決できるって言う話がある。」

「リスクはどのぐらいのものになるんだ?」

「そうさな…おっさんはこの先冷遇されて僕は全世界のモルモット化ぐらいかな?だが賭けに勝てば本当に総取りが出来る」

「…だがその作戦に乗りようがない、俺はいわば一社員で別に経営陣じゃない。仮に俺がその作戦に乗ったとしても簪に関わる事ができなくなる。」

 

おっさんは一瞬乗りそうな顔をしたがふと簪の事を思い浮かべたのだろう。

慎重な意見を出す。

俺は笑顔のまま作戦の一部を話す。

 

「……おっさん、一つだけ聞いて…いや確認してもいいか?」

「なんだ?」

「国からの援助金、今のところ倉持技研は満額もらってるんだよな?」

「減らされたと言う話は聞かないな。」

「じゃあデータ取りにそれほど金がかかるのか?」

「………どっかに流れてるってことか?だが俺には解らんぞ?」

「そこは楯無に探ってもらいましょう。お国のためにね。」

 

恐らく既に楯無はこの情報を握っているだろう。

だがこの情報を使って簪を助ければ嫌われ、倉持技研を摘発しても嫌われるため見逃していたのでは無いだろうか…

だったらその情報を俺のため計画で使わせてもらおうさらにそれを利用して簪の開発も進める。

 

「……上層部を脅すのか?」

「イエイエ、取引をするだけですよ。」

「だが脅すだけでは会社は動かないぞ?」

「安心してよ、おっさん。しっかりとあまーい飴も用意してあるからさ。」

「………仮に俺が乗らないと言ったらどうする。」

「そうだねぇ……打鉄弐式以外では俺は絶対に倉持技研に協力もしないしデータも一切渡さない。こんなのでどうよ?俺のご機嫌伺ってた方がいいんじゃない、栗城さん?」

「は、確かにそれが俺の仕事だしな。仕方ない。よし、プランを話せ。」

 

おっさんは最初に俺に悪巧みを言ったような顔で笑いかける。

俺も同様の顔をしておっさんにプランを説明する。

途中からおっさんの顔はだんだんゆがんでいき最後には完全に頭を押さえていた。

一方俺は最初から最後まで笑顔をつらぬき通した。

頭を抱えた状態でおっさんが話す。

 

「…………おい、前にお前俺のことを頭おかしいと言ったな…」

「あ~そんなことも言ったね。」

「俺自身大概だと思っていたが………お前に比べればまだまだだった……だがいけるのか?」

「そこは今日の交渉次第だね。」

「どういう意味だ?」

「………今夜、デュノア社長と直接会話して落とすって言ってるのさ。」

 

俺はそう言って顔を引き締める。

なんとしてでもデュノア社長をこちら側に引き込んで見せなければ…

その前に一度一夏に話しておかないといけないこともあるな…

あと一応腹黒理事長とOSAに話をとおしておこう。

準備しなければいけないことと覚悟を決めて今晩の交渉に挑むのだった。

 

 

 

 

 

「私は~しなければならない」と私たちが言う時はいつも、

実際にそれをやる場合より、すっと多くのエネルギーを消耗しているのだ。

                               ~ギタ・ベリン~




ということで事態は一気に動き出します。
なぜシャルロットは男装して送り込まれたのか?
フランス政府側の意図は?
なぜ幼少期シャルロットはデュノアを名乗っていたのか?
そして奏の出鱈目な作戦とは!?
次の話から作者なりのデュノア社についての話が始まります。
では読んでいただきありがとうございましたwww


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第四十六話 デュノア社長

ある意味二巻中最大の山場です。
あらかじめもう一度言っておきますが
これは作者の考えや考察であって原作には関係ありません。
その事をご了承の上お読みいただければ幸いです。


そして夜中の三時。

俺は自身の部屋でまたもやキッチンの床に座って電話をしていた。

デュノア社長への直接の電話番号は既にスコールから知らされている。

俺はもう一度自身の頭の中を整理した後電話をかける。

数回コール音がした後相手の方から声がかかる。

 

『何者かね?私が誰かわかってるのか?』

「お宅の息子、いや娘の正体を知るもの……とでも言おうか。デュノア社長、今会話できるな?」

『っ!!………』

「ちなみに馬鹿な事は考えない方がいい、周りがすべて味方(・・・・・・・・)と言うわけでも無いだろ?どうだいあってるだろ?社長。」

『……何のつもりだ。』

 

そう言ってデュノア社長はこちらの話を聞くつもりになったようだ。

さてまずは俺の中の考えと事実をすり合わせて『真実』を求めていこうか。

 

「まず周りに誰もいないか?盗聴は?」

『…心配ない。この携帯で現在の部屋の中なら盗聴の危険性は無い。』

「……OK。じゃあ、まず答えあわせといこうか、これから俺のする質問にすべて正確に答えろ。気分を害さなければもしかしたらその後の要求が軽くなるかも知れんぞ?」

『……解った。』

 

今頃、デュノア社長は悪態をつきたそうな顔をしているだろうか。

それともすべてを受け入れたように諦めているのだろうか…

いや恐らく俺の予想が正しければ……

まぁどちらでもやる事は変らない、俺は話を続ける。

 

「まず一つ目の質問だ、あいつ…シャルル君を日本に送り込んだのはあんたの意思だ。」

『YESだ。』

「………正確に答えろと言ったはずだが?それとも聞き方が悪かったか?」

『……どういう意味だ?』

「OK。言い方を変えよう、あいつを送り込んだのはあんただけの意思か?」

『……NOだ。あれを送り込む提案をしたのは上層部の私の敵対する側の意思でもある。』

 

やはり発案者はデュノア社長ではなく上層部の人間か…

それが解ればとりあえず次の質問はこれで決まりだな。

 

「じゃあ次の質問だ、二つ目、はじめにシャルル、いや、もうシャルロットでいいか…シャルロットを会社につれてきたのはあんたじゃなくその敵対グループ…反社長派とでも言おうか。そいつらが連れてきたんだろ。」

『YESだ。あいつらが私に対する弱みとしてあれを連れてきた。』

 

あれ(・・)ねぇ…

まぁいいだろうそこを指摘するのはすべてが終わってからでいい。

 

「………三つ目の質問だ。デュノア社は実質フランス政府からも見切られている。」

『……YES…だな。すべてがそういうわけで無いが味方が居ないのも事実だ。だが一体こんな事を聞いてどうする?』

「…いいか、質問しているのは俺であんたじゃない。」

『…すまなかったな。』

 

俺の質問の意図がつかめず俺になぜかと聞いてくる。

だが俺はあえてきつい口調でそれを止める。

現在相手からの要求を呑むのは好ましくない、このままいかせてもらおう。

 

「四つ目、反社長派は既に別の企業に買収されている、それもおおよそ半分は既に持っていかれている。」

『……半分はYESだな。確かに君の言う反社長派は買収されているがそれでもわが社の半分は行かないだろう…』

「1/3くらい?」

『……まぁその程度だろう。』

 

よし、まだ状況がそれほどひどくなっているわけでは無いな。

それにデュノア社長の話は簡単だ、なぜシャルロットが男のふりをしてIS学園に送られたか。

その理由は『デュノア社長を消し』さらに『デュノア社を買収する』動きができているのだろう。

そしてその買収する会社は既にフランス政府内にも賄賂か何かを送り味方に引き込んでいる。

だからこそこのような行動に出たのだろう。

要はこのシャルロットを男としてIS学園に送り込む作戦の本当の目的は『デュノア社の子飼い化』および『手に入れられるなら他社の第三世代ISの情報入手』だろう。

そして仮にデータが手に入らなくてもシャルロットの正体がばれればそれで最低限の仕事はしているのだ。後はその責任をデュノア社長と社長派の人間に押し付ける。

その後経営危機を理由に他社に身売り。

そのままフランス政府の息のかかった会社がそれを手に入れ、その会社は無傷のままISの開発権や今まで培ってきたデュノア社のISの技術を手に入れられるわけだ。

このままいけばの話だが。

 

「五つ目の質問だ、仮に今あんたらが量産可能の第三世代ISを開発できたとしたらフランス政府はどう動く。」

『……おそらくこちらに戻ってくるだろう、ただしあれの存在がばれなければの話だがな。それに我が社は今そのような事ができる状況じゃない。かろうじて私が自由に動かせるのは会社の一部の技術者と信用の置ける部下数人だ。会社の金だって自由に動かせるわけではない。』

 

と自身を笑うような口調で話すデュノア社長。

しかし『それでも無駄だ』と言わない辺り一応今までの結果はフランス政府内で評価されているのだろう。ならば計画を実行する上で問題はなさそうだな。

さて、後は個人的に気になっているところを聞こうか。

 

「では最後の質問だ……あんたにとってシャルロット・デュノアとはなんだ?」

『………ただの邪魔者だ。あれのせいで私は自身の首を絞めなければいけなくなったのでな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘をつくな(・・・・・)と言ったはずだぞ?」

『っ、どこが嘘をついているというのだ!?』

「はっ、簡単な話だ。本当に邪魔者だと思っているのなら、彼女があんたの家の別館にいるうちに殺したりするだけで、あんたの枷はなくなるだろうが。」

『か、監視があったからできなかっただけだ!!』

「ならISに細工をすればいいだろう、あんたが自由に動かせる技術者でも使って、殺さないまでも完全に動けなくなるまで傷つける、もしくはISに対し恐怖を与えるほどの事件を与えればIS学園に送り込むことはできない。違うか?」

『そんな非人道的な事が…!!』

「さんざん犯罪行為をしているくせに今になって非人道的だと語るのか?」

『やっている事は全然違うだろう!!』

「はっ、異国の地に自分の娘を男と偽って送り込む男がよく言う。しかも犯罪行為の手助けをさせているんだ、あいつだってただじゃすまないだろ?下手したら一生牢獄だ。それだったらまだどこかを怪我させて自身の故郷に送り返した方がまだあいつの事を考えてるといえるんじゃないか?」

『そ、それは!?』

 

俺の言葉に言い返せなくなるデュノア社長。

半分はそうであってくれという願望だったが賭けには勝ったようだ。

今だけは信じてもいない神様を信じようじゃないか。

 

「正直に言え、あんた始めからすべての罪をかぶる気(・・・・・・・・・・・・・・・・・)だったんだろ。」

『……』

「沈黙は答えと見るぞ。簡単な話だ。あんたは自身の信頼できる部下を通して連絡は一ヶ月に一度に変更。そしてあの程度の変装、一ヶ月も持つはずが無い(・・・・・・・・・・・)。」

『……』

「そして正体がばれた彼女を調べるとさまざまなデータを集めている…がそれを一度も会社に送っていない。さらに今までの人生と自身が置かれていた状況から同情の余地はありとされてさらに未成年だ、実刑に処される可能性は低くなる。そしてあいつの分も自身がかぶれるだけの罪は全部かぶればかなりあいつの罪は軽くなる、そう考えていたんじゃないか?」

『そ、それは……』

 

完全にうろたえている社長。

俺は確信に迫るためにさらに言葉を続ける。

 

「そしてあんたの狙いは始めから自身を助ける事ではなく『シャルロットを助ける事だった』んだろ?」

『……』

「答えろよ社長。俺の握っている情報の公開時期は、別にあいつがデュノア社に情報を送った後でもいいんだぞ?」

『っ……だとしたらどうだと言うんだ…』

「いや、参考までに聞いておこうと思ってね。天下のデュノア社の社長がなぜあの小娘一人のために自身を犠牲にするかをね。」

 

そう俺が言うとデュノア社長はぼそぼそと自身の言葉を吐き出した。

 

『……私はあれの母親を本当に愛していた…』

「つづけて。」

『だがな、私がISの会社を建てるためには莫大な資金が必要だった。当時の私がいくら自身の金を使い、政府からの援助を受けようと到底足りないほどの金額だった。そんな時、私がある家の娘と結婚したら援助をしてもいいという人物が現れた。私は悩みながらも政略結婚のために、私は……妻と…当時まだ幼かった娘を捨てた。』

「ひどい話だ。」

『そのとおりだ、あれの母親には殺されても仕方ない事を私はした。私は彼女たちにはした金だけを置いて家を出て自身の会社であるデュノア社を造った。』

「そしてデュノア社は大成長、いまや世界三大企業の一つだ。」

『だが私の会社は先ほど君に言われたとおりほぼ詰みかけている。……そんなときにアレが反社長派(やつら)に見つかった。』

 

自らを笑うように話していた社長はシャルロットの所になると声を落とした。

 

「……」

『あの時は驚いたよ。なぜ今になってアレが見つかるのかとね。戸籍上も恐らく姓はすでにあれの母親と同じになっていると思っていたのだがな…』

「ちがったのか?」

『ああ、はっきりとシャルロット・デュノアと名乗っていたらしい。』

「理由は?」

『……母親に言われたらしい、【私がいつかあれを探した時に目印になるように】とな…』

「それ以外に理由はあると思うか?」

『………あれの母親はな。本当に優しい女だった…あれ、いやあの子の姓を聞いたときに彼女がこう言ってると思ってしまったよ…【この子は私たちの子供だ。私の生きた証拠だ、それを忘れないで。】とな……』

「……」

 

俺は何も言えなかった。

確かにあの人は一週間一緒に生活しただけでもわかるだけ本当に優しい人だった。

当時ホームレスみたいな俺を家に招きこんで家族同然に接してくれた。

それがどれだけ俺にとっても救いだったか…

俺がシャルロットの母親を思い出している最中にもデュノア社長は話し続ける。

それは最早懺悔のようであった。

 

『そう思ってしまったら、あの子を私の争いに巻き込みたくはなかった!!あえて私はあの子に近づかなかった!!だが反社長派(やつら)はあの子のIS適正が高いことを理由にあの子をテストパイロットに仕立て上げた!!』

「………」

『あの子が必死の思いでがんばる姿を見るたびに叫びたかった!!…頼むかやめてくれ!!私の会社なんかの…お前たち母娘を不幸にした物のために自身を追い込むのはやめてくれと!!』

「……」

『そんな時にあの子の事が妻にばれた。始めから妻も了承していた結婚だったというのに…妻はあの子をおもいっきりハタいたよ、【泥棒猫の娘】と言ってな…何が泥棒猫だ、なら私はなんだというんだ?畜生にも劣る外道じゃないか…』

「……」

『そして私はさらにあの子を傷つけた…こうすればあの子ががんばるのをやめるのではないかと期待もしていた…』

「あんたがあいつに会いたいだけだったんじゃないか?」

『確かにそれもあったさ……だがその後もあの子は自分を苛め抜いた…っ!2年間もだぞ!?普通の子供が学校に行って遊んだり友達と笑い会っている間もあの子はただISに乗り続けて自身を苛め抜いていた!!』

「……」

 

デュノア社長はまたもや声を強めた。

自身が溜め込んでいた感情が爆発したのだろう。

 

『外に出ることもできず!!友達もなく!!一人さびしく!ただ何もするわけでもなく!家に閉じ込められるだけだったんだ!!』

「……」

『あの子に……何の罪があるって言うんだ……罪にまみれているのは私だというのに…』

 

この人は後悔しているのだろう……

そして一人の親として、自分の娘をここまで追い込んだ自身のことが許せないのだろう。

社長の話はまだ続く。

 

『そんな時だった、日本で男性のIS操縦者が現れたのは。』

「それがあんたたちに何の関係が?」

『私個人として…いや、これは関係ないな。私ではなく反社長派(やつら)が言い出したのだよ【あの子をIS学園に男として送り込んで男性操縦者のデータと第三世代のデータを集めよう】とな。』

「…あんたはそれに乗ったと。」

『ああ、IS学園なら3年間はどんな国でも手は出せない。それにもしかしたらその間にあの子の事を守ってくれる人物が現れるかもしれないと思ってな……』

「はっ、どんだけ確立が低いんだよ、それ。その前に退学だろ。」

『ああ、解っているさ。それでもデュノア社という檻から彼女を解き放ちたかったのだ…そして私はあの子を……』

「……あいつの正体が早くばれるようにいろいろと社内で細工して、さらにいざと言う時の罪をすべてかぶるための準備をしていたって訳か。」

『そのとおりだ……これでわかってくれたか?私はあの子の親と名乗る資格もないような男だ。そんな男が今になって父親面をしてもあの子を傷つける事になる……だから私はあの子のためでなく自身の、あの子の母親のためという自身の自己満足のためにあの子をIS学園に送り込んだんだ。だから私にとってあの子は邪魔者でなければいけないんだ…』

「……」

『さて私に話せる事はすべて話したぞ。金の要求ならばれない程度ならいくらでもくれてやろう。どうせすぐになくなるものだ………』

 

そうデュノア社長は語るとしばらく沈黙した。

この人は何があってもこのことをシャルロットに告げることは無いだろう。

そして彼女に一切言葉をかけることなく目の前から消えるつもりだ……

そこまでの覚悟があるのならもっと良い未来のために協力してもらおうか。

俺は声をやわらかくして話しかける。

 

「じゃあ最後…といった後でスイマセンがもう一つ聞いてもいいですか?」

『あの子が集めた情報をこちらに送る前に、あの子が女だと公開してくれるなら何でもしよう。』

「ではお言葉に甘えて。あの時のクマのぬいぐるみは(・・・・・・・・・・・・・)いまだに大切にしていますか(・・・・・・・・・・・・・)?」

『……どういう意味だ?』

「ひどいな、忘れちゃいましたか?ひったくられた鞄を取り返したときの話ですよ。」

『…いや…まさか…ありえん……』

「確かにありえませんね。でも実際にそういうことなんですよ。お金持ちの社長さん。」

『…………』

 

デュノア社長は驚きのあまり声が出ないようだ。

俺はさらに声を優しくし話しかける。

 

「あの時のお礼をもらうために電話をさせてもらいました。お久しぶりですカザネです。」

 

 

 

 

貴方の心からくるものは、人の心を動かす。

                                ~ドン・シベット~

 




ということで謎がだんだん解けてきましたね。
デュノア社長はある意味作中で一番謎が多い人物ですね。
・なぜシャルロットを自身の家に連れてきたあげく軟禁したのか。
 婦人の復讐というか嫌がらせ目的なら
 作者なら自身の近くにおいて徹底的にいびると思います。

・シャルロットが邪魔になりIS学園に送った
 そんな危険性が有る行為をするくらいなら作中でも言ったように
 事故か何かに見せてシャルロットをISに乗れなくすれば問題解決です。

原作でも結果的に見ると
『シャルロットはデュノア家から開放されたあげく3年間の猶予を手に入れた。』
『そんなことをしでかした後でデュノア社はともかく社長が3年間もつ事はない。』
というシャルロットに都合がよすぎる結果に終わっています。
これは誰か裏で仕組んでいるだろう……ということでデュノア社長自身をそこに当てました。
ある意味そういう風に原作が進んでいると仮定してそこに主人公を介入させましたwww
ということで次回お楽しみにww


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第四十七話 共同開発

俺の正体を話した後の電話の向こうのデュノア社長からの返事は無い。

俺は口調をやわらかくしたまま話かける。

 

「あれ?本当に忘れちゃいました?」

『……いや……覚えているとも…あの時鞄を取り返してくれた少年だろう…』

「はい、そして同時に世界で二人目の男性のIS操縦者です。」

『っ……名前を聞き、身元不明と言われた時にはまさかとはおもっていたが…』

「まぁ、そんな偶然誰も予想できませんよ。もしかしたら僕が他に出会った人物もIS関係の仕事についていて【まさかあのホームレスが!?】って言ってるかもしれませんよ。」

 

俺は雰囲気をやわらかくするために冗談を言うように軽口を叩くがデュノア社長はいまだに驚いているようで返事は無い。

気にせずに話そう。今確かにシャルロットは眠っているがあまりにも長々と会話をしていては起きてしまうかもしれない。

 

「さて本題に入りましょう。僕のあなたへの要求は簡単です。」

『………ああ、そうだったな。言いなさい。先ほども言った様にできるだけの事はしよう。』

「『僕の計画に協力してください』、ただそれだけですね。」

『……そういわれても私にできることなどたかが知れてるぞ?』

「『シャルロットを救う』、これも計画の内だとしたら?」

『……どういう意味だ?』

 

俺は自身の計画の内の一部を話しかける。

なぜすぐさまシャルロットをデュノア社から離しIS学園に保護を要求しなかったかの理由である。

極端な話、理事長との話し合いでシャルロットの保護を頼めば恐らくあの人は俺の依頼をとおしただろう。

だが問題はその後なのだ。

 

「例えば今デュノア社長が計画しているとおりに事態が進みシャルロットはほとんど罪に問われずあなただけが捕まったとしましょう。」

『……何か問題があるのか?』

「反社長派が何をするかわかりません。あいつは反社長派の内情も社長派の内情も知りすぎている、相手がそんな危険なものを放置する理由が見つかりません。」

『だが罪は既に私が!?』

「でも反社長派(あいつら)からしたらシャルロットの存在が邪魔な事には変わりありません。そしてここまで条約違反などの犯罪行為を平然と提案するようなやつらです。ばれた後もあいつはデュノア社のテストパイロットでフランスの代表候補生なんですから呼び寄せるのも簡単です。」

『………』

「そしてそれから守ろうにもあなたは既に檻の中、僕もいくら男性操縦者といえフランスに強制帰国されるあいつを常に手元において置けるほどの我侭が言えるわけではない。そしてフランスに一人送り返されたあいつには味方が一切いない……よくて一生飼い殺しですね。」

 

一度ここまでの犯罪行為をおこなった会社だ。

今後そういった犯罪行為を絶対しないなどといえるわけが無い。

それに飼い殺しに関しては本当に抵抗する手段が無いのだ。

IS学園内なら確かに守りきれるだろう、だが三年後にあいつを守るにはどうすればいい?

三年後俺があいつを守りきれる保障も無いのだ。ならばその原因を潰そう(・・・・・・)

 

『……ではどうするというのだ?』

「反社長派を潰します。」

『……簡単に言ってくれるな…』

「でもあいつの安全を考えるとこれが一番なんですよ。社長、あなたがもし今すぐに第三世代ISを開発できたとしたら社内をどれだけ掌握できますか?」

『………確実にすぐにこちらに付くのは全体の6割、……そこから時間をかければ反社長派をすべて追い出すことも可能だ…だが我々では第三世代の開発ができないのが現状だ…だれも私にはついてこないよ…』

「ならば仮に『男性操縦者があなたにコンタクトを取って専用の第三世代開発を要請した』…としたらどうです?」

『だとしても時間稼ぎにしかならんよ…我々には第三世代を作るだけのノウハウはない……それに君の専用IS開発は禁止されている。』

「正確には一社による開発(・・・・・・・)です。なら共同開発(・・・・)すればいい。言い訳みたいなものですけどそれでもルールは守っている。」

『!?どことやると言うのだね。』

「倉持技研、彼らも自身の力による第三世代ISの開発にはまだ成功していない、でも開発のノウハウは十分にあります。WIN‐WINの関係でいけるように話を進めています。」

『話しは通っているのか……』

「あなたがやるといえばすぐにでも通します。」

 

倉持技研、彼らは恐らく探れば探るほど痛いところを大量に持っているだろう。

ならばそれを黙っていてやる代わりに第三世代ISの開発に協力しろといわれればデメリットよりもはるかにメリットが多いこちれを選ぶだろう。

 

『……だが他の国がどういうかはわからないだろう……』

「そこは僕に関するこの研究で手に入れたすべてのデータを公開するということにすれば文句は無いでしょう。今現在公開されているもの以外の、もっと開発に必要なデータのことです。」

『それでも拒否した場合には?』

「邪魔をした場合『今後どんな事があっても現存する二人の男性操縦者は、その企業が所属する国には今後一切協力はしない』。これは現在存在する二人の男性IS操縦者の共通の認識です。さらにこの計画が終了した後、僕に関する継続して公開しているデータ提出量の緩和を約束してやればいいでしょう。ただしその情報も邪魔をしたやつらが居る国には一切渡しません。」

 

この話は既に一夏に話している。

いわば『邪魔をしたら今後一切、男性のISデータを手に入れられると思うな』ということと『おとなしくしていたらさらに男性操縦者のデータをくれてやる』と言った話をするわけだ。

日本、フランス両政府としても男性操縦者のデータがさらに手に入るのだ、止める可能性は低いだろう。無論邪魔をした場合、いざとなればブリュンヒルデの名前や一夏誘拐事件の情報、さらにはフランス政府のおこなった行為などを利用したお話合い(・・・・)をするつもりもある。

 

『だが……われわれが第三世代の開発に失敗したとしたら……』

「確かにその可能性はあるでしょう、ですが一応こちらには第三世代の企画の原案、さらに開発協力の話しは既に信頼できる相手に通してあり、こちらとしてできる限りの準備はできています。」

『……どれほどの人物なのだ?』

「詳しくは言えませんが既に第三世代の開発にも関わっていた人物と言わせて貰いましょうか。」

『………』

 

社長としてはある意味うまい話しだろう。

だがその分失敗したらそのまま終わりだ、慎重にもなるだろう。

デュノア社長を安心させるため俺はさらに言葉を話す。

 

「仮に開発が失敗したら僕が適当な国に身売りしてシャルロットの保護をそのときの条件にしたらいいでしょう。そうすれば最低限あいつは守れます。」

『いや、そこではないんだ。……この計画君のリスクが大きすぎる。実質開発をするキモは我々技術者なのに、失敗した時のしわ寄せがすべて君に向う事になる。』

「…いえ、失敗したら確実にあなたも会社を失うでしょう。」

『そんな事は始めから覚悟の上だ。そもそもこのまま行っても私は会社を失うんだ、躊躇する理由にはならない。だが君がそこまでのリスクを負う理由がわからない。』

 

なるほど社長は俺が理由なくリスクを背負う理由がわからないと…

俺は声をやわらかくし再び話す。

 

「……はじめてあなたと会った日の話です。いろいろあって僕はあの後山に逃げるように上っていきました。そこで僕既にシャルロットと出会ってたんですよ。」

『……なん…ほんとうか…』

「ええ、その後一週間ほど彼女の家に泊めてもらいました。その時に彼女の母親に世話になりました。」

『………』

「あんなみすぼらしい格好で、ただのホームレスとしか思えないような僕に、あの人は本当によくしてくれました。僕の記憶の中で初めてしっかりと一人の人間として扱われた瞬間でしたね……いわばあの時間のおかげで僕はこの世界で汚い獣から人間になれたんです。」

『……』

「僕、まだあの人に人間にしてもらった恩返しできて無いんですよ。でもあの人は恩返しする前に死んでしまいました……ならせめて娘のシャルロットを救うことで少しでも恩を返したいんです。これが僕がここまでリスクを背負う理由です。」

 

これはまったくの嘘ではない。

再会する約束を果たせなかったシャルロットの母親に対する感情でもあった。

それにいい結果を望むのならそれなりのリスクを背負う位しなくては。

 

「まぁとりあえず僕の理由はそんなとこですかね。後は社長、あなた次第です。」

『……一週間……いや3日くれ。それまでには確実にこの企画を倉持技研に持っていく。』

「じゃあ先に倉持技研のほうから声をかけさせるようにしておきますよ。」

『……頼んだ。では3日後に。』

「ええ、よろしくおねがいしますよ。」

 

俺はそのまま電話を切ろうとすると向こうから声が聞こえた。

 

『娘を……頼む。』

 

デュノア社長は俺の返事を聞かずにそのまま電話を切った。

恐らく俺に伝えるつもりはなかったんだろう。

 

「任されました。」

 

聞こえるはずの無い電話に向い俺はそう返事をするのだった。

 

 

 

 

 

それから三日目の朝、おっさんとデュノア社長の説得もあってか俺の専用機の開発がデュノア社と倉持技研の間でおこなわれる事が決定された。

国家間における共同開発は既にアメリカとイスラエルで現在進行でおこなわれており前例が無いわけではない。

ただし今回は軍による共同開発ではなく企業間での共同開発、それも男性操縦者用の第三世代ISを作るというものだ。

もちろん各所から

 

『そんな事は言い訳だ!!』

『認められるはずがない!!わが国は反対する!!』

『許されると思っているのか!!』

 

と言ったような反発があったらしいが大半の場所は俺のこの開発での情報をすべて公開することを伝えると黙り込んだ。

それでもなお反発するところには俺の言った『今後一切情報を渡さない』という脅し文句を使ったところ黙らざるを得なかったらしい。

おっさんの倉持技研への説得は結局、楯無がやってくれたらしい。

まぁおっさん技術者だから腹芸はできんか…いざとなれば俺がやるつもりだったがそこら辺はありがたい。

開発の細かいところはぶっちゃけほとんど関わりようが無い。おっさんたち任せだ。

強いて言えばテストパイロットくらいだろうか。

だが既におこなう事が決定している事もある。

それは打鉄弐式の『山嵐』の製作費用の捻出だ。

仮に俺の専用ISの開発が失敗してもそれだけは確実に成功させる。

ある程度の使えそうなデータも既にデュノア社から送られてきており簪に渡している。

簪には『俺の専用機開発の過程で武装だけは作る』とだけ伝えてある。

マルチロックオン・システムについては簪本人が完成させなくてはいけないだろう。

だが後弐式の完成はこの『山嵐』だけなのだ。

連射型荷電粒子砲『春雷』については後は細かい調整だけでほぼ完成していると言っても良いらしい。それにこれからはおっさんも俺の専用機用の『荷電粒子砲』の調整として表立って簪の方もいじれるらしくこれからの調整も楽になったらしい。

 

 

さてあのおっさんの作る専用機……どれほどのキワモノになるのだろうか……

まぁ基本全力で動けて銃一丁もてれば俺はそれで十分だが。

あとは俺のISがしっかりと完成できるかどうかだな。

さらに細かい問題を挙げればそれはそれでいろいろあるのだが、そこら辺は社長が『任せてくれ』といっていたのを信じよう。もちろんこちらでも対策は練ってあるが。

さてこれで一応シャルロット、簪に関する現在俺にできる限りの問題解決は終わった。

後はこの計画が終わった辺りにもう一度動く程度だ。

さて後はあのラウラについての問題か……それは試合で出すしかないな。

既に翌日におこなわれる試合に向けて俺は気合を入れなおしていた。

絶対にラウラを救うことを胸の内に誓いながら。

 

 

 

 

幸せは香水のようなもの。他人にふりかけようとすると、自分にも2、3滴ふりかかる。

                              ~レオ・バスカリア~




ということでほとんどデュノア社については終わりましたね。
後は研究次第です。
フランス政府に関してはもう少し後で語られるでしょう、きっと。
ということでまた明日www


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第四十八話 対戦相手発表

試合の前日の放課後とうとう一回戦目の相手が発表された。

やはりというか案の定一回戦目の相手はラウラと箒……そしてなぜか簪だった。

え?お前なんで参加してるの?

確かこの時期の簪は……ああ、そうか。

打鉄弐式は本体の方は既に完成してるからか。

武装の方も『山嵐』以外はすべて使えると……

確かにデータ集めとしてはこの上なくいいだろうがちょっと予想していたよりきつい戦いになりそうだな……

丁度近くに簪が居たため声をかける。

 

「よ、簪ちゃん。一回戦目であたちゃったね。」

「……奏さん出ないんじゃなかったんですか?」

 

とちょっとにらまれる。

そういや…戦いは嫌いで出ないって言っておいてこの有様だからな……

ここは素直に謝っておくか。

 

「いや…僕は出る気なかったんだけど織斑先生に言われてね…まぁ巻き込まれちゃったって言うか勝手に暴れた罰というか…」

「?何かあったんですか。」

「ちょっと…頭に血がのぼって…アリーナ内で大喧嘩をしかけてしまいまして…」

 

俺が暗い表情で恥ずかしげに話すと簪は驚いていた。

 

「……奏さんからですか?」

「……結果的には…ハイ…」

「……誰と?」

「…ボーデヴィッヒさんと……もう本当に情けないというか…結局、嘘ついた形になっちゃってごめんね?」

「………」

 

というと簪はいまだに驚いていて反応は無い。

もう少しちゃんと謝った方がいいかと思ったらくすくすと笑い出した。

 

「ど、どうしたの?」

「…奏さんも怒って喧嘩するんですね。ちょっとびっくりしちゃいました。」

「そりゃ怒る時は僕だって怒るさ。本当に恥ずかしいからあんまり笑わないでよ…」

「そうですよね、ごめんなさい。でも想像できなくて。」

 

と言ってさらに笑う簪。

そこまで面白かったのだろうか。俺も笑いかねながら話す。

 

「それにしても簪ちゃんが出場しているのはちょっとびっくりした。」

「箒ちゃんに頼まれたんです。私と一緒に戦ってくれって。」

「そうだったの。」

 

なるほど、そして空いた残り1枠にラウラが入った感じかな?

 

「箒にも伝えといて。『僕はお前のことを応援してるけど勝負は別だよ?』って。」

「嘘はついてないけどずるいですね。」

「そんなこといわないでよ。まぁいい勝負をしよう。」

「はい解りました。では。」

 

そう言って俺は簪と分かれる。

あの子も結構明るくなってきたな。やっぱり近い友達が一人いるだけで結構違うのだろうか…

さてこの後は俺の部屋で作戦会議になるのかな…

と思いこの場を離れるととラウラがこちらに向って歩いてくる。

ふむ……今は何もせずにすれ違うとするか…

しかし向こうの方から話しかけてきた。

 

「おい、織斑一夏に伝えろ、『お前は必ず私が倒す』とな。」

「…うん?僕に言ってるの?」

「貴様以外に誰が居る。」

 

なんというコミュニケーションのとり方だろう。

俺は苦笑しながら話す。

 

「じゃあせめて名前を呼んでから話してよ、誰に話してるか解らないからさ。あと挨拶をすればなおの事いいね。さらに言えばいきなり本題に入らずにちょっと世間話からとかさ。」

「……必要性を感じない。第一、貴様は私の一番の敵だ。」

「一夏は?」

「あれは私の獲物だ…それと親しげに話しかけるな。」

「あ~確かにあれだけ喧嘩したしね…僕も言いすぎたと思うよ、ごめんなさい。」

 

と俺はラウラに謝り頭を下げる。

一方ラウラは、訳がわからないという顔をしている。

あれだけ俺は怒ったようにしゃべっていたんだ。

数日後にすぐ謝るとは思っていなかったんだろう。

それに親しげに話すなといっているのにこの対応だ。

そういや俺を倒して謝らせるって言ってたような気が……まぁ良いか。

だが彼女の疑問はそこではなかったらしい。

 

「うん?どうしたのボーデヴィッヒさん。」

「なぜ貴様は(テキ)に謝っている……」

「なぜって……敵だとおもってないから。」

「どういう意味だ…始めから貴様はおかしい。」

「おかしいって……どういう意味さ。」

「馬鹿にされてもまったく反応がない、実力が無いためかと思えばあれほどの実力を見せる。腰抜けかと思ったが対面してみればそれとも違う。だが敵に平然と頭を下げる…いったいなんなんだ貴様は?何を考えている。」

 

ああ、ラウラなりに一応俺の事は気にかけていたのか。

俺はラウラに笑顔を向けた話しだす。

 

「なんなんだって言われてもなぁ…それは僕が一番わからないや。」

「貴様…またも私を馬鹿に――」

「違う違う!単に僕自身、昔に記憶が無いからさ。なんなんだって言われてもはっきりと答えられないだけだよ。」

「……」

 

この答えではラウラは納得できないようで俺をまだにらんでいる。

俺は少し考えた後にラウラに話しかける。

 

「う~ん……どうしてそういう行動をしてるのかって言われれば、みんなで仲良くしたいからかな。」

「……どういう意味だ。」

「誰だって痛いのはいやだろ?それにできるだけみんなで笑顔でいたいじゃないか。」

 

俺の尊敬する、俺の目標はそういう人だったのだ。

そういうとラウラは俺のことを鼻で笑った後に話す。

 

「はっ、そんな事は無理に決まっている。」

「そうかな…全世界がそうできるとは言わないけど、身近なところはできると思うんだけどね。」

「不可能だ…貴様は人間の汚さを知らない。」

 

そう言って俺のことをにらむラウラ。

この子はその汚さを間近で見ているからこういうのだろう。

ラウラは言葉を続ける。

 

「……今まで自身の味方だと言っていた相手から突然役立たずといわれ廃棄するといわれた事が貴様にあるか?今までの仲間から蔑まれた目線で見下された事は貴様はあるのか!?」

「………そういう経験はないかな?」

「ほら見ろ、そういうことを知らないから――」

「でも見知らぬ相手から突然笑われながら銃で撃たれた事はあるかな。」

「……」

 

ラウラは俺の言葉を聞くと表情を変え俺を見る。

今までは興味の無いものと話す感じだったのに今始めて俺に興味を持ったようだ。

周りは誰も俺たちの会話を聞いてないようだ…もう少し話してもいいな。

俺はいつもどおりの笑顔を変えないで話す。

 

「これでも一応幼い頃は一人で生きてきたからね、頼み込んで働いたあげく給料も無くただ働きに終わったこともあるし、荷物を奪おうと集団で追われたり、ただそこにいるのが気に食わないから警察に通報された事もある。突然わけもわからず誰かに殴られたこともあったな。」

「……ならば解るだろう、人間はそういう生き物だ。」

「でも、そんな僕のことを助けようとしてくれた人もいた。僕が逃げている時に庇ってくれる人もいたし身元もわからない僕を三年間育ててくれた人もいた。」

「何が言いたい。」

「確かに人間は汚いよ、自分のために誰かを平然と傷つける。でも同時に誰かを助けるのもまた人間なんじゃないかな。僕はそう思うよ?」

「それは詭弁だ!!」

 

と声を大きくするラウラ。

これがラウラの根底にあるものだろう…

人間は怖い。何時裏切られるかわからず味方なんていない。

ただ自身を救い上げてくれた千冬さんのことを尊敬しているが仲間なんて一切いない。

これが彼女に見えるこの世界なんだろう。

ラウラの声に流石に回りも気がつきこちらに注目し始めたかそろそろ話を閉じよう。

俺は笑顔を崩さず話し続ける。

 

「でも誰だってきれいごとのほうがいいでしょ?だから僕はそれを目指しているだけ。」

「………」

「納得できないなら試合で僕に勝ったらもう少し詳しく話してあげるよ。そっちの方が君も解りやすいでしょ?」

「……」

 

そういうと返事もなくラウラは俺に背を向けて去って行った。

始めからこんな感じでやることができればなぁ……まぁ言っても仕方がないか。

自身の未熟を感じながら俺は自分の部屋に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入ると既にシャルロットと一夏が部屋の中で何か話していた。

二人とも俺に気がつくとあわてて話すのをやめた。

 

「お、お帰りソウ。遅かったね。」

「おう!!邪魔してるぜ奏。」

「………なんかあからさまに怪しいけどあえて聞かないでおいてやる。」

 

この二人の話しの内容は気になるが聞いてもこの二人は絶対に教えてくれないのだ。

まぁ……大体何聞いてるかは予想つくけど。

 

「とりあえず一回戦目から相手はボーデヴィッヒさんに簪ちゃんに箒だ。このうち箒以外は専用機もちだ。そして箒も最近の訓練でめきめき力を増している。油断はできない相手だ。」

「どうやって戦うつもりなんだ?」

 

一夏が俺に聞いてくる。

そういわれてもなぁ…正直俺は自身の戦いに関しては鍛え上げれても集団戦とかやったこと無いし……

そう考えているとシャルロットが声を上げた。

 

「まず方法としては先にラウラを倒してしまうか、他の二人を倒すのが安全だと思う。正直聞くだけでもラウラのあの能力は一対一で圧倒的に有利に立てる。だから先に三人がかりでラウラを落とすか、その前に二人を倒した後にラウラを三人がかりで倒す方がいいと思うよ。戦う最中にもラウラの能力の射程等を図ってそれを全体で把握。……ねぇ一夏。ラウラの囮は君に任せてもいい?」

「え、お、おう。」

「なら多分ラウラと戦う時も、近接で強力な一撃を持つ一夏が攻めれば多分彼女はすぐにあの能力を使うと思う。その時に一人が二人の牽制、もう一人がラウラへの攻撃をすればある程度安全に戦う事はできると思う。でも簪の専用機のことを考えると……ソウ。」

「あ、はい。」

「ソウのやって見せた銃弾で射線をずらすのってどんな時でもできる。」

「え、あ、ああ。ある程度弾が届く範囲ならいくらでも……」

「じゃあソウが二人の足を止めている間に僕がラウラを攻めるって感じが一番良いかな……」

「「………」」

「?どうしたの二人とも。」

「いや、あまりにも…」

「シャルロットの作戦がね……びっくりしただけ。」

 

突然真面目な目であそこまでてきぱきと作戦を立て始めたのだ。

しかも反論するべきところも見当たらないし……全部シャルロットに任せてしまおうか…

そっちの方が良いような気がしてきた。

だがまぁ……そうも言ってられないから意見は出そう。

 

「ならその作戦でさ、僕が二人を押さえ込んでる間にシャルロットと一夏の二人でラウラを落とすのは可能?」

「………一夏が僕を信じてラウラに攻めつづけてくれればいけると思う。」

「どうだ一夏いけそうか?」

「いやむしろお前二人相手にして戦えるのか?」

「多分いける。いやむしろやってみせるって言った感じかな。」

「……解った。じゃあソウは箒と簪の相手で僕たちでラウラを倒そう。」

「ああ解った。」

 

そう言ってある程度の作戦は決まった。

俺は作戦内容よりも一つだけ気になっていた事があった。

シャルロットは普段俺の前だと一人称は『私』だったはずだ。

だがこいつが今話す限り一人称はすべて『僕』だった……

わざとやっているとは思えないし…ある種の自己防衛なのかな…

戦いについて詳しく知っているのは自分()ではなく誰か()だと…

……これは考えすぎか。まぁ癖になっているだけかもしれないし。

俺がそんなことを真面目に考えているとシャルロットが不安そうな顔でこちらを見てくる。

 

「ソウ…今の作戦に問題あった?」

「?いや、まさか。僕が考えてたのは別の事さ。」

「うん?もしかしてシャルロットについて考えてたのか?」

 

と俺に聞いてくる一夏。

こういうときだけこいつ勘が良いんだよな…

俺はなんでもないように話す。

 

「まぁ…そんなとこだな。今頃どういう風に動いてるかなぁ…って。」

「どういう風にって……どういうことだ?」

「あれ?一夏には……そういえば言ってなかったな。ほとんどシャルロットの問題はほぼ解決したも同然なんだわ。」

「……はぁぁぁぁぁぁああああ!?」

 

と叫ぶ一夏、正直うるさい。

一夏はそのまま俺に叫ぶ。

 

「俺聞いて無いぞ!?そんなこと!!」

「僕言って無いからね、そんなこと。」

「言えよ!!俺だって本当に心配してたんだからさぁ!?」

「だから今言っただろ?解ったの今朝のことなんだよ。」

「そういうことじゃなくてだなぁ!?……はぁ…そういえばこんな奴だったなお前。最近は真面目なとこしか見てなかったからそれに慣れてたけどさ……」

「お前のこういうときの理解力がよくて僕はうれしいよ一夏。」

 

と俺がからかうように言うと一夏は俺をにらんでいる。

よし、これで話しの流れは変えられたかな?

そろそろ真面目に話そう。

 

「さて、冗談はここまでにして真面目に話すとしよう。シャルロットにも詳しくは説明していないしな。」

「始めからそうしてくれれば助かったんだけどよ…」

「……私も今朝になってからある程度大丈夫といわれても納得できないんだけど。」

 

と不満そうに俺を見る二人。

 

「まずシャルロット、落ち着いて聞けよ。」

「……わかった。」

「数日前にデュノア社長と直接交渉をした。」

「っ!?」

「え?デュノア社長ってことは…シャルロットの父親か。」

「ああ、それである程度の事情は把握した……一夏すまないがこれに関してはお前に話すことは難しい。」

「……どういうことだ?」

「そのまんまの意味だ。俺自身どこまで話していいか判断がつかない。」

「……わかった。結果だけ頼む。」

「結果としてデュノア社と倉持技研との共同開発による俺の専用機の開発、さらに俺のデータ公開、秘密裏に簪のISのパーツ造り。最後にシャルロットを開放するための下地が完成する。」

「……研究が成功すればの話か?」

「失敗しても俺の専用機について以外はほぼ解決している。」

「そっか…わかった。とりあえずしばらくは大丈夫ってことだな。」

「ああ。」

 

俺が一夏と離している間もシャルロットの反応は無い。

すこしだけ下を向くように考えている。

俺が社長と話したということがそこまでショックだったのだろうか…

 

「………シャルロット。今言ったように俺はお前とデュノア社長の互いの考え、行動をすべて知っている。」

「……あの人の考えって…」

「それはお前がデュノア社長に聞きたいというなら俺が必ず話させる。俺から聞きたいというのならいくらでも俺が話してやる。」

「……」

「知りたくないというのならそれでもいい。ただ一言だけ俺の考えを言わせてもらうと、俺は最初から最後までお前の味方だ。聞きたくないって言うんだったら俺はそれで言い。そう言っても良いほどのことをお前はされたんだからな。」

「……ごめん、もう少し考えてからでいい?」

「全然。むしろ何時でも良いからな。」

 

そう言うとうつむきながらもコクンと頭を下げる。

俺は笑いかけながら返事をする。

するとシャルロットは思い出したようにして話を変えた。

多分こいつなりに気を使ったんだろう。

 

「ねぇ、ソウはまだラウラのこと……」

「うん?怒ってないよ。あ、一夏、ボーデヴィッヒさんから伝言『お前は必ず私が倒す』だって。さっき言われたわ。」

「……そうか…お前は何か言われたか?」

「理解不能だって。ただ謝っただけなのに。」

「それは仕方ない。むしろそればかりはラウラと同意見だ。」

「そんな、ひどい!!」

 

と泣くような真似をする。

一夏は笑っているがシャルロットはいまだに聞きたいことがあるようだった。

 

「シャルロットどうした?」

「……ソウ、ラウラのことで何か隠してる事ある?」

「どうして?」

「……この前ソウの顔がすごい不安そうにしてたから…。私の事はもう解決してるって言ってるのに未だに何か不安そうだったからさ…それに今ラウラのこと話題に出したら雰囲気が変ったし…」

 

と確証は無いのだろうがぼそぼそと話すシャルロット。

そこら辺は確かに俺は一番不安に思っている。いわばラウラに関しては策はまったく無くその場で自身の実力で倒さなければいけない。しかも使える武器はISという満足に扱いきれない武器を使って助けなければいけないのだ……

緊張しているというより不安に押しつぶされそうなのとそれ以上にこんな状況にしてしまった自身を情けなく思う感情が入り混じった状態なのだ。顔から出ていたのだろうか…。

しかし一夏は気がついていなかったようで俺の顔をじっと見ている。

 

「いや、そんなことは無いよ?」

「………本当に?」

「いや、まぁ…」

「………本当か?」

「一夏まで…そんなに不安そうな顔してる?」

「いや、俺にはわからない。」

「顔じゃなくって雰囲気の方…」

 

ふ、雰囲気か…そこはどう隠せばいいんだろうか…

しかしなぜシャルロットが気がついたか?なんてことは聞かないが…どうしようか。

このまま事情を説明しても良いんだがそれだと下手な話、それを気にしすぎて一夏がラウラに落とされるかもしれん、それだとラウラを救出する時問題だ…

だけど今この雰囲気で挑んでもいろいろ影響ありそうだなぁ…

詳しく話さないけどある程度覚悟させておいた方が良いかな…

でも俺の現世の記憶でも戦闘内容詳しくおぼえて無いんだよな…確か一夏が助けてフラグを立てるんだったはず…

と思い二人を見るとじーっとこっちを見ている。

まぁ適当に話すか。

 

「まぁ…白状するとちょっと悪い予感がしてね。それも特大の厄ネタを感じた時みたいな。」

「……どれくらいの?」

「……無人ISが現れた時も同じ感覚がした…」

「うわぁ…お前へんなこと言うなよ…」

 

と嫌そうな顔をする一夏。

一方シャルロットはまだ俺のことを疑っている。

 

「本当に?」

「本当に。しかも俺の予感って悪い方は本当によく当たるからさ…この間の喧嘩もあってなおの事不安になってさ。」

 

といつも以上の笑顔で返す。

しかしこいつはまったく笑わない……いったいどこでばれたんだろうか…

何とか話をそらすしかないようだな。

 

「まぁ僕だって不安になる事くらいあるってこと。それにこの間少し怒っただけで一夏なんて変なものを見るような目で見るし…いったい僕のことをなんだと思っているんだ?」

「い、いや。だってお前口調まで変ってた…そういえば奏。前から少し気になってた事あるんだけど聞いていいか?」

「うん?なにさ。」

 

丁度よく一夏が話を変えてくれた。

この際何でも良いから話を変えよう。

 

「いや。お前普通自分のことを『僕』って言ってるじゃないか。」

「まぁ…そのとおりだね。」

「何でシャルロットと話すときとか怒ったときは『俺』なんだ?」

 

そこか…怒ったときはともかくシャルロットの方はな…

 

「素が出てるっていう感じかなぁ…もともと僕育ちがあれじゃん。」

「…え?もしかして重い話し?」

 

と焦る一夏。

お前こういうときの気の使い方はいいのに女性の行為に関しては駄目なんだよ。

絶対わざとやってるだろ。

俺は笑いながら話を続ける。

 

「いや?全然。んでその後教会で世話してもらった事はしってるだろ。」

「ああ、しってる。」

「そこで暮してるガキが教会に来る人に凄まじく口悪く話してたら格好がつかないだろ?だから自分で治したんだ。その時に日本語の方の一人称もちょっと乱暴な感じのする『俺』から『僕』に治したのさ。まぁ…今思うとそこまで口が悪かったとは思わないんだけどそういうことを気にした時期があるって事。」

「じゃあ私と話すときは…」

「ちょっと昔が懐かしくて少し戻っちゃうだけ。気になるんなら直そうか?」

「え!?だ、大丈夫だよ!!」

「そっか。あと怒った時はまったく意識して無いから昔の言葉使いになるって感じかな?意識して無いし。」

「そうだったのか……」

 

と納得する一夏。

シャルロットの方もいつもの顔に戻っている。

恐らく俺が放す気が無いということを察してくれたんだろう。

 

「それと明日の戦いに話を戻すけど―――」

 

とちょっとだけ自身の目的のために作戦に細工をしておく。

その後も、ただ適当な話をしながら次の日に備えた。

さて……一応ラウラの対策も話しているし、今の作戦だと恐らくVTシステムは作動しないはずだ。

後はいもしない神様にでも祈るとしますか…

 

 

 

 

欠陥の多い人間は、特徴も多い人間だ。

                              ~本田宗一郎~




ということで次回対ラウラ戦ですね。


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第四十九話 黒い雨

大会の当日俺は一夏、シャルロットと共にアリーナ内でISを展開していた。

一応試合開始前にある程度作戦は話しなおしたし問題は無いだろう。

周りを見渡すと主賓席らしき場所に何人か座っているように見える。

観客席も満杯で興奮気味か…一方相手側のほうはなんと言うか雰囲気が悪かった。

まぁ原因はラウラだろう。

簪は萎縮しているように見えるが箒はまったく気にしていなさそうだ。

そう考えているとラウラがこちらに声をかける。

 

「一戦目で当たるとは…待つ手間が省けたというものだ…」

「それは何よりだ……こっちも同じ気持ちだぜ。」

 

と返事をする一夏。

おお、開始前からヒートアップしてるな…

と思うと試合のカウントが始める。

 

5……4……3……

 

フィールドにいる全員が気合を入れる。

 

2…1…

 

ラウラとどちらが言うわけでもなく同時に叫ぶ。

 

「「叩き潰す!!」」

 

…0

 

試合が開始した。

同時に一夏が瞬間加速を使用しながらラウラに突っ込む。

一夏の雪片弐型がラウラに当たる前にラウラのISの能力『AIC(慣性停止結界)』が発動する。

AIC、後にセシリアから説明を受けたあの相手を停止させる能力。

あれはISの浮遊・加減速などを行う装置PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の発展系らしく相手のISすら自身の管理下において停止させてしまう装置らしい。

だが欠点として多量の集中力が必要であり、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄いというところが上げられるらしい。

ラウラが片手を前に突き出すと一夏の雪片弐型による突きは当たる寸前のところで止まる。

 

「開幕と同時の先制攻撃か……わかりやすい奴だな。」

 

と言いラウラはレールガンの銃口を一夏に向ける……

がその後ろから俺が雄叫びを上げながらブースト全開でラウラの方に突っ込む。

 

「うぉぉぉぉぉおおおおお、一夏ぁぁぁ!!!」

「!!邪魔を…」

 

と言い俺の方に銃口をずらすが、俺は二人に何もせずに一夏とラウラを飛び越え箒たちのほうへ向う。

一瞬ラウラは『は?』と言ったような顔でこちらを見る。

 

「いいのかい?注意が僕にそれてるぞ。」

「なに?っ!?」

 

俺の方に完全に目を向けている間にシャルロットがライフル状の武器で弾を撃ち込む。

ラウラはたまらず距離を取る。

シャルロットも追い討ちをかけようとさらに武器を展開する。

先ほどまで単発式のライフルを持っていたはずなのに既に両手の武器は入れ替わっており、片手にはサブマシンガンのような形状の武器、もう片方にはアサルトカノンを構えていた。

これがシャルロットの得意技の高速切替(ラピッド・スイッチ)らしい。

……これはかなり高度な技らしく普通のIS操縦者にはできないことらしい。それこそよほど自身を追い詰めて訓練しなければ2年という期間でできる(ワザ)では無い……。

…今は試合中だからあまり深く考えないでおこう。

シャルロットの武器から銃弾が撃ちだされる。

ラウラは何とかかわしているが数発被弾している。

このまま追い込めるかと思うとシャルロットの射線上に箒が入る。

シャルロットがそのまま箒に攻撃をしようとするのと同時にシャルロットめがけて数発の閃光が走る。

俺が瞬時に反応して銃弾で撃ち落そうとするが当たらない。

シャルロットは一発のみくらい後は何とかかわす。

見ると簪が春雷をこちらに向けている。

なるほど…箒と簪は一応コンビネーションはある程度できていると…

しかも春雷を止めるとしたら撃ちだす前で無いと無理か……

 

「私を忘れてもらっては困る!!」

「箒ちゃん、援護します!!」

 

箒はそう言いながら俺に突撃しブレードを振るう。

そして簪はそのままシャルロットと俺を狙うようにして春雷を撃つ。

なるほど…二人の狙いは始めから俺か。

ある意味無茶をさせれば勝手にそのまま落ちるもんな…俺。

恐らくこの二人の戦い方は箒がどちらかの足止めをしている最中に簪がラウラの援護をして一対一の戦いができるようにする。一対一なら圧倒的な強さを誇るラウラの強さをメインのおいた作戦という感じかな?

だが俺は箒の攻撃を紙一重でかわしながら簪の春雷を狙い撃ち射線をずらし続ける。

春雷から放たれる砲撃はどれも当たることなくあさっての方向へと飛んでいく。

この状態でラウラが俺を時々でも攻めればかなりいい展開になるんだろうが…残念ながらあいつの目には一夏しかうつっていない。

ラウラは一夏相手に両手から展開しているビームブレードで斬り結びながらワイヤーブレードでシャルロットを襲っている。

だがそんな状況で多大な集中力を使うAICが使えるわけが無いし近接戦なら一夏は今結構乗っている(・・・・・)

鈴戦ほどではないがそれなりに相手の攻撃を見切っている。

現状を見る限り一夏の方が近接戦なら一歩前に出ている感じだな…

そしてそこにシャルロットの援護も入って数発ずつだがラウラに被弾していく。

ラウラが落ちるのは時間の問題だろう。

それがわかるため状況を変えるために懸命に春雷でラウラを援護する簪、だが俺の邪魔のせいでまったく当たらない。

このままじゃいけないと考えたのだろう簪も俺の方に近づき超振動薙刀、夢現(ゆめうつつ)で箒と二人がかりで俺を攻める。

少し厳しいがこの程度ならまだ何とかなる。相手の攻撃を難なくかわす。

ただ余裕ではいけないので時々掠る程度はさせたし常に苦しそうな顔はしていた。

騙されたのかは知らないが二人は俺に集中攻撃を仕掛けてきてくれた。

その事を確認した一夏たちも作戦を開始する。

 

「それじゃあ…俺はこれできめさせてもらう!!」

 

そう一夏が言った瞬間一夏の全身から金色のエネルギーが漏れ出す。

白式の単一仕様能力『零落白夜(れいらくびゃくや)』を発動させたのだ。

ラウラだってその能力と危険性は十分知っている。

一夏はシャルロットの援護を受けながらラウラに猛攻を仕掛ける。

何とか一夏の攻撃だけはかわすが被弾する弾丸によりさらに機体にダメージが入る。

 

「っ!!図に乗るな!!」

「っ!?」

 

叫ぶと同時に一夏がまたもAICにより拘束されている。

だがこのタイミングでそれは悪手だ。

AICを発動させる、それはすなわち『自分は停止させているものに集中している』といっているようなものなのだ。その事さえ解れば隙だらけである。

 

「その隙もらうよ!!」

「な!?」

 

拘束した一夏の後ろから現れるシャルロット。

またもや集中砲火である。距離をとってもその距離にあった武器で攻められるのだ、やられる方としてはたまったものでは無いだろう。仮にシャルロットの銃弾を停止させても一夏が突っ込み続ける現状ではAICも使えない。現状ほぼ詰みの状況であった。

その後も俺は二人の攻撃をかわしながら時間を稼ぐがラウラは二人がかりの攻撃をかわしきれず少しずつダメージが蓄積していく。

そして5分ほどその動きを続けるとラウラは膝をつく様にして動きを止める。

……まさかもうシールドエネルギー切れにより撃破判定になったのか?

これが俺が作戦で仕込んだVTシステム対策だ。と言っても作戦と呼べないほど単純な話である。

『シュヴァルツェア・レーゲンの破損状況レベルDにしない。』

その事を利用した、ただそれだけである。

一夏とシャルロットには簪と箒に接近戦を警戒させないためにという名目でシャルロットのパイルバンカーは使わないで銃火器のみでダメージを与えるようにいっていた。

途中何回かパイルバンカーを使えそうなタイミングはあったが、シャルロットは何か察してくれていたのか一切使う事はなかった。よってラウラが受けたのはほぼシールドエネルギーの消費で、今までの戦闘を見るがぎり機体のほうには一切大きなダメージは無かったのであった。

再度ラウラの機体の破損状況を確認するが損害がレベルDに達していないだろう。

これならVTシステムが作動する事は無いはず。

よし、これで…いや油断はしない方が良いな。

俺は目の前の箒と簪の二人に話しかける。

 

「ラウラが落ちたけどどうする?僕疲れたからどちらか一人一夏たちの方に行かない?」

「今すぐお前を落とした後に戦ってやる!!奏!!」

「仕方ない、じゃあ僕あっちに合流させてもらうわ。」

 

そう言って全力で攻撃する二人の間をするりと抜けて一夏たちと合流する。

二人と合流すると箒と簪は追ってこなかった。

二人とラウラから注意をそらさず二人と話す。

 

「シャル、一夏。お疲れ~。」

「おう、って言っても俺じゃなくてほぜんぶシャルの攻撃だったけどな。」

「そんなこと無いよ一夏。ソウ、機体のほうは大丈夫?」

「機体は大丈夫だけど疲れたから休んでて良い?」

「あはは、ダーメ。」

 

と笑うシャルロット。

結構余裕あるな…しかしラウラの表情が見えない…落ち込んでいるのか?

しかし……作戦がうまくいったといっても、いくらなんでも落ちるのが早すぎないか?

確かにラウラはかなりの数の弾丸をくらっている。

だがラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』は第三世代IS、それも軍が開発したものだ。

いくら集中砲火を受けたとはいえあれでは……まさか!?

俺はラウラの方を向きISでモニタリングしてみる。

高エネルギー反応。次の瞬間ラウラの悲鳴のような咆哮がアリーナ内に響く。

 

「うわああああああああああああ!!!!!!」

 

悲鳴を上げながら機体から稲妻を発するラウラ。

クソ!!機体の破損状況レベルはどうみてもDじゃない。

VTシステムの発動条件は、機体の損害がレベルDに達した状態でのラウラの負の感情のはず…

記載ミス、もしくは設定をかえられていたか!?俺は焦りながら千冬さんに連絡を入れる。

 

「千冬さん!!警戒態勢を!!とりあえず主賓の方々をアリーナ内から避難をさせてください!!」

「…解った。警戒態勢をレベルDに。」

 

そういうと観客席に防御用のシャッターが下りながら放送が響く。

 

『非常事態発令。トーナメントの全試合は中止。状況をレベルDと認定。鎮圧のため教師部隊を送り込む。来賓、生徒はすぐに非難すること。』

 

アリーナ内に生徒たちの悲鳴が響く。

まだラウラのISは形を保っているができればあの形は見せない方がいい。

そのまま通信をアリーナ内にいる全員に伝える。

 

「全員ラウラから離れろ!!」

「解った。」

「ああ。」

「箒!!簪!!試合は中断だ!!協力を頼む。」

「了解した。」

「は、はい!」

 

これでとりあえず準備は終わったな。

次第にISの形が黒いドロのように崩れ変形していく。

そしてラウラの体はだんだん黒いドロのようなものに飲み込まれていく。

手を出したいが変形の途中で手を出したらラウラにどんな被害が出るか解らない。

 

「くそっ!!」

「ねぇ…あれ何?」

「…わからねぇ…」

 

という間にもだんだんとラウラのISは形を作っていく。

一夏はハッとしたように話し始める。

 

「あれは…雪片…千冬姉と同じじゃないか…」

「一夏!!落ち着け!!」

 

声をかけるが聞こえているのかどうか判断ができない。

いや…下を俯く様にして呼吸がはげしくなっている。

一夏の方を気にしている間にもVTシステムはその姿をあらわにし始める。

姿が落ち着いたとき完全にその姿は千冬さんのIS『暮桜(くれざくら)』そのものであった。

ただ大きさは本物よりはるかに大きく通常のISの二倍の大きさはあるのではないかというほどの巨体だ。

 

「……俺がやる。」

「おい、一夏、早まるな。」

「あいつ…ふざけやがって…千冬姉のまねして…」

 

駄目だ。一夏には全然声が届いていない。

俺は一夏の目の前に移動し真剣な顔で一夏にたずねる。

 

「一夏、何をする気だ。」

「あいつを倒すって言ってるんだよ!!」

「あれの中に居るラウラをどうするか聞いてるんだよ!!お前はその武器でラウラごとあいつを斬る気か!!」

「っ!!」

「あいつを今攻撃すれば中のラウラがどうなるかもわからないんだぞ!!それともお前は…ラウラを殺すかもしれない事をしてまであいつを斬りたいのか!!答えろ一夏!!」

 

俺は全力で叫ぶ。

あのVTシステムはこちらから敵意を向けない限り反撃はしてこないはず。

ならばドイツの方の対策や教師陣の判断を待ってからでも遅く無いだろう。

俺の声を聞いて一夏は一応落ち着いたようだ。だがまだあの機体に対しての怒りも見える。

一応あれに攻撃しても中のラウラへの直接の被害が無いという事はスコールからの資料でわかっているが、この状況を見るにどこまで本当かわからない。

 

「俺にもお前が怒る理由はわかる。だが冷静になれ。人の命がかかってるんだ、失敗はできない。」

「……ああ解った…」

「…あと怒鳴り声を上げてすまなかった。許せ一夏。」

「解ってる…」

 

一夏との会話を終え周りを見ると今の光景に驚いたのか三人とも目を丸くしている。

かまうことなく俺は千冬さんの方に連絡を入れる。

 

『千冬さん、ドイツの方から連絡は?』

「……先ほど入った。」

『内容を聞いてもいいでしょうか。』

「……」

「……VTシステム(例のシステム)について、俺は知っています。」

『…どこでそれを聞いた。』

「後で話します。それ以外には何の連絡を。」

『………操縦者の人命は重視せずにISの破壊を依頼された。』

「っ!!……」

『渡された情報を元に現在教師陣営で対策を検討しているが…』

「……対策は見つかりそうですか?」

『………』

「了解しました一旦通信をきります。」

 

なるほど……このまま教師陣のほうで対策が見つからない場合、ラウラを切り捨てる方向で二陣営は動いているのか……

言いたい事はわからないでもない、現在こいつはほとんど動いてないがいつ標的を観客に変えるかもわからない、仮に要人のほうに怪我でもさせたらIS学園とドイツはとんでもない打撃を受けることになるだろう……

だが気に食わないものは気に食わない。

すべての責任をラウラに押し付けその命を絶つつもりか?

そんなこと認めるわけにはいかない。

ぼそっと口から言葉が漏れる。

 

「ふざけるなよ……」

「ソウどうしたの。」

 

このままじゃ確実にラウラの命など関係なくこの事件を止めようと回りは動くだろう。

 

「ここにいる全員に頼みがある。」

「……そういうことだ?」

 

そしてそれは俺がここの世界に来たことが、試合前に止める事ができなかった責任だ。

 

「特に一夏。お前には絶対に協力してもらいたい。」

「ああ、解った。」

「何をするつもりなんですか…」

 

ならば何をしてでもラウラを救出してみせる。

 

「ラウラを俺たちだけで助け出す。」

 

絶対に死なせない…絶対に。

 

 

 

 

 

 

今そこで人が死のうとしている。僕にはその方が重い。

                        ~ヴァッシュ・ザ・スタンピード~




ということで実質主人公によるAIC潰しはつかわれませんでした。
あとでかく機会を予定していますのでそのときまで。


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第五十話 VTシステム

俺の言葉を聞いて4人は固まる。

当たり前だろう先ほどまで慎重に行こうと言っていた奴が突然自分たちだけで助けると言いはじめたのだ。

簪が言葉を発する。

 

「でも先生たちが動いてるってさっき放送で!?」

「ああ、『ラウラをたすけるため』じゃなくて『ラウラごとあれを破壊する』ためにな。」

「え!?」

「っ本当か!?奏。」

「ああ、ドイツ軍のほうからも依頼があり、教師陣も対策がない場合そうするらしい。」

 

俺が情報を話す。

急がなければすぐさま教員部隊が来るだろう、そうなれば俺が介入する前にラウラの身が危ない。

 

「いわばラウラはある意味もう助けられないと判断されたらしい。」

「でも…」

「俺は認めないがな。諦めるか、人の命って言うのはそう簡単に切っていいものじゃない……それだけは絶対に間違ってない……」

「……ソウはどうする気なの?」

「あいつは現在千冬さんのデータを利用している。そしてアレはあんな姿でもISだ。ならば一夏の雪片弐型の零落白夜ならシールドも関係無しに斬り裂けるだろう……一夏、あのラウラを被っているものだけ斬り裂く事はできるか?」

「……相手が動く場合かなり難しい…動かなければ多分…いや絶対に決める。」

「零落白夜発動分のエネルギーはあるか?」

「全力で行くのはきついな……」

「じゃあ僕の方から持っていけばいいよ。」

 

シャルロットからの一言。

聞くところによると自身のISからラインを引いて一夏の方へエネルギーを送ることができるらしい。

 

「シャルロット……頼めるか?」

「うん、任せて。」

「あ、あの。」

「簪、どうした。」

「私の弐式も多分エネルギーを渡す事ができると思います。」

「……頼む。」

「はい!!解りました。」

 

二人が同時に一夏の方に向かい作業を開始した。

一方箒は落ち着かない様子で俺に声をかける。

 

「私は何をすればいい。」

「箒、お前に頼みたいのは一夏の突っ込むタイミングの見極めと一夏の質問に答えてやってくれ。一夏、お前は斬り方とか踏み込むタイミングを悩んだらすぐさま箒に聞け。」

「お前はどうするんだ?」

「全力で動きを止める。」

 

こいつは武器や敵対行動するものに反応して動く。

ならば俺ができるだけこいつと戦い隙を作り一夏が突っ込んだ瞬間に弾丸で動きを止める。

簪とシャルロットが作業をしているところを見て俺はあのシステムの下に向う。

ISを右腕部位外解除しながらだ。

 

「お、おい、奏何してるんだ!?」

「安心しろ全力を出すだけだ。」

『風音くん!!何をするつもりですか!?』

「え~っと通信がきてるのはわかるんですけど、何言ってるか聞こえません。電波悪いみたいですね。」

 

山田先生から通信が入る。

俺がおどけた調子で返すと今度は千冬さんの声がした。

 

『ふざけるな。早くその場から避難しろ。』

「聞こえませんね…俺たちはラウラを助けます、諦めません。俺はまだあいつとの約束も千冬さんとの約束も守っていませんので。」

『……許可できんぞ。』

「勝手にやります。」

『聞こえてるではないか、チャンスは一度だけだぞ。』

「……了解しました。」

 

そう言ってVSシステムの前に立つ。

近くで見るとかなりでかいがそれだけだ。

俺は挑発するように声をかける。

 

「おい鉄屑……っていうか鉄かどうかもわからんか…まぁお前のことなどどうでもいい。クラスメイトを返してもらうぞ。」

 

当然反応はない。

だが俺は気にせずに声をかける。

 

「ラウラ、聞こえないと思うが言わせてもらう。確かにお前の言うとおり世界は汚い。平然と人を裏切る人間もいれば意味も無く誰かを傷つける人間も確かにいる。むしろそういう人間の方が多いだろう。」

 

俺はただ言いたい事を口にする。

周りが聞いてようがラウラの聞こえてなかろうが知った事ではない。

 

「だがそれがどうした(・・・・・・・)!!俺やお前みたいな奴もそうならなきゃいけないわけでもないし、何より誰かにそうやるのを見過ごして言い訳じゃない!!」

 

そうだ、ヴァッシュ(あの人)は誰かを助けるためにあそこまで傷ついた、あがいた、諦めなかった。

まだまだ未熟で背中すら見えないほど遠くにいるがが目指す事だけは諦めない、目指しちゃいけないわけじゃない!!

 

「がんばってもなんともならない事があるなら一人で抱えるな!!せめて誰かに相談しろ、俺でもいい!!俺ができなくてもそこからまた誰かを頼ってでも必ず助けてやる!!」

 

ここにいる全員がお前を助ける事に文句を言わずに協力してくれた。

ここにいるやつらはお前の見た汚い人間じゃない。しっかりとお前を一人の人間としてみてくれる。

 

「だからそんな歪な力にしがみつかれてとりつかれるな!!離れられないなら今すぐそんな鉄屑ぶっ壊して引っ張り出してやるからよ!!」

 

そう言って俺は自身の銃を展開して鉄屑(VTシステム)に向ける。

途端に鉄屑(VTシステム)は俺に反応し、千冬さんの雪片によく似たブレードを振り下ろす。

 

「奏!!危ない!!」

「ソウ!!」

遅せぇよ(・・・・)。」

 

俺は焦ることなく銃を撃つ。

雪片の柄の同じ部分を正確に撃ち抜き、まるで見えない何かにはじかれたように雪片ははじけ飛ぶ。

俺は一切その場から動かずに再び鉄屑(VTシステム)の頭の部分に銃を向ける。

 

「どうした鉄屑。その程度で千冬さんのコピーを名乗るわけじゃないよな。」

 

聞こえているはずが無いのだが次の瞬間鉄屑(VTシステム)の連撃が始まる。

だがそのすべてが先ほどと同じように見えない何かにはじかれたようになる。

それどころかだんだん俺の撃ちだす弾丸が鉄屑(VTシステム)の胴体を除いたいたるところにも当たり始める。腕部や脚部に撃ちこんでみるが貫通とまではいかないがめり込んでいる…

俺の低威力の銃ですらこれなんだ…四十口径くらいで貫通できそうだな…

しかも胴体以外に弾が当たっても反応はなしか……

俺はそのまま動くことなく相手の斬撃を銃弾で防ぎつつ後ろにいる一夏たちに話しかける。

 

「箒!!胸の辺りにラウラの頭があると思うがどうだ!?」

「え?」

「ラウラがどこにいるかだよ!?俺は大体そこら辺だと思うんだが他の誰か正確に把握できないか!?」

「え……ああ。私も大体そこら辺だとおもうぞ…」

「そうか。一夏!!準備は終わったか!?」

「お、おう。」

「タイミングはそっちに任せる!!後は俺のことを気にせずに斬れ。」

「お前はどうするんだ?」

「安心しろ、かわす。」

 

そう言いながら斬撃を防ぎ続ける。

システムだからだろうかひたすらに千冬さんもどきの斬撃を繰り返す。

それはまるで通用していないのが認められずただただ暴れながら繰り返しているように感じられた。

 

「ラウラ、お前の力はこの程度じゃないだろ?正直さっきまでのお前の方が強かったぞ?」

 

恐らく俺の声は聞こえていないだろう。

それでも、もしかしたらという希望を持って話しかける。

 

「お前の尊敬する千冬さんの剣はな…誰かを守ろうという意思があるから重く、鋭いんだ。こんな鉄屑が再現したようなものじゃ足元にも及ばないぞ?」

 

実際にそうだろう。

あの時戦った全力じゃない千冬さんですらこの程度ではなかった。

確かに斬撃の速さも力強さもこっちの方が上だろう。

だが気圧されるあの迫力も無く、ただ単に何の意思も無くふるわれる斬撃なんて何も怖くない。

それよりだったらまだただの銃弾の方が早く力強い。

 

「どうした!!お前の尊敬する、目指す織斑千冬はこの程度なのか!?」

 

俺の叫びがラウラに届いたのか、それとも自身にプログラムがまったく予想もされない方法で防がれている事に対処できなかった鉄屑(VTシステム)のせいかは解らないが、確かに鉄屑(VTシステム)の動きが悪くなる。

 

「一夏!!今だ!!」

「おう!!」

 

箒のその声と同時に一夏が動く。

 

「零落白夜発動!!行くぞ!!奏。」

「解った一夏!!」

 

さて俺もこの一瞬で全力(・・)を出そう。

左手の腕部装甲も展開し一斉に銃弾を撃ち出す。

両腕から火花が散り、まさに壁のように銃弾が飛ぶ。

あの無人ISの時よりもさらに多くの弾丸が鉄屑(VTシステム)を襲う。

鉄屑(VTシステム)は雪片をはじかれ大の字のようになりただ胸を突き出していた。

 

「はぁぁぁぁああああああ!!」

 

かけ声と共に一夏の雪片弐型の一閃がはしる。

ラウラのいると言った辺りを正確に斬り裂いた。

次の瞬間、鉄屑(VTシステム)はまたもや稲妻を出しながらドロのようになっていく。

そして斬り裂かれた場所からこぼれ落ちるように倒れるラウラ…

しかしまだシステムは完全に死んでいるわけではないようで、またもやラウラを取り込もうと気を失っているラウラの体にまとわりつく。

 

「一夏!!引き出せ!!」

「ああ!!」

 

と言いラウラを引き出そうとする一夏。

だが鉄屑(VTシステム)は一夏ごとラウラを取り込もうとするように一夏にまとわりつく。

何か方法はないか!?と思い二人に接近するとラウラの後ろ辺りにISコアが見える…

一か八か、俺はそのままISコアを右手で握り思いっきり引き抜こうとする。

とたんに今まで一夏とラウラにまとわりついていた泥が俺の腕にまとわりつく。

おかげでラウラのことを助ける事は出来たが今度はこっちが危険だ。

元々さっきの無茶でもう俺のISは限界だ、稲妻をはしらせながら俺に抵抗する鉄屑(VTシステム)。そのまま鉄屑(VTシステム)は俺を飲み込んでいく。

ならば…

俺は一旦抵抗をやめ中に取り込まれていく。

 

「ソウ!!」

「奏さん!!」

「おい!!奏!!何やってる!!」

 

と声がするが俺は体のすべてを鉄屑(VTシステム)に取り込ませる。

 

「いい加減にしやがれ!!しつこいんだよ、鉄屑が!!」

 

次の瞬間内部でISを展開、はじけ飛ぶように鉄屑(VTシステム)のドロが散る。

その隙を逃さないようにコアをドロから引きちぎり自身にまだまとわりついている泥をブーストを使い無理やり引きちぎりながら飛び立つ。

機体のいたるところから火花が散り特に右腕なんてかろうじて動いているようなものだ。

だが残されたドロのようなパーツは核を失いそのまま地面に熔けるように崩れていった。

それを確認した後俺は地面に着地する。

ラウラのほうを確認すると一夏に抱きかかえられるようにしてしっかりと受け止められている。

これで一件落着かなぁ…とも思ったが、この後の千冬さんからの説教だな……

俺のISは全身から煙を噴き出し火花を散らしているどっからどうみても無茶しました!!って感じだし、千冬さんは最低でも命令違反をしたことの反省文を書かせるはずだ……また今日は徹夜かなぁ……控えめだといいなぁ…

とくだらない事を考えながらラウラ救出作戦はこうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の結末って言うか俺のおこなった結果。

まずラウラの様態は怪我は一切無く体に別状は無いらしい。

極端に疲労したいたために一日のみ医務室で様子を見るのみに終わった。

 

さらに俺のIS、打鉄改―赤銅―は廃棄が決定した。

正確には廃棄ではなくそのISコアを今作っている俺の専用機に使うらしい。

その間俺は他の生徒と同じ扱いになるらしい。

まぁ愛着があった機体ではあるが、お世辞にもいい機体であるとは言えなかった…

が最後に俺の全力に答えて無茶をさせてしまった機体だ。

これからも俺と一緒に戦ってくれるのならばそれはそれで力強い。

 

鉄屑(VTシステム)については俺が一夏たちには伝えなかったためあいつらには口外しないようにという連絡のみで済んだ。

が俺は千冬さんにそれを知っていると言い、さらに緊急事態だったとはいえ『後で説明する』とまで言ったのだ。結局説明させられた後にこってりしぼられた。

まぁそれでもある程度は千冬さんも察してくれたらしく反省文は前回より少ない10枚で済んだ。

ドイツから詳しい説明は受けていないが恐らくラウラのISにおこなわれた鉄屑(VTシステム)の搭載処置はかなり短期間におこなわれたものなのではないだろうか?

元々実働部隊のISをいじって実験するなんてほとんど難しいだろう。

それをばれないようにおこなった結果、普段よりもゆるい設定になり、さらに設定も正確におこなえなかったためこのような結果になったのではないのだろうか…

ただこの事は聞くことはできない上に忘れなければいけないことだ…

またこんな事が無ければ(・・・・・・・・・・・)俺も関わるつもりは無い。

 

さらにこの大会はこのまま続けるのは中止になり一回戦のみおこなう事になったらしい。

その報告を聞いたときの一年部の風景は説明する必要も無いだろう。

 

話しは変るが俺の専用機の開発はある程度目処が立ったらしい。

どんな機体か聞いてみたが完成してからのお楽しみといわれた。

まぁ最低限全力で動けて銃が撃てれば何でも良いよ。

 

そしてもう一つの大切な問題がこれで解決した。

シャルロットについてだ。

現在開発されている俺の専用機はそれなりに強力なものになったらしく一応フランス政府側からはデュノア社の存続が許されたらしい。

ここで俺と契約を結んだデュノア社長の手腕も評価されたのではないかとも思う。

そこは正直どうでもいいのだがデュノア社長は早速反社長派を削っていっているらしい。

このまま行けば経営再建とまでは言わないが社内のすべてをデュノア社長が掌握できるのではないだろうか。

 

そうなると最早シャルロットの問題は無くなった。このまま狸理事長の許可をもらえればと思い行ってみるとすぐさま許可が下りた。

なんというか拍子抜けだったがそっちの方の処理は理事長がやってくれるらしい。

どういう風にけりをつけるかは解らないがシャルロットはある意味いろいろな秘密を知りすぎている。下手な扱いはされないだろう。

 

そんなことを考えている俺は今現在大浴場に入っている。

山田先生から許可をもらい一時間だけ自由に入れるのだ。

ただ一夏は俺より先に入った後先に上がって行った。

まぁ……それでも軽く50分近く入ってるんだけどなあいつ。

俺は残り5分の時間ギリギリまでゆっくり入ることにしていた。

俺は広い浴室の端でもたれかかるようにして上を向きながら顔にタオルを乗せ広々と湯船につかっていた。

 

「あ~久々の風呂はやっぱ良いわ……」

 

誰に言うわけでも無くつぶやく。

その瞬間浴室のドアが開く音がする。

だれかわからないが確実にヤバイ。

俺はそのままの姿勢で声を上げる。

 

「ちょっと、入ってますよ!?今は男子のみの時間だよ!?」

 

そう言っても浴室を歩く音は止まらない。

一夏か!?いやあいつの足音はもっと違ったはず。

それにここまで黙って入ってくる理由がない。

とうとう謎の人物が湯船につかる。

ここまで来ると最早あいつしかいないだろう。

 

「お前……何してるんだ、シャルロット。」

「っ!?…ぼ、僕もお風呂に入りたいなぁ~って。」

「いや、なら言えよ。俺上がるからさ。」

「い、いいよ。ソウに悪いしさ……」

「いや、そういう問題じゃないから。」

 

俺は一切動かずに声をかける。

この状況いろいろまずい。

まず俺はこの状況どうしようもない。あいつが動かない限り俺はここを出れない。

さらに俺が顔にタオルをかけているから見えないが向こうはある意味見たい放題だ。

まぁ湯船は入浴剤か何かで緑色で見えないんだけど……

あいつは何を考えて何を狙ってるんだ……

 

「シャルロット……」

「ど、どうしたのソウ…」

「……一体要求はなんだ?」

「どうしたの突然!?」

「それはこっちの台詞だ!!突然何考えてやがる!?」

「た、ただお風呂に入りたかっただけだよ。」

「クソ!!お前俺が言いたい事わかってそう言ってるだろ!?」

「ソウはどうして僕…ううん、私がこうしたか……わかる?」

 

お前……今それを言うのかよ…

ちょっといくらなんでもずるくないか?

だがお前がこういう行動をするのなら俺にだって考えはある。

 

「……大体はな。」

「っ……どうしてだと思った?」

「俺だって馬鹿じゃない。お前の考えていることだって解るつもりだ。」

「そっか……ねぇ…ソウから言ってくれる?」

「ああ……」

「……」

 

シャルロットお前は多分この後俺からの告白があると思っているのだろう。

だが俺はそんなことするつもりはない。

 

「そんなに俺の裸が見たかったのか……」

「………え?」

「いや、ここまでしてみたいんだったら言ってくれれば上半身くらいなら見せるぞ?」

「………」

「まぁ…お前がそういうスケベなのはなんとなく解っていた。ただ誰かを困らせてまでやるのはちょっとほめられないぞ?」

「……ソ…カ……」

「うん?どうした?」

「ソウのバカァァァアアアア!!」

 

その叫びの後桶がこちらに飛んできて綺麗に顎にヒットする。

結構痛いけどまぁ…これくらいは仕方ない。

俺は顔にタオルが落ちない様に押さえながら話をする。

 

「人に風呂桶を投げるものじゃないぞ~。」

「うるさいバカ!!」

「バカとはひどいな。お前がこんな事をする理由なんて他に――」

「もう!!ちょっとでも期待した自分が恥ずかしい。」

「何?ボディビルダーみたいな事すればよかった?」

「そこから離れてよ!!」

「……え?じゃあ何で入ってきたの!?」

「ちょっと!?私のことなんだと思ってたのソウ!!」

「男装してまで男の裸を見に来た女。」

「流石にひどいよそれ!!」

 

と一通り漫才をするように話した後同時に吹き出す。

一通り笑った後俺はシャルロットに話しかける。

 

「まぁ…真面目に言うとあまり焦るな。今はこれだけで勘弁してくれ。」

「……うん、解った、我慢する。……後もう一つ言いたい事があったんだ。」

「なんだ?」

「ソウ、私を助けるって言ってがんばったなって言ってくれた時、本当にうれしかった。最後までどんな時でも味方でいてくれるって言ってくれて本当に心強かった。」

「そっか……」

「助けてくれてありがとう。」

「…お前は助けられてくれたか……」

「うん……」

 

今度は気持ちいい沈黙だけが場を支配していた。

そうか、俺にも誰かをしっかりと助ける事ができたか。

そう考えれば今回の行動は無駄じゃなかったな…。

さて余韻に浸るのはここら辺にしておこう。

 

「シャルロット、すまんがそろそろ俺も上がりたいから出て行ってくれるか?」

「え?あ、うん!!ちょっと待って!?」

「急げよ?」

「解ったからちょっとせかさないで!?あ、イタっ!」

 

という言葉と滑ってしまったのかこけたような音がする。

危ないな…

 

「こけてるじゃないか……相変わらずそういうところはかわらずか?」

「もう、うるさいな!!」

 

結局時間ギリギリまで俺は湯船につかり着替え終わった頃には時間をオーバーしていた。

まぁその時誰も近くにいなかったから良しとしよう。

俺たち二人は湯船から上がった後ゆっくりと話しながら自身の部屋へと向った。

 

 

 

 

 

 

「今が最悪の状態」と言える間は、まだ最悪の状態ではない。

                              ~シェークスピア~




ということでVTシステムとの戦いはこれで終わりです。
もう少しで二巻終了になりますがもう少しお待ちください。
ではwww


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第五十一話 歓迎

次の日の朝、先生方の命令でシャルロットは俺の部屋を出ていった。

荷物をまとめ軽く手を振りながら笑顔で俺たちは分かれた・

そして俺が教室に行った後もあいつの姿は無かった。

だがまぁ…心配は無いだろう。

仮に何かあったなら最悪全力で大暴れしてやろう。

そんなことを考えながら自身の席に座っていると一夏が俺に話しかける。

 

「なぁ、奏…」

「おはよう一夏……どうしたそんな顔して?」

 

見ると一夏はなんというか不安そうな顔をしている。

 

「い、いやさ……今朝からシャルの顔見ないし…」

「安心しろ、仮にもしお前の思うような事態になってたとしよう。」

「?なったとしたら。」

「今頃俺がこうしてここに座ってるわけが無いだろ?そうなったら俺が今頃全力で暴れてる。」

「……それもそうか。」

 

そういうと一夏も少し安心したようだ。

するとセシリアと箒が近くに来る。

 

「奏さん。昨日は一切会えずに話せませんでしたがあれは一体なんだったんですの!?」

「おお、おはようセシリア、今日も元気だねぇ…」

「そんなこと今は良いですから早く教えてください!!」

「あ~ごめん、あれについては話せないんだ。多分一夏や箒たちも口止めされてるだろ?」

「ああ、一切話すなといわれている。」

 

と答える箒。

しかしセシリアとしてはのけ者にされているような気がしてならないのだろう。

不満そうな顔をしている。まぁ……こればっかりは絶対に説明できないんだ、諦めてもらうほか無いだろう。

その一方で箒も聞きたいことがあるのかさっきからこちらを見ている。

 

「どうしたの?箒。」

「いや……前に織斑先生が言っていた一番強いのがお前だということが昨日すごく納得できてな…今まではただ適正の低さと関係なく実力を発揮できるから強いと言われていると思ったんだが…」

「ああ、確かに…出鱈目だとは今までも思っていたが……もはやそんなレベルじゃないよな…アレは……」

 

と昨日の事を思い出したように話す二人。

まぁ……普通じゃない事の自覚はあるから何もいえない。

ただ笑って場を濁そうと思ったがこれ以上話についていけないのが嫌と感じたのか、かなりの勢いでセシリアが二人に聞く。

 

「奏さんが一体何をしましたの!?」

「……ISを相手にして生身で押さえつけていた。」

「…箒さん、今なんとおっしゃいましたか?」

「だからほぼ生身で全力で刀を振るうIS相手に銃ひとつで押しとどめていたんだ、こいつは。」

「………一夏さん、本当ですの?」

「……残念ながら本当だ、しかも俺たちと会話する余裕まであった。」

「いや、余裕は無かったよ?必要だったからやっただけで。」

 

と俺が言うとセシリアはさっきまでの勢いは完全に無くなっていた。

俺の方を向き話し始める。

 

「……奏さん。」

「はい、なんでしょう。」

「なぜISで戦わなかったのですか?」

「動きづらくって全力で動けないからです。」

「……ISを使わなければ全力で動けると?」

「いや…それでも無茶すると最低でも腕部も壊れちゃうんだけどね。」

「………」

 

完全に頭を押さえるセシリアと言っている意味が理解できないように固まる箒。

一夏に至っては遠くを見ながら微笑を浮かべている。

めちゃくちゃな事を言っている自覚はあるが俺としては嘘は言ってないのだ、もはや笑うしかない。

 

「お願いだから、あまり広めないでね?」

「……だとしてもどう説明すればいいんですの?」

「……さぁ?」

 

というと丁度よく山田先生が入ってくる。

セシリアと箒は納得できない顔をしながら自分の席に戻る。

一夏は隣の席なのでそのまま席に座るが…山田先生の顔もなんというか複雑な顔してるな。

教壇の前に立つとそのまま話し始める。

 

「えーっと……今日は皆さんに転校生を紹介します。」

 

というとざわめく教室。

一夏の方を見ると俺の方を見ながらびっくりしている。

……あ、そういや今日シャルロットがそのままの姿で来る事言ってなかったな。さっきの話しの流れで完全に忘れてたわ。

一夏が俺に何か言う前に教室内にあいつが入ってくる。

いつも着ている男子の制服ではなく完全に女子の制服を着ているあいつにクラス中が固まる。

教室中がシーンとなりシャルロットの発言を聞く。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします。」

「ええと…デュノア君はデュノアさんということでした。」

「「「「「……」」」」」

「……はっ?」

 

という山田先生の言葉を聞いた箒の声のあと、教室内が一気にざわめく。

 

「つまりデュノア君って女?」

「おかしいと思った。美少年じゃなくて美少女だったわけね。」

「って言うか織斑君!!同室だったって事は……」

「絶対解らないはずがないわよね!?」

「え!?え~っと…」

 

と一夏はしどろもどろになっている。

周りをみるかぎり、彼女たちにはそっちの方が重要らしくシャルロットのことをを責める人間はいなかった。

だがさらなるクラスメイトの発言により事態は急変する。

 

「ちょっと待って!?昨日って男子が大浴場使ったわよね!?」

「でも私、昨日ソーがデュッチーと一緒にお風呂から歩いてきたとこ見たよ?」

「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」

 

え?……のほほんさん…君何言ってるの?

いや、大浴場から出たとき人の気配は感じなかった…だが一体なぜ!?

まさかの発言に俺は固まる。一夏も俺を見ながら固まっていた。

シャルロットにいたっては顔を赤くしてうつむいている。おい、ばれたらやばいんだから隠せ。

俺が何か言う前にクラスはさらにヒートアップしていく。

さらに教室のドアが勢いよく開く。見ると鈴が一組のクラスに乱入しようとしていた。

 

「箒、セシリア!?どうなってるの!?」

「鈴さん!!シャルルさんは実は女で、奏さんと一夏さんが一緒になってそれを隠してたんです!!」

「しかもデュノアは昨日大浴場で一緒に風呂に入っていたらしい。」

「はぁぁぁぁああああああああああ!?」

 

お前ら…こういう時だけ何でこう連携が良いんだよ!?

目撃者ののほほんさんはさらに自身が見ていた光景を話す。

 

「昨日私がかんちゃんの部屋からかえっているときにねぇ、二人が一緒に大浴場の方から歩いてるのみたんだぁ。」

「ちょっと!!本音!!それ本当!?」

「うん、髪がぬれたまま二人で笑いながらソーの部屋に入っていってたよ?」

「え?……デュノア君って織斑君と同室じゃなかったっけ……え?何で!?」

「織斑君!!どういうこと!?」

「……え~っと…」

 

と言いながら俺を見る一夏……良い、今回は俺に押し付けろ。

そう思いうなずくとあいつが話し始める。

 

「…理由があってシャルは奏の部屋に住むことになってたんだ。あと俺と奏はシャルが女だって事は知ってた。」

「え!?風音君本当?」

「ああ、一応ちゃんと理由があってね。そうしないといけなかったんだ。もちろんちゃんと織斑先生たちには連絡してたよ。むしろ理事長は知ってたし。」

「え…先生も知ってたんですか!?」

「え~っと……はい。しかし理由があって説明はできませんでした。」

「理由って?」

「えぇっと…」

 

と言ってこっちを見る山田先生。

仕方ないか、俺はバトンタッチする形で説明を引き継ぐ。

 

「ごめん、それをみんなに話すわけにはいかないんだ……でも悪い事をしてたわけじゃないんだ。だからシャルロットのことをクラスに受け入れて欲しい。皆お願いだ。」

「今まで嘘をついていてごめんなさい…でもできれば私をクラスメイトとして受け入れてください!!お願いします。」

 

そう言って俺とシャルロットはクラスの全員に頭を下げる。

俺の真面目な雰囲気を感じ取ってくれたのか問い詰める人はいなかった。

まぁ本当の事を言うと、俺もどういう理由でシャルロットとして入学の許可を下したのか解らないから説明できないだけなんだけどな。後でたぬきに聞いておこう。

俺が反応を見て頭を上げると鈴が納得いかないように俺に声をかける。

 

「いや、それはいいんだけど……奏、あんた昨日シャルルと一緒に風呂に入ったの?」

「そんなはず無いだろ?鈴、僕がそんな奴に見えるか?」

「じゃあ何で一緒に風呂上りで歩いてたのよ。」

「一夏が上がったあとシャルロットも風呂に入りたいって言ってったから入らせたんだよ。僕はその間、誰も入ってこないように入り口の方で見張りしてたの。」

「……ふ~ん……変なことしてないでしょうね。」

「神に誓って。なぁシャルロット。」

「え!?あ、うん。奏にはなにも。」

 

おいシャルロット、それだと一夏が何かしたみたいだぞ?

……まさか一夏あんな短期間の間にラッキースケベかましてたのか?

もちろんそれを指摘するつもりは無かったが箒、セシリア、鈴が気が今の発現に気がつかないわけが無かった。

逃げ場がなくなるように一夏を囲む。箒が鬼のような形相で一夏に問い詰める。

 

「『奏は』……って事は…一夏ぁ!!貴様何をした!!」

「うぇ!?何もしてな……あ…」

 

そう言って顔を青くする一夏。

うん、一夏の反応を見る限り何かしたんだろう。

俺はとりあえず何をしたか聞いてみた。

 

「一夏お前何したの?」

「いや…事故だったんだ…」

「奏さんは何をしたか聴いてるんですよ?一夏さん。」

「いやそこまでしてきい――」

「奏、あんたは黙ってなさい。」

「はい。」

 

鈴の気迫に黙る俺。

なんかすごいオーラを発する箒、セシリア、鈴の三人。

シャルロットの方を見ると顔を赤くしてうつむいている。

一体何がったんだ?俺も少し興味がある。

 

「一夏、今白状したら殺しはしないわ。」

「え!?もう一夏がそこまで重罪なのは決定してるの!?」

「奏さんうるさいですわよ。少し静かにしてくださいな。」

「あ、はい。スイマセン。」

 

俺が場の雰囲気を変えるように茶化すがまったく通用しなかった。

いや、本当に怖い。

なんというか下手な事を言えば一気にこっちが標的にされかねない感じがする。

いつの間にか一夏は箒、セシリア、鈴を最前線にして女子生徒に囲まれてていた。

……山田先生何あなたも混ざってるんですか?

箒は一夏を見下すようにして話しかける。

 

「さて一夏、白状しろ。」

「いや……俺がまだシャルと一緒の部屋にいた時の話しなんだけどさ……」

「続けろ。」

「悪気があったわけじゃ無いんだ…ただちょっとタイミングが――」

「言い訳は良いから早くいいなさいな。一夏さん?」

 

怒りに満ち溢れた顔で見下す箒と笑顔で話すセシリア。

しかしセシリアの方は雰囲気は俺と戦った時と勝らぬとも劣らないほどの気迫があふれているし、箒の方はまるで汚らしいものを見るような顔で一夏を見下している。

俺が一方後ろに引くと他の生徒は一歩前に踏み出す。

味方はいないかと思っているとシャルロットがポカーンと自己紹介をしたところに立っている。

恐らくこの雰囲気についていけないのだろう。俺もそちら側に少しずつ移動する。

そんなとき一夏が観念したようにぼそぼそと白状をする。

 

「……俺は…シャルロットが着替えてる最中に部屋に入ってしまいました……でも気づいた瞬間目をそらして部屋から急いで出たんだ!!本当だ!!」

「解ってるわ一夏…」

 

と何をしたかを話す一夏。笑顔でそれに答える鈴。

あ~……まぁ仕方ないっていえば仕方ないのかな?

一夏が入ってくることを考えなかったシャルロットも悪いし、もしかしたら着替えてる最中かもと言った風に、そこら辺を考えなかった一夏も悪い。

鈴は満面の笑みで一夏を見返す……が目が笑っていない。

ああ、猛烈に嫌な予感がする。

 

「鈴……信じてくれるのか?…」

「…一夏ぁっ!!シネェ!!」

「待って!?シャルも許してくれたし、本当に俺死ぬ!?死んじゃう!!」

 

鈴はISの腕部のみ展開している。

そのまま一夏を殴るのか!?……いや、あの力の入り具合だと振りぬくつもりは無いな…

恐らく一夏を脅して終わりだろう。そのため俺は間に入らないでいると代わりにそこに入り込む黒い影があった。独特の能力発動時の音をさせながらISを起動させる黒い影。

鈴と一夏の間に入り込んだ影はラウラだった。

AICを発動させ鈴の拳を止めている。

まぁあのままいっても拳は一夏に届く前に止まっただろうが一応止めた方がいいとラウラは判断したのだろう。

一夏も恐怖から開放されラウラにお礼を言う。

 

「ラウラ!?助かったぜ、サンキュ――むぐっ!?」

「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」

 

や、やった!!ラウラの奴一夏にキスしやがった!!

……え?一夏、お前何時の間にラウラにフラグ立ててたの?

昨日戦ってる最中は結構険悪なムードだったけど…

だがそんなことは関係なく周りの反応はすごいものだった。

 

「はぁぁぁぁぁ!?あんた突然なにしてるの!?」

「うん?好意を相手に示すのはこれが一番だと聞いたが?」

「それは…そうですけど手順というものがですね!?」

「一夏ぁっ!!お前何ニヤニヤしている!!」

「え!?箒!!俺そんな顔してない!!」

「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁああああああああああああああ!?」」」」」」」」

 

なんという阿鼻叫喚。

最早クラス中とんでもない事になっていた。ラウラはISを解除して一夏の右腕に抱きついているし、セシリアと鈴は一夏にすごい勢いで噛み付いてる。箒は一夏の左手をちゃっかり握りながらラウラに威嚇している。

一夏は噛み付いてくる二人に反応しながらも混乱してるな…

クラスメイトたちは完全に今、目の前で起こった現実に一夏と同じように混乱して騒いでいる……山田先生あなたまで混乱して一緒に騒いでどうするんですか!?

こりゃ千冬さん以外どうしようもないな…そう思ってシャルロットの方を見ると完全に雰囲気に呑まれてポカーンとして口を開けている。

その顔がどうしようもなく面白く俺は笑いながらシャルロットに話しかける。

 

「なんつう顔してるんだお前。」

「え…ソウ、どうしてこんな事に?」

「さぁ?こうなったからには千冬さんが来るまでしばらくこのままだろ。」

「え?…ソウは何とかする気はないの?」

「俺?無理無理。千冬さんにまかせるさ。」

 

そう言ってシャルロットに笑いかける。

この雰囲気を俺が楽しんでいる事を察したのか、つられるようにしてシャルロットもふきだす。

それを見て俺は笑顔で話しかける。

 

「まぁとりあえず一言言っておくか。」

「なに?」

「ようこそシャルロット・デュノア。一年一組へ。僕たちは君を歓迎する。……ちょっと臭かったかな?」

「………もう。言うなら最後まで決めてよ。」

 

そう言って笑いながら二人で教室中を眺めていた。

現在一夏は、教室内を4人から逃げ回りクラスメイトたちは山田先生と一緒になってさまざまな妄想をいって混乱している。まさにお祭り騒ぎだ。

これじゃあ一時間目も大騒ぎで全員千冬さんに怒られるだろうがこの際受け入れよう。

 

 

 

 

生きるということは刺激的なことであり、それは楽しみである。

                               ~アインシュタイン~

 




ということで二巻終了ですw
こっから先はちょっと別の話を挟んだ後3巻のほうに入ります。


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第五十二話 その後の呼び名

一連の騒ぎが終わったあとまた日常が戻ってきた。

寮の部屋割りも新たに直され、その結果一夏からすると待望の男同士の部屋になった。

まぁ俺も待ち望んでいた事ではあるがあいつのように決まった瞬間ガッツポーズをするほどではない。

条約的に緩和されたのか?と思ったが理事長がいろいろと口を利いてくれたらしい。

シャルロットの入学理由を聞きにいった時に話してくれた。

シャルロットの入学理由としては正式にフランス政府からの依頼となったらしい。

なおフランスが女性操縦者を男性として送り込んだ理由は表面上『フランス国内の一部勢力の暴走』としてフランス政府から公開されたらしい。

もちろんさまざまな憶測が飛び交った。

 

『フランスは既に一人の男性操縦者を手駒にしたのではないか。』

『フランスはハニートラップを仕掛けたのか。』

 

などの意見が大半であった。

そこで俺からの一言として

 

『今後どんな事があろうとも“風音奏”はフランスの代表候補生にはならないしフランス国籍にはならない。』

 

という宣言をしたという狸理事長からの台詞があり落ち着いたらしい。

実際にいざとなればそういうことを言うつもりでもあった、がこのことは狸理事長には言っていなかったんだが……まぁそれで事態が落ち着くのならそれでいいか。

結果としていわばフランスは男性操縦者獲得のレースから降りたことになる。

フランスとしては文句があるらしいが下手な事を言えば真実があかされられないため下手な事をいえないらしい。

現在男性操縦者のデータを二番目に手に入れている国でもあるため何かと必死になって俺のデータをまとめている。

 

 

そしてドイツのVTシステム開発についてはほぼ噂が広まる事はなかった。

ただ憶測としてドイツが自国のISに何か危険なものを積んでいるのでは?という噂がかなり広まってしまったらしい。

そして研究施設の摘発の前にドイツ国内で謎の襲撃事件があったと伝えられている。

恐らく亡国機業か篠ノ之束のどちらかが動いたのだろう。

ドイツ軍内の実行者が捕まえられたかどうかは解らないが恐らくしっかりと責任を取らされているのではないのだろうか。

 

 

そして現在、俺は自分の部屋で必死に勉強をしていた。

理由は簡単である、このままだと確実に補習コースなのである。

元々勉強がかなり優秀というわけではない俺の頭。

それなのに事件がすべて解決するまでの間ほとんど勉強することなく俺は事態の対策だけを考えていた。ふと気がつくとテストまでほぼ時間が無い上に授業の内容をまとめていないノート。

さらに授業中もノートをとっていたがほかのことを考えていたためほぼ何も覚えていないのだ。

必死にノートを解読しながら教科書にかじりつき要点をまとめる。

俺の必死な形相を見て隣で勉強をする一夏が話しかける。

 

「奏……なんでお前そこまでまとめてなかったんだ?」

「時間が無かったんだよ!?」

「そ、そうか……」

 

俺の答えの気迫で何も言えなくなる一夏。

現在俺はシャルロットのノートと一夏のノートを借りながらテスト範囲だけでもまとめようと必死なのだが……正直本当に間に合う気がしない。

 

「あ~ヤバイ…本当にヤバイ。」

「……少し休んだらどうだ?効率もよくなるんじゃないか…さっきからお前目が据わってるぞ?…」

「……そうするわ…はぁ…」

 

とため息をつきながら脱力をする。

せめて赤点回避を目標に今回はがんばろう。

下手に目標を高くすると本当に全科目赤点もありえる……流石にそれはないか……

一夏も休憩をしてるみたいだし適当に話して気分転換をしよう。

 

「そういや……ラウラとは最近どうなの?ラウラの嫁さんよ。」

「いや、嫁じゃないし。第一嫁っておかしいだろ。」

「んでそこら辺はどうなの?周りの反応とか。」

「いや、お前も解るだろ?」

「あ~……僕まだ嫌われちゃってるみたいでラウラに近づくと逃げられる。」

「え?本当にか?」

「多分だけどねぇ…僕が教室内で一夏に話しかけてるときは近づいてこないだろ、ラウラ。」

「あ……そういわれれば…」

「んで鈴やセシリアの反応は?」

「いや、仲直りはしてた見たいだぞ?セシリアとこの前一緒に話してたし、鈴とは一緒に訓練してた。」

 

ほぅ…俺が動くまでもなかったか…

どっちから動いたかは解らないが仲良くしているのならそれでいい。

俺がそう単純に考えていると一夏は腕を組んで考えながら俺に話す。

 

「…でも何でお前だけその扱いなんだろうな?」

「さぁ?まずしばらくはこのままにしといてそれでも変らないようなら動くさ。それよりもまず俺はテスト勉強をしないといけない。お茶入れてからもう一丁がんばるつもりだけど一夏も茶飲むか?」

「うん?……ああ、たのむ。」

 

そう言って席を立ちお茶をいれに行く。

そんな時部屋のドアを叩く音がする。

誰だ?と思い扉を開けるとそこにはシャルロットが居た。

 

「おう、シャルロット。どうした?」

「ちょっとね…ねぇ…二人で入って良い?」

「二人?」

 

と言って近くを見渡すが誰もいない…ならば気配を探ってみるかと思い感覚を研ぎ澄ますと近くの影からこちらをのぞく気配を感じる。こりゃ間違いなくラウラだな。

そういえばシャルロットはラウラと同室になったんだっけ…それに関係しているのか?

俺はそちらに向って声をかける。

 

「おーい。ボーデ…ラウラ、そんなところで何してるのさ。こっちにきなよ。」

 

と俺に言われると一度こちらに顔を見せ、少し考えた後逃げようとする。

しかし考えている間にシャルロットにつかまってしまい逃げられない。

 

「ラウラ、どこに逃げるの?」

「っ!?……シャルロット!!やはり私は!!」

「いいから、ね?」

 

と言いながらラウラを俺の部屋へと引っ張り込む。

一体なんなんだ?と思いつつも俺は再びお茶を4人分いれる。

お茶をもっておくに行くと半笑いになりながら俺を見る一夏、そしてその影に隠れながら俺を見るラウラ、それを見ながら笑っているシャルロットが居た。

 

「シャルロット、話って何?」

「ラウラのことなんだけど…」

 

といわれてラウラのほうを見るが完全に一夏の後ろに隠れている。

なんというか…印象が一気に変るなぁ…

 

「……」

「お、おいラウラ、俺の後ろでしがみついてないで前に出て来いよ。」

「そ、そんな!!わ、私のことを守ってくれるんだろ!?」

「いや、確かにそういったけどさ?何でそこまでソウを警戒してるんだ、お前。」

「そ、それは……」

 

と言って俺の方を見るラウラ。

いや…そこまで怖がられるほど俺何かしたか?

と考えているとシャルロットの方から援護が入った。

 

「ラウラはさ、まだ奏が本当は怒ってるんじゃないか…って思ってるんだって。」

「え?何でさ。」

 

そう言ってラウラを見ると一夏の影に隠れながらぼそぼそと話す。

 

「……お前は、怒った後すぐに私を許すどころか逆に謝ってきた……鈴やセシリアは私にしっかりと怒った後に条件付で許してくれた…シャルロットも私に駄目なところ言った後に許してくれた……」

「あ~……僕は何もいわないで許したから本当はどこかで怒ってるんじゃないかって思ったってこと?」

「……そうだ。」

 

そう言いながらようやくラウラは俺の顔を見ながら話してくれた。

要は何の要求や怒る事もなくラウラのことを許した俺は実際のところまだ怒っていて何か仕返しを考えているのでは?と警戒しているのか…むしろ不気味なのかもしれないな…

しかしラウラ、こいつがらっと印象が変ったな。

なんというか今まではドーベルマンみたいな印象を受けたが今は小型犬みたいに見える。

その様子がおかしくて俺は笑い出してしまう。

 

「な、何がおかしいんだ!?」

「ごめん、ごめん。じゃあさ……逆に聞くけど僕は君に何を怒ればいいの?」

「え?……私はセシリアと鈴に喧嘩を売って、徹底的に痛めつけた。」

「それは確かに悪い事だけど二人からも既に怒られてるんじゃないの?」

「で、では、教官の名前を汚した事だ!!」

「それはラウラ自身、一番後悔してるんじゃないのかい?そしてそれを怒るべきなのは千冬さんか一夏が適任だ。だったら僕が怒る必要はないさ。」

「お前のことを腰抜けや臆病者と呼んだんだぞ!?」

「それは実際そうだもん、仕方ないさ。」

 

そういうとラウラは口をパクパクさせている。

実際わかっていることを再度相手に言う必要はないし腰抜けや臆病者と言った台詞はそのとおりなのだ、怒る必要も無い。

俺はラウラに笑いかけながら話す。

 

「僕が怒ったり注意する必要がある事は既に他の人が言ってるだろ?なら別に僕がもう一度言う必要はないし許すとかそういうことは関係ないさ。」

「………」

「う~ん…信用できない?」

 

俺がそう言ってもまだラウラは警戒を解いていない。

さてどういう風に誤解を解こうか…と考えていると一夏から援護が入った。

 

「ラウラ、奏のいう事は本当だぞ。こいつ、本当にこう考えてるぞ。」

「ほ、本当か!?」

「ああ、こいつは自分が悪くない時でも謝るような奴だからな。」

「いや、僕が完全に悪くない時は謝らないよ?」

「そう言っても何かと謝るところを見つけて謝るじゃないか…」

「いや、謝るべきところは謝るのが普通だろ?」

「と、まぁ…こんな奴なんだ。本当にラウラのことを怒ってないぞ、俺が保障する。」

「嫁もこういう事は本当なんだな……でも風音奏。私はお前にいろいろ言ってしまった、本当にすまなかった…あとあの時いった言葉は本当か?」

「え~っと……どの時?」

「私がアレにとらわれている時だ。」

「聞こえてたの?」

「かすかにお前の言葉だけ記憶にある程度だ…しっかりとは覚えていないが…」

 

あの時はラウラに意識があるなら呼び覚まそうと思って声をかけたんだが…

まぁ言った事は嘘じゃないんだ。そのまま話そう、ラウラに笑顔を向けて話す。

 

「ああ、あの時いったことには嘘はないよ。本当にそう思ってるし助けて欲しいのなら助けるよ。」

「そうか……」

「ね?私の言ったとおりでしょ?」

「そうだな……」

 

話しの流れを黙ってみていたシャルロットもラウラに笑いかける。

そしてようやくラウラは俺の前で落ち着いたような表情を見せた。

シャルロットが何を言ったかは解らないが『ここしばらく俺がラウラのために動いてた事』は言わないように約束をしている。この約束は一夏と千冬さんともしている。

一夏は納得がいかないような顔をしていたがそれでも無理を言って頼み通した。

ドイツ軍としてもわざわざ自身の犯した罪をラウラに伝えるとは思えないし、学園としてもあの試合映像は削除したことになっている。まぁどっかで保存はされてるだろうがそれをラウラに伝える必要はない。

何よりそんなことでラウラの気を病ませて笑いあえなくなるくらいなら、何もしていない事にして笑いあったほうがいい。ラウラの笑顔のほうが俺の苦労と比べれば何倍も価値がある。

さて、後はこの機会を利用してもう少しラウラと仲良くなりましょうか…

 

「じゃあ、これでこの話はおしまい。改めてよろしくねラウラ。僕の事は好きに呼んでいいからさ。」

「そうか……わかった。よろしくたのむ、『お兄ちゃん』。」

「………はい?」

 

と笑顔のまま固まる俺、お茶をふきだしむせる一夏、驚いたまま俺と同じように固まるシャルロット。

ちょっと待て、いろいろおかしいぞ?

一方ラウラは笑顔のままだ。

 

「…えっと……ラウラ?今なんとおっしゃいました?」

「?だからお兄ちゃんと言ったんだ。」

「………待って!?どうしてそうなったの?何でその呼び方になったの!?」

「駄目だったか?ふむ……では『お兄様』のほうがいいか?」

「違う!?そこじゃない!!」

 

と必死に叫ぶ俺。

他の二人を見ると一夏は腹を押さえながら笑っておりシャルロットもつられるように口元を押さえてそっぽを向いている。

くそ、お前ら他人事だと思いやがって。まぁ実際他人事だけどさ。

 

「何かおかしいか?日本では自身を守ってくれたり、悪い事をしたらしかってくれたり、悩みの相談相手になってくれる頼りになる男性をお兄ちゃんというのではないのか?」

「いや!?日本にそんな文化は無かったと思うけど!?それに血とかつながってないし!?一緒に過した時間も少ないし!?」

「血のつながりや時間は関係ないと聞いたぞ?」

 

うっ、確かにそれは正論だ…

だがこの呼び名はいろいろとまずい、特に俺の社会的信用が。

教室内でそんな風に呼ばれてみろ、本当にやばい人扱いだ。

 

「でもさ、年とかの関係もあるしね?」

「お兄ちゃんは記憶が無いんだろ?だったらもしかしたら年上かもしれない。それに体の大きさから言ってもそれほど違和感は無いはずだ。」

「確かに…私も初めてソウと会ったとき年上だと思ったもん。」

「俺も俺も。」

 

と言いながら完全に笑っている一夏とシャルロット。

シャルロットは目尻に涙を浮かべながら笑っているし一夏は俺のあわてる様がおかしいのか腹を押さえて自身のベットで転げまくっている。

 

「だとしても僕はラウラのお兄ちゃんじゃないからね?普通そうは呼ばないから!?」

「好きに呼べって言ったのは奏じゃないか。」

「うるさい一夏。」

「言った事は守らないと、うそはだめだよ?ソウ。」

「おい、シャルロット本当に勘弁してくれ。」

 

この二人、完全に悪乗りしていやがる。

後で覚えておけよ?こいつら……

ラウラは不満げだが一応俺の話を聞いてくれたらしい。

 

「ではなんと呼べばいいんだ?」

「普通に名前か苗字でお願いします。」

「カザネ…ソウ……奏…」

 

とラウラは繰り返すがしっくりこないらしく俺の名前をつぶやきながら悩んでいる。

まさか単なる呼び方でここまで焦る事になるとは……本気でつかれきっている俺。

一夏とシャルロットも笑いが収まったようでヒーヒー言っている。

 

「あ~面白かった。私もソウのことお兄ちゃんって呼ぼうか?」

「勘弁しろよ……本当に。」

「なぁ奏。この話、千冬姉や鈴たちに伝えてもいい?あ、弾にもメールしとくわ。」

「やめろ。」

 

と話していると一夏声が聞こえた瞬間ラウラがハッとした表情で話す。

嫌な予感しかしない……

 

「そうだ。奏兄(ソーニィ)でいいのではないか!?これならしっかりと名前を呼んでいるしお兄ちゃん扱いもしている。」

「………」

 

といいことをひらめいたといったように満面の笑みで言ってくるラウラ。

呆然とするように固まる俺と、それを見て再び笑い出す一夏。

シャルロットは顔を真っ赤にしてふきだすのを我慢してじたばたしている。

もう…なんと説明すればいいんだろうか……

ラウラに間違った知識を教えた奴に本気で説教をしたくなった。

ラウラは確認を取るように目を輝かせながら俺に話しかける。

 

「奏兄。これでいいだろうか?」

「………」

「呼ばれてるぞ?奏兄。」

「返事はしなくちゃね、ソーニィ。」

「もう……好きにシテクダサイ……」

 

と言ってがっくりとした感じにうなずく俺。

とたんにうれしそうにするラウラ、大笑いをしだす一夏とシャルロット。

俺にはこの輝くラウラの無垢な瞳に抗うすべはなかった……

結果的にラウラは俺のことを奏兄(ソーニィ)と呼ぶようになった。

そしてしばらくの間、一緒に聞いていた一夏やシャルロット。恐らく三人の内の誰かが伝えたのだろう、鈴やセシリア、箒や簪。

さらになぜかOsa.楯無や狸理事長、極めつけにはクラスメイトや千冬さんにまでそう呼ばれることになるのであった。

もう一度言おう『どうしてこうなった…』

 

 

 

 

悲しみが来るときは、単騎ではやってこない。かならず軍団で押し寄せる。

                                  ~シェイクスピア~




ということで妹ができました(笑)
呼び方もFeigling(腰抜け)からおにいちゃんですwww
これもすべてクラリッサって奴が原因なんだ……


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第五十三話 専用機開発

テストに向けた勉強を必死に続ける際に邪魔になるものが一つだけあった。

それは俺の専用ISのテストである。

まぁ…自分で言い出したことだから仕方ないとは思うのだが…それでも今はテスト勉強の方が大事なのである。それにまだ開発が始まってから2週間くらいしか経っていないのに最低限の形は出来たとはどういうことだろうか?

俺がアリーナの格納庫に向う。

できるだけ早く終わって欲しいが……と考えていると後ろから俺を呼ぶ声がする。

 

「ソウ!!まってよ。」

「うん?どうしたシャルロット。」

 

と後ろを振り向くとシャルロットがこちらに走ってきていた。

シャルロットが追いつくまで立ち止まって待っていると近くまで走って来た。

 

「焦ると転ぶしいいこと無いぞ?」

「もう、転んだ事なんてないでしょ?」

 

シャルロットが追いついたので一緒に話しながらアリーナに向う。

 

「はいはい。で、どうした。」

「デュノア社のほうから連絡があって私も最新機のテストパイロットになるんだって。」

「はぁ?いや、今開発してるのは一機じゃないのか?」

「そこら辺は着いたら説明を受けるって言われてたけど、ソウの方は何か言われた?」

「いや、一切連絡は受けてないよ。ただ『一回乗ってみてみたい?』って言われたから『のるのる』って感じ?開発もほとんどって言うかほぼすべて一任してる。」

「なんというか……すごいフランクな関係っていうか信頼しあってるんだね…」

「まぁ…そうなんだとは思うよ?」

 

と言ってアリーナ内の格納庫に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

「おせぇぞ、奏。」

「僕だけ?シャルロットはどうなのさ。」

「男はデートの十分前が基本じゃないのか?」

「相手がおっさんじゃねぇ……」

「バカ言え。相手はお前の相棒になる機体だぞ?」

 

といきなり軽口を叩き始める。

シャルロットは予想以上のフランクな関係で驚いているようだ。

周りを見ると何回か見たことがある人物のほかに別の作業服を着て作業している人たちが居る。

恐らくデュノア社の社員だろう。俺はある程度周りに気を配りながらおっさんと話す。

 

「それでその相棒はどこにいるのさ。」

「今組立作業中だ。まずお前とそっちの嬢ちゃんに機体の説明をしておかないといけないと思ってな。」

 

というとシャルロットがすっと手を上げる。

何をしているんだ?おっさんもきょとんとしてるし。

 

「発言してもいいでしょうか?」

「……どうぞ。」

「私が呼ばれた理由はなんなんでしょうか?今回のプロジェクトはソウ…いえ、失礼しました。カザネソウの専用の第三世代機の開発と記憶していましたが……」

 

と真面目な口調で話すシャルロット。

それを見て俺はあきれたような顔で話しかける。

 

「……シャルロット、一体どうした?突然真面目になって。」

「ソウはともかく私はそういう風に口を利いていい立場じゃないんだよ?」

「いや……おっさん、そうなの?」

「まぁ…お前ほど口が悪い相手は珍しいがここまで…真面目なのも珍しいと思うぞ?」

「じゃあ普通にしゃべってもいい?」

「いい、いい。むしろお前はもっと敬意を持ってだな――」

「ということでシャルロット、普通に話していいってよ。」

「最後まで聞け。まぁ嬢ちゃん、俺もそこまで『礼儀ただしく』ができる人間じゃ無いんだ。嬢ちゃんのほうも普通に話しかけてくれるとこっちも助かる。」

「はぁ……」

 

と飲み込まれているシャルロット。

…おっさんの反応を見るにシャルロットの対応は普通ではないのだろう。

デュノア社でどういう扱いを受けていたのかが少しわかった気もするな…

まぁ今それを気にしても仕方が無い。

おっさんの話を聞く。

 

「まず今開発している機体の特殊兵器に関してだが…ほとんど完成している。」

「はぁ!?いや、おっさん、いくらなんでも早すぎじゃないか!?」

「いや…この特殊兵器はもともと倉持技研がある程度の開発を進めていたんだが完全に挫折したものでな…それをデュノア社に見せたところ完成にこぎつけたといった感じだな…」

「どんな兵装なんでしょうか?」

「短期間の未来予知。正確に言うと行動予測だな。」

 

おっさんは一息置いた後に話を続ける。

未来予知…本当にできるのなら強力だなぁ……まぁ共同開発に出されるほどだからそれほどでもないんだろうけど。

 

「簡単に言うとだな、発動時、銃弾を撃たれた時の射線を正確に予測して目視化もできるようになる、これはどんなに弾数が多くてもおこなえるな、ハイパーセンサーと組み合わせる事により全方位攻撃や多数の相手からの攻撃も予測できる。あとは相手を観察して、ある程度の癖や動きを記憶ができたら能力発動時に相手の動きを予測して動けるみたいな感じだな。」

 

なんというか……これはほとんど使う機会はなさそうだな…

俺も見るだけで大体解るし。

相手の動きに関しては大体解るし見てからでも反応できる。

 

「う~ん……強いんだけど…他のと比べれば一歩劣るって感じ?」

「まぁ…そのとおりだな。まず相手の観察なんてほとんどおこなう前に落とされたら射線予測しか使えない。射線予測も上位のIS操縦者は基本できる。だがそこの問題をある程度解決できるのが次の能力だ。」

 

……次の能力?

俺が驚くと同じようにシャルロットも驚いているようだった。

 

「え?これだけじゃないんですか?」

「うん?ああ、この能力だけじゃあまりにも弱すぎたんでな。デュノア社の方のをもう一つ、能力を突っ込んだ。」

「……むちゃくちゃだな。」

「お前ほどじゃない。そこでテストパイロットが最低限二人必要になった。」

 

二人必要って事は…同時に使用する能力か何かか?

いやこの場合…と俺が考える前にシャルロットがおっさんに聞く。

 

「どういうことでしょうか?」

「簡単に言うと情報の共有化だな。今現在もコア・ネットワークである程度の情報はどんな機体同士でも共有化している。そこを今回作った機体同士の共有レベルをさらに上げたって感じだな。」

「具体的に言うと?」

「例えば……奏、お前がある敵と戦って行動予測ができるまで観察できるようになったとしよう。その後相手は逃げて今度は嬢ちゃんと戦う。その時このシステムで共有していたなら始めからお前の行動予測を利用して戦えるって言った感じだな。」

 

これは…先ほどの能力と合わさって考えるとそれなりに強力だ。

要は共有化する情報の中に相手の癖や戦い方、さらには行動パターン等も組み込むことで、結果的に戦い方が丸解りになった状態で相手は戦わないといけないのだ、よほど強力な戦力相手じゃない限りこれは強みになるだろう…

 

「それは…集団で戦うとなるとかなり強いな…」

「さらに機体の特徴を説明すると。操縦性の強化のおかげで最低でもワンランク上のIS適性と同じように動く事ができる。そして機体性能も今までの第三世代機と比べ一段階は上のものになっている。プログラム面の方もデュノア社の協力のおかげで拡張領域のほうも両機共にかなり高い。」

 

おいおい、いくらなんでもてんこ盛り過ぎないか?

しかし、これではある意味第三世代ではなく第二世代だ。

拡張領域を残しつつ特殊兵器の装備……もしかして…

 

「………おっさん、あんたの話を聞いてて思い当たる事があるんだが…」

「まぁ……後期量産型第三世代の雛形を作った感じだな。ぶっちゃけた話、この機体の特殊兵器はそれほど容量をくわない。もう一つ特殊兵器を積む予定があったほどだからな。」

「第三世代の後期量産の雛形ですか!?」

「おう、そうだ。一応嬢ちゃんのほうの機体説明を終えた後もう一度説明しよう。」

 

そう言っておっさんは二つの機体の前まで俺たちを連れて行く。

おいおい…本当にこれがそのまま後期量産型第三世代として世界に受け入れてもらえたらかなりの利権を手に入れられるんじゃないか?それこそ確実に現在ある量産型第二世代は無くなりかねない。

まぁいろいろと問題は起きるだろうが、現存する量産型第二世代を軽く凌駕する量産型第三世代を使わない理由はほとんど無いだろう。

機体の前について量産型第三世代の雛形(それ)を見るとカラーはまだ試作機の段階だからだろうか?

色は塗られておらずただのグレー一色だ。

おっさんは片方の機体の前に立って話し始める。

 

「まずは嬢ちゃんの機体になる予定の方だ。デュノア社がメインになって作っている。機体性能は奏の方に劣るが拡張領域にいたっては奏の機体の倍、現在の嬢ちゃんのリヴァイヴの1.5倍はあるらしい。さらに特殊な大型兵装をいくつか特殊展開できるらしい。まぁ…そこは現在急ピッチで開発しているらしいな。」

「見た目はこれで完成なんでしょうか?」

「いや、現在背部スラスターを製作中だ、こっちの方は開発が遅れててな、正直完成も奏の機体のほうが早いだろう。」

 

と言って説明した機体はなんというかラファール・リヴァイヴから背部スラスターを取ったみたいな

印象を受けた。特徴的なのはリヴァイヴに無い腰の辺りの装甲と…脚部パーツはどちらかと言えば打鉄弐式に近い印象を受けるな…

おっさんはもう片方の機体の前に向かう。

なんというか……完全に新しい機体という印象を受ける。

まず俺の知る限りの機体のどれとも似ていない上に頭部以外はフルアーマーだ。

さらに下半身部分には赤銅と同じようにスカート状にブースターらしきものがついている……

脚部の方は弐式の脚部をスマートにした印象をかろうじて受けることができる。

機体全体の印象として赤銅が装甲が増えてスマート化、そして流線型になったような印象を受ける。

 

「そして次はカザネ。お前の機体だ。」

「先生!!全力で動けますか!?」

「誰がお前の先生だ、そこは現在調整中。まずは機体性能は現存する第三世代の中でもトップクラスの機動性を持っている上に他の数値も平均して標準以上だ。ただお前に合わせて調整しているから、どうしても拡張領域が狭くてな。だが平均として今現在お前が装備している以上の銃とさらに強力な兵装の二つは積める様になる予定だ。」

「武装の方は?」

「一つは大型ライフル状の荷電粒子砲。もう一つは実弾兵装を予定しているんだが…いまひとつ決まってない感じだな。お前の戦い方にあわせた弾幕をはるような武器にするべきか…それとも強力な一撃を出せるようにするべきかと言った感じだな。」

 

そう言われた瞬間あの兵装を思い出した。

弾幕だろうが破壊力だろうが両方満たすすばらしい武器だ。

開発できるかどうかはわからないが後で無理かもしれないが言うだけ言っておこう。

 

「っていうかいくら何でも完成はやすぎじゃない?欠陥とかないよね。」

「当たり前だ。元々はお前の機体はうちの方でほとんど出来上がっていた。ソフト面以外ならぶっちゃけ共同開発の3日後には出来上がってたわ。」

「……マジで?」

「おう、現在ソフト面は2社合同で製作中。ハードに関してはほぼ倉持技研(うち)のデータを使ってデュノア社の方が機体開発してる感じだな。」

 

なるほど……

この機体は元々欠陥機どころか未完成機だったけどデュノア社の協力で完成したって感じなのか…恐らくだが倉持技研が俺から秘密裏に取られたデータも流用してるんだろうな~…

まぁそこら辺も公開されるんだ。気にしてもしょうがないだろう。

 

「それで今日頼みたいのは基本的な動作確認と飛行テストだな。結構根本的なところまでいろいろと新しくされていてな、動作テストが必要なんだわ。」

「了解。どれくらいかかりそう?」

「最低限1時間ほど付き合ってもらうぞ。」

「……僕テスト近いんだけど……」

「普段から勉強していないお前が悪い。」

 

そういわれてがっくり落ち込む。

本当に俺の学業は大丈夫なんだろうか?

そう考えながら俺の機体のテストが始まった。

 

 

 

 

 

 

現在テスト飛行中、俺はとりあえず適当に飛び回れといわれて飛んでいた。

一度地上で全力で動いた結果3分ほど動いた後強制的に止められた。

それでも3分は全力で戦えるのだ。ウルトラマンだったら怪獣を倒して帰ることができる時間だ。

それにこれはまだ完成した機体ではない、そう考えるとこの先もしかしたらISでの全力戦闘ができるかもしれん…変な話だがそれはある意味うれしい事でもあるがちょっと悔しくもある。

やはり今の今まで自身の力のほうが上だったんだ、追いつかれれば少しは悔しい。

だがそれは同時に自身の戦闘能力が上がるという事でもある。

そうすれば今後来るであろう敵対者から仲間を守ることができる。

そうだ、戦い方なんて重要ではない。大切なのはヴァッシュ(あの人)のようにしっかりと守り抜いて最後に笑いあえるようにする事なのだ……

だが、そのための力が手に入るのならそれは喜ぶべきなんだろうか…

やはりどこか力を手に入れることを喜ぶ事に違和感を感じながら俺は適当に飛んでいた。

すると近くにシャルロットが来た。

さっきまで地上でいろいろやっていたのだが今度は俺と同じように空中での検査だろうか?

背部スラスターなしでも飛べるんだ……

 

「ソウ、そっちの方はどんな感じ?」

「う~ん……3分間だけフルパワーって感じかな。」

「これだけ動きやすくてもまだ駄目なんだ…」

 

と言いながら驚くシャルロット。

これだけって言う事は彼女の方はかなり調子がいいんだろう。

 

「そっちはどうさ。」

「うん、動きやすいし何より機体の性能が前までのリヴァイヴとは全然違うからね。でもなんというか…癖は一緒な感じかな?」

「そっか……って事は仮に俺の機体が失敗してもシャルロットの方が成功したら一応計画は成功になるのか…じゃあ俺の機体はこのままでもいいかなぁ…」

「どういうこと?」

「いや、戦う力を求めるのがちょっと嫌でさ。普通に生活する分なら今までも赤銅でもじゅうぶんだったし。なら今の状況でも問題ない……いやいざという時は…問題はあるんだよな…」

「どうしてそんなに悩んでるの?」

「なんというか…目標の人物から離れて行ってる気がしてね…」

「……前から聞きたかったんだけどソウの目標って誰なの?」

「うーん…記憶の中に唯一残ってる人物かな?実在するかどうかもわからないような人で名前は……解らない。」

「どんな人なの?」

 

どんな人か……なんというか言われてみると難しい人だな…

優しいけど…我侭。かっこいいけど…どこまでもかっこ悪くなれる。

意思は強いが…臆病者。銃の名手で逃げ足の達人。

……そこまで詳しく説明しなくてもいいか。

 

「俺以上に銃の名手で俺以上に優しい人。戦いが何よりも嫌いで、誰かを救うために全力になれて……笑顔が特徴的な人って感じかな?それ以外は説明するのが難しい。」

「……今のソウもその人に近いと思うよ?」

「……なんていうかな…違うんだよな…。どこがって言うか…感覚的にすぐさま違うって思ってしまうんだ。まぁ…だからこそ目指してるんだけどね。」

「……ソウは…今のままでいいんじゃないかな。」

 

?どういうことだろうか。

少し疑問に思い聞き返してみる。

 

「どういうこと?」

「あ、別に目指すのが駄目って訳じゃないんだよ?ただね…今のままのソウでもいろんな人を助けてるし、違うって言ってもしっかりと助ける事ができれば同じじゃなくてもいいんじゃないかな…って思っただけなんだ。」

「……今のままでも…いいか…」

 

と言いながらあわてて説明された言葉を聞きながら俺は考えていた。

今のままでいい…確かにこのまま何も無ければそのとおりだろう。

だがこの先も確実にアクシデントは起きるのだ。

そしてこの先現れる銀の福音……このことを考えると今の俺では駄目なのだ。

もっと強く、さらに強くならなければ、それこそヴァッシュのように。

しかし今シャルロットにそれを説明することはできないし変る事はできない…彼女の言いたい事はわかってもだ。

俺は笑いながらシャルロットに返事を返す。

 

「まぁ、それもそうか。焦っても仕方ないしね。」

「……うん…」

「それに今の僕の一番の問題はテストの方だね…このまま行けば赤点回避すら難しい…」

「そんなに危ないの?」

「……ここ最近、真面目に勉強した記憶が無いからね…まぁみんなのノートのおかげである程度は何とかなると思う。……きっと。」

「…今日、この後勉強見てあげようか?」

「……お願いします。」

 

そういって勉強を見てもらう約束をしながら俺はこの試作機のテストを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

いちばん騙しやすい人間は、すなわち自分自身である。

                              ~パルワー・リットン~

 




どこか歪みが出てきた主人公でした。
ヴァッシュを目標にしているのに力を求め、さらに自身の力じゃないところで手に入れた力をどこか嫌っているようにも見えます……
あと主人公の機体ですが現在のイメージとしてはガンダムUCのシナンジュ・スタインの腰の辺りに8つほどスラスターをつけて背部スラスターをとり、肩アーマーを丸くした感じですね。
頭部に関しては現在何もついていません。
あと『あの兵器』についてはトライガンを知っている人物なら何も説明は要らないでしょう(断言)


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第五十四話 近くで

授業の終了を告げる鐘がなり、六月末のテストは終わった。

同時に俺は机に死んだように倒れこんだ。

結果はまだ分からないが、まぁ…

可も無く不可もなくといった感じか……いわば運がよけれがそれなりの点数で悪ければ赤点と言った感じだ。

俺が死んでるのを見ると一夏たちが俺の机の近くに集まってきた。

 

「ソウ……結果はどうだった?」

「…………」

 

俺は起き上がることなく、そのままの姿勢で親指でグットと言った感じにサムズアップをした後それの上下の向きを変える。

それを見てセシリアが苦笑しながら話す。

 

「まぁ…それほど難しいわけでもありませんしそれほど問題は無いでしょう。」

「……一夏ぁ…僕天才になりたい。」

「がんばって勉強すればいいんじゃないか?」

 

余裕そうなセシリアを見て俺は泣きそうな声でそうつぶやく。

それに対し一夏はそっけなくそう返してくる。

そして一夏の机の近くにラウラが近づいてきた気配を感じる。

 

「奏兄、そんなに難しかったのか?」

「いやぁ…もう少し勉強時間が欲しかったかなぁ…って感じ…呼び方はそれで固定なのね…」

「?何かおかしいことを言っているか。」

「……ハァ…」

 

とため息をつく。

この呼び方、クラスメイトも未だにそう呼んでくるときもある。

痛々しい人物とは思われなかったが生暖かい視線で見て来る人もいる。

現にセシリアは俺のことを生暖かい視線で見てくるし、シャルロットと一夏はニヤニヤしている。箒にいたっては…あれ?そういやさっきから箒が見当たらない。

俺は起き上がって辺りを見渡すがその姿は一切見えなかった。

 

「おい、シャルロット。箒見なかった?」

「え?そういえば見てない…どこいったんだろ?セシリア、ラウラは見た?」

「いいえ?見てないですわ。」

「私も見てないな。」

 

と一通り聞くと一夏が『え?』と言ったように話す。

 

「……なんで誰も俺に聞かないの?」

「だって…一夏だし…ねぇ。」

「……ひどくないか?それ。」

 

とがっくりする一夏。

間違った事は言っていない。

第一お前が気がついてたら、いの一番に動いてるだろうが。

さて突然いなくなったって事は……

俺は辺りを見渡し、現在箒と同室になっている鷹月静寐を見つけ声をかける。

 

「ねぇ鷹月さん、ちょっと聞いていい?」

「うん?何、風音くん。」

「今朝の箒、様子おかしくなかった?」

「え?あ~そういわれれば元気なかったかも…」

「そう、ありがと。」

 

そういわれればという事はそれほど大きなショックを受けているわけではないんだろう。

鷹月との話しを終えて一夏に話しかける。

 

「ということだけど一夏、気がついてた?」

「え?………全然…」

「なるほど…」

 

他の人物は気がついて一夏が気が着いてないと言う事は一夏関連のことで悩んでるな。

一方回りは俺の対応が何かわからないらしく怪訝な顔をしている。

そんな時教室に一人平然と入ってくる奴が居た。

回りもなれたせいか誰も気にも留めない。

最近はほとんど気にならなくなる頻度で一組に入って来るから、なんというか一組内にいる違和感がなくなってきたな…鈴。

 

「皆どうしたの、そんなとこに集まって。」

「おお、鈴。箒見なかった?」

「うん?さっき廊下歩いてるの見たわよ。」

「どこに向かったか解る?」

「そこまでは知らないわよ。」

 

そりゃそうか…ただちょっと探してみるか…

俺は席から立ち上がり回りに声をかける。

 

「悪いけど僕ちょっと簪の所にいってくるや。」

「?箒のことか。」

「あ~……それもあるけど本題は別かな。じゃ。」

 

そう言って俺は集団から離れていくが…後ろからシャルロットがついてくる。

 

「……なんでついてきてるの?」

「この後ソウから勉強を教えたお礼をもらおうかと思ってね。」

「別の日じゃ駄目?」

「う~ん……増えるよ?」

「何がだよ。……別に面白い話ししに行くわけじゃないからね。」

「大丈夫、それに本当は私も簪に用事があるだけだから。」

 

そう言った後にシャルロットを気にせずに簪の元に向かう。

恐らくそこには箒が居るはずだ。

 

 

 

 

簪を探して数十分歩いていると剣道場に数人の人の気配を感じる。

中を覗いて見ると案の定二人が居た。

箒は袴と剣道着を着て木刀をふっており簪はそれを見ている。

とりあえず声をかけてみるか。

 

「二人して何してるの?」

「っ…なんだ奏とシャルロットか…いや、ただ無性に剣を振るいたくなっただけだ…」

「簪ちゃんは?」

「私は箒ちゃんの付き添いです。それにちょっと見てみたかったのもありますね。」

 

と言っている簪。恐らくこっちはそのままだろう。

だが箒の顔は優れない。剣を振りたかったのは本当だろうが何か理由があっての事だろう。

確かにこれはあからさまに暗いわけではないがなんというか…焦りのようなものを感じる。

箒は俺に声をかける。

 

「奏…きいてもいいか?」

「何を?」

「なぜお前はそこまで力を…いや、自分を強くあろうとする努力するんだ?」

「う~ん…それが僕の目標だからかな?僕は僕の目標の人物に近づきたいんだ。ただそれは僕自身の力でありたい。強いISに乗ったから強くなったとかはカウントしない感じかな?」

「どうしてだ?強くなりたいんじゃないのか?」

「『力がある』のと『強い』のは僕の中じゃ全然違う意味なんだよ。力があるだけじゃ何にもならないしね。箒もそうじゃないの?強くなりたい理由は。」

「……私は強くなって一夏の助けに…支えになりたかった…」

「…なってないって言いたいの?」

「………」

 

というと黙って下をうつむく箒。

恐らく今箒の頭の中では自身が役に立っているとは思えないのだろう。

なんというか理想が高いんだよな…箒は。

後一夏の役に立つって言うのが戦闘の役に立つって事以外頭にないんだろうな…

セシリアは何だかんだで俺たちの中で一番頭が良い。学業で一番一夏の役に立つ。

鈴はその明るさで一夏にとって一番気楽な相手だろう。

ラウラはストレートに自身の気持ちを一夏に伝えている。

自分を低く見る癖のある箒が、焦る理由が解らないでもない。

 

「…あ~僕が言ったって事は絶対に言わないでよ?一夏にばれたら本気で怒られる。」

「……」

「まずアイツ、異常にモチベーションが高いまま練習してる理由。俺たちの中である意味一番モチベーションを高いまま維持してると思わない?アイツ。」

「そういわれれば…そうだね…」

「…確かにそうだが…それは一夏がすごいからだろう。」

 

シャルロットと箒は一応納得したようだ。

俺はそのまま話を続ける。

 

「そのすごい奴が言っていたことだけど『俺ががんばりつづけてる理由の一つは箒かな…』だとよ。」

「え!?ど、どういうことだ!!」

「箒のがんばりを見て自分も負けてられない、剣道で小学校の頃は自分の方が強かったのに今では手も足も出ない、多分ひたすらに今までずっとがんばってきた差なんだろうって言ってたぞ。」

 

そういうと箒は顔を真っ赤にしている。

これは一度一夏のモチベーションの保ち方に興味を持って聞いたときの話しだ。

恐らく嘘は言ってないだろう。

 

「剣術では引き離されたけどそっちでもいつか絶対追いつくために。そしてISの方では箒の目標に、そして自分の大切な人を守れるくらいに強くなりたいからなんだと。こっから先は自分で聞け…って聞いたら駄目だな。すまんが聞くな。」

「……本当か?」

「ああ、箒がある意味一夏の目標なんだって。自身と別れた後も剣道を続けてきたお前を尊敬してるんだと。…あ、今のは言わなかった事でお願い。だからさ、お前がある意味一夏の一番の助けになってるよ。それは俺が保障する。」

「そうか…ありがとう。」

「さて次の話しだけど―――」

「あ、ソウ。その前に私が先に箒と簪と話したいんだけど良い?」

 

と一夏のことについて話そうとする前にシャルロットが口を挟む。

ここからがある意味本題だったんだが……

まぁ連続して話すのもアレだと思うしシャルロットに譲ろう。

 

「どうぞ。」

「じゃあ…ソウは出て行ってね。」

「え!?何で?俺仲間はずれ?」

「ガールズトークをするからさ。さぁいったいった。」

「なんなんだよ一体…」

 

シャルロットに背中を押され部屋から追い出される

まぁ適当に距離をとって話を聞くか…

そう考えていると笑顔のままシャルロットが俺に言う。

 

「後、ソウ。もし聞き耳立てたりして聞いてたりしたらクラスのみんなにいろいろと話すからね?」

「シャルロット、俺一旦離れるから終わったら携帯にでも連絡くれよ。」

「うん解った。じゃあね。」

 

俺は笑いながら剣道場を離れる……

こいつ手段を選ばなくなってきたな…一体誰のせいだ…

そう考えながら仕方なく話を聞くことを諦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

奏が出て行った後道場の中では三人しかいない。

シャルロットは扉を閉めた後二人の方を向きながら簪に話しかける。

 

「ねぇ簪。突然だけど君ってソウのことが好き?」

「…………え!?」

 

いきなりのシャルロットの言葉に簪は固まり次の瞬間一気に混乱した。

箒もシャルロットの言葉に固まったあと簪を見てハッとしたようにしてシャルロットに話す。

 

「お、おい。シャルロット?突然どうした?」

「う~ん…本題を話す前の確認かな?でどうなのか聞いていい?」

「え!?ええっと…私は好き…なんでしょうか!?でもそんなこと今までまったく!?」

「落ち着け簪!!どういうことか落ち着いて話せ?」

 

と箒に言われてようやく落ち着いた簪。

少し悪い事をしてしまったかな…とシャルロットは内心思い、苦笑していた。

簪は自身の言葉を少しずつ吐き出す。

 

「はじめは……よくわからない人でした…でも私を安心させるためにおどけてみたり…助けてくれたり…でも注意するときはしっかりしかってくれて…しっかりと私を私としてみてくれる人だったんです…」

「そうなんだ…」

「でも、好きって言われると…何か違う気が……でも…」

 

と考え込む簪。

本当に自分でもわかっていないようだった。

それを見てシャルロットは話を続ける。

 

「突然へんなこと聞いてごめんね。でも私から言っておきたいこともあったしね…」

「な、なんですか?」

「私はソウのことが大好き。だから簪もソウのことが好きならしっかりと伝えておいた方が良いかなって思ったんだ…」

「そうなんですか…」

「そうか…シャルロットは奏のことが好きだったのか…」

 

と顔を赤くしながら二人はうなずく。

シャルロットは笑いながら話を続ける。

 

「私の気持ちは一応ソウには伝えてあるからさ、簪もソウのことが好きならしっかりと伝えたほうがいいよ?」

「「………え?…えええええええ!?」」

 

二人は予想以上に驚いていた。

好きなことについてはそれほど驚いてはいなかったがシャルロットが思いを伝えていることについては予測していなかったのだろう、完全に真っ赤になっていた。

簪は口元を両手で押さえ真っ赤になってるし箒はシャルロットのことを見て目を丸くし、握っていた木刀を床に落とした。

 

「ほ、本当に伝えたんですか!?」

「うん…たぶん伝わってると思う。」

「そ、奏は!?奏はなんて答えたんだ!!」

「『そんなに焦るな』だって。まぁ私が言いたい事はわかってたんだけど茶化されてしっかりといえなかったって感じかな。」

「アイツ!!なんてことを!!」

「奏さん本当にそんなあいまいな返事したんですか!?」

 

一気にシャルロット以上に憤る二人。

それを見て苦笑しながらシャルロットは話を続けた。

 

「まぁ私の言うタイミングも悪かったかもしれないんだけどね。でも想いは解ってもらえたし、しっかりと伝えられたと思う。」

「そうなんですか…それを言いに?」

「それもあるけど箒に聞きたいこともあったんだ。」

「な、なんだ?」

「箒、試合のあと一夏に何か言った?」

「っ…何も言ってない。」

「一夏のためにがんばって練習したんじゃないの?」

「でも…私は一夏に勝ってない…」

 

箒が行動できない理由はそれだった。

試合で負けたのならその時は諦めがついて別の行動に出れただろう。

勝ったとしたらそのまま一夏の元に良きしっかりともう一度告白をするつもりだった。

だが試合の結果は無効試合だった。

あの状況から自身の実力で試合に勝つとは箒自身思っていない。

だがせめて、せめて一夏と全力で戦えれば他の二人のように積極的に、同じポジションにいけるのではないかと思えて仕方なかったのだ。

そして試合前の自身が決めた約束もしっかりと守りたい箒は行動をためらっていた。

流石にそこまでシャルロットはわかってはいなかったが箒が悩んでいる事は十分わかったのだろう。笑顔でアドバイスを送る。

 

「そっか…じゃあせめて箒が言いたい事をしっかりと一夏にいってあげたほうがいいと思うよ。一夏もほっとかれたら困ると思うしね。」

「……解った。…あと…シャルロット、お前はそういうところを気にする性質だったのか?」

「う~ん…どちらかと言ったらソウのためかな?」

「奏さんのですか。」

「うん。ソウはさ、そういうのも全部一人で背負い込んじゃうじゃない。ここに来た理由も箒が落ち込んでるって聞いて頭を悩ませながら探してたんだ。だったら私はそれを少しでも減らしてあげたいんだ。箒はさ、一夏のために強くなりたいんでしょ?」

「ああ、一夏の隣でアイツを支えてやりたい。」

「私はねソウの隣には立てないと思うんだ…ソウの目指すところはあまりにも遠すぎて私には見えそうになかった。だから私はソウが背負ったものや背負いそうなものを少しでも減らしてあげるようになりたいんだ…」

「シャルロットさん…私やっぱり奏さんのこと好きだと思います。」

「っ…そっか…じゃあライバルだね。」

 

とシャルロットの表情が一瞬曇ったが笑顔に戻り簪に言葉をかえす。

ここで争って喧嘩をするような人はソウの隣にいていい人ではない、シャルロットはそう考えていたため本気で簪とライバルになるつもりで笑顔を返す。

だが簪は首を振った後話しだす。

 

「いいえ。多分私の好きは友人や、仲間としての好きなんだと思います。今シャルロットさんの話を聞いたとき、私シャルロットさんのことを応援したくなりました。」

「…私に遠慮しなくても良いんだよ?ソウの事好きならそれは仕方がないことだと思うし…」

「いいえ。遠慮してませんよ。奏さんは多分私にとってのヒーローなんだと思います。」

 

どんな時でも笑顔で、そして誰かのために行動でき、そして助けるためなら自身のことも厭わない。誰かを助けるときに全力で突き進む。

確かに自身はあの人のことが好きなんだろう。

だがその好きは憧れや友情の入り混じった好きなのだ。簪はこう考えたのだった。

 

「そっか……でももし違ったって思ったらすぐにソウに言ってね?」

「……シャルロットさんって優しいんですね。」

「ううん、ソウに嫌われるのが怖いんだけだよ。だから箒もさ…一緒にがんばろ?このままじゃ他の三人に負けちゃうよ?」

「そうだな…いつまでも悩んでいても仕方ないな…」

 

そう言って箒はある程度明るくなった。

シャルロットは数回うなずいた後顔を赤くして話し始める。

 

「……後最後に…この話しはソウには絶対に秘密にしておいてね?」

 

そう言うと3人は顔を見合わせた後笑い出した。

その後三人に呼ばれた奏は箒を慰める言葉を言うがすべて箒は言う前に吹っ切れていたようで、ただ三人に笑われる事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

愛する――

それはお互いに見つめ合うことではなく、

いっしょに同じ方向を見つめることである。

                                ~サン・テグジュペリ~




ということで箒へのアシスト編でした。
奏のシャルロットへの対応については。
「ある意味最低の断り方だよなぁ…焦るなとか…どう言い返せと?」
という友人からの言葉でそういわれればそうだな。と思いましたww


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第五十五話 買い物

七月のはじめ、俺は町町へ向かうモノレールに一人で乗っていた。

別にIS学園を追い出されたからと言った事や何かしでかして逃げ出したというわけでもない。

普通にみんなで買い物をしに行く予定だった。そのはずだったのだ。

 

 

事の発端は単純である。

一夏の鈍感かつ唐変木な行動だった。

前日俺とシャルロットは一夏に

 

『臨海学校の買い物に行こう!!』

 

と誘われたのである。断る理由もないし俺はついでに簪も誘いみんなで行こうとした。

次の日準備を終え集合場所に着いた俺と一夏を待ち受けていたのは怒り心頭の6名の女性たちだった。

箒、セシリア、鈴、ラウラは一夏が来ると即座に一夏を怒りのままに問い詰め始めた。

何かと思って話を聞き、俺は唖然とした。

この全員での買い物、実ははじめ『箒と一夏のデート』だったらしいのだ。

この間の俺とシャルロットのアドバイスの後、すぐに箒は一夏に話しかけたらしい。

そこで箒は

 

『私と一緒に買い物にいってほしい。』

 

と一夏に言ったらしい。

そこで一夏と付き合って欲しいといわなかった理由は、恐らく箒自身が交わした約束を気にしての事だろう。そしてそのお願いは即座に一夏の了承を得たらしい。

ここまでなら何も問題は無い、問題は無いのだ……

だがこの鈍感(いちか)の頭の中ではこれはデートではなく買い物に行くということで完結されていたのだ。まぁ…確かに買い物としか箒は言っていない。

だが一対一で女性に一緒に買い物に行ってほしいといわれたんだ。普通デートだと思うだろう。しかしというかやはり一夏はそうは思わなかったらしい。

その後俺、セシリア、鈴、ラウラに声をかけそれぞれ

 

『買い物に行こう。時間は空いてるか?』

 

とだけいって誘ったのだ…

ああ、確かにみんなでとは言ってなかったな…セシリアたち3人が『自身がデートに誘われた』と勘違いしても仕方ない。

そして追い討ちをかけるようにこの箒たち4人は互いに相手を出し抜くチャンスだと思い、誰にもこのことを言わなかったのだ。

結果、集合場所で互いに顔を見合わせるまでそれに気がつく事はなかったらしい…

はじめ全員『自身が一夏に誘われた!!』と主張していたがシャルロットと簪が間に入り話をまとめた結果この事実が判明した。

はじめは全員敵だったが経緯を聞くとあまりにも箒がかわいそうだと思ったのだろう、全員で一夏に怒りをぶつけていた。

はじめ俺はその場を納めようとしたがシャルロットと簪の二人に止められ断念した。

二人いわく

 

『一度痛い目を見ないと駄目だ!!』

 

とのことらしい。まぁ……言うとおりだとは思うが一度で治るのならとっくに治っているだろう。これはある意味不治の病だ、一生付き合わないといけないだろう…

しかたなく俺はその場はシャルロットと簪に任せ、先に一人で髪を切りに町に向かって行ったのであった。現在俺の髪は肩にかかるほど長くなっており正直うっとうしかったのだ。

町に着くと目に付いた適当な床屋に入り、適当に短く切ってもらった。

先ほどまで入学からまったく髪を切っていなかった俺の肩までかかっていた髪は一気に短くなり結構な短さのショートヘアになっていた。

頭が軽くなる感じを味わいながら俺は駅前の集合場所に向かうのだった。

 

 

 

 

そして駅内にあるベンチ、ここに居ればあいつらが着いたときすぐにわかるだろうと俺は携帯音楽プレイヤーを耳に当てる。

そういえば最近落ち着いてこうやって音楽を聴くことも無かったなぁ…と考えながらぼぅっと周りの道行く人を見てみる。

皆同じ表情をしているわけではないが皆ある程度楽しそうに歩いていたり、何か急いでいるのだろう、早足で歩いていく人。

家族連れか何かだろうか?4人で仲良く手をつなぎながら歩いている。

あそこの少年たちはこれから遊びに行くのだろうか、切符を買って楽しそうに笑い会ってる。

なんというか平和な町だなぁ……俺の元の世界もこんな感じだったんだろうか…

そういえば最近は元の世界について考える事もなかったなぁ…

こっちの世界に来た当初は本気でいろいろ考えてたなぁ……

最近はそれどころじゃなくて考える暇すらなかったな…

俺が居なくなった後の世界はどうなってるのかな?

もしかして止まったままなのか、それとも俺は既に本体意識から離れていて本体の方は普通の生活を送っているのだろうか…

まぁどっちにしても今の俺には関係ないか……今はこの平和を楽しもう。

そんなことを考えているとベンチの隣に誰か座っている。

はじめはまったく気にしていなかった…しかしこの気配は覚えがある……

だがあえて俺は声をかけるつもりは無く音楽を聴き続けていた。

5分後向こう方は我慢の限界らしく俺に声をかける。

 

「……ちょっと……」

「~~♪」

「……気がついてるんでしょ?」

「~~♪~~♪~~!!♪」

「………IS展開するわよ?」

「……やめろ。」

 

そう声をかけ警告をする。ああ……さらば平和…

クソ、こいつとうとう俺の目の前にまで現れやがった!!

そう思いながらイヤホンをはずしため息混じりにそちらを向く。

そこには当初あった時のままのスーツ姿でサングラスをかけた女性。

ある意味シャルロットを助ける時に一番役に立つ情報をくれた人物。

そして何より俺の天敵である『スコール』、その人がそこにいた。

 

「………なんであん…スコール、お前がここに居る。」

「カザネ、あなたに会うために決まってるじゃない。後その髪型似合ってるわね。」

「……本格的にお払いに行ったほうがいいな……」

「ちょっと!?人をなんだと思ってるのよ!?」

「悪質なストーカー。最早怨霊レベルだな。」

「失礼ね。でも私をはじめ『あんた』と言おうとして『スコール』って言いなおしたから許してあげる。」

「約束は守る方なんでね。」

「あら?私と一緒ね。」

「…猛烈にやめたくなってきた……」

「照れること無いじゃない。」

 

俺が頭を抱えながらそうつぶやくとスコールは口元を押さえながら笑う。

クソ、楽しそうだな。

しかしこんなところに出てきたという事は俺がどう動いても恐らく自身を捕らえるものはないという確信があっての行動だろう。

そして同時に何か目的があるはず……いや、きっとあるだろう……たぶん…

と不安を覚えながらスコールにたずねる。

 

「何の用?僕これから友達と遊びに行くんだけど?」

「そう時間はとらないわよ。ちょっと話がしたいだけ。」

「……僕は話したい事は無いんだけど……」

「無理やりにやってもいいのよ?」

 

そう言って彼女は自身の首飾りを見せ付け俺に気迫を向ける。

恐らくISか……ブラフの可能性もあるし…指輪はつけていない…

発動するよりも前に彼女を押さえつけるように動こうと俺はその気迫を真っ向から打ち返した。とたん彼女はうれしそうな顔をする。

 

「っぅ~~~!!本当にあなたって最っ高。この程度はものともしないのね。」

「……冗談でもやめろ。ここの人たちは関係ないだろ……」

 

俺は真面目な顔でそう言い返す。

彼女は恐らくお遊びのつもりで俺にISを発動するといったのだろう…

だが冗談でもそれをやる事は俺には許せなかった。

俺が本気で言っていることを感じ取った彼女は平然とそのまま話し始めた。

 

「ふ~ん…関係ない人まで守ろうとするって言うのは本当なんだ…まぁいいわ。少しあそこのカフェでお茶をしない?もちろんあなたに悪いようにしないわ。」

「……騒ぎを起こすようならせめて場所を移せ。本気で相手してやる……」

「あら。それも面白いけど今回はやめておくわ。それじゃあ行きましょ。」

 

そう言ってしれっと喫茶店に向かっていく。

ここで無視をしようものなら彼女は間違いなく暴れるだろう…

仕方ないと考え俺はその後を付いていくのだった。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「紅茶を一杯。」

「コーヒーと……このドーナッツ一つお願いします。」

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ。」

 

駅内にある店の、誰か到着すればすぐにわかる窓際の席に俺たちは座る。

スコールは紅茶、俺はコーヒーととドーナッツを頼むと店員は笑顔を向け去っていた。

さて、何から話すべきか……彼女は俺の顔を見ながらニヤニヤしている。

くそ…たぶん俺から何も言わないようならこのまま時間を潰すつもりだな…

 

「まず…」

「まずなに?」

「お礼だけ言っておこう。」

「……へ?」

「スコール、あんたのおかげで僕は自身の目的を果たす事ができた。これは本当に何でもないただのお礼だ。本当にありがとう。」

「………」

 

そういうと彼女はポカンとした顔をしている。

この手の女性は恐らくお礼は言われなれてないだろうと思い不意打ち気味に言ってみたが見事ヒットしたらしい。俺は笑いながら声をかける。

 

「どうした?」

「………いえ、なんでもないわ。…ええ、そのまま受け取っておくわ。じゃあ本題に入りましょう。」

「了解。って言ってもこっちがほしい情報なんて無いぞ?」

「……大会に乱入した無人ISの情報(・・・・・・・・・・・・・・)…てのはどう?」

「…僕がそれを知ってどうするというんだい?」

「さぁ?どう利用するかはあなた次第じゃない?」

「………」

 

と言ってお互い真面目な顔で互いの顔を見る。

彼女はバカではないし交渉に関しては俺以上だろう……

恐らく俺が現在持っている情報でほしいものがあるり、なおかつ俺が今後また交渉したくなるような情報は確実に持っているだろう…だがそれを引き出せるかどうかは俺次第と言ったところか……

そんなことを考えていると店員が注文した品を持ってくる。

 

「お待たせいたしました。紅茶とオリジナルブレンドコーヒー、あとはドーナッツでございます。ごゆっくりどうぞ。」

 

そう告げて品物を置き店員は去って行った。

………さて、今の俺でどこまで情報を引き出せるものか……

 

「まず俺が交渉の場に着くような情報は?さっきの情報じゃ弱いぞ?」

「……束博士の現状。」

「だからそんなもの俺が知ってどうするんだ?一切役に立ちやしない。」

「………じゃあさっきの二つの情報をあなたに教えるわ。」

「……それを俺に教えて初めて交渉の場に立ってやる。文句があるならこの話しは無しだ。」

 

と俺が強気で出ると彼女が気迫で押しながら声を出す。

 

「あら?私が今ここで暴れてもかまわないの?」

「その場合全力で止めてやるし、君にメリットは無いぞ?」

ISが無い(・・・・・)あなたが私を止められると?」

その程度がどうした(・・・・・・・・・)?ISなんて無くてもスコール、あんたを止める自信はある……試してみるか。」

 

と言ってこちらも気迫を出す。

実際止められるかどうかは五分五分だ…

だが現在ここには一夏たちも向かっている…そのことを考えればとりあえず軍が来るまでスコールを抑える事はできるだろう……

さらに武器が無い程度でまけるわけには行かない…俺が渡す情報で確実に不幸になる人物が居るのだ。生半可な理由で、脅されたからと言って渡すわけには行かない。

スコールとしばらくにらみ合うと彼女の方が折れた。

 

「ハァ……じゃあせめて私がこの二つを話したら私がほしい情報を一つよこしなさい。」

「NO.その情報は僕にとってまったく重要じゃない。せめてもう少し僕がほしい情報が無いとね。話し合いにすらならないよ。まずスコール、君がほしい情報は?」

「………織斑姉弟、または篠ノ之箒の情報よ。」

「………わざと言ってる?」

「さぁ?」

 

スコール…この人俺の性格まで読んでわざと(・・・)こんな質問のしかたをしてるのか?

こんな質問の仕方と内容、完全に『束博士のご機嫌取り』でしか使えない。

さらにこんな必要性の低いような情報を求めるなんて…言うなら『束博士は亡国機業と既に契約を結んでいる』と言っているようなものだ。

あ~……せっかくの休みだって言うのに本当に頭が痛くなってきた……

 

「……一夏の情報ならくれてやる。だから二つの情報を話せ。」

「あら?優しいのね。」

「ここまで情報もらって話しに乗らなかったら今後が心配なんでね。まずあん…スコールから話せ。」

「いい加減慣れたら?最愛の人になる人物の名前よ?」

「そんな予定、僕の中には無くてね。まず早く話してくれ。僕はこの後の予定もあるんでね。」

 

そう俺がそっけなく言っても彼女はニコニコ笑っている。

あ~……やっぱり苦手だこの人。

俺がコーヒーを飲んでいると彼女は話しだした。

 

「まず……篠ノ之束博士、現在何かISを開発しているわ。これに関しては私たちは一切関与していないわ。」

「………どんなISかも不明って事か?」

「ええ、情報すら一切無いわ。」

 

このタイミングで開発……

恐らく箒の専用機『紅椿(あかつばき)』を造っているのだろう…

しかしそのISの情報は亡国機業は一切手に入れてないと…

これに関しては俺の知るISの世界の流れなんだろう。

 

「続いて例の機体。何とか雛形は手に入れたわ。」

「………そうか…」

「まぁ、今のところ性能はそれほどでもないからわざわざ少ないコアを使うつもりは無いけど――」

「言いたい事はわかってる…ちょっと待ってくれ。」

 

俺は顔を伏せながら頭を抱えて話を止める。

コアが足りないから造るつもりは無い…そんなこと関係ないのだ。

その世界に約470個ほどしかないコアが足りないという条件は、篠ノ之束が居ればまったく関係ないのだ。

例えば彼女がなんだかの気まぐれで大量に無人ISを造ってみろ、大惨事になる。

その無人ISのコアを求めるところ。

無人ISそのものを求めるところ。

さらに女尊男卑のこの世界がさらに悪化するかもしれない。

まず詳しくはここで考えるのはやめよう。

そう考え顔をあげると……顔を満面の笑みにしている彼女が居た。

 

「……そんなに僕が悩んでるの見るのが楽しい?」

「いいえ?ただあなたと以心伝心なのがうれしいだけ。」

「…ハァ…さいですか……」

 

もう勘弁してくれ。

俺はさっさと話を終わらせようと話を進める。

 

「で、スコール。君は一夏の何を聞きたいの?」

「そーねぇ…まずは最近の状況かしら。ISを展開してない時のね。」

「いつもどおり色男(ロメオ)で女の敵を地でいってるよ。多分こういえばアイツに親しい人物ならわかる。」

「じゃあ次、友好関係は。」

「比較的全体としては良好。特筆してこいつと仲がいいという人物は居ない。」

「姉との仲。」

「……変らずだな。これで伝わる。」

 

とある程度適当に伝える。

これを何に使うかは大体解る。恐らく篠ノ之博士の機嫌取りだろう。

だがそれ以外の場所で使う可能性が無いわけではない。そうならないためにある程度わかりづらく情報を送っているが……彼女は関係ないように話を続ける。

なんというか…やる気が感じられないな…

 

「じゃあ最後。」

「……いくらなんでもやる気無さすぎじゃない?」

「いいのよ。第一何で私がここまでガキのお守りみたいな事しなきゃいけないのよ…」

「……それが仕事だからでしょ。さいごの質問は?」

 

と言って俺は笑いそうになる。

だろうなぁ…一応幹部って彼女言ってるのにやってる仕事は博士のお守り。

さらに言うならそのために一夏の個人的などうでもいい様な情報を集める悪の組織。

ある意味面白いジョークである。彼女は一旦紅茶を口に入れると話し始めた。

 

「最後、あの乱入試合時の織斑一夏(・・・・・・・・・・・・)、アレは何?」

「……それは本当にわからない。」

「……じゃあそのときの彼の状況は?」

「極度に集中をしていた感じだな。これ以外は何もわからん。」

「そう……」

 

これで判明したな…

あの状況になったのは『白式』のせいではなく『一夏自身』のせいなんだろう。

そうでもなければあの篠ノ之博士がこのような情報をほしがるとは思えない。

さてそろそろモノレールが到着したみたいだし話を終わらせたいんだが……

 

「これで質問は終わりよ。カザネ、あなた他に何か聞きたい事はある?」

「特に何も。」

「じゃあ最後に愛のささやきでも……」

「お帰りはあちらです。」

 

そう言って俺はドーナッツを食べながらしれっと出口の方を指差す。

さてこれでドーナッツは最後だし…コーヒーは冷めちまってるなぁ。

彼女は不満そうにした後少し何かを思いついたようにニヤァっとして携帯を取り出す。

?何をする気だ。

 

「カザネ。そういえばあなた一度しっかりと私に言ってたわよね?」

「……スコール…それ本気で録音してたのかよ…」

「今私に小声でいいから言ってくれたらやめてあげる。」

「?何を。」

「さぁて。なんでしょう。」

 

もう俺は疲れてるんだ頼むから面倒な事考えさせないでくれ。

俺は疲れたように話し始める。

 

「はぁ…もう勝手にしてくれ。」

「残念ね……」

 

そう言ってスコールは携帯をいじる。

とたんに結構な音量で

 

『愛してる…』

 

という俺の声が店に響く。

この程度ならどおって事はないな。店の中には客は俺たち以外に居ないし。

 

「で…これが何?」

「さてね。…じゃあまた会いましょう?カザネ。」

 

彼女はわざわざ俺の耳元に接近してこうつぶやく。

まったく面倒な…ここでさようならか、思うと窓の方をちらりと見た彼女が笑いながらもう一言つぶやく。

 

「あと窓の外、よく見て御覧なさい?」

「?………」

 

俺は窓の方を向きある程度辺りを見渡す。

何かあるのか?……あれ?あそこの物陰…

満面の笑みをこちらに浮かべるシャルロット…いや!?アレはなぜか俺に対しての怒りを感じる!?なぜだ!!

俺が焦るとスコールはさらに楽しそうに話し始める。

 

「あ、そうそう。さっきの音声。実は駅内の放送からも流してたの。」

「…………はぁぁああああああ!?」

「店の中にはスピーカーが無かったみたいだからわからなかっただろうけど駅のホームに居れば十分すぎるほど聞こえると思うわよ?それにしても予想以上に面白い事になりそうね。」

「…………」

「最後に面白い展開になったお礼に教えておくわ。『福音を鳴らすのは篠ノ之博士よ』じゃあね。」

「っ……ああ。さよならだ。」

 

俺はスコールの顔を忌々しく思いながらにらむ。

彼女はそれを確認するとすさまじく気分良さげに歩いて店を出て行く。

畜生、ここで追いかけてもいいがそれだと確実にシャルロットは誤解する。

さらに恐らくスコールをアイツの前に連れて行ったら、ここぞとばかりにいろいろやるだろうからそれは悪手だ……

やはり一人で説得するしかないのか……

しかし最後のスコールの言葉…『福音を鳴らすのは篠ノ之』か…

何にも知らない奴ならわからん言葉だがいわばこれは福音暴走事件の犯人は篠ノ之博士だとしっかりと伝えているようなものだ…

あの天災に狙われている以上アメリカに警告しても無駄に終わるって訳か……

頭を抱えた後再び窓を横目で見ると、先ほどの笑顔のままシャルロットはこちらに向かってくる。……背中から何かオーラが見える…

周りの6人は完全に気圧されている……ヤバイ、逃げ出したい…家に帰りたい…

俺は完全に冷めたコーヒーを口に含んで全力で説得する方法を考えていた。

なぜだろう…別にやましい事をしていたわけじゃないのに言い訳を考えている気分になる…

俺が完全にコーヒーを飲み終わると店のドアが開いた音がする。

 

「いらっしゃいま…せ……」

 

店員さんの声も尻すぼみに小さくなってるな…

こちらに向かってくる足音を聞きながら俺は心の中でスコールをけちょんけちょんに貶していた。

 

 

 

 

 

たいていの男は、割と簡単に「愛してるよ」と言う。

しかし、本当に難しいのは「僕と結婚してくれるかい」と言わせることだ。

                             ~『イルカ・チェイス』より~




ということで買い物ですね(断言)
髪型に関してはショートヘアで画像検索して適当な奴でイメージしてください。
それほど特徴的な髪型ではありませんwww


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第五十六話 買い物②

時間を数分巻き戻そう。

奏がスコールとの交渉で問題の深刻さに頭を抱えていた時に丁度シャルロットたちは駅に着いたところだった。

一夏への説教は根本的なところを彼が理解していないためにまったく通用していない。

最終的にとりあえず奏をほったらかしにするのは駄目だろう、ということで7人でモノレールに乗り駅前の町に向かったのであった。

モノレール内でも一夏はいろいろといわれており疲れきっており箒、セシリア、鈴、ラウラの四人はまだ怒っているようだ。

私、シャルロットと簪は四人をなだめながらモノレール内から降り奏を探しながら歩いていた。

 

「まったく……一夏さんは本当に考えられない事をしますわ!!」

「ほんとよ!!これでわざとじゃないって言うんだったらある意味尊敬するわよ!!」

「……ちゃんと説明せずに申し訳ありませんでした…あと箒もそんなに睨まないでくれ。」

「まぁ…嫁がこういう奴なのは仕方ないな。」

「確かに仕方ないけどここまでとは思いませんでしたわ!!」

 

怒りのままに四人とも一夏を責める。

簪と二人で四人をなだめながら押すようにして改札口を抜けソウを探す。

しばらく辺りを見渡してソウを探すが姿は見えない。

 

「シャルロットさん、奏さん見つかりましたか?」

「ううん。多分改札口前に居ると思うんだけど…」

「まだ髪切ってるんじゃない?」

 

という鈴。

だが一夏に怒っていた時間はかなり長かったし……

と思うと箒が微妙な顔をしている。

どうしたんだろう?

 

「箒?どうしたの?」

「………」

「箒!?」

「ひゃい!?」

 

と変な声を上げ驚く箒。

私の顔を見た後またも微妙な顔をしている。

その後簪と鈴を手招きしてこそこそ話している。

 

「何があったの?」

「……ちょっとごめん。」

「……シャルロットさん、ちょっと待ってください。」

「?何を。」

 

鈴はセシリアとラウラの方に向かい何か話し始めている。

一夏は関係無しにまだソウのことを探しているようだ。

とりあえず私もソウを探そう。

その次の瞬間、一夏が声を上げる。

 

「お、あそこの喫茶店のとこに居る奴じゃないか?」

「「「「「!?」」」」」

「え?どこ一夏。」

「ほら、シャルあそこ。」

 

一夏が声を上げた瞬間なぜかかなり驚く5人。

一夏の指差した方を見ると、髪がかなり短くなったソウと………ブロンド髪の女性が一緒にお茶を飲んでいた。…………一瞬頭の中が真っ白になった後になんとも言えない感情がこみ上げてくる。

焦りながら鈴とセシリアが私に言葉をかける。

 

「い、いや、アレは違うんじゃない?」

「ううん……アレは確かにソウだよ…」

「そ、そうですわ!!もしかしたら相席をしているのかも!!」

「あんなに席が空いてるのに?」

 

私は感情が漏れ出さないように声を出す。

その様子を怖がっているのだろうか、ラウラがじりっと一歩引く。

簪が思いついたように話しだす。

 

「も、もしかして知り合いか何かかもしれませんよ?」

「……そうかもね…」

「シャルロット、一旦落ち着け、なぁ?」

 

箒も私を落ち着かせようと必死だ。

席の方を見ると女性が立ち上がって何か言っているがソウの反応は微妙だ。

アレは本当に面倒くさいと思っていそうだなぁ…

そうだ、確かに一緒にいるからといってそういう関係のはずが――

 

『愛してる…』

 

駅内に放送が響く。………

 

 ソ ウ の 声 だ 

 

セシリアと簪は唖然としているしラウラと一夏は今の音に混乱している。

箒と鈴は私のほうをおびえた目でこっち見ている…

私はまだ笑顔のままだ……

 

「え?今の声…奏の声じゃなかったか!?」

「嫁の言うとおりだ?なんなんだ?」

「二人ともちょっと黙ってください!!」

 

必死にセシリアが二人の事を止めようとするが…

そっか…私の聞き間違いではなかったんだ…

店の中を見るとブロンド髪の女性が何かを持ちながらこちらを見ている。

恐らく彼女が今の放送を流したんだろう。

なぜあそこに居る彼女が駅内に放送を流せたかなんてどうでもいい。

問題はソウがあの女性に対して『愛してる』と言っていたことだ。

私に対しては焦るな、みたいなことをいって有耶無耶にしたくせに……

絶対に真実を聞き出さなければいけない。

私はその店に向かって歩き出す。

後を付いてくるように6人が付いてくる。

 

「ちょ、ちょっと?シャルロット!?あんたどうする気?」

「ちょっとソウとお話してくる。」

「落ち着いてください、相手はあの奏さんなんですよ?何か理由が――」

「理由があったら知らない相手に愛してるって言うの?」

「だ、だが…あの相手も誰かも解らないんだぞ?奏と中が良い様にも見えない…まさか――」

「いい、箒。男女の間に『まさか』は無いんだよ?」

 

歩きながら笑顔で答える。

私のことを説得するのは諦めたのだろう、そのまま何も言わずに付いてくる。

ソウもこちらに気が付いたようだ。

こっちを見て固まっている。固まるという事は何か身に覚えがあるんだろう…

私はさらに笑みを強くする。

相手の女性はどこかに行ってしまったがそちらよりもまずはソウだ。

私はそのまま店の中に入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

現在俺、風音奏はとてつもなく追い込まれていた。

とりあえず追加のコーヒーとシャルロットは紅茶。

現在目の前には満面の笑みのシャルロット。

しかしその背後には黒いオーラが見える…目がおかしいようだから眼科に行きたいと言えば逃がして…否、行かせてもらえるだろうか…。

両隣には誰もいない。皆逃げ出した。

他の6人はシャルロットの気迫に押されたせいか一夏を筆頭に

 

『ゆっくり話してくれ、俺たちは先に行く。』

 

と言って俺の返事を聞く前に去って行った。

なんとすばらしい友情だろう。ありがたくて涙が出る…

まぁ…現在のシャルロットを見たら誰だってそうする。俺もそうしたい。

シャルロットは現在凄まじい圧力を俺に笑顔で向けている。

さてなんと説明しようか……

 

「え~っと……シャルロット…さん?何か怒ってますか?」

「…ソウからそう見えるなら何か思い当たる理由があるんじゃない?」

「……ご質問があればどうぞ。何でも答えます。」

「じゃあ…まず『愛してる…』…あれ何?まさかソウの声じゃないとは言わないよね?」

「あの放送?アレはしっかりと理由があっていったんだ。」

「へぇ……ソウは理由があれば誰にでもそんなことを言うんだ。」

 

うわぁ、やぶ蛇。

俺は笑った顔を引きつらせながら話を進める。

 

「いやぁ…しっかりとした理由があればね?でも本気で言ったわけじゃないよ?嫌々――」

「それでも言うんだ…じゃあ私が今無理やり言わせようとしたらどうする?」

「まぁ…言うな。」

 

と俺が言うとシャルロットはムッとした顔をしながら話を続ける。

 

「……別に無理やり言ってもらいたくないけどさ…あとあのさっきまで一緒にいた相手は誰?」

「あ~……黙秘権ってありですか?」

「あると思う?」

「優しいシャルロットさんならワンチャン……」

「残念ながら優しいのと甘いのは違うんだよ?」

「ですよね~……」

 

本気で怒ってるな…これ。

適当にかわしたら泣かれそうだな……

って言うかこれちゃんと説明しなくちゃ駄目なのか?

でも説明したらなぁ……まぁ下手に関係を疑われるよりは良いか。俺は一旦ため息をついた後真顔になって話し始める。

 

「一夏は俺が話している相手について何か言っていたか?」

「……何?一夏も知ってる相手なの?何も言ってなかったけど?」

「一夏を例の事件に巻き込んだ相手、説明はするから大きな声を上げるなよ。後他の人にも絶対に言うな、この話は俺がIS学園に帰ったらすぐに理事長に伝えなきゃいけない内容だから…」

「え?」

 

先ほどまでの気迫が一気に下がりきょとんとした顔をするシャルロット。

さてどこから話そうか…俺はコーヒーを口に運び少し考える。

 

「まずアレは亡国機業だかなんだかって言う犯罪組織の幹部らしい。現に一夏が事件に巻き込まれた時に俺に襲い掛かってきた奴だ。一回話しただろ?」

「え?……なんでソウがそんな人とここで話してるの!?」

「情報交換だと。既に一回アイツとはやっててな、その時にあの音声はとられた。」

 

そう言ってため息をつきながらコーヒーをすする。

せっかくの休日に俺なんでこんな事してるんだろ…

しかしシャルロットは納得できないような顔をしている。

 

「本当にそんな組織の人なの?」

「………俺がお前を助ける時に必要な情報をもらった相手だ。そのときの交渉でデュノア社についての情報を多数手に入れられたんだ。」

「どうやって連絡取ったの?」

「向こうから掛けてきたんだよ。はじめはあるものを探してデュノア社を監視してたら俺がコンタクトを取っているところを見つけて俺に電話…って感じらしい。」

「……解った。それは信じる…でも今日は何で?」

 

一応信じてもらえたらしいな…感情の方では納得できてなさそうだけど。

俺はまたもやため息を吐きながら話を続ける。

 

「向こうが俺の知ってる情報をほしがっていて、さらに交渉にのらなければISで暴れかねないような奴だからな、仕方なく交渉に乗った感じだ。だからお前たちが到着したらすぐにいなくなったんだろうよ。」

「そうだったんだ……」

 

こっちの方は納得してくれたらしい。

実際彼女はそんなこと関係無しに息抜きで来たような気がするんだが……気のせいだろう…

後は話しに何か疑問をもたれなければこのままこの話は終わらせよう。

そう考えているとシャルロットは何か聞きたそうにしている。

さっきまでの勢いはどうした、俺は苦笑しながら声をかける。

 

「何でもいいから聞け。遠慮するな。」

「……いいの?」

「アイツとの関係で聞かれて困るような事は何も無い。流石に話しの内容は言えないけどな。」

「……じゃあ何でソウはあの女性(ヒト)に好かれているの?」

「そこら辺は俺が知りたい…あいつほとんどストーカーっつうか悪霊みたいなもんなんだよ…お払い行こうかなぁ…本気で…」

「そんなに?」

「知らないうちに電話番号知られてて、気がついたら隣にいるときもあるとか…相手が一般人なら警察呼んでたよ…」

「それは…ひどいね……」

 

俺は頭を抱えるとシャルロットは本気で俺が悩んでいると解ったらしく心配している。

本気で悩んでるよ…俺のヴァッシュ・ザ・スタンピード(人生の目標)もどうすればいいか教えてくれないしさ…本当にどうしよう…

ため息をつきもう一度コーヒーを飲む…あと言ってないのは俺が好かれる理由か…アレしかないよな。

 

「狙われてる理由は、多分一夏が巻き込まれた事件の時に俺がアイツと…IS相手の遊びで、生身で勝っちゃったからだと思う。」

「……あの女性(ヒト)相手に戦った事もあるの?」

「戦ったって言うより…遊びって言うか…遊ばれてたようなものだけどね。それでもルール上は俺が試合に勝った。」

「生身で?」

「ああ、生身で3分間ISから逃げ切ってみせろって勝負。ギリギリだけど勝てたんだ。それをやってのけたせいか亡国機関からお誘いがきてるんだよ。行く気はもちろんないけどな。でも個人的に彼女が俺を気に入ったらしくてな、しつこいんだよ……」

「そうだったんだ…」

「あの俺の言葉に関してはアイツの気まぐれだ。詳しい理由は俺にはわからない。」

「うん…解った。ごめんね疑っちゃって。」

「別にいいさ。特に問題があったわけじゃないし。」

 

シャルロットの顔を見る限り完全に誤解は解けたらしい。

はじめはどうなるかどうなるかと思ったが…結構簡単に終わったな。

ただシャルロットが少し落ち込んでるな……

ちょっと罪悪感でも覚えているのだろうか?

だが、自分が好意を持っている相手が『焦るな』と言ってかわしたくせに、別のところでは『愛してる……』なんて別の相手に言ってたらどういうことだ!?ってなるよな。

そこに関しては怒っても仕方ないわな。

俺がコーヒーを飲み干すと丁度シャルロットが話かける。

 

「そういえばソウ、髪の毛短くしたんだ…」

「うっとうしくなってな…どう、似合う?」

「私は長かった時より短いこっちの方がソウには似合うと思うよ。」

「そっか…この後どうする?みんなと合流する前に二人でどっか行くか?」

「え?……いいの!?」

「じゃあやめるか?」

「う、ううん!!行く!!」

 

焦るシャルロットを見ながら苦笑して俺はシャルロットと一緒に買い物をすることにした。

これくらいはあいつらも許すだろうし、シャルロットも元気になるのなら安いものだろう。

焦るように紅茶を飲むシャルロットを落ち着かせながらどこを歩こうか考えるのだった。

 

 

 

 

 

そのあと俺とシャルロットは何をするわけでもなく一緒に町を歩いた。

適当に店先を見て歩いて適当な店に入ってみたりしていた。

話しながら道を歩いている時ふと思い出したことがあったので聞いてみる。

 

「そういや箒の件は一夏どうなったの?」

「一夏はさぁ…完全に友達と買い物に行くとしか思っていませんでした。」

「まぁ……そうだろうな。んでどこら辺で落とし前つけたの?」

「とりあえず一時間ほど箒と二人で買い物する事になったよ。」

「三人がよく許したな。」

「私と簪の援護と箒自身が抜け駆けはしないって言ってたからね。仕方ないって感じになったね。」

 

抜け駆けって行っても今の状況じゃ何をやってもあの鈍感は落とせないぞ?

箒もそこら辺がわかるから一歩引いた答えをしたのか……いや、多分アイツは始めからそういうことをする気はなかったんだろう。

 

「心配する必要は無いと思うんだがなぁ…」

「どうして?」

「だってその気になれば箒はすぐにでも告白できたんだぜ?それをやらないで二人で買い物っていったんだ。何か考えはあるとは思うが告白までは行かないだろ…」

「あはは、確かにそういわれればそうだね。でもやっぱり不安になるんだと思うよ。」

「そういうものなのか…」

「そういうものなのだ。」

 

と笑いながら話し歩いていく。

その後しばらく面白おかしく話しながら歩いていると遠くに一夏と箒の姿が見える。

……別に今顔を出さなくてもいいか…俺はシャルロットにそれを伝え方向を変た後、鉢合わせにならないようにする。

一夏と箒はこちらに気が付かず別の方向に向かっている。

ばれなかったか…と思っていたら声をかけられる。

 

「奏さん、シャルロットさんこっちです!!」

 

声のするほうを見るとセシリアと鈴、そして簪とラウラが影に隠れていた。

何をやってるんだ、お前らは…

俺とシャルロットは4人の元に向かうと即座に引っ張り込まれた。

俺はとりあえず先ほど声をかけられたセシリアに話しかける。

 

「何?どうしたのさ。」

「一夏さんたちにばれてしまいますわ!!」

「いや、ばれるも何も…一緒に来てるから僕らが居ることわかってるでしょ?」

「いいえ!!箒さんが先走った行動を取らせないために監視が必要ですわ!!」

 

監視って……ある意味そんなことをするわけが無いだろう。

箒にとっちゃ今日はただ買い物に来ただけなんだから……

俺が苦笑しているとシャルロットに袖を引っ張られる。

そっちを見てみるとシャルロットはラウラを捕まえながら何か興奮気味になっていた。

 

「どうした。」

「ちょっと簪と一緒にラウラの服買って来る!!」

「奏兄!!助けてくれ!!」

「理由聞いていい?」

 

俺は半笑いになりながら理由を聞いてみる。

箒と一夏はまだ眼の届く範囲には居るか……

鈴とセシリアはそっちの方に集中している。

簪が苦笑しながら話す。

 

「ラウラさん、なんで今日も制服着てるのかと思ったら私服一着も無いんですって。」

「そう、だから今日買いに来るつもりだったのに……」

「だ、だがシャルロット!?私が似合う服なんて…」

「いっぱいある!!」

「そうですよ?一回買いに行きましょう?」

「そ、奏兄!?早く…早く助けてくれ!!」

 

じたばたとシャルロットから逃れようと暴れるラウラ。

本当に必死になって俺に助けを求めるなぁ。力ずくでやらないって事は結構成長してるんだな。

しかしこいつは本当に面白いなぁ……俺も苦笑しながら話す。

 

「ラウラ、一夏にほめてもらいたくないか?」

「え?」

「アイツはお前が綺麗にかわいく着飾っていれば必ずお前のことをほめてくれるぞ?」

「本当か!?」

「多分今朝、鈴とセシリアのことほめてなかった?」

「え?……セシリアたちに聞かれたときはほめていたぞ?」

「お前もほめてほしくないか?あいつがお前のことをなんとほめてくれるか考えながら服を選んでみな、多分それだけで楽しいんじゃないか?」

「で、でも私に似合う服なんて…」

「そこはシャルロットと簪が手伝ってくれるさ。一回行ってみな?」

「………解った…」

 

そういうとラウラは抵抗をやめた。

シャルロットは笑いながら俺に話しかける。

 

「本当にお兄ちゃんみたいだったよ?ソウ。」

「おい、よしてくれよ。」

「私もおにいちゃんって呼んでいいですか?」

「簪ちゃんも勘弁してよ!?」

「じゃあ…奏兄。行ってくる。」

「ハイハイ、行ってらっしゃい。合流するときは俺に連絡して。俺はこの二人が暴走しないように見張ってるから。」

 

俺は未だに一夏と箒を監視する二人を見ながら別れを告げた。

三人は俺たちから別れラウラの服を買いに行った。

なんというか…ラウラが着せ替え人形みたいになってる未来が見えるな……

さてとりあえず問題はこの二人だな。

俺は一旦物陰から出ようとする。

 

「ちょっと!?奏!!何やってるのよ!!」

「何って……飲み物買いに行ってくるだけ。」

「ばれたらどうするんですか!?」

「いや……正直今の君たち二人の方が目立つよ?」

「「……」」

 

そういわれると二人はハッとしたようにしている。

この二人…素でやっていたのか……

俺は苦笑しながら話を進める。

 

「あいつらが勘付く範囲ならある程度わかるからさ、そんな物陰で目立つような事しないでとりあえず出ておいでよ。」

「……本当なんでしょうね。」

「100%とは言わないけど高確率でばれる事は無いと思うよ?」

「……あの二人の範囲はここより近いですか?」

「近くにいけるところもあるよ?」

 

二人は顔を見合わせて何かを考えている。

そして同時に振り向くと話し始める。

 

「解ったわ。お願い協力して。」

「奏さん、よろしくお願いしますわ。」

「了解しました。とりあえずそこから出よう。」

 

俺は笑いながら三人で一夏の後をつけるように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

まぁ結果的に言うと俺とセシリア、鈴の行動は無駄に終わった。

二人はただ楽しげに買い物をしただけで特に何か怪しげな行動をすることは無かった。

一方俺たちはつかず離れずの距離で適当に監視をしながら駄弁っていた。

最終的に箒からの連絡で時間終了と同時に俺たちは一夏と合流した。

 

「おう一夏、さっきはよくも見捨ててくれたな。」

「いや、アレは仕方ないだろ……奏はシャルに許してもらったのか?」

「いや許すも何もアレ誤解だからな。詳しくは後で話すわ。」

 

そう言って話を打ち切り箒の方を見てみる。

満足しているわけではないが…自身のやるべき事はやったって顔かな?

一夏が鈴とセシリアと話している間に近づいて小声で話しかける。

 

「(どう?やりたい事はやった感じ?)」

「(ああ、自分の目指すところは見えた。)」

「(そっか……がんばってね。応援してるわ。)」

「(お前はみんなのことを応援しているんだろ?)」

「(そのとおり。誰かの事を特別応援する気はないよ。それとも特別応援してほしい?)」

「(いや……必要ない。)」

「(了~解。)じゃあそろそろ全員で集合してみる?」

「アレ?そういえばラウラたちは?」

「服買いに行ってる。どうする?」

「集合しましょ。別々に行動してても仕方ないじゃない。」

 

鈴のその一言で俺はシャルロットに電話をし、現在地を聞き移動を始めた。

少し離れた場所に行くと簪とシャルロット、それに後ろに居るのは恐らくラウラだろう。

服装は先ほどまでの制服ではなくパッと見た感じかわいらしいカーディガンのような感じだった。

下は短めの……デニムだったはず…この手の服の呼び方はあまり詳しくないためなんとも言えない。ただ雰囲気的には似合ってるし、普段のラウラらしさを残しながらもかわいらしさを出している印象を受けた。

 

「シャルロット、ラウラのコーディネートは終わったの?」

「とりあえずはね。ねぇ一夏みて見て!!」

 

と言って自身の後ろに隠れているラウラを前のほうに押し出す。

恥ずかしそうにしながらラウラは一夏の言葉を待つ…頼むから蘭のときみたいな事はやるなよ?

 

「おお、ラウラ!!印象が変ったな!!」

「ほ、本当か!?」

「ああ。一瞬わからなかったくらいだしな。似合ってると俺は思うぞ。」

「そ、そうか!!」

 

と言ってうれしそうにするラウラ。

セシリアと鈴はそれを見て笑っているが箒は少し微妙そうな顔をしていた。

こいつ自分だけほめられてないから嫉妬しているのか?

仕方ないし何とかするか…と思っていると箒が先に自分の方から動き始めた。

 

「い、一夏!!そういえば私の今日の服装はどうだ?似合ってるか?」

「うん?ああ、かなり似合ってると思うぞ。いつもの箒らしさが出てると思う。」

「そ、そうか。似合っているか…」

 

おお、意外。

箒がこういうとき自分からでていくとは思わなかった。

箒も自分自身で何かかしら成長しているんだぁ…

としみじみ考えているとシャルロットが近寄ってきて小声で話し始める。

 

「(駄目だよ?ソウ。何でも手を貸してあげちゃ。)」

「(……顔に出てた?)」

「(う~ん…雰囲気かな。)」

「(一体どうすりゃいいんだろそれ。)」

「(話をそらさない。ほっとけないのがソウのいいとこでもあるけどこういう時は自分でやらなきゃ駄目なんだよ?)」

「(……女心って奴?)」

「(乙女のたしなみって方が正しいかも。)」

「(そりゃ解らんわ。まぁ…覚えておくわ。)」

 

そう言って俺は再び一夏とその周りを見てみる。

箒は先ほどほめてもらえたのがうれしいのかにやにやしているしラウラは一夏にしがみついている。

セシリアと鈴も負けじと一夏にしがみつき一夏はなぜこうなったのかがわからず俺に助けを求めている。簪は簪で箒の隣でその風景を見ながら笑っている。

平和だなぁ…そう思いながら俺は一夏をいじる準備をしていた。

 

 

 

 

分別を忘れないような恋は、そもそも恋ではない。

                                ~トーマス・ハーディ~



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第五十七話 ブルーサマー

俺は究極の選択を選ばされていた…

ここで間違ったら一発アウト…だがこれを切り抜ければ…

俺の隣にいる一夏も息を呑む。

俺がこれ(・・)に成功したら被害にあうのはお前だからな。息を呑むのも当たり前だ…

周りの奴らも俺の選択をじっと待っているな。

ガタガタとゆれる俺の体…知らないうちに震えているのか?

だが俺は覚悟を決め行動に移す。

選択したそれをすばやく口の中に入れる。

 

 

 

 

 

 

「………すっぱ~!?」

 

俺は口をすぼめながら悲鳴を上げる。

現在俺たちは臨海学校に向かうバスの中でロシアンルーレットのような事をやっていた。

いくつかあるお菓子の中で一つだけとてもすっぱいお菓子が一つだけあるのだ。

体が揺れていたのは単にバスが振動していただけだ。

さっきまで袋の中にあったお菓子は2つ。そして次に引くのは一夏だったためこれを何とかすれば一夏が被害にあったんだが……

俺が顔をすっぱさでしかめていると周りで笑いが起きる。

 

「あはは。バツゲームはソウで決定。」

「っしゃ!!3回連続回避ぃ!!」

「では次のバツゲームはどうしますか?」

「そうだねぇ……モノマネにしてみる?」

「それはさっき織斑君がやって失敗したじゃない。」

 

とわいわいと騒ぎ出すバス内。

千冬さんも一緒に乗っているが今ぐらい騒ぐ事は許してくれるだろう。

山田先生は俺たちと一緒になって騒いでるし。

俺が口の中に残ったすっぱさをお茶で飲み流すと丁度バスはトンネルを抜ける。

そのまま外を見ると浜辺と水平線が目の前に広がる。

 

「見てみて!!海!!」

「って事はもう少しかぁ!!」

「天気もいいし今日は最高の海日和だね!!」

 

先ほどまでのバツゲームの話は一気に吹き飛びみんなわいわいと海について話しだした。

まぁ…今日は十分楽しめるだろう。だが確か明日…ここに向かって『銀の福音』がやってくるのだ…一応警告は理事長を通して出してもらったがあの『天災』相手にどこまで抵抗できるのだろうか…

そして俺がここにいるせいでどういう結果に終わるかも解らない…

頼りの専用ISは現在未完成か……最悪無理をしてでも出るくらいの気持ちで行こう。

俺が周りを見ながら黙って考えていると後ろの席からシャルロットが顔を出す。

 

「?ソウどうしたの。」

「いや、僕何だかんだで海に触るの初めてだから興奮してきただけ。」

「……そうなんだ。」

 

顔を見ずに返事を返すとシャルロットが納得したように声を出す。

しかしクラスメイトたちは驚いたようでこちらに反応している。

 

「え!?風音くん海に入ったこと無いの!?」

「うん。記憶にあるうちでは触った記憶すらないね。」

「あ~…そういえば風音君って外国育ちで記憶が無いんだったね。」

「あ、そっか。でもなんていうか…風音君が外国育ちだって完全に忘れてた…」

「日本語うまいし顔も日本人だしね…」

「まぁ本人がまったく気にしてないからね、気にしないで頂戴。取り合えず初体験を楽しませてもらうよ。」

 

と俺が笑いながら話す。

シャルロットの反応が薄いのが気にかかったがまぁ…特に問題は無いだろう。

周りがさらにさわぎだすと千冬さんが声を上げる。

 

「そろそろ目的地に到着する。各自荷物の準備をしすぐに降りれるようにしろ。」

「「「「「はい!!」」」」」

 

こうして俺たちIS学園一年部の二泊三日、臨海学校が幕を開けたのだ。

ちなみにバツゲームの事が完全に流れてくれて少しホッとしたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

目的地は風情のある海辺の旅館だった。

いやぁ…多分元の世界の方でもこんな旅館に泊まった事は無かったなぁ…

ある意味これは両方の意味で初体験なのか。

バスから降りて一年部の全員で旅館の前で点呼を取る。

その後千冬さんの説明を受け俺たちは各自の部屋に向かうことになった。

前のほうに張り出された紙を見ると俺と一夏の名前は無い。

………俺と一夏の部屋はどうなるんだろう…。

俺は野宿でも平気だが一夏は大丈夫なのか?

そんなことを考えていると一夏がこっちによってくる。

 

「お、おい。奏、お前の名前も無いよな?」

「うん?ああ、僕はあっちの山の方でキャンプする事になってるから。」

「うぇ!?……それ絶対嘘だろ!!」

「うん、嘘だよ。早いとこ織斑先生に聞きに行こう。」

「おう、解った。」

 

といい千冬さんを探そうとしていると千冬さんがこちらに向かってくる。

そのままそちらに向かうと千冬さんが話しかける。

 

「織斑、風音。貴様らの部屋に案内する。」

「よかったな一夏。山にもぐって薪集めをする必要はなさそうだ。」

「お前…半分本気で言ってたのか?」

「風音、何ならお前だけでもそれができるよう手配してやってもいいんだぞ?」

「いえ、遠慮しておきます。」

 

そう言って千冬さんに頭を下げると千冬さんは鼻を鳴らしながら歩いていった。

アレは笑ってるな…一夏もそれに気がついたようで二人で笑いながら千冬さんの後を付いていった。

千冬さんの後をついていくと着いた部屋は

 

『教員室』

 

という張り紙がふすまに貼られた部屋であった。

まぁ……こうなるよな。一夏はともかく俺のことを考えれば。

しかし一夏はなぜ?と言った顔をしている。

 

「さっさと入れ。」

「いや…千冬姉…なんで俺と奏の部屋が千冬姉と一緒なんだ?」

「……お前は仮に奏と一緒の部屋になったとしたら、どれだけの女子がお前の部屋に押しかけると思っているんだ。」

「え?……どういうことだ。」

 

千冬さん!!お宅の弟さん、思った以上にポンコツですぜ!!

多分生まれてきた時に恋愛感情を母親の腹の中に忘れて来てますわ、これ。

千冬さんは頭を抑えため息をつく。

 

「この馬鹿者が。」

「うぇ!?何でそうなるんだよ。」

「あ~一夏。とりあえず俺のせいだとおもっとけ。」

「?何で奏のせいなんだ。」

「今、俺の専用機開発のせいで『風音奏はハニートラップで釣れる』って言う噂が世界中で流れてるんだわ。その噂を本気にしたところが何かしてくるかわからないからな。千冬さんの部屋が一番安全なんだよ。」

「……そうだったのか…でも俺のことについては?」

「………そこは自分で考えろポンコツ。」

「え!?何で!?」

 

と本気で訳がわからないといった顔をしている一夏を見て、俺と千冬さんは顔を見合わせてため息をつくのだった。

 

「さて、今日は一日自由時間だ。荷物も置いたし、好きにしろ。」

「了解しました。どうする一夏、海に行く?」

「えっと……千冬姉はどうするんだ?」

「私は教員としての仕事がある、気にせずに行って来い。」

 

多分一夏としてはある意味家族水入らずでいられる時間だと思ったんだろう。

どうせなら三日間の内の一日くらい千冬さんと一緒に過そうと考えているんだろう。

千冬さんと別れた後、俺と一夏は部屋を出て話しながら更衣室へと向かう。

 

「残念だったな、一夏。せっかく家族水入らずでいけるかと思ったんだろうが、まぁ3日間もあるんだし夜は……俺邪魔なようなら本当に野宿しようか?」

「何を言ってるんだ?奏。半年近く一緒に暮してたんだしいまさら気にすんなよ。」

「了解。とりあえずさっさと着替えますか。」

「だな、多分皆海に行ってるだろうし。」

 

そう言って俺たちは急ぐことなくゆっくりと更衣室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

海に着くと一夏は速攻で鈴や他の女子たちに拉致された。

唖然ととしながら連れ去られる一夏を俺はそのまま笑顔で手を振って見送った。

さて、海に着いたのはいいけどいきなり手持ち無沙汰になってしまった。

周りを見渡してみるが思ったよりまだ人は集まっていない。

セシリアや箒や簪、シャルロットやラウラも見当たらないなぁ…

しかし…本当に今日はいい天気だなぁ…このままどっかで昼寝をしたくなってくる。

俺はある程度海を眺めた後、横を見ると海の家らしきものを見つけた。

何か飲み物でも買おうか…と考え中にはいるが店員が居ない。

もしかしてやってないのかな?と思っていると奥から声がする。

 

「~~~~長!!いいから休んでください!!」

「馬鹿野郎!!この程度で~~~」

「いや!?完全に熱中症ですから!?」

「稼ぎ時にねてられるか!!」

「いや!!本当に危ないですから!!」

「そうッスよ!!店長死んじゃいますよ!?」

 

なるほど聞く限り店長が倒れて人手が足りないのか……

俺はそう考え彼らの方に近づいていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

十数分後、浜辺ではシャルロットが奏を探していた。

一夏とさっき会った時は奏も浜辺に来ていると言われたのだが…まったく姿が見えない。

 

(どこに行ったんだろ…水着の感想を聞こうと思っていたのに…)

 

すると遠くの方で何かにぎわっている。

見るとたくさんの人が海の家で何かを買っていた。

もしかしたらソウもあそこで何か食べているのでは!?

と思い近づいてみると……

 

捻り鉢巻にパーカーと水着の上から『海の家』とかかれたエプロンを着たソウが店先で焼きそばを焼いていた。先ほどから来る女子生徒の目的はそれなんだろう。

唖然としながら近くに駆け寄る。

 

「ソウ!?」

「あ!?お客さん!!ちゃんとならん…なんだシャルロットか!?悪い!!今忙しいんだ!!」

「え!?本当に何やってるの?」

「お店の店長さんが熱中症で倒れちゃってさ!!復活するまで代わりに店先で焼き物やってるんだ!!ごめん!!後ろの方から麺取ってくれない!?」

「え!?う、うん。」

「サンキュ!!」

 

そう言ってまたも鉄板の上で焼きそばを焼いていく……

店の中のほうを見るとこれまた大賑わいで他の二人の店員も必死になって働いている。

これは確かに二人で回すのは無理だろう…今でさえ注文を聞いて飲み物を渡すので必死だ。

 

「………何か手伝う事ある?」

「え!?いいよ!!遊んで来いよ。」

「私はソウと遊ぶつもりだったんだけど?」

「……悪い。でもほっとけなくてさ。」

「はぁ…だからその店長さんが治るまで私も手伝うよ。その後に遊ぼう?」

「了解しました。じゃあ悪い、焼き上げた焼きそばを―――」

 

こうやって結局シャルロットを加えた四人体制で店を回していくのだった。

ある程度の目的は俺の焼きそばだったからいいがそれども大賑わいだ。

多めに焼いている焼きそばは物のみごとになくなっていく。

途中からシャルロットを店の中に入れさせほぼ一人で汗をかきながら焼きそばを焼く。

一時間後店長(ボス)が復活し、俺もシャルロットと一緒に店内に入り、中のお客さんの相手をしていた。ある程度客足も落ち着き、たまっていたオーダーもすべて終わらせると店長がこちらにやってきた。

 

「いや~、少年にお嬢ちゃん、本当に助かった。恩に着るよ。」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。本当に体の方は大丈夫なんですか?」

「ああ、ゆっくり休んで水分取ったら元通りよ。むしろ騒ぎすぎなんだよ。」

「あはは。まぁじゃあ僕たちはこれで。」

「おう、後たいしたもんじゃないがこれ持ってけ。バイト料としちゃ少ないかもしれないがせめてもの御礼だ。」

 

そう言って大盛りの焼きそば二つに飲み物2本。さらにかき氷までもらった。

しかし食べるとしたら先にかき氷か…まぁあまり気にしても仕方ないか。

俺はありがたくそれらをもらうと海の家から離れていった。

 

 

 

 

 

 

ある程度浜辺から離れた所にベンチが会ったのでそこに座る。

ここは海も見渡せるし余り人も来ないからゆっくりできそうだな…

そんなことを思い、ため息をつきながら座る。

 

「フゥ…シャルロット悪かったな。助かったわ。」

「後でしっかりお礼してもらうからね?」

「解りましたよ。」

「冗談だよ。早くかき氷食べよ?融けちゃうよ?」

「それもそうだな…食べるか。」

 

俺とシャルロットはそのままそこで遅めの昼食をとるのだった。

互いにはじめにかき氷を食べた後に焼きそばというなんとも順番がちがうだろ!?と言いたくなるような順番で食べ進んでいった。

食べている途中でふと思いついたことを聞く。

 

「そういやラウラたちは?シャルロットのことだからラウラと一緒に出てくると思ったんだが。」

「うん?ラウラは一夏と一緒に遊んでたよ。はじめは水着を恥ずかしがってたけどね。」

「はは、ラウラらしいな。」

「ねー、あんなにかわいいのにどうしてあそこまで恥ずかしがるんだろ。」

「どうしてだろうな。」

 

そこはラウラの産まれと今までの生き方のせいだろう。

今まで一つの兵器として育てられたのに突然人間として生きれるといわれても困惑しかできないだろう。この事はラウラ自身が話すまで俺は回りに言うつもりは無い。

しかしシャルロットはじっと俺の顔を見つけて何か考えている。

 

「……どうしたシャルロット。」

「…ソウ、何が隠してるでしょ…」

「何のことだ?」

「また何か変な雰囲気感じたんだけど。」

 

おいおい、本当にこれはなんなんだ?

俺別に口に出したわけでも雰囲気の方を変えたつもりも無いぞ?

だが現にシャルロットは何か感じ取っている…とりあえず話を変えよう。

それも俺が何も気にせず話せるような奴を。

 

「気のせいじゃないか?」

「う~ん…そうなのかな?」

「いや……隠すったって今お前に黙ってるのは右頬の辺りに焼きそばのソースが付いていることくらいだぞ?」

「嘘!?……もう!!早く教えてよ!!」

「いや…一夏たちにも見せてやろうと思ってたんだが…」

「何でよ!?」

「悪い悪い。」

 

と顔を真っ赤にして怒るシャルロットと笑いながら軽く謝る俺。

そしてとりあえずゴミを持ってベンチから立ち上がる。

 

「さてそろそろ一夏たちと合流するか。」

「そうだね。……ねぇソウ…私の水着にあってる?」

「うん?…ネタで返した方が良い?」

「もう!!」

「冗談。うん、すごい似合ってるよ。シャルロットってなんていうか黄色とかオレンジが似合うよな。うん、俺のイメージにぴったりって感じ。」

「そっか…ありがとうソウ。」

 

とさっきまで怒っていたシャルロットは機嫌が良くなり浜辺に向かって歩いていった。

まぁ…チラッと見えたあんな緩みきった顔を見られたくないんだろうな。

俺はシャルロットの後を付いていくようにしてゆっくりと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

人生で一番楽しい瞬間は、誰にも分からない二人だけの言葉で、誰にも分からない二人だけの秘密や楽しみを、ともに語り合っている時である。

                                       ~ゲーテ~




熱中症は危ない!!という話でしたwww
実際作者も熱中症で知り合いが倒れた時にピンチヒッターをやった事があります。関係ないですねwww



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第五十八話 愚者の晩餐

投稿時間が…明日になってましたwww
ということで少し遅れましたが投下。


浜辺に行くと一夏たちはすぐに見つかった。

他のクラスメートたちと一緒にビーチバレーをしている。

俺とシャルロットは二人で近くまで歩いていく。

近くまで行くと一夏がこっちに気が付き一度試合を中断した。

 

「奏にシャル。お前たち今までどこに居たんだ?」

「海の家でバイトしてた。」

「はぁ?お前本当に何してるんだ?」

「いや店長さんが熱中症で倒れちゃっててさ、ピンチヒッターやってたのよ。」

「私はそれの手伝いしてたの。今終わってちょっと休んだ後こっちに来たんだ。」

「……あんたらしいって言えばそうかもね…」

 

と呆れ顔の一夏と鈴。

セシリアはそんなとこだろうと言った風に笑っているしクラスメイトたちは行けばよかったなどと言っている。ラウラは…なぜかダウンしてるな。

俺はラウラの近くまで行くと声をかける。顔色を見る限り熱中症ではないようだが…

 

「お~い、ラウラ~。聞こえてるか?」

「う、うん?奏兄か?」

「君、一体どうしたのさ。」

「よ、嫁が……」

「一夏が?」

「私のことをかわいいと…」

「ほめてもらったのか…それで?」

「なぜかその後体が思うように動かなくて…ボールにぶつかってしまい…」

「……しばらくそのまま休んでな。」

「う、うむ…」

 

なんというか…時間が経てば経つほど、どんどん面白いキャラになってくな、この子。

俺は笑いながら辺りを見渡すが……箒と簪が居ない。

一夏に聞いてもいいが…鈴とセシリアの近くで小声で聞いてみる。

 

「(二人とも、箒と簪知らない?)」

「(いいえ、私たちも探してみたんですが…)」

「(とりあえず海には居ないみたい。)」

「(そっか…ありがと。)」

 

俺はそういった後適当に探してみる事にした。

一夏は離れていく俺に気が付くと不思議そうな顔をして声をかける。

 

「おい、奏。どこに行くんだ?」

「悪い一夏。僕バイトで疲れちゃったからさ、ちょっと散歩して体力回復してくるわ。」

「いや、体力回復するんだったらここで休めばいいんじゃないか?」

「ははは、お前と一緒にいるとそれだけで疲れそうだからさ。」

「なんだと!?」

「あはは、冗談だって。いやちょっと風景を見に行きたいだけだよ。」

「ああ、解った。」

 

俺は振り向かずに手を振るとみんなから分かれる。

そしてやはりというか…予想していたがシャルロットはこっちについてきた。

 

「……シャルロット、箒どこ行ったか知ってる?」

「解らないけど探すなら手伝うよ。」

 

笑顔でこういうシャルロット。

こいつ、何言っても付いてくるんだろうなぁ…

俺は頭をかきながらため息をつく。

 

「……遊ぶ約束はまたの機会でいいでしょうか?」

「う~ん、仕方ないからゆるしてあげましょう。」

「ありがたき幸せ。多分簪も一緒にいると思う、とりあえず水着は着替えよう。」

「うん、解った。」

 

そう言って俺とシャルロットはそれぞれ着替えに向かうのだった。

そういや、俺海に入ってないなぁ…まぁ明日にでも入ればいいか。

しかし結局シャルロットとの約束守ってないなぁ…しかしこればっかりは勘弁してもらおう。

平和なことを考えながら、これがかなわないと知っている俺は苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

着替えを終えシャルロットと合流しいろいろと辺りを探してみる。

しばらく探すと簪を発見する。しかし近くには誰もいない。

簪もこちらに気が付いたようで駆け寄ってくる。

 

「奏さん、シャルロットさん!箒ちゃん見ませんでした?」

「簪ちゃんも探しているのか……ごめん僕らもわからなくてね。探しているところなんだ。」

「そ、そうなんですか…」

 

とりあえず今のうちに箒のモチベーションをしっかりと理解して、アイツが戦う事になってもミスをしないようにしたいんだが…

まぁこれは今すぐに…と言ったことではない、最悪今日中にやれれば良い。

俺は顔に出さないように簪に声をかける。

 

「簪ちゃん、箒とはどこまで一緒だったの?」

「私、箒ちゃんを誘いに部屋に行ったらもう居なくて…」

「そっか…」

 

今このタイミングで誰にもあわないで居なくなる…

十中八九篠ノ之博士とコンタクトとってるんだろうなぁ…

えっと……原作でのこのイベントは篠ノ之博士から明日箒は専用機をもらう。

その後『偶然』にも銀の福音が暴走、日本に向かってくる。

これに対しアメリカ、日本両政府はなぜかIS学園側に福音の撃墜を依頼し学園側はこれを了承。

ファーストコンタクトで一夏が箒をかばって一夏が撃墜、意識を失う。

二回目で一夏抜きで福音との戦闘、途中目覚めた一夏の力もあり福音を止める事に成功するんだっけ……記憶が穴抜けのせいか控えめに言っておかしいところしかない。

これ亡国機業だけじゃなくアメリカかイスラエル、下手したら日本も一枚かんでるんじゃないか…

そうじゃないと戦争になりかねないような事だぞ、これ。

ただ始めから暴走した福音が日本に攻めて来ないって言うなら問題ないが…

恐らくそういう風に話は通ってるんだろうな……

この事件に関しては俺は介入する事は正直できない。

どうやってもどこの組織にもコンタクトは取れないし証拠もまったく集めることはできなかった。この状態で疑ったり動いたりしてもこちらがマークされて終わるだけだ。

対処法として俺が突っ込む事ができない今、他のみんなに頼る事しかできない…

深く考えすぎたか、簪とシャルロットが心配そうな顔で俺を見る。

 

「ソウ、どうしたの?」

「……いや、どうして箒が居なくなったのかを考えてた。」

「何かわかりましたか?」

「いいや、全然。はっきりとした事はまったくわかりません。」

 

そう言って俺は肩をすくめる。

考えてもしょうがないのだ。最悪、俺は勝手に試作機で突っ込むつもりだし。

俺は深く考えるのは止め、簪を加えた三人でまたもや箒を探し歩いたのであった。

 

 

 

 

 

三人で十数分探した後、埒が明かないという事で分かれながら探す事にする。

そしてさらに数分後、俺は箒の姿を発見する。

手には携帯…やはり篠ノ之博士と連絡をとっていたのか。

顔つきは…プレゼントを貰う前の子供だな……自分が手に入れるものが何かわかってないのか…

まぁ…それに関しては俺もおおぴらに指摘できる事ではないか…

現状俺は『自分の専用機を手に入れるためにいたるところに喧嘩を売った』男だ。

本当はそっちの方がメインでは無いと言ってもやった事は結果的に同じだ。

ただその手にいれる物で何がしたいのかだけはわからせなければ。

俺は箒に声をかける。

 

「よう箒、探したぞ?」

「ああ、奏か。何の用だ?」

「いやさ、浜辺でいくら待っても来ないから何かあったのかと心配になってさ。簪とシャルロットと一緒に探してたんだ。」

「……少し用事があっただけだ。心配されるような事は何も無い。」

「そっか。じゃあどうする?海に行くか?」

「いや。私は遠慮しておく。少し休んでおきたい気分でな。」

 

完全に明日の事で頭の中がいっぱいなんだろう。

どう釘をさしておいたものか……

 

「箒。関係ないかもしれないが一つ聞いていいか?」

「?お前が私に質問とは珍しいな。いいぞ。」

「お前にとって強さってなんだ?」

「私にとっての強さか……貫き通す事だな。自身の思いをそのままに維持することが出来る力だ。」

「…それは一夏をたすけるためか?」

「っ!?…そうだ。それもあるがそれだけではない。」

「……そっか、でもそれが一番なんだろ?」

「……ああ。そのとおりだ。」

「ありがとう。参考になったわ。」

「そうか、簪には私から連絡しておく、シャルロットは頼んでもいいか?」

「了解。じゃあね。」

 

別れを告げると箒は自身の部屋に向かって歩いていく…

頼むからお前の今言った『一夏を助けるための強さ』であってくれよ…

自身が一夏のとなり(そこ)に居たいからで、わがままのためじゃないんだろ?

俺はため息を付きながら今後良くなってくれるように祈るのだった。

 

 

 

 

 

夕食、一年部全体で座敷に座って食べる。

一応座敷文化が無い人のためにテーブルの方もありそちらの方で食べる人も結構いる。

現在俺はそちらのテーブル側のほうで飯を食べていた。

理由は簡単である、こちらの方が空いているからだ。

確かに飯を食べるときはわいわい騒ぎながらの方もおいしい。

だがここの料理はゆっくり味わって落ち着いて食べたいのだ。

そう考えこちらの方に来たのだが…

 

「ソウ、この緑色の奴何?」

「山葵。ローストビーフに使うホースラディッシュみたいなもんだ。比べるとこっちの方が辛いから少しだけ刺身に乗っけて食べてみろ、ほんの少しでいいからな。」

「うん、試してみる。」

 

やはりシャルロットはこちらに来た。

まぁ別に一切無言で食べたいというわけでは無いんだ。

ただこっちの席に二人で座って食べると周りが辺に気を使ってくるのが解るのだ。

あからさまにこっちを見てひそひそ話してる奴もいるし。

いい気はしないが……まぁ気にする必要もないか。

俺はそれを気にせずに飯を食べ続ける。

おっ、これは百合根か?うん、ほくほくしてうまいな。

シャルロットは山葵を少しつけた刺身を恐る恐る口に運んでいる。

口に入れた瞬間一瞬顔をしかめたがその後あっ…といった顔をしている。

 

「どうだ?感想は?」

「はじめはツーンって来たけどその後はいい香りがする。」

「その感覚が癖になるとうまいって感じだな。ただあまりやりすぎるなよ?」

「うん。」

 

そう言ってシャルロットはまたもや山葵を刺身に乗っけてしょうゆに浸す。

フランス人に刺身って抵抗あるかな?っておもったが結構チャレンジ精神豊富だな。

シャルロットはまたもや『くぅ~』と言ったように顔をしかめた後顔をほころばせておいしそうに刺身を食べている。見て俺は笑ってしまった。

その後座敷席のほうが凄まじく騒がしくなったと思うと一気に千冬さんの怒号が飛ぶ。

 

「お前たちは静かに食事することができんのか!?」

 

とたんにしゅんとなる空間。

まぁ…限度を考えずに騒ぎながら食べなかった君たちが悪いという事だね。

しかしここまで静かになるのもなぁ…せっかくの料理がもったいない。

俺はわざとらしく近くにいた女中さんに声をかける。

 

「いやぁ…本当においしいですね。これおかわりとかあります?」

「…吸い物と白米だけなら。あとお漬物を少々は大丈夫ですが…」

「本当ですか!?お願いします。」

 

と俺が頼むと回りがクスクス笑い出す。

千冬さんもそれに気が付いたらしくこちらに声をかける。

 

「風音、あまり女中さんに迷惑をかけるな。」

「お腹がすいてたのもありますがあまりにもご飯がおいしくて、食べなきゃ損かなって。」

「そんなに腹がすくほど遊んだのか?」

「いえ、海の家でバイトをしてました。」

「……お前は本当に何をしているんだ…」

「いやぁ~一夏にもまったく同じことを言われてましたよ。」

「…もういい、後これからはおかわりはなしだ。」

「そんな!?殺生な!?」

「貴様にそれを許したらとんでもない事になるだろうが。」

「げ、限度はありますよ…」

「品がないと言ってるんだ。自重しろ。」

 

というやり取りをやっているとまた回りの雰囲気が笑い声で明るくなった。

座敷席の方もある程度明るくなったな。

そのままの雰囲気を楽しみながら俺は飯を食べ進めるのだった。

 

 

 

 

 

時間も過ぎ自室で入浴予定時間まで時間を潰す。

先ほど温泉から戻ってきた千冬さんは現在一夏にマッサージをされている。

 

「千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?」

「そんな訳あるか、馬鹿者。あっ…んっ!少しは加減をしろ……」

「はいはい。んじゃあ、ここは…っと」

「あっ!あ、そこは……やめ……っ!!」

「すぐに良くなるって。だいぶ溜まってたみたいだし、ね。」

「そこは駄目だと…」

「いいから、ね。」

 

………マッサージである…

一夏はともかく千冬さんはわざとやってますか?ひょっとして。

俺は耳に音楽プレーヤーをつけながら本を読む。

外の気配は…まぁ、もう少しで千冬さんが行動に出るだろう。

案の定千冬さんが一夏をよけ音も無く立ち上がりすばやく部屋の入り口のふすまを開ける。

 

「「「「「うわぁ!?」」」」」

 

なだれこむように入ってくる5人。

俺は気にすることなく本を読み続ける。

一夏はそれを見て唖然としている。

 

「……5人とも何してるんだ?」

「な、なんでもないわ。」

「ならなんでそんなところに?」

「い、いやぁ……僕はソウに会いに…」

「……普通に入って来い、馬鹿どもめ。」

「ちょっと…入りづらい雰囲気でしたので…」

 

そういわれてもなお反応が微妙な一夏と頭を押さえてため息をつく千冬さん。

俺はイヤホンをはずし本を閉じる。面白いからからかうか。

 

「多分織斑家特性のコミュニケーションに入りづらかったんだろ。」

「織斑家特性って…そんなたいした事はしてないだろ。」

「まぁな、お前の家でも良くやってたしな。」

「よくやって!?」

 

箒が猛烈に反応する。

他の4人も興味心身だ。

千冬さんは俺のやろうとしていることを察したのか何も言わない。

 

「おいおい、俺だけじゃなくて奏も混ざってやった時もあるだろ?」

「さささ、三人で!?ソウも!?」

「って言ってもうまいって言うかテクニックが上なのは一夏だな。」

「テクニック!?」

「ああ、やっぱりやった回数だろうな、一夏なんてよく千冬さんにやりたがってたぞ?」

「や、やりたがるですって!?」

「千冬さんも満更じゃなかったしね。」

「きょ、教官も!?」

 

5人とも顔を赤くしている。

イカン、笑いがこみ上げてきた。

千冬さんも顔をそむけている、これは笑いをこらえているな。

恐らく解っていないのは一夏だけだろう。

俺は笑いをこらえながら千冬さんに声をかける。

 

「…千冬さん…ここまで知られてしまったらばらしてもいいでしょうか?」

「……マッサージの何をばらすというんだ?奏。」

「「「「「へ?……あ…」」」」」

 

唖然とする5人。

その顔を見てここで俺はこらえきれず大爆笑をした。

千冬さんも口元を押さえて笑っている。

5人は自分の顔や頭を押さえて悔しそうな顔をしている。

ここで俺のことを責めてもいじられて終わりだという事がわかっているのだろう。学習してるな。

 

「あ~笑った笑った。5人ともいい反応をありがとう。」

「マセガキどもめ、何を考えていたんだ?」

 

そう言われるとさらに顔が赤くなる5人。

俺は笑いながら一夏に声をかける。

この一連の流れがわからない一夏はきょとんとしている。

 

「一夏、そろそろ風呂の時間だから行こうよ。」

「あ、ああ…なぁ奏、何でお前と千冬姉は大笑いしてたんだ?」

「さぁ?そこの5人に聞いてみたら?」

「「「「「ちょっと!?」」」」」

「冗談!ほら一夏、気にしないで準備できたら行くぞ!」

「あ、ああ。押すなよ!?」

 

俺は一夏の背中を押して部屋から出る。

ふすまを最後に閉める前に千冬さんに声をかける。

 

「千冬さん、どれくらい時間潰せばいいですか?」

「気にしなくていい。ただ下手な話を聞きたくないなら時間を潰しておいた方がいいぞ?」

「お~コワ。了解しました。じゃあ5人ともまた。」

 

手を振りふすまを閉める。

いやぁ笑わせてもらった。

俺は思い出し笑いをしながら、俺が笑っている理由を考えている一夏と温泉に向かうのだった。

 

 

 

 

青春は短い。宝石の如くにしてそれを惜しめ。

                                    ~倉田百三~



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第五十九話 LOVE or LIKE?

とりあえず温泉に入ると中はかなり広々としており、これを二人の貸切というのはかなり豪勢なものだった。

風情を感じる広々とした湯船に何よりも特徴的なのは海を見ながらゆっくりと入れるところだろう。

現在雲ひとつない星空とゆったりと波が押し寄せている海を見ながら入れる大浴場。

風呂にそれほど関心のある俺でなくてもテンションが上がるのだ。風呂好きの一夏からしてみれば天国…いや極楽みたいなものなんだろう。

先ほどまでの悩みなんて吹き飛んだように見える。

かなりうれしそうに湯船につかる。続くようにして俺も湯船につかる。

 

「~~ぁ…極楽…」

「お前本当に親父臭いな、むしろジジ臭いといったほうがいいのか?」

「あ~~今なら何言われても関係ないわ…好きに言ってくれ。」

「………シスコン一夏。」

「……まぁ許す。」

「おお!?意外!!」

「お前のことだから反応した時の対応既に考えてるんだろ?」

「…もうお前に教える事は何もない…免許皆伝だ。」

「なんのだよ。」

 

と言ってお互いにゆっくりと湯船につかる。

いやぁ…本当に気持ちがいいな。ぬるめの温度が体温に心地よく長く入っていられそうだ。

これは俺も風呂好きになりそうだな。

そんな感じでゆったりと風呂に入っていると一夏がふと何か聞いてくる。

 

「なぁ…奏。お前に聞きたいことあるんだけどいいか?」

「うん?スリーサイズ以外なら。」

「聞きたくもねぇよ。真面目な話し…なのかな?」

「……了解、千冬さんにも絶対に言わないから話してみろ。」

「いや、千冬姉のことでも無いんだ…でも誰にもこんな事聞いたって事も言わないでほしい。」

 

何?千冬さんの関係化と思ったが違ったか…

俺は真面目な顔をして話を聞く。

 

「解った、誰にも言わないから聞いてみろ、親友。」

「…いや、まずはじめにお前のことなんだけどさ、最近…って言うか初めと比べてお前とシャルロットって仲良くなってるよな?」

「ああ、もうシャルロットから一応告白まがいの事はされてる。」

「……そう…か?……え?……はぁああああああああああああ!?本当か!?」

 

叫びながら立ち上がる一夏。

俺は気にもせずそのまま話を続ける。

おおぴらにはっきりというのはこれが初めてになるのか。

 

「あ~…返事は待ってもらってるから付き合ってはいないけどな。」

「い、いや!?そっちじゃなくて!?いやそっちもだけどさ!?」

「落ち着け、時間はあるし俺もしっかりと答えるから。後この話しは広めるなよ?」

「え!?あ…おう。」

 

というとまた静かに湯船につかる。

いやぁ…一夏にすら勘付かれていたか…一応言い訳はいくつか考えていたがこいつから真面目に聞かれているのだ、はぐらかすような事はしたくない。

 

「落ち着いたか。」

「あ、ああ。……いつくらいから?」

「ラウラと戦った日の夕方辺りだな。」

「そんなに前なのか?……なんでお前はそう答えたんだ?」

「いろいろと理由はあったが…焦りたくなかったからかな?もっとアイツとは仲良くなってから俺は付き合いたかった。」

「……他の理由を聞いていいか?」

「…俺の身の上、現在の状況、さらに言うなら周りの目かな?だがそんなことよりもさっきの焦りたくないって感情が一番だな。」

「そうか……」

 

そう言って一夏は考える。

今度は俺が一夏にたずねてみる。

 

「突然そんなことを聞いてどうした。」

「い、いや……」

「…誰にも言わない約束が信じられないか?」

「違うんだ…自分でも良く解らないんだ…」

「口に適当に出してみろ。」

「……お前とシャルロットが元々仲がいい事は解ってた。最近よく一緒になって行動していることも知ってた。」

「おう。」

「それでお前にその事をどう思ってるのか聞いてみたかったんだ。」

「……俺がシャルロットのことをどう思って行動しているかか?」

「……ああ。」

「とりあえず悪くは思ってないな。自分にここまで純粋な好意を向けられれば悪い気はしないし。だからこそアイツへの答えはしっかりとしたものにしたい。」

「……それだけか?」

 

他になんていえばいいんだろうか…

まぁ正直に話したいし思っていることをそのまま話すか。

 

「う~ん…あとは『一緒にいたいから一緒にいる』じゃ駄目なのか?」

「でもそれは仲がいい友達と何が違うんだ?」

「他の奴にとられたくない。俺にとったらこれだけだな。」

「?女性しかいないIS学園なのにか。」

「そこじゃないんだ。俺の中の好きって言うのはそいつが他の奴と一緒になったらって考えた時、嫌になるかどうかだな。シャルロットの事は他の誰にも渡したくなかった、それだけだ。」

「………」

 

一夏は今一つ納得のいかない顔をしている。

しかしここまで突っ込んでくるという事は…

もしかしたらと思い一夏にいろいろと聞いてみることにした。

 

「お前もある程度気が付いてるんだろ?箒たちがお前に好意を持ってること。」

「……解らないんだ…どこからどこまでが好きなんだ?俺はお前のことも千冬姉のことも好きだしあいつらの事も好きだ。でもそれと何が違うんだ?」

「う~ん……具体的に何か違うか解らないなら、お前の頭の中ではまだ好きな人が居ないんじゃないか?多分本当に好きな相手ができればわかるものだと思うが…」

「でも!?あの四人は…」

「それはお前の感情とは何も関係ないだろ。お前があの四人の中で特別を作らないといけないわけじゃないんだ。」

「……」

「言っちゃえば街中で見かけた女性に特別な物を感じたらその人を好きになればいい。」

「……じゃあ四人はどうなるんだ?」

「それでおしまい、失恋だな。」

「……それでいいのか?」

「むしろそれ以外にどうするんだ?まさか重婚できる国にまで行ってお前のことを好きだって言う奴全員娶る気か?」

「………」

 

これに関しては皆笑顔って言うのは無理だ。

どこかで誰かが必ず泣かないといけない。

だが俺個人としては最後にみんなで笑いあえるようになりたいがな。

 

「よく恋は戦争とか言うけどある意味間違ってないと俺は思うぞ?どっちも負けられないし負けた後も続きはあるんだ、そこで終わりじゃないんだしな。」

「……」

「それに男は何も俺とお前だけじゃないんだ、それこそ女と同じ数ほどいる。」

「…それもそうだな…」

「まぁ…これは俺の恋愛観だ。お前にこうなれって言ってるわけじゃない。ただアドバイスを言うなら…」

「言うなら?」

「後悔しないようにしろ、すべてが終わった後ああしておけばよかったと後悔しないように自分で何をするか決めて動け。これくらいかな?」

「……」

「悩め青年。それがこの年代の特権だ!!」

 

そう言って思いっきり背中を押す。

思いっきり顔から温泉に突っ込む事になる一夏。

しばらく湯船に顔をつけた後ゆっくりと水面から顔を上げる一夏。

 

「……お前も同い年だろ。」

「設定上はね。」

「この年齢詐欺師が。」

「言ってろよ。」

 

と笑いながら話を終える。

『どこまでが恋愛の好きかがわからない』…か…

なんというか青臭いな~俺にもこんな時期が合ったんだろうか…

大切なのは相手の気持ちだけじゃなくて自分の気持ちだ。

相手のことが本当に好きかどうかも解らないのに受け入れるのはそれこそ最低な行いだ。

まぁ……本当は感情とまったく関係のないところでシャルロットとの告白から逃げた俺のほうが、人間として最悪だとは思うがな……

何を言おうと『俺はこの世界の住民ではない』し、この世界に来た原因もよく解らないんだ。

下手な話、いつここの世界に来たときのように、この世界から突然いなくなってもおかしくない…今夜、布団に入ったら気が付いたら元の世界に戻っているのでは?と最近は不安にもなる。

そんな状況で…俺が居なくなった世界はどうなるんだろう、もしこのまま俺がいた形跡が残りそのまま世界が動いていくのなら確実にシャルロットは俺の事を必死に探すだろう…立ち直るのに時間がとてつもなくかかるとは思う。

アイツの事を本当に考えるならあいつの想いには答えずに拒否するべきだったのだ。

だが俺にはそれができなかった、頭ではそう解っていても口に出す事はできなかった。

未熟というか…覚悟が決まりきっていないな…

だからこそ俺は一度もシャルロットに面と向かって好意をはっきりと向けられない。

好意を口に出す事ではなくその後が怖いのだ。シャルロットをより傷つける事になるのでは?と考えてしまう。

確証のないことで弱気になる自分を情けなく思いながら、一夏と二人悩みながら海を眺めゆっくりと湯船につかるのだった。

 

 

 

 

 

 

一方その頃私、シャルロットは箒たち四人と一緒に織斑先生と話しをしていた。

織斑先生は2本目の缶ビールを空けたところだ。

 

「しかしお前ら…奏にいい様に遊ばれてるみたいだな。」

「ち、織斑先生今回だけですよ!?」

「という事は普段はあまりいじられていないようだな。あと箒と凰、お前たちは私の名前の方が呼びやすいだろう。今だけは許してやる。」

 

という箒の反論を聞いた千冬さんは面白そうに笑いながらもう一度缶ビールを飲む。

その姿は普段の織斑先生ではなく一人の女性と言った感じだった。

………できればこうはなりたくない…

 

「デュノア、あとオルコット。お前たち今失礼な事考えなかったか?」

「「い、イエ!?」」

「まぁいいだろう。ではそろそろ本題に入るか……」

「本題とは一体なんでしょうか?」

 

ラウラが疑問を口に出す。

私たち全員訳がわからないといった顔をしている。

 

「ああ、単刀直入に聞こう。デュノアを除いたお前達、一夏のどこがいいんだ?」

「「「「なっ!!!!」」」」

「確かにあいつは役に立つ。家事は万能だしマッサージも上手いからな。」

 

顔が赤くなる四人とそれを面白そうに見ている織斑先生。

いつかソウが言っていたが織斑先生と一夏は根元のところですごい似てるらしい。

一夏は表に出すようにして織斑先生を誇っている。

織斑先生はあまり表には出さないけど心底一夏のことを自慢の弟だと思っていると言っていた。

確かに今の光景を見ると織斑先生は一夏のことを自慢したいのだろう。

私はその光景をみながら笑っている。

 

「どうだ欲しいか?」

「「「「くれるんですか!?」」」」

「誰がやるか。」

「「「「えぇ……」」」」

 

そう言って落ち込む4人を見て楽しそうに缶ビールを飲む。

なんというか本当においしそうに飲むなぁ…

 

「欲しいなら、奪ってみろ思春期。それぞれなんで一夏のことが好きか私に言えるか?」

「「「そ、それは…」」」

「教官!!私は嫁にしっかりと絶対に守ってくれると嘘もなく初めて言ってくれました!!それに私も嫁のことを考えるととても心がいっぱいになります!!」

「「「なっ!?」」」

 

とはっきりと織斑先生に向けて口にするラウラ。

周りの三人は唖然としている。それを見た織斑先生は悪い顔をしている。

 

「ほぅ…しっかりと言う事ができるのはボーデヴィッヒだけか。これは早くも決まったかもしれないな…」

「ほ、ほんとうですか!?教官!!」

「「「ちょ、ちょっと待ってください!!」」」

 

焦る三人。しかし織斑先生もひどい人だ。

別に織斑先生は一度も『しっかりといえたら一夏をやる』とは言っていないのだ。

今の『決まったかもしれない』という言葉も『何が』決まったかも言っていない。

一言言おうかと思ったが織斑先生は私のことをちらりと見て何か言いたそうにしている…たぶん言うなという事なんだろう。

私はとりあえずこくんとうなずいておく。

織斑先生が何か言う前にセシリアが話す。

 

「わたくしは一夏さんの強さと優しさに惹かれました!!普通無理だと思うところに全力で取り組む姿勢とあんな事を言った私のことを許すどころか、わ、わたくしを守るとも言ってくださいました!!こんな事を言ってくださったのは一夏さんが初めてでしたわ!!」

「次、凰。」

「わ、私!?私は…一夏の優しさと…あと…ううん!!全部!!」

「ぜ、全部って…ずるいですわよ!?それならわたくしだって――」

「そ、そうだ!!ずるいぞ!!」

 

と叫ぶセシリアとラウラ。

織斑先生はその姿を見ながら笑っている。

なんというか…普段の印象がガラッと変った。

一方鈴は顔を真っ赤にしながら反論している。

 

「本当なんだから仕方ないでしょ!?私は一夏の全部が好き!!鈍感なところも、優しいところも、強くあろうとする姿勢もぜぇぇぇんぶ好き!!」

「なんというか凰らしい答え方だな。では最後、箒。」

「わ、私は……一夏は私を私としてみてくれるからです。篠ノ之でもなく、ただの幼馴染の私という存在をしっかりとまっすぐ見てくれるからです。……いつか絶対『ただの幼馴染』をはずしてやります。」

「なるほど……これで全員か…」

 

としみじみとしながら3本目の缶ビールを開ける織斑先生。

一方四人はこれで一夏について進展があるのではと期待のまなざしを向けている。

それに気が付いた織斑先生はにやりと笑いながらとぼけたように話す。

 

「どうした?四人とも。お預けをくらった犬みたいな顔してるぞ?」

「い、いえ…」

「きょ教官…」

「さきほどの…」

「話は…」

「あん?……デュノア以外気が付かなかったようだな。デュノア教えてやれ。」

「え~っとね…皆。織斑先生は一度も言ったら一夏をあげるなんて言ってないよ?」

「「「「え?」」」」

「確かに一夏がほしければ奪ってみろとは言ったけど、その話はそこでおしまい。織斑先生はその後ただ一夏のどこが好きかしか聞いて無いんだよ?」

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」」

「はっ。騙される方が悪い。」

 

織斑先生はそう言いながらまたおいしそうに缶ビールを飲む。

四人は恨めしそうな顔で織斑先生をじぃっと見た後私に声をかける。

 

「シャルロット…気が付いてたなら教えなさいよ!!」

「だって織斑先生こっちを見てたんだもん…」

「さて何の事だ?」

「あ!!先生ひどい!!」

 

今度は私まで巻き込まれそうだ。

必死に逃げようとする私を見て織斑先生は笑う。

 

「奏に鍛えられているかと思ったがデュノアもまだまだだな。」

「奏さんにですか?」

「ああ、アイツははじめから私のことすら茶化してきたような奴だからな。」

「「「「「織斑先生(教官)を!?」」」」」

「ああ、初めの頃は私はただ馬鹿なことをするなと切って捨てていたんだがな、あんまりにもしつこくやってくるから切り返しの仕方も身についた。」

「だから千冬さん、一年前と比べてよく笑うようになったんだ…」

「確かに私も千冬さんがやわらかくなった気がしていたが…」

 

と感心したように驚く鈴と箒。

織斑先生は苦笑するようにして笑っている。

 

「確かにあまりにもバカらしくて笑う機会が増えたせいか自然と笑えるようになってきたな。あいつは一夏も巻き込んで私にいろいろやって来てな、いい加減懲りろと一度本気で注意した事もある。」

「……ソウはどうしたんですか?」

「困ったような顔をしながら拒否したよ。『せっかく一緒に暮してるんだから互いに笑ったほうが良いに決まってるじゃないですか。』だと。」

「なんというか……」

「奏兄らしいな…」

「しかもしっかりと『それにそんなにしかめっ面ばかりしてたら顔にしわが…一夏も本気で心配してるんですよ!?』などと真面目な顔で言ってオチをつけるバカだからな、アイツは。」

 

織斑先生は笑いながら言っているが私たちは固まる。

まさか……いくらソウでもそんな事をこの織斑先生に…

焦ったように聞く箒とあきれて口から言葉が漏れる鈴。

 

「ち、千冬さんにそれを言ったんですか!?」

「……アイツ何考えてるの?」

「ああ、思いっきり頭を殴ってやったよ。そしてあまりにもさっきまでの考えがくだらなくてしまって笑ってしまった。」

「そ、そうなんですか…」

「しかも次の日お詫びと言って顔パック用のシートマスクを私に頭を下げながら渡してきたからな。笑いながら殴り飛ばしてやったよ。」

「「「「「……」」」」」

 

千冬さんは笑いながら思い出すように話す。

私たちは完全に顔が引きつっていた。

まさか天下のブリュンヒルデの顔のしわを指摘して怒られ、さらにお詫びと言ってこんなふざけた事をするなんて恐らく今後ソウ以外には誰も現れないだろう。

 

「お前らはさっき一夏の事をいろいろ言っていたが奏は一夏以上の大馬鹿で、一夏以上に優しく誰にでも気を使い、そして誰よりも強いぞ。力だけでなく心もな。むしろ心の強さのほうが異常だ、私はアイツが弱音を吐いたのを見た事は一度しかない。アレだけいろいろ背負う奴なのにな…だからこそアイツの事を好きになるのは難しいんだろうよ。あまりにも距離が遠すぎる。」

「確かに…わたくしもどちらかと言えば奏さんの事は尊敬していると言ったほうが正しいですわね。あの考え方と強さはすごいと思っていますわ。」

「…私もはじめ奏にいろいろやっちゃったけど、全部笑ってたいした事ないって言うような奴だからね…あの瞬間、正直勝てないって思ったわ。」

「心の…強さか…」

 

としみじみと語るセシリアと鈴。そして何か考えている箒。

ラウラはなぜか自慢げな顔をしている。

それを見て私は少し笑ってしまった。これでは本当の兄妹みたいではないか。

ラウラだけでなく織斑先生のほうもだ。

お酒を片手に楽しそうに話す織斑先生を見ていると本当の姉妹のように仲がよさそうだ。

織斑先生は私のほうを見て話す。

 

「デュノアはアイツの事が好きらしいな。」

「はい…」

「苦労するぞ。これだけは確実にいえる。」

「……覚悟の上です。」

「そうか。まぁアイツは一夏と違い女心も多少はわかる。付き合う事さえ出来ればそこまで苦労しないだろう。」

「あ~……もういっちゃいました。」

「……はぁ?」

「いえ、ソウにはもう一応言葉で伝えて――」

「!?」

 

織斑先生はビールを飲んだ状態でむせる。

かろうじて噴き出さなかったが苦しそうにしている。

そしてしばらく咳き込んだかと思うと驚いた顔でこちらを向く。

 

「ほ、本当にか!?」

「え、は、ハイ……」

「それでアイツは何ていったんだ!?」

「…からかわれたあと『焦るな』とだけ…」

「お前はそこでなんと言った!?」

「わ、解ったとだけ言いました。」

「チィ!?ヘタレが!!そこはもっと押せば…いやこの場合ヘタレは奏の方か。アイツは一体何を考えているんだ!?」

「お、織斑先生!?」

 

と凄まじい剣幕で話を聞く織斑先生。

それに触発されるように周りの四人も納得がいかない顔をしている。

 

「本当です、千冬さん。男たるものしっかりと思いを告げられたら答えるべきだと!!」

「そうですわ!!話しに聞いたときには奏さんに一言言ってやろうかと思いましたわ!!」

「これに関しては奏兄が悪い。告白されたらしっかりと答えるのが礼儀だというのに…」

「アイツ多分こういうところはヘタレなんだわ。」

「まさか…一夏と同じような奴だとは思わなかったが…」

 

当の本人をおいて周りがヒートアップする。

止めようにも完全に私は蚊帳の外だ。

 

「奏さんはラブ() アンド() ピース(平和)が目標と言ってましたのに!!あの答え方のどこにラブ()があるのですの!?」

「何!?奏の奴そんな事を言っていたのか!?」

「しかし奏兄が何も考えずにそんな答えをするだろうか…」

「もしかして本命が別に…」

 

……鈴の言葉であの時のブロンドの女性を思い出す。

確かにソウがあの時言った事は事実なんだろう…だが意図的に隠しているところもあるやも知れないのだ……現にソウは話しの内容やどのように話しているかは一切教えてくれなかった。

そう考えるとまたもや黒いものがおなかの辺りにたまってくる。

 

「ご、ごめんシャルロット!!冗談だからその顔はやめて!!」

「お、落ち着けシャルロット!!」

「なんだ?何があったか言ってみろボーデヴィッヒ。」

「はっ、了解しました教官。実は―――」

「ラウラさん、了解しないでください!!その話はシャルロットさんが!!」

 

こんな具合でハチャメチャな会話はソウと一夏が戻ってくるまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

もしも人から、なぜ彼を愛したのかと問い詰められたら、「それは彼が彼であったから、私が私であったから」と答える以外には、何とも言いようがないように思う。

                                  ~モンテーニュ~

 




ちょっと真面目に自身の事を考える一夏と奏。
そして姦しい女性陣でしたwww

知らないうちに勝手に付き合ってる友人とか高校時代に実際いましたね。
しかも指摘すると恥ずかしげもなく
「ああ、付き合ってるよ?あれ?言ってなかったけ?」
とかほざきます。死ねばいいのに。
そいつのバレンタインデーに友人と一緒にロッカーの中をうまい棒だらけにしたのは良い思い出です。


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第六十話 野分

次の日の朝、なんとも疲れた状態で眼を覚ました。

昨日は部屋に入った瞬間なぜか俺の魔女裁判が始まった。

全力で四人をなだめて部屋に送り返す様を笑いながら見ていた千冬さんと、我関せぬというか最早触らぬ神に祟り無しの状態の一夏の顔は絶対に忘れない…

結局シャルロットが引っ張ってつれて帰ってくれたが、やっとの思いで終わらせたときには千冬さんは寝てたし一夏も

 

『うん?終わったのか?』

 

と言った感じだった。

俺はそのままツッコミを入れる気力もなく眠りに付いたのだ。

今朝になってからいつもの癖で早めに眼が覚め現在浜辺でランニング中だ。

あいつらのやり方ももう少し控えめにしてほしいのだが…自分でも最低な事をしている自覚はあるため強く言い返せない。

何も考えずに答えを返せるのなら迷うことなく答えを返すんだが……

今ほど自分の立場が面倒だと思った事はないな。

この調子ではしっかりと特訓をするのは無理だろう、俺はランニングのみで運動をやめて自身の部屋に戻る。それにあまり動きすぎて、体力を使っても仕方がないだろう……今日はあの福音が来るのだから…

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終え今日の日程に入る。

一般生徒には関係ないが専用機持ちや開発協力者等はそのISや開発している装備の試験運用等をしなければいけないのだ。

まぁ一応臨海学校の目的はこれがメインなのだ。

俺はISスーツに着替え浜辺から離れた岩場でシャルロット、簪と一緒におっさんの元に向かう。

今のところ問題はなぜか箒がここにいる事くらいだろう、気にする必要はない。

おっさんの元に向かうともう既に2機のISがそこにあった。

一機はおそらくシャルロット用のISだろう。

前回に見たリヴァイヴ系列の雰囲気はそのままだがシャルロットのカスタムの様な4枚のスラスターが背中ではなく腰の辺りについている。

なんというか上半身が寂しい。さらに機体の色は塗られておらずグレーのままだ。

一方俺の専用機になるらしい機体。

こいつは前回見たときと比べまったく形状は変っていない。

変ったところといえば機体の色が赤銅色、いやこれはどちらかといったらもっと深みのかかった赤というべきだろう。ヴァッシュのコートの色を思い出した。

 

「おう、久しぶり。」

「おっさんも元気そうじゃん。」

「お久しぶりです栗城博士。」

「栗城さんお久しぶりです。」

「奏以外は礼儀正しくていいな。お前も見習え。」

「失礼な!!礼儀正しく接するべき相手には………接する事もあるんじゃないかなぁ…」

「お前…社会にでてから苦労するぞ?」

「胸にとどめておいて善処します。まぁ冗談はここまでにして機体できたの?」

「ああ、一応な。機体名は『颶風(グフウ)』、デュノア社(向こう側)の風をモチーフにした機体名と倉持技研(ウチ)の漢字を使った機体名の中間を取ってこうなった。」

「颶風………台風ですか…」

 

ボソっと口に出す簪。

へぇ…颶風って台風って意味なのか…かなり気にいった。

俺の顔を見て文句がないようだと思ったおっさんは話を続ける。

 

「はじめは嬢ちゃんのほうの烈風(レップウ)を基にして、それぞれ『甲』と『乙』にするつもりだったんだけどな…あまりにも出鱈目な機能つけちまってこれじゃ別物だろうという事になってな。」

「おい、おっさん何つけた。」

「お前ならギリギリコントロールできるんじゃないかっていう反応速度。デュノア社の技術者いわく『これを乗りこなせたなら台風の中で飛ぶ事も可能だろう』だとよ。」

「………期待してもいい?」

「時間制限付だがその間なら絶対に壊れない自信はある。」

 

おっさんの強気の発言を聞いて俺はさらに笑みを深くする。

今まで最高で3分しか持たなかった機体がどれほど持つのだろう…俺は少し楽しみになった。

おっさんはシャルロットの方を向き説明を始める。

 

「続いて嬢ちゃんの機体だが……肝心のメインとなる最後の特殊武装部分がまだ仕上がってない。」

「どうなる予定なんでしょうか?」

「この機体上半身が寂しいだろ?一応メインとして両肩に切り替え可能の武装展開ができる。あ~…簡単に言えば打鉄のシールドみたいに中に浮いた状態でさまざまな武器を切り替えながら使える。稼動範囲はほぼすべての方向に向ける事はできる上にある程度の距離内でのコントロールは可能になるらしい。と言ってもビットというほど自在に距離をとれるわけではないらしい。どちらかと言えば2本の長いアームが付いた感じだな。」

「実際のとこ完成までどれくらいかかるの?」

「……早くて一ヶ月…最低でも三ヶ月はかかるだろう。だが元になるシステムは技術的にはそれほど難しくはない。距離を離す事はできなくても両肩に特殊兵装の展開はできるだろう。」

「特殊兵装ってなにさ。」

「現在想定されてるのはミサイルポッド、シールドユニット、大型グレネードランチャー、75口径カノン、高速機動ユニット。後はお前の案で出来たあのバカ兵器だよ。」

 

馬鹿兵器……あれ本当に造ったのか!?

しかも両肩に展開できる……バッカじゃないの!?

 

「……それ全部つめるの?」

「いや流石にこの中から一つはおろす事になるだろうよ。ああ通常兵器を下ろせば余裕でつめるな。」

「……拠点防衛用?」

「いや、機動性能もそれなりに高い。高速機動ユニットをつければそれ専用の相手とも技術次第で戦える。」

「……僕もそっちが良いなぁ…」

「馬鹿野郎。お前が乗ったらすぐ壊して終わりだろうが。」

「そんな!?人のことを化け物みたいに。」

「うるせぇ、ランク(デストロイヤー)。ウチらの間じゃそれがお前の呼び名だ。」

 

そういわれると何も言えない。

実際にめちゃくちゃ壊してるんだし…一応今まで被弾無しだぞ、俺。

それなのに何回も壊してるって…まぁ控えめに言っておかしいな。

話をそらすように俺は言葉を発する。

 

「真面目な話、僕らは何やればいいのさ。」

「お前は機体の全体的な調整とお前発案の兵器の面倒を見ろ。簪のほうは一応こっちで組んでみた山嵐のデータがある、これを使ってみてくれ。最後にデュノアの嬢ちゃんはあんたの機体用にいろいろと兵器があるから試してみてくれ。接続がうまくいかないようならすぐに教えてくれ。」

「「解りました。」」

「りょ~かい。」

 

そう言ってそれぞれ自分のやるべき事を始めるのだった。

簪は何かデータを貰ったあと自身の弐式を展開しデータを打ち込み始めている。

シャルロットは恐らくデュノア社の研究員がメインなのだろう、おっさん以外の研究員と何か話している。

という事は俺の相手は……

 

「おっさんか…」

「あからさまにがっくりしてるんじゃねぇよ…気持ちはわからないでもないけどよ。」

「さっさと終わらせよう。何すれば良い?」

「まずISとの接続だな、一応前にお前が使っていた打鉄のコアを使ってるがデータは一回消えている。まずはなれるところからだ。」

 

そう言ってISの装着をおこなう。

今のところ問題は無いな…正直前回と何が変っているかも解らん。

こんな状態で本当に全力で戦えるのだろうか……

十数分ほどセッティングをしていると一夏の方からいろいろと叫び声が上がる。

恐らくあの篠ノ之束(天災)が襲来したんだろう。

正直今は顔を覚えられたくないから徹底的に放置だ。

俺はあの人の行なうことはある程度知っているが、俺と会う事でどう動くかはまったくと言っていいほどわからない。出来る事ならこの場からいなくなりたいんだが……

 

<―ドォォォン!!―>

 

という大きな音と振動と共に岩場に何か出現したな……

流石におっさんや周りの技術者も気が付き始めたらしい。

作業する手が止まっている……おっさん以外。

 

「おっさん、なんかあったみたいだよ?」

「あん?気になるのか。」

「いや、全然。問題が起きたんだったら千冬さんがなんか言うと思うし。」

「お前先生は名前で呼ぶなよ……だったらほっとけ、今大切なのはお前の機体の方だ。それ以外は終わってから驚けば良い。」

「りょ~かい。」

 

まったくこちらを向かず画面に向かっているおっさん。

それを見て周りの技術者も作業を再開する。

伊達に一つのチーム任せられてるわけじゃ無いんだな……

しばらく作業をしているとおっさんの声がかかる。

 

「よし動いてみろ、多分問題は無いはずだ。」

「何やればいいのさ。」

「好きに動け、ただ武器はまだ使うなよ。」

 

そういわれて離れていくおっさん。

さて好きに動けといわれても……とりあえず歩くか。

俺はそのまま足を動かして体を好き勝手動かしながら岩場を歩く。

反応は赤銅と比べかなり早い、普通に動くどころか全力じゃなければ壊すことなく戦い続けれそうだ。ただ全力を出した時どこまで動けるかが問題だな。

そう考えおっさんに通信を入れる。

 

「飛ぶけど大丈夫?」

『ああ、許可はとった。好きにしろ。』

「OK、あとスラスターは使っても?」

『ああ、むしろそれのデータも取りたい。』

「了解。」

 

俺はそのまま宙に浮かぶ。

おお!!飛び上がるタイミングも早くなってるなぁ…

今のところでこの機体『颶風(グフウ)』について解る事は、

 

・最低全力で3分動ける

・反応速度の向上

・はじめから付いている武器は無し

・機体性能も高いし通信機能が強い

 

これくらいか……

いや、これ第三世代じゃないだろ。

強いて言うなら第二世代の……改修版?

まぁ多分何か機能があるんだろうが…

俺は適当に飛んだ後にスラスターに火を入れて最高速度を出してみる。

とたんにバカみたいな距離を一気に進む。

クソ!!おっさん先に言っておけよ!!

赤銅のブースターなんてめじゃないだけ早い、特に瞬間的に一気に最高速まで加速しやがる。

何とか制御しながら飛ぶ、かれこれ5分ほどこのスラスターに慣れようと飛んでいるとおっさんから通信が入る。

 

『おい、奏。どんな感じだ?』

「アホみたいに早いな、これアリーナ内で使えるの?」

『そこら辺の調整も今後やってくんだよ、今のところそこを考えないで無調整だからかなりきついだろ?』

「……そういわれるとこのまま使いこなしたくなるな…」

『馬鹿なこと考えてるんじゃねぇよ。それとすまんが一旦テストは終了だ。お前とこの先生からそう連絡が来た。』

「りょーかい。今から降りるわ。」

 

一旦終了という事は……あのモンスターユニットの準備が終わったのか。

そのまま地上に向かって降りていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後の紅椿の演習…確かにすごい機体なんだろう。

即時万能対応機、それも装備を入れ替えるのではなく自己進化で随時強化されていく…

まぁ…控えめに言ってめちゃくちゃだな。

ただし勝ち目がないかといわれればそうではない。

機体は強力な上に両手に近接ブレード、さらにそのブレードから放たれるエネルギー放出による遠距離攻撃、さらにビットらしきものによる支援攻撃とあるが穴はある。

それにパイロットの箒は近接系の使い手で未熟だ。

近接戦闘におけるこの機体はどれほどのものかはわからないが今のところ怖さは感じないな。

まぁ…はじめっから戦うつもりはないけどね。

俺は自身の機体を地上で動かしながら考えていた。

このスラスター緊急回避とかでも使えそうだな…下手したらそのまま地上に突っ込む事になりそうだけど。

そんな事を考えているとシャルロットからプライベート通信が入る。

 

『ソウ…あの機体…』

「うん?ああ、箒の機体がどうかしたの?」

『どうかしたのって…なんとも思わないの!?』

「……技術革新ってすごいんだぁ…ってくらい?」

『あの機体完全に私たちの開発している機体より上で、さらに第四世代なんだって!!このままじゃ…』

「いや、関係ないでしょ。今やるべき事は自分の機体を仕上げる事だし、あんな機体も卓上の空論じゃなくて作れる事もわかったんだ。それだけで十分じゃない?」

『………ハァ…なんか本気で心配してるのがバカらしくなってきた。』

「心配しても事態は変らないよ。そんな事より自分の機体。シャルロットの方はどうなのさ。」

『うん、武装の切り替えが独特だけど問題なく使えそう。………ちなみにソウはあの紅椿相手に勝てると思う?』

「僕は逃げる。」

『だと思った。』

 

と恐らく通信先で笑っているのだろう。

そこで通信をきり再び自分の機体を動かす。

さてそろそろおっさんに言われた第三世代としての颶風の目玉を使わせてもらおうか…

と思うと俺にまた通信が入る。誰だ一体…

 

『風音……こっちに来い話がある…』

「織斑先生どうしましたか?」

『……いや…やはり来なくても――』

『ちーちゃんいいから早くこっちに来させなよ』

 

この声……すげぇ嫌な予感がする…

通信不調ってことにしたい…って言ったもこっちに来られるのか…

 

「……千冬さん…もしかして個人的なお願いの部類ですか?」

『……そうだ。』

「……了解しました…ISは装着したままで?」

『…すまんがそのままで来い…』

 

うわぁ…千冬さんがここまで申し訳なさげに話すのはじめて聞いた…

さぁて…面倒ごとはごめんなんだが…俺はそのまま宙を飛び千冬さんたちの所に向かう。

宙に浮きながら情報を確認すると…うわぁ…なんというか…お通夜の雰囲気組みと良い空気吸ってる組に分かれてる…

セシリアはなんかすごい落ち込んでるし鈴はセシリアに気を使いながら篠ノ之博士に敵意を向けてる…一夏もセシリアを慰めながらなんかおろおろしてる…

ラウラはなんというか固まったままで何か考えてるな…

箒は何か緊張した顔つきで俺の事を睨んでる、いや…違うな睨んでるんじゃなくてさまざまな感情が入り混じった状態で俺を必死に見てるだけだな。

問題の篠ノ之博士。

彼女は一切こっちを見ないな。まぁ正直そっちの方がありがたい。

千冬さんは……うわぁ…すごい不機嫌そう、正直近寄りたくない…

地面に着地して千冬さんに声をかける。

 

「織斑先生、どうしましたか?」

「……奏、すまないが箒と戦ってもらっていいか?」

「……理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

完全に何かあったなこれ。

まず何の予定もなくいきなり演習を行なうこと事態おかしい。

さらに俺の機体はまだ未完成だ、そんな事千冬さんも解っているはずだ。

最後にあの千冬さんが生徒がいる前で俺の事を『奏』と呼んだ。

これは先生としての千冬さんではなく個人としてのお願いという事か……

 

「……この演習で得れるデータはすべてIS学園がもらえる。新型の第四世代の性能の記録のためだ。」

「自分が選ばれた理由は?」

「そこは篠ノ之博士の推薦だ。」

「……はぁ?なぜ自分のことを篠ノ之博士が?」

「…束、説明しろ。」

「え~めんどくさいなぁ……箒ちゃんがすごいって言った相手だからね、そんな強さなんて関係無しに吹き飛ばせるほど紅椿は強いって事を箒ちゃんに解らせてあげないと。それにいろいろと話にも聞いてるし。」

「とても解りやすい説明ありがとうございます。」

 

なるほどね……箒が俺をほめたのが気に食わなかったのね…

逃げ出したいけど、注目されすぎてるし何よりわざわざ千冬さんが俺に頼んだんだ、それも教師としてではなく個人としてだ。

何かかしら裏があると見たほうがいいな。

それにいろいろと話しに聞いてるって……何か俺の情報を集めているのか?

それはまったく想定してなかったな…

 

「織斑先生試合開始は?」

「……すまんがこの後の時間も押していてな…今すぐで頼む。」

「そんな!!織斑先生!!待ってください!!」

 

と声がしてそちらを見るとシャルロットと簪がこちらに走ってくる。

息を切らせながら再び千冬さんに反論する。

 

「先生!!ソウの機体はまだ未完成でそれに搭乗時間も長くありません!!そんな状態で試合なんて―――」

「シャルロット、ストップ。」

「っでも、ソウ!!」

「大丈夫だから僕に任せて。ね?」

「……わかった…」

「先生今シャルロットが言ったように僕の機体は未完成です。なので長時間の戦闘ではどんなアクシデントが発生するかわかりません。」

 

俺がこう答えると篠ノ之博士が反応する。

 

「何?断るの?だったら――」

「ご安心を。ただ時間制限をつけて欲しいってだけです。箒もそれくらいはかまわないでしょ?」

「………ああ。」

「でも箒ちゃんはまだ長く機体に乗ってないし――」

「それは風音も一緒だ。それに両者それで良いなら10分間のみの試合を行なおう。両者それでいいな?」

「こちらとしては文句はありません。」

「……はい…」

 

と互いに返事をするが箒の方が何か落ち込み気味だな…

後で通信かけるか…シャルロットと簪は納得できていないようだし一夏はめちゃくちゃ不安そうな顔してるな…千冬さんも申し訳なさげにしてるし……

セシリアは一体何があったんだ?鈴が何か慰めてるが…これ全部ここにいる篠ノ之博士のせいなのか……こりゃ確かに天災だな。

そう考えながら俺は海の上空に向けて飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

幸福と不幸は、ともに心にあり。

                          ~デモクリトス「倫理学」より~




ということで専用機の名前は『颶風(グフウ)』いわば台風ですね。
はじめは題名に使っている野分(のわき)にしようかとも思ったのですが…
結局グフウのほうを使うことにしました。
やはりヴァッシュといったらこれですよね、(ヒューマノイド)(タイフーン)!!


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第六十一話 VS紅椿

海岸が遠く見えなくなるほど距離をとる。

途中おっさんに連絡を入れたらとりあえず許可は得れた。

ただし特殊兵装の使用は無し、使うとしても3分のみ。

武装の方は一通り説明は受けてるが……アレをぶっちゃけ本番で使うのは勇気がいるな…

まぁ今は使いたい衝動の方が上だけど。

千冬さんの指示ではここら辺で待機だっけ…

箒は申し訳なさげな顔をしている。

このままでは試合にもならないな…通信は聴かれる可能性もあるし近くに行って直接声をかける。

 

「箒、通信は?」

「……切ってる…言いたい事があれば言ってくれ…」

「じゃあまず一言『気にすんな』。こうなったのは基本的にお前の姉のせいであってお前のせいじゃない。まぁ…お前が頼んだんだろうけどこうなるとは思わなかったんだろ?」

「……だが実際…」

「それを含めて気にするなって言ってるの。今は俺との試合のことだけ考えろ。それが終わってからいくらでも一緒に考えてやるからさ。一夏だって協力してくれるさ?」

「……」

 

そう言いながら箒に苦笑しながら笑いかける。

こいつは単に一夏の隣に立つ力がほしかったんだろう。

それがあそこまで発展しちまうとは思わなかったって所か……

まぁ考えが甘い事は否定できないけれど……それを与える側のほうが問題だよなぁ…

まぁ与える側は脳みそがいろいろとおかしい事になっちゃってる人物だ止められるのは千冬さんのみ、そしてそれを見逃しているって事は止める方法がないって事だよな…

多分そこに千冬さんが動けない理由があるんだろう。

まぁとりあえず今箒のモチベーションを下げてもどうにもならん。

 

「とりあえずお客さんAコース、Bコース、Cコースどれにします?」

「…なんだそれは?」

「Aコースは俺が全力で逃げる、Bコースは俺が華麗に逃げる、Cコースは僕が泣きながら逃げる。今なら全部同じ値段、さぁどれ!!」

「…全部逃げてばかりではないか。」

「それが僕の生き方です!!」

「…胸を張って言う事ではないだろう。」

 

そう言ってくすりと笑う箒。

先ほどまでと比べて幾分かマシな顔になったな。

その後一旦目をとしてすっと真面目な顔になる。

 

「頼みがある。」

「料金はまけないよ?」

「全力で戦ってほしい。」

「……とりあえず7分間に僕に一撃でも当てられたら本気で戦う。」

「…わかった。ではよろしく頼む。」

 

そう言って距離をとる箒。

さぁて大見得切ったけどどう戦おうか…

って言っても落とす気は無いんだよなぁ…ここで落とせは箒のテンションは下がるし篠ノ之博士には目をつけられるしでいい事がまったく無い、さらに言うなら……試合とは言え人に銃を向けるのはいい気がしない……ハァ…逃げたい……

そう考えていると通信が入る。

 

『こちらの準備は終わった。二人とも準備はいいか?』

『はい、大丈夫です。』

「先生。緊張しておなかが痛いのでトイレに行ってもいいですか?」

『双方問題は無いようだな。』

「まさかのスルー!?」

『くだらない事はいいからさっさと構えろこの馬鹿が。』

 

千冬さんはまだあの状態のままか…

一体何のせいでここまで機嫌が悪いんだ?

そこは今気にしても仕方ないか…

俺は武器も構えず戦いに思考を移す。

 

『では……試合開始!!』

 

俺はすかさずスラスターを展開して一気に箒に近づく。

箒も同じことを考えていたようで面をくらっている。

まさか遠距離武器の使い手が接近してくるとは思わなかったのだろう。

俺は勢いを落とすことなく突っ込む。

箒は勢いを止め俺を両手に持ったブレードで切りつけようとする。

だが俺はすかさずスラスターの向きを90度変え間合いの外にでる。

結果まったく見当違いのところをきりつける箒。

俺はそのまま距離をとる。

 

「どうした箒、しっかりと集中しないと当たらないぞ?」

『っく!!武器も出さないで!!』

「出さないのは作戦。」

 

と笑いかけるが関係無しに切りかかってくる。

そのまま近くで斬撃をかわす。確かに打鉄の時の箒と比べ動きが格段に早いな…

だが鋭さは感じないな。時間切れまでこうやってかわすのもありかなぁ…と思うと今度は背中の方から二枚のビットが飛んでくる。

なるほど二つじゃ手数が足りないから二枚のビットを含め全方位の攻撃をしようって事か…

だが悪手だ。

 

<―ドンッ!!―>

 

という銃声と共に弾き飛ばされるビットと二振りのブレードそして体の方には数発の弾丸が当たり箒はビットを自身の近くに配置する。

俺の右手には今まで使ってきた銃に良く似た、だが改造が施されているらしい銃が握られている。

ちょっと早撃ちで無茶をしたが機体からのダメージアラートは無し…いいぞ。

 

『これがお前の早撃ちか…喰らってみるとなおの事わかる…化け物じみてるな…』

「そんな失礼な。それに……まだ上はあるよ?」

『……行くぞ!!』

 

再びブレードに力を込めこちらに突っ込む箒。

自然体で構えることなく箒の動きを見る。

ある程度動きは予測できるがこれはさっきみたいに近距離でかわすのは骨がおれるな…

仕方ないすべて撃ち落そう(・・・・・・・・)

俺は自然体のまま箒の斬撃をすべて撃ち落す。

柄を撃ち貫きはじき返す。VTシステム戦で見せた動きだ。

この程度なら機体にそれほど負荷はかからないだろう。

箒は必死にブレードを振るうが見えない壁に弾き返される用にまったく俺の体には届かない。

 

『ッ……ならば!!』

 

箒はいったん距離を取り二本のブレードを構える。

とたんにブレードから桃色の光が放たれる。

さっき見せたあのエネルギー弾か、まぁわからない状況で使われるのならまだしも、どういう風な攻撃をするかわかってる状況なんだ不意打ちにすらなりやしない(・・・・・・・・・・・・・)

銃ならモーションが小さく反応が遅れるだろう、だがその武器から出させるエネルギー弾は刀を振らなければ出ない上に振り方で大体何を出すかがわかる。

近接攻撃に織り交ぜて使うならまだしもここまでわかりやすく使ってくれるなら反応もしやすい。

箒は右腕のブレードを突くように振るう。

…が俺の弾丸で弾き飛ばされまったく別方向に向きを変える。

そのまま撃ち出さなかったって事はある程度自身の意思で放出するかどうかを決められるのか。

左手をなぎ払う様に振るうがそれすらも弾き飛ばす。

向こうも一度俺の様子見をしようとしているのか動きを止める。

 

『……強いな…』

「うん?ありがとう。」

『だが!!』

 

そのかけ声と同時に箒がこちらに突撃をしてくる。

まぁ、下手に遠距離で戦うよりそっちの方がよっぽどいいよな。

自然体は一切とかずに感覚だけを研ぎ澄ませる。

箒は両手のブレードを光らせながらビットを展開する。

俺に処理できないレベルの手数を出すつもりか。

あたえられるダメージも自身の装甲なら耐えられるって考えかな?

ならばこっちも手数で応戦しよう(・・・・・・・・・・・・)。それもめちゃくちゃな奴で。

箒の斬撃をかわしビットも弾丸ではじく。

そしてわざと距離を取って隙を作る。

 

『!!貰った!!』

 

箒の左腕のブレードからエネルギー状の斬撃が飛ぶ。

そして俺はそれをかわさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏が被弾した!!」

「嘘でしょ!?アイツ余裕な感じで何やってるの!?」

「いえ……確かに当たりましたわ!!」

 

その頃海岸では一夏たちが動揺していた。

あの出鱈目()が被弾したのだ。今までどんな事があってもすべての攻撃をかわしてきたアイツがである…。

一夏はちらりと自身の姉を見るが表情は一切変っていない。

そして自身の妹がやっと攻撃を当てたのに束の反応は薄い。

そして何よりあわてそうなシャルロットと簪。兄と慕っているラウラは落ち着いているのだ。

 

「落ち着け、奏兄は喰らったんじゃなく受け止めたんだ。」

「ソウ、無茶するなぁ…」

 

そういわれて全員再び試合をISを通して見る。

そして自身の目に映ったのは普通では考えられないものだった。

 

「……一夏…奏が持ってるのって…」

「いや…いや、いくらアイツが神父や牧師を目指してるからって……」

「……なんですの…あれ…」

「……奏さんの…アイディアで出来た武器らしいです…」

 

簪の言葉に全員唖然としてそれを眺める。

奏の体の前に突き出す様に展開されていたもの。

それは誰がどうみても巨大な白い十字架だった。

ほぼISと同じ大きさ、その中心はノズルのようになっていてそこを左手で持っているのだ。

 

「…あいつなんていう罰当たりなもの作って…」

「い、いえ…ある意味信仰深いのでは…」

「アレで箒の攻撃を防いだのか…って事はシールドなのか、シャル?」

 

と一夏はシャルロットにたずねる。

シャルロットは苦笑いをしながらその質問に答える。

 

「……ソウいわくとんでもでたらめ兵器だよ、あれ。見てれば多分わかると思う。」

 

そういわれて再び試合の方を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…エネルギー兵器は一切効かないって聞いたんだけどなぁ…ダメージはいってるじゃん。」

『……なんだその十字架は。』

 

自身のある意味俺にとっての目玉兵器をぶっつけ本番で試してみた。

一応対エネルギー攻撃用のシールドにもなるはずなのだがダメージありとの表示だ。

と言っても表面上は一切見えないしダメージがあると言っても微量だ。

箒は突然現れたそれにどきもを抜かれている。

 

「うん?僕の新兵器。さて、今までは箒が攻めていたけど今度は…こっちの番だ!!」

『!!』

 

唖然としている箒にスラスターで一気に距離をつめ接近戦を挑む。

箒は不意をつかれたが、両手のブレードで右から左にかけて横薙ぎに振るわれる巨大な十字架(それ)を防ごうとするが、質量差と突撃時の勢いのせいで防ぎきれず弾き飛ばされる。

 

『!?鈍器か!!』

「いや、兵器だよ。」

 

振るった十字架の先端一番長くなっているほうを箒に向ける。

ガシャっと言う音と共に箒に向けたれた十字架の一部が左右に開く。

そして十字架そして中から現れたのは巨大な機関砲の砲身。

さらに唖然とする箒。

そして

 

<―ゴォォオオオオオ!!―>

 

という銃声とはあまりにも言いにくい、風が唸るような轟音をならしながら銃弾、否砲弾が放たれる。

今まで撃たれていた銃弾と比べ格段に威力が高い砲弾が雨のように撃ち込まれる。

箒は数十発はもろに喰らったがその後なんとか展開装甲を防御形態に変え攻撃を防ぐ。

 

『な、なんだ!?それは!!』

「僕の考えた最強の個人兵装、名づけてパニッシャー。」

 

正確には考えたのは俺ではないが…

そう言いながら防御形態の箒に向けていた砲身を180度回転させる。

先ほどまでの砲身は再び閉じ代わりに反対側の短い方が開きミサイルランチャーが現れる。

 

「箒、耐え切れると思うなよ?」

『な!?』

 

その言葉と共に撃ちだされるミサイル弾。

箒のシールドなど関係無しにそれを撃ちこむとかなりの爆発が起こる。

そしてその爆発の煙が収まる前に箒が飛び出す。

 

『はぁぁああああああ!!』

 

かけ声と共に振るわれるブレードに対し俺はパニッシャーで応戦する。

確かにこの武器には鋭さは無いかそれ以上にかなりの硬度の装甲と質量が与えられている。

これで殴れば鋭さなど関係ない鈍器と化す。

箒は俺の攻撃が大降りになると踏んだのだろうが残念ながらそこも考えている。

横薙ぎの接近攻撃にあわせ機関砲を撃つ。

かわしたと思えばそのままの流れでパニッシャーを半回転、ミサイル弾を撃ち込まれる。

それもかわせたかと思うとそのミサイル弾を右手の銃で撃ちぬかれ目の前、もしくは後ろで爆発させられる。

そして爆発の衝撃を受けている間に接近、そのまま回るようにして再びその鈍器が振るわれる。

箒は完全に砲弾の嵐の中に放り込まれた状況だった。

しかし…流石に本家のように自由自在の近距離戦は出来そうにないな。

現在はどちらかと言えば銃弾が来るぞ~って脅しながらパニッシャーの近距離戦をやっているようなものだ。しかもどこかぎこちない。

さてそろそろ時間だし、一応受け止めたとはいえ一撃は貰ったんだ、本気を出そうか。

俺はパニッシャーを拡張領域内にしまう。

いきなり収まった嵐から開放された箒はこちらに疑問を投げかける。

 

『……どうした奏…』

「一応さっき攻撃当てたられたからね、本気で行こうかなって。」

『ならなぜアレをしまった!!』

「アレで戦ったらアレが強いのであって僕の力じゃない。今から見せるのが僕の本気だ…それに……こっちの方が10倍は強い。」

『っ!!』

 

そう言ってこの颶風のシステムを起動しようとするが、ここで千冬さんの横槍が入る。

 

『風音、篠ノ之。試合はそこまでだ。』

「あれ?もう十分経ちましたか?」

『わ、私はまだやれます!!』

『問題発生だ、直ちにこちらと合流しろ。』

「了解しました。」

『……了解…しました。』

 

不満げな箒だが千冬さんの言葉には逆らえない。

それに問題という事はようやく来たか…銀の福音。

俺と箒はそのまま千冬さんたちとの合流を目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大広間に集められたのは一年部の専用機持ちと千冬さん、そして山田先生だ。

一応ここが作戦本部扱いになるらしくいろいろと機材がおいてある。

そして……篠ノ之博士はどこに行った?

 

「では、現状を説明する。二時間ほど前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用ISである『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。そして監視空域より離脱したとの連絡があった。」

 

この話を聴いた瞬間全員の顔に緊張が走った。

結局根本的に止める事はできなかったのか…

まぁ多分どっかでつながってるとは思うけどさ。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから10km先の空域を約一時間後に通過する事が分かった。学園上層部からの通達によって、我々がこの事態に対処する事になった。」

「質問いいでしょうか?」

「……いいだろう。」

「この作戦で参加できる兵力は僕ら8人と先生方だけですか?」

「…そのとおりだ。現在自衛隊、アメリカ、イスラエル軍両方共に動く事はできない。」

 

反応を見るに千冬さんも納得してる訳じゃないのか。

そして俺の質問に対しての答えではじめに出てきたのがその三つって事は本来動くべきところはそこだけど何らかの理由で動けません…ということか。

 

「現在……という事は動く事に期待できるので?」

「……現状なんとも言えない。」

「……了解しました。」

 

そして動けない理由は時間と言った物理的なものではなく政治的な理由か…

援軍は期待できなさそうだな……

俺が質問を終えると続いてセシリアが手を上げる。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します。」

「わかった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。けして口外はするな。」

 

そう言ってデータが公開される。

軍用の第三世代ISか…ここに書かれているスペックだけでもとんでもないな。

 

「広域殲滅を目的とした特殊攻撃型・・・・オールレンジ攻撃を行えますのね。」

「この特殊武装が曲者って感じかな。」

「追尾弾ではなく誘導弾…しかもエネルギーだから基本かわす事しか出来ませんね…」

「攻撃と機動の両方に特化した機体・・・・厄介だわ。」

「いずれにせよこのデータでは格闘性能が未知数だ。教官、データはこれで全てですか?」

「ああ、そのとおりだ。」

 

機密優先か…そして足りない情報で高速移動中のIS相手の作戦を考えろか。

偵察……これはやめたほうがいいな、下手をしたら偵察する方が落とされる。

遠距離からの狙撃……接近される前に落としきれるかが不明だ。

海上での不意打ちは無理、罠をはるのも不可能……

まともに囲んでの面制圧……広範囲攻撃で確実にこっちの被害の方が多くなるだろう。

そうなると……

 

「一撃必殺で決めるしかないですかねぇ……」

「……」

 

千冬さんは何も言わない。

恐らく既に作戦は思いついていたんだろう。

一夏の方を向いて話しかける。

 

「一夏。」

「なんだ?」

 

きょとんとする一夏。

恐らく現状にもろくについてきていないだろう。

千冬さんが何か言おうとするがさえぎるように俺が一夏に言う。

 

「俺の考えでは、お前の必殺の零落白夜で一撃で決めるしかない。」

「で、ですが狙撃で!!」

「向こうは高速で移動してるんだぞ?どうやって撃ち落す。さらに言うなら狙撃で落とすとしたらどれだけ時間がかかるかもわからない。こっちの方が先に息切れになるぞ。どうする一夏。」

「待ちなさいよ!!なら私たちで囲んで攻撃すれば――」

「広域攻撃を連続でされて終わりだろうよ、かわし続けるのはほぼ不可能。その上俺たちが一人でも落ちたらそいつをその広域攻撃から守らないといけない、そのまま芋蔓でお陀仏だろうよ。」

 

誰も反論はないか…いや誰か思いついてくれればいいんだけど。

もし俺が考え付かないような案があるならそれに乗りたいくらいなのだ。

俺の作戦はいわば『一夏に押し付ける』と言ってるのと同じだ。

他のやつらは広域攻撃が来ないように遠方で待機。

しかし下手に囲んで攻撃するより一撃で決めた方がいい。

 

「お、おい、奏。しっかりと説明してくれ。」

「じゃあ一夏、説明する――」

「いや、私から話す。」

「……いやぁ僕の見せ場になりますし、説明させてくださいよ織斑先生。」

「下手に気を使うな。それは私の仕事だ。」

 

そう言って千冬さんは一夏にどのような作戦か説明する。

失敗した、先に説明してから一夏に言うべきだったか…

どこに自分の弟にすべてを押し付ける命令をしたがる姉が居るというのだ。

 

「作戦は織斑、お前の零落白夜の一撃で決めるのが確実だ。これが現在考えられている作戦で一番成功率が高い。」

「お、俺の・・・・・」

「織斑、これは訓練ではなく実戦だ。覚悟がないのなら無理強いはしない。」

 

一応こう言うが……

一夏に拒否されたら全員での波状攻撃する事になるだろう…いつ切れるか解らないエネルギー相手の持久戦……確実に一人ミスれば作戦は失敗だろう。

それに福音が地上に上陸されたらとんでもない事になるだろう。

しかし一夏はしっかりと千冬さんの顔を見て真剣な顔で見る。

 

「織斑先生。俺…行きます!!」

「……わかった。では作戦をまとめるぞ。今作戦は織斑の零落白夜の全力使用が前提となる。そのため織斑の護衛として二機……いや、一機が限界だろう。この中で一番機動性がある機体は何だ。」

「教官、護衛なら奏兄が最適ではないでしょうか!?」

「いや、確かにこの中で一番適任なのは奏だろうが…こいつの機体はまださまざまな試験すら終えていない不確かな兵器だ。作戦中に不具合が起きた場合最悪の事態になりかねん……」

 

確かにそうだが…まぁいざとなったら黙って出よう。

俺が心にそう決めているとセシリアが声を上げる。

 

「織斑先生わたくしのブルー・ティアーズは現在高機動パッケージの最終試験をおこなっています。これなら予定されているスペックを満たして―――」

「ちょっと待ったーーー!!!」

 

と声がする。

声がするほうを見ると天井からあの篠ノ之博士が顔を出している。

とぅ!!というかけ声と共に降りてきた博士は千冬さんの下に駆け寄る。

 

「束……関係者以外立ち入り禁止だ。」

「まぁまぁ、ちーちゃんも硬い事言わないでさ。そんなことより!!ここは断然紅椿の出番なんだよ!!」

「なんだと?どういうことだ?」

「それはね~……」

 

と解説を始める篠ノ之博士。

簡単に言うと紅椿の展開装甲を用いれば超高速機動を行えるらしい。

さらにあの防御力と攻撃力、単純に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が紅椿の方を脅威と判断しその分一夏が一撃を決めやすくなるわけか……

 

「…束、紅椿の調整にはどれくらいかかる?」

「7分あれば余裕だよ♪」

「そうか…やれるか篠ノ之?」

「え?」

 

織斑先生に問われて箒は一瞬戸惑う。だが……

 

「はい!やります!」

 

と声を上げる箒……

ああ、完全に舞い上がってるな……

自分が選ばれた事を単純に喜んでる、一夏と一緒に戦えるってだけしか考えてないな……

仕方ない。やりたくなかったが……俺は声を上げる。

 

「千冬さん、自分は反対です。」

「……何言ってるの?あんたの意見は聞いて無いんだよ?」

 

と俺が反対と言うとすぐさまに篠ノ之博士が冷たい視線で俺をにらみつける。

ああ、本当に気はすすまないが言うしかないなぁ…

ため息をつきたくなるほど憂鬱な気分で俺は話し始めるのだった。

 

 

 

 

 

どんな馬鹿げた考えでも、行動を起こさないと世界は変わらない。

                                ~マイケルムーア~

 




ということでやっと出せた!!とんでもでたらめ兵器!!
殴ってよし!!撃ってよし!!盾にも良し!!ただし馬鹿みたいに重い!!
と言ったでたらめ兵器ですね。

箒に対しては…とうとうこう出るしかなくなりましたね。
一応この瞬間まで奏は箒を信じていました。まぁ結果これでしたが。
実際自身の影響がどれほどあるのか確かめたかったという感情もありますねぇ…


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第六十二話 第一楽章

俺の突然の箒に対する否定の言葉に回りも俺の言葉に驚いている。

俺はそれを完全に無視して再び千冬さんに話しかける。

 

「正直作戦もスペックもこの上なくいい作戦だと思いますが肝心の箒がこれです。」

「ど、どういう意味だ!!」

「そのまんま、箒、君今すごい舞い上がってたでしょ?この作戦がなんだかわかってる?下手したら死人が出るんだぞ。」

「私と紅椿なら守りきれる!!」

 

箒も完全に敵意をこちらに向けている。

作戦前に緊張するような事を言わせたくないから言わなかったが…

ここでこのまま送り出したら落ちるのは一夏だ、そんな事は(こいつ)に嫌われたってごめんだ。

 

「例えば箒、お前作戦領域内に船が入ってきたらどうする?」

「それとこれが何の関係が有るんだ!!」

「いいから聞け。そして答えろ。」

「なっ……」

 

箒は俺がまったく笑わずに普段とまったく違う重々しい雰囲気で話していることに気が付いたのだろう、勢いが無くなる。

 

「お前が今攻撃をかわせばもしかしたら船に攻撃が被弾するかもしれない、だがその船は犯罪行為を犯して進入してきた上に今お前が攻撃をかわして反撃すれば相手は落ちる。どう行動する。」

「………船に気を配りながら戦う。」

「そうか、じゃあ広範囲攻撃が来たらどちらを守る、一夏かその船か。」

「……一夏だ。」

 

その言葉を聞いた瞬間一夏と篠ノ之博士以外ははっとした顔をする。

篠ノ之博士が興味なさげにいう。

 

「さっきからなんなの?えらそうに。」

「織斑先生、これが理由です。」

 

俺はなるべく篠ノ之博士に関わらないようにして話す。

この人に説得が無駄な事はわかりきっている。

出来る事なら仲良くしたいが今問題なのは箒で時間も無い…無視しよう。

一夏も俺が何を言いたいか解らないのだろう。顔をしかめている。

こいつの場合人を守る方を優先する奴だから言う必要はなかったが言うしかないだろう。

 

「……奏?どういうことなんだ?」

「一夏、確かにもしかしたらそんな事は起きないかもしれない、だがな銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のせいで死人が出たら確実に自国民が殺されたその国とアメリカ・イスラエルはかなり険悪になるだろうし最悪戦争だ。」

「え!?どうして!?」

軍の兵器で人が死んだんだ(・・・・・・・・・・・・)確実に大問題になる、それも条約では禁止されている軍事使用中でだ、今までは他国は黙認してただろうがこんな問題が起きたらそこを指摘する国は多いだろうよ。恐らくこれに直接関係ない国も非難するだろうよ。『条約違反』だと、『かの国には危険すぎて今後軍部の開発は認められない』ってね。」

「いや……まさか…」

「それにIS学園自体もかなり非難されるだろうよ、『普段アレだけえらそうなことを言ってるのにこの程度か!!』てね、下手な話自国に新しい学園を作るからISコアを渡せって話にすらなるだろうな。さらに言うなら銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》のパイロットもかなり罪に問われるだろうよ、下手すりゃ死刑だな。俺なんかでも今パッと思いつくのでもこれだけある。恐らく本物の政治家ならもっといろいろ思いつくだろうよ。」

 

その言葉を聞いてハッとする箒。

そして何よりも口には出さないが一夏はその船を守る(・・・・・・・・・)

箒もその程度の事は一番よくわかるだろう。

だが今の箒では一夏との連携が取れずに撃墜されかねないのだ。

しかし篠ノ之博士はかなりイライラしているようだ。

あ~あ、完全に目をつけられたな俺。

 

「まぁ…これは可能性の話であってそんな事は起きないでしょう…ですがそこら辺の判断が箒は出来てません、ここにいる一夏を除く専用機持ちはすぐさま理解していた事をです。確かに今成功率を上げるのが大切ですが現状をしっかりと理解できていない人物を使うのには賛成できません。」

「あのさぁ…さっきから勝手に言ってるけどそんなの巻き込まれた方が悪いだけでしょ?箒ちゃんは関係ないじゃない。」

「博士がそうお考えでも周りがどう動きくはわかりません。それに箒お前の判断次第で人が死ぬことになる任務をやるんだ、自覚しろ。」

「わ、私は……」

「お前の腕の問題じゃない、お前の腕はかなり成長してると思うし成功できる要素は十分にある。だからはしゃぐな、お前の持つその機体の重さを自覚しろ。」

「……風音そこまでだ。」

 

ここで千冬さんから止めが入る。

まぁこれはこの後起きる事を知らない人物からすればすべて妄想の、しかもただ箒を追い詰めている発言にしか聞こえないだろう……だがそれでも言っておかなければいけないのだ。

千冬さんは顔をしかめてはいるが……多分俺の言っている事は否定する気は無いんだろう。

千冬さんが箒に何かかしらの注意を言うつもりだったのか…だが俺が言った方が箒には伝わっただろうし何より千冬さんは………結構言葉足らずだ。

出来ればこの後モチベーションをあげてやりたかったんだが…

まぁ…言いたい事は言ったからいいか。後はみんなに任せよう。

 

「了解しました。自分の勝手な妄想で、士気を下げるような発言をした僕に対する罰則はどうしますか?」

「……貴様はただ注意しただけだろうが。」

「それでもほぼ確定した作戦にケチをつけて箒を脅した事には変わりありませんし……何より周りに示しが付きませんよ?」

「………ならば作戦終了までお前は自室で待機だ。」

「わかりました。ということで箒、お前は十二分に大丈夫だが気を引き締めろ。遊びじゃないし責任は必ず付きまとう。だがお前の実力なら絶対に成功するさ。紅椿の性能じゃなく僕は君を信じるよ。」

「そ、奏。」

 

いつもどおりの笑顔で箒にそう言って笑いかけながら肩を叩いた後一夏の方に向かう。

 

「一夏……」

「奏……安心しろ、絶対俺が成功させる。そうすれば箒のこともさっきの話もまったく関係ないんだ…箒だって…大丈夫だ!!」

「おお!!心強い!!…まぁ……骨は拾ってやる。」

「いや!?失敗するみたいに言うなよ!!」

「あはは、緊張しすぎだ。肩に力はいりすぎ、お前と箒なら大丈夫さ。初めから何の心配もしてないよ。」

 

笑いながら肩を叩いて部屋を出ようとする際にシャルロットに小声で話しかえる。

 

「(箒を頼む。)」

「え?」

「おとなしく自室で成功の報告待ちしてますわ。じゃあ邪魔者は去ります。」

 

そうシャルロットの返事を聴かずに部屋から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてしばらくすすんだ廊下で俺はうずくまっていた。

………マジで落ち込む…

もっとスマートなやり方はなかったのか?

これ下手したら箒落ち込みまくって作戦失敗とかになりかねないぞ!?

うわぁ……最低だ……もうこのまま海に頭突っ込んで死にたい…砂浜に埋まってたい…

俺は自身のがた落ちしたテンションのまま自室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウがいなくなった後の作戦室兼、司令室は空気が入れ替わっていた。

先ほどまでの奏の発言のせいで箒は落ち込むかと思ったが落ち込みはしなかった。

ただ自身が舞い上がっていた事は自覚できたのだろう先ほどまでのうれしそうな顔はしていなかった。ソウは私に何を頼むといったのだろうか……

 

「篠ノ之、先ほどの風音の言葉を聞いて、まだこの作戦に参加すると言うか?」

「……はい、一夏と奏は私を信じるといったので……大丈夫です。」

「そうか……では作戦の準備をしろ!!」

 

そう言って一度作戦会議は終わった。

だが現状準備をすると言ってもそれは箒のセッティングぐらいだろう。

篠ノ之博士は先ほどの話が面白くなかったのか無機質な顔をしている。

私やセシリア、鈴、ラウラ、簪は何もする事はない……

箒の方を見ると緊張しているのか、それとも責任の重さを自覚しているのかとても硬い表情をしてる。恐らくこれがソウのいう『箒を頼んだ』ということなのだろう。

そんな時鈴が箒の肩を叩く。

 

「箒!!奏のこと見返してやりなさい!!」

「え?だ、だが奏の言う事は…」

「いいから!!アイツに作戦の成功を見せ付けて『心配しすぎだ!!この馬鹿!!』とでも言ってやりましょう!!アイツ心配しすぎでいつか禿るわよ、絶対。」

 

そういたずらをするように笑いながら言う鈴。

箒は戸惑った顔をしている。

私も鈴のやりたいことに気が付きそれに乗る。

 

「そうそう。箒、早いところ終わらせてさっさとソウの罰則終わらせちゃおうよ。多分今頃部屋で本でも読みながら『あ~ゆっくり休めて幸せ』とでも言ってるよきっと。」

「ですわね、奏さんのことですからうまく戦いから逃げれて喜んでるかもしれませんわよ。」

 

とセシリアと笑いながら箒の肩を叩く。

ラウラは真面目な顔をしながら箒に向かう。

 

「箒、私は正直今でも奏兄の言っていることが正しいと思う。」

「そうだ…私は確かに自分が選ばれて舞い上がっていた…」

「だが今のお前なら大丈夫だろう、それに奏兄のお墨付きだしな。」

「箒ちゃん……終わったら一緒に海で遊びましょう?その前に奏さんに何を言うか考えないといけませんね。」

「簪……そうだな、私も奏に一言言ってやろう。」

 

ラウラと簪に肩を叩かれた後に笑いながらそういう箒。

ソウが頼んだのは恐らくこういうことだったんだろう。

一夏の方は?と思い見てみるが……かなり集中している…

雰囲気がいつもに近づいた箒と比べ一夏は……別人のように集中していた。

 

「一夏?大丈夫?」

「ああ、シャルロットか…安心しろ集中してるだけだ。」

「緊張しすぎてへましないでよ!?」

「ああ…わかってる。」

 

一夏の反応はそっけない。

普段なら鈴にこんな事を言われたらしっかりと反応が帰ってくるのだが…

流石に不安になりセシリアが心配そうにたずねる。

 

「一夏さん…大丈夫ですか?」

「ああ…なんというか鈴と戦った時と同じ感じになりそうなんだ……悪いけどしばらく集中させてくれ。」

「わかった。嫁の言う事だ、しかたない。」

「ああ。すまない。」

 

集中を深めるために一人座る一夏。

なんというか普段の一夏からは感じられない凄みを感じる。

その集中のための沈黙は作戦開始まで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

現在海上10キロ地点上空で俺と箒は待機している。

感覚は待ち望んでいたあの時の感覚に近い。

あまり関係ない事は考えないでさらに集中するんだ…

自身の憧れのため、友人のため。

失敗は出来ない、失敗したら多くの人が死ぬかもしれない…

何よりもそれのせいで千冬姉が…だから俺は全力で…あの時よりさらに深く…

………いや長く…ちがう……………鋭くだ…

……………研ぎ澄ますんだ………………一振りの刀として……ただ相手を斬りつけろ……●●……

自分のことを………●●……何よりも邪魔なものを………………●せ……

 

『織斑、篠ノ之準備は良いか?』

「…はい大丈夫です。」

『こちらも同じくです。』

 

千冬姉と箒の言葉を聞いても集中は切れないな…

この分なら鈴と戦った時以上にすごい動きが出来そうだ。

あの時は途中で切れちゃったもんなぁ……

…………鋭く……さらに鋭く……

武器の重さを……人の命の重さ…いや…人の命を奪う武器の重さ………………自覚しろ…

と意識を深く沈めるように集中すると千冬姉からの声がかかる。

 

『二人とも来るぞ!!』

『っ!!一夏!!』

「………………了解。」

 

そう言って俺は箒にかまわず前に突撃する。

アレが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)……巨大な羽のようなスラスター…さらに全身真っ白だな、白銀といえば言いのだろうか…

そんな事今は関係ない。思考から斬り捨てろ。

今やるべき事はアレを落とすことだけ、必要なのは相手の動きのみだ。

こちらに気が付いたアレはエネルギー弾をこちらに撃ち込む……

零落白夜発動、かわせないものは斬り捨てる。

 

『織斑!!無駄にエネルギーを消費するな!!』

「……」

『一夏!!私の後ろに付け!!』

「………」

『おい、織斑?……一夏、聞こえないのか?』

 

二人からの声が聞こえる……

関係ない(・・・・)、思考から斬り捨てる。

周りのことも気にせずにスラスターで突撃する。

 

『お、おい!!一夏!!―――』

「……殺す(・・)。」

 

ほうきがなにかいっている……思考から斬り捨てる。

突撃するようにしてアレに向かう。

何か撃ち込んできているな……回避は可能…

瞬間的に停止、その後別方向への急加速をおこなう。

体に負荷がかかるが許容範囲。だが連続使用は不可。

 

『―――――――!!――!?』

『―――!!!』

『―――――――――』

『――――――――――――!!!!』

 

何か聞こえるが作戦に支障は無し、思考から斬り捨てる。

距離がある程度詰る、瞬間加速を使用。

間合いへの進入に成功。

零落白夜発動、同時に雪片弐型で斬りつける。

敵、腕部のクローによる応戦。

記録、近接戦での敵主兵装の確認。

後方より支援としてのビット兵装確認、同時に敵機からのエネルギー誘導弾の砲撃を確認。

回避行動をと同時に敵機に距離を取られぬようにする。

回避行動失敗、数発被弾。

作戦続行に支障は無し。

 

『―――――――――!!』

『―――!!―――!!―――――!!!』

『――――――!!』

『――――!!』

『――――――!!!』

『――――!!』

 

多数のISコアよりネットワーク通信接続確認。

問題になりかねるのですべて遮断、斬り捨てる。

 

「―――かぁ!!」

 

僚機パイロットの声を確認。

作戦行動には関係ないため思考から斬り捨てる。

現在敵機との高速戦闘中、近接戦ではこちらに分があるが相手は距離を取ろうとエネルギー誘導弾を撃つ、完全回避不能。

回避運動の破棄ヲ思考…突撃する。

雪片を相手の首を切るヨうに振るう…が重い……

当てル事ができず距リをトられる。

雪片ニ型が重い……ナぜだ?思考……

……命の重さ…オリムラ チフユ ノ コトバ…フヨウ キリステ……

…………………………………………………………………………

 

「あ……」

 

俺は今何を捨てようとした?

千冬姉との思い出を…それどころか俺は今まで何を考えていた(・・・・・・・・・・・・)!?

俺はここで考えた、否、考え込んで止まってしまった。

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がそれを見逃すはずもなく最大の(障害)に全力で攻撃を加えるのだった。

 

「一夏ぁぁあああああああ!!」

 

箒の声とこちらに向かってくる姿が見えるがそれよりも前に俺は光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

化物を倒すのはいつだって人間だ。人間でなくては、いけないのだ。

                                 ~アーカード~

 




ということで原作より早く落ちました。
それにすぐに殺すって言葉を使うなんて…キレる十代ですね。むしろ斬れる十代?
やっぱり原作の方が強いのでは!?……へんなこと言ってスイマセンでした…
ということでとうとう原作から大きく離れてきました。


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第六十三話 撃墜

現在俺は部屋に篭って落ち込んでいる。

布団も敷かずに座敷にうつぶせに寝ている状態だ。

あぁ~これで作戦失敗したら絶対俺のせいだわ……

原作よりひどいことしてるんじゃない?俺。

でもさぁ……あそこで誰か言ってあげないとさぁ…

悲惨な目に遭ったときの箒がさぁ…って俺は何誰も居ない部屋で言い訳を一人で考えてるのだろうか…ああ、こんな時ヴァッシュだったらどうするのだろう…

あの人なら一人で勝手に突っ込んで一人ですべて解決できそうな気がするわ……

じゃあ初めからこんなことで悩むことすらないんだろうなぁ…

……いや、多分彼は彼で別の理由で悩むんだろうな………

じゃあ俺がこうなるのは仕方ないのでは?

そんな事言っても作戦失敗したら俺のせいだよな……

と何回目になるか解らないネガティブな堂々巡りをおこなっているとこちらに走って来る気配が…2つ。

ふすまを思いきり開けるシャルロットとその後ろの簪。

 

「ソウ!!大変!!」

「作戦失敗か!?」

 

俺は勢いよく立ち上がり自身のISを取りに向かう。

後を付いてきながら簪が叫ぶように話す。

 

「違うんです!!織斑くんが…」

「一夏がどうした!!」

「トランス状態って言うか…声をかけても反応がないの!!」

 

トランス状態……まさか!!

俺は格納庫として使われている場所ではなく司令室に向かう。

 

「作戦前にかなり集中してなかったか!?」

「え?う、うん、鈴と戦った時と同じ感じがするから一人で集中させてくれって…」

「どれだけ集中していた!!その時は声は通じたのか!?」

「う、うん、話は出来たけど…反応は鈍かった。でも今はまったく反応が無くて…」

「何か戦ってる最中に言っていたか!?」

「ごめん…何か言ってたけど中身まではわからない…」

 

そう言って顔を伏せるシャルロット。

クソ!!流石に原作で起きてない事は予想できん!!

司令室に走りながらシャルロットと簪に質問を投げかける。

 

「セシリアと鈴とラウラは!?」

「通信が切られた後に飛び出して行きました!!」

「千冬さんは!?」

「織斑先生はさっきから一夏に呼びかけてるんだけど…」

 

反応がないのか……

千冬さんの声にすら反応しないって事は恐らく俺の声も届かないか…

司令室のふすまを開けると目の前のスクリーンに一夏が映し出されている。

千冬さんは俺の事など気にもかけず一夏に叫びかけているが完全に反応はない。

しかし俺もそれを気にする余裕は無かった。

 

「なんだ…この動き…」

 

スクリーンに映し出されている一夏、それは完全に異常と言っていいほどの動きだった。

本来一夏の白式は瞬間加速の動きは早いが高速機動戦専用の機体と並んで飛べるほど基本的な速度はそれほど早くはない。

だが現在モニターに映し出されているのは高速で逃げる福音とそれを直角的な動きで被弾しながらも追い詰めている一夏である。

近くに紅椿の姿が見えるが二人の動きには付いていけていない。

これは…瞬間加速を連続使用、それも急停止を織り交ぜているのか!?

そんな動きをしたら体の方にも負荷がかかるし第一エネルギーが持たない!!

 

「山田先生!!一夏の体のダメージは!?」

「え?」

「早く!!」

「は、ハイ!!現在それほど大きなダメージはないですが…蓄積されて言ってるダメージがあります……」

「エネルギー残量は!?」

「それが……減りが異常に少ないんですが…残り1/3ほどです…」

 

どういうことだ!?

あれほど瞬間加速を使えばエネルギーなんてすぐ尽きる。

さらに零落白夜も使用しているように見える……本来ならもうエネルギー切れでもおかしくは無い。本当に訳のわからない機体だ!!

だが一番の問題はあの一夏だ、確かに福音を追い詰めているようにも見えるが…あの被弾数、このままじゃ確実に一夏の方が先に落とされる。

 

「千冬さん!!俺も出ます!!」

「!?…っ!駄目だ…許可できん。」

「じゃあそんなのいりません、勝手に出ます。」

「やめろ奏!!お前が行ってどうなる。」

「あの馬鹿ぶん殴ってでもつれてきます。」

 

そう俺が言った瞬間。

 

『一夏ぁぁあああああああ!!』

<―ドォオオオンッ!!!―>

 

箒の叫び声にモニターを見るとそこに映し出されていたのは撃墜された一夏だった。

 

「え…?いち…か……」

「クソ!!馬鹿野郎!!」

 

呆然とする千冬を尻目に俺は一夏と俺自身に悪態をつきながら司令室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「一夏ぁ!!一夏ぁ!!!!」

 

箒は一夏を抱え泣きながら逃げるように飛ぶ。

昔、自身が一夏からほめてもらったことがある少し自慢だった髪型は完全に崩れていたがそんなことにも気が付かないほどに必死だった。

何も関係なく一目散に逃げる。早く一夏を医務室に届けなければ……

そう考えて一直線に飛ぼうとするが福音はそれを許さないように攻撃を加えてくる。

現在一夏を両手で抱えながら飛んでいるため反撃は出来ないし反撃を入れるつもりもない。

ビットもすべて防御に回しただひたすらに逃げ回る。

 

「邪魔を…するな!!」

 

かまわずに飛ぼうとするが誘導弾をかわしきれず何発か被弾する。

だが一夏にだけは絶対に当てないように一夏を自身の胸に隠すように引き寄せる。

拠点まであと3kmというところで自身のISが見つけてしまう……

海上の上、漁船が自身の直進する先に存在している。

現在海域は封鎖されているはずである……なぜ!?そう考えるが現在そんな事よりも一夏が…

関係無しにその上を突っ切ろうと思うが――

 

『戦争になって人が死ぬ。』

 

奏に言われた言葉が思い浮かぶ。

……駄目だ、このまますすめば自身のせいでさらに問題が…

だが急がなければ一夏の命が……

その動揺のせいか、それとも福音がそれを感じ取ったのか攻撃がさらに熾烈になる。

ハッっとしてかわし続けるがこのままでは流れ弾が漁船に当たる……

体を小さくして一夏を守るようにして別方向に逃げるが追いつかれてしまう。

そして福音は自身の真正面に来て爪を振り上げる…近接戦…かわせない……一夏にあた…

恐怖で口から言葉が出る。

 

「いやぁぁぁあああああああああ!!!!」

『諦めてんじゃないわよ!!』

 

そのかけ声と同時に福音が突然はじけるように吹き飛ばされる。

これは……鈴の衝撃砲……

その後福音を狙うようにして何十発の砲弾が飛び福音が箒から距離をとる。

そちらを見るとセシリア、鈴、ラウラの三名がこちらに飛んでくる。

 

『箒!!嫁の状態は!!』

「一夏が…さっきから意識もなくて…」

『しっかりしてください!!箒さんは早く一夏さんをつれて撤退を!!』

「わ、わかった!!」

 

そう言って離れようとする紅椿を狙うようにして福音のエネルギー誘導弾が飛ぶ。

当たるかと思った瞬間三人がシールドを展開しながら間に入る。

そしてそのまま反撃をおこなうが一発も当たらない。

 

『よくも一夏さんを……絶対に許しませんわ!!』

『人の嫁に…なんてことを!!』

『今すぐぶっ壊してやるから覚悟しなさい!!』

 

三人はおのおの叫び声を上げながら福音に突撃する。

一刻も早くここから離れなくては…

福音はそれも関係無しに先ほどまでと同じように攻撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

数分後、戦いは一方的だった。

どれだけ攻撃を撃ち込んでも当たらない、攻撃をかわそうにも3つに分割しているとはいえこちらに向かって飛んで来るエネルギー弾の雨などかわしきれるような弾幕ではないのだ。

それを相手にかろうじてでもかわし続けた一夏…

そして一夏に当てないように逃げ続けていた箒……

ある意味二人は異常だったといえるだろう。だが二人の内、箒のように動く事は彼女たち全員が出来る。

しかし今やるべき事は逃げるのではなく足止めである。

さらに船のほうに向かうエネルギー弾は防がなければならない。

そして今さっきようやく漁船は距離を取ったが今自分たちが逃げ出せばまた戦場に巻き込んでしまう……

そう考え三人はすでにかなりのダメージを負った機体で戦うのだった。

 

『鈴さん!!前に出すぎです!!』

『こうでもしないとあんたに当たるでしょ!!あんたが落ちたらどうなると思ってるの!!』

『二人とも!!今は敵から目を離すな!!』

 

そう言った瞬間再び福音の広域攻撃がおこなわれる。

なれでかわしきる事は不可能だが被弾数をさげることはできる。

三人は必死にその攻撃をかわすが…

 

『『セシリア!!』』

『え?あ……』

 

三機の中で一番装甲が薄いブルー・ティアーズに対して、回避に集中しているうちに福音は近接攻撃を仕掛けていた。

クローに対しすかさずインターセプターを展開するがはじかれる、ここで自分が落ちたら二人の方が…

 

『後ろに倒れろ!!セシリア!!』

『っ!!!』

 

突然の声にそのように動く事で何とか攻撃をかわす…だがこれでは追撃が……

その瞬間奏が凄まじいスピードで突撃してくる。

左手に持ったパニッシャーでおもいっきり福音を殴りつけ、そのまま力づくで押し続け三人から距離をとる。そして福音を押し続ける状態のまま全員に通信を入れる。

 

『全員引け!!早く!!』

『あ、あんた一人で…』

『今のお前たちじゃ足手まといだ!!簪!!シャルロット!!引っ叩いてでもつれてけ!!』

『でもソウ!!』

『邪魔だって言ってるんだよ!!押さえておくのも難しい!!早く行け!!』

 

そう言って通信を切る。

スラスター全開で距離は何とか稼いだ…がまだこいつの目標になりえる、できるだけこいつを食いとどめねば、三人はもう限界だ。

何発か福音の誘導弾を喰らいながら皆のところから1kmは引き離しただろうか、そこでパニッシャーの機関砲を展開する。暴風のような音を出しながら砲弾の雨が福音を襲う。

向こうも負けじとエネルギー弾をこちらに撃ち出すがすべてパニッシャーで叩き落とす。

しかし数発は当てられるがやはり早い。なれないパニッシャーでは戦うのは無理だろう……

こちらの砲弾の雨に対して向こうはエネルギー弾の雨である。

パニッシャーを盾にして防ぐがこのままじゃこちらが先に削り殺されるな……

そのまま数分間停滞するように戦闘を繰り広げていると千冬さんから連絡が入る。

 

『奏、全員帰還した、貴様もすぐに下がれ!!』

「了解!!」

 

パニッシャーのロケット弾数発を撃ち出し一気に爆発させる。

その隙に全速力で離脱を……よし福音はこちらには来ない…!?

 

「クソ!!千冬さん帰還できません!!」

『何!?こちらではお前が離れているように――』

「福音が街のほうに向かってます!!ここで止めなきゃ日本に上陸しちまう!!」

『な!!』

「……ここで食い止めます。一旦通信きります。」

『オイ待て!!そ―』

 

その言葉が言い終わる前に俺は通信を切る。

時間制限は5分…その後壊れるのを覚悟で3分…

その間に福音を二度落とす。全力で相手をしよう。

俺は自身のイメージ・インターフェイスを起動させる。

この颶風のイメージ・インターフェイスによる機能は最終的に大きく分けて3つである。

一つ目は予測。

二つ目に情報共有。

最後にして俺のためだけに作られた機能。

『イメージのまま機体その物を動かす』

と言ったものだ。

簡単に言うと思考の反射のレベルでビットなどの武器ではなく機体その物を動かすのだ。

普通ISは肌から発せられる電気信号等を一度取り込みそして再びそれを機体に送り込み動いている。

だがこのシステムは完全に体とは関係無しに思考がそのままダイレクトに機体を動かすことになる。

もちろんその間も俺の体にも信号は送られているため普通の人ならば体の動きがついていけず骨折するらしいのだがそれでようやく俺と同じスピードで動ける。

もちろん機体には負荷がかかるが無理やり力ずくで動かすのよりは数倍マシらしい。

だが今は機体のことなど気にしている余裕はない、俺はパニッシャーをしまうと右手に銃を展開する。だが向こうはそんな事関係無しにエネルギー弾の雨を撃ちこんでくる。

 

「お嬢さん、ダンスはお好き?……って何で俺いつもダンスって言うんだ?」

 

と口に出してはいるが適当な軽口だ、意味は無い。

向こうも聞こえてはいないだろう。

雨のようにこちらにめがけて飛んでくるエネルギー弾。

だが全力で動けるのならかわせないほどではない。

スラスターで福音に接近しながら銃を撃つ。

確かに全力で動けるな、これなら負ける気がしない。

相手が逃げるようにしてこちらにエネルギー弾を撃ち込んでくるがそれすら紙一重でかわし右手の銃で正確に相手の体を撃つ。

先ほどまでの砲弾の雨と比べればまったく威力が低い上に連射速度も遅い。

だが正確に相手の体を狙い撃ちしている。向こうも全力でかわそうとしているのだろうがそれすらも予測して撃つ。

この程度の動き、全力で動けるのなら相手の攻撃をかわしながらでも簡単に出来る。

だが早いところ落とさなければ……本番はこの後なのだ…

福音に急接近して弾幕を展開、さらにパニッシャーでミサイル弾を数発撃ち込む……

これでどうだ?と思うが煙の中からエネルギー弾がまた飛び出てくる。

バニッシャーで防ぐとさらに距離をとろうとしてくる。逃げ回る気か……

こいつはヤバイな……現在俺の最大攻撃力の兵器を当ててもまだぴんぴんしてるな…

早いところセカンドシフトに移行させたいんだが……

特殊兵器を発動してから時間は既に1分は経過している。

…………覚悟は決まった。

俺はそのまま両手に武器を展開したまま戦いを継続させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは現在司令室の近くの部屋で専用機持ちの全員で集まっていた。

全員と言っても一夏は未だに医務室で治療中、箒はその場を離れようとしない……

そして何よりソウが帰ってこない……雰囲気は全員暗いものだった。

あの時のソウはいつものような余裕を見せることもなくひたすらに必死な声を出していた…

そして私は助けになることすら出来なかった……

そんな事を考えていると部屋のふすまが開く。

ソウが帰ってきたかと思いハッとそちらを見るが…ソウかと思ったが箒だった。

箒は髪も乱れたまま死んだような顔をしている。

一夏の意識はまったく戻らないらしい……

 

「…織斑先生が……全員を呼んでいる…」

「……すぐに行きましょう。」

 

セシリアの言葉で全員立ち上がる。

福音がどうにかなったのだろうか?

司令室内に向かうと中の雰囲気は暗い……

なぜ山田先生は目を赤くしているのだろうか…

嫌な予感がするがまさかソウに限ってそんなわけがない……

織斑先生がゆっくりと口を開く。

 

「……今から15分前、風音により銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の撃墜に成功した…」

「本当ですか!!千冬さん!!」

「さすが奏さんです!!」

 

鈴とセシリアが声をあげて喜ぶ…

ならソウはどこにいるのだろう…医務室だろうか……

それに作戦が成功したというのになぜこんなにこの部屋の雰囲気は重苦しいのだろうか…

織斑先生が言葉をひねり出すように話す。

 

「……その後……事態は急変した。」

「「「「「……え?」」」」」

「…銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がセカンドシフトに移行、日本に向けて移動を開始した……その後風音の奮闘もあり現在は停止状態で沿岸15kmの上空に浮かんでいる……」

「先生……ソウは?」

「……今から2分前、セカンドシフトした銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の情報を送りながら日本から遠ざけるように戦闘を続け………撃墜された。……その瞬間はこちらでも確認されている……」

 

織斑先生は手をきつく握っている…

かなり強く力をこめているのだろう…血が滴り落ちている。

 

「千冬さん…?冗談ですよね?」

「……」

「先生……奏さんは…今どこに?」

「教官……教えてください。」

「……現在、風音奏は……MIA(作戦行動中行方不明)にされており……さらに捜索はおこなえない……」

「な!?なぜですか!!」

「……あいつが撃墜された所で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が停止している……下手に調査隊を出そうものなら確実に動き出すだろう。そして現在満足に動かせるISは二機のみ……現在修理を進めながら教員のほうで撃墜計画を検討している……」

 

ぐらっと世界が揺れたような気がした。

ソウが……帰ってこない…

話を聞くや否や鈴が部屋を飛び出す。

 

「凰!!……どこにいく気だ…」

「……奏を探しに行ってきます…」

「話を聞いていなかったのか?捜索はおこなえ――」

「じゃあ奏の事はどうするって言うんですか!!」

 

鈴は両目に涙を浮かべながら叫ぶ。

それに対してラウラが言葉をあげる。

 

「鈴!!教官にそれを言っても仕方ないだろう!!」

「じゃあ奏はどうなるのよ!!」

「では私たちだけで探しに行くとしよう!!途中また銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がこちらに攻めてきたらどうする気だ!!もし奏兄が無事だったとしても巻き込まれて終わりだぞ!!」

「もし無事って何よ!!アイツは…アイツは……!!」

「落ち着いてください!!シャルロットさんの前ですよ!!」

 

普段大声を出さない簪の声で一気に静まる。

気が付かなかったが私はいつの間にか床に膝をついてへたり込んでいた。

……さっきから背中から支えてくれていたのはセシリアと簪だったんだ……

ソウが……撃墜されて行方不明……?

頭がまったく追いつかない……

 

「……お前たちに奏からの言葉がある…だが正直今のお前たち…いやシャルロットに直接聞かせるは――」

「いえ…聞かせてください…お願いします…」

「……山田先生…頼む…」

「…はい…」

 

織斑先生の声で山田先生がスクリーンに映像を映した…

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前のスクリーンに画像が映し出される。

いきなり光の雨が映っている。

恐らくこれはソウの目線だろう……

アレが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のセカンドシフトの姿なのだろうか…

背中にエネルギー状の羽が生えている…そしてその羽からありえないほどの数のエネルギー弾が放出されておりすべてがこちらに向かってきている。

 

『ッチ!!あ~千冬さん!!こいつの基本性能はさっき言ったように今までの1.5倍くらいは想定した方がいいですね!!でもマグネットコーティングよりはましか……でもシャアの気持ちが少しはわかりました。』

『いいから帰還しろ奏!!』

『そうしたいのもやまやまなんですけど…既にスラスターすらぶっ壊れてて逃げれる気がしません。っていうか二~三本とれっちゃったんですけど……おっさん怒るかな?あっそうだ。死んだふりしたら逃がしてもらえるでしょうか!?このままだと本当に『ふり』が抜けそうですけど……』

『馬鹿なことを言うんじゃない!!教員が既にそちらに向かっている!!それまでもたせろ!!』

『あ~……こっちの方に向かわせるのはやめたほうがいいっすね。ぶっちゃけ後1分持たせるのも難しいですから。』

『話すのをやめて、いいから集中しろ!!諦めるな!!』

『あはは、いやぁ…もともとこんなにもたせられること自体想定外だったんすよねぇ。』

 

そう軽口を叩きながらもソウは銃を撃ち続ける。

パニッシャーはエネルギー攻撃に対してはかなり優秀なシールドのはずなのだが…すでにボロボロで十字架の形すらしていない……ソウの機体はほとんど装甲がなくなっており…先ほどからアラートが鳴り止むことなく響いている。

右手の銃は…使う素振りすら見せない。

織斑先生がボソボソと話し始める。

 

「このとき既にシールドエネルギーは底をつきかけ、さらに武装の二つの内右手でよく使っていた小銃は壊れ…あの十字架もミサイルランチャーのほうは壊れ、機体自体…ほぼ全壊状態で動いているがおかしいほどだった…」

「そんな……なぜそんな状況で撤退をしなかったのですか!?」

「奏が離脱を試すたびに……福音が街のほうに向かって飛行を始めたからだ、途中3回ほど撤退を試したがどのタイミングでも奴は街のほうに向かって行った……」

「先生方は……何をしてたんですか?」

「………ほぼ全員落とされた…途中落ちた教員を撤退させるためにアイツはさらに無茶を……」

「そんな……」

 

スクリーンの方ではソウが機関砲を撃ち続けるが…

突然先ほどまで出ていた弾丸が突然でなくなる。

 

『あら……弾切れか……そりゃこれだけバカスカ撃てば無くなるか。』

『ソウ!!何でもいい!!逃げろ!!』

『いやぁ…逃がしてもらえればいいですけど…僕彼女に気にいられてるみたいで…これって脈あると思いますか?』

『風音君!!いいから!!』

『あはは……スイマセン、流石に無理っぽいですわ…さっきからスラスターもほとんど反応ないですし、弾もなし、あるのはこのボロボロの鈍器くらいですね…』

『教員は後どれくらいで付く!!早くしろ!!』

『あ、そうだこれ6人ってか一夏も意識があるなら7人か…見せてやってもらっていいですか?あと多分あいつらほっとけば勝手に福音(コレ)に突っ込むと思いますよ?あ、シャルロット、さっきの脈有り云々は冗談だから本気にするなよ!?』

 

と本当にピンチの状態でもいつもどおりに笑っているのだろう、普段のソウの話し方そのままである。

現在ソウは時間稼ぎをしているのかそれともこれしかもう出来ないのかパニッシャーでこちらに来るエネルギー弾を叩き落としている。

 

『あ~…セシリアは……こいつの高速移動は癖が強い、俺の戦闘映像で確認して癖を覚えろ、そうすればお前なら当てられる。当てれるんならもうお前なら倒せるさ。』

「奏さん……」

『鈴!!みんなを引っ張るのは頼むぞ!!男らしさ…てのは違うな。お前らしさで周りを引っ張ってやってくれ。』

「本当になんなのよ…この馬鹿……」

 

俯き気味のセシリアと既に泣きそうな鈴。

画面のでは福音が接近して来ている。

 

『ラウラはとりあえず……もう少し常識を覚えましょう。まぁお前に対して今不安なのはこれくらいだな。みんなを頼む。』

「……了解した。」

『簪ちゃん。悪いけど箒とシャルロットのこと頼んでいい?多分ぐちゃぐちゃなってると思うからさ……本当に悪いね、後でなんか奢るよ。それとも何か作ろうか?』

「……」

『箒、お前ならこいつ相手でも十分戦える、それは今のところ一番長く戦っている俺が保障する。だからこいつ相手にびびるなよ?』

「……いいから…早く…逃げろ……」

 

簪は何も言わずに唇を噛みながら画面を見続けている、ラウラは了解したとだけいいそのままの姿勢で見続けている。箒はこれが既に過ぎ去った時間だというのに逃げるように言っている。

現在接近戦と同時にエネルギー弾が雨のように降ってきておりかわそうとしているが被弾している。

 

『一夏は起きてなかったら鼻に山葵でも突っ込んでやれ、起きてるなら…まかせたわ親友。あと後で一発殴らせろこの馬鹿!!多分説教は既に千冬さんにされてると思うしさ。』

『奏!!何でもいいから逃げろ!!教員がもうすぐ到着する!!』

 

織斑先生がそう言った瞬間、福音はソウの体を蔽うように自身の翼で包み込む。

あたり一面完全に福音の翼だ。

ソウはため息と同時にパニッシャーをさげる。

まるで諦めたのかのように。

 

『あ~……シャルロットは………今度遊びに行くのどこにする?ちょっと今考える余裕なくてさ…考えといてくれ、じゃあまた。』

 

そういうと全方位からエネルギー弾がソウを襲い……映像は途切れた。

 

 

 

 

人は死ぬ。だが死は敗北ではない。

                                ~ヘミングウェイ~

 




今まで読んでいただきありがとうございました!!
コレで『風音奏』の物語は終了です!!

 ス イ マ セ ン 、 嘘 で す 。

ということでかっこつけて
『足手まといだ!!』
とか言っておきながら落とされました。カッコワルッ!!!
新型機での初戦闘は黒星スタートです。それ以前に次の試合はあるのでしょうか。


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第六十四話 反撃の狼煙

ソウの言葉を聞いた後私たちは織斑先生の指示で一度休まされることになった。

特に私に対しては一度しっかりと休むようにと念を押された。

司令室の隣で6人で休む、箒は一夏の所に行きたがっていたが現在面会すら許可されていない。

静かな部屋の中で突然箒が話し始める。

 

「………私のせいだ…」

「…箒、あんた何言ってるの…」

「……私が専用機を持ってしまったばっかりに…一夏も奏も…」

「馬鹿なことを言うな、嫁の行動は誰が一緒でも同じだったろう…」

「だが私が…もっと強ければ…」

「そんな事を言ったら私たちもですわ…奏さんにわたくしたち全員足手まといって言われたんですよ?それに実際私たちがかなわなかった福音相手に一人で……」

 

完全に全員落ち込んでいた。

無理もないことかもしれない…実際どうすればいいのだろうか…

ソウだったらどうするんだろう…教えてほしい…

ソウは最後の瞬間まであのままだった…

いつものソウだった…アレはわざとだったのだろうか…私たちを不安にさせないために…

いや、あの声は本気で言っていた。そうだソウは私に最後に『また』と言っていた。

ソウは必ず約束を守る……守ってくれるはずだ…

 

「だったら…戦って勝とうよ…」

「シャルロットさん?」

「ソウでも勝てなかった相手にさ、みんなで戦って勝てばソウに『足手まといじゃないでしょ?』っていえるよ?」

 

私がこういうと皆心配した顔で私を見る。

まぁ……さっきまでの状態を考えると仕方ないだろう。

私は苦笑いをするように笑いながら話を続ける。

 

「大丈夫、無理は……ちょっとしてるけど本当にそう考えてるから。ソウは絶対約束は守るからさ…まだ私……守ってもらってない約束ばっかりだから…絶対戻ってくる…絶対…」

「…でも…どうやって勝つの?」

「そこなんだけどさデータは多分こっちにもある……あとはみんなの意見がほしいんだ…協力して、お願い。」

 

私がそう言って頭を下げる前に鈴、セシリア、ラウラはすぐさま立ち上がるようにこちらに乗る。

 

「……私は乗ったわよ!!やられっぱなしは性に合わないしね!!」

「確かに…このまま負けっぱなしは気に食いませんね。」

「……教官には悪いが嫁の敵を討つのが妻の務めだろう。」

「……確かにこのままでは奏さんの努力まで無駄になってしまいますね…」

 

三人が立ち上がるように反応する。

その後一歩遅れて簪は自分に言い聞かせるように言う。

だが箒はうつむいたままだ。

 

「……私は…もうISには乗らない…」

「箒!!あんた何言ってるの!?」

「…私のせいで一夏がこんな目に遭ったんだ…私がISに乗ったから……」

「箒……」

 

完全に箒は塞ぎこんでしまっている。

ソウだったらどうするだろうか…違う、私はソウじゃないんだ。

私は私として箒の説得をしよう。

 

「箒……ひとつ聞いてもいい?」

「……なんだ?」

「今のままで箒は一夏の事をまっすぐ見れる?」

「っ!!そ、それは……」

「それとも一夏の事は諦めるの?」

「……」

「それはともかくそんな事で一夏の事を諦めるのはずるいよ、箒。皆しっかりと一夏のことを好きでがんばってるのに自分だけ別の理由で逃げるなんて……」

「に、逃げてなど!?」

「ううん、逃げてる。前までの箒だったら私が諦めるか聞いたらすぐに違うって言ってたはずだもん。」

「………ではどうすればいいんだ?私が一夏に関わったせいで…」

「……箒、こっち向きなさい。」

 

私が説得を終える前に鈴が箒のほうに近づく。

箒は反応してうつむきながらゆっくりと振り向く。

 

<―パァンッ!!―>

 

という音と共に鈴は両手で同時に箒の両頬を叩き、無理やり目を合わせる。

自身より背の低い鈴に顔を引っ張られ少しかがむような姿勢になっている。

 

「いい!!アレはあんたのせいでもなんでもなくて一夏自身のせいなの!!!コレが終わってアイツが目覚ましたら奏と一緒に一発殴ってやる予定なんだから!!あんまりあんたが勝手に背負うんじゃないわよ!!」

「だ、だが…」

「何!?じゃああんたあの時全力で一夏をとめてなかったて言うの!?違うでしょ!!」

「ああ…」

「じゃあそれで止まらなかった一夏が悪い。それだけの話なの!!いつまでもぐずぐずしない!!」

「……わかった。」

 

その声を聞いて鈴は両手を頬から離す。

完全に鈴に押し込まれるようにして説得される箒。

それを見てセシリアがクスクス笑う。

 

「確かに鈴さんの言うとおりですね。わたくしも一夏さんが目を覚ましたら一発はたかせてもらいましょう。」

「そうだな。では私は嫁と奏兄の両方をはたこう。」

「じゃあ私は奏さんの方をやっちゃいます。」

 

そう言ってラウラと簪は互いに笑い合っている。

前の奏に対する文句を言うといったときと同じ雰囲気が戻ってきた。

ソウもビンタをされるのか……じゃあ私も何か考えよう。

後の箒の事はみんなに任せよう…

私は福音のセカンドシフト時のデータ……もし、もしアレ(・・)を使う事ができるなら…

そう考え私はみんなと一旦別れ格納庫の方に向かう。

 

 

 

 

 

 

仮設された格納庫では現在セシリア、鈴、ラウラのISと、教員の量産型ISの修理が急ピッチでおこなわれていた。

私は辺りを見渡し栗城博士をさがす。

しばらく探しているとこちらの方に向かって歩いてくる栗城博士を見つける。

 

「栗城博士!!」

「………ああ、嬢ちゃんか……」

「スイマセン、お願いがあるんで―――」

「お前の烈風なら準備が出来てる。あと使用許可も下りてるだろうよ。」

「え?」

 

なぜ栗城博士が私がそれを聞きに来たのかわかっているのだろうか…

それにまだ未完成の上にデュノア社のほうの許可も…

栗城博士は頭をかきながら説明をする。

 

「あのクソガキが出撃する前にな烈風のイメージ・インターフェイスの二つの機能だけは開放しておいてくれって頼まれてな……おそらくセカンドシフトした後の戦闘データなら十二分に入っているだろうよ……」

「ソウが……」

「使用許可に関してはアイツがそう言っていたって社長に伝えろっていわれてな…あのクソガキ……こうなると見越して俺に頼みやがったな…」

 

と顔をしかめている。

そう言いながら栗城博士は離れていく。

 

「悪いちょっと一服してくら……後の詳しい話はデュノア社の方の社員たちと頼む。」

「え?ですが……」

「安心しろ、社長からの許可も既に下りてるらしい。好きに使えだと。」

「………ありがとうございます。」

 

そう言って手を振りながら離れていく栗城博士。

その後デュノア社のスタッフたちの所に向かうと先ほどまでの烈風に追加でシールドユニットらしきものが装着されていた。自身の機体を正面以外囲むように設置されている7枚の盾。

話に聞く限り現在肩パーツの武装切り替えは出来ないがそれ以外は通常と同じようには使える、ただし未完成品である事には変わりないため完成時ほどのスペックは出せないらしい。

だがそれでもリヴァイヴと比べるとかなり優秀な機体である。

癖も私のリヴァイヴと似たような感覚で操作の方は問題はない。

データを確認してみると……やはりソウからのデータがこちらに送られていた。

さてこのデータを元にみんなで作戦を考え……織斑先生を説得するだけだ。

と思いデータを確認しているとメッセージらしきものを見つける。

再生してみると一言のみ。

 

『シャルロット、しばらく頼んだ。』

 

とだけだった。

なんと無責任な言葉だろうか……

そう思いながらも帰ってきたら絶対にいろいろ文句を言ってやろうと決めていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、私たちは作戦を考え司令室に向かう。

ここで織斑先生を説得できなければ……いや、多分説得できなくても全員勝手に戦おうとするだろう。現在皆あの福音に一矢報いてやりたいのは一緒なのだ。

そうならないようになんとしてでも織斑先生の許可を得るようにしなければ…

 

「織斑先生、デュノアです。」

「……待機の命令を出していたはずだが?」

「……ソウの残した福音のデータを発見しました、恐らくそちらのソウの目線だけのデータよりも数倍情報が入っていると思います。」

「……どういうことだ。」

「その説明もあるため入ってもいいでしょうか?」

「……よろしい、入れ。」

 

そういわれて私たちは全員で部屋に入る。

それを見た織斑先生は怪訝な顔をする。

 

「………他のものはなぜここに来た。」

「……それについては後ほど。」

「今すぐに説明しろ。」

 

織斑先生の顔がさらにきつくなる。

気圧されそうになるが……ここで引くわけには行かない。

 

「私たちで対福音用の作戦を考えてきました。」

「駄目だ、却下する。そのデータだけを置いていけ。」

「…先生、残念ですがそのデータを使う場合、最低でも私が作戦に参加しなければいけません。」

「……どういう意味だ。」

「私と…ソウの新型機は互いにデータをやり取りする機能があります。それも通常のコアネットワークと違い本来共有できないレベルでの情報もある程度共有できます。」

「それがなぜお前が作戦に参加しなければいけないことにつながる。」

「その共有するデータの中には私たちの機体の共有の機能である相手の動きを観察する事で予測するシステムも含まれています。動作予測、攻撃の機動予測、さらにある程度の癖までソウの機体のほうは見切っており、それはすべて私の機体に引き継がれています、それがソウの残したデータです。ですがそれを戦闘に役立たせるためには……直接相手の動きを見なければいけません。」

 

そう私が説明すると織斑先生は顔をしかめる。

ある意味役に立つ情報ではあるが…同時に問題もあるのだ。

恐らく織斑先生もその事は十分わかっているのだろう。

 

「そしてこちらで確認した映像データを見る限り量産機では福音の攻撃に数回しか耐えれない上に……指示があってから動くのでは反応し切れていませんでした。」

「………その予測はどれほどのものなのだ?」

「最終的には颶風の予測と実際の相手の動きはほぼ一致するまで予測精度は高まっていました。」

「……」

 

先生たちが弱いと言っているわけではないのだ。

むしろ何の強化もされていないただの量産機であの福音相手に戦い続けられる方がおかしいだろう。

実際5分程度は完全に互角の戦いを繰り広げていた……

だが一人落ちればその人の防衛までしなければいけなくなる。

そして量産機の性能では数発喰らえばまた動けなくなる……

映像の中のソウは、声をあげて指示をだし何度も盾になっていたが……守りきる事はできず最終的に先生方の避難のために被弾しながら力ずくで福音を押して距離を離していた。

 

「………」

「織斑先生、私たちの作戦の許可をください…このままじゃソウの奮闘が無駄になってしまいます!!」

「先生!!私たちからもお願いします!!」

「………駄目だ。許可できん。」

「そんな…なんでですか!!」

「教官、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか。」

 

織斑先生はため息をつきながら頭を押さえる。

 

「どのような作戦かもわからないものに許可が出せるか、馬鹿者どもめ。とりあえず聞くだけ聞いてやろう、その後手直しで済むようなものなら私たち教員の方で再び検討をする。」

「先生!!」

「とりあえず作戦の首謀者は誰だ。」

「詳しい説明は私と……ラウラができると思います。」

「では他の者は再び待機だ、デュノアとボーデヴィッヒ、作戦を説明して見せろ。」

「ハイ!!」

「了解しました教官。」

 

そう言って織斑先生は他の先生方に連絡を入れている。

これから作戦会議を始めるつもりなのだろう。

その前に一旦みんなと話をしておこう。

 

「私とラウラはこれから会議に参加するけど……」

「すまない皆…私は作戦開始まで一夏の近くにいてもいいだろうか…」

「……私一緒に行くわよ。」

「箒ちゃん…私も一緒にいてもいいですか?」

「ああ…」

「すみませんが私はやる事があるので、機体のほうにいかせて貰いますわ。終わり次第箒さんたちと合流いたします。」

「わかった、じゃあ皆よろしく。」

 

そう言って皆と別れる。

司令室のスクリーンに映し出されている福音は丸い光の球体の中で小さくなっている。

ソウが帰ってくる前に倒してみせる、絶対に負けない…そう心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

昨日より今日、今日より明日、明日より明後日、日々変わり続ける事が大切です。

                               ~パスカル・バルボ~

 




烈風のシールドユニットについてはペルソナ3のタナトスの周りのアレをイメージしてもらえれば。
ということで完全にシャルロットの話でした。
主人公?彼は……いい人だったよ……


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ゥア縲■繧・a縺ョ縺ッ縺ェ縺

布団から目を覚ます。

ここは……なんだ俺の部屋か。

時計を見るとまだ夜の3時か……変な時間に目を覚ましたな…

ああ…明日も仕事だって言うのに…そう思いながら顔に手を当てて止まる。

いや、おかしい。

俺の家?いや俺の家は……違う、何かが違いすぎている。

俺の名は?風音奏?……違う!?それは夢の……

そう思って部屋から逃げるように部屋のドアを開けるとそこはあの白い空間…

さっき飛び出した部屋は既になくなっておりただドアのみがそこに残っている。

そして目の前にはあの俺がこんな事になっている原因の吟遊詩人風の男が椅子に腰掛けながら歌っている。

俺に気が付くと声をかけてくる。

 

「ようこそ狭間の世界へ…」

「……扉の世界じゃなかったのか!?クソヤロウ!!」

 

そう言って俺はそいつに近づこうとする。

ある程度距離が離れているため歩いて行く。

 

「呼び方などここでは意味を持ちません。」

「ああそうかい、俺はあんたに言ってやりたいことが山ほどある。」

 

近づいているはずなのになぜか距離は近づいている気がしない。

少し歩くスピードを上げる。

 

「何なりとおっしゃりください。」

「……まずあの世界はなんだ?」

「……夢ではないのでしょうか?」

「質問に質問で返すなって学校で習わなかったか?」

「どうであってもあなた次第では?あの世界はあなたにとって夢だったのでしょう。」

 

関係ないことのようにリュートを弾く男。

とりあえず近づかないと話にならない、走りだす。

何か少し近づけている気がする。

 

「OK、そこはどうでもいいがどうなったかだけ教えろ。」

「そのままです。」

「俺が居なくなっておしまいか?」

「いいえ、そこはあなた次第です。」

 

笑うようにしてこちらに話しかける男。

絶対、一発はぶん殴る。そう決めて全力で走る。

気のせいだな、まったく近づいてない。

 

「どういうことだ!?」

「そのままの意味です。」

「頼むからもう少しわかりやすく話せよ!!」

「「どちらに行くかはあなた次第です。」」

 

その声は俺の後ろ方からも聞こえる。

ハッと思い振り向くとあの男がもう一人いて……あの扉からは3mも離れていない。

そんな馬鹿な!?かなりの距離を走ったはずだぞ!?

前のほうを見ると先ほどまでなかった扉が3m先に現れもう一人の男がその扉の前に立つ。

 

「先ほどまであなたがいた世界…それは普通という言葉が適切でしょう。普通の人生、普通の生活、普通の終わり。それがあの世界のあなたです。」

「そしてあなたにとって夢の世界…あなたは強い、英雄のごとく、しかしそれでも世界一つは動かせない、変えれない。あなたに出来る事はあなたの力を超える事は無い。それがあなたの夢の世界。」

「「さぁどちらに行きますか?」」

「ステレオみたいにしゃべるな………いくつか質問させろ。さっきまでの世界の記憶が無いがなぜだ。」

「あなたがそちらの世界にいないから。そのまま居続ければ思い出したでしょう。ただしその分あちらの世界は忘れていく。」

「……次に夢……いや、今まで俺が居た世界は実在するな。」

「……確かにあの世界ではあなた以外の人にとっては夢じゃないでしょう。」

「最後に……決めたら戻ってこれるのか?」

「「そこはあなた次第でしょう。現にあなたはここにいる。」」

「ご説明ありがとうよ。あと一発殴らせろ。」

「「……」」

 

シカトかよ……

だがこれは俺が元の世界に戻るチャンスだ。

普通の生活をおくり

普通に友や家族とふれあい

普通に……

クソ!!何を悩む必要があるんだ……

 

「「よく考えなさい、時間はまだまだあるでしょう。」」

 

俺は二つの扉の前で悩み続けるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは……どこだ?

海と……空と……枯れ木しかない…

海には空が綺麗に反射しておりまるで見渡す限り空しかないようだ。

あれ?織斑一夏()は何でこんなところに?

そう考えていると目の前に一人の少女が居る。

白い服と…白い帽子と…白い肌。

……なぜだろう懐かしい雰囲気がする。

その少女はこちらを向くこともなく空を見る。

 

「呼んでる……行かなきゃ…」

「どこへ?」

 

そういう彼女の見ている方向を見ると何も無い…

雲の浮かんだ空だけが見える。

再び彼女が居たところを見ると誰も居ない。

そして後ろに人の気配がする……

振り返ると誰かいや、何かがいる……

それのいるところだけクレヨンで黒く塗りつぶされたようになっている…

そして俺はそれ見ただけで身の毛が立つように震えがおきる。

アレは何か言っている……

聞きたくないのに声がだんだん大きくなっている。

 

「■■■■■■■■せ■■■■!■■■■■!!」

「な、なんなんだ?」

「■■■■■せ!!」

「だからなんなんだよ!?」

「 殺 せ ! ! 」

「っ!?」

 

その黒いものが叫ぶようにしてこちらに飛び込んでくる……

とっさに自身の身を守るように顔を守るように腕を組み目をつぶる。

………何も起きない…ゆっくりと目を開けるとあたりは夕日のようになっている。

何が起きているんだ?……また後ろに気配がする…

恐る恐る振り向くと……太陽を背にした一人の女性が見える…

アレはISだろうか…騎士の様な姿をしている……

 

『力を……欲しますか?』

 

俺は彼女にそう尋ねられるのだった。






















なんというか……短いのにかいてて一番疲れました……


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第六十五話 第二楽章

時間は経過し夜になる…

私たちは福音が見える範囲まで近づく。

作戦は簡単だ。

大まかに説明すると第一プランとして私たち専用機持ちがひたすらにあの機体のエネルギーを削る。

一応この段階でも倒しきれればいいのだが不可能だと織斑先生が判断した場合機動性の高いユニットによる離脱、同時に教員たちがその戦闘を引き継ぎ時間を稼ぐ。

再び補給が終わり次第交代をおこなう。

初めから教員のみでコレをやるとするなら向こうのエネルギー切れのためには最悪30分近く回避を続けなければいけない……先の戦いでソウの援護付で5分しか持たなかった相手にである…。

そうさせないためにも専用機持ちの攻撃で相手の機体のシールドエネルギーを削らなければいけない…

そしてそのための鍵は箒と…私である。

ソウがラウラのときに前に出たときはどんな気持ちだったのだろうか…

今の私は緊張なんてものじゃない、今にも震えそうなくらいに怖がっている…

でもそれは皆一緒なんだ…それでも全員ここにいる。

 

「……みんな準備はいい?特に簪とセシリアは大丈夫?」

『はい、問題ないです。』

『ええ、よろしく頼みますわ。』

『セシリアの方は任せておけ。』

「うん、ラウラよろしく。あと鈴と箒は…」

『大丈夫よ!!ね?箒!!』

『ああ……いける!!』

『……全員準備は良いようだな。…では各員行動を開始しろ。』

 

その声で全員行動を開始する。

手始め狙撃のできる人は全員武器を展開、それに合わせて私もパニッシャーを展開する。

同時にイメージ・インターフェイスを起動、相手の動きの予測を開始…

しかしこの武器かなり重い……私が手に持って使うのはやめたほうが良いかもしれない…

 

『では行くぞ!!』

 

ラウラのかけ声で狙撃攻撃が開始する。

煙が巻き起こるのも関係なく狙撃を繰り返す…相手の動きに反応有り。

 

「皆!!広範囲攻撃来るよ!!」

『『『『『了解!!』』』』』

 

こちらが声をあげると同時に煙の中から多数のエネルギー弾が飛んでくる。

すべて見える…そして福音がどう動くかも!!

 

「セシリア!!そっちに向かう!!」

『私と鈴が応戦する!!』

 

戦い方はこうである。

まずは私がどこを狙いどう動くかのある程度の予測を常に口にする。

そしてそれの動きを邪魔する様に私たちの機体の中でも装甲が厚い鈴の甲龍と箒の紅椿で囲むようにヒットアンドウェイのように接近戦をおこなう。

相手が箒か鈴のほうを狙い出したら私と簪で攻撃をし注意をそらす。

ラウラは全体の指示を出しながら私たちと一緒に攻撃したりセシリアの防衛など遊撃手のような動きをする事になっている。

セシリアは基本狙撃を当てて随時削っていく感じだ。

セシリアいわく福音の動きの癖は覚えたらしく正確に狙えるのならば外すことなく当てる事は可能らしい。

しかしそれでも倒しきれるかどうかは微妙なところだ…

そんなときにまた福音から反応が来る。

 

「広範囲!!その後収束砲撃、狙いは簪!!警戒を!!」

『わかりました!!』

 

福音が大きく翼を広げ広範囲攻撃を開始する。

辺り一体に撒き広げるかのような光の雨が私たちを襲う、そしてその後機体の上の方に光が集まったかと思うととてつもない太さの光線を撃ち出す。

が、あらかじめくることがわかっていた簪は全力でその攻撃をかわし、攻撃が来ない事がわかるほかは集中攻撃をおこなう。

 

「セシリアに接近!!そのまま近接攻撃!!」

『了解しましたわ!!』

『私のほうで妨害する!!』

「狙い変更!!ラウラに多数エネルギー弾!!その後そのままセシリアを狙う!!」

『させないわよ!!』

 

福音は鈴の衝撃砲を喰らわない様にかわすがそこに狙ったかのように私が攻撃を入れる。

完全に福音の動きは読めている。

何か行動をおこなおうとするとそれがすべて邪魔している。

大きなダメージは与えてはいないがこのまま行けば削りきれるだろう……

そう考えながら随時変り続ける福音の行動を解説し続ける。

 

 

 

 

 

 

『広範囲!!その後箒!!そっちに向かう!!』

『ああ!!わかった!!』

「すごいですね…完全に福音を手玉にとってますよ…」

 

スクリーンに映し出された映像を見ながら山田先生が話す。

確かに現在は手玉に取れているだろう…

山田先生がそのままボソッと話す。

 

「……風音君のときにもコレができていれば…」

「だとしても教員たちの量産機じゃ広範囲攻撃すら数発で耐えきれんだろうよ……それに奏は…それでも一人で戦っただろう…」

「なぜですか?織斑先生。」

「……アイツは他人を基本的に頼らない。自身で何とかできる事であれば自分ひとりで解決する癖がある。どんな無茶をしてでもな……」

 

そう言ってスクリーンに目を移す。

この作戦は前提条件として福音のエネルギー弾を耐えられることが上げられる、教員の量産ISでは不可能だろう…

現在状況は数発の攻撃を喰らっても大きな攻撃は喰らわないように動けているし、それよりも多くの攻撃を当てる事に成功している。

ただしこちらが先に削りきることが出来なければそのまま教員に引き継がなければならない…

さらに言うならこの状況はデュノアが居ることで成り立っている…仮にデュノアが前線を離脱したとするのならば一気にこの状況は崩れるだろう。

 

「山田先生デュノアの残りエネルギーは?」

「はい、2/3ほどは残っています。」

「作戦どおり誰か落ちかけるかデュノアの残りエネルギーが1/4になったら撤退だ。」

「はい。」

 

出来るだけ早く落ちてほしいという気持ちをこめながら千冬はスクリーンをじっと見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘開始から5分ほどは経過しただろう…

一向に福音の動きは弱まるところを見せない。

ただ広域攻撃は減ったし先ほどから接近攻撃を主にしてくる。

次の狙いは……私か。

 

「私に接近!!その後…っ」

 

これはソウを落としたあの羽で包む攻撃か!!

全力で距離をとろうとするが簡単に追いつかれる。

 

『全員デュノアの防衛を!!』

 

織斑先生の声が聞こえるが…駄目だ…大きく羽を広げた…

 

『させるか!!』

 

その叫びと同時に箒を全力で私を押すようにして運ぶ。

羽で私をくるむ寸前に自分が羽の中に残るようにして私を押し出した。

目の前で光が強く発する。

 

「箒!!」

『シャルロット!!次の動きだ!!』

 

ラウラの声でハッとして動きを予測するが……

 

「は、判断できず!!今までに無い動きが来る!!」

『な!?』

 

今までに無い動き…羽から開放された箒が下に落ちていく…

何が来る…福音が下に向かう…

まさか!!

 

「皆福音を撃って!!箒にとどめをさすつもりだ!!」

『何ですって!!っ!!ふざけんじゃないわよ!!』

『させませんわよ!!』

 

全員で福音に攻撃をするがこれは当たらない!!すべて回避される!!

私は考える前に箒にまっすぐ飛び抱える。同時に福音の攻撃が来るだろうがパニッシャーを盾にする。攻撃予測…エネルギー弾多数!!

箒の盾になるようにしたが……かなりの攻撃を喰らってしまった。シールドユニットがいくつか砕けた。

 

「っ!!」

『箒ちゃん!!シャルロットさん!!』

 

簪の声を聞きながら下に落ちる…

丁度島に落ちたらしくはげしく体を打ち付ける。

衝撃はすごいが早く次の指示を出さなければ、そのまま福音を目に入れる。

 

「つぎ!!鈴に接近!!警戒!!」

『っ!わかったわ!!』

 

よかった…攻撃予測は間に合ったようだ…

エネルギー残量の確認…もう1/4をきっている。

 

「っ、つぎセシリア――」

『全員撤退だ、教員は前に出ろ。』

「しかし先生!!」

『早く戻って補給をおこなえ。反論は許さん。』

「了解…しました…」

 

撤退命令が出た…

落としきれなかったが…かなり削る事ができたと思う…

先生たちなら落とす事もできるかもしれない…

箒の方を見ると気を失っている…

 

「箒!!目を開けて!!」

「……シャルロットか…」

「ごめん私のせいで…」

「いや…アレは仕方ない…」

「うん…でもごめん…あと一時撤退だって…」

「っ!!…そうか…」

 

箒と共に撤退をおこなおうとした時、簪の声が聞こえる。

 

『箒ちゃん!!シャルロットさん!!危ない!!』

 

その声に反応してパニッシャーを展開して盾を張るが…

収束された砲撃で箒と共にはじけ飛ぶ

 

「きゃぁ!!」

『うわっ!!』

『早く逃げろ!!そちらに向かっているぞ!!』

 

ラウラの声がするが……いけない、狙いは箒で箒はかわしきれない……

そう判断をしボロボロのシールドユニットを盾に箒の前に立つ。

シールドで近接攻撃は防いだが…羽を広げている……

またあの攻撃が……せめて箒だけでも…と思い前に押しだろうとすると後方から高出力の荷電粒子砲が来る。

福音もそれを確認したらしく攻撃より回避を優先した。

 

『俺の仲間はやらせねぇ!!』

『『『『一夏!!』』』』

 

一夏の声が聞こえ箒もそちらを向く。

かなりの速度で近づく一夏…白式もどこか変っている。特に左腕の変化ははげしい。

箒に向かい合うようにして一夏が話しかける。

 

「大丈夫か!!」

「一夏?…っ!!体は?体は大丈夫なのか!?」

「ああ、もう大丈夫だ!!」

「良かった…一夏…本当に…」

「な、泣くなよ!?」

「泣いてない!!」

 

そう言いながらも箒の目は赤い。

このまま見ていたいが…しかし福音がまたこちらに来る。

 

「一夏!!福音は君を狙ってる!!」

「ああ!!任せろ!!」

 

そう言って一夏は福音に向かって飛んでいく。

 

『うぉぉぉぁぁぁぁぁあああああああ!!』

 

声をあげながら一夏は福音に突き進む。

攻撃を正確にかわしているがこちらの声は聞こえているようだ。

皆も一夏に声をかけながら援護をしている。

そんなときに再び織斑先生からの連絡がはいる。

 

『デュノア、篠ノ之。お前たちは早く撤退しろ。』

『し、しかし私はまだ!!』

『お前もエネルギーは残り少ない早く撤退しろ。』

 

一緒に戦えないのは悔しいが仕方ない。

箒もそう考えているのか何か考え込んでいる。

そして目を閉じしばらくすると体が金色に輝き始める。

 

「ほ、箒!?」

『な!?…エネルギーが!!』

『……先生!!コレで私も戦えます!!シャルロット!!手を!!』

「え?う、うん。」

 

そういわれて手をとるとエネルギーが一気に回復する。

一体何が起きたのだ!?

 

「箒!?これは一体!?」

『紅椿の単一仕様能力、絢爛舞踏だ。エネルギー増幅能力がある。』

「そ、そんなのいつの間に!?」

『今できるようになった。』

 

なんというめちゃくちゃだろうか……

だがコレで戦える。

 

「織斑先生!!」

『……わかった。作戦の続行を許可しよう。』

「ありがとうございます!!」

『行こうシャルロット!!』

「うん!!」

 

そのまま二人で飛び立ち戦いに参戦するのだった。

 

「セシリア、鈴、ラウラ、簪は箒のほうに!!エネルギー回復が出来るから!!」

『な!?何が起きたんですか!?』

「詳しい説明は後!!福音!!狙いは…ラウラ!!」

『俺が入る!!』

「狙い変更一夏!!…でも距離をとろうとしてる!!今のうちに全員補給を。」

『『『『了解!!』』』』

 

箒の絢爛舞踏のおかげで戦場は一気にこっちに傾いただろう…

でも相手がいつ落ちるのかはこっちもわからない…

 

『全員エネルギー回復終わりましたわ!!』

『箒!!嫁の近くに!!嫁と積極的に接触して頻繁に回復を!!』

『ああ!!』

『残りの全員福音の動き阻害して気をそらせ!一夏の零落白夜で一気に決めるぞ!!』

『わかったわ。』

『了解しました。』

『シャルロット!!このまま動きの予測を!!』

『わかった!!』

 

ラウラの声で全員で囲むように動く、このまま行けば落とせる…

そんな時福音が羽を広げる…

 

「広範囲…違う!!何か来る!!」

『何かって!?』

「ふめ――なっ!!」

 

羽を広げたかと思うと一気に加速をして私のほうに接近する。

コレが福音の瞬間加速か…しまった…この距離じゃ誰も止められない…

シールドユニットとパニッシャーを盾にするが再び羽に包まれ全方位攻撃を喰らう。

シールドエネルギーが一気に削れシールドユニットもボロボロだ…

皆こっちに近づいているが……福音のクローのほうが早いし、射線が重ねられているため今何か撃たれたらかわされて私に当たるだろう…

 

「みんな…ごめん……」

『シャル!!』

『『『シャルロット!!』』』

『『シャルロットさん!!』』

 

叫んでるけど無理だろうな…

福音のクローはもう私に当たりそうになっている。

スローモーションのように辺りはゆっくりと流れている……

これは多分耐え切れないか…目をつぶって身構える。

結局私は落ちちゃったか…

でも結構私がんばったよね…終わったらほめてくれるかなソウ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何がごめんだ、バ~カ。』

「え?」

 

私に爪が当たる寸前。弾丸が当たる音と遅れて聞こえてくる銃声。

数十発の弾丸が正確に福音の爪を弾きさらに全身にくまなく弾丸が当たる。

一発も外れる事のない正確な銃弾を喰らい福音は私から距離をとる。

そんな事より今の声。レーダーには反応なし…でも確かに居る。

銃弾の来た方向を見るとISでようやく確認できるような距離に確かに居る…

ISを装備しているようには見えないが(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)…銃を右手に構えたソウが昇ってきた朝日を背にして宙に浮かんで居た。

 

『悪いシャルロット寝坊したわ。』

「……本当にソウ?」

『多分本物。』

「……怪我は無い?」

『ほぼ半日近く泳いでて体力がヤバイ…ねぇまだ寝てて良い?』

「………」

『な、なんか言えよ……とりあえず……ただいま。』

 

そう言ってソウは多分笑っていた。

ソウは無事だった、確かに帰ってきたのだ。

 

 

 

 

 

お前が今から相手するのはただのガンマン。

そしてお前はそのただのガンマンの前にひれ伏す…それだけだ。

                          ~ヴァッシュ・ザ・スタンピード~




生きてました(テヘペロッ!!)
しかも謎の装備をしています。
あと今日感想を返せないと思いますが…ご了承ください。


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第六十六話 最終楽章

時間を俺が落ちたところまで戻そう。

俺が福音の羽に包まれた時…

俺はパニッシャーをおろすようにして構えた(・・・)

幸か不幸かパニッシャーは破損し重さがかなり減っている、コレなら!!

全方位からエネルギー弾が飛んでくるが1/3は叩き落とした。

がやはりここでISは限界だった、そのまま海に墜落、壊れたISを身につけたまま落ちる。

追撃が来る!!と警戒するが動きは無い海から顔を出して見てみると福音は自身を光の球体に包み回復をおこなってるように見えた。

 

「………ラッキー?ってコレってもしかして今攻めれば落とせるんじゃ!?……って危険の方が多いか……」

 

と考えながらとりあえずこの場を離れる事にするが……

 

「あれ?……俺ってどっちから来たっけ?」

 

まさかの迷子である。この大海原で……

どう考えてもヤバイ。

せめて陸を探さなければ……

というか…

 

「俺…完全に潮に流されてるよな……」

 

先ほどと比べ福音からかなり距離が離れた。

潮の流れも速いようだ。

 

「……よし、まずは福音から離れて通信を入れよう。うん、ポジティブに行こう。」

 

そう考え俺は波に身を任せて海に漂うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「海を…なめていた…」

 

しばらくゆったりと流されている…と考えていたがかなり潮の流れは速かったようだ。

そしてさらに悲しい事に……ISがうんともすんとも反応しない…

完全に壊れたか?……ヤバイな。

いまさらだがこれは…詰んでるな。

辺りに陸地は見えないしさらに言うと太陽も傾き始めている……

そして傾いているほうに流れているという事は今流されているのは西に向かってなのか……おい、完全に太平洋の沿岸に流されてるじゃねえか!!

 

「……よし、陸を探そう。後何かつかまれるものを探そう。」

 

そう考え俺は太陽に背を向けて泳ぎ始めた。

体にはボロボロでほとんどついていないとはいてIS(重り)がついている。

あまり動かない方がいいんだろうけど…仕方ないか。

…救助は多分こないだろうし自業自得な所もあるんだ、自分のケツくらい自分でふこう。

あまり深く考えずに泳ぎ始めたのだった。

これが2時間前の話だ。

現在俺は完全にばてていた。

潮に逆らって泳ぐのがこれほどつらいとは……しかもすすんでるのか流されてるのかもわからん。

現在地も不明…日は沈んでないが…これはきついなぁ…

 

「せめて…陸地、いや岩でも良い…」

 

そう考えさらに泳ぐ。

そしてさらに数時間後。

最早日も沈みかけ辺りが薄暗くなってきた。

水平線に沈む夕日……こんな状況じゃなければじっくり見たいのだが……そんな事を言っている場合じゃない。

せめて、せめて何かつかまるところを…

そう考え辺りを探すと…

 

「………あれは……島!!」

 

確かにあれは何かの島だろう。

この際離れていようと近かろうと島自体が大きかろうと小さかろうと関係ない。

その島に向かい泳ぎ続けた。

完全に辺りが暗くなった時にようやく俺は島というより…岩山にたどり着いた。

 

「うぇ……後は…もう海はいいや…一生分は泳いだ。」

 

と誰も居ないところで独り言を話す。

体にはボロボロのIS、これをはずす訳にもいかないから余計に疲れた。

……ISは未だに反応は無い……星を見て現在地がわかるようなスキルもないし……

少しこのまま休もう…その後の事はその後に考えよう…

流石に……つかれ……

俺はここで意識を失い……あの白い空間に行く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「よく考えなさい、時間はまだまだあるでしょう。」」

 

そういわれた瞬間に思い出す………シャルロットとの約束…

 

「おい。俺が居なくなった後向こうの世界はどうなる。」

「「そのままです、あなたがつけた傷跡もあなたが守ったものもそのままです。」」

「そうかい。」

 

という事はアイツは確実に俺を待ち続けるだろう…

でも俺がそのためにまたあんなのと命がけで戦わなきゃいけないのか?

………違う、戦う事を選んだのも、巻き込まれることを選んだのも、何よりヴァッシュ()を目指すと決めたのもすべて俺だ。

戦わずに逃げても良かったのだ。問題もすべて無視して自分のやりたいようにしても良かったんだ。

 

何よりヴァッシュを目指すなんて……無理だったんだ初めから。

彼は特別だ…【でも彼だって逃げる事は出来た】

彼は不死身だ…【そんなはずは無い】

 

…結局俺が今考えているのは理由をつけて逃げる方法を考えているだけだ……

俺がヴァッシュにはなれないという理由を見つけて逃げようとしてるだけ……

だがそれの何が悪い!!

無理だったんだ、初めから俺には!!

ヴァッシュだったらセシリアと鈴のときもうまくまとめただろう。

ラウラのときは発動させる事も無く危ない橋を渡らせることもなかっただろう。

シャルロットの時だって……

そういや一回似たようなこと考え――

 

『今のままのソウでもいろんな人を助けてるし、違うって言ってもしっかりと助ける事ができれば同じじゃなくてもいいんじゃないかな…』

 

………こういわれてたな…

ヴァッシュになれなくてもいい…か…

確かに助けられる側からしたら関係ないことなんだろうな…

でもやる側としたら目指したい…なんだ、コレも俺のただの我侭か…

アイツにとったら俺はヒーローで…大切な存在か…

アイツ俺が居なくなったら……どうなるんだろ…

怒るだけならいいけど…ああ、泣き顔しか思い浮かばない。

絶対にアイツ泣き喚くだろうな…

一夏や箒、セシリア、鈴、ラウラ。

それに千冬さんはどう反応するだろうか…

なんだ…俺あの世界に未練たらたらじゃないか…

じゃあ最後まで我侭を通して演じきってやろう。

それに目指している途中で諦めるのも格好付かないし何より……言い訳してる時点で何か心残りがあるんだろうよ。

こんな時頭で考えたってよくはならない、感情に従おう。

俺はさっきからまったく元の世界について考えてない、考えようともしてない。

ただ自分に言い訳してあの世界から逃げようとしているだけだ。

言い訳して逃げるだけなんて、コレじゃあ格好悪るすぎだろうが。

 

「……俺の元いた世界の扉はどっちだ?」

「「…あなたが開いた扉があなたの行きたい世界の扉。」」

「そうかい。じゃあどっちでも関係ないのか。」

「「ハイ、そのとおり。」」

 

俺は目の前にある扉に向かいその扉を開く。

扉からは光があふれている。

そして横に居る吟遊詩人に一言。

 

「後で絶対ぶん殴ってやるからな!!」

「「ではよき旅を。いざISの世界へ。」」

 

そう言って二人で頭をこちらに下げる。

あ~あ、普通に考えれば馬鹿な行動してるよなぁ…

ただ後悔だけはしたくない、今度はヴァッシュになるんじゃなくて……しっかりと目指そう。

俺は俺として人を助けよう。

少し当初の目標とはかけ離れるが…それでもあの英雄(ヴァッシュ)なら笑って許してくれるだろう。

そう考えて扉に入りドアを閉める。

 

 

 

 

 

 

 

二人の詩人と二つの扉だけが残った世界。

扉はそのまま残ったが…詩人は二人で向かい合う。

 

「彼の選択に祝福を。」

「彼の決断に未来あれ。」

「「英雄を目指す(たび)は終わらない。」」

 

そう言って二人でまた歌を歌う。

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けて中に入った瞬間の目が覚める。

……夢か…いや、こっちの方が夢なのかもな…

まぁそんな事今は関係ない。

辺りを見回すと完全に暗くなってるし…月も綺麗に浮かんでら。

岩山の上で寝たって言うのに体は結構軽いな…

ISの調子は……完全に治ってる!?

…………深く考えないでおこう。

さて展開して連絡をとるか…

と考えサングラスをかけ待機状態のISを展開すると……さらに頭が痛くなる。

よく考えろ、今何気なく待機状態になってるって思ったが……

このISは試作機で待機状態は無い(・・・・・・・・・・・・・・・・)

倒れる瞬間までボロボロのものを身につけていたはずだ。

さらに言えば……形が完全に変っている。

これは最早……ただのヴァッシュのコートだ…

大きさも俺の身長とほとんど変ってない…って言うか変ってない。

ある意味ヴァッシュのコスプレをしている感じだ。

え?これ…どうするの?

っていうか展開した時も光に包まれて~って感じじゃなくて俺がなんかドロっとしたものに包まれてこの形になったって感じなんだけど……

しかもこのドロっとした感覚…一回どっかで………

あ、VTシステムのあのドロだ。

アレも確かこんな感じだった…

いや、これ本当に大丈夫なの?暴走とかしてるわけじゃないの?

そんな事より通信を……遠方で何か光った。

緑みがかった白い光…銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)で間違いない。

という事は今みんなが戦ってるのか…

……動けるか?そう思いいつもと同じように飛ぼうとするとかなり早く飛べる。

スラスターは…無いが全力で飛んでみよう。っていうか動きやすいな。

普通のISはなんというか…無理やり俺が機械を力ずくで動かしてるって感じだけど…

これは邪魔するものが無いって感じだ!!……まぁコートだしね。

これではある意味空飛ぶコートだ。

遠方の光がもっと輝きを増していく、急がねば。

そう考えると先ほどよりも早く飛ぶ事ができる、これは……颶風の全速力は出てるんじゃないか?スラスター無いのに。おっさん涙目だな……いろんな意味でこの後の事を考えれば俺も泣きそう。

武装の方は……拳銃が一丁にマシンガンが一丁…流石にパニッシャーはないか。

試しに両方出してみる、やはりというか…ヴァッシュのリボルバーと仕込みマシンガンだ。

ただ問題は…サイズちっちゃ!?え?これ本当にISに効くの!?

絶対豆鉄砲みたいなもんだよね?これ。

うわぁ……これ参加するのやめたほうがいいかも。

と考えながら飛ぶが結構近くに行った時にはげしい光がした後コアネットワークに声が入る。

 

『皆…ごめん…』

 

シャルロットの声、さらにみんなの悲鳴……

間に合え!!そう考え狙いをつけ銃を撃つ…

普通に考えれば距離も遠いし弾速が遅すぎて当たるはずがない…が銃弾は俺にすら見えないレベルのスピードで飛ぶ。これなら!!

 

『何がごめんだ、バ~カ。』

「え?」

 

連続で撃ちつづけると6発で弾切れでは無いようだった。

福音が弾けるように吹き飛ぶ。

結構威力あるなぁ…って言うか何これ!?

弾速早すぎ!!これタイミング掴まないと難しいいな……

とりあえず一気に静まったこの空間を何とかしよう。

 

「悪いシャルロット寝坊したわ。」

『……本当にソウ?』

「多分本物。」

『……怪我は無い?』

「ほぼ半日近く泳いでて体力がヤバイ…ねぇまだ寝てて良い?」

 

いつもどうりの軽口を叩く。

他のやつらも唖然としている。

って言うかシャルロットの反応がない。

 

『……』

「な、なんか言えよ……とりあえず……ただいま。」

 

そう笑いかけながら言うとシャルロットがこちらに向かって飛んでくる。

しかしその後ろからは福音が来ている。

シャルロットに銃を向け福音だけ撃ち落す。

狙ったところに正確に飛ぶ、だがリボルバーとしての機能がまったく動いてない…

やっぱりこの銃…

異常だな……いや、ここまでくると怖いわ…

だが使えるものは使わなければ。

他のやつらもこちらに通信を入れてくる。

 

『奏!!お前…本当に良かった…』

「おう、一夏お待たせ。後一発殴らせろ。」

『あんたもよ奏!!勝手に落ちたりして…』

「不可抗力なんで無罪を主張します。」

『本当に…奏さんなんですか!?』

「実は別人か双子の兄弟かもよ?…冗談だからね!?」

 

そう言いながら俺もシャルロットの元に行く、福音は空気を読まず俺の方に向かってくる。

…って言うかこんな状況で感動の再会なんてやってる方が悪いわな。

だが銃を向けさらに何十発と撃ち込み福音を弾き飛ばす。

 

『奏兄……怪我は!?』

「あ~とりあえず泳ぎすぎて体が痛いってくらい?いやぁ~海なめてました。もう一生分は泳いだ気分。」

『本当に…本当に良かった…』

「あ~もう簪ちゃんも泣かないで。まだ終わってないからね?」

 

こちらが会話をしている最中にも福音は俺を集中的に狙う。

福音の広範囲攻撃……ためしにやってみるか。

こちらに向かってくるエネルギー弾に撃ちこんで見るとかき消した。

……対エネルギー弾用実弾?……深く考えるのは今はやめよう。

 

『奏…私のせいで…』

「ああ~もう箒のせいじゃないからさ!!うじうじするのは後!!あと皆戦闘に集中!!」

『……風音…その機体は…そんな事より戦えるのか?』

「あ、千冬さん!!ただいま帰りました!!天国はどんなところかのおみあげ話聞きます?」

『……ガザネ゛グ~ン゛良かった…』

「ああもう山田先生まで……」

 

そんな風に笑いながら通信に答えているとシャルロットにようやく近づく。

シャルロットは顔を伏せぎみに近くで止まる。

本来なら戦闘中だと注意したいのだが…

機体はボロボロ、シールドユニットらしいものは砕け、さらに顔中ドロだらけだ。

本当にがんばったんだな…

 

「あ~……シャルロット、とりあえず今は一言だけで勘弁してくれ。」

「……」

 

言葉無くうなずくシャルロット。

 

「よくがんばった。それと約束どおり帰ってきたぞ?」

「……」

 

反応は無い…え?どうすりゃいいの?

ここで回りに意見を聞いたらやばい気しかしないから強制的に切り上げよう。

 

「とりあえず積もる話をするために福音を落とそうか!!」

「……うん…」

 

あ、こいつ感極まって言葉が出てないだけだ…

うわぁ…一人でこのタイミングで告白するべきか悩んでた俺が馬鹿みたいっていうか…まぁいいや。

とりあえず福音を落とそう。俺は今までのふざけた感情を一時的にすべて追い出す。

感覚を戦いに集中させろ…

戦い方は……やっぱりヴァッシュの戦い方だな。

むしろ俺はそれしか知らない。

 

「全員エネルギーは!?」

『箒の単一仕様能力で全員回復済みだ!!』

「わかった!!とりあえず一夏、お前が決めろ!!全員動きを止めるぞ!!」

『『『『『『『了解!!』』』』』』』

 

そう言って全員囲むように動く中俺と箒は福音に突撃する。

箒が斬りかかろうとした瞬間に福音が羽のエネルギー弾を撃ちだろうとする。

 

『っ!!』

「箒!!関係ない!!突っ込め!!」

『!?ああ!!』

 

放出される瞬間のそれをすべて撃ち貫くき、さらにクローも弾き飛ばす。

福音も何が起きたのか理解できずにそのまま箒の斬撃が直撃する。

逃げるように動くそれを全員で袋たたきにしさらに追い込む。

途中何度もエネルギー弾を撃ちだすが……

撃ち落とせるのならば怖くない。両手の銃ですべて撃ち落す。

 

『……奏!!動きを止めれるか!?』

「余裕!!」

『ソウ!!ソウをねらって羽で包むアレが来る!!』

「へぇ…」

 

そう言ってあえてそれにつかまる。

これに俺は落とされたんだ…リベンジしようじゃないか!!

全方位からの砲撃、それを全力で受け止める、否撃ち落す。

撃ち砕かれたのはエネルギー弾だけではなくその後ろの翼まで穴だらけである。

綺麗な球体をかたどっていたであろう翼が引き裂かれるように解除される。

その中から銃を両手に展開した状態で無傷で福音を撃ち動きを止める。

結果福音の特徴的なエネルギーの翼も穴だらけである。

 

『………なんてめちゃくちゃなの…』

『出鱈目ですわ…』

「いまだ一夏!!」

『ああ!!』

 

唖然とする二人の声は気にせずに一夏に声をあげる。

一夏は既に全速力で突撃しており左手からはブレードが展開されている。

 

『これで……しずめぇぇぇぇえええええええ!!』

 

そのまま突撃する一夏…そして福音と共にそのまま島に突っ込む…

福音にしばらくブレードを押し付けると福音の動きが止まる。

そこで一夏もブレードを離し距離をとる。

しばらく誰も言葉を発していなかったが千冬さんからの通信が全員に入る。

 

『現在時刻をもって…銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の撃墜を確認。作戦は終了だ。全員よくやった、帰還せよ。』

『『『やったぁ!!』』』

『了解、帰還します。』

「っしゃ!!ゆっくり寝れる!!」

『そこかよ!?』

『………ソウ…』

 

声がして後ろを向くとシャルロットがそこに居た。

……あ~帰ってから…って言いたいが仕方ないか。

俺はため息を付いて簪を呼ぶ。

 

「簪ちゃ~ん、この銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のパイロットさん頼んで良い?俺シャルロットの相手してから帰るからさ。」

『わかりました。』

『……奏、逃げるんじゃないわよ!?』

「鈴…僕がそんな奴に見えるか?」

『一度逃げてるじゃないですか?』

「いや、セシリア、あれはだな一応俺なりに考えがあって――」

『クラリッサはそういう奴は最低の男だと言っていたぞ、確か……玉無しだったか?』

「よし、ラウラ。一回お兄ちゃんとそのクラリッサって人と会話させなさい、言いたい事ができたわ。」

 

そいつが絶対俺の事を兄と呼ぶように仕立て上げたに違いない。

って事は言いたい事は山ほどあるな。

などとふざけた事を考えていると千冬さんの声が飛ぶ。

 

『お前らいいから早く帰還しろ!!……後奏とシャルロットはしばらくそこの空域の警備をしろ。不審なものがあったらすぐに連絡しろ。』

「……千冬さんまで…」

『奏……がんばれよ。』

「よし、一夏、お前が帰る前に先に一発殴っておくか。おい、逃げるな一夏!!オイ!!」

 

俺が吼えてる間にもあいつらは去っていく。

はぁ……あいつら何やってるの?って言うかいつの間に千冬さんを味方につけていたんだ?シャルロット(こいつ)は……

さてまず何から話すか…と考えているとシャルロットが先に話す。

 

「……体…本当に……大丈夫?」

「うん?……あ~あ、あの落ちたときの最後の攻撃もほとんど塞いでたしね、ただISが逝っちゃって…今まで連絡できなくてすまなかった。」

「……なんで…あんな無茶したの……」

「……よし、一旦どっかの島に行こう。このままだと野次馬がうるさくて話づらい。スウゥ……聞 い て る ん だ ろ ! ? お 前 ら ! !」

『い、いや、俺は!?』

『『『『『『一夏!!!!』』』』』』

 

最後に思いっきり大声を上げると馬鹿1匹発見。

しかしおかげで逃げる口実を手に入れたが…

今の声に山田先生の声も聞こえたような……き、気のせいだろう。

とりあえず適当な島に向かって俺とシャルロットは飛んだ。

 

 

 

 

幸福というものは、一人では決して味わえないものです。

                                ~アルブーゾー~

 




ということで颶風は……ほとんど戦闘シーンも無く逝ってしまいました。
新しいIS(?)についての解説はまた今度!!
見た目は正直単なるヴァッシュのコスプレです(笑)
『トライガンマキシマム』のヴァッシュの最後のコートをイメージしてもらえれば。
ではまた明日!!


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第六十七話 杜鵑草

適当な島に到着する。

三日月状の小さな砂浜、その周りは崖で囲まれるようになっている島だ。

砂浜に着陸するとISを解く。

と言っても俺のISはほぼコートなんだよなぁ……

これそのまま展開してても大丈夫じゃないか?

とふざけた事を考えながら歩く。

砂浜にそのまま座る。

これなら野次馬どもに聞かれる心配は無いだろう。

流石に千冬さんもそのためにわざわざISをつかわせまい。

シャルロットも俺と同じようにISを解除する。

そして俺の右隣に座ると小さくなるように自身の膝を抱え座る。

そのまましばらく海を見ていたが何も言われないのでこちらから話しかける。

 

「あ~……疲れた…」

「………」

「えっと…シャルロット、お前俺のメッセージ聞いた?あの落とされた時の。」

「……うん…」

「俺はあの後あの攻撃を防いで、そしたらISが止まって海に落ちて……しばらく海を漂ってひたすらに泳いで岩山の上で休んでました。」

「………」

「……そんな状況でも俺はこのとおり無事だ。」

「………」

「あ~……だから泣くな、あの程度だったら俺は無事だ。帰ってくるからさ。」

 

シャルロットはさっきから声もあげずに泣いていたのだ。

戦闘中も泣き続けていたんだろう、既に顔はぐしゃぐしゃだ。

戦いが終わった後ずっとこの調子である。もうこちらの調子も狂いっぱなしだ。

 

「じゃあ…終わりみたいに…変な事言わないでよ…」

「いや!?単にほっといたらお前らが突っ込みそうだったからな!?」

「……本当に…あのまま死んじゃったのかと…」

「あ~…それは悪かったけど約束は守るだろ?俺。」

「…まだ守ってもらってない方が多い…」

 

む、…確かにそのとおりだ。

何だかんだ言ってシャルロットの事を後回しにしてしまっている。

未だにシャルロットのすすり泣くような声が聞こえてくる。

凄まじい罪悪感がする…

 

「だからさ、約束は守るために必ず帰ってくるよ。」

「……それも…約束して…絶対私の所に帰ってくるって…」

「了解しましたよ…そうだ指きりでもするか?」

「………する…」

 

そう言って左手をこちらに向けその中でもさらに小指だけをこちらに向ける。

この年になって指切りををする事になるとは…まぁいいか。

苦笑いをしながら『ゆびきりげんまん』と歌いながらシャルロットと指切りをする。

 

「指切った、っと。これで絶対に帰ってくると信じていただけたでしょうか?」

「………うん…」

「まず今すぐ泣き止めとは言わないからちょっとづつ落ち着け、なぁ?」

「うん…」

 

そう言ってシャルロットがこちらにそのまま左手を伸ばして俺の右手を握る。

まぁ握るくらいい良いか…

しばらく何をするわけでもなくボーっと手を握ったまま海を見る。

朝日が昇って綺麗だなぁ…こんな時じゃなければこれも話に使えたんだが……

シャルロットの手を握り、顔を見ずに話をする。

 

「しかしお前は本当に良くがんばったよ。」

「……ソウみたいには出来なかった…」

「いや、俺よりすごいよ。本気で。」

「……私、怖くて…逃げ出したくて…」

 

と言って俺の手を握る力を強くするシャルロット。

その握る手を感じながら俺は話す。

 

「でも逃げなかったしみんなを助け続けたんじゃないか?あの機体にシールドユニット、他の機体の状況を見る限りの想像だけどな。」

「……うん…」

「俺なんて守りきれなくて一人で戦わざるを得なかったんだ。それにみんなのことを足手まとい扱いだぜ?それで落とされてるし。」

「………でも私たちはソウの情報のおかげで…」

「それが無くてもお前たちは勝てたさ、それは俺が保障するよ。」

 

実際に俺が居なくても福音を倒す事は出来ただろう、実際はそういう流れなのだ。

だがその本来の流れ以上のがんばりをこいつはしたんだろう。

 

「でも…ソウのほうが強いよ?多分みんなより…」

「いや、皆俺より全然強いよ。今は俺のほうが力では強いけど既に心の強さではみんなに負けてるよ。そのうち力でも追い越されるさ。」

「え…そんな?でも……織斑先生だって奏の強いところは心だって言ってたよ?」

「違うよ、それは千冬さんの勘違いだ。俺は本当はすごい臆病者なんだよ。」

 

俺は苦笑いをする。

そうか…千冬さんはそう言ってたのか…

過大評価もいいところだ。俺はそんなに強い人間じゃない。

 

「俺はな…どんな時でも何かにおびえているような弱虫なんだよ。弱音を吐ことすら怖がって…戦闘中の軽口も自分を強く見せ落ち着かせるための強がり……それが俺なんだ。こんな弱音を吐いたのはお前が初めてだよ。」

「……そうなんだ…でもやっぱりソウは強いよ。どんなに怖くても逃げないで向かって行って…どんな時でも笑ってる…」

「そうでもしないと怖くて怖くて…自身の恐怖心でつぶれちゃいそうなんだよ。」

「……じゃあ私の前ではそんなことしなくてもいいよ?」

 

そういわれて一瞬言葉に詰まる…

こいつの前で…いや人の前でここまで本音をさらけ出したのは初めてだった。

そして…そんな事をしない自分か…考えてあることに気がつき苦笑する。

 

「あ~無理だな…」

「……私じゃ駄目?」

「いや…結構前からお前の前で普段、愛想笑いすらしてなかったわ…結構前から素だった…」

「……そっか…そうだったんだ…」

 

と言ってうれしそうに笑うシャルロット。

とりあえず…泣きやませれたかな?

そう考えながらも俺も幾分か気が楽になった。シャルロットが笑ったせいか…この世界ではじめて弱音を自分の意思で吐き出したからだろうか……

 

「ねぇソウ……ひとつわがまま言っていい?」

「……よし、何でもこい…」

「そんなに気構え無くてもいいよ…私のこと好き?」

「ああ。」

「……口に出してもらっていい?」

「………一回しか言わないぞ?」

「うん、それでいい。」

 

そういわれた後、いざ言うとなると恥ずかしくなるな…

確かに今まではあえて言わないように心がけていた…

だが覚悟は決まった。俺はこっちの世界でも俺として生きよう。

夢だから、俺はこの世界の住民じゃないからと言い訳するのはもう止めだ。

それと…確かに俺はこれからもヴァッシュを目指す。だがヴァッシュには絶対になれ無いんだ。

だから目標にするだけで…目指しながら生きるだけだ。

そしてシャルロットに答えないままにしておくのもあまりにも不義理だ。

俺は一度ため息を付いた後に言葉を吐く。

この初々しい緊張は体に年齢が引っ張られてるからだという事にしておこう。

 

「……愛してる。俺と付き合ってください。」

「……え?…今なんて?」

「一度しか言わないって言っただろ、ハイおしまい。」

「ちょ、ちょっとソウ!!」

「おしまいなのはおしまいだ。」

「約束は――」

「駄目だったか?それともそっちの方が良かったか?」

「……その言い方はずるいよ。ううん、うれしい。」

 

そう言って顔を緩ませるシャルロット。

それを見ると俺自身顔が赤くなっている自覚がある。

座った姿勢から手を握ったまま横になる。

 

「悪い、ちょっと寝る。流石に疲れた。」

「え?警備は?」

「初めからそんなのいらないでしょ。それに多分そのうち迎えが来るだろうよ。」

「……私も眠ろうかな。安心したら眠くなってきた…」

「ああ寝よ寝よ。」

 

そう言って二人で浜辺に横になる。

結果的に俺とシャルロットはぐっすりと昼間まで寝ており、浜辺で手をつないだまま寝息を立てているのを迎えに来た先生方に見られあきれられる事になった。

 

 

 

 

 

恐らくバスの時間なんだろうと思い戻ったが学園側の計らいでもう一泊できる事になったらしい。

確かにゆっくり休みたかったから丁度いいな…と思っていたところだ。

俺のISは一度おっさんに回収された。

俺の全力に耐えられるISらしきものの秘密を探るらしい。

おかげで俺はゆっくりと休む事ができる……

 

「ああ…いい天気だな…」

「おい…奏…」

「青い空、白い雲、目の前には大海原!!」

「お~い、かえって来~い。」

「そしてなぜか埋められている二人!!」

「あ、そこは自覚あったんだ…」

「なぜだ!!」

「それは俺も聞きたい。」

 

だがしかし現在俺と一夏は砂浜に顔だけ出して埋められていた。

二人の距離感は2mほど離れており…互いに協力して逃げ出すのは難しいだろう。

二人で埋まっていると俺と一夏を埋めた犯人である鈴、セシリア、ラウラが近くにいる。

ラウラは小さなバケツを持っているが…なんなんだ?

鈴がいたずら成功と言った顔をしながら笑っている。

 

「一夏、あんた今まで昏睡状態だって言うのに今日を遊ぼうだなんて無茶だと思わない?」

「いや、検査結果問題なかったし、第一埋めるのもひどくないか?」

「じゃあ僕はゆっくり部屋で休みたいんで解放していただきたいんですが…」

「いいえ!!奏さんもこのくらいの罰は必要ですわ!!」

 

というセシリア、心なしかっていうか確実に楽しそうだ。

いい顔してるな…俺が笑顔で言い返す。

 

「…せめて罪状くらい教えてくれない?」

「私たちを無駄に悲しませた罰だ。嫁も奏兄もしばらくそうしていろ。」

「………まぁ仕方ないか…そういやシャルロットと箒、簪は?」

「ああ、あの子達なら今来ると思うわよ。」

 

と鈴が言うとシャルロットと簪が箒を引っ張ってくる。

 

「お待たせ!!……なんでソウと一夏は埋まってるの?」

「いや~、鈴にビンタされるか埋められるか選べって言われて仕方なく…」

「俺は問答無用で埋められた。」

「そ、そうなんだ…あ、ねぇ一夏!!見てみて!!」

「すごいんですよ!!箒ちゃん!!」

「しゃ、シャルロット!!簪!!ちょっと待て!!」

 

そう言って一夏の前に引っ張り出され、あわてる箒。

へぇ…真っ白なビキニか…普段と違った感じですごくいいとは思うが…この朴念仁には…

何!?顔を赤くしているだと!?

お前!!この状況でそんな事をしたら!!

 

「へぇ…一夏…あんた私たちの時にはそんな顔しなかったのに箒の時にはするんだ…」

「これは…流石に面白くありませんね…」

「…嫁の浮気は許せないな…」

「待て、いや、とめるわけじゃないけどせめて僕の事は解放しろ。」

「お、おい!!奏!!逃げるきか!!」

「うん。」

「クソ!!正直に言いやがって!!」

 

じたばたと首を動かし逃げようとする一夏…しかし逃げる事は難しいだろう。

おとなしく罰を受けろ一夏、何をされるかは知らないけど。

そしてラウラが何かやっている。

バケツから…おい、まさか…

やはり小さな蟹を取り出した。

一夏が青くなりながらラウラに言葉をかける。

 

「あの?ラウラさん?え!?それまさか…」

「安心しろ、今すぐ非を認めて…鈴が許したら私も許す。」

「私はセシリアが許したら。」

「わたくしはラウラさんが許したら許しますわ。」

「ひ、ひでぇ……」

 

思わず口に出してしまう。

なんという脅しだ…これではただ単に許しを乞い、全員に救いを求める以外方法は無いではないか…

神よ、あなたは今どこにいるのですか!?いるのならばなぜこのような仕打ちを!!一夏はともかく俺の事は助けてください!!

そしてラウラにやりと笑いながらは蟹を一夏の正面に置く!!

そのまま蟹と一夏は正面で向き合う……

……え?正面?…蟹って横歩きだよ?それじゃ下手したら…

 

「「「「「あっ」」」」」

「うん?…あっ」

 

とラウラが気が付いた時には蟹は横に動き始めた……もちろん俺の方にだ。

 

「おぃぃぃいいいいい!!」

「よっしゃぁぁぁぁあ!!」

 

俺と一夏が叫びをあげると蟹は俺の方に向かってスピードを上げる。

ちょっと待て!!俺いきなりこの扱い!?

オイ!!一夏!!蟹に息を吹きかけてこちらに押すな!!

 

「オイ!!一夏!!やめろ!!」

「フゥーーー!!フゥーーー!!」

「オイ!!だからやめろって!!」

 

周りに視線を送り助けを求めても……こいつら笑ってやがる…

まるで

『ラウラのおっちょこちょい♪』

『いやぁ…すまんな♪』

『『ワッハッハ』』

と言った感じである…お、鬼だ…鬼しか居ない。

ヒーヒー言いながら鈴が話かける。

 

「じゃあ、奏!!シャルロットの告白に対する答えを言ったら助けてあげるわよ?」

「いや、もう言ったから!!」

「「「「「「…え?」」」」」」

「いや、だからもう答えはシャルロットに返した。だから蟹とめて!!」

「!あ、ああ。」

 

そう言って驚きながらも蟹をバケツに回収するラウラ。

ハァ…とため息をつきながらシャルロットを見るとうれしそうにニコニコしている。

そんなにみんなの前で俺に言われるのがうれしいんですかい……

そしてシャルロット以外の全員は唖然として俺を見ている。

 

「え?…奏さん…本当ですか?」

「ああ、ちゃんと返したよ。簪ちゃん。」

「…え?いつ…」

「今朝。あの千冬さんの偵察任務中。」

「……うそ言ってるんじゃないでしょうね?って言うかどう返したのよ。」

「シャルロットの顔見ればわかるんじゃない?」

 

そういうと一斉に皆シャルロットの顔を見る。

シャルロットは完全に幸せそうな顔をしてエヘヘ…と夢心地だ…アホな顔してるなぁ…

一夏が俺に声をかける。

 

「え~っと……おめでとう…?」

「ああ、ありがとう。」

「「「「「…ええええええええええ!!」」」」」

 

と一斉に声をあげる女性陣。

流石に周囲も気が付くな…先に釘をうっておこう。

 

「ああ、いろいろ問題があるからみんなには内緒ね?」

「は、はい……」

「いや!?何であんたそんな平然としてるのよ!?」

「?君たちに隠した方がよかった?」

「い、いえ!?ですが恥じらいというものが!!」

「別に恥ずかしい事でもないでしょ?何か恥じ入る必要があるわけでもないし。」

「じゃ、じゃあ何で私たちに言わなかったんだ!?」

「聞かれなかったから。」

「うわ……お前らしいな…」

「シャルロット…おめでとう。」

「エヘヘヘ…ありがとう箒。」

 

幸せいっぱいのシャルロットとそれをうらやましそうに見る箒…

って言うかシャルロット、顔が緩みすぎだ。

 

「お~い、シャルロット。あんまだらしない顔するなよー。」

「うん…えへへ…」

「駄目だこりゃ。」

 

そう言ってため息をつく。

すると周りに一組のメンバーが集まってきた。

 

「何があったの?」

「いや、昨日の任務の話をしたら驚かれただけ。」

「そういえば…織斑君もだけど風音君も大丈夫なの?」

「ああ、平気平気。このとおり埋められても笑ってるくらいには平気さ。」

「……よくわからない基準ね…」

 

そう言って俺の事を身ながら唸る数人の生徒。

笑いながら俺は話を続ける。

 

「まぁ詳しくは話せないけどたいした事じゃないよ。まぁ…僕としては今日の晩御飯の方が心配。」

「そういえば風音君よく食べるもんねぇ…足りてる?」

「正直足りない…」

「アハハ、ソーは食いしん坊だね。ねぇかんちゃん。」

「本音…まぁそうかもしれないね。」

「ああ!?僕なんか腹ペコキャラにされてない!?」

「実際、奏君よく食べるじゃない。」

「ひ、否定できない…」

 

そう俺が悔しそうに言うと周りが笑い出す。

よ~し。このまま話をそらせれば…と思うとのほほんさんがシャルロットの顔に気が付く。

やめろ…今それを指摘するな…

 

「デュッチー何かすごくうれしそうだね?何があったの?」

「う~ん?のほほんちゃん、なんでもないよ?」

「え~すごい嬉しそうだけど?ソーは何か知ってる?」

「ああ、今度奢る約束しただけだよ。」

「ふーーん…それだけには見えないけどなぁ…ねぇかんちゃん。」

「え!?あ、うん、そうだね…」

「ほら、さっきまで話を聞いてたかんちゃんも違うって言ってる。」

「え!?あ……」

 

簪…お前…そこは『そういう意味じゃないよ?』とでも言えば済むものを…

その発言では認めたも同様ではないか…

のほほんさんはニコニコしながら俺を見下しながら言い寄る。

…まぁ俺が埋められてるせいで自然とそうなるだけだけどさ。

回りもそれに気が付いて騒ぎながら俺に声をかける。

 

「ソーねぇ何があったの?」

「風音くんシャルロットちゃんに何したの!?」

「まさか…デート!?」

「「「きゃーーーー!!」」」

「え!?風音君そんなことを!!」

 

ああ、勝手に話がすすんでいく。

って言うか一夏、いつの間にか助け出されてるんじゃねぇよ。

ラウラ、鈴、俺も助けてくれ…

セシリア、箒、頼む俺と目を合わせろ。

おい…離れていくな…お~い。あとラウラ、蟹は逃がしてやれよ?

簪!!は…もう既に囲まれてるな…質問攻めで俺に助けを求めるように見ている。いや、助けてほしいのはこっちの方なんだけど…

シャルロット!!は…駄目だ、脳内お花畑状態だ。役にもたたねぇ…

仕方ない、何とかして逃げ出さなければ。

俺は埋められたままのほほんさんとの交渉に入る。

キグルミのような水着を着た女VS首だけ出されて砂浜に埋められた男

…B級映画にすりゃなりやしない題名の駆け引きが始まった。

 

「ふぅ…のほほんさんには見破られたか…」

「ソーは一体何をしたの!?」

「いや正確に言えばまだ何もしてないよ…」

「という事は今後は!?」

「…何回かあるかも知れないね。」

「風音君……いったい何が!?」

「僕の手料理のご馳走とそのレシピの公開。」

「「「「「「……え?」」」」」」

 

周りは引っ張っといてこれかと言った顔をしている。

俺はそれに気が付いてないような顔をして話し続ける。

 

「出来る事ならあまりいいたく無いんだよね。作る量が増えそうだし…何より一応約束で作り方も教える事になってるから秘伝のレシピが…」

「………え~っと…それだけ?」

「それだけって!?僕がいろいろと頼み込んで教えてもらったレシピを人に教えるんだよ!?適当なレシピを教えるわけにもいかないからしっかりと教えないといけないし、あまり広げたくないものなんだ!!例えばマイケルのドーナッツ!!あのレシピを手に入れるためにどれだけ苦労した事か……」

「そ、そうなんだ……」

「いや他にもいろいろとある。例えば―――」

 

そう俺が料理について熱く語りだすとどんどん人が離れていく。

よしいいぞ…そのまま皆いなくなれ。

最後まで語っていると残っていたのはのほほんさんと簪、そしてお花畑状態のシャルロットだけだった。

 

「―――ってことで料理を相手に教えるのは極力遠慮したいんだ!!」

「ふ~ん…じゃあさソー。」

「なんだいのほほんさん。」

「そこまで必死になって語るようなものを何でデュッチーにだけ教えたの?」

「それは僕の作戦中のミスをシャルロットが庇ってくれたからかな。」

「ふーん……まぁそういうことにしておこう。」

「いやぁそれ以外の理由は無いんだけどね。」

 

俺が笑顔で話しかけるがのほほんさんは納得していないようだ…

しかしその後にんまりと笑いかけてくる。

 

「……まぁいいや、かんちゃんいこう。」

「え!?あ、奏さんは!?」

「うそつきソーはしばらくそうしておこうよ。」

 

そう言いながら離れて行くのほほんさん。

っち、のほほんさん、感覚的に気が付いているな。

この情報は確実にOsaに伝わると見たほうがいいな…

そうやって離れていくのほほんさんと後を追う簪。

結局残ったのは埋められた俺とお花畑のシャルロットだった。

 

「お~い、シャルロット。」

「ん~何?ソウ。」

「出して。」

「……エヘヘ…」

「おい、ごまかせてないぞ!?」

「…もう少しそのままでいない?」

「何で?」

「……こうすればソウはどこにも行かないでしょ?」

 

そういうシャルロットは俺の横に座る。顔を見ると既に元の顔に戻っている。

…こいつ俺がどっかいくと思ってるのか?

再びため息をつきながらシャルロットと話す。

 

「このままじゃ約束守れないんだけど。」

「?なんのこと。」

「いや、お前と海で遊ぶ約束。いや、守らなくて良いって言うなら別にいいけど。」

「い、今すぐ掘るから。」

 

そう言ってISの腕部だけ展開して掘り進めるシャルロット。

こんなのでISを使うなよと思いながらも俺は空を眺めながら平和をかみ締めていた。

 

 

 

 

愛は憎しみより高く、理想は怒りより高く、平和は戦争より気高い。

                                ~ヘルマン・ヘッセ~



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第六十八話 宣戦布告

時間が経過し夜になり、みんなが夕食を食べている間に外に出る。

俺も飯を食いたいが…その前にやらないといけないことがある。

千冬さんいなくなったという事は……俺は外に出てあらかじめ確認していた場所へと向かう。

千冬さんに勘付かれないように動いたつもりだが……気が付かれてそうだなぁ…

まぁどちらでも問題ない、用があるのは……篠ノ之博士、いや篠ノ之束の方だ。

最悪…千冬さんにも同じことをしないとなぁ…やめたいけどこうでもしないと今後が危ない。

さて一応これからは自分らしく生きると決めたのだ、ヴァッシュならやらないだろうが……それを理由にして今後起きる事を無視するのはやめよう。

俺が目的地の近くに行くと話し声が聞こえる。

崖に腰掛けるようにして座る篠ノ之束、そして松の木に寄りかかって話している千冬さん。

 

「―――妹は華々しくデビューというわけだ。」

「すごい天才が居たものだねぇ。」

「ああ、すごい天災が居たものだ、かつて十二カ国の軍事コンピューターをハッキングしていた天災がな。」

 

今の話を聞いてようやく思い出せた。

あの白騎士事件、あれは篠ノ之束と千冬さんのマッチポンプだったのだ。

うわぁ…いきなりいやな事思い出した…って事は二人はこの世界を創り出した張本人って訳か…

さて…気配は消しているつもりだが……まぁばれてても関係ない。そのまま話に介入する。

 

「そして今回、一夏を目立たせるのに邪魔な奴の始末もかねてたって所ですかね?」

「!?……奏、どこまで聞いていた…」

「まぁ…あらかじめ知っている事だけですよ?例えば…白騎士のパイロットについてとか、マッチポンプについてとかですかね?」

「………ふぅーん、別に嘘をついてるわけじゃなさそうだね?それで?それがどうかしたの?」

 

と言ってこちらに笑顔を向けてくる束。

この人もある意味ヴァッシュと同じように常に笑顔だ。

だがヴァッシュの笑顔がさまざまな感情が混ざった物なのに対して…

彼女の笑顔からは何も感じない。

それに俺の先ほどの質問に対して答えは無しか……

俺は笑顔を作り話しかける。

 

「いえ?ただ単にどこまで知ってるかって聞かれてたと思いまして。いや、質問は聞いてたか、だったから言う必要はなかったかも知れませんね。」

「じゃあ何でここにきたの?」

「おっと?あの人間嫌いの篠ノ之博士からこんなに話しかけられるとは以外ですね。何も話すつもりがなかったで緊張しますよ。」

「………」

「……奏、いいからお前は旅館に帰れ。」

 

笑顔で束に対応する俺。

しかし千冬さんは俺が何をするつもりか勘付いているのか、俺を下げようとしてくる。

俺はそれを無視して話かける。

 

「さっきの話、箒を活躍させるための作戦でしたっけ?ああいうのはやめてもらいたいんですよ。そしてそれは……千冬さんも止めるつもりだったけど止められないですよね?」

「っ!?……」

「え~?でもちーちゃんが知らなかった―――」

「既に僕が情報を伝えてたんですよ。昨日あなたに操られた福音が来るってね。」

 

俺が笑顔を崩さずそう声をかけると束の笑顔が固まった。

いや、正確には初めから固まっていたのだが感情が少しもれたといったところだろうか。

千冬さんも何かいいたそうにしているが……できることならこの人のことを責めたくはない。

 

「でもそんなわけのわからない情報を信じる方がどうかしてるよ?」

「ですが当たっちゃいましたね?それも正確にここに襲撃に来ることまで。」

 

俺が笑顔で話しかけていると向こうが真顔に戻る。

まるで面倒だといった顔だ。

 

「………いい加減正直に何が言いたいか話したら?」

「では……これ以上一夏と箒を追い込むのをやめろっていってるんだ。」

 

こちらも真顔に戻る。

今回はうまくいった…だが次もうまくいくわけではないし…何よりあえてあいつらや周りを傷つける理由を放置しておくつもりは無い。

仮にこれがばれたらどうするつもりなんだ?

確実に束本人とさらに千冬さん…加えて一夏と箒も非難されるだろう。

巻き込まれたほうからすれば全員ただの加害者とその原因でしかないんだ。

しかし俺の言葉を聞いて束はおかしそうに笑う。

 

「あはは、お前と違って二人は強いんだよ?あれくらいなんて事は無いんだよ。」

「その結果一夏は昏睡状態、さらに箒はその責任を感じて折れそうになる……」

「でも結果的には起きたし立ち上がったよ?」

「ああ、でもそのせいで箒は一夏に引け目を感じ、さらに一夏も今自身のことを追い込んでるだろうよ。そして今回はうまく言ったからと言ってあいつらが受けた仕打ちは許せることじゃない。」

「でも二人ならそれくらいたいしたことないって言ってるんだよ。」

「あいつらが強くなるのにあんたが邪魔なんだよ。あんたの強さって言うのは昨日の一夏のあれのことなのか?」

「……」

 

それを言うと束は何も言わない。

束の反応を見る限り彼女は何も知らないといった感じか…

やはりこれはこの二人もわからないことなのか?

もしくはわかっているけどそれの理由はいえない、そして肯定しないという事は恐らく二人にとってもよくないものなんだろう。

だが束は俺の質問に答えることなく話を変える。

 

「……第一、私が箒ちゃんやいっくんを強くしたいのはお前には関係ないでしょ?」

「あんなことで手に入るのは強さじゃなくてただの力だ、あの二人が求めてるのは強さであって力じゃ無いんだよ。わかるか自称天才。」

「………お前本当に生意気だね。」

「よく言われますよ、自身の嫌なところを突かれた相手には。」

「………」

 

挑発するように話しかける。

それを聞いた束は崖から立ち上がると俺の方に歩いてくる。

それを見た千冬さんは声を鋭くする。

 

「おい、束。私の生徒に手を出すなと言ったはずだぞ。」

「………」

「千冬さん、いいですよ別に。この人多分自分たちは特別だって勘違いしてるだけですから。」

「奏!!挑発するな!!」

「だからこそ、こんな事をしたらあの二人がどれだけ傷づくのかがわからない。さらに言うなら俺がなぜこんなに自分に突っかかってくるのかもわからない。人の気持ちがわからないただの我侭なガキと一緒なんですよ、この人は。」

 

俺が呆れ顔でそういうと束は動いた。

確かにはやい、千冬さんもこのスピードじゃ、あの距離から間には入れないだろう。

動きも何か剣道のようなものの踏み込みの鋭さを感じそして俺に攻撃するためらいがまったくない。

だがこの程度あの砂漠の星(・・・・・・)のフリーク共と比べれば児戯に等しい。

俺は全力で瞬間的に加速し、後ろに回りこみ後頭部に銃を突きつける。

恐らく二人からは俺があたかも瞬間移動したように見えていたはずだ。

ヴァッシュなら絶対こんな事はしないだろう…だがこうでもしないともっと被害が出る…

ヴァッシュになれない俺には最早この方法しか思い浮かばなかった……覚悟は出来ている。

 

「動くな。」

「っ!!奏!!馬鹿な事はやめろ!!」

「………」

「……あはは、言うだけはあるね、でもISを使ってそんな動きが出来たからって――」

「ではどうぞ?お得意のハッキングで俺を止めてください。」

 

束の兎耳が輝く。

恐らく何かかしらISの動きを阻害するものなんだろう。

だが現在初めからISの技術なんて一切使っていない俺にはまったく関係ない。

振り向きざまに俺を何か工具のようなもので攻撃してこようとしている束。

恐らく俺が動けなくなっていると思ったんだろうが…

再び後ろを取り、今度は相手を地面に押し込み手をひねりあげ拘束する。

もちろん銃口は後頭部に押し付けたままだ。

我ながら情けない方法だ…だがやったからには最後まで演じ通さなければ。

 

「記念すべき2回目の敗北おめでとうございます。」

「っ!!!」

「奏、いいからここは私に任せて下がれ。」

「ああ、力ずくで逃げようとしますか?どうぞお試しください。無理だと思いますけど。」

「奏!!いい加減にしろ!!流石に――」

「こうでもしてとめないと今度は本当に死人が出る!!一夏が落ちた事を忘れましたか!?あれは運がよかっただけだ!!もし一夏が耐え切れなかったらどうなったか千冬さんにもわかるでしょうが!!今回は何とかなった…だが次は死人が出るかもしれない!!」

「………」

 

ああ、もう……最悪…

こんな事がいいたいわけでも、千冬さんに吼えたいわけでも無いんだ。

俺がこういうと俺の下で束が笑う。

 

「あはは!!初めからそんな事は起きっこないのに何をいってるの!?」

「………じゃああの密猟者はあんたの想定内なのか?」

「当たり前でしょ?」

「ではその船が沈むことはありえないと?」

「……ルールを破った方が悪いってだけでしょ?そういうのはばれないようにやらないと。」

「その結果傷つくのが一夏や箒だってことがわからないのがあんたの限界か……それにばれなければ良いと…じゃああんたの罪、俺がばらしてやろうか?」

 

俺が満面の笑みでそういうと二人の反応が変る。

ああ、もう完全に悪役みたいな事やってるよ…でも…ハァ…やるしかない。

ここで俺が引いたら確実にもっとひどいことになる。そしてそれで一番傷つくのは箒と……千冬さんだ。一夏は……多分気が付かないな、うん。

 

「なんだ天才。俺があんたがハッキングをしたことを知ってる理由を考えなかったのか?俺はその証拠を持っている(・・・・・・・・・・・・)。」

「な!?そんな……馬鹿な!?」

 

千冬さんが驚く。

だが俺の下になっている束の反応は冷静だった。

 

「……嘘だね。私がそんなミスをするはずないし……」

「じゃあ何で俺は知ってるんでしょうね?それもこれほど確信を持って。答えは簡単、『証拠があるから』ただそれだけですよ。」

「そんなことしたら…」

「ええ、あんたたち二人と俺の友人の一夏と箒もおしまいでしょうね、一気にテロリストとその親族だ。だが誰かが死ぬよりはずっと良い。」

「っ!!!そんな事やってみろ!?お前を―――」

「どうする?俺を殺すか?この状況でよく言えたものだな!?」

 

初めて束が俺に対して感情が篭った声をかける。

ああ、まったくうれしくねぇ……

千冬さんにも気を配っているが俺がどこからそのような情報を手に入れたか計りかねているようだった。………そしていつでも俺に攻撃できるようにしている。

うわぁ……やっぱり完全に千冬さんにも喧嘩売っちゃった……

結構ショックだ…泣きたい……

だがここでそれを見せるわけにはいかない…

あくまで不適に笑え、自身は今すぐにでも下にいる女性を殺すような人間だと思い込め。

 

「……それともゲームをしますか?」

「………何を言ってる。」

「簡単ですよ、俺は他を巻き込むような行為をやめさせたい、あんたは箒と一夏を強くしたい。だったら…あんたの襲撃を俺にすべて向けろ。もちろんまわりは巻き込むな。そうだな……学園卒業までに俺を殺せたら証拠は渡すし何より死人に口無しだ。さらに言うなら俺を襲えば一夏や箒も俺を助けるために戦うだろう。一応あんたの思い通りにはなるぞ?」

「………それでもし卒業までに殺せなかったら?」

「その後一切誰かを襲撃するような事や他人に迷惑をかけるな。」

「………」

「ちなみにお前が乗らないって言うのなら証拠は公開、さらにルールを破っても公開、もっと言うなら襲撃以外の方法、例えば他の政治的圧力で殺そうとしても公開してやる。」

 

そういうと束は俺にかなりの敵意を向けてくる。最早殺気だな。

しかし俺の要求……かなり一般的なことを言ってるよな。

『人に迷惑をかけるのをやめなさい』ってことと『犯罪なんて起こすんじゃない』ってことだ。

普通に守ってくれよ……頼むから…良い年齢でしょ?

俺はそんな事を気にもせず銃を押し付け、腕をねじり上げ拘束する。

 

「……殺してやる…」

「ルールに乗っ取ってくれるならいくらでも。後もう一言。」

「……」

「もし仮にそんな事関係ないって回りを巻き込んで暴れてみろ。どこに隠れようと、たとえご自慢のラボに隠れようと必ず見つけ出して産まれた事を後悔させてやるっ。」

 

そう言って俺も出せる限りの殺気と、銃を突きつける力を強くする。

一瞬怯んだように束の体が反応している……

はぁ……傍から見たら女性を銃で脅してる悪漢だよなぁ…俺…

そう考えながらもすばやく束の上からどけ距離をとる。

案の定俺が居なくなった後の場所に攻撃をしようとする束。

だが俺は既に距離をとっておりパッパと服をほろっていた。

 

「じゃあルールを守って楽しい殺し合いを。」

「……今殺してやろうか?」

「束!!」

「やれるもんならどうぞ?敗北数が増えるだけですがね。では後はお二人で、さようなら。」

 

そう言ってひらひらと手を振りながら背中を向けて歩いて行く。

途中俺は襲い掛かるかと思ったが…特になのもなかった。

二人が見えなくなるところまで離れ、さらに離れた海に行き……

 

 

 

 

 

盛大に落ち込む。

完全に砂浜に仰向けに倒れこむ。

……ああ、もっと良い方法はなかったのだろうか……

常に最善がわかる力がほしい…

これでは相手にただ喧嘩を売っただけだ。それもへたすりゃ千冬さん付き。

さらに言うなら……ミサイル事件の証拠なんてあるわけない。ただのブラフだ。

しかし俺はそれの詳しい内容を知ってるし情報元が割れる事は絶対に無い。

二人がわからないならそれはそれで一つの手札だ。

まぁ誰かに渡す事はできないけど。

それにこの銃…一応訓練用にもってきたこれ……

中から折って弾を確認すると空っぽだ、初めから撃つ気なんてありません。

ぶっちゃけ人の頭に銃を向けるのにもかなり抵抗ありました。

さらに言うと……完全に千冬さんに敵だと思われたよなぁ……

目に手のひらを当て考え込む…もう千冬さんと仲良くするのは無理だろう…

はぁ…洒落にならん…それに俺、今日どこで寝ようかな…

このまま部屋に戻って『やあ!!千冬さん!!さっきの話はどうなりましたか!!』なんてやる勇気は俺にはない。

そうだ、野宿をしよう。

そうと決まれば山にいって薪を集めよう。

時期的に温かいし……地面で寝ても…いや、ベンチもあったしそこで寝れば……

 

「ソウ?」

 

と声がかかる。

ヤバイ、テンション落ち込んでて気配とかもまったく察知してなかった。

手のひらをどかすとシャルロットは俺を見下ろすようにしゃがんでいる。

 

「………なにやってるの?」

「絶賛落ち込み中。」

「何があったの?」

「喧嘩を売ってきた。」

「誰に?」

「秘密。」

「…………織斑先生?」

「何でそう思うの?」

「う~ん……勘…かな?後答えなくてもいいよ?」

 

そう言ってシャルロットは俺の隣に移動して座る。

こいつ…俺が銃を持ってるのに何も聞かないのか……

とりあえず話はそらそう…

 

「突然だけどさ……千冬さんの事どう思ってるか聞いてもいい?」

「織斑先生?う~ん……最初思ってたより普通の女性だった。ソウのほうがよっぽど変。」

「そうか…普通か……」

 

そうなんだよな…誰だってミスもするし…弱みはある。もちろん千冬さんだってそうだ。

千冬さんがなぜ白騎士事件を起こしたかなんて知らないけどとりあえず俺の知ってる千冬さんはそんな事をすすんでやるような人じゃない。

何か理由があるんだろう…

ハァ…とため息をつく。

 

「ソウって…考え事してるといつもため息つくよね。」

「…そりゃ悩んでるからな、出るだろうよ。」

「………ねぇ最初にした指切り覚えてる?」

「ああ、また会おうって奴だろ?」

「じゃあ二回目の方は?」

「………一緒に遊ぼうだっけ?」

「惜しい、もしかしてソウ覚えてない?」

「あ~…ごめん覚えてない。」

「あはは、ひどーい。約束忘れてたんだ。」

「……面目ない。」

「そう言っても私もここ最近まで忘れてたんだけどね。」

 

そう言いながら笑うシャルロット。

しかしシャルロットは思い出したんだ…俺も思い出さなければ……

 

「……なんだったけ?本当に思い出せん…でも確かこんな感じの約束だったんじゃ…」

「ヒントは昔のソウ。」

「え?……野宿体験がしたい?やめといたほうがいいよ?」

「…ソウ私に野宿してたなんて言ってなかったでしょ?」

 

じゃあキャンプ?いやこれを聞く限り別なんだろう……

昔の俺…ホームレスになりたい、お風呂に入りたい、腹いっぱい飯を食いたい…

……あ、思い出した。

 

「旅行だ。」

「正解。なんだ覚えてたじゃない。」

「いやごめん、今まで完全に忘れてた。でもそういやそうだったなぁ……旅行か…」

「ねぇ落ち着いたら一回どこかいかない?」

「……在学中は難しいな…絶対誰か付いてくるだろうよ。」

「え?」

「うん?二人で行きたいって……あ。」

 

しまった、シャルロットは一度も二人でとは言っていない。

さらに俺もそれに気がついたときに変な声を出してしまった。

結果的に隠すことが出来ずに一人勘違いをしていたことがばれた。

ニヤニヤ笑いながら俺に問い詰めるシャルロット。

クソ、顔が赤くなっていく自覚がある…

 

「へー、ソウは二人で行きたかったんだ。」

「……いや?そう言う約束じゃなかったけ?」

「ううん、『旅行にいこう』って約束だったと思うよ?」

「そうだったけ?まぁ二人で行きたいのは本当さ。」

 

そう何でも無い様に言うと顔を赤くするシャルロット。

この程度のいじりで赤くなる程度で俺をいじろうとは百年早い。

今度は俺が笑いながら話かける。

 

「おいおい、いじるんだったら最後まで主導権握らないとこうなるぞ。」

「もう。そんな事言って。」

「あれ?僕はただ二人で行きたい言っていう本音を話しただけなんだけどなぁ~。」

「イジワル…」

 

と言ってシュンとするシャルロットを見てさらに笑う。

笑う俺を見てシャルロットも笑う。

 

「よかった。元気になったね。」

「ああ。…わるい、気使わせたか?」

「ううん。私がやりたいからそうしただけ。」

「……そっか…ありがとう。じゃあもうひとがんばりしますか」

「?何をするの。」

「千冬さんに会って来るわ。シャルロット助かった、ありがとな。」

「うん、がんばって。」

 

とりあえず千冬さんの真意を知らなければ…

強いて言うならこちら側なのか…それとも束側なのか。

正直どちら側でもかまわない、ただ人は死なせない…それだけだ。

そう考えて砂浜を離れようとすると遠くで音がする。

見ると……あの馬鹿共が暴れてる…しかもIS展開してるじゃねぇか!?

 

「うわぁぁぁぁあああああ!!」

「待ちなさい一夏ぁ!!」

「もう勘弁できませんわ!!」

「私の嫁としての自覚が足りん!!」

 

箒を抱えながら逃げまわる一夏。

三人は……一夏に恐怖を与えるのが目的か…まったく当てようとしていない。

………よし無視しよう。第一俺今IS無いし。

と思っているとシャルロットがISを展開する。

これはラファール・リヴァイヴ・カスタムIIか……毎回思うが長いな…

まぁシャルロットの烈風は一回壊れちまったしなこっちを使うのも当たり前か。

 

「なに…あれを止めに行くの?」

「え!?放置するの!?」

「いや……しばらくあのままで良いんじゃない?もう一夏関連の面倒ごとはごめんだよ…」

「……それもそうだね。もう少しおいておこうか。」

 

そう言ってISを展開した一夏とそれに抱きかかえられる箒。

さらにそれを追うように飛ぶ三人の姿をあきれ顔で見続ける俺と半分笑っているシャルロットだった。一夏…お前確実に学園に戻ってから地獄を見るはめになるぞ…

 

 

 

 

 

沈黙は会話の偉大な話術である。

自分の舌を閉じるときをしるものは馬鹿ではない。

                       ~ウィリアム・ハズリット~

 




ということで……

 束 に 喧 嘩 を 売 り ま し た 。

はじめは何とか仲良く~って考えたんですけどシナリオ上うまくいかず…
さらに言うとここで敵対させた方が面白そうだったんでこうしました。
はい、タグの『アンチヘイト』はこれのせいです。


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第六十九話 さらば海

「まったく……貴様らは夜中に何をしているんだ!!」

「「「「「スイマセンでした……」」」」」

 

千冬さんの怒鳴り声が響く。

現在一夏、箒、セシリア、鈴、ラウラは千冬さんの説教を喰らっている。

俺とシャルロットはそれを苦笑しながら見ている。

あの後こいつらは俺とシャルロットが見守る中、空中決戦を開始したのだ。

と言ってもお遊びレベルのものだったが……かなり目立つ。

そうすればすぐに千冬さんも気がつき怒りの声が夜空に響いていた。

まぁそんなこんなで現在千冬さんに怒られながら5人は正座中だ。

セシリアがすごいきつそうな顔してるが……流石に助けられん、こっちもこっちでこれから大変なんだ。

さてどうやって千冬さんとコンタクトを取ろうかと考えていると千冬さんがこちらをちらりと見る。

 

「まったく……貴様らはしばらくそこでそうやって反省していろ。……風音話がある少しいいか?」

「ハイ、大丈夫ですよ。織斑先生。」

「……ソウ、がんばってね。」

「何を?…冗談だからそんなにむくれるな、ありがとう。」

 

むすっとしたシャルロットに手を振りながら千冬さんの後を追う。

さっきちらりとこちらを見たとき以外一切目を合わせてくれない…何を考えているかは顔からは読みきれなかったが…最悪の事態にはならないと信じてはしているが…

さて蛇が出るか鬼が出るか…できれば何も出ないでほしいんだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

そう考えていると千冬さんは自身の部屋に戻った。

確かにそこは一番誰も入ってこない部屋だな…

部屋に入ると明かりはついていない。こちらに背を向けた状態で暗い部屋の中で立ったまま千冬さんは俺に声をかける。

 

「……何か私にいいたい事はあるか…」

「え~っと…質問してもいいですか?」

「…ああ。」

「あの後篠ノ之博士は?」

「……私の話すら聞かずに去って行ったよ。」

「俺を狙うと思いますか。あと約束は守るかどうかですねぇ……」

「…約束は…最低限は守るだろう。そしてお前の事は……必ず殺しに来る。」

「そいつはよかった。」

 

俺がそう軽い口調で言う。

まぁこれで無視されたら何のためにあんなことしたんだって話になるよな。

周りを巻き込むなと言ってあるから最低限、俺の手の届く範囲ぐらいに攻めてくるだろう。

しかし…できることなら休学でも何でもしてできるだけ人が居ないところに行きたいくらいだ。

一夏と箒を攻める事はなくなったが…やはり周りの被害は出てしまいそうだな…

 

「奏…他には何かあるか?」

「あ~……千冬さんが交渉失敗した理由とか?」

「………すまないがそれは言えない。」

「…今後どれくらい彼女の手綱を握れると思いますか?」

「……最低限私に被害がないようには動くだろうが…」

「今までもそう動いてたんですか?」

「……私に関してはな……」

 

なるほど……篠ノ之束(あの人の)判断基準がわからん。

え?なんなのいったい?

今まで俺の頭の中では束が大切な人は千冬さん、一夏、箒の三人で優先順位は無いように思えた。

だが実際被害が無いように動くのは千冬さんに対してだけ……

今回の事件だってある意味一夏か箒、どちらかが被害を受ける事が前提の作戦だ…

本当に訳がわからん。

 

「あ~……スイマセンが千冬さん。千冬さんからみた篠ノ之束を教えてください。」

「……天災科学者で基本的に自身が認めた人間以外はどうでもいい。」

「…では彼女との約束について。」

「……すまんがこれも言えない…」

「……問題は一夏ですか?」

「っ!?」

「ああ、何も言わなくて結構です。多分そういう約束なんでしょう。」

 

頭が痛くなる。

話をまとめよう。

交渉を失敗したと聞いたときにそれを否定しなかった…

という事は千冬さんは束に『一度やめるように説得はした』。

だが【何か】かしらの理由で『それはうまくいかなかった』。

さらに作戦が失敗した後『千冬さんはすぐさま束と連絡をとらなかった』。

という事は……『失敗しても【何か】の理由があって束をとめられなかった』?

【何か】は恐らく『一夏』関連。

第一、一夏関連以外でこの人がここまでのわがままを許す理由がわからない。

そして……さっきの束の言う作戦も一夏のためになるんだろう、そうでなければ千冬さんが許すはずが無い。

さらに俺を落とす事に関しては……どちらなんだろうか…

それだけは聞いておこう。

 

「千冬さん。俺を落とすのも作戦の内だったんですか?」

「違う!?…信じてもらえないかもしれんが…アレは束の独断だ。」

「そうなんですか…」

 

なるほど…千冬さんの言う事を信じるなら『俺を落とそうとしたのは束の独断』。

さらに言うなら今のいいかた『千冬さんは計画をすべて知っていて』それでなおかつ『終わった後もそれの内容を話せない』ってことか…それも恐らく一夏を守るためなんだろうが……

やはり情報が足りなさ過ぎる、今結論を出すのはやめておこう。

ただ覚えておかなければいけない事は

 

・束は完全に俺に敵対している。

・千冬さんは何かかしらの理由で束に逆らえない。束に関しての情報も手に入らない。

 

ってことか?

うわぁ……なんかゆがんだ友情に見えるな……

これは情報が足りないせいだろう…だがそろそろ俺の質問は終わらせよう

 

「まぁ聞きたい事はこれくらいでいいです。流石にこれ以上は頭パンクします。」

「……そうか…」

「で、本題は?千冬さんもここで俺に敵対しますか?」

 

と軽口で言ってみたもののそうなればほぼ詰みだ。

別に今すぐ俺を殺しにくるわけではないだろうが学園内で束がせめてきたときに向こうに付かれたらいろいろと面倒な事になる……

 

「違う…私は…お前に謝らなければならない…」

「僕が落ちた事に関しては別に気にしていません。知らなかったんでしょう?」

「気を使わなくてもいい…知らない事とはいえ私のせいで……お前は死に掛けたんだ…お前に軽蔑されても、殺されても仕方ない事を私はしたんだ。」

「やめてください。別に一夏のためならどうとも思いませんよ。…仕方ないんじゃないですか?誰だって肉親の方が大切ですし。」

「っ!!私の行ないを認めるな!!私は……そのようなことをしてはいけない立場なんだ…」

 

ああ、千冬さん完全に余裕がないな…

普段のこの人ならここまで俺の言葉でうろたえたりしない…

頭をかきながら俺は言葉を続ける。

 

「あ~……って言われても僕も同じような事しましたし…」

「…何を言っているんだ?」

「僕は…いえ、俺は一度ラウラの事よりシャルロットを優先して…ラウラに危ない橋を渡らせました。俺自身の我侭のためにです。」

「……どういう意味だ?」

「千冬さんもわかるでしょう?…俺は『発動したら死ぬ』ってかいてある情報まで手に入れてたのに……ラウラの事を大会にそのまま参加させました。VTシステムが発動しかねないの事を知っていたのに……」

 

俺がラウラに甘く、何を言われても許して気にかけている理由がこれだ。

本当に、平等に助けるつもりなら、なりふり構わず千冬さんやさまざまなところにVTシステムの事を話すべきだった。そうすれば俺はドイツに狙われる事になってもラウラに危ない橋を渡らせる事は無かったのだ。

ラウラにあそこまで苦しそうな叫び声をあげさせ、おびえさせる事も無かった。

だが俺はそこでシャルロットの方を優先した。

アイツをおびえさせないため、専用機開発の邪魔をドイツにされる可能性を下げるために……

ラウラではなくドイツのために動いたのだ。

そして救える確証も無く救出作戦を行なった…

 

「……俺があらかじめVTシステムの危険性も、ラウラのISに積まれている事も、あいつの精神が不安定な事も大会前にすべて知っていました。本当ならここで危険だって千冬さんにでも伝えるべきだったんですよ。」

「……だがドイツから口止めを――」

「それはラウラの人命より優先するべき事ですか?俺にはそう思えませんよ…でも俺は…それに従ってラウラを見捨てた(・・・・・・・・)。」

 

はっきりと千冬さんに向かってそう口に出す。

そこでようやく千冬さんはこちらを振り向いた。

暗くて互いに顔は見えない…丁度いい。

俺自身今自分がどんな顔をしているかわからない…

 

「千冬さん…今回の篠ノ之博士の作戦、うまくいけば死人もけが人も無しだったんじゃないですか?」

「……そのとおりだ…計画上はな…」

「俺はそんな作戦すら立てずにラウラを死地に送り込んだんですよ…俺、本当は篠ノ之博士にあんな事を言う資格もありませんし…千冬さんを責めることも出来ません……」

「だがお前にそんな責任は初めから無いはずだ…」

「それは見捨てていい理由にはなりませんよ……まぁこの話はおしまいにしましょう。」

 

と話すと話がかなりそれていた事に気がつく。

いけないと思い無理やり話をそらす。

これは俺の罪だ、誰かに許してもらう事も助けてもらう事もするべきではない。

ずっと抱え続けていかなければいけない物だ。

これを今さらラウラに言ってどうなる?

アイツは俺を責める選択をしたとしてもそれはアイツを追い込み俺が少し楽になる程度だ。

許す選択でも……俺は俺を許す事は絶対にできない。

その結果どちらにしてもラウラを追い込む事になる…これも言い訳がましいな……

 

「それにそんな事関係無しに千冬さんの事を責める気は自分にはないですよ。スイマセン、この話はこれで終わらせてもいいでしょうか…」

「そうか……だがお前が束に狙われる事になったのは…それにあんな行動、お前が最も嫌っていた事ではないか!?そんな事をやらせてしまったのは私の――」

「もう過ぎた事を言うのはやめましょう。それにそれは俺が望んだ事です。どこにも千冬さんの責任はありませよ。」

「っだが………」

 

千冬さんは納得のいく顔はしていない…

しかし……やはり千冬さんは俺が矢面に立つことを納得してくれないか……それに説得できたかといえば微妙なところだ…俺もラウラの事で混乱していたしな…

まぁ納得してもらえないのは承知の上だ。

 

「まぁ……話は以上でしょうか?」

「ああ……」

「一夏に関しては…多分千冬さんが何か対策を?」

「ああ…一応対策は考えてある…」

「…じゃあ任せます。あと…そろそろ一夏以外は許してあげましょう。結構正座してますしセシリアなんて死んでるんじゃないですか?」

「ああ、そうだな……」

 

と俺が笑顔で話しかけるが千冬さんの反応は薄い。

まぁいきなり自分が俺に許されているって言っても俺を含め他の人物に嘘をついていることには変わりないからな…まぁ仕方ないだろう。

千冬さんが部屋を出て行ったあと翌日の準備をし置き手紙を書いて部屋を出る。

なんというか…部屋に居づらかったのもあるが無性に体を動かしたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝朝食の頃に旅館に戻る。

結局朝まで銃の練習をしていた。

なんというか全力で動いていると感情が落ち着いていくのだ。

……まるで脳筋だ……さて飯を食ったら荷物を取ってバスに行こうかと考え食事を行なう部屋でゆっくり休むことにした。

飯を食うことになっている大広間に入ると珍しい事に一夏が先にきていた。

 

「よう、一夏。」

「ああ、奏か……なぁ…お前千冬姉となんかあったのか?」

「具体的に言えば?」

「………喧嘩したとか…」

「ああ、そういうのじゃないよ。ただの意見の食い違いだ。それで僕だけ熱くなっちゃってな、頭を冷やす目的で外で運動してたんだよ。夢中になって結局朝まで動いてたけどね。」

「……本当か?」

「ああ。本当だ。」

「そうか……」

 

と言いつつも納得していないようだった。

一応昨日の千冬さんについて聞いてみるか…

 

「千冬さんどうしたんだ?」

「いや……普段と変らないようだったんだけど…」

「お前には変に見えたって感じか?」

「……ああ。なんていうか見たことない感じだった…」

「そうか……僕のほうでも気にしてみる」

「ああ、頼む。もしかしたら俺の気のせいかもしれないけど…」

 

といいながら考え込む一夏。

そして……なんとわざとらしい言い方だろうか…

千冬さんがおかしくなっている原因は確実に俺との会話だ…

だが千冬さんがそれを隠している以上それを一夏に言うわけにもいかないな……

とりあえずもう一度千冬さんと会って話をしよう。

そう考えて飯の時間まで適当に一夏と話す。

話を聞いた結果、昨日は寝るまで千冬さんに説教をされてさらに学園に戻ってからも説教、反省文、奉仕活動とやらないといけない事は山のようにあるらしい。

さらに自身は暴走時のことをほとんど覚えていない。

ただ一心に福音を落とさなければと言う考えだったということだけは正確に覚えているとだけ言っていた。千冬さんはどうやってこいつの暴走を止める気なんだ?

話を聞きながら千冬さんを待つ、だが食事の場に千冬さんが現れる事は無かった……

 

 

 

 

 

 

 

そして帰りのバス。

最前列に俺と一夏は座る。窓際の席で千冬さんを探してみるが…見つからない。

もうそろそろ発車時間だと言うのに千冬さんの姿は無い。

もしかして俺が昨日しっかり説得しなかったせいか?と顔には出さないように不安になってくると後ろからシャルロットの声がする。

見てみるとこちらを見て心配そうな顔をしている。

 

「ソウ、さっきからどうしたの?」

「あ~まぁ…ち、織斑先生が今朝から見えないからどこいったのかなってね。」

「…そうなんだ。」

 

こいつだんだん勘が鋭くなってきてるな……

まぁ今の発言も嘘を言っているわけじゃない。

多分ばれてるとは思わないが……

と思うとバスの中に誰か入ってくる。

見たことも無い女性…って訳じゃない。恐らく彼女がナターシャ・ファイルス。

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のパイロットだろう。

 

「えっとここ一年一組のバスであってる?」

「あ、はい……あのどなたでしょう?」

 

と山田先生が対応する。

突然現れたんだこういう対応になるに決まってるな。

見た目は……なんと言うか凜とした雰囲気に色気を足した感じだな。

なんだろう…箒とスコールを足して2で割った感じか?

いやそれにさらにいろいろ加わってるな…とりあえず美人なことは間違いない…

 

「ああ、昨日皆さんに助けてもらった者ですよ。」

「っ、なんの御用でしょうか?」

「あ、ちょ、ちょっと身構えないで。本当にお礼を言いに来ただけだから。」

 

と山田先生が軽く身構えるとあわてるように説明をする彼女。

今の言葉で確定だな。ユーモアの方もわかるようだし礼儀もあるって感じかな?

バスの中を見渡すと俺と一夏を見つけ接近してくる。

 

「あなたが織斑一夏?」

「あ、はい。」

「やっぱり。千冬に似てるもんね。じゃあこっちがあのでたらめ君か。」

「はい?なんですかその名前。」

「ああ、ごめんなさい。えっと風音奏君でよかったっけ?」

「いえ多分別人だと思いますよ?本物はもう今頃研究所に行っているかと、僕は影武者です。」

 

と俺がとぼけるように言う。

ヤバイ、今この人が行なう事に巻き込まれてたまるか。

記憶によみがえってきた出来事これは……俺も巻き込まれたらただじゃすまない。

特に後ろにいる奴とか本当に危ない。

とぼけるようにして両手を振る。

だがそれは後ろと横からの声でかき消される。

 

「ちょっとソウ、流石に失礼だよ?」

「そうだぞ奏。なんか用があって来たんだろうし。」

「ジョークだよジョーク。はじめまして僕がでたらめ君こと風音奏ですよ。」

 

と笑顔で対応する。

シャルロット…知らないとはいえお前って奴は…

クソ!!だが逃げ切る事はまだ出来る…

俺がそういうとナターシャはクスクス笑い出す。

 

「千冬のいったとおり愉快な人ね。」

「いやぁ…福音のパイロットにほめてもらえるとは光栄ですよ。」

「あらばれてたの?」

「さっき昨日助けた人って言ってたのはあなたじゃないですか。」

「そういえばそうだったわね、はじめまして。遅くなったけど自己紹介するわ。ナターシャ・ファイルスよ。」

 

と言ってはじめに一夏に手を差し出す。

そのまま一夏は警戒しがちに手を握り返す。

 

「あなたが私とあの子を最後に止めてくれたのよね…それに私のせいで大怪我もさせてしまったみたいだし…ごめんなさい、あと本当にありがとう。」

「いえ怪我は治りましたし…そちらこそ結構攻撃され続けてたし…大丈夫でしたか?」

「へっちゃらよ。私これでも鍛えてるんだから。」

 

と言ってウインクを一夏にする。

この人結構食わせ者だな、一気に一夏の自身への印象をプラスに変えたな…

まぁ初めからこいつは彼女の事は悪く思ってないから関係ないだろうし。

その後手を話した後……

一夏との握手を止め、今度は俺に手を差し出してきたので握手をする。

タイミングとしては今一夏にキスをするかと思ったんだが…気は張っておこう。

 

「あなたも私が一回落としてしまったわね……怪我は?」

「頑丈なだけがとりえでして。」

「あれだけ私とあの子と戦えてねぇ……ねぇ、アメリカに来ない?歓迎するわよ。」

「あはは、僕英語話せないんですよ。」

「あら?それくらい私が何とかするわよ?」

「いえまだ僕記憶を取り戻すために日本全土を歩くつもりなんでその後にもう一回誘ってくださいよ。もしかしたらチャンスがあるかもしれませんよ?」

 

と俺も笑顔で返す。

ヤバイ、この状況確実に嫌な方向に向かっている。

そして話は終わっただろうと思ったのだが…彼女は手を離してくれない。

 

「あともう一つ。」

「なんでしょう?」

「あなたが学園に渡してくれた情報のおかげで銀の福音(あの子)は封印されないで済んだわ。本当にありがとう。」

 

このときの彼女は本当に真面目な顔で俺に話かけていた。こっちが素の顔だろう。

そうか…俺の情報はまったくの無駄にはなってなかったのか…

という事は今回の事件は亡国機業のアメリカへのサイバーテロになるのだろうか…

まぁそこら辺は今後次第か…

本心からでた満面の笑みで答えを返す。

 

「…いえ、役に立ったならよかったですよ。それにあの情報は俺も偶然手に入れただけですしね。それで救われた人がいるなら本望ですよ。」

「……」

「どうしました?」

「あなたって二面性あるって言われない?」

「いえ?はじめていわれましっ――!!」

 

不意打ち気味に手を引かれキスをされそうになる。

しかも唇を狙ってだ。

かろうじてかわすが頬にキスをされる。

後ろから殺気を感じる…しかもすげぇ音した、今。

何かを握りつぶすような…ベコって鳴った!!ベコって!?

 

「……………………」

「「「「「「「き、キャァァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」

「な、何するとですか!?」

「あら?あなた私に脈があるかどうか聞いたじゃない。答えを返しただけよ?」

「いや、あれは冗談で!?」

「あら!?私遊ばれてたの!?」

 

とわざとらしく口に手をあて驚いた顔をする。

畜生、絶対隠した口元笑ってるだろ……

バスの中は大混乱だ。

 

「ちょっと!!風音君が美女を口説いたらしいわよ!!それも任務中に!!」

「ちょっと待って…そういえば…おとといから昨日の朝まで風音君は……」

「え!?何!!奏君だけ侵入ミッションか何かだったの!?」

「そこで美女を口説いて……」

「「「きゃぁぁぁぁあああああ!!!!嘘!!」」」

「しかもあの女性、今遊ばれてたとかいったわよね……」

「カザネ君がそんな……きゃぁぁぁぁあああ!!」

 

うわぁ…なんか大変な事になってきたぞ…

特に俺の後ろの席…すごい殺気がする…

ナターシャはその風景を見て満足げに笑う。

 

「あら、大変な事になったわね。」

「………日本にはキス文化は無いもので…」

「あら?私の国でも唇にするキスは特別よ?」

 

というと後ろの方から俺の椅子を蹴る奴が居る。

落ち着くように説得する三人の声も聞こえる。

 

「…………」

「しゃ、シャルロット落ち着け。奏兄はそんな奴じゃないだろう!?」

「そ、そうですわ!!気を確かに!!」

「落ち着くんだシャルロット。」

「………」

 

うわぁ後ろが怖い…

特に今のシャルロットの顔とか見たくねぇ…

ナターシャはそれを見て『あらあら』と言った感じで心底楽しそうにしている。

 

「おーい、ナターシャさん。この状況で帰る気?」

「そうねぇ…流石にかわいそうに思えてきたわ。」

 

そう言ってぼけーとしている一夏をちらりと見る。

おい、まさか。

 

「……いや、それはやめましょう?それは悲しみしか産まれない…」

 

と俺が言うとにやっと笑うナターシャ。

あ、これは危ない笑顔だ。

そして俺が一夏に何か言う前にナターシャは一夏の頬のちょうど俺と同じところにキスをした。

 

「「「へ?」」」

「あっちゃー…」

「…はぁ!?」

 

と唖然とする俺と一夏。そして後ろの一夏が好きな三人。

それに気がついたバスの全員もぴたりと止まる。

それを気にもせずにナターシャは笑いながらバスを降りていく。

 

「織斑一夏くん、あなたにもお礼ね。あとカゼネ、あなたのそれは別よ。バァイ。」

「「「「「「「き、キャァァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」

 

あ、アイツ最後に特大級の爆弾落としていきやがった。

恨めしそうな顔でバスから離れていく彼女を見ると…千冬さんが近くにいた。

そしてもう一度こちらに気が付きウィンクをしている。

そしてキスをされた一夏の方は……

 

「一夏ぁ!!き、貴様何を喜んでいる!!」

「そうですわ!!一夏さん!!不潔ですわ!!」

「嫁は!!浮気しちゃ!!!駄目だろう!!!!」

「ちょ、ちょっと待て!!やめて!!物を投げるのは本当に!!」

 

と一夏は物を投げられさらに三人に捕まりそうになっている…

という事は……先ほどまで三人に抑えられていたはずのシャルロットは…

 

「ねぇ……ソウ?」

「……当方は無罪を主張します。」

「ふぅーん…口説いておいて…そんな事いうんだ…」

 

うわぁ…椅子の後ろから怨念が聞こえる…

後ろ向きたくねぇ……

一夏は…完全に三人+αに引っ張られて袋叩き状態だ。

あれに助けを求めるのは酷だろう…何より多分一夏は同じように俺に助けを求めているはずだ…すまん一夏…こっちはこっちで大変なんだ…許せ。

 

「いや?僕としてはそんなつもりは一切―――」

「でも原因はソウだよね?」

「いや、だからさ、僕の戦闘スタイルっていうか、しゃべってないと死ぬって言うか――」

「で…今こうなっちゃったんだよね?」

 

あ、駄目だこれ。逃げられそうに無いわ。

むしろ泥沼にはまってる。

かくなるうえは……

俺は覚悟を決めてシャルロットの方に立って向く。

うわぁ…すげぇこえぇ…

 

「よし、シャルロットわかった。」

「へー……何が?」

「………あまり痛くしないでください。」

「ソウの……バカァァァァァアアアアアアアアアアア!!」

 

と言って俺に中身入りのペットボトルが投げつけられるのだった。

これって原作だと一夏が喰らうんだよなぁ…

まぁこのぐらいは受け止めよう。

しかしその後千冬さんが戻ってくるまで俺はシャルロットに説教をされていた。

こうして本当に臨海学校は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

時は万物を運び去る。心までも。

                             ~ウェルギリウス~

 




ナターシャさんちょっと軽くしました。
なんというかキャラかぶりが起きてしまいそうだったんでww
ということで次からオリジナル展開の後…4巻のようなものが始まります


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第七十話 アンノウン

学園に帰って次の日。

俺はすぐさま倉持技研の方に派遣されたっていうか…半分拉致された。

理由は簡単である…俺のISについてだ。

俺のIS…いや、正確にはISらしきものの研究をおこなうつもりが…

待機状態のISがまったく反応を示さないのだ、まるでただのサングラスのように…

それで一応俺が展開できるかどうかの話になり、連れ浚われた。

そして現在倉持技研の実験室らしき場所で俺はおっさんとそのほか数人の科学者らしき人物が居るところにいるのだ。

 

「えっと……おっさん、話には聞いてたんだけど…なんでこんなに人がいるの?」

「お前のISの研究のためだよ。」

「いや、一夏の方は?」

「あっちはあっちでいるが…お前の方が異常なんだよ。」

 

とおっさんと俺はひそひそと話し始める。

 

「いいか、恐らくお前の機体に起きた現象はセカンドシフトだと思われるんだが…」

「だが?」

「そこまで形状が変ったのは初めてなんだよ。普通どこか機体の特徴が残るもんなんだが…さらに言えばここまで反応がないとなると……」

「ただのコートみたいになってたね。」

「ああ、それでここにいる科学者たちはセカンドシフト(それ)の専門の研究をしている。」

「そういうこと…」

 

ようは普通じゃありえないデータを得るために来たのか…

まぁ俺としてはこのデータはすべて公開するつもりだし問題は無い。

 

「で、まず何すればいいの?」

「ISを展開してくれ。」

「了解。じゃあ一応離れてくれ。」

 

そういうとおっさんが距離をとる。

その後ISを展開する。

普通ここで光に包まれて…ってなるのが普通なんだが、やはり俺の機体は赤いドロのようなものが俺の体に巻きつくようになり…全身を被いコートになった。

そしてこのドロどうなってるのかな?と思い触ってみるとそのまんま布みたいな手触りだった…

 

「それで展開は終了か?」

「……多分。」

「じゃあ武器も展開してそこに立ってくれ。お前ごとスキャンする。」

「了解。」

 

そう言って俺のISのデータ取りが始まった。

まぁ…俺はこの後一週間研究所に泊まりになる事はこのとき考えもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後研究員は全員頭を抱えていた。

以下の事が今回の研究でわかったことだ。

 

・スキャンの結果⇒武器含めスキャンが成功しないことがわかった。

・材質の検査⇒材質不明、サンプルを取ろうにも機体から一部もはずす事が出来ない。

・機体性能⇒PICの強化は確認されているがそのほか、拡張領域等のデータは不明。

・他の機体からのコンタクト⇒表面的なところは方法次第で可能だがデータの引き抜きは不可。

・基本的なISの機能⇒一部除きすべて確認。

 

といういわば何もわからないと言う事がわかった。

いろいろとテストを受けていてわかったのがまずこの機体『近接戦闘は一切できない』。

普通ISと言うのはパワードスーツだ。

いろいろな機能を使って普通の人間では出せないような力を出す事ができる。

だが俺のこの機体は……それが無い。

出す事ができるのは俺の筋力分の力だけだ。

そしてこれが恐らく全力でこの機体を動かせる理由だろう。

今まで俺が全力で動くたびに壊れていた理由。それはISのこの強化部分が俺の反応速度やスピードについてこられずそこに負荷がかかり壊れる事により動けなくなっていたのだ。

おっさんはそこを機体の反応速度を限界まで上げ、さらにイメージ・インターフェイスで直接機体そのものを反射で動かすと言う力技で制限時間付きで動かせるようにしたのだが。

……ISのコアの方はそんなもの邪魔になるならいらないと判断したんだろう。

綺麗さっぱりなくなっているらしい。

これでは他のISと近接戦をしようものなら確実に力負けることになるだろうが…

正直近接戦闘なんてやった記憶の方が少ない、パニッシャーで殴ったときくらいだろうか。

まぁ筋力が俺の力そのままだと確実にパニッシャーは使えない…そこだけが少し寂しい。

 

続いて装甲、これがある意味研究者たちを一番驚かせた。

俺の体に当たらないコートの端の所に攻撃を当ててみた結果、攻撃の当たったところだけ硬化したような反応が見れた。

普段は布のように柔らかいが、当たった瞬間硬くなる…ある意味理想的な装甲だろう。

だが問題として…衝撃は通る。

何も考えずにシールドバリアを張らずに弾丸を喰らおうものなら確実に衝撃でダメージを受ける。

機体は無事だがパイロットがダメージを受けるのだ。

そしてサンプルを取ろうと機体を削ろうとしたのだが…削れない、切れないと言うことになり一夏を召集。零落白夜で少し端のほうを切ったのだが…切り離されたとたんそれは煙のように消えて無駄に終わった。

 

さらに元々颶風についていた特殊兵器だが、ほぼすべて消失した。

戦闘中にも気がついていたのだが俺の颶風はシャルロットの烈風のように行動予測をおこなわなかった。研究中もその機能を使おうと試してみたが…一切起動する事は無かった。

さらにイメージ・インターフェイスで直接動かす機能。これもなくなっていた。

まぁもう全力で動けるから使う必要も無いんだが…これでは最早第三世代ではないな。

だがシャルロットの烈風とのラインは生きているらしく俺が研究中に集めたデータはすべてそちらの方に向かっていた。

これで一応第三世代を名乗れるのだろうか…いや無理だろう…

イメージ・インターフェイス使ってないし…むしろ存在するかどうかもわからん。

 

そしてこの機体の武器について。

弾は内部で生成したのか…それともどっかから持って来たのかかなりサイズは小さい、だが造れないわけではない弾丸らしい。そう、この弾丸が特殊と言ったわけではないのだ。

特殊なのは銃本体の方、だが二つ銃の異常な威力と加速、さらにエネルギー兵器をかき消す能力はなぜだかわからなかった。

さらに言うとリボルバー式の銃なのに弾をこめるところに弾が転送されない…だが引きがねを引けば弾丸が出るのだ。ならばなぜリボルバー式にしたんだろうか…

ただ考えられる可能性としては銃の形は俺の武器のイメージ、さらに能力に関してはイメージ・インターフェイスを使用しているのでは?という結論に落ち着いた。

 

最後に機体そのもの。

一つ目としてはPICが普通のISの何倍も優秀なのだ。

特に空中移動に関しては基本的な浮遊のや移動だけでスラスター無しで高速機動戦ができる。

さらにG対策も優秀らしく結構無理な動きもいける。

弱点としてはスラスターが無いので瞬間加速は使えないことである。その分普通に動く分ならかなり優秀だ。

二つ目に一番初めに…いや最初から最後までわからなかった事はISコアがどこにあるのか判明しなかったのだ。

さまざまな方法でそのコアの位置を探したのだが見つかる事は無かった。

そのため能力に関しても詳しいことが解らず、さらに少し判明しても深く調べられないのである。なのでこうではないだろうかという仮定を元に研究をしているらしい。

そこでどうやって機体とコンタクトをとったかと言うと『烈風』である。

烈風が今現在俺の機体と一番深くつながっている。

そして通信が出来たと言う事はとりあえずISコアはどこかにあるんだろう。

だがそれがわかった上で重大な事が判明した。

この機体のデータをとる上で一番確実なデータの集める方法が烈風しかないのだ。

他の方法はほとんどすべて失敗に終わっているらしい。

はじめ倉持技研としては烈風を完全にデータ取りとして使いたかったらしいがデュノア社としては自社の命運をかけた機体だ。そういうわけにもいかない。

ということでデータ集めはこれから随時おこなっていく事になった。

 

最終的に俺の機体の扱いはセカンドシフトした第三世代。

イメージ・インターフェイスを使用した液体金属装甲と武器の強化と言う事で一端の結論がついた。

さらに名称は一応『颶風』のままだが…もうほとんどその名前ではなく『アンノウン』と呼ばれるほうが多い。

まぁこれのデータを発表した結果さまざまなところでしっかりとしたデータを公開しろと言われたが……本当にこれしかわからないのだ。どうしようもない。

俺からこのISを取り上げる事も提案されたのだが…

俺以外にこのISは展開すら出来ないのだ。

せっかくセカンドシフトをおこなった機体の、しかもデータはすべて公開される事になっている機体だ。それはすぐさまに却下された。

ということで結局のところ俺は新しいISを手に入れた…

 

 

 

 

 

 

そして一週間後。

ようやく俺はIS学園に帰ってきた。

夜中に部屋に帰ると一夏は眠っていた。まぁ別に話す必要は無いし…何より明日は休みだ。話す時間はたっぷりある。とりあえずゆっくりと休もう。やらないといけない事は山ほどあるんだ。

明日は訓練も休もう…そう考えてゆっくりと眠る。

朝いつもの時間に目を覚ますが二度寝をする。

ああ、なんて気持ちがいいんだろう、二度寝。

そう考えながら再び眠りにつく。

………その考えがいけなかった。

しばらくした後目を覚ますと一夏のベットに一夏が居ない。

枕元の時計を見ると既に時間は九時だ。

まぁ…何か予定があったんだろう。それにしても水臭いな、一言くらい声をかければいいのにと思い起き上がると。

 

「おはよう……ソウ…」

「………おはよう。シャルロット。」

 

なぜか部屋にシャルロットが居た。

しかも目が据わってる。

おっと?俺なんかやったか?

とりあえず一夏がどこに行ったか聞いてみよう。

 

「そういえば一夏は?」

「…さっき部屋を出て行ったよ?なんか用事があるみたい。」

「そうか。そういや久しぶりだな。」

「そうだね…突然なんにも無しに居なくなるもんねソウは。」

 

あ、そういや居なくなる時も何にも言わないで出てきたし…外部との連絡も取れない場所にいたんだったな……でも先生方に聞けば…

 

「居なくなった一日目、本当に探したんだからね。一夏も知らないって言うし…」

「いや、先生に聞けよ…」

「…それは心配しすぎてすぐには思いつかなかったの。」

「じゃあそれはお前が悪い、それに俺も突然で話す時間もなかったんだよ。居たところも外部との連絡は取れなかったし……」

 

と俺が笑いながら言うと今度はシャルロットは心配そうな顔で俺を見る。

 

「でも……」

「心配しすぎ。何か思い当たるところはあるの?」

「………篠ノ之博士の事…」

「何の事だ?」

「……私も旅館で織斑先生に聞いたんだ…」

 

話を聴いた瞬間一気に目が覚める。

おい…千冬さん…何でシャルロットを巻き込んだ…

流石にこれは見逃せない…

そう考えて無言で立ち上がろうとするとあわててシャルロットが止めに入る。

 

「ソウ待って!!」

「すまん、これは流石に――」

「落ち着いて!!私が無理やり聞きだしたの!!」

「…え?」

 

なんだって?あの千冬さん相手に?お前が?

そう考えてシャルロットの方を見ると顔を伏せながら話し始める…

 

「ソウが居なくなった後一回織斑先生に詰め寄って…嘘ついて聞き出したの…」

「…どういう風にだ」

「…『ソウとの話し合いはどうなりましたか?まさか織斑先生は…ソウの敵に?』って…」

「待て待て、何で千冬さんが敵になるんだ?」

「だって…ソウが海岸に居た時に銃を持って落ち込んでたじゃない…それで喧嘩した…そして織斑先生の名前を出したら否定もしなかったでしょ…それで織斑先生に話しかけたら『私はお前たちの味方だ…信じてもらえんかもしれんが』って言ってたんだ…それで…」

「それで?」

「おかしいと思ったの…なんでここで織斑先生が『私は』って言ったんだろうって…それにその前にソウが喧嘩を売ったってときも…ソウが武器を持ってそんなことするなんてよっぽどだと思ったんだ。それにソウが喧嘩をわざわざ売るような相手で織斑先生の関係者…そう考えたら一番最初に思い浮かんだのが……」

「篠ノ之束だって事?」

「……うん。その後それを知ってる風に話をしたらすぐに認めてくれて…その後すぐにばれたんだけど…」

「なるほど……」

 

これは…完全に俺の責任だな…

油断してシャルロットに武器を見せて、さらに落ち込んでたとは言えシャルロットへの対応を間違いすぎた…だからシャルロットも疑問を覚えた。

さらに千冬さんを落ち込ませた状態で放置した…だから千冬さんに隙が生まれた。

…なんという無様だろうか…頭を抱えながら話を進める。

 

「その事は他の奴には?」

「ううん……誰にも言ってない…」

「千冬さんはなんて?」

「すごい…落ち込んで私に『頼むから…奏の言うとおりに動いてくれ…あとこの事は誰にも言わないでくれ…頼む』って…あんな織斑先生…初めて見た…」

 

それが千冬さんがおかしくなっていた理由か…

うわぁ…思ったより千冬さんを追い込む結果になってるな…

さらにここでばれちまったか…いつかは言わなければと思っていたが…このタイミングでか…

これをきちんと説明するためには…千冬さんのことも言わないといけない。

それだけは絶対に出来ない。

 

「シャルロット…頼む…聞かなかったことにしてくれ」

「そんな!?」

「後で必ず理由は説明する。だが今はそれが出来ないんだ…」

「……」

「納得は出来ないと思う…だがこれが最善の手段だったんだ。」

「ソウが犠牲になるのが?」

「いや?俺は一人で戦うつもりは無いよ?」

「え?」

 

と驚くシャルロット。

恐らく俺が一人で篠ノ之博士と戦うつもりだと思っていたのだろう。

俺はにやっと顔を笑わせる。

 

「シャルロット、お前千冬さんからなんて聞いた?」

「えっと…『奏が束に自分を殺してみろって言って…』って。」

「ああ、まったく聞いてないわけか…約束の内容はな『アイツが俺を卒業までに殺せたら向こうの勝ち、俺がIS学園を卒業するまで殺されなかったら俺の勝ち』なんだ。」

「うん。」

「で、細かいルールとしては『周りを巻き込むように戦うな殲滅はなし』『政治的な攻め方はなし』この程度だ。」

「………ちょっと待って…これって…」

 

としばらく考えたシャルロットも気がつく。

俺はさらににやりとする。

 

「そう。別に俺が防衛する時集団で守ってもいいし、向こうが攻めるときに集団で攻めてもいい。だからある程度皆強くなったら頼むつもりだったんだよ。」

「で、でもそれなら向こうだって…」

「誰が協力するんだ?」

「え?」

「例えば他の国家。IS学園に攻め込むなんて自殺行為だ、義も無ければ理も無い。よってこれはなし。例えばテロリスト、でもそんな奴らが殲滅戦をしないなんてルールは守れない。」

「でも…ルールを守らなかったら…」

「その時は…考えはある…最後に亡国機業、こいつらが一番ありえるだろうが…確実に無料じゃ動かない。それにこの亡国機業の恐ろしいところは実態が見えないところだ。それが表立って攻めて来るならそれはそれで潰しやすい。」

 

亡国機業の恐ろしさ。それは組織が見えてこないところにある。

影で暗躍しそして動いた時には証拠が残らない…これが恐ろしいのだ。

だが仮に表立ってこちらを攻めてくれるのならば話は別だ。

対応もしやすいし何より潰しやすい。

 

「……じゃあ篠ノ之博士は?」

「恐らく無人ISとどっかの組織と複合で攻めて来ると思うよ。」

「そうなんだ……でも…」

 

と俺の考えは納得できたようだが…篠ノ之束の危険性がわからないシャルロットには意味がわからないだろう。ある意味俺が勝手に危険視して喧嘩を売ったようなものだ。

 

「まぁ…しばらく後の話だ、気にするなよ。」

「うん…わかった。でもちゃんと私に説明してよ?」

「了解。」

 

そう言って話を打ち切る。

こうは言ったものの……実際は俺一人で戦うつもりだ。

下手に一夏と箒以外の誰かを巻き込んでしまえば束は確実に容赦しないだろう。

さてとりあえず理事長()楯無(Osa)には一言言っておかないとな…

後早いうちに千冬さんのカバーをしておかないと…

そう考えながら一日が始まっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう

                             ~アインシュタイン~




少しずつ事態が奏の手から離れていきます。
事態がどう動いて言っているかそれとも動いていないのか…それは誰にもわかりません。


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第七十一話 師

現在活動報告の方で以下のアンケート中です。
よろしければどうぞ。

作者帰還時中編アンケート
①スタイリッシュゲゲゲの鬼太郎≪鴉~KARAS~≫原案の短編
②スタンド探偵≪ジョジョの奇妙な冒険≫原案の短編
③ファンタジー物≪オリジナル≫の短編
④その他(こんなの書けない?というものがあれば。)



さて楯無はともかく理事長の説得はすぐに終わった。

理事長としても、束がこちらを攻めて来る時の動きをある程度制限できる事はプラスになるらしい。さらに亡国機業に関してもある程度の監視は出来るらしいので大きな動きがあればすぐにこちらも動けるらしい。

ただ……あまり千冬さんを追い込むなとやんわりと釘を刺された。

こちらとしてもそのつもりが無い事は伝えたが……

これで理事長も何かを知っている事がわかった。この狸は本当に何者なんだろうか……

一方楯無のほうは……

 

「いいからあなた生徒会に入りなさい。」

「嫌です。」

「今ならシャルロットちゃんも入れていいから!!」

「それ、完全に楯無さんのプラスですよね?」

「紅茶おかわりどうぞ。」

「ああ、ありがとうございます虚さん。ほんとおいしいですね、この紅茶。」

「当たり前よ、世界一の紅茶なんだから。」

 

先ほどからこれの繰り返しである。

現在俺は生徒会室で楯無とお茶を飲みながら話していた。

ちなみに俺に紅茶を入れてくれているのは布仏 虚。

整備科の三年生で主席らしい。そしてさらにのほほんさんの姉。

眼鏡に三つ編みといういかにもお堅い感じのしっかり者なのだが…そういわれるとどこかのほほんさんと似ているところがある。

現在話しているのは束がせめてきたときの対策を話しているのだが…

こちらとしては楯無にはの生徒の避難ともしもの時の防衛を頼むつもりだった。

だが彼女としては自分がメインになって戦うつもりらしいのだ。

 

「あら?彼女の事を高く評価するじゃない?」

「そりゃそうですよ。アイツはかなり使えますよ?」

「……男としてそれをいってるの?」

「人として言ってるんですよ。何考えてるんですかエロ会長。ちょっと…真面目に引きます…」

「ちょっと何それ!!別に私はそういう意味で――」

「どういう意味ですか?」

「ベタなネタは止めなさいよ!?まったく……」

 

と怒る楯無。

まぁ互いに本気で話しているわけじゃない。

しかし…なぜ彼女はここまで引き下がらないのだろうか…

 

「会長、何でそこまで譲らないので?」

「生徒を守るならあなたを引き込んでおいた方がいいからよ」

「生徒の安全を考えるなら俺を学園から追い出すのが一番だと思いますけど?」

「あら?そんなことしても篠ノ之博士の学園への襲撃は止まらないでしょ?」

 

そう平然と言葉に出す楯無。

近くにもう一人生徒会の役員が居るというのに…

俺がそれを気にしていると楯無はにやりと笑う。

 

「彼女は大丈夫よ。あらかじめこの事は知ってるから。」

「でももしかしたら僕が勝手に喧嘩を売ったせいでせめてくるのかもしれませんよ?」

「……2ヶ月前の『織斑 一夏』対『凰 鈴音』の試合の謎の無人ISの襲撃…あれが篠ノ之博士の仕業かもしれないって言ったのはあなたよね。」

「ええ、確かにそうですね。」

「私たちもそれをメインで考えてさまざまなところに枝を伸ばしたわ。そして今回おきた福音の事件……『更識』の方で調査した結果…裏でいろいろと取引があったのが確認できたわ。」

「だがどのような話がおこなわれてたか、まではわからないっと。」

「ええ、ただアメリカ、イスラエルに『謎のISコア』が渡された事はわかったわ。確認されているどのISコアとも違うナンバーなしのコアがね…」

「……それでですか…」

 

これは彼女が確信するのには十分な理由になるだろう。そしてこれの危険性も…

ISコアを造れるのは篠ノ之束のみ、そして福音の事件後なんだかの取引をおこなってコアを秘密裏に取引に使う…さらに無人ISについてもこちらは知っている…

すべてをまとめて考えると凄まじい危険人物だ。

 

「既に世界各国は紅椿の所属をめぐって争っているわ、ただの高性能機でね。仮に無人ISなんてものを彼女が発表したら…篠ノ之博士。彼女は事の重大さがわかっているのか、いないのか……ISを使って世界を滅茶苦茶にしかねないわ。」

「世界ですか…大きすぎて想像つかないですねぇ……ただしばらくは他に動く事は無いと思いますよ。思いっきり挑発してやりましたから…問題はそのアグレッシブな動きで俺に全力でせめてくることくらいでしょうか?」

「…やっぱりあなた生徒会に入りなさい。戦うなとはいわないけどせめて私がすぐに駆けつけられるところに居なさい。」

「……悪いですけどお断りします。」

「っ、あなたも攻めてきたときIS学園そのものがどうなるかは…わかるでしょ。」

「楯無さんあなたと一緒に戦うのは最後の選択です。仮にあなたがこちらに付いたら…俺対篠ノ之博士から…IS学園対篠ノ之博士になりかねない。そうできるような約束をしています。」

「なら…」

「では対俺のときの戦力が俺一人に向けられるなら対策はありますが対IS学園の広域に向けられた時に守りきれますか?学園の全員を。」

「……あなたはどれくらいの戦力が来ると思っているの?」

「下手したら三桁の無人ISはくると仮定しています。」

 

それを聞いて楯無は顔をしかめる。

もちろんここまで来る可能性は低いだろう。

そんなことをしたら確実に無人ISの事はばれ、さらに世界大戦になってもおかしくは無い。

そうした時に被害を受けるのは箒や一夏、さらには千冬さんだ。

そのためそこまでする可能性は低い……だがゼロではないのだ。

流石の楯無もそれほどの戦力が来るとなると守り抜きにくいのであろう。

 

「これで俺一人を狙うとなれば逃げる方法も戦う方法もあります。でも別々にいろいろなところを攻められるとなると……正直守り抜ける気がしません。」

「だから私を使おうって言うのね…」

「まぁ…そういうことになりますね。あなたは『学園の生徒を守るために俺たちとは別に戦っている』これが一番でしょう。」

「……高くつくわよ。」

「そこを何とかお願いします。」

「はぁ…わかったわ。……ここにシャルロットちゃんを呼びなさい。」

「……いや、待ってください。あいつは――」

「私たちの事情を知っていてなおかつ優秀なんでしょ?それとも他の人に事情を教えるって言うの?私たちが情報を取り合うのは彼女を仲介させるのが一番よ。」

 

言っていることがわからないでもない。

だが感情は別だ。

楯無も真剣な顔という事は別に茶化しているとかそういう意味じゃないんだろう。

 

「……」

「…それともやっぱりあなたがこっちに来る?」

「……わかりました、ちょっと待ってください。」

 

そう言って諦め俺はシャルロットに連絡を入れるのだった。

連絡を入れて数分後シャルロットがやってきた。

 

「失礼します。」

「どうぞ入って。」

 

その声にドアを開けて部屋に入ってくる。

緊張しているのか顔は真面目だ。

一方俺は紅茶をのみながら座ったままチョイチョイと手招きをする。

そのまま導かれるままに席に座ると楯無が話しかける。

 

「はじめましてシャルロット・デュノアさん。私の事は知ってるかしら?」

「はい…現IS学園生徒会長、そしてロシア代表操縦者でもある更識 楯無生徒会長であってますよね。」

「風音君これが普通の生徒の反応よ。」

「いや、僕にとったら明日の海の波の高さの方がまだ気になりますよ。」

 

と言って興味無さげにお茶を飲む。

楯無のほうも『つまらない』、と言った感じでむすっとした後さらに会話を続ける。

 

「あなたをここに呼んだ理由は……あなたも知っている篠ノ之博士に対する対策のためよ。」

「!?どういうことでしょうか。」

「あなたも知ってのとおり、恐らく博士は今後も確実にこちらを攻めて来るでしょう、そこに居る彼を狙ってね。」

 

そう言って楯無はこちらを見てくる。

シャルロットはそのまま楯無のことを見て何か考えている。

 

「でも私たち生徒会が直接彼を守ると篠ノ之博士と敵対してしまうわ。でも他の生徒を守るためには親密な連携をとらないといけない。」

「…その仲介として両方の事情を把握しても問題ない私を使うといった感じでしょうか?」

「ええ、そのためにあなたには生徒会に入ってもらいたいの。そこに居る彼もあなたの事を高く評価していたしね。」

 

そう言って楯無はシャルロットに手を差し出す。

俺はあえて何も言わない。この程度は言う必要も無いだろう。

しばらくシャルロットは考えた後にっこりと楯無に笑いかける。

 

「スイマセンがその話お断りします。」

「……どういうことか聞いていい?」

「えっと…私が間に入るのはいいんです…でも生徒会に入る…それだと私はソウと一緒に戦えませんよね?」

「……なぜそう思ったの?」

「まず生徒会が敵対できない理由。それは篠ノ之博士とソウの約束が原因ですよね?『殲滅的に攻めるのは無し』これで仮に表立って生徒会が味方についたら確実に攻める範囲が広がりますよね。そしてそれから他の生徒が巻き込まれないようにするのはほとんど不可能…だから私がソウと楯無さんの間に入って生徒の防衛に関して動く…ここまではあってますか。」

「……続けて。」

「ですがこれをおこなう時に私が生徒会に入ったら…ソウと一緒に戦えません。なぜなら私も生徒会という組織の一員ですから。そこで他の生徒会役員を攻められたら間に入った意味がありませんよね。」

 

と笑顔で話し続けるシャルロット。

楯無のほうも笑いながら話を聞いている。

 

「私はソウの役に立ちたいとは思いますが…いざというとき守る事が出来ないなんて嫌です。だからその…スイマセンが生徒会には入れません。」

「……はぁ…流石に騙されてはくれないか……。」

 

そう言ってため息をついて扇子を広げる。

扇子には『残念』の二文字。

これなんか仕組みがあるんだろうか…それともいくつか種類があるのか?

 

「スイマセン、でも仲介するだけなら喜んでやりますよ。」

「ええ、じゃあそれだけは頼むわよ。」

「わかりました」

「……ねぇ何でさっきからあなた何も言わないの?」

「いやぁ…僕、口挟まないほうがいいかなぁ…って。」

「あら意外、途中シャルロットちゃんを助けに入るかなぁって思ってたくらいなのよ?」

「必要なかったでしょ?」

「あら?オアツイ事で。やっぱり本音ちゃんの言う事は本当だったみたいね。」

「のほほんさんなんて言ってます?」

「『ソーとデュッチーが付き合い始めた?』って感じだったわよ?」

 

やはり彼女は気がついていたか…

でも確証は無いって感じだろうが、時間の問題だろうなぁ…

とりあえずここで下手に出れば楯無にいじられ続けるのは確実だ……

何でもないようにしていよう。

 

「あらら、あまり広めてほしくないんですけど。」

「まぁ…理由はわからないでも無いけどねぇ…って、否定しないの!?」

「彼女の目の前で全否定って最悪じゃないですか?」

「まぁそうだけど……私が広めるとか思わなかったの?」

「え?広めるんですか?何のメリットがあって?」

「あなた…私がメリットデメリットだけで動くと思ってるの…」

 

と言って完全に俺の事をいじる気満々の笑顔でこういう楯無。

というか…多分のこの中で一番興味津々なのは虚さんだな…

滅茶苦茶俺とシャルロットを見てる。

 

「まさか、ただ楯無さんならそこらへんを察して広めるのはやめてくれそうだと思ったからいっただけですよ。」

「裏切るかもよ?」

「その時はその時ですよ。それを気にして誰も信じないなんて本末転倒でしょうに。」

「……本当にあなたってこういうことじゃ焦らないわよね。さっきシャルロットちゃんをこっちに引き込むって言ったときの反応の方がまだ面白かったくらいよ?」

「そいつはスイマセン。ではそろそろ席を立っても?この後織斑先生にも会わないといけないんで。」

「ええ。あ、シャルロットちゃんだけ置いていってもらっていい?」

「それは本人に聞いてくださいよ…」

「あら?もしかして私に嫉妬しちゃうかなぁ…って思って。」

「そうなったらまず簪ちゃんにあること無い事ふきこみますよ。」

「ちょっと!?本当にやめなさいよそれ。」

「それは楯無さん次第ですかねぇ…ではまた会いましょう。じゃあシャルロットまた。」

 

そう言って笑いながら俺は生徒会室を出た。

今度は千冬さんのほうに向かわなければ…そう考えて動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬さんに会いに職員室に向かったが現在千冬さんは剣道場にいるらしい。

恐らく一夏の事だろうがと思い剣道場に向かう。

中に入って中を覗くようにみると千冬さんの事はすぐに見つけた、壁際で箒と一緒に現在の試合を見ている。

 

「やぁぁあああああ!!」

「まだまだ甘い。もっと自分の体の動きを意識しろ。」

 

そういわれて軽くいなされてる方、防具を身につけている奴は恐らく一夏だろう。

だが相手の方の一切防具をつけてない男性は……と観察しているとこちらに視線を感じる。

一夏を相手にしても俺に気を配る余裕もあると…って言うか…見定められてるのかな?これ…

そう考えながらも、とりあえず微笑み返す。

向こうの雰囲気が一旦鋭くなり一夏に振り下ろされる。

すん止めだったが一夏は気圧され動きが止まる。

うわぁ…竹刀の剣なのにすげぇ圧力…

そう考えてると男性が口を開く。

 

「鍛錬は一度止めだ。少々休憩しよう。」

「はい先生。」

 

先生…って事は一夏と箒の師匠の…箒の父親か。

そういわれるとどこか箒と似たような雰囲気を感じるな…

 

「そこの君、何が用でもあるのかい?」

「あ、スイマセン。鍛錬の邪魔をする気は無かったんです。」

「奏!!」

「奏か…よく帰ってきたな。シャルロットには会ったか?」

「寝起きですぐ説教されたよ。ども、織斑先生。ただいま帰還しました。」

「……戻ったか…」

「ええ、とりあえず研究所からは解放されました。あと…織斑先生、後で少しいいですか…」

「……ああ…」

 

既に姿も見つけられていたしそのまま中に入る。

他の二人の反応は予想どおりだが千冬さんに声をかけるが反応が鈍い。

確かに理事長の言ったように追い込みすぎだな…

意識してやったわけじゃないんだが…どうしようかと考えてみるととたんに何か気圧される感覚がする。体が反応しないようにして横を見ると箒の父親らしき人からそれを感じる。

そしてさらに気配は強くなっていく。うわぁ…怒らせちゃった?俺…

と思いとりあえず苦笑を返してみるととたんに圧力が弱まった。

顔つきが変らないから何を考えてるのかがわからん…

と思ったらその男性が口を開く。

 

「一夏、彼を紹介してもらってもいいか?」

「え?あ、はい。アイツは俺の親友の風音奏です。俺よりも全然強い奴ですよ。」

「おい、その紹介は無いだろ。はじめまして風音奏です。えっと…」

篠ノ之 柳韻(しののの りゅういん)だ。一夏と千冬に剣を教えた男でもあり、箒の父親だ。」

「あ、ご丁寧にどうも。えっと柳韻(りゅういん)さんでよろしいでしょうか?」

「ああ、かまわない…」

「僕…何か気に障ることしましたか?」

 

と俺が声をかけると一夏と箒は首をかしげる。

って事は俺にのみあの圧力をかけていたのか……

でも千冬さんだけは反応が無いって事は何か思い当たる事があるんだろう。

 

「どういうことだね?」

「あ~、気のせいかもしれませんがさっきかなり……こっちにやってたじゃないですか、なんと言えばいいか…」

「気当たりかい?」

「あ、それです。それを僕にやってきたじゃないですか。」

「それにしては平然としてたじゃないか。」

「いえいえ、怖くて笑うしかなかっただけですよ。」

 

と俺が苦笑いをすると柳韻さんが脱力する。

あ、これ来るな……

とおもった瞬間には凄まじい踏み込みで懐に入ってくる。

こりゃかわせないわけじゃないけど本気でも結構苦戦するなぁ…と思いながら反応しない。

振り下ろされる竹刀は凄まじい勢いだ。こりゃ…当たるかもなぁ…

だが竹刀はぴたっと俺の顔ギリギリ、すん止めで止まる。それを見て一夏と箒は固まる。

俺は苦笑したまま柳韻さんの顔を見る。

柳韻さんは一切表情を変えずに俺の顔を見る。

 

「なぜかわさなかったんだ?」

「かわせなかっただけですよ。」

「嘘は言わなくても良い……」

「いや…本気で怒らせちゃったんだったら…仕方ないかなぁって思いまして…」

「仕方ない?なぜだ。」

「あ~……僕のポリシーみたいなもんです。」

「……今までの無礼を謝ろう。すまなかった。」

「え?」

 

今度は俺が唖然とする。

目の前の男性が突然頭を下げてきたのだ。

そればかりには本気であわてる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?なんなんですか!?」

「君を…いや、あなたを試すような事を突然して…」

「君でいいですから!?本当に頭上げてください!?」

「だが…」

「本当に!!僕が気にしてませんから!!お願いですから頭を上げてください!!」

「そうか…本当にすまなかった。」

 

と言ってまた深く頭を下げる柳韻さん。

それを見て固まっていた一夏と箒がはっとする。

 

「お、お父さん!!突然何を!?」

「せ、先生!?」

「………」

「驚かしてすまない、だが彼がどんな人物か知るのにはこれがよさそうだった。」

 

ああ、この人完全に箒の父親だわ。

自身がそう決めたら一直線…俺はこの時点で完全に箒パパとしてこの人を認めた。

まぁ認めなくても父親である事には変わりないんだろうけどさ…

 

「だが一つだけ聞いていいか?」

「はい?何でしょ?」

「最後の踏み込み。私は途中まで完全に当てるつもりだったがなぜ反応しなかった。」

「いや、出来なかっただけですよ。」

「反応できなかったというのは嘘だろう。完全に私が踏み込みを入れようとした時点で君は気がついていた。」

 

という柳韻さんの目には迷いが無い。

これは…下手に言い逃れは出来そうにないな。

 

「あ~~……織斑先生が居たからですかね。」

「……どういうことだ?」

 

俺がこういうと千冬さんもピクリと反応する。

柳韻さんは図りかねるといったかんじの顔をしている。

初めての表情の変化がこれかよ…

苦笑しながら話を進める。

 

「あ~…織斑先生が何も言わなかったんですよ。柳韻さんが俺に何をしても。」

「……だから動かなかったのか?」

「はい。織斑先生が認めた人ならひどい事は起きないだろうって言う…信頼みたいなものですかね。」

「だが途中まで本気で打ち込んだ事は…」

「まぁ…察しましたけど…それで打たれたらそれまでかなぁ…って。信じぬけないよりは格好がつくじゃないですか。」

 

と言って柳韻さんに笑いかける。

柳韻さんは一度俺に驚いたような顔をした後に元の顔に戻り千冬さんの方を向く。

 

「千冬、彼はお前の考えているより深い懐の持ち主のようだ。」

「ちょっと!?下手に持ち上げないでくださいよ?」

「お前が心配している事など初めから彼の頭の片隅にも無いだろうよ。それは私が保証しよう。」

 

そう言って千冬さんに語りかける柳韻さん。

………ああ、この人初めから俺にどう思われてもいいから、千冬さんに俺がどういう人か伝えようとしていたのか。

恐らくこの人は初めから俺に嫌われる事を前提として俺にここまでやったってたのか。

多分あらかじめ千冬さんから何かかしらの相談を受けたんだろう。

それでどんな結果になっても俺がどんな人間かは千冬さんに伝えるっていった感じか。

 

「……初めから計られてました?」

「…試すような真似をして本当にすまない。だがこれは私の独断だ、うら――」

「イエイエ!?そういうことじゃないんですよ!?ただどういう評価なのかなぁって気になっただけで!?」

「そうだな……確実に私よりも深い懐を持っているだろう、さらに――」

「いえ!?聞きたいわけじゃないですから!?止めてください!!目の前で自分の評価聞くとか、さらにほめ言葉とか本当に体中かゆくなりますから。」

「そうか……君は自己評価が低いんだな…」

「調子に乗ると失敗する性質なんで。」

 

そう言って話しかけた柳韻さんの顔は柔らかいものだった。

はぁ……この人天然でこういうことする人なんだろうな。

ある意味一番対応しづらい。…婆さんに近いものがあるな。

そんなこんなで俺は結局この鍛錬の終わりまで見学することになったがその間千冬さんの顔が笑顔になる事は無かった。

 

 

 

 

教師はローソクのようなもので、自ら燃やしつくして生徒を啓発する。

                                ~ルーフィニィ~



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第七十二話 +-0

引き続きアンケート中なう。
ということで書いてくだされば助かります。






「今日はここまでにしておこう。」

「「ありがとうございました!!」」

 

そう言って訓練が終わる。

さてこれは一夏の暴走対策なのかはわからないが……まぁ何かあるんだろう。

一夏と箒は訓練が終わった後すごい疲れて床に座り込む。

一方柳韻さんのほうはまったく疲れていないようだ。

汗一つかいてない……いや、結構動いてたように見えたんだけどなぁ…

まぁいいや、とりあえず千冬さんと話をしようと思うと柳韻さんと千冬さんが二人で話し始めた。

そのまま道場の外に出て話し始める。

まぁ仕方ないか。俺は一夏と箒のほうに向かう。

 

「お疲れ、二人とも。」

「あ~…手足が重い…久しぶりに全力で動いた気がする…」

「普段から動かないからこうなるんだ……」

「いや…それは違うだろ…」

「なんだと?」

「だったら箒も息切れしないだろ…先生俺たちそれぞれに全力出させたんだろうよ…」

「………確かに…」

 

と息を切らしながら話す一夏と箒。

笑いながらもそれを聞く。

この二人のお師匠さん『篠ノ之柳韻』さん…正直今の訓練だけでは底が見えなかった。

もしかしてこの人も篠ノ之束と同じように特異体質かと思ったんだが…とりあえず今わかることは底が見えないけど一夏と箒の二人が相手になっても勝てるだろうって所かな?

しばらく適当に三人で話していると千冬さんの声がする。

 

「奏、すまない来てもらってもいいか。」

「了解しました千冬さん。じゃ、ちょっと行ってくる。」

 

と俺はどう話そうか考えながら外に出る。

そこでは千冬さんと柳韻が真剣な顔をしていた。

 

「えっと…なんでしょう。」

「……お前の話をする前にこちらの方を先に話してもいいか?」

「どうぞ。」

「………お前から見たあの一夏の暴走…あれはどう感じた…」

「……ここで話してもいいのですか?」

 

と俺は柳韻さんのことをちらりと見る。

千冬さんはうなずいた後に話し始める。

 

「ああ、先生は……ある意味一番あれに詳しい。だが…」

「深くは聞きませんよ。」

「…すまない…」

「一夏の暴走ですか…正確に言うとあれって暴走じゃないんじゃないんですか?」

「……」

「理由はわかりませんが…一夏は…多分意識していないですが普通に戦っている時にもあの動きが少しずつできるようになってます。さっきの訓練中にも出来るようになってるところがちらほらありました。」

 

俺の言葉に千冬さんは何も言わない。

先ほどの剣道での試合中にも一夏はかなり戦い方が変ったように感じた。

まぁ…感じただけで違うかもしれないが。

 

「そこで体が覚えてる…って話ならなぜ暴走していた時の方が洗練された動きなのか……そこら辺はわかりませんがどちらかといったらこれは暴走ではなく…なんというか…元に戻ってるって感じですかね。変な話ですけど。」

「……そうか…」

「まぁ僕の感じた限りですけどね。」

「……」

「それで他には?」

「……すまないが話せない…」

「了解しました。」

 

そう言ってすんなり引き下がる。

そうすると千冬さんは俺の事を見て苦笑する。

 

「…お前は本当に私を信じているんだな…」

「?疑ってると思ったんですか。」

「自分のことを殺しかけた相手だぞ…」

「じゃあ僕が死んでから文句を言いましょう。よくも殺してくれたなぁって。」

 

そう言って茶化すように話かける。

まぁ…千冬さんの考えがわからないわけじゃないけど…

初めから俺はこの人を信じるって決めたんだ。

だったら最後の最後まで信じぬこう。

 

「…スイマセン先生。私は一夏と話してきます…その後に一夏の事は…」

「ああ、わかっている。」

 

と言って千冬さんが道場の中に入っていく。

……柳韻と二人きりになってしまった。

すごく気まずい。

 

「……君は何か…武術か何かを嗜んでいるのかい?」

「い、いえ。…ただ少し鍛えてるだけですよ。」

「…何か目的が?」

「あ~…目標ですね。どんな時でもどんな相手が敵でも逃げ回れるように。」

「……獲物は銃か…」

 

そういわれて俺は驚く。

俺この人の前で一度も銃について話した記憶はない…

 

「千冬さんか一夏から聞いたんですか?」

「いや…君の右手の人差し指…異常に皮が硬くなっているそれはそっとやちょっとじゃそうはならないだろう…さらに私が踏み込む時の体の反応も一番先に動いたのは右手でさらに指がわずかにだが動いた…」

「うわぁ…隠せてたと思ったんですが…」

「体に染み付くほどの鍛錬もしているわけか…その年齢でよくそこまで…」

「いや…まぁ…あまりほめないでくださいよ。」

 

そう言って話を打ち切ろうとする。

なにこの侍、産まれる時代を間違っちゃいませんか?

この人冗談通じるんだろうか…なんか下手な事をいったらそれを信じ込みそうで怖いな…

普通に会話をしよう…

 

「……千冬からある程度の話は聞いた。」

「…どの程度でしょう。」

「君が…私のもう一人の娘に殺されそうになっているところまで。」

 

うわぁ…情報漏らしすぎじゃないですか?千冬さん。

って言っても多分この人は口を割らないと思うけどな…むしろ一夏について何か知っているということは俺以上に関係者なのかもしれない……

って言うか…正確に言ったら俺が束に喧嘩を売ったからこうなったんだよなぁ……

 

「いや…あれは…」

「……それに関しては…私の教育のせいだ…本当に――」

「いえ…あれは僕にも非はありますし…って言うか…確実にこうなったのは俺の責任なんです。それは柳韻さんのせいじゃないですよ。」

「……だがあの子の代わりに……あやまらせてくれ…すまない…私も止められるのなら今すぐ止めるのだが……」

「あ~……やめましょうこの会話。どう考えても悪い方にしかいきません。」

 

ここでお互いに悪い方に考えたらまた千冬さんの時のようになりかねん…

自分のことを棚にあげた考えだが……それでも話続けるよりはマシだ。

 

「……そうか…後こんな事を頼めた義理じゃないが……箒と…一夏、千冬を頼む…」

「あ~……わかりました。でも俺が頼まれるのなんて一夏についてくらいだと思いますよ。箒は一夏と他の友人の方が適任ですし…千冬さんは俺のほうが迷惑かけてる状態なんで。」

「……そうか…」

 

と言って黙り込む柳韻さん…

うわぁ…会話がつづかねぇ…

って言うか共通の話題が少ないんだよ。

ここで俺が普段の箒についた話すのは違うだろうし、昔の一夏の事を聞くのもお門違いだ…

まぁしばらく黙っていようと思った時に千冬さんと箒が出てくる。

 

「スイマセン…先生お願いします。」

「ああ、…30分後にもう一度来てくれ。」

「お父さん…」

「箒…話すのはもう少し待ってくれ…時間はある……」

「……はい…」

 

と言って引き下がる箒。

こいつ…ほとんど家族と一緒にいれなかったんだよなぁ…

そう考えるとどこかやるせなくなってくる。

このISという発明品は何のために作られたんだろうか…

宇宙を目指すための船になるものだと思っていたが…

発明者の考えはわからず、その家族はバラバラになり、世界はかなり歪になった…

一体何のために造られたんだろうな…IS(こいつら)は…

と考えていると突然背中を引っ張られる。

 

「おお!?」

「風音、さっきから呼んでいるのが聞こえないのか?」

「ああ、スイマセン…ちょっと考え事をしてました。」

「……そうか…」

「で…どうします?どこで話しましょうか。」

「篠ノ之、お前は一度寮に戻れ…後で迎えに行く。」

「はい…わかりました…」

 

そう言って箒は寮の方へと歩いて行った。

さて……これからが本番だ…

 

 

 

 

 

 

アリーナの一室、わざわざここに来たって事は何かあるんだろうか…

そう考えていると千冬さんが話し出す。

 

「……デュノアの話は聞いたか?」

「はい、まぁ……あれはあいつが悪いですよ。」

「……すまない…あれは完全に私が油断していた…」

「まぁ…過ぎた事を話すのはやめましょう。最近気がついたんですけど僕がそういうことを話すと、ろくなことにならないんですよ。」

 

と大げさにため息をついた後、そう言って笑いながら話を進める。

今話すべきは今後の対策についてそれと千冬さんをある程度元気つけることだ…

まぁ…生徒の仕事じゃないけどネガティブな話はしないように意識しよう。

 

「とりあえず僕のISは使えるようになりました。これで一応全力で戦えます。」

「戦い方としてはどうするつもりだ。」

「とりあえず……僕が逃げ回りながら落としてくって感じですかね…多分博士の方も攻撃されない限りは他の人物を攻めるつもりは無いでしょう。それは巻き込む形になりますからね……」

「そこら辺の判断はあいつ次第というわけか……」

「まぁ一応こっちは情報を持って脅してる立場ですし問題は無いでしょう。あと一応千冬さんに言っておきます……あの千冬さんと篠ノ之博士が起こしたあの事件について話があるんですが…」

「ああ……わかっている。」

 

千冬さんが一番恐れてるのはこれだろう。

限りなくありえないと…でももしこれが本当だったらという恐怖が恐らく千冬さんにはあるんだろう…この恐怖心は自業自得と言ってもいいんだろうが……

まぁ…俺はこれで千冬さんを追い込みたいわけじゃ無いんだ…ここらでネタばらしをしておこう。

 

「僕は証拠なんて初めから持ってませんよ。」

「え?」

「まぁあの時の音声は録音してるのでそれは使えるとは思いますが、証拠としては弱いでしょう。」

 

一応束博士の自白とも取れる音声は残しているが……物的証拠は何も無い。

俺は千冬さんに笑いかける。

 

「まぁ…知っている理由は秘密ですが証拠までは集められなかったんですよ。」

「………」

「なので俺が篠ノ之博士を脅すために使っただけで脅す事は――」

「なぜそれを私にばらした!?私が…束にそれをばらすとは思わなかったのか!?私は既にデュノアにばらすような事を……」

 

そう言って千冬さんは俺に叫ぶ。

……ここまで感情的な千冬さん、始めて見たな。

俺は笑ったまま話かける。

 

「う~ん…理論的っていうか…打算があるように説明するならそれを篠ノ之博士に千冬さんが伝えても彼女が俺を攻めてくるのはとまらないだろうってのが一つ。いまさら言っても俺が篠ノ之博士にとって危険人物なのは変わりありませんしね。さらにいえば千冬さん、このままの状態じゃいつミスするかわかりませんからそれの予防ですかね。」

「………」

「まぁ正直の俺の考えを言うなら…落ち込んでる千冬さんを見たくないからでしょうか?」

「そんな理由で……私がやった事は――」

「いやそんな事言われても……俺の知ってる千冬さんはそんな事してるってイメージわきませんもん、なんか理由が合ったんじゃないんですか?第一…過ぎた事の話は禁止です、いいほうに絶対に進みません、必要最低限にしましょう。」

 

俺が真面目な顔をして話す。

だが千冬さんはまだ納得できないようだ。

 

「………お前は…なぜそこまで私を気にかける…」

「え?」

「お前が…束にあそこまで言ったのも一夏と箒のためと言っていたがそれだったら初めから私を脅してでも利用すれば…」

「いや…そんな作戦ごめんですよ…後味悪すぎじゃないですか…え?俺結構手段を選ばない男だと思われてた?」

 

とあからさまに落ち込んでみせる。

このままネガティブ方向に言ってもいいことなど何も無い。ここらでふざけてやろう。

 

「い、いやそういうわけでは…」

「そうですよねぇ…下手になぁなぁで済ませようとしたセシリアのときは失敗して喧嘩になり、間に入らなければ…と思って鈴に援護射撃をしたらすごい喧嘩を起こす。もうこうなったら強行的にやろうってやったら…一人救うために会社2つとさまざまな国に喧嘩売って、さらにもう一人助けるためとはいえドイツ軍まで使おうとする…あげくの果てに銃を使って脅しかけるとか……その上一回もろくに成功してないですもんね…うわ…自分で言っててなんかへこんできた…」

 

これは俗に言う箇条書きマジックというものだろう……多分きっと…

だが実際俺これくらいのことをやってるんだよな…

もっといい作戦を考えるべきだな。

これじゃあいつか何らかの理由で指名手配されたりつかまった時に『いつかやると思ったよ、あいつは。』って言われる事になりかねん。

まぁ……現在そんな事を言うのは国のお偉いさん方くらいだろう。

普段から既にいろいろ言われてる身だ。気にする必要は無い……だがショックなものはショックだ。

……あれ?ふざけるつもりが結構普通にダメージ受けてる気が……

千冬さんはあきれている…

 

「お前…結構こういうときはメンタル弱いな…」

「終わった事ならどうとでもいえますしね。だからこの話も早く終わった事にしましょうよ。」

「……そうだな………私もようやく覚悟は決まった。」

「僕は……決まってるんですかねぇ…」

「早いところ決めておけ。だが……おそらく束はしばらくは動かないだろう。」

 

そういう千冬さんの顔はかなり元に戻っていた。

話しの内容も大事だが俺にとってはそっちの方が大切だ。

よしこのまま行こう。

 

「どういうことでしょう?」

「アイツはお前の事を敵だと認識した、だが同時にそれ以上に一夏と箒のほうが大切なんだ。」

「はぁ…それで。」

「今お前を攻めたとしてもあの二人の成長にはつながらない。だから攻めてくるときは確実にあの二人の成長に必要な時だけだ。」

「………え?でも俺を消しちゃえば自由に攻めれるんじゃないでしょうか…」

「言っちゃなんだが…それほどの障害とは思われてないだろうよ。」

「あ、そういうことですか。」

 

つまり俺は片手間で倒せる相手だと思われてるのか…

まぁ…後半になればなるほど積極的に攻めてくるんだ。

初めのうちはこれくらいでいいのかもしれない。

 

「とりあえず…どれくらいの頻度で攻めてくると思いますか?」

「……7~8月中に攻めてくることは無いだろう……だが…」

「だが?」

「これも予測でしかない。何か理由があればすぐに攻めてくるだろう。」

「まぁ……そうなりますね。気をつけますよ。」

 

とりあえずいい情報をもらえた。

攻めてくるのは恐らく…9月の頭…それまでに対策を考えろ…か…

まぁ作戦も何も…やり方は俺が一人で戦う。これが一番良いに決まってる。

 

「まぁとりあえず他のみんなの事は任せましたよ?」

「ああ……お前には負担を――」

「はい、その話はやめ!!まずそのネガティブな話をするのはやめましょう。」

「……わかった。頼んだぞ。」

「了解しました!!ボス!!」

「誰がボスだ。」

 

そう言って笑いながら千冬さんとの話は終わった。

まだ元通りの仲というわけにはいかないがそこら辺は時間が解決してくれると考えよう。

 

 

 

 

 

断じて敢行すれば、鬼神も之を避く。

                                ~司馬遷~



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第七十三話 里帰り

俺がIS学園に帰り十数日が経ち夏休みに入った。

さて、とりあえず俺は里帰りする事を決めていたはずだったんだが…

なぜか現在ラウラに拉致されるようにしてチャーター機でドイツに向かっていた。

機内には俺、パイロット等機内で仕事をしてらっしゃる方々、ラウラ、そしてシャルロットがそこにいた。俺がラウラに拉致されそうな時にあわてて付いて来たのだ。

ということでシャルロットもなぜ俺がラウラに拉致されたのかがわかっていない。

とりあえず聞いてみよう。

 

「えーっと…ラウラいろいろ聞きたいが…こうなった理由説明してもらって良い?」

「今回は私個人での行動ではなくドイツ軍として動いている。」

「ふぁ!?」

「え?……ソウ、一体何やったの?」

「………いや…正直思い当たるところが多すぎて…」

「何かあるの!?思い当たるところ!?」

 

と頭を抱える。

あれ?俺が亡国機業にハックさせたのばれた?

それともVTシステムの事を知ったからには…って感じか?

いや、流石にそれは無いだろう。俺を連れ去るとなるとドイツの立場が悪くなる。

となると…なんだ?ラウラは説明を続ける。

 

「奏兄は現在国籍が無いな。」

「ああ、そうだけど。」

 

これでたびたび楯無にからかわれるのだ。

あの人は自由国籍。いわば俺の上位互換だ。

いつでも好きな国籍を選ぶ事ができるらしい。

一方俺は無国籍…どこも選択できないのだ。

たびたびOsaから『家無き子ならぬ国無き子ね。』といわれる。

クソ、まったくうまくないぞ、それ。

まぁ話がそれたがラウラのいう事はもっともだ。

 

「それで奏兄はドイツに行く許可をIS委員会に言っていたな。」

「まぁ…パスポートもないしね。結構前からお願いしてたのよ。……あれ?でもそのチケットって明日じゃなかったけ…」

「……私聞いてない…」

「いや…里帰りで…2~3日ぐらいで帰ってくるつもりだったし…」

 

俺の話を聞いてむすっとするシャルロットを説得する。

いきなり婆さんに『彼女です』をやる事になるのは勘弁だ。

そう考えて何もいわないでおこうと思ったんだが…

 

「わがドイツ軍としては世界的に貴重な男性操縦者を守るための対策としてさまざまな対策をおこなっている。」

「……ああ、あのチケットはブラフだったのね…それって俺に言うべきじゃない?」

「緊急性と機密性を要する作戦といわれたからな。私も昨日突然言われた。」

「さいですか…」

「それに奏兄とドイツに行けるんだ。黙ってるなんて許せるわけが無い。」

「それは同意。」

「……さいですか…」

 

と言ってうなずく二人。

こうなるのが嫌だったから黙ってたんだけどなぁ…

となると待てよ……

 

「なぁラウラ。もしかして俺の宿泊場所とかも決められてるのか。」

「すまないが宿泊する場所についても機密だ。」

「あ~~~……もしかして…ついてくる?」

「もちろんだ!!ドイツでは私が護衛になる、安心しろ。」

「うわぁ~~うれしいな~~(棒)」

 

と胸をはるラウラを見ながらげっそりする。

ただの里帰りがとんでも無く疲れる事になりそうだと考える俺を乗せて、飛行機はドイツへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

ドイツの空港に着くと早速お出迎えがあった。

女性の部隊と……ランベルトだ。

女性部隊のほうは恐らく噂に聞いたシュヴァルツェ・ハーゼか…

少女と言っても過言じゃないような年齢に見える人もいるな…というか大半がそんな年齢だ。

 

「久しぶりだね、カザネくん。」

「お久しぶりですランベルトさん。」

「……そちらの女性は?」

 

とシャルロットのことをちらりと見る。

適当に話しておくか。

 

「ええ、僕の同僚ですね。僕のISは特殊でして。」

「ああ承知してるとも、ただ国内で勝手に使うのはやめてもらっても良いかい?」

「ええ、それは十分承知ですよ。正直僕としては置いてくるつもりだったくらいですよ。」

 

と笑顔で話す一方ラウラたちのほうに目をやる。

なんというか…本当に隊長だったんだな。

完全に部隊員からしっかりと敬意を持って接されてるな…

あの中の誰がクラリッサなんだ…とりあえず嫌味の一言くらいは言ってやりたいんだが…

っと、とりあえず動くか。

 

「ランベルトさん、とりあえずラウラを連れて歩く分には自由行動で良いんですよね?」

「ああ、好きにしたまえ。まぁ私個人としたらそれをする必要も無いと思うのだがね。」

「ISの監視でしょ?理解してますよ。」

「いや、君個人の監視だ(・・・・・・・)。わがドイツはある意味他の国よりも君の事を重視している。あの事件のデータからな。」

「……」

 

なるほど…すでに俺という存在そのものが危険だと判断してるわけか…

そりゃそうだよな…機体性能で戦っているようにも見える銀の福音戦ならともかく、VTシステムと戦った時はほぼ腕のみだった。いわばIS無しでISと戦える事はドイツにはばれているのだ。

俺だったらこんな人間自国に入れたくは無い。

俺が顔を真面目にしているとランベルトがニヤリとする。

 

「安心したまえ。わが国は重視しているだけで危険視はしていないよ。問題はわが国の軍部の一部者だ。」

「……へ?」

「考えても見たまえ、善意で国の危機になる情報を無料同然で渡し、そして誰もが諦めたわが国の軍人を助けるために果敢に危険に飛び込む。さらに男の身でありながら、暴走しているとはいえISを使わずISを倒すような男だぞ?それを知った我が軍部はどうなると思う。」

「……引き込もうとする…もしくは警戒されるってとこですか?」

「ははは、残念ながら違うよ。英雄視されているんだよ、特に男性軍人からね。」

「………はぁ?」

「ある意味君はわが国の一部ではヒーローと同じ扱いなんだよ。もし君が『ソウ カザネ』だとファンにばれたら大変な事になるぞ?そしてそんな君を相手に護衛も与えず適当に扱うなど……私の部下が許さないだろうよ。」

 

そう言ってランベルトは面白そうに笑う。

この話を聞いてあたまがいたくなる。

おい…ドイツ軍人…それでいいのか?

ちらりとシュヴァルツェ・ハーゼの方を見るとこ俺の事を見ながらこそこそ話している…

おい、まさかファンとか言わないよな…ふ、深く考えないようにしておこう。

 

「あ~、とりあえず知りたくも無かった情報ありがとうございます。」

「ははは、気をつけたまえ。わが国のどこにファンが居るかわからないぞ。」

「……ご忠告どうも。ラウラ、そろそろ行きたいんだが良いか?」

「ああ、問題ない。そういえば…『奏兄はドイツ語でも問題なかったな…』。」

シャルロット(同僚)に隠し事をするつもりは無いよ。」

 

いや、ドイツ語は確かにしゃべれるけどさ…

ちょっとだけムッとするラウラ。

二人だけの秘密というものにあこがれてるんだろう。

………仕方ない。

 

「『でもお前の方から秘密を言う分には好きにしろ。』これで良いか?」

「ソウ、なんていってるの?早すぎてなんて言ってるか解らないんだけど。」

 

頭に?マークを浮かべながら聞いてくるシャルロット。

一方ラウラはぱぁっと顔を明るくさせる。

解りやすいやつだな。

 

「では行こう!!」

「ちょ、引っ張るな!?じゃあランベルトさん、また!?」

「ちょっとソウ、ラウラ!!待って!?」

 

ランベルトに笑われながら俺はラウラに手を引かれる。

そうやって俺のドイツでの旅が始まった。

 

 

 

 

 

 

引っ張られるように歩き続ける。

どうやらラウラは空港の出口に向かっているらしい。

 

「ちょっと待てラウラ、ストップ、ステイ!!荷物取ってこないと!?」

「?ああ、既に車に運び込んでいる。」

「車って…誰が運転するんだよ?」

「いいからついて来い。」

「ラウラ、ついていくから一旦手を離してくれ、歩き辛い。」

「ああ解った。」

 

そう言って空港のロビーを抜け車が多くとめてあるところに向かう。

あ~久しぶりのドイツ!!だが正直それほどここら辺の風景は見覚えは無い。

ラウラも誰かを探すようにした後歩き出す。

ついていくと一台の車……黒塗りの…なんだっけ…元の世界だとBMW系列の車みたいな雰囲気の車だ。そこに向かうとドイツの軍服に身を包みラウラと同じような眼帯をつけた女性がそこにいた。

 

「隊長、ご帰還されましたか!!お疲れ様です!!」

「ああクラリッサ、ただいま帰還した。」

 

!?クラリッサ!!

こいつがあの俺が兄呼ばわりされる原因を作った奴か!!

 

「ああ、奏兄、シャルロット。紹介しよう、彼女が私の部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉だ。」

「はじめまして…風音奏です。」

「はい、クラリッサ・ハルフォーフ大尉です。このたびあなたがこの国にいる間、主に運転手として動く事になると思います。クラリッサとお呼びださい。」

 

と言って手を差し伸べてくる。

握手におおじて俺は口を引きつらせそうになるのを我慢する。

こやつが…ラウラに変なことを吹き込んだ張本人…

何か言ってやろうかとも考えたがその前に彼女が小声で俺に話しかける。

 

「(カザネさん少しいいでしょうか?)」

「(なんでしょうか?)」

「(あなたのおかげで隊長が救われた事を知っています。)」

「(……最初から最後まででしょうか…)」

「(はい。あなたにお礼を言いたくて――)」

「(その話はまた後で。)」

 

お礼を言われそうになるのを遮る。

俺のやった事はそんなほめられた事じゃ無いんだ……

俺とクラリッサが何か話しているのを察したラウラがこちらに話しかける。

 

「どうしたクラリッサ、奏兄。」

「ああ、なんでもないよ…このクラリッサさんは僕のファンかどうか聞いてただけ。」

「なにソウ…それ…」

「僕にもよくわからないんだけど……さっきランベルトさんにも言われたんだ。でそれの確認。」

「…クラリッサ、お前は奏兄のファンなのか?」

「はい!!なんと言っても隊長を助け出してくれた人ですからね!!」

 

そう言って笑うクラリッサ。

ああ…と納得する二人。

とりあえずこの場は疑われないで済んだかな?

とりあえずばぁさんの所に向かおう。

そう言って俺はクラリッサに行き先を伝え車に乗る。

 

 

 

 

 

 

 

 

1~2時間ほど車で走ると見慣れた場所に着く。

街の村の入り口辺りでクラリッサに話しかかる。

 

「スイマセンがここで降ろしてもらってもいいですか?」

「え?確か教会までの距離は結構あったはずですが…」

 

一応車はとめてくれたがクラリッサは不可解そうな顔をしてくる。

俺は苦笑しながら話しかける。

 

「久しぶりに歩いてみたいだけですよ。ここら辺の人にはよくしてもらいましたし。えっと――」

「もちろんついていくよ?」

「私は護衛だ。」

「……ということで先にクラリッサさんだけで教会の付近で持っててもらってもいいですか?」

「ええ、わかりました。お気をつけて。」

 

そう言って三人で車を降りて歩き出す。

少しは変ってるかと思ったがまったく変らない町並みだ。

そういやここらへんで屋台やってたな…

 

「ちょっとごめん、道それるよ。」

「え?うん。」

 

そう言って教会に向かう道から少しそれて歩くと…見つけた。

店員も変っていない。

 

「『スイマセン、プレッツェル3つお願い。』」

「『プレッツェルね…!?ソウ!?ソウじゃないか!!久しぶりだなオイ!!』」

「『やあ、カール、久しぶりだね。相変わらずかい?』」

「『お前ほど変るはずねぇだろ!?おい、一体どうした!?』」

「『里帰りだよ。ここら辺でなんか変わった事はあったか?』」

「『お前がISに乗れるってなったときはかなりマスメディアも来たが今じゃこのとおり寂れてるよ。ようこそ、この世の果てにってか。』」

「『おいおい、勝手に僕の実家がある町をこの世の果てにするなよ。』」

 

談笑しながらプレッツェルを三つ買う。

金を払った後別れを告げて歩き出す。

シャルロットとラウラに一個ずつ渡して教会に向かう。

 

「今の人は?」

「ああ、カールって言ってあそこの屋台でよくバイトさせてもらったんだ。」

「へぇー…あ、あそこのおじいさんもソウの事見て驚いてる。」

 

とシャルロットが言う方を見ると確かに何か叫んでるな…

途中いろいろとすれ違うたびにさまざまな年齢の人から声をかけられる。

 

「『おう!?坊主?坊主じゃねぇか!?どうした!?なんだ?問題起こして退学か!?』」

「『ウドじい、そんなはず無いだろ?里帰りだよ。』」

「『ソウ!?あんたいつ帰ってきたのさ!?』」

「『今さっきだよイルマさん。里帰りさ。』」

「『おいソウ!!帰ってくるならそう言えよ!!』」

「『ごめんゲルト、連絡する方法が無くってさ。』」

「『ソウ久しぶり。元気してた?』」

「『やあフィーネ、もちろんさ。そっちもお母さんの言う事は聞いてるかい?』」

「『ソウ!!長くいるなら家に来な!!ご馳走するよ!!』」

「『ごめんクラウディアさん。あまり長くはいないんだ。そのお誘いはまた今度。』」

 

歩きながら話を続ける。

声を聞きつけてか人が集まってるような気がする。

さらに足元には子供が纏わりついてくる。

 

「『ねーソウー遊ぼうよー。』」

「『ごめんごめん、今日はちょっと無理なんだ。ヘルマン。』」

「『えー!?約束したじゃん。』」

「『嘘!?クルトとそんなのした記憶無いよ!?』」

「『いいから遊ぼうよーー!!』」

「『ちょっと待って!?マルセルよじ登らないで!?』」

 

完全に子供の遊び道具にされながらも教会の方へ歩く。

シャルロットとラウラは現在の光景に唖然としている。

 

「『おお!?ソウ!!お前いつ帰ってきたんだ!?』」

「『今さっきさニクラス。変ってなくて安心したよ。』」

「『おお、じゃあさっさと店のバイトに来いよ、ソウ。シフトは――』」

「『ジーモン、そんな時間無いって、単なる里帰りだよ。』」

「そ、ソウ?」

「うん?どうしたシャルロット?」

「皆知り合いなの?」

「ああ、僕がこの町に居た頃にいた人は全員知り合いだし名前は全部わかるよ。」

「『あん?どうした?』」

「『あんまりにも皆近寄ってくるから連れを驚かしちゃっただけだよ。』」

「『ははは、違いない。』」

 

そう言って周りが一斉に笑い出す。

その声を聞きつけたのかこちらに向かってくる足音が聞こえる。

おいおい、さらに人数増えてないか?

 

「『ソウ!!家に息子が生まれたんだ!!』」

「『本当に!?おめでとうパウル!!あと奥さんにもよろしく言っといて。』」

「『それに比べて家の娘は……ソウ、家の娘貰ってくれない?』」

「『あはは、遠慮しとくよエルナ。それにクリスタならすぐにいい人見つけるさ。』」

「『ソウ~早く遊ぼうよ。』」

「『いたたたた!!ちょっと!?噛まないで!!』」

「「………」」

 

そんなこんなで本当なら10分ほどで歩いてつくはずだったのに教会についた頃には20分を過ぎていた。

その頃には子供たちも飽きたのか離れて言っていた。

流石に教会の中(俺の家)まではついてこなかったか。

 

「あ~…疲れた。ちょっと寄り道するつもりだっただけなのに…」

「「……」」

「どうされましたか?隊長?デュノアさん?」

「いや……奏兄の人気ぶりに驚いただけだ…」

「ああ、先ほどから人が集まってきていたのはそのせいですか…」

「…IS操縦者…だからじゃないよね…」

「国家代表でもあそこまでの人気は無いぞ、普通。」

「あはは、単に娯楽があまり無い町だからね。騒げる時に騒ぎたいだけさ。」

 

そう言って教会に向かう。

教会前の小さな広場の雑草は誰かが処理してくれてたんだろう…俺が作ったベンチもペンキが塗りなおされている。

相変わらず教会の壁には草が生えているが…ドアは綺麗なままだな。

とりあえずドアを開ける。

右側は相変わらずたてつけが悪く<―ギィィィィィ…―>と音をならしている。これも懐かしい。

教会の中はかなり綺麗だな…また誰か修理してくれたのか…

ステンドグラスは相変わらずだな…

 

「『どなたですか?……ああ!!ソウ!!』」

「『ああ、婆さん。驚かそうと思ってたのにばれちゃったか…』」

「『もう十分驚いていますよ。体は大丈夫?』」

「『平気平気。そっちこそ大丈夫なの?』」

「『心配してるなら驚かすような事は止めなさい。そのまま逝ってしまいますよ?』」

「『おお、そりゃ怖い。』」

 

と一度ハグをした後に離れて話し始める。

相変わらずだな…婆さん。顔色もよさそうだし…何より元気そうだ。

ふと婆さんが後ろの3人に気がつく。

 

「『あら?後ろの方々は?』」

「『えっと……クラスメイト2人と…護衛のドイツ軍人さん。』」

「『奏兄、護衛は私だ。』」

「はいはい。『まぁ…今言ったように彼女もドイツ軍人の隊長さんだ。』」

「『そうなの…はじめまして。私の名前はアストリット・ヘンゲンと申します。』」

「『ラウラ・ボーデヴィッヒだ。奏兄の妹だ。』」

「ちょっと!?」

 

ラウラ、ここでそれをいきなり!?

しかし婆さんはフフフ…と笑って話を続ける。

 

「『あらあら。ソウに妹が出来ただなんて…さしずめ私にとっても孫娘になるのかしら?』」

「『む?……確かにそうなるな…』」

「『じゃあ私のこともおばあちゃんでいいわよ?』」

「『おばあちゃんか……』」

 

と言っておばあちゃんという言葉を噛み締めながらもどこかうれしそうにいているラウラ。

何とか話はまとまったか?

後はシャルロットの方か……

 

「あ~シャルロット。俺の方で紹介するか?」

「えっと…たどたどしくてもいいなら自分でやる。『はじめまして、シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします。フランス人です。』」

「『あら…ソウ伝えてあげて?私はフランス語は話せないけどわかりますよって。』」

「『うぇ!?婆さんわかるの?』」

「『あら?わかっちゃおかしい?』」

「『いいや?年で忘れてなきゃ――』」

「『ソウ?女性に年齢は…』」

「『ハイハイ!!わかってるよ。』シャルロット。婆さん話せな――」

「【本当ですか?私の言っていることわかりますか?伝わればいいんですけど……】」

「『ええ、わかりますよ。』」

「……なんだ、シャルロットもドイツ語わかるんだ…」

「あまりしゃべれないんだけどね…ところどころわからなくなるところもあるし。」

 

そう言ってほっとしているシャルロット。

続いてクラリッサのほうか…

まぁ今の二人って言うか…ラウラと比べれば心配する事は無いだろう。

 

「『クラリッサ・ハルフォーフと申します。カザネさん、積もる話があるなら私は外で待ちますが…』」

「いいですよ、別に気にする必要ないです。」

「『ここは神の家なんですからお気にする必要はありませんよ。ソウとりあえず……おかえりなさい。』」

「『ああただいま、婆さん。』」

 

ようやく俺は自分の家に帰ってくることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

よりよく生きる道を探し続けることが、最高の人生を生きることだ。

                                   ~ソクラテス~

 




さて…ここから数話ほどドイツ編が無くなって活躍しなかったラウラが関係する話ですね。
まぁ…ドイツ編よりはヒロインしてません!!多分…


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第七十四話 故郷

しばらく婆さんと話した後に………俺は家をおいだされた。

いや、正確に言えば婆さんに頼まれて買い物に行くんだが…ラウラとシャルロットは婆さんの俺の昔話を聞くのに夢中でついてこない。婆さんの方も孫自慢が出来るようで喜んでるようだから止めようにも止めることができない。

ということで現在俺は買い物の帰りである。

……普通に行けば30分位で終わるはずが、途中子供たちと遊びって言うか遊び道具になり、爺さんたちとポーカーをし身ぐるみをはがれそうになり、街の人と会うたびに話していたら……結局2時間もかかった。

この町の奴らは暇人しか居ないのか?いや…多分時間帯的にはそれほど暇な時間じゃないと思うんだが……

それに……3人?いや5人か?それくらいの人数に常に監視されている…

まぁ敵意はないし害もないからほおっておくか……

と家の前に来るとクラリッサが立っていた。その顔は結構真面目な顔をしている。

 

「?どうしましたか。」

「少し…話をしてもよろしいでしょうか?」

「いいですよ。ただ……この監視の中で話すのは…」

 

と言って俺が苦笑するとクラリッサが片手で何か合図をする。

すると監視がとたんに無くなる。おお、すげぇ…

 

「……空港での話ですが…なぜあそこまで拒絶したのですか?」

「ラウラとシャルロットにばれたくなかったからですよ。」

「…失礼ですが…カザネさん。あなたはお礼を言われる事自体拒絶しているように感じました。」

 

適当にごまかそうかとも思ったが確信してるな、この顔は。

あ~…伊達に部隊の副隊長じゃないって事だろうか…

恐らくだがこの部隊を実質的にまとめているのはこの人なんだろう…

 

「まぁ…ちなみにあなたはどこまで知っていますか?」

「わが軍の一部の暴走、それの情報提供者について、さらにあなたが隊長を救うためにかなり無茶をした。大まかに言えばこれくらいでしょうか…」

「……じゃあその提供したデータの中身を僕が知ってるとしたら?」

「?どういう意味でしょう。それがわからなければデータを渡せないのでは?」

「……あれは起動したらどうなりますか?さらに学園に来た時のラウラの状況……さらに言うなら……僕はラウラのISのあれの発動条件をすべて知っていた。」

「………あなたの言いたい事がわかりかねます。」

 

そう言って首をかしげるクラリッサ。

流石にこの程度の説明じゃ理解してくれないか…

俺は苦虫を噛み潰したような顔をして話始める。

 

「ラウラには……このことは?」

「いえ…情報提供者のことまでは…」

「僕はですね……ラウラのことを一旦見捨ててるんですよ…」

 

そういうとクラリッサの目の色が変る。

……彼女を納得させるためにはすべて言うしかないだろう。

俺はラウラを助けただけじゃない…むしろ死地に追いやったんだと…

 

「僕は…あることを遂行するために動いている最中に偶然この情報を手に入れました。」

「………」

「そこで情報を見て……ラウラが大会中にVTシステム(あれ)を発動させる可能性がある事は十二分にわかりました。だからドイツ軍にこの情報を渡し、そして軍を使ってラウラを助けようとし……失敗しました。」

「……」

 

クラリッサは未だにわかりかねるといった顔をしている。

だが先ほどまでのように俺の話を聞き返すことはせずしっかりと話を聞いている。

 

「そこで僕には二つ選択肢があった。大会の最中に発動しない事を祈りながら機体に損害をあたえないように戦う、もう一つは…ドイツを気にせずにVTシステム(あれ)の事を教師陣に伝えるといった事です。」

「あの…それのどこが隊長を見捨てた事に?」

「ラウラを救うって言うなら…すぐさま後者を選ぶべきだったんですよ。そうじゃなきゃ彼女は死んでたかもしれない。でも僕はもう一つの作戦…まぁ言ってしまえば自身の専用機開発のためにラウラに危ない橋を渡らせたんですよ。」

「………それが?」

 

……あれ?反応が予想と違う…

ここで『外道!!』とか『私たちすら騙していたのか…』とか『隊長を…よくも!!』とかがくると思っていたんだが……

流石に平然とした顔で『……それが?』と来るとは予測していなかった。

少し動揺しながらも話を続ける。

 

「い、いや…俺、助け出せる確証もなしにラウラを死地に追いやったんですよ?」

「それを言ったらドイツはあれが発動した瞬間、すぐさま隊長を見捨てましたよ?…まぁ私は一人でもIS学園に突っ込むつもりでしたが…」

「は、はぁ…」

 

目が笑ってねぇ…この人本気だ…

その後クラリッサは何でも無いように話続ける。

 

「それにあなたがこの情報を渡さなかったらドイツは今頃国際的にひどい目に遭っていました。そしてそれの原因となってしまった隊長は…たとえ生き残ったとしても自身のことを追い込んだと思います。」

「……ええ…そうでしょうね。」

「それと比べれば今の状況はどうですか!?隊長は笑顔、わが国は国際的にも非難されず、隊長は部隊員からも慕われるようになる……何より私を慕ってくれる!!あの隊長が!!」

「お~い、クラリッサさ~ん、かえってきて~」

 

なんか明後日の方向を向いてヘブン状態なんですけどこの人。

あれ?俺結構真面目な話してたつもりだったんだけどどこで間違えたんだ?

いや、間違ったことは言ってなかったと思うんだが……

そう考えているとクラリッサはこちらに笑いかけながら話かける。

 

「それもこれも…すべてあなたのおかげなんですよ、カザネソウさん。」

「っ…それでも…」

「ええ、確かにあなたが自分を許せるかどうかは別ですよ?でも救われたものから目を背けるのは止めてください。」

「……」

 

目を背けるな…か…

確かに俺は…必要以上に自身を追い込んでいたのかもしれない…

俺自身がどう思ってようと…救われた側からすればどうでもいいことだ…

ハァ…結局これも過ぎた事を考えた結果か…本当に俺は何かを振り返るとろくな事にならないみたいだな……まだ納得できたわけではないが、彼女は俺の助けになろうとしてくれているんだろう…礼だけは言っておこう。

 

「はぁ…確かに喜んでる人の前で助けた側が落ち込んでたら素直に喜べませんね…」

「そうですよ。それにあなたは隊長のお兄ちゃんなんですよ!!」

「…………はい?」

 

そう言って目を輝かせるクラリッサ…

おい。さっきまでお前に抱いていた尊敬の念を返せ。

クラリッサはそのまま目を輝かせて話す。

 

「日本にある文化の中でも特に有名な尊敬の意を表す『お兄ちゃん』!!本来あなたのような勇敢な行動をした相手なら『アニキ』の方がいいと私は思っていましたが…ですが!!あなたと隊長の関係を見た後はそんな考えは消し飛びましたよ!!まさかの名前+兄でニックネームのような親密性まで持たせるとは!!さすが隊長!!」

 

ああ、この人本気でそうかんがえていやがる……

今わかった。この人『善意で』ラウラに教えこんでいやがる…

現在一切悪意なんて感じない…ただラウラが俺たちと仲良くなるためにといろいろな日本の知識を教えてるんだ……まぁそれ自体間違っているんだがな

指摘するべきか……と思うとクラリッサがこちらを向く。

 

「カザネさん!!」

「はい!?」

「これからも隊長のお兄ちゃんとしてよろしくお願いします!!」

「……」

 

と言って俺の手を握るクラリッサ……

頼むからそんな期待に満ちた目で俺を見ないでくれ…これからあんたに正しい知識を…知識を……ちしき…

ああ駄目だ…どうあがいても逃げられる気がしねぇ…押しに弱いんだろうか…俺…

 

「はい…任せてください…」

「はい!!よろしくお願いします!!」

 

嗚呼…なぜか泣きそうになる俺…感動の涙という事にしておこう…

そう言って涙をこらえながらクラリッサと話すのだった。

 

 

 

 

 

 

その後教会に戻る。

まぁラウラとシャルロットには今までどこにいたのか聞かれたが婆さんは俺が遅くなるのは予測済みだったんだろう。『お使いご苦労様、町のみんなはどうだった?』のとだけ言っていた。

婆さんこうなるのがわかって俺だけ行かせたな…

さらに俺の居ない間にいろいろと話してるんだろう……

シャルロットは先ほどと比べかなり落ち着いている。ラウラにいたってはすごい楽しそうにしている。まぁ…何話されててもこれだけ楽しそうなら良いか。

それを見ながらふと思う。そういや…今日はどこに泊まるんだろうか…

 

「ラウラ、どこに泊まることになるんだ俺たち。」

「うん?ああ、どこでも大丈夫だ。」

「え?普通こういう時ってビップ待遇のホテルとかに――」

「そっちの方はデコイになっている。今頃この国のホテルには世界各国の記者が来てるだろうよ。」

「ふーん、じゃあ普通に自分の家に泊まっていいのか…」

 

これはある意味助かった。

自分の家に帰ってきたのに自分の家に泊まれないとか…

まぁ結果的に泊まれるから良しとするか。

さてそろそろ晩飯を作らないと。

 

「『婆さん台所借りるぞ』」

「『あら?何か作るのかい?』」

「『晩飯、久しぶりに俺が作るよ。』」

「『ああ、任せましたよ。』」

 

そう言って俺が台所に向かおうとするとそれまで婆さんと話していたシャルロットが声をかけてくる。ちなみにラウラはわからないところは通訳しながら一緒に話している。

婆さんの話方癖があるからなぁ…

 

「どうしたの?ソウ。」

「あ~……飯を作ろうかと思ってな。」

「手伝うよ?」

「大丈夫だ、婆さんの話を聞いてやっててくれ。ラウラ、お前の部隊員って現在来てるのはクラリッサも入れて7~8人で合ってるか?」

「うん?8人のはずだが…奏兄はどうやって気がついたんだ?」

「勘。」

 

そう言って怪訝な顔をしたラウラを無視して台所に向かう。

あと料理を作る人数は俺、婆さん、ラウラ、シャルロットと…12人か…

久しぶりにこの家の一番の大鍋で料理を作ることを決め動き始めた。

 

 

 

 

ふむ…何を作ろうか…

この人数であまり形式ばった物でなく尚且つうまいもの……

カレー?いや…ここでカレーは…まぁ俺は好きだけど…

まぁ適当に作るか。と考え気の向くままに材料を使う。

結局かぼちゃのポタージュに適当なパン、さらにタンドリーチキンに適当なサラダ。

後は今茹で上がるパスタで適当に作ろう。

時間もいいくらいだしそろそろラウラに声をかけよう。

 

「おーいラウラ。」

「うん?奏兄、なんだ。」

「部隊の子達とクラリッサさん呼んでくれ、飯にしよう。」

「え?……もしかして全員分作ったのか?」

「ああ、早く食べよう。」

「し、しかし…」

 

ラウラがうろたえる。

なんだ?俺の飯が食えないっていうのか!?

って事ではないんだろうが…婆さん俺に質問する。

 

「『?どうかしたのかいソウ。』」

「『ああ、ちょっとね。ほら、俺軍人さんに護衛されてるだろ。』」

「『ええ、さっきそう言ってたわね。』」

「『飯出来たから呼んでって言ってるだけ。』」

「『ああ、そうだったの。冷めないうちに食べましょう?』」

 

そう言って婆さんはラウラの顔をにっこり微笑んで見つめる。

焦るラウラ。多分軍人としての葛藤があるんだろう。

 

「『し、しかし…』」

「『みんなで一緒に食べる方がおいしいのよ?それにソウは料理上手だからね。きっと気に入るわ。』」

「しゃ、シャルロット!?」

「え~っと……私じゃ助けられないかな?」

「奏兄!?」

「いいから呼べ。飯が冷める。」

「……」

「『?どうしたのラウラ。』」 

 

笑顔の婆さんの顔を見てため息をつくラウラ。

残念だったな、婆さんの笑顔押しは俺でも逃げられん。勘弁して早く呼ぶんだな。

笑いながら再び台所に引き込む。

 

 

 

 

 

そして晩飯、落ち着かないのが9人、苦笑いが1人、満面の笑みが2人で夕食が始まった。

こんなボロ屋――失敬ボロ教会でも一応長テーブルと椅子ぐらいある。

12人くらいなら余裕で座れるだろう。

 

「『あらあら、こんな大人数で食べるなんて久しぶりね。』」

「『そうだな…前までは事あるごとに適当に騒いでたけどな…』」

「『なんてことを…まぁ結局あなたの言うとおりになったんだけどね。』」

 

そう言って俺は婆さんと笑って話している。

シャルロットはラウラを気にかけラウラは未だに唸っている。

そしてシュヴァルツェ・ハーゼの面々、なぜこうなったのか解らずポカーンとしている。

 

「?クラリッサさんどうしましたか。」

「いえ…なぜ私たちまで一緒の食卓に――」

「ああ!?そういえば宗教上食べれないとかアレルギーとかありますか?」

「い、いえ…全員無いはずです。」

「そうよかった。『まぁせっかくの飯なんですしみんなで楽しく食べましょうよ。』」

 

そういうとシュヴァルツェ・ハーゼの面々はきょろきょろし始める。

いたずらが成功したようなちょっと面白い気分になる。

 

「『まぁ…軍人としてはこういうのは駄目なのかもしれないけど…僕からのお願いってことでどうか頼みますよ。』」

「『えっと…お姉様…どうしましょう…』」

「『……とりあえず全員いただこう。ここで断る方が失礼だ。』」

「『では食べましょう。祈りは……ここは見逃してもらいましょう。』」

「『まったくソウ!!あなたは…まぁいいでしょう。冷めてしまってはもったいないですしね。』」

 

そう言って全員で食べ始める。

ある程度食べ続けると全員落ち着いてきたようだ。

シャルロットと婆さんは俺の作った料理を食べると反応してくる。

 

「うん、おいしい。これはなんて料理なの?ソウ。」

「タンドリーチキン、まぁ…骨無しだからチキンティッカのほうが正しいかな?インドの料理さ。」

「『うん、おいしい。久しぶりにソウの料理を食べたわね。』」

「『おお、そりゃよかった。』」

「『え!?カザネさん…料理作れるんですか!?』」

 

とシュヴァルツェ・ハーゼの一人が声をあげる。

その後しまった!?と言った顔をしている。

 

「『ええ、そうよ。ソウは料理がすきなのよ。』」

「『えっと…他にいろいろ聞いても大丈夫ですか?』」

「『そんなかしこまらなくてもいいよ。そんなに年も変らないんだし…呼び捨てでもいいよ?』」

「『い、いえ!?そんな!!』」

「『えっと…銃の凄まじい使い手だって聞いたんですけど…』」

 

と縮こまりながら恐る恐る質問してくる部隊員。

別に俺に無礼を働いたからってどうなるわけじゃないのに…

しかし俺の銃の腕か……

正直比べる対象がヴァッシュ(最強)だからな…正直今自分がどれほどのものなのかはっきりと言えない…と、横を見ると未だにうんうん唸っているラウラ…丁度いい。

 

「……ラウラ。ちょっと悩んでないで元に戻ってくれ。」

「なんだ奏兄…私は今自身の意志の弱さについて――」

「いや…今君の部隊の一人から僕の銃について聞かれたんだけどさ…」

「?それがどうしたんだ。」

「いや、自分から見たときだとどれほどのものか解らないから説明してあげてもらっていい?」

 

俺がこういうとラウラはきょとんとした後部隊員のほうを見て話しかける。

 

「……いいだろう『この質問をしたのは誰だ?』」

「『は!!隊長、私です。』」

「『かしこまらなくてもいい。奏兄の銃の腕は……正直なところ底が見えない…お前らはレールカノンをそれよりはるかに威力の低い弾丸で撃ち落せるか?』」

「『え?レールカノンをですか!?そんなの……』」

「『出来ないだろう、普通どう考えてもな。それを奏兄は出来る。それもISが反応できないほどの速さで狙ってだ。これだけじゃない、いいか――』」

 

ざわざわと騒ぎ出す彼女たちを見てさらにラウラは話を続ける。

……これで隊長さんとの間がもっと狭まってくれるといいんだが…

クラリッサもその光景を見ながら微笑んでいる。

シャルロットが話しかけてくる。

 

「ねぇ奏、わざとラウラに説明させたでしょう?」

「うん?何のこと?僕は自分主体だと判断できないから説明を頼んだだけだよ?」

「……そういうことにしておきましょう。」

 

そう言って笑いながら飯を食べ続けた。

作戦通り部隊員との間は狭まったが……俺の予想以上に彼女たちが俺に質問をしてくるのだけは予想外だった。

『料理は好きなのか』『昔はどう生活してたのか』『ラウラとの関係』『お兄様と呼んでもいいか』などなど、後半になればなるほど質問が遠慮しなくなってくる。

焦る俺を見ながら笑うシャルロットと婆さん。

そうやって楽しい食事は続くのだった。

 

 

 

 

 

もっとも平安な、そして純粋な喜びの一つは、労働をした後の休息である。

                                     ~カント~




はい、ということでクラリッサに一刀両断されました。
ぶっちゃけ救われた側からすれば救った方法で悩まれたり、ああすればもっとよかったのにって気にされても困りますしね。
作者はどちらかと言えばクラリッサのタイプですね。
悩んだってしょうがないじゃんって感じです。


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第七十五話 ガールズ・ブラボー!!

夜になり全員が寝静まった頃俺は教会にいた。

適当な席に座りながらステンドグラスを眺める。

初めて入った時は吸血鬼でもいるのではと思ったほど寂れていたが今じゃ普通の教会だ。

まぁそれでもところどころ壊れたところがあるな…

また今度時間をつっくって修理をしに来よう。

しかし思うと、とんでも無いことになったなぁ…

思えば原因は婆さんのテレビだったな。

あれを買いに行った後にまっすぐ帰れば今頃普通に暮してたんじゃないだろうか?

いや…多分一斉調査かなんかでいずれにしてもばれてたか。

その後に一夏に会って…日本に行って…ISを動かしたわけか。

しかし…今考えるとIS学園に突っ込むって言う措置はひどいよなぁ…

はじめはそういう流れになる事は知ってたから逆らわなかったがせめて俺と一夏に対してもう少し特別な処置とか出来なかったのか?

まぁ、いまさらそんな事を考えても仕方ないか…

そして箒とセシリアと会って…おっさんにでたらめな機体渡されて…

更織姉妹に会ってか…あの時のOsaはとんでもなかったな…今思うと余裕が無かったのかな?

その後に鈴が転入してきて…あの無人ISと一夏のトランス状態か…

あの時にもう少し詰め寄っておくべきだったな。

だがその後の訓練だと何も起きなかったんだよなぁ。という事は鈴戦と福音戦の共通点か…まったく解らん。そこら辺はおいおい考えよう。

その後にシャルロットとラウラが転入したんだよな……まぁラウラには初対面でビンタされシャルロットとははじめかなりギクシャクしてたな。

今考えてもなぜばれなかったのかわからないな。

それで……どうにか二人とも救えたんだよな。

シャルロットの方はもうほとんど心配ないらしいし、ラウラのほうは…俺次第か。

確かにクラリッサの言うとおりなんだろうが…やはり俺自身が納得できていないのだ。

みみっちい事を考えているのはわかるが…こればっかりはどうしようもない。

しかし…ここら辺からかな?俺の思うようにいかなかったのは……いや常に思うように行ってなかったな。結局全部力押しだし……

専用機はなんだか分けわかんない状態になってるし…

篠ノ之束に喧嘩を売ることになるし、千冬さんはマシになったとはいえ落ち込んだまんまだしなぁ……そんなことよりお土産はなんにしようか。

最終的に何にもならないと考えお土産のことを考えていると教会のドアが開いた音がする。

多分婆さんだろう。

 

「『ソウ?何をしてるんだい。』」

「『うん?考え事。』」

「『そうかい…お祈りをする気は?』」

「『愚痴ならたっぷりあるんだけどねぇ……』」

「『それは自分で何とかなさい。』」

 

そう言って婆さんは普段のように祈りを捧げ始めた。

月明かりがステンドグラスからまるで天使のはしごのように婆さんを照らす。

絵になるなぁ……と思いながら婆さんを眺めながら黙っている。

そういや…俺が最初にここに入った時に俺も同じことをやってたんだけ…

まぁ、頭の中では文句ばっか言ってた気がするが…

数十分祈りを続ける婆さん。

その間俺は椅子に座りそれをだっまって見ながら考える。

俺は本当に何者なんだろうか…

もう元の世界の事はほとんど思い出せない。まぁ…この世界のおおまかなあらすじはわかるんだが…それすら流れが変っている今役に立つ事は少ないだろう。

それにもしかしたら俺は気が狂ってるだけでもとの世界なんて元々存在してないのかもしれない…ていっても俺がなぜ先のことがわかるのかの説明がつかないな…デジャブではないだろうし。

もしかして俺は本当にまだ夢を見てるのかもしれない…とりあえず目を覚ましたいが…いや…目を覚ましたくないのかもしれないな…

ってこんな事考えても仕方ないか。

とりあえずどんな事になろうと後悔しないようにしよう。

すると婆さんが祈りを終えたようでこちらに話しかける。

 

「『ソウ、私の予定は終わったわよ?』」

「『うん?ああ、じゃあそろそろ帰ろうか。』」

「『………ねぇソウ?』」

「『どうしたんだ婆さん。』」

「『もう少し誰かに頼っても良いのよ?』」

 

突然の婆さんの言葉に少し怯む。

正直俺の感情は結構ネガティブになってる自覚はある。隠しとおせるとは思わなかったが…

何に気づかれたんだろうか。

 

「『聞いたわよ?あなた向こうでも無茶してるらしいじゃない。』」

「『…どっちが言ってたの?それ。』」

「『言われなくてもあの子たちの反応を見れば解るわよ、それくらい……無茶をするなとは言わないわ。ソウ、あなたには私たちには見えない何かが見えるんでしょう。ただ…必ず誰かを頼るようにしなさい。たいした事じゃなくてもいいわ、何かする前に相談する程度でもね。』」

「『………』」

「『あなたが誰も巻き込みたくないことはわかるわ。でもね、それでさらに傷つく人もいるの。あなたもわかってるでしょう?』」

 

諭されるように話しかけられる。

自覚が無いわけではない……いま婆さんに言われた瞬間に友人たちの顔が思い浮かんだ。

特にシャルロットはあの俺が帰って来た時の泣き顔を思い出す…

無性にばつが悪い気がし、頭をかきながら話を聞く。

 

「『別に巻き込めって言っているわけじゃないの。ただ少しぐらい弱音を、それこそ愚痴でも良いわ。誰か信用できる人に吐く癖をつけなさい。それとも私が一々電話をかけてあげましょうか?』」

「『はぁ…いつまでも子供扱いだね、俺。』」

「『当たり前じゃない、あなたは私の孫なのよ。』」

「『了解しましたお婆様。努力しますよ。』」

「『よろしい。では眠りましょう。明日には出るんでしょう?』」

「『あれ?そんな事言ったけ?』」

「『あなたの顔を見ればわかりますよ。ここに来た時に悩んでいた事も、少し解決したことも、まだ何か悩んでいることも……あとはあのかわいいフランス人の『彼女』のことも全部ね。ただ怪我だけはしないように気をつけなさい。あんないい娘なかなかいないわよ?』」

 

そう言って楽しそうな顔をしながら俺の先を歩く婆さん。

唖然とし俺は動きを止めてしまう。

バレバレか……正直腹芸で婆さんに勝てる気がしない。

苦笑しながら婆さんに追い付き一緒に並んで家にもどり眠りについた。

 

 

 

 

 

 

翌朝出発の時間、どこから聞きつけたか解らないがかなりの人が集まった。

昨日よりも集まってるんじゃないか?これ。

シャルロットとラウラは苦笑いをしているがクラリッサはまさかこれほどとは思わなかったんだろう、結構驚いている。

 

「『なんだ…ソウ、本当に帰るのかよ…』」

「『あはは、悪いけど結構忙しいんだよこれでも。』」

「『次はいつ帰ってくるんだ?その時は連絡入れろよ。』」

「『わかったよ、多分冬頃には帰れると思うよ。それほど長くはいれないけどね。』」

「『本当に慌しい奴だなお前は…』」

「『まぁ…すぐに帰ってくよ。じゃあ皆またね。後婆さん、後で連絡するよ。』」

「『はいはい。気をつけて行ってらっしゃい。』」

 

そう言って車を出してもらう。

このままじゃいつまで経っても出発できない。

見えなくなるまで手を振ってしばらくすると誰も見えなくなった。

クラリッサがこちらに話しかける。

 

「す、すごい人気でしたね…」

「おばあちゃんに聞いたが奏兄は元々街の人気者だったらしい。」

「いや、便利屋みたいなもんだっただけだよ。」

「それにしては何か起きるたびに勝手に首を突っ込んでたんでしょ、ソウは。」

「だって……そうしなきゃ婆さんが突っ込んでいくんだぜ?流石にあの――」

「「〝流石にあの年で走り回らせるのはきついだろうから代わりにやっただけだ”」」

「……なんで言おうとしたことが解ったの?」

 

声をそろえて俺が言おうとした事を先に言う二人。

俺が驚きながら口から漏らす声を聞いて二人は笑い出す。

まるで初めからこうなると解られている…まさか…

 

「アストリットさん、ソウがこういうだろうって言ってたよ。」

「……いやね?た――」

「「〝多分婆さんに担がれてるだけだ。”」」

「…す―」

「「〝進んでやるようになったのは婆さんの癖が僕に移っただけだ。”」」

「……」

 

間違いない。

この二人完全に婆さんに何か仕込まれていやがる。

二人はクスクス笑いながらこちらを見ている…まだ何かあるようだ。

 

「まだ何か言う?」

「おばあちゃんはまだまだ奏兄が言う言い訳を私たちに教えてくれたぞ?」

「……降参だ。正直、僕婆さんにかなり考え見抜かれてるからね。」

「あはは、完全にソウの弱点だね。」

「……何かあったらおばあちゃんに電話して相談しよう。」

「ちょっと、ラウラ!?本当にそれだけはやめて!?」

 

話しに聞いてる限りでもいろいろ婆さんに俺のことを言われてるみたいだな…

それにラウラの顔…甘えるとまではいかなくても信用はされたみたいだな、婆さん。

しかし俺の返しまで予測されてるとは……そこまで解りやすい性格では無いと思っていたんだがなぁ…

車の中でわいわい騒ぎながら俺たちは空港のある町へと向かった。

 

 

 

 

 

 

街につくとラウラは何か用事があるらしく軍部に一人で向かった。

その時にすごく嫌そうな顔をしていたのは……気のせいだろう。

クラリッサは俺の監視だけを残してラウラについていった。

……さてどうしようか…

適当に観光してもいいけど……選択肢としては

 

①このままおとなしく観光

②監視を少しだけ撒いてシャルロットとデート

 

①はまぁ何も問題は無いが結構シャルロット昨日からおとなしいからな…ちょっと俺がそこを気にしてるのが一つ。

②はちょっとだけなら出来ないでもないが……あの子たちが大目玉くらうんだよなぁ…

………おとなしく①にしよう。

シャルロットへの埋め合わせはまた今度にしよう。

俺が考えている間シャルロットは黙って俺の顔を見てくる。

とりあえず黙ってても仕方ないから話でもしながら歩こう

 

「さて…どうする?俺後お土産買うぐらいしか考えて無いんだけど。」

「う~ん…ちょっと一緒に観光しない?」

「いいけど…俺もそれほど詳しいわけじゃないからエスコートは期待しないでよ?」

「あはは、別にそんなのどうでもいいよ。」

 

と笑っているが…多分普通にデートできない事はこいつもわかってるんだよなぁ。

なんというか…彼氏らしい事まったく出来てないな、俺。

っていっても彼氏らしい行動ってのがどんなものかって言われたらまったく説明できないんだけどさ。…まぁ悩むのはこれくらいにして適当に見て回るか。

 

「じゃあ…適当に見て回るか。」

「うん、行こう?」

 

そう言って手もつなげずに一緒に買い物に向かった。

監視は…昨日とは違い2人だけか。

気にしても仕方ないしとりあえず歩こう。

そして適当な店で早めの昼食としよう。

無駄話をしながら俺たちの買い物が始まった。

 

 

 

 

 

 

その後いろいろと観光しながら飯を食い、おみあげを買い、いろいろと見て回ったあとに適当な店先でお茶を飲みながら休憩する。

結構買ったなぁ…一応これで親しい人数分は間に合うだろう。

時間も結構経ったし…後は空港に行って帰るだけかな?

シャルロットの方も満足したようでかなり楽しそうだ。

そういやいくつか質問してみるか…

 

「そういえばシャルロット。」

「うん、どうしたの?ソウ。」

「いや、ちょっと気になったことがあってさ。」

「何?」

「婆さんと何話してたのかなぁって。」

 

今さっきふと気がついたことだが、俺はまったくそこら辺に聞き耳立てて無かったのである。

多分俺の昔話をしているだけだと思っていたがラウラともども婆さんに何かしこまれてるみたいだしな。そこら辺は先に聞き出したほうが良い。

そういうとシャルロットが少し笑い出す。

 

「やっぱりソウもそこら辺が気になるんだ。」

「ここに来る時のラウラとお前の態度を見てたら不安になってね。」

「あはは、大丈夫だよ。そんなにたいした事は話してないよ。ソウのちょっとした話とか、学校でどんな感じかとか、あとはソウの弱点とか。」

「……婆さん何話してるんだ?弱点って…」

「秘密、あとは…ソウを好きになったときのアドバイスとかかな?でも私しっかりと自分が彼女だって言えなかったなぁ…」

 

と言ってちょっと落ち込んだ風に笑うシャルロット。

それを見ながらため息をつきながら話しかける。

 

「……完全にばれてたよ、それ。」

「え?…わ、私言ってないよ!?」

「ああ、解ってるよ。ばれた理由は俺らしいしね。」

「ど、どこで気がついたんだろう…」

「まったく解らん。婆さん、俺の隠し事とかすぐさま気がつくからな……とりあえず次ぎ来る時はこそっと言ってみろ。多分知ってますよって答えが返ってくるはずだから。」

 

と半分呆れ顔になりながら話す。

ほんとにどこでばれたんだろうか…

俺が悩みがある事はばれるだろうと思ったがシャルロットの事は予想外だった。

 

「わ、解った。」

「とりあえず……問題全部解決したらゆっくり休もう。」

「そうだね……旅行に行こうね、二人で。」

「了解。……お、ラウラから連絡来てるな。……合流するか。」

「そうだね…今日の夜には帰るんでしょ?」

「うん?ああ、そのつもり。早いところ学園に帰らないといろいろ問題があってね。とりあえず行こうか。」

「うん。」

 

そう言って笑いながら合流場所にたどり着いた。

そのまま車に乗るとラウラはすごい……微妙な顔をしている。

 

「ラウラ…どうした。」

「…いや…奏兄にお礼を言いたい人がいてな。」

「えっと…どういうこと?」

「…まずは黙って聞いてくれるか?」

「あ、ああ…」

 

そのまま車は発進し空港に向かう。

いつも以上に真剣な顔でこちらに話しかけてきたラウラに俺も向き合う。

そういや一緒に言ってたクラリッサはどこに行ったんだ?

一旦深呼吸をした後に俺に話かける。

 

「軍の方で奏兄にお礼を言いたいと言っているんだ。」

「いや…でも僕はドイツ軍に何もしてないよ?」

「…私の救助に協力したという事でその代表者として感謝状を贈りたいらしいんだ。」

「えっと……他の人には連絡してあるの?学園とか…一夏たちとか。」

「ああ、学園の許可は貰ってるし…箒と簪は辞退した。嫁は……それどころではないほど忙しいらしい。箒の声もどこか落ち込んでいた…」

 

ああ、さっきから微妙な顔をしている理由はそれか。

多分一夏がどうなってるのか解らないのが不安なんだろう。

いや…だがそれだけではないような気もするんだが……

 

「ああ、一夏は今剣の師匠の元で修行しなおしてるからな。それのせいじゃないか?」

「じゃあ何で箒は落ち込んでいるんだ?あと嫁が理由を言わなかったのは…」

「そりゃ今まで剣の稽古をつけてたのは箒なのに奪われちゃったからね。それのせいじゃないかな。あと一夏が言わなかったのは今頃ボコボコにされててそれを聞かれるのが恥ずかしかったんだろうよ、きっと。」

「………そうか…うん。そう思うことにする。奏兄、話を戻すがそれで感謝状の受取人を全員奏兄を指名しているんだ…」

「っ!?本当に…あシャル――」

「あ!!私のことならいいよ!!気にしなくても。」

 

こいつ…すごい反応で逃げやがった…

しかし俺を押したって事はラウラもその理由は聞いたんだろうな…

隠し通すのはもう無理だろう。

 

「ラウラ…俺に言いたいことがあるんじゃないか?」

「!?い、いや…」

「大丈夫だ、好きに言え。覚悟は出来ている。」

 

こいつがなんと言おうと俺は俺が何をやったかしっかりと話し…謝ろう。

許してもらえるとは思わないがそれが最低限のケジメだろう。

やはりかなり緊張するな、今になって千冬さんの気持ちが理解できる。

一方ラウラはきょとんとしていた。

 

「え?…なんで奏兄が覚悟するんだ?」

「……クラリッサさん、すいませんラウラと一対一で話がしたいんで車を止めてもらっていいですか。」

「…解りました。」

「ソウ…」

「心配するな、話すだけだ。」

 

シャルロットはこちらを心配しているが笑顔を作り声を返す。

そして車を降り道端で話を始める。

誰か来るようなものなら部隊の誰かが連絡を入れるだろう。

 

「さて、ラウラ。お前の聞いたことを話してもらっていいか?」

「奏兄がわが国のために一部の暴走した奴らの情報を渡してくれていて……ある人からは私のことをはじめかなり気にかけていたということをきいた。クラリッサからは奏兄が…私を危険な目に合わせたことを気に病んでるとも聞いた。」

 

ある人って言うのはランベルトの事だろうな…俺電話で第一にラウラの事言ってしまったからな。クラリッサは多分この話を聞いたときのラウラにわざわざ伝えてくれたんだろう。

さて…なんと話そうか…

だが俺が口を開ける前にラウラが先に叫ぶように話す。

 

「なぜ私にそれを教えてくれなかった!!そんなに…私は弱く見えるのか!?」

「…違うよラウラ。弱いのは…俺の方なんだ。」

「…どういう意味だ?」

「俺が一番怖かったのは…お前が笑わなくなることだっ、いや、お前に嫌われる事だったんだよ。」

「なぜ私が――」

「今だから言えるけどさ…あの時俺の頭の中にはお前を何も関係無しで救う選択肢もあった。でも俺はそれを選ばなかったんだ…そしてお前は危険な目に遭った。」

 

これだけは誰がどう言おうと…俺にとって絶対に許せない選択だ。

命は絶対に簡単に斬り捨ててはいけない。俺はそれを知りながらも…命の選択をしたようなものだった。

 

「それでもお前を助けることは出来たが…これを知ったときにお前がどんな顔をするかわからなかったんだ。もしかしたらお前に嫌われて笑わなくなるかもしれない…何よりあの時に一夏に向けていた笑顔までなくなるんじゃないかって…怖くていえなかった。」

「………やはり私のために隠してたんじゃ…」

「違うよ。俺がお前に嫌われたくない…だからおびえて隠してただけだ。」

 

後は…ラウラの答えを待とう。

たとえここで嫌われてもいい。だが…こいつがせめて笑って過せるように動くつもりだ。

それがせめてもの俺にできる償――

 

<―パァンッ!!―>

 

突然、両頬を叩かれ顔を力ずくにもラウラに向けられる。

ラウラは俺の顔をじっと見つめる。

それを目をそらすことなく見つめ返す。

それを見てラウラは納得したような顔をする。

 

「やはり鈴のやったみたいにやれば確かにしっかりと話せそうだな。」

「……そんなことをしなくてもしっかりと聞くよ。」

「いや、奏兄は私のことをさっきから見ていない。奏兄が見ているのは『救えなかった私』だ。」

「っ!?」

 

ラウラのその言葉にびくっと反応してしまう。

俺がそう反応した後も続けざまに話を続ける。

 

「確かに奏兄の言う通りなんだろう。奏兄が後悔しない様に動いていたら確かに私は何の問題も無く救われただろう…だがそうしたらドイツも大変な目にあったし…シャルロットを助けるのが難しくなったんじゃないか?」

「確かにそうだが…それは人命より――」

「奏兄。しっかりと私を見てくれ。ここに居る私は死んでいるか?しっかりと奏兄に、嫁に、皆に救われてここに居る。奏兄が救えなかった(ラウラ)はどこにもいないんだ。」

 

そういうラウラの瞳はまっすぐに俺のことを見ていた。

一切迷い無くその言葉を吐き出していた。

 

「奏兄は今の私を認められないか?奏兄が助けられなかった(ラウラ)の方が笑っているのか?」

「いや…そんなことは無い。」

「私はしっかりと助けてもらった。もう何も問題は無い。しっかりと…ここに居る。ありがとう奏兄、私のことを助けるために全力で動いてくれて。」

「……ああ、そうか……」

 

ラウラに面を向かって言われてようやく納得できた。

お前のこともしっかりと助けられていたのか…俺は……

確かに俺はラウラを…見捨てた。

これだけは絶対に変らない事実なんだ。

でも…今の未来が最善だったんだろう。俺の目に映るラウラは確かに俺の思っていたラウラよりもしっかりと笑っている。

俺のやったことの否定は今目の前に居るラウラを否定しているようなものだ。

 

「はぁ…駄目駄目だな、俺。」

「何、誰だってこういうときはあるものだ。」

「偉そうに……とりあえず気は晴れたよ、ありがとう。」

「そうか、それはよかった。あと奏兄。」

「うん?なんだ。」

「もしどうしようも無いことがあったら私に言え。絶対に力になる。」

 

そう言って胸をはるラウラ。

なんともおかしくって…同時に頼もしかった。

頭をぽんぽんと叩きながら車に向かう。

 

「そうならないようにがんばりますよ。」

「む、信用してないな?」

「してるしてる。」

 

そう適当に返すように返事をする。

ラウラは何か言っていたがそれは適当に返事を返した、単純かもしれないがどうしようもなく気分がよかったのだ。

しばらくラウラをいじりながら俺は車に戻るのだった。

 

 

 

 

 

今あなたが不運な状態にあるなら、それはあなたがそうなるように仕向けた結果です。

逆に、今あなたが幸運に恵まれているなら、それもあなたがそうなるように仕向けた結果です。

                                   ~J・マーフィー~



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第七十六話 旅立ち

空港につく頃にはあたりは完全に暗くなっていた。

結局俺は空港につくまで気分よく、尚且つ何も考えずに居てしまった。

それだけ俺にとってあの問題は鬼門だったのだ。

シャルロットも俺の機嫌が良くなったのを察したのかこいつも機嫌が良くなるし。

ラウラはラウラで言いたいことが言えて満足しているようだった。

現在車内はかなりいい雰囲気に包まれていた……空港に着きクラリッサが言葉を発するまでの間だが…

 

「さて、そろそろ会場に向かいましょう。」

「「あ。」」

 

声をあげる俺とラウラ。

そういえばはじめそれについて話してたんだったな…完全に忘れていた。

クラリッサは既に自分のやるべきことがあるのか遠くに行ってしまった。

とりあえず何をやるかだけはきいておかなければ…

 

「おい、ラウラ。何が起きたか手短に説明してくれ!!」

「奏兄に感謝状を渡したいとドイツ軍の内部で話しが上がったんだ。だが政府としてはあの事件は話にもあげたくないためそのまま却下されたんだ。だったら軍として恩人を見送りくらいはいいかと交渉した結果、それなら許可が出せるとなってな。」

「えっと…問題になるようならいいよ?別に感謝されてることはわかってるから。」

「いや感謝状も軍の一部が個人で作成したようなもので正直ほとんど政治的な意味は無い。だがどうしても動きたいと言っている奴が多くてな…」

「何で!?何がそんなに彼らを駆り立てるの!?」

「私もわからん!!」

 

そういわれながら空港に連れて行かれる。

おいおい、どこでやるんだそんな表彰式。

 

「ちょっと?どこでやるのその…お見送り?」

「そんなの決まっているだろう。」

 

そういってラウラはさらに俺を引っ張る。

途中あまりにも引っ張られシャルロットと離れそうになったためあわててシャルロットの手も握る。

シャルロットも突然の展開に訳がわからずきょとんとして引っ張られている。

しばらく進むとどうみても整備で使うようなところに案内された。

まぁ…表立っては出来ないから格納庫でやるんだろう。案の定、広い格納庫のようなところにつく。明かりが無くあたりは見えないが…恐らく目の前にある飛行機が帰りの便だろう。

そう考えてると結構おとなしめに見送る感じなんだろうなぁ…と思っていたら突然辺りが明るくなる。突然の明かりで目がくらむがかなりの人がいるようだ。

 

「全員敬礼!!」

<<<<<<―ザァッ!!!!―>>>>>>

「はぁ!?」

 

明かりで目がくらんでいたがなれて目の前を見ると……軍人さんたちの道が出来ていた。

パッと見ただけでも40人は居るな…うわぁ…俺ここを歩くの…

横目でラウラを見るとうなづかれる。

シャルロットは……完全に情報の処理が追いついてないな、目を丸くしてパンクしてらぁ。

とりあえず一人で進むか。恐る恐る間を歩く。

うわぁ…まったく動かねぇ…しかも滅茶苦茶俺の事見てるよ…

とりあえず道なりに進むと……ランベルトが居た。

知らない誰かよりはマシだけどさ…あとその横に居る奴。あんた数年前に俺の病室で俺のこと気にかけてたおっさんじゃねぇか!?懐かしいな…って事はさっきの号令の声聞いたことあるなぁと思ったらおっさんだったのか。

とりあえず話しかけよう。

 

「……発案者はランベルトさんですか?」

「いいや?むしろ私は反対派だったんだけどねぇ…」

 

と言いながら愉快そうに笑うランベルト。

くそ、何が反対派だ。こいつ…俺の反応見て楽しんでやがる…

 

「だったらせめてこんな大掛かりにしないでくださいよ…」

「やるんだったら盛大にしたいだろうに。それに今後君はこういう式典に顔を出すかもしれないんだ、今から慣れたほうが良い。」

「心配していただきありがとうございますよ…」

 

そういうと感謝状の授与式みたいないな物が始まった。

まぁ…ここら辺ではあまりふざけたことをするわけにもいかず普通に淡々とおこなう。

思った以上に時間はかからなかったが……視線が痛い。あとラウラの部下たちの姿が見えないが…

もしかして空港の警備でもやっているのか?

そんなことを考えながら俺の授与式は終わった。

正直半分以上も頭には入っていない。

だが終わりは終わりだ、ため息をつきたくなるのを我慢する。

 

「さて授与式はこれで終了だ。」

「あ、そうですか…」

「今後の予定だが君の乗る飛行機はあと十数分もすれば動けるようになるだろう。」

「えっと…もう乗り込んでてもいいですか?」

「せめて何か一言言ってもらっても良いかね?」

 

一言!?この状況でか……

おそるそる後ろを見ると兵士の皆さんがじっと全員俺を見ている。

ラウラとシャルロットの方を見ると…シャルロットは同情するような目でこちらを見ている。

助けてくれというわけにもいかないし……よし何とかこの場を切り抜けることだけ考えよう。

マイクもない中ただ聞こえるようにと声を張り上げ自信なさげに話し続ける。

顔は恐らく困ったように笑っているのでは無いのだろうか。

そのまま思ったことをただ口に出し続ける。

 

「『あ~……皆さん、この場にわざわざ集まってくれてありがとうございます。ただ僕は皆さんが期待しているようなヒーローではありません。どこにでもいるようなただのガキが、何の間違いかIS動かしちゃっただけなんですよ。』」

 

俺がこういうと軍人さんたちはピクリと反応しただけで特に顔色が変ったようには見えない。

うわぁ…話しずれぇ…内心びくびく怯えながら話を続ける。

 

「『ラウラを救えたのだって偶然です。情報を手に入れたのも偶然。正直僕からしてみれば常に国民のために戦い続けているあなたたちの方がよっぽどヒーロだと思います。そんな貴方たちからここまで表彰していただき大変光栄です、本当にありがとうございます。』」

 

そう言って頭を下げる。

反応は無い。あまり長々と話すと鍍金がはげるから短めに話したんだが…

と頭を下げているとまばらに拍手が聞こえ最終的にはしっかりとした拍手になった。

あ~よかった。とりあえず何とかなったわ。

 

「思ったよりやるではないか。どうだい?このままドイツ軍に来ないか?」

「ははは、遠慮しときます。こんなこと続けてたらいつか絶対禿る。」

「それは残念だ。」

 

俺の顔を見て笑うランベルト。畜生、いつか絶対お返ししてやる。

そう言ってようやく俺は解放された。

こんなの二度とごめんだ。

そのまま逃げるようにして飛行機の中に乗り込む。

本気で勘弁してほしい。

どうせだったらみんなでわいわい飯でも食ったほうがまだやりやすい。

あんな式典みたいなところで話すなんて…まぁもう終わったんだ。

そう考えそのまま飛行機の椅子に座る。あ~疲れた。

しばらくするとラウラとシャルロットが飛行機に入ってきた。

 

「お疲れ…ソウ。」

「……本気で二度とごめんだ…」

 

そう言って深く椅子に腰掛けたままため息をつく。

シャルロットは苦笑しながら話を続ける。

 

「あはは、ソウ完全に固まってたもんね。」

「……ばればれだった?」

「え?本当なのか?」

「よし、ばれてない。」

 

ラウラの驚く顔を見て納得する俺。

とりあえずばれていたのはシャルロットくらいだと見てもいいだろう。

とりあえずこれで面倒ごとが無くなった…と思ったら今度はクラリッサがこちらにやってきた。

 

「カザネさん…お疲れ様でした。」

「もう二度とごめんだよ、あんなの。」

 

俺がそう言うとクラリッサは微笑みながら俺に敬礼をして話し始める、

 

「現在我が部隊員全員が警備に当たっているため、シュヴァルツェ・ハーゼを代表してお礼を述べさせてください。隊長を助けていただきありがとうございました。」

「……とりあえず受け取らせてもらいますよ。」

 

『どういたしまして』とは口から出すことは出来なかった。

だが…前向きに答えることは出来たな…

困ったように笑いながら話をする。

それを聞いてとりあえずラウラとクラリッサは満足そうだ。

 

「すまない奏兄、私は少しクラリッサと話してくる。」

「ああ、行ってらっしゃい。」

 

そういうと二人は飛行機を降りて行った。

さて気になってたんだが…この話をするとき一切シャルロットが入ってこないのはなぜなんだ?

顔を見るとニコニコしている。

 

「どうした?」

「……ラウラのこと吹っ切れたんだ。」

「…なんでばれてるの?」

「ソウがどんな人間かわかってれば嫌でもわかります。一夏もソウがなにか気にしてるの気がついてたよ?」

「嘘!?…あいつ、俺のこと気にしてる暇があれば他の四人のことを気にしろよ……」

「あはは、それはそのとおりだね……もう大丈夫?」

 

そう少し不安そうに尋ねてくるシャルロット。

安心させるように笑いかけ話しかける。

 

「ああ、とりあえずはね。吹っ切れた…とはいえないけどある程度は納得できたかな?」

「そっか…うん。よかった。」

 

そう言って安心した顔をしながら…何か気にしてるな…

この場合なんだ?……カマをかけてみるか。

 

「自分は役に立たなかったとか考えてないだろうな?」

「……」

「図星かい……あの時かなり落ち込まなかったのはお前のおかげだったんだぞ?」

「え?私何も――」

「゛助けてくれてありがとう〟…ラウラを助けた後言ってくれただろ?あれのおかげである程度もってたんだぞ?俺。」

「…そうだったんだ。」

 

あの風呂場での言葉。

やり方は…あれだったが、おかげで俺は罪悪感に潰されないですんでいた。

あの言葉のおかげで止まらないで済んだのだ。

そう口にするとシャルロット、だが暗い雰囲気はなくならない。

 

「うん…なんか私…ソウの助けになれてるか解らなくってさ…ソウって誰にも頼らないよね…私、助けになりたいけど…足手まといかなぁって…」

「……」

 

婆さんが言ってたのはこれか…

確かに誰も巻き込まないようにしたせいでシャルロットはこうなってるんだよなぁ…婆さんなんで気が付いたんだ?

 

「はぁ…それだったら助けてもらいましょうか。」

「え?……なにを?」

「俺の愚痴に付き合って。」

「……え?」

「いやな、婆さんに゛人に頼る事を覚えなさい〟って言われてさ。……そうならないと毎日電話かけてくるらしい。」

「……」

「まぁ…なんか悩みが合ったら愚痴言いたいからそれに付き合って。」

 

そういうとシャルロットは目を点にした後に突然笑い出す。

あら?怒られるかなぁって思ったんだけど。

涙を流すほどに笑うシャルロットを見て疑問を持つ。

 

「どうしたの、突然。」

「あはははは、ご、ごめん。ちょっと…思い出しちゃっただけ。」

「え?何を?」

「えっとね…秘密。」

「本当になんなの!?」

「秘密なのは秘密。あははは。」

 

そう言って笑い続けるシャルロット。

一体なんなんだ?…恐らくだが婆さん関係だろう。

まぁ、元に戻って元気が出たんだったらいいが…納得がいかない。

しばらく笑っているシャルロットを納得いかない顔で見続ける。

ひーひーいいながらようやくシャルロットは落ち着いた。

 

「ご、ごめんね。でもわかった。いつでも相談して。」

「お、おう…ねぇ、本当になんなんだ?結構気になるんだが……」

「ひ、秘密。でも…うん、すごい元気になれた。」

「…まぁいいか。」

 

そういうシャルロットの顔はかなりやわらかく見えた。

まぁ、それは良いんだが…いざとなったら婆さんに聞いてみよう。たいした問題にはならないだろう、多分…そういう風に話しているとラウラが戻ってきた。

とりあえず声だけはかけておこう、と思うと先にシャルロットの方が声をかける。

 

「お、お帰りラウラ。」

「ああ、シャルロットただいま。…?なぜそんなに目を赤くしてるんだ?」

「……ソウにいじめられたからだよ。」

「ちょっと!?言いがかりじゃない?それ!?」

「……本当に仲がいいな、二人とも…まぁそろそろ飛行機が出発するが大丈夫か?」

「ああ、帰りも頼むよ。」

 

そういうとラウラが窓の外を指差す。

そちらを見てみると……先ほどとは比べ物にならない数の軍人さん方が敬礼をしている…

おい、俺にどうしろっていうんだよ…あ、シュヴァルツェ・ハーゼの皆が居る。手だけは振っておくか…おお、すごい反応があるな。

しかし……これ、俺が里帰りするたびにおきないよな…

流石に二回三回ってなると面倒だなぁ…まぁ無いだろうけど。

飛行機が飛び立って見えなくなるまで彼らは動く事は無かった。

こうして俺の短い里帰りは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

一番幸せなのは、幸福なんて特別必要でないと悟ることです。

                              ~ウィリアム・サローヤン~




ということで里帰り編終了ですww
本来最低でも9話ほどのものを要点だけ突っ込んだ形になったのでこのような感じになってしまいました。それについては作者の実力不足ですね。


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第七十七話 織斑家

日本に帰ってきた後、俺はまずお土産を配って歩いた。

まぁ…夏休みのせいで学校に居ない方が多いがまぁ、運が悪かったと思ってもらおう。

その後数日は普通にIS学園内で生活を送っていたのだが……一夏が爆発した。

 

「奏!!俺の家に帰ろう!!」

「おい、落ち着け。第一、帰るなら一人で帰れ。」

「いやな…俺も結構我慢したと思うんだ…」

「何を?」

「風呂だよ!!俺かれこれ2週間以上風呂に入ってない!!」

「……シャワー浴びてるじゃん。」

「湯船につかりたいんだよ!!俺は!!」

「左様か。」

 

苦笑しながら一夏の話を聞く。

こいつはかなり風呂好きだからな…

この暑い時期にシャワーだけで済ましたくないんだろう。

去年の夏なんて朝に一度夜に一度、時間が有ればさらに入るといった姿から、弾からは『お前は女か!!』と突っ込まれてたな。

 

「お前はなんともないのか!?汗まみれの後に風呂に入りたいとか!!」

「いや…僕いつも基本シャワーだけだし…」

「お前それでも日本人か!!」

「育ちは外国だよ?」

 

とからかう風に言うと一夏はげっそりとする。

こいつも…それほど嫌だったら一人でも行けばいいものを…

ため息をついて話しかける。

 

「んで何時帰るんだ?流石にお前の鍛錬がある日の前日に泊まるのは不味いだろう。」

「え?…着いてきてくれるのか!?」

「いや…別に予定もないし、俺の荷物も整理しておきたいしね。」

 

そう言ってドイツから持ってきた荷物を指差す。

ある意味タイミングはよかったのだ。

ドイツから帰った後何時か織斑家の俺の部屋にでも荷物を置きに行こうと決めていたのだ。

……まぁそこで一応俺の家となっているアパートに荷物を置きに行く選択肢が出てこない。

いや、一応俺の家もまだあるのだ。

だが…正直なところ生活していた時間も私物の量もすべて織斑家のほうが多い。

しかも織斑家のほうが落ち着くのだから仕方ない。

 

「そうか!!明日…いや、明後日にしよう!!」

「おう、じゃあ宿泊届けは出しとくぞ?一日で良いか?」

「いや…先生の方は5日後に来るから…」

「フルで2泊かな?」

「……明日からにしないか?」

「…OK3泊の外出届だしとくよ。」

「ああ、頼む。」

 

周りの奴らには…まぁ俺はシャルロットに伝えるだけで良いか。

一夏の方は…一応一言回りに言っておくだけにしておこう。

こうして俺と一夏で久しぶりに家に帰ることが決まったのだ。

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、いつもどおりに鍛錬を終え自身の部屋に戻ると一夏は居ない。

恐らく今頃、柳韻さんにしごかれているのだろう。

まぁ俺は先に織斑家に向かおう。

そう考えシャルロットと一夏にメールを送りIS学園を出た。

荷物を持った状態で織斑家に向かう。

そういえば一夏は最近家に帰ってないと言っていた。

一応千冬さんは数回帰っているらしいが……ごみ屋敷になってなければいいが…

そう考えながら歩くと織斑家に到着する。

そのまま俺が持っている鍵を使い家に入る。

玄関は少し埃まみれだがそれほどでもないな…問題はリビングと…台所だ。

恐る恐る部屋を開けると……腐海が広がっていた…

テーブルの上のビール缶、散らかった床、さらに台所の方からは何か異臭がする…

なんというか…良くぞまぁここまで散かせたな、と言った具合だ。

仕方ない掃除をしよう、そうでなければここは人の暮す空間にはならない。

少し学校の方にある千冬さんの部屋が心配になりながらも俺は掃除を始めた。

1時間ほど掃除をしていると玄関の方で音がする。

 

「うわ!?埃っぽいな……」

「一夏、ようやく来たか……そこであわててるようでは、こっちは見ないほうがいいぞ?」

 

俺が声を上げる、舞い散る埃。

一応現在上の方から掃除をしているが……終わりが見えない。

一夏が中に入って中を見て唖然とする…

 

「奏…何があった?」

「僕が来た時にはこれよりひどかった。一応謎のキノコと流しにあった異臭を放つ暗黒物質(ダークマター)の処理は終わった。」

「……よし、俺は上の方をやる。」

「千冬さんの部屋は任せた。流石に触れないからな。後…風呂場はお前が掃除しろ。」

「了解、とりあえずちゃっちゃと終わらせよう。」

 

そう言って二人で苦笑いをしながら掃除は続いていった。

 

 

 

 

 

かれこれ三時間ほど掃除を続けようやく家の中が綺麗になった。

途中あった千冬さんの脱ぎ捨てられた服等は彼女の名誉のために俺は見なかったことにしておこう。

さて…時間は…1時か…どうしたものか…

そう考えていると一夏の方から声がかかる。

 

「奏、先風呂入っちまえよ。」

「あ~?お前先入らないの?」

「俺はゆっくり入るつもりだからさ、お前すぐ上がってくるだろ?」

「了解、じゃあ先に入らせてもらうわ。」

 

そう言ってシャワーを浴びる。

掃除したのも一夏だしさっさと上がらせてもらおう。

手早く体を洗い髪を洗う、そういえばまた伸びてきたな…

まぁまだ気にならない程度だからいいけどさ。

ふとボディソープの量が少なくなっていることに気がつく。

丁度そのとき脱衣所に人の気配がし扉をあけて話す。

 

「おい、一夏。ぼでぃ…」

「……」

 

そこに居たのはシャルロットだった、あれ?これ…

ヤバイ!!急いでドアを閉める。

 

「すまん!!だが叫ぶな!!」

「……」

 

恐らく今頃顔を赤くして叫ぶのをこらえているのだろう。

って言うか何時の間に、むしろなぜ居る。

 

「まず質問良いか?なぜここに居る?」

「…い、一夏には言ってあったんだよ?」

 

アイツが原因か…

多分くるだろうと思っていたが…さてとりあえず風呂は上がろう。

 

「シャルロット、そろそろ上がるから出てってくれ。」

「あ、うん…わかった。」

 

そう言ってシャルロットが出て行ったのを確認して浴室から出る。

本当に勘弁してくれ…とりあえず一夏にいくつか文句を言ってやろう。

とりあえず体だけ拭き着替え、髪も濡れたままタオルを首にかけ脱衣所から出る。

横を見るとシャルロットが伸びている。下手に騒がれるよりは良かったが…

 

「お~い、大丈夫か?」

「え?あ……うん…」

「なんというか…気にするなとしか言えません。」

「わ、わかった。忘れるようにする…」

 

まだ顔の赤いシャルロットにそう言って苦笑しながら話す。

さてリビングに向かうと一夏がソファーの上で伸びている。暑さにやられたんだろう、そのまま熔けてしまえ。

 

「おい、一夏。」

「あ~、奏上がったのか?」

「せめて一言シャルロットが来ることぐらい言えよ。」

「………あ、伝えてなかった…」

「あほ。」

 

そう言って一夏の顔にタオルを投げる。

こいつの事だ、掃除の事で頭がいっぱいになっていたに違いない。

タオルをそのまま顔面で受け止めた一夏は言葉を発する。

 

「ふええほうこほ――」

「普通に話せ。」

 

一夏のタオルを取って話しかける。

 

「いや、冷蔵庫の中、何もないけどどうする?」

「……冷凍物は?」

「なし、ちなみに他はビールと乾物のみ。」

「……近くのコンビニにでも行ってくるよ。」

「頼むわ…俺おにぎりでいいから。」

「適当にパスタ作るよ。それでいいだろ?」

「ああ、そういえばシャルは何か食べたのか?」

 

一夏がソファに座り直りながらシャルロットに話しかける。

 

「ううん、私みんなより先に出てきたから。」

「そういえば他のは?」

「買い物してから来るって、夕食は任せてくれって。」

「お、ラッキー。って言ってもボディソープ無いんだよなぁ…他にもいろいろと無いもの多いし…」

「うぇ、マジで…適当にスーパーで買い物してくるか?」

「じゃあ俺とシャルロットで行ってくるわ。」

「頼む、金は――」

「いつもどおりだろ?わかってるよ。」

「じゃあ頼むわ。俺風呂入ってるから。」

 

そう言って一夏は風呂場に向かって歩いていった。

さて勝手に買い物に連れて行くことになったシャルロットだが目を丸くしている。

そんなに一緒に買い物に行くことに驚いたのだろうか。

 

「シャルロット、買い物行くだろ?」

「うん、当たり前でしょ?それにしても本当に一夏と一緒に生活してたんだ…」

「え?何で。」

「今の流れすごく自然だったからさ。」

「ああ、そっちか…半年近く一緒に過してたからな。ちなみにキッチンだけなら俺のほうが何があるか知ってるぞ?」

「ひ、人の家なのに?」

「ああ、キッチンはほぼ俺の城になってるからな。」

 

まぁ…基本的に俺がいろいろ作るのが好きだったのもあるけど一応理由はある。

基本的に千冬さんが料理をしない、一夏は一人で飯を食べるのを嫌がり弾のところや鈴のところで飯を食べるようになっていたためそれほど料理には力を入れていなかったのだ。

そこに俺という料理好きが入ったことにより基本は俺が料理と一夏の補佐、その他家事全般は一夏、千冬さんは座っていてくださいといった織斑家の役割分担が出来上がったのである。

その役割分担のなかに俺が組み込まれているのもあれだが…それよりも千冬さんをキッチンに立たせないようにさせるための苦肉の策でもあった。

別に飯が不味いといったわけではない…ただ…後片付けがものすごい面倒なのだ。

それこそ一回ずつ大掃除をしなくてはいけないほどに。

そうなると正直俺か一夏が作ったほうが掃除の手間も省ける。

さらに俺のほうが料理がうまいと来ているため俺が織斑家の役割分担に組み込まれることになったのだ。

そのため極端に家に帰ることが少なくなり結果的に織斑家に俺の部屋が出来るまでになったのだ。

そんなことを考えている最中に横を見るとシャルロットが首をかしげている。

まぁそこらへんはおいおい話す機会があれば話そう。

これを話したら確実に千冬さんの弱点(?)がばれる。話を切り替えていこう。

昼飯はどうしようか…台所掃除していた時に缶詰をいくつか見つけたから…

 

「そういやシャルロット、パスタ作るつもりけど…何でも良いか?」

「え?何を作るつもりなの?」

「さっぱりめの和風パスタ。」

「多分食べられると思う。」

「了解、ちなみ今日泊まるつもり?」

「………」

 

そう聞くと顔を赤くさせるシャルロット。

何か荷物も結構持って来ているし何か考えてはいると思ったんだが…

それにしても何を考えているんだ、こいつは。

 

「泊まるので良いんだな?」

「……う、うん。」

「じゃあ、明日の朝食分も買っておくか……」

 

俺がそう言うとようやく俺の質問の意図を察したのだろう、アッと言った顔をするシャルロット。

それを見て笑いをこらえながら俺はシャルロットに話しかける。

 

「なぁに、エロい事考えてるんだ?」

「ち、違うよ!?」

「はいはい、そういうことにしておきましょうか。」

「本当に違うんだからね!?」

「信じてる、信じてる。」

「ちょっと!?ソウ!!」

 

必死に否定してる来るシャルロットを楽しみながら俺はシャルロットを連れて買い物に出かけるのだった。

スーパーマーケットに向かいシャルロットと一緒に歩く。

流石にここら辺まで来ればIS関係の人物も居ないから普通に手をつなぎながら歩けるか…

しかし口に出すのはなんともくすぐったいような気分になる。

こういう時俺の目標は…ってそういう考えしても無駄だし何よりもシャルロットに対しても失礼だ。

普通に声でもかけよう。シャルロットの方を見るとこいつもどこか落ち着かない様にしている。

 

「シャルロット。」

「っ!?な、何かな?」

「いや、そんなに驚くなよ…シャルロット。手でもつながない?」

「いいの!?」

 

とこちらに迫るように声を出すシャルロット。

苦笑いをしながら話を続ける。

 

「別に初めてでも無いだろうし…まぁいろいろと気を使わないといけないのが続いたけどさ、今は気にする必要も無いだろうし。」

「そっか…そうだよね…」

 

そう言いながら手をつなぐシャルロット。

とたんに機嫌よく笑い始める。

なんというか、逆に申し訳なくなってくるな…

そのまま俺たちは手をつなぎながら買い物を続けた。

途中道行く人から見られたりもしたが…まぁ問題ないだろう。

デートというにはあんまりな買い物を二人で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

スーパーマーケットでの買い物を終え織斑家に向かう。

結構いろいろ買ったせいで俺は両手に、さらにシャルロットにも荷物持ちをさせてしまっている。

これだったら一夏をつれてくれば良かったかもな…

しかし普段なら一緒に行くって言いそうなものを…もしかして気を使ったのか?

…………それは無いな、確実に。

 

「ソウ何考えてるの?」

「うん?晩飯の事…なぁ…セシリアも何か作る気なのか?」

「そうなんじゃない?でも多少失敗しても何とかなるよ。」

「それもそうか。」

 

そういえば…まだ誰もあのメシマズの本当の実力を知らなかったのか…

途中で俺が間に入ったからなぁ…今回も鈴や箒も居るから何とかなるだろう。

 

「まぁ…何とかなるか。」

「?それにいざとなったら一夏に全部食べてもらおう。」

「シャルロット…お前結構ひどい事いうな…」

「食べられないわけじゃないだろうし…その方がセシリアも喜ぶからね。」

 

と言いながら笑うシャルロット。

…確かに食べられないわけではないか…その後体調が著しく悪くなるだけで。

いざというときは一夏にすべてを任せることに決め俺たちはそのまま歩き続けるのだった。

織斑家に到着し家の中に入る。

そろそろ他の奴らも来てるかなぁ…と思いリビングをあけると……

 

「はなしてください箒さん!!鈴さん!!」

「セシリア!!それだけはやめて!!」

「何で!!料理に!!レーザーが必要なんだ!!」

 

無言で扉を閉める……

シャルロットの方を見ると口端をぴくぴくさせて苦笑いをしている。

見なかったことにしよう。

 

「……よし、俺の家に行くか。」

「……そっちの方が良いかもね。」

 

そうやって家から出ようとするとリビングのドアが開き一夏とラウラにつかまる。

 

「待て、逃げるなシャルロット!!」

「ラウラ!?離してくれないかな?」

「奏!!俺を置いてどこに行く気だ!!」

「いやぁ…買い物も終わったし家も綺麗になったから自分の家に帰ろうかなぁ~って。」

「奏……いまさら遠慮しなくてもいいんだぞ?」

「一夏…僕はまだ生きたい。」

 

そう言っているとキッチンの方で悲鳴のような声が上がる。

 

「一夏!奏!早く来て!!もうセシリアが!?」

「大丈夫ですわ…わたくしの本気を…」

「もう十分だ!!だから止まれ!!」

 

何があったのかは知らないがとりあえず止めに行こう。

俺は一夏と共にセシリアを止めに行った。

なんというか…これではIS学園に居るのと大差無いなぁと感じているのだった。

 

 

 

 

 

人々は悲しみを分かち合ってくれる友達さえいれば、 悲しみを和らげられる。

                          ~ウィリアム・シェイクスピア~

 



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第七十八話 恋の楔

セシリアの暴走を止め鍋を見る……

なんというか見た目は普通のカレー、匂いも異臭を放っているわけでもなのだが……体が……俺の第六感が危険信号を送り続けている。

一体どうすればここまでの危険物を……

リビングの方で座っている一夏たちに声をかける。

 

「……どうすればこんなものが出来るの?途中レーザーとか言う物騒な単語も聞こえたんだけど……」

「…セシリア、何をやったんだ?」

「わたくしはただ隠し味を…」

「いや……ぜんぜん隠れてないよ。ものすごい自己主張はげしいから。っていうか…箒と鈴が一緒に居ながらなぜこうなったんだよ…」

「私たちが目を離した一瞬だったのよ…」

「正直前のサンドイッチがあったからあまり警戒してなかったんだ……」

 

で、気がついたらこうなりましたってことか…

二人の顔を見る限り本当に一瞬なんだろう……一瞬でここまでやばくなるとは…

 

「まぁ…今度は普通に作ろう。材料は買ってきたし。」

「今度こそはわたくしの――」

「「「「「お願い座ってて!!」」」」」

「そんな!!奏さんからも何か言ってください」

 

どうしてそこで俺に振るの?

セシリア以外の目線は頼むから止めてくれ…といった感じだ。

とりあえず話をそらそう。

 

「あ~……簪ちゃん居ないけどどうしたの?」

「簪は用事があると言っていた。何でも弐式の山嵐のほうが完成しそうなのだ。」

「おお!!それは朗報。」

「ああ、ようやくらしいからな……」

 

と箒と話しながら笑いあう。

箒も結構簪の弐式のこと気にしてたからな。

だがあまりにも露骨に話題を変えすぎたな…セシリアがじーっとこちらを見てくる。

一夏…お前の相手だろ?自分で何とかしろよ……あ、そうだ。

 

「セシリアのことだけど、一夏。お前一緒について作り方教えてやれよ。」

「え!?俺が?」

「へ?……ちょっと奏!!どうしてそうなるのよ!!」

「いや、君たちはお前たちでキッチンで何か作れば良いさ。ただ一夏はセシリアの指導をしろって言う話し。君たちも途中一夏に味見でも頼めば良いだろ?」

「じゃ、じゃあ、奏。お前が間に入れば良いじゃないか!!」

「いや…僕料理を人に教えるの苦手だし。それに僕は既に買い物してきた分一夏より働いてる。別にそれで良いだろ?一夏。」

「ああ、別に俺はかまわないぞ……それより腹が減った…」

 

そう言ってがっくりする一夏。

そういや俺もシャルロットも何も食ってないんだったな…

ちゃっちゃとパスタを作るか……

 

「シャルロット何か食べるか。」

「えっと…お願いしても良い?」

「奏、俺の分は?」

「お前は味見担当だから腹をすかせておけ。それで良いだろ?皆。」

 

そう言うと四人ともうなずく。

……ラウラ、お前も何か作るつもりなのか?

だとしたらあのキッチンに6人……流石に入らないだろう。

 

「先に僕が作っていい?」

「ああ、かまわない。」

「セシリア、その間に何を作るか考えようぜ?」

「は、はい!!わかりましたわ!!」

 

そう言って一夏とセシリアは料理本を開き始めた。

他の3人も一緒になって読んでるな…さて、さっさと作るか。

パスタの麺を茹でてる間に多めのオリーブオイルでキノコを炒め、その後ツナ缶を入れて軽くほぐしながらしょうゆと胡椒、軽く出汁の元をふる。

麺が湯で上がったらあまり水は切らずにそのまま炒めた具に加え油と茹で汁を乳化させる。

後は味見をして皿にもって海苔を散らす、よし完成だ。

皿を三つ持って行く。

 

「ほらできたぞ、シャルロット、一夏。」

「サンキュウ。」

「え?さっき一夏は無しとか言ってなかった?」

「まぁ…流石に飯抜きはきついだろうからとりあえず少しだよ。」

「……何だかんだであんた一夏に甘いわよね…」

 

鈴にため息をつかれやれやれといった感じに首を振られる。

いや…別に特別甘いわけでは無いと思うのだが…

 

「いや…むしろ一夏にはきつい方だと思うけどなぁ…」

「まぁ別にいいけどね。じゃあ作るわよ!!」

「私もつくろうか。」

「ラウラ、何作るの?」

「秘密だ。まぁ…食べられるものだ。」

 

そう言ってキッチンに向かう二人。

あれ?何で箒は向かわないんだ?

 

「箒は?」

「私は後にする。」

 

そう言ってちらっと一夏の方を見る。

ああ、出来るだけ一夏と一緒にいたいのね。

一方その一夏の方はセシリアと何を作るかを話している。

たのしそうだし放置で良いか。

 

「ねぇソウ。」

「うん?」

「あれって…」

 

シャルロットがそう言って指差す方には写真立て。

あれは千冬さんと一夏の写真だな、基本ツーショットになっている。

 

「ああ、千冬さんの写真だよ。」

「へー…織斑先生こんな感じだったんだ…」

「そういや俺も落ち着いてみたこと無かったな…」

 

そう言って一緒に写真立てを眺める。

これが一番昔の…中学生時代の千冬さんか…何と言うか雰囲気は柔らかいな…

こっちが一番新しい千冬さんの写真…写真からもきりっとした感じが伝わってくるな。

しかしこの姉弟…本当によく似てるな…なんというか写真で見るとなおの事それがわかる。

普段千冬さんは仏頂面で一夏は気の抜けた顔をしてるからあまり感じないがこうして同じ風にカメラに微笑んでる時にはすごい似てるな。

シャルロットもそれを感じたのかボソっと口をこぼす。

 

「すごい似てるね…」

「ああ、俺もそう思うよ。」

「……そういえばソウの写真とかないの?」

「えっと…卒業アルバムとか?」

「?何それ。」

「中学校卒業時の写真集みたいなもんだよ…ただ俺あまり映って無いんだよなぁ…」

「そうなんだ…」

 

と少し落ち込むシャルロット。

そんなことを話していると後ろの方にいる一夏から声がかかる。

 

「いや、あるぞ。」

「え?何が。」

「奏の写真、それも結構な量。ただ他にもいろいろと混じってるけどそれでよければ見るか?シャル。」

「う、うん!!見る!!」

 

そう言うと一夏は上からカメラのメモリーを持って来る。

あ~そういやこいつ何かとよく写真撮ってたな。

それを見てキッチンにいる二人も興味があるようだ。

って言っても大半俺と一夏と弾、あと最近会わないが御手洗 数馬(みたらい かずま)というもう一人が居るのだが……こいつは今弾と一緒にバンド活動みたいなことをやっているらしい。

まあ、そんな四人で馬鹿をやってる写真が大半だ。

一夏も時々弾や俺にカメラを奪われ一緒に映っているはずだ。

データを見ていると突然前面に俺の寝顔が映っていた。

 

「?これってソウの寝顔?」

「……おい、一夏、何撮ってる。」

「い、いや…記憶に無いぞ!?」

 

そう言って次の写真を見ると今度は一夏の寝顔が写っている。

日にちも一緒……なんだ、これ?

一夏も不思議そうな顔をしている。

 

「多分…弾か数馬じゃないか?」

「…多分だろうな…今度聞いておくか。」

 

そう話してる間にもシャルロットは他の写真を見る。

箒もチラッと見るようにして一緒になってみている。

セシリアは…料理本に夢中か…

 

「ソウ、一夏。この人は?」

「ああ、そいつが五反田 弾、で隣にいるのは御手洗 数馬。どっちも俺と奏の友達。」

「確か…『私設・楽器を弾けるようになりたい同好会』だったけ?そんな名前のバンドみたいなの今やってるんだっけ?」

「何アイツらバンドやってるの。」

 

キッチンの方から鈴の声が聞こえる。

笑いながら返事を返す。

 

「ほんとさ。確かバンド名が決まらなくてこんな名前になったらしいよ。」

「ふ~ん……後でちょっかい出してやろうかしら。」

「そういえば蘭も鈴に会いたがってたぞ?」

「へぇ……まぁ良いでしょう…」

 

そう言って悪い顔をする鈴。

多分煽る気満々なんだろうなぁ…

弾いわく『蘭と鈴は犬猿の仲っていうか、ハブとマングース?…トムとジェリーっていうのが一番しっくり来るな。』というような仲らしい。

一夏から見たらすごく仲がいいということなのだが…まぁ間違ってないんだろう。

 

「ソウ、ここは?」

「ああ、それ俺のアパート。」

 

そう言って映し出されていたのは結構ぼろくさいアパートだ。

俺は一応ここに部屋を借りてるんだが……まったく帰らなかったなぁ…

多分一夏の家にいる時間のほうが多いし。

 

「へぇ…あ、これはどこ?」

「あ~それはな――」

 

そんな風にして結局俺は四人の料理が出来るまで永遠と写真の説明をシャルロットにすることになった。途中料理を作り終えた鈴たちも混ざってきたが…とりあえず俺の主観の話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様っと。」

「本気で全部食べきったわ…こいつ…」

「本当にどこに入ってるんでしょうか…あの量…」

 

全員で夕食を食べ終える。

セシリアは結局おにぎりを一夏と一緒に作っていた、途中一緒に手をとって握っているのを見て4人が嫉妬していたのは言うまでもないだろう。…ラウラの料理は『アイントプフ』だったな…味付けもどこか懐かしい…これはもしかして、と思いラウラに声をかける。

 

「食い終わった後だけど、これ婆さんから教えてもらったのか?」

「!!奏兄わかったのか!?」

「まぁ…婆さんのアイントプフは材料を結構細かく切るからな。」

「へぇ…奏のおばあさんの味だったのか…」

 

そう言って一夏がしみじみとした表情で何か考えている。

俺が何か言う前に箒と鈴がツッコミを入れる。

 

「一夏、何かくだらないこと考えてないだろうな。」

「え?べ、別に…」

「図星ね。」

 

そういわれた瞬間玄関の方で音がする。

恐らく千冬さんかな。

 

「なんだお前ら全員ここにいたのか…」

「お帰り千冬姉。」

「千冬さん、ども、お邪魔してます。」

「「「「「お邪魔してます。」」」」」

 

そう言ってあたりを見渡す。

恐らくビフォーアフターに驚いているのだろうか…

一夏が何か余計な事を言う前に話題を変えよう。

 

「そういえば千冬さん何か食べますか?」

「いや、この後すぐに出る。あと…学生として自覚して行動しろよ?」

「了解しました。」

「あ、千冬姉の部屋から布団引っ張ってきてもいいか?」

「ああ、好きにしろ。」

 

そう言って千冬さんは自分の部屋へともどって行った。

そういえばシャルロットはともかく他の四人はどうするつもりなんだろうか。

 

「そういえばシャルロットはともかく君らは今日どうする気なの?」

「?シャルロットはってどういうこと。」

「いや、泊まるらしいからさ。」

「「「「へぇ~~~~」」」」

 

そう言って四人からニヤニヤされながら見られる。

シャルロットは顔を赤くしている。

こいつらここぞとばかりに俺をからかうつもりだな…俺は大して顔に出さないようにする。

 

「うん?どうした皆。」

「いえ~別におアツいことなんて思っておりませんよ~」

「そうそう。別にカップルが何をしてもねぇ?」

 

と言って俺をからかおうとするセシリアと鈴。

俺は苦笑いしながら返事を返す。

 

「君らが期待してることなんて一切無いよ。」

「口ではなんとでも言えるな。」

「箒。君の中の僕はそんなに向こう見ずなのかい?」

「男は皆狼だろう、特に日本では――」

「クラリッサの間違いだから、それ。シャルロットからもなんか言ってくれよ。」

「……え?わ、私!?」

「お前以外に誰が居るっていうんだよ。」

 

ぼーとしていたシャルロットを、話しに引っ張り込む目的で話を急にふる。

予想外だったらしく四人にニヤニヤした顔で見られて、あわてるようにしながらシャルロットが話し始める。

 

「え!?えっと、ソウはそんなことしないと思うよ!?」

「思うねぇ…本当に?」

「えっと…あ、相手はソウだよ?」

「男女の間に『まさか』は無いんだろ、シャルロット。」

「で、でも!?」

 

ああ、完全にいじられてテンパッてるな。

俺も苦笑しながらそれを眺める。

鈴がいたずらをするようにしてニヤニヤ笑いながら話す。

 

「そういえばあんたたち告白した時の状況聞いてなかったわね、どういう風に言ったのよ。白状しなさい!!」

「え!?そ、それは……あ、ひ、秘密だよ!!」

「そんな事言わずに説明してくださいな。」

「え!?だ、駄目だよ!そんなの!!」

「奏、シャルロットはどういう風に告白したんだ?」

「箒!?」

「シャルロット、観念しろ。」

「ラウラまで!?……ソウ!?」

 

そんな目を赤くして泣きそうな顔で俺を見るな。

こっちは笑いそうなのを我慢しているんだ。

それにしても告白した時か……あ、これシャルロットが風呂場に侵入したこと話す必要がある…いやそこだけ省いて話すことも出来るが…ばれたときが怖いな。

 

「それは僕とシャルロットだけの秘密かな。」

「「「「え~…」」」」

 

そう言うとシャルロットはほっとしたような顔をしている。

こういうことになるから今度からは考えて行動してくれよ……

そういうことを考えていると箒がふと思いついたように聞いてくる。

 

「そういえば……二人はで、デートはしたのか?」

「……そういえば学園内ではよく一緒に居るけど…外に一緒に出て行く事は無いわよね…」

「私の部下からの情報では中の良い友達のようだったと伝えられてるな。」

「?そういえば何でデートしないんだ奏。」

「あ~……いろいろと問題あって付き合ったらまずいんだ、僕とシャルロット。」

 

俺がこう言うと全員、へ?と言った顔をする。

苦笑したままの表情で話を続ける。

 

「あ~…セシリア、鈴、ラウラ。僕が外国でどんな評価受けてるか教えてもらって良い?」

「えっと…『有能だが飼いならすのには苦労する』とかあとは…」

「わが国では『ヒーロー』と…」

「私の国ではあまり…その…」

 

と全員どこか話しづらそうにしている。

まぁ…あまり良い噂は流れてないだろうな。

 

「『ハニートラップに弱い』とか『女の使い方がわかってる悪漢』とかになってるんじゃないか?全部が全部そうとは言わないけど。」

「…知ってたんですか…」

「むしろわざとそういう噂を広めてもらった。」

「何でそんなことしたんだ、奏兄。」

「あ~……まぁ事情があったって感じ?」

「どういう事情なんだ?恐らくシャルロットのことだろうと思うが…そういえば今まで一切聞くことが無かったな。」

「えっと~…」

 

俺が言葉を濁すように話を切る。

実際面白い話じゃないし軽く話すことでもない…それに現在もシャルロットは悩んでるんだ。

あまり話したくないんだが…

俺が悩んでいるとシャルロットが話し始める。

 

「……私を守るためなんだ。ほら…私、入学当初男として入学してきたでしょ?」

「あ、ああ。だがそれは書類上のミスでそれを利用した人物を摘発するまでの期間だけだったのでは?」

 

ラウラがフランス政府が発表した内容を話す。

まぁ…それだけだったら何の問題も無いんだがな…

シャルロットは作ったような笑顔で話を続ける。

 

「あれは…あってるけど全部が本当じゃ無いんだ…」

「シャルロット、どういうことだ?」

「私ね…はじめはIS学園にスパイとして送り込まれたんだ…男性操縦者のデータと…第三世代の機体データを集めるためのス--」

「おい、シャルロット…」

「ソウ大丈夫…みんなにはわかってもらったほうがいいと思う…」

 

そう言ってシャルロットは再び笑顔を作る。

その笑顔がどうしようもなく気に入らなかった。

何よりもそんな笑顔をさせなければいけない現状がどうしようもなくイライラさせた。

顔には出さないようにしたが声が少し低くなったな…

 

「話を戻すけど私はスパイとしてIS学園に送り込まれたんだ。」

「……では…デュノア社長の娘ということも嘘なのか?」

「ううん。それは本当。ただし…愛人の子だけどね…」

「な!?…すまない…」

「気にしないで。私はじめはフランスの田舎の山の方で、お母さんと一緒に暮してたんだけど…お母さんが死んだ後にデュノア社に見つかって……デュノア社に連れてかれたんだ。」

 

完全に雰囲気は静かになっていた。

4人とも真剣な顔で話を聞いていた。

一夏もさっきから黙って話を聞いていたし、扉の向こうには千冬さんの気配もする。

ただ俺だけはどうしようもなくむしゃくしゃしていた。

いまさら憤ったって仕方ないのに…頭で理解しても感情の方がなんとも出来なかった。

 

「その後2年間ほど軟禁されながらデュノア社のテストパイロットをやらされてたんだ。」

「それが…どうしてスパイなんてやらされたんですの?」

「……デュノア社の乗っ取りのための駒にされたらしいんだ…ばれたら責任を全部わた…デュノア社長と私に押し付けてデュノア社を乗っ取るつもりだったらしいんだ…」

「…じゃあどうやってそれを防いで…IS学園に残れたの?普通最低でも刑務所送り、下手したら一生出てこれないようなことよ…」

 

鈴が真剣な顔で言うと一夏が反応する。

 

「え?そんなに重罪なのか?」

「IS学園は他の国家からかなりの代表候補生と…各国の最新のIS技術が集まる場所ですわ。もちろんスパイが大量に発生しかねない上に、他の国家は手が出せない環境になっていますわ…」

「だからその分他国の重要データを奪う、または盗む行為はばれた瞬間即刻問答無用でつかまるのが普通だ。そうしなければIS学園の独立性は保てない。」

「そうなのか…」

 

一夏が納得したようにうなずく。

他国が介入できないところでスパイ活動がし放題だったら誰も最新データの塊をもってIS学園には来ないだろう。だが、『ソレ』が出来ているという事は何らかの厳しい罰則と発見するための組織があるはずである。

恐らくその組織が『更織家』なんだろう…

シャルロットはその説明が終わった後に話を続ける。

 

「本当はすぐにつかまるはずだったんだ…私ももちろんわかってた。それでもせめて最後にソウに会いたかったんだ…」

「奏兄にか?」

「うん、私のことをしっかりと知っている人で…約束もしてたからね。そのためにIS学園にきたんだ…ソウに最後に会って自首するつもりだったんだ…」

 

そう言ったあとシャルロットは本当におかしいようにクスクスと笑い始めた。

 

「それをソウの部屋に言って言った後に…ソウなんていったと思う。当たり前のような顔で『助ける。』って言ってもう既に行動してたんだよ。再会してから一日も経ってないのに。」

「奏さんは何をやったんですか?」

「単に楯無さんと交渉しただけだよ。元々貸しがあったからそれを使ってね。」

「……楯無って誰だ?簪では無いだろう?」

 

一夏が首を傾げた考える。

そういえば……こいつまだあった事が無かったな。

説明は皆に任せよう。セシリアが口を開く。

 

「IS学園の生徒会長で現役の『ロシア代表操縦者』ですわ。…一夏さん、IS学園での生徒会長の意味はご存知ですか?」

「えっと…単に投票で選ばれたとかじゃ無いのか?」

「いいえ、基本的にそのようにして選ばれる事はありませんわ…『学園最強』これが生徒会長に必要な資質ですわ。」

「え?…つまりIS学園で一番強い奴ってことか!?」

「名前は更織楯無、つまり簪の姉さんだ。そこで元々つながりがあってな。それで俺が交渉して一ヶ月のタイムリミットを貰ったんだ。」

 

俺がそう言うと一夏たちがへぇ~といった顔をしている。

話は再びシャルロットに移る。

 

「その後はソウが一人でいろいろと掛け合ってね…最終的に新型機によるデュノア社の再建させることとソウから得れる男性操縦者のデータを条件にフランス政府の方で私のことを助けたんだ…」

「そのときに結構無茶してね、国際的な条約をいくつか屁理屈で捻じ曲げたあげくフランスにかなり譲歩した感じに僕が動いたせいで、いろいろと国際的に問題になりそうでね。そしてその時期に弱みを探されたら…シャルロットのことがばれかねない。だからしかたなくいろいろブラフとして嘘の情報をばら撒いてもらったんだ。僕がこれ以上フランスに干渉することは無いって公言することで釘を打ったあとにね。」

「それで…」

「そう。シャルロットはスパイじゃないってことにするために嘘をいろいろとばら撒いたのさ。まぁそういうこともありましたって感じで思ってくれれば良いよ。」

 

そう言って俺は話を打ち切る。

結構内情を話したな…こいつらが回りに話すような奴ではないことは重々承知しているがそれでも知っている人物が少ないほうがいいことには変わりない。

さて、あとはこいつらがどんな反応をするかだな…鈴がぼっそと言葉を話す。

 

「一つ聞いていい?」

「答えられることなら。」

「シャルロットの父親はシャルロットをどうするつもりだったの?」

「一応助けるつもりだった。詳しくは話せないが罪は全部自分でかぶってな。」

「……そう…」

「今はどんな感じなんだ?」

「私のほうも…おとうさんの方も連絡をとってないんだ…」

「そうか……すまないことを聞いてしまったな。」

 

そう言って鈴と箒は考え込む。

セシリアとラウラはどこか納得がいかない顔をしている。

多分デュノア社長についてだろう…

まぁ…納得できる話じゃないだろうよ。

俺だって納得してないしな。

だがこの中で一人だけ違うことを考えている奴が居た。

 

「…奏、俺も一つ聞いていいか?」

「なんだ一夏。」

「それがどうしてシャルロットとデートできないって事になるんだ?」

「いや、だからな、フランス政府にこれ以上ひいきしないように――」

「え?でも今の話しだとフランスとは互いにもう干渉出来ないからシャルロットの事は問題と関係ないんじゃないか。お前と付き合ってることがばれてもフランスには行けないから止める必要も無いし。」

「「「「「……あ。」」」」」

 

っち、と舌をならしそうになるのを我慢する。

こいつはどうしてそう気がつかなくてもいいところに気がつくんだ……

確かに一夏の言うとおり『俺は何があろうとフランスには所属しない』事になっている…

つまり今シャルロットと付き合ってもフランスにプラスになる事はゼロ。

さらに俺はフランスの犯した罪をすべて知っている…無理やりシャルロットを利用しよう使用とする馬鹿はいないだろう…下手をしたらフランスがIS学園への侵入禁止にもなりかねない事だ。

恐らく他国からいろいろ言われるとは思うが、俺を縛り付けるようなものにはならないだろう。

俺はともかくシャルロットのことを言われるのはなぁ…

そんなことを知ってか知らずか周りはヒートアップしていく。

 

「そうよ!!あんたがどう動いても国際的な場でフランスには行かないって言ったんでしょ!?だったらシャルロットと付き合ってるって言っても問題ないじゃない!!」

「そうですわ!!シャルロットさんと付き合おうと奏さんはフランスには行けないんですもの!!」

「あ~…でもさ、結構いろいろ言われそうでさ…」

 

俺が鈴とセシリアにそう反論すると箒が声を上げる。

 

「お前はそんなの気にするタマじゃないだろう!!」

「いや、僕のことじゃなくてさ、シャルロットが色々言われ―――」

「ソウ!!私、気にしないよ!!」

「…いやね、僕が気にするん――」

「私が大丈夫って言ってるんだから大丈夫!!そんなことよりしっかりと付き合おう!?」

「そ、そんなことって…」

 

そう言って詰め寄るように顔を近づけるシャルロット。

なんかお前…ドイツから帰ってきてから押し強くない?

うん?そういえばラウラがこそこそ何かしてるな…

 

「ラウラ、何してるの?」

「いや、奏兄がわがままを言うからおばあちゃんに電話しようかと…」

「おい!?マジで止めろ!!」

 

急いで携帯を取り上げる。冗談抜きでこいつが一番危ない。

一夏は完全に言うだけ言ってあとは笑いながら見に回っている。

いつの間にか千冬さんの気配もしないし…

俺がこの五人の相手をしないといけないのか?

五人を落ち着かせながら織斑家での一日は過ぎていった。

 

 

 

 

 

少しのきまじめさは恋愛においては結構だ。

しかしあまり真面目すぎては困る。それは重荷であり、快楽でなくなる。

                              ~ロマン・ロラン~



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第七十九話 今までの行いと、これから

1時間後、俺は正座をさせられ四人から説教されていた。

シャルロットもなぜか説教される側らしく俺の横に楽な姿勢で座っている。

一夏は……風呂に逃げた。あいつこういうときの勘はすごく良いからなぁ……

と考えていると箒の怒声が聞こえる。

 

「奏!!聞いているのか!?」

「聞いてますよ…で、何のはなしだったけ?」

「聞いていないじゃありませんか!!」

「いや…もう同じ話を何回くり返した事か…」

 

と言いながらうんざりしながらがっくりとする。

ソレを見て鈴が話を続ける。

 

「だからあんたがしっかりと付き合ってるって言えばいいだけの話じゃない。」

「そうするとシャルロットが色々言われるから嫌なんだってば…」

「そんなのここまで届かないだろう。」

「でもいろんなところに広がるだろ?ソレがどうしても嫌でね。」

 

と苦笑いをしながら言い返す。

ソレを聞いて四人ともムムム…といった顔だ。

極端な話し、これはある意味俺のわがままだ。

だからこそ説得は難しいのだろう。

 

「シャルロット。あんたからも何か言いなさいよ。」

「奏さんを説得できるのはもうシャルロットさんしかいませんわ。」

「ねぇ…なんで君たちそんなに必死なの?」

 

シャルロットに詰め寄る二人を見て疑問を口にする。

はじめは単なる話のネタにでもされているのかとも思ったが……

予想以上に食いついて離れない。

 

「いや…まぁ…こっちにも色々あるんだ。」

「色々ってなにさ……もしかして一夏関連?」

「いえ、一夏さんは何も関係ありませんわ。」

 

そういうセシリアの顔には嘘はない…

他の顔を見ても何も反応はなしか…ということは一夏ではないと…

 

「じゃあ……何?」

「いや…なんていうか…」

 

と言って言葉を濁す鈴。

なんか…ばつが悪いって言うか…説明したくないのか?

いや…これは…

 

「ラウラ、どういうことだ?」

「いや、これは三人と約束した事だからしゃべれない。」

「約束したって事は…初めから狙ってやったって事か。」

「は、話をそらすな奏!!」

 

そうやって箒が叫ぶ。どこか顔が赤くなってるのは気のせいじゃないだろう…なんなんだ一体…

恐らくこいつらは何か共有の目的があって俺とシャルロットをしっかりとくっつけようとしている。はじめ、一夏関係かと思ったがそうではないらしい。

さすがにOsaが関係してるとも思えないし、このやり方はあの人らしくない。

じゃあ…なんなんだ?

 

「まぁ…前向きに検討するって言うのでどう?一応今すぐにって言うのは僕には無理だ。」

「……一応これだけは聞いていい?」

「何?」

「シャルロットさんのこと本当に好きなんですよね?」

「うん、一応自分を捨ててでも優先してもいいと思える程度には。」

 

俺が何でも無い顔でそう言うと4人とも満足そうにうなずく。

本当に一体なんなんだ!?意味がわからない。

 

「ちょっと……本当になんなのさ、さっきから。シャルロットわかる?…シャルロット?」

 

シャルロットの方から反応は無い。

顔を真っ赤にしてどこかボーっとしている。

……放って置こう。

 

「まぁ…とりあえず話はこれで良い?」

「今回はこれくらいにしておこう。」

「そうですわね。」

「出来ればこれが最初で最後にしてくれない?」

「ソレは奏兄次第だな。」

「さいですか…」

 

そんな風に話していると一夏がリビングに入ってくる。

ゆっくりと風呂に入れたようでご満悦のようだ。

 

「ふ~~…あ、話は終わったのか?」

「ああ、今丁度終わったよ。」

「シャルロットは何で固まってるんだ?」

「ほっとけ、今にすぐに元に戻る。」

 

そう言って俺は肩をすくめる。

こいつのことだまた何か妄想して固まってるんだろう。

他の四人もシャルロットに触れるつもりは無いようだ。

きょとんとしている一夏とボーとして顔を赤くしているシャルロットは無視して残りの全員は眠る準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局布団は6枚しか無く俺と一夏はリビングで一人は布団もう一人はソファーに一人寝ることになった。

ジャンケンの結果俺がソファー、一夏が布団だ。

他の五人は二階の一夏と俺の部屋で寝ている。

恐らく何か物色されるだろうが怪しいものやばれて困るものは置いてない。

しばらく静かに横になっていると一夏が声をかけてくる。

 

「……奏、寝たか?」

「いや、まだおきてるが、どうした。」

「突然であれなんだけど…お前はISに乗ったとき…あまりうれしそうじゃなかったよな…」

「うん?ああ。未だにそれほどうれしくないよ。」

「それほどって…何かうれしいことでもあったのか?」

 

と一夏の声だけが聞こえる。

俺も一夏の方を見ずに目を閉じながら話す。

 

「シャルロットを救うのに使えた。それが一番良かったことだな。」

「……他は?」

「あ~……皆と会えた?これくらいかな。」

「……強くなりたいとは思わなかったのか?」

「一夏はそう思ったのか?」

「……ああ、ISのことが嫌いだったはずだったんだけどなぁ…」

 

と呟くように話す一夏。

まぁ…普通の男でISのことを好きという男は少ないだろう。

それこそIS関係の仕事についている男性でも嫌いな人間が居るだろうし。

何よりもこんな不平等な世界、女性だって公平に評価されない。

俺の考えなど関係無しに一夏は話を続ける。

 

「今はこれのおかげで千冬姉に近づけるんじゃないかって思ってる自分もいる…でもソレでいいのかなぁ…」

「良いんじゃないか?力は力、道具は道具。ようは使い方だろ?」

「じゃあ何でお前はうれしくなさそうだったんだ?」

「一夏、お前は買い物に行くときの移動手段としてジェット飛行機渡されてうれしいか?」

「……どういう意味だよ」

「どう考えてもそんなの大げさの上に手に余る。そんなの関係無しに自分の力で歩く方が僕はいい。目標に向うのもね」

 

そう言って目を開けて自身の右手を見る。

この世界に来たときは結構綺麗な手をしていたが今は銃の練習のしすぎで人差し指の皮は厚くなりところどころ切れ傷ができている。

 

「千冬さんを目指すのだって一緒だろ?多分ISの性能だったら既に一夏の白式の方が上だと思うぞ?燃費は悪いけどね」

「……それは俺の力じゃないだろうし…多分、いや絶対千冬姉と戦ったら俺のほうが負ける」

「だったら自分の目標の千冬さんに勝てるようになれば良いんじゃない?そのための手段だろ、ISは」

 

俺がそう言うと一夏は沈黙する。

流石に眠ったわけでは無いと思うが…

 

「……お前の目標はどうなんだ?今のお前の強さでも、ISを使っても届かないのか?」

「………僕の場合生き方だからなぁ…力はほとんど関係ないんだ。まぁでもISのおかげでシャルロットは救えたからちょっとは届いてるのかな。」

「なんだっけ…お前の目標の…らぶ…」

LOVE()()PEACE(平和)さ…まぁ、簡単に言うと皆喧嘩しないで笑って生きようってことさ。」

「……なんでそれに力が必要なんだ?」

「あ~…どんなところにも馬鹿なことをする奴はいるってことさ。」

「……そうか…」

 

俺がそう言って苦笑する。

確かにLOVE&PEACEだけだったら(チカラ)はいらんな。

そう言うと一夏はまた静かになる。

もう聞きたい事は無くたったのだろうか。

 

「…奏、最後に聞いていいか?」

「なんだよ。」

「言いたくなかったら言わなくて良い…」

「?わかった。」

 

そう言ってもったいぶるように…いや、これはためらってるのか?

静かに一夏は口を開く。

 

「お前は人に向けて銃を撃ったことはあるのか?」

「……」

「っ、すまん。こんなこと聞くべきじゃ―――」

「46人。」

「え?」

「実際に弾丸を体に当てたことがある人数が46人、銃やナイフ、武器だけに当てたのだとプラスで33人、威嚇で撃ったことは…流石に数えてないな…」

 

俺は静かに話す。

 

「最初に撃ったものは木の幹だったな。山奥で撃ち続けた。初めて撃った人間は…僕を狙った人攫いだったよ。はじめは当てるつもりだったけど当てられなかったのを覚えてるよ。」

「……」

「初めて当てたのは…17人目だったな。突然ナイフで脅された相手の腕と足を撃ったときだ。脅されたことよりあふれてきた血に焦って泣きそうになってたよ。それでその後応急処置をして救急車を呼んで…必死にその場から逃げたよ。」

 

今でも鮮明に思い出せる。

手足からあふれ出す血、苦痛にゆがむ顔、口から出る遠吠えのような悲鳴。人はこんな声が出せるのかとおもった。そしてそれのせいでしばらく銃の訓練もする気が無くなったほどだ。

流石にそれでは自分の身が守れないということで雪山に篭りながら必死に訓練をしていたな。

 

「武器に当てられるようになったのは…34、35、36、37人目の時だな…集団で襲われて逃げながら武器を撃ち続けた…それでも結局2人には銃弾を撃ち込まなければいけなかったけどね…」

「……全部覚えているのか?」

「いや…多分全部は覚えてないと思う…でも銃弾を当てた相手の顔は全部覚えてる。」

 

むしろ忘れることが出来なかった。

あの流れ出る血と、苦痛でゆがんだ顔。

あんなもの好きで見るものではない…あれが見なくないから必死で逃げるすべを磨いた。

無様でも何でも必死に逃げ回っていた。

 

「だからこそ…人を傷つけるなんてやっちゃいけないことなんだ。」

「……だからお前は強いんだな…」

「…できることなら強さよりも平穏の方がほしいんだけどなぁ、僕」

「あはは…お前らしいな…」

 

そう言って一夏は静かになる。

さて、今度は一夏に聞いてみるか…

 

「お前に俺も聞いていいか?」

「…なんだ。」

「お前の今目指す強さってなんなんだ?」

 

今までいろいろと一夏の話しを聞いたり、行動を見ていた。

だがこうやってしっかりと本人の口から聞いた事は無かった。

 

「……なんなんだろう…はじめは千冬姉の弟として俺が胸をはれるようになりたかった。でも…あの乱入の時とか…ラウラの暴走の時には…守るための力がほしいと思った。」

「今は違うのか?」

「いや…確かに今も強くなりたい。みんなを守れるぐらい、千冬姉が安心してみていられるぐらいに。でも…俺の意識してない時の方の俺のほうが圧倒的に強かった。」

「……ああなりたいか?」

「いや。あれじゃあ…みんなを心配させちまう。俺はもっとなんていうのかな…しっかりとした誇れるような強さがほしい。」

 

こいつがああなりたいって言ったら一発ぶん殴ってやろうと思ったが心配無用だったようだ。

どんな理由があろうとあの戦い方は勘弁してもらいたい。

何よりあんな表情のみんなの顔なんて俺も見たくないし一夏だってごめんだろう。

 

「そうか…じゃあもう寝よう。流石に話しすぎた。」

「ああ、多分皆上で寝てるだろうしな。」

「……それはどうだろうな…」

「うん?何か言ったか?」

「いや、おやすみって言っただけだ。」

「ああ、おやすみ」

 

そう言って上の気配と時々聞こえてくる声を感じながら俺と一夏の二人は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃少女たちは一夏の部屋に全員で集まって話していた。

シャルロット(ワタシ)が一緒に連れてこられたときからちょっと嫌な予感がしたが…

話は先ほどまでの奏と私についてだった。

 

「まずアイツの言質は手に入れたわ。」

「えっと…」

「ああ、確かに奏は『前向きに検討する』と言ったな。」

「皆?」

「しかし奏さんも予想以上に頑固でしたね。」

「ねぇ…」

「まぁ、あまりにもわがままを言うようならおばあちゃんに電話をしよう。」

 

そう言ってまるで私を無視するように話が進んでいく。

一体なんなんだろう。

 

「ちょっと…みんな、いい加減説明してよ!!」

「シーッ!!今話すから静かに!!」

「奏さんにばれてしまいますわ。」

「だったらちゃんと説明してよ…」

 

そう言うと四人とも顔を見合わせた後、箒が話し始める。

 

「まぁ…はっきり言ってしまえばお前と奏をしっかりと付き合わせようと思ってな、私たちも協力しようと思っただけだ。」

「……え?何で。」

「まぁ…くっつくようでくっつかない関係を目の前で見たくないって言うだけよ。」

 

という鈴。

確かに今まで私はそれほど積極的に動かなかったが…このいわれようはあんまりでは無いだろうか?

そんなことを思っているとラウラが首をかしげる。

 

「いや、鈴。お前が始めに『奏兄に世話になったからせめてしっかりと―――」

「わー!!わー!!」

「鈴!!うるさいぞ!!」

「箒さんも声が大きいですわよ。」

 

そう言って鈴と箒と窘めるセシリア。

鈴は顔を真っ赤にしながらラウラに詰め寄る。

 

「ちょっと、何でばらすのよ。」

「いや、作戦の協力を仰ぐ上でそこに虚偽の情報を伝えた場合、作戦の成功率が―」

「もういいわよ……」

「えっと…どういうこと?」

「私たち四人、いや、簪も加えれば五人か…お前と奏のために協力しようと決めていてな。」

「発案は鈴さんなんですわよ?」

「セシリアまで…」

 

そう言ってますます顔を赤くする鈴。

さっき口に出していたのは照れ隠しみたいなものか…

顔を真っ赤にしている鈴がおかしくてわらってしまいそうになる。

 

「でもどうして?」

「一番は…奏への恩返しかな。」

「ソウへの?」

「ええ、わたくしたちは皆何かしら奏さんから何か助けてもらってますわ。」

「それに二人が付き合ってるって言うなら協力してあげようってなったのよ。」

 

みんながそう言って私のほうを見る。

確かにうれしいことなのだが……

 

「えっと、うれしいんだけど…でも…」

「どうした、シャルロット。」

「…私、本当にソウの隣にいて良いのかな?」

「……はぁ?」

「えっと…私、なんていうか本当にソウにとって…なんていうのかな、隣にいても良いか自身が無いんだ…ソウの悩みを解決したのはラウラだったし、むしろソウを悩ませてる原因になってるようで…」

 

と私が口に出していると周りの四人がため息をつく。

箒があきれたような顔で私に話しかける。

 

「……シャルロット…」

「…何?箒…」

「たわけ。」

「……え?」

「意味がわからなかったか?たわけと言うのは馬鹿者という――」

「えっと…意味はわかるけど…」

「ならば話を続けようか。シャルロット、お前はお前と一緒に居るときの奏の顔を見ているか?」

「奏さんがあそこまで普通に、気楽にしゃべりかける相手なんて一夏さんかシャルロットさんくらいですわよ?」

「え…でも私の前だと悩んでばっかりで…」

「奏兄は私たちの前では悩む素振りすら見せないぞ?」

「それだけ信頼されてるんでしょ、あんたは。」

 

正直そこまで気にしていなかった。

私の前では確かに普通にしているとは言っていたが…私のことを信頼してそういう顔をしていたのだろうか…

鈴はそのまま話を続ける。

 

「それに奏が福音の時に頼ったのは千冬さんでも私たちでもなくてシャルロット、あんただったのよ?この上なく信頼されてるじゃない。」

「……そうなのかな?」

「心配ならおばあちゃんに聞いてみるといい。かなり驚いていたぞ?『あのソウがあそこまで人を頼るなんて』ってな。」

「うそ!?そんなこと一言も言ってなかったよ?」

「いや、日本に来た後に電話で話したときだからわかるわけが無い。」

 

そう言って胸をはるラウラ。

流石にそんなのわかるはずが無い。

でも何で私に直接言ってくれなかったんだろうか…

ラウラの話は続いていく。

 

「おばあちゃんから、シャルロットがソウのことで悩んだらこう言えと言っていた『私のアドバイスを試して見なさい?きっといい方向に行くわ』と。…シャルロット、アドバイスとはなんだ?私が聞いてない時に聞いたんだろう。」

 

そう言って首をかしげるラウラ。

アドバイス…あれか。

 

「えっと…『重い女になりなさい』って…」

「重い女?」

「ソウは何でもかんでも背負っちゃうような人だからソウがつぶれて動けなくなるくらいに頼り切ってあげなさいって。」

 

確かにこういわれていた。

ただ…やはり抵抗がある。

ただでさえでもソウはいろいろと背負いこんで……責任に潰されそうになっているのだ。

それにさらにのしかかるのは……

しかし他の四人は納得したようにうなずいている。

 

「シャルロット、それは試したの?」

「え?やってないけど…」

「なんでですの?」

「だって…ソウがつぶれちゃったら…」

「奏兄がシャルロットでつぶれる?ありえんな。」

「でも…ソウはラウラの時にも一人で…」

「奏兄はそれをシャルロットのせいにしてはいなかったぞ?むしろシャルロットがそれを気にしているとわかったら恐らく悩むことすらしないだろう。」

 

そう自信満々に口にするラウラ。

他の三人は首をかしげる。

 

「どういうことですの?」

「いや、私の暴走事件の時、奏兄は裏で私がそうなりえる可能性の情報を手に入れていろいろと動いていたらしいんだ。」

「はぁ?どうやって手に入れたの?」

「そこまではわからんが…それでも私を助けるためにドイツ軍相手に交渉までしたらしい。」

「奏のやつ…どこまで出鱈目なんだ?」

 

そう言ってあきれた顔をする箒。

鈴も同じくあきれた顔をしている。セシリアの方はひきつった顔をしながら話す。

 

「奏さん…それと同時にシャルロットさんのほうも同時にやってたんですわよね?」

「どうなんだ?シャルロット。」

「うん…いつも部屋で頭を悩ませてたよ…」

「なんというか…簡単に想像がつくな。」

「あ~…確かにそれを見ただと寄りかかりづらそうね…」

 

う~んと唸る4人。

本気で私とソウのために考えていてくれているんだろう。

なんというか…とても温かい気持ちになる。

しばらく考えているとふと箒が何かに気がつく。

 

「でもだからこそ頼ってあげるべきなのではないんだろうか…」

「?どうして。」

「いや…これは勘みたいなものなんだが…」

「何ですの?」

「奏は頼ってもらった方がうれしそうにしそうではないか?」

 

……確かに…

別に頼られて喜んだソウを見たことがあるわけではないのだが、容易に想像できてしまった。

他の四人もあ~~…と言った風にうなずいている。

 

「なんというか想像出来てしまいましたね。」

「仕方ないと言いながらどこかうれしそうにしてそうよね……」

「確か…マz――」

「ラウラ、それは意味が違う。単に世話焼きというんだ、こういうのは。」

 

と、わいわいと話し始める四人。

あまりにもおかしくてクスクスと笑い出してしまう。

 

「どうしたシャルロット。」

「ううん、ソウのことを世話焼きって言うんだったらみんなも世話焼きだなっておもってさ。」

「仕方ないですわ、奏さんが世話がかかるんですもの。」

「そうよね、奏がしっかりと公言してればこんなことしないですんだのに。」

「確かに男らしくしっかりと堂々としてればいいものを…」

「シャルロットさんもですわよ!!無理やりにでもいかないと!!」

「え?で、でもみんなだって一夏に対して――」

「私は何も遠慮してないぞ!!」

「ラウラはちょっと遠慮したほうが良いかもね…」

 

そういうう風に私たちは結局朝まで一緒に話し続け、次の日眠そうにしている私たちを見て首をかしげる一夏とソウだった。

 

 

 

 

 

 

もっと人生を本当に楽しめるときがいつか訪れるだろう。

その時をあなたは心待ちにしなさい。

                               ~ジョン・キーツ~




最近帰りが遅いです…感想の方もしっかり返したいんですけどねぇ…


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第八十話 新たなる風

学園に戻り十数日後俺とシャルロットはアリーナの控え室に居た。

とりあえずシャルロットの新型が完全に仕上がったらしい。

俺としてはまぁ…一応の成果が出たならいいかと言った感じである。

一方シャルロットはかなり緊張している。

理由は単純だ。今ここにシャルロットの父親のデュノア社長も来る予定になっているのだ。

一応、俺はシャルロットにデュノア社長がどのような考えでシャルロットに接していたかは伝えてある。だがそれが信用できるかどうかは別の話しだ。

自分と母親を捨てた人物でもあり、自身が囚われることになった原因でもあり、自分を救うためにすべてを捨てるつもりだった人物。

デュノア社長の話はシャルロットが避けていた事は知っていた。

これに関しては俺が口を出すべきじゃないんだろう。

俺個人としてもデュノア社長のことを仲直りさせたいと思いながらもどこか納得がいかないところもある。

当事者じゃない俺ですらこのような状態だというのに当事者のシャルロットはさらに複雑な感情だろう。

新型機が手に入る日だと言うのにシャルロットの表情は暗い。

 

「………シャルロット、つらいようなら俺が話を――」

「大丈夫…大丈夫だから…」

 

そう言いながらもシャルロットの顔は俺のことを見ていない。

今の言葉もまるで自身に言い聞かせるかのようだった。

ちょっと意識を逸らしてやるか。

 

「そういやさ聞いたか?今朝のラウラの話。」

「……え?何の話。」

「ほら、一夏をデートに誘ったときの…」

「ああ、聞いたよ。部屋に帰って来た時ラウラすごく怒ってたもん。」

 

そう言ってクスっと笑うシャルロット。

ラウラがなぜ怒ったかというと今朝の話である。

我先に一夏にいろいろと話をしたらしい、わざわざ部屋に忍び込んでだ。

俺が訓練に行った時にはいなかったことから恐らくその後に入ったんだろう。

師匠と鍛錬を続けており遊ぶ暇も無かった一夏だが、明日は鍛錬も無く一日自由となっている。

そこでラウラは今年出来たばかりのアミューズメントプール『レインボーアイランドプール』のカップルイベントに一夏を誘ったのである。

だが、この『カップルイベント』に誘われた一夏の反応は『みんなで行こう!!』だったらしい。

まぁ…一夏としてもまだ誰が特別っと言ったのが無いためこのような答えを返したのかもしれないが……それでももう少し返事の仕方があるだろうに……

結果ラウラ現在もなおむくれているのである。

 

「ラウラどんな感じだった?」

「『嫁としての自覚が足りない』って怒ってたよ?」

「あはは、アイツにそんなもの要求しても無いものねだりだろうに。」

「まぁ…一夏らしいって言えばそれまでなんだけどね。あ、午後ラウラ時間空いてるかなぁ?」

「うん?どうした。」

「えっと…ちょっとね。」

 

そう言いながらシャルロットはさっきまで比べると表情は柔らかい。

だがやはりどこか不安があるんだろう。

笑顔が作り物臭く感じてしまう。

 

「……ねぇ…ソウ…」

「どうした?」

「……」

 

あ~…この顔は多分一人ぼっちだった時を思い出してるんだな…

あの俺に昔話をしていた時の雰囲気が一番近い。

笑っているようでどこか泣きそうなこの顔…なんというかこの顔が俺はすごく嫌だ。

そのため雰囲気を入れ替えるためにおどけたように話し始める。

 

「よし、いざとなったら逃げるか。」

「え?」

「だからさ、もしお前が考えてるような事になったら盛大に逃げよう。俺も一緒に逃げるからさ。」

 

そう言って何でも無いように笑う。

こいつはまた味方が居ない状態になるのが怖いんだろう。

だったら一緒に逃げるとでも言ってシャルロットがどんな事を言っても一緒に行動すると安心させよう。さて、意味が伝わってくれればいいんだが……

 

「……もう…そんなことできないでしょ?」

「いや、いざとなれば僕は逃げる。たとえどんな時でも!!」

「そんな…決意みたいに言われても……」

「だからさ、お前がどんな選択しても僕は付き合うよ、シャルロット。」

「……うん、解ってる。」

 

そういうと少しはシャルロットも落ち着いたようだった。

そう話していると栗城のおっさんが走って来た。

 

「嬢ちゃん、お前のISがようやく着いたぞ。」

「おお、おっさん。って言うかおっさんなんでここに居るの?烈風ってデュノア社担当じゃなかったけ?」

「一応俺も少しは研究に参加してるからな。…まあ、日本での責任者みたいなもんだ。それにお前の機体は整備も出来ないからな…」

「仕事無くなったのか……」

「………ストレートに言うなよ…」

 

俺がボソっと言うとおっさんにも聞こえていたらしくおっさんは少し気にしてるように暗くなる。

なぜこのような事になったのかというと、俺の機体に必要なのが『弾』だけなのである。

整備をしようにも液体金属のどこを整備するのか?それどころかプログラムすらいじれない状況でほとんど出来る事は外から取れるデータ集めだけになってしまったのである。

そうなると…新型兵器を搭載できない、整備も必要ない、さらに言うと俺のご機嫌取りくらいしか仕事が無いのである。

まぁ…これでも一応優秀らしく『烈風』のプログラミングで協力しているらしいが…俺の方はノータッチなのだ。

ちょっと落ち込んだおっさんを見てシャルロットが口をだす。

 

「ちょっと、ソウ!?」

「いや…ごめん、おっさん。データだけでもあげれればいいんだけどさ…」

「いや…そこはお前のせいじゃないしなぁ…まぁ嬢ちゃんの機体も完成したしこれで少しはデータ取りも進むんじゃないか?とりあえず機体を取りに行くぞ。」

 

そう言って歩き出したおっさんの後を付いていくように、俺とシャルロットも機体のほうに向かう。

 

 

 

 

 

格納庫の一角、そこにシャルロットの機体はあった。

辺りを見渡してみてもデュノア社長らしき人物は見えないな……

このまえ見たときよりなんというか…鋭角な感じがするな。相変わらず上半身が寂しく下半身の方がごっついけど。

シャルロットは既に作業員とおっさんから何か説明を受けている。

その間に機体に近づいてみる。

へぇ…結構福音との戦いで傷ついてたと思ったけど綺麗なものだなぁ。

そう思い手を触れると違和感を感じる。

なんというか…この烈風に対しての違和感ではなく俺自身に対しての違和感。……ISに対して何か感じる…なんだこの感覚は?

そう思い意識を集中させる。

違和感の原因はなんだ?俺のIS…違うな…まったく待機状態のサングラスからは何も感じない…では一体この違和感は、もっと何か探って――

 

「ソウ?どうしたの。」

 

その声ではっとする。

いかん、集中しすぎた。そう思い烈風から手を離すが……俺の中にある違和感は消えない。

しかし説明のしようが無いので適当に話をそらす。

 

「いや…あんなにボロボロだったのに綺麗に治ってるもんだなぁって。」

「ふーん……あ、ソウ。そろそろ起動実験するらしいから。」

「ああ、離れてるよ。」

 

そう言って離れるとシャルロットはISの装着を始めた。

しかし、今も感じるこのなんともいえない違和感はなんだ?

ちょっとだけ意識し続けてみるか…しかし、なんともいえない違和感だな…

何かに触れられているというわけでもなく、体の中に異物が入った時のものとも違う…

感情がコントロールできていない…これも何か違うな…

なんというか……自身が懐いてない感情が勝手に浮き上がってきたような…

あ~…考えてもわからんな。

とりあえず仕方ない、無視しよう。何か問題になったらその時に考えよう。

無理やり違和感を無視しシャルロットのISを見る。

さて、完成した特殊兵器はどんなものになってるのやら……

 

「準備完了です。ではアリーナ内で試しにいろいろ動いてもらいますが…」

「おい、坊主。」

「なんだ?おっさん。」

「お前相手してやれ。」

「……なんか武器頂戴。流石にあれはテストでは使いたくないからさ。」

「ああ解った。」

 

俺はISを展開する。

やはり展開の時ですら見たことが無い相手は怪訝な顔をしている。

まぁ……ちょっとグロいもんな…

そのままおっさんに渡された小銃を持ち先にアリーナ内に飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

 

さてある程度遠くまで飛び渡された銃を握る。

一応俺のために作った試作の銃だったらしいのだが…まずISに積み込む方法がわからず断念、さらに俺に合わせて作られたサイズなので……小さすぎて他のISには使えず結局そのままお蔵入りだ。

まぁ俺のISにつめるようになればぜひとも積みたいのだが…

今の俺の銃は威力がありすぎる。

こんなもの人に向けて撃つのにはどうしても抵抗感がある。

今までも結構抵抗感があったが…あの銃は下手をしたらシールドバリアーごと相手を撃ち抜きかねない。流石にそれはごめんだ。

渡された銃を少し見る。

俺が使っている銃と比べ大型にはなっているがそれでも威力は常識的でこのサイズで一応ISにも通用する。ある意味おっさんの最高傑作らしいのだ…使えないことがどこか申し訳ない。

しばらく渡された銃をいじっているとシャルロットがアリーナ内に入ってくる。

とりあえず声でもかけるか。

 

「調子はどうだ?」

『うん、違和感は無いかな?』

「特殊兵器の方は?」

『とりあえずもう動作予測は始まってるよ。』

「そういやその動作予測の名前って何になったんだっけ?」

『えっと……まだ決まって無いんだって…』

「どうせ会社間での言い争いだろ…」

『あはは…この際ソウがつけちゃえば?』

 

そう言って笑うシャルロット。

まぁ俺が命名のが一番公平だろう。

初めからこの機能につけたい名前が無いわけではない。

というか…聞いた瞬間からある名前が頭に浮かんだ。

熾天使(ミカエル)の眼】、あの殺人集団の名前だ。

だが……これを兵器の名前にするのはなぁ…

まぁ…既にパニッシャーは作ったんだけどさ。

ふと思いだしシャルロットに話しかける。

 

「そういや…今シャルロットのそれにパニッシャー積んであるの?」

『え?ちょっと待って……3丁って言うか…3台積んである。』

「……そんなに積んでどうする気だよ…」

 

そんな話をしているとおっさんから通信が入る。

 

『嬢ちゃん、坊主動けるか?』

「こっちはOK。」

『いつでもいけます。』

『じゃあ適当にはじめてくれ。ただし坊主、本気で戦うなよ?』

「死なないように気をつけるよ。」

『じゃあ…行くよ!!』

「おう、こい!!」

 

そう言ってシャルロットは両手に武器を展開する……いや両手だけじゃない両肩にも武器が浮かんでいる。右手にはアサルトライフル、左手にはサブマシンガン、さらに両肩にはパニッシャーである……流石にヤバイ…

<―ガシャッ!!―>という音を立てパニッシャーの機関砲が顔を見せる。

 

「……ちょっと――」

『いっけぇ!!』

 

凄まじい弾丸の雨が俺を襲う。

<―ゴォォオオオオオ!!―>っとまさに嵐のような音がする。

いや、冗談や比喩ではなく弾丸の嵐が俺を襲う。

シャルロットの烈風の最後の特殊兵器、両肩の宙に浮く武装の切り替え。および正確なコントロール。

流石にすべての武器に対応しているわけではないのだろうが…

 

「それでもパニッシャーでそれやっちゃ駄目だろ!?」

 

そう叫びながら何とか銃弾をかわす。

と言っても紙一重でかわすのではなく大きく全力で逃げ回っているようなものだ。

流石に機動性ではこちらの方が上か…このままだと当たる事は無いと思うが…

それでも向こうには動作予測がある…このまま逃げ回っていれば動きを完全に読まれかねない。

仕返しとばかりに何発か撃ちこむがパニッシャーを盾にされヒットしない。

 

「ちょっと!?洒落にならないんだけど!?」

『おいおい、坊主。がんばれよ。せっかく嬢ちゃんの機体のほうに対応できるように俺が改造してやったのに。』

「やっぱりおっさんがやったのか!!」

 

通信から聞こえてくるおっさんの声。クソ、楽しそうだな…

しかしどうしようか…遠距離だとどうしても弾が遅くてその上こちらの弾道はすべて見えてるんだよなぁ…それじゃあ何発撃っても防がれるか…よし、懐に入ろう。

シャルロットの武器と体を狙い正確に銃弾を撃ち込む。

シャルロットはそれをパニッシャーで防ぐ。

それと同時に全速力で懐に入り込み銃弾を撃ち込もうとすると。

シャルロットの左手が動く。

俺にまっすぐに拳を入れるようにして武装を切り替えながら突きつけようとしているのは盾殺し(シールド・ピアース)か!!

ギリギリでかわしさらに銃を向けようとすると俺の真横にパニッシャーの銃口がある。

数発シャルロットに撃ち込みながら回避する。

銃弾が俺の目の前を通り過ぎる。

真横って…おい、パニッシャーの稼動範囲広すぎじゃないか?

ビットみたいには距離は無いがそれでもそれだけ動かれると近距離戦も挑めない。

あぶねぇ…と安心するまもなくさらに真正面からサブマシンガンともう一丁の肩装備のパニッシャーの弾丸の雨が俺を襲う。

完全とは言わないけど俺の動きを読み始めてるな…いざ相手も同じことが出来るとなるとかなり面倒だな……

 

「ちょっと!?こんなのあたったら死んじゃうって!?」

『そう言いながらも!!一発も当たってないじゃない!!』

「あたったら一瞬で穴あきチーズになるわ!!」

 

これでは完全に拠点防衛用の機体だ…

だったらこっちもちょっと本気でいこう。

今まで使っていた銃を左手に、あの出鱈目な銃を右手に展開する。

狙いはあの…パニッシャーだ。

流石にパニッシャーなら数発で壊れる事は無いだろう。

こちらに向けられている銃口を右手の銃ですべてはじき飛ばす。

その狙いがそれた瞬間に左手の銃で体を狙う。

数十発の弾丸がシャルロットに向かう。

かわしきれず被弾する。と言っても弾道が読まれるせいで紙一重で十数発しか当たってないな…

 

『っ!!だったら!!』

 

シャルロットの両肩のパニッシャーが消えシールドユニットが現れる。

さてどこまで通用するかな?俺はシールドとシールドの間を狙い撃つ…が俺が撃つタイミングで隙間をずらされる。

あらら、完全に俺の撃つタイミングは読まれてるわけか…これからは意識してずらして撃つしかないか…そう考えながらも両手の武器を切り替えながらも弾幕をはり続けるシャルロット。

さてこうなったら削るしかないかなぁ…

と思うとシャルロットがまたもや武装を切り替える。

あれは……ミサイルポッド!?…撃ち出した瞬間撃ち落してもいいけどそれじゃあテストにならないか…

両手の武器は両方サブマシンガンに切り替えてあり弾幕を張ったままにミサイルを何十発も一斉発射してくる。

弾丸をかわしながらミサイルを撃ち落す。

簪の目標にしているマルチロックオンシステムではないが一斉に俺を狙ってる来るのは面倒だな…

ミサイルもせいぜい20発程度。ならすべて撃ち落してしまえ。

距離を稼ぎながらミサイルを撃ち落す。さて…次はどうくるかな…

と思っているとシャルロットは既に方の武装を入れ替えこちらに接近しようとしている。

あれは…まるで一夏の白式の翼のような…スラスターユニットか!!

それに気がついた瞬間一気にシャルロットが加速する。

瞬間加速(イグニッション・ブースト)、それも腰のスラスターと大型の展開したスラスターで一斉にやったんだろう、かなり速い。

先ほどまでかなり距離をあけていたんだが……一気に詰められたな。

左手には盾殺し(シールド・ピアース)、右手は…パニッシャー。

うわ、絶対あれで俺のこと殴る気だ。

そう考えながらもこちらも銃を向け全力の早撃ちをする。

流石に今まで一度もやらなかった早撃ちを予測は出来ないだろう。

結果的に俺は懐に入り込まれたがパニッシャーは撃ち落とし盾殺し(シールド・ピアース)はかわしシャルロットに銃を向けている……

ただしシャルロットの方も既にスラスターユニットからパニッシャーへと切り替わっている右肩の銃口がこちらを向いている。

さてこれ以上は本気で試合になってしまうが…と思うとおっさんからの通信が入る。

 

『おし、二人ともそれまでだ。』

「……はぁ…戦うのはもうごめんだよ…」

『結局一発も当てられなかった…』

「いや…終止逃げ回ってたからね?あの状態で落とせって言われたら…正直きついよ?」

『出来ないっていわないんだ…』

 

そう言ってクスっとわらうシャルロット。

さてこの後どうするんだろうか…

 

『とりあえず嬢ちゃんは戻ってきてくれ。機体のほうのセッティングがある。』

『了解しました。』

「僕はどうすればいい?」

『お前は……後どうでもいいぞ?』

「うわぁ……投げやりすぎじゃない?」

『いや…結局お前被弾もしてないじゃねぇか…俺にどうしろって言うんだよ…』

「……ねぎらいの言葉とか?」

『おつかれさん。』

 

そう言っておっさんは通信を切る。

さてどうしたものか…と考えているとデュノア社長らしき人物が目に入る。

シャルロットは……気がついてないようだな…

俺はシャルロットが格納庫に戻るのを確認して別の出口からデュノア社長の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

負けても終わりではない。やめたら終わりだ。

                                  ~ニクソン~




ある意味紅椿とは違った形の万能対応機ぽく仕上がった『烈風』。
紅椿は『自己進化』で形が変りますがそれはパイロットや今まで戦った相手によって変ります。
武器の威力を調節する、拘束する必要があるなどのときにそれに合わせて進化してくれるかどうかはわかりませんしね。(まぁ…多分紅椿ならするんでしょうけどww)

それだったら初めからあらゆる武器を詰め込める『拡張領域』
さらにさまざまな情報を即座に取り合い最善の武装を即座に導き出せる『ネットワーク』
これが『烈風』のコプセントですね。
弱点を挙げるならまだ詰め込む武装が完全に完成していないため、万能対応機とは言いがたい事と積んでない武装で対応しなければいけない時にはかなりきつい事。
さらに一機では完全なスペックは発揮できないといったところでしょうか?
まぁそれでも指揮官機としては破格の性能に仕上がっているのではないでしょうか。
さらにシャルロットのラビットスイッチも合わされば……ひどいことになります。

あと両肩のパニッシャーはやりたかったことの一つですねwww
やる気になればクワテュオール・パニッシャーが…!!
まぁシャルロットが手に持ってパニッシャーを扱うのは無理なんでデュオ・パニッシャーでしょうか?
そこでおとなしくダブル・パニッシャーと呼ばないところに作者の天邪鬼さが出てますね。


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第八十一話 『造りだすモノ』

ISスーツのままアリーナ内を探し歩く。

多分こっちの方にいると思うんだが……

しばらく歩いているとデュノア社長がそこに居た。

近くには恐らく警備のボディガードだろうか…3人いる。

そのうち一人は女性…おそらくデュノア社のパイロットだろうか…

とりあえず声をかけよう。

 

「お久しぶりです、デュノア社長。」

「…お前たち、しばらく席をはずせ。」

「「「っは。」」」

 

そういうと三人はかなり距離が離れた場所に向かった。

しかし……IS学園内でここまでボディガードをつける必要があるのだろうか…

さて、そこは無視して話を進めよう。

 

「完成したISはどのような評価を?」

「……先ほどの戦いを見る限りではかなりの高評価はもらえると思う…」

「……シャルロットについては?」

「そちらの方はフランス政府のほうで完全に黙認されている状態だ…一応はここから完全にフランスの代表候補生としてしっかりと認めさせるつもりだ…」

「反社長派のほうの動きは?」

「ほぼ終わりだろう。買収した会社の方がほぼ虫の息だ。」

「……問題は?」

「…あの子の今後だ。今のところIS学園に居る限りは大丈夫だろう…だがあの子が卒業すればあの子を守るものは…」

 

そう言って顔をしかめるデュノア社長。

本来ここで自分が後ろにつきたいのだろうがそれでは自分が父親面をしていることになる。

それがどうしても気に食わないんだろう。

 

「…とりあえずシャルロットのその後に関しては俺が後押ししますよ。」

「な!?だがそこまで君に!!」

「理由もありますし…約束もあるので。あ、社長との約束じゃないですよ?」

「……聞いてもいいか?」

「流石に秘密ですね、こればっかりは。」

「……」

 

まぁ…父親としては納得できないだろう。

だがこれに関して俺は話すつもりは無い。

どうしても知りたいのならば…

 

「どうしても知りたいならシャルロットと話してみてください。」

「っ!?しかし…」

「ええ、アイツもあなたとどう接すればいいかわからないと思いますよ?」

「……ならば私は関わるべきでは無い…」

「……あいつが聞きたいって言ったらどうしますか?」

「………応じれるはず無いだろうに…」

「応じることが出来るなら理由説明してもいいですよ?」

「っ!!……だが…」

「まぁ…応じる気になったら俺に電話してください、じゃあ。」

 

そう言って突き放すように社長と別れる……

今話している最中にもデュノア社長が悩んでいた事は十二分にわかる。

だが同時にシャルロットも悩んでいるのだ。

このときに俺はやはりシャルロットのことを優先していた…

う~ん……やはりヴァッシュのように誰にでも笑顔というのは難しい…

いまさらになって難しさを改めて自覚しため息をつく。

そう考えながらシャルロットの元に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

さて…シャルロットの方に戻ると丁度シャルロットの方も調整が終わったらしい。

見るとシャルロットが普段つけているネックレス・トップの形が変っている。

ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの時はオレンジ色のリヴァイヴの盾に翼が生えたような感じだったが、現在のものはロザリオが4枚の翼に包まれた感じになっていた。

 

「お、待機状態も出来たんだ。」

「あ、ソウ。どこに行ってたの?」

「ちょっとね。後シャルロットのやる事は?」

 

俺がシャルロットに聞くとおっさんが反応する。

おっさんも少し考えた後俺に対して話し始めた。

その顔はかなり真面目なものだった。

 

「…風音、お前だけ残れ。」

「了解。じゃあシャルロット先に帰っといて。」

「え?待ってるよ?」

「ああ、嬢ちゃん、結構こいつの事借りるからよ、先に帰っときな。」

「……解りました。ではお先に失礼します。ソウまたね。」

「ああ、また。」

 

そう言ってシャルロットは出て行った。

さて、おっさんがここまでシャルロットを遠ざけるって事は何かあったのか?

それにおっさんは俺のことを風音と呼んだ…かなりのことだろう…

辺りを確認すると誰もいない…という事はそれほど大切な話しなのか?

 

「おっさん、何があった?」

「……お前のISについてだ。」

「うん?どうしたのさ。」

「……恐らくだがお前の機体は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が既に発動している。」

「はぁ?」

 

突然のおっさんの言葉につい声を漏らす。

いくらなんでもおかしすぎる。

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)って言ったら問答無用の超能力みたいなものじゃないか。それに思い当たることといえば…

 

「あ、エネルギー兵器の無効化。」

「それだ、さらに…お前のISのエネルギー効率がおかしすぎる。」

「いや、僕エネルギー兵器も使ってないしエネルギー攻撃した記憶は…」

「だからと言って回復なんてするか。」

「………ごめん、もう一回言ってもらっていい?」

「お前の機体は嬢ちゃんのほうのシールドエネルギーを削り、そしてどういう仕組みかはわからないが自身の機体のエネルギーを回復していた。考えられるか?理論上お前の機体は敵さえ居れば戦い続けることが可能だ。」

 

なんという…確かにとんでも超能力だ。

いわば弾さえあればどんな時も戦い続けられる…いや待てよ…俺の頭の中にあるものが浮かんでくる。エネルギーだろうとなんだろうと飲み込み、エネルギーをほぼ無限に出し続ける…

おっさんは俺の考えなど関係無しに話し続ける。

 

「よく考えればはじめから気がつくべきだった。お前の機体はある意味この上なくお前に合わせてある。これを『最高状態の相性』といわずになんと言うんだ。さらにセカンドシフトもしている……おい、聴いてるか!?」

「……おっさんちょっと聞きたいんだけどさ…」

「ああ?どうした。」

「僕の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)ってエネルギー吸収だけだと思う?」

「………お前はどう思う?」

「……ごめん、具体的にいえないんだけど…まだ何かあるかもしれない。」

 

そういうとおっさんがため息をつく。

多分おっさんも何か思い当たるところがあるんだろう…

おっさんが口を開く。

 

「お前の機体のことが嬢ちゃんの烈風から少しわかってな…」

「どうだったの?」

「お前の機体が…機体内で銃弾を精製している可能性がある。」

「……」

 

この言葉で完全に理解する。

間違いない、エネルギーを…いや、どんなものであろうと撃ち消すように飲み込むように持って行く。さらにエネルギー回復…いや恐らく生成、そして弾薬の生成。

 

【プラント】だ……

プラント―――それは『造りだす』モノ

ヴァッシュのいたトライガンの世界において、水 紫外線 酸素そして微電力を与えることによって物理法則を超えた生産活動を行なう、本来はまるで電球のようなものの中に居る生体システムなのだ…

そして…ヴァッシュの正体でもある…こいつがもしそのままプラントとしても力があるとしたら……

なんということだろうか…仮に俺の機体がそこまでの機体だとするのなら既にISコア自体がプラントの本体になっててもおかしくは無い。

今考えるとこのISコアはプラントと共通点が多い。

人から生み出され、深層には独自の意識があるとされていて、自らの意思に関係なく人に使われる。

俺に影響されこうなったというのか?しかしそうなると…

 

「お前の機体に積み込んだはずの弾丸、撃ち出した弾丸、さらに戦いが終わったときの弾丸。これらすべてがおかしいことになっている。圧倒的に弾丸の数が増えてるんだ…」

「……」

「このことは…さすがに公開できん。圧倒的な性能、戦い続けることの出来る能力、そしてお前の強さ、全部かみ合ったら最悪本当にお前のISが封印される。」

「……このことを知ってるのは?」

「気がついてるのは今のところ俺だけだ。まぁ…いつばれてもおかしくは無いがな…」

 

とりあえずまだばれていないか…

しかしこれ下手したらISよりもっと危ないものがこの世界に産まれた事になりかねんぞ…

何よりこの…プラントが俺の兵器として使える…本気でゾッとする。

仮に暴走でもしたら…この世界に第二の『ロスト・ジュライ』を引き起こしかねない……

これは本気でこのISを使いこなせるようにならないと…

 

「おっさん助かった…後、このことについては…」

「ああ、データの方も改ざんしておく…風音…お前自分の機体に違和感とか感じてないか?」

「……違和感が無さ過ぎるのが違和感かな?」

「……そうか。話はそれだけだ。」

 

そう言っておっさんと別れ部屋をでる。

自身の体に感じた違和感が無性に大きくなっているのを感じた。

そのまま自分の部屋に戻りベットに横になる。

自身の待機状態のIS、ヴァッシュのサングラスを手に持ち眺める。

俺は現在プラントをもっているも同然だ…それも武器として使うような形でだ…

それについて俺のIS(・・・・)はどう思っているんだろうか…

ISの深層意識…仮にも自身が変っていくことをどう感じたのだろうか…聞けるものなら聞いてみたいものだな…

この際俺のISに語りかけるシステムかなんかは無いんだろうか?

いやそんなのあったらもう既に発表されてるか…

そんなことを考えているとふと眠くなりそのまま眠りに着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振動を感じ目を開けると俺の携帯が震えていた。

何かと思うとシャルロットからのメールだ。

見てみると…4件くらいきてる…

内容を見ると

 

『11:34 ソウ、栗城博士との会話終わったら連絡ください。』

           ↓

『12:32 まだ終わらない?ラウラと駅前に買い物いってきます。終わったら合流しない?』

           ↓

『13:06 先ほど栗城博士と会いました…どこにいるの?』

           ↓

『13:52               σ(≧┰≦ )ベー』

 

と言った感じだ。時間を見ると…まだ2時かまぁ行くか…

そう考え適当に着替え学園を出てモノレールに乗る。

合流は向こうについてからでいいか…

俺がそんなことを考えてモノレールから降り街につく。

さて…シャルロットと連絡でもとるかと考え携帯をいじる…すると近くで悲鳴が上がる。

反射的にそちらに走ると…銀行で何か起きているようだ。大量に人が逃げまわっている。

その後。銃声が聞こえる…陰に隠れて中の様子を見る。

 

「早く金をつめろ!!」

「撃たれたくなければ早くしろ!!」

 

三人の覆面をかぶった男たちが銃で一人の女性銀行員を脅してる……完全に銀行強盗だ。

他のところを見ても…人質にされている人はいないな…中に居るのは男3人女性3人いずれも銀行員…後は犯人だけか…

しかし、俺の今の持ってるものは携帯に財布くらいか……

さすがに生身相手にISを使うのは抵抗があるなぁ、まぁいざとなれば盾にはなるだろう……一応サングラスをそのままつけ顔がばれないようにする。

そのまま犯人の三人に声をかけながら銀行の中に飛び込むる。

 

「ストォォォォォォップ!!」

 

俺の声に反応して反射的に銃弾がこちらに撃たれるがかわす。

銃弾をかわされるのを見てぎょっとし隙を見せる。

 

「伏せて!!」

 

そのまま強盗の間を走り抜け銃を突きつけられていた銀行員を抱きかかえ机の陰に隠す。

周りを見る限り他に人質になりそうな人物は居ないし、全員物影に隠れた。

そのまま犯人に声をかける。

 

「なんだテメェ!!」

「戦うと損な男さ!!ちなみにこれ借りるよ!?」

 

そう言って男が腰に入れていた銃だけを隠れたまま相手に見せる。

これで強行的にはこちらに攻めて来ないだろう。

 

「な!?テメェ!!」

「オイ!!死にたくなければ邪魔するんじゃねぇ!!」

「そんな事言ったって…おじさんたちこそ今すぐ自首しなよ。」

 

とりあえず銀行の店員さんをさらに奥におす。

こちらに向けて銃弾が飛んでくる。

女性の悲鳴が上がる。

 

「ちょっと!?本当に止めなよ。警察も近くまで来てるし今なら罪も軽くなるよ?」

「うるせぇ!!さっさと出てこい!!」

 

再び俺の声がするほうに銃弾が飛んでくる。

この程度ならなれっちゃってるなぁ…感覚が麻痺している。

銃はそれほど精度がいいわけではなさそうだな…残りの銃弾は6発。

さてどうやってこれを治めようか…影から顔をだし相手を見る……よし、覚えた。

そのまま再び犯人に声をかける。

 

「おじさんたち…今すぐ自首するのと、痛い目見てつかまるの、どっちがいい?」

「テメェ…なめてるのか!?」

「……残念…交渉決裂か…」

 

そして机から飛び出しすばやく銃を撃つ。

5発の弾丸は正確に飛んでくれた。

すべて強盗の銃と肩に当たって壊れたはずだ。

 

「がぁぁぁぁ!!」

「っつ!!こいつ銃まで!?」

「いてぇぇぇぇ!!」

「動かないで、まだ弾丸は残ってるよ?」

 

 

銃を向けながら相手を見ると正確に銃と肩を撃ち貫けたみたいだ…急所もはずしてあるが…いまさらになって手が震えてきた。

外ではあれだな、サイレンが鳴り響いてるし…よし。とりあえず犯人を引き渡して後は終わりだな。その前にけが人は居ないのか?

 

「あの、この中にけが人とか居ませんか!?」

「い、いや…大丈夫だが…」

「他の方は!?」

 

と言って辺りを見渡すが…せいぜいすり傷程度だろう。

よかった…そう考え他の人質にされていた人に犯人を引っ張ってもらいながら外に行く。

俺が外に出た瞬間一斉に俺に銃が向けられる。まぁ…何が起こってるか解らないからなぁ…

申し訳なさげに両手を手を上げて警察官の方々に声をかける。

 

「あの~…犯人確保終わりました。」

 

そして後ろからぞろぞろと人質にされた人たちが列を成して現れた。

怪訝な顔をする警察官たちに申し訳なく思いながら笑いかけるしかなかったのであった。

あ、シャルロットにメール返信してなかった。

後で『ただいま警察署』でも送っておこう。

その後俺は警察官と共に警察署に任意同行させられた。

まぁ正確に言えば任意同行ではないのだが…俺のミスで外に出たときに銃を右手に握っていたのだ。

なるほど、だから俺が外に出たとき銃を向けられたのか…そりゃ犯人と間違えられるわ。

と言ってもすぐさま銀行内の人の証言で俺の嫌疑は晴れたのだが、今度は事情聴取のために連れて行かれることになったのだ。

その後しばらくしたら千冬さんが迎えに来てくれた。その時にはすでに事情聴取していた警官さんとは仲良くなっていいたが…

その光景を見るや否や千冬さんにため息をつかれた事だけは言っておこう。こうして俺はIS学園に戻ったのだった。

………その後メールに返信が一切無くかなりいじけたシャルロットの機嫌を直すのに苦労したのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

握り拳と握手はできない。

                                 ~ガンディー~



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第八十二話 レインボーアイランド

俺が警察のお世話になった次の日の朝。

いつもと同じ訓練をせず、俺は目立たないところでISを展開していた。

これはルール違反を犯しているのだが……それでも早いうちにこのISを使いこなさなければ…

ISを展開し銃を構える。

もし仮にこのISが俺の影響でプラントになっているとしたら…

俺は自身のリボルバーの弾をこめる場所に左手をかざす。

そしてそのまま目をつぶり意識を集中させる……

30分ほどそうやってじっとしていただろうか…

手に何か起きたような感覚がしさらに意識を集中させる。

次の瞬間<―カシャッ!!―>という音がし一気に体の力が抜ける。

これはかなりの疲労感だな…そして銃のほうを見ると先ほどまでなかった銃弾が一発…やはり出来てしまったか…

取り出して確認するがどうみても普通の弾丸じゃない。

見た目は普通なのだが俺の感覚がこれは危険だと告げている……

よし、撃つのはまた後でにしよう。とりあえず…近くの海にでも行って撃とう。

まず今はこの感覚を忘れないように…ひたすらに集中をしよう。

結局俺はその日他の人物が起きてくるまでの間にその訓練をやり続けた。

傍から見ればただ立って銃に手を当てて息切れしてるだけだ……完全におかしい人だな。

結局その日作ることが出来たのは3発。

一応時間は縮めているとは思うが…戦闘中には作れそうに無いな。

完全につかれきった俺はそのまま自身の部屋に戻った。

さて今日は何をしようかと考えながら食堂に向かう。

そういや今日は、一応一夏に誘われてプールに行くんだっけか?

一夏は恐らくまた柳韻さんに与えられた練習をやっているのだろう。

箒も一緒にやりたがっていたが一夏専用のメニューらしく一緒には出来ないらしい。

さて今日の朝食はどうしようか…と考えていると後ろから声がする。

 

「ソウおはよう。」

「ああ、おはようシャルロット。」

 

後ろを向かずに声をかける。

昨日は散々だったな、あの後千冬さんに軽く指導された後部屋に戻るとラウラに呼び出され部屋に向かうと落ち込んだシャルロット。

何でも完全に俺に無視されたと思っていた上に昨日手伝ったバイトでもラウラがメイド服なのに対し自分は執事。周りからイケメン扱いでかなり落ち込んだらしい。

苦笑しながら慰めていたら俺が何をやっていたかの話になり銀行強盗の話をしたところさらに心配され……と言った感じで結構遅くまで起きていたのだ。

シャルロットの顔はどんな感じかな?と思い振り向くとかなり普通だった。

 

「?ソウどうしたの。」

「うん?いやなんでもないよ。とりあえず飯でも食べよう。」

 

そう言って適当な席で朝食を食べ始めた。

いつもどおり大盛りの料理。

おばさんたちも俺専用に大皿を買ったほうがいいのでは?と検討したらしいが結局この大盛りに落ち着いている。

さて適当に飯を食ったら一夏を迎えに行くか……

そんなことを考えているとシャルロットが話しかけてくる。

 

「ソウ、もう準備終わってる?」

「あ?ああ。プールだろう?昨日の内に準備は終わってるよ。」

「そっか……ねぇ一緒に回らない?」

「うん?いいぞ。初めからそのつもりだし。」

 

俺がそう言うとうれしそうにしながら飯を食べ続けるシャルロット。

しかし…俺のせいで彼女として名乗らせられないんだよなぁ…せめて国際的なバッシングさえなければなぁ…と何とかできないか考える…

まぁ…極端な話しシャルロットがそれを気にしないんだったら問題は無いんだろうが…俺が気にしてしまう。

なんというか…俺って結構わがままだな、と考えながら適当に話しながら飯を食べ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えた後部屋に戻ると一夏がベットの上で座りながら目を閉じている。

なんというか…かなり集中しているな…試してみるか。

俺は自身に出せる限りの敵意を一夏に向けてみる。

一夏はピクリと反応した後はっとして俺の方を見る。

 

「………奏か…」

「おい、また暴走しかかってるんじゃないか?」

「い、いや。今のは単にびっくりして言葉が出なかっただけだ。意識もしっかりしてるよ。」

「……ならいいんだけどさ…とりあえず訓練の方はどうなってるんだ?」

「なんというか……先生から今居合いを教えてもらってるんだ…」

「居合い?いや…まああの人なら出来てもおかしくないか…」

 

そういえば千冬さんも居合いを使うんだっけ?

それなら師匠が使えてもおかしくないか…まぁ使えなくてもおかしくは無いけどな…

しかし一夏はどこか納得していないようだった。

 

「どうした一夏?なんか納得してないみたいだけど。」

「いや…このままじゃ俺千冬姉と同じ戦い方になりそうでさ…」

「あ~…そういやお前の目標はお前として千冬さんを超えることだもんな…」

「ああ、でもこのままだと…」

 

まぁ一夏も必要なことだと思っているから文句も言わずに訓練をやっているんだろうが…

でも待てよ?よくよく考えてみれば…

 

「一夏、お前後で俺にも柳韻さんの居合い見せてくれよ。」

「え?どうしてだ。」

「いや、本当に千冬さんの居合いと同じなのか確かめたくってさ。」

「?どういう意味だ。」

「俺の感覚なんだけどさ、お前って戦う時はなんというか炎ってイメージなんだよ。」

「ああ。」

「でもさ、千冬さんの試合とか見たときの俺のイメージって水なんだよな。って言っても普段は波紋って感じで切るときだけ刃が出るって言うか…ウォーターカッター?って感じ。」

「ウォーターカッターっていうのはともかく水っていうのは納得できるな…」

 

一夏も半分はわかってくれたらしくうなずく。

それを確認した後俺は話を続ける。

 

「でさ、柳韻さんもそれは十二分にわかってると思うんだ。だったら何か違うことを考えてるんじゃないか?それの確認をかねて見てみたいとおもってさ。」

「……そうか…ちなみに先生の戦い方のイメージは?」

「……全力を見たことが無いからわからないけど…今のところは刃。鋭くて、でもなんというか温かい感じ?」

「……俺の暴走の時は?」

 

真面目な顔をして一夏がたずねてくる。

やっぱり今まであまり表に出してなかったが…一番あれを気にしていたのはこいつなんだよな…

あの事件の後ISの訓練、柳韻さんとの訓練、自主練……今のところ一番訓練の密度が濃いのは一夏だろう。

そして皆それを心配している。

だからこそこうやっていろいろと一夏を積極的に遊びに誘っているらしい…

まぁ各自それぞれに動いているんだがな…

 

「お前の暴走時は……同じ炎だ。ただし自分の体まで焼き焦がすような炎だけどな。」

「……どこまで行っても炎か…」

「まぁ…同じお前だしな。だから今日はプールにでも入って鎮火させて来い。」

「…はぁ…真面目に話してたんだけど?俺。」

「真面目に考えるだけ無駄だ。俺のイメージなんてお前の役にはたたないよ。」

 

そう言って笑いながら背中を叩く。

一夏のいいたい事はわかる…それに俺は嘘もついた。

確かにあの時俺は一夏を自身をも焦がす炎のように見えた。

…それと同時にアイツがまるで機械のようだと感じてしまった。

だがこれは言う必要は無いだろう…あまりにも俺のイメージでこいつを不安にさせても仕方ない。

そう考えて笑いながら集合場所に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

プールに向かうバスに揺られながら俺は眠っていた。

今朝の訓練、あれは予想以上に体力と精神力を使ったのだ。

さらに言うと一歩間違えば最悪の事態になりかねないという緊張感もあってかなり気を使った。それでもさらに細心の注意を払わなければ…

と考えながらやっていたのだ。かなり疲れていた。

そんな状態で長時間バスに揺られつい眠ってしまったのだ。

しばらく眠っていると肩を叩かれる。

 

「ソウ着いたよ、起きて。」

「……ああ?……おはよう……他のみんなは?」

「先に行っちゃたよ?早く降りないと。」

 

そう言ってシャルロットに手を引っ張られる。

さて…現在俺を見ている目線は2つ…誰か解らないが学園からずっとこの調子だ。

……まぁ…だからどうしたって話しなんだが。

とりあえず一夏たちと集合する。

だが……雰囲気はなぜかかなり緊迫している。

何があったんだ?

 

「おお、どうしたの皆。一夏、何があった。」

「いや…あれを見た瞬間突然皆喧嘩ごしになって…」

「アレ?」

 

そう言って指差された方向を向くと一枚のポスターがあった。

なになに…『カップルでの入場者は料金割引と浴衣の無料レンタル券をプレゼント』……

これが原因か。

いやまぁ…こいつらは金のことが問題じゃなくて『一夏とカップルで入ること』の方が重要なんだろう。目線で火花が散りそうな雰囲気である。

 

「……嫁をプールに誘ったのは私だ…」

「あら?一番最初に一夏さんから誘われたのは、わ・た・く・し・でしてよ?」

「それはあんたが一番目立つところに居たからでしょうが…」

「……埒が明かないな…じゃんけんの一発勝負でどうだ?」

 

そういうと全員凄まじい気迫で構える……アホらしい。

 

「シャルロット、簪先に行こうぜ。」

「え?皆さんは…」

「一夏に任せた。簪ちゃんの分は俺が払うからさ。」

「え?だ、大丈夫ですよ!!自分の分くらい自分で払います!!」

「ちょ、ちょっと奏!?」

 

と助けてほしそうな目線で俺を見る一夏。

俺は笑顔で声を返す。

 

「一夏、がんばれ。」

「お、オイ!!」

「行きますわよ!!」

「来い!!」

「最初は…」

「グー……」

「「「「ジャンケンポン!!」」」」

 

その声を無視しながら俺は二人をプールに向かった。

後ろからまた「あいこで…」と掛け声が上がっている。

まぁ…どうでもいいか。

 

「いらっしゃいませ。三名様で?」

「えっと…カップルイベントってどうなってます?」

「はい、お客様の内どちらの方が付き合っておられるので?」

「………女性二人の方が―――」

「奏さん…」

 

簪から注意がかかる。

まさか簪から注意されることになるとは…

俺はごめんごめんと笑いながら振り向きながら謝る。

シャルロットはやれやれといった感じで笑っており簪は顔を赤くしながら怒っていた。

 

「もう、駄目ですよ?そんなことしちゃ!!」

「つい…」

「ついじゃないですよ!!」

 

と簪から叱られる。

店員さんもクスクスと笑っている。

外からセシリアの歓声が聞こえる。セシリアが勝ったのか…

いつまでもここでたむろしても仕方ないか。

 

「えっと、俺とこっちの方がカップルです。」

「ではこちらの無料券のほうをどうぞ。」

「どうも、じゃあ料金払って先に行くか。」

 

と言い料金を払って一夏たちを待つ。

建物内に入ってきた一夏たち、セシリアは笑顔で一夏の腕に抱きつきながら一夏をひっぱている。他の三人はうらやましそうにそれを眺めている。

 

「いらっしゃいませ。5名様で?」

「はい、あの…カップルイベントの方は…」

「はい、お客様の内どちらの方が付き合っておられるので?」

 

そうセシリアが言うと店員さんが返事をする。

セシリアが顔をぱぁっと明るくした後に声を返す。

 

「わたくしと――」

「いや、誰も付き合ってませんよ?」

「「「「「………」」」」」

 

唖然とする店員と四人。

特にセシリアなんて完全に固まっている。

お前…何のために四人がああまでしてジャンケンしたと思ってるんだ?

シャルロットと簪も固まってるし…俺も頭が痛くなる。

 

「あ、あの…一夏さん?」

「嘘を言っちゃ駄目だろ?こういうのって。」

「い、いえ…確かにそうですが……」

「そ、それもそうね…正直に普通の料金で払いましょう。」

 

鈴があわてて流れを引き戻す。

確かにこのまま話しても一夏がセシリアの死体蹴りをするだけだ…

その後一夏はセシリアから烈火のごとく怒られたのは言うまでも無いだろう。

一夏はそれでも『嘘をつくのは駄目だろう?そういうことをするとこういうイベントは成り立たないんだしさ。』と笑顔で言い返す。

確かに間違ってない、こういうのはお客さんの善意で成り立ってるようなものだからな。

お前の言ってる事は間違ってない……だが…セシリアの気持ちをもう少し考えてあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺たちはプールについた。

まぁ結局一夏はセシリアに対してしばらく二人だけで一緒に遊ぶことになったらしいが……

確かに当初のカップルの真似事よりはいい目を見ているんだが救われない気がするのはなぜだろうか……

しかしそんなことも関係無しにプール内はかなりにぎわっている。

流石に新しいだけはあってかなり綺麗だ。

それに……アレはジェットコースターか?なんというか…プールというより遊園地だな…ウォータースライダーなんてかなり長いな。

俺が一夏と一緒に辺りを見回しているとこちらにやってきたシャルロットに手を引かれる。

 

「ソウ!!早く遊ぼうよ!!」

「ちょ!?待て、あわてなくてもプールは逃げん!!」

「ソウが逃げるでしょ。」

「逃げないよ!?」

 

そういうがシャルロットは俺を引っ張り続ける。

一夏は俺に手を振ってやがる。

なんか海の時と立場が逆転したな。

まぁこういう時ぐらい二人で遊ぶか。

そう考えてシャルロットと二人で遊ぶ。

一緒に騒ぎながら泳いだり、二人でウォータースライダーに乗ったりした後に最終的に流れるプールで流されていた。

シャルロットは浮き輪に乗りながら流され俺は仰向けになって浮かんでいるだけだ。

 

「あ~……動かなくても流されるって楽で良いわ…」

「ソウ、そんなに疲れて…昨日やっぱり無茶したんじゃないの?」

「いや、今朝の訓練…やりすぎた。」

「?普段からやってるんじゃないの。」

「普段の訓練を1だとしたら5はやった…なんていうか…調子が良すぎてそのままずるずると…」

「……プールのこと忘れてたでしょ。」

「……面目ない。」

 

実際は覚えたいたのだが訓練の時には完全に頭から抜けていた。

そういう意味ではシャルロットの言ってることは間違ってない。

シャルロットに怒られていると視線を感じる……

こちらに誰か気が付いたな…俺はシャルロットを引っ張り人ごみにまぎれ影に隠れる…

シャルロットは何をしているかわからない顔をしているな。

 

「どうしたの?ソウ。」

「ちょっと待ってな…いた。」

「誰が?」

「一組のメンバー。」

「……え!?」

 

そう言ってシャルロットは俺の指差した方向を見る。

そこにはバナナボートらしきものに乗っているのは…のほほんさん、鷹月、谷本、夜竹か……他にも居ると見て間違いないな…のほほんさんにいたっては双眼鏡まで用意してやがる…

恐らく情報源は…思い当たるところが多すぎて判明しそうにねぇ…

下手な話し楯無が簪に変な虫が~みたいな感じでのほほんさんを派遣した可能性だってある…

とりあえずシャルロットに話しかけるか…

 

「どうする?一応隠れながら遊ぶ方法もあるけど…」

「……ソウはどうしたい?」

「この際もう浴衣着て縁日コーナーに行かない?そっちの方がまだ一組メンバー少なそうだし。それに…」

「それに?」

「泳ぐのはもう結構体験してるからさ、縁日の方が疲れなさそう。」

 

俺はもう既に福音のときにかなりの時間泳いでいるのだ。

これ以上わざわざ泳ぐのは正直ごめんだ、と言った風に大げさに対応する。

それを見てシャルロットも笑う。

 

「あはは、それもそうだね。」

「じゃ、着替えた後に集合な。いざとなったら俺の携帯に。」

「うん、わかった。」

 

そう言ってシャルロットと別れプールを去る。

さて…見る限りこっちの動きはばれてないと思うけど…

と再びのほほんさんの方を見る……あ、簪がつかまってる。

………がんばれ簪、君ならやれる!!

意味もなくそんなことを考えながら俺はプールを後にした。

 

 

 

 

先に浴衣を借りて縁日広場の方に行ってみると結構人が集まっている。

ある程度見回してみても…IS学園の生徒はいないな…多分。

まぁいざとなったら一夏の周りがアツくて逃げたとでも言えばいいか。

しばらく入り口辺りで待っているとシャルロットがやってきた。

俺を見つけられていないのか俺を探しているようだ。

白い生地に青色の花模様が描かれた浴衣。

山吹色の帯がシャルロットの髪の色の違和感をなくしておりかなり似合っている。

ほぅ…とため息が出そうになるのをこらえながら話しかける。

 

「お~い、こっちこっち。」

「あ、おまたせ。どう?」

 

そう言って浴衣を見せびらかすようにくるっと目の前で回ってみせるシャルロット。

すごい楽しそうだな…笑いながら声をかける。

 

「おお!!すごい似合ってるよ!!」

「本当!?」

「ああ、本当さ。」

「良かった…えへへ。」

 

そう言ってうれしそうにはにかみながらうれしそうに笑う。

こっちもなんというかくすぐったいな。

さて、そろそろ動くか。シャルロットの手を握り歩き始める。

 

「じゃあ行くか。」

「う、うん。」

 

そう言って二人で縁日に向かって歩いていったのである。

 

 

 

 

恋は炎であると同時に光でなければならない。

                                  ~ソロー~

 

 

 




学生時代に本当に一夏見たいなことをした人を見たことがあります。
カップルイベントではなかったんですが……それでも店員さんが唖然としていたのは記憶しています。


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第八十三話 Just for you.

「ソウ、これは?」

「ああ、わたあめって言って、あれだな。こういう風なお菓子なんだ。食べてみればわかる」

「へぇ…なんか雲みたいだね」

 

そう言ってわたあめを口に運ぶ。

わたあめなんて本当に久しぶりだな…

しかし周りを見渡すと必ず視界にカップルと思わしき人が入るな…

多分俺たちのほかから見ればそのままカップルなんだろうけど。

そんなことを考えているとシャルロットがこちらにわたあめを突き出してくる。

 

「あ~ん。」

「お、サンキュ。」

 

そう言ってわたあめにかぶりつく。

うん、うまい。久しぶりに食べるからさらに格別だな。

……いや、この世界でははじめて食べるな。まぁ、どちらにしても感想は変らないか。

口を動かしながら歩くとたこ焼きの屋台が目に入る。

 

「あ~おいしいわ。あ、たこ焼きだ。食べない?」

「たこ?……え?ソウの宗教じゃ…」

 

あ?…あ、そういやデビルフィッシュって宗教上食べたら駄目だったけ?

…これに最初に気が付いたのが俺じゃなくてシャルロットって言うのもあれだな。

 

「いや、僕は別にあんまり信じてないし。婆さんとこの神様。」

「え!?じゃあ何で神父になりたいって!?」

「いや、牧師でもいいんだけどな。」

「そうじゃなくって…えっと…信じてないけどその宗教関係の仕事につきたいの?」

 

とシャルロットは心底不思議そうな顔をする。

まぁ…普通に考えて神を信じてない神父、または牧師なんて洒落にならないだろう。

こんなネタでは誰も笑わせることなんて出来ないけれど……実際そういう考えなのだ、仕方がない。

 

「いやぁ…僕も単にその宗教の言葉はいい事言ってるなぁ、って思うよ?ただそのために神様を信じなさいって言われても……だったら隣人を愛して信じた方が少なくとも利益がありそうじゃない?」

「えっと…それでいいの?」

「良いんじゃない?まぁ…実際のところ婆さんの仕事を手伝えればそれでいいんだ。内容は正直それほど重要じゃないのさ。」

「ソウは…神様を信じないの?」

 

そうシャルロットが口にする。

神様か…まぁ…見たこと無いしなぁ…

あの吟遊詩人も神様って言うより悪魔みたいなもんだし…

いや?本来そんなに変らないものか?

悪魔だったとしても悪魔が居るんなら神様が居てもおかしくないし…

 

「う~ん…今のところ近くに感じる、とか、神様から啓示が!!、とかは一切無いなぁ…まぁ、そういうことがあったらとりあえずお礼と文句を言っておくよ。」

「お礼と文句?」

「文句としては…おおまかに言えば記憶喪失についてと…ISを動かせたせいでいろいろと面倒ごとになった事についてだな。お礼は記憶喪失のおかげでお前にあえたし、ISを動かせたおかげでいろいろと人助けに役立ったことかな。」

「……結構矛盾してない?」

「自覚はあるんだけど…まぁ仕方ないってことでどうかひとつ。」

「私としては感謝してるんだけどね、神様。」

 

と笑いながら話すシャルロット。

疑問に思いたずねてみる。

 

「え?何で?」

「だって、例えば、ソウが記憶喪失になって昔にあえなかったら…ソウがISを動かすことが出来なかったら…どっちがかけてても今頃、私刑務所で一人ぼっちだったんだよ?」

 

確かにそういわれればそうだな。

こいつからしてみればすごい奇跡みたいなものだな。

あ~、と納得したようにうなずく。

 

「なるほどねぇ…」

「でも…神様よりもソウのほうに感謝してる。」

 

そう言って恥ずかしそうに笑うシャルロット。

そんな風な対応されるとこっちもくすぐったい。

 

「あ~…どういたしまして?」

「何でそんな疑問系なの?」

「いや…なんとなく?」

 

そう言って話しをはぐらかす。

まぁ…実際はあれは自分自身のためにやった事だ。

シャルロットが刑務所送り…下手したら死刑なんて冗談にもならない。

実際そうなったらシャルロットを連れて色々と逃げ回ってただろうなぁ…

…そういえば…俺どうしてここまでしてシャルロットを助けようとしたんだっけ?

実際普通に、そのまま行けば一夏が救ってくれたんだったよな…落ち着いて考えればおそらくわざわざ懐まで侵入させたタヌキ理事長も悪い扱いはしなかっただろう。

恐らく楯無の動きに対しても何らかの対応を考えてたはずだ。

だからこそ俺が対応したって話をしたと気に驚いた顔をしたんだろう。

そう考えれば俺が動かなくても一応助かったんだよな…まぁ今みたいには行かないだろうけど…

俺としてはただ、『俺が助けないと…』としか考えたなかったよな…

正直少し考えて他の人に頼ればもう少し簡単に…

もしかして俺、初めからほれてた?一目惚れか?……否定できないな…

って事は楯無に冗談でいった『愛する人のため』って言うのが…

いや、これ以上考えるのは止めておこう。

多分今も俺は顔に出てる可能性がある。

俺が結論が出る最後まで考えるとなぜか知らないがシャルロットに見抜かれているような気がする…いや、確実に見抜かれている。

現にシャルロットは俺の顔を見て不思議そうな顔をしている。

 

「?ソウどうしたの。」

「いや…お前が神様を信じてるならその分俺が信じなくてもいいかなぁって。」

「あはは、それじゃ駄目だと思うよ?」

「だめかなぁ…とりあえずたこ焼きは食べよう。」

「食べちゃうんだ…じゃあ私にも一つ頂戴?」

「お?挑戦してみるか?」

「うん…おいしいの?」

「ああ、それは保障する。」

 

会話をしながら俺はシャルロットと一緒にたこ焼きの屋台に並ぶ。

しかし…一夏のことをからかっていられないな、俺も。

そう考えながら苦笑するのであった。

 

 

 

 

 

 

「うん、おいしい!!」

「だろ?名前で食わず嫌いするなんて損だよなぁ…」

 

そう言っている俺の言葉を聞いていないのかおいしそうにたこ焼きを頬張るシャルロット。

そんなに気にいったのか…

まぁ確かにおいしいよな、たこ焼き。

そんな風に二人で食べ歩いていると後ろから声がかかる。

 

「ソーとデュッチー、みぃーつけた!!」

 

……しまった。見つかってしまった。

俺が後ろを向くと狐のお面を顔の横につけたのほほんさんと、申し訳なさそうにしている簪。

そして谷本と夜竹か…のほほんさんと二人はすごいニヤニヤしてるな…

皆浴衣を着ているな。流石にここでキグルミは着なかったか。

 

「やぁ、のほほんさん、それに谷本さんに夜竹さん。」

「やっほー、ソー、デュッチーとデート?」

「そう見えますか?」

「見えますよ?」

 

俺がからかうようにして話しかけるとのほほんさんも笑いながら話しかける。

ああ、完全に確信もってるんだろうなぁ…さて、どこまで逃げられるか…

 

「のほほんさんたちは3人で来たの?」

「ううん、他にも一組メンバーも来てるし他のクラスの子も来てたよ~?」

「そか…簪ちゃんも一緒って事は一夏たちとも会った?」

「オリムーたちもこっちに来てたはずだよ。」

 

なるほど一夏たちがこっちに移動したからこっちに来たと…

まぁ多分俺のことを発見できなかったから確認するのも含めこっちに来たんだろう。

俺がのほほんさんと話していると谷本と夜竹の二人が我慢できず俺に尋ねてくる。

 

「ねぇ…カザネ君…」

「うん?何。」

「えっと…聞きたいことあるんだけど聞いてもいい?」

「いえ……答えてもらいます!!デュノアさんとはどういう関係なの!!」

「そう、前から気になってたのよ!!どう考えても仲がよすぎじゃない!!」

 

そう二人で詰め寄るように声をかけてくる。

しまった…のほほんさん一人で聞いてくると思ってたんだが……

しかしここで

『特別な関係じゃないよ?ただの友達』

とは言いたくない…いや、いえない。

しかし…言ったら最後、シャルロットも巻き込まれるんだよなぁ…

まぁ俺が盾になるからあまりひどくは言われないと思うんだが、それでも言われるだろうなぁ…

まず話をそらしてみるか…

 

「さて、どうでしょうか?」

「あ~ソー逃げる気だ。」

「え?どこに?」

 

ととぼけて見せるが三人はそらされること無く俺をじーっと見つめている。

参ったなぁ…簪は申し訳なさそうにしてるし…シャルロットもどこか我慢して笑ってるな…

アイツにあんな顔させるのは嫌なんだけどなぁ…

………

あ~~~~~~……なんかもう、面倒になってきたな。

何が悲しくてこんな風に誰も救われない事しなきゃいけないんだ。

もう他の国なんて知ったことか。

いや、最低限気は使うよ?

でも誰と付き合おうが、好きだろうが、愛してようが文句を言われる筋合いは無い。

はぁ…とため息をついたあとに笑って話し始める。

 

「まぁ…ばれちゃったら仕方ないか…」

「………え?ソウ?」

「「「やっぱり!?」」」

「ああ、僕とシャルロットは付き合ってるよ。ちなみに今絶賛デート中。」

 

俺がそう言うと三人は『きゃぁぁぁぁ!!』と騒ぎ出しシャルロットと簪は目を丸くして驚いている。

俺はシャルロットの肩を抱き四人に話しかける。

 

「ということでデートの続きをさせてもらっても良いかな?」

「いいよー、いってらっしゃい!!」

 

そう言って簪を引っ張って去っていくのほほんさんと二人。

まぁ多分他の一組メンバーに伝えるんだろう。

四人が居なくなった後に肩を離すとシャルロットがはっとしたように話しかけてくる。

 

「そ、ソウ!?」

「あ~…なんか雰囲気とか浪漫のかけらもないカミングアウトになっちゃったな。すまん。」

「えっと…それじゃなくって…良かったの!?あんなに嫌がってたのに…」

「いや、お前にあんな顔させるくらいだったら別に良いよ。俺が何とかするからさ。」

 

そう言いながらシャルロットの方を向く。

今回はしっかりと言ったことよりも、俺がすんなり折れたことに驚いてるようだった。

 

「え?でも…」

「まぁ…ばれたくないこと自体俺のわがままみたいなものだからな。最後まで責任は俺が持つさ。」

 

そう言うとシャルロットがムッとする。

あれ?なんか怒らせるような事言ったか?

 

「………だめ。それは私がいや。」

「い、いや。でも――」

「絶対に認めないからね、私はソウと一緒にいたいだけで、ソウの重荷になりたいわけじゃないの!!」

 

重荷って…別にそんなこと考えて無いんだけどなぁ…

シャルロットの事情も、国家間から責められるのも、今後篠ノ之博士から狙われるのも全部俺が望んで動いた結果だ。

シャルロットが気にする必要は無いんだが…

 

「ソウがなんと言おうと絶対に嫌だからね!!」

「……」

 

これは折れる気は無いだろうなぁ…

なんというかすごく必死だ…

俺が気が付かなかっただけで今までも結構シャルロットは俺について気を使い続けてたのではないのだろうか…婆さんも何か『俺の行動で傷ついてる人もいる』って言ってたしなぁ…

はぁ…とため息をつき話を続ける。

ここは俺が折れるしかなさそうだ。

 

「……了解しましたよ…」

「…絶対だからね?」

「わかったよ。俺も一人で背負いませんよ。」

 

そう言うとシャルロットは納得したような顔をしている。

まったく、こいつは…と考えながら苦笑いをしそのまま縁日会場を歩き続けた。

しばらく歩くと射的の屋台を見つける。

射的かぁ…見た感じぼったくりの店ではないな。

シャルロットも興味があるらしくそっちの方を見ていた。

 

「ソウあれ何?」

「射的って言って的当てゲームだ。置いてあるものにあのコルク銃で当てて後ろに落とせればそれをもらえるっていうゲーム」

「へぇ~…ねぇソウ、あれ落とせる?」

「あれって…どれ?」

 

そう言ってシャルロットが指差しているのは……かなりの大きさのクマのぬいぐるみだ。

足から耳までで1mぐらいの大きさあるんじゃないか?あれ。

他の子供たちが狙って撃っているが…ゆれるだけで落ちないな、あれじゃ。

 

「う~ん…屋台の人次第かな?」

「やってみない?」

「ちょっと聞いてみるか。おじさんちょっと聞いていい?」

 

そう言って屋台のおじさんに声をかける。

 

「おう、お兄さん方も挑戦するか?」

「そうなんだけど…一回に使えるコルク銃って何丁まで?」

「何丁って…普通一丁で十分だろ?」

「4丁くらい使わせてくれない?」

 

俺がそう言うとおじさんはにやっと笑う。

 

「お兄さん…あのでかい人形に挑戦するつもりかい。」

「一応そうなりますねぇ。で使わせてくれますか?」

「う~ん…お姉さんが一丁でお兄さんが三丁って感じだったらいいよ。」

「ありがとう、ってことでシャルロット手伝って。」

 

二人分の料金を払いながらコルク銃を四丁貰う。

一丁シャルロットに渡し三丁を弾をこめて台の上に置く。

 

「シャルロット、とりあえずあのクマの頭に当てて。あとはこっちで何とかするから」

「うん、わかった」

「お兄さんにお姉さん、あのクマは今まで結構な人数が挑戦してるけど未だにここにいるんだぜ?中には5人くらいで挑戦した奴も居たけど未だにここに居る。」

 

そう言っておじさんが笑いながら話しかけてくる。

俺も笑いながら話しかける。

 

「って事は結構撃たれちゃってるのか…かわいそうに。」

「あはは、そっちかい。『じゃあ俺が落としてやる!!』とかじゃないのか?」

「いやぁ…とりあえず見てればわかりますよ。」

「ソウ、準備は良いよ。」

 

そう言って構えをしているシャルロット。

一方俺は一丁だけ構えて自然体だ。

今の話を聞いていた周りの人も注目している。

さて、これで落とせなかったら恥ずかしいぞ。

そう考えているとシャルロットの人差し指に力が入る。

<-ポンッ!!―>という音と共にコルクが撃ち出され綺麗に頭に当たる。

しかしぬいぐるみは少し後ろにそれただけで位置は動いてない。

俺は続いて一気に2発、少し間を置いて一発を撃ち出す。

二発は同時に頭に当たり後ろに倒れそうになりさらにもう一発は体に当たり胴体を少しだけ後ろに押す。他の人から見れば一瞬で三発当たったように見えたのではないだろうか。

クマのぬいぐるみは完全にバランスを崩し後ろに倒れこみ下に落ちる。

それを見て周りから『おぉぉ…』と言った驚いた様な声が上がった。

屋台の店長さんも一緒になって驚いている。

シャルロットだけ喜んで顔を笑顔にしている。

 

「ソウ!!やった!!」

「ああ。じゃあ貰ってくよ、おじさん。」

「いやぁ…驚いた。本当は6人ぐらいで同時に当てなきゃ落ちないはずだったんだけどな…」

「あはは、運が良かったみたいだね。」

 

そう言っておじさんが渡してきた大きなクマをシャルロットが受け取る。

ぎゅっと抱きしめてえへへ…と笑っている。

さて、残りの弾は俺が二発、シャルロットが4発か…

まぁあまりとりつくしても仕方ない、適当に遊ぼう。

と考え俺は他に商品をとらなかったがシャルロットはもう一つ黒猫のぬいぐるみをとっていた。俺が黒猫を貰いクマのほうはシャルロットのものだ。

しかし…すごい荷物になるな…このクマ。

今はシャルロットが前の方で抱きしめながら持っている。

なんかすごいうれしそうだな。

 

「シャルロットってこういうぬいぐるみ好きなのか?」

「嫌いな女の子は少ないと思うよ?私昔から結構ぬいぐるみ持ってたからさ。」

「集めてたの?」

「う~ん…かわいいのあったら買っちゃう感じかな。」

 

へぇ~と言いながら考える。

恐らくデュノア社長が持っていた小さなぬいぐるみはシャルロットのものなんだろう。

家を出る時に持って行ったのか…それともシャルロット自身から渡されたのか…

まぁそこら辺は家庭の事情だ、今はあまり首を突っ込まない方がいい。

またしばらく歩いていると正面から一夏たちが歩いてきた。

ようやく合流か…みんなも何かいろいろと買っているようだな。

 

「おう、ひさしぶ――」

「奏さん!!どういうことなんですの!?」

「え?何――」

「何がじゃない!!もうクラスのみんなにお前らが付き合ってることが広がってるんだぞ!!」

 

そう言ってセシリアと箒が焦るようにしている。

いや、お前らこのまえ俺に公言するように言ってなかったけ?

 

「まぁ…僕がそう言ったからね。」

「「「「「………はぁ?」」」」」

「いや、さっきのほほんさんたちにストレートに聞かれてね。なんていうか…めんどくさくなったから言っちゃった。」

「……いや、奏。アンタばれたくないって言ってたんじゃ…」

「そのためにシャルロットが笑えなくなるのはねぇ…本末転倒じゃない?」

「奏兄らしいな。」

「ああ、確かに。」

 

と言って二人で納得しているラウラと一夏。

残りの三人はどこかほっとした顔をしている。

こいつらは一体何を考えているんだ?

公言しろといったり焦ってみたり……気にしても仕方ないか。

その後みんなで縁日会場を回り歩いたのだが…

予想以上に視線を感じる……IS学園の生徒、ここまで来てたのか…

こりゃ学校に戻ったらかなり騒ぎになりそうだなぁ…

とくだらない事で悩むのだった。

 

 

 

 

 

 

ある程度日が落ちたところで一夏発案で手持ち花火をやる事になった。

このプール施設内で出来るとは…

なんていうかここにくるだけで夏のイベントはほぼすべて終わらせれそうだな。

 

「おい奏、お前は何にする?」

「え?ああ、僕は見てるほうが好きだから気にするな。」

「奏兄!!見ろ!!すごいぞ!!」

「ラウラさん、もう少し落ち着きなさいな。」

 

そう言いながらもセシリアもすごい目を輝かしているな。

恐らく外国でもこういう花火はあるだろうがここまで種類が豊富なのは日本くらいだろうな。

鈴と一夏は落ち着いているが…簪と箒もどこかそわそわしている。

恐らく簪はお嬢様であまりこういうのはやらない、箒は…今までの人生を考えれば察する事は出来るな。

シャルロットは…クマのぬいぐるみを持っていて満足に出来なさそうだな。

 

「シャルロット、クマパス。」

「え?…いいの?」

「言ったろ?僕は見てるほうが好きなんだ。そこのススキ花火とか面白いぞ。」

「え?どれ。」

 

そう言ってクマを預かり肩に背負う。

シャルロットの方も興味心身で花火に手をかけている。

しかし…皆本当に楽しそうに笑うな。

これを見てるだけで俺としては十二分に満足だな。

 

「奏兄、これはなんだ?」

「ああ、線香花火って言ってしめにやる花火だよ。他のを楽しみな。」

「一夏さん、それは?」

「ああ、ネズミ花火って言ってな…」

「おい、一夏。あんまり危ない事はするなよ?」

「わかってるよ。」

「ソウ!!見てみて!!」

「おお、きれいだな…」

 

俺は騒がしくも美しい花火を見ながら夏の終わりを感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

Just for you.

                       ~ただ、あなたのためだけに。~

 




さて…今日(3/25)を持ちましてしばらく一身上の都合により最長で半年ほど投下が出来そうにありません。
まぁ時々顔を出す程度は出来ると思いますが、小説を書けるようになるまでどれくらいかかるか現在不明です。
ということでしばし休止させていただきます。


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第八十四話 一夏の剣

ゴールデンウィーク中、少し時間があったので気分転換に1話のみ書いてみました。
久しぶりですが、お読みください。


レインボーアイランドから戻った次の早朝。

またもやISを展開しての訓練を行なっていた。

アリーナを借りれればもっといろいろと出切るんだろうが…今はあの弾丸の生成訓練ぐらいだ。

試しに撃つ機会は今のところないがとりあえずあと少して50発は出来る。

俺の考えどおりの弾だったらここら辺で作る練習は終わりだな。

はじめは俺の体に何か悪影響があるかと思ったが…特に問題はなかった。

髪の色が変わる事はないし、体調が著しく悪くもなったりしない。

むしろ最近は調子が良いくらいだ。

まぁ…この訓練のせいで腹も減るためよく食べるようになったし、早く寝るようになったからなぁ…夏休みだって言うのにひどく健康的な生活をおくっているな。

そう考えている間にもまた<―カシャッ―>という音と共に弾がリボルバー内に生成される。

最近はそれほど脱力感があるわけでもないし順調に成長しているんだろう。

感覚としては大きな力の塊から少しだけ力を削りとるイメージだろうか。

身体能力のほうは…自分ではよくわからないが記録の伸びはいい。

全体的に回数、スピード共にかなりいい感じになって来ている。

このまま訓練だけしていられればいいんだが、恐らくそろそろ実戦の機会が来るはずだ。

心してかからなければ。

そろそろ人が起き出す時間のためISを解除しクールダウンのためのランニングを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

訓練を終え食堂で朝食を食べていたのだが……

俺はこの学校の連絡網をなめていた事を自覚した。

噂が広がるのも夏休み中だ、ひどいことにはならないだろう…と考えていたのだがもう既に学校中に広がってしまったらしく部屋から出て歩くだけでもひそひそと噂がされている。

まぁ…付き合ってる事に関してだけだったらいいんだが…やはり陰口のような噂も聞こえてくるな。話してるほうは聞こえてないと思ってるんだろうけど…

今のところ俺に聞こえてくるのは

 

『俺がシャルロットを騙している。』

『シャルロットと付き合うためにあえてフランスに喧嘩を売った。』

『専用機を得るためにシャルロットをたぶらかしている。』

 

と言ったものや…

 

『フランス政府からの命令でシャルロットが俺をたぶらかしている。』

 

と言ったものもある。

覚悟はしてたといえ、よくもまぁここまで思いつくものだな…

俺のことを言う分には良いんだが…やはりシャルロットのことを言われるとクルものがあるな…それは恐らくシャルロットも一緒だろう。

面倒な事になる事は覚悟していたが実際になると本当に面倒だ。

『人の噂も七十五日』とは言うが…二ヵ月半もこのままなのは勘弁してほしいな。

国際的に広まるのはもう少し時間がかかるが恐らくここまで露骨なやり方はしないだろう。

それに『俺がシャルロットを騙している』と言う噂の方がもともと広がっているのだ。今更付き合ったからと言ってもそれほど大きな衝撃は走らないだろう。

だが陰湿にくるだろうなぁ…俺に関しては国際的な場で『コントロールできると思うなよ?』って意味合いで専用機開発をごり押ししたんだ。

穏便に済ませようとしてる事は把握してくれていたとしても、無理やり何かする奴だと思われても仕方ない。そうなるとやっぱり搦め手でくるよなぁ…

しかしまぁ…本当に面倒だな…

こうなったらこれから飯も自分の部屋で食べることにしようかな…

と考えていると目の前の席に一人座る。

 

「完全に噂の的ね、風音奏君。」

「まぁ…これくらいは覚悟の上ですよ、更織楯無生徒会長。」

 

顔も見ずに話を続ける。

出来れば今一緒に飯を食べるのは勘弁してほしいんだが…

確実に下手な噂が流れる事は確実だ。

 

「あら?なんでわざわざフルネームで呼んでるの。」

「あんまり親しい人物に見られたくないんですよ。別に会長が嫌いとかじゃなくて――」

「私の下手な噂が広まったら私にも迷惑がかかる…とか?」

 

いきなり図星をつかれる。

しかも確信を持って言ってるな…だがこのまま済ますのも癪だな。

 

「いえ、会長のほうじゃなくて簪のほうですよ。会長との関係を周りが言ったらあいつの方が――」

アイツ(・・・)?」

 

そう言って少し圧力を強くする楯無。

おい、Osa。

友人関係でアイツ呼ばわりくらい普通だろう…

ため息をつきながらジト目で言い返す。

 

「……はぁ…その過保護、何とかなりません?それ結構やられる側からしたら面倒だと思いますよ?」

「……仕方ないじゃない…私お姉ちゃんなんだから…」

「まぁ…心配なのはわかりますけど度が過ぎてますよ。それじゃまるで簪が一人じゃまともな友達も作れない、自分の事も出来ないって会長が言ってるようなものですよ?」

「……簪ちゃんもそう思ったのかしら…」

「さぁ?聞いてみたらどうですか?」

 

そう言って俺は楯無を無視して飯を食べ続ける。

あまりにもそっけない対応で気に食わなかったのか楯無がムッとした顔で話しかけてくる。

 

「ちょっと…あんまりじゃない?その対応は。」

「あ~言い方を変えましょう。僕としてはそんなにあなたと簪の関係については心配してないんですよ。正直お互いに素直になればすぐに終わると思ってますし。」

「!?どういうこと!!」

「そこで聞き返す時点で駄目ですよ、もっと自分で考えないと。」

「…わかったら今頃すぐに仲直りしてるわよ。」

「でもそこに気がつかないと楯無さん、あなたは必ずまた簪と喧嘩をする。これだけは確実にいえます。」

 

俺がそう断言すると楯無は何か考え込む。

まぁ、これはどこまで言っても姉妹喧嘩なんだ。

そこに俺が入り込んでもまた必ず喧嘩になりかねない。

一応今の会話の中にヒントは入れたんだ。後はこの人が気がつくかどうかだな。

とりあえず今は話をずらそう、それに本題の方も聞かないといけないな。

 

「僕としても早く仲直りしてほしいんですけどねぇ……」

「…だったらもっと協力してよ。」

「だからそれだと意味が無いんですよ。会長、あなたはまだ『簪が本当に怒った理由がわかってない』。」

「な!?あなたはわかったって言うの?」

「まぁ…予想がつく程度ですけど。それに何で怒っているかわかってない状況で謝られても簪だって納得できませんよ。」

 

まぁ…簪の方もむきになってるところもあるんだけどな。

そしてそれに簪は気がつかないようにしている。

そこは弐式が完成したら…と考えているんだがなかなか完成しないんだよな、あれ。

この間完成しそうだったんだけどなぜか失敗してるんだよなぁ…原因がわからないから対処のしようが無いんだよなぁ。

 

「まぁとりあえず何で簪が怒ったかもう一度しっかりと考えてみればいいのでは?」

「……わかったわ。後3時くらいに生徒会室に来てくれない?デュノアちゃんと一緒に。」

 

シャルロットと一緒って事は…篠ノ之束関係か…

何か情報を掴んだと見ておかしくないな。

夏休みも後少しで終わる…そうなってくると流石にこちらに攻めて来るか。

まぁ恐らくイベントのタイミングにあわせて乱入してくるだろうしな。

俺の記憶の中でもそろそろ何か起きるはずだ。

まぁもう具体的に何が起こるかはわからないんだがそれでも何か攻めて来るということだけはわかる。それに多分目に入れば何か思い出すこともあるだろう。

とりあえず気構えだけはしっかりせねば。

 

「わかりました。二人で行きますよ。」

「お願いするわ。あと…」

「あと?」

「二人のうわさについては任せておいて!!」

 

そう言いながら笑いながら去っていく楯無。

恐らくあの顔は無理やり笑ってやってるんだろうなぁ…

うん?顔の方だけに気をとられていたが…『うわさについては任せておけ』?

………い、いやここは楯無を信じよう…

多分あること無い事言いふらす人では無いと思うし…

そう考えながら俺は先ほどまで止まっていた箸を動かし始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

さて…あの人と簪についてもそろそろ終わらせないとな…

何だかんだで結構伸びてしまっている。

そんなことを考えているとぞろぞろと集団でこちらに来る奴らが…なんだ、皆か。

シャルロットはいつもどおりだけど他の奴らはどこかイライラしてるな、ラウラもムスっとしてるって事はよっぽどだな。……あと一夏がいない。

とりあえず声だけはかけておくか。

 

「お~い。おはよう。」

「あ、奏さん…」

 

と言ってこちらの方にぞろぞろと歩いてくる。

なんなんだ?いったい。

シャルロットは苦笑しているが…とりあえず聞いてみるか。

 

「何?皆、機嫌が悪そうだけどどうしたのさ。」

「奏さんは…噂聞きましたか?」

 

と言って話しかけてくる簪。

周りのほうもそれを聞いて聞き耳を立てているな。

いい機会だ、あえて周りにも聞こえるように声を大きくする。

 

「ああ、僕がシャルロットを利用してるとか、シャルロットが僕をたぶらかしたとか言う下らない話?ここでもいくらか話してた人もいたよ?」

 

あははと笑いながら話すとピクリと反応した奴が数人いるな…

それにこそこそと席を離れてる奴もいる…

いなくなる前にこれだけは言っておこう。

 

「まぁ、僕としては一切気にしてないからいいんだけどさ。」

「え?どうしてよ!?あんた結構ひどい――」

「それは噂の僕だろう?そんなの気にするだけ無駄さ。」

 

と俺が言うとシャルロットも苦笑いしながら話を続ける。

 

「ね?ソウもそう言ってるし、そんなに気にする必要ないよ。」

「しかし…あんな事を言われては…」

「あんたたちが良くても私たちが…」

「まぁ…僕もいい気はしないけどさ、この程度どうって事は無いよ……シャルロットはきついようならすぐに言えよ?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」

 

と言いながら笑ってはいるが……

周りの反応を見る限り恐らく結構面倒な噂が広がってるようだな…

…馬鹿な行動を取る奴が居るとは思わないが…念には念を入れておくか。

 

「シャルロット。」

「うん?ソウ、どうしたの?」

「今日からできるだけ一緒に行動するぞ。」

「突然どうしたの?」

「まぁ……保険みたいなものだ。後今日3時から予定ある?」

「大丈夫だよ。」

 

シャルロットの顔を見る限り察してくれてはいるようだな。

ただ周りのほうは未だに納得が行かないな…

何だかんだでこいつらは結構純粋だからな、こんな感じの対応は考えてなかったのかな?

せいぜい嫉妬がある程度って感じだと思っていたんだろう。

ラウラに関してはこうなること自体想定してなかったといった感じだな。

しかし…なんでラウラはこんなにムスっとしてるんだ?

 

「話は変るけど…ラウラはなんでそんなにムスっとしてるの?」

「え~っと…」

「……奏兄が色々、謂れなき中傷にあってるのに…」

 

そう言ってシャルロットの方を見る。

多分シャルロットがラウラが何かする前に止めてくれたんだろう。

こいつからしてみれば俺のために動こうとしてくれてたんだろうな。

多分前までのラウラなら無視してただろうな…どこかそこがうれしく感じる。

 

「ラウラ、そこは気にしなくていいよ。別に言われたって事実が変るわけじゃ無いんだ。」

「…しかし…」

「とりあえずみんなも僕とシャルロットのために怒ってくれてありがとう。でもそこまで気にする必要は無いよ。それにこんな噂すぐになくなるさ。」

 

そう言って目の前でへらへらと笑ってみせる。

みんなの顔を見る限り納得はしてくれないか…まぁ仕方ないだろうな。

俺だって一夏と誰かが付き合ってこういうことになったら何とかしようと思う。

それよりもまず…シャルロットについての噂だけでも何とかしないとなぁ……

そう考えながら微妙な空気の中朝食を食べ終わるのだった。

 

 

 

 

 

部屋に戻ると扉の前に一夏がいる。

今日は柳韻さんとの個別訓練のはずでもう少し時間がかかるはずだったが…しかも道着と袴って事はまだ途中だと思うんだが。

とりあえず声をかける。

 

「やぁ、一夏おはよう。」

「あ、奏!!良かった!!今すぐ剣道場に来れるか?」

「いけるけど?」

「先生にお前が居合いを見たいって言ってたって言ったら今すぐ見せてくれるらしい。」

 

お。思ったよりかなり早かったな。

早くても明日あたりになるものだと思ってたんだが。

まぁ、別に早い分には問題はないか。

 

「わかった、じゃあ待たせたら悪いから急ごうか。」

「ああ」

 

そう言って一夏の後ろをついていく。

剣道場に行くと柳韻さんが姿勢を正しく座っている。

傍らには恐らく真剣だろうな…

俺たちが入ってくるとスッと立ち上がりこちらに歩いてくる。

 

「おはようございます、柳韻さん。」

「おはよう、風音さん。」

「スイマセン、せめて君か呼び捨てでお願いします。柳韻さんにさん付けで呼ばれるとどうも締りが悪くて…」

 

そう言って申し訳なさ下に頭をかく。

恐らく素でこういう対応なんだろうが…俺みたいな年齢の奴相手にさん付けするのはちょっと…

そう言うと柳韻さんはふむ…っと唸った後うなずく。

 

「わかった、では風音君。これでいいか?」

「ありがとうございます。で、突然居合いが見てみたいなんて言ってスイマセン。」

「いや、ある意味いい機会だ。一夏にも見せたいものがあったのでな。」

「?俺に見せたいものですか。」

「ああ、お前のためだけに教える剣だ。これは私も人に教えるのは初めてだ。」

 

え?と言った顔をする一夏を無視して巻き藁らしき物の前に向かう柳韻さん。

腰に真剣を構え、意識を集中させている。

剣道場全体が一瞬ピリッとした空気に包まれたな。

だが…その後は普通に戻る。

だがその一瞬で俺と一夏は柳韻さんから目が離れなくなる。

次の瞬間またもピリッとした衝撃と共に柳韻さんが動いた。

鞘から刀を抜いたかと思うと…

――一閃

巻き藁はそのままずれる様にして真ん中から上下に切れる。

右手には抜かれた剣が一寸のぶれもなく振りぬかれていた。

斬った瞬間、柳韻さんが集中しているのはわかるんだが…他に意識を感じないな。

千冬さんの試合で見た一番綺麗だと思った斬撃ですら気を背負った感じだったんだが…

柳韻さんの斬撃はそれすらもなくただ斬った、それだけだった。

それなのにこの上なく綺麗に感じたな…

一夏はその斬撃を目に焼き付けていたんだろう。

ひどく集中している。

柳韻さんがふぅ…と息を吐きながら鞘に真剣を戻す。

そしてこちらを見た後に話しかけてきた。

 

「どうだったでしょうか?」

「いや…変な話しなんですが…綺麗でした。」

「俺も…千冬姉よりもすごく鋭く感じたのに…優しい感じがした。」

「一夏、今お前に教えている居合いの目標はこれだ。」

「俺が…これを?」

「正確には今の私からお前は優しさを感じたと言ったな。お前もその雰囲気を纏うことができるようになることが今の訓練の目標だ。」

 

そう言って柳韻さんは真剣を置き近くにあった木刀を構え、再び巻き藁に向かう。

 

「だが…お前に教えようと考えている剣はこれではない。」

「…え?」

「今お前に教えているのは心構え…つまりゆるぎない心だ。それが出来てから教えようと思っていたのだが…お前は逆に不安になっていたようだな…」

 

そう言って静かに構える柳韻さん。

こっちの考えはお見通しだったわけね。

一夏もばれた…と言った顔をしている。

さて…どんな風に言ってくるのか、と考えると柳韻さんからとてつもない気迫を感じる。

構えは上段とでも言うのだろうか、上から振り下ろすような構えだ。

そして先ほどまでのあの澄んだ気配や静かな感覚など一切ない、まさに剥き出しの敵意のようなものを柳韻さんから感じる。

一夏もそれを感じているのだろう、息を呑んだ。

だがその気配は恐らく俺たちに向けられたものではなく柳韻さんの前にある巻き藁に向けられている。だというのに凄まじいまでの気迫に気圧されそうになる。

 

「ぉぉぉぉぉおおおおおおっ!!!」

 

腹のそこから出てくるような雄叫びと共に振り下ろされる木刀。

そして巻き藁が…砕けた。

そして気圧されるような気迫が無くなる。

なんというか…すごいとしか言いようが無い。

先ほどまでの居合いが剣の美だとしたら、今の剣は剥き出しの武。

綺麗さなどひとかけらも無いただ相手を斬ることたけの剣と言った感じだ。

 

「今のが一夏、お前の目指す剣だ。」

「……今のが?」

「お前も感じただろう?私から放たれる気迫を。あれを最低限コントロールできなければこの剣は使えない。」

 

ああ、つまり居合いの練習はつまるところ気迫のコントロールって事か。

それさえ出来るようになれば後は別に居合いが上達しなくてもいいってことだろう。

しかし…この人も芸達者だな。

剣道だったり剣術だったり、居合いだったり今の剣だったりよくいろいろとできるものだな。

一夏も何か聞きたいのか柳韻さんに声をかける。

 

「今のはなんていうんですか?」

「……一番わかりやすく言えば『示現流』…といえば風音君もわかるだろうか。」

 

ああ、あのチェストーって言って斬るやつか。

だが…そんな流派なんて関係ないような剣に見えたんだが…

柳韻さんは話を続ける。

 

「正確に言えば全然違うのだが目指すところは同じだ。」

「目指すところって…先生、一体なんなんですか?」

「『雲耀の太刀』だ。」

「ウンヨウ?奏わかるか?」

「すまんが知らん。」

「人の脈拍の8000分の1の速さの太刀、それが雲耀の太刀だ。」

 

そう言ってわざわざ説明をしてくれる柳韻さん。

つまるところ、とんでも無い速さで振り下ろされる剣みたいなものか…

確かに今の柳韻さんの木刀ですら居合いに勝るとも劣らぬ速さだったしなぁ。

 

「いいか、一夏。この剣は今のお前では到底使いこなす事はかなわない。今のお前では使うことすら出来ないだろう。」

「……このまま修行をすれば使えるようになりますか?」

「恐らくな。お前の剣は何だかんだで私に似ている。」

 

そう柳韻さんがふっ…と一瞬だけ笑う。

おお、一夏がすごい驚いてるってことは多分かなりレアなシーンなんだろうな。

しかし示現流か…いまひとつぴんと来ないな。

ちょっと調べてみようかななどと考えながら引き続き行なわれる居合いの練習見学を続けるのだった。

 

 

 

 

千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす

                  〜宮本武蔵〜




どうもただいま戻りました……って言ってももう少しかかりそうですねぇ…落ち着いてはきたんですがこればっかりはどうしようもないです。


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第八十五話 誰かの気持ち

昼ごろになり一夏が柳韻さんとの訓練を終えた後、一夏はそのままアリーナに向かいISの訓練をするらしい。

一緒にどうか?と誘われたが用事があると遠慮しておいた。

実際は3時からなので問題は無いと思うが…

今はISで強くなるより正確に使いこなせなければいけない。

ただ…正直な話し、やはりISという大きな力は性にあわない。

銃を誰かに撃つのにも必要最低限にしたいのにわざわざ戦うのはごめんだ。

一応ISはスポーツという事になっているが……俺からしてみればどう考えても人殺しの訓練としか思えなかったのである。

やはりここら辺の考えは俺がこの世界の人間じゃないからなのか、それとも俺の頭が固すぎるからか、まぁ気にしても何か変るわけじゃ無いんだ。気にしないでおこう。

適当な理由で逃げたというのに一夏はまったく気を悪くし無かった。

 

「解った。じゃあな」

「ああ、また機会があれば」

 

そう言って一夏と別れ適当に時間を潰すことにした。

ここでふとシャルロットのことを思い出す…今朝シャルロットに一緒に行動しろと言っておいて自分から離れてどうするんだ…

とりあえず連絡を入れてみるか。

携帯でメールを出し現在地を聞いてみる……すぐさまに返信が来た。

 

『今アリーナの整備室にいるんだけど…今すぐ来てもらっても良い?』

 

との事だ……まぁ分かれた後再び一夏と会いかねないが、あいつはそこら辺を気にすることは無いだろう。

俺はそのまま足を整備室の方に向けた。

やはり歩いてるだけでもいろいろと言われるなぁ、ただ悪い噂の方はそれほど多くないようだ。

と言っても10組の内2組くらいはその噂をわざわざ俺を見ながら話している…俺、そんなに悪人面に見えるんだろうか?

その噂を無視しながら俺は整備室に付き、中に入るとシャルロットと簪、そしてのほほんさんが居た。

 

「あ、ソウ。何処行ってたの?」

「ちょっと一夏の訓練見てた。悪いなシャルロット。今朝あんなこと言ってたのに」

「奏さん、大丈夫ですか?」

「なにが?……あ、昼食は食べてないらから大丈夫じゃないかも」

 

簪が不安そうにたずねてくるのに対し、俺はとぼけたように笑いかけて見せる。

言いたい事は解るが一々大丈夫と言っても心配されるだけだろうしここはおどけて見せよう。

だが簪とシャルロットはともかくのほほんさんは少し落ち込んでいる、どうしたんだ一体?

 

「あれ?のほほんさん調子悪い?」

「……ソーごめんね…こんなことになるなんて…」

「え?なんでのほほんさんが謝るの?」

「…下手にいろんな人に教えたせいで…」

 

と言って目に涙を浮かべている。

あわてて俺は慰めるように話しかける。

 

「いや!?別に悪いことをした訳じゃないでしょ!?第一それを悪いって言ったら僕、誰とも付き合えないことになっちゃうんだけど!?」

「……でも広めちゃったのは私たちだし…」

 

私たち…ってことは他の一組メンバーも結構落ち込んでる人が居る可能性もあるのか…

シャルロットと簪の方を見ると二人ともおろおろしてるな。

シャルロットの方は多分俺と同じように気にするなといい続けてたんだろう。

簪は……ただのほほんさんのことを心配してるのかな?

さてどうしよう。

ここで俺が『大丈夫だ』といい続けてものほほんさんたちは気にし続けるだろうなぁ…

じゃあこの際利用する様に言ってみようか。

 

「じゃあさ、この際噂を色々流してもらっても良い?」

「え?」

「例えば俺とシャルロットは前から…それこそ『IS学園に来る前から既に付き合い続けてた』とか『見ていた限り裏で何かたくらんでたようには見えなかった』って言った感じで。まぁ…悪くない噂なら何でも良いよ」

「そんなのでいいのぉ?」

「もちろん。別に僕ら悪いことした記憶は無いよ?だからあんまり悪口は気にしてないのさ。なんと言われようと俺はシャルロットのことが好きだしね」

 

そう言ってニコニコと笑いかける。

のほほんさんはじーっと俺の顔を見ているが…嘘は無いと見抜いてくれたようだ。

涙を拭くとクスッと笑ってくれた。

 

「ソー、前からって…もしかして臨海学校のときから…」

「そ、あの時から付き合い始めてました」

「やっぱり…うそつきソーだったんだ…」

「ふふふ…ばれてしまっては仕方ない」

 

とおどけて見せてみる。

その後話を戻すように微笑みながら話を続ける。

 

「他に気にしてるような人が居たらさ、同じように伝えてくれないかな?頼んでいいかい、のほほんさん」

「うん…わかった。じゃあちょっと行ってくるね?」

 

そう言ってのほほんさんは手を二人にも振って、とことこと歩いて整備室から出て行った。

恐らく谷本と夜竹も同じように気にしてるんじゃないかな?

だとしたらそれについて教えに行ったのだろう。

まぁこれで一組メンバーについては大丈夫だろう。

俺は少しだけ安堵しながらシャルロットたちに話しかけた。

 

「他のみんなは?」

「え?…ああ、皆はアリーナで訓練してる」

「簪ちゃんは…弐式の山嵐か」

「はい…プログラムは完成してるんですが…」

「ですが?」

「弐式が受け入れてくれないんです」

 

と言って簪は弐式のほうを見ながら話を続ける。

見た目は一切変わっていないが倉持技研の方で色々といじっているらしく本来のカタログスペックを再現できているらしい。山嵐を除いてだが。

 

「今までは打ち込めばそのまま受け入れてくれたんですが、このマルチロックオン・システムだけは受け入れてくれないんです…」

「それだけねぇ…おっさんは何か言ってた?」

「えっと…いろいろと調査はしてくれています…ただやっぱりはっきりとは解らないらしくて…」

 

そう言いながら簪は再びプログラムを送り始めた。

シャルロットの前でやっても大丈夫なのか?と思いシャルロットに目を向けたが既にシャルロットは何を打ち込んでいるか解らないような場所に移動していた。

そういう気遣い、すごいよなお前。

しばらくすると画面上にエラーの文字…俺の知識が足りないからかも知れないが、見ていた限り問題は無いように見えた。となると原因はなんだ?

 

「簪ちゃん、弐式に触ってみても良い?」

「良いですよ?」

 

そう言って弐式に触ってみる。

シャルロットは何か思い当たる原因はないか考えているようだし、簪は再びプログラムを弐式に送り込んでいる。

俺は弐式に触れて意識を集中させる。

今俺がおこなっていることは俺の勝手な想像でしかない。

この発想はISコアがプラントに似ていると考えた時に思いついたのだ。

ヴァッシュが意思表示のできないプラントと交信する際お互いに触れ合えばコンタクトが取れていた。

そこで俺は一つの発想を思い浮かべた。

もしかしたらISコアも同じように話しかければ言葉は通じるのではないのだろうかと。

ならば俺が今できるのは直接触れて話しかけるだけだ。

ただここでISに話しかけたらイタイ人でしかないから頭の中で考えるだけだ。

 

(え~っと…久しぶりでいいのかな?話しかけたことは無かったもんな。)

 

と頭の中で考えてみるが何の反応も無い。

当たり前か。

 

(…君が何で簪のプログラムを受け入れてもらえないか教えてもらっても良いかな?)

 

頭の中で疑問を投げかけてみるが……反応があるわけが無い。

第一反応があるようならそれはそれで―――

と考えていると自身のISが反応し、さらにまた体の中で違和感を覚える。

この感覚は…シャルロットの疾風ときとはまた違った感覚だな。

ただ…なんというか悲しい気持ちになる。

意識をさらに集中させよう。

この気持ちはなんだ?

何が悲しい……疑われている?…これは…もしかして?

俺は意識を外に向けてみる。

その意識を簪に向けた瞬間、体の中に悲しみがかなりあふれてくる。

わかった…この感情は、恐らく弐式の感情だ…

そして自身の待機状態のISの方も何か作動しているようだ。何をしているかはわからないがとりあえず今は簪の弐式の方だ。

俺は静かに簪に話しかけてみる。

 

「簪ちゃん…もしかして『初めから失敗する』って思って打ち込んでない?」

「ソウ?どうしたの突然…」

「いや…ちょっと思いついたことがあってさ。簪ちゃんそこのところどう?」

「……確かに少しはそう思ってたかも知れません…でもそれが何の関係が…」

 

と簪は正直に話してくれた。

さて…どう説明したものか…

少し頭をかきながら困ったようにはにかみながら話を続けた。

 

「あ~…俺の勘なんだけどさ…ISって深層には独自の意識があるらしいじゃないか」

「はい…そのとおりですが…」

「簪ちゃんがさ、疑ってるのってさ…多分自分の力だと思うんだけど、それをISコアの方にそれが伝わって、自分が疑われてるって思っちゃったんじゃないかなぁ…って…」

 

俺がこう言うと二人ともきょとんとしている。

まぁ…突然ISの意思が~なんていってもおかしい人にしか見えないな。

しかし俺は確かに弐式から悲しみを感じていた…これもほとんど電波みたいなもんだけどな。

しかしこれは俺しかわからない物だしなぁ………

一応言い訳はしておこう。

頭がおかしい人と思われる前に…手遅れかもしれないがな。

 

「いや、自分でも変なこと言ってるとおもうけどさ――」

「いえ…でも……」

 

そう言って本当に考え始める簪。

何か思い当たるところでもあるのだろうか。そうであって欲しい…

しばらく考えた後簪は俺とシャルロットに向かってポツリと話し始めた。

 

「シャルロットさん、奏さん…少し一人にしてもらっても良いですか?」

「ああ、扉の前で待ってるだけでいい?」

「はい…お願いします」

 

そう言って二人で整備室をでる。

さて…簪が何をするか解らないが…

俺は違和感が残る体のままで整備室の扉の前にシャルロットと二人で立つ。

シャルロットがこちらに不思議そうな顔で話しかけてきた。

 

「ソウは…どうしてそう思ったの?」

「いや…システムにもプログラムにも問題が無いなら後は気持ちかなぁ…って単純に思っただけさ。深い意味は無いよ?」

「……それで何で簪が自分を信じてないって思ったの?」

「あ~…楯無さんと簪が姉妹だって言うのは知ってるよな」

「うん…あんまり仲がよくないのも…」

「その理由が俺は簪が自分が楯無さんから信用されてない…ってことだと思ってるんだ」

「…それで?」

「その根本にあるのは簪の『自分は(楯無)より劣っている』って感情だと思っているんだ」

 

と俺が話を続けているとシャルロットは首をかしげる。

気にせずに俺はシャルロットに話し続ける。

 

「それが弐式のことと関係があるの?」

「直接関係してるわけじゃないけど、楯無さんのISってあの人が自分で開発したものらしいんだ。もちろん簪もそのことを知っている。弐式をもし自分の力で完成させる事ができたら一応ISに関しては簪は姉に追いつける」

 

って言っても正直IS開発に関しては楯無は結構いろいろな協力を得てあのミステリアス・レイディを作り上げたらしいのだが、簪はそこのところを自身の姉一人が完成させたと思い込んでいる。

そこを何とか出来ればなぁ…

と頭の中で考えながら話を続ける。

 

「しかし簪は『姉より劣っている自分は、本当にISを完成させることができるのだろうか?』と不安になっている。まぁ…ここら辺は俺の妄想も入ってるところも多いが簪の性格上多分何かかしら自身に不信を感じてるんじゃないかなぁって思ったわけだ」

「そしてソウはそれが弐式に伝わって疑われるって思ったんじゃないかって考えたってことか…そっか…でもこれで失敗したら…」

「別の方法を探すしかないよなぁ……」

 

そう言ってそのまま扉の前で二人で立っている。

しばらくすると整備室の扉が開き中から簪が出てくる。

表情はなんというか……硬い。

シャルロットが簪に話しかける。

 

「簪、どうだった?」

「はい…一応弐式はプログラムの方は受け入れてくれました…でも…」

「でも?」

「読み込みも成功しているしエラーも無いのにプログラム自体が起動しないんです」

 

そう言って顔を伏せる簪。

俺はシャルロットの方を向き話しかける。

 

「……えっと…そんなことあるの?」

「……私はそういうことは聞いたことはないかな…プログラム自体は?」

 

シャルロットが真面目な顔をして簪に話しかける。

 

「しっかりと弐式が読み込んでくれたんです。でもいざ確認として起動させようとするとISの方から拒否されるんです…」

「……何か弊害になるようなプログラム等は無いんだよね」

「もちろんです。一応倉持技研の方でも試しにプログラムを走らせてみましたがその時には一切問題はありませんでした」

「そうだよね…仮にどこかに引っかかってたらエラーの記述が浮かぶだろうし…だったらハードの接続は?」

「今確認しうるところでは一切問題はありません…」

「となると―――」

 

とシャルロットと簪が本格的に話し合いを始めたのだが……

正直まったくついていけない。

いや、簪はそっち系統に詳しいって事は前から聞いてたから違和感無いんだが…なんでシャルロット。お前までそういう会話が出来るんだ?

伊達に国家代表候補生じゃないってことか?

しかし…弐式が受け入れることはしてくれたんだよな。

そこに疑問を感じ簪に聞いてみる。

 

「ねぇ簪ちゃん。結局弐式はどうやったらプログラムを取り込んでくれたの?」

「えっと……お願いしてみました…」

「どんな?」

「…おねえちゃんに負けたくない…弐式と一緒に戦いたいって…」

「なるほどねぇ…」

 

そう言って簪はまた考えはじめた。

多分打鉄二式のほうは簪の方に心を開きはじめたんだろう。でも簪の感情はそれ程軽いものじゃ無いから多分まだ弐式も信用しきれてないんだろう。

さて…ここから先は更識姉妹の感情がキーになるな。

でもこれは簪、または会長から動かないと意味がない。

問題はどちらも相手に気を使いすぎているってところだろうか…

シャルロットの方を見るとうーん…と唸り声をあげながら

考えている。

しばらく3人で考えているとふと簪が声をあげる。

その顔には決意が込められているように感じた。

 

「…織村くんは……今アリーナにいるんでしたっけ…」

「うん?そのとおりだけど何か思いついたの?」

「………少し聞きたいことが……」

 

しかし、簪が一夏に聞きたいことか…

簪が一夏に相談するって…結構って言うかかなり珍しい。

簪ははじめ打鉄二式についてのとで一夏を敵視していたなごりか、どこか一夏に話しづらそうなのだ。

そんな簪が自分から一夏に話しかけるとは……

俺が理由を聞こうとする前にシャルロットが簪に尋ねる。

 

「簪ちゃん?一夏になにを聞くの?」

「………心構えです………」

 

こころがまえ?

俺が何か聞く前に簪が誰に言うわけでもなく小さな声、しかししっかりとした強い意志が感じられるように静かに覚悟を決めているようだった。

 

 

 

 

 

今を戦えない者に、次とか来年とかを言う資格はない。

           〜ロベルト・バッジョ〜




ということで第八十五話投稿しました。
しばらくこのような感じで月一くらいの投稿になりそうですが必ず完成しますので気長にお待ちしていただければ幸いです。


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第八十六話 覚悟………?

簪が何かの覚悟を決めた。

もしかして楯無について何かかしらの覚悟をきめたのだろうか……

しかしだとしたら何故一夏がそこに出てくるんだ?しかも心構えって言ったよな。

具体的にわからないがとりあえず向かってみるか。

俺の頭の中である程度考えがまとまったので周りに話しかける。

 

「えーっと、とりあえず今から一夏の方に向かうってことでいいのかな、簪ちゃん?」

「はい…でも…」

「何か問題でもあるの?」

 

何処か煮え切らない反応を示す簪に首を傾げるシャルロット。

えっと…多分一夏に対して苦手意識っていうか、負い目みたいなのがあるんだろう、

俺がそう思ったと同時に簪がボソボソと話し始める。

 

「私…結構前から織斑くんに対して……避けたり…冷たくしたりしてしまってて…」

「簪、一夏の事が苦手だったの?」

「いえ…嫉妬してたんだと思います」

 

そう言って簪は話し始めた。

 

「初めは…私の事を邪魔して、弐式の開発ができなくなって…嫌いになりました。織斑くんは何も悪くないのに…しばらく経って奏さんが私の手伝いをしてくれて…弐式の開発ができるようになってからも嫌いでした」

「……」

 

吐き出すように、懺悔をするかのように簪は話し続ける。

シャルロットはなにも言わず真剣にその話を聞いていた。

俺も話を聞きながら、周りを警戒した。

簪が自分から何かを話してくれたんだ。

できるだけ聞き続けたいが、ここは通路でいつ人が来てもおかしく無い。

って言っても今のところ近くに人の気配はしない。

 

「…私、初めは織斑くんの事、ちやほやされて調子に乗ってる嫌な奴、って勝手に思って…そんな人に自分のやってることを邪魔されたって……でも、はじめて織斑くんと話した時…勝手な妄想だってすぐ解りました。自分が弱いって認めていて…自分より優秀な姉を前にしても追いかけ続けて居て…ずっと上を見続けて、周りにも明るく接して友達も居て……それにまた、私は嫉妬してました。なんで心が折れてないの?どうしてあんなに遠い目標を目指せるの!?どうして…私みたいに諦めてないのって…」

 

簪は最早目に涙を浮かべて話していた。

しかし嫉妬か…これは俺も気がつかなかった。

せいぜい馬が合わない程度だとおもっていたんだが、結構深かったみたいだな。

 

「…そんな風に考えてしまう自分が嫌で…嫌いになろうって思っても…私が冷たくしても私の事をきにかけてくれて…弐式が完成しそうだって言った時に織斑くん、自分のことみたいに喜んでくれたんですよ?普段あんなに素っ気ない態度の私に……その度にもっと自分が嫌いになって、でも織斑くんのことを認めたくないって思ってる自分が居て…本当に私自身が醜いものに見えて……」

「簪……大丈夫だよ?」

「シャルロットさん…」

「一夏、簪が自分のことを嫌ってる事、とっくに気がついてるし、許してる」

「!?」

「え!?マジ!?」

 

これには俺が驚いた。

あの学年全体から唐変木・オブ・唐変木ズの称号を手に入れたあの織斑一夏が!?

いや、絶対嘘だ。

もしくは誰かが気がついて教えたとかだろ!?絶対!!

俺が人知れず、っていうかあからさまに混乱して居るとシャルロットは呆れながら俺に話しかける。

 

「ソウ…なんでソウがそこまで動揺してるの…」

「いや!?お前…一夏だぞ!?あの一夏がそんなことに気が付くって………いや、だって………おかしいだろ!?本当だとしたら天変地異の前触れか、空から巨大隕石が降ってくるとか、恐怖の大魔王が地底から現れるとかそんなレベルだぞ!?」

「い、幾ら何でもそこまでは…」

「いや!!あいつが気が付いたってことは俺にとっちゃマヤの予言よりも信用できる人類滅亡の前触れだ!!」

「そこまで!?」

 

そういって今度はシャルロットが呆れるようにしながらも驚く。

まぁ、どちらにしても人類滅亡の前触れじゃなかったんだよね、アレら。

しかしこのアホな会話でさっきまでの重い雰囲気は消し飛んだ。

問題はポカァーンとしている簪と話の腰を折った俺に頭を抱えるシャルロットだろう。

俺は驚いた顔をしながら話し始めた。

 

「ま、まぁ。話はそれちゃったけど一夏だったら絶対気にしてないぞ」

「でも!!」

「いや、あいつにとっちゃこの程度の敵意慣れっこなんだわ」

「………どういうことですか」

「一夏の姉さんって言わずと知れたブリュンヒルデ、魔お…千冬さんじゃないか」

「はい…」

「で、その千冬さんの決勝戦での棄権。これも知ってるよね?」

「はい…でもそれが…」

「あの事件の後、千冬さんがしばらく家を空けてる間、あいつにかなりの嫌がらせがきたんだ、知らない人たちからね。ひどいもんだったよ、嫌がらせの電話や手紙ならまだしも壁に落書きから挙句の果てには殺害予告とかも来てたな。その時にさ、一夏結構まいっちゃった時があったんだよ」

 

この時は本当にひどかった。

毎日電話と手紙の嵐。

その大半は千冬さんへの失望云々だったが中には一夏が原因だと決めつけて凄まじい勢いで非難するようなものもあった。

他にも家の前で暴言を吐く人も居たし石も投げ込まれたな。

まぁ、犯罪行為をしたバカはしっかりと捕まったけどな。

 

「そん時に一夏はな、千冬さんに嫉妬してた」

「織斑先生にですか?」

「そう、『俺にもっと力があれば………あいつらになにも言わせないだけ………千冬姉みたいな力が………』って感じで」

「…そのあと織斑君は…どうしたんですか?」

「うーん…そこら辺は直接一夏に聞いてくれ。俺もよくわからないうちに立ち直ってたし。ただあいつなら誰かに嫉妬する気持ちはわかると思うよ?」

「……はい」

「まぁ…とりあえず話の続きは一夏の所に行ってからだね」

 

そう言って簪を促しながら俺はシャルロットと簪と共にアリーナ内に向かった。

 

 

 

 

 

 

アリーナに行くと一夏が鈴と戦っている所だった。

見た感じ………一夏が負けてるな。

ただ鈴も何かに警戒しているな。

なにがあったんだろうか?まぁそこら辺は後で考えることにして近くを見渡してみる。

おっ、残りの三人みっけた。

とりあえず近くに行くとラウラがこちらに気が付く。

 

「奏兄にシャルロットに簪。今から訓練に参加か?」

「いや、僕とシャルロットは付き添いで、簪は一夏に要件がある感じ」

「要件?」

 

そう言って箒が話に入ってくる。

そういや、こいつは簪が一夏に嫉妬してるって知ってるんだろうか?

 

「は、はい………」

「簪……その、もしかしてアレについてか?」

「………はい」

「そうか………」

 

そう言って二人とも苦い顔をしている。

これで確定だな、箒はとりあえず簪の感情に気が付いていたと。

だが一夏が第一の箒が簪の感情を知ってもなにも言わないって………

成長しているのか、それともなにかすでに問題になっていたか…裏があるか。

まぁ出来れば一番最初のやつだといいな、切実に。

一方話が解らないラウラとセシリアは首を傾げている。

 

「奏さん、一体なんの話ですの?」

「あ〜………おっ、そんなことより試合の決着がつきそうだぞ!!」

 

話しづらいから逃げました。

まぁ実際決着がつきそうだしタイミングとしては合ってるわな。

ただし、それにつられて話がそれるかどうかは別問題だ。

実際セシリアとラウラは俺をじと〜っと言った感じで睨んでるしシャルロットと簪は苦笑いしてる。

畜生、一夏だったら簡単に騙されてくれるのに!!

………そっちの方が問題か。

さて、試合の方はというと一夏の方はシールドエネルギーはギリギリ、だが恐らくあと一回、全力で雪片を零落白夜付きで振るうことはできるだろう。

一方鈴はと言うとエネルギーはある程度は残っている、がもらったら最後の一撃必殺の攻撃をかわし続けたんだろう、精神的な疲労感が顔に浮かんでいる。

さて………次の一撃で決まるな。

そう考えていると一夏がゆっくりと構えを変える。

あれは……今朝見たあの……雲母の太刀だったけ?

いや、もっと別の名前だったけ?

まぁ、あの構えをとった。

って、一夏君?あの斬撃は使えないってお師匠さんが言ってなかったけ?

まぁ、実戦で使うわけじゃないからいいか。

一夏の神経が集中しているのが目に見えてわかる………が、時間がかかりすぎだ。

それじゃあ、鈴に攻撃してくださいって言ってるようなもんだぞ?

 

「もらった!!」

「いぃ!?」

 

ドゴォンという音を立てて落ちていく一夏。

シールドエネルギーもちょうど切れてるし…いいとこなしだな。

一夏はなんとか地上すれすれで鈴にキャッチされている。

一夏は地面に激突することなく安堵の息を漏らしていた。

 

「ふぅ…サンキュ、鈴」

「一夏………あんたバカァ?」

 

さすがセカンド幼馴染………っていうか、それは別のネタだ。

しかもこの世界には無いやつ。

まぁ………言いたくなる気持ちはわかるけど。

一夏は一夏で鈴が言いたいことがわかっているのだろう、苦い顔をしている。

 

「ば、馬鹿はないだろう!?」

「いいえ!!バカとしか言いようがないわ!!最後のアレ何よ!?」

「い、いや。あれはだな新必殺っていうか俺の目標っていうか…」

「それで的になって落とされたら意味ないでしょうに…」

 

そう言って大きなため息をつく鈴。

一夏は味方を探すように辺りを見渡す。

箒は頭を抱え、ラウラは腕を組み一夏を睨む。

セシリア、シャルロットは苦笑いしてるし…残念ながら味方はいないようだな一夏。

ガクッと肩を落とす一夏。

さて一夏は帰った来たが訓練はこの後どうなるんだろうか?

出来れば一夏だけ借りられる状況を作りたいんだが………

どうしようかと考えていると箒が口を開く。

 

「セシリア、鈴、ラウラ。済まないが今度は私と付き合ってもらってもいいか?2対2の戦い方で試したいことがあるんだ」

「ええ、いいですわよ。鈴さんとラウラさんはどういたしますか?」

「ふむ…私は構わない」

「もちろん私もね」

 

そう言って四人での戦いが決まったらしい。

一方一夏は首を傾げている。

 

「えっと………俺はどうすればいい?」

「休め。というか朝はお父さ…父との稽古、そのあとで私たちとの稽古しかもほとんど休憩なしだろうが一夏は」

「詰め込みすぎは体に毒ですわよ?少し休憩してくださいな」

「あと簪が嫁に要件があるらしいから丁度いいだろう」

「ということでしばらくやすみなさい!!以上!!」

 

そう言って四人はアリーナの上空へと飛んで行った。

空気を読んでくれたか…………

しかしいの一番に話し始めたのが箒とは。

あいつここ最近成長がすごいな。

ISに関しては一夏には劣るがかなりのペースで成長してるし、精神的な所だと入学当初と比べれば最早別人だ。

まぁ、今だに一夏に関しては素直になれない所が多々あるし意地っ張りだけどな。

としみじみと箒の成長に感動していると一夏がISを解いて近づいて来た。

 

「休め、かぁ………っと。用事ってなんだ?簪」

「えっと…………」

 

覚悟を決めてここに来たはずの簪だったがいざ一夏の前に来ると言い出せないようだった。

ここで俺が手を貸すのはちがうだろうし………

と考えながら横を見てみるとシャルロットは俺が手を出すのではと考えているようだ。

ジト〜っといった効果音がつきそうな目でこちらを見ている。

とりあえずデコピンをしてやろう。

 

「「あ、あの!?あっ、そちらから……」」

 

とハモる二人。

なんだお前らはお見合いでもしてるのか!?

と呆れた顔で二人を見ながらデコピンに涙目で怒るシャルロットを適当に相手をして抑える。

そんなこんなであたふたした二人だが先に簪の方が立ち直ったようだ。

深く息を吸った後真面目な顔で簪にしては大きな声を出す。

 

「お、織斑君!!」

「は、はい!!!」

「っ!?」

 

そしてつられて大声を出す一夏にそれにビビる簪。

………………なに、これ。

漫才でもやる気なのか?

シャルロットのほうは俺が適当に抑えるせいでいじけてしまって、その場でしゃがみこんで「どーせ僕なんて……」とブツブツ言っている。

簪はさらに息を吸った後に一夏に話しかける。

 

「ご、ごめんなさい!!」

「え!?………なにが?」

「へ?………あ」

 

『あ』じゃねぇよ、『あ』じゃ。

簪はさらにテンパり出したし、一夏は一夏でそれを見てオロオロしている。

空中では四人とも聞き耳を立てているしシャルロットは絶賛落ち込み中だ。

一夏は目の前で混乱する簪を見ているせいか落ち着きを取り戻したようだ。

 

「え〜っと…簪。俺の方から話してもいいか?」

「え?あの………」

「多分だけどさっきのごめんなさいって簪が俺のことが嫌いって」

「一夏…そこは簪に言わせてあげてもらえないか?」

「奏…ってお前なにしてるの」

 

と言ってこっちを見た後に顔をしかめる一夏。

ちなみに現在俺はいじけたシャルロットのご機嫌取りのためにシャルロットの頭を撫でている。

シャルロットはそれで結構機嫌がなおっている。

この程度のことで『エヘヘ…』と言いながらご機嫌になるなど…………ちょろいやつよ。

俺は真面目な顔で話すを続ける。

 

「見て解らないか?」

「ああ、全く」

「そんなことより簪の話をしっかりと聞いてやれ。かなりの覚悟でここまできたんだからな」

「あ、ああ……でなにしてるの?」

「…………シャルロットの機嫌取り?」

「…………なんでそんなことになったんですか?奏さん」

「さぁ?」

 

気が抜けたようにする二人。

上空の四人もがっくりしている。

まぁこれで一回仕切り直しになっただろう。

簪は再び一夏に向かう。

 

「すいません…見苦しい所を見せちゃって…」

「い、いや。俺も混乱してたし…で、謝りたい事ってなんなんだ、簪」

「…私、織斑君のこと嫌ってました。」

「………ああ、知ってたよ」

 

さっきまでの雰囲とはうってかわって真剣な雰囲気だ。

マジでか!?と叫びたくなったがここは我慢した。

だがここに弾か数馬が居たら恐らく三人一緒に叫んで居ただろう、確実に。

 

「どうして知ってたんですか?」

「簪が俺を見てくる目が昔見たことがあったからさ…」

「…………誰の目か聞いても大丈夫ですか?」

「ああ、俺の目だよ。一時期の千冬姉を見ている時の俺の目」

 

そう言って一夏は懐かしそうに話し始めた。

さてこっから先はあまり聞くべきじゃ無いだろうし聞こえない距離まで離れるか。

上を見ると4人とも下に降りてISを解いている。

まずあの4人がこっちに来ないようにとめるか…

そして俺はすでに立ち直って、さっきまでの行動を恥ずかしがっているシャルロットの手を引っ張りながら距離を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

あまり人を理解できるとは思わない。わかるのは、好きか嫌いかだけだ。

 

                           〜E・M・フォースター〜



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第八十七話 辞退の傷痕

一夏と簪が話をするために一度別の場所に移動するらしいので俺と他の五人も解散しアリーナを後にした。

そのあとは適当に三時くらいまで自室で時間を潰す気だったのだが………押しかけてきた箒たちに囲まれていた。

っていうか正直箒、セシリア、鈴、ラウラは予想していたがシャルロットも付いてきたのは正直予想外だった。

しかも少し雰囲気が重い……まぁ、だいたい理由はわかるけどな。

部屋の中に入れた後に適当に椅子に座らせる。

俺は自身のベットに腰掛けると、少し遠慮しがちにだが隣にちょこんとシャルロットも座ってきた。チラチラとこちらを気にかけながらも俺の隣に座っている。

俺としては『隣に座るくらい気にするなよ』っといった感じなのだが。

軽くどうぞ、と口に出さずに手で示してやるとほっとしたようににっこりと笑う。

それを見て俺は苦笑いしながら、話を始める。

 

「えっと、なんか僕に用でもある?」

「さっきの一夏と簪との話ってなによ、あんた私たちに隠れて色々やってたんじゃ無いでしょうね?」

「色々って………例えば何を?」

「簪さんが一夏さんに謝ってたことですわ」

「えーっと、詳しくは言えないかな?簪の個人的な話になるし。これは本人から聞いて頂戴」

 

俺がこう言うと二人とも渋々ながらも納得してくれたらしい、話が終わる。

しかし、あまり食らいついてこないってことは本題はこの後なんだろう。

そんなことを思い浮かべたのとほぼ同時にラウラが俺に話しかける。

 

「では、嫁の言っていたあの言葉はなんだ?私にとってはそっちの方が重要だ」

「あの言葉って?」

「嫁が教官を嫌っていたと言う話だ」

 

ラウラがこう発言するや否や、他の3人も真剣な顔で俺を見る。

シャルロットの方を見るとこいつも聞きたそうな顔をしている。

 

「全員これを聞きに来た感じ?」

「………ああ、そのとおりだ。だが本当なのか?あの一夏が千冬さんを嫌っていたなんて」

「まぁ………嫌っていたっていうか、すれ違いがあったってだけなんだけどね」

「……ソウ、詳しく聞いて大丈夫?」

「…ちょっとかんがえさせて」

 

シャルロットが上目つかいでこちらにたずねてくる。

畜生、微妙にだが動揺してしまった自分が恨めしい。

っていうかこれで話さなかったら俺悪役じゃね?この流れ。

まず何よりもそんな目で俺をみないでください。

とりあえずあまり気にせずに現在考えるべきことを本当に考えてみよう。

まずこの話についてはおそらく一夏はこの話を簪にも言うだろうし、こいつらに説明しても怒りはしないだろう。

多分、きっと、めいびー。

簪からしてみても、取り敢えずあいつ自身のことを表に出さない限り特に気にしないだろう………OSAはともかく。

頭のなかで考えをまとめると俺はすっと立ち上がる。

突然立ち上がった俺に対し、シャルロットだけがすぐに反応した。

 

「ソウどうしたの?」

「いや、話はするけど長くなりそうだからさ。お茶とお菓子でもだそうかなって。シャルロット、手伝ってもらってもいいかい?」

「うん、わかった」

「わたくしたちには何か手伝うことは?」

 

そう言ってすっと立ち上がるセシリア。

そういやセシリア紅茶いれるのうまいんだよな。

だが料理はまずい………なぜ!?

恐らく独自のアレンジさえなければまともな料理になるのでは無いだろうか?

そんなことを考えながらセシリアに言葉を返す。

 

「じゃあシャルロットと一緒に紅茶でもいれてくれない?僕はその間にお菓子の方を準備するから。他の三人は座ってていいよ。そんなにキッチン広くないし」

 

そう言って俺は動き始める。

紅茶やティーポットの位置はシャルロットが知ってるだろうし俺は菓子でも完成させよう。

簡単で、今すぐ出せるやつっていったら………そういやこの間作ったカンノーロの生地少し余ってたな。

カンノーロの生地自体は湿気てないし冷蔵庫にはリコッタチーズも余ってる。

適当にドライフルーツとナッツとで混ぜてつめてみるか。

動き始めるとキッチンの方をひょこっと鈴が覗いている。

茶菓子で、できあいの物を出さないで作りはじめたのが気になっているのだろう。

鈴自身、料理は得意な方だがお菓子などはあまり作らないといっていた。

と言っても向上心はあるらしく結構レシピとかは俺に聞きに来るけどな、特に一夏が美味いって言ってたやつを。しかしそれを一夏に食べさせたという話は聞かない。

ということはまだ納得の行く物はできてないんだろう。

まぁ行き詰まってるって言うなら聞きに来たらコツでもおしえてやるか。

そんな感じのことを考えていると鈴が近寄って話しかけてくる。

 

「奏、ちなみにお菓子はなに?」

「うん?あれだよ…うまいやつ」

「うまいやつって、ちゃんと説明しなさいよ」

 

説明するのを面倒くさがり適当に答える俺に呆れたように反応する鈴。

ちょっとからかってやるか。

俺は一旦『うーん…』と悩んだフリをした後、一旦手を止め鈴の方を向く。

鈴が反応する前にさっと左手を前にして腹部に当て、右手は後ろに回し執事のように会釈をしてみせる。

突然のお辞儀に『へっ?』と声をもらして驚く鈴。

 

「イタリアの伝統的なお菓子、カンノーロでございます。サイズも一口大と大きくないのでお嬢様にも食べやすく、紅茶にもあうかと」

「お、おじょうさま………」

 

お嬢様という言葉に照れているな。

笑いだしそうになるのを堪えながら次なるからかう言葉を考え、笑顔で再びからかうようにしてはなしかける。

 

「お嬢様、もしかしてですが他のお菓子の方が良いでしょうか?でしたら少し時間をいただければお作りいたしますが……」

「うぇ!?い、いや。それでいいわよ!!」

「かしこまりました、では少々おまちください…なんてね。なにてれてるんだよ鈴」

 

堪えきれずクスクスと笑い出してしまった。

鈴のほうはからかわれていることに気が付き、顔を真っ赤にしている。

ああ、おもしれぇ。

 

「そ、奏!!あんたねぇ!?」

「ははは、からかわれる方が悪い。取り敢えず座ってて待ってな、すぐにできるやつだからな」

「ちょっと!!」

 

そう言って未だに照れながら顔を真っ赤にして文句を言っている鈴を笑いながら俺は再び手を動かし始める。

さてこっちはどういう風に話そうか、そんなことを考えながら一夏たちの方がうまくまとまってくれているのを願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、取り敢えず簪はジュースでよかったか?」

「え?あ、ハイ…」

 

そう言って織斑君は私に缶のぶどうジュースを差し出す。

現在(わたし)と織斑君はアリーナの控え室に移動している。

織斑君曰く、『アリーナは二人で話をするのには広すぎる』ということらしい。

私としても余り人に聞かれたい話でもないので正直言って助かった。

控え室に到着すると私は椅子に腰掛けながら話のはじめ方を考えはじめた。

一方織斑君は自身のスポーツドリンクを飲んで一息ついていた後、私の向かいに座る。

 

「えーっと…簪」

「は、ハイ!!」

「正直言って俺話がまとまってないから言いたいこと全部言っていいか?」

「え?どういう意味ですか」

 

私が疑問を口にすると織斑君は頬を人差し指でかき、恥ずかしげに話し始めた。

 

「いや、ここに来るまでに色々どう説明したらいいか考えたんだけど…」

「だけど?」

「うまくまとまらないから一から説明させてもらっていいか?このとおり!お願いします!!」

「や、やめてください!?」

 

そういって織斑君は私に手を合わせ、あははと笑いながら頭を下げてくる。

織斑君の過去を関係のない私が聴くのだ。

寧ろ私が頭を下げて頼むのが道理のはずだ。

 

「まぁ、取り敢えず言いたいのは……俺は簪の気持ちは結構わかるって言っても部分的なところだけどね」

「部分的………ですか?」

「そ、部分的に」

 

気持ちはわかるとは一体どういう意味だろうか?

単純に考えると、織斑君は私の中にあるこの嫉妬のような感情を自身の姉に抱いていたとでもいうのだろうか。

そのように考えていると織斑君は少しだけ苦い表情をしたまま話し始めた。

 

「あ〜…まず俺が簪と似たような状況になった経緯から話させてもらう」

「…はい」

「まず…大体もう二年位前の話になるのかな?俺が奏に会って一緒に日本に来た頃の話なんだ」

 

苦い表情を崩さずに織斑君は思い出すように話し続けた。

 

「あの頃は…ほら、ちょうど千冬姉がモンド・グロッソを決勝戦で辞退したじゃないか」

「はい………すごい騒ぎになったのを覚えてます………」

 

確かにあの時期はすごい騒ぎになったのを私も覚えていた。

世論も織斑先生を擁護する側と非難する側に割れ、場所によっては暴動まがいのことまで起きかけた。

さらにその後先生は選手として引退、そのままドイツの方に教官として突然いなくなってしまった。

その行動がさらに疑惑を産み織斑先生が帰国するまで『ブリュンヒルデがドイツに取られた』なんて話まででていたはずだ。

しかしそのことが織斑君のことと何が関係あるのだろうか?

織斑君はこちらを見ずに話し始めた。

 

「千冬姉が決勝戦で辞退した原因は………俺のせいなんだ………」

「!?………どういう意味ですか」

「………俺がドイツに千冬姉の応援に行ったときに、俺が誘拐されてさ…それが原因で千冬姉は決勝戦を辞退したんだ…」

「ゆ、誘拐…」

 

これには流石に驚いた。

いくら国際的に優位に立つことができるほどの意味があるモンド・グロッソの決勝とはいえ、そこまでするのかという驚きと自分にそんなことまで話してくれることについてだ。

それを察したのか織斑君は慌てて話し始める。

 

「あ!一応これは秘密で頼むな!?言いふらすとは思ってないけど、これ本当は言っちゃダメなことだから」

「は、はぁ……」

「って感じで俺もその時期は千冬姉に申し訳ないわ、自分が情けないわで結構参っててさ…しかも千冬姉がいなくなって帰国するまでの間、俺の家に色々非難の手紙や電話………あと夜中に石を投げ入れられたり、他にも壁にも色々と落書きされたりもしてさ…」

「な!?…」

「本当はすぐにでも千冬姉に言って政府に頼るべきだったと今なら思うけど…その時は『どうして俺がこんな目にあわなきゃいけないんだ』って感じで逆に千冬姉を逆恨みしちゃってさ。もともとの原因は俺が誘拐されたせい…」

「それは織斑君のせいでもないじゃないですか!!」

「簪?」

「織斑君はただ巻き込まれただけでーーーっすいません突然声をあげてしまって…その…」

「いや、別にいいよ。寧ろありがとう、簪」

 

その言葉に私は納得できずについ口をはさんでしまった。

しかし織斑君は私に笑いかけながら許してくれた。

 

「でもさ、簪。これは俺のせいじゃなかったとしても千冬姉のせいでもないことだったんだ。誰が悪いとかじゃなくてね」

「………」

「でも俺はその時は完全に千冬姉のせいだって思い込んでてさ、千冬姉に一切連絡も取らずに学校に行く以外は家に閉じこもってやり過ごしてた。学校では空元気みたいにして見せてさ、バレたら友人に心配されるとおもってさ」

「………どうやって解決したんですか?」

「あ〜…ここからが俺が簪と同じになった話なんだ。あと、ごめん俺一つだけ嘘ついてた」

「?嘘って………」

「俺が簪と同じ感情を抱いたのは千冬姉じゃなくて…奏なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ここまでで質問は?」

 

箒たち5人に事の経緯を途中まで話し終えた後一息つくように俺は紅茶をすする。

うん、俺が入れるより全然うまい。

箒たちの方を見ると箒とセシリア、シャルロットはしんみりとしたようにうつむいている。

逆に鈴とラウラは怒ってらっしゃる。

特に鈴はその時期の一夏の近くにいたのだ。

恐らくだが気がつかなかった自身にも怒りを覚えているのではないのだろうか。

そんなことを考えていると鈴の怒りが爆発した。

 

「っ……あ・の・大・馬・鹿・は!!!」

「ちょ、ちょっと鈴!?落ち着いて!?」

「落ち着けるわけないでしょうが!?あの頃はどうもおかしいと思って色々と聞いてたのに!!!」

「わかった、わかったから!?少しだけでいいから落ち着いてください!?続きが話せないから!?」

 

ドウドウとなだめるようにして鈴を一旦抑えさせる。

多分この怒りは後で一夏に向かうんだろうな………南無。

心の中で一夏に違う宗教の祈りを捧げた後に続きを話し始める。

 

「そんな時期かな?僕が日本に住むための手続きが終わって一夏と同じ中学に入学したのは。いや、あいつ本当にうまく隠してたよ。知らない人だったら千冬さんが外国でうまくやってるか心配で顔色が悪い。俺みたいに事の経緯を知ってる奴や国の役人さんには自分のせいで千冬さんが外国に行ったのを気にしてる風にしてさ、顔色は悪かったけどなんとか隠してた」

「ソウはどうやって気がついたの?」

「………気がついたのは本当に偶然…いや、必然て言えば必然なんだけどさ一夏が追い詰められすぎて倒れたんだ。これ千冬さんには秘密ね」

「た、倒れたって!!一夏は大丈夫だったのか!?」

「落ち着いて箒。大事にはいたらなかったから。学校で倒れて、僕と弾……ああ、弾っていうのは僕と一夏の共通の友人でね」

「そんなことはどうでもいい。奏兄、話の続きを」

 

そんなこと扱いのうえどうでもいいらしいぞ、弾。

まぁ確かに話の本筋としては関係ないか。

俺は苦笑いしながら話を続ける。

 

「一夏の家に一度荷物を置きに行ったんだけど唖然としたね。一夏の家はわかるだろ?あの家の中にとんでもない量の……それこそ足の踏み場もないような郵便物と壁に投げつけられたようにして落ちてる電話機。僕と弾の二人で家に入った瞬間固まったよ」

「っ……国の役人は何をしてたんだ!!」

「一応先に言っておくけど仕事をしてなお、その量だったんだよ」

「なっ!?」

「後からわかったことだけど日本政府の方でもあらかじめどう見ても悪意のある手紙や荷物は検査してたんだけど……直接家の郵便受けに入れられたりファンレターみたいな綺麗な便箋で中身がとんでもない内容とかね。まぁよく思いつくなっていうやり方だったものはどうしても全部防ぐことはできなかったんだ」

 

これは後になってからわかったんだが政府の方でも荷物検査や不審者の検挙など警備を行っていたのだが被害を受けていると一夏が言わなかったため発見が遅れたのだ。

 

「話は一夏のことに戻るけどその後にすぐさま一夏の元に言って事の経緯を聞きただしたよ。あの時はじめてだったね。弾と数馬が本気でブチ切れてたのを見たのは。おかげで僕が怒るタイミングがなくなった位」

「…そんなにすごかったの?あの二人の怒りよう」

「うん?ああ、そっか。鈴は二人とも知ってるのか。本当に凄かったぞ、数馬は役人相手に殴りかかるんじゃないかって感じた位だし、弾は弾で正面から厳さん食って掛かっていった位だしな」

「弾が厳さんに!?」

「すいません、鈴さん奏さん。話の続きを聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「ご、ごめんセシリア。本当に考えられないことでさ」

「あ、悪い。鈴以外にはわからないはなしだったな」

「いえ、わたくしのほうこそ、お2人の話に入りこんですいませんでした」

 

セシリアが申し訳ないようにしているが、まぁこいつらの中で今イメージしている一夏は倒れたまんまだしな。

焦るようにして先が聞きたいのもわからないでもない。

紅茶を一度口に含んだ後に話を続ける。

 

「まぁそんなこんなで一夏の状況がわかって改善させていったんだけど…俺たちの間でひとつだけ気になることができてさ」

「なんなんだ?その気になることとは」

「あいつ千冬さんに一度も連絡取らなかったんだ、その時期。はじめは心配をかけないようにしてたんだろうって考えたんだけど落ち着いた後もそのままでさ。心配になって問いただしたんだよ……弾が」

「あんたじゃないのね……」

「いや、だってその時期は一夏とあってまだ3ヶ月も経ってない頃だよ?流石に弾の方が適任だったんだよ」

 

申し訳なさそうに俺は頭をかく。

一応言い訳をさせてもらうと一夏がおかしいと気がついたのは俺が一番初めだったし問いただすように頼んだのも俺だ。

だが実際に動いたのは弾なのでこれは話す必要はないだろう。

 

「で聞いてみると自分の中で感情がごちゃごちゃになってたんだろうな。えっと…『今千冬姉に電話したら言わなくていいようなことまで言ってしまいそう』だったかな?そんな風にしてさ連絡とってなかったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「そんな風に言い訳して俺は千冬姉から逃げてたんだ。どうせ千冬姉には俺の気持ちなんてわからないって」

 

俺の話を何も言わずに簪は聴き続けていた。

さて、そろそろここからが本題だ。

この話は誰にもしたことがない。

俺が今まで胸の内側に秘めていた感情だ。

 

「まぁその後は弾、数馬、奏と話し合って色々と自分の中に溜まって他ものをぶちまけてさ。なんとか自分の感情を落ち着かせたんだ」

「………その時の話し合いで?」

「ああ、俺は奏に嫉妬?みたいな感情を持ったんだ。あいつって凄い強いし優しいじゃないか。」

「はい、まるでヒーローみたいです」

「ヒーローか…確かに。俺の感情を否定しないし…あいつ俺が千冬姉を逆恨みしてるっていった時なんていったと思う?」

 

そう言って織斑君は私に質問してくる。

私は何も思い浮かばず首を振った。

 

「『一夏って……本当にシスコンだな』だってよ。なんでも本当に逆恨みしてるなら現状を千冬姉に言うのが一番の嫌がらせになるのに、それを思いつきもしないっていうのはよっぽど相手を大事に思ってないと無理なんだと」

「……奏さんらしいものの見方ですね…」

「なんていうかそんな風に相手を優しく受け入れられるあいつが羨ましくって、でも気に食わなくて、そんな感情を恩人で友人、その上俺のことを心配してくれている相手にそんな感情を持ってる自分が情けなくて………簪はわかるか?」

「…はい…私も織斑君と同じです…そんな感情を持ちたくないのにどうしても抑えられなくて…そんな感情認めたくないのに否定することもできなくて……」

「どうしようもない感情なんだよなぁ………あれ………しんどいわ情けないわ、その上俺なんか恩人相手にそう考えてたんだぜ?どうしようもないよなぁ…」

 

そう言って織斑君はため息を付く。

本当にこの感情は苦しいのだ。

しかし織斑君はどうやってこの感情を押さえ込んだんだろうか?

聞きたい。

聞いてどうすれば私のこの感情を抑えられるのか示して欲しい。

意を決して織斑君に聞いてみる。

 

「織斑君………あの、織斑君はどうやってその感情を押さえ込んだんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーってな感じで一夏の愚痴を聴き続けてようやく元通りとはいかなくても持ち直す位までは戻れたんだ。そのあとは私生活で持ち直すまで弾たちと連携とってさ、なんとか千冬さんの帰国までには元通りになったってかんじだね」

 

よし、一通り話し終えたぞ。

後はこいつらの疑問に答えてやるだけだ。

しかし、今考えてみるとこの事件に束は関わって無いような気がしてならない。

原作だとどうだったかな?ここんところますます靄が掛かって来て仕方ない。

そんなことを考えていると紅茶を飲んで一息入れて入れた後にシャルロットが俺に聞いてくる。

 

「それがソウの思う一夏が織斑先生にもってた感情なの?」

「あ〜…あと、これは僕の勝手な考えだけど多分あいつ僕にもいい感情持って無かったと思うんだ。だから簪の一夏への気持ち云々は多分僕に向けての感情だろうって考えてるんだ」

「へ?なんで一夏がソウを嫌いになるの?」

「いや、まぁこれはその場にいた俺たちしかわからないと思う。けど他の二人とも同じように感じてたから多分間違いない」

 

そう言って適当に答えるが大体はわかる。

自身を責めている時に何もかもわかったようにして自身を受け入れられ続けるのは結構きついのだ。

だがあの時の一夏は完全に自身で自分が悪い、もしくは千冬さんが悪いの2択しか頭になく、そのまま思考が停止していたため持ち直すまであいつの考えをいい方に肯定し続けた。

その後持ち直したら今度はあいつの考えの方を優先したけどな。

 

「だから多分一夏の頭のなかでは簪が自分、千冬さんは生徒会長、で一夏のポジションに僕なんだと考えてるんじゃないかな?なるほどだからあいつ簪の気持ちに自分から気がつけたのか。」

 

そう言って俺は一人で勝手に納得していた。

あいつ自分がそうなったことがあってそんな感情を誰かに抱かせたくないって考えたんだろう。

そしてそこには一片の恋愛感情は混ざらない。

ならば一夏ならうまくやるだろう。

俺としては納得したのだが周りは納得はいかないようだ。

箒は少し考えた後俺に話しかけてくる。

 

「ちょっとすまない。奏、話を整理させてもらえないか?」

「ああ、いいよ。まず始まりは一夏が千冬さんに抱いた感情」

「はい、それは織斑先生に申し訳ないといった感情でしたわ」

 

セシリアはそう言って話を引き継いでいった。

ラウラも続くようにして話し始める。

 

「その後に嫁の元に大量の悪意ある電話や郵便が来た」

「私がいなくなったのはその辺りね」

「そうだね。んで鈴がいなくなった後に僕が入れ替わるように入学、その後一夏が手紙に参って倒れちゃう」

「そこでようやく一夏の状況が改善していった、が一夏の感情の整理はついてなかった」

「そこで奏兄含め三人で問いただしなんとか持ち直したという話だな」

 

たぶんそこで話は終わりのはずだ。

しかし周りは納得していないように見える。

なにが納得いかないんだ?シャルロットが俺に首を傾げながら聞いてくる。

 

「ねぇソウ。そのことを織斑先生は知ってるの?」

「ここまで大事になったことは知らないはず」

「一夏が立ち直った理由は?」

「それは一夏に聞いてくれ。流石にわからないよ。」

 

そう言って俺はわからないと言った風に首を振る。

実際俺も何が原因で立ち直ったかわからないし。

しかし彼女たちはもしかしたらこうではないかと言った風にしてお茶会を続けていくのだった。

 

 

 

 

 

人は悲しみを分かち合ってくれる友達さえいれば、悲しみを和らげられる。

〜ウィリアム・シェイクスピア〜



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第八十八話 Wake Me Up

アリーナの控え室では()と織斑君の二人だけで話していた。

織斑君に聞いた『嫉妬を抑え込む』方法。

これがわかれば私もお姉ちゃんと正直に向き合える。

そんな私に対し織斑君は考えるような姿勢のまま話し始めた。

 

「うーん…抑え込むって言うか…これは俺の考えなんだけどさ、嫉妬っていけないことなのか?」

「……どういう意味ですか?」

「いや、自分以外の誰かに被害が出るようなのはそりゃダメだろうけどさ、嫉妬にも自分を奮い立てるようなものがあるじゃないか」

 

そう言われても私にはしっくりこない。

織斑君はうーんと唸って考えている。

そして考えがまとまったのか話し始めた。

 

「例えば…俺はあの時の奏に嫉妬したけどさ、それって俺が奏みたいになりたいって感じたことだろ。だったらそういう風になるように頑張ればいいんじゃないか」

「でも………同じになれなかったらどうするんですか?」

 

どんなにがんばってもできないことはできないのだ。

自分も姉に近づきたいと思い今も挑戦している。

だがなに一つとして姉には勝つことができていない。

このままでは、いつまでたっても私はお姉ちゃんの隣に立つことが………

そんな事を考えていると織斑君はキョトンとして話し始めた。

 

「いや…初めから同じにはなれないだろ?」

「え?」

「どんなにがんばったって俺は俺なんだ。千冬姉に勝ちたいから千冬姉と同じになっても意味ないし、奏にしたって、俺は奏になれないし奏と同じことをしたってまったく同じにはなれないだろ?………あれ?俺おかしいこと言ってる?」

 

そう言われはっとした私を見て織斑君はなにか間違ったことを言ったのではないかと考えている。

すぐさまそういうことではないと言いたかったがそれどころではなかった。

そういう風に言われたのは初めてだった。

今まで必死に姉の背中を追いかけていた。

周りから姉と比べられ、失望され、でも私は足掻き続けた。

周りの声は聞こえないふりをしていたがそれでも陰口は嫌でも聞こえた。

『姉の劣化品』や『専用機を手に入れられたのも姉の七光り』。

『ムダな足掻きが好きな子』『頑張ってるふりをしているだけ』なんて嫌味もかなりいわれた。

そんな私でも初めから『同じにはなれない』と真っ直ぐ悪意もなく言われたのは初めてだった。

 

「……織斑君…」

「え?ごめん俺なにか変なこと言った?」

「………もし織斑君の目の前に私よりもっとすごくて…強くて…綺麗な女の人がいたら……私とどちらを選びますか?」

「え?簪の方」

「………何故?」

「だってそんなこと言われたってその………そのすごい人のことしらないし」

「じゃあ……知ってる人でいいです。私よりすごい人とどちらをーーー」

「いや、誰がいようとそいつはそいつ、簪は簪だろ?選ぶもなにもないさ」

 

そういうことではないのだ。

だが自分のなかでもうまく考えがまとまらい。

何かずれた答えを言っているのかと織斑君は首を傾げている。

ということは、織斑君は本気でこう思っているということなのだろう。

信じることができない私の口から否定の言葉が溢れる。

 

「嘘…私が………なんの取り柄もない私よりーーー」

「?いや、簪に取り柄がないってそれこそ嘘だろ?」

「私は……なに一つお姉ちゃんに優ってないのに………」

「えーっと…俺簪のお姉さんにあったことないけど俺にしてみれば簪はすごいやつなんだけどな」

 

私が……すごい?

そう織斑君はさも当然のことのように話し始めた。

 

「一人でIS作ろうって頑張ってるし」

「でも…完成させれないですし……結局一人で作ってません」

「いや、普通そうなんじゃない?寧ろ授業で聞く限り一つの会社であらゆる協力を得てつくるもんなんだろ?それに比べたらかなり少人数で作ってるし。何より俺の白式なんて作ってもらったのをもらっただけだからなぁ…整備や本当に細かい設定はいまだに一人で満足に行えてないし」

「それでも………私はお姉ちゃんに負けたくないんです」

 

そうだ。

私はなにか一つでもお姉ちゃんに勝たないといけないのだ。

そうしないと私はお姉ちゃんの隣にいられない。

そう考えると自身のスカートを強く握りしめてしまう。

そして心が何かに縛られて重くなっていく。

織斑君は少し考えた後ボソボソと話し始める。

 

「なぁ…簪」

「…はい」

「話を聴く限りお前が負けたくない相手ってお前の姉さんでいいんだよな」

「……はい、その通りです。」

「じゃあ挑んで見たらどうだ?勝負」

「へ?」

 

突然の言葉に私は変な声を上げる。

一方、織斑君は名案を言ったようにして声をだしている。

 

「だってあれだろ?生徒会長って学園最強なんだろ?で誰からの挑戦も受けるんだろ。奏もそんなことを言ってたし」

「で、でも……」

「一回挑んでみればどれくらい離れてるかもわかるし何より明確な目標ができるじゃないか」

「じゃ、じゃあ織斑君はどうなんですか!?織斑君も自分のお姉さんの織斑先生より強くなりたいんですよね!?」

 

負けずに言い返した後にハッとする。

これではまるで自分がお姉ちゃんから逃げているようではないか。

それに織斑君のことは今は関係ない事だ。

わざわざ話しを聞いてもらっているのにこんな言い方では駄目だ。

しかし織斑君はそんなことは関係なしに話し続ける。

 

「俺の場合は千冬姉と戦うためにはまずモンド・グロッソで優勝しなきゃダメなんだよ。」

「………へ?」

「いや、一度千冬姉と戦いたいって言ったら『せめて私以外のものを全て倒した後にしろ。そしたら勝負してやろう』って言われたんだ」

 

この人は何を言っているのだろうか?

いや、言っていることはわかるのだが、まさかすでに戦いを挑んでいるとは思わなかった私は唖然とする。

まだISに乗って半年ほどの新人が元とはいえ世界最強に挑むとは………もはや勇敢を超えて無鉄砲、もしくは考え無しなのではないだろうか?

しかし私の考えていることに気がつかず織斑君はさらに話し始める。

 

「だから俺は考えたんだ。だったら自分より強い奴を一人一人倒して行けばいつか千冬姉とも戦えるんじゃないかって。そのために今は目の前の目標に挑み続けてるんだ。まずは学園で最強になることだな」

「………私のお姉ちゃんを倒すことですか?」

「いや、俺簪のお姉ちゃんしらないから………多分そのお姉ちゃんに負けず劣らずに強いだろう…『風音奏を在学中に倒す』これが今の俺の目標かな。あ、ちなみ奏には秘密な」

 

確かに………今まで考えたことはなかったが自身の姉と奏さん………

戦ったらどちらが勝つのだろうか?

恐らくお姉ちゃんのほうが勝つという人が多いだろうが、奏さんの銀の福音の時に見せたあの動き…

正直どちらが勝つかわからないというのが本音だ。

しかし…一応織斑君には明確な目標があるのだ。

そう言われてふと自分のことを見直してみた。

確かに私はお姉ちゃんに一つだけでもいいから勝ちたい。

しかし一度でも正面から挑んだことがあっただろうか?

ISの開発だってお姉ちゃんにしっかりと挑んだわけではない。

………そうか、私は今まで自分のなかで煮詰まっていただけでお姉ちゃんに挑んでなかったんだろう。

考えがまとまった時にちょうど織斑君がこちらに話しかけてくる。

 

「どうだ簪?考えはまとまったか?」

「はい…私も一度、お姉ちゃんに挑んでみます」

「よっしゃ!!頑張れよ簪!!応援してるからな」

 

私が姉に戦いを申し込むことを決めたら、織斑君が何故かまるで自分の事のように喜んだ。

それを見て私が不思議に思っているのが顔に出ていたのか織斑君は少し照れながら理由を説明してくれた。

 

「いや、俺勝手に簪の事を俺と同じ、姉に挑戦している仲間だって感じててさ。なんか他人事の気がしないだ」

「………私、織斑君の事嫌ってるって言いましたよね」

「あれ?………それ今も続いてた?」

 

そう言って織斑君は顔を青くする。

多分かなり馴れ馴れしくはなしたことを怒っていると思ったのだろうか。

私は笑いながら訂正する。

 

「違います……しっかりと謝ろうと思っただけですよ。織斑君勝手に色々と悪く考えてしまってごめんなさい」

「いや、それは初めから気にしてないよ。そっか、よかったぁ。奏から『お前は女性に馴れ馴れしいところがあるから気をつけろ、無理だったとしても頼むから僕を巻き込まないでくれ』って言われてたんだよ。なぁ簪、これどういう意味だと思う?」

「あ、あはは……」

 

笑ってごまかすことにした。

織斑君はそれに気がついていないのかキョトンとしている。

しかし話してみると少しは心が軽くなった。

………お姉ちゃんとも正面から話してみれば少しは心が軽くなるだろうか?

そんなことを考えながら私は織斑君との会話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーと言うことで簪は生徒会長の………楯無さん?に挑むことになったから』

「お、おう………」

 

一夏からの電話を受け少し焦りながら対応する。

電話を受けた時、丁度俺は楯無との約束の時間になり、シャルロットと共に丁度生徒会室に入った瞬間だった。

しかもこいつ、何処か興奮していて声がでかい。

一応部屋の隅で楯無に背を向けて話してるがぶっちゃけコレ楯無にも聞こえてそう………

恐る恐る後ろを向くと………

笑顔のまま固まったOSA.楯無がいた。

いや、気持ちはわかるが動揺しすぎじゃね?

しかし現在部屋の空気は最悪である。

それを知ってか知らずか、まぁ知らないんだろうけど最悪のタイミングで一夏は明るく大きな声で話し続ける。

 

『簪とも仲直りできた…いや、ようやく仲良くなったのか。それに簪も吹っ切れたみたいでかなり元気良くなったし、更に楯無さんを倒すって凄い意気込んでるぜ!』

「あ、ああ。そうか…」

『おう!!本当にいい事づくめだな!!』

 

こっちはいい事づくめどころか葬式会場状態だよ!!

OSAのやつなんてだんだん顔色悪くなってきてるぞ!?

このままじゃヤバイ、とりあえずことの経緯を詳しく聞かなければ………

 

「お、おい一夏」

『ああ、詳しくは部屋に戻ってからだろ?お前3時から予定あるって言ってたしな。でも簪のことお前かなり気使ってたから早いとこ伝えておこうと思ったんだ』

「そ、それはありがたいんだが………」

『まぁ要件はそれだけだ。じゃあ俺もこれから訓練だから、またな‼︎』

「ま、待て!!きる………あいつ本当にきりやがった」

 

糞!こんな時ばっかり気使ってるんじゃねぇよ!?

あいつ最近は訓練中は携帯の電源きってるから今折り返しても連絡つかないし………

またもや後ろを向くとあっちゃ〜と言ったように頭を抱える虚さんに苦笑いの本音とシャルロット。

OSAの方はうつむいている………

ど、どうするこの空気………

言葉を発することなく1分たったあたりで楯無から声が聞こえ始める。

 

「……ふ………」

「………えっと…た、楯無さん?」

「ふ………ふふふ…………うふふ……生徒会長は…だれからの……挑戦も受けるわよ」

 

笑い声のように声を発そうとしているが、笑い切れておらず正直怖い。

周りのみんなそうらしくみんなジリジリと引いている。

そんな中ゆっくりと顔を上げたOSAの顔を見ると………………泣きそうだ。

しかも両目いっぱいに涙を浮かべ、今にもこぼれ落ちそうだ。

やべえ。ガチ泣きだ…

これには布仏姉妹も驚きらしく目を丸くしている。

そんなことを気にせずに楯無は話し続ける。

 

「あ、あの子がいつか、こ、こういう風に、するのは、そ、そう…ぞうしてたし…」

 

ヒクッヒクッと嗚咽を上げながら話すOSA。

これヤバイんじゃねぇの!?

付き合い長そうなあの虚さんもオロオロしてるし!?

シャルロットと本音に至っては俺をすがるような目で見てるし!?

いや、流石に無理よ?

泣いてる女の子の相手とか?

しかしそんなことを言っている場合ではないことも確かだ。

………やるしか無いか。

息を飲んで、覚悟を決め話しかける。

 

「あの〜………楯無さん?」

「………なによ」

「大丈夫?」

「………………風音君?」

「ハイ、なんでしょう」

「…………」

 

息を飲んで次に発せられる言葉に生徒会室の全員で身構える。

そこには確かに、さながらなにも言わなくても目配り一つで分かり合える戦友のような連帯感があった。

 

「ねぇ、風音君?………」

「会長、まず落ち着きましょう」

 

まず落ち着く様に言い聞かせる。

呼び方もあえての『会長』で自身の立場を再認識させる。

頭のいいこの人だ。

これである程度は察してくれるはず。

それを聞いた楯無は一度深呼吸をした後俺と向き合う。

成功したか?

 

「……………………どうしよう。かんちゃんに本当に嫌われて見捨てられちゃった………」

 

そういうのと同時に楯無の瞳から涙が溢れる。

ダメだったぁぁああ!!??

もう涙がポロポロとこぼれ見ていて痛々しい。

ヤバイ!!この状況本気でヤバイ!!

って言うか完全にトドメさしたの俺じゃね!?

周りの目線が痛い!!

なんとかしてここから持ち直さねば!!

 

「イヤイヤ!!なんでそうなるの!?」

「だって………か、かんちゃんが……私と……戦…うって………それも凄い意気込んでて……………元気も出たって………」

「違うから!!それ、ちゃんと簪なりに考えての行動だから!!」

「……………本当に?」

「…………多分」

 

自信が持てずそう言ってしまうと今度は本気で声を上げて泣き出しそうだ。

ヤバイ。周りの全員の顔が青くなる。

シャルロットも焦り始め先ほどの発言を咎めた。

 

「ちょっと、ソウ!?」

「ご、ごめん!?でも僕もその場にいたわけじゃ無いし…でも高確率で簪は楯無さんのこと嫌ってないから!!」

「………なんでそう思うの?」

 

楯無に恨めしそうに睨まれながら聞かれる。

落ち着け、俺。

落ち着いて楯無を説得するのだ。

最早自分で気づいてもらうなど言っている場合ではない。

 

「まず……楯無さん。根本的になんでこんな状況になったか、どう考えてますか?」

「それは、私が、かんちゃんのことを………怒らせちゃったから」

「はい!!そこがまず違う!!簪は一切楯無さんを怒っていません!!」

「「「え?」」」

「………本当に?」

「これは自信を持って本当と言えます」

 

実際のところそこの認識からして違うのだ。

簪は喧嘩をしているつもりはなく、ただ『楯無に無能と思われている』と考えて、その現状を変えたいと思っているのだ。

一方楯無は『簪のことを怒らせて嫌われた』と思っている。

だからこそ簪に好かれようと何かと楯無が簪を手伝う。

しかし簪からしてみれば自分がなにもできない無能だと思われてると感じますます楯無に劣等感を感じ暗くなり距離を置く。

それを見て楯無は『余計なお世話をするな』と思われていると思い、手を出さなくなる。

そして楯無の介入が、自分が楯無に劣等感を感じてすぐ突然なくなり『私は何もしないでいろ』と言われてると感じ、それでも楯無と共に居たいと思いあがく…がそんな精神状態では上手くいくものもいかなくなる。

二人とある程度会話や触れ合ってわかった事だ。

恐らくあっているはずだ。

そのことを楯無にあまり刺激しないように優しく説明する。

 

「ーーーと言った感じで喧嘩自体起きてないんですよ。ただ悲しいすれ違いがあっただけで」

「………でもソー?」

「何、のほほんさん?」

「もしそのとおりだったとして、なんでかんちゃんは今になっておじょーさまに戦いを挑んだの?まだ弐式は完成しきってないんでしょ?普通、タイミング的に完成してから挑むと思うんだけど」

 

ああ、確かに普通ならそうだろう。

タイミングを考えるなら、弐式が完成し、全力で戦えるようになってからだろう。

だが今回はあの織斑一夏(無鉄砲なお人好し)が間にいる。

 

「そこは我らがクラス代表がなんとかしてくれたのさ」

「おりむーが?」

 

そう言って考え込むというか疑っている本音。

普段の一夏だけを見ていればまぁ、想像つかないだろう。

しょうがないかと感じながら、はにかむように笑いながらはなしをつづける。

 

「こういう時の一夏はかなり信用がおけるよ。現に簪ちゃんのこと説得しただろ?」

「そうなんだ。でもなんでソーがかんちゃんのこと、説得しなかったの?」

「一夏と簪ちゃんは結構似てるからかな?僕が言うより同じような姉がいる一夏の方がうまくいくとおもったんだ」

「ふーん…」

 

そう言って再び考え込む本音。

さて、そろそろ生徒会室に来た目的。OSAとの話をせねば。

そう考え楯無に目を向けるが、未だにうつむいたまま復活していない。

あれ?この人こんなにメンタル豆腐だったけ?

むしろここらへんぐらいで立ち直って俺かシャルロット辺りをいじってくると思ったんだが?

拍子抜けしながらもとりあえず立ち直ってもらわねばと動く。

 

「そういうわけで会長。とりあえず簪ちゃんに嫌われたわけじゃないってことはわかった?」

「……うん」

「で、何が未だに不安なんですか?」

「………私、あの子にどう対応すればいいの?」

「いや、本気で戦ってあげればいいんじゃないんですか?」

「…嫌われない?」

「むしろ手を抜いたほうが嫌われると思いますよ?簪ちゃんは楯無さんと対等になりたいんだと思いますし、何より自分と楯無さんとの実力差を知りたいってのもあるでしょうしね。今回は実力差を知りたいってのがメインで初めから勝てるとは思ってませんよ。ただ負けたくないだけでね」

 

俺がそう言うと周りの全員が首をひねる。

勝てないけど負けないというのがわからないのだろう。

そのまま不思議そうな顔でシャルロットが訪ねてくる。

 

「勝てないけど負けないってどういうこと?」

「ああ、簪ちゃんにとって勝ちは『姉と対等だと自分の実力で示すこと』で、 負けは『諦める』ことだろうからね。別に試合で負けることなんて関係ないだろうよ」

「かんちゃんがそう考えてるの?」

 

俺がそう言った後に本音が訪ねてくる。

ちょっとしつこいくらいだがそれだけ心配なんだろう。

ここは正確に説明したほうがいいかな?いや、あえてしないほうが良いな。

 

「いや?多分一夏がこういう風に持ってってくれるはずさ」

「おりむーが?……そーの事を疑ってるわけじゃないけどほんとー?」

 

そう言ってまたもや怪訝な顔をしている。

あれ?なんでそんな顔に?

そう考えていると虚さんから質問をされる。

 

「あの…風音君。織斑君について聞いてもいいでしょうか?」

「はい、僕が知ることなら」

「織斑君はこのようなことの対応が得意なんですか?」

「いえ。むしろほとんどの場合火に油を注ぎますね」

「え?」

 

そう言うと虚さんは頬を引つらせる。

女性関係の問題ではあいつは持ち前のデリカシーのなさと空気の読めなさで、俺の頭を痛めつけてくれる。

だが今回は女性問題ではないのだ。

言うなれば虚さんに対してこう言う必要は無い。

だが俺の今までの一夏に苦しめられた経験があいつはこういうことが得意だと言うのを拒んだのである。こればかりは仕方ない。

と言っても勘違いされても困るので、下手に勘違いされる前に話を進める。

 

「でも今回は一夏はおそらくこの学園内で一番簪ちゃんを説得していい方に持っていけると思いますよ、自分のことみたいに考えてますから、あいつ」

「なんでですか?」

「詳しいことは言えませんが、あいつはここぞというところでは間違いませんから。そこだけは信用してやってください」

 

そう言って周りに笑いかける。

一応納得させられたかな?

周りを見渡してみると虚さんと本音はある程度納得してくれているみたいだ。

シャルロットは……まぁ、初めから信じてますよってな感じなこと考えてるな。

さて楯無の方は……未だに顔を上げない。

あれ?これ結構ヤバイ感じ?

ちょっと楯無の気持ちを考えなさすぎたか?

本編と比べ、簪の方に余裕を持たせてやろうと思って動いていたが楯無のほうは余り気にしてなかったな……

いや、だってさ本編だと楯無のほうは結構余裕そうだったじゃないか。

あれって結構いっぱいいっぱいだったの?

今になって本気で焦り始める俺。

あたふたしながら楯無を説得する。

 

「あの〜……楯無さん?確かに楯無さんが望んでいた仲直りとは違っていたかもしれません」

「……」

「ですが言うなればこれは仲直りのための儀式みたいなもんです。今は苦しいかもしれないですが、これを乗り越えれば必ず仲直りできるはず」

「……」

 

そう言ってみたものの正直なところどうなるかはわからない。

多分俺の考え通りならば、一夏から戦う事が目的では無く手段だと感じとってくれるはず。

そして戦いの後にでも面を向けて話し合えば結果は関係無しに仲直りできるはず。

後は楯無の戦いに向けたコンディションだが……

現在控え目に言って最悪である。

大半は俺のせいなのでかなり気が引けるが、すぐにでも立ち直ってもらわねば。

 

「だから楯無さんも元気出してくださいよ、ね?」

「………」

 

反応は無い。

参ったなぁ、どうしようか。

周りを見てもみんなそっぽを向いて助けてくれない。

俺がどうしようかとオロオロしている、そんな時楯無がぼっそと声を出した。

 

「…ぁ…ぃ…」

「なんですか、楯無さん」

「………やっぱりいい……」

「いえいえ、遠慮しないでなんでも言ってください。僕ができることなら頑張ってみますから」

「……甘いものがいっぱい食べたい」

「……はぁ…僕の部屋にある手作りのやつでよければ持ってきますが」

 

そう言うと楯無が顔を上げる。

満面の笑みでだ。

…………え?なんで?

泣いてたんじゃないの?

 

「いやぁ。やってみるものね、泣き真似。あなたがオロオロと戸惑う姿も見れたし、ようやくあなたから一本取れたわね」

 

そう言って笑いながら扇を広げパタパタと扇ぐ。

そこには「大成功」の文字が書かれてあった。

……はめられた。

驚きながらげっそりとし、周りを見ると布仏姉妹は途中から気がついていたようだ。

虚さんはため息をつき、本音に至っては『大成功‼︎大成功‼︎』と繰り返しながら笑っている。

シャルロットは……あはは、と笑って誤魔化そうとしてやがる。こいつも気がついてたな。

畜生、要は騙されてたのは俺だけってことか……

楯無が笑いながら言葉を続ける。

 

「いやぁ……今思い返すと長かったわね」

「……なにがっすか…」

「あなたから一本取るのよ。あなたってばなんだかんだで最終的に私をいじって話を終わらせるじゃない。そこが少ぉぉぉぉしだけ悔しくてね」

「……そっすか…」

 

もうこっちとしてはかなり気が抜けた。

いや、勘弁して下さい。

っていうか絶対少しじゃないよな。

実は結構悔しがってただろ、あんた。

楽しそうに笑いながら楯無は話を進める。

 

「それに噂のお料理上手な風音君のお手製お菓子を食べてみたかったのよねぇ。今の所一年の専用機持ちしか食べてないっていう噂の絶品」

「……さいですか…」

「けっこうレアものなのよ?それこそ食べたっていうだけである種のステータスになって妬まれかねないぐらいに。まったく、こんなことで問題が起きたらどうするつもり?」

「………」

 

しらんがな、そんなこと。

いや、単なる趣味のレベルのお菓子よ?

この学園のお嬢様がたならもっといいの食べてるでしょ?

これもからかわれているのだろうか。

そんな風に疑心暗鬼になっている俺を見て、楯無は満足したのか扇を閉じ話し始める。

 

「じゃあ、私と簪ちゃんの話しは終わりにして本来の予定通りの話しをしましょうか。虚ちゃん、紅茶お願いしてもいい?」

「かしこまりました。あと風音君」

「……はい…」

「…ご愁傷さまです」

「……はぁぁぁぁぁ……」

 

哀れむような表情と共に肩に手を置かれる。

虚さんにとどめを刺され盛大にため息をつき肩を落とす。

畜生、今回は完全敗北だ。

その後、楯無と本音に急かされ俺は自室にお菓子を取りに行くことになる。

その時虚さんがボソッと『クリームあるのかなぁ……』と言っているのが聞こえた。

期待しているのか、それとも苦手なのだろうか。

まぁ両方持って来ればいいか。

てか虚さん、けっこう見た目によらず甘いもの好き?

まぁ今は関係ないのか。

そのまま俺は部屋を出て自室にお菓子を取りに戻るのであった。

 

 

 

 

 

弱さの勝利。この武器を扱うのは女性が達者だ。

〜ロマン・ロラン〜

 




お久しぶりです。
書き始めたら止まらず、気がついたら約一万文字。
……久しぶりということでどうか一つm(_ _)m


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第八十九話 生徒会室会議

俺が持って来た茶菓子を虚さんに渡した後ソファに腰掛ける。

持ってきたものはクッキー、マドレーヌ、一口大のガトーショコラとパウンドケーキ。後はホイップクリームなどでデコレーションしたカップケーキである。

来る途中に人に合わないかヒヤヒヤしながら運んできたためけっこう疲れた。

別に俺の手作りお菓子がステータス云々を気にしているわけではなく単純に簪にばれたくないだけである。

……気にしていないというのは正直に言うと嘘だが。

持ってきたお菓子に対する反応は悪くない。

本音は予想通りに目を輝かせている。

虚さんは表面上はいつも通りだが少しそわそわしてるな。

楯無は俺を見て笑いながら『見事‼︎』と書かれた扇子を口元で広げている。

あの笑い方、未だに俺から一本取ったのを思い浮かべてるな。

シャルロットの方は……アレ?何を悩んでるんだ?

 

「シャルロット、どうした?」

「うーん……最近クッキーとマドレーヌは一緒に作った記憶があるけど……」

「カップケーキは俺が食いたいから焼いた。残りは前に一緒に作った物の冷凍だ」

「……ソウ、料理を作するときは呼んでって言ったよね、私」

「作ったの今朝だよ?訓練の時間を削って」

「じゃあ起こしてよ」

「いや、それはさすがに……」

 

頬を膨らませ上目づかいで怒るシャルロット。

食い意地をはって……いるわけではないことはわかっているが…

今朝、突然食いたくなって訓練を切り上げて作ったのだ。

流石に俺の気分で朝早くから『一緒にお菓子作ろうぜ!!』と起こすことができるほど、俺の神経は図太くない。

しかし約束を破って怒らせてしまったのは事実な訳である。

頭をかきながらため息をつく。

 

「はぁ…次カップケーキ焼くときはしっかり呼ぶからそれで勘弁していただけますか?」

「わかればよろしい……なんてね。本当は気にしてないよ。ただソウのことだから実は今さっき焼いてきましたって言うかと思って」

「さすがにそこまでしないよ」

 

そう笑いながらシャルロットに茶化される。

それを見て楯無はニヤニヤしている。

なんかからかう気だな?

 

「あら〜?あんまり校内でいちゃついてないと思ったらそういうところでいちゃついてたの?お姉さんにも何してるか教えてくれない?」

「何って……料理作ってるだけですけど」

「本当に?」

 

そう言ってニヤニヤしてくる。

やましいことなど何もないのでジト目で睨み返す。

すると標的をシャルロットに変えたようだ。

 

「シャルロットちゃんは風音君の部屋で何をしてるの?」

「料理しているに決まってるじゃないですか。第一ソウの部屋には一夏もいるんですよ」

「ふぅ〜ん……」

 

よし、シャルロットのほうの切り返しも突き込まれるようなところはないはずだ。

下手なからかいは俺に返されると楯無は知っているからな。

だが今日の楯無は一味違うようだった。

 

「じゃあシャルロットちゃん。さっきカップケーキのところでちょっと怒った理由、お姉さん当てちゃおうか?」

「へ?」

 

そう言うとシャルロットはキョトンとしている。

いや、理由も何も俺を少しからかっただけじゃないのか?

そんなことを考えているとニヤニヤしたまま楯無が扇子を閉じると『バーンッ!!』といった効果音がつきそうな勢いで俺たちの方に向ける。

 

「それは……ズバリ、花嫁修業でしょ!!」

「…………はぁ?」

 

と気の抜けた声を出してしまう。

いや、この(脳内お花畑)何言ってるの?

半分呆れながらシャルロットのほうを向いてみると………何真っ赤になってるの?

顔をまるでリンゴのように赤くしながら小さくなるようにして俯いている。

布仏姉妹は何かに気がついたのかシャルロットと俺を見ながらニヤニヤしている。

………いや、ちょっと待って。

しかし俺の気持ちを察してくれるはずもなく、一瞬たりとも待つことなく楯無は話を続ける。

 

「いやぁ、泣ける話ねぇ。将来のことを考えて今のうちから旦那さまが好きな味を覚えようなんて。そりゃ、知らないところで作られたら困るわよね。次にいつ作るかわからないでしょうし」

「ふぁ!?ちょ、ま!?」

 

え?そう言う話だったの!?

単純にシャルロット(コイツ)が料理のレパートリー増やしたいだけだと思ってたんですけど!?

しかしシャルロットの反応を見る限りMs.OSAの考えが正しいらしい。

楯無の矛先はそのまま俺に向かう。

 

「風音君も知らず知らずとはいえ、順調に花嫁を育て上げてるなんて……これで何時でもお婆様にシャルロットちゃんを紹介できるわね。花嫁として」

 

そう言われてさらに赤くなるシャルロット。

反応したら負けと言いたいが……俺の方も顔が熱くなっている自覚があるからなんとも言えない。

それを見て本音が驚きながら声をあげる。

 

「ソーが照れてるところ初めて見ちゃった……あの金髪のお姉さんにキスされた時も赤くすらなってなかったのにぃ」

 

いや、あの時はぶっちゃけ後ろにいた(シャルロット)プレッシャー(威圧感)の方がでかかったからね。まぁ無くても反応は隠せるけど。

しかし、OSA絶好調だな、おい。

あれか、今までからかわれた分を今のうちに全部返す気か?

 

「そこのところ正解かどうか教えてくれない?シャルロットちゃん?」

「……………はい…正解です」

 

蚊の泣くような声で答えを言う。

それを聞いてわきたつ三人にさらに赤くなるシャルロット。

それ別に答えなくていいからね?

それでダメージ食らうの俺だけだから。

……はい、今の言葉で顔が真っ赤ですよ、自分。

畜生。楯無の奴楽しそうに俺の顔見てすごく楽しそうだな!!

虚さんは顔を真っ赤にして興味津々だし。

本音はお菓子が来た時より目を輝かせていやがる。

あー……これは一組メンバー➕αに広まるのは確定だな。

ここはこれ以上傷口を開かれる前に一旦話を切ろう。

このままだとこの後の話がまともに進まなくなる。

しかし花嫁修業か……

シャルロット(コイツ)そんなこと考えてたのか。

正直、俺はそこまで考え付き合ったか、と言われるとそうとは言えない。

じゃあ別れるつもりだったのか?と聞かれたら絶対にそれはないと断言する。

つまり、こっちの世界で俺として生きると言いながら、まだ何処か覚悟をきめておらず傍観者気取りだったのだろう。

このままじゃいけないし、何よりもシャルロットに対して誠実とは言い難いな。

とりあえずこの考えを止め、小さく咳払いをして平然につとめる。シリアスな事を考えて少しは顔の熱も引いたし。

っと言ってもシャルロットは未だにゆでダコみたいに真っ赤だし、生徒会メンバーはすごーくいい笑顔でこちらを見ている。

 

「とりあえず僕とシャルロットの事は置いておいて真面目な話をしましょう」

「二人の未来に関する話も凄く真面目で重要だと思うわよ?」

「茶化すだけだったらこのまま帰りますよ」

 

げっそりした顔でそう言うとうーん、と少しだけ悩んだ後名残惜しそうに扇子を広げる。すると扇子には『残念』の文字。

いつの間にすり替えたんだ?

スピードで切り替えたなら気がつく自信はある。

ということは俺が意識してない瞬間か…………いっぱいあったな。

こうして話し合いが始まる前に俺とシャルロットは疲れきっていたのである。

 

 

 

 

 

 

虚さんに紅茶を淹れ直してもらった後に話しを始める。

途中楯無から『もう十分甘いから砂糖はいらないわ』とからかわれたが虚さんがいい加減にしなさいと叱ってくれた。

本当にありがとうございます。

そんなこんなでやっと本来の目的だ。

楯無が俺とシャルロットを呼んだということは十中八九『篠ノ之束』関係だろう。

意識を真面目な話に切り替える。

楯無の方は一旦紅茶を飲みながらマドレーヌを口にしている。

マドレーヌを一つ食べ終えたところで話しを始めた。

 

「ごちそうさま。美味しかったわ」

「口にあったなら幸いですよ」

「いえ、本当に美味しかったわよ?普段から食べたいってくらい紅茶にも合うし……本題に入るけど、風音君」

「なんでしょう」

「『真面目な話』と『真面目だけど阿呆らしい話』と『とっても楽しい話』どれから聞きたい?」

 

何だその選択肢は。

つい顔をしかめてしまう。

『真面目な話』はおそらく『篠ノ之束』関連の話とみて間違い無いだろう。

そうでなければシャルロットを連れて来た意味がない。

では『真面目だけど阿呆らしい話』と『とっても楽しい話』……

正直検討もつかない。

この場合は……

 

「『真面目な話』からお願いします」

「わかったわ。これは『篠ノ之博士』関連よ」

 

真面目な顔で楯無は話す。

シャルロットの方も気を引き締めているようだ。

 

「9月中に攻めてくると考えているわ……今までの経験上イベント中に攻められていることから、おそらく学校祭当日が一番怪しいと見てるわ」

「学校祭か……」

 

そう言われてもうほとんど思い出せない向こうの世界の記憶を引っ張り出す。

えっと……一夏争奪……秋…亡国………妹……

だめだ。これ以上出てこない。

まず『秋』だけど……季節か?いや、そんなこと覚えておくほど重要なことじゃないか……

『亡国』はまず亡国機業(ファントム・タスク)と見て間違い無いだろう。

ってことは束ではなく亡国機業が攻めてくるのか。

『一夏争奪』は……いつものことだ。

気にするだけ無駄だ。

最後に『妹』………

パッと思いついたのは『篠ノ之 箒』『更識 簪』そしておそらく関係無いだろうが『布仏 本音』……

この三人だ。

一応気にかけておこう。

しかし………ぶっちゃけ細かいとこだと全く役立ってないな、向こう側の世界の記憶(これ)

まぁ、昔の事だから仕方ないって言ったらそれまでか。

うーん、と考えてる真似をしながら記憶を引っ張りだしているとシャルロットがこちらに尋ねてくる。

 

「ソウ、何か思いついた?」

「……たぶん今回は無人機は来ないと思う」

「どうしてそう言い切れるの?」

 

不思議そうにシャルロットが尋ねてくる。

布仏姉妹も聞きたそうにしているが、楯無はやはりといった風にしている。

 

「一番の理由は学園外の人間が多すぎるからね。流石に一般公開とまではいかなくても部外者が多く学園内にいる状況では無人機を使うのはリスクが大きい過ぎる」

「どういうこと?」

「仮に一機でも落ちて一般社会にその正体がばれたら僕を殺すのに無人機が使いづらくなる。使おうものなら直ぐに国際社会でテロリスト扱いで……箒にもダメージが来る。国際社会は気にならなくても箒が追い詰められるのは許容しないだろうよ」

「ええ、私たちもそう考えてるわ。そして今回襲撃してくるのはおそらく……亡国機業(ファントム・タスク)でしょうね」

 

まぁ、削除法でいけばそうなるか。

あのクレイジーラビットのことだ。

国際社会からの批判など屁の河童だろう。

だが、自分の可愛い妹が攻撃されるのは我慢ならないはずだ。

………我慢出来ずに交戦状態にする可能性もなきにしもあらずだが……あれ?

待てよ。向こう側の世界(あっち)の記憶をもっとよく引っ張りだしてみろ。

…………今回の事件って篠ノ之束関わってたっけ?

……自信は無いが何もしてこなかった気がするんだが。

そういえば諸悪の根源みたいな扱いしてたけど別に攻めてくる理由があるのは彼女だけじゃ無いんだった。

っていうかこの学園警備ガバガバすぎだろ。

そりゃさ、ISに襲撃されたらどうしようもないってのはわかるけど。

スパイだったシャルロットを簡単に懐に入れるとか、向こう側の世界(あっち)の記憶ではあと何回かは襲撃されるんだよなぁ………

まぁそこら辺は一生徒の俺が気にしても仕方ないか。

俺が関係無いところまで頭を回していると真面目な顔で楯無が話しだす。

 

「風音君、言ってしまってはなんだけど、あまり考えすぎても無駄よ。精々今の私たちにできることと言えば襲撃された時の避難場所の設定と戦闘許可地域への誘導。これについての擦り合わせくらいよ」

「………ですね。考えても何もいいアイディア出てきませんし。こっちから攻めたらまた話は別なんですけどねぇ……」

「防衛戦の痛いところね」

 

そう言って二人でため息を吐く。

相手が篠ノ之束だけならどうってことはない、海の上で逃げ回ればいい。

でも他の亡国機業とかと合同で攻めて来られれば……ああ面倒臭い。

 

「ってことはこれからの話はその避難とか戦闘許可地域とかの話ですか?」

「私もそうしたいんだけどねぇ……」

 

そう言う楯無の顔は疲れ切っている。

憎たらしげにクッキーを一つ噛み砕いた後紅茶をすすり一息ついた。

この人がこんなに疲れるって何があったんだ?

 

「『真面目だけど阿呆らしい話』についてよ」

「さっきも思ったんですが、何それ?」

「………貴方からIS没収しろって声が上がってるのよ」

「………へ?」

「どういうことですか!?」

 

その言葉に変な声を上げる俺と俺よりも声を上げるシャルロット。

布仏姉妹も知っていたのか暗い顔をしているが。

っていうかどこの誰よ?そんなこと言い出したのは。

いや、別にそういう声が上がるのは承知してたけど今になって楯無が話すってことは最近になって大きくなってきたって事でしょう?その声が。

そんなことボケーと考えてるとシャルロットが話を進めてくれた。

 

「楯無さん、どういうことなんですか?」

「どうしたもこうしたも1、2、3年生のごく一部の間で風音君は専用機を持つ資格はないって声が上がってるのよ」

「資格も何もソウの機体は第3世代型の実験機で……」

「で、現在はデータがほとんど取れず、更にその解明作業に従事しているわけでもない」

「でも、ソウの実力なら!?」

「大会成績と活躍を紙の上で見てみなさい」

 

そう言って楯無は面倒臭そうに紙を渡して来た。

 

・初戦 対【セシリア・オルコット】

 自身の機体不備により『敗北』

・二戦目 学年別トーナメント

 織斑一夏、シャルル・デュノアと共闘。

 未完成機と量産型相手に立ち回るも押され気味。

 途中アクシデントがあり『無効試合』

・三戦目 対【銀の福音】

 機密のため細部は不明だが専用機で撃墜される。

 

という感じのことが書いてある。

もう少し細かく説明するなら所々嫌味が書いてあるくらいだろうか。

まぁ間違いは書いてないな。

っていうか三戦目は一夏にも言えるんじゃないの?

俺の場合はここに一時行方もあるか。

一通り眼を通したあと楯無に話しかける。

 

「会長、これなんですか?」

「貴方からISを取り上げろって言ってきた子たちがわざわざ作ってきてくれたのよ。ちなみにさっきの私の言葉もその子たちの主張よ」

 

へー、そうなんだ。

まぁ嘘は書いてないからいいんじゃない?

あえて載せてないこともあるだろうけど、だいたい一般生徒に広まってる噂はこんなもんじゃないかな。

しかしシャルロットからしてみれば面白くないらしい。

 

「こんなの……酷い……」

「正直私も面白くないわよ。でも立場上、彼女達の意見を完全に無視っていうのもできないのよねぇ……」

 

そう言って楯無はなんとも面倒臭さそうにしている。

一方俺はシャルロットに笑いかけ気にしてないと慰めていた。

こういう風に言われるのは承知してたし、っていうかむしろ遅かったなーって思ったくらいだ。

楯無は俺を見てうつむき気味に話を聞いてきた。

 

「……風音君としてはこれを見てどう思ったわけ」

「うーん…面白くないですねぇ」

「…そう…よね」

「もっと僕のことを悪者っぽく書いてくれなきゃ」

「…ええ…もっと悪者…………へ?」

 

そう気の抜けた声をだして俺を見る。

一方俺は本気で文章にダメだしをしていた。

 

「この文章なかなかいいんですけど、所々書いた人の嫌味みたいなのが入ってるのを隠しきれてないんですよね。で、僕に関してのところはそのままの事しか書いてないから逆に書いた人の悪意の方が目立っちゃうんですよ。だったら初めから僕をクズの塊みたいな悪党にしたほうが共感する人も多いだろうし何より僕が読んでいて楽しい。これじゃあゴシップ雑誌読んでるのと大差ないですねぇ……」

 

一通りこの紙に書いてあることについての意見をあげた後周りを見渡す。

楯無は頭を押さえて何か悩んでる。

虚さんはぽかーんとしてるし本音は苦笑いしている。

あれ?っといった顔でシャルロットを見てみるとため息をついている。

 

「ソウ……楯無さんはそういう事を聞きたいんじゃないと思うんだけど……」

「え?でもぶっちゃけその程度の事しか感じないよ?」

「……かなり舐められてるのよ、貴方」

「それが何か?」

 

と言って首をかしげる。

それを聞いてため息をつく楯無。

シャルロットに至っては突然吹き出し「怒って損した」と言いながら笑いだした。

いや、だってさ、気にするだけ無駄じゃない?

それに対策って言っても何するの?聞いてみるか。

頭を抱えげっそりしてる楯無に声をかける。

 

「楯無さんはこれに対しどうする気なんですか?……っていうか僕がそんなこと気にしない人間だって知らなかったんですか?」

「貴方のいう『そんなこと』の対策でしばらく頭悩ませてたんだけどね、私たち」

「お疲れ様でした」

 

そう言って紅茶をすする。

『真面目だけど阿呆らしい話』なんていうからどんな話が来るかと思えばそんなことか。

楯無は俺をうらめしそうに見た後一度深くため息をつき話し始めた。

 

「事の経緯を説明すると、元々男性操縦者と箒ちゃんからISを取り上げろっていう声は前から上がってたの」

「僕と一夏は単に『男を特別扱いするな』ってことでわかるけど箒はなんで?」

「いろいろオブラートに包んで言ってたけど、ようは『姉の七光りで手にいれるなんてズルイ』ってことらしいわ」

 

あー、そういうことか。

真面目に努力していた方からすればポッと出の、しかもそれほど操縦が上手くない一年生が難なくISを手に入れたのが面白くないってわけか。

まぁ、直接箒に言い寄らなかっただけ大人だな。

 

「ちなみに直接、箒ちゃんに言いに行こうとした子もいたけど私の方で対処しておいたわ」

「……………」

 

お、大人じゃない子もいたらしい。

楯無は紅茶を一口飲んだ後に再び話し始めた。

 

「言ってしまえばISを没収するなんてことは初めからできないわ。ただクレームがねぇ……まぁこの三人のうち2人は直ぐになんとかなりそうなのよ」

「誰と誰なんですか?」

「織斑君と貴方よ、風音くん」

「箒は何がダメなんですか?」

 

そう尋ねるシャルロット。

しかし俺よりも箒のほうが問題か。

正直2人って言われた時点で『あ、問題は俺だな』って思ったんだが……

理由は聞けばわかるか。

 

「織斑君は正直かなり良いわ。お師匠さんとの稽古に自主練。更には他の専用機持ちとのこと練習試合でメキメキと力を伸ばしているわ。その前向きな姿勢と成長速度、そして練習量を見て文句を言う人はいなくなったわ」

 

そりゃあのキチガイじみた練習量はなぁ……

ぶっちゃけなんでオーバーワークになってないのかわからんレベルだぞ?

やはり織斑の血か……多分戦闘民族か何かなんだろう。

勝手に一人で納得していると楯無が次の話を始めていた。

 

「続いての箒ちゃんなんだけど……贔屓目で見ても周りの専用機持ちから3〜4歩くらい遅れてるわ。って言っても多分これが普通ね。同じ初心者の織斑君の白式は言ってしまえば『突っ込んで斬る』これしかできない(・・・・・・・・)機体だもの。極める方向性はすぐにわかるわ」

「そうか、それに比べて箒の紅椿は自己進化型の万能対応機……できることが広すぎるせいで扱いが難しいんですね……」

 

シャルロットがそう言うと何も言わずに頷く楯無。

ようは箒は初心者向けじゃない機体を渡されているわけか。

そりゃ武器として使うのなら使いやすさも実力に関係してくるよなぁ。

 

「箒ちゃんに関しては私の方で稽古をつけるわ」

「楯無さんが!?」

「私のISは第3世代型だけどある意味どのISよりも自由自在(・・・・)よ?おそらく自己進化に対して良い影響を与えると思うわ」

「いや僕が気にしてるのはあのクソがつくほど真面目な箒から楯無さんが変出者扱いされないかと……」

「……いい加減泣くわよ?本気で」

 

俺がからかうと楯無は頬を膨らませる。

そして更に俺はシャルロットに頭を叩かれた、いてぇ。

虚さんには『仲が良いのですね』と笑われ本音も同じように笑っている。

 

「もう!!ソウ!!真面目に話をしようよ」

「次は僕の番だから緊張しちゃって」

「そんな性格じゃないでしょ!?」

「……確かに」

「自分で納得してるんじゃないわよ、まったく」

 

そうシャルロットと楯無に怒られるが笑いながら許してもらった。

さて次は俺の評価か……

なんて言われるんだろう。

 

「風音君に関しては研究に積極的に協力するわけでもないし、ISの練習もほとんど行わない。試合をしても本気を見せない。かなりの問題生ね」

「授業態度は真面目ですよ?」

「織斑先生に何言われるかわからないもんね」

 

シャルロットの言葉に苦笑いを返す。

いやマジで下手な点数取ろうものなら殺されかねん。

これは俺と一夏との共通認識だ。

 

「そこらへんは今はどうでもいいわ。問題は今現在、三人の中で貴方が一番舐められているのよ」

「ああ!!だから今になって声が増えたのか!!」

「いや、そうなんだけどそんな風に納得してる場合じゃないわよ」

「それもそうですね。で、どうします?」

「簡単よ、この中の三人の中で一番強いってことを試合で示しなさい。そうね、次の大会で一人で出て、いい成績を収めなさい。それこそ優勝狙えるでしょ?貴方」

 

何を言ってるんだこの人?

第一、次の大会はタック戦だったはず。

それよりも何よりも問題がある。

 

「いや、その大会って楯無さんも出るでしょうに。無茶言わないでくださいよ」

「無茶じゃないでしょ?」

 

そう言う楯無の目にはどこか確信が見える。

この人何に気が付いた?

俺が何か言う前に楯無が俺の目をしっかりと見つめこういいはなった。

 

「風音君、貴方一度も、それこそ福音の時ですら本気で戦ってない(・・・・・・・・)でしょう。」

 

 

 

 

 

 

偉大な意志の力なしに、偉大な才能などというものはない。

〜バルザック〜



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第九十話 差し出す手の形

楯無の言葉に生徒会室が静寂に包まれる。

聞こえる音は外から聞こえる他の生徒の話し声だけだ。

周りのみんなは今の楯無の発言に驚いてるのか俺と楯無を交互に見ている。

さて、どういうことだ?

突然こういう事を意味もなくいう人じゃなかったと思ったが……とりあえず否定だけはしておこう。

 

「楯無さん、流石にそれは買い被りすぎですよ」

「そ、そうですよ、お嬢様。いくらなんでも……」

 

流石の虚さんも動揺している。

そりゃそうだ。

誰もが認める学園最強(せいとかいちょう)が、目の前にいるたかが半年しかISに乗っていない男に負けるといっているのだ。

そんなこと関係なく楯無は俺のことを強い視線で見る、否、睨んでいる。

俺はどうしようもなくただ困ったように笑うしかなかった。

 

「いえ、買い被りでもお世辞でもなく素直な私の本音よ」

「おじょーさま?もしかしてタッグの相方が足を引っ張るからとかですか?」

 

本音も動揺しながら楯無に尋ねる。

楯無がそう考えて言ってくれたのならいいんだが……

そこまで詰めは甘くないだろう。

 

「違うわよ?むしろそう過程するのなら、しっかりと連携が取れて……相性が良ければこっちの勝ち目が少しは増えそうね」

「た、楯無さん。なんでそこまで言い切れるんですか?」

 

シャルロットも今の発言に動揺している。

まぁこいつが気にしてるのは『楯無より強い』ってとこじゃなく『福音でも本気で戦ってない』って方だろうな。

楯無は俺から目を逸らさずに話を続ける。

 

「そうね〜。まず一番最初に彼が強いって思ったのは無人機の襲撃事件の映像を見た時ね」

「一夏が鈴と戦ってる時に乱入したっていう?」

「そう。それの事よ。あの試合の映像を見ればわかるけど……背筋が震えたわよ?当ててもほとんど相手を動かすことのできない威力の弾丸を連続して、それも正確に動かすことのできるポイントに当て続けて完全に無力化してる。正直口に出すだけで馬鹿げてるレベルの技ね」

 

あー…あの時のあれか。

一夏の安全の為に無茶した時の。

あれは確かに俺の中でも会心の技だったな。

しかし楯無からしてみれば他にも色々とあるようだ。

とりあえず聞いてみるか。

 

「二つ目は……ラウラちゃんの時ね。あの…暴走体相手に一歩も引かなかった時よ。考えてみなさい?いくら自分の腕に自信があっても生身で自身の何倍もの大きさの相手の攻撃を受け止めるのよ?少しは気負うものでしょうに…風音君、貴方いつも通りだったでしょう?それこそ言ってしまえば『動かない的』を狙う時とまったく同じ、そんな目をしてたわよ?」

 

いつも通りか……

結構あの時はいっぱいいっぱいだったんだけどね。

側からみればそんな感じだったのか。

これに対してシャルロットが少しムッとしている。

楯無がそれに気が付いたのか言葉を続けた。

 

「今の言葉は例えだからね?シャルロットちゃん。彼があの時誰よりもラウラちゃんの命を救う為に足掻いてたのは私も十二分に分かってるわ」

「あ……はい、すみません……」

「いいのよ。むしろ私の言葉選びが悪かったんだから」

 

そう言ってようやく俺から目線を外してシャルロットに微笑む楯無。

しかし『動かない的』かぁ……言い得て妙(・・・・・)だな。

あのVTシステム(テツクズ)、見た目が千冬さんの暮桜だったから千冬さんレベルの動きをするかと思ったんだよなぁ…

結果は比べるまでもなく遅かったけど。

そんなことを思い浮かべているとまたもや楯無の目線がこちらに向けられる。

 

「さて、ここまでの評価でも既に油断など一切できない相手と評せるのに……私にとって一番貴方が恐ろしいと感じたのは銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)との決戦、あの貴方のISがセカンドシフトして復活した時の戦いよ」

「あの……楯無さん。ソウがあの時も本気で戦ってないってどういう意味ですか?」

 

シャルロットが口を挟む。

さて、これについては俺もわからん。

自分の中では結構本気で戦っていたつもりなのだが……

 

「簡単な事よ。あの時彼は一発の弾丸も攻める為には使ってないのよ。すべて誰かの攻撃が当てやすいよう、誰かに銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の攻撃が当たらないように、守りしかやってないのよ」

 

……あー…そういうこと。これは仕方ないわ。

それが俺の…いや、俺の英雄(ヴァッシュ・ザ・スタンピード)の戦い方だ。

命の奪い合いの中で敵味方関係なく、決定的な奪われる(ソノ)瞬間から逃げ続ける戦い方。

それが俺の目指すものだから。

 

「貴方があの時、周りを守るのではなく本気で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を撃墜しに行ったのなら一瞬でケリはついたんじゃないの?」

「あー…無理ですね。相手が案山子か何かじゃないと」

「貴方からしてみれば案山子と大差ないんじゃないの?」

 

今日はグイグイくるな、楯無。

って言ってもなぁ……ぶっちゃけ無理だな、今更戦い方を変えるなんて。それに……やっぱ誰かに銃を向けるのは気分が悪い。

向けなければいけない時は仕方ないがそれでも向けなくて済むならそっちを選んでしまう。

困ったように笑いながらどうしたものかと考えているとシャルロットが間に入った。

 

「楯無さん、でもそれで勝つことができるなら問題ないのではないでしょうか?それにソウの戦い方は味方に被害を与えるどころかむしろ味方の消耗を考えればこの上なく評価される戦い方だと思います!!」

 

結構強い言葉でこう話すシャルロット。

俺をかばうようにしてくれるのは嬉しいんだけど……俺が発言できない。

まぁ、言いたい事は言ってくれてるから構わないけど。

楯無は少し考えた後フッと力を抜きようやく俺から目線をそらしてくれた。

 

「私も彼のその戦い方には文句はないの。ただその気になればそれだけのことができるのだから、ちょっとはやる気を出しなさい」

「そんな!?こんなやる気に満ち溢れている僕が!?」

「ソウ、私もそこは楯無さんと同じ考えだよ?もうちょっとやる気を出して試合で結果出したほうがいいと思う」

「て、敵しかいない……」

 

そう言ってがっくりとしてみせる。

そうやって場の空気を少し入れ替えた後で次の話に進めようと考えていると楯無がチラリと時計を見た。

 

「楯無さん、この後予定でも?」

「そうなのよね〜。予定してたより時間が足りなかったわ」

 

確実に最初の『簪ショック』のせいだな。

まぁとりあえず時間がないなら仕方ない、出直すとしよう。

 

「じゃあ、楯無さん。僕たちがまた出直しますよ」

「そうしてくれれば助かるわ。次の予定は追って連絡するわ」

「了解です。シャルロット、行こう。ではまた」

「楯無さん、失礼しました」

 

そう言って俺とシャルロットは部屋を出て自室に向かい歩く。

しかしなぁ……本気で相手を撃墜する為に引き金を引けか………やっぱり無理だな。

でもそう言ってる場合じゃないんだよなぁ…

楯無がわざわざ俺にそう言ってくるってことはおそらく学園内だけじゃなく別の勢力からも何か言われているのだろう。

そうじゃなければわざわざ言う必要はない。

そんなことを考えているとシャルロットに袖を引かれ足を止める。

 

「うん?どうした、シャルロット」

「楯無さんに言われたこと気にしてる?」

「そりゃ、まぁ…少しはね」

「そのままで良いと思うよ」

 

そう言ってシャルロットはこちらに笑顔を向けてくる。

キョトンとしてしまった俺に対しそのままの笑顔で話を続ける。

 

「楯無さんはああ言ってたけどね、私は今のソウの戦い方の方が良いと思う。誰も怪我させたくないんでしょ?味方も相手も」

「……そうだな。できるなら戦い自体無い方が良いと思うよ、俺は」

「うん!!やっぱりソウはそっちの方がいいと思う。突然変わっちゃたらどうしようかと思っちゃった」

「流石にそうすぐ変えれないし……変えるつもりもないよ」

 

そうだ。別に言われたから変える必要なんて無い。

俺の強さが疑問ならこのままで強さを示せばいい。

と言っても……

 

「大会出なきゃ駄目かなぁ……」

「流石にそれは駄目だと思うよ?」

「だよなぁ……やだなぁ……」

 

そう言ってがっくりと肩を落とす俺とそれを見て笑うシャルロット。

そのままモチベーションの下りきった俺を励ますようにして俺とシャルロットは生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

風音奏()』がいなくなった後の生徒会室で私はため息をつく。

今回は少し強気でいったのだが彼は怒るどころか困ったように笑うばかりだった。

少し怒るかと思っていたのだが……やはり優し過ぎる子である。

さて次の大会にやる気を出てくれればいいのだけれど…

そんな時に私の目の前に紅茶が置かれる。

 

「虚ちゃん…」

「お疲れ様です、お嬢様。でもなんであんな事を?風音君って戦い自体嫌いだって、お嬢様、自分でおっしゃてましたよね?」

「そうなのよね〜、彼がもう少しだけ好戦的だったら楽だったんだけどね」

 

そう言って紅茶をすする。

うん、やっぱり美味しい。

そういえばまだ彼が持ってきたお菓子が余ってたはず。

皿を見るとまだいくつか残ってる。

さて、この子たちには一応説明しておこう。

 

「私もできれば戦わせたくはないのよ?でもそうも言ってられなくてね」

「……またIS委員会の方ですか?それとも女権の方が?」

「両方よ。『風音奏にISを持たせる意味は有るのか!?』ですって。こっちが強く言えないからって調子に乗って……」

「それだけですか?」

 

む?見抜かれてたか。

こっちは正直なところ建て前だ。

 

「本当のこと言うと私も面白くないのよね……」

「ソーがISに乗っていることがですか?」

「違うわよ、本音ちゃん。私が気にしてるのは今の学園内での風音君とシャルロットちゃんの言われようよ」

 

それを言うと本音が目に見えて元気が無くなる。

まだ問題は起きていないが聞こえてくる陰口は正直なところかなり癪にさわる。

風音君なら自分のことならどうとでも言えと思っているだろうが、噂というものは恐いもので彼を知らない人からすると噂の『風音奏』が彼の評価になるのだ。

早いうちに手を打たなければ確実にこの噂が原因で彼らに何かかしらの被害が降り注ぐであろう。

 

「できるだけ早いうちにイメージアップさせたいのよねぇ……その為にも手っ取り早く風音君に優等生になってもらわないとね」

「そうですか……お嬢様にとっても初めての男友達ですものね、大切にしたい気持ちもわかりますよ」

 

そう言われてふと考えてみる。

そういえば私今まで男友達っていなかったわね……

立場上とか育ちとかのせいだけど。

 

「そっか……男友達か……確かに初めてね」

「距離感間違えて好きになっちゃ駄目ですよ?あの二人隙がありませんから」

「大丈夫よ。私を誰だと思ってるの?そういう虚ちゃんこそ大丈夫?」

「私はそういうのに興味ありませんから」

「そう言う子に限って直ぐにハマっちゃうのよね」

 

互いにからかいあいながら場の空気を入れ替える。

さて、落ち込んでいる本音ちゃんの方も立ち直らせなければ。

しかし、一つだけ話していない彼を試合に出したい理由がある。個人的なものだが。

私と彼本当の学園最強はどっち(・・・・・・・・)かというものだ。

個人的な思いだということも分かっているし、彼が戦いが嫌いだということも承知している。

だがこればかりはどうしようもないサガなのだ。

もし彼と本当に大会で戦えたのなら……

想像するだけで喜びとプレッシャーで身震いが起きそうだ。

そしてその想像はしばらく経てば現実となる。

私は誰にも言えないこの感情を胸に大事にしまいこみ次の予定に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男と女の間に友情はあり得ない。 情熱、敵意、崇拝、恋愛はある。しかし友情はない。

〜ワイルド〜



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第九十一話 学級裁判!?

放課後の特別HR。

一年一組では現在、学園祭に向けて出し物の議論中だ。

一夏が黒板の前に立ち必死に意見をまとめているが、出てくる意見は……

『織斑一夏のホストクラブ』『織斑一夏とツイスター』『織斑一夏とポッキーゲーム』『織斑一夏と王様ゲーム』………比較的に集客は見込めそうだな。

一人『織斑一夏』という犠牲者が出るが……

おい、一夏。

そんな捨てられた仔犬のような目で俺を見るな。

彼女たちも本気で言ってるわけじゃない……たぶん。

 

「あと何が出てないかしら……」

「あっ!『織斑一夏のマッサージ倶楽部』なんていいんじゃない!?」

「確かに!!それなら先生方の審査も通りそうだし!!」

 

……ごめん、自信なくなってきた。

しかし一夏は人気だな……

こっちは俺の名前が一切出ないのが逆に不安なのだが……

なんか嫌われるようなことやったかな?

そしてここで流石の一夏も吠えた。

 

「あ、アホか!?誰が喜ぶんだこんなもん!!」

「少なくとも私は嬉しい!!」

「部の先輩がうるさくって……」

「でも集客を考えればこれが一番なのよね」

「織斑一夏は共有の財産である!!」

 

現在教室内に千冬さんは居らずある意味無法地帯である。

山田先生はいるのだが……ポッキーゲームで反応してたためおそらく乗り気(あちらがわ)だ。

一夏はがっくりと肩を落とし俺に助けを求める。

 

「奏……なんとかしてくれ……」

「仕方ないなぁ、のび太くんは」

「ど、ドラえもん……ってふざけてる場合じゃないんだよ!?っていうかなんで俺の名前ばかり上がってお前の名前が一切上がらないんだよ!?」

「それは僕も不思議に思ってた。ねぇみんな、なんで?」

 

そう言って座ったまま後ろを振り返る。

ちなみにこの世界に来て一番驚いたのは某青だぬきがしっかりと国民的アニメだったことだ。

世界違えど彼だけは共通だったらしい。

今は全く関係ないことだが。

みんな一旦互いに顔を見合わせた後口ぐちに話し出す。

 

「いや、だってねぇ……」

「デュノアちゃんに悪いっていうか……」

「流石に彼女持ちはねぇ…」

 

と言っている。

ああ、そこらへん気にしてたのか。

って言っても学園祭なんて馬鹿騒ぎする場だし、そんなに気にしなくてもいいと思うぞ。

やりたく無いから口には出さないが。

一夏のほうもそれで納得はしてないが理解はしたらしい。

 

「まぁ……だったら仕方ないか……でももっと普通なのだしてくれよ!?俺がこれを千冬姉に持ってくんだぞ!?絶対殺されるって!!」

「そこは織斑君がなんとかしてくれるって、私たち信じてるから!!」

「そんな信頼いらないよ!?って言うかやられるのは俺だけじゃなくてみんなもだからな!?」

「よしみんな!!真面目な意見をそろそろ出そう!!」

「「「「「「おおっ!!」」」」」」

 

鬼のような形相の千冬さんを思い浮かべる。

……それだけはヤバイ。

焦るようにしてクラス全体を促すとみんなも同じ事を考えたようだ。

流石千冬さん。

このクラスはやっぱり貴女のおかげでまとまってます。

って言ってもなぁ……

学園祭ってなにやりゃいんだろ?

お化け屋敷……客が来るか?

喫茶店……インパクトが弱い。

みんなで頭をひねり唸っていると

 

「メイド喫茶などどうだ?」

 

という発言。

おお!!結構まともな意見。

いったい誰が……って今の声って……

 

「ラウラ?」

「うむ、私だ。客受けはいいだろうし、経費の回収も行える。それに休憩所にもなるから需要は確実にあるだろう」

 

すげぇ!!!今まで一番マシな意見!!

むしろ、なに?この結構色物扱いのメイド喫茶が普通に聞こえる異常状態!?

っていうか色々考えるなラウラ。

そういや一回シャルロットとメイド喫茶でバイトみたいなことしてたんだっけ?

俺としてはかなりいい意見だと思うが…周りの反応が悪い。

っていうか思考がついてきてないな。

普段のラウラのキャラを考えれば仕方ないか。

一夏もぽかーんとした顔をしている。

とりあえずラウラのアシストしつつ動くように言っておくか。

 

「クラス委員長、みんなにも聞いてみればどうだ?僕はすごい良い意見だと思うぞ?」

「へ?あ、ああ……みんなはどう思う?」

 

という一夏の問いかけにも反応は薄い。

ふむ、どうしたものか……

そう考えているとシャルロットの援護が入った。

 

「いいんじゃないかな?一夏は執事の格好して貰えばいいだろうし、メニューの方はソウがいるしね」

 

流石シャルロット、ナイス援護。

軽くシャルロットに親指を立ててみせる。

気が付いたシャルロットがこちらに軽くウィンクをしたと同時にクラスが沸き立つ。

 

「執事姿の一夏君……良いわね!!」

「そっか!!うちのクラスには風音君のお菓子があった!!」

「でも衣装とかどうする?」

「あー、演劇部から借りれるかな?」

「ちょっと?ここに衣装係がいるじゃない!?いざとなったら私が縫うわ」

 

クラス全体がメイド喫茶の方向でまとまってきたな。

しかし衣装か……なんか楯無あたりなら持ってそうな気もするけど……

 

「衣装についてもアテはある。執事服も含め聞いてみよう」

 

またしてもラウラの一言でクラスが止まる。

いや、彼女のキャラじゃないのはわかるけどさ、いちいちラウラを凝視するのは止めようよ。

流石にラウラもハッとして恥ずかしげに頬を染め咳払いをする。

 

「ゴホン!!シャルロットがな」

「え!?私が!?」

 

突然押し付けられ焦るシャルロット。

そのふりはどうかと思うぞ?ラウラ。

当のシャルロットは焦りながらもなんとか話しを進めようとしている。

 

「えっと、ラウラ?それってこの前の?」

「うむ、あそこだ」

「訊いてみるけど……無理でも怒らないでね?」

 

そうシャルロットは不安げにみんなに尋ねる。

みんな構わないといったふうな反応だな。

 

「じゃあみんな。一年一組の出し物は『メイド喫茶』でいいな?」

「「「「いぎな「意義あり!!!!」

 

と大声を上げたのは、一夏よりも委員長らしい鷹月だった。

なんか不満でもあったのか?

いや、この娘の場合自分が嫌だとかいう理由では確実にないはずだ。

ということは何か問題点を見つけたんだろう。

 

「私はメイド喫茶自体に意義はありません……ただ……」

「……ただ?」

 

一夏が息を飲んで聞き返す。

クラスのみんなも息を飲む……

 

「名称がメイド喫茶はだめでしょ!?これじゃ男子二人もメイド姿みたいじゃない!?」

「……………それだけ?」

 

一夏が拍子抜けしたように話しかける。

周りのみんなはナルホド……と納得しているな……

俺?俺は初めてからこうなるような気がしてたから溜め息だけで済んだ。

 

「いや、織斑君。結構こういうの大切なのよ?例えばお客さんにそこを指摘されて『やらなきゃお金を払わない!!』って言われたらどうする?」

「うっ……確かにそれは嫌だな…奏だったらどうする?」

「………一夏、お前顔つきとか千冬さんに似てるしワンチャンあるんじゃない?」

 

俺の言ってる意味が分からず首を傾げ考え込む一夏。

クラスのみんなは気が付いたらしく、一夏とは違ったことで考え込んでいる。

 

「有りか無しかで言ったら……有りかな?」

「えー織斑君には似合わないわよ」

「一夏さんには似合いませんわ!!」

「そうかなぁ…」

「そうだ。一夏にはかっこいい服の方が似合う」

「箒の言う通りだ、嫁はカッコいい方がいい」

「……………一回試してみる?」

「「「「「「…………」」」」」」

 

なんかちょっとしたネタのつもりが大変な事になってるぞ。

真面目に着せてみるっていう雰囲気になってるところもあるし。

当の本人の一夏はようやく周りの雰囲気に気が付いたようだ。

キョロキョロしながら近くの生徒に話しかける。

 

「え?みんな何話してるの?」

「えっと……織斑君、試しにメイド服着てみる?」

「ものは試しに……ね?」

「多分……いけるんじゃない?」

 

結構真面目な顔で周りに言われる。

そう言われようやく俺の発言の意味に気が付いたようだ。

顔を赤くして俺に食ってかかる。

 

「奏!!なんてこと言いやがる!!」

「いや…軽いネタのつもりだったんだが…」

「だったらなんでこんな雰囲気になってるんだよ……」

「僕だって知らないよ……あと名称の方は奉仕喫茶とかでいいんじゃない?」

 

一夏をなだめるようにして意見を述べる。

これなら俺達に何癖付けてくる奴はいないだろう。

一夏のほうは疲れきっており最早ほとんどなげやりだ。

 

「はぁ……他、何か意見は?」

「あ!!できれば奉仕じゃなくて『ご奉仕』で!!」

「みんなもそれでいい?」

 

というとみんな口々に賛成している。

……反対意見はないな。

じゃあこれで決定かな?

 

「じゃあ、俺、これを織斑先生に伝えてくるから」

「あ、織斑君。私も一緒に行きます。皆さんは後は解散して下さい」

 

そう言って山田先生と一夏は教室を出て行った。

こうして一年一組の学園祭の出し物は『ご奉仕喫茶』となった。

俺の準備はメニュー作りか……

ちょっと長持ちする簡単なお菓子をいくつか見繕えておくか……

さてそこら辺も考えながら自室に戻るか。

と考えていると教室に鈴が入ってくる。

みんな鈴を見るが特に何も言わない。

なんと言うかもうこいつがクラスに入ってくるのは日常の一部になってきてるな……

それでいて二組の方でも結構人気者らしい。

まぁちっちゃいけど面倒見もいいし明るいキャラしてるからな。

余程のことがなきゃ嫌われないか。

要件は一夏だろうし現在不在とだけ伝えておこう。

 

「あ、鈴。一夏ならーー」

「みんな!!今よ!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

俺が『何が?』という間もなくクラスメイトが動く。

教室のカーテンは閉めきてられ前後のドアには一人づつ張り込んでいる。

俺は残りのみんなに囲まれる。

何事かと思っていると、となりの一夏の席にシャルロットが運ばれてくる。

こいつの驚いた顔を見る限りコイツは知らなかったようだな…………スゲぇ嫌な予感しかしない……

現在隣の席にシャルロット。

正面に鈴。

扉の前にそれぞれ一名。

俺とシャルロットを挟む様に両脇に各数名の生徒。

そしてその後ろに俺たちを囲むようにして残りのみんながいる。

みんなポジションについたようで雰囲気はさながら裁判所だ……魔女裁判にならなきゃいいが。

黒板の前にの教卓に鈴が立ち話しかけてくる。

 

「奏?どういうことか理解できてる?」

「……発案者はセシリアで企画は鈴、クラスメイトへの説得は箒かな?」

「そういうことじゃないわよ!?」

 

わざわざ突っ込んでくれるとは、真面目な奴だな。

さて適当に逃げ出そうと思ったのだが扉の前に一人づつ張り込んでいるためそう簡単に逃げ出そうにないな。

カーテンを閉めたのも俺が逃げづらいようにするための対策か。

ここら辺はラウラが一枚噛んでそうだな。

シャルロットの方を見てみると目を丸くして俺を見ている。

こいつも訳が分からず混乱しているな。

混乱しながらもシャルロットが鈴に話しかける。

 

「えーっとみんな?私たち何かした?」

「そこら辺は今から話すわ。奏、貴方シャルロットと付き合ってどれくらい経つ?」

「少なくとも2カ月くらいかな?」

「その間にデートとかした?」

「……してないです」

「ありえないわね……っ!!」

「二カ月間お預けって……」

「風音君……それは無いわよ!?」

「普通に最低ね……」

 

途端に周りからブーイングが起きる。

って言っても今までかなり忙しかったんだよなぁ……

それに周りからの目線もあったからなぁ……

どっちの部屋にもルームメイトいるから常に二人きりとかも無理だしな。

そんな俺の考えなど無視して話は進む。

 

「静粛に!!……検察側何かある?」

「私たちの捜査の結果、普段一緒には行動していますが別段イチャついているわけではなく、休日も部屋でただ一緒に何かしているだけのようです。これは織斑君、ボーデヴィッヒさん両名からも確認済みです!!」

 

その発言に頷くラウラ。

検察って……刑事ドラマの見過ぎだ。

横目でシャルロットを見るとこいつも頬をひきつらせて苦笑いをしている。

つづいて鈴は反対側にいる生徒に話しかける。

 

「弁護士側、弁論はある?」

「無いです」

「「ないの!?」」

 

シャルロット同時に突っ込んでしまう。

おい、仕事をしろ弁護士。

しかし弁護士こと夜竹は言い分があるらしくため息をつく。

 

「……はぁ…風音君。ひとつ聞くわよ?」

「はぁ………?」

「いかなる理由ならば自身の彼女を放置していい理由になる?」

「………」

 

それを俺に聞くのは反則じゃない?

って言ってもそれもある意味間違ってないよなぁ……

何も言えずに考えているとシャルロットからの援助が入った。

 

「私は別に放置されてないよ?そりゃデートはしなかったけどソウ、私のことを常に気にしてくれてたし……」

 

その言葉に……

自分がすごく情けなくなる。

いや、確実にシャルロットからしてみれば不満はあるだろうに……

それをこんなにも悪くないといわれると……

これでは、DV夫を擁護する妻の様に感じてしまう。

つまり俺がDV夫だ。

 

「ソウ?どうしたの?」

「いや……この裁判、結構くるものが……」

「奏は気が付いたようね……」

 

どう言って鈴が俺を見下す。

俺は頭を両手で抱えうつむく。

いや、できてるだけ考えないようにしてたけど、俺確実に彼氏として最悪だよな。

っていうか考えないようにしてる時点で最悪だな……

シャルロットは訳が分からず突然うつむいた俺を心配する。

 

「ソウ!?どうしたの!?」

「いや……何というか……」

「デュノアさんやるわね…」

「ええ、一気に風音君に現状の再認識と健気な自身の立場を理解させたわ……」

「さらに風音君に罪悪感まで植えつけたわね」

「え!?………あ…ソ、ソウ!?違うからね!?私そういうつもりじゃ!?」

 

そう顔を赤くし目を回しながら俺に力説するシャルロット。

お前にそのつもりが無くても現状は変わらないんだよなぁ…

落ち込む俺に鈴が話しかける。

 

「自身の罪を自覚したようね……」

「鈴…いや、裁判長」

「いや、そこは鈴でいいわよ」

「…僕、結構っていうか、かなーーーり最悪な彼氏だった?」

「……周りを見なさい」

 

そう言われ俺は周りを見渡す。

みんなかなり厳しい顔をしている。

要はこれが傍目から見た俺の評価なんだろう……

 

「奏……厳しい事を言うようだけど、あんた彼氏として酷いわよ?」

「裁判長……僕、一体どうしたら……!?」

「だから裁判長じゃないってば!!そうね…そこは自分で考えなさい?」

 

やっぱりこいつは弄ると輝くな。

しかし悪ノリして場を誤魔化したが、実際酷い男だよな、俺。

普通に考えればデートでもすればいいんだろう。

だが、今このタイミングでやると、確認に俺に不満を持つ奴に『真面目にISに乗らずに彼女を作り遊び回ってる』って思われるんだよなぁ…

俺は気にしないがこの時期に楯無の仕事を増やすのはなぁ……

頭を悩ます俺にシャルロットが苦笑いしながら話しかける。

 

「ソウ?本当に私は大丈夫だよ?」

「シャルロット!!あんたのそれもいけないのよ!?」

「……ええっ!?」

 

鈴に怒られるようにして指摘され驚くシャルロット。

しかしみんな悪ノリしてるのか、場の雰囲気は完全に魔女裁判だな…

そろそろ逃げるために準備をしておこう。

俺が考えをまとめている間にも鈴の言葉に続くように周りのみんなも話しかける。

 

「そうよねぇ……優しいのと甘やかすってのは違うからねぇ……」

「デュノアさん、少し甘やかしすぎね」

「もっと強くデートしたいとか言わないと」

「そこに甘える奏くんも悪いけどね」

「えっと……でも……」

 

うわぁ……シャルロットもボロクソ言われてら。

っていうか結論俺が悪いのね。俺もそう思うけど。

しかし……俺は今更の疑問を口にする。

 

「ねぇ、鈴」

「何よ」

「これって結局のところ何が目的の集まりなの?」

「え?あっ。これ渡すのが本当の目的だった」

 

おい、目的忘れるなよ。

っていうか何か渡すなら普通に渡せよ。

俺は呆れ顔で鈴から封筒を受け取る。

シャルロットも俺の封筒に興味があるようでこちらを覗き込んでいる。

封筒を開け中身を出すと二枚のチケット。

なになに『秋の星空!!最新式プラネタリウム展!!』……えっと、どういう事?

周りのクラスメイトはニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。

そういう事か。鈴の方を向き話しかける。

 

「これに行って来いってこと?」

「そういう事。まさか文句がある訳じゃないでしょ?」

 

文句は無いし、むしろありがたいんだが……

楯無からこの間、俺にクレームがかなり来てるって言われたばかりなんだよな。

それに対して、また因縁つけられるような話題を作るのは好ましくないな。

だが……シャルロットの顔を横目でチラリと見るとすごい行きたそうな顔をしている……がこいつも事情がわかってるから俺に判断を任せるようにチラチラこっちを見ている。

…………どうする?

ここで行く選択をしたとしよう。

シャルロットとデートができ、更に個人的にもかなり楽しめると思う。

代わりに楯無にかなり迷惑をかけるだろうし、下手をしたらいらぬアクシデントを起こしかねない。

篠ノ之束が攻めてくるこの時期にそれはまずい。

行かないって選択は……

まずこの場で殺されかねない……

それから切り抜けられたとしてもシャルロットにまた我慢させてしまうし、クラスメイトからは印象最悪だろう。

だが、これは俺の問題でこの学園の防衛については別の話だ。

デートやクラスメイトの評価は後でなんとかなる。

だが学園の防衛は後からどうにでもなる問題では無い。

成功させなければ誰かの人命に関わる。

…………本気でどうしよう……

俺が悩んでいると突然声が上がる。

 

「はーい。さいばんちょー」

「だから裁判長じゃないってば!?」

「本音?どうしたの?」

「ソーが悩んでるみたいなんで証人をよばせてくださーい」

 

比較的後ろの方に居るためぴょんぴょんと跳ねながら発言する本音。

証人……嫌な予感しかしない。

 

「却下します」

「ってなんで奏、あんたが言うのよ」

 

鈴が何か言う前に却下する俺。

いや、考えれば考えるほどあの人以外くるはずないじゃん。

だが鈴はうーん、と唸りながら何か考えている。

 

「でもねぇ…このチケット自体布仏さんから提供してもらったものなのよね……」

「…………」

 

本音の提供?

……うわぁ…下手するとこの計画の発案自体一枚噛んでるの?あの人。

俺が顔をひきつらせていると鈴は考えをまとめたようだ。

 

「うん、布仏さん。呼んでいいわ」

「りょ〜かいです!!さいばんちょー!!」

 

そう言って本音は携帯をワン切りした(・・・・・・)

……ああ、こりゃ始めから選択肢自体無かった訳か。

その後数秒して教室の前の扉から、予想通り楯無が入ってきた。

げっそりとした俺の顔を見て満足げだ。

 

「ねぇ、風音君?びっくりした?」

「むしろ、全てが理解できてスッキリしましたよ…」

「それにしては顔色悪いわよ?シャルロットちゃんは……びっくりしてくれてるわね」

 

そう言って言葉も出ずに頷いているシャルロットを満足げに見ている。

クラスメイトは俺と親しげに話すこの人物が誰かわからずキョトンとしている。

いや、数人っていうか国家代表候補生はみんなわかってるぽいな。

セシリアは真面目な顔で、楯無からは目を離さず俺に声をかける。

 

「……奏さん…その方を紹介していただいてよろしいかしら?」

「うん?どうします?ご自分でやりますか?」

「頼まれたのは貴方よ?」

 

あー…面倒だな……

下手な事は言えないしなぁ……

この際、何処ぞの原住民みたく『オサ タテナシ コノ ガクエン サイキョウ オサ ヤッテル』とでもやってやろうか……

……それはそれで面倒だな。

普通に行こう。

 

「了解ですよ……あー…この人の名前は更識楯無。IS学園の生徒会長でロシアの国家代表やってる人」

「やはり……」

「この人がねぇ……」

 

と言い納得しつつもシャルロット以外の専用機持ちは強い目線を楯無に向ける。

楯無も普段ならスルーするだろうがあえてその目線に対し軽く気迫のようなものを当てている。

おい、どこのバトル漫画だ!?

……面倒ごとになる前にさっさと終わらせよう。

 

「で、楯無さん。どっからどこまで貴女の予定通り?」

「うーん……6割くらいかな?」

「……ソウ?どういう事?」

 

シャルロットが首を傾げている。

他のみんなも『え?』っといった顔をしてるな。

俺は本音の方を向き声をかける。

 

「のほほんさん。このチケットの出処って楯無さんでしょ?」

「せいかいだよ〜」

「んで楯無さん。このチケットを僕に渡せって言いましたね?」

「うーん…だいたいあってるわよ?ただ私もこんな風にみんなに囲まれてるとは思わなかったけどね」

 

そう言って可笑しそうに笑う楯無。

始めから貴女の手のひらの上だった訳か……

ため息をついて俺はシャルロットの方を笑顔で向く。

シャルロットも大体状況を把握したようで苦笑いしている。

とりあえず行っても問題は無いからチケットを渡したんだろう。

 

「シャルロット、問題は無いみたいだし行くか」

「え?……いいの!?」

「問題は楯無さんの方が対処してくれるみたいだし……なにより僕はすごく行きたい。どう?」

「……うん!!行こう!!」

 

そう言って満面の笑みを浮かべるシャルロット。

俺も結構楽しみだし、何よりシャルロットがこんなに楽しみにしてるんだ。

絶対にいいデートにしよう。

そこでハッとして回りを見る。

……全員ニヤニヤして俺たちの事を見てるな……

その後俺は、シャルロットと二人でクラスメイト+鈴、楯無にからかわれながらデートのプランを頭の中で組み立てるのだった 。

 

 

 

 

恋愛とは二人で愚かになることだ。

〜ポール・ヴァレリー〜



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第九十二話 デート!! or デート!!!!

魔女さいb………友人たちのアシスト(おせっかい)から数日後の休日。

俺はシャルロットと共にモノレールに乗っていた。

普段と違うところをあげるとすれば、互いに私服なところくらいでそれ以外は何時もと同じである……表面上(・・・)はだが。

俺は今現在結構……いや、かなりテンパっている。

理由は言わずもがな、デートに対して緊張しているのだ。

別に今までデート自体したことが無いというわけではない。

と言ってもそれは向こう側の世界の話で、時間であらわせばかれこれ十年くらい前の話だ。

更に言うとその記憶自体かなり朧げだ。

最早『そんなこともあったかなぁ……?』と言ったようにほとんど覚えていない。

そして、こっちの世界ではそんなこと考える余裕もなかった。

いわばこれは俺にとって初デートみたいなものなのだ。

一応デートプラン自体は軽く考えていたが、このままじゃミスをしそうだな………

せっかく邪魔なしで何も気にせずにデートができるんだ。

絶対にシャルロットを愉しませねば……

 

「……ウ………ソウ!?」

「……っ!?すまん!!ボーっとしてた」

 

いかんいかん、さっきからシャルロットに呼ばれてたようだ。

慌ててそっちを見ると頬を膨らませこちらを見ている。

 

「もう!!せっかくのデートなのに……」

「いや、本当にごめん。ちょっと考えごとにはまりすぎた」

「何を考えてたの?」

 

そう言って首をかしげるシャルロット。

ここでデートをリードできるかどうか悩んで緊張してた……

なんて死んでも言えない。

言ったらシャルロットなら笑うだけだろうが、ここは小さな俺のプライドの方が勝った。

……適当に言ってはぐらかそう。

もちろん嘘は言わない。

っていうか嘘は何故かシャルロットにはすぐばれる。

そこら辺は原因が分かるまで気をつけないといけないな。

 

「いや、クラスのみんなとか楯無さんとか追跡とかしてくるかなぁ……って」

「…あはは……流石に……」

「……無いと言い切れないのが怖いんだよなぁ…」

 

そう言って互いに乾いた笑いをあげる。

実際プール行った時は付いて来たし。

さらに言えば楯無がこんな俺をからかうネタを放置するとは考えられん。

今の所、後を付けられている気配は無いが、はりこまれてる可能性もあるんだよなぁ……

おそらくシャルロットもおなじような事を思い浮かべているんだろう、互いに沈黙が数秒続く。

そんな沈黙を打ち破るようにシャルロットが俺を励ます。

 

「た、多分大丈夫だよ!!うん!!」

「だといいけどなぁ……」

「それに……」

「それに?」

「気にしてばかりだと楽しめないよ?」

「……それもそうか」

 

確かにその通りだな。

そうシャルロットに笑顔で言われ自然と肩の力が抜ける。

エスコートせねばって考えすぎてたな。

緊張してデートを失敗するより、何時もと同じようにして楽しんだ方がシャルロットにとってもいいに決まってるな。

そして何よりもなるようにしかならないんだ。

今更慌てても仕方ないか。

落ち着きをなんとか取り戻して話しを続ける。

 

「それにしても久しぶりだね」

「うん?何が?」

「デートのことだよ。最後にしたのは……臨海学校の買い物の時かな?」

「いや……あれはデートには含まれないだろ……」

「じゃあ……夏休み中の一夏の家での買い物?」

「いや…それも微妙じゃない?」

「だったら……私の家にいた時の買い物!!」

「最早『初めてのお使い』みたいなものだったがな」

 

と言っても実際二人だけでしっかりと遊ぶなんてそれ位遡らないと無いのか……

やはり無駄に気を張ること自体無駄だな。

今日は自然体で楽しむとしよう。

その後、自然と昔話をする雰囲気になったのでモノレール内で話に花を咲かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅に到着し改札を抜け外に出る。

休日ということもあり人混みはかなりのものだ。

彼方此方で楽しそうな声や急いで通りすぎる人、笑いながら歩く人々が見える。

さて、とりあえず今後の予定でも話すか。

 

「シャルロット、とりあえず先にプラネタリウムを見に行きたいんだけど良いか?」

「え?そんなに急がなくても夕方の方でも良いよ?」

「俺なりにエスコートのプランは考えてあってな。どうする?一応どちらでも行けるぞ?」

「……ソウはそっちの方が良いんでしょ?」

「いやいや、お姫様の頼みだって言うのならどうとでもしてみせますよ」

 

そう言って軽くおちゃらけてみせる。

気を張ってエスコートするよりこっちの方が俺らしいだろう。

シャルロットもクスクス笑って俺に答える。

 

「じゃあ…エスコートの採点でもさせてもらおうかな?」

「了解しました、マドモアゼル。ではお手を拝借」

 

そうふざけてお辞儀をして手を差し出す。

周りは俺たちの事など気にしてないだろう。

少しばかり大袈裟に動いてみせる。

 

「もう……よろしくお願いします…期待してますよ?ムッシュー」

 

そう言って少し頬を赤くしながら手を取るシャルロット。

数秒後どちらからともなくクスクスと笑い、そのまま堪えきれず大笑いをした。

その後二人で手を繋ぎ直しプラネタリウムの会場に向かい、人混みに紛れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラネタリウムの会場。

そこは駅から歩いて十数分の所にある博物館だった。

結構年季が入っているようだが、所々改修した後が見え、さらに整備も行き届いており清潔感がある。

建物の一角にはドーム状の建物があり、おそらくそこがプラネタリウムの会場なのだろう。

そんなことを考えながら二人で入場料を払い中に入る。

受付に聞いたことろプラネタリウム開始まで時間が結構あるらしい。

せっかくだから展示物を二人で見て歩くことにした。

中にある展示物も宇宙に関連したものが多い、というかその手のものしかない。

つまりここは宇宙科学博物館といったところなんだろう。

展示物は数世紀前の天文学の品物から数年前のアポロ計画。

新しいもので篠ノ之束の発表した初期のISの雛形と思わしきパワードスーツのレプリカまで置いてある。

真面目なものだけではなく、小説『月世界旅行』についてや古典『かぐや姫』、さらには宇宙に関係した子供向けの絵本の様な物までかなりの量が置いてある。

一通り展示物を二人で見て回った後、『近未来の宇宙船』の前で立ち止まる。

ここからならプラネタリウムの会場が開いたらわかる位置なので開いたら直ぐにわかるだろう。

それにしても大したものだ、この宇宙船。

資料を見ただけだがISコアを何個か搭載しほぼ完全にオートで宇宙を旅できるというものらしい。

しかもそれには女男関係なく乗れるとなっている。

これにコールドスリープ機能をつければそのままトライガン世界の『シップ』になるんじゃねぇの?

技術的にも実現できないわけではなさそうだし……

ただ問題はコレに価値を感じられる人がどれだけいるかだな……

 

「すごいんだけどな…」

「どうしたの、ソウ?」

 

つい口からこぼれた言葉をシャルロットに聞かれてしまう。

誤魔化す必要もないし普通に話そう。

 

「いやさ、個人的には現在のISの使い方より、こういった宇宙開発の方がいいと思ってさ……」

「そういえばどうしてだろうね……何個かはこういった宇宙開発に使われても良いような気もするんだけどなぁ…」

「多分……そんなことに使うならうちに寄越せ、っていう国が多いんだろうよ……」

 

というかそういう国しか無いだろう。

本当の意味で一騎当千の限られた数しか存在しない兵器を金になるかどうかもわからない宇宙開発になど使わせないだろう……

こんなに浪漫に溢れてるのになぁ…

ヴァッシュの根幹になっていると言ってもいい女性、レム・セイブレム。

彼女も宇宙に憧れ、行く先のわからない旅に胸を躍らせていた。

俺も宇宙を旅してみれば百分の一くらいはその気持ちが理解できるだろうか……

じっと宇宙船を見続けているとシャルロットが俺の顔を覗き込む。

 

「どうした?」

「……え!?ええっと…ソウは宇宙開発とかに興味あったんだって思っただけだよ?」

 

……なーんか隠した様な気もするがまあいいか。

俺は再び宇宙船に目を向け返事を返す。

 

「うーん……興味を持ったのはそれこそISに乗るようになってからだな」

「どうして?」

「だって……戦うより夢や浪漫に溢れてるじゃないか」

 

今でもそう思う。

こんな浪漫に溢れてる乗り物をただの兵器で終わらせるなんて勿体ない。

多分これはヴァッシュがどうこうといった考えじゃなく俺自身が思っていることだろう。

 

「ふーん……じゃあ、もしも。もしもだよ?何処かの国で宇宙開発にISを使うって言ったらどうする?」

「すぐさまにその国に行くわ。永住する覚悟で」

「ま、迷う事無く即答なんだ……」

「いや、だってさ、このまま行けば、俺、間違いなくISのデータ取りのため〜とか言われていろいろ戦いに駆り出されるぞ?」

「ああ……確かに……」

 

そんなの嫌だから今まで必死に『戦わない男』でいったら今度はそれが原因で本気で戦わざるを得ない状況におちいっている。

ああ、面倒臭きは『強きは偉い』獣社会のIS学園。

俺は不貞腐れたようにため息を吐きながらしゃがみ、ブツブツと呟く。

 

「はぁーー……別にいいじゃん……俺が戦わなくてもIS持ってたって……元々の目的は男がISに乗った時のデータ取りだって言うのに……別に戦うことが目的じゃあないだろうが……」

「あはは……その男性操縦者としてのデータも取れないのが原因なんだけどね」

 

うぐっ……痛いところを突かれる。

いや、確かにその通りなんだけどさ。

仮にデータが取れたとしても今現在のISの使われ方は何処までいっても兵器で、必要なデータも当然、戦闘データなのだ。

当然さらなるデータ取りの為に俺は戦いに身を置かなければいけない。

頭ではわかっている。だが嫌なものは嫌だ。

がっくりとしながら恨めしそうにシャルロットを見上げる。

 

「シャルロット……お前はどちらの味方だぁ……」

「どっちって……ソウの味方だけど?」

 

と言ってニコニコしてるシャルロット。

そうやってシャルロットにからかわれているとふと見知った顔が目の前にいるのを見かける。

向こうもこちらに気が付いたようでこちらに駆け寄ってくる。

 

「奏さん!!」

「やっ、久しぶり蘭ちゃん」

 

そう言ってこちらに駆け寄って来たのは我が友人の妹君、『五反田蘭』だった。

蘭は俺の近くをキョロキョロと誰かを探している……というか一夏以外に探しす相手はいないな。

苦笑いをしながら蘭に話しかける。

 

「あー…蘭ちゃん。ごめん、今日は僕、一夏と別行動なんだ」

「え!?……あ、そ、そうだったんですか?」

 

あからさまに残念そうにしてしまったのが恥ずかしいのか顔を赤くしてしゅんとする蘭。

相変わらずだなと笑いながら話を変える。

 

「ええっと、蘭ちゃんはどうしてここに?」

「あ、はい。えーと…私IS学園に入学しようと思って……」

 

っ……マジか……

この間に言ってたのは元々興味があったからだったのか……

一夏と同じ所だから、とか言う理由なら止めた方がいいな……

俺が何も言わないのを気にしてか蘭が慌てるようにして話し始める。

 

「あ!!べ、別に一夏さんを追いかけて、って訳じゃないんですよ!?……それが無いとは言いませんけど……」

「いや、僕もそういうつもりで黙った訳じゃ無いよ?」

「いえ、いいんです。家のみんなもびっくりしてましたし。お兄なんて猛反対してました」

 

ああ、あいつもなんだかんだでシスコンだもんな。

個人的には厳さんがどんな反応をしたかの方が気になったが…

蘭の話しは続く。

 

「目指した理由なんですけど、私って特になーんも将来の夢ってなかったんですよね……そんな時に今の夢に向かってる一夏さんを見て、ISってものに初めて興味を持ったんですよ。それで調べてみたらどんどん疑問が溢れてきて…どうして空を飛べるんだろう?どうしてあんなに色々と武器を詰め込んだりできるんだろう…って疑問ばかり出てきて、気が付いたら一夏さんに関係なくISのことを本気で調べてたんですよ」

 

蘭の話は続く。

自惚れじゃなければ俺は今までも結構蘭に相談を受けていた。

まぁ、その内容はほとんどが一夏関係だったが…

その時の雰囲気を思い出しているのか蘭も自然とその自身の決意を話し続ける。

 

「そうなったらもっと知りたい、学びたいってなって……本気で挑戦したくなったんです、IS学園……こういう理由で入学するのっておかしいですかね?」

「いや、そんな事はないよ。少なくとも僕が入った理由の数十倍しっかりしてる」

「あはは、お世辞は良いですよ……」

 

そう言って照れる蘭。

いや、マジでしっかりしてるよ、うん。

俺なんてある意味バグって入学したようなものだからね。

なんかの決意があって収容(ニュウガク)させられたわけじゃないし。

他にもある種のステータスとしてIS学園に入ったとかいう人もいないわけじゃない。

それらと比べたら胸を張っていいくらいだ。

蘭はまだ少し顔を赤くしながら話し続ける。

 

「って言ってもおじいちゃんから『やるなら本気でやれ』って言われて補助金が出るくらいの成績で入学しなきゃダメなんですよね……」

「へー……あの厳さんが……」

「ということでただいま猛勉強中で、ここに来たのもIS学園関係なんですよ」

 

その蘭の言葉に首を傾げる俺。

あれ?ここの博物館ってIS学園関係してたの?

蘭も少し驚きながら話す。

 

「えっと…奏さん知らないんですか?ここって轡木グループが出資してて、結構IS関連の資料が充実してるんですよ?」

「………轡木グループ?」

「…………それも知らないんですか?」

 

最早蘭に呆れられている。

いや!?トップは知ってるよ!?

多分あの理事長(たぬき)の奥さんでしょ!?

シャルロットの方を見ると……シャルロットにも呆れられていた。

クソ、こういうポジションは一夏の仕事だろうが!?

 

「ソウ……轡木グループっていうのは製薬会社から成長していった日本の企業グループで、倉持技研の一番の出資企業だよ?」

「更に言えば一般的には医療関係の方が広く知れ渡ってますね」

「へー……あのたぬき、只者じゃないとは思ってたけど……」

「…たぬき……ですか?」

「うん?こっちの話……ああ!?ごめん、シャルロット!?紹介するの忘れてた!!」

 

と、ここにきてシャルロットに蘭の紹介をしていないことを思い出す。

別に話の方向がちょっと俺に不利かなぁ、と思って話しを変えた訳ではない。断じて無い。

 

「シャルロット、この娘は五反田蘭ちゃんって言って俺の友人の妹さん」

「えっと…初めまして……五反田蘭と言います」

「初めまして。私はシャルロット・デュノア。フランスの代表候補生で君の知り合いの一夏のクラスメイトなんだ」

「ふ、フランスの代表候補生!?ってソウさん!!そんな人とどうして!?」

 

シャルロットが代表候補生と知って焦る蘭。

シャルロットの方は、あはは、と苦笑いをしながら話しかける。

 

「ええっと、そんなに緊張しなくてもいいよ?」

「そうだぞ?そんなに偉い訳でも無いし」

「奏さん!!言っておきますけど代表候補生っていうのは将来確実に有名になることを約束されてるんですよ!?アイドルで例えるといわばアイドルの卵みたいなもので!?」

「どうどう、落ち着いて。ここ博物館、館内ではお静かに」

 

そう言って蘭を落ち着かせる。

しかしなぁ………アイドルで例える意味はあったのだろうか?

まぁ、論点はそこじゃない。

国家代表候補生ってそんなに凄いんだ……

ってことは入学当初のセシリアの言うことは誇張とか無しに本当のことだったのか。

考えてみたら現在の女尊男卑社会の原因でもあるIS社会の中で確実に上位に位置する各国の国家代表。

それの候補生ってだけでも結構上位に位置するのか……

 

「シャルロット…お前、結構偉かったんだな…」

「ええ!?そ、ソウ?違うからね?将来そういうポジションにつく可能性が他の人より高いってだけで今はともかく社会では何の意味もないからね!?」

「だろうね。ということで本人もこう言ってるからそんなに気にしなくていいよ?」

「……は、はぁ…」

 

蘭の方を向き笑顔でそう言う。

それを見てシャルロットは数秒固まったあと俺に話しかける。

 

「ソウ……もしかして初めからわかってた?」

「ああ。もちろん」

 

そう言われからかわれていた事に気が付き、顔を赤くしながら怒り、俺に詰め寄るシャルロット。俺は少し慌てた様に『どうどう』となだめる様にシャルロットに対し手で押す。

といってもお互い本気ではない。

遊びのようなものだ。

その証拠にシャルロットはもうクスクスと笑っている。

それを見て蘭が話しかける。

 

「奏さん、凄い仲良いですね……」

「うん、彼女だしね。そりゃ仲もいいよ」

「………今なんて…」

「仲もいいよって」

「その前です!?」

「うん?彼女だからって……」

「奏さん彼女出来たんですか!?って国家代表候補生と!?えぇ!?本当に!?」

 

再び混乱する蘭。

いや、ここまで混乱する必要なく無い?

第一こんな所に二人きりで来てる時点でデートしてるようなものだろ。

 

「すいません、また混乱してしまって……」

「いや、大丈夫だよ?っていうかそこまで驚かなくても……」

「あ!?す、すみません!!ちょっと色々混乱してしまって!?……えっと……私、デートのお邪魔してましたか?」

 

一通り混乱した後不安げに俺とシャルロットの顔を見る蘭。

俺は邪魔だとは思ってないし、シャルロットも気にしないだろう。

証拠にシャルロットは笑顔で蘭に話しかけている。

 

「ううん。私たちここのプラネタリウムの時間まで待ってただけだから、むしろソウの知り合いに会えて良かったくらいだよ?」

「本当ですか……?でもこれ以上邪魔しちゃ悪いですね……奏さん、デュノアさん。また今度会いましょう、それじゃ!!」

「お、おーい。蘭ちゃ……走って行っちゃたよ」

 

そんなに慌てて居なくならなくてもいいのに……

シャルロットの方も突然居なくなられぽかーんとしている。

しかし、もしかしたら蘭がIS学園に来るのか……

一夏争奪戦がヒートアップする事間違いなしだな。

 

「元気な娘だねぇ……あの娘も一夏のことが?」

「ああ、しかし現状友達の妹って域を出てないな」

「ふーん……ねぇ、五反田ってこの間言ってた一夏のために怒ったっていう?」

「そう、おじいちゃんがスゲぇ恐い人で実家が定食屋。今度一緒に食いに行くか」

「うん!!あ、プラネタリウムの方準備できたみたい」

 

そう言ってシャルロットが指さす方を見ると係りの人が扉を開けている。

さて、ここからが今日のメインだな……

そう考えながらシャルロットと手を繋ぎその扉の中へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

恋愛は常に不意打ちの形をとる。

〜立原正秋〜



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第九十三話 プラネタリウム

会場の入り口を抜け、プラネタリウム会場に入る。

中は薄暗く、映画館の椅子の様な椅子が円状に並べられており、中心部にはおそらくプラネタリウムの機械と思わしき物が置いてある。

シャルロットと共に適当な椅子に腰掛け開始時間を待つ……が、椅子に座ってから数分。

俺はすでにそわそわと落ち着きが無くなっていた。

べつにシャルロットが隣に居るから……という理由ではない。

いや、全くないかと言われれば『実は今日の朝から落ち着いてませんでした』としか言えないんだけど。

それに輪をかけて落ち着かないのだ。

理由は簡単だ。

俺がプラネタリウムをかなり楽しみにしているというだけである。

自分自身ここまで楽しみにしていると思っていなかった。

これではまるで子供である。

現在俺は、早く始まらないかとはやる気持ちを顔に出さないように必死に抑えこんでいる。

なんというか、結構俺も楽しみにしてたんだと思うと同時に自分はここまで幼いところがあったのかと自覚した。

もしかして忘れてしまっただけで俺は向こうの世界では星が好きだったのだろうか?

そんな事を考えていると隣のシャルロットがクスクスと笑っていることに気がつく。

 

「シャルロット、どうした?」

「ソウ、さっきからすごいそわそわしすぎだよ」

 

……バレバレだった。

顔が赤くなっている自覚を持ちながら、シャルロットに話しかける。

結構ツボにはいったのか未だにクスクスと笑っている。

 

「そんなそわそわしてた?」

「うん、隠そうと真面目な顔にしようとしているのも含めてね。そんなに楽しみにしてたの?」

 

そんなにバレバレな態度だったのか……

まぁ、ばれてしまったのだ。

これ以上隠す意味は無いだろう。

 

「自分でも驚くほどそわそわしちゃってさ。宇宙に少しは興味があったけどここまでとは……自分自身驚いたよ」

「ふーん、そうだったんだ。でも以外だったなー、ソウがここまで自分を抑えられないなんて」

「いや、今までも抑える必要が無い時は抑えこんで無いぞ?」

 

そう言ってみたものの基本、IS学園は我が強い奴が多いためけっきょく抑えてしまう事が多い。

(アイツ)とかセシリア(アイツ)とか(アイツ)とかラウラ(アイツ)とか!!

しかもクラスメイトも全力でのってくるし、山田先生は天然だし、OSAにいたっては騒ぎを大きくする。

確信犯と可燃物は大量にある。

いわば爆発物と同じだ。

そして最近は落ち着いて来てるけど、一夏(ヒダネ)は未だに、自身が火種だと自覚無く動いている。

何時大爆発してもおかしくないのだ。

……しかも爆発して他のクラス(まわり)に火が回り、混乱が起きようものなら、やってくる火消しは世界最恐の女(ちふゆさん)である。

鎮火方法も一夏(ヒダネ)周りの人(ばくはつぶつ)も全て粉砕するという画期的な江戸時代スタイルである。

そうなると俺が少し折れたり、抑えるだけで被害は格段に少なくなるのだ。………俺も一緒になって騒ぎを大きくすることもないわけではないが。

と、誰に言うわけでもない言い訳を思い浮かべている間もシャルロットは笑うのをやめない。

そんなに面白かったのだろうか?俺の顔。

 

「そんな笑わなくてもいいじゃないか?」

「だって、まるで遠足の前日の小学生みたいにそわそわして落ち着かないで周りをキョロキョロして見てるのに、顔だけはなんとか抑えようとして無表情。でも抑えられなくて時々顔がヒクヒクしてるもん」

「……そりゃ笑うな。むしろ話しを聞くだけじゃ気持ち悪い部類だな」

「うーん……どちらかと言ったら微笑ましい部類だと思うよ?ソウってけっこう大人びてるところがあるのに……今のソウはイメージと全く違うんだもん。それじゃあ笑っちゃうよ」

 

そりゃ、向こうの世界とこっちの世界の年齢を単純に足せば40代後半よ?こっちは。

記憶があったところだけでも30代後半である。

いくら体に精神年齢が引っ張られてたとしても、他のみんなと比べいくらか大人びてるだろう。

しかし、それなら尚更のことそわそわしているのがおかしくのか……

とりあえずこの事は黙っていてもらおう。

シャルロットが何故かここまで笑うのだ。

他の奴ら、特に楯無とかは絶対大爆笑するだろう。

 

「まぁ……男はいつまで経っても心は少年ということで……どうか秘密にしていただけないでしょうか?」

「うーん…どうしよーかなー?この後の態度次第にしようかな?」

 

そう言って笑うシャルロット。

普段どおりの笑みなのに悪意を感じる。

クソ、日頃優位に立つことが少ないからここぞとばかりにやってくるな。

……ちょっとからかってみるか。

俺は何処ぞの映画の下っ端みたいに手を揉みながらシャルロットに話しかける。

 

「ゲッヘッヘ、シャルロットさん、肩こってやいませんか?いや、それとも靴でも磨きやしょうか?」

「ええっと、楯無さんの電話番号は……」

「すいませんでした、シャルロットさん!!それだけはご勘弁を!!」

 

高速で掌を返し、出来る限り誠意を持って俺は謝る。

ここでOSAを使うのはある意味反則みたいなものだが残念なことに、ここにはレフェリーはいなかった。

この勝負、俺の完敗である。

シャルロットは少し満足そうにした後またもやおかしそうに笑いだした。

それを見て俺はシャルロットに優しく微笑む。

こいつ、ようやく普通に笑える様になったな。

シャルルからシャルロットとして入学できた後も、しばらくは作り笑いみたいな所を何処か感じてたが、今はクラスメイトとも普通に笑い会えてる。

始めの頃は俺相手でも安心させてからじゃないと自然に笑えなかったのにな。

そんなことを考えてるとシャルロットがこちらをボーっとした様に見ている。

 

「どうした、シャルロット?」

「……え?」

「いや、何かあったか?突然ボーっとして」

「う、ううん!?なんでも無いよ!?」

「はぁ……俺としてはさっきの事を秘密にしてくれるかどうか答えて欲しいんだが」

「え?……あ!うん、いいよ。誰にも言わない」

 

………なんだこいつ。

一瞬忘れてたよな、さっきの事。

今『え?なんのこと?』みたいな顔してたし。

っていうことは今の一瞬で何かこいつがそれを上回る衝撃をうけたって事か?

………なんか別の事でも思い出してたか?

っていうかそれ以外に考えてられんのだが。

いや待て、ここでそうだと断定するのはいけない。

もしかしたら何か別の要因で衝撃をうけたのかもしれない。

……………!!もしかしてOSAの追っ手か!?

いや、だとしたらシャルロットが黙っている理由が無い。

他に考えられる要因は……

クラスメイトか!?いや、現在この会場には俺たち以外居ない。

つまりOSAの追っ手も居ないということだ。

では、亡国機業か!?

……自分で思い付いておいてなんだがそれは無いな。

いや、確かにスコール(ストーカー)は来てもおかしくは無いが、アイツの事だ。

既に『いつの間にか隣に!?』というのはやった後だ。

来るとしたらもっとインパクトがあるに違いない。

では一体シャルロットは何に衝撃をうけたんだ?

…………………………全くわからない。

俺が勝手に混乱しているとシャルロットが話しかけてきた。

少し顔が赤い様な気もするが……何か恥ずかしがる様な要因あったか?

 

「そ、ソウ?何かあった?」

「……いや、何も?」

「そっか!!よかった…」

 

最後に何故よかったと言ったか気になるが、これ以上話しを振り返して墓穴を掘るのはごめんだ。

いいタイミングだし話しをそらそう。

 

「そういやあまり人が来ないな」

「う、うん。初日ってわけでもないし、興味があった人は粗方見に来た後なんじゃないかな?」

「あー…なるほど。それはあり得るな」

 

チケットの日付けを見る限り、今週で最後だもんな。

しかし最終日って言ったらそれなりに人が集まりそうな気もするが……

運が良かっただけだろう。

 

「まぁ、人が少ないって言うか誰もいない……貸し切り状態ってのは嬉しいけどな」

「確かにそうだね。運が良かったのかな?」

 

まぁそう考えたほうがいいな、精神的に。

別に『OSAの策略では!?』なんて考えている訳ではない。

仮にOSAがやったとしてなんの得になるというのか。

……損得で動かない時もあるから面倒なんだよな、あの人。

そんな事を考えていると会場内がゆっくりと暗くなっていく。おそらくそろそろ始まるんだろう、シャルロットの方をちらっと見ると既に上のスクリーンをジーっと眺めている。

なんだ、俺に負けず劣らずこいつも楽しみにしてるじゃないか。

少しだけクスりと笑った後に俺もゆっくりと椅子を倒し上を向くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナレーションもなくゆっくりと中央の機械が音もなく動いている。

周りに人がいないためシャルロットと話しをしても何も問題はないのだろうが、会場の雰囲気のせいか暗くなってから互いに一言も発さずただ黙って上を眺めている。

うーん……ここで雰囲気に流されて黙ったままと言うのはデートとしてはいかがなものか。

だがマナーとしては……いや?映画って訳でもないんだ。

周りには人もいないし、少しくらい話しても問題はないのでは?

そんなことを考えていると目の前が突然明るくなり……言葉を失った。

目の前に広がったのは満天の星々だった。

それも普段夜空を見上げて見えるような空でもなく、ホームレス時代に雪山で見た空でもない。

本当にスクリーンに映し出された空の全てが星で埋め尽くされているのではないかと思う程の星空である。

星々はただ写し出されているだけではなく、しっかりと瞬いており、本物の星空を見ているのかと言う錯覚を受けた。

しばらくの間、何も考えることもできずにただ黙って星空を眺めていたが、突然会場内にナレーションの声が響く。

 

『現在ご覧になられている星空は、本来肉眼ではとらえることができない星々の光も映し出しています』

 

へー。

だから今までみたどの星空よりも星が多く感じたのか。

肉眼では捉えられない星かぁ……

宇宙に出て地球から離れれば見ることができるのだろうか?

って、そんな単純なもんじゃないか。

自分の考えに苦笑し、ふと隣のシャルロットをみて………目を奪われた。

場の雰囲気だろうか、それとも普段の服と違うからだろうか。普段の柔らかい微笑みだけではなく、その顔は何処か大人びた雰囲気を醸し出して、それでいて少女のように目を輝かせ星空を眺めている。

ぶっちゃけて、簡単にいえば、普段のシャルロットは可愛いと言った感じだが今のシャルロットはそれにプラスして美人って言うか美しいといった雰囲気だった。

そして俺はそのシャルロットをみてしまえば、否が応でも隣にいるこいつの事を意識してしまう。

よく『綺麗…』『君の方が綺麗だよ』といった台詞があるがあれはこういう時に使われるものだろうか。

今までは陳腐な台詞だ、と思う時もあったが本当にそうとしか思えない時があるんだな……

そんな時にナレーションの声が再び響く。

その声に我を取り戻し、シャルロットに勘付かれる前に上を向く。

……顔が赤いのがばれなければいいが……

 

『皆様、星空を眺めるのには満足していただけましたか?では皆様席を立たれても構いません。宇宙空間へとむかいましょう』

 

……………はい?

次の瞬間俺の目の前に星々が浮かび上がった。

驚いて身体を起こすとまるで蛍のように、空中に星が浮かんでいる。

先程の星空ほどの数ではないが、完全な3Dの星空の中に俺とシャルロットはいた。

その光景は先程の満天の星々とはまた違う感動を俺に与えてくれた。

二人で呆然としながら周りを眺めているとナレーションの声が聞こえてきた。

 

『現在ご覧いただいている最新式プラネタリウム《てんたいくんMK.Ⅳ》は、なんとあのISを作り上げた、日本が誇る天才科学、篠ノ之束博士が製作された世界でここだけにしかない空間展開式プラネタリウムなのです』

 

!?し、篠ノ之束!?

突然、予想もしていなかった名前を聞き動揺する。

隣にいるシャルロットも同じくような反応をしてるって事は聞き間違いじゃないよな……

互いに顔を見合わせた状態でナレーションの声は続く。

 

『このプラネタリウム、実は心臓部にISコアが使われており、それによって従来のプラネタリウムとは一線を画したものになっております』

 

………えっと……ISコア?

って事は……理事長(あのたぬき)!!篠ノ之束からISコアもらったのかよ!?

え!?聞いてないぞ!?そんな事は!!

っていうかOSAも言えよ!!

向こうからの接触だろうが!!

…………と思いながらも何処か『この装置だったら仕方ない』とも思ってしまう。

なんというか……争いに巻き込んじゃいけないって言うか、それとは話は別って言うか……

許してしまうだけの美しさがこの装置にはあると思ってしまった。

同時に俺の頭の中の篠ノ之束が作り上げたものとは思えなかった。

むしろどちらかといえば篠ノ之束を知らなかった頃の『俺のイメージしていた篠ノ之束』が作ったような気がした。

………こんなこと、今考えても仕方ないか。

ぶっちゃけ何を言ってももうすんだ事だし。

俺は隣のシャルロットの手を握る。

突然の事に焦るシャルロット。

別に周りに人はいないため声を小さくする必要はないが、一応声を小さくして話す。

 

「(宇宙空間の散歩に付き合っていただけませんか?マドモアゼル)」

「(そ、ソウ!?それより今の……)」

「(今考えても結果はまとまらないよ。それは明日にでもOSAとか、たぬ…理事長を交えて話した方がいい)」

「(でも……)」

「(今は何も考えないで楽しもうぜ、な)」

「(……うん、わかった)」

 

シャルロットを納得させ、会場内(星の海)を共に歩く。

始めは篠ノ之の名前のせいでのめり込めなかったが数分も経てば二人で声を出しながら共に笑って星々を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋の力は、身をもって恋を経験する時でなければわからない。

〜アベ・プレヴォ〜



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第九十四話 学校祭準備

大変お待たせしました。


話しは飛んでシャルロットとのデートから数日後。

俺は自室で、一夏と共に学園祭の出し物である『ご奉仕喫茶』のメニューを考えていた。

一応デート中に見つけた篠ノ之博士製のプラネタリウムについては伝えてある。

が、楯無いわく確認済みで、数年前に設計図が学園宛に届けられ、それを学園の方というか、理事長の方で製作したものらしい。

後、シャルロットとのデートに関してだが…まあ、うん。

楽しく終われたという事だけは言っておく。

まあ過去はともかく、今はメニュー製作をしているのだ。

俺は一夏の目の前に広げられたお菓子を目の前に企画の説明をする。

 

「ーーーって感じで、作り置きがきくカップケーキやパウンドケーキ、あー…あとクレープとかをメインにおいて、あとは数量限定でデコレーションケーキとちょっとした焼き菓子を数種類用意するつもりだ」

「……おう」

「材料については食堂の方でひいきにしてる業者があるらしいからそこから卸すつもりだ。余った材料やデザートについてもーー」

「ちょっとストップ。奏、頼むから止まってくれ」

 

そう言って一夏は俺を制止しながら頭を抱えている。

いったいどうしたと言うのだろうか?

頭を抱えたまま一夏は俺に話しかける。

 

「えっと……今俺が聞いてるのはクラスの出し物についての話しだったよな?」

「ああ、そうだよ?」

「で、なんで売り上げの予想からその後の処置。挙げ句の果てにメニューの試食会まで行ってるんだよ!?お前、店でも開くつもりか!?」

 

そう言って一夏は目の前にあるお菓子の山を恨めしそうに睨みつける。

一応パターンのマイナーチェンジも含めると約80種類のお菓子が一夏の前に広がっている。

一夏には全て最低でも一口は食べる様に言ってある。

最初は嬉しそうにわざわざ全部食べていたのだが20を超えたあたりで勢いが落ちていき、現在40種類目で止まっている。

 

「って言われても……店を開く様な物だろ?」

「ちげぇよ……学園祭とか学校祭とかでここまでやるのは絶対間違ってるだろ……」

「まぁ、IS学園だからな。ありとあらゆることが規格外じゃないと」

「………絶対それは違うだろ……」

 

そう言って一夏はがっくりと項垂れる。

うーん、最低でも後40種類は一口は食べて評価して欲しいんだが……

そんなことを考えていると部屋のドアが鳴る。

この叩き方は恐らく鈴だろう。

 

「一夏ー、奏ー。入るわよ?」

「ああ、空いてるから勝手に入ってくれ」

 

俺がそう言い終わる前にドアが開く。

予想していたとおり、まず初めに鈴、続いて箒、セシリア、ラウラ、簪、シャルロットの順で部屋に入ってくる。

椅子はギリギリ足りてるな。

俺は椅子を適当に並べていると彼女たちの驚きの声が上がる。

 

「一夏、何して……何!?このお菓子」

「まぁ!?これは奏さんが?」

「うん、学園祭の試食」

「……凄いです」

「和菓子は無いのか?」

 

口々に言葉を発するが、目線はお菓子に向けられたままである。

まあ、1名ほど別の意味でお菓子を確認しているみたいだが。

安心しろ、シャルロット。

ここにあるお菓子類は全て一度お前と作ったものばかりだ。

しばらくお菓子に目を奪われていた6人だったがようやく意識が戻って来たみたいで俺たちに話しかけてくる。

 

「ソウ、これってご奉仕喫茶のメニュー?」

「の試食会みたいなものさ」

「ここにあるもの全部がか?」

「……いや、本当はもっと多い……20個位は全部食ったからな……」

 

目の前にあるドーナツを恨めしそうに突きながら一夏がつぶやく。

その言葉に少し引き気味に鈴が俺につぶやくように話す。

 

「なんでそんなに作ってるのよ……」

「え?普通店を開くならこれくらいやるでしょ?」

「ふむ…日本の学園祭なるものをなめていたな……」

「うん、学生のお祭りでもここまでやるんだね」

「これが普通…日本のサービス業の良さの根底が見えた気がしますわ」

「「「「いや、普通じゃないから」」」」

 

俺のボケを真に受けた欧州3人娘に冷静なツッコミを入れる四人。

え?といった風に俺を含めた四人で驚いて見せるとツッコミ組は盛大にため息をついた。

その後ラウラは何事もなかったかのように俺にたずねる。

 

「ーーで、これ食べていい物なのか?」

「あー…手が付いてるやつなら良いよ」

「本当ですの?」

「やった!!2組のみんなに自慢してやろ」

「あ、でも学園祭の出し物になるならあまりバレない方がいいのでは」

 

思いついた様につぶやく簪に、『あっ』と言った様に気がつく鈴。

そこまで気にする事ないのだがと笑いながら俺は即答する。

 

「問題ない、問題ない。実際に出すヤツはもう少し違う感じで出すし、逆に宣伝になっていいくらいさ」

「あ、そうなの。だったらいっぱい食べて宣伝してあげるわよ」

 

そう言って目の前のお菓子たちを楽しそうに品定めする女の子がた。

やはり女性にとってケーキというものは特別なものなのだろうか?

それを見た一夏がボソッとつぶやく。

 

「……こんだけ食べたら俺もふと」

 

言葉を言い切る前に全員がISを一瞬で部分展開する。

みんなさん見事な物で、正確にそれぞれの武器が一夏に向けられている。

 

「一夏さん?」

「は、はい」

「何か聞こえた気がするんだけど」

「えー、あー」

「嫁よ、言ったか?うん?」

「い、いや……」

 

一夏は助けを求めて俺を見るが俺は全力で首を横に振る。

いや、今回は無理。

絶対に無理。

下手に手を出したら俺に飛び火する。

っていうか下手をしなくても飛び火する。

笑顔のまま一夏に詰め寄る6人。

笑顔とは本来、攻撃的な意味を持つだかなんだか…

まあなんにしても目の前の笑顔が本来の喜びを感じ取れる人はいないだろう。

しばらく笑顔で詰め寄られ、ある程度経った。

一夏は顔から汗をダラダラと流している。

一方俺は目の前で十字を切った。

すると全員が元の場所に戻った。

安心して深くため息をつく一夏だが、それを見ずに箒がボソッとつぶやく。

 

「次は無いぞ」

「っ……はい」

「全く…第一、私たちはあんたの訓練に付き合ってるんだから、早々そういう風になるわけないでしょ!!」

「全くですわ!!むしろこれくらい食べて当たり前ですわ!!」

 

ここで改めてみんな怒りをあらわにする。

今回に限っては落ち着かせることができるのは、俺だけだ。

普段は抑えに回ってくれる簪とシャルロットは今回はかなり怒ってる。

簪は無表情というより、氷のような表情で一夏を見ており、シャルロットに至っては笑顔のまま、背後に仁王が見える。

俺は引きつった笑いを浮かべながらみんなを落ち着かせる。

 

「わかったからみんな、落ち着こう。まずは目の前のお菓子を楽しんでくれ」

「じゃあ……ソウ、それとって」

 

頬を膨らませた不機嫌なシャルロットはぶっきらぼうに俺にそういう。

だが俺にしてみればそっちの方がまだいい。

感情を押し殺したような作り笑いをさせるくらいならこういう風に感情を溢れ出すくらいが…………いや、正直勘弁だわ。

彼女を怒らせて喜ぶ趣味はないし。

しかし、この空気はどうしたものか……

考えがまとまらないままシャルロットが指差すケーキを手に取る。

オレンジピールやレモンピールといった柑橘類の皮をラム酒と一緒に砂糖漬けにしたものを細かく刻んでガトーショコラの生地に混ぜ、タルト型に入れて焼き上げたお菓子。

タルト生地のサクサク感とガトーショコラのしっとりとしたチョコレート。

そこにガトーショコラに混ぜ込んだ柑橘類のさっぱりとした風味とやわらかく焼き上げたガトーショコラの後味が合わさり後味の良い味に仕上がっている。

『ガトーショコラ・タルト』。

俺の作るお菓子の中でも上位に入る作品だ。

柑橘類のピールの配合、オープンの温度、使用する酒の種類。

様々なところにこだわった俺の自信作だ。

実際店売りにするなら少し材料を削るが、まぁ試作で作る分には問題無いだろう。

そのタルトの一切れをシャルロットに渡そうとして、ふといたずらを思い浮かべる。

手に持った皿のタルトにフォークを入れ、一口大にする。

そしてそれをシャルロットに突きつける。

 

「了解、ほれ」

「え!?そ、ソウ!?」

 

突然の事態に焦るシャルロットと、呆然と驚く周り。

これだけでもいたずらは成功し、雰囲気は一気に入れ替わった。

俺はなんでも無いように笑顔を浮かべながらシャルロットに話しかける。

 

「うん?食べないのか?」

「ううん!!食べる!!」

 

と言いながら恐る恐る俺の差し出したタルトに口を近づける。そしてそのままタルトを口にし幸せそうな表情で口を動かす。

 

「うまいか?」

「うん……美味しい……」

 

いや、本当に幸せそうな顔だな。

さっきまで後ろにいた仁王もどこかに消えて、幸せそうな雰囲気が溢れ出てるわ。

そして周りもようやく意識を取り戻し、少し顔を赤くしながら俺をからかう。

 

「あーあ、見せつけてくれるわね」

「どう?羨ましい?」

「ハイハイ、ご馳走さまですわ。で、奏さん。本当に食べてよろしいので?」

「ああ、いいぞ」

 

と言い少し考えた後、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。

これから起きるであろう事が俺の本当のいたずらだ。

一夏がうらめしそうにケーキを見ているのを横目に見つつ、これから起きるであろう騒ぎを思い浮かべて笑い出すのをこらえながら戦闘開始の合図を出す。

 

「一夏に最低でも一口食べさせてやってくれ。アーンとかやってもいいぞ?」

「「「「!?」」」」

 

この時四人に電流が走る。

一方、あまり関係のないシャルロットは俺のやろうとしていた事に気が付いたのか呆れているのかため息をつき、簪は苦笑いをしている。

そんなことは今の俺には気になりません。

既に四人は互いに牽制しあいながら一夏に詰め寄ろうとしている。

この部屋の中で現状がわからないのはこの超鈍感ぐらいだろう。

 

「奏……そんなことしてもらわなくてもちゃんと食べるよ」

「うん?そうか。それは悪かった」

 

そう言って俺は笑顔で一夏に謝る。

さて、ここからが本番だ。

先ほどの空気の読めない発言をしたおまえが悪いんだぞ、一夏。

そして俺と一夏が再び何か言う前に戦いは始まった。

 

「いえ、一夏さん?普段とは違う食べ方をすると沢山食べることができると聞きますわ」

 

始めに攻め込んできたのはセシリアか。

だが一夏にはその程度の押しは押してないのと同じだ。

 

「へーそうなんだ。でも俺はちゃんと全部たべ」

「私が聞いた話しだと食べる様に勧められるから、食べるスピードも変わるらしいわ」

 

案の定、かわされたと思ったがそこに鈴のインターセプトが入ったな。

一夏も状況がわかってきたのか顔が青い。

いや、多分その原因の理由については勘違いしたままだろうがな。

別にみんなお前が残すとは思ってないよ。

 

「いや、別に急いでいる訳じゃ……」

「一夏、時間は有限なんだ。こんな事は早く終わらせて別の事をするべきではないか?」

「うん?今日は訓練は休暇日だからゆっくりとしようと思って」

 

と言いながら三人で一夏に詰め寄る……?三人?

あれ、ラウラが攻めないって……

と思ってラウラの方を見るとうーんと唸りながらケーキを見定めていた。

しばらくしてロールケーキの皿を片手に持ち一口大に切り取ると、なんとそれを一夏に突きつけた。

 

「ほら、嫁。アーン」

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

ラウラ、まさかの抜け駆けである。

いや、一夏に対しては行動で素直に攻めるのが一番、このやり方が正解だ。

周りを気にせずにラウラはさらにケーキを一夏に押し付けていく。

 

「ちょっ!?ラウラ、食べるから押し付けるなよ!!」

「ほら、アーン」

 

そう言いながらラウラはフォークに刺さった一口大に切ったロールケーキを一夏に突き出す。

一夏は少し顔を赤くしながらケーキを食べる。

食べた瞬間三人はあっ、と言った顔をし、ラウラは満足気に頷いている。

 

「どうだ?うまいか?」

「うん、美味しいけどこれよりさっき食べたやつのほうが俺は良いかな?」

「うん?どれだ」

「えっと……その黒いやつ」

 

ふむ、チョコチップロールケーキは微妙だったかな?

俺が真面目にケーキについて考えている間にも4人はヒートアップしていく。

 

「一夏!!次はこれよ!!」

「いえ!!こちらの方が美味しいですわ!!」

「いや、これの方がいいはずだ!!」

「嫁、次はこっちを食べろ」

「ちょっと!?そ、奏!?」

 

一夏は4人にお菓子を突きつけられタジタジになり俺に助けを求める。

だが俺は自分から馬に蹴られる趣味はない。

シャルロットと簪、二人とゆっくりさせてもらおう。

 

「シャルロット、簪ちゃん。コレがアマレッティって言ってイタリアのメレンゲクッキーみたいなもの」

「へー…サクフワって感じで美味しい」

「こっちはなんなんですか?」

「ギモーヴって言うマシュマロみたいなお菓子さ。えーと……フランスの菓子でいいんだっけ?」

「うん、そうだよ」

「奏、お願いだ、無視しないでくれ!!」

 

お菓子を口元に押し付けられながら助けを求める一夏を横目に俺はシャルロットと簪と笑い会うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ということでこれが学園祭のご奉仕喫茶のメニューです」

「ほう……手作りでいくのか?」

「はい。材料とか原価計算とか余った物のその後の処理とかは最後の資料にーーー」

 

というふうに俺はみんなと別れ現在職員室で千冬さんに余ったお菓子を食べてもらいながらご奉仕喫茶の現在状況の説明をしている。

本当は一夏も連れてくる予定だったのだが、現在ヤツは食い過ぎでダウンしている。

全種類を一口食べて評価をもらったのだが、その後も一夏は開放してもらえずずっとケーキを食べさせられ続けたのだ。

……俺のせいな気もしなくもないが、根本的な原因は一夏のせいだから俺に責任は無いと思う。

数分後、俺は一通り千冬さんに内容を説明し終えた。

 

「ーーーといった感じですかね。一応織斑先生の方でも材料費とかの確認をお願いします。あと内装に関してはセシリアと鷹月さんが主になってやってるんで、そっちの方は鷹月さんに確認を」

「ふむ……そっちの方もおまえに任せてもいいか、風音」

「えっ!?イヤー ボク ダト フアンヨウソ ガー」

 

と片言の日本語で逃げようとする。

正直面倒臭いので逃げれるものなら逃げたいのだ。

だが千冬さんには見抜かれていたようだ。

 

「おまえ面倒臭いと思っているだけだろう」

「はい」

 

少し睨むような目でピシャリといわれたので、俺も即答する。

千冬さんはため息をついた後に話しを続ける。

 

「わからんでも無いが、おまえは一応総括の担当者だろう。後、飾り付けの必要なものに関してもおまえの方が詳しいだろう」

「まぁ、そりゃズブの素人よりかは…」

「別におまえ一人に任せきりにするわけではない。ただある程度話しをまとめて私か山田先生に話してほしいというだけだ」

 

そう言う千冬さんの顔には疲れが見える。

何かあったのか?少し生意気かもしれ無いが踏み込んでみるか。

 

「了解です。後何かあったんですか?お疲れのようですけど」

「……まぁ、これは独り言だ」

 

そう言って千冬さんは目を閉じて話し続ける。

一体何があったというのだろうか……

 

「我が学園の、とある男子生徒と女子生徒が逢引をしてな」

「………………はい?」

 

いや、それって俺とシャルロット以外にいないだろ。

あの一夏(鈍感)が誰かとデートするとかありえないし。

だがこれは楯無さんから許可を得ていたから問題はなかったはず…一体何が問題だったんだ?

 

「その行為事態は問題無いのだがな、一部の馬鹿共がちょっかいを出してきてだな」

「ちょっかい?」

「週刊誌に載せようとしたり、相手の女の身元調査をしようとしたり、取材をしたいと私に許可を求めてきたりな」

「……えぇぇ……」

 

げんなりとした顔で俺は唖然とする。

正直そっちの方は想像してなかった。

いや、クラスメイトとか楯無さんのストーキングは予想してたよ?

でも週刊誌とか……っていうか俺と一夏に対してのそういった行為って禁止されてなかったけ?

俺は独り言だというのに疑問を口にしてしまう。

 

「でも俺に対しては…」

「そのとある男子生徒は取材禁止となっているがな、女子生徒のほうは違う」

「……ああ、なるほど」

「その女子生徒もとある事情で本国からの支援はあまり期待できん。いや、むしろ取材を受けたいと考えている節もある」

 

ああ、俺との関係を表にして、無国籍の俺を彼女と同じ国籍にしてあげようって感じで世論を動かそうってか?

んで、その守ってもらえない女子生徒(シャルロット)を取材から守ってるのが千冬さんってわけか。

……うわぁ…あたまが下がるな。

しかし、楯無さんがこの程度のこと想定して無いわけがないと思うんだが…

そんな考えも見抜かれていたらしいくため息をついた後に千冬さんは話しを続ける。

 

「その事を想定して動いてたヤツの本来の目的はスパイやルールを守ろうとしないものたちなどの『炙り出し』だ」

「……あのOSA…」

「喜べ風音。なかなかの大漁だったらしいぞ」

「それはようございました。で、大丈夫なんですか?その女子生徒は」

「ああ、安心しろ。とりあえずしつこいのは全員私が対応して切り捨てている」

 

鋭い目でそう言い捨てる千冬さん。

この人の威圧で切り捨てられたら再び取材をしたいと考える人はいないだろ。

だが一時期世間を騒がせたISの男性操縦者を別の方向から取材ができそうなのだ。

もし成功したらそれなりに収入は見込めるであろう。

フリーから大御所までいたるところからきてるんだろうな…後でなんか差入れを持ってくる事を心に決めた。

 

「そいつは一安心……後でなんか差入れします」

「……それなら教員分で頼む。今は落ち着いたが、特に山田先生など狙い目と思われているのか、一時期集中砲火を食らってる」

「了解です」

「……風音」

 

そう言って俺は職員室室を後にしようと席を立とうとすると千冬さんに声をかけられる。

表情は先ほどとは打って変わり、何か聞きたそうな顔だ。

 

「話しは変わるが、お前、あのプラネタリウムを見たらしいな」

「はい」

「変な事を聞くが……あれを見てどう思った?率直な感想が聞きたい」

「あれこれ篠ノ之博士の最高傑作ですね。多分あらゆる意味でISコアの正しい使い方だと思いました。もう、大興奮ですよ、本当に。あれ見た後しばらくシャルロットと二人でそれの話題しか出てきませんでしたし」

「……そうか。引き止めて悪かったな。もう行ってもいいぞ」

 

そう言うと千冬さんは柔らかい笑みを浮かべた。

千冬さんに別れを告げ職員室を出て考えながら歩く。

もしかしたらあれの発明に千冬さんも関わっていたのだろうか?

時期的にも問題はないし……

まあ、考えても答えは出てこないし、とりあえず鷹月と連絡をとって、装飾の方はどんな感じになっているか聞いてみるとするか。

俺は携帯を手に取り電話をしようと携帯を取り出す。

映った待ち受け画面には星空の中でシャルロットと二人で撮った写真が映っていた。

 

 

 

 

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。

〜『星の王子さま』より〜




遅くなってすいませんでした!!
次の話も出来るだけ早くあげます。


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第九十五話 スクール・フェスティバル

姉ちゃん!!
『早く』って『今』さっ!!
すいません投下します。m(_ _)m


数日後IS学園の学園祭が開幕する。

今頃体育館で開会式でも行われているだろうが俺とシャルロットと一夏、後は数名のホールスタッフたちは開会式に参加せずに開店準備をしていた。

と言っても前日までに殆どやる事は終わらせてる。

今やっているのは確認作業と店内の清掃、後は着替えくらいだ。

俺は厨房と言う名の裏方担当なのだが何故か服装は執事服だ。

拒否したのだが無理やり押し付けられ現在、別室で着替えている。

と言ってもこのままだと借り物を無駄に汚してしまいそうなので、俺の現在の服装はシャツにスラックス、更にタイはつけずに首元は開け、腰には黒い前掛けをつけ、髪型もポマードでオールバックにしている。

この格好はドイツでのバイト時代の服装だ。

って言ってもスラックスはジーンズだったり、髪型をきめるのが面倒でバンダナで済ますこともざらだったが…

まぁ、とりあえず服装はこれでいいだろ。

着替えを終えジャケットとウェストコートを手に持って一組に戻る。

中に入ると結構おしゃれ雰囲気のする店内になっている。

俺が来たことに気がついたシャルロットがこちらによってくる。

頭にカチューシャを付けたクラシックだかクラシカルとか言ったロングスカートのメイド服を着ている。

俺の目の前に来るとクルッと一回りして楽しそうに俺に話しかけてくる。

 

「ねぇねぇ、ソウ!!似合ってる!?」

「おう、いいんじゃない。様になってるよ」

「えへへ〜、よかった。ソウもすごい似合ってるよ」

「ありがとさん」

 

そう言って笑うシャルロット。

こいつ前にメイド喫茶で助っ人した時は執事服だったんだっけ?

よっぽど着てみたかったんだろうな、メイド服。

楽しそうに笑っているシャルロットの次は執事服に身を包んだ一夏がこちらに来た。

首元が苦しいのかしきりにいじっているが結構似合ってるな…

これは集客が望めそうだ。

 

「お、奏。ようやく来たか。っていうかお前は執事服着ないのか?」

「しっかり着てるよ。ジャケットを着てないのは厨房で汚さない為さ。僕、ホール出ないし。客寄せパンダは一夏に任せた」

「うわぁ…ずりぃ」

「じゃあ厨房やるかい?」

「少しならできるけど、担当は奏だからなぁ……二人でやらない?」

「ダメよ、織斑くん。せっかくのこの店の売りが一つ減っちゃうじゃない」

 

そう言ってこちらに来たのはメイド服に着替えた谷本だ。

他にも数名俺たちに近寄って口々に感想を言っている。

 

「うわぁ…風音くん印象変わるね…」

「なんていうか、織斑くんは正統派執事って感じで、風音くんは……ワイルド系コック?」

「着崩してるけどそれが様になってるっていうか……着慣れてるって感じ」

「元々こんな格好でバイトしていた時があったからね」

 

むしろ俺はしっかりとした格好だと着せられている感がすごいのだ。

ばあさんにも大笑いされた記憶もある。

そんな会話していると相川がこちらに手を振って一夏を呼んでいる。

 

「織斑く〜ん。このカメラどうすればいいの?」

「ああ、今行くからちょっと待ってて」

 

そう言って一夏は相川の方へ向かおうとする。

しかしカメラか……何か使う予定はあっただろうか?

カメラで何をする気か一夏に聞いてみる。

 

「うん?カメラって?」

「ああ、枚数限定でメイド服を着て写真撮影ってイベントやることにしたんだ」

「突然だなぁ……織斑先生には?」

「昨日のうちに伝えてあるよ」

「現像は?」

「俺のインスタントカメラ使うから問題無し。とりあえず200枚は取れるから、多分大丈夫だろ」

 

そう言って手をひらひら振りながら一夏は相川の方へ歩いていく。

200枚か……おそらく足りなくなるな。

補充は出来ないけど限定をうたってるし、いざとなったら写メるだろう。

 

「これってどういう風に使うの?」

「えっと、これはだなーー」

 

相川含め数人のスタッフが一夏からカメラの説明を受けている。

なんか学園祭ぽいな〜と感じているとシャルロットが話しかけてくる。

 

「そういえばソウはチケット誰に渡したの?」

「そう言うシャルロットは?」

「うん?私は蘭にあげたよ」

 

なんだかんだで仲良くなっているな、こいつと蘭。

この間アドレス教えたら色々と連絡しているみたいだし。

シャルロットからしたら可愛い後輩みたいなもんだし、蘭からしたら色々と教えてくれる先輩だしな。結構勉強を教えてもらってるらしい。

あーと納得しながら俺は話しを続ける。

 

「ああ、蘭ちゃんにか。俺の方は秘密」

「ええ!?ずるい」

「何がだよ、まぁ当ててみな」

「その言い方って事はアストリットさんじゃないんでしょ?」

「婆さんの方は先にラウラが送ってたわ」

「じゃあ…中学生時代の友達?」

「弾は一夏がやったし、一馬は外せない用事があるらしい」

 

送った相手はお前(シャルロット)関係だがな。

まぁ、来たとしても会いには来ないだろう。

シャルロットがうーんと唸りながら考えているとこちらの方にカメラを持ってみんなが近寄ってくる。

 

「どうした、一夏」

「いや、試しに数枚撮って飾りつけようって話しになってさ」

「僕が撮ればいいの?」

「ううん、シャルロットちゃんとツーショットで撮らない?」

「うん、撮る」

 

俺が何か言う前にシャルロットが即答する。

さっきまで考えこんでたのに話しはしっかり聞いてたのな。

シャルロットは急かすように俺にせがむ。

 

「ソウ、しっかりとした格好して」

「いや、これでいいんじゃない?」

 

着替えてももう一回脱ぐし。

相川の方を見ると顎に手を当てて考えると答えを返してくれた。

 

「うーん…ご奉仕喫茶だから、できればコックみたいな格好より執事っぽい格好の方がいいかな」

「りょーかい」

 

そう言って腰の前掛けを取り、ループタイを付ける。

そしてウェストコートとジャケットを身に付け軽く身なりを整える。

 

「風音くん、ジャケット着たらできる執事みたいになったね」

「お褒め頂きありがとうございます、レディ」

 

そう言ってしっかりとしたお辞儀をして見せる。

おふざけでやったのだがそれがまた話しのネタになる。

 

「うーん…風音くんをホールに出さないのがもったいない気がしてきた」

「似合ってるわよねぇー」

「若き筆頭執事みたいな?」

「じゃあデュノアさんは?」

「同僚の同期とか、もしくは新入りの見習いで……筆頭執事に憧れてるのよね」

「そこから燃え上がる職場恋愛!!」

「話しが一つ書けるわね」

 

きゃーきゃー言いながら盛り上がる彼女たち。

そろそろ俺も準備をしなきゃ間に合わないので急かすことにする。

 

「からかわない、からかわない。時間もせまってきてるし早く撮ろう」

「 それもそうね、じゃあ…1+1は?」

「「2」」

 

カシャという音と共にフラッシュが光る。

印刷された写真にはメイド姿のシャルロットと執事の格好をした俺が笑いながら映っていた。

その後数枚撮って、コルクボードに飾り付けるのは一夏に任せ、俺は厨房に入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭開催から10分後。

 

「風音くん!!追加の注文でドーナツ3つにイチゴのクレープ、後紅茶が二つ!!」

「了解。シャルロット紅茶いけるか!?」

「うん、大丈夫!!」

「新規4名来たよー」

 

すでに一組は人で溢れかえっていた。

当初の予定よりも早いが元々店内は狭いのだ。

開始数分で満席になったため、鈴の協力の元、2組の教室でも食べることができるようにしてもらった。

2組の方は中華喫茶と言うのをやっているらしいがこちらに客を取られ閑古鳥が鳴いていたらしく、少しでも売り上げをあげたいのか、とりあえず客で店内をいっぱいにしたいらしい。

まぁ、それでも注文は来ないらしいが。

人の店を心配しても仕方ないので、今来ている注文を必死にこなす。

 

「風音くん!!また追加ね!!」

「ごめん!!冷たいクレープ類一旦ストップ!!」

「どれくらいで再開できそう?」

「30分……いや20分で再開させる!!」

「わかった!!」

 

ホールの方も一気にお客がきたせいでパンク状態だ。

先ほどから注文が止まらず一度も手を休めてないくらいだ。

数分後、一夏が汗だくで厨房に入ってくる。

 

「奏!!シフォンケーキまだか!?」

「今仕上げる!!悪いが数分もたせろ!!」

「も、もたせるって!?」

「別の注文あったろ!?それを持っててる間に仕上げる」

「わかった!!」

 

おそらくお客から催促が来たんだろう。

一夏にミルクレープとパウンドケーキを持たせシフォンケーキの仕上に入る。

長方形の皿の右上の辺りにケーキを置き手前にホイップクリームを絞る。

カットした、バナナ、リンゴ、オレンジなどの果物を少しずつ飾り付け、上からベリー類で作ったフルーツソースと粉糖をかける。

これでシフォンケーキは完成だ。

開始前にホイップクリームを大量に泡立てておいて助かった。

だがドリンク類が少し詰まってるな。ヘルプに入りたいが……

そんなことを考えていると厨房にセシリアが入ってくる。

 

「奏さん!!飲み物の方に手伝いに入りますわ」

「助かる!!シャルロット、コッチのアップルパイを仕上げてくれ」

「一回タルトをお客様に持っててからでいい!?」

「ええ!?ホールの方は!?」

「一気にお客様がきたせいでパンクしてる!!」

お客に出ていないお菓子を確認するとパッと見ただけで10皿はある。

このままじゃホールの方が参ってしまうな。

 

「あー……一回厨房のお菓子スタッフもホールに回って」

「今来てる注文は!?」

「とりあえず僕が仕上げるからまず溜まってるお菓子をお客さんに届けて」

 

そう言うと俺以外の厨房のみんながお菓子を持ってホールに出て行く。

やはり想定どおりにはいかないものだな。

そんなことを考えながらアップルパイを仕上げる。

アングレーズソースをさっと丸い皿に広げ、その上ベリーソースで簡単な模様を描く。

最後に書き上げた模様の上にパイを置いてミントを散らせば完成だ。

俺がアップルパイを仕上げるのと同時に岸原がお菓子を取りに来た。

 

「風音くん!!アップルパイは!?」

「岸原さん、ナイスタイミング。今ちょうど仕上がった。後クッキーの盛り上わせも一緒に持ってて」

「わかったわ」

 

岸原がアップルパイとクッキーを持って出て行くのを確認し注文票を確認する。

軽く30種類ほど仕上げなきゃいけないな。

ここからが俺の戦場だ。

そうやって俺は、目についた注文をかたっぱしから仕上げていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、客足は落ち着きを見せていた。

途中一夏が関係するアクシデントが何回かあったがなんとか無事に乗り越えことができた。

俺は厨房にある椅子に腰掛け深くため息をつく。

この数時間、一度も手を休めずにお菓子を仕上げ、追加で作り、そしてお客に持っていった。

正直ホールに出るのが一番疲れた。

一回出た時に一夏が誘拐されそうになっていたが…おそらく気のせいだろう。

 

「ソウ、お疲れ様」

 

そう言われた方を見るとシャルロットがオレンジジュースを二つ持って来てくれていた。

お礼を言って受け取り一気に飲み干した。

 

「かーっ!!生き返る」

「本当にノンストップだったもんね」

「途中何度か逃げたくなった」

「もう、そんなこと言って……実は私も思った」

 

そう言って二人で笑い会うと鷹月がこちらにくる。

何か追加の注文でもきたのだろうか?

 

「鷹月さん、追加?」

「ううん。風音くんとデュノアさん、休憩まだでしょ?交代しに来たの」

「今休んで大丈夫?」

「うん、注文落ち着いてるし、みんなだいぶ慣れて来たし。むしろ今しか休めないかも」

「了解、混みだしたら携帯に連絡して。すぐ来るから」

「りょーかい。風音くん、デュノアさん、楽しんで来てね」

 

鷹月の好意に甘え、俺とシャルロットは休憩に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

シャルロットと二人で学園内を歩く……メイド服と執事服で。

着替えをする時間ももったいなく感じ、俺とシャルロットはそのままの格好で休憩に入ったのだ。

 

「とりあえずどこに行く?」

「うーん……簪のところにいかない?」

「簪ちゃんって事は…4組か。何やってるの?」

「確か『お化け屋敷』だって」

 

そりゃまたポピュラーな。

しかしISの技術者が多くいるIS学園でのお化け屋敷か……

期待はできそうだな。

そうして俺たちは四組の方へと進んで行く。

四組の方へと行くにつれて廊下が暗くなっていく。

教室の前に来ると最早真っ暗で道の所々に置かれたロウソクのような明かりしかない。

お化け屋敷事態はそれなりに混んでいるし、時々中から悲鳴が聞こえる。

暗くなっている空間を見渡すとお岩さんの格好をした簪が受付をしていた。

簪は俺たちに気がつくと別の生徒に受け付けを任せこちらにくる。

どういう原理かはわからないけれど淡く光っている簪。

まるで本物のお岩さんのようだ。

 

「奏さん、シャルロットさん、いらっしゃい」

「やっ、簪ちゃん。結構混んでるみたいだけど?」

「はい。って言っても一組には負けます」

「客寄せパンダが頑張ってるからね」

 

そう言うと簪はクスリと笑う。

 

「それもあると思いますけど、奏さんのお菓子のせいというのもあると思いますよ?うちのクラスでも代わる代わるお菓子目当てで何回も行ってる娘も居ますし」

 

あの行列の理由は何回も並んでいるからか……

まぁ美味しいって言ってくれてるならいいけどさ。そんなことを考えていると再び四組内から悲鳴が上がる。

一体中で何が起きているのか……

シャルロットも同じことを考えていたらしく簪に尋ねる。

 

「簪?このお化け屋敷ってどんなものなの?」

「はい、初めは普通に仮装しておどろかすはずだったのですが…」

「ですが?」

「もっとIS学園らしくしようということでIS技術由来のバーチャル関連の技術やグラフィック技術を駆使して3Dの本物の浮かぶ幽霊や、突然隣にいた人がミイラになったりします」

「……言っていいの?それ」

「はい、中ではもっとエグいのがいっぱいいますから」

 

簪がそう言うと再び中から悲鳴が上がる。

……なんというか、本物が混じってもわからないレベルのお化け屋敷らしい。

シャルロットの方を見ると口を引きつらせている。

 

「奏さんにシャルロットさんも入りませんか?今ならサービスしますよ?」

「サ、サービスって?」

「あまりにもエグくて使用が禁止されたものも使います」

 

そう簪が言うと中から人が出てくる。

げっそりとした表情で少しやつれている。

それを見て簪がそっと出て来た人の後ろに音も無く、すーっと回りボソッと話す。

 

「……またのお越しをお待ちしてます……」

「!?!?!き、きゃぁぁああああ!!」

 

驚き後ろを振り返るとそこに居たのはお岩さん。

さらに驚かされた彼女は悲鳴をあげながら走り去っていった。

満足した感じに頷く四組メンバー。

そして全員がこちらを期待した目で見てくる。

……今の彼女が走って逃げるほどの恐怖体験よりさらにエグい恐怖体験……

 

「い、いやぁ……今回は遠慮しておくよ」

「……そうですか」

 

簪が残念そうな顔でそう言うと四組のみんなが舌を鳴らす。

そんなに使いたいの!?その禁止映像!?

再び四組内から悲鳴すると俺の携帯が鳴る。

画面を見ると一夏からだった。

 

「どうした一夏」

『悪い、奏。校門前に弾と蘭を迎えに行ってくれないか?』

「おまえはいけないのか?」

『ちょっと今はきつい』

 

電話の向こうからは楽しそうな声が聞こえてくる。

おそらく一組だろうが手を離せないほど混んでいるのか?

 

『織斑くーん、早くー。写真撮っちゃうよー』

『今行く!!って事で頼んだ』

 

そう言って一夏は電話をきる。

なるほど、一夏とツーショットを撮っているから手を離せないのか。

まあ、ある意味うちの店の看板だからな。

離れるわけにはいかないか。

電話をきるとシャルロットが俺に尋ねてくる。

 

「ソウ、お店の方は忙しいの?」

「一夏だけ忙しい感じ」

「一夏だけ?……ああ、写真か」

「そう、それ。あとこの後校門前に弾と蘭ちゃんを迎えに行くことになった」

「うん、わかった」

 

シャルロットに説明をして簪の方を見る。

再び出て来たお客の後ろで驚かしている。

今度のお客は声も上げずに固まったままゆっくりと歩いて去って行った。

 

「あー…簪ちゃん?僕友達を迎えに行くからまたね」

「そうですか……では、また会いましょう」

 

そう言うと目の前の簪がかすれて消えた。

…………ふぁ!?

俺とシャルロットが驚いていると後ろから声が聞こえる。

 

「……次は是非入ってくださいね?」

 

恐る恐る後ろを振り返るとそこにはお岩さんの格好の簪がいた。

簪がかすれて消えたところをもう一度見るとそこには小さな機械が落ちていた。

おそらくこれがあの消えるお岩さんの正体なのだろう。

簪と四組メンバーは上手くいったといったようにニヤニヤと笑っている。

技術の無駄…いや、平和利用だな……心臓に悪いが。

驚かされた俺とシャルロットはゆっくりと歩いて、だが逃げるように四組を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

四組から逃げた俺たちはそのまま校門前に向かう。

途中俺とシャルロットと一緒に写真を撮りたがる娘もいたが急いでいるからと丁重に断った。

しかし度々止められたため校門前に着くのが少し遅れてしまった。

十数分後俺たちは校門前にたどり着く。

辺りを見回すが肝心の弾たちが見当たらない。

電話してみるかと思い携帯を取り出すと声をかけられた。

 

「風音くんとデュノアさん?」

「?ああ、虚さん。こんなところで何をしてるんですか?」

 

俺たちに声をかけたのは布仏本音(のほほんさん)の姉、布仏虚だった。

何をしてるか聞いてしまったが十中八九生徒会の仕事以外ないだろう。手にはなんかファイル持ってるし。

おそらく不審者が入らないかのチェックだろう。

 

「私は生徒会の仕事で…もしかして織斑くんのお友達を迎えに?」

「はい。何処にいるかわかりますか?」

「ええ、校門を出てすぐ右側に居ます……あの」

 

そう言って虚は何処か考えこむように口元に手を当てて俺を呼び止める。

 

「どうしました?」

「いえ…お友達のお名前を聴いてもいいですか?」

「五反田弾ですけど……あいつなんか仕出かしましたか?」

「いえ、そう言うわけではありません」

 

そう言って虚さんはブツブツと何かをつぶやきながら去って行った。

一体何だったんだ?

ぽかーんとする俺がシャルロットの方を見るとブツブツと何かつぶやきながら考えこんでいる。

何かわかったのだろうか?

 

「……なんだったの?あれは」

「うーん……その五反田弾って人のところに行けばわかるかも」

 

シャルロットがそういうので弾のところまで歩いていく。

校門の横を見るとそこには……凹んでしゃがみこむ弾と呆れている蘭がいた。

 

「まったく……お兄はさ、女心とかかっこいい男とかそれ以前の問題なんだよ」

「…………」

「女子に対しての話題が天気!?挙げ句の果てに話題はそれだけ!?小学生でももう少しましなコミュニケーションとるわ」

「…………………」

 

最早屍体蹴りである。

もう大体わかったわ。

弾が虚さんに話しかけるも挙動不振になって挙げ句の果てに不審者扱いされたんだろう。

後で調書にでも記すんだろう。

そりゃ危険人物の情報は少しはほしいわな。

とまあ冗談はここまでにして、蘭の反応を見る限り話しがすべっただけだろう。

独りで勝手に納得すると弾が俺に気がつき駆け寄ってくる……半泣きで。

 

「そぉぉぉぉおおおおう!!!!」

「弾、やめろ。抱きつこうとするな!!」

「俺、自分のセンスのなさが……憎い!!」

「わかった!!わかったから落ち着いて!!下手したら追い出される!!」

「お兄!!いい加減にしろ!!」

 

追いかけてきた蘭に頭を思いっきり叩かれる。

そのまま沈むように撃沈する弾…大丈夫か?

そんな弾を無視して何事もなかったかのように蘭は俺たちに笑顔で挨拶をする。

 

「奏さん、シャルロットさん、お久しぶりです」

「あ、ああ……久しぶり、蘭ちゃん。元気だった?あと勉強の方はどんな感じ?」

「はい!!元気ですし最近は勉強の方もうまくいってますし、色々とシャルロットさんに教えてもらってます」

 

そういうと蘭はシャルロットに笑いかける。

シャルロットは少し恥ずかしそうにしているがちょっとだけ自慢げだ。

 

「ふーん、シャルロット色々と教えてるんだ」

「うん。って言っても蘭はすごく優秀だからあまり教える事はないんだけどね」

「そんなことないですよ!!……そういえば今更ですけど奏さんの格好って…」

「ああ、うちのクラスの出し物の制服さ。どう?似合ってる?」

「はい!!シャルロットさんはすごくかわいいですし、奏さんは印象変わりますね……似合ってないわけじゃないですよ?っていうかお兄はいつまで寝てるのさ!!」

「イデッ!?」

 

蘭に蹴られ悲鳴をあげる弾。

ちょっと理不尽だが寝たままの弾も悪いな。

弾は死んだ目のままむくりと立ち上がる。

 

「だ、弾?久しぶり」

「……おう」

「……何があったかは聞かないよ」

「……おう」

「でも一言だけ。さっきの女性はいい人だから悪い印象は持たれてないと思うよ?」

 

俺がそういうと弾は生き返ったようにカッと目を開き、俺の肩を掴む。

 

「本当か!?」

「あ、ああ。よっぽど変な事をしなければね。あと一応顔見知りだから口は聞いといてやるよ」

「そうか……よし!!まだ終わってない!!ありがとう、奏。俺、お前の友達で本当に良かった!!」

「うわー…なんか素直に喜べない」

 

立ち直った弾は、俺と肩を組みバシバシと背中を叩いてくる。

それを見た蘭は『まったく…』と言いながら呆れ、シャルロットは『あはは』と乾いた笑いをあげている。

そしてここでようやく弾はシャルロットに気がついた。

 

「うわ!?メイドだ!?え?IS学園に入学すると1人に1人ずつメイドが付くの!?」

「んなわけあるか!?馬鹿兄貴!!」

 

何処の貴族様の学校だよ、それ。

弾の混乱によって蘭の我慢の限界がふりきれたらしく、再び弾の頭部がスパーンをいい音を立てて叩かれる。

 

「この人はシャルロット・デュノアさん。フランスの国家代表候補生で私の相談にも乗ってくれている人!!前に一回話したでしょ!?」

「…ああ。お前の言ってた人か」

 

頭部を押さえながら弾は蘭の話しを聞いていたが、シャルロットの紹介を受けた後に真面目な顔になりシャルロットと向き合う。

 

「あの、はじめまして。自分は五反田弾っていいます」

「はじめまして、シャルロット・デュノアです」

「えーと…うちの愚昧がお世話になってるみたいで」

「誰が愚昧だ、愚兄」

「イデッ!?あー…こんな感じで生意気で、多分さほど頭も良くないんですけど、本気でここに入学したいと頑張ってるんです。この先もなんか迷惑かけるかもしれませんが、どうか見捨てないでやってください」

 

そう言って弾はシャルロットにぺこりと頭を下げた。

それを見た蘭は少し恥ずかしそうにし、シャルロットにとっては予想外の展開らしく慌てたように手を振る。

 

「え!?えーと!?あ、頭をあげてください!?」

「いえ、俺の頭程度なら別に安いんです。五反田家一同本当に感謝してます」

「も、もう!!お兄!!シャルロットさんが困ってるじゃん」

「バカ、こういうのはしっかりやらないといけないし、俺は爺さんからもしっかりと頼まれてるんだよ。あとお前自分がどれだけ幸運かわかってるのか?」

「それは…そうだろうけど…」

 

そう言って弾は頭を下げている。

シャルロットはオロオロしながら俺を見て助けを求めている。

 

「シャルロット、とりあえずお礼は受け取っておけ。受け取ってもらえないと、弾がこいつのじいさんに殺されちまう」

「こ、殺されちゃうの!?」

「はい、なので俺を助けると思って受け取ってください」

 

真面目な表情で殺されるという弾。

実際殺されはしないと思うが、あの厳さんのことだ。

筋の通らない事は許さないだろう。

多分今回のお礼も弾にしっかりと言うように言いつけてあるんだろう。

しばらくシャルロットは考えると一度頷き弾に笑顔を見せる。

 

「ええっと…どういたしまして?でも私としても、蘭と話して色々と楽しませてもらってますので、そういったことは気にしないでください」

「そう言われても……」

 

今度は弾が困ってしまう。

人間、自分が気にしてることを気にするなと言われても、気になるものは気になってしまう。

とりあえず適当なところで落としておこう。

そう考え俺は2人の間に立つ。

 

「じゃあさ、今度お前の家に飯食いに行くからさ、その時はおごりで頼む」

「……わかった。だが奏、お前はちゃんと払えよ」

「なんでさ!?」

「当たり前だろ!?俺が感謝してるのはデュノアさんでお前は関係ないだろうが!?」

「お兄!!シャルロットさんに会えたのは奏さんのおかげってのもあるんだよ!?それにシャルロットさんに私の勉強見てもらえたのも奏さんの彼女だからだし」

「いや!!…………………………………え?ごめんもう一回言って?」

 

しばらくの間固まった弾はギギギと音を立てるようにして蘭の方を見る。

心なしか目から光が消えている。

蘭はそれに気がつかず、再び怒ったように話す。

 

「だから私がシャルロットさんに勉強見てもらえるのは奏さんのおかげ」

「いやそっちじゃなくて。……え?ごめん。ちょっと奏借りる」

「ちょっ、ちょっと!?お兄!?」

 

弾に引っ張られ俺はシャルロット達から離れる。

え?こいつ蘭から話し聞いてないの?

俺と弾はシャルロット達に背を向けるようにして肩を組み小声で話す。

 

「えっと……奏くん?」

「なんだい?弾くん」

「あそこにいる金髪で可愛くてどこか柔らかい雰囲気のするデュノアさんが……君の…なんだって?」

「彼女」

「え?ごめん、もう一回言って?」

「いや、俺とシャルロットは付き合っているって言ってるんだよ」

 

十数秒間弾は笑顔のまま固まる。

そして次の瞬間、目をカッと開き声をあげた。

 

「はぁぁぁぁぁああああああああああっっ!?!?!?」

「うわっ!?うるさいぞ、弾!!」

 

あまりの大声で俺は耳を押さえるがキーンと耳なりを起こしてしまった。

後ろの2人もびっくりしてビクっと体が固まったままこちらを見ている。

一方の弾は目を回しながら混乱しているようで言葉がうまくしゃべれていない。

 

「それどころじゃねぇんだよ!?え!?何時から?何時から俺の事を騙してたの!?」

「騙してたってなんだよ!?えーと…付き合いはじめたのは今年の7月くらいからだな」

「なんで?なんでさ!?」

「なんでってどういう意味だよ?きっかけは…まあ昔数日間だけだけど一緒に生活した事があってその縁のおかげかな?」

 

ここで俺とシャルロットの関係を説明する必要はないだろうし、根本的なきっかけはこれだし問題ないだろ。

弾は『幼なじみ……金髪で美人の……』と言って震えながら数歩後ろに下がる。

なんかもう面倒臭くなってきた。

 

「お前…俺が告白して振られたときも!!ナンパに失敗して落ち込んだ時も!!ラブレターもらって喜んで、実際は一夏宛だった時も!!影で俺を笑ってたのか!?」

「んなわけねーだろ」

「俺たち恋人ができないねーって笑いあってた時も心の中で『俺には金髪の幼なじみがいる。はじめから貴様のような童貞とは違う』ってあざ笑ってたんだろ!?」

「もはや何言ってるかわからねーよ」

「そう言って裏切ってたんだ!!俺の気持ちを踏みにじって裏切ってたんだ!!」

 

そう悲痛な声で涙を流し頭を抱えている弾。

何処の汎用人型決戦兵器のパイロットだよ。

こういう時は……よし一発殴ろう。

 

「とりゃ」

「ぐはっ!?」

 

抱え混んでいた頭をパコんと殴る。

軽めにいったが綺麗にはいったらしくそのままうずくまる。俺はため息をついた後にしゃがみ込み弾に話しかける。

 

「落ち着いた?」

「……おう」

「そいつは良かった。もう一発行かなきゃいけないかとおもったよ」

 

そう言うと弾はすっと立ち上がって上を向いてため息をついた後に声をあげる。

なにがこいつをここまで狂わせているんだ?

 

「あああああーーーーー!!!!……カップルの男の方だけ爆発させる力が欲しい」

「すごい使いどころが限定される能力だな」

「とりあえず、おめでとう」

「ありがとう。まずうちのクラスの出し物にこいよ。ケーキの一つくらいなら奢ってやる」

 

復活した弾を連れて俺はシャルロットたちの方へと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

こんな事をしたら嫌わられるのではないかと、何もしない男が一番嫌わられる。

〜中谷彰宏〜




ストックが切れたんで次はもう少しかかります。
ではまた。


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第九十六話 目と目が合う……

五反田弾。

彼は今、自らの幸せを噛み締めていた。

右を向いても美少女。

左を向いても美少女。

さらに、今自分を案内してくれているのは、金髪の超が付くレベルの美少女だ。

近くに奏と蘭(余計なの)がいるが、それを差し引いてもおそらく今の日本で一番幸運に包まれた日本人だという自覚が彼にはある。

 

「ここが……楽園か…」

「いや、学園だから」

「ウルセェ、裏切り者!!せめて頭の中でくらい幸せを感じさせてくれよ!?」

「そ、そんな泣きそうな顔で言うなよ」

 

妄想を止めてしまったせいか、風音 奏(オレ)に悲痛な声で話す弾。

先ほどから俺とシャルロットは五反田兄妹の学園案内をしている。一応弾の案内は俺がしているのだが、弾が俺に聞いてくるのは『可愛い娘はいるか?』くらいだ。

まぁ、男の弾からしてみれば女の子がメインと言うか、女の子しかいない学園祭なんてそこくらいしか見るところはないだろう。

女の子たちのノリに入るのは難しいし、ISに関してなんてこいつには全く関係のない話だしな。

一方シャルロットと蘭のペアは本格的にIS学園の学園祭を見周っていた。

 

「うわぁ!!シャルロットさん、あの宙に浮いてる看板って!?」

「うん、多分だけどIS技術の流用だね。IS学園(ここ)で一番触れるISは打鉄だから、多分空中展開式装甲の技術を使ってると思うよ」

「へぇ…って事はこれにもISコアが!?」

「ううん、これくらいならコアがなくてもいけるんだ。例えばーーー」

 

といった風に学園祭を楽しみながらいろいろと聞いて歩いているみたいだ。

ちなみに弾がこの看板を見つけた時の感想は『占いの館って……手相占いか!?』と、宙に浮いてることより、女の子と触れ合えるかどうかの方に注目していた。

そんな風にして五反田兄妹と学園内を歩いていると、再び携帯が鳴る。

相手は……ラウラか。

そういえばラウラを今日は見てないな。

そんなことを考えながら電話にでる。

 

「もしもし、どうしたラウラ」

『奏兄、今何をしている』

「うん?友人の学園案内をしていたところさ」

『おばあちゃんが、今一年一組に来ている』

「ばあさんもう付いたのか…ちょっと時間がかかるかもしれないがすぐに向かうよ」

『わかった』

 

そう言って通話を終了する。

さて……弾たちに説明して一緒に来てもらうか、もしくはシャルロットには悪いが案内の方をシャルロットに一任して俺だけ向かうのもありだろう。

携帯をしまった俺に弾が話かける。

 

「どうした、奏」

「いや、うちのばあさんが学園に到着したらしいんだ」

「え!?アストリットさんもう着いたの?」

 

そう言ってシャルロットは話に入り込んできた。

 

「おう、多分ラウラが対応していたんじゃないか?さっきご奉仕喫茶でも見なかったし」

「ご奉仕喫茶だと!?奏、どういう店だ!!」

「単なるメイド喫茶だよ、で今から来るように連絡があってさ、悪いけど蘭ちゃんも一緒に来てもらっていいかい?一夏もいるしね」

「わかりました」

 

そう言って蘭に許可をもらって一組に向かう。

……弾?あいつならメイド喫茶と聞いてすでに足を一組に向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

数分後教室につくと、何故か喫茶の方は何故か【Close】の張り紙……どう見ても手書きだ。

シャルロットもそれを見て首を傾げている。

 

「あれ?……どうしたんだろう?」

「売り切れよ、う・り・き・れ」

 

その言葉が発せられた方を見るとチャイナドレスの鈴が何処か疲れた様な顔をしてそこにいた。

 

「数分前までやってたんだけど材料切れで、更に一夏との写真撮影が収拾つかなくなってね。一時閉店して準備をするんだって」

「準備も何も……材料切れになったら終わりにするはずじゃ……」

「ああ、一夏との写真撮影のほうよ」

 

ああ、とその言葉に納得する俺とシャルロット。

たしかにそれなら元手はかからないしな。

多分準備の時間は一夏の休憩時間なのだろう。

ちなみに材料切れで閉店は二組との約束である。

本来のところ材料切れ後、一組を休憩室にする予定だったが、二組に場所を貸してもらった代わりに材料切れになったら閉店し、その後二組の中華喫茶のみの営業になる。

そうすれば少しは売り上げがマシになるという考えらしく、現在二組の教室を見てみると初めと比べそれなりに客が入っている。

 

「ちなみにさっきから一組の中が騒がしくなってて私が休憩がてら偵察に来たんだけど……って弾に蘭じゃない」

「ようやく気がついたか……」

「お久しぶりですね鈴さん?」

 

はぁ、とため息をつく弾と笑顔で威嚇をする蘭。

鈴もそれにのり、蘭を挑発する。

 

「あらら?なんであんたがここにいるのかしら?」

「シャルロットさんからチケットをもらったのよ」

「へー、チケットが無いと一夏に会いに行けないなんて不便ねぇ?」

 

ここで鈴が自分は何時でも会えるというアピールをする。

だが蘭にとっては予想どおりだった様で余裕がある。

一方弾は中華喫茶の方の女の子を眺めていた。

 

「いいえ?一夏さんとべ・つ・のクラスの鈴さんに心配してもらわなくても大丈夫ですよ」

「そう?じゃあこれから私、一夏とデートするつもりだけど邪魔しないでね?」

「あらー、そうなんですか。でも一夏さんが一緒に行こうって言ったら別ですよね」

「はぁー!?そうやっておこぼれを狙うのって負けを認めてる様なものよね?」

「単に魅力が足りないんじゃないですか?」

 

だんだん口喧嘩もヒートアップしていき鈴、蘭共にメンチを切れるほどの距離に顔を近づける。

その頃弾は通りすがりの女子生徒を目で追っていた。

 

「あんた!?言ってはならんことを……って言うかあんたも大差ないでしょうに!!」

「なっ!?わ、私はまだ時間がありますし!!」

「どーだか?数年前から成長して無いんじゃないの?」

「それはこっちにのセリフよ!!あんたこそ何センチ…いいえ!!何ミリ成長したか言ってみなさいよ!?」

「……………5センチ」

「はい、嘘決定!!」

 

蘭に見栄を張った嘘はすぐにバレ、鈴は顔を赤くする。

弾はそろそろ一組内に入りたい様だった。

 

「なっ!?あ、あんたはどうなのよ!?」

「え?………………6センチはーー」

「変な見栄はるなよ…蘭。っておまえら大差ないだろ」

 

いい加減弾は目の前で行われるドングリの背比べに飽きたのだろう。

呆れた顔をして二人を見る。

しかしその行為は矛先が弾に向くだけだった。

 

「お兄はうるさい!!」

「そうよ!!あんたは黙ってなさい、これは女の戦いなのよ……」

「わかった、わかったからそんなに噛み付くな。じゃあ俺と奏とデュノアさんは先に教室入るぞ。とりあえず奏なんてこいつのおばあさんがわざわざ来てくれてるんだ、早く合わせてやりたいんだが」

 

どうどうと落ち着く様に手で二人を抑えながら呆れた顔でそう言う弾。

それを聞いて蘭はハッとし鈴は驚く。

 

「え!?奏のおばあちゃんが来てるの!?」

「ああ、ばあさんさっき着いたってラウラから連絡あってさ」

「じゃあこんなところでたむろしている場合じゃないわね」

 

そう言って先ほどまでの怒りが静まる鈴。

一方蘭はやっちゃった…とつぶやくちょっと落ち込んでいるがシャルロットに笑いながら慰められている。

流石、この二人の衝突を静め続けてきた男、五反田弾。

この程度の口喧嘩ならすぐに静められるのね。

弾の近くにより小声で話しかける。

 

「(お見事。流石慣れてるだけはあるね)」

「(まぁ…無駄に慣れてるからな)」

「(とりあえず虚さんに伝える時に色はつけておくよ)」

「(マジか!?よっしゃ、テンション上がってきた)」

 

そう言って無駄に元気が良くなった弾を連れ教室内に入る。そこではメイド姿と普段の制服のクラスメイト達が一箇所に集まり何かワイワイ騒ぎながら見ている……

その中心にいるのはメイド姿のラウラと…相変わらず変わら無い微笑みを浮かべているばあさんだった。

 

「うわ!?この写真の奏ちっちゃ!!これっていつ頃の写真なんだ?ラウラ聞いてもらってもいいか?」

「うん?うわ、これって奏兄か?『おばあちゃん、この写真の奏兄は、いつ頃の写真なんだ?』」

「『その写真は…ああ、奏が家に来てすぐの写真ですよ。お隣の人が撮ってくれたの』」

「『ふーん…そうなのか。どおりで小さいはずだ』これは奏兄がおばあちゃんの家に住み始めてすぐの写真らしい」

「へー、なんか新鮮だな、奏の昔の姿って。じゃあこの写真はーーー」

 

俺がよく一緒に行動してる奴らと少数のクラスメイトはばあさんの近くでラウラの翻訳を聞きながら写真を見ている。ちなみ他のクラスメイトたちというと……

 

「見て見て、この風音くん!!」

「どれどれ……うわ!?犬と一緒に寝てる」

「うわぁぁ!!かわいいー」

「どっちが?」

「両方!!」

「あはは、見てこの写真。風音くんちっちゃい子にプロレス技かけられてる!!」

「何それ!?うわっ!?本当だ!?」

「あはは、すっごい必死な顔してる」

「この写真……奏くんカモにされて無い?」

「うん…風音くんがカメラに目を奪われてる間にチェスの駒動かしてる瞬間の写真よね…」

「このおじいちゃんたちひどいね」

「笑いながら言っても説得力ないわよ。っていうか多分カメラマンもグルよね、これって」

 

……全員俺の写真を見ている。

けっこう恥ずかしいな、この状況。

いや、別に写真を見られるのは構わないのだが『かわいい』と言われると少しくすぐったいと言うか……何か気恥ずかしい気分になってしまうのだ。

そうやってクラスの入り口に立っているとばあさんがこちらに気がついた。

 

「『ああ、奏。久しぶりね。こっちにいらっしゃい』」

「『久しぶり、ばあさん。ちなみにこの騒ぎは?』」

「『みんなで貴方の写真を見てたのよ?』」

「『わざわざ日本にまで持って来たの……』」

 

呆れた顔をしてそう呟くとばあさんも呆れた顔をする。

そして俺の周りのクラスメイトたちも数人を残してみんな目を丸くしている。

なんだ?と思ったが気にせずにばあさんとの会話は続く。

 

「『何を言ってるのですか。元を正せば貴方のせいですよ、奏』」

「『うえっ!?僕が何したって言うんだよ』」

「『この前の里帰り、突然来たせいで、ラウラとシャルロットさんにあまり見せてあげられなかったんですよ?』」

「『……写真…全部見せる気?』」

「『当たり前ですよ』」

 

そう言ってにっこりと笑うばあさんを目の前にして、俺はがっくりと肩を落としてため息をつく。

しかし…ラウラ、ね。

いい関係は築けているみたいだ。

ちょっと安心した俺は笑顔になってばあさんに声をかける。

 

「『まぁ…元気そうで安心したよ』」

「『こっちも同じですよ。貴方、全く連絡しないのですから…ラウラに聞くしかないんですよ?』」

「『便りがないのは元気な証拠さ』……って一夏、何鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してるんだ?」

「いや…そういえばお前ってドイツ出身だったんだなーって思い出してさ……」

 

その言葉を聞いてガクッとこけそうになる。

おまえ、友人の出身地くらい覚えておけと。

一夏がそう言うと周りのクラスメイト数人も頷く。

 

「風音くんが外国組だったって事完全に忘れてた」

「すごいペラペラだったもんね、ドイツ語?」

「って言うか、この場合風音くんは日本語が上手いドイツ人か、ドイツ語が上手い日本人かわからないわね」

「君たちもかい!?まあ……僕自身、どこの国の人間かわからないからね。ただ記憶がある内の最初の頃は日本語しか話せなかったから、多分日本人だと思うからドイツ語が上手い日本人でいいと思うよ」

 

俺が言い終えると再びクラス内が沈黙する。

アレ?俺なんか不味いこと言った?

長い沈黙の後に本音が思い出したかのように声をあげる。

 

「そういえばソーって記憶喪失だった!!」

「「「「「「「…あ」」」」」」」

 

今度こそ完全にがっくりとする。

おい、確かにそれっぽい行動はとっちゃいないが、それでも俺の基本情報でしょうに……

俺はがっくりとしたまま突っ込みを入れる。

 

「えー…そこ?」

「いやー…なんというか……日本に馴染みすぎじゃない?風音君」

「……本当は元々日本人で政治的な理由で外国出身って事にしてるとか?」

「……なんかそっちでも納得できるというか……そっちの方が納得できるような」

「そこから疑っちゃうの!?君たち!?」

 

突然湧いて出てきた疑惑にさすがの俺もあたふたする。

ちなみに弾は『あー、やっぱり…』とかボソッと言ってるし、蘭は考えこんでいる。

そして、さらに俺への追求は続く。

 

「……記憶喪失は…なんというか、正直風音君、あまり気にしてないでしょ?」

「……えっと……そんなに不便ではないからね…」

「…なんていうか風音君のキャラクター的に記憶喪失ってのが目立ってないんだよね」

「それよりも目立つ要素が多いもんねぇ」

 

まさかのダメ出しを食らう俺。

キャラクター的にって……

さらに俺への口撃(こうげき)は続く。

 

「まずはその性格。これが一番外国出身と記憶喪失を食っちゃてるのよね」

「そうそう、さっきも言ったけど日本に馴染みすぎよね」

「なんていうか傍観してるというか落ち着きすぎっていうか」

「多分年齢詐欺なのよ」

「「「「「「ああ〜」」」」」」

 

ひどい言われようだ。

っていうかシャルロットはどこに行った?

さっきから静かだが…

探してみると既に我関せずといったようにばあさんと笑顔で会話して嫌がる。

どうしてこんな事に…と呆然としたままダメ出しをくらっているとトントンと肩を叩かれる。

 

「風音君、それは自業自得よ」

「……突然湧いて心読まないでください、楯無さん」

 

俺がそう言うとクラスメイトたちもビックリする。

驚かすことのできた楯無は満足そうに俺たちにヤッホーと手を振る。

 

「久しぶりね、織斑君」

「……あ、あの時の先輩」

「うん?一夏、おまえ楯無さんと会ったことあったのか?」

 

まさか一夏があったことがあるとは……

一夏が驚いた顔で話を続ける。

 

「ああ、アリーナで訓練をしている時に何回か……って楯無って……もしかして例の簪の姉さん!?」

「おまえ知らなかったのかよ!?」

「いや…何回かアドバイスはしてもらったけど……そういや名前を聞いたことなかった」

 

一夏がぽりぽりと頬かきながらそう言うと楯無はすんすんと泣き真似をする。

 

「ひどいわ、織斑君。いろいろと手とり足とり教えてあげたのに……私に全く興味がなかったなんて」

「い、いやぁ…それは……」

「いいの…どうせ私とは遊びだったの…騙された私が悪いのよ……」

 

そう言ってペタリとその場に膝をついて再び泣き真似を続ける。

俺は白けた顔で楯無を見るが、一夏はそれに気がついていない。

そして気がついていないのは一夏だけではなく周りの箒たちもまた騙されているようだ。

 

「一夏さん?何をしでかしたんですの?」

「いぃちぃかぁ?あんたまたやったの?」

「えぇぇ!?お、俺何もしてない!?」

「ひ、ひどい!?…あんなにやったっていうのに…いえ、仕方ないことね…でも織斑君?せめてアリーナの中でだけの関係でいいの…これからも側で……」

「いったい何をしたんだ!!一夏!?」

「今白状しなければ…拷問にかける」

 

ジリジリと四人に追い詰められる一夏。

押されるように後ろに下がるとそこには怒りとは別のもので燃えている一人の馬鹿(おとこ)がいた。

 

「一夏……」

「その声…弾か!!久しぶり!!突然で悪いが助けてくれ!!」

「一夏貴様ぁ!!」

「なんでおまえがキレてるんだよ!?」

 

突然泣いている弾に胸ぐらをつかまれ驚く一夏。

そしてもてない男の嫉妬は続く。

 

「おまえ……こんな可愛い娘に囲まれて……さらにお姉さんに手を出すって……」

「いや!?出してない!!出してないから!!」

「もはや問答無用!!」

「いい加減にして下さい、会長」

 

パコんと言う音と共に泣き真似をする楯無の頭に丸められた用紙が落ちる。

そこには呆れた顔で楯無を叱る虚さんだった。

 

「全く……下級生をいじめて遊ぶのはやめなさい」

「いったいーい。突然叩くなんて虚ちゃんひどいわよ」

「ひどいのは貴方の頭です…あら?」

 

そう言うと虚さんの目線は一夏の胸ぐらを掴む弾にうつった。

弾は弾で一夏の胸ぐらをつかんだままボーっと虚さんの方を見る。

そして一夏はいい加減にして欲しいのか弾に訴えをあげる。

 

「だーん…いい加減離してくれよ…」

「あ?…ああ悪い」

 

そう言うとハッとしたように弾は一夏の胸ぐらを放す。

しかし目線は虚さんから離れることはなく、虚さんも弾を見続けている。

……え?何?この雰囲気。

楯無の方を見ると彼女も予想外の展開なのか、え?っといった顔をしている。

弾はそのままの状態で俺に話かける。

 

「奏…この人のは…」

「あ、ああ…布仏虚さんって言ってうちのクラスメイトのお姉さん。でーーー」

「虚さん、お久しぶりぶりです」

「お、お兄?」

 

なんか弾が今まで見たことがないほどの清々しい顔で虚さんに話かける。

すごい不安そうに蘭は弾を気づかうように見ているし、クラスメイトたちも突然の展開に戸惑っている。

それもそうだろう。

まだ紹介すらされてない、おそらくクラスの男二人の友人が突然ラブコメのような展開をしているのだ。

 

「はい、お久しぶりです…五反田弾さん」

「え?いつ俺の名前を?」

「あ、いえ!?先ほど風音さんから教えていただいただけで別段何か深い理由があったわけではないのですがただ学園内にいる男性の名前が気になっただけでーー」

「ストーップ!!お姉ちゃん、止まって!?」

「虚ちゃんが…混乱してる!?」

 

表情を変えずにノンストップで話す虚さんを本音が止め、楯無はそれを見て唖然としている。

そして互いに見つめ合う二人。

…よし、まずは状況の確認だ。

 

「楯無さん!!タイム!!一旦タイムを下さい!!」

「っ!!わかったわ!!むしろこちらからも頼むわ!!」

 

そう言って俺と一夏は弾を、楯無と本音は虚さんを引きずるように動かす。

クラスメイトたちは完全に観戦モードになっているようで、タイムと言った後に好き勝手な事を小声で話し始めた。

教室の端まで弾を引っ張り、そこで弾に小声で話かける。

 

「おい!!弾!!どうした!?」

「天使だ…天使がいた…」

「て、天使ぃ!?…おい奏。どういう事だ?」

「えっと…簡単に説明すると弾があの虚さんに一目惚れしたんだが…」

「だが?」

「いや、なんか虚さんも意識してるように俺は見えたんだが」

「…………うん?つまり…互いに一目惚れ?」

「多分……」

「じゃあ…どうする?」

「どうするって……」

 

弾を見るとボーっとしている。

虚さんの方はと後ろを振り向くと本音が虚さんの顔の前で手を振っているが全く目に入っていないようだ。

楯無の方を見ると彼女もお手上げといった風に首を振っている。

 

「………………よし、放置しつつ臨機応変な対応で行こう、そうしよう」

「それでいいのか!?」

「むしろこの状態の弾をどうするんだよ」

 

そう言うと一夏は弾の方を見る。

未だにボーっとしている。

というかなんかうっとりとした顔をしている。

 

「…………美しい…」

「うん、放置しよう」

 

そう判断した一夏の顔はすごい優しい微笑みを浮かべていた。

再び弾を元の場所へ送り出し、後ろから一夏と共に見守る。

向こうの方も同じ考えなのか虚さんを元の場所へ動かし様子を見ているようだった。

クラスメイトたちも見守る中で再び二人は向き合う。

1分、2分、3分と時間が経過していく。

が、二人に動きはない。

というか二人とも見つめあったままで満足しているようだ。

一夏の方を見るとちょうど、一夏はこのままじゃまずいと思ったのか俺の方に意見を求めてきた。

 

「どうする、奏…このままじゃ動きはないぞ?」

「いや…もうこのままでいいんじゃない?二人とも幸せそうだし」

「いや、まずいだろ」

「だよなぁ……」

 

そう考え、再び弾を後ろに引っ張る。

それを見て本音と楯無も虚さんを引きずる。

さて、再び降り出しに戻ったな。

いったいどうしたものか…と考えているとこちらの方に鈴と蘭が来る。

そして弾を見ると互いに顔を見合わせ頷く。

そして次の瞬間には蘭は頭を叩き鈴はボディブローを決めていた。

さすがにきいたのか弾がお花畑から帰還して悶絶している。

 

「ごぁ……と、突然なんだよ!?」

「なんだよじゃないわよ!!馬鹿お兄!!」

「あんた何してんの!?」

「何って……幸せを感じてた?」

 

再び二人は動き、同時に弾の頭を叩く。

タイミングのズレもなく同時に頭を叩くその様は見事なものである。

 

「っつぅ…叩くなよ!?」

「お兄があまりにも間抜けだからでしょ!?」

「このまま見つめ合うつもりなの!?あんたは!?」

「いや………できればお話したいし…アドレスとか聞きたいし…あわよくば学園祭を見て回れたらなぁ……って」

「じゃあ動きなさいよ!!」

「待ってれば状況が良くなるなんてないからね」

 

ぐうの音も出ない正論である。

まぁ…それができれば苦労しないのだが。

案の定、弾は押されながらも言い訳をする。

ちなみにこの時俺と一夏は二人の勢いに押されて何も言えない状況である。

 

「で、でも…何を話せば……」

「お兄が知りたい事を聞くとか、自己紹介とか、ちょっとしたイベントの内容を聞くとかあるでしょうに!!」

「何にせよ弾。あんたがこのまま動かなかったらこの出会いはこれでおしまいよ」

 

そう鈴に言い切られショックを受ける弾。

まぁ…アドレスくらいなら聞いてやろうかと考えていたが発破剤になるなら何も言わないでおこう。

ショックを受けてオロオロしている弾だったがそれすら無視して二人は弾の背中を押す。

 

「ちょっと待て!?心の準備が!?」

「「いいから行ってこい!!この馬鹿!!」」

 

そして弾は再び舞台に戻るのだった。

そしてそこには先に元の場所に戻っていた虚さんがいた。

彼女の方も顔は赤いが意識はこの世界に帰ってきているようだった。

しばらく見つめ合ったかと思うと弾のほうが覚悟を決めたようだ。

 

「あ、あの!!虚さん!!」

「っ、は、はい!!」

「この後時間があるようなら…お、おちゃでも一緒にのみませんか!?」

「は、ははは、ハイ!!」

 

とりあえず弾は虚さんをお茶に誘えたようだ。

それを見てやれやれとため息をつく二人とホッと胸を撫で下ろす一夏と楯無、そしてワクワクとした目で続きを楽しむ本音とクラスメイトたち。

既に続きはこのクラスで行うらしくクラスメイトたちによって二人のお茶会のセッティングがなされている。

セシリアはお茶の準備をしているしラウラは余っているお菓子を皿に盛っている。

シャルロットはと言うとばあさんに今あった出来事を楽しそうに説明しているようだ。

まあ、とりあえず一安心かな。

俺は深くため息をつくと幸せそうに笑う友人と先輩を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

一生の間に一人の人間でも幸福にすることが出来れば自分の幸福なのだ。

〜川端 康成〜



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第九十七話 演目【学園執事物語 その1】

シゴト イソガシイ
オレ トウコウ オクレタ

…すいませんでした。二話連続投下させていただきます。



クラス内での弾と虚さんのラブロマンスを見せられてから数分後俺は一組を離れて来賓室へと向かっていた。

理由は簡単、俺が招待券を渡した相手が来たのだ。

元を正すと楯無と虚さんが一組に来た理由もそれを俺に伝えるのが目的だったらしい。

シャルロットには一応伝えてあるが……正直、時期早々だったようであからさまに悩ませてしまった。

取り乱すかと思っていたが、近くにいたばあさんが何も言わずにただ手を握って微笑みかけたおかげか取り乱す事はなかった。

本当にばあさんさまさまである。

という事でシャルロットの事はばあさんに任せ、俺は紙袋を片手に来賓室へと向かう。

学園祭中だというのに来賓室の近くでは活気が遠くに感じられ、ドアをノックする音も響くようだった。

ドアを開け中に入るとそこにはシャルロットの父親であるデュノア社長が座っていた。

このとおり俺が持つ招待状を送った相手はデュノア社長だ。

彼は俺のことを見た後に後ろの方にも目線を送っている。

俺は苦笑しながらデュノア社長に挨拶をする。

 

「お久しぶりです。デュノア社長。すいません、シャルロットはついてきませんでした」

「い、いや…それが当たり前だ……久しぶりだな、カザネくん」

 

少し落ち込んだかと思ったが、それを隠すように俺に挨拶を返すデュノア社長。

シャルロットとデュノア社長。この二人の関係はまったく進展はしていない。

おそらくというか、ほぼ確実にシャルロットとデュノア社長共に互いのことを怖がっているのだ。

それに対し、俺はなんとかしてやりたい思うのだが実際のところ、二人の関係は二人にしか解決はできないのだ。

手伝うことはできても解決する事は俺にはできない。

 

「えっと、学園祭はいかがでしょうか?」

「ああ、活気があるし皆楽しそうだ……特にあの子のあんな笑顔初めて見たよ」

「シャルロットに会いに行ったんですか?」

「いや…遠目から見ていただけだ。それでもあの子の笑顔が見れただけ来た価値はあったよ。招待状、感謝するよ」

 

正面の椅子に座り話を始めるとそう言って笑うデュノア社長。

遠目から見るくらいなら話かければいいものを……

まあそれが難しいからこんなことになってるんだろうし、現在デュノア社の立て直しで忙しいところなのにわざわざ日本に来るということはシャルロットととの関係をなんとかしようと考えてはいるんだろう。

 

「いえ、忙しい中来てくださってありがとうございます。この後時間は?」

「十数分後にはここを出なければならない。せっかく招待してくれたというのにすまない」

「そうですか……ではこれを持って行ってください」

 

やはりまだ社内の掌握は完全に終わっていないのだろう。

そう言って申し訳ないようにするデュノア社長に、俺は手に持っていた紙袋を渡す。

社長は受け取るとすぐに封を開け中をのぞいた。

 

「シャルロットが作ったクッキーです。帰り道にでも食べてください」

「……感謝する。…………後、これをあの子に渡してもらえないだろうか?」

 

そう言ってデュノア社長は俺に包みを渡す。

俺は何も聞かずにそれを受け取る。

手触りと重さからおそらく中身は紙の束だろう。

……まさかこれ全部手紙とかじゃないよな?

とりあえず他に何かないか聞いておくか。

 

「何か…あいつに伝える事はありますか?」

「……ただ一言。……すまなかった、とだけ……」

「わかりました。必ず伝えておきます」

 

その後デュノア社長が帰るまで俺はシャルロットの現状をデュノア社長に伝えていた。

たいした内容ではないのに、社長はとても真剣にそして幸せそうに話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

デュノア社長と別れ俺は一組に帰る。

現状ばあさんと弾の事を放置しているようなものだ。

とりあえず弾はともかくばあさんの方は放置しておけないな。

まあ、弾に関しては虚さんとよろしくやってるだろうしばあさんはラウラとシャルロットがいるから俺がいなくても問題ない気もしないでもないが…

そんなことを考えながら廊下を歩いていると校内放送が鳴り響く。

 

『ぴんぽんぱんぽーん……マイクのテストはいるかな?』

 

ぴんぽんぱんぽーん含めすべて肉声である。

後この気の抜けるような声はのほほんさんこと本音でまちがいない。

いったい何があったというんだろうか?

 

『いらない?りょーかい。えーと、ソーへと告げる。デュッチーは我ら…オリムラ王国が預かった?』

 

いや、こっちに聞かれても……

っていうかオリムラ王国って……いやな予感しかしない。

特にこんなアホくさい事をする人などこの学園内で一人しか俺は知らない。

 

『おりむーどうしたの?……わかった。ええっと、我ら正体不明の騎士団が預かった。返して欲しくば今すぐに第一アリーナに来るよーに』

 

正体不明のオリムラ王国ですね、わかりました。

しかし…これ行かないとダメかな……

ぐったぐたな上に嫌な予感しかしないんだけど……

廊下でげっそりとした顔で考えていると再び放送が鳴り響く。

 

『ちなみに風音君?来ないとすごーく後悔すると思うな、お姉さんとしては』

 

……楯無(犯人)の声が聞こえる。

っていうかはじめからあんたが放送すればいいだろうに…

仕方なく気の進まない足を第一アリーナへと向けできるだけゆっくりと歩くのだった。

途中色々な生徒から笑われたがなんとか数分後、アリーナの近くに到着する事が出来た。

 

「ソー!!コッチコッチ」

 

アリーナの入り口に入ろうとすると横の方から誰かの呼ぶ声が聞こえた。

そう言ってこちらに手を振るのはメイド服を着たままの本音だ。

とりあえずそっちの方へと近づきどういう事か聞く事にした。

 

「のほほんさん、何があったの?」

「ええっとね、お嬢様からの命令でソーにお願いしてーって」

「……あれがお願いなの?」

「お嬢様がどうせなら全力でいきましょうって。あとこの時間稼ぎ演目の原因として、ソーのお友達がお姉ちゃんを連れていっちゃったのが原因でもあるからって言っておいてだって」

 

連れていっちゃったって…弾、おまえ頑張ってるんだな。

時間稼ぎって事は本来ならこの時間に別のものをやる予定が、虚さんが弾とデート中で無理って事か?

馬に蹴られる趣味は楯無も無いという事か……

ここは友人のために一肌脱ぐとしますか。

 

「了解。で、何をやればいいの?」

「劇の主役をやって欲しいんだって」

「僕、劇なんてやったこと無いんだけど……」

「お嬢様いわくそのままのソーでいいって」

「……セリフは?」

「全力アドリブだって」

 

行き当たりバッタリにもほどがある。

もう嫌な予感じゃなく冷や汗というかいやな汗が額からにじみ出てきた。

まあ、やる以外に選択肢はないんだが。

 

「で演目はなんなの?」

「うーんとね……やればわかるというか…」

「なんだい?その歯切れの悪さ」

「……衣装はそのままでいいから頑張ろう!!」

 

そう言って背を押されて無理矢理話しを切られた。

絶対酷い目に合うな……

そう自覚しながら俺は背を押されて運ばれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後アリーナ内のバトルフィールドへの入り口に俺はいた。

すぐ真上からは人の気配がするということはバトルフィールドで劇をするのか。

まあ、細かいところは楯無がなんとかしてくれるだろう。

俺は場の流れに乗りつつ臨機応変に空気を感じて動く、詰まる所適当にいこう。

俺がそう覚悟を決めると、ちょうど昔ながらの映画館で聞こえるようなブザーがどこからか鳴り放送から楯無の声が響く。

 

『むかしむかしある国に一人の王子さまが住んでいました』

 

オリムラ王国の一夏王子ですね。

あれ?だとしたら主役は一夏じゃないだろうか?

まあ、どっちにしても俺が劇に参加する事は変わら無いか。

 

『その王子はオリムラ王国の一夏王子。そして王子さまにはたくさんの婚約者が名乗り出ていました』

 

うん、いっぱいいるな。

あれ?これむかしむかしって言うか今現在進行形の話?

楯無の読み聞かせは続く。

 

『婚約者のお姫様たちはみな後ろ盾があり、積極的にアプローチを仕掛けていきます。しかしそれでは自分の思い通りにならないと面白くない大臣はある一人の少女に目をつけました』

 

お、急展開だな。

こっから話が始まるのか?

 

『彼女の名前はシャルロット。一夏王子に仕えるメイドの一人、しかし実はデュノア王国から逃げ出して来たお姫様だったのです』

 

オリムラ王国の人事部は雇う人間の背後関係を洗い出さなかったのだろうか……ってそうじゃない。

俺が一人ノリツッコミをしている間も物語は進む。

 

『家出したシャルロット姫のことを知っているのはごく一部の人間のみ。王国の人々はメイドからお姫様への成り上がり物語に盛り上がりました…しかし、それは一夏王子をシャルロット姫をつかって操ろうという大臣の策略だったのです!!』

 

一部烈火のごとく怒り狂うだろうな。

革命がおきてもおかしくないぞ。

ってこれ絶対一組の誰か劇に関わってるだろ。

 

『自由を求めて城から飛び出したシャルロット姫は哀れ再び鳥籠の中。そして大臣はシャルロット姫を使って国を操る計画を進めます。オリムラ王国建国以来最大の危機!!』

 

そういやオリムラ王国って建国してから何分くらいなんだろうなー。

って言うか王族だったら一夫多妻でいいんじゃないか?

……実際に作った方がいいのでは?

 

『だがここに一人、その結婚を認めない男がいる。一夏王子の右腕にして親友、若き筆頭執事、ソウ・カザネ!!』

 

うわぁ……そこで俺を使うの?

出るのもうちょっと後でもいいんじゃない?

事件が解決した後とか。

あと執事が右腕って……人材不足なのだろう。

 

『彼とシャルロット姫は職場でも大変仲がいいと評判でしたが、職場恋愛を認めない国柄のせいで結ばれることはありませんでした』

 

ひどい国柄もあったものだ。

絶対背後に楯無っていう大臣がいるに違いない。

きっと不器用で妹と仲違いしてるのだ。

 

『しかし、彼女の悲しげな顔を見た筆頭執事は立ち上がることを決意したのです!!彼はシャルロット姫を捉えている番人たちを倒し、見事姫を救い出すことができるのか!?』

 

援軍って許可されるかな?

とりあえず箒とかセシリアとか鈴とかラウラとか、あと方向性は違うけど簪とか頼めば助けてくれる気がするんだけど。

特に簪がこちらにいたら楯無は勝手に大打撃受けるだろうし。

 

『一人の男の挑戦が今ここに幕を開ける』

 

おい、OSA。

なんか最後プロレスみたくなってんぞ。

そんなことを考えている合間にアリーナへの入り口が開いていく。

……行くしかないか。

スポットライトが示す場所まで俺は歩く。

暗くなったアリーナ内はセットと思わしきものが多数設置してあり、おそらくなにかかしらのイベントをやっていたんだろう。

もしくはここから行うつもりなのだろうか?

スポットライトの元にたどり着くと俺を中心にあたりが明るくなっていく。

まず目に入ったのは城の内部の様なセット。

続いてメイド服や城の兵隊の様な衣装に身を包んだクラスメイト。

あと知らない人が数人。

おそらく学園の先輩にあたる人だろう。

んで最後に……リアルに巨大な鳥籠の中に囚われているドレスに着替えているシャルロットだ。

よく用意したな、こんなサイズの鳥籠。

あたりを観察しているとシャルロットと目が合う。

シャルロットは顔を真っ赤にしていたがどこか嬉しそうだった。互いに苦い笑いをすると再び放送が鳴り響く。

 

『まず初めの門番はこの子たちよ!!』

 

そう言うとスッと数人の生徒が俺の前に出る。

……会った記憶はないな。

するとそのうちの一人が俺に話しかけてくる。

 

「初めまして、風音さん」

「あ、初めまして」

「私たち第一の門番の料理部一同。風音さん、あなたにお菓子で勝負を挑むわ!!」

「…………はい?」

 

え?お菓子?なんで料理勝負?

そんなことを考えている間にもセットが一組メンバーによって動かされ変形していく。

1分くらい経つとそこはもう試食会場の様になっていた。

そしてその中心に諸悪の根源(楯無)が偉そうな大臣の様な、いかにもといった雰囲気の服に着替えてそこにいた。

 

『ということで1本目の勝負は【風音奏VS料理部】でお題は【カップルのケーキ】!!さあ、筆頭執事は王国の料理番たちに愛を示すことはできるのか!?』

「……楯無さん?」

「うん?どうしたの風音くん?」

「いや………………なに?これ?」

「勝負形式演劇、演目は名付けて【学園執事物語】よ!!」

 

だからそれが何かって聞きたいんだけど!?

ドヤ顔してるんじゃないよ!?

頭を押さえついていけないと思っていると楯無はにやりと笑って俺に話しかけてくる。

 

「ほらほら、しっかりとしてないと後悔するわよ?」

「なにがっすか?」

 

もう既に参加した事を後悔してるんだが……

楯無は俺に向けてなにかを投げてきた。

それを受け取るとどうやらメモリースティックのようだ。

 

「最近ね、うちの学園の生徒が盗撮されて雑誌に載せられそうになっていたの」

 

…………おい、待て。

なぜその話が今出て来るんだ?

はっとした顔で楯無の顔を見るとそこにはにっこりと微笑む楯無がいた。

 

「それでね、一箇所だけほぼ掲載寸前の雑誌があったんだけど、そこは更識の方で雑誌ごと休載させたの」

 

嫌な汗が頬を滴って落ちる。

楯無は楽しそうな顔で話しを続ける。

 

「でもね、雑誌のデータと写真のデータの出来がすっごく良くって消すのがもったいなくって……」

「……た、楯無さん?それは今どこに?」

「…シャルロットちゃんが捕まってる鳥籠の鍵は電子ロックで、決められた4つのデータを送信して削除すると開いていくの……ここまで言えばわかるわよね?」

 

本当に楽しそうに笑う楯無。

クソ、あまりにも弄りすぎたしっぺ返しがここで来たか!?

そんなデータ少しでも漏れてみろ、絶対死ぬほど弄られるぞ!?

 

「安心して?失敗しても更識の名に誓って学園の外には流さないから」

「……全力で頑張ります」

「うん、よろしい」

 

満足した顔で頷く楯無とげっそりと項垂れる俺。

まあ、負けなければ問題はないんだ。

ただ第一の門番が料理って……ハードル高くない?

楯無は再びマイクに向かって声をあげる。

 

『さて、審査員は山田真耶先生、榊原菜月先生、最後にエドワース・フランシィ先生の三人。三人ともカップルのケーキと思えるケーキを選んでくださいね』

 

紹介された先生方は手を振っている。

さて……今からケーキを作るの?

すげぇ時間かかるけど…

そんなことを考えていると一組メンバーがクロッシュが被さった皿を6皿持ってくる。

もしかしてあれか?

俺の方は喫茶で出したケーキを使うのか?

じゃあ……フォンダンショコラかガトーショコラ・タルトあたりかな?

日本では特にチョコレートってバレンタインの関係で恋人ってイメージが強いからな。

先生方の前に皿が並べられクロッシュが開けられる。

片方の皿には小さな木の棒のようなチョコレートのホイップクリームを纏ったロールケーキが置いてある。

【ブッシュドノエル】か……

一説には貧しいカップルがクリスマスの寒い冬にせめて薪の1束でも…と贈った事が由来とも言われているクリスマスケーキ。

確かに恋人のケーキだな。

じゃあ俺の方は……

ビスキュイ生地で囲むように包まれた5センチサイズの丸いオレンジムースケーキ。

構成は薄いスポンジ、オレンジムース、フルーツの三層で、ムースの上のフルーツはオレンジ、グレープフルーツ、蜜柑の果肉が飾られており、その上にまたもやビスキュイ生地で蓋をしてリボンで飾り付けている。

今日のご奉仕喫茶で限定20食で出した【柑橘類のムースケーキ】だ。

……ヤバい。

…………何故こいつがそこにあげる。

シャルロットの方を見るとシャルロットも顔を赤くしている。

どうする……秘密がばれたらこの勝負、勝っても負けてもヤバい。

楯無の方を見ると既にニヤニヤしている。

この人にはこのケーキのある事がばれている……

 

『まずは料理部の【ブッシュドノエル】!!木の棒のように見えるロールケーキに隠された由来、その昔貧しいカップルたちが思い合い、寒い冬を越える為に薪を贈った事が由来とされるクリスマスケーキ!!飾りのフルーツ等は一切無し!!ケーキそのものの味で勝負だ!!』

 

楯無の解説はブッシュドノエルの方からか……

先にそっちの方から食えという事か。

スッとフォークがほとんど抵抗無くロールケーキに刺さり持ち上げられる。

口に入れると三人とも顔をほころばせる。

 

「う〜ん!!おいしい!!」

「ロールケーキなのに重く感じませんね」

「あと…中のチョコクリームに胡桃が入ってるわね。私は好きよ?こういうの」

 

三人の反応は悪くない。

その反応を見て料理部の部長と思わしき女性が話す。

 

「はい、軽いロールケーキの秘密の一つはスポンジがシフォンケーキの生地で出来てるから何です。あともう2つありますが……こっちは料理部の秘密です」

 

そう言ってくすりと笑う彼女。

なるほど、シフォンケーキの生地なら軽い口当たりになるな。

薄く焼くのと火の入れ方が難しそうだが今度俺も試してみよう。

しかし…問題は今目の前にあるケーキの方だ。

いや、別に失敗作だとか勝てないケーキだとかそう言ったことじゃない。

このタイミングでこのケーキがある事が問題なんだ。

先生方がロールケーキを食べ終わり、その事を確実に知ってる楯無の解説が始まる。

 

『さて、続いては筆頭執事のケーキ、【柑橘類のムースケーキ】。見た目は可愛らしく中身は少し酸っぱい初恋の味。そこにお酒の風味もついて可愛らしい大人の雰囲気なこのケーキ。一年一組で開かれていた【ご奉仕喫茶】の限定20食のレア物よ』

 

……秘密はバラさないのか?

だとしたらここはケーキの味で勝負だ。

ムースケーキを食べている先生方は食べながら意見を口にする。

 

「うわぁ……こっちはあれね。お店のケーキみたい」

「限定物ってことだけはあるわね」

「私も食べたかったんですけど試食の時も食べ損なってたんですよ。クラスで選ぶ時も一番人気でしたよ?」

 

美味しそうに食べている先生方。

しかし、少し雲行きが怪しい。

なんだか先生方が俺のケーキを食べた後から唸り始めたのだ。

 

「どっちが美味しいか?って言われたら…迷わずに風音君なんだけどね〜……」

「ああ……確かに。カップルのケーキですものねぇ〜……」

「私は……甲乙つけがたいんだけどねぇ」

 

ヤバい。

やはり恋人のケーキなんてお題じゃこちらが一歩劣るか。

こっちができる事なんて秘密以外じゃ、せいぜいケーキに使った工夫ぐらいだ。

秘密の方もいざとなったら言わなきゃいけないが、足掻くだけ足掻こう。

言い訳をしている気分になりながら俺は自身の作ったケーキの解説を始める。

 

「えっと、そのケーキには細かい工夫がーー」

「お待ちください」

 

だがその解説は思いもよらない相手に止められる。

俺の解説(言い訳)を止めた相手。

それは………………料理部の1人だった。

何か問題でもあったか?

 

「ぶ、部長?どうしました?」

「この勝負……私たちの負けです」

 

!?

会場全体が驚きに包まれる。

今の先生方の反応を見る限り確実に料理部の方が勝っていたはずだ。

そして理由を察した俺の顔は青くなっているかもしれない。

 

「先輩!?どうしてですか!?」

「簡単な話よ……カップル…いえ、恋人のケーキという題材であのケーキを出された時点で私たちの負け。いえ、むしろ認めなければ無様を晒すわ」

 

…………不味い。

この発言、絶対に俺の本当のケーキの名前(・・・・・・・・・)を知っている。

会場に同様が広がり俺には脂汗が身体中に広がる。

シャルロットも俺と同じことを考えているのか顔を赤くしてうつむいている。

楯無は相変わらず楽しそうに解説をしている。

 

『おおっと!?ここでまさかのリタイア!?一体理由はなんなんだ!?』

「理由は簡単。あのケーキは風音さんにとって恋人のケーキとしてこれ以外には無いケーキだからです…ね?デュノアさん」

「…………え?」

『料理部の頭にここまで言わせる理由は一体なんなんだ!?』

「……ええええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

そう言って楯無は手に持ったマイクを向ける…シャルロットの方に。

シャルロットは俺のほうを見て助けてと言いたそうだが俺にはどうすることもできない。

適当に場を濁しても負けるだろうし、それ以前に会場中に注目されてるから逃げようがない。

一通りあたりを見回した後、逃げられないと観念したシャルロットは顔を赤くしたままうつむき、ボソボソと話す。

 

「………ットです」

『?もう一度お願いします』

「シャ……【シャルロット】…です」

『お名前を聞いてるわけではありませよ?』

「……あのケーキの名前はシャルロットです!!」

 

もはやヤケクソになりながら叫ぶように話すシャルロット。

それを聞いた途端会場中で黄色い悲鳴やガヤガヤと囃し立てる声が聞こえる。

そう、あの【柑橘類のムースケーキ】の正式名称は柑橘類のシャルロット、いや【シャルロット・オランジュ】だ。

…正直狙ったところが無かったとは言わない。クラス内での人気投票でもぶっちぎりの一位だったので限定20食で出したのだ。

学園祭が終わった後に数人にばれても、シャルロットをからかって終わらせるつもりだった。

だが……だが、一体誰がこんなタイミングでバレると考えるだろうか?

 

『な、な、な、なんと!!筆頭執事のケーキはデュノア姫の名前のケーキだ!?これは……もはや口にするのも恥ずかしくなるほどのストレート!!』

「ええ、こんなケーキを出されたら認めなければお菓子の本名を見抜けない知識不足、知っててなお負けを認めなければ料理に対する理解不足よ。料理部の看板を背負っている以上それはできないわ」

 

そう言い終わった後の二人の顔を俺は忘れない。

計画通りとも言いたそうに浮かべる笑み。

そして想定通りとも言いたそうな周りの料理部員。

……こいつらはじめからグルだ!?

おそらくここまで完全にシナリオ通りなのだろう。

互いに浮かべる笑みがそれを物語っている。

 

『という事で先生方?この勝負筆頭執事の勝ちで問題はありませんか!?』

「私ははじめから風音君の方を選ぶつもりだったから問題ないわよ?」

「いやぁ……ちょっと憧れますね。自分の名前のケーキって」

「個人的には料理部のケーキの方が好きなんだけどね〜。本人がいいって言ってるからいいでしょう」

 

先生方は顔を赤くしながらも俺の勝利を認めてくれた。

だが、何だろう……このなんとも言えない敗北感は。

肩の力が抜けた様にがっくりと微妙な顔をする。

シャルロットの方を見ると顔から煙が出そうなほど顔を赤くしながら周りのクラスメイトたちにからかわれているようだ。

俺はこの闘いに本当に勝ったのだろうか?

負けたはずなのにもはや喜びを隠そうともしない料理部員たちと首謀者であろう楯無の笑顔を見ながら俺はなんとも言えない気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

親切と言う名のおせっかい。

そっとしておく思いやり。

〜相田みつを〜

 



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第九十八話 演目【学園執事物語 その2】

がっくりとしている俺を置いていく様にクラスメイトたちは会場を作り変えていく。

近くにシャルロットの鳥籠があったので近づいて話しかけよう……別にこのなんとも言えない気持ちを共有したい訳じゃ無い。

シャルロットの鳥籠に近き彼女の姿を改めて見る。

肩が出ている、まるで結婚式で使うような純白のドレスを身に纏い鳥籠の中の椅子に腰掛けるシャルロット。

靴は透明でシンデレラを彷彿させる。

髪型は普段まとめている髪を解き、ストレートにしておりそれがなんとも言えない感じを俺に抱かせる。

……正直に言うと見惚れていた。

ぼーっとシャルロットの前に立っていると首を傾げたシャルロットが声をかけてくる。

 

「どうしたの、ソウ?ぼーっとして」

「……あ、いや。…ちょっとなんとも言えない気持ちになってるだけさ。後、ドレスがよくお似合ですよ、シャルロット姫」

「もう、からかわないでよ。手伝ってって楯無さんに言われて数分でこの状態なんだよ、こっちは」

「そいつはお疲れ様」

「本当さ!!……ケーキの事ばれちゃったね」

 

そう言って苦笑いをするシャルロット。

そういえばこいつ、あのケーキの本名を知っていたはずなのになんのリアクションも無かったな…

いや、気が付いてはいただろう。

このケーキに気が付いた時、アッ…って感じの顔をしてただけだったし。

知っていて何も言わなかったのはなぜだろうか?ちょっと聞いてみるか。

 

「そういやシャルロット。どうしてあのケーキを店で出すの反対しなかったんだ?」

「うん?えーっとね…恥ずかしい気持ちもあったけど、それ以上にあのケーキってすごい美味しかったからかな?」

「ああ、売り上げのためか」

 

納得して頷く俺を見てシャルロットは唸りながら少し考えた後に話しを続ける。

 

「……ソウって自分のつくったケーキを美味しいって言ってもらうとすごい嬉しそうにするから、あのケーキだったらソウが喜ぶのが増えるかなって……ううん、違うな」

「違うって…何が?」

「私の名前と同じケーキを自信げにみんなに食べさせたのが…嬉しかったからかな」

 

はにかむように恥ずかしげに笑うシャルロットを見て息を呑む。

別にシャルロットに指摘された事のせいではない。

ただ単にはにかむように笑うシャルロットが普段見せないような困ったようでありながらも、嬉しそうに笑う笑顔に見惚れていただけである……少なくとも胸を張っていうことではないか。

俺が返答に困ったように息を呑んだせいか、シャルロットは再び首を傾げている。

心配させないように俺が何か言おう吐するがうまく言葉が出てこない。

そんなこんなしてるうちにシャルロットを閉じ込めている鳥籠がクラスメイトたちに運ばれていく。

……とりあえず今はシャルロットを救うというこの役を本気で演じるとしよう。

俺は今までのやらされているという気持ちを完全に排除しよう。

いまは一旦深く深呼吸をし、目の前にある障害に挑む覚悟を決めた。

 

『では第二の門番は王国兵。2年2組の鈴城 恵ちゃんと2年4組のエリザ・アーウィンちゃん。お題は的当てよ!!』

 

そう楯無にいわれて現れたのは上級生の二人。

一人は日本人で短髪に格好は学校の制服。

もう一人もおそらく欧州の出の生徒だろう。

日本人の先輩と同じく制服を着たままだ。

もしかして単に衣装が足りなかったのかと思った…いや、思いたかったのだが、彼女たちはあからさまに俺のことをにらんでいる。

確実にこのイベントに参加する気はないように見える。

………さっき決意したばかりだけどこれって俺が演じても仕方ないのでは、ないだろうか?

ため息をつきたいのを我慢して俺は楯無の言葉を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう箒。終わりそう?」

「いや…今丁度第二課題が始まるようだ」

 

アリーナの控え室で篠ノ之 箒(わたし)たちは白いドレスを身につけたまま現在のアリーナをモニターで確認していた。

白いドレスについては次のイベントの為の準備だ。

楯無生徒会長からの要請で仕方なく着ているだけである……仕方なくだ。

別に相手が一夏だから……というわけではない。

決してない。

まぁ、今問題なのは奏の方だ。

アイツがこのような誰かと競うイベントに参加しているに少し驚いた。

一体楯無生徒会長はどのようにして奏を引っ張りだしたのだろうか?

とりあえず先ほどの料理勝負では……奏とつぎに会った時が楽しみとだけ言っておこう。

おそらくそれはここにいる全員の共通意識だろう。

少なくともわたしはシャルをからかうつもりだし鈴は悪い笑顔を浮かべていた。

セシリアも一緒になって笑みを浮かべていたが対戦相手の顔を見ると顔色を変えた。

 

「……箒さん…次のお題はなんですの?」

「えっと……会場を見るに射的か?」

 

会場に浮かんだスクリーンには銃と的らしきイラストが浮かんでいる。

それを聞いてセシリアはさらに表情を強張め、そして鈴は呆れた顔をし、ラウラは怪訝な顔で首を傾げた。

 

「奏相手に?」

「見た限り……そうだ」

「……はじめから勝つつもりがないのか?」

 

ラウラはやらせを疑っているようだ。

確かにさっきのシャルロットについてはおそらくやらせだろう。

いや、捕らえられているシャルロットの方ではなく、ケーキの方の話だ。

だがこれからの勝負は本気だろう。

少なくとも対戦相手の先輩は一切奏に勝ちを譲るつもりはないだろう。顔から覇気のようなものが感じられる。

一方奏はなんとも気の抜けた顔だが。

それを認めるようにセシリアは対戦相手の先輩のことを知っているらしくラウラの発言を否定する様に首を振りながら対戦相手の情報を伝える。

 

「いえ、あそこにいらっしゃるエリザ先輩については、確かクレー射撃の記録を持っていたはずですから、はじめから負けるつもりと言うのはないでしょう」

 

その言葉を聞いて私は……素朴な疑問を覚えた。

いや、相手がすごい人間だということはわかったが、アイツは風音 奏(デタラメの怪物)だ。

まず、戦いになるのだろう(・・・・・・・・・)か?

 

「だが……言ってはなんだが、誰か奏相手に射撃で勝負して勝てる相手を思い浮かべれるか?」

 

口から溢れた言葉を聞いたみんなの反応は……沈黙だった。

しばらくして首を振りながら鈴がため息を吐きながら言葉をこぼす。

 

「……私は思い浮かばないわ。多分中国にはいないわよ、そんな人」

「わたくしも同じくですわ。わたくし自身射撃を得意とする身ですが、はっきり言ってわたくしでは勝負になりませんわ」

 

鈴は最早呆れ気味に言葉を吐き、セシリアは自身を自笑するかのように暗く笑いながら言葉を吐きだす。

私個人としても正直なところで奏以上の射撃の腕というのをイメージできない。

ラウラは顎に手を当て唸りながら何か考えているようだ。

 

「やるとしたらしっかりと準備をしてこちらが有利なフィールドで相手にハンデがある状況でようやくだな」

 

ラウラが苦い顔をしなが答える。

まあその状況に持ち組むのが難しい事は言わずもがなだが。

それに奏がそんな状況に陥ったら逃げるに違いないだろう。いや、まず逃げるあいつを捕まえるのが至難の技だろう。

 

「まあ、なんにせよここで奏が負けるとは誰も思ってはいないか」

「……いや、どうやら雲行きがあやしいわ」

「どういうことだ?」

 

鈴の言葉を聞いて私たちは再びアリーナの映し出される放送を凝視した。

モニターに映し出される奏の顔は唖然としており、とりあえず何か面倒なことを言われていることが私にも用意に想像できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかーしただの射撃ではつまらない。ということで筆頭執事にハンデをつけます(・・・・・・・・・・・・・)

 

ハンデか…えっと、筆頭執事って言うと………おい…おい、ちょっと待て。

俺は突然の楯無の言葉に衝撃を受け固まる。

えっと…現状の空気理解してる?

それとも俺の読み間違い?

横目で先輩の事を見ると…あからさまに不満そうな顔でOSAをにらんでいる。

うん、俺が空気を読めてないんじゃなくて、OSAが読んでないだけか………勘弁してくれ。

そんな俺の思いは通じず楯無はいい笑顔で話を続けた。

 

『まずクレー射撃の方は使用する銃は散弾銃ではなくリボルバー。的当てはそうね…120m地点からでいいかしら?』

 

ねぇ?そこでなんで俺に尋ねるの?

それじゃ俺に『この程度の相手ならこれくらい余裕?』って聞かれてるみたいじゃん。

乾いた笑いで場を濁そうかと思ったがその前に先輩方が反応した。

 

「ちょっと待ちなさい。生徒会長?貴女あたしのこと舐めてる?」

「わたくしたちが望んでいるのは対等な勝負でしてよ?」

 

よく言った。

そう、相手をなめるのは良くない。

どんなときでも全力で戦わねば。もしくは逃げないと。

 

『ああ、ごめんなさい。訂正するわ』

 

楯無はそういって少し考える。

そして笑顔で俺を見る。

…あ、やばい。

俺が危機感を感じたときにはすでに遅かった。

楯無はそのままの笑顔で次の言葉をマイク(・・・)で吐き出した。

 

『先ほどのハンデにプラスでクレー射撃の方は的を全て同時にクレー15個発射します。的当てはそうね…150mで10秒以内という時間制限をつけます』

 

ピシッという音が聞こえた気がした。

いや、確かに聞こえた。

もう敵意を隠そうともせず二人はその敵意を俺と楯無に向けてくる。

……俺何もやってないんだけどなぁ…

 

『これでようやく対等ね』

 

さらに煽るように楯無は先輩に笑顔でこう告げた。

先輩方もそれに応じるように敵意と気迫をどんどん強くしている。

一方俺はこの場から逃げることができたらどれだけいいかと考えていた。

 

「会長、恥をかくのはこの男ですよ」

 

短髪の先輩が顔に怒りを浮かべて言葉を漏らす。

そのとおり。だからやめません?

と言える空気ではないな。

というか結構できる人なのかな?

それなりに自信があるみたいだけど。

 

「あら?もっとハンデが欲しいの?」

 

マイクをはずして楯無がさらに煽る。

マイクをはずしても煽るって事はあれか、パフォーマンスってわけではないのね。

 

「……まさか本気でこれで対等なんて思っているわけではありませんわよね?」

 

欧州出身の先輩のほうは…額に青筋が浮かんでらっしゃりますね。

敵意は…俺に向かってるほうが多いのは気のせいかな?

そうだとうれしいな……

 

「うーん…正直風音君の使用する銃を粗悪品にしてようやく同じ舞台に立てると私は思っているのよね〜」

 

あ、またピシって聞こえた。

二人ともあからさまに俺と楯無に敵意を強めてる。

今わかった。たぶんこれはOSAのことをいじめすぎた復讐を俺は受けているんだ。

発言しにくいこの空気の中、意を決して俺は楯無に話しかけた。

 

「た、楯無さん?」

「あら?どうしたの、風音君?」

「えっと……僕なんか会長に恨まれてたりします?」

 

一秒、二秒、三秒、そこでようやく楯無は『あ、』と言った顔をした。

その後俺を手招きして近くに連れてこようとする。

そっちのほうに向かおうとすると二人にかなり睨まれた。

発言と行動の自由くらい許してもらえないでしょうか?

俺はびくびくしながら楯無の近くに行く。

楯無の近くに来たがさらに楯無は手招きをしている。

あまりこの二人に聞かせたくない話か?

俺は二人に背を向けるように楯無にさらに近づく。

楯無は俺に顔を寄せ耳元で言葉を発する。

ちょっとくすぐったく、嗅ぎなれない匂いが鼻につきなんとも言えない気持ちになったが、ここは我慢しよう。

楯無はそのまま申し訳ないような顔で話した。

 

「そういうわけじゃないのよ?」

「そいつは良かった」

 

そういってほっとする。

まあ、可能性としては低かったがありえない訳ではないからな。

今度からはもう少し楯無に優しくしようと心に決めた。

 

「あの二人例の資料の製作者グループでね、正直なところかなーーーーりっ!!気に食わないのよね」

「はぁ……」

「何がたかが男よ、何が運が良かっただけよ。まずは自分の実力と相手の実力がわかってから文句を言いなさいよ!!」

 

あの先輩方が例の俺からISを取り上げようとした資料を作成した方々なのか。

接点はないけどあれほど言われたって事はよほど俺のことが気に食わないんだろうなぁ…

それは仕方ないけど、それを楯無にいい続けるのもどうかと思う。

楯無もよっぽど溜まっていた(・・・・・・)らしく次第に声が大きくなる。

そして俺と肩を組み、俺の肩を握り締める。

 

「いい!!風音君!!」

「はぁ……」

「あの二人の天狗の鼻をへし折ってやりなさい!!」

「へい……」

「会長命令よ!?」

「わかりましたって!!」

 

悲鳴を上げるように了承すると楯無は満足げに鼻を鳴らし、再びマイクを握った。

 

『よろしい!!では初めはどちらからいく?』

「ではわたくしの方から行かせていただきますわ」

 

最初に名乗りをあげたのはアーウィン先輩だ。

獲物が散弾銃と言うことは競技はクレーン射撃だろう。

クレーン射撃のルールはそこまで詳しく無いが確か打ち出された的を空中で当てれば良いんだっけ?

俺がそんなことを考えてるとアーウィン先輩がこちらを哀れんだ目で見てきた。

 

「風音奏。貴方もかわいそうな人ですわ」

 

………くそぅ、あながち否定できない。

OSAにだまされ劇をさせられ、弱みを握られ本気をださなければいけなくなり、さらに一回戦は出来レースでさらし者だ。

あながちどころか今のところ否定する材料が浮かんでこない。

まあ、シャルロットのドレス姿が見れただけ元が取れたと考えよう。うん。

別に悔しくて意地を張ってるわけでは無い。無いったら無いのだ。

 

「ただ運良くISが動かせたというだけでこのような場所で恥をかくことになるなんて」

 

あ、そっちですか。

アーウィン先輩自信満々ですね。

まあ、銃を構える姿も堂々としてるし姿勢もいい。

たぶんだがかなり修練は積んでいるのだろう。

 

「ですが、わたくしは一切手を抜きませんわよ!!」

 

ブーというブザー音ともに一つ目の的が右の方から飛び出た。

結構な速さで飛び出るんだな。

それに反応してアーウィン先輩は散弾を打ち出す。

一発、二発、三発…と左右から飛び出る的をどんどん撃ち当てていく。

そして最後の十五発目。

弾込めのタイミングのずれから的から狙いがそれて当たらなかった。

と言っても散弾なのであのタイミングであの狙いなら撃っていたら当たっていてもおかしくは無いな。

しかしアーウィン先輩としては面白くなかったらしく舌を鳴らした。

 

「……まぁ、こんなものですわ」

 

お、切り替えが早いな。

この先輩競技者としては本当に優秀なんだな。

先ほどの自信も自信の実力が裏付けになっているのか。

 

「風音奏、いまなら逃げ出してもかなわなくてよ?そのかわり―――」

『はーい、ただいまの記録。15枚中14枚ですね。では続いて筆頭執事、どうぞ』

 

楯無のマイクによって最後まで言わせてもらえないアーウィン先輩だった。

俺が楯無から渡されたのは俺の銃とスピードローラー、後は足に巻きつけるようなホルダーである。後は20発の弾だった。

まぁ、すでに準備されてることには驚かない。

足にホルダーをつけながら楯無に疑問を口にする。

 

「あ、その前に。これって僕の時も横に飛んでくるの?同時に?」

『ええ、左右からね』

「あ、だったらいけるか」

 

うん、弾は20発もいらない(・・・・・・・・)な。

疑問も解消されスピードローラーに弾をこめる。

腰のベルトにつけるようにして準備を終え、抜き打ちの姿勢をとった。

それを見て先輩方はクスリと笑い俺に声をかけた。

 

「ちょっと良いかしら?」

「はい、なんでしょうか?」

「強がりはやめたほうがいいわよ?貴方の持ってるリボルバーの最大装弾数は6発。さらに弾は散弾じゃない上に途中のリロードにかかる時間も考えると不可能よ」

 

不可能…ね。

この程度の遊び(・・・・・・・)で不可能っていったら、少なくとも俺の目指す英雄(ヴァッシュ・ザ・スタンピード)の背中すら見えない。

俺は笑みを浮かべ先輩のほうを向く。

先輩は俺が笑っているのが諦めからのものだと思っているのか笑みを強めた。

 

「うーん…ものは試しということで」

 

はぐらかすようにして俺がそういうとアーウィン先輩はどうぞと言った風に手で俺を促し、鈴城先輩は肩をすくめていた。

まあ、とりあえず今から不可能を成功して見せて度肝を抜いてやろう。

そして何よりも恥ずかしい記事と写真を広めないために全力でいかせてもらう!!

 

 

 

 

 

 

 

奏の準備が終わったらしく、奏は的が飛び出すほうを向き、腰を低く落とした。

おそらくいつもの抜き打ちだろう。

だったらシャルロット(わたし)も安心してみていられそうだ。

そんなことを考えていると近くで兵士の格好をしているのほほんさんが不安そうな声で話かけてきた。

 

「でゅっちー……ソーは大丈夫かな」

「……さっきの話…間違ってないわよね……」

 

ほかのみんなも不安そうな顔をしている。

一体なぜだろうかと、一瞬不思議に思ったが奏は今まで徹底して逃げ回ってきてたのだ。

おそらくまともに銃を持っているところを見るのもクラスのみんなは初めてなのだろう。

 

「あ、大丈夫だとおもうよ」

 

笑顔でそう口にするがみんなの顔色は良くならない。

まあ、実際クレーン射撃をリボルバーで。

しかも一斉に的が飛び出てくるなどはじめから勝たせるつもりが無いのか?と思われても仕方が無いだろう。

たぶんこの会場内の空気を感じると、みんな奏がある程度当てる事は考えていても奏が勝つとは思っていないようだ。

楯無さんが今回は先輩方に花を持たせて、奏は無茶をやらせて言い訳を作らせた、そんな風に考えているようだ。

だが…風音 奏(私のヒーロー)はそんな弱くはない。

わたしは笑顔でさらに言葉を続ける。

 

「大丈夫」

「でも……」

「ソウにしてみればさっきの料理勝負の方が緊張しただろうし」

「「「「「「……え?」」」」」」

 

笑いながらわたしがそういうとみんな目を丸くしていた。

実際奏の顔を見ればわかる。

最初の料理勝負ではかなり追い込まれた顔をしていたが、今の顔は楽しむ余裕すらあるようだ。

みんなそこに気がついてないのか首をかしげている。

 

「まぁ…見てればわかるよ」

『では……はじめ!!』

 

楯無さんの声とともにブザーが鳴り響き、一斉に的が発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレーン射撃の的が飛ぶ。

一定の速度かと思ったがある程度速度のずれがあるらしい。まぁ、あまり関係ないが。

俺はまず即座に銃を抜きぬいた勢いを殺さず引鉄を引く。

一発、二発、三発…六発すべて的に当たる射線だな。

スピードローダーを腰から引き抜き、上に引き抜いた銃の勢いで薬莢を排出、そのまま流れるように弾を込めすかさず的を撃ち抜く。

三発撃ち出したところでタイミング(・・・・・)を計る。

……よし、全弾当たるな。

ここで集中を切り、元の時間に戻ってきた。

おそらく周りからは一瞬の出来事で、たぶんタイミングを計ったことに気がついた人はいないだろう。

わかったのは一瞬でひとつの銃声の後に空中の的が全て弾けたということだけだろう。

会場にいる皆、何が起きたか良くわかってない様で一瞬に会場がシーンとなった。

が、静かになったのは一瞬。

次の瞬間にはアリーナは歓声に包まれていた。

たぶん俺がやったことを理解してあげた歓声ではなく、ただ単に自身が理解できない何か(・・)を感じてあげているのだろ。

 

『お見事!!全弾命中!!』

「おお、良かった、良かった」

 

審査が終わり楯無が声をあげた。

いやぁ、本当に審査があってよかった。

もう一度やれと言われるのはごめんだ、出来るか出来ないかはべつとして。

銃から薬莢を落としホルダーにしまいこむ。

後でしっかり整備せねば。

 

「あ、当てた!?」

「それどころか……!!……会長。イカサマはいけませんよ」

 

先輩方も一瞬唖然とし、その後動揺していたが何かに気がつき余裕を取り戻した。

一体何に気がついたっていうんだ?

観客席のほうでもざわめきが起きてるし。

 

『はい?どういうこと?』

「とぼけなくてもいいわよ。彼の足元の薬莢をかぞえてみなさい」

 

ああ、そういうことか。

俺は納得したが楯無は首をかしげたままだ。

 

「全部で12個。打ち出されたクレーは15枚。どう考えても数が合わないわ」

「あ、それ射線を重ねて一発で2枚当てたのがあるからですよ」

「「……はい?」」

『説明して、風音君』

 

その言葉を聞いて会場中がぴたっと止まり、楯無とシャルロット以外は唖然としている。

俺はそれを無視しさらに言葉を続ける。

 

「いや、だから同時に左右からクレーが飛んできたら幾つかは被るじゃないですか。だから重なった瞬間を狙って……こう」

 

バンと指で銃を撃つ真似をする。

要は射線が重なった瞬間を狙って、弾を撃っただけのことだ。

このぐらいならなんのサポートが無くてもできる。

まあ実際の戦いでこちらが動きながら……ってなるとまた話は変わるが。

 

「そ、そんな!?」

「いやぁ……やってみればできるもんですね」

『またやれって言ったら出来る?』

「?はい。あっ、弾の弾数は変わると思いますよ?重なる数も変わると思いますので」

 

笑顔でこう答えると会場は更に盛り上がった。

そして二人の先輩がたは心が折れたようだった。

アーウィン先輩は目の前で起きた事が認めれないような顔をしてるし、鈴城先輩の方はがっくりと全身から力が抜けたようだった。

 

「はい、では次は鈴城ちゃんの番……だけど、正直なところ勝てる?」

「…………いえ、私じゃ無理ですね。恥をかくだけよ」

 

お、思ったより素直。

ここで俺に更に条件を付けて挑んでくるかと思ったんだけど。

もしかして俺の実力を認めて、ISを持っても良いと思ってくれたのだろうか?

そうだったら嬉しんだけど……

そんなことを考えていると、楯無が何かの準備をしているのに気がつく。

一体今度は何をさせるつもりだ?

 

『申し訳ないけれど、ここで次の試練の内容の変更よ。みんなモニターの方を見て』

 

モニターの方には空に浮かぶ半透明な的が写し出されていた。

アリーナ内でよく使うターゲットの様だが、アリーナの中には見当たらないな……

 

『アリーナの正面入り口の方からまっすぐ、海岸に向けてのライン。約1kmの地点の上空に的を設置したわ』

 

そう言われて的がある方向を見てみると確かにそれらしきものがある。

目を凝らして見ていると的からもっと離れた、雲のあたりに何か(・・)が見えた。

撮影に使われている機材ではないだろう。

確実に動きが違ったし、襲撃される危険性があるとわかっているこの実況でレーダーを切る訳もない。

もしかしたら楯無の仕込みかもしれないが……嫌な予感がする。

 

「楯無さん、これが最後の試練?」

「ええ、そうよ」

「他に仕込みは?」

 

俺が真面目な顔で言うと楯無も察してくれたらしく話を進めてくれた。

 

『風音君!!大臣からの試練よ!!アレを何発で撃ち抜け…』

 

悪いがエンターテイメントはここまでだ。

楯無の言葉が言い終わるより前に、俺は銃を抜き素早く一発だけ弾を込め打ち出す。

【ドンッ!!】という音がし、ざわめいていた会場が瞬間、静かになった。

俺は結果を見ずに背後へと振り返りシャルロットの鳥籠の方へと歩む。

一歩、二歩、三歩、ちょうど三歩目の前あたりでモニターに映っていた的のど真ん中が撃ち抜かれた。

 

『1発…か……』

 

楯無がボソッとつぶやくように発した言葉を耳にしつつ俺はシャルロットの鳥籠の前へと進む。

鳥籠の中にはシャルロットがはにかむように笑いながら扉の前に立っていた。

 

「久しぶり、シャルロット」

「うん、お疲れ様」

「そっちもね……」

 

そう言って鳥籠の扉を開けるためのデータとやらを思い出したが……どう見てもこの鍵はアナログだ……

と言うかまさか!?

……鍵を触ってみると直ぐに外れ下に落ちた。

はじめから触れば落ちるようになっていたらしく鍵として成り立っていなかったようだ。

最後の最後まで騙されたと思いながらため息を吐き出す。

がっくりと肩を落としながら扉をあけ、シャルロットを外に連れ出す。

そして周りを見渡すと……会場全体がすごいしーんとしていた。

えっと……普通成功したら会場が湧くもんじゃないの?

 

「なんだ?この雰囲気」

「多分ソウがあまりにでたらめで唖然としてるんだと思うよ?」

「でたらめって……いや、他にも出来る人は居るよ?」

「それでもソウがでたらめなことには変わらないよ?」

「あー……一芝居うつか」

 

シャルロットの返事を聞かずに俺はシャルロットをお姫様抱っこする。

えっ?と言った後に顔を赤くするシャルロットを無視し楯無の方を向き声をあげる。

 

「大臣殿!!」

『……ハッ、き、貴様!!いつの間にシャルロット姫を!?』

 

本当に放心状態だった楯無は俺を見てようやく演目中だということを思い出したようだ。

 

「大変申し訳ないがメイドのシャルロット共々長期の休暇を頂かせていただきます」

『筆頭執事……貴方がいなくなるのは構わないが、シャルロット姫はおいていきなさい』

 

よし、楯無も俺の意図に気付いてくれたのか、兵士の格好をした生徒たちを俺たちを囲むように配置した。

…全員ニヤニヤしているが気にしないでおこう。

シャルロットもいちいち顔を赤くしないでくれ、俺も結構恥ずかしいんだ。

 

「大臣殿、申し訳ありませんが、ここに居るのはデュノア王国のシャルロット姫ではなく、私の部下のシャルロットだ。彼女は貴方の道具では無い!!」

 

そう言って俺はシャルロットを抱えたままサングラスをつける。

そしてISを展開すると、泥の様な物が身を包み瞬時に赤いコートを身に包まれた様になっていた。

 

「ではご機嫌よう、大臣殿」

 

何かを言われる前に俺はシャルロットを更に強く抱えこみ、そのまま空へと飛び立った。

下からはいろいろと囃し立てるような声も聞こえるが今だけはすべて無視して普段とは違って見える空の散歩を楽しませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

男の幸せは「われ欲す」、女の幸せは「彼欲す」ということである。

~ニーチェ~




ということで九十七、九十八話でした。
ちなみに現実世界でもあるガンマンが行った、1000ヤード(約940メートル)先から二発で的に当てるというスゴ技というか神業があります。
ぜひ調べてみてください。


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第九十九話 見えない刃

ISを展開して俺は的があった位置まで飛ぶ。

シャルロットの方は、事情を説明するとばあさんの方が心配だと言ってそちらに向かってくれた。

楯無に連絡したが動くことができないらしく、それで千冬さんにも事情を説明しIS学園の管制システムの場所に向かってもらっている。

……こんなに人を動かしてこれで何も無かったら恥どころじゃないな。

そんなことを考えていると、目的の場所に着いた。

上空にターゲットを展開する為の装置らしいものが下に見えたが、直ぐに流れてきた雲に遮られてしまった。

 

「千冬さん、こちら風音。応答願います」

『どうした、奏。何か発見したか?』

「いえ……レーダーに反応はありますか?」

『……いや、反応は一切無い』

「仮にですけど発見した場合、避難の方は頼みます」

 

千冬さんに連絡をした後、周囲を見回す。

あたりにあるのは雲ばかり。

雲の中に隠れているのか?

だがそれなら…そんな時、突然ISの通信にザザザ…というノイズが入った。

 

「千冬さん?通信にノイズが入っているんですが?」

『…こち…んしてる……っ……ろ…!!』

「すいませんもう一度お願い……」

 

通信の乱れを感じ千冬さんに聞き返そうとした時ナニか、違和感を感じパッと銃を構える。

周囲に気をはり、見渡すがハイパーセンサーにも雲ばかりで何も見えない。

もちろんレーダーにも反応はない。

だが…確かに何かいる(・・・・)

周囲に満ちている気配……いや違和感が俺に危険を知らせていた。

言うなれば気配は感じ無いのに見られている感覚がするといえばいいのだろうか……周囲に幽霊がいると言われれば今なら納得できるかもしれない。

笑えない冗談を頭に浮かべながら感覚を更に研ぎ澄ます。

空高くにいるためか風がすごく強い。

ISを展開しているというのに感じられるという事はよっぽどだろう。

通信の方相変わらずノイズしか流れてこない。

これが単なる故障なら……

そう思った瞬時、背後から迫る突然何か気配を感じ逃げるように下に落ちる様にかわす。

周囲に気は張り巡らせた、だと言うのにここまで接近を許したうえに、俺のコートの様なISには切り傷(・・・)が出来ていた。

おいおい……布に見えても一夏の零落白夜でようやくの装甲だぞ?それを切り裂くって……

体制を直し距離を取り、再びあたりを見直す。

目に入るのは雲と空と海のみ、それ以外は何も目に映らないし気配も感じない。

さらに警戒を強め周囲に気を張り巡らせる。

耳に聞こえるのは風の音だけ…

なんとも言えない違和感だけが俺に危険を知らせていた。

冷や汗が頬を滴り落ちたか否かという瞬間、ヒュンッという音が背後から聞こえ反射的に音の反対方向に距離をとる。

今度は気を張り巡らせていたため直撃せずにかするだけですんだ…そう、全力で気配を察しようとしたのにも関わらず音以外何も感じなかったのだ。

しかし今俺の近くにナニカがいることには変わりない…だがそれ以前に目に見えない上に殺気も感じられないから回避がしにくい。

冷や汗……否、にじみ出るような嫌な汗が身体中からにじみ出る。

気配も無い。

目にも見えない。

レーダーにも反応は無い。

だが確かに目の前(そこ)に居る。

確信じみた違和感を頼りにただただ音を頼りに攻撃を躱す……おそらくだが。

高速で相手の攻撃を躱し、飛びながら銃を構える……が撃たない。

いや、撃つことが出来ない。

おそらく殺気を感じられないというのは無人機による襲撃だからだとは思う。

だが、相手が人である可能性もない(・・・・・・)わけじゃない。

当てようと思えば当てられるが、狙いが定められない今、当たりどころが悪ければ俺の銃だと下手をすれば大怪我どころじゃすまない。

銃を構えるだけで一切撃たないでかわし続けていると、次第に周囲の気配が強くなっていく。

数が増えたか?

見えない攻撃の勢いは強くも弱くもなっていない。

おそらくこの機体は接近戦様ステルス機だ。

ステルス機についてはどっかの国で研究されていたが……目の前に居てもわからないってチートだろ。

しかも無人機だからだろうか殺気も感じられない。

ただ、機体性能はさほど高くない。

純粋な戦力で見比べても多分一夏よりもずっと弱いのだが…下手な高性能機より優秀だろ、これ。

最初の不意打ちとか、かわしきれなかったし。

だが……何故さっきの的あてのときに俺はこいつの存在に気がつけたんだ?

見えない攻撃をかわし続けながら少し考えると…すぐに攻略法は見つかった。

風が強い時に上空で戦ったのが間違いだったな。

俺は攻められたままその場でかわし続けていると、そのまま猛烈な風で飛ばされて来た雲の中(・・・)に突入した。

攻略方は少し考えればすぐにでもわかる簡単なことだ。

確かに見えないのは恐ろしいがそこにいないわけじゃないんだ。

予想どおり、雲に包まれた敵の姿が確認出来た。

相手も気がついたようですぐさま雲から抜け出そうとしたが、見えるんだったら怪我をさせないように撃ち込むだけだ。

相手の装甲、武器、出っ張り、とりあえず人型ではない部分すべてに展開していた銃と、新たに展開したマシンガンで撃ち貫いた。

相手が雲に塗れたのはほんの一瞬、一秒にも満たない時間だったがそれが命取りだったな。

下へと落ちていく機体はだんだんその姿をあらわにしていく。

機体の色は濃い紫色。

姿形は……壊れていて確かじゃないが、少なくとも重装甲ではないだろう。

落ちていく人の姿(・・・)が確認出来たのだから。

慌てて落ちる機体の側まで飛び、相手を捉え抱える。

フルメイスで顔は見えないが、気を失っているだけで怪我はないみたいだ。

…………見えてない時に無人機だと思って攻撃しなくて良かった…

心底安心してこの後のことを考える。

まず……この娘だれ?

原作にこんな娘いただろうか?

可能性としては亡国機関の一員、IS学園の監視、篠ノ之博士一派…そんなことだろう。

そんなことを考えていると周囲に突然、多数のISが音もなく現れた。

そういや気配は消えて無かったな。

形を確認すると皆同じで色は薄いグレー。いつぞやの無人機を思い出させるたたずまいだ。

違うところは機体の色と何処か装甲らしいものが増えている気がする。

数は見えるものだけで10機。

全機体がこちらに銃口らしいものを向けている。

その中の一機からこちらに声がかかる。

 

『やあやあ、すまないけどその子を返してもらえないかい?』

 

その声は聞き間違い無く、確かに篠ノ之束の声だった。

周囲には無人ISが10機。

こちらに武器は向けていないとはいえかこまれていることには変わりない……もしかしたら近くにまだ姿を消したまま待機している者もいるやもしれない。

そんな警戒したまま、声の主に言葉を返す。

 

「お久しぶりです、篠ノ之博士」

『そうだねー、久しぶりだねー』

「で、本日はどのようなご用件で?」

『うーん……家出してるうちの子を探してたんだよねぇ……』

 

?なんというか……態度が柔らかいな。

何かいい事でもあったのだろうか……

しかし家出している子というのはおそらくこの気絶している娘のことだと思うが……

 

「……失礼だけど、この子は自分の意思で?」

『?……流石にちょっと失礼すぎない?この束さんが望まない相手を側に置くと思う?』

 

ムッとした様な声が返ってきた。

というか、あんたは誰か望んだとしても興味無いって言って無視するだろうが。

ただ今のは流石に礼儀知らずだったな。

警戒したままとりあえず謝る。

 

「あなたとそんなに親しいわけでないので。ただ疑ったことは失礼しました」

『うん、わかればいいのだ』

 

……かなり簡単に許すな。

命を差し出せくらい言われると思っていたのだが……

彼女の反応から見るかぎり『家出している子』というのはこの娘のことだ。

だが……この娘が篠ノ之束の仲間か、それとも逃げ出して来た存在なのかは一切わからない。

篠ノ之束が助けるほどの人材……少なくとも亡国機関ではない。

だが……言ってはなんだが、篠ノ之束に仲間がそんなに居るとは思えない。

確か原作でも身内は一人か二人だけ…

ということは、この娘はもしかしたらなんだかの理由で篠ノ之束に追われている可能性も……

俺は頭の中でこの娘を連れてて逃げる事を考え始める。

 

『……そんなに心配なら目を覚ますまでこのままでも良いよ』

 

………………!?!?!?

え?……え!?

今何て言ったこの人!?

え?もしかして別人?

それにこのままで良いって……何か罠を!?

 

『何をそんなおどろいてるんだい?』

「かの篠ノ之博士があいてに譲歩するなんて聞いとことも無かったので」

『それはどうでもいい相手にはね』

 

驚きが顔に出ていたらしく、俺は篠ノ之束から呆れたような声でそう言われる。

しかし……こちらとしてはありがたい話だ。

相手の話に乗りながら会話を続ける。

 

「僕はどうでもよくないと?」

『うーん……なんなんだろうね?』

「……続きは彼女を休ませてからでも?」

『良いよー』

 

そう言って俺は気を失ったこの娘を抱えたまま移動する。

ちなみに無人ISの方は俺を囲むようにして飛び続ける。

相変わらず無線は使えない……おそらく無人ISのどれかがジャミングをしているんだろう。

飛び続けて数分、IS学園からかなりなれた海岸に到着する。ここなら暴れても周りに被害はないだろう。

砂浜に気を失った娘を寝かせ少しだけ距離を取る。

と言ってもその気になれば直ぐに連れ出せる距離だが。

そこに俺も座ると目の前に一機の無人ISが着陸する。

 

『さて、話しを戻すけど…結構おもしろいよね、君。興味深いよ』

「おもしろいって……」

 

目の前無人ISからいきなりの変人認定を受けた。

と言っても変わっているって自覚はある。

だが、あんたには言われたくない。

そんな俺を無視して彼女の話は続く。

 

『だって……君必要としてないでしょ?IS』

「はい」

『普通強い力を手に入れたら逃したく無くなるはずなんだけどねぇ……』

 

またこの話か。

苦笑いをしながらいつものように軽い口調で話す。

 

「あればあったで困らないけど無ければ無かったでなんとかなる。この程度の認識ですよ」

『君、好き勝手したいとか言うこときかせたい奴がいるとかないの?』

「はい、今のところ力ずくで何とかしようとしてるのはあなたとの約束だけですね」

『ふーん……変なやつ』

 

だからあんたにだけは言われたくない。

そして……沈黙。

え?もしかしてこれで会話終了?

砂浜に座る俺と目の前の無人IS。

更に周囲には数機の無人ISが浮かんでいる。

おそらく気を失った娘が目覚めるまでこの状況は続くだろう。

なんだろ……すごい気まずい。

なにか……何か話題はないか!?

学園祭?って言っても共通の話題なんて…そんな時ふと頭にあることが思い浮かんだ。

 

「あ、そうだ。箒の海での写真要ります?」

『?……!!うん!!いるいる!!』

「えっと……モバイルからデータ引き抜いたりできますか?」

『できる!!できるよ!!ちょっと待って!!』

 

よっしゃ!!会話がつながった!!

篠ノ之束相手の話題といったら千冬さん、または箒、時々一夏って感じでいいはずだと思ったが、正解だったようだ。

少しすると目の前の無人ISの手が動く。

 

『その子の手にそれ乗せて!!』

「壊さないでくださいよ。あと箒が写ってる写真は10枚くらいしかないはずです」

『わかったから早く!!』

 

ほんとにわかってるのか?

ため息をつきながら無人ISの手のひらの上に携帯を置く。

少し音が変わったかと思うと、篠ノ之束の声が響く。

 

『うひゃー!!箒ちゃんがこんな水着着るなんて!!』

「もう大丈夫ですか?」

『あははー、楽しそうだなぁー』

 

聞いちゃいないな。

しかし、本当にうれしそうに話すな。

後はその写真についての話題だけで10分は持つはずだ…それを過ぎてもこの娘が起きなかったらそのときはこの娘の体が危ない。

無理やりにでも病院に連れて行かせてもらう。

だが俺のそんな心配は杞憂に終わったようだ。

横になっている少女がうめき声を上げながら少し動いた。

 

「……うん……っ…ココは……?」

「目が覚めたみたいですね」

 

俺がそう言うと無人ISのほうもそちらを向く。

俺は立ち上がると彼女のほうに近づいた。

むくりと上半身だけ起き上がらせた彼女は俺のほうを向くと数秒固まり、その後すばやく俺から距離をとった。

 

「っ!!」

「こっちに敵意はないよ。身体は大丈夫?」

『アンちゃん、大丈夫?』

「博士!!……申し訳ありません。勝手に戦闘を行い…負けてしまいました…」

 

申しわけないように篠ノ之束に返事をする少女(アンちゃん)

この対応を見る限り、ほぼ確定でこの娘は篠ノ之束一派だろう。

 

『大丈夫だよ。私がまだ勝てない様な相手だから』

「怪我はないみたいだし、自分の意思で篠ノ之博士の元にいるみたいだね」

 

彼女(アンちゃん)は篠ノ之束の言葉に少し下をうつむいた。

落ち込んでいるのだろうか?顔が見えなくてわからないが。

しかし…彼女(アンちゃん)は篠ノ之束一派だということは…連れて行くためにはもう一戦やらなくちゃいけないのか……仕方ないか。

俺はぐっと背伸びをした後目の前の無人ISのほうを向きはなしかける。

 

「さて、再び戦いますか」

「!!……っ!!ISが…」

「ああ、君は危ないから離れてて。巻き込まれたら大変だよ?」

「……はい?」

 

避難勧告をしたらすごい意外そうな反応をされた…俺変なことは言ってないよな?

再び確認するように首を傾げて話しかける。

 

「いや…きみ戦えないでしょ?」

「え?いや……だって」

「一応君が無理矢理戦わされてるかも…って思って目を覚ますまで待ってただけだったんだ。戦いはまだ続いてるから危ないよ?」

「そ、そちらでは…ない…」

 

すごいうろたえながら俺に話しかける少女(アンちゃん)

え?そこまでうろたえるって…そんなに変なものが目の前にいるというのだろうか…

あながち否定できない自分がいる。

 

「わ、私を人質にすれば」

「え?やだよ」

「や、やだって……」

 

あー…そういうこと。

また面倒きわまりない暴力的な発想が来たよ。

げっそりとした顔であからさまにため息を着くと目の前の彼女(アンちゃん)はたじろぐ。……この娘顔は見えないけどわかりやすい娘だな。

 

「それで戦いが終わるならやるかもしれないけど、君にそんなことしても篠ノ之博士は絶対に諦めないでしょ?それに下手をしたら君を取り戻すまで学園に襲撃し続けられるかもしれないし…君も嫌でしょ?捕まるの…まぁ、心配しなくてもそんなことやる気はないよ」

 

笑いかけながら俺がそう言い終わると彼女(アンちゃん)は脱力したように肩を落とし俺を見ているようだった。

フルフェイスの中は一体どんな顔をしているのだろうか?

たぶん怪訝な顔かあきれられているか…どちらかだろう。

 

『……プッ……ふふ……あはははははは!!何それ!?』

 

突然の笑い声に俺はそちらを見る。

今まで沈黙していた篠ノ之束が無人ISの向こうで爆笑していた。

 

「え?そんなおもしろい事言いました?」

『だって、君、私に命狙われてるんだよ?それなのに…あははは!!』

 

ツボにはまったのか今までで一番大きな声で笑っている。

唖然としながら彼女(アンちゃん)の方をちらりと見ると、彼女も笑い声がする無人ISをガン見していた。

おそらくフルフェイスの下の彼女の顔も唖然としているのだろうか。

篠ノ之束はしばらく笑った後にひーひー言いながら再び俺に話しかける。

 

『写真も油断を誘うものだって思ってたけど……もしかして……』

「えっと……話しが続きそうに無かったんで……話題にと……」

 

そう言うと無人ISの向こうでおもいっきり吹き出したような音がした。

あー……さっきの写真、そう捉えられてたのか。

いや、まあ…そりゃそうかと納得した俺もいる。

普通戦ってる最中に沈黙が苦しいから話題を必死で考えるようなバカな奴はいない……俺以外。

しかし……これから戦いをする空気ではなくなってしまったな。

しばらくして再び篠ノ之束は笑いを堪えながら話しかけてきた。

 

『ひー…ひー……笑いすぎてお腹痛い』

「……続きやります?出来ればこの子は事情を聞くために連れてきたいんですけど……」

『ひー…うん……もし嫌だって言ったら?』

「……どうしましょう?」

 

マジでどうしようか?

こんな雰囲気で戦うのもあれだし、実際つれて帰ってもメリットも多いがデメリットも多すぎる。

まずデメリットのほうだが確実に彼女(アンちゃん)を取り戻すために篠ノ之一派の猛攻が始まるだろう。

場合によっては篠ノ之束の弱みを握りたい派閥も攻めてくるはずだ。

そして連れて行ったときのメリットは篠ノ之一派の情報が一気に手に入る…彼女(アンちゃん)が話してくれれば、の話だが。

まあ…話さないだろうなぁ…

それに下手につれて帰って千冬さんや楯無に引き渡したら……

うん。やめたほうがいい気がしてきた。

頭の中で修羅と腹黒に拷問されている彼女(アンちゃん)を思い浮かべていると、いまだくすくすと笑っている篠ノ之束が落ち着きを取り戻したようだった。

 

『はー…あー笑った。こんな笑ったのは久しぶりだなー』

「はぁ……」

『うん!!アンちゃんを連れて行くのはダメだけど……次に襲撃する時は事前に連絡してあげる』

「どれくらい前に?」

『うーん……3日前くらい』

 

この提案は正直ありがたいな。

3日もあればある程度迎撃の準備はできるし、何より準備は無理でも非難はさせれる。

いざとなれば俺が別の場所に逃げ、人気のない誰もいないところで戦うこともできるのだ。

そうなれば…三つ目の銃(切り札)が使える。

 

「じゃあ、それでお願いします」

『うん、あともう一つおまけをあげよう』

「おまけ?」

『早くIS学園に戻った方がいいよ?』

 

篠ノ之束がそう言った次の瞬間、IS学園のほうから何かが爆発したような轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

女というものは存在しない。存在するのはさまざまの女たちである。

〜モーリアック〜



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第百話 蜘蛛の巣

風音 奏(オレ)は内心焦りながら全速力でIS学園へと飛ぶ。

学園に被害が及ばない様にと距離をとったのが逆に仇になってしまった。

篠ノ之束は爆発音がした後まったく別の方向に少女(アンちゃん)を無人機に抱えさせ飛んでいった。

しかし…結局IS学園への襲撃に篠ノ之束がかかわっていなかったとは…

少し予想していたとはいえちょっと当てが外れた気分だ。

 

『…ね……ろ……奏!!応答しろ!!』

「っ!!千冬さん!!」

『ようやく繋がったか。今どこにいる?』

「現在IS学園に向けて全力で向かってます!!いったい何がありましたか!?」

 

俺と通話が繋がると、千冬さんの声が落ち着いたように感じた。

こちらであった事を教えようかと思ったが、今は謎の爆発音の方が問題だ。

それに……コッチの話しはいろんな意味で刺激が強すぎる。

千冬さんもこちらの事について詳しく聞いてこないという事は、俺が信用されているか……それとも、俺の方など問題にならないほどの何かがおきているのだろうか。

そんな俺の考えなど吹き飛ぶ程の言葉が千冬さんから飛び出した。

 

『爆弾だ』

「爆弾!?」

 

予想外の発言に俺は鸚鵡(オウム)返しをしてしまう。

いくら何でもそれはあまりに無理があるので無いだろうか?

 

『ああ、突然校門付近で爆発が起こり、同時に学園に脅迫の電話が入った』

 

校門付近という事は、おそらく敷地外での事だろう。

よけいな質問はせずに事の経緯を聞く。

脅迫については

『この学園に多数の爆弾を仕掛けた。誰かが学園の外に出た瞬間、敷地内に仕掛けたすべての爆弾を爆発させる』

という事以外は何も言わずに電話を切ったらしい。

……あからさまに怪しすぎる。

 

『現在教員が爆弾の捜索と処理に当たっているが、如何せん数が不明な所か仕掛けてあるかも怪しい、その上人材も足りん』

「避難のほうは?」

『学園内から出せないため一箇所にまとめて避難させている。爆弾が周囲にないことは確認済みだ』

 

避難は済んでいるという話しにホッと胸を撫で下ろす。

同時に何故こんなことをしたのかを考える。

まず一番あり得ないのが犯人が篠ノ之束という可能性だ。

多分…いや。確実に彼女が犯人だとしたら、さっきの取引で使うはずだ。

それ以前に爆弾騒ぎでは一夏と箒の試練になり得ない。

この時点で篠ノ之束が絡んでいる可能性はほとんどない。

では一体誰が?といえば亡国機業(ファントム・タクス)以外にないだろう。

だが爆弾騒ぎで奴らが何を得る?何が目的だ?

 

「…避難した生徒たちの防衛は?」

『現在教員1名と一年の専用機持ちの一部で防衛している』

 

一夏たちはそっちか。

さて、少し考えろ。

犯人の狙いはなんだ。

まず外部での爆発騒ぎと脅迫。

これのせいで先生たちはほぼ爆弾探しか……

観客……外部の人間……一箇所……

嫌な予測が頭の中を走る。

 

「…楯無にVIP…いや、全員の顔を確認は?」

『すでにやっている』

 

やはり千冬さんもその可能性を考えているようだ。

もし、爆弾騒ぎの目的が戦力の分散と獲物をおびき寄せる罠だとしたら?

狩人は一番獲物を狙いやすく、油断させる位置にいるだろう。

そう、守られる側の位置(・・・・・・・・)に。

もしかしたら、その中に犯人がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いったいいつになったら開放されるの!?」

「すいません、現在早急に対処していますので…」

「ふざけないで!!第一こんな防衛で…」

「そうだ!!もしものことがあったら…」

 

聞こえてくる騒音に織斑一夏(オレ)はため息をつきつつそちらをチラ見していた。

子供(せいと)たちが混乱が起きないように恐怖に耐えているというのに大人(お偉いさん)が怯えて声をあげてどうするんだ?

第一、先生に攻め寄ったって事態は何も解決しないというのに。

現在俺たちは体育館に集まった避難した人たちを守るために警備を行っている。

先生はここには一人しかいない。

何でも爆弾の捜索に人手がいくらあっても足りないからだそうだ。

しかし…なぜあそこまで騒げるのだろうか?

俺は目線をそのままにため息をつく。

 

「一夏、あまりあちらに注目するな。からまれるぞ」

「って言ってもな…爆弾か…」

 

近くにいる箒に注意をされて目線を外すが、いまだに叫び声が聞こえてくる。

しかし、爆弾を学園に仕掛けるって一体誰がそんなことを……

 

『犯人の声明だとこの学園全体に仕掛けてるっていう話らしいわ』

『まあ、十中八九全体というか爆弾自体嘘ですわね』

 

セシリアと鈴の通信を聞いて自分の耳を疑う。

ちなみにセシリアと鈴はそれぞれ一人で一方向を受け持っている。

俺と箒は実力の面で二人で一方向の担当だ。

しかし、十中八九嘘とはどういう意味だろう。

 

「え、なんでだ?実際に爆発があったんだろ?」

『ええ、学園の外でですがね』

『IS学園内に爆弾仕掛けるとかどんだけ困難なことかあんたわかってるの?』

 

鈴の呆れて声にちょっとだけムッとするが直ぐに浮かんできた疑問によって打ち消された。

警備がしっかりしている事は知ってるがそれほど難しいことなのだろうか?

 

「えっと…そんなに難しいのか?」

『あんたが今すぐさっきの奏みたいに、1km先の的を雪羅で撃ち当てるほうがまだ可能性があるわ』

 

そう鈴に言われて思い浮かべてみる。

自慢じゃないが俺は射撃が下手である。

練習はしてるが、50m先の動く的に当てるのにもてこずっているのだ。

さっきの奏のようによく目を凝らさないと見え無いような的に当てる技術はない。

……ということは不可能という事ではないのではないか?

 

「それって不可能ってことじゃ……」

『でも試しに実行することはできますわ。爆弾の場合、外から投げ込むことすらそれこそ不可能ですわ』

『それに今日は学園祭。VIPもくるから特に警備は厳しいのよ』

 

警備で爆発物の持ち込みはできない上に、仮にISに入れて持ち込んだとしても、一瞬でも展開をしてしまえば即座にレーダーに写りばれてしまうらしい。

その事を聞いて更に疑問は深まった。

 

「じゃあ何で避難なんてさせたんだ?」

「…おそらく‘もしも’のためだろう」

『箒の言うとおりよ。そんな不可能を可能にした前例があるからね』

「前例?」

『一夏さんと鈴さんの試合のときの乱入者ですわ』

『あいつなら学園を覆っているシールドも関係なく進入できるでしょうしね』

 

そう言われ頭の中にその無人ISが思い浮かぶ。

たしかにあの時俺と鈴は奏に警告されるまで気がつくこともできなかった上に、アリーナのシールドを破壊され侵入されたのだ。

 

「でもそれならセンサーに…」

『私たちが試合中に上から接近されてても誰も気がつかなかったのよ?攻撃されるまで』

『もしかしたら…という理由があるのでこうやって一箇所に集まって園内のチェックをしているのでしょう』

 

セシリアと鈴はそこまで考えて動いていたらしい。

一方俺はと言うと完全にIS学園が襲撃されたと思い臨戦状態を維持していたのだが………とんだ肩透かしである。

ちらりと箒の方を見てみると箒も肩透かしを食らったのか少し肩の力を抜いているようだ。

………別に緊張していたのが自分だけではなかったと安心などしていない。

しかし、この認識の差が一般生徒と代表候補生との差なのだろうか。

ふとそう思い浮かべた後にこの場に代表候補生とプラス1が足りない事に気がついた。

そんなすぐわかるような事にも気がつかないほど俺は緊張していたようだ。

 

「そういや、他の皆は?簪とラウラはさっきまで居なかったか?」

「その二人は爆弾の捜索といざというときの処理だ」

『ISなら爆弾が近距離で爆発してもよほど強力でない限り無傷ですむからね』

『特にラウラさんはドイツ軍で爆弾解体の指導をしていた側らしいですから』

 

なるほど、あの二人なら納得だ。

ラウラは軍で指導を受けて……いや、指導をする事が出来るほど技術があるらしいし、簪はその手(・・・)の技術に関しては俺たちの仲間内では頭一つどころか、三つ四つは抜けている。

引っ張り出されても不思議じゃない。

では代表候補生のシャルロットはともかく、奏は何故この場にいないのだろうか?

あいつなら言われなくとも皆を守る、もしくは事態の終息に向けて動くだろうに。

 

「シャルロットと奏は?」

『奏はともかくシャルロットは奏のおばあさんのところよ』

「特別に許可をもらってISを展開させずに傍にいるらしい」

「………ちなみに奏がどこに行ったか知ってるヤツはいるか?」

 

だれも何も言わない。

という事は誰もどこに行ったか知らないのだろう。

と言ってもあのお人好しがこの状況で何もしていないとは考えられない。

多分どこかで必死に何とかしようと動いているのだろう。

そんなことを考えていた時、先生が大きな声をあげた。

そちらをみると一人の女性が集団を抜け出し、どこかに行こうとしているようだった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

「なによ!?こんな危険なとこで固まってろって言うの!?」

「現在安全を確認しておりますので…」

 

必死に足を止めるように訴える先生だが、女性は足を止めずちょうど俺の目の前にある出口へと向かっていく。

一方先生の方はと言うと、その出口に足を向ける女性の後ろをついて行っている。

 

『はぁ、まったく見苦しいですわね』

「本当にな。いくらここから逃げようと考えても逆に危険な方へと進んでいるというのに………」

『一夏、あんたも…どうしたの一夏?』

 

三人が何か言っているのは聞こえていたが俺はそれ以上に逃げ出そうとしている女性から目を離せなかった。

逃げようとしている?

違う、あの女は恐怖で動いているんじゃない。

具体的に何故かは言えないが、確実に何か目的があってここから離れようとしている。

一体何が……そう考えた瞬間、その女がこちらへと振り返った時に見えた顔、それを見た瞬間全てがわかり声を上げる。

あの顔は逃げようとしている人の顔じゃない。

あの顔は…いや、あの眼は俺を誘拐(・・・・)したやつらとまったく同じだ。

 

「先生!!離れろ!!」

「え?」

「…っち」

 

何の確証もないが俺は叫び声を上げた。

周りのみんなが唖然とする中、逃げ出そうとしていた女、彼女一人だけ違う反応をする。

舌を鳴らしたかと思ったら女の雰囲気が一気に変わった。

具体的にどうとは言えないがこの雰囲気は危険だ。

イグニッション・ブーストで一気に距離を詰め、容赦なく雪片弍式を女性に向けて振るう。

だがその攻撃は女の背中から出現したアームによって防がれた。

周囲からは悲鳴が聞こえ、先生は驚きからか唖然としている。

 

「!?ほう、あの距離を一瞬でつめるか。だがな!!」

 

一瞬、女は俺から目線をはずし、他の避難をした人たちのほうを見る。

間違いなく誰かを人質にするつもりだろう。

頭の中で必死に対処を考える。

ここで戦うのは絶対にだめだ。

人質にされるという危険性だけではなく巻き込まれたらISをまとわない人なんてひとたまりもない。

ここからこいつを実力で周りに被害を出さないように誘導するのは今の俺の力量的に無理だ。

どうする?どうやったら巻き込まないですむ。

 

「させるかぁぁ!!!!」

「っ!?」

 

頭の中に浮かんだアイディアのままに行動を始める。

背中の翼から火を噴出させ女を押す。

さらにイグニッション・ブーストを機械の翼から吐き出し相手ごと壁にぶち当たる。

そのまま衝撃でダメージを受けてくれればいいが、相手はISを持っている。

確実にダメージはないだろう。

だがぶち当てた壁のほうはただではすまないだろう。

案の定、壁は砕け外に飛び出ることができた。

そのまま女を押し続けある程度体育館から離れることはできた。だがまだだ、まだ距離が足りない。

俺は再びイグニッションブーストを斜め上の方向に行い距離を稼ごうとする。

このまままっすぐ行けば海の上空だ。

そこならある程度は周りを気にせずに戦える。

 

「思いっきりはいいようね?でも……考えが浅せえよ!!」

「え?」

 

押されたままだった女が俺の胸の辺りにトン、と手を当てた。

途端に俺の体に何かが張り付き電流が奔る。

 

「がぁぁぁあああああっ!?!?」

「は、所詮は餓鬼だな」

 

電流のせいか、足に力が入らず膝をついてしまう。

いや、膝が地面につくのはおかしい。

今俺は白式を装備してるんだぞ?

自分の手を見るとそこには見慣れたがガントレットはない。

その瞬間頭部に衝撃が奔り俺は吹き飛ばされる。

そのままうずくまっていたいが、今目の前にいるのは敵だ。

力をこめ見上げてみるとそこには笑顔で俺を見下す先ほどの女がいた。

右手には何か結晶のようなものを持っている。

間違いない、こいつが何かをして俺の白式を解除させたんだ。

 

「が…び、白式が…いったい何を…」

「はん、聞けば答えてもらえると思ってんのか?」

 

俺を見下したまま女はISを展開していく。

先ほどの背中から出現したアームは他に3本、計4本あり機体カラーの黄色と黒も相まって蜘蛛を連想させる。

女は笑いながら蜘蛛の足のようなアームで俺の胸倉あたりを引っ掛け吊り上げる。

抵抗したいがさっきの電流の所為かまともに体が動かない。

やられる。

そう思った瞬間に女の足元に銃弾が数発撃ち込まれる。

撃ち出されたほうを見るとそこにはラファール・リヴァイヴを装備した先生が浮かんでいた。

 

「織斑君!!そこの貴女、今すぐ彼から離れなさい」

「…はぁ…平和ボケしたこの国の人間じゃしょうがないか…」

 

あからさまにつまらないようにため息をついた後に女は先生と向き合った。

俺をアームに掴んだまま。

 

「な!?お、織斑君を盾に…」

「おいおい先生、生徒の前で動揺しちゃだめだ、ろ!!」

「っつ!!」

 

アームの先端についている砲門から弾丸が飛び出す。

かなりの近距離からだったが先生は紙一重でかわしきった。

だがその瞬間俺の体が下にたたきつけられた。

すさまじい衝撃で口から声がもれる。

 

「ぐぁああっ!?」

「織斑君!!」

「次かわしたらこいつの頭をつぶす」

「な!?」

「脅しじゃねーぞ?まぁ…せいぜい耐えてくれや!!」

 

俺の頭にISの脚を上げて先生に脅しをかけ女はにやりとゆがんだ笑みを浮かべるのだった。

そして次の瞬間背後のアームから弾丸が一斉に連射される。

先生も不意を衝かれたように全弾食らっている。

だが、それでも弾の当たるところは装甲の厚い部分にするように細かく動いている。

時間にしたら十数秒。

だがその間に撃ち込まれた砲弾は30発や40発じゃきかないはずだ。

だが先生はいまだにISを展開したまま立っていた。

だがIS、先生ともに限界のように俺にはみえた。

 

「へぇ?量産型で結構耐えるねぇ…まぁ、飽きたからもう死んでいいわ」

 

そう言って先生に再び砲門を向ける女の目には何の感情も浮かんでいない(・・・・・・・・・・・・)

ただ、邪魔だから消す。

まるで机の上に置いてある埃を払うかのように簡単に誰かを殺そうとしている。

止めなくちゃいけない。

そう考えてはいても体に力は入らず腕も動かすことはできない。

何より俺にはIS(つるぎ)がない。

砲門から音が聞こえる、おそらく弾を撃ちだすために。

だがそのアーム(砲門)はレーザーによって弾き飛ばされる。

上空、こちらの上を取るようにしてセシリアがブルー・ティアーズからレーザーを穿ちながらスターライトmkIIIでこちらに狙撃をしたようだ。

 

「こちらからの反撃は禁止されてませんわよね?」

「ああ、でも今から禁止だ」

 

そう言って女は俺の頭に置いた足に力をこめるかのように体を動かした。

が、次の瞬間横から飛んできたブーメランのようなものに思いっきり体を弾き飛ばされた。

女のほうも直撃を食らわぬようにアームでブーメランを弾き飛ばしたが、弾きとばされた武器のさきには、すでに甲龍(シェンロン)を身にまとった鈴がいた。

ブーメランのようにも使えるダブルブレード・双天牙月。

こいつは単純な破壊力だけなら確実に上位に食い込む。

俺を足で抑えて動くことができなくなった(・・・・・・・・・・・・)こいつなら当てるのは難しくはなかったのだろう。

空中で双天牙月をキャッチした鈴は、連結させたままの双天牙月で女に切りかかる。

女のほうもアームを駆使して鈴と斬り結んだ。

一合、二合、三合…斬り合いは続く。

だが女のほうは全力というわけでは無いようでアームで応戦するようにうごきながら俺を狙っていた。

だが鈴にもそれはわかっていたようだった。

そして力強い一閃。

鋭い斬撃が奔り女は鈴から距離をとった。

 

「やることがワンパターンなのよ、アンタ」

「一夏と先生は回収した、無事か?一夏」

「俺より…先生は!?」

「気を失ってるが大事ない。一夏白式はどうした?」

「それが…突然消えたんだ」

 

それを聞いて鈴と箒は怪訝そうな顔をする。

俺だって何が起きたのかわからないんだそういうしかない。

それを聞いて女はにやりと笑い口を開いた。

 

「種明かしをしてやろうか?こいつは―――」

「【剥離剤(リムーバー)】ですわね」

「…はっ、すこしは知ってるやつがいるじゃねえか」

 

セシリアの言葉を聞いて俺や箒だけではなく鈴まで怪訝な顔をしている。

唯一セシリアだけがそれを理解し、女は感心した様に驚きを顔にあらわしている。

しかし同じ国家代表候補生の鈴にとっても聞きなれないって……それほど珍しいものなんだろうか?

 

剥離剤(リムーバー)って…」

「…存在しない兵器ですわ。理論上相手のISを奪うことができますけど、そんなの開発すら国際的に許されてないはず…」

「許されてない?何で悪の組織がそんなもんに気を使わなくちゃいけねぇんだよ」

「悪の…組織だと?いったい何の話だ?」

 

俺が女にそう言うと女は怪訝そうに顔をしかめる。

まるで俺がおかしなことを言っているのかの様に。

 

「あん?お前が何を…って知ってるほうが異常なんだがな」

「……【亡国機業(ファントム・タクス)】」

 

再びセシリアがそう呟く。

今まで薄ら笑いを浮かべていた女の顔からはじめて笑みが消えた。

セシリアの顔も女を険しい顔で睨みつけている。

 

「セシリア?アンタいったい何を知ってるの」

「…皆さん、疑問はあるでしょうが今は話す時間がありませんわ。事が終わった後に必ず説明いたします。ですから今は一刻もはやく白式を取り戻さないと」

 

確かにその通りなのだがセシリアの顔に浮かんでいる表情からは警戒しているのだが……どこか怒りが感じられた。

戦闘が始まるかと思ったが女の方は先ほどから何かを考えているのか首をかしげている。

 

「セシリア…どっかで…ああ、セシリア・オルコット。オルコット家の生き残りか」

「……いまなんと……」

 

思い出したかの様に女が口に出した言葉に場の空気が……いや、セシリアの雰囲気が変わった。

先ほどまでは少し感じられた怒りが今は隠すこともなく溢れでている。

それを見て女はニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

 

「……なるほど。そこまでは知らない訳か」

「……っ!!まさか!?」

「たしか組織(うち)の誰かがヤッタはずだったな。おかげでうちの組織がイギリスに入り込みやすく」

 

セシリアのスターライトmkIIIから打ち出された女の顔めがけて走る。

シールドが張られていたため当たることは無かった。

そして閃光が消えた後に女の顔に浮かんでいた表情はさらに笑みが深まっていた。

 

「黙りなさい…」

「はぁ?せっかく教えてやってんだろ?」

「口を閉じなさい…」

「お前の両親は単に邪魔だった。それだけで消されたんだよ」

「黙れ!!」

 

セシリアが再びスターライトmkIIIからレーザーを放つ。

が普段のセシリアの鋭い攻めではない。

ただ狙いもつけず女のいる方向に閃光を放ち続けた。

そんな攻めが通じるはずもなく女はほとんど被弾せずにニヤニヤとこちらを見ている。

このままじゃいけない。

俺はセシリアの腕を横から引き声をあげ、攻撃をやめさせる。

 

「セシリア!!」

「ハァッ…ハァッ…」

 

ブルー・ティアーズを身にまとったままセシリアはその場に膝をつく。

呼吸も荒いし俺たちのことも見えていない様だ。

それを見て女は声をあげて笑う。

本当に面白そうに、腹を抱えながら。

 

「あはは、なんだ本気で知らなかったのかよ!?こりゃもったいないことしちまったな。もっと遊べそうだったのにな。なんだよお前ら。仲良し子良しで怒ってるってか」

 

俺たちの顔を見て再び笑いを深くする女。

こいつ、完全にセシリアで遊んでいやがる。

いや、こいつはセシリアだけでなくこの場で怒りを感じている俺たちの事を見て笑っている。

怒りに満ちた俺たちの睨みつける目線を見て再び声をあげて笑う女。

その声を聞いて俺は怒りで頭がおかしくなりそうになる。

 

「…アンタ、最っ低の屑ね」

「いや屑にも劣るな」

 

そう言って箒と鈴が前に出る。

その眼には怒りが満ち溢れている。

その怒りは自分が馬鹿にされたからではない。

セシリアのことを、いや、セシリアの家族の事まで踏みにじったこの女に怒りを抱いているのだ。

女はさらに笑みを浮かべる、二人を馬鹿にする様な顔で。

 

「おいおい、お前ら二人が相手って言うつもりか?さっきまでの学芸会じゃねえんだぞ?」

「何?文句でもある?」

「貴様も私の友人にここまでしてただで帰れると思っているのか?」

 

武器を構える二人を見て女はおかしそうにふき出し、ひと笑いした後深くため息をつく。

 

「はぁぁ…やっぱ平和ボケの国だな」

「何?」

「私が何であのタイミングでISを使ったと思ってるんだ?確実に一対多数の戦いになるっていうのに」

 

その言葉を吐き出しながら女はISを全身に展開していく。

背後に展開された4本のアーム。

それに自身の手足。

計8本の手足に背後の巨大なパーツ。

紫とオレンジの二色もあり、まるで蜘蛛の様な印象を受ける。

これがこの女のISか。

フルフェイスのISなのだが、女は頭部装甲のみを解除しいやらしい笑みを浮かべこちらを見下す。

 

「簡単な話さ。全員相手でもここから出れる(・・・・・・・・・・・・・)からだよ」

 

 

 

 

 

赤とオレンジの閃光が違いにぶつかり合う。

閃光がぶつかり合うたびに箒が苦痛の声を上げる。

機体の性能は確実に箒の紅椿の方が確実に上だ。

だがそれを補ってなお余る程の腕をあの女は持っている。

箒の攻撃を受けずに流す。

エネルギー攻撃が出来ない程の接近戦をしつつも相手の間合いには一切入ってこない間合いの取り方。

そして箒の動く先を誘導するかの攻撃によって機体性能に関係なく箒を追い詰めている。

そして更に高速戦闘をしながら周りの建物を狙った攻撃やセシリアと俺を狙う攻撃によって鈴の甲龍が戦闘に参戦出来ない状況を作り出している。

鈴も龍砲で攻撃するが一切当たる事はない。

しかも女には余裕がある様で箒と鈴を相手にしてなお遊ぶ余裕がある様で箒を誘導して鈴と相打ちさせたり建物を壊す事をあからさまに示して二人に身体を張らせたり……

このままじゃ援軍が来る前に二人とも落とされてしまう。

俺が白式を取られなければ……

それにセシリアは先ほどから息を荒くしながら一切動かない。

 

「セシリア!?おい!!セシリア!!」

「…一夏…さん?」

「いったいどうした!?」

「いえ…何でもありませんわ…」

 

そう言いながらセシリアは一切動く事はない。

普段のセシリアならこの状況になったら飛び出す様に参戦するはずだ。

よく見ると身体が震えている。

やはり戦うのは無理だ。

恐らくショックで動けなくなっているのだろう。

 

「そんなはずないだろ!?こんなに震えて…」

「大丈夫ですわ…私は大丈夫…」

「あはは!!何いい子ちゃんぶってんだぁ!?」

「こいつ!!」

「いい加減、お前らにはあきた。寝てろ」

「くっ!?」

「きゃ!?」

 

箒が女の口をふさぐ様に攻めるが軽くあしらわれ、更に鈴の方に押し飛ばされ叩きつけられ動かない。

動かなくなった二人に駆け寄ると二人とも意識はあるが衝撃からかすぐに動く事が出来ない様だ。

女の方はセシリアのそばまでわざわざ接近して声をかける。

 

「震えてるのは恐怖じゃなくて怒りだろ」

「…うるさい…」

「ようやくわかったんだ、喜べよ。お前の両親の仇がな。動かない理由は男か?そりゃ見せたくねーよな?怒りで狂った自分の顔なんて」

「……」

 

笑い声をあげながらセシリアを挑発する。

それよりこの女今なんて言った?

両親の仇?

セシリアの両親は事故で亡くなったって……まさか!?

 

「お前……今なんて言った!?」

「さっきも言ったろ?組織の組員が起こした事故で死んだんだよ」

 

その言葉で全てを理解した。

セシリアの両親はこいつの仲間によって事故に見せかけ殺したのだ。

女は再び語り始める。

 

「計画じゃオルコット家の資産と立場を手に入れるはずだったんだが予想外の妨害があったんだったかな?本来失敗なんかありえないミッションでの失敗だから担当者の首が飛んだのが話題になったからよく覚えてるよ……もしかしてお前がなんかやったのか?だとしたらおもろいんだがね」

 

女はその語り方はまるで昔の思い出を笑い話にして話すかの様に、その事件の経緯を語る。

セシリアは震えながら女に言葉を投げる。

 

「その…担当者の名を言いなさい…」

「…知ってどうする気だ?」

「決まってるでしょう!!ただで済ますわけがありませんわ!!」

 

なんとか奮い起ち女に敵意見せるセシリア。

だがそれを見た女は声のトーンを下げて話し始めた。

 

「死んだよ」

「……え?」

「聞こえなかったか?死んだって言ってるんだよ。さっきも言っただろ?首が飛んだ(・・・・・)って。うちの組織じゃ失敗はイコールで死だ」

 

その言葉を聞いてセシリアの身体から力が抜け、唖然とした表情を見せた。

親の仇がすでにいない。

つまり、当事者からもう何があったのか聞くことすら出来ない。

女は低いトーンのままさらに言葉を続けた。

 

「残念だったな復讐の相手が死んでいて」

「………そんな…」

「でも死んだ原因はお前かも知れないぞ?お前が自分の家を守りきったから死んだんだろうしな…お前は自分が知らないうちにちゃんと復讐は果たせていたわけか…」

 

女はセシリアの方をむいて慰めるような言葉をはいた。

だがどう考えてもこいつが今セシリアを慰めるような事をするわけがない。

だが追い込まれたセシリアは、判断力が弱まっているせいか顔に表情が戻ってきた。

状況を理解しようとしているであろう考えるような表情と……僅かではあるが歓喜のためか口元が緩んでいる。

そんな表情を見た女は先ほどまでの雰囲気を一転させ大笑いする。

 

「っあはははははは、なんつう顔してんだよ!!んなわけねえだろ!!本気で信じたのかよ」

「……っ!!き……さまぁああああ!!!!」

 

そこでセシリアも自身が再びこの女に遊ばれていたということに気が付いた。

怒りが顔から溢れ出し今にも女に飛びかかりそうだ。

そんなセシリアに女はさらに接近する。

俺を指差しながら。

 

「おいおい、近くに誰がいるか忘れてないか?」

「っ!!い、一夏さん」

 

その時俺はどんな表情をしていただろうか。

目の前にいる女に対しての怒りはあった。

何も出来ない自分に対しての憤りもあった。

この二つが俺の心を満たしていた事は確かである。

だが、初めて見るセシリアの、激しい怒りと純粋な殺意に気圧されていないとは言えない。

そして俺の表情からセシリアは確かにそれを(・・・)感じとってしまった。

セシリアは自身の顔を隠し顔を背ける。

女はさらにセシリア接近して猫なで声でセシリアを責める。

 

「いい顔だねぇ……怒りと殺意に歪みきった表情。初めの澄まし顔よりお似合いだよ」

「…違う…こんな…私じゃ」

「いいや、確かにお前だよ」

 

顔が当たるのでは無いかというほどの距離にまで女はセシリアに近づく。

一方のセシリアのISを展開したまま膝をついて顔を下にうつむかせたまま女から逃げようともしない。

なんとかしないと。

箒と鈴は動けない。

女の方に近づき俺は女に叫ぶ。

せめて女の注意をこっちにひかなくては。

このままじゃセシリアが潰れてしまう。

 

「おい!!その口を閉じろ!!」

「いいとこなんだよ……黙ってろよ、クソ餓鬼」

 

だが女は一切俺に興味を示さずセシリアに近づく。

俺に対して女がやった事はただアームの砲口を俺に向けただけだ。

それだけなのに俺は一瞬、声が出せなくなってしまった。

その間に女はセシリアへと猫なで声で言葉を放つ。

 

「いい顔だったぜ?さっきの復讐相手が死んだって言われた時の顔。確かにほれた男に見せる顔じゃねえな」

「ちがう…こんな…」

「復讐を果たせていたと知ったときのあの顔。私と同じ顔だったね。嬉しくてしょうがなかっただろう?」

「セシリア!!聞くな!!」

 

俺は叫ぶ様にセシリアに声をかけるがセシリアには届いていない。

女はセシリアの耳元まで口を近づけ先ほどまでの猫なで声ではなく、笑いを含んだ言葉をその口から吐き出した。

 

「テメェが人を殺したって言われてんのによ。なぁ、ご同類」

 

その言葉を聞いた瞬間、セシリアはISを解いてうずくまった。

耳を押さえ目を閉じてただ何もせずに敵の目の前でうずくまってしまったのだ。

それを見て女は今までで一番大きな声で笑いだす。

満足気にセシリアを見下しながら。

箒と鈴もなんとか立ち上がり女への敵意を押さえようとせずに女にぶつける。

だが女はそれですら面白いのかさらに笑い声が大きなった。

 

「あんた…何が目的?」

「目的ぃ?もうとっくに終わってるよ。これは単に私の遊びだよ」

「この……外道が!!」

 

そう言って女は自身の手の中にある結晶を俺たちに見せつけながらセシリアにアームを伸ばす。

セシリアを助けなくちゃいけない。

箒と鈴は限界だし、援軍もいつ来るかわからない……

誓ったはずだ。

頼ってくれと、助けてみせると。

セシリアに。

そして自分自身に。

今セシリアを助けるのは『誰か』じゃない。

俺が助けなくちゃいけないんだ。

 

「……こい、白式」

「あはは、むだ…あん?」

 

何時だってこいつが俺を助けてくれた。

セシリアや鈴の闘いやラウラを救う時。

銀の福音の時などこいつがいなければ俺は助からなかったかもしれなかった。

何時だって俺の想いに応えてくれた相棒に手を伸ばす。

女は俺を馬鹿にした様に笑ったが結晶を見て顔色を変える。

女の事を無視してさらに声をかける。

 

「俺に応えろ!!来い!!白式!!」

 

その瞬間女の手にあった結晶が強い光を放ち俺を包み込んだ。

差し出した手から順に身体に手足に、頭部に装甲が展開する。

翼が展開し差し出した手に一振りの太刀が出現する。

千冬姉の、そして自分自身の誇りでもあり零落白夜(必殺の力)を宿す雪片弐型。

剣を構え女と対峙する。

 

「な!?コアが!!っ!?」

 

女の手にあった結晶はすでに消えておりそれを見た女は驚愕し一瞬、意識がそれにしか向いていない様だった。

一瞬、しかし戦いにおいてその時は命取りになる。

クイックブーストを瞬時に使用。

真っ直ぐにではなく身体が横回転する様に噴出口をコントロールする。

女は俺が動こうとしていることに気がつきセシリアを人質(タテ)にしようと手を伸ばすが、この距離なら俺の斬撃の方が早い(・・・・・・・・・)

翼の噴出口から圧縮されたエネルギーが吹き出る。

次の瞬間、俺は女の懐に回る様に踏み込む。

女は驚愕の色を顔に浮かべている。

その顔にめがけ回転の勢いを乗せて雪片で横薙ぎに斬り払うが、斬撃はかわされる。

がそれも織り込み済みだ。

雪片から左手を離し拳を握りしめもう一度高速で回転し女の顔に拳を振るう。

突然の不意打ちに体勢を大きく崩していたため回避できず頬の辺りに白式の拳が叩き込まれた。

殴り飛ばした勢いを利用する様に女は大きく距離を取った。

顔を見ると先ほどまでにはなかった装甲が頭部に展開されていた。

おそらくバリアーも展開していただろうからダメージはほとんどないはずだ。

だがそれでもセシリアから距離をとらせる事に成功したし、何よりも俺はこの女を殴り飛ばしたかったのだ。

この女はセシリアの事を何一つ知らない癖にセシリアの心を踏みにじった、それが俺には我慢ならなかった。

セシリアを背に守る様に俺は女と対峙する。

雪片を女に向けさらに敵意を女に向け叫ぶ様に女に叫ぶ。

 

「…人の友人を踏みにじって…覚悟はできてんだろうな、おまえ!!」

 

誓いを守るために、俺自身のために。

何よりもセシリアを守るために俺は覚悟を決め女に再び踏み込んだ。

 

 

 

 

勇気ある人は皆約束を守る人間である

〜ピエール・コルネイユ〜



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第百一話 蜘蛛の罠

IS学園上空。

そこで織斑一夏(オレ)と襲撃者の女は戦っていた。

戦いは女が逃げ俺が追いかけるといった形だ。

女はできるだけ俺に近づきたくないのか遠距離武器で俺を撃ちながら距離をとろうとする。

それに対して俺のほうはただ踏み込むだけである。

もともと俺の白式はそれしかできない機体だ。

セカンドシフトで雪羅による遠距離武器は手に入れたが俺にそれを使いこなすのは難しい。

それよりか本来の戦い方である接近戦に磨きをかけたほうが俺には合っていた。

女が距離を取ろうと弾幕をはりながら後ろに下がる。

銃弾とエネルギーネットの雨、そこに俺は踏み込んでいく。

だが被弾するつもりはない。

弾を、発射口を、射線を見切る。

最小の動きで弾をかわし、零落白夜でネットを切り裂き全速力で女の懐に踏み込み雪片を振るう。

だが斬撃はむなしくも空を切る。

女も俺の零落白夜(この一撃)を食らってはいけないとわかっているからか絶対に俺の雪片から目を離さない。

 

「……ふぅ、遊びが過ぎたか」

 

女は俺から距離をとったまま大げさに肩をすくめる。

さっきからこいつは俺と話がしたいのか話しかけてくる。

だが俺は一切こいつと話をする気はなかった。

いや、話せなかった。

こいつに言ってやりたいことは山ほどある。

だがそれを口にした瞬間、俺の頭は怒りで支配されるだろう。

これだけは自分でもわかっていた。

『頭は冷たく、怒りは足に込め自らをささえる力としろ』

これは龍韻先生に教えてもらったことだ。

その言葉を胸に秘め、女の話に意識を割かず女に切りかかるタイミングを冷静に見極める。

 

「私の悪い癖だな、面白いオモチャをみつけると我慢がきかねぇ」

 

何か喋っているが気にもならない。

あいつの一瞬、いや刹那のタイミングであろうと見逃さぬように女をにらみつける。

そしてその瞬間はやってきた。

女が俺から目を離しセシリアのいる地上のほうに気をそらしたのだ。

一瞬、だが時間としては十分だ。

即座に俺は背中にある機械の翼に意識を込めながら前に踏み込む。

 

「まぁ、もういっか!?」

 

女の動きの刹那の隙をつき、再び雪片を振るうために翼から炎を吐き出す。

女には意識をはずした瞬間、俺が目の前にいるように感じたのではないだろうか。

雪片を握る手に力を込め一閃。

今度はかわしきれずエネルギーシールドを斬り裂いた感覚が腕に伝わる。

女は再び距離を取り叫びをあげる。

 

「テメェ!!さっきから人の話を無視しやがって!!」

「…………」

 

そう興奮した様なふりをしながら女は俺と周囲のみんな、そして後ろにいるセシリア、全てに気をくばっている。

やはり油断はできない。

俺が現在この女より優っているところは『零落白夜』と『俺を殺せない』というところだけだ。

『零落白夜』の方は一撃でも当てられれば逆転可能だ。

だが、それを当てることがこの上なく難しい。

『俺を殺せない』と言うのは…戦っているからこそわかる。

この女はその気になればすぐに俺を撃墜できる。

ただし、瞬殺されることは無いだろうし、上手くいけばこちらが勝つ目もある。

だが確実に、この女は俺よりも強い、これだけは断言できた。

俺は再び雪片を構え女に何時でも斬りかかれる様にする。

 

「おい!!だんまりか!?……っち、おいご同類良い身分だな?人殺しの癖にお姫様気取りか?全く反吐がでる」

 

女はそう言ってわざとらしく首を振る様に動いてみせる。

あからさまに隙を作っているがこれは確実に誘っている。

おそらくまだ切り札があるのだろう。

このタイミングで突っ込むのは危険だな……

感覚を研ぎ澄まし雪片を掴む手に力を込める。

そして再び隙を見つけ踏み込む。

今度は女も迎撃するつもりなのかアームの砲門をこちらに向けた。

だがまだ間に合う。

砲門から弾が発射される。

だがその弾道は見えている(・・・・・)

体をひねるようにして弾丸を紙一重でかわし速度を落とさずに踏み込む。

踏み込んだ勢いそのままに、女の空いた胴体を零落白夜を展開した雪片で切り払う。

チリッという掠った手ごたえがしたが斬り捨てることはできなかった。

女が俺から距離をとるために再び引き撃ちをしながら後ろに下がる。

今回はかわしきれない様なので数発、雪片で斬り払いながら俺も後ろに下がる。

先ほどからこれの繰り返しなのだが確実に踏み込みは深くなってきているし女の呼吸もつかめてきた。

あと10合、いや5合もあれば一撃食らわせれるかもしれない。

だが目の前のコイツもおそらく全力ではないだろう。

ならば今すべきことは増援が来るまでの時間稼ぎだ。

俺はそれを気取られることがないように女に敵意を向けながらいつでも踏み込めるように雪片を構えた。

 

『い、一夏?』

「どうした箒」

 

そんな時突然箒から通信が入った。

声から不安が感じられるが一体何があったのだろうか?

箒から返事が返ってくる前に通信に鈴が入ってきた。

 

『一夏!!意識ははっきりしてる!?』

「何のことだ」

『『いいから返事をしっかり返せ!!』』

 

何を言いたいのかわからず聞き返すと今度は通信から大声が聞こえてきた。

俺は女から目を離さず、少しでも動きを見せようものなら斬りかかれる様に意識だけは女に向けて、俺の方に慌てた顔をして飛んで来た二人と話す。

 

「そんな大声あげてどうしたっていうんだ」

「あんたがまたおかしくなったのかと思ったのよ!?」

「何でだよ?」

「何でって……さっきまであんなに怒ってたのにこんなに落ち着いて……まるであの時の様で……」

 

そう言う箒の声は次第に小さくなっていった。

あの時って……福音の時か!!

たしかあの時って一切返事をしなかったんだよな。

でも俺今は返事をしていなかったか?

そう考えながらも女からは目を離さず箒と鈴へ手短に話す。

 

「いや、未だに腸は煮えくり返ってるし出来るなら今すぐあいつをぶっ飛ばしたいさ、俺だって」

 

俺がそういうと女はニヤッとこちらを笑う。

その笑顔もこちらを馬鹿にした様で更に怒りが湧いてくるがそれを押し殺し言葉を続ける。

 

「でもあいつはそれを狙ってる。遊びだ何だって言いながら多分全部計画して動いてる」

「あぁ!?何澄ました顔で」

「それ、演技だろ?いい加減うざったいからやめろ」

 

俺がそう言った瞬間鈴と箒は驚きを顔に浮かべ、女はぴたりと止まった。

そして今までの笑みとは違う笑みを浮かべこちらに話しかけて来た。

 

「へぇ?何時から気がついてた」

「…………」

「まただんまりか?」

 

先ほどまでの女だったら多分俺を挑発してきただろう。

今のこいつは俺が黙っている理由を察してか面白そうに笑っている。

だが俺はこいつを睨むだけで話さない。

意地になっている所がないわけじゃないが、それ以上に俺は口が上手い訳じゃないのでこいつに乗せられる可能性が高い。

だったら一切こいつとは話さなければ相手のペースに乗せられる事はないだろう。

そんな俺を横目で見ながら箒が俺に尋ねてきた。

 

「一夏……一体どういう事だ!?」

「『始めから勝てない勝負しに来る奴がいる訳ない』」

「……それって」

「ああ、前に鈴との試合中に乱入された時に奏が言ってた言葉だけどこれを思い出してさ、こいつの任務は何だか知らないけど最終的に勝つためにはIS学園(ココ)から脱出しなきゃだめだろ?」

 

あの時の無人機は目的はわからないが、今目の前にいる女の目的はおそらく俺の白式の強奪だ。

つまりこいつの目的を達成する為にはこのIS学園から脱出できなければならない。

 

「こいつがいくら強くても数でも戦力でも勝てない戦いだ、普通にやってたら絶対に勝てない」

「……じゃあ一夏、どうやってこの女は脱出するつもりなんだ?」

 

俺がこいつの目的を想像して脱出できなければならないと気がついた時に思い浮かんだ事があった。

俺がこの女に盾にされた時。

もしこの女が俺を盾にしたまま(・・・・・・・・)この学園を出ようとしたらどうなっただろうか?

そう思い浮かんだ後からこの女の話しが演技がかった物に見えた、そしてこの女の脱出方法も思い浮かんだ瞬間だった。

 

「人質だ」

「……そういう事ね」

 

鈴は俺の考えを察したのか俺の考えを引き継ぐかの様に話し始めた。

 

「つまりこいつは人質を盾にIS学園から脱出するつもりだったってことね」

「ああ、多分その役目は俺だったはずだ。人質にするなら替えの効かない数少ない男性操縦者の方がいいだろうしな」

 

そう考えると全て納得がいくのだ。

なぜこの女は体育館で俺を捕らえなかったのか。

あそこには他にも人質に使えそうな人はたくさんいた。

俺を捕らえられるのならばあそこで捕らえた方が良かったはずだ。

だが女は俺が体育館から離れた所で俺から白式を奪った。

戦った今だからわかるが、この女がその気になれば闘いながら体育館にいた一般生徒を人質にすることはたやすいはずだ。

つまり、おそらくこの女は確実に俺を捉えられる瞬間を狙っていたのだろう。

こいつは、はじめから何かを狙って計画的にこちらを攻めてきている。

 

「はじめは上手くいったが俺がみんなに助けられてこいつは計画を変更して、ターゲットをセシリアに……いや、セシリアと俺とで人質の交換をするつもりだったんだろう」

「お見事、大正解さ」

 

パチ、パチ、パチと拍手をしながら女が笑う。

まるで子供が宿題を終わらせたことを褒める教師の様に、ただし眼は濁り薄ら笑いを浮かべている事を除けば……であるが。

 

「ああ、その通りさ。最終的にはガキ、お前を盾にここから脱出するつもりだったんだが、上手くいかないもんだな……何かとアクシデントが続くし何より一番甘く見てたガキが一番のジョーカーだったとはね」

 

そう言って女は肩を落として首を振った。

そしてふと思い出したかの様に言葉を発する。

 

「ああ、最後に聞きたいんだが『風音 奏』は今何処に居る」

「知っていたとしてもお前などに教えるものか」

「じゃあ伝言だ……『愛しの風音へ、次は直接会いましょう。キマグレな雨より』」

「「「………………」」」

 

……空気が固まる。

言っている言葉はわかる。

いや、理解はできているが意味がわからない。

これは確実に奏へと向けた……告白の様なものなのだろうか?

と言ってもこの場で言う必要が有ったか?

俺も箒も鈴も微妙な顔をしている。

女の方は……女の方で呆れた様に手で顔を覆っている。

女はため息をついた後にこちらに話しかけてくる。

 

「言ったからな、ちゃんと伝えろよ」

「……ばっかじゃないの?」

 

ボソっと鈴が呆れた様に言葉をこぼす。

おそらくそれはこの場にいる女を含めたすべての人が思っていることであろう。

現に女はバツが悪そうに舌を鳴らしている。

 

「っち。あとこれは私からだ、次はお前を殺す。亡国起業の私…このオータムが言っていたって伝えとけ」

 

そう今度はしっかりとした決意を秘めた言葉を女は発する。

そうか。この女の名は『オータム』と言うのか…

その決意を含んだ言葉を聞き、先ほどの言葉で緩んでしまっていた俺たちの構えも鋭くなる。

 

「次があると思っているのか?」

「ここであんたを逃すほど私たちは弱くないわよ?」

 

箒と鈴はそう言ってオータムの方へ前に出る。

俺だってこの女をここで逃がすつもりは一切無い。

ここで確実に捕らえて情報を吐かせてやる。

しかし…

 

「『時間を稼げば来るはずの援軍が遅い』。お前らこう考えてるだろ?」

 

その言葉に俺の体が一瞬強張る。

それに気がついた女は猫なで声で更に言葉を続けた。

 

「なあ?流石に誰も援軍が来なくて不思議じゃないか?」

 

その言葉はあまりにも不快で、それでいて確信を含んでいた。

しかしこの女の話す言葉に聞き入ってはいけない。

例え援軍が遅いとしても確実に来るはずだ。

それまでの間にこの女からセシリアを守りながら時間を三人で稼ぐ。

何も難しいことでは無い。

だがその決意はオータム(おんな)から予想外の言葉で崩れ去る。

 

「周囲からIS学園への歩兵による襲撃。それと並行して近隣の町での暴動、さらにいくつかの施設で校門と同じような爆発が起きているはずさ」

「な!?」

 

歩兵による襲撃…だって!?

それに他のところでの暴動や爆発!?

だが警察や軍だって動くはずだ。

今は目の前の事に集中しなきゃ…

そんな俺の心が見えているのかオータムは笑いながら話を続けた。

 

「信じるか信じないかはそちらの自由だが現に応援は来ない。当たり前だよなぁ…お偉いさんを守りつつ周囲の防衛、救助依頼も山の様にきているだろうよ。わざわざIS学園の名前を出してやってる上に一機、ISも出撃させているんだからね。軍の方の救助は期待するなよ?はじめっから出撃されることは無いだろうしね。さーて……どれだけの被害が出てるかな?」

 

その言葉を聞いて脳裏に浮かんできたのは休日に出かけた街や、巻き込まれるであろう人々。

その人々の中には俺の友人や知り合いがいるかもしれない。

それじゃなくても俺の白式(IS)のせいで巻き込まれた何も関係のない人々だ。

早く助けに行かなきゃ…でもこの女はそんな焦りを背負って戦って勝てるほど甘い相手ではない。

むしろ下手をすればこちらが負ける可能性は十二分にある。

でも頭の中からは焦りは消えない。

早くしなければ被害はもっと広がっていく。

 

「この外道がっ!!」

「ははは、それがどうしたっていうんだい?それよりも戦いを再開するか。宣言してやる、『私は今からそこのセシリア(メスガキ)を狙う』。頑張って守りぬきな」

 

そう言って女は改めて俺たちに敵意を放つ。

セシリアを狙うと言う言葉は本当だろうか?

もしかして俺を集中して狙うかもしれない。

ダメージを負っている二人を狙うのか?

それに先ほどの街を襲っているというのは本当なのだろうか?

でも救助が来ないのは本当で…くそ、完全に相手にペースを取られた。

だが一つだけ確かなことはこいつを逃すわけにはいかないと言うことだ。

迷いを頭の片隅に追いやり無理やり戦闘に意識を向ける。

先ほどまでの集中が嘘の様に消え去りうまくいかない。

鈴と箒も女の言葉に動揺している。

このままじゃ確実に裏をかかれる。

そんな俺たちを見て女は笑う。

 

「後、一つだけ教えてやる。戦いっていうのは戦う前から始まってるんだよ。あんまり私たちを舐めるなよ?」

『あら?それはこちらの台詞じゃない?』

 

その声が聞こえた瞬間、何もなかったオータムの目の前で爆発が起きた。

確実に爆弾な様な爆発物はなかったし光線や弾丸は見えなかった。

本当に突然爆発が起きたのだ。

 

「な!?」

「爆発した!?」

「一体……」

「この声は……楯無さん?」

 

声の主を察し辺りを見渡すとこちらを、いやオータムを見下ろす様な形で更識楯無、学園最強の生徒会長が水色のISを見に纏いそこにいた。

楯無さんはそのまま俺たちの方にやってくるといつもと変わらぬ雰囲気でこちらに話しかけてきた。

 

「はーい、呼ばれて出てきてこんにちわ。みんなよく頑張ってくれたわね。あとはお姉さんに任せなさい」

 

なんでもない様に笑いながら、俺たちに背を向けてオータムと対面する楯無さん。

装備しているISはなんというか…さほど強そうではない。

なんというか装甲が少ない上に装備は杖の様な物のみ。

なんというか戦い方が想像できなかった。

だがオータムの方はそうではない様で先ほどまでとは違い明らかに警戒の色を強く出していた。

 

「ずいぶんお早いご到着じゃないか。ロシア代表のIS乗り、更識楯無」

「これでも時間がかかった方なのよ?亡国起業のエージェント・オータム」

「あの『更識』に覚えてもらえるとはうれしいねぇ」

「喜ばなくてもいいわ。さっき聞いて覚えただけだしこれから覚えているつもりもないわ」

 

楯無さんは興味がないかの様な顔でオータムと対面する。

先ほどまでとは俺たちに笑顔を向けていた人と同じ人なのかと思ってしまうほどその変化は凄まじく、俺もその冷たい雰囲気に気圧されそうになった。

だがそれでも楯無さんに街やみんなはどうなっているのか聞かないといけない。

今聞くべきことではないのかもしれない。

だが抑えることができず楯無さんへと俺は叫ぶ。

 

「楯無さん!!街は……みんなは!!」

「安心しなさい織斑くん、襲撃は既に鎮圧されるし市街地での爆発は起きてすらいないわ」

「へ?」

「な!?」

 

こちらに振り向いた楯無さんは笑顔でそう答えた。

え?何も起きてないって事か?

ということは初めからオータムは嘘をついていたという事か?

だが驚きの声を上げたオータムの反応を見る限り嘘ではなかったのだろう。

そのオータムを見て楯無さんはクスッとわらった後に冷たい笑顔で話を続ける。

 

「あら?さっきの言葉聞いて無かった?『なめるな』はこちらの台詞。市街地での爆発は事前に察知されてあらかじめ確保していたし、襲撃に関しても学園内には一歩として踏み入れさせていないわ。一応何かあった時のために街の方には信用できる戦力を送ってるしこの学園の周囲は既に包囲されて逃げる事は出来ないわ。つまり貴女は袋のネズミ、いえ、自ら仕掛けた計画(ワナ)に自分で捕まった哀れな蜘蛛よ」

「っ!?」

 

楯無さんはの言葉を聞いてオータムが動こうとするが、ピクリと動いた瞬間再び周囲が爆発した。

今度も何もない空間が何の前触れも無く爆発した。

あれでは防御も間に合わないだろうし何よりかわしようがない。

現にオータムはかなりの衝撃を受けたのだろう、ISはともかくオータム自身がかなりダメージを負っている様に見える。

そのオータムを見ていても楯無さんの表情は冷たい笑顔のままで話を続ける。

 

「動かない方がいいわよ?私、貴女の身体に事なんてどうでもいいんだから。最低口がきけるなら手足(他の部分)なんていらないし」

「……」

 

ゾッと冷たいものがこみ上げてくる。

多分楯無さんは今言った事を容赦なくやるだろう。

それくらいのことが分かる程度には今の楯無さんの雰囲気は冷たい物だった。

箒と鈴も感じ取っているのか俺と同じ様に楯無さんに気圧されている。

楯無さんは杖の様な物をオータムに向ける。

 

「さて、最後に何か聞きたい事は?」

「……遅えよ」

『時間通りだ』

 

オープン回線で突然声が聞こえる。

次の瞬間俺たちに十数本の光線が襲いかかる。

 

「!?」

「きゃ!?」

「っつう!?」

 

俺は何とか雪羅のエネルギーシールドで防ぎ、箒も紅椿の防御形態でガードし、鈴はシールドを展開しながら装甲の厚いところで受けている。

楯無さんの方を見ると何か、エネルギーバリアーとは違う薄い膜の様なものが展開され消えていった。

今のはなんだ?

だがそんな事を考えている余裕は無い。

俺たちが光線を防いでいる間に、オータムの横には一機のISが現れていた。

カラーリングは濃い青色。群青色とでも言えばいいのだろうか?

それよりも気になったのはその機体の形状である。

何処か蝶の様な印象を受ける機体なのだが、何故かセシリアの『ブルー・ティアーズ』を連想した。

女はこちらを見て数秒後、一気に状況は動いた。

はじめに動いたのはオータムだ。

オータムはアームの砲門をセシリアの方に向けた。

が、その行動は楯無さんの杖のような武器から発射された弾丸によって防がれた。

その後、楯無さんが追撃しようとしたのだが、新たに現れたISによって俺たちの周囲に囲む様にしてビットが展開された。

次の瞬間ビットから閃光が放たれる。

その閃光は通常ならばかわし切れる様な単純な攻撃。

楯無さんもそう判断して光線をかわそうとして被弾する(・・・・)

かろうじてバリアーは貼ることができていたが、その顔には驚きが浮かんでいた。

だが楯無さんも即座に反撃をしていたらしく新たに現れたISの近くで再び爆発が起き、正面からその爆撃を受けたISは大きく体制を崩していた。

このぶつかり合いが俺の目の前で一瞬でおこなわれた。

楯無さんは相変わらずゾッとする様な雰囲気を醸し出しており、二つのISはこちらを見下す様にしてこちらの上空のポジションを取っている。

楯無さんは杖をオータムの方に向けたまま声を飛ばす。

 

「偏光制御射撃……どうして貴女がソレを?」

「は?教えてもらえると思ってんのか?おぉっと、動くな?動いたらそこのメスガキは確実に跡形も残らねえぞ?」

「……仕方ないわね、行きなさい」

 

そう言って楯無さんは杖を下に降ろす。

ソレを見たオータムはフンと鼻を鳴らすと構えを解いて離脱するかの様に背を向けた。

だが俺は何故こいつを逃すのか納得がいかず楯無さんの名前を呼ぶ。

 

「楯無さん!?」

「織斑くん、後で説明するから今は私に従いなさい」

 

有無を言わさぬ物言いに俺は声を詰まらせ黙り込む。

オータムともう一機のISは脱出するための長距離飛行の為のモードに変更しているのかISから大きな音が聞こえてくる。

音が一際高くなったかと思うとオータムがこちらを見下しいやらしい笑顔でこちらに話しかける。

 

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ、おい行くぞ」

「……織斑一夏」

 

二機が飛び立つかと思った時にもう一機の名前も知らない方のISから俺の名前が呼ばれる。

無視しても仕方がないし警戒を怠らずに聞いてみることにしよう。

 

「……なんだ」

貴様は覚えているか(・・・・・・・・・)?」

 

覚えているか?

なんのことだ?

俺はこいつにあったことがあるというのだろうか?

だがこんな奴に会った記憶は無いし、何より質問には主語が無いため質問の意味がわからない。

聞き返してみるしか無いな。

箒と鈴も訳がわからないと言った顔で俺の方を不安そうに見てくる。

 

「何のことだ?」

「……いずれ必ず、貴様は殺す。私が殺す」

「な!?」

 

そう俺を殺すという宣言をした後に俺の返事も聞かずに二機のISは遠くへと飛び立っていった。

二機のISが点になるほど遠くへと行った後にすぐさま楯無さんに詰め寄る。

確かにあの二機と戦うのは大変だろう。

でも俺と箒と鈴、あと楯無さんの四人がかりならあの二機もなんとかなったのでは無いだろうか?

俺はオータムと数分戦っていただけだが十二分に勝機はあったと確信していた。

 

「楯無さん!!何であいつらを!?」

「……ここであの二人と戦うとしたら確実にオルコットちゃんは死ぬわ」

「誰かがセシリアを抱えて逃げれば!?」

「オルコットちゃんの足元(・・)をよくご覧なさい」

 

そう楯無さんに言われて改めてセシリアの方を見る。

ふさぎ込んでいるセシリアの足元によくよく見ると何か光るものがある。

ISを使って更によく見てみるとセシリアの足に絡みつく様にしてエネルギーで出来た何かがあった。

 

「……アレは?」

「おそらくオータムが仕掛けた対人用の捕獲装備よ。これからすぐさまセシリアちゃんを解放するのに織斑くんの零落白夜が必須。私がオータムを押さえるとして、あの乱入してきたISの偏光制御射撃から二人を守るのに凰ちゃんと箒ちゃん。この状態でも敵のビットを完全に防ぎきれる確証はない」

 

そう楯無さんは続けざまに話すと一度ため息をついた。

それは何かに呆れたため息というのではなく、まるで何か避けられない嫌なものを感じているかの様だった。

そして苦虫を噛んだ様な顔で驚きの言葉を口にした。

 

「もっと言えばオータムはまるで底力を見せていないし、乱入者に至っては多分オータムよりも強いわ」

 

俺たちを手球に取ったオータムはまだ遊んでいたでけで、あの乱入者はそのオータムよりも更に強いのか……

それが本当かどうかはわからないが、少なくとも俺よりもオータムは俺よりも強いということは知っていたし、そのオータムが警戒を示していた楯無さんがそう言い切るのだ。

多分あのまま戦っても苦戦を…いや、俺たちが楯無さんの足を引っ張って最悪負けてしまいかねない。

くそ……なんでだ?どうして俺はこんなにも弱い。

あの時の誓いどころか、満足に友人を守りきることもできないのか、今の俺は……

悔しさから歯を食いしばっていると楯無さんが俺の肩を叩く。

 

「それより織斑くん、早くオルコットちゃんを解放してあげて」

「あ、は、はい!!」

 

そう言われて急いでセシリアの近くに急行する。

まずは自分のことよりもセシリアの方だ。

戦闘中は流れ弾がいかない様に注意していたが放置していたことには変わり無い。

地面に着地しセシリアの足の近くに零落白夜を展開した雪片を刺す。

何かエネルギー状のものを斬った時の手応えがしたのでみんなの方を見て頷く。

箒と鈴は即座にISを解いてセシリアに駆け寄った。

 

「セシリア!!大丈夫か!?」

「怪我は!?どっか痛くない!?」

「触らないで!!」

 

そのセシリアの叫びにビックッとして二人とも一歩引く。

セシリアは相変わらず耳を押さえ、下をうつむいたまま座り込んでしまっている。

俺もISを解いてセシリアのそばに近づき声をかける。

 

「セシリア?」

「いや……何も聞きたく無い!!みんな…もう、いなくなって!!」

 

そう言ってセシリアはさらに小さくなる様にして鬱ぎ込む。

それが俺にはまるで泣いている子供にしかみえなかった。

このセシリアにとどめを刺してしまったのは多分俺の(ひょうじょう)だ。

だからこそ俺はセシリアに俺がどう思っていたかを伝えないといけない。

 

「セシリア……ごめん」

「触らないでっていってるで……」

 

そう言って俺はセシリアの事を優しく抱きしめる。

そしてセシリアの耳のそばで優しく、それでいてしっかりと聞こえる様に声をかける。

 

「俺さ、セシリアがいま思っている気持ちがよくわかんないんだ。両親の記憶がないからさ」

「あ……」

「それでも、もし千冬姉が誰かにやられてあんな風に貶されたら俺なら怒りで形振り構わず、殺した奴のことを死んでても関係ないから…聞き出すために暴れ回ったと思う」

 

誰だって自分の大切な人があんな風に侮辱されたら怒りをあらわにするに決まっている。

俺がそう言うとセシリアがゆっくりと顔を上げてくれた。

その顔は涙こそ出てはいないが、今にも泣き出しそうで普段のセシリアからは想像もできない様な顔だった。

そんなセシリアとしっかりと目を合わせて話を続ける。

 

「あと……びっくりしてごめん。俺セシリアがあんなに怒ったところ初めて見てちょっと混乱…いや、怖かった。でもそれはセシリアが家族がそれだけ大切だったって事だろ?別に恥ずかしい事でも恥じる事でもないさ」

 

もう文章にならない様な言葉を、ただ思ったままに口にする。

ただセシリアに謝りたくて、でもセシリアの反応を否定したくなくて……

まずいぞ…もう自分でも何が言いたいのかだんだんわからなくなってきてしまった。

 

「えっと、何が言いたいかって言うと……セシリアはあいつらとは違う。ただ家族が貶された怒りと悲しみでああなっただけだし誰だってああなる。俺はセシリアがいい奴だってわかってるよ」

 

そう結言を言うかの様に言葉を閉めセシリアに微笑む。

次の瞬間、バッとセシリアが俺の首に飛びつき力強くしがみつく。

突然抱きつかれた俺はバランスを崩して尻餅をつくがなんとかセシリアを受け止めることが出来た。

びっくりして呆然となりそうになるがセシリアの方から聞こえるしゃくり声が俺の意識をはっきりとさせた。

 

「一夏さん……ちょっとだけ肩を貸してください……」

「……うん」

 

セシリアはそう言うと俺の方に顔を押し付け声を押し殺して泣き始めた。

箒と鈴は、泣き始めたセシリアの方を優しく撫でてやっていた。

そんな中俺は、ただただ俺に体重を預けて泣くセシリアの事を受け止めてやることしかできなかった。

 

 

 

 

 

自分自身を信じてみるだけでいい。

きっと、生きる道が見えてくる。

〜ゲーテ〜



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第百二話 人柄

大変遅くなりました。orz
とりあえずどうぞ。


亡国起業の襲撃から二週間後。

ようやく学園の空気も落ち着き始めた。

襲撃が起きた当初はかなりの混乱があったが、ものの三十分程で事態が解決されたため数日もすれば学園内は落ち着いていた。

問題となったのは学園の外だ。

特に日本のマスメディアはこぞってこの事件のことを報道する事………にはならなかった。

それよりも問題になったのは学園の外で起きた町での暴動未遂事件と、所属不明のISが二機日本上空を飛び立った事の方だ。

だがその2つの事件もIS学園への襲撃事件も二週間でほとんど報道されなくなり、今ではそろそろ紅葉のシーズンだというニュースが世間を賑わせていた。

……いくらなんでもこれは何かかしらの圧力がかかったんじゃ無いか?

まぁ、どこの誰が圧力をかけたかはわからないし本当にかかったのかは定かでは無い。

でもIS学園への問題責任みたいな世論が起こらなかった事は正直助かっている。

 

IS学園が受けた被害は実はそれほど大きくは無い。

建物は何箇所か破壊されたが、後数日もすれば元どおりだろう。

けが人の方も一番ひどいのはオータムに嬲られた先生だがそれもほとんど回復しているらしい。

ちなみに一夏、箒、鈴は事件から一週間後には退院、しかもほとんど検査入院みたいなものだったらしい。

精神的に追い詰められていたセシリアも怪我は無いため自室休養しているがシャルロット曰く見た感じでは元どおりとまではいかないものの立ち直ってはいるらしい。

 

最後に俺についてだが……現在生徒会室で生徒会メンバープラス千冬さんと情報の共有中である。

と言っても俺に出せる情報などたかが知れているのだが。

精々篠ノ之束の新型?ステルス機と俺への態度の軟化。

後はあんちゃんだかといった篠ノ之束の部下と思われる子ぐらいだ。

一方我らが長、楯無からは今回の事件に対しての各国の反応についてだ。

結論から言うと、ほぼ反応無しである。

……いくらなんでもそれは無いと思うが、実際そうなっているらしい。

一応亡国起業に対しての批難の声は高まっているらしいが声をぶつける相手の姿が見えないのだ。

反応がない相手に対して常に声を上げ続けるのは難しく、かの組織は何処の国でも常に警戒されている。

まあ、要は何処の国も『また彼奴らか』と言った感じらしい。

IS学園への反応も悪くない、むしろ工作員を何名か確保しているので良いぐらいと言っているぐらいで、後は精々オータムを学園内に入れた事はいくらか問題になっているくらいだろう。

どうやって警備の目を潜り抜けてIS学園に侵入したかの経路がわかっていないため、現在全ての出入り口での警備が凄まじく強化されている。

 

一通り情報を出し合った後、楯無は考えをまとめたのか話し始めた。

 

「……見えないISにわからない侵入経路……繋がってたりしないかしら」

「そのISのステルス性能がどれ程のものかは、わからないですが篠ノ之束が亡国起業と繋がってると考えれば、無い話じゃないですね」

「……うーん、ちょっとしっくりこないですね」

 

そう虚も同意する。

確かにそう考える事も出来るが近くで戦ったことが唯一ある俺は違和感を口にした。

 

「確かに姿形は見えないですが気配ははっきりわかりましたよ?」

「ソー……普通の人は気配だけで察知したりできないと思うよ?仮に気配がわかったとしても何かしてこなければ気のせいで済ませる人の方が多いだろーし」

「そうか?……でも、なーんかしっくりこないんだよなぁ」

 

本音の言葉を聞いて一応は納得するがやはりしっくりこない。

筋も通っているしできない事じゃ無いとも思う。

だがそれでも尚しっくりこないのだ。

俺と同じなのか千冬さんも何処か納得がいかないらしく難しい顔で目を閉じている。

そんな千冬さんに楯無も気がついたらしく話をふった。

 

「織斑先生はどの様にお考えですか?」

「更識の意見に反論はないし筋も通っている……が、感覚でいえば私も奏と同じく腑に落ちないところがある」

 

そう言いながら千冬さんはゆっくりと目を開け言葉を続けた。

 

「彼奴は自分を中心にして周りを気にせずに物事を進める。ゆえに彼奴が何故、亡国起業の手伝いなどしたのかがわからん」

「協力関係だから手伝った可能性は?」

「ほぼ無いに等しい。彼奴がタダで他人の手伝いをするなどあり得ん話だ」

「……何か目的があったと?」

 

楯無の言葉にゆっくりと千冬さんは頷く。

しかし目的かぁ……

あの天災を動かす理由なんて織斑姉弟か箒くらいしか思い浮かばないぞ?

俺以外の人も思い浮かばないらしく全員考え込んでいる。

 

「おじょーさまぁ。学園内で何か盗られた物って無いんですかぁ」

「何もないわね。データならわから無いけど物が無くなったっていうのは確認して無いわ」

「データだったとしても篠ノ之博士なら侵入しなくとも奪い盗ることも可能でしょうし……何かの資材、もしくは武器との交換は?」

「彼奴なら大半の物なら自分で作った方が早いからそれも無いだろう」

 

そう言いながら全員で考え込む。

篠ノ之束の欲しいモノ。

それも自分ではどうやっても手に入らないモノか……ひとつだけ思い浮かぶが。

 

「ソーはどう思う?」

 

それを察されたか、それともただタイミングが良かったかはわからないが本音がこちらに声をかけてきた。

言っても良いものだろうか……

 

「……思い浮かぶものが無いわけじゃないんですけど」

「何?それ」

「現に彼女はそれを欲していました……」

「歯切れが悪いですね?どうしました?」

「いや、でもこれはないだろうって……」

「いいから言え。判断はこちらでする」

 

これはどんな時でも彼女が求めているものっていうのも間違いない。

だが同時にこれは無いっていうのも間違いないのだ。

周りを見渡す。

全員俺の言葉を待っているな……そんなに期待しないでください……

ため息をつき観念して答える言葉を吐き出す。

 

「……学園祭での箒の写真」

「……」

「……」

「……えっ〜と…」

「……確かにステルス機ならばれずに撮影できますね」

 

全員の反応が痛い。

ジト目の楯無、凍ってしまいそうな目でこちらを見る千冬さん、言葉に詰まって引きつった笑いの本音。

特になんとか同意してくれた虚の対応が嬉しくもすごく効く。

 

「そんな目で見ないでくださいよ!?現に篠ノ之博士は喜んでたんですよ!?」

「……もう既に渡してたのか」

「……勝手に写真渡したら怒られない?」

 

さらに千冬さんの瞳から光が消える。

本音にも本気で心配されてる。

これはマズイ。

誰か……誰か味方を!!

 

「楯無さん!!同じく妹に嫌わ……いやなんでも無いっす」

「ちょっと!?風音君!?私たちは別に嫌い合ってる訳じゃないのよ!?ただすれ違っているだけで!!」

 

味方にする相手は選ばねば。

別に『この間はよくも嘘泣きで騙してくれたな』とか『あ、この人にこの話題は面倒くさくなりそうだな』とか『とりあえず楯無をオチにしておこう』とかは一切思っちゃいない。うん、多分、きっと。

 

「まあ、お嬢様の事はさておき」

「置いとかないでよ!!」

「篠ノ之博士の狙いが博士のご家族の情報というのはあり得ない話ではないかと」

 

虚が無理矢理進行してくれたおかげで話が進む。

楯無は納得はいっていないようだがとりあえず話を進めるつもりらしい。

ただ俺はすごい睨まれてるが。

虚さんの言い分ももっともだ。

現在篠ノ之束の家族のうち所在がしっかりと判明しているのは箒だけだ。

束と箒のとっての父親である柳韻さんとまだ会ったことのない母親。

両名ともにどこにいるのかははっきりとはわからないのだ。

 

「千冬さん。箒のご両親の居場所ってどうなってるんですか?」

「……お二人の扱いは日本政府の領分だ。IS学園の教師程度ではわからん」

「更識の方でも完全には掴みきれてないのよね。国内にいるっていうのは確認してるわ」

 

逆にいえば裏の組織の楯無ですら完全には把握できていないと……

家族がどこにいるか誰もわからず更に簡単に連絡も取れない。

そりゃ箒も心配するわな。

日本政府もあの篠ノ之束相手に隠しきっているって事は多分電子機器がほとんどないとこなんだろうなぁ……

どっかの田舎かな?

話が逸れたが要は篠ノ之束には亡国起業と手を組む理由があると。

 

「それでも篠ノ之博士は全力で亡国起業を支援している訳じゃないわね」

「……そうだな。むしろ彼奴が誰かに手を貸すということすら通常考えられんな」

 

そう言って楯無と千冬さんは結論付けた。

しかし亡国起業と篠ノ之束の関係かぁ……

本人に聞くのが一番早いんだろうけどそれはできないからなぁ。

話題も出切った感じなので今日はこれでお開きかと思ったらふと楯無が思い出したような顔をした後、ニヤリと俺を見た。

うわぁ…………スゲェ嫌な予感がする。

 

「そう言えば風音君」

「……なんですか、楯無さん」

「あなたに伝言があったの伝え忘れてたわ」

 

普通なら聞いた方が良いに決まっている。

大切な用事かもしれないし……

俺の第六感が聞けば確実に面倒な事になると告げている。

…………よし、決めた。

 

「すいません、その伝言キャンセルで」

「『愛しの風音へ、次は直接会いましょう。キマグレな雨より』ですって」

「なんで言ったんですか!?」

「伝言ですもの、伝えなきゃ」

 

満面の笑みで俺を見る楯無。

くっそ……良い笑顔しやがって。

それを聞いた虚さんは首をかしげる。

 

「気まぐれな雨って……」

「十中八九っていうか確実に亡国起業のスコールのことでしょうね」

 

そう言って楯無は俺のことを見て面白そうに笑う。

一方の俺は心底嫌そうな顔をしているだろう。

本音が俺の顔と楯無の顔を見比べた後に首をかしげ俺に話しかけてきた。

 

「……なんでそんな人にソーは好かれてるの?」

「それはどうしてストーカーは無くならないかの答えと同じだと思う……」

「ストーカーって……」

「最初に目をつけられた後電話番号も知られ、突然目の前に現れたあと凶器(IS)で僕を脅して無理やり一緒にお茶を飲まされ、極め付けにこのメッセージだよ?これをストーカーと言わずなんという」

 

俺がそう言うと本音はうわぁ…と若干引いたような声をあげた後に俺を哀れむような目線をむけた。

いや、本当当事者ながら絶対これただの嫌がらせだよね?

好きとか欲しいとか言いながら実際の狙いは自分に勝った俺に対して精神攻撃を仕掛けるのが目的なんじゃないだろうか?

だとしたらそれは間違いなく成功している。

楯無という協力者がいることが原因でもあるが。

その楯無(げんいん)は俺が苦しんでいるのが楽しいのかさらに俺に精神攻撃を仕掛けてくる。

 

「熱烈な告白なんじゃ無いの」

「それ、ストーカー被害者の前で言ったら殺されますよ?」

「大丈夫よ、風音君限定だから。むしろ私いま恋のキューピッドになってるんじゃない?」

「いや、僕彼女いますし。どちらかといったら僕を責める悪魔にしかみえません」

「ひどいわ!?こんなに可愛い女の子を捕まえて悪魔だなんて!?慰謝料として3日以内に何かお菓子を作ってきなさい!!そういえば私あのケーキ食べてないのよねぇ…なんだったかしら?確か貴方の大事な人と同じ名前だったような…」

「最早これは立派な上級生からのいじめなんじゃ無いだろうか」

「あなたの方が私のこといじめてるでしょうに」

「記憶にございません」

「いったなぁ!?……よし、もし私がスコールに会ったらあなたの個人情報渡しちゃうからね」

「それをやったら戦争でしょうに……っ」

 

おい、それはマジでやめろ!?

それをやったら絶対あの女のことだ。

俺が考えつかないような手段で俺のことを責め上げるに決まっている。

クソ!!こうなったら伝家の宝刀(かんざし)を使わざるをえないか!?

だがそれを使ったら最後、本当に楯無を泣かせてしまうかもしれない…

ちょっとそこらへんはデリケートすぎてあんまりいじりきれないんだよなぁ。

その後もぎゃあぎゃあと楯無と騒いでいると俺の頭に凄まじい衝撃が走る。

頭を押さえながら後ろを振り返ると呆れた顔で千冬さんが拳を振り上げていた。

……あ、死ぬなこれ。

そう思った瞬間に俺の頭に2度めの衝撃が響く。

先ほどの不意打ちよりも威力があった上に別の場所に当たったそれは本気で痛かった。

頭を押さえながらしゃがみこむ俺を見下しながら千冬さんがため息をつきながら叱る。

 

「戯れるな馬鹿者。まだ話し合いは終わってない」

「ぐふぉ……千冬さん、二発めは絶対本気入ってましたよね?」

「だからやってるのだ、この戯けめ」

 

そう言って再びため息を吐く千冬さん。

確かに話し合いの最中に遊んだのは俺が悪いけどこういうのは喧嘩両成敗なんじゃないの?

あっちのスコールの手下(たてなし)は一切お咎めなしなのは納得いかないんですが?

だがそんなことを千冬さんに言うようなものなら3発目の拳が容赦なく俺の頭に振り下ろされるだろう。

横目で楯無の方を見ると勝ち誇った顔でこちらを見ていた。

その近くに修羅がいる事に気がつかずに。

 

「ふ、勝利の味が心地良いわ」

「おじょーさま」

「どうしたの本音ちゃん?」

 

本音に指さされ後ろを向くと修羅……訂正、静かに怒りをにじませる虚さんがいた。

その怒気は凄まじく最早なんだかのエネルギーを持っているのではないかと錯覚するほどのものだ。

それでいてその表情は菩薩のごとく笑顔を浮かべている。

流石の楯無もやばいと思ったのか顔が引きつる。

 

「う、虚ちゃん?」

「お嬢様?元気が大変よろしいですね」

 

そう話す言葉は普段と全然変わらない声色だ。

だがその言葉からは確かに怒りを感じることができた。

 

「この分なら私が受け持った書類もしっかりと処理出来るでしょう。もちろんお一人で」

「ちょ、待って!?あれ二人でやってようやく期限ギリギリの書類よ!?どうやって間に合わせるのよ!?」

「本来全てお嬢様がやらなければならないもの。それを戦闘後でお疲れかと仏心を見せればいらなかったようで……期限に関してはご安心を」

 

そう言って初めて虚さんは顔に笑顔を浮かべた。

その笑顔につられるようにして楯無も引きつった笑顔を浮かべる。

だが虚さんの口から出た言葉には一切の慈悲は存在していなかった。

 

「必死で頑張れば1日2時間の睡眠は取れます」

「鬼!!悪魔!!」

「残り期限は7日間と12時間、時間に直せば丁度180時間。このようなことをして間に合うとお思いですか?」

 

虚さんはそう言って容赦なく楯無を切り捨てた。

すげえ……あの楯無が本気で落ち込んでる。

しかも一切逃げる方法が無いのだ。

書類は絶対に遅れさせるはわけにはいかない。

手伝ってもらう人材もいない上にそんなこと絶対に虚さんが許すわけが無い。

楯無は会議中にもかかわらず涙目になりながら机に向かって仕事を始めた。

おそらくそうでもしないと本気で間に合わないのだろう。

流石にかわいそうになりなんとかとりなせないかと虚さんに話しかける。

 

「あ、あの……虚…先輩?」

「ああ、風音さん。気になさらなくて大丈夫ですよ。コレのこの有様は自業自得ですから」

「虚ちゃん、今私の事コレとかっていってなかった?」

「言ってません。さっさとやりなさい」

 

そう言って虚は俺に笑顔を向ける。

その表情は一切の反論を許していなかった。

助けを求めるように本音の方を見るが苦笑いをしながら首を振る。

多分こうなってしまった虚は絶対に意見を変えないのだろう。

俺は心の中で楯無に合掌をした。

そして横を見ると千冬さんが関心したようにその光景を見ていた。

 

「ふむ……奏、貴様もこれが良いかもしれないな」

「え、ちょっと」

「いくら言っても貴様には通じないようだしな」

 

そう言って千冬さんは笑みを浮かべながら俺の方を見る。

うん、恐怖しか感じない。

とりあえずまだかすかに痛みが残る頭から手をはなし立ち上がる。

あれ?俺なんか千冬さんを怒らせるようなことやったっけ?

いろいろ考えてみるがとりあえず激怒させるようなことは無い。

更に言えば千冬さんは怒るときはすぐ怒るがその後はすぐ切り替えるタイプなのだ。

ただ顔が常に不機嫌なように見えるから怒りが尾を引いてるように見えるだけで。

 

「例えば、だが。貴様はIS開発の方へ進みたい、と言っているらしいな」

「えっと……はい」

「しかし……今のままでは成績的にも貴様を取り囲む状況的にも厳しいだろう」

「あ、それでも僕、卒業後はばあさんの後を……」

「何を言っている。例えば、と言っているだろう」

 

そう言って千冬さんは俺の横に歩きながら話を続ける。

 

「話は変わるが、例えば私が受け持ったクラスの生徒が『自分の力不足で望んだモノを学べない』……なあ、どうすれば良いと思う?」

「ほ、本人の頑張り次第では?」

「だがその生徒はさぼり癖が強くてな、恋人からも勉強について相談を受ける程なのだよ」

「うわー、そんな生徒いるんですかー?」

 

えーそんな生徒本当にいるのかなぁ?

…………はい。

考えるまでもなく俺のことです。

千冬さんが俺の後ろに回り込むと俺の肩をつかむ。

別に強く握られているわけでは無いのにまるで死神に捕まったのかのような錯覚を覚えてしまった。

 

「残念ながらな」

「ち、千冬さん?例えばですよね?」

「ああ、もちろんだとも。だがそんな生徒に勉強をさせるにはこのようなやり方も有りかと思ってな。なあ、奏」

 

そう言って俺を楯無の方を見せるように固定する。

書類は先ほどやっていたものよりも増えていた。

やればやるほど増えていく書類。

おそらく俺の場合それが課題になるんだろう。

課題の山に囲まれた自分を想像して顔が青くなった気がした。

うん、素直に謝ろう。

実際、最近あんまり勉強に力を入れてないような気もするし。

 

「すいませんでした」

「ふん、始めから素直になればいいものを……お前のお婆様からも重ねて頼まれているからな。前回のテストは多目に見たが次は無いぞ」

「うっす」

 

その言葉を聞いて俺は次のテストこそしっかりと点数を取ることを心に決めるのだった。

千冬さんはボソッと馬鹿者めと言って俺から離れた。

その声からは少し楽しさが感じられたのでおそらく千冬さんに少しからかわれたのだろう。

だが千冬さんは有言実行の人だ。

次のテストは絶対に結果を残さねば。

そう心に決め、今一度俺が行くかもしれない修羅場に落ちた囚人(たてなし)を目に焼き付けておこう。

そうすれば勉強で心が折れそうな時に持ち直すことができるような気がした。

だがその楯無はポカーンとこちらを見て手を止めていた。

それは虚さんと本音も同じようで驚いたようにこっちを見ていた。

 

「楯無さん、手止まってますよ。時間無いんじゃないですか?」

「誰のせいよ、じゃなくて……」

 

そう言って楯無は俺と千冬さんを見る。

何かあったのか?

そう考える前に本音が俺に話しかける。

 

「織斑先生とソーってけっこうっていうか、すごーく仲良いよね」

「そう?普通、普通」

 

そう言って何があったのか聞こうとするがそれよりも先に虚さんが反応する。

 

「いえ、普通なら、その、織斑先生の称号と気迫に押されてしまうモノですよ?」

 

称号と気迫?

……ああ、あのブリュンヒルデとか言うのね。

確かに有名人だったもんね、千冬さん。

って言われても千冬さんは俺にとってはどこまでも親友の姉でしかないのだ。

確かに世界最強で目標でもあるがそこに千冬さんの人格は関係ない。

俺は笑いながら自分の考えを話す事にした。

 

「あー……って言っても、僕にとっちゃ千冬さんは友人の姉さんで 、自分にとっても頼れる姉貴分って感じですからね。敬意や畏怖が無いわけじゃないですけど、それより親しみやすさの方が前に出ますね」

 

俺が畏怖と言うと千冬さんはギロリと俺を睨んだ。

まあまあとなだめるように千冬さんに手を向けるとふんと鼻をならしてそのまま壁際に行き、腕を組んで壁にもたれかかった。

ちなみにこんな状態の千冬さんは基本的に照れている。

千冬さんは自分の容姿や実力などのことをほめられるよりも内面的なところ、もしくは一夏がほめられた方が嬉しいのだ。

まあ、容姿に関して注意しようものなら全力で殴り飛ばされるがな。

 

「ふぅん。怖いものしらずかと思ったら単純に慣れの問題なの?」

「はい、千冬さんこれでも面倒見はすごくいいんで結構親身になって相談に乗ってくれますよ?例えばシャルロットから聞いた話ですが」

「風音?」

「はい、織斑先生。自分は何も知らないし聞いてないです」

 

そう言って俺は話を打ち切った。

ちなみに今話そうと思っていたシャルロットの話だがあいつの正体がクラスメイトにバレた後に結構あいつのことを気にかけて時たま話しかけてきていたらしいのだ。

名目上はラウラの元上官として同室のシャルロットに迷惑をかけていないか、といったものなのだが、シャルロット曰くどう考えてもシャルロットに害を加える人物がいるかどうか気にかけてくれていた、ということだった。

その後も度々人前でシャルロットに話しかけて同じような質問をしているらしい。

恐らく俺の彼女になるという男性ISパイロットに一番近くにいいるシャルロットに何かかしらのきがいを加えようものなら直ぐにバレるぞ?ということを周りに警告する意味合いもあるのだろう。

そうやって多分陰ながらいろいろと周りに気を使うタイプの人なのだろう。

ただその威圧行為は勘弁してくれませんか?

そういうところが畏怖される原因なんですよ。

まあそれを含めて千冬さんらしいといっちゃらしいのだが。

 

「まあ、千冬さんって結構話してみると普通ですよ?しかもすごい面倒見がいい人です」

「そう言う風に本人の前で言えるのも貴方くらいよ、風音くん」

 

書類に埋もれながら楯無は千冬さんの方を見ていた。

俺もチラリとそちらを見ると目をつぶってなんでもないような顔をしているがわずかに頬が赤く染まっていたのだった。

 

 

 

 

 

近くに寄るほど、偉人も普通の人だとわかる。従者から偉人が立派に見えるのは稀だ。

〜ラ・ブリュイエール〜



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