ひぐらしのなく頃に 逆戻り編 (ClariSと苺の樹)
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1話

* 使用説明書をきちんとお読みください。正しくない使い方をすると、製品に流れる高電圧がどんな反応を起こすか未知数だからです。
お客様の不注意によって生じた副作用に当社は一切責任を負いません。
* 装置を稼動させるには高いエネルギーが必要なので多少の充填時間が必要です。


——とある時計の使用説明書より抜粋



◤◢◤◢注意◤◢◤◢
この話はプロローグなので、ひぐらし要素はないです。


 ——“逆行時計(Backward Clock)”というものを皆様はご存じだろうか。

 

 製造元の会社は今となっては分からない程古い時代に作られた時計の事だ。すでにこの時計の生産は中止されていて恐らくだがこの世で一つしかない時計だ。

 

……どん底まで落ちてしまって、もうこれ以上方法が見えませんか? 

 あの時、他の選択をしていたら、という思いに囚われていませんか? 

 病気や自然、宇宙をも征服した我々人類は ついに時間までも征服しました!

 

 という謳い文句の元、販売されたこの時計には全人類の望みとも呼べる機能が備わっていた。

 

私たちはあなたが浪費した時を巻き戻すことができます。

 使い方は簡単! ただネジを回してから、目をつぶって10秒数えてください。目を開けたら、あなたの過ぎてしまったあらゆる時が待っているはずです

 

 真空管ランプがデザインされているこの時計はなんと時間を遡る事ができるのだ。使用には莫大なエネルギーが必要とされリスクも相当なものなのだが、それらを踏まえても十分に利をもたらす物である。

 

 

 

 ……突然だがここで私の身の上話をさせてもらおう。

 

 私は警察官である父と図書館司書の母の間でこの世に生を授かった一人の人間である。兄弟はおらず二人は物心つく前に交通事故でこの世を去っていったらしい。私をここまで育ててくれた親戚の叔母さんからそう話を聞いた。

 

 昔から私はどこか人とは違うのだ、そう思いながら生きてきた人生だった。

 

 小学校の頃は飼育委員に立候補し、学校で飼っていた二羽の兎の飼育を行っていた。中学、高校になると学校単位で何かを飼育することがなくなったので、家で犬を一匹買ってもらった。

 

 兎も犬も人と同じで生きている。それ即ちある時、突然の別れというものが訪れることがあるということだ。私が今まで生きてきた中で何かと生物を飼育しようと試みてきたのにはそれが理由だった。

 

 小学校で飼育していた兎の内、一匹は私たちが学校を卒業するのを待たずに年を取ってこの世を去っていった。また、家で飼っていた犬も高校卒業間近の時、心臓疾患で死んでいった。

 

 そのどのシーンを切り取っても、私は涙一つ流さず、心に何も響くことがなかったのだ。

 

 私自身、悲しいという感情は持っているつもりだ。しかし“死”という概念に対しては関心を持たなかった。

 いや、持てなかったといった方が正しいのかもしれない。

 

 自分の中がどこか壊れてしまった原因に心当たりはあった。幼少期の両親の他界だろう。物心ついてないとはいえ、その一件で私は生き物の“生”を真っすぐ見つめることができなくなったのだと思う。自分自身のことまでも。

 

 そんな時だった。

 

 “The Lobotomy Corporation(ザ ロボトミーコーポレーション)”の社員募集の広告が目に入ったのは。

 

 The Lobotomy Corporationは環境に優しいクリーンなエネルギーを生産する会社らしい。そしてどうやらその生産力は並大抵の電力会社を凌ぐ程だそうだ。

 

 正直言って私はこの広告を見たとき、どこかの誰かの悪戯だろうと鼻で笑ったのだ。それもそうだろう。“The Lobotomy Corporation”なんて会社今まで生きてきた中で一言も聞かなかったからだ。試しにネットで検索してみたものの私が求めている情報は見つかることはなかった。

 

 しかしホームページに明記されていたその会社のスローガンが私の心に大きな印象を与えた。

 

 未来を創るために、恐怖に立ち向かえ(Face the fear, Build the future)。”

 

 その言葉は今まさに人生の路頭に迷っていた私に必要な言葉だった。私はすぐさま記されていた電話番号をかけた。その時はもはや藁にも縋る気持ちだったと思う。

 

 電話に出たのは少し声の低い女性だった。まるで人を人とも思っていないような無機物を連想させる声だった。

 

 その女性曰く、貴方はこの会社で働く素質があるとのこと。あの広告も素質のある人にしか見つけることができないらしい。発達している技術と人の潜在意識に呼び掛けるカウンセリングの融合らしい。

 

 そして私は彼女の言葉に従い、日本から遠く離れた異郷へとやってくることとなったのだ。

 因みに余談だが私はこの会社が設立して以来、最年少の職員らしい。まだ大学も卒業せずこっちに来てしまったから致し方ないところもある。叔母さんには突然家を出て行って申し訳ないことをしてしまった。もう二度と会うことはないだろうが。

 察しの良い人ならもう気付いているだろうが、この会社はクリーンなエネルギーを危険極まりない手段によって生み出していたのだった。具体的には怪物……というか“概念”の様なもの、“アブノーマリティ”を管理してエネルギーを抽出するのだ。勿論その行動には安全ではなく、昨日まで話していた同僚や先輩、後輩が明日には肉塊へと変わっていることなんて日常茶飯事だ。

 

 だが、私はこの会社をとても気に入っていた。何故ならば、私は“死を感じる事”がとてもうれしいことだったからだ。ここで働いている間だけ私は“生”と向き合うことができるからだ。

 

 ……話が長くなったがこれが私がこの殺伐とした会社に勤務する事となった経緯である。ここからどうやって冒頭の話に繋がるのか。それについては偏にアブノーマリティの脱走が原因だった。

 

 アブノーマリティの中には“逆行時計”のような生きていない置物のようなものもあれば生きているものも存在する。それらが与えられている収容部屋から脱走するのだ。それはもはやA級手配の殺人鬼が歩いているのと等しいことである。いや、たかが殺人鬼ならいくら良かったことだろうか。

 

 そして一体でも脱走すると面倒くさいアブノーマリティだが、稀に偶然が重なり大量脱走が起こる。その日も突然のアラームが緊急の知らせを知らせ社内に緊張が走った。

 私はその時既に入社して結構な日数が経つベテラン職員だったのだ。未だに身長は160も超えていなかったが。

 

 しかしながらその日は私が入社して以来一番酷いものだった。最後に聞いた損害報告は全体の約七割がアブノーマリティによって落とされていた。これはこの会社が設立して以来の大規模な“()()”だった。

 

 そんな手も付けられなくなった状況だったがここで上は一つの指令を出した。それが“逆行時計”を使用することだった。

 前述のとおり逆行時計には時を遡る機能が備わっていた。これを使用することによって各アブノーマリティが脱走する前まで時間を戻そうという算段だった。

 

 しかしながらここで一つ問題が発生した。誰がこの装置を起動するかという話だ。

 

 実を言うとこの装置エネルギーを溜めて使用した時最後に触ったものは時空の彼方に飛ばされる……らしい。そしてもう一つ条件があり、起動させる人が十分な技能を持っていないとその時計を中心とした半径十キロの生物が死んでしまうというものだ。これらの事はこの時計の説明書に記されていいたことだった。要はこの会社を守る代わりに誰か一人が犠牲になる必要があったのだ。

 

 当然誰が行くか、と探り合いになった。だが事態は一刻を争っていた。もたもたしている時間がない。しかし……、と部署内で沈黙が続いた中、

 

『自分が行きます』

 

 私が名乗りを上げた。

 

 仲間の制止を聞かず、急いで私は“逆行時計”が収容されている場所へと向かった。この時、胸の中に自然と恐怖は湧かなかった。この時の私は、かつて心を塞いで目を背けていたあの時の自分ではなかった。数多くの人を守り、未来に希望を託す、そんな存在となっていたのだ。

 

 収容部屋へとたどり着いた私の前には、ごうごうと音を立てて光り輝いている古く人並みの大きさを持つ時計が置かれていた。

 

 私はその時計に付属しているネジを躊躇なく掴み、回し始めた。

 

 思えばこんな私だったが何かの役に立てたのか、と思いふける自分がいた。この身が消滅してしまうことに恐れなんてものはなかった。強いてあげるとすれば、遥か遠くの故郷に置いてきたここまで育ててくれた叔母さんに感謝の手紙を書けなかったことが唯一の気掛かりだった。

 

 収容部屋に次第に光が満ちてきた。目の前の時計が熱を放つ。

 

 そして私の視界は真っ白に染まり——

 

 

 

 カナカナカナカナ……

 キキキキキキキ……

 

 

 

 気が付くとそこは目を見張る程美しい夕焼けが一面に広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 ひぐらしのなく頃に 逆戻り編

 

 

 

 

 

 天国とはかくも美しい物なのか。

 この光景を見るとやはりそうなのかと思えてしまうほどに目の前を沈んでいく夕日は私の心を優しく照らしていた。

 

「綺麗だな、響也」

 

 そう誰かが私に話しかけてきた。

 振り向くとそこには私の背丈を軽く超える身長の男性がいた。

 

 というか私の父だった。

 

 私は自分の両親にあった記憶は無いが、よく叔母さんが私に彼らの写真をよく見せてくれたのだ。だから目の前の男に面識がなくても私は彼の事を見間違えるはずも無く正真正銘私の父であると理解する事が出来たのだ。

 

 なぜここに父が、とは思わなかった。何故ならここは死後の世界なのだからだ。あの日“逆行時計”のネジを回した時に私の人生は幕を閉じていたのだ。

 

「パパー、響ちゃーん、そろそろ行こうよー」

 

 少し離れたところに止めてある車の傍でそう声を出して手を振っている女性も、間違いなく、私の母だった。

 

 どこか厳しい印象を持たせる父とは逆に、写真の中の母はいつもふんわりと笑っていた。陰と陽の様な2人だった、と叔母さんは少し笑いながら言っていたが、それもあながち間違いではないと今となってはそう思う。

 

 何故なら(yin)(Yang)は二つで一つ。どちらが欠けていても行けないからだ。

 

 私の両親は二人一緒に死ぬ時までお互いを思い、愛し合っていたのだろう。

 

 そんな2人の事を目頭が熱くなるのを感じた。

 嗚呼、こんな私にこれ程までに幸せな事が有っていいのだろうか。こんな私がこれ程までに報われて良いのだろうか。最早目なら流れ落ちる雫を抑えることは出来なかった。

 

 困惑している父に向かって思わず私は抱きついた。私の手から感じる温もり、生命の鼓動、それらが生きているということを証明するものであった。

 

 もしかすると私はどこか心の中で彼らに会えることを期待していたのかもしれない。死ぬことで私は父と母2人の元へ会いに行けると思っていたのかもしれない。

 

「どうした響也、新しい所に来て感動しているのか」

 

 そうどこか的外れなことを言う父を見上げる。彼の言っていることはあながち間違ってない。新しいところ。新しい居場所に来ることが出来て、私はこれほどまでになく感動しているのだった。

 

 父は泣きじゃくる私を軽く抱っこして母の待つ車へと向かった。

 

 父と母の話を聞くに、どうやらこの車はつい先日建てたばかりの新しい家へと向かうとの事。

 

 車に乗り込んで車の窓を落ちない程度に開けてみる。どこか懐かしさを感じる匂いがして一日の終わりを連想させるような夏の風物詩の(ひぐらし)がカナカナと鳴いていた。




因みに主人公は身長150センチメートル、体重40キログラム、細身の美青年です。

……要は見た目がショタですね。
可愛らしい黒髪の子を想像していますが、皆さんはどうでしょうか。
意見などあれば是非。

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2話

タイトルの『遡り編』を『逆戻り(さかもどり)編』に変更致しました。


 どうやらここは死後の世界では無いらしい。

 

 その事に気がついたのは私がこの世界にやって来て、父と母と車に乗り込んで新居に着いて、その次の日のことだった。

 

 前世……というのも可笑しいのかもしれないが、以前から私は背丈が人並みほど高くはなかった。というか低かった。

 

 私の唯一のコンプレックスだったのだが、朝起きてみると以前より視線が低い。まさかなと思い家に置いてあった大きな鏡で全体像を見てみた。

 

 確かに鏡には私が映っていた。しかし私の眼はごまかされなった。

 

 私は前世の時よりも自身の伸長が縮んでいることに気が付いたのだ。

 

 

 そう、気がついてしまったのだ……。

 

 

 この時の私の心境を理解してもらいたい。施設内の職員の死体に“笑う死体の山(The Mountain of Smiling Bodies)”が突っ込んできた時以上の絶望が私の身に襲いかかったのだった。

 

 その旨を台所で朝食を作っていた母に聞いたところ、

 

『響ちゃんの身長はちゃんと伸びていますよ。だから安心してご飯沢山食べてね!』

 

 と満面の笑みで答えてくれた。今日も母は元気一杯のようだ。

 

 どうやら私の身長は生まれてから縮むようなことは無かったらしい。ということは前々から私の身長がこの高さであった、ということになる。

 

 どういう事なのかと1人物思いに耽っていると一つ大事なことを思い出した。

 

 そう私がこの世界に来ることとなった原因。“逆行時計”についてである。

 

 あの時計の機能としては、時間を巻き戻す。そして最終的に使用した職員も消し去ってしまう、というものだ。

 

 そう()()()()()()()()。この描写について実際には間違いであったのかもしれないという点についてである。

 

 何故なら消し去るとは残された側の解釈であって、使用者からはどうなのか確認することが出来ないのだ。確認しようにも当の本人は既にこの世界から消え去っているのだから。

 

 だが実際には消え去らずに()()()()()()のならどうだろうか。

 

 “逆行時計”の機能が及ぶ範囲はとても広い。ならそのエネルギーに一番近い場所にいる人も逆行してしまうのではないのか。ありえない話でもないと私は思う。

 

 しかしながらこの世界にも疑問はある。私の両親が健在ということだ。

 

 新しい自分の部屋を確認したところ、私はどうやら14歳、中学二年生だということが分かった。元の世界だと、この年齢の時はとっくの昔に両親は他界し、叔母さんの家で生活していた。

 

 だが、この世界では両親は生きている。昨日の内に事件のあったであろう日のことを尋ねてみると、恙無く2人のドライブを楽しんでいたらしい。

 

 これらのことからこの世界は死後の世界などではなく、時間が遡り、尚且つ、あったかもしれないもしかしたらの世界だということだ。つまり元いた時間軸Aの世界で“逆行時計”を使用し、時間軸Xの過去に戻ったのである。

 

 この現象は私の運が良かったからなのだろうか。もしかすると本当に消滅していただたろうに。私は会うことのなかった両親とこうして巡り会うことが出来たのだから。

 

 さて、そんな私だがどうやら中学二年生まで年齢が遡っているようだ。心無しか体も軽い気がしてくる。と言っても前世の私もティーンエイジャーなのだが。

 

 両親は今世でも都会暮らしのようだ。叔母さんによると2人とも都会育ちらしい。だからなのか、両親は仕事の転勤をきっかけに田舎に引っ越すことにしたそうだ。

 

 古き良き街並み、懐かしみを感じる家々。そんな雛見沢に私達家族は引っ越してきた。

 

 

 

 昭和58年5月、2度目となる学校生活は雛見沢分校という場所らしい。小中一貫の小さな学校だ。人口約2000人の小規模な村だから致し方ない。

 

 校舎に入るとどこか古臭い匂いが鼻を通った。だが不思議と嫌な気分ではない。あんな死と隣り合わせの世界よりも平和でほのぼのとした場所の方が私には合っているのかもしれない。

 

 それにしてもやはり学校というものは何時になっても緊張するものだ。教壇の前に立って生徒の方を見る。ほとんどの生徒が私よりも年齢が低いのだろう。皆何かに期待しているようなキラキラとした目で私を見つめていた。

 

 まあそんな視線で見つめられても私には期待に応えられるような自己紹介欄は出来ないがな。

 

 

 

 

「よう! 俺の名前は前原圭一っていうんだ。あんたの名前は……石原響也か。これからよろしくな!」

 

 そう気さくに話しかけてきたのは前原圭一。人当たりのよさそうな好印象を持てる青年だ。

 

「はうー! 私の名前は竜宮レナ、気軽にレナって呼んでね! それにしても随分とちっちゃいね。はうぅ! お持ち帰りー!」

 

 そう言って私を『持ち帰り』しようとするこの子は竜宮レナというらしい。『持ち帰り』されるのは基本的にかわいらしい子供たちらしく、私もその類に含まれていると思うと少しだけ悲しさがこみあげてくる。それにしてもレナは女子にしては体つきがしっかりとしている。もしかしたら単純なスピードなら私を凌駕する可能性もある。

 

「こらこら、圭ちゃんもレナもそんなに詰め寄らない詰め寄らない。おじさんたちだって響也君と喋りたいんだからね」

 

 私に真っ先に話しかけてきた二人を後ろから諫めているのは園崎魅音。この地域のお偉いさんの娘らしい。周りの子と比べると大人びていることからこのクラス……というよりもこの学校のリーダー的存在だという事が分かる。

 

「おーっほっほ! 響也さんは見た感じ随分と抜けているようですが、そんなんで毎日やってくる私のトラップ地獄を耐えれるかしら?」

 

「にぱー☆沙都子、新しくやってきた仲間に意地悪したら駄目ですよー」

 

 そして彼女たちの近くにいる小さい子たちは北条沙都子と古出梨花。沙都子はトラップの達人らしく裏山は既にダンジョンの様に魔改造去れているとのこと(圭一談)。梨花ちゃんは魅音さんと同じくここいらで権力を持っている嬢ちゃんなのだ。可愛らしい見た目と挙動だがその裏では家柄が深く結びついているのかもしれない。

 

 ……実は沙都子に『抜けている』と言われたことを少しだけ気にしている。そんなに気が抜けてしまっていたのか。これでも幾度の死地を潜り抜けてきたのだが。

 

 さて、これから外で体育の授業をするらしい。一応家にあった体操服を持ってきておいたが、それが功を奏したようだ。

 

 ひとまず私はお手洗いに行きたかったので、いまだに質問を続けている子供たちに一言謝りを告げて席を立った。

 

「トイレ……? ああ、それなら廊下を出て少し進んだところの右手にあるぞ。……ん?」

 

 どうかしたのか圭一、私の尻を見つめて。まさかお前はソッチの気が……。

 

「断じて違う! 俺は今までも、そしてこれからも女が好きだ! ってそうじゃなくて、なんかお尻に付いてね」

 

 ……? 

 

「……これ画鋲じゃねえか! おい沙都子。お前危ないからこういう悪戯はやめろって前から何回も言ってるだろ!」

 

 なんと。

 

「あらあら圭一さん、私がやったという証拠がどこにありまして?」

 

「まあまあ圭一君も落ち着いて。圭一君だって入学の時はこれを受けて緊張がほぐれたんでしょ?」

 

「確かに……」

 

 成程。沙都子はただの悪戯っ子だと思っていたが、ちゃんと気遣いができるしっかりした子だったのだな。偉い偉い。

 

「ふん! 私を侮らないでくださいまし! って頭を撫でるなー!」

 

「それにしてもお尻に画鋲が刺さったのに顔色一つ変えないなんて、響也はすごいのですー」

 

「いやいや、もしかしたらただの鈍感さんかもしれないよー?」

 

 ……魅音にまでそういわれると認めるしかないのかもしれない。

 

「ん、そろそろ体育にいかなくちゃ。もう授業が始まっちゃうよ」

 

「そうだな。魅音今日は何をやるんだ?」

 

「そうだねぇ……。今日は響ちゃんの初めての授業だし、鬼ごっこで行こう!」

 

 そう行って着替えに動く彼らたちの事を見ているとこんな生活も悪くないって思うようになった。前世とは真逆の騒がしさが不思議と心地よく感じる。

 

 彼らにとって私はもうすでに『仲間』なのだろう。それはこの狭い雛見沢村で育ったからこその絆のなのだ。

 

 彼らよりも長く生きてはいるがまだまだ学ぶことは多そうである。そう思いながら彼らに遅れないように素早く立ち上がった。




格好よく締めていますが、響也君はこれからトイレに行きます。(´・ω・`)

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第3話

 アンジェラ「キョウヤ、とても似合っていますよ。」


 マルクト「わぁ! キョウちゃんかわいいですね! 管理人に貰ったのですか?」


 イェソド「ふむ……。耐久力と防御力に優れているいい(コスチューム)だな。管理人もいいものを贈る。」


 ホド「すごく似合っています! ……そうだ! 今度一緒に“コスプレ”というものをしてみませんか? 大丈夫です。絶対にキョウさんなら似合いますよ!」


 ネツァク「うおっ……、なんだお前、実は女だったのか?」


 ティファレト「キョウヤ! 上層にあまり行くなって前から何回も言って……! ……何よその服、そんなの着て楽しんでるわけ? バッカみたい! さっさと仕事に行きなさい。……その服結構似合っているわよ。」


 ゲブラー「ん、どうし……。……全くキョウヤにはこんな服よりもライダースーツのようなしっかりとした服の方が似合うというのに。なんだ、その服か? ……まあ悪くはないな。」


 ケセド「ふあ……。……おおキョウヤよく来たね。その華麗に決めた服を各部署に見せびらかしているのか? ……全然違う? まあまあ、そういうことにしておくよ。 ……それと君はもう少し男らしくしなきゃね。何時までも子供のままじゃいけないよ。」


 ビナー「………………いいと思う。」


 ホクマー「ふむ……。もっと他にいい装備はなかったのですかな。これではキョウヤ、貴方は女子と間違えられてしまいます。そうなれば職員に舐められ、ここで一、二の実力を誇る貴方の名前にも傷が付きます。もっと自分を大切にしてください。」


 ——“愛と憎しみの名のもとに(In the name of love and hate)”一式を装備した響也に対する各セフィラの反応より


 久しぶりの中学校生活初日はあっという間に終わってしまった。

 

 体育の時間は教師が特に授業について口を出すことがなく、生徒の自主性に任せたとてものびのびとしたものだった体育だけでなく、ほかの授業も一般的な学校とは違う形式で進んでいった。

 

 こういうのも悪くはない。

 

「「「さようならー!」」」

 

 さて、授業が終わると私には特にすることはなく、この町の地理情報を把握しようかと思っていたが、どうやら圭一達は部活動を行っているらしく、それに着いて行くことにした。因みに特に名前は決まっておらず、彼らは単に『部活』と呼んでいる。シンプルな名称であるがゆえに私はどのような部活なのか、と年相応にわくわくした。

 

「あれ、響也君、私たちの部活に入りたいの?」

 

 動き出したレナに私の意志を告げると彼女は少し驚いたような顔をしていた。そこに横から圭一がニヤニヤ顔で腕を組みながら私にこう言った。

 

「本気なのか……? 俺らの部活は生半可な気持ちで入部していいようなもんじゃないぞ。毎日が己の命を懸けた熱い試合。勝者には栄光を、そして敗者には恐ろしい罰が待っている。……それでも入りたいと思うのか?」

 

 なんと。

 

 驚くべきことに彼らが行っているのはただの部活などではなく、私がかつて働いていたロボトミー社(あの地獄)と似たような境地のものだというのだ。たかが田舎の小さな学校の部活と思っていたがどうやら私は彼らの事を侮っていたようだ。

 

「みー、そんなに身構えなくてもだいじょうぶなのです。圭一も誇張しすぎなのですよ」

 

「そうそう、私たちは放課後になるとこの五人で集まってカードゲームやボードゲーム、テーブルゲームなど多種多様なゲームで競い合っているんだよ。圭ちゃんも初めはよそよそしかったけど今じゃ立派な部活メンバーさ。こんなに大きくなっておじさんとっても嬉しいよー」

 

「はっ、そう言っていられるのも今の内だぜ、魅音! 今日という今日は皆に勝って貴様にメイド服を着させてやるのだ!」

 

 どうやら命をかけた闘いというのは圭一の言葉の綾だったらしい。流石にあんな荒んだ世界とこんなにも平和な村が同じであるはずがない。あれは悪い意味で特別な世界だったと今になって理解できた。

 

「というかその年で『働いていた』なんて冗談が過ぎません事? そんなに見栄を張りたいのならもう少しましな嘘をつくことですね!」

 

 ん、こんなところにちょうどよいひじおきがー。

 

「きゃあああ!? ちょっ、ちょっと頭をひじでぐりぐりするのをやめてくださいまし! 髪が崩れてしまいますわ!」

 

「響也、ごめんなさいなのです。沙都子は背丈の近い異性に戸惑っていて、少し素直になれないだけなのですよ」

 

「り、梨花! あることないこと言うのはやめてくださいまし!」

 

「にぱー☆」

 

 成程、素直になれないお年頃なのか。ならば今回はこのことについては不問としよう。だが次はないからな。

 

 そう言って私は沙都子の頭から手をどかしたのだが、沙都子は何か言いたげだった。とても意志が強い子である。

 

「そんなんじゃありませんのに……」

 

「ははは! 今日一日で随分と仲良くなったようだね。よおし、私がここで響ちゃんが入部することを許可してあげよう!」

 

 嬉しい事に魅音が私の入部を認めてくれた。そのことに圭一たちは異論は無いようで——沙都子だけは私の事を恨めしい目で見ていたが——それを確認した魅音がうん、とうなずいていた。なんだか部員としてだけでなく、彼女らの一員としても認められたようで私は少しだけ胸が熱くなった。

 

 

 

 

「それじゃあ今日は……“ジジ抜き”でもやろうかな」

 

「なっ……。成程、それは面白そうだな!」

 

「おーっほっほ! 圭一さんは今回も負けないように頑張ってくださいね?」

 

「沙都子の方こそ、いつまでも上にいると思っていたら大間違いだからな!」

 

 今日のゲームはジジ抜き。ジョーカーを抜いた五十二枚の中から一枚見ないように除外し、その状態でババ抜きの様にカードのペアを作っていくというものだ。そう言って魅音は引き出しから年季の入ったトランプを取り出して全員に配っていった。

 

「響也はこういうゲームは強かったりするのか?」

 

 魅音が六人にカードを配っている最中に圭一にこんなことを聞かれた。

 

 実を言うと、私はこの手のゲームはルールは知っているものの、あまりやったことがないのだ。理由としては高校中退して入社したこともあるが、小学校や中学校では友だとと呼べる人がいなかったのだ。どこか他人と一線を引いていたんだろう。相手に踏み込み過ぎず、相手に極度に踏み込まれないよう慎重に生きてきたと記憶している。

 

 そんなことをぼかして彼に告げると彼の私を見る目が少しだけ変わった気がした。

 

「確か響也は東京から来たんだっけ……。……そうだよな。理由もなくこんな田舎の村に東京の人が来ないもんな。悪い、いやなこと聞いちまって」

 

 そう言って彼は私に謝罪してきた。

 

 ……非常に面倒くさい誤解をされた気がする。

 

 そんなことをしている内にどうやらトランプを配り終えたみたいだ。

 

 さて、私のカードはというと……。ハートとスぺードの9のペアしか揃わず七枚という少し悪い状況からのスタートとなった。梨花ちゃんが沙都子のカードを引き始めてゲームは始まった。

 

 皆は着実に自分の手札を減らしていっている。カードを引くのに迷いが見えない。よほど彼女らはこのゲームに自信を持っているのだろう。

 

 

 

 

 ゲームも佳境に差し掛かってきた。

 

 既に一枚しか持っていないのは魅音と梨花ちゃん。沙都子とレナは二枚持っていて、圭一は三枚。そしては私は五枚も持っていた。

 

 やったことはあまりないとは言ったものの子の様子ではそれ以前の問題である。何かコツでもあるのだろうか。

 

 そして梨花ちゃんが私の手札を引こうとしたとき、テーブルをはさんで向かいの魅音が悪い顔で私のカードを見ながらこう言った。

 

「ふっふっふ。響ちゃんのカードを右から当ててあげようか」

 

 ……何? 

 

「響ちゃんの手札は右からA(エース)、6、7、Q(クイーン)K(キング)だね。当たってる?」

 

 ……その通り。彼女の言う通り私の手札はその五枚である。

 

 そんな事を私は言われたが驚きはあまりなかった。彼らがカードを引く時八割九割の確率でペアができていたからだ。明らかにゲームがきれいに進み過ぎていて少し違和感を覚えていたのだ。

 

 彼女の表情から分かる自信から今の言葉が勘の類のものではない事が分かる。ではなぜ私の手札を見ずに当てる事が出来たのか。

 

『——そう言って魅音は引き出しから年季の入ったトランプを取り出して全員に配っていった』

 

 ……そのタネとは恐らくこの年季の入ったカードについている傷を目印としているのだろう。それに気づいた私は咄嗟にカードの裏面を手で隠した。しかしながらその行動をするには遅かった。

 

「隠さなくても貴方のカードはすべて分かりますわ。ゲームが始まった時からすでにあなたは詰み(チェックメイト)でしてよ!」

 

「因みにジジはスペードのK(キング)だよ。右から三番目のカードだね」

 

 沙都子とレナから声が入った。年季が入っているということはそれほどまでに彼女たちがこのジジ抜きをやりこんだのだろう。相手の手が分かる、裏を返せば自分の手も相手に知られるという事だ。そんな中彼女たちは勝ちを目指して日々競い合っているのだと思うと、ただ遊んで終わりのような甘い部活などではない事が感じられた。

 

「きっとこれがハートの6です……。はいっ、上がりなのです!」

 

 にぱー☆っとした満面の笑みで上がった梨花ちゃんに続いて魅音、沙都子、レナと上がっていき……。

 

「よし! これで俺の勝ちだ!」

 

 圭一が私のダイヤのA(エース)を引き当てて上がった。結局私は最下位となった。

 

「案の定響ちゃんが最下位だったね。それじゃ敗者には……これを着てもらいましょうか!」

 

 そう言って魅音がどこからともなく取り出したのは黒と白のシンプルなメイド服だった。フリルまでついていて完全に女性用である。

 

 これを着るのか。私が。

 

「そうでございましてよ。さあ早くその可愛らしい服に着替えて『ご主人さまー』と私に奉仕するのですわ!」

 

 

 

 

 

 

 ……ふむ。

 

 

 どうやら私は彼女たちにとっていいエサのようであった。

 

 

 

 

 こうして記念すべき雛見沢村での初めての部活は私の負けという形で終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 まあ女装するのに何のためらいもなく着替えることが出来るほどに私は“愛と憎しみの名のもとに(In the name of love and hate)”で鍛えられているのだが。

 

「ってちょっとここで着替えないでないでくださいまし!」

 

「はうー! お持ち帰りー!」

 

「……レナ、鼻血出てるぞ」




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