ヤンデレゲットだぜ! (デンジャラスzombie)
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VSストーカー

ヤンデレ小説もっと増えろ。



 ポケットモンスター、略してポケモン。奴らは火の中や水の中、草の中に森の中、土どころか雲の中まで、挙句の果てにはあのコのスカートの中にすら入っている様々な意味で危険な珍生物達だ。

 

 さらに、その危険な珍生物を捕獲し戦わせるもっと危険な人種がこの世界には存在する。

 彼らの名はポケモントレーナー。ポケモンを捕まえる為には火の中水の中は当然のこと、あのコのスカートの中まで探索するような変質者達だ。

 

 因みにこれらの情報は信頼できる情報筋からの情報でありほぼ間違いないと思われる。

 

 変質者こと、ポケモントレーナーは至るところにいる。それこそ町から出て道路を歩けば一点を見据え微動だにしない少年少女や、クルクルと一定周期で回転する老人まで様々なポケモントレーナーが至れりつくせりだ。

 

 そんなポケモントレーナーの卵こと、シンオウ地方キッサキシティ在住の少年、トリカブトはいよいよ明日ポケモントレーナーとしての第1歩を踏み出そうとしていた。

 

 そう、皆からカブトと呼ばれ親しまれている少年は旅に出るのだ。それ自体は何ら問題はない。年頃の少年少女はポケモンマスターに憧れて旅をすることが多い。

 

 しかし! カブトの目的はポケモンマスターでは無い! カブトはある使命を帯びていたのだ! 

 

 その使命とは、キッサキシティにおける少子高齢化による過疎化問題の解決だ。重い。重すぎる。そして生々しい。10代の少年になんてもん背負わせやがる。

 

 しかしこれは冗談では無い。ここで思い出してほしい。キッサキシティのジムリーダーは誰だったのかを。

 そう、ダイヤモンドダストガールことスズナちゃんである。彼女に実力がある事は周知の事実だ。だが彼女はまだ若い。いくらこの世界の成人が早いとは言え、このくらいの歳ならまだ遊んでいてもいいのでは無いだろうか。

 

 スズナちゃんだけでは無い。他の地方にも必ず存在する……幼女系ジムリーダーを思い出すのだ。一部家の都合でジムを継いだ方もいらっしゃる様だが、幾ら何でも若すぎる。人材不足も甚だしい。幾ら強くても流石にこれは事案だ。

 

 過疎化はシンオウ地方のみならず、様々な地方でも問題視されている。

 その中でも特にキッサキシティは非常に問題視されている。単純にキッサキジム関係者と、漁業関係者、神殿関係者以外住んでいないのだ。

 それもそのはずわざわざシンオウ地方最北端のこの町に住もうなどと考える奇特者はそういない。

 そもそもこの町に来るためにはテンガン山を越えるか、船に乗って来るしか無いのだ。立地条件が厳しすぎる。何故そんな状況でシティを名乗れているのか?それはポケモン世界七不思議の内の一つだ。

 風の噂によるとポケモンリーグはキッサキシティからジムを別の場所に移動させることも検討しているという。

 

 これは不味い、と誰しもが思った。この町からジムが無くなれば割と本気で人が来ない可能性がある。わざわざ湖を見に来る人は研究者以外ではあまり見ないし、立ち入り禁止の神殿を除けば、もはやスキー場しかない観光スポットがない。

 

 このままでは町が滅んでしまう。そんな中白羽の矢が立ったのが彼、カブト少年なのだ。

 

 カブト少年に与えられた使命は、単純にして高難易度。それはチャンピオンシロナを倒し、中継されているテレビの前でキッサキシティの宣伝をする事だ。ハードルが高すぎる。

 

 カブト少年に自己決定権は無い。閉鎖的な地域コミュニティである老人会によって決められた事には逆らえないのだ。これが権力ってやつか……

 

 元よりポケモンと共に旅に出ることに興味があったのでカブト本人としては、なんかやることが増えた、くらいにしか思っていないのだが。

 

 ここでカブト少年について説明をしよう。彼は元々キッサキシティに住んでいたわけではない。彼は元々カントー地方マサラタウン出身の少年だった。キッサキ出身の母を持ち、純血種のスーパーマサラ人を父に持つ、いわばハイブリットといえる存在だ。彼は5歳くらいまでは彼らとマサラで生活をしていた。経済的にもそこそこ恵まれ、それなりに幸せだった事は間違いない。

 

 しかし幸福は長続きしない。

 

 ある日父親に届いた一枚の手紙、それが全ての始まりだった。唐突に現れ、家に突撃をかました郵便配達人カイリューが届けた手紙を読んだ父は、

 

「最強のトレーナーに、俺はなる!」ドン! 

 

 と言うやいなや旅の準備を整えると、ポケモン城なる場所へ旅立っていったのだ。勿論、麦わら帽子も忘れてはいない。

 彼は仕事や、家族などあらゆるものをほっぽり出して最強を探しに行ってしまった。

 

 これには母も悲しんだ。具体的に言うとローンがまだ返済されていないのにも関わらず、カイリューにより粉微塵にされた家について。保険は適応されないらしい。気が利かない奴らだ。

 

 母はこれを機にかつて退職した職場へ戻る事にした。母は元々研究者だったらしく何やら怪しげな事をしていたらしい。そこら辺は機密事項に触れるらしく何一つとして真相に近づくヒントは見つからなかったが。

 

 こうして母は息子であるカブトをキッサキシティに住む祖母に預け、別の地方へと旅立っていったのだ。

 ちなみに彼らからの連絡は今に至るまで一切ない。

 

 カブトの祖母は激怒した。かの暴虐邪智なる息子娘夫婦を許す事は出来ないと。端的に言うと勘当した。当然の帰結。彼女が常識人で良かった。

 

 これにてカブトの受難は終わりを告げ、彼は一般的な子供としての人生を歩み出す…………筈だった。

 

 しかしこのキッサキシティ一筋縄ではいかない町だった! 

 

 前述した通り、キッサキシティは少子高齢化問題による伝統技能の継承が滞っている。

 そこに降って湧いたかのように新しい子供がやってきた。ならばどうなるかは火を見るよりもファイヤー。

 

 技術の継承と言う名目で、このキッサキシティのあらゆる技術がこれでもかと詰め込まれたのだ。

 スキー技術や、雪かきの方法、郷土料理や、釣り。ここまでは分かる。だが、ポケモンを利用した漁業や、木を伐採しその木材の加工の仕方、挙げ句の果てに、キッサキ神殿の番人としての心構えや、ポケモンを使った戦い方、ポケモンの調理法、ポケモンと生身で戦う技術など、もはや英才教育を超えたナニカへと移行しつつあるそれは、一周回って哀れに思える。

 

 その詰め込み具合には気合で『きあいパンチ』を覚えたダイヤモンドダストガールも苦笑い。

 

 だがカブトは齢10にしてその全てをマスターして見せた。

 祝え! トリカブトがキッサキシティのあらゆる伝統技術を継承した瞬間である! 

 

 彼はポケモンバトルについても恵まれた位置で教えを受けている。何を隠そう彼の祖母は先代ジムリーダーであり、かつてジョウト地方のヤナギと氷タイプ頂上決戦を行った仲らしい。ヤナギのデリバードやラプラス、そしてウリムーが強すぎた、と時々遠い目で語る事もある。

 さらに現ジムリーダーのスズナの師匠でもあり、現在はスズナの負担を減らすべくキッサキ神殿の番人をしているらしい。属性の盛りすぎである。

 

 閑話休題

 

 何はともあれカブトはキッサキシティを出て、相棒のポケモンと共に旅に出る。キッサキシティの皆が祝言と共に送り出してくれた。特にスズナは色々と道具を用意してくれたりと、とても世話を焼いてくれた。カブト少年は感謝感激の雨霰である。やたらとカブトの私生活について異常に詳しかった事に疑問を抱くもそんな物は感謝の気持ちの前では塵程度のもの、すぐに吹き飛んだ。

 

 こうして様々な人から期待を託された少年は、記念すべき栄光の第一歩を踏み出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったね……」

 

 あえて船を使わず、テンガン山を乗り越える選択をしたトリカブトの後ろ姿をじっと見つめながらスズナは呟く。

 

「心配不要じゃよ、あの子はきっと上手くやる。何せこの私が鍛えたからの」

 

 カブトの祖母であり、先代ジムリーダー、そして現在のキッサキ神殿の番人は、スズナの心配を解きほぐそうと言葉を掛けた。

 

 彼女はカブト少年についてあまり心配はしていなかった。彼には一人で生きていく術を教えたし、何より彼はもう一人ではない。信頼できるポケモンが付いているなら何も恐れる事はない。

 

「ええ、それはそうだと思うのですが……その、私が……」

 

 ああ、成る程。と祖母は納得する。このスズナという少女、側から見てカブトに惚れていると断言できるほど彼の事を溺愛していたのだ。

 カブトとスズナは兄弟弟子の関係にあたる。

 最初は、スズナにとって弟が出来たような気分だったのだろう。周囲からは仲の良い兄弟に見えていたし、カブト自身も姉が出来たように接していた。

 いつからだろうか、彼女のカブトに対する気持ちが家族に向ける愛から、異性間の愛に変化したのは。

 

 いつからかカブトが修行中に使用したタオルが無くなる事が増えた。それだけでは無い。彼の部屋に小型の監視カメラと盗聴器が仕掛けられるようになったのだ。

 

 彼女は常に言っていた。

「ポケモンもオシャレも恋愛も全部気合なのッ!」 と。

 気合を入れた結果がこれである。

 これには祖母も流石に呆れた。スズナがカブトに対してそういった感情を抱いていた事は祖母も理解している。しかしこれは流石にやり過ぎだ。そう思った彼女がスズナにそれとなく伝えたところ、

 

「犯罪では無いので大丈夫です!!」

 

 と元気よく返された。いや、犯罪である。

 兎も角、彼女はスズナに監視カメラと盗聴器だけは撤去させ後は様子を見る事にしたのだ。

 

 結局カブトが旅立つまで何一つ二人の関係に進展は無かったが。

 スズナが自分の気持ちに気づいた上で何もしないというのは考え難い。おそらく、カブトが修行中にスズナに告げた言葉が関係しているのだろう。

 

「僕は、ジムバッチを7個集めたらスズナさんに挑戦します!」

 

 何かするならばトリカブトが再びキッサキシティに戻ってきた時だと、そこまで考えて彼女は考えを止める。人の恋路をあれこれ詮索するのも野暮な事。取り敢えず今は様子見をしよう、と。

 

 こうして見送りを終えた彼女らはそれぞれ自身の家に帰っていったのだった。

 

 

 

 

 スズナは家に帰ると自身の部屋に入り電気をつける。そこには壁に貼り付けられた沢山の写真があった。

 その写真は撮った場所も日時もバラバラだがただ一つ共通点がある。それはどの写真にもカブト少年が写っていると言う事だ。ただし、どの写真においても彼は視線をカメラに向けていない。おそらく隠し撮りされた物だろう。

 

「はぁ、しばらく会えなくなっちゃうな。毎日連絡するのは当然だけど本人に会えないのは辛いなぁ。けど発信器と盗聴器入りのお守りも渡せたし、本物に会えない分これで我慢するしかないか……」

 

 名残惜しそうに呟くスズナ。彼女の普段の姿を知っている人からすれば、弟弟子のお守りに発信器と盗聴器を仕込むなど想像できないだろう。

 

「私待ってるからね! カブトくんが私に挑戦しに来てくれる日を! その日になったら、今まで会えなかった分楽しもう!」

 

 濁った目で晴れやかに一人笑うスズナ。果たして彼女の一方的な恋は実るのだろうか。まぁ、気合でなんとかなるでしょう。

 

カブトの受難はこれからも続くのであった。

 

 




一話だからまだ控えめ。


トリカブト
名前から死亡フラグ立っている人。頑張って生き残って(無慈悲)
多分特性『メロメロボディ(病み)』

手持ちポケモン
ポケモン界のヤンデレといえばこの方。多分簡単に予測できる。

母親
ミュウスリーでも作ってるんじゃね?

父親
そもそもポケモン城に辿り着けたかが謎

祖母
設定だけ強い人。戦わないし、しばらく出ることもない。

スズナちゃん
こういう元気そうな明るい子が裏でストーカーしてるとか興奮しませんか?



病みが足りない!全然足りてない!もっと病みを増やさねば……


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VS束縛系

病みラミとか、病ん病んマとか早く出したい


 ポケモンと共に旅をする駆け出しのポケモントレーナーカブト。彼は今薄暗いテンガン山を相棒のポケモンと共に突っ切ろうとしていた。

 

 本来なら、わざわざ山を通らなくても船を使えば他の町へ行くことができる。しかしあえて船を使わず、テンガン山を突っ切るという苦難の道を選択したカブト。この選択にはそれ相応の訳があったのだ。

 

 彼は次のジムまでの間にポケモンのレベルアップを行おうと考えていたのだ。テンガン山は最深部に進むと相当レベルの高いポケモンが現れる。それこそ主レベルの大きさのポケモンも居るという。最深部にさえ入らなければ比較的高レベルのポケモンは出ないが、山の麓であろうとそこら辺のポケモンとは比べ物にならない強さのポケモンは数多く現れる。

 一説によれば、テンガン山の中にあると言われる遺跡による謎パワーでポケモンが強化されているとも言われている。

 

 この山には深度が浅くとも強いポケモンと遭遇できる。それ故に、出会ったポケモンと戦っていけば、ある程度のレベルアップは見込める訳だ。

 

 そして最大の理由が、カブトが旅立つ前に見た映画に起因する。

 彼が見た映画は、ポケウッドで撮られた海上パニックホラー映画。ストーリーは、人間に家族を殺されたサメハダーが同志であるホエルオーやオクタンと共に海の底で修行し、たまたま旅行中だったサンタマリアンヌ号を襲撃、そして乗客を皆殺しにするという恐ろしい映画だ。

 最後はポケモンの力に頼らず、自力でポケモン達を倒した主人公とヒロインが沈みゆく船の船首部分で荒ぶる鷹のポーズを取って締めるという中々の怪作だったが、少年であるカブトは見事にビビリ倒した。そしてスズナは監視カメラでそのビビる姿を見て永久保存版にする事を即決定した。

 

 斯くして、カブトは船に乗る事を恐れてテンガン山を突っ切る事にしたのである。しょうもないとか言うなよ、本人にとっては必死なんだから。

 

 とはいえ、山を通り抜ける事にもそれ相応のリスクがある。

 それは常に野生のポケモンに狙われ続ける事だ。野生ならば仕方がない。トレーナー側が取れる策としては常にポケモンを出して行動する他ない。そして常に奇襲に備えておく必要がある。

 

 カブトの祖母が言っていた。

「ポケモンが出てくる場所は元々ポケモンの住処で、そこを荒らしまわっているのが我々トレーナーだという事を忘れるな」と。

 

 カブトはその言葉を胸に留め、相棒であり現在の唯一の手持ちユキメノコのユキちゃんを側に侍らせる。

 

「ユキちゃんお願いします。この山を出るまで僕を守ってください」

 

 自分のポケモンに深々と頭を下げるカブト。親しき仲にも礼儀あり。例え手持ちであれど、いや、自分の手持ちであるからこそ常に感謝の念を忘れてはならない。

 

『大丈夫よ、カブト。貴方は何時も通りに私を信じて、私を見て、私だけを頼ってくれれば良いわ。貴方を傷つける者、貴方を侮辱した者、貴方に嫌らしい視線を向ける者、何時もの通りに私が全て排除するわ。だから貴方は私だけを頼って、私の言う事をちゃんと聞いてね……?』

 

「おー! やる気満々ですね! 何時もありがとうございます! ユキちゃん!」

 

 一見成立しているかの様な会話。しかし、カブトにはポケモンの声が分かるとかそんな特殊能力は無い。とは言え彼らの付き合いは相当長い。それ故に、カブトはユキちゃんが何を言っているのか何となく分かるのである。

 

 何となく←重要

 

 ちなみに、先程の会話をカブトは、

 

『我、最強のポケモンを目指す者なり! 有象無象に遅れを取る事など断じてあり得ん。我が主カブトよ、我は何時も汝の剣となりあらゆる障害を貫こう!」

 

 と、理解した。大体合ってるが全然違う。そんなトレーナーで大丈夫か? 大丈夫だ、問題無い。そもそも異種間同士で言葉が通じるはずが無い。これは常識な。

 

 とは言え、長年連れ添っているとある種の慣れの様な物で大体何を欲しているのか分かる場面もある。ポケモンの言っている事がわかるトレーナーの9割はこれだろう。残りは本物。

 

 彼とユキメノコのユキちゃんが初めて出会ったのはまだカブトがキッサキシティに来て1年程の頃だった。

 

 何も無いマサラタウンから雪国であるシンオウ地方、しかもその最北端に位置するキッサキシティに連れてこられたカブトはその雪の量に戸惑った。雪というものは見た事あるが、まさか自分自身がすっぽり埋められる程降り積もった雪など見たことが無かったからである。

 

 子供とは未知と冒険を楽しむ生き物だ。大雪を見てテンションの上がった彼は雪をかき分け、スキー場を越え野生のポケモン達の住う山の方へ行ってしまったのだ。

 これは大変危険な行為で、ポケモンも持たない低年齢の子供が山奥に入ってしまうと生存確率は限りなくゼロになる。さらに雪まで降っているなら尚更だ。

 幸いにもカブトは山奥へ入る事は無かった。何故ならスキー場を出てすぐに彼は倒れているポケモンを見つけたからだ。

 そのポケモンはユキワラシ。今の彼の手持ちであるユキちゃんがユキメノコになる前の姿である。

 ユキワラシは外傷が酷く文字通りボロボロの状態であった。そんなユキワラシをカブトは子供の力で必死でポケモンセンターまで運び、一命を取り留めさせたのだ。

 

 ジョーイさん曰く、かなり深い傷であと少し遅ければ助からなかったかも知れないと。

 カブトは毎日ユキワラシの様子を見に来た。珍しいポケモンだったと言うのもあるが何よりも何かほっとけないものを感じたのだ。

 

 傷が治っても、一向に外にも出向かずただひたすらベットの上でぼんやりし続けるユキワラシを見て、幼いながらもカブトは確信した。

 

 彼女もまた、親を失ったのだと。

 

 野生のポケモン世界は限りなく過激だ。食っては食われ、食われては食い。それが生きると言う事。恐らくだがあのユキワラシはポケモンに襲われ、その時に親を失ったのではないだろうか? あのボロボロの体も必死で逃げてきた物だと考えれば辻褄が合う。

 

 厳密に言えばカブトは親を失ったのではない。だ 実の親から不要と言われ家族としての関係を解消させられただけだ。だが、かつて感じていた暖かい物はもう二度と戻ってこない。今ユキワラシの抱えている孤独感、寂しさは、心中察して有り余る。

 

 カブトは考えた。どうすれば彼女の辛さを軽減させてあげられるだろうかと。

 そこで思い出した。自分が辛かった時、一体どうやって乗り越える事が出来たのかを。まだ彼とて完全に乗り越えた訳ではない。だが、祖母やキッサキシティの人々が自分の側に居てくれたことで、自分は寂しさを紛らわす事ができたのだ。

 だからカブトはひたすらユキワラシのそばに居た。少しでも彼女の抱える悲しみが和らぐ様にと子供ながらに色々な策を講じた。一緒に遊んだり、一緒に寝たりと考えられる全てを試した。

 

 

 結果として、ユキワラシは立ち直る事が出来た。

 そして病んだ。

 

 

 ユキワラシは、辛い時、寂しい時、側にいてくれたカブトに対して依存した。

 片時も彼の側から離れず、彼が自分から離れる事に異常な程の拒否感を示す様になったのだ。

 

 しかし、彼女のユキワラシとしての病みはある日突然解消される事になる。

 きっかけは些細な事だった。彼らが遊んでいた時、野生のポケモンが襲いかかってきた。ユキワラシは必死で抵抗したが、なす術なく野生のポケモンに倒されてしまう。

 自分の死を覚悟した、その時だった。カブトはユキワラシを攻撃しようとする野生のポケモンを自力で殴り倒し、そばに居たゴローンを投げつけ退散させたのだ。ちなみにゴローンは大爆発して散って行った。

 またして彼女はカブトに助けられてしまった。

 

 彼女はカブトがポケモンを攻撃した際に受けた傷から流れる血を一滴残らず舐め取りながら考えた。もし、ここに来た野生のポケモンがもっと強ければどうなっていただろうか。またしても大切な人を目の前で失う事になったのではないか。

 

 それだけは、それだけは絶対に避けなければならない。彼女はこれ以上親しい人を失いたくはなかった。

 そこで彼女が思いついたのは自分自身が強くなる事だ。その日から彼女は変わった。最愛のカブトと遊ぶのも程々に、鬼気迫る表情でキッサキ周辺の野生ポケモンを狩り始めた。目のついたポケモンから片っ端に。

 彼女が叩きのめしたポケモンの中には、一段進化したポケモンや、彼女よりもレベルの高いポケモン、挙句の果てにはヌシの様な存在のポケモンも居た。

 

 Q,何故勝てたのか? 

 

 A,愛だよ、愛! 

 

 ちなみに、この光景をカブトが目撃してしまったが故に、カブトはユキメノコの事をラオウ系女子だと思い込む様になってしまったのだ。

 

 カブトに近寄る害虫の駆除も当然忘れては居ない。ジムリーダーであるスズナは、まだ倒す為のレベルが足りていない為一旦様子見。トレーナーズスクールでカブトに告白しようとした女の子は氷漬けにされて今もエイチ湖に沈んでいるだろう。

 そして彼女は湖に沈めた害虫から得ためざめいしを使い、見事ユキワラシからユキメノコへと進化を果たしたのであった。

 

 ユキメノコへと進化し彼女の狂気とも言える執着は薄れたのか。いや、むしろ逆である。

 ユキメノコは気に入った者を氷漬けにし住処に持ち帰って飾ると言われているポケモンだ。

 

 カブト君、ここまで言えばわかるわね? (震え声)

 

 ユキワラシ

 

 タイプ こおり 依存

 

 ユキメノコ

 

 タイプ ゴースト こおり 依存 束縛←New‼︎

 

 

 

 何という事をしてくれたのでしょう!! ゴーストタイプだけでは無く束縛タイプまで追加されてしまったではありませんか!! 束縛タイプってなんだよ……

 

 進化して束縛タイプを手に入れた彼女は、カブトに自分以外の女と話す事、目を合わせる事、触れる事を禁止した。

 しかし悲しいかな、カブトは人間、ユキメノコはポケモン。どこぞの自然数でも無い限り互いの言葉などわかるはずが無いのだ。所詮異種間同士決して本当の意味で互いの言葉を理解し合う事は出来ない。

 

 

 つまり何が起こったか。

 

 勘違いが始まった。

 

 カブトはユキワラシ時代のバーサーカー度を目撃している。その際で彼女のあらゆる言動に世紀末フィルターが掛かってしまうのだ。

 

 カブトは彼女の言葉をこう理解した。

 

『我、最強のポケモンを目指す者なり! 我が主として見定めし者、カブトよ。我々は真なる強者としてこの世に君臨する。それ故凡百との会話は最小限に留め、作り出した時間を全て鍛錬に与えねばならない。女と戯れるなど持っての他だ。さぁ、我と共に来い!』

 

 誤訳の極み。だが、カブトはその言葉に感銘を受けた。常に頂点であろうとする姿勢、決して妥協しない強靭なる精神、その全てが素晴らしいと。

 とは言え、全く話さないという事はこの社会において生きていく事が出来ない。

 ユキメノコは、

 

『私がちゃんと守ってあげるから私以外必要ないわよね?』

 

 といっていたが、カブトの抱擁と頬擦りの必死な懇願の前に折れ、決してユキメノコの側から離れないという条件の元、最低限のコミュニケーションは許可するという妥協を取ってくれた。ただし、女性とコミュニケーションを取る時ボールの中からゴーストタイプ特有の怪しげな攻撃を仕掛けようとしていたが。

 

 こうして、カブトとユキメノコの歪な関係は始まったのだった。

 

 彼と彼女の戦いはこれからだ! 

 




トリカブト
ポケモンと意思疎通をまともにおこなえないトレーナーの底辺。
強くないと死ぬ。

ユキちゃん
ルージュラじゃなくてすまない。自然数が人をポケモンから解放させる事を本気で考え始める程の言動。愛の力でジャイアントキリングできるラオウ系ユキメノコ。

ゴローン
作中通しての不憫枠。




もっと病みが欲しいところ。まだ導入だからと言っても病みが薄過ぎる。勘違いを利用して後々病みをさらに深めたい。




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VS束縛系2

できれば色々なタイプのヤンデレを出したい


 なんやかんやで過去を想起しつつも、テンガン山を突っ切ろうとするカブト一行。

 しかし流石に1日での突破は不可能だった模様。彼らはテントを張り、野宿する事にした。ここをキャンプ地とする! 

 テントを張り終えると、彼らはすぐに夕食の準備に取り掛かる。主に料理を作るのはカブトだ。ユキメノコは料理を作りたがっていたが、いかんせん彼女はこおりタイプ、火を使った料理をしようものなら少なからず体が溶けてしまう。彼女は自分の体が溶けようが気にしないだろうがカブトはかなり心配する。その為、料理はカブトの担当になったのだ。

 しかしこのユキメノコ、何がなんでも自分の料理をカブトに食わせたいという思いを抱いている。そこで彼女が取った方法はアイスを作る事だ。

 彼女は自分で氷を作り出し削り、さらにそれだけでは飽き足らず自分の体を構成する氷まで削って作ったアイスを毎日カブトに食わせている。自分の一部がカブトの中に取り込まれているのを見て、毎日毎日快感に身を震わせる。カブトの体の半分くらいが、自分の体で構成されていると思うと本当の意味で一つに慣れたような気がして喜び悶える。

 カブトは特に気にせず黙々と食い続ける。そもそも気づいていない。これが鈍感系主人公か……

 

 夕食と片付けが終わりカブトがテントの中で寝てから暫く経つと、ボールの中からユキメノコが現れる。彼女は爆睡しピクリとも動かないカブトに馬乗りになり、舌を彼の口に入れその口内を蹂躙する。

 暫くすると彼女はカブトの口から舌を出し、彼の口から彼女の口へと伸びる銀の糸を一滴残らず飲み干す様に丁寧に舐めとると、カブトの手を取りその手を起点に彼の体を凍らせ始める。氷は数分も立たない間にカブトの体を覆い尽くした。

 

『いつ見ても貴方は綺麗だけど、この時が一番綺麗だわ。普段から凍ったままでいてくれたら貴方は私だけを見てくれるし、害虫は寄り付かない、何より守ってあげやすいし、格段に美しくなれるのに……』

 

 そう言いながら、ユキメノコは凍りついたカブトの体を幸せそうに抱きしめ就寝する。

 この行為は彼女なりの愛情表現である。ユキメノコは本来気に入った相手を氷漬けにして持ち帰る性質を持つ。つまり彼女が最愛のカブトを氷漬けにしない訳が無いのだ。

 

 

 翌朝、カブトは起床と共に体を覆い尽くした氷を溶かし尽くす。彼は半分とは言え超マサラ人の血を引いている。故に−50度程度の氷ではその行動を阻害する事などできる訳が無い。さらに、その体はキッサキシティ伝統のゴローン投げつけ祭りにより若いながらも鍛え上げられている。生半可な攻撃ではかすり傷一つ負う事はない。

 やっぱマサラ人ってすげー。

 ちなみに彼女がカブトを氷漬けにするのは彼女がユキメノコに進化してからほぼ毎日である。彼女としては、カブトが氷像になろうが普通に生活しようがどちらの姿でも愛する事ができる自信がある。最初の頃は平然と氷を溶かすカブトの姿に驚愕したものの、今では慣れたものだ。

 

 いや、慣れちゃダメでしょ。

 

 

 何はともあれ朝食を食べ終え、準備を整えた後にキャンプ地を出発するカブト一行。勿論ゴミは残さない。

 

 前日同様山の中を突っ切る作戦に出るもここで問題発生。野生のゴローンの群れに囲まれてしまったのだ。その数は優に20は超える。

 たまたまゴローンの巣を突っ切ったしまったか、それとも昨年のキッサキシティで開催されたゴローン投げ祭り優勝者であるカブトの存在に生命の危機を抱いたのか、ユキちゃんが殺しすぎたか、理由がなんなのか全くわからないがそれを考える時間をゴローンの群れは与えてくれない。

 彼らはカブトとユキちゃんに向けて各々技を放つ構えをとる。それは『じしん』でもあり、『ロックブラスト』でもあり、『ころがる』でもあった。もし、技の発動を許してしまえばカブトもユキちゃんも無事では済まない。最悪、死に至る可能性すらある事は明白だ。

 

 もし、発動させてしまえばの話だが。

 

「ユキちゃん、迎え撃ってください。『ふぶき』」

 

 薄暗い通路を塗りつぶすかの如く『白』が吹き荒ぶ。目も開けていることすら出来ない大自然の生み出した圧倒的暴力の突風がユキちゃんを中心に荒れ狂う。勿論カブトは『ふぶき』に巻き込まれない様にユキちゃんに抱き抱えられている。カブトに接触できてユキちゃんの顔が上気している事は言うまでも無いだろう。

 

 ここは逃げ場の無いテンガン山の内部、しかも密集して襲いかかってしまったゴローンには『ふぶき』を躱す手段はない。技の発動中故に防御をとる事も出来ない。

 

 かくして、無謀にもカブトとユキちゃんに挑戦したゴローン達はほぼ全員氷漬けにされてしまったのだ。

 

 しかしその中で一匹のみ、『ふぶき』に耐え切り、解除不能氷状態にならなかったゴローンがいた。

 唯一生き残ってしまったゴローンは、破れ去っていった仲間の思いを受け継ぎ、その身の全身全霊を込めて『ロックブラスト』を放つ。

 放たれた五つの弾丸の内、4つは明後日の方向へと飛んでいった。しかし最後の一撃のみ、幸が不幸かカブトの髪をかすり、その髪の一部を切り落とすまでに至った。

 

 カブトはビビったが、自分の体が無事な事に安堵する。しかし、ユキちゃんは違う。彼女にとって、最愛ともいえる人物の髪が一部とはいえ切り落とされたのだ。怒らない訳が無い。

 

『私とカブトのデートを邪魔した事は決して許されない。そしてその中でもお前、そう、カブトの髪を傷つけたお前だ。カブトを守る事も、傷つける事も、この私以外許さない! カブトに傷を与えていいのは私だけなんだ! よってお前にはこの世で最も残酷な死を贈ろうッ!!』

 

 激おこブラストバーンである。

 

 怒りのあまり溶けてしまわないか心配であるが、威力は高いが命中率と射程距離に難のある『ふぶき』とは違い、指向性を高めた『冷凍ビーム』で確実に全身凍結させるあたりまだ比較的冷静でいられるのだろう。

 

『許さない、許さない、ユルサナイ!! その罪、死をもって支払ってもらうッ!!』

 

 凍り付き動けないゴローンに『シャドーボール』をゼロ距離で当て、その体を木っ端微塵にすり潰そうとするユキちゃん。しかしその致死性を持った攻撃はすんでのところである人物に止められる事になる。

 

『カブト⁉︎どうして⁉︎どうしてそんなゴローニャに進化させ無いメリットが無い様な奴を庇うの⁉︎私よりそんな団子体系の方がいいの⁉︎私のこと嫌いになったの⁉︎貴方は私よりそんな男だか女だかわからない奴を選ぶの⁉︎ねぇ! 答えてよ! ねぇ!』

 

 鬼気迫る形相でカブトに掴みかかるユキちゃん。精神に大きな動揺を受けたせいか周りの温度が急低下し、周囲の氷漬けゴローンが浮かび上がるゴーストタイプ特有のポルターガイスト現象が発生する。

 

 ここで答えを間違えれば、この場でかき氷トリカブト味が製作されるという惨劇が起こってしまうだろう。

 

「ユキちゃん、僕のために怒ってくれるのは嬉しい。けど君はいつもみたいなクールビューティーな感じの方がもっとずっと可愛いんだ。君に怒りの表情は似合わない。だからいつも通りの笑顔でいて?」

 

 気障ったらしい歯の浮くようなセリフをポンと告げるカブト。これが若さ故の過ち。きっと数年後気障ったらしい自分の言葉に悶絶する日が来るだろう。それまで生きていれば。

 

 だがこの言葉思った以上にユキちゃんにクリーンヒット。先程とは違う感情で顔を赤らめて下を向いてしまう。

 

 先程殺されかかったゴローンは思った。俺たちは何を見せられているんだ、と。だが事態は彼らゴローンの生存ルートに向かっている様だ。彼はひとまずの命の安全に安心し、テンガン山に鳴り響いたポケギアの音に注意を向けた次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頭蓋を渾身の力で振り下ろされた『シャドーボール』で打ち砕かれた。

 

 ユキちゃんはカブトがポケギアの着信に気を取られ視線をゴローンとユキちゃんから離した一瞬の隙を突き、出来る限り音がならない様にして笑顔でゴローンを殺害した。

 カブトから笑っていてほしいと言われたのだ。だからこそ笑顔でゴローンを排除した。元々カブトに傷つけたゴローンを許すつもりなど毛頭無い。例えそれがカブトのお願いに逆らったとしても、カブトを攻撃するものを見逃すほど彼女は我慢強くない。そしてどさくさに紛れてカブトの切られた髪を回収する。何に使うかは言うまでもない。

 

 カブトを直接攻撃したゴローン以外の排除は簡単だ。氷漬け状態を解除しなければいい。それだけで勝手に邪魔者は死んでいく。自業自得だとユキちゃんは薄く笑った。

 

「はい、おはようございます。連絡早すぎる様な気がしますけど……ええ……まだテンガン山にいます。え!? なんでゴローンに襲われた事を知ってるんですか? …………愛と気合? 気合ってすごいんですね。それでは、また明日に」

 

 ポケギアでの会話を終了させるカブト。そこにユキちゃんが近づいていく。

 

『ねぇ、貴方? 今誰と離していたの? 答えなさい』

 

 その細腕には見合わない強烈な力でカブトの腕を掴み質問を投げ掛けるユキちゃん。一つの嘘も見逃さないようにハイライトの消えた目でカブトをじっと見つめ続ける。もし、女との恋愛を匂わせる様な話をするようならば今の彼女はこの場で心中する事も厭わないだろう。

 

「ん、ユキちゃんも知ってる人だよ。スズナさんが心配して連絡をしてくれたんです。ちょっと過保護過ぎる気がしますけどね」

 

 照れくさそうにユキちゃんに話の内容を告げるカブト。その姿に彼がスズナに対して何かしらの恋愛感情を抱いていない事に安堵する。本来ならこの世のあらゆる女との接触を断って欲しかったが、少なくとも今のユキちゃんの実力では全ての敵を排除出来る訳ではないので現状妥協している。

 

 だが、この旅を終え強くなった暁には、カブトに近づくあらゆる女を抹殺しようと彼女は心に決めている。今は力及ばないがスズナであろうとも例外ではない。

 

『別の女に靡いた訳じゃないなら構わないわ。少なくともこの旅を続けている限り貴方には私しかいないのだから、今はそれで満足するしかないわね』

 

 出来る事なら氷で作った部屋の中に氷像状態で監禁して、外界からの接触を一切経った状態で愛し合いたい。しかし、今のユキちゃんの実力では、閉じ込めたところでカブトには脱出されるだろうし他の泥棒猫どもも救助に来るだろう。

 

『全ては楽しい生活の為。今は我慢よ、私』

 

 カブトの為に顔には微笑みを浮かべたまま、しかしその手は凄まじい握力で握られる。

 

「ユキちゃん、ちょっと痛いです」

 

 無意識のうちにカブトの手を締めつけすぎた様だ。しかしどれほど力を込めても骨が折れるどころか、青痣一つ彼にはつかない。

 

『あら、ごめんなさい貴方。今冷やすわね』

 

 そう言うと、ユキちゃんは氷を作り出し彼の手を冷却する。氷漬けに出来ないにも関わらず、自分がカブトの肉体に何かしらの傷痕を残してマーキングする事が出来ないのは辛いとユキちゃんは考える。できればパッと見でわかる様なそんな目立つ印を刻み付けたいものだ。

 

『ウフフ、待っててね貴方。もう少し私が強くなったら私の物だってすぐわかる様にしっかりと刻み込んであげるから』




トリカブト
鈍感系主人公。伝説の超マサラ人の血を引く者。マイナス50度くらいならセーフ。

ユキちゃん
カブトの体の一部を体内に取り込み、自分の体の一部はカブトに与える無限ループを作り出した。レベルが上がれば害虫を全て駆除し、好きな子を氷漬けにして監禁したい系ガール。
楽しい生活→氷漬け監禁

ゴローン
約束された敗北の死。

スズナ
ストーカー。盗聴してるくせに毎日の連絡は欠かさない。連絡に出ないと追いかけてくる。


次回、やったねカブト君!修羅場系ハーレム要因が増えるよ!

みんなもヤンデレゲットじゃぞー


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VS排除系

新しいヤンデレの追加タイムだ!多分だけど擬人化もされてないこのポケモンを病みヒロイン?枠にしようとしてるのこの作品だけな気がする。

今回でリタイアする人多いかも……どうしても無理な人は適当に脳内擬人化でもしてください


グライオンのヤンデレを考え直せが多すぎて草生えた


 ゴローンの大群を無事突破する事ができたカブト一行。やたらと勝負を仕掛けてくる山男達を軽くいなしながらテンガン山を抜けるべく出口を探す。暗い洞窟の中では外の光は眩しく映る。存外早く見つけることができて彼らは安心した。

 

 遭難なんかすると中々洒落にならないからね。

 

 なんとかテンガン山を抜けたカブト一行。正確には抜けたと言うよりも途中下車、つまり完全に突っ切った訳ではなくハクタイシティの付近で一旦降りる事にした。

 元よりカブトは行うジム戦を、ハクタイ、クロガネ、ミオ、ヨスガ、トバリ、ナギサ、ノモセ、そしてキッサキの順番で回る事を決めていた。順番は特に意味はない。単純に周りやすい様に選んだだけだ。

 

 ジムリーダーは挑戦者の持つジムバッジの数で使うポケモンのレベルを決める。故に自分の苦手タイプを先に消化し、得意なタイプは後に残すのが定石。

 しかしそれで良いのだろうか? とカブトは疑問を投げかける。本当にそれで勝ち上がって真に強いといえるのだろうか。そこでカブトは特に周るジムの順番は拘らなかったのだ。

 カブトがこの様な奇怪な発想に至ったのは、全てユキちゃんをラオウ系女子と勘違いした事に起因するが今回ばかりはユキちゃんは悪くない。

 

 こうして、晴れてハクタイシティ郊外に降り立ったカブト一行。目指すのはもちろんハクタイジム。

 カブトがハクタイシティの中に入る為に足を動かした直後、

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい速度で周囲の木をなぎ倒しながら現れたポケモンにカブトが連れ去られてしまう。

 

 余りにも早い誘拐、俺じゃなくても見逃してたね。白昼堂々いとも容易く行われるえげつない行為(誘拐)。余りのことに流石のユキちゃんも呆然とカブトが連れ去られていくのを見守ることしか出来なかった。

 

 一方のカブト。自分に何が起こったのかすらまだ分かっていない。今の彼はいわばポルナレフ状態、文字通りポッポが豆鉄砲を喰らった様な面をしているのだ。

 そのままふわふわと連れ去られること約数秒間、ハクタイの森と思われる場所に到着した。森の木に作られた巣穴の様な場所に押し込まれるカブト。その時彼は初めて自分を誘拐した相手の全貌を確認することができた。

 

 幅広く赤い複眼に全身を覆う深緑の甲殻、常に羽ばたきを止めない二対四枚の羽、そして恐ろしく開かれた強靭な顎。

 

「メガヤンマ……」

 

 虫タイプのポケモンの中でも屈指の実力を誇るポケモン、メガヤンマ。高速で移動し、その強靭な顎を使って敵の首を噛みちぎる戦法を好むと言われている凶悪なポケモン。

 すっごーい! 君は高速で移動して相手の首を噛みちぎるのが得意なフレンズなんだね! 

 ユキちゃんと引き剥がされた状態でそんなポケモンに拐われてしまったとなれば辿る道筋は一つしかない。

 

 即ち死あるのみ。

 

 この世界においてポケモンの攻撃によって人間が死亡する事件は少なくない。現にギャラドスによって町を壊滅させられる事件は確認されているし、遠くの地方では守り神と言われるポケモンの怒りを買ったが故に一つの町が滅びたとも聞いた事がある。カブトはその事を思い出しゾッとした。

 

 せめてユキちゃんがそばにいれば最悪の事態は回避できたかもしれない。カブトは自分の迂闊さに歯噛みしたが後の祭り、今のカブトに出来ることは何一つない。

 いっそ一思いに……と、カブトは目を固く閉じて最後の時を待つが一向にその時は訪れない。不審に思い目を薄く開けて現状を確認しようとするが、運悪くその時顔を近づけていたメガヤンマと目があってしまう。

 

 暫くメガヤンマと見つめ合うカブト。目と目が合う瞬間好きだと気付くことは勿論無い。側から見れば中々に面白い現場だが、本人からすれば必死の行動。目を逸らしたら殺される、とばかりにメガヤンマの不気味な複眼を睨み続ける。

 

 どれほどの間見つめあっていただろうか、カブトはやがて自分がいつまで経っても食われない事に不信感を抱く。

 

「た、食べないんですか……?」

 

 思わず問いかけるカブト。言葉は通じなくとも場の雰囲気的な感じで内容を読み取ってくれることを祈る。

 

『食べないよ! どうしてそんな野蛮な発想になるんだい!?』

 

 律儀に返答を返すメガヤンマ。しかしその言葉はカブトには当然通じない。長い年月を共に過ごしたユキちゃんならともかく、さっき出会ったばかりのメガヤンマの気持ちを理解しろなど無理な話。カブトは案の定口を開けて、頭が悪い人の如くバナナを考えているかの様な表情で虚空を見つめ始めた。

 

『嗚呼、こんな事が偶然であるものか! これはまさしく運命だとも! まさかキミとこんな場所で会えるなんてね。思わず連れてきてしまったよ。手荒な招待ですまなかった。だがキミはあの時から変わらないカッコ良さだね! この状況はまさしく世界が、アルセウスがボク達を祝福しているに違いない! ねぇ、キミもそう思うだろう?』

 

 何やら捲し立てているが当然カブトに言葉は通じない。だがカブトにも、このメガヤンマが自分の事を知っているのだと理解することはできた(驚異の理解力)。

 

 

 

 

 そう、あれはまだメガヤンマがただのヤンヤンマだった頃の話。大量発生によってカントー・ジョウト地方に異常な程の姿を見せた時、彼女は群れから逸れてしまいマサラタウンの付近にまで迷い込んでしまった事があった。

 当時まだ生まれたばかりでもあったヤンヤンマは飛ぶ事に疲れ、木の枝に一休みしていた彼女はまだ幼きカブトを発見したのだ。当時の彼はまだ2〜3歳、おそらく親の目を盗み家から飛び出してきたのだろう。一人であたりを駆け回る幼きカブトを見て、彼女はこう思った。

 

 あ、めっちゃタイプなイケメンだ! 

 

 一応注釈しておくがこれはカブトがヤンヤンマに似た顔をしているからと言う訳ではない。単純にこのヤンヤンマの頭がおかしいだけなのだ。

 

 特に命を助けられたとか、ピンチを救ってもらったとかそんなものは一切ない。一目惚れ、即落ち二コマである。

 彼女がカブトをこのまま連れ去り逆光源氏計画でもやってやろうかと考えていたその時、事件は起こった。

 突如飛来した伝説のポケモン、ホウオウがカブトを拐って行ってしまったのだ。彼女は必死で追いかけたが到底追いつかない。仮に追いついたとしても彼女の力ではカブトを取り返す事は不可能だっただろう。

 

 彼女は自分の無力さを悔やんだ。そして誓ったのだ。いつか必ず強くなって、今度こそ愛する人を仇なす者全てを排除しようと。

 いつか自分に現れるであろう運命の相手、その相手を守る為に彼女は必死で力を身につけた。

 そしてなんやかんやでセルフメガ進化、もしくはリアルゲンシカイキとでも言うべきか、ヤンヤンマの可愛らしかった頃の面影は殆ど残されていない凶悪な形相のメガヤンマへと進化を果たしたのだった! 

 

 余談ではあるが、カブトは自力でホウオウから脱出し家に帰った。色々と強すぎる。

 

 

 

 しかし当然そんな昔の事をカブトが覚えている筈がなく、加えて言うならただその場にいただけのヤンヤンマなど絶対記憶に残らない。

 

 その為カブトは、

『どこかで見た旨そうな人間を拐ってきたから暫くしたら食う』

 と、勘違いをしてしまった。まぁ、当然の帰結ではある。

 

 メガヤンマが過去を回想する際に目を逸らした一瞬、その一瞬の隙をつきカブトは巣穴から脱出する。ビル3階分に相当する高さの木から飛び降りた事で少なからずダメージを受けた。しかしカブトの足の骨は折れていないし捻挫した訳でもない。走れるならば問題ないと考えたカブトは森の中に逃げ込みその身を隠す。今カブトのすべきことはこの森からの脱出、出来れば人の多い場所に逃げ込むこと。一縷の望みをかけてカブトは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

『あれ、どこ行くの? …………あー、成程鬼ごっこか! いいよ、久しぶりに会えたんだ。キミの遊びに付き合うとも。ハンデはどれくらいがいい? 何分待とうか? けど覚悟してよね、ボクは例えキミが何処に隠れようとも、何処に逃げようとも、必ず追いかけて見つけ出すからね…………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る、走る、走る。一体どれほど遠くへ逃げただろうか、追い立てられる焦りと捕まった時の死の恐怖。この二つがカブトから体力と冷静な判断力を奪い始める。遠くで聞こえる茂みを揺らす音にさえ怯えてしまう。カブトの体は超マサラ人の体とは言えその精神はまだ十歳になったばかりの子供と同じ。このままでは近いうちに限界が来るだろう。

 

 だが、決して逃げきれないといった予想に反していくら待ってもメガヤンマはやってこない。まさか……と淡い期待がカブトの胸に湧き上がる。

 

「もしかして……逃げきれ……!!」

 

 カブトがその言葉を紡ぎ終える前に爆音が鳴り響いた。カブトが目を向けると、そこにはハクタイの森の木々を薙ぎ倒し悠々とカブトの前まで降りてくるメガヤンマの姿があった。

 

『ハンデの時間はもう終わり。案外早く見つかって良かったよ。言ったでしょ? ボク達は運命で繋がっているってね。キミが例え何処の地方に居ようとも、どんな世界に居ようとも、なぞのばしょに隠れ潜んだとしても、必ずボクが見つけてあげる』

 

 そう言いながらじわりじわりとカブトににじり寄るメガヤンマ。カブトはもう完全に逃げ場を失っていた。

 

『アハハ、そんなに怖がらないでよ。ボクはキミには何もしないよ? キミの害悪になるものなりそうなものその全てはボクがちゃーんと壊してあげるから。キミは安心してボクに体を預けてよ。二人で幸せになろ?』

 

 顔と顔とがくっ付きかねない距離まで接近を許してしまったカブト。彼は死を予感して固く目を瞑る。メガヤンマはそんな彼の顔に手を伸ばし、そして…………

 

 

『カブトから離れなさい! 害虫!』

 

 カブトとメガヤンマを仕切る様に地面に細い白い線が描かれる。メガヤンマは何か嫌な予感がしたのか咄嗟にその場から飛びすさり、『みきり』を発動して攻撃を回避する。

 刹那、メガヤンマからカブトを守る様に地面に描かれた白い線から氷でできた巨大な壁が形成されカブトとメガヤンマの空間を完全に分離した。

 

 カブトが驚いて声の聞こえた方向に顔を向けると、そこに居たのは白い和装をした女性の様な姿のポケモン、カブトのユキメノコこと、ユキちゃんだ。

 

 凛々しいその姿、まさに救世主! やったねカブト君! これで助かるよ! …………いや、よく考えたら悪化しただけだったわ。




カブト
存在するだけでヤンヤンマを惚れさせる程度の能力。ホウオウに連れ去られた気がしたがそんな事は無かったぜ!

ユキちゃん
今回ほぼ空気。次回血の雨が降る

メガヤンマ
トレーナーの力を借りずにメガ進化を行うヤベー奴。しかも不可逆。
愛する人に近づく雌を皆殺しにする系ボクっ娘ヤンデレガール

タイプ
虫/飛行/排除

ナタネさん
出番マダー?




次回、純情ジェノサイダーメガヤンマVS凍結保存のクールビューティユキちゃん



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VS排除2

多くの人に評価してもらえて嬉しいです。もっとヤンデレ小説増えろ。
メガヤンマのヤンデレって需要無いですよね……(特殊性癖の持ち主)

ルカリオ人気すぎて結晶化した。


 メガヤンマに襲われるカブトを間一髪で助けたユキちゃん。その瞳には隠しようも無い憎しみが燃え上がっていた。彼女の視点から見れば当然だろう。何せ彼女は最愛のカブトから無理やり引き剥がされただけではなく、その誘拐犯に今まさに襲われようとしているカブトの姿まで見てしまったのだ。

 

 殺意がぐぐぐぐーんと上がった! 

 

『殺す』

 

 一言呟くと彼女はメガヤンマの元へと飛び込んでいく。その手に握られた『こおりのつぶて』を逆手に構え、メガヤンマの頭部と胴体を二つに引き裂くべく振り下ろした。殺意が高過ぎる。

 

 メガヤンマはその攻撃を『みきり』を使い回避し、返す刀で目眩しも兼ねた『ぎんいろのかぜ』を放ち距離を取る。

 

『そうか! そうなのか! キミはカブトっていう名前なんだね! 良かったよ、もしずっとキミの名前を知らないままだったら一体どうしようって思ってたところなんだ! へぇーカブト……か、流石ボクのカブトだよ。いい名前だ……うん、凄く良い……!』

 

 逃げ延びた空中で顔を赤らめクネクネするメガヤンマ。それを見たユキちゃんが苛立ちを隠さずに吐き捨てる。

 

『何が『ボクのカブト……』よ、笑わせないで。カブトはお前みたいな害虫のものじゃ無い! 私の物よ!』

 

『『私の物……』だって⁉︎こんな女に捕まってカブトも可哀想に……。待っててね、今すぐボクがこの女を排除してキミを助けてあげるからね……⁉︎』

 

 どちらが勝とうがカブトに待っている結末はそう変わらない。

 ヤンデレ×ヤンデレ=血の雨が降る、古事記にもそう書かれている。

 

 ユキちゃんは空を飛ぶ力を持たない。よって空にさえ浮かんでしまえばその攻撃は届かないだろう、そう考えたメガヤンマは『れいとうビーム』も届かない程の上空に移動しそこから一方的に攻撃を仕掛けようと技を構えた。

 

 

 

 

 メガヤンマが咄嗟にその場から回避を出来たのは幸運だったのだろう。上でも下でもなく、横に飛びすさるという選択で無ければ彼女は確実に死んでいた。もしかするとこれまでのカブトとの鬼ごっこで特性『かそく』が発動し、素早さが強化されていた事での恩恵かもしれない。

 

 どちらにせよメガヤンマの命が奇跡的に助かった事だけには変わりない。

 つい先程まで彼女がいた場所には巨大な氷塊が位置し、さらに晴れていたはずの天気は『あられ』が降り始めていた。

 

『『あられ』と『ふぶき』を同時展開して射程距離を無理矢理伸ばしたのか……けど残念♪ ボクの方が少し早かった様だね』

 

 まさしく間一髪。『ふぶき』の射程はメガヤンマの逃げ延びた先のほんの数センチ先だった。あとほんの少しだけ遅れていたら……と考えるとゾッとする。

 

「ユキちゃん! メガヤンマは氷タイプが弱点です! この際どんな技でも一発当たることが出来れば大ダメージを見込めます! 範囲攻撃の『ふぶき』を連打すれば幾ら素早くても避けきれません!」

 

 氷の壁越しにカブトがユキちゃんに声援を贈る。ヤンデレVSヤンデレにおいて片方を応援するのはNG。カブトよ、何故そうまでして死にたがるんだ……

 

 カブトの言葉に案の定メガヤンマが反応する。

 

『ねぇ、そんな奴じゃなくてボクを応援してよ。ボクの愛はそいつみたいに自分の事しか考えて無い独り善がりな愛じゃない。何よりもカブトが幸せになる為の行動なんだ。だからさ、そんな奴早く捨ててボクを愛してよ!!』

 

『醜い僻みね。お前は決定的な勘違いをしている。私の愛は独り善がりじゃない。私はお前なんかの数千光年倍以上カブトの事を考えているわ。カブトにとっても私にとっても氷漬けが最も安心安全で幸せな方法なのよ。だからね、ポッと出が私達の間に入ってくるな!!』

 

『…………今はっきり分かったよ。お前を完全に排除しなくてはカブトとの幸せは望めない! 待っててね、カブト。今そいつを殺して正気に戻してあげるから!!』

 

 

 戦いはさらに激化して行く。

 

 

『必中ふぶき』の要であり、ユキちゃんの『ゆきがくれ』を利用した防御にも転用できる万能フィールド『あられ』をメガヤンマが『ふきとばし』で掻き消し、飛行能力というアドバンテージを利用したヒットアンドアウェイ戦法で確実にユキちゃんにダメージを与え続ける。

 

 ユキちゃんは『こおりのつぶて』の攻撃において飛ばす礫の最大数を減らす事で、『かそく』したメガヤンマをも超える速度のを手に入れたホーミング氷礫をひたすら投げ続ける事でジワジワとメガヤンマにダメージを与える。

 

 このまま拮抗状態かと思われたが突然事態は急変する。

 

「ユキちゃん⁉︎」

 

 突如としてユキちゃんが口から血を吐き地面に倒れ伏した。

 

 毒を受けていた訳ではない。メガヤンマの能力だ。メガヤンマは羽ばたいた時の衝撃波で、相手の体の内側に致命的なダメージを与えるという性質を持つ。その為一見外傷は無くとも体の内側はズタズタに引き裂かれているという恐ろしい現象を引き起こすのだ。

 

『随分梃摺らせてくれたね。けどもうお終いだ。キミの内臓はズッタズタのボッロボロ、もう立ち上がる事すらままならないでしょ』

 

 メガヤンマは倒れ伏して動かないユキちゃんに近づきその首元に鋭利な牙の生えた顎を突きつける。

 

『さようなら。じゃあ死ね………………ッ⁉︎って、これは……ッ⁉︎』

 

 何かに気づき、その喉笛を噛み砕こうとする動作を止めるメガヤンマ。その足元に転がるユキちゃんから怪しげな紫のオーラが漏れ出しカブトへと続いていた。

 

『『みちづれ』……だって⁉︎まさかキミはカブトと心中する気で……! そんな事させないぞ! ボクのカブトをキミなんかに取られてたまるか!』

 

 そうは言ったもののメガヤンマに出来る事は無い。地面に這いつくばるユキちゃんを睨む事しか出来ない。

 

『(どうする? 距離を取るか? くそっ! ボクは『みちづれ』の射程範囲も効果時間も知らないぞ!)』

 

 再び膠着状態。しかし今度の膠着はそう長くは続かなかった。

 

「フレンドボール!」

 

 つい先程自分のポケモンに『みちづれ』を受けたがまるで気づいていない鈍感系主人公、カブトがメガヤンマに向けてフレンドボールを投げつける。意外にもオシャボ勢という事が発覚。ちなみにユキちゃんはプレミアボールだ。

 

『ッ! カブト! キミはそこまで熱烈にボクを求めてくれるの! やったー! メガヤンマさん大勝利ー!』

 

 投げつけられたボールを回避するそぶりすら見せず、むしろ積極的に捕獲されるかの様に自らボールに飛び込むメガヤンマ。ボールも3カウント鳴らすことも面倒だと言わんばかりに1カウントだけで捕獲完了の合図を鳴らす。

 

 あれ、これ初手ボールが安定だったのでは? (名推理)

 

 本人からすれば自分のポケモンであるユキちゃんが今にもトドメを刺されそうにみえたから、なんとか回避しようと自棄で投げたボールで幸運にも捕まえられたぐらいにしか思っていないだろうが、何はともあれメガヤンマの捕獲完了。カブトは重症のユキちゃんをボールに戻し、急いでポケモンセンターを探すのであった。

 

 ちなみにハクタイシティのポケモンセンターはあっさりと見つかった。メガヤンマとユキちゃんの戦いでハクタイの森の一部が消滅した事によって見渡しが良くなったのだ。環境破壊ダメ絶対。

 

 

 ユキちゃんをポケモンセンターに預けて1日たった。大事をとってまだユキちゃんはポケモンセンターに預けてあるがカブトにはその前にやらねばならない事がある。

 新しく捕獲したメガヤンマとのコミュニケーションだ。

 

 何故か捕獲時のなつき度が限界突破しているという恐ろしさ。そうとは気付かないカブトは恐る恐るメガヤンマに声をかける。

 

「えー、こんにちはメガヤンマさん」

 

『こんにちは、カブト。ボクらはもうパートナーなんだからそんな堅苦しいのは無しにしようよ』

 

 カブトは想定していた反応より好意的で戸惑ってしまう。カブト視点ではジェノサイダーなお陰で、もっとこう、「目と目があったらジェノサイド!」みたいなヤバい奴を想定していたのだ。例えば出会い頭に『エアスラッシュ』を打たれるとか。もしそうなったらカブトは肉体言語で会話する予定だった様だが。

 何故ナチュラルにメガヤンマと戦おうとするのか……

 

「メガヤンマさんは野生に帰りたい?」

 

『まさか! 折角キミと共に居られるというのにわざわざ野生に帰る訳ないじゃ無いか!』

 

 メガヤンマはそう言うとその体をカブトにすり寄せる。背中にぴったりと張り付かれてカブトは微妙な表情をする。羽音がうるさい。

 

「んー、じゃあ仲間になってくれるなら名前は『メガヤンマ』から『ヤンマ』を取って……メガちゃんだね!」

 

『それなんか違う気がする……』

 

 メガヤンマことメガちゃんにすら呆れられるカブトの知能。何はともあれメガヤンマが仲間として新規加入。これからよろしく、と差し伸べられたカブトの手にそっとメガちゃんは着地する。

 

『じゃあ早速ジム戦だね。ボクとカブトのコンビネーションならどんな相手にも負けやしないよ!』

 

「え? 今日はジム戦に行かないよ? ちゃんとユキちゃんが回復するのを待ってあげたいし、それにジム戦するならみんな一緒が良いよ」

 

 先程まで上機嫌だったメガちゃんはその場で固まり一気に不機嫌になる。

 

『……なんで? なんでボクより弱い女の事なんか気にするの? キミを他の女から守れるのはボクだけなんだよ。だからあの弱いユキメノコなんて要らないでしょ?』

 

『ボクならキミを閉じ込めたりなんかしないし、束縛しようとも思わない。ただキミがボクを愛してくれればそれで良いんだ。その為ならボクは何でもするよ? キミに近づこうとする奴はアルセウスだって噛み殺してやる』

 

 意識してか無意識か、メガちゃんの羽の起こす振動が周りの木々を切り裂き薙ぎ倒す。体を揺らしながらゆったりとカブトに顔と顔がくっつく程に近づいたメガちゃんはさらに言葉を続ける。

 

『キミに付き纏う女はボクが全て始末する。あのユキメノコも他の有象無象もね。あのユキメノコは消えるけどキミにはボクがいる。いや、言い換えよう、キミにはボクさえいれば良い。違うかい?』

 

「違うよ。僕にとってユキちゃんは家族みたいなものなんだよ。家族が居なくなるのはもう沢山だからね。それに折角仲間……いや、家族になってくれたメガちゃんが居なくなるのも嫌だ。すぐ仲良くなってとは言いません。けど互いに傷つけ合うのはやめて欲しいです」

 

 メガちゃんの目から視線を逸らさずに見つめ続ける。かつての様に死に怯えた行動では無く、今度は自分の要求を呑ませるまで引かないという意思を込めた行動だ。

 

『ふぇ! ボクとカブトが家族だって! これはもう実質結婚したのでは⁉︎(ヤンデレ特有の意味不明思考)』

 

 もっとも当の本人であるメガちゃんは途中から自分の世界に入り込んで居たのだが。

 

『取り敢えずあのユキメノコは保留。監視を続けてこれからの行動で判断を決めるとしよう。まぁ、カブトの言う事に従うならなら『家族じゃない』奴なら排除して良いって事だね。なら何の問題も無い。これからもカブトを狙うゴミは容赦無く消させてもらうとしよう』

 

 一見すればカブトの言葉に納得し引き下がった様に見える。しかしメガちゃんの本心は全く別の事を考えていた。

 

『(やりようなら幾らでもある。ただしあんまり表沙汰になる直接的手段に出るとカブトに嫌われかねない。だったらあのユキメノコには自発的に失踪してもらうとしようじゃないか)』

 

 そんな事を考えているとは知らないカブト君。メガちゃんが納得してくれた事に安堵する。本人としてはメガちゃんがカブトに好意を持っているとか過去一目惚れしたとかそんな事情はまるで理解出来ていない。ただ、先程まで敵だった二人が仲良くやっていけるかが心配だったのだ。

 

 

 やったねカブト君! 仲間が増えたよ!




カブト
メガちゃんが納得してくれて嬉しみ
本当の地獄はこれからだ!

ユキちゃん
ポケモンセンター送り。目覚めた時が修羅場

メガちゃん
フレンドボール確定一発。カブトの周囲で女が消えたら大体コイツのせい。ユキちゃんには密かに消えてもらおうと考えている。

ナタネさん
まだなの…?

次回、修羅場確定ガチャSSR!果たしてカブトは生き残れるのか!

みんなもヤンデレゲットじゃぞ〜!


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VS修羅場(お試し版)

修羅場のくせに今回は比較的マイルド。徐々に強くしていこう!

この小説ってちゃんとヤンデレになってますか?自分じゃヤンデレ感あんまり感じなくて……

奥さん、ポケモン小説の癖にバトル適当な小説があるらしいっすぜ!


「と言う事でメガヤンマのメガちゃんが新規加入しました」

 

 治療を終え完全復帰したユキちゃんにカブトはメガちゃんの新規加入を伝える。念の為メガちゃんとユキちゃんが戦闘になっても問題ない場所へと移動してある。

 

『…………どういう事? 貴方には私がいれば十分でしょう? 他の女の力なんて頼る必要は無いわ。私だけが貴方を本当に守れるのよ』

 

「んー、ユキちゃんの一人で頂点に立ちたい気持ちは分かりますが、間違いなくメガちゃんは貴重な戦力になります。あれほど強いユキちゃん相手にタイプ相性をものともしない戦いを出来る以上メンバーに加えたいです」

 

 この期に及んでまだ頓珍漢な事を言うカブト。しかし流石の彼も場の雰囲気が悪くなっている事には気付いている様で警戒態勢を怠らない。

 

『……私じゃ……私じゃ不満だって言うの! カブト、貴方は私よりそんな女の方を選ぶの! 許さないわ! なら、多少強引な手を使ってでも貴方を私の『物』にする!』

 

 怒り狂ったユキちゃんを中心に四方八方へと鋭い冷気が迸る。冷気に当てられた植物は皆一様に凍り付きその生命活動を停止させる。これをただの人間が受ければ間違いなく即死するだろう。……ただの人間であれば。だが生憎とカブトはただの人間では無い。伝説の超マサラ人だ。この程度の冷気、訳もない。

 

『カブト、やっぱりあの女は危険だ。下がっていてくれ。ボクが排除しよう』

 

 カブトの腰につけられたボールから勝手に出てきて臨戦態勢に入るメガちゃん。彼女はかつてユキちゃんに勝利した実績がある。戦いを行えば必ずや今回も勝利を手にするだろう。

 

「いえ、下がっていて下さい。これは僕とユキちゃんの問題です」

 

 だがそこで得られた勝利に意味はない。むしろヤンデレが悪化するだけに終わる。まず間違い無くカブトはそこまで考えていないが、ここでメガちゃんに任せる事がバッドエンドルート真っしぐらな事は生存本能的に理解したのだろう。

 

 拳は握らず、吹きあれる吹雪の中心にいるユキちゃんの元へと足を進める。凄まじい速度で射出される『こおりのつぶて』をその人間離れした動体視力で回避したり打ち落しながら一歩一歩ユキちゃんの元へ歩みを進める。

 

『まだ未完成だけど『絶対零度』ならカブトもきっと溶かしきれずに氷像になってくれるはず。わざわざ私に近づいて来たのは貴方も氷漬けになる事を望んでいるからかしら? 安心して、私は凍りついた貴方をずっと愛してお世話し続ける事が出来るわ』

 

「僕が望むのはユキちゃん達とのこれからの生活です。確かに僕がメガちゃんを仲間にした事でユキちゃんの『頂点に立つのはただ一人計画』を邪魔した事になるのは分かっています。ですが、本当に頂点を目指すなら仲間を増やすことはどうしても必要になって来ます。お願いします。妥協して下さい」

 

 深々とユキちゃんの前で頭を下げるカブト。その足はユキちゃんの放つ『絶対零度』擬きによって凍り付き始めていた。もはやこの場から逃げ出す事は叶わない。

 

『……そんなに頼んでもダメよ! 貴方には沢山の人やポケモンがいる! けど私にはもう貴方しか居ないの! 貴方を失いたくない! 貴方に捨てられたくない! 他の女がいたら貴方はそっちに目移りするじゃない! 貴方が他の女と接触し続けると私に対する興味はいずれなくなる。そんな事になったら私はまた一人ぼっちよ!』

 

 ユキちゃんは自身の秘めたる内面を吐露し始める。親を失い一人になったからこそ孤独を嫌い、暖かさを得たからこそそれを失う事を拒否する。他の物に取られない様に自分の物だと印をつける事に拘り、他の物に靡かない様に氷に閉じ込める事に固執する。

 他者に対する高い攻撃性は失う事に怯え恐る臆病な内心の裏返し。いくら表面を氷の様にクールに取り繕っても隠しきれない程の恐怖心。

 ただし、凍っている姿を美しいと感じるのは本人の趣味。

 その全てとは言えないが、この事に関しては勘違いなくカブトも大体理解出来た。

 

「大丈夫です。僕がユキちゃんを捨てる事なんて決して有り得ない。なんて言ったって君は僕にとっての一番なんだから」

 

『そんな事言ったって信用出来ない! 必ず戻るって言ったパパもママも結局死んじゃったのよ! 貴方だって私からいつか離れてしまう! そうに違いないわ!』

 

「違う! 僕はユキちゃんから離れない! 頼まれたって離れてやらない! 君が一番なんだ! ナンバーワンだ! 何の証拠も出してやらないけど君を一番大切に思っている!」

 

『なら氷漬けで私のそばにいてよ! そうじゃなきゃ貴方の事を信用出来ない!』

 

「氷漬けにはならないですけどずっとこれで生活するなら良いですか⁉︎」

 

 もうここまで来ればカブトも自棄っぱち。自身の手が凍り付くのも気にせずユキちゃんを俗に言うお姫様抱っこの形で抱き抱える。本当に何をしているんだこいつ……

 

『え⁉︎ちょ、やめなさい! 恥ずかしいからやめて!』

 

 顔を赤くしながらペシペシとその色の白い細腕でカブトの顔を叩くユキちゃん。

 

「ダメです。ユキちゃんが分かってくれるまでずっとこうしてます。ユキちゃんは僕の一番大切な家族です。ですので他のポケモンがメンバーに新規加入してもその位置は決して変わりません」

 

『わかった、わかったから下ろして! 許すから! せめてカブトがポケモンマスターになるまでは他のポケモンを使う事も許すから! だからこの格好はもうやめて!』

 

 ユキちゃんはジタバタと腕の中でもがいている。カブトは他のポケモンを使っても良い許可が出た事を理解するとユキちゃんをその場に下ろした。

 顔を赤くしてカブトを睨むユキちゃん。何か、こう、勢いで有耶無耶にされた感が残りまだスッキリとしていない模様。

 

『貴方がポケモンマスターになるまでは他のポケモンを使う事も認めるわ。けど、もし私以外の物に現を抜かす様であれば…………』

 

「分かってますよ。けど意外ですね。ユキちゃんこんなに寂しがり屋な面を持っていたとは思いもよりませんでした」

 

 寂しがり屋の一言で済ませるあたりこいつは今までの話をあまり理解できていないと分かってしまう。まだカブトの中ではラオウ系ユキちゃんなのだろう。

 

 突然、ユキちゃんを地面に下ろしてぼんやりと突っ立っていたカブトの手首に霜が纏わり付き手錠の形を取る。

 

『私が貴方を信頼する為に貴方にはこれをつけて貰うわ』

 

 それとほぼ同じタイミングでカブトの手首を拘束する氷の手錠と同じ物がユキちゃんの手にも形成された。ちょうどカブトとユキちゃんでお揃いの形になる。

 

「お揃いなのは嬉しいけど風呂で溶けちゃわ無いですかねこれ?」

 

『問題無いわ。その腕輪は常に分解と凝固を繰り返しているから伝説のポケモンの炎でも無ければ溶けることは無いのよ。さらにそれは貴方が他の女に対して特別な感情を抱いた時、もしくは邪な気持ちを持つ女が貴方に触れようとした時に反応して貴方の体を瞬時に凍りつかせる機能もあるわ』

 

 圧倒的ハイスペックを無駄に使っている感が半端無い腕輪、もとい浮気絶対許さない手錠をプレゼントされたカブトは特に何も気にする事なくカッコいい腕輪をプレゼントされたと思い込み素直に喜びをユキちゃんに伝えた。

 

 カブトの頭の中はグランデシアの花畑である。

 

『(……成る程、分かったよ! つまりあのユキメノコを排除すればボクが一番になれる、そういう事なんだねカブト!)』

 

 折角イイハナシダナー的に終わりそうだった話に水を差すメガちゃん。やっぱ緑のヒロインはダメだな。

 

 

 

 なんやかんやで修羅場を乗り切ったカブト。チームが一致団結した今がチャンスとばかりにハクタイシティのジム戦へと挑みかかる。予め予約はしておいたので万事抜かりは無い。

 ジムトレーナーさん達を軽く蹴散らして、いよいよジムリーダーとの戦いへと移るカブト。ハクタイシティのジムは草タイプをメインに使う。その為メガちゃんで戦うとタイプ相性上は圧倒的優位が得られる。しかし相手はジムリーダー、その程度の優位は蹴散らして勝利を奪い取られかねない。故に決して油断できないのだ。

 

 今回カブトは今回が初めてのジム戦となる為、ジムバッジを持っていない。ジムリーダーは持っているジムバッジの数で使うポケモンを変更する事が協会によって定められている。つまりジムバッジ0個ならば最もポケモンのレベルが低い状態で相手をしてくれるだろう。

 

 メガちゃんはタイプ相性で不利なユキちゃんを寄せ付けない程の手練れ。足を引っ張ら無い様にしなければ、とカブトは気合を入れるため自身の両頬を軽く叩いた。

 

 

 

 

 ナタネによるバトル開始宣言とと共に、ジムバッジをかけたバトルの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 メガちゃんは、ナタネのチェリンボが放つ『タネばくだん』に紛れて射出される『やどりぎのタネ』を『かげぶんしん』と『みきり』を併用して回避する。もし一度でも攻撃に当たると、寄生木に絡み付かれてメガちゃんの強みである速度が封じられ最悪制空権すら失う事になっていただろう。

 どちらが先に音を上げるかの戦い。先にスタミナの切れたチェリンボの『タネばくだん』が途切れた一瞬の隙をつき、メガちゃんの『エアスラッシュ』がチェリンボの柔らかな体を引き裂いた。

 

 続く二回戦、メガちゃんは『かそく』の素早さを維持したまま、次の相手であるナエトルへと向かい合う。ナエトルは先程のチェリンボとは異なり、『からにこもる』と『リフレクター』による防御を主軸に置いた戦いを始めた。本来ならその鉄壁の防御を切り崩すのに手こずるであろう相手。しかし、今回は相手が悪かった。メガちゃんの持つ性質である、外皮を無視した内臓への衝撃波攻撃。ジム戦前に行われたコミュニケーションで『ソニックブーム』と名付けられたその技はナエトルの鉄壁の防御を貫通して、カブト達に勝利を齎した。

 

 最終戦、ジムリーダーナタネの繰り出した最後のポケモンはロズレイド。カブトは、ロズレイドの繰り出した『しびれごな』を『ふきとばし』で弾き返す指示をするもそれは罠。『しびれごな』を吹き飛ばしたことでメガちゃんの視界を奪い、僅かに出来た死角から『パワーウィップ』でメガちゃんを拘束する。ジムの床、壁へと叩きつけられた事で、元より防御力の薄いメガちゃんは戦闘不能状態へと陥ってしまった。

 

 ここで満を辞して登場するのが我らがユキちゃん。カブトに手錠をつける事が出来てご機嫌な彼女を止められる者はもういない。ロズレイドが最後の抵抗として放った『シャドーボール』を『シャドーボール』で真っ向から粉砕し、愛の力で手に入れた新技『サイコキネシス』でロズレイドを意趣返しに四方八方に叩きつけて勝利を収めた。

 

 こうしてカブト達は無事に第一のジムをクリアする事に成功したのだった。

 




カブト
ハイスペック手錠をつけられたが特に関係無かったぜ!

ユキちゃん
なんかちょっと病みが消えたみたいな雰囲気出してるけどそんな事ないから(断言)

メガちゃん
今日も今日とてジェノサイド!

ジムリーダーのナタネさん
セリフが一切無い可愛そうな人。ジム戦はこんな感じでカットされる。サクサクプレイとはこの為に……


次回予告!一斉カットされるジム戦!男には興味ねぇ!なんか知らんうちに増える手持ちとヤンデレ!

多分次のヤンデレポケモンは安直だから簡単にわかるかな?

『増えるヤンデレ、減るジム戦』

みんなもヤンデレゲットじゃぞ〜!


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VS催眠

初対面の相手を病ませるとかちょっと無理だったよ……

ナタネファンの皆様、再登場で頑張るから許してください




 ジム戦を終えたカブトはジムリーダーナタネに誘われてナタネの家で一泊させて貰うことになった。キッサキシティの事や、カブト自身の事、今までの旅について等聞きたいそうだ。

 カブトは何も考えずにホイホイ付いていく。その驚異的身体能力で忘れられがちだが、カブトはまだ十代になったばかりの少年だ。何か裏があると考える事は無理なもの。あっさりと家に連れ込まれてしまった。

 

 ここでカブトに手を出そうと考えるナタネを排除すべく、カブトのポケモン達がボールから飛び出してくる。忠誠心、と言うよりはただの独占欲。狂愛によって強化された彼女らは同レベルかつ同じポケモンの中でも飛び抜けた力を持つ。

 彼女らの持つ圧倒的な力、その力を十全に振るうことが出来れば全力のナタネにも僅かながら勝機は見出せたかも知れない。

 しかし哀しいかな、彼女らは繰り出されたキノガッサ一匹の『きのこのほうし』によって深い眠りにつかされてしまった。どれほど強い力を持とうが、その力を振るう機会が無いのであればそれは無意味な事。

 ナタネは熟睡するカブトのポケモン達をカブトから掠め取ったボールに戻した後『つるのむち』の応用でグルグル巻きにして封印してしまった。そしてこれでカブトを守るポケモンは居ない。カブトにはポケモン達は別室で遊んでいるとでも伝えられるのだろう。

 

 何の疑いも無くナタネ家の食事をご馳走になるカブト。この食事の中にはあの伝説の存在、インド像すら昏倒させる程の睡眠薬が混ぜ込まれている。並の人間ならそのまま永眠しかねない代物だが、カブトはまるで気にした様子もなく料理に舌鼓を打つ。

 

 ナタネは思った。え? 何でこの子寝てないの? 

 

 A.気にしたら負けです。

 

 近年、若者の人間離れが増えてきているが、流石のカブトも3皿目で漸く睡眠薬の効果が効いてきたようだ。皿を机の上に置くと、そのまま床に倒れ込んでしまった。

 

 ナタネさん大歓喜。まさかカブトが伝説のインド像3匹に相当するとは考えもしなかったが、兎に角眠り状態のカブトを手に入れる事が出来たのだ。後は地下室に『つるのむち』で縛って監禁するなり、既成事実を作るなりなんなりしてゆっくり落としていけば良い、と。

 

 それ寒く無いの? という服を着る事に定評のあるナタネがこの様な強引な方法を取った事には深い訳がある。

 

 そう、あれは昨日の事だ。ナタネは自身の怖がりを克服する為にも『もりのようかん』へ足を運んでいた。もはや日課となった様な行為。しかしナタネは洋館を遠巻きに見るだけで中には入らなかった。怖がりを克服したいのは本心だが、外からでも十分怖いし別に中に入らなくても良いかなー、と。それで良いと思っていたし、別に無理して入る必要も無い。そう思っていた。

 そんな彼女だが、洋館からハクタイシティへ帰る途中にメガヤンマから逃走する少年の姿を偶然見つけたのだ。

 助けなければ、そう思い少年とメガヤンマの姿を追った。しかしメガヤンマのスピードにただの人間がついていける訳が無い。そして困った事にナタネの今連れているポケモンは育成途中のポケモン達ばかりで、主戦力は全てジムに置いてきてしまっている。その為、メガヤンマのスピードに追いつける様なポケモンに乗って追跡するという事が出来ないのだ。

 

(お願い、無事でいて!)

 

 切実な願いを抱きながらナタネは走った。ジムリーダーとしてあの少年は守らなくてはならないと。

 必死で走ったナタネはメガヤンマと少年に追いつき、木々が薙ぎ倒され平野となった場所へと到着した。そこで彼女が見たものは、震える足を抑えながらメガヤンマと対峙する少年の姿。恐ろしさの余り顔が引きつっているのが遠目でも見て取れる。怖いのだろう、恐ろしいのだろう、それでも少年は前を向いて立ち向かっていた。必死の抵抗が功を奏したのか、彼の手持ちと思われるポケモンが救援へと駆けつけて最悪の事態を回避する事に成功した。

 

 それに比べて自分はどうだ? と、自分自身に問いかけるナタネ。自分は恐ろしい物を前にした時どうしていた? 結局『もりのようかん』には入らず仕舞いだったでは無いか。言ってしまえば、言い訳をして真に自分の弱点に向き合っては居なかったのだ。

 

 その為、今のナタネから見た彼はとても尊敬に値する姿に見えた。恐れながらも恐怖の対象に毅然と向かったその姿勢、それはとても眩しく輝いて見えた。自分には出来なかった事でその輝きは一層輝いて見える。

 

 彼らとメガヤンマとの戦いの結末を見届けた後、ナタネは『もりのようかん』へと向かった。過去の自分を乗り越える為に。今ならなんでもできる気がする。もう何も怖くない! 

 

 結論から言うと、彼女は『もりのようかん』の内部に入ってすぐ出てきてしまった。しかしそれは人類にとって小さな一歩でも、彼女にとっては大きな一歩となったのだ。

 

 

 ナタネはあの少年に感謝していた。彼と出会わなければ一生『もりのようかん』には入らなかったに違いない。ただの一方的かつ異常に美化された物だがこの感謝の気持ちを伝えたい。そう思っていた矢先の事だった。

 

 あの時の少年がジム戦に挑戦に来たのだ。

 

 ナタネは彼に感謝の言葉を伝えた。自分は君のお陰で勇気を持てたのだと。彼は意味が分からないといった様な顔をしていたが。

 

 それはそれとしてジム戦は一切の手加減無しで行った。最初こそジム初挑戦に合わせたが、彼の知識量とポケモンのレベル、それらに押されて初挑戦に対するポケモンでは無いポケモンも使ってしまうことになったのだ。

 何よりも彼女を驚かせたのはこの前のメガヤンマを手持ちポケモンとして従えていた事だった。たった少しの時間でもうあのメガヤンマと心を通じ合わせたのか、と驚愕した。

 

 ジムバッジを渡した後、彼に家に来る様に伝えたのは純然に感謝と興味のみだ。そこに邪な気持ちは入っていない。ただ、彼がどの様な人生を送って来たのか、それが知りたかったのだ。

 

 家でもてなすために料理を作っていた時、少しだけ彼女に魔が差した。あの少年を自分だけのものに出来ないかと。危険に立ち向かう彼の姿はナタネに勇気を与えた。しかし同時に独占欲も与えてしまったのだ。彼が欲しい。どうせならずっと自分の側から片時も離れずに励ましていて欲しい。他の場所へと行って欲しくない。

 

 ちょうど良く睡眠薬もある。これを使えば後はどうにでも……

 

 斯くして、一時のテンションに身を任せ暴走した者がここに。

 今の彼女の心境、それは……

 

(ああああ! やっちゃった! うわぁぁ、どうしよう……)

 

 滅茶苦茶混乱していた。その時は勢いで薬を持ったが、よく考えてみれば犯罪行為だし何より町の顔であるジムリーダーがこんな事をして良いはずが無い。彼女の持つ本来の真面目さと、手元に置いておきたい所有欲。この二つが混ざり合い大混乱を引き起こす。

 

「も、もうここまで来たら引き返せない! こうなったらやるしか無い!」

 

 暫く悩んでいたが、ナタネは悩みを振り切りカブトを地下室へと連れて行こうとその体に手を伸ばす。すると……

 

「凍っちゃった……⁉︎」

 

 突然カブトの体が凍りついた。ユキちゃん式超高性能氷の腕輪が効力を発揮したのだ。

 

「え? うそ、私氷タイプだったの……⁉︎」

 

 突然人の体が凍りつくと人は混乱する。誰だってそうなるし俺もそうなる。しかも、直前まであたふたしていたなら尚更だ。

 

 混迷の極みに達したナタネのとった行動は、取り敢えず地下室に連れて行く事だった。地下室で何とか解凍しようと頑張るもあえなく撃沈。そう簡単に突破される氷では無いのだ。

 困りに困ったナタネは取り敢えず地下室にカブト(氷漬けの姿)を放置する事に決めた。念の為『つるのむち』で体を縛っておいたが。

 

 

 そして翌朝、そこには何事も無かったかの様な姿で朝の挨拶をするカブトの姿が! 

 ナタネは困惑した。もしかして夢を見ていたのは私の方なのか? うん、きっとそうに違いない。人がいきなり凍るとか、翌朝には何事も無く生きているとかあり得ないし。

 

 結局、ナタネはカブトに手を出さずに帰してしまった。今の彼女の心は手を出さなかった事への後悔半分、安堵半分といったところだ。

 彼女の今後に期待です。

 

 

 

 ナタネ宅を出たカブト。ちなみに手持ちのポケモン達はまだ眠っている。

 ジム戦を終えたからハクタイシティを少し観光しようと考えたカブトは、このハクタイシティで最も目立つ前衛的なデザインの高層ビル、通称ギンガハクタイビルへと足を運んだ。

 かつて見たTVのCMで、何やら宇宙の新エネルギーがどうとかこうとか中々面白そうな事を宣伝していたので見学に来たのだ。

 新エネルギーについて興味がある旨を受け付けで伝えると、特徴的なおかっぱ頭の団員さんが快く中を案内してくれた。

 

 ビルの中では主に新エネルギーの研究がメインで行われており、実際の研究は公開されていなかったもののある程度の説明を受けることができた。パンフレットなどを山ほど貰ったのでカブトの残念な頭でもある程度理解できるだろう。

 中には人工的にポケモンを作り出すという新エネルギーと何の関係があるのかイマイチ関連が掴めないものもあったが、特にカブトは気に留めなかった。

 

 一通り見学を終えると服装からいかにも研究者です! と自己主張する白衣の男からポケモンを一体受け取った。聞くところによると、作り出したは良いものの新エネルギーの開発にあまり役立たなかった為育ててくれるトレーナーを探していたという。戦わせてもあまり強く無く、持て余していたので引き取ってもらいたいらしい。

 

 カブトは二つ返事で了承した。

 

 こうしてカブトは新たなポケモン、ポリゴンを手に入れたのだった。

 ここでギンガ団研究者が意外な気遣いを発揮。このポリゴンに『アップグレード』を使用していた事で、カブトの手に渡った途端ポリゴンはポリゴン2へと進化した。角張った体は見事な流線形を描く物へと変化し虚な目はそのままで、より親しみやすい姿へと進化を果たしたのだ。

 

 新たに仲間に加わったポリゴン2をポリさんと命名し、お世話になったギンガ団の皆さんに別れを告げてカブトはハクタイシティを旅立って行ったのだった。

 

 新たな仲間を出迎える事が出来て嬉しそうなカブト。しかし彼の唯一の不満、それはポリさんのボールがただのモンスターボールな点だ。オシャボ勢な彼としては赤と青のカラーリングであるポリさんは、ルアーボールが似合うと思う。ルアー全く関係無いけど。

 

「と、いう訳でこっちに移動してもらえますか?」 

 

『……………………』

 

 ボールを移し替える為だけに態々一度逃したポリさんにルアーボールを近づけて返事を待つ。ここでポリさんがついてくる事を否定したり、ルアーボールが嫌だと言うならば別に強制するつもりは無かったが、別にそんな事もなくポリさんは無言でボールの中へと入っていった。

 

「……気持ちが分かり難いなぁ……まぁ、そのうち何とかなるでしょ」

 

 こうして新しくポリゴン2のポリさんが手持ちに加入したのだった。

 目覚めたメガちゃんとユキちゃんは新しく手持ちを増やした事について文句を言っていたが、ポリさんのあまりの無感情っぷりに次第にその声も聞こえなくなった。多分性別不明な点も関係しているのだろう。

 

 

 ハクタイシティを出たカブトは206、207番道路を通りクロガネシティへと向かう。その途中で出会った腹を空かせたポケモンにきのみを与えたり、見知らぬトレーナーからポケモンのタマゴを渡されたりしながら道路を自分の足だけで走り抜ける。

 自転車? あいつは置いてきた。はっきり言ってこの戦いについて来れそうも無い。

 

 クロガネシティに到着後、観光と休憩もそこそこにすぐさまジム戦へと挑む。幸にも今日は挑戦者がいないらしくすぐさま挑戦できるようになっていた。

 クロガネジムリーダー、岩タイプの使い手。硬い防御に定評があるが、ようはそれを超える攻撃を放てば良いだけのこと。新顔のポリさんには申し訳無いが、タイプ相性が悪くとも今回は連携の取りやすいユキちゃんをメインに戦うつもりだ。

 

 バトル開始と共に互いにボールを投げポケモンを繰り出す。

 

 ジムリーダーの先発はイワーク。別名ポッポ。こちらの一番手はユキちゃんであるから相手から見て相性はそう悪い訳では無い。そもそも岩は氷に強いのだから当たり前ではある。

 だが、とカブトは脳内で思考を続ける。意外と岩単体は少なく大概の岩タイプは何かしら他のタイプと複合している。このポッポも地面タイプが入っている。その為そこが付け入る隙になる、と。

 

 イワークが吠えると同時に空中から数多の岩石が落下する。『がんせきふうじ』だ。落とされた岩はユキちゃんを封じ込めるかの様に蓄積し小さな山を形成した。しかしユキちゃん、ここで自身の作り出した氷像を『みがわり』とする事で押し潰される事を回避。地面を凍らせて作った道を滑走する事で、機動力を上昇させイワークの足元へと潜り込む。超至近距離から放たれた『ふぶき』はイワークを凍り付かせ、叩き込んだ『シャドーボール』によって凍りついたその体をバラバラに粉砕する。

 

 バラバラにされたイワークと交代で繰り出されたのはゴローン。故郷であるキッサキで散々殺害した種族と同類だと認識すると、ユキちゃんは余裕の表情で冷笑した。ユキちゃんは笑顔のまま、ゴローンが『まるくなる』で丸まり『ころがる』前に『ふぶき』で足を凍らせて地面に縫い付ける。そしてゴローンはイワークの二の舞となった。連続バラバラ殺ポケ事件発生。

 

 最後のポケモンは恐れていた岩タイプ単体であるラムパルド。氷タイプを持つユキちゃんでは些か相性が悪い。しかし、かと言ってメガちゃんも相性が良い訳では無い。内臓への直接攻撃は強力だが種がバレれば簡単に対応されかねない危険性と、耐久力の低さに定評のあるメガちゃんがダメージが累蓄するまでの時間で倒される事のリスク、この二つを恐れてメガちゃんへの交換を躊躇する。そして最後の理由。相手のポケモンを残り一匹にした時点で既に勝利は確定しているからだ。『みちづれ』を使えば安全かつ確実に勝利を得ることができる。しかし、カブトは個人的な理由として『みちづれ』の指示は出来る限り出したく無い。

 

 それらを踏まえてユキちゃんで突貫させる事を決定する。

 

 ユキちゃんはイワーク戦と同じく地面に氷の道を作る事でラムパルドの攻撃を躱し続ける。展開した『あられ』による『ゆきがくれ』の効果も発揮している。ちまちま躱し続けるユキちゃんに業を煮やしたのか、ラムパルドは『いわなだれ』を使い範囲攻撃で殲滅しにかかる。

 ユキちゃんは『ふぶき』で氷のドームを作り出し一時的にその中へ避難するが、『とっしん』の勢いを利用して突っ込んできたラムパルドによって叩き込まれた『もろはのずつき』でドーム諸共砕かれ吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて動かなくなる。

 敵を粉砕し勝鬨をあげるラムパルド。しかし彼が次のポケモンと戦う事は無かった。勝利を確信したラムパルドの真後ろ、丁度壁にめり込んだユキちゃんの姿を模した氷像の『みがわり』とは真逆の方向から放たれた『ふぶき』がラムパルドを凍らせて戦闘不能へと至らしめたからだ。

 

 ユキちゃんは予めカブトから氷のドームを形成した時は馬鹿正直にその中に隠れず、中に『みがわり』を置いて静かにドームから脱出する事を指示されていた。『ゆきがくれ』の効果も合わさりジムリーダーの意表を突くことが出来たのだ。

 

 何とか2回目のジム戦も攻略しカブトは2つ目のジムバッジを手に入れたのだった。

 




カブト
伝説のインド像三体分。ギンガ団とも繋がりを持っている危険思想の持ち主。

ユキちゃん
カブトからの無茶振りにも応える出来る女。有能の極み。あの日あげた氷の腕輪が意味を成さない事を彼女はまだ知らない。

メガちゃん
寝てた。

ポリさん
もうちょっとしたら滅亡迅雷net.に接続させると決めている。

タマゴ
今夜の夕食だぁ!

ナタネさん
再登場で頑張るからこれで許して…
次は絶対病ませる。

クロガネジムリーダー
安定の適当ジム戦。ジムリーダーは犠牲となったのだ、そう、犠牲の犠牲にな。

ナタネちゃんちゃんと病ませられなくて悲しい…


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VS心中

ユキメノコ、メガヤンマ、ポリゴン2とかいうヤバめな面子のポケモンを手持ちに加えて旅をする主人公がいるらしい。

しかも、そいつらがヒロインだという。萌えもんでも無ければ擬人化もしていないのに。

よく読者さんついて来れますね……


 ユキちゃんの活躍で見事クロガネジムを突破したカブト一行。彼らは次なる町、ミオシティを目指していた。

 

 カブトは、コトブキシティで売り出しをしていた最新式のポケッチを無料で貰えるキャンペーンを無視してミオシティへと一直線に走り抜ける。その姿はまさしく猪突猛進。道中で見かけたボロの釣竿を持った釣り親父に対して

 

「僕、釣り、好き。貴方、私、ベストフレンド。フォースの導きが有らんことを」

 

 と言ってボロの釣竿を強奪し、コトブキシティからミオシティへと向かう為の橋を渡ろうとする。ジュンサーさんこいつです。

 しかしここでトラブルが発生。何と橋が壊れていてミオシティへと渡れなくなっていたのだ。

 

 普通の人ならここで『なみのり』を使えるポケモンを連れてくるか、『そらをとぶ』でミオシティまで飛ぼうと考えるだろう。

 

 だが、カブトは違った! 逆にッ! 海の上を走ろうと考えたッ! 

 

 そしてここで突如として入る回想シーン。最早顔も覚えていないカブトの父親が全体的にぼんやりとしたイメージで現れる。顔は覚えていないので、へのへのもへじで代用済みだ。

 

 なにカブト? ウツボットが恍惚の表情を浮かべながらカブトをくわえてはなさない? カブト、それは無理矢理脱出しようと考えるからだよ、逆に考えるんだ。

「食われちゃってもいいさ」

 と考えるんだ。

 じゃ、お父さんパチンコ行ってくるから後は頑張れよー。

 

 クズ親父じゃねぇか! 余談ではあるがこの後無事脱出する事が出来た。

 

 父親の格言? の様な何かで、何かいける気がするという凄くフワッフワした感じで水の上に一歩足を踏み出すカブト。当然の如く足は水に沈む。だが完全に沈みきる前に足を前に出せば如何だろうか? こうやってただひたすら前に進めばいつかは向こう岸に辿り着く筈だ。何せ前に進んでいる訳だしね(黄金の意思)

 

 いや、そんな訳無いから(断言)

 

 案の定海に沈んだカブトをメガちゃんが回収し、背中に張り付きミオシティまで運搬する。メガヤンマは一見すると非力に見えるが、実は大の大人を運ぶだけのパワーを持つ。故にカブト一人分くらい運ぶ事は造作も無いのだ。最初から使え。

 

『ああ、カブトの体温が、香りが、その吐息が、これほどまでに近く感じられるなんていつぶりだろうか! もうボクは1秒でもキミの側から離れると死んでしまいそうだ! そうだ! カブト、提案なんだけどここで他のポケモン達を振り落としてくれないか? そうすればボクとカブトだけになるから、二人きりのランデブーだね! ボクはキミの頼みならどこまででも連れて行ってあげるよ? そう、何処までだってね……』

 

 背中に顔を押しつけて危険な発言をするメガちゃん。恐らく彼女は頼まれればヤルだろう。背中越しでもカブトにそんな『凄み』が伝わってきた。だが一つ言えるなら前を見て空を飛んで欲しい。

 

「ミオシティまでお願いします」

 

 しかしカブト、メガちゃん必死の告白をバッサリ一刀両断。これが鈍感系主人公の悲しき性。

 

『はい』

 

 ここまでキッパリと言われては仕方がない。渋々ながらカブトを無事にミオシティまで運んで行った。

 

 

 遂に到着したミオシティ。見るからに漁業が発展してそうな雰囲気に加えて、意外にもこの地方最大級の図書館があるなどシティと名乗るのに相応しい格を持つ町だ。町には人が溢れて活気に満ちている。キッサキとは大違いだと、カブトは肩を落とす。

 だが、カブトはへこたれない。全ては我が故郷キッサキに活気を戻す為

 に、是非ともチャンピオンを下してキッサキの宣伝をしなければならない。と気合を入れ直す。

 もう二度と『キッサキシティ、過疎化の最先端』などと言わせない。こんなキッサキの冬より寒いギャグを言わせてなる物か! と。

 

 だが今日はもう遅いので、ジム戦には挑まず休もうと考えたカブトは早めに就寝する。勿論、貰ったタマゴはきちんと布団をかけて温めてから寝た。

 そしてカブトが寝静まると同時にボールから飛び出す二つの影。ユキちゃんとメガちゃんだ。ポリさんはこれから何が起こるのかまるで理解していない。

 

『…………どうしましたか? 何をするおつもりですか?』

 

 殺気立ち互いに睨み合っているメガちゃんとユキちゃんの両方に取り敢えず質問するポリさん。

 

『何って決まっているでしょう? カブトを氷漬けにするのよ』

 

『…………は?』

 

 病んでもなければデレてもいないポリさんには、本気で理解が出来なかった。何故ならポリさんの持つ常識では、自身のトレーナーを氷漬けにするポケモンなど存在しなかったからだ。付き合いは短いがポリさんから見て、彼女はカブトに普通のポケモンが抱く感情以上のものを抱いている様に見えた。だからこそ尚更氷漬けにするという言葉の意味がわからない。

 

『えー、氷漬けにするとカブトさんは死ぬのでは?』

 

『私はカブトが死んだとしても愛することができるわ! 氷漬けの状態で私がずっとお世話してあげるのよ』

 

 ポリさんは頭を抱えた。言っている事がカケラも分からない。ダメだこの雪女、早く何とかしないと……一縷の望みをかけて視線でメガちゃんに救援を送る。その視線を受け取ったメガちゃんは静かに頷いた。

 

『全くキミの言っている事は相変わらず意味がわからない』

 

 ポリさんはホッとする。良かった、まだ話の通じるポケモンがいた。何とかメガちゃんにユキちゃんの暴挙を止めて貰おう、そう考えた時だった。

 

『カブトと結ばれるのはボクだと決まっているのに……。やはり近づく女は全て殺さなければダメか……。カブトの手持ちだから今まで見逃してあげてたんだけどね。ここで死んで貰う』

 

 その鋭い牙でギチギチと不協和音を奏でるメガちゃんを目の当たりにしてポリさんはこの時悟った。常識を持つポケモンは自分だけなのだと。

 ここでポリさんは説得を諦めて寝た。もうどうにでもなれ。

 

 

 

 一種触発の雰囲気。今、ユキちゃんか、メガちゃんそのどちらかが指先一本でも動かせばこの均衡は崩れ去るだろう。永遠の様な一瞬、先に動いたのはメガちゃんだった。しかし想定していた様な戦闘は始まらない。何故なら彼女たちの視線は宿泊施設の窓へと向けられていたからだ。

 

『はぁー、折角此処でケリをつけようと思っていたのに……。悪いけどボクはお仕事の時間だ。キミなんかに頼むのは非常に不愉快かつ、不安だが今頼れるのはキミしかいない。そこでカブトを守っていてくれ』

 

 溜息を溢しながらメガちゃんは、心底嫌そうにユキちゃんにカブトの守護を頼む。視線をチラリと窓へ向けて再び溜息を吐くと、今度はカブトに近づきその無防備な唇を貪った。

 

『ん…………はぁ、行ってくるね、カブト。今からキミに近づくゴミを始末してくるから』

 

 その言葉を告げるや否や、凍りつき始めるカブトを背にすぐ様部屋から出て行くメガちゃん。その後ユキちゃんがカブトの口内を自らの唾液と氷で洗浄した事は言うまでも無い事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 私、フワンテ! 花のレベル17! ターゲットにした発電所に住む女の子に毎日会う事で警戒心を消した後、そのまま手を引いてあの世に連れて行こうとしていたら、何と風が吹いて飛ばされちゃった☆

 そのまま風に飛ばされてクロガネシティの近くまで来ちゃうなんて私ついてなーい! 

 

 あーん、遅刻遅刻! 発電所の女の子まだ待ってるかな? もし帰っていたら家までお邪魔しちゃうぞ☆

 ああ、でもお腹空いたなぁ。今、持ち手の部分が木に絡まって動かないからなー、もしかして、私一生何も食べられないままここで死んじゃうの⁉︎そうでなくても、通りかかった山男に私が乱暴されちゃうわ! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに! くっ殺! くっ殺! 

 

 1人勝手にフワンテが叫んでいると、そこに救世主カブトが現れる。

 

「あれ? もしかして、引っかかってる? 取ってあげるね」

 

 はぅあ! 何たるイケメン魂! 貴方が私の救世主だったのですね! 何とお礼を申し上げて良き物か! 

 

「お腹空いてるの? じゃあこのきのみあげるよ。じゃね!」

 

 き、きのみまで貰ってしまった。これはもう、あれですね。お礼に私の命を差し出さないといけませんね! 詰まるところ、一緒にあの世に行くっきゃないでしょ! もうこの際あんな小娘などどうでも良い。

 任せちゃって下さい。貴方の魂は私のこの風船の中にずっと留めておきますからね! 実質結婚ですね! 

 そうと決まればレッツゴー! 善は急げ! 

 

 

 そしてフワンテはカブトの後を追ってふわふわ風に流されながら、ミオシティに到着するのだった。

 

 

 へっへっへ……いくら肉体の匂いが消滅しようとも、あの人の魂の匂いが微かだが道中に残されているのだよ。この追跡のプロである、漆黒のチェイサーこと、フワンテ様に見つかったのが運の尽きだな! 

 あの人が泊まっているのはポケモンセンター二階の7号室だ! 間違い無いね! よーし、先ずは窓からお顔を拝見っと。

 

『おほー、何たるイケメン! これはここまでやって来た甲斐があったってもんですよ!』

 

『うんうん、そうだね。キミ、見ない顔だね。ここら辺に住んでるポケモンじゃないでしょ?』

 

 助けて貰った恩返しに、魂を取り込もうとするフワンテの失敗は

 

『あ、分かります? 私この人の魂を何としてでも取り込まなくちゃって思いまして、それで遠路遥々ここまでやって来た訳ですよ』

 

『へぇー、そうなんだ』

 

 部屋を覗き込む不審な自分に気軽に声を掛けて来たポケモンに警戒心を抱かなかった事、

 

『それでですね! 今からこの人の魂を奪っちゃおうと思ってまして……』

 

『うんうん、それで?』

 

『もうこれ実質結婚なんじゃないかなって!』

 

 自分の欲望を抑えずに大っぴらにした事、そして…………

 

『へぇー、そうなんだ……じゃあ、さよならだね』

 

『ええ、サヨナラです! 今から私、集中して魂を奪うので邪魔しないで……………………』

 

 

 狙う相手を間違えた事だ。

 

 

 フワンテがその言葉を言い終える事は終ぞなかった。深夜のミオシティに響いたのは乾いた破裂音。そして少し遅れてから、フワンテの中に閉じ込められていた魂の絶叫がミオの空にこだました。

 

 

 深くは語らない。だが、発電所の女の子がフワンテによって、あの世に連れ去られる事は無くなったとだけ記しておこう。




カブト
頭のおかしい子(直球)まだ水の上を走れないあたりポケモンマスターは遠い。釣竿強奪の前科がついた。

ユキちゃん
氷漬け中毒者。まだ氷の手錠が効果を発揮していて嬉しい。朝起きると氷を全て溶かされるのはそろそろ諦めた。

メガちゃん
いつまで経ってもブレない子。

ポリさん
常識人。いつまで正気で居られるかな?

ウツボット
ヤンデレポケモンの一体。体の中で溶かしてしまう事で、愛する人と一つになろう系ヤンデレ。まだ一応ご存命です。

カブト父
顔など覚えてない。

フワンテ
今日の犠牲者。フワンテは犠牲になったのだ、犠牲の犠牲にな。


次回予告

雑に増える手持ちヤンデレ。以上


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VS崇拝

「つよいヤンデレ、よわいヤンデレ、そんなの人の勝手。本当にヤンデレが好きなら、好きなヤンデレに愛され続けるべき」

皆大好きカリン様の名言。この言葉は今も尚多くの人の心に残り、受け継がれている(適当)

つよいヤンデレ、よわいヤンデレの定義だって?それは自分で見つけるんやで(悟り)


 朝、ミオシティで目を覚ましたカブト。ポケモンセンターの前に転がる風船の残骸に訝しみながらもそれを踏み越え、修行の為に『こうてつ島』へ向かおうとする。

 しかし此処で問題が発覚。カブトはB級サメパニックホラー映画を見てしまったが故にトラウマを植え付けられ、船に乗ることが出来なかったのだ。いざ港までたどり着いたが、これでは修行スポットとして定評のあるこうてつ島に行くことが出来ずに意味が無い。

 カブトはゴースの体重と同じくらい絶望した。メガちゃんに連れて行って貰えるほどこうてつ島は近くに無く、途中でメガちゃんの体力が切れて落下する事は目に見えている。

 

 絶望したカブトはふと手元を見下ろす。その手には釣り親父から分捕ったボロの釣竿が握られていた。此処でカブトに天啓が走る。船に乗れないなら、海を渡れるポケモンを捕まえれば良いんだと。

 心を決めれば後は早い。早速港の近くでワクワクしながら釣り糸を垂らす。何が釣れるだろうか? TVで見た赤いギャラドスなども良いだろう。カイオーガ、ルギアなども良いかも知れない。

 これから訪れるであろう栄光を想像すると、思わず顔がにやけてしまう。しかし釣り糸を垂らす事数時間、一向に釣れる気配が無い。実はこの間にコイキングなら釣れていた。しかしコイキングを頼りにこの海を『なみのり』するなど不可能だ。ビート板代わりにして泳ぐなら話は別だが。

 

 あまりに『なみのり』出来そうなポケモンが釣れなかったので、カブトはおもむろに立ち上がるとボロの釣竿と服を投げ捨てて、最低限の装備を残した状態で海に飛び込んだ。

 海の中は様々なポケモン達が跳梁跋扈する無法地帯。辺りを見渡すだけでも海の幸……いや、『なみのり』が使えそうな強靭なポケモン達がいっぱい溢れかえっている事が見て取れる。通常のダイビングであるならば非常に美しい光景だろう。しかし、カブトはそんな物には見惚れ無い。今、彼の頭には水ポケモンを捕獲する事しか頭に無いのだ。

 

 拳を握り締めると、どうせなら強そうな奴が良いという理由だけで、獲物を追っていたサメハダーに狙いをつけて、紫の液体が漂う水を掻いた。獲物を追い詰め、今まさに食わんとするその無防備な横顔に、カブトの振るった『きあいパンチ』が炸裂する。『さめはだ』でカブトの拳も傷つくが、所謂コラテラルダメージという奴だ、何の支障も無い。

 食事の邪魔をされ怒り狂ったサメハダーが、その大きな顎門を広げてカブトの四肢を食いちぎろうと迫りくる。その口内に見られる鋭利な牙はノコギリを連想させる程鋭く尖り、噛みつかれた際には間違い無く大きなダメージを負ってしまうに違いない。

 普通の人なら此処で横や、上に逃げる事を行うだろう。しかし、今、この場において、カブトの辞書に撤退という二文字は無い。カブトはその右の拳を固く握り締めると、その大きく開かれたサメハダーの口内に向けて、『きあいパンチ』を打ち上げるように突き刺した。

 脳が揺らされる、瞬間における意識の混乱と混濁。一瞬だけ意識が飛んだサメハダーは事態を理解すると、自身の口内に突っ込まれた異物である右腕を噛みちぎるべくその手に牙を突き立てようと勢い良く口を閉じる。しかし、カブトは口が完全に閉じられる前に腕を引き抜き、今度は両手両足を使ってサメハダーに絡みつくことで、口を開けないように押さえつけて攻撃手段を奪った。

 

 しかし此処でカブトは一瞬躊躇する。もしかしてこれは最近話題のポケモン虐待という奴なのではないか、と。だが、ポケモンを捕獲する為に相手にダメージを与える事は必要不可欠。今回の場合は水中で戦えるポケモンがいない為にトレーナーが戦っただけに過ぎない。しかし、世間の評価というのは中々難しいもので、自分が正しいと思っても世間ではそうではない事などありふれている。その為、カブトはどう行動するべきなのか分からずに次の行動に移る事が出来ないでいた。

 

 カブトが思考の沼に嵌っている間にも、サメハダーはもがく事で拘束から脱出しようとする。このままもがき続ければカブトは『さめはだ』によって蓄積したダメージで拘束を維持できなくなるだろう。カブトからすれば両手を使ってしまっているので腰につけたボールを取ることが出来ずにジリ貧だ。

 そんなカブトの窮地を救ったのは先程サメハダーに追いかけ回されていたポケモンだった。そのポケモンが放った『みずのはどう』がサメハダーに直撃し、遂にサメハダーは力尽きる。カブトは咄嗟に『みきり』を使う事で難を逃れた。

 

「何かごめんね、サメハダー」

 

 一言謝罪して気絶したサメハダーの口に『げんきのかたまり』を突っ込んだ後、捕まえようとボールに手を伸ばすがもう海中で息が続かない事を自覚し急いで海面へと上昇しようとする。しかし、サメハダーとの激闘で体力を使い果たしたカブトは途中で力尽きてしまう。そんな彼を背中に乗せて岸まで運んだのは、サメハダーに獲物とされていたポケモンだった。

 全体的にぬめっとして質感を持ち、青と緑の体色を持つポケモン、そして、その愛くるしい顔と鳴き声で一部の界隈での人気の高いポケモンでもあるトリトドンだ。海中に漂っていた紫の液体は、トリトドンが外敵に襲われた時に噴出した物で毒性は無いらしい。

 兎も角、目を覚ましたカブトは交渉の末、水タイプのポケモンであるトリトドンを仲間に加える事に成功した。お世辞にも屈強な体を持つとは言えないが、カブトは自分を助けてくれたこのポケモンをとても気に入ったのだ。後はトリトドンの気持ち次第だが、意外な事にトリトドンも快く了承してくれた。

 こうして、カブトは『トリさん』と名付けられた彼女の背中に乗り、新しい手持ちとして彼女を加えて、共にこうてつ島へと向かうのであった。

 

 

 なんやかんやで海を渡りきったカブトは、島の入り口付近で屯していたビークインとガーメイルを使うスキンヘッズの男達をポケモンバトルで倒すと、彼らを仲間にして島の内部へと乗り込んだ。

 仰々しく修行と言っても、道中現れる野生のポケモンや、同じく修行に来ているトレーナーと手合わせする程度の簡単な物。カブトは出会ってからの経験が浅いポリさんと、トリさんをメインにして上手く連携が取れる事に主眼を置いた修行を行なっていた。

 こうてつ島のトレーナーも粗方倒しきり、残るは最深部に居た、ゲンという名を名乗るルカリオ使いの男のみ。波動を使った攻撃を繰り出すルカリオに酷く苦戦させられるも、ずっと着いてきていたスキンヘッズの応援や僅かな間ではあったが修行の成果もあり、カブトはゲンとの激戦を制する事が出来たのだった。

 

 戦いを終え、一息をつくカブト達。スキンヘッズや、ゲンだけでは無くそこら辺にいたトレーナーをも巻き込んでの夕食とする。カブトが、長時間の戦闘で干からびかけていたトリさんに『美味しい水』をかけて元の柔らかな姿に戻そうとしていると、そこにゲンの連れていたリオルが近づいて来た。このリオルはまだレベルが低いのか、戦闘参加はせずに戦いを遠巻きに見守っていたポケモンだったとカブトは記憶している。お腹が空いたのかと思いきのみを何個か渡すと、そのきのみを持ってリオルは何処かへ行ってしまった。

 暫くすると、リオルはゲンを連れてカブトの元へと戻ってきた。曰く、カブトの事を気に入ったから旅に連れて行って欲しいそうだ。何処に気に入られる要素があったのか甚だ疑問だが、兎も角ゲンの了承も取れた事で新しくリオルの『ルカちゃん』が仲間に加わった。

 さらに嬉しい事に、ゲン直々にルカリオの戦い方や、波動を伝授してくれるという。

 本日2人目の仲間が出来た事や、新たに師匠ポジの人が出来た事にカブトは喜び乱舞する。手持ちポケモンの約2名は状況次第では抹殺も辞さないと決意し、常識人胃痛ポジは、どうせこいつもロクでもない奴だと諦め、新人さんは、ただ粛々と決定に従った。

 協調性が欠片も無い……

 

 夜、此処こうてつ島に於いては皆が寝静まっても決して安心できない。この島には多様なポケモンが生息しており当然夜行性のポケモンもいる。そしてカブトは今、ポケモンのタマゴを持っているのだ。何時もならポケモンセンターに宿泊していたのでタマゴが野生ポケモンに襲われる事は無かった。しかし今は野宿。当然、狙われる可能性が高い。

 

 そこでカブトは、手持ちの中で最も体力や防御力の高そうなトリさんを召喚しタマゴを守るようにして欲しいとお願いする事にした。勿論、時間制限付きのカブトとトリさんの交代制だ。

 

「トリさん、手持ちに加入してくれたばかりなのに申し訳無いけど頼みがあるんだ。二時間だけこのタマゴを守っていてくれませんか?」

 

 カブトの頼みに対してトリさんは、

 

『承知致しました……。この命に変えてでもこのタマゴを守ってみせます……』

 

 非常に畏まった態度で任務を引き受けた。その態度だけで、彼女がどれほどこの任務に全力を尽くそうとしているのかが分かる。

 

 トリトドンのトリさんは感謝していた。

 今日、何時もの様に浅瀬で食事を取ろうとしたのだが、本来もっとあるはずの餌が何故かいつもより少なかった。そこで彼女は餌を食べる為に、多少なら遠くに出ても大丈夫だろうと考えて沖合に出たところをサメハダーに襲われてしまっていたのだ。ずっと追跡され続けて、体力も限界に近づき、いよいよ死を覚悟した時に彼女に救いが現れた。颯爽(?)と現れて彼女を命の危機から助けたカブトの姿は彼女にどう写っただろうか。英雄? 救世主? それとも神? 

 何にせよ、彼女はカブトに対して狂信とも言える感情を抱いてしまった事に違いは無い。

 

 彼女はカブトの命令を忠実に遂行するだろう。その命令の為ならば同族は愚か、家族すらをも切り捨てる事も厭わず、自身の命すらも省みない。そして、カブトに相応しく無い人物とトリさんが判断する様な存在が、彼に近づこうものならば即刻排除する事に躊躇いも無い。例え、その結果彼女がカブトから嫌われようとも憎まれようとも。

 

 故に彼女は容赦しない。それがこれから共に肩を並べる手持ちポケモンとしての先輩であろうとも。

 

 

 皆が寝静まった夜、タマゴを守る様に立ちはだかるトリさん。そして相対するはメガヤンマのメガちゃん。

 

『ねぇ、そこを退いてくれないかな? ボクはそのタマゴを壊す必要があるからね』

 

『何故その様な事を……?』

 

 防御姿勢を一切崩さないままトリさんはメガちゃんに問いかける。その姿を見てメガちゃんは薄く笑い、羽を不規則に羽ばたかせることで不気味な音を奏でながら言葉を続ける。

 

『そんなの決まっているさ。そのタマゴが来てからカブトはタマゴに付きっきり、そいつが孵ったら尚更だ。それは決して許されない事さ。カブトの一番はボクでなければならない。例えそれが生まれたばかりの赤子であろうとも、ボクからカブトを引き剥がそうと言うならば殺さなければならない。キミはボクの行動を見逃すだけ、簡単な話だろ?』

 

『それは許容しかねます……。私はカブト様にこのタマゴを守る様に仰せつかりました……。この命に替えてでもこのタマゴに手は出させません……』

 

『そうか、ならば交渉は決裂だね。遅かれ早かれ死んでもらうつもりだったから丁度良いや。消えろ』

 

 言うや否や、メガちゃんの羽ばたきから生み出された不可視の斬撃がトリさんを襲う。会話を始めた時からこうなる事を見越していたのだろう。殆どノータイムで放たれたその一撃は、トリさんの柔らかな外皮を貫通し彼女の内臓をぐちゃぐちゃに引きちぎる。

 

『—————‼︎』

 

 声にならない絶叫。メガちゃんの持つ圧倒的な力の前にトリさんの柔らかい体は一瞬にして千切れ飛んだ。こうてつ島のゴツゴツした大地に先程までトリさんだった物が飛び散り、辺りに鉄臭い匂いが立ち込めた。トリさんは決して弱くは無かった。しかし、今回は相手が強過ぎたのだ。彼女はその短いポケ生を此処で終わらせてしまう。だが、彼女に任務を達成できなかった事に対する後悔はあれども、カブトについて来た事に対する後悔は無い。彼女は最後までカブトから与えられた任務を喜んでいたのだ。

 

 心優しきトリさん、此処に眠る。

 

 

 

 そしてトリさん殺害の犯人、メガちゃんは上機嫌に体についた血潮を拭っていた。カブトに近づく邪魔者が一人消え、そして今夜もう一人消えるのだ。これを喜ばずに居られるものか。

 

『あはは! やっとあの目障りなタマゴを破壊できる! あの新入りももういない。ならば壊す事など赤子の首を捻じ切るより楽な作業だ! この調子であの雪女も殺そうか。きっとカブトも褒めてくれるさ』

 

 機嫌よく独り言を呟くメガちゃん。彼女の頭の中では近づく女を抹殺すればカブトに褒めてもらえるらしい。流石ジェノサイダー。

 

『汚れも取れたし、じゃあ、いよいよタマゴを粉砕しようかな』

 

 悠々とタマゴに近づくメガちゃん。それは勝者の余裕が感じ取れる堂々たしたものだった。しかしその歩みは意外な存在によって妨害される事になる。

 

 突如として横から湧き上がった、全てを押し流す汚れた流水、『だくりゅう』。メガちゃんは咄嗟に『みきり』を使い攻撃を躱す。

 

『ッ! 誰だ! …………! お前はっ!』

 

『どうしたの……? 幽霊でも見た様な顔して……』

 

 メガちゃんの視線の先、そこには死んだ筈のトリさんがその体を脈打たせながら立っていた。のそりのそりと移動し、タマゴが背後になる様に位置取りをする。

 

『何で! 生きて……ッ!』

 

『そんなに死んだ筈の女が生きているのが珍しい……? 一回死んでみれば貴方も生き返れるかも知れませんよ……』

 

『冗談……ッ!』

 

 何故死んだ筈のトリさんが生きているのか。それは至極簡単な話だ。トリさんは、トリトドンの持つ高い再生能力と自己再生を使用して細切れの状態で一から自分の体を再構築したのだ。いくら再生力に長けたトリトドンとは言え誰しもができることでは無い。体を回復させる度に感じる激痛と、死への恐怖。普通ならこれらの要因で途中で復活を諦めてしまう。本当に恐ろしいのは瀕死からでも元に戻れる再生力ではなく、どんな時でも揺るがないトリさんのカブトへの信仰心。カブトから与えられた任務を遂行する、それだけの想いで彼女は現世に再び舞い戻ってきた。

 

 

 これより交代までの約二時間、タマゴを庇い続けたトリさんはメガちゃんによって、ただひたすらに殺され続けた。

 全てはこの世で最も崇拝するカブトの願いの為に。彼女は何度殺される事になろうとも決してブレる事は無い。例え彼女に彼の愛が向けられずとも、それでも彼女は彼を愛し続けるのだ。

 




カブト
動物愛護法違反者。ギャグ補正が無ければポケモンと戦うとか考えちゃダメ絶対。新興宗教の開祖になる。

ユキちゃん
出番無し。序盤に見せ場あったし是非も無いよね……

メガちゃん
カブトとの中に割り込もうとするならば、このメガちゃん、例え赤子であろうとも容赦せん!

ポリさん
涅槃の境地に達した。どうせ新人も頭おかしいに決まっている、と頭ではなく心で理解した。ある意味真実。

タマゴ
まだ生きていた奇跡に感謝。生まれるのはシンオウヤンデレポケモンとしては外せないあの子。

トリさん
狂信者であり、その実態はデンジャラスゾンビ。命は投げ捨てるもの。
ダイブボール入り。

ルカちゃん
皆大好きあの方。伝説ポケモン詐欺の進化前。ゴージャスボールに入れ直す。

サメハダー
今日の被害者。再登場を震えて待っておけ。

ゲン
手持ちのリオルを何処の馬の骨とも知らない奴に取られた可哀想な人。師匠ポジになる。

スキンヘッズ
波動崩しだか波動殺しだかよくわからない奴ら。舎弟。


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VSお見通し

定期更新出来ない……。色々忙しいぜ……。


ヤンデレのちからってすげー!


主人公が代替わりするたびに新しい町に引っ越してくる男の名言


 タマゴを守る交代の時間になったので起床したカブトは、トリさんに預けていたタマゴを受け取る。

 そして、何故か満身創痍で倒れているメガちゃんと、平気を装っているがその実はボロボロの体をしているトリさんを見て、カブトはこう思った。

 

(自主的な鍛錬か……! 僕も見習って精進しなくては……!)

 

 この男は未だに自分の手持ちを我が生涯に一片の悔い無し系ユキメノコだと勘違いしている男であり、さらに加えてバトルをしている時以外は知能指数が著しく低下する特性『バトルスイッチ(笑)』を持つ。その為、どう見ても仲間に放つにしては強すぎる攻撃が使われた形跡がある事も軽く見逃してしまったのだ。

 

 カブトは、トリさんとメガちゃんを回復させながら彼女達に言葉をかける。鍛錬するのは良いけどその体を大切にして欲しい、と。

 これに対して返す反応は二人とも違っていて面白い。トリさんは自身の身体を案じて貰った事に対する感謝を伝え、メガちゃんは体を大切にして欲しい、という言葉を拡大解釈して頬を赤く染めた。だが反応こそ違えど、奇しくも二人の内心は一致していた。

 

(カブト様にこの様な虫は不要……。カブト様の為に……)

 

(やっぱりボクが一番であり続ける為にも……‥)

 

((コイツはこの世に生かしておけない……))

 

 カブトは昨夜のトリさんとメガちゃんが鍛錬をしているであろうありもしない光景を勝手に想像して思った。

 

(やっぱり僕の手持ち達は仲が良くて頼もしいなぁ)

 

 真逆である。

 

 

 そうこうしている内に夜が明ける。カブト達は朝食を終えると直ぐにゲンの待つであろう場所へと向かった。今日からゲンに、ルカちゃんとカブトを中心としてルカリオの戦い方や、波導の使い方などを教わるのだ。カブト達が波導を教わっている間、他の手持ち達は野生ポケモンと戦ったりして自主鍛錬を積んでもらう。

 当然、波導を完全に使いこなす波導使いになる為の修行などは年単位で行う様な物なので、今回はルカちゃんが上手く扱える様になる為の訓練がメインとなる。

 

 

 

 そして時間は飛んで一週間後、驚異的な速さで色々と重要そうな事を習得したリオルは、波導を操れる様になった事で一気にルカリオへと進化を果たしたのだった。ついでにカブトも元々素養はあった事で多少なり波導パワーを使える様になった。具体的に言うと『はどうだん』を打てる様になった。使いすぎたら死ぬらしい。

 もう教えることは何も無いムーブをしているゲンから課せられた最後の課題は、この島のヌシであるハガネールと戦うこと。話を聞くや否や、カブトはルカちゃんのみを連れてその場を飛び出していった。当然、ゲンはその後を追いかけた。倒してこいとは言ったが、進化したばかりのルカリオだけでは到底敵う相手では無いからだ。

 ゲンが現場に辿り着いた時に待っていたのは異様な光景だった。この島のヌシであるハガネールに対して、タイプ相性が悪くないとはいえ進化したばかりのルカリオが戦いで圧倒していたのだ。

 

 ルカちゃんは『しんそく』を利用した移動法を使い、壁や天井に張り付いて攻撃する神出鬼没な動きでヒットアンドアウェイを繰り返し、攻守が秀でているも鈍重なハガネールを撹乱しつつ、『はどうだん』で確実に蓄積ダメージを与えていく。ハガネールは『ロックカット』を何度も使用して素早さを上昇させる事でルカちゃんに対抗しようとするも、ルカちゃんの『まねっこ』で『ロックカット』を使用されてしまうので実質イタチごっこ。

 

 ルカちゃんがハガネールを圧倒している事も異常だが、何より異様な光景は、カブトが何かしらの指示を口にした様子も見受けられ無いにも関わらず、ルカちゃんがトレーナーからの指示を受けているかの様に動く事だ。

 これは、ルカちゃんが波導パワーでカブトの心を読む事によって発生する声を出さずとも指示を出しているという現象で、相手に、コイツ……出来るッ! と思わせて威圧する高等テクニックだ。実際やると何か強そうに見える。

 

 業を煮やしたハガネールは範囲攻撃かつ、洞窟で使用するのは危険極まりない『じしん』を使いルカちゃんを仕留めようとするが、ハガネールの動きから攻撃技を使うとカブトが見抜いた事で、『さきどり』で逆にハガネールの『じしん』を打ち返す事に成功した。

 流石にヌシといえど効果抜群の技を喰らい続けて限界だったのだろう。『じしん』を受けたハガネールは大地に静かに倒れ伏した。

 

 こうして最終試練を突破したカブトは、今まで面倒を見てくれたゲンやそこら辺のトレーナーに礼を告げてこうてつ島を去っていった。スキンヘッズの舎弟は置いてきた。今頃こうてつ島で仲良く暮らしているだろう。

 

 再びトリさんに乗ってどんぶらこ、どんぶらこと海を渡りミオシティまで帰還する。以前と比べ桁違いに逞しくなったカブト。今ならタイプ相性的に厳しいミオジムもクリア出来るはずだと、ジムの内部へと侵入する。

 

 今回のジムは鋼タイプのジム。トリさんとルカちゃんを手に入れる前なら苦戦は必死だったが、こうてつ島で鍛え上げられた今なら然程問題は無い。カブトは意気揚々とジムトレーナーを蹴散らし、ジム戦へと向かっていった。

 

 いよいよ始まるジムリーダーとの戦い。ジムリーダーが最初に繰り出したポケモンは青銅器を思い起こさせる様な形状をしたポケモン、ドータクン。対してカブトの先発はトリさんだ。

 ドータクンは、確か『ふゆう』か『たいねつ』の特性を持っていた筈だとカブトはその宙に浮かぶ妙な姿を見て思い出す。エスパーパワーで空中に浮いているあたり地面タイプ最強の技である『じしん』が意味を為さない事は一目でわかる。銅鐸に浮かぶ能力があったなんて初耳だよ……と、カブトは内心呆れていた。

 

 

 宙に浮かぶドータクンに地面技を封じられたトリさんは、先ずは様子見として『みずのはどう』で攻撃を仕掛ける。しかし射出された水流はドータクンに届く直前、形成された半透明のバリアである『ひかりのかべ』と『リフレクター』によってその威力を殆ど奪われてしまう。だが、元より大したダメージを見込んでいなかったカブトに動揺は無い。

 ドータクンは反撃とばかりに『じんつうりき』で攻撃を仕掛ける。『じんつうりき』の余波でフィールドが抉れる中、カブトからの指示を信じて待つトリさんは微動だにしない。不可視の念力がトリさんの目前まで迫り、その柔らかい体を今まさに砕かんとするその一瞬、カブトから指示された『ミラーコート』が発動して迫りくる『じんつうりき』を反転させて、その本来の発動者であるドータクンを壁に叩きつけた。ドータクンはこれ以上の戦闘続行は不能とみなされて、先ずはトリさんの勝利となった。

 

 次に繰り出されたポケモンはハガネール。しかしこうてつ島の個体の方が、より巨大でこのハガネールよりも凄まじい力を感じられたので今回の敵は然程恐れるほどでは無い、とカブトは判断した。『じわれ』は特性『がんじょう』で通用しないが、少なくとも『じしん』は通じるので今回は思い切って攻める事にする。

 カブトの指示通り『じしん』を発動するトリさん。しかし、ハガネールの予想外の行動で『じしん』は不発に終わる。ハガネールは『でんじふゆう』を使い空中へと浮かび上がったのだ。これなら素直に『だくりゅう』か『みずのはどう』を使っておくべきだったと歯噛みする。

 だが後悔してももう遅い。重さ400キロから放たれる『ヘビーボンバー』。さらに落下の速度も加わり、キン肉マン理論式に2倍の2倍で以下省略。

 正直考えたくも無い破壊力の一撃がトリさんを圧殺するべく激突する。ジムのフィールドにクレーターが出来て砂煙が立ち上る。結果は両者相討ち。相討ちの原因はトリさんがギリギリのところで使用した『カウンター』。ダメ元ではあったが何とか間に合った様だ。

 

 ジムリーダー最後のポケモンはトリデプス。見た事の無いポケモンだがカブトは焦らない。ルカちゃんならばきっと何とかしてくれるという、全く根拠の無い期待をかけているからだ。その心を読み取ったのかルカちゃんも同調して闘志を燃やす。

 

 勝負は一瞬でついた。ルカちゃんが『しんそく』を使ってトリデプスの背後へ回り込み『インファイト』でトリデプスが動かなくなるまで殴る蹴るの暴行を与える、ただそれだけの行為でトリデプスはダウンした。元よりトリデプスは前面からの攻撃に対する防御力は秀でているが、後ろを取られると残念ながらその自慢の防御力はまるで発揮されない。だから絶滅したのだろう。

 

 カブト達は割とあっさり三つ目のジムをクリアする事に成功したのだった。

 

 

 夜、カブトは手持ちポケモン達を部屋に置くと一人で夜空を見に出掛けた。ポケモン達と一緒にわちゃわちゃ見るのも良いのだが、誰にだって綺麗な景色を独占したいと考える時がある。カブトは月見酒ならぬ月見サイコソーダを一人で行う為に抜け出してきたのだ。

 しかしそんなカブトだが、ここでまさかの大失態を犯してしまう。サイコソーダを買っておく事を忘れたのだ。持ってくる事では無く、買っておく事だ。いや、ホント、何しに来たんだお前、と言われても仕方の無い失敗だ。サイコソーダの無い月見サイコソーダは、例えるなら筋肉の無いカイリキーの様な物。サイコソーダを忘れたカブトは目に見えて落ち込み、せめて月だけでも見ておこうと一人で防波堤に座り込んでいた。そして気がついた、あっ、今夜新月じゃん。ホント、お前何しに来たんだよ。

 

「ウェイッ! 冷たいっ!」

 

 ぼんやりと月の無い夜空を眺めるカブトの頬に何やら冷たい物が押し当てられる。唐突に与えられた冷たさに驚き振り向くと、そこにはサイコソーダをカブトの頬に押し当てたルカリオのルカちゃんの姿があった。

 

「うわぁっ! 何でここにいるってわかったの⁉︎」

 

 カブトはビビった。誰にも行き先を告げずに出てきた筈なのに場所がバレていて、さらに問題のサイコソーダまで持っていたからだ。

 

『フッ、容易きことよ。私は片時たりとも逃さずお前の事を見ているからな』

 

 二本あるサイコソーダの一本をカブトに渡し、もう一本のサイコソーダをその手に持つルカちゃん。あまり発達していない指で瓶を開けるのは一苦労だろうと思ったカブトがルカちゃんにサイコソーダの蓋を開けた瓶を渡そうとするが、ルカちゃんは瓶の上部を『はどうだん』で粉砕して飲むというタイプ・ワイルドな飲み方を披露してみせる。流石にカブトも苦笑い。

 

 普通の人は決して真似しないでください。

 

 二人でサイコソーダを飲みながら夜空を眺める。カブトは月の無い綺麗な夜空を見ながら、ルカちゃんはカブトの横顔を凝視しながら会話をする。

 

「月が綺麗だねー」

 

『現実逃避をするな。そしてその言葉、私以外には言うなよ?』

 

「え? ああ、良いですけど……?」

 

 カブトは何のことやら分からない様子。ルカちゃんはカブトが一切その様な気持ちを抱いていない事を心を読むまでも無く理解した。

 

「まぁ、それより良くここにいるって分かりましたね。後、サイコソーダ忘れたこと。誰にも行き先を言って無いのに……てか、いつから後ろに立ってました?」

 

『些細な事を気にする物だな。順に答えていこうか。場所と目的が分かったのは私が波導の力を活用したからだ。常に何処にいて何を考えているかを把握しておきたいしな。サイコソーダも然り。いつから後ろにと言われれば、最初から居たぞ』

 

 軽く笑みを浮かべながら回答するルカちゃん。最初からと言葉を濁したが、本当はいつからこの場にいたのだろうか。カブトは呑気にも、短い間で随分仲良くなれたなぁ、と質問とは全く別の事を考えていた。

 

『今、お前が私の話を聞いていない事も分かるぞ?』

 

「何っ! き、聞いてましたよ……?」

 

 話を聞いていなかった事を当てられて動揺した事で咄嗟についてしまった嘘。その一言で空気が変わる。

 スッと、ルカちゃんは目を細めると手に持った瓶を投げ捨て、『ボーンラッシュ』で使用する半透明のエネルギーである棒状の物体をカブトの喉元ギリギリに突き出し威嚇した。

 

『私に嘘が通じると思うなよ。私はお前の事なら何でも知っている。お前が今考えている事だけじゃ無い、お前の過去も、ポケモン達との出会いも全てだ。ルカリオに進化した時に全て読み取らせて貰った。だが、それだけでは満足出来ない。これからの事も全て読み取らせて貰う。故に私には隠し事は無意味だ。次は無いぞ』

 

「うー、ごめんなさい」

 

 悪いと思った事は素直に謝れる子、カブトくん。顔だけは良いから後は頭も良くなれば完璧なのに……

 そんなカブトの姿を見てルカちゃんも『ボーンラッシュ』のエネルギー物体をその手から消し去る。

 

『こちらこそ済まない、少し脅かしすぎたな』

 

 少し雰囲気の軟化したルカちゃんにカブトは新たな質問を投げかける。

 

「僕の事わかるって言ってたけど何処らへんまで読み取れるの?」

 

『そうだな……。お前の事限定ならば、例え世界の何処に居ようとも場所を把握し気持ちを理解する事は容易い』

 

「ほえー、凄いんですね」

 

 褒められて機嫌が良くなったのか上機嫌な顔をしてルカちゃんは言葉を続ける。

 

『ああ、今日一日のお前の行動も全て分かるぞ。今日お前は、午前3時にこうてつ島で起床した。トリトドンに任せていたタマゴの管理を交代する為だな。朝食を取った後はトイレに行ったな。そして、私と共にゲンから与えられた最終試練のハガネールを撃破。その後に昼食を取ったな。お前の昼食の内容は、きのみソテーだった筈だ。昼食を取った後は、こうてつ島の皆と別れを告げて海をトリトドンに乗って渡り、ミオシティまで戻ってきた。そしてそのままジム戦を終え夕食を取った後、お前は観光客の話を小耳に挟み、港から見える月が綺麗だと言う事を知った。皆が寝静まった深夜に月見に来て今に至る、と言うわけだ』

 

 何故か自分の事が知り尽くされているという恐怖。普通の人ならばルカちゃんに恐れという感情を抱くだろう。だがカブトは違う。生憎この男、頭の中にグランデシアの花畑を持つ男。あれだけの長広舌を聞かされても、ルカちゃんすっごーい! くらいの感想しか頭に浮かんでいないのだ。

 調子に乗ったルカちゃんは、カブトの既に欠点だらけである一人で月見しちゃおうぜ大作戦の致命的な欠点を指摘する。

 

『そもそも今の時間帯ポケモンセンターは閉まっているのだがお前はその事を理解していないだろう?』

 

「はっ! しまった! 帰れないじゃ無いですか⁉︎」

 

 ルカちゃんからの指摘に何も考えていない事が暴露されてしまった。杜撰、あまりにも杜撰すぎる……。

 そんなカブトの姿を見て呆れた様に笑みを浮かべたルカちゃんは、カブトの隣に座ってその体を密着させ肩に手を回す。

 

『今夜は私の側で寝ると良い。安心しろ、私がお前をずっと見守っておこう。そう、ずっとな…………』

 

 その言葉に甘えてカブトが横になる体制を取ろうとした時、既にルカちゃんが眠りに落ちている事に気がついた。カブトは苦笑して眠ってしまった彼女をボールに戻し、取り敢えず安全に寝れそうな場所を探す事にした。最悪、木の下にでも寝ようと考える。しかし、運が良い事に今夜の寝床はあっさり見つかった。何と深夜にも関わらずまだ明かりの灯った民泊があったのだ。

 

「ふっふっふっ、ルカちゃんや、僕の運の良さを舐めてもらったら困りますね! まだ事情を話して宿泊出来そうな場所がありましたよ! えーっと、何て名前だろ? は……、はと……、はとばの……やど? 何にせよラッキーですとも! それでは、御免ください!」

 

 カブトは今夜の寝床を見つけて意気揚々と民家に入っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いらっしゃいませ………』

 

『貴方をずっとお待ちしておりました……』




カブト
ストレンジャーハウスの女の子の二の舞。次のカブトはきっと幸福で完璧でもっと上手くやるでしょう。すやぁ…

ユキちゃん
すやぁ…

メガちゃん
すやぁ…

ポリさん
すやぁ…

トリさん
すやぁ…

ルカちゃん
ずっと港でスタンバッてました。普通のルカリオより波導パワーで出来ることが多いよ!すやぁ…

タマゴ
すやぁ…


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VS調教1

みんなもダークライ一匹でジムをクリアして、ダークライ一匹で大会を勝ち抜いてポケモンリーグ優勝を目指そう!


 そこは異様な空間だった。1メートル先すらも見えない暗闇の中、辛うじて足元だけが薄明かりに照らされた長い回廊。胸を締め付けるような重苦しい空気。そんな場所でただ一人ポツンと突っ立っていた。いつも身につけている筈のモンスターボールはホルダーに一つもなく、誰一人として彼の呼びかけに応えるものは居ない。

 カブトは混乱していた。何故ならば自分はつい先程まで『はとばのやどや』で宿泊手続きを取っていた筈だったからだ。考えられる可能性として挙げられるのは、何者かに誘拐されたか、これは全て夢かのどちらかだと考えられる。しかし、この場所は夢にしてはやけにリアルな質感を持つ。だが、誘拐だと断ずるには些か無理がある。誘拐について精通している訳では無いが、少なくとも拐った子供を縛りもせずに廊下に放置などあり得ない。何より、荷物がポケモン以外奪われていないのもさらに不審を煽る。ならば此処は何処なのか、何故連れてこられたのか、一体何が目的なのかなどの疑問が溢れ出す。

 

 そして暫く考えた後、カブトは思考放棄した。わからないものは分からない。世の中そんな物だと。だが、ただで思考放棄した訳では無い。自身の身につけた波導パワーを使って探索を試みたのだ。波導パワーなら距離も暗闇も無視して探索できるので頼りにしていたのだが、しかし結果は惨敗。何故か波導パワーが使えなくなっていた。枯れ果てたのなら死んでいる筈だし、封印できるなど聞いた事もない。

 こうして、脳内オーバーフローしたカブトは考える事をやめた。是非もないよね……。

 

 遭難した時は不用意にその場から動かない方が良いと言われているが、彼は左手を壁に添えて出口を求めてこの長い回廊を歩き始めた。救難が期待出来ない以上、彼にはこの場所を探索する以外選択肢は残されていないのだ。

 いくら頭グランデシアとはいえ、訳の分からない現象の起こる、訳の分からない場所に一人放置されたのは中々堪えた様だ。いつものポワポワした顔が今回ばかりは引きつっている。

 

 

 暫く何一つ代わり映えの無い回廊を歩いていると、やがて一つの違和感を覚えた。

 ズルズルと何かを引き摺る様な怪音。何者かが後ろから付いてきている。それだけでは無く、薄らと不気味な赤い霧も出てきた。カブトは一刻も早くこの場から走り去りたい気分に駆られたが、下手に走ると後ろから迫る何者かを刺激する可能性もある。それにまだカブトについてきていると決まった訳では無い。もしかしたら自分と同じ様に連れてこられた人間かも知れない。望みは薄いが……。

 …………この際背中に感じる人ならざる雰囲気は目を瞑る。ちょっとでも後ろの存在に意識を回すと気が狂いそうだった。

 

 

 歩みを止める。

 

 引き摺る音も停止する。

 

 再び歩き出す。

 

 音も再び動き出す。

 

 止まる。

 

 音も止まる。

 

 進む。

 

 音も動き出す。

 

 止まる。

 

 怪音は止まらない。

 

 

 

 

 堪らず全速力で駆け出していた。一瞬だけ視界の端に写った追跡者の姿。およそ生物では有り得ない程ドス黒い赤色の体色をしたそれは、無数に生えた触手を揺らし此方を見ると大きく見開かれた巨大な一つ目を細めてニヤリと笑った。

 

 

 

 どれ程時間が経っただろうか。怪物から出来る限り距離を離す為に常に全速力で走り続けたカブトの体力はもう殆ど底をついていた。幾ら超マサラ人といえど人の形を保っている以上体力には限界がある。遂に地面に膝をつけてしまった。地面に倒れ伏している間に必死で伸ばした距離も徐々に詰められつつある。このままではやがて追いつかれてしまうだろう。

 

 もう、楽になっても良いよね……、思わずそんな言葉が零れ落ちた。無理もない。かなり長い時間、怪物から常に全速力で逃げ回っていたのだ。距離を開く事は出来ても一切見つからない脱出の糸口、怪物の無尽蔵の体力、そして何よりも冒涜的なその容姿。それら全ての要因が合わさり、カブトの精神をゴリゴリと削り取っていく。

 長きに渡るデッドエンドチェイスにより力尽きたカブトは、壁に寄り掛かるとそのまま動かなくなる。もはや指一本たりとも動かせない。怪物がその体を引き摺りながら段々と距離を詰めてくる音が聞こえて来る。

 絶対絶命のピンチ。しかし神はまだ彼を見捨てていなかった。

 

 

『貴方の寄り掛かっている壁は扉になっています。中に避難してください!』

 

 突如として響き渡るこの場に似つかわしくない明朗とした声。大きな声を出されると人は反射的に行動してしまうもの。突然の声に驚き、飛び上がったカブトはなけなしの力を振り絞り背後の壁を全力で蹴り飛ばした。人間版『メガトンキック』により壁に擬態していたドアが開かれ封じられていた部屋が解放される、と同時にその中へとカブトは転がり込んだ。

 

 部屋に入ると自動で閉まるドア。少なくとも此処には怪物は入ってこれないと安心し一息つく。そんな彼に何処からとも無く声が掛けられた。

 

『カブトさん、カブトさん、私の声が聞こえていますか? (ファミチキください)』

 

「(コイツ、直接脳内に⁉︎)」

 

 脳内に語りかけると言う無駄のない無駄な行為を披露してくれた謎の声さん。正直色々なことが起こりすぎて何が何やらさっぱりわからない、と言うのが本音だ。特に救いの手となり得る謎の声が脳内に直接ファミチキください、などとほざき始めた日にはもうどうして良いか分からない。脱出系のゲームにおいてナビゲーターは基本、しかしファミチキを要求するのは前代未聞。

 

『この悪夢から脱出する為には私の言葉に従ってください。此処は一見安全に見えますが長居は危険です。早急に立ち去る事が吉です』

 

「ちょっとまって下さい、貴方は誰ですか? そしてなぜ此処が悪夢だと? 追って来る怪物は何者ですか?」

 

 謎の声はこの部屋からすぐに立ち去る事を勧めるが、カブトは一刻も早くこの訳の分からない状況に対する説明が欲しかった。

 

『分かりました。諸々説明致しましょう。先ずは自己紹介を。私はクレセリア。貴方をダークライの作り出した悪夢から救いだす救世主となるべく参上しました』

 

「ダークライ、クレセリア……聞いた事がないです。どんなポケモンですか?」

 

 キッサキシティという辺境の地に住むが故の無知。ミオシティ周辺にしか出没しないマイナーな幻ポケモンダークライや、クレセリアなどカブトは知る由も無かったのだ。まぁ、出現地方はシンオウ全土だぜ! というのはそれはそれで幻としてどうかと思うが。

 

『悪夢を引き起こすポケモンと、悪夢から覚ますポケモンとでも覚えていただければよろしいかと。今は詳しい説明は割愛致しますが、この悪夢の中で死ぬと現実世界でも死にます。この悪夢に長く留まり過ぎると二度と目覚めません。それだけは肝に銘じてください』

 

「え……何それこわっ……」

 

 悪夢で死ぬとかそれなんてホラゲーだよ、と恐れ慄くカブト。特に今は現実世界での身体能力が発揮できない場所にある。これから先もあんな怪物に襲われ続けるのは流石に勘弁願いたかった。

 

『大丈夫、安心してください。私が貴方を必ず現実世界まで導きますから。私を信じてください』

 

 そう言うと、ナビゲーター・クレセリアはカブトに部屋を出る様に指示をする。カブトはこの頭に流れる謎アナウンスを怪しみながらも、今はこれに縋るしかないのでその指示に従った。

 

『そこの壁を押してください』

 

『右方向から怪物が近づいてきています』

 

『ヒメグマのぬいぐるみの手をもいでください』

 

『手を貸して欲しいと言っている料理人に先程もいだ手を渡してください」

 

『そこの扉に先程拾ったガマガルを入れてください。ハブネークの餌にして囮にします』

 

 指示に従うと、先程までと比べて圧倒的に安全に進める様になった。何やら悪趣味な仕掛けが満載だったが。

 手を貸して欲しいとほざく先程の怪物と似た体色をした人型の料理人には、「他の物で代用しろ。例えば自分の頭を使うとかさ!」とアドバイスを送ると何故か突然自分自身の頭を切り落とした。めっちゃ怖い。

 切り離したヒメグマの手を落ちていたアロンアルファで付け直したら現れた幽霊は成仏し、囮に使ったガマガルはハブネークとのバトルの最中にガマゲロゲに進化した。多分道中の生物(?)とバトルさせたから経験値が貯まったのだろう。バトル中の進化は勝利フラグ、当然ハブネークが勝てる道理は無く瞬殺されていた。ガマゲロゲは子供のオタマロと共に水の中へと帰った。今頃家族揃って幸せに暮らしているだろう。

 

「クレセリアさん、ありがとうございます。貴方のお陰でガマゲロゲは家族の元へと帰れましたし、僕もここまで安全にたどり着く事が出来ました」

 

『何か予想と違う結末ばかりでクレセリアちゃんお口あんぐりなんですけど……』

 

 これがカブト君の右手に宿る異能、シリアスブレイカーですか? まずはそのふざけたシリアスをぶち殺す! 

 

 クレセリアとしては、ダークライの悪夢でSAN値がゴリゴリと削り取られて憔悴したカブトを優しく励まし自分に依存する様に仕向ける計画の筈だったのだ。そしてそのままクレセリアの住処で二人だけで暮らすのだ。クレセリアは無理矢理事を運ぶ事を望まない。望む事はただ一つ。自発的にカブトが自分を求めてきてくれる様になる事、それだけだ。本人から求めてきてくれるなら他の女に靡く心配も無く、縛り付けておく手間も省ける。そして何より自分好みのタイプに塗り替える事が出来る。その為に、まず最初に本来ならもっと早く救出できた所を自分の無力さを痛感して絶望し、心が折れるまで放置しておいたのだ。

 絶対絶命のピンチに助けに来るヒーロー、クレセリアちゃん。吊り橋効果も合わさり確実にクレセリア無しでは生きていけない体になること間違い無しの筈だったのだ。

 しかしどう言う事だ! 与える筈の絶望値が少な過ぎる! 特にここ最近。ハッピーエンドルートの構築に入っているじゃないか! SAN値回復し始めたぞ! もっとちゃんと働け、ダークライ。

 

 自分の事を棚に上げて心中ダークライを罵るクレセリア。しかしダークライを恨んでも仕方がないと察して次の計画へと移行する。

 

『ここから先ですがカブトさん、先ずは…………『デテイケ』…………へ? 『ココカラデテイケ』……今更何を言い出すかと思えばそんな……『ココハ私ダケノ庭ダ‼︎』……ちょっ! まっ! ……うわぁ!』

 

「クレセリアさん⁉︎クレセリアさんどうしたんですか⁉︎返事をしてください⁉︎」

 

 だが幾ら呼びかけてもクレセリアからの反応は返ってこない。この状況から察するに恐らくこれからクレセリア抜きでこの悪夢を攻略する必要があるのだろう。カブトの表情は苦々しい物へと変化する。これは厳しい戦いになりそうだ。

 

 しかし、思ったより早く通信は復旧する事になった。

 

『あー、あー、もしもし、聞こえていますか? カブトさん? 私です。クレセリアです。何とか無事ですので引き続き脱出のお手伝いを致します』

 

「クレセリアさん! 無事だったんですか!」

 

 思わず大声を上げてしまう。カブト自身も本人の認識以上にクレセリアに対して依存していた様だ。あと一押しだったかもしれないのに残念な事だ。

 

『はい、クレセリアです。無事です、全然無事です。では早速行きましょう。余り時間も残されていませんし』

 

 カブトはクレセリアの指示に従い再び悪夢脱出への道を歩み始めたのだった。




カブト
悪夢の中でリアル脱出ホラーゲームを体験中。これが最新式のVRなのか……!

クレセリアちゃん
自分に依存させて自分無しでは生きられない体に作り替える系のヤンデレ。カブトに張り込んでいたからダークライの悪夢はある意味幸運だった。悪夢がなければ、夢の中で色々な物を与えて夢から覚めたくないと思わせて閉じ込める予定だった。

ダークライ
まさかのセリフ数回のみ。映画のイケメンダークライをもっと見習ってどうぞ。


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VS調教2

気に食わなくて何回も書き直してたら遅くなった挙句、文字数がやけに多くなってしまったので再び分割です。ヤンデレ無しになってしまった……。


「これは……どうなってるのですか?」

 

 クレセリアに導かれ、ダークライによって作られた悪夢の世界からの脱出を図るカブト。彼は今困惑していた。館の様な場所から脱出に成功したものの、出口と思わしき扉を潜るとそこは現実世界ではなく新たな悪夢の世界だったのだ。

 目の前にはケッキングを模した先頭部を持つ通常の2倍の長さはあるであろう巨大な電車。先頭部に取り付けられた顔の浮かべる気味の悪い笑顔には全身が拒否するかのような嫌悪感を感じた。

 気がつくと薄暗い光に照らされた電車の座席に座らされていた。突如場面が変更された事に驚くも、カブトは悪夢であるが故に納得する。夢の中では往々にして人智を超えた事が起こる。リアル過ぎてあまりこれが夢であるという実感は無いが、先程と同じく夢の中であるなら何が起こっても可笑しくはないのだ。

 カブトは先ず探索する為に移動しようと試みるが、席を立とうにも不思議な力に縫い付けられた様に一歩も動く事ができない。体は進行方向に固定されているので視線だけで辺りを見渡すと、自分と同じような人が何人も座席に座っていた。窓から見える外の景色は荒廃した街並み。まるで時間が止まった様に世界は灰色に染まって静止していた。

 

「ここ……何処?」

 

 マサラタウンに生まれキッサキシティで育ったが故に電車というものに乗る機会が一切無かったカブト。初めての電車が悪夢の中という世にも奇妙な経験をする。

 

『悪夢の趣向が変わった様ですね。取り敢えずその場からの逃走を推奨します』

 

「動けないんですけどどうすれば……」

 

『気合で脱出してください』

 

 まさかの根性論。意外にもクレセリアさんは脳筋だった⁉︎と、内心驚きながらも、気合を出して脱出をしようとその場でもがいてみる。しかし、必死の抵抗も何の意味を持たない様で、意志に反して体はピクリとも動かない。

 

「ダメです!」

 

『わかりました! 何とかこちらでこの悪夢から別の悪夢へと飛び移れる様にします! それまで何がきても死なないで下さい!』

 

 通信越しにクレセリアの焦った声が聞こえる。その焦りが伝播しここ最近安定していたカブトの精神を再び削り始めた。え、マジ? 今回そんなヤバイの? そんな疑念を抱くと目に映る全てのものが恐ろしく見えてくる。もはや信じられるのはクレセリアさんだけだ、と考えるまでにカブトは追い詰められていた。

 

『次は〜串刺し〜串刺し〜』

 

 気の抜ける様な間抜けな声が車内に響く。電車初体験のカブトには何が何やらさっぱり分からなかったが、恐らくこのアナウンスは次の停車駅を示す物だと推測立てる。しかし、幾ら何でも常識的に考えて『串刺し』という名前の停車駅は無い。『久師崎』の聞き間違えだろうと苦笑いを浮かべる。『串刺し』だなんてそんな物騒な駅があるわけが無い。

 

 そしてアナウンスから暫くして、白と黒の制服を纏った車掌と思わしき二人が車内へとやって来た。その姿形だけを見れば普通の人だ。しかしその顔は、目、鼻、口は無いのっぺらぼうで、どう考えてもその赤黒い体色は人間の物では無い。その色で思い出すのは最初に追いかけ回されたオクタンの親戚の様な怪物、次に頭部を切断した料理人、どちらも同じ体色をしていた。

 素材使い回しかよ……、などとは思っても絶対に口に出さない。分別ある人なら誰だってそうするし、頭のおかしい(直球)カブト君もそうする。

 

 そんな内心を知ってか知らずか、彼らはカブトから二席程前の座席の横に来ると彼らは並んで立ち止まった。そして何処からとも無く徐ろに長い金属の棒状の物を取り出すと、一息にそれを三席前の座席に座っていた人の首に突き刺した。

 

 飛び散った血液が車窓に鮮やかな赤い花を咲かせる。首に棒を突き刺された人は白目を剥き暫く痙攣するとやがて動かなくなってしまった。突き刺した彼らは死体から金属棒を引き抜くと、乗客に一礼して車掌室へと帰っていった。

 電車初体験のカブト、都会の電車って死因の予告をアナウンスで行うのか……と、驚きを隠せない。

 

 いや、都会だろうと田舎だろうと電車で殺害予告は起こらないから。また一つ、カブトに変な認識が植え付けられてしまった……。

 

 カブトが目の前で起こった惨劇を受け止めきれずに茫然自失状態でいると、車内に再び新たなアナウンスが流れ始めた。

 

『次は〜八つ裂き〜八つ裂き〜』

 

 アナウンスと共にまた白黒二色の人型が現れて、今度はカブトの目の前の席に座る人をアナウンス通りに八つ裂きにする。ズタズタに引き裂かれたことで飛び散った血液や臓物がカブトの顔や体にも降りかかった。胸の奥から不快感が込み上げてくるが、血を拭おうにも体が動かせないのでいつまで経っても気持ち悪さを消す事ができない。

 

「クレセリアさんまだですか‼︎」

 

 そんな不快感が段々と迫ってくる自身の死という恐怖に加わり、さらにカブトを追い詰める。その額には冷や汗が浮かび、必死でこの場から逃げ出そうと体を動かそうとする。しかし当然の如く逃げ出すことは叶わない。全てをクレセリアに託すしか無いにも関わらずクレセリアからの返事は無い。こんな状況で冷静で居られるほどカブトは精神が成熟していないのだ。

 

『次は〜活け作り〜活け作り〜』

 

 無情にも流されるアナウンス、そして三度車両内に赤黒い死神が降臨する。死神はカブトを一瞥するとその貌の無い顔で確かに嗤った。

 

「クレセリアさん‼︎」

 

 再三の呼びかけ。しかしクレセリアは答えない。一歩一歩確実に歩みを進める怪物。それは服の内側からいかにも切れ味の良さそうな鈍い光を放つ刃物を取り出すと、動けないカブトの首筋へとそれを添える。そして勢い良くその刃物を—————

 

 

 

 

「はっ! ……無事……なのかな?」

 

 場面が切り替わる。首を切り落とされかけたその瞬間に暗転して世界そのものが変化した。先程の狭い電車内とは違い、今回の夢は電車の車窓から見えた荒廃世界にそっくりな場所。手足は動かし赤黒い車掌は何処にもいない。ただし、胸を締め付ける様な陰鬱な雰囲気はそのままだったが。

 

「クレセリアさん、クレセリアさん、聞こえますか? 何とか逃げ切れました。ありがとうございます!」

 

『何とか間に合って良かったです。悪夢の終わりも近いので油断せずに進んで下さい』

 

 通信が復活した事で、再びクレセリアの指示を受けながら悪夢の探索を開始する。今のところ目立った怪物の姿は無い。世界こそ荒廃しているが、今までの様に明確な敵というものが今回はまるで見つからない。

 

 暫く探索を続けると一人でコソコソと行動する人を見つけた。やっと見つけた人間。人恋しくなっていたカブトは無警戒に近づき話しかけてしまう。そして……

 

「ひっ! ば……化物! くっ……来るなぁ‼︎」

 

 化物呼ばわりされた挙句、石を投げられ逃げられた。理解が出来なかった。先程までの悪夢で出てきた様な怪物達なら兎も角、ただの人間にすぎない自分を化物呼ばわりするのはいくらなんでもおかしい。凄く失礼ってはっきりわかんだね。そして、地面に溜まった汚い水を鏡代わりにして自身の姿を写し漸く気がついた。

 ドス黒い程の赤い体色、ブヨブヨとした腐った肉を連想させる様な体、そして特徴的な貌の無い顔、カブト自身が化物になっていたのだと。

 

 もっと驚くかと思っていたが意外に冷静なカブト。案外化物が見つからない辺りで予想していたのかもしれない。とはいえ、この姿でこれ以上歩き回るのは危険だ。その為にカブトは手頃な建物の中に身を隠すことにした。

 

 倒壊しかけの建物に侵入したは良いものの、運が悪い事にその中には既に先客がいた。勿論、今のカブトの様な怪物的な姿では無いただの一般市民だ。恐らくこの場に避難してきたのだろう。そんな中に化物が侵入してきたらどうなるか、火を見るよりも明らかだ。

 大きな悲鳴を上げながら、カブトから出来るだけ離れようと建物に備え付けられた別の入り口に殺到する市民達。我先にと逃げ出したが故に、何人かの人間が後ろから迫る人達によって押しつぶされる。そしてごく一部の勇気ある人間が、カブトに対してポケモンを繰り出しカブトを倒す為に攻撃の指示を出した。

 

「いけ! カイロス! 『ハサミギロチン』だ!」

 

「任せた! イワーク! 『がんせきふうじ』!」

 

「頼むぞ! ルージュラ! 『ふぶき』!」

 

 珍獣三人衆から繰り出される連携攻撃。これにはカブトも堪らず逃げ出した。特にルージュラが命令を無視して放ってくる『あくまのキッス』は絶対に避けねばならない(確信)。背後から飛んできたキスを紙一重で躱し安心していると、地中に潜り先回りをしていたイワークに逃走経路を塞がれてしまう。ノータイムで頭上から投擲される『がんせきふうじ』をかろうじて捌ききると、後ろから飛んできた『あくまのキッス』が何とイワークに誤爆してしまった。

 通常の『あくまのキッス』は相手を眠らせる効果を持つ。ポケモンやトレーナーの技量によって多少の差異はあるが大体同じ効果を持つ。だがこの『あくまのキッス』は違った。何故か誤爆したイワークが爆散し、その体を構成する岩石一つ残らず腐り落ちたのだ。これにはカブト君も大焦り。目の前で岩が腐食し、その原型をも残さず崩れ落ちるという奇怪な瞬間を目撃してしまったのだ。永眠させるという点では同じ効果かもしれないが……。この事にカブトは怪物に追いかけ回されることよりも恐怖を感じていた。

 

 背を向けて急いで駆け出すカブト。そして彼を追跡するかの様に駆け出す一筋の影。影の名はカイロス、そして今は巨大な顔面による威嚇攻撃に特化したサワムラーフォルムだ。まるで意味が分からんぞ! 

 

 こんな話を聞いたことは無いだろうか? サワムラー、カイロスと同一人物説を! (ありません)

 

 何とかして建物から出て珍獣達の追撃を振り切り、そして自分の安全を確認して一息ついた所で—————全力で横に飛び退いた。

 

 先程まで自分が居た場所を通り過ぎた巨大な緑の影。その見慣れた姿にそれが誰のメガヤンマなのか瞬間的に察知する。

 もしかしたら、と淡い期待がカブトの胸に湧き上がった。メガちゃんなら僕の事をわかってくれるかもしれない、と。しかしその希望は無残にも打ち砕かれることとなる。幾ら声を掛けようと、幾ら身振り手振りを付けようともメガちゃんは自分自身をカブトだと理解してくれる事は決して無かった。

 カブトは必死でメガちゃんの攻撃を躱し続けるが、間違いなく内臓にダメージが蓄積されている事を感じていた。

 倒れるのも時間の問題だと考えたカブトは博打に出る事を決意する。フェイントを入れてその隙にメガちゃんを倒す。仮にも自分の手持ちポケモンにそんな事をしたくは無かったが、このまま続けると自身の体がもたない事をカブトは理解していた。

 

 一世一代の賭け。右に踏み込んだと見せかけてから左に飛び退く。そしてメガちゃんの羽を掴みそのまま戦闘不能へと持っていく。その作戦は成功したかの様に見えた。あるポケモンの介入が無ければ。

 

 左に飛び退いたカブトの軸足に青白色の光線が直撃する。それはカブトの足を氷漬けにして地面に縫いとめた。この技には見覚えがある。これを使うポケモンをカブトは知っている。何故なら一番慣れ親しんだポケモンだから。そのポケモンは……

 

「ユキちゃん……」

 

 カブトにとっての実の家族の様な存在であり一番の相棒。当然その実力も知り尽くしている。生半可なポケモンを一撃で葬り去る程の力を自由自在に操る彼女の前ではただの人間如き数秒も持たないだろう。カブトには知る由もないが、現に彼女は既に何人もの女性にあの世への片道切符を渡している。下手をすれば殺人経験はそこら辺の悪の組織のポケモンより積んでいる程だ。

 

 その培われた実力に弱体化著しいカブトは到底敵うはずもなく、何の抵抗もできぬまま『めざましビンタ』で手と足の骨をへし折られた。痛みに絶叫する口に氷を押し込められてその声が出せない様に細工される。

 

 やけに手慣れた方法でテキパキと処理を進められる。そんな絶望的な状況に、ダメ押しとばかりにルカリオのルカちゃんまでやって来た。ルカちゃんは此方を見るだけで助ける姿勢一つ見せてくれない。恐らく彼女もこの怪物をカブトだと認識できないのだろう。

 

 

 

 本当にどうしようも無い状況。今、カブトにはこの世界に誰一人として味方がいないのだ。信じていたポケモン達にも自分だと認識されず、誰一人としての救援も得られない。

 いや、違う。いる。たった一人だけカブトを助ける事ができる存在が。力と光が失せ、虚になっていたカブトの瞳に光が宿る。そうだ、未だ彼女がいる。彼女なら僕の事を僕だとわかってくれる。そんな希望が彼に宿る——————周到に張られた罠だとも気付かずに。

 

 口は氷で塞がれて声を出せない。だが、彼女とはこの悪夢に囚われたからいつも脳内で会話してきたのだ。ならばきっと念じるだけで彼女に届く。全てを彼女に託して、彼女が来てくれる事を信じて、彼女がカブトを理解し助けてくれる事を信じて、これまで生きてきた人生の中で何よりも強くカブトは叫んだ。

 

「助けてください!! クレセリアさん!!!」

 

 そしてその願いは、

 

『ご指名入りましたクレセリアさんちゃんで〜す!』

 

 アホっぽい言葉と共に当然の如く叶えられた。

 

 ボロボロのカブトを背に、彼を害する三匹のポケモンから庇う様に立ち塞がるクレセリアさん。

 その夜の様な漆黒の体に特徴的な白い頭部。そして夜空に映える星の様な輝きを放つ青い瞳。美しさと同時に禍々しさをも感じるその姿は敵対するものには恐怖を、そして共に戦う者には絶対的なる安心を与える正に優美なる王者の姿。

 彼女は敵対する三匹から視線を外しカブトに対して優しく微笑みかけながら言葉を紡ぐ。

 

『もう大丈夫ですよ、私が来たからね!』

 

 その瞬間、三匹が一斉にクレセリアさんに攻撃を仕掛けた。ユキちゃんが冷気を帯びた光線である『れいとうビーム』を、メガちゃんは広範囲を殲滅する蟲ポケモンの操る波動である『むしのさざめき』を、ルカちゃんは言わずと知れた青い高エネルギー圧縮球『はどうだん』を。それぞれがクレセリアさんに対して爆発的な破壊力を兼ね備えた一撃。加えて使い手も一流であるが故に、それをまともに食らえば普通は間違いなく消滅してしまうだろう。

 

 だが、彼女は普通では無い。元より生まれついた種族がポケモン達の中でも一線を画す存在であった事、さらに彼女自身が異常な強さを誇っている事、そして彼女が自分の居場所となってくれるかもしれない人に助けを求められて今最高の精神状態である事、それらの要因が合わさった今の彼女は何者にも負ける事などありはしないのた。

 

 彼女らがクレセリアさんに向けて放った技、その全てを真っ向から『あくのはどう』で弾き返す。タイプ相性など知らん! といった様なゴリ押しスタイルに三匹があっけにとられた隙をつき彼女は速攻を仕掛ける。

 

 まずはメガちゃんの懐へと潜り込み、その無防備な腹に再び邪悪なる波動を叩き込む。そしてその体を掴むとユキちゃんから再び放たれた『れいとうビーム』の軌道上に投げ捨てて自身の盾とする。しかしその瞬間、背後から『はどうだん』によってその体を撃ち抜かれてしまう。勝ちを確信するルカちゃん。しかし、次の瞬間には自身の影から伸ばされたアッパーカットぎみの『だましうち』に意識を刈り取られてしまった。そして最後に、攻撃のモーションに入ったユキちゃんを、辺りの被害を気にせずに撒き散らした『あやしいかぜ』で仕留めた。当然逃げ惑う市民たちや建物も巻き添えを喰らうが、そんな事クレセリアさんの知ったことでは無い。カブト以外なら誰が犠牲になろうが関係ないのだから。

 

 死屍累々の山を築き上げて満足そうなクレセリアさんは、手足を折られて動けないカブトを抱き抱えるとそのまま彼を何処かへと連れて行ってしまうのであった。

 




カブト君
今日も今日とて夢の中。きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。眠ってるんだぜ。それで。(平和な世界)

クレセリアちゃんさん
早く病みパートに入って(懇願)お前の悪夢なげぇんだよ!(プチギレ)

悪夢ポッケモン
ゲスト出演の皆さん。多分ポケモン人気投票やったら上位3名に入るであろうお方達。

悪夢手持ちポッケモン
私達は何故生み出されたのか?

A.ネガキャンするため

車掌さん
何やってんだよ、サブウェイマスター!猿夢に就職しました。


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VS調教3

ポケモンは似た性質のトレーナーに集まるらしい。ならばこの作品の主人公も病んでる可能性が……?


 辿り着いたのは『なぞのばしょ』……では無く、何処と無く城のような雰囲気を醸し出す場所。クレセリアさんはその中にズカズカと入り込むと、適当な部屋を開けてそこに備え付けられたベッドに手負いのカブトを乗せた。

 

『今、サラッと治療しますのでご安心を!』

 

 花が咲いた様な笑顔でサムズアップするクレセリアさん。カブトは礼を言って彼女の治療を受ける。すると骨折という重体にも関わらず、あっさりと怪我が治ってしまった。これがマサラ人の力だ! 

 

「クレセリアさん、毎度毎度ありがとうございます。クレセリアさんが助けに来てくれなかったら僕はあそこで死んでました。本当にありがとうございます」

 

『いえいえ、私はただの個人的な感情でカブト君に味方しているだけなのでそこまで畏まらないで下さい。あっ、お茶とお菓子をお出ししますね』

 

 先程までのシリアス感は何処へやら、何やら呑気にお茶会が始まってしまった。テーブルには、後ろ手に縛られて口元に布を噛まされた目隠し状態のマホイップが転がされ、お茶の代わりにポットデスが並べられた。これでどうやってお茶会すれば良いんだ(迫真)! 

 流石にカブト君もこれを食べる気にはなれずにそのまま放置。クレセリアさんはムシャムシャとマホイップを捕食。悪夢かな? 悪夢だったわ。

 

 と、ここでカブトは悪夢に長居しすぎると衰弱死するという話を思い出す。こんなに呑気にしていて大丈夫なのかとクレセリアさんに問いかけると、

 

『まぁ、もうここまで来れば後はそこの扉から出て行くだけで良いんで大丈夫ですよ』

 

 と、あっさり返された。ならばお礼を言ってさっさとこの悪夢から退散しようと考えて席を立つ。しかし、クレセリアさんは俊敏に動いて彼の肩を掴み再び椅子に座らせた。

 

『もう少しだけお話しして行きませんか?』

 

 何処か寂しそうな表情と共にそんな言葉が投げかけられる。カブトにとって彼女は命の恩人。普通ならさっさと出て行ってしまうところだが今の彼は彼女に負い目がある。しかも、こんな悲しいそうな顔をされると内なる罪悪感に締め付けられてしまう。なのでその言葉に従い大人しく席に座ることにした。

 

 そして暫く他愛も無い話をした後、カブトはいよいよ悪夢とおさらばする事を決めた。あの扉をくぐればすぐさま現実世界で目覚める事となる。礼を告げて扉を潜ろうとするカブトの背中を見て彼女は、ここに至るまでの経緯を思い返していた。

 

 

 

 こんな話を聞いた事があるだろうか? 魂レベルでかけられた呪いは死んでも解けることがない、という話を。それは死んで肉体が滅んだとしても魂は呪いから解放されず、死んで苦しみから解放されることも無いまま永遠に苦しめられ続けるという事。そして、普段は決してやらないがダークライはこれと同じ事を悪夢verで行う事が出来る。

 彼女ことクレセリアさん、いや、それはカブトを欺く為の仮の姿。その真の正体はダークライ。カブトを悪夢に閉じ込めた張本人である。

 ダークライは本来カブトを悪夢の世界で殺す事でその中に閉じ込める気でいたのだ。そうすれば、死如きが二人を別つ事など出来なくなるから。

 

 だが、その目論見は予想外の乱入者によって乱されることになる。本物のクレセリアだ。彼女はダークライの悪夢に侵入し、カブトをサポートする様に見せかける事で徐々に弱らせて自分に依存する様に仕向けた。後半のカブトのクレセリアに対する盲信っぷりを見ればその試みは成功したと言えるだろう。

 

 当然の事ながらダークライはその介入を許さなかった。そしてクレセリアを排除した後、彼女にふとある考えが浮かび上がったのだ。

 

『そうだ! このままクレセリアの計画を利用して、カブト君が私に依存する様にすれば良いんだ!』

 

 行き当たりばったりではあるが、当時の彼女にはとても良い考えに思えたし、それこそが乱入者であるクレセリアへの一番の嫌がらせになる。そして、安全に誘導するかの様に見せかけて何度も危険な目に合わせ、最後には最も危険度の高い悪夢へと送り込んだ。

 だが、ここまでしてもカブトはクレセリアを疑う事をしなかった。ここまで信頼を得たことだけはクレセリアを褒めてやっても良い、と思うほどダークライは感心していた。

 

 そして最後の悪夢の世界、とにかく知り合いに攻撃されるだけの悪夢。シンプルだがその効果は絶大だ。皆に裏切られて味方するものが誰一人としていない状況、そんな中に颯爽と登場して味方してくれる存在を信頼しない訳がない。ついでに今の彼の知り合いとの関係性をギクシャクさせることも出来るかもしれない。

 こうして圧倒的信頼感を本来受け取る筈だったクレセリアから掠め取ったダークライ。今回はここで現実世界に帰すが、同じような事を何度も続ける事でカブトがダークライに完全に依存するまでこの作業を繰り返そうと考えていた。完璧な計画だ、穴一つない。ダークライはその計画を考えついた時、自分の事を紛れもなく天才だと思った程だ。

 

 

 そして今まさに、その計画の進行通りにカブトを現世に送り出そうとしている。

 明日の夜、再び彼を悪夢inさせてまた助ける。明後日も明々後日も、これからずっとずっとマッチポンプを繰り返す。勿論そのたびに現実世界の人物へのネガキャンも忘れてはならない。そうすればカブトはやがて起きているより寝ている時間の方が多くなる筈。現実より夢の方が居心地が良くなり、夢の世界で唯一信じられるダークライのみを頼るようになるのだ。

 

 完璧な作戦だ! (フラグ)

 

 だが、その自称天才ダークライでさえも気づかなかった致命的な弱点がその計画には残っていたのだ。それ即ちダークライの性格だ。ダークライは自身の持つ制御は可能な体質のせいで他者と関わる事は基本的に無い。それ故に常に孤独。だが、一人でいる事を好んでいるかどうかは別の話だ。個体差はあるだろうが、自分を受け入れてくれる何者かを心の底では望んでいてもおかしくは無い。そして、このダークライは他人との繋がりを求めていたという事だ。

 つまり何が言いたいのかと言うと、ダークライは折角手に入れたカブトを一分一秒たりとも手放すのが惜しくなったのだ。それがどうせまた戻ってくるものだとしても、手元に無い間が寂しい、だから手放したく無い、そう考えてしまった。

 

 そしてその想いは持ち主の彼女にすら制御出来ないものとなっていた。その結果何が起こったのか、カブトが悪夢世界から現実世界へと一歩足を踏み入れたその瞬間、彼女の奥底の意思を反映して姿を変える悪夢の世界が現実世界へと繋がる扉を閉ざしてしまったのだ。

 

 当然扉が閉ざされてしまえば元の世界に戻る事など出来ない。しかし、カブトは現実世界に半ば足を踏み入れていた訳で————

 

 

 

 

 

 


 

 

「ん……、ハードすぎる夢だった……」

 

 目を覚ますと、そこは『はとばのやどや』……、では無くポケモンセンター。かれこれ3日近く眠っていたが、どうやらその間に発見されてポケモンセンターに運び込まれていたらしい。意識を取り戻して暫くすると、ジョーイさんや、ジュンサーさんなどに何故使われてもいない廃屋で寝ていたのかと聞かれたので正直にここまでの経緯を説明した。

 どうやら『三日月の羽』を持たない旅人がダークライの悪夢に囚われる事は、稀に良くある事らしいので納得してもらえた様だった。

 

 久しぶりに手持ちポケモンと感動の再会を果たすカブト。どうやら彼女達も同じく三日ほど悪夢に囚われていた様だ。彼女達に自身の無事を伝えていると、突然空から一筋の閃光が落ちてきた。親方! 空から変なポケモンが! 

 

『やっと会えましたね。お初にお目にかかります。私がクレセリアです。悪夢から追放された後、カブトさんを探し出して夢から脱出できる様に微力ながらお力添えをしておりました』

 

 着弾地点で凛々しく佇んでいたのはカブトにとって見慣れないポケモン。三日月を模した頭部に全体的に淡い桃色と柔らかい黄色で構成された体を持つ、カブトの知るクレセリアとは明らかに別人であるクレセリアを名乗る何者か。

 

「知ってるクレセリアさんと姿が違うんですけど……貴方は一体誰ですか?」

 

 真実を明らかにするべく謎のポケモンに問いかけるカブト。しかし、その答えは自称クレセリアではなくミオシティの住人からもたらされた。自称クレセリアを繰り出した時、偶々それを見ていた住人Aがこのポケモンはクレセリアだと主張。親切にも図書館からわざわざ図鑑まで引っ張り出してくれたのだ。

 

 ここまでして漸くカブトも納得した。しかし、そうなると夢で助けてくれたあのポケモンは一体何者なのだという事になる。真クレセリアに聞いても知らぬ存ぜぬの一点張り。そもそも途中退場したクレセリアにはあの後何が起こったかさっぱりなのだ。

 

 こうして、多くの謎を残したままこの事件は終わりを迎えたのだった。この事件で一体何が起こったのか、それをこのカブトが知る事は終ぞ無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「ん……、ハードすぎる夢だった……」

 

 目を覚ますと、そこは『はとばのやどや』……、では無く先程までお茶会をしていた悪夢の世界。何処と無く城のような雰囲気を持つお屋敷のベッドに寝かされていた。

 

「えっ⁉︎なんで! 僕は扉を潜って悪夢から目覚めたんじゃ……」

 

 カブトは額に手を当て記憶を探る。彼の最後に覚えている記憶は、クレセリアさんの指示に従って悪夢世界から脱出できるという扉から現実世界へと歩き始めた所だった。カブトの持つ記憶によれば、確かにあの時扉を潜った。ならばここは現実世界という事になる。しかしカブトは本能的に気がついていた。この胸を締め付けるようなおどろおどろしい雰囲気は間違いなく悪夢の世界だと。

 

『あっ、おはよう! 起きたんだね』

 

 目を覚ましたカブトにかけられた聞き覚えのある声。そう、これはクレセリアさんの声だ。カブトは随分フランクな話し方になった信頼する人(ポケモン)の声を聞き、一先ず安心する。そして次にやるべき事、つまり現状把握を行うために、どうしてこうなっているのかの情報を得ようと彼女に質問を投げかけた。

 

「クレセリアさん、どうして悪夢世界から脱出した筈なのに僕はまだ悪夢に囚われたいるのですか?」

 

『あはは、なんだそんな事か。てっきり体の部位が何処か足りて無いのかと思ったよ』

 

 カブトの質問に対して笑って答えるクレセリアさん。その危機感の無い姿にカブトは若干の苛立ちを覚えたが、次の一言でその全てが吹き飛ぶ事になる。

 

『そんなの私が現実世界に繋がる扉を閉じたからに決まってるでしょ?』

 

「……え?」

 

『まぁ、半ば無意識にやっちゃった事なんだけど……。結果オーライかな?』

 

 クレセリアさんが事も無げに言ってのけたその真実。それはカブトに大きな衝撃を与えた。まず始めに驚き、そしてその次に生じた感情は疑問。何故クレセリアさんがこんな事をしたのか、何故クレセリアさんが扉を閉じることが出来たのか、何故彼女はこんな状況で満足そうに笑っているのか。

 無数の疑問がカブトの脳内を駆け巡る。そんなカブトを見てクレセリアさんは口元に微笑みを浮かべながら自分の行った事を説明し始めた。

 

『ごめんね。カブト君を悪夢に閉じ込めたのは私なんだよ』

 

「……は?」

 

 絶句。言葉は頭に入ってくるがその意味を理解することを脳が拒否する。

 

「……でも、ずっとクレセリアさんは僕を悪夢の中で助けてくれたじゃ無いですか……」

 

 フリーズ状態から回復して、やっとのことで絞り出したその言葉は、

 

『そんなの自作自演だよ?』

 

 クレセリアさんの一言で無惨にも打ち砕かれた。

 呆然として目の前に立つクレセリアさんを見上げる。何を勘違いしたのかクレセリアさんは頬を赤らめた。なんだコイツは。

 

『あー、そうそう、クレセリアって名前も勿論嘘だよ。私はダークライ。ダーちゃんでもクライさんでも悪夢ちゃんでも好きなように呼んでね!』

 

 さらに明かされる衝撃の真実。カブトはただひたすら呆然と見つめるだけ。それ程までに信じていた人に裏切られた衝撃は大きい。

 

『ねー、聞いてるのー? 今から色々と説明するからしっかり聞いて欲しいなー』

 

 口を開けて固まっているカブトの目の前で手を振ってみたり、肩を掴みユサユサと揺らしたりするダークライ。ここに来て漸くカブトも事態を飲み込めた。

 

「意味分からないけどわかりました。取り敢えずこの悪夢から解放してください」

 

『それはダメ。まず私が漸く手に入れた居場所になってくれるかもしれない人を手放す訳ないし、そもそも君はこの悪夢からもう抜け出せないよ?』

 

「抜け出せないってどういう事ですか! 現実世界に帰れるに決まってるでしょ!」

 

 ダークライの態度にカブトは思わず声を荒げてしまう。そんな彼を宥めるようにダークライは優しく抱きしめ耳元で囁いた。

 

『カブト君、もしかしてまだ自分は帰る場所があるとか思ってない?』

 

「えっ? ……なん…だと…?」

 

『そのままの意味だよ。君はね、この悪夢に取り残されたんだ。だからもう現実世界には君の帰るべき体は無いんだよ』

 

「そ、そんな筈ない! 僕は確かにあの扉を通って……もしかしてあの扉自体嘘何ですか……?」

 

 ふと此処でカブトは気付いてしまう。これほど嘘を重ねてきたダークライが、この悪夢から脱出できる方法だけを律儀に教えるとは思えなかったからだ。

 

『いや、あれは本当だよ。さっき言ったでしょ? 私が扉を閉じたって。少し落ち着きなさいな』

 

 ポンポンとカブトの肩を軽く叩くも跳ね除けられてしまう。少し悲しそうな顔をした後で、ダークライはことの顛末を語り始めた。

 

『カブト君はね、確かに悪夢の外に一歩足を踏み出したんだ。けどね、その瞬間私が悪夢と外との接続を切ったの。だから真ん中にいた君は真っ二つになって、半分だけ現実世界に返ってもう半分は悪夢の世界に取り残されたのよ』

 

「なるほど分からん」

 

 分からないと断言する真っ二つにされたらしい少年、カブト。頭のおかしさに定評のある彼も今回は間違っていない。恐らく百人に聞いたら90人くらいが分からないと回答する筈だ。

 

『例えるなら、ゲームで通信交換をしている最中に電源を切ったらバグって二つのデータに交換した筈のモンスター達が残っているのと同じ現象が起こったって事だね』

 

「なるほど、だいたい分かりました。僕は上半身ですか? 下半身ですか?」

 

 お前実は何も分かって無いだろ! 

 

『多分右半身ね』

 

 何を言っているんだこの悪夢ポケモンは……。

 

「じゃあ、何で僕を閉じ込めたんですか? 食べるんですか?」

 

 今世紀史上最大に頭の悪い問答を繰り広げた右半身の少年と悪夢ポケモン。その流れをぶった斬った質問に対してダークライは嬉しそうに答えた。

 

『まずはそうね、私が初めて貴方を見た時のことから話そうかな? そう、あれはまだピカチュウが全体的に太かった頃の話……』

 

 斬新極まりない台詞から始まる回想シーン。ピカチュウが太かった頃から始まる回想とか初めて見た。

 

「一言でお願いします」

 

 何かこれからイイハナシダナー感溢れそうな雰囲気だったにも関わらずズバッと切り捨てるカブト君。強い、これが強者か……。

 

『むー、まぁいいや。こうなったら要点だけ言うね。私は貴方のことが好きだから……いや、違うね、どうしようも無いほど愛しちゃってるからこの悪夢に閉じ込めたの!』

 

「……は?」

 

 カブトにはダークライの言っている事の意味が分からなかった。人間とポケモンとの関係であるにも関わらず、躊躇いなく愛していると言い切った事。それだけでも訳わからないのに、さらに加えて『愛しているから悪夢に閉じ込める』という発言。それらはカブトの知る常識を軽く超えたもので、年相応の精神性しか持たない彼には到底受け入れられる様なものではなかった。

 

「何……言ってるのですか? ポケモンと人間ですよ……? 一緒になれる訳ないじゃないですか。それに愛してるから閉じ込めるって……。貴方おかしいですよ……」

 

『おかしい、ね……。そうだね、確かに私は何処かおかしくなっているのかもしれないね』

 

 現在進行系で恐怖しているカブトの顔をその深い蒼の瞳から離さずに、ダークライは自身がおかしくなっている事を認めた。暫く見つめ続けた彼女はふと視線を逸らす。此処ではない何処か遠くに視線を向けて過去に想いを馳せる。今、彼女が何を考えているのか、それは彼女にしか分からない。

 追憶を終えた彼女は怯えるカブトに再び視線を向けて、その手でなぞるようにカブトの頬に手を当てた。

 

『でも、私がおかしくなったのはカブト君の所為。貴方が居なければ私が狂う事も無かった。だから責任を取ってください』

 

 引き込まれる様な蒼。何処までも深く、暗く、澄んだその瞳はただ一人の最愛の人しか映さない。それは想い人を見つめる乙女の瞳でもあり、同時に獲物を捕らえた捕食者の目でもある。悪夢は彼女のテリトリー。故にカブトには…………

 

『此処は死神すら恐る悪夢の世界。時間は無限にあるの。だから…………貴方も私と一緒におかしくなって?』

 

 逃げ場なんて何処にも無かった。




カブト
やっと悪夢から脱出した主人公君。話の都合で分裂したプラナリア系主人公。此処から先は修羅場だぞ?

ダークライ
唯一の勝ち組。ダークライは強キャラってはっきりわかんだね。

クレセリアさん
実は殆ど出番が無かったポケモン。カワイソス。頑張れ!手持ちに入らなくても夢の中で会えるぞ!

夢カブト君
何故か分裂した右半身。まるで意味が分からんぞ!何故かって?愛だよ、愛。(生きて帰れる可能性は)無いです。



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VSやや修羅場1

リハビリも終わったので久し振りに再投稿です

あまり出来はよろしくないですが許してください何もしませんけど


 ダークライの悪夢から抜け出した次の日、カブトはいつもの様にユキちゃんが凍らせた自身の身体を起床と同時に解凍して目を覚ました。

 

 自身の寝ていた凍りついたテントを爆散させて這い出たカブトは、大きく伸びをするとある違和感を感じて周りを見渡した。前を確認し、右を見て、左を見て、後ろを見て、そしてもう一度前を見る。そこまでして漸く気がついた。

 

「何で辺り一面雪景色なんですか⁉︎」

 

 そう、世界が真っ白なのである! 懐かしき故郷、キッサキシティを思い出させる様な大雪原。だが、此処はまだミオシティからそう離れていない場所。ましてや今の季節は冬では無い。となると真実はただ一つ、ポケモンの仕業である。しかし、この様な大雪原を作り出す事は並みのポケモンではほぼ不可能。自ずと絞られてくる。

 

 カブトの近くにいて強力な氷タイプの技が使えるポケモン。此処まで来れば知能指数に『むらっけ』があるカブトでも答えを容易く導き出せるはず……。

 

(どんとこい超常現象……何が起こったかさっぱりわからないデスゥ……)

 

 いかにも、「そうか! 分かったぞ、犯人が!」みたいな顔をしているカブト少年10歳。その実何も分かっていなかった。どうやら今日は知能指数が低い日らしい。うっそだろお前! 

 

 しかし、答え合わせはあっさりと行われる事になる。カブトが起床と同時に粉砕した凍りついたテントから一人のポケモンが這い出してきたのだ。

 

『み、見誤っていたわ……。まさかカブトが起床するだけで半径20メートルの『ふぶき』と『あられ』が消滅するなんて……』

 

 這い出して来たのはユキメノコのユキちゃん。カブトの手持ちであり、カブトに異常な程の愛情を持つポケモンだ。

 

 彼女が今までの様にカブトのみを氷漬けにするのでは無く、これ程までに大規模な凍結を行った訳。それはダークライによる悪夢が関係している。カブトがダークライによって幽閉されている間、彼女たちカブトのポケモンも同じ様に悪夢に囚われていた。そこで彼女が見せられた悪夢はカブトが彼女の側から居なくなってしまう夢だった。

 

 彼女は常々カブトを氷漬けにしてずっと側にいて欲しいと考えている。そんな彼女にとって、ダークライが見せた悪夢はクリティカルヒットそのもの。まさに『急所に当たった!』と表すのに相応しい代物だったのだ。

 悪夢を見せられてカブトが側から離れていく事を恐れた彼女は、元より無かった周囲の存在への配慮を更に投げ捨てて氷漬けの範囲を広げる事にしたのだ。しかも、それだけでは飽き足らず氷の三重結界を構築するまでに至った。さらに加えて、他のポケモンの入ったボールを凍らせて開閉できなくした後に川に投げ込む徹底っぷりだ。タマゴはカブトが抱きかかえていたので奪う事は出来なかったが。

 彼女も伊達に毎日失敗しているわけでは無い。成長しているのだ。その成長方向が根本的に間違っているのだが、それを指摘できる人は此処にはいない。結局、半マサラ人であるカブトの熱放射に打ち勝つ事が出来なかったのだが。

 

「おはようございます。ユキちゃん。何でテントの下に潜ってたんですか?」

 

 能天気に朝の挨拶を交わすカブト。お前がテントを粉砕したからだよ! そんなツッコミを入れる事の出来る人は此処には居らず、辺りには気不味い沈黙だけが流れてしまう。

 

「どうしたの、ユキちゃん? もしかして体調悪いの⁉︎」

 

 彼は心配そうな声をユキちゃんへとかける。しかし、ユキちゃんはその言葉には応えずフルフルと震えていた。そして……

 

『どうして……、どうしてなの? 何で貴方は私を置いて何処かへ行ってしまうの? 私の事が嫌いなの? 私には貴方しかいないのよ? なのにどうして大人しく私の物になってくれないの⁉︎どうして私だけの物になってくれないの⁉︎』

 

 そう叫びながら彼女はカブトに縋り付いた。ひんやりとした感触を楽しんだカブトは、何か得心のいった様な表情を浮かべて彼女の頭をわしゃわしゃと撫で回す。

 

「ああ、怖い夢でも見たんですね。しかし、意外だな。あの『覇王は一人、このオレだぁ!』系のユキちゃんにこんな一面があるなんて。前々から少し思ってたけど案外寂しがり屋なのかな?」

 

 何やら頓珍漢な事を言いながら彼はユキちゃんを励ましにかかる。中々覇王系ユキメノコとしての勘違いが解けない。しかし、噛み合わないのに噛み合っている事に定評のあるこの二人。ユキちゃんの返事はこの返答の更に上を行く。

 

『貴方は私だけの物。他の何者にだって渡さない……。だから貴方は早く私を受け入れて心の底まで凍りついて欲しいわ。大丈夫よ、安心して、氷漬けにしたらきっと動いていた時よりもっとずっとカッコよくなれる筈よ』

 

「そこまで言ってもらえると照れますな。けど、これだけは言っておくので心に留めておいてください。どんな事があろうと僕がユキちゃんから離れる事は無いですよ。この先、どんなに強いポケモンが加入しようと僕がユキちゃんを手放す事はあり得ません。この言葉に嘘は無いです。だから安心して欲しい。はい、大丈夫大丈夫!」

 

 カブトはそうユキちゃんを励ますと彼女の軽い体を持ち上げて抱きしめた。ひんやりとした体に気持ち良さを感じつつも、彼女の後頭部に手を回して優しく撫でつける。

 

「心配しないで。僕が言うんだから絶対です!」

 

 むふー、と自信満々に胸を張るカブト。ユキちゃんはその体に回された手から逃れようとジタバタしながら叫んだ。

 

『何よそれ、一体全体その根拠どこから湧いてきたのよ! 後、頭をポンポンするのやめて! いつまでも子供扱いしないでよ!』

 

「あははっ! 覇王系にイメチェンしても本性は隠せてないですよー」

 

『やーめーなーさーいー!』

 

 抱き抱えられて頭を撫でられる事が余程恥ずかしいのか、彼女は顔を真っ赤にして手の中で暴れまわる。しかしその後すぐに力尽きたのか、それとも諦めたのかやがて為されるがままにされていた。その病的なまでに白い肌に赤みがさしている辺り本当に恥ずかしかったのだろう。

 

 カブトからの熱いラブコール(圧倒的翻訳ミス)を受けて一先ず落ち着いた(?)ユキちゃん。

 致命的にずれているが何故か和解が成立してしまったので、もうこれで良いんじゃ無いかな! (思考放棄)

 

 今日も今日とてユキちゃんとカブトは平常運転です! 

 

 

 

 ★★★★★★★★★

 

『これで108体目……。まだだ! まだ足りない! こんな程度の数じゃボクとカブトが結ばれない!』

 

 メスのリングマの巨躯が鮮血を撒き散らしながら一匹の虫ポケモンの前に崩れ落ちた。その亡骸に目もくれずにその複眼を文字通り血眼にして次の標的を探す暗緑色の蟲。所々体が赤く染まっているのは返り血だろう。そして、そんな彼女に運悪く見つかってしまったゴローン(メス)。もう死ぬしかないじゃない! 

 

 キッサキペアが平常運転をしていた頃、メガヤンマのメガちゃんはカブトから離れた場所にて一人で草むらで野生のポケモンを惨殺し続けていた。

 

 お前だけなんか世界観違うんだよ! こいつの周りだけ彩度が暗すぎる……。

 

 バトルでは無い、文字通りの虐殺である。元々ポケモンの中でも倫理観がズレていて、カブトに近づく女を殺す事に昏い喜びを覚える様なジェノサイダーじみた部分があったものの、今までは暗殺がメインであり此処まで大っぴらにジェノサイドする事はなかった筈だ。

 正直、今と昔どっちもどっちだと思うが……。まだ隠れて殺していた昔の方が良かったと言えなくも無い。

 

 そんなジェノサイダーでシリアルキラーな彼女もまた、ダークライによる悪夢の影響を如実に受けていた。

 彼女が見せられた悪夢、それはカブトが自分以外の他人と結ばれて幸せになるシーンを延々と見せつけられるものだ。普通の人やポケモンであるならばそれを祝ったりする事が出来るだろう。中には嫉妬したり絶望したりする者もいるかもしれない。だが、カブトガチ恋勢の一人であり、自分がカブトと結ばれて当然だと思い込んでいる彼女は他の有象無象とは格が違った。

 

 彼女はその悪夢を経て、ある考えへと至ったのだ。その考えこそが先程の大虐殺へと繋がる。即ち、自分以外の女がこの世から一匹たりとも居なくなれば自分が結ばれる以外あり得なくなる、という考えだ。

 

 ユキちゃんにボールごと川から流された彼女は、高まりに高まったカブトへの愛の力バフでボールをこじ開けてボールを覆っていた氷を全て破砕した。その過程で一緒に流されていた他のボールの氷も溶けてしまったが……。

 彼女はカブトとの繋がりを感じる事の出来る大切なボールを丁寧に回収した後、目についたメスポケモンや女をジェノサイドしまくって今に至るという訳だ。

 

『お前達が悪いんだ。それがたった1%以下の確率であろうとも、お前達が生きてることでボクとカブトが結ばれなくなる未来ができてしまうのなら、それは生きているお前達が悪い。お前達は生きている事自体が罪なんだ。ボクはさっさと女どもを皆殺しにしてカブトを迎えに行かなきゃならないのに生きてる価値の無いゴミが一々手間掛けさせるなよ!』

 

 呟くにしては大きすぎる声に露骨な苛立ちを含めて手早くゴローンを追い詰めるメガちゃん。彼女の恐ろしい所は、彼女は本心からカブトと結ばれる為には女を皆殺しにしなければならないと思っている部分、そしてそれを何処の誰から止められようとも目的を成し遂げるまでやり遂げかねない狂気的までの意志の強さだ。

 

 そして、哀れなゴローンがメガちゃんの放った斬撃により無残にも打ち砕かれるその瞬間! 

 

「あ、やっと見つけた! おーい! メガちゃーん!」

 

 響き渡る愛しき人の声。それが耳に入ると同時に先程まで悪鬼羅刹の如き形相だった彼女の顔はカブトにいつも見せている優しげな顔(メガヤンマ基準)へと瞬時に切り替わり、ゴローンに掛けていた声色とは比べ物にならない程穏やかな声を愛する人に投げかけた。

 

『カブト! もしかしてボクを探していてくれたのかい! まだ別れてしまってからそんなに時間も経っていないのにもう見つけてくれるなんて、これはもうアルセウスがボクらを祝福してくれているとしか思えないね!』

 

 メガちゃんは久しぶりに出会う事の出来た愛する人の姿に喜びを隠さず、その六本の黒い手足でカブトを正面から包み込むように抱き抱えその顔に頬擦りした。巨大な蜻蛉に正面から抱きすくめられる幸薄そうな美少年。絵面が酷すぎるが気にしてはならない。

 

 なお、アルセウス氏は『誠に遺憾である』とのコメントを残しており、本事件とは何の関わりも無い事が確認されている。

 

「メガちゃん! 良かった、そんなに遠くに離れて無かった……。ごめんね、川に流されていた事に気づかなくて。それより、そこに付いているのもしかして血じゃない? 大丈夫ですか? きずぐすり使います?」

 

 カブトは心配そうにメガちゃんに声をかける。自身を心配してくれるカブトの姿を見て嬉しそうに彼女は笑った。

 

『これかい? 大丈夫だよ。そもそもこれはボクの血じゃ無いし、この血の持ち主はもうどこにも居ないからね』

 

「? そうですか。じゃあ良かったです」

 

 カブトの持つ波導を用いたガバガバ翻訳能力では大雑把にしかポケモンの言葉を理解できない。その結果、何も良く無いが取り敢えず事件は収束した。でも、それって根本的な解決にはなってませんよね? 

 

 

 兎も角、メガちゃんと合流する事に成功したカブトは彼女に自身と共に他の手持ちポケモンを探す事を依頼する。彼女はそれを快諾し、カブトを抱えて上空から残りのポケモン達を探す事にした。

 普段の彼女なら、他のポケモンを探す事を渋っていただろう。だが、今のメガちゃんは違う。今の彼女は使命感に燃えているのだ。

 そう、カブトの手持ちポケモンを優先して抹殺する事への使命感にね。だからこそ、彼女にとってもこの提案を受け入れる事に躊躇いは無かったのだ。

 

 メガちゃんにとって、この世界はカブトのみが唯一価値のあるものでそれ以外は等しく無価値。だが、その無価値な存在の中でも特にカブトの手持ちは絶対に生かして帰さないという『覚悟』があった。

 

(あいつらは少々ボクのカブトとの距離が近すぎる……。見つけ次第即、始末してやる……。でも、念には念を入れてカブトから隠しておくか……)

 

 メガちゃんは、彼女のやる事をカブトは許してくれると思っている。実際には許さないだろうが。だが、その行動の結果としてカブトが少しでも悲しむのであればそれは明らかにすべきでは無いとも考えている。故に、彼女はカブトから隠れてジェノサイドし続けるのだ。

 

 そんな漆黒の殺意に自分の手持ちが目覚めているとは露知らず、カブトは呑気に空の旅を楽しむのであった。

 

 ちなみに、空中でボール越しにユキちゃんと見えない攻防が繰り広げられていた事は語るに及ばない。




カブト
久し振り過ぎて知能指数が著しく低下した男。その代わり身体能力に上昇補正が掛かった。

ユキちゃん
強敵カブトを氷漬けにする為日夜訓練に励む努力の女。報われる日は多分来ない。

メガちゃん
メガヤンマは混乱している!ジェノサイダーでシリアルキラー。この世全ての女を皆殺しにすれば自分と結ばれるしか無い事に気がついた模様。最近『ダークラッシュ』なる技を覚えたらしい。
正直自分から仕掛けるのはヤンデレとしてどうなんだろうという部分はある

リングマ
今回の被害者枠

ゴローン
いつもの被害者枠


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VSやや修羅場2

久し振り過ぎてヤンデレ力が低下している……。シンオウ編が終われば多分向上すると思われる。


 メガヤンマのメガちゃんを背中にくっ付けるという斬新極まりない飛行方法で散らばった手持ちポケモンを探す事早数分。カブトはある一つの思いに囚われていた。

 

(もしかして、これ犯罪なんじゃ……!)

 

 そう、カブトは『そらをとぶ』の技マシンを使用できる許可バッジを持っていないのだ! 今までは低空飛行であったから良いものの、今回のようにポケモンを探す為に高い位置まで空を飛ぶことは明確な犯罪である。

 

 余談ではあるが、手持ちのポケモンが殺人や、場合によるが故意による殺ポケを行った場合トレーナーが監督不届きとして罰せられる事になる。もっともポケモンは収縮化現象なるもののおかげでそう簡単には死なないのだが。

 

 カブト本人は気づいていないが、シリアルキラーを約2名ほど手持ちに加えている時点で大罪人確定だ。今更無免許運転が加わった所で些細な事だとしか言いようがない。

 

 そんなこんなで世紀の大悪人カブトは顔を青くしながらも、さっさとポケモンを探すべく先程よりも遥かに集中して辺りを観察する。その甲斐あってか、存外早くにルカリオのルカちゃんを見つけることが出来た。彼女を見つける事が出来たら後は簡単だ。彼女の波導で残りのポケモン達を探してやれば良い。カブトも波導を使う事が出来るが、ルカちゃんと比べると範囲が狭く精度が悪い。いや、この場合はルカちゃんの波導操作能力が格別に高いというべきだろう。そもそもの話、ただの波導使いとルカリオとではそもそも扱える波導が違いすぎる。比べる事がおかしいのだ。

 

「ルカちゃーん! 無事ですかー!」

 

 カブトは叫びながら上空から飛び降りる。気分は紐なしバンジージャンプ。そしてYAMA育ちの上位互換(?)であるYUKI YAMA育ち、かつ半分とはいえ超マサラ人の血を受け継いでいる事による強靭な肉体が遥か上空からの着地の衝撃をほぼゼロへと抑える事に成功した。彼は無傷だ。その代わりに、カブトを中心として円形状に大地に消えない大きなクレーターを刻みつける事になってしまったのだが。

 なお、普通にメガちゃんに地上まで運んで貰えば良いだけの話なので、この驚異的な大ジャンプは全くの無意味である。

 

 そんな無駄に芸術点の高そうな着地を披露して見せたカブトに呆れながらメガちゃんが地上に舞い戻った。

 

『カブト、態々そんな紐なしバンジーみたいな真似しなくても普通に下ろしてあげたのに……。それはそれとして、ボクは雪女に少し用事があってね。悪いけど呼び出してくれないかな?』

 

 珍しくメガちゃんが他のポケモンと交流を持とうとしていることに驚いたカブトは喜んでユキちゃんをその場に残しておく。彼の手持ちポケモン達はトレーナーとポケモンとの信頼関係は厚くとも、ポケモンとポケモン同士の横の繋がりは皆無。むしろそれどころか、いがみ合っているという何とも言えない関係性をしている。カブトは自身の手持ち達の仲が悪いということに気がついていないが、若干関係性が希薄なのではないか? と思っていたのでこういう交流は喜ばしいと思っている。

 

 

 まぁ、現実は仲良く交流じゃなくて殺し合いになるんだけどな! 

 

 

 そんな事をカケラも想像出来ないカブトは、ユキちゃんをその場に残したままルカちゃんのいる場所まで走っていってしまった。

 

 その場に残されたのは巨大な蜻蛉と雪女。なんともミスマッチな組み合わせだが、この二人は一応カブトパーティー最古参勢。さらに、互いが互いを疎ましく思っているという共通点付きだ。

 

 そんな二人が同じ場所に残されればどうなるか? それは火を見るより明らかだ。

 

 

 殺意を固めて作られた不可視の斬撃が、決して溶けない氷を用いた弾丸が、互いの命を奪おうと交差する。

 

 激突。からの撤退。二人がほぼ同時に後方へと飛び退る。互いが互いの視線を外さぬままに。

 

『あら、話があるんじゃ無かったの? 随分と乱暴なお話ね』

 

 口火を切ったのはユキちゃん。目を細め、薄笑いを口端に浮かべてメガちゃんを挑発する。

 

『ふん、話をしたってどうせこうなるんだ。ボクとキミとの間に会話は成立しない。違うかい?』

 

 対して、その声すらも耳に入れたくないという様に首を振ったメガちゃんは、その鋭い眼光でユキちゃんを射殺さんばかりに睨み付ける。

 

『少しばかり早くカブトに出会っただけの癖に、カブトが自分の所有物だと言い張るその姿は非常に滑稽で不愉快だ。カブトはボクと結ばれる、そう決まっているんだ。キミ如きに出しゃばられると、ボクもカブトも迷惑なんだよ。後々にまで悔恨が続かない様に今ここでその命を断つ』

 

『その言葉、そっくり貴方にお返しするわ。カブトの慈悲で生き残っているだけの羽虫風情が、あまり調子に乗らないで頂戴』

 

 そして、彼女らは相手の命を断ちきる為に再び攻勢を掛ける。互いの愛する人の所有権を賭けて……! 

 

 

 

 ★★★★★★★★

 

 一方その頃、何故か勝手に自分自身のいざ知らぬ所で自身の身を賭けた戦いが巻き起こる事に定評のあるカブトは、自分の手持ちポケモンであるルカリオのルカちゃんに追い詰められていた。

 

「えーと、ルカちゃん? これはどういう……?」

 

 必死に絞り出した言葉は虚空へと溶けていく。胸ぐらを掴まれて地面に押し倒されたカブトが出来る事など殆ど無い。やろうと思えばルカリオに押し倒された程度抜け出す事など造作もないが、その過程で万が一ルカちゃんが傷ついてしまうといけないのでカブトはなんの行動にも移せないのだ。

 

『どういう事……、だと? お前……自分が私に何をしたのか分からないのか⁉︎』

 

 犬歯を剥き出しにして彼女は吼える。だが、これ程までに怒りを露わにされてもカブトには心当たりが殆ど無い。

 

「もしかして、発見が遅れたしまった事ですか? それは本当に悪いと思って……」

 

『違う! そんな事じゃない! お前の悪事はただ一つ! お前がダークライの悪夢に囚われた事だ!』

 

「……はい?」

 

 思わずカブトはルカちゃんに聞き返してしまう。もしかして彼女も覇王系なのだろうか? 一抹の不安が頭をよぎる。もしそうならば、ユキちゃんと相性が悪くて不倶戴天の敵になってしまうかもしれない、と。完全に杞憂であるが実際あまり間違っていない。

 

『ダークライにお前が囚われている際、私はお前を監視し続ける事が出来なかった。それは別に良い、奴はそんじゃそこらの凡百どもとは格が違う。監視し続ける事が出来ずとも仕方あるまい。だが、その後に悪夢に囚われている間の記憶すら覗けないとはどう言う事だ!』

 

 カブトの記憶には実はある細工が施されている。どこぞのクレセリアさんが、先日その力を持ってしてカブトの記憶を弄ったのだ。理由は三つ。一つは悪夢の影響で後々の生活に支障をきたさない様にする為。もう一つは治療にかこつけてもう一度カブトに会いにいく為。最後の一つは、自身とカブトの記憶を自分だけで独占する為だ。その為今のカブトは、悪夢に囚われてクレセリアさんに助けてもらった程度の記憶しか持っていない。

 

「そう言われましても……」

 

『そうもこうもない! 私は常にお前の事を知り尽くしていなければならないのだ! 無論、夢とて例外ではない! 今のお前の身長体重座高視力聴力嗅覚は勿論、お前が今日朝食を取っていないことも、足の爪がいつも切り揃えている長さから0.5㎝程伸びていることも、電子機器の暗証番号も、体にある黒子の数も手に刻まれたシワまで全てだ! お前の全てを私は知っているのに! 何故あのような女どもが知っていて、私が知らない事があるのだ! その様なことは断じて許されない! 

 

 

 ………………済まない、取り乱した。私とした事が熱くなりすぎてしまった様だ』

 

 怒りに任せて言葉を吐き出した事で気分が落ち着き冷静になったルカちゃん。本来の彼女は冷静沈着、どんな時でもカブトの事を監視し続けるクールなポケモンだ。

 

『先程までの言葉は忘れてくれ。ただ、最後にこれだけは覚えておいて欲しい』

 

 地面に押しつけたカブトを立ち上がらせると、彼女はカブトの目を見ずに伏し目がちで静かに言葉を溢す。

 

『…………もう、私の目の届かない所に絶対に行くな。常に私の側にいてくれ。私の願いはそれだけだ』

 

 そう告げた彼女の姿はいつもの堂々とした立ち振る舞いや、鋭利な冷たさは鳴りを潜めてどこか物悲しげで儚げだった。

 

 そんな姿を見せられて、はい、そうですか、と終われるカブトではない。

 故に考えた。彼の持つ残念な頭で彼女を励ます方法を考えて、考えて、考えた。そして、一瞬にも満たない僅かな時間で導きだしたその結果の通りに行動する事にした。

 

「手を出してください」

 

『こうか?』

 

 そっと差し出された彼女の手をカブトの掌は優しく包み込む。そしてそのまま彼女の手を握りしめると彼女の手を引いて歩き出そうとする。

 

「それじゃ、他の仲間を探しに行きましょうか」

 

『ちょっ、ちょっと待て。何をしているんだ⁉︎』

 

 珍しく、焦った様に問いかけるルカちゃん。彼女は普段からあまり表情を変えないのでこんな顔をするのは珍しい。

 

「んー、ルカちゃんならもう分かってるんじゃないですか? 僕なりにルカちゃんの願いを叶えようと思いましてね。流石にずっとは無理ですけど今日一日くらいは一緒に手を繋いでいましょう。ほら、こうすれば……」

 

 僕がルカちゃんの目の届かない所に行っちゃう事はないでしょう? 

 

 カブトはまだボンヤリとしているルカちゃんにそう告げると、彼女を引いて足を前に出して今度こそ歩き始める。その後を少し遅れて引っ張られる様にルカちゃんも足を踏み出した。

 

「あの夕日に向かって走りだせ!」

 

『まだ朝だから夕日は出てないぞ。全く……もう離さないからな』

 

 ★★★★★★★★★

 

『何故貴方は軽々しくカブト様の手を握っているですか? ねぇ、何故? 私、気になります……。貴方に何の権利があってカブト様に触れているのですか……? 何故なんですか……?』

 

 どろり、と地面から湧き上がる極彩色の液体。溢れ出したそれは、カブトとカブトに手を引かれたルカちゃんの周りを取り囲む。足下から湧き上がる液体の正体は地面に潜んでいたトリトドンのトリさん。逸れたカブトの手持ちポケモンの一人だ。

 

 トリさんは地面から飛び出して彼女の体に纏わり付くと、ルカちゃんの体を伝って登りあげ彼女を拘束する。その際に一度もカブトの体に触れないのはトリさんのカブトに対する崇拝具合の現れだろう。

 

『くっ! 邪魔だッ‼︎』

 

 ルカちゃんは波導を操る能力が他のルカリオと比べて非常に高い。その為、他のルカリオでは難しい事でも彼女なら容易く行うことが出来る。彼女は『はどうだん』の応用として全身から波導を放射状に解き放ち、纏わり付くように自身の体を拘束するトリさんを細切れになる様に吹き飛ばした。 

 

『カブト様は貴方如きが軽々しく触れて良い方ではありません……。即刻手を離してください……』

 

 粉々になって飛び散った流体の体はカブトの前で集まり元の姿に再生する。彼女の持つ最大の特徴、それは凄まじい再生力。その再生力は細胞一つでも残っていれば復活するほどのものだ。

 

「およ! びっくり。トリさん無事で良かったよ。今、ルカちゃんと一緒に君達を探しに行こうとしていた所なんだ」

 

『カブト様、貴方もご無事で何よりです。差し出がましいとは理解しておりますが、その様な穢らわしい犬に軽々しく触れるのは如何なものかと思います……。貴方様にはその様なものは相応しくありません……』

 

 自身を睨みつけるルカちゃんには目もくれず、カブトの目の前で頭を下げたまま進言するトリさん。本来、自身の主の意向に反する言葉を彼女は言わない。だが、彼女はカブトを守る為なら自身の命にさえ頓着しない性分を持つ。それこそ、ストーカー紛いのルカちゃんをカブトから引き剥がす為には自身が処刑されても構わない、と考え実行する程度には。自身の命すら惜しくない、そんな覚悟を持って彼女は進言したのだ。

 

 いつの時代だよ! 時代錯誤にも程がある。

 

「いやいや、そんな事は無いさ。ルカちゃんは良い子だからね。それよりトリさんも無事で嬉しいよ」

 

『私は貴方様に命を捧げた身。貴方様以外の為には死にません』

 

 彼女はそう言うと、ボールの中に戻りカブトの足下に転がり静止する。カブトが拾い上げたそれをルカちゃんは今にも叩き壊したそうに睨みつけていたが、カブトの目の前で流石に自重したのか睨みつけるだけで留めていた。

 

 トリさんを回収したカブトは、最後の一人であるポリゴン2のポリさんをルカちゃんの手を引いて探しに行くのだった。

 

 ★★★★★★★★★

 

 彼女のポケ生は常に否定と共にあった。

 

 失敗作、そう呼ばれた事も一度や二度ではない。別にそれが理由で酷い扱いを受けたわけでは断じて無い。だが、彼女から見た人々の姿は、疲れ果てた顔をしていて常に溜息をつくような姿ばかりだった。

 聡い彼女は自分の生みの親にそんな表情をさせている事の原因が、自分自身にある事に酷く嫌気がさしていた。

 故に、新しいトレーナーのポケモンになってもあまり期待はしていなかった。どうせ、私はここでも役に立つ事は出来ない、と。

 

 すぐに捨てられると思った。また生みの親たちと同じ様な顔をさせてしまうかも知れないと思った。

 だが、新しいトレーナーはその様な事は一切しなかった。いつも何を考えているのか分からない(実際は何も考えていない)笑みを浮かべてフワフワと生きている今のトレーナー。彼は彼女を見捨てなかった。必要としてくれた。逸れても探し出してくれた。それだけで彼女は救われたのだ。

 

 ならば、と彼女は決意する。かつての親元では役に立たなかった。だから、今度こそはもっと役に立てる様に自身のトレーナーの為に頑張っていこう、ポリさんはカブトに回収されたボールの中でそう誓うのであった。

 




カブト
アホの子化が加速する。この勢いはもう止まらないぜ!クレセリアさんに記憶改変を受けた。

ルカちゃん
カブトが自分の預かり知らぬ所で何かイベントを体験する事が許せない子。病んでばっかもあれなんでデレ期。

トリさん
病みの性質上積極的に来れないせいで中々扱い難かったりする。出番を増やしてあげたい。

ポリさん
何か色々言ってるけど要約すると「これからもお仕事頑張るぞ!」


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VS自己完結

最後の一体加入回。みんな大好き大人気のあの人ですね。


 全ての手持ちポケモンを回収し、ユキちゃんとメガちゃんの元へと戻ってきたカブト。

 しかし、そこに広がるのは激戦の後。大地は抉れて川は凍り付き、森の木々は悉くへし折られている。そしてその中心地でユキちゃんとメガちゃんは共に地面へと倒れ伏していた。

 

(相変わらず二人とも自主トレーニングに余念がないな。本気でチャンピオン撃破を目指すなら、僕ももっと頑張らないとね!)

 

 明らかにトレーニングの域を超えた戦闘痕があるにも関わらずそんな事にはかけらも気付かないカブト。お前の洞察力どうなってんだよ! 

 

 傷だらけでボロボロの二人を『げんきのかけら』や『きずぐすり』などを使用して回復させていると、カブトはカバンの中に入れておいたポケモンのタマゴが唐突に振動し始めたことに気が付いた。

 

「およ! もしやもしやのタマゴが孵る瞬間ですか!」

 

 生命の誕生の瞬間というのは神秘的だと聞く。カブトは目を光らせてワクワクとその時を待っていた。

 カブトの抱えたタマゴに亀裂が走る。タマゴに走った黒い線はタマゴの全身を覆い尽くす。それとほぼ同時に内側から爆発する様にタマゴの殻が弾け飛んだ。

 

 粉々に砕け散ったタマゴからのそりのそりと現れたのは全体的な深青の体色に巨大な口が特徴的なポケモン。世間一般ではフカマルと呼ばれるそいつはタマゴの残骸から這い出すと、その短い手を片方は天に、もう片方は地に向けて七歩前に出て口を開いた。

 

『天上天下唯我独尊』

 

 コイツ、自分自身が生まれながらの絶対強者だと自覚してやがる……。

 謝れ! 謝れよ! 草葉の陰で涙を流しているフライゴンさんに謝れよ! 

 

 だが私は謝らない。

 

 トコトコと物珍しげに辺りを見回すフカマルを抱えると、何を思ったのかカブトはフカマルを自分の頭の上に乗せ始めた。意味不明な行為だがカブトもフカマルも楽しそうなので良しとする。

 

「この子もメスか……。んー、フカマルなので名前はカマさんにしましょうか」

 

 生まれたばかりのフカマルのカマさんを頭に乗せた状態でカブトが命名する。将来的にはその手にカマの様な形状の武器が生える事を知っているが故の命名法。頭の上に乗せられたカマさんは何のことか分からずにバシバシと無邪気にカブトの頭を叩いている。

 

「これからよろしくお願いしますね、カマさん」

 

 その言葉に応える様にカマさんはカブトの頭をガジガジと齧っていた。

 

 

 ★★★★★★★★★

 

「ああ、あの頃が懐かしい。生まれたばかりの時はあんなに素直だったのにどうしてこんな……」

 

 カブトは嘆いていた。めちゃくちゃ嘆いていた。そう、例えるならば娘から『パパ嫌い』と言われた様な父親の様な状態だった。

 

『情けねぇ奴だな。それでもオレのトレーナーかよ』

 

 何故か地面に五体投地しているカブトをガスガスと爪先で軽く突いているのは成長してガブリアスへと進化したカマさんだ。

 

 彼女は強くなった。ほんの三ヶ月にも満たない間で彼女はガブリアスまでたどり着いてしまったのだ。それは元々のカマさんのポテンシャルの高さにもあっただろうが、大体蹴落とし合いがデフォルトの呉越同舟パーティーに幼少期から所属していたことが原因だろう。何でこんな地獄みたいな環境で生きてるんだこの子。

 

 それ程までにカマさんが強くなったお陰か、その成長に周りも触発されたのか、とんとん拍子に物事が進み残りのジムも残すところあと一つ。因縁のキッサキジムのみとなっていた。いやー、4つのジムは激戦ばかりの名試合でしたね。

 

 しかし悲しいかな。彼女は強さを手に入れた代償に反抗期に入ってしまったのだ。この様な現象はポケモンの育成の中ではよくある事だ。例えば、今まで育ててきたヒトカゲがリザードに進化した途端言う事を聞かなくなったりする事が偶にある。この場合、トレーナーがポケモンに実力を認められていない事が原因になる。対策としては上下関係を叩き込んだり、ジムバトルなどを通して実力を見せつける事などが挙げられる。

 

 しかし彼女の場合は少し特殊で、バトルの時の指示には従ってくれるものの普段の生活では言う事をあまり聞いてくれないというものだ。何か態度もツンツンしているし。

 

「こんなに立派になったのに反抗期だなんて……。お父さん哀しみ」

 

 そう言いながら、五体投地していたカブトは立ち上がって彼女の肌を優しく撫で回す。当然、『さめはだ』で手がズタズタに切れるがカブトはまるで気にしない。

 

『おい馬鹿! 止めろ! お前の手が傷だらけになっちまうぞ!』

 

「こんなの全然大した事ないですよ。多分みんなやってますし」

 

『なんかそれはそれで苛つくな』

 

 どんな世界であろうが『さめはだ』を撫で回すなんて誰もやっていないし、手が本気でズタズタになるのでマサラの血を引く者以外は決して真似してはいけません。

 

「それはどうでも良いんですけどね。それよりみんなとご飯一緒に食べないんですか?」

 

『そんな小っ恥ずかしい事やってられるかよ。オレはここで一人で食ってっから気にすんな』

 

 フン、と鼻を鳴らすと彼女はソッポを向いてしまう。確かに好みの違いは誰にでもある。斯く言うカブトもあまり大勢の人に囲まれるのは好きでは無くどちらかと言うと静かな空間を好む傾向がある。故に一人になりたい気持ちも理解出来なくはない。しかし、彼女はいつも一人離れてご飯を食べている。その為カブト達と一緒の席に座る事は滅多にない。だからこそ、カブトもたまには彼女と一緒に食べたいのだ。

 

「えー、そんな事言わずに一緒に食べましょうよー。あっ! 僕が食べさせてあげましょうか!」

 

 良い事を思いついたとばかりに目を煌めかせてカマさんに提案するカブト。カマさんが生まれたての時は彼がその口に食べ物を突っ込んでいたのだ。なお、高確率で指ごと食われた模様。

 

 そんなカブトの言葉に一瞬ビクリと肩を震わせたカマさんは、次の瞬間怒鳴る様に声を張り上げてカブトを威圧した。

 

『はぁ⁉︎誰がお前の助けなんざいるかよ! いつまでも餓鬼扱いしてんじゃねぇぞ!』

 

 あまりの威圧感に周囲に潜んでいた野生のポケモン達が逃げ出す中カブトは何処をふく風、彼女の肌から手を離さずにいつもの様にのほほんと彼女を見上げている。

 

「まあまあ、じゃあ僕はこっち来て食べるんでそのつもりで」

 

『だからお前が来ると他のヤツもくっついてきて鬱陶しいんだよ! いい加減自覚しやがれ!』

 

 後ろ手を振りながら食べ物を取りに荷物置き場に向かうその背中に大声で叫ぶも彼は気にも留めない。妙な鼻歌を歌いながらスキップで戻っていくのであった。

 

 

 その後ろ姿が見えなくなった事を確認したカマさんはのそりのそりと歩みを森の方に進める。

 人も立ち入らぬ様な森林の奥深くまで来ると、彼女は並居る巨木の中でも取り分け巨大な樹木に項垂れる様にその頭部を預けた。

 

『はぁ…………』

 

 深く、深く、何処までも深く溜息を溢す。その姿は先程までのカミツキガメの如き凶暴さ無く、ただただ深い自己嫌悪と苦しみに包まれていた。

 

『オレは…………オレは‼︎…………』

 

 彼女が声を震わせる。その鋭利な爪を持つその手を巨木に食い込ませると、彼女の声に引っ張られる様にその身体までもが大きく震え始める。そして…………

 

『何でッ‼︎もっとッ‼︎素直にッ‼︎なれないんだッ‼︎』

 

 ぶつける。何度も何度もその頭部をしがみついた樹木に叩きつける。一撃一撃が重く鋭い。千切れた木の破片に当たり頭から血が流れ出るも彼女は気にすら止めない。もしかすると、気付いていないのかもしれない。並のポケモンならとうに気絶してしまう様な威力を持つその頭突きを、彼女は目の前の樹木が破砕して原型すら残さぬ形にスクラップされるまで続けた。

 

 

 ★★★★★★★★★★★

 

 トレーナーの事がずっと好きだった。それが食べ物と同じ好きなのか、それとも別物なのか。likeなのか、loveなのか。それを気付いたのはつい最近の事であったが。

 

 トレーナーの事は今でも大好きだ。出来る事ならば今すぐにでも彼の元に駆け寄って、昔みたいに彼の頭に噛み付きたい、彼の頭の上に乗っかりたい、彼に撫でまわされたい、彼と一緒にご飯も食べたいし食べさせても欲しい。

 

 だが、彼女は粗暴な言葉遣いに似合わず根は真面目な存在だ。最強のドラゴンであろうとする限りその想いを表に出す事が出来ない。そして何よりもそんな事を彼女の中に眠る性質(ドラゴンの血)が許しはしない。

 

 ドラゴンとは誇り高く何よりも強い生き物だ。その力は圧倒的で他の何者も寄せ付けず、その気になれば空だけでは無く地や海までも容易く支配する事ができる。伝説のポケモンの多くがタイプとして保有している事も根拠として裏付けてくれている。

 そして、彼らはおいそれと人には靡かない。彼らは己が力を貸すのに相応しいとみた人物にのみその力を貸し与える。故に、ドラゴンタイプのポケモンを連れているトレーナーはこの世界に置いて絶大な力を誇るのだ。

 

 ならば彼女からみて彼女のトレーナーは力不足か? いや、そうでは無い。では、何故彼女はあれほどつっけんどんな態度をとるのか。

 

 それは彼女がドラゴンタイプであり、割とめんどくさい性格をしているからとしか言いようが無い。難儀な性格であるが故に自身の気持ちをさらけ出す事が出来ず突き放してしまう。誇り高い生き物であるが故に群れる事を良しとせずに孤高を貫こうとしてしまう。それが彼女にとっては、とてつもなくもどかしくて苦痛なのだ。

 

 現に彼女はトレーナーを認めている。その証拠にバトルにおいての指示はちゃんと聞いている。しかし、どうしても彼女は自身の本心を曝け出すことが出来ない。どれ程トレーナーの事を深く愛していようとも、その胸の内にある言葉を口にする事は叶わない。自分自身の気持ちを言葉にしようにも口をついて出るのはいつも通りの憎まれ口だけだ。

 

 そもそもの話、幾らトレーナーの事を愛していようともポケモンと人間とでは種族が違いすぎる。結局のところ、どうあがいても結ばれる事などありはしないのだ。一部……いや、トレーナーの手持ちの半分程本心から結ばれると思っていそうだが、そいつらは例外極まりないのでこの際置いておく。

 

 苦しかったし辛かった。だからこの想いは全てただの勘違いなのだと彼女は思い込む事にした。

 

 甘えさせて欲しい、甘やかして欲しい、そんな気持ちは全て偽物だ。そんな事少しも考えていない。

 

 トレーナーがメスのポケモンや女性と楽しそうに話している姿を見ても心苦しいだなんて思うはずが無い。だって、トレーナーの実力を信じていても彼を愛している訳では無いのだから。

 

 酷い言葉でトレーナーを突き離してしまっても辛くなんて無い。それが誇り高い孤高のドラゴンとして正しい姿だから。

 

 トレーナーに、カブトに、自分だけしか使わないで欲しいと思う事は否定しない。だが、それは決して断じて彼を愛しているからこその醜い嫉妬や独占欲などでは無い。最強のドラゴンである事のプライドなのだ。

 

 トレーナーが他の女達と一緒に居る姿を見ると無性に腹が立つ。いっそ自分自身の手で群がる女どもを蹴散らしてトレーナーを連れ去ってしまおうか、とすら考えた事もある。何でコイツはワタシだけのトレーナーじゃないんだろうか、と考えた事は何回もある。その想いは全てなかった事にして忘れ去ろうとした。

 だって、最強のドラゴンがただの人間を好きになるはずが無いのだから。

 

 だからこそこの溢れんばかりの気持ちは全て、嘘偽り紛い物勘違い気のせい偽物なのだ。

 そうに違いない、そうでしか無い、それしか考えられない、誰が何と言おうがそうなのだ。

 

 これで良い、これで良いんだと彼女は何度も何度も自身に言い聞かせる。最初からトレーナーの事など愛しちゃいない、likeはあってもloveは無い。周りの奴らがおかしいのであってオレはおかしくなんか無い、と。

 

 そう思いこんで生活すると随分と生きやすくなった。抱える悩みも、胸の奥底の思いも、全部偽物なのだから。何も苦しむ必要なんて無い。

 

 だが、その偽りの想いで本心を塗り潰そうとする行為は間違い無く彼女の心を軋ませていた。

 そうやって自分自身の本心を押し潰し続ける事で彼女の心は現在進行形でドンドン壊れていく。

 仮に今は大丈夫であったとしても、近い将来いつか確実に彼女はガタが来て爆発する。

 もしそうなってしまえば、それこそもう本当に誰にも手が付けられなくなってしまう様な暴走を引き起こしてしまうだろう。これではまるで生きる時限爆弾だ。

 

 そんな大惨事を引き起こさない様に早めにメンタルケアをする事がお勧めされる。

 どう考えても確実にもう手遅れだろうけど。

 




カブト
冷たくあしらわれてもめげないメンタル。最近娘が反抗期になって悲しみ。

カマさん
作中時間がキングクリムゾン!流石生まれながらの帝王だ……!攻撃系と見せかけたまさかの無害系。だが、彼女は後一回進化を残している……、この意味が分かるな?


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VS狂気

やっとすぎてもうブームを逃してる感あるけど是非も無いよね。


 ———何となくだがチーム内の空気がおかしい。

 

 ポケモントレーナー、カブトがその事に気がついたのはつい最近だった。事情を理解できる第三者視点から見ればカブトの手持ちは皆おかしいのだがそれはこの際置いておく。

 

 だが、カブトは自身が手持ち達から異常な程の偏愛を受け取っている事やユキメノコのユキちゃんがラオウでは無かった事に今更ながら気がついた訳ではない。いい加減気付けよ。

 

 ただ、7つ目のジムバッジを手に入れた後から、いつもと比べてなんとなくポケモン達の雰囲気が違うのだ。

 

 カブリアスのカマさんはカブトをさり気無く避け始め、メガヤンマのメガちゃんが一人で血塗れになりながら帰ってくる事が多くなり、ルカリオのルカちゃん、トリトドンのトリさん、ラオウのユキちゃんは平常運転、そしてポリゴン2のポリさんは元々少なかった口数がより一層減り、明らかに何か悩みを抱えている様に見える。

 

 これはどう考えても放っておいてはいけない、そう考えたカブトは彼女らとコミュニケーションをとりに行く。しかし何という事でしょう、物見事に全員から振られてしまったのだった。

 

 カマさんからは『何でもねーよ、……何でもねぇんだよ』と意味深に拒絶され、メガちゃんはメガヤンマのスリーサイズとか誰得極まりない情報は幾らでも答えてくれるのに血のことははぐらかすだけ、ポリさんに至っては『これは私自身が解決しなければならない問題なので』といった具合に取り付く島もない。

 

 これにはカブトも大困惑。こういった場合どうすれば良いのか10歳の少年にはサッパリ分からなかった。無理矢理聞き出しても事態を悪化させるだけの可能性もある。故に、彼は取り敢えずそれとなく彼女らとコミュニケーションを取りながら事態の原因を聞き出していく、といった消極的積極策を取る事に決めたのだった。

 

 

 その策は決して間違ってはいなかったが、事態の解決を図るのには些か即効力が足りていなかった。惜しむべくは悩めるポケモンの心を開く事に少々時間が足りなかった事だ。その僅かばかりの時間でカブトは仲間の一人を失う事になる。

 

 

 ★★★★★★★★

 

 ———勝てない。

 

 何度も自分が弱い事を思い知らされた。

 

 結局のところ場所が変わっても、力になりたいと幾ら願っても、彼女は役に立つ事ができなかった。トレーナーであるカブトから見れば十分に役立っているし彼女にもその事を伝えたのだが、彼女が、ポリさんが、自分自身の事を役立たずだと認識しているせいで聞く耳をまるで持ってくれない。

 

 そこまでの自己否定を決定的にしてしまったのは間違いなく彼女が決意を固めてからの4つのジム戦にある。彼女はそのジム戦に於いて四分の三出場している。しかし、その3戦いずれもチーム事態は勝利したものの彼女は敗北して『ひんし』の状態に追い込まれてしまっていたのだ。

 

 幾らポリゴン2が耐久向きとはいえ、ジムリーダークラスの相手となると『しんかのきせき』を持たないポリゴン2では中々に厳しい戦いとなっていたのだ。

 さらに加えるなら、彼女の後から来た新人であるカマさんの存在も中々に大きい。カマさんは当初レベル上ではポリさんより下回っていたにも関わらず、たった数週間でチーム屈指の実力者へと成り上がってしまったのだ。先に手持ちに加わっていたポリさんを追い抜いて。

 

 恐らくそれらがポリさんの劣等感を刺激する結果になったのだろう。

 

 自身が何の役にも立てないという焦り、一人だけ周りに置いていかれているという恐怖、そして何より、大切なトレーナーの期待に応えたいという重圧、それらが彼女を異常なまでに追い詰めていた。

 

 勝たなければ、強くならなければ、期待に応えなければ、そんな想いがポリさんの中で渦巻き降り積もる。

 

 彼女はギンガ団研究員からカブトの手に渡った時からずっと隠し持っていたある道具を確認する。明らかに正規品ではない雰囲気を醸し出している怪しげなアイテムをその手で弄び溜息をついた。

 

 そのアイテムは、彼女を作り出したギンガ団研究員が彼女に手渡していた物だ。曰く、「これを使えば1000%強くなれるよ!」だとか。1000%ってなんだよ。

 

 藁にも縋り付きたいポリさんは、この『あやしいパッチ』を使用するかどうか悩んでいた。強くなりたい、役に立ちたい、そんな想いは間違いなくあるが、こんな明らかにウイルスとか仕込まれてそうな訳のわからない物を使用する事を躊躇っていたのだ。

 そして何よりも…………

 

(使い方が分からない……)

 

 そう、彼女はこれの使い方を何一つ教わっていなかったのだ! 

 無能かよ研究員。使い方くらい教えてやれって。

 この中に入っているデータを取り込むのだろうという事は分かるのだがパソコンを経由してデータを取り込むのか、それとも直接差し込めば良いのか、ポリさんにはさっぱり分からなかった。

 

 だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。多少のリスクは承知の上でポリさんはこの『あやしいパッチ』の使用を決断する。使い方はググっても当然ながら出ないので、人類の英知の結晶たる彼女が導き出した最先端かつ最新式のデータの取り込みを適応する事にした。

 

 それ即ち直挿し! 原始的……。

 

 ポリさんはその短い手足で器用に『あやしいパッチ』を拾い上げると、思い切ってそれを直接自身の心臓部へと突き刺した! 

 どっからどう見ても間違った運用方法にしか見えないが一応の効果はあったらしい。可視化される程に膨大な怪しすぎる不正データがどんどんとポリさんの中へと吸い込まれていく。

 

『ぐっ……うう……人類を……滅亡させる……。あれ? もしかして何か違うとこと接続して……うわぁぁぁぁ!! 違う、私の仕事は『しんかのきせき』を持って耐久する事だから‼︎うわぁぁぁぁ‼︎』

 

 違うよ? 君の仕事はタイプ一致と『てきおうりょく』で威力を爆上げした『はかいこうせん』を撃ちまくる事だよ。

 

 思ったより楽しそうだなこいつ。もしかして全然余裕なんじゃないかな? 

 

 しかし、そんな事を思っていられたのも束の間。『あやしいパッチ』から流れ出した膨大なバグデータの奔流が彼女の余裕を消し飛ばしたのだ。先程までのいかにも余裕そうな表情とは一転、一瞬にしてその顔が苦痛に歪む。

 

『あやしいパッチ』により齎された異常なデータの数々がポリさんの体を蝕みまるで性質の違う物へと変質させていく。その影響はポリさんの肉体にも顕著に現れていた。規則的に整えられた流線的なフォルムは生物としてあり得ない様な構造へと変貌を始め、理知的な瞳は狂気に染め上げられてしまった。

 

『ああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!』

 

 絶叫。引きちぎられる様な苦痛がポリさんの全身を襲う。時間が経つとともに彼女は自身の人格が悪意に塗り潰されて書き換えられていくのを感じる。そして、全身の形態変化が終わる頃にはポリゴン2だった頃の人格はほぼ消滅してしまっていた。

 

(カブト……さん……)

 

 もはやポリゴン2のポリさんは存在しない。ここにいるのはポリゴンZ。ポリさんと同じ体、同じ記憶を持ちながらもかつての彼女とは似ても似つかない存在へと生まれ変わってしまったのだった。

 

 新しく生まれ変わった彼女は暫くその場に止まっていたが、やがて明らかに正気を感じさせない動きで自身のトレーナーの元へと戻るのであった。

 

 ★★★★★★★

 

『カブトさん! 大好き! 愛してる!』

 

「……」

 

『……』

 

 行方不明になっていたポリさんを見つけたカブトとトリさん。他のメンツは、行方不明のポリさんの事などカケラも気に掛けずに互いに潰し合いに興じている。

 やっと出会えたにも関わらず、彼らは彼女の変貌っぷりに声も出せない程驚愕していた。しかも、今までそんな素振りをかけらも見せていなかったのにいきなりのラブコール。そりゃ驚くわな。

 例えるならば、今まで地味系を貫いてきたクラスの女子がいきなり派手派手しい格好で登校してきた様なものだ。しかも常に目の焦点が合ってない状態で、手足がそれぞれバラバラの方向に勝手に動いている姿で、さらに凶器をブンブンと振り回しながら主人公に告白してきたぞ。それなんてB級ホラーパニック映画? 

 

 首が360度前後左右上下に絶え間無く振れ続けているポリさんは、フラフラと酩酊した様な危なっかしい歩き方てカブトの元まで辿り着こうとする。

 そんな彼女を見ていられなくなったカブトは、急いでポリさんの元へと駆け寄り未だおかしな挙動を見せる彼女を抱き上げた。

 

『えへへ、大好き!』

 

「えっと……ポリさん……どうしたの?」

 

 カブトは困惑していた。ちょっと目を離した隙に手持ちのポケモンが明らかにヤバイ姿になって帰ってきたのだ。そもそもポリゴンZの存在などカブトが知っているはずが無い。故に、カブトは何が起こったのかまるで理解できていなかった。

 

『どうしたの? こうしたの!』

 

 クルクルとその場で踊って見せるポリさん。もはやまともな会話すら続かない。そんな彼女の姿にめげないでカブトは質問を続ける。

 

「あの……何でそんな姿に?」

 

 そのカブトの問いを聞いた途端、彼女の踊りは止まりガクガクとバグった様に痙攣を始めた。

 

『見て見て! 凄いでしょ! 私、貴方の為にこんな姿になったんだよ! これならもっとカブトさんの役に立てるね!』

 

 褒めて褒めて、と言うように楽しそうな声色で彼女は叫ぶ。全身がギチギチと音を立てながらあり得ない方向に回転する狂気的なダンスを言葉に添えて。

 

 カブトはより一層困っていた。先程とは比べ物にならないレベルで。どうやら彼女がこんな姿になったのは自分の所為らしい。普通に考えるならばこれはポリゴン2の進化なのだろう。しかし、このおかしな挙動がどうしても真っ当に進化した様には見えないのだ。場合によってはポケモンドクターの元へ連れて行く事も考えなければならない、とも彼は考えていた。

 

 そんな彼の考えを知ったか知らずか、彼女はカブトの腕を伝って彼の頭の上へと乗り上がる。そこで彼女はキャハキャハと耳障りな笑い声を上げながら楽しそうに首を動かす。

 

『ダメです……、カブト様に気安く触れないでください……!』

 

 そこでトリさんがポリさんの狂乱具合に受けた衝撃からいち早く正気に戻る。正気に戻った彼女がカブトからポリさんを引き剥がすべく行動しようと動き出したその瞬間、

 

『種族トリトドン、NNトリさん…………要らない』

 

 一言、カブトの頭上のポリさんが呟くとトリさん目掛けて『はかいこうせん』が発射された。

 

 しかし、咄嗟のことにも関わらず突然の攻撃すらトリさんは読んでいた。既に展開済みだった『ミラーコート』で『はかいこうせん』を反射する。弾き返された圧倒的な破壊の奔流がポリさんだけを狙う。ポリさんの丁度下にいるカブトはかすり傷一つ負わないように細やかに調節されている優れものだ。

 

 自身に跳ね返ってきた『はかいこうせん』にポリさんは何一つ動じていない。いや、もしかしたら反動で動けないだけなのかもしれない。彼女は自身に迫るその光線をただボンヤリと見つめるだけだった。カブトが反射された『はかいこうせん』から彼女を守ろうとして咄嗟に行動するべく動き始めたその時、

 

 跳ね返されたその光線は再び放たれた全く同じものに相殺された。辺り一面に見境なく吹き荒れる破壊の嵐、二本の『はかいこうせん』の激突の衝撃で巻き起こった爆風が彼女らの視界を奪い去る。視界を砂嵐が遮っている隙にトリさんが砂煙に紛れて『じこさいせい』で回復しようとしたその瞬間、

 

 さらに三本連続で同時に発射された『はかいこうせん』が彼女の体を撃ち抜いた。

 

 大きく吹き飛ばされて地面に叩きつけられるトリさん。かろうじて生きているもののその傷は浅くは無い。だが、トリさんのことだからその内回復する筈だ。

 

「ちょっとポリさん! なんて事してるんですか⁉︎」

 

 突然のポリさんの蛮行に驚くカブト。こんな事、貴方のパーティーでは日常茶飯事ですよ? 

 

『あはっ、見て見てカブトさん! 私、こんなに強くなったよ! これでもう役立たずは卒業だね!』

 

 好きな人の役に立てるのが心底嬉しくて仕方がない、といった様にポリさんはクルクルと回転する。

 

「ポリさんは昔から役立たずから程遠かったじゃ無いですか。いや、それより何でトリさんを攻撃したんですか⁉︎同じ仲間ですよね⁉︎」

 

 生憎とキミの手持ちに仲間意識がある奴なんて一人もいないんだぜカブト君。だが哀れにもこの男はそんな事にも気づいていない。頭グランデシアかよ。

 

『仲……間……? あのトリトドンが? ナイナイ、そんな訳ないよね! だってカブトさんの頼れる手持ちポケモンは私だけで十分なんだから!』

 

 相も変わらずその場でクルクル回り続けるトリさん。心なしか回転が先程より早くなった気がする。

 

「いや、トリさんは仲間ですからね! そりゃポリさんは頼りにしたますけど、ちゃんと他にも仲間がいますから!」

 

 そこでカブトは唐突に気が付いた。トリさん回復させるの忘れていた事に。トリさんを助けに行こうと未だ回転を続けるポリさんに背を向けると唐突にその体に衝撃が走った。

 

「うおあああっ!」

 

 カブトはうつ伏せの状態で地面に倒れ伏すと背中に何者かがよじ登ってくる感触を感じた。もはや誰かなど考える必要すらない、十中八九ポリさんだ。

 

『十万ボルトを受けてまだ意識を保っているとかカブトさん本当に人間なの?』

 

「ちょっと驚いたけど段々痺れも取れてきました。流石に悪戯の度が過ぎますよ、ポリさん。これ、僕以外にやっちゃダメですからね」

 

 十万ボルトを受けてもピンピンしている。これがマサラ(キッサキタイプ)クオリティー。半分だけでもこれなら完全体はおそらく化け物だ。多分電気を吸収してエネルギーに変えることくらいはできるんじゃないかな? 

 

『分かったー! 他の人には破壊光線にしておくね! そんな事よりカブトさん、何で私以外のポケモン連れてるの?』

 

 ヒョコヒョコとカブトの顔の前まで回り込んだポリさんは、カブトの目をその焦点の定まらないグルグル目で見据える。流石にカブトも不気味に思ったのかサッと目をそらしてしまう。だが、その行為を気に入らなかったポリさんは『サイコキネシス』を使い、カブトの首を捻り上げて自身と目を合わせる様に調節する。

 

(首の骨の折れる音)

 

「痛っ!」

 

 ゴキッという明らかに危険な音がしたが大丈夫だろう。だってカブトだし。お前は人間じゃねぇ! 

 

『ねぇ、カブトさん。どうして目をそらすの? ちゃんとコッチ見てよ。私、貴方の為にこんなに頑張ってるんだよ? カブトさんの為にこんな姿になった様なものなんだよ? なのに何でカブトさんは私以外のポケモン使ってるの? それっておかしくない?』

 

「おかしくないと思いますけど」

 

 その答えを聞いた途端、彼女はカブトの体に『十万ボルト』を流し込む。カブトの顔が苦痛に歪むがポリさんは気にした様子もなく会話を続ける。

 

『安心して、カブトさんは絶対に絶滅させないよ。ただそこで暫く動けなくなってもらうだけ。ただ他のポケモンには絶滅してもらうね。カブトさんのポケモンは私一人で十分なんだよ』

 

 倒れ伏すカブトにそう告げると、ポリさんはその両腕を広げて空へと羽ばたこうとする。お前、飛べたんかい! というツッコミも程々におそらく彼女は、未だにいがみ合っているカブトの手持ちポケモンを上空から『はかいこうせん』で強襲するつもりなのだろう。成功すればそれは間違いなく強力な攻撃になるに違いない。

 

 ただし、成功すればの話だが。

 

「ちょっと悪戯の度が過ぎますよ、ポリさん。ちょっとお説教しますから四十八時間くらいは覚悟しておいて下さいね」

 

 地べたに体を這いつけていたカブトが、突如として麻痺から復帰してポリさんの体を地面に引き摺り落としたのだ。発狂しているポリさんもこれには驚愕。声も出なかった。

 

『えっ、やだー。絶滅させるのー! 私だけがカブトさんの役に立てて頼れるポケモンなんだって証明するのー!』

 

 カブトに掴まれてもジタバタと暴れるポリさん。

 

「ポリさんが頼れる事はよく分かっているのでそんな事しなくて大丈夫です。さぁ、行きますよ」

 

 こうしてカブトはポリさんを引っ張って説教コースへと入っていってしまった。ちょっと強靭過ぎないかこの男。




カブト
今回だけで十万ボルトを食らわせられたり、破壊光線をスレスレに打たれたり、サイコキネシスで首の骨折られたりと散々な目にあった。

ポリさん
ようやく進化成功。
おめでとう、おめでとう、おめでとう!
狂気系にしたかったけど周りの奴らが既に狂気すぎて相対的に良い子になってしまった。

トリさん
今回の被害者枠。


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VSストーカー2

どうせシンオウ編最後のバトルだし書いてみようと思ったら5000字に収まらなくなって前後編。これでもバトルの展開削ったんすよ……。


ジラーチ『私は願いを叶えるポケモン。なんでも願いを聞いてあげよう』

アオギリ太『海だ!世界を海で満たすのです!』

ジラーチ『成る程、よく分かった』






ジラーチ『アンケートへのご協力、感謝する』


 ポリゴンZに進化した事で制御不能のバーサーカーと化したポリさんに協調性というものを教え込もうとしたカブト。しかし彼女は一筋縄ではいかず、何度教え込んでも手持ちを滅亡させて自分こそが最も頼れる事をカブトに証明する事に拘っていた。

 

 だが長きに渡る戦いの結果、何とかカブトの目の届く範囲で人やポケモンを絶滅させようとしない、という事を了承させる事に成功したのだった。

 

 そして新しく仲間を迎え入れたカブトは、彼の故郷キッサキシティへと再び舞い戻ってきたのであった。

 

「ただいまー」

 

 久しぶりの我が家の扉を開ける。この中でこの家を知っているのはユキちゃんだけだ。他のポケモン達は皆もの珍しそうに内装を眺めている。

 

「おかえり! カブトくん! 久しぶり!」

 

「ほぼ毎日話はしてたじゃないですか……。はい、ただいま戻りました。スズナさん」

 

 突然現れてカブトを抱きしめる女に警戒心と嫉妬心を露わにする手持ちポケモン達。ボールに入った状態でもガタガタと震えて抗議の意を示す。彼女はキッサキジムリーダーのスズナ。カブトが旅に出た後、何故か我がもの顔でカブトの家に住み着いていたダイヤモンドダストガールである。

 

「てか、合鍵渡してましたっけ?」

 

 至極真っ当なカブトの疑問にスズナは懐から取り出した鍵を見せつける。

 

「うん、鍵はちゃんとここにあるよ」

 

 それを見てカブトの疑問は解消された。どうやら覚えていないだけで合鍵を渡していたらしい、と。

 実際の所は、彼女がカブトの隙をついて勝手に作った合鍵なのだがそれは知らぬが仏というやつであろう。ちなみに、スズナはカブトと同居している祖母にはカブトから合鍵を貰ったと伝えて誤魔化してある。外堀から埋めていくスタイルだ。彼女はカブトのいない間に家にカメラを仕掛けたりやりたい放題だったがそれを知るものは誰一人としていない。

 

 そうやって二人で感動の再会? を楽しんでいると、そこにのそりのそりと新たな人物がやって来た。

 

『あら、カブトくん。久しぶりね、旅はどうだった?』

 

 玄関近くの部屋からひょこりと顔を覗かせたのは、僅かな風でなびく金髪と厚い唇が特徴的な女性。煌びやかな赤いドレスをその身に纏いパッチリと開かれた目は非常に人の目を惹くであろうこと間違い無しだ。しかも性格は温厚で仕草も気品が漂っている。何て素晴らしい女性なんだ! 

 

 ここまで言えばもうお分かりですね? 

 

 そう、彼女はカブトの祖母の手持ちポケモン、ルージュラの『まさこ』さんだ。

 

 余談ではあるが、まさこさんはキッサキ神殿に封じられている某ポケモンがかつて封印を破って暴れ始めた時に、いくら某ワロスにスロースタートというハンデがあったとは言え伝説のポケモン相手にタイマンで勝利して再封印したというトチ狂った実績を持っている。

 

「あっ、まさこさん! お久しぶりです。お元気でしたか? ユキちゃんもボールの中で喜んでますよ!」

 

 旅を経て強くなった事で力の差をよりヒシヒシと感じて、ガタガタと震えているユキちゃん入りのボールを手に取ったカブトは満面の笑みでまさこさんに挨拶を返す。このトレーナーはポケモンの気持ちが分からない……。

 

『あらあら、そんな怯えなくても良いのに。それよりカブトくん、男子三日あわざれば何とやらね。本当に立派になって……』

 

 このポケモン、すっかりおかん気取りである。若干涙ぐんでいるまさこさんの隣にやって来たのはカブトの祖母、まさこさんのトレーナーだ。

 

「おお、おかえり。随分と時間がかかっとるが寄り道でもして来たのかい? もっと早く戻って来ると思っていたよ」

 

 なお、このお婆ちゃんジム戦全てを三日以内でこなして来ると思っていた模様。そんなバケモノムーブできる奴はこの世に居ないから。え? 昔やった事がある? …………は? (困惑)

 

「お婆ちゃんただいまー。ここが最後のジム戦。スズナさんがラストのジムリーダーだよ」

 

 自身の祖母の言葉に何一つツッコミを入れずにジム戦に向かう意思表示をするカブト。もはやこの程度では動じない。そう、この男は旅を経て精神的に一歩も二歩も成長したのだ。頭脳面は考えないものとする。

 

「へえ、そうなのかい。ならスズナ、相手してやりな」

 

「はい! 分かりました! じゃあ、カブトくん。ジムで待っているからね! ちゃんと気合入れてこないとスズナには勝てないよ!」

 

 顔つきがジムリーダーのそれとなったスズナは家から出てキッサキジムへと向かっていった。おそらく今からジム戦の準備をするのだろう。

 

 これが最後のバッジ、そう考えると緊張して来たカブトは自分の頬を叩いて気合を入れ直そうとする。しかし未だに若干体は強張ったままだ。

 

『大丈夫よカブト、これまで培ってきた貴方と私の力を信じなさい。普段通りに戦えば万が一も億が一も起こることはないわ』

 

 そんなカブトの姿を見て真っ先に声を掛けたのはやはりユキちゃん。勝手にボールから出てきた彼女はカブトの頬をその手で撫でながら、先程までの震えていた姿とは大違いに毅然とした言葉でカブトを励ました。

 さらっと他のポケモンを戦力外扱いしてる辺り、今日も今日とて平常運転らしい。

 

「ありがとうございます、ユキちゃん。スズナさんは強敵ですが必ずや勝利を奪い取りましょう」

 

 ユキちゃんの言葉で闘志に火が付いたカブトは、無意味に服を翻して颯爽とキッサキジムへと向かうのであった。

 

 

 ★★★★★★★★

 

「ルールは3対3の道具無し。これで構わないかな?」

 

「ええ、問題ありません」

 

 キッサキジムのギミックを攻略してジムリーダー、スズナの前に立つカブト。ここに至るまでに幾人もの顔見知りジムトレーナーを粉砕してきた。普段浮かべているのほほんとした表情とは大きく異なり、敗北など微塵も考えていないといった表情でスズナを睨み付ける。彼女はそんな珍しい表情も良い! と喜んでいたが。集中しろよ。

 

「気合十分! って感じだね! でもスズナは負けないよ!」

 

「僕もここまで来て負けるわけにはいかないのです。気合で蹴散らしますので恨みない様に」

 

「それでは、バトル開始!」

 

 バトル開始の宣言とともに互いの先発ポケモンを繰り出した。

 

「ポリさん、バトルスタンバイ!」

 

『任せて! どんな奴が来ても絶対に絶滅させるから! 私が一番役に立てるって証明してあげる!』

 

 カブトが繰り出したのは挙動のおかしさに定評のあるポリさん。彼女の意気込みは十分。狂気に染まったその力を遺憾無く発揮しようと張り切っている。彼女の狂気に触れた性格ではトレーナーを狙いかねないが今回は大丈夫な様だ。

 

「行け! ユキノオー!」

 

 対してスズナが繰り出したのはその体に大雪を纏わせた草木の巨人。そいつがフィールドに足をつけると地響きが起こる。何とこのユキノオー、通常の個体より一回りも二回りも大きい姿をしている。まさしく『雪の王』に相応しい体軀を持つポケモンだ。

 

 ユキノオーの登場とともにアリーナの気温が大幅に下がって『あられ』が降り始める。ユキノオーの特性、『ゆきふらし』の効果で天候を操作したのだ。

 

「ポリさん!」

 

「ユキノオー!」

 

「『わるだくみ』!」

 

「『オーロラベール』を展開して!」

 

 指示はほぼ同時。ポリさんは『わるだくみ』の指示を受けて、その怪しげな挙動を更に危険極まりない動きへと変貌させる。

 ユキノオーは自身を覆う様なオーロラを展開。これによってユキノオーは並大抵では倒れ無い防御能力を得た。

 

 序盤の展開は互いに上々。故に戦いはここからが本番だ。

 

「ポリさん! 『こうそくいどう』で撹乱しつつ『テクスチャー』虫タイプ! タイミングは僕に合わせて!」

 

『わかったー!』

 

 本当に分かってるのかと問いただしたくなる様な気の抜けたセリフと共にポリさんはユキノオーを中心に滅茶苦茶に駆け回る。ユキノオーは最初こそ目でポリさんの姿を捉えていたものの、次第にその姿を目視する事が出来なくなってしまった。

 

「今だ! 『シグナルビーム』!」

 

 ユキノオーが完全にポリさんを見失ったその一瞬の隙を突き『シグナルビーム』がその巨体に突き刺さる。苦悶の声をあげるユキノオーから察するに『わるだくみ』で高められた威力は『オーロラベール』による防御も貫いてかなりのダメージを与えた様だ。

 

「ユキノオー! 『ふぶき』で一掃して!」

 

 しかし、その勝利も一瞬。すぐさま体勢を立て直したユキノオーが天候の『あられ』を利用して広範囲に『ふぶき』を放つ。これでは幾ら『こうそくいどう』で素早さを上げても躱しきれ無い。ならば、

 

「『まもる』だ! ポリさん!」

 

 その全身全霊を防御に特化させる。これならば幾ら全方位『ふぶき』であろうと身を守れる。しかしその程度で防ぎ切れるほどジムリーダーは甘くない。

 

『ふぶき』による視界妨害を利用したユキノオーは、その巨体に見合わない素早い動きでポリさんに接近する。気がついた所でもう遅い。先程『まもる』に力を割いたポリさんでは次の攻撃を防ぐ事も躱すこともできはし無い。

 

「『ウッドハンマー』!」

 

 ユキノオーの持つその巨腕が回避もままならないポリさんを打ち砕く。無残にも錐揉み回転をしながら吹き飛ばされ壁に打ち付けられるポリさん。その性能をほぼ攻撃に回してしまったが故の彼女の紙の如き耐久ではあの高威力『ウッドハンマー』を耐え切ることは難しい。

 

 だが、彼女はそれ程のダメージを負いながらも立ち上がって見せた。これにはスズナもユキノオーも驚きを隠せ無い。何故紙耐久のポリさんが耐え切れたのか。それは彼女が『ふぶき』を受ける前にあらかじめカブトに指示されていた『テクスチャー2』で炎タイプへと変化していたから……ではない。確かにタイプ変化でワンチャンにかける事を指示したのはカブトだ。しかし、それだけではポリさんは耐え切れなかった。彼女がこうして立ち上がる事が出来た訳、それはポリさんがカブトにかける想いの強さにある。異形の姿になってでもカブトの役に立ちたいという願い、即ち……

 

 

 

 愛情補正である(自棄っぱち)

 

 

「ポリさん、まだ行けますか?」

 

 再び立ち上がったポリさんに体力の確認を取る。当然彼女がそれを否定する筈も無く戦闘続行の意思を見せた。

 

『まだまだだよ! まだ私が一番役に立つって証明出来ていないからね!』

 

 気丈に振る舞って見せるがその体力はもはや僅か。次の攻撃どころか『あられ』にすら対応できるか分からない。だからこそ、カブト達は次の一撃に全てをかける事にした。

 

「ポリさん! 『テクスチャー』ノーマル! 『はかいこうせん』!」

 

 取った作戦は最大火力による一撃必殺。タイプをノーマルに戻した事でより強力になった『はかいこうせん』がユキノオーを襲う。

 

「ユキノオー! 『リーフストーム』で迎え撃って!」

 

 スズナが選んだのは最大火力の攻撃技による相殺。『まもる』による防御も考えたが、それを選んではいけないと告げる直感に従って攻撃技で押し切る事を選んだのだ。

 

 大量の草木を巻き上げる嵐と、眩い極光を放つ極太の光線が正面から激突する。最初こそ拮抗していたものの、時間経過とともに徐々に『リーフストーム』が押され始める。そして遂には『はかいこうせん』が『リーフストーム』を呑み込みユキノオーへと突き進んだ。

 

 だが、『リーフストーム』で火力の大半を削られた『はかいこうせん』を耐える事など訳もない。その攻撃の直撃を受けてもユキノオーはピンピンしている。

 

 勝利を確信したスズナがユキノオーに指示を出そうとしたその瞬間、ポリさんから新たに4本の『はかいこうせん』がユキノオーの身体を穿ち貫いた。

 

 静かに倒れ伏すユキノオーを見て呆然としたスズナが一言。

 

「え? 『はかいこうせん』って連射できたの?」

 

 誰だってそーなる俺もそーなる。破壊光線ゴレンダァなどと誰が予想できたものか。

 

「ユキノオー戦闘不能。ポリゴンZの勝ち!」

 

 審判が判決を下す。幾ら訳の分からない事が起きようとそれが事実なのだ。すぐに回復したスズナも気合を入れ直して新たなポケモンを繰り出すべくボールを構える。

 

 そしてカブトはポリさんを労っていた。

 

『カブトさん、私はちゃんと貴方の役に立てた?』

 

「お疲れ様、ポリさん。頼りになりましたよ。後は休んでてください」

 

『ああ、安心した』

 

 そう言い残すと彼女はボールの中へと戻っていった。彼女の今の状態ではこれ以上この試合で戦わせるのは無理があるだろう。実質的に戦闘不能である。

 

 互いに次のポケモンの入ったボールを握りしめて睨み合う。

 

 俺たちの戦いはこれからだ!




カブト
いよいよ最後のジム戦。え?四つくらいジムを飛ばされた?何のことかなー?

ポリさん
これは証明だ。僕にもこおりタイプくらい倒せるってね……!出来ればもっと滅茶苦茶な発狂具合を書きたかったが、色々な都合でカット。

スズナ
言わずと知れたストーカー兼ジムリーダー。今回はジムリーダー側面強め。

こおりタイプ弱点組
冬眠した。

祖母
強さアピールに余念が無いが出番は無い。そして今回が最後の出番となるのだ。これから多分出てこない。

まさこ
[削除済み]


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VSストーカー3

慣れないバトル描写をしたせいで微妙な感じに……。バトル描写で文字数食われて残念。

ジラーチえもん『私はなんでも願いを叶えるポケモン。さぁ、願いを言ってみろ』

マツブサ太「うわぁーん、ジラーチえもん、アオギリアンが僕を虐めるんだ!』

ジラーチえもん『仕方ないなぁ……。てっててーん!出刃包丁!こいつでアオギリアンを刺してきな』

マツブサ太「このジラーチ、この世すべての悪に汚染されてやがる……」


「マンムー頼んだよ!」

 

「ルカちゃん、チャームアップ!」

 

 スズナの二匹目はマンムー。先程のユキノオーを遥かに上回る巨体と鋭く太い氷の牙が特徴的なポケモンだ。

 

 対するカブトのポケモンはルカリオのルカちゃん。口上統一しろよ。相性なら悪くない。むしろ良い部類だ。だが、マンムーに下手な攻撃を許してしまえばルカちゃんはあえなく倒されてしまうだろう。

 

 だが、このルカちゃんとカブトの相性は非常に良い。このペアは無言指示を実現して、更には共振効果で互いの波導が上がっているので相手の行動の先読みもできる。つまり滅茶苦茶強キャラアピールができるという事だ。

 

 マンムー対ルカちゃん。開幕と同時にルカちゃんがカブトの考えを読み取り『つるぎのまい』と『はどうだん』を同時に併用してマンムーの巨体を狙い撃つ。

 

 本来ならばジムリーダーが育てた事も加味してマンムーの耐久がかなり高いと推察し、より威力の高い格闘技を撃ち込む事が正しいのかもしれ無い。マンムーは見ての通りの図体故に回避能力は著しく低い。

 だが、ルカちゃんとカブトの二人はこのマンムーの特性は『ゆきがくれ』と読み取っている。

 それだけならば、幾ら姿を隠そうとも通常の波導で索敵出来るが、スズナは格闘タイプジムリーダーのスモモとの親交を持っている。格闘タイプのルカリオを対策して何か仕込んでいてもおかしくない。

 下手に近づくのは危険かもしれない。だからこその最も信頼をおく必中の『はどうだん』だ。

 

「マンムー! 『じしん』!」

 

『はどうだん』を打ち込まれてもまるで堪えた様子の無いマンムーがその前足を大地に叩きつけて地震を巻き起こす。地面に叩き込まれたその力はフィールドを抉り、砕き、大きな振動と共にルカちゃんの細身の身体を打ち砕かんと唸りを上げる。

 

 だがそんな事は、カブトとルカちゃんの二人ともが読み取っていた。波導による『読み』は推測などの不確定な『読み』では無く、ある種エスパーの『読心』に近いものがある。相手の心理を読み解きその行動を正確に把握する。全ての作戦は筒抜けといっても過言では無い。

 

 だからこそ、スズナ達が『じしん』を躱される事を前提に『じだんだ』の発動準備に入っている事も読み取れている。それはカブトの実力を信じた結果の行動なのだろう。

 

「ルカちゃん。避けるな『こらえる』」

 

 故にカブトとルカちゃんの取った行動はその場で『じしん』を受けて立つ事。「よけろ」という指示は多くとも「避けるな」という指示は珍しい。そして、カブトの考えを読み取ったルカちゃんは独自に『つるぎのまい』も加えて流れる様に攻撃を捌いていく。

 

 迫りくる岩石の弾丸や衝撃を真正面から受けて立ち、ボロボロになった姿でフィールドで立ち続けるルカちゃん。丁度『あられ』も解除されて天井からさす光が彼女を照らしだす。

 もしマンムーが『こおりのつぶて』を発動させる事ができれば彼女を倒す事が出来ただろう。だが、マンムーは既に『じだんだ』の発動体勢に入っている。

 

 故にルカちゃんの攻撃の方が早い。

 

「『あられ』も止みましたし反撃開始ですかね。ルカちゃん、『きしかいせい』!」

 

『しんそく』を併用してマンムーの懐に潜り込んだルカちゃんは、今にも大地に振り下ろされそうなマンムーの右足を蹴り上げ、掴み取り、ジャイアントスイングの要領でその巨大な体を投げ飛ばす。

 

『きしかいせい』は体力が低い時に威力を上げる一発逆転の技。今のルカちゃんが放つ『きしかいせい』はかなりの威力のものだろう。

 

 砂煙を巻き上げながら倒れ込むマンムー。『きしかいせい』で倒れなかったのは流石だが、受けたダメージ量とその巨大な図体を持つが故に立ち上がる事ができ無い。

 

「『はどうだん』でトドメです」

 

 あの体勢では『こおりのつぶて』は打てないだろうと確信して、目の前に倒れ伏す古代生物を片手だけで生成した『はどうだん』で撃ち抜くルカちゃん。

 

「マンムー戦闘不能。ルカリオの勝ち!」

 

 予想通り『はどうだん』を受けたマンムーはそのまま動かなくなる。これで2勝。次が最後の戦いだとカブトは気合を入れ直す。

 

「予想はしてたけどこんなに強くなってるなんてね。よーし、スズナのとっておき、見せてあげるんだから! 行け! ユキメノコ!」

 

 とっておきとして最後に繰り出されたのはユキメノコ。予め前準備でもしていたのか、ボールから出ると同時に『あられ』を降らして『オーロラベール』を展開する。

 

 ルカちゃんの相性自体は良い。だが、マンムーとの戦いで体力を削られすぎた事で『あられ』のフィールド下でこれ以上戦う事はほぼ不可能だ。

 

「ユキメノコ! 『こおりのつぶて』!」

 

「ルカちゃん! 『バレットパンチ』!」

 

 弾丸の如きスピードで打ち出される鋼の拳。それは投げつけられた氷柱の短剣をも軽々と打ち砕きユキメノコの華奢な身体に打ち付けられる。

 だが、彼女を守る様に展開されたオーロラや同時展開された『リフレクター』と『ひかりのかべ』がその攻撃によるダメージを限りなく0へと抑え込む。

 

 最後の足掻きも無駄に終わってしまったルカちゃんは力尽きて地面に膝をつける。

 

「ルカちゃん、お疲れ様でした。後は休んでいてください」

 

『私はずっとお前を見守っているぞ』

 

 何この子怖い。謎の言葉を言い残してボールへと戻るルカちゃん。これで残るは互いに一対一。

 

 カブトはプレミアボールを手に取ると静かに笑った。奇しくもユキメノコ同士の戦いになったのは面白いと。

 

「ユキちゃん、君に決めた! ……逆に此処でユキちゃんじゃなきゃ誰だよって聞きたいレベルさ!」

 

 相変わらず統一し無い口上で最後の一匹、カブトの最も信頼するポケモンであるユキちゃんを召喚する。

 

『ええ、任せなさい。あの程度の相手に私とカブトが負けるはず無いもの』

 

 そして彼女はフワリと空へと浮かび上がる。スズナのユキメノコもそれに呼応する様に同じく戦いの場を空中へと移した。

 

「ユキメノコ!」

 

「ユキちゃん!」

 

「「『シャドーボール』!」」

 

 対峙したユキメノコがそれぞれ放つ『シャドーボール』。しかし、同じ技であろうとも互いに撃ち方は別々で差があった。スズナのユキメノコは身体の中心部で霊力を凝縮させた黒い球体を投げつけるスタイル。

 対してユキちゃんは仰々しく開かれた両手にそれぞれ『シャドーボール』を展開するスタイル。

 一見すれば二つ持ちのユキちゃんが有利に見えるが、『シャドーボール』本体の大きさはスズナのユキメノコの方が上である。

 

 この二刀流スタイルはユキちゃんがカブトの元で修練を積み重ねて作り上げたものだ。

 習得理由が多方面からやってくる邪魔な女を同時に抹殺する為とかいう理由じゃなければ、ポケモンとトレーナーの絆の結晶と主張できたのに……。

 

 兎も角、互いに発動した『シャドーボール』をぶつけ合う。ユキメノコは身体から押し出す様に投げ飛ばし、ユキちゃんは素晴らしいアンダースローのモーションで怨念の塊を解き放つ。

 それらは空中でぶつかり合うと拮抗するが、やがてユキちゃんの『シャドーボール』が押し切られてそのまま消滅してしまう。大して勢いを殺されてい無いユキメノコの『シャドーボール』はユキちゃんの華奢な身体に突き刺さると爆裂しその身体を大きく跳躍させた。

 

「ユキちゃん!」

 

 浮遊していた空中から叩き落とされて地面にバウンドするユキちゃんの身を案じて声を上げるカブト。その心配は無用だと、ユキちゃんは立ち上がってユキメノコを睨み付ける。そして冷たく笑って一言。

 

『問題無いわ。計画通りよ』

 

 その姿を見てカブトも

 

「良かった。計画通りですね」

 

 同じ様に笑って見せた。

 

 

 

 

『シャドーボール』を当ててご満悦なユキメノコとスズナは完全に見落としていた。ユキちゃんは『シャドーボール』を二つ生成していた事に。先の爆発で消滅したのは一つだけ。ならば残る一つは放たれ無いまま消滅したのか? いいや、そんな筈が無い。既にそれは爆発に乗じて打ち出されていたのだ。

 

「『サイコキネシス』」

 

 静かに告げられるエスパータイプの技。その指示を聞いてスズナ達は警戒するがもう遅い。丁度ユキメノコの真下から直角に飛び上がる様に打ち上げられた黒いエネルギー体は、完全に死角からユキメノコを撃ち抜いて見せた。

 

「そんな! ユキメノコ!」

 

「ユキちゃん! 『ふぶき』!」

 

 空中で無防備な姿を晒したユキメノコに対して、ユキちゃんはこおりタイプの中で最も範囲が大きく破壊力のある技でトドメを刺しに向かう。白銀の嵐によって吹き飛ばされたユキメノコは盛大に地面へと打ち据えられてしまった。

 

「カブトくん、最初からこれを狙って……?」

 

「ええ、ユキちゃんが宙に浮かんで戦っていた事も視線を上に固定しておく為です」

 

 カブトとユキちゃんはこの戦いに向かうに当たって一つ作戦を立てておいた。それは『シャドーボール』を二つ生成できるユキちゃんの性質を利用して、片方を囮にしてもう片方を確実に当てる作戦だ。空中戦へと持ち込んで視線を下に向けさせず、もう片方の『シャドーボール』を『サイコキネシス』で操作して地面に這わせておく事で意表をつく事が目的だったのだ。もっとも、これが上手く行かなくても第二第三の作戦を決行するだけだったが。

 

 地面に這いつくばったユキメノコに静かに近づくユキちゃん。その手には二つの『シャドーボール』。大きさは先程までとは違って二つとも通常サイズ、もう欺く必要は無いのだ。

 対照的にユキメノコは身体を殆ど動かせなかった。何故ならばそこでおかしな現象が起こっていたからだ。ユキメノコの下半身は凍り付き地面に縫い止められていたのだ。

 

 本来、こおりタイプは凍らない。だが、ユキちゃんなら話は別だ。彼女は常日頃から他者を凍り付かせる訓練を一日足りとも惜しまなかったのだ。ユキちゃんは難攻不落のカブトを氷漬けにする為に、必死で毎日毎日氷技の強化に余念が無かった。そして遂にその技はこおりタイプすら凍らせる程へと進化を果たしていたのだった! 

 

 本当に理由と習得過程さえ伏せていれば感動的なのに。

 

「っ! ユキメノコ! 『シャドーボール』!」

 

 スズナもその不可解な現象に気がつくも、動きを行わない技の発動をユキメノコに指示する。

 彼女を最後まで守り続けたオーロラが彼女の盾になったのか、まだユキメノコは技の発動ならばできる様だ。その手に霊力を凝縮させて『シャドーボール』を生成しようとするが……失敗。

 ユキメノコの手には怪しげな黒いエネルギー体の鎖が巻きついており、それが『シャドーボール』の発動を妨害したのだ。

 

「これは……?」

 

「『のろわれボディ』やっぱ反撃の目は潰しおくに限りますね」

 

 ユキちゃんが態と『シャドーボール』を受ける事で特性『のろわれボディ』を発動させてユキメノコの『シャドーボール』を封印するという捨て身作戦。誰が考えたんだこんな本末転倒作戦! 全部カブトって奴が悪いんだ。

 

 ユキメノコの前に立ったユキちゃんは、『シャドーボール』を解除してその手に集めた霊力を霧散させる。これには流石のカブトも困惑。だが、ユキちゃんの事だから何か考えがあるのだろうと彼女を信じて見守る事に決めた様だ。

 

 ユキちゃんはその場でしゃがみ込み、大地に磔にされたユキメノコの顔に手を伸ばす。

 

『『ぜったいれいど』カブトと私の愛の結晶よ』

 

 手を離してカブトの元へと戻るユキちゃんの背後には、天井にすら届きうる大きな氷塊が作り上げられていた。それは中にスズナのユキメノコが氷漬けにされていて、氷で出来た愉快なオブジェとしか言いようがない。これは酷い。

 

「ユキちゃん……。新技を見せたい気持ちはわかりますが、これは少々やり過ぎですよ。兎も角、皆さんお疲れ様でした」

 

 その言葉に応える様にカタカタとボールが揺れ動く。

 

「あー、負けちゃった。でも良い勝負だったしスズナは満足してるよ。はい! これ!」

 

 ボール越しにコミュニケーションを取るカブトの元へと近づいたスズナはジム戦の勝者にジムバッジを差し出した。

 

「ありがとうございます。これで後はポケモンリーグて優勝するだけですね」

 

「うん! カブトくんならきっと優勝出来るよ! スズナも応援するから頑張ってね!」

 

 はーい、と気の抜ける様な返事を残してカブトは自分の家へと戻る為の帰路へとついた。

 そんな彼の後ろ姿を見送った後、スズナはジム内に仕掛けられた監視カメラを回収してそれを彼女の部屋へと持ち帰る。当然の如く、その部屋には所狭しとカブトを隠し撮りした写真が貼り付けられていて360度どこを向いても写真の無い場所がない程だ。それどころか、以前より段違いにカブトの持ち物が回収されている。勝手に家に侵入していただけの事はあると言う事か……。

 

 そんな彼女が新しく手に入れたカブトの写真を録音した最新のカブトの声をBGMに観賞しようと監視カメラに手を伸ばしたその瞬間、

 

「失礼しますスズナさん! 夕食一緒に食べませんか!」

 

 バン! とドアを開けられて一人の男が中に入ってきた。この様な所業を平然と行うのは言うまでもなくカブトのみ。人の部屋に入る時はちゃんとノックしてから入るという常識を彼は何処かに投げ捨ててきたらしい。しかもそれ以前の問題として、幾ら気心の知れた仲とはいえ普通に他人、しかも女性の家に侵入している辺り擁護できない。普通ならジュンサーさんに捕まるところだ。というより早くこの男を突き出せ。それが世の為人の為だ。

 

「ええっ! ちょっとカブトくん! なんで入ってきてるの⁉︎」

 

「すみません、ドアが空いてたもので」

 

 駄目だコイツ……、早く何とかしないと……。しかし、スズナはスズナで隠し撮りや盗品だらけでどっちもどっちと言えなくも無い。

 

 そんな犯罪者予備軍なスズナの部屋に、『はかいのいでんし』を使用して常時混乱状態のカブトが入り込んでしまった。そう、あの隠し撮りだらけの部屋にだ。流石の鈍感(嘲笑)系のカブトもこれには何かしらの異常を感じるだろう。頼むから感じてくれ、お願いします! 

 

「これは……」

 

 ぐるり、と首を回転させて部屋の全貌を確認するカブト。そこには所狭しと写真が貼り付けられていて、その全てにカブトが写っていた。

 

「あはは、バレちゃった。そうだよ。これは私がカブトくんを……」

 

「ああ、写真が欲しければいつでも頼んでくれたら良かったのに。あっ、今カメラあるので撮りますか?」

 

 まさかの平常心。流石ヤンデレポケモンを束ねる(無自覚)男は格が違った。

 

「アッハイ。じゃあ、お願いします……」

 

 嫌われなかった事に喜んで良いのか、無反応な事に悲しんで良いのか困惑するスズナは謎の勢いに押し切られて遂にツーショット写真を撮ってしまう。それで良いのかダイヤモンドダストガール……。

 

「じゃあ、夕食待ってますので是非来て下さいねー」

 

 そんな呑気な声を出しながらカブトは帰っていった。誰かこの男の混乱を回復して差し上げろ。

 

「結局、何も出来なかったなぁ……」

 

 雪の中へと消えていくカブトの姿を見ながらボンヤリと呟くスズナ。その手には、しっかりと謎の科学力で現像された写真が握られていた。

 

「あっ、鍵閉めとかなきゃ……」

 

 もうなんか色々と振り切れたスズナは考える事を辞めた。取り敢えず今日の夕飯から夜までカブト成分を補給しよう、そう考えて彼女は出発の準備を整えるのであった。

 

 なお、カブトは明日の朝にすぐにチャンピオンロードへと出発したので折角の再会も短く終わってしまった。

 

 哀れスズナさん。君には輝かしい明日が待ってるぜ(適当)!




カブト
擁護不能の不法侵入者。即刻逮捕を願う。

スズナ
コイツも勝手に合鍵作る様な奴だったわ。同類でお似合いだな。

ルカちゃん
こおりタイプを抹殺するウーマン。特殊型だったはずなのに物理技ばっか使ってる事に疑問を覚える今日この頃。

ユキちゃん
本来覚えない技を覚えている特別なユキメノコ。これが愛の力……、色々と目を瞑れば良い話なのに……。


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VS妹なるもの

みんな大好き赤い妹だぞ!やったね!

個人的に好きなヤンデレ(?)は好きな人の前で自殺して自分以外見えなくさせるタイプ。

そんなやつ出さないけどな!


「ユキメノコ、戦闘不能! ダークライの勝ち!」

 

「僕が負けた……」

 

 観客席から湧き上がる歓声。それと同じくらいの諦観の声。誰も彼もがジャイアントキリングを期待していたのだ。そしてそれが出来るのは他ならぬカブト以外あり得ないとも考えていた。

 だが、それは叶わぬ夢。案の定カブトは伝説のポケモンの圧倒的な力の前に破れ去ってしまった。

 

「ごめん、みんな……」

 

 敗者に掛けられる言葉は無い。カブトは対戦相手に礼をしてから静かにスタジアムを去っていったのだった。

 

 一体カブト達に何があったのか? 

 

 

 時間を遡ること数時間前……

 

 

 

 今回のシンオウリーグは例年と比べ異様な空気に包まれていた。それもその筈、何と今大会には伝説のポケモンダークライを連れたトレーナーが参戦しているという。

 

 最年少参加者として注目されていたカブトにもその噂は届いていた。

 正直、カブトには素直に信じられなかった。記憶改竄の結果、朧げになってしまったとはいえあれ程強力な力を持ったポケモンを使役するトレーナーがこの世に存在する事に。

 もし噂が真実で、いざ戦う事になったら負けるかもしれない。そんな弱気な考えが脳裏に過るほどだ。それでも幻のポケモンと戦えるのはとてつもない幸運だ。ある種の喜びもそこには混じっていた。

 

 そして、噂は真実であったと直ぐに知る事になる。

 

 件のトレーナーは噂に違わぬ圧倒的な力で参加者達を蹂躙し続けた。あらゆるトレーナーのポケモンをダークライ一匹で仕留め、他の手持ちを一切晒さずに準決勝まで勝ち上がってきたのだ。

 

 いよいよ対戦の時、カブトは緊張しながらも少しワクワクしていた。野生であれ程の強さを誇っていたダークライがトレーナーに育成されて強化された状態で戦えるのだ。トレーナーなら一度は戦ってみたいと思う筈に違いない。

 恐ろしい強敵である事は間違いないが、カブト達もあれから成長している。自分達の成長を確認する意味でも良い戦いになるとも考えていた。

 

 

 相手のトレーナーは一見すれば何処にでも居そうな普通のトレーナー。あれ程のポケモンを手に入れれば傲慢になってもおかしくないのに、丁寧な物腰が特徴的な好青年だったがその威圧感は間違いなく本物。相当数の場数を踏んでいる事が窺える。

 

 そんな彼を前に高揚したカブトは気合を入れ直す。自分達はいつも通りの戦いをするだけだと。

 

 

 だが、そこで待っていたのはカブトの完全敗北だった。

 

 

 ダークライをメガちゃんとルカちゃんの二人がかりで何とか倒したものの、続くラティオスに奮闘虚しくルカちゃん、ポリさんと敗北。

 ラティオスとカマさんのマッハ対決はカマさんが意地で相討ちへと持ち込んだ。

 ヒードランを激戦の末トリさんが討ち取ったが、四体目に繰り出されたクレセリアの前に破れ去った。

 もう後の無いカブトが最後の希望を託したユキちゃん。だが、クレセリアの『みかづきのまい』で復活したダークライに成す術なく敗北してしまった。

 

 一見すれば接戦。しかし、直接対峙したからこそ分かる圧倒的な力の差。どんな奇策を使おうと完全に対応された。波導パワーで先読みしても更にその先を行かれた。ここまで徹底的に潰されればぐうの音も出なくなる。ポケモンだけの差じゃない、トレーナーとしてのレベルにも差が大きかった。

 戦った彼はポケモンリーグ自体には優勝したものの、チャンピオンを倒して新チャンピオンへと至る事は無かった。それがより一層惨めさに拍車をかける。今のお前では逆立ちしたってチャンピオンには勝てないんだと突きつけられた様なものだ。

 

 この大会で得たものは完膚なきまでの敗北。祖母以外に敗北した事がないカブトにとっては実質初の敗北。今まで勝ち続けてきたカブトにとって敗北は辛い経験だった。

 だが、カブトにとって自分のポケモン達を敗北へと導いてしまった事が何よりも耐えられなかった。彼女らの戦いを見る限り、持っているポテンシャルは対戦相手に数歩劣るもののトレーナーの指示次第では決して追いつけない差では無かったのだ。勝てずとも無様な姿を晒させてしまう事にはならなかった筈だ。

 

 そこでカブトは再び旅に出る事にした。本来、カブトのポケモンはとんでもなく強いのだ。だからこそ、敗北の原因にはそれを上手く引き出せなかったトレーナーサイドに問題がある。故にトレーナー自身のレベルアップを図る為、カブトは自分自身を鍛え直す事に決めたのだ。

 

 再起の旅については今はまだ語るべき時では無い(雰囲気作り)。ただ、今まで育てたユキちゃん達を一時封印してコイキングで地方を制覇する様な無茶苦茶な旅だったということのみ記しておく。流石カブト、やる事が極端。断じて褒めてないからな。

 

 ★★★★★★★★

 

「あれから本当に色々ありましたね」

 

『貴方は頂点に立つのは早いけど滑り落ちるのも早いって事はここ数年で嫌というほど分かったわ』

 

 カブトはユキちゃんを膝の上に乗せて、その綺麗な姿をより一層美しくするために丁寧に毛繕いを始めた。ユキちゃんは膝の上で気持ち良さそうに目を細めている。

 

 今となってはカブトの実力はかつての比ではない。かつてシンオウリーグで惨敗を喫してからそれなりに月日が流れていた。その間本当に色々あったのだが今回は割愛させてもらう。まさかチャンピオン初の防衛戦で敗北するなんて……。一年天下とか言われて恥ずかしく無いの?

 

『お兄さん! ご飯できたよー! 早く屋根の上から降りてきてください!』

 

 ユキちゃんの手入れが終わり、一仕事終えた感を出すカブトに一つの声が届けられる。二人きりの時間を邪魔されたユキちゃんは不機嫌に、カブトはご飯を食べる事を考えて楽しそうに一緒に屋根の上から飛び降りる。

 ユキちゃんの『サイコキネシス』もあり、安全に地面に降り立った二人はそのまま自らを呼ぶ声の元へと歩いていった。

 

『もう、お兄さん! 病み上がりなんですからそんな危険な事しちゃいけません!』

 

「あはは、ごめんね妹ちゃん」

 

 ぷくー、と頬を膨らませてカブトに詰め寄るのは妹ちゃんと呼ばれた謎の美少女。長い赤毛と金色の瞳が特徴的で何故か日中メイド服を着ているよくわからない子だ。多分、コスプレのつもりなのだろう。それなりに似合っている。

 

 そんなコスプレ大好きな少女と同居している事についてもそれなり深い訳があるのだ。

 

 それは遡る事暫く前…………。

 

 

 ある日長期の出向から解放されて自宅に帰る途中で出会ったご近所さんにこう言われた。

 

「あら、カブトさん。あんな可愛らしい妹さんがいるなんて貴方幸せ者ね」

 

「え? 僕に妹さん何ていませんけど?」

 

 妹の存在を否定したカブトを冗談だと思ったのかご近所さんは笑いながら去っていった。誰かと勘違いしてるんじゃないだろうかと首を捻りながら帰路に着くと、その途中で出会う人々皆から同じことを言われるのだ。

 

(え? 何これ怖っ……⁉︎)

 

 何故か自分の預かり知らぬところで周囲に馴染んでいる正体不明の妹の存在。これには流石のカブトも身の毛も立つ様な恐怖を覚えざる負えない。もしかして、いつの間にか並行世界とやらに移動してしまったのかと心配になる程だ。

 

 そんな恐怖体験に身を震わせながらカブトは自宅の扉に手をかける。何時もならカブトを優しく迎え入れてくれる我が家が、今日に限っては鬱屈とした重苦しい空気に包まれている様に感じられてしまう。

 

「た、ただいまーっす」

 

 恐る恐るドアを開ける。恐怖のあまり妙に舐めた様な丁寧語が口をついて出てきたがそれはこの際置いておく。問題はこの後だ。自身の留守に住み着いた妹を名乗る存在との直接対決も視野に入れなければならない。ゴーストタイプのポケモンの可能性も否定できないので、ユキちゃんをボールから出して側に侍らせる。これでいつでも戦闘できる姿が整った。

 

 一歩、一歩、また一歩とゆっくりと歩みを進めて行く。そして、リビングに繋がるドアに手を伸ばそうとしたその瞬間! 

 

『あっ! お帰りお兄さん! ご飯にする? お風呂にする? それとも……?』

 

「あっ、ご飯でお願いします」

 

『わかった! 楽しみにしててね、お兄さん!』

 

「はーい」

 

 突然ドアから飛び出してきた可憐な少女とナチュラルにやり取りをするカブト。勿論、初対面だ。その余りに自然な光景にユキちゃんは一瞬それがさも正しい光景の様に思えたが、すぐに正気に戻った。

 

『ちょっと待って! カブト、あの子誰⁉︎』

 

 カブトが見知らぬ女と会話した事に怒りを示すよりも、真っ先に浮かんだのがあの異様な光景に対する疑問。ある種のホラー染みた展開にユキちゃんは恐怖した。ゴーストタイプの癖に恐怖した! 

 

 カブトはその疑問に暫く考えると、やがて何かに気がついたかの様に目を見開き大声で叫んだ。

 

「誰だアイツ!」

 

 お前も知らんのかい! 

 

 驚愕を顔に貼り付けたままカブトは妹を名乗る何者かが消えた台所へと飛び込む。そして、彼女と二言三言言葉を交わすと納得のいった様な表情で帰ってきた。

 

「あの子、僕の生き別れた妹さんらしいですよ」

 

 えっ、お前それ信じたのかよ……という雰囲気がリビングに流れる。カブトの手持ちの皆もこれには疑問を持たずにはいられないらしい。というよりも、そんな言葉信じる奴今時いる事に驚愕が隠せない様だ。

 

 だが無い話では無い。カブトの両親は既に二人ともカブトを捨てて行方不明だ。何処で隠し子を作っていてもおかしくは無い。成る程、筋は通っている。

 

 

 そんなこんなで約一年程、カブトは自称生き別れの妹と同居生活を営んでいたのだ。

 ちなみにこの妹ちゃん、カブトが留守な事を良い事にご近所さんに挨拶しにいったり、キッサキの祖母に自身の自己紹介をしたりなど完全に外堀を埋めてきていた。…………恐ろしい子だ。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 回想の終了と共にカブトは夕食を食べ終わる。まだ、屋敷のポケモン達は食べている最中だがカブトは一人で寝室へと向かった。

 

「ふぅー、最近妙に疲れが抜けないな……」

 

 カブトは寝室に入るとすぐ様自分のベッドに倒れ込んだ。彼は最近体調を崩して寝込んだばかり。半分だけとはいえマサラ人の血を引くものが体調を崩すというのはかなりの物だ。マサラの血を引くものに影響を与える病は下手な人間では最悪死に至るケースもあり得るだろう。

 

 それが年に一回程度なら普通と言えるかも知れない。だが、キッサキにいた頃風邪などろくに引いた事もない健康体カブトが、ここ数日で何回も倒れるまでに至っている。これはどう考えてもおかしい。

 

「でも病院行ってもなんとも無いんだよなぁ」

 

 あまりにも体調不良が続くので一度病院へ行って診てもらった事もある。だが、結果は異常無し。こうなると病気では無くゴーストタイプのポケモンの仕業である可能性が高いらしいが、カブトに害意を向ける様な存在をカブトのポケモン達が許しているとは考えにくい。

 

「なんなんでしょうね……」

 

 迫りくる睡魔に身を任せてカブトは深い眠りへと落ちていった。

 

 

 そして、その姿を妹ちゃんはじっと見つめていたのであった。

 

 

 ★★★★★★★★★

 

 

『はい、そこを動かないで!』

 

 次の日、カブトは妹ちゃんに介抱されていた。朝起きたら指一本動かす事ができなくなっていたのだ。そして今、ベッドの上から逃げ出そうとしていたカブトは妹ちゃんに押さえつけられている。

 

「妹ちゃん、苦労かけちゃってすみませんね」

 

 彼女が運んでくれる朝食を嫌々ながらも口にしながらカブトは感謝の意を示す。

 体が重くてろくに動く事も出来ないカブトの為に、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる妹ちゃんにはカブトも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 だが、申し訳なさそうな表情をするカブトを意に介さず妹ちゃんは楽しそうに介護を続ける。

 

『大丈夫、お兄さんに早く元気になって欲しいから。これくらいなら全然大丈夫だよ』

 

「妹ちゃんには本当に感謝しています。けどね……」

 

 献身的に看病してくれている妹ちゃんには感謝してもしきれない。だが、カブトはそんな彼女に一つ不満点を持っていた。

 

「ご飯くらい普通に食べさせてくれませんか? 病気移っちゃいますよ?」

 

 そう、彼女は食事を口に運ぶ時に毎回毎回口移しで食べさせていたのだ。流石のカブトもこれには辟易している。

 

『大丈夫、絶対に移らないから。お兄さんだって逃げないって事は満更でもないんでしょ?』

 

「動かないんじゃなくて動けないんですよ。妹ちゃんも拘束してくるし」

 

 その言葉を無視して彼女は次の食事を口に含む。そして、病で本来の力がまるで出せないカブトを無理矢理その場に固定すると、自身の口からカブトの口へと料理を流し込んだ。

 

『ん……』

 

 艶かしい水音を奏でながら妹ちゃんは必要以上にカブトの唇を貪った。もうとっくに料理はカブトの胃の中に流し込まれているにも関わらず、彼女はカブトの口内を蹂躙する事を止めない。

 

 暫くして満足したのか彼女が唇を離すと、ニコリと微笑んでまた新しい料理を口に含む。彼女はこの行為を料理が無くなるまで何度も繰り返し、全ての料理がカブトの胃の中に消えるまでにかなりの時間が経過していた。

 

『ぷはぁ! どう? 美味しかった?』

 

「そうですね。料理自体が美味しかった事は間違い無いですが、次からは普通に食べさせてくれるとありがたいです。痛切に。これは絶対兄妹間の距離じゃないですよね!後、いつも思うんですけど妹ちゃんの肌触り何かおかしく無いですか?もふもふしてて羽毛みたいな……」

 

 それだけ言うと、急にカブトはその場で倒れる様に再び眠ってしまった。何か薬でも盛られたのだろうか。そんな彼の顔を愛おしげに撫でると、妹ちゃんはその場を後にする。

 

『それ以上はだーめ。おやすみ、お兄さん。またちゃーんと元気になってね』




カブト
なんか知らん間に月日が経っていた。話の都合や、許せ。家に見知らぬ人物が家族名乗って出入りしている事実って客観的に見てホラーでしかない。

ユキちゃん
出番少ない!

妹ちゃん
勝手に家に出入りしちゃうけどとっても良い子なんです!ほら、病気のカブトくんを甲斐甲斐しく世話してるし!これは間違いなく本物の妹ちゃんだ!

対戦相手のトレーナー

友情出演。多分もう出番の二度と無いモブトレーナー。


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VS妹なるもの2

ポケドル編までが遠い。しかもここから少し長編入れようと考えてる。
外出自粛のおかげで通学時間が無くなった事で続きを書いてる時間が無い。
サーナイトをどんなタイプのヤンデレにするかで悩む。ある程度案はあるけど。

どれだけの人が読んでくれているかは分からないですけど、これからもゆったりと更新していくつもりです。


『おやすみ、お兄さん。またちゃーんと元気になってね』

 

 屋敷の中で行われるあまりにも気味の悪い茶番劇。その一部始終を見ていたものがいた。

 

『どういうつもりだ……⁉︎ラティアス!』

 

 窓越しに驚愕の表情を浮かべている彼の名前はラティオス。滅多に出会うことの出来ない伝説のポケモンの一体だ。

 ラティ兄妹は光を操って擬態したり自身の姿を隠す事が出来る能力を持つ。今は怪しまれない様に姿を消しているが、彼もその気になれば人の様な姿に見せかける事は可能だ。

 そんな彼が何故自分の能力を使ってストーカー紛いの事をしているのか。それはカブトの家に住み着いた妹ちゃんの正体に関連がある。

 

 妹を名乗る謎の存在の正体、それは今この場で覗き見をしているラティオスと兄妹関係にあるラティアスだったのだ。

 

『何故この様な真似を……』

 

『覗き見だなんて趣味が悪いね、お兄ちゃん?』

 

 首筋に感じた殺気。ラティオスはその場から高速移動で退避する。先程までラティオスが陣取っていた位置には一人の少女が立っていた。

 

『ラティアス……。あの様な真似は即刻やめろ。今すぐ私ととも帰るのだ』

 

 ラティオスに厳しい視線と共に帰還命令を投げかけられたラティアスはどこを吹く風、いつもの様にただニコニコと笑うだけだった。

 

『どうして? 私はお兄さんと一緒に生きる事に決めたの。お兄ちゃんも私が決めたならトレーナーについてっても構わないって言ってくれたじゃない』

 

『ああ、確かに私はそう言った。前言撤回するつもりも無い。だがダメだ。まだお前には早すぎた様だ』

 

 ここで初めてラティアスの表情が変わる。目を細め、不機嫌そうな表情を作った彼女は本物の兄に向かって静かに問いただす。

 

『早すぎた? それってどういう意味?』

 

『そのままの意味だ……。まだ惚ける気か……。ならば聞こう、お前はあのトレーナーやポケモン達に何をした?』

 

『…………』

 

『答えられないのか? ならば代わりに私が答えてやろう。お前はカブトという人間や手持ちのポケモン達にエスパータイプの能力を活用して自分が本物の妹だと誤認する様に暗示を掛けた。そしてお前がやった事はそれだけでは無い』

 

『お前は……、あの人間に毒を盛ったな! しかも致死量を大幅に超えた量を! むしろ何故あの少年は生きているんだ! 普通死ぬぞ!』

 

 そんな彼の叫ぶ様な言葉を聞いて彼女はポツリと呟いた。

 

『だって仕方ないじゃない』

 

『仕方ない?』

 

 彼女の漏らした言葉を聞き咎めるラティオス。その言葉に込められた真意を知る為に問いただそうとするが、その言葉は彼女の言葉によって遮られてしまう。

 

『だって、だって! 全然お兄さんが弱ってくれないんだもん! 追加に追加を重ねていればそりゃ致死量を超えちゃうよ! あっ、でもでもちゃんと死なない様に『いやしのはどう』で調節してるしそこは安心してね』

 

 彼はその言葉を聞いて愕然とする。毒を盛って痛めつけた後、回復させるなど殆ど拷問と変わらない。一般的な常識ポケモンのラティオスにはまるでラティアスの言っている意味が分からなかったのだ。

 

『どういう……事だ? お前はあの少年と共に生きると決めたのではないのか? 何故弱らせるという事に繋がる?』

 

『お兄ちゃん、お兄さんが困っている時助けてあげられるのは誰だと思う? 手持ちのポケモン? キッサキの知り合い? ご近所さん? どれも違うよ。私だけがお兄さんを助けられるんだ』

 

 そう言うと彼女は、まるでそれが楽しくてたまらないといった様な笑みを浮かべる。

 

『お兄さんを傷つけるのも癒すのも、苦しめるのも救うのも、愛するのも愛されるのも。ぜーんぶ私じゃ無きゃダメなの。ほら、その証拠に今この時、お兄さんが一番頼りにしているのは他の誰でも無いこの私でしょ?』

 

 ラティオスは絶句していた。血を分けた実の妹が無辜の少年に毒を盛り、それこそが愛なのだと宣うその精神性に声も出す事ができなかったのだ。何を食べて育てばこんな生物になるのか信じられなかった。

 当初、彼はラティアスを引っ張ってでも連れて帰るつもりだった。しかし、この状態の彼女を本来の住処に連れ帰ったところで果たして少年の事を諦めるのだろうか? いいや、諦めないだろう。恐らく、彼女はそれこそどんな手を使ってでも少年の元へと戻って同じ事を繰り返すに違いない。それどころか自身の命すら危ぶまれる可能性がある。

 

『……分かった。お前が住処を離れて此処に居つく事にはもう何も言わない』

 

『本当! お兄ちゃん大好き! ありがとう!』

 

『……ああ、好きに暮らせ。その代わり私の元へ二度と帰ってくるな』

 

 そしてラティオスは自身の命と見ず知らずの少年の安全を天秤にかけ、自身の命を取ることにした。済まない少年もし今度会うまでに生きていたら菓子折を持っていく、と心の内で謝りながら……。だが、妹ちゃんが怖いので多分もう会いにいく事はないだろう。

 

 こうしてラティオスは妹の元から去っていった。そんな彼の後ろ姿を笑顔で見送るラティアス。ラティオスの後ろ姿が見えなくなると、彼女は踵を返して屋敷の中へと戻っていくのであった。

 

『邪魔が入っちゃったけどすぐ終わったし別にいっか。それよりお兄さんの容態を見に行かなきゃ!』

 

 心底楽しそうにスキップしながらその顔に笑みを浮かべて。

 

 

 ★★★★★★★★★

 

『んー、ゲンさんから『しょうぶどころ』への招待状、エニシダさんからのブレーン勧誘、ポケモン大好きクラブ会長からの会合のお知らせ、ポケモンリーグ公認のエキシビションマッチのお誘い、ポケウッドでの出演依頼、これらは全部左ですね』

 

『……、ファッションショー、空の旅、ライブ、食事の誘い、デートを誘う手紙、ラブレター、贈り物、ぬいぐるみ、温泉旅館の招待券、……全部右ですね』

 

 ラティオスことお兄ちゃんとの会談を終えた妹ちゃんは、屋敷の中に戻るとカブト宛に届いた贈り物を仕分けしていた。当然の如くカブトには無断でだ。余談であるが、彼女は郵便物に対する処理とは反対に電子機器などの連絡装置の確認は一切行わない。何故ならばそれらの類はポリさんが勝手にデータを破壊しているからだ。

 仕分けの基準は至って簡単。送り主の性別、もしくは贈り物の内容でのみ判断している。女性からの贈り物は全て右、男性からの贈り物は左。ごく一部の男性から送られてきたカブトに好意を示すような品も右に分けられる。

 

『さて、と』

 

 一仕事終えた妹ちゃんは、右に仕分けた届け物を手に取り屋敷を出て裏庭へと向かった。何故か屋敷に設置されている時代錯誤な焼却炉の前に立つと、彼女はその手に持った荷物を焼却炉の前に叩きつけた。

 

『…………』

 

 無言で、ただただ無言で何度も何度も地面に叩きつけられた物体を踏みにじる。伝説のポケモンが使う『サイコキネシス』も併用してもはや原型すら残さぬ程にそれらが崩れ去ってもまだ止め無い。

 足で踏み潰されているそれがかつて何だったかすら分からない程に砕け散った時、ようやく妹ちゃんはそれに攻撃を加える事をやめた。

 触れることすら穢らわしいと言わんばかりにサイコパワーでそれらを一纏めにして焼却炉に放り込んだ彼女は焼却炉を稼働させて塵一つ残らないように焼き払う。

 かつて女性達から送られた好意の証が醜く見すぼらしい灰の塊へと変貌したことを確かに確認した彼女は、決してカブトに見せないような冷たい笑みを浮かべてそれらを全て風に乗せて吹き飛ばし、満足げにカブトの元へと向かうのであった。

 

『お兄さん、起きてる?』

 

 カブトの眠る部屋の前に着くと、ノックと共にカブトの現在の状況を確かめる。

 

 ……返事が無い、ただの屍のようだ。というのは冗談で来客にも気がつかない程眠っているらしい。訂正しよう、眠らされているらしい。

 

『もー、お兄さんったらそんな無防備に寝てたら誰かに襲われちゃいますよ? それとも襲って欲しいんですか?』

 

 自分で眠らせておいてとんでもない言い草である。

 

 部屋に侵入した彼女はカブトが深い眠りについている事をいい事にカブトのクローゼットを無断で覗き見た。妹、しかも血が繋がっていないどころか自称に過ぎないという恐ろしい存在が家に住み着いてクローゼットを勝手に開くという状況。ホラーかな? 

 血の繋がった妹でも微妙なラインであるが、完全な赤の他人に自宅を好き勝手にされているのはカブトが真実を知れば卒倒ものである。

 

『ふむふむ、当然といえば当然だけど服に染み付いたお兄さんの匂いがいっぱいする! これだけで一日中過ごせそうだけど今はこれがメインじゃないんだよね』

 

 妹ちゃんはクローゼットの中身を勝手に漁ると、中に入れられた服装の中からお目当ての服を探し当てた。それは最近カブトが購入した服。その服を手に取ると、妹ちゃんはそれに顔を近づけてポケモン特有の鋭敏化した嗅覚を用いて匂いを判別し始めた。エスパータイプならサイコメトリーみたいなエスパーっぽい技使えよ、というツッコミは無しだ。

 

『んー、お兄さん以外の匂いは殆ど無し。女達からの贈り物でも無ければこれを着て他の女と密会してた訳でもないね、良かった』

 

 匂いの判別を終えた妹ちゃんは、その服を持ってきた袋に乱雑に突っ込んで封印する。それを自身の部屋まで持ち帰るつもりだ。

 

『まったく。お兄さんは私が選んだものしか食べちゃダメだし、私の許可なく勝手に人と話すのも、人と会うのも、しちゃダメだっていつも言ってるのに……。勝手に服を買うなんてもっての外だよ。お兄さん、選ぶ服のセンスがイマイチだから……。私が一番お兄さんを綺麗に飾り付けられるんだよ? こう見えてお兄さんの事は一番研究してる自信あるし。間違いなくお兄さん以上にお兄さんの事分かってると思うよ? だからちゃんと言う事聞いてよね!』

 

 そんな滅茶苦茶な事を平気で宣う妹ちゃんはカブトの横たわるベッドに腰をかけると、妹ちゃんの仕込んだ睡眠薬のせいで未だ目を覚さぬカブトの隣へと潜り込んだ。側から見たら兄妹間(大嘘)で同衾した様な形になる。倫理観的にヤバすぎる。

 

 先程からとんでも発言を連発するラティアスこと妹ちゃんだが、彼女は至って真面目も真面目。自らがお兄さんと呼び慕うカブトを本気で愛している。恋愛的な意味で。愛し方に些か難があるが、意中の人にとっての特別になりたいという想いを叶える為に多少の狂行を許容してしまえるだけでその愛情に嘘偽りは無いのだ。

 

 多少独占欲が強いだけでその本質は他のラティアスと変わらないくらい良い子だ。彼女はちゃんと兄であるラティオスも愛している。親愛的な意味ではあるが。

 ただ、彼女の中ではカブト>ラティオスとなってしまっていて変えようが無い格差が出来てしまっているのは否定できない。可哀想なお兄ちゃんだ。

 

『ふふ、お兄さんとの距離がこんなにも近い。近くで見てもやっぱりお兄さんは綺麗だなぁ。これじゃ誰にも渡したくなくなるのは当然だよね』

 

 カブトを起こさない様に静かに呟きながら、彼女は未だ目を覚さないお兄さん(偽り)の鼻を優しく撫で回す。眠っているカブトは凄く苦しそうな表情を浮かべて意味の無い寝言が口から洩れる。

 

「俺が……ゼクロムに……? この装備は呪われていた……? そこに颯爽と現れたデデンネ。ありがとうモルペコ! イヌヌワン……!」

 

 お前は一体何を夢で見たんだ。

 

『お兄さん、魘されてて可哀想。きっと他の女達がお兄さんを苦しめてるに違いない、実に度し難いわ! お兄さんを苦しめるなんて絶対に許せない!』

 

 自分の事を棚に上げて謎の決意を抱く妹ちゃん。決意は大切だって魔物蔓延る地下世界でも言っていた。古事記にもそう記されている。でもその古事記、色んな事書かれすぎてて当てにならないんだよなぁ。

 

 そんな訳の分からない決意は置いておいて、妹ちゃんがベッドに潜り込んだのはただカブトを襲うためでは無い。

 ラティオス、ラティアスにはある能力が備わっている。『ゆめうつし』という見たものや考えたものを映像として他者に見せる特殊な能力だ。妹ちゃんは毎夜毎夜それをカブトが目を覚ます直前の微睡み状態で彼の脳内に投影している。

 

 人が目を覚ます直前は一種の催眠状態とも言える状態だ。その為、狭窄した意識に働きかける様に『ゆめうつし』を発動することで妹ちゃんにとって都合の良い事をカブトに吹き込む事が出来るのだ。ちゃんと全て反映されているかは兎も角として。

 

『まだ目が覚めるまで時間があるみたいだし、もうちょっとお兄さんで遊べそう』

 

 妹ちゃんは、抱き枕の様に抱きしめていたカブトから手を離し彼の耳元に口を近づけると彼の脳内に流し込む様に言葉を紡ぐ。

 

『僕は妹ちゃんを愛しています』

 

「うう……『僕は……妹ちゃんを……愛しています』」

 

 愛している、と好きな男の声で告げられて嬉しそうに体をくねらせる妹ちゃんとは対照的に、苦しそうに妹ちゃんの言葉を繰り返すカブト。彼は眠っている最中にかけられた言葉を繰り返す習性を持っているのだ。まさに『オウム返し』。

 

『じゃあ次は……、妹ちゃんは世界で一番可愛い!』

 

「ううう……『い、妹……妹ちゃんは……せ、世界で一番……かわ、いい……』」

 

 きゃあ! と恥ずかしがって彼女は横たわるカブトをペシペシ叩く。カブトはとても苦しそうだ! 自作自演でも照れる事が出来るなんて凄い奴だなこの自称妹。

 

『じゃあじゃあその次は……!』

 

「……何してるんですか、妹ちゃん」

 

 はしゃぎすぎた妹ちゃんは眠らせていたカブトを起こしてしまった。そりゃ、耳元であれだけ騒げば起きるのも当然といえるだろう。

 

『あ、あ、ああ……うわぁーん!』

 

 まだ洗脳用の『ゆめうつし』すら使っていないのにカブトが起きてしまっては意味がない。その為もう一度寝かさなければならない事に加えて、あれだけの痴態を見られてしまったかもしれない事で恥ずかしさがキャパオーバーした妹ちゃんは錯乱してカブトの後頭部を『ドラゴンクロー』で殴打する。

 

 ぶべらっ、という明らか人の出して良い声では無い呻き声を上げたカブトはその場で再び倒れ伏した。

 

 取り敢えず落ち着いた妹ちゃんはカブトを布団の中に収納して証拠隠滅を図る。そしてその後、彼女は気絶したカブトの隣に潜り込むと何事も無かったかの様に彼を抱きしめた。

 

『過程はどうあれ今お兄さんは眠っています。薬によって眠らせる事と殴って気絶させる事、そこにはなんの違いも無いのです』

 

 違うのだ! 

 

 見事に先程までの奇行と暴行を無かった事にした妹ちゃんは、目を回しているカブトを一撫でして彼に自分にとって都合の良い映像を流し込む作業を開始した。

 

『ふふ、お兄さんお兄さん。お兄さんは私さえいれば十分なんだよ? 他に余計な事は一切しちゃダメ。これからも大人しく私に愛されてね?』




カブト
可愛い妹が出来てよかったね。義妹とかその道の人には喉から手が出るほど欲しいらしいっすよ。

妹ちゃん
本名ギガイアス(デタラメ)良い子の片鱗すら無かった子。ハーメルン内にもラティアスは良くヒロインとして出てくる。どの子も可愛らしい。下手したら歴代ラティアスの中でもトップクラスにコイツは薄気味悪いまである。
無理矢理メガシンカするくらいやってのけかねない。

ラティオス
みんなのお兄ちゃん。生きてるよ。常識の枠に囚われている内にはまだまだ未熟としか言いようが無い。
考えてみて欲しい。自分の妹が突然他人の妹名乗って住人を監禁し始めたら誰だってビビる。


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VS異世界転生

ここは本編とは違う時空の話である事を踏まえて読んでいてください。

カブト君にぴったりの伝説ってなんですかねぇ?まぁもう既に手持ちに入るのオンリーワンは決めているんですけどね


『カブト、カブト、私の声が聞こえますか?』

 

(こいつ……直接脳内にッ!)

 

 そんな天の声が聞こえてきたのは、カブトが呑気に散歩をしていた時のことであった。

 

『今、世界に危機が迫っています! 貴方の力が必要なんです。どうか私を助けて下さい!』

 

「世界の危機ってそんな……」

 

 馬鹿な、と言おうとして言い淀む。世界の危機とやらには多少なり心当たりがあったのだ。

 カブトはポケモンリーグ敗退後、自身に引導を渡したトレーナーに今度こそ勝利する為に旅の最中に伝説のポケモンについて何度か調べた事がある。伝説として語り継がれるその力は圧倒的で、どのポケモンも伝承通りの力を持つのであれば間違いなく世界の2、3個くらいは軽く滅ぼせる力を持っていた。

 特にカブトの出身地であるシンオウは伝説の中でも別格の強さを誇るポケモンが伝えられている。もし、その力が悪用されでもしたらそれこそ世界の危機に相応しい現象を引き起こせるはずだ。

 

 であるならば謎の声が伝えてきた危機とやらは、もしや伝説のポケモンが現在進行形で悪用されている事の警告メッセージなのではないだろうか、とカブトは考えて、その声に従ってみることにした。

 

「分かりました。僕はどうすれば良いんですか?」

 

『良い選択です。まずは私の声に従って私の元まで来てください。詳しい話はそこで』

 

 その言葉を聞いたカブトは謎の声に従ってついていこうとする。しかし、そんな彼を止める人物がいた。

 

『駄目だ、お前を行かせることはできない。姿を見せず、我々に声も聞かせない奴の事など信用できない』

 

 ルカリオのルカちゃんだ。彼女はカブトの言う謎の声の持ち主の居場所を波導を使って感知しようと試みた。だが、結果は失敗。声の持ち主の存在をこの世界で見つける事が出来ないというあり得ない現象に直面したのだった。

 

 それに何より、世界の危機だとかその様な危険な目にカブトを合わせたくないのだ。そんな事は別な奴に任せてしまえ、とカブトに言外に伝える。

 トレーナーであるカブトは彼女の本意を明確に理解し、そして、その上でこの問題に取り組む事を決意した。

 

『何故だ?』

 

「僕達は前とは違います。元とはいえ地方のチャンピオンです。例え、此処が僕達が統べる地方じゃなくても危機を放って置く事は出来ません。ノブレスなんとやらってヤツですね」

 

『それはお前がしなくても良い事だ。罠の可能性が高い誘いに乗ってやる必要はない』

 

 その言葉にカブトは目を瞑って静かに答える。

 

「もし、罠なら助けを求める人は居ないってことですよ。なら、それはそれで良い事じゃないですか。それに……」

 

 いざとなったら、みんなが僕を守ってくれるでしょ? 、とカブトは片目を開けて笑ってみせた。

 

 それを見て、ルカちゃんは仕方ないと肩を竦める。この男は優男に見えて妙に頑固な所がある。恐らく意見を変えるつもりは無いのだろう。最悪、敵ならば殺せば良いし、などと物騒な事を考えて彼女も協力する事に決めたのだった。

 

 他の手持ち達も概ね同意見らしい。ただ、ルカちゃんが出しゃばってカブトとの会話時間を増やした事に怒りを覚えているポケモンが相当数いるが逆に見せつけてやるくらいの気概でいるルカちゃんにはノーダメージだ。

 

『話は纏まりましたか? ならば案内します。まずはそこの角を右に曲がって……』

 

 謎の声に従ってカブトが道無き道を歩いて行く。その後ろに護衛する様にルカちゃんが続いて行く。暫く歩いた後、突然カブトがその場で足を止めた。

 

『どうしました? そこを真っ直ぐ進むだけですよ?』

 

 しかし、カブトはその言葉に答えない。

 

「ごめん、ルカちゃん。どうやら君が正しかったみたいだ」

 

『ああ、どうやらその様だな。感じるぞ、殺意の波動を』

 

 カブト、ルカちゃん共々臨戦態勢をとる。何処から敵が来ても良い様に常に波導での感知を怠らない。

 

『あーあ、もう少しだったのに……。けど、此処まで来たら幾らでも辻褄合わせられるんだよね!』

 

 突如、足元の水溜りから飛び出した黒い鉤爪がカブトととルカちゃんをそれぞれ逆方向に弾き飛ばす。波導での感知を怠らなかったにも関わらず不意打ちを受けた事に二人は驚きを隠せない。

 

『カブト!』

 

 すぐに体勢を立て直したルカちゃんは愛する人の名を叫び、襲撃者からカブトを守ろうと走りだす。カブトの手持ち達も同様に、ボールから勝手に飛び出して彼を守るべくカブトを中心とした陣形を固める。

 

 しかし全てが遅かった。

 

「がはっ!」

 

 あれだけ防御を固めていたにも関わらず、何処から現れたのかすら分からない黒い鉤爪にあっさりとカブトは貫かれてしまったのだ。

 

 こうしてカブトの意識は埋没し、すぐさま深い闇に呑まれて行った。

 

 ★★★★★★★★

 

『おお、勇者よ、死んでしまうとは情け無い』

 

「……なにこれ」

 

 カブトは困惑していた。今世紀史上最大級に困惑していた。

 謎の攻撃を受けて死んだと思ったら別世界にいた。しかも目の前の巨大なムカデの様な生物が自分に向けて話しかけてきているのだ。何を言っているのかさっぱりだと思うがカブト君にもさっぱりだ。何かおそ(以下略)

 

『非常に残念ですが貴方は死んでしまいました。こう言う時は神様たるこの私のミスと相場が決まっていますが、神様のやる事は全てが正しいので今回も貴方の自業自得ですね』

 

『ええ(困惑)』

 

 状況が殆ど読めていないカブトはまるで話について行けていなかった。いきなり神様を自称し始めたこの巨大ムカデに似た生物に貴方は死んだ、私は悪くねぇ、と言われても余計に混乱するだけなのだ。

 

『巨大ムカデって呼ばれるのは不愉快です。私の事は9割の敬意と1割の親しみを込めてギラティナ様と呼びなさい。さぁ、早く!』

 

「えーと、ギラティナ様? ちゃんとした状況説明が欲しいのですが……?」

 

 説明を求めてギラティナ様と呼ぶカブトを見て、何処か嬉しそうにギラティナ様は話を続ける。

 

『ならば、この神たる私が人間である貴方に一から丁寧に説明して差し上げましょう。

 

 まず、此処は現実世界とは異なる世界である『やぶれたせかい』と呼ばれる場所です。詳しい説明は割愛しますが、私の事はこの世界を支配する神であると認識してくれればよろしい。

 

 そして次に、カブト、貴方は既に死んでいる。貴方は死後、魂の状態でこの世界に流れてきたのです。ここまでは理解できましたか?後、そこにご飯やお菓子を置いてあるので是非とも食べて下さい』

 

「アッハイ」

 

 自分が既に死んでいると言われてもカブトはそこまで動揺しない。自分でもあそこまでザックリと突き刺されたら流石に助からないだろうな、と考えていたし、雪山育ちにおいて死は割と身近にあった為それ程困惑していないのだろう。そんな事を考えながらカブトはそばに置いてあった『ザロクの実』をかじりつつギラティナ様を眺めていた。

 

 それよりもカブトの気を引いていたのは、この摩訶不思議な『やぶれたせかい』とその支配者たるギラティナ様の存在だ。

 ギラティナ様の存在感というかプレッシャーというべきか、それらは全てギラティナ様が並のポケモンとは一線を画している事を告げていた。かつてシンオウリーグで戦ったポケモン達とも違う、更にその上の段階であるプレッシャー。

 ここからカブトはギラティナ様が伝説のポケモンの中でも最高位クラスのポケモンだと確信した。ただ、文献を漁ったかぎりではその様なポケモンがいたとは伝えられていない。

 だが、カブトには既にある仮説が成り立っていた。現在の自身の状態、この生命の息吹を何一つ感じさせない『やぶれたせかい』、自称『神様』、これらからこのギラティナ様が死者の神の様なものだと推察できる。文献に載らないのも納得だ。出会う様な事があればそれは既に死んでいる状態だからだ。流石に生き返って記録した人間はそう多くは無いはずだ。

 

 此処まで考えてカブトは虚しくなった。折角面白い出来事に出会えたのにこれを伝える事が出来る人が居ないとは何と寂しい事か。

 

 そんなカブトの心情など気にも留めずににギラティナ様は話を続ける。

 

『では、本題に入りましょう。貴方を殺したのは私です』

 

「はい⁉︎」

 

 唐突な殺人犯カミングアウトに絶句するカブト。当然、ギラティナ様はそんな矮小な人間の反応など気にしない。

 

『あー、そうそう。最近は異世界転生とやらが流行っている様ですが、当然他の世界に転生などさせる気も無いので悪しからず。貴方にはこの世界でずっと暮らしてもらいます。

 おめでとうございます。『やぶれたせかい』も異世界には違いないので、実質異世界転生ですよ。わー、ぱちぱち』

 

「あー、一応理由を伺っても?」

 

『神たる私の真意を知りたいなど不敬であるぞ……、と言いたい所ですが許しましょう。神は間違えませんが、人は誤ちを犯す生き物です。それを許してこそ神の器というもの』

 

 困惑するカブトを他所に一人で納得して不敬を許してくれたらしい。優しい。

 

『神が人を召し上げる事など珍しくも何とも無いことです。母様もダ、ダ、ダモナス? なる人物を死後輪廻の輪から引っ張り抜いて自分の側に召し上げていましたし。……べ、別にそれを見て羨ましいとか思ったわけでは無いですからね!』

 

「何で僕を選んだんですか? わざわざ殺す労力までかけて」

 

『表世界に顔出しできるようになって初めて目があったから』

 

 簡潔に答えたギラティナ様を見て、声には出さないがカブトは内心で意味がわからないと呻き声を上げる。だが、神の思考は人間には読み取れないと思考放棄して再び平常心に戻った。

 

「説明ありがとうございます。で、僕はこれから何すれば良いんですか? 出来る事なんてほぼ何も無いですけど」

 

『何、貴方の最初の仕事は既に決まっています。まずはこの『やぶれたせかい』で私と共に過ごして貰います。貴方が望むなら褒美として数千年に一度くらいなら外に出してあげても構いません。……まぁ、この世界には『時間』も『空間』も無いので数千年というのはあくまでものの例えですが』

 

 ギラティナ様の言葉にカブトが驚愕を露わにする。『時間』と『空間』が無いというのも驚きだが、そんな何も無いところで数千年(目安)程過ごせというのは意識を失って発狂してしまうだろう。

 

『精神的な問題なら安心してください。脆弱な人間にも耐えられる様に既に貴方には細工してあります。その他についての詳しい内容は後で話しますが、まぁ、転生特典だとでも思ってください』

 

 嫌な特典があったものだ。

 

「何故そこまでして……」

 

『別に私は誰でも良かった訳じゃありません。貴方を輪廻の輪などに乗せたくなかった。生まれ変わった誰かではなく他ならぬ貴方だからこそ側に置いておきたいと思った。

 ……この世界に招いた人間は貴方が初めてです。この意味が分かりますか?』

 

 静かに首を振るカブト。そんな彼の姿をしっかりとその赤き双眸に捉えてギラティナ様は言葉を紡ぐ。

 

『私は貴方を愛しています。

 私は貴方を愛しているからこそ貴方を殺しました。あのままでは、貴方は穢らわしい醜悪なる者共に汚され穢されてしまっていたでしょう。

 これ以上他の何者にも、貴方に触れさせたくない、貴方の姿を見せたくない、貴方の声を聞かせたくない、そう思うのは下々の者では出過ぎた願いですが、神たる私にとっては至極当然な考えです。大切なものを自分の手でとっておく事は普通のことです。

 まぁ、長々と話しましたが結局のところ貴方に意見は求めていません。全て確定事項です』

 

 そしてギラティナ様はカブトをその口で優しく咥えると、元いた場所から相当離れた場所へと彼を置きその隣にとぐろを巻くように寝そべった。

 

『そうそう、転生特典について説明していませんでしたね。……記憶のリセットです。貴方の記憶は消滅します。専門外ではありますが、ここは私の統治する世界。出来ない事などあんまり無い。

 兎に角、貴方は表の世界で酷く汚されてしまっています。ですので、今この場で貴方の全てをデリートしてその魂を元に新しく存在を作り直します。

 その際に、記憶の大部分は消滅しますが私以外の記憶など無い方が良い。あくまで存在の作り直しであるが故に記憶の欠落はあれどその根幹は何一つ変わらないままでいられます。よかったですね。

 私はいつまでも貴方を愛で続ける事を約束します。ですので安心してください』

 

 ★★★★★★★★★

 

 世間一般的に見てその出会いは他愛のない物であっても、彼女—ギラティナ様にとっては運命的な出会いであった。

 

 永きに渡る封印も半分ほど解け、最近漸く表の世界に顔を出せる様になった事を唐突に理解したギラティナ様はある日ひょっこりと表の世界に文字通りの顔出しをしてみる事にした。

 

 胸の内にまだ見ぬ外の世界へのワクワクを秘め、顔だけ表の世界に出てきた彼女は人類誕生以来初めて見た景色で運命と出会った。出会われた側からすれば不幸な事だが。

 

 顔出しした先に偶然居合わせたカブトに一目惚れしてしまったのだ。カブトは黙っていれば絵画の様に美しい少年だ。世界観が違えば下半神にほぼ確定で連れて行かれかねない程に。そんな彼の魅力? に箱入りならぬ『やぶれたせかい』入り娘のギラティナ様が抗える筈がない。数秒でノックアウトだ。

 

 ギラティナ様は決意した。かの眉目秀麗なる美少年を是非とも手に入れたいと。

 しかし、現世歴数秒のギラティナ様には恋愛など分からない。愛など知らない。

 

 だからこそ導き出した結論が誘拐、幽閉、だったのは致し方ない事なのだ。子は親の背を見て育つという。彼女の母様もダモナス(仮名)さんに似たような事を既にしている。つまりそういう事だ(諦め)

 

 しかし、彼女はそれをすぐさま決行しなかった。理由は人が野に咲く花を摘み取らない事と同じだろう。自分の行動で彼の美しさが損なわれてしまう事を恐れたのだ。

 

 そうしてギラティナ様は毎日毎日飽きずに彼を眺め続けていた。彼が何処かに行く度にくっついて行って観察を続けていた。時折、他のポケモンの監視の薄い時に指先で突っついてみたり寝顔を撫で回したりと悪戯もしたが、これだけである種の満足感すら得られてしまっていたのだ。

 

 しかし、そんな平和な日々も終焉が訪れてしまう。妹を名乗る不審者が現れてカブトに毒を盛り始めたのだ。それどころか動けないカブトの口を使って一人人形劇を始める始末。

 流石にそれは不味いと思い、外界の生物達に対する怒りを抱きながら花を摘み取ったのがつい先程。特性の『テレパシー』を利用して誘導した後、人目のつかない場所で殺害して『やぶれたせかい』送りにする予定だったがポケモンの横槍で失敗。それでも連れてこれただけギラティナ様的にはOKだった。この世界に連れ込んだ時点で彼女にとって勝利確定なのだ。

 

 実はこの『やぶれたせかい』からの脱出方法はある。『もどりのどうくつ』という場所を利用すれば既に死んでいたとしても死体が残っているなら生き返る事も可能だ。

 勿論彼女はカブトにそんな事は教えない。折角現世から切り離したのにまた戻っていかれては堪ったものではない。だが、もし自力で戻り道を見つけられでもしたらカブトは戻ってしまうだろう。だからこその記憶消去。これでカブトはもう何処にも行く事は出来ない。

 ましてこの『やぶれたせかい』においてはギラティナ様は全知全能とでも言えるほどの権能を発揮できる。外からの襲撃を恐れる必要もない。

 

 こうして他の何者も寄せ付けない防御を構築したギラティナ様は『やぶれたせかい』で延々と最愛のカブトと過ごすのであった。

 

 この後、カブトの姿を見た者は誰一人として居なかった。




カブト
下積み時代が終わった事で色々なポケモンを出せるようになった。そのおかげで平行世界設定という事で合法的に抹殺できるようになった。やったぜ!

ギラティナ様
我が心と行動に一片の曇り無し、全てが正義だ。実際問題神の行動は全てが正しい事に間違いはない。好きな子を自分の家に招待しただけですが何か?

アルセウス
レジギガス達との戦いの原因は無給料、無休暇で昼夜問わず大陸を運ばせ続けた結果の反乱だったらしい。マジかよブラック女神様。
ここではギラティナ、ディアルガ、パルキアの母。みんな性別は女。


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VS妄想

チマチマ書いていくぞ!需要ないだろうけど


 カブトはポッポが朝を告げると同時に目を覚ます。妹を名乗るラティアスによって弱らされた体を無理矢理鼓舞してベッドから立ち上がる。

 

「ふぇー、なんか酷い夢を見ていた気がします。あと近々、胸元にオレンジの宝石をつけて紺の体色にオレンジのラインが入ったポケモンに捕まりそうな気がしますね。僕のサイドエフェクトがそう言ってます」

 

 お前、エスパーだったのか? というツッコミも程々に、変な夢を見て精神、身体共に疲れ切っているがカブトは身だしなみを整える。

 休日ならば休んでいても問題は無いが平日は普通に仕事だ。一年程チャンピオンだった事で彼の貯金は中々のものだが、彼のポケモン達に不自由なく暮らさせる為に金は幾らあっても足りない。

 

 普通のトレーナーならばそこら辺のトレーナーと戦い、互いに賭け金を真っ当に取り決めをしてから賞金稼ぎをして金を稼ぐだろう。現にカブトも旅ではそうやって生計を立ててきた。

 

 だが、考えてもみて欲しい。元チャンピオンがそこら辺の短パン小僧から金を巻き上げるとか問題行為過ぎる。正直、そんなチャンピオンは嫌だ。だからこそ、最近はジムリーダーや四天王でも専業トレーナーは少なくなっている。

 

 故に、カブトが選択したのは大量の金が一気に手に入る様な職業。即ち、ポケウッド俳優である。更に、有名になれればキッサキシティの宣伝にもなるのだ。一石二鳥とはまさにこの事。

 そんな簡単になれるわけないだろいい加減にしろ! という意見は尤もだ。だが、ポケウッドはオーナーのスカウトさえ手に入れればすぐにでも俳優になれ、そこから実力があれば人気俳優にもなれるシンデレラシステムだ。

 そして、カブトは頭が空っぽなだけで実は何でもできる完璧超人。トップスタァの道を駆け上がる事など造作も無い。数ヶ月で荒稼ぎした、出来てしまった。そんなトップスタァがほっとかれる訳が無く、あれよあれよという間にポケウッドが抱えるメイン俳優になってしまったのだ。

 

 一体全体どうなってんだ……。

 

 カブトが準備を整えていると、ドアを突き破って突っ込んでくる影が約1名。また修繕費が嵩む……。

 

『ごめんなさい! 纏わり付く虫を始末するのに手間取って遅れてしまいました!』

 

「もう起きてますからそんなに急がなくても大丈夫ですよ、ラルちゃん」

 

 着替えを終えたカブトの部屋へと飛び込んできたのは、漆黒のドレスを纏った様な姿が特徴的なサーナイト。カブトがリベンジを果たす為の武者修行中に出会った色違いのラルトスが進化したのが彼女だ。そして、この花嫁の様な姿はメガシンカした姿。何故か彼女は常時その姿で生活している。

 

 彼女が常時メガシンカしているのは何故なのか分からない。ただ、彼女がメガストーンを手渡された時に感極まってメガストーンを飲み込んだ事が原因の一つではないかと言われている。当然、飲み込んだだけでそんな事にはならない。しかし、突然の凶行に焦ったカブトがポケモンドクターの元へと駆け込んだ際での検診でメガストーンが体内で吸収されて融合しているという奇怪な現象が発見された。

 その現象がこの状況を生み出したのではないか、という説も学会では提唱されている。その大発見? のお陰で、彼女とカブトは定期的に研究所に行く事になる事になってしまったが。

 

『そんな訳にはいきません! だって私は……』

 

 そこで言葉を切ると彼女はその白い頬を赤く染めながらもカブトをしっかりと見据えて優しく微笑んだ。

 

『カブトさんの(パートナー)ですから』

 

「……? 何だろう。字と読みが致命的に食い違ってる気がする」

 

 カブト、お前は多分間違っていない。

 ラルちゃんは強者揃いのカブトパーティーの中でも非常に優秀なポケモンだ。バトルに於いてもカロスのチャンピオンであるカルネのサーナイトに引けを取らない実力を持っている程に。

 日常生活でも彼女はトレーナーに対して非常に忠誠心が高く、他の問題児達と比べると随分行動が大人しく感じられる。

 

 なんだ、ラルちゃんっていい奴じゃん! 

 

 ……というのはあくまで表面上の話。彼女は、おそらくカブトの愉快な仲間たちの中でも一二を争うほど狂気に触れてるポケモンだ。

 

『いえ、これで間違っていません。覚えていますか? 私とカブトさんが初めて会った日の事を』

 

 カブトをベッドへと座らせ、ラルちゃんはその隣へと腰を下ろす。そしてそのまま回想シーンへと突入させる。

 

 カブトとラルちゃんが初めて出会ったのは、カブトがシンオウリーグにて敗北を喫した後に始めた武者修行で一番最初に立ち寄ったホウエン地方での出来事だ。

 

『最初に出会った時、カブトさんは群れから追い出された私にこう言ってくれましたよね。美しいお嬢さん、僕と契約して手持ちポケモンになってよ、と』

 

「言いましたっけ、そんな事?」

 

 言った覚えのない言葉に思わず首を捻るカブト。ラルちゃんはそんなカブトを気にせず言葉を続ける。

 

『はい! 私、カブトさんが私を求めてくれてすごく嬉しかったんです! 今まで疎まれてきた私を必要としてくれる、そんな王子様がいつか私を迎えに来てくれる。ずっとそう信じていたから』

 

 カブトさんが私の王子様だったんですね、と、彼女はその身体をカブトにしなだれかかる様に密着させる。

 

「そうなんですか。僕もラルさんが手持ち入りしてくれて嬉しかったですよ」

 

 その言葉を聞いたラルちゃんは嬉しそうに笑うと、更に身体を擦り付ける様により密着度合いを上げる。

 

『もう! カブトさんったら、そんな事言わなくても分かっていますよ! だって私達、夫婦じゃないですか!』

 

「……んん?」

 

 聞き慣れない言葉に戸惑うカブトを他所に、ラルちゃんは楽しそうに話を続ける。

 

『私、あの日の事は絶対に忘れません。流星群が降り注ぐ夜にカブトさんが、私に対して好きだ、愛してる、結婚しよう、なんて言ってくれるなんて!』

 

「……んんんん???」

 

 カブトは困惑を隠せない。そんな事言った覚えがないのだ。

 

『昨日もカブトさんは私をあんなに激しく求めてくださってとてもステキでした。普段のゆるふわ系なカブトさんも大変可愛らしいのですが、私だけに見せてくださった乱暴な一面もまた素晴らしかってです!』

 

「……ごめんなさい。全く記憶にありません」

 

 本気で困った表情を浮かべながらラルちゃんに彼女の語る様な記憶が無いことを伝えるカブト。しかし、彼女は止まらない。

 

『そんな! 私達はあんなに愛し合っていたのに……。結婚したことも覚えていないのですか?』

 

「ないです」

 

 当然だが、カブトはそんな事を言った事はないし、そんな行動をとったこともない。全てラルちゃんの妄想の産物だ。恐ろしい事に彼女は現実と自身の妄想の区別がついていない。彼女の中で行われた妄想を全て現実で起こった事だと思い込んでいるのだ。彼女の中ではカブトとラルちゃんは夫婦で互いに愛し合っていて、初対面の頃から両思いで流星群が降り注ぐ夜に告白したらしい。設定盛りすぎじゃない? 

 ただ単に自分の妄想に浸るのは構わない。しかし、それをカブトに押し付ける様になるのは非常に危険な兆候だ。

 

 サーナイトはトレーナーを命懸けで守るポケモンと言われている。それは、一応サーナイトである以上ラルちゃんに関しても適応される。

 

 命懸けでトレーナー(と自分が愛し合う妄想)を守るポケモン。

 

 何も違いは無いな! 

 

「……もうそろそろ出発する必要があるので構いませんか?」

 

『ごめんなさい。私ったらお話に夢中になって……。いってらっしゃいカブトさん』

 

「はい、行ってきます」

 

 ラルちゃんとの会話を切り上げたカブトは自身の職場であるポケウッドへと歩いて行った。

 

『お気をつけてくださいね!』

 

 ラルちゃんはカブトが見えなくなるまで窓からずっと見守っていた。

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

「じゃーね! カブトくん! また次もよろしく頼みますよっ!」

 

「はい、お任せください!」

 

 撮影を成功させて映画の確認を終えたカブトにオーナーのウッドウさんが声を掛ける。いつの間にやら興行収入を億単位で叩き出すトップスタァになってしまったカブトは群がるファンを躱しながら帰路につく。当然、スタァの義務として軽い変装も済ましている。帽子をかぶってサングラスをかけているだけだが。

 しかし、この帽子というのにも中々のこだわりがある。例えば、安直に赤い帽子を被ろうものなら、どこかのカントー地方のピカチュウやニョロボンを手持ちとする爽やかイケメンチャンピオンとキャラが被ってしまう。

 ボルサリーノハットでは悪の組織のボス感が半端ない。

 麦わら帽子だと実は性別が女の子だったとかありそうで却下。

 そこでカブトが最初に選んだのは目出し帽だったが、身につけてからジュンサーさんから職質される回数が飛躍的に増えたので泣く泣く断念した。仕方なく、今はそこら辺に売っていたハンチング帽をそのまま身につけている。結局悩んだ意味ないじゃん。

 

 そんな彼はタチワキシティのポケウッドからライモンシティの遊園地へと向けて徒歩で移動していた。カブトは今日仕事終わりにここで待ち合わせをしていたのだ。命知らずな奴だぜ。

 

 カブトと待ち合わせをしているのはルリという少女。彼女はルッコと名乗って俗に言うところのポケドルなる職業についている。彼女との出会いのきっかけは彼女の古いライブキャスターを拾った事が始まりだった。そして、ライモンシティの観覧車で何度か顔を合わせて遊んだり、相談に乗ったらなどを繰り返して今に至るという事だ。彼女は薄々カブトがポケウッドのトップスタァである事に気がついている様だ。

 しかし、カブトの目は節穴なので彼女がポケドルのルッコと同一人物である事に気が付かない。全身不感症系主人公は伊達じゃないのだ。

 

 なんやかんやでライモンの遊園地にたどり着いたカブトは、観覧車の前で待っていた少女に手を振り駆け寄った。

 

「あっ! ルリちゃん! ごめんね、待たせちゃったかな?」

 

「えっ? べっ、別に待ってないよ! わたしも今来たところだから……。あはは……、ねぇ、よかったらまた観覧車に乗らない?」

 

「ええ、乗りましょうか」

 

 何度か繰り返したやり取りをしながら観覧車に乗り込む二人。二人ともそれ相応の有名人なので割とスキャンダルな状況だ。

 

 狭い個室に男女が2人、何も起こらない筈がなく……。いや、何も起こらないんだけども。

 

「何度乗っても素敵な眺めだよね……。あなたと一緒だからかな?」

 

「そうだね、僕もそこそこ色々な地方を巡ってきたけどポケモンは別として人と一緒に景色を見るのはなかったからね。もしかしたら、そうなのかも知れない」

 

「カブトくんは色々な地方を旅していたんだよね。どんな旅をしてきたのか教えてくれないかな……?」

 

「いいよー。そうだね、まずはシンオウ地方からかな……」

 

 観覧車にて隣り合わせで座り、一つの窓から景色を眺めて話に花を咲かせる男女。その距離は非常に近い。互いに忙しい身であるが故に会う事がそう簡単ではない。だからこそ、この様な時間を大切にしようという感情が両者に共有されているのだ。

 

「あっ……、もう終わっちゃうね……」

 

 一周した観覧車から2人は互いに満足げな表情を浮かべながら出てきた。

 

「今日はありがとう。カブトくんには相談に乗ってもらったりしていつも元気をもらってばかりだよ」

 

「それは僕のセリフですよ。僕もルリちゃんと話せて楽しいですから」

 

「よかったら、また、誘って欲しい……かな」

 

「勿論、また遊びましょう」

 

 笑顔を浮かべて楽しそうな若者2人。同年代ということもあり話も合うのだろう。カブトとルリの距離感は物理的にも精神的にもそこそこ近い。

 しかし、そんな良い感じの雰囲気をぶち壊すかの様にライブキャスターの音が鳴り響く。

 

「あっ、ごめんね。僕のですね」

 

 ルリに許可を取りカブトはライブキャスターの通信に答える。

 

「どうしたんですか、スズナさん」

 

「カブトくん、今会っている人誰?」

 

 突然の質問にカブトは面食らってしまう。何故、彼女が今自分が人と合っている事を把握しているのか分からなかったからだ。

 

「え? いや何で今、人と会ってること知ってるんですか?」

 

「いいから答えて!」

 

 彼女の剣幕に押される様にカブトは答える。正直怖い。

 

「えーと、ルリちゃんっていう友達ですよ」

 

「ふーん、友達ね……。嘘じゃないみたい。分かったわ、ありがとうカブトくん。また、いつか2人で遊びに行こうね」

 

「あっはい」

 

 それでスズナさんからの連絡は終了してしまった。全身不感症系主人公のカブトは何のことやら分からずに首を捻る。

 

「何だったんですかね……」

 

「ねぇ、カブトくん。さっき会話してた女の人……誰かな?」

 

 後ろからカブトに近づいていたルリが彼に問いかける。

 

「うおっ! びっくり。さっきの人はスズナさん。友人だよ」

 

「あはは……、そうなんだ。ごめんね、疑ったりして……」

 

「い、いや大丈夫だよ……(疑うって何を……?)」

 

 普段と違うルリの態度に困惑するカブト。彼女の目つきが少々険しいのが非常に気になってしまう。

 

「あはは……、今度こそ本当に2人きりで会いたいな……。また誘ってね。またね、カブトくん!」

 

「あ、はい。じゃあね」

 

 ルリに別れを告げてライモンを後にするカブト。しかし、彼の受難は終わらない。家に帰っても自分の事を妻だと思い込んだサーナイトのラルちゃんが待ち構えている。しかも、待ち構えているのはラルちゃんだけではないのだ。同じくらい厄介なポケモン達が待ち構えている。

 外に出てもポケモンから人に変わるだけで性質は変わらない。

 

 正直詰んでるよね、彼。

 




カブト
トップスタァ。バイト感覚で役者になったらそのまま登り詰めてしまったシンデレラボーイ。今人気のポケドルと密会しているらしい。

ラルちゃん
洒落にならない妄想系ヤンデレ。設定盛りすぎな妄想をカブトに押し付けている。群れから追い出されたのってまさかそういう理由で……?地味に色違いメガシンカ状態で生活している。それ体に負担かからない?

ルリちゃん
ルリ!ルリなのか⁉︎逃げたのか、イッシュ地方から。まさか自力で脱出を!
既にヤンデレ気質とか言われててグラスフィールド。BW2の男主人公?アイツは多分女主人公と仲良くやってるよ。多分、ポケモンシリーズで1番可愛いと思う。


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