RIDERTIME Hameln (砂袋move)
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フリーゲル編
IF01「王様になりたいのですが、プラモデルの腕は必要ないと思います2018」


ついに始まります!「RIDERTIME Hameln」!!
今回はトライアングルさんの作品である「仮面ライダーフリーゲル」のエピソードとなります。
時系列はエグゼイド編とフォーゼ&ファイズ編の間です。本編と合わせて楽しんでいただけると幸いです。


ーこの本によれば、普通の高校生・常盤ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

未来からやって来たゲイツ、ツクヨミと共にタイムジャッカーが生み出すアナザーライダーと戦い、仮面ライダービルドと仮面ライダーエグゼイドの力を奪った我が魔王。

そんな彼らの前に更なるレジェンドが現れる。"プラモデル"と"人助け"が趣味の彼らは我が魔王達と出会い…

おっと、ここから先は皆さんの目でお確かめ下さい。

 

 

 

 常盤ソウゴは光ヶ森高校の3年生として、今日も変わらず学校へ通っていた。いつもと変わらず授業を受けるソウゴを、彼を巡って未来からやって来た未来人のゲイツとツクヨミは今までと引き続き高校でソウゴの見張りをしている。

 方やゲイツは短く切り込んだ髪と鋭い眼光が、後に彼がなるであろうオーマジオウを倒すと言う強い決意が表れており、方や制服の上に神秘的な白い布を羽織ったツクヨミは、そんなソウゴを魔王にならないよう導くべく彼の良い点を優先的に観察している。

 同じ未来人でも胸に宿す目的が違う2人だが、窓の外から双眼鏡越しに教室内のソウゴを凝視する様は等しく不審者以外の何者でもない。しかし不思議な事に他の学校内の人間は彼らの事に気付く事はなく、ソウゴもまた彼らの監視に慣れ気にすること無くついに放課後を迎えた。

 多くの生徒が次々と帰りの支度を始め、思い思いの事をする中ソウゴの前にとある生徒がやって来る。

「おい常盤!見てみろよこれ、やっと完成したんだ!」

「うおっ!細川何これ?」

 細川と呼ばれたクラスメイトが手に持つのはガラス瓶の中で精巧に作り込まれた船の模型であった。

「ボトルシップだよ、昨日寝る間も惜しんで完成させたんだ!」

 細川は達成感に満ち溢れた経緯を口に漏らす。今日一日色んな生徒に自慢した彼はソウゴにもこの苦労を伝えた訳だが、しかしソウゴから来た返答は他の友人達とは全く違う物であった。

 

「凄い…!よし!王室の内装係担当は君に任せた!」

 

 そう言って細川を指差しで指名する。彼特有の"王様発言"である。彼は見知った人の良い点を見つけると決まってこう言うのだ。妙に上から目線な発言であるこの感想に、細川は気分を害し呆れたようにソウゴの素を離れていく。

 何故彼が気分を悪くしたのか理解できないソウゴは首を傾げるが、それを観ているゲイツはポツリと呟いた。

「相変わらず見たいだな」

 ツクヨミも頷いていると学校から遠く離れた街方面で何か騒ぎが起こっている事に気付く。

「ゲイツ!」

 ツクヨミが呼び掛けるとゲイツも気付いたようで、双眼鏡から目を離し素早く遠方を見やると直ぐ様2人は駆け出した。

そんな2人を窓越しに気づいたソウゴが急いで準備を済ませると同じく教室を飛び出した。

 

 

 工事現場付近に2人が向くとそこには作業員を襲う異形の怪人がいた。全体的にガンダムのような武装を着込み手には盾とビームソードを模したような剣を握っているが、それらの鎧は生物的に歪んでおり薄汚れた白い機体には『2017』『FREEGEL』の文字が刻まれている。

「アナザーライダーか」

 ゲイツがそう言って腕のホルダーに付いた赤いウォッチを取り出すとジクウドライバーを腰にセットする。ウォッチのカバーを回し、天面のボタンを押すと彼のライダーとしての顔が浮き出る。慣れた手つきでドライバーにウォッチをセットし、背後に現れる巨大時計に合わせて大きく両手を旋回させベルトに手を添えた。

「変身!」

『ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!』

 ベルトを回転させゲイツが仮面ライダーの姿に変わる。

 拳を握り駆け出すとアナザーライダーもそれに気が付き作業員を放り出し応戦する。

 連続でパンチを放つゲイツをアナザーライダーは盾を使って的確に防御すると反対にビームソードで切り付けてくる。

 相手の動きを見切って寸出の差で躱したゲイツが武器を召喚する。

『ジカンザックス!Oh!No!』

 おのモードで対抗するゲイツとアナザーライダーの戦いに間もなくソウゴも到着する。

「アナザーライダー!?とにかく俺も!」

 ソウゴもまたゲイツ同様ウォッチを取り出し起動する。ゲイツと打って変わり白いウォッチにジオウの顔が浮かび上がると腰に巻いたベルトにセットし変身ポーズを取る。

「変身!」

『ライダータイム!仮面ライダージオウ!』

 たちまちソウゴはジオウに変身するとゲイツの援護に向かう。

『ジカンギレード!ケン!』

 ジオウ専用武器であるジカンギレードを召喚するとそのままアナザーライダーを斬りつける。

「ジオウ!?」

 いつの間に現れたジオウにゲイツが戸惑う。一方斬り付けられたアナザーライダーの装甲には傷一つ付いていない。しかし怯まずジオウが攻撃を加え続ける。またゲイツも代わる代わるで攻撃を喰らわせアナザーライダーを押していく。ダメージを負ってないようだが、流石に不利と感じたのかビームソードの威力を強め肥大化した刀身で一閃し2人を後退させると、その隙に脅威的な脚力で飛び上がり姿を消した。

 取り逃した2人は変身を解除すると向き合う。

「やだなぁ、ゲイツもツクヨミも。アナザーライダーが出たんなら一緒に連れていってよ」

 へらへらと2人に絡むようなソウゴにツクヨミが何か言いたげに近づこうとするが、その前にゲイツが腕を上げ静止しソウゴの眼前にまで来ると胸倉を掴んだ。

「貴様、何で着いてきた!?」

 咎められる理由が分からないソウゴは困惑しながら口を開く。

「えっ、だって2人の方がアナザーライダーにも有利だし…」

「お前はこれ以上アナザーライダーの事件に首を突っ込むなと言った筈だ!」

 ソウゴの言葉が終わるか終わらないかな間にゲイツが声を荒げる。

「えぇ…?だってアナザーライダーは危険なんでしょ?被害が出る前に早く何とかしないと」

 そう言うソウゴに憤りを感じるゲイツが我慢出来ずに怒鳴り散らす。

「いい加減にしろ!お前のせいでエグゼイドの歴史まで消滅したんだ!これ以上お前にライダーの力を集めさせる訳にはいかない」

「でもアナザーライダー止めなきゃいけないし…」

 ソウゴの反論をゲイツが威圧する顔を近づけ遮り、声のトーンを下げ語り掛ける。

「お前、前に言ったな?」

ーもし俺がオーマジオウになると確信したら、その時はいつでも倒してくれ。2人の判断なら、俺は信用できるから。

「あの言葉を信じていいなら、今お前はライダーの力を奪ってオーマジオウへの道を歩もうとしていると解釈して、この場で倒してやってもいいんだぞ?」

 ソウゴを掴んだ腕を離し、ゲイツが腕のホルダーに付いているウォッチを構える。

「ゲイツ!」

「とにかく付いて来るなよ」

 ゲイツはソウゴの胸を乱暴に突き飛ばすと、そのままツクヨミを連れて出て行った。

 

 

 とある街角。喫茶店一帯の時間が止められる。路地を歩く人も、風に揺れる木々も、空を飛んでいる鳥ですらも翼を羽ばたかせる瞬間で静止している。

「デュッフッフッフッ…」

 そんな無音の空間で唯一止まっていない人間がいた。腰を屈めて画面手前に顔を思いっきり近づけ、夢中でタブレットを弄りながら独特の笑い声を上げ蠢いている。

「なんだ、こんな所にいたんだ」

 そんな男の前に二人組が現れる。彼らもまたこの空間に不似合いな不思議な空気を醸し出している。タイムジャッカーのウールとオーラである。

「アンタもこの時代に来てたのね、ツァイト」

 名前を呼ばれた先程の男性がタブレットから顔を上げる。彼らの仲間であるタイムジャッカーのツァイトは眼鏡を掛けており、他のタイムジャッカーと同じような臙脂色の服を着ている。背は若干高めであるものの細い目と猫背気味の姿勢で陰気な雰囲気を感じさせていた。

 目の前の知り合いに気づいたツァイトはにこやかに口を開いた。

「これはこれはウールくんにオーラちゃん、よく来てくれましたね」

「馴れ馴れしく名前を呼ばないでくれない?」

 開幕オーラが不機嫌気味に喋る。

「あんたもオーマジオウに代わる新しい王を擁立しに来たんだろ?」

 代わって今度はウールが話し掛けるとツァイトは意気揚々に話し始めた。

「勿論ですよ!私が今回選んだ人間は実際のオリジナルに対して対象的になるように拘りまして、性格や行動性、目的に至りましても想像通りの出来栄えで良い結果が期待できそうです。また、契約の際の意気込みも感じられ私としてはかなりの手応えを感じると共に…」

「相変わらず気持ち悪いな、お前」

 早口でブツブツと喋るツァイトにウールが見下すように罵倒を放つ。

 ご覧の通りツァイトは俗に言う"オタク気質"であり、常にツクヨミと同じような機種のタブレットを触っては仮面ライダーについて日がな一日中調べている。その他者を顧みない性格で、辛うじて団体行動を取っているタイムジャッカーの中でも特に孤立している。故に本来同格である筈のウールとオーラにすら邪険に扱われている始末である。しかし、本人は全く気にする事なく自信満々に話を閉めるのだった。

「とにかく私のアナザーライダーは取って置き中の取って置きという事ですよ」

 

 

 自転車を引きながらボォっと家路を歩くソウゴ。ふと目に付くとお年寄りをおぶりながら横断歩道を渡ろうとしている学生2人がいた。しかし、重いのか中々進まず気付くと真ん中程で信号が点滅を始めてしまった。

「うぉっ!危ない危ない!」

 反射的に二人の学生を助けに行くソウゴ。いつの間にか三人で一緒に老婆の家まで送ってしまっていたのだった。

 老婆は三人に礼を言うと深々と頭を下げて家の中に入っていった。老婆を無事見送ると学生の1人がソウゴに向かってお辞儀をする。

「すいません、見ず知らずの他人なのに助けて頂いて」

「いや良いよ、俺も困ってる人見たらほっとけないタチだからさ」

 ソウゴは笑顔で語り掛ける。

「それにしても君達偉いね、まだ中学生なのに。えっと…」

 言葉に詰まったソウゴを察して、向こうから自己紹介を始めた。

「あ、僕飛山翼って言います」「俺は高上疾風だ」

 中学生2人が変わりばんこに答えた。対してソウゴもそれに合わせて返答する。

「俺、常盤ソウゴ。王様になる男かな」

「え、王様?」

 2人が疑問を感じると同時に顔を向けた。

「あ、ごめん。王様って言われても分かんないよね」

 そう言うソウゴに対し翼達は自然とフォローを入れる。

「いえ、良いんじゃないでしょうか。僕らも趣味が他の人に伝わらないって事ありますから」

「え?2人の趣味って何?」

 ソウゴが興味津々に尋ねる。2人は一瞬言うのを戸惑ったようだが、顔を合わせると口を開いた。

「プラモデルです。僕たちプラモデルが大好きで」

「へー、プラモデルか。面白そう!俺もやってみようかな」

 そう言うソウゴに翼達が目を輝かせて答える。

「え!じゃあ今から一緒にやりませんか?近くに行きつけのプラモデル屋があるんです!!」

「え、今から?まぁいいか、よし行こう!」

「よっしゃ!やったな翼!」

 翼達がテンション上げながらソウゴの手を引いていく。ソウゴもまた2人の勢いに流されながらプラモデル屋に向けて足を運んだ。

 そんなソウゴ達が歩いていくのと入れ違うように物陰からウォズが現れる。そして、手に持つ分厚い本『逢魔降臨暦』を拡げると彼らを交互に確認するように一人ブツブツと呟いた。

「飛山翼に、高上疾風か…。流石我が魔王、君はレジェンドと出逢う天性の才能があるようだね」

 本から目を離すと満足そうに笑みを浮かべるウォズ。その余韻を断ち切るかのように片手で逢魔降臨暦を閉じた。

 

 

 ゲイツとツクヨミはタブレットを用いながらアナザーライダーを探索するも、見つからず一旦クジゴジ堂に戻る。

「あ、ゲイツくんツクヨミちゃんおかえり〜」

 扉を開けるとソウゴの叔父である常盤順一郎が出迎える。

「あれ、ソウゴくんはまだ帰ってきてない?」

「あ、はい…今日は別々だったので」

 ツクヨミが咄嗟に誤魔化すも順一郎は気にせず笑顔で答える。

「そっか、あ、叔父さん今から買い物行ってくるからね」

 そういって順一郎が部屋を出て行くとゲイツが口を開いた。

「あのアナザーライダー…一体何者だ?」

「目的は分からないけれど、取り敢えず対応するライダーの力が無いと倒せないみたいだし」

「ウォッチを探す必要もあるという事か」

 ゲイツとツクヨミが真剣な顔を見せる。

 

 

 一方ソウゴは翼達が案内したプラモデル屋でたむろしていた。良さげなプラモデルをそれぞれ一品ずつ買うと奥の製作スペースで早速作り始める。翼と疾風はワクワクしながら慣れた手つきで黙々とプラモデルを組み立てて行くが、対するソウゴはプラモデルなどやった事も無く手が出せない状況だった。

「あ、ソウゴさんごめんなさい。初めてじゃ分かんないですよね」

「俺達が手取り足取り教えるぜ」

 そうして2人に教えられながらソウゴもプラモデルを組み立て始めるものの…

「あ」

 パーツが雑に切り取られる。

「あっ!」

 接着剤が飛び跳ねパーツを汚す。

「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 無理にくっつけようとしてパーツが折れる。

 やがてそこにはパッケージのようなカッコいい姿になれず、見るも無残に机に広がるプラモデルの成れの果てが転がっていた。俯くソウゴに翼達は言葉に詰まりながら話し掛ける。

「えーっと…ソウゴさんって、その、不器用でした…?」

「王様になるんだからプラモデルはてっきり作れるもんかと…」

「えっ、それ王様と関係あるかな…?」

 ソウゴが顔を上げて突っ込む。

 すると店の外で悲鳴が聞こえる。

 すぐにソウゴが立ち上がると店を飛び出した。

「2人ともごめん!そこで待ってて!!」

 尋常じゃない慌てようだったソウゴを翼達は心配そうな顔で見つめていた。

 

 

 さっきとは別の工事現場の近くで逃げ惑う人々。その中には先程ボトルシップを見せてきた細川の姿もあった。

 逃げる人々で混雑する中足を取られた細川は、手に持つボトルシップを両手で包み込むように背中から倒れてしまう。しかし、その頭上から鉄骨が落下してくる。

「うわっ!」

 思わず顔を背ける細川を間一髪ソウゴが救出する。ソウゴの後ろで鉄骨が地面に激突する。轟音と土煙が晴れた先には再びアナザーライダーが立っていた。

「お前さっきの…、細川逃げて!」

 すぐ様細川を逃し安全を確認すると、反対方面から騒ぎを聞きつけてゲイツ達もやって来ていた。

「ジオウ!また着いてきたのか!」

「違うって!たまたま近くを通りがかっただけだよ」

 しかし、気を取り直すと2人は同時にウォッチを取り出すと阿吽の呼吸で起動させる。

『ジオウ!』『ゲイツ!』

 ベルトに差し込み2種類の待機音がチグハグに交差する。

 アナザーライダーを挟んで向かい合うようにそれぞれのポーズを取りドライバーを回す。

「「変身!!」」

「「ライダータイム!」」

「仮面ライダージオウ!」「仮面ライダーゲイツ!」

 2人は武器を取り出すとそれぞれ両端からアナザーライダーに向かって行く。ジカンギレードはビームソードで、ジカンザックスを盾で受け止めるアナザーライダーは、冷静に2人の攻撃に対処していく。ビームソードで間を開けるとビームソードを放り投げ空中に手を伸ばす。

 すると何も無い空間からプラモデルのランナーのようなものが浮き出る。少々歪んでいて生々しい見た目のそのランナーから自動的にパーツが飛び出し組み立てられるとビームライフルに姿を変える。

「何っ!?」

 ビームライフルからレーザー光が発射され、唐突に戦術を変えられたジオウとゲイツは対処しきれず、攻撃を喰らい火花を上げながら後方に吹っ飛ばされる。

「くっ…だったらこっちも!」

 地面に転がされるジオウは咄嗟にジカンギレードのモードを変える。

『ジカンギレード!ジュウ!』

 ジュウモードに変えたジオウはまだ立ち込める煙越しからアナザーライダーに向かって正確に射撃する。逆に反撃を予想していなかったアナザーライダーが今度は後ろに倒れ込む。

 その隙を逃さずドライバーからウォッチを引き抜くとジカンギレードに装着する。

『フィニッシュタイム!』

 怯んだアナザーライダーが立ち上がる頃には既に必殺技の充填が完了していた。ジオウはすかさずトリガーを引く。

『ジオウ!スレスレシューティング!』

 "ジュウ"と書かれた弾丸が乱射されアナザーライダーに全弾命中し爆発を起こす。

「でかしたぞ、ジオウ」

 この好機を見逃さずゲイツはホルダーから黒いウォッチを取り出すと起動させた。

『シャドウ!』

 反対側のスロットにウォッチに挿入するも再びドライバーを回す。すると背後に黒いアーマーが現れ、ゲイツと同調すると自動的に身に纏われる。

『アーマータイム!stand up…シャドウ!』

 ゲイツ・シャドウアーマーに変身しアナザーライダーに向かっていく。闇の力を腕に収束させアナザーライダーに攻撃を加えていく。先程の攻撃も相まってアナザーライダーはだいぶ弱っていた。ゲイツがウォッチのボタンを押しドライバーを傾けると必殺技の態勢を取る。

『フィニッシュタイム!』『シャドウ!』

「トドメだ」

 ドライバーを回すと闇が今度は足に集まっていき、ゲイツは飛び上がる。

『コネクション!タイムバースト!』

 ゲイツのキックが炸裂するとアナザーライダーは闇に飲まれていき、後に大爆発を引き起こした。見事着地したゲイツにジオウが近寄ってくる。

「ねぇ、前から思ってたんだけどなんで既に何個もウォッチ持ってんの?」

 ジオウが疑問をぶつけるとゲイツは顔を背けそっけなく答える。

「これは未来でオーマジオウから盗んだ」

「えぇ!!じゃあそれ元は俺のウォッチじゃん!」

「はぁ!?今は俺のだ!」

 そう言い合うジオウとゲイツの前に、ソウゴを追って翼と疾風がやってくる。

「あ、翼!疾風!」

 翼と疾風は燃え盛る炎に目を見やると突然頭を押さえ出した。すると何かを思い出したように顔を上げる。

「あれ?」「俺達…何で」

 すると彼らのポケットから光が溢れ、取り出すとそこにはブランクウォッチが光っている。それが翼達の手に握られると力が注ぎ込まれ、各々のウォッチに形を変えると起動された。

『フリーゲル!』『イカラス!』

「えっ!?」「何故あいつらからウォッチが!?」

 ジオウとゲイツが翼達に起こった光景に目が釘付けになる。が、次の瞬間爆炎からアナザーライダーが突如復活する。

『フリーゲル…』

 アナザーライダー内のウォッチが音声を発する。アナザーライダーはおもむろに後ろを向くと、近くに居た翼と疾風に目をやり襲い掛かってくる。

「危ないッッ!!!!!」

 反射的にジオウが全力で駆け出した。




今回ゲイツが使用したシャドウアーマーは赤羅忌さんの作品である「仮面ライダーシャドウ」のものです。
本編でのゴーストとドライブ同様序盤で既にゲイツが所持しているライドウォッチですが、シャドウ自体のエピソードはもう少し後となります。


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IF02「王様になりたいのですが、それとは関係無く人助けはずっとしてきました2017」

前回に引き続きフリーゲル編となります。
果たして、ソウゴ達はフリーゲルの力を継承できるのか!?


ーこの本によれば、普通の高校生・常盤ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

突如現れたアナザーライダーを追う中で2人の少年と出会う我が魔王。

彼らこそが今回の物語の鍵であり、我が魔王は彼らからウォッチを受け継ぎ、仮面ライダーフリーゲルの力を…

おっと失礼、今のは忘れてください。

 

 

 

「危ないッッ!!!!!」

 ジオウは走り出すと同時に腕のホルダーに付いていたウォッチを取り出す。"バイク"と書かれたそれを前方に投げるとたちまちその字の通りにバイクの姿になる。

 専用バイク・ライドストライカーに飛び乗りアナザーライダーを擦り抜けると一足早く2人を抱きとめ、そのまま走り去っていくジオウ。

 翼達を取り逃したアナザーライダーもまた跳躍して姿を消し、残されたのは変身解除するゲイツとその傍らに立つツクヨミであった。

「あいつら…ウォッチを持っていたという事は…」

 ゲイツの言葉に頷くツクヨミ。事態を察した2人はソウゴ達の後を追い走り出した。

「ふぅ〜、危なかったぁ。2人とも大丈夫!?」

 ひと段落着くとジオウが後部座席に乗せた2人の安否を確認する。

「あぁ、俺は大丈夫。でも翼は…」

 疾風が返答するも当の翼は俯いている。

「えっ!?大丈夫、何かあったの!?」

「気持ち悪い…」

 翼は青ざめた顔で口を抑えながら何とか呟いた。

「こいつ乗り物酔い激しくて…」

「えぇぇぇ!!ごめ〜〜〜ん!!!」

 路上を駆け抜けるバイクの走行音と共にソウゴの声がこだまする。その後急いで停車したのは言うまでもない。

 

 

 一方その頃、ゲイツ達の元を離れ逃げ延びたアナザーライダーが何処かの高層ビルの屋上に辿り着く。

 吹き込む風に煽られながら怪人の姿から普通の工事現場で働く作業員に姿を変える。

 アナザーライダーになった作業員__落合は気を落ち着かせる為深呼吸を取ると彼の前に1人の男が現れる。タイムジャッカーのツァイトである。

「どうも、どうやら順調のようですね」

 ツァイトがそう言って落合に向けて近況報告を尋ねる。

「あぁ、何とか今日までやれている。だが…」

「やはり彼らが気掛かりですね」

 ツァイトが眼鏡を指で動かす仕草を取ると、再びタブレットをちまちまと弄り始める。彼らとは勿論ソウゴ達ライダーの事である。

「しかし、問題ありませんよ。何故なら貴方様は仮面ライダーフリーゲルの力を持った"アナザーフリーゲル"なんですから」

 

 遡る事1年前、2017年。

 落合は建設作業員としてクレーンを扱う作業を行なっていた。

 何事も無い筈の仕事の中、それは突然起きた。

 ほんの一瞬気を逸らした間に突然クレーンが支えていた鉄骨が落下したのだ。

 落下した鉄骨は建設中の建物に当たり、その衝撃で何本か柱が倒れる。やがて周りの支えが崩れていきー

 落合はその瞬間で時間の流れから隔離された。崩壊する建造物が空間で静止し続け、替わりにこの場所に相応しく無い服を着た中年の男が立っている。

「あんた一体…?」

「私、タイムジャッカーのツァイトと申します。どうやらお困りのようですね」

 ツァイトはその陰気な雰囲気とは打って変わって、素早い動きで足場の悪い鉄骨を渡り歩く。

「正直に申し上げますと、このままですと貴方様は甚大な被害を受けると共に建設会社にも多大なる損失を被る事になります」

 状況が飲み込めない落合に対しツァイトは一方的に淡々と話し続ける。

「しかし私なら貴方様を助ける事が出来ます。どう致しますか?」

「た、頼む…助けてくれ…」

 しかし、自分のせいで自分が今飛んでない事に巻き込まれているのを理解した彼は縋るようにツァイトに頼み込んだ。

 そんな反応にツァイトは満足そうに頷くと、おもむろに彼の周りをぐるぐると回りながらタブレットにある情報を読み上げ始める。

「うんうん…"プラモデルのように物を組み立てる建築士"。"中年男性"で"乗り物に乗って仕事している"」

 そして落合の後ろに立つと耳元に向かってわざとらしく小声で呟いた。

「何よりも…"自分の事にしか頭に無く、他者に無関心"なところ…気に入りましたよ」

 ツァイトがブランクウォッチを取り出すと、たちまちウォッチに変化が生じる。

「では、参ります」

 姿を変えたアナザーウォッチのボタンを押し起動すると、落合の背中を押し破って体内に取り込ませた。

「今日から貴方様が、仮面ライダーフリーゲルです…」

 ウォッチを押し込まれた落合の体が邪悪なオーラに包まれ、やがて醜悪なロボットを模したような姿が露わになる。

『フリーゲル…』

 かくして落合はアナザーフリーゲルとなり、事故の真実を揉み消す為その時の事故に関わっている作業員達関係者を1年に渡って次々と襲っていき今に至るのだった。

 

 

 ソウゴ達は近所の公園にまで来ていた。

「翼、疾風。さっきのウォッチの事なんだけどさ」

「「え?」」

 ソウゴの言葉に2人は今まさに気付いたかのようにポケットを探るとウォッチを取り出した。

「あれ?」「何だこれ?」

「2人がこれを持ってるって事は…君達、もしかして仮面ライダーだったの?」

 ソウゴが疑問を口にするが当の2人は全く話が理解できたいないようだった。

「えっと…仮面ライダー…?って何ですかね…?」

 翼と疾風の明らかな違和感にソウゴが気付く。

「もしかして2人ともまた記憶を失ってる…?」

「どうやらそのようだな」

 不意に後ろから声が聞こえ、振り向くとゲイツとツクヨミがこちらにやって来ていた。

「ゲイツ、ツクヨミ…」

「理由は分からんが、とにかくそのウォッチがあればあのアナザーライダーを倒せるかもしれん」

「2人ともそのウォッチを私達に渡してくれるかしら?私達があの怪物を倒す為に必要なの」

 ゲイツとツクヨミは翼と疾風の前に立つとウォッチを渡すように頼む。しかし…

「俺らには詳しい事はよく分からない。けど…」

「只、貴方達がこの力を正しく使ってくれるかどうか分かるまではこれは渡せません」

 そう言って翼達はウォッチを仕舞うとソウゴの前に立つ。

「ソウゴさん。貴方は前に困っている人をほっとけないと言ったし王様になるとも言っていた。そんな貴方が何故あの怪物と戦っているのか、その理由を教えて下さい」

「え?」

 突然の翼の言葉にソウゴは困惑する。

「きっとこれが何かの力で、あの怪物を倒すのに必要なのだろうと言う事は分かる。でも、ただ力で捻じ伏せるだけだって言うならこの力は渡せない」

「僕達はさっきのプラモデル屋で待ってます。答えがまとまったらそこに来てください」

 そう言って翼と疾風はソウゴ達の元を去っていった。翼の言葉の意味を考えるソウゴに対してゲイツとツクヨミは頭を悩ませた。

「向こうから渡してはくれないか。仕方ない、先にアナザーライダーの出所から探るか」

 強硬してウォッチを取ることは出来ないゲイツ達は、翼達とは反対方向の道を歩こうとしたところ突然声を掛けられる。

「その必要はないよ」

 あたりを見回すと、路上の木陰からウォズが現れる。

「うわっ、また出た!」

「ウォズ…」

 ソウゴとツクヨミがそれぞれの反応を示す中、対するゲイツは目に憎悪を滾らせ拳を強く握ると突然ウォズに殴り掛かる。

「貴様…どの面下げて出てきたァ!!」

 しかしウォズは華麗に攻撃を躱し逢魔降臨歴を広げる。

「この本によると2017年から今回の事件は始まったと書いてある」

「2017年?」「そういえば、あのアナザーライダーにも2017年と書かれていた」

 ウォズの話を聞き、合点がいくソウゴとツクヨミ。しかし、先程避けられたゲイツは不満そうに立ち上がるとウォズの前に立ち高圧的な態度を取る。

「貴様の言う事など信じられるか。大体俺達にそんな事を教えて何の為になる」

「別に私は君達の為に言っているのではない、我が魔王に助言をしているだけだよ」

 しかしそんな威圧に流される事なくウォズは飄々と言い放った。

「さぁ、後はウォッチを手に入れアナザーライダーを倒すだけだよ。我が魔王」

 すると突然公園の近くに停められた車のランプが一人でに点灯したかと思うといつの間にかウォズは消えていた。

 次から次へと物事が続き困惑するゲイツとツクヨミに対して、ウォズから与えられた情報も含めソウゴはこれからの行動を考えてると2人に言った。

「ツクヨミ、ゲイツ。2人は先に2017年に向かってくれる?俺は翼達からウォッチを貰ってくる」

「何?」

「ウォッチを貰ったらすぐに俺も2017年に行く。だからそれまでアナザーライダーを持ち堪えてくれるかな?」

 ソウゴの提案にゲイツは眉をひそめるが、一方ソウゴは真っ直ぐな目で2人を見つめている。しかし、今この現状にとって自分達では拉致が開かないと判断したゲイツ達はソウゴの考えを受け入れた。

「良いだろう、だがお前を信じる訳じゃない。状況を打開する為にお前を利用するだけだ、良いな」

 念入りにそう言うゲイツにソウゴは満面の笑みで頷く。

「うん、分かってるよゲイツ」

 

 

2017年

 この時代、人々の平和を守る為人知れず戦っている者達がいた。街を暴れ回るのは結晶型の体組織を持つ怪人・アクロム。通常兵器が一切効かない彼らに対抗する為に専用組織のサポートの元、翼と疾風は勇敢に立ち向かっていた。

2人はアクロムの前に立つとベルトを装着し、プラモデルのライナー型のアイテムを起動する。

《WZ-R-03 フリーゲル!》

《WZ-R-02 イカラス!》

「「変身!!」」

《ビルドアップ! フリーゲル! ウィンガー ソード!》

《ビルドアップ! イカラス! ウィンガー バレット!》

 ベルトを操作して翼はフリーゲル、疾風はイカラスに変身する。ライダムと呼ばれる彼らは唯一アクロムに対抗する事ができる力を持っている。

 フリーゲルはシンプルに武器や装甲を見に纏った騎士のような姿に対して、イカラスは変形機構を持つ戦闘機のようなフォルムを兼ね備えている。それもその筈イカラスは巨大な戦闘機のような形態に変形でき、乗り物に乗ることができない翼を乗せて飛行する移動手段も兼ねているのだ。

「飛山翼、目標を完成させます」

「行くぞ!翼!」

 変身完了した2人はアクロムに向かっていき攻撃を加える。

 激しい攻防の末、距離を取ったフリーゲルが、アクロムを必殺技で叩こうとベルトを操作する。

[ヒッサツビルド!フリーゲル!コンプリートフィニッシュ!]

 そして、飛び上がりキックを放とうとした瞬間__突然目の前のアクロムが一人でに爆散した。そして爆炎が晴れた先には、見慣れない異形の存在が立っていた。そう、アナザーフリーゲルである。

「何だあいつ…?」「アクロムを倒した…って事は彼もライダムなのか…?」

 突然の事態に2人が困惑する中、アナザーフリーゲルは今度は翼達に狙いを変え襲い掛かってくる。急に矛先を向けられた2人は不意を突かれアナザーフリーゲルに対して防戦一方となる。今まで数多くの戦いを潜り抜けてきた彼らには、そこまで苦戦するような相手では無いのだが徐々に異変が現れ始めたのに気付く。

「何だこれ…力が抜けていく…?」

 フリーゲルとイカラスの体にノイズが走り始め、変身が維持できなくなっていた。それもそのはずアナザーフリーゲルが生まれた事によって、フリーゲルの歴史が塗り替えられ始めていた。

 突然現れた謎の怪人と体に起こる未知の現象。

 これらの要素によって翼達は戦闘を継続できなくなっていき、やがて光の粒子となって強制的に変身が解除されてしまう。しかし、アナザーフリーゲルは攻撃を止めない。生身の翼達に凶刃が振るわれそうになった時、

『タイムマジーン!』

 突然横から巨大な乗り物が通り過ぎ、アナザーフリーゲルを吹っ飛ばす。中から現れたゲイツとツクヨミはすぐ様状況を整理する。

「どうやら、やはりこの時代であっているようだな」

 先程吹っ飛ばしたアナザーフリーゲルと対面するとゲイツはウォッチを起動して変身し向かっていく。

 

 

 一方現代。2018年。

 ソウゴは翼達に言われた通り、件のプラモデル屋に来ていた。

「来ましたね、ソウゴさん」

 翼と疾風が迎え入れる。

「先程の質問、答えて貰っても良いですか?教えて下さい、ソウゴさんは何の為に戦っているんですか」

 翼が投げかける質問に対しソウゴは素直に答える。

「俺には王様になりたいっていう夢がある。でもそれは元を正せば世界を良くしたいから、みんなが幸せでいて欲しいから王様になりたいんだ。例え王様じゃなくっても困っている人、苦しんでる人をほっとくなんて出来ない。人々を守る為に俺は戦ってるんだ」

「人々を守る為…ではもしもその平和を脅かす敵が僕らと同じ人間だったとしたら…ソウゴさんはどうしますか?」

 ソウゴの答えを受けさらに翼が質問を重ねる。

「僕らが人助けをするのも、勿論誰かを救いたいからです。ならもし敵側にも事情があって仕方なくやっているとしたら、ソウゴさんはどうしますか」

 事実、今回戦っているアナザーフリーゲルも過去に自分が犯した過ちによって、他に手がなく暴れているに他ならない。

 そんな者たちをどうするのかという問いに、ソウゴは先程と同じようにはっきりと答えた。

「なら勿論そっちも助ける!俺が王様になった時はみんなが俺の民だから。俺ができることがあれば手を差し伸べたい!ゲイツもツクヨミもそれは一緒だから」

 胸を張ったソウゴの答えに翼達は納得したように頷いた。

「そうでしたか、それを聞いて安心しました。このウォッチは貴方達に持つ資格があるようですね」

 そう言って翼と疾風がウォッチを取り出す。翼の持つウォッチは汚れのない白を基調とした色をしており、一方疾風は澄んだ空のような青々としたウォッチを握っている。

「ソウゴさんならきっと良い王様になれますよ」

「後のことは任せたぜ」

 ソウゴはウォッチを両手に握りしめ翼と疾風に礼を言う。

「ありがとう!翼、疾風!」

 ソウゴはプラモデル屋を出るとタイムマジーンに乗り込みゲイツ達が戦う2017年に飛んだ。

 そんなソウゴの背中を翼と疾風は静かに見送った。

 

 

2017年

 ゲイツがアナザーフリーゲルと戦うがやはりその戦法に苦戦していた。

 アナザーフリーゲルの周りに再びライナーが現れ自動的に武器が組み立てられる。今度は長槍とさらに巨大な盾を手に取りゲイツを押していく。

「くっ…、やはりウォッチが無いと倒せないのか…!」

 それでも何とか耐え続けるゲイツ達の前にソウゴのタイムマジーンがやって来る。

「ゲイツ!ツクヨミ!お待たせ!!」

「遅いぞ!ジオウ!」

 ソウゴはすぐ様ドライバーを装着しウォッチを起動し変身する。

「変身!」

『ライダータイム!仮面ライダージオウ!』

 ジカンギレードを握りアナザーフリーゲルを退けるとゲイツの横に並ぶ。

「ゲイツこれ」

 そう言ってジオウがイカラスのウォッチを渡す。

「…いいのか?貴様」

「あいつを倒すにはゲイツの力も必要なんだ」

 ゲイツは暫しジオウを見つめると黙ってウォッチを貰う。

「仕方ない、手を貸してやる」

「よしじゃあ俺も!」

 ジオウがもう一個のウォッチを起動する。

『フリーゲル!』

 そして、ジクウドライバーにはめるとベルトを一回転させる。するとジオウの前にフリーゲルも模したアーマーが召喚されやがてジオウの体に装着されていく。

『アーマータイム!ビルドアップ!フリーゲル!』

 フリーゲルを意識した白い機体が所々に点在し、肩には巨大なライナーがそのままくっついている。両手にはビームソードと盾が予め腕に一体化しており、そして顔の複眼にはでかでかと"フリーゲル"の文字が並んでいる。

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ・フリーゲルアーマー。また一つ、ライダーの力を継承した瞬間である!」

 すかさず何処からともなくウォズが現れ祝う。

 翼は自分が見慣れた姿のジオウに寄って行き、自分達の思いを託す。

「僕らの代わりに…お願いします!」

「うん!よーし…常盤ソウゴ!目標を完成させちゃってみます!」

 ジオウとゲイツがアナザーフリーゲルに向かって駆け出す。

 アナザーフリーゲルは盾をビームライフルに変え抵抗するが、フリーゲルアーマーの盾に跳ね返され長槍はゲイツによって払い落とされる。

 再びビームソードと盾を召喚し2人に斬りかかるものの同じビームソードに太刀打ちされ、斬り合いの末敗北する。

「これで決める!ゲイツ!」

 ジオウに呼ばれたゲイツはジカンザックスのゆみモードにイカラスのウォッチを付ける。

『フィニッシュタァイムッ!』

『イカラス!ギワギワシュート!』

 ジカンザックスから放たれたエネルギー弾が戦闘機形態に変形したイカラスに形を変え空中を旋回する。それに合わせてジオウもウォッチを起動し必殺技の態勢に移る。

『フィニッシュタイム!フリーゲル!』

 ジクウドライバーを回すと肩に付いているライナーが巨大化して飛び出し、アナザーフリーゲルをライナーに付いたプラモデルの部品のように絡めとり固定する。

『コンプリート!タイムブレーク!』

 ジオウが飛び上がりイカラスのエネルギー弾の上に着地すると、そのまま勢いよく滑空しアナザーフリーゲルに突撃していく。

 そして直前で乗り捨て、イカラスのエネルギー弾がライナーに固定されたアナザーフリーゲルにぶつかり大爆発を引き起こす。

「えぇ…」「あんな攻撃だったっけ…?」

 当のイカラス本人とそれに乗る翼は複雑な表情を見せた。

 爆発が止むと作業員の落合の姿に戻り、横でアナザーウォッチに電撃が走りそのまま砕け散った。

 翼と疾風はすぐ様落合に駆け寄りゆっくりと起こした。

「俺は…今までなんて事を…」

 落合が罪悪感に駆られる中ソウゴが声を掛ける。

「大丈夫です。1人で背追い込まないで誰かを信じてあげてください。見ず知らずの貴方でも手を差し伸べてくれる人は必ずいますから」

 そう言ってソウゴが翼と疾風の方を向く。2人もそれに気が付くと笑顔で頷いた。

「あ、それと2人とも…、これ預かって貰えないかな?」

 すると思い出したようにソウゴがブランクウォッチを2人に渡す。訝しむように見つめる翼達にソウゴの言葉を付け足す。

「俺を助けると思ってさ」

 ソウゴの言葉に2人は顔を合わせるとすぐに向き直り答えた。

「分かりました、これは僕達が預かっておきます」

 こうして未来でソウゴと翼達を繋ぐ絆が出来上がったのだった。

 これで一件落着とソウゴが立ち上がってゲイツ達の元に戻ろうとする。その時、

「成る程、まさか倒されてしまうとは。これは驚きです」

 突如周りの時間が停止してソウゴ達が辺りを見回すと物陰に不審な男が立っていた。

「タイムジャッカー!?」

「初めまして。私、タイムジャッカーのツァイトと申します」

 ツァイトが深々と会釈をするとタブレットを弄り始めた。

「しかし、幾ら魔王といえどもここまでの実力を発揮するとは、正直みくびっていましたね。これは少し対策が必要なようです」

 一方的に話すツァイトに対してソウゴとゲイツは黙って様子を伺っていた。

「ただ、良いデータも取れましたし、これはこれで良しとしましょう。ではまたお会いしましょう、"オーマジオウ"様」

 それだけ言うとツァイトが再び木陰に姿を消し時間停止が解除された。ソウゴとゲイツは暫くツァイトのいた空間を凝視し続けるのだった。

 

 

 学校の下校中、迷子の少女を助ける翼と疾風の姿があった。

仮面ライダーの力を失った翼達だったが、その信念までは変わらず、彼らは彼らの歴史を歩み続けている。

 

 

 

かくして仮面ライダーフリーゲルの力も手に入れた我が魔王。彼の覇道は順調に進んでいるようです。

そして、そんな我が魔王達の近くに次なるレジェンドの足音が聞こえてくる。

 

 

 晴れた空。運動着姿で両耳にイヤホンを挿しランニングをする少女がいる。

 彼女__木村乙音はウォークマンから流れる音楽に合わせて、快活なリズムで河川敷を走り去っていった。




これにてフリーゲル編は完結となります!
今回は本編のビルド編・エグゼイド編を意識したようなシンプルなエピソードとなりましたが、ジオウにおける客演は幾つにも分かれたパターンが魅力だと思うので、これからは色々な形式をやっていきたいと思います。
次回は天地優介さんの作品「仮面ライダーソング」よりソング編となります!
次回もお楽しみに!


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ソング編
IF03「シンガー・ソング・ライダー2018」


今回は天地優介さんの作品「仮面ライダーソング」よりソング編となっております!
前回とはまた違った客演をお楽しみください!
天地優介さん、使用許可ありがとうございます!
https://syosetu.org/novel/126994/


ーこの本によれば、普通の高校生・常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

仮面ライダーフリーゲルこと飛山翼達と出会いフリーゲルの力を手に入れた我が魔王。その後フォーゼ、ファイズ、ウィザードと順調にレジェンドの力を継承していくのだった。

そして、次に出会うレジェンドに触れるのは我が魔王でも明光院ゲイツでもなく…

 

 

 

「デュッフフフ…」

 とあるビルの屋上。巨大なパラボラアンテナが目立つその場所に腰掛けながら、ツァイトは一人タブレットを弄っては下品な笑いをあげていた。

「随分と楽しそうだな、ツァイト」

 しかし、後ろから不意に声を掛けられるとたちまち顔は引きつり、背後に立つ気配に背筋が凍りながら恐る恐る首を回す。

「ス、スウォルツさん…」

 振り向いた先には彼の(一応)所属するタイムジャッカーのリーダー的存在、スウォルツの姿があった。その切れ長の冷淡な瞳に視線を合わせると、ツァイトはたちまち萎縮しオドオドとタブレットを仕舞おうとする。

 そんなツァイトに対して、スウォルツは嫌味たらしく口を開いた。

「どうした?気にせず続けて構わんぞ?只我々の目的を忘れた訳ではあるまいな。遊んでばかりも結構だが、そろそろ新たな王を擁立してもらわんとな?」

 スウォルツは前に回り込むと、横目でツァイトを見下しながらネチネチと話を続ける。

 そんな威圧を掛けられながら、ツァイトは顔を流れる冷や汗を拭うと精一杯の声で平静を装った。

「ご、ご安心ください…。既に手は打ってありますよ。スウォルツさんのお手は煩わせません」

 動揺を隠し切れず眼鏡をくいと上げたツァイトの言葉に、スウォルツが不敵な笑みを浮かべる。

 

 

ーもし俺がオーマジオウになると確信したら、その時はいつでも倒してくれ!二人の判断なら、俺は信用できるから

 

ーツクヨミ、俺たちはとてつもない奴を相手にしているのかもしれない 

 

 ツクヨミは一人溜息を漏らした。

 彼女はいつか最低最悪の魔王となる未来が待つ常磐ソウゴを、最高最善の魔王へと導く事を決めた。

 ソウゴ自身を倒し未来を変えようとするゲイツや新たな王を擁立し歴史を書き換えようとするタイムジャッカー達とは違い、ソウゴ自身を変えさせる事によって最低最悪の結末を阻止しようとしていた。

 しかし、それが上手くいかず彼女は現在行き詰まっていた。

 魔王の素質があるだけあって常磐ソウゴの独善性というものは強く、ツクヨミは逆に振り回されてばかりであった。

 また、前回のアナザーウィザードとの戦いで、ゲイツもまたソウゴの持つ底知れない強さに触れ珍しく苦言を呈する始末であった。

 故にツクヨミは自分が本当に、常磐ソウゴを最低最悪の魔王にならないように導けるのか、不安を感じていた。

 そんな悩みを抱え物思いにふけるツクヨミに対して、当のソウゴは本人の気も知らずに気楽に声を掛けるのだった。

「ツクヨミどうしたの?そんな難しい顔して」

「ううん、何でもない」

 そう言って笑顔を作るも、ゲイツはツクヨミに映る深刻な表情を見逃さず黙って視線を向け続ける。

 そんな中、順一郎が奥の部屋からやってくると台の上にドンと何かを置く。

「いや〜、ようやく直った」

「あれ?叔父さん、それラジカセ?」

「うん、この前依頼があったラジカセがようやく直ったんだ。うち時計屋なんだけどね…」

 そう言って順一郎はいつものように顔をしかめる。そうは言いながらも達成感を露わにしながらラジカセのスイッチを起動し始めた。

「動くかな〜」

『…続いての曲は、心 刀奈で「Destiny change」…』

 音量を上げていくと、幾分綺麗な音声でラジオが流れ始めた。偶然聞こえた内容に順一郎が話題を振った。

「おっ、刀奈ちゃんだ。良い曲だよね〜、叔父さん結構ファンなんだ」

「えっ、誰?心 刀奈って」

 順一郎の言葉にソウゴが疑問を口にする。ゲイツとツクヨミに顔を向けるも、二人とも首を横に振る。

「あれ?ソウゴくん達知らない?最近の若い子に人気だと思うんだけどな〜」

 順一郎は驚きながらも思い出した様に話を進めた。

「そういえば最近この子の所属する事務所で変な噂が出てるんだよね」

「変な噂?」

「うん。この事務所のオーディションを受けた子達が行方不明になってるんだって。何人かの子は見つかってるらしいんだけど、みんな決まって声が出なくなってるらしいよ、何か怖いよね〜」

 ラジカセの音を確認した順一郎はそう言って部屋に戻っていった。

 一方、その話に何処か心当たりのあるソウゴ達は同時に顔を見合わせた。

 

 

「ミライプロ、心 刀奈を初め実力派の人気アイドルが多数所属するアイドル事務所ね」

 ソウゴ達は外に出ると、先程の話にあった事件を調べ始めた。ツクヨミがタブレットを使い、詳しい情報を集める。

「2017年からこの事務所が開くオーディションで毎回何人かの子が事件に巻き込まれてるみたい」

「やはりアナザーライダーの仕業か。詳しく調べてみる必要があるな」

 ツクヨミの話にゲイツが腕を組みながら答えるとソウゴが今後の方針を語る。

「うん、オーディションに潜入してアナザーライダーが関わっているかどうか調べよう!」

 そう言って早速行動に移ろうとするソウゴにツクヨミが声を出して止める。

「待って、観てこれ」

 ツクヨミが指差す先には"14歳から25歳の女性対象"と書かれている。

 その文が示す意味に三人は顔を合わせて考え込むが、すぐにソウゴがツクヨミに提案を持ち込む。

「ねぇツクヨミ、このオーディションに参加してくれないかな?」

「えぇ!私が?」

 突然の発言に流石のツクヨミも驚くが、対するソウゴはもはや当然と言うように話を続ける。

「うん、俺もゲイツもオーディションに参加できないからツクヨミに参加者として中から情報を集めて欲しいんだ」

「でも、私歌なんて歌った事ないし…」

 何処か思う所があるのか、ツクヨミは否定的な反応を見せるがソウゴは顔を覗き込んでくると笑顔を見せ後押しする。

「ね?良いでしょ?」

「…分かったわ」

 ツクヨミはソウゴに言われるがままに頷いてしまった。

 

 

 オーディションに無事エントリーしミライプロに潜入したツクヨミ。オーディションを行う会場まで長い廊下を他の参加者と共に移動する中、ツクヨミは事務所内に何か不審な物は無いか、怪しい人物はいないか入念にチェックしていた。事務所の壁には所属している様々なアイドルのポスターが貼られており、順一郎が話していた心刀奈を始め男性アーティストから女性ダンサーまで幅広い人材が紹介されていた。

 その途中、ふと目に止まったポスターがあった。そこには新人アイドルが掲載されており、この事務所の現在の一押しなのだという。

 『木村乙音』。ツクヨミは自然とその名を目で追っていた。

 しかし、すぐに気を取り直しツクヨミはついにオーディション会場にたどり着いたのだった。

 

 

 一方その頃、ツクヨミがオーディションに参加している間ソウゴとゲイツは事務所周りの探索していた。

 事務所内はツクヨミがいる為、万が一内部で異変のあった時はすぐ様駆けつけれる様になっていた。

 しかし、仕方ないとはいえソウゴと共に行動する事にゲイツは少々不満そうであった。

「しかし、なぜ俺がお前と行動しなければならないんだ」

「だって仕方ないじゃん、オーディションに参加できるのはツクヨミだけなんだからさ。俺達は俺達でやれる事をやるだけだ!行くよ、ゲイツ!」

 対してソウゴはむしろ楽しそうであり、乗り気でないゲイツに発破を掛けると張り切って事務所周辺の張り込みを行っている。

「仕方ないな」

 ゲイツは溜息を付くもソウゴの後を追いかけていった。

 

 

 ところ変わってオーディションでは。

 会場に到着したツクヨミ達参加者はその後6人ごとのグループに分けられるとそれぞれの個室に案内され、一人一人が数人の審査員の前で歌声を披露するというものであった。

 ツクヨミは緊張しているものの、やるからには全力でやる事を決め個室に入っていった。

 

 その時、何処かで悲鳴が響き渡った。

 ソウゴとゲイツが慌てて駆けつけた時には、審査が終わり外の休憩所でひと段落していた参加者達が異形の怪物に襲われている最中であった。

 白く機械的な身体をしており所々丸みを帯びているが、頭部にはぐにゃくにゃに捻れたヤリが生えておりボロボロの腰布を纏っている。

 胸元は僅かに膨らんでおり体つきは全体的に女性を思わせるラインをしている。そこには『2017』『SONG』の文字が刻まれている。

 そして、口は大きく開かれ耳まで裂けており、仮面の奥に薄らと映る見開かれた両眼も相まって悲痛な表情を思わせる姿をしていた。

 その巨大な口が、胸ぐらを掴んで持ち上げている女性の口から七色の光を吸い上げていた。

 この光景にすぐ様ソウゴとゲイツはウォッチを取り出し戦闘態勢に入る。

『ジオウ!』『ゲイツ!』

 ジクウドライバーに起動したウォッチを挿すとそれぞれの待機音が流れ始める。その音に釣られて怪人__アナザーソングは振り向いた。

「「変身!!」」

『『ライダータイム!』』

『仮面ライダージオウ!』『仮面ライダーゲイツ!』

 変身完了するや否や、二人はアナザーソングの元に駆け出した。

 襲われている参加者達から引き剥がすと、敵に一切反撃の隙を与える事なく殴る蹴ると攻撃を加えていく。

 対するアナザーソングは余り戦闘慣れしていないのか、一方的にやられっぱなしでありジオウ、ゲイツのダブルパンチに遠くまで吹っ飛ばされる。

「大した強さじゃないな」

 相手の力量を見極めた二人は一気に必殺技で畳み掛けようとするものの、突然アナザーソングが立ち上がりその開かれた口から絞り出す様に金切り音のような声を発し始めた。

 

《ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!》

 

 いきなり聞こえ始めた不協和音に二人は対処できず耳を押さえて悶絶する。

 その隙にアナザーソングは姿を消してしまった。

 音が止んだ瞬間にその事に気付いた二人は、渋々変身を解除した。

「今のアナザーライダーがやっぱり事件に関わってるんだ…ツクヨミにも知らせなきゃ!」

 ソウゴがすぐにファイズフォンXを使って連絡を入れようとする。

「ツクヨミもうオーディション終わったかな?まさか合格してたりして…」

「いや、それは恐らく…」

 ソウゴが呟いた言葉に思わずゲイツが思いを口から溢す。

「え?どういう事ゲイツ?」

 ソウゴに尋ねられ少々気不味そうな顔した後、ゲイツは口を開いた。

「ツクヨミは…」

 

 

 オーディションではついにツクヨミの番に回っていた。審査員が鋭い目でツクヨミを舐めるように見回すと一つ質問をした。

「では何か歌を一つ歌ってみてください」

 唐突かつ難儀な内容にツクヨミは一瞬たじろぐもののすぐに意を決める。

「はい、では」

 そう言って深く深呼吸すると己の歌声という歌声を喉奥まで引き摺り出し、ツクヨミは発した。

「と"き"の"こ"え"〜に"み"〜み"を"〜す"ま"せ"ば〜↑↑↑」

「はい、もう結構です」

「え"」

 それは一瞬の事であった。

 ツクヨミの口から放たれたその異音は、思わず後ろにいた他の参加者が耳を押さえる程であり、審査員も一瞬後ろにみじろぐものであった。

 すぐ様止められ、思わずツクヨミは唖然とした。

 そう、ツクヨミは歌が下手だったのだ。

 

 

 クジゴジ堂にてうなだれるツクヨミ。

 アナザーソングと交戦した後ツクヨミを迎えにいったソウゴ達だったが、そこで待っていたのは茫然自失とした変わり果てた姿であった。

 先の歌声で結果は当然落選。見事に惨敗したツクヨミはこうしてクジゴジ堂までこの調子であった。

 そんなツクヨミにソウゴとゲイツはしどろもどろにフォローを入れ励まそうとする。

「あぁ…、なぁツクヨミ。今から他の方法を探さないか?」

「うんうん…!ちょっとこれは難しいっていうか、ちょっと無謀だったしもうやめようか…」

「嫌!私諦めないから!」

 そう言う二人に対して、顔を上げたツクヨミは涙目ながら意地になって食い下がる。

 そんなツクヨミを何とかなだめようとソウゴが両手を広げて優しく問い掛ける。

「いや、でもね?何というかハードルが高すぎるというか、道のりが険し過ぎるっていうか…」

「う"る"さ"い"!!二人はアナザーライダーの居場所見つけておいてッッッ!!!!」

「「はいッッ!!」」

 思わず出たツクヨミの怒号にソウゴとゲイツは直立不動の態勢を取り、そろって仲良く返事をするのだった。

 

 

 ツクヨミに言われアナザーソングの手掛かりを見つける為に外を歩き回る二人。ソウゴがツクヨミに関する質問をゲイツにぶつける。

「ねぇ、ツクヨミって何であんなに向きになってるの?」

「アイツは昔から負けず嫌いだからな」

 ソウゴの問いにゲイツが答える。

 

 レジスタンス時代。

 荒廃した岩場でゲイツとツクヨミは射撃の訓練をしていた。

 数メートル離れた先にある岩を的にファイズフォンXを発射する2人。

 ゲイツはそこそこ命中するものの、ツクヨミは全く当たらない。岩に擦ることもあれば全く見当違いの場所に飛んでいくこともある。

 そこでツクヨミはその日の夜まで休みなく、ひたすら練習を続けていた。

 どんなに上手くいかなくても決して諦めることなく、黙々と鍛錬を重ねていく。

 やがて精度が上がっていき、気付けば思い思いの場所にしっかり狙撃できるようになっていた。

 そんな必死に努力するツクヨミの姿を、ゲイツはずっと見てきていた。

 

 そこまでゲイツが話すとソウゴは路上で飛散した荷物を必死に拾っている少女と出会う。すぐに駆け寄っていき何を言うにも無しに荷物を拾い集めるソウゴ。

「はい、これ。大丈夫?」

 荷物を渡された少女は一瞬そわそわとするも、荷物を受け取ると深く頭を下げた。少女はまだ早いと言うのにも関わらず首にマフラーを巻いており口元まで隠していた。また、何処か痛むのか身体中をさすっていた。

「君、ここら辺の子?具合悪そうだけど大丈夫?」

 変に思ったソウゴは純粋な優しさで尋ねるも、少女は目を合わせず声も出さない。その内少女は荷物から紙とペンを取り出すとサラサラと文字を書き記しソウゴに見せる。

『私、声が出せないんです』

 その内容にソウゴがはっとすると、すぐに優しい笑顔を向け少女に語り掛ける。

「そうだったんだね、大丈夫。そんな不安にしなくていいよ。俺常盤ソウゴ、君は?」

 少女は今度は身分証明書を見せた。

「音無カレン…カレンちゃん、よろしくね」

 ソウゴはカレンに対して何も扱いを変える事なく普通に接した。

 

 

 とある広い河原で、ツクヨミは溜息を付いて座り込んでいた。

 先程は意固地になってしまったが、何もオーディションに合格したい訳では無かった。しかし、ソウゴの事に関して悩んでいる今、何かをやり遂げる事無く諦めるという事はツクヨミはしたくなかった。

 これからの事に対する不安と自身の歌声に対する不満とが積もりに積もって、ツクヨミは思わず立ち上がると遠くの橋に向かって大声で叫び始めた。

「あ"!え"!い"!う"!え"!お"!あ"!お"!」

 彼女なりの発声練習なのだが、突然の大声に道ゆく通行人は驚きのあまり距離を取ってしまうのであった。

 しかし一人だけ、その声に導かれツクヨミに近づく者がいた。

「貴女…もしかしてオーディションに出てた子?」

 声を掛けられツクヨミが振り向くと、そこには首にタオルを巻き運動着姿でランニングをしていたであろう少女の姿があった。それだけ見れば何の変哲も無い普通の人なのだが、彼女は何処か他の人には無い自信と輝きを持っている様に感じられた。その顔に見覚えのあるツクヨミは記憶を振り返っていくと思わず声を上げた。

「…もしかして、木村乙音?」

 名前を言われたのが嬉しかったのか、乙音は照れ臭そうに笑った。

 

 

 ソウゴ達は声の出ない少女、カレンと出会い公園で腰を下ろしていた。

「そうか、カレンちゃんは歌が好きだったんだね」

 彼女曰く昔から歌が大好きで将来はアイドルになるのが夢だった。憧れの夢を叶える為に、小さい頃から頑張り続けてきたという。

 そして、ついにオーディションに出られるという時に彼女は事故に遭った。

一命は取り留めたものの、喉への負傷が酷く彼女は一番大切な声を失った。

 ソウゴはカレンの話を聞き、心を打たれると彼女に優しく寄り添うのだった。ゲイツもまた、本来は時間の無駄だと言うところを彼女の話を聞き流さず、同情の眼差しを向け複雑な表情を作った。

 カレンも話を聞いてもらい僅かでも気を落ち着かせたのか、ベンチから立ち上がるとソウゴとゲイツに深々と礼をしそのままトボトボと公園を後にしようとした。

 そんな彼女の背中を見送るソウゴは不意に言葉を呟く。

「あの子みたいに声を失うって事は、とっても辛い事なんだ。そんな悲劇を生むアナザーライダーは絶対に止めないと」

 ソウゴは強く決意を胸に語る。ゲイツもまたソウゴの意見に賛同したのか無言でソウゴの横に並んだ。

 すると公園の近くで路上ライブが始まっていた。大人びた女性がギター片手に弾き語りをしており、何人か客が集まっている。

 その光景に気付くと公園を出ようとしたカレンがたちまち動きを止める。大事に持っていた荷物を落とし、目には憎悪を滾らせている。

 カレンの違和感に気付いたソウゴとゲイツだったが、次の瞬間カレンが紫のオーラに包まれ異形に姿を変える。

『ソング…』

 カレンの本来の背丈から幾分か高くなり、女性的なフォルムが強調された醜い姿が露わになる。間違い無く、先程事務所近くでソウゴ達と交戦したアナザーソングであった。

 見開かれた瞳でライブの人達を凝視すると、身体を震わせ彼らに襲い掛かる。人々は怪人に気付くとライブそっちのけで逃げ惑いはじめた。

 その光景に信じられず、二人は暫く立ち竦んでいた。

「そんな…カレンがアナザーライダーだったなんて…」

 しかし、罪のない人々が襲われているのを見過ごす事は出来ず二人は同時にウォッチを起動しジクウドライバーにはめ込む。

「「変身!!」」

 アナザーソングは弾き語りの女性を掴むと、大きく裂けた口からボソボソと悲痛な叫びをひり出した。

『ウ…タイ…タイ…』

 しかし、ジオウとゲイツが止めに入ると女性を離す。

「やめてカレン!そんな事しても何にもならない!!」

 だが、今の彼女には何も聞こえない。口に手を当てると前回以上の高周波を発する。

 

《キィッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!》

 

 近くの物が振動で倒れ、その音にもはや二人の声ですらかき消される。

 

「ジオ…!…ーマーを付けろ…!」

 

 しかし辛うじて聞こえたゲイツの助言にソウゴが気付き答える。

 

「分…った!」

 

 二人はそれぞれウォッチを取り出し起動する。

『フリーゲル!』『シャドウ!』

 迫り来る不協和音の波に耐えながらさらにウォッチをスロットに差し込みドライバーを回す。

『アーマータイム!ビルドアップ!フリーゲル!』

『アーマータイム!stand up…シャドウ!』

 二人はそれぞれアーマーを身に纏うと高周波を跳ね返し、アナザーソングに飛び掛かる。

 フリーゲルアーマーのビームソードでアナザーソングを切り裂き、シャドウアーマーの闇の力で相手の動きを止める。

 戦況が変わり二対一の不利な状況に、アナザーソングは圧倒され転げ回る。

「これで決める…!」

 ジオウが必殺技を発動する為ウォッチに手を伸ばそうとするが、直前で止まる。

 ソウゴの脳裏にはカレンの過去が浮かんでいた。

 ゲイツも同じなのか、トドメを指す事を躊躇し明らかに動揺していた。

 よろよろと立ち上がるアナザーソングを前にソウゴ達は踏ん切りが付かないでいた。

 

 

 一方ツクヨミは河原で偶然で会った少女、木村乙音と話をしていた。

「歌が歌えない…か」

「別にどうしても上手くなりたい訳じゃないけど、今のままじゃどうしても納得できなくて」

 話をする内にツクヨミは自然と乙音に今の悩みを打ち明けていた。そんなツクヨミに対して乙音は優しく言う。

「歌って別に無理してやる事じゃないからね。自分の思いとか心の音とかを気持ちのまま、自然にのせる事だから」

「でも私には…」

 そう言って俯くツクヨミに、乙音は思い付いたように手を叩いて立ち上がると楽しげに提案した。

「あ、それじゃあツクヨミちゃん。私の歌作るの手伝ってよ!」

「え?」

 こうしてツクヨミとレジェンドの繋がりが強まっていった。




という事で、今回のソング編はツクヨミメイン回と並行して行っていきます!
女性主人公の作品であるソングにヒロインのツクヨミを絡めてみました。ソングと一緒にツクヨミにもさらに愛着が湧いてくれたらいいなぁと思います。
では、次回もよろしくお願いします!


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IF04「ザ・フューチャーソング2017」

うぅ…、日曜朝9時に投稿できませんでした…

今回は原作の『仮面ライダーソング』をリスペクトした挿入歌演出を入れてみました。

使用楽曲はツクヨミのキャラソン『月の満ちる時』。《》内が歌詞となっています、
実際に流しながら読んで頂ければ嬉しいです。


ーこの本によれば、普通の高校生・常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

独想性の強い我が魔王に対し、本当に最高最善の魔王に導けるのか不安になるツクヨミ。そんな彼女が出会うのは新人アイドル、木村乙音であった。

果たして、我が魔王達は仮面ライダーソングの力を手に入れる事ができるのか。

たどり着いた先にあるメロディーを、しかと聴いて頂こう。

 

 

 

「ツクヨミちゃん、私の歌作るの手伝ってよ!」

「え?」

 乙音の突然のお願いにツクヨミは混乱した。

「ちょっと待って、私歌も歌えないのに曲を作るなんて無理よ」

 ツクヨミは慌てて立ち上がり、断ろうとするものの乙音は気にせずツクヨミの腕を引っ張り歩き出した。

「大丈夫大丈夫、きっと素敵な曲が作れるって」

 乙音の勢いに流されるままに、ツクヨミは彼女の後を着いていくのだった。

 

 一方、アナザーソングを攻撃できないジオウとゲイツ。

 彼女__音無カレンの境遇に同情する二人は、攻撃を戸惑い躊躇してしまっていた。

 その間によろよろと立ち上がるアナザーソングは、口から精一杯の高周波を発射し周りを撹乱する。

 ジオウ達はなんとかアーマーで防御するものの、攻撃を防ぎ視界が晴れた先にはもうアナザーソングの姿は無かった。

 変身を解除したソウゴは、現実の残酷さと虚しさに呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 ツクヨミは乙音に連れられ、ミライプロの控え室にやって来る。

 アイドルとしてこの事務所で活動している乙音のおかげで、ツクヨミは難無く建物に入る事ができた。

 乙音の部屋は、元々そこまで広くないとはいえキチンと清掃され置かれた物も綺麗に整頓してあり、彼女の真面目さと要領の良さが窺い知れる。

 そして壁にはよく見える位置に乙音のライブであろうポスターが貼られていた。

「ねぇ、乙音はなんでアイドルになろうと思ったの?」

 乙音がアイドルになった経緯を聞くツクヨミ。その質問に乙音は噛み締めるようにゆっくりと答えた。

「私、元々普通の高校生で、誰かの為に何かできないかずっと考えてたんだ。そしたら、この事務所の所長さんから直々にスカウトされて勇気を出してアイドルになったの。

最初は大変な事ばっかりだったし、挫けそうになった事も多かったけど、たくさんの人や頼りになる先輩達に支えられてここまで来たんだ。そして、来月初めて大きなライブを開いて貰えることになったの。

だから、今までの想いを込めた最高の曲をみんなに届けたいんだ」

 ポスターを見つめ強い熱意を込めて語る乙音にツクヨミは話す。

「だったら、尚更私なんかが曲を作っても駄目なんじゃない?」

 申し訳なさそうに答えるツクヨミに、乙音は笑顔を向けると首を横に振った。

「ううん。だからこそツクヨミちゃんにも考えて欲しいんだ。だって、今のツクヨミちゃんは過去の迷ってた私とおんなじだから。同じ共感できるところを持った人と私は一緒に作っていきたい」

 そう言って再び笑顔を見せる乙音。そんな彼女に、ツクヨミは意を決め頷いた。

 

 

 クジゴジ堂に戻ってきたソウゴとゲイツは、帰って来るなり席に深く腰掛けた。すると、順一郎が二人を出迎える。

「ソウゴくん、ゲイツくんおかえり〜ってあれ、何か二人ともお疲れみたいだね」

 二人の顔を覗き込んで心配する順一郎。

「あ、そうだレモンティー飲む?この前貰ったんだ。喉に良いらしいから、早速煎れるね」

 突然思い付くなりウキウキした調子で奥の部屋に入っていく順一郎。

 対してソウゴは順一郎の話で自然とカレンの事を思い出す。

「カレン…一体どうすれば」

 カレンを思い溜息を付くと、店を見渡しツクヨミが居ない事に気づく。

「あれ、ツクヨミがいない。ツクヨミもどうしちゃったんだろう」

 続いてツクヨミの事に関しても悩むソウゴ。しかしゲイツは、ツクヨミに関しては心配はしていなかった。

「ツクヨミなら大丈夫だ。きっと戻ってくる」

 そう言って立ち上がるなり、玄関の前に立った。

「それより今はアナザーライダーの方だ。恐らく彼女は、今も声を求めて彷徨っている筈だ」

 ゲイツの言葉にソウゴも席を立つ。

「うん。もうこれ以上、カレンに罪を重ねさせる訳にはいかない」

 ソウゴとゲイツは互いの顔を見合わせると直ぐ様クジゴジ堂を後にした。

 その数分後、入れ違うようにしてレモンティーを煎れた順一郎が二人がいない事に気づくのは、最早言うまでもない。

 

 

 事務所の控え室にて、共に歌詞を考えるツクヨミと乙音。

 乙音が今まで歩んできた思いや志とツクヨミが今胸に残す悩みや葛藤を元に、何度も話し合いながら歌詞を形作っていく。

 やがて、二人の想いを込めた曲が出来上がっていった。

 

 

 

私の魂を歌いあげれば

 

砕けぬ敵なんかない。響かぬ心なんてない

 

私の心の力を

 

誰かを救う武器と変えて

 

守るために戦う戦士となって

 

繰り出せ!キックを!突きだせ!槍を!

 

怖くても逃げ出さない。人助けが好きだから!

 

歌え!魂を!守れ!自由を!

 

それが!それが!それが!それが!それが!

 

 

 

 

 しかし、最後のフレーズがどうしても思い浮かばず、二人は行き詰まってしまう。

「最後のフレーズ、何にしたら良いかな?ツクヨミちゃん、何かある?」

 乙音がツクヨミに問い掛ける。

 対してツクヨミは乙音に疑問を浮かべる。

「え?最後の部分なんだし、乙音が歌詞を考えなくて良いの?」

「良いの、此処までやってきたんだもん。私はツクヨミちゃんに最後の歌詞を決めて欲しい」

 そう言われたツクヨミは、思いに答えるべく一生懸命考えた。やがて、ツクヨミは一つの言葉に辿り着き、ぼそりと呟いた。

 

 

『仮面ライダー…』

 

 

「え?仮面ライダーってあの都市伝説の事?」

 ツクヨミの言葉に乙音が口を開いた。

 取り敢えず口裏を合わせて、ツクヨミが話す。

「う、うん。誰かの為に戦ってる。そんな人を挙げるなら、きっとそれは仮面ライダーなんじゃないかって…」

 自信なさげにツクヨミは喋り終えた。共感されないかもしれない。そう思っていた中、乙音は予想外の反応を見せた。

「素敵…うん、とっても素敵だよ!ツクヨミちゃん!」

「えっ!?ホントに良いの、これで!?」

 乙音の反応に戸惑いを見せたツクヨミだったが、乙音は非常に気に入ったようだった。

「うん!ぴったりだよ!きっとこの曲にはこの言葉しか合わない…そう感じるんだ、ありがとうツクヨミちゃん!」

 乙音に礼を言われ、ツクヨミは自然と顔が綻んでいたのだった。

 

 

 音無カレンは人気の無い道をよろよろと歩き回っていた。

 ソウゴ達との戦いの傷が癒えず、ボロボロになりながら当てもなく足を進めていると、彼女の前に人影が現れる。

「お前にとっておきの情報を教えてやろう」

 現れた男__スウォルツはカレンに近付くととある話を耳打ちする。

「あの場所にお前の求めるものがある」

 そう言うスウォルツの後ろから弱々しい声が聞こえてくる。

「あのぉ…、スウォルツさん…?彼女は私の担当なのですが…」

「お前の意見は求めん」

 スウォルツは鬱陶しそうにツァイトの頭を退けさせる。

 カレンは言われるがままにミライプロの事務所に向けて歩を進め始める。

 そんな彼女を横目にスウォルツは不適な笑みを浮かべた。

 

 

 ツクヨミは乙音に連れられ、今度はレッスンルームへとやって来ていた。

 本来はアイドルが日々練習をする場所で、乙音はツクヨミの歌い方を指導する事にした。

「良いの?私なんかが此処で練習しても」

「大丈夫だよ、せっかく一緒に曲を作ってくれたんだもん。これぐらいなんて事ないよ」

 そう言ってツクヨミと向き合うように立つとアドバイスを語る。

「じゃあ、歌の練習をしようと言いたいところだけど、そもそも歌を歌うなんてそんな難しい事じゃないんだよ?自分の中の想いをそのまま声に込めるだけ」

「それができないから苦労してるんだけど…」

 乙音の言葉を受けて顔を俯かせ自信をなくすツクヨミ。だが、乙音はツクヨミの顔を真っ直ぐに見つめると優しく語る。

「大丈夫、心を落ち着かせて自分の中の想いを整理するの。そうすれば、自然と声に合わせて歌が生まれるよ」

 乙音の言葉を信頼して、ツクヨミは目を閉じるとゆっくりと口を開き__

 とその時、部屋の外で騒ぎが出ているのに気付き、ツクヨミは急いで向かおうとする。

「ごめん乙音、此処で待ってて!」

 慌てて扉を開け出て行ったツクヨミを乙音は心配そうに見守っていた。

 

 

 事務所の廊下では逃げ惑う人々でごった返しており、その奥ではアナザーソングが逃げ遅れた者たちを次々と襲っていた。

「やめなさい!!」

 ツクヨミはすかさずファイズフォンXを取り出し、アナザーソングに向けて発泡する。赤いエネルギー弾は全弾命中し、アナザーソングは一瞬怯む。

 だが、すかさずお返しとばかりに口から高周波を放ちツクヨミを吹っ飛ばす。高周波を喰らったツクヨミは地面を激しく転げ回るもののすぐに立ち上がり、牽制を行う。

 そうして必死に戦っているツクヨミの姿を、乙音は曲がり角の影からひっそり見守っていた。

 だが、ツクヨミの射撃がイマイチ効果を発揮せず、アナザーソングが悠々とツクヨミに近づいていくのが我慢できず、乙音は飛び出そうとしたところ__

「「たぁぁっ!!」」

 アナザーソングの背後からソウゴとゲイツが飛び蹴りをかまし、アナザーソングを怯ませる。その間にソウゴとゲイツはツクヨミに駆け寄る。

「ソウゴ、ゲイツ!来てくれたのね」

「まさかアナザーライダーに遭遇してたとはな。後は俺たちに任せろ」

 ゲイツはそうツクヨミに告げると、二人は彼女の前に立ち、変身態勢を取る。

『ジオウ!』『ゲイツ!』

 二人が同時にウォッチを起動する。その姿を見て、乙音は目を丸くするのだった。

「「変身!!」」

 ライダーの姿に変身完了した二人はアナザーソングに向かっていく。しかし、攻撃するのではなく彼女を押さえつけ動きを止めるようにすると、ジオウが必死に説得する。

「カレン、目を覚まして!これ以上人を襲うのはやめるんだ!」

 しかしアナザーソングはソウゴの言葉を聞き入れず、暴れて抵抗すると二人の拘束を解き一気に薙ぎ払う。

 攻撃を受けながらも諦めないジオウは、アナザーソングに向かって叫ぶ。

「やめてよカレン!自分で自分と同じ苦しみを人に与えてどうするんだよ!」

ソウゴの思いにアナザーソングは動きを止めるも、やがて辿々しい小さな言葉がゆっくりと悲痛にこだまする。

『…デモ…私ハ…歌イタイノ…』

 そう言ってその場で天に向けて咆哮するとありったけの力を集めて、今まで以上の高周波を発射させようとする。

 それに対してジオウはすぐ様対応すると、ジカンギレードを取り出しアナザーソングの元に駆け寄るなり攻撃を阻止するように斬り付ける。

 隙だらけだったアナザーソングにジオウが次々と斬撃を加えていき、最後に剣を真っ直ぐ突き立てる。しかし、相手も黙って攻撃を受ける筈もなく抵抗しようとした結果、最後の一撃はその大きな口に命中してしまう。

 今までで一番の攻撃を喰らったアナザーソングは派手に地面を転がり、カレンの姿に戻った。

 ジオウもまた先程の攻撃が予期せぬ部位に直撃した事に気付き戸惑う。

 立ち上がったカレンの首元からボロボロになってしまったマフラーがずり落ちる。そこには痛々しい傷が残る首元が露わになり、カレンは涙を流している。

 ジオウは彼女に駆け寄ろうとした矢先、彼らの目の前にとある人物が立ち塞がる。スウォルツである。

「ひどい事をするものだ。彼女は自分の夢を叶える為必死にやっているというのに、それを邪魔するとは」

 そう言ってカレンの後ろに回ると、そっと彼女の耳元で囁く。

「もはやこいつらはお前を邪魔する敵だ。夢を叶えたいのであれば、こいつらを蹴散らすのだ」

 そしてカレンの背中からアナザーウォッチを取り出すと、再び起動させカレンの体内に戻す。

 カレンが苦痛に顔を歪ませながら、やがて醜悪な嫉妬の塊に姿を変える。

『ソング…』

 スウォルツは目的を達成したとばかりにその場を去っていき、アナザーソングも高周波を放ち手を差し伸べようとしていたジオウを振り払うと、スウォルツと共に姿を消してしまう。

「カレン!!!」

 ジオウは手を伸ばすも、彼女はもうソウゴ達の手の届かない場所に行ってしまった。誰もいなくなった廊下でジオウとゲイツはゆっくりと変身を解除した。

 その光景をツクヨミと乙音はしっかりと見ていた。

 

 

 ソウゴ達はアナザーソングを止める為に意を決する。

「こうなったら、過去に言ってカレンを止めるしかない。きっと彼女がアナザーライダーになったのは事故に遭った年、2017年だ」

 ソウゴとゲイツは顔を合わせるとすぐに過去に向かおうとする。するとツクヨミもソウゴ達について行こうと彼らに向けて口を開く。

「待って二人とも私も行くわ」

 そう言うツクヨミにソウゴは向き合うと言葉を投げかける。

「いや、ツクヨミはまだやる事があるじゃない。こっちは俺たちに任せて、ツクヨミは自分の出来る事をやるんだ」

「だって、アナザーライダーの方が優先じゃない!」

 ツクヨミがそう反論するも、ソウゴは気にせず続ける。

「ツクヨミ、前に言ってたじゃない。何かを中途半端に投げ出したくないって。今ツクヨミは歌の練習をしてるんでしょ?だったら最後までやりきらなきゃ」

 ソウゴは真っ直ぐにツクヨミを見て答える。ツクヨミはソウゴの言葉に開きかけた口を閉じる。

「大丈夫、俺たちの事は気にせず最後まで貫き通すんだ」

 ソウゴに背中を押されたツクヨミは二人がタイムマジーンで過去に飛んでいく様を黙って見つめていた。

 

 

2017年

 事故により声を失ったカレンは、ミライプロの建物の前に来ていた。

 そこにはこの事務所で開催されるオーディションのポスターが貼られており、いつか自分が出ようとしていたものを前に、もう二度とそれが叶わない現実に絶望し、声を出せずにすすり泣き、手で口を覆うなりその場にくずおれた。

「可哀想に」

 だがそこに、ツァイトが現れる。突然周りの時間が止められ、その事実に気付いたカレンは、顔を上げると横にいる不審な人物に目を向ける。

「貴女様もオーディションに受けたい。しかし、決してそれが出来ない。何故ならその資格すらないのだから」

 ツァイトはカレンの心の内を探るようにゆっくりと語る。その言葉を受けカレンは顔を俯かせる。

 するとツァイトはいつもの時と違い、説得させるかのように感情を露わにして叫び始める。

「喋りたくても喋れない、歌いたくても歌えない、そんな貴女様の心の音は誰よりも響き渡っている筈だ!」

 オーバーな身振り手振りを加えながらカレンの周りをぐるぐる回る。

「"他人の歌声に嫉妬"し、"奪い取ってでも手に入れたい"その渇望…合格です」

 そう言って彼女の背後に立つとアナザーウォッチを取り出す。

「貴女様なら、きっといい歌手になれますよ…」

『ソング…』

 そして起動させるや否や彼女の身体にそれを取り込ませる。

 カレンはみるみるその華奢な姿を変えていく。

「思う存分、歌ってください」

 やがてそこには、歌声に魅入られた亡者__アナザーソングが立っていた。

「今日から貴方様が、仮面ライダーソングです…」

 

 

 

2017年

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

咆哮と共に、怪物に飛び蹴りをくらわせる 乙音(ソング)。怪物もとっさに腕をクロスさせてガードするが、あまりの威力に怪物の腕にヒビが入っていく。

 

《歌え!魂を!守れ!自由を!》

 

そして、乙音が更に力を込めた瞬間、ヒビが怪物の身体中に走りーー

 

《それが!それが!それが!それが!それが!》

 

 

 

__瞬間、全てが消滅しそこには変身を解除した乙音が立っていた。

 アナザーソングの誕生によって、その時、仮面ライダーソングの歴史は消滅した。

 

 

 ツァイトによってアナザーソングに変貌したカレンは、そのままミライプロに侵入すると片っ端から暴れ始めた。それは彼女に溜まっていた鬱憤なのか、それとも誰にも伝えられない悲痛な叫びなのか。

 そんな彼女の前に2機のタイムマジーンが降り立ち、中からソウゴとゲイツが現れる。

「カレン…君を止める!」

 二人がドライバーにウォッチをセットして同時に回転させると力を込め叫ぶ。

「「変身!」」

『仮面ライダージオウ!』『仮面ライダーゲイツ!』

 ジオウ達は拳を握るとアナザーソングに向かっていった。

 

 

2018年

 ソウゴに言われたツクヨミは、現代に残り自分の事を見つめ直していた。

 自分は本当にソウゴがオーマジオウにならないように導けるのか、本当にソウゴを最高最善の魔王にする事ができるのか。

 そのモヤモヤした思いに区切りを付けるように深く息を吐くと乙音の元に戻る。

 レッスンルームに戻ると、乙音は何か考え事でもしているのかジッと立ったまま動かない。様子がおかしく感じツクヨミが声を掛けようとすると、向こうから話して来た。

「乙音…?」

「今のが、仮面ライダー…。ツクヨミちゃん、あの人達と一緒にずっと戦って来てくれたんだね」

 そこまで言って振り返ると、両手でギュッとツクヨミの手を握る。

「ありがとうツクヨミちゃん、私達の為に頑張ってくれて」

 その言葉にツクヨミは反応し乙音の顔をじっと見つめる。

「大丈夫だよ、ツクヨミちゃんならこの先どんな事があっても乗り越えれる。だから不安に負けずに自信を持って進めば良いんだよ!」

 乙音の心からの応援にツクヨミはすっと肩の力が抜けていくのを感じた。モヤモヤした悩みが無くなり、自信がみなぎっていく。

 乙音は手を離すと今度はポケットからツクヨミのよく知るものを取り出す。白にピンクの下地が付いた仮面ライダーソングのライドウォッチである。

「! 乙音、これ…!」

 驚くツクヨミに対して乙音は懐かしむように穏やかに話す。

「うん。いつの間にか持ってたんだけど、ツクヨミちゃん達を見てわかった。これはあなた達に必要なんだって」

 乙音はツクヨミの手にウォッチを優しく手渡す。

「後は頼んだよ、ツクヨミちゃん!」

「…ありがとう、乙音!」

 乙音からウォッチを託されるツクヨミは、乙音の手を強く握り返した。

 

 

2017年

 アナザーソングとジオウ達が交戦している。

 今の状況ではアナザーソングを完全に倒す術が存在せず、ただ時間稼ぎに過ぎないのだが、それでもソウゴはカレンを止める為に動かずにはいられなかった。

 事態は平行線を辿り、延々と攻防が展開していたのだが、そこに状況を打開させる切っ掛けがやって来る。

 戦闘中突如ゲイツのファイズフォンXに着信がなる。本来戦闘中に連絡が来るのは問題なのだが、この状況で通話ができる人間は限られている為相手を察したゲイツはすぐに電話に出た。

 すると電話相手であるツクヨミから有力な情報を得る。

「ゲイツ!ライドウォッチを手に入れたわ!」

「本当かツクヨミ!」

「私もそっちの時代に向かう!ゲイツ、迎えに来てくれる?」

 ただタイムマジーンは二人がそれぞれ乗ってきてしまった為、今ツクヨミも2017年に向かうにはどうしても一度2018年に戻らなければいけなかった。一瞬迷ったゲイツに事態を察したジオウが話す。

「ゲイツ!ここは俺に任せて、ゲイツはツクヨミを迎えに行って!」

 アナザーソングと戦いながら叫ぶジオウの提案に乗ったゲイツはツクヨミに伝える。

「分かった!今すぐそっちに向かう!」

 

 

2018年

 ゲイツと連絡を終えたツクヨミがファイズフォンXをしまい、ミライプロの事務所を出る。

 そこに丁度ゲイツが操縦するタイムマジーンが現われ、コクピットのハッチが開く。

「ツクヨミ!早く乗れ!」

 ゲイツのマジーンに乗り、ツクヨミは行き先を再び2017年に戻す。

「時空転移システム、起動!」

 時空の扉が開き、タイムマジーンは再び過去に跳躍し消えた。

 そんな一部始終を乙音は静かに見送った。

 

 

2017年

 ジオウは一人でアナザーソングを相手に戦いながら説得していた。

「確かに歌が歌えなくなるのは辛い。夢が叶えられなくなっちゃうのは悲しい。でも、諦めないで!いつかきっとまた立ち上がれる時が来るから!」

 しかし、アナザーソングは攻撃の手を休めずジオウを吹っ飛ばす。地に足つくジオウの後ろにタイムマジーンが到着する。

「ソウゴ!」

 外に出るなりツクヨミは真っ先にソウゴを呼び、持っていた物を投げ渡す。

「これ…!」

 思わずジオウが掴んだ物はツクヨミが乙音に渡されていたソングライドウォッチであった。

「そのウォッチならあのアナザーライダーを倒せる筈!」

「ありがとうツクヨミ!」

 礼を言うとすぐにアナザーソングに向き直りウォッチを起動させる。

『ソング!』

 次にドライバーの左スロットにセットすると再びドライバーを回す。

 アーマーが身に纏われジオウが姿を変える。

『アーマータイム!my song my soul!ソング!』

 両肩に備わるディスクとソングを模した腰布、そして顔に大きく書かれている"ソング"の文字。

 仮面ライダージオウ・ソングアーマーに変身完了した。

 すると突然ステージ上の電気が灯り、大音量のマイクが唸り始め人影が動き出す。そこにいたのは…

「祝え!!!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ・ソングアーマー。また一つ、ライダーの力を継承した瞬間であるッ!!!!!」

 ウォズがマイク越しに声高らかに祝う。すると何処からともなく歓声まで響き渡る。

「えぇ…、大袈裟だよぉ…」

 その勢いに圧倒されソウゴは静かに呟いた。

 その間にアナザーソングは部屋を出て、外に逃げ出してしまう。

「あっ!待てッ!」

 ジオウも直ぐ様追いかけステージは一気に静かになる。

 すると、突然ツクヨミがステージに登り始め台の上に一人立った。その光景をゲイツが目で追うと変身解除し静かにツクヨミを見つめる。

 いつの間にか何処からか音楽の前奏が聴こえてくる。

 ツクヨミは目を瞑り、深く深呼吸をすると口を開いた。

 そこから発せられる歌声は以前と全く違う、美しい音色がステージ中に響き渡った。

 

《時の声に耳をすませば》

 

《すれ違う歴史と物語》

 

 ゲイツも腕を組んで、ツクヨミの歌う姿を見守っている。

 

《月の光世界照らすように》

 

《本当のあなたへと導きたい》

 

 ツクヨミが真っ直ぐに目を見開く。

 

《巡る時代時空を超え駆け抜けて》

 

 事務所の外、ジオウはアナザーソングの攻撃を受け流すなりカウンターを仕掛けていく。

 

《あの闇に飲み込まれてしまわないように》

 

『フィニッシュタイム!』『ソング!』

 アナザーソングを吹っ飛ばし、ウォッチを起動して必殺技を発動させる。

 

《刻む時間繋ぐ歴史過去も未来も》

 

「心の音…(わめ)かせる!」

 

 よろよろと立ち上がるアナザーソングを前にドライバーを回し飛び上がる。

 

《物語紡ごう》

 

『シュート!タイムブレーク!』

 音符が周りを漂う中、七色のエネルギーを見に纏った足でキックをお見舞いし、アナザーソングは大爆発を起こした。

 

 曲が終わると同時に弾き出されたアナザーウォッチが音を立てて爆ぜた。

 

 自らの思いを歌に込め、伸びやかに歌い終えたツクヨミはステージの上でやりきった表情を浮かべる。そんなツクヨミに向けて、ゲイツは静かに拍手を送った。

 

 ソウゴはカレンのもとに駆け寄り優しく語り掛けた。

「きっと、君の思いが届く時が来るから。頑張っていこうよ」

 ソウゴの言葉を聞いた後、カレンはゆっくりと目を閉じた。

 

 

 2018年。

 とあるライブ会場にて、大勢の観客が熱狂する中、木村乙音の初ライブが行われていた。

《繰り出せ!キックを!突きだせ!槍を!》

 乙音はアイドルとしてツクヨミと一緒に作った曲を熱唱していた。

《怖くてっても、逃げ出さない。人助けが好きだから!》

 多くのファンに囲まれながらも決して変わらず一生懸命歌い続ける乙音。

《歌え!魂を!守れ!自由を!》

 やがてピークが近づいていき、観客達の熱狂もいよいよ盛り上がっていく。

《それが!それが!それが!それが!それが!》

 

《仮面ライダーだぁぁぁぁ!》

 

 高らかに歌い上げライブは大成功を収めたのだった。

 

 

 クジゴジ堂に戻ってきた3人は再び順一郎が入れ直したレモンティーを飲んでいた。喉が癒されるあったかい飲み心地に心を落ち着かせていると、ふとツクヨミは思い出したように立ち上がりソウゴの前に立つ。

「ソウゴ、私もう決めたわ。絶対にあなたをオーマジオウにならないように最高最善の魔王に導いてみせる」

 ツクヨミはソウゴに改めて魔王にならないよう導く事を宣言した。

 その言葉を受けてソウゴはにっこりと笑顔を向ける。

「うん、ありがとうツクヨミ。頼んだよ」

 そう言って立ち上がりソウゴもまたツクヨミに向き合った。

 声に出さずとも伝わっている、確かな信頼がそこにはあった。

 

 

 

 人気の多い都会の街。通行人を掻き分けて進む若者が一人いた。

 背中に背負った学生カバンには白い立方体型のキーホルダーがぶら下がっており、ナンプレ片手に歩いていた大学生がふと顔を上げる。

 栄度光一(さかえどこういち)は空を見上げた後すぐに人混みの中に消えていった。




今回登場したソングアーマーは、ソングの作者である天地優介さん直々に考案したものを使わせて頂きました!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=201945&uid=155171

ソング編はオーズ編や鎧武編のような歴史改変によるライダーにならないIFを描いた客演パターンになっています。
というのもソング本編は完結していますが、物語が途中2018年以降に飛んでしまうので、本編と地続きの話をジオウでは描けないと判断した上でこの展開にしました。
劇中で乙音とツクヨミが作った曲『My song My soul』は、本来はソングの基本形態のテーマ曲ですが歴史が変わってもこの曲は乙音にとって特別な歌になる事を意味しています。

今作では、乙音は本編ではならなかったアイドルとして活動をしています。
その他のキャラはこれといった変化は無いでしょうが、ボイスちゃんはきっと幸せに暮らしている事でしょう!

さて、次回はホワイト・ラムさんの作品「仮面ライダーパンドラ」が登場致します…が、少々今までと違う特殊な形式で展開していきます。
どうぞ楽しみにお待ちください。


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パンドラorジェイルfeat.ディケイド編
IF05「パンドラクロスロード2015」


今日ゼロワン休みですね。そんな時は、RIDERTIME Hamelnを読んで楽しんでください!(言ってみたかっただけ)

今回はいつもと違い、本編14話、15話のゴースト編に成り変わる形で展開するIFの物語となっています。
コンセプトとしては「もしどうしても西銘さんが出演する事が出来ずゴースト以外でディケイドアーマー回をやったら」と言った感じです。
今回はホワイト・ラムさんの作品「仮面ライダーパンドラ」との客演回です!
ホワイト・ラムさん、使用許可ありがとうございます!
https://syosetu.org/novel/62376/


ーこの本によれば、普通の高校生・常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

ソング、オーズ、鎧武の力を手に入れる中で明光院ゲイツを助ける為に時間の流れを変えようとするのだった。

まさか、我が魔王の行動によって未来が変わり、この本まで書き換わってしまうとは…。

だから、私はタイムジャッカーに味方する事に…。

 

 

 

 とあるバーにて、タイムジャッカーの3人は集まっていた。オーマジオウに代わる新たな王を擁立するという共通の目的の為に、彼らは頻繁に場所を転々としながら互いに情報交換を行っていた。

 しかし、今回は少し違った。本来なら決して来るはずのない人物が現れたからだ。

「それで、何が目的だ?」

 タイムジャッカーのまとめ役であるスウォルツは、横に座っている男に尋ねる。

 フードの付いた分厚いコート、床にまで着きそうな長いマフラー、そして『逢魔降臨歴』を手に持つ端正な顔立ちの青年。紛れもなくウォズであった。

「君達に手を貸してもらいたくてね」

 余りにもアウェーな空間であるにも関わらず、ウォズはいつもの飄々とした態度を変えずに答える。

 すると、二つ隣の席に座るウールがオレンジジュースを飲みながら口出しをする。

「あんた、今更何言ってんだよ」

「誰があんたを信用すると思ってるのよ」

 ウォズの右隣りに座るオーラも追随する。

 タイミングを計っていたかのように、スウォルツが最後に念押しをする。

「そう言う事だ。我々と手を組みたければ、それ相応の得がある事を証明して見せろ」

 対するウォズは待ってましたと言わんばかりにとっておきの切り札を口にする。

「実は君達タイムジャッカーに参加希望するのは私だけじゃ無いんだ」

「何?」

 ウォズの言葉にスウォルツは顔をしかめる。

「彼は気まぐれだからね、今は居ないがきっと君達の力になる筈さ。何たって彼は全てを破壊し、歴史を変える者ー」

 そこまで言った時、さらに思いがけない人物が乱入する。

 

「それは本当でごさいますか!!!」

 

 いつから居たのだろうか、気付くと後ろの席でツァイトが声を上げた。

 タイムジャッカー達の中でも彼のみはその性格により孤立しがちであり、こういった集まりには滅多に顔を出さないのだが、今回はウォズのその言葉を聞きつけ駆けつけたようで世にも珍しいタイムジャッカーが4人集まった瞬間であった。

「ツァイト、お前いたのかよ」

「急に大声出さないでくれる…?」

 ツァイトに対して、相変わらずウールとオーラは辛辣な言葉を浴びせる。しかし当の本人は興奮のあまりそれどころでは無かった。

「まさかあのお方に会えるなんて…。いえ世界を渡り歩きながら旅をしているのですからいつかは巡り合えるかと夢見ていましたが、まさかこんな所で逢えるとは…!自身の世界を追い求める旅人であり、全てを破壊し全てを繋ぐ悪魔とも称される世界の破壊者…」

 普段は彼らの前に滅多に顔を見せないツァイトは絶えずマシンガントークを一人延々と呟いていた。故に他のタイムジャッカー3人は引き気味である。

「いい加減口を閉じろ、ツァイト」

 ついにスウォルツが静止するもそれでも興奮冷めやらぬツァイトは思いついたように考えを語り始める。

「ならばこうしてはいられません…!あのお方を迎える為にはとっておきのアナザーライダーを用意しませんと…!あぁ、何て待ち遠しい…!!」

 そう言ってツァイトは急に掛け始めるとたちまちバーから姿を消した。

 それらの奇行を目の当たりにして残るメンバーは気不味い空気に包まれた。

「見苦しい所をお見せした、忘れてくれ」

「いや、私は彼の事は嫌いじゃ無いよ」

 そう言って2人は対談を再開させる。

「それで、そのもう1人はいつ来るのだ」

 スウォルツは肝心の内容を口にする。それにウォズは勿体ぶるように意味深な返答をする。

「いずれきっと現れるよ…嫌だとしてもね」

 

 

 夜明けの都会。日の出が登り始める空が歩道橋に登って世界を見下ろす男を写す。

「ここが次の世界か」

 そう言って首に下げるマゼンタの二眼トイカメラのシャッターを切る。歪んだ被写体の映った写真を取り出すと、それを見つめてさらに呟く。

「楽しめそうだな」

 光が徐々に男の顔を照らしてゆく。

 

 

「おはよ…」

 朝。ソウゴが一階に降りてくると階段下でゲイツが此方を向きながら右手のウォッチに手を添えて立っていた。

 恐る恐るゲイツの横を通過しコップと牛乳を冷蔵庫から取り出し扉を閉めると先程と同じ体勢で目の前にゲイツが立ち塞がっていた。

「うお!ど、どうしたの?」

「言ったはずだ。俺はお前を倒す為に未来からやって来たとな」

 いつでもウォッチを取り出せるように腕を構えた状態でゲイツが喋る。

「ん…でもだからってずっと構えてなくても」

「お前は信用できん。あの時の戦いで学んだ。俺はもうお前の前では一瞬たりとも油断したりせん」

 ソウゴが再びスルーしてリビングに行こうとするのを、ゲイツが体勢を崩さぬまま追い掛けソウゴの前に回り込む。

「ん…でもテレビ見えないんだけど」

 ゲイツが見下ろすように睨みながらテレビの前で仁王立ちしている。

 一連の流れを見てツクヨミは呆れたように溜息をついた。

 すると朝早くにも関わらず騒がしく順一郎が新聞片手に玄関に入ってくる。

「た、大変だよ!」

「叔父さん?どうしたの」

 ソウゴ達は怪訝な表情で尋ねる。

「今外で騒ぎあるみたいで、危ないからソウゴくん達ここでジッとしてるんだよ」

 そう忠告する順一郎に対してソウゴとゲイツは思わず顔を見合わせる。

「騒ぎ?」「まさか」

「「アナザーライダー!?」」

 ソウゴとゲイツが声を揃えて顔を合わせると直ぐ様クジゴジ堂を飛び出した。

「え?いやだから今外危ないんだってソウゴくん!」

 ツクヨミもまた2人の後を追って駆け出した。

「ごめんなさい、私も行ってきます!」

「え?いや、ツクヨミちゃんまでー!」

「私達は大丈夫ですから、叔父さんこそ外に出ないで下さいね」

 ツクヨミは振り向きざまに言い聞かせると玄関を出て行った。

「え、いやあの、気を付けてー、いってらっしゃい…」

 一人残された順一郎はそう心配そうに呟いた。

 

 

 早朝の広場では多くの人が逃げ惑い、あちこちで火の手が上がっている。

「キャハハハ!ほらほら逃げないと危ないよ〜」

 ソウゴとゲイツが駆けつけた時には、その奥でこの光景を見てはしゃいでいるチャラチャラした服を着た青年を目撃した。

「あいつか?」

 二人が睨んでいると向こうもこちらに気付いたらしく、笑みを浮かべるとじりじりと近付いてくる。

「ん?何君達?僕と遊んでくれるのかな?」

 そう言うと紫の光に包まれ、たちまち異形の怪物に姿を変える。

「アナザーライダー…?」

 身体のあちこちには多くの直線の切れ目が垂直に交差しており、まるで教育ノートのマス目のような立方体型の模様が無数に浮かんでいる。

 顔にも立方体が顔中に歪にくっついており、片目がその隙間からギロッと覗かせていた。

 そして、胸の立方体には『2015』『PANDORA』の文字。

『パンドラ…』

 ソウゴとゲイツの前で変身したアナザーパンドラはすぐ様二人に襲い掛かる。

「僕を楽しませてよね!」

 ソウゴ達は身を翻してそれぞれ攻撃を躱すとウォッチを構え変身態勢を取る。

『ジオウ!』『ゲイツ!』

 ウォッチを起動しドライバーをはめるとポーズを決め回す。

「「変身!」」

『『ライダータイム!』』

『仮面ライダージオウ!』『仮面ライダーゲイツ!』

 ジオウとゲイツはアナザーパンドラに向かっていく。しかし、相手はヘラヘラとしながら攻撃を受け流していき挑発的な態度を取り続ける。

「ほらほら、そんなもの〜?」

「馬鹿にするな!」

 業を煮やしたゲイツはジカンザックスにウォッチをはめ必殺技を決めようとする。

『フィニッシュタァイム!』

『ゲイツ!ザックリカッティング!』

 しかし、その機を待っていたかのようにアナザーパンドラは両手を地面に付けると、そこから巨大な立方体型のブロックが現れ攻撃を受け止めた。

 するとブロックが細かいパーツに砕け、辺りに散乱する。その一部はジオウやゲイツにもくっつき表面にクロスワードパズルのような図が浮かび上がる。

「何これ?」

 ジオウが困惑する中、アナザーパンドラは愉快そうに呟く。

「そのブロックは一定時間経つと爆発するんだ。早くそのパズルを解かないと解除できないよ〜」

 軽々しく語るアナザーパンドラに対して2人は焦りを感じ始める。

「何!?貴様ふざけるな!」

「ヘヘッ、じゃあね〜」

 ゲイツが叫ぶ中アナザーパンドラは撤退していった。その間にもブロックはどんどん熱を帯びていき、タイムリミットが迫っていった。

「不味いよ、ゲイツ!」

「くそっ!どうすれば…」

 クロスワードパズルなどやり慣れていない2人は、破片に浮かぶ空白の数字に何が入るか分からず手が付けられない。

 絶体絶命のその時、二人の前に駆け寄る一人の学生がやって来る。

「おいそこの黒いの!その空白は2と0と1、8だ!赤いやつは2、0、6、8と入れてみろ!」

「え?」「何!?」

 突然の事態に二人は戸惑いながらも、言われるがままに数字を入れるとくっ付いていたブロックは機能を停止し体から離れた。

「早く!その場から離れろ!」

 気付くと他の散乱していた破片達は今にも爆発しそうであった。反射的にジオウとゲイツは飛び退くとすんでの差で爆発が巻き起こった。

「あぶねー」

 ジオウ達はギリギリ爆発から逃れられ、地面に転がる。対する学生も安堵の表情を浮かべると二人に近づいていった。

「あんた達仮面ライダー?」

「え?何で知ってるの!?」

 ジオウが驚きを口にするも対する相手は呆れたように口を開く。

「だって顔に書いてあるじゃん」

 ジオウとゲイツがお互いの顔を向ける。

 すぐに向き直るとゲイツが話した。

「貴様は誰だ」

「俺は栄度(さかえど)光一(こういち)。"今はもう"普通の大学生だ」

 光一は少し寂しそうに顔を向けた。

 

 

 街並みを歩くアナザーパンドラの青年__解良(かいら)の前にツァイトが現れる。

「順調そうですね」

「あ、この前の!ありがとね、アンタのおかげでこんな楽しい遊びができてるんだから」

 解良は嬉しそうに礼を言う。

 遡ること2015年、元々彼は自らの快楽の為に罪を犯す悪人であり、良心のタガなど無く平気で人を傷つけては警察に何度捕まったとしても懲りずに悪事を繰り返す男だった。

 そんな解良にツァイトは目をつけた。

 

「今日から貴方様が、仮面ライダーパンドラです…」

『パンドラ…』

 

 ツァイトはこの男と契約してライダーの力を渡し、アナザーパンドラを擁立したのだった。

「いえいえ、貴方様にはこのまま王様になって頂きたいですから」

 タブレットを弄りながら不敵な笑みを浮かべて呟く。

「え?王様?よく分かんないけど、楽しそうだから良いよ〜」

 そう言って解良は気分良さそうに街並みの雑踏に消えていく。

 

 

「あんた人の話聞いてんの?」

 一方オーラは先程ウォズの言っていた助っ人を迎える役目を担わされていた。とある展望台で呑気に椅子に座る男にオーラは不満を露わにする。

「あぁ…、大体分かった」

 そう言ってマゼンタのカメラを手に取り、オーラを無視して階段を降り始めた。

「何この感じ悪い男」

 オーラはそっと呟き男の後ろ姿を凝視した。

 

 

 光一をクジゴジ堂に招いたソウゴ達は話を聞いていた。

「ねぇ、何であの怪人や仮面ライダーについて知ってたの?」

「俺も昔はライダーだったからな」

 ソウゴの質問にそっけなく答える光一にゲイツとツクヨミは驚きを隠せずに食いつく。

「貴様、記憶が残ってるのか!?」

 そう言われた光一は床に置いた学生カバンを持ち上げると中の物を漁り始める。学生カバンには白い立方体型のキーホルダーが付いており、ソウゴはその揺れるカバンのアクセサリが目に付いた。

 光一は机の上に四角いくぼみの付いたベルトを置く。

「このベルトは世界の影響を受けないんだ。だから、あの怪物が現れても俺の記憶は消えない」

 光一は長年使ってきたベルト__パラドクスドライバーを仕舞った。

 パラドクスドライバーは本来別の次元に移動する為に作られた防衛システムであり、空間を超える際の衝撃や影響から装着者の身を守る力を持っていた。

 そのシステムがアナザーライダーによる歴史改変にも通用したらしく、故に光一はアナザーパンドラが生まれているにも関わらず本来のライダーとしての記憶を保っていたのだった。

「あの怪人は3年前に現れて以降ずっと暴れてる。俺がライダーになった時と同じタイミングでな」

 それに対してソウゴは顔を近づけ話す。

「じゃあ、光一はまだ戦えるの?」

 その言葉に光一は目を伏せた。

「いや、それはもうできないな。俺一人じゃ…」

 光一は学生カバンに付いたキーホルダーを通してかつての相棒を思い出していた。

「だが、しかし好都合だ。貴様が仮面ライダーパンドラならばウォッチを手に入れるのは容易い」

 ゲイツが光一の前に立ち語ると、光一がポケットを探り何かを取り出す。

「これの事か」

「ライドウォッチ!いつの間に…」

 光一が手に持つ白いパンドラのライドウォッチにソウゴが驚く。

「気付いたら持っていてな、こいつがあればあの怪人を倒せるわけか」

「そうだ。渡してもらおうか」

 そう言うゲイツ達に対して光一は拒否反応を示した。

「悪いがこれは渡せない」

「え!?」

 思わぬ言葉にソウゴは言葉を失う。

「あの怪物は俺が何とかする。おまえらは首を突っ込まなくていい」

「何だと…」

 掴みかかろうとしたゲイツを翻し光一はクジゴジ堂を出た。

 追いかけようとするソウゴ達だったが、ツクヨミが声を上げ二人を静止する。

「ソウゴ、ゲイツ!アナザーライダーよ!さっきの奴がまた街で暴れてる!」

 二人は仕方なくそちらに向かった。

 パニックになった繁華街では、今度は無数の怪物達が人々を襲っていた。顔、胸、両手両足に穴の空いた不気味な風貌の怪人達はかつて仮面ライダーパンドラが戦っていた怪人、エラーであった。

 エラー達の中心にはまたもや解良が楽しそうに状況を眺めていた。

そこにソウゴ達が駆け付ける。

「あっ、来たんだ〜」

 解良はソウゴ達を見つけ彼らの前に立ちはだかる。

「君達は倒すように言われてたけど、せっかくだから遊んじゃおっかな!すぐにやられないでよ…?アハハハハ!」

『パンドラ…!』

 小馬鹿にしたように笑い転げるとアナザーパンドラに姿を変える。ソウゴ達も応戦してウォッチを構えて並び立つ。

「「変身!!」」

 ジオウとゲイツは武器を構え、アナザーパンドラに飛び掛かる。

 

 

 光一はしばらく人気の無い路地裏を歩いているとウォッチを取り出し静かに考え込んだ。

 すると、後ろから不意に声を掛けられる。

「いつまでうじうじ考えてるつもりだ」

 見るとマゼンタカラーのカメラをぶら下げた怪しげな男が立っている。

「何だあんた」

 不審に感じる光一をよそに男は話を続けた。

「お前はまだ自分の責任を感じているのかもしれないが、もうその必要もないんじゃないか?お前の後を継いでくれる奴らが現れたんだ」

 その言葉に思うところがありながらも光一は反論する。

「だけど、俺じゃなきゃ駄目なんだ。あの怪物を倒す為には俺の力が必要だから…」

「だとしても、相棒がいない中どうやって戦うつもりだ。一人で何でも背負わないんじゃなかったのか?」

 男に見透かされたように言われ光一は言葉に詰まる。

「奴らを信じてみろ。奴らならお前の思いを引き継いでくれるかもしれんぞ。ま、お前の相棒と相談して決めるんだな。そのウォッチを通せば声は届くはずだ」

 そう言って男は背を向けて去っていった。光一は言われた通り、ジッとウォッチを見つめて意識を集中した。すると路地裏に光が差し込み、光一に取って懐かしい声が響いた。

ーなんだい?僕がいなくていつまでもメソメソしてたのかい?

「んな訳ねぇだろ、やり甲斐のあるパズルが無くて退屈してただけだよ」

 光一は楽しそうに軽口を言い合っていた。

ーでも、もういいんじゃないか?君が今まで頑張ってきた事は僕も知ってる。後のことは他の奴に任せても大丈夫さ

「お前もそう思うか…。大丈夫なのか、あいつらに任せて」

ー信じるのさ。後輩を信じてやるのも先輩の務めだぜ?

「…分かったよ、相棒」

 光一はフッと笑うと、ウォッチから目を離し路地裏から外へ出ていった。

 

 

 ジオウ達はアナザーパンドラと対決していたが、中々決着が付かない。ブロックで作った自分の身代わりで撹乱し、その隙にさらにエラーを召喚しジオウ達や周りの人々を襲わせる。エラー自体は弱く、人々に襲い掛かる者達はツクヨミが警護し撃破しているが、ジオウ達の方はエラーに気を取られ過ぎて本体のアナザーパンドラと戦えないでいた。

「そんなものなの〜?ま、僕は"王様"だからね!誰も僕には勝てないのさ!」

 その言葉にソウゴの目の色が変わる。

「王様…?」

 途端にジカンギレードでエラー達を瞬時に切り捨てアナザーパンドラの元に向かう。少し驚きながらも腕に立方体型の盾を作り出し攻撃を受け止める。

 ジオウは武器を挟んで、アナザーパンドラに語りかけた。

「あんた…王様が何か分かってるの?」

「え?王様って…一番強くて偉い奴の事でしょ?じゃあ僕が王様だ!」

 しかし、対するアナザーパンドラは小馬鹿にしたようにジオウを蹴散らすとエラーを放つ。

「あんたに、王様を名乗る資格は無いよ!」

 ジオウはそう言い放つと新たなウォッチを取り出す。

『ソング!』

 エラーを倒しながらドライバーにウォッチをセットして回転させる。

『アーマータイム!my song my soul!ソング!』

 ソングアーマーを身に纏うと両肩のディスクから超音波を放ちエラー達の動きを止め、さらに衝撃波を放ちエラーを粉砕して後ろのアナザーパンドラを吹っ飛ばす。

 しかし、アナザーパンドラが放ったブロックが目の前で爆発し、ジオウは吹っ飛ばされてしまう。すると、光一が駆けつけてジオウに駆け寄る。

「おい、大丈夫か!」

「光一、何で…?」

 光一に立たせられるとジオウが向き合う。

「決めた。このウォッチはお前達に託す」

 そういってパンドラのウォッチを渡した。

「いいか、心の無い力はあいつらと何も変わらない。自分の目的が何か忘れるなよ」

 そう言うとジオウの手にウォッチを握らせる。

 その思いをしかと受け取ったジオウはウォッチを掲げ礼を言う。

「分かった。ありがとう光一!」

 

 

 一方遠くで彼らの戦いを観察する者がいた。

「俺もそろそろ動き出すとするか…」

 物陰で電子音がこだまする。

『カメンライド…パンドラ!』

 

 

「ジオウ!お前は2015年に向かえ!」

 大量のエラーを捌きながらゲイツが叫ぶ。今アナザーパンドラに対応するウォッチを持つジオウが過去に飛んで、歴史改変の根本を叩いた方が効率的だと判断したのだ。

 ゲイツの意図を察したジオウはタイムマジーンを呼び出し直ぐ様乗り込んだ。

「時空転移システム、起動!」

 行き先を2015年に設定し、ワームホールを通してマジーンが時空の彼方に消える。

 しかし、そこに既に問題が生じていた事に彼は気付かなかった。

 ゲイツがその間、現在の被害を食い止めようとしたところ突然何者かに襲撃される。その相手にゲイツはおろか光一でさえ驚いた。

 その人物はあろう事か仮面ライダーパンドラであったからだ。しかし、光一は何処か違和感を覚える。その理由は腰に巻かれたベルトがパラドクスドライバーではなく、形状の違うマゼンタのベルトを着けていたからだった。

「お前、今のままだとヤバイぞ。自分で何とかしてこい」

 パンドラはアナザーパンドラにそう話しかけると手をかざし、背後から謎のオーロラを出すと有無を言わさずアナザーパンドラをそこに放り込んだ。

 突如謎の現象と共にアナザーパンドラが姿を消し、ゲイツは警戒した。

「貴様!奴をどこへやった!」

「さぁ、何処だろうな…?」

 しかし、対するパンドラは惚けると腰の装備からカードを一枚取り出す。パンドラのレリーフが描かれたそのカードをベルトに差し込み読み込ませる。

『ファイナルアタックライド…パ・パ・パ・パンドラ!』

 するとパンドラの両膝が黄色に輝き始め、飛び上がるや否やゲイツに向かって両足蹴りを叩き込もうとする。

 思わずゲイツはジカンザックスを両腕に構え防御しようとするも、威力に耐え切れず吹っ飛ばされ変身解除してしまう。

「またな」

 そう言って立ち去っていくパンドラを光一は静かに見つめていた。

 

 

 過去に到着するジオウ。しかし、その目的地に混乱する。

「あれ?ここ2015年じゃない…?」

 ジオウがやって来たのは『2017年』。何故か本来の予定より2年ずれた事に違和感を感じる。その奥ではウォズがジオウの反応を確認すると不敵な笑みを浮かべ姿を消す。

 すると、後から遅れてアナザーパンドラも現代から飛ばされてやって来た。

 突然の事態に流石の本人も戸惑ってるようだった。

「え?何ここ?」

 ジオウは気持ちを切り替え、アナザーパンドラと相対する。

「取り敢えず、今はこいつを!」

『パンドラ!』

 託されたウォッチを起動させ、左スロットに挿入する。

『アーマータイム!』

 ドライバーを回転させたと同時にジオウの周りに無数の立方体が現れ、勢いよくくっついた。

 両肩に胸に手に足に。そして、それぞれの立方体が部位に合わせて組み替えられやがて身体にフィットしたアーマーに変わっていく。最後にパンドラを模した顔がくっつき、『パンドラ』の文字が刻まれる。

 ここにジオウ・パンドラアーマーが誕生した。

 離れた路地裏で一人、ウォズが気配に気づくと静かに呟いた。

「祝え。全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ、パンドラアーマー。まさに生誕の瞬間である」

 そう言い終えると満足したようにその場を離れる。

 ジオウはパンドラの力でエラーを瞬時に消滅させ、アナザーパンドラにもダメージを与えていく。先程と打って変わって明らかに押されているアナザーパンドラは焦りを覚え始めた。

「くっ、こんな…こんな筈じゃ…」

 抵抗しようと再び立方体をジオウに当てようとするも、パンドラアーマーの前に無効化されノイズを伴って消える。

「これ以上、あんたの好きにはさせない!」

 ジオウのパンチにアナザーパンドラは吹き飛ばされ地面を転がる。

 その間にジオウはベルト上で再びウォッチを起動させる。

『フィニッシュタイム!』『パンドラ!』

 必殺技の態勢を取り構えるジオウに、よろよろと立ち上がるアナザーパンドラは怒りを露わに突っ込んでいく。

「ア…アハ…、僕の遊びを…邪魔するな"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!」

 向かってくる殺気を前にしても動揺する事なくジオウがドライバーを回す。

『パンドラ!タイムブレーク!』

 すれ違いざまにキックをお見舞いしその腹に一撃を加え吹っ飛ばす。すると、アナザーパンドラの身体が無数の立方体に押し潰され3×3のキューブ状に固定される。

 そのキューブ目掛けてジオウが飛び上がり、両膝蹴りをお見舞いする。

食らったキューブは弾け飛び、爆炎から解良が転がり出る。ボロボロになって意識を失った彼の横でアナザーウォッチが砕け散った。

 一件落着。ソウゴは変身を解くと遠くからパトカーの大群が駆け付けてくる。

 恐らく騒ぎを聞きつけ誰かが通報したのだろうと考えられた。

 しかし警察は、下りてくるや否や真っ先にソウゴを捕まえるとパトカーに引き込もうとする。

「え!?何!?何!?何!?何で俺なの!?」

「うるせえ!国家権力様に逆らうんじゃねぇ!」

 抵抗するソウゴを一人の頑固そうな警官が押さえつける。

 同じように解良もまた複数の警官に連れられながら、力無くパトカーに放り込まれる。

 すると、遠くでゲイツのタイムマジーンが地上に降り立つ。

「ソウゴ!?」

 ゲイツとツクヨミはすぐにソウゴを見つけるも、多くの人間が集まっている中下手に動いて救出に向かうのは困難であった。

 二人は現在の状況が理解出来ぬまま、警察に捕まえられるソウゴを見る事しか出来なかった。

「あいつがジオウ…常盤ソウゴか…」

 パトカーに押し込まれるソウゴを一枚写真に収めると男が言った。

「中々面白そうな奴だ」

 門矢士が不敵な笑みを浮かべた。




今回は1話完結形式で2つのライダーの客演が描かれます。次回は引き続きホワイト・ラムさんの作品で『仮面ライダージェイル』との客演回となります。
ソウゴの運命は!?ウォズのたくらみとは!?
そして、現れた謎の男の正体とは!?(みんな知ってる)
乞うご期待です!


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IF06「プリズン・ジェイルブレイク2017」

大変長らくお待たせしました!ディケイド編IFストーリー後半戦!!
今回は前回同様ホワイト・ラムさんの作品で、『仮面ライダージェイル』との客演回となっております。
ホワイト・ラムさん、使用許可ありがとうございます!
https://syosetu.org/novel/125849/


ーこの本によれば、普通の高校生・常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

だが、彼の前に現れた謎の仮面ライダー。

そして私の裏切りによって我が魔王は刑務所送りとなってしまう。

全ては私のある目的の為に…。

失礼。そんな事は書いていませんでした。

 

 

 

 2017年。頑固そうな警官に連れられ、留置場内の檻に入れられるソウゴ。

 アナザーパンドラを倒す一貫で過去に飛んだソウゴだったが、本来の目的地と違う場所に辿り着いた挙句その時代の警察に捕まってしまうのだった。

 事の原因が理解出来ず、ソウゴは牢の外に向かって必死に無罪を訴えた。

「ちょっと待ってよ!何かの間違いだって、俺何もしてないよ!」

「うるせぇ!犯罪者は皆んなそう言うんだよ!大人しく檻に入ってろ!」

 しかし、逆に怒鳴り散らされ聞く耳を持たない様子だった。

「そんなぁ〜、牢屋に入れられる王様なんて無いよぉ〜!」

 ソウゴの無念が留置場中に響き渡った。

 

 

 一方、2018年現代。一旦ゲイツとツクヨミはクジゴジ堂に戻り、ソウゴを連れ戻す為の作戦を立てていた。

「不味いな、ジオウがあの時代に取り残されたままだと、オーマジオウにならなくても歴史にどんな影響を及ぼすか分からんぞ」

「うん、早く捕まったソウゴを助けださないと」

 そう二人が話してると順一郎が口を挟む。

「え?旅行中のソウゴくんになにかあったの!?」

「あ、いえ何でもないです」

 慌ててツクヨミが誤魔化すと順一郎は安堵の表情を浮かべる。

「あ、それは良かった。でもソウゴくん一人で旅行行っちゃうなんて釣れないなぁ。叔父さんも一緒に行きたかったよぉ〜」

 ツクヨミ達の嘘を信じ切った順一郎はそう言って、部屋の奥に入っていった。

 気を取り直しゲイツが話を戻す。

「それにあの謎のライダーもはっきりさせないとな」

 それは突如ゲイツ達の前に現れアナザーパンドラを2017年に飛ばしたパンドラの事であった。しかし、本来のパンドラである光一もゲイツ達と同じく目撃しており、パンドラの姿をした何者かと言う結論に至った。

「アナザーライダーを庇ったと言う事は、あいつもタイムジャッカーの仲間という事なの…?仮面ライダーが味方するなんて…」

 半ば信じられないといったツクヨミだが、現にそのようにしか考えられない行動にもはや疑う余地など無かった。

「とにかく2017年に戻るぞ。ジオウを連れ戻す」

 ゲイツとツクヨミは互いに頷くとクジゴジ堂を出てタイムマジーンに乗り込んだ。

 

 

 その頃、いつかの場所で寛いでいた門矢士が気配に気付き目を開ける。

「そろそろ動き出したか」

 士は立ち上がり何処かに向かおうとするとオーラが止める。

「一人でどこ行く気よ。私がいないと過去に向かったアイツらのとこに行けないくせに」

 そう言って嘲笑うオーラに士は一言返した。

「ま、黙って見てろ」

 すると士の前方にオーロラが現れ姿を消していった。その出来事にオーラは返す言葉も無く絶句していた。

 

 

2017年

「ねぇ(がん)さん〜、頼むから信じてよぉ、俺ホントに怪しいやつなんかじゃないんだってぇ…」

「うるせぇな…さっきから言ってるだろ、あんな場所であの解良(おとこ)と一緒にいて、おまけに向こうの方がボロボロなんてどう考えても怪しいじゃねえか」

 取り調べ室でソウゴは自分を捕まえた警官を岩さんと呼んで、二人で話をしていた。

「そもそもお前が変な姿になって怪物と戦っていたって目撃証言や押収した物品から変なもんがいっぱい出てきてるんだ。仮にお前が悪いやつじゃなかったとしても、話は洗いざらい聞かせてもらうぞ」

 そう言って岩さんは一人だけ行きつけの定食屋から出前で取った天丼をかき込んだ。

 ちなみに本名は小早川(こはやがわ)人美(ひとみ)という。岩さんのあだ名は、岩のような屈強な身体と頑固(ガンコ)一徹から来ており名前とは一切関係ない。

「大体お前、留置場でちょいちょい言ってた"王様"ってなんの事だよ?」

 岩さんは天丼を食べ終わるとソウゴに向き直って一つ質問をする。

 その問いにソウゴは顔色を変え、真っ直ぐな目で言った。

「俺はさ、王様になるのが夢なんだ。王様になって、みんなが幸せでいられる平和な世界にしたい。その為に俺は王様になりたいんだ」

 ソウゴがそう言い切る中、岩さんは我慢しきれず吹き出すと下品な笑い声を上げた。

「はぁ?王様になるだぁ?お前何歳だよ、ガキじゃねぇんだぞ!ガハハハ」

「ちょっと!俺真面目に言ってるんだけど!」

 しかし、ひとしきり笑った後岩さんはポツリと呟いた。

「まぁでもそんな奴が王様になったら、ホントに世界を平和にする事もできるかもな」

 その思わぬ言葉にソウゴは心の底で微かに喜びを感じた。

 

 

 一方、同じ留置場内の別の場所では、ある牢に向けて一人の警官が声を掛ける。

「おい起きろ、解良(かいら)堅牢(けんろう)。勝手にくつろぐな」

 警官に怒鳴られ、俯いていた解良が顔を上げ、殺意の灯った目を向ける。

「うるせぇ…、さっさとこっから出せ…」

「何言ってる、誰が貴様を__」

 次の瞬間凄い勢いで部屋の端から牢屋前の警官の所まで飛び上がり、鉄格子の間から腕を伸ばし警官の首を絞め上げ半狂乱的に叫び出す。

「ぜってぇ殺す!!あの王様とか言ってたガキ、ぜってぇ殺してやる!!!さっさとこっから出て必ず見つけ出してやるからなぁぁぁ!!!!」

 かつての余裕綽々とした態度は影も形もなく、そこには髪を振り乱しソウゴへの殺意を露わにする危険な男の姿がそこにあった。

 すると、必死に抵抗していた警官の動きが止まる。いや、警官だけでない。牢の窓から微かに見える木々や鳥も風が吹く中空間に静止している。

 そう、時間が停止しているのだ。その現象を今唯一動ける解良は知っていた。

「あんたか…」

「お久しぶりですね」

 微動だにしない警官の横から現れたのは、かつて解良に力を与えたタイムジャッカーのツァイトであった。

「今の貴方様の常磐ソウゴへの殺意。非常に素晴らしいです!そんな貴方様に朗報でございます。今現在、常磐ソウゴもこの留置場内にいらっしゃいます」

「何…あいつが…?ハァ…ハァ…ハハハハ…」

 ツァイトの話を聞き、解良の息が徐々に荒くなっていき狂気の笑みを浮かべる。

「えぇ、まさに絶好のチャンスという訳です!そこで…」

 そう言ってツァイトは新たなアナザーウォッチを取り出す。解良はその力の源に目が釘付けとなる。

「貴方様にはもう一度アナザーライダーになって頂きます。この力で悲願を達成されて頂きたい」

「あぁ…!その力を寄越せ…!それを使って…あいつをぶっ殺すッ!!!」

「よろしいでしょう」

 ツァイトは眼鏡をくいと上げると満足そうに笑みを浮かべる。アナザーウォッチを起動し、牢屋越しから解良に再び取り込ませる。

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

 絶叫と共に解良が新たなアナザーライダーに姿を変える。

『ジェイル…』

 身体に小汚い囚人服のような白黒のストライプ模様が入っており、四肢には拘束具が装着され、顔は複眼に沿って手錠のようなものが付き、その前に鉄格子が掛けられている。その奥で緑の瞳が片方、闇の中で爛々と光っていた。

胸には囚人番号のように『2017』『JAIL』の文字が刻まれている。

「今日から貴方様が、仮面ライダージェイルです…!」

 再び動き出した時間の中、アナザージェイルが恨みのこもった驚異的な力で目の前の鉄格子をなぎ払い破壊する。

 

 

 牢屋内で岩さんのケータイがけたたましく鳴った。

「何!?脱走!?」

 取り調べを終え、ソウゴを元の牢屋に戻した岩さんは、電話に出ると急いで現場に急行しようとする。その手前思い出したようにソウゴの方を向き釘を刺す。

「おい王様!お前はここにいろ!何があっても動くんじゃねぇぞ…」

「いや!俺も行く!」

 しかし、ソウゴは岩さんの命令を即答で拒否。その場から立ち上がり、同行の意を見せる。

 檻の外では緊急事態を伝えるサイレンが予断を許さぬように鳴っており、留置場中のシグナルが真っ赤に光り嫌でも内部の人間を不安にさせる。そんな状況を背に自然と岩さんの口調もきつくなる。

「てめぇ!国家権力様に逆らうんじゃねえ!ここから出したら逃げ出すだろうが…」

「そんな事しない!アイツは俺が止めないと…だから岩さん!信じてくれよ!」

 だが、ソウゴの心は決して折れず、岩さんの目を真っ直ぐに見つめ鉄格子を強く握りながら縋り付くように叫ぶ。

 サイレンが鳴り響きシグナルが赤く点滅する留置場内でしばらく沈黙が続いた後、岩さんが鍵を取り出しゆっくりとソウゴの牢を開けた。

「こい。ちょっとでも俺から離れたら承知しねぇぞ」

 ソウゴがにこやかに頷いた。

 

 

『タイムマジーン!』

 再び2017年に到着したゲイツとツクヨミはそこでソウゴが捕まっている留置場内の異変に気付く。

「どうやら中で何か起こってるようだな」

「でも、今なら混乱に乗じてソウゴを助け出せるかもしれない!」

 二人は警備が薄くなっている事を確認し裏口から侵入していった。

 そんなゲイツ達を静かに見つめる者がいる。

 ウォズが逢魔降臨歴を覗きながら彼らの動向を興味深そうに観察していた。

 

 

 留置場内でソウゴと岩さんの二人は、牢の間に広がる狭い通路を警戒しながら進んでいた。

 いつ何処から相手が出てくるか分からない。留置場中に広がるサイレンとシグナルに晒される中緊張感がピークに達するという時にソウゴが不意に話しかけてきた。

「岩さん、お願いがあるんだ」

 拳銃片手に意識を集中していた岩さんは突然声を掛けられ、一瞬気持ちが緩む。

「何だよ、今それどころじゃないだろ」

「実は俺、未来から来たんだ」

 張り詰めた空気からのソウゴの突然のカミングアウトに思わず岩さんが声を上げる。

「お前!こんな時にふざけた事言うな!!」

「いや、ホント何だって!と言っても1年しか違わないんだけどね」

 緊急事態の真っ只中にも関わらず、いつもと変わらぬ調子で会話を始めてしまった二人だったが、気を取り直しソウゴが真面目な表情で岩さんに向き直る。

「それで、岩さんに頼みたいのは、あの解良をしっかり捕まえて欲しいって事なんだ」

「どう言う事だ、そりゃ?」

 岩さんは構えていた拳銃を下ろし、聞き返す。

「アイツも未来から来たんだけど、本来この時間の解良はまだ野放しのままなんだ。だから、岩さんにはちゃんと今の解良も捕まえて欲しいんだ。そうすれば、未来も変わるから」

 真っ直ぐ目を見て話すソウゴに岩さんは半信半疑だったものの、やがてフッと軽く笑うとこう言い返した。

「全く、何言ってるか分かんねぇけどよ、嘘はついてねぇみたいだしな。言われねぇでも、悪人捕まえんのは国家権力様の仕事だっつーの」

 そう言ってまた岩さんはガハハと笑う。ソウゴはその岩さんの反応が嬉しく彼もまた笑顔になった。

 そんな彼らは、完全に油断しきっていた。

『がああああっ!!』

 突然、牢の陰からアナザージェイルが飛び出してくる。ソウゴと岩さんは思わず左右に飛び退く。

『見つけたぞ…あの時の屈辱、たっぷりと晴らさせて貰うからなぁ…!!』

 アナザージェイルは執拗にソウゴを狙って襲い掛かる。岩さんが牽制して拳銃を発砲するも全く効いてる様子は無い。

「何でまた違うアナザーライダーに!?でも、とにかく今は…」

 ソウゴがアナザージェイルに対抗する為に、ウォッチとジクウドライバーを取り出そうとして、ポケットをまさぐるが、

「そうだった…今持ってないんだった!岩さん!ドライバーとウォッチ返して!」

 アナザージェイルの猛攻を紙一重で回避しながらソウゴが岩さんに向けて叫ぶ。

「あぁ…?これの事か!?」

 ソウゴに言われて岩さんが恐る恐る押収品のジクウドライバーとライドウォッチを取り出し、ソウゴに向けて投げ渡す。

 宙を舞う二品を飛び退いた拍子に見事キャッチしたソウゴが腰に取り付け起動させる。

『ジオウ!』

 すると背後に巨大な時計が出現し、岩さんがその光景に釘付けになっている間にソウゴがポーズを取り、声を張り上げる。

「変身!」

『ライダータイム!仮面ライダージオウ!』

 たちまちソウゴの姿が変わり、顔にライダーと大きく書かれたその出で立ちを見て驚く岩さん。

 彼を背にジオウがアナザージェイルに立ち向かう。

 アナザージェイルは腕にチェーンを巻きつけて作ったかのようなメリケンサックを握り殴り掛かってくる。ソウゴはジカンギレードを呼び出し、相手の拳を受け止めると、反対に斬りつけて攻撃していく。

 しかし、身体中に巻き付けられた拘束具が逆に防御の役目を果たしており、アナザージェイルに攻撃が通っていないようだった。

 今度はアナザージェイルがチェーンを射出しジオウを縛り上げる。身動きが取れなくなりピンチに陥ったジオウを助ける為に、岩さんが再び発砲しアナザージェイルの背中に被弾する。しかし、それでもビクともしないアナザージェイルが岩さんの方に向き直る。

『てめぇ…さっきから、鬱陶しいんだよ…ッ!!』

 標的を変え岩さんに襲い掛かろうとするアナザージェイル。その光景を縛られたままのジオウが何とかしようともがく。

「岩さん危ない!」

 辛うじて動かせる腕でホルダーからコダマスイカアームズを起動させ、岩さんの前まで放り投げる。

『コダマシンガン!』

 倒れ込んだ岩さんを庇うようにコダマが現れ、小さい種型の銃弾がアナザージェイルに向かって無数に打ち込まれる。小さいながらも普通の拳銃よりは威力があるようで、アナザージェイルが後退すると、その隙に鎖を千切ったジオウが背中から斬りつける。

「大丈夫、岩さん?」

「あぁ…、助かった」

 ジオウが岩さんを起き上がらせるとすぐに武器を構えアナザージェイルに向き直る。

 岩さんは真っ先に自分の救出を優先したジオウに驚きの視線を向けた。

 不意を突かれ、少々押され気味のアナザージェイルが突然黒いマフラーに吸い込まれ姿を消す。

 その現象に驚きジオウがアナザージェイルの立っていた場所まで行くと、近くの牢の中に見覚えのある男がいるのに気付く。

ウォズである。

「性懲りも無い」

「ウォズ…」

 思わぬ場所で出会ったジオウは鉄格子越しに会話する。

「悪戯に時間を変えてはいけないと言ったはずだよ、我が魔王」

 岩さんに未来の事を話し、以前のように歴史を少しでも変えようとしたソウゴに対してウォズは忠告する。

「しかし、作戦通り2017年にアナザージェイルが生まれ君が今囚われの身なのは好都合だ」

 突然本来なら知る由も無い事を語り始めたウォズにジオウが疑惑の念を抱いて尋ねる。

「何でそんな事知ってる?」

「私があちら側に着いたからさ、我が魔王」

「どうして…」

 彼の思惑が理解出来ないソウゴは問いただそうとしたものの、そこにはもう既にウォズの姿は無かった。

 変身解除し、岩さんの元に戻ろうとしたところ突如オーロラが発生しソウゴの周りを包み込む。

 突然の事態にソウゴは困惑しながら辺りを見回すが、背後に気配を感じ振り向く。

「誰?」

 しかし、そこにはぼんやりと人影が浮かんでいるだけであり、はっきりとした姿は無かった。だが、そこから発されるであろう声だけはソウゴの耳にもしっかりと聞こえた。

「一つ尋ねる。お前は魔王になるという自分の運命をどう思う」

 突然突き付けられる疑問。しかし、ソウゴはそれに何の迷いもなく答える。

「俺は魔王にはならない。仮になるとしても最高最善の魔王になってみせる」

「本当にそうか?お前は本当にそうなる事が出来るのか?」

 しかし、対する相手はソウゴに繰り返すように質問を重ねる。

「運命はそう簡単には変えられないぞ」

「だからと言って、黙って運命を受け入れられる訳ないだろ」

 それでも、何度言われようとソウゴの心に迷いはないらしく、姿の見えない相手に向かって力強く答える。

「なら足掻いてみせろ。自分が望む理想を貫いてみせろ」

 

「お前を縛る運命も破壊して見せろ」

 

 気付くとソウゴはいつの間にか見知らぬウォッチを握り締めていた。

 そのウォッチは他のライドウォッチと違い形状が横に長く、ウォッチでありながら横にはスロットが付いていた。

 すると、段々周りの空間が歪んで行き微かに見えていた人影が途端に見えなくなっていく。

 オーロラが晴れるとそこには先程の男がおらず、元の留置場に戻っていた。しかし、ソウゴの腕の中に宿るマゼンタ色の異質なウォッチのみは変わらず存在し続けていたのだった。

 

 

 一方その頃別の留置場のフロアでは、

『サーチホーク!探しタカ!タカー!』

 ツクヨミが放ったタカウォッチロイドが戻ってきて情報を伝える。

「この先にソウゴがいるみたい!」

「よし、行くぞ」

 長い廊下を抜けようとした矢先、横から人影がぬらりと現れ二人の前に立ちはだかる。

「待て、先へは行かせないぞ」

 そこにいたのは、かつてゲイツも見た事のある仮面ライダーフリーゲルであった。しかし、やはりベルトのみパンドラの時と同じマゼンタ色の独自のものとなっており、その雰囲気も相まって前回と同一人物である事が分かる。

「また違うライダー…」

「今お前達を合わせる訳には行かないんでな、ここでお引き取り願おうか」

 フリーゲルが軽い調子で二人に諦めるよう忠告するが、当のゲイツはそれを素直に聞くような男では無かった。

「悪いがこっちは急いでるんだ。相手をしている暇は無い」

『ゲイツ!』

 ウォッチを回して腕を旋回、ベルトを回転させ背後の時計が回る。

「変身!」

『ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!』

 変身完了すると迷わずフリーゲルに飛び掛かる。だが、やはり相手は只者では無く、軽くいなされ逆にカウンターを喰らい徐々に押され始めていく。

 しかし、今回はゲイツもやられっ放しでは無かった。

「だったら、こいつでどうだ!」

『フリーゲル!』

 いつの間にやらソウゴから借りていたフリーゲルライドウォッチを起動する。ドライバーに取り付け起動させると背後にゲイツカラーに差し替えられたフリーゲルアーマーのパーツが現れる。

『アーマータイム!ビルドアップ!フリーゲル!』

 尚もフリーゲルに抵抗し続けるゲイツの動きに連動しながら、アーマーが自動的にゲイツの体に装着され、ゲイツ・フリーゲルアーマーに変身完了する。

 同じ力で対抗し始めた事でフリーゲルの反応が変わり、両者は拮抗していた。

 そして、一瞬の隙を見せたところでゲイツが素早い判断を下し、ウォッチのスイッチを押して必殺技の構えを取る。

『フィニッシュタイム!』『フリーゲル!』

『コンプリート!タイムバースト!』

 ゲイツが飛び上がり必殺キックを叩き込む。対してフリーゲルはガードするも威力を抑えきれず後退し膝をつく。

「やるな…だったら、こいつならどうだ?」

 するとフリーゲルが新たなカードを取り出す。

 そこに描かれているのは、ゲイツ達がまだ見ぬ別のライダーであった。

『カメンライド…ジェイル!』

『ブレイク・ア・プリズン!!ゲット・ア・フリーダム!!』

 すると何も無い空間から鉄格子が現れフリーゲルを覆い隠し、その後再び開かれた際には別のライダー、ジェイルに姿を変えていた。

「何!?」

「姿が変わった…?」

 困惑するゲイツ達を他所に、ジェイルが右手に手錠型のメリケンサック、チェイン・ナックルを構え反撃に出る。

 ジェイルについてはよく知らないゲイツは、戦法を大きく変えられたのも相まって、さっきと打って変わり防戦一方に。

 ナックルの一撃にゲイツが大きく吹っ飛ばされたところで、ジェイルがレリーフの書かれた必殺技用のカードを挿入する。

『ファイナルアタックライド…ジェ・ジェ・ジェ・ジェイル!』

 ジェイルが振り上げた足から射出された手錠型のエネルギーがゲイツを拘束する。身動きが取れない間にジェイルが飛び上がり、さっきのお返しとばかりに回転蹴りを炸裂させる。

 手も足も出ず諸に食らったゲイツは派手に地面を転がり変身前の姿に戻る。

 ツクヨミが駆け寄る中、ゲイツはジェイルの姿をした相手を凝視すると息絶え絶えに言い放った。

「貴様…何者だ…?」

「…通りすがりの仮面ライダーだ。覚えとけ」

 ジェイルはゲイツの言葉に静かにこう返すと、そのまま背を向け彼らの元から去っていった。

「待て…」

 ふらつく足に力を振り絞り、ゲイツが立ち上がろうとすると廊下の奥から聞き慣れた声に名を呼ばれる。

「ゲイツ!ツクヨミ!」

 ジェイルが消えたのとは反対方向からソウゴがやって来てゲイツとツクヨミのところまで駆け付ける。

「ソウゴ、どうしてここに…?」

「俺もアナザーライダーを追って檻から出て来たんだ」

 ツクヨミの疑問にソウゴが答えている間に後から岩さんが追いついて来た。岩さんは本来ならここに居ないはずのゲイツとツクヨミを見て目を尖らせる。

「おい、お前ら!勝手にここに入って来てんじゃねぇ!不法侵入だぞ!」

 余計話が拗れそうな為ソウゴ達は岩さんに正直に全てを打ち明ける事にしたのだった。

 

 

 場所を変え、留置場の取調室で集まって話をする4人。自分達の事情を全て岩さんに話したソウゴ達はアナザージェイルの話に移った。

「ウォズの話ではアナザージェイルが生まれたのは俺のせいらしい」

「どういう事だ」

 

 

 詳しい内容はこうである。

 まず、ウォズが密かに細工していたタイムマジーンによってソウゴは間違えて2017年に行く。

 一方現代のアナザーパンドラも門矢士によって2017年に飛ばされる。

 そこで現代のアナザーパンドラは2017年においてソウゴによって倒される。

 しかし、解良が一番最初にアナザーライダーになったタイミングである2015年のアナザーパンドラが倒されていない。

 故に何処かでアナザーパンドラはまだ存在している事になっており、現代の解良もまた2017年に取り残されてしまった事で新たなに力を与えられアナザージェイルとして別々に存在する事になってしまった。

 その為、2015年のアナザーパンドラを倒さない限り、事件は完全に解決しないのである。

 

 

「俺は2017年でアナザーパンドラを倒しちゃったんだ」

「つまり、2015年でしっかりとアナザーパンドラを倒す必要があるという事か」

「うん、だからゲイツこれ」

 ソウゴが渡したのはパンドラライドウォッチだった。

「アナザーパンドラは任せたよ!」

 ソウゴから何の疑いもなく屈託の無い笑顔を向けられる。

 ゲイツは一瞬鋭い視線を向けるが、事態が差し迫っている事もあり、渋々ウォッチを受け取った。

「俺達は取り敢えず今逃げているアナザージェイルを追う。タイムマジーンを使えば捕まえられる筈だ」

 これからの行動が決まったソウゴ達は留置場の入り口を出てタイムマジーンの元に向かおうとする。

 そんな彼らの後ろ姿を見て、岩さんは意を決めたように後ろから声を掛けた。

「おい!王様さんよ!」

 岩さんがポケットから何かを取り出すとソウゴに向けて投げ渡した。

「これ…」

「それは快気祝いだ!」

 慌ててキャッチしたソウゴの両手には白黒のライドウォッチが握られていた。

「ちょっと前に、旅に出てる生意気な知り合いに渡されてな。この際だ、お前が持ってろ!」

 岩さんからの思わぬ計らいにソウゴは驚きを隠せない。

「お前はもう釈放だ!後は俺の方で手続きしといてやる!」

「ありがとう!岩さん!」

 ソウゴは心から感謝すると、ウォッチを掲げてゲイツとツクヨミと共に自身のやるべき事をする為に掛けていった。

 岩さんは三人の若者の後ろ姿に笑みを浮かべると、静かに見送ったのだった。

 

 

 ソウゴ達はアナザーパンドラ、アナザージェイルをそれぞれ二手に分かれて倒す為にマジーンの元に向かおうとする。

「行かせませんよ!」

 そこに、突如上空から白いボディの戦車がカスタマイズされたタイムマジーンが落下してくる。

 本来のものと違うその異質なマジーンを見て、ソウゴ達は瞬時にタイムジャッカーだと察する。

 マジーンを操縦するツァイトは、コクピット内で譲れない思いを吐露していた。

「今回はあのお方がやって来るんです…!その為にも、今回だけは…、今回だけは…!」

 

『邪魔される訳には行きません!!』

 

 ツァイトの叫びが響くと共に、マジーンの下にセットされた戦車が変形し始める。

 4輪のタイヤがパーツと共にマジーンの上を滑り足元に2対ずつ設置される。本体の機体は頭部の辺りに食い込み、背中から長い2本のアームと巨大な主砲が伸びるロボモードに変形した。

 かつて仮面ライダーパンドラが使用していた巨大マシン・バトルマッシャーをツァイトはタイムマジーンと合体させ、ソウゴ達の前に立ちはだかった。

「仕方ない、俺達もマジーンで応戦しよう!」

 ソウゴとゲイツはマジーンに乗り込むと内部で変身し、それに呼応してマジーンもロボモードに変形する。

 二人掛かりでツァイトのマジーンに立ち向かうものの、バトルマッシャーによって体格が2倍以上違う為ほとんどの攻撃が通らずダメージを与えられないでいた。

 おまけにアームや主砲の攻撃は一撃でジオウ達を吹っ飛ばすには十分な威力で、二対一の状況にも関わらずツァイトのマジーンに押され気味であった。

「くそっ、パワーが違い過ぎる…!」

「ゲイツ!だったらこれで!」

 状況を打開する為ジオウとゲイツがそれぞれウォッチを取り出し起動させる。

『フリーゲル!』

『イカラス!』

 するとそれに合わせてマジーンの頭部に付くウォッチがそれぞれフリーゲルとイカラスのものに変わり、モードを変更する。

 イカラスモードのゲイツのマジーンがロボ形態にも関わらず高速で飛行してツァイトのマジーンを翻弄している間に、フリーゲルモードのジオウのマジーンが、両手に持つ剣と盾で攻撃を防御しながら2本のアームと主砲を切断し無力化させる。

「え、あ、ちょっ…、待って…!」

 突然のチームプレイに押され始めたツァイトはパニックに陥り、その間にウォッチを起動して必殺技を発動させる。

『フィニッシュタイム!』

 ジオウが飛行するゲイツの背中に乗り、そのまま一直線に突撃していく。剣を突き立て、ツァイトのマジーンをすれ違いざまに一閃しボディを真っ二つに切り裂いた。

「あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!そんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 ツァイトの絶叫と共にマジーンが大爆発を起こした。すぐ様ジオウのマジーンが飛び降りるとゲイツはそのまま時空を超え2015年に直行する。

「よし、俺達はアナザージェイルを追おう!」

 ジオウは一旦マジーンを下ろしツクヨミを乗せると、この時代に逃げ込んでいるアナザージェイルを捕まえる為再びマジーンを飛ばした。

 

 

2015年

 ツァイトと契約し力を得たばかりの解良はアナザーパンドラとなり暴れていた。

 そこにゲイツのタイムマジーンが下り立つ。

『ん?誰君?』

 中から出てきたゲイツに向けて疑問を向けるも、対する本人はジクウドライバーを腰に装着し構える。

「お前とはきっちりケリを付けさせてもらう」

 ゲイツはウォッチを起動させ、アナザーパンドラと相対する。

 

 

 対してソウゴ達は2017年のままマジーンを使って逃げたアナザージェイルを見つけ出し追い詰める。

 再び街で暴れていたアナザージェイルの前にジオウが立ちはだかる。

『そっちから来てくれるなんてな…今度こそ息の根を止めてやる…ッ!』

 殺気を滾らせ構えるアナザージェイルを前に、ジオウは岩さんから渡されたウォッチを起動させる。

『ジェイル!』

 左スロットに挿入し、ドライバーを回転させる。

 すると前方に仮面ライダージェイルを模したアーマーか召喚される。

『アーマータイム!ブレイク・ア・プリズン!ジェイル!』

 アーマーがジオウの身体に装着されていきその姿を変えていく。

 ところどころに白黒の装甲が付与され肩にはキーがでかでかと並んでいる。両手にはジェイルの武器を模した巨大なグローブ、チェイン・ナックルZが備えられ、顔いっぱいには『ジェイル』の文字。

 ジオウ・ジェイルアーマーに変身完了した。

 その姿を見て、建物の屋上からウォズが声高らかに宣言する。

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ・ジェイルアーマー。また一つライダーの力を継承した瞬間である!」

「それは一体誰に向かって言ってるんだ?」

 すると、背後から門矢士が現れ冷静にツッコミを入れる。当然の疑問を指摘されたウォズは咳払いをして士の言葉から目を逸らした。

 ジェイルアーマーの攻撃はアナザージェイルにもしっかりと通用し、チェイン・ナックルZの一撃はその拘束具による防御も破りしっかりとダメージを与えていた。

 またもや押され気味のアナザージェイルが気合を発すると、背後からどす黒いオーラが吹き出してそれが異形の人型に姿を変えていく。

 アナザージェイルが変換した恨みや殺意といった負の感情がその能力によって具現化し、まるでゾンビの如くジオウにぞろぞろと向かっていく。

しかし、それにも怯まず一体一体殴り飛ばしていくと、一掃する為にウォッチを起動して必殺技の準備に出る。

『フィニッシュタイム!』『ジェイル!』

「俺は今、自由な気がする!』

 ドライバーを回すと音声が読み上げられ、ジオウは両手の拳を構える。

『チェイン!タイムブレーク!』

 ジオウの足元から巨大な手錠型のエネルギーが飛び出し、邪悪なオーラを一箇所に縛り上げる。

 身動きが取れなくなったのを確認するとジオウがそこに向かって駆け込んでいき、力一杯その強力な拳によるパンチを叩き込んだ。

 たちまち爆発が起こり、炎と共にオーラは霧散していった。

 相手を仕留め、ふっと力を抜いたジオウだったが近くで見ていたツクヨミがその異変に気付き叫ぶ。

「待ってソウゴ!まだ倒せてないわ!」

 その忠告とほぼ同時に隠れ潜んでいたアナザージェイルが背後からジオウに飛び掛かってくる。

 

 

2015年

 ゲイツはジカンザックスを振るいアナザーパンドラを押していた。

『こうなったら…これでも喰らえー!』

 拉致の開かないアナザーパンドラは空中からキューブを出現させゲイツに向けて飛ばす。

 途中で分解しゲイツの身体に無数にくっ付いたキューブがそれぞれ表面にパズルを浮かび上がらせ、徐々に熱を帯びていく。

『フフフ…君に解けるかな?』

 前回よりも多くのキューブがくっついている為、爆発すればその威力は前回の比では無い。しかし、ゲイツは慌てずに冷静にジカンザックスのおのモードを起動させ必殺技の態勢を取る。待機音が秒針を刻み、タイムリミットが刻々と迫る。

『5…4…3…2…1』

 キューブの残り時間が限界を迎え、アナザーパンドラが勝利を確信し油断し切ったところで、ゲイツが動き出しジカンザックスのトリガーを引き大きく振るう。

『ゼロタイム!』

2!0!1!5!

 瞬時にゲイツがパズルに数字を打ち込む。するとキューブはすぐに外れそれを振り上げたジカンザックスの一撃でそのまま相手に向けて吹っ飛ばす!

『ザックリ割り!』

 必殺技の一撃と共に自分の放ったキューブが跳ね返され逆に自身が爆発を喰らう。

『がああっ!?』

「残念だったな。その手のパズルは、光一(アイツ)から既に習得済みだ!」

 ゲイツが光一から貰ったナンプレを取り出し、自信満々に語る。

 不意を突かれアナザーパンドラが怯んでいる間にジカンザックスをゆみモードに変え、パンドラライドウォッチを取り付ける。

『フィニッシュタァイム!』

 弦をいっぱいに引き、エネルギーが充填されていくや否やトリガーを押して弦を射出する。

『パンドラ!ギワギワシュート!』

 先端からキューブ型のエネルギーが発射され、アナザーパンドラを見事に貫く。一瞬体に3×3のマス目の入った立方体模様が出たかと思うと、たちまち大爆発を起こした。

『あがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 爆炎からアナザーウォッチが飛び出し、空中で粉々に砕け散っていった。

「そっちは任せたぞ、ジオウ」

 ゲイツは空を見上げ、別の時間で戦っているソウゴに向け静かに呟いた。

 

 

2017年

 密かに攻撃を避け、ジェイルアーマーでも倒しきれなかったアナザージェイルがジオウの首を凄い力で締め上げる。

 辛うじて抵抗しもがくジオウに対してアナザージェイルが恨みを込めて言い放つ。

『お前なんかが…王様になれる訳ないだろうがぁ…ッ!!!』

 その言葉を聞いてソウゴの脳裏にかつての言葉がよぎった。

 

ーまぁでもそんな奴が王様になったら、ホントに世界を平和にする事もできるかもな

 

ーお前を縛る運命も破壊して見せろ

 

「いや…俺は王様になる…なってみせる!」

 覇気を取り戻したジオウはアナザージェイルの拘束を振りほどくと、無意識に士から渡されたディケイドライドウォッチを取り出していた。

「俺を縛る運命なんて…破壊してみせる!」

『ディ・ディ・ディ・ディケイド!』

 ウォッチのスイッチを起動させドライバーに取り付けると、ジオウの周りにカードが現れる。

『アーマータイム!カメンライド!ワーオ!ディケイド!ディケイド!ディケイドー!』

 カードが重ね合わされるのと同時にジオウの身体に今までのアーマーとは全く違う、マゼンタカラーの独自のものが融合する。

 マゼンタと黒の配色で、ガッシリとした装甲がジオウを包み、胸には十字型の巨大なボディが身を守りそこにはバーコードのような模様が並んでいる。顔はカード型の平らな枠に直接顔が刻み込まれ普段と打って変わり緑の文字で『ディケイド』と描かれている。

 世界の破壊者・ディケイドの力を宿した、ジオウ・ディケイドアーマーが誕生した。

「祝え!全ライ…」「くどい」

 再び祝おうとしたウォズから逢魔降臨歴を奪うとすかさず黙らせる士。気を取り直して自身の力を身に纏うジオウに不敵な笑みを浮かべる。

「さぁ、見せてみろ。常磐ソウゴ」

 ジオウが空中に手をかざすと何処からともなく新たな武器が支給される。

『ライドヘイセイバー!』

 時計を模したデザインが付いたその長剣を構えアナザージェイルに挑みかかっていく。

 先程以上にアナザージェイルの防御を貫通し、ドンドンと押していく。

 するとウォッチのスロットに気付いたソウゴが別のウォッチを取り出す。

「これ…もしかして!」

『フリーゲル!』

 フリーゲルライドウォッチを起動させ、ディケイドライドウォッチのスロットにはめるとディケイドアーマーに変化が起こる。

『ファイナルフォームタイム!フ・フ・フ・フリーゲル!』

 たちまち全身の姿が変わり、仮面ライダーフリーゲルの強化形態、フリーゲル・ビヨンドビルダーを模した姿になる。

 身軽な動きでアナザージェイルを翻弄していくと、今度はライドヘイセイバーの長針を動かしてみる。

『ヘイ!ソング!』

 ソングのレリーフが浮かび上がり、ジオウは剣を構えるとトリガーを引く。

『ソング!デュアルタイムブレーク!』

 ライドヘイセイバーから音符と共に七色のオーラが溢れ出し、それを使ってアナザージェイルを斬りつける。

 怯んだアナザージェイルを横目に再び長針を動かす。

『ヘイ!シャドウ!』

『シャドウ!デュアルタイムブレーク!』

 今度は打って変わって闇のエネルギーが漏れ、アナザージェイルを包み込むとエネルギー波を発して吹っ飛ばす。

 間髪入れずに再びジェイルライドウォッチを取り出すと今度はそれをスロットに挿し込む。

『ファイナルフォームタイム!ジェ・ジェ・ジェ・ジェイル!』

 強化形態である仮面ライダージェイル・パッショネス・サンを模した姿へと変わり、アナザージェイルを有無を言わさず追い詰める。

「これでトドメだ!」

『フィニッシュタイム!』

 ディケイドライドウォッチを装填し、針を3周させる。

『ヘイ、カメーンライダーズ!(ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘヘヘイ!セイ!……!)』

 やかましい待機音を背にジオウがライドヘイセイバーを手に構える。もはや満身創痍でよろよろと立ち上がるアナザージェイルに向けトリガーを引く。

『ディ・ディ・ディ・ディケイド!平成ライダーズ!アルティメットタイムブレーク!』

「おりゃああああああああああああ!!!!」

 平成ライダーの力の込もったカード型エネルギーが並び、それに合わせてアナザージェイルを十字に切り裂いた。

 通常の比ではない程の大爆発が巻き起こり、アナザージェイルは完膚無きまで叩き潰された。

 炎が晴れると黒焦げの解良がボロボロの囚人服姿で背中から崩折れた。彼から吐き出されたアナザーウォッチは傍らで電撃を発するとバラバラに破壊された。

 ディケイドアーマーはライドヘイセイバーを手に、勝利の余韻に浸りその場に佇んでいた。

 

 

2018年

 現在、ソウゴ達に力を託した彼らは変わらず普段の生活を送っていた。

 ナンプレ片手に今日も大学を通学する光一。

 ふと立ち止まり空を見上げると、何処か満足したような笑みを浮かべ学校への道を急いだ。

 岩さんもまた、今日も今日とて町の平和を守る為天丼を食しながらも警察として活動に慈しむのだった。

 仮面ライダーという運命が交わらずとも、彼らの根底にある信念もまた変わる事は無い。

 

 

 現代に戻りソウゴとツクヨミはクジゴジ堂に帰還した。

「ただいま!」

「あっ…おかえり」

 玄関に入ると順一郎が不安そうな顔でソウゴ達を出迎える。

「おじさんお腹減った!」

「あ…お腹すいた?今ねソウゴくんにお客さんが来てて、そのお客さんがソウゴくんのご飯食べちゃった…」

「はぁ?」

 帰ってきて早々意味不明な発言に思わずソウゴが声を漏らす。

「あ、すぐ作るから!」

「えっ…ちょっと、はぁ!?」

 困惑しながら部屋に入るソウゴ。

 そこにはゲイツに睨まれながらソウゴの夕飯を呑気に食している男がいた。

「どちら様ですか?」

 ソウゴの問いに対して、食事を終え満足そうに立ち上がった男は口を開いた。

「門矢士。通りすがりの仮面ライダーだ」

 そう言っておもむろに士がソウゴに向けてシャッターを切る。その飄々とした態度に、思わずゲイツもいきり立ち腕のウォッチに手を伸ばす。

 しかし士は気にせず厨房の方の順一郎に向けて礼を言った。

「ご馳走さま、美味かった」

「あ、お粗末様でした。またよろしくお願いします…って、うち時計屋なんだけど」

 少し店のものを除いた後そのまま店を出ようとする士に対して、慌ててソウゴが後ろから止める。

「ちょっと待って!?」

 

 

 

この本によれば、例え彼らが歴史に小さな変化をもたらしたとしても、門矢士の登場によって大いなる歴史の流れが始まる。そう、私の思い通りに…

 

 

 

 士の背中に向けてソウゴが質問を突きつける。

「俺に用があって来たんじゃないの!?」

「あぁ…そうだった。お前、王様になりたいんだってな?」

 突然の質問に思わずソウゴは、うん、と答える。

 そんなソウゴににじり寄り、襟を弄ると無慈悲に言い放つ。

「だが無理だ。この世界は俺に破壊されてしまうからな」

 ソウゴ達は士の悠々としたその後ろ姿を険しい表情で見つめる事しかできないのだった。




今回のアナザーライダーはちょっと複雑になっちゃいましたね。

仮面ライダージェイルは主人公の人生がかなりライダーの運命に引き寄せられ過ぎてて、歴史改変された場合どのような結果になるのか皆目見当がつかなかったのでこのような展開となりました。
もっとも主人公以外の人間からウォッチを託される展開も一度はやってみたかったのもあり、岩さんとソウゴを絡ませてみました。

そして、次回は予想付かない衝撃の展開となっております。どうぞご期待下さい!


追記
タグに「オリジナルミライダー」を追加しました。


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