ゲゲゲの鬼太郎 火黒憑依伝 (ボートマン)
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第一話

誰か聞いてくれよ、実は目が覚めたら火黒になってたよ。

 

何を言っているんだと思う人もいるが、何度でも言う火黒になってたよ。

 

火黒って何だよと知らない人もいるかもしれないが、火黒とは結界師に登場する凄く強い妖怪だ。

 

そんな火黒に気がつけば俺はなってた。

 

「全くどういうことだ?」

 

声も元々の俺の声ではなく、火黒の格好いい声になってる。

 

近くの水溜まりを鏡代わりに覗くと、そこには顔や体に包帯を巻いたミイラ男で、頭の包帯からぼさぼさの髪が出ていて何処から見ても火黒だった。

 

「やっぱり火黒だよな・・・」

 

それから俺は火黒なら刀を出せることを思い出し、刀が出るかとりあえず試してみた。

 

すると右手から刀が出て、火黒の力は問題なく使えた。

 

ついでに試し切りで近くの木を斬ってみると、綺麗かつ軽く斬れて斬れ味は抜群だった。

 

「だったら・・・」

 

今度は妖力を込めて斬ってみると、目の前の木からかなり遠くの木まで斬れてしまった。

 

「やっべ!」

 

流石にやり過ぎたため俺は急いで移動することにした。

 

それから見知らぬ何処かの森をうろうろと歩いて行く内に光が見えた。

 

「あれは・・・街か」

 

森を抜けた先にはビルや飲食店などの建物が多く建てられ、夜だというのに未だに眩しかった。

 

「さてさて、どうしたものかね?」

 

今の自分の見た目であそこへ行っても怖がられるかもしれないため、騒ぎになることは今の自分にとって好ましくはない。

 

「ん?」

 

少し遠いがそこから大きな妖気を感じた。

 

「もしかして妖怪がいるのか?」

 

人間ならともかく妖怪なら今の自分でも怪しまれないだろうと考え、大きな妖気が感じる場所に行くことに決めた。

 

「美人の妖怪だったらいいが、一体どんな妖怪がいるのかね」

 

うっすらと笑みを浮かべ火黒となった俺は向かうのであった。

 

「あのドームか」

 

人間に見つからないために建物の屋上から屋上へ移動し、多くの人が集まっているドームの近くに到着した。

 

「感じる妖力は三つ・・・いや今一人が消えた?」

 

ドームの中の妖力を感知すると、強い妖力の持ち主が消えたのだ。

 

「あの中に入れば分かるか」

 

両手から刀を出すと、ドームの屋上に移動する。

 

「この辺りでいいか」

 

そう言うやいなや両手の刀で屋上の一部を斬った。

 

屋上を斬ったことで外の人間達は少し騒がしくなったが、気にせずドーム内に入る。

 

ドーム内では一つ目の巨大な妖怪と美人の妖怪が戦っていた。

 

他には可愛い人間の少女が戦いを見守っていた。

 

「貴様!一体何者だ!?」

 

一つ目の妖怪は突然現われた火黒に問いかけた。

 

「俺か。俺は火黒。名前以外はよく分からない妖怪さ」

 

笑いながら自己紹介すると、一つ目は口から空気の塊を飛ばしてきた。

 

「貴様が何者だろうと関係無い!貴様も霊界送りにしてやる!」

 

そう言って何度も空気の塊を飛ばしてきた。

 

「おいおい!聞いてきたのはそっちだろ」

 

自分から聞いてきて攻撃してくる一つ目に、火黒はやれやれと呆れていた。

 

「ええい!ちょろちょろと小賢しい!」

 

避け続ける火黒に一つ目は苛ついてるようだった。

 

「確かに逃げるのも飽きてきたな。ささっと終わらせるか」

 

素早く一つ目の背後に移動し、右手から刀を出す。

 

「おのれ!」

 

一つ目が振り向くと同時に刀を振る。

 

「何だ、この程度か」

 

首を斬り落とされた一つ目は霧散して消えてしまった。

 

眼下では美人の妖怪が此方を信じられないといった表情で見ている。

 

どう話しけるべきかと悩んでいると、先ほどの一つ目とは違う強力な妖気を感じた。

 

片目を茶髪で多い黄色と黒のちゃんちゃんこを羽織った少年がこちらを警戒しながら見ていた。

 

「ほう。ゲゲゲの鬼太郎か」

 

あの美人の妖怪も何処か見覚えがあったと思ったら猫娘に似ている。

 

そして、一つ目によって霊界に送られた人間達が戻ってきた。

 

流石にあの二人とは違い、自分だと騒ぎになる為ドームから出ることにした。

 

「まさか本物の鬼太郎に会うとは。あの猫娘は本当に美人だったなあ」

 

面白そうにしながら火黒は走るのであった。




火黒の喋り方が変かもしれませんがどうかご了承ください。


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第二話

あの一つ目の妖怪、見上げ入道(思い出した)の起こした騒ぎから数日が経った。

 

そんな中、現在火黒は重大な危機に直面していた。

 

「腹…減ったな…」

 

ここ数日は水だけでしのいでいたが、それも限界に近づいていた。

 

「何か盗むってのはなあ」

 

元が一般人のためか、盗むなどの犯罪行為をすることはしたくない。

 

「どうしようかねえ…ん?」

 

悩みながら歩いていると妙なものを見つけた。

 

「柱?どうも怪しいなあ?」

 

工事中の施設の真ん中に一から一二と書かれた石柱が立っており、誰が見ても明らかに不自然であった。

 

「この声……中に子供が入っているのか?」

 

微かに聞こえる助けを呼ぶ声が聞こえ、火黒はどうすべきか考える。

 

「今出しても、別の人間が狙われるしどうしよっかな~」

 

今子供を助け出しても、こんなことした奴はおそらくすぐに別の子供を石柱に入れるはずだ。

 

「こういうのは敵の目的が完遂した後に助け出すの一番かな」

 

そうと決まればやることは決まった。

 

「しばらくの間待つことにするか」

 

それから施設の近くで待つこと夜になり、眠りこけていた俺は濃密な妖気に目を覚ました。

 

「へえーまさか城を建てるとはね」

 

先程まであった施設の姿はなく、そこには城が建っていた。

 

「ま、とりあえず入ってみるか」

 

火黒は塀を飛び越えると突然風の刃が向かって来た。

 

「おっと」

 

風の刃を避けて見ると、風の刃を飛ばしてきた変わった口の妖怪がいた。

 

「てめえ何者だ!?」

 

「俺?俺は火黒。よろしく」

 

「火黒?聞いたことねえ名前だな。何しにきやがった?」

 

目の前の妖怪と話しながらも、火黒は一体どんな妖怪だったのか思い出す。

 

「(あ~かまいたちだっけ)ちょっとここの柱に用があるだけさ」

 

「何!となると敵か!」

 

敵とわかるとかまいたちは再び風の刃を飛ばしてきた。

 

「よっと、危ない危ない」

 

風の刃を避けると刀を一本出してかまいたちに一瞬で近づいて両断した。

 

「やっぱり火黒の力って凄いな…」

 

先程のように一瞬で接近できる行動力に、見上げ入道やかまいたちを簡単に斬ることができる力。

 

どれをとっても凄すぎるものである。

 

「さ~て、ちゃちゃっと行きますか」

 

石柱を探しに行こうとすると、後ろから何か飛んできて咄嗟に避けた。

 

「お~まだいたんだ」

 

そこには顔だけのでかい妖怪と着物を着て髪が蛇の女の妖怪に、先程斬ったかまいたちがいた。

 

しかし、復活したと思われるかまいたちは未だに両断されたままの状態だった。

 

「(あ、そっか!火黒の刀で斬られたら妖怪でも再生することは難しいんだっけ?)」

 

「何故同じ妖怪である貴様が我らの邪魔をする!」

 

顔だけの妖怪たんたん坊に聞かれ、火黒は意識を彼らに戻す。

 

「何故って?ただの気まぐれ」

 

火黒ならそう言いそうだなと思い、にっと笑いながら言うとたんたん坊達はその言葉に怒りをあらわにする。

 

「気まぐれ…だと!貴様の気まぐれで我らの悲願を邪魔されてたまるものか!!」

 

たんたん坊は口から何かを飛ばし、着物の女の妖怪二口女は髪の蛇で、かまいたちは両断された状態でもどうにか風の刃を飛ばして攻撃してきた。

 

「おっわ!ばっちいな~」

 

口から飛ばしてきた粘体と蛇と風の刃を避けると、両手から刀を出す。

 

「あまりちんたらしてると面倒なのが来るからさ。…ちょっと本気でいくよ」

 

そう言うやいなや三体の視界から消える。

 

「何処に消えた!?」

 

「ここだよ」

 

一瞬で背後に回った火黒は二本の刀でたんたん坊と二口女を斬る。

 

「さて、それじゃゆっくりと探させてもらうよ」

 

復活するとしても再生が困難な状態では敵ではない為、火黒は石柱を探すことにした。

 

「う~ん。とはいえどこから探すか…」

 

城を隈なく探すにしても時間が掛かるため、どう探そうかと考えて下を見るとピーンと閃いた。

 

「試してみようかっと!」

 

刀を一本出すと妖力を込めて地面に突き刺す。

 

すると地面が崩れ、下は空洞になっており中には十三本の石柱があった。

 

「おーおー。こうも簡単に見つかるとは幸先いいねえ~」

 

そして、開けた穴から降りて真ん中の一三と書かれた柱を根元から斬る。

 

すると中から一人の少女が出てきて落ちてきた。

 

咄嗟に刀を戻して落ちてきた少女を受け止める。

 

少女を受け止めたはいいものの、どうすべきか考えていると少女が気が付いたようだ。

 

「貴方、は…誰…?」

 

どう答えるべきか悩んでいると、火黒が開けた穴から誰かが降りてきた。

 

確認すると降りてきたのは鬼太郎だった。

 

また鬼太郎に会えたことに内心驚きながらも、どうにか平静を保つ。

 

「お~遅かったね」

 

「お前が…火黒だな?」

 

「そうだよ。初めましてかな、ゲゲゲの鬼太郎」

 

「その子を返してもらおう」

 

その子とは今抱きかかえている少女の事だろう。

 

「嫌だと…言ったら」

 

にっと笑いながら冗談を言うと、鬼太郎はすぐさま行動する。

 

「髪の毛針!」

 

鬼太郎お得意の髪の毛針が飛んできて、火黒は少女を傷つけないように避ける。

 

「くっ!リモコン下駄!」

 

今度は下駄を飛ばしてきて、避けようとしてもリモコン操作で追尾してくるので、少女を抱えていない手から刀を出して斬らないように峰で打ち返す。

 

「くそっ!霊毛ちゃんちゃんこ!」

 

打ち返された下駄を履きなおし、今度はちゃんちゃんこを腕に纏って殴りつけてきた。

 

拳を先程と同じように峰で受け止め、鬼太郎を弾き返す。

 

「うわっ!」

 

「ちゃんちゃんこを腕に纏わせて攻撃力と防御力を上げたのはいいけど、まだまだだね~」

 

刀に罅を入れたことは凄いが、折ることまではいかなかった。

 

「それとさ…君、何か勘違いしてない?」

 

「勘違い?」

 

「そっ。別に嫌だと言ったらって言っただけだよ」

 

返さないとは言っていない為、返す意思はあるということだ。

 

先程の戦いで気絶してしまった少女を鬼太郎に近づいて渡す。

 

「お前は…一体?」

 

火黒の行動に鬼太郎は困惑するばかりである。

 

「あ、それとさ!」

 

「…今度は何だ?」

 

我に返った鬼太郎は警戒しながらも聞く。

 

「その子が大切なのはわかるけどさ~。攻撃するにしてもその子を傷つけるよなことしちゃ駄目だと思うんだよね」

 

そう言って火黒は姿を消した。

 

残された鬼太郎は火黒の言葉に打ちのめされた。

 

髪の毛針やちゃんちゃんこでの攻撃は一歩間違えれば、少女を傷つけてしまいかねないものだったからだ。

 

鬼太郎は少女を助け、自分そんな言葉をかけた火黒という妖怪がわからなくなった。

 

 

 



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第三話

ゲゲゲの森と呼ばれる妖怪が暮らす森がある。

 

その中にあるツリーハウスで、家主の鬼太郎と父親の目玉おやじに仲間の猫娘と砂かけばばあと子泣き爺の五人の妖怪が座っていた。

 

五人が集まっている中、鬼太郎は火黒の事が未だに忘れられなかった。

 

「鬼太郎…?鬼太郎!」

 

猫娘の呼びかけられ、鬼太郎はハッとなる。

 

「何だい猫娘?」

 

「…やっぱり彼奴のことが気になるの?」

 

猫娘が言う彼奴とは十中八九火黒のことである。

 

「ああ。正直あいつが何を考えているのかわからないんだ」

 

最初は見上げ入道の時だが、あの時はお互い顔を見たぐらいだった。

 

次に会ったのはたんたん坊の妖怪城だ。

 

あの時は人間の少女犬山まなを助ける時に妖怪城赴いたが、そこでは何故か傷ついたたんたん坊と両断された二口女とかまいたちが立ちはだかった。

 

たんたん坊は当然邪魔してきたが、両断された状態の二口女とかまいたちは何故か体は再生せず、二体は邪魔をしようとしたが両断されていたためか思うように動けなかった。

 

鬼太郎はたんたん坊を何度も倒すが、その度にたんたん坊は復活していた。

 

しかし、突如たんたん坊は叫びだし、鬼太郎はたんたん坊を霊毛ちゃんちゃんこを腕に纏わせて殴ると、たんたん坊は復活せずに消滅したのだ。

 

鬼太郎は何故たんたん坊が復活しなくなったのか考えるが、今はまなを助けることを優先した。

 

そして、不自然に空いている穴を見つけ降りると、そこには体中に包帯を巻き、炎を彩った和服を着たミイラ男のような風貌の妖怪がまなを抱き抱えていた。

 

その妖怪火黒は鬼太郎も一度見たことあった。

 

だが、火黒が何故この場におり、まなを抱き抱えていたのかはわからなかった。

 

鬼太郎は火黒にまなを返すよう要求する。

 

「嫌だと…言ったら?」

 

しかし、火黒から帰ってきた返答はこれだった。

 

鬼太郎はまなを取り返すために即座に行動する。

 

髪の毛針、リモコン下駄、霊毛ちゃんちゃんこで火黒を攻撃するも、火黒は全ての攻撃を避けて受け止めたのだ。

 

しかもまなを抱えたままの状態で。

 

その上、火黒は本気で戦っていはいなかった。

 

そして、火黒は戦いをやめて鬼太郎にまなを渡して姿を消したのだ。

 

最後に自分の攻撃がまなを傷つけかねなかったことを言い残して。

 

「しかし、火黒という妖怪は儂も初めて聞くな」

 

鬼太郎の父親である目玉のおやじはお椀のお風呂に浸かりながら言う。

 

「親父殿でも知らんとは、火黒ちゅーう奴は一体何者じゃけんのお」

 

「しかし、鬼太郎でも太刀打ちできんとはのお」

 

ますます火黒という妖怪で頭を悩ませていると、猫娘のスマホに着信音が入る。

 

「まなから?何々……はぁ!?」

 

猫娘の素っ頓狂な声に鬼太郎たちの視線が集まる。

 

「どうしたんだい猫娘?」

 

猫娘は震える手でスマホの画面を鬼太郎たちに見せる。

 

「今…まながその火黒と一緒にいるって…!」

 

「「「「はぁ!!??」」」」

 

 

鬼太郎達が話している頃、火黒は人気のない公園のベンチに座っていた。

 

外はすでに夕暮れへと変わり、人通りは少なかった。

 

やることもなくベンチに座ってボーっとしていると、誰かが火黒に近づいてきた。

 

顔を向けるとそこには柱に閉じ込められていた少女だった。

 

「あの……この前は助けてもらってありがとうございました!」

 

まさかのお礼に火黒は呆然としていた。

 

その上、こんな見た目のためお礼を言われると思っていなかったのである。

 

「あーお嬢ちゃん?俺のこと怖くないのか?」

 

我に返った火黒からの言葉はこれしか出なかった。

 

「え?怖い…ですか?う~ん?」

 

火黒の質問に少女は首を傾げる。

 

「確かに最初はびっくりしました。けど落ちていた私を傷つかないように優しく受け止めてくれたことは覚えてるよ」

 

「それだけで怖くないと?」

 

「うん!そうだよ!」

 

笑顔で言う少女に火黒は思わず笑ってしまった。

 

「えっ!?何で笑うんですか?」

 

「いや~こんなにも珍しい人間は初めてでね。ごめんね笑ってしまって」

 

「へえ~そうなんですか?」

 

「まあ、人間は妖怪を大抵怖がって逃げちゃうからね」

 

「そうなんだ。あ!私、犬山まな!貴方は?」

 

「俺は火黒。よろしく嬢ちゃん」

 

「火黒か。…ねえ、黒にいって呼んでいい?」

 

「黒にい?あ~あ、まあ好きに呼べば」

 

「本当!ありがとう黒にい!」

 

それからしばらく話していると、火黒はこちらに近づいてくる妖気を感じた。

 

「まな!」

 

鬼太郎と猫娘の二人が焦った様子で走ってきた。

 

猫娘はまなを抱き寄せ、鬼太郎は二人を庇うように立つ。

 

「よ!また会ったね少年!」

 

火黒は軽く挨拶するが、鬼太郎は警戒したままで猫娘は火黒を睨んでいる。

 

「火黒。お前の目的は何だ?」

 

「目的?そんなものはないよ」

 

目的はないという答えに鬼太郎は困惑する。

 

「目的がないだと…?」

 

「そ。俺はしいて言えば自由に生きたいだけさ。好きな時に寝たり、誰かと話したり、強い奴と戦ったりとかな」

 

戦うという言葉に鬼太郎の視線が鋭くなる。

 

「それは…無闇に誰かを襲うということか?」

 

「そんなわけないだろ、戦うのは強い奴だけさ。弱い奴と戦ってもつまらないからな」

 

それから鬼太郎は少し考え始める。

 

「なら、僕がお前の相手をしてやる」

 

「それはどういう意味だい?」

 

「お前が強い奴と戦いたいと言うなら僕が相手をする」

 

鬼太郎は火黒が知らぬ間に誰かを襲わせないために、自分が標的になることで襲わせないようにするつもりだ。

 

「面白いこと言うね〜。…いいよ。君の考えに乗ってあげるよ」

 

とはいえ火黒自身には誰かを襲う気がないが、火黒ならこういうだろうと思っていった結果がこうなるとは思っていなかった。

 

しかし、今更襲う気はないと言っても信じてもらえるとは思えない。

 

そう考えた火黒はベンチから立ち上がる。

 

「それじゃその時は楽しみにさせてもらうよ。また会おうか少年に嬢ちゃんに美人さん」

 

そう言って火黒の姿は消える。

 

鬼太郎は火黒の妖気を探るが、周辺に妖気は感じず火黒は何処かに行ったのであった。

 

「まな、大丈夫だった?」

 

まなを抱き寄せていた猫娘が心配そうに尋ねる。

 

「え?別に何にもなかったし、黒にいと話しててとっても楽しかったよ!」

 

笑顔で答えるまなに、心配していた鬼太郎と猫娘は顔を合わせて溜息を吐くのであった。

 

 



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第四話

遅くなり申し訳ありません!
色々と立て込んでしまい書くのに時間がかかってしまいました。
これからもなるべく早く投稿出来るよう頑張ります!
というわけでどうぞ!


鬼太郎と会ってからそれなりの日にちが経った。

 

街の方は何か騒がしい時があったが、あまり興味が沸かなかったため無視した。

 

無視している間は山で刀を出して素振りをしたり、走り込んだりして鍛えていた。

 

地味かもしれないがこういうことを常日頃から行っていれば、多少だが力になる。

 

そうして鍛えて中、今日は久しぶりに山を下りて街に来た。

 

「ここはいつも通りで何も変わらないな」

 

人気のない所をふらふらと街を歩いていると、誰かが近づいてくることに気づいた。

 

隠れようと思ったが近づいてくるのは、最近自分に懐いた人間の少女のまなだった。

 

そんなまなは何かから逃げるように走っていた。

 

「よ!そんなに慌ててどうしたんだい?」

 

火黒が声をかけると、まなは安心したような表情になった。

 

「黒にい!」

 

何があったのかは分からないが、火黒はこの場に巨大な妖気が近づいていることだけはわかった。

 

「(これは・・・久々に歯ごたえのありそうな奴が来たか)」

 

だが、火黒はこの場では戦う気はなかった。

 

理由は当然まなだ。

 

本気で戦わなくても戦いの余波で傷つく可能性がある。

 

他に理由があるとすれば、ここは住宅街でもあることだ。

 

もしここで戦えば、周りの被害がどうなるか分からない上に騒ぎになる。

 

「まあ、とりあえず話はここを離れてからするか」

 

そう言い火黒はまなを抱える。

 

「え?黒にい?」

 

突然抱えられたまなは戸惑っているが、火黒は気にせず移動する。

 

とりあえず人気のない場所の方がいいため、飛び上がり辺りを見渡す。

 

「え?ええええーー!?」

 

突然飛び上がったことにまなは驚きを隠せず叫んでいた。

 

そして、誰もいない公園を見つけそこに移動することにした。

 

公園に着いた火黒はまなを下ろして、周辺を見渡して追ってきていないか確認する。

 

「これで少しは時間が稼げるだろってどうしたんだい嬢ちゃん?」

 

火黒が声をかけてもまなは未だに呆けたままだ。

 

「(まあ突然飛び上がったり移動したりしたから驚くのも仕方ないか)」

 

普通、人間は飛び上がったり何処かに一瞬で移動することなどない。

 

そのためまなの反応はおかしくなく、これが普通の反応だろう。

 

そして、まなは正気に戻ると火黒に近づく。

 

文句の一つでも言われても、自分に非があるため受け入れようとする。

 

「ねえ!今のって黒にいがやったの!?」

 

「あ、ああ。そうだけど」

 

「やっぱり!私こんなの初めてでドキドキしたよ!」

 

「えっと、怒らないのか?」

 

「え?何で怒る必要があるの?黒にいは私のためにやってくれたんだから怒る必要はないよ。だからね黒にい、ありがとう」

 

しかし、来たのは文句ではなく感謝の言葉だった。

 

感謝されたことに流石の火黒も驚いて何も言えなかった。

 

しかし、ここで時間を無駄にするわけにはいかないため、火黒はまなから事情を聞く。

 

まなによるとある古民家に社会科見学に行った翌日から何かに付きまとわれていたそうだ。

 

「ふむ。ねえ嬢ちゃん、その時何か変わったことあったかい?」

 

「変わったこと?えーっと確か掃除してない男子を注意した時にその男子が石碑にぶつかったんだけど」

 

石碑と言う言葉に火黒はそれが原因だと確信する。

 

おそらくその石碑に妖怪が封印されていたが、石碑が倒されたことで封印が解かれた。

 

そして、封印から目覚めた妖怪はその男子とまなを最初の標的にして襲ったのだろう。

 

「なるほどね。それじゃあこれからどうすべきかね」

 

事情を聞いた火黒はこれからどう行動すべきか悩む。

 

火黒としてはこの場でなら人間も近づいていないため、ここで戦うことに問題はない。

 

しかし、その妖怪はまなだけを狙う可能性もあり、戦っている最中にまなを攻撃するかもしれない。

 

誰かがまなを守ってくれるなら問題はないが、近くにいるのはカーブミラーからこっちを見ている妖怪だけだ。

 

ただ此方を見てるだけで、どうすべきか迷っている様子で敵ではないため放置する。

 

「どうしようかね~」

 

頭を悩ませていると、くだんの妖怪が火黒達の近く来ている中、こっちに急いで向かってくる妖気に気づいた。

 

「この妖気は・・・鬼太郎か?」

 

鬼太郎には妖怪アンテナがあるからあんな巨大な妖気が移動していたら気づくのも当然だろう。

 

とはいえ鬼太郎が到着するよりも、くだんの妖怪の方が先に到着するため間に合わない。

 

「仕方ない。しばらくは逃げ回るか」

 

「え?黒にい?」

 

火黒は再びまなを抱え、いつでも逃げやすいよう準備する。

 

そして、くだんの妖怪はついに姿を現した。

 

現われたのは巨大な骸骨で敵意を隠すことなく火黒達に向けてくる。

 

「う、嘘。が、骸骨?」

 

目の前に現われた骸骨の妖怪がしゃどくろは巨大な骨の手を振り上げ、火黒達を叩き潰そうと振り下ろす。

 

しかし、そこまでは速くないため火黒は難なく避ける。

 

「しっかり捕まってろよ嬢ちゃん」

 

「は、はい!」

 

火黒の言葉にまなはギュッと火黒にしがみつく。

 

そこからがしゃどくろは再び叩き潰そうとしたり殴りつけたりするが、その全てを火黒は悉く回避する。

 

「何だこの程度か」

 

ただの力任せに攻撃に火黒はつまんなさそうにすると、がしゃどくろの目の部分が赤く光り出す。

 

やばそうな気がして警戒していると、がしゃどくろは目から赤い光線を放ってきた。

 

光線は避けた先にあった街灯は命中すると、穴が空いて街灯が倒れてその先の地面に大きな穴が出来ていた。

 

「へえ~面白いことするな」

 

自分が知るがしゃどくろは目から光線を放つ何て聞いたことはない。

 

とはいえあの光線が当たれば、火黒といえどタダではすまない。

 

「ま、当たればの話だけどね」

 

がしゃどくろは光線を何度も放つが、火黒は問題なく光線を避ける。

 

「嬢ちゃん大丈夫かい?」

 

「う、うん。大丈夫だよ黒にい」

 

一応まなに大丈夫か聞いてみたが、大丈夫そうで火黒は安心する。

 

「しっかしまあ派手にやるなあ」

 

がしゃどくろの光線によって木は吹き飛ばされ地面に大きな穴が複数空いている。

 

そして、また光線を放とうとするがしゃどくろの頭に下駄が命中した。

 

見ると烏のブランコに座った鬼太郎がリモコン下駄を飛ばしたのだろう。

 

「まな!」

 

「あ!鬼太郎!猫姉さん」

 

がしゃどくろは下駄が頭に当たったことで怯んだようで、火黒は鬼太郎が着たのを見てまなを下ろす。

 

ブランコから降りた鬼太郎と猫娘は直ぐさままなの元に駆け寄る。

 

「火黒、お前がまなを守ってくれたのか?」

 

「まあ、成り行きでね」

 

「そうか。それでもまなを守ってくれてありがとう」

 

「そんな頭を下げることでもないよ。ただ俺はあいつと戦ってみたかったからな」

 

頭を下げる鬼太郎に火黒は気にせず、視線をがしゃどくろに向ける。

 

リモコン下駄をくらったがしゃどくろは何事もなかったように此方を見ている。

 

「さて、それじゃ嬢ちゃんの方は頼むよ?」

 

これまで我慢していたため、火黒は刀を一本出すと手始めにがしゃどくろの右腕に斬りかかる。

 

「おっ?」

 

しかし、火黒の刀は右腕を斬り落とすことが出来ず甲高い音が響く。

 

がしゃどくろから一端距離を取り、刀を見るが刃こぼれはしていない。

 

「ほお~ちょっと堅いな。なら」

 

もう一度右腕に斬りかかり、今度は少し妖気を込めてみる。

 

すると、がしゃどくろの右腕は先程とは違いたやすく斬り落とされる。

 

「ふむ。込める妖気の量によって斬れ味は変わるか」

 

妖気を込めたままの刀を見ながら考える中、右腕を斬り落とされたがしゃどくろは火黒に光線を放つ。

 

「よっと」

 

光線に気づいた火黒はヒョイッと光線を避けると刀を構える。

 

「一体何する気なのあいつ?」

 

鬼太郎達が火黒とがしゃどくろの戦いを見守る中、猫娘は火黒の行動に不安そうに見る。

 

がしゃどくろが光線を放とうとする時、火黒は刀に更に妖気を込める。

 

「そらあ!」

 

そして、光線が放たれると火黒はその光線を斬り裂いた。

 

「ええ!」

 

「そんな!」

 

「嘘でしょ!」

 

「何と!」

 

光線を斬り裂いた火黒に鬼太郎達は驚きの声を上げる。

 

「これでしまいにするか」

 

そのまま火黒はがしゃどくろに接近すると、刀を振り下ろして頭を両断する。

 

頭を両断されたがしゃどくろは粉々になって地面に落ちる。

 

その後、がしゃどくろの魂が出るも消滅した。

 

「ま、今回はそれなりに楽しめたかな」

 

鬼太郎達の所に行くと、皆未だに驚いているのか呆けた表情をしていた。

 

「黒にいさっきの凄すぎるよ!」

 

そんな中いち早く正気に戻ったまなが火黒を褒める。

 

「ん?そうかい?」

 

「そうだよ!あんな光線斬るなんてびっくりしたよ」

 

「そう言われると悪くないねえ」

 

褒められたことに火黒は少し照れくさそうにする。

 

「さて、俺はそろそろお暇させて貰うよ」

 

「え?もう行っちゃうの?」

 

寂しそうにするまなに火黒は頭に手を乗せる。

 

「また会えるからそんな顔しなさんなよ」

 

「うん、わかった!それじゃ約束だよ!」

 

「ああ、約束するよ」

 

頭から手を離し、鬼太郎に向き直る。

 

「次に会う時は強くなってるのを楽しみしてるよ、少年」

 

そう言うと火黒は何処かに消えるのであった。

 

鬼太郎は今回の戦いで火黒の実力の一端を知ったが、それは鬼太郎の予想の更に上をいっていた。

 

「火黒。僕は・・・絶対にお前に勝つ」

 

それでも鬼太郎の闘志は消えることなく、更に燃え上がったのであった。




というわけでどうでしょうか?
今回の話では鏡じじいの出番を完全に奪う形になってしまいした。


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