この妖怪の血を引く者に祝福を! (ゆっくり妹紅)
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ああ、駄女神様編
プロローグ



はじめまして、ゆっくり妹紅というものです。
今まで読み専でしたが、自分も書きたいという欲望に負け、文章力など全くないのに投稿しちゃいました…勿論、処女作なので至らないところもありますが、今後ともよろしくお願いします。
では、本編へどうぞ



「ここは…?」

 

気がつくと、僕は何も無い空間に対面で置かれた椅子に座っていた。

そして対面には長い黒髪を後ろに結び、白い羽衣を着た女性が黒い椅子に座っていた。

 

「ようこそ死後の世界へ。私はあなたに新たな道を案内する女神。八雲焔さん。あなたは先程亡くなりました。辛いでしょうがこの事実を受け止めてください」

 

目の前の女性は僕に向かってそう言った。目の前の人から感じる力が本物のため嘘を言ってるようには見えないので僕は死んだのは事実…いや、ってことは!?

 

「待ってください!それじゃあ、あれはどうなったんですか!?紫様と藍様、霊夢姉さんたちは!?」

 

「安心してください。あなたが放った攻撃のおかげで周りのものたちがあれを封印出来ました。ただ、あれの最後の抵抗であなたは殺されてしまいましたが…」

 

「そうですか…」

 

段々と死ぬ前のことが思い出せてきた。あの時、感じた急な胸の苦しみはやつの最後の抵抗だったのか…でも、僕一人の命で皆が助かったなら良かった。

 

「八雲さん、死んでしまったあなたには選択肢があります」

 

女神様は分かりやすくいうと、娯楽もなんもないところでぼーっと過ごすか、僕が生まれ育った世界で赤ん坊に生まれ変わるかのどれがいいかを言ってきた。

本音を言うと、天国はちょっと嫌だ。いや、なんも無いところでぼーっと過ごすだけとかある意味地獄だし。かといって、2つ目だとまた紫様達に会えるか分からないし、あの世界では死んでしまう可能性が高い。

 

「うーん…」

 

「八雲さん、実を言うと異世界へ転生するというもう1つの選択肢があります。」

 

「転生?」

 

悩んでいる僕を見て女神様はもう1つの選択肢である転生について説明した。曰く、その世界には魔王という存在がおり、その存在の侵略のせいで人口が減っている。そこで、天界の偉い人は他の世界から若くして死んだ者を転生、同時にその異世界に移民させて魔王を討つ冒険者を募ることにした、と。そしてその他諸々。

 

「なるほど…そういうことが…」

 

「ええ、なので転生の方を選んでくださった方がこちらとしては助かります」

 

「そうですか…」

 

考えるまでもなく、こちらの方がいいだろう。

これは、僕のワガママだが藍様や妖夢姉さん達から教わったものをまだ失いたくない。それに、本音を言えばまだ生きたかった。

 

「転生でお願いします」

 

「分かりました。では、転生する前に先程説明した特典をお選びください」

 

自分の結論を伝えると、女神様は指をパチンと鳴らした。すると、僕の手の中に1枚の紙が現れた。先程言っていた特典をこの紙に書かれているものの中から選べということなのだろう。

「聖剣:エクス○リバー」、「エク○カリパー」、「魔剣:グラム」、「界○拳」と色々なものがあるがどれも僕にとって魅力的なものはなかった。いや、興味はあるものはあったけど多分、僕じゃ使いこなせないだろうから断念した。

 

「もし、その中から欲しいのがないのなら貴方が望むものをイメージしてください。私の力でそれをここに持ち出すので」

 

いつまでも唸っている僕を見て女神様はそう言ってくださった。正直言ってこの提案はありがたい。

真っ先に頭の中に浮かぶのは生前使っていた2本の刀と藍様が僕にくださり、早苗姉さん達と改造したりと思い出のあるあれ。

そして、頭の中で持っていきたいものをイメージする。

すると、僕の両手の中に淡い光が集まり段々と形が作られていく。

そして、手の中にあったのは2つの銃。これが、あの世界で1番使い、思い入れがある僕の大切な物で転生先に持っていきたい物。

 

「なるほど…あなたの霊力と妖力を攻撃に転じる際に変換するためのものですか…」

 

「はい…僕は霊力弾を作るのが苦手で、藍様が僕にくれたミニ八卦炉を早苗姉さん達と一緒に使いやすいようにしたものです」

 

流石、女神様と言ったところか。一目でこれがどういった役割を担っているかを見抜いた。

 

「さて…そろそろ転生させていただきますがよろしいですか?」

 

「はい、大丈夫です。こいつを融通させて頂きありがとうございました」

 

僕がお礼を言うと女神様は優しく微笑み僕に手を翳した。すると、僕の周りを青い光が囲み体が少しずつ浮かんでいった。

 

「それでは、ヤクモホムラさん。あなたのこれからの歩みに祝福があらんことを」

 

女神様のその言葉を最後に僕は光に呑まれた。

 

 

****

 

「ふぅ…それで、さっきから私を…いえ私と八雲さんを見ていた人。さっさと出てきたらどうですか?」

 

ホムラを異世界へ送ったあと女神は日常の1幕のように誰も居ないはずの空間でそう言葉を紡いだ。

普通なら何も起こらないはずなのに、突然空間が裂け、その中からナイトキャップのようなものを被った金髪の美女が姿を現した。

 

「これは失礼しました。あの子は私の…いえ、私達の大事な子なので、心配になって見守っていました」

 

「…まあ、その言葉に嘘はなさそうだから信じましょう。あと、何でここに来れたのかは簡単に想像できますので今回のことは黙っておきます」

 

「ふふ、寛大な処置。ありがとうございます。…その、質問なのだけれどあの子の近況を聞いたりすることは出来ます?」

 

「あなた…もしかして親バカですか?」

 

ほんのちょっとまで両者のあいだに流れていたピリピリした不穏な空気はナイトキャップの女性が発した親バカのような発言で吹っ飛んでいった。

 

 

****

 

これは、人と妖怪が共に生きる世界から転生した妖怪の血をちょっとだけひいた少年が歩んだ物語

 




後書きに関しては、解説コーナー&ちょっとした小話を書いていきたいと思います。
今回に関しては、プロローグもあってこれぐらいで…文章量、これぐらいのいいかな?


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第1話

お気に入りが6件もきてることに驚き、これは急いで仕上げなければと、書きました。
では、本編の方どうぞ。


光が収まり、目を開けるとそこはレンガで出来た家などがある、かつて、本で読んだ中世の頃のような雰囲気がある町の中だった。

目の前の光景に改めて違う世界に来たのだと思っていると、懐の中に封筒が入ってるのに気づいて、中を開けると手紙と数枚の紙幣と金貨が入っていた。

 

『この手紙を読んでいるということは、無事に転生でき、なおかつ翻訳システムも正常に稼働しているということでしょう。さて、初めに何をしたらいいのか分からないと思うため、これからとっていただきたい行動をこの手紙に書いておきます。ホムラさんにはまず冒険者登録をして冒険者になってもらいます。そのためには、ギルドで登録をする必要があります。やり方は受付の方に任せれば大丈夫でしょう。それと、登録には1000エリスかかるらしいので、最低限の装備などを整えるのも含めて2万エリスを一緒に送っておきました。上手く使ってくださいよ?

それと、2つほど説明し忘れましたものがあるのでこちらで説明させていただきます。

まず1つ目はこの世界には獣人族という動物の耳や尻尾がある種族がいるため、ホムラさんの狐耳や尻尾は隠す必要はありません。どうするかはあなたに任せます。

そして2つ目はこの世界での魔力についてです。あなたの世界には、魔力、霊力、妖力、神力の4つが存在していましたが、この世界では全てをひっくるめて魔力としていますのでそこの所を注意してください。

さて、長くなってしまいましたが最後に1つ。

あなたのこれからの歩みに祝福を』

 

結構大事なこと伝え忘れてたみたいだ…

さて、これから取るべき行動は分かったので早速行きますか。あ、耳と尻尾は出しておこう。何かの拍子で出てきたらまずいからね。

周りからの視線が気になるが僕は件の冒険者ギルドを目指した。

 

***

 

「たのもー!」

 

色んな人に場所を聞いて辿り着いた冒険者ギルドのドアを開けて中に入る。

店の中には剣や槍、鎧で武装している男達や杖を持った魔法使いっぽい女性もいる。

そして、大声で入ったせいなのか視線は僕の方に集まっている。景気よくいこうと思ったけど、ちょっと失敗したかもしれない。

それを意に介さず受付と思われる所へ向かった。

 

「こ、こんにちは、どういったご用件で?」

 

あの入店の仕方のせいで受付の人にちょっと引かれてしまった。

 

「すみません、冒険者登録をお願いしたいのですが…」

 

「冒険者志望の方ですね。それでは、登録手数料の1000エリスをお支払い願えますか?」

 

「分かりました」

 

1000エリス…前の世界で言う1000円を払う。この世界ではエリスが通貨になっているようだ。

 

受付嬢は、それを受け取ると今度は古びた紙に見える1枚のカードを取り出した。

 

「それでは、まず冒険者カードについてご説明しますね。このカードは、冒険者の身分証明書となるカードで、冒険者には必ずこれを所持してもらうよう義務付けられています。このカードがなければクエストを受けることはできません。冒険者カードには様々な情報が記載されており、冒険者様の名前からレベル、職業、ステータス、所持スキルポイント、習得スキル、習得可能なスキル、冒険者になってからの経過日数、過去に討伐したモンスターの種族、数などが自動的に更新され、表示されます。偽造は禁止しておりますのでご注意ください。また、紛失された場合はギルドに申し出てください。お金はかかりますが、再発行いたします。」

 

ここまでの説明を聞いて思ったが、結構便利なものだ。しかし、まだ終わっていないのか説明はまだ続く。

 

 

「全てのモンスターには魂が宿っており、人はモンスターを倒せばその魂を吸収し続けます。そして、ある一定の量まで吸収したところで、人は急激に成長することがあります。これを俗にレベルアップと言います。レベルを上げるとスキルポイントがたまっていき、こちらを消費することで新たなスキルを覚えることができます。なお、素質次第ではレベル1の時点で多くのスキルポイントを取得できます。新たにスキルを獲得する際には、冒険者カードを操作し『習得可能スキル一覧』に出ているスキルを押してください。冒険者カードについての説明は以上です。」

 

「説明ありがとうございます。この後はどうすれば?」

 

「こちらの書類にある必要事項を書いてください」

 

「分かりました」

 

書類に必要事項を書いていく。

そんなに書くことは多くなく、困ることもなかったので時間はあまりかけずに終わらせることが出来、彼女に渡した。

 

「はい…お名前はヤクモホムラ様ですね。では、お次に、こちらの水晶に手をかざしていただけますか?」

 

書類を受け取り内容を確認した彼女は、カウンターに置かれている水晶の下に冒険者カードを置いた。水晶の周りには機械と思わしきものが取り付けられている。

 

「この水晶は?」

 

「はい、これは手をかざすことでステータスが判明するものです。」

 

「そうなのか…それでは失礼して。」

 

水晶に手をかざす。すると、水晶はひとりでに輝きだし、同時に周りについてる物が動き始める。そして、下にある冒険者カードに光の線を放ち、この世界の文字を記していく。

俺の名前を描き終えると、ステータスの欄に移り続けて文字を記していく。

 

「ふむふむ…おお!幸運以外のステータスは平均値ををかなり上回っています!特に魔力はかなりものです!ってあれ?このスキルは…?」

 

「?ちょっと見せてくれませんか?…これは……」

 

冒険者カードのスキルの欄には僕が前の世界で使っていた【霊術】【妖術】【黒化】が記載されていた。

とりあえず、なんとか誤魔化すか。てか、【黒化】はまだ完全に習得できてないんだけどなぁ…

 

「これは僕の故郷に伝わっている物ですね…まさか、スキルとして出てくるとは予想外でした…」

 

「そうなんですか…えーと、話を戻しますとこのステータスなら最初から殆どの上級職になれますよ!」

 

ふむ…それならどうしようか。僕は剣術と先程、スキルとして出てきたのとミニ八卦銃を組み合わせた戦い方を基本にしている。そしてこの世界では、あの女神様の言われてことを踏まえると【霊術】と【妖術】=魔法になるはずだから…

 

「すみません、魔法と近接戦闘の両方を得意とする職業はありますか?」

 

「それなら、ルーンナイトですね。ルーンナイトは魔法と剣術を匠に操って戦う職業です。」

 

まさに僕の戦い方に当てはまるものだ。これは決まったも同然だ。

 

「じゃあ、ルーンナイトでお願いします!」

 




ルーンナイトは色々と調べた上で、こういう設定にしました。
感想や意見など、お待ちしてますのでドシドシ下さい!


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第2話

遅くなって申し訳ございませんでした!
ストックを作ってたらいつの間にかこんなに時間が…

そして今回でやっと原作主要キャラがでます…プロローグ含めて3話目でようやくとか…

とりあえず本編どうぞ


「…はい、以上で完了となります。他になにか聞きたいことなどはありますか?」

 

「あ、クエスト受けたいんですけどおすすめのやつってありますか?」

 

「そうですね…ジャイアントトードの…いや、時期的にはアレの季節ですね…」

 

受付嬢さんが急に悩み始めた。それより、ジャイアントトードってもしかしなくてもでかいカエルなのだろう。うへぇ、絶対気持ち悪い(確信)

 

「ホムラさん。実は近いうちに…もしかすると今日中に冒険者の方全員に参加してもらうクエストが発生するかもしれません」

 

「え!?そんなものあるんですか…」

 

そんなものが今日あるって運がいいのか悪いのかわからな…いや、装備全然整えてないから運悪いね。

 

「一応、念の為に先に武器を買ってきた方がいいかもしれませんが…お金はまだありますか?」

 

「ええ、あります」

 

「でしたら、今からこの町の武器屋までの地図を書きますので、武器を買ってからまたこちらまで来てください」

 

「分かりました」

 

僕は彼女から地図を受け取ると武器屋へ向かった。

 

*****

 

現在、僕の所持金は600エリスとなった。

まあ、色々と買ったから仕方ないっちゃ仕方ないのだけどそれでも満足いった買い物は出来なかった。

理由として、この町には刀がなかったからだ。僕は前いた世界では近距離武器として長刀と短刀を使っていたのだが、この町には先程言った通り刀がないため仕方なく、片手半剣と言われるバスタードソードとショートソードを買った。バスタードソードは左肩の方に柄が来るように背負い、ショートソードは左腰に下げている。本音を言うと、投擲目的

のナイフを何本か欲しかったが文句は言えない。ちなみに、防具とかは買えませんでした。

 

「あ、戻ってき…凄い装備ですね」

 

「僕の師から教わった型がこの感じだったので…結構お金飛びましたけど」

 

「そ、そうですか…」

 

暫く、謎の無言が続いた。

受付嬢さんは咳払いをひとつして例のクエストについて説明してくださったのだが…正直、とても信じられない内容だ。けど、嘘をついているようには見えなかったし、近いうちにそれは分かるだろうから、信じることにした。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各位は至急正門にへ集まってください!』

 

どうやら、例のクエストが発令されたようだ。…今日来てくれて助かった。なかったら今日は飯抜きという悲惨な結果に終わっていた可能性もあるし。

*****

 

正門に来ると多くの冒険者と思わしき人達が既にいた。

全員、真剣な表情でこちらに向かってくる緑色の雲のようなものを睨みつけていた。

もし、僕が事前にこのクエストについての説明がなかったらかなり緊張していたと思う。

だが、今はそんな風になっていない。いや、ちょっとは緊張しているけども。

まあ、なんでかって言うと────

 

「キャベキャベキャベキャベキャベ────」

 

「な、なんじゃこりゃああぁぁぁぁ!?」

 

緑色の雲の正体は空を飛んでいるキャベツの大群だからだ。

なんか、この世界での野菜はどうやら意思があるらしく、収穫期になった野菜は食べられたくないがために人がいない地まで移動し、そこでひっそりと息を引き取るらしい。それはすごい勿体ないから、僕達が捕まえて美味しく頂こうってわけらしい。

って、なんか誰かの驚愕の叫びも聞こえてきたけど…もしかすると転生者の人かな?なんか、キャベツの襲来はこの世界の人達にとっては常識っぽいし。というより、僕も知らなかったら叫んでただろうし。まあ、驚いてはいるけどね。

 

「みなさーん! 今年もキャベツ収穫の時期がやってまいりましたー! 今年のキャベツは出来がよく、一玉の収穫につき一万エリスです! できるだけ多くのキャベツを捕まえ、この檻におさめてください!」

 

『うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』

 

ギルドの人の説明に冒険者のみんなは盛り上がりカゴを手や背に持ち突撃していった。

 

「さて、僕も頑張りますかね…!」

 

バスタードソードを右手で抜き、札にしていたミニ八卦銃のうち1挺を左手に持ち駆け出した────

 

****

 

その頃、この世界に転生したジャージ姿の少年の新米冒険者であるカズマはせっせとキャベツを回収していた。

本音を言えば、帰って寝たいのだが一個一万エリスで更に言うと自分が回収した分だけ貰えるため懐が心許ないカズマにとっては沢山稼ぐチャンスであった。

先程、クリスという盗賊の少女から教わったばかりの【潜伏スキル】と【窃盗スキル(通称:スティール)】を駆使してキャベツを回収していた。

一方、彼らの仲間はと言うと…まず、彼を転生させ、彼の特典となった水の女神であるアクアはキャベツを必死に追いかけ回していた。次にめぐみんという紅魔族と呼ばれる優秀な魔法使いが多い種族の少女は爆裂魔法を使う機会を伺っていた。

そして、みんなは守ると豪語していたダクネスはキャベツの攻撃によって鎧を壊され、あられもない姿を晒しているが…彼女はそれを悦んでいる。一応、剣は振っているが全く当たっていない。自己紹介の時の不器用で当たらないというのは本当だったようだ。

というより、不器用スキル(ありはしないが)を取ってるんじゃないかと思うほどひどい。

 

「兄ちゃん!あぶねえ!」

 

自分の仲間たち(ダクネスはまだパーティに入ってないが)の様子を見ていたカズマは自分へ飛んできていたキャベツ達に全く気が付かなかった。

誰かの警告で気がついたものの距離はそんななく体も強ばってしまい躱すことは不可能だ。

 

「やば────」

 

それを見ていたアクアを始めとしたカズマの仲間達は彼がキャベツにやられると思った。

そして、キャベツはカズマに当たる────その瞬間だった。

 

カズマの後ろから飛んできた緑色の閃光がキャベツを貫いた。その閃光に貫かれたキャベツは何が起こったのかも分からず、その体を地に落とした。

そして、さらにカズマの後ろから1人の人間が飛び出し彼に飛んできていたキャベツをすれ違いざまに持っていた剣で真っ二つに切り落とした。

 

「大丈夫ですか?」

 

和服に似ている服を着ている少年がそう聞いてきた。

カズマはそれに対してすごい勢いで頷くと少年は安堵の息を漏らした。

 

「周りを気にするのもいいですけど、気をつけてくださいね?それでは、失礼します」

 

少年はカズマのそう告げるとまだいるキャベツの大群へ突っ込んでいった。

 

これが、カズマとホムラの初めの出会いであった。

 

****

 

さっき助けた人を置いて、前方から向かってくるキャベツ達を見据えつつ左手に持っているミニ八卦銃を構え狙いを絞り引き金を連続で引く。ミニ八卦銃から放たれた霊力弾は飛んでくるキャベツ達を捉えて落とすが、数が数だけに全ては撃ち落とすことは不可能だ。

勿論、それは想定通りで先程まで霊力を貯めていた右手に持っている剣を振り下ろす。

 

「波断撃!」

 

慣れ親しんだ自身の技を繰り出す。振り下ろされた剣から緑色の斬撃が放たれ、飛んでくるキャベツを次々と斬り落としていく。

が、それでもキャベツはまだ多くある。

別に1人でやる必要は無いのだが多く稼ぎたい僕としては1つでも多く倒しておきたい。

 

「龍炎刃!」

 

左手に持っていたミニ八卦銃を腰に魔力で固定させ、両手で持ったバスターソードに炎の魔力を纏わせながら跳躍し、空を飛んでいるキャベツを数個切り落とす。

 

「空円斬!」

 

そしてこちらに体当たりをしかけてきたキャベツ達を空中で回転しながら斬る。

そして、着地すると同時に着地の隙をを狙っていたキャベツをミニ八卦銃で撃ち落とす。

 

「ノルマはあと30かな…」

 

辺りをざっと見渡して目標を決める。

さて、もう少し頑張りますかね。

 

****

気がついた頃にはキャベツはもう既におらず緊急クエストは終わっていた。

 

「ふぅ…流石に疲れたな……あ、しまった……」

 

一息ついてから重要なことを思い出す。キャベツ、1個も回収してなかった……

 




キャベツにやられる、というパワーワード


解説コーナー

波断撃:初出はロックマンX7。ゼロのラーニング技。目の前に衝撃波をだす遠距離攻撃。後のロックマンゼロでは真空刃といった似ているものが出てくる。当小説では、タツノコvs.CAPCOMのゼロが使う波断撃をイメージしてくれればいいかと。

龍炎刃:初出はロックマンX4でゼロのラーニング技。元ネタの方では炎を纏わせたセイバーで上へ跳びながら切りつける対空技。次作のロックマンX5では、雷刃という雷属性のものが出ている。

空円斬:初出はロックマンX4でゼロのラーニング技。元ネタの方では空中で回転斬りを行う技となっている。

原作キャラの解説は次回に


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第3話

遅くなってしまって本当に申し訳ない…

とりあえず本編の方どうぞ!


ホムラ視点

 

クエスト後、身体強化の霊術を使いつつ急いでキャベツを回収し、受付の方に渡してきた。なんか、霊術のムダな活用した気がしなくもないけど今回は仕方ない。生活かかってるからね!

そんで、報酬をもらおうと思ったわけなんだけど…

 

「え?貰えないんですか!?」

 

「ええ、額が額なので…申し訳こざいません」

 

「そうですか…分かりました」

 

これはしくったな…ショートソードは買わなければ良かったなぁ…

まあ、夕食は安いのを食べて寝場所はどっか適当な所ですごせば今日はしのげる。

 

「なあ、さっき俺を助けてくれた人だよな?」

 

「ん?」

 

早速、ご飯を食べようかと席を探し始めようとしたら声をかけられた。

声の主を確認すると、先程のキャベツ狩りで助けた人だった。それより、あの時は対して気にしなかったけど早苗姉さんが持っていたジャージに似ているものをを着ているということは、彼は外の世界からの転生者なのだろうか?

 

「ああ、あなたは先程の…それで、僕に何か用が?」

 

「ああ、さっき助けてくれたお礼を言いに来たのと…あんたをうちのパーティに入れたいんだ」

 

****

三人称視点

カズマはこれはチャンスだと思った。なぜなら、彼のパーティに、防御に全振りの攻撃が当たらないクルセイダーのダクネスが正式に加入してしまったのだ。

攻撃面に関してはアークウィザードのめぐみんがいるのだが、彼女は爆裂魔法という攻撃と範囲が無駄に凄い上に1発しか使えない魔法のみしか保有してない。アークプリーストであるアクアは補助型であるし、自分は最弱の職業の冒険者のため攻撃面はあまり期待できない。

そう!このパーティには安定したアタッカーがいない!このままではクエストの度に苦戦するのは容易く予想可能!だから、カズマは先程自分を助けてくれた、特に癖がなさそうなホムラをパーティに誘ったのだ。

キャベツ狩りの様子を見る限り、彼はパーティには入っていない。心苦しいが、このパーティの現状を教えずに引き込めば、抜けようとしても言葉を巧みに使えば留めることは可能だ。

それに、カズマはホムラは転生者だと確信している。理由として彼が使っていたミニ八卦銃…カズマはそれを特典の武器だと予想しており上手くいけば転生者同士、しかも同姓で仲が良くなるかもしれない。いや、和服もどきにブーツという格好は如何なものかと思うが。

そして、結果は────

 

****

ホムラ視点

 

「初めまして、新しくこのパーティに加入することなった、ルーンナイトのヤクモホムラというものです。よろしくお願いします」

 

僕は先程助けた人…カズマの誘いに乗った。近いうちにパーティは組もうと思っていたため、都合がよかった。それに、転生者と思わしき人とパーティになれるってのも大きいしね。

 

「ちょっとカズマ!アークウィザードの私がいるのになんでルーンナイトの人を加入させたんですか!?攻撃魔法なら私の方が誰よりも上なのに!!」

 

「うるせぇ!お前は1日1発しか撃てない上に範囲と威力がデカすぎて仲間諸共吹っ飛ばす爆裂魔法しか使えねぇじゃねえか!」

 

「カズマ!剣使いなら私がいるだろう!それに、いくら当たらないとは言えたまには当たる!!」

 

「お前のたまたまはどんぐらいの確率だ!?今回のクエストで1回も当たってないやつの当たるっていう言葉なんか信じられるか!!」

 

……もしかして、僕って歓迎されてない?というより、話してる内容からして中々尖ったパーティなのかな?

 

「私はいいと思うわよ!前衛職が2人入ればダクネスの負担だって減るし、この人結構強そうだしね!」

 

あ、水色の人は歓迎してくれてるみたい…って、この纏ってる力って!?

 

「ん?どうしたホムラ?何か顔色悪いけど…」

 

「え!?あ、ああ!実は、お金が余りなくて昼から何も食べて「ぐう〜」…」

 

そこまで言いかけて、僕のお腹から大きい音が出た。思わず周りのみんなが僕に視線を集中させるぐらい…

 

「あー、その…とりあえずなんか食べるか?」

 

「そ、そうですね。まずは食べてからですね」

 

先程まで僕に対してちょっと厳しい態度とっていた2人が優しくしてくれたのは嬉しかったけど、同時に凄い恥ずかしかった。

あ、ご飯は所持金がかなり少ない僕を哀れに思ったのか、ダクネスさんが奢ってくれました。

そして、その後はあまり話はしなかったが僕はこのパーティに正式に加入することになりました。

さっきまで猛反対してたのになんでだろ…

 

*****

 

僕は今、カズマとアクアさんが泊まっている馬小屋に来ていた。

食事の後、彼にここに来るように言われたため来たのだが…とりあえず入ろうかな。

 

「カズマ、ホムラだけど入っていいかな?」

 

勿論ノックは忘れずにしている。

 

「ああ、入ってくれ」

 

許可を貰ったので中に入るとカズマとアクアさんが座って待っていた。

 

「それで、この時間に僕を呼んだってことは…僕が転生者なのかどうか聞きたいんだよね?」

 

「ッ!」

 

予想していたことを口に出すと、カズマは息を飲んだ。

 

「それに関しては、カズマが予想してるとおり転生者だよ。けど、僕の予想が当たってればカズマとは違う世界からのだけどね」

 

「ん?どういうことだ?違う世界って?」

 

カズマが狼狽えるがアクアさんは何となく納得した表情をしている。

カズマのために僕は自分が住んでいた世界について話した。

忘れられたものたちが住む楽園──幻想郷について。

 

****

 

「……それ、本当なのか?正直信じられないんだけど」

 

全てを話したが、カズマは当たり前といえば当たり前の反応をした。まあ、天狗といったメジャーな妖怪を筆頭に吸血鬼やら亡霊やら、果てには神様がいる世界から来ました、なんて外の世界の人なら疑う内容だからね…

 

「カズマ、それは本当よ。幻想郷は天界でも話には出てたし、ホムラからは確かに少ないけど妖力を感じるわ。だから、ホムラが妖怪の血が混じってる人間ってのも本当よ」

 

意外にも、アクアさんが真剣な雰囲気でこの話を肯定した。てか、天界ってことはやっぱりアクアさんって…

カズマもそれを見て、頭をくしゃくしゃとかくと、ため息を吐いた。

 

「こいつが、いつになく真剣な表情でこう言うってことは多分本当なんだろうが…よくお前生きてたな」

 

「うん…僕もそう思う。いや、別に霊夢姉さんの代わりに妖怪を退治するのは別にいいよ?たださ、それに備えるってことでなんで幻想郷最強説で有名な幽香さんの所に連れてくのかな?一応、戦闘稽古ってことだから殺さないように加減はしてくれたけど痛いものは痛いし何が怖いかってあの人笑いながら僕を攻撃してくることだよ。それが怖いの?って思う人もいるかもしれないけどこっちの攻撃が全部通用しなくて絶望してる中向こうは笑いながらこっちをボコボコにしてくんだよ?怖くないわけないじゃないか。ああ…今でも弾幕+マスタースパークの不可避コンボが…」

 

「分かった!お前がどれだけ苦労したか分かったから戻ってこい!!」

 

「はっ!?ご、ごめん。ついあの時のことを…」

 

どうやら、意識を変な方向に飛ばしてたみたいだ。

 

「と、とりあえずお前のことは分かった。これからもよろしくな!」

 

「うん、こちらこそお願いします」

 

「あれ?なんか私空気になってない?ねえ?」

 

なんか、締まらないけどこうして僕の異世界生活は始まった。

 

あ、ちなみにカズマも転生者らしくアクアさんは特典として連れてこられたらしい。まあ、誰だって死因をバカにされたり、その上悩んでるところをお菓子食いながら急かされたらキレるよね。

アクアさんが特典として連れてこられたのは、つまりはそういうことだね。

 




Q.なんでめぐみんとダクネスはホムラいれてあげたの?

A.めぐみんは腹空かしてるのを見てかつての自分を重ね、ダクネスは何か可哀想に思えてきたから。つまりご都合主義(白目)

タグに入れてあったといえ、こんな形でホムラくん加入を無理やりにしてしまったのは本当に申し訳ない…
急な話ですが実はヒロイン(にしたい人)は決まってるんですよね…え?なんでタグにはヒロイン未定があるのかって?どうくっつければいいか分からないからです(白目)いっそ、変えるのも一つの手か

解説コーナー
・サトウカズマ:原作の主人公。よくラノベで見られる典型的な主人公とは違い、本人は弱くしかも性格にクズい部分があったりと型破り。でも、根は優しい奴。彼が死んでしまったのもその優しさが原因なのだが…細かい死因は彼の名誉のために秘密。なお、原作男性キャラでは作者が一番好きなキャラ。

・アクア:カズマを転生させた女神であり、特典に選ばれた水の女神様。だが、普段の態度とかを見るととても女神とは思えず、子供っぽいところが目立つ。原作では色々やらかしているものの、ちゃんと女神っぽいところも見せる。なお、スカートの下は何もはいt(ここから先は塗りつぶされていて読めない)

・めぐみん:紅魔族と呼ばれる魔法のエキスパートの種族の女の子。彼女自身、魔法の才にかなり恵まれており、爆裂魔法という大魔法使いでなければ使えない魔法を使えるという高スペック…なのだが、実態は爆裂魔法しか使えなくなってしまった重度の爆裂狂。なお、紅魔族はヘンテコな名前が多いらしく、めぐみんという名は本名。あと、世間では一番人気がある。

・ダクネス:金髪蒼眼のナイスバディな美女で、クルセイダーという仲間を守ることに特化した聖騎士で、責任感があり仲間思いという騎士の鏡…と思いきや、実態はモンスターにやられて悦ぶというとんでもないドM。しかも、不器用すぎて攻撃が当たらず、素手で殴りかかった方が強いとも言われる始末。
なお、作者は普段のドMぶりと真面目、あとたまに見せる乙女な所のギャップ萌えにやられた。ダクネス好き増えろ。

・幽香:フルネームは風見幽香。二次創作ではUSC(アルティメットサドスティッククリーチャー)とも言われてたり、最強説が流れてるお方。東方Projectの主要キャラがもつ〜程度の能力は「花を操る程度の能力」であり、これだけ聞くとどこが強いん?と思うが、彼女の真価は純粋な妖力と身体能力の高さである。実際、二次創作ではかなりの強敵として描かれることが多い。因みに、ドSとされてしまったのは花映塚において出会った人間と妖怪をいじめ回していたという描写があったため。
本作品では、とあるスキマ妖怪との深ーい事情のためにホムラを鍛えた背景がある。


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第4話

レポートやら色々とやってたら前回から1週間という…中々筆がのってくれないこのごろです…

さて、今回はみんな大好きあの人がでます!
本編の方どうぞ!



正式にパーティに加入した次の日、冒険者ギルドに行くと既にみんな集まっていた。

 

「ごめん、僕が最後だった…って、カズマは装備を整えたんだね」

 

「ああ、流石にあの格好じゃ色々と示しがつかないからな」

 

まあ、確かにジャージじゃファンタジー感台無しだもんね。

ん?僕?僕は幻想郷の時の服装だからまだセーフ…のはず。

 

「それでさ、新しいスキルも覚えたことだしクエストに出たいんだけど…」

 

「それなら、ジャイアントトードが繁殖期に入っていて街の近場まで出没しているからそれを…」

 

「「カエルはやめよう!」」

 

カズマの意見にダクネスさんがジャイアントトード討伐の案を出しかけた時、強い口調でアクアさんとめぐみんが拒絶した。

 

「な、なんでこんなに嫌がってるの?もしかしてそれぐらい気持ち悪いの?」

 

「いや、こいつらは前にカエルに食われたからな…それがトラウマになってて…」

 

「あぁ…それなら仕方ないね…って、ダクネスさん?なんか顔赤いけどどうしたの?」

 

ふと、横にいるダクネスさんが顔が赤いのが気になって聞いた。体調崩してたら大変だからね。

 

「い、いや。別になんともないぞ…それにしても、カエルに丸呑み…ヌメヌメ…ん!」

 

ダクネスさんは顔を赤らめブルっと震えた。この反応、なんか幻想郷でも見た気が…

 

「ホムラ…実はなダクネスは救いようがないドMなんだ…変に突っ込まずスルーしとけ」

 

カズマにそう言われ納得する。そういや、人里の人達でこういう人いたな…幽香さんに罵られたり、やられる度に喜んでたっけ。

 

「とりあえず、ホムラが入って最初のクエストだし簡単なのを探すか」

 

「そうだね。連携とかの確認も必要だし僕は異論ないよ」

 

カズマの意見に僕とダクネス、めぐみん(爆裂魔法撃てればいい)の3人は賛成したけどアクアさんは難色を示した。

 

「あのね、このパーティは私を含めて4人も上級職いるのよ?高難易度のクエストをバンバン受けてお金を沢山稼いでレベルも上げてさっさと魔王をしばきましょうよ!」

 

うーん、凄い極端な話だなぁ…

 

「アクアさん、上級職と言えども僕らはまだレベルが低いですし互いにどれぐらい動けるかも分かりません。下手に難しいの受けて前衛が崩れて突破されたら一気に壊滅する恐れもあります。なので、ここは地道に簡単なのから受けていかないとみんなで仲良くお陀仏ですから我慢してください」

 

なるべく笑顔でそう説得する。なんでも、笑顔で少し圧をかけてやると成功しやすいと藍様が言っていた。事実、これで成功したこと結構多いからね。あと、ダクネスさんの鎧は前のキャベツのせいで修理に出してるしね。

 

「ひっ!?わ、分かったから!そんな笑顔で話さないでよ!怖いからぁ!」

 

人の笑顔が怖いだなんて、なんて失礼なことを言うんだ。

 

「わかってくれて良かったです。それじゃあ、探して…どうしたのみんな?」

 

「お前って…いや何でもない」

 

「別にあれぐらい、私にはどうってことはありません。ちょっと驚きましたが」

 

「ん…あんな感じで罵られたら……っ!」

 

3人とも違う反応が返ってきた。てか、ダクネスさんは僕が知っているドMの人よりドMってことはわかった。

 

*****

 

ところ変わって、僕らは今墓地にいる。

何故かと言うと、ゾンビメーカーというゾンビを生み出すアンデッドのモンスターを討伐するクエストを受けたからだ。

それで、今の時刻は夕方だけど、このモンスターは夜にしか出てこないため現在は共同墓地でバーベキューをして時間を潰している。

いや、墓地でバーベキューとか罰当たりもんだけどね?

 

「あれ、カズマ。野菜食わないの?」

 

「いや、なんかキャベツ狩りしてから急に野菜が跳ねるんじゃないかって怖くてさ」

 

「ああ…気持ちはわかるけどさ、野菜も食べないとバランス悪いし、そもそも調理済みだから大丈夫だって」

 

「…そういうお前は野菜ばっかだな」

 

「なんかこの世界の野菜結構美味しくてさ。つい、ね」

 

なんて会話をカズマとする。とてもこれからモンスターを討伐するとは思えないほどの雰囲気だ。

食後、カズマはコップにコーヒーの粉を入れて、【クリエイトウォーター】という水を生成する初級魔法で水を入れ、今度は【ティンダー】という火を出す初級魔法を使ってコーヒーを作っていた。

初級魔法は全て殺傷能力は無く、こうして生活面で活用する感じが多い。そのため、魔法使いの多くは初級魔法は取らずにいきなり中級魔法をとることが多いらしい。

事実、僕も先に中級魔法を取ったんだけど…カズマの使ってるのを見てると初級魔法取ればよかったと思ってくる。

余談であるが、ちょっとしたことでアクアさんがカズマをからかった結果、【クリエイトアース】と【ウィンドブレス】による目潰しコンボを喰らって騒いでいた。なるほど、物は使いようってやつだね。

 

*****

 

夜になり、今はゾンビメーカーが現れるのを待っているのだけれど…なんか、嫌な感じがする。

 

「皆、カズマが最初に言った、イレギュラーなことが起こったらすぐに撤退するは守って。あと殿は僕が務める」

 

「まて、ホムラ。殿なら私の方が向いているだろう。それに、強敵に一方的にやられると思うと…っ!」

 

幻想郷の人達より欲望に忠実だなぁ…1回、親御さんの顔を見てみたい。

 

「確かに皆が撤退するまでの時間稼ぎならダクネスさんが適任かもしれないけど、最後に離脱する時のことを考えると僕の方が素早さは勝ってるし、手数も沢山あるから僕がやるよ。それに、女性をなるべく危険な目に遭わせるなって育ての親にはきつく言われてるしね」

 

「いや、だがな…」

 

ううん、やっぱり粘るよね…アクアさんにやった説得方法やるか…?いや、むしろダメな気がしてきた。

「2人とも、敵感知に本能があった。数は1…2…3…4?いや、もっといる…!?」

 

どう説得すればいいか悩んでいる僕に、先頭にいたカズマから想定外な言葉が出てきた。ゾンビメイカーは通常であれば取り巻きのアンデッドは2、3体なのに対して今回はそれを上回っている。

明らかにゾンビメイカーではない何かがいるのは確かだ。

そして、僕らの目には青い光を放つ大きな円形の魔法陣の近くに人影が入ってきた。ゆらゆらと蠢く人影が数体見えるが…

「あれは…ゾンビメイカーではないと思いますが…」

 

めぐみんが自信なさそうに言うが、おそらくその通りだろう。

 

「カズマ、撤退しよう。一応僕は敵の特徴とかを確かめて」

 

「ああー!リッチーがノコノコこんなとこに現れるとは不届きなっ!成敗してやる!!」

 

ミニ八卦銃を構えて、カズマに撤退を促そうとした時、アクアさんが叫んで人影に突っ込んでいった。

そして、アクアさんが言っていたリッチー。

この存在は僕も紅魔館の図書館で読んだことがあるので知っている。

生前は魔法を極めた魔法使いであり、その魔法使いがある魔法を用いて人の体を捨て、強大な力を手に入れたアンデッドのことを指す。その強さは吸血鬼にも匹敵するらしく、ノーライフノーキングとも言われている。

どっちにせよ、かなり規格外な存在なのは確かだ。言うまでもなく、冒険者の駆け出しの街であるここにいるのはおかしい相手で、僕は少しだけは持ち堪えられるかもしれないけど、カズマたちは瞬殺されてもおかしくない。

そんな強敵なのだが…

 

「や、やめやめ、やめてえええええ!誰なの!?いきなり現れて、なぜ私の魔方陣を壊そうとするの!?やめて!やめてください!!」

 

「うっさい、黙りなさいアンデッド!どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもないことを企んでるんでしょ、何よ、こんな物!こんな物!!」

 

リッチーと思わしき人物が魔方陣を壊そうとするアクアさんの腰に泣きながらしがみつき、必死に止めようとしていた。

取り巻きのアンデッドはただ立っているだけで何か行動を起こす気配は見えない。

そして今気がついたけど、この魔方陣から感じるものは神聖なものは感じられないものの、邪悪なものも感じられない。感じるものは暖かく、安心するようなもの。博麗の巫女の術などを教わってきた僕だからこの魔法陣の効果が分かる。これは、魂…特に未練があるものを鎮め天に還すものだ。

…ってか、あのリッチーの人を見てると、とてもあの吸血鬼と同格に恐れられる大物アンデッドには思えないな…

まあ、それは置いといて。

 

「アクアさん、この魔方陣は恐らく未練を残した者たちを成仏させるものだと思います」

 

「なんですってー!?リッチーのくせにそんなことをするなんて生意気よ!そういう善業はアークプリーストの私がやるから、リッチーは引っ込んでなさい!丁度いいわ、あんたもまとめて浄化してあげるわ!」

 

「ええっ!?ちょ、やめて!?」

 

「アクアさん!ちょっと待って!!まずは話を聞きましょう!」

慌てるリッチーを尻目に僕は急いでアクアさんを羽交い締めして止めにかかった。

 

 

*****

 

「納得いかないわ!」

墓場からの帰り道の途中、アクアさんはまだ怒っていた。

時刻としては既に空に白みがかかってくる時間帯…つまり、夜明けの時刻だ。

 

「しょうがないだろ。つか、あんなに良い人を討伐する気になれないだろうに」

 

カズマがアクアさんにそう言って宥める。

この言葉から察せるとおり、僕らはあのリッチー…ウィズという人を見逃した。

理由として、彼女は共同墓地の天に還ることが出来ず、さ迷っている魂達を定期的に天に送っていただけだったからだ。それに、人も今まで殺してないことも言ってたからね。

話を戻して本来ならば、この仕事は別にウィズさんがやらずにこの街のプリースト達に任せておけばいいのだが…現実として、ここのプリーストは金儲け優先の人がほとんどで、お金が無いために共同墓地に埋葬されている所には寄り付きもしないというのがあった。

そして、アンデッドが出てしまうのはウィズさんのリッチーの気配にまだ肉体が残ってる魂が起きて来てしまうかららしい。

話し合いの結果、アクアさんが定期的に浄化しに来るということに収まり、僕らは犠牲を出さずに帰路につくことが出来た。

 

「にしても…リッチーがこの街でお店開いてるなんてね……」

 

僕はカズマが手に持っている名刺を見てそう呟いた。なんでも、ウィズさんはこの街で魔法道具店を開いているらしく、良かったら来てくださいとも言っていた。あの人、なんでリッチーやってんだろう?もしかして、長生きしすぎて性格が…

 

「……!?」

「ん?どうしたホムラ?急に震えて」

 

「な、何でもないから大丈夫だよダクネスさん」

 

急に寒気が感じたけど…気のせいだろうか?

 

「…カズマ、その名刺貸しなさい。あいつの所に乗り込んで浄化してやるわ!」

 

「「それはやめてやれよ(ください)」」

 

僕とカズマの意見が重なった。ウィズさん浄化させるのは流石に可哀想だし……

 

 

「ところで、クエストはどうなるんだ?」

 

「「「「あ」」」」」

 

こうして、僕が入ってからの最初のクエストは失敗に終わったのだった。

 




文字数今までで最多の4384文字…どんぐらいの文章量が丁度いいのか分からないや…

解説コーナー
・ウィズ:原作キャラ。見た目は若い美人な女性でスタイルも抜群。(永遠の)20歳。実はリッチーというアンデッドであり、めちゃくちゃ強い。どんぐらい強いかというと、1人で魔王城にカチコミしてその強さから魔王にスカウトを誘われるぐらい。現在はアクセルの街で、お店を開いているが…お店の実態はこの先で明らかになるので今回は見送り。


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第5話

お気に入り30件突破!
こんな作品でもお気に入り登録してくださっている人に心から感謝します!
そんな人達のためにも更新速度を上げられるように頑張ります!
では、本編どうぞ


「はぁ…幸運の低さがここで影響するなんて…」

 

あのクエスト失敗から数日後、キャベツ回収クエストの報酬の支払いが行われた。

それで僕も貰ったのだが…まあ、予想していなかったケースに見舞われてしまい、ちょっと落ち込んでいる。

 

「どうしたホムラ?なんか落ち込んでいるようだが…」

 

「ダクネスさん…ちょっと色々あったというか…あ、鎧の修理終わったんですね」

 

「ああ、それでキャベツの報酬を使って少し強化してみたんだが…どう思う?」

 

こういう時は確か褒めないといけないって藍様に教わったな…この人の場合、褒めなくても悦びそうな気がしなくもないけど。

 

「クルセイダーのダクネスさんなら鎧の強化はいい判断かと。それに、ダクネスさんの雰囲気にあったデザインだと思いますよ」

 

こんな感じかな?それにしても、ダクネスさんの鎧のデザインってなんか豪華というか…

 

「ホムラはカズマと違って褒めてくれるんだな…ところでそろそろ敬語なしでいいんではないか?」

 

「え…でも」

 

「最初にお前が入るのを拒んだ私が言うのもおかしいと思うが、同じパーティなのだからな」

 

正論だ…てか、この人あの欲望に忠実なダクネスさんなんだよね?なんかギャップあるんだけど。

 

「あー…そしたら敬語はやめるよ。僕もこっちの方が話しやすいし」

 

「ああ、ありがとうな。では改めてよろしく頼む、ホムラ」

 

「うん、こちらこそよろしくね、ダクネス」

 

差し出された手を握り握手する。

なんか、嬉しいけど、恥ずかしいというかなんというか…

 

「お前ら、何やってんだ?そんなことしてる暇あったらあそこの変態をどうにかしてくれ…」

 

カズマにそう言われ、指を指された方向に目を向けると…

 

「ハア…ハア…。た、たまらないです!魔力溢れるマナタイト製のこの杖の色艶…。ハア…ハア…ッ!」

 

杖に頬ずりしているめぐみんがいた。確かにあれはどっからどう見てもやばい人にしか見えない。

話によると、純度の高いマナタイト製の杖を使うと爆裂魔法の威力が上がるらしいのだが…話だけで聞いた限り、現時点でオーバーキルの威力らしいのにこれ以上上げてどうするのだろうか?

 

「なんですってえええええ!?ちょっとあんたどういう事よっ!」

 

そんな中、突如ギルドに響き渡ったのはアクアさんの声。ギルトの受付のお姉さんの胸ぐらを掴み、いちゃもんをつけている。とても女神様とは思えないなぁ…

 

「なんで5万ぽっちなのよ!どれだけキャベツ捕まえたと思ってんの!?10や20じゃないはずよ!」

 

「そそ、それが、申し上げにくいのですが……アクアさんの捕まえてきたのは、殆どレタスで……」

 

ああ、そういうことか……アクアさんがなんでレタスがー!的なことを言っているが、そういうものだと割り切った方が早いだろう。こういうのは考えるだけ無駄なパターンだ。

やがて、これ以上言っても無駄だと思ったのか、アクアさんはにこやかな顔でカズマの方にやってきた。

 

「カーズマさん!今回のクエストの報酬はおいくら万円?」

 

「100万ちょい」

 

「「「「ひゃっ!?」」」」

 

僕らのパーティのリーダーが急に小金持ちになりました。

そして、それを聞いたアクアさんは驚愕の表情からまたにこやかな顔を浮かべた。

 

 

「カズマ様ー!前から思ってたんだけれど、あなたってその、そこはかとなく良い感じよね!」

 

「特に褒めるところが思い浮かばないなら無理すんな。言っとくが、この金はもう使い道決めてるからな、分けんぞ」

 

その一言にアクアさんはピシリと固まり、僕の方に助けを求めるように目を向けてきた。

 

「すみません。僕は20万ぐらいしか貰えなかったのと、このお金で防具とか生活費を考えると貸すのは……」

 

僕の発言にみんな驚いているが本当なのだ。僕だってこんな少ないとは思わなかった。

 

「カズマさああああん!私、クエスト報酬が相当なものになるって踏んで、この数日で、持ってたお金、全部使っちゃったんですけど!ていうか、大金入ってくるって見込んで、ここの酒場に10万近いツケまであるんですけど!!今回の報酬じゃ、足りないんですけど!」

 

僕から借りるのは流石にダメだと思ったのか、アクアさんは矛先をカズマに変えた。

てか、アクアさんは後先考えないというか、欲望に忠実というか…子供っぽいな…

あ、カズマが半泣きですがりついてるアクアさん引き剥がした。

 

「知るか、そもそも今回の報酬は『それぞれが手に入れた報酬をそのままに』って言い出したのはお前だろ。というか、いい加減拠点を手に入れたいんだよ。いつまでも馬小屋暮らしじゃ落ち着かないだろ?」

 

カズマが言っているとおり、普通の冒険者は家を持たない。

理由の1つとして、冒険者は安定を求めず、あちこちを飛びまわることが多いのが挙げられる。

まあ、1番大きな理由は、ほとんどの冒険者がその日暮らしが多くて金がないというものだろうけど。

 

「そんなああああ!カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!そりゃあカズマも男の子だし、馬小屋でたまに夜中ゴソゴソしてるの知ってるから早くプライベートな空間が欲しいのは分かるけど!5万!5万でいいの!お願いよおおおお!」

 

「よしわかった、5万でも10万でもやすいもんだ!分かったから黙ろうか!!」

 

アクアさんの無自覚(と思われる)なトンデモ発言にカズマが屈した。

ここで、ふと気になったのかダクネスが僕に質問してきた。

 

「なあ、ホムラ。あのクエストではお前も結構取っていたと思うんだが…」

 

「アクアさんと同じで8割ぐらいレタスだったんだ…」

 

「……そうか」

 

ダクネスとそれを聞いていためぐみんからの優しい視線に晒されながらも、幸運は大事なんだな、と心底思った。

 

 

*****

 

「カズマ、早速討伐に行きましょう!それも、沢山の雑魚モンスターがいるやつです!新調した杖の威力を試すのです!」

 

突然、めぐみんがこんなことを言い出した。

それを聞いて、みんなもそれぞれの意見を言い出した。

 

「まあ俺もゾンビメーカー討伐じゃ、結局覚えたてのスキルを試す暇もなかったしな。安全で無難なクエストでもこなしに行くか」

 

「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!ツケを払ったから今日のご飯代もないの!」

 

「いや、ここは強敵を狙うべきだ!一撃が重くて気持ちいい、すごく強いモンスターを…!」

 

まとまりが無さすぎるのではないだろうか?

 

「とりあえず、掲示板の依頼を見てから決めま……あれ?依頼がほとんど無い…?」

 

普段、所狭しと大量にはられている依頼の紙が今はほんの数枚しかない。

しかも、どれもこの街では高難易度に部類されるものばかりだ。

 

「カズマ!この一撃クマのクエストを…」

 

「そんな名前からして強そうなやつ受けられるか!」

 

そんな騒いでいる僕達の元にギルドの職員がやってきて申し訳なさそうに説明した。

曰く、最近魔王の幹部らしき者が街の近くの小城に住み着いたせいで、近辺の弱いモンスターが隠れて仕事が激減してるとのこと。

さらに、クエストは国の首都からの討伐隊がくる来月までは高難易度のやつしかないとのこと。

そういや、カズマがほかの冒険者からそんな話を聞いたって前に言ってたな…

 

「な、なんでよぉぉぉぉぉ!?」

 

1文無しとなってしまったアクアさんの悲痛な叫びがギルドに響いた…こればっかりは流石に同情したくなる…

 

****

 

「ダクネス、このコートはどうかな?」

 

「ふむ…これだけだと少し心許ないからこの肩当ても買った方がいいのではないか?」

 

結局、クエストがないため暫くは自由行動となった。今日はアクアさんは生活費を稼ぐためにバイト探し、めぐみんはカズマを連れて爆裂魔法を撃ちに、そして僕はダクネスにお願いして防具を見繕ってもらっている。

戦闘スタイルは違えど、同じ前衛職であるダクネスの意見はとても助かっている。普段からこんな感じだと、非の打ち所がないいい人なんだけどなぁ…

 

「ん…『エロい体をしやがって、この雌豚が!!』って思ったか?」

 

「思ってない」

 

「んん!即答…!」

 

本当にこういうのがなければなぁ……

ダクネスに見繕ってもらったものを試着室で着替えながらそう考えてしまう。

 

「ん…しかし、手持ちが余りないのに防具を買って大丈夫なのか?クエストも暫くないだろう?」

 

「あー…確かにそうなんだけどそろそろ冒険者らしい格好したいんだよね……それに、一応、暫く働ける場所の目星は着いてるから多分大丈夫…あ、着替え終わったから見てくれる?」

 

一応、色々と手は考えてあるから恐らく働かせてもらえる…はず。あれ、これって取らぬ狸の皮算用ってやつなのかな?

 

「そうか…お、中々似合っているじゃないか」

 

「そう?お世辞でもそう言って貰えると嬉しいよ」

 

僕はこの世界の服の上から青いコートに革製の肩当て、金属製の篭手に元の世界から履いている霊力で強化されたブーツという格好だ。

結局、予算的にはギリギリクリアしていたので僕はこれを購入したのだった。

 

*****

 

それから、一週間が経ったある日の朝。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、忠地武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』

 

街中に、キャベツクエスト以来の緊急アナウンスが流れた。

「今度はなんだろうね?」

 

「次はニンジンなんじゃねえか?」

 

なんてことをカズマと話しながらも準備を整えて正門に行く。

そこには、武装した多くの冒険者と少し離れた場所に首なしの騎士──デュラハンがいた。

纏う雰囲気から、デュラハンがかなりの強敵であることが嫌という程分かる。そして、それをほかの冒険者も感じ取っているのか、緊張した顔でデュラハンを見ている。

「俺はつい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが…」

 

そのデュラハンは腕に持っている頭から聞こえてくる声を震わせ…

 

「まままま、毎日毎日毎日毎日っ!俺の城に毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる頭のおかしい大馬鹿は、誰だァァァァぁぁっ!」

 

怒りの言葉を叫んだ。

 




解説コーナー
・デュラハン:こいつに関してはまた今度という形で。なお、魔王軍幹部の中では個人的に好きなキャラでもあったり。

・ホムラの装備:個人的なイメージですが、魔法戦士って軽装なイメージがあるのであんな感じに。コートの色が青なのはロックマンXの主人公のエックスを意識した感じです。他にも、意識してるところはありますが、それは主人公解説の話の際に…てかそろそろそっちも作らないと(白目)


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第6話

今度こそ早めに投稿を…!と意気込んでいたのにこの始末(白目)
本当に申し訳ないと思っています…
話は変わりますが、チョコボの不思議なダンジョンがSwitchで出ましたね。結構やりこんでたから懐かしいなぁ…

では、本編どうぞ。


 

「この街で爆裂魔法を撃てる奴って言ったら…」

 

デュラハンが言った、爆裂魔法を撃てる人を冒険者の皆が見る。そして、僕もそれに該当する人…めぐみんを見る。

その視線を受けて、めぐみんは隣にいた女の子の魔法使いの方を向いた。当然、皆もそっちを見る。

 

「ええっ!?あ、あたしっ!?何であたしが見られてんのっ!?爆裂魔法なんて使えないよ!!」

 

濡れ衣を着せられた女の子が慌てて否定する中、そっとめぐみんとカズマの方を見ると、2人とも汗をダラダラと流していた。なるほど、この2人が原因か。納得したくないけど納得した。

 

「ふぅ…」

 

めぐみんは嫌そうな顔でため息を吐くと前へ出る。冒険者達も自然と道をあける。

そのめぐみんに僕、カズマ、ダクネス、アクアもついていく。

前に出てきためぐみんを見ると、デュラハンは今度は体全体が震えだした。

 

「お、お前が…!お前が毎日毎日俺の城に爆裂魔法を撃ち込んでくる大馬鹿者か!俺が魔王軍幹部と知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城へ攻めて来るがいい!そうでないなら、街の中で震えていればいい!!何故こんな陰湿な嫌がらせをする!?どうせ雑魚しかいない街だと放置しておれば、調子に乗って毎日欠かさずポンポンポンポン!頭おかしいんじゃないのか貴様!」

 

 

毎日毎日ポンポン撃ちにいくことに関しては僕も頭おかしいと思う。

それに対し、流石にめぐみんは気圧され若干怯むも、肩のマントをバサッとひるがえして…

 

「我が名はめぐみん。アークウィザードにして、爆裂魔法を操るもの……!」

 

「……めぐみんって何だ。バカにしてんのか?」

 

「ちっ、違わい!」

 

話に聞く紅魔族流の名乗りをデュラハンに突っ込まれるも、めぐみんは直ぐに気を取り直すと。

 

「我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは魔王軍幹部のあなたをおびきだすための作戦……!こうしてまんまとこの街に、1人で出てきたのが運の尽きです!」

 

ノリノリでデュラハンに杖を突きつけるめぐみんを後ろで見守りながら僕らは小声で話した。

 

「ねえ、これって作戦だったの?」

 

「いや、俺も初めて聞いたぞ。毎日爆裂魔法撃たなきゃ死ぬとか駄々こねるから、仕方なくあの城の近くまで連れていっただけなのに」

 

「……うむ、しかもさらっと、この街随一の魔法使いとか言い張っているな」

 

「しーっ!そこは黙ったおいてあげなさいよ!今日はまだ爆裂魔法使ってないし、後ろにたくさんの冒険者が控えてるから強気なのよ。今いいところなんだから、このまま見守るのよ!」

 

そんな僕達の会話が聞こえていたのか、めぐみんの顔がほんのりと赤くなる。

うん、アクアさんが言ってたこと図星だったんだね。

デュラハンの方は、何故か勝手に納得しているような感じを出していた。

 

「……ほう、紅魔族の者か。なるほどなるほど。そのいかれた名前は、別に俺をバカにしていたわけではなかったのだな。」

 

「おい、両親から貰った私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

あ、名前の方に納得してたのか。

デュラハンの言葉にめぐみんは、ヒートアップしているが当の相手は全く相手にしていない。

そもそもそれ以前に、街中の冒険者の大群を見ても、全く気にしてすらいない。

先程言っていたように、あのデュラハンにとってはここの街の冒険者は取るに足らない相手なのだろう。

 

「……フン、まあいい。俺はお前ら雑魚にちょっかいをかけにこの地に来た訳では無い。この地にはある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在することになるだろうが、これからは爆裂魔法を使うな。いいな?」

 

「それは、私に死ねと言っているも同然なのですが。紅魔族は日に1度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

「お、おい、聞いた事ないぞそんな事!適当な嘘をつくな!」

 

なんか、漫才を見てる気分になってきた。

カズマは手を出す雰囲気はなく、アクアさんはめぐみんがデュラハンに噛み付いてるのをワクワクしながら眺めてるし…ダクネスは真剣にデュラハンの方見てるけど。

デュラハンは右手の上に首を乗せ、そのまま器用にやれやれと肩を竦めた。

 

「どうあっても、爆裂魔法を撃つのを止める気は無いと?俺は魔に身を落とした者ではあるが、元は騎士だ。弱者を刈り取る趣味はない。だが、これ以上白の近辺であの迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ?」

 

剣呑な雰囲気を漂わせてきたデュラハンに、めぐみんはビクリと下がるも、不敵な笑みを浮かべた。

 

「迷惑なのは私達の方です!あなたがあの城に居座っているせいで、私たちは仕事もろくに出来ないんですよ!……フッ、余裕ぶっていられるのも今の内です。こちらには、対アンデッドのスペシャリストがいるのですから!先生、お願いします!」

 

盛大な啖呵をきったあと、アクアさんに丸投げした。

ここにきて丸投げとは、ある意味凄いな…

 

「しょうがないわねー!魔王の幹部だか知らないけれど、この私がいる時に来るとは運が悪かったわね。アンデッドのくせに、力が弱まるこんな明るい内に外に出てきちゃうなんて、浄化してくださいって言ってるようなものだわ!あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ!さあ、覚悟はいいかしら!?」

 

このように、先生呼ばわりされたアクアさんはノリノリだけどね。まあ、バイト生活の鬱憤も溜まってるのもあるだろうけど。

固唾を飲んで成り行きを見守る冒険者たちの視線を浴びながら、アクアがデュラハンに片手を突き出す。

それを見たデュラハンは、興味深そうに自分の首を前に出した。

これがデュラハンなりの相手をよく見る行為なのだろうか?

 

「ほう、これはこれは。プリーストではなくアークプリーストか?この俺ばかりにも魔王軍の幹部の1人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないし、アークプリースト対策はできているのだが……。そうだな、ここは1つ、紅魔の娘を苦しませてやろうか!」

 

デュラハンは、アクアさんが魔法を唱えようとするよりも早く、左手の人差し指をめぐみんへと突き出したと同時に、僕はめぐみんの襟首を掴んだ。

 

「ちょっと手荒だけどごめん!」

 

「汝に死の宣告を!お前は一週間後に死ぬだろう!」

 

めぐみんを自分の後ろに隠すと同時に、デュラハンの人差し指から放たれた禍々しいやつを、霊力を纏わせたバスターソードで切り落とそうとした瞬間、ダクネスが僕の前に出た。

 

 

「「だ、ダクネス!?」」

 

僕とめぐみんが叫ぶ中、ダクネスの体がほんのりと、一瞬だけ黒く光る。

 

「ダクネス、大丈夫か!?何か、変な感じとかはしないか?」

 

カズマが慌てて聞くも、ダクネスは自分の両手を確認するかのようにワキワキと何度か手を握り。

 

「……ふむ、なんとも無いのだが」

 

いたって平気そうな言ってのけた。

けど、あのデュラハンは確かに一週間後に死ぬと言った。

もしかしたら、その時になったら急に発動するタイプの可能性もある。

アクアさんがダクネスさんをぺたぺたと触って確認してる中、デュラハンは勝ち誇ったように宣言する。

 

「その呪いは今はなんともない。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が硬い貴様ら冒険者には、むしろこちらの方が答えそうだな。……よいか、紅魔族の娘よ。このままではそのクルセイダーは一週間後に死ぬ。ククッ、お前の大切な仲間は、それまで死の恐怖に怯え、苦しみ事となるのだ……そう、貴様の行いのせいでな!これより1週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがいい。クハハハッ、素直に俺の言うことを聞いておけばよかったのだ!」

 

「クソ、こいつ…!」

 

僕が自分を抑えきれず、飛び出そうと剣に手を添えて飛び出そうとした時、ダクネスが戦き叫んだ。

 

「な、なんて事だ!つまり貴様は、この私に死の呪いをかけ、呪いを解いて欲しくば俺の言うことを聞けと!つまりはそういう事なのか!」

 

「「え」」

 

何たる偶然か、ダクネスが何を言ったのか理解出来ず、僕とデュラハンは思わずそう返してしまった。

いや、僕の場合は理解出来てはいる…けど、頭が理解するのを拒んでいる。

 

「くっ……!呪いぐらいでこの私は屈しない……!屈しはしないが……っ!ど、どうしようカズマとホムラ!見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙って言うことを聞けと、凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だっ!」

 

大衆の前で、突然変質者呼ぼわりされたデュラハンはポツリと言った。

 

「……えっ」

 

可哀想に、呪いをかけた相手手が底なしのドMだったせいであらぬ疑いを……なんか本当に可哀想に思えてきた。

 

「この私の体を好きにできても、心までは自由にできるとは思うなよ!城に囚われ、魔王の手先に理不尽な要求をされる女騎士とかっ!ああ、どうしよう、どうしようホムラとカズマっ!!予想外に萌えるシチュエーションだ!行きたくはない、行きたくはないが仕方がない!ギリギリまで抵抗してみるから邪魔はしないでくれ!では、行ってくりゅぅ!」

「ええっ!?」

 

「止めろ、行くな!デュラハンの人が困ってるだろ!」

 

「カズマの言う通りだよ!いくら敵といえど、あんな冤罪ふっけかた上に行くなんてデュラハンが可哀想だよ!」

 

歓喜の声を上げながら敵について行こうとするダクネスをカズマと僕は必死で引き止めると、デュラハンはほっとしていた。

てか、アンデッドすら引くドMぶりって……

 

「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を放つのは止めろ!そして、紅魔族の娘よ!そこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい!城の最上階の俺の部屋まで来ることが出来たなら、その呪いを解いてやろう!……だが、城には俺の配下のアンデッドナイト達がいる。ひよっこ冒険者のお前達に俺のところまでたどり着くことが出来るかな?クククククッ、クハハハハッ!」

 

デュラハンはそう宣言すると、哄笑しながら街の外に停めていた首の無い馬に乗り、そのまま城へと去っていった……。

 

 

****

 

(色んな意味で)突然な展開に、ほかの冒険者たちは呆然と立ちつくしていた。

カズマも同じように立ち尽くしているが、めぐみんは青い顔で震えながらも杖を握り直し、1人街の外に出ていこうとした。

 

「おい、どこ行く気だ。何しようってんだよ」

 

カズマがめぐみんのマントを引っ張ると、彼女は振り向きもせずに覚悟を決めたような雰囲気を出しながら言った。

 

「今回のことは私の責任です。ちょっと城まで行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法ぶち込んで、ダクネス呪いを解かせてきます」

 

めぐみん1人では、あのデュラハンの所まで行くのは難しいのに…

でも、それはよくわかっている上で言っているのだろう…全くこの子は…

 

「それを言うなら、俺も行くに決まってるだろうが。お前一人じゃ、雑魚相手に魔法使ってそれで終わっちゃうだろ。そもそも、俺も毎回一緒に行きながら、幹部の城だって気づかなかったから同罪だ」

 

「僕らはパーティなんだろ?1人で背負い込まずにパーティメンバーにも頼りなって」

 

カズマと僕の言葉にしばらく渋い表情を浮かべていためぐみんは、やがて諦めたように肩を落とした。

 

「……じゃあ、一緒に行きますか。でも、相手がアンデットナイトとなると武器は聞きにくいですね。私とホムラの魔法なら有効です。……高威力広範囲の分野なら私の方が適任でしょうから、私の力を使ってください」

 

めぐみんはそうかすかに笑みを浮かべて言った。

めぐみんが言っているとおり、中級魔法には高威力広範囲の魔法はない。霊術や妖術なら、あることはあるが隙が大きいし、あのデュラハンを消し飛ばせるかと言われると無理だ。

それなら、めぐみんの爆裂魔法の方がまだ可能性はある。

 

「なら、俺に考えがある。俺の敵感知スキルで城内のモンスターを索敵しながら、潜伏スキルで隠れつつ、こそこそ行こう。もしくは、一週間という期限を使って、毎日城に通って一階から順に爆裂魔法で敵を倒して帰還。これを毎日地道にやって敵を削っていくってのも一つの手だ」

 

後者の作戦なら、配下のアンデッドナイト達をこちらの損害を少なく確実に倒すことが出来る。

問題ははあのデュラハンなのだが…未完成だけど【黒化】とめぐみんの爆裂魔法を上手く使えば倒せる可能性は十分にある。

作戦がある程度決まり僕らはダクネスの方を振り返った。

 

「ダクネス!呪いは絶対になんとかするから!だから安心……」

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

ダクネスを元気つけようと、僕が声掛ける最中にそれを遮る形でアクアさんが唱えた魔法を受けて、ダクネスの体が淡く光った。

そして、どことなく残念そうにしょんぼりして転がっている小石を蹴るダクネス。対照的に嬉々とした様子のアクアさん。そして、アクアさんはドヤ顔で言った。

 

「この私にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんてちょちょいのちょいよ!どう、どう?私だってたまにはプリーストっぽいでしょう?」

 

「「「……えっ」」」

 

すっかり忘れていたが、アクアさんは女神なので呪いの解除なんて朝飯前なのだろう。

けど、盛り上がっていた僕らのやる気返して欲しいなぁ……

 

てか、普段はプリーストっぽくないの自覚してたんだ…




デュラハンさんの解説は彼がまた出てきた時にします。今だと色々ネタバレになってしまいますので…


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第7話

遅れて申し訳ございません!
ゼミの面接やらバイトやらでこんなに遅く…

とりあえず、本編どうぞ!


 

デュラハンが来てから特にこれといったことも無く一週間たったある日。

 

「多少キツくてでも、クエストを受けましょう!お金が欲しいの!」

 

アクアさんがそんなことを言い出した。

「「「ええ…」」」

 

特にお金に困っていない僕とカズマ、めぐみんは不満そうな声を出した。

 

「私は構わないが…私とアクアだけでは攻撃力に欠けるだろう」

 

ダクネスは乗り気だけど、肝心のアタッカー勢はそうではない。そんな状況下でアクアさんは泣き出し始めてしまった。

 

「お、お願いよーー!もうバイトは嫌なの!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は私、全力で頑張るからぁぁぁ!」

 

このアクアさんを見て女神様だと思える人はいるのだろうか?

僕ら3人は顔を見合わせ、一斉にため息を吐いた。流石に可哀想だと皆思ったのだろう。

 

「はぁ…しょうがねぇな。じゃあ、良さそうだと思うクエスト見つけてこいよ。良さそうなのあったらついてくから」

 

「ありがとう!」

 

カズマがそう言うと、アクアさんは掲示板の方へ向かっていった。そんなアクアさんを見て、めぐみんが不安そうに呟いた。

 

「あの…カズマ達も見てきてくれませんか?アクアだととんでもないものを持ってきそうで…」

 

「……だな。まあ、私は別に無茶なクエストでも文句は言わないが……」

 

「確かにめぐみんの言う通りだね…カズマ、僕らも見に行こう」

「ああ、そうだな」

 

「んん!無視とは…!」

 

勝手に悦んでるドMを放置してアクアさんのの近くへ行くと…

 

「んー…よし!」

 

「よし!じゃねえ!お前、何請けようとしてんだよ!?」

 

アクアさんが掲示板から剥がした依頼書をカズマが取り上げた。

どんなクエストを請けようとしたのか、気になって見てみると…

 

『マンティコアとグリフォンの討伐──マンティコアとグリフォンが縄張り争いをしている場所があります。放っておくと大変危険なので、2匹まとめて討伐してください。報酬は50万エリス』

 

「「アホか!(なんですか!)」」

 

僕とカズマは同時に叫び、カズマは依頼書を元の場所に貼り直した。

それに対し、アクアさんは不満そうな声を出した。

 

「何よもう、2匹まとまってるとこにめぐみんが爆裂魔法を食らわせれば一撃じゃないの。ったくしょうがないわねー……」

 

このバ…アクアさんはその2匹が最初からまとまってると考えたからこのクエストを請けようとしたんじゃないだろうか。

僕はこの人の知力がどうなっているのか疑いだしていると、アクアさんは別の依頼を持ってきた。

 

「ちょっと!これなら私にピッタリだわ!」

 

言われてどんな依頼なのか見てみる。

 

『──湖の浄化──街の水源の1つの、湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住み着き始めたので水の浄化を依頼したい。湖の浄化が出来ればモンスターは生息地を他に移すため、モンスターは討伐しなくてもいい。※要浄化魔法習得済みのプリースト。報酬は30万エリス。なお、討伐した場合は追加報酬あり』

 

「お前、水の浄化なんてできるのか?」

 

カズマの疑問にアクアさんはふっと鼻で笑った。

 

「バカね、私を誰だと思ってるの?というか、名前や外見のイメージで私が何を司る女神かぐらい分かるでしょう?」

 

「「宴会芸の神様」」

 

おっと、うっかり本音が。

 

「違うわよ!水よ!この美しい水色の瞳とこの髪が見えないのっ!?」

 

宴会芸スキルをやってるところをよく見るから間違えちゃうのは仕方ないかと。

でも、水の浄化だけで30万エリスとは確かに美味しい。

その後、浄化には水に直接触れる必要があるのと半日ぐらいかかる可能性がある、ということをアクアさんから聞いたカズマはある作戦を思いつきクエストを請けることになった。

 

 

*****

 

依頼にあった湖にて、アクアさんは捕獲したモンスターの運搬用に使われる檻の中に入って、湖に投入されていた。

別に業を煮やしたカズマがアクアさんを湖に不法投棄したわけではない。

緊急の際には、借りてきた馬に鎖でオリを引っ張らせて逃げる予定だ。

 

「おーいアクアー!浄化はどうだー?トイレ行きたくなったら言えよー!」

 

 

「浄化は順調よー!あと、アークプリーストはトイレなんて行かないから!」

 

いや、少なくとも人間のアークプリーストはトイレ行くと思うのですが、と言いたいところだが言うとダメな気がしたので黙っておく。

ってか、失礼だけどなんか遠くから見てるとダシを取ってるみたいだなー…

 

「閉じ込められてますけど、なんか大丈夫そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレには行きません」

 

なんか、めぐみんも対抗してこんなこと言い出した。

あなただって人間でしょう…いや、紅魔族ってもしかしたら人間とは体の作りが違うのだろうか?

 

「わ、私もクルセイダーだから…と、トイレには……ううっ!」

 

ダクネスも同じことを言おうとするも途中から恥ずかしくなったのか、言葉を詰まらせた。

いや、あなたのドMぶり考えるとその程度全然恥ずかしくともなんともないからね?

 

「ダクネス、対抗しなくていい。こいつらは日帰りで終わらんクエストに連れてって、本当かどうか確かめてやる」

 

 

「さ、流石にそれはやめてあげなよ…」

 

「と、トイレには行きませんが謝るのでやめてください。しかし、ワニ来ませんね…このまま何事もなければ良いのですが……」

 

「ねえ、カズマ。これってフラグってやつじゃない?」

 

「やめろ、お前ら2人でフラグを建てんなよ…」

 

なんてこと言ったせいか、湖の方から声が聞こえてきた。

 

「嫌あぁぁぁ!なんかきた!なんか来たんですけど!!」

 

見ると、件のブルータルアリゲーター…長いからワニでいっか。ワニの群れがアクアさんが入った檻をとり囲もうとしていた。

ってことは僕の出番だね。

 

「それじゃ、行ってくるね。ダクネス、万が一ワニがそっち行ったら僕が来るまでカズマとめぐみんを守ってね」

 

「ああ、わかった。それと、もしそうなったら私の方は後回しでアクアの方を先に助けてくれ」

 

「相変わらずだね……」

 

僕は2枚の札を2挺のミニ八卦銃に変えると、霊力で身体能力を強化して湖の方へ向かった。

 

*****

 

ホムラはアクアをとり囲もうとしているワニに何匹がミニ八卦銃から霊力弾を放った。

しかし、ホムラが放った霊力弾はワニ達に当たりはしたもののホムラの予想よりも外皮は丈夫だったようで倒しきれてはいなかった。

 

(なるほど、普通の霊力弾1発だけじゃ倒しきれないか…なら!)

 

何を考えたのか、ホムラは足に力を込めてワニの群れの中に向かって、跳んだ。

 

「ちょ!?あいつ何やってんだ!?」

 

ホムラのとった行動が自殺行為同然に見えたカズマが慌てたように声を出した。

案の定、ホムラの存在に気がついたワニは落ちてくるホムラを食べようと口を大きく開け──霊力弾を撃ち込まれ絶命した。

ホムラは撃ち殺したワニの上に乗ると同時に、右手のミニ八卦銃を腰に着け、肩に背負ってる剣を目の前にいるワニの首あたりに魔力を纏わせて振り下ろし、首をふっ飛ばす。と、同時に左手に持っていたミニ八卦銃を後ろに向けて、先程まで溜めていた霊力を放つ。放たれた霊力弾は後ろからホムラを襲おうとしていたワニを貫通し、さらに後ろにいたワニをも貫いた。──外皮が硬いなら柔らかい内側を狙う、もしくはその外皮すら貫く威力でやればいい、というのがホムラの答えだ。

ホムラが戦っている一方、アクアはというと…

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!」

 

早く終わって欲しいがために一心不乱に浄化魔法をかけていた。

そう思うのも無理はないだろう。ホムラがアクアを守ろうとさっきから多くのワニを討伐しているものの、カバーしきれない一部のワニはアクアが入ってる檻をガジガジと齧ったり、回したりとやっているからだ。

 

「『ピュリフィケーション』!わああぁぁぁ!今鳴っちゃいけない音が鳴ったー!ホムラさん!ホムラさあああん!」

 

「炎降刃!」

 

檻を齧っていたワニ達のうち、1匹を頭の上から炎をまとわせた剣で突き刺し、口を開けて檻を齧ろうとしたワニ達の口の中に霊力弾を放つ。

「っ!」

 

そして後ろからホムラを食わんと口を大きく開けたワニを振り向きざまに斬り裂いた。

ホムラの無双っぷりを見ていたカズマは思わず呟いた。

 

「なんか無双ゲーム見てる気分になってきた」

 

「無双げーむ?何を言ってるんですか…でも、ホムラが中々やるのは認めます。最も、爆裂魔法を操る私には及びませんが」

 

「ホムラに1回謝ってこい」

 

「……ワニ、来ないな」

 

「お前ってやつは…」

 

無双するホムラを見ながらカズマは相変わらずな仲間2名に対して頭を悩ませた。

 

*****

 

「せやあ!」

 

ホムラは気合いとともに目の前にいたワニを斬り捨てると、同時にそのワニの体の上に飛び乗り周りをざっと見渡す。数は結構減っており、あと数匹程しか残っていない。しかし、ワニ達は逃げる素振りは全く見せておらず寧ろ敵意は強まってるようにホムラは感じた。

 

(逃げる気ないなら倒すしかないけど…まとめて倒してアクアさんの負担を無くそう)

 

ホムラはそう考えると、ミニ八卦銃をしまい剣を両手で持ち、霊力をさらに流し巨大な光の刀身を生成した。

彼の剣の師である半人半霊の少女から教わり、ホムラが使う技の中でも攻撃範囲が広く、威力も高い技。

 

「断命剣『冥想斬』!」

 

振り下ろされた光輝く剣は残りのワニ達を纏めて真っ二つにした。

 

「ふー…アクアさん、ワニは全部片付けたので、安心していいですよ」

 

残りのワニがいないことを確認したホムラは剣を鞘に収め、そう言いながら、アクアの様子を見るため檻に近づく。

 

 

「アクアさん?大丈夫ですか?」

 

反応がないアクアを心配して、ホムラが中を確認すると…

 

「うええぇ…こわがったよぉぉぉ……ありがとね…!ありがとうね…!ホムラぁ…!!」

 

ガチ泣きしながらホムラに礼を言うアクアの姿があった。

 

「はいはい…よく頑張りましたね…。怖いのはもう居ませんから、ゆっくり落ち着いてやりましょう?ね?」

 

「ふえぇぇぇ…」

 

****

 

「ホムラって凄いわね!あなたの強さに免じて、死んだ後、私の直属の子ににしてあげてもいいわよ!」

 

 

「結構です(即答)」

 

 

クエストからの帰り道。

使った檻と倒したワニの何体かを乗せた馬車を引きながら僕らは街の中を歩いていた。

湖の浄化はアクアさんが言った通り半日で終わり、ついでにワニも全部僕が倒したのでこのクエストは完璧に達成した。

なお、報酬の割り振りに関しては、湖の浄化分はアクアさんが、追加報酬は僕が貰うというふうに収まった。本当は、僕の分を皆に分けて配ろうと思ったんだけど、1人で頑張ったのに貰うのは気が引けると言われてしまい、渋々下がった。

「後は、ギルドに報告して報酬を貰って今日は終わり…なんか、本当に無事に終わったね」

 

「おい、そんなフラグめいたことを…いや、街の中だから大丈夫か」

 

なんてことを話していたせいか、急に男がアクアさんに話しかけてきた。

 

「女神様!?女神様じゃないですか!」

 

早く馬小屋で眠らせてください…

 




長すぎてしまうため、みんな大好き(?)あの人は次回に先送りです。
では、本日の解説コーナーです

炎降刃:初出はロックマンX8。炎を纏った剣で地上の敵を突き刺す対地技。それより前のロックマンX5では断地炎というのがあり、こちらは地上に剣が着いた瞬間に小さい爆発が起こる(ダメージは入らないが)

断命剣『冥想斬』:東方Projectの魂魄妖夢が使うスペルカード。初出は東方萃夢想。元ネタでは、妖力を剣に流して巨大な光の刀として相手を斬るというシンプルなもの。なお、ホムラが使うと霊力の圧縮具合がまだまだなため、妖夢のと比べると弱いという設定。


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第8話

何とか短い期間で投稿が出来た…これからもこんぐらいのペースで出来ればなぁ…

とりあえず本編の方どうぞ


 

 

「あ、ありのままに起こったことを話すぜ!クエストが無事に終わって、街の中を歩いてたら茶髪でいかにも高そうな青い鎧を着て、腰に剣を差したイケメンがアクアに話しかけてきた…!何を言ってるかわからねーと思うが俺も分からねえぜ…!」

 

「急にどうしたのさ、カズマ」

 

まあ、カズマが言ったように突然、アクアさんに、槍を持った戦士風の美少女と革鎧を着てダガーをこしにぶら下げてる美少女を引き連れ、茶髪でいかにも高そうな青い鎧を身に付け、腰に剣を差し、イケメンが話しかけてきた。

そして、当のアクアさんは…

 

「……?」

 

まるで、誰だこいつと言わんばかりにキョトンとしていた。

でも、アクアさんを見て女神様って言ってるってことは転生者なのだろう。

 

「おい、急に出てきて私の仲間に何の用だ?気安く触れるな」

 

ダクネスが真剣な顔で男の肩を掴む。ど、どうしよう…

 

「ダクネスがダクネス(ドM)してない!?」

 

「だな、普段からあんな感じなら苦労しないのにな」

 

僕とカズマの会話を聞いて、ダクネスは顔を赤くした。普段の自分があれなの自覚してるんだね…

 

「んんっ!!おい貴様。アクアの知り合いという割には、肝心のアクアがお前に反応していないのだが」

 

咳払いをしたダクネスが言う通り、アクアさんは全く反応していない。それを見て、男はアクアに詰め寄るように言う。

 

「アクア様!僕です!御剣響夜です!あなたに魔剣グラムを頂きこの世界に転生した…」

 

その男…ミツルギは腰から剣を抜いて見せた。ふむ…確かに魔力を感じるし、かなりいい剣に見える。

 

「あ、あー…。居たわねそんな人も!他にも結構な数を送ったし、忘れててもしょうがないわよね!」

 

アクアさんの言葉にミツルギは顔を引き攣らせたが、すぐに笑顔に戻して話しかけた。

 

「ええっと、お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張ってますよ。ところでアクア様は何故この世界に?というか、何故檻が馬車に積んであるんですか?」

 

ミツルギは何故かこちらをチラチラ見ながら話す…何でだろうか?

 

「カズマ、なんであの人はこっち見てるんだろう?」

 

「おおかた、俺らが何か関係あると思ってんだろう」

 

なるほどそういうことか。

その後、カズマがアクアさんがここに来た経緯やその他諸々を説明し…

 

「女神様を無理やり連れてきて!?挙句の果てに檻に閉じ込めて湖に浸けた!?君は一体何を考えているんだ!?」

 

それが終わった瞬間、ミツルギはカズマの胸倉をつかみ、ブチ切れた。

いや、アクアさんがこの世界に来た理由に関しては、カズマのことを馬鹿にしなければ良かっただけの話なんだけど。

…いや、恩人がそんな目に遭わされたって聞いたら普通ブチ切れるか。僕も藍様や紫様とかがそうなってたらブチ切れてるだろうし。

アクアさんは激昴するミツルギを慌てて止めに入った。

 

「ちょ、ちょっと!私としては連れてこられた事はもう気にしてないし、それなりに楽しくやってるのよ?それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって怖かったけど怪我もなく無事に完了できた訳だし。しかも、報酬を全部くれるって言うの!」

 

アクアさんがそう言うが、ミツルギは憐れむようにアクアさんを見た。

 

「アクア様、こんな男にどんな風に丸め込まれたかは知りませんが、報酬がたった30万なんて不当ですよ…ところで、アクア様は普段どこに寝泊まりしてるのですか?」

 

「えっと…馬小屋だけど…」

 

 

「はぁ!?」

 

アクアさんの答えに、ミツルギはありえないと言いたげな表情で更にカズマの胸倉を掴む力を強める。

 

 

「…痛いんですけど」

 

睨んでくるミツルギにカズマも睨み返してはいるが、力を緩める気配もなければ離す感じも全くない。

これは流石に止めに入らないと。

 

 

「気持ちは多少わかるけどやりすぎじゃないかな?それ以上カズマに何かするって言うなら僕も黙って見てないよ?」

 

「その通りだ。知り合いかなんだが知らないが、礼儀知らずにも程があるだろう」

 

ダクネスも一緒に言うと、ミツルギはカズマを離し、こちらを見た。

 

「すまない、冷静になれずつい…クルセイダーに、獣人?の君は…」

 

「ルーンナイトですよ」

 

「なるほど、それにアークウィザード…ふむ、君はパーティメンバーに恵まれてるようだね」

 

 

「そりゃどうもー」

 

ミツルギから開放されたカズマが襟元を正しながらミツルギから距離をとる。

 

「なあ、何でアイツキレてるんだ?馬小屋に泊まるなんて普通だろ?」

 

「あー、普通の転生者はチート武器とか能力のおかげで最初から高難易度のクエストを沢山クリア出来るからお金に困ってないんじゃない?」

 

「ええ、ホムラの言う通りよ、多分それで怒ってるんじゃないかしら?」

 

カズマの疑問に僕の推測を伝えるとアクアさんもそれに同調した。

カズマはそれを聞いて納得した同時にさっきより怒気が増したようだ。

そりゃ、なんも苦労もしてないやつからいきなり上から目線で説教されたら誰だってムカつく。まあ、僕もミニ八卦銃っていうチート武器貰ってるから人の事とやかく言えないけど。

 

「安心しろホムラ。ミニ八卦銃なんか無くてもお前は充分チート級に強い」

 

「いや、師匠たちと比べたらまだまだ…ちょっと待って。何で僕が考えたこと分かったの?」

 

僕らがそんなことを話してると、ミツルギは憐れむような視線でアクアさんを見た。

 

「君たち、今まで苦労してきたんだね。これからは僕のパーティーに入るといい。高級な装備品も買い揃えてあげるし、もちろん馬小屋でなんて寝泊まりさせない。パーティーの構成的にもバランスがいいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と盗賊。クルセイダーのあなたに、アークウィザードのその子にアクア様。ピッタリなパーティじゃないか」

 

「カズマ、僕ってあの3人みたいに特化してるものがないからハブられたのかな?」

 

「いや、アイツがただ単にハーレム作りたいだけなんだろ。それとお前があいつらみたいに変な方向に特化してたら俺は泣くぞ、寧ろバランスがいいお前じゃないと俺はダメだ」

 

「なんかそこまで必死に言われると、どう反応すればいいか分からないや…」

 

ミツルギの言い方は若干ムカつくがかなりの好待遇。指名された3人の反応を伺ってみると…

 

「あの人本気でひくぐらいキモイんですけど。ナルシストも入っててやばいんですけど」

 

「私もあの男は生理的に受けつけない。攻めるよりも受けるのが好きな私だが、あいつだけは無性にボコボコにしたいのだが」

 

「あの苦労知らずの、スカしたエリート顔に爆裂魔法ぶち込んでいいですか?いいですよね?」

 

大不評であちらに移籍はしないようだ…それはともかく、爆裂魔法ぶち込もうとするめぐみんを抑える。こんな街中でやられたら大惨事だし、テロリスト扱いされる。

 

 

「ねえ、カズマ。特典をあげた私が言うのもおかしいけど、無視して早くギルドに行こう?関わらない方がいい気がするわ」

 

アクアさんがカズマの裾を掴み、そう言う。カズマもそれに同意しその場を去ろうと一言言う。

 

「えーと、俺の仲間は満場一致であなたのパーティには入りたくないそうです。それじゃ」

 

そして、去ろうとしたのだがミツルギはその前に立った。

 

「…どいてくれます?」

 

カズマはイラつきながら退くように促すもミツルギは聞く耳を持たず話を進める。

 

「悪いが、アクア様をこんな境遇には置いてはおけない。アクア様は僕と一緒に来た方が絶対にいい。そこで、提案なんだがアクア様を持ってこられる者として指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。もし君が勝ったら何でも一つ、言う事を聞こうじゃないか」

 

 

「よし!乗った!」

 

ミツルギの提案に同意したと同時に、カズマは腰に指していた短剣を片手にミツルギに斬りかかった。

 

「え、ちょっ!まっ…!」

 

ミツルギはそれに驚きながらも剣を急いで抜いてそれを防ぐと同時にカズマは左手を突き出す。

 

「スティール!」

 

カズマが発動したスキルでミツルギの魔剣を1発で奪った。

一方、ミツルギは何が起こったのか呆然としていた。

 

「へ?」

 

「ほい」

 

そんな、隙だらけなミツルギにカズマは奪った魔剣の面の部分で思い切り頭を叩いて気絶させた。

 

 

「卑怯者卑怯者卑怯者ー!」

 

「あんた最低よ!この卑怯者!ちゃんと正々堂々と戦いなさいよ!」

 

カズマとミツルギの勝負が終わった瞬間、連れの女の子二人がカズマを非難し始めた。

だが、カズマはそんなのお構い無しに話を進める。

 

「俺の勝ちってことで。こいつ、負けたらなんでも言うこと聞くって言ってたな?それじゃあ、この魔剣貰っていきますね」

 

「なっ!?ば、バカ言ってんじゃないわよ!それに、その魔剣はキャウヤにしか使いこなせないわ。魔剣は持ち主を選ぶのよ。既にその剣は、キョウヤを持ち主と認めたのよ?あんたには、魔剣の加護を得られないわ!」

 

カズマの言葉に、少女が自信ありげにそんなことを言ってくる。

カズマはアクアさんの方を向くも、帰ってきたのはその魔剣はミツルギ専用のもので、カズマではちょっと切れ味がいい剣程度にしかならないとのこと。

カズマはそれを聞いて落ち込むも、すぐに切りかえ。

 

「まあ、せっかくだし貰ってくわ。んじゃ、そいつが起きたらこれはお前がもちかけた勝負なんだから恨みっこなしだって言っといてくれ。……それじゃアクア、ギルドに報告に行こうぜ」

 

そう告げたカズマを通すまいと、ミツルギの仲間の少女が武器を構えた。

「ちょちょちょ、ちょっとあんた待ちなさいよっ!」

 

「キョウヤの魔剣、返して貰うわよ。こんな勝ち方、私たちは認めない!」

 

それを見たカズマは手をワキワキさせ…

 

 

「別にいいけど、真の男女平等主義者な俺は、女の子相手でもドロップキックを食らわせれる公平な男。手加減してもらえると思うなよ?公衆の面前で俺のスティールが炸裂す…」

 

「カズマ、それ以上は後で変な言いがかり付けられるかもだから、ここは僕に任せて」

 

僕はカズマの前に出て彼女たちに向き合う。これ以上、カズマに悪い印象をつけたくはない。

 

「ちょっと気になったんだけどさ、あなた達はそこの人が卑怯だってことを理解してますか?」

 

「なっ!キョウヤが卑怯ですって!?何言ってるのよ!」

 

予想通りの反応で頭が痛くなってきた…この人たち、ミツルギって人を慕いすぎてよく周りが見れてないのかもしれない。

 

「まず、そこの人はソードマスターという上級職で高レベルなんですよね?」

 

「…ええ、そうよ。けど、それがどうしたっていうのよ!」

 

「それが問題なんですよ。カズマは最弱と呼ばれてる冒険者という職業でレベルも1桁。そんな冒険者と高レベルソードマスターがなんの小細工もなしに剣だけで戦ったらどんな結果になるかなんて、誰でも分かること…つまりそこのミツルギは正々堂々とは言いづらい戦いをしかけたのも同然で、卑怯と言われても文句は言えないよ」

 

「…で、でも!」

 

「けど、あなたがたの言う通り、確かにカズマは卑怯と言われてもおかしくはないやり方で勝利しました…けど、格上に勝つためにはそれしか方法がなかった。拒否してるのにも関わらず、無理やりパーティメンバーが引き抜かれるのを防ぐためにね」

 

「……」

 

ここまで言うと、向こうは何も言えず黙りこくってしまった…敵意はまだあるのがまためんどいけど。

 

「とりあえず、この場は収めてくれますか?…もし、退く気がないというなら…僕は容赦しない」

 

「「ヒッ!?」」

 

最後のダメ押しとして、笑顔でお願いしたのに怖がられてしまい…

 

「お、覚えてなさいよぉぉ!」

 

女の子達はミツルギを背負うとどっか行ってしまった。怖がられてたのは誠に遺憾だけど結果オーライだね。

 

「ふう…それじゃギルドに行こ…ちょっと待って、なんでダクネス以外の皆は僕から距離を取ってるの?ねぇ?」

 

「目が据わってる状態であんな笑顔で、あんなこと言われたら誰だってビビるわ」

 

「安心しろホムラ。私はビビってないからな…寧ろ…」

 

「いや、ダクネス。その先は言わなくていいよ…何が言いたいかは分かりたくはないけど分かるから」

 

厄介事を解決した代償として、仲間からも怖がられてしまい、変態を悦ばせてしまった…

 

*****

 

「なんでよおおおぉ!?」

 

あれから数時間後、ギルドでまたしてもアクアさんの叫び声が響き渡った。

何でも、ワニがガシガシ齧りまくった檻の修理代で20万程報酬から天引きされてしまい、結果として10万しか貰えなかったらしいのだ。こればかりは流石にドンマイとしか言えない。

「その、アクアさん。ご飯奢りますから切り替えましょう?僕も報酬20万ほど貰いましたから」

 

「ホムラさん、ありがとうね…」

 

なお、最初は僕が修理代を払おうとしたのだが、珍しくアクアさんが、守ってくれただけで十分だから払わなくていいと言ってきたので断念した。

 

「見つけたぞ!佐藤和真!」

 

そんな時、ミツルギがギルドの入口に来ており、カズマのフルネームを叫びながらやって来た。

 

「君のことはある盗賊の女の子に聞いたら教えてくれたよ。君はぱんつ脱がせ魔だってね。他にも、女の子をヌルヌルにするのが趣味の鬼畜だとね!」

 

「おい待て、その話詳しく」

 

あんまりな汚名にカズマが声を上げるが、ミツルギはそれを無視してアクアさんに向きなおる。

 

「アクア様。僕はこの男から魔剣を取り返し、必ず魔王を倒すと誓います!ですから、同じパーティーに…ん?どうしたんだい、お嬢ちゃん?」

 

ミツルギが何か言い終わる前にめぐみんは彼の裾をひっぱり、カズマの方を指さした。

 

「まず、その男が魔剣を持ってない件について」

 

「!?さ、佐藤和真!ぼ、ぼぼぼぼ僕の魔剣はどうした!?」

 

ミツルギの言葉にカズマは無慈悲にも一言告げた。

 

「売った」

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「「ああ!?キョウヤ!」」

 

ミツルギは凄まじい勢いでギルドを飛び出し、彼の仲間の少女達も慌てて出ていった。

 

 

「全く何だったのだ、あいつは…。ところで、先程からアクアが女神だとか言われていたが、何の話だ?」

 

「そういえば、そんなことを言ってましたね」

 

そう聞くダクネスとめぐみんに、アクアさんは真剣な表情で2人を見る。

そして…!

 

「今まで黙っていたけど、実は私は女神アクア。アクシズ教団が崇める御神体なのよ!」

 

「「という夢を見たのか」」

 

「違うわよー!何で誰も信じてくれないのよー!?」

 

あっさり流されてしまい、落ち込むアクアさん。まあ、普段の言動を見てたら女神様とは思えないから仕方ない。

そんなやり取りをしていると、ギルドから放送が流れた。

最近多いな…今度はなんだろうか?

 

 

『緊急!緊急!冒険者各員は、武装して正門に集まってください!特に、サトウカズマさん御一行は大至急!』

 

え?なぜに……あっ…(察し)

 




予想以上に長くなってしまった…
今回は特に解説することは無いので解説コーナーはありません


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第⑨話

データが消し飛んだせいで早く出せないという事態…大変申し訳ございません。次からよく気をつけねば……

ちなみにタイトルの⑨は間違いではなく、わかる人に分かるネタなので気にしないでください。

それでは本編の方どうぞ


僕らが街の正門まで行くと、前回みたいにデュラハンと大勢の冒険者がいた。

だが、前回とは違いデュラハンの後ろには鎧や兜を身につけたアンデッドが沢山いた。

 

「やっぱりあいつか。今度は何しに来たんだ?」

 

「さあ?けど、後ろにアンデッドを連れてる辺り穏やかな用件ではないと思うよ」

 

僕らがそんな会話をしてる中、ダクネスを除いた僕らを見たデュラハンは体をプルプルと震えさせ…

 

「何故城に来ないのだ!この、人でなし共があぁぁぁ!!」

 

怒りの言葉を叫んだ。

 

「なんで城に行かなきゃならねーんだよ。それに、爆裂魔法だって撃ち込みにすら行ってねえぞ」

 

「あと、人でもないデュラハンに人でなしって言われる理由とか根拠はないよ?」

 

僕とカズマの言葉を聞いたデュラハンはわなわなと身体を震えさせた。

 

「撃ち込みにすら行っていない…?撃ち込みにすら行っていないだと!?よくそんな嘘がつけるな!そこの頭のおかしい紅魔族の娘が毎日欠かさずに通っておるわ!」

 

デュラハンはそういい勢いよくめぐみんを指さす。僕らや周りの冒険者もつられてめぐみんに視線を向ける。すると、めぐみんはふいっと視線を逸らした。

 

「お前行ったのか!もう、行くなって言ったのに、あれからまた行ったのか!!」

 

カズマが怒りながらめぐみんの頬を両手で思いっきり引っ張った。

 

「ひふぁい!ひふぁいです!ち、違うのです!聞いてください!その…前までは何も無い荒野に爆裂魔法を放つだけで満足してたのですが…城に撃ち込んでからは、その…大きくて硬いものじゃないと我慢できない体にぃ…」

 

「も、モジモジしながら言うな!そもそもお前、魔法撃ったら動けなくなるだろう!という事は、共犯者が居るな!いったい誰が…」

 

カズマが辺りを見回すと、アクアさんが口笛を吹きながら顔を背けた。

……………。

 

「わぁぁぁぁぁ!!ホムラさん!なんで私の襟首を掴むの!?」

 

「アクアさん、僕は怒っていませんから、正直に答えて下さい。めぐみんつれて爆裂魔法撃ち込みに行きましたね?」

 

「分かった!正直に言うからその顔で怒らないで!こわいからあぁぁぁぁ!」

 

曰く、まともなクエストを請けれない腹いせにやった、店長に怒られるのはあいつのせいだからとのこと。

「いや、店長に叱られるのはお前の働きぶりのせいだろ」

 

「わぁぁぁぁぁ!」

 

カズマのツッコミにアクアさんが叫ぶ中、デュラハンは言葉を続けた。

 

「この俺が真に頭に来ているのはそこの頭のおかしい小娘の事だけでは無い!貴様らには仲間を助けようという気は無いのか!?俺はモンスターに身を堕としたとしても元は騎士。その俺から言わせれば、仲間を庇い呪いを受けたあの騎士の鑑のようなクルセイダーを…!」

 

デュラハが言い終わる前に、件の騎士の鑑(実態はドM)のダクネスがおずおずと前に出てきた。

 

「や、やあ…」

 

「……え?」

 

「騎士の鑑などと、照れるな……」

 

「あっれえぇぇぇ!?」

 

珍しくまともな理由で頬を赤く染めるダクネスと狼狽するデュラハンの図である。

 

 

「え、なになに?あのデュラハン、一週間ずーっと待ってたの?帰った後すぐに呪いを解かれたとも知らずに?プークスクス!ちょーうけるんですけどー!」

 

デュラハンを煽るように笑うアクアさん。

それを見てプルプルと震え出すデュラハン。聞かなくても、怒りで身体を震えさせているのが分かるほど、怒気が滲み出ている。

 

「貴様、俺がその気になればこの街の住人を皆殺しにすることだって出来るんだ。この俺がいつまでも見逃すとでも思うか?」

 

「見逃してあげたのはこっちの方よ!今回は逃がさないわよ!アンデッドの癖に、注目を集めて生意気よ!消えちゃないなさい!ターンアンデッド!」

 

デュラハンが何かする前にアクアさんが浄化魔法を突き出した手から放つ。

対して、デュラハンはそれを見ても全く動じず避ける素振りすらしない。

 

 

「仮にも魔王軍の幹部であるこの俺が、こんな街にいる低レベルなアークプリーストに浄化されるとでもぎゃぁぁあぁぁぁ!!」

 

自信たっぷりなセリフを吐いていたデュラハンだったが、体のあちこちから黒い煙を立ち上らせながらも持ち堪えていた。

 

……嘘だろ?

アクアさん達がなにか言っているが僕の耳にはしっかり入っていない。

そもそも神の力は凄まじく、女神であるアクアさんが放った浄化魔法はかなりの威力だった。あのデュラハンも中々の力をもっているが、アクアさんが放ったあれで消えるだろうと予想していたから余計に驚いている。

そんな中、デュラハンがよろめきながらも言葉を続ける。

 

「ク、クク…。人の話は最後まで聞くものだ…我が名はベルディア!魔王軍幹部の1人、デュラハンのベルディアだ!この鎧には、魔王様からの加護により浄化魔法に対して耐性がある。そのため、そんじょそこらのアークプリーストの浄化魔法など効かぬわ!そう、効かぬはずなのだが…お前、本当に駆け出しか…?」

 

なるほど…確かに、感覚を研ぎ澄ませばあの鎧から変な力を感じる。それもかなり強力だ。これなら、アクアさんの浄化魔法が聞かなかったのも頷ける。

 

一方、デュラハン──ベルディアは予想外のダメージに不安になりながらも話を続ける。

 

「まぁいい。この街には強い光が落ちて来たらしくその調査に来たのだが…。面倒だからこの街ごと無くしてやろうか…」

 

 

物騒なことを言い出しベルディアは、右手を高く掲げると…

 

 

「わざわざこの俺が相手をするまでもない。さあお前達!この俺をコケにした連中に、地獄を見せてやれ!」

 

後ろにいるアンデッド達に命令を下した。

 

 

「あ!あいつ、アクアの魔法が予想以上に聞いてビビったんだぜ!自分だけ安全なところに逃げるつもりだ!」

 

すかさず、カズマが叫んでベルディアを動揺させる。

 

「ち、ちちち違うわ!最初からそのつもりだったのだ!魔王軍の幹部がそんな腰抜けなわけないだろう!あれだ、いきなりボスが戦ってどうする!こういうのは、雑魚からだと相場が決まって…!」

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!」

 

 

「うぼあぁぁぁ!?」

 

ベルディアの必死の弁解を無視してアクアさんが先程放ったものより上位の浄化魔法を放つ。

直撃したベルディアは大量の煙を立ち上らせ、地面を転げまわっている。

うん、これは流石にあんまりだと思ってしまった僕は馬鹿なのかもしれない。

 

「やっぱりおかしいわ!効いてないみたいだわ!」

 

「いや、うぼあぁぁぁ!?って言ってたし、効いてると思うぞ?」

 

カズマとアクアさんがそんな話をしている中、ベルディアはフラフラ立ち上がりながらも後ろの部下たちに命令を下した。

 

「アンデッドナイト!この街の人間を…皆殺しにしろ!」

 

*****

 

アンデッドナイトが解き放たれ、冒険者達と戦闘を始めてから数分。

 

 

「くそっ!数が多すぎる!プリーストはまだか!」

 

 

「誰か教会から聖水をありったけ持ってきて!」

 

 

「早く街の住人を避難させろ!」

 

 

アンデッドナイト達が街へと侵入し、大混戦になっていた。

 

「せやっ!」

 

ホムラは1人、特にアンデッドナイトが沢山いるところに向かい、アンデッドナイト達を怒涛の勢いで首を切り飛ばしたり、ミニ八卦銃で消し飛ばしたりとしていたが、数が多すぎてキリがないのが現状だった。

 

(くそ!数が多すぎる…!マスタースパークや滅閃光で一掃出来れば…!)

 

 

ホムラはそう考えるが広範囲をカバーする技が使えないのが今の状況だ。

もし使えば、家屋に被害を与えるのは勿論、戦っている冒険者達にも当たる可能性がある。

結局、地道に一体ずつ倒していくしかない。

ホムラは考えを纏めると、後ろからホムラを斬ろうとしたアンデッドナイトを振り向きざまに横に一閃し首を斬り落とすと、脚に力を込め地面を蹴って近くのアンデッドナイトに接近。ホムラに気がついたアンデッドナイトは、持っている剣で袈裟斬りを仕掛けようとするも遅かった。

 

「疾風牙!」

 

ホムラは勢いを殺さずにそのまま剣をすれ違いざまに一閃。そして、上半身と下半身が別れたアンデッドナイトの上半身に、ブルータルアリゲーターに放ったのと同じ通常より霊力を溜めた霊力弾…言うなれば、チャージショットを放ち、上半身を消し飛ばした。

 

「とりあえず…ここら辺はとりあえず何とかできたかな」

 

ホムラは呟くと、先程戦況を確認するために放った使い魔と視界を共有し、苦しいところの応援に行こうと考えたが…

 

(……!?アンデッドナイト達がカズマとアクアさんを追っかけ回してる!?)

 

使い魔越しから飛び込んできた光景は、とてもまずいものであった。

早く2人を助けにいかないといけない、ホムラはそう考えるよりも早く、使い魔との共有を切り離し駆け出そうとした瞬間、轟音と揺れが街中に響いた。

 

何が起こったのか確認するため、ホムラは急いで使い魔と視界を共有すると、入ってきたのはとてつもなく大きいクレーターと、外傷はなさそうなカズマとアクアの2人。そして、満足そうな笑みで地面に突っ伏してるめぐみんだった。

ここまでの状況を見て何が起こったのか分からないほど、ホムラは馬鹿ではない。

恐らく、何かしらの手段を用いてカズマとアクアがアンデッドナイト達を街の外に誘導、そして街の外に出たところをめぐみんの爆裂魔法で纏めて吹き飛ばしたところだろう。

ホムラはそう予測すると、使い魔を呼び戻して札に戻し、街の外に行こうと剣を納めて駆け出した。

 

 

そうしている間にも事態が進んでいるとも知らずに…

*****

 

おっす、俺カズマ。

突然だが、今かなりやばい事態に陥っている。

アンデッドナイト達を纏めて消し飛ばしたまでは良かったのだが、そこにベルディアが宣言通り参戦。俺とおぶっているめぐみんに襲いかかってきたのだが、それを守るようにほかの冒険者達が立ちはだかり、ベルディアを囲んで一斉攻撃を仕掛け──全滅した。

 

やつは持っていた首を上に放り投げると、持っている大剣を両手に持って鎧をつけていた冒険者達を一太刀で鎧ごと切り捨てたのだ。

 

そのため、周りの冒険者も見てるだけしか出来ない状況に陥り、さらに最悪なことにこの街の切り札だと冒険者達が言っているミツルギは俺が魔剣を売り飛ばしたせいでどっか行っちまっている。

そして、ミツルギの代わりになりそうなホムラはこういう時に限ってここにはいないときた。ん?アクア?あいつはなんかやられてしまった冒険者達のそばでなんかやってるから助力は求められない。

 

「ほう…次は貴様か」

 

誰もベルディアに立ち向かおうとしない中、ダクネスが大剣を構えてベルディアの前に立った。

 

「安心しろ、2人とも。ホムラが来るまで私がこいつの相手を引き受ける。なに、仲間を守るのがクルセイダーの務めだ。それに私の頑丈さとやつの攻撃力、どちらが上か勝負してみたい」

 

ダクネスが真面目な顔で俺らを安心させるように言う。今のダクネスはどこに出しても立派なクルセイダーだ。てか、かっこよすぎて俺が女でこいつが男だったらトゥンク待ったなしだ。

 

「ふ、聖騎士であるクルセイダーが相手とは是非もなし!さあ、来るがよい!」

 

「はあああぁぁ!」

 

ダクネスはベルディアに真正面から斬りかかっていく。対して、ベルディアはダクネスの一撃が重いと予想したのか避ける素振りをしている。

そして、振り降ろされた大剣は──ベルディアの目の前の地面に叩きつけられた。

 

「……は?」

 

ベルディアが気の抜けた声を発し、呆然とダクネスを見る。他の冒険者も同じ視線でダクネスを見る。

ダクネスの顔を見ると、頬を赤くしていた

 

もう、やだ!さっきまでカッコよかったのにこんな変なことしないでくれよ恥ずかしい!

 

「ふん、つまらんな。期待外れだ」

 

そう言って、ベルディアはダクネスに大剣を振り下ろし斬り捨てた。

 

「ああっ!私の鎧が…!」

 

「…え?」

 

ベルディアはダクネスを鎧ごと斬り捨てたつもりだったのだろうが、結果はダクネスの鎧が少し壊れただけ。

ダクネス本人は無事であることに、ベルディアは動揺していた。

 

「ダクネス!攻撃は俺がやるからなんとか持ちこたえてくれ!」

 

「貴様は一体何者なんだ?攻撃はダメダメかと思えば、俺の一撃に耐える…意味がわからん……」

 

そう言い、ベルディアは再びダクネスに斬りかかっていく。

 

「ホムラあぁぁぁ!早く来てくれえぇぇぇ!」

 

俺の悲痛な叫びがどうかホムラに届きますように…

 




解説コーナー

チャージショット:ロックマンやってる人はお馴染みのもの。威力、範囲、貫通力共に高いエネルギー弾を放つ。本作では霊力を溜めたものとして出ている。なお、ロックマンXでは付けているアーマーによって能力が変わる

疾風牙:初出はロックマンX4。原作では、ダッシュしながらセイバーで斬りつけるというもの。本作でも仕組みほぼ一緒。


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第10話

大変遅くなりました!いや、待っている人いるとは思いませんけど、ちょっと言い訳をば。
リアルの方がレポートやらゼミの面接やらで忙しくて執筆の時間取れなかったのと、戦闘シーンが難しくてこんなに時間がかかってしまいました…
大変申し訳ございませんでした。
とりあえず、本編の方どうぞ。


 

ベルディアがダクネスに繰り出した剣戟はすぐに2桁を超えた。これは、身の丈ほどある大剣を軽々しく扱うベルディアの実力の高さを改めて表していると言ってもいいだろう。しかも、その一撃はいくら駆け出しの街の冒険者と言えど、鎧を身につけた戦士達をその鎧ごと斬り捨てるほど凄まじい。

 

一方で、そんな攻撃を受け続けて尚、膝を地に付けず立ち続けるダクネスの防御力も凄まじいの一言に限る。無論、鎧の性能もあるだろうがこの世界では、装備している武器や防具にもスキルの効果が反映される。つまり、ダクネスがどれほど防御関連に特化しているのかがよく分かるのだ。

 

「なぜ倒れん…!貴様、どういうスキルの割り振りをしているのだ…!」

 

ベルディアはそう愚痴りながらも剣を振るう。それを受けたダクネスが少し後ずさる。

 

「くっ…」

 

「ダクネス!大丈夫なのか!?」

 

「何のこれしき…!それよりもカズマ!このベルディアとやらなかなかやり手だぞ!私を一気に全裸に剥くのではなく、少しずつ衣服を剥ぎ取り全裸よりも扇情的な姿にし、男どもの視線を…!」

 

「……はっ?」

 

心配するカズマに帰ってきたのは、ダクネスの性癖全開の言葉。これには、流石のベルディアも動揺し、カズマはシリアスをシリアルに変える仲間の聖騎士に呆れてしまった。

 

その間にも、ベルディアはすぐに気を取り直して再び剣を構える。

 

「あっ!魔法使いのみなさーん!」

 

カズマが後衛の魔法使い達に合図を出す。その合図でベルディアに向けて一斉に魔法を放とうした瞬間。

 

「貴様ら、全員一週間後に死ねい!」

 

ベルディアは魔法使い達に向かって死の宣告を放った。それに動揺し、詠唱を中断してしまう魔法使い達。ベルディアは、それを確認するとダクネスに向き直った。

 

「さて、次は本気でいかせてもらおうか!」

 

ベルディアはそう言い、頭を上へ放り投げて大剣を両手で持った。

ダクネスはそれを見ると、自信が持つ大剣を盾にするように腹の部分を正面に向けて構える。

 

「ほう!潔し!これならばどうだ!?」

 

ベルディアは大剣でカバーしきれていない部分を斬りつけていく。無論、ダクネスの鎧もベルディアの攻撃を受けてどんどん削られていく。

そして、何度目かの攻撃でカズマの頬に生暖かい物がかかった。

 

「おいダクネス!手傷を負わされてるのか!もういい!下がるんだ!」

 

頬にかかったものが血だと分かったカズマが下がるようにダクネスに言うが、ダクネスは首を横に振る。

 

「クルセイダーは、誰かを背に庇っている状況では下がれない!こればっかりは絶対に!私の趣味とかは関係なく!」

 

 

「お前…!」

 

 

「そ、それにだ!さっきも言ったとおりこのデュラハンはやり手だぞ!鎧を剥ぐだけならまだしも、一撃で決めようとはしてこない!ジワジワとなぶっているぞ!ああ!デュラハンに嬲られる女性聖騎士とか、絶好のシチュエーションだ!!」

 

 

「えっ!?」

 

 

ダクネスの言葉に一瞬手を止め、軽く引くベルディアにカズマは思わずツッコミを入れた。

 

 

「時と場合くらい考えろ!この筋金入りのドMクルセイダーが!それと敵とはいえあんまり人を困らすんじゃねぇ!」

 

「それには僕も同感だよ」

 

突如、カズマの後ろから2つの光弾と1つの光刃がベルディアに向けて放たれた。

 

「む!?」

 

ベルディアは一発目の光弾を躱し、その方向に飛んできていた2発目の光弾と光刃を剣で防ぎつつも、それに続く形で接近してきていた何者かに剣を振り下ろす。その人物はそれを翡翠色に輝く剣で受け流すと、その勢いを利用して体を横にずらし、ベルディアと距離を取ってダクネスの前に立った。

 

翡翠色に輝く剣に先程の光弾を放てる人物はこの街には一人しかいない。

カズマはその人物に向けて言葉を放った。

 

「ホムラ、お前おせぇんだよ!何やってたんだよ!」

 

「遅くなったのは本当にごめん。わけはこいつ片付けてから話すよ。ダクネスは一旦下がってて」

 

その人物──ホムラは謝罪をしつつもダクネスに下がるように言う。

 

「む、だがな…」

 

「正直言って、あいつを倒すには結構な大技を使わないダメそうでさ。それを放つためにもダクネスに時間稼いで欲しいんだけど、念の為傷を癒してからの方が気が楽だから頼むよ」

 

「むう…そう言うなら一旦下がるが…」

 

「ん、来て欲しい時は頼むからよろしくね」

 

ダクネスはホムラの言い分に不満ながらも一旦下がる。

ダクネスが下がったのを確認したホムラは素直に待っていたベルディアに向き直り話しかける。

 

「待ってくれるなんて思ったより律儀だね」

 

「なに、貴様程の手練を不意打ちなんぞで終わらせるのは勿体ないと思ったまでよ」

 

「魔王軍の幹部の方にそう言って貰えるのは光栄だけど、過大評価じゃないかな?」

 

 

ホムラはベルディアの評価に対して肩を竦めながら軽く否定する。

 

「はっ、魔力を剣に纏わせながら俺の攻撃を捌くということをする奴に対しては妥当な評価だと思うが?」

 

ベルディアは魔法はあまり得意ではないがそれに関する知識はある。そのため、武器に魔力──ホムラは魔力ではなく霊力だが──を纏わせるというのはかなり緻密な魔力操作と集中力が必要であるというの知っている。そして、それが実戦向きでは無い事も。

 

そもそも近接戦闘というのは、かなりの集中力を必要とする。それは相手の少しの動きでも見逃せば死に直結するからだ。事実、ベルディア自身もそのせいで死にかけたことがあるからこそそれをよく理解している。そのため、魔力操作に集中なんぞしていれば隙だらけな上にすぐに討たれるのはどんなアホでも分かる事だ。

 

だが、ホムラは魔力を纏わせながらも自身の攻撃を捌いただけではなく、あの時反撃しようとしていたのだ。これは、ホムラが幼年よりかなりの修練を積んだことを証明しており、ベルディアがホムラを高く評価した理由でもある。

 

「まあ、せっかく待ってやったんだ。楽しませてくれよ?」

 

「やれやれ…僕は暇つぶし相手じゃないんだけどなぁ…」

 

ホムラはそう愚痴りながらも、腰に提げているショートソードを左手で抜いて前に、右手の剣を後ろにした構えをとってベルディアに対して意識を集中させる。

 

「では、いくぞ!」

 

ベルディアは頭を上に放り投げると、ホムラに斬りかかった。

 

****

 

一撃でも貰ったら死ぬな。

ホムラはベルディアの剣戟を捌きながらそう思った。ホムラの装備はルーンナイトということと彼の戦闘スタイルも相まって前衛職の割には軽装だ。その上、いくら妖怪の血が混じっているとはいえ、生命力は平均以上だが、かなり高いという訳でもない。そのため、一撃でも貰えばホムラの負けは避けられない未来なのは必然だ。

 

対して、ベルディアは身を鎧で覆われてる上、魔王軍の幹部なだけあってタフであることは容易に想像つく。

現に、ホムラは何度か小さい隙をついて斬り付けているが、ダメージが入っているように見えない。ベルディアもそれを承知で少しの隙程度なら見せても構わないと判断して攻撃をしてくる。

 

つまり、ホムラはベルディアの猛攻を一発も貰わない上で相手の鎧を貫くほどの攻撃をしなければならないという、前提から不利な戦闘を行なっている。

 

だが、自分にとって不利な戦いというのはホムラにとって当たり前なのこと。寧ろ、自分が有利な戦いなんて早々ない。それに、有利だから勝てる、不利だから負けるっていうほど簡単ではないのが戦いなのだ。

もし、そうであったならホムラはとっくの昔に死んでいる。

 

それに、今回のホムラにとって不利な状況というのは、あくまで彼が1人だけで戦う場合の話。この戦いは他の者が参加するなら少しは好転する。

 

「クリエイトウォーター!」

 

「ぬ!?」

 

隙を見つけてカズマが剣を交えているホムラとベルディアの頭上から大量の水をぶちまける。

ホムラはこれを後ろに跳んで避け、ベルディアが慌てて下がったのを確認すると剣に冷気を纏わせた。

 

「氷龍昇!」

 

ホムラは地を蹴ってベルディアに接近すると、冷気を纏わせた剣で回転斬りしながら上へ跳んだ。

「そんな攻撃当たらんわ!」

 

ベルディアはそれを体後ろに逸らして躱し、無防備なホムラに剣を振り下ろそうとして気がついた、自分の足が凍っていることに。

 

「これは…」

 

そこでベルディアは自分はまんまと嵌められたと悟った。

早い話、カズマとホムラは連携を取れるようするために前々から使える技の公開と連携技の打ち合わせなどをしていた。

今回のこれも、彼らが考えた連携の1つである。

 

「足止めとはな!いい考えだがこの程度、すぐに…」

 

「一瞬だけで十分だ!スティール!」

 

カズマは魔力をいつもより多く込めたスティールをベルディアに向けて放った。

狙いはベルディアの剣。カズマの高い幸運値なら盗れる可能性は十分あり、成功すれば戦闘がかなり有利な展開になると踏み、採った作戦は──

 

「ほう…発想はいい。相当自信があったのだろうが、レベル差というやつだ。もう少し、貴様のレベルが高かったら危うかったかもしれんがな」

 

失敗に終わってしまった。ホムラとカズマは知らなかったがレベル差があってはこのようにスティールは失敗してしまうことがある。

 

カズマが呆けている間にも、ベルディアは氷を壊し──

 

「恋符「マスタースパーク」!」

 

ている最中に、ホムラがミニ八卦銃から放った翡翠色の霊力砲に呑まれた。

 

*****

 

「ふう…」

 

カズマのスティールが効かなかった場合に備えてマスタースパークを放てる準備をしておいて正解だった。ベルディアは僕が放ったマスタースパークで土煙が発生したせいでどうなったかはまだ分からない。

 

これで少なくともダメージは入っていると思いたいけど…

 

「今のは結構効いたぞ…」

 

「嘘だろ…」

 

 

煙がはれ、現れたのは鎧が所々焦げ付いたり欠けたりしているものの五体満足(頭はないけど)のベルディアがいた。

カズマはあれを耐えたデュラハンに対して信じられない目線しか向けられなかった。

 

「あれ、僕が持ってる技の中でも結構威力ある技なんだけど…ちょっと自信なくなるよ」

 

「いや、魔王様の加護を受けた鎧でなければ危うくかっただろうな…それ程さっきの攻撃はよかった」

 

「ますますその鎧チートじみてるよね…」

 

僕はため息を吐きながらもいよいよどうするか考える。マスタースパークの威力は僕が持ってる技の中でも上位に入る部類だ。これより上となると、あることにはあるが放つのに時間がかかる上、周りにも被害が及ぶ可能性もあるため易々と使えない。それに、ベルディアがそんな時間くれるとは思えない。

 

そうなると、リスクはあるしまだ未完成だけど【あれ】を使わなければ倒せないだろう。

…腹を括るしかない。

 

僕は覚悟を決めると目を閉じ意識を集中させた。

 

****

 

目を閉じたホムラにベルディアはすぐに動き出した。

何をするかは分からないが、中断させるべきだと己の勘が告げている。

 

「私の仲間には手を出させない!」

 

そこへ、回復を終えたダクネスがベルディアに向かって体当たりをした。

いきなり横から体当たりされたベルディアそれを喰らいバランスを崩す。

 

「くっ、この…っ!?」

 

ベルディアはダクネスを斬ろうとした瞬間、悪寒が背中を走り飛び退こうとして…

 

「ぬおっ!?」

 

腹に強烈な衝撃が走り、後ろに吹き飛んだ。

何が起こったのか、目の前に顔を向けるとそこには───

 

目の色が紅くなり、髪の毛や尻尾の毛の色が黒く変色したホムラが立っていた。

目に見える変化はそれだけだが、彼が纏う雰囲気は普段の柔和な物とは別物で攻撃的で刺々しいものとなっている。

 

「さて、ベルディア。楽しいダンス(戦い)を続けようか」

ホムラは口角を上げそう言うとベルディアに斬りかかった。




氷龍昇:初出はロックマンX8。この技は氷属性の回転アッパー斬り。イメージ出来ない人は、某大乱闘ゲームの緑の勇者の上昇する回転斬りに氷属性が付いたと思ってくれればいいかと。

恋符「マスタースパーク」:東方Projectに出てくるキャラクターの霧雨魔理沙のスペルカード。霧雨魔理沙のスペルカードと言ったら?と聞かれたらこれが真っ先に浮かぶくらい彼女の中では代表的なスペルカード。簡単に言うとミニ八卦炉からビームを出す。
ホムラが扱うマスタースパークは練度や霊力量の関係で魔理沙程の火力は出ない。

【あれ】:これに関しては次回ネタバラシ。けど、察しがいい人は元ネタなんなのか気がつくかも…


誤字脱字や感想、お待ちしてます!


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第11話

大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでしたあぁぁぁ!

言い訳としては、出された課題が余りにも手間がかかるもので、そのせいで執筆の時間が取れずにこんなに空いてしまいました…

とりあえず、本編の方どうぞ

12/27:、黒化についての解説に追記。


「ぬ!?」

 

ベルディアはホムラの攻撃を大剣で受け止めたが、先程よりも重い剣戟に驚きの声を出した。

ホムラはそんな驚くベルディアを待たず、横薙ぎ、袈裟斬り、斬り上げ、左斜め斬り、大上段斬りとラッシュをかけていく。

 

「くっ!?(この小僧、スピードもさっきより上がって…!)」

 

ベルディアはホムラの乱舞のような剣戟を何とか捌いていくが、大剣という武器の関係上取り回しが悪いため段々ホムラの攻撃に防御が合わなくなっていき、そして…

 

「せやっ!」

 

「ぐおっ!?」

 

ホムラの繰り出した横薙ぎを防御できず、まともに食らってしまった。

だが、ベルディアは攻撃を受けてなお、ホムラに向けて大剣を振り下ろした。

ホムラはこれを後ろに跳んで避け距離を取るも、標的を捉えなかった大剣は地面を砕き、その破片の一部が左腕に当たってしまった。

一方、先程攻撃を食らったベルディアの心境は驚愕で満たされていた。

だがそれは攻撃を食らったことではなく、自身が受けたダメージにだ。

 

ベルディアはホムラが変化する前の攻撃を何度か貰っている。だが、それもベルディア自身の防御力と魔王の加護をうけた鎧の効果で、大したダメージは貰っていなかった。

 

しかし、先程受けた攻撃はその防御力を貫いてベルディアに少なくないダメージを与えた。いくらまともに食らったとはいえど、ここまでのダメージを負うとはベルディアは予想していなかった。

ふと、何故か仕掛けてこないホムラに視線を向けた。

 

「ハア…ハア…」

 

ベルディアの視界には肩で息をしながら左腕を抑えているホムラがいた。

 

そこで、ベルディアは確信した。今のホムラは筋力、スピードと剣に纏わせてる魔力の出力が先程より上がっている代わりに防御力が低下していると。

 

ホムラの左腕は先程確かにベルディアが振り下ろした大剣の衝撃で砕かれた地面の破片が当たった。勿論、それなりに勢いもあったがあの程度の威力ではそこまでのダメージは与えられない。

だが、ホムラは左腕を苦しい表情で抑えていることから防御力は下がっていると見ていい。

 

無論、ベルディアはそんなスキルを持つ者がいるという話は聞いたことはない。だが見たことない物体から魔力砲を放ったり、魔力を剣に纏わせながら戦ったりと色々規格外なのだから、そんなスキルをホムラが持っていてもおかしくは無いだろうと判断した。

 

 

一方、ホムラはというと先程から鈍い痛みが走っている左腕を抑えながら、どう攻めるか考えていた。

 

このスキル…【黒化】は、ベルディアの推測通り筋力やスピードなどの能力が上がる代わりに、防御力が下がる…正確に言えば感覚がいつもより敏感になるというデメリットがある。

だが、デメリットはもう1つありそれは体力と霊力の消耗の激しさ。この状態はその消耗の激しさのために、余力を残すことを考えるともって1分半とあまり長続きしない。いや、余力を残さない前提ならさらに1分ほど保てるが、解除したあとに暫く動けなくなるという大きすぎるデメリットがある。

事実ホムラは度、それをやって彼の育ての家族や姉のような人達に説教されたことがある。

 

(さっきの攻防で30は使った。残りは1分未満。その間にやつを倒しきるのは正直いって可能性は低い。なら俺がとるべき策は…)

 

ホムラは考えをまとめると剣を右手のみで持ち構える。

 

 

「随分と辛そうだが、休まなくていいのか?」

 

「そんな野暮なことはしないさ。それより、再開するとしようか?」

 

ベルディアの挑発を軽く流し、ホムラは剣に雷を纏わせて突進した。

 

****

 

「武雷突!」

 

ホムラは地面を蹴った勢いを殺さずに雷を纏わせた剣をベルディアに突きを繰り出した。

黒化の効果でスピードが上がっているホムラの突進突きはかなりの速さだ。が、ベルディアはそれを楽々と躱す。

 

どんなに速くてもただ真っ直ぐ来るだけならそれなりに経験を積んだ戦士であれば、フェイントを混ぜた攻撃と比べると躱すのは容易いこと。

 

しかし、それはホムラも承知だ。本命は次の攻撃。

 

「雷神昇!」

 

「ぐっ!?」

 

 

ホムラは雷風を撒き散らしながらジャンプ切り上げをベルディアに向けて放った。ベルディアは追撃を予想して、距離はある程度取っていたため剣にこそ当たりはしなかったものの、雷を纏った風には当たってしまう。

 

だが、ホムラの攻撃はまだ終わっていない。

ホムラは空中で左足に足に炎を纏わせると同時に右手の剣をすぐに鞘にしまい、ミニ八卦銃を後ろに向けて発砲、その反動でベルディアに向けて勢いよく急降下蹴りを繰り出す。

 

 

「炎降脚!」

 

「甘いわ!」

 

しかし、その攻撃をベルディアは大剣の腹で受け止めホムラを空中へと押し返した。

 

「くっ…!」

 

ホムラは空中へ押し返されながらも、体勢を整えるとミニ八卦銃を構え、ベルディアに向けて3回ほど引き金を引く。それをベルディアは大剣で全ての光弾をはじき飛ばすという芸当をこなした。

ホムラはその間に着地すると、剣を構えまたベルディアに走り出した。

 

 

 

一方でホムラの戦いを見ているカズマはベルディアを注意深く観察しつつも頭を働かせていた。

 

カズマはホムラが様々な属性を纏わせた攻撃をしているのを見て、彼がベルディアの弱点を探っているのだと気づき、そこからベルディアの様子を観察し弱点を探しつつも、自分が持てる知識を振り絞っていた。

 

(今のところの感じだと、炎、雷、氷は弱点じゃなさそうだ。炎はまともに食らってはないけど、弱点ならもっと慌てて反応するはずだから除外していい。そうすると、ゲームで残ってる属性と言えば光、闇、水、風、地だ。どれだ?どれが弱点なんだ?)

 

「円水斬!」

 

ホムラはそんなカズマをよそに水を纏わせた剣で水平に回転斬りをベルディアに向けてはなった。

 

「ちっ!」

 

それをベルディアは後ろに跳んで避けた。

 

(……?なんで、アイツはあんな慌てて…そういや、俺が足を凍らせるために放ったクリエイトウォーターもあんな感じで避け…て……)

そこまで考えたカズマはベルディアに有効打になるであろう魔法を放った。

 

「クリエイトウォーター!!」

 

「ぬっ!?」

 

ベルディアはカズマが放ったクリエイトウォーターを慌てて避けた。

それを見たカズマはベルディアの弱点を確信したと同時に周りの冒険者に向かって叫んだ。

 

 

「水だー!!コイツの弱点は水だぁぁぁぁ!!」

 

 

****

 

カズマの言葉を皮切りにほかの魔法使いたちがクリエイトウォーターをベルディアに向けて放つ。

もっとも、そんなことをすれば近くで戦うホムラにも当たるわけだが、ベルディアと違ってホムラは水が弱点という訳では無いため、出てる被害はずぶ濡れになって、インナーが透けてるぐらいだ。

 

一方でベルディアは弱点がバレたことにより胸中は穏やかではなかった。もし、ただ弱点がバレただけだったらまだ良かったのだが、今回に関して自身に食らいついてくるホムラの存在のせいで事態は最悪だった。

今は何とか捌いているが、それも時間の問題だ。いつ崩されて殺られるか、そんな焦りをベルディアは持っていた。

 

一方で、焦っているのはホムラも同じだった。

何とか弱点をカズマが突き止めたが、この状態で居られるのももう短い。

魔法使い達が打っているクリエイトウォーターのおかげでベルディアの隙は多くなったが、それでも決定打を中々与えられない。

 

(どうすれば…)

 

一瞬、ほんの一瞬だけホムラは集中を切らせてしまった。その一瞬がベルディアが欲しかった時間だった。

 

「隙あり!」

 

「ぐうっ!?」

 

ベルディアの袈裟斬りをギリギリでホムラは剣を頭上で横にして受け止めたが、がら空きの腹にベルディアの蹴りが突き刺さった。その衝撃でホムラは後方へ吹き飛ばされ地面を転がるも、すぐに体勢を立て直したが…

「ハア…ハア…こんな時に限って…!」

 

「ホムラ!?くそ!」

 

黒化が解けてしまい、しかも先程の一撃で受けたダメージは予想以上に大きく、ホムラは体をふらつかせていた。そんなホムラを守るようにカズマ達はクリエイトウォーターを放つが、ベルディアはそれを的確に避けながらホムラに近づく。

「そこまでだ!!」

 

「ダクネス!?」

 

「ほう、貴様が俺の前に立つか」

 

そこへ、ホムラを守るようにダクネスが立つ。それを見てベルディアはダクネスの評価を改める。やはり、この聖騎士はおかしい所はあるが騎士の鑑であると。

 

「貴様たちのような者と戦えたことに魔王様に感謝を」

 

ベルディアはそう呟くとダクネスへと斬りかかろうとした──瞬間だった。

 

ベルディアに悪寒が走った。その発生源はいつの間にか戻ってきていたアクアからであり、彼女の周囲には霧のようなものが漂っており、それは段々と小さな水の玉となって辺りを漂っている。

「この世にある我が眷属よ…」

 

その小さな水の玉からはかなりの魔力が魔法に疎いものでも分かるほど濃密に込められている。

 

「水の女神、アクアが命ず…」

 

(っ!撤退しなければ!!)

 

ベルディアは、止めるのは不可能だと悟ると撤退を図った。

 

「行かせるか!!」

 

「くっ、邪魔するな!クルセイダーのむす…ぬっ!?」

 

「逃がさない…!」

 

が、ダクネスがベルディアの前に立ちはだかり、それに足を止めたベルディアにホムラが痛みを堪えながらもその足にしがみつき、ベルディアの逃亡を防ぐ。

 

「くそ、はなっ…!」

 

 

「セイクリッドクリエイトウォーター!」

 

上空に浮かび上がった魔方陣からは洪水クラスの量の水が流れ出し、ベルディアを初め冒険者達を飲み込んだ。

 

「ちょ、おぼ、溺れま……!」

 

無論、その中には爆裂魔法を撃った影響で動けないめぐみんも例外ではない。

「めぐみん!」

 

カズマは咄嗟に溺れそうになるめぐみんの手を話さないようにしっかり握る。

 

「掴まってろ、流されるんじゃねえぞ!」

 

 

 

一方、ホムラはと言うと……

 

「は、っ…ガボガボボ……」

 

溺れかけていた。ホムラは実は水泳が苦手であり、先程まで何とか残ってる体力を振り絞って手足を降っていたが、黒化の反動と体に残るダメージのせいで長持ちせず、段々と水の中へ沈んでいった。

 

(…ら、ん…ねえ……さ…)

 

遠のく意識の中、ホムラは誰かに手を掴まれたのを感じた。




解説コーナー

黒化:元ネタはブラックゼロ。ブラックゼロ自体の初出はロックマンX2なのだが、これに関しては割愛。黒化の元ネタのブラックゼロが出てくるのはロックマンX5。簡単に言ったしまえば、ゼロの強化形態であり、ロックマンX5〜6では防御力とゼットセイバーの性能が上がり、8では攻撃力とダッシュの距離が上がる代わりに防御力半減、コマンドミッションでは攻撃力と素早さが上昇というふうになっている。ホムラが使う黒化はロックマンX8仕様の方で、素早さ、筋力、そして痛覚を含む、全ての感覚が上がるという効果で納まっている。ホムラ曰く、まだまだ未完成らしい。(露骨な強化フラグ)
なお、黒化中は口調が変わり、性格も好戦的なものへとなる。

武雷突:初出はロックマンゼロ4。元ネタはゼットセイバーに雷を纏わせて放つ刺突技。
ホムラが使うものも、原理は同じ。違う点はゼットセイバーかそうでないかぐらい。

雷神昇:初出はロックマンX7。雷風を起こしながらジャンプ切り上げをするというもの。こちらも、違う点はゼットセイバーかそうで(ry

炎降脚:初出はロックマンX8。この技は、Kナックルという武器を装備した状態で炎降刃を放つと、斜め下に炎を纏ったライダーキックをかますというものに変更される。ホムラの場合は、ミニ八卦銃の反動で加速で威力をあげるというアレンジを加えている。

円水斬:初出はロックマンX6。元ネタはその場で自身の周囲に高速回転斬りを放つというもの。ホムラが使うものは、剣(または刀)に水を纏わせて水平or垂直に回転斬りを放つというものに。


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第12話

大変お待たせしました!
いや、バイトやらレポートやら試験やらで中々書く時間が取れなかったんです、本当にすみません!

さて、今回の話で1章は終わりです。本編の方どうぞ!


 

 

 

「ホムラ!起きろ、ホムラ!」

 

 

「……ダクネス?」

 

 

「良かった、気がついたか…」

 

気がつくと、ダクネスの顔が目の前にあった。頭に柔らかい感触があるが状況的に膝枕をされているんだろう。

それはそうと、僕はどうしていたんだっけ…?

 

「確か、僕は…」

 

「アクアが放った魔法で周りが流されてる中、溺れかけていたお前を見つけてな。手遅れになってはまずいと思って、引っ張りあげたんだ。」

 

「そっか…あの時、僕の手を掴んでくれたのはダクネスだったんだ…」

 

彼女にでかい貸しを作ってしまった。最も、こんなこと言ったら仲間だからそんなこと言うなってダクネスは言いそうだから言わないけど。

って今はこんなこと話してる場合じゃなかった!

 

「それよりベルディアは!?」

 

「ああ、それならあっちを見てくれ」

 

勢いよく体を起こした僕はダクネスが指した方角を見ると…

 

「あ、ちょっ、やめ…!あいたぁ!?」

 

「さっきまで苦戦してたやつで遊ぶのはいいもんだぜ!」

 

「このサッカーとやら、中々面白いな!ほれ!」

 

「ナイスパース!ほらよっと!」

 

 

「ぬわぁぁぁぁ!?」

 

 

ベルディアの頭を蹴り飛ばして遊んでいる冒険者たち(カズマも含む)がいた。

なるほど、確かにこの状況ならこんなことしてる余裕はあるけど…

 

「何があってあんな状況に…?」

 

「ああ、ホムラが気を失っている間にな…」

 

なんでも、水を被って弱体化したベルディアにカズマが今度こそは、とスティールを放った結果、ベルディアの大剣ではなく頭を取ってしまいああなったらしい。

 

それにしても、武器じゃなくて敵の頭をスティールするなんてカズマの幸運値はどうなっているんだろうか…

それにしても、楽しそうにやってるなぁ…

 

 

****

 

「よし、アクアー!そろそろ頼むわ!」

 

ベルディアサッカーをし始めてからしばらくして、カズマがアクアさんにベルディアの浄化を頼んだ。

 

「まっかせなさーい!セイクリッドターンアンデッド!」

 

 

「ぐわああぁぁぁ!」

 

アクアさんが放った退魔の魔法を食らったベルディアは、段々とではあるが消え始めていったが完全に消えるには時間がまだかかりそうだ。

僕はベルディアに伝えようと思っていたことを伝えるために体に走る痛みを堪えながらベルディアの頭に近づく。

「……なんだ、これから消える俺に何か用か?」

 

「ええ、一つだけあなたに伝えたいことがあって言いに来ました」

 

しゃがんでベルディアの目を見ながら言葉を続ける。

 

「あなたの剣技、見事でした。カズマやダクネス、ほかの冒険者たちがいなかったら確実に僕は負けていました。もし、敵ではなく仲間として会えていたら、あなたから指南を受けたかったです」

 

「……ふっ、敵であるやつにそんなことを言うとは、おかしな奴だ」

 

ベルディアはそう言いつつも小さく、「まあ、悪くない気分だがな」と呟いた。

 

「…俺も久方ぶりに気持ちが高ぶる戦いをさせてもらった。その礼に一つだけ助言をしてやろう」

 

「──────」

 

「しかと伝えたぞ…精進しろよ…狐の剣士…」

 

意外にもベルディアはそう言うと、僕にしか聞こえない声である事を言うと、満足気に消えていった。

 

 

「ホムラ?どうした、なんか浮かない顔してるけど…」

 

「…いや、何でもないよカズマ」

 

心配して声をかけたカズマにそう答えながらも、僕の心は晴れなかった。

 

 

こうして、ベルディアは討伐されアクセルの街は守られた。

 

 

なお、これは余談であるがベルディアに倒されてしまった冒険者達にダクネスが日頃思っていたことを言いつつ祈っていたところを、アクアさんによって蘇生された彼らに聞かれてしまい、それをカズマと僕(僕は普段の鬱憤晴らし)に弄られたダクネスが顔を真っ赤にして「これは私が望む羞恥責めではない…」と声を震わせながら恥ずかしそうにしていた。

 

 

 

****

 

 

 

ベルディアを討伐した翌日、魔王軍幹部討伐の報奨金が貰えるとのことで僕とカズマはアクアさん達に遅れて冒険者ギルドに来ていた。

ギルド内はベルディア討伐の祝杯をあげているため、真昼間だというのに酒臭いしうるさい。だが、雰囲気が幻想郷で行われていた宴会みたいな感じでどこか懐かしく感じてしまう。

 

「あっ!ちょっとカズマとホムラ、遅かったじゃないの!もう既に、皆出来上がってるわよ!」

 

途中、既に来ていたアクアさんが上機嫌で笑いかけてくる。というより、アクアさんも既に出来上がっている。

とりあえず、僕らも報酬を受け取るため受付の方へ行く。

そこには、ダクネスとめぐみんの姿があった。報酬が入ってる筈の袋を持っていないあたりからして、律儀にも僕らを待っていたのだろう。

 

「来たか。ほら、お前たちも報酬を受け取ってこい」

 

「待ってましたよ。ところで2人とも聞いてください。ダクネスが、私にはお酒は早いと、過保護な母親みたいなことを…」

 

「いや待て、過保護な母親みたいとはなんだ。と、とにかくだな…!」

 

言い合いを始めた2人をほっといて受付の人の前に行く。

そんな、受付の人(最近知ったが、名前はルナというらしい)は僕ら…正確にはカズマを見て何故か微妙な表情を浮かべた。

 

「あ、その…サトウカズマさんですね?お待ちしておりました」

 

とても、これから報酬を渡す人とは思えない雰囲気を感じ取る。カズマもそれが分かったのか少し難しい表情を浮かべている。

 

「あの……。まずは、そちらの御三方に報酬です」

 

ルナさんはダクネス、めぐみん、そして僕に小さな袋を渡してくれた。あ、それなりに入ってそうな重さだ。

「……実は、カズマさんのパーティには特別報酬が出てます」

 

……え

 

「え、なんで俺たちだけが?」

 

僕が思ったことをカズマが声に出す。最もその疑問はすぐに誰かが大きい声で答えてくれた。

 

「おいおいMVP!お前らがいなきゃ、魔王軍の幹部なんて倒せなかったんだからな!」

 

その声に周りの人達もそうだそうだー!と騒ぎ出した。

 

僕は唖然としているカズマの背中を軽く叩いた。

「ほら、パーティーの報酬はリーダーが受け取るものでしょ?早く貰ってきて」

「ホムラ…ああ、行ってくる」

 

ルナさんはコホンと1つ咳払いし、報酬を伝えた。

 

「えー。サトウカズマさんのパーティーには、魔王軍幹部ベルディアを見事討ち取った功績を称えて…ここに、金3億エリスを与えます」

 

「「「「「さっ!?」」」」」

 

僕達は思わず絶句した。余りにも考えられないほどの大金だ。

周りの冒険者たちも、その金額を聞いて静まり返るが、すぐにまた騒ぎ出した。

 

「おいおい!3億ってなんだ、奢れよカズマ!」

 

「うひょー!カズマ様、奢って奢ってー!」

 

冒険者の奢れコール。そんな中、カズマはハッとしたようにダクネスとめぐみんに何か言い始め、それを聞いた2人もまた何か言い始めたが…まあ、内容がなぁ…。軽くまとめると、カズマはこれからはのんびり安全に過ごしたいから冒険の数を減らすといい、これに2人が文句を言ってる感じだ。

 

そんな中、ルナさんが申し訳なさそうな表情を浮かべて、カズマに1枚の紙を手渡した。 横から覗き込むと、ゼロがたくさん書き並べてある。

もしかしてあれかな?外の世界で言う小切手ってやつだろうか?

 

そこに酔っ払って出来上がってるアクアさんもカズマの横にきて覗き込む。

 

「ええと、ですね。今回、カズマさん一行の……その、アクアさんが召喚士大量の水により、街の入口付近の家々が一部流され、損壊し、洪水被害が出ておりまして……まあ、魔王軍幹部を倒した功績もあるし、全額弁償とは言わないから、一部だけでも払ってくれ……と……」

 

ルナさんはそう告げると、目を逸らして奥に引っ込んでいく。

僕はそれを聞いてから改めて、その紙の0の数を見てため息を吐き、めぐみんとアクアさんは逃げようとしてカズマに襟首を掴まれている。

 

僕達の雰囲気で請求額を察した冒険者たちが、そっと目を逸らした。

そして、請求の額を見ていたダクネスが、カズマの肩にポンと手を置いて…

 

「報酬3億。…そして、弁償金額が3億4000万か。……カズマ。明日は、金になる相手のクエストに行こう」

 

そんなことを言いながら、心底嬉しそうにいい笑顔で笑った。

体を小刻みに震えさせるカズマをみて、僕は小さくため息を吐いた。

 

藍様、紫様、橙姉さんを初めとした幻想郷の皆さん、僕はこれからも元気に頑張っていくので、どうか応援してください…

 




解説コーナー

ベルディア:みんな大好き魔王軍幹部のベルディアさん。デュラハンで配下にはアンデッドナイトを従えたりと、序盤で出てくる敵ではない。ここまでの回では、ノリがいい部分もありながら基本的には騎士のような言動しているが…彼の本性というか、まだ出ていない所には原作を見るか、またはこの小説でいつか語られるまで待ってください。なお、個人的には魔王軍幹部の中では好きなキャラだったり。当小説では、最後にホムラに助言を残すという面を追加しました。

ルナ:原作では受付のお姉さんとしか、出ておらず名前が不明であったが外伝作品において名前が判明した。彼女もダクネス同様、とても厚い胸部装甲を装備しており、それはめぐm(ここから先は赤い物が付着していて読めない…)

とりあえず1章終わったから次は座談会的な話をやろうかと思います。なので、そんなに時間はかからないかと思いますのでお待ちしてくださると幸いです。では、また。


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座談会(ああ、駄女神様編)

忘れぬ内にと超ペースで書きました。
今回の話はあくまで裏話なので、興味ない人は無視して結構です。
座談会のため、台本形式でありますがそこはご了承ください。
あとアンケートを各話でとっておりますので出来たらお答えください。
それと、

ホ→ホムラ
カ→カズマ
ア→アクア
め→めぐみん
ダ→ダクネス

となっております。それではどうぞー!

※3/5、あとがきの設定に重大なミスがあったので修正。


ホ「というわけで、第1回!座談会コーナー!」

 

ア「わ~~~!!」ドンドンパフパフ

 

ホ「今回の進行役は、この妖怪の血を引く者に祝福を!の主人公役の僕、ヤクモホムラが担当します」

 

め「だからそのバインダーもってんですね」

 

カ「それは別にいいけどさ、大丈夫なのか?普段慣れない台本形式でしかも5人出すとか、作者の力量じゃ長持ちしねえだろうに」

 

め「確かにそうですけど、みんなでお菓子食べながら話せるって中々出来ないのでいいじゃないですか」モクモグ

 

ダ「まあ、私が言うのもなんだが細かいことは気にしなくていいだろう。さて、話を進めていこうか」

 

 

ホ「だね、作者からはお題カード貰ってるからそれを使ってやってこう…まずは、僕についてだね」

 

カ「あー、そういやキャラ紹介してねえな」

 

め「一応、キャラ設定自体は書いてあるらしいのですが、それだけだとなんか寂しいからっておまけ話を付け足そうしてるらしいですね」

 

ダ「ああ、だが考えたやつがどれも合わなくて出来てないのが現状だな」

 

カ「この調子だと、ホムラのキャラ紹介はいつになるんだろうな」

 

ア「ふっふー、そんなこともあろうかと!私がホムラのキャラ設定の資料を持ってきてあげたわ!」

 

カ「ほー、駄女神の癖にやるじゃないか。はよ公開しろ」(ノシ 'ω')ノシ バンバン

 

ア「あ、最後のあとがきに出すからやめてくれ、って電波受信したからあとでね」

 

め「忘れなきゃいいんですけどね…」

 

ダ「とりあえず、話を戻して…ホムラについてだったか」

 

ホ「そうだね、僕のプロフィールとかはあとがきに乗っけるらしいからそこで確認してね」

 

カ「あ、そういやホムラの口調ってロクゼロに出てくるエックスを参考にしてるんだっけな」

 

ホ「うん、性格は全く似てないけどね。あと余談だけど、当初は口調や性格もロクXのゼロにしようとしてたらしいんだけど、会話が上手く書けないし、ヒロイン候補の1人と噛み合わないってなったから諦めたらしい」

 

め「一応、名残としてホムラが使う近接技はゼロのラーニング技が殆どです。もしかしたら、皆さんが好きなラーニング技がこれから先出る可能性もあるので楽しみにして待ってください」

 

カ「さり気なく読者が離れないようにお願いしてるな…」

 

ア「そういえば、そのゼロのラーニング技って剣1本で使うものでしょう?なんでホムラは長剣と短剣の二刀流なのかしら?」

 

ホ「えーと…(ペラッ)それに関しては東方要素を少しでも残しておくのと、後の伏線のためだそうです」

 

ダ「ここで伏線だとバラしていいのか…」

 

ア「もう、心配症ねダクネスはー!こんなあっさりと言われたら誰だってすぐに忘れるわよ!」

 

カ「そんなことになるのはお前ぐらいだよ…」

 

め「ゴホン!まあ、それは置いといて、ホムラはミニ八卦銃を2挺使ってますがこれも意味あるんでしたっけ?」

 

ホ「うん、これはロックマンX7以降に新たに主役キャラの1人になったあのキャラの要素を入れたんだって」

 

カ「あー、あの某名探偵と中の人が同じの」

 

ダ「作者は最初そのキャラの声聞いた時、なんか聞いたことあるようなって思って調べたら一緒ですごく驚いたらしいな」

 

ア「でも、2挺拳銃だけどそのキャラの要素ってあんまなくない?」

 

め「確かに、彼はチャージショット撃てないですし」

 

ホ「それに関しては結構悩んだらしいよ?けど、チャージショット撃てる撃てないだと結構変わってくるから採用にしたんだって」

 

カ「作者ェ…」

 

ホ「まあ、結構盛り込んでるけど東方キャラに比べると各専門分野では歯が立たない、っていう器用貧乏な感じになってるんだよね」

 

め「そこは、余り強すぎると意味ないし、チート級に強いは作者的にも嫌いだからやめたらしいですね」

 

カ「普通に強いんだけどな」

 

ダ「作者なりに抑えたんだろう…読者から批判されても文句言えないがな」

 

ホ「一応、幻想郷にいた時にかなりもみくちゃにされたから強いってことになってますので、許して下さい」

 

******

 

ホ「さて次は…東方要素についてだね」

 

ダ「これに関してはスペルカード…だったか?これと時折東方キャラの名前が出てくるな」

 

ホ「そうだね。あと、プロローグでもちょこっとだけご本人様出たね」

 

ア「まあ、東方知ってる人なら誰か分かると思うぐらい分かりやすい登場だったわね…最も、キャラ崩壊してた気がするけど」

 

カ「まあ、それに関しては優しい読者様なら見逃してくれるはずっていう甘えからきてたけどな」

 

め「作者の他力本願…というよりクズっぷりが遺憾無く発揮されてますね」

 

カ「某大乱闘なゲームでもそのクズっぷりを発揮しまくって一緒にやった人に、友達いなくなるぞって言われたぐらいだしな」

 

ダ「話が逸れてるぞ、とりあえず戻すか」

 

ホ「そうだね、それで僕が持ってる情報だともし、読者の皆様が望めば、外伝というか、小話で幻想郷のキャラが出てくる話を作るって作者が思ってるらしいね」

 

カ「露骨な数稼ぎ乙」

 

ホ「とりあえず、アンケートそれで声が大きければ書くって。それと出るキャラは完全に作者の構想次第なのでご了承ください」

 

め「読者の望むものをやらないという作者としてあるまじき行為」

 

ア「まあまあ、作者の出来損ないな脳みそじゃ最初から無理な話よ!この小説だってこんな感じの話が読みたいけど…ないなら作ればいいか!ってノリで書き始めたんだし」

 

カ「お前が何気に1番酷いこと言ってるわ」

 

*****

 

ホ「さて、次で最後だね」

 

ア「えー、もう最後ー?」

 

カ「しょうがねえだろ、作者がもう限界なんだよ」

 

め「ええ、慣れないことしたせいで脳みそを試験以上に使ったせいで死にかけてます」.

 

ダ「全く、情けないやつだ…だから投稿が遅れるんだろう」

 

ホ「それに関しては作者もかなり申し訳ないと感じてるよ。まあ、とりあえず次のお題に入ろう。お題はベルディアだね」

 

カ「あー、あいつか…」

 

め「中々手強ったですよね」

 

ア「そういえば、何でホムラは私たちがベルディアと戦ってる時遅れてきたの?」

 

ホ「ああ、あれは逃げ遅れてた子供を見つけてね。避難先の神殿に連れてってたから遅れちゃったんだ」

 

ダ「まあ、それなら仕方ないな」

 

ホ「話を戻して、ベルディアだね。作者は当初、ベルディアを強くするor僕の足止めようにかなり強い敵キャラを出す予定だったらしいよ」

 

カ「正気かよ、それ」

 

ホ「まあ、結果としてどっちも上手く書けなかったから断念したんだけだね」

 

め「まあ、作者の脳みそじゃオリジナル展開なんて無茶ですもんね」

 

ダ「戦闘描写もあれで結構頑張った方だから許してやって欲しい」

 

カ「そういや、ベルディアはホムラに何言ったんだ?」

 

ホ「それはまたおいおいね。あと、ベルディアが最後に僕に助言したのは、原作ではあんまりな退場だったからって訳らしいよ」

 

ダ「確かに、原作では助言なんてせずにアクアの魔法で浄化されたしな」

 

カ「言いたくないけど、アクアいなかったら正直詰んでたよな」

 

ア「あら、私の凄さにやっと気がついたのかしら?なら次の話から私を敬いなさいな!」

 

ホ「あ、言い忘れてたんですけどこの座談会は本篇とは全く無関係だから意味ないですよ」

 

ア「ってことはつまり…」

 

め「アクアの扱いは変わらないってことですね」

 

ア「なぁぁぁぁんでよおぉぉぉぉぉ!」

 

ホ「あ、作者からそろそろ終わりにしてくれと連絡が入った」

 

カ「まあ、これ以上は限界だな。作者があびゃー!って叫び始める前に終わりにしないとな」

 

め「というわけで、どうだったでしょうか?こういうのは初めてなのでつまらないかもしれませんが、各章のまとめ的な意味を兼ねてこれからもやっておくと思います」

 

ダ「座談会は読みたくないって方はこれからは読まなくて大丈夫だから、次からは無理して読まないでくれ」

 

ホ「さて、グダグダで結構無理やりですが今回はここまで」

 

全「「「「「ここまで読んで頂きありがとうございました!次の話もよろしくおねがいします!」」」」」

 




名前:八雲 焔

幻想郷風の二つ名:幻想の案内人

性別:男

種族:人間と狐の妖怪のクォーター

年齢:16

見た目:髪と目の色は黄色。顔は中性的である程度整っている。ぶっちゃけ中の上ぐらい。優しく柔和な雰囲気を持つ普通の少年。狐耳と尻尾がある。触った人いわく、「人をだめにする尻尾」ということらしい

身長:169cm

体重:56kg

性格:見た目の通り、優しい普通の少年…と思いきや、とんでもないド天然な部分があったりテキトーなところがあったりと残念なところが多い。ただし、自身が大事に想っている人を守る時は熱いところも見せる。

固有スキル:霊術と妖術(前の世界で生きていた時の霊術と妖術、技が使える)
黒化:本編11話の解説参考

設定:半人半妖と人間から生まれたとされるクォーターの少年。実の親も分からず、人里の前に捨てられていたのを育ての親である八雲藍に拾われ、それからは八雲一家の一員として過ごす。5歳から、八雲藍からは霊術と妖術を、魂魄妖夢からは剣術と体術を教わり、実戦の稽古だと称して、幻想郷最強で名高い風見幽香の所で鍛え(虐め)られ「この世界を守る者の一員」として色々なことを教わる。
また、〜程度の能力は持っていないが霊術系列全般を扱える適性がある。しかし適性があるといえど、あくまであるだけなので極める所までは届かないため結果としては器用貧乏。
ある日からは博麗霊夢や霧雨魔理沙を初めとした者とも交流しており、彼女らが使う一部の技を劣化はすれど使うことも可能。
本編開始前に、暴走した西行妖を再封印する際に全ての力を使い切って弱ってるところを突かれて死亡、その後女神の導きで異世界へ転生した。

戦闘スタイル:八雲藍からプレゼントされた2つのミニ八卦炉を早苗とにとりで改造した、2丁のミニ八卦銃と剣術を使った近中距離の戦闘を得意としている。また、霊術を使った遠距離による支援も可能。妖術は保有してる妖力の量の関係から多様しない。なお、普段ミニ八卦銃は札にしてしまっている。

服装:当初はFE暁のソンケル先生の格好だったが、途中からこの世界の服の上から青いロングコートに革製の肩当て、金属製の篭手を身につけている

使用武器
・ミニ八卦銃:先に説明したとおり、八雲藍がホムラのために上げたミニ八卦炉×2を早苗らで(魔)改造したもの。性能としては、魔理沙が使うミニ八卦炉より少ない霊力で高威力の霊力弾を撃てる。
なお、そこまでしても魔理沙との打ち合いにはよくて引き分けという結果になっているため、同じミニ八卦炉同士では絶対に魔理沙に及ばない。


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厨二病だって魔女がしたい!
第13話


大変お待たせしましたァ!
すみません、自分の怠惰が招いたものです…大変申し訳ございません。

それでは、本編どうぞ


 

「流石に寒いなあ…」

 

どんな子でも寝静まる丑三つ時の中、いつもの格好にマフラーをつけた状態で僕はそう呟いた。

 

今の季節は冬。ベルディアを討伐してからそれなりに月日はたったが僕達のパーティーは未だに借金を返済しきれていない。

冬の間は報酬が高い依頼が多くなるが、それと同時に高難易度の依頼しか出てこなくなる。そのため、駆け出しの冒険者が多いアクセルでは殆どの人達が宿の部屋を借りて過ごしている。

 

一方で、僕らは借金してるためそんなお金が無いせいで馬小屋生活を強いられているのだが…寒すぎて普通の人間では凍死する可能性があるほど馬小屋は寒い。僕は、妖怪の混血、自前の尻尾と霊術で何とかできてるからその可能性はほぼないけどね。

 

とにかく、お金が必要ということで僕は単独で高難易度の依頼をこなすことになった。これはカズマからの提案で、自分たちが居ては僕の足でまといになるからということでこうなった。

そんなことないって色々と食い下がってみたけど、カズマの「馬小屋で凍死とかそんな死に方は嫌だ!」っていう悲痛な叫びに負けてしまい、了承した。

 

一応、カズマ達でもこなせそうな依頼(それでも高難易度に部類しているが)はやらず、その上で僕が単独でも出来そうなものを選んでやっている。

 

今回の依頼は牧場を襲う白狼の群れ討伐。数は事前調査の段階では20匹位とのこと。これならこなせそうだと思い、受けたんだけど…

 

「明らかにそれ以上いるよねぇ…」

 

偵察として出した式神から入る情報ではそれ以上はいて、尚且つ4~5匹ずつ固まって別々に動いている団体が結構ある。

万が一のことを考えて牧場を囲むように結界を張っておいて正解だったようだ。

 

「さて、少しずつ回って倒していきますか」

 

式神から位置を教えて貰いつつ、まずは近場のとこから片付けるために足を動かした。

 

 

****

 

「ふぅ……ある程度は片付けられたかな」

 

時間はかかってしまったものの、最初に確認できた群れは何とか倒し終えた。

けど、疑問もあった。それは先程まで倒していった、殆どの白狼達に言えるのだが連携がかなり上手かったことだ。幻想郷の妖怪でもあれくらいまで連携が取れるようになるには、最低でも中級クラスで尚且つ知能が発達しているものに限る。たまたま今回の白狼の群れが異常なだけだったのだろうか?いや、もしかしたら──

 

「っ!」

 

そう考えていた時、殺気を感じてその場から飛び退く。その直後、先程までいた場所に火球が炸裂し、雪を溶かして茶色く凹んだ地面を出したところから、それなりの威力であることが伺える。

 

「なるほど…これは納得出来るね」

 

火球が飛んできた方向を見ると、先程の疑問が解消された。何故なら、杖を持ち2足歩行をしている白狼がいたからだ。

前に、アクセルの街の図書館で『狼系統の魔物の中にはウェアウルフに突然変異する個体がいる。その個体がいる群れはまるで、軍隊のような動きをするため、目撃した場合は戦ったりなどせずに、すぐにギルドや騎士団に連絡すること』という内容がある本に書かれていた。

先程、考慮に入れていた可能性のひとつであり、いちばん厄介なケースでもあった。そして、さらに最悪なこと氷で作られた槍兵タイプのゴーレムが2体いるというおまけ付き。

 

「これは、ちょっときついかもね…」

 

ミニ八卦銃をしまい、長剣を右手で、短剣を左手でもって、左半身を前に出すように構えた。

 

*****

最初に動いたのはゴーレム達だった。ゴーレム達は手に持っている氷でできた槍をホムラに向かって投げつけた。ホムラはいきなり武器を手放すような行為に驚くも、それを躱しその隙をついて接近する。

 

それに対し、ゴーレムのうち一体がホムラに向かって駆け出し、手に冷気を集めると今度は氷でできた棍棒を作り出し、もう片方はその場で先程投げたのと同じような氷でできた槍を生成した。

 

(なるほど、普通に考えればこれぐらい出来なきゃあんな大胆なこと出来ないよね)

 

ホムラはそう思いつつも、接近したゴーレムが棍棒を振り下ろす前に長剣を左から右へ振り抜いて、棍棒を持っていた腕を斬り飛ばし、無防備になった胴体に短剣を叩き込もうとして──後ろにいたゴーレムが槍を投げたのを視界に入れた瞬間、短剣による攻撃を中断して後方へ飛んで避けた先に、ウェアウルフがファイアーボールを放ったのを確認し、今の体制では避けるのはリスクが高いとホムラは判断すると、短剣を上に投げ左手にミニ八卦銃を出すとファイアーボールに霊力弾を撃ち込み相殺した。

 

(ゴーレムの動き自体は単調だったけど、パワーとスピードはそれなりにあるし、術者と思われるあのウェアウルフが普通に攻撃してきたのを見ると、自律思考型のゴーレムで連携を取れる程度の思考能力はあるわけか)

 

ホムラはミニ八卦銃を霊力を使い腰に付け、上に投げた短剣をキャッチしながらもそう分析し、飛んできた氷の槍を避けると、ゴーレム達へ駆け出し、接近戦を仕掛けようとする。

 

無論、ウェアウルフ達も何もせず黙って見てるということはなく、ウェアウルフは詠唱を始め、ゴーレム達は一方は棍棒と盾、もう一方は槍を生成して、槍を持ってるゴーレムを先頭にホムラへ駆け出した。

ホムラは短剣を鞘にしまうと上へ跳躍し長剣をもっている右手を、そして狙いを後ろの盾を持ったアイスゴーレムに定めると、足から霊力を噴射させ、突撃した。

このやり方は技名こそ言っていないが、彼が故郷にて空を自由に飛べないがために作り出した、空中歩法【飛燕脚】である。

そして、その【飛燕脚】を利用した急降下の勢いをそのまま斬撃として叩き込む剣技。

 

「旋墜斬!」

 

放たれた空中からの斬撃は、ホムラの攻撃を防ごうと構えられた氷の盾を砕くだけに留まらず、そのままアイスゴーレムの胴体を真っ二つにした。

ホムラはそのまま着地すると、すぐにミニ八卦銃を構え、先程から溜めていたチャージショットを放ちアイスゴーレムの頭を消し飛ばした。

もう一体のアイスゴーレムはホムラに槍を突き出すも、ホムラはそれを体を横にずらして避けると、アイスゴーレムの懐に潜り込んで龍炎刃を繰り出し、そのままアイスゴーレムの縦に真っ二つに斬り抜いた。

「っ!」

 

着地したホムラは、反射的に転がるようにその場を離れた。その直後、ホムラがいた所に先が尖った巨大な氷塊が落ちた。

(あんなのまともに食らえば、僕程度の防御力じゃどんなに軽くても大怪我は避けられない程の威力っぽいな…けど、あれ程の氷塊は短時間では作れないはずだ)

 

そう冷静に分析したと同時に、ふと上を見て先程の考えを捨て、ウェアウルフの実力を見誤ったことを認めた。

 

なぜなら、ホムラの上には既に多くの氷塊があったからだ。

ホムラがアイスゴーレムと戦っている間に作り出していたのだろう。それも、ホムラに気取られないようにだ。

ホムラの危機察知能力は天才には及ばずとも、天才の1歩手前レベルほどある。それは彼の師を始めに多くの人が認めている。

そんなホムラの危機察知能力を掻い潜って、この多くの氷塊を作ったのだから、あのウェアウルフの魔法の腕はかなりのものだ。

 

ホムラは実力を見誤ったこと自分に舌打ちしつつも、この状況の打開策をすぐに考える。

 

まず、範囲外まで撤退。成功すれば1番安全ではあるが、ウェアウルフを逃がす可能性が高く、逃がしたら後がキツくなるのは明白なので却下。

次は、龍炎刃で迎撃。これは、可能ではあるが、失敗した時のリスクが高いため却下。

なら、取れる策は────

 

ホムラがそこまで考えた時、氷塊が一斉に落ち始めた。

 

「流石にそんなに考えさせてくれないか!」

ホムラはそう悪態を吐きつつも、1番ベストな行動を取った。

 

***

 

殺った。

ウェアウルフは、落ちてきた氷塊の衝撃で積もっていた雪が吹き荒れる中、そう確信した。

これで、自分はまた上に上がるための力をあの方から授けられる。群れは壊滅に等しいがこれからあの方に仕える予定だったからちょうど良かったのかもしれない。

 

ウェアウルフはそんなことを考えながら、背を向けてあるこうとした瞬間

 

 

「人符「現世斬・双刃」」

 

そんな声が耳に届いたと同時に、ウェアウルフの意識は暗転した。

 

***

 

「ふぅ……」

 

僕は息を吐きつつ、剣に付いた血を払って鞘にしまった。

 

氷塊が落ちてきた時、僕は【滅閃光】という技を繰り出して自分に影響を及ぼす氷塊のみを破壊し、ウェアウルフが油断したのを上空に放った使い魔で見てその油断をついて倒した。

 

上手くいったから良かったけど、壊せなかったら今頃僕はペシャンコになっていたと思うと、いい気はしない。もう少し、鍛錬の時間を増やすべきだろう。そうすれば、ここまで苦戦することもなかったはずだったわけだしね。

 

その後、僕は牧場の主であり依頼主である人に、少し休んでいってくださいと言われ、そのご厚意を有難く頂戴し、朝と昼の境目あたりでその牧場を出た。

 

これが、後にあんなことになるなんて僕は全く思いもしなかったが、過去は変えられない。

 

 

 

そう…

 

「カズ………ま……?」

 

 

 

仲間が殺されたことも

 

 

 

 

 




次回、K氏をリアルゆっくり饅頭にしたあいつ戦

解説コーナー

・飛燕脚:初出はロックマンX4。ゼロのラーニング技で、内容はエアダッシュ。当小説では、足から霊力を射出させてる事で移動を可能としている。ゼロも足からなんか出てるからね!なお、ゲームとは違い、何度でも飛燕脚は使えるのだが、動きが直線的になってしまうのと、消費霊力の関係で連続で使うことはない。

・旋墜斬:初出はロックマンX6。ゼロのラーニング技で、内容としては急降下斬撃。当小説では、飛燕脚で急降下部分を再現している。余談ながら、ホムラは完全に習得するまで地面に頭から何度も突っ込んでおり、その度に引っこ抜かれるということがあった。

・滅閃光:初出はロックマンX5。ゼロのラーニング技で内容としては、周囲に光弾を射出というもの。なお、真・滅閃光という技もある。個人的にはこっちが好き。

・人符「現世斬・双刃」:オリジナル技。元ネタは東方Projectの魂魄妖夢のスペルカード。元の現世斬は東方萃夢想などの格闘ゲームverを参考にしており、内容としては突進斬り。なお、ホムラは居合斬りとしては現世斬、抜刀してる状態では疾風牙と分けている。現世斬・双刃は二刀流で繰り出すこと以外は現世斬と同じ。

最近、アークナイツにハマりました。こっちがつまった時は短編で書く可能性が少なからずあるかも?いや、そんなことしてる暇あったらはよ完結させろって話なんですが


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第14話

このファン配信に合わせて投稿しようと思ったら、間に合わず1日遅れ、しかも内容が薄っぺらいという実態…本当に申し訳ない…


※2/28 15:44に修正




牧場主さんに見送られ、アクセルの街への道を歩いていく。

これで、晴れだったら散歩としては結構良かったんだけも、今の空模様は曇り。気温も低いのもあって散歩には適していない。

 

「カズマたち、今は何やってるんだろうなぁ…」

 

ふと、呟いてしまった内容に苦笑する。

まだ、自分が故郷にいた時は一日の大半は単独行動が基本的だったため、一人でいる時間は長く慣れていた、はずだった。

 

けど、今はカズマ達と一緒に過ごすことが多く、1人だけの時間が逆に少なくなった。

だから、急に1人になると、寂しいと思ってしまうのは、甘えかもしれないけど仕方ないことなのかもしれない。

もしかしたら、これはカズマたちの存在が僕にとってはかなり大きいものになってるのもあるかもしれない。

みんながどう思ってるかは知らないけど、皆も僕と同じだったらいいなと、思ってる最中だった。

 

「っ!?」

 

急に寒気がした。

もちろん、寒くて寒気がした、というのではなく、何かしらの恐怖を感じるような寒気だった。と、同時に念の為に飛ばしていた使い魔の視界にあるものが映った。

 

それを見た瞬間、僕はその場所へ駆け出した。

 

急げ、急げ、急げ。また、間に合わなくなる。

 

そんな思いに急かされながらも足の回転率をさらに上げ、黒化を使用してさらにスピードをあげた。

 

まだか?まだ着かないのか…!

 

そう思いつつも、やっと使い魔越しで見た景色になり、視界を強化した時だった。

 

 

カズマの首が、刀を持った鎧武者に斬られたのを視認したのは。

 

 

「か……ずま……?」

 

雪で真っ白なはずの所を赤い血が染めていく。

 

──死なないで!頼むから、死なないでくれ!

 

僕の頭に、あの事が蘇る。

 

───ほ…む……、あ……た…

 

───喋らないでじっとしてて!絶対に、助けるから!

 

僕は、ぼくは、ボクは、

 

────き……み……が…………だっ……

 

ダイジナヒトヲ……

 

────え……ねえ、目を開けてよ…嘘だよね?僕を驚かしたいんだけだよね?

 

マモレナカッタ……

 

 

 

****

 

 

カズマの首を斬り落とした鎧武者型の精霊──冬将軍は自身に向けられる殺意を感じ、反射的に後ろに飛び下がった。次の瞬間

 

「ガァァァァァァ!」

 

叫び声と共に、何かが先程まで冬将軍が行った場所に剣を突き立てていた。

 

「「「ホムラ!?」」」

 

剣を突き立てた者が自分らのパーティの1人である、ホムラであり、しかも黒化を発動していることを視認したダクネスたちは驚きの声を上げる。

しかし、当のホムラはそれに反応することなく冬将軍に飛びかかる。

 

「な、何が起こってるの!?」

 

「わ、私にも分からん!そもそも、ホムラはどうしたのだ!?」

 

ホムラのいつもと違う様子にアクアとダクネスは困惑する中、ホムラと冬将軍の戦いが始まった。

 

 

 

***

 

「ゼェア!」

 

冬将軍はホムラの突進突きを体を横に逸らしてかわし、すれ違いざまに振るわれた短剣を刀で防ぐ。

ホムラはすぐに冬将軍に向き直り、長剣と短剣をタイミングを微妙にズラしながらも、袈裟斬り、横薙ぎ、斬り上げ、縦切り、とあらゆる角度から斬撃を出していく。

それに対し、冬将軍は下がりながらも防いでいく。

 

一見すると、冬将軍が防戦一方でホムラが押しているように見える戦いだが、実際はホムラが激しく攻勢に出て冬将軍に反撃の隙を与えないようにしているだけだ。

つまり、ホムラはカズマを守れなかった悲しみと自身の不甲斐なさからの怒りで我を失っているものの、本能的に理解しているのだ。──一瞬でも、反撃の隙を与えれば殺される──と。

 

 

「うああああっ!」

 

ホムラは、絶叫しながらも攻撃のスピードを上げていく。しかし、冬将軍はそれらを冷静捌いていき、そしてホムラの連撃の本の一瞬の隙に刀を振るった。

完全に、意識していなかったところからの攻撃にホムラは反射的に距離を取った。そう、攻撃の手を止めて距離を取ってしまった。

 

瞬間、根元から先がない剣を持ったホムラの右腕が宙を舞った。

 

「えっ?」

 

そう言葉が漏れたのは誰だったのか。ダクネスか、アクアか、めぐみんか。またはその3人だったのかは不明だが、少なくともホムラではなかった。何故か?それは

 

「グアアアアァァァァァァァオオアァァ!」

 

冬将軍の目で追うことすら出来なかった、斬撃によって斬られた右腕の断面を抑えながら、絶叫していたからだ。黒化のデメリットである、感覚の鋭敏化でホムラは現在、気絶することすら出来ないほどの激痛に襲われているため、この状態は理解出来る。

 

一方で、冬将軍は内心驚愕していた。先程放った一閃は、ホムラの胴体を縦に斬り裂くつもりで本気で放ったものなのだ。それを、ホムラは本能的に体をズラしながらも、避けきれないであろう右腕を守るために、長剣で防ぐとこまで反応したのだ。最も、いくら霊力で刀身をカバーしていたとはいえ、精霊でもトップクラスの存在の冬将軍の斬撃は防げなかった訳だが。

 

冬将軍はもう目の前の剣士は痛みでとても戦闘を続ける意思があるようには見えない、そう判断し刀を鞘にしまいこむと、その場を去ろうとした、その時だった。

 

「アアアアアアアアアアアアァァァァ!!」

 

「っ!?」

 

冬将軍は、反射的に刀を抜いて自身に接近してきた存在に刀を振るおうとした瞬間、風を感じ、その次には腕の感覚がないことに気がついた。

首を動かし、腕を見てそのわけに気がついた。そう、刀を抜こうとした右腕がないのだ。

 

「フーッ、フーッ」

 

そして、ある程度の確信を持って後ろを確認すれば、右腕を失ったホムラが口から痛みをこらえるように息を吐きながらも短剣をを構えていた。

そう、ホムラは冬将軍が去るのを察知すると体に走る耐え難い激痛を、こらえながらも疾風牙を繰り出し、冬将軍の右腕を斬り飛ばしたのだ。

 

冬将軍は腕を再生し、鞘に収まったままの刀を抜こうとして──やめた。

なぜなら、ホムラは立ったまま気絶しているからだ。

先程の荒い息は続いているものの、目は虚ろで、殺気も殺意もなければ戦意も全く感じない。

また奇襲されないように確実に息の根を止めるのも冬将軍は考えたが、それもやめた。

あの剣士が自分に斬りかかったのは、誤って殺してしまった少年の敵討ちだとすれば、おの少年の行動を先読みできなかった自分のせいだろう。…雪精を討伐したのは許せないが。

 

どっちにせよ、見逃すのが道理であるだろう。そして冬将軍は、少しだけ、本気を出させ最後まで膝をつかず、その上自分の腕を斬り飛ばしたホムラに、称賛と仲間を殺してしまった詫びも兼ねて、あるものをホムラが使えるほどの大きさに変えると、それをホムラの傍に放り投げて消え去った。

 

 

 

****

『な、なあ、八雲って好きな人いるのか?』

 

『………』

 

『…そ、その八雲って好きな人い『聞こえてるから2度も言わなくていいって』おい、聞こえてるなら無視をするな』

 

それは、見回りをしていた時にたまたまあった彼女と話していた時に聞かれたことだった。

 

『突然、どうしたの?そんなこと聞いて』

 

『そ、その気になってな。ほ、ほら、八雲は色んな人から慕われてるから、その中で気になる人とかいるのかって思ってな』

 

彼女は顔を赤く染めながらすごい早口で言う。いつもの彼女からは考えられない様子に、僕は思わず笑みが零れてしまった。

 

『お、おい!何も笑うことないだろう!?この、駄狐!おいなりお化け!ムッツリスケベ!お、おっぱい星人!』

 

『ちょ!?確かに笑ったことは悪いとは思うけど、ムッツリスケベと最後のは流石に返上させてもらうよ!?』

 

『うるさいうるさい!!この朴念仁!』

 

さっきまでの穏やかな雰囲気は閑散し、騒がしい雰囲気へと早変わりした。

────ホ……!

 

僕らはいつも、こうやって騒いだり、喧嘩したりしたけど。

 

────ホ……ラ…

 

最終的には、笑いあってまた今度と言って別れる。

 

────ホム……!

 

思えば、僕があることだけを除けば、自分の全てを見せれたのは彼女だけだった。ああ、そうだ。僕は、そんな彼女を……

 

 

────ホムラ!

 

*****

 

「ホムラ!!」

 

僕を見下ろすように、アクアさん、めぐみん、カズマの顔があった。

思考が上手く回らない中、頭の上に気配を感じて、そちらに視線を向けると、ダクネスが目を閉じながら僕の左手を両手で握って祈るように目を閉じていた。

 

「みんな…?」

 

「「「ホムラ!!」」」

 

僕が目を覚ましたのに気がつくと、アクアさんを除いた3人が僕に抱きつく。

何で、こうなっているのか分からず混乱してる中、気を失う前のことが急に脳裏に横切った。

 

「冬将軍なら、もうどこか行っちゃったから大丈夫よ。それと、斬られちゃった右腕もしっかり繋げてあげたから!」

 

アクアさんが胸を張りながら得意気にそう言う。しかし、僕はそれどころではなく、カズマを抱きしめる。

 

「ちょ!?ホ、ホムラ!?男同志でやめ…!」

 

「良かった……!カズマが生きてて…!良かった……!!」

 

腕に感じる、確かな感触。幻でもなく、実体の人間。アクアさんが、カズマを生き返らせてくれたのだろう。それでも、大事な仲間が生きていることに、僕は安心した。

 

「よく頑張ったな、ホムラ」

 

ダクネスがそう言いながら、僕の頭を撫でる。カズマの敵討ちすら出来ず、その上みんなに心配をかけたのだから、その言葉を受け取ることはしてはダメなのに、心に入ってくる。

 

「うぐっ……ひぐっ……」

 

耐えきれず、涙を流す。

みんなは、僕が落ち着くまでその場を動かずそばに居てくれた。

 

 

だから、今度こそ、大事な仲間を絶対に守ってみせる。

僕はそう決意した。

 

 

 

 




解説コーナー
冬将軍:めちゃくちゃ強い精霊。原作においても、カズマとめぐみんに「ベルディアより強い」、「爆裂魔法でも倒しきれない」と言われるほどつおい。だが、性格はかなり穏やかで自ら襲いかかることは早々ない。最も、雪精に危害を加えるものに関しては別問題。それでも、雪精を逃がし、武器を捨てて戦闘の意思がないことを示せば見逃してくれる辺りめちゃくちゃ寛大。なるほど、これが大和魂か(?)


ちょっとだけ、余談をば。
このファンのリアちゃんが好みどストライクでしたまる


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第15話

なんか寝れないので、執筆してたら1話分がいい感じにできたので投稿。

今回はオリジナル回です。

それでは、本編の方どうぞ!


あれから、僕らは冒険者ギルドへ戻り、僕は白狼討伐の報告、カズマ達はクエストの中断を報告した。

 

そして、今現在はギルドの食堂のテーブルの一角で話し合いをしているところだ。

 

「魔法を扱うウェアウルフとゴーレムか…ホムラはやっぱり強いよなぁ」

 

「前も言ったけど、僕なんてまだまだだよ。今の僕が黒化使っても、師匠には絶対勝てないと思うし」

 

「ホムラの師は一体何者なんだ…?」

 

ダクネスが喜びそうな攻撃力と性格の持ち主です。と言うのを堪えて笑ってやり過ごす。こんなことを言った日には、間違いなく色々と面倒くさいことになるのは明白だからね

 

「そういえば、その刀。結局どうするの?」

 

「あー…」

 

アクアさんがテーブルに立てかけてある、冷気を出して白銀の鞘に収まっている刀を指さす。

 

これは、あの冬将軍が置いていったものだ。なんでも、話によると立ち去る前に僕の近くに放り投げたらしい。自分の武器をなぜ?と思ったが、冬将軍は精霊のためその体は魔力でできている。刀も例外ではなく、それも魔力で出来ているため、損失してもすぐに作れるらしい。

 

──もっともこの刀は何故か実体のある物体なのだが──

 

それは置いとくとして、何故冬将軍が僕にこの刀をくれたのか、という疑問に関してはよく分からないということで終わった。

 

そして、問題はここからだった。

この刀、持つと発する冷気があまりにも冷たすぎて、めぐみんの見立てだと、長期的に持ってると全身が凍る可能性があるらしい。

アクアさん曰く、刀自体が認めないと使えないような加護があるとのこと。

他のみんなにも持ってみてもらっても結果は同じ。そして霊術や妖術をフル活用してみても、ほんの数秒ならギリギリ使えるというもの。結局、バフなしではこのパーティでは誰も扱うことはできないと判明。(なお、その内1名は「こういうジワジワとクルのもいい…!」と言っていた)

では、売り飛ばすかという話にもなったが、ここはめぐみんとダクネスが、呪いの武器(失礼だけど)みたいなのをこの街の武器屋が買い取るとは思えないと言い、僕個人としても売りたくないので却下。

無論、武器として扱うことができないため普段から持ち歩くのも避けたい。

しかし、預けるにしても、この刀を預かってくれそうな人も思い浮かばないのも現状だ。

 

結局、これといった案が出ないため暫くは普段から僕が持ち歩くことになった。

 

 

****

 

それから数日後のこと。

 

「おい、もう一度言ってみろ」

 

カズマは怒りを抑えながら、静まり返るギルドないでその男に問い返した。

死んでしまったカズマと腕を斬り飛ばされた僕は、数日ほど休養を取り、今日になって戦闘行為が禁止されているカズマと、条件付きとはいえ、戦闘を控えるように言われてる僕は簡単な荷物持ちみたいな仕事でもないか、ギルドの掲示板を見ていたんだけど…

 

「何度だって言ってやるよ。荷物持ちの仕事だと?上級職が揃ったパーティにいながらもう少しマシな仕事に挑戦できないのかよ?大方お前が足を引っ張ってるんだろ?なあ最弱職さんよ?」

 

そう言って同じテーブルにいた他の仲間と笑い合う戦士風の男。

僕はカズマを馬鹿にされたことに我慢できず、その人に声をかけようとしたが、カズマがそれを目配せして止めた。

 

恐らく、カズマはこの男の言うことも一理あると思っているのだろう。けど、この凸凹パーティを他に効率的に動かせる人はカズマぐらいしかいないと僕は思ってるから、そこまで卑下しなくてもいいのに…

 

そんな無言でいるカズマをその男は萎縮してなんも言えないでいると思ったらしい。

 

「おいおい、何か言い返せよ最弱職。ったく、いい女3人も引き連れて、ハーレム気取りか?しかも全員上級職と来てやがる。さぞかし毎日、このお姉ちゃん達相手にいい想いしてんだろうなぁ?最近は1人で依頼を受けてる荷物持ちの獣人をそっちのけでなぁ!」

 

それを受け、ギルド内に爆笑が巻き起こった。

男が言った内容に憤りを感じるも僕は手を強く握って耐える。

この街で1人で依頼を受けるとしたら大抵は簡単なものが通常であり、そう思うのは仕方ないこと。それに、僕の未熟さのせいで暫くは荷物持ちしか出来ないのは事実だから言い返せない。

ただ、中には前のベルディア討伐の活躍と、僕が1人で難易度が高めの依頼を受けているのを知る人達の一部は、その言葉に顔を顰めて注意しようとする人もいた。

 

こういう人達がいるなら耐えられる。

歯を食いしばって我慢を続けるカズマと僕に向けて、その男はさらに言葉を続ける。

 

「優秀な上級職におんぶに抱っこで楽しやがって、男二人は苦労知らずで羨ましいぜ!おい、俺と代わってくれよ兄ちゃんたちよ?」

 

「大喜びで代わってやるよおおおおおおおっ!!」

 

ついに、耐え切れなくなったカズマが大声で絶叫した。

突然の事態(と内容)に冒険者ギルドの中が静まり返る。

 

「……えっ?」

 

絡んでいた戦士風の男が、ジョッキを片手に思わずマヌケな声を出す。

うん、気持ちは僕もわかる。

 

「代わってやるよって言ったんだ!おいお前、さっきから黙って聞いてりゃ舐めた事ばっか抜かしやがって!ああ、そうだ、確かに俺は最弱職だ!それは認める。……けどなあ、お前!お前その後なんつった!」

 

「カ…カズマ?」

 

ブチギレてるカズマに、アクアさんがおろおろしながら声をかけるも、カズマは止まらない。

 

「確か、いい女3人も連れてハーレム気取り!?おいお前、その顔にくっついてるのは目玉じゃなくてビー玉かなんかなのか?どこにいい女がいるんだよ!俺の濁った目ん玉じゃどこにも見当たらねえよ!お前いいビー玉つけてんな、俺の濁った目玉と取り替えてくれよ!」

 

「「「あ、あれっ!?」」」

 

カズマの言葉にアクアさん達が、それぞれ自分を指しながら小さな声でそう呟いた。

…うん、確かに3人とも実態を知らなければいい女性に見えるよ……うん(精一杯のフォロー)

 

「それとホムラが荷物持ちでそっちのけだと!?ふざけんな!あいつは俺らんとこのメインアタッカーだぞ!それにお前は1人で、白狼の群れ討伐を達成したり、魔王軍幹部や冬将軍とタイマン張ってそいつらに攻撃当てられんのか!?しかもそのあとは上級職におんぶに抱っこで楽しやがって!?俺らが苦労知らずだぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「……そ、その、ご、ごめん……。俺も酔ってた勢いで言いすぎた……。で、でもあれだ!隣の芝生は青く見えるって言うがな、お前さんは確かに恵まれてる境遇なんだよ!代わってくれるっていったな?なら、一日。一日だけ代わってくれよお二人さんよ?おい、お前らもいいか?」

 

男はそう言ってテーブルの仲間達に確認をとる。

 

「お、俺は別にいいけどよお……。今日のクエストはゴブリン狩りだし」

 

「あたしもいいよ?でもダスト。あんた、居心地がいいからもうこっちのパーティに帰ってこないとか言い出さないでよ?」

 

「俺も構わんぞ。ひよっこが1人や2人増えたってゴブリンぐらいはどうにでもなる。その代わり、いい土産話を期待してるぞ?」

 

絡んできた男と同じテーブルにいた、その男の仲間達は口々に言った。

 

「ねえ、カズマ。その、勝手に話が進んでるけど私達の意見は通らないの?」

 

「ホムラはともかくお前らは通らない。おい、俺の名はカズマ。今日一日って話だが、どうぞよろしく!」

 

「「「は、はあ……」」」

 

絡んできた男の3人の仲間は若干戸惑い気味に返事をした。

ところで、僕はどうすればいいんだろう……

 

 

****

 

結局、僕はダクネス達といることにした。

理由としては…

 

「ええー。ゴブリン退治ー?もうちょっとこう、ドカンと稼げる大物にしない?一日とはいえ他所にレンタルされてるカズマに、ホムラが戦えなくても、私達がどれだけ有難い存在なのかを見せつけないといけないの」

 

「い、いや、あんたらの実力が高いのはわかるが、俺の実力が追いつかねえよ。アークプリーストにアークウィザードにクルセイダーに、ルーンナイト。これだけ揃ってればどんな相手でも楽勝だろうけどよ、今回は無難なところで頼むよ。……所でクルセイダーのあんた、武器も鎧も持っていないが、まさかその格好で行く気なのか?」

 

「大丈夫だ。硬さには自信があるし、武器を持っていてもどうせ当たらん」

 

「当たらん…?いやその……ま、まあいいか……」

 

このように、一時的とはいえこちらに来た絡んできた人…ダストさんと皆のフォローをしなくてはいけない。

正直、まだクエストにも出てないのにもう不安になってきたよ…

勿論、カズマの方も不安だけど、向こうは冒険者歴が僕らより長い人達でパーティが構成されているのと、念の為カズマには非常時の際には、僕の使い魔が封された札を飛ばすように言ったから大丈夫だろう、と判断したというのも理由の一つだけどね。

 

***

 

「そういえば、お前らってどんなスキルを使えるんだ?」

 

街を出て、クエストへ行く道中でダストさんが思い出したかのようにそう聞いてくる。

 

「私はあの最強の爆裂魔法が使えますよ!」

 

「へぇー!あの爆裂魔法をかぁ…すげえな、嬢ちゃん!」

 

めぐみんが胸を張り自信ありげに言った内容に、ダストさんがそう感心した様に呟くと、めぐみんはフッっと笑った。

 

「ふふ、褒めてもらったお礼として、我が力をお見せしましょう!」

 

「えっ、ちょ、待っ……!」

 

そう言うと、僕が止める前に詠唱を始め…!

 

「『エクスプロージョン』!!」

 

何も無い草原に意味もなく、ぶっ放して、満足気に倒れた。

 

「フッ…今日は中々の出来です…カズマ(爆裂ソムリエ)がいないので、解説と評価がないのが物足りませんが…」

 

 

「た、確かにすげえ威力だけど…!なんで、今出したんだ!?ってか、爆裂ソムリエって何だよ!?」

 

いきなりな展開にダストさんが喚く。うん、まともな反応だからこの人は変人ではないかもしれない(末期)

そんな時、僕の耳に何かが走ってくる音がした。それも複数。

 

「ダストさん!めぐみんを背負って!何かが近づいてきてるから、とりあえず撤退し…!」

 

僕が指示を出しきる前に、それは姿を現した。

一言で言えば、猫科の猛獣。しかし、それは虎やライオンを大きく超える大きさであり、全身が黒い体毛で覆われ、サーベルタイガーのような大きい2本の牙を生やしていた。

 

「しょ、初心者殺しだ!」

 

ダストさんが震える声で呟く。

『初心者殺し』そいつは、ゴブリンやコボルトといった、駆け出しの冒険者にとって美味しいと言われる、弱いモンスターを餌に弱い冒険者を狩る危険度の高いモンスター。しかも、ゴブリンが定着しないようにゴブリンの群れを定期的に追いやって狩場を変える等、狡猾な面もある。

無論、実力もかなりあり、駆け出しから中堅未満の冒険者は見かけたらすぐに逃げるようにとさえ注意されているほどだ。

 

しかも、今回はそれが2匹。1匹なら、今の僕でも皆を守りながら倒せるだろうが、2匹では流石に難しい。

 

「おい、お前ら!逃げるぞ!!アークウィザードが動けないし、そこのルーンナイトは本調子じゃないらしいからさっさとずらかるぞ!」

 

めぐみんを背負ったダストがそう大声で指示を出す。

こればっかりは、僕とアクアさんも同意見で初心者殺しに背を向けて走り出そうとした瞬間だった。

 

「うおおおおぉぉぉぉ!」

 

「ちょ、ダクネス!?」

 

ダクネスが声を上げて突撃して行った。

 

「え、ちょっ!?なんであのクルセイダーはつっこんでいったんだ!?俺、逃げるぞって言ったよな!?」

 

「言ったよ!けど、あのドMはそんなんじゃ止まらないんだ!僕もすっかり忘れてた!!ああ、もう!!僕とダクネスで足止めするから逃げて!」

 

「お、おい!?」

 

後ろからダストさんから制止の声が届くが、それを無視して、左手にミニ八卦銃をだすと、僕は初心者殺したちの方へ狙いを合わせた。

 

 

****

 

俺、カズマと今回一緒に組んだパーティが冒険者ギルドの前に着いた頃には、時刻は既に夜半を回っていた。

ゴブリンの群れの数が多かったり、最後の最後で初心者殺しに追っかけられたものの、無事にクエストを達成出来た。

 

「つ、着いたああああっ!今日は、なんか大冒険した気分だよ!」

 

女の子の魔法使いである、リーンの声を聞きながら、俺たちは笑いながらギルドのドアを開け──

 

「ぐずっ……。ふぐっ……、ひっ、ひぐぅ……。あっ……ガ、ガズマあああっ……」

 

泣きじゃくっているアクアをみて、俺はそっとドアを閉めた。

 

「おいっ!気持ちは心底よーく分かるが、ドアを閉めないでくれよっ!」

 

閉められたドアを開け、半泣きで食ってかかってきたのは今朝俺に絡んできたあの男。

ダストという、アクアたちのパーティの新しいリーダーだ。

酷い惨状だった。

ダストは背中にめぐみんを背負い、ホムラは、白目を向いて気絶したダクネスを背負って疲れた顔をして、目のハイライトを出張させている。そしてアクアは先程も言った通り、泣きじゃくっている。

よく見ればアクアは頭に大きな歯形を残し、涎かなにかは知らないが、なんとなく湿っぽい。

 

「えっと何これ。いや、大体わかる。何があったかは大体わかるから聞きたくない」

 

「聞いてくれよ!聞いてくれよ!!」

 

半泣きのダスト曰く、めぐみんを褒めたら急に爆裂魔法をブッパして、その音で初心者殺しが二匹もきて、鎧を着てないダクネスが突撃して気絶して、ホムラが1人で初心者殺しを一匹倒して、もう一匹を何とか追っ払ったと。

 

…よし、ホムラ次第だがとりあえず……

 

「おい皆、初心者殺しの報告はこいつがしてくれたみたいだし、まずはのんびり飯でも食おうぜ。うちのホムラも入れて、新しいパーティー結成に乾杯しよう!」

 

「「「おおおおっ!!」」」

道中の俺の話とダストの話で、ホムラの有用性を理解しているリーンたちが喜びの声を上げる。

 

「俺が悪かったからっ!!今朝のことは謝るから許してください!!」

 

結局、パーティーは元通りになり、俺はまたアクア達のリーダーとなった。

余談だが、ホムラはそれが決定した時、とても安心した表情を浮かべていた。

 

曰く、「僕だけじゃフォローしきれないから…」とのこと…やっぱり無理矢理でも、パーティー交換のとき、ホムラも連れてくればよかったな。

 




解説コーナー

ダスト:職業は戦士。The・チンピラをまさに体現しているキャラ。なんやかんや、カズマ達とは交流が多い気もする。なお、今回の一件でアクアたち=ヤベー奴らと認識したため、カズマ(とこの小説ではホムラ)の苦労の理解人にもなった。実際、原作でもそのような発言見られたからね。なお、とある人物との関連性が疑われているが…

リーン:職業はウィザードの尻尾を生やしてる女の子。ダストのやらかしの後始末をやったりと苦労人気質。余談なのですが、タヌキ尻尾モフモフしたいと思うのは自分だけでしょうか?(お巡りさん、俺です)
なお、胸部装甲はう(これから先は赤く汚れている)

冬将軍の刀:まさか、ノーリスクで強力な武器が使えるとでも思っていたのか?そんなこと、読者が許すわけないだろう!というわけでデバフ持ちの呪いの武器的な感じに。
ファイナル○ァンタジー的には、スリップダメージ+死の宣告+スロウ、というトンデモ仕様。なお、あるクルセイダーのみ、死の宣告部分は効かずにスリップダメージが増えるだけの模様。なんでだろうね(すっとぼけ)


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第16話

大変遅くなって申し訳ございません。

このファンやアークナイツばっかやってると、ついつい執筆を怠ってしまうので、時間を上手く活用して行けるようにしていこうと思います(猛省)

それでは、本編どうぞ。それと、今回はいつもより長いです。


 

ダストさんとの一件から数日後、カズマからの提案でダンジョンに行くことになった。

けど、ダンジョンの中に潜るのはカズマだけで、僕らは道中の護衛としてだ。

そうなった訳は、今回潜るのが〈キールのダンジョン〉という初心者向けの所であるのと、カズマが新しく覚えたスキルのお試しのためだ。

 

そして、現在。カズマのあとをついて行ったアクアさんを除いた僕らは、ダンジョンの近くのログハウスで待機することになっていたんだけど…

 

「えーと、本当にいいの?」

 

「ああ、大丈夫だ。むしろ望むところだ!」

 

模擬戦用の木剣を持った僕に向かって、頬を紅潮させてダクネスがそう言う。

どうしてこうなったのか?

それは、僕が外で技の制度の確認と、開発途中だった技の試験運用をしている最中に、それを見ていたダクネスが「実際に相手がいた方が、実践向きかどうかと、威力の確認ができるだろう?」と提案したのだ。

無論、僕は拒否したのだが余りにも食い下がるため、根負けしてしまった。

ただ、条件としてダクネスに対してのダメージが最小限で済むように木剣を使うこと、ミニ八卦銃を使ったものはやらない、というのでやっている。(ダクネスはそれを聞いた時、残念そうにしてたのは気のせいだと思いたい)

 

なお、めぐみんは近くで爆裂魔法の詠唱の練習をしている。

 

さて、ダクネスにはあの条件でやるといったけど、流石に気が引ける。

 

「どうしたものかなぁ…」

 

「どうした!?早くかかってこい!さあ、早く!!」

 

「本当にどうしたものかなぁ…(困惑)」

 

あっ、あの技ならダクネスに攻撃当てないか。

僕は、懐からある術式を組んだ札を取り出すと、それに霊力を込めて前に投げる。

すると、その札が発光し、それが収まるとそこには僕の分身があった。

ただし、その全身は虹色に光っているため目鼻口はないように見えるのだが。

 

『双幻夢』。それがこの技の名前だ。

 

「これは…分身なのか…?」

 

「うん、正解だよ。これは僕の動きに合わせて動く分身なんだ。…まあ、口で言うより目で見た方が分かるかな」

 

木剣を縦に振るうと、分身も同じように木剣を振るう。

 

「ほう…変わった技なのは分かったが、これは一体どう言う時に使うんだ?」

 

「これは元々、僕の剣の師匠が使ってた技を習得するための前段階として開発したものなんだ。だから、実戦に使うことは少なかったんだけど、使うとしたら多対一の時に使う感じかな」

 

ダクネスの疑問に答えつつ、双幻夢を繰り出したまま剣を数回振るう。うん、ラグもなさそうだし問題はないかな。

確認が終わったので、双幻夢を解こうとしたら、ダクネスがチラチラとこちらを見てくる。

 

「……言っとくけど、双幻夢はあくまで動作確認のためにやっただけで、威力の確認はしないからね?」

 

「くっ…、いや、こういう焦らしもまた……!」

 

ダクネスのドMっぷりに頭を抱えたくなるけど、そこは堪えて双幻夢を解除して、分身を札に戻す。

双幻夢は問題なかったので、次は師匠が使っていたあの技をやるために、さっき使ったのとは違う札を取り出して、札に霊力を流し込む。すると、後ろに双幻夢と同じような分身が現れる。

 

「?それはさっきのと何が違うんだ?」

 

「これは、『魂符「幽明の苦輪」』っていうもので、僕の動きに少しだけ遅れて動くように術式を組み替えたものなんだ。本来なら、双幻夢と違って、半透明になった僕の姿が分身として出てくるんだけど…」

 

「虹色に光ってるな……」

 

失敗である。念の為、剣を振ってみると結果は僕と同じタイミングに振っていた。ううん、術式か流す霊力の量を間違えたかもしれない。

頭の中で考えを巡らせながらも、技を解除して札の状態を確認する。…うーん、札に残ってる霊力量からして少なすぎたかな?

 

「な、なあホムラ。そろそろ、攻撃系統のものを私に…!」

 

「………」

 

どうしよう、ダクネスが物欲しそうな目でこっちを見てくる…。ダクネスの要望通りに、攻撃系のものをぶつけるのは、僕の良心が痛むし、かといってやらないのはなぁ…いや、あの型なら、大丈夫かな?

 

「分かったから、そんな目で僕を見ないで…ご要望通りにするから……ね?」

 

「おお!ホムラは話がわかるな!!さあさあ!いつでも私はいいぞっ!!!」

 

これが、いわゆるバッチコーイってやつなんだろうか?

それはともかく、僕はもう1本の木剣をダクネスに渡した。

 

「ん?私はお前の攻撃を受けるのだから、木剣は必要ないぞ?」

 

「いや、必要だよ。なんたって、これからやるのは相手が攻撃してこないと上手くできないものだから」

 

僕がとった手段。それは、相手の攻撃を防いで放つ型、剣道などで言う返し技をやること。

これなら、まだ稽古っぽく見えるから僕の罪悪感は減る。それに…

 

「…ホ、ホムラ。私の攻撃が当たらないことを知ってる上で言ってるのか…?」

 

「うん、そうだよ」

 

ダクネスの言葉に即答する。そう、ダクネスの命中率なら、そもそも僕に当たることがそうそう無いので攻撃することはなくなる。……まあ、鍛錬の時間は減るけどこれは必要な犠牲ってことで気にしない方針で。

 

「さあ、いつでもいいよ?最も、当たるかはわからないけどね」

 

「くっ…こうバカにされるのもいいものだ…!しかもそれを普段は温厚なホムラがやってると思うと……!」

 

「いいから早く打ち込んできてよ!?めぐみんからの視線が痛いんだからさ!?」

 

 

 

******

 

「んで、結果としてこうなった訳と」

 

「はい、そういう事です」

 

目の前の惨状の経緯をめぐみんから聞いたカズマはため息を吐いて、改めてその惨状を確認する。

 

「ハア…ハア……新、感覚だ……!」

 

「僕は、なにを……」

 

「うっ、うわあああああ!!カズマがあ!アンデッド、よりに、よってリッチーを見習えって言ったああぁぁぁぁ!!」

 

頬を赤らめて息を荒くしながらぶっ倒れてるダクネス、目のハイライトが消えてる状態で体育座りをしているホムラ、泣きじゃくるアクア。

 

「…俺の幸運値って高いんだっけ……」

 

カズマは考えることをやめた。

 

 

****

 

「……この屋敷か」

 

「悪くないわね!この私が住むの相応しいんじゃないかしら!」

 

 

黒歴史(ダクネス調教事件) から数日後、僕らはアクセルの街の郊外に佇む一軒の屋敷の前に来ていた。

ここに来たわけは、一言で言えば屋敷に住んだ悪霊退治だ。経緯としては、カズマがリッチーであるウィズさんにスキルを教わりに行ったまでは良かったらしいけど、アクアさんがウィズさんを退治を試みるという事態が発生。一応、カズマがウィズさんが退治する前に止めたものの、ウィズさんに不動産屋の人がこの屋敷の悪霊退治を頼みに来たのだが、肝心のウィズさんは満身創痍という訳なので、責任としてアクアさんが請け負った、というのが流れだ。

そして、今回の依頼はここの屋敷は現在では幽霊屋敷という悪評が定着してしまったため、除霊が終わったら報酬として、悪評が消えるまで無料で住めるという、僕らからしたら有難い依頼とも言える。

 

それにしても……

 

「すごく…大きいです…」

 

今めくみんが言ったように、大きい。いや、屋敷なのだから大きいのは当たり前だと思うけれど、大きい。流石、貴族の元別荘と言ったところかな。

 

その後、アクアさんが霊視という能力でこの屋敷にはある少女の幽霊が住み着いていて、その子は悪霊ではないこととその子の生涯を僕らに語っていたが、僕以外の皆はそれをスルーして屋敷の中に入っていき、昼間は荷解きや掃除などで時間が過ぎていった。

 

***

 

その夜、僕はアクアさんとは別行動で幽霊退治をしていた。

当初、僕も幽霊退治をする節を皆に伝えた時はアクアさんを除いた皆から疑問の視線を向けられたが、幽霊はあくまで物理的な攻撃を通さないだけであって、霊力や魔力を纏わせれば充分通じる。

それに、一時期だけとはいえ博麗の修行もやっていたから除霊の心得もある──最も、博麗の術は齧る程度の物しか身につかなかったけど。

 

そんなことを考えながら、1階にまだ潜んでいる幽霊を探していると、目の前から幼そうな少女とそれを追いかける覆面を被った幽霊──何故かパンツしか履いてない──達の姿が目に入った。

 

「はぁ……バカは死んでも治らないって聞くけど、本当なんだね」

 

ため息を吐きながら、除霊の術を剣にかけて、少女を除いた変態幽霊共を一閃。

霊が除霊され消えたのを確認して、ふと近くを見るとキョトンと少女がこちらを見ていた。

 

恐らく、除霊されてないことに驚いているのだろう。僕らは剣を鞘にしまいながらその子に話しかける。

 

「家主をいきなり除霊させるなんて、礼儀知らずなことはしないよ。それに、君は悪い幽霊に見えないから」

 

*****

 

「…私の事、知ってるの?」

 

あの場では、誰に見聞きされてるか分からないため僕らはこの屋敷の屋根の部分に腰掛けて話していた。

 

「うーんと、僕の仲間に幽霊関連の専門家みたいな人がいてね。その人が霊視した時に得たことしか分からないよ」

 

彼女は、僕の答えに「そう」と短く答えると視線を前に移す。

 

「ねえ、あなたはどうして私のことが見えたの?」

 

それから互いに黙って、しばらくその状態が続いてから彼女はまた、質問を僕になげかけた。

 

「どういうことかな?」

 

「だって、今まで誰も、私のこと見えてた人いなかったから…」

 

彼女の話からすると、恐らくこちらの世界でも霊的なものを見ることが出来る人は中々いないのだろう。考えてみれば、この屋敷にいた悪霊たちも物に入り込んでからこちらに襲ってくるものが多かった。

それにダクネスに会った時、彼女は後ろに男の霊がいたのに気がついてなさそうだったし。(勿論、その霊はすぐに退治した)

 

話を戻すと、僕が彼女を見ることできる理由は簡単だ。

 

「さっきの質問に答えると、僕は普通の人間じゃないからだよ」

 

詳しい理由は僕も知らないけど、妖怪は霊的なものを見ることが出来る。そのため、人間と妖怪のクォーターである僕でもそれが可能っていう説明をした。

 

「そう、ヨウカイ?というのはよく分からないけど、何で私が見えるかは分かったわ」

 

「ごめんね、本当は僕の故郷のこととか話さないとよく分からない話なんだ」

 

「あら?ならその話から先にしてほしかったなー」

 

彼女はそう言うと、口を尖らせてしまった。うーん、これは僕の故郷についても話さないとダメなパターンかな?

 

「ああ、そうだ。少し長くなるけど僕の故郷の話をしてもいいかな?」

こういう時は、あくまで自分からその話をしたいということを告げるのが大事だ。こういうのは、紅魔館のあの子のおかげでよく分かってるからね。

 

「ふふ、仕方ないわね。それに、時間はたっぷりあるからゆっくり話してくれて構わないわよ?」

 

あまりにも、上手くいったことに口角が緩みかけたが、それがバレたらまた面倒なことになるので必死にこらえて、口を動かす。

 

 

 

忘れられたもの達が集う楽園、『幻想郷』の話を。

 

 

 

*****

「はぁ…全くあの馬鹿は……」

 

カズマはそう呟きながら、屋敷の庭の隅にあるお墓の周りに生えている雑草を引っこ抜いていた。

 

カズマが何故、草むしりをしているのかはこの屋敷に住む条件の二つのうち一つにお墓の手入れがあるからだ。

何故、依頼の報酬で屋敷に住めるはずなのに条件があるのか?というのも、アクアがウィズの代わりに成仏するのを引き受けたまでは良かったものの、すぐに面倒くさくなって墓地に神聖属性の結界を貼り、霊の行き場を無くしていたせいで、その霊達が空き家を行き場にしていたというのが真相だったからだ。

 

カズマとアクアはそれを不動産屋の人に正直に話し、謝罪をして屋敷を返還する旨を伝えたが、屋敷の悪評が消えるまでというのと、先程の条件を守ることで屋敷に住めるというのが今回の顛末である。

 

「あ、カズマ。お墓の手入れやってくれてたんだね」

 

草むしりを終え、墓石に水をかけ雑巾で拭いているカズマに、外出していたホムラが声をかけた。

 

「おー、ホムラか。どこに行って…何で酒を持ってんだ?」

 

「まあ、お供え物としてね。あ、僕も手伝うよ」

 

「お、助かるわ。早くしないとアクアに朝飯取られるからな」

 

2人で墓石を綺麗に洗い、泥などを落とす。

 

 

 

 

そして、その様子を屋根の上から一人の少女が少し嬉しそうに見ていた。




解説コーナー

双幻夢:初出はロックマンX5でゼロのラーニング技。同じ動きをする分身を前方に出す技。ホムラの場合だと、霊力札を分身体として出している。

魂符「幽明の苦輪」:初出は東方萃夢想で、魂魄妖夢のスペルカード。ゲームでは、いつも自分の周囲に漂わせている半霊を半人の姿に変化させ、 打撃攻撃の回数を倍にできるもの。ホムラは、半霊の代わりに霊力札を使っている。

覆面を被った幽霊:罪袋このすばver


さて、アンケートなのですが…結果として、構わん、やれが1番多かったので、この章の座談会の次に掲載というふうにします。


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第17話

1ヶ月も待たせるなんて…大変申し訳ありません。
今回の話は正直、難産でした。


内容は、ちょっと薄いですが暇つぶしになったら幸いです。


早朝、新しく住むことになった屋敷の敷地内で僕とカズマは木剣を持って向かい合っていた。

「ええい!」

 

カズマが声を上げながら木剣を僕に向かって振り下ろすが、それを体を軽く逸らして避ける。

 

「カズマ、また腕力で振るってるよ。武器の重さを利用して振るうっていうこともう忘れた?」

 

「忘れてねえけど、すぐに出来るか!」

 

僕の指摘にカズマは反論しつつも木剣で、攻撃を仕掛ける。

今度のは、意識してやったのだろうか先程より体が力んでいる様子は見られない。

 

それから暫くカズマの攻撃を右足が動かないように体を逸らして避けたり、木剣でいなしながら様子を見て、ダメなところがあれば指摘していった。

 

 

****

 

「はぁ…はぁ……疲れた……」

 

「お疲れ様、はい水」

 

「さ、さんきゅー……」

 

荒い息を吐きながら地面に座り込むカズマに、クリエイトウォーターで水を入れたコップを渡す。

 

僕は屋敷をもってから、早朝だけカズマに稽古をつけていた。理由としては、カズマの戦闘スタイルが関係している。

 

カズマの戦闘スタイルは真っ向勝負ではなく、搦手を使うというものだ。この戦闘スタイルは場合によっては格上相手でも倒すことは出来るため、頭の回転が早いカズマと相性がいい戦法だ。

 

だが、これだけで全ての相手を倒せるかと言われるとそれはハッキリNOと言える。そもそも、搦手を使う隙や考える隙がなかった場合はこの戦法は使えない。咄嗟に思いつく可能性もあるけれど、それが起こることは滅多にない。

 

それではどうするかと言うと、ある程度の実力も備えればいいという話だ。ある程度の実力もあれば時間も稼げたり、相手が警戒して攻めてこない時間を作れば考える時間ばできるし、あとから救援がくるっていう状況でも時間を稼げる手段が増える。それに、あってダメなものでもないからね。

 

こういう説明を、少しカズマの心に刺さるようにしたら、カズマは泣きそうな顔をしながらも渋々稽古を受けることを了承してくれた。そこまで、酷いこと言ったつもりないんだけどなぁ…

 

そして、朝の実践の稽古とは別にカズマにやって貰っているものはもう1つある。

それは…

 

「休憩終わり。次は魔力操作の時間だよ」

 

「…なんか、休憩時間が日に日に少なくなっていると思うのは気のせいか?」

 

「気のせい気のせい(スルー)ほら、早くやるよー」

 

これに関しても、理由はあるが端的に言ってしまえば手札を増やすためだ。

 

前にも言ったように、カズマの戦闘スタイルは搦手を使ったものだ。その中に、僕が使う波断撃が使えるようになったら色々とレパートリーが増えるのではないかと思ったからだ。

そしてこのような事を言ったのは、意外にもカズマだった。多分、本音はこういう剣から衝撃波を出すっていうのに憧れてるからかもしれないけど。

 

さて、この魔力操作の稽古ではやってることは単純で体の中に流れる霊力か魔力を感知すること。

 

これだけだと、どこが稽古なのか分からないけど、綿密な霊力又は魔力操作には霊力や魔力そのものの流れを感じ取らないと話にならない。

 

僕も最初はこの稽古からやったのだが、これが中々難しい。霊力や魔力は基本的に見えないため、想像してやろうとしても上手くイメージが固まらないし、人によってはそれで余計に焦ってしまいさらに感じ取ることが出来なくなるという悪循環に陥ってしまう。

 

結局、早く習得するには落ち着いて少しずつやっていくほかないということ。カズマに手っ取り早く習得する方法がないか聞かれた時に、ないって即答したら、やっぱ辞めようかなって言ってたけど。

 

****

 

「……ホムラってさ、天然ドSというかスパルタというか、お前もキャラ濃いんだな」

 

「その評価はあんまりだと思うから、抗議していい?」

 

「ダメです」(即答)

 

「…即答されるほど酷いのか…ん?あの二人は……」

 

僕がギルドに行く傍ら、気分転換ということでカズマと外を出歩きながら喋っていると、見覚えのある2人が道の往来でコソコソしながら、路地裏に佇む一軒の店の様子を伺っていた。

 

余りにも不審なので、僕らはその2人に声をかけた

 

「キース、ダスト。お前らこんな所で何やってんだ?」

 

「こんな所でコソコソしてたら不審な人だと思われて警察とかに声掛けられちゃうよ?」

 

「「うおっ!?」」

 

背後から声をかけたせいか、2人は驚きのあまり飛び跳ねた。今の2人は、いつもの装備とは違ってラフな格好をしている。

 

「な、なんだよカズマとホムラかよ…驚かすなよな…」

 

「よう。今日はあの3人は一緒じゃないのか?」

 

「うん、そうだけど…」

 

ダストは僕の返事を聞くと安心したように息をついた。うん、まあ散々な目にあったから警戒するのは当たり前だよね。

 

「話戻すけどさ、お前らこんな所で何してんの?」

 

「いや、まあ…あれだ。日頃綺麗どころに囲まれてる2人には縁のない事だよ。俺ら2人で寂しく…」

 

「キース、待て」

 

カズマの質問に答えかけたキースさんをダストが遮った。そして、僕とカズマに同情の視線を向けながら。

 

「こいつらはそんなんじゃない…一見、ハーレムに見えるがそんな甘いものじゃないんだ。こいつらは、俺たちの仲間なんだよ…」

 

としみじみと言った。

 

それを聞いてカズマは「ああ…」と納得したような声を出し、僕は色んな意味で耐えきれなくなってそっと目を逸らした。

 

「んんっ!まあ、お前らなら口外しないと信じてるから教えてやるよ」

 

ダストはそこで一旦言葉を切ると僕らにしか聞こえない小声で。

 

「サキュバスがいい夢を見させてくれる店に興味はあるか?」

 

 

「「その話詳しく」」

 

僕らはすぐに返事した。

 

 

****

 

 

ギルドの隅っこにて、僕とカズマはダスト達からその店の話を詳しく聞いた。

 

曰く、この街にはサキュバスが住んでおり彼女らは男性冒険者の性欲を解消する代わりに、クエストなどに影響がない程度に精気を摂るとのこと。

 

なるほど、男性冒険者としては性欲を解消できるしサキュバスは生きるための精気を貰える、互いにとって利益のある話だ。

 

そういえば、この街で性関係の事件が起きたという話は全く聞かない。どこの村でもそういった事件は嫌でも聞くのだが、サキュバスのサービスが事件発生の抑制にもなっていると考えれば、納得出来る。

 

そんな風に僕が考えているとカズマ達が意外そうな目で声をかけた。

 

「けど、ホムラがそういった話に興味があるなんてな…同じパーティとしてそれなりに過ごしてきたけど意外だ」

 

「ああ、それは俺も思ってたけどさ…やっぱりお前も男なんだってわかって安心したぜ!」

 

「いくら何でも、失礼だと思うんだけど?」

 

僕だって立派な男だ。性欲だってあるしそういうのに興味がない訳では無い。

 

「でもさ、全くそんな素振りとかしてないからさ。不能なんじゃないかと…」

 

「いくらカズマでも怒るよ?」

 

僕はため息を吐きながらも説明することにした。

 

「自分で、性欲とかを抑えたり無くせる霊j…じゃなくて魔法を開発したんだよ。僕の家族で男は僕しかいなかったから、そういうことをやれる環境じゃなかったからね」

 

今思えば、そういう質問を藍様達にしなくて良かったと心底思う。

…まあ、色んな人に不能疑惑かけられたことあったのも事実だけど。

 

 

「…苦労してたんだな、お前」

 

「…そう言ってくれたのは君たちが初めてだよ……」

 

色々と雰囲気が悲しくなってきたので、僕はこのあとの予定を思い返すことにした。

 

とりあえず、このあとカズマ達とその件のお店に行って…あれ?そういえば今日の夕食を作る担当って僕だったな…

これは、サボる訳にはいかないので今回はサキュバスのサービスは諦めよう。

 

「あー、ごめん。この後、僕用事あるから3人で行ってきて」

 

「ん?そうか…まあ、用事あるならしゃーねぇな」

 

「ごめんね、それじゃあね」

 

僕は自分の分の飲食代をテーブルに置いて、そそくさと商店街へと向かった。

 

*****

 

「カズマ、お帰りなさい!喜びなさいな、今日の晩御飯は凄いわよ!カニよ!さっきダクネスの実家の人から、これからそちらでダクネスがお世話になるのならって、引越し祝いに、超上物の霜降り赤ガニが送られてきたのよ!しかも、すんごい高級酒までついて!」

 

サキュバスのお店から屋敷に帰ると、アクアが満面の笑みで出迎えてくれた。

どうやら、この世界でもカニはどうやら高級品らしい。あれ?そしたら…

 

「ホムラは今日の晩御飯作ってねえってことか?」

 

「いえ、カニの調理はホムラがやってくれましたから作ってないことにはならないと思います」

 

俺とめぐみんがそんなことを話している間に、ダクネスが広間の食卓のテーブルに調理済みのカニを並べていく。

そこで、アクアがまだホムラが来てないことに気がついた。

 

「あら?ホムラは?」

 

「ああ、ホムラならシメ?というのを作るための下準備をしてたな。でも、もうすぐ来るだろうから座って待ってよう」

 

数分後、ホムラが戻ってきた所で俺らは夕飯を食べ始めた。

 

 

****

 

「…飲みすぎたかな……」

 

最後の〆であるカニ卵雑炊を食べ終わったあと、僕は自分に宛てがわれた部屋に戻っていたけど、普段は食べれないカニというのとアクアさんの【美味しい酒の飲み方】が余りにも良かったのでセーブしきれなかった。

 

そういえば…カズマは全然お酒を飲まず、カニ卵雑炊を一足先に食べたあとすぐ寝ちゃったけど、どうしたんだろう?

 

…ま、いいか。それより、着替えて寝なく…

 

「あ…お風呂入ってこないと……」

 

僕はお風呂に入ってなかったことを思い出し、ノロノロと洗面用具と洗面用具を準備してお風呂場へと向かった。

 

***

 

夜中、ダクネスはランプを片手にランタンの灯りが消えた脱衣場に入った。

目的はもちろん、お風呂に入るためだ。

そして、衣類を置くカゴの近くに寄ろうとした瞬間、もっていたランプの灯りが消えた。

 

「わあっ!?な、何だ一体、どうして灯りが…」

 

ダクネスは突然の事態に驚くも、幸い今夜は月が出ていてランプがなくても十分明るい。

 

「ん…今夜は本当に月が…」

 

「スー……スー……」

 

明るいなと、服を脱ぎタオルを片手に持ったダクネスはそう言い終える前に固まった。

何故なら、湯船の縁に腕を置いて湯船に浸かって寝ているホムラが居たからだ。

 

「!!?!?!!?」

 

ダクネスは悲鳴を上げそうになるも、口を片手で抑え込んで何とか声が出ないようにする。なお、もう片方の手はタオルで胸などが見えないように押さえている。

 

(な、なんでホムラが!?それに、入浴中の札もかけてなければランタンの灯りも付けてないとはどういうことだ!?)

 

ダクネスは内心パニックになりがらも、反射的に浴場から出ようとしたがここでふと我に返る。

 

──ここで私がホムラを放置してしまったら彼はどうなる?

 

もしかしたら、目が覚めた瞬間にのぼせて湯船から出れない可能性もあれば、のぼせてるせいで転んだりする可能性もある。ただ、1番ある可能性は風邪をひくことだ。湯船に浸かっているとはいえ、体の一部はそうではない。

 

そのため、仲間想いなダクネスは羞恥心抑え、ホムラに近づいて起こそうとして、彼の寝顔が視界に入った。

 

「スー…スー…」

 

(普段はしっかりしているし、戦闘も頼りがちだからつい忘れてしまうが、この寝顔を見ると年相応だな。それに、意外と寝顔は可愛らし…)

 

ダクネスはそこまで考えて頭をブンブンと振るう。

 

(しっかりしろ!私はエリス教徒のクルセイダーだ!断じて、普段とは違う一面のホムラに見とれていた訳では無い!!)

 

自分を律し、恐る恐るホムラに声をかける。

 

「ほ、ホムラ…起きてくれ…」

 

「スー……」

 

「…全然覚める気配がないな。ううっ、しょうがない、少し揺らしてみるか…ホムラ、起きてくれ…」

 

「ん…うん?…あれ…」

 

「起きたか…湯船で寝ないで、早く上がって布団に…」

 

肩を少し揺らすと、目が覚めたホムラが声を出す。それに安堵したダクネスは、ホムラに湯船から上がるように言おうとした瞬間…

 

「ら、んねえさ、ま?」

 

「え?」

 

「すみません…せなか、いまながしま、す…」

 

ホムラは寝ぼけ眼でそう言うと、近くに置いていた自分のタオルを腰に巻いてフラフラと湯船から出ると、石鹸を手に取ろうとした所で

 

「ホ、ホムラ!いいからあがるぞ!」

 

我帰ったダクネスが引き止め、ホムラの手を掴むとそのまま強引に脱衣所まで連れていく。

 

「着替えたら、早く自分の部屋に戻って寝るんだぞ?いいな!?」

 

「はぁい…おやすみな、さい…ねえさま…」

 

ダクネスが強い口調だったのもあってか、ホムラはやけにあっさりと言うことを聞き自分の服を入れたカゴを漁り始めた。

ダクネスはそれを見届けるとホムラが本格的に着替え始める前に、風呂場に戻り戸を閉めた。

 

 

*****

 

「おはよう…って、あれカズマどうしたの?」

 

「色々あったんだよ、色々」

 

ホムラは翌朝、何故か目が死んでいるカズマを見かけ尋ねるも軽くいなされてしまった。それを不思議がりながらも日課である墓の手入れをしていると、今度はダクネスがホムラに顔を少し赤くして話しかけた。

 

「な、なあホムラ。昨日、お風呂で何かあったか覚えているか?」

 

「………いや、それがよく覚えてないんだよね。気がついたらベッドの上だったわけだし…何か、まずいことしちゃった?」

 

「い、いや覚えてないならいいんだ」

 

ダクネスはそう言うと、腕を組んでホムラから視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

だから、気づけなかったのだろう。ホムラの耳が赤いことに。

 




解説コーナー

原作との違い:本来であれば、お風呂のイベントはカズマだったのだが…この展開が意味することは察しがいい人なら分かるかも?

キース:ダストのパーティメンバーの一人。職業はアーチャー。


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第18話

…すみません、大変お待たせ致しました。

この話が中々上手くまとまらず、息抜きで違う小説投稿してたら結果としてこのように遅れてしまうことになってしまいました…

待っていてくださった皆様に、改めて謝罪の言葉を。
大変、申し訳ございませんでした。


ある日の朝、カズマに稽古をつけようとした気だった。

 

『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!機動要塞デストロイヤーが、北西方面から現在この街に向かって接近中!冒険者各員は、装備を整えてギルドへ!街の皆さんは、直ちに避難して下さーい!!』

 

そんな警報が鳴り響き、とりあえず装備を整えるためにカズマと一緒に屋敷に戻ると、そこは既に阿鼻叫喚としていた。

 

「逃げるのよ!早く遠くへ逃げるの!!」

 

色んな物をひっくり返しながら、アクアさんが言った。

その隣では、荷造りを終えためぐみんが小さな鞄を一つだけ置き、達観した様子でお茶を飲んでいる。

その二人を見て、唖然としていたカズマを置いて、僕は装備を整えるために自室へ向かっていると

 

「ん、ホムラか。警報の通り、早く支度してきてくれ、私は先に行っている」

 

見たことも無い重装備に身を包んだダクネスが、僕を見るなりそう言ってきた。

 

「分かった。それじゃ、また後で」

 

僕はそれだけ言って、自室に入って装備を整えた。

 

 

****

 

「皆さんお集まりいただき、ありがとうございます!早速ですが概要を説明いたします!放送でも述べたように、機動要塞デストロイヤーが現在北西方面からこの街に接近中です!皆さんには、デストロイヤーの討伐を依頼します!全員参加でお願いします!レベル制限はありません!無理と判断した場合はには、街を捨て全員で逃げる事になります。皆さんがこの街の最後の砦です。どうか、よろしくお願いします!」

 

ギルドに入ると、中はざわめいており、その中でも声が通るようにギルドの職員の人が声を張り上げた。

その間にも、他の職員達が酒場になっている部分のテーブルをギルドの中央に寄せ集め、即席の会議室みたいな空間をつくりだす。

 

空気が予想以上に張りつめていることから、そのデストロイヤーというのはそれほどやばいものなのだろう。

その後、職員の人がそのデストロイヤーについて説明を始めた。

 

曰く、デストロイヤーは元々は対魔王軍の兵器として魔道技術大国ノイズで作られた超大型ゴーレムとのことで、外観は蜘蛛のような形状をしており魔法金属をふんだんに使われているためか、小さな城ぐらいの大きさにも関わらず、かなり軽量でその速度は馬を超える。そして、凄まじい速度で動いているため、蜘蛛のような八本足で踏まれれば大型のモンスターをあっさりとミンチにし、体は常に強力な魔力結界をはられている上、金属なので弓矢などは効かず攻城用の投石器は速度的に当てるのは不可能。さらには、対空用の小型バリスタを操作する自立型ゴーレムと戦闘用ゴーレムが胴体部分の上に配備されているとのこと。

なるほど、スペックは驚異的の一言に限る。

 

その後、色々とデストロイヤーの策を止めるために意見が飛び交っているがどれも前例があり、そして失敗したとのこと。

難航する会議に飽きたのか、僕らのそばに居たテイラーさんが

 

「なあ、ホムラとカズマは何かいい考えないのか?」

 

そんなことを言ってきた。

 

「うーん、魔法結界さえ何とか出来ればって話になるからなぁ…僕だと力不足だから破れないだろうし」

 

「…いや、ウィズの話じゃ、魔王の城に貼られている魔力結界ですら幹部二、三人が維持してる程度のものならアクアでも破れるって聞いた…なあ、アクア。デストロイヤーの結界もホムラの力を合わせれば破れるんじゃないか?」.

 

「うーん、そうねぇ…確約は出来ないけど可能性としてはないことはないわ」

 

アクアさんは、カズマの提案に少し悩みながらもそう返した。

 

「デストロイヤーの結界を破れるんですか!?」

 

「いや、確約はできないって話です」

 

アクアさんの発言に、ギルドの人が大声を上げて反応し、カズマはそれを慌てて訂正するように言った言葉にギルド内がざわついた。

 

「一応、やるだけやって貰えませんか?それが出来れば魔法による攻撃が…!いやでも、この駆け出しばかりのこの街の魔法使いではあの機動要塞相手では火力不足ですし…」

 

「めぐみんの爆裂魔法じゃダメなんですか?」

 

職員さんの悩みに僕が質問するように言うと、ギルド内が再びざわめき出した。

 

「そうか、爆裂魔の嬢ちゃんが…!」

 

「頭のおかしい紅魔族の子がいたな!」

 

「おい、その頭のおかしい紅魔族が私のことなら今ここでどれぐらい私の頭がおかしいかを証明することになる」

 

あんまりな呼び方にめぐみんが杖を持って立ち上がって目を赤く光らせると、冒険者の皆は一斉に目を逸らした。

しかし、勢いで立っためぐみんは周りからの期待の眼差しを受けて顔を赤くしてボソボソと自信なさげに言葉を発した。

 

「わ、我が爆裂魔法でも、流石に一撃では仕留め…きれないと、思われます…」

 

再びに椅子に座っためぐみんに加えてあと一人だけ、爆裂魔法の使い手が居れば──とギルド内がそんな空気になった時、入り口のドアが開けられた。

 

「すみません、遅くなりました…!ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格持っているので、私も手伝いに…」

 

「店主さんだ!」

 

「貧乏店主きた!これで勝つる!」

 

「勝ったな、トイレ行ってくる」

 

入ってきたのはウィズさんで、彼女を認識した冒険者たちは熱烈な歓声を上げた…1人、何か不安になるようなこと言ってた気もするけど。

しかし、何故冒険者の皆はウィズさんが来ただけで勝てると騒ぎ出したんだろう?

 

「なあ、なんでウィズってこんなに有名なんだ?人気ありそうだがどうなってんだ?てか、貧乏店主はやめてやれよ…そこまで儲かってないのか?」

 

「知らないのか?あの人は元々は高名な魔法使いでな。凄腕のアークウィザードとして名を馳せてたんだが、引退して暫く姿を現さなかったかと思うと、突然この街に現れて店を出したんだ。そんで、あの店が儲かってない理由は、駆け出しが多いこの街では高価なマジックアイテムを必要とする冒険者がいないのが原因だな」

 

同じく疑問に思ったカズマの質問にテイラーが答えてくれた内容に、そんなことがあったのかと1人納得している一方、デストロイヤーを倒す案がまとまり始め、左右の脚を爆裂魔法が使えるウィズとめぐみんがそれぞれ吹っ飛ばし、仮に失敗した場合はハンマーを持った前衛職の冒険者が脚を破壊。その後、本体に突入できるようにロープ付きの矢を持ったアーチャーがこれを使って中に入れるようにして、身軽な装備の冒険者は突入準備を整えるという形で作戦は纏まった。

 

 

 

 

****

 

街の前には、街の住民も集まって突貫作業で即席のバリケードが組み上げられており、デストロイヤーを迎え撃つ予定の平原では罠を設置をできるものたちが無駄とは知りつつも即席の罠をしかけていた。

 

「ねえ、ダクネスの固さは知ってるけど今回は流石に無理があるから後ろで待機して欲しいんだけど…」

 

僕は、街の正門前のバリケードのその更に前で立ちはだかるダクネスを説得していた。

しかし、どんなに説得を続けてもダクネスは先程からここから動かないと言って聞かず、新品の大剣を地面に刺し、柄に両手にかけて遠くにいるであろうまだ姿を見せないデストロイヤーの方を見ている。

 

「……ホムラ、私は聖騎士だ。そして、それ以外にも私にはこの街を守る理由がある。その理由は、いずれ話すかもしれない」

 

先程まで黙っていたダクネスが口を開き、僕がその言葉に頷くのを横目で見ると彼女は話を続けた。

 

「今はまだ言えないが、私にはこの地の住人を守る義務がある。この街の住人たちは気にしないだろうが、私は少なくともその義務があると思っている。…だから、何を言われようともここからは何があっても一歩も引かん」

 

そう言った彼女の目は見たことがないほど真剣で、何があっても揺るがない覚悟が秘められていた。

僕はこういう時の目をしている人は何をしても動かないことを身をもって知っているので、説得を諦めることにしため息を吐くと、ダクネスは少し困ったような不安気な顔で口を開いた。

 

「……こんなワガママで頑固なやつは嫌いか?」

 

「……いや、今のダクネスみたいに覚悟を決めた人のワガママなら嫌いじゃないよ」

 

僕の返事にダクネスは安心したような表情を見せた。

 

 

*****

 

「ごめん、カズマ。説得するのは無理だったよ」

 

「まあ、お前で無理なら俺でも同じだっただろうし気にすんな。めぐみん、という訳であの頭も固い変態を守るためにも成功させるぞ」

 

「そ、そそ、そうですか…!わ、わわ私が、絶対にやらなきゃ……!」

 

「お、落ち着け!最悪装備をスティールでひん剥いて連れてくるから!」

 

「…とりあえず、僕は向こう行ってるね」

 

あ、ホムラの野郎逃げやがったな!?

…めぐみんを落ち着かせつつここで今の状況を改めて確認しよう。

 

まず、俺達やアクア達の周りにはゴーレムに対し効果がありそうなハンマーなどの打撃武器を持った冒険者たちが集まっている。

そして、アーチャーの人達は先がフック状にし、矢の筈の部分に細くて頑丈なロープをつけた矢をつがえ、万が一の時には動きを止めたデストロイヤーに乗り込めるようにしている。

 

そんなことを考えている中、魔法で拡大されたギルド職員の声が広い平原に響き渡った。

 

「冒険者の皆さん!そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます!街の住人の皆さんは、直ちに街の外に遠く離れてください!冒険者の各員は戦闘準備を!!」

 

機動要塞デストロイヤー。

 

それは転生したどっかのチート持ちの日本人が適当に着けた名前らしい。正直、なんでそんな名前をつけたのか気になっていたののが、デストロイヤーの姿を見た今なら納得出来てしまった。

遠く離れた丘の向こうから、初めにその頭が見え始め、同時に軽い振動を感じた。

そう、かなり距離が離れているはずなのにほんのわずかだけ大地が震えているのだ。

 

「なんだ…あれ……」

 

そう呟いたのは誰だったか分からない。だが、その通りデカい。そして、めぐみんとの爆裂散歩であの色んな意味でイカれた魔法の威力を知っている上で言ってしまうが…本当に爆裂魔法で破壊できるのか?

 

「お、おい、これは無理じゃねえか?」

 

「もうだめだぁ…おしまいだぁ…」

 

誰かが慌てたように言葉を発し、また違う誰かが某野菜王子みたいな絶望したような声を出した。

 

「「クリエイト・ゴーレム!」」

 

街のクリエイターの皆が地面の土でゴーレムを作り出し、そのゴーレムたちは街を守るように仁王立ちするダクネスの背後へと整列した。

 

「でけえし速えし、予想以上に怖え!」

 

「全員頭を低くしろ!絶対にデストロイヤーの前に出るなよ!!」

 

パニックに陥りかけているものの声や檄を飛ばす者の声が辺りに響くが、正直誰もそれを気にする余裕なんてなかった。それほどまでに、目の前の機動要塞デストロイヤーの威圧感は圧倒的だ。

 

「ちょっと、ウィズ!大丈夫なんでしょうね!大丈夫なんでしょうね!?」

 

「大丈夫です、任せてください。私はこれでも最上位のアンデッドの1人ですから。魔力結界を破った後はお任せを!……失敗しちゃったら、皆で仲良く土に還りましょう」

 

「冗談じゃないわよ!ホムラさああん!!」

 

「あー、もう!パニックになるのは分かりますけど落ち着いてください!余力があれば僕もマスパ撃ちますから!」

 

騒ぐアクアを必死に宥めるホムラを見ながら、俺は隣でさらに緊張してガチガチとなっためぐみんに声をかける。

 

「お前も少しは落ち着け。失敗しても誰も責めやしねえし、責めさねえよ。失敗した時は街を捨てて全力で逃げればいいだけだ。変に考えすぎんな」

 

「だ、だだだ、だい、大丈夫です!わわわ、我が爆裂魔法でけ、けしゅ飛ばしてくれるわっ!」

 

…どうやら人は目の前に自分よりめちゃくちゃ緊張してる奴を見ると落ち着くらしい。お陰でちょっと落ちついた。

 

「来るぞー!戦闘準備ー!!」

 

テイラーの声が響き渡る中、俺は渡された指示を出すための拡声器のような魔道具を持ちながらタイミングを伺った。

…そう、今回の作戦の要であるホムラ、アクアやめぐみんのパーティーのリーダーだからと魔法のタイミングと現場の指揮は俺に一任されている。

 

ふと意識を前に向ければデストロイヤーはすぐそこまで接近していて、見あげんばかりの圧倒的な存在感に押しつぶされそうになる。

 

もし、現場指揮を任されていなければ、ダクネスが留まっていなければ、そしてめぐみんが隣で震えてなければ諦めて今にも逃げていたと思う。

 

だが、逃げる訳には行かない。

デストロイヤーが仕掛けられた罠を物ともせずに地面を踏みしだく轟音を響かせながら迎撃地点へと突き進んでくる。

 

「アクア!ホムラ!今だ、やれっ!!」

 

「ホムラ合わせなさいよ!」

 

「分かってます!」

 

「「セイクリッド・スペルブレイカーッ!!」」

 

俺の合図で2人が魔法を放つ。

ホムラの銃から出た光線をアクアが放った白い光の玉が螺旋を描くように包み込み、デストロイヤーに当たった。

 

「つきやぶれええええええ!」

 

撃ち出された2人の合体魔法がデストロイヤーに触れると同時に、一瞬だけ薄い膜のようなものが張られ抵抗したが、ホムラが更に魔力を流し込んだのか、さらに大きくなった光線によってガラスが割れるように粉々に弾け散る。

 

めぐみんが指示を仰ぐように、微かに震えながら不安そうな表情で俺の顔を見上げてくる。

恐らく、コイツもさっき砕け散った膜が魔力結界ということに気がついていたのだろう。

俺はまず拡声器を使って大声でウィズに指示を出すことにした。

 

「ウィズ、頼む!そっち側の脚を吹っ飛ばしてくれ!」

 

続いて、未だに近著で震えながら変わらず不安そうなめぐみんに顔を向ける。

 

「おいおい、お前の爆裂魔法への愛は本物なのか?いつも爆裂爆裂言ってる奴がウィズに負けならみっともないぞ?お前の爆裂魔法はアレも壊せないゴミ魔法か?」

 

「な、なにおうっ!?我が名をコケにするよりも、いちばん私に言ってはいけないことを口にしましたね!!」

 

なるべく小馬鹿にするように言ったのも相まって、めぐみんは先程までの緊張は馬鹿にされた怒りで吹っ飛んだのか、力強く詠唱を始めた。

 

そして──

 

「「エクスプロージョンッ!!」」

 

同じタイミングで放たれた2人の魔法は機動要塞の脚を全て吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

「く、悔しいです…流石はリッチー、私ではまだウィズの爆裂魔法に勝てないようです…」

 

脚を失ったデストロイヤーは轟音と共に平原のど真ん中を慣性の法則で街の方へ進んで行ったが、その巨体は最前線で立ち塞がるダクネスの目と鼻の先で動きをとめた。

そして、めぐみんは俺に支えられながら悔しそうに呻いている。

 

「も、もう一度…!もう一度チャンスが欲しいです!次こそ、私の爆裂魔法こそが1番だとの証明を…!」

 

「こ、こらやめろ!ズボンを掴むな!褒めてやろうとした矢先に騒ぐなよ、お前は!とりあえず安全な場所に連れて行ってやるからそこで休んでろ!」

 

めぐみんを近くの木陰まで引っ張って横たわらせて、改めてデストロイヤーを見やる。脚を失ったデストロイヤーはうんともすんとも言わずに沈黙を保っていた。

 

落ち着いて状況を把握できるようになってきた冒険者達からは感嘆の声が上がり始めた。

 

だが、この世界に来てから俺は何となく学んでいる。

大抵、こういう時に限って恒例の、やったか!?みたいなフラグになるような発言は慎み、油断せず決して驕らず様子を…!

 

 

「やったわ!期待外れもいいとこだったわね!さあ、帰ってお酒を飲みましょう!なんたって、一刻を滅ぼす原因になった賞金首よ、報酬は一体おいくらかしらね!!」

 

「アクアさん、それってフラグなのでは?」

 

「そうだぞ、このバカっ!そんなこと口走ったら…!」

 

「……?な、なんでしょうかこの地響きは……」

 

俺が迂闊なことを口にしたアクアを止めようとした途端、こちらに近寄ってきていたウィズが不安そうなデストロイヤーの巨体を見上げた。

大地が震えるようなこの揺れは、明らかにこのデストロイヤーから。

冒険者たちが不安げにその巨体をみあげる中、それは唐突に。

 

「この機械は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止しました。排熱、及び起動エネルギーの消費が出来なくなっています。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難してください。この機体は…」

 

デストロイヤーの内部から流れ出した機械的な音声が何度も同じよう内容を繰り返し、それを聞いた俺は思わず。

 

「ほら見た事か!!お前ってやつは、1つ役立つと、2つ足引っ張らないと死ぬ病気にでも掛かってんのか!?」

 

「待って!ねえ待って!私、今回まだ何もしてないから!!私、なんも悪くないわよ!!」

 

クソッタレがあああああっ!!




解説コーナー

テイラー:ダストのパーティーリーダー。職種はクルセイダー。

セイクリッド・スペルブレイカー:ホムラとアクアによるオリジナルの合体魔法。簡潔に言うと、原作でアクアが放った「セイクリッド・スペルブレイク」とホムラが決壊破り様に術式を弄ったマスパを同タイミングでなおかつ混じり合うように撃つというもの。


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