僕のお父さんは円卓最強の騎士 (歪みクリ殴りセイバー)
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幕間
円卓第七席と円卓第十三席


メリクリ!(手短な挨拶)
みんな二部五章はどうだったかな?私はCMからヒロイン感ぱなかったあの子が本当にヒロインしてて、ストーリークリアしてすぐに聖杯とスキル上げをしたよ!
今回は味方に別にいらなくね?って鯖がいなくて、本当に死力を尽くした感が凄かったぜ!あと何気に主人公に友情を感じる鯖は初で、キャラ的にもあの新キャラは良かった!で、エウロペどこ?
ガチャはどうだったか?……ハハッ!(乾いた笑い声)


 それは、ブリテンの新たな円卓の騎士の誕生であった。

 かのガウェイン卿、アグラヴェイン卿、ガヘリス卿の兄妹であり、その美しい白い手からボーメインとも呼ばれた彼女の名はガレス。

 

 円卓第七席ガレス。

 

 それが彼女に新たに与えられた役職であった。

 

 

 

 

 

 

 

 後輩というのは可愛いものだ。その認識になったのは自分にできた今までの後輩たちが、皆素直でいい奴らばっかりだった、というのが大きい。

 円卓の騎士として……いや、ギャラハッドとして初めて出来た明確な後輩の名前はガレスというそうだ。あの太陽があると三倍の強さになる円卓の騎士屈指の強者であるガウェイン卿の妹である。……多分。男尊女卑の風潮が強い今のブリテンでは、アーサー王を始めとする数人の騎士が男として振舞っているため、女性でも男らしい格好をするのだ。ガレス卿もその例だろう。ただ単に女っぽい男という可能性もあるが。

 正直、円卓の騎士においてマトモな人はあまりいない。強さにおける話ではない。……いや、やっぱ強さにおいてもおかしいな。じゃなくて、性格的な話だ。

 ランスロットは言わずもがな、ガウェイン卿も大概戦闘狂というか脳筋なところがあるし、モードレッド卿もヤンキーみたいな性格をしている。宮廷魔術師ことマーリンさんもほぼ全員に好かれていない。

 まぁマトモと呼べる人がアーサー王、ベディヴィエール卿、あとはギリギリケイ卿くらいなのである。特にベディヴィエール卿はマジで心のオアシスである。

 そんな円卓に新しくマトモ(そう)な人材が入ったのだ。後輩ができたこととのダブルの嬉しさで小躍りしているところをマーリンさんに見られたのは生涯忘れないだろう。

 だがしかし、嬉しいことがあれば悲しいことがあるのが世の常。なんとこの子、ランスロットに憧れているのだそう。

 

————あかん! 

 

 この数年で同じ円卓の騎士として働いてきて、意固地になって認めないほど子供な年ではない。ランスロットは間違いなく【騎士としては】ほとんど完璧な存在であると言っていい……だがしかし! 男としては断じていいやつとは言えないのだ! 

 それでなくても、もしもガレスがランスロットに惚れでもしたら人間関係図はぐちゃぐちゃになってしまう。よもや原典でアッー♂な展開があったわけではなさそうだし……うん、というかなんでガレスも女体化してんだよぉぉぉぉぉぉ! 

 もう懲り懲りなのだ。あまりに円卓の騎士達が原典と違って女体化しているため、最早原典に従う必要があるのかを日々自問自答しているくらいだ。まぁ従うんだけどね。

 とりあえず、軽くランスロットから引き離すくらいの工作をしてみよう。オラァ、ガレス! 円卓の騎士には馴染めたんか!? 訓練するぞ付き合えオラァン! 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてぼろ負けである。なにこの子強すぎとか思ったが、よくよく考えればあのガウェイン卿の妹(弟?)だったことを思い出せば納得だ。即堕ち2コマである。くっ、殺せ! 

 

「ギャラハッド卿は凄いですね!」

 

 !? 

 

「————あの盾捌き!」

 

「……ああ、そっちか……」

 

「?」

 

 馬上槍試合で負けたのに褒めるから、「センパイお強いんですねぇwww」という痛烈な皮肉かと思ってしまった。こんな素直で可愛らしい子が実は毒舌だったら普通に泣きそう。恋愛シミュレーションゲームとかだと割りかしありがちな展開なんだけど、やはり二次元と三次元は違うのである。……そもそもアーサー王物語が二次元の話ではないのかという議論は置いておく。

 

「……何なら教えようか? 代わりに馬上槍試合の訓練に付き合ってよ」

 

「はっ、はい! 是非に!」

 

 もしガレスがイヌであったなら、きっと尻尾は扇風機にも劣らぬ速さでグルグル回っていただろう。屈託のない明るい笑顔は太陽のようである。……太陽っていうと無条件で頭の中にガウェイン卿が出てきちゃうな。

 まぁそんな感じでガレスとは接していたのである。

 馬上槍試合では己の馬術と槍術のみで戦う。つまり、ギャラハッドというチートボディでありながら、円卓の騎士に成り立てのガレスにあっけなく敗れたのは主力である盾と魔術が使えなかったからなのだ。そうだと信じたい。

 逆にガレスは攻め重視というか、守りがおろそかなので何でもありの模擬戦では負けることはなかった。さすがギャラハッドボディ。それに若干の脳筋ぶりでガウェイン卿と兄妹なのを実感できる。

 

「むー。やはりギャラハッド卿の守りが崩せません!」

 

「はっはっは。何で負けたか、明日までに考えてくるんだな。そしたら何かが見えてくるはずだ。じゃ、ガレスのおかず一個いただきます」

 

「くぅ……!」

 

 馬上槍試合の訓練の戦績が五分五分に近くなり、模擬戦は相変わらずだった頃には夕食を賭けることもあったし、何やかんやで一番模擬戦をした円卓の騎士であった。

 

「はは、ギャラハッド卿。随分とガレスと仲良くしていただいてるようで……」

 

「あ、はい」

 

「仲睦まじいことは良いことです……が、兄の立場は譲りませんよ! 

 

 なにを言ってるんだこの人は。

 

「兄様はなにをおっしゃってるのでしょうか……」

 

 ガウェイン卿曰く、よく模擬戦をしている姿を見て兄的ポジションを取られるのではないかと危機感を覚えたそうだ。改めて、なにを言ってるんだこの人は。それともブリテンにおける兄弟とは一子相伝の暗殺拳一家のように、ある意味戦うことが絆なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、このぉ!」

 

「ほいっと」

 

 今日もガレスと模擬戦をしている、いつもと変わらぬ日々の一幕だった。こんな日々がいつまでも続き、皆が幸せに暮らしていけるのならばどんなに良かっただろうか。近頃の国勢を夢想し、黄昏る。

 でも、僕は知っている。この国に幸せな結末は訪れないことを。どうしようもなく悲しい結末を迎えることを。滅亡という、最悪に近い形で終わることを。

 そんなことをぼんやり考えていたからだろうか。

 

「とぉー!」

 

「あっ……!」

 

 ガレス曰く、マーリンさんの魔術で幾重にも強化されたらしい槍が爆発的な推進力を生み、怒涛の連続攻撃を叩き出す。初手の対処が遅れ、段々と攻撃を捌ききれなくなったところに最後にして最大の一撃を打ち込まれ、盾は遥か彼方に消えていった。

 実戦であれば魔術で守りながら盾を回収することもできただろうが、模擬戦のルールとして得物を落としたら負けと条件をつけていたので僕の負けである。初めてのガレスに対する黒星であった。

 

「かっ、た……? や、やったー! やりました! イェーイ! ビクトリー!」

 

 初めての勝利に心の底からの叫びをあげるガレスに乙女の恥じらいみたいなものはなかった。

 負けたことがどうしようもなく悔しくもあり、自分(ギャラハッド)という存在が彼女にとって、ある意味でそこまで大きな存在となれたことを嬉しくも思った。

 

「こら、いい歳した女の子がいつまでも雄叫びをあげるもんじゃないよ」

 

「はぁーい! すみませんでした! ……ンフフ」

 

 注意されても嬉しそうな顔をするガレスを見たら毒気も抜かれてしまう。僕に勝ったのがそこまで嬉しいのかと訊くと、当然のようにはいと返された。まぁ、先輩冥利に尽きる後輩であったことは間違いない。

 その時は無意識に言っていた僕はもちろん、変身の指輪で男に見えるように姿を変えていたガレスでさえ僕がガレスを【女の子】と言ったのを嬉しさのあまり気付かずにスルーしたあたり、本当に嬉しかったのだろう。

 ちなみにその試合もおかず一個を賭けていたのだが、積年の恨みと言わんばかりに僕の夕食のおかずはガレスの美しい手……いや、口によって食い尽くされたのであった。

 その時に交わした言葉が、ガレスとの最後の会話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから間もなく、アーサー王が治めるブリテンの戦争は激化していき、僕は方々に駆り出された。後にも先にも、あれ程忙しい日々はもうないだろうと断言できるほどに休む間もなかった。もしギャラハッドの体が前世の僕のような一般人と同じ強度だったら即座に死んでいただろう。その場合、そもそも子供の時によくしていた魔猪狩りで命を落としていただろうが。

 最終的にはパーシヴァル卿と————正確には途中で彼の妹さんも加わったのだが————聖杯探索をしている最中に内乱が起き、ブリテンは最期を迎えることとなる。……かつての同朋達と共に。

 各騎士の最期について、原典の知識がなかった僕がそれらについて詳しく知ったのは、カルデアでギャラハッド……ないしは円卓に関する書物を読んだ時だった。

 結果的に、僕はガウェイン卿やアグラヴェイン卿、そしてガレスなどの円卓の騎士達の最期に立ちあえることはなかったし、お世話になったシスターも同様だった。そのことに関して、当時は後悔しかなかったが、今ではそれで良かったのかもしれないと思っている。

 もし彼らの死に目を直接見てしまっていたら、僕は感情に任せて更に歴史をグチャグチャにしていたかもしれない。ランスロットと本気の殺し合いをしていたかもしれないし、モードレッドを殴殺するまで拳を振るっていたかもしれない。まさしく僕がモードレッドにかつて言ったように、子供のような癇癪を起こしていただろうことはないとは言い切れない。

 きっと、ギャラハッドに赦された唯一の反抗は最期にアーサー王を……いや、アルトリア様を一目見ることくらいだったのだろうと自分を納得させる。ブリテンの結末を知っていたのに何もしなかった薄情者という汚名から逃げるための理由づけだということも否定はすまい。

 

 

 

 

 

 

 

 ——————……まぁ、ガレスに関してはそんな感じかなぁ。基本訓練してた思い出ばっかりだったけど……あ、料理作ってもらったこともあったな。ガレス、最初は厨房で働いてたらしいし。

 

 前世とか、結末を知っていたことに関してはもちろん伏せて、かつての思い出を懐古しながらマシュに語り聞かせる。鮮明に覚えているのにも関わらず、遥か昔のような、夢で見た話を語っているような感覚に陥る。

 

「ふふ。……あの……、ギャラハッドさんは、もう一度彼らに会いたいと思っていますか?」

 

 ——————出来るならもう一度会ってみたいけど……。ま、現代にもなって同じ世代の人達が揃うなんてこと早々ないだろうしね! (フラグ)

 

「そうかもしれませんけど……いつか、会えたらいいですよね」

 

 ——————……そうだね。

 

 

 

 マシュと立香が出会うより、遥か昔の二人の会話の一幕であった。




ちなみにギャラハッド君に変身の指輪が効かなかったのは、ギャラハッドって自分に対して作用するもの(デバフとか)に耐性めっちゃありそうという作者の偏見によるもの


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第一章 円卓第十三席ギャラハッド
始まり


この物語を読む前の注意事項

・この物語はガバガバなアーサー王物語知識、型月知識で成り立っています。間違っててもこの作品ではそういう設定だということにして見てください
・この物語は転生、憑依、ハーレム要素、最強要素、勘違い要素などを含みます。それが苦手な方はブラウザバックを推奨。その上で読んだのなら、文句は受け付けません。ロード・キャメロットします
・そしてこれが一番大事。更新不定期で遅いです!

以上のことが大丈夫という勇士は英雄になってどうぞ


 ——てんせいしたらぼくのおとうさんがえんたくさいきょうのきしだったけんについて。

 

 笑えない冗談である。全くもって笑えない冗談である。心ッ底! 笑えない冗談である!! 目を覚ませば赤子。おまけに父は消え、母も僕を捨てていった。なんて親どもだ、子供一人育てられないのに作る親なんて無精子症になったり妊娠不全になればいいのに。

 

 だが、腐っても僕の父は円卓最強の騎士ランスロットであり、幸いにしてその武勇は引き継がれていたようである。事情を知らないとは言え、厄介者の僕を引き取ってくれた修道院のシスターには感謝しかない。感謝感激雨あられ。特性すいすい雪がくれ。天候はバトルでも大事だと、とあるゲームが教えてくれました。

 

 ———————————————ヒャッハー!! 弱い魔猪はただのイノシシだぁ! 

 

 僕の修道院での暮らしを一言で表すならこれである。でっかいイノシシを子供である僕が盾で受け止められた時は驚いた。やっぱランスロットの血を引いてるんやなぁ……(遠い目)

 余談ではあるが、イノシシ狩りをしていることを知ったシスターがプンプンという感じで危険だと怒ってくれるので涙が出た。ホンマええ子やで……。そうだよね、僕の年齢(肉体的)でイノシシ狩りなんて危ないからね……でも、僕の肉体は特別製だからさ、稼げるなら稼ぎたいのだ(社畜根性)

 

 ———————————————ちなみに今世での僕の名前はギャラハッドというらしい。ギャラルホルンみたいでカッコいいので、そこそこお気に入りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———————————————シスター・ソフィアがその少年を見つけたのは曇天の日のことであった。

 

 彼女が営む修道院は積極的に捨て子や孤児を受け入れていた。しかし、それが皮肉にも子捨てを助長させることになってしまう。この戦時中の時代、仕方がないと言えば仕方のないことであった。

 ギャラハッドは薄汚い布を纏い、修道院の前に捨てられていた。嘆かわしいことにそれ自体はよくあることである。ソフィアを驚かせたのは、ギャラハッドの様子であった。

 目はこの空のように澱み、生まれて間もない赤子だと言うのに泣くことすらしない。本来美しいであろう銀髪も汚れでくすみ、輝きを鈍らせてしまっている。

 

 ———————————————主よ、このような赤ん坊までもが絶望した目をするこの世は正しいのでしょうか? 

 

 眦から溢れた雨がギャラハッドに落ちる。ポタポタと彼を濡らす雨はしばらく止みそうになかった。

 彼は、そんな彼女の頰に伝う雨を一撫でした。まるで「泣くな」と言わんばかりに眼差しは彼女を捉えていて、先程まで驚くほど静かだったというのに彼は何かを伝えようと「あうあう」と口を必死に動かしていた。

 

 ———————————————この子はきっと皆を救えるような素晴らしい騎士になれる。もしかしたら、国すらも……。

 

 選定の剣を抜き、湖の妖精に認められて聖剣を授かり、救世主と称されるアーサー王ですらこの戦火の坩堝から抜け出せず、民は困窮している。救世主であるアーサー王を支える騎士が必要で、それはきっとギャラハッドであると、ソフィアは啓示を受けたように信じて疑わなかった。

 始めは予感だったが、ギャラハッドが成長していくにつれてその予感は確信へと変わる。魔猪を狩り、素材やお肉で修道院の経済を助け、街で困っている人を見かけると寄り添い、ソフィア自身もまだギャラハッドが幼い子供であるにも関わらず、幾度も救われた。

 理想の騎士そのものであり、ギャラハッドに助けられたことのない者はこの街にはいない程だ。彼が大きくなるにつれ、もっと力をつけていくであろうことは簡単に予想できた。……だからこそ、彼をこのままここに縛り付けるわけにはいかなかった。

 

「ギャラハッド」

 

「はい、母さん」

 

 ————————————————だから彼とは、ここでお別れしないと彼のためにならない。

 

 ソフィアの目には、彼と出会った時と同じように涙が滲んでいた。それは悲しみによるものではなく、嬉しさと、寂しさのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この時代って十歳で旅に出されるものなの? あれか、騎士マスターに俺はなる! とか言えばええんか? お? 

 だが母さんの言うことには百理ある。僕はアーサー王伝説について詳しくないが、ランスロットとかいうチート騎士の息子なので物語の重大事項を握っている可能性がなきにしもあらず。例えば何かの戦いでギャラハッドがいなくて負けました! ブリテン、完! とかになったら寝覚めが悪すぎる。

 ……まぁ元々いつかは修道院も出なくてはいけない。騎士を目指す者は幼少期から訓練を積むらしいから十歳はもう一人前とみなされるのかもしれないし、予定が早まっただけである。

 

 ……それにしても旅に出る僕よりも母さんの方が号泣してて泣きづらい。可愛い。母さんじゃなかったら嫁にしたい。シスターって結婚が許されるのか未だ知らないけども。

 おーよしよし。精神年齢的には年上のおじさんが慰めてあげよう。グヘヘ。それにしてもこの十年、色々なことがありましたなぁ。魔猪を狩りまくり、修道院の評判を上げるために人助けをしまくり、母さんと一緒に料理を作って、年下の子供達と遊んだり……あ、やべ、泣きそうになってきた。

 改めて振り返ってみると、始まりこそ最悪だったがなんやかんやでタイムスリップ生活を充実して楽しんでたんだなって。何だろう、卒業式の気分だ。

 

 こうして修道院(マサラタウン)にサヨナラバイバイして、俺は(コイツ)と旅に出るのであった。

 ……別れ際に抱擁した母さんのおっぱいはとっても柔らかかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、そんなこんなで始まった俺の旅ではあるが、やはり目的が欲しい。モチロン最終的にはアーサー王が居るというキャメロット城でオラ騎士になるだという目的はあるが、そもそも十歳で騎士にしてもらえるかもわからない。なれても戦争に駆り出されて即アボーンなんてことも避けたい。

 そう。つまり今はRPGで言うところのレベリング期間なのである! 大事なことだからもう一回。今はレベリング期間なのである! 

 というわけで経験値が稼げる敵が欲しい。僕でも倒せるくらいのいい感じの敵をお願いします。

 ギャラハッドの願い虚しくも特に何事も起きることなく町に着く。久々の人里であり、歩き詰めの体にはゆっくり休める環境が恋しかった。

 

「……ん?」

 

 穏やかな雰囲気の町に似合わぬ喧騒に、ギャラハッドは眉を歪めた。見れば、騒ぎの中心にいるのは自分が育った場所と造りがよく似た修道院である。

 さすがに見過ごせぬと野次馬に混じれば、屈強な男達が身の丈にも及ぶ巨大な盾に触っては苦しみ、その苦しむ様を笑った者も盾に触れ、同じ末路を辿る。

 

「さぁさぁ! 他にこの盾に挑戦する者はいないのかい!? 我らがアーサー王と同じように、この盾に認められれば英雄間違いなしだ! 見事にこの盾に認められた者がいるなら、そいつにこれをタダでやるよ!」

 

 このご時世、太っている人を見る機会は相当に少ないのを見るに盾への挑戦料とやらで大分私腹を肥やしているようだった。もしこっちの町に捨てられていたらあの男が育て親だったのだと思うと、ギャラハッドの背中を冷や汗が伝った。

 挑戦する者がいなくなり、まばらに人も散り始めた頃、彼もまたそんな危険に首を突っ込む気はなかったので、立ち去ろうとしていた時だった。

 目に見えぬ不思議な力がギャラハッドを襲い、あの呪われた盾の下まで一直線に吹き飛んでいく。

 

「え? ちょっ……!」

 

 ようやく状況を認識した彼が受け身を取ろうとするも、余りにも遅すぎた。彼の右手はしっかりとあの盾に触れ、自分もまた黒雷に襲われて焦げ死ぬのだと覚悟を決めるが、特に何も起こらない。

 

「お、おい。何も起こらないぞ……」

 

「まさか、認められたのか!? あんな子供が!」

 

 ギャラハッドが投じた一石で起きた波は始まり、広がり……最終的には新たな英雄の誕生を喜ぶ咆哮と化した。

 しかし、軍にも劣らぬ歓声をあげる民衆に待ったをかける者もいた。

 

「待て! そのガキは聖盾に挑戦するカネを払っていなかっただろうが! こんなのノーカンだ! ノーカン! ノーカン!」

 

 ギャラハッドからしたら呪われていた武器なんて縁起が悪い物を返すのは一向に構わないのだが、物事には流れがあり、少なくとも彼にはこの民衆の流れを止められる気はしなかった。

 

「ちょっといいかい?」

 

 人垣を掻き分け姿を現したのは、白いローブで顔を隠した男。杖を持っているということは魔術師である。

 

「な、なんだ貴様は!」

 

「あなたは彼がお金を払っていないと言ってたけど……彼はあなたにしっかりと払っていたよ。その証拠に……ほら」

 

 視線に促され、太った男が右手をゆっくりと開くとそこにはキッチリ料金分のお金があった。驚愕に目を染め、今まで散々カネを巻き上げた挙句成功者が出たら嘘をつくのかと糾弾され、情けない声で逃げていく。ギャラハッドは実際には払っていないため、太った男が正しいのだが日頃の行いが悪すぎたため、自業自得とも言えた。

 

「……あの、助けていただきありがとうございました」

 

「気にすることはないよ。私も私の目的があってしたことだからね」

 

 笑いつつ去っていく白ローブは、まるで綿毛のように調子が軽かった。対して、ギャラハッドが右手に握る盾は恐ろしく重かった。

 

 ————————————————決めた。この盾を十全に使いこなせていると自分で思えるようになったら騎士になろう。

 

 

 

 ギャラハッド十歳。今後の生涯を共にする相棒と出会う。




白ローブの男は一体なんて花の魔術師なんだ……?(すっとぼけ)

現実の原典(という名のwiki)より、今回の話に関係するところ
・ランスロットは魔術にかけられて誑かされ、魔術をかけた女と子をなした。それがギャラハッド
・ギャラハッドはマーリンに「父を越えた最優の騎士になるだろう」と予言された
・母に捨てられたギャラハッドは、ギャラハッドを産んだ女のもとを去ったランスロットに修道院に出された
・ギャラハッドの代名詞とも言える盾は、ギャラハッドの祖先がとある修道院に預けた物であり、その盾には呪いがあったがギャラハッドは大丈夫であった

型月のギャラハッドについて情報がなさすぎるので、原典の話にオリジナル要素を加え、今回の話になりました。というか今後もそうなります。ではまた次回


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妖精

1話から結構な方に見ていただけて嬉しい。
今回勘違い要素なし。しょうがないね、相手が神秘だからね
今回は原典要素も型月要素もないです。どっちでも情報が少ないギャラハッドさん可哀想


 呪われし盾、ゲットだぜ! いや、重い。円卓最強の騎士(ランスロット)譲りのちーとすぺっくぼでーでもここまでキツイとか何キロあるん? 盾何キロまで持てる? ハイッ、サイドチェストォ! この体はわりかしムキムキなのでサマになって嬉しい。

 あれか、一人前の騎士になるにはまず筋肉を付けよって神様のお達しかな? 確かアーサー王って、ドラゴン討伐とかしてたような……。

 

 ……うん、考えたら負けだな。キャメロット城ってもしかしてゴリラの巣窟? むさ苦しい男の集団? 男だらけの軍にありがちなホモォ……展開とかないよね? 考えれば考えるほど不安なんだけど。あ、考えたから負けだわ。ちくせう。

 

 ズルズルと身長以上の大きさの盾を引きずりながらギャラハッドが向かうのは湖である。聞いたところによれば、世界一有名な聖剣エクスカリバーは湖の精霊から借りているもの。円卓最強の騎士ランスロットも、湖の騎士という異名で呼ばれている。

 

 ——————————————————つまり、湖に行けば何か強くなる方法があるんじゃね!? 

 

 という思考のもと、ギャラハッドは一年近くもの間、湖を目指していた。

 時折襲ってくる魔物相手に新しい盾の使用感を確かめつつ、倒した魔物の肉を喰らい血を飲む。この十一年ですっかりサバイバルに順応したギャラハッドは、確かに少しずつ強くなっていた。

 突進してきた魔猪の牙を受け止めれば逆に牙を砕き、飛竜が爪で襲いかかれば爪を折った。まるで大地に根を下ろした大樹のように矮躯は動くことなく、こと【守る】という点においては既に並みの騎士など追随出来ないほどの腕前である。

 町に寄り、湖がある場所についての心当たりを聞くも、やはり神秘的な場所ゆえか成果は芳しくない。一年も探し回っても見つけられなかったギャラハッドは慣れたもので、ならばと森の中を探索しつつ魔物駆除をするのが日課になっていた。

 

「フッ!」

 

 群れで襲ってくる狼型の魔物を盾で粉砕し、次いで飛びかかる魔物の毛皮を掴み、別の個体へブン投げる。十数分も掛からずに群れを殲滅し、再び歩みを進めた。

 奥へ奥へと進むたび、どんどん強い魔物が出てくる。この一年間で初めての事態にギャラハッドの胸は高鳴る。それに出現する魔物もまるでこちらを試すかのようなバリエーションだ。

 熊の魔物とは力を、毒蛇の魔物とは勇気を、蜂の魔物とは正確さを、そして今の狼の群れとは対応力を人一倍求められた。そして今度は———

 

「……まさか全部とは」

 

 混合獣(キメラ)。熊の体を持ち、毒蛇の尾を持ち、蜂の速さを持った魔物が複数。狼の団体狩猟能力もあるのだろう。

 

「上等!」

 

 やはり湖にこそ成長の鍵があるのは間違っていなかったと、ギャラハッドは盾を握り締め直すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴーカク』

 

 それら(……)が現れたのはギャラハッドの手によって混合獣(キメラ)の群れが半壊した頃であった。

 人魂のように浮かびながらもキラキラとした光の粒を発する小型の人は、成る程確かに神秘に満ち溢れていた。

 

「合格、とは?」

 

『ワタシタチ、アナタ、タメシタ。アナタ、チカラ、シメシタ。ダカラ、ゴーカク。アナタ、ナニシニキタ?』

 

「強くなるために来た」

 

『ウソ、ツイテナイ。ホントニ、ゴーカク』

 

 まだ試されていたらしいことにギャラハッドは冷や汗をかく。仮に嘘をついたらどうなるのか気になりはしたが、個人的欲求を抑えて妖精に話しかける。

 

「合格、ってことは強くしてくれるのかい?」

 

『ワタシタチ、タタカエナイ。イチバンツヨイノ、サッキノきめら』

 

 せっかく見つけた湖だというのに、これでは骨折り損である。どうにか精霊の神秘か何かで何とかできないかと頼み込むも、「ムリ」と一蹴。こうなるとギャラハッドにここにいる理由がなくなる。

 

「……邪魔してごめん。ここのことは知らせないでおくよ」

 

『マツ。ツヨクデキナイ、イッテナイ。ワタシタチノ、カゴ、イル?』

 

「ありがたいけどいらない」

 

『……イラナイ、ハジメテ。ナゼ?』

 

 確かに精霊の加護は役に立つかもしれないが、湖の騎士と言われるランスロットも加護があるかもしれない。ギャラハッドにとってあの父と同じ力を持つことは何となく嫌であった。理由はどうあれ、自分を捨てた親を好きになれる子はいないだろう。

 

『……ン。ぎゃらはっど、オヤニ、ステラレタ? ダカラ、キライ?』

 

「え、口に出てた?」

 

『ワタシタチ、ココロ、ヨメル。ぎゃらはっど、ホカノヒトト、チガウ。オモシロイ』

 

 —————————————————そりゃあ未来人の転生者ですからねぇ……。

 

『ぎゃらはっど、テンセイシャ? ミライジン? イマ、「ンォォォォ! イママデノシコウモロバレデハズカチィィィィィ!」ナッテル。ダイジョウブ?』

 

「読めても言わないでくれ……」

 

 ある意味でギャラハッドに一番ダメージを与えたのは湖の精霊達かもしれない。

 

『カゴ、ダメナラ、ヨロイ、イル?』

 

「え、貰えるならぜひ」

 

 貧しい修道院生活十年ですっかり貧乏性になったギャラハッド。騎士といえば、やはりイメージするのは美しい剣と煌びやかな鎧である。

 事実上無計画で旅に出たギャラハッドに当然鎧を作ってもらうアテなどなく、正直言って騎士になるために必要なものが貰えるなら、これ以上に有難いこともなかった。一足飛びにチート防具を貰うのは若干良心が咎めたが、そもそも最上位騎士である円卓の剣も大概な性能なのでまぁいいかと結論づける。

 

『デモ、タダデハ、アゲナイ』

 

「僕にできる限りの事はするよ」

 

 さすがに無料(タダ)で貰えるなんてムシのいい話はないらしいが、それが普通であるため特に何も思わない。そもそもこの盾すらも十全に扱えているとは言い難い。

 ギャラハッドは剣が苦手であった。馴染みがなかったのは盾も同じだが、何よりも人を殺すための道具を振るうことに慣れることが出来なかった。ギャラハッド唯一の弱点とも言える。だからこそもっと上手く、強く、硬く……それこそあのエクスカリバーすらも防ぎきるくらいの人物にならねば騎士にはなれないと思い込んでいる。

 そもそもギャラハッドが知っている騎士というのが最強の聖剣を扱うアーサー王だったり、その姉妹剣を持つガウェインだったり、その二人を凌ぐランスロットであったりと大分認識が偏っているために仕方のないことであった。

 

『ワタシタチ、シンピ。ソレヲネラウ、ジャアクナヒト、タクサン。ぎゃらはっど、ヨロイ、アゲル。カワリニ、ワタシタチ、マモル』

 

「え、ずっと?」

 

『ズット』

 

「……えっと、ずっとは無理かな〜、なんて……」

 

『ワカッテル。ダカラ、ハナレラレナイ、ヨウニスル。ぎゃらはっど、キセージジツニヨワイ。コヲナセバ、ズットイッショ』

 

 前世今世来世合わせてもギャラハッド史上最もあんまりなお誘いであった。掌ほどの大きさだったはずの妖精達が成人女性に近い体を成していく。妖精(サキュバス )達は本気と書いてガチだった。

 悲しきかなギャラハッドの体は成長が早く、すでに精通をしていた。成長が早いが故に年の割には体格が良く、ランスロット譲りのスペックの高さも相まって、力負けすることなく魔物と張り合ってきたのだが、ここに来てそれがアダになるとは思いもしなかった。

 

 ———————————————————な、何をするダァ! ヤメロォ! 僕は所構わず種を撒き散らす節操なし子種マシンガンのクソ野郎(ランスロット)みたいになりたくない! アッ────────ー!! 

 

 ギャラハッド、実に十一歳の早さで童貞を捨てる。更に不幸なのは、それがナゼか後世に伝わってしまったことだろう。正に【英雄色を好む】であった(違う)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな逆レ事件から四年後。ギャラハッドはあいも変わらず旅を続けていた。

 妖精達の目的はギャラハッドと子を作ることでもなければギャラハッドをずっと自分達の側に置いておくことでもない。それはあくまで手段であり、目的は邪悪な人から自分達を守ってもらうことである。

 そして妖精からこの世に魔術なるものがあると知ったギャラハッドに電撃疾る。

 

 ——————————————————魔術で結界みたいなのを作って、それで妖精達を守ればいいのでは!? 

 

 それからのギャラハッドは凄まじかった。魔術を妖精達から教わり、見返りに体を差し出し、結界魔術の術式を組み上げ、妖精達に襲われ、膨大な魔力を注ぎ込み、最終的には妖精に抵抗することをやめ、術を完成させると同時に二年ぶりにギャラハッドは自由を手に入れた。

 これがのちに聖杯からスキル『自陣防御A(妖精)』とされることを今の彼は知る由もない。

 その副産物として『魔力防御』を習得し、その膨大な魔力もあいまり、ギャラハッドの守りは更に堅牢な物となった。

 そして、ギャラハッド十五歳の時。

 ついに、親子が再会するのであった。




ガバガバ解説
・自陣防御A(妖精)…元ネタはFGOのマシュ・キリエライトのプロフィールに書かれた自陣防御Cより。強力な結界魔術を施したという逸話がスキルになったもの。デミ・サーヴァントではなく、ギャラハッド本人のため出力が上がっている。妖精は散々彼女らと致したため。なお子供はできなかった模様。Aランクの守護範囲は国を守れるくらいということにしてます(カリスマのランクから推察)
・魔力防御…元ネタは同じくマシュのプロフィールより。ギャラハッドの基本技術にして最硬技術。魔力を注ぎ、防御に変換する魔力放出と同じタイプのスキル。膨大な魔力を持つ英雄なら一国を守る巨大な盾となる。ギャラハッドは後にこの技術を昇華させ、盾から城を顕現する(意味不明)


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湖の騎士ランスロット

 突然だが、望んだ仕事に就くためにもっとも必要なこととはなんだろうか? 

 能力? 違う。コミュニケーション? 違う。自己表現力? 断じて違う! 

 答えはコネである! 

 能力もコミュニケーションも自己表現力も自分という存在を試験官に認識してもらうための要素の一つにすぎない。人より優れた部分は輝いて見える。だから採用されるにすぎない。もともと自分を知っている相手に改めて自己アピールなどするだろうか? いや、しない(反語)

 つまり、僕が何を言いたいのかというと、『ちょっとくらいクソ父さんのコネを使ってもいいよネ!』ってことである。

 うん、自分でもクズであるとは思わなくもない。だがちょっと待ってほしい。僕も散々アイツに迷惑をかけられてきたのだ。だがそのおかげで母さんと出会えた? 妖精と出会えたおかげでここまで強くなれた? ああ、全くその通りである。

 だがしかし! それとランスロットが父親の義務を放棄して僕を捨てたのは別問題である! (正論) 実母? だって誰か知らないし。

 ならばちょっとくらい融通を利かせてもらってもいいはずだ。正直もう一度ランスロットと会うのはストレスで髪が脱色しそう(もともと白髪)だが、騎士になれる可能性は少しでも上げておきたいのだ。

 オラァン! 野生のランスロット出て来いヤァ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランスロットにとって、その少年と出会ったのは全くの偶然であった。ランスロットが王命によってたまたま来ていた深い森の中で、彼らは再会を果たした。

 

「そこな少年、迷子か? 良ければ近くの町まで送って行こう」

 

「……必要ないです。僕は、この森に用があって来たのですから……。その目的も今達せられましたが」

 

 ——強い。

 

 数多の戦場を駆け抜けたランスロットの細胞一つ一つが、少年への警戒を促した。剣こそ腰に佩いていないものの、円卓の騎士に勝るとも劣らない武の臭い。隙のない立ち姿をしている彼に仮に今ランスロットが剣を叩き込んだとしても、大盾で容易に防がれる未来が見えた。

 

「……こんな森の中になんの目的が?」

 

「ああ、すみません。正確に言うとこの森に用はないんです。目的は——貴方ですよ、ランスロット卿」

 

 先手必勝。

 ランスロットの圧倒的な剣力を以って振るわれたアロンダイトを、ギャラハッドは苦もなく正面から受け止めてみせた。続く二の太刀をも軽々と受け流し、反撃にと振るわれた盾を籠手で受けとめるも予想以上の膂力に吹き飛ばされる。

 円卓の騎士と一括りにされてはいても、その強さにはやはりブレがある。円卓最強と名高いランスロットの本気の一撃——それも不意打ちに近い物を軽々と防ぎ、あまつさえ反撃を食らわせられる者が一体どれだけいるだろうか? 

 

 ——————————————————この男は危険だ。ここで私が仕留めねば……。

 

「最後に一つ聞いておく。貴様、どこの者だ?」

 

「さて、どこの者なんでしょうね?」

 

 答えるつもりはないらしい。もはや会話は不毛だった。

 ランスロットの意思に答えるように、アロンダイトも輝きを増す。過剰に剣に注がれた魔力は嵐のようにうねり、保存しきれない魔力が光となって暗鬱な森を照らす。

 もちろんギャラハッドもただ見ているだけではない。持てる全ての魔力を盾に回し、防御術式を起動していく。巨大化していく魔力盾は留まることを知らない。彼の持つ盾を中心とした魔力は森をも覆い、真っ向から円卓最強の至高の一振りを受けとめる気でいた。

 

「——最果てに至れ。限界を超えよ。【縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)】!」

 

「我が術式よ、我を守り給え。————魔術障壁展開」

 

 のちのブリテンの剣とブリテンの盾が本気でぶつかり合ったのはこれが初めてのことであった。爆発的な魔力の奔流は嵐となり、二人のいる森を更地に変える。土煙が晴れ、露わになった二人の姿はお互いの獲物とは対照的に満身創痍である。

 

「クッ……やっぱり円卓の騎士の一撃を受け止めるにはまだまだ力不足か……」

 

 特に真っ向から必殺の一撃を受け止めたギャラハッドの損傷は酷いものである。五体満足でこそあったが、盾を握っていた右腕の骨は砕け散り、爆風に焼かれて火傷した跡があちらこちらにある。誰がどう見ても戦闘不能であり、動くこともままならなかった。

 だがランスロットの代償も安くはない。身につけていた鎧は八割がた消滅し、剣を握り締めた手のひらはどちらもギャラハッドと同じように砕けていた。ろくに剣も握れない状態だ。

 彼が生きている以上、ランスロットはトドメを刺さなくてはならない。だが彼が顕現した大盾は精緻で、誇り高く……何より美しかった。比べるのは不敬かもしれないが、それは彼の主であるアーサー王が振るう聖剣にも劣るものではない。

 あそこまで強く、何かを【守る】意志を感じさせる魔術を扱う者が本当に悪人なのだろうかと思うのだ。剣と剣を交わし、相手を知るという風習が騎士にはあるが、今回は魔術でギャラハッドの一端に触れることとなった。

 何よりお互いもう戦えない状態だ。いがみ合う気力すら先程の一撃で使い果たした。その証左に大盾の担い手はピクリともしなかった。

 

「……なぜ私を狙った? 君は何処の者だ?」

 

「……狙った? 狙ったとはどういう意味です?」

 

「いや、君がランスロット卿が目的と言ったのだろう?」

 

「確かに言いましたが、この辺りにランスロット卿がいると聞き、ぜひ僕を騎士に推薦してもらえないかと思い……」

 

 血をダラダラと流すギャラハッドとは対照的に、ランスロットは冷や汗をダラダラと流し始めた。つまり、まとめると。

 ランスロット、王命で森へ→ランスロットがいることを知ったギャラハッド、ランスロットを追い会合→ギャラハッド、ランスロットに騎士に推薦してもらいたいという話の最中ランスロットに斬りかかられる→そして半殺し

 

 ……よく考えなくてもまずい事態である。自分に会いに来た子供に斬りかかったどころか大人気なくも本気を出し、半殺しにボコボコにのしたのだ。騎士道以前に人としてどうなの? と言われるレベルだ。

 

「……うん、君は騎士になりたいんだね? 任せなさい。この私とここまで互角に渡り合ったんだ、これ以上ない推薦状を我が王に渡すことを約束しよう」

 

 哀れ最強の騎士。子供相手にご機嫌を取り始める。

 妖精の力でお互い動けるくらいまで回復させると、足早に森をあとにした。最強の騎士を敗走させた少年は、ポカンとした表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕の父はどうやら種蒔き馬なだけでなく、抜刀斎の気もあるらしいことが判明してしまった。

 何? 用があるって言ったら斬りかかられるの? (※言ってません)

 何処の者だとか聞かれて「(育った町の名前がわからない的な意味で)さて、どこの者なんでしょうね?」って言ったらナンカスゴイマジュツをブッパしてくるタァ戦闘狂のパパンが考えることは僕にはわかりません。全力防御してコノザマってあの人ホントに人間か? 

 体も心もズタボロよ! そのくせ盾と鎧には傷一つついてないのが腹立たしいわぁ。君らの仕事って僕を守ること違うん? あ、使いこなせてない僕が悪いですかそうですか。

 というかランスロットの剣であの威力って、エクスカリバーどうなっちゃうん? 国滅ぼせちゃうんじゃないの? いや、まさかねぇ? 流石にないよね? (フラグ)

 何はともあれ、ランスロットと戦えたのは意外であったが収穫もあった。僕は剣道ならぬ盾道を極めてみせる! AAO(えいえいおーっ)! 

 

 ——————————————————いってぇぇぇぇぇ! 腕思いっきり負傷してるの忘れてたぁぁぁぁぁぁ! 

 

 

 

 

 ギャラハッド十五歳。最強の騎士にして実父であるランスロットに試合に負けて勝負に勝つ。




今回の原典引用
・ギャラハッドは成長するとランスロットを訪ね、騎士としての試練と叙任を受けて騎士になった


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アルトリア・ペンドラゴン

なんかお気に入りがめっちゃ増えててニンマリですよ。これでイシュタル出なかった悲しみを乗り越えていける
お気に入り登録、評価、感想、誤字報告ありがとうございます

※追記 10月5日の日刊ランキング35位に載りました! ありがとうございます!


 突然だが、TSというものをご存知だろうか。一言で纏めるなら『(性別が)入れ替わってるぅ!?』という状態のことであり、創作物においては物語にスパイスを加えるため、しばしば用いられる手法である。なぜ僕がその話をするのか? 答えは単純だ。

 

「面をあげよ」

 

「はっ」

 

 見上げれば、ブリテンの王であるアーサー・ペンドラゴン(♀)が玉座に座していた。そう、♀である。

 

♀なのである! 

 

 ———————————いや、なんでぇ……? 

 

 昔の物語に解釈や説話が数あることは常である。それはアーサー王物語も例外ではない。だが、ギャラハッドの知っている限りではアーサー王女性説なんて聞いたことすらない。いや、そもそも奥さんも子供もおるんじゃろ? だが女だ。

 数多くの男の娘に騙されてはそれでもいっかと許容してきたギャラハッドにとって、性別の識別など実に容易いことだった。

 

 ———————————-クッ、(女)王様……もう結構お年を召してるはずですけど、胸部装甲の望みは捨ててはいけません……! 見た目もお若いし、きっと成長ホルモンが出てないだけなんや……。

 

 ギャラハッドは思わず涙を零した。王の将来への希望が限りなく薄いこと、王妃とのあまりの経済格差にこの世の理不尽すら呪った。山がないことにここまで悲しくなったのは生まれて初めてである。

 周りの騎士達は急に泣き出したギャラハッドを珍妙に思いながらも、特段王に害を与えたり、不敬なことではないのでスルーした。念願叶って騎士になり、王の尊顔を見て感極まり涙を流す者も少なくはない。ギャラハッドもそういう類の人物だと思われたのだ。

 

「どうした、ギャラハッドよ。なぜ泣く。遠慮することなく言うといい」

 

「……ならば王よ。不躾ながら申します。僕は未来も、夢も、希望も見出すことが出来ませぬ」

 

 ギャラハッドの余りにも不敬な一言に、場内がざわつく。一般的な王の守護騎士はもちろん、あの円卓の騎士ですらあっけに取られていた。

 

「——静まれ」

 

 王の玲瓏な声だけで動揺は鎮火していく。

 アーサー王は、ギャラハッドが言いたいことを理解していた。国の中心、王が住まうこの城に来て、彼は未来も夢も希望も見出せない、と言った。これはギャラハッドがこの国の現状を憂いているのだ。

 未だ終わりが見えぬ戦争に、広がり続ける戦火。救世主と呼ばれて誕生した自分(アーサー王)も、結局この蟻地獄のような世情をどうすることもできずにいて、未来(さき)が見えない世である。

 突然慇懃無礼なことを言い出したこの子供に、王はどんな裁定を下すのか。部屋中の騎士が耳を澄ませる。

 

「……ギャラハッドよ、貴殿の言いたいことは理解した。ランスロット卿の言っていた通り、まさに穢れなき騎士だ。しかし最早国をも覆う戦火の最中で、国を守り、民を守り、誇りを守る。そんな理想を成すためには力があらねばならぬ。この現実を踏まえた上で貴殿は何を成そうと言うのだ?」

 

「……王よ。僕には王のような凄まじい聖剣はありません。ランスロット卿のような武勇もございません。僕にあるのは、多くの愛情を注がれて育ったこの体と、盾と、鎧だけです」

 

 王としての風格を出したアーサーに全く引くことなく、王の問いに答え始めるギャラハッド。一体なぜ、自分達の半分にも満たない歳の子供が王に臆することなく話せるというのか。

 

「ですが、それで充分なんです。僕には敵を屠る剣など必要ありません。僕には理想を成す力なんていりません……ただ、この盾さえあれば良いのです」

 

「……それで、その盾一つでどうやって守ると? それだけで民を、街を、国を、全てを! その盾だけで、ブリテンに住まう人々全てを救うと、救えると言うのか!?」

 

「王命とあれば、喜んで」

 

 アーサー王は苦しんでいた。国、騎士、民、王。彼女には守らなければいけない立場と、人々がいる。全てを守れるなら、誰もがそうしている。それが出来ないから彼女は選んで来たのだ。救うべき民を、土地を、命を。自分勝手に命の価値を決め、生かす命を選んで来た。

 今のギャラハッドとそう変わらぬ歳の時に王位に就き、突きつけられたのはその選択ばかりだ。今まで幾つの命を見殺しにし、その度にアーサー王から離れていった騎士達も決して少なくない。当たり前だ。己の故郷を守らぬ王に付き従う部下はいない。

 だというのに、この若き騎士は盾と鎧、我が身だけでブリテンの全てを守ってみせるなどとのたまう。

 

 ————————————ふざけるな。ならば、私が今までして来たことはなんだというのだ!?

 

 心の中の自分(アルトリア)が悲鳴をあげても、民のため国のために(アーサー)となった自分が為して来たことは全て無意味ではないか。

 あまりの憤慨に(アーサー)としての仮面が剥がれ、アルトリア・ペンドラゴンの顔が覗く。幸いにもそれはアルトリアの義兄であるケイしか気づくことはなかったが、とにかく王が怒っている、ということはこの場にいる騎士全員が察していた。

 

「……面白い。本当にその身と盾と鎧で、我が国の全てを守れるなどと言うならばやってみるといい。もし出来たのならばギャラハッド、貴様が望む恩賞を何でも与えてやる」

 

「しかと承りました」

 

 アーサー王らしからぬ無理難題に、しかしギャラハッドは微塵も臆することなく了承した。始めはランスロット卿が推薦したというギャラハッドのただの騎士任命式であったはずが、なぜこうなったと誰もが胸中で呟いた。……ギャラハッドも例外ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 —————————————どうしてこうなったか、と言われれば、僕が一国の王様に馬鹿正直に「胸……ないですね。希望もないですね」なんて失礼なことを言ったからだろう。遠慮なく言ったら罰せられる世知辛い世である。

 

 というか、アーサー王は何故急に国の話を始めたのだろうか。胸の話を暗号化して怒っているのかと思ったけど、さっぱりわからなかったのでマジメに答えておいた。

 そう、僕に剣なんて要らないんだ。どうせ扱えないし、盾と鎧と健康な体で充分である。だというのに、何故国の全てを守れるかどうかの話になっている!? いや、出来るか出来ないかで問われたら出来るけど、やりたいかやりたくないかで言えばやりたくない。だって国全体を守れるくらいの魔術の展開は疲れるし。

 でも上司、それも一国の主から言われたらやるしかないのが騎士の悲しいところ。というか原典でもあったかもしれない出来事な以上無視できないんだよね、強制イベントっぽかったし。

 よぅし、キャメロットの騎士ギャラハッドの初仕事はブリテンの全てを守ることだ! あれ? もしかして騎士ってブラック……? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が出した条件は二つ。ギャラハッドの騎士任命の翌日から数えて一週間、戦死者を出さないこと。さすがに餓死や病死などはフェアじゃないので条件に付け加えることをしなかった。

 そしてもう一つはギャラハッドの力だけで一つ目の条件を満たすこと。私はもちろん、他の円卓の騎士やマーリン、果ては末端の騎士まで彼に手を貸すことを禁じた。

 出来るものならやってみるといい。そんな子供じみた感情で王命を出したものの、当のギャラハッドは城下で人助けに勤しんでるようであった。

 

「ランスロット卿は愉快なやつを連れてきたな」

 

「……サー・ケイ」

 

「相変わらず堅物だなお前は。昔みたいにケイ兄さんでいいんだぞ?」

 

「私は……王ですから」

 

「そうかい」と呟くと、ケイはボンヤリと窓から見えるギャラハッドを眺めていた。その横顔はかつてとは違い、歳を重ねた証のシワがところどころ見えていた。

 老けたな、とアルトリアは思った。聖剣を抜いた時から成長を止めた己の身体はこれ以上胸が膨らむことなく、女らしい身体つきになることもないため性別を偽るにはちょうど良かったが、幼き頃から共にいた義兄は老けて行き、己はそのままの姿だと取り残されている気分になる。

 

「ん」

 

「……これは?」

 

「報告書。お前が八つ当たり気味にギャラハッドに突っかかって勝負を持ちかけた経過報告。ストレスを貯めるくらいなら小出しに発散しろ。ちなみに戦死者はゼロだとさ。とんでもねぇ人材が現れたもんだ」

 

 渡された報告書に目を通せば、確かに昨日の戦死者は一人もいない旨が書かれている。いや、たまたまだろう。戦死者が一人もいない日が今までなかったわけではないのだから。

 

「……偶然って顔してるけどな、この数字は間違いなくギャラハッドの力だぞ。国全体を覆うほどの馬鹿でかい魔力の盾と、国民一人一人に似たような魔力の盾を展開してる。しかも民を混乱させないように隠蔽までこなしてやがる。バカげた魔力だよ、全く」

 

 衝撃的な内容にアルトリアは目を見開く。本当にやったというのか、国全てを守るなんてバカげた所業を。誰もが為し得ぬ偉業を、あんな子供が。しかし、それだけでケイの報告は終わらなかった。

 

「ただ、あんなバカげた規模の魔力の展開が長続きするわけがねぇ。必ずガタが来るだろう。お前が負けを認めず、くだらん王としてのプライドを張り続けるなら、アイツは魔力が干からびるまで続けるだろう。文字通り、命懸けで、な」

 

「話はそんだけだ」と言い捨て、ケイは執務室から去っていった。

 ケイの話が頭の中をぐるぐる回っていた。王としての体面、ギャラハッドの命。まただ。幾度となく繰り返しても慣れることのない(アーサー)自分(アルトリア)のせめぎ合い。

 

「私は……どうしたら……」

 

 久しく流すことのなかった涙が、手の中の報告書を濡らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私とギャラハッドの勝負の五日目。

 ケイの言う通り、ギャラハッドは日を追うごとに憔悴していく。その様子を見ながらも、アルトリアは動き出すことが出来なかった。

 その日の夜、執務を終えて摂れなかった夕食を食べに行った時、食堂にギャラハッドがいた。何やら料理を作っていたようだが、食堂の入り口で立ち尽くすアルトリアを見ると火を止め、即座に拝礼の姿勢をとった。

 

「王よ、気づくのが遅れて申し訳ありません」

 

「……いえ、たった今来たところなので問題ないです。誰か残っている料理人はいますか?」

 

「お気遣い痛み入ります。……もう夜も遅く、料理人は残らず休息に入ってしまいました」

 

「……そうですか」

 

 確かにもう労働時間をだいぶ過ぎていて責めるのはお門違いなのだが、やはり聖剣の担い手で不老であってもお腹は空くものだ。近年は食事だけがアルトリアの楽しみだっただけに落胆は大きい。

 気を緩めてしまったからだろうか、キュルキュルと空腹を訴える音が二人きりの食堂に鳴り響いた。さしものアルトリアも頰を朱に染める。

 

「……ちょうど良かった。王よ、専属の方には到底及ばないでしょうが、私が作った料理をお召し上がりになりませんか?」

 

「……いただきます」

 

 どんなに意地を張って、気を張ってもアルトリアも人間である以上食欲からは逃れられなかった。ギャラハッドは既に厨房に戻っており、作りかけの料理を完成へと近づけていくにつれていい匂いが嗅覚を刺激した。

 

「どうぞ、お召し上がり下さい」

 

「……貴方の分はどうしたのですか?」

 

 置かれたのはアルトリアの分だけ。もともと一人分しか作っていなかったのだから、アルトリアに料理を渡したらなくなるのも当然だった。

 

「……お食べなさい。人の食材を奪ってまで自らの腹を満たすほど落ちぶれてはいません」

 

「いいえ、それは違います、王よ。それは僕が王のために拵えた料理です。貴女以外に食べられてはその料理の価値は無くなってしまう。僕の腕不足は重々承知の上で、召し上がってはいただけないでしょうか?」

 

 押し出した皿を押し戻される。見れば、ギャラハッドは再び席に着くことなく立っていた。たかが一騎士が、王と同じ食卓に着くなどあってはならないことくらい新参者のギャラハッドですら理解していた。

 

「……わかりました。ですが席には着きなさい。もともと貴方が先にいたのですから、私は構いません」

 

「……それでは、失礼します」

 

 渋々ではあるがギャラハッドが同じ卓に着いたのを見て、アルトリアは最後に卓を共にしたのはいつだろうかと思い浮かべる。公的なものを除けば、恐らく自分が王になる前……いや、選定の剣を抜く前だろう。

 ……忙殺されていた日々に押し潰されて今まで忘れてしまっていた思い出を、彼が作った料理を食べるたびに思い出す。何も難しいことを考えず、ただ剣を振るい、パンを食し、怒って、笑って、泣いていたあの頃を。

 

「……ッ!」

 

 堪える間も無く熱くなった目頭から涙が滴る。醜態だ。臣の前で涙を流すなどあってはならない。わかっているのに、涙は引っ込んでくれなかった。

 ギャラハッドは、何も言わなかった。それが何よりもアルトリアには有難く、声を殺して静かに泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 王の命令から五日過ぎた。

 僕の心境を叫びたい。そう、限界なんだ。

 

————————————眠い! 

 

 王の怒りとか魔力枯渇とかそんなチャチなモノじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。ちょっと騎士っぽい言い回しをしたくてカッコつけて「王命とあれば」とか言った自分をぶん殴りたい。

 国を覆う規模の防御魔術の展開はちょっと疲れるだけだから問題ない。維持のために消費する魔力も大した量じゃない。だが、この術を展開してる限り寝れないのだ! 寝ても出来るなら騎士じゃなくて魔術師になってるってんだよ! バーカバーカ! (五徹のテンション)

 当然王命は絶対なので、これ以外の仕事を回されることもなく暇だ。暇すぎて、「暇があれば人助けしなさい」という母さんの教えで城下を駆け回り、趣味でヒーローやってました。母さん、元気ですか? 僕は眠いです。

 そんな感じで色々限界が近かったその日の深夜に王様とかち合う。眠い。

 何かを話していたのは覚えているが、もう脳みそは半分寝ていた。次に意識がはっきりしたのは再び調理器具を握っていた時である。そうだ、思い出した。なんか王様に料理を作る話だったっけ? 

 失礼のないように王様の目の前に料理を置き、卓に着くことなく立っていた。座ったらもう夢の世界にダイブする自信しかない。さすがにそれはやばいって思うんですよ。王様結構怒りっぽいらしいし。

 ……あ、座れ? 私は気にしない? ……は、はい。王命とあれば(自虐)

 

 ———————————あ、さよなら世界。僕は夢の世界に旅立ちます。帰ってきたら首がなくなってたなんてのは勘弁して下さい。

 

 

 

 その、二日後の話であった。

 

「ギャラハッドを、円卓の騎士第十三席に迎える!」

 

なんでさ!? 

 

 

 

 ギャラハッド十六歳。円卓の騎士第十三席に迎え入れられる。




今回の原典解説
・ランスロットに連れられ、アーサー王と出会ったギャラハッドは王から出された難題を達成し、円卓の席に着く
・円卓の第十三席はマーリンの魔術により、相応しくないものが座ると呪われたらしいが、ギャラハッドはモノともしなかった


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別れ

おいおい、お気に入り登録が五倍近くになってるんですけど!? 誰かゴベェ界王拳使った? 体壊れますよ? ありがとうございます!
今回後半部分勘違いなしとかいう勘違いタグがある作品にあるまじき話。ブリテンはどうしてもシリアスになるから許してちょんまげ……
あと今回話が性急すぎてわけわからんという方は後書きにて本編で書くと長くなりすぎるためにカットした補足があるので是非。それでもわからなかったら感想で聞いてくだされ。あと今回時系列めちゃくちゃなのは自覚してるので突っ込まないでね♡

とりあえずギャラハッドはなんやかんやで円卓生活を楽しんでいて、アルトリアも尊敬していたとだけ頭に入れるだけでもわかりやすいかと

※10月6日 日刊ランキング3位達成!ありがとうございます!

※10月6日 日刊ランキング1位、だと……!?マジで感謝……!


 ———————————我こそは、誉れ高きアーサー王の忠臣にして、誇り高き円卓の騎士が一! 円卓の第十三席、堅守のギャラハッドである! 

 

 久々の朗報に国は大いに湧いた。新たな英雄の誕生。それはすなわち、この終わりなき戦争から解放される一筋の希望の光である。

 ギャラハッドが若き騎士であることも新たな風の予感を民の心に届け、彼は大きな期待を寄せられて円卓の騎士最後の一席に座ることとなる。

 かかる期待と比例して、当然ギャラハッドの仕事も激務となる。

 ブリテンの地を汚さんとする蛮族の掃討のため、彼はあらゆる戦場に駆り出された。なにせ文字通り国を守る力があるのだから、常に最前線に駆り出され、まるで兵の損失を抑える装置のように扱われていたことを、当時を振り返ったアルトリアは否定出来ない。

 それでも、民を守れるのならと彼は休むことなくブリテン全土を駆け回る。西へ東へ。魔力が枯渇しきった状態で報告を済ませ、王室を出た途端に気を失うこともしばしばあった。

 そんなことがあっても、情けないことにブリテンはギャラハッドに頼らざるを得ないのだ。いつからか、同じ戦場で軍を率いることになった時以外に、彼の姿を見かけることは無くなっていた。

 それでも彼がしたことが報われたのなら、多少の救いはあったのかもしれない。

 ブリテンはもう長年凶作続きで、とても国民全てを食わせられる食料なんてなかった。それでもなんとかやってこれたのは、皮肉なことに、戦争によって人が死ぬからであった。

 ギャラハッドはその均衡を崩してしまった。彼が率いる軍は死なない。彼が守るからだ。

 結果、ブリテンでは例年にない大規模な間引きを行い、それが民からも騎士からも大きな反感を買うことになる。悪意をぶつけられるのも、もう彼女は慣れていたが、今回はそれだけに留まらなかった。

 年々積もりに積もったその悪意は最早アルトリアだけに留まらず、この大間引きを引き起こしたキッカケとなったギャラハッドにも向くことになる。

 守るべき民を守り、救うべき命を救ったはずなのにその民達からは悪意をぶつけられるギャラハッドの心境はどうだったであろうか。それは王であるアーサーにも推し量ることは出来なかった。

 そんなことがあってもなお、彼は円卓の騎士であることを辞めることはなかった。

 騎士はもちろん、円卓の一員であったトリスタン卿ですら(わたし)を見限り離れていったというのに、当の本人であるギャラハッドは以前と変わらず戦場に出張る。つい先日も、長くブリテンを苦しめているピクト人を退けた。死者を出すことなく、だ。

 かつてマーリンが私に「ギャラハッドはランスロット以上の騎士になる」と言った通り、歴代最高の円卓の騎士になった。だが民も騎士も、最初に向けていた尊敬の眼差しは憎悪に変わり、そして恐怖となる。

 凡そ人が人に向ける視線ではないソレは、いかなる攻撃を以っても傷一つつかないギャラハッドに、唯一深い傷を負わせるものだっただろう。その証拠に、彼はキャメロットに帰ると自室に引き篭もり、かつて私に料理を振る舞った時の優しげな表情を見ることはなくなった。

 

 ———————————————何故だ? 何故こうなったのだ? 

 

 ギャラハッドを円卓の騎士に任命したからか? 彼を戦場に出したからか? ……違う。ギャラハッドが現れるより前に均衡は崩壊しかけていた。ギャラハッドはあくまでもキッカケにすぎない。

 

 ———————————————私だ。

 

 私が、ブリテンを救えなかったからだ。(いや)! 今からでも救わねばならない! 

 国が疲弊し、正に存亡の危機にあるブリテンが縋る先は一つしかなかった。

 

 そう。——————————————聖杯だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、ギャラハッドであります。

 僕は今、とても疲れています。でもそれ以上に疲れている上司(アーサー王)がいるから休めません。

 まさにブリテンは大暗黒時代だ。ただの騎士が辞職することは結構あったが、先日円卓の騎士であるトリスタン卿すらも辞めてしまった。フッ、やつは円卓の騎士(してんのう)の中でも最弱……! しかしあんなに頑張っている王に対して、あんな酷いこと言うとは思わなかった。ちょっとゲンメツ。

 来る日も来る日も戦場。たまに帰れても書類仕事が待ち受けていて、部屋に缶詰である。恐らく表情は死んでいる。悪口? そんなもん気にしてたら前世のネット社会で生きていけないわ! おかげでかつての妖精達の毒舌に耐えられた。サンキューパソコン。君が恋しいよ……。

 さて、僕は内政に干渉したことはないので詳しい国情はわからないが、王様の様子を見るに相当まずいのだろう。挙げ句、聖杯なんて胡散臭い物に手を出し始めたらしい。

 

 —————————————え、僕が探すの? 過労死させる気? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖杯の探索は思わしい結果を得られなかった。

 名だたる騎士でも見つけることは叶わず、円卓の騎士も投入した。にも関わらず、聖杯を手に入れることは叶わなかった。

 そうなると、次に誰を派遣するかは考えが一致していた。

 今やランスロットに代わり、円卓最強を名乗っても差し支えないであろうギャラハッド……国を守る英雄を、やはりこの国は最後まで使い潰すつもりのようだ。

 アーサー王は反対したが、すでにここまで国を追い込み、聖杯探索を失敗した王の発言は弱く、ギャラハッドの聖杯探索は確定する。

 ギャラハッドは嫌な顔もせずに頷いた。いや、すでに嫌と想う心があったのかすらわからない。

 

 —————————————-ごめんなさい、ごめんなさい。

 

 心中で何度も謝った。国を守れぬ弱き王を、貴方に頼らねばならぬ頼りなき王を、貴方をここまで傷つける愚かな王をどうか、どうか。

 

 —————————————-許さないで欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ギャラハッドが居なくなったブリテンは大いに揺れた。

 キッカケは、王妃とランスロットの不義であった。当然これを見逃していては王としての示しがつかぬと、アーサー王は王妃であるギネヴィアを処刑しようとするも、ギネヴィアを助けに来たランスロットが円卓の騎士を打ち倒し、ギネヴィアと共に逃亡。

 アーサー王はランスロットの討伐に向かうも、その中途で円卓の騎士モードレッドの反逆が起こり、ブリテンは円卓の騎士達による内乱の戦火に晒された。

 まるで示し合わせていたが如く、全てがギャラハッドのいない時に起こされていた。当然だ、死なない軍団を率いる人物との戦争なぞやり合うほうが馬鹿らしい。

 度重なる失態で求心力を失ったアーサー王の味方をする者は少なかった。ランスロットに兄弟を殺され、怒りに震えるガウェインはランスロットに敗れた。もはや、ブリテンはこれまでだった。

 そんな内乱が一年以上続く。外敵とではない、かつて味方だった者との戦争なんて外国からしたら侵略のチャンス以外の何物でもない。……だが、だからこそ遠国にいたギャラハッドの耳にも届いたのだ。

 決戦の地、カムランの丘。

 激しい戦闘で次々倒れていく兵達を消耗し、両軍は間もなく決着を迎える。アーサー軍千に対し、モードレッド軍は実に一万以上。誰がどう見ても、アーサー王はここまでだった。

 

「——防御術式展開」

 

 誰もが、モードレッドですら勝ちを確信したその時、彼は現れた。

 

「ギャラハッド……ッ!」

 

 モードレッドにとっては最悪のタイミングであった。すぐそこに、アーサー王の首があるというのに、ここに来てブリテン最強の男が現れるとは。

 焦るモードレッドに対し、アーサー王の心は穏やかだった。それはギャラハッドが助けに来た……からではない。そもそも彼が忠を尽くす王などもういない。いるとするならば、彼が恨む権利のある愚王だけだ。

 

「……モードレッド卿。いや、モードレッド、お前はガキだ。上手くいかず、イラつくことがあれば相手の気持ちも周りへの被害も考えることなく、感情的に動くただの子供だ」

 

「うるっ……せぇっ!」

 

 怒りに任せた一振りを、避けることも逸らすこともなく真正面から受け止める。全力で剣を振り切ろうとするモードレッドに対し、ギャラハッドの目は冷ややかだ。それを見たアルトリアの背筋が凍る。

 

「テメェに何がわかるってんだ! 望んだもの全てを手に入れてきたテメェなんかに!」

 

「わかるさ。僕はお前の生い立ちを知っている。君が何を思って円卓の騎士になったかなんて、皆お見通しだったさ」

 

「なら俺のジャマをするんじゃねぇ! そこを退け、ギャラハッド!」

 

 兜をしていてクラレントを解放出来ないはずのモードレッドから赤雷が迸る。辺り構わず拡散していくその殺戮兵器を魔力の盾で全て防いでからギャラハッドは重々しく口を開いた。

 

「————僕は、ランスロットの子だ。君と同じように認知されなかった」

 

 ギャラハッドが初めて明かした生い立ちに、モードレッドもアルトリアも周りの騎士達も例外なく目を見開いた。

 

「そして僕はとある修道院で、シスターを母親代わりにして育った。モードレッド、君とのたった一つの違いはきっと、幼い頃に愛情を注がれたかどうか。それだけだ」

 

 それまで淡々と語っていたギャラハッドが、次の瞬間には怒りに満ちていた。

 

「……だが、僕を愛してくれた母さんは死んだ。お前らが起こした内乱のせいでな」

 

 ギャラハッドの、本気の怒り。それを受けた騎士達はみな、金縛りにあったかのように身動きが取れなくなる。

 

「……モードレッド、君は子供だ。君の親を恨む気持ちもわかる。親に認められたいという気持ちも当たり前のことだ。だが、なんでこんな手段を取ってしまったんだ……! 王に敵として認めてもらうのが君の望みだったのか?」

 

「……何だ? ヤケに王の肩を持つじゃねぇか。惚れでもしたか?」

 

「……なぜそこで色恋沙汰の話になる?」

 

 ……本気で挑発を理解していないようだった。仕掛けた側のモードレッドも眉をヒクつかせている。

 

「……まぁいい。メンドクセェ問答はこれまでだ。お前が邪魔するなら、お前ごとブッた斬るだけだ!」

 

 反逆の騎士モードレッドと円卓の騎士ギャラハッドの戦いが始まる。モードレッドは王を斬らんとする剣。ギャラハッドは王を凶刃から守る最後の砦だった。

 やはり、というか戦局はギャラハッドが優勢である。モードレッドの剣を完璧に捌き切り、反撃に当てられる盾での殴打も決して安くない攻撃だ。殴られた部位から鎧が剥がれ、血が滴る。

 

「……モードレッド。君の王への怒り、怨念、恨み、全てを王の盾である僕が受け止めてみせよう。逃げも隠れもしない。———来い」

 

「……上等だ、後悔すんなよ盾野郎!」

 

 モードレッドの兜が弾け飛ぶ。それが意味するのは燦然と輝く王剣(クラレント)の解放。すなわち、モードレッドの本気だ。

 

「此れこそは、我が父を滅ぼす邪剣! ———————『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』! 

 

 凄まじい赤雷の奔流が龍の如く、ギャラハッドをその後ろにいる王もろとも飲み込まんとうねり、迫る。元々強力だったモードレッドのクラレントが王への妄執によって邪剣と化し、更なる威力を含んだ一撃へと昇華したモノ。間違い無く、モードレッドのこれまでで最強の一撃だった。

 それを見てもギャラハッドは慌てることなく、いつものように盾を構える。

 

「……モードレッドよ、我が父よ。これが君達が捨てたものだ。そして我が王よ、これが貴女が今まで守って来たものだ」

 

 邪剣にも劣らぬ魔力がギャラハッドに集まっていく。だが、アルトリアは気づいていた。ギャラハッドは今までとは違う質の魔力を纏い、盾を振り下ろし……高らかにその名を呼んだ。

 

「魔力防壁、展開……此れは全ての騎士、全ての円卓が集いし、我らが故郷——顕現せよ、————-『今は遠き幻想の城(ロード・キャメロット)』! 

 

 王都にあるはずの白亜の城が、ギャラハッドによって戦場に顕現される。文字通り、ギャラハッドはモードレッドの全てを受け止めるつもりだ。続く第二撃もキャメロットに傷一つつけることすら叶わない。三撃、四撃……幾度となく落雷に等しい一撃が降り注ぐ。

 やがて、モードレッドが膝をついた。あれだけの威力の攻撃を考えもなしに連発したら、さしものモードレッドも魔力切れ(うちどめ)だ。

 言葉の通り、モードレッドの全てを受け止めたギャラハッドは傷一つない白亜の城の顕現を解き、しっかりと二本の足で立つ。どちらが勝者でどちらが敗者かなど、一目瞭然であった。

 

「……まだ暴れ足りないなら時間が許す限り相手をしよう」

 

「……チッ、全力の攻撃を防がれちまったんだから勝ち目なんてねーだろ。負けだ負け。殺すなり犯すなり好きにしやがれ」

 

「……じゃあ遠慮なく」

 

 言うや否や、ギャラハッドの拳がモードレッドの頰に突き刺さる。モードレッドは配下の騎士達を巻き込みながら吹き飛んで行き、砂塵と人垣の彼方へと消える。

 

「……無抵抗の人を甚振るのは、きっと母さんが望まない。だから、さっきの拳で勘弁してあげるよ」

 

 決着は、着いた。

 数の上ではモードレッド軍の圧倒。だがギャラハッドにとって数など問題ではないことは、かつて味方だったからこそ誰もが知っていた。誰も身動きせず、カムランの丘は沈黙に包まれる。それを破ったのもやはりギャラハッドだった。

 敵には目もくれず、一直線にアルトリアの方へと歩いて行く。報復か、復讐か。これまでブリテンが彼にした仕打ちを考えれば、アルトリアがギャラハッドによって裁かれるのも当然のことだとアルトリア本人ですら思った。

 ——しかし、彼はアルトリアに剣を……否、盾を向けることはなかった。それどころか片膝をつき、拝礼の姿勢すらとってみせた。

 

「……王よ、帰還が遅くなりました。また貴女の盾であると言われ、それを自負していたはずなのにブリテンを守れなかった僕を、どうかお許し下さい」

 

 ギャラハッドは王を恨んでなどいなかった。最後まで……いや、ブリテンが滅んでもなお忠臣であり……紛れも無い、円卓の騎士であった。

 騎士達から……或いはアルトリアから流れ出た涙は、どの感情に起因するものであろうか。それは本人達ですらわからないが、その涙が止まることはなかった。

 

「……何故です? 私はもう、ブリテンの王ではありません。貴方が仕えるべき王は……アーサー・ペンドラゴンは、もういません」

 

「恐れながら王よ。……いえ、アルトリア・ペンドラゴン様よ。恐れながら、僕はアーサー王に仕えたのではありません。アーサー王が貴女だったからこそ仕えたのです。モードレッドやランスロット……いや、アグラウェイン卿やケイ卿、ガウェイン卿がアーサー王であっても、僕は恐らく仕えなかった」

 

 本当に苦しい時、辛い時。そこで他人より頑張れる人がどれだけいようか? 自分を犠牲にし、周りを守ろうと奔走する人が何人いるだろうか? 

 確かにギャラハッドは未だ若輩だ。だが、そんな人はごくごく稀にしかいないことを彼は知っている。何故か? それは彼が、ギャラハッドとは別の人生も歩んだことのある【転生者】だからだ。原典とか、歴史だとか、そんなものは関係なくギャラハッドはアルトリア・ペンドラゴンに仕えていたかった……それだけの話なのだ。

 

「……ですが、私は貴方を酷い目に遭わせ、 ブリテンすら守ることが出来なかった愚王だ」

 

「僕も、貴女がそこまで憔悴しきってしまうほど貴女を守れなかったダメな騎士です」

 

「……貴方は立派に私の盾として役目を果たしてくれました。国を守り、民を守り、そこに生きる全ての者の命を救った」

 

「いえ、確かに僕は民を守り、国を守ったかもしれません。……ですが、まず何よりも守るべき持ち主(あるじ)を守れていなかった」

 

「……私は王です。民を守り、国を守るのが使命だ」

 

「……これは陳腐な言葉になりますが、民を守り、国を守るのが王……そこに異論はありません。ですが、なら民を守り、国を守る王を守るのは一体誰ですか?」

 

 国や民を守る存在はいれど、王を守る存在はいなかった。アーサー王から命じられた意図とは違ったが、ギャラハッドは王を守る盾であらんとした。

 

「……初めはなんとなく騎士になろうって思ってました。いきなり円卓の騎士になり、なんとか仕事をこなし、大変でしたが……楽しかった。僕は、いつからかそんな気持ちを立場関係なく、王とも分かち合えるような、そんな時代になるといいなと思ってました」

 

 そんな時代、少なくとも彼らが生きる時に来ることがないことは知っていた。理想を追い、そして破れた……実に英雄の皮を被っても一般人らしいありふれた結末だ。

 

「……ですが、どうやら時間切れです」

 

「……え?」

 

 原典において、ギャラハッドの最期とはどのようなものであったか? 戦死でも餓死でもなく、天使による昇天だ。聖杯を見つけたギャラハッドは異国の地で、旅の途中で見つけた数々の宝具級の品々と、聖杯を抱えて昇天したと言われている。

 ならば、人類史にギャラハッドがアーサー王を救いに来たという事実はあってはならない。ギャラハッドが昇天を選ばず、カムランの丘に現れる。それは《もしも》の話であり、《事実》ではない。世界は、その《もしも》を許さなかった。

 

「僕は、最後の最後で本筋(ストーリー)に沿えなかった。本来僕は貴女と再び出会うことなく、昇天していたのです。それを破り、ここに来てしまった僕を、世界はきっと許さない」

 

 ギャラハッドとして長年を過ごすうちに、彼は何となく「こうしなければいけない」という考えがどこからか湧くことがしばしばあった。きっとそれが原典の大筋に沿うことであり、事実その通りであった。

 だが、そんなことはアルトリアにはわからない。

 

「何を、言っているのですか……?」

 

「アルトリア様、貴女の盾という任、暫しのお暇をいただきます」

 

「貴方までいなくなったら、私はどうすればいいのですかっ……!」

 

 そんなことは、ギャラハッドにもわからない。彼が知っているアーサー・ペンドラゴンは聖剣を湖の乙女に返し、アヴァロンにてその旅路を終えることまで。その先、アーサー王はどうしたのか、誰も知らない。

 

「……そうですね、アルトリア様は謂わばずっと仕事をして来たわけですから、今度は女性としての幸せを掴むのはいかがですか? 自分の心が選んだ人物と結婚し、子を成し、育てる……そんな生活もアリかと」

 

「そうですか……?」

 

 男女の関係は確かに知らない。王でなくなった今、そんな風に生きるのもいいのだろうか。そんなことを考えていたばかりに、ギャラハッドがアルトリアを【女性】と言ったことを聞き逃す。

 

「えぇ。どうかお幸せに。命は繰り返し、生まれ変わる。僕は生まれ変わったその人生でも、アルトリア様のお幸せを願っています」

 

「ご達者に。貰い手がいなければ押し売りに行きますので」

 

「はは、それは光栄なことです。————それでは」

 

 最後は笑顔で、ギャラハッドは旅立って行った。慣れない冗談だったが、誰かを笑わせることが出来るなら冗談も悪くない……少なくとも、アルトリアはそう思った。

 

 ——————————————またどこかで会いましょう。敬愛すべき我が盾よ。

 

 たった一つ残された、彼がいつも使っていた雪花の盾を握り締め、アルトリアもまた笑った。王としてでも、主としてでもなく、友としてギャラハッドを見送りたかった。

 アルトリアを暖かい魔力が包み込む。それは数えきれぬほど我が身を守ったギャラハッドのものであり、最後の残滓だった。やがて魔力は薄れ、なくなり、消えていく。それでも彼から貰ったものは消えることはなかった。

 

 ——————————————大丈夫です。故郷(キャメロット)は今でも、私の胸の中にあります。

 

 風がふわりと彼女の肌を撫でた。それを契機にカムランの丘の戦い……或いはブリテンの内乱は終わりを告げる。かつての王として……また、アルトリア・ペンドラゴンとして、彼女は新たな一歩を踏み出した。

 

 

 

 ギャラハッド二十五歳。自らが生きた証である盾だけを残し、昇天する。




性急すぎた話を補足する解説(本編でやれ)
・前書き通りギャラハッド君は何やかんや円卓生活を楽しんでいて、辛くても頑張ってるアルトリアに心を打たれて、人として尊敬していた。キャメロット生活に対する思い入れも結構あった

・モードレッドに対しての子供発言は、確かに親に認知されない悔しさや悲しさ、怒りはわかるが、中身が成熟しきった大人なギャラハッドからしてみれば、それで周りを巻き込み感情的になるのは子供の癇癪と大差ないと思ったから。

・アルトリアを尊敬した理由。王に盲目的だったこの時代の人々とは違い、ギャラハッドにとってはアーサー王など課長や部長と変わらない役職名に過ぎない。どんな役職かではなく、誰がその役職かを重視した違い。その上で、誰もが苦しみ、辛い時に己の身を削ってまで仕事をするアルトリアをギャラハッドは人として大いに尊敬した

・宝具の詠唱の変更については、FGOのはあくまでマシュ視点の詠唱で、そのまま引用すると反乱が起こっているまさにこの時に全ての疵や全ての怨恨を癒すとか言えなくない? と変更を決意。其→此れにして、より実感のこもった距離感の近い感じにし、全ての騎士、全ての円卓が集うについては言葉通りの意味。「今は遥か理想の城」から「今は遠き幻想の城」としたのは理想は割りかし現実的な意味を持つらしく、幻想は現実には存在しないものを思うことらしいので、全体を通して、もう現実には存在しないキャメロットでの楽しき生活をギャラハッドは未だに夢見ているというモチーフのもと詠唱を改変しました。気に食わない方がいたらすみません(変えると言ってない)

・なんで後半に勘違い要素がないのかというと、さすがに育て親を殺されて勘違い展開してたらただのサイコパスになると思い、断念。緩い感じを期待した方はすまない(バルムンク)。本編に書いてあるのがそのままギャラハッドの本心だと思ってください。その結果、ギャラハッド(偽)がギャラハッド(真)になってて、作者も困惑中。どうしてこうなった

以下毎度の原典解説
・アーサー王の城で聖杯の幻視が見えるようになり、アーサー王は円卓の騎士に聖杯探索を命じるも、誰も持ち帰ることはできなかったため、ギャラハッドに白羽の矢が立つ。見事ギャラハッドは聖杯を手に入れる。その途中で白い盾、ダビデ王の船と剣、ロンギヌスの槍などを見つける

・聖杯を手に入れたギャラハッドは本当に色々あり、一年近く国を治めることとなり、やがてヨセフという人物に「この世を去りたい」と申し出て、旅の途中で見つけた物と聖杯を抱えて天使に昇天された。そもそもギャラハッド自体がアーサー王の凄さを知らしめるために付け足された人物という説が多く、完璧な人物として描かれていた。ギャラハッドはそんな己の人生をどこかで達観していた、というのが昇天の理由として挙げられる

・モードレッドに明らかにされたランスロットとギネヴィアの不義により、ギネヴィアは処刑にされるところをランスロットが救出し、フランスへ逃亡。その際ガウェインの弟達であるガヘリス、ガレス、アグラウェインを殺害。それに激怒したガウェインはランスロットと一騎打ちするも敗北し、重傷を負う。アーサー王はランスロット討伐しにフランスへと向かうも、その際にモードレッドがブリテンで叛逆を起こし、先遣隊としてブリテンへ戻ったガウェインは重症が響き殺害され、アーサー王とモードレッドはカムランの丘で相見え、相討ちで深手を負う。そしてアーサー王はベディヴィエールに聖剣の返還を任せ、傷を癒すためにアヴァロンへ向かったとされている。

・ちなみにアーサー王の死後、ギネヴィアは自分を迎えに来たランスロットを拒絶し、出家する。友と円卓の騎士に多くの犠牲を出したことに責任を感じたランスロットもまた出家。二人は二度と生きて会うことはなかった。やがてギネヴィアが亡くなったことを知ったランスロットは、自ら食を絶って餓死したという。

※この原典解説はかなり簡略化し、ガバガバなためアーサー王ガチ勢の方が見たら怒るかもしれませんが参考にした部分を書き出してるだけなのでお許しください

次回、後日譚


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ブリテン後日譚 〜アルトリアの旅路〜

正直、ギャラハッドがいなくなったブリテンはその後、歴史の修正力が働いたのだろうか、正史と同じ道を辿って行った……みたいな感じの一文で済ませるつもりだったけど、感想で思ったよりブリテン後日譚の要望があったので書いてやったぞオラァン! 注意事項があるからしっかり読めよオラァン!

※この話を読む前に、注意事項があります。
・士郎とアルトリアのペア以外見たくない人はブラウザバック推奨
・また、綺麗な形で終わらせて欲しいという方は前回の終わりのままを思い出にし、この話は見ない方がいいと思います

以上を了承できる方のみお読みください。見た後の文句はロード・キャメロットします。

今回のテーマ『誰かがいなくなっても、残された者の人生は続いていく』

後今回は全部アルトリア視点なので勘違い要素、無し!w 勘違いタグ、お前、消えるのか……!?

あ、あとお気に入り登録二千突破と評価バーの赤、ありがとうございます!何気に10点評価押されたの初めてだから嬉しさもひとしお

※前回にも追記しましたが、10/6 日刊ランキング一位になりました!本当にありがとうございます!


 あのカムランの丘での戦いが終わり、ブリテンは完全な崩壊を迎えた。再び王として私に立ち上がることを求めた者達もいたが、私がもう一度聖剣の柄を握ることはなかった。あれほど必死になって守ろうとしていた物が蹂躙されているというのに、何故だろう。

 無関心なわけじゃない。生まれ育った国が無くなるのは悲しいし、虚しい。だがまるで憑き物が落ちたかのように王であること、国を守ることに固執する気持ちは薄れてしまった。

 

 —————————————— ……これからどう生きようか。

 

 王としてしか生きてこなかった私が王でなくなった時、何をしようかと考えても答えは出なかった。とりあえず、すべきことをせねばならない。

 王でなくなった私は、王の象徴とも言えるエクスカリバーを返還することにした。そして、ここまで付いてきてくれた唯一の円卓の騎士であるベディヴィエールを、聖剣返還の任を機に、円卓の騎士から解放することに決める。ベディヴィエールは嫌な顔もせず、それを了承してくれた。

 ……何がしたいか、という問いに答えるには私は無知すぎる。国について、民について、人について……私はかつての彼と同じように旅に出ることにした。幸い、聖剣を返還するとその不老の機能が解け、私は本来成長するはずだった姿を取り戻す。……どうやら私の胸はかなりあるらしい。

 そのおかげで幼い見た目の男王だったアーサー・ペンドラゴンだと疑われることは一度もなく、余計なトラブルに見舞われることもなかった。……いや、下衆な眼差しを向けられることはあったが。

 ともあれ、ギャラハッドが言うように女としての幸せを掴む日は遠そうだ。……待てよ? 

 

「何故彼は、私に【女】としての幸せをなどと……?」

 

 もしかしなくとも、彼は私が女だと気付いていたというのか? その上で、最期まで私に付き従ってくれたと? 男尊女卑が激しいこの時代で? ……いや、驚きはすまい。それがギャラハッドという騎士なのだろう。

 

「……貴方以上に素晴らしい男性に出会うのは難しそうですね、ギャラハッド……」

 

 空を見上げる。そして雲を眺め、天へと昇ったギャラハッドがどこかにいないだろうかと探し、見つからずに諦める。この広い空のどこかで見守ってくれているのだろうか? それか何処かで生まれ変わり、新たな命として生まれてきてるのだろうか? 

 そっと傍らに倒した盾を撫でる。度重なる激闘を経てきたはずのギャラハッドの半身は、持ち主の心を写したように傷一つない姿を太陽に向けていた。

 

「……重いですね」

 

 魔力による筋力強化をしなければ、アルトリアの膂力は並みの騎士とそう変わらない。軽く振り回すだけでも体を持っていかれそうになり、やはり剣とは根本的に違うのだと思い知らされる。彼は本当に自分より歳下なのだろうか? 

 

「そもそも、どこの世界に盾だけで戦う騎士がいるのですか……ッ!」

 

 楽しい思い出を話しているはずなのに、胸が苦しい。笑っているはずなのに、声が震える。王という仮面を被らねば、自分はここまで泣き虫だったのだろうか。

 

 ——————————————そうか、私は寂しいのか。

 

 私とともに戦ってくれた円卓の騎士から、離反者と裏切りが出た。私に着いてきてくれた者も死んでしまい、ベディヴィエールも今どこで何をしているのか知らず、ギャラハッドはもう居なくなった。……一人だ。王でなくなった(アルトリア)は一人だった。

 ガシャリ、とギャラハッドの盾が震える。いや違う。震えているのは私だった。もう縋る先なんて、彼の忘れ形見しかない。幸いにもその盾の影にいたから、泣き顔を誰かに見られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅を続けていたある日、ふと彼が育ったという町を見てみたくなった。アテもない旅よりはいいだろうということもあったが、本当にたまたま行ってみたくなったのだ。

 ……道のりはかなり遠く、馬無しで行くには厳しい距離だ。だが今の私には時間だけはあった。

 辺境と言って差し支えないところだったが、彼が言った通り、あの内乱の戦火はここにまで及んでいたらしい。家屋は潰れ、原型が残っている物の方が珍しく、新しい血痕が通路の石畳のあらゆる所に飛び散っている。

 彼が育ったと思わしき、この町唯一の修道院も例外なく原型を留めることなく、看板が辛うじて文字が読めるくらいだ。

 

「うっ……」

 

 一際ひどい腐乱臭がする。ここに住んでいた人の数が多いからであろうか。見れば、一際大きな女性の遺体は服を着ていない。まるで破かれたかのように捨てられている衣服を見れば、何があったかなど想像に容易かった。

 

「せめて、彼と同じところへ……」

 

 このまま残していても疫病のもとになるだけだ。あの優しい彼の母親がそのようなことを望むわけもないと、せめてもの弔いで遺体を燃やし、残った骨を地中に埋める。

 

「……すみません、コレはまだ私に貸しててください」

 

 本来なら故郷とも言える場所で家族達と同じ場所に置いとくべきなのだろうが、今のアルトリアには彼が残した盾がまだ必要だった。……弱い(アルトリア)は、頼る物がなければきっと壊れてしまう。

 己が治めてきた国の、その末路。それらは強き王でなくなったアルトリアが一人で受け止めるには些か重すぎる荷だった。

 

 ———————————————やはり、私が王になったのは間違いだったのだろうか? 

 

 最後まで自分に仕えてくれたベディヴィエールやギャラハッドに悪いとは思いながら、やはりそう考えずにはいられない。何もかもとまでは言わないが、ほんの少しでも今よりマシな未来があったのではないか、と。

 

「……貴方が最期まで信じてくれた王は正しかったのでしょうか」

 

 自信がない。この惨状を見て、正しかったのかと問われればアルトリアはきっと首を横に振るしかない。

 重い足取りで、かつて大通りであったと思われる道を歩いていると、自分以外の人影を見つける。向こうもこちらに気づいたらしく、近寄ってくる。見た目は小汚い老人だったが、こちらに向ける眼差しには敵意も悪意も感じられない。

 

「……こんなところに人が来るなんて珍しいな。嬢ちゃん、旅人かい?」

 

「……はい。あの、ここでなにを?」

 

「俺は廃墟になった町の家を漁って、どうにか食い繫いでる哀れな老人さ。こんなジジイを雇う人なんか、このご時世いやしないしな」

 

 語ってる内容とは真逆に老人の声は明るい。若干の嫌悪感はあれど、下賤などと口が裂けても言えなかった。こうせねば生きていけぬ民がいる。それを招いたのも、また私だ。

 

「……ん? 嬢ちゃん、その盾……隣町のやつかい? いや、間違いねぇ、そんな馬鹿でかい盾、他に見たことねぇし、紋様もそっくりだ」

 

「……分かりません。これはとある人の形見を、私が勝手に譲り受けたようなものですから……」

 

「形見、ってことはそうか。あの坊主は死んじまったか……」

 

「坊主?」

 

 そんな小さい頃からこの盾を扱っていたとはにわかには信じ難いが、たしかにあの若さであれだけの腕があったのだからおかしくはない……のかもしれない。

 

「その盾はな、隣町……まぁ俺の故郷なんだが、そこの修道院に預けられたモンらしいんだ。しかも相応しくない者が触れたら呪われるなんていわくつきな品物だった」

 

 ……そんな危険なものだったのだろうか? 少なくとも今触れている私は何ともないし、どこか身体に影響を及ぼしているわけではない。

 

「まァ、だからこそ人が集まって我こそが英雄だと言いながらその盾に挑戦する奴らが、俺がガキの頃から何人もいた。だが、悉く返り討ちよ。おもしれぇくらいにな」

 

 ……面白さはちっともわからないが、どうやらこの盾が相当な物であることは事実らしい。少し不安になり表面を指でなぞったが、やはり拒絶するような反応は感じられなかった。

 

「俺が生まれてからあの坊主が現れるまでの約五十年、そのじゃじゃ馬は誰も主人と認めやがらなかった。————それがどうだい!? 見た目が十前後の子供が何かに躓いたのか、転ぶように出て来てその盾に触れたら、なにも起こりやがらねぇ! そん時は笑い転げたよ!」

 

「は、はぁ……?」

 

 やはりこの老人のツボがさっぱりわからないのはこちら側のセンスがないせいなのか、向こうがズレているのかすらアルトリアにはわからないが、とにかく老人が人生を楽しく生きていることはわかった。

 

「わからねぇかい? 嬢ちゃん、俺の五十年培って来た《盾には触れられねぇ》って常識が、あの坊主のたった数秒で崩されたんだ。その瞬間を見た時、背筋が震えたね。あのアーサー王が選定の剣を抜いたのを直接見た奴らの感動にだって劣らねぇだろう」

 

 アーサー王の名が出て一瞬心臓が跳ねたが、そういうことかと妙に納得してしまった。人智の及ばぬ力を操り、人々の常識を破り、不可能を可能にする。それこそが————

 

「————-英雄だった。紛れもなくその坊主は俺にとっての英雄だった……だが、有望なやつほど早死にするのも世の常なのかねぇ……そういえば、円卓の騎士サマにも確かデケェ盾を扱う方がいたそうだな。えぇと……ギ、ギャラ……なんだっけな?」

 

「……ギャラハッドです」

 

「そうそう、ギャラハッドサマだ。案外、その坊主がギャラハッドサマだったのかもしれないな。年も現れたタイミングもピッタリだ。……嬢ちゃん、その盾、大事にしてくれよな。まァ、もともと俺ンじゃねェけどな!」

 

 老人はまた楽しそうに笑い去っていく。お世辞にも良い生活をしてるとは言えないのに何故あんなにも楽しそうに生きているのか……何となく、アルトリアにもわかった気がした。

 そっと彼の盾を見た。もちろん動いたり喋ったりするわけではないが、まるで玉のような表面が、キラリと光を反射する。

 もう、夕暮れであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……旅を長く続けると、見えてくるものがあった。

 自分の甘さや拙さ、なによりも潔癖さ。人とは清いだけじゃない、汚い部分や醜い部分もある。常に民の理想であらんとする私は、きっと清濁を併せ持てぬ子供だったのだろう。

 王としては正しかったのだと思う。悪を許さず、国と民の命を生かすためのことをして来た。だが、国を引っ張っていくには、私はあまりにも人の裏を知らなさすぎた。国のためと謳っていれば、民がついてくると無意識に思っていたのかもしれない。

 きっと、私から離れていった騎士達は国のためであろうと譲れぬ大切なものがあったのだろう。……今の私には、それが羨ましい。旅の途中でどんなに美しいものを見ても、私の心が満たされることはなかった。

 アルトリア・ペンドラゴンに残ったものは一体なんだろうか? 

 民を見て、人の営みを見た今はそんなことばかり考えてしまう。たった一つ私に残されたこの盾を、私はどうすべきだろうか。

 悩んでいた私に、あの時と似たような風が髪を靡かせた。

 

「……ギャラハッド?」

 

 まるで、彼に手を引かれるように歩いた。歩いて、歩いて、歩いて……。何日歩いたのか定かですらない。時には舟を漕ぐこともあった。

 ……どこに向かっているのだろう? 

 まるで意志を持った風が、木葉のように宙を漂う私を何処かに誘う。ふわり、ふわりと。

 辿り着いたのは————花畑だった。

 一面に広がる花々。赤、青、黄、緑……色とりどりに大地を染める花々は、地平線までも広がっている。

 

『————よく来たね、アルトリア』

 

 懐かしい声がした。いつも飄々として、腹を立たされてばっかりだけれど頼りになる私の魔術の師匠。

 

「……マーリン。ということは、ここが……」

 

『そう。理想郷(アヴァロン)さ』

 

 改めて辺りを見渡す。成る程、確かに理想郷というに相応しい光景だ。だが……なぜわざわざこんな所へ? 

 

「まさかマーリン、あの風は貴方が?」

 

『おぉっと、それは言いがかりさ。正真正銘、アレはギャラハッドのものさ。長らく彼が使ったその盾に残った、彼の最後の意志で君はここに導かれた』

 

「……何のために? もしかして、彼がここにいるんですか?」

 

『……彼はここにはいないよ。彼は間違いなく聖杯と共に天に昇っていった。それは目の前で見ていた君が誰よりも知っていたはずだ』

 

 正直、落胆の気持ちを隠せなかった。ならば、なぜ? 

 

『アルトリア、君の旅路はここで終わりなんだ。もう休みなさい』

 

「終わ、り……?」

 

 嫌だ。まだ見てない景色がある。まだ知らないことがある。私はまだ、何も知らないのだから。……世界の全てを、見ていないのだ。

 

『……アルトリア、認めなさい。いくら君がこの世界を旅しようと、どんな国へ行こうと、どんなに君が求めても、君の探しているものは見つからないよ』

 

「だめ……」

 

『君も本当は気づいているし、分かっているんだろう?』

 

「言わないでください……」

 

 それを言われたら、私は。

 

『————彼がもう、この世のどこにもいないことなんて』

 

 ああ……崩れる。崩れる。崩れていく。私の中のナニカが。

 始めは、本当に自分のためにしていたはずなのに。自分の孤独を知った日から、訪れた町で彼の姿を探してしまっていた。彼の故郷を訪れたのだってそうだ。そこにならいるかもしれない、なんて。気持ち悪い。気持ち悪くて堪らない。

 どこの町に行っても、彼の名残があった。私に命じられて、方々の戦場を駆け回ったからだろう。彼にその役目を命じたツケが今、私に回っている。いまだに彼を嫌う人もいれば、彼に命を救われ、好いている人もいた。まさしく、英雄だった。そんな彼に、相応しい主でいたかった。彼が胸を張れる主でいたかったのに、なぜ私はこうも弱いのだろうか? 

 

『……やれやれ、彼も酷い役を押し付けてくれる。確かに僕は人の感情には疎いけど、何も感じないわけじゃないんだぞ?』

 

 花の魔術師が、今は遥か遠くに行ってしまった騎士に向かってボヤく。心底自分に惚れるだけ惚れさせておいて、本人が気づいた時にはもう二度と会えない場所にいるなんてどんな嗜虐趣味者でもしないだろう。酷い男だ。

 役目を果たした彼の盾が、粒子となって楽園に溶けていく。アルトリアはその光の粒を逃すまいと、必死に空に手を伸ばした。それはまるで、人が神に願っているかのような、そんな風に見えた。

 やがて彼がいた痕跡は全て消え、アルトリアがアヴァロンにたどり着いたという事実だけが残る。花と魔術師と涙……アルトリアの旅路は、それで終わりを迎えた。




毎度の如く原典解説
・もはや書くまでもないし、前回にも書いたけど、モードレッドとの戦闘で傷ついたアーサー王はアヴァロンで傷を癒そうとしたが、結局なくなる。……何? じゃあFateのアルトリアはその後どうなるのか? 知りたい人は、Fate/ZeroとFate/stay nightを見ようネ!

・マーリンの採用理由。やはりアルトリアの旅路を終わらせるのに彼以上の適任がいなかった。というわけで出演。なかなかにしんどい役を任せてすまない


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ギャラハッド後日譚 〜新たなる旅路〜

やぁ!お気に入り登録が三千飛んで四千突破だ!あと週間ランキング6位になったぞ!早すぎてもうよくわっかんねぇ!(思考放棄)

というわけで一章はこれでおしまい!書いてて思ったのが、前話、前々話との落差がヤベェって思った!みんな心して読んでくれよな!久々の勘違いタグだ! でも視点はギャラハッドだけだ!

あと、マーリンのクズじゃないムーブに驚きすぎで笑ったぞ!アルトリアとの今後についても気になってるらしいけど、ガマンしてくれ!


 ……まるで広い海を漂っているかのような爽快感だった。

 どこまでも続くまどろみと心地よさは、彼を蕩けさせるような……危険な快楽だった。

 

 —————————————我ながら良くやったよな。一般人(ぼく)英雄(ギャラハッド)を演じきって役目を終えたんだから。

 

 最後は思わず歯向ってしまったが、今こうして自分を自分として認識して存在出来てる以上、歴史の変換による修正的なものは起きていないようだ。幸い、前世もギャラハッドとして生きた記憶も残っている。アルトリア様と交わした約束は覚えていられそうだ。結婚式に出られないのは残念ではあるが、仕方ない。偽者でも、英雄として生涯を全うさせて貰っただけでお釣りが出る。

 ……そう。全うしたはずなのに、なぜ僕は未だにギャラハッドの姿なんだ!? え、まさかこのまま暗闇の中を漂うの? 

 …………イヤ──────! 誰か助けてぇぇぇぇ! なんで僕ばっかりこんな目にぃぃぃぃぃぃ!? 

 叫んでも叫んでも、誰かに届くはずもない。二度の生涯を終えてこの仕打ちとは、僕を転生させた神様はよっぽど僕が嫌いらしい。あれだろうか、仏教信者なのが悪かったのだろうか。改宗するから許してください。

 とりあえず状況把握をするためにも移動を開始する。魔力シールドを足場にして、どうにか上下左右の感覚を自分に叩き込んだ。魔力とかいう不思議パワーにも慣れたものだ。そこらの厨二病なんて相手にならないぜ(イキリ)

 

『——————————————』

 

 何かは全く理解できないけれど、何かがいることは理解できた。しかも何か意味のある言語を喋っているようだ。オー、ワタシエイケンニキュウデース。アマリムツカシ、ワカラナイネー! 嘘です、イギリスで暮らしてたから英語ペラペラである。

 僕の必死なイングリッシュが通じたのかは分からないが、暗闇にいる誰かさんは黙ってしまった。

 

『————————ケイヤク———————』

 

 契約? 計約? ケイ焼く? 流石にそれは可哀想じゃない? ケイ卿だってめっちゃ働いて頑張ってたのに焼き討ちはないでしょう。謎の存在Xが魔力干渉をしてくるから思いっきり拒否っておく。無理矢理させる契約は犯罪ですよ? 知らないですけど。

 

『……イズレ————テキ——————ホ—————マモ————』

 

 いずれ? 敵? 穂? まも……魔物? いずれ来る敵が穂に魔物を放ち、摘みに来るとかそういう話? Xさんは農家なのかな? ……成る程、だいぶ飲み込めてきたぞ……。

 つまり、いずれ来る敵から魔物を放たれるから、大切な穂を守って欲しいんでしょ? 

 

『……ゼ』

 

 是。つまりイエスってことか。スゴイぞ、言葉が通じないXさんと意思疎通ができている。この調子でどんどんコミュニケーションを取っていこう。ここはどこですか? 

 

『がいあ也』

 

 ガイア……つまり地球か。え、昇天しても地球にいるの? 普通天国とか天界とか、そういう場所に行くんじゃないんだ。もしかして天国とか地獄って存在しない? 

 

『否。存在スル』

 

 存在するんかい。

 もしかしたら正確に言うなら死んだわけじゃないから、僕はまだいわゆる死後の世界に行けないのかもしれない。で、地球に戻ってきたけど気を失ってたところをXさんに助けて貰って、今お悩みを聞いていると……OK完璧に把握した。

 Xさんにはお世話になりましたし、出来るだけの協力はしますよ。何をすればいいんですか? 

 

『……契約』

 

 む、ただのお手伝いか何かと甘く見ていたが、正式な仕事として頼むくらいにはガチ案件なのか。仕事な以上、出来る限りの事はしなくては。

 僕が気を引き締め直していると、突然現れた光球が僕の体に吸い込まれていく。魔術で間違いない。これしきじゃ驚かんからな、こちとらギャラハッドという英雄を二十五年も演じてきた筋金入りの偽者なんじゃい! 

 

『契約終了』

 

 ……へ? 書面に残したりしないの? ……あ、もしかして魔術的な契約って存在します? 

 

『是』

 

 あるらしい。多分魔術的な契約を今交わしたんだろう。ブリテンではないから面食らってしまったが、大丈夫理解した。何せ二回目の人生で超常現象を目の当たりにし過ぎたから慣れた。前世からじゃ考えられない成長だぁ……! そもそも前世には魔術なんてなかったけどね! 

 ……さて、早速お仕事の時間なのだがどうすればいいのだろうか? 

 

『汝、聖杯ヲ手ニ入レシ者也。————願エ』

 

 ……何を? いきなり願えとか言われても、大概の人は「は?」ってなりますよ? 

 

『汝ノ願イヲ聖杯ニ告ゲヨ』

 

 願い……もう一度、円卓のみんなと楽しく過ごしたいという願いが頭をよぎる。でも、もうあれは終わったことなのだ。蒸し返すのも違う気がする。多分、これからのことに使うべきなのかな? 

 ……難しいな。やっと大きな一仕事を終えたばっかりなのに、これからのことを考えるのはちょっと時間が欲しい。

 

『是。決マレバ願エ。サスレバ叶ウ』

 

 願いが叶うなんて夢のような話じゃないか。アレかな? 二度の人生を終えた僕へのボーナスステージ的な物だろうか? 何にせよ、少し考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そういえば、どれくらい時間が過ぎたのか知らないけどお腹も空かないし眠くもならないな。やっぱり死後の世界……? ではないんだよなぁ、Xさんが地球って言ってたし。

 ……願い、か。

 子供の頃に聞かれたらいくらでも答えられたのに、いざ大人になると語るのが難しくなってしまう。そもそも前世も今世も、そこそこ満足して終えることが出来たのだ。多少心残りがあるくらいがちょうどいい。

 前世でも今世でも出来なかったこと、か……。……あったなぁ。我ながら庶民的過ぎて少し恥ずかしいけど。

 

『決マッタヨウダナ』

 

 ……えぇ。僕の願いは————

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔力壁越しに、とある一人の少女を多くの大人達が見つめる。少女は幼く、歳は二桁に行くか行かないかだろう。そんな少女を固唾を飲んで見守るのは、人理保障機関フィニス・カルデアの職員……いや、研究員だ。

 彼らが期待するのは、実験の成功。

 人理に刻まれし、名だたる英雄達を人の身に降ろし、受肉させた人間兵器を作る……凡そ人道的とは言えぬ実験だ。その部屋には万が一の暴走に備えて彼女を《処理》出来るようにさえしている。

 

「やったぞ! 成功だ……!」

 

 誰かが呟いた。英霊を憑依させること……すなわち、悲願であるデミ・サーヴァントを作り出すことに成功したのだ。だが、様子がおかしい。

 彼女を縛り付けていた拘束具は弾け飛び、普段の彼女からは想像できない理性なき瞳が職員達を射抜く。彼女と目があった職員は体を震わせ、悲鳴さえ上げたがそれを責める人はいなかった。

 この組織の所長であるマリスビリー・アニムスフィアは、即座に命令を下した。途端、彼女がいる部屋のあらゆる壁面からレーザーが照射される。

 彼女はそれを————避けなかった。

 直撃。炎が部屋を覆う。だがその時、炎の赤とは違う青い魔力光が彼女から発せられた。炎から姿を見せた彼女は———無傷。

 対サーヴァント用に作られたはずのレーザーは、彼女の髪一本を焼ききることすら叶わず破壊されていく。

 全ての攻撃兵器を破壊しきった彼女は悠然とした足取りで彼らの方向に足を向けた。

 コツ、コツ、コツ……。

 かつて、足音にここまで恐怖したことはあっただろうか? 彼女が一歩一歩近づくにつれ、職員の心に恐怖が宿っていく。

 やがて魔力壁と手が触れるくらいの位置まで近づくと、ゆっくりと手を掲げた。たったそれだけで、彼らを守る最後の砦は瓦解した。

 悲鳴が研究所内を駆け巡る。最早彼らも先ほどまでの彼女と同じで、命の危機に瀕していた。……いや、彼が彼女に憑依したその時点で、彼らにはもう安全という言葉はなかった。

 

「名を……聞いてもいいかい?」

 

 マリスビリー・アニムスフィアだけは普段の調子を崩すことなく、まるで友達に話しかけるような気軽さで名を問うた。

 

「…………この少女に手を出すな」

 

「約束しよう」

 

 名は、答えなかった。それどころか依り代の少女の身を案じさえしてみせる。どうやら、高潔な英霊を引き当てたらしい。

 最初からマリスビリーにはこの少女をもうどうこうするつもりはない。デミ・サーヴァントを作り出すことが出来るという事実と、成功のための条件。幸いこの少女のデータは腐るほどある。成功のカギが彼女自身にあるなら、今までの記録からでも理由は割り出せるだろう。もはや後は術後の経過観察以外することはない。

 その言葉を聞いた瞬間、少女—————マシュ・キリエライトの体から力が抜け落ちる。地面に横たわる彼女を見て、マリスビリーはすぐに医務スタッフを手配するのだった。

 

 

 

 ———————————————フザケルナァ! 確かに……確かに『一生を添い遂げてくれる……まるで一心同体のような奥さんが欲しい』とは言ったよ? 言ったけどさぁ! 文字通りの一心同体だし、何より……この()、まだ子供じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 

 

 かつてのブリテン最強の騎士の悲痛な叫びがマシュの脳内を駆け巡った。

 

 

 

 ギャラハッド?? 歳。マシュ・キリエライトに憑依する。




というわけで第二章はFate/Grand Order編!……の前に、ギャラハッドとマシュ・ロリエライトの日常を何話かするぞ!
※ブリテンで関わったアルトリアはしばらく出ない

ガイア「もう訂正するのだるいから、そのまま話進めよ」


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第二章 彼が憑依した彼が憑依した彼女と彼
初会合


感想でなんで、TSとかマシュはどこ?とか言われるのかと思ったら、憑依でマシュの人格乗っ取りしたように見えたのかと理解しました。前の話はアニメバビロニアエピソードゼロで、マシュがギャラハッドに意識を乗っ取られた?風だったのでそれを書いたから勘違いされたんですかね?
いいぞギャラハッド!読者をも勘違いさせるとは、勘違いタグに恥じぬ活躍だ!
ちなみに第二章を固有名詞化すると、オリ主が憑依したギャラハッドが憑依したマシュとオリ主になります。というか誰か前回後書きのマシュ・ロリエライトに突っ込んでくれると期待したのに…

※10/7 月間27位あざます!


 —————お名前は? 

 

「マシュ・キリエライトです」

 

 —————歳は幾つ? 

 

「今年で十歳になります」

 

 —————趣味はある? 

 

「特には……」

 

 僕がこの少女……マシュ・キリエライトに取り憑いてから一晩経ったが、未だ聖杯への怒りは消えない。

 ギャラハッドという正真正銘の英雄の人生を一般人である自分がやり切ったご褒美のような物だと思った上、何でも願いが叶うという聖杯に自分が望んだのはそこまで大層な願いではない。

 

『生涯を寄り添う、一心同体と言えるくらい分かり合える奥さんが欲しい』

 

 そんな超庶民的な願いは、この十歳の少女にまたもや憑依することで叶えられてしまった。

 

 ——————————————十歳って完璧犯罪だよね? というか犯罪じゃなくても言いたい。僕、ロリコンじゃないからぁ! 普通にボンッ! キュッ! ボンッ! (死語)が好みだからぁ! 

 

 ……まぁ仮に、本当に仮に僕とマシュが相思相愛になったとしよう。歳の差は後十五年待ち、マシュが二十五歳にでもなりさえすれば立派な大人だ。そこに歳の差があろうと、本人が選んだ人を尊重すべきであろう。一番の大きな問題はそれではない。

 

 ——————————————肉体がない! 

 

 そう、彼には現世に顕現した自分の意思で動かせる肉体がない。仮に誰かを愛し——それがマシュではなく、別人だったとしても——、一生を添い遂げようとしても微塵も触れることは叶わないという酷い始末。そもそも、自分の声はマシュにしか通じないし、マシュは自分の声を周りに届けられないという、詰みの状態である。ファッキン! 

 現状、まるで実験動物のように四方ガラス張りの部屋で見張られているマシュの気を少しでも紛らわすためにお喋りするしかない状況だ。

 

「ギャラハッドさんは、何故私に憑依してくれたのですか?」

 

 聖杯のせいです(全ギレ)

 ……と言ってもわからないだろうし、適当に「マシュを見てられなかったから」と答えておく。実際十歳の子にこの扱いは酷すぎるとは思っているし、嘘ではない。もしかしたら此処、ブリテンとはまた違う意味でブラックかもしれない。

 

「……可哀想、ということでしょうか?」

 

 ———————————————マシュくらいの歳の子供は外で遊んだり、友達と一緒にはしゃいだりするのが普通だからさ。少なくとも、どこを見渡しても白衣の大人たちみたいな状況はないよ。

 

「……私にとっては生まれた時からこうなので、友達と一緒に遊ぶということが分かりません」

 

 何この子。健気さと儚さと可哀想さで涙が出てくる。やっぱり育って来た環境で普通の認識って変えられちゃうからなぁ……! 

 この研究所をぶっ飛ばして外に出るのは簡単だけど、絶対この子の体が持たないし……今更ながら、やっぱりギャラハッドの体って異常だったんですね。普通の人の体に入ったのは久しぶりだからすっかり忘れてた。

 

 ——————————————一人で出来る趣味と言えば……読書とかは? あとはボードゲームなら僕の体がなくても、マシュが代わりに駒を動かしてくれれば出来るけど。

 

「……読書、ボードゲームですか。申請してみますね」

 

 ……当たり前だけど、部屋に置くものすら支給制か。本当に完全に管理された状態なんだな……。

 若干のやるせなさはあったが、宿主であるマシュが睡眠状態に入るとギャラハッドも同じように意識を手放した。

 

 

 

 二日目。

 マシュの部屋に届けられた段ボール箱の中には、申請が通った本とボードゲームが入っている。

 マシュが物資を申請することなど滅多になく、しかもその品が娯楽品であったことは初めてなため、職員の間では僅かに騒ぎが起こる。ギャラハッドにとっても、職員にとっても、マシュが人並みの感情を持つのは悪くないことであった。

 豊かな感情は豊かな精神状態を生む。より多くの精神状態のデータが取れれば、感情とデミ・サーヴァントとの関係があるかないかも分かりやすくなる。

 ボードゲームについてなど全く知らないマシュが適当に選んだのは、人生をスゴロクで追体験するアレである。ギャラハッドからしたら懐かしい品であり、マス目を見ると『そんな人生もありましたね……』と、前世を思い出した。

 ゲームを進めていくと、面白いくらいにマシュのお金は増えていき、逆にギャラハッドは赤と白のお札が増えていく。「どうじでなんだよぉぉぉぉぉ!」とマシュにも聞こえないように叫ぶも、借金の増加は止まらない。このゲームに自己破産申請ってあったかな? とギャラハッドが思ったところでマシュがゴール。嬉しそうに微笑んでいる。

 ……そんな顔も出来るんだなぁ。

 やはり人間、笑顔が一番魅力的な表情なのだと改めて実感するギャラハッド。社畜騎士であった彼が心底笑顔になれる日はいつなのか、誰も知らない。

 

 ————————————面白かった? 

 

「はい……! 笑ってはいけないのでしょうけど、ギャラハッドさんがほぼ全部のマイナスマスに止まっているのが神懸かり的でしたね」

 

 偽札の借金で少女の笑顔が買える優しい世界である。

 ボードゲームを新品同様まで綺麗に片付けるマシュは性格が几帳面なのだろう。部屋も物が少ないのもあるが、散らかっている場所は少しもなかった。十歳なのによくできた子である。

 ボードゲームを段ボールに戻すと、今度は本を引っ張り出してくる。それ自体はいいのだが……マシュが手に持っている本が全て、ギャラハッドに関係するものなのである。思わずギャラハッドは目を疑った。

 

「すみません、どういう本がいいのか分からなかったので……」

 

 ギャラハッドも十歳の女の子が読むような本なんて知らなかったので、マシュ本人に任せればいいかと思っていたのが思いっきりアダとなった。……まさか十歳が逸話とか持ってくるとは思わないでしょ。そういうのはあと四年くらい早いと思います。

 しかも絵本とかそういう類のレベルではなく、専門家が読むくらいのガチなやつである。幸い内容はイギリス英語で書かれているため、ギャラハッドが読むのは容易だが、自分の話を読み聞かせるとかどんな罰ゲームだ。そこまでナルシストになれないんだ。

 そして、初手から衝撃的な新事実が判明する。

 

 ええ!? 僕ってランスロットが魔術で操られて逆レされて産まれたのかよ!? 

 

 自分(ギャラハッド)ですら知らなかったことがいきなり書いてあることに驚きを隠せない。少しランスロットに対して申し訳ない気もしたが、女にだらしないのは事実だったのでやはり好きにはなれなかった。ブリテンが彼がキッカケになって滅んだのは事実だし。

 

「ギャラハッドさん?」

 

 ———————————————……ああ、ごめんごめん。

 

 あまりにビックリしすぎて黙ってしまっていたらしい。こっぱずかしさはあったが、ゆっくりと読み進めていく。……おい誰だギャラハッドは妖精とまぐわいまくったって書いたやつ。なんで知ってるんだ。

 勿論、マシュには話さなかった。

 

『完璧な騎士』『穢れなき騎士』『最優の騎士』……なんだこれ、恥ずかしすぎる。ぼくがかんがえたさいきょうのきしみたいになってるじゃん。

 少し自分が体験した内容とは違うところはあったが、世界の修正力に依る物か、長い時で伝承が間違えて伝えられたか、自分がしたことは本来との歴史とは違ったが修正力の許容範囲であったのかは定かではない。

 こうしてギャラハッドの本を読むと、ようやく実感が得られる。僕はちゃんとギャラハッドで在ることができたのだと。

 ギャラハッドの最期については、前世で知った通り昇天で終わっていた。勿論カムランの丘にギャラハッドが現れ、モードレッドと戦ったなんて記述は一切ない。それが嬉しくもあり……寂しくもある。

 アレを覚えているのは僕だけかもしれないと思うと、ちょっとだけ辛い。転生者であることの唯一の弊害と言えるだろう。

 

「……ギャラハッドさん?」

 

 ボーっとしていたからだろうか、マシュが不思議そうに話しかけて来る。「何でもないよ」と答え、何故僕はこの少女にギャラハッドとして憑依させられたのだろうと考える。やっぱり聖杯のせい? 

 ギャラハッドとして生を受け、ギャラハッドとして生き、ギャラハッドとして少女に憑依している。……ちょっとだけ、彼は前世の名が恋しくなった。

 

 

 

 ……あとマシュ、英和辞書持ち出して翻訳するのはいいけど、まぐわうの意味を聞いてこないで。僕困っちゃう。

 

 

 

 ギャラハッド?? 歳。新たな憑依先であるマシュ・キリエライトとコミュニケーションを取り始める。




ガチBLとか百合を本当に書くと思われている可能性、タグにないのにそういう単語を出したことを不快に思われる方もいらっしゃると指摘されたので一度アンケートを消しました、申し訳ないです。改めてご協力してくれる方は投票お願いします


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マシュ・キリエライト

お気に入り登録五千人、日間一位、週間三位、月間十八位ありがてぇ! これからもよしなに……
アンケートは第三章FGO本編開始までやるんだけど、本編の形式をどうしようという悩みが……
あとFGO編はメインストーリーしか書きませぬ。イベントまで書くと収拾がつかなくなりそうなので
今回はお互いに勘違いしながらも何やかんや問題が解決する王道勘違い話


「ギャラハッドさん、ギャラハッドさん」

 

 ———————————————ん? 何だい? 

 

 あいも変わらずマシュの部屋である。

 僕がマシュに憑依してからもう二年近く経つが、マシュの扱いもそこまで変わることなく、この部屋で会話するのが普通になっていた。というか僕の声ってマシュにしか聞こえないから、マシュがずっと独り言を喋ってるように見えるんだけど大丈夫なのだろうか? 

 

「ギャラハッドさんから教えてもらった英語でお手紙書いてみたので、読んでもらえませんか?」

 

 なんと可愛らしい頼みだろうか。快く了承し、読み進めていく。

 書かれていたのは感謝の旨を伝えたり、自己紹介などの簡単な文だが、たった二年でそこそこ長い手紙を辞書を見ることもなく書けるようになるとは学習意欲が凄まじい。で、これは誰に向けた手紙だろうか? 

 

 ——————————————うん、大体合ってるけど、ここスペルミスしてるよ。

 

「あっ、お恥ずかしいです……」

 

 ……これが、父性か……? 

 誰か僕の気持ちをわかってもらえないだろうか? 性的対象で見ているわけでは断じてないが、可愛い……いや、KAWAIIと思ってしまう気持ちを! 頭を撫でてあげたいけど、何となく触りづらいあの感じを! どちらにせよ触れないけど。で、これは誰に向けた手紙? (嫉妬)

 

「キチンと書けるようになったらギャラハッドさんにもお手紙書きますね」

 

 ……マシュウゥゥゥゥゥ! やだ何この子、男を垂らし込む才能に満ち満ちてやがる……! ……で、本当にその手紙は誰宛てなの? 

 

 ——————————————楽しみにしてるよ。

 

「はいっ」

 

 ……原典とか関係なく昇天しそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらまた新しい英霊を召喚することに成功したらしい。英霊の名前はレオナルド・ダ・ヴィンチ……という名の3Dモナリザである。おいおい、中身おっさんなのに女の体に憑依するとか恥ずかしくないのか? (ブーメラン)

 まぁ、そのダヴィンチちゃん? さん? と関わることはマシュがない限りないのである。マシュを室内から出さないことにどんな意図があるかは知らないが、少なくとも最近はあまり体調がよろしくなかったので部屋から出ることはない。

 ……もしかして僕のせいだろうか? 一つの身体に二つの精神。それもギャラハッドという英雄を普通の女の子の身体である宿すことが負担にならない訳がないし……。あれ? もしかして僕って、マシュの負担……? 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近ギャラハッドさんの様子がおかしいです。

 英語を教えてくれている時も上の空で、何だかボーっとしていることが多い気がします。

 

「……ギャラハッドさん?」

 

 またです。こちらが呼びかけているのに一切の反応を示しません。ギャラハッドさんは霊体を持たず、精神だけで存在しているので睡眠中とかは無いはずなのですが……。

 

「ギャラハッドさーん?」

 

 ——————————————……ごめんマシュ、呆けてた。何だい? 

 

「いえ、特に用があるわけではないのですが……」

 

 やはりどこか様子がおかしいとマシュは彼を訝しむ。自分が何かしてしまっただろうかとここ最近の行動を思い返すが、すぐに思い当たる原因はなかった。

 こういう分からないことや悩んでいることはいつも彼に話して来たのだが、今回は彼に関することだ。当然、悩みを相談するような相手もいない。……ロマン? まだそこまで深い仲じゃないよ(天の声)

 だからマシュが本の知識に頼るのも無理はないだろう。心理、コミュニケーション、果ては恋愛について書いた本にまで手を伸ばす。物資申請もなかなか遠慮がなくなって来たが、デミ・サーヴァントのサンプルとして長時間この部屋で管理されているにしては安い方だろう。

 それらの本の一文に、マシュはこの状況と当て嵌まるモノを見た。

 

 Q,最近、仲の良かった男子の様子がおかしいのですが、どういう理由なんでしょうか?

 

 A,今から書くことに心当たりはありませんか? 最近、あなたが別の男性と話すようになった。または仲の良かった男子と話す機会が減ったなど。もし当て嵌まるのなら、その仲の良かった男子の様子がおかしいのは【嫉妬】によるものです。あなたが嫌われたわけではありません。むしろ逆、あなたが好きだから嫉妬するのです。

 

 ギャラハッドは聞こえる声から考えたら男。それに加えて、確かに最近は体調が優れないので新しい主治医にロマニ・アーキマンという人物が就くことになり、話すことも多かった。成る程確かに条件は一致している。恨むべくは、その一文が書いてあったのが恋愛本であることと、十二歳のマシュに与えられたその本がチープなものであったことだろう。

 ……しかし、嫉妬ですか……。もしギャラハッドさんの様子がおかしい理由が本当にそうなら、解決策はなんなのでしょう? 

 そもそも周りと比べられるような環境にいないのだから当たり前だが、嫉妬なんてマシュはされたことがない。もっとも、本当にその本のケースならば嫉妬されるのは女の子(マシュ)の方ではなく、喋るようになった男子(ロマニ)の方なのだが……。

 嫉妬されているのに好かれているとはどういうことなのだろうか、普通は嫌うのではないかとマシュの頭脳は更に勘違いを突き進む。

 更に次のページ。マシュの背筋に電撃疾る———! 

 

『男の子は好きな子には意地悪しちゃうもの。好きなのにまるで嫌っているかのような態度を取ってしまうものなのです』

 

 な、なるほど……! 

 ……マシュ・キリエライトは知らない。この雑誌の全ての男の子という単語の頭に(小学生の)という枕詞がつくことを。いや、もしかしたら思春期までは気持ちに素直になれない人はいるかもしれない。だが、ニ度の人生を全うした精神を持つギャラハッドには全く当てはまらないのだ。

 だがそんな事情など知る由もないマシュはこの本に解決策を求める。

 

「……でも、この状況を改善するにはどうしたらいいのでしょう……?」

 

 そして更に次のページ。マシュに二度目の衝撃疾る————! 

 

『解決法は一つ! その人のことを好きか嫌いか、ハッキリ伝えること!』

 

 目から鱗であった。あれこれと手段を考えず、ストライクど真ん中の直球勝負でいいのだと。うじうじ悩むより行動しろ。マシュの性格とは真逆であったが、これに天啓を得たマシュは行動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。いまだに様子がおかしいギャラハッドに、マシュはついにアクションを起こす。

 

「ギャラハッドさん」

 

 今日もギャラハッドさんは何かを考えているようでしたが、今日の私は昨日までの私とは違うのです……! 

 

 ——————————————……マシュ、どうしたの? 

 

「私も、ギャラハッドさんのこと好きですよ?」

 

 ——————————————……はい? 

 

 戸惑うギャラハッド。だが前触れもなく『好き』だなんて気恥ずかしいことを言われても、普通は理解が追いつかない。勿論マシュの言う『好き』は恋愛感情によるものではなく、親愛だとか友愛だとかそういう種類に基づくものだということは理解しているが、それをわざわざ自分に伝えてくるまでに至るプロセスが全くわからなかった。

 

「? ですから、私もギャラハッドさんのことが好きですよ?」

 

 だが純粋な十二歳、マシュ・キリエライトはギャラハッドのそんな内心を知るはずもなく、彼の疑問符が自分の気持ちが伝わっていないからだとミスリードし、更に追い打ちをかけて行く。

 だがさすがに見た目は英雄、中身は大人のギャラハッドに二度も同じ手は通じない。初めてマシュがこんなにも直球で吐露した気持ちを、ゆっくりと噛み砕いていく。やはり好きと言われて嫌な気分になる人はいない。

 

 —————————————……そっか。ありがとう、マシュ。

 

「はいっ!」

 

 ……もしかしたら、僕がマシュのことについて悩んでいたのを何となく察してたのかな。

 なんだかんだで子供は感情に敏感と言われているからそうかもしれない。結局マシュの真意はギャラハッドには分からなかったが、彼にとってマシュが自分といることが嫌ではないと知れただけで十分だった。今まで悩んでいたのが馬鹿らしいくらいに心が晴れていく。

 自分がマシュに与えてしまう苦痛があるならば、それ以上の苦しみから彼女を守ることで相殺しよう。経緯はどうあれ、自分はもう彼女と同じ体を共有しているのだから……。倫理観や道徳的な意味ではなく、自分の意思で彼は決意したのだった。

 

 その年、マシュ・キリエライトは同人物の主治医ロマニ・アーキマンの強い嘆願を受け、正式にカルデアスタッフとなり……同年の暮れに、人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長マリスビリー・アニムスフィアが亡くなっているのが発見された。

 

 

 

 ギャラハッド?? 歳。自らの依代である少女、マシュ・キリエライトと絆を深める。




みんな、気づいたか? ギャラハッド視点でシリアスに悩んだの、これが初めてなんだぜ…? 把握漏れしてなければだけど


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とある魔術師の使い魔

みんな、この子の存在を忘れてはいないかい…?
アニメ版ではとっても可愛かったね…

あとお気に入り登録六千飛んで七千ありがとう!アキレウス並みにはぇぇよ!一万行けたらいいなと最近思い始めました
あとアンケートがグダ子派が多すぎて笑ってますわ
次回、多分二章最終話
で、三章のFGO本編をどういう形式で書こうか迷ってるんですが、一章を一話か二話に収めたいんですが、なかなか難しくて……。何か良い案があればアドバイスいただけると嬉しいっす


 ここ三年は色々なことがあった。

 マシュの中で僕が目を覚ました時に同じ部屋にいたマリスビリー所長が亡くなり、その娘さん——オルガマリー・アニムスフィアさん——が新所長になって、緊張からか精神不安定だったので精霊の魔術をかけて落ち着かせたり、マシュがマスター(?)候補とかいうのになって、半年くらいでAチームとかいういかにもエリートっぽい集団でマシュが主席になったり……すごいなマシュ。

 あとこれは個人的なニュースだけど、十五歳……そう、思春期の真っ只中のマシュが異性への恥じらいを覚え出したのだ。呪いか何かかと言いたいところだが、僕はマシュの意識がない時、つまり睡眠時や気絶した時などしか自分の意識を落とすことが出来ない。マシュの意識がない時に僕の意識を覚醒し続けることは出来るが、その逆は無理なのだ。あくまで主体はマシュだからだろうか? よくはわからない。デミ・サーヴァントがみんなこうなのかもしれないし……。

 つまり、着替えやお風呂など、見ようとしなくてもマシュの視線で見えてしまうのだ。これマシュじゃなかったら関係悪化待った無しだったな……。マシュが見られてもいいやの精神にならないことを願うことしか僕には出来ない。

 そしてもう一つの問題は、マシュに友達が出来ないことだ。もともとコミュニケーション能力があるとは言えないことと、そもそも同年代の人と喋ることはなかったから慣れていないのも相まり、友達が出来なかった。

 ということで、社会人コミュニケーション術を見せることになる。僕がアドバイスしながらの会話を想定していたら、マシュの体の主導権を渡される。そんなこと出来るんかい。どうやらマスター候補の人が受けるという魔術の講義で知ったらしい。体の主導権を入れ替える方法を何故習うのかは不明だ。

 とりあえずターゲットを絞る。当たり前だが、友達になるには同性の方が警戒されにくい。なので、とりあえずのマシュの友達候補は同じAチームの女性であるオフェリア・ファムルソローネさんと芥ヒナコさんにした。コミュニケーションで大事なのは相手の興味の対象になることを探ることだ。ということで、まずはプロフィールを漁ることから始めた。

 オフェリアさんはプロフィールから時計塔(?)の降霊科(??)というところ出身だということがわかったので、それ関連について喋ったり質問したら仲良くなれた。普通に真面目でいい子でよかった。

 ヒナコさんは難敵だった。プロフィールもよくわからないし、話しかけても端的に言うと塩対応。だがめげずに話し続け、ついに糸口を掴む。そう、ヒナコさんは所謂【歴女】だったのだ。もはやどういう会話の流れで話すことになったかは覚えていないが、三国志とか、中国の武将の話を始めた途端の食いつきは普段から考えられないほどだった。

 僕が「あっ、この人チョロいな」と思うのも仕方がないことだろう。ちなみにヒナコさんは熱烈な項羽ファンのようだ。

 以上、これまでの個人的ニュースである。喋ってて気がついたが、だいたいマシュに関することだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、カルデアに妙な生物が住み着き始めた。明らかに怪しく種族も不明なのだが、特に何か害があるわけでもないので現在でもカルデアにいるのを黙認されている。

 

「フォウ!」

 

「あ、ギャラハッドさん! あの子また居ますよ」

 

 ——————————————……そうだね。

 

 独特な鳴き声のその生物は白いモフモフした毛並みを持っていて、とても愛くるしい。好奇心旺盛なマシュはこの謎の生物と積極的に関わり、まるでペットのように撫でている。

 普段のギャラハッドであれば「動物と戯れる美少女尊い」などと思っていたかもしれないが、彼はこの動物が苦手だった。勿論見た目は可愛らしいし、マシュに甘える姿は特別動物が好きなわけでもないギャラハッドにペットを飼いたくさせるほどである……が、何というか、たまにこちらをジーっと見てくる目が怖い。あれはマシュに向けた目というより、その内側にある自分に向けているように感じられた。

 命の危険を感じるというわけでもないが、とんでもない厄介ごとの臭いがするのだ。例えるならそう、まるでマーリンのような……。

 

「フォウフォーウ! (特別意訳.今とても許しがたいことを思われた気がする)」

 

「あっ! 行っちゃいました……私、何か気に障ることをしたんでしょうか……?」

 

 —–————————————動物は気ままだから、急に機嫌が悪くなることもあるんじゃないかな? 

 

「そうでしょうか? ならいいのですが……」

 

 そういうことにしときましょう。

 ギャラハッドの勘は、深く突っ込むなと警鐘を鳴らしていた。「その先は地獄だぞ」と、誰かが呟いたような気さえしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 別の日のことである。

 

「あの子に名前をつけようと思うのですがどうでしょう? いつまでも名前がないのは不便かと思いますし……」

 

 ——————————————うん、いいんじゃないかな? 

 

 あの謎の生物には名前がなかった。どうやらマシュと同じく、誰も名前をつけることはしていないらしい。

 あれ誰かが連れてきたペットか何かじゃないの……? 

 鳴き声も姿も名前すらも意味不明だが、あの動物のカルデアでの人気はなかなか高かった。

 というのもこのカルデア、娯楽の類はあるのだが癒しは少ない。自分の好きなことをして楽しいと思ったり、ストレスを解消されたなどの実感はあっても癒されると感じる人間はあまりいない。ずっと職場に泊まり込みで働いている職員にとって、可愛らしい動物は心の清涼剤なのであった。

 

「マギ、なんて名前はどうでしょうか?」

 

 ————————————悪くはないかと思うけど、見た目に対してちょっとゴツすぎるような名前もするよね。

 

「そうですか……。うーん、ラギはどう思いますか?」

 

 ————————————うーん、やっぱりかっこよすぎて可愛い見た目のこの子に合わない気が……。

 

 キド。孝允? ハラ。敬? エド。幕府? などなど……なかなかぴったりな名前が見つからない。

 

「……私ばっかり意見を出してる気がします。ギャラハッドさんも考えてください」

 

 ダメ出ししておいて代案を出さないギャラハッドに対し、むくれた表情を浮かべる。いかにも私拗ねてますと言わんばかりだが、あざとく感じないのはマシュの純粋さを知っているからだろうか。

 ……こういうの苦手なんだよなぁ……。

 名前なんてどうでもいいとまでは思わないが、無難なものだったらいいという考えであるギャラハッドにとって命名はあまり得意ではない。

 

「フォウ? (特別意訳.変な名前つけたら……分かってるよな?)」

 

 可愛らしく首を傾げた謎の生物の視線がギャラハッドを射抜く。背筋が震えた。なぜ名前の候補を上げるだけでこんな重圧を受けねばならないのか……。

 

 —————————————えーっと……フォウ、なんてのはどうでしょう……? 

 

 結果、出てきたのはワンワンやニャンニャンとそう変わらないネーミングである。鳴き声をそのまま名前に使ったセンスのかけらも感じられないシロモノだった。

 

「フォウ、ですか? どうですか? フォウさんって呼ばれるのは」

 

「キュキュフォーウ! (特別意訳.安直すぎる名前だけど変な名前じゃないからいいよ)」

 

 元気よく鳴いてマシュに飛び込んでいく姿を見ると気に入ったのかと思われるが、その本心はフォウ語が完全に読み解けないこの場の誰も知ることはない。まさに知らぬが仏である。

 

「ふふっ、気に入ったみたいですね、ギャラハッドさん」

 

 ———————————————……う、うん。気に入ってもらえて嬉しいよ。ハハ……。

 

 ……いや、本当に気に入ったの!? 普通だったらネーミングセンスなさすぎって罵倒されてもおかしくないくらいの案だったと思うんだけど……。

 残念ながらこの場に……いや、各国からエリートが集うこの人理継続保障機関フィニス・カルデアにギャラハッドの言う普通の感性を持つ人はごく稀である。強いて言うならば、この前新しく赴任してきた新所長オルガマリー・アニムスフィアが一番人間らしい感性の持ち主だ。もし仮に彼女がこの場にいたならば、「……え? 本当にその名前で決定するの?」と突っ込んでいただろう……。

 しかしギャラハッドの精霊魔術で精神が最高にハイになりながら仕事をこなしているオルガマリー所長がこの場に現れるわけもなく、ツッコミ役不在のまま、この不思議な生物の名前はフォウに決まる。それでいいのか。

 

 ————————————————……まぁ、マシュが嬉しそうだからいっか。

 

 彼はこの数年間で、大体のことをこう結論づけるようになるのだった。マシュに対してだだ甘なブリテンの英雄である。

 

 

 

 ギャラハッド?? 歳。謎の生物にフォウという名前をつける。




Q.ちなみにマシュが挙げた名前候補にはある共通点があります。それは何でしょうか? 答えは次話の前書きにて!

以下、用語解説と軽い登場人物紹介

精霊魔術A…本作オリジナル(多分)。神秘がなくなった現代で何故かギャラハッドが使える神秘。ギャラハッドが妖精たちに逆レをされながらも師事を請い習得した涙溢れる魔術。効果は肉体と精神の回復。ギャラハッドはこれを『父の非道な行動を知る』、『父の被害者であるマシュからの報復を恐れる』、『新所長という大役への重圧』、『自分のレイシフト適性がないという現実』という四重苦の不幸てんこ盛りで精神崩壊寸前だったオルガマリー所長に使うことで精神の安定をはかった。……改めて書き出すと、所長自殺してもおかしくない境遇やん……
精霊魔術Aともなると効果が強すぎて、あまり頻繁に使うとオルガマリーが「私、もうあなたの魔術なしじゃ生きていけないの!」というそれなんてFate原作(エロゲ)?という状態になるため注意が必要

オルガマリー・アニムスフィア…上記の通り、オルガマリー所長にこんな仕打ちをした挙句、あんな結末とか脚本家は所長に親でも殺されたのかと言いたくなるくらい散々な扱いをされた可哀想な頑張り屋さん。当時所長もヒロインだと思った作者は発狂した。詳しく知りたい方はFGOをやろう!(愉☆悦☆)

オフェリア・ファムルソローネ…マシュと同じAチームのマスター候補。ギャラハッド曰く「真面目でめっちゃいい子だけど、真面目すぎるとこもある。部下か上司にいたらめっちゃ助かるタイプ(社畜根性)」

芥ヒナコ…マシュと同じAチームのマスター候補。ギャラハッド曰く「チョロい」。項羽様の話には勝てなかったよ……。クールぶっているが、割とポンコツ。


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マシュ・キリエライト観測定期報告書(筆記者.ロマニ・アーキマン)

というわけで二章はこれで終わりです
次回から三章ですが、多分遅くなります。理由? 特異点Fとかもう読んだのだいぶ前でうろ覚えなのと、ネタ切れなんじゃあ。感想からアイデアを得ることも多いので、お気に入り登録や評価はしなくてもいいので感想だけください(必死)。この作品書いてて一番楽しいのが感想読むことなので

前回のあとがきの答え
マシュ・キリエライトとギャラハッドから一文字ずつ取っていた。でした!

前回の感想の感想
一応フォウ君メインの話だったのに、殆ど所長とぺぺさんの話で草生えました。やっぱみんなもあそこで愉悦されたんやなって。おのれラスプーチン! 実装はまだか!?

アンケート結果
33-4でグダ子になりました! 皆様のご協力に感謝!


 本日より、デミ・サーヴァント実験を成功させた唯一例のマシュ・キリエライト(以下マシュと記す)の主治医を担当。

 始めに彼女とコミュニケーションを取った。

 話を聞いていた限りマシュは誰かと親しく会話をしたり、表情を変えることがあまりないと聞いていたのでコミュニケーションは難航すると思っていたのだが、その予想は良い意味で裏切られることになった。こちらが話しかけると笑顔で応答し、逆にこちらに質問することもある。同年代の一般的な子供と比べれば物静かな方であるが、境遇を考えれば充分すぎるほど明るい。

 彼女の性格が以前の報告と実物に食い違いが生じている。これについて一応一つ推察があるため記しておく。以前の報告書にも書かれていたが、マシュは主に一人の時に、よく『ギャラハッドさん』という、恐らく人名を笑顔とともによく口にする。そのギャラハッドさんとまるで一緒に遊んでいるかのようにボードゲームをしていたこともあるそうだ。私が調べてみたところ、ギャラハッドという名前、もしくはアダ名や略称となり得る名前をした人物はこのカルデアにはいなかった。

 そこで、私はまずギャラハッドさんという人物が何者かというのがマシュとコミュニケーションをする上で重要になると思い、調査をしようと考えた。

 ギャラハッドと聞いて、私たちが真っ先に思い浮かぶのは恐らくアーサー王に仕えた忠臣である円卓の騎士達……そのうちの一人になるギャラハッドだろう。当然英雄の中の英雄であり、聖杯と昇天したことで有名な騎士だ。高潔な騎士とも呼ばれ、幼いマシュを放って置けないと思い憑依したとしたならば頷ける。

 ということは、マシュに憑依した英霊は円卓の騎士ギャラハッドになる……のだが、観測されるデータからはマシュの中にいる英霊は未だ昏睡状態のバイタルを示している。モチロン正確な真名もわからない。

 もう一つ。これは以前からマシュを観測している職員からの情報だが、彼女がギャラハッドさんと呟き始めたのは十歳の頃。つまりは英霊憑依を経てからだという。少なくともその実験が契機となりマシュが変わったのは間違いないと思われる。

 確証はないが、私は彼女が自らに憑依した英霊と会話していると思っている。とはいえ、これは一医師、一人間として報告しておくことにするが、マシュが覚醒していない、または憑依した英霊に全く関係ないかもしれないギャラハッドという偶像を作り出して会話をしてもおかしくないくらい劣悪な扱いを受けている、という点は充分に留意してもらいたい。マシュが精神的苦痛に耐えかね、本で知ったギャラハッドという英雄に救いを求めて救世主として空想した可能性もないわけではない。人道的観点からも医療的観点からも、私はマシュ・キリエライトの待遇改善を要求する。

 何にせよ、今彼女の命があるのはその英霊のおかげだという事実に変わりはない。時々その英霊の魔力によって体調を崩すこともあるが、元々人の身には過ぎた力なのだから致し方ない部分はある。本来三十年の寿命も英霊憑依という無茶をした結果、十八年まで縮んだ。それでも予想していたより遥かに軽い症状なのを見るに、マシュと彼女に宿る英霊はかなり親和性が高いのだろう。私もマシュの主治医として、しっかりケアをしてあげたいと思う。せめて彼女が少しでも人生を楽しめるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がマシュ・キリエライトの主治医となって三年近くが経とうとしているが、未だにギャラハッドが何者か確証を得ることができない。

 マシュ本人に聞いてみたところ、彼女はギャラハッドについて何も答えることはなかった。彼女の中の英霊に口止めされているにしては一人の時に頻繁に名前を出しすぎであるが、そうでないなら特に秘匿する理由もない。

 一番最悪な想定としてマシュが魔術で操られている可能性も考慮したが、精神、体内の魔力の流れ、魔術の痕跡など不審な点は見当たらなく、マシュ本人がギャラハッドについて語るのを自分の意思で拒んでいるというのが妥当な考えだ。理由は不明である。これからのコンタクトで何かわかればいいのだが。

 年々身体も成長し、英霊がいるのにもだいぶ馴染んだのか体調を崩すことはなくなったどころかマスター候補として他の魔術師と卓を並べるほどだ。高いマスター適性を持ち、Aチームになってから僅か半年で首席になるほどの才能である反面戦闘技術は拙く、いつも居残りをしているそうである。

 やはり本人が好きなことややりたいことをしているからか、元々正常値を保っていた精神バイタルは更に安定し、様々な経験と刺激を経て感情がゆり動き、本人の成長にも繋がっている。

 同じAチームのオフェリア・ファムルソローネや芥ヒナコなどと談笑するところを多くの職員達が目撃している。お世辞にもありきたりな境遇に生まれたとは言えないマシュがまるで普通の少女のように同年代の人と話しているのは大きな精神的進歩だろう。

 大きな問題は特に見当たらないが、気になる点もある。

 先日のことだ。その日、オルガマリー・アニムスフィア所長の精神状態はあまり優れているとは言えない時があった。当然、医者の立場からその日は休息をとるように意見したのだが、彼女は頑なに休むことをしなかった。医療スタッフを側に控えさせることを条件に了承したのだが、そんな時に彼女はマシュとすれ違ったらしい。

 詳細は省くが、とある理由からアニムスフィア所長はマシュに苦手意識、より詳しく記すなら恐怖心を抱いていた。つまり出くわすと彼女に多大なストレスを与える。その日は精神衛生が優れないこともあいまって、半狂乱に陥ってしまったようだ。

 宥めや声掛けでどうにかできる段階ではなく、鎮静剤が必要な危険な状態だったとレフ教授から聞いた。だが、そんなオルガマリー所長を青い光が包むと所長は途端に落ち着きを取り戻したというのだ。

 レフ教授も、その場にいた医療スタッフもその段階にアニムスフィア所長に何らかの処置を施した覚えはないそうだ。となると残された候補はその場にいたもう一人、マシュ・キリエライトしかいない。

 私はその場にいなかったので三人からの聞きづてになるが、その魔術からは『神秘』を感じたらしい。神秘の時代はとうに終わり、今は人間の時代だ。そんな魔術を操ることが出来るとすれば、やはり英霊しかいないと私は思う。

 マシュの魔術の師であるレフ・ライノール教授曰く、「あんな魔術をマシュに教えた覚えはないどころか自分も使えない」と言い、マシュ本人でさえ「あんな魔術は初めて見ました」と言っている。

 マシュの中にいる英霊が無意識にアニムスフィア所長を救ったのか、それとも意識が覚醒していることを僕達の技術では知ることが出来ないだけなのかはわからない。この三年間マシュと彼女に眠る英霊について観測して来たが、予想は立てられるし推測もできるが、断定しきるに足る材料が見当たらない。

 可能性としてはどれもありうる。例えば、マシュに眠る英霊が私たちに存在を断定させぬよう暗躍している可能性。英霊は覚醒しているが私たちの技術で観測出来ないだけの可能性。そもそもまだ意識はなく、マシュの空想の産物である可能性。そのどれもを肯定する判断材料があり、然れど断定する材料が足りないというのが偽らざる事実だ。

 私見としては、マシュに宿る英霊が私たち……ひいてはカルデアに害をなす可能性は限りなく低いと考えている。そもそも召喚されたことが気に食わぬなら、五年前の憑依実験でマシュの身体を顧みずに暴走し続けることだって出来たのだ。少なくとも、今に至るまで彼女を依代にする意味はないだろう。以前の報告書にも書いたが、マシュが今生きているのはその英霊のおかげだ。今更私たちに敵対することもないだろう。

 しかし、その英霊にも謎が多いのも事実。同じくカルデアに召喚されたレオナルド・ダ・ヴィンチにも意見を仰いでみたが、彼女の意見も私とそう変わることはなかった。ただ、「英霊とはまた別の存在である可能性もある」との見解があったため、一応記載しておく。

 とりあえずマシュの様子は心身ともにおかしいところはなく、仮に英霊が目覚めていたとしても友好な関係を築いていることは私の五年間の報告書を見てもらえれば伝わると思っている。現状、個人的には取り立てて対処せねばならない事態ではないと考えているが、デミ・サーヴァントには不明な点も多い。

 この変わりない状況に変化を与えられるとするならば、やはり何か真新しい情報か別の視点からの考察が必要になる。いずれにせよ、私はこれからもデミ・サーヴァントであり、Aチームのマスター候補であり、一人の人間であるマシュ・キリエライトの主治医を務め、見守っていく所存である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ」

 

 ロマニが報告書を書き終え一息吐いていると、机の上に静かにカップが置かれる。自室なのに声がすることに驚くことがなくなるくらいいつものことであった。

 

「ありがとう、レオナルド」

 

「何の仕事をしていたんだい?」

 

「報告書だよ。ほら、キミと同じように召喚された英霊を体に憑依させている……」

 

「ああ、確かマシュだったっけ?」

 

「そうだよ」と短く答えてからコーヒーを煽る。あまり苦いのは好みではなかったが、疲れ切った頭と身体は苦いコーヒーで覚醒していく。欲を言えば甘いものも食べたかったが、厚意を無下にするようなことは言わないでおいた。

 

「……どう思う? マシュに憑依している英霊について」

 

「ロマニ、天才で万能な私にもわからないことはあるんだぜ? ……まぁ、情報がなさすぎてなんとも言えないが、この英霊が敵対することはない、っていうのは君に同意するよ」

 

 報告書には嘘偽ざる本音を書いてはいたが、やはり誰かの……それも同じ英霊で天才のお墨付きを貰えると安心感が違った。

 

「まさか天才のキミが根拠もなくそんなことを言わないだろう?」

 

「勿論だとも。これを見てみたまえ」

 

「これは……っ!?」

 

 渡された一枚のA4用紙の内容に、ロマニは驚愕で目を見開いた。対するダヴィンチはその顔を見れて満足そうにしている。

 

「君は医師だから当然なんだけど、マシュの精神バイタルや体調に注視して来た。マシュが体調を崩したのも、単純に魔力過多によるキャパシティオーバーだと見抜いたが故に重視しなかった。他の人もね。だから私はそこに目を向けてみた」

 

 そう、ロマニが渡されたのはマシュの体内の魔力の質や量、魔術回路などが記された資料だった。

 

「私はてっきり、憑依というからにはマシュ自身がサーヴァント並みの力を手に入れると思っていたんだけど……結果はそれの通りさ」

 

 マシュの魔力の流れを見ると、何処かと繋がっている経路(パス)から魔力を注ぎ込まれ、それによって生命活動を維持している。ロマニは似たようなことに見覚えがあった。そう、これはまるで……

 

「—————まるで、マスターとサーヴァントの関係の様じゃないかい?」

 

 そう。聖杯戦争などで召喚されるサーヴァントはマスターと魔力経路が繋がれ、そこから魔力を注がれることで現界している。その仕組みに、よく似ていた。

 

「まぁマシュは生身の人間だから食事などによってエネルギーを補給することは多少できるから一概に全部同じとは言えないけど、マシュは君の報告書のように、ギャラハッド君が憑依したおかげで今生きているんじゃない。彼が今もマシュに憑依しているおかげで彼女は今もなお生き続けられているんだ」

 

「でも、それがなんで敵対しないという判断材料になるんだい?」

 

「得がないからさ。よく考えてみたまえ? 通常の聖杯戦争において、サーヴァントの利とは基本的には聖杯を手に入れ、願いを叶えることだ。それにはマスターの存在が必要だから協力する。加えて令呪という強力な命令行使権もあるから、迂闊なことは出来ない。

 対して彼はどうだい? マシュに従えば願いが叶うのか? 或いはマシュが令呪並みに強力な何かで言うことを聞かせているのかい? どちらもあり得ない。なら、今この状況はギャラハッド君が自分の意思でやっているのさ。何故かカルデアからの魔力バックアップを受けない彼は時間が経つにつれて弱くなっていく。敵対するならとっくにしているってワケさ」

 

「なるほど……」

 

 確かに謎は多いし、目的もわからない。だけど悪い人物ではない。それが確信できるだけでもロマニには充分だった。嫌なことといえば、今のダヴィンチの話を聞いてしまったばかりに、書き終わったはずの報告書に更に書き加えることができてしまったことだろう。

 ロマニ・アーキマンの眠気はそろそろ限界だった。

 その翌日にロマニは机でまるで白い灰になったように燃え尽きていたそうな。




今日からの復刻イベント、頑張りましょう!


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第三章 偉大なる旅路
グランドオーダーの始まり


難産でした。
FGOのメインストーリーって人理とか命の儚さとか、その世界に生きる人達を描くからどうしてもシリアスになってしまうんですよ。でも勘違いタグが有るので、読者が読みたいのはギャグチックな物なのかと思ったりの板挟み。いや、勘違いはしてるんですけどね? ロマニとか前回の話で無駄な深読みさせましたし
ちょっとどういう方針にしようか悩みながら書いたので普段より駄文注意。多分シリアス風味な感じでこれからも書くと思います。ご期待に添えなかったら申し訳ない
後これは個人的な感想だけど、グダ子って周りの雰囲気に敏感なリア充ってイメージが強いんですが、皆さんはどうですか? アニメのグダ男はどこかわからないけど、なんか違う感があるんですよねぇ……何でだろ?


 偉大なる旅路の始まりは、カルデアの廊下だった。

 

「ギャラハッドさん、誰かが廊下で倒れてます。起こしてあげたほうがいいのでしょうか?」

 

 —————————————このまま放置は流石に可哀想じゃないかなぁ? 

 

 初会合は珍妙なものであった。なにせ自分とそう歳が変わらない女の子が、お世辞にも寝心地がいいとは言えないカルデアの硬い廊下でスヤスヤと突っ伏して寝ているのだから。おまけによだれまで垂らしている。

 

「……起きてください。そんなところで寝ていると風邪をひいてしまいますよ」

 

「そういう問題?」と内心ギャラハッドが思いつつも、口出しすることなく見守る。未だに床に寝そべる少女はよほど深い眠りに落ちているのか、かなり激しく揺すっても起きなかった。

 

「こういう時は殴ってでも起こしていいんでしたよね?」

 

 —————————————ダメダメダメ! それブリテン流だから! 現代でそれやったら絶対ダメだよ! 

 

 幼い頃からギャラハッドの実体験を聞き、一番話した相手はダントツでギャラハッドであるマシュは大分ブリテンの思考に染まっていた。ギャラハッドの話の多くを真に受けるマシュは純粋と言えるだろう。

 

「む、なら……」

 

 マシュの細く白い指で少女の鼻をつまむ。ふがふがとあまり女子らしからぬ声が出ているが、マシュは指を離さなかった。やがて息苦しさを感じたのか、少女が突然目を覚ました。

 

「ぶはぁっ! ……あれ? ここは?」

 

「おはようございます、先輩」

 

「あ、おはようございます。……って、先輩?」

 

 ……先輩? あれ、マシュに先輩って存在するの? 

 マシュの出自をだいたい知るギャラハッドが混乱する。もしかして自分が憑依する以前の知り合いか何かかとも考えたが、少女の反応的にそういうことでもないらしい。時々付き合いが長いギャラハッドでも予測できないことをする天然ぶりは歳を重ねても健在のようだ。

 

「随分と気持ちよくお休みでしたが、もしかして先輩は固い床でないと寝れない体質なのですか?」

 

「いやー、そうそう。実は畳じゃないと寝れなくて……って、違うわい! いや、ここで寝ちゃったのは事実だけど!」

 

 見事なノリツッコミを披露し、ようやくお互いに自己紹介をし合う。少女の名前は藤丸立香。赤い髪にサイドポニーの髪型が特徴的で、出会ってすぐにわかるくらいには明るい性格のようだった。

 世間話もそこそこに通路を歩き始める。もうすぐで所長から新人への説明会が始まる。厳格なオルガマリー所長は遅刻に厳しいことをよく知るマシュは、それが行われる会場までの道を案内する。

 

「あの……マシュ? さっきからその……ギャラハッドさん? って人と会話しているみたいな口ぶりだけど、私たちの他に誰もいないよね? 幽霊とかいるわけじゃないよね?」

 

 正直に言って、最近は理解を示してくれる相手としか喋っていなかったから二人とも失念していた。マシュの事情を知らぬ者からしたら一人で楽しげに喋っているようにしか見えず、不気味だ。それに何故かマシュはギャラハッドについて話せない。まるで、大きな力が彼女に抑制を強要しているかのように……。

 

「……ごめん。聞いちゃいけないことだったかな?」

 

「いいえ。ただ、どう説明したものかと思いまして……あ、あそこの部屋で説明会は行われます。……それでは」

 

 恭しく頭を下げ、早歩きで去っていく。その様子を見て、立香は気まずそうな表情で垂らした髪を触るのだった。

 

 —————————————えっと、なんかゴメン。マシュ。

 

「? なんでギャラハッドさんが謝るんですか?」

 

 —————————————いやほら、人前ってことを忘れて話しかけちゃったからさ。

 

「ギャラハッドさんと話すのは楽しいですから……むしろ話しかけてくれなくなるほうが嫌です」

 

 あまりにも自然にそう言ったものだから、ギャラハッドは面を食らって何も言えなくなってしまう。表情を見ても本当に何も気にしているようには見えなかったので、それ以上何か言うことはやめた。

 カツカツと、マシュの足音だけが通路に響く。しばらくあてもなくカルデアを彷徨い、唐突に口を開いた。

 

「今のままでも楽しいですけど、やっぱりギャラハッドさんも霊体を持って一緒に話せたらもっと楽しいのかなと思いまして……これは、ワガママな願いなのでしょうか?」

 

 ————————————ワガママなんかじゃないさ。

 

 マシュは有り体に言ってしまえば世間知らずだ。空が青いことや太陽が輝いていること、自然が織りなす美しい風景がこの世界には満ち満ちていることを知っている。だが空の青さ、太陽の輝き、世界の美しさを彼女は知らない。

 その無知さは人間関係においても同じだった。自分の言うことは迷惑をかけないだろうか。人を傷つけるようなことではないだろうか。自己本位なものではないだろうか。本来なら幼い頃から培っていく当たり前の基準が彼女は曖昧だった。だから、先程のように説明できないことを聞かれると困ってしまう。

 

 ————————————むしろもっと甘えてくれても構わないんだよ? ギャラハッドさんは大抵のことは出来るんだから。

 

「……ふふ、もうこれ以上ないくらい甘えているつもりなんですけどね?」

 

 マシュ・キリエライトにとってギャラハッドは紛れもなく英雄だ。それは物語で彼がそう語られているからではない。彼が為した偉業を知るからでもない。彼女にとって、ギャラハッドは自分という存在を救ってくれた。だから英雄なのだ。

 マシュは彼についてのことは自分の意に反して、人に話せない。だからその状態が続く限り、彼はずっとマシュだけの英雄だった。

 手のひらをそっと胸に添え、自分に温かく流れる魔力を感じ取る。彼はいつもと変わらずそこにいた。

 もし、彼がいなかったら……或いはいなくなってしまったら、自分はどうなってしまうのだろうか? マシュは、それだけがたまらなく怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟々と炎が上がっていた。崩れ落ちた瓦礫と湧き上がる熱風が明らかな異常事態を告げている。

 

「ハァッ、ハァッ……!」

 

 マシュはそんな地獄に一人で立っていた。煤が服や肌を問わずに自分を黒ずませていくが、御構い無しに瓦礫を漁る。幸いにも自分には傷一つなく、動けるのも自分だけ。他の人の命はマシュ一人に託されている。

 

 —————————————マシュ、ごめん。僕の力が及ばなかった。

 

「謝らないでくださいっ……! 今皆さんがなんとか生きていられるのは、間違いなくギャラハッドさんのおかげなんですから……!」

 

 謎の爆発を察知するとすぐさま展開されたギャラハッドの得意魔術である防御術式は、全員を無傷で守りきるには出力不足であった。それはつまり、マシュの実力不足であることを彼女自身にも自覚させることになる。

 今の彼は自分の体を中継としてしか魔術を行使できない。確かにギャラハッド本人の魔力量は英霊の中でも随一かもしれないが、その膨大な魔力に耐えられる器をマシュは持ち合わせていない。もしギャラハッドがマシュの体を顧みずに魔術を使っていたら、皆が無傷で助かる代わりにマシュは恐らく魔術回路が焼き切れて死んでいただろう。

 つまるところ、今のマシュはギャラハッドにとって足枷も等しかった。

 

「うっ……! はぁ、はぁ……」

 

 息が苦しいのは酸素が薄くなってきたせいか、魔力を限界まで使ったからか、涙を堪えているからか……そんなことを考えるヒマさえないほど緊急事態なのだ。

 限界に近い体を無理やり動かして退かした瓦礫の下に、見覚えのある顔が見えた。

 

「所長……!」

 

 左腕は変な方向に曲がり、頭から出血もしている。だが胸は上下に動き、苦しそうに呻いている。生きていた。確かな生命活動の証がマシュの心に希望を与える。

 

「他の方も助けない、と……? あれ……?」

 

 普段思い通りに動くはずの体が重い。四肢に力を込めて立ち上がろうとしても自分の体を支えることすらままならなかった。

 立ち上がらなければ。今動けるのも、みんなを救えるのも自分しかいないのだから。

 奮い立つ気持ちに反して体はどんどん重くなっていく。瞼すらも開けていることが難しくなり、だんだんと意識が朦朧としてきた。

 

「マシュ──────!」

 

 意識が落ちる前に最後に見たのは、赤毛の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目に入ったのは、まるでさっきのカルデアのように燃え上がる街だった。突然見知らぬ景色が広がっていることは謎だったが、先程までの倦怠感が嘘のように体には活力が満ちている。

 自分の姿を確認してみると体が濃色の鎧に覆われ、右手には身長より高い大盾が握られている。この姿には心当たりがある。自分が幾度も読み、諳んじることさえ出来る物語の英雄にして、今も彼女を守り続けている存在。

 

「ギャラハッドさんの宝具……?」

 

 —————————————うん、その通り。

 

 いつもの通り、声はすぐそばから聞こえてきた。いつもと変わらぬ落ち着きのある声。その声にマシュは何よりも安心出来る。

 

「……何があったんですか? いえ、そもそもこんなことが出来るなら……」

 

 さっきやってくれれば、皆をすぐ助けられたのではないか? 

 言外に彼を責め立てるニュアンスがあることに気づき、マシュは口を噤んだ。自分は彼を傷つけたいわけでも、責めたいわけでもないのだから。

 

 ———————————————————出来るか出来ないかで言えば、さっきでも出来た。でも、立香やドクターロマンが来たのと……これをやってしまうと、マシュは僕がいなくなるまで普通の人間には戻れない。

 

 今までのように、ギャラハッドがマシュに力を貸し与えるだけではない、マシュの存在そのものがサーヴァントに近くなる。そんな無用な重荷を、必要な場面以外で背負わせたくなかった。

 力を持つと、厄介ごとは避けられない。無用な争いに巻き込まれることだって多々ある。それをギャラハッドとして生涯を全うした彼はよく知っていた。マシュは生まれや育ちは異端だが、中身は普通の少女だ。そんな子を自分と同じような目に遭わせるのはどうしても気が進まなかった。

 

「……大丈夫です。最初から、こうなる覚悟はしていましたから」

 

 自分はそのために生まれてきた存在なのだから。

 彼女にとって、憑依してくれた英霊が彼だったというだけで望外の喜びだ。いつか戦う覚悟は出来ていた。そのいつかが今なのだ。

 

 ————————————……そっか。じゃあ、マシュが倒れた後の状況と、現状について説明するよ。

 

 ギャラハッドの説明を受けてすぐさま走り出す。

 マシュが倒れた後、他の人はロマニに介抱されていたこと。カルデアスが赤く染まり、人類の未来が消えてしまったこと。ここにいるのはレイシフトによるものであり、レイシフトしたのはマシュだけではなく立香もであること。

 立香を探してあてもなく走っていると、死霊系の敵対生物が群がっている箇所が目に入る。マシュがそれを捉えたのは、ちょうど骸となった敵が武器を持ち、倒れている少女に襲いかからんとしているところであった。

 

「ヤアァッ!」

 

 力の限り盾を振り抜く。正式にデミ・サーヴァントの力を得た体から繰り出される攻撃は、一撃一撃が骸骨兵にとって必殺。触れたそばから砕け散っていくが、相手も黙ってやられるわけではない。

 手当たり次第に盾を振り回すという余りにも拙い技術は、数の利による包囲攻撃に対処できない。加えて未だに眠り続ける藤丸立香という防衛対象もいるなか、戦局は圧倒的に不利であった。

 

「あっ!」

 

 連続攻撃を捌くことに必死なマシュは、死角から迫る自らを狙った攻撃に気づかない。盾は振り切り、もはや防御も回避も間に合わない。しかしその攻撃は蒼い光に阻まれる。

 

 ————————————僕が出来るだけサポートする。恐れないで行け! マシュ! 

 

「はい!」

 

 そこからは一方的な蹂躙だった。背中は彼が守ってくれると、マシュは攻撃だけに専念する。確かに数は途轍もないが無限に出てくるわけではない。一匹一匹を確実に仕留め、着実に数を減らしていく。半分以上は薙ぎ倒したであろうくらいに敵わぬと悟った兵達は四方に離散していった。

 

「はぁっ……! ……ふぅ、戦闘終了です」

 

 残党の骨をサーヴァントの膂力で振るわれた盾で叩き割り、この場にいる敵を殲滅する。肩で息を切らす辛勝ではあったが、確かに彼女は勝ちをもぎ取った。

 だがその余韻に浸る暇もなく、あんなに近場で激しく戦闘をしていたのに未だに起きぬ自分のマスターの頰をペシペシと叩いた。

 

「痛い! ……っていうか何かデジャヴ……」

 

 マシュのマスターになった彼女は相変わらず呑気な様子で頰をさすっている。

 

「おはようございます、先輩。いえ……正確にはマスターですね」

 

「……あれ、マシュ? 何その格好……なんかえっちぃね」

 

 顔を赤く染め上げる立香の視線に釣られて改めて自分の姿を見ると、確かに腕と腹部はかなり露出していて、鎧に覆われている部分もボディラインを強調するような造りになっている。言われずともハレンチだと思わざるを得ない姿をしていることを自覚したマシュも立香と同じように頰を赤らめた。

 

 ————————————違うマシュ。これは僕がマシュに着てほしいとか個人的な欲望によるものじゃなく純粋に今のマシュの魔力許容量から考えてマシュに負担がかからないようにしたら顕現出来るのがそれくらいだっただけであってとにかくワザとじゃないんだ。

 

 普段落ち着いているギャラハッドがここまで取り乱すのは珍しい。マシュの背筋を形容しがたいむず痒さが蠢き、快感さえ伴った。

 だが流石に生真面目な性格であるマシュがこの状況でギャラハッドを追撃することはなかった。短く溜息を吐いて気持ちを引き締め直すと同時に通信が繋がった。

 

『マシュ! 立香ちゃん! 良かった、ようやく繋がった……って、マシュ! なんだそのハレンチな格好は!』

 

「Dr.ロマン、それはもう先輩がやったのでいいです。それより、状況の交換を。こちらの報告はレイシフトによって私とマスター……藤丸立香が巻き込まれ、この特異点に飛ばされたこと。すでに合流済みです。それと……これは私のデータを見てもらうのが早いかと」

 

『うん。……ん? おお! これは……! マシュの魔力と身体能力が段違いに上がっている……! まさか』

 

「はい。私は英霊ギャラハッドの一部と融合し、正式にデミ・サーヴァントとなりました」

 

「???」

 

 カルデアの悲願の一つ、人間と英霊を融合させ、擬似的に英霊の力を持った人間を生み出すデミ・サーヴァント計画。マシュはギャラハッドとの融合を果たすことでその悲願を達成し、計画通りに一部ではあるが英霊の力を振るうことを可能にした。

 

『そうか。やはり君が良く口にしていたギャラハッドさんという人物は円卓の騎士であるギャラハッドだったんだね?』

 

「はい。私に力を貸してくれたのはそのギャラハッドさん……で……」

 

「マシュ?」

 

 猛烈な違和感がマシュに襲いかかり、その違和感の正体は何だろうかと思考を巡らせ、そして思い至る。今までいくら話そうとしても他人に話せなかったギャラハッドという存在。それが今はいとも容易く口にすることが出来、他人にその情報を教えることを可能にしている。

 むしろ今までなぜ出来なかったのか。マシュの疑問はそちらに向いていた。

 

「……いえ、報告を続けます。ギャラハッドさんは私と融合しましたが、それは彼の一部分です。彼曰く、今の私は彼の力全てを受け継ぐだけの器がなく、もし仮に無理やり私に全ての力を継承したら私の体が保たないと。そのため私は十全なサーヴァントとも言い難く、正式な宝具の開帳も出来ません」

 

『……そうか。でもマシュが大きな戦力になることは間違いない。どうか立香ちゃんを守ってあげておくれ。……こちらから伝えるべきことはあの爆発の被害についてだ。所長以下カルデア職員ならびにマスター候補生の命に別状はない。多分マシュが無傷だったのを見るにギャラハッドが守ってくれたんだろう。しかし傷は浅くない上に、カルデアには彼らにつきっきりで看病する時間もなければ人材もいない。よって、今動ける職員で一番高位な立場である僕がコールドスリープの判断を下した』

 

 死亡者はいないという報告に二人と一霊は安堵の溜息を吐く。誰か一人でも亡くなっていたら、マシュはきっと己の力不足を嘆いていただろう。

 

『そして立香ちゃん』

 

「は、はい!」

 

 先程まで全くついていけなかった会話の矛先が自分に向かい、不意を突かれた驚きから自然と背筋が伸びる。

 

『突然こんなところに放り込まれて混乱している気持ちはあるだろうが、心配しないでほしい。今のマシュはサーヴァントという、とても心強い存在だ。きみは……サ……マス……』

 

 通信が乱れたのだろうか、段々とロマニの声が不明瞭になっていく。それを向こうも察し、今必要な情報だけに要点を絞り、一先ずの目的を伝えた。

 二キロ先の強い霊脈を目指せ。

 そう言い残して通信は途絶え、沈黙した彼らの耳には死の街で何かが焼けていく音だけが届いた。

 

 —————————————マシュ、とりあえず……。

 

「そうですね。先輩、とりあえず言われた通りに霊脈を目指しましょう。質問などがあれば道すがら答えますので」

 

「……もう何が何だか訳がわからないけど、一人じゃないだけマシなんだよね……うん! 霊脈とかいう場所にレッツゴーです!」

 

 威勢良く歩き出す立香を見ていると自然に笑みが零れる。周りが暗い雰囲気であることを察し、明るく振る舞えるのは間違いなく美点であり、誰もが出来ることではない。ギャラハッドが知る限り、それが出来るのは立香を含め二人だけだ。ふと、アルトリア様は別れの後に元気に暮らせたのだろうかとギャラハッドは思った。

 その数十秒後、炎に包まれた街冬木はガイコツ兵を見て驚いた立香の甲高い悲鳴に包まれた。




この作品のマシュの原作との相違点
・ギャラハッドと融合はしたが、体が耐え切れる分だけなので一部分のみ。ギャラハッドはマシュを無用な面倒ごとに巻き込まないために今までしなかったが、特異点にレイシフトしたため融合せざるを得なくなった。
また戦闘技術などを受け継いでいないので原作よりマシュ単体では弱いが、その分ギャラハッドのサポートを受けられる。ただしマシュの体を介してのサポートなため、マシュの許容量を超える魔力を使用する魔術などは使えない。そのため宝具の開帳などは現時点で出来なく、簡易化されたものとなる。一章でギャラハッドを強くしすぎて人理修復があっさり終わる未来しか見えなかった作者が作った設定という裏話
・幼い頃からずっと一緒にいた弊害で、若干ギャラハッドに依存気味である。特に精神面の安定はずっと彼と話していた影響が強く、仮にギャラハッドが居なくなったら軽い錯乱状態に陥る。というか最早マシュにとってギャラハッドは自分の半身であり、体の一部のようなもの。文字通り四六時中一緒にいる存在ですからね……
・悪戯心が原作に比べると少し強め。これも全部マシュをからかったりするギャラハッドって奴が悪いんだ!


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奮闘と成長

はい。というわけでFGOはシリアスな展開で行くゾ〜。嫌な方はブラウザバックやで
特異点Fってうろ覚えだわ未だ謎が明かされてないわで書きづらきことこの上なし。今回は進行パートだから面白みはなし。ギャラハッドのセリフが少ない? あれだよ、前作主人公によくあるあれですよ。あんまでしゃばんないんですよ


 未だ燃え尽きることのない街の霊脈への道程で、マシュは立香への説明を済ませる。サーヴァント、マスター、レイシフト……全て初めて聞く単語に立香の頭上には疑問符がいくつも浮かんだが、自分なりに噛み砕いて理解した。

 

「えっと……英雄の幽霊みたいなのがサーヴァント? で、すっごい強くて、マスターはそれを補佐する人のことで私がそのマスターで……この赤いアザみたいなのでサーヴァントを一時的に強くできる……で合ってる?」

 

「大枠は捉えているので間違いないかと……。付け加えるなら、私はギャラハッドさんから力を貸してもらっているだけなので、厳密に言うとサーヴァントではないのですが……」

 

 説明途中に立香の顔を盗み見ると、なるほどわからんという表情をしていたため具体的な話は中断する。今はとりあえず自分達でこの特異点の原因を突き止め、解決するという最終目的さえ理解してもらえれば行動には支障がない。

 

「そのギャラハッドさん? は今マシュに憑依してるんだっけ?」

 

「はい。ギャラハッドさんは私の中から魔術を使ってサポートしてくれたり、戦闘時に助言をくれたりするんですよ」

 

 ———————————助言とサポートなら任せてくれて構わない。

 

「へー、でも自分の中にもう一人別の人がいるって違和感とかあったりしない?」

 

「私にとって、ギャラハッドさんはもう自分の半身のような存在ですから……むしろ、いない方が違和感があるかもしれません」

 

「そういうものなんだね……」

 

 ガールズトークにしてはあまりに華がないが、気を緩めず、かといって張り詰めすぎないようにするためにはこれくらいの会話がちょうどいい。霊脈を目指す中途でガイコツ兵に遭遇することもあったが、いかに戦闘が苦手とはいえ、サーヴァントの力を持っているマシュの相手ではない。

 ギャラハッドの魔術サポートに加え、実戦というこれ以上ない経験にこれらの装備の本来の使い手であるギャラハッドというこれ以上ない師匠からの指導(アドバイス)によって、マシュは恐ろしい速さで成長していく。

 たった今も敵を粉砕し、多勢に無勢だったのを物ともせず本人だけの力で打ち倒した。英雄の力の一端を目の当たりにし、自分があの力を御する存在だと言われてもイマイチピンと来ない。まるで映画でも眺めているような心地に陥るのだ。

 

 ————————————気持ちはわかるよ。

 

「うわっとぉ! え? 誰!?」

 

 突如自分の脳内に響いた聞きなれぬ男性の声に、立香は思わず体を硬直させる。戦闘を終えたマシュが突然に不審な様子を見せた彼女の元に駆け寄り、彼女の説明を受けて状況を把握する。

 

「ああ、それは多分ギャラハッドさんですね」

 

「え、今のが!? 英雄ってテレパシーも出来るの……?」

 

 ————————————いや、これは立香ちゃんがマシュのマスターだからだと思うよ。

 

 また何処からともなく声が聞こえてくる。慣れていないのもあるが、脳に直接人の……それも異性の声が届くということに違和感と気恥ずかしさを感じる。まるで脳で考えていることを覗かれているような気分だ。

 

「ナルホドォ、廊下でマシュが一人でブツブツ喋ってるのってこういうことだったんだ……」

 

 ————————————ヨロシク、立香ちゃん。

 

「あ、呼び捨てでいいですよ。大体みんなからもそう呼ばれてたので!」

 

 着実に彼らは関係を築いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど、一通りの説明は済ませてくれたようだね、ありがとう。こちらも分かったことがある』

 

 合流地点から二キロほど歩いた先、龍脈で再び繋がったカルデアとの通信でロマニからの情報は入った。ここは2004年の冬木。その年、冬木では聖杯戦争が起こっており、そこで何かしらのイレギュラーが起こったために特異点化した場所である、と。

 

『……聖杯戦争の舞台ということは、敵対するサーヴァントがいてもおかしくない。それもマシュというサーヴァントを連れているマスターならなおさらだ』

 

 正直に言ってマシュは弱い。確かにスケルトン程度の敵対生物ならサーヴァントであるマシュの敵ではないが、相手が同じサーヴァントなら彼女に勝ち目はないだろう。新米サーヴァントに新米マスターで生き残れるほど聖杯戦争も特異点も甘くはないであろうことは素人である立香にも容易に想像がついた。

 

『正直に話そう。マシュ、それに立香、この特異点で君達の命の保証をすることは僕には出来ない。それでも、やるのかい?』

 

「……私には何が起きてるのかサッパリわからないけど……多分、これはやらなくちゃならないことだってことはわかる。だから……やります」

 

「マスターがやるならもちろん私もやります。大丈夫ですドクター。こちらにも正真正銘の英雄であるギャラハッドさんがいるんですから!」

 

 ————————————……まぁ任せてください、出来る限りのことはするので。

 

 何を為すにも、まずそこに意志がなくてはならない。でなければ、このような絶望的な状況で人は容易く折れてしまう。自分を奮い立たせる理由が何であれそこにある、と図らずも確認させたロマニは大きく頷いた。

 

『————それでは、これより特異点Fの調査に本格的に動き出す。各員迅速かつ自分の命を最優先に、この特異点の歪みの原因を見つけてくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァァァッ!」

 

 裂帛の声と共に、彼女の唯一の武器である大盾を力の限り振るうもすんでのところで躱され、逆に投擲された鎌に命を晒す。だが青い魔力壁が命を刈り取る刃物を防ぎ、その隙を突いて再び接近して先程よりも速く盾を振り抜く。

 

 ————————————逃がさん! 

 

 相手が回避する方向に壁を作り出し、逃げ道を塞ぐとサーヴァントの脚力から発揮されるスピードそのままに壁にぶつかり、辺りに轟音を響かせると同時に致命的な隙を晒した。

 

「マシュ、今ッ!」

 

 追い討ちをかけるが如く立香の右手の甲に宿る令呪が赤く光り、マシュの人から並外れたサーヴァントの力が更に増幅される。本来三画しかなく、使いどころの見極めが重要な切り札である令呪だが格上の相手を確実に仕留めるために使用した立香を責めるものはいないだろう。事実、令呪によって破壊力を増したマシュの全力の一撃で敵対サーヴァントは致命傷を負い、体を粒子に変えて空気に溶けた。

 

「勝った……? ……勝ちました! ギャラハッドさん! マスター!」

 

「イェーイ! お疲れ、マシュ!」

 

 ————————————ふーっ……、何とか勝てたね……。

 

 結果を見れば、謎の黒い影に覆われて思考力が鈍っていた上にマスターもいないサーヴァントを実質三人がかりで戦い、貴重な令呪を消費してしまったが、間違いなく英雄と呼ばれた存在に自分達が勝ったのだ。喜ばないわけがなかった。

 

 ————そして、油断したところを狙うのが暗殺者だ。

 

 ————————————! クッ! 

 

 咄嗟に防御魔術を展開出来たのは、それが彼にとっての得意魔術だったからだろう。そしてそのおかげで今立香は生きている。

 ギャラハッドに遅れて二人が姿の見えない敵からの襲撃に対して戦闘態勢に入る。だがどうしようもなく分が悪いのはカルデア一行だ。ただでさえ先程格上の相手に神経をすり減らし、使った魔力も決して少なくない。マシュにどれだけ余力があるかまでは彼には分からないが、表情を見る限り限界はそう遠くないだろう。

 

「セセセ聖杯ヲ我ガ手ニ……」

 

 最早そのサーヴァントは正気を保っておらず、譫言のように聖杯をと口にしている。どこからか取り出された短刀の投擲をしっかりと防ぎ接近するも、短刀での牽制や軽々とした身のこなしで距離を詰められない。体力の問題で早期決着をしたいマシュが歯嚙みを始めた時、戦況はさらに悪化する。

 

「————マシュ、上!」

 

 その言葉に反応したのはマシュではなくギャラハッドだった。立香を信じて上に目を向けることもなく、魔力防壁を展開すると甲高い金属音が辺りに響いた。

 奇襲を仕掛けて来たのは二騎目のサーヴァントであるという事実は一騎でも手に余る戦力しかない彼女らにとって絶望的な知らせだった。

 

「……諦めません……!」

 

 だがマシュは再び持ち手を固く握り締め、闘志を萎えさせることはしなかった。

 物語で読んだ彼は諦めることをしなかった。ならばその力を受け継ぐ自分がどうして諦めることが出来ようか。

 

 —————————————マシュ……。

 

 彼女はもう、大人達の都合に振り回されるだけの子供じゃない。彼女はもう、戦う力を持たない弱き者ではない。一人の(サーヴァント)がここで生まれたのだ。

 

「————いいな、嬢ちゃん。諦めが悪いのは嫌いじゃねェ」

 

 まさにマシュに飛びかからんとしていたシャドウサーヴァント達に爆炎が直撃し、風と共に砂が舞い上がる。この場で唯一か弱い人間の体を持つ立香は盛大にむせた。

 

「嬢ちゃん、あんたはそっちのやつをやりな。手傷は負わせたから一対一なら今のアンタでも勝てるはずだ」

 

「はっ、はい!」

 

 獰猛な獣のような目を携えた男性に従い、再びアサシンのシャドウサーヴァントに盾を構えて向き直る。

 

「マシュ・キリエライト、行きます! ギャラハッドさん、マスター、バックアップはよろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……!」

 

 すでに疲労困憊だったところを突かれての連戦の終盤は最早声を出す体力すら残っていない。微かな鋭い吐息と共に振るわれた盾はアサシンの胴体に直撃し、霊核を砕くまでに至る。敵の消滅を見届けたマシュは張り詰めていた精神を緩め、疲労からか足に力を入れることが叶わず大地にへたり込む。結局敵を倒すのにまた令呪を使う羽目になった。

 

「おう、お疲れさん。まだまだ拙い部分はあるが見どころあるぜ、嬢ちゃん。そこの見るからに新米のマスターもな」

 

 涼しい顔をして労いに来る辺り、あのもう一人のサーヴァントでは相手にならなかったらしい。

 

「さて、じゃあそちらさんの事情を聞かせてもらおうかね」

 

『説明は僕からさせてもらいます、キャスターのサーヴァントよ』

 

 さすが英雄と言うべきか、キャスターはロマニから特異点の話やカルデアの目的を聞いても大して驚いたりはしなかった。

 

『……以上がカルデアの目的です。それで、この特異点で何があったのかを聞きたいのですが……』

 

「ワリィが何が起こったのかは俺も知らん。俺が知っているのは一夜にして人が消え、サーヴァントだけになったことと、その異常事態にも構わずに再び聖杯戦争をおっぱじめたセイバーにオレ以外のサーヴァントは斬られ、あんな訳の分からん姿になっちまったってことだ」

 

 異変はすぐそばに迫っていた。




特に書くことがないので、マシュの名前のエモい由来とそこからの考察
・マシュの由来はMatthew。これはヘブライ語で「神の贈り物」という意味。キリエはKyrie。ラテン語で「主の」という形容詞。ライトは普通にlightで光。

以下考察
・神の贈り物とは生命の誕生はしばしば神秘であると考えられ、デザインベイビーという特殊な境遇から生まれた来たマシュという存在そのもののことを指すのではなかろうか。

・ラテン語のキリエの「主」とは神やキリストを指すのだが、今回は普通にあるじという意味……つまりマスター(主人公)と考えると、名字のキリエライトはマスターの光、ということになる。

・ここで最早マシュのキャラソンと言っても過言ではない坂本真綾さんの『色彩』という歌詞から考えてみよう。こんな歌詞がある。『私は女神になれない。誰かに祈りも捧げない』。名前の由来の単語に神という単語を含むマシュが女神になれない。一般的に向ける対象は神である祈りも捧げない、というのは作詞者の意図を感じる気がしないだろうか?

・そして、こんな歌詞もある。『私に色彩をくれた人』。これはわざわざ言わずともいいだろうが、マスター……つまり主人公だ。色彩、というのはつまり色合いだ。そして色とは、物が光を反射することで生まれる。そう、マスターは彼女に光を与えたのだ。これが名字のキリエライトである。

つまり、マシュは神の贈り物……つまり生まれという人生の始まりを意味し、キリエライトで色彩をくれたこれから、つまり未来を表していると思わないだろうか?
つまりマシュ・キリエライトとは、一人の少女の始まりと未来を意味してつけられた名前だと私は考える。異論反論質問は受け付けるが、ひとまずQ.E.D.


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再会

みんなが待望したあの人オルタが登場や!
ベースはこの小説のアルトリアのオルタということになりますが、本人ではありませぬ。ギャラハッドとブリテンにいたアルトリアは未だに効いたよね、早めのアヴァロンに居ます
あと今回勘違い要素あります。久々に書けて満足

以下自分語り

私はどうしてもあのツンデレ女神様が欲しかった。初代Fateのヒロインを依代としたあの女神様との戦いは、去年の復刻クリスマスで冥界の女神を狙い、儚く散っていった石たちへの弔い合戦でもあった。
その短くも濃い戦いが終わり、気がついたら私はお母さんになっていた! 何を言ってるかわからない? 安心してくれ、FGOプレイヤーならわかる。なぜ0.08パーセントが来るのか、コレガワカラナイ。ロリも嫌いじゃないからいいけど(ニチャア)


 利害の一致という理由で立香と契約を結んだキャスターが唐突に口を開いた。

 

「そういえば嬢ちゃん、宝具は使えるのかい?」

 

「ほーぐ?」

 

 今までに説明されていない単語が出てきたため、立香が不思議そうに声を上げた。

 英霊が英霊たる証にして、唯一無二の奥の手。宝具とは文字通り、歴史に名を刻んだ英雄達の本気に他ならない。立香にもわかりやすく例えるなら必殺技のようなものだ。

 

「一応行使は可能ですが、ギャラハッドさん並みの宝具の展開は不可能です……」

 

「ふぅん? ま、使えるならそれでいいさ。宝具のあるなしで戦力は大きく変わるからな。それに新米サーヴァントに易々と宝具を完全再現されたら、英雄の名折れだろうさ」

 

 宝具とは英雄の切り札だ。アーサー王やモードレッドのように敵を滅するものもあれば、ギャラハッドのように味方を守るものもある。英雄の数だけ宝具があり、その種類は正に千差万別であるが、共通しているのは宝具を一回使用するだけで戦局を大きく変える力を持つということだ。

 

「……大聖杯はこの奥ですか?」

 

「おう、この洞窟の奥にある大聖杯を守るようにセイバーはずっとそこにいやがる。陣地防衛とかキャスターの所業なんだがなぁ」

 

 策を弄し、罠を張るのは弱者の戦い方だ。強い相手に真っ向からでは勝てないから策を練り、自分に有利な場所でハメ殺す。だが今回待ち伏せているのは聖杯戦争でも最優のクラスと名高いセイバーであり、その名に恥じぬほど強力なサーヴァントが多い。

 

『……ますますその大聖杯に何かあるのは間違いない、か。ちなみにセイバーの真名とか分かっていたりするんですか?』

 

「ああ。あいつの宝具を見れば嫌でもわかる。何せ現代では最強の聖剣と謳われる宝具だからな」

 

「さ、最強の聖剣……!?」

 

 これまでの戦いを見てサーヴァントの人ならざる力は嫌というほど理解している。その一騎当千の英雄達の中でも最強の武器の一つを持つ存在とこれから剣を……いや、盾と魔術を交えるのだと思うと、萎縮してしまう心を止めることは出来なかった。

 

「……大丈夫です、先輩。私も私だけだったら不安だったかもしれませんが、こちらにだってギャラハッドさんとキャスターさんがいますから!」

 

「ま、魔術は性には合わんが……それでも負けるつもりは毛頭ねぇ」

 

 ————————————……それはもちろんなんだけど、最強の聖剣……? 

 

 最強の聖剣と言われて何を思い浮かべるだろうか? カリバーンやデュランダルなど聖剣と一口に言っても種類は実に多様であり、それを扱う英雄もまた違う。だが最強の聖剣を答えろと言われれば、多くの人がこう答えるだろう。

 

「気ィ引き締めてけよ、嬢ちゃん達。大聖杯を守るセイバーの真名はアーサー・ペンドラゴン……最強の聖剣エクスカリバーを携えるブリテンの王だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 —————————————うーんうーん、アルトリア様に盾を向けなきゃいけない日が来るとは思わなかったよ……。

 

「ギャ、ギャラハッドさんがこんな風になるなんて初めて見ました……!」

 

『彼は理想の騎士と言われるくらいの人物だったからね。かつての主君に形はどうあれ逆らうようなことをしなくてはならないと言われたら、こうもなるのかも……』

 

 忠義と言われたらまた違う感情だが、少なからず自分が尊敬している人物……それも女性に対して凶器にも等しいモノを振るうことに抵抗を隠せない。

 

「阿保。女だからって躊躇ってたら死ぬぞ。世の中には宝具の槍を分裂させてくる奴がいたり、力を示せとか言っていきなり心臓を穿つ奴がいたり、強すぎて自分を殺せる者を探してる奴がいたりするんだからな?」

 

 覇気と生命力に満ちた眼差しをするキャスターがウンザリとしながら語るような人物がいるとは、世界は広かった。恐るべきはこれらが違う人物の話ではなく、全て同一人物を指すことだろう。

 

「……まぁ円卓の騎士ギャラハッドの語り継がれる武勇が事実なら、心配は無用だろうけどな」

 

「へぇ、ギャラハッドさんってそんなにすごいんだ」

 

 言うにも及ばないことであるが、幼き頃から本人と共に育ったマシュは、ギャラハッドという存在をよく知っている。言い換えるならば重度のギャラハッドオタクと言ってもいい。そんなマシュに立香の先ほどの言葉は火に油どころの話ではない。

 立香に迫るマシンガントークを諌める者が誰もいなかったのは、サーヴァントの逸話や伝説などについてマスターが知るのは必要なことだからだろう。立香とギャラハッドの精神はみるみるうちに削られ、代償として彼女はギャラハッドという英雄の知識を得る。

 経緯はアレだったが、間違いなく戦力的にもプラスになっていたのが、立香が話を止めようとする意欲を失せさせていた。

 しかしギャラハッドガチ勢のマシュ・キリエライトの布教活動に余念はない。普段の口下手はどこかに消え、ペラペラとまるで噺家のように観客(りつか)を話に引き込んで行く。

 簡易的ではあるが、マシュの話を聞き終わった立香の一言は「ぎゃらはっどさんってすげー!」であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、もうちょいで大聖杯に着くんだが……その前にセイバーを守ってるアーチャーを倒さなきゃならん」

 

「アーチャー……ですか? ですが何故アーチャーがセイバーの味方をするのでしょうか?」

 

「さてな。ヤツの考えなんざ俺はわからん。門番のつもりなのか、セイバーの信奉者にでもなったんじゃねぇの? ……っとお!」

 

 アサシンにも劣らぬ不意打ちの一撃。アーチャーらしく弓を射たらしい攻撃は、一撃でキャスターの眉間を貫く威力を持っていたが、矢避けの加護スキルを持つキャスターに飛び道具は通じない。

 

「……門番の意味を招かれざる客を追い返す者とするなら、成る程確かに私は門番だろうが、信奉者とは心外だなキャスター。自慢の槍はどうした?」

 

「ハ、絶えず敵であるはずのセイバーを守り続けてるヤロウが信奉者じゃなきゃなんだってんだ。弓兵の名に違わず弓で攻撃するとは、お得意の双剣はどうしたよアーチャー」

 

「……やれやれ。キサマのように招かれざる客は追い返すのも仕事だが、招かれた客を通すのもまた門兵の仕事だ」

 

 影に覆われ目は見えずとも、確かに自分を目で射抜いていることをマシュは理解した。正確に言えば、マシュの中にいるギャラハッドを覗いていたのだが、それは当人である彼しか気づくことはない。

 

「嬢ちゃんだけ仲間外れとは寂しいじゃねえか。俺達も仲間に入れてくれよ。まぁダメって言われても押し通るんだけどな!」

 

 キャスターの杖から出現した魔力弾が襲いかかるが、それに慌てることなく一つ一つを矢で落としていく。暴風によって砂が舞い、アーチャーの姿を煙に溶かす。飛び出てきた彼の手には別の武器が握られ、詠唱中のキャスターに肉薄するが、マシュが間に割り込み盾と双剣が火花を散らす。

 

「マシュ、また違う武器に変わるかもだから気をつけて!」

 

 立香の言葉通りにいつの間にか双剣の姿はなく、上空に舞い上がったアーチャーがキャスターに狙いを定める。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)————!」

 

「げっ、あいつの剣の投影かよ! 嬢ちゃんあれはやべえぞ! 気合い入れろよ!」

 

「はい!」

 

 力強く地面に振り下ろされた十字盾は大地に根を張った大樹の如く。普段とは比較にならぬ魔力の奔流がマシュの持つ盾へと集まり、やがて味方を守る大きな壁となる。残念ながら名前はまだなかった。

 贋作と借り物。どちらも本家には及ばぬが、その力は強大である。アーチャーとマシュの出力は五分五分。ならば勝敗を分けたのはこの男だった。

 

 ——————————防御術式多重展開。

 

 彼の得意技にして絶対の武器が少女を援け、アーチャーの渾身の一撃を押し返していく。それにこの男も黙って見ているわけではなかった。

 

「————-今度はこっちの番だ。焼き尽くせ、ウィッカーマン!」

 

「……流石に三対一は分が悪かったか」

 

 キャスターの宝具である炎の巨人の超高温の体に飲み込まれ、勝敗は決した。

 味方であれ敵であれ、こうして自分と同じサーヴァントと戦うとやはり自分の力不足を痛感せざるを得ない。スペック上の問題はもちろん、それ以外の経験から来る判断力や状況把握力が著しく劣っている。マスターのみならず、キャスターやギャラハッドに指示を出されながらの戦闘がいい例だ。

 

 ……ブリテンの王。生前のギャラハッドさんを知る人……。

 

 敵ではあるが、他人から語られる彼の人物像はどうだったのか。それをマシュは聞いてみたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————大聖杯。

 サーヴァントを呼び出し、ふさわしき者に令呪を与え、勝者にはどんな願いも叶えてみせる万能の願望器である聖杯の、その大本。

 そこに、孤王は一人で立っていた。

 

「————来たか。私が求めし世界の漂流者よ」

 

 剣ではなく、肉体でもない。言葉の端々から魔力が迸り、けして大きいとは言えぬ身体に威圧感を漂わせていた。

 

 ———————————アルトリア様があんなに黒く……! 

 

 生前の記憶を思い返しても自分の上司があんな格好をした記憶はない。何故あんな格好をしているのか……心当たりがあったが、ギャラハッドの口からは言えなかった。人間黒いものが異様にかっこよく見える時があるのだ。黒が好きすぎて自分の歴史まで黒くしてしまうくらいに。

 

「この私が幾星霜の時を過ごし、キサマを待っていたのに……! よもやどこぞの馬の骨とも知れぬ小娘に宿って姿を現わすとは、つくづく予想の斜め上を行ってくれる……!」

 

『……なんか怒ってない?』

 

「怒ってるね」

 

「怒ってますね」

 

「怒ってるな」

 

 —————————————怒ってますね。

 

 誰が見てもアーサー王は怒り狂っていた。感情と共に吹き出す黒い魔力が可視できるせいで、より分かりやすい。

 

「お前さん何したんだ? ありゃあ尋常じゃないぞ」

 

 ——————————————いや、怒らせる心当たりはあるけど、最後はそれを水に流してくれて円満に別れたし……。

 

「別れたって……え?」

 

「……ギャラハッドさん、私その話知りません」

 

「……オメー嫉妬深い女はマジでこえぇからな、気をつけろよ?」

 

 ——————————————え? え? 

 

 出会って早々に胸を見て号泣したことや、王が話している途中に寝落ちしたこと。何より……王の盾でありながらブリテンの滅亡をさせてしまい、あまつさえ敵の刃を危うく王に届かせるところだったこと。考えれば考えるほど落ち度はあるが、最後はなんやかんやでお互い笑顔で別れたはずだ。

 それが何故、あんなに怒り狂っているのか。

 あの別れの後、王でなくなって時間が沢山出来て今までの自分の人生を振り返り、あった出来事を思い出して怒りが再燃した可能性が……ありえた。むしろそれしか考えられなかった。

 

「とりあえず……そこの小娘を消し飛ばせば姿を見せるか? ギャラハッドよ」

 

「ギャラハッドさんは私が守ります……!」

 

 図らずもブリテンの王を煽ることになったマシュに怒りの魔力が迫る。

 それが開戦の号砲となった。



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防人

季節の変わり目というか、普通に寒暖差でやられたので皆さんお気をつけあそばせ。まぁ毎日投稿してた今までがハイペースだったから……(必死の言い訳)
特異点Fって原作では未だに謎なんですが、自分の作品の中ではこういう風にいくかってのはだいたい決まってますので矛盾があっても許してクレメンス。まぁ、もっと後に明かされるんですけど
サブタイトルからして普通にばれそうだけどネ!

あと感想でよくギャラハッド鈍感と言われているが、ちょっと待ってほしい。
ギャラハッド君視点は国のトップの前で色々やらかした挙句、国が滅ぶと知っていながら歴史に沿って国を救済することなく終わり、最後は笑顔で別れたが再会したら怒っている人が自分に好意を抱いてると思う人おりゅ?
私も改めて書いてて、アルトリアよくギャラハッドに惚れたな……ってなってます笑


「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め。————『約束されし勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!」

 

「げっ、いきなりかよ!」

 

 開戦早々に振るわれた最強の聖剣から星の息吹を反転させた闇が噴き出し、それそのものが巨大な剣の如くカルデアに襲いかかる。流石に予想外とばかりにキャスターも声を荒げた。

 完全に虚を突かれ回避が遅れるも、ギャラハッドの多重防御魔術で自らのもとへ来襲する時間を長引かせ、迫る死の範囲から皆を逃す。

 

「くっ、やはり貴方はどんな人でも守るというのですか……!」

 

 忌々しげに黒騎士が呟く。本来宝具でも最強格に入るエクスカリバーが、宝具でもない魔術に僅かでも拮抗することなどありえない。今まで魔力の量で力押ししてきたギャラハッドが、行使できる魔力を制限されたが故に磨いた魔力操作の賜物。恐るべきほどに精緻な魔術のつくりである。弱点と言えば、その緻密な魔力の使用による故に、さしものギャラハッドといえど大量展開はできないことであろう。

 

「ありがとうございます、ギャラハッドさん!」

 

 マシュの声を耳聡く捉えた黒き王の額に再び青筋が浮かび上がり、再び魔力が聖剣に込められていく。先ほどと同じ、宝具の開帳だったがインターバルが尋常じゃなく短かった。アーサー王の解析を終えたロマニが悲鳴じみた声をあげた。

 

『嘘だろ!? そのアーサー王は大聖杯と繋がっている! つまり……魔力が無尽蔵だ!』

 

「嘘!?」

 

 迫る闇に、しかしマシュは臆することなく自分と融合したギャラハッドの一部から力を引き出す。怖くはあるが、自分はもう一人ではない。それだけで何処からか力が漲ってきた。

 

「かの騎士から受け継いだ力の一端、解放します……! 『人理の礎(ロード・カルデアス)』!」

 

 小細工など一切ない、サーヴァントとしての威信をかけた力対力の宝具のぶつかり合いはその余波だけで岩盤をめくり、雲を割く。英雄として……いや、もはや女としての意地の張り合いは、やはりアルトリアに軍配が上がった。

 

 ——————————くそッ、マシュごめん! 僕のせいでこんな……! 本来怒りを受け止めなきゃいけないのは僕なのに! (部下的な意味で)

 

「いえっ、私はもうギャラハッドさんと一心同体なので……! (半身的な意味で)」

 

「誰がギャラハッドの半身だと!? 私は認めんぞ! (想い人的な意味で)」

 

 怒りによって増した魔力の勢いは絶対の盾に大きなヒビを入れる。このまま行けば、間違いなくマシュは跡形もなく蒸発する……が、ここにはマシュとアルトリアだけでない、もう一人の英雄がいる。

 

「クッ!」

 

 迫り来る炎の巨人を直感で察知し、超高温の体から逃げるように距離をとる。キャスターからすれば、この一撃でセイバーを仕留めたかったが、そう簡単にはいかない。間接的に命を救われたマシュは、宝具を防ぐほどの宝具の展開によって、膨大な魔力を持っていかれ膝をつく。

 

「よぉ。アーチャーといい、お前といい、トコトン俺らを仲間外れにするなんてひでぇじゃねぇか」

 

「呼ばれてもいないのに勝手に来たのはそちらだろう、キャスター」

 

「そうかもな。だが大人しく見守るほど俺はお人好しじゃねぇぞ!」

 

「邪魔をするな!」

 

 黒い魔力と炎の巨人がぶつかり合い、暴虐の嵐を特異点Fに出現させる。その余波とはいえ、ただの人間である立香に到底耐えられる衝撃ではなく、ガス欠寸前のマシュの魔力を使い、ギャラハッドがお得意の魔術を展開することで事なきを得る。

 

「何あれ! 無限の魔力とかズルだよズル!」

 

「確かに反則めいてはいますが……今言っても仕方がありません。ギャラハッドさん、アーサー王の弱点で何か思い当たる事はありませんか?」

 

 ————————————あるにはあるけど……。

 

 本当にあるにはあるが、あるだけだ。それにリスクも大きければマシュへの負担も大きい。

 

「大丈夫です。私とギャラハッドさんは、もう一連托生なんですから」

 

 最終的には、マシュのそんな言葉によって押し切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「脆いッ!」

 

「チィッ!」

 

 聖杯からの大量の魔力のバックアップにより、宝具級の魔力を纏い擬似的な大剣と化したエクスカリバーが炎の巨人を横薙ぐ。

 もともとキャスタークラスが最適とは言えないキャスターの魔術で対魔力スキルを持つセイバーに通じるものは少ない。その少ないうちの一つであり、宝具でもある焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)が破られた今、キャスターの敗色は濃厚と言えた。

 

「えっと……やーいやーい! どこかの騎士王さんと違って、私はギャラハッドさんと一心同体ですよーだ!」

 

「……は?」

 

 —————————————え、マシュ? 

 

 突然意味不明なことを言い出した彼女に、キャスターとギャラハッドはさっきの宝具で頭でも打ったのかと思わざるを得なかった。だが、キャスターはかつて自分がうっかりBBAと言った時の師匠と同じ顔をしているセイバーを見て、それがなんらかの作戦なのだと気づく。一方ギャラハッドは、確かに自分への怒りを利用してアルトリアの気を引くとは言ったが、その煽り方が理解出来なかった。

 

「キャスター、マシュとギャラハッドさんがセイバーを引きつけてるうちに最大火力の宝具を打ち込めるようにしといて!!」

 

「……なるほど。セイバーの盾兵への執着心を逆手に取ったワケか」

 

 恐ろしい形相でマシュを攻め立てるセイバーは尋常ではない。並々ならぬ恋慕もあるだろうが、生前に様々な女を見てきたキャスターには、セイバーがギャラハッドを求める理由がそれだけではないようにも見える。

 ただ、それは今考えてもせんなきことだと、キャスターは魔力を練り始めた。

 

「キャアァッ!」

 

「私をそこまで侮辱したのだ。よもやその程度ではないだろう!」

 

 騎士王の細い体に似合わず、一撃一撃がまるで竜に殴られているかのように重い。いや、事実今のセイバーは荒れ狂う竜そのものだった。

 

 ———————————アルトリア様、やっぱり強い……! 

 

 自分に対して、そこまでの怒りを抱えていたことや、今までそれを知らなかったこと。そして、それに本来関係ないマシュを巻き込んでしまった罪悪感がギャラハッドを襲った。

 

「……ギャラハッドよ。何故この小娘にいつまでも潜んでいる? 何故姿を見せない? 何故、声を聞くことすら叶わぬのだ?」

 

 ————貴方(ギャラハッド)は、(アルトリア)の盾ではなかったのですか? 

 

 自分の為してきたこと、治めて来た国の末路を見た彼女にとって、彼は最後まで付き従ってくれた忠臣……謂わば、彼女に残った最後のモノであると言い換えてもいい。その人が、どこの誰とも知れぬ小娘に誑かされたのではと思うだけで胸中は穏やかではなかった。

 

「ギャラハッドさんは、誰のものでもありませんッ……!」

 

 ———————————……話の流れが読めないんですけど、アルトリア様、弁明の機会をください! 違うんです、これは決してアルトリア様を裏切ったわけではないし、顔も声も見せないんじゃなく見せられないだけなんです! 

 

 彼の力を受け継いだマシュがアルトリアの淀みを裂く。届かぬとわかっていても、主人に向かってギャラハッドは叫ぶ。込められた感情は天と地ほども違うが、確かに二人ともが必死にアルトリアに語りかけていた。

 

「クッ……! 黙れ! ギャラハッドを縛る貴様が、それを言うんじゃない!」

 

「……確かに、私がギャラハッドさんを縛り付けているのは事実です。それでも、ギャラハッドさんは自分の意思で私を助けてくれたのだと言ってくれました。だから、私もその恩を返したいのです!」

 

 精細さを欠いた剣筋を見逃すことなく、マシュが攻勢に転じる。ここを勝機と見た立香も最後の令呪でマシュにブーストをかけ、魔力放出によって爆発的な推進力を得るアルトリアにも劣らぬ力で突貫。

 さしものセイバークラスとはいえ、令呪の力が加わったサーヴァントの猛攻を片手間に処理することはできず、必然と意識を向けざるを得ない。

 ————そして、紛れも無い大英雄であるこの男がそんな隙を見逃すはずもなかった。

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社─── 倒壊するはウィッカー・マン! オラ、善悪問わず土に還りな───! 」

 

 余裕綽々と練り上げられたキャスターの宝具がアルトリアに襲いかかった。サイズ、熱量ともに先程の炎の巨人とは比較するに能わず、その巨躯を支える二本の脚が触れた地面が溶解し、溶岩となる。

 

「くっ、そんなもの……!」

 

 最強の聖剣から放たれる黒き極光が炎の巨人を飲み込まんと、とどまることを知らずに増していく。宝具の開帳と共に放たれた聖剣の一撃は、しかしその巨人の全てを呑み込むには至らない。アルトリアは第二射を放たんと魔力を込めた。————それがカルデアの狙いであるとは気づかず。

 

「隙は作った! 嬢ちゃん、思いっきりブチかませぇ!」

 

「アァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

「何ッ!?」

 

 アーサー王の弱点とは二つ。王として、或いは英雄として立っていないと感情の揺れ動きが激しいこと。これによって自分(ギャラハッド)への怒りで挑発し、キャスターが宝具を全開にできる時間を稼ぐ。もう一つは、エクスカリバーは放つのに時間がかかること。膨大な魔力が必要であるという弱点は大聖杯によって賄われているが、それをエクスカリバーに貯める時間はなくせない。

 説話には載っていない、数年間アルトリアに仕え、見ていたギャラハッドだからこそ知っている弱点。マシュの体に憑依し、ギャラハッドというチートスペックボディでなくなったからこそ気づいた、膨大な魔力だけあっても意味がないという事実。

 これら二つの知識と、キャスターの全力宝具。更に立香の令呪とマシュの奮闘によって、漸くマシュの渾身の一撃がアルトリアの脇腹に突き刺さった。

 

「ガッ……!」

 

 不意を突かれ、霊核にまで届く一撃をモロに食らったアルトリアの魔力制御が及ばなくなった聖剣は意思なき暴風となり、マシュを吹き飛ばす。少ない魔力でアルトリアの猛攻を凌ぎ、最後の一撃に全てをかけたマシュは精も根も尽き果て、風に煽られた体の受け身を取ることさえ叶わなかった。

 魔力で編んだ膜でマシュとアルトリアを優しく包み込む。残り少ない魔力を使い果たす形にはなってしまうが、勝負は決した。無用に二人が傷つく必要もない。

 

「よりにもよってあの小娘にトドメを刺されるとは……」

 

 霊核まで響いた先程の一撃により、霊体を保てなくなったアルトリアが金色の光粒へと溶けていく。未だ痛みの消えぬ脇腹を見て、そういえば彼の盾で攻撃を受けるのはこれで初めてのことだと気づく。つくづく騎士らしい騎士だった。

 今回は自分の負けだと、潔く認めよう。だが、自分は彼を決して諦めることはない。

 何せ—————自分自身にも、世界にも、彼の存在は必要不可欠なのだから。

 彼女は自分と同じように横たわる少女を見た。彼の力を受け継ぎ、彼を縛る忌々しい女————しかし、見事この騎士王に致命傷を与えた紛れも無い騎士であると認めてやろう。もう少しだけ、彼の力を貸し与えておいてやろう。彼女達の偉大なる旅路は、まだまだ始まったばかりなのだから。

 自嘲じみた笑みを浮かべ、漸く巡り会えた想い人の声すらも聞くことなく、黒きブリテンの王の体は虚空に消えた。彼女の体がどこに消えたのか、ここにいる誰もが今はまだ知らなかった。




今作のアルトリア・オルタ
・アヴァロンに辿り着き、本来召喚されないはずのアーサー王が召喚され、性質が反転した姿。アルトリア(読者の方がシールダーアルトリアとか言ってる人)がベースで、本人が醜いと感じているギャラハッドへの執着が反転し、逆に強く押し出しているが故に所有欲が強く、彼を縛るマシュに周りが見えなくなるほど激怒するほど。ちょっと違うかもしれないが、簡単に言うとヤンデレ気質。

・ギャラハッドを待っていた、というのは自分のもとに来るのではなく、ここが特異点であるという自覚があったため。

・ギャラハッドはオルタを(間違ってはいないのだが)アルトリア本人だと思っており、自分もろともマシュを吹き飛ばそうとするくらいに殺意を抱いていると刷り込まれた。何もしていないシールダーアルトリアさんがどんどん不憫になるんですが、どうしてこうなった?

今回の話のまとめ

マシュ「ギャラハッドさんと一心同体!」

オルタ「ギャラハッドは渡さない!」

ギャラハッド「アルトリア様、ここまで僕に恨みを……! 申し訳ない……」


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聖女

というわけでオルレアンだ! 特異点F? あのあと原作と変わりなくレフが笑う小説見たかったならすまない!
あと今回はギャラハッドと他キャラの会話があるけど、そのまんま会話してる風に書いてるけど実際はマシュと立香がそのまま他キャラに伝えてると脳内補完してください。あと円卓の騎士の加入順はある程度推察した適当なものなのであしからず
あとこれからは10月中まではおそらく週一投稿です。それ以降は忙しくなるので、もっと遅くなるかと思われますが、ご理解頂けたら幸いです。


 1431年、フランス。

 人類最後のマスター、藤丸立香とそのサーヴァントであるマシュ・キリエライトはそこにいた。

 

 ——————————へー、中世ヨーロッパってこんな感じなんだ。

 

「フォウ!」

 

 ……一霊と一匹を引き連れて。

 特異点Fでの激闘を終え、カルデア職員でありオルガマリー所長が一の信頼を置いていたレフ・ライノールの裏切りが発覚。その後カルデアは人理焼却の原因となった七つの特異点の存在を突き止め、それらの修復の使命……人理守護指定・グランド・オーダーを発令。

 ここは、偉大なる使命の第一歩であった。

 

「さて、レイシフトしたはいいけど……何すればいいのかな?」

 

 語尾に星マークがつきそうなくらい軽い口調で言う自分のマスターにマシュは軽い溜息を吐いた。もともと立香は一般人の枠から抜擢されたのだから、素人で何も知らない。ちょっとだけ先行きが不安になるマシュであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————死んだはずのジャンヌ・ダルクが蘇った。

 

 現地の人々から聞けた明らかな異常事態はこれである。さらに厄介なことにジャンヌ・ダルクを名乗るサーヴァントが現れ、蘇ったというジャンヌ・ダルクはもう一人の方だと述べているのだった。

 

 —————————……やっぱりアルトリア様に顔似すぎだよね……? 

 

「ギャラハッドさん、1431年のフランスにアーサー王がいるわけないですよ。……聖杯にでも呼ばれない限り」

 

 世界で一番有名な聖女と言っても差し支えないジャンヌ・ダルクを見た盾コンビの感想はそんな感じだった。記憶に新しい特異点Fでの出来事は、未だに全員の脳内に根強い記憶を残していた。

 

「えっと、彼女は誰と……?」

 

「えーと……マシュに宿ってる英霊(ギャラハッド)さんと話してるんだよ。私達以外に声は聞こえないんだけどね」

 

「は、はぁ……?」

 

 現地のサーヴァントであるジャンヌ・ダルクと手を結んだカルデアが目指すのは近隣の村である。蘇ったジャンヌ・ダルク……黒ジャンヌがどれだけの戦力を抱えているかわからない以上、弱体化したサーヴァントと新米サーヴァント、おまけに新米マスターの三人ぽっちで黒ジャンヌが居るオルレアンに突っ込むのは自殺行為と言えた。それ故に他の現地のサーヴァントを探す意味も込めて、街の一つ、ラ・シャリテを訪ねたのだが……。

 

「……敵のサーヴァントが複数いるとか聞いてない!」

 

 待ち構えていたのは生命の息吹が途絶え、建物が倒壊した街と敵性サーヴァントが複数。その中に、ジャンヌによく似たサーヴァントが一人いた。その事実に声をあげたのは救国の聖女と、亡国の騎士であった。

 

「なっ……!」

 

 ——————————黒いジャンヌ……!? あれ、でも別人? ということは、あのアルトリア様も……? 

 

 外見上の明確な違いと言えば、病的までに白い肌と怨嗟と憎悪に染まったが如く漆黒の装備。まさに二人は似て非なる者同士であった。

 

『みみ、みんな落ち着いて! 僕はマギ☆マリに解決法を訊いてみる! 三騎のサーヴァントに囲まれました、どうしたらいいですか? お、早い返答だ! なになに……? そこに騎士のサーヴァントがいるなら大体なんとかなる? なんともならないから訊いてるんだよちくしょう!』

 

 一人で勝手に怒り狂っているロマニは放っておき、まずはバーサーク・ランサーとの戦闘に入る。正真正銘の英霊に狂化が加わり、ステータスアップをしているにもかかわらず、マシュは真っ向から受け止めてみせる。

 特異点Fの死闘を経て、ギャラハッドの力を更に我が物にしたマシュにとって、この程度の敵の攻撃を受け止めるなど容易い……のだが、正直実質三対一は分が悪いどころの話ではない。

 結局、闖入してきた新たなサーヴァント二人組に助けられ、黒いジャンヌとの第一戦は苦い敗走に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜である。

 窮地を助けてくれた二人のサーヴァント……マリー・アントワネットとヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを引き連れ、霊脈へと逃げてお互いの情報交換を終えた夜に、何故かガールズトークが始まる。

 最初はジャンヌだけで火の番をしていたのだが、そこからマリー、マシュ、立香と続々集まる。女三人集まれば姦しいとはよく言ったもので、会話の主導権をほぼ握っていたマリーはガールズトークの定番であるコイバナを始め、この場で唯一の男であるギャラハッドは居たたまれなさを感じた。

 とはいえ、デザイナーベイビーであり、恋も愛も知る環境になかったマシュ、恋も愛も知る前に悲劇の死を遂げたジャンヌ、恋も愛もこれから知るであろう歳の立香は話す内容が特にない。となれば、必然的にこの男に矛先が向くのであった。

 

「そういえばマシュの守護霊の騎士様はどんな恋をしたのかしら! ぜひ聞いてみたいわ!」

 

 ——————————————え? 

 

「あっ……」

 

 一番仲のいい人はと聞かれたら即答でギャラハッドと答えるくらいのマシュであっても、未だに話題に出していないことがある。それがギャラハッドの恋愛事情である。特異点Fのこと含め半分は聞いてみたい気持ちはあったが、もう半分の理性がそれを押しとどめていた。

 というのも、アーサー王元カノ疑惑や、それでなくてもブリテン崩壊のキッカケになった理由が理由であり、地雷である可能性も捨てきれなかった。

 ヤメロォ! (建前)ナイスゥ! (本音)がマシュの心を占めていた。

 

 ————————————愛はわからないけど、恋はしたことあるよ。

 

 若い霊基に引っ張られているマリーを除き、最年長のギャラハッドはここで見栄を張る。円卓の騎士時代の仕事が恋人であった時の話ではなく、誰も知りうるはずのない前世の話を始める。嘘ではないからいいやと言い訳をしていた。

 

「まぁ! どんな人と恋をしたのかしら? 美しいお姫様? 命を救った娘さん?」

 

 ———————————……後輩かな。

 

 ギャラハッドの言葉を伝えながら、マシュは己の知識で該当する人物に当たりをつけていく。アーサー王の前例もあり、伝承とは違う性別で語り継がれている人もいるだろう。

 彼は部下ではなく後輩と言った。ならば同じ立場である円卓の騎士である可能性が高い。それも円卓の騎士の正確な就任は曖昧であり、先輩後輩がはっきりしている人に限られる。ランスロットとケイは論外。ガウェインも最古参であり、その兄弟のアグラヴェインと、第二席のパーシヴァルも先輩だと言っていた。ならばベディヴィエールやトリスタン、モードレッドかと言われれば、どちらが先輩かはよくわからんらしい。

 そもそも災厄の十三席に座したギャラハッドは、円卓の騎士としては割と最新の方だ。そんな彼が明確に後輩と呼ぶならば、最も新しい円卓の騎士らしいガレスが当てはまるのではないか? そういえば、「同じ大盾使いとして色々教えた」とも言っていた。つまり、そういうことだろうか? 

 

「その後輩って、どんなタイプだったの? 可愛かった?」

 

 ———————————綺麗というか、可愛いタイプだったかな……? 

 

 前世で過労死という非業の死を遂げ、英雄として生きて二十数年間経ち、前世の彼女の顔は正直朧げではあったが、小柄なことはよく覚えていた。

 対してマシュは、ギャラハッドがガレスについて語った時に「小犬みたいで可愛らしいやつだった。あと良いやつだったし。ほんと。ベディヴィエールに勝るくらい良いやつ」と述べていたことを思い出す。フルハウスだ。

 

「……アーサー王のことは、どう思っていたのですか?」

 

 —————————————え? めっちゃいい人……だったんだけど……。

 

 だけど。だけどなんだと言うのか。やはり何かあったのだろうか。

 マシュと立香は言葉の続きが気になって仕方がなかったが、ギャラハッドがそれ以上を語ることはなかった。初対面で王の胸を見て号泣し、怒られたことや王と同じ卓に着きながら寝落ちをした失態をした挙句、その怒りを未だに持っていて殺意の波動を受け、あまつさえ二人を巻き込んだなど、どうして言えようか。

 

「じゃあ、ギャラハッドさん? はご結婚とかされてないのですか?」

 

 ここで聖女からの鋭い右ストレートがギャラハッドのボディを打ち付ける。もしギャラハッドの霊基(からだ)があったならば、芝生をのたうちまわっていただろう。

 前世、今世、マシュの体にいた年も合わせれば彼は精神的には還暦に近い。肉体が若いことや、精神が老ける間も無く刺激的な出来事があるせいで忘れていたが、歳だけ見れば相当食っている。結婚願望がある男性にとって、その話題(結婚したくても出来ない)は相当なダメージを食らう。

 

 ———————————し、してませんっ……! 

 

 その事実をうら若き乙女たちの前で認めるのは、数十年来の屈辱であった。ここまでの辱めは、自分が嫌いなランスロットに負けたこと以来である。

 ここで唯一の既婚者であり、結婚を素晴らしいものと考えるマリーから爆弾が落とされる。

 

「結婚しないのはもったいないわ! 人生の半分くらい損してるわよ! ……そうだわ! ジャンヌと騎士様で結婚すればピッタリじゃないかしら! お互いにサーヴァントだし、聞いたところの人柄も良く似ているわ!」

 

「!?」

 

 あまりに突飛な発想ではあるが、要は独り身同士で結婚すれば万事解決理論である。

 言われて、ギャラハッドはジャンヌを見た。見た目はもちろん、聖女と呼ばれるだけあって性格もいい。控えめに言っても超優良物件である。結婚出来るものなら是非したいものであった。

 尤も、マリーの意見はジャンヌの「お互いのことをよく知らないのでナシです!」という至極真っ当な意見で却下され、若干振られたような気分をギャラハッドに残して断ち切られた。

 だが、ここでギャラハッドは一つの天啓を得た。それは即ち、《マシュが一心同体の嫁ではなく、マシュが体験するこれからの旅路で嫁が見つかるのではないか》というものだ。

 もちろん第一はマシュと立香の安全であり、人理の修復であることに変わりはないが、自分がわざわざマシュに憑依したのはこのためではないのだろうか? 即ち、人理修復の果て、もしくは途中に未来の嫁がいる……? 

 そう、これは未来を救う聖杯探索の旅であると同時に、未来の嫁を掬う正妻探索の旅でもあるのではなかろうか。そんな風に憑依の意味づけをしてしまう。

 だが、仮にそうだとしたら彼には言いたいことがあった。

 

 ————————————嫁さん一人と出会うのにギャラハッドとしての人生を全うして、世界を救わないといけないとか僕の人生ハードすぎる。




※割りかし勘違いしてる人がいるので補足
ギャラハッド君の恋のお相手は前世(ギャラハッドになる前)のお相手です。ガレスではありません。ただの名もなきキャラでございます

今回の話のまとめ

マリー「ジャンヌ×ギャラハッド」

ジャンヌ「お友達からで」

マシュ「ギャラハッドさんの元カノはガレス卿……?」

立香「恋したい衝動」

ギャラハッド「正妻探索の旅」


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成長

休日で暇だったので今週分あげときます
あと、感想でよく聞かれることに答えますぞ

Q.他のサーヴァントはいないの?

A.いません。バビロニアのアニメを見た感じ、カルデアに他のサーヴァントがいなさそうだったので。ダヴィンチちゃんやギャラハッドがいるので召喚システム自体はあります。

Q.ギャラハッドの逸話はどういう風に伝わっているの?

A.原典通りです。史実にないギャラハッドのカムランの戦いなどについては伝わっていませんが、実際にそれを経験した者(カムランの件でいうならモードレッドやアルトリアなど)の記憶にはあります。ギャラハッドは史実にないことはマシュには伝えてません

Q.FGO編、話を端折りすぎでは?

A.運営からの削除対策というのと、いちいち書いているとテンポが悪くなり、話数も増えるのでやむなく……。なにより詳しく知りたいならば本家をプレイするなり、動画で見るなりしていただければと。FGOやってない人にはわかりづらくなってしまうかもしれないので申し訳ない

Q.ギャラハッドの恋の相手ってガレスなの?

A.違います。恋に関する云々は前世(ギャラハッドになる前)の話です。ギャラハッドにとってガレスはよき後輩的な感じ。仲は良かった。作中では前世=ギャラハッドになる前の人生、今世=ギャラハッドとしての人生(マシュに憑依している現状含む)としています。分かりづらくてすまないさん

今後の展開などに関すること以外で他にもよく聞かれることがあれば、次話以降も書きます


 野営をしていた立香達の元に一人のサーヴァントが現れた。

 真名を聖女マルタ。祈りによって竜種を屈服させたという、正真正銘の聖人の一人であり、今は黒ジャンヌに使役されているサーヴァントの一人でもあった。

 

『そのはずなんだけど、なんで聖女様がステゴロ!?』

 

 マルタは紛れも無い聖女である……のだが、攻撃方法が不良(ヤンキー)そのものであった。殴る蹴るは当たり前、時には急所狙いの一撃を放ち、果ては自らが使役するタラスクという竜をぶん投げて攻撃するはちゃめちゃっぷりである。

 数の上では四対一であり、圧倒的に有利な戦局であるはずなのだが、その内訳が騎士、弱体化された聖女、王女、音楽家と実に戦闘に向かないメンツ揃いであるために実質マシュとマルタのタイマンであった。

 だがギャラハッドは武勇でその名を轟かせた生粋の騎士である。例え中身が一般人でも、失態を多々犯していても騎士である。そこらの聖女(ヤンキー)に負けるほどヤワでは無い。

 特異点Fの激闘を経てマシュ自身の魔力許容量が上がったことと、マルタが狂化を付与されて理性が飛びがちだったのも相俟り、さほど苦戦をすることなく打ち破る。

 最後に理性を取り戻したマルタはこう言った。

「竜の魔女が操る竜に打ち勝つつもりならば、リヨンという町にいる竜殺し(ドラゴンスレイヤー)を訪ねよ」と。

 カルデアの次の目的地が決まった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リヨンで彼女らを待ち受けたのは、やはりと言うべきか瓦礫と惨劇……そして敵である。

 リヨンでカルデアを足止めしたアサシンは打ち倒したが、サーヴァント以上の巨大な生命反応が迫る。

 撤退か、竜殺しを探すか……。その判断は現場の人物であり、サーヴァントの行使権を持つマスター、即ち藤丸立香に託されるが判断は下せなかった。

 黒ジャンヌを倒すには竜を倒すのが必須で、そのためには竜殺しが必要だ。だが、竜が来るまでに竜殺しを見つけられなかったらここで全滅は確実だ。そんな重い判断を、実戦経験はおろか訓練経験すらロクにない立香が下すのは無理があった。

 

 ——————————立香、竜殺しを探しておいで。万が一、黒ジャンヌと竜が来ても僕とマシュで食い止めてみせる。

 

「ギャラハッドさん……」

 

「無茶です! 黒ジャンヌだけならともかく、彼女には竜とワイバーン、それにサーヴァント達がいるんですよ!?」

 

 ここは俺に任せて先に行け。無意識に立てた死亡フラグを、これまた無意識にジャンヌが叩き折りに行く。

 

「……大丈夫だと思います。私も更にギャラハッドさんの力に馴染んできました。私一人では到底無理でしょうが……ギャラハッドさんがいるなら、耐え忍ぶくらいはできます」

 

 無謀な目でも、蛮勇の目でもない。確信を持った眼差しでジャンヌを見つめ、「出来る」と言い切ったのだ。危ない橋を渡らなければ逆境は覆せないことは、戦場を知っているジャンヌもよく分かっている。

 

「……無理はなさらぬよう。ご武運を」

 

 結局はジャンヌが折れることで話はまとまり、マシュを残して立香と他のサーヴァント達は竜殺しの探索に向かうことになる。

 

「マシュ、騎士様、頑張ってね! んっ……」

 

「!?」

 

「……あちゃー、またマリアの悪いクセが出たか……。まぁ精々頑張ってくれ。人の骨が砕け、肉が裂ける音なんて聞くに耐えないからね」

 

 突然の接吻に、この特異点で一番の驚愕がマシュの脳内を駆け巡った。マリーの悪い癖とは、感極まるとキスをすること。かつてはそれで王宮内が割れかけた、とはアマデウスの言である。

 普段は明るい立香は何も言わなかった。顔色は優れなく、正直心配ではあるが、もっと心配すべきはこれから死地を対処する自分なのだと気持ちを切り替える。

 

 ——————————緊張してる? 

 

「……はい。アーサー王の時はキャスターさんとマスターがいましたから……。いえ、ギャラハッドさんだけだと不安だということではないんですけど……」

 

 マシュは訓練は誰よりも積んできた自負はあれど、実戦経験は浅い。それも多対一であり、格上の相手と戦うことなんてなかった。出来るという自信と能力はあっても、それを気持ちに乗せられるかどうかはまた別問題だ。

 

 ——————————マシュはペンドラゴンの意味を知ってる? 

 

「ペンドラゴン、ですか? アーサー王の名としての意味なら確か……竜を統べる者、でしたよね?」

 

 何故今そんなことを聞くのだろうか? 会話に脈絡を感じられなかったが、ギャラハッドは切羽詰まった場面ではあまり無駄なことを喋らないことをマシュは理解している。

 

 ——————————そうそう。アーサー王は竜を統べる者であり、僕は一応そんな人の盾なんだ。竜を統べる者の盾に竜が歯向かうなんて、片腹痛いとは思わない? 

 

「……そうですね。その通りです」

 

 余計な肩の力が抜けていくのが自分自身でも分かった。

 確かに黒いジャンヌ・ダルクや、彼女が従えるサーヴァント達、それらをも超える生命反応を持つ竜は恐ろしい。だが、自分の背を支えてくれているのもまた、アーサー王の盾であり、円卓の騎士であり、誇り高き大英雄なのだ。

 守りに於いて、英雄多しと言えど彼を上回る存在はいない。少なくともマシュはそう信じている。

 ある意味、ギャラハッドに対する妄信的とも言える想いが彼女の闘志を燃やしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあらぁ? 気配を感じて追ってみれば……まさか一人しかいないとは、もしかしてお仲間に見捨てられちゃいましたか?」

 

 サーヴァントとはまた違う、とんでもない圧迫感がマシュを襲う。暴力というモノが竜という形で顕現したような、理性なき力。

 邪竜ファヴニール。それが黒ジャンヌの切り札だった。

 反応がないマシュに、黒ジャンヌはつまらなそうに顔を歪め、ファヴニールに一思いに踏み潰すように指示を下す。圧倒的な質量に加え、真性の竜の筋力から放たれる一撃は大地を粉砕するほどの威力だろう。……本来ならば。

 

「……何ですって?」

 

 力強い青い魔力の聖盾が、一歩も引くことなくファヴニールの破滅の一撃を防いでいた。チンケな羽虫にも劣る存在に自分の一撃を防がれたという事実がファヴニールのプライドを一気に沸騰させ、怒りは更なる力となってマシュに襲いかかる。

 

 ——————————……うん。やっぱり、マシュはすごい強くなったよ。

 

「……私がすごくなったというより、ギャラハッドさんが引き出せる力が増えただけな気もします」

 

 ——————————そりゃあマシュがいきなり名だたる英雄達と渡り合えるようになったら、僕の役割がなくなっちゃうじゃないか。

 

 流石にまだそこまでの強さはマシュにはないが、強くなったという感想に嘘はない。盾捌きや身のこなし、状況判断力……何より、この状況でも一歩たりとも竦まない精神力を身につけている。たった数回の実戦しかこなしていないのにである。ギャラハッドがそれを身につけるのに、一体何戦したかは数えていない。

 前までだったら多重防御術式でしかいなせなかった攻撃を、ただの防御魔術で受け止め、力をそらす。そんな芸当もマシュ自身が強くなればこそだ。

 

「……なるほど。バーサーク・ライダーを倒すだけはありますか」

 

 彼女は次の命令を従僕に下した。その合図を感じ取ったファヴニールは大空を舞い、口に魔力を集中させて炎を溢れ出させる。もしアレが着弾したら、リヨンはおろか近隣の町まで焼け野原と化すことは想像に難くない。

 

 ——————————いやぁ、知性がない竜ってホントワンパターンだなぁ。舐め腐った攻撃をして、凌がれたら猛攻。それでも仕留められなかったら最大火力でドン! 

 

「……私に、防げるのでしょうか?」

 

 ——————————大丈夫。あの聖剣エクスカリバーと拮抗するだけの宝具があるんだから。あの聖剣を防ぐの、僕の目標の一つだったんだよ? 先を越されて悔しいなぁ。

 

「ギャラハッドさん……。はい! やってみます!」

 

 自分と混在しているギャラハッドの力の一端を盾に込めると、前回よりも身体に力がみなぎる感覚が強い。活力を得た今、なんでも出来そうな高揚感に包まれ、それを解放する。

 

「焼き払え!」

 

「……宝具展開。開帳……『人理の礎(ロード・カルデアス)』!」

 

 かつて国を守りし堅盾と、かつて国を滅ぼした業火が衝突し、青空を夕暮れのごとく紅く染めた。防げど絶えぬ業火に耐え、放てど焼けぬ盾に苛立つ。

 竜の息吹は確かに脅威だ。たとえ軍で立ち向かえど、その一息で生存者は半分を割り、無傷のものはいなくなる。だが広域を焼くほどの範囲を持つからこそ、一点突破は厳しい。ブレスと同じく広域に渡る守護域を持つマシュの宝具とぶつかったのが、仮に一点を穿つ宝具……クー・フーリンのゲイ・ボルグなどであったらマシュはきっと死んでいた。

 互いの我慢比べが終わり、猛火が途切れた時に見えたマシュの姿は煤一つついていない無傷だ。この戦況では優位も何もないが、黒ジャンヌとファヴニールを狼狽させるには十分な結果である。

 もちろん、現時点のマシュにファヴニールを討ち取る手段は一つもない。だが、それはなんら問題にならない。古今より、竜を討つのは騎士にあらず。その専売特許は竜殺しのものだ。

 

「すまない。君達が耐えてくれたおかげで、少しは魔力を回復できた」

 

 突然現れた一人の男から放たれた光の筋がファヴニールを退ける。それだけではない。あれほど絶対的強者としての立ち振る舞いを崩さなかったファヴニールが、まるで被捕食者の小動物のような目を男に向けている。その様子を見て、男が探し求めていた竜殺し(ドラゴンスレイヤー)であることは理解するが、ファヴニールは大空を舞って逃げた。

 

「マシュが無事に生きていたことは嬉しく思いますが、とりあえず今は逃げますよ!」

 

「え、ちょっ……!」

 

 黒ジャンヌと、その切り札であるファヴニール。この二つを討つ手段があり、数の利を得ている今こそが勝機ではないのか。

 そんな疑問は明らかに限界を迎えた表情をしている男を見て氷解した。なんらかの事情で彼はもう戦えない……つまり、今ファヴニールを討つ手段はないのだ。

 そのことを理解したマシュはすぐに男に肩を貸し、逃走に転じる。無論黒ジャンヌもタダで逃がすわけではなく、ワイバーンと使役するサーヴァントで追撃をかけんと号令を下した。ギャラハッドからすれば、さっき使えと言いたいところである。

 何にせよ黒ジャンヌとの二回目の会合もカルデア側の逃走で幕を閉じるのだが、この出来事によって黒ジャンヌに強い警戒を抱かせることにもなったのだった。




マシュの成長をメインに据えた回。ぶっちゃけ強くしすぎかとも思ったけど、邪ンヌのファヴニールもフルパワーではないだろうしいいかと思い、そのままにしますた。

今回の話のまとめ

ギャラハッド「死亡フラグ建築」

ジャンヌ「そのふざけたフラグをぶち壊す!」

マシュ「私が今まで積み上げてきたことは、全部無駄じゃなかった……(某詠唱)」

すまない「すまない」

立香「メンタル衰弱」

王女&音楽家AUO「空気」


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葛藤

というわけでこれから更新ペース落ちます。失踪しないようにしてぇなぁ
今回はシリアス目です。原作の主人公の設定的にこういう話があっても良さそうだなと思い書きました。ぶっちゃけ内容は飛びすぎですが、長く書きすぎてもアレなので詳しく知りたい人は本家をやろう!(ガチャ地獄に引きずり込む)
いつも誤字報告や感想、評価に感謝してます!
あと今更ながら後書きに主人公のプロフィールを載せるという……よかったらご覧くだされ


 因縁の相手という言葉がある。

 その因縁は人によって様々であるが、ギャラハッドにとってその対象にあたるのは実父でもあり、円卓最強の騎士であるランスロットになる。

 ブリテンを崩壊させるキッカケになったから……ではない。その理屈で言うならば、モードレッドや王妃ギネヴィアもその対象にあたる。何より崩壊を知っていながら、未然に防ぐことなく歴史に従うことを良しとした自分が彼らを責められるはずもない。……好き嫌いは別としてではあるが。

 ギャラハッドが彼を因縁の相手とするのは、もっと個人的な理由である。即ち、彼はランスロットに勝ったことがないのだ。

 勝ったことがないと言ってはいるが、実際に彼らが戦ったのは一戦のみである。それもギャラハッドの身体が成熟しきる前の話であるのだが、戦績だけ見れば一戦零勝一敗。勝率にして零パーセントである。

 ランスロットが紛れも無い強者であることは重々承知している上で、持ち主(ギャラハッド)から身体を借りている彼からすれば負けっぱなしもよくは無いと思っている。願ってもいない雪辱の好機であった。

 

「AAAAaaaaaaaaaarrrrrrrrrrr!!!!」

 

 ただ惜しむべくは、その雪辱相手が正気を保っていないことであろう。その口から発しているのは喜びか、怨嗟かはたまたただの雄叫びか……。その意味を誰もうかがい知ることの出来ない狂気を滲ませていても、彼がかの湖の騎士であることはギャラハッドには一目瞭然であった。

 

 ———————————……アルトリア様といい、ランスロットといい、これは神様からのイタズラか罰なのかな? 

 

 サーヴァントというのは英雄の一側面を強調して写し出した存在でもあるが、ギャラハッドはあそこまで暴れ狂うランスロットを知らない。あれが自分が昇天した後の成れの果てだと言うならば、あまりにも哀れだ。

 

「……私は湖の騎士であるランスロットさんのことはよくは知りませんが、苦しそうに見えます……」

 

 救国の聖女は、猛り狂う漆黒の騎士を手負いの獣のようだと称した。その必死さはどこから来るのかなど皆目見当がつかない。それを知りうるのは、彼の不義を知る二人だけだ。

 

「……国を滅ぼした愚者と、国を守らなかった外道。実に似た者親子ではありませんか? 久々に飽きるほどやり合いましょう、ランスロット……いえ、我が父よ」

 

「マシュ……じゃない?」

 

 普段と全く様子が違うマシュの姿をしたナニカ。背筋が凍るほど冷たい彼女の視線であるが、それは真っ直ぐにあの黒騎士へと向けられている。

 

『……あれはマシュじゃない、ギャラハッドだ。今までサポートに徹して来た彼が自ら相手しなくてはならないくらいに強力なサーヴァントなのか、因縁の相手故か……とにかく、総員そこから退避することを推奨するよ』

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

 まるで仇敵を見つけたが如く荒ぶる獣がマシュの姿をしたギャラハッドに突貫していく。それを見据えたギャラハッドも盾を構え、真正面から受け止めようとし————吹き飛ばされた。

 

「えっ?」

 

 間抜けな声を晒したギャラハッドが、雄大な大地を転がり土煙を巻き起こす。幸いにもそれが敵の視界を遮ることになり、追撃を許さなかった。

 

「……なるほど」

 

 元は一般人であったギャラハッドがあの神秘が跋扈するブリテンを幼い頃から生き抜けたのは、ギャラハッドという存在の身体スペックによるものが大きい。もちろんその身体能力と同等のものをマシュに望むべくもない。

 それに使える魔力の制限に、マシュの身体をギャラハッドが手動で動かし戦闘すること自体がここまで魔力を食うとは知らなかった。日常生活ならば、さほど問題はなかったのに。

 諸々の事情が合わさり、理性をなくし、技の精緻を若干とはいえ欠いているランスロットの一刀すら自分の身一つで受け止めることが出来なくなっていた。

 

「Grrrrrrrrr……! Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

「ギャラハッドさん!」

 

「うっそ銃火器!? 世界観違いすぎるでしょ!」

 

 仮にも円卓最強の騎士がマシンガンに頼るなんて、騎士道はどこへ行ってしまったのだろうか。というか幾ら何でもブリテンにあんな前衛的な武器はない。そもそもこの時代のフランスですらまだ開発されていない武器のはずなのだが……。

 防御障壁を幾重にも張り巡らせ、何とか銃弾の嵐を耐え凌ぐ。魔力強化した脚で一気に距離を詰め、穢れなき聖盾で一切の手心なく兜に向かって振り切った。

 破片と血が青い芝生に散らばり、一部を赤く染めた。砕かれた頭部の装備からランスロットの顔が覗き、苛烈なまでの慚愧の表情を見てギャラハッドは何も言えなくなる。

 

「Aaaaaarrrr……thurrrrr……」

 

 今は亡きかつての主人の名を唱え、闘志の炎を再び胸に灯した。だがそこから振るわれた剣は、何の重みも感じぬ虚ろなものだ。一合受け止める度に何とも言えぬ苦々しさがギャラハッドの胸に込み上がって来た。

 

「……取り敢えず、アルトリア様とアグラウェイン卿とガヘリス卿。それに……ガレスに謝りましょう」

 

 幾度の殴打を受けて倒れ伏し、金色の粒子へと変わった自らの父に呟いた。

 勝った気はまるでしない。彼の胸中には、そんな晴れやかさとは真反対のどうしようもない遣る瀬無さが渦巻くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……ギャラハッドさん」

 

 ——————————ん? 

 

 先程の激情は当然同じ体を共有するマシュに伝わっていたが、あまりにいつも通りの声音であるギャラハッドに何も言えなくなる。

 湖の騎士ランスロットについては当然マシュもよく知っている。円卓の騎士最強にして、ギャラハッドの実の父。湖の妖精に育てられ、アロンダイトを握ってアーサー王の敵をなぎ倒し……最後は王妃との不義でブリテン崩壊のキッカケになった人物だ。

 普通の親子関係をよく知らないマシュでも、この二人の関係は異質なものであることは何となくわかる。もし自分がギャラハッドの立場であったならば、英霊の座で実父が守るべき国を滅ぼすキッカケになってしまったと知れば怒りに震えるかもしれない。

 でも彼はそれをしない。

 当然、怒るほどの愛着を国に持っていなかった訳ではないだろう。それは彼の話を聞いて来た自分が誰よりも理解しているつもりだが、ならば何故怒らないのだろうか。自分も故郷のようなカルデアを壊す輩がいたならば、きっと憤慨している。

 

「……ギャラハッドさん、まだ私にはギャラハッドさんの考えていることはよくわかりませんが……辛かったら頼ってくださいね」

 

 ———————ありがとう、マシュ。でも本当にあの人に対して何か思ってるわけじゃないから大丈夫だよ。

 

 時々、マシュは彼と距離感を感じることがある。普段の生活で感じることはないが、こうして特異点で彼と縁のある人物と出会うと、彼から決まって困ったような感情を感じるのだ。

 マシュはそこに踏み込めないでいた。言葉にせずとも、彼が触れてくれるなと言っているような気がして……。

 彼が自分の物語を語る時も同じ疎外感を感じる。何故、と問われたらマシュもわからないと答えるだろうが、その感覚が偽りのものではないことは本人はよく知っている。

 珍しく、彼と彼女の認識に齟齬が生じない出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、オルレアンの最終決戦は近づいていった。

 最終的なカルデアの戦力は、聖処女ジャンヌ・ダルクをはじめとする現地のサーヴァント七騎と、マシュ・キリエライト。そして人類最後のマスター藤丸立香である。

 結論から言ってしまえば、カルデアは見事に特異点オルレアンを修復することに成功する。そのことをカルデアスタッフ達は大いに喜び、浮かれ、涙を流す者すらいた。

 当然、特異点で起こったことはそれだけではない。レイシフトした当の本人達の表情は浮かないものであった。特にマスターである藤丸立香の精神バイタルは安定しているとは言い難い。

 今のカルデアは人材が異様なほど少ない。そういったメンタルケアは医師であるロマニの仕事であるが、世界を背負いながら慣れない総指揮官を務め、その後処理に回っている彼の手がそこまで回らないことを責められる人物はいないだろう。

 

「……今回は彼に任せるのが吉かな?」

 

 唯一立香の状態に気づいたダヴィンチは、敢えて何もすることはなかった。理論的な根拠はないが、強いて言うなら……天才の勘、というヤツであろう。

 レイシフトを終え、カルデアに帰還した日の深夜。

 立香はベッドの上で枕を抱きしめながら座っていた。眠くないわけじゃない。体はこれまでの人生で一番クタクタだというのに、なぜか寝れる気はしなかった。

 特異点を修復し、聖杯を持ち帰るという大金星を挙げた彼女ではあるが、その戦果とは打って変わって胸中は不安でいっぱいであった。

 

 ——————————や。

 

「ウヒィ!? ……なんだぁ、ギャラハッドさんか……びっくりさせないでよ、もう」

 

 ——————————マシュは寝たし、立香が起きてたからせっかくだし二人でお話しようと思ったんだけど、迷惑だった? 

 

「……んーん、迷惑じゃないよ」

 

 思えばこんな落ち着いた状況で二人きりで会話するのは初めてのことである。コミュニケーション能力にはある程度の自信があったが、深夜に男の人と二人きりでお喋りするのは初めてで、少し緊張する。

 暫くはただの雑談に興じていた。カルデアのこと、マシュのこと、フォウのことやお互いのこと……そして特異点の話になった途端、立香の顔に翳がさした。

 

「……特異点Fの時は、いきなりで必死だったからガムシャラでよくわからなかったけどね? 改めてレイシフトして、色々な状況にぶつかって……指示が出来なくなっちゃったんだ。正しいかどうかなんてわからないし、間違えたら未来がなくなっちゃう。……重いよ。私には、凄い重いよ」

 

 いつも明るい少女の涙交じりの独白は、少なからず彼に突き刺さる。

 藤丸立香は一般人だ。ここに来るまで魔術のまの字すら知らなかった正真正銘の素人である。

 レイシフト。サーヴァント。マスター。人理焼却。自分がしくじれば全てが終わる。その双肩にのしかかるのは、比喩でもなんでもなく世界そのものだ。一人の少女が抱えるにはあまりにも重すぎる荷物だった。

 

 —————————……僕さ、自分が英雄って呼ばれるような存在になるなんて思ってなかったんだよね。普通に生きて、普通に死ぬものだと思ってた。友達を作って、仕事して、いつかは結婚して、子供ができて、その成長を見ながら老いていく……そんな人生だと思ってた。

 

 前世は凡そその通りだったであろう。そこそこの大学を出て、何とか企業に就職し、優しい恋人もいた。その人とぼんやり結婚する未来を考えて……過労で死んだ。そして、縁もゆかりもない英雄(ギャラハッド)に転生した。

 誰も逆らえない流れのせいで一般人だった自分が英雄にならなくてはならない。転生の話を抜きにして、そんな話をギャラハッドは語った。

 そういう意味ではこの二人は似た者同士であるのかもしれない。

 

「……ギャラハッドさんもそうだったんだぁ……」

 

 立香にとって英雄とは理解が及ばない存在だった。

 カーミラのように驚くほど残虐な逸話を持つ者もいれば、ジャンヌみたいに己が殺されたことにすら怒ることのない聖人もいる。正直言って、立香には理解し難いことである。

 人を好んで殺す気持ちなんてわからないし、自分を殺した人々を恨まない気持ちもよくわからない。身近にいて共に戦っていても、どこか遠い存在にしか思えなかった。

 焼却された世界を救うなんて所業、紛れもなく英雄並みの苦行である。それを成すには物語の英雄のように何でもできなくてはいけないという強迫観念に囚われていた立香は、自らがそうある必要はないのだと気づく。

 特異点Fで言うならばキャスターがいた。オルレアンで言うなら、ジャンヌやマリーなど沢山のサーヴァントが力を貸してくれた。

 自分に足りないところは沢山ある。だがそれを特異点のサーヴァントやマシュ、カルデアスタッフやギャラハッドが埋めてくれる。最終的に世界を救えるならば自分一人で頑張ろうが、皆と頑張ろうが同じことだ。

 本当にそれを為せるのかという不安が完全に拭えたわけではないが、一先ず疲れと眠気が一斉に襲ってくるくらいにはリラックス出来た。

 

「……ん、眠くなって来ちゃった。おやすみ、ギャラハッドさん」

 

 ————————うん、おやすみ。

 

 光源が一つもなくなり真っ暗になると、自分が地に足着いていないことをより強く自覚してしまう。

 もう彼は前世の自分の名前も、彼女や親の顔も思い出せなかった。

 確たる自分はどこにもなくて、あるのはただギャラハッドという重い名前と人理修復をするマスターの手伝いという大きすぎる使命だけ。

 

 —————————……お互い大変だよねぇ。

 

 そう呟いたきり、夜が明けるのを待った。




【悲報】邪ンヌ、キングクリムゾンして倒される。キャスジル出番ナシ!w

今回のまとめ
ぎゃらはっど「英雄になるとは思ってなかった(前世を振り返って)」

立香「あんな凄いギャラハッドさんも最初はそんな感じだったんだ(説話を思い出しながら)」

ぎゃらはっどの前世経歴
名前.???
性別.男
年齢.28
家族構成.父(56)、母(54)、妹(17)。年はぎゃらはっどが亡くなった時のモノ
備考.享年28歳。死因は過労。就職難でどうにか漕ぎ着けた内定がブラック企業であり、新人の分の仕事の一部も自主的に請け負っていたため過労死。一人暮らしをしていた自宅の扉の前で倒れて亡くなっているところを発見された。大学時代から付き合っていて、結婚を考えていた彼女がいた模様(コイバナの時の恋していた人はこの人が該当する)。
性格は温厚だが、余裕がなくなるとテンションがおかしくなる。アドリブに弱い。他人の異変によく気がつくのは前世で新人や歳の離れた妹の面倒をよく見ていた賜物であるが、反面口下手な部分もあり、強く自分の意見を伝えるのは苦手。出来たらブラック企業を辞めてる。
前世はブラック企業で過労死し、転生したら崩壊寸前の国で戦場に駆り出され、マシュに憑依したら人理修復をしなければならない仕事漬け。きっと無限の労働(アンリミテッド・オーバーワークス)が使える。
そんな過酷な状況を体験して来たからこそ、その中でも頑張るアルトリアを尊敬していたが、めちゃくちゃ自分に激怒していると絶賛勘違い中。アルトリアの恋路はいかに!?


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歪み

お気に入り登録10000人ありがてぇ…!まぁ投稿したら一日くらいの間、登録者数減るんですけどネ!
さて、感想でも御指摘ありましたが削除した話があります。これはぶっちゃけ展開が思いつかなかったのとなくても構わないところだったので……ブリテン時代や特異点の話は本編行き詰まったら幕間でちょこちょこ書くスタイルにします
本編では序章、一章、四章、六章、七章、終章を書きまする
四章ではギャラハッドの内面掘り下げをしたいで候
今回の話で勘違い(シリアス)をするのはぎゃらはっど君です。長々と書いてしまいすまないさん


 カルデアの人理修復の旅も第四特異点まで来た。

 オルレアン、ローマ、オケアノスという三つの特異点により着実に自信と実力を身につけて来たカルデアの次の目的地はロンドン。

 そう、現代におけるイギリスの首都である。

 つまり、その土地柄に縁がある英霊が召喚されているのは自明の理であった。

 

 

 

 

 

 

「ギャラハッドォォォォォォォォッ! 会いたかったぜ、テメェをこの手でぶちのめす為になぁっ!」

 

「モードレッド……!」

 

 甲高い金属音が霧に覆われたロンドンに響き渡る。英霊としての力を余すことなく用い、仇敵を討たんとする彼女の名はモードレッド。叛逆の騎士にして、円卓の騎士の一人である。

 

『ど、どういう状況だ!? なんで彼の円卓の騎士、モードレッドがギャラハッドにそこまで強い怒りを……!?』

 

 ロマンが驚くのも無理はない。これは世界中どんな書物を漁ろうとも知り得ぬ因縁。本来であれば、あるはずのなかった激情なのだ。

 いつまでも続くと錯覚しそうなほど絶え間ない剣戟はギャラハッドがクラレントを押し返し、モードレッドがその力に逆らわずに距離を空けたことで一先ずの終わりを迎える。

 

「待てモードレッド。落ち着くんだ」

 

「テメェと話すことなんざ何一つありゃしねぇ!」

 

『ま、マギ☆マリ! 何とかしてくれ! ……ん? 「無理☆ごめーん」じゃないよ! 立香ちゃん! とりあえず無力化するなり対処して!』

 

「えっ!?」

 

 無茶振りに思わず声をあげる。いや、そもそも止める必要はあるのだろうか? ここに至るまで数多くのサーヴァント達の戦いを見て来たが、本気でやりあう時のピリつきがないように感じるのだ。それが殺気ということに立香はまだ気づいていない。少なくとも、マシュの姿をしたギャラハッドからは。

 

「モードレッドよ、何故怒る? お前が我が王を討とうとしたのを邪魔したが故か?」

 

「あぁ!? 確かに言われればそれもムカつくな。お前に負けたのもムカつくし、オレと戦っておきながら涼しい顔をしてたのもイラついた……だがな、オレが一番腹を立ててんのはそこじゃねぇ」

 

「……ならば、何故?」

 

 カムランの丘以前、モードレッドとは仲がいい訳ではなかったが、特別悪い訳でもなかった。顔を合わせれば会話くらいはしたのだ。こんなに殺気を迸らせるほどの理由があるとすれば、さっき述べたことしか心当たりが見当たらない。

 

「テメェ、何故オレを生かしやがった」

 

「———————」

 

 邪魔されたのは腹立たしいが、いい。負けたのも悔しいが、まぁいい。だが、舐められるのだけは許せなかった。それは女と侮られぬため、強く生きてきた自分を否定するものだ。許せるはずがなかった。

 

「オレが女だから侮ったか? オレの境遇に情けでもかけたか? オレの方が弱いからと驕ったか? ————ふざけるなよ、円卓の騎士第十三席ギャラハッド」

 

 あの時……ブリテンで反乱を起こした時、モードレッドは必ずしもギャラハッドに勝てない訳ではないと思っていた。ギャラハッドがいない時を狙って反乱を起こしたのが示す通り、一円卓の騎士としての実力について疑う余地はなかったが、いざ実戦となれば五分五分くらいにはなるだろう、と。

 確かに防御では名だたる円卓の騎士を寄せ付けぬほどに卓越した技倆を誇ったが、反面彼は剣や槍などの殺傷武器を持たなかった。そこに付け入る隙があると思っていた。……結果は悲惨なものであったが。

 

「あの時、オレは全てを賭けた。命だけじゃない、誇りも矜持も信念も、文字通り全てだ。勝ったら生き、負けたら死ぬ。それをお前は踏み躙りやがった。あろうことか、父上に理想の騎士とまで呼ばれたお前が!」

 

「…………」

 

 ギャラハッドにも返せる言葉はあった。そもそも叛乱を起こした自業自得である。価値観を押し付けるな。或いは、勝者が下した裁定なのだから甘んじて受け入れろ、という横暴な言葉もあっただろう。

 

 だが、彼がそれを言うことはなかった。

 

 それは、本来ならばなかった恨みなのだ。自分がたった一度だけ突き通したワガママが生み出した歪みによって、モードレッドにいらぬ恨みを抱かせたのは他ならぬ自分だ。あの戦いは原典(オリジナル)にはなかったのだから。

 そもそも、あの戦いで何かが良い方に変わったのだろうか。結局、誰かを救えなどしなかった。ガレス達は原典通りに死に、モードレッドは復讐の鬼となり、救えたと思ったアルトリア様は僕に対して怒りを抱いている。

 

 ————なんだ、無意味だったんじゃないか。

 

 唯一自分の感情に従った結果がこれとは、あの丘で偉そうにモードレッドに説教した自分を殴りたいくらいだ。やはり、僕は英雄(ギャラハッド)にはなれなかったらしい。

 

「踏みにじったつもりなどなかった。全力でやったさ。それでも、君がそう感じたのならば……僕に、それを受け止めるだけの器がなかったのだろう」

 

「はぁ? 心にもないことを言ってんじゃねぇぞ、気色悪ィ」

 

「偽らざる本心なのだが……」

 

「じゃあ何か? 大した器もないお前に負けたオレはそれ以下ってことか? 舐めてくれるな」

 

 暖簾に腕押し、とは正にこのことだろう。彼が何を語ろうと、彼女は否定的にしか捉えない。

 ブリテン時代に凄惨な争いの中で生きてきたとはいえ、かつての仲間と戦うことに関して何も感じなくなるほどの外道に落ちたつもりはないし、原典に於けるギャラハッドもそんな人間ではないだろう。

 

 彼ならば……英雄ならば、どんな言葉をかけるだろう。わかるはずもない。自分は、そんなご大層な人間ではないのだから。

 

「……晴らせぬ恨みが僕を斬ることで消え失せるのならば、甘んじてそれを受けよう。だが、今は勘弁してくれないか?」

 

「おいおい、白けること言うなよ。今勘弁してやる理由がオレにあるか?」

 

「ある。君が誇り高き円卓の騎士であり、英雄であると自負しているならば」

 

「ほー……?」

 

 体を焦がすほどの強い怒り。それすらも抑える重大なことがあるという事実にモードレッドの興味が惹かれる。

 人理焼却、特異点、レイシフト。

 カルデアのこれまでの旅路と経緯を聞いた彼女は苦々しげに顔を歪め、苛立たしげに叩きつけられたクラレントが石畳を砕く。

 

「チッ……ロンドン(ここ)でキナ臭い何かが起きてるとは思ったが、オレのブリテンどころか世界をぶっ壊すだと? ……気に食わねぇ」

 

 ギャラハッドは確かに気に食わない。こちらがいくら言おうとも、のらりくらりと追及を避ける———実際にはただの天然なのだが———態度も、まるで自分を敵としてみなしていない振る舞いも、とにかく彼女の心をいら立てる。

 過去にこれまで彼女の心に怒りの炎を燃やさせた存在はそうはいないが、それを更に上回るほどの不遜な輩がいるとは彼女自身ですら予想していなかっただろう。

 そもそも、ここでギャラハッドと戦うことを続行し、勝てたとてその事実はどこにも残らない。史になど残らなくても構いはしないが、それを自分自身すら覚えていない……或いは自分の存在そのものがなくなっては意味がない。

 叛逆の騎士と言われ、どちらかと言えば悪名のイメージが付き纏うであろうモードレッドも誇り高き円卓の騎士の座を己の力で勝ち取った、紛れも無い英雄である。その彼女が人理焼却なんてものを見逃す訳もなかった。

 

「チッ……テメェの口車に乗せられたみたいで気に食わないが、ひとまずこの剣は収めてやる」

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

 立香には話の内容はてんで分からなかったが、取り敢えず話がまとまったことに安堵の息を漏らす。マスターとして数ある英雄譚を学習した成果だけでなく、マシュの影響でギャラハッド……ひいては円卓の騎士について知った立香もモードレッドという英雄についてはよく知っている。

 モードレッド本人を知る人(ギャラハッド)から実際に聞いていたこともあり、実情は想像とそう違いはない。乱暴な感じで、獣のような獰猛さ。成る程確かに叛逆をしそうだ。

 だが、引っかかる部分もあった。

 モードレッドがブリテンを滅ぼした原因だというのは余りに有名なエピソードであるが、その理由については断定はされていない。彼もその理由については『思い当たる節はあるが、断定は出来ないから言わないでおく』と言っていた。ブリテンが滅ぶ前に昇天したのだから知らぬのも当然かもしれない。

 アーサー王に不満があった。自分が王になりたいという野心があった。もしかすると魔が差したなんて理由かもしれない。

 だからこそわからないのだ。

 アーサー王へ憎しみを抱くなら誰もが納得するだろう。自分の命を奪った張本人であり、理由は何であれ叛逆に至るまでの思いがあったのだから。

 だが、彼女の憎しみは疑いようもなくギャラハッドに向けられていた。それも生半可なものじゃない、オルレアンで見た黒いジャンヌ・ダルクにすら勝るかもしれない強いものだ。

 聞き、見て、読んだ話と明らかに食い違う現実がそこにあった。

 それが何のせいに依るものなのか、少なくとも立香にもマシュにも、ロマンにも答えは分からなかった。

 それを知るのはたった一人、有名無実な彼だけであった。




今回の話のそれぞれの視点による食い違い説明
・ギャラハッド視点……自分が唯一明らかに原典に背いたことによってモードレッドに強い憎しみを植え付け、アルトリアに怒りを植え付けたという風に思っている。本来原典にそんな描写はなく、ただ悪い方向に向かわせてしまった、という思考。そのくせ他の誰かを救えた訳でもない、全部改悪されてしまったという考え。アルトリアの狂愛を知るのは幸か不幸かどちらなのか…

・モーさん視点……個人としては父に認められているギャラハッドが嫌いだが、一騎士としては彼を認めている。だがカムランの丘で全てを賭けた自分に対して命を奪うことがなかった彼は、自分を歯牙にもかけていないと思うようになり、強い憎しみを抱く。ある意味彼を認めていることの裏返し

・アルトリア視点……ギャラハッドに依存気味ゆえに抱くことになった執着心と嫉妬心が裏目に出て、自分がギャラハッドに対して強い怒りを持っていると思われた可哀想な人。ある意味この作品ナンバーワン不遇なヒロイン。

・カルデア's視点……史実と事実の食い違いに混乱している模様。彼が敢えて嘘を言っていることから、それが地雷なのではと間違ってもないけど合ってもいない勘違いをしている。


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変化

ッスー……オヒサシブリデス(小声)
考えはあるのに文字に興すのめんどくてエタる病患者です(自己紹介)
あぁ^〜新予告ムービーでメインストーリーの続き気になるんぢゃあ^〜!


 ————初めは憧憬だった。

 

 理想の騎士とまで呼ばれ、王に認められた誉れ高き騎士のように自分も認められたいと思っていたのかもしれない。

 

 ————次は妬みだった。

 

 何もかも守るほどの力を有し、それを私欲のために用いることもせず、最高の騎士と呼ばれるようになったアイツが、自分とは違い王に信頼されているアイツが妬ましくて仕方がなかった。

 

 ————最後は殺意だった。

 

 あの戦いの後に目を覚ました時、ただ生きていることが不思議でならなかった。あの時代、敗者に待っているのは死か度し難い陵辱、略奪と恐怖だけだ。

 だが、自分は生き残ってしまった。敗れたのにもかかわらず、五体満足で何をされたわけでもなく……まるで、自分など眼中になかったかのように。その事実はある意味で一番の陵辱だったのかもしれない。

 それを許せるだろうか? ……許せるはずがあるまい。必ず殺す、自分の方が強いのだと証明してみせる。それしかこの胸の怒りを雪ぐことはできない。

 結果だけを見れば、国一つを滅ぼした彼女の憎しみと怒りはたった一人に向けられることになった。だが猛る彼女の気持ちに反して、彼が彼女の前に姿を現すことはなかった。当然と言えば当然である。ギャラハッドは原典の通り、聖杯と共に昇天したのだから。

 しかし、それしきのことで彼女が諦めるはずもなかった。奇しくも、あれ程すれ違った親子は感情のベクトルは真逆と言えど同じ人物を探し求めて晩年を迎えることになった。

 自らの死因が何であったか、彼女自身ですら定かではない。崩壊したブリテンで飯が食えなくなったのか、壮絶な戦いの果ての戦死か、彼への怒りによる憤死か……理由など些細なことだ。重要なのは、自分が雪辱を果たせないままに死んだことただ一つである。

 聖杯に願うほどに望んだ遭遇は、奇しくも人理焼却というイレギュラーによって引き起こされた。

 愛剣から無意識に雷が漏れ出る。それはかつてのものとは似つかない、黒く禍々しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——最近、夢を見るのだ。

 

 言葉にするまでもなく当たり前で、平凡な男の人が営む生活の夢。自分が取り返そうと戦っているものの一つ。

 朝起きて、仕事に行き、ご飯を食べ、風呂に入って寝る。なんの面白味もない風景がふと夢に出てきて、そのたびに「ああ、これは夢だな」と独りごちる。不幸なことに今の自分を取り巻く環境はそんな普通のものとは真逆の、命を……いや、世界を懸けた戦いの最中だ。

 では。

 では、この夢は……この夢に出てくる男は何者なのだろう。自分がかけられた魔術だとすればあまりに害意がなく、それ以外の理由だとしたらあまりに無意味だ。

 ふわふわと夢の景色が白んでいく。これもいつも通りだ。恐らく次に意識を取り戻した時に見る風景は、ロンドンにあるどこかの建物のどこかの部屋の天井だ。泡沫の夢が終わり、また戦いが始まるのだと考えると億劫だし怖くて仕方ない。

 それでも自分は目覚めなくてはいけない。最後にして唯一のマスターである自分にしか出来ないことがあるのだから。

 最後に男の顔を盗み見る。彼はささやかな幸せを噛みしめるように笑っていた。その表情を見ると、なぜか胸が苦しくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚ろな視界がだんだんとクリアになっていき、見慣れない天井が目に入る。どうやら寝てしまっていたらしい。

 最近はサーヴァントという超人達に囲まれているから忘れがちだが、自分はただの人間である。多少魔術を使える人をただの区切りに入れていいかはわからないが……少なくとも、サーヴァント達と比べれば常人の範疇である。比べる相手が悪いとも言う。

 ともあれ、変わりようのない事実として藤丸立香は人類最後のマスターである。常人とは比べものにならないほどの荒波が待ち受ける人生であることは誰にも否定できないだろう。

 そんな荒波の一つなのだろうか、なんとも言えない時間に起きた立香はなんの気なしに窓からロンドンの街並みを見下ろして……一人の人物を見つけてしまった。武術のぶの字も知らない立香が見ても流麗だと思う剣の捌きに目を奪われる。物々しい鎧に覆われていた体を今は露わにしながら黙々と振るい……動きを止めた。

 何かあったのだろうか? と考える間もなく眼下の彼女と目が合った。それと同時に、背中に氷水をかけられたような寒気が奔る。この感情を立香はよく知っていた。この世界を救う旅が始まってから幾度となく経験し、その度に命の危険を感じてきた。

 

 ——これは、恐怖だ。

 

 ギャラハッドに向けた憤怒でも、自分達に向ける粗暴な目でもない。昏いのだ。かつて見たあの黒い聖女と似た性質を持った目。それが余すことなく自分に向けられている。

 急に自分を地球に引きつける力が強くなったのかと錯覚するほど体が重くなり、膝を突きそうになる。常人である立香には耐えがたいほどの重圧は、モードレッドが視線の主が立香であると認識した瞬間に解かれ、知らずに止めてしまっていた息をゆっくりと吐いた。

 ようやく息が整い、再び窓の外に目線を向けると先程とは別人かと思うほどに表情を柔らかくしたモードレッドが手招きをしている。吊り上がった目元と相まって、まるで猫のようだとふと思うがさっきの瞳が頭から離れない。行くべきか行かざるべきか逡巡したが、結局逆らうことは出来ず軽く身支度を整えてからあてがわれた部屋を出る。

 立香がやけに重たい足を動かし階下に降りるのと同時に玄関の扉から手ぶらのモードレッドが入ってくる。さすがに霧が立ち込める家の外で話すつもりはないようだ。

 

「よっ」

 

「おはよう」

 

 堅苦しいのは嫌いだ、と言うモードレッド本人の言でタメ口で話す。自分もどちらかと言えば気軽に接せた方が気楽ではあるのでありがたいのだが、いかんせん彼女に対する恐怖心を未だ拭えずにいるため若干躊躇ってしまう。

 

「えっと……何の用? もしかして何か進展あった?」

 

「んや、そっちは特にねぇな。個人的に興味があるんだよ、お前に」

 

 勘弁して欲しい。

 率直な立香の感想であった。幾度も特異点を乗り越え、数々の非常識が常識になってきたと言えども、いきなりマシュ(というよりギャラハッドであるが)に斬りかかる人物からの呼び出しなんて良い話の予感が全くしない。下手をしたら「汝は関係者! 罪ありき!」なんて冤罪攻撃を喰らうかもしれない。

 さりとて、断れる理由も勇気もないので大人しく従うのだが……。

 

「さて……あいつもいねぇし、ちょうどいいな。……ぷっ、はは! 緊張し過ぎだろ! 別に何かしようってわけじゃないからもうちょい肩の力抜いたらどうだ?」

 

 ……どうやら本当に危害を加える気はないらしい。ゴロンと寝転び、薄く笑みを浮かべながら目を瞑っている姿はやはり猫のようだ。

 

「何か……私に聞きたいことでもあるんですか?」

 

 形式上訊ねてはみたものの、彼女が何について話したいのか察しが特別いいわけではない自分でも容易に想像できる。

 

「ま、言わずともわかると思うが、アイツについてだ」

 

「……ギャラハッドさんですか?」

 

 ギャラハッド、と口にした瞬間、モードレッドの中の何かが揺らめいた。ほんの些細な差ではある。しかし、その些細な差は再び立香の体を強張らせるには充分過ぎる理由だった。

 

「……あ、悪い」

 

 しまったという言葉を表情にしたらきっとこんな感じだろう。それほどバツが悪そうに頭をガシガシと掻く彼女が、出会い頭に斬りかかってきた狂戦士と同一人物であるとはとてもじゃないが思えない。悪い人ではない……のかもしれない。

 

「で、あれだ。聞きたいことってのはだな、あのヘンテコな状態のアイツのことなんだけど、あれ一体どういう状況だ? 性転換でもしたのか?」

 

 これほど「お前が言う!?」と言いたくなったのは、藤丸立香十数年の人生の中でも一番である。どこのラノベ? と言いたくなるほどに性転換しまくっている過去の偉人達——いや、実際は違う性別が歴史として伝わったのかもしれないが——はお腹いっぱいである。吐きそう。

 

 この後めちゃくちゃ説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を聞いてざっくりまとめると、どうやらマシュという少女に憑依をして力を貸している状態らしい。どうやら見ない間に性転換をしたわけではないそうだ。……だが、非常に困った事態だ。

 アイツには霊体(からだ)がない。マシュを器とすることで擬似的にサーヴァントとして現世に留まっている状態であり、つまりアイツを殺した場合、同時にマシュも死ぬことになる。

 

 ————————……モードレッド卿。いや、モードレッド、お前はガキだ。上手くいかず、イラつくことがあれば相手の気持ちも周りへの被害も考えることなく、感情的に動くただの子供だ————————

 

「チッ……」

 

 嫌なことを思い出した。いつか言われたそんな言葉。まるで自分の全てを知っていると言わんばかりの自信に溢れた物言いに、自分を上から諭す態度。思い返せばそういうところも気に食わなかった。

 しかし、そんなアイツに負けたのも事実だ。

 ならばオレは、そんな過去の自分と決別し、さらなる高みへと上り詰めてみせよう。感情に身を任せて関係ないやつ(マシュ )を巻き込むことをせず、自分の力のみで打ち倒してみせる。そうして初めて、モードレッドはヤツを超えた証明になるのだ。

 

 ————————全ては、理想の騎士(ギャラハッド)を倒すために。




実はFGO本編の下地があるより完全妄想で書けたブリテン時代の方が書きやすかった裏話
てか新規プレイヤー増やすためにも一部の1〜5章リメイクとかないですか? ……ないですか


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三様

書きたい構想とかキャラの動かし方は浮かんでるのに文章力とやる気がなくて満足できねぇの、やっぱつれぇわ……

あとアヴァロン登場キャラが奈須きのこの性癖の坩堝でナス生える。みんなどの子が好き?作者はトリ子。(精神が)PON!CRUSH!CRUSH!されますわ


 時々不安に感じることがある。あるべき筈のものがないような、そんな感覚だ。

 五体満足だった人が急に四肢のどこかを失った時のように、今まで共にいた友人が遠くの地に越して会えなくなった時のように、長年連れ添った配偶者に先立たれた時のように……。

 自分は経験したことがないが、例えるならそんな感じだ。

 だが、手を伸ばせば届き、声を出せば聞こえ、追いかければ追いつける。そんな距離にいるにも関わらず、遠ざかっているような気がしてならないのだ。彼をもっと知りたい、近づきたいといった欲が転じてそうなったのだろうか? いや、確かにそう言った気持ちはあるがそれともまた違う気がする。

 

 ならば、なぜ? 

 

 最近、マシュ・キリエライトはその疑問ばかりが頭に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリ、と自覚なく瞼が上がっていく。寝ぼけ眼がぼんやりと天井を認識し始め、だんだんとクリアになっていくと同時に耳によく馴染む男性の声が聞こえ、それでハッキリと意識が覚醒するのが自分の日課だ。

 

 ──おはよう、マシュ。よく眠れたかい? 

 

「おはようございます。体の疲労はしっかり取れました! バッチリです!」

 

 彼を心配させまいとした建前などではなく、本当に疲れは取れている。体調もベストに近い。だが、寝汗がじっとりと肌についていた。胸の鼓動も僅かに早く、少し息苦しい。鮮明に覚えてはいないが、何かとても嫌な夢を見ていた気がする。

 

「ギャラハッドさん」

 

 ──あ、ごめん。なんて言った? 

 

「いえ……大したことではないので」

 

 最近、こういうことがしばしばある。以前は自分の言葉を聞き逃すことなんてそうなかったが、明らかにその頻度が多くなっている。そのことをわざわざ指摘するのも自分が粘着質な感じがして憚られると思うくらいの人間性は獲得していたが故に問い詰めることはしなかった。

 ロンドン特異点の攻略は順調だ。かの有名な円卓の騎士モードレッド卿と最初こそ不安な空気が漂ったものの、なんだかんだで特異点修復のために力を貸してくれている。万事が順調に進んでいると言ってもいい。

 だが、人間は頂点にいる時こそ忍び寄る崩壊の気配を感じ取りやすいもの。それはマシュも例外ではなく、少しずつ何かに侵食されているような背筋の冷たさを感じる。それがなんなのか、それがわからないことが一番怖かった。

 

「……ギャラハッドさん。ずっと、ずっとそばにいてくださいね?」

 

 ──え、どうしたの急に。もちろん離れないけどさ。……そもそも離れたくても離れられないし。

 

「それはッ! ……離れられるなら離れたいってこと、ですか……?」

 

 ──ま、マシュ……? 

 

 滅多に聞くことのない……いや、滅多にどころか、文字通り四六時中一緒にいる自分ですら初めて聞いたヒステリックな叫びだった。ギャラハッドにとって、マシュという少女は良くも悪くも良い子すぎる家族のような存在であった。

 他人を思いやる心を持った良い子であり、それが故に自分のことで怒ったりするようなことがない悪い子。端的に言えば、もう少しだけ自己中心的になって欲しいと思っていた。そんなマシュが今激情に駆られ、普段出さない声を出している。

 何が彼女をそうさせたのかはわからない。体は共有していても、心は違う。溜まったストレスがここで爆発したのかもしれないし、悪夢を見て一時的に精神が不安定なのかもしれない。少なくとも、ギャラハッドには思い当たる理由がない。しかし、その顔には覚えがあった。

 何年前のことだろうか。もう顔も思い出せない歳の離れた妹がこんな顔をしていた時がある気がする。……そうだ、共働きの両親の代わりに学童に妹を迎えに行った時だ。出来るだけ近くの大学に通っていたとはいえ、迎えに行くのが遅くなっていた時、妹は泣いていた。寂しそうで、迷子が親を探しているような不安な目──マシュが今しているのはそれだ。

 

 どうすれば良いのだろうか。

 

 あの時は原因がすぐわかった。寂しかった。辛かった。悲しかった。それらの感情がありありと伝わって来たから慰めたし、甘えてくる妹に応えておんぶをしたりもした。マシュは今、SOSを出している。それはわかる……が、その原因がわからない。

 

 ──えっと……()()()()()マシュから離れたいとか離れようとは考えてないよ。だから、落ち着いて。ね? 

 

 だからこんな薄っぺらい言葉しかかけられない。それが彼女の望んだ言葉じゃないことは、顔を見ればすぐに分かった。だからといってこれ以上言葉を重ねても火に油なことは容易に理解できる。

 

 ──あの時と同じだ。

 

 生まれながらに英雄となることを定められた第二の人生。それが故に、人類史が定められたレールから外れぬようにブリテンという国を見殺しにした人生。『なんとか出来た』なんて傲慢なことを言うつもりはないけれど、『なにか出来た』のではないかと考えている。

 救いたいのに救えない。

 ブリテンの時とは違う。自分が正確に対処出来れば、マシュが苦しんだり不安な気持ちになることはないのだろう。でも、それも仕方ないことなのかもしれない。

 

 だって、自分は英雄なんかじゃないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシュと立香の絆は相当深いものである。それも当然の話で、多くの時間を共に過ごし、数多の試練を共に乗り越え、数え切れないほどお互いに支え合ってきた。

 今後の人生で二度と出会わないであろうと思うほどの親友。それがマシュ・キリエライトに対する藤丸立香の心象……なのだが、どうにも様子がおかしかった。とはいっても、雰囲気や覇気といった曖昧なものだが、人間関係に聡い立香が長い時間一緒にいる人の変化を感じ取る情報はそれだけで充分だった。

 

「マシュ……どうかした?」

 

「あ、先輩……いえ、大丈夫ですよ」

 

 そんなわけあるかい! と叫んで問い詰めたい気分だったが、まぁ大体察しはついている。というか、マシュの大抵の悩みはギャラハッドさんに相談することで解決するのだから、未だに悩んでいる様子を見せるということはギャラハッドさん関連以外にあり得ないのだ。

 一心同体……いや、二心同体なのにここまで悩むとは珍しい……と言いたいところではあるが、あれでマシュは結構悩む。初恋もまだな自分が言うのもアレだが、初恋の相手の一挙手一投足が気になる中学生のように小さな異変でも気にしてしまうタイプだ。

 案外大したことではないのかもしれないと思う自分と、でも何か出来ることがあるのではと思う自分がせめぎ合う。しかし数十秒もしないうちに後者が勝つのもいつものことであった。

 

「とりあえず話してみない? そんな感じじゃ攻略出来る特異点も攻略出来ないよ?」

 

「それは……」

 

 少々強引とも言える立香の気遣いに言葉を詰まらせるあたり、自分でもこのままではよろしくないと思っているらしい。一分ほど葛藤していたが、その間目を逸らすことがなかった立香の圧に負け、ぽつりと語り出した。

 

「……最近、ギャラハッドさんの様子がおかしい……と言えば少し違うんですけど、何と言えばいいのか……このままではギャラハッドさんがいなくなってしまうような気がして……」

 

 今まで感じたことのない焦燥感はどこから来るのだろうか。改めてそう考えた時、うまく言語化はできないが思い当たる節はあった。彼が離れていっている気がするのだ。呼べば答えてくれ、困れば助けてくれる。それ自体は変わっていないというのに。

 マシュは気付かないし、気付けない。カルデア職員も分かっていながら口をつぐんできたことを藤丸立香は言葉に出来てしまう。無神経だから……ではない。むしろ逆と言っていいほどに彼女は仲間思いで人の気持ちがわかる人物だった。だからこそ、告げた。

 

「マシュはさ、ギャラハッドさんが特別なんだね。ずっと一緒にいて、ずっと傍にいて、離れることがない存在なんだと思う。でもね、そうじゃないのが普通なんだよ」

 

 未来を取り戻す旅も今回で四度目。たかだか一人の一般人だった立香が一回りも二回りも成長するには十分すぎる経験だった。聖女と、皇帝と、大海賊……比喩なく歴史に名を残した者達との出会いは、間違いなく藤丸立香の財産だ。だが、出会いがあれば別れもあることを知っている。それが既に死んでしまっている人なら尚更だ。

 

「今、ギャラハッドさんと一緒にいられることは奇跡みたいなものなんだよ。いなくなっちゃうなんて私も思いたくないけど、それでも心のどこかで準備はしておかなきゃいけないんだと思うんだ」

 

 不安を煽るような言い方をしてしまっただろうか? もっと慰めるように言うべきだっただろうか? だが、これが自分の偽らざる本音だった。

 出会いがあれば別れもあるなんてことはマシュもわかっているはずだ。でもそれはギャラハッドさんだって例外じゃないことに気づいていないのか、目を逸らしているのか……。

 チラリとこちらを見るマシュを盗み見て……後悔した。ソレを見た瞬間、背筋は凍り、危険と判断した体は全身に鳥肌を立てていた。

 

 普段、宝石のように煌めく彼女の瞳は何も映していなかった。目の前にいる、立香さえも。

 




ちなみに「マシュと立香の会話ギャラハッド聞いてないの?」という突っ込み来そうなので先に言っときますと、マシュがギャラハッドの力を引き出す練度が上がるのと同時にギャラハッドは自分の意思で睡眠のような状態に入れるようになりました。なので聞かれたくない会話がある時はマシュが事前に言います(着替えとか風呂とかトイレは言わない)

イメージとしては某忍者漫画の人柱力が近いです。練度が高まると出来ることが増える感じ


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現実という皮肉

ロンドンで書きたかったところが書けたなぁって感じです

キャラは色々ぶっ壊れてます、ご注意を


 ──何を言っているんだろう、先輩(この人)は。

 

 ギャラハッドさんが私から離れる? そんなことあるはずがない。彼とはずっと、ずっと一緒だったんだ。あの日から私は(えいゆう)を知った。(せかい)を知った。(すべて)を知ったんだ。

 

 そんな彼がいなくなる? 

 

 考えたくもない……いや、考えたことすらない。もしそうなったら自分はどうすればいいのだろうか。……考える必要なんてない。だって彼が私を置いていなくなるなんてことはないからだ。

 自分の寿命が短いことは分かっている。だからこそ、死ぬまで……ワガママが許されるならば死んだ後もずっと彼と一緒にいたいと思うことはいけないことなのだろうか? ずっと一緒にいたい人がいて、その人といつまでも共にありたいと思うことは醜い欲望なのかもしれない。それでも、自分にとっては何よりも大事なことなんだ。

 

「絶対に……離しません」

 

 グランドオーダーの中で数多くの英雄を見てきた。生前の恩讐を忘れられない復讐者、民を愛する薔薇の皇帝、後悔しない生き様を貫く海賊……星の数ほどいる英雄の中で彼が自分に宿ることになったのは偶然でも奇跡でもない。彼が彼であったから私を救ってくれたのだ。そこからマシュ・キリエライトの人生は始まり、世界には美しいものが沢山あるんだと知ることが出来た。

 確かにこの世にもういないはずの人と共にいるのは理に反しているのかもしれない。だからといって、せめて死ぬまでの短い時間を共に歩みたいという願いすら許されないのだろうか? 

 そういう意味では人理焼却に感謝すらしている。今のカルデアにおいて、英霊ギャラハッドの戦力無くして人理修復は有り得ない。少なくとも、グランドオーダー完遂まではギャラハッドさんがいなくなるということはないだろう。

 強くなりたい。彼の重荷を少しでも背負い、隣で戦えるくらいには強く、強く。

 強くなりたくない。強くなって彼がいなくても大丈夫だと判断されてしまえば、この旅が終わったら彼はいなくなってしまう。

 守りたい。彼が紡いできて、先輩達が紡いでいくこの世界を。

 守りたい? 彼がいなくなって、自分も存在しなくなるこの世界を? 

 どっちも本心で、どっちも嘘だ。デミ・サーヴァント(ヒトでもサーヴァントでもない体)なだけでなく、心まで中途半端。日に日に増していくのは彼に対する欲求ばかり。

 ……分かっている、そんなことは正しくないと。手段を間違えた幸せにきっと意味なんてない。幸福な未来なんて待ち受けてなんかいないだろうけど、ならば幸福な今を噛み締めていたい。

 

 図らずしも、滅亡を知る騎士と同じ結論に至ったことを知るものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑う。嗤う。ワラウ。

 狂ったわけではない。状況はしっかり把握しているし、何をなすべきかも分かっている。それでも漏れ出てしまうこの笑い声は喜び……なんてものじゃない。例えるなら、そう……愉悦、だろうか。

 自分のナワバリ(ロンドン)を侵されたことも、さっきまで戦っていたやつ(ニコラ・テスラ)のこともどうでもいい。なぜならば、今オレの目の前には父上(アーサー王)がいる。いや、父上だけじゃない。あの騎士も、今ここにいるんだ。

 なんたる運命の悪戯か! 今、ロンドン(ここ)にはあの時の円卓の騎士が三人揃っている。各々が持っている聖槍、魔剣、聖盾も同じ。聖槍にかけられている呪いなんて瑣末なこと、重要なのはオレ達三人が獲物を持って戦場に立っているということだ。

 

「オイ、お前は退いてろ。退かないなら……殺す」

 

 クラレントに魔力を込め、場違いなマスターに殺気を飛ばす。戸惑っている様子すら焦ったくて、赤雷を飛ばすことでようやくオレが本気だと悟ったようだ。まぁ──こんなことをしなくても理想の騎士サマは危険に巻き込まないように下がらせるだろうが、関係ないやつを巻き込むのはもうやめた。だが、戦いが始まってしまえば巻き込まない自信がない。

 

「…………」

 

 父上はこちらを冷ややかに見下ろしていた。冷徹な瞳は敵を見据えた王としてのものであり……オレがずっと向けられてきた視線でもある。オレはそれを王だからだと、私情を挟むべきでない立場にいるからだと思ってきた。……いや、そう思いたかった。

 

 でもある日、見てしまった。

 

 厳格な父上がその顔に笑みを浮かべて話しているところを。アーサー王としてではない父上を。その時に胸中を占めたのは「何故」という二文字だけで、身体に全く力が入らなくなることがあるのだと初めて知った。相手の顔にも見覚えがあり、いっそ殺してやろうかとすら思ったことは数知れず。それが【理想の騎士】なんていけ好かない呼び名を欲しいままにしてる奴なら尚更だ。

 何故、何故、何故! その顔を一度でも向けてさえくれれば、オレは……。

 幾度そう思っただろうか。思考を重ねるごとに、あれほど父上に対して抱いていた敬愛が憎悪へと変貌していくのがハッキリと自覚出来る。同時にギャラハッドをどう苦しめてやるか、そればかりを考えていた。

 だから、ブリテンの状況が逼迫し、守ったはずの民から非難されるアイツを見て、心でざまぁみろとほくそ笑む。裏切られる苦しみをお前も味わえ、オレが感じた以上の苦痛を受ける義務がお前にはあると。なんなら積年の恨みによって澱んだ心の泥が少し晴れた気さえした。

 それでもアイツは成すべきことを成し続けていた。恨みをぶつけられようと、罵声を浴びさせられようとずっと戦い続けた。

 

 ……ああクソ、カッコいいじゃねぇかこのヤロウ。

 

 いつからか呼ばれていた理想の騎士という称号はまさにピッタリで、それでもなお困窮していく民を救うことはできなかった。いや、むしろ誰も死なせないという理想を貫き通すほどに、なおさらブリテンに生きる人々の生活は貧しくなっていき、現実が色濃く露わになる。

 なんという皮肉だろうか。強大すぎる力が故に、人を戦で死なすか飢餓で死なすかを選ぶ立場になってしまっていた。だというのに、肝心の民は命を賭して戦う騎士に感謝をするわけでもなく、むしろ罵り、そのくせ自分達が何かをしようとはならなかった。

 あまりにも理想的すぎた。アーサー王も、ギャラハッドも。夢を見続けた愚者達が現実を突きつけられた時、もう考える脳など残っていない。頼りすぎたのだ……騎士に、円卓に、そして王に。

 仕えるべき王への忠誠を失い、同じ騎士への怨みを募らせ、守るべき民に失望した。これだけ揃えばオレがブリテンを滅ぼす理由になるには十分すぎた。せめてもの手向けとして、同じ円卓の騎士のオレに滅ぼされるなら王も諦めがつくだろう、と。

 事実、アーサー王にもう力は残っていなかった。かつてはあれほど敬愛していた王がこれほど落ちぶれてしまったのかと、正直失望の色すら浮かべていただろう。

 

 ──勝った、アーサー王にオレは勝った! 

 

 これがオレの存在証明。あとはクラレントでアーサー王の首をとり、高らかに掲げるだけ……のはずだったのに、そこには誰よりも見たくない面があった。

 アイツを誰よりも恨んだのはオレだ。

 アイツを誰よりも妬んだのもオレだ。

 ──そして、アイツに誰よりも憧れたのもオレだった。

 

 ああ、そうだな。ここで現れなきゃ理想の騎士(オレ)じゃないよな。

 

 オレが何よりも望んだものを何でもないように掻っ攫っていったコイツを越えなければ、オレはいつまでもコイツに負けたままだ。弱気なのはらしくねぇ、猛犬のように噛みつき、暴れてこその叛逆の騎士(モードレッド)だ。

 史上最高の一撃を何度もぶち込む。文字通り王の盾、ブリテンの盾であり続けたコイツを打ち破ることが出来なければオレにブリテンを……アーサー王を終わらせる資格はない。

 

 ──証明しろ、自分を。

 

 後先なんて考えなくていい。聳え立つ(キャメロット)を砕け。

 赤雷が荒れ狂う。あの時の自分を振り返っても、まさしく竜と呼ぶに相応しい災害を齎していただろう。

 だが、それでもアイツは超えられなかった。あまりにもあっけなく、オレの存在証明(はんぎゃく)は終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 それが今ではどうだろう。

 同じ武器、同じ人、同じ場所……唯一違うのは立ち位置だ。あれほどボロボロになって戦い続けた王と、叛逆の騎士として後世で誹りを受けているであろうオレはあの時とは完全に真逆になっていた。

 チラリと横を見る。そこにはギャラハッドの力をその身に宿したマシュが立っていて、運命の悪戯としか考えられないほど痛烈な皮肉と化した状況だった。

 

 ──貴方が誰より信頼した騎士(ギャラハッド)は今貴方の側にはおらず、貴方が誰よりも遠ざけた騎士(モードレッド)の隣に立っている。

 

 その事実を認識した途端、抗い難い甘美な刺激が背筋を駆け抜けた。

 

 恨みが少し晴れたような感覚だ。ロンドンの空気とは裏腹に、心の空は段々と色づいていくような錯覚を引き起こす。この感情は一言で表せると、オレは知っていた。

 

「──ザマァみやがれ」

 

 オレは、酷く嗤っていただろう。




この作品のブリテン編が終わった辺りの感想でモードレッドが気になる旨の感想を多々頂いたのですが、ある意味で感想返しが出来たと思っています(間が空きすぎだけど)

Q.モーさんってこんな性格だっけ?

A.モーさんの根幹って父上から認められたいことだと思うのですが、私も意図せずギャラハッドが英雄(真)になってしまったことを踏まえて考えると、王から認められて理想の騎士とまで周りから言われていたギャラハッドってモーさんがなりたかった自分じゃね?と思い至り、こんなクソデカ感情抱えたジメジメ系になっちゃいましたね…
解釈違いな方はさーせん


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顕現

しれっと投稿


 予想していなかったわけではない。

 縁が重要らしい英霊召喚において、この土地で召喚される可能性は高い方だろうと思っていたし、モードレッドがいたことでその予想は確信へと変わった。

 誰よりも敬愛した人が自分に何度も何度も敵意を向けてくる状況というのは辛いことだ。これは罰なのだろうかと問われれば、そうかもしれないと答えるだろう。

 滅亡の運命を知っていながら何もしなかった故か、はたまた最後の最後に人理に背いてあの決戦に介入したことが理由か……或いは、そんなどっちつかずな振る舞いをしたことがきっかけか。

 どれにせよ、自分に罰を与える執行者として彼女ほどの適任はいないだろう。その生涯を以ってブリテンの王たらんとした彼女ならば、こんな酷い裏切り者の首を刎ね、心臓を串刺しにする権利がある。

 だが、今ここでは死ねない。

 今の宿主であるマシュとの状態は未だ不明瞭で、僕がいなくなることで何が起きるかわからない。人類の歴史、その未来を背負うことになった立香ちゃんは元は一般人で、その重荷はとても背負い切ることは出来ないだろう。

 

 だからまだ、彼女達には英雄ギャラハッドが必要なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒の嵐が迫り来る。だが、それを避けることはしなかった。何故なら知っているから。彼ならば、絶対にこれを防いでくれると。

 確信めいた信頼に違わず、嵐に呑まれるところで青白い光がそれを遮る。幾度となく見た光ではあるが、見るたびに輝きを増していく。それはつまり、自分が彼の力を引き出せるようになっていることの証左でもあった。

 半ば無理やりに嵐を突破し、黒き騎士王に盾を振るう……ことはなく、薙ぎ払われた槍から発せられた衝撃波だけで吹き飛ばされる。

 

「くっ……」

 

 当たり前だが強い。引けば嵐、寄れば槍。そのどれもが一撃必殺で、まともに喰らえば容易に絶命できることは簡単に想像がつく。さすがは彼と同格の円卓の騎士と言ったところだろう。間違いなく、自分一人では勝てない相手だ。

 だが、裏を返せばそんな騎士王と同格の円卓の騎士がこちらにはもう一人いるということだ。

 

「ハハハハハハッッッッッ!」

 

 嵐に立ち向かうは雷。あれほど強大な力を誇ったニコラ・テスラに勝るとも劣らぬ圧倒的な力の奔流が嵐を裂き、その先にて待つ黒き王を焦がし尽くさんと猛進していく。この特異点で共に戦ってきた仲ではあるが、間違いなく今が本気なのだと察せられる。しかし敵もまたさる者、魔力で出来た赤雷を形あるものかのように叩き落としていく。

 たった二騎の英霊が起こしている天変地異を見て、立香は果たして自分達が入る余地があるのかとさえ思ってしまう。戦いに生き、戦いに死んだ英雄が本来の力に近い状態で力をぶつけ合うのを見るのはこれが初めてだ。法外な力も見慣れてきたとはいえ、立香は何の力も持たない一般人であり、あの暴力に抗う術を持たない。

 

 何ができる? 自分に何が……? 

 

 手の甲に刻まれた令呪を見る。今の自分の存在価値なんて魔力タンクくらいなものだ。それを理解できてしまうからこそ、なおさら悔しい。結局自分は一人じゃ何もできないのだろうか。

 ……いや、違う。凡人だから、英雄じゃないから何もできないんじゃない。そうやって諦めるから何もできないと思ってしまうんだ。英雄だって、独りでなんでもできるわけじゃない。

 思い出せ。復讐の聖女を、地を揺るがす軍神を、世界を焼却せんとする魔神柱を打ち倒したのはたった一人の英雄だったか? ……違う。ここまで来れたのは皆がいたからだ。

 三画ある令呪の全てが紅く光る。モードレッドの放つクラレントとは違い、鮮やかで、宝石のような輝きだ。そこに込められた魔力量は円卓の騎士達でも無視できるものではなく、天変地異を思わせた戦場が凪のように静まり返った。

 

 ──二人が羨ましかったんだ。

 

 文字通りの一心同体で、お互いがお互いを変えがたいものだと大切に思っている。いくつ死線を越えても、二人の間には自分が入り込めない絆が確かにあった。それが羨ましくて……寂しかった。

 いきなり世界を救えなんて言われて、一緒に戦ってくれる人達は皆すごくて、一番近くにいる人達の間にすら立ち入れない……そんな自分を嫌っていた。

 

「でも、それもお終いッ!」

 

 もう、逃げない。偉大なる使命からも二人からも。向かい合ってぶつかっていく。それが、藤丸立香(わたし)だ。だからマシュ、ゴメンね? 

 

 ──ちょっとだけ二人の間に入らせてもらうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤雷と黒嵐がぶつかり合い相殺される。そんな光景を何度見ただろうか。未だこちらを見下ろす鉄面皮を変えることは叶わない。

 

「チッ……」

 

 思わず出た舌打ちは攻撃が通らないから出たものではない。目の前の黒いナニカに対してだ。

 あれがアーサー王だと? いや、確かにアーサー王ではあるのだろう。だが……アレは何だ? 

 オレが誰より憎んだ(愛した)アーサー王は非情ではあれ、かつての同胞と戦って何も感じないほどの機械人形ではなかった。それが彼が一番信頼していたギャラハッドと戦っているなら尚更だ。

 だというのに、淡々と黒槍を振るうあの姿は何だ? 決まっている。

 

「アーサー王であるなら全部このオレが灰にしてやるよぉぉぉ!!」

 

 宝具の解放。

 モードレッドが有する剣の名はクラレント。その宝剣に秘められた効果は──対アーサー特攻。

 赤雷が全身を迸り、雷神の如き姿を眼前の敵に晒す。ここで初めて黒き騎士王は表情を動かした。アレをまともに食らってはならないと長年の戦歴で磨き上げられた直感が告げる。避けようにも、あの雷はロンドンの空全域を埋め尽くすだろう。ならば……と、そこまで考えたところで槍が嵐を纏い始める。

 紛れもない全力の一撃のぶつかり合いがコンマ数秒で行われようとしている戦局。だが、実際に戦場を支配したのは叛逆の騎士でも円卓の長でもなく、一介の少女に過ぎないマスターだった。

 

「──令呪を以て命じる。我が騎士よ、迷いを捨て立ち向かえ」

 

 それは、歌のように。

 命令というにはあまりに優しい声音で、願いというにはあまりに力強く。

 

「重ねて令呪を以て命じる。我が騎士よ、魂の枷を捨てよ」

 

 現時点でその言葉に込められた意味を理解したのは、マシュ・キリエライトただ一人だった。あの紅い光が照らされた時から脱力感が身体を襲い、自分の中から大切なものが抜け落ちていく恐怖で震えが止まらなくなる。

 そして。

 

「最後の令呪を以て命じる! 我が騎士よ、その実体を晒し、今ここに顕現せよ! 

 

 令呪から発せられた紅光が一際強く光り輝く。モードレッドが雷、アーサー王が嵐だとするならば、立香から発したその光は太陽のように暖かくロンドンを包み込む。やがてその光も収まり、再び鬱屈な雰囲気をした街が帰ってくるかと思われた。

 光がまるでガラス細工のように砕け、辺りに散らばる。星屑のように煌めくそれは一つ一つが意志を持った生物かのように一箇所に集まっていく。それは確かに形を成していき、四肢と顔を整えていく。

 再び光が散った。一度目の時のように強い光ではなく、例えるなら雪が太陽の光を浴びて反射をしているような優しいものだ。

 光から現れた人物が目を開く。先程の光にも負けない輝きを秘めた黄色い瞳は片方が白髪により隠されており、しかしそれでも隠しきれないくらい優しげな眼差しをしている。その身体には不完全ながら黒い鎧を纏っており、生半可な攻撃では傷一つつけられないであろうことが窺える。そして、何より目を引くのがその右手にあるものだ。

 ソレはそこにあるのが当然と言わんばかりに存在していた。数多の攻撃を受け止めていながら傷一つない姿は、扱う者の心を映す鏡でもあった。身を覆えるほど巨大でありながら威圧を感じさせることのないそれの名は──雪花の盾。

 かつて少年を英雄にし、王を導き、少女を守った盾。

 正しく、伝説がそこにあった。

 

「……凄いなぁ、立香ちゃん。君は受け入れて成長できたんだね」

 

 誰にも聞こえないくらいの声量でポツリと呟く。心からの賞賛と尊敬を示したその言葉は、自罰的にすら聞こえた。

 久しぶりの自分の眼で捉える世界を見つめようと辺りを見渡す。一人は疲労困憊で、一人は青い顔をし、一人は狂気的な笑みを浮かべ、一人は驚愕の表情をしていた。

 どうあっても逃げられない運命があるというのなら、それに従うしかないのだろう。

 かつて数えきれないほど述べてきた……だが、もう言うことはないであってほしかった名乗りを上げた。

 

「我が名は円卓の騎士第十三席ギャラハッド。人理の未来を取り戻すため……我が王よ、貴女を打ち倒させて頂きます」




色々書きたいことはあるけどそこまで行けるかどうか…


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誤算

戦闘描写って難しいと思う今日この頃

そういえばクソエタ作品の拙作を更新すると未だに見てくれる人がいるんだって感動してます。私が見た時には日刊ランキング13位に入っていてギャラハッドの席と同じだったから運命感じました。ありがとうございます


 すごい……。

 

 一人の英雄を確かに顕現させた少女は胸中で呟く。ロマンとダヴィンチの推測に乗っかり、やぶれかぶれな令呪の行使は吉と出た。上手くいった安心感からか、足からは力が抜けてしまい地面に座り込む。それと同時に二人から受けた説明を思い出していた。

 

 ──────────────────────────────────────

 

『英霊ギャラハッドがフルで力を振るうにはマシュの力がついていかない。だが、彼と同格……それこそ円卓の騎士と戦うこともあるだろう。だから、もしもの時のために一応この推測を伝えておくよ』

 

『あの……マシュは?』

 

 ギャラハッドさんに関することならば当然マシュがいた方がいい。そう思っての発言だったのだが、Dr.ロマンは首を横に振った。

 

『あえて詳しくは言わないけど、マシュには伝えない。これは代理所長としての判断でもあり……彼女の担当医としての判断でもある』

 

 当時は何のことだかわからなかったが今ならわかる。あの光を返さない眼……深淵を見つめているかのようなアレには背筋が粟立った。自分が思っている以上にマシュは彼に妄執している。

 

『本題に戻るけど、結論から言ってしまえば英霊ギャラハッドの戦闘時における完全召喚ができるんじゃないかって話だね』

 

『完全召喚?』

 

『ああ。理由は不明だが、今のギャラハッドは通常のサーヴァントとは違って霊体がない。じゃあ、なぜ現世に留まっていられるのだろうか……』

 

 そんなことを言われても、専門家どころか最近魔術の存在を知ったばかりの自分がわかるはずもない。そのことは向こうもわかっているのか、こちらの答えを待たずに予想を述べた。

 

『ギャラハッドは問題なく力を行使している。ならば、魂と呼ぶべき力の源は他のサーヴァントと同じように現世に来ているんだ……霊体無しにね。じゃあ、霊体の代わりとなっているものの可能性として一番高いのは?』

 

『マシュ……?』

 

『うん。ボクとレオナルドもそこに行き着いた。そして、それが弱点でもある』

 

 弱点と言われて考えてはみるが、それらしいものは思いつかない。強いて言えばギャラハッド本人が言っていた攻撃力の乏しさがそれにあたるのだろうか? 

 

『ギャラハッド最大の弱点……それは出力だ。いや、正確にはマシュの弱点と言った方が正しいかもしれないね。わかりやすく例えてみようか』

 

 ロマンの後をついて行き、何やらバケツに水を溜めていく様子を眺める。

 

『水が魔力と思ってくれ。で、これが本来の出力』

 

 せっかく溜めた水をそのまま流していく。水道代がもったいないなと的外れなことを考えているうちにロマンはもう一度水を溜め、今度は小さな穴が空いたベニヤ板の蓋をかぶせてからひっくり返した。当然、水はチョロチョロとしか流れない。

 

『これがマシュが流せる魔力量。無理にいっぱいの魔力を流そうとすると……』

 

 いつの間に握っていたのか、ハンマーでベニヤ板を叩いた。破損した箇所からは水が流れ、勢いが遥かに増していく。

 

『──こんな風に体が壊れてしまう。だから莫大な魔力を保有していてもギャラハッドが一度に使えるのはマシュの魔力許容量まで。マシュもこれ以上ないくらいの速さで成長してるけど……やっぱり手札は多い方がいいだろう?』

 

 確かにこれからどんな敵が来るかはわからない。できるだけのことをして損はしないことには全面的に同意である。

 

『さて、この話がギャラハッドの完全顕現にどう繋がるかってことだけど……器の問題で本気を出せないなら莫大な魔力を用いて作り出せばいいんじゃないかってなってね。つまり、令呪だ。それを三画使えば短時間だけどギャラハッドが本気を出せる……かもしれない』

 

『ここまで言って最後は曖昧なんですね……』

 

『まぁ、所詮は机上の空論ってやつだからね。やってみなきゃわからないってのはある種ロマンを感じないかい? ……ああ、マシュには内緒だよ。彼女に言ったら自分が未熟だからって自責するかもしれないからね』

 

 そう言って苦笑いするドクターは、医者というより妹を心配する兄みたいだなんて思った。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 半分賭けだったが、確かに机上の空論は成った。すぐに戦いの火蓋は切って落とされるのかと思ったが、ギャラハッドはまず武装を解除され私服となったマシュが戦いに巻き込まれぬよう、抱き抱えて立香のところまで運んで行く。しかし運んだ後も離れないマシュを見て苦笑いをし、微かに手元が光ると彼女の力が抜けていく。魔術か何かで眠らせたのだろうか。

 

「マシュ?」

 

「大丈夫、眠らせただけだよ。マシュをよろしくね、立香ちゃん(マスター)

 

 そう言い残し、振り向いて背中を見せる。それだけで言い表せない安心感が立香の体内を巡った。これがギャラハッド本来の姿なのだろうか。

 いつかのように隣に並び立つ。前とは違うのは、モードレッドが猪の如き勢いで敵に突っ込んで行っていないところだろうか。

 

「……意外だ。モードレッドが先におっ始めないなんて」

 

「バーカ。お前とアーサー王と戦う……これ以上面白いことがあるか?」

 

 クラスとしては間違いなくセイバーではあるものの、その内に宿る怨嗟の炎はアヴェンジャーにも勝る。そんな中、誰よりも憎んだ相手が誰よりも信じた者と戦うなんて最高の意趣返しにも程がある。

 

「おい、腕は鈍ってねぇよな? 俺の足引っ張ったらお前ごとぶった斬るからな」

 

「勘弁してくれ……」

 

 復讐者と守護者。邪剣と聖盾。

 何もかもが正反対の騎士達は示し合わせたと思う程同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──なんだ、これは。

 

 並び立つ二人を見た瞬間、黒き王に激しい頭痛が走る。相手の誰かしらが掛けた魔術かと疑うがそんな気配はない。対魔力を持つ自分に通じるほどの術ならば、いかに自分がランサーとはいえそれほどの魔力を感じられないはずもない。

 

 ……ならば、脳裏を過ぎるこの光景はなんだ? 

 

 もう日は落ちようかとしている夕暮れに照らされ、無数の屍が大地を埋め尽くす。その映像の中心では、自分にそっくりな顔をした者が膝をつき、まさに敵の刃が首に届かんとしているところだった。

 しかし、その刃が振り下ろされる前に闖入者が現れた。間違いない、眼前にいる大盾を持った男……ギャラハッドだ。だが、自分にそんな経験はない。彼は円卓の騎士の一人であったものの、あの戦いにおいて関係したことはないと言ってもいいくらいだ。

 それに、モードレッドがギャラハッドに向けている感情にも違和感がある。彼らは特筆するほど関わりがあったわけではないはずだが、モードレッドが彼に向けるそれは自分に対するものに近い。

 

「なるほど。そういうことか」

 

 あれが全て事実だと仮定して言えることは、間違いなく自分の記憶では無いということ。それにしては似通う部分も多く、誰の記憶なのだろうと考えた時、一番納得できるのは別の自分のものだということ。

 確証はない。その推論を裏付ける材料もない。だが、彼女にとってはそれで十分だった。

 なぜなら──頭を悩ます情報が消えれば、戦いに集中できるのだから。

 

「──最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

 

 嵐が唸りを上げ、意志を持った暴力は龍のように迫り来る。モードレッドが回避か相殺のいずれをしようとも、その隙を狩らんと二度目の嵐を溜め始める。

 

「──何?」

 

 だが、彼女が取った行動は突撃から指針を変えることなく、刹那のうちに黒く飲み込まれていく。復讐に眼と思考を曇らせようとも、騎士として培った戦闘の勘は健在のはずだと思っていたが事実は変わらない。

 かのモードレッド卿といえどもロンゴミニアドの一撃をまともに喰らっては戦闘続行は不可能だ。それはこの槍を喰らったことのある彼女が一番理解してるはず……いや、このモードレッドにその経験があるかはわからないが。

 いずれにせよ、ランサーの頭の中では警戒すべき対象からモードレッドが抜け落ちた。それは間違いなく、【隙】と呼べるものだ。

 

「ドォリャアアアァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!」

 

「──なっ!?」

 

 黒嵐から蒼い光が漏れ出たかと思えば、全てを塗りつぶす赫が迫り来る。避けることも叶わぬ必殺の瞬間に放たれたソレは仇敵を滅さんと全てを喰らいながら──直撃した。

 

「ガアァアアァァァァァァァァッ!?」

 

 鉄面皮の騎士王が痛みに耐えきれず咆哮し、制御を失った暴力(あらし)はロンドンの街並みをただの瓦礫に変えていく。肉体を焦がす鋭い痛みだけではこんなことは起きなかっただろう。しかし、彼女が喰らったのは対アーサー王の邪剣。モードレッドの怨讐が呪いに近しいものと化し、彼女を内側から食い尽くす。

 

 ……また、この感覚だ。

 

 苦しむアーサー王を見ているモードレッドの背筋にまた甘美な電流が駆け巡る。身体を掻きむしりたくなるほど甘美で、まるで自分の脳を蕩しているかのようなソレに身を委ねたくなってしまう。

 

「ハハハッ!」

 

 次に隙を晒したのはモードレッドであった。甘美な熱に浮かされ、二の太刀が大振りになる。些細な、しかしアーサー王から見れば大きな隙を逃すはずもなく、叛逆の騎士の心の臓を穿つ──はずだった。

 

「──引っかかったな、父上(アーサー王)

 

「なにっ!?」

 

 青白い光が聖槍の一撃を防ぐ。更に予想外だったのが聖槍と壁がぶつかった衝撃すらなく、油でも塗っていたかのように表面を滑っていったことだった。腕は伸び切り、体勢は最悪。一瞬にして逆転した形勢を見逃さず、王を断頭するギロチンは降ろされた。

 

 ──バカな、私の槍をギャラハッドが防ぐことを読んでわざと隙を晒しただと? そんな戦法……

 

 そこで、意識は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が立てた作戦は、「ギャラハッドか守り、モードレッドが攻める」という非常にシンプルなものただ一つだけだった。お互いに円卓の騎士としては新参寄りで、共に戦った経験も少ない。おまけに仲も良くないと来たらコンビネーションなんて望めない……二人はおろか、アーサー王もそう考えて事実それは正しい。

 だが、アーサー王の誤算は二つあった。

 いかにギャラハッドといえども、ただの防御術式ではロンゴミニアドなんて最高クラスの宝具を受け止めることなんて不可能。だから受け流すことに注力をした。仮に受け流し切れずとも、致命傷にならない多少の傷ではモードレッドは止まらないと読んでいた。モードレッドもまたギャラハッドならば致命傷になり得る一撃は防ぐと読んで捨て身の猛攻に走った。

 決してコンビネーションなんてできないはずの二人が、歪ながらお互いを信頼していたなんてことを言っても誰も信じないだろう。だからこそ、アーサー王の誤算になり得た。

 二つ目は……

 

「……貴女は、僕が守るべき主(アルトリア様)ではなかったけれど、やはりアーサー王だったのですね」

 

 ……読んでいたのではない。それでもピンポイントに致命傷を避けるように防御できたのは考えていたからだ。……アーサー王なら、どこを狙うかと。

 果たして、僕の中のアーサー王と目の前のアーサー王の狙いは一致していた。それ故の結果(しょうり)

 目の前にいるのは、僕が知っている人ではない。だけど、彼女もアーサー王だった。

 

 その事実が、胸の中にいつまでもしこりのように残っていた。




読み直すのめんどくさいって方のための登場人物の現在

◇ギャラハッド(オリ主)
ギャラハッドとしての生を終えたはずが、何故かマシュの中にいる。人理焼却に立ち向かうカルデアに力を貸しているが、円卓時代の負債に牙を剥かれている。なお6章もあるからまだまだ負債は払いきれない。アルトリア(盾王)を上司として慕っているが、結局ブリテンを滅びの運命から救えなかった(救わなかった)ことに負い目を感じており、なんなら恨まれていてもおかしくないと考えている

◇マシュ
ギャラハッドを宿す少女。基本的に礼儀正しいがギャラハッドが絡むと精神的に危うい面が目立つように。

◇立香
一般人。しかし人理焼却に立ち向かうハメになり、それがプレッシャーに。今は人の力を借りてやり遂げるとある程度折り合いをつけた。

◇黒い騎士王(槍)
聖剣ではなく、聖槍を扱うルートのアーサー王。別人であって同一人物。記憶の混濁が起きたのは人理焼却によって召喚が不安定かつ同一人物による親和性から来た奇跡のようなもの

◇モードレッド
アーサー王とギャラハッドにクソデカ感情を持つめんどくさい子。向けているのが憎しみだけでない分まためんどくさい。別人のアーサー王(黒王)にアーサー王(盾王)への恨みをぶつけ、アーサー王(黒王)に対してアーサー王(盾王)の忠臣であるギャラハッドと共に戦うことでザマァみろと思っているめんどくさいヤツ。だけど自分の理想でもあったギャラハッドと一緒に戦えて喜んでいる面もありめんどくさい。でもやっぱり憎んでもいるめんどくさい騎士

◇アルトリア・ペンドラゴン(盾王)
この作品の第一章におけるアーサー王。本来のギャラハッドではないため、辿った軌跡は多少違えども結局は原典通りの結末を迎えた。アヴァロンに辿り着いた彼女が今どうしているのかを知るのは軽薄な夢魔だけである


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