艦これの世界で名探偵と英雄王に挟まれながら、艦娘っぽい娘達と頑張ってます。『完結』 (サルスベリ)
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ごく普通の高校生だったと思います



 過剰摂取は健康を害するものである、しかし食べたいものは多いのが人間であるために、頑張って食べようとした。

 そんな話。




 

 

 世の中には転生というものがあるらしい。

 

 一度は死んで、生き返る。輪廻転生の精神なのだろうか、とても素晴らしい考えかもしれないが、一度だけの人生だから精一杯に生きるって考え方もある。

 

 どちらでもいいのかもしれない。

 

 六歳の頃だった、友人の一人が『俺、転生者なんだ』とか言っていた。幼い頃の自分はそれに対して、よく解らないと返した。

 

 転生者だから転生特典があるだの、この世界で色々やるだの言っていたが、その彼は今や提督の一人として頑張って深海棲艦と戦っているらしい。

 

 深海棲艦、海の何処からか現れた未知の生物、的な何か。生物としているが、明かに機械的な武装を使っていることから、機械生物的な扱いをされているらしい。 

 

 詳しい話は学者や専門の研究者に任せるとして、今の御時世はそんな深海棲艦が海の支配しており、人類は陸地の奥に押し込まれてしまっている。

 

 そんな状況を打破するために人類は艦娘達と共に頑張っている、っていうのが今の世界。

 

 自分はそんな危ないことできないから、ひっそりとのんびりと生活できればいいなと考えていたんだが。

 

 のんびり生活って、儚いものだなぁと考える昨今。何処でどう人生を間違えたのか思い返せば、最大の転換点は過去の一件。

 

 幼馴染が、『俺の転生特典だ』とか言っていたものに、付き合った瞬間だろうか。

 

「ほう、雑種は中部海域を突破したそうだが」

 

 ニヤリと笑っている目の前の男に、深々と溜息が出てくる。

 

 金髪に赤色の瞳。近寄りがたい雰囲気を持った青年は、手に持った新聞を放り投げる。

 

「がんばってるな、修一。俺はのんびりやるさ」

 

「ふん、相変わらずだな」

 

 つまらなさそうに、というのではなく何処か面白そうな顔で言ってくる彼は、昔は滅茶苦茶、怖くて恐ろしくて、話しかけたら殺されそうな雰囲気だったのに、十年も付き合うと慣れてくるのかな。

 

「どうした、マスター?」

 

「いや~~最初の頃はさ、話しかけると殺されそうだったのになって」

 

「そうか。十年も付き合ったからな。我も大人しくなったということか」

 

 何処か遠い目をする彼に、ちょっと意外だなと思ってしまう。ひょっとして彼は転生者で、その姿と能力を持っただけなのでは、と。

 

 いや、そんなことないか。どうも幼馴染を筆頭に、色々な転生者に会ったから疑い深くなってしまったのか。

 

「おめぇが大人しく、馬鹿言ってんなよ、英雄王」

 

 子供の声で、それでも子供らしくない言葉を話す子供が、会話に割り込んできた。

 

「フ、世界広しといえど、我にそんな口をきくのはお前だけだぞ、名探偵」

 

「そうかよ」

 

 眼鏡をかけた小学生、見た目は子供でも中身は別者。頼りになる共犯者、といったら怒られそうだ。

 

「のんびりと話をしている場合かよ?」

 

「そうだな。我もそろそろ動くべきだと思うが?」

 

 英雄王と名探偵の二人に言われ、俺はゆっくりと立ち上がり、盛大に机に突っ伏した。

 

「俺は普通に生活がしたいだけなのに」

 

 はぁ、もう何でかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柴田・修一。幼馴染の一人にして転生者、転生特典は『英霊召喚』。過去の英雄たちを召喚して使役するらしいものに、何故か俺も巻き込まれてこうなってしまった。

 

 サーヴァントとか彼は言っていたな。で、彼は英霊を召喚して喜んでいたのに、自分が召喚した瞬間に大絶叫していた。

 

 英雄王ギルガメッシュ。幾多の英雄の中でも、特級中の特級クラス。王の中の王にして傲慢。出会った当初は毎日が死ぬ思いをしていたが、今ではちょっと丸くなったらしい。

 

 もう一人は、友人も首を傾げていた存在。彼は『江戸川・コナン』と名乗った。

 

 で、二人を従えて、いや従えられて?

 

 毎日毎日、事件と死ぬような思いと奇奇怪怪な出来事の日々を送って、どうにか生きてこれた十年間。もうすぐ高校生というところで、修一は提督の適性を見出されて提督へ。

 

 俺はそんなの関係ないのでごく普通に高校生生活をしていたら、いきなり軍人が来て『提督になってくれ』と言われて提督の学校に入れられてしまった。

 

 もういきなりだ。拒否したら、『日本に住めなくなる』的なことを言われて頷いた。

 

 という建前。後ろで名探偵がニヤリと笑い、英雄王が凄味のある笑顔を浮かべていた、といわけじゃない。

 

 怖かった、精神的に潰されるか、物理的に殺されるかの二択。対象が日本だったのは笑い話でしかない。

 

 というわけで、提督になりました。

 

 必死に頑張った学生生活。勉学で少しでも点が悪いと、名探偵がすっごいいい笑顔で迫ってくるから、本当に必死でした。

 

 『なんで俺のマスターがこんなのできないんだよ』とか言われても、俺は平凡な人生を生きたいのであって、特別になりたくない。

 

 名前も、田中・一郎だ。平凡こそ我が人生。

 

 の、はずなんだけどなぁ。

 

 名探偵コナンと英雄王ギルガメッシュの二人がいるのに、普通ってなんだろう。これだけでも普通から遠のくのに、さらに提督ってなるともう一般人じゃないだろうな。

 

「はぁ」

 

「いきなり溜息?」

 

「あ、うん、色々と自分の人生に迷ってね」

 

 そう告げれば、彼女は小さく首をかしげた。

 

「フフフ、我が提督は多感な青年らしいな」

 

「多感なのかな?」

 

 もう一人の女性は何か楽しいのか、とてもいい笑顔で笑っている。

 

 艦娘、提督が指揮する深海棲艦への唯一の対抗策。人類の武器では深海棲艦の特殊な力場を破れないから、艦娘の力が必要だって言う話なのに。

 

 この二人、本当に艦娘なのかな。

 

 鎮守府の執務室で、ソファーに座っている二人を見つめ、艦娘だよなと自分に言い聞かせる。

 

 修一が『アズレンとアルペジオって卑怯だぞおまえ!』とか言っていたけど、意味が解らないし説明してくれないから忘れよう。

 

「出撃か?」

 

 嬉しそうだな、エンタープライズ。最近、出撃してないからなぁ。

 

「出撃なら準備万全」

 

 イオナも嬉しそうだ。でも、修一、なんで白いドレスの最終決戦使用は卑怯なんて言ったんだろ?

 

「バーロ、出るだけの資材がないだろうが」

 

「うん、ないのか?」

 

 コナン、そんなこと言わなくても。

 

 エンタープライズ、なんでそこで疑問を浮かべるのさ。

 

「資材がない?」

 

 イオナ、そんな可愛らしい仕草、何処で覚えた?

 

「・・・・・ならば我が出してやろう?」

 

「いや、いい。ギルに何かしてもらったら、あとが怖い」

 

「学んでいるな」

 

 嬉しそうに笑うな、お前。愉悦のために何かするって知ってるんだぞ、おまえが今までにやらかしたこと、忘れてないからな。

 

「資材がなけりゃ艦隊を動かすことなんて無理だからな」

 

「しかし、先日に資材は確保したんじゃないのか?」

 

 エンタープライズ、その疑問は正しい。正しいんだけど、あったって話になるんだよな。

 

「どんちゃん騒ぎで出撃していった娘がいてね」

 

「ああ、なるほど。行ったのか?!」

 

「行った」

 

「行ったの?」

 

「行っちゃったんだよ」

 

 エンタープライズとイオナの二人が驚いた顔するなんて、珍しいものが見れたからいいかな。

 

 一万の資材がすべて吹き飛んだことは、いいとしておこうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和って戦艦を皆さんは知っていますか。

 

 日本帝国海軍最大の戦艦、その火力は第二次世界大戦では最大級。その後の戦艦を含めても火力も防御もケタ違い。

 

 絶大な威力と防御力を持つ大和型戦艦なのですが、同時に資材の消費も絶大なものがあったりします。

 

 さて、そんな大和型戦艦ですが、実は計画には『超大和型』って戦艦があったのを知っていますか。

 

 五十二センチ砲搭載とか、六十一センチ搭載とか、色々と。

 

 今の提督たちはまだ誰も持っていない大和型戦艦、そんなのを建造で当ててしまう提督って周囲から見たらどう見えるか。

 

 答え、化け物。

 

 彼女の名前は大和、大和型戦艦一番艦。ではなくて、大和型戦艦『集合体』の大和でした。

 

 鎮守府の正面玄関のところ、涙を流しながら正坐している彼女は、とても頼りになるんだけどなぁ。

 

「完全装備で出撃していった馬鹿の顔はこれか」

 

「え、エンタープライズさん、どうしてここに?」

 

「どうしてだろうなぁ?」

 

 とってもいい笑顔のエンタープライズには、怒りの炎が見えているんだけど、仕方ないよね。

 

 向こうでジャベリンと電が落ち込んでいるから、仕方ないよね。

 

「おまえは何をしてどうしたら資材を一気に消費できるんだ?」

 

「そ、それは、その色々とあって、ですね」

 

「私でも一万は消費しない、何があったの?」

 

 イオナも何時も通りに見えるけど、内心では激怒しているよね。

 

「そ、その」

 

「完全装備で砲弾がなくなるまで遊んできたんだよな」

 

 ああ無情、コナンの言葉で気温が一気に低下しました。

 

「大和! おまえってやつは!!」

 

「馬鹿!!」

 

「ごめんなさい!」

 

 世にも珍しい、大和型戦艦の土下座は、この鎮守府では名物ですので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、俺は提督として鎮守府を率いています。

 

 提督の他に、名探偵が鎮守府の運営してくれて、英雄王が愉悦の代わりに予算をくれて、規格外な艦娘っぽい娘たちがいる鎮守府ですが。

 

 それなりに楽しい毎日を送って。

 

「提督! 大和さんがまた出撃しました!」

 

「提督! エンタープライズさんが追撃しました! 全装備です!」

 

「提督! イオナさんが資材集めに出ていきました!」

 

「提督! 駆逐艦達が遊びに行きました!」

 

「提督!」

 

 ああ、もうさ。楽しいって言っていいよね。平凡に生きたいって願ってもいいよね。

 

「バーロ」

 

「ぶはははははは!」

 

 世の中は無情だな。

 

 

 

 

 

 




 

 かわいい子や、かっこいい人達に囲まれるんだから、ストレスくらいはマックスでもいいよね、的な?




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ごく普通の提督と鎮守府のはずです


 ごちゃごちゃした様相って、傍から見ていると楽しいけれど、当事者だとかなり怖いことになるよね。

 的な話だと思います、はい。






 

 ヤッホー、皆、田中・一郎でございます。

 

 キャラが違う? いいじゃない、現実逃避したいんだからさ。

 

「大和が消費した資材が二万ずつだろ」

 

「グ」

 

「エンタープライズが消費した資材は、今回は少なくて四千ずつだな」

 

「ク、なんで空母なのに鋼鉄を使うんだろう」

 

 確か前に習った時は、空母はボーキサイトを使って鋼鉄はそんなに消費しないんじゃなかったかな。

 

「全装備だったからだよ。あいつ、主砲も持っていきやがった」

 

 コナン、そんなに半眼で言わないでくれ。現実逃避したかっただけなんだからさ。

 

「そ、そっか。使えたんだな、空母なのに」

 

「なんか、あいつだけ艦種が違くねぇか? それか種族が違うとか」

 

 あ、うん、時々そんなこと思うんだよね。だってさ、空母って弓とか銃とか使って艦載機を放つらしいんだけど、あの子は弓で近接戦闘とかやるからね。

 

「この間、弓の弦で艦載機を斬っていなかった?」

 

「何時の話だよ、それ」

 

 いや、何時って何時だっけ。それより頼むからコナン、小学生の姿で半眼で睨むって止めてくれ。

 

「止めてほしかったら、報告くらいきちんとしやがれ」

 

「アイサー。じゃ、資材消費はそれだけだよな? 他ないよな?」

 

 頼むからと願っても、世の中は無情なものだった。

 

「資材はな。喜べよ、マスター。イオナが資材調達に行った先で、盛大な花火を上げたらしいぜ」

 

「うううう」

 

 もう本当に勘弁してほしい。なんだろう、あの子は。最初の紹介の時に『戦艦、みたい?』とか首を傾げていたのが、嘘なんじゃないかって思えてくる。

 

 可愛かったけど。

 

「総合計でな、四万の資材を確保してきた」

 

「よっしゃぁぁぁ! さすがイオナ!」

 

「で、五万の資材を消費した」

 

「イオナぁぁぁぁ?!」

 

 上げて落とす、うちのコナンはこんな子です。

 

「それで、残りが。おお、良かったな。今月はプラスだ」

 

「よっしゃぁぁ! ありがとう皆!」

 

「五十ずつな」

 

「お前本当に上げて落とすよな?!」

 

 すげぇ楽しそうに笑うコナンの額に、青筋を確認した俺だった。そしてその向こうですげぇ楽しそうに笑っているギルがいて。

 

 まあ、今月も変わらない鎮守府生活だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本海軍には主だって二つの組織がある。艦娘を指揮する鎮守府と、それ以外の海軍軍人たちの組織。

 

 実働部隊と補助部隊なんて分ける人たちがいるけど、俺たちが鎮守府をまともに運営していられるのも、こういった人たちが資材管理しているためって俺は思うわけだよ。

 

 本当、足を向けて寝れない人たちばかりなんだよな。

 

「へぇ、田中君、またなんだ?」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 海軍主計科は、何時からか鎮守府への資材配分を行うようになったって、提督学校で習ったな。

 

 鎮守府が艦娘を使って独自に集める資材以外に、国家から分配される資材はここで管理されて、各地の鎮守府に送られる。その量は、鎮守府が挙げている功績で決められている。

 

 高い功績を上げていれば資材は多く、少ない功績なら少なく。この功績は海軍の軍令部が各地の鎮守府の成績によって決めている。

 

 戦闘、海域制覇、それだけじゃなくて民間船の護衛、周辺地域の人達の評価といったものも含めて、総合的に下している。

 

 だから、艦娘に酷いことをしていたり、また周辺地域の人たちに迷惑をかけていると、怖い人たちが提督室へ突撃して問答無用で捕まえる。それか、蜂の巣で抹殺ってのもあるらしい。

 

 今の御時世、海軍の面子はかなり重くて、人類の先鋒を務めている自覚がない人は瞬殺らしい。いくら提督の資質を持つ人だろうと、海軍軍人のプライドを汚すようなら許さないって、断固とした態度を示しているんだけど。

 

「あ、あの、その申し訳ないのですが」

 

 で、彼女がそんな主計科のトップ。長い少しウェーブがかかった黒髪と、印象的な瞳。昔なら小悪魔っ的な少女だったんだろうけど、今は立派な女性。

 

 見た目まだ学生に見えなくはないけど。

 

「何かな。田中君?」

 

「なんでもありません、七草主計長」

 

 そう言って頭を下げると、七草・真由美さんは深くため息をついた。

 

「まったくもう。貴方の鎮守府は確かに色々な『艦娘』がいて大変でしょうけど、もう少しやりようがあるんじゃないの?」

 

「申し訳ないです」

 

「アルペジオとアズレン、それにガンダムにマクロスが入っているだけで異常なのに、Fateまであるなんて」

 

 転生者って分類の人らしく、俺に会うたびにそんな愚痴をこぼしているんだけど、俺は転生者じゃないから意味が解らないんだよな。

 

「名探偵コナンのコナン君がいるのに、鎮守府の成績が上がらないっていうのは、貴方の怠慢って映るわよ?」

 

「そうは言われても」

 

 怠慢って言われても、頑張っていると思うんだけどな。普通の生活が送りたいから、普通に頑張って、頑張って。

 

 あれ、なんだか目から汗が。

 

「英雄王が出陣ってことにならないといいけど」

 

「ギルが? ないですよ、そんなこと。今日もソファーに寝そべっていましたけど」

 

 まさかぁと顔の前で手を振っていると、七草さんがとても『あり得ない』って顔しているんだけど、何で?

 

「先日、中部海域の中ほどで巨大な炎の剣が降ってきたらしいのだけれど」

 

「え? そうなんですか? あれ、修一のところに斬魄刀があったから、それじゃないですか?」

 

「流刃若火じゃないわよ」

 

 え、違うの? 確か、修一が持っていたと思ったけど。

 

「柴田君もさすがに斬魄刀は持ってないわよ。流刃若火なんて何処で聞いたの?」

 

「修一が話していましたよ」

 

「そんなわけない、はずよ。彼の転生特典は『英霊召喚』であって、武器までは持ってないはずなのに」

 

 あ、転生者の転生特典って転生者同士だと教え合うことあるらしい。だから修一の転生特典も知っているのか。

 

「・・・・英雄王が出かけたってことはないの?」

 

「まさか、そんなことないですよ。最近のギルは引きこもりですから」

 

 絶対にありえない話に俺が笑っていると、七草さんは小さくため息をついて何かを見つめた。

 

「知らないって素敵ね」

 

「はい?」

 

「何でもないわ。とにかく、もう少し頑張りなさい。評価が落ちると、さすがに資材を止めるしかないからね」

 

「善処します」

 

 うん、善処しよう。あれ、でも、資材が止まって鎮守府の運営ができなくなれば、俺は提督を止めて普通の生活に戻れるのでは?

 

 いや、ダメだ。そんなことになったら、コナン当たりに精神的に殺されそうだ。

 

 はぁ、どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戻っていく背中を見送って、私は深くため息をついた。

 

 本当にもう。あの子、本当に転生者じゃないの?

 

 私はチラリと報告書を見つめる。

 

 明らかに英雄王の反応があって、その近場には『血の十字架』らしいものを掲げた機体が動いていた。

 

 あの子の周囲にいるのって、ギルガメッシュとコナンだけよね? なんでこんなMHがあるの?

 

 え、待って。本当になんでこんなものが出てくるわけ。

 

 私たち転生者は自分が願った転生特典が与えられるんだけど、それでも自分の魂に収まりきらない願いは却下されることがある。

 

 柴田君は最初は『英霊全部』って願ったらしいけど、『魂に収まりきらないから却下』って言われた。

 

 私も『魔法科高校の劣等生の魔法とCAD』って言ったけど、『個人一人分』って返されて、悩んだ末に七草・真由美の容姿に『分解・再生』を入れてもらって何とかしてもらった。

 

 なのに、彼は転生者じゃない。転生者じゃないのに、英雄王と名探偵を引きつれて、アズレンとアルペジオのキャラまで引っ張ってきた。

 

 その上にガンダムやマクロスの機体を所持しているって話もあるし、その上でこの『ファイブスター物語』のレッド・ミラージュ。

 

「イレギュラーが多すぎよ、この艦これの世界って」

 

 思わず私は頭を抱えてしまう。転生者がこんなにいるだけでも厄介なことがあるのに、その上に異常って言えるイレギュラーがいるんだもの。

 

 未確認だけど、田中君の周囲に『レディオス・ソープ』らしい人物と、ガイコツのコスプレした変人がいたって話もあるけど。

 

 何よ、レディオス・ソープって。『ファイブスター物語』の主人公じゃない。天照よ天照。マジもんの神様じゃないの。

 

 しかもガイコツって、まさか『アインズ・ウール・ゴウン』じゃないわよね。他にもガイコツっているけど、他のキャラであってほしいわよ。

 

「本当、貴方は転生者じゃないの、田中君」

 

 深くため息を共に、私はそんなことを吐きだしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、御帰り」

 

「・・・・・・・・」

 

「おーい、どうしたの?」

 

 いきなり、鎮守府に帰って最初に会ったのは、おまえって。

 

「何してんだよ。ソープ」

 

「何って、見て解らない?」

 

 言われて相手を見るが、まったく解らない。細見に栗色の髪を三つ編みにした美女。つなぎの作業服を着ているのに、何故かドレスを纏っているような雰囲気を持つ美女。

 

 でも残念、こいつは男なのですよ。

 

「解らない」

 

「そっか。なら発表しよう。じゃじゃじゃーん!! 今そこで拾った車に二十六センチ砲を搭載して深海棲艦に対抗できるかやっている途中なのさ!」

 

「なにしてんだよおまえ!」

 

 本当に何してんの、馬鹿なの、死ぬの。死んじゃうの。車に二十六センチ砲って詰めるわけないだろうが。

 

 あ、詰めてる。

 

「いや、通常兵器は深海棲艦に聞かないって話なんだけどね。それは砲弾が通常物質だからであって、そこに通常じゃない物質を含めれば聞くんじゃないかなって思ってさ」

 

「思ってさ、で作るなよ。ただでさえ近所からは『怪しい鎮守府』って言われてるんだからさ」

 

 本当にもう、怪しいって噂されて大変なんだぞ。

 

 なんか真夜中に紫色の光が出たとか。

 

「あ、それはエンタープライズが新型装甲を試してたから」

 

「まさかのエンプラ?! じゃまさか、夜中にお経が聞こえるって言うのは?」

 

「そっちはアインズじゃないかな? 最近、仏教の境地に辿り着いたって言っていたし」

 

 辿り着いたらダメだろうが、ガイコツだぞ、あいつ。

 

 ソープもアインズも自由すぎだろうが。『拾ってください、頑張って役立ちます』って言って来たから鎮守府に置いているけど、こう最近の二人を見ていると胃のあたりが痛くなるんだよな。

 

「じゃ、じゃあさ。なんだか人型の兵器が出たって話は?」

 

「人型? それってどれのことだろう?」

 

「思い当たる節が多々おありのようですね?!」

 

 待て待て、なんだよ、その考え顔。ただでさえ女の顔なのに、憂いを秘めた瞳までしていると、めちゃくちゃ美人に見えるじゃないか。

 

 く、俺はノーマル。ノーマルなんだ。

 

「ん~~~僕だけじゃなと思うよ」 

 

「『僕だけ』じゃない?」

 

 い、嫌な予感がする。こいつ以外にそんな大それたことするのは、一人だけだ。明石や夕張って艦娘じゃない、この鎮守府にはソープともう一人のためにそういった裏方の艦娘が『嫌がって着任したくなくなった』から。

 

「つまり僕のことですね?!」

 

「出たなエルネスティ!!」

 

 後ろからポッと飛び出す銀髪の坊主に、思わず俺は振り返って叫んだ。

 

 叫んだんだけど、目線は徐々に上に上がっていく。

 

「戻ったぞ、指揮官」

 

 すっごいいい笑顔のエンタープライズがいて。

 

「戻りました、提督」

 

 キラキラと輝いている大和がいて。

 

「試運転は完璧です。このまま仕上げを行っていきましょう。幻影騎士ではないので最初は不安でしたが、機械はやはり機械。僕の知識も役に立ちました。ソープさん、あとでデータ検証に付き合ってください。やはり、未知の技術は素晴らしい」

 

「オッケー、いいよ」

 

 俺の後ろでソープが綺麗な笑顔で親指を突き出していた。

 

 次第に俺の視界は上に上にと上がっていき、ようやく元凶の顔が見てきた。

 

「・・・・・・なんだこれ?」

 

 巨大な漆黒の恐竜がいて、その背中には七色の翼があって、その腰当たりには小さなパーツがついている。 

 

 本当になんだこれ?

 

「はい! 未知の技術を合わせてみました!」

 

「ゾイドに他の技術はつけられるのか、の技術検証だね」

 

「その通りです。デスザウラーにヴォアチュール・リュミエールとミノフスキードライブを搭載して、亜光速に到達できるかどうか、それを検証してきました」

 

 美少女も負けるほどの綺麗な笑顔で告げるエルネスティに、俺はもうどういっていいか分からずに引きつった笑みを浮かべ、崩れ落ちる。

 

「なあ、マスター」

 

 で、俺の肩にポンっと手を置いて、妙に優しい声をかけてくるコナン。

 

「こいつら拾ったの、間違いだったな」

 

「う、ううう」

 

「悪気があれば少しは言えるんだろうな。けど、こいつらはまったくの善意と興味本位でやってるからな。止められなったさ」

 

 嘘だ、絶対に嘘だ。コナンなら二人を止められたはずなのに、どうしてと顔を向けた先の彼は、何処か自嘲気味に笑うのでした。

 

「俺、さっきまで作戦計画と周辺の治安維持の草案やってたんだよ」

 

「コナン、疑ってすまなかった」

 

 そういえば丸投げしていた。俺が追い詰められていても、必死にならずに済むのはこいつがそういった『事務処理』をやってくれているからだ。

 

「いいさ。一緒に考えようぜ」

 

 そっとコナンは紙を差し出す。そこには、この鎮守府の資材が書かれているはずなのに、おかしいな。

 

 すでに主計科から資材が運び込まれているはずなのに、おかしいな。 

 

「アレレー、おかしいな。資材が一桁しか残ってないよ」

 

「それ、俺のセリフな」

 

 溜息交じりのコナンの声に、俺は答えられず笑うしかない現実を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜は、遊びに行っていた駆逐艦達が戻ってきて、笑顔のまま駆け寄ってきて、拳を振るってきたのでした。

 

 俺、嫌われてるかな。嫌われて当然だよな、駆逐艦達が頑張って集めた資材が吹き飛んだから。

 

「がんばるのです」

 

「行きましょう!」

 

 電とジャベリンが元気に海に行く、海に行く? あれ、二人は駆逐艦だよな。遠征部隊は駆逐艦だけのはずだよな。船体って持ってないし、艤装を纏っているだけだから人の大きさだよね。

 

「待って! 本当に待って! 何あの船!?」

 

「アイランドって船体らしいぞ」

 

 大型船舶並に大きい貝のお化けじゃなくて?!

 

「あれに資材を詰めて戻ってくれば、提督が救われるって教えてやったのだが、本気にするとはな」

 

「ギル?! 何してんの?! おまえ本当に何してんのさ?!」

 

「喚くな、マスター。資材が集まればおまえも嬉しい、駆逐艦達は提督の役に立ててうれしい。どちらも幸福ではないか」

 

 ニヤリと笑う男に、感謝の気持ち、なんてものは出てこない。

 

 だって、あのアイランド型の船体の周囲に、うちの鎮守府の主力艦の姿があるのだから。

 

「フハハハハハハ! あれだけの船体ならば、十万は持って来れるだろう!」

 

「ああ、残ってれば、だけどな」

 

 高笑いするギルと、呆れているコナンの間で、俺は港に膝をついて泣き崩れていた。

 

 後日、十五万の資材を集めて喜ぶ駆逐艦と、その護衛部隊達。

 

 そして、十六万の資材が消えたことを知った俺だった。

 

 

 

 

 

 





 借金は雪だるま式に増えるらしい。

 でも、強力な部隊を運営すると、落下するように資材を消費するらしい。

 的な話です。






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ごく普通の日常のはずでした。

 

 深海棲艦は今日も来ます。

 提督たちは今日も平和のために戦います。

 艦娘達は提督と海の平穏のために戦っています。

 でも、この鎮守府の提督は、毎日をストレスと戦っています。








 清々しい朝っていうのは、とても貴重なのだと知った。

 

 提督になってから朝は自分の決めた時間に起きるなんてなくて、提督の学校の生活で体の芯にまで刻まれた起床時間に起きるようになってしまって、寝不足を感じながらも、意識は勝手に覚醒してしまう。

 

 今日も朝だ。もう少しと寝返りを打ったら、何故か気持のいい感触で動けなくなった。

 

「あれ?」

 

「ん、起きたか、提督」

 

「・・・・・・は?」

 

 思わず意識は覚醒、目を開けて相手を見ればエンタープライズがそこにいて。

 

「あれ?」

 

「ふふふ、ギルから『添い寝は男子にとって至上の理想』だと聞いたのでな。試してみたがどうだろうか?」

 

 魅惑的な笑みと、俺の腕を胸に抱いている彼女を見比べた後、俺は大絶叫を上げたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギル! ギルガメッシュ! てめぇよくも! よくやった! でかした! じゃなくてなぁ!!」

 

「ふむ、マスター。そんなに褒めるな。我が王の中の王であり、至高の財を持っていることは周知の事実。ならば、理想を集めるのもまた必然なのだ」

 

「うわぁ~~~」

 

 めちゃくちゃ決め顔で言うギルガメッシュと、呆れた顔で見てくるコナンを交互に見ながら、俺はグッと拳を握り締めた。

 

 確かに素晴らしい感触だった。エンタープライズも制服ではなく、シャツ一枚だったのもナイスだ。しかも、俺のシャツだ。朝方に起きて隣に女性が寝ていて、俺のシャツを着ている。

 

 もう世の中の男子が泣いて喜ぶシチュエーションではないか。美人でスタイルのいいエンタープライズが、朝からそんなことをしてくるから俺のテンションは天元突破を果たして、もうどうやって感情を下げていいか解らないくらいに、どうしようって感じだ。

 

「なら僕もやってみようかな?」

 

「女装って奴ですね!」

 

 乗るな、そこの『女顔の二人』。ソープとエルが男物のシャツを着たなんて、ただ寝間着に着替えるのが面倒で、シャツのまま寝ただけだろうが。

 

 あれ、変だな。『女性が着たように思える』のは、何故だろうか。俺の精神が不味くなってきたのか。やばい、俺は普通の人生を生きる。そういった禁断の中に入りこむことは、絶対にあり得ない。

 

「なるほど、マスター。ではエンタープライズでは物足りなかった、と?」

 

「いやそんなことはない」

 

 即答ですよ、もちろんです。ギルの質問にもう、電光石火の如く答えてやった。褒めてやる、よくやったと手放しで言いたい。でもな、朝からあの魅惑的なエンタープライズがシャツ一枚で隣に寝ていたら、俺はもうどうしていいか解らないじゃないか。

 

「襲えばいいと思うよ」

 

「てめぇ、コナン! おまえも裏切るか?!」

 

「いや、だってそうだろうが。あいつ、シャツ一枚しか着てなかったんだろ?」

 

「・・・・・・」

 

 え、そうなの?

 

 目線で疑問を伝えると、室内にいた誰もが深くため息をついた。

 

 あれ、俺が悪いのか?

 

「女性が隣にシャツ一枚で寝ていて、手だししないなんて」

 

 いや、ソープ、ちょっと待ってくれ。

 

「そこは押すべきです」

 

 エルもなんでそんな拳を作ってわけ?

 

「ヘタレが」

 

 久しぶりにギルの目が冷たい。

 

「どうしょうもないな」

 

 コナン、そんな呆れた顔で来たんだ。

 

「・・・・・・・今日の執務を開始する」

 

 俺はなかったことにした。ヘタレだと言われようとも、男じゃないと言われようとも、今回のことはなかったことにしたい。

 

 必死にそう思い込もうとする俺だったが、世の中は無情なものである。

 

「そうそう、我はこんなものをエンタープライズから預かっていたぞ」

 

 凄く楽しそうにギルは一枚の紙を俺に向けてきた。

 

 いやだ、あれを受け取ったら俺の中の何かが崩れるか、悲鳴を上げるかしてきそうだ。第六感は大切なものだ、生きていく上で危機回避は重要だと教えられてきた。

 

 一流の提督は、危機に対して敏感であり、的確な対処を行うべきである、とか学校で習ったな。

 

 しかし、俺の意思に反して俺の体はその紙を受け取った。

 

「・・・・・」

 

 ク、エンタープライズが、あの清くて優しいエンタープライズが毒されているなんて。

 

 最初に建造で会った時は戦いだけで、他のことなど気にしていなかった彼女が、まさかここまで侵食されていたなんて。

 

「何が書いてあったんだよ?」

 

 隣からコナンが覗きこむが、俺は止められなかった。

 

「月間添い寝表?」

 

「ギルガメッシュぅぅぅぅぅ?!」

 

「ブハハハハハハハ!! いいぞマスター! その顔が見たかった!」

 

「お前ってやつはぁぁぁ!!」

 

 その日、俺は泣きながら笑いながら、ギルをひたすら怒鳴っていたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ海域制覇でもいかがですか、と俺はあいつを誘いに来た。

 

 田中・一郎。俺の幼馴染であり、俺が唯一といっていいほど信頼し頼りにしている奴だ。

 

 幼い頃、俺の転生特典に巻き込んで英雄王を引き立てた時は、『こいつも転生者か』と思ったものだが、しばらく付き合ってみると『あ、違うな』と確信できた。

 

 行動が年相応過ぎるし、他の作品についても知らな過ぎる。

 

 知らないふりをしていた、って可能性はないな。もし知っていたなら、あんなに英雄王に失礼な態度取れないだろう。

 

 だって、あのギルガメッシュだぞ。それを普通に怒鳴りつけたり、叩いたりなんて命がいくつあっても足りないだろうが。

 

「でだ、一緒に海域の解放に行かないか?」

 

「いや散歩に行くみたいに言わないでよ。俺はまだ中部海域の先なんて行けないって」

 

 少し嫌そうなあいつに、嘘つけと言ってやりたい。言ってやりたいが、本当にそう思ってるようなので諦めるか。 

 

 こいつは昔っから、自分の実力ってものが解ってない。

 

 中学校のテストは平均点、運動も平均点。こいつは常に平凡な成績を収めていたんだけど、ここぞって時は絶対に譲らなかったし、負けることはなかった。

 

「いや、おまえんところの艦娘達なら大丈夫だって。この前も助けてもらったからな」

 

 そう、俺の中部海域の制覇は、実は俺の鎮守府だけの成果じゃない。こいつんところの艦娘が、通りがかった時に助力してくれた。

 

 でもな、その当人たちが『内緒に』って言うからこいつにも言ってないんだよな。軍令部にも報告してないし、何なんだろうな。

 

「助けてもらった?」

 

 おっと、口が滑ったな。

 

「助けてもらうだ。おまえさんのところのエンタープライズに、イオナ、大和の三人に来てもらうだけでも、俺は助かるぜ」

 

「いや、その三人はちょっと。資材が吹き飛ぶから止めた方がいいって」

 

 資材が吹き飛ぶって、大げさな奴だな。

 

 空母一に戦艦一の、戦艦らしいものが一だろ? 

 

 前の世界でやっていた艦これのゲームにも、イオナは出ていたけど、資材消費がそこまで高いものじゃなかったはずだ。

 

 それがあの映画版の最後に出てきた、『超戦艦大和』の艤装を持ったイオナであっても、馬鹿げた数字になるはずないよな。

 

「大丈夫だ、任せろ。俺がすべて持ってやるから、三人を貸してくれないか?」

 

「修一の鎮守府の資材量は解らないけど、それでもダメだ。他の艦娘に手伝ってもらったら?」

 

「他って、お前以外の奴の鎮守府のか?」

 

「そうだよ」

 

 まあ、他にも当てがないわけじゃないんだよな。各地の有力な鎮守府には伝手があるし、何よりその提督たちはだいたいが転生者だ。

 

 本当、この世界って転生者が多いよな。軍令部にもいるし、主計科にもいる、各地の提督はもちろん、政治家にもいるって話だ。

 

 ひょっとして、この世界は転生者達のたまり場じゃないのかって、疑問を感じる時もあるが。

 

「他かぁ。おまえのところ以外の戦力って、あんまりな」

 

「長門型戦艦を揃えた人もいるって話だけど」

 

「あいつのところか」

 

 元皇族、現提督の娘。桃園宮・邦子。転生者としての能力は、支配下の軍艦の能力の上昇、これは艦娘も例外じゃなくて練度1が練度80を下すくらいに上がるらしい。

 

 まあ、あいつのところは扶桑型戦艦と飛龍、蒼龍の二航戦と強力な艦娘が揃っているからな。その上に先日、長門と陸奥をドロップしたって話だけど、まだまだ訓練中だろうし。

 

 他ってなると、やたらと潜水艦の扱いが上手い奴がいたな。潜水艦ってなると、俺の金剛型と相性がな。

 

「やっぱ、お前のところがいいな。何か新型も出たって話だけど、どうなんだ?」

 

「え? いや、普通だよ」

 

 おいおい、顔色を変えるくらいなら、否定するなよ。それじゃ、嘘ついてますって意味にしか見えないぞ。

 

「幼馴染に隠しごとか?」

 

「いや、まあ、ちょっと問題があってさ。空母らしいんだけど、俺は聞いたことない名前で、艤装もよく解らなくて」

 

 空母らしいってなんだよ。艤装を見れば艦種なんて一発で解るだろうが。

 

「へぇ、名前は?」

 

「二人なんだけど、一隻が『エターナル』で、もう一隻が『フロンティア』って名乗った」

 

「ぶ?!」

 

「修一?! どうしたのさ?」

 

 おいおいおいおいおい、なんだそりゃ。

エターナルってあれか、ガンダムSEEDのエターナルか? 艦娘って第二次世界大戦の奴しか出ないんじゃ、ってこいつの前だと無意味か。

 

 何しろ、こいつのところにはアズレンの子がいる。その上にアルペジオのイオナまでいるし、大和にいたっては集合体だ。空母『大和』だったり、宇宙戦艦だったり、戦艦空母だったりと複合的な艦種を持っている。

 

 で、もう一隻が『フロンティア』? 軍艦にフロンティアなんて名前の奴会ったか? 第二次世界大戦か、それか近代か未来か。

 

 ちょっと待った。あったじゃないか、フロンティアって名前の船。

 

「そのフロンティアってやつ、『マクロス』って最初につけたか?」

 

「修一、やっぱり知っているんだ。確かマクロス船団の、って言っていたけど」

 

 マジかぁ。なんだこいつの建造の引きの強さ。艦これ以外からも引っ張ってくるってどういう強運だよ。

 

「画像あるのか?」

 

「あるよ」

 

 あっさりと一郎が出した画像は、エターナルが『ラクス』で、フロンティアが何故か『シェリル』だった。

 

 おいおいおい、本当になんだこれ。この世界って艦これだろうが、その世界に宇宙戦艦持ち込むか。

 

「はぁ、本当におまえってやつは。なあ、やっぱり一緒に海域制覇行こうぜ」

 

「いや止めておく」

 

 どうしてそんな蒼白になるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修一が帰ってから、俺は執務室でホッと一息をついていた。

 

「あいつの誘いに乗っても良かったんじゃないか?」

 

「いやでもさ。コナンだって見ただろ、エターナルとフロンティアの資材消費量」

 

「バーロ、そんなこと言っていたら何時までも練度が上がらないだろうが」

 

 確かにそうなんだけどな。

 

 今日もジャベリンと電を先頭に、駆逐艦達は頑張って資材を集めているし、主計科からも『もう何度目ですか』とお小言を貰いつつ資材を流してもらっている。

 

 でも、だ。でも、それ以上にうちの主力の資材消費が激しくて激しくて。

 

 大和にイオナ、エンタープライズの三人はもちろんだけど、信濃に土佐を入れてコンゴウとか入った時の資材消費、コナンと見た時はもう『え、ゼロが二つほど多くないですか』って聞き返したよ。

 

「そういえば、なんでコンゴウはカタカナなんだろう?」

 

「知るか、本人に聞けばいいだろ?」

 

「そうだよな」

 

 なんだか、あのコンゴウも他で見かける金剛と服装も容姿も違い過ぎるんだよな。まあ、いいけど。

 

 それに、信濃と土佐って艦娘も他じゃ見たことないし。大和と同じく未発見なのかな?

 

「で、潜水艦も資材調達に向かわせたんだよな?」

 

「イムヤとゴーヤには悪いけど、行ってもらったよ」

 

 うんうん、潜水艦は資材の消費が低くていいな。全力で動かしても戦闘しなければ資材が三百で済むんだから。

 

「・・・なあ、マスター。資料ってみたことあるか?」

 

「資料? 最近はあまり確認できてないな」

 

 なんでと返すとコナンは小さな声で呟いた。

 

「イムヤとゴーヤ、外見はそっくりなんだけど、艤装が明らかに違うんだな。気づいてないのか?」

 

「はぁ? なんだって?」

 

 よく聞こえなかったけど、何だろう。

 

「ま、いっか。さて、マスター。資材も少しずつ回復していったから、そろそろ海域やって練度を上げようぜ」

 

「よっし、久し振りの練度上げだ」

 

 気合を入れていこうぜ。

 

「失礼します!」

 

 あ、吹雪だ。どうしたのさ?

 

「すみません! 間違えて全力戦闘やっちゃいました!」

 

「・・・・・・・」

 

「は、ははは。勘弁しろよ」

 

 なんでだろう、この子は駆逐艦なのに。どうしてだろうか、どうして全力戦闘すると戦艦以上の資材を消費するのか。

 

 これって、単純計算で空母一戦艦二の資材なんだけど、どうしてだろう。

 

 でも、大和たちに比べたら少ないから、いいとしよう。

 

 現実逃避だよ、馬鹿野郎。

 

 後日、俺は知ることになる。

 

 イムヤとゴーヤと名乗った少女たちが、実は『日本武尊』って潜水戦艦と『須佐之男』って潜水艦だったことを。

 

 その時の俺はまだ知らず、彼女達の言葉を信じていたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝、俺は再び絶叫を上げるのでした。

 

「当番制だ、諦めろ提督」

 

「コンゴウ?! なにそのドレス?! 普通に透けるようなやつを着ないでくれないかな?!」

 

「ネグリジェは男のロマンだと教えられたが?」

 

「ギルガメッシュぅぅぅぅ?!」

 

 俺の平穏な毎日は何処に行ったのだろう?

 

 

 

 

 

 




 

 女性に添い寝されるって嬉しいことかもしれないけれど、寝像とか眠れるかとかイビキとか色々と考えると、結構な大問題に発展しますよね。

 特に隣で寝て、腕とか抱きしめられると、痺れません?

 後、理性って何時まで持ちますかね?

 的な話です。







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ごく普通の鎮守府運営のはずでした

 計画って考えている時が一番、楽しいって言いませんか。

 これをやろう、あれを見たいとか色々と考えて行って、かなり楽しめませんか。

 で、行った気になって計画を止めることってありませんか。

 そんなやろうかで止まってしまう鎮守府の話です。

 的な。






 

 

 君たちは江戸川・コナンを知っているだろうか。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

 俺は転生者じゃないから、他の世界のアニメとか漫画って詳しくは知らないけど、遠山・キンジって軍令部所属の知り合いから耳にタコができるくらい、延々と語られたことがあります。

 

 彼曰く、見た目は子供、頭脳は大人。

 

 彼曰く、迷宮なしの名探偵。

 

 彼曰く、真実に常に辿り着く行動派。

 

 などなど賛美歌のように語るのですが、聞いている俺としては思うことは一つだけ。

 

 いや、なにその被害総額。一つの事件で何億、使っているの。え、映画のたびに街一つとかテーマパーク一つ壊してない?

 

 いやいや、デパートだけで済んだねって、おかしいって思うのは俺だけ。なに国家の危機に子供が介入してるのさ、秘密道具の活躍回数がおかしいって気づいてお願い。

 

 いや待った、その秘密道具を作る博士って何者。ぜひ、鎮守府に呼んで開発を。いやいや待った、気の迷いだな、うちにはすでに変態改造馬鹿がいるから。

 

「お呼びとあらば!」

 

「即参上!!」

 

「なんで人の心の中を読めるのさ二人とも?!」

 

 いきなり目の前でポーズとか決めるソープとエルに対して、怒鳴った俺は悪くない。

 

 話が逸れたので戻して、と。そんな滅茶苦茶、優秀な名探偵が俺の傍にいてフォローしてくれる。

 

「これが申請書類だろ。戦果報告に資材消費の報告と」

 

 うん、フォローしてくれている。

 

「遠征許可申請書と、来月分の活動予定表に」

 

 フォロー、フォローって。

 

「で、軍令部からの任務に対しての不参加申請草案と、相手からの質問一覧に回答一覧と」

 

 ふぉ、ふぉろー。

 

「来月の総会に対しての全体の意見と、細かい出席者の意見と、俺たちに鎮守府に対しての攻撃のおおよその予想がこっちで」

 

「ふむ、いつ見ても見事だ、コナン。おまえは『我と同じ目』を持っているのかと疑ってしまう」

 

「バーロ。こんなの周りの情報を集めりゃ、簡単に解る程度だろうが。探偵ならすぐに集められる程度で、本当に深い部分じゃおまえに勝てるわけないだろうが」

 

「本当にそうか?」

 

 目の前でニヤリと笑うギルに対して、コナンはフッとニヒルに笑っていた。

 

 うん、フォローってなんだろう。

 

 最近、俺は執務をしているような、してないような気がしてきた。書類って俺のサインが必要なんだけどなぁ。

 

「おら、手を動かせよ、マスター。次の束にサインしろ」

 

「ラジャー」

 

「・・・・時々、我のマスターが不憫に思えるのだが。我も随分と年をとったものだ」

 

 なんだろう、ギルがとても慈愛に満ちた瞳を俺に向けてくるんだけど、あんなに優しい英雄王って初めてかも。

 

 あ、提督になってから三日後にあんな顔していたな。そっか、そっか、初めてじゃないか。

 

「失礼します! コナンさん、海域の調査に行きますから予想ください」

 

 元気だなぁ、ジャベリン。さっき遠征から戻ってきたばっかりなのに。

 

「あそこの海域は北部の鎮守府が三か所、その補佐に六か所の鎮守府が入っているから、ルートはこれだな。万が一の遭遇戦には、遠征って顔して通り過ぎておけばいい。もし戦闘参加を頼まれたら、後ろから狙ってくれ」

 

「解りました。調査項目は何処ですか?」

 

「こっちに一覧があるから、上から順にやってくれ。三番目と六番目は念のためだから無理すんなよ」

 

「解りました。ではコナンさん、ギルさん、提督、行ってきます!」

 

 おー元気に行ったな、ジャベリン。駆逐艦は元気で大変によろしい。

 

「おら、さっさと手を動かせ」

 

「解った」

 

 よっし、しっかりと提督業をやりましょうか。

 

 は! 今の俺、普通に仕事している。やっぱり普通が一番だよな。

 

「なあ、コナンよ。我の思い違いであってほしいのだが」

 

「なんだよ、ギル。今、海域制覇のための資材の調整と、艦隊の編成で忙しいんだよ」

 

「マスターが提督で、コナンが補佐ではなかったか?」

 

「・・・・・・聞くな、頼むから」

 

 すっげぇ苦い顔で言うコナンがいて、すっごい優しい顔したギルが肩を叩いているんだけど、何があったのかな?

 

「あいつに任せていたら、三日で鎮守府が機能停止するんだよ」

 

「ふ、さすがの我でもその愉悦では笑えんな」

 

 とても失礼なことを言われている気がするんだけど、気のせいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが、提督って鎮守府のトップだと皆は知っているだろうか。トップって実は仕事をしなくてもいい場合があるって、皆さんはご存じだろうか。

 

 会社を思い出してほしい。社長が現場に来て働くかな? 働かないだろう。社長って会社の運営方針を決めるけど、社長だけで決めることはない。その下の専務とか部長とか常務って人たちが考えた意見を、会議とかで社長に聞かせて運営方針を決めていないかな? 

 世の中にはワンマン社長って人たちもいるし、そういった人は会社を引っ張っていることもある。

 

 しかし、全部が全部じゃないのが世の中ってもの。だからこそ、俺の鎮守府は俺がすべて決めているわけじゃない。

 

「サイン、サイン、判子、判子、捺印、捺印」

 

 日々、書類に提督が確認して許可しましたって証拠を刻んでいくのが、俺の業務のすべてだ。 

 

 すべて、だ? いや、待った。なんかおかしくないか。提督って俺なのに、こう出来上がった書類にサインしていくだけって。

 

「コナンさん! やっぱり大和こそ今回の作戦には必要です!」

 

「今回は私に譲るべきだ。エンタープライズの実力、お見せしよう」

 

「二人とも留守番、私こそ必要」 

 

 うちの三枚看板がコナンに詰め寄っているんだけど、あれってひょっとして俺のところにくるのが本来の姿なのかな。

 

「マスター、手が止まってんぞ」

 

 うわ、こっちも見ずに言ってくるよ。なんで毎回毎回、俺のことの行動を正確に読めるかな。

 

 あ、名探偵だからか。行動心理学の本を前に読んでいたの見たな、ちょっと怖くなったよ。

 

「あのなぁ。おまえら三人を投入したら、資源が消えるの、なくなるの。前の事件で少しは懲りたんじゃないのかよ?」

 

「全然」

 

 三人、即答しちゃったよ。あれって、絶対にコナンが怒るパターンじゃないか。あ、コナン、笑顔のまま固まっている。

 

「・・・・・・今回は空母を使うから黙って休んでろ、バーロ」

 

 復活しました、我らが名探偵。よしよし、精神耐性が上がってきたね。

 

「マスター、追加していいか?」

 

「申し訳ありません」

 

 めっちゃいい笑顔してんじゃないよ、コナン様。八当たりに俺を選ぶなんて、そんな冷たい子に育てた覚えないぞ。

 

 あ、半眼で睨まれた。

 

「とにかく、今回の主役はユニコーンだ。あいつの練度を上げていく」

 

「な?!」

 

 瞬間、執務室にいた全員が驚愕の声を上げた。

 

「なんて酷いことを!」

 

 大和、顔を背けて唇をかみしめる。

 

「そんなバカな!」

 

 エンタープライズ、驚いた顔のまま固まる。

 

「理不尽」

 

 イオナ、珍しく表情が動いている。

 

「・・・・・・コナン、我を編成に入れろ」

 

「おい、英雄王」

 

 で、我らの英雄王が完全装備で立ち上がる、と。

 

 なんだろう、初めて会った時から何故かユニコーンにだけは、異常に過保護になるんだよな。

 

「我の第六感が叫んでいる。幼子を護れ、少女を護衛せよと」

 

「何があったのさ、ギル? 過去に何かあったとか?」 

 

「解らんが、そう告げている」

 

 決意を浮かべる英雄王に慢心は見られず。あれってかなり本気の本気なんだけど、最初の一撃に『エア』使っちゃうくらいに本気っぽいな。

 

「あのな、英雄王が出ることはないんだよ。今回はユニコーンを旗艦にして、土佐と信濃を投入しての航空兵力の強化だからな」

 

「ならばいい」

 

 あっさりと引き下がるなよ、ギル。そこは強気に押してコナンを困らせろよ。

 

「へぇ~~~マスターはそこまで苦行がお望みってわけだな?」

 

「ほう、楽しませてくれるということか、マスター?」

 

「ごめんなさい、これ以上は俺が死にます」

 

 物理的にね!

 

「そういえば、だな。我が仕入れた情報によれば」

 

「ちょっと待てギル! あれは止めておけって言ったよな?!」

 

 コナンが珍しく慌ててるけど、何があったかな? いや、何もないさ。俺はやましいことは何もない。コンゴウの添い寝も、その後の土佐の添い寝も、大和が裸で来た時だって耐えたんだ!

 

「バーロ、おまえが耐えたって意味ないんだよ」

 

「へ?」

 

「フフフフ、これを見るがいい!」

 

 とてつもなく凶悪な笑顔でギルと、その手に持った写真。

 

 え? えええええええ?! まさかの伏兵?! だって電は隣に寝ていただけじゃないの?!

 

 朝に起きた時に妙に顔が赤かってけど、恥ずかしかっただけって!

 

 そっち! そっちの意味?!

 

「提督」

 

 ポンっと肩に手が置かれた。混乱している俺は、ハッと振り返って彼女達を見てしまった。

 

 冷たい笑顔を浮かべたエンタープライズと、艤装を纏って黒い笑顔を浮かべている大和と、侵食魚雷を浮かべているイオナの三人を。

 

「ファーストキスの味はいかがだったかな?」

 

「・・・・・・・記憶にございません」

 

「何処の政治家だぁぁぁぁ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そしてその日、鎮守府の建物が半壊することになった、とだけ伝えておこう。

 

「バーロ、これで計画がパーだ」

 

 後日、コナンが結構な紙束をシュレッダーにかけていて、その隣で俺は反省文と始末書を書かされていた、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府が半壊したので、資材をくださいって軍令部に電報を送りました。

 

 『は? 何してんの、お前』と軍令部の知り合いが激怒の電報を送り返してきました。

 

『本当に何してんだよ、お前』

 

「ごめん」

 

『馬鹿なの? 死ぬの? むしろ死んじゃうの? 死ね』

 

 見事な活用法だ。これでも普段は温和で優しくて、親しみがある人らしいんだけど、どうにもなぁ。

 

 俺にだけ冷たくない?

 

『てめぇ、今年に入って何度目だか数えたか? 本当に反省しているか?』

 

「してます。だから資材、回して」

 

『主計科に頼めよ。鎮守府への資材配分は主計科の領分だろうが』

 

「あ、うん、そうだけどさ」

 

 時々、主計科を通さずに軍令部からの命令で資材を回せるって聞いたんだけど、あれってデマだったのかな?

 

『念のために言っておくとな、大規模作戦とか敵中枢の侵攻戦とか、『戦略上致し方ない場合は軍令部からの命令で資材を回せる』。けどな、鎮守府を自爆しましたなんて、回せると思うか?』

 

「そこを何とか」

 

『だからダメだって』

 

 く、相手は硬い。ならば最終手段だ。

 

「頼むよ、キンジ」

 

『・・・・・・コナンのためなら全力でお任せを!』

 

 フ、落ちたな。

 

「マスター、いつか刺されないか?」

 

「え? だってコナンは俺の憧れだって言うからさ、本人の声を聞かせてやっただけだよ?」

 

「うわぁ~~~俺が探偵やってた頃だったら、間違いなく犯人として捕まえているだろうな」

 

「そんなぁ、褒めるなよ」

 

「褒めてない!」

 

 なんでだろう、見事に資材を確保したのに、怒られたよ。

 

「提督!! キスをしてって言えばキスしてくれるって本当ですか?!」

 

「はい?! なにそのデマ?! 吹雪、落ち着いて!」

 

「落ち着けません!」

 

 誰だそんなこと言ったのは?!

 

 は?! あっちで何故かソープとエルがニヤニヤしている! 元凶はあいつらか、いや違う!

 

 こんなことをするのは、こんな他人の不幸を眺めて喜ぶのは一人だけだ。

 

「ギルガメッシュぅぅぅぅ?!」

 

「フハハハハハハ! いいぞ、いいぞマスター! 今日は楽しみがなかったからな、存分に踊ってもらうぞマスター! いや道化よ!!」

 

 あいつ、あんなところに金ピカの船を浮かべてやがる。

 

「コナン、俺はあいつを捕まえに・・・・・」

 

「今回は俺はあいつ側だ」

 

 え、まさかの裏切り!?

 

 はっと振り返った先、彼は何処か悲しそうに笑っていた。

 

「探偵ってのは、何時も事件の後に気づくものさ」

 

「嘘つけ!」

 

「じゃ本音で言ってやるよ! マスターがぶち壊したんだぞ! 俺の二十四時間の成果!」

 

 あ、それは申し訳ない。

 

 なんかマジで叫んでいるコナンに頭を下げようとして、視界の隅に見えてしまった。

 

 ニヤリと笑っている彼の顔を。

 

「おまえまでギルに染まってんじゃねぇ!」

 

「はっはっは! 踊ってくれよ、マスター。この理不尽に潰された計画と、苦労に苦労を重ねた舞台の残骸の上で!」

 

 おまえどこの喜劇役者だ!

 

 その後、俺は鎮守府中の艦娘に追いかけられた。人から見たら美女たちにキスを迫られるってご褒美かもしれないけど、実際にやられるとすっごい怖いものだって知った。

 

 

 

 

 

 




 計画は、未定であり決定ではない。的な。

 計画を建てても実行しなければ、それは無意味なんですよ。

 そんなお話。






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ごく普通の帰還のはずでした

 

 人の視界って広いようで狭い、見ているようで見てないことが多くありますが、最近はいかがお過ごしでしょうか。

 やりたい放題に書きたいこと詰め込んだものですが、皆さまの日常の小さな楽しみになればと考えています。

 ようするに暴走してます、ブレーキないです。

 的な話です。





 

 

 海域制覇って、実は簡単にできるんだなぁと思った最近です。

 

 どうも、田中・一郎でございます。

 

「え、敗走?」

 

「らしいな」

 

 珍しいこともあるもんだ。修一の艦隊が北海の一海域制覇中に敗退したって話らしい。

 

 うん、コナンも予想外だったらしく、なんか悩んだ顔しているけど。

 

「やっぱ、次の遠征の艦隊、増やすしかないか。どっかに落ちてないか、十万単位の資材」

 

 違いました。

 

 今日も元気にうちの鎮守府は資材不足でございます。あれ、どうしてだろう、毎日のように駆逐艦達が頑張っているのに。

 

 なんで毎度毎度、資材不足。

 

「マスター」

 

「なんだよ、ギル」

 

 呼ばれて顔を向ければ、すっごい笑顔のギルが資材の山に座っている。ちょっと待て、お前。どっから持ってきた。

 

「フ、王とはすべてを見通す者。こうなる結末は知っていたぞ。どうだ、今なら盆踊りでくれてやろう、道化よ」

 

 うわぁ~~上から目線で見下ろしてくれちゃってさ。

 

「盆踊りであれがもらえるなら」

 

「コナン待て! 待つんだ名探偵! 名推理どうした?! あの愉悦大好きギルだぞ!」

 

「離せよ! 離してくれ! あれがあれば! あれがなくちゃダメなんだ!」

 

 なんだそりゃ! まるで劇場版のクライマックスみたいな叫びじゃないか、そんなに追い詰められてるの俺達?!

 

「ククククク、いいぞいいぞ、あのプライド高い名探偵が、泣き叫ぶ様が見れるとは。まさに愉悦! はっはっはっは!」

 

「最初から絶好調に飛ばしてんじゃないよ! ギルぅぅぅ!!」

 

 くっそぉ! うちの鎮守府の頭脳が崩壊するくらいに、資材がないって言うのか。なんでだ、毎日のようにジャベリンと電を筆頭にして頑張っていてくれるのに、どうしてこう資材不足になるんだ!? 

 

 これは神が与えた試練というのか?!

 

「呼んだ?」

 

「神様って単語でなんで毎回、顔を出すかなソープ?」

 

「え? あれ、知らなかったの?」

 

 まっさかぁって顔しているソープに、俺は何のことか解らずに無言で見つめた。

 

「一応、神様」

 

「・・・・・・はぁ?!」

 

「ほう、そういえば我の嫌いな神とは違うが、そやつも神であったな」

 

 嘘だろ、噂じゃギルガメッシュって神様嫌いじゃなかったの? なんで二人して資材の上に座っているわけ。

 

「っていうかソープ! 何時の間にギルの隣に移動した?!」

 

「神様の特技はワープだからさ」

 

 おおぅ。は?! し、しまった見惚れてしまった。くっそ、腐っても美人だ。もうすっごい絵になる。隣にいるギルも美形だから、二人していると本当に神々しいというか、一流の絵画のようというか。

 

 この二人の間にエルとか入ったらもう、どっかの壁画にも勝てる光景になるからな。

 

 密かな自慢にしてないからね。してないったらしてない。

 

「離せよぉぉぉぉぉ!!!」

 

「だから何があったコナン!?」

 

 なんだかすっごい必死に振りほどこうとしているこいつも、何があったんだよ、本当!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和、イオナ、エンタープライズ、土佐、信濃、コンゴウで艦隊編成してしまったんだよ」

 

「おまえ本当に何があった?!」

 

「仕方ないんだよ! あの前の時のショックで本当にボーとして、気づいたら提督の確認書類の束に紛れ込んでたんだって!」

 

「なんてことしてんだおまえ!!」

 

「悪かった・・・・・っておまえも気づけよ! 中身見てないのかよ!?」

 

「見てない!」

 

 自慢じゃないが、コナンから渡された資料とか書類とかって、中身を見たことはない。文字が多いなぁとか、図形とかあるなぁとか考えているけど、内容についてはまったく読んでない。

 

「お前は」

 

 ああ、コナンの背後に紅蓮の炎が見える。激怒ってやつだけど、今回の俺は悪くない気がする。

 

 気がする! 大事なことなので二度、繰り返す!

 

「おまえって奴はなぁ」

 

 拳を握ったまま、コナンは項垂れて止まった。

 

 あれ、殴ってこない?

 

「さすがに可哀そうだよね、ギル」

 

「我もさすがにそこまで追い込むことはないというのに、どうしてこうマスターは予想外のところから追撃するのか」

 

「資材、倉庫に入れてくるね」

 

「我も行こう。さすがに今回はコナンがな」

 

 あれれ、なんだか資材がもらえた。よっし、良かった。やっぱり、人間っていうのは誠心誠意、働いてこそだな。

 

「俺、いつかマスター殺しに走らないかな?」

 

「ええ、コナンって意外に優しいから、それはないって」

 

「は、はははは。ヤバい、今の俺なら殺人犯の気持ちが解る」

 

 名探偵、どうしたのさ、そんなに乾いた笑顔して。

 

 まあいいか、資材がもらえた。これなら海域制覇がやれるな、そろそろ主計科の七草さんが怖いから、きちんとした功績を出さないと。

 

「さて、資材はどのくらい・・」

 

「戻ったぞ、提督」

 

 うん、エンタープライズ、いい笑顔だね。なんでか、艤装の所々が焦げているけど、何があったのかな?

 

「お、おい、まさか」

 

 コナン、復活したんだね。やった、この苦しみを俺一人で受け止めるのかって、ちょっと怖かったんだ。

 

「あの~」

 

「あれ、エルじゃん。どうしたのさ?」

 

 よっし、生贄が増えた。でも、なんでエンタープライズと一緒に来たのかな?

 

「清々しい戦いだった。久しぶりに燃えた海戦だったぞ」

 

「へぇ~~エンタープライズがそこまで言うなんて、どんな戦いだったの?」

 

「強敵だった」

 

 なんか、気合いの入った答えだけど、その後にエルを見るのはどうしてかな?

 

「待った、ちょっと待った。少し気持ちの整理をつけてからにしてくれ」

 

「コナンも焦ってどうしたのさ?」

 

「マスター、とりあえずお茶を飲んでからにしような? な!」

 

「いや、まあお茶くらいならいくらでも。後でもいいんじゃないの?」

 

 戦果報告を受けなくていいなんて、どうしたのさ。資材の残量も気になるし。

 

「おまえって、悪い結果に向かっていくからすげぇって思うよ」

 

「はい?」

 

 何の話だろう。さてと、エンタープライズの話を聞こう。

 

「その前にこれを」

 

「何この紙? 始末書? エルネスティ? あれ、エルのフルネームが書いてあるけど、何で?」

 

 研究とか開発とかの申請書類はエルって書くのに。しかも、事後が全部ってことで色々と怒りたいけど、今回は最初に持ってきたのかな?

 

「いえ、事後です」

 

「はぁ?」

 

 事後ってまた勝手に開発したのか、あれか今度も異文化技術の集大成とか。

 

 あれ?

 

「え? えっと、破損物品、艤装六隻分? 恐竜型兵器一式?」

 

「はい、すみません」

 

「原因が『誤射』?」

 

「正確にはフレンドリーファイヤだ」

 

 へぇ~~~そっか。フレンドリーファイアか。そっか、そっか。

 

「ん? フレンドリーファイアって確か」

 

「同士討ち、あるいは味方を撃っちゃいました」

 

「コナン、ありがと。へぇ~~~え?」

 

「ごめんなさい、帰還中の艦隊と鉢合わせしまして。そのデスザウラーのテスト中でハイテンションだったので」

 

「あまりに海域での戦闘が物足りなくてな。不満を抱えての帰還だったから、ついというわけだ」

 

 あ、うん、そっか。

 

「コナン、被害確認、行くか?」

 

「おまえ一人で行ってこいよ」

 

「解った」

 

 机に突っ伏している彼に小さく敬礼して、俺はゆっくりと執務室から外に出て、全力で港まで走った。

 

 結論として、港が半壊していました。で、凄いいい顔した残りの五人と会いました。ギルとソープが腹を抱えて笑っていたのが、とても印象的でした。

 

「うん、今日も鎮守府は平和だ」

 

 ジャベリンと電が崩れ落ちていますが、こうでも言わないと俺の精神が持たないので許してください。

 

 資材倉庫直撃したって、気にしない。艦娘達の発進口が損壊していても気にしない。

 

 今日もいい天気だ。現実逃避さ、当たり前だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資材倉庫が吹き飛びました。どうしましょうなんて話、主計科に言えるわけがないので早急に資材を確保しなければなりません。

 

 下手すると軍法会議です。

 

「困ったことになった」

 

「なるほど、困りましたね。実験ができません」

 

 元凶その一が何か言っているけど、無視しよう。まったく自覚ないって許したがい。

 

「盛大にブーメランだけどな」

 

「うるさい、コナン。俺は自覚している。時々は」

 

「ダメだこいつ」

 

「俺の学力とか能力で提督やっているんだから、それだけで奇跡だと思う」

 

「言い切るなよ」

 

「人は生きているだけで奇跡みたいなものだ。それ以上、何を望むって言うんだ」

 

「いいこと言ったみたいな顔して、何を人様のセリフをしゃべってんだよ、バーロ」

 

 え、写真家の名言だよ?

 

 人生の銘にしたいくらいに、いい言葉じゃないか。だから今が奇跡なんだからこれ以上を俺に望まない。普通に生きたい人が、英霊とか艦娘とかと一緒に鎮守府にいて深海棲艦相手に、人類の先鋒なんてやっているだから、これは奇跡でしょうが。

 

「・・・・・・ああ!」

 

「なるほど、名言だ」

 

「へぇ~なるほどね」

 

「納得しました!」

 

 コナン、ギル、ソープ、エルって四人が納得してくれて嬉しいよ。嬉しいんだけど、どうしてだろう、自分の何か大事なものを捨てたような虚しさがあるのは?

 

「さて、どうしよう。資材倉庫再建は妖精さん達が頑張ってくれて終わりそうですが」

 

「中身なんだよな。少ないっていっても四千あったからな」

 

「そうか。四千『しか』なかったか」

 

「困ったね、四千『程度』だったんだ」

 

「なるほど、何処からか『四千ぽっち』を集めてくればいいってことですね」

 

「うん、そうなるね。え? 四千しかなかったの?」

 

 俺が聞き返すと、全員が考えるような顔をした後に、ポンっと手を打った。

 

「あ、四千しかなかったってことは、一回の遠征で集められるな」

 

「大丈夫じゃないか、コナン、何を焦ってんだよ?」

 

「悪かったよ。どうにも最近は数字ばっかり追いかけてたから、緊迫感が抜けなかったらしい」

 

「なるほど。名探偵も追い詰められると思考が鈍ると」

 

「サーヴァントとはいえ、元は人間だからな」

 

 そっか、そうだよな。コナンも元は人間だから、いくらサーヴァントになって人間以上の耐性があるっていっても、思考が鈍ることくらいはあるか。

 

「というわけでジャベリンと電に頭を下げてくるよ」

 

 よっし、そうと決まれば。

 

 元気に歩きだそうとした俺は、扉のところでエルの声を背中に受けた。

 

「あれ? ですが、艦娘の発進口も損壊しているのでは?」

 

「あ」

 

 あれ、あそこって確か艤装の装着に使われるから。あそこが使えないと、艤装が纏えないっていうか、艤装って装着するのに特殊な機械が必要だから。

 

 つまり、出撃できない。

 

「ということは、八方塞がりってことだね」

 

 嬉しそうに手を打ったソープと、その隣で爆笑しだしたギル。

 

「名探偵!」

 

「ちょっと待てよおまえ! いくら俺だってできることとできないことがあるんだぞ!」

 

「迷宮なしの名探偵! どうかこの難事件を解決して!」

 

「事件でもなければ難しくもないだろうが!」

 

「ク、やはり探偵は人が一人くらい死なないと実力を発揮しないのか」

 

「おまえ世界中の探偵にケンカ売ってんだろ?! そうだな?!」

 

 まさかぁ。でもどうにかしてくれるんだろ?

 

「・・・・チックショウ」

 

 すっごい苦い顔で頷くコナンに、さすがとほめたたえる俺でした。

 

「じゃ最初にマスター。おまえ、土下座してこい」

 

「へ?」

 

「主計科と軍令部と修一のところに」

 

「・・・・・オッケー! 俺が土下座して資材が貰えるなら安いもんだ」

 

 よっし、まずは主計科に行くか。七草さんなら、怒りながらもくれるだろうから。その後に修一のところで、最後に軍令部だな。

 

 高野総長がいたら、見事な飛び込み土下座したら、『馬鹿もの』と怒りつつくれるだろう。

 

「俺、マスターの凄さってあのプライドのなさだと思う」

 

「流石名探偵だな、我もそう感じている」

 

「うんうん、提督は今日も自尊心はないからね」

 

「あの態度は憧れます」

 

 後ろで四人が変なこと言っているけど、俺が土下座して皆の資材が貰えるなら安いものよ。

 

 ハッハッハッハ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいかげんにしなさい」

 

「見事な土下座だが、限度があるぞ」

 

「おまえなぁ、いいかげんにしないと不味いぞ」

 

 だから『監査な』と言われました。

 

 え?

 

 

 

 




 

 遠足は家に戻るまでが遠足ですので、玄関先であっても油断しないように。

 油断していると荷電粒子砲が飛んできますから。

 なんてことはないけど、そんな話、的な?

 次回は、『監査だよ、全員整列、迎え撃て』的な話になります。

 予定ですが。





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ごく普通の監査になりませんでした

 

 というわけで、監査を受けることになりました。

 鑑査じゃないですよ、美術品を鑑定するのではないので。

 この鎮守府には奇跡的な美を体現する存在がいますが、監査のほうなので。

 監禁して鎖につなぐ、で『監鎖』ってありかなと思いますか。

 的な話になっていきます。








 

 

 『監査』、法令または条例に従い、業務や資金が正しく運用されているかどうかを調べること。

 

 要するに、『おい、てめぇ、きちんとやっているか? ああ? やってねぇなら首を出せや、コラ』ということ。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

 鎮守府に真っ直ぐに戻って執務室に行って、最初に会ったコナンに『監査されることになった』って言ったら。

 

 ばっさりと手に持っていた資料を落としたよ。

 

 まさに、その時コナン公王は使者(俺ですね)の前で、杖(資料だけど)を落としたもうた、ですな。

 

「・・・・・何してんだよおまえはぁぁぁ!!」

 

「待った! ちょっと待った! サッカーボールは駄目! 宝具なんてくらったら俺が死ぬ!!」

 

「おまえは! おまえってやつはぁぁぁ!!」

 

 うわ、マジだ。本気で靴のダイヤルに手をかけているコナンがいて、サッカーボールが足元に転がっている。

 

 コナンの宝具、『危機にこそ一蹴あり(チェンジング・エンディング)』が炸裂するってここ最近はなかったのに、こんなことで再び味わうなんて。

 

 対象、俺。そんなバカな?!

 

「落ち着くんだ、コナン!」

 

「お! アインズ!」

 

 珍しくガイコツの魔導士が襲来。あの最初に会った時に着ていたローブではなく、上半身はガイコツの姿の上にチョッキを纏って、その上に帽子をかぶっただけの軽装だけど、頼りになる時は頼りになる存在だ。

 

 だけど、見た目『カウボーイ』に見えるんだよな。

 

「どけアインズ! そいつはな! そいつはなぁ!」

 

「おまえの怒りも悲しみも解る! だが、この提督が愚図で鈍間で馬鹿で単細胞の上に、世間知らずで常識さえなく、自尊心の欠片もないアホなのは知っているはずだ。死んでも治らないどころか、死んだら悪化するほどの単細胞なのは周知の事実。毎日毎日、判子とペンだけ持って仕事をしている気になっている人類史上最低の男であり、普通にこだわっているくせに普通じゃないことを平然とする呆れ果てたゴミクズだということは誰もが解っている」

 

 あれ、何だろう。助けられたはずなのに、どうしてこう胸のあたりがズキズキと痛むのかな? アインズ、俺を助けてくれるんだよね。

 

 後ギル、なんでおまえはさっきから笑い転げているのさ。

 

 ソープとエル、そんな憐みの視線なんて必要ないから、どっか行ってろよ。

 

「燃えるゴミや資源ごみのほうが活用できるだけまだいいが、この不燃ごみで核廃棄物なみに厄介な馬鹿の始末など、銀河が終わろうともできないと錯覚するくらい、厄介の塊なのは誰もが理解している」

 

「いやさすがにそこまで言ってない」

 

 あ、コナンが冷静になったみたいだ。良かった、良かった。あれ、なんだろう、さっきまで怒りの目線を向けてきたはずなのに、今は凄い暖かい目線を向けてくる。

 

 あれ視界が歪むな、汗か。そうか、目から汗ってでるんだ。

 

「しかしだ! それでもこの鎮守府の提督であることに変わりはない!! 例えお飾り以下の置物未満の! 存在している価値があるかどうかで一晩は悩めるだろうクズであっても!」

 

「アインズ、待った。止めてやれ。そろそろやめてやれ、マスターが燃え尽きかけているから、止めてやれ」

 

「それでもだ! 提督なのだ! だからこそその怒りは!」

 

「いや背負ったギターを持って何するんだよ?」

 

「その怒りは私の歌で流してくれ! いやぜひにでも! 要するに俺の歌を聞くがいい!」

 

「いやおまえ、それがやりたいだけじゃないのか?」

 

「行くぞ! 『念仏ハイウェイロード! 即ちオーバーロードが念仏唱える!』だ!」

 

「突っ込み切れないから止めてくれ」

 

 ふ、ふふふふ、俺ってそんなに色々と言われるくらい、ダメなんだ。

 

 そっか、そっか。

 

「・・・・カオスだ。まさに愉悦!」

 

「ギルは平常運転だね、どうする、エル?」

 

「とりあえず、全員を正気に戻して監査対策しませんか?」

 

「君って全員が暴走すると、凄く冷静になるよね」

 

 何か聞こえるけど、遠くて聞こえないや。ああ、あれこそがオケアヌスか。征服王の背中が見えた気がするよ、修一。

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 何があったんだろう、鎮守府に帰って来てからの記憶が飛んでいるんだけど、俺って何かしたかな?

 

「コナン、俺ってどうやって戻ってきた?」

 

「あ、ああ。そうだな。ハンマーかな?」

 

 ハンマー? なんだそれ、どうしてハンマーで戻ってこれるのさ。あ、まさかギルの宝具か。何かの原点を使って、一瞬で帰還したってことか。

 

「後、エルは魔法が使えるんだよってところか」

 

「へぇ~~エルって技師だけじゃないんだ。凄いな」

 

 う、なんだか頭痛が。これ以上、踏み込んだから不味いって第六感が言っている。

 

「よし、とりあえず監査対策な」

 

「とりあえずって、どうするんだよ? 報告書、だしてないだろうが」

 

「え?」

 

「え? じゃねぇよ、忘れたのか? 『大和型が特殊だったり、イオナが特殊過ぎるから、厄介事になるから濁そう』って言ったの、マスターだろうが」

 

 あ、そっか。コナンに言われて思い出した。あの頃は、『普通の生活無理だ、でも普通の鎮守府生活なら何とかいける。じゃ隠そう』って短絡的に考えてやっちゃったんだよな。

 

 そっか、そっかなるほど。あれ、ということは?

 

「俺達の鎮守府、戦艦二、空母一、駆逐艦六隻しかいないことになっているんだよ」

 

「あ~~~」

 

 不味い、これは絶対に不味い。こんなこと本部の人に知られたら、間違いなく怒られる。

 

「いや懲戒免職とか」

 

「クビ? じゃいいや」

 

「犯罪者として投獄だと思うぞ」

 

「それは駄目だ。どうにかしないと」

 

 考えろ、考えるんだ俺。こんな時こそ頭脳をフルに使って、何度も切り抜けてきたピンチを超えるように、知恵を絞り出すんだ。

 

「そう! コナンが!」

 

 ざっと俺が指をさしてポーズを決めると、察していたようにコナンは深々と溜息をついた。

 

「監査が七草なら、話を合わせてもらえるんだよ。あいつは知っているからな」

 

「うんうん」

 

「けどな、残念ながら今回の監査は別人が来るんだよ」

 

「え? 主計科が来ないの?」

 

 意外だな、てっきり資材の流れだから主計科の領分だと思っていたのに。まさか、公安とか憲兵が動いたとか、いやそれだったらもうすでに鎮守府に到着しているし、もっと厳しい言い方をされただろうから。

 

「海軍の上の方が来ることになったらしい」

 

「へぇ~~そうなんだ。わざわざ俺の鎮守府に海軍の上の人がね。それで、誰が来るの?」

 

 海軍の上って確か大将、それとも中将か、まさか大佐ってことはないよね。監査をやるってことは、それなりの権限も持っている人じゃないと、その場その場で対応できなさそうだし。

 

「コナンのことだから調べたんじゃないの? 誰が来るのさ?」

 

「高野・五十六元帥だ」

 

「うわぁお」

 

 まさかの海軍軍令部総長直々の監査。それだけ大事になっているのだろうか。でも高野さんだったら、やりようはあるからな。よし、ちょっとお茶請けといいところの緑茶を出しておこう。

 

「そういえば、電報を預かっていたな」

 

「ギルがぁ?」

 

 思い出したように言っているけど、きっとタイミングを計っていたな。だって口元が歪んでいるし、愉悦の切欠になりそうな話だし。

 

「ああ、我が直々に預かっているぞ。マスター、これがそうだ」

 

「・・・・・終わった」

 

 渡された紙には、『神はいない』と言われるような内容が書いてあった。

 

「どれどれ? げ」

 

 コナン、どうしよう、俺達の旅は終わったのかもしれない。

 

「いやなに壮大な話に持っていこうとしてんだよ。けどな、これは」

 

 電報にはしっかりと、『噂のおまえのところの第一艦隊を見せろ。隠し事はするなよ。楽しみにしている』と書いてある。

 

 第一艦隊って、そんなこと言われても。俺達の鎮守府にいるのは滅茶苦茶な艦娘ばかりで第一艦隊なんてそんな。

 

 栄光ある名前を背負える艦娘なんていないじゃん。

 

「マスター、それはあまりにも酷いんじゃないか?」

 

 なんだよコナン、半眼になるなよ。

 

「フ、マスターは時々、自然と愉悦を放ってくるから油断ならん」

 

 ギル、俺はおまえみたいに人の不幸を笑う趣味はないの。

 

「念仏は唱え終わったか?」

 

 アインズ、不吉なことは止めて。

 

「あ・・・・遺言は残したの?」

 

 ソープまで悪乗りしないの。

 

「はい! 部屋の隅でガタガタ震える準備はオッケーですか?」

 

 無邪気な笑顔の時が一番怖いね、エルって。

 

「なるほど、どういうことかな?」

 

「そう、どういうこと?」

 

 瞬間、俺の両肩を柔らかい手が掴んだ。

 

「え、えっと、そのね」

 

「私達は第一艦隊ではない、と? 面白い冗談だな、提督」

 

「これはじっくりと話し合うべき問題。私たちこそが、第一艦隊だと教え込む機会を貰う」

 

 痛い、本当に痛い。俺の両肩が砕け散るから、力を緩めてくれ。ごめんなさいって土下座するから。

 

さあ、提督(来るんだ、バカ)

 

演習場へ行こう(地獄へようこそ)

 

 あの、それって何か違う意味がないですか?

 

 そして俺は演習場にて星になったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三時間後の執務室。

 

「いいお茶を使っているな。誰の趣味だ?」

 

「それアインズが育てる茶葉です」

 

「なるほど。ガイコツなのに植物に通じているとは、おまえのところは実に愉快だな」

 

 楽しそうにお茶を楽しむ高野さんと、ちょっと黒こげの俺が向かい合ってソファーに座っている。

 

 元帥って言うと偉い人なんだけど、この人って好々爺みたいなところがあるから、そういった堅苦しいの嫌うんだよね。

 

 ギャンブルが絡むと情け容赦ないほど鬼になるけど。

 

 で、この人も転生者。しかも、三回目っていう希少な存在。

 

「お茶請けも中々に美味しい。これは?」

 

「あ、吹雪が作りました」

 

 うん、なんでか吹雪ってそういった家事全般は完璧なんだよね。掃除とかもできるし、服飾もやれる。できないことのほうが少ないのが、うちの吹雪なんですよ。

 

 本人、器用貧乏で強みがないっていうけど、全部が高いレベルでまとまっているから、条件さえそろうと大和、イオナ、エンタープライズに、コンゴウと土佐、信濃の六隻に単艦で勝てるんだよね。

 

「あの吹雪か。あれの艤装は元々がああなのか?」

 

「はい、建造した時からああでした」

 

 嘘はついてない。後ろに控えているコナンも同意を示してくれるから、高野さんは唸りながらも納得してくれた。

 

 吹雪の艤装って、そんなに特殊なのかな?

 

「まあ、いい。貴様のところの監査だが、来て早々に提督相手の演習を見られて良かった」

 

「演習が好きな艦娘ばかりなので」

 

「そうか、そうだな。正直な話、あれらが何者か俺も悩むところだ。艦娘と一口に言っていいのかも、悩んでいる」

 

 え、そんなに違うのかな? 俺って他の鎮守府との演習ってみたことないし、修一のところとも演習しないから、他の艦娘の艤装ってあまり知らないんだよね。

 

 学校で習った? 覚えてないって馬鹿だなぁ。

 

「確かにあれだけの武装ならば、資材が飛ぶのも頷ける。解った、主計科には俺から話してやろう」

 

「ありがとうございます」

 

 よっし、やっぱり話せば解ってくれるじゃないか。監査なんて時間の無駄だって。

 

「しかしな、タダでとは言えん」

 

 やっぱり話し合いで解り合えないんだ。クッソ、対話が肝心なんて修一の嘘つきめ。

 

「そこで、だ。北方の一件、貴様の鎮守府に任せる。資材はこちらで都合をつけてやるから、北方棲姫の撃破、必ず成し遂げろ」

 

「解りました」

 

 俺が答える前にコナンが答えやがった。けど、コナンが決めたなら俺は文句ないからさ。責任は俺が取ればいいことだし。どうとればいいか解らないけど。

 

「よし、ならばとりかかれ。噂の『通りすがりの助っ人集団』の実力、存分に見させてもらうぞ」

 

「え? あの高野さん、それってなんですか?」

 

 俺の質問に、相手は呆けた顔をした後に、信じられないって顔をしながらコナンに声をかけていた。

 

「こいつ知らんのか?」

 

「はい。こいつは知らないんです」

 

「自分のところの艦娘じゃないのか?」

 

「提督のところの艦娘ですが、出撃許可証を把握してないので」

 

「俺は何も聞かなかった」

 

「自分も何も言いませんでした」

 

 うわ、息がぴったり。で、何の話なんだろう。

 

「これにて監査を終了する。普通、普通という貴様が一番、普通とはほど遠いな」

 

「え、俺くらいに普通で平凡な奴はいないでしょう?」

 

 うん、これは自信を持って言えるから。

 

 胸を張って語ると、高野さんはすっごい深いため息をついて帰って行った。

 

 なんだったんだろう?

 

「灯台もと暗しって、別の意味のはずなんだけどな」

 

「なんだよ、コナン」

 

「べぇつに。さてと、やるぞ、マスター」

 

 何をさと、顔を向けると、すっごいキラキラした笑顔のコナンがいて。

 

「久しぶりに資材を気にしない、全力出撃だ」

 

「あ、うん、そっか」

 

 いやそれっていいのかな? うちの鎮守府の艦娘が総出撃したら、軍令部の備蓄が飛ぶんじゃ。

 

「いいっていって」

 

 偉く上機嫌なコナンに連れられるように、俺は執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府が揺れたのを、俺はよく覚えている。

 

「軍令部持ちだ。全員、気合を入れて完全装備で行くぞ」

 

 返答はなかったけど、全員の目線がギラギラしていて少し怖い。

 

「提督、号令」

 

「あ、はい。じゃ、皆、ちょっと北方海域にお出かけしてきてね」

 

「了解しました!!」

 

 うわぁ~~凄い声。本当にこれ大丈夫かな?

 

 あ、そういえば、監査が終わったんだ。後は海域を攻めてくれれば、高野さんへの言い訳も立つか。

 

 危なくなったら戻ってくるだろうし、引き際を間違える子はいないから、安心して執務室に。

 

「提督、蹂躙してきたぞ」

 

 僅か一時間後、とても綺麗な笑顔のエンタープライズの報告に、俺は『え、何が』と返すしかなかった。

 

 ついでに、軍令部にて軍医が走りまわって、誰かが胃潰瘍になったとかって話を聞いたけど、誰なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 




 基本的に提督視点のため、艦娘の日常的な姿は見えても、戦闘シーンは全カット。全カットで考えなくていい、素晴らしい。

 監査はということで終わりました。全員で迎え撃ったのは何か、もちろん北方海域ですので。

 監査に来た相手を出迎えていたら、いつの間にか全力出撃になって問題解決。

的な話でござそうろう。 







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ごく普通の艦娘だと思っていました

 

 知らないことを知らないまま放っておくと痛い目を見るらしい。

 まだあったことはないし、知らないままって社会人にとって致命的。

 学生時代は忙しいとか思っていたけど、社会人になってもっと勉強することになるなんて思わなかった。

 生きることって毎日が勉強、でもそんなの関係ないって顔して学ぶことをしなかったのがこの作品の主人公。

 怖い目にあったかな、的な話です。








 

 

 艦娘っていろんな艦種があるんだぜ。駆逐艦、巡洋艦、戦艦、空母、潜水艦等など。

 

 うわぁ~~たくさんいるなぁ、と。

 

 あれ、でもうちの艦娘って分類できたっけ?

 

 どうも田中・一郎でございます。

 

 実はね、困っていてね。え? 資材の残量? 違う違う、そんなのはね、『ほぼ恒久的に困っている』から今更だぜ。

 

 ううう、泣きたくなってきた。

 

 でね、困ったことって言うのはね。

 

「はぁ? 戦艦も艦載機を扱えるって? おまえさ、学校で何を習ったんだよ」

 

 絶賛、修一に怒られています。困ったな、なんでこんなに呆れた顔で言われているんだろ。普通のことじゃないか、空母だって主砲を振り回すことはあるし、戦艦だって艦載機くらい使うじゃないの。

 

「馬鹿とは思っていたけど、こんなに馬鹿だとはな。いいか、戦艦は主砲を詰めるけど、空母は積めないんだよ。反対に空母は艦載機を搭載できるけど、戦艦はできない。だから、艦隊編成で悩むんだろ?」

 

「え? 艦隊編成って悩むの?」

 

「悩むだろ?」

 

 修一が当たり前だって言うんだけど、俺は悩んだことはない。駆逐艦とか空母とか潜水艦とか、そんな艦種があるのは知っているけど、艦隊の編成で相手がどうでるとか戦術がどうとか考えて組んだことはない。

 

 あ、そっか。

 

「ごめん、修一」

 

「解ればいいんだよ。おまえだって提督なんだから」

 

「俺、やったことないや。全部コナンがやってるから」

 

「・・・・・・」

 

「それにうちのエンタープライズが主砲をよく使うから、俺が間違えて覚えてたんだって思ったんだけど。違うの?」

 

 あれ、修一が真っ白に燃え尽きたようにイスに座っているんだけど。

 

「は、はははは、おまえんところはそうだった。何を忘れてたんだろ」

 

「いやいきなり何の話? ところで修一さ」

 

 まあいいや、本題に入ろう。

 

「なんだ? 今度はなんだ? イオナの艦種に疑問か? それとも大和が何か特殊装備でも持ち出したか?」

 

「いやそっちじゃなくてさ。吹雪の艤装について高野さんが、疑問を言っていたんだけど」

 

「吹雪? いや、俺はそっちの吹雪については知らないが、艤装がどうしたんだ?」

 

 あれ、そうかな? 確かに修一の口から吹雪の名が出たことはない、かな。大和たちのことは言ってくるけど、吹雪はないかな。

 

「駆逐艦って魚雷はあるよね?」

 

「そりゃ駆逐艦だからな」

 

「主砲も持っている感じ?」

 

「軍艦だからな。空母以外なら主砲くらいあるだろ?」

 

「拳の一撃で港を砕くよね」

 

「はぁ?」

 

「剣を片手に敵艦隊を細切れにしたりとかできるよね?」 

 

「待て、おまえは何の話をしているんだ?」

 

 なにって駆逐艦吹雪の話だよ。どうしたのさ、修一?

 

「・・・・・・戦闘データ、映像であるだろ?」

 

「俺は見たことないけど、コナンが持っているんじゃないかな?」

 

「そうか。はぁ、大和だけだと思っていた過去の俺を、今すぐに殴りたい気分だぜ」 

 

 自虐趣味があったなんて、知らなかったよ。修一、自分を殴るってマゾに目覚めたの?

 

「いいから持ってこい」

 

 通信でコナンを呼び出して。で、修一に映像データを見てもらった後、彼は出会ってから初めてってくらいに落ち込んでいた。

 

「そりゃ、資材くらい吹き飛ぶよな」

 

「解ってくれてありがとう。で、どうして修一は今日ここに来たのさ?」

 

「高野総長が倒れたから、変わりに監査結果を持って来たんだよ」

 

 へぇ~~高野さんが倒れたのか。どうしたんだろう、何があったのかな?

 

「原因が一番、解らないって顔してんだからな」

 

 なんでそこで俺を見るのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなりだが、皆さんは土佐と信濃についての知識はあるだろうか。

 

 土佐って加賀型戦艦の二番艦の? いやそれは違う。

 

 信濃って、大和型戦艦三番艦で装甲空母の? 残念、俺が知っている艦娘じゃないな、それも。

 

 俺が言っている土佐と信濃って、うちの鎮守府にいる艦娘の二人だよ。

 

 うん、装甲された飛行甲板二つに、五十二センチ砲三連装主砲が十四基、対空火器多数、速射砲多数、対潜魚雷まで装備しているすっごい船。

 

 土佐型超超超弩級『戦艦空母』一番艦の土佐と、二番艦の信濃のことだよ。

 

 帰り際、修一が『装甲空母のだよな』って信濃のことを言って来たから、『え、戦艦空母じゃないの』って返したら、吹雪の時と同じように映像を見て、叫んで帰って行った。

 

 なんだよ、そりゃ戦艦空母なんてどっちつかずな艤装なんだろうけど、二人は俺にとっては癒しなんだぞ。資材は見た目相応、予想外に大量に使うことはなく静かに穏やかに歩く姿なんて、もうヤマトナデシコみたいじゃないか。

 

 素晴らしい、何より資材がぶっ飛んだように使うことなく、一万以下に抑え込めるのが、とても素晴らしい。

 

 二人が出撃していったら、一万ほど用意すればそれ以上にならないから、お腹が痛くなることはない。

 

 とても素晴らしい二人なんだぞ。

 

「どうもです!」

 

 元気一杯の土佐は、茶髪を揺らして片手を真っ直ぐに上げてくる。

 

「ありがとうございます」

 

 妹の信濃も同じ茶髪をポニーテールにして、穏やかに一礼してくる。

 

 うん、素晴らしい姉妹だ。

 

 でも修一、二人の名前を間違えていたな。なんだよ、『けいおん』って。平沢なんて名前じゃないぞ、きちんと呼んでやれよ。

 

「というわけで! ちょっと遊びに行ってました!」

 

「お姉ちゃんがすみません」

 

「いいっていいって。二人がたまに我儘いうくらい、何とかするから」

 

「さすが提督です!」

 

 うん、土佐は元気一杯だな。作戦中とか静かなくらいで、同じ人物に見えない時があるからな。

 

 元気が有り余っている様子に、たまには出撃させてあげないと可哀そうかな。

 

「は、はははは、バーロ」 

 

「なんだよ、コナン、どうしたんだ?」

 

 なんだろ? 何時も二人が出た時は、『まあ、仕方ないか』って言ってくれるのに、今日は燃え尽きたような顔しているな。

 

「おまえら手加減してたのか?」

 

 手加減、え、なに、どういうこと? まさか?!

 

 素早くコナンの手元の紙を引っ手繰って、読み上げた俺は視界が揺れたような気がした。

 

「う、嘘だ。二人だけだったんだ。二人だけだったんだぞ!」

 

「現実を受け止めろ、マスター! こいつらの通常装備での資材消費量がこれだったんだよ!」 

 

「そんなことない! 前のときだって二人の資材消費量はもっと少なかったはずだ! 五千も行かなかったんだぞ! しかも二人で!」

 

 必死に否定したくて首を振る俺の前で、コナンは小さくため息をついて指をさしていった。

 

「犯人は・・・・」

 

「ああ」

 

「貴方だ。英雄王」

 

 なんだと!? 振り返った俺に、ギルはとても清々しい笑顔で口を開く。

 

「ようやくだ。長かったぞ、マスター。この日が来るのをずっと待っていた」

 

「ぎ、ギル? 嘘だよな、おまえがそんな長い間、こんなに時間をかけてそんなことを仕掛けるなんてこと、しないよな?」

 

 違う、間違っている。世界はこんなはずじゃない、こんなことがあっていいはずがない。あのギルが、暗躍やこっそりを嫌うギルが、こんなチマチマした悪戯を行うなんて。

 

「フ、マスター。予想と違う顔だ、しかしいいぞ。実にイイ!」

 

「おまえ、まさか本当に?」

 

「ああ、そうだ。この日のために、土佐と信濃の資材量、我が出撃の度に水増ししていた」

 

 にやりと笑うギルに、俺はがっくりと膝をついた。

 

「フハハハハハハハハ! 堪えた必死に隠し通した。我の愉悦はここまで進化したのだ! さあ、マスター! 存分に足掻くがいい!」

 

「ぎ、ギルガメッシュぅ」

 

「いいぞ、実にいいぞ! そうだ、マスター」

 

 高笑いが何処までも続く中、俺はゆっくりと立ち上がり、捨てかけた報告書に目を通す。

 

 土佐と信濃の戦闘によって消費した資材量、二万。しかも、片方だけでこの数字だ。二人を合わせた数字を見て、俺はゆっくりと腹を抑えた。

 

「コナン、正直の答えてくれ。俺の鎮守府でまともな艦娘って何人だ?」

 

 確かめよう。今は最悪の気分だ、もう立っていられないくらいに、体調が落ち込んでいる。しかしだ、ここで確かめなかったら、俺は間違いなく後悔する。

 

 今まで勉強なんて嫌いだからと顔を背けていたツケが、ここになって俺の首を絞めることになった。なら、取り戻すために勉学に励むことにしよう。そうだ、今までの自分を脱却するために、今まで以上に普通の生活を手に入れるために、ここから変わってやる。

 

 だからまずは、自分の鎮守府の艦娘達のことを知ろう。

 

「コナン!」

 

 答えはない、どうしたと振り返った先にいた彼の顔を、俺は死ぬまで忘れなかった。

 

 時に顔は口ほどに物を言う。コナンの顔を見た俺は悟った。

 

 俺の鎮守府まともな艦娘はいない。

 

 そうだったのかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を取り戻した時、執務室から見える太陽は、すでに夕日となって水平線に隠れようとしていた。

 

「ほらよ、これが艦娘のデータだ」

 

 コナンが持ってきてくれたのは、海軍が提督に配布しているという、艦娘のデータだ。建造に使った資材が、どれくらいならばこの子が建造できる。確率的に百はないらしいが、十パーセント前後で狙った艦娘が建造できるなら、どうしても欲しいと考える提督ならばやるだろう。

 

 俺はやったことはないが。

 

「・・・・そうか」

 

 なるほどな。これは予想外だった。

 

「って冷静になれるか!? なんだよ吹雪のこの艤装は?! 吹雪自身しかないのかよ!?」

 

「そうだよ! 今までなんで気づかないんだよ、この馬鹿マスター!」

 

「自律兵器どこいった?! 修一が『ファンネルかファミリアか』なんて言っていたモータボートみたいな自立型は何処に分類されている?!」

 

「ないんだよ! ないの!」

 

 嘘だ、信じられるか。吹雪は完全装備だと、あれを八つも従えて海域に入っていくじゃないか。資材量だって滅茶苦茶、使うんだぞ。吹雪が完全装備で言ったら、覚悟を決めないといけないくらいに使うんだぞ。

 

 あれがないってどうしてだよ?!

 

「じゃ、じゃあイオナって潜水艦なのか? 戦艦じゃないのか?!」

 

「そう言うことだろ」

 

「信濃が大和型ってなんだよ? 土佐が未完成ってなんだよ?」

 

 あり得ない。普通、軍艦として建造完了してない船は、艦娘として建造できないんじゃなかったのか。

 

「電ってプラズマ兵装を使わないのか?!」

 

「みてぇだな」

 

「ジャベリンって『グングニール』や『ブリュナーク』を使わないのか?!」

 

「乗ってないから、使わないんだろ。そもそも艦娘の『種族』が違うみてぇだな」

 

「ユニコーンって航空機しか艦載機ないのか?」

 

「そうらしいな」

 

「エンタープライズって艦載機しかないのか、主砲とか爆雷とか魚雷とかビーム兵器とか使わないのか?」

 

「ああ」

 

 し、信じられない。じゃあ、なんであいつらは使っているんだ。時々、『試し打ちだ』って空間を歪ませて帰ってくるのに。

 

 どうして、なんで、普通の艦娘じゃないってどういうことなんだ。

 

 まさか、敵側とか。いいや、あんなに素直で優しい子たちが、敵の深海棲艦側だなんて、そんなことはない。

 

 なら、どういうことだ。

 

「う~~~~」

 

 考えろ、考えるんだ、田中・一郎。彼女達はどんな存在で、どのような武装を使うのか、見極めるんだ。

 

 俺は改めて全員にデータの目を通し、過去の戦闘データを閲覧しながら、必死に頭を動かして。

 

 そして、ついに、熱を出して寝込んだのでした。

 

「予想通りだな、ホント」

 

「うるせぇ、コナン」

 

 呆れた顔の彼に見送られ、妖精たちに『わー』って担ぎあげられて、俺は執務室に向かったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっきり体の疲れがとれました。いや~~一日しか入院してなかったのに、体調は万全ですよ。

 

「よかったな、マスター。じゃ昨日の続きをやるか?」

 

「昨日? 何してたっけ?」

 

 あれ、コナンが唖然として固まった。どうしたんだよ、おまえそんなに意外そうな顔して止まるなよ。

 

「覚えてないのかよ?!」

 

「何が? さあって今日も執務しますか」

 

 よっし頑張ろう。

 

「は、はははは、勘弁してくれ」

 

 どうしたんだ、コナン?

 

 

 

 

 

 

 

 




 主人公、ようやく自分の艦娘が普通じゃないと気づく。で、色々と考えて知恵熱出して倒れる。

 振り出しに戻るって話でした。

 知らないから知らないままではなく、知ろうと頑張って倒れて振り出しに戻るってあるよね。


 的な話です。








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ごく普通の昇進だと思っていませんか?


 色々とあった鎮守府ですが、そろそろゴールが見えてきたかな。

 徐々にむしばまれる主人公の胃。精神的防壁のために記憶を失うまでした彼のストレスの果てはいかに。

 昇進って、実はストレスの塊だって知っていましたか。

 的な話です。





 

 こんにちは、あるいはこんばんは?

 

 田中・一郎でございます。季節は巡るのが速いものですが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

 

 暑かったり寒かったりしますが、元気ですか?

 

 私はいたって元気です。

 

「おい、マスター」

 

 最近は職務にも慣れてきたおかげか、こうして暇な時間が増えているので、のんびりと縁側に座ってお茶でも飲みたいなぁ等と。

 

「だからマスター」

 

「なんだよ、コナン? 俺は今、平凡な鎮守府の提督として執務をだな」

 

「いや、軍令部から呼び出しが来てるんだよ」

 

「はぁ?」

 

 なんだろ、最近は大人しくしているから呼び出される理由なんてないはずなんだけどな。

 

 あ、あったわ。俺、最近、高野総長を撃沈していた。まずいな、それで呼び出しか、俺一人でいいのか。

 

「よっし、とりあえずだ。大和に完全装備してついて来てもらおう」

 

「何をしようとしてんだよ、お前?」

 

 どうしたんだ、コナン。当たり前じゃないか、きっとこれは軍令部から『てめぇ、俺達の親分になにしてくれてんだ、顔出せや』に決まっている。

 

「何考えているか解るけど、突っ込まないからな」

 

「ええ~~コナンのケチ」

 

「ケチでいいからとっとと行け」

 

 ちぇ、最近のコナンは冷たいな。まあいいか。

 

 ということで軍令部やってきました、田中・一郎です。

 

「おまえ、今後は軍令部直轄な」

 

「え?」

 

 来て早々に高野総長からありがたい辞令をいただきまして候。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、コナン、うちの鎮守府が軍令部直轄になったよ」

 

「へ?」

 

 お、珍しい、コナンが間抜けな顔している。これ写真にとってキンジに売りつけたら、いくらくらいになるだろうな。

 

「だから」

 

「いやなにを言ったか解るから大丈夫だ。直轄? どうしてそうなったんだ?」

 

「さあ?」

 

 詳しい話を俺が聞いているわけないじゃないか。まったくコナンは抜けているなぁ。

 

「おまえ、本気でいつかどうにかなるからな」

 

「はッはッは、褒めるなよ」

 

「褒めてねぇよ。いいから詳しい話を聞いてこい」

 

 まったくコナンは短気になって本当にもう。いいじゃん、直轄になったならなったで。俺達は何処にいても、俺達らしい生活を送ればいいだけだし。

 

 できれば平凡に過ごしたい。最近、隣に誰か寝ていると殺気を感じるから、もっと平和的な生活を。

 

 具体的にはなんか身の危険を感じる時があるんですけど、何でだろうね。もう寝ているのに気が休まらないって、命の危機じゃないかな。

 

「安心しろ、マスター。そうなると思って手をうっておいた」

 

「さすが名探偵。それで?」

 

「ああ、『淑女同盟』だ」

 

 ふむふむなるほど。それはいいアイディアだ。

 

「手を出すなら全員一度にと決めてある」

 

「ん?」

 

 あれぇ~おかしいな、なんだかそれだと俺が追い込まれませんかね? まさか、そんなバカな話はないよね。まさかまさかですよね、名探偵。あのコナンが穴を残して話を終わらせるなんてこと。

 

 俺はそこで見てしまった、コナンがニヤリと笑ったのを。

 

 貴様?!

 

「俺、最近さ、愉悦部に入ったんだ」

 

「のぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ふふふふふ、苦しいか、辛いか、マスター」

 

 そんなバカな?! まさかの最終防壁が寝返り、どうしてそんなことになった。どういうことだ。

 

「クククク、いい顔をするではないか、マスターよ」

 

「出たなギルガメッシュ!」

 

 何処だって、何でそんなところから。本棚が動いて開いた場所に、黄金のイスに座ったギルガメッシュが、ワイングラス片手に笑っていた。

 

「なんでそんなところに隠し部屋が?」

 

「フ、マスターの道化っぷりを見るために、この鎮守府には四十八の隠し部屋と隠し通路がある」

 

「何時の間に?!」

 

 クッソ、本当に油断も隙もないな、この馬鹿王。昔の鋭利な刃物みたいなギルも厄介だけど、最近の『笑いのためなら全力疾走』ってギルも厄介だ。

 

 どうにかして昔に戻し・・・・たら俺は殺されるな、うん。折角の信頼関係を壊してまで、俺の命を危険にさらすことはない。そうだ、今のままがいい。今のまま。愉悦のためにストレスを抱える今のほうがいいのだろう。

 

 俺は思わず血の涙を流したのでした。

 

「ふはははははは! コナン、見たか? 道化が泣いて喜んでいるぞ」

 

「ああ! なんだか解った気がするぜ、ギル!」

 

「そうであろうそうであろう! これこそが愉悦! 他人の不幸は蜜の味!」

 

「生かさず殺さず楽しむって言うんだな?!」

 

「無論よ!」

 

 なんか二人が高笑いしているけど、俺はもう崩れ落ちそうだよ。なんかもうゴールしてもいいかなって気がしてきた。

 

「ああ、オケアヌスが俺を呼んでいる」

 

 俺、あそこについたら海辺で釣りして暮すんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナチュラル・ハイって怖いな」

 

「うん、御帰りコナン」

 

「ただいま、マスター。で、軍令部の話ってなんだよ?」

 

「あ、うん、電報が入ってたから読むよ」

 

 えっと、とりあえず、正気に戻ったコナンに読んであげようとして、最初の一文から俺は思わず電報を握り締めてしまった。

 

「おい、マスター。何が書いてあったんだ?」

 

「正しい所属艦娘を教えろってさ」

 

「正しいって。そうか、そうだよな」

 

 ああ、ついにこの日が来たか。グッバイ、俺の平凡な生活。もう元には戻れないあの日々が、やけに懐かしい。

 

 大和から聞いた沖田艦長が地球に戻ってきた時も、こんな気持ちだったのだろうか。

 

「謝れ、お前今すぐに沖田艦長に謝れ」

 

「ごめんなさい」

 

「よっし、じゃ所属艦娘の一覧表は俺のほうで軍令部に送っておくからな」

 

「頼むよ、コナン。俺じゃ解らないし」

 

「・・・・・・・いやその時点でおかしいって気づいてくれ。頼むから」

 

 何でだよ。俺は全部を把握してないんだから、把握しているコナンがやればいいじゃないか。俺の仕事は書類にハンコかサインをすること。コナンは鎮守府の運営だろ?

 

「誰かー! 誰かこのアホに提督の仕事ってやつを教えてやって!」

 

「失礼な、これでも提督の学校を出てるんだぞ」

 

「なんでそれで今の自分を疑問に思わない!」

 

「はぁ?」

 

 何言ってんだか、こいつは。

 

「提督! 僕はついに目覚めました!」

 

「いきなり入ってきて何を言っているのさ、エル? っていうか、なんでドレス姿?」

 

「世の中はまさに! 男の娘の時代です!」

 

「はい?」

 

 いや待った、何でそうなる。どういった理屈でそこに辿り着いたのか、小一時間ほど問い詰めたい。こんこんと説教してやりたいけれど、今のエルと一対一なんて俺の何かが消えてしまう気がする。

 

 サラサラの銀髪に、憂いを秘めたような青色の瞳。まさに美人、百人いれば百人が振り返るような子が、純白のドレスを着て目の前で踊っている。

 

「うわぁ~~さすが、元々が女に見てるだけはあるな」

 

「はい! 元気に元気よく女の子やってきました!」

 

 呆れるコナンにも元気に女の子って返事するエル。どうした、本当に何があったのこの子。前は『僕は男です、女の子じゃありません』って言っていたのに。 

 

「ついでに周りを散歩してきました」

 

 ん? え、その格好で?

 

「ナンパもされてしまいまして。その時にですね」

 

 あ、嫌な予感がしてきた。

 

「断る理由に提督の名前を言ってきました!」

 

「はぁ?! 何してんのおまえ!」

 

 まさかのエルネスティが精神攻撃! 俺の胃にクリティカル・ダメージ! 待ってどうしてそんなことしたの?! ただでさえ近隣からは『怪しい鎮守府と提督』って言われているのに!

 

「大丈夫です、無理やりとは言っていません」

 

「いやそれの何処に安心する要素が?」

 

「身も心もささげた相手ですとは言ってきました」

 

「お前は今日は何があってどうした?!」

 

 思わず叫んだ俺は悪くない。普段のエルだったら、こんなこと言うはずがないのに、どうしてそんなことをしてきたのか。

 

「・・・・・最近、資材をくれないので」

 

「は? いやだっておまえは勝手に持っていくだろ? なんで今更、俺に許可を求めたのさ?」

 

「資材倉庫が空ですから」

 

 え? 待って、そんなことないはずだよな。だって、この間にジャベリン達がすっごい張り切って二十四時間がんばって、集めに集めてきてくれた資材が一万はあったはずだよな。

 

「な、なあ、コナン?」

 

「あ、ああ。本当になかったのか?」

 

「ありませんでした。だから僕もデスザウラーにバスター・ランチャーとベクターキャノンが搭載できずに、欲求不満なんです」

 

「おまえ何やろうとしてんだよ!?」

 

 おお、コナン、すっごい突っ込みと怒鳴り声だな。え、そんなに不味いもんなの、それって。

 

「最大出力で空間が歪ませられます」

 

「・・・・・・・」

 

 俺はもう、この子たちの世話が嫌になりましたよ、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく、あいつは。

 

「高野総長、送ってきましたか?」

 

「キンジか? 読むか?」

 

 あの馬鹿の田中がやっと送ってきた所属艦娘一覧を、キンジへと手渡す。本当にあいつは、軍務をなんだと思っているのか。

 

「冗談でしょう、これ?」

 

「纏めたのはあのコナンだ。貴様は疑うのか?」

 

「いえ、疑いません」

 

 ならばその通りなのだろう。

 

 田中・一郎の鎮守府に所属している艦娘は、どれもが癖者ぞろいだった。本当に艦娘なのかと疑問を感じるくらいに、どいつもこいつも艦種を無視した装備をしている。

 

 とりあえず、だ。一応の分類としては、万能戦艦『大和』、強襲空母のようなエンタープライズ、戦艦空母の土佐と信濃、蹂躙戦艦ともいえるイオナとコンゴウ、これが噂の第一艦隊。

 

 その他に、駆逐艦の皮を被った全艦種の性能を持った吹雪。光学兵装だけを搭載した電、槍の概念をギュッとつめたようなジャベリン、極大艦載機能力の軽空母らしいユニコーン。高速航空巡洋艦のエターナルと、強襲揚陸空母のフロンティア、潜水戦艦だが外側がイムヤ、水中格闘潜水艦なのだが外側がゴーヤの潜水艦娘。

 

 後はやたらと固い防御を持つ如月と、魚雷の種類と数が明らかにおかしい夕立。音速突破可能な天津風。死神のような鎌を扱い姿を消せる睦月。動く弾薬庫のように攻撃をばらまく愛宕。二十メートルを超える人型の艤装を扱う榛名。

 

「ちょ、総長、これって」

 

「こっちがそれを無理やり艦種に入れたものらしい」

 

 田中・一郎鎮守府の所属艦娘。戦艦『大和、イオナ、コンゴウ、土佐、信濃、榛名』の計六隻。空母『エンタープライズ、ユニコーン、フロンティア』の計三隻。巡洋艦『エターナル、愛宕』の計二隻。駆逐艦『吹雪、電、ジャベリン、如月、夕立、天津風、睦月』の計七隻。潜水艦『イムヤ、ゴーヤ』の系二隻。

 

 合計二十隻とのことだが、これをそのまま見るのは危険すぎるな。

 

「資材の量が半端じゃないのが解りましたよ」

 

「これだけの艤装を扱えば、あの量の資材が一気になくなるのも頷ける。まったく、田中は何処まで隠し通すつもりだったんだろうな」

 

 頭が痛くなる。もっと早くに打ち明けてくれれば、対処も容易かっただろうに。

 

「あいつは平凡な生活が送りたい一心だったんでしょうね」

 

「そこだ。本当にあいつは平凡な生活がしたかったのか?」

 

 俺はおおいに疑問だ。こんだけのことをやらかして、平凡などと言っているのはおかしいだろうが。

 

「そこがあいつのへんてこなところなんですよ。これでもまだあいつは平凡な人生を送れるって考えているんですから」

 

「まったく、何処までもアホだな」

 

「本当ですよ」

 

 これは、本当に頭が痛くなってきたぞ。これだけの戦力を動かせれば、深海棲艦など蹂躙出来る。実際に北方は即陥落させてきた。

 

「軍令部直轄にしておいて、良かったと安堵するべきか。早計だったと嘆くべきか」

 

「まあ、あいつは『ラッキー』程度にしか考えてませんからね」

 

 それはそれで問題だろうが。

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 田中・一郎です、このたび、軍令部直轄になったのです。栄転です、昇進です、階級が上がったのです。

 

 でも、資材の消費まで上がらなくてもいいじゃないか。

 

「あ、ごめんなさい、提督」

 

「あ、うん、そうだね、榛名。何してんの?」

 

「はい!! 見てください! もっと大きくなりました!」

 

 嬉しそうに見下ろしてくる彼女は、巨大な人型の艤装を纏っています。とても大きい赤い機体です。

 

 うん、だからね、榛名を迂闊に出せないんだよ、君は解っているのかな?

 

「あれって本来なら百メートルあるらしいぜ」

 

「へぇ~~そうなんだ」

 

 イデオンって名前らしいけど、そんなの俺は知りたくなかったよ。

 

「資材が飛んだな」

 

「え? 榛名は一万しか使ってませんよ?」

 

「それで全部だよ」

 

「倉庫の半分しか使ってませんよ」

 

 あれ、一万しかなかったんじゃなかったの、え、コナン?

 

「・・・・あれれ~~おかしいなぁ」

 

「おい、てめぇ、何したよ? 正直に話せば許してやる」

 

「うっせぇな。別にしておいたんだよ。非常用で少しずつ溜めていただけだよ」

 

「さすがコナン。で、その非常用は?」

 

「ああ、あっちで」

 

 コナンが指さす先に目を向けると、すっごい嬉しそうな顔した夕立と、六角形の防壁を展開している如月がいて、さらに天津風が飛びまわっていた。

 

「あいつらが改になるための資材で消えた」

 

「え? 俺、承認してない」

 

「俺もしてない。あいつらが勝手にやったの」

 

「・・・・・・ごめんコナン、俺は何も言えない」

 

 元々、彼女たちが頑張って集めた資材だからなぁ。

 

「今回ばかりは、俺も言えないな」

 

 フッと笑うコナンの背中に、何か悲しものを見た気がした。

 

 気の迷いだったのかもなぁ。

 

 

 

 

 

 




 
 というわけで昇進しました。海軍のトップの直轄、まさにエリート中のエリート。彼の鎮守府が昇進したため、周りは妬みを目線を向けてきて、倍率ドンで胃へのダメージ増大。

 ついでに、彼の鎮守府の内情を知っている人が増えて、その人達の胃にもクリティカル・ダメージが毎回ドン。

 さあ、生贄が揃ってきましたよ。

 的な話でした。



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ごく普通の艤装だと何時から錯覚していた?

 

 最近、艦これのゲーム動画を見直しました。スロットってあるのを忘れていました。

 なので、こうなりました。

 チート? バグ? いいえ、そんなものじゃないもっとエグイやり方をご覧ください。

 的な話です。





 

 

 どうも、田中・一郎です。

 

 軍令部直轄になった我が鎮守府ですが、やっていることは前と変わりません。時々、他の鎮守府のお手伝いが増えたくらいなので。

 

 あ、資材を貰える数が増えました。五万です、各五万も貰えます。

 

「改造ですね!」

 

「待て! 待ってお願いだからエル!」

 

「改良だね」

 

「ソープ!! おまえそれを持って何するつもりだ?!」

 

「ふむ、ここは我が! アインズ・ウール・ゴウンが歌うしかない!」

 

「アインズはどうして歌うことに拘っているかな?!」

 

 はい、資材が増えてもうちの鎮守府の問題点は改善されずに、むしろ悪化している始末です。

 

 誰か止めて。お願いだから、誰かストッパーを。

 

「ほら、マスター。いい胃薬だ」

 

「ありがとう、コナン。本当に効くの?」

 

「俺が愛用している」

 

 あ、ごめん、すっごいね、それ。説得力が凄いよ、サーヴァントにも効く胃薬ってあるんだ。え、待って、コナンが胃薬を愛用しているって、何時から。待った、ちょっと待って、俺の気持ちの整理をつけてからにして。

 

「フ・・・・マスター、俺は頑張ったぜ」

 

「燃え尽きるなコナン! どうした?! 何があった?!」

 

「五万の資材だが、もう消えた。俺は止めた、頑張ったんだ」

 

「何があったのそれ?!」

 

「第一艦隊が全力で遊びに行った」

 

 俺は察した。あの艦隊が遊びに行ったなんて、そんなことがあっていいはずないのに、コナンの死んだような顔で察してしまった。

 

 行ったのか、あいつら。そうか、俺達も逝こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ生きてる、俺はまだ生きているよ。

 

「はぁ、何だってあいつらの艤装はあんなに燃費が悪いんだ?」

 

「普通の主砲とか魚雷ってそんなに使わないの?」

 

「他の鎮守府の資料を貰ったけど、そんなに使ってないぜ」

 

 ほらっと渡された資料に目を通すと、確かに。一万もあったら三艦隊とか動かせそうな資材の数だね。だったら、なんでうちの艦娘にあんなに燃費が悪いのかな?

 

「艤装を調べてみるか。そういや、艤装って調べたことなかったな」

 

「艤装かぁ」

 

 なんだろ、嫌な予感がしてきた。調べてはダメだって思えてきた、だってさっきから机の上にいる妖精たちがすっごい勢いで土下座しているから。

 

 ごめんなさいって旗を振っているから、何かやらかしたんだろうね。

 

「やるしかないか。行くぞ、マスター!」

 

「解った、コナン」

 

 振り切るように叫んだコナンに従って、俺は艤装がある工廠に突撃していった。でも、止めておけばよかった。

 

 通常の艦娘の艤装は、スロットと呼ばれるところに装備を入れる。これはうちの鎮守府の艦娘も同じだった。

 

 ただし、スロットの『中身が違う』ものだった。

 

 例えば大和、普通ならこうだ。

 

 第一スロット、四十六センチ三連装砲。

 

 第二スロット、十二.七センチ連装高角砲。

 

 第三スロット、二十二号対水上電探。

 

 一スロットにつき一種類って言うのが普通のことで、これは軍令部にある資料にも書いてあったし、他の艦娘達もそうなっている。

 

 でも大和いないのに大和の資料があるって何でだろ?

 

 まあいいか。それで、うちの大和の場合はこうなる。

 

 第一スロット、『宇宙戦艦ヤマト』。

 

 この時点でおかしい。武装じゃなくて、船が入っているんだぜ。なんで主砲じゃなくて艦艇ごと入っているのさ。

 

 第二スロット、『超戦艦ヤマト』。

 

 もうぶっちぎってどうなっているって叫びたくなった。また艦艇ですか、どうしてそこにあるのですかって叫びたくなった。

 

 第三スロット、『装甲空母大和』。

 

 なんで戦艦なのに空母が入っているのさ、それって意味があるのか、艦載機が放ち放題ってそういう意味か。

 

 第四スロット、『ヤマト・ナデシコ』。

 

 うん、なんでよき日本の女性が入っているかな? え、違う? これ宇宙戦艦でディストーション・フィールドって防壁と、グラビティ・ブラストって重力攻撃兵器を持っている?

 

 え? 何それ?

 

 第五スロット、『アーセナルシップ・ヤマト』

 

 ミサイル満載、重力兵器満載、ミサイルの雨が撃てる意味が解ったよ! なんだこの一万発頑張れますって搭載数は?!

 

「は、はははは」

 

「コナン戻って来い! 戻ってくるんだ!」

 

「止めろぉ! 俺はもう向こうに行くんだ! 俺を止めるなぁぁぁ!!」

 

「おまえがいなくなったら俺が死ぬんだぞ!」

 

「離せぇぇぇ!!」

 

 クッソ、完全に錯乱してやがる! 誰か・・・・って?!

 

「フ、マスター」

 

「ぎ、ギル」

 

 よりによってお前が来るなんて。あれ、なんでそんなに慈愛に満ちた眼差しを向けてくるんだ?

 

「今回ばかりは我もおまえの味方だ」

 

 そっと、彼は資料を俺に渡した。

 

 あ、ああ、そっか、そうだよな。おまえだって苦しい時もあるものな。解った、一緒に乗り越えよう。

 

「乗り越えられるか! 電のこの『コロニーレーザー』と『サテライト・キャノン』ってなんだよ!? 『バスター・ランチャー』ってあの空間を歪ませる奴だろ!」

 

「まだまだ甘いぞマスター! このエンタープライズを見ろ! 『スタートレック』と書いてあるぞ!」

 

「ちょっと待ておまえら! それは艦艇じゃなくて『作品名』だろうが! あのSF兵器軍が全部入って言って言うのかよ!?」

 

「コナンその話もっと詳しく! じゃ二番目の『海域強襲艦エンタープライズ』ってなんだよ?!」

 

「俺が知るか! ジャベリンの『太陽神ルー』とか『ゼウス』ってのもおかしいだろうが!」

 

「二人とも落ち着くがいい。土佐や信濃は普通だぞ。コンゴウとイオナは怖くて触れたくないが」

 

 そ、そうだな、怖い? え、何それ?

 

「いやいや、コンゴウとイオナの『霧の超戦艦』、『霧の海域制圧艦』、『霧の潜水艦』『アルス・ノヴァ』ってなんだよ?!」

 

「俺に振るなよ! だったらこの土佐と信濃の『超兵器お得パック』ってなんだよ!? 色々入ってお得って買い物じゃねぇんだぞ!」

 

「待て! 吹雪のこれはなんだ?! 『絶対切断』とはどういった扱いだ?! 『従属艦艇』とはなんだ?! 『直視の魔眼』だとぉ?!」

 

「そっちは解らないけど! ユニコーンのこれはどういう意味?!『無限格納庫』って何さ?! 『艦載機なら何でもOK』って艦艇ですらない!」

 

 は、ははははは、もう本当になんでこんな艦娘が揃っているかな。

 

 こんな異常な中だと、愛宕の『デンドロビウム』とか『ミーティア』とか。エターナルの『ストライク・フリーダム』と『∞・ジャスティス』って機体名が可愛く見えてくる。

 

 榛名の『イデオン』のみってのも可愛いな。

 

 如月の『使徒』とか『ATフィールド』ってのも意味が解らない。天津風って『ミノフスキードライブ』と『ヴォワチュール・リュミエール』と『ウーレンベック・カタパルト』ってなんだろう。

 

 睦月にいたっては『ハデス』、『タナトス』、『デスサイズ・ヘル』ってよく解らないもの搭載しているし。

 

 うん、イムヤの『日本武尊』、『羅豪』は可愛いな。ゴーヤの『須佐之男』、『電光』も可愛い。

 

「・・・・・俺は見なかったことにする!」

 

 よっしそれでいいや。何があっても俺の艦娘達だ。反乱なんてないから、安心して任せられる。

 

「お、おう、そうだな。さすが俺のマスターだ」

 

「ふむ、我としたことが狼狽し過ぎたか。マスターの言うとおりだな」

 

 ふふふふ、忘れよう。こんな話はなかった、俺達は普通に業務をしていただけだ。

 

 さて、忘れようとして、五万もの資材が消えたのはどう言い訳しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定、高野総長に怒れました。資材の消費じゃないよ、直轄なんだからきちんと話を通せって怒られました。

 

 だって、勝手に出撃するのは前々からあったから。

 

 きちんと管理しろっとさらにお説教を貰いました。

 

「というわけで、今後は艤装の装着は俺の許可が必要になったから」

 

 食堂にいる時に全員に言ってみた。

 

 ガシャンと食器が砕けました。え、なんで、どうしてみんな、この世の終わりみたいな顔しているわけ?

 

「提督、私を信じてくれ。忠義を尽くすから」 

 

「エンタープライズ、ありがとう。本当にうれしいよ、だから徐々に近寄らないでもらえるかな? なんで服のボタンに手をかけるのさ? 脱がなくていいから」

 

「色仕掛けは常とう手段ではないのか?」

 

 誰がそんなことを・・・・・・は?!

 

「待った! ここ食堂! なんで全員が脱ぎだそうとするの!?」

 

「色仕掛けは、『そういうこと』ですから」

 

 大和、そういうことって何の話?!

 

「そういうことをするなら、全員参加が最低条件」

 

 イオナ、何その淡々とした言葉と裏腹な赤い顔。

 

「そうだな、淑女同盟は護られるべきだ」

 

 コンゴウ、なんでそんなに誇らしげな顔しているのさ。

 

「つまり直球で言うとですね! 『やらないか』です!」

 

「お姉ちゃん」 

 

 うん、土佐もなんでそんなに素直に言うかな。って言うか、信濃も止めなさい、そんな期待のこもった眼でチラチラ見られても頷かないからな。

 

 く、第一艦隊がそんなことになっているから、全艦娘の目線が危ない。もう獲物を前にした猛獣って顔している。

 

 ここは逃げるべきだ。さっさと逃げて。

 

「ぱんぱかぱーん!」

 

「愛宕ぉぉぉ! なんで扉を閉めて鍵かけた?!」

 

「封鎖完了しました!」

 

「こちらも閉じたのです!」

 

「ジャベリン! 電!」

 

 クッソ、あの真面目な二人が染まっている。退路は何処だ、こんな食堂で襲われたなんて、末代までの恥!

 

 俺は必至に周りを見回して、食堂の見取り図を頭の中で思い出す。

 

 出口は二つ、食堂の入口と外に面した出入り口のみ。片方は愛宕が、もう片方はジャベリンと電が塞いでしまった。

 

 退路がない、そんなことはない。何処かに逃亡ルートがあるはずだ。諦めるな、田中・一郎。何が何でも、逃げ出すんだ。こんなところで艦娘と『した』なんて話が広まったら。

 

 殺される。今度こそ、高野総長に殺される。

 

 『自由恋愛、おおいに結構』。

 

 高野総長! 何をそんなに清々しい笑顔で言っているんですか?! 落ち着け俺! 幻覚を見ている場合じゃない。

 

 じりじりと迫る艦娘達の目が怪しく輝いている。クッソ、このままでは包囲網が完成してしまう。

 

 こんなことが知れたら、七草さんに何を言われるか。

 

 『そう、人間も味わってみない?』。

 

 俺のアホ! どんな想像している!? あの七草さんが俺を相手にするわけがない、反脱ぎの軍服が色っぽいとか、生足最高ですってそういうことじゃない、確かに反論の余地がなく艶っぽいけどな!

 

 落ち着け、田中・一郎。落ち着いて状況を観察するんだ、ここから逃げるためには艦娘達の包囲網を崩す必要がある。ならば、どうする。

 

「く・・・・そうか! 全員、俺が提督だ! 命令を下してやる!」

 

「拒否します!」

 

「少しは躊躇くらいしてくれよ!」

 

 すっげぇ、まったくためらうことなく言ってきやがった。クッソ、提督命令は使えないか。となると、俺が使える手段は。

 

「これは使いたくなかった」

 

 俺は自分の右手を見つめ、苦渋の決断を下す。

 

「こんなところで俺は終われないんだ! だから! 令呪を持って命ずる! こいギルガメッシュ!」

 

 魔力が弾ける感触がして、俺の前にギルが出現した。黄金の鎧を纏って、右手にエアを持った完全装備だ! 

 

 勝った、良かった、これで!

 

「マスター」

 

「ギル・・・・・何でおれを縛るんだよ!?」

 

「フ、マスター、時に状況というのは好転することもあるだろう、しかし大抵の場合が悪化するものだ。マスター、さあ、階段を昇るがいい」

 

「ギル、ギルガメッシュ! おまえ何を懐柔された?!」

 

「ふ・・・・・ふはははははは! 今日の我はストレスを感じてしまったのでな、愉悦に浸って解消したいだけだ」

 

「キメ顔でそんなこと言ってんなよ、馬鹿王!」

 

「ふははははは!」

 

 ちっくしょう!!

 

 俺は、俺はまだ。

 

 そして俺は一対二十の夜戦に突入した。昼間なのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平凡な生活がしたいんだよ、俺は。もっと平和に恋をして彼女作って、結婚して、普通の生活をな。

 

「田中、艤装についての話は解った。無断出撃も今回は見逃してやる」

 

 高野総長とキンジを前にして、俺は敬礼する。

 

「・・・その、何だ。栄養ドリンクを持って帰れ。軍令部で山のように買ってやる」

 

「俺が車を出してやるから、帰りはゆっくり帰ろうな」

 

「は、ありがとうございます」

 

 二人から優しさが、今の俺には妙に身に染みる。

 

 うううう、女性恐怖症になったら、どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 





 だ、大部分は艤装の話。後半で持っていかれた気がするけど、艤装の話だからタイトル詐欺にならないはず。

 はず!

 的な話です。





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ごく普通のネコなどいるはずがない


 キャラ崩壊注意です、と言っておくが最初から崩壊していた事実に気づき、何時も通りですと始めようと思いますです。

 あ、タグのほう追加しました。

 ちなみにですが、皆さんはどれが好きですか?

 犬? 猫? 羊とか狼? 海の話だからクジラとか好きですか?

 的な話となっています。







 

 

 その日は朝から異様な雰囲気が漂っていた。

 

 思い返してみれば、あの時に気づくべきだった。もうすでに手遅れにだとしても、後悔しても何も変わらないのに、何度も繰り返し『気づいていれば』と思ってしまう。

 

「ハァハァハァ」

 

 呼吸が荒い、どうしてこんなことになったのか、そもそも今回の原因が何だったのか、俺はもう思い出せない。

 

 田中・一郎です。現在、かなりピンチです。

 

 資材が少ないから? いやいや、そんなこと『もう慣れました』ので。

 

 ソープとエルが悪のりした。違います、もうそんなこと些細なことと言ってやれますよ。

 

「す、すまない。もうここまでのようだ」

 

「ソープ! 死ぬな! 息をしろ! 目を開けるんだ!」

 

「もうすぐ逝くよ、ラキシス」

 

「誰だそれ?!」

 

 真っ白に燃え尽きて倒れるソープに、俺はかける言葉が出てこないから。っていうか、おまえ彼女いたの?! そんな女顔なのに!?

 

「ごめんなさい、僕も。もうダメのようです」

 

「エル?! なんでおまえまで!」

 

 だっておまえは明らかに『そっち側』だろうが!

 

「僕も、『男』だったようです」

 

「エルネスティ!!!」

 

 フッと笑って倒れた彼に駆け寄ろうとして、俺の体は弾かれるように連れされてしまった。

 

「ギル! 離せ! 離すんだ!」

 

「よせマスター! もう手遅れだ!」

 

 何時も以上に切羽詰まったギルが、全力で走る。鎮守府の建物の中を必死な形相で。

 

「すでにアインズが沈んだ」

 

「なんだって?! どうしてあいつまで?! なんで、なんでこんなことになってしまったんだ」

 

「許せ、マスター。我は、我にももう手が出せない」

 

 嘘だ、そんなはずがない。俺様が一番偉くて強いってギルガメッシュが、何が来ても負けなかった英雄王が、『撤退』するしかない相手なんて。

 

「さっさと行けギルガメッシュ! 俺が抑えている間にマスターを逃がすんだ!」

 

「コナン! 何でだよ! なんでおまえが!」

 

「俺の戦闘スキルじゃ足止めにしかならないんだよ! だから逃げろ! 逃げてくれマスター!!!」

 

 コナンが、あのコナンが。必死に叫んでいたコナンが、ふと『前を向いた瞬間』、血の海に沈んだ。

 

「あ、あああ」

 

「ここまでくるか! マスター、先に逃げよ。後は我が殿となろう」

 

「ギル!」

 

 そこまでなのか?! そんな相手だったのか?!

 

「フ、マスター。おまえと過ごした月日、悪くなかったぞ。誇るがいい、この英雄王に認められたことを」

 

「ギル!!」

 

 そしてギルガメッシュは、彼が最も信頼する鎖と剣を持って突撃していった。

 

 最初から全力全開の英雄王、世界広しといえど勝てる相手なんていないって俺は信じていたのに。

 

「す・・・ま・・・な・・い」

 

「しゃべるな! しゃべらないでくれギル!」

 

 今、俺の目の前で血の海に沈んでいる。

 

 どうしてだ?! なんでこんな『凶暴になってしまったんだ』。

 

 俺はそこでふと、顔を上げた。来た、あいつが来た、来てしまった。すでに鎮守府は血の海の中にある。誰もが動いていない、妖精さんたちでさえ止まってしまったこの場所で。

 

 動いているのは、俺と『あいつ』だけ。

 

「く、来るなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺はありったけの叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い返そう、死ぬ前に過去を見るっていうから、俺はあの時のことを思い出していた。

 

 あの日は、朝から異様な雰囲気の中にあった。

 

「お兄ちゃん、ユニコーンね、改になれるよ」

 

「へぇ~~~・・・・・え?」

 

「練度が上がって改造可能になったって話だよ」

 

 そうなのか、そっか。 

 

 褒めて褒めてオーラを出しているユニコーンの頭を撫でてやると、隣からシャッターの音がしてきた。

 

 おい、ギル。

 

 黄金の波紋の中に数十はあるカメラが浮かんでるんだけど、なんで勝手にシャッターが下りてくのさ。

 

「我の中の何かが叫んでいる。ユニコーンを記録せねば、と」

 

「本当、おまえってユニコーンが絡むと人が変わるよな。いったい、何があったんだよ」

 

 こいつ、絶対中身が転生者じゃないのか。修一が言っていた、『変態紳士』とか『イエスロリータ、ノータッチ』とかって奴だろ。

 

「ふ、失礼なことを考えているようだが、マスター。今日の我は気分がいい、特別に許してやろう」

 

 ダメだ、こいつは放っておこう。そのうち戻ってくるだろうからさ。

 

 英国関係で何か嫌なことでもあったんじゃないのかな、まさか英国系の女性に嫌われたかフラれたか。

 

 まっさかぁ、あの天下の英雄王の声をうけて拒否する女性がいるわけがない。だって見た目よし、半分神様なんだからもう美形中の美形で、それなのに女性っぽさがないかっこいい男だからな。

 

「グ」

 

 財力もある、この世の財宝のすべてを集めたって逸話があるくらいだ、ギル以上の財力がある奴なんて、過去現在未来を通していないさ。

 

「う」

 

 で、知識も凄い。古今東西のすべての書物や図書館よりも、その深い知能と知性は、本当に凄い王様だなって感じさせてくれる。

 

「・・・・・」

 

 その上でだ。

 

「マスター、そのあたりで止めておいてやれよ。そろそろギルが死ぬ」

 

「はぁ? なんでだよ、コナン。なんでギルが死ぬんだ?」

 

「自覚ないのかよ、バーロ」

 

 どういう意味だよ、お前。ギルは・・・・ってギル?!

 

「何があった?! なんでそんな生まれたての小鹿みたいにプルプルしているんだよ?!」

 

「フ、マスター、貴様は本当に我を楽しませてくれる。精神的に我を追い込むのは、おまえが初めてだぞ」

 

 いやマジで意味が解らないんだけど、精神的に追い込んだつもりなんてないからさ。

 

「お兄ちゃん、改造してもいい?」

 

 コテンって可愛く首を傾げるユニコーンに、俺は思わず顔を抑えた。

 

 うわ、可愛い。本当にユニコーンって仕草が危ないっていうか、儚げって言うか。もう抱きしめていい子いい子したいって欲求がわいてきて、無意識に近づいてしまいそうになる。

 

「こ、この威力は予想外だな」

 

「我の精神防壁を一瞬で貫通するだと?」

 

 あ、うちの馬鹿二人も倒れそうになっている。

 

「いいよ、してもらってきな、ユニコーン」

 

「はぁ~い」

 

 歩く姿も可愛い。あれで人見知りがなければ、もっとファンが増えるだろうに。どうしても写真とかビデオとかから逃げるから、うちの鎮守府の中でも知名度が最も低いんだよな。

 

 それに何故か外に映像を流そうとすると、ギルが『エア』抜くし。

 

 軍令部直轄になってから広報がユニコーンに取材を申し込もうとすると、もう最初から『エア』抜いたギルガメッシュがお出迎えするから、誰もユニコーンをメインにしなくなったんだよな。

 

 この時の俺はまだのんびりと鎮守府運営していた、と思う。コナンから回された書類にサインとかハンコしていて。コナンは難しい顔で資料とにらめっこしていて、ギルガメッシュは黄金の玉座に座っていた。

 

 というより、俺の執務室で最も目立っているのがギルっていいのかな?

 

 いいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その瞬間がやってきた。

 

「お、改造が終わったみたいだぞ」

 

「へぇ~~速いや。で、資材は・・・・」 

 

 資材を確認しようと立ち上がった俺は、非常警報を聞いた。

 

「なんだ?!」

 

「バイオハザード警報? 工廠の方だぞ!」

 

 コナンに言われて俺はすぐに通信を工廠に繋いだ。何時もなら妖精さん達が映像を送ってくれるはずなのに、この時は何故か『音声のみ』だった。

 

「何があったんだ!?」

 

『て、提督、私達は間違えた』

 

「は?」

 

 なんだ、この弱々しい声は? 妖精さんたちは何時も元気一杯で、楽しそうに仕事しているのに、こんな小さな今にも消えそうな声なんて。

 

『ごめんなさい、提督』

 

『もう二度と会えなくてもごめんなさい』

 

『僕たちは提督と一緒で楽しかったよ』

 

「何があったんだ?! 妖精さん?!」

 

 俺の叫びに事態を察したコナンは、速やかに第一艦隊を工廠へと向かわせてくれた。

 

 でも、第一艦隊からの通信は来なかった。続いてジャベリン達も送り出し、イムヤ達まで向かわせた。

 

 けど、誰からも通信は届かなかった。

 

「何が起きたんだ?」

 

「艦娘が全滅する事態なんて、想像もつかねぇよ。とにかく、行くしかないな」

 

「我も共に行こう、ユニコーンが心配だ」

 

 ブレないよな、ギル。

 

 そして俺達は工廠に向かった。向かってしまったんだ、行かなければ知らなかった、見なければ苦しまなかった。こんなことになって、誰もが傷つかずに平穏な鎮守府生活を送れたはずなのに。

 

 ソープ達も合流してしまい、そのまま全員で工廠に向かったのが、俺達の末路を決定してしまった。

 

 そこで見たのは、血の海に沈んでいる妖精たち、艦娘達。

 

「何があったんだよ」

 

「マスター!」

 

 呆然としていた俺の腕をコナンが掴んだ。なんだ、なんで俺を連れ出そうとするんだ!

 

「原因が解った! 逃げろ! 今すぐ逃げろぉぉ!」

 

「何があったんだよ!? いったい工廠で何があったんだよ?!」

 

 訳がわらかない。俺だけ逃げていいはずがない、ソープもエルも置いてきた。アインズはさっきから動かないし、ギルも全身を震わせている。

 

「『あれは駄目だ』。ダメなんだ」

 

「コナン!」

 

 そして俺達は逃げ出した。俺は何も解らずにコナンに引っ張られて、そしてやがて一人、一人と『あいつ』の餌食になって倒れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長いこと夢を見ていたようだ。数時間前のことなのに、とても長いものを見てしまっていたのかもしれない。

 

 皆が血の海に沈んでいる。あの神様のソープも、改造馬鹿のエルも、魔王ってくらい怖い装備のアインズもだ。

 

 コナンも沈み、ギルも沈んでしまった。

 

 怖い、本当に怖い。このメンツを一撃で、一目で血の海に沈めることができるなんて。そんな相手がいるなんて信じられない。信じたくなんてないが、事実を受け止めなければ。

 

 しっかりしろ、田中・一郎。絶叫している場合じゃない、相手の正体をきちんと確認して、俺が皆を助けるんだ。

 

 まだ間に合う、間に合わせる! 俺が最後の防壁なんだぞ!

 

 立ち上がれ、震える足を叩きながら俺は立ち上がり、両手を広げて瞳をしっかりと開いて、口を大きく開けた。

 

「こい!」

 

「お兄ちゃん」

 

 そして俺の視界に『猫耳メイド服』のユニコーンが飛び込んできた。

 

 にゃ~んって言葉が見えたよ、ああ。俺はもうダメだ。全身から力が抜けていく、これが皆が見てしまった景色か、なんていう破壊力だ。一角獣のぬいぐるみを抱いて、何時もよりもちょっと赤い頬の恥ずかしそうな顔の彼女の破壊力が、俺の全身を貫いていく。 

 

 もう体の底から何かがわき上がってくる。白い肌に白いメイド服なんて邪道だって誰かが言っていたが、それもありではないだろうか。穢れを知らない白の重ねがけ、純白のメイド服に白い肌なんて邪道ではなく王道。これぞまさに真理だ、可愛い女の子が可愛いフリフリのメイド服を纏っているなんて、この世の理想ではないか。

 

 俺の体が震える。いや、待った。王道じゃない、その上だ。覇道だ。フリフリの白いメイド服だけでも破壊力は戦術級。ロリっ子が纏っているから背徳感まである、なんだこの威力は。世界を壊す気なのか。ロリっ子にメイド服は核兵器に匹敵する威力を持って、世界中を蹂躙してしまうではないか。 

 

 いやいや、俺よ、落ち着くんだ。よく見ろ、彼女の頭に『猫耳』が付いているではないか。

 

 グハァ!! 俺のライフをそこまで削るか、ロリっ子メイドの猫耳など都市伝説でしかないはずなのに、目の前にあるなんて。この絶大な威力は世界を破壊し再生する。まさに宇宙の誕生、ビックバンか。創世記とはこういったものを言うのか。ちょっと恥らしいつつも、期待のこもった瞳を向けてくる彼女には純粋な気持ちしかない、あざといものがない、そこにあるすべての白が彼女の心を示しているようで。まさに『純白にて純粋』、これ以上の白さなどこの世界のどこを探してもないだろう。まさに完璧、まさに王道にして覇道、神々さえも作れなかった、最高の奇跡が俺の目の前にいる。

 

「お兄ちゃん」 

 

 ダメだ、止めろ、ユニコーン待つんだ。近づくんじゃない、そんな警戒心ゼロの顔で近付いてきたら、思わず抱きしめてしまうじゃないか。そうなったら俺は、俺は。

 

 俺はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 こうして俺は血の海に沈んで行った。ごめんなさい、征服王。俺のオケアヌスは赤く染まってしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、きちんと改造し直されたユニコーンに、残念さ半分、嬉しさ半分といった俺達がいた。

 

「なあ、マスター、ユニコーンのスロットに妙な艤装があってな?」

 

「言うな、コナン。それは封印だ」

 

「ああ、そうだな」

 

 コナンが持っていた資料に、『ロリっ子猫耳メイド』なんて単語はなかった。なかったといったら、なかったんだ。

 

 『可愛いは世界を征服する』って単語ならあったけど。

 

 

 

 

 

 

 




 

 普通のネコはいませんでした。でも、猫っぽいものならいたなぁというお話でございます。

 暴走中につき、どうかご容赦ください。

 でも、暴走しているほうが書き易いってどうしてなんだろう?

 的な話です。






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ごく普通の妖精さんだったらいいのにな

 

 暴走中だったのに、どうしても入れたい話。

 別の作品でも書いたのですが、皆さまは『小さな女の子が巨大な武装を扱う』ってどう思いますか?

 私は大艦巨砲主義なので大好物です。

 的な話でございます。







 

 

 

 最近、めっきり寒くなりましたが、いかがお過ごしですか?

 

 田中・一郎でございます。

 

 いやぁ~~~もう怒られた怒られた。あのユニコーンの一件で、軍令部からの命令書に『出撃できません』って真顔で返したら、『ちょっと来いや馬鹿』ってキンジから呼び出しくらって。

 

「どういうことだ?」

 

 さすがの高野総長も、すっごい顔で見てくるから、そっと写真を取り出したわけよ。

 

「・・・・・・」

 

「総長!! 誰か軍医を呼べ!」

 

「何が・・・グハァ!」

 

「う?!」

 

「グギャ!」

 

 もうね、見事にね、来る人来る人、血の海に沈んでいく沈んでいく。軍令部の廊下が真っ赤に染まった、海軍の珍事件がここに出来たわけ。

 

 よっしゃぁ、逃げられたって思った俺の頭をキンジが鷲掴みしてきたのは意外だったなぁ。

 

「俺には効かねぇんだよ、馬鹿野郎」

 

「なんだと!? さては貴様!」

 

「ホモじゃないからな。ロリに興味ないんだよ」

 

「ク、くっそぉぉぉぉぉ!!」

 

 逃げきれないのか、俺は?!

 

 では二枚目! これならばどうだ?!

 

「シャレで撮ったソープとエルとユニコーンとエンタープライズによるミニスカメイド写真!」

 

「・・・・・・・」

 

「え、そこまで?」

 

 キンジ、俺を離して血の涙を流しながら立ち尽くす。

 

 そんなこんなで軍令部を大混乱にさせたので、色々とお説教プラス始末書の提出を命じられたのが、今日の出来事でした。

 

 おしまい、おしまい、っと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んなわけあるか、バーロ」

 

「そうだよね」

 

 ちょっと逃避したかっただけなんだよ。だってそうだろ、なんで俺は今も執務室で書類に向き合っていなくちゃいけないんだよ。

 

「それはな、おまえがやらかしたから、俺を使うなって命令が出たからだよ」

 

「え、なんで? いやだってコナンがやっても今まで問題なかっただろ?」

 

「今回ばかりは俺じゃダメなんだよ」

 

 どういうことだ? と、これが書類ね。えっと、何々?

 

「鎮守府運営における提督としての心構え? え、今更?」

 

「マスターが色々やったから、軍令部で提督して大丈夫かって話にでもなったんじゃねぇのか?」

 

 やり過ぎたかな。仕方ない、今回ばかりは頑張りますか。

 

『提督、改造してもいいですか?』

 

「妖精さん、なんで今ここでそんなこと聞くのかな?」

 

『駆逐艦達の練度が上がったのです』

 

 え、もう? さすが軍令部直轄、ちょこちょこ任務が来ては艦娘達が頑張っていくから、前よりも出撃の回数が増えて練度が急上昇。全員が改となっていて、一部の艦娘は改二までもう少しってところまで来てるんだよな。

 

 で、最初の一人が到達した、と?

 

「え、誰?」

 

『電と大和です』

 

 あの二人。あの二人かぁ~~・・・・・・・え、待って。

 

「聞き間違えかな? 妖精さん、まさかそんなことないよね?」

 

『電と大和です』

 

「え、待って、ちょっと待って。なんでその二人? 吹雪のほうが出撃回数多いよね? 第一艦隊の他の面々は?」

 

 そう、実は吹雪が断トツで出撃回数が多い。もう二十四時間、働けますかって感じで動いてることが発覚したのが、数日前の話。

 

 もう笑っちゃうくらいに笑い話にならない。あの子って戦闘面とか料理とか家事関係じゃなく、書類もできるからさ。偽造を疑うレベルで、巧妙に書類の隙間をついてくる。

 

 コナンでさえ見落とすように、小さな違いを織り交ぜて、人の錯覚を誘って連日連夜の出撃をしてくれたわけよ。

 

 だってそうだろ? 例えば21日の18時に出撃して戻ってきて、22日の3時に出撃してって。横に並べば気づくけど、これが間に一枚の紙を挟んだりされると別の日に出撃とか、一日に一回だけかなって感じる。

 

 もう上手いね、あの子。ニコニコ笑顔で温和って印象を与えてくるのに、こういったことは狡猾だよ。

 

 だから最近、吹雪の書類はコナンが名探偵みたいな推理力で、隅の隅まで読んでから俺に回してくる。

 

「・・・・・・俺は探偵だ」

 

「あ、うん、そうだね」

 

 訂正、コナンは名探偵。俺も最近はこいつは事務屋じゃないかなって思っていたのは、内緒の話にしておいてやろう。

 

「マスター」

 

 睨まれたぁ~~。

 

「マスター!」

 

「悪かったって。それにしても、吹雪を抜かして電と大和かぁ。二人を改二にしたらどうなるんだろう?」

 

 楽しみだな、本当に楽しみだよ。具体的には出撃時の資材の消費量とか。改になった時の量を見て、俺とコナンは心臓が止まるかと思ったし。

 

 高野総長は胃潰瘍で入院したって話だけど。

 

 もうね、一隻で各一万とかあり得ないでしょう。なんなの、どうしてそうなるわけ。砲弾とか魚雷とか、何がどうなってそんなに消費するのか意味が解らない。

 

 大和なんてこの間、『波動砲と超重力砲の回数制限を外してください』なんて言ってくるもんだから、『怪獣と戦うの』って聞いちゃったよ。

 

「マスター、俺は胃薬を飲んでくるから、報告を受け取っておいてくれ」

 

「冗談はよせよ、名探偵。そんなのが通ると思うか?」

 

「思ってるのさ。いいだろう?」

 

「思わせるなよ、ダメだろう?」

 

 俺はコナンとにやりと笑い合い、どちらともなく立ち上がって走り出した。

 

「俺が先だ! おまえは書類を見てればいいだろうが!」

 

「何言ってんだ?! 俺はマスターだぞ! 先に飲ませろ!」

 

「ふっざけんな! おまえなんて書類見ているだけだろうが!」

 

「おまえこそふざけんな! 最後の責任は俺に取らせるつもりだろうが!」

 

「いや、おまえな、それが提督じゃないのか?」

 

 え、何いってんの、まさかそんなわけないじゃん。

 

「・・・・・やっぱおまえ、提督の学校、出たのはうそだろ?」

 

「いや、卒業したよ、きちんと」

 

 たぶん、きっと、メイビーって言えばいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改造、終わりました」

 

「なのです!」

 

 お、お~~~二人が工廠から出てきたけど、特に変わった様子はないな。

 

「マスター」

 

「なんだよ、コナン。俺は二人と話をしているんだからさ、邪魔すんな」

 

「いや、ダメだろ。現実を見ろよ、マスター」

 

 現実? 俺は何時だって夢を見ているのさ、覚めない夢を永遠に見ている気持で執務をやっているんだ、邪魔するなよ。

 

「・・・・・・・」

 

 ダメだ、思いこめない。大和はいい、大和はその、何だ。別に普通って思いこめる。

 

 艤装を出してないけど、制服のままだけど。あの耳飾り、ドリルじゃないかななんて思わない。腰に剣を装備しているなんて、気のせいだろう。

 

「マスター、我の見立てが間違っていることを祈ろう。あれはかの騎士王の」

 

「はい! ギルガメッシュ! 落ち着こう! 落ち着くんだ! 全然、繋がりないから!」

 

「お、おう、そうだな。我も随分と耄碌したようだ」

 

 あるはずがないだろ。あの修一曰く、『最強聖剣でビーム砲』っていう騎士王の聖剣を、大和が持っているわけがない。しかも鞘付き! だってあの鞘のほうが重要だって話だろ!?

 

 違う、目の錯覚か、あるいは見間違えだ!

 

「よっし、マスター、じゃあっちも見間違えでいいか?」

 

「・・・・・いいわけあるか、馬鹿野郎!」

 

「だったらきちんと見ろよ! もう本当にどうなってるんだよ!」

 

「妖精さんに聞いてくれ! どういった繋がりなんだよ!?」

 

 もう混乱だ! 混乱でしかない! 電が、あの小さくて可愛い電が、鎖を持っているなんて。鎖の先に首輪があって、巨大な黒い物体の首にはまっているけど! 見えないようにしていたのにどうしても見えてしまうから、逃げることができないじゃないか!

 

「あ、あの提督さん、こちら電の新しい『スロット』その一の『ゴジラ』さんです」

 

「あ、はい」

 

 フ、電は優しいな、こちらのことを察して紹介してくれるなんて。

 

「あれ、その一?」

 

「なのです。電は改二になってスロットが二つ増えました。もう一つは」

 

「もう一つは?」

 

 あ、これダメなやつだ。聞いちゃいけないやつだ。聞いてしまったら、俺はまた戻れない場所に行ってしまう。二度と戻れない平穏な毎日に、今度こそ別れを告げないといけない。

 

 ダメだ、聞いちゃダメだ。でも、聞かないと俺は後悔してしまうだろう。

 

「はい、『アンチ艤装システム』だそうです」

 

「・・・・・・・はい?」

 

 なにそのとんでも技術? アンチって『対抗』って意味じゃなかったっけ? え、どういうこと?

 

「妖精さんの説明だと、『プラズマ技術』の応用でいーえむぴーを発生させて、磁場を増加させて、それを砲弾として放つことによって敵や味方の艤装システムを強制停止させるそうです」

 

「あ、そうなんだ」

 

「はい! 敵も救いたいって願いを妖精さん達が叶えてくれました!」

 

 そっかそっか。嬉しそうに笑う電に、俺はそれ以上は何も言えなかった。

 

 艤装が停止すれば、戦えないからね。うん、いいね、いいアイディアだよ。でもさ、それ『どこから引っ張ってきた』のかな?

 

『星の本棚、最高です』

 

『いくらでも知識がわいてくる』

 

『僕らに怖いものはないんだ』

 

『多次元世界万歳です』

 

『次、スパロボいきたい』

 

『イーネイーネ!』

 

 元凶がいた。もう確実にこいつらのせいだって言えるのが、目の前にいやがったよ。

 

「フ、ふはははははは! マスターどうだ! 我が監修した改造は?! いいだろう、いいだろう?」

 

「やっぱてめぇかギルガメッシュ! なんでそう事態をややこしくしないと気が済まないんだよ!」

 

「ふ、我が愉悦のためだ。良い、特別に許すぞ、道化。存分に踊るがいい!」

 

「てめぇぇぇぇ!」

 

 俺は拳を握ってギルを殴ろうとした。っと! 危なねぇ?!

 

「喧嘩は駄目なのです」

 

「あ、うん、解ったよ、電。でもさ、なんでゴジラに攻撃させたの?」

 

「?」

 

 きょとんと可愛く首をかしげて、本当に電はおちゃめさんだね。なんて微笑ましく言って終わるわけがないだろうが。 

 

 え? 嘘、マジで解らないの? じゃゴジラって独立しているわけ? え、電の気持ちを察して攻撃して相手を沈黙させるの。何その生物兵器。

 

『は?! 生物兵器といえば?!』

 

『BETA!』

 

『ヴァジュラ!』

 

『ゾアノイド!』

 

『次の改造って誰かな?』

 

「おい、待て妖精ども。なんだそのラインナップは? 俺が知らないのをいいことに、何処から持ってくる気だ?」

 

『きゃぁ~~~~』

 

「逃げんなよ!」

 

 うわ、マジですか。いつの間にか妖精さん達が、『妖精さん』じゃなくなっている。なんだ、どうした、こいつらは何時からこんな『楽しいことなら全力で世界を壊そう』になったのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺は不思議な夢を見た。

 

 なんだかピンク色の髪の女の子に、『うちの妖精さん達が紛れ込んでしまったので、お願いします』って言われた。

 

 あれ、紛れ込んだ? いや感染してませんかねと言ってみたら、女の子は『テヘ』とかやったんだけど。

 

『・・・・・・『人類は衰退しました』かぁ』

 

「え、修一、知っているの?」

 

 意味が解らない時は知っている人に聞け、ということで修一に電話したところ、そんなことを言われて電話を切られました。

 

 なんだろ、意味が解らないよ。

 

 

 

 

 

 




 
 妖精さん達まで普通じゃなくなりました、今後は徐々に田中君の胃が締め付けられてくる予定です。

 あ、最初から普通じゃなかった妖精さん達だから、あんな艤装になったのか。

 的な話です。





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ごく普通の遠征任務でした


 普通って何かを模索中。

 普通って意味を考える日々の中でありました。

 けれど、普通って自分が思っていることは、他人からみたら『非常識』だったことありませんか?

 あ、ない、そうですか。

 的な話です。







 

 その日は朝からやけに鎮守府が騒がしかったのを覚えている。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

 こんな出だしの話が前にあったような、なかったような。あ、あの時はユニコーンの可愛さが炸裂して、鎮守府が沈むところだった。

 

 いやいや、可愛いって罪であり兵器であり、最強最悪の原罪だよね。

 

 言い過ぎ? 言い過ぎじゃないって、目の前にしてみれば可愛さの凶悪さは十分によく解るって。

 

『ふ、くくくく可愛いは正義』 

 

「止めようか、妖精さん、俺は貴方を殺したくない」

 

『くくくく、可愛いこそ我が王道! 時の王者、かかってこいや!』

 

「どうしてそこにケンカ売るかなぁ?!」

 

 最近、うちは艦娘だけじゃなくて妖精さんも普通じゃなくなりました。

 

「く、普通の鎮守府運営してたいのに」

 

「・・・・・」

 

 なんだろう、コナンが半眼で見てくるんだけど、普通の鎮守府運営したいだけなのに。

 

「大切なことなんでもう一度、普通の鎮守府・・・・あれ?」

 

 待った、ちょっと待とうか。俺は何か大切なものを忘れている気がする。もっと重要で、俺のもっとも大切な、そう魂のようなものを忘れてないか。

 

 思い出せ、思い出すんだ、田中・一郎!

 

「マスター、あのな」

 

「なんだよコナン、俺は今、大切なことを思い出そうとしてだな」

 

「それより先にやるべきことがあるだろ?」

 

 やるべきこと? なんだっけ?

 

「本当に、ほ・ん・と・う・に! 覚えてないのか?」

 

 あれ、なんだろう、いつになくコナンがすっごい怖い笑顔している。え、そこまで、激オコになるくらいのこと?

 

「え、あれ?」

 

「書類だよ、しょ・る・い!」

 

「・・・・・・ああ! あれか!」

 

「思い出したか、まったく余計な世話を・・・・・」

 

「間違えてシュレッダーにかけた!」

 

 フ、人は失敗するものだよ。こんなこともあるものさ、書類の整理していたら間違って『ガー』って。

 

「・・・・・・・てめぇは何してんだよ?! 馬鹿なの!? アホなの!? 死ぬの!?」

 

「さりげなくマスター殺しを宣言するなよ、コナン。弱く見えるぞ」

 

「あああああああもう!! おまえいっそのこと潰れちまえ!」

 

 くくくくく、君が悪いのだよ。俺を怒らせるから。

 

 そしてその後、俺は軍令部総長から直々に呼び出しをくらって、二時間もの説教を貰うのでした。

 

 解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 懐の深い高野総長でも、今回の一件はすっごい激怒していました。

 

 『おまえ、死にたいのか?』。笑顔を浮かべた高野総長が怖いって、初めてだなぁって思いました。

 

「えっと、『提督とは艦娘を指揮する者のことであり、何よりも海の平和と平穏と自由を愛し、常に危険の中に飛び込み、困難を愛し苦労を省みず、常に苦難の道を進む軍人を示す』と」

 

「・・・・・・・・はい?」

 

「なんだと?!」

 

 いやコナン、ギル、うるさい。

 

「『また海軍の軍人である以上は、提督はいついかなる時も紳士的であり。悲運に嘆く者あれば速やかにその身を救い、絶望に沈む者あれば傍らに立ち支え続ける矜持を持つ者でも有る』

 

「え? えええ?!」

 

「なんですとぉ?!」

 

 ソープとエルも悪のりするなって。

 

「『私にとって提督としての心構えは、五省を尊び、あらゆる困難苦難から逃げず、常に紳士的であること。そして自分を律し厳しく、他人に優しくしていく者を示す』と」

 

「この世界に終わりが来たというのか?! ならば我が歌をささげよう!」

 

 アインズ、最近、形振り構わずに歌うようになったな。

 

「よっしできた。後は送信して」

 

「待った! ちょっと待ったマスター!」

 

「なんだよ、コナン。俺は今やっと書類が終わってだな」

 

「なんだその建前と綺麗事だけの文章は?! 場末の脚本家でももっとマシな言い訳をかくぞ!」

 

「いや提督としての心構えを書いたんだけど、なんでそんなに否定的かな?」

 

「普段の自分をよく省みるがいい」

 

 ギル、そんな真顔で言わなくても。普段の俺、普段の俺って言うと。

 

「間違ってないな」

 

 おい、なんだよ、お前ら。なんでそんな『この世の終わり』って顔しているのかな? 間違ってないだろ、俺は普段からこう紳士的かつ努力家だろうが、どうしてそんな『え、馬鹿なの、アホはの、いい加減にしろよ』って顔しているかな。

 

「グータラ提督、仕事しない馬鹿、書類丸投げ軍人」

 

「誰だそのいい加減な奴は、俺がしっかりと説教してやる」

 

「お・ま・え・の・こ・と・だ・よ!」

 

「ええ?! ちょっと待てよおまえら! 俺の何処が」

 

 と言いかけたところで、皆が凄く怖い笑顔を浮かべて近寄って来たので、俺は速やかに言葉を引っ込めてジャンピング、土下座しました。

 

「ごめんなさい」

 

「解ればいんだよ、バーロ」

 

 ううう、なんだか初めてくらいにコナンが怖かった。ソープもエルも、あんなに怖いわけ。アインズは普通に魔王って感じだから、怖い時は怖いからいいけど。いやよくないか。

 

「コナン、あいつがああなのはおまえが頑張り過ぎだからじゃないか?」

 

「アインズ、それはどういう意味だよ?」

 

「けどな、鎮守府が沈むぞ?」

 

「なんで無視?」

 

 俺を余所に会話するコナン達に、ちょっと半眼で睨みつけてみたら、すっごい殺気が戻ってきました。

 

 うううう、俺は提督なのに。

 

「今は軍令部直轄。迂闊な運営をしても、何とかなるだろう?」

 

「いや、そりゃそうだろうけどよ。あのマスターだぞ?」

 

「僕もアインズに賛成だよ。ちょっとやらせてみようよ」

 

「僕もです。ここはビシっと現実を突きつけないと」

 

 うわ、ソープもエルもあっち側についた。なんだよ、なんだよ、俺は何時だって真剣にな。

 

「・・・・・やらせてみるか」

 

「おい、コナン」

 

「マスター、ガンバ!」

 

 なにおまえ、そんなにいい笑顔するほどのことなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、俺が一人で鎮守府を回すことになりました。

 

 えっと、これが遠征の申請書と、遠征航路図と、遠征用の艤装持ち出し許可証に、不意な遭遇戦の時の戦闘許可及び撤退許可と。で、艤装内部への実弾の装填許可と、遠征時における戦術及び相手側の情報の添付。

 

 あれ?

 

 遠征だよな、戦闘じゃないよな?

 

 俺はもう一度と書類を確認してみた。確かに遠征って書いてある。え、戦闘関係の書類も必要なの? 普通、遠征って戦闘しないんじゃないの?

 

 あれぇ?

 

 遠征用の艦隊編成申請書、遠征時における燃料の消費、弾薬の消費、それに関係する非常時の資材の保有数及び消費資材の確保。

 

 ん、なんだか違う書類が混じっている気がする。前にコナンが書いた遠征関係の書類はこっちにあったから、参考にして見よう。

 

「・・・・・・おうシット」

 

 間違ってないや、本当にこれだけの書類をやっていたんだな。ああ、コナン、おまえの偉大さが今になってよく解ったよ、俺は何をしていたんだろう、気の迷いじゃ済まないな。

 

「よっし、気を取り直して。遠征用の書類を頑張って作成しましょうか」

 

「え? まだできてないんですか?」

 

「うん、もうちょっと待ってね、ジャベリン」

 

 今がんばってやっているから、もうすぐ終わるから。

 

「・・・・・・申請書類って遠征前提出ですよね?」

 

「そうだね」

 

「私たち、もう遠征に行く時間なんですけど、大丈夫ですか?」

 

「ん、大丈夫、大丈夫」

 

 だと思うよ、本当。軍令部直轄なんだから、遠征なんて行かなくても資材もらえればいいのに。前に大和と電が改二になってから、資材の消費量が一気に跳ね上がるから、『時間を見て遠征やれ』とか言われたし。

 

 よっし、これで全部。なんだ、やればできるじゃん。

 

 というわけでキンジに。

 

『却下だ、馬鹿野郎』

 

「なんだとこの野郎」

 

『遠征申請書類は二日前提出だろうが、鎮守府法をよく読んでおけよ、この馬鹿間抜け』

 

「てめぇ、いい度胸だ。大和けしかけるぞ」

 

『七草さんを送り込んでやろうか?』

 

 チ、あいつのほうが口が上手いじゃないか。こんな時の論争は俺じゃなくて、ソープとかやるとすっごいいい結果になるのに。

 

「第一さ。なんで遠征書類に戦闘関係の書類がつくんだよ。遠征って資材確保だけじゃないの?」

 

『不意な遭遇戦の時に艦娘が戦えませんじゃ、犠牲が出るからだ。そんなことを知らないのかよ?』

 

「知ってます。でも、あれは非常事態で戦闘行為は事後報告でいいって話じゃなかったっけ?」 

 

『ああ、そうだな。でもおまえんところの鎮守府の遠征は『安全な内地及び海域』じゃなくて、『敵中枢及び敵の勢力圏内の奥』だろ?』

 

 え?

 

 いや待って、何それ。どういうこと?

 

 思わずジャベリンに顔を向けると、サッと反らされた。え、待って、何時からそんな無謀な遠征になったの? え、どういうこと? だって練度がそんなに上がってなかったじゃないの。

 

『薙ぎ払いって知ってるか、阿呆?』

 

「いや、なにその危険だけの単語」

 

『おまえんところの艦娘はな、全員が海域を『薙ぎ払えるん』だよ。もう一蹴だよ、一蹴。まあ、俺達も最近になって知ったんだけどな』

 

「え? ええええ?! ジャベリン!?」

 

 俺はおもいっきり叫んだ、叫んだまま彼女の両肩を掴んで引き寄せる。

 

「何したの?!」

 

「え、あの、その・・・・・・提督、明るいうちからは駄目ですよ」

 

「あ、はい」

 

 そっか、そっか。明るいうちは駄目か、じゃ夜になってからだな。うんうん、そっかぁ。

 

「って騙されるかぁぁぁぁ! 誰が最初にやったの?! 一番最初にそんな危ないことしたの誰?!」

 

 まさか、エンタープライズか。いや大和って可能性が高い、イオナやコンゴウもあれでプッツンブッパやりそうだ。信濃や土佐は安全だ、別の意味でイムヤとゴーヤも外せる。

 

 電は艤装が危ない気がするけど、あの子は優しいからな。ユニコーンも同じ理由で大丈夫だ。愛宕は微妙だろ、歩く弾薬庫って誰かが言っていたし。

 

 如月は防御は高いだけで遠距離攻撃や広域攻撃はできないはずだから、出来ないよね? レーザーとかビームとかやれる気がするけど、出来ないってことにしておこう。夕立は魚雷の種類だけだから、薙ぎ払いは無理だし。天津風は速度最優先のはず。睦月はもっと一対一の戦闘が主体だって言っていたから。

 

 フロンティアとエターナルは最近になって来たから外せる。これは簡単。

 

 え? あれ、誰も残らないけど、誰がやったの。

 

「本当に言わないとだめですか?」

 

「当たり前だ。頼む、ジャベリン、どの『艦娘』が最初にやったの?」

 

「え?」

 

「あれ?」

 

 ちょっと困った顔のジャベリンに、俺は色々と察してしまった。あ、これは『艦娘が最初じゃないな』と。

 

 ということは、だ。艦娘じゃなくて広域攻撃ができる存在っていうと、誰がいるかって言うと。

 

 ダメだ、当てはまる奴が多すぎて、割り出せない。

 

 コナンだって最大の宝具は、世界をひっくり返すし。ギルの宝具は確か『対界宝具』だ、それ以外もいっぱいあるから薙ぎ払い楽勝だろう。ソープも空間ごと崩壊させられるし、エルの最大攻撃はそもそも太陽を発生させる。

 

 で、アインズ。あいつの最大攻撃は一面が死に絶えて滅びるから、薙ぎ払うって表現にはちょっと遠いかなって気がするけど、あれが『あいつの中での最大攻撃』じゃないかもしれない。

 

 く、ダメだ。誰だ? 誰なんだ?

 

「教えてくれ、ジャベリン。誰が最初にやった?」

 

「解りました。最初にやったのは」

 

「最初にやったのは?」

 

「コナンさんに、ギルさんに、ソープさん、エルさん、アインズさんです」

 

 まさかの全員正解?! なんで?! なんでそんな全員でやっちゃったの?!

 

「提督が言ったからじゃないですか。『あ、この中で誰が一番、攻撃力が強いんだろうね』って」

 

「・・・・・・・・ああ」

 

 いや忘れた、ばっちり思い出したよ。うんうん、そうだ、確かに言った。あの時はちょっと眠くて油断していて。目の前に全員がいたから、『誰が強いの』的なことを言った。

 

「そっか、そっか。キンジ! 俺が原因だった!」

 

『へぇ~~~そうか、そうか。死ぬかてめぇ』

 

「ごめんなさい」

 

 俺は素直に通信機に向けて土下座したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、やたらと鎮守府が騒がしかった。

 

 誰もが嬉しそうな顔をして港に集まっていた。なんでそんな顔をしているのか疑問だったんだけど、怖くて聞けなかった。

 

 俺は臆病になったのかな?

 

 いや人間は元々が臆病なものだ。俺だけがそうじゃない、誰だって怖いものには近づかないだろ? 

 

 なあ、同士諸君。戦争の時間だ、とでも言えばいいのか。

 

「じゃマスター、ちょっと行ってくるからな」

 

「え、コナン、何処にだよ?」

 

「何処って・・・・・・」

 

 見なれたスケートボードの上に乗ったコナンが振り返る。並に揺られる彼は揺れることなく振り返って俺に笑いかけた。

 

「ちょっと遠征して資材を取りに」

 

「あ、はい」

 

 とてもいい笑顔で、とても怖い気配を持って。

 

 こうして俺は、うちの鎮守府の『全戦力の遠征』を見送ったのでした。

 

 後日、高野総長から『おまえ、苦労していたんだな』って言葉と、『海の資源の一人占めは禁止されているからな』ってお小言を貰いました。

 

 そっか、そうだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 




 

 艦これはゲームやったことないです。動画は見たことあります。遠征で資材が貰えますよね、あれって味方の海域だけなんですかね、戦闘とかないんですかね。

 え、敵の領海から貰ったほうが多くね?

 的な話でお送りしました。







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ごく普通の提督になれた気がします



 さてさて、最後の防壁(コナン)がアウトしました。

 もう主人公を護ってくれる防壁はありません。

 さあ、下り坂ではなく穴が空いたように落下してくれるかな。

 それとも持ち直すかな。

 的な話です。







 

 

 今日も何処かで悲鳴が上がる。

 

「・・・・おい」

 

 きっと誰かが悲しんでいるのだろうが、今の俺には力がない。

 

「なるほど、そうなったか」

 

 力がないけど、出来ることはある。しっかりと書類を作成し提出し、戦術を考えて指揮する。

 

「怖いなぁ」

 

 今日の遠征書類はこれでよし、次は戦闘か。いや待った、確か他の鎮守府からの応援要請があったはずだから。

 

「こ、怖いですね」

 

 あったあった、これか。敵の予想戦力はこっちにあるから、向けるとしたら大和にイオナだな。エンタープライズは念のためにつけよう。

 

「決まったぞ! 『提督の逆上! 我が世の果ては来たれり!』だ!!」

 

 土佐と信濃は南方の調査に向けよう。深海棲艦の様子が怪しい、念のためにイムヤとゴーヤは海中からの調査を。コンゴウは鎮守府に残して、念のための予備戦力だ。

 

「・・・・・お、俺は間違っていたのか?」

 

「コナン、おまえはよくやった。よくやったが、やりすぎたようだ。見るがいい、あのマスターの顔を」

 

「うんうん、提督って顔しているね」

 

「そうですね、凄いです」

 

「素晴らしいぞ!」

 

 なんだかうるさいな、どうしたんだよ、お前ら?

 

 コナン、ギル、ソープ、エル、アインズ、そんなところで首を並べているなら仕事しろよ。

 

「マスターに言われた。マスターに言われた」

 

「コナン、落ち着くがいい。それ以上は止めておけ、我の愉悦センサーが盛大に動いてしまう。おまえを標的にはしたくない。今は、な」

 

 どうしたんだよ、なんでギルはそんな慈愛と笑みを含めたような顔して、何かを我慢しているんだよ。

 

「いいから仕事しろよ、おまえら。ただ飯ぐらいはいらないぞ」

 

 まったく。

 

「おまえが言うな!!」

 

 え、なんで俺が怒鳴られるの。俺、普通のことを言っているだけだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからな、なんでおまえはたった一週間でそんなになってんだよ? なんで普通に仕事してんだよ、何があったんだよ? 俺達が遠征に行っている間に何があったんだよ?」

 

「コナン、そんなにいきなり色々と聞かれても困るから、ちょっと待て。ジャベリン、遠征なんだけど、艦隊を二つに分ける。ジャベリンと吹雪を旗艦にして、二編成だ」

 

「解りました」

 

 よっし、これで艦隊二つ分の資材が確保できるな。編成はどうするか、駆逐艦だけでもいいが、念のために空母も入れないと。

 

 ジャベリンの方に電を入れて、後は如月と夕立。吹雪の方は天津風に睦月で組ませた方がいいな。艤装の能力値から考えても、吹雪のほうが速度を上げていくからな。

 

「よっし、いいぞ、コナン。で? なんだよ?」

 

「いや、いい。なんでもない」

 

 簡単に引き下がるなよ、気になるじゃないか。何か質問したいなら、俺がきちんと聞いてやるから。

 

「この状態のマスターが続けば、きっといいんだろうけど、なんだか何か大切なものを失ってしまったような」

 

「お~いコナン、いきなり考え事して何があったんだよ?」

 

「いや俺の気の所為だ。そうだ、今のままが一番なんだからな。よっし、じゃあマスター書類は終わってるんだよな?」

 

「ああ、終わっているぞ」

 

 見るかとコナンに差し出すと、彼はすっごい勢いで読みだした。うわぁ、あれくらいの速度で読める能力が俺にあればな、もっと効率的かつスピーディーに事務仕事ができるのに。

 

 そうなれば、他に出来ることが増えるのになぁ。

 

「すげぇ、完璧だ。あれだけできなかった書類が、こんなに完璧に終わっている。本当に何があったんだよ? 俺たちがいない間に何があった?!」

 

「何がって・・・・・ただ七草さんと高野総長が来て、俺に教えてくれただけだけど?」

 

 うん、いい思い出だな。

 

 もう震えが来るほど、色々と教えられた。二度と味わいたくないほどに、体の底から徹底的に叩きこまれた。

 

 資材管理から艦隊運用、近隣への対応から書類の作成・管理まで。色々あったなぁ。

 

「マスター、どうしたんだ?」

 

「ふ、ふふふ、コナン、俺はもう二度と前には戻らない。ビバ普通だ!」

 

「お、おう。本当に何をどう教え込んだんだよ、高野総長。あのマスターがこんなに立派になって」

 

「ふふふふふふふ、俺はもう二度と書類を投げ出したりしない。あの地獄をもう一度なんて絶対に嫌だ。毎日毎日、一時間睡眠とかあり得ない。人間は七時間の睡眠が普通なんだぞ、それを居眠りしたら撲殺されかけるって」

 

「ギル、よせ」

 

「コナン、王の決定である。さがれ」

 

「ダメだ、ギルガメッシュ。今は駄目だ」

 

「下がれ、我の中の愉悦が叫んでいる。今のマスターに何かしたら、もっと面白い何かが来る、と」

 

「いやそれ元に戻るだけだろうが!」

 

「どけ! 名探偵! 王の前を塞ぐとは何事か?!」

 

「俺が絶対に阻止してやる! もう二度とあんなことは嫌なんだ!」

 

「よかろう、ここで決着をつけてやろう。来るがいい、名探偵よ」

 

「その傲慢さを打ち砕いてやるよ、英雄王」

 

 あれ、なんだろう、何か震えている間にうちのサーヴァントが凄い気配で睨み合っている。

 

 あれぇ~?

 

 なんで二人とも宝具を抜いているのかな、どうしてそこまで殺気だって笑顔になっているのかな。

 

「いや、ちょっと待て、二人とも。ここ鎮守府、ここでやったら資材が」

 

「行くぞ『エア』よ! おまえに相応しい舞台が整った!」

 

「来いよ! 俺の全部をかけておまえを砕いてやる!」

 

「だからちょっと待てって!」

 

 なんかヒートアップしてるんですけど?! 

 

 だれかいないか、誰かこの二人を止められる奴は。どうにかして止めないとせっかくの資材が。

 

「そうだ! 妖精さん!」

 

『呼ばれました』

 

『飛び出しました』

 

『何か御用ですか?』

 

「あの二人を止めろ!」

 

 もうなりふり構っていられない! どうなってもいいから資材だけ護れたら! 護れたら!

 

『ではこのカードです』

 

「・・・・・え?」

 

『タイムベント(仮)』

 

『時は巻き戻りますです』

 

 はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そして、時は動きだす』

 

 あれ? 何この妙な恰好の妖精は? 

 

 妖精様って呼ばないといけないのかな、どうしてそんな変な恰好しているのかな。

 

「マスター、何したんだよ?!」

 

「この我を出し抜くだとぉ?!」

 

「え、いや何したって?」

 

 何が何やら。えっと、この妖精、背中に『でぃお』って書いてあるけど、何ものなんだろう、初めて見たけど。

 

「今、時間を操作したの誰?! すっごい三次元が不安定になったんだけど?!」

 

「え、ソープ、何がなんだって? 時間って操作できるの?」

 

 うわぁ、何それ。時間操作ってどんなチートなのさ。

 

「時間操作とは高等技術を使うものだな。フフ、このアインズ・ウール・ゴウン、久しぶりに全力で戦えそうだ」

 

「いや待った。なんで昔の『魔王』スタイルに戻っているわけ?」

 

「違うのか? ならばこのニュースタイルだ!」

 

 おう、なんだか一瞬でアインズが豪華絢爛な極悪魔王から、カウボーイスタイルの若大将になったんだけど。

 

「フ、やはり私はこういったスタイルがもっともしっくりくるな。どれ、この格好のまま街角で流しの歌手でもしてみようか」

 

 いや止めて、なんで嬉しそうに歩きだしているのさ。待って待って、本当に待って、せっかく街の人たちが『あ、ようやく普通の鎮守府になった』って喜んでいたのに。

 

 せっかく、普通の鎮守府になれたのに。

 

 ビバ普通だったのに。

 

 あれ? あああ!

 

「そっか! 俺は普通の生活をしたいだけで、普通の鎮守府生活がしたいわけじゃないんだ!」

 

「今そこかよ!?」

 

「遅い! 遅すぎるぞ道化!!」

 

 やっと思い出した。俺は普通の生活を送りたかった、それだけなのに。

 

「マスター、落ち着け」

 

「コナン、俺は何をしていたんだろう、提督なんて俺には無理だ」

 

「いいか、よく聞けよマスター。今のまま深海棲艦がいたままの世界で、『普通の生活』が送れると思うのか?」

 

「は?!」

 

 な、なんてことだ。俺は何を思い違いをしていたのか。そうだよ、そうだったんだ。このまま深海棲艦がいたら、普通なんてできるわけがない。戦争をしなければいけない、物資が集められない。

 

 ク、そんな簡単なことに気づかないなんて。修一に笑われてしまうじゃないか、キンジに呆れられる。

 

「そうだ。俺は平和な世界を、穏やかな海を取り戻す。そして普通の生活を送る」

 

「ああ、そうだ。マスター、そこがスタートラインだ」

 

「ありあとう、コナン、俺はようやく目的が定まった。よっし、これからも頑張っていこう、ついてきてくれるか、名探偵?」

 

「バーロ、おまえがついてくるんだよ」

 

 俺とコナンはがっしりと手を握り合った。

 

「よかろう、我も乗ってやろう」

 

「僕もいいかな?」

 

「僕もやりますよ」

 

「私も参加させてもらおう」

 

 ありがとう、ギル、ソープ、エル、アインズ。皆がいてくれるなら、俺は何処でも戦えそうだ。

 

「皆がいてくれて、本当に助かる。まずは深海棲艦を残らず駆逐して、平穏を取り戻す」

 

 俺の決意に誰も笑うことなく頷いてくれた。よかった、俺はいい仲間に巡り合えた。提督なんてものになって、不幸だなって思ったこともあったけど、こうしていい仲間に巡り合えたなら、こんな生活も悪くないな。

 

「では皆、暁の水平線に勝利を刻みに行こう」

 

 ここからが始まりだ、本当の俺のスタートラインだ。

 

 俺は決意を新たにして、提督として頑張っていこうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? どうしたって?」

 

「うん、修一、俺はね、頑張ろうと思ったんだよ」

 

「へぇ~~~」

 

「がんばって、頑張ってさ」

 

「そっか、そっか」

 

 優しく俺の肩を叩く修一に、俺は顔を上げて涙を振り払おうとした。でも無理だった。

 

「一か月で何とかなるか」

 

 キンジ、それで何とかなるなら、どうにかしてくれ。

 

「ほっっっとうに、田中君は面白いことしてくれるわね」

 

 すみません、七草さん。俺はやるつもりなんてなかったんです。

 

「田中、おまえにいい医者を紹介してやろう」

 

 高野総長、俺もう痛くて痛くて胃薬じゃダメなんです。

 

「マスター、俺の苦労が解ってくれたんだよな?」

 

 コナン、すまん、俺は過去に戻れたら真っ先に俺を殴ってやるから。

 

「ふあはははははははは・・・と笑い話で終われんな、流石に」

 

 ギル、今回は笑ってくれ。もう盛大に笑い飛ばしてくれ。

 

「ごめん、僕も今度のことは悪いと思っているよ」

 

 てめぇソープ、悪いって思っているならやるなよ。

 

「凄いです! かっこいいです! 最強です!」

 

 エルぅぅぅぅ! 元凶がはしゃいでんじゃないよ!

 

「まさに魔王か。私が直々に認めてやろう」

 

 アインズ、それは嬉しくない、そんなことされても嬉しくない。

 

『まさに神!』

 

『まさに魔神!』

 

『まさに破壊神!』

 

『最高傑作の誕生です!』

 

 妖精さん達が憎らしい、本当に憎らしい。

 

 あの鎮守府を更地にしたデスザウラーを作ったエルもそうだけど、それに加担にした妖精さん達が本当に憎らしい。

 

 うう、集めに集めた資材が、あんな翼と大砲を生やした恐竜に消えるなんて、そんなことあっていいはずがないのに。

 

「司令官、あれはどうしたらいいですか?」

 

「吹雪、どうしたらいいかって。そうだなぁ、近隣に被害が出る前に破壊したいかな?」

 

 破壊できるのかな? なんか、第一艦隊の艤装データ使ったとか、他の艦娘の艤装データとか使っているって言うけど。

 

 強固で不可視な防壁を展開できる上に、装甲も厚いから一撃で倒せないって妖精さん達が行っているけど。

 

「解りました」

 

「え?」

 

 俺の目の前で、デスザウラーが崩れ落ちていく。もう粉々になって砕け散ったというか、爆発していく前に分割されたような。

 

「終わりましたよ、提督」

 

「あ、はい。ありがとう、吹雪」

 

 とても綺麗な笑顔の彼女は、何時の間にか持っていたナイフを逆手に持っていた。

 

 え? まさか、ナイフ一本で解体したの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 さて、普通の提督になった主人公ですが、そのために今まで抑えつけられていたストレスが、胃を直撃していきます。

 コナンを通していたからこそのストレス軽減もなくなり、直撃です。

 さあ、次第に苦しむことなった主人公は、どうなりますでしょうか。

 的な話となっています。







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ごく普通に鎮守府再建、なんてさせない!

 

 前回、鎮守府が壊滅しました。

 敵の攻撃だったら怒りを燃やせるのに、身内の攻撃だったからもう大変です。

 軍人たちは優しかったです。

 でも、艦娘達は?

 的な話を送りたいと考えています。







 

 

 地面って暖かいって知ってます?

 

 田中・一郎でございますぅ。

 

 はは、笑ってくれ。今の俺、地面に寝てるんだぜ。なんでかって? それはね、もうね、情けない話になるんだけどさ。

 

 鎮守府が更地になったのよ。コンクリートとかで舗装されていた場所も、もう見事に土色。

 

 立派な建物があったんだよ。工廠もあったんだよ、艦娘の寮もあったんだけど、すべてが消えたさ。

 

「遺言は終わったか、エル?」

 

「待ってください! 確かに僕がやらかしたのは認めます! しかし科学の発展に犠牲は付きもの! 人の命を護るために鎮守府は犠牲になったんです!」

 

 何この子。すっごいいいこと言っているのに、なんでか『可愛い子、虐めてます』って気分にさせるんだ?

 

 俺、悪いことしてないよね? 普通にお説教しているだけだよね? あれ、俺がいじめっ子なのか? 鎮守府を壊滅させたのはエルが作ったデスザウラー(重火力モリモリ)だったはず。

 

 だから、俺はお説教するべき。提督として、鎮守府のトップとして、やらかした部下をしからないといけないのに。

 

 しかも相手、男。見た目、かなりの美少女でも男。サラサラの銀髪で、服装がちょっと可愛いヒラヒラに見えなくもないけど、男だから。

 

「僕を怒るんですか、提督?」

 

「う・・・・・」

 

 このオーラ、そこら辺の美少女が霞むくらい可愛いって、何こいつ。本当に最初に会った時に、『え、男、嘘だろ、馬鹿なこと言ってんな』とか思った俺は悪くない。

 

 解った、今回だけな。なんて言えない、何故って俺は提督だ。一部隊のトップとして部下は教育しないといけない。

 

「なのです」

 

 決して! 決して後ろにいる電が怖いわけじゃない!!

 

 絶対に! 後ろにいる駆逐艦達のすっごい笑顔が怖いわけじゃないからな!

 

 あ、胃が痛い。胃薬、飲もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。壊滅した理由は解った」

 

 あ、はい。というわけで、全員が戻っての説明となりました。うん、仕方ないよね。俺が悪いわけじゃないからさ、今回は完全に俺が悪いわけじゃないっていうか、俺が止めている暇なかったといいますか。

 

「提督?」

 

「あ、はい、エンタープライズ。そのね、あのね」

 

「何か言いたいことがあるなら、私の目を見て言ってくれないか?」

 

 おう、ジッと見つめてくるエンタープライズ、マジでイケメン。なんでうちの鎮守府って、男らしい女の人とか、女以上に女の子の男っているのかな?

 

「実は鎮守府が消えた」

 

「ほう?」

 

「なのです」

 

「待って! 待って電! ゴジラは俺が死ぬ! 本当に死ぬから!」

 

 怖い、本当に怖い。あの連れてるゴジラ、すっごい背びれが放電してた。もうそこからビームとか撃ちそうな気がするくらいに、光を纏っていたから。

 

 ゴジラって、口からじゃないの。あれ、修一が『シン・ゴジラだと背びれだぞ』って言っていた気が。ま、まっさかぁ。電のゴジラは普通のゴジラだから背びれからなんて。まさか、大和みたいに『ゴジラなら全部』はないはず。

 

 そう信じている!

 

「司令官さんは、本当にダメダメなのです」

 

「解っているさ。けど、俺は何時までもダメなままじゃない。これからは俺が提督として頑張るから、俺を支えてくれ」

 

 今までの俺がどんだけ最低だったかは思い知った。これから頑張っていこうと決めて、頑張ってみたのに。最初の出だしで転ぶなんて。これじゃ何を言っても皆は納得してくれないかもしれない。

 

 最悪、俺の鎮守府は艦娘を集めることから始めるしかないかもしれないが、言っておかないといけない。うやむやになんてできない、俺は真っ直ぐに切実に艦娘達に向き合う。

 

 もう二度と、自堕落な提督の姿なんて見せない!

 

「なるほど。提督は気持ちを新たにしたわけだ。ならば、私達も新しい気持ちで向かい合うべきだな」

 

「エンタープライズ」

 

「司令官さんがそういうなら、電達は司令官さんについていくだけなのです」

 

 ああ、ありがとう。俺はいい艦娘に恵まれたようだ。こんな愚かな提督についてきてくれるなんて、本当にありがとう。

 

「ありがとう」

 

「うう、いい話を見させてもらいました。このエルネスティ! 貴方達の住み家を壊した責任を取ります!」

 

「はい?」

 

 あれ、いいことを言っているはずなのに、どうしてなんだろう。

 

 妙に寒気を感じないか?

 

 今のエルは本当に責任を感じて、どうにか今の状況を対応しようと考えていてくれるのに、どうしてか寒気が止まらない。

 

「ほう、ならばエル。私の要望を聞いてくれるか?」

 

「もちろんです!」

 

「電達のもあります」

 

「朝飯前です! 見事とやり遂げて見せましょう!」

 

 あれぇ~~なんで俺を余所に話が纏まっていくのだろう。俺、提督だよね、この鎮守府の責任者だよね。なんで俺を通り越して、話が纏められていくのだろうか。

 

 あ、胃が痛い。胃薬、胃薬。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 そして、俺は一夜を地面で寝て過ごした。うん、地面って暖かいなぁと思って起きて見ると。

 

 なんてことでしょう、目の前に執務室が出来上がっていました。

 

「さあ! 提督、こちらへどうぞ!」

 

「・・・・エル、何した?」

 

「ただ、最初に提督の執務室から造っていこうと考えただけです」

 

「へぇ~~」

 

 なんか嫌な予感するけど、エルの顔に嘘はない。本当に執務室から造るつもりでいるのだろう。

 

 きっと! ギルの姿が見えないことやコナンがいないことが気になるけど。

 

 よっし、執務室に入ってイスに座る。ああ、懐かしい感触だ。ここから心機一転、やり直しておこう。

 

「では僕は引き続き、鎮守府の再建を頑張ります!」

 

「おう、頼むな」

 

 気合が入っているな、エル。なんだか、あの小さな背中が頼もしく見えてきた。あれ、でも寒気が止まらない。風邪でも引いたかな?

 

「提督、いいかな?」

 

「ソープ、どうした?」

 

「実は鎮守府の中の警報装置と配線とかを、新機軸のものに変えたいんでね。許可をもらいたいのさ」

 

「今までのじゃダメなのか?」

 

「新しく造るからもっと効率的なものにしたい。僕たちの鎮守府だからね」

 

 ソープ、そうか、おまえもそう言ってくれるか。ありがとう。

 

「任せる。けれど、資材は大丈夫か?」

 

「それならば問題ない」

 

 ギル、おまえがそんなに優しい顔で入ってくるって、何か裏があるんじゃないのか?

 

「フ、マスターよ。今回の件は我も思うところがある。我が財を投じてやろう、存分に使うがいいソープよ」

 

「ありがとう、ギル。さっそく、取り掛かってもいいかな、提督?」

 

 そうか。ありがとう、ギル、ありがとう、ソープ。二人がこんなに協力してくれるなんて、いい鎮守府になるだろう。

 

「解った、頼む。後、特定の資材、特にボーキなんだが」

 

「そっちはもう大丈夫、話はつけてきた」

 

 おお、コナン。さすが、俺に代わって鎮守府を運営してくれていただけはある、何処から貰って来たのか解らないが、鎮守府を運営するに十分な特殊資材があるじゃないか。

 

「マスターが頑張っているんだ、俺も頑張らないとな。軍令部と主計科に話をつけてきた、存分に使っていいぞ。足りなければ、俺がまた交渉してきてやる」

 

「ありがとう、コナン。さすが名探偵」

 

「よせやい、簡単な推理だろ?」

 

 頼もしいことだ。さあ、資材は集まった、資金はギルが出してくれる。後はエルが設計をしてくれる鎮守府を作るだけだ。

 

『提督、我らも一命を賭して望む所存です』

 

『我らの新しい鎮守府のためです』

 

『提督と艦娘のために頑張りますです』

 

『世界に誇れる鎮守府を造って見せます』

 

 妖精さん達まで。最初の時に、あの規格外の妖精さん達を見て、どうなってしまうのか不安だったが、こんな毅然とした態度を見せてくれるなら、安心して任せられる。

 

「艦娘達も皆、それぞれに得意なことで手伝ってくれているぜ」

 

「そうか、そうなんだな。俺は幸せ者だな。こんなに頼もしい仲間たちに囲まれて」

 

「これもマスターが提督として成長したからだろ?」

 

 よせよ、コナン。俺はただ、普通の提督になっただけさ。昔のように、誰かに任せっきりで逃げない、それだけだからな。

 

「じゃ、俺も現場に行ってくるから、書類は任せたからな」

 

「おう、任せとけ」

 

 よっし、ならば俺は書類を頑張ろう。新しい鎮守府は、皆が見事に作ってくれるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、考えていた数時間前の俺を殴りたいです。やっぱ、現場を見に行けばよかった。

 

 執務室は完全防音されてないから、外の音ってとてもよく聞こえるんだよね。本当、嫌になるくらいにすっごくよく聞こえる。

 

「あれ? デスザウラーの骨格って使えませんか?」

 

「それだ!」

 

 おい、お前ら。『それだ』じゃないって。何に使うんだよ、あんな巨大な恐竜うの骨格。

 

「核融合炉でエネルギーを」

 

「そんな低出力じゃなくて、対消滅機関とかでいいんじゃないの?」

 

「さすがソープさん、その技術は僕にはないので」

 

「やっておくよ。エルは壁に術式を刻むんでしょう?」

 

「はい! アインズさんと一緒に強化魔法を刻んでおきます」

 

 なんだって、何が何をどうするって? 待っておまえら、どうしてそんなものが必要なの。強化魔法って何を強化するものなのか、俺は知らないんだけど。書類も出てないよ、本当に勝手に何をやっているのさ。 

 

 け、けど、俺は椅子から動かない。書類をやりながら、皆に任せると決めた自分の心を信じた。

 

 信じてしまったんだ。

 

「ソープ、あの大砲だが、使えんのか?」

 

「ええ、ギルは何に使うつもりなの? バスター・ランチャーって出力的に空間を歪ませるんだけど?」

 

「外敵は薙ぎ払うものではないのか?」

 

「そうだね」

 

 お~~い、そうだねじゃないよ。薙ぎ払うなよ、なんで最初の愚行を繰り返そうとしてんの。おまえらがそんなんだから、艦娘達が薙ぎ払うを覚えちまったんだろうが。

 

 もうダメだ。止めてこよう。俺は立ち上がりかけて、皆の笑顔を思い出してしまった。任せてと言っていた彼ら、その信頼をここで止めたら裏切ってしまうのではないか。

 

 俺は首を振って、イスに座る。いいや、彼らのことだ。そんなことを言いつつ、普通の鎮守府にしてくれるだろう。

 

「艦娘の出撃ドックなんだけど、カタパルトは必要だろ? 燃料の消費が抑えられるんじゃないか?」

 

「カタパルトですか、どれを使いますか?」

 

「電磁カタパルトなら遠くまで飛ばせるんじゃないか?」

 

 おい、コナン。なんでおまえ、そこで電磁カタパルトを出した?

 

 なんでおまえまで、そんな変な会話に加わっているんだよ。どうしてだよ、なんでおまえが止めてくれない。前は止めてくれただろうが。

 

 あれか、ひょっとして俺の補佐で頑張った分、今ははっちゃけちゃったか。嘘だろ、名探偵。嘘だと言ってくれ。

 

「いっそのこと、グライダーで打ち出してくれないか?」 

 

 エンタープライズ! おまえは何があった!? グライダーで打ち出すって何処まで飛ばすつもりだ?!

 

「あ、ワープ回路でもいいですよ」

 

 まさかの電が裏切り、そんなことを言う子じゃなかったのに。なんでそんな転移とかしちゃう出撃を希望するかな。

 

「転送システムって、誰か組めませんでしたか?」

 

「私が出来る」

 

「私もできるが」

 

 エル、おまえはやっぱふざけてるだろ。イオナとコンゴウもなんで、そんなシステムができるのさ。転送して何を送るつもりなんだ。武器か、燃料か。

 

「ふむ、自爆装置はつけるべきではないか?」

 

「さっすがアインズ、魔王様は解っているね」

 

「男のロマンですね」

 

「証拠隠滅みたいで俺は嫌いなんだけどな」

 

「致し方ないな。様式美というものは我も心得ている」

 

 誰か本当に否定して! なんで鎮守府に自爆装置が必要なのか、誰か気づいてあげて。本当になんでそこに行ったのか、問い詰めたい。

 

 もうダメだ。これ以上は俺の胃が持たない。決意を込めて俺は立ち上がり、ドアノブを回して扉を、開け・・・・・開かない?!

 

「あれ、あそこって執務室の扉じゃなかったですか?」

 

「提督ならば執務中だ。少しくらい『機動兵器を置いても』大丈夫だろ?」

 

「そうだな・・・・・・クククク」

 

 おいてめぇ! どういうことだ?! なんで扉が開かないくらいの機動兵器が、うちの鎮守府にあるんだよ!? おまえら何を作った!?

 

 特にギル! 含み笑いなんておまえのキャラじゃないだろうが、英雄王の誇りは何処行った。

 

「愉悦のためだ、提督。我が愉悦のため故にな、提督」

 

「てめぇ、やっぱり何か企んでやがったな」

 

「当たり前であろう。我は愉悦王だ」

 

 ク、一瞬でもこいつを信じた俺が馬鹿だった!

 

 こうして俺は、鎮守府の再建の間、執務室に缶詰となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い夜だった。永遠の地獄に感じた、本当に俺はもう胃が痛い。

 

「見てください! やはり『基地』はこうでないと!」

 

「あ、そうだな。エル。おまえ、今後二度と資材に触らせない」

 

「何故です?!」

 

 あのな、そんなに驚くなよ。当たり前だろ、お前以外は全員が逃げ出したんだぞ。まあ、逃げたって言っても、あっちの倉庫の隅で固まって笑っているけどさ。

 

「なあ、エル。鎮守府の壁が真っ黒なんだけど」

 

「はい! 最高品質のアダマンダイトを何層も重ねた上に、超合金Zが手に入ったので重ねてみました!」

 

「鎮守府がすべて二階建でしかないんだけど」

 

「それは密集させることで、防御能力を上げたためです。後、もう一つ理由があります」

 

「へぇ~~工廠の後ろに見えるしっぽななんだ?」

 

「そちらが最大の目玉でして。この鎮守府、いざという時は変形してデスザウラーになって移動できます!」

 

「そっか、そっか」

 

『がんばりました』

 

『最高傑作です』

 

『動力炉は対消滅に重力子エンジンと、縮退炉を搭載できました』

 

『この地球で出力で勝るものはいない』

 

「その上に荷電粒子砲は周囲を覆うフィールドをはわせることで、全包囲に攻撃できます」

 

「なるほどな」

 

「はい! その上にですよ! 何よりも!」

 

「おお、どうした?」

 

「はい! デスザウラーから人型に変形できます! ようするに巨大ロボットです!」

 

 目をキラキラさせたエルが、とても楽しそうに語る。俺はそれを見つめた後、にっこり笑顔で右手に持ったハリセンを叩きつけたのでした。

 

「ふっざけんな! 何処の世界に恐竜になって人型になる鎮守府がある?!」

 

「いたぁぁぁ?! ここにあります!」

 

「開き直るなぁぁぁ!!」

 

 真っ直ぐにブイサインして告げるエルをさらに殴った俺は、深くため息をついたのでした。

 

 あ、今度に休みには医者に行こう。

 

 本当に胃が痛い。

 

 

 

 

 

 




 さらに追い詰めてくる提督の周り。今の彼に逃げ場はなく、防壁(コナン)もいないのでストレスが胃を直撃、傷を広げていく。

 さあ、彼の胃は後何話持つでしょうか?

 的は話でそろそろ終わり見えてきた、というところです。






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ごく普通の艦これ世界って思っていました?



 鎮守府良し、周辺よし、国家よし、そろそろ本格的に締め付けていきたいと考えていたら、もっと違う形でのストレスとかあってもいいかなって。

 というわけで環境から攻めましょう。

 的な考えです。






 

 

 やあ、皆、田中・一郎です。

 

 そうそう、あの移動変形する変態鎮守府のさ。ははは、もう笑ってくれ、笑ってくれていいさ。もうね、一般市民からの苦情が凄くてすごくて。

 

『またか、お前』

 

『いい加減にしろ、馬鹿』

 

 とか、もうね直接に言ってくるから、海軍の方からお小言がざっくざっくって感じですよ。

 

 助けて。

 

 けどさ、苦情だけじゃないのが、不思議なんだよね。

 

『てめぇ、かっこいいぞ、この野郎』

 

『どうやって妖精たちを説得したんですか?』 

 

『設計図を回せ』

 

 日本の海軍って、それでいいのだろうか。嘆願書の束の内容が、ほとんどこれっていいのか、海軍。軍人ならもっと紳士的かつ冷静にならないといけないのではないか。

 

「マスター、何してんだよ?」

 

「いやコナン、この嘆願書の束を読んでいてさ。俺って、海軍では普通だなって思ってな」

 

「いや、普通ってお前さ」

 

 頼むからそう思わせてくれ。なんだか最近、俺が一番、普通から遠いって思っているんだからさ。

 

「無言で胃薬に手を伸ばすなよ」

 

「は?! 俺は何時の間に?!」

 

「お~い」

 

 ま、まさか無意識に胃薬を飲もうとするほど、追い込まれているなんて。クッソ、まだ医者に行ってないんだぞ、持つのか俺?

 

「こりゃ、まじいな。ところでマスター、イオナかコンゴウに『船体』使わせたのか?」

 

「はい? いやなんだよそれ? 船体なんて持っていたのか?」

 

「知らなかったのか? なら違うな、じゃこいつらは?」 

 

 え、何それ。待って、イオナとコンゴウって船体があるの? え、何時から使っていたの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、なんでしょうね、これ?」

 

 エル、頼むからテーブルの上に寝っ転がって読むなよ、ただでさえおまえは見た目は美少女なんだからさ。

 

「う~~ん、見た目は完全に軍艦から逸脱しているけど?」

 

 そうなんだよな、ソープが言ったとおり見た目は完全に軍艦じゃないから、今まで発見されなかったのが不思議なんだよな。

 

 あ、深海棲艦がいたからか。

 

「新しい的か? 我が少し遊んで来てやろう」

 

「待った、ギル。おまえは動くな、なんで右手に『エア』抜いてんだよ?」

 

「・・・・我の中のユニコーン・センサーが叫んでいる。あれは彼女の敵だと」

 

「おまえ本当、ユニコーン関係だと最初から殲滅戦に行くよな」

 

 どうしたんだろう、こいつ。まあ、何時も通りになってきた気がするから、放っておこう。

 

「軍令部から正式に話が来たぞ、調査のために第一艦隊派遣だ」

 

「了解、コナン。念のため、吹雪と電、ジャベリンも出しておこう。愛宕とフロンティア、それに」

 

 後ユニコーン入れたいんだけど、ダメだろうな。俺はギルを見た後に諦めた。だって凄いいい笑顔で『まさか、死ぬつもりか、良かろう』って目が語っているんだもの。

 

 はぁ、まったくさ。愉悦のために動いていたギルが懐かしい、と思ってしまう俺ってもうすでに精神的に不味いところまで来てるのかな。

 

「第一艦隊出撃せよ、この未確認の勢力を調べてこい」

 

「解った、提督、私たちに任せてくれ」

 

 呼べばすぐに来てくれるから、この子たちって案外に素直だよな。どっかの誰かさんとは大違いだ。

 

「エンタープライズ、旗艦を任せる。最善を尽くしてくれ」

 

「任せておけ、提督。では、第一艦隊出撃する」

 

 颯爽と去っていくエンタープライズ達第一艦隊。その後をついて、第二艦隊の出撃なんだけど。

 

「念のためにで二つの艦隊出したけど、これって資材が大丈夫かな?」

 

「大丈夫だろ。今回の一件、軍令部も危惧していたから、資材はあっち持ちだからな」

 

「とはいってもだ、コナン。この連中、何処からわいた?」

 

「おいおい、まさか英雄王にも解らないのか?」

 

 え、まさか、そんなわけあるか。また何時もの、『愉悦』じゃないのか。

 

「我も知らぬことはある」

 

 ウソだろ、マジか。まさか、ギルが解らないことが、世の中にあるなんてな。

 

「うん、僕もそうだからね」

 

 ソープは知らないことありそうだけどな。知っていても笑って流すこともありそうだけど。

 

「あ、でもね、一つだけ言っておくことがある」

 

「なんだよ? まさか、また資材をって話じゃないよな?」

 

「違うよ。あのね」

 

 微笑みながら近づくソープは、何故か俺の耳元で囁いた。

 

「宇宙から降ってくるから、気をつけて」

 

「は?」

 

 何が降ってくるって。

 

 意味が解らないから、ソープに再確認しようとしたんだけど、あいつは笑ったまま部屋から出て行った。

 

「なんだったんだ?」

 

「宇宙から降ってくるって、何が降ってくるんだよ」

 

「いや、コナン、俺に聞かれてもな。そっちはよろしくだ、名探偵」

 

「この状況でどうしろっていうんだよ、マスター。いくら探偵でも情報がなければ推理なんてできないぞ」

 

「情報ね」

 

 ソープが知らせたってことは、かなり重要なこと、なのか?

 

 今一、あいつの性格を把握できてないんだよな。今まで馬鹿騒ぎしかしてなかったから、こう真面目なソープってみたことないって言うか。

 

「第一艦隊、戻ったぞ」

 

「速?!」

 

 なんだかんだで、そんな速攻に行って即行で終わらせた第一艦隊と第二艦隊の帰還でした。

 

 あれ、第一艦隊だけしかいないけど。

 

「ああ・・・・・そうだな」

 

 何故か、遠い眼をするエンタープライズがいた。なんだろう、これ以上は俺は聞いていけない気がする。止まれって俺の第六感が叫んでいるんだけど、提督としては聞かないといけない。

 

 だって俺の配下の艦娘が戻らないんだぞ、報告は正確に知らないと次の行動で取り返しのつかない失敗をしそうで怖い。

 

「第二艦隊はどうした?」

 

 おい、マジでどうしたんだよ。なんでそんな遠い目を全員がしているんだ? マジで何があった、いいから教えろ。

 

「エンタープライズ、報告は正確に迅速にだ。何があった?」

 

「ああ、そうだな。提督。私は艦娘でよかったと思ったよ」

 

「はぁ?」

 

 ますます、意味が解らない。

 

 何があったんだろう?

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 第二艦隊は第一艦隊に送れること、二時間で戻ってきた。

 

「戻りました、提督」

 

 ビシッと敬礼する吹雪は、とてもいい笑顔をしていた。していたんだけど、なぁ。

 

 どうしてかな、俺は今の吹雪がよく見れない。幻のように霞んでいるように見えるのは、どうしてなのだろうか。

 

「マスター、現実逃避している場合じゃない」

 

「コナン、すまない。もう少しでいいんだ。もう少しだけ待ってくれ」

 

「待てるかよ、悪いけど直視してくれ」

 

 ああ、そうか、そうだよな。俺は提督で、彼女は艦娘だ。この鎮守府に所属している以上は、彼女が『してしまったこと』に対して責任が俺にはあるからな。

 

「解った。では吹雪」

 

「はい!」

 

「なんで君は真赤なのかな?」

 

 そう、吹雪は全身を赤く染めていた。傷はないから、それはすべて返り血ってことになるんだけど、何があったのさ、いったい。

 

 第二艦隊は全員が戻ったことを確認したから、吹雪が仲間を斬ったって可能性はない。なら赤い塗料って気がするけど、それもない。妖精さん達から『血ですね』と報告を受けているから。

 

「はい! 怪獣って赤い血を流すんですよ」

 

「はいぃ?」

 

 え、今、なんて言ったの? 怪獣? 怪獣っていいましたかか、吹雪さん。怪獣ってあの怪獣のことで会っていますでしょうか。え、待って、怪獣って何処から出てきたのさ。

 

「調査のために海域を進んでいたら、なんだか三つ首の金色の怪獣に遭遇しました。それを撃退していたら、次々に怪獣が出てきましたので、それらもすべて『分割』していたら、こんな格好になってしまって」

 

「あ、そう」

 

 ええ、何それ。怪獣っていたの、そもそも、今までどうして発見されなかったの。なんでどうして、そうなったの。

 

「マスター、続報だ」

 

「待ったコナン、それって何の続報? 何処からの情報ですか?」

 

「軍令部からだ。あの船体の組織は、『セイレーン』って言うらしい」

 

「え?」

 

 へぇ、そっか。『セイレーン』って言うのか。なるほどなるほど、でもさ、今はこっちのほうが先じゃない。

 

 吹雪が真っ赤になっているほうが先でしょうが! なんだよ、怪獣って! そんな存在が今まで確認されたことってなかったでしょうが、普通の世界だって思っていたのに怪獣がいるってどうしてだよ!?

 

 まさか転生者?! まさかまた転生者が何かしたとか、転生者が関わっているとかってことじゃないよね?!

 

「修一のところへ映像を回そう! あいつならその手の知識があるから!」

 

「あ、ああ、そうだな。ところでギルはどうした?」

 

 あいつか。あいつはなぁ。

 

 俺は無言で外を指差した。

 

 コナンも釣られて外を見た瞬間、全速力で戻ってきた。

 

「何してんだよあいつは?!」

 

「知らないって! 俺に聞くなよ! 第一艦隊が出てからすぐにああだよ!」

 

「犯罪じゃないのか?!」

 

「当人が嫌がってないから何も言えないんだよ!」

 

 もう知らない、何があってもギルにかかわるもんか。今のあいつは幻か、それか洗脳されているに違いない。

 

「よいぞ! 良いぞ! 素晴らしいではないか!」

 

 うわぁ、絶好調なギルの声がする。

 

 さっきから凄い勢いでカメラを使っているギルの正面には、ドレス姿のユニコーンが、ちょっと恥ずかしそうに笑っていた。

 

 あれ、犯罪だよな、ドレスが凄い結婚式で使うようなドレスに見えるんだけど、俺の気のせいだよな。

 

「あいつ、どんどん劣化してないか?」

 

「俺もそう思うよ」

 

 その後、俺とコナンは英雄王のあまりのポンコツ化により、忘れてしまっていた。吹雪が血まみれだったことと、彼女は凄いいい笑顔をしていたことなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修一から電話がかかってきました。

 

『なあ、特撮でもしてるのか?』

 

「全部、吹雪達がとってきた、嘘偽りない記録だよ」

 

『マジかぁ。転生者がこれだけいるから、覚悟していたんだけどな』

 

 なんだか凄いため息が聞こえる。修一がここまで落ち込むって、珍しいことなんだけど、そんなにも。

 

『とりあえず、セイレーンは当たりだな。本当にアズレンのセイレーンだ』

 

 そうなんだ。アズレンってのが何か解らないけど、敵ってことでいいんだよな。

 

『で、次がゴジラ映画に出てた怪獣が、人の大きさで出たってわけだな。でも怪しい奴がいくつかいたから、ひょっとしたら特撮系の怪獣が全部かもしれない』

 

 特撮系ってなんだろう、特殊技術での撮影かな? 修一ってこっちが解っているつもりで話をするから、付いていけないことがあるんだよね。

 

『で、問題は最後のほうに映っている奴だけど』

 

「ああ、あれ」

 

『間違いなく、『BETA』だ。何でこいつらがいる。こいつら完全に人類に敵対して根絶やしにしに来るぞ』

 

「うわ、危ない連中なんだ」

 

『危ないなんてもんじゃない。あいつらは俺達人間を普通の生物として見てない、そこら辺の石ころ程度にしか認識してないんじゃないか?』

 

 お~~い、そんな生物が地球にいるんですか。よく今まで他の国家とかで被害が出なかったな。

 

『けど、こんな連中がいて、今まで何もなかったっておかしくないか。今まで深海棲艦だけだったよな?』

 

「まあ、人類への被害は深海棲艦だけだったね」

 

『これは俺達鎮守府だけじゃダメだな。日本か、もしくは世界レベルで対応する話だ』

 

 そこまでの話になるか。なら、俺達がやるべきことは深海棲艦を倒しつつ、こいつらの対応をしてってことかな。

 

『悪いけど、俺の鎮守府じゃ対応でいない。もしできる奴らがいるとしたら、お前ん所だけだろうな』

 

「そっか、解った。俺は高野総長に許可を貰ってきて、そいつらへの対応に入るよ」

 

『気をつけろよ、どいつもこいつも一筋縄じゃいかない奴らばかりだ。油断していると、こっちの被害が甚大になるぞ』

 

「解ったよ、ありがと」

 

 修一との通信を終えた俺は、そのまま軍令部へ通信をつなげた。

 

 高野総長からは、『積極的に賛成はできないが、致し方ない場合は対処して良し』の許可を貰った。

 

 よっし、これで無断で動いたって叱られないな。

 

「エル、ソープ、資材を使っていいから艤装を強くしてくれ」

 

「解りました」

 

「了解」

 

「コナン、ちょっと戦術相談に乗ってくれ」

 

「ああ、俺達の常識が何処まで通じるか解らないけどな」

 

 確かにそうだが、無策で向かっていい相手じゃない。

 

「みんな、頼むぞ」

 

 全員を見回して俺はそう告げた。

 

「マスター、いいのかよ?」

 

「無害ならいいじゃないかって俺は思えてきたよ」

 

 コナンが呆れた顔で指差す先、眠っているユニコーンを膝の上に乗せて満足そうに笑っている馬鹿がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の敵が深海棲艦だけじゃなくなったその日、俺達は過酷な運命に突入していくことになった。

 

 思い返すと、あの時が転換期だったのかもしれない。

 

 歴史の転換期なんて、普通の人生だったら絶対に遭遇しなかったのにさ。

 

 俺は何時から、普通の生活から遠い場所に来ることになったのか。

 

「もう本当に」

 

『提督、我らも頑張りました』

 

『鎮守府を強化するです』

 

『縮退砲をつけるです』

 

『グランゾン作るです』

 

『マジンカイザーが必要なのです』

 

 おい、おまえら止めろ。なんでそっちに行くんだよ。

 

「さあ! 許可は貰ったから頑張るよ! バスター・ランチャーを並べてみようか!」

 

「僕はベクターキャノンの威力向上を目指します!」

 

「ふむ、ならばこのアインズ・ウール・ゴウン! 歌わせてもらおう!」

 

 ふふふふ、俺は早まったのかな。

 

「マスター、いいぞ、その顔だ。我が求めた愉悦はそこにあったのだな」

 

「おい、マスター、大丈夫か?」

 

 ギルてめぇ、覚えてろよ。コナン、いいから話し合おう。もうあっちは見ないようにして。

 

「いいんだ、コナン」

 

 悟ってしまえばいい、俺はもう悟りを開いた。

 

 ああ、そうか、俺のオケアヌスはまだ先か。そうか。

 

 あれ、なんだろう、お腹のあたりが凄い痛いや。

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 というわけです。味方の武装が増えるなら、敵も増えるのが世の中の必定だって、とある軍人さんが言っていたので。

 こっちだけ強くなっても面白くないでしょう。

 相手も強くなってこその戦争でしょう。

 イタチごっこのように何処まで行っても終わりがない。

 さあ、彼の胃は持つのか!?

 的な話をお送りしたつもりです?





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ごく普通に最終戦争? いやいじめだな

 



 そろそろ、終わりのころですね。

 当初の予定だと後二話か三話で終わりとなります。

 ちなみにですが、私は最終話から書いていくスタイルでやっています。

 たぶんね。

 的な話で逝きたいと思いますです、はい。







 

 

 

 月日が流れるのは、速すぎて。僕は何時も取り残されて。

 

 ああ、無情。

 

 どうも田中・一郎です。

 

 懐かしい話になりますが、俺達の世界の敵が深海棲艦だけじゃないことが発覚しました。

 

 あの時から二か月が経過しています。

 

 もう遠い昔みたいな感じですね。あの頃が懐かしいと、ちょっとだけあの頃に戻りたい、とか考えないな。うん。

 

 今ですか?

 

 俺は今、大学生です。

 

 やったぜ、ビバ普通の生活。

 

「現実逃避は終わったか?」

 

「修一、もうちょっとだけ。後少しだけ」

 

 普通の大学生! 普通に大学生! ごく普通! 大学生!!

 

「・・・・・おい、コナン、おまえんところの『元帥』が何や言ってるぞ」

 

「なんで俺に振るんだよ?」

 

「だってお前が補佐だろ? 軍令部総長補佐」

 

「チ」

 

 舌打ちしてんなよ、コナン。解っているさ、そんなに睨むなよ、解っているって。俺が悪いんだよな、そうだよな。

 

 改めまして、どうも海軍軍令部総長、ではなく帝国軍統合軍令部総長の田中・一郎です。

 

 はははは、俺の普通の生活が迷子ですよ、誰か迷子センターに連絡してくれないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、俺は選択を間違えた。戦うって選んだことでもなければ、高野総長に話を通したことでもないんだ。

 

 俺が間違えたのはただ一つ。あいつらに許可を出してしまったことだ。

 

「さあ! 撃ち放題ですよ!」

 

 ああ、大和が凄い笑顔で波動砲と超重力砲を撃っている。合間に魚雷とか、もう凄い花火だね。

 

「ふ、久し振りに腕が鳴るな」

 

 エンタープライズが輝いているなぁ。あれが光子魚雷かな、それともレーザーかな。うん、背後に後光が差しているようだよ。

 

「提督が見てくれている!」

 

「お姉ちゃん、頑張ろうね」

 

 土佐と信濃が凄い数の主砲を撃ちまくっているけど、あれって五十二センチ砲弾だよね。なんだか着弾地点が抉れてるけど、普通の砲弾だよね。

 

「珍しいこともある。督戦するなんて」

 

「フフフ、さすがの私も気分が高揚するな」

 

 イオナとコンゴウ、珍しく表情が変わっているね。え、俺が見ているってそんなに凄いこと。あ~~なんだろう、圧倒的な物量が海を蹂躙したり、山を消したりしているけど。

 

 これ、まだ第一艦隊だけなんだよね。

 

 ここにジャベリン達とか、イムヤ達とか入ってきたりしたら、もう蹂躙戦じゃないよね。いじめだよ、虐め。

 

 相手が深海棲艦でも怪獣でも、セイレーンでも、BETAであっても。残らず殲滅戦になっているんだぜ。

 

 それに、さ。もっと怖いものが俺の背後にいるんだよ。

 

 え? 吹雪? 大丈夫、吹雪は第一艦隊より前にいて背後からの攻撃も無視して突き進んでいるから。

 

 うん、あの子は後ろに目でもついているのかな? なんで波動砲とか超重力砲とかビームとかを回避できるのさ。いや回避できない時は斬っているけど、あれって斬れるものなの。

 

 吹雪じゃなければなんだって? いやいるじゃない、うちの鎮守府に『ある条件下では容赦ない』やつが。

 

「王の前に立つとは何たる不敬! 我がユニコーンの前を開けよ!!」

 

 はい、正解が来ました。黄金の船に乗って、玉座に座らせたユニコーンの前にたったギルが、黄金の波紋を無数に開いて武器を雨のように降らせている。

 

 もうね、あいつだけでいいんじゃね?

 

 ビームと重力兵器と、空間兵器とか入り乱れる戦場。ああ、終末戦争ってこういうものか。石原・莞爾さんって偉大だったんだな。

 

 『いや、私の考えは違うから』。あれ、なんか電波を拾ったかな。

 

「さて真打ちの登場です!」

 

「行こうか!」

 

「待って! おまえら待って! なんでこの一方的な状況でそれを出すのさ?!」

 

 なんでこいつらが動いているの?! コナンはどうした?! 止めるって言ってくれたのに、どうなっているんだ?!

 

 あれ、俺の目の錯覚かな。コナンが何故か縛られて二人の間のイスに座っているけど、どうしてなんだろう。

 

「マスター、悪い。俺はもうここまでみたいだ。おまえと過ごした日々は、決して悪くなかったぜ」

 

「こ、コナン! なんでだよ?! どうしてだ?! 俺を残して逝くつもりか?!」

 

「悪いな、先に行くぜ」

 

「コナァァァァァァァン!!」

 

 なんでそんなかっこいいセリフ残して力抜いてんだよ! おまえ死んだわけじゃないよな?! サーヴァントは死んだら粒子になって消えるって、俺に教えたのおまえだよな!

 

「俺はもう関わりたくないんだよ」

 

「あ、うん、それは解る。解るけどさ」

 

 いや切実に解るんだけど、今のエルとソープを放っておくと、なんだか凄く嫌な予感しない?

 

「フフフフ、これぞ戦場の風よ! さあ! 変形! 鎮守府ザウラー!!」

 

「待って!! それ動かしたら十万の資材が飛ぶって言ったよね?! 変形しただけで十万だって言っていたよね?!」

 

 止めてぇぇぇぇ!

 

 必死に止める俺の目の前で、俺の鎮守府は巨大な恐竜になった。なんでこんなに大きくしたのか疑問だよ。なんだよこの巨大さ。確実に五十メートルはあるじゃない。しっぽまで合わせたら百メートルとかないよね、気の迷いからそう錯覚するだけだよね。

 

「あ、下半身が沈んでますね」

 

「地面が柔らかかったからね。構わずに吹き飛ばそう」

 

 吹き飛ばすなよ! おまえ近隣住民にどう言い訳する気だよ!

 

「あ、電、お願い」

 

「なのです!!」

 

 おう、すっごい綺麗。なんだか光の束が鎮守府ザウラーの足元に突き刺さって、海面と土砂が『蒸発』したけど、なんだろう、あれ。

 

 ゴジラの熱線と電の艤装が合わさると、蒸発するんだ。一つお利口になったな。

 

「動けますね。では次に行きましょう!」

 

「行くんだね、エル。楽しみだよ」

 

「はい! ではお願いします!」

 

『主動力炉正常稼働中』

 

『副動力炉正常稼働中』

 

『全ユニットへ変形開始です』

 

『各モーター全力稼働しました』

 

『装甲変形開始、続いて内部機能の移動開始』

 

 あ、妖精さん達が動かしているのか。へぇ~~~そっか、そっか。

 

「なんて納得するかぁぁぁぁ!! 何してんだよ! 何やってんだよ!! おまえらそれやったらどんだけの資材が飛ぶか解ってるのか?!」

 

 必死に叫ぶ俺に対して、エルとソープ含めて、妖精さん達も可愛く首をかしげたのでした。

 

「え、ロマンのためなら必要では?」

 

「あ、そうだね」

 

 は?! なんだか妙な説得力があったから、つい頷いてしまった。違う、そんなことない。あんなの許せるわけがない。

 

「変形! 鎮守府カイザー!!」

 

「ええ?」

 

 なんだろう、俺がちょっと眼を放した隙に、巨大ロボットが立っているだけど。全長百メートルは超えるくらいの、胸部にデスザウラーの顔つけたロボットが仁王立ちしているんだけど。

 

「今! 艦娘達の想いと力を受け継いで!!」

 

「いや皆いるから、何そのセリフ?」

 

「必殺の! 艦娘ブレード!」

 

「ただの船じゃん!? いや側面に刃ついているけど、それって何かの軍艦じゃないの?!」

 

「そして一撃必殺! 生者必滅! 貴様にくれてやる平穏はない!!」

 

「なんか色々と混ざっている気がするけど、それは止めろエル! なんだかすっごいエネルギーだから止めろ!!」

 

「艦これデッドエンドスラッシュ!!」

 

「技名が不吉過ぎるだろうが!!!」

 

 そして、その日、深海棲艦と怪獣とセイレーンと、BETAが地上から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一大決戦だと海軍は大々的に宣伝した。後がないと、世間に説明して海軍の総力を結集して戦うって言ったらしい。

 

 陸軍もそれに同意を示して、ここに統合軍が完成したって話。なんだか、数年はかかるものが数日でトントン拍子になっていって、帝国軍統合軍令部が生まれたってわけ。

 

 で、主力が海軍だろうから、高野総長がそこのトップに入って、軍を再編成して備蓄を集めようとしてなくて怪訝な顔して。

 

 軍備を編成して艦娘だけじゃなく艦艇もかき集めて、さあやろうかってところへ俺はね、報告に行ったわけさ。

 

 解るか、皆。解ってくれ、皆。

 

 俺、全員が決死な覚悟している中へ、『終わりました』って報告持っていくしかなかったんだよ。

 

「御苦労、田中。それで今、おまえの艦隊は何処まで進んでいる?」

 

「は、え、あのその」

 

「そうか進めていないか」

 

「気落ちすんなよ。今まで時間を稼いでくれて、ありがとうな」

 

 高野総長とキンジの優しい言葉が、俺の心に突き刺さる。いや、胃かな。ジクジクとかシクシクじゃなく、ズキズキしているよ、俺の胃が。

 

 心臓じゃないだけいいのかな。胃って交換できたよね、誰か俺にいい先生を紹介してくれないか。

 

「で、具体的にどうなっている? 戦況を報告に来たのだろう?」

 

「は、はい」 

 

 どうしよう、どうやって答えよう。ヤバい、こんなことならコナン連れてくるんだった。資材の在庫確認と、周りへの謝罪を押しつけてきたけど、あっちのほうが気が楽だったかもしれない。

 

「正直に話してくれたら、後はこっちで何とかしてやるからな。大丈夫だ」

 

 キンジ、その優しさが俺には辛いんだよ。なんだよ、普段の憎まれ口はどうしたんだよ。なんで優しいんだよ。

 

「さあ、田中、話せ」

 

 うわぁ~~周りの視線が凄い殺気だっている。武者震いしている人だっている。こんな中で言わなくちゃいけないのか。

 

 俺はもう終わりかもしれない。すみません、征服王。俺はオケアヌスへ辿り着けなかった。

 

「はい、その」

 

「どうした?」

 

「終わりました」

 

 もうどうしょうもない。俺は意を決して、一気に話した。短く単純に、でも皆に聞こえるくらいにしっかりと。

 

「なんだって?」

 

 あ、高野総長が聞き返した。うん、顔色が凄い。もう呆けているでもなくて、怒っているでもない。なんだか、凍りついているような顔しているけど、仕方ないよね。

 

 後でバレるくらいなら、ここで言うしかない。だって、これだけの全軍が動いたら、資材がどうなるか。

 

 ただでさえ、俺の鎮守府が『根こそぎ』使った後だし。残せるものは残しておきたいじゃない。

 

「はい、ですから、終わりました」

 

「・・・・・・・」

 

「高野総長! しっかりしてください!」

 

「誰か軍医を呼べ! 誰でもいい走れ!」

 

「田中! おまえはそこにいろ! 報告書を提出しろ!!」

 

 うわぁ~~大混乱。なんだろう、普段は冷静で紳士然としている人たちが、阿波踊りしているように見えるよ。

 

「は! ここにあります!」

 

 用意しておいて良かった。これで俺は帰れるな。うん。

 

「待て、おまえ帰れるなんて考えてないよな?」

 

「え?」

 

「いい度胸だな、お前は。いいから残って手伝え」

 

 え、なんで、どうして? 何故か俺はキンジに襟首掴まれて、軍令部の中へ連行されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今、軍令部で高野総長の代わりに仕事してます。胃潰瘍で入院されたっていうだけど、俺も相当に辛いんだけど。

 

「・・・・・・なあ、おまえって事務仕事してなかったんだよな?」

 

「知っているだろ、キンジ。俺はコナンに押し付けてたの。そりゃ、最近になって七草さんとか高野総長にみっちり仕込まれたけど」

 

「そっか、そっか。なあ、おまえそのままな」

 

「え?」

 

 なんだろ、凄いいい笑顔しているけど。あ、うちの鎮守府から応援貰うか。吹雪とイオナとエンタープライズにコナン、これだけ呼べば大丈夫。

 

「はい、報告書は纏めました。これで大丈夫ですよ」

 

「備蓄確認とそれに伴う物資輸送完了。計画書はこれ」

 

「よっし、これで各地の軍令部への命令書は大丈夫だ」

 

「各地の軍の再編成と武装の再編成完了だ。続いていくぞ、マスター」

 

「オッケー。俺のほうで全部最終確認するから、まとめて持ってきてくれ」

 

 というわけで、俺達で頑張っています。高野総長以下、軍令部のトップが体調不良で入院している中で、俺達は頑張って仕事を回しています。

 

 統合軍になって早々に大作戦とかしたから、各地の軍に不都合が出来ているから、それを調整して、どうにか間に合わせて。

 

 ついでに備蓄とか吹き飛んだ分をどっかから補てんしないと。あ、ジャベリン達が確保に動いているから、そっちで何とかなるか。

 

「提督、九州の鎮守府の数なんだが、少し削らないか?」

 

「多いかな?」

 

 エンタープライズに言われて確認すると、確かに多いな、もう十個ほど削っても大丈夫だろ。あっちから深海棲艦とかもう来ないし、必要なのは航路の安全と護衛だから。

 

「その鎮守府、北海道に配置して。最近、あちらで海賊が出るらしい」

 

「よっし、それで移動してみよう。再編成の書類はっと」

 

「こっちで作成済みです、提督」

 

「ついでに移送計画だ」

 

 素早いね、吹雪ににコナン。よっし、問題ないな。

 

「キンジ、これ」

 

「・・・・・・なあ、おまえさ、そこにずっといろ」

 

「はい?」

 

 何を言ってんの、こいつ。俺は一鎮守府の提督だよ、俺にそんな軍令部を回すだけの能力とかあるわけないじゃん。

 

「必要なもんは揃えてやるから、高野総長もおまえの仕事ぶりを見て、おまえを押すって。救国の英雄だからな、周りも納得だろ」

 

「え、でも俺はまだ大佐」

 

「昇進させてやるよ」

 

 凄いいい笑顔でキンジは、そんなことを言った。

 

 出来るわけないじゃん。俺は笑い飛ばしたんだけどね。

 

『田中・一郎。元帥への昇格とする』

 

『軍令部総長を命じる』

 

「・・・・・・・」

 

「マスター、思えば遠くに来たな。俺は誇らしいぜ」

 

「我の予想を超えるとは、さすがだマスター」

 

 俺は、コナンとギルに挟まれて、その事例を受け取ったまま、倒れた。

 

 あ、俺ってこんなことでストレスを感じるんだなぁって、そんなことを思いつつだったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、俺は元帥で軍令部総長になったわけだ。

 

 もうね、叙勲式、任命式? なんていうか知らないけど、それを病院のベッドの上で貰ったのは、後にも先にも俺だけだって。

 

 『傷だらけの元帥』とか、『病床でも仕事した総長』とかって言われているけど、事実はまったく違うからね。 

 

「遠くに来たもんだな」

 

「そうだな」

 

 しみじみとコナンが書類を持ち上げながら言ってくる。

 

「最初に出会った時は、『雑種』と罵ったものだが。見事だ、道化」

 

 ギルがとても穏やかに笑っているから、身構えたくなってしまう。

 

 まあ、最近は何もしてこないからな。

 

「はぁ、俺は普通がいいのに」

 

 溜息一つついて、俺は胃薬を飲み込んだのでした。

 

 

 

 

 

 




 
 
 はい、というわけです。後エピローグを挟んで終わりになります。

 実は最終話は二つありまして。もう一つのほうはバッドエンドになっていましたが、私はハッピーエンド主義者なのでこっちになりました。

 バッドエンドの内容ですが、深海棲艦が怪獣やセイレーン、BETAを抑え込んでいて、人類がそれに接触して被害が出ないように、海から追い出していたって設定でした。

 で、艦娘はそんなセイレーンが外に出たくて人類に与えた力ってことで。そこに怪獣やBETAが介入して、因子が色々と変化した末に、なんとか深海棲艦が元に戻そうとして、轟沈して自分達の姿に戻るようにした、というような設定がありました。

 それで当然、深海棲艦の意義を人類が知って、提督たちが迫害されて、最後には田中君が殺害されて終わり、って流れです。

 うん、私にはバッドエンドは似合わない。というより、嫌だな。

 的な話です。

 次回、最終話です。



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ごく普通の神様転生ってことですか?

 

 最終話となりました。

 お付き合いいただきありがとうございます。

 今までの話は、これをやりたかっただけです。

 的な話で終わりとさせてください。







 

「まあ、お茶でも飲むかね?」

 

「はい、いただきます」

 

「お茶菓子もあるが、饅頭でいいかの?」

 

「ありがとうございます」

 

 ほのぼの縁側でお茶を貰っています、どうも田中・一郎です。

 

 突然ですが、俺は死にました。

 

 いや~~~胃潰瘍ってさ、いきなり血を吐くんだね。血を吐いて痛かったから、鎮痛剤とかがぶ飲みして仕事していたら、いきなり目の前が暗くなってね。

 

 まあ、ストレス溜まりましたね、って瞬間はあったから、自業自得かなぁって思っていますけど。

 

「・・・・お茶もらっておいてなんなんですけど、貴方は?」

 

「うむ、おまえさんから見たから神様じゃ」

 

「へぇ~~~~あ、修一のおかげで大変でした」

 

「そりゃ申し訳ない。わしとしてもあんな世界になるとは、思っていなかったのでな」

 

「噂に名高い、『神様ミスしました』って話ですか?」

 

 なるほど、なるほど。だからあんなに滅茶苦茶な世界だったんですね。どうりで苦労するわけですよ。普通の生活って送れないんだから。

 

「何の話をしておる?」

 

「え?」

 

 無茶苦茶、『なんだこいつ』って顔している神様って、結構レアじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 具体的に話を聞かせてもらうと、神様ってミスしないんだって。運命が壊れるか、自然界が崩壊するか、そういったものも含めて『あるがまま』。ミスとか失敗も、必然として処理されるから、予定外なことはあり得ない。

 

「自然が失敗するかね?」

 

「いいえ」

 

「法則が間違えるかね?」

 

「そりゃないでしょう」

 

「神とはその上にある存在故に、そういったこととは無縁なものじゃ。人の寿命は決められるもの。そこで終わりならば、最初から終わるものでしかない」

 

 あ、うん、なんだか哲学的なものになってきたけど、これってなんなの。俺って死んだんだよね、つまりは運命で決まっていたってことだよね。

 

 あれ、俺ってなんで死んだんだっけ?

 

 正直ストレスが溜まりまくって、鎮痛剤とか飲みまくったことは覚えているし、軍令部総長を他の誰かに譲ったことも覚えているんだけど、死因が覚えてないんだよな。

 

「ふむ、記憶の欠落はよくあることじゃが、知りたいかね?」

 

「いいえまったく」

 

 誰が自分の死因を知りたいと思うのさ。思い出せないなら、自己防衛で思い出さないだけだから、知りたいなんて思わない。

 

「・・・・神は必然のものじゃが、感情があるのでな」

 

 キラリとじい様の瞳が光った気がした。

 

 え、言うの、言っちゃうの。まさかぁ、そんな暇じゃないでしょう。貴方は世界を回しているんじゃないの。

 

「最近はオートメイション化が進んでの。ボタン一つで完了じゃ」

 

「えらく近代的な超常現象だな、おい」

 

「神は超常現象ではない、自然界そのものである」

 

 いや、どうでもいいよ、そんなこと。

 

「・・・・・・・久しぶりに戻った自宅での」

 

「止めろって!」

 

 なんで語り出すかな、この爺さん! 俺は知りたくないって言っているじゃないか。

 

「爺さんではない。神じゃ」

 

「どっちでもいいよ、話すなよ。俺は知りたくないんだよ」

 

「言わなければいけないと、わしの何かが叫んでおる」

 

「おい、じじぃ」

 

 クッソあくまで言う気だな、俺は死んでまでストレス抱えたくないんだよ。

 

「久しぶりに帰った自宅での」

 

「あ、もう解った、いいよ」

 

「ゆっくりと休んでいたらの」

 

「はいはい」

 

「見知らぬ女性が訪ねて来て」

 

「え?」

 

「『あなたの子供よ、認知して』と言われてぽっくりじゃ」

 

 おう、シット。思い出したぜ、目の前が真っ暗になってここにいたんだ。うわぁ~~子供ができたが男にとって最高のストレスって、本当だったんだ。

 

 結婚している男性は、このストレスに耐えているのか、凄いな。

 

「おまえさん、それは世間の夫婦に失礼じゃないかな?」

 

「いやいやいや、マジですよ。もう云われた瞬間に、心臓止まるって何で?」

 

 あれ、神様がなんだかすごい哀れな顔しているんだけど、何か違ったのかな。

 

「おまえさんの心臓は元気だったぞ」

 

「え?」

 

「胃のほうが崩壊しただけじゃ。出血多量での死亡というわけだ」

 

「え?」

 

「しかも、その女性、部屋を間違えただけでの」

 

「はい?」

 

「うむ、おまえさんの死因は、相手の勘違いじゃ」

 

 おーい、マジですか、神様。何それ。

 

「最大級の幸運を使い果たした者の末路など、そんなものじゃろうが」

 

「え、まあ、俺って幸運だったんだ」

 

「あれだけの艦娘や協力者を得て、一組織のトップに登りつめたのは、幸運といえんのか?」

 

 納得しちゃったよ。そっか、俺ってあれで幸運を使い果たしていたのか。なるほどなるほど。

 

「それで、俺はどうなるんですか?」

 

「うむ、今度は転生させることにした」

 

「はぁ、それで。え、待って、『今度は』?」

 

「実はの、あの世界でおまえさんだけ転生者じゃないのじゃ」

 

「え、何で?」

 

「普通は死ねば魂は分解されて、新しく生み出される。しかし、あの世界は皆が転生者で、二度目以降の人生を歩んでいる。おまえさんだけが、初ということじゃな」

 

 へぇ~~~~え? なのその最初から差がついていましたって話。

 

「では転生を行う。転生特典もつけてやろう」

 

「え、待って、何それ、どういうこと」

 

「転生特典は『手のひら鎮守府』じゃな。あの鎮守府の『すべてを召喚可能』とする」

 

「はい?」

 

 こうして俺はめでたく、転生者の仲間入りしました。

 

 嬉しくねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつは、存在が特殊だった。

 

 英雄王と名探偵をの間にいて、普通とか叫びながらも普通じゃない戦力を従えて、艦娘っぽい子たちのいる鎮守府を片手に、世界を旅する。

 

「今日も俺の普通の生活が迷子です、誰か探してください」

 

 そんな哀愁を漂わせる背中を見せながら、今日も何処かで世界の常識を破壊しているのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      完結!

 




 

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

 ということで完結とさせていただきます。

 見切り発車とか、投げやりとかではなく。

 これできちんと完結というわけです。

 的な話で終幕となりました。






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ごく普通のあとがきです

 

 

 

 このたびは、こんな長いタイトルと、意味解らない内容にお付き合いいただき、ありがとうございます。

 

 皆さまの日常の小さな楽しみとなっていたなら、これはサルスベリにとって幸いでございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作品のコンセプト。

 

 神様転生とか、転生して色々やるとか、多いな。あれ、これだけ多いと転生者ってかなりの数にならない。あ、世界の総人口超えたかな。『転生者しかいない世界で、転生者以外の存在って異常じゃね?』ということで、この物語は始まりました。

 

 ごく普通って叫んでいる奴が、実は生まれた時から普通じゃないって、とんだオチだなぁ、とか思って書き始めた者です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで英雄王とかコナンとか選んだのか。

 

 これについては、ギルガメッシュってかっこいいけど、力になってくれないな。何があっても主人公を見捨てないし、力になってくれる誰かいないか。

 

『名探偵コナン、真実はいつも一つ』。

 

 あ、こいつなら絶対に見捨てないだろ。というわけでギルガメッシュの対極の存在としてコナンが配置されました。

 

 当初の予定では、ギルガメッシュが主人公を追い詰め愉悦して、コナンが理性として主人公を護って支える、でしたが。

 

 結局は愉悦に流されてしまったということです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦娘達について。

 

 アズレンを入れて、アルペジオも入れて、と艦艇にかかわる存在を入れて見て、後は知っているロボット系の作品をごちゃごちゃしてみた、ということです。タグにあるごった煮は、そのあたりを意味しています。

 

 何故か、サルスベリの話だと吹雪と電は『絶対的強者』になってしまうので、そのあたりはご容赦を。

 

 『艦娘って、艦艇として轟沈しているんだから、直視の魔眼くらい持ってるよね』とか考えたのが、そもそもの間違いだったのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後にですが、この話は最終話から書いています。

 

 つまり、普通なら最初に来る神様転生を最終話として最初に書いてから、本来の第一話から順々に書いていったものです。

 

 ごく普通がいいと叫んでいる主人公だから、書き方も普通じゃなくしてやるとか考えていません。

 

 サルスベリの作品は常に最終話から書いて、一話から順々にというのが普通のことなので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に、このような物語にお付き合いしていただいた皆様、お気に入りしてくれた方々に敬意を表しまして、この物語の幕引きとさせていただきます。

 

 本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では、田中君、転生特典も貰ったし。何処に飛ばされたい?

 

「普通の生活を」

 

 なるほど、なるほど、宇宙戦争にでも行ってこい。

 

「てめぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 



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