東方天獄譚 (みょんたー)
しおりを挟む

一章 博麗神社の大宴会
一話 当たり前の非日常


「やべぇ!寝過ごした!!行くぞ!!」

そんなことを言って、俺は走り出した。相棒と共に。

「待ってくださいよ!主様!!」

そんなことを言って、相棒は駆け寄ってくる。

「そんなこと言ってる暇なんてねぇだろ!!」

そうだよ。今日は

「今日は、みんなで宴会ですものね」

あぁ、そうだよ。

「だから、急ぐぞ。」

「分かりましたよ。主様」

そう言って、少女は可憐に笑う。

その姿に少し、見蕩れてしまった。

彼女は、俺のことを心配そうに見て

「どうしたのですか?」

と聞いてくる。

そんな大切な相棒に俺は微笑んで言う。

「大丈夫だ。行こう」

そう言って、俺は相棒の水覇と共に家を出た。

何故、こんなに急いでいるのかと言うと今日は博麗神社で宴会だからである。

…そんな日に、寝坊しました。

今、俺と相棒の水覇は共に森を走り抜けている。

水覇の目線が心に刺さる…。

…はい。言いたいことは分かっております。だから、そんな眼で俺を見ないでくれ。相棒よ。

「ホント…主様が寝坊したからこうなってるんですからね?」

はい、おっしゃる通りでございます。

「すまんって…」

水覇は呆れた顔で言う。

「それなのに、私も走らせるんですか?」

あれ?おかしいぞ??

「なぁ。お前って付喪神だよな?最近、ずっと人型だから忘れてたけどさ。刀になれば走らなくていいんじゃ…」

水覇は顔を真っ赤にして言った。

「う、うるさいですよ!!」

怒られた…。解せぬ。

そんな事を話しながら、森を走り抜けていると前にチルノが現れた。

「ここを通りたければ、あたいを倒していきn…」

取り敢えず、問答無用で弾幕を撃ち込む。

おっと、相棒からはまた冷たい目線を向けられていますね。水覇さんや、そんな眼で見ないで?

流石に放っておくのはどうかと思うので、抱えて走り出す。そうすると、チルノの何時もの仲間が現れた。大妖精、ミスティア、リグル、ルーミア。そして、最近幻想入りしたモミジだ。

大妖精が心配したように言ってくる。

「チルノちゃん、大丈夫?」

モミジ達も心配しているようなので事情を説明する。

***青年説明中***

「…てことで、取り敢えずぶっ飛ばした。」

モミジが言う。

「そ、それはどうなんですか…?」

知らんな。急いでる奴に絡むから悪い。

そんなことを考えていると水覇から思わぬ追撃が来た。

「主様、それをしてるから紫さん達から問題児扱いされるんですよ。霊夢さんでさえ、ちゃんと相手してるんですからね?」

「は!?あの、霊夢が!?」

思わず驚いてしまった。

って、そんな事やってる場合じゃねぇ!!急がねぇと!!

取り敢えず、チルノを大妖精達に任せて先を急ぐ。負傷させておいてそれはどうなんだって?さっきも言ったろ?向かって来たあいつが悪いと!

水覇は呆れながらもついてくる。

最近、イタズラでもなんでもバレる為、新たな能力に目覚めたのかと思ったがそうではなく勘らしい。いやはや、女の勘って怖いね。だって、何してもバレて叱られるんだもん。

おっと、もうすぐ森を抜けて人里だな。

どうせ、また碌でもない奴が居るんだろ。

俺はそんな事を考えて苦笑したのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話 プラムとヒロ

「さてと、人里はやっぱ賑やかだよな。」

「主様、そう言えばどうして人里に?」

「ん?あぁ、手土産に酒くらい持っていこうと思ってな」

そんなことを相棒と話しながら歩いていると近くの路地が騒がしいなと感じた。

少し、見てみるか。どうせ、大したことは起こってないだろうし。

「プラム様はいつも勝手にどっか行って!こっちの身にもなってくださいよ」

「別にいいでしょー?好きなようにさせてよ」

「それがダメなんですって…」

そこにはプラムとヒロがいた。主従関係らしいが、ここには元からいたのかどうかは不明だ。二人して、話そうとしない。

取り敢えず、騒がしいので注意する。

「お前ら何やってんだよ。プラムもヒロのこと少しは考えてやれよ」

「は?こっちの勝手でしょ?」

「そーだぞ」

ヒロ、お前がなぜプラムに追従するのだ…

「路地から、他の場所まで聞こえるくらいうるせぇんだよ。と言うか、お前ら毎度人里にいるが…なんだ?ゲームの雑魚キャラみたいに湧いてんのか?」

水覇が呆れて言ってくる。

「主様、それは注意じゃなくて挑発ですよ?」

二人の様子を見ると完全にキレている。

「「絶対ぶっ潰してやる!!」」

あ、やべ…。よし、逃げるか。

水覇を連れて走る。

しかし、二人は走って逃げてもしつこく付いてくる。

面倒だなぁ。

相棒からはやはり、呆れた眼を向けられる。

「さてと、人里からは離れたしやるのか?」

「舐めてんじゃないわよ!!!」

その掛け声を合図にプラムが弾幕を展開する。プラムは能力で自らへの影響の無効化ができ、魔力が高い。実に厄介である。

「普通の弾幕なら、負けやしねぇよ!!」

弾幕を斬る。斬った瞬間、弾幕が爆発した。

一瞬、反応が遅れてしまう。

「ゲホゲホ…危ねぇ。お前なにした!?」

「弾幕に爆発魔法を仕込んだのよ」

こいつ、技能だけは高いよな…。中身残念系のくせして。

「こっちも忘れてもらっては困るぞ!!」

そう言って、ヒロがナイフで切りかかってくる。

頭が重い…こいつ、能力使ってやがるな。ヒロの能力は思考に干渉出来るため、実に厄介だ。恐らく、戦闘が始まった時から使っていたのだろう。一瞬、反応が遅れて切られてしまう。

「これで終わりね。」

そう言って、弾幕を放ってくる

「やべぇ!!水覇!!」

「分かりましたよ。主様!」

付喪神としての水覇が現れ、弾幕を対処する。

「さてと、これから第二ラウンドとぉわぁ…!??」

そう言って踏み込んだ瞬間、落とし穴に嵌りました。はい。

「ざまぁwwww」

「やっぱ、雑魚キャラとか言う奴の方が雑魚だな」

と言って、二人は立ち去っていく。

あいつら……。してやられた訳だが、煽られたためイラつく。

深く掘ってある辺り、性格の悪さが伺える。え?自業自得だって?知らんな。

「さてと、これからどうするかな…」

相棒なら、何か策が…!!

「ここ、人通り少ないですからね…」

特に策なんて無かった。

さてと、どうするかなぁ…。

そんなことを考え、俺たちは人が来るのを待つのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三話 二人の来訪者

さてと…どうしようかな。

プラムとヒロによって、落とし穴に落とされてしまった…。

非常にまずい…。

ちなみにここは人里から離れており、しかも人通りなんて全くない。

つまり、救援が来る確率が非常に低い!

「主様、いったいどうするつもりですか?」

相棒の水覇から、冷めた目で見つめられながら俺は対策を考えている。

「今、考えているから待ってくれよ!」

取り敢えず、これで水覇から冷めた目で見られることは無いだろう。

よし、取り敢えず俺と水覇の能力でどうにかなるか考えてみよう。

俺はなんでもズラす程度の能力を持っている。

撃ち出された弾幕の弾道をズラして避けたり、敵の感覚をズラして暴走させる。まぁ、敵の位置をズラすことも出来るから便利な能力である。

今回は使い物にならないけどね。

そして、相棒の水覇。彼女は刀の付喪神だ。

能力は水を操る程度の能力と氷を操る程度の能力。これは刀の時にも適応される。使用例としては、冷気を発して相手を凍てつかせたり、氷の壁を出したり、空気中の水分を集めて水を出したり…

そうだ!水でこの穴を一杯にすれば…

あ…俺、泳げんわ。

万事休すか…。

諦めて誰か来るのを待とうと思ったその時、すぐ近くで魔力を感知した。数は2。今まで感じたことの無い魔力だ。水覇もこの魔力に気付いた様だ。

頼もしい相棒だ。

二人で警戒していると自体は急展開した。

なんと上から一人落ちてきたのだ。

「うぉぉ!?」

そんな声をあげながら上から一人、青年が落ちてきた。

上から残りのもう一人の声がする。

「……なにやってんだよ。霊夜」

落ちてきた青年は霊夜と言うらしい。

また厄介事に巻き込まれそうだなぁ…

「痛てて…」

霊夜と呼ばれた青年が蹲る。

そりゃあ、4mの縦穴に頭からダイブしたんだ。本当なら痛いで済む話ではない。落下した時に水覇を刀に戻しておいて良かった。しかし…こいつ、何者なんだ…?頭から落ちてきて無傷とか只者じゃねぇぞ…。

と、言うことで取り敢えず話し掛けてみる。

「お前、何者だ?」

俺が声を掛けると青年は反応した。

「痛て…あ、第一村人発見だな。俺は博麗霊夜。よろしくな」

なんだよ。第一村人って。

…待てよ。博麗…?俺の知る限り、霊夢にこんな親戚は居なかったはずだが…。やはり、もう少し情報がいるな。

「俺は月城零。まぁ、そこらの剣士とでも思っといてくれればいい。それよりも博麗ってどういうことだ?」

霊夜は頷き

「それについては…まぁ、後でな。それより…。おーい!蝕!!引き上げてくれー!!」

上から声が聞こえる。声の質的に、俺と同じくらいの男だろう。

「…分かってる。そっちの奴も引き上げればいいのか?」

お、これは助かるパターンですね。

霊夜に頼むと了承してくれた。

「こいつも頼むよ」

「…分かった」

(青年引き上げ中)

いやぁ、一時はどうなるかと思ったね。

「ありがとな。えーっと…」

「…死波 蝕だ。」

「ありがとな。蝕、それに霊夜。」

お礼を言うと、霊夜は笑って

「いいよ。ついでだよ。ついで」

「…引き上げたのは俺だがな」

話してみた感じは悪い奴らでは無いようだな。さてと…

「本題だ。…お前達はなんだ?」

場の雰囲気が張り詰める。

そのまま、少し経ってから口を開いたのは霊夜だった。

「俺は、俺たちは、こことは違う世界からここに来た。警戒するなと言うのは無理だろうが…信じてくれ。」

俺は、少し思案を巡らせた。

…別世界からの訪問者。その者がもたらす可能性。少なくとも、幻想郷に…。俺の居場所に危険は持ち込めない…。

そんなことを考えながら、口を開いた。

「…取り敢えず、霊夢と話す為に博麗神社に向かうぞ。拒否権は無いからな?」

二人は了承した。

だが、霊夜は少し違っていた。

蝕が霊夜に話しかける。

「…霊夜?大丈夫か…?」

「霊夢が…。生きて…る?」

彼は一筋の涙を流していた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話 カオスと管理人

霊夜は涙を流していた。

「あ…あれ…?」

蝕が心配そうに聞く

「…霊夜?」

霊夜はハッとしたように涙を拭き取ると苦笑いをして

「すまない。少し…な」

と呟いた。

…ふむ。あいつの世界では何かあったようだな。あまり、詮索はしないようにしよう。

「それじゃあ、行くぞ」

そう言って、俺たち三人は人里に向かった。

人里は先程来た時と変わらず賑わっている。

取り敢えず、酒を買わないとな。

酒屋に向かうと行商人と出会った。

「零ー、いい野菜あるんだけどどうかな?」

この行商人、実は亡霊だったりする。名前は無いらしい。人の姿に化けて商売をしているが、ここの野菜はどれも美味いのだ。

「今なら、何がいい?」

そう、俺が聞くと亡霊は頷いて

「今の時期は大根とかだね。煮付けにしても良し。おろしにしても良しだよ」

「ふむ…大根か。まぁ、買ってくよ」

どうせだから、霊夢にでもやろう。もしかしたら、妖夢が何か作ってくれるかもしれないし。最悪、家で食べよう。

「毎度あり」

さてと、酒屋に行こうか。

こうして、俺たちは酒屋に向かった。

そんな時、三人の腹がぐぅーとなった。

酒屋の隣は、飯屋になっている。

もう昼だし、食べて行こうか。

俺たちは飯屋に入ろうとしたその時

「主様ー」

相棒の水覇がむぅ…とした顔で話しかけてきた。

ずっと刀の状態だったので構って欲しいらしい。

「お前、飯食わんだろ?」

そう言うと、水覇はムッとして

「一緒に居るくらい良いじゃないですか!」

と言ってきた。

チラッと霊夜と蝕を見る。

構わんと言った表情だが、それよりも水覇に驚いているようだ。

そう言えば、まだ水覇のことを話してなかったな。

「こいつは水覇。刀の付喪神だよ」

「水覇と言います。よろしくお願いしますね」

そう、水覇が言うと二人は納得したように頷いた。

「そう言えば蝕。お前の剣も喋らなかったか?」

ふむ…興味深いね。

「ハガルか?まぁ、喋るぞ。あんまり、喋らないがな」

「まぁ、取り敢えず入ろうか」

俺がそう言って、四人で店の中に入った。

店の中は美味そうな匂いが漂っている。

店員もやはり、昼時ということもあって忙しそうだ。

俺たちは空いた席に座り、適当に注文を済ませて蝕と霊夜に問いかけた。

「それで?お前達について教えて貰おうか?」

二人が口を開こうとしたその時、邪魔が入った。

「あ、零だ!ほら、あかさ!零が居たぞ!!」

「見つけても話は終わらないよ?」

……面倒な奴に見つかったな。

今、俺に話しかけてきたのは影月レン。まぁ、俺の悪友みたいなもんだ。それはいい。問題はもう片方だ。今、レンに話した奴はあかさと言って自称幻想郷の管理人だ。自称ではあるものの、紫の手伝いをしている辺り管理人見習い。助手と言ったところか。

レンが騒ぐ。

「おいおい!俺への説教よりもこいつだろ!?」

「両方だよ。零、また結界にイタズラしたな?レンが吐いたぞ。」

はぁ!?

「おい、待てよ。レンだぞ??嘘に決まってんだろ!!」

そんな時、相棒からの唐突な裏切りがあった。

「主様、昨日も結界にイタズラしましたよね。よく飽きませんね」

おい!!待て待て!!非常にまずい!!!ど、どうにか話を逸らさなければ…

「取り敢えず、お前らも座れよ。な?」

はい。内心、冷や汗が出ております。それはもう、滝のようにね。

二人はそれに従って座る。

そこであかさが蝕と霊夜に気付く。

「零、この人達は?」

「こいつらは、さっき知り合ったんだよ」

二人がそれぞれ自己紹介をする。

「俺は博麗霊夜。よろしく」

「…死波蝕だ。よろしく頼む」

レンが空気を読まずに質問する。

「なぁ、博麗ってどういうことだ?霊夢にこんな親戚がいるとか聞いてないぞ。」

ちょっと待とうか。レン君??

レンを掴み、少し離れた壁際に行く。

レンが驚いているが知ったことか。

「おい!?取り敢えず、話せよ」

「はぁ?裏切っておいてそれか??」

何故こんなにキレているかと言うと、あかさの説教は四季映姫。あの地獄の閻魔並に長いのだ。つまり、面倒なのだ。

「こういうのは連帯責任だろ?」

このやろう…店の中じゃなければ問答無用で叩きつけてやるところだ。え?自業自得だろって?知らんな。

「お前なぁ…。まぁ、いい。あの二人は訳ありなんだよ。少し、話を合わせろ。あかさがまた面倒になるだろうが」

レンに説明すると、納得したようだ。

席に戻る。

あかさが訝しげにしているがスルーしよう。

重い空気が立ち込める。

そんな時、光が差し込んだ!

「お待ちどうさま。当店人気のあんかけ焼きそば定食です。」

よし、取り敢えずこれを食べよう。

蝕と霊夜は食べ始めている。

…割と量が多いな。

「お前ら二人はもう食べたのか?」

あかさが頷き、レンが首を横に振る。

丁度いい。レンと分けよう。

そうして、俺たちは腹ごしらえを済ませたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話 博麗神社に向かって

「ふぅ…食った食った!」

レンが満足そうに言う。

蝕と霊夜も満足そうでなにより。

水覇はずっと俺が食べてるのを見ているだけだったが、それで満足なのだろうか?まぁ、本人がそれで良いと言うならそこまで気にする必要も無いか。

会計を済ませて、店を後にした俺たちは隣の酒屋に入った。

ここの酒屋、たまに地底の鬼も寄るくらいのいい酒をリーズナブルな値段で買うことが出来る名店なのだ。昼過ぎということもあってまだ人は少ない。そんな、店の中で一人の少女のような見た目をした青年を見つけた。

名を奈白と言う。

取り敢えず、声をかけてみる。

「奈白。お前、こんな所で何してるんだ?」

声をかけるとさすがに向こうも気付いたようで

「あ、零とレン。それにあかさも!どうしたの?それに後ろの人は?」

おそらく、蝕と霊夜のことだろう。

「こいつらは、さっき知り合ってな。」

奈白にそう説明すると納得したように

「ふーん」

と呟いた。

「さてと…。奈白はどうしてここに?」

そう聞くと奈白は得意気に説明してくれた。

「今日、博麗神社で宴会でしょ?だから、少しお酒を持って行こうと思ったの」

考えが一緒だなぁ…。まぁ、いい。

「俺もそうなんだよ。」

奈白にそう言った後、店員に酒を頼む。

酒は瓶に入っており、直ぐに手渡された。

奈白はもう買ったらしく、俺も代金を払って店を出る。

そう言えば酒を注文した時、飽きたのかあいつらは既に店の外に出ていたが何をしてるんだろう。

少し、周囲を見渡すと全員を見つけることが出来た。

あかさがレンをまた説教している。

それを霊夜と蝕が見ている構図だ。

あかさもよく飽きないよな。

そんなことを思っているとレンに見つかった。

「零!!助けてくれよ!!!」

え、嫌ですけど。

まぁ、今回は止めるけどさ。

ここから神社には少し時間がかかる。少し急げば開始前に間に合うだろう。だが、あかさの説教の平均時間を考えるにこのままじゃ霊夢に叱られる。

と、言うことであかさを何とか説得しみんなで博麗神社に向かった。

神社までの道は平和そのものですんなりと神社に着くことが出来た。

神社の鳥居をくぐったところで水覇が俺に尋ねる。

「主様。なぜ、こんなに早く来たのですか?開始してから来ればよかったのではないでしょうか?」

鋭いな。もちろん、理由がある。

「ん?あぁ、それは…」

「あ、零。よく来たわね。」

そこまで言ったところで前方から声をかけられた。

この声はよく耳にする霊夢のものだ。

「よぉ、霊夢」

レンが霊夢に声をかける。

霊夢はそれに

「あんたも来てたのね。丁度いいわ。知らない顔もあるけど、手伝ってもらうわよ。宴会の準備をね。」

あかさやレン、奈白達が驚く中、霊夢は淡々と準備を進め

「ほら、あんた達もやるのよ。」

と言う。

霊夢に押されて、俺達は宴会の準備を進めたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話 なんちゃって悪魔と旅人

準備もあと少しで終わるという時に、レンが口を開いた。

「なぁ、なんで俺たち手伝ってるんだ?」

それに霊夢が答える。

「それは零に聞いてちょうだい」

おい、俺かよ。

みんなの視線が俺に集まってくる。

やれやれ…話しますか。

そして、俺は事情を説明しだした。

それは1週間前の出来事だ。

俺はいつも通りに過ごしていた。

そう、あの日も結界にイタズラをしようと思い博麗大結界に向かっていた。そんな時だ。

「零?何をしてるのかしら?」

凄まじい笑顔の紫に見つかったのだ。

俺はもちろん、誤魔化そうとした。無理だったけど。

紫にその日はずっと説教されたなぁ…。

そして、帰り際に紫はこう言ったんだ。

「あ、そうそう。今度、博麗神社で宴会をするの。お仕置きも兼ねて、霊夢を手伝いなさい。」

「こうして、俺は手伝う羽目になったんだよ」

おっと、霊夜達がドン引きしてますね。

水覇さんや、そんな、うわぁ…って顔しないで?

レンよ、お前は俺と同類だろう?なぜ、あかさと同じ表情をする??

「零、あんたなんでそんなに誇らしげに説明出来るのよ…」

はい、霊夢からも呆れられました。

「いや…」

いや、待ってくれ。そんなつもりは全くない。

そう言おうとした時、上空から何かが落下してきた。

あの高さから落下は妖怪でも即死だろう。

そう思った時には奈白とあかさが上空へ飛び出していた。

奈白とあかさの能力なら、落下を防ぐことくらい簡単だろう。

奈白とあかさの能力について説明しようか。

奈白は限界を突破する程度の能力を持っている。この能力は単純に身体能力や魔力を上昇させることが出来る。過度な突破は身を壊す諸刃の剣であるが、今、落下してきた奴を一人受け止めている。そのくらいの上昇は大丈夫なのだろう。

あかさは見たことのあるものを再現する程度の能力があり、今も小規模な隙間を作りだして奈白が受け止められなかった一人を地面にワープさせている。この能力は、再現度こそ60%に届くかどうかだが使い勝手はいい能力だ。紫の隙間空間がいい例である。もっとも、遠い距離は移動出来ないようだが…

奈白とあかさが戻ってくる。

「ふぅ…危なかったよ」

奈白が呟くが、それどころでは無い。

奈白の抱えているそいつも、あかさが地面にワープさせた奴もどちらも知り合いだからだ。

「なぁ、カイにジェノサイド。お前ら、なにやってんの??」

カイは我関せずを貫き、ジェノサイドはビクッとした。

そこにあかさが畳み掛ける。

「もちろん、説明くらいしてくれるよね?」

うわぁ…。笑顔で言われると余計に怖いよね。

「いやぁ…実は…」

ジェノサイドが口を開き、それをカイが引き継ぐ。

「……実はな」

カイからの説明を纏めるとこうだ。

幻想郷中を旅しているカイは今日、博麗神社での宴会のためにここに戻って来たらしい。そして、その途中でジェノサイドと会い、今まで互いを高めるために戦っていたらしい。戦闘は白熱し、上空戦に移行。そして、互いに切り札を撃ち合い力尽きて落下してきたらしい。なぜ、神社の上空に居たのかを聞くと戦いながらも神社へ移動していたらしい。

話し終えたカイは最後に一言。

「……済まない。」

とだけ言った。

ジェノサイドは気まずいと言った感じで目を逸らしている。

…共感する自分がいる。

気まずいと目を逸らしたくなるよね。分かるよ。

「お前らなぁ、みんなに迷惑かけるなよ。」

そう言って、俺が注意した途端、みんなから一言。

「「「お前が言うな!!!」」」

怒られた…。解せぬ。

こんなことがあったりしたが、宴会は何とか開始することが出来そうだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七話 博麗大宴会

さてと………

「どうしてこうなった。」

俺は辺りの状況を見て、思わず口に出してしまった。

「ほら〜!零〜!誰でもいいからもっと酒持って来なさい!」

霊夢が叫ぶ。

取り敢えず、断ろう。

「自分で持ってこい」

「それじゃあ、あかさ〜!」

「え!?」

断ったらあかさを標的にした。

「ほら〜、レンに河童も〜!私らの酒が飲めないとは言わないよな?」

「え?あ、ちょ…」

「え、えぇ!?」

萃香に酒を強要されるレンとにとり。

「あら〜、大変ねぇ」

「幽々子様、食べ過ぎないでくださいよ」

ミスティアの作ったヤツメウナギを八本手に持ち、呑気に食べる幽々子とそれを諌める妖夢。

宴会は開始と同時にカオスになった。

今回は地底にも知らせてあるから、人数が多い。そのせいか、余計に混沌としていた。

「これ、どうしよ…」

「……止められないな…」

奈白が呟き、それにカイが答える。

ジェノサイドは速攻、萃香に酔い潰されていた。

「あらあら、また中々大変なことになってるわね」

「そうですね。お嬢様。」

ここに来て、紅魔組が参戦した。

もっとカオスになりそうだなぁ…

「ほら、零も飲むんだぜ!」

そんなことを考えていた俺は魔理沙に絡まれた。

…こいつも中々酔っている。

「俺は要らん。」

「なら、レミリア達だな!」

「あら、頂こうかしらね」

断ると今度はレミリア達に絡みだす魔理沙。

酒を飲む仲間が増えて魔理沙はご機嫌だ。

俺はどうしようか…

取り敢えず、外に出よう。

外は涼しく、程よく回った酔いを醒ますには丁度いい。

『ほら!あんた達ももっと飲むのよ!!』

『えぇ!?』

「あいつら、外まで声が聞こえてんじゃねぇか…」

思わず口に出してしまった。

「あら、それを貴方は望んで居るのでしょう?」

突如、背後から声が聞こえた。

振り返るとそこには妖怪の賢者、八雲紫その人が居た。

「望んでいるとはどういうことだよ」

…嘘つき。そう、頭に声が響く。

「貴方は既に分かっているんじゃないのかしら?」

紫はのらりくらりと言う。

「白々しい…。用件は?」

紫はそれに少しむっとして

「あら、つまらないわね。用件は博麗霊夜と死波蝕。彼らを始末することよ。」

…あいつらを?

「なんでだ?」

紫の雰囲気が変わる。先程までのふざけていた雰囲気では無い。これは、真面目な話をする時の顔だ。

「彼らは他の世界からやって来た存在。存在自体が世界のズレそのものなのよ。貴方の能力なら、分かるんじゃないかしら?」

「………」

図星だった。

能力を使って干渉することは出来ないが、霊夜と蝕が来てから『世界』そのものがズレていると感じるようになった。

「分かっていたようね。だから、お願いするわ。幻想郷の為、彼らを始末してちょうだい。」

「……」

この日、俺は自分の居場所とあいつらを天秤にかけた。

そんな時、一筋の風が吹いた。

その風は、俺を嘲笑うように、冷やかすかのように、暗く吹き抜けていった。




あぁー!書けたー!
そんな、ことを思った一章でした笑
いや、書くの楽しいんですよ?
ですけどね?
物語を考えるのが大変ですね←当たり前
実際、んぁぁ!!ってなることもしばしば()
そんな時、楽しんでくれている人が励ましになります。
ありがとうございますね
さて、一章が終わり、次から二章に突入します。物語は動きだし、様々な思惑が交差する。そんな二章にしていくつもりなので楽しみにしていただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二章 次元重複異変
八話 不穏の幕開け


奇妙な風が辺りに吹き渡る。

吹き終わった時、世界の“色“が少しだけ、変わった。

まるで、完成した絵に無粋にも絵の具を撒き散らかしたように。綺麗な写真の上にもう1枚、薄く透けるような写真を重ねたかのように。

「零。これはゆっくりしていられないわよ?早急に彼らを始末しないと…」

紫が少し焦ったような表情で話しかけてくる

幻想郷の為か…。

「…少しだけ。今日、一日考えさせてくれ。」

紫は少し思案し、俺の提案を受け入れてくれた。

「分かったわよ。その代わり、決めたら直ぐに始末して。私はこの幻想郷が大切なの。」

そう言って、紫は隙間空間へ入り姿を消した。

「零。あんた、紫と何を話していたのよ?」

そう言って近寄って来るのは先程まで酔いに酔っていた博麗の巫女。博麗霊夢その人だった。

「…蝕と霊夜を幻想郷のために始末しろだってさ。俺は暗殺者じゃないっての」

霊夢は少し気難しい表情をして

「あんた、あの二人に勝てるの?あんた弱いじゃないの」

……酷くね?

「え、酷くね!?これでも妖夢から剣術は一応、免許皆伝もらってんだぞ!それに、もっと他に心配することあんだろ!?」

そこで、すかさず霊夢に突っ込まれる。

「あんた、妖夢に剣術以外ダメダメって言われてんじゃないの。前、泣いてたわよ?台所が炭まみれになって掃除が大変だったって。」

………後で妖夢に謝っておこうかな。その内、辻斬りされそうだし。

「それは済まないと思うよ!?でもさ!?もうちょいさ!?人殺しすることに対して突っ込もうよ??大丈夫なの?ってさ!?」

そう言うと、霊夢は笑って

「ふふっ、さっきまでの重苦しい雰囲気よりもあんたはこっちの方がいいわ」

……そういうことかよ。まぁ、嘘じゃないだろうし妖夢には謝っておくけど。

「はぁ…。お前、もうちょいやり方あっただろ?」

「あんた、素直じゃないんだからこうでもしないといけないでしょ?」

そんな雑談していると後ろから何かを感じ、思わず飛び退く。

飛び退いた場所には相棒の水覇がいた。

「うぅ〜…主様が私以外と楽しそうにしていますぅ…」

こいつ、酔ってるな。

「あら、零の所の付喪神じゃない。あたしは零に気は無いから心配するだけ損よ?」

なんか目の前で俺、フラれてるんだが…

「そ、しょんなことぉ…。信じられ…ぐぅ…」

こいつ、場を乱しておきながら寝やがった。

はぁ…仕方ない。世話の焼ける相棒だなぁ。

俺は水覇を担ぐ。

今は人型だ。そんな状態で寝られたら刀のようにコンパクトには運べない。

そこに不便さを感じながらも、相棒の暖かさに気を落ち着かせる。

「あら、もう帰るのね。みんなには伝えておくわよ」

「あぁ、頼むぞ」

霊夢にみんなに先に帰ることを伝えてもらうように頼み、俺は家に戻るために歩き始めた。

道中、人影が二つ。

「そこのあんちゃん。少し、モノ買っていかない?安くしとくよ?」

「オススメやで?」

銀髪と金髪の和服を着た狐目の青年だ。兄弟なのだろう。

「いや、要らない」

そう断ると二人は悪意に満ちた笑みを浮かべ

「なぁなぁ、この異変を解決したいんやろ?」

「異次元から来たあの二人、始末せなあかんのやろ?」

「「それなら、うちらを頼ってや」」

一瞬で警戒度合いを上げる。

背中が粟立つのがよく分かった。

「お前ら…何者だ…?」

二人は嘲笑い、言い放つ。

「うちらはとあるお偉い様からお申し立てを受けてここに現れた商人や」

「とある組織の幹部や。」

「「そんでもって、この異変の元凶や。」」

その言葉を聞いた時には弾幕を放っていた。水覇は寝ているため、刀は使えない。二人をどう対処するか考える。

弾幕を弾いた二人は笑い

「おぉ、怖」

「このままじゃ怒りてまうな」

「「そんじゃ、サイナラな」」

そう言うと、二人の姿にまるで景色が重なるかのようになり、存在が掻き消える。

この異変にどんな意味があるのかは分からない。まだ影響が出ていないにしろ警戒は必要だろう。

蝕と霊夜を始末する必要はなさそうだ。

霊夢や紫にもこのことを伝えなくては…

そう思い、俺は神社へと足を急がせたのだった




二章の一話目です。
悪意の登場。
物語は加速していきますね。
さて、今回は遅くなりました。え?何故かって?そりゃ、もちろん話をどう繋げるのか考えるのが難しかったからですよ!誰も、ゲームやら、プラモやらにうつつを抜かしてませんからね!
……はい。サボってました。お詫びに少し企画を紹介しますね。
クリスマス、または年末年始などのどこかのイベント(行事)のある日にifストーリーや、ストーリーとは関係ないほのぼの系の物語を投稿したいと思っております。何時にするかはTwitterの投票か、こちらの進捗状況、気分によって決めたいと思います。
と、言うことで後書きでした。
次回も楽しんで頂ければ幸いです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

九話 襲撃と撤退

時は少し戻り、場所は博麗神社。

零が丁度、家へと向かっていった頃

博麗神社の主であり、幻想郷を守る巫女。博麗霊夢は二人の会話について、思案していた。

同じ博麗の名を持つ存在について。そして、零がその存在と連れを始末するように紫から頼まれていたこと。

零が紫と接点があるのは知っていた。確か、小さい頃に紫に連れてこられ、育てられていたはずだ。小さい頃はたまにであるが、遊んだことがあった。以前、酒の席で紫に尋ねたことがある。

何故、零を育てていたのか?と

それに、紫は一言。

「私は彼の大切を守っただけよ」

とだけ、口にした。

なんのことかは分からない。零も昔のことなどあまり、覚えて居ないだろう。

だが、今はこの状況について考えなくてはならない。

この、博麗の名を持つ存在について。

夜風に吹かれていた霊夢は、みんなの様子が気になったこと、零が帰ったことを報告するために酒席へと戻り…

その状況を見て、唖然とした。

状況について説明しよう。

まず、障子がビリビリに破れている。それは酒の席なので予想はしていた。だが、面子がおかしくなっている。

にとりやレン、ジェノサイドが萃香と勇儀に酔い潰され倒れている。

カイは妖夢と刀について語り合い、状況に気付いていない。そして、それをチャンスだと言わんばかりに幽々子が酒の肴を食べている。

紅魔組はと言うと、あかさや奈白と飲みフラフラと今にでも倒れそうになっていた。その中には魔理沙も混ざっていたが見なかったことにした。

しかし、何処を見ても肝心の二人が見つからない。

外へ出てみると山道に二人分の足跡を見つけた。

その足跡を追う。

「あの二人…なんなのかしら…」

思わず口に出してしまった。

・・・

しばらく進むと二人が待ち構えていた。

「…やっぱり来たか。」

「霊夢…」

二人は私が来ることが分かっていたらしい。

「それで、あんた達はなんでここに?」

「他の連中には、あまり聞かれたくなくてさ」

そして、二人は声を揃えて言う。

「「俺たちはここの世界線とは別の世界から来た存在だ」」

と二人が言葉を発する。

少しの間が空いた。

唖然としてしまったのだ。

「え、えっと…?あんた達はこことは別の世界から来たってこと?」

霊夜は無言で肯定する。

気持ちが落ち着いた。

「それで、今の話を信じたとして何をしに来たのよ?観光なんかじゃないわね。“本当に“別の幻想郷があったとして、ね」

二人は無言だ。

それを怪しみ、もう一度尋ねる。

「…実は、分からないんだ…」

蝕が口を開いた。

そんな時、上空から弾幕が降り注ぐ。

不意打ち、そして手加減をしていない本気の、殺意のこもった弾幕だ。

咄嗟に飛び退き、二人を見るとやはりそこは博麗の名を持つ者とその仲間だ。案外、余裕そうだった。

弾幕が降り注いだ方向を向くと、一人分の人影が目に映る。

今宵は満月。

逆光で性別までは分からない。

次の攻撃に備えると、人影が声を発した。

「あーあ、避けられちゃった。辛いなぁー。まだ“計画“も第一段階だってのにさぁ。新入りの双子は“鍵“に勝手に接触するわ、博麗が二人集まるわ、本当に…。そう、本当にツイテナイ…」

声質的に男だろう。途中、奇妙な単語がいくつも聞こえてきた。その事にほんの数秒、思案してしまったその時だ。

霊夜が男を背後から蹴り飛ばし、蝕が飛ばした方向に剣を構えている。

「蝕!!ぶった切れ!!!」

「魔剣、カオスブリンガー・ハガル。剣技『デモンズ・ロザリオ』」

蝕が人影に十一もの連撃を放つ。

視認することは可能でも防ぎきるのは難しいだろう。

人影はポツンと一言、気だるげに言い放つ。

「俺は世界にその攻撃があることを“否定する“」

「なっ!?」

斬撃が消え、蝕が蹴り飛ばされる。

零でも。いや、妖夢でも無傷で立ち回るのは無理に近いだろう斬撃を男は耐えてみせた。

一言、発するだけで攻撃を止めたのだった。

「鉄塊!!オラオラオラオラオラァ!!!!」

霊夜が大剣を抜き放ち、追撃を放つ。

「お前の攻撃も“見えている“以上は通用しないんだ。だって、俺が認めないんだから」

そう言った瞬間にまた、攻撃が消えてしまう。

これは不味い!!

「霊符『夢想封印』!!!」

「だから、無駄なんだよ。鬱陶しい。俺は認めない。」

私は夢想封印を唱え、二人を掴み隙間へ逃げ込む。

夢想封印は消えてしまったが、逃げ込む時間を稼ぐことくらいは出来たようだ。

男は初めて驚いたように

「へぇ…そうするのか。なるほどな。」

と呟く。

そして、一言。

「“あの人“に怒られるかなぁ。ま、いいか。まだ、“レクイエム“は始まったばかりだ」

そう言うと、男の姿が掻き消える。

男が消えたのと隙間が完全に閉じたのは同時だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十話 闇より来たりし者共

霊夢が山道へ向かった頃

カイ、ジェノサイド、レンは酒の酔いから復活していた。

「っ…頭痛え」

レンが呻く。

カイは平然としていた。顔は少し青ざめているが。

「…ジェノサイド、大丈夫か?」

「うぇ…だ、大丈夫な、はず…」

ジェノサイドは最早、吐きそうだ。

勇儀が近寄ってくる。

「やっと起きたのかい?そんなんじゃ、まだまだアタシとは対等に飲めないねぇ」

鬼に酒飲みで勝てる奴がいるか!!と声を大にして言いたいが、そんなことをすればどうなるか分かったもんじゃない。なので、喉の奥にグッと押しとどめておく。無論、そこまで思考が回ったのはカイとレンのみで、ジェノサイドは喉の奥から込み上げてくる吐き気を止めるので精一杯だ。

魔理沙や他の連中も酔いが覚めたようで、先程までのゴタゴタ感は感じない。勇儀のような年がら年中、酒を飲んでいるような奴は除くが。

そう言えば、零と霊夢が居ない。霊夢は先程、見たような記憶がある。零は知らないが。

そんなことを考えながら、みんなと談笑していた時だ。

外からグルルと何か、獣が呻くような声が聞こえた。この神社に犬は居ない。狛犬は居るが、アイツは吠えないので違うだろう。そして、何よりも不可解なのが生き物とは何か違うようなドロドロとした雰囲気、そして明確な殺意を感じることだ。

「なんだろうな。」

魔理沙が呑気に言う。

「まぁ、この私レミリア・スカーレットに歯向かうつもりなら容赦はしないわよ。」

レミリアと咲夜が立ち上がる。

「一応、付いて行くか」

レンがそう言い、カイも無言で付いて行く。

ジェノサイドも酔いが覚め、二人の後を追った。

外に居たのは、真っ黒な狼の群れだった。

しかし、普通の狼とは違い何か腐ったようにドロドロとしている。先程からの違和感の正体はコレだ。普通の狼とは違う、歪な何かだから違和感を感じたのだ。

一匹がレミリアに飛び掛って来る。瞬間、世界がコマ送りのように感じ、咲夜のナイフが狼の眉間を穿つ。

普通なら即死だ。しかし、何事も無かったかのように狼は立ち上がる。これには咲夜も驚いたようだ。

カイも刀を抜き、警戒する。

綺麗な白髪が紫に染まる。

“変わった“ようだ。

「さてと、カイに変わってこのアレクがこいつらを斬り捨ててやるぜ!」

カイのもう一つの人格、アレクが現れる。

ジェノサイドも鎌を取り出し、戦闘する気だ。

レンも自らの愛刀、村正を抜き放つ。

最初に動いたのはアレクだ。

「冥獄神刀、魁那。怒涛『怒槌』」

大地が爆ぜる。修復が大変そうだが致し方ない。

ジェノサイドも動いた。

「ここは一つカッコイイとこらを見せないとな。音符『ノイズ・ブレイク』」

アレクの爆発による音を利用したノイズによる追撃。

そして、レンが攻撃する。

「疾風炎刀、村正。剣技『疾風迅雷』」

レンが疾風を纏った斬撃を放つ。

そして最後に決めるのは紅魔館の主、レミリア・スカーレットとその従者、十六夜咲夜だ。

「幻符『ザ・ワールド』」

時間が止まり、数多のナイフが空中に出現。一匹足りとも逃がさない。

「お嬢様」

「分かってるわよ、咲夜」

美しき主従関係。

短い言葉で伝わる程の信頼関係を築くのは容易ではないだろう。

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!!」

群れのど真ん中へ、真紅の槍が突き刺さる。

そして、五人全ての技が狼の群れを滅殺せんと襲いかかった。

ナイフを眉間に穿たれて尚、生きていた狼達でもこれには耐えられない。

後に残ったのは塵のみだ。

こうして、一瞬で戦闘という名の蹂躙が終了した。

魔理沙が外に出てくる。

「派手にやったな。これ、霊夢に怒られないか?」

それに咲夜が応じる。

「襲撃があったのだから不可抗力よ」

「まぁ、そうか」

魔理沙がへへっと笑い、そう答えたその時だ。

森で爆発が起きた。

「…もしかして霊夢か?」

「可能性はあるな」

ジェノサイドが呟き、レンが少し焦ったように応えた。

「行くぞ!!」

魔理沙がそう言うと、その時に隙間が開く。

中からは霊夢に蝕、霊夜が現れる。

三人とも息が絶え絶えだ。

「ハァハァ…あ、危なかったわ…。何よ、アイツ。」

「何があったんだ?霊夢」

アレクが質問する。

「ん?あぁ、今はアレクなのね…。取り敢えず、中に入るわよ。ここの状況も聞きたいしね」

そう言って、戦闘の惨状を指さす。

こうして、博麗神社の宴会はこの襲撃、異変を解決するための作戦会議へと名目を変えたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十一話 作戦会議

「それで?霊夢達は何があったんだ?」

魔理沙が口を開く。

事態は重く、対策が必要だ。

同時に二つも襲撃があったのだから。

「私達は、男に襲われたわ。何か不気味で私たちの攻撃が全然、通用しなかった…」

それに蝕と霊夜が頷く。

「…俺の斬撃も、霊夜の攻撃も全部効かなかった。まるで、男が否定したことを世界が肯定するように」

霊夜が続けざまに口を開いた。

「俺はあの能力を『事象を否定する程度の能力』だと思う。憶測でしかないし、もっと凶悪な能力かもしれないが」

そこで、扉が開け放たれる。

そこには柱に寄りかかり荒い息を整えている零の姿があった。

「ハァハァ…クソ、流石にキツい」

水覇を優しく床に寝かせ、お茶を注ぎひと息つく。

「はぁ…生き返ったぁ!」

アレクが零に尋ねる。

「おいおい、焦って戻って来てどうしたんだ?お前は家に帰ったんじゃあないのか?」

零が口を開く。

「今はアレクか。それが、実はな…」

「「「「はぁ!?!?」」」」

一同、最初に発した言葉は見事にシンクロしていた。

それもそうだろう。

紫が二人を始末するように頼んでいただなんて初耳なのだから。

そして、この異変の首謀者と接触したこと。

皆を驚かせた要因はこのふたつだ。

魔理沙が零に尋ねる。

「おいおい、それじゃあアレか?紫に始末を頼まれて、その後に首謀者と接触。そこで急いで戻って来たってことか?」

そこで酔っ払った妖怪達の介抱を終えた妖夢がこちらの状況を説明する。

「こちらも霊夢達が一人から襲撃。こちらも獣のようなモノから襲撃を受けました。神社を襲ったモノが使役者と考えて、敵は4人からそれ以上と言うことでは?」

皆が同意する。

ジェノが質問する。

「敵が居たとして、こちらから攻める手段がないけどどうするんだ?」

それに霊夢が答える。

「次、攻めてきたらボコボコにするからいいわ。来ないならそれまでね」

魔理沙が頷く。

確かにこちらから攻める手段が無い以上、下手に探すよりも来た時に倒した方がいいだろう。

ふと思い、俺は相棒であり大切な存在。水覇の方を見る。

むにゃむにゃと寝言を言いながら、幸せそうな表情で眠っている。

能天気だなと苦笑しながら上着を被せる。

「まぁ、これ以上ここにいても埒が明かないし片付けもしないといけないから今日は帰りなさい。」

霊夢がそう言って、会議を締めくくる。

「分かったぜ」

「まぁ、そうするか。」

「じゃあな」

一同が自分の家に向かいだす。

俺はここまで急いでここに戻って来たのにまた担いで帰るのか…。

憂鬱だなぁー。しかし、そうは言ってられないので水覇を担ぎ俺も帰路へとつく。

俺の居場所。幻想郷に仇なす敵の存在。

その時、心の奥底に何かドロドロとした感情が生まれたことに俺は気付かないふりをした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。