西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー (西住会会長クロッキー)
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第一話 舎弟との再会です!

ご覧いただきありがとうございます。
なんとなくゲオから借りて来た北野武監督のアウトレイジシリーズを見たことやリア友が僕の横で龍が如くをやっている様子を見たことがきっかけで、『もし、みぽりんに舎弟がいたら?』という発想で書いてみました。
引き続きお楽しみください!


西住みほには、少女のような見た目をした舎弟がいた。彼とは『強襲戦車競技(タンカスロン)』で出会い、交流を重ねていくうちに仲良くなり。

いつしかその少年は、彼女を「みほ姉貴」と呼んで慕うようになったのである。

みほが黒森峰女学園の中等部に入ってからは数えるくらいしか会わなくなった。それが続くうちに四年近く経とうとしたある日、再び以前のように仲良く過ごす日々がやって来ようとしていた。

 

「やっぱりケーキはイチゴショートがいいなぁ……」

 

黒森峰女学園から大洗学園に転校してきた彼女は、自身が借りているマンションの自室で夢の世界を楽しんでいた。そんな夢の中の世界は長く続かず、目覚まし時計が放つ電子音を基調としたアラームによって一気に現実に引き戻される。

 

「ん……っ……ふぇっ?!」

 

彼女は一度ベッドから被っていた布団と大好きなボコのぬいぐるみごと転げ落ち、部屋中にこだまするアラーム音の発生源である目覚まし時計を止めたと思いきや、テンポよくパジャマを脱ぎ捨てる。

だが、ここで一瞬手を止めるのであった。

 

「そっか。もう家じゃないんだっ!!」

 

みほはもう一人でいるということを思い出して満面の笑みを浮かべながらそう言った。すると、今度は自分の部屋のインターホンが部屋中に響いた。

 

「ん?誰だろう」

 

彼女は脱ぎかけていた上着を着直して玄関の扉を開けると、そこには大洗学園の制服を身に纏いサングラスを掛けた黒髪の少女のような少年が立っていた。

彼はみほの姿を見ると、同級生であるにもかかわらず両手を膝につけて深く頭を下げて謙虚な態度をとった。

 

「おはようございます!みほ姉貴、お迎えに上がりましたっ!!」

 

「せ、誠也君っ?!」

 

みほは、転校してから一緒に登校すると約束していた親友であり舎弟である『大友誠也(おおともせいや)』が自ら迎えに来てくれたことに驚いていたが。同時に彼女の中にある嬉しさのパラメーターが上昇する。

対する大友は自身の家族を慕っているような目で彼女を見つめていた。

 

「おっと。着替えが済んでないのに失礼しました。着替えが終わるまでここで待たせてもらいます」

 

「ありがとう。色々準備するから待っててね」

 

彼女はこの事をすっかり忘れていたのか。自分の部屋に戻ってテキパキと制服に着替えてから他の出発準備をし、小走りで再び玄関に向かって靴に履き替えて共有部の壁にもたれかかって待っていた大友の腕に抱きつく。

 

「みほ姉貴、いきなりそんな……びっくりしますよ……」

 

「いいじゃない。それに、君はそのままの方がかわいいんだからサングラスは没収!」

 

「へへっ。みほ姉貴がそこまで言うんならやめときますよ。子分を待たせていますんで、話は車の中でしましょう」

 

彼は参ったと言わんばかりにみほから返してもらったサングラスをブレザーの胸ポケットに仕舞うと、彼女を連れてマンションから出る。

 

『ご無沙汰しておりますっ!みほ姐さん!!」

 

出てすぐのところに後部の窓をスモークフィルムで覆った黒色の国産高級車が停まっており、その前にいた三人の一年生と思われる少年はみほを視界に入れると、先程の大友のように膝に両手をついて元気よく挨拶をする。

 

「わぁ……久しぶりだねっ!『水野桔平(みずのきっぺい)』君、『木村英雄(きむらひでお)』君、『安倍雄飛(あべゆうひ)』君。入学おめでとうっ!」

 

『お祝いの言葉をいただき、感謝いたしますっ!!』

 

みほは、舎弟の後輩たちとも再会したことが嬉しくて仕方がなかった。彼ら三人ともタンカスロンで出会い、共に楽しい日々を送った仲であった。

 

「桔平、他の若いのは?」

 

「会長、他の子達ならもう学校についています。俺らも行くとしますか」

 

「そうだな。みほ姉貴、行きましょうか」

 

「うん。車で登校なんていつぶりだろう」

 

水野は車の後部ドアを開けると、みほと大友を先に入れる。二人が乗ると、他の三人も乗り込んで車を発進させる。

みほは、車窓から見える景色を高速バスか新幹線に乗って初めて遠くに行く園児のように楽しく見つめている。

調理服を身に纏った男性がパンを丁寧に焼き上げていたり、同じ学校の女子生徒が楽し気にコンビニエンスストアの入って行ったり。ありふれた日常で溢れた光景に彼女は釘付けになっていた。

 

「そういや、黒森峰女学園や他の学校にはコンビニとか無かった気がしますが。みほ姉貴からすれば学園艦の中で営業されているコンビニは珍しいのですか?」

 

「うん。小さい頃から一度コンビニに行ったら三十分くらい居るくらい。行く機会が無かったから珍しいんだ」

 

「そうなんすか?逆に俺は中学まで飯を買うのもコンビニ、生活用品を買うのもコンビニっていう生活でした」

 

大友とみほは、コンビニに関する雑談で盛り上がっていたが。そんなやり取りをしているうちに車が学校へ入ろうとしていた。

 

「確かみほ姉貴はA組でしたよね。そこまでお送りしますよ」

 

「ありがとう……転校して初日だったからすごく安心するかも」

 

学校へと着き、駐車場に入るとそこにはもう二台の黒色の高級車が停まっており、その前で一年生の生徒達が直立不動の姿勢で待っていた。

 

「あんなに沢山お友達が……それにみんな可愛いね!」

 

「ええ。あそこにいるうちの衆は皆、俺が率いる大友連合会の直参の親分集です。全員、俺や桔平達みたいにタンカスロンから来た子達です。

 

そんな会話を交えながら二人が車から降りると、その前にいた生徒たちは「ご苦労様です」の一言と共に二人に対して深く頭を下げる。

 

「おう。わざわざ待ってくれてありがとうな。俺はみほ姉貴を教室まで送るから。みんなは解散でいいぞ。桔平、英雄、雄飛。三人も教室へ行きな」

 

「ありがとうございます。親分、俺らは先に行かせてもらいますね」

 

水野といった一年生衆はもう一度、みほと大友の二人に頭を下げるとそのまま解散して一年生の教室に向かって行くのであった。

 

「ええっ!!みんな誠也君の子分さんで戦車チームの親分さんなの?!」

 

「ええ、皆んなタンカスロンをやってるうちに気づいたら集まっていましたね」

 

「そうなんだ。さっきから気になってたんだけど、誠也君の名字が入った大友連合会って何なの?」

 

「うちの組ですか?組といっても昔いたヤクザとか戦車暴走族とか。そんなのじゃないんで安心してください」

 

大友連合会とは、組員は彼と各親分集を含めると一八九〇人ほどのタンカスロンチームだ。

組員の一人一人は幼少期から大友のように戦車に乗り。タンカスロンに従事してきた者達だった。

また、それこそ本職の組が付く人たちのように高級車を所有していたりするのは、タンカスロンに関連する賞金が出る大会に参加してそこそこの額の賞金を得るまたは、現実世界でいうところのFXのようなもので莫大な利益を確保して貯めこんでいるからであった。

なので、この組織は戦車道に関連するものでその気になればいつでも手が出る実力を有しているのも確かだ。

因みに前身は構成数三百人くらいの大友組という名称で。大友や水野、木村、安倍を除く構成員は大洗学園の学園艦で生まれ育った者が大半のため。会長である彼が大洗学園に入学してから今ここにいる少年達が参加に入った後、現在の大友連合会に改称した。

また、学園艦外の陸上の学校に通う構成員が持つ傘下組織や別の学園艦に拠点を出している傘下組織も存在する。

 

「教室に着きましたね。みほ姉貴、お昼休みの時にまた迎えに来ますんで。一緒にお昼でもどうですか?」

 

「ありがとう誠也君。また後でね」

 

大友はみほと一旦別れると、自分の教室へと向かって行くのであった。そんな中、彼はボソッと一言を放つ。

 

「みほ姉貴も少し変わったかな?……そろそろこの空気に慣れないとな」

 

彼が言い放った言葉の意味を表すかのように、廊下にいた女子生徒の一部は物珍しい目と彼を可愛いらしいと感じる目で見つめていた。

無理もない。この世界は現実と異なって男女平等パンチが通じる上、男女の性欲だけが逆転した世界である。

簡単に説明するなら。女性が現実より強い傾向にあり。痴漢行為ならぬ痴女行為、レンタルビデオ店においてはガタイの良い男性ばかりが映った成人向け映像作品、男子生徒が女子生徒からセクハラを受ける。といった感じだ。

彼も容姿がショタや男の娘と呼ばれる分類にあたるため、今までに女性からのスキンシップ的な意味で散々な目に遭ったこともある。

大洗学園では無かったものの、様々な学校に戦車道の交流会などで訪れた際、一部の隊長または”後の隊長になる人物達”から色んな意味で襲われかけたことが何度かあった。

さらには、両親や祖父母を早くに亡くした独り身である彼に目をつけた”ある流派”の家元にも家族と同等な意味で愛されていたりする。

 




ご覧いただきありがとうございました!
以下、オリ主の設定です↓
名前:大友誠也(おおともせいや)
年齢:17歳
誕生日:4月2日
搭乗戦車:E-25
チーム名:イタチさんチーム
容姿:『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』に登場する戸塚彩加をそのまま黒髪で目の色を濃褐色にした感じの容姿
身長:148cm

元々はタンカスロンの戦車乗りで水野や木村、安倍といった三人の子分を率いて武闘派として名を轟かせていたが、ある時にみほと出会い。みほからの戦車道指導を受けている最中に彼女に感銘を受け。
また、現在は茨城を拠点に大友連合会というローカル男子戦車道チームを率いている。

以下大友連合会の組織図
構成員:1890人
傘下組織一覧

大友連合会メンバー
会長:大友誠也
↓子分
若頭:水野桔平(誠竜会会長)

本部長:小山秀人(小山組組長)

若頭補佐(三名)
木村英雄(木村組組長)
安倍雄飛(安倍総業組長)
近藤慎司(近藤連合会長)

幹部
岡崎聡(岡崎組組長)
上田誠己(上田組組長)
伊達正義(伊達正組組長)
本宮蓮司(本宮組組長)
藤田進(藤田会会長)
小野浩樹(小野興業組長)
瀬島康介(瀬島組組長)
嶋健太(嶋健会会長)
塚原丈治(塚原組組長)

↓舎弟(第十八話から登場)
舎弟頭・村川武(村川組組長)
舎弟頭補佐・山本諒介(山本組組長)
舎弟頭補佐・我妻清弘(清心会会長)


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第二話 戦車道再開の宣言です!

ご覧いただきありがとうございます。
早速、原作とは異なる展開を入れていきます!
引き続きお楽しみください!


午前中の授業が終わり、昼休みが始まった頃。

周囲は、昼食は何にするだとか放課後はどこそこに行こうといった日常会話で溢れている中、みほは次の授業の準備をしていた。

彼女がノートをまとめようとしたとき一本のシャーペンが机から落ちるが、それを誰かが拾い上げる。

 

「みほ姉貴、お待たせしました」

 

「誠也君、来てくれたんだ。えっと……隣の子は?」

 

「実はこの子を紹介したくて迎えに来ました。彼女は、秋山優花里ちゃんといってみほ姉貴の事を尊敬している子なんです」

 

みほを迎えに来た大友は、クラスメイトの一人である優花里を紹介する。彼に紹介された優花里は、目を輝かして彼女の事を見つめている。

 

「お、お会いできて光栄です。西住みほ殿っ!」

 

「……はいっ!よろしくね、秋山さん」

 

みほが立ち上がって彼女と握手を交わした直後、どこか明るくフレンドリーな少女の声が三人の間に割って入る。

 

「へいっ!そこの二人の彼女と彼、一緒にお昼でもどう?」

 

「「えっ?!いいんですか?」」

 

三人が声がした方を見るとオレンジがっかた髪と優しい瞳が特徴的の少女、武部沙織と跳ね上がった髪の毛とお淑やかな瞳が特徴である五十鈴華の二人であった。

みほと優花里は突然声を掛けられて同時にびっくりする。対する大友は、そんな二人の姿を見て微笑ましく思っていた。

 

「ほら、沙織さん。二人とも驚いているじゃないですか?」

 

「いきなりごめんね」

 

「あの、改めまして。よかったら五人でお昼一緒にどうですか?」

 

「「わ、私たちとですか?」」

 

「お誘いどうも。ここはご一緒しましょうよ。姉貴、優花里ちゃん」

 

華と沙織の二人は静かに笑うと優しくうなずいた。

四人は食堂へと向かい、共に食事を楽しみ。それぞれの出自について語っていた。

 

「よかったぁ。三人も友達が出来て。わたし、一人で大洗に引っ越して来たんだ」

 

「そっか。人生色々あるよね。泥沼の三角関係とか、告白する前に振られるとか五股かけられるとか……」

 

「うーん。ええっと……」

 

「ご家族に不幸が?骨肉の争いとか遺産相続ですとか」

 

「そういう訳じゃ……」

 

「じゃあ親の転勤とか?」

 

「それも違うかな……」

 

「武部殿、五十鈴殿。西住殿は昼ドラとかサスペンスドラマの主人公じゃないんですから」

 

「あら、いっけなーい。私としたことが」

 

ここでみほが何か考え事をするような表情で顔を下に向けると、優花里が二人に突っ込みを入れる。

これによって四人の間で笑いが起こり、暗くなろうとしていた彼女の表情はまた明るくなった。

 

「(優花里ちゃん、君は本当に優しい子だ。みほ姉貴の気持ちを理解しているだけあるな)」

 

みほに関するこの話題を心配していた大友は、内心で優花里に感謝していた。突っ込みを入れた彼女もみほの暗い顔を見たくなかったのだろう。笑いながらもどこか安心した顔をしている。

 

 

 

昼食が終わり、A組の教室で四人は話を続けていた。今度は、大友に関する話で盛り上がっており。特に沙織が一番楽しそうに彼と会話を楽しんでいた。

 

「ねぇねぇ。大友君ってみほとどういう関係なの?あと、入学した時から大友君が男で一人ここに来たのが気になっていたんだよね」

 

「ああ。俺はみほ姉貴の舎弟かな。ここに来たのはその……個人的にここがいいかなって思ったんだよね」

 

「しゃ、舎弟さんなんですか?!二人で天下を目指したりだとか、たった二人で敵対するグループを潰したりだとか……それから手を引くためにここでやり直そうと来ていたりして」

 

「ははっ。五十鈴さん、みほ姉貴と俺はそんな物騒なことはしねぇよ。ゲームや漫画、Vシネじゃねえんだからよ」

 

大友が放ったこの一言に彼女は舞い上がろとしていた。それを助力を加えるかのように華も彼に質問する。

彼は早速溶け込んでおり。二人と仲良くなっている。

そんな三人のやり取りを見て、みほと優花里はクスクスと笑っていた。

だが、それも束の間と言わんばかりに突然。身長が比較的に低いツインテールの少女やポニーテールでおっとりとした感じの少女、モノクルのような眼鏡をかけたショートヘアーの少女が入って来ると四人の周りにいた生徒達はざわつき始めたため、大友はいち早く異常を感じ取った。

それが的中したかのように、眼鏡を掛けた少女がみほを指さす。

 

「やぁ。西住ちゃんっ!それに……大友ちゃんっ!」

 

「は、はい?!武部さんあの人達は……」

 

「生徒会長の角谷杏さんと副会長の小山柚子さん、広報の河嶋桃さんだよ」

 

「生徒会長さんが俺とみほ姉貴に何の用ですか?」

 

大友の言葉を皮切りに、彼女たち三人は二人の前まで近づく。三人が近づくにつれて彼の表情は険しくなっていく。

 

「必須選択科目なんだけどさぁ~。二人とも戦車道を取ってね!よろしく」

 

「えっ……」

 

みほが杏にそう言われた途端、今にも崩壊寸前の吊り橋を渡る旅人のように一気に不安な表情になる。間髪を入れずに杏がみほに纏わりつこうとした瞬間、大友が手で彼女を制する。

 

「待ちな。あんたらみほ姉貴と俺を知っているということは、きっちりと俺らの経歴を調べたんだろうな?」

 

「あぁ、もちろん。大友ちゃんが強襲戦車競技界隈で暴れ回っていたのは承知済みだよ。あと西住ちゃ……」

 

「おっと。それ以上言わなくていいぜ。俺だけが履修というのはダメなのか?改めまして。俺は戦車道チーム大友連合会会長、大友誠也だ。あとは他の優秀な若い衆を忘れちゃ困りますよ」

 

「それは困るんだよね~。一人でも多く戦車道経験者の履修者が欲しいからさ。それに君の組織の組長さん達にはその話を通しているからね」

 

杏は大友の言ったことを顧みず。みほを勧誘しようとするが、大友は廊下の方を見て右手を上げて指を鳴らす。

 

「おう。お前ら、入って来てもいいぞ。この人は説得する必要があるみたいだからよ」

 

「おい、君。会長に向かって何を……な、何だ?!」

 

いつの間にいたのだろう。ドアの近くにいたスクエア型眼鏡を掛けたオールバックの少年が水野や木村、安倍といった大友の子分を連れて教室に入って来た。

 

「へへっ。会長さん、結構楽しんでるみたいじゃないすか?俺らも混ぜてくださいよ」

 

「会長さん。なんだか物騒な空気ですね〜」

 

「さっき協力は惜しまないと申しましたが。これは一体なんですか?説明してください」

 

安倍が杏に対してそう言った途端、彼女の右手にいた柚子がオールバックの少年に問いかける。

 

「ちょっと、ひでくんっ!この子達は一体……それにどうしたの急に!」

 

「そんなのは二の次だ。いくら会長や河嶋さん、柚子姉でもみほ姐さんや親父、そちらの三人を脅すようなことをしたら承知しねえぞ」

 

「おいっ!秀人、生徒会室にいたんじゃないのかっ!それに自分のお姉ちゃんに向かってその口の利き方は何だ?!」

 

オールバックの少年……『小山秀人(こやまひでと)』は実姉である柚子や桃、杏に向かって歯に衣着せぬ言葉を浴びせる。秀人の唐突な行動により。

姉である彼女はたじたじとし、桃はみほという標的から彼に標的を変えると、これを待っていたと言わんばかりに水野が一気に杏の前まで歩み寄る。

当の杏は少し顔を引きつらせるが、それでも怯まずに今度は水野に声を掛けた。

 

「ち、因みに君たちが言う大友連合会は何人くらいいるんだっけか?」

 

「俺を入れて一八九〇人ですよ。一人の女性を狙うより、俺たちのように経験豊富なメンバーを集めた方がいいんじゃないすか?まあ、千人の構成員は越えていますが。高校生で大洗学園に居るのは、十五人くらいなんですけどね。うちの本部長の秀人が言ったみたいに俺たち大友連合会は全員みほ姐さんやその周りの人たちの味方ですから、もし姐さんや親分に何かあったら俺たちが黙っちゃいませんよ。さて、角谷会長。どっちが損か得かよーく考えた方が良いと思いますがね」

 

彼は、可愛い顔とは裏腹に何らかの圧が入ったトーンで彼女に対してそう言うと同時に大友や彼をはじめとする幹部たちは何らかの圧が入った笑顔で一斉に杏を見つめる。

 

「……あははっ。と、とりあえず西住ちゃん。強制はしないから履修は考えておいてねっ!小山、河嶋。帰るよ」

 

杏は額から少し汗を流しながら柚子と桃を連れて逃げるようにしてA組の教室から出ていくのであった。

四人の幹部は、勝ち誇った表情で出ていった三人の背中を見つめている。

大友はしばらく三人を見つめた後、みほや他の三人に頭を下げた。

 

「みほ姉貴、お騒がせしてすみません。戦車道に関しては俺らが全力でやり抜きますんで、みほ姉貴は自分の好きな授業を取ってください」

 

「……誠也君。いつも私を守ってくれてありがとう。水野君や木村君、安倍君。それに本部長さんの秀人君もありがとう」

 

「えへへっ。みほ姉貴にそう言っていただけるとこちらこそありがたいです。そうだ。秀人から情報があるんです」

 

大友は秀人から渡されたメモ用紙を見ながらみほの左側に立つと、中腰の姿勢になって耳打ちした。

 

「(みほ姉貴。放課後、生徒会は戦車道に関連する宣伝を行うために全校生徒を招集します。事情は今のところ分からないんですが、単位三倍と遅刻見逃しと食堂無料券の特典付きみたいです。なので、生徒会からの招集は無視してもらっても構いません)」

 

「そうなんだ。親切にありがとう」

 

「それが舎弟ってもんですから」

 

みほが優しく微笑み掛けると同時に彼は照れくさそうに頭を下げた。すると、水野が気まずそうな表情で大友の肩を軽く叩いた。

 

「親分、今の騒ぎで周りの視線がえらいことになっていますし、休み時間もあと十分しかありません。そろそろ引き上げませんか?」

 

「そうだな。みほ姉貴、また放課後迎えに来ますんで」

 

大友が教室と外の廊下に目をやると、他のクラスの女子生徒も集まったのだろう。

大半の生徒が自身の両手を合わせてドラマの感動シーンを見るかのように目を輝かせながら彼と四人の幹部を見つめている。

 

「他の皆さんもお騒がせしました。それでは、みほ姉貴失礼します。皆、帰ろう」

 

五人は集まっていた群衆達に頭を軽く下げると、教室から足早に出ていくのであった。

 

「みほもなんだかんだ言って色んな子達に慕われているじゃんっ!」

 

「みほさん、良かったですね。かわいくてかっこいい舎弟さんをお持ちで」

 

「大友殿とその兄弟分の皆さん……いい人達ですねっ!」

 

「ありがとう。三人にそう言ってもらえると私も嬉しくなってきたな」

 

みほの顔にはもとの純真無垢な笑顔が戻り、四人の少女は再び会話を楽しむのであった。そして、この時彼女の心にはある”一つの志”が灯ろうとしていた。

 

 

 

放課後となり生徒会による招集のアナウンスが流れている中、大友とみほは潮風が香る通学路を共に歩いていた。彼女が『おいらボコだぜ』の鼻歌を機嫌よく歌いながら歩いているそばで、彼は秀人と通話をしている。

大友は、生徒会の三人が何か不審な動きをしないか警戒しており。生徒会員の一人である彼に頼んで生徒会の情報収集を行っていたのだ。

 

「どうだ。秀人、何か情報はないか?」

 

『……はい。とんでもない情報を耳にしました』

 

「何だそりゃ?詳しく話してくれないか」

 

『実は……この学園艦もとい大洗学園高校が戦車道大会に優勝しないと廃校になるみたいなんです。なので……このことはみほ姐さんには……』

 

「そうか……ありがとう」

 

大友は、彼から聞いたこの一言で持っていた携帯電話を落としそうになった。

だが、すぐに怯む彼ではなかった。むしろ大友にある闘争心に火をつけたのであった。

 

「(みほ姉貴が幸せになろうとしているのに、今度はそう来たか。誰がそうするかって決めたかは知らねぇが、俺はこの学校そして、みほ姉貴を護り抜くぞ……)」

 

そう考えている内に、みほの部屋の前に着いた。本来ならここで別れを告げて自身が寝泊まりしている自宅兼組の事務所に帰るのだが、今日は違った。

 

「ふふっ。誠也君♪」

 

「はい。何ですか?」

 

「今日は家に泊まって欲しいんだっ!」

 

「はい?俺がですか……俺なんかで良かったらどうぞ」

 

「やったーっ!ありがとう」

 

姉貴分といえど、そこは待ってくれと言いたい大友だったが。せっかく元気になったみほのテンションを下げたく無かったのだろう。特に何も考えずにそれを快諾するのであった。

それからさらに夜が更けていき、時計の針が午後十時三十分を指そうとした頃、彼女から履修科目に関する話題が出てきた。

 

「あのね誠也君。私、履修する科目なんだけどね……」

 

「ええ、何にされるんですか?」

 

大友は、みほが履修する予定の科目について少し楽しみにしていた。

彼としては今まで強制されてきた戦車道から離れて新しいことをやり始めたら応援する気でいた。しかし、それは逆の方向に進むのであった。

 

「あのね……私、新しい戦車道を見つけようかなって思っていたんだ」

 

「へ?」

 

大友の口から思わず間抜けな声が出る。それも構わず、みほは続けた。

 

「実はね。武部さんや五十鈴さんそれに、秋山さんも戦車道を取るみたいなの。始めはもう戦車道なんかやりたくなくてここへ来たんだけど、今日五十鈴さんが誠也君に言ったみたいに”やり直すためにここへ来た”の一言と今日の五人の行動を見て、新しく変わることも大事なんだなって感じたから……私、自分の戦車道を見つけるために戦車道の授業を取ることにするわっ!……ってせっかく守ってくれたのにわがままな事を言ってごめんね」

 

「いいえ、それでいいんですみほ姉貴。貴女の好きな道を行けばいい。俺はそう思います。ゼロからやり直して無名校による強豪校に対する下克上なんてかっこいいじゃないですか。是非、ついて行かせてもらいますっ!みほ姉貴っ!」

 

彼は彼女の戦車道復帰の言葉を聞いた瞬間、さらに嬉しくなって思わず彼女の手を握る。

すると、みほはそのまま大友の左腕を軽く抱きしめ、そのまま桜色の麗しい唇を彼の左頬に優しく重ねて七秒ほどキスした。

 

「み、みほ姉貴っ?!それは……」

 

「ふふっ。誠也君かわいい♪今まで付き合いが長かったのに一回もしたことがなかったから。今日という今日はいいかなって思ったの!」

 

「ははぁ、そうですか」

 

大友は今日、彼女による二回の大胆な行動に度肝を抜かれそうになっていたが。

すべて舎弟として親友として受け入れようという結論に至ったのである。こうして更に夜が更けようとしていたのであった。

 




ありがとうございました!次回は第三話を投稿する予定です。
ご感想やお気に入りへの登録、評価などお待ちしております!


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第三話 意外な再会とお友達が増えます!

ご覧いただきありがとうございます!
今回でハーレムタグは回収されたかと思います。引き続きお楽しみください!


いつの間に寝てしまったのだろうか、大友はみほと出会った日の夢を見ていた。

当時、彼は水野や木村、安倍といった三人の子分達と共にタンカスロン界隈でその名を轟かす武闘派として全国のライバルたちを各個撃破して順調に勝ち進んでいた。

だが、そんなある日。熊本県に西住流主催の戦車道の試合に訪れた際、運命の人と出会った。それが、後の姉貴分となる西住みほであった。

この時、大友達は彼女とその姉である西住まほの助っ人役として参戦していた。

 

『今日はよろしくね。それに、二人が乗るⅡ号戦車はとても頼りになりそうだし、腕も期待しているよ』

 

『よろしくねっ!みほとまほって呼んでねっ!』

 

今とは真逆に少々やんちゃ気味であった幼少期のみほが元気にそう言う。

 

『よろしく頼むねっ!みほさん、まほさん』

 

しかし、試合開始直後。大友達が動きだす前にⅡ号戦車は華麗なる回避行動と敵を惑わす動きで三輌をまとめて相手にし、彼がこの時乗っていたT-15軽戦車と他の三人の戦車が動きだした頃には、みほ達の攻撃によって敵の戦車は全て履帯を切られて身動きが取れなくされているのであった。

 

『こ、この人はとんでもない人だっ……』

 

この時の大友達四人は、全員この考えにはまってしまったのである。

 

『今だよっ!撃って!』

 

みほの一言によって自然と身体が動き、とどめの一撃を三輌に浴びせたところで試合が終了した。

 

『……すげぇ。対戦相手じゃなくてよかった』

 

四人は同じ言葉を口から放つと武闘派と呼ばれて浮かれていた自分たちがみじめに思えて来たのであった。

負けた時と同じ気分になってその場に座り込んでいるとみほがやって来た。

 

『あれ?勝ったのに何で落ち込んでいるの?勝ったんだし、みんなで喜ぼうよっ!』

 

『二人の役に立てなかった僕達だよ?いいのかい』

 

『役に立たなかった訳ないよっ!最後にみんなでとどめを刺したからいいのっ!”みんなそれぞれ個性”があるんだからっ!』

 

『そうだぞ。皆で得てこその勝利だからな』

 

四人は、みほとまほが慈しみの女神様に見えたほどであった。特に最後の一言は同時に彼ら四人を完全に虜にしてしまった。

この日を境に大友は西住姉妹と戦車道やタンカスロンなどを通じて交流を重ねていくうちに仲良くなっていった。

それから月日が経って彼女が黒森峰女学園中等部に入学したころ、大友はみほに対して今の彼を完全に築き上げた一言を放つ。

 

『みほさん………いや、みほ姉貴。俺は今まで貴女から沢山の事を学ばせていただきました。どうか俺を舎弟にしてくださいっ!!』

 

『わ、私がお、お姉ちゃん?!……誠也君が良いならそれでいいよ。ふふっ。血の繋がりは無いけどかわいい弟が出来て良かった♪』

 

こうして大友は今、新たな戦車道を切り拓こうとするみほのそばに寄り添って行こうとしている。

そんな懐かしい夢の世界から目が覚めたのであった。

 

「おっと、寝てたのか俺。って……みほ姉貴っ?!」

 

意識がはっきりして分かったのは、みほが覆い被さるようにして大友の身体に足を絡めて抱きつき、すべすべとした艶やかな頬を彼の右頬に密着させていたのであった。普段の彼女からは想像できないこの姿は誰にも予想できないだろう。

大友は、みほを起こさないよう慎重に彼女から離れて洗面所に向かって昨日の夕食前に買って来た使い捨ての歯磨きセットで歯を磨き、それが終わると顔を洗う。

 

「そうだ。姉貴が起きるまで時間もあるし、何か飯でも作るか」

 

彼は台所まで行くと、冷蔵庫の中に余っていた食材を使って料理を作り始めたのであった。

作り始めてから十分経った頃だろうか、みほがいつもより早く目を覚ました。

 

「おはようございます。みほ姉貴」

 

「誠也君おはよう………朝ご飯を作ってくれたのっ?!」

 

「暇だったので、なんとなく作ってみました」

 

驚く彼女の目の前のテーブルには、白ご飯とベーコンとほうれん草のバター炒め、残り物の玉ねぎのみそ汁やデザートにはヨーグルトが置かれていた。

 

「ありがとうっ!いただ……おっとその前に」

 

みほはハンガーに掛けていた制服を持って慌てて洗面所に向かうと、五分くらい経った後に鼻歌を歌いながら戻って来た。

 

「どうぞ、召し上がってください」

 

「はーいっ!いただきますっ!」

 

元気にそう言って楽しそうに食事を頬張るみほの姿を大友は微笑ましく思いつつ、牛乳を片手にこしあんパンを食べていた。

彼は、何か会話のネタになるものが無いかと近くにあったテレビのリモコンを手に取り、電源をつける。

そこに映し出されたのは、再び男女混合化されてから五年経った戦車道の状況についてのニュース映像であった。

映像には戦車道連盟の大物達が映し出されており、右から戦車道連盟理事長の児玉七郎や国防軍の大尉蝶野亜美、極めつけは島田流の家元、島田千代の三人が出演していた。

 

「っ?!……児玉理事長や蝶野大尉、島田先生まで出ているとは朝から豪華だなぁ」

 

「戦車道の男女混合化か……誠也君みたいにタンカスロンから来ている子達も居るのかな?」

 

「もちろん居ますよ。ただ、みんなシャイというか。謙虚過ぎるというか……そんな子達ばっかりですけどね」

 

大友とみほが戦車道に関する会話をしていると、彼の携帯電話にメールの通知が届く音がする。気になった彼が送り主を見ると言葉を失いかけた。

 

「うぉっ……(相変わらず変わらないな先生は。前よりも本格的な勧誘と個人的な感情が強くなってんなぁ。丁寧に写真まで送りつけてきてるし)」

 

「どうしたの?誠也君」

 

「いや、Y〇utu〇eで好きな人が動画を更新したから驚いただけですよ。気にしないでください」

 

「ふふっ。そうなんだ」

 

彼女の舎弟である大友であっても見せたくない島田流家元、島田千代からのメールは以下のようなものであった。

 

ー久しぶりね。誠也君、朝のニュースは見てくれている?まぁ、タンカスロン界屈指の武闘派である貴方なら見ていると思うけど、気持ちは変わったかしら?私の貴方に対する気持ちは変わらないわ。

私のかわいい娘、愛里寿も同じよ。今からでも遅くないから島田流主導で日本の戦車道に更なる改革をもたらすと同時に……私の息子になるか愛里寿の婿に来ることを考えなさい。親子で貴方を愛しているわ。島田千代よりー

 

この文章の一番下には、写真ファイルが添付されており。何となく開いてみると、そこには二人で手を合わせてハートの形を作った千代とその娘、島田愛里寿の姿があった。

大友は、この一年前。島田流に何度か世話になったことがあり、当然ながら島田親子に対して感謝と敬意は大いに持っている。

だが、まだ夫が健在している千代からのアプローチやいくらなんでも早すぎるだろうと言いたいぐらい愛里寿から求婚を求めてきたり……今の写真のようなアプローチがちょっとした悩みの種であったりするのだ。

 

 

 

朝からくつろぎ、余裕を持ってマンションから出た二人は他愛のない会話を交わしながら通学路を歩いていたが、マンションから出てすぐの角を曲がった瞬間、ふらつきながら歩いている少女が二人の視界に写る。

次の瞬間、彼女はその場に座り込んでブツブツと独り言をつぶやき始める。

 

「辛い。ずっと夢の世界だったらいいのに……だがっ行かねば……」

 

「大丈夫ですかっ?!」

 

「あんた、しっかりしろ。俺がおぶってやるから学校までに目を覚ませよ。みほ姉貴、悪いんですが。俺の鞄を持ってくれませんか?」

 

「う、うん。しっかりしてください」

 

「……かたじけない」

 

大友とみほは、今にもそのまま歩道に寝ころびそうな彼女を介抱すると。彼がそのまま少女をおんぶし、みほは彼女が落ちないように背中に手を重ねている。

そんなやり取りをしているうちに学校に間に合い。校門を通ろうとするが、すぐそばで立っていたおかっぱ頭の風紀委員……園みどり子(以下そど子とする)が三人を呼び止める。

 

「もう……冷泉さん、二人に感謝しなさいよ。大友君と西住さんだったかしら?彼女をあまり甘やかさないで、厳しく言っておいてね」

 

「ははあ。園先輩、みほ姉貴は気遣いが良い人だからそれはちょっとな……」

 

「あなたはほんと人が良いわね。まぁ、いいわ」

 

「……そど子も相変わらずだな」

 

「冷泉さんっ!何か言った?」

 

「別に。何も言ってない」

 

大友がそど子と何気ない会話をしていると、いつの間に彼から降りたのだろう。ふらついていた少女こと、冷泉麻子が彼女を揶揄うように小さくあだ名で呟くと、それを最後に三人は校舎の中へと進んでいく。

二人の少し前を歩いていた麻子が二人の方を向くと、軽く頭を下げて感謝の言葉を口にする。

 

「二人ともさっきはありがとう。ところで、私をおぶってくれた大友君に聞きたい。前にどこかで会ったか?」

 

「いや、気のせいだよ。他人の空似ってやつかもな……みほ姉貴、俺は駐車場に用事があるのでこれにて失礼しま……」

 

「おはようっ!みほ、麻子!それに、誠也君っ!」

 

大友は、麻子に対してそう言いながらその場を去ろうとするが。三人の後ろから沙織や華、優花里が手を振りながらやって来る。

 

「誠也君……大友君?……あっ」

 

「麻子どうし……ええ?!」

 

「あら……」

 

「何とこれはっ?!」

 

沙織は幼馴染の行動をスカートのポケットに仕舞っていた眼鏡を掛けてまで二度見したほどであった。

先ほどまで眠たそうにしていた麻子は目がはっきりと開き、嬉しそうな表情で大友に抱きついていた。

 

「誠也君っ!何で黙ってここに来ていたんだ?一人で去年入学して来た男子生徒は誠也君だったのか……」

 

「やっぱり。麻子ちゃんだったんだ!それはその……黙っていて悪かった。それと事情が色々あってな。麻子ちゃん。お父さんとお母さん、おばあちゃんは元気にしているか?」

 

「うんっ!三人とも元気だぞ」

 

彼女は無邪気な笑顔で彼と会話を楽しんでいる。その傍らでは、みほ達四人が微笑ましく二人を見つめている。

大友もさすがに参ったのだろう。麻子の頭を優しく撫でている。

 

「そうだ。麻子ちゃん。寝坊寸前になるまで夜更かしするのはヤバいだろう」

 

「だって。夜は親友だから……」

 

「夜も魅力的なところを持っていたりするけどよ。こうして朝、良い友達と会えるんだから朝と仲直りするのもいいと思うぞ。よし、俺はこれで行くからよ。みほ姉貴や他の三人とも仲良くしてくれよな?この子達もすげー良い子なんだぜ。じゃあな」

 

彼は、可愛らしく頬っぺたを膨らませる彼女の頭を優しく二回ぽんぽんとたたくと、大きく手を振ると駐車場の方へと歩いていくのであった。

 

 

 

大友が向かって行った先は、屋根が付いたあまり使用されていない駐車場であった。そこにポツンと貫禄のある戦車が鎮座している。

史実では、本土決戦のために温存されていたが。この世界線では史実より早く(三年早い一九四十年に)完成して量産されたため、日本帝国軍において使用されて第二次世界大戦の太平洋戦線やオーストラリア攻略戦で活躍し、連合国と講和後に国防軍に改編されても数年間は予備兵器や訓練用兵器として使用されて来た三式中戦車・チヌであった。(※フィクションです)

それを楽しそうに眺めている猫耳が付いたカチューシャを身につけた長い金髪の少女……ねこにゃー(猫田)に彼は声を掛ける。

 

「よぉ。あんたは戦車が好きかい?」

 

「わぁっ?!ど、どうも」

 

「おっと。いきなり済まないね。俺は二年の大友って言うんだ。戦車道が復活するからシブいこいつを眺めに来たんだ」

 

「僕はねこにゃー……猫田です。戦車道が復活かぁ。ボクも出たいんだけど、二人くらい居る友達がネットの向こうでしか話したことが無いんだよね……あっでも。戦車の操作方法はある程度知識があるから……」

 

「知識か……良いと思うけどよ。実際に触ってみたくないか?大丈夫、人手の事なら俺に任せてくれ。あっでもネットの向こうにその友達がいるんなら、その子らも誘えばいいじゃねぇか。チヌがゴ〇ゴ13みたいに敵戦車を狙撃して足止めする。是非とも生で見てみたいなぁ。それと戦車道がやりたいんだったら、俺がうまいことやっとくからよ」

 

「えっ?!いいの?」

 

「そりゃ、一期一会ってもんだろう。じゃあ、戦車道の履修申請をすべきだと思うぜ」

 

「は、はいっ!」

 

彼は、彼女とそんなやり取りをするとその場を去っていった。ねこにゃーは気分が良くなったのだろう。好きなアニメの主題歌を歌いながら再びチヌを眺めるのであった。

こうして後日、多めの履修者と一輌でも多くの戦車を確保することに成功した大友であった。

 

 




ご覧いただきありがとうございました!
今回もオリジナル展開と設定を混ぜ込んでみました。麻子さんと大友の関係ですが、次回以降明らかにしていきます。
最後になりますが。評価やご感想、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第四話 戦車探し前夜です!

ご覧いただきありがとうございます!今回は短めですが、引き続きお楽しみください!


その日の夕方、みほは新たに仲良くなった麻子や沙織、華、優花里といったメンバーと集まって自宅でご飯会を開いていた。

色とりどりのおかずがテーブルを覆い、部屋の中は五人の乙女の楽し気な声で溢れていた。五人で肉じゃがを作り食事を楽しんでいるのであった。

 

「男を落とすにはやっぱり肉じゃがだからね~」

 

「落としたことあるんですか?」

 

「まだ無いのに何言ってるんだ?」

 

「何事も練習でしょ?それに、麻子はいつもストレートなんだから」

 

「というか。男子って本当に肉じゃがが好きなんですかね?」

 

「都市伝説じゃないですか?」

 

「そんなことないもんっ!」

 

二人の突っ込みに対して少し残念そうな調子で沙織が答えるが、再び華と今度は優花里の二人が突っ込みを入れると頬を少し膨らませて言い返す。

彼女は、話題を切り変えようと麻子に話を振る。

 

「そういえば、何で今日。麻子は誠也君に抱きついていたわけ?」

 

「沙織、忘れたのか?あの子は私が小学生の頃、お父とお母を死にかけてまで助けた私の一生の恩人だぞ」

 

『えぇっ?!』

 

他の四人は、声を上げて驚いている。特にみほは、心配の方が勝ったのだろう。一番驚いていた。

 

「冷泉さんっ!わ、私そんなの聞いたことないよっ!誠也君は、原付バイクで調子に乗ったから病院送りになったと言ってたもん」

 

「そうなのか。あの子って女の子みたいな見た目をしているのに強がりなんだな」

 

麻子は、微笑みながらみほに対してそう言うと過去の彼との出会いについて語り始めた。

大友は小学生の頃。気分転換に一人で大洗町に訪れていたことがあった。何気なく町を散策していたところ。横断歩道を渡っていた夫婦に向かって様子がおかしい自動車が猛スピードで走行していたところを目にする。

彼はこの夫婦の身に危険が迫っていることが即座に理解できてしまい。

自慢の脚力を活かして大急ぎで二人に向かって走り出し、あと数十メートルでぶつかるというところで夫婦を突き飛ばし、大友は運転中に突然死した人が運転する車にぶつかって三メートルくらい吹っ飛んでしまった。

そのまま意識を無くして三日ほど生死をさまよったが、幸いにも軽傷で済んだのであった。それからすぐに退院してからしばらく経った時に、麻子と大友は出会ったのであった。

 

『あ、あの。お父とお母を助けてくれてありがとう……君のおかげでお母とも仲直りできた』

 

『人として当たり前のことをしただけさ。それより、お父さんとお母さんに怪我は無かったかい?そうそう、俺は大友誠也っていうんだ』

 

『私は冷泉麻子。何で誠也君は自分の心配をしないんだ?』

 

『別にあれくらい大したことないから気にしなくていいよ。じゃあ、麻子ちゃん。これからもお母さんいや、家族みんなと仲良くな』

 

『うん!仲良くする!それとお礼をさせて欲しいから私の家に来てくれないか?』

 

『じゃあ、お言葉に甘えてそうするよ』

 

その後、大友は麻子の家に招かれて家族の温もりを彼女と共に楽しみ、僅か一日ではあったが。彼と彼女の仲は十分に深まったのであった。

そう語る麻子は、どこか嬉しそうになり。それを聞いていた四人も同じように舞い上がりそうになっていた。

 

「ふふっ。やっぱり誠也君はかっこかわいい自慢の舎弟でボコみたいにタフだと思うな~」

 

「西住殿に同じく。私もそう思いますっ!」

 

「私も今の話を聞いて彼は見かけによらず。器量が大きい人だと思いました」

 

「あーあ。私も誠也君みたいな彼がいつか欲しいな~」

 

「やっぱりまた会えてよかった。ところで誠也君は何の授業を取るんだ?」

 

「えーっと。誠也君は私たちと同じく戦車道を取ります」

 

「麻子も一緒にやろうよ!単位が三倍だし、それに特典もたくさんあるんだよっ!」

 

二人のこの一言で麻子は、少し唸ったが答えがすぐに出た。

 

「分かった。私も戦車道……取ろう」

 

「おぉ!決まりましたね!五人も居れば、ティーガーやT-34といったベストセラー戦車に乗れますよ。西住殿!」

 

「そうだね。でも何の戦車があるんだろう?楽しみになって来たな~」

 

「てか、あんた単位が欲しいだけでしょ?それともしかして」

 

「それ以上言わなくていいぞ。全くドラマの見過ぎだぞ」

 

こうして夜が更ける前に乙女たちの晩餐会は終わりを迎え、みほ以外の四人は帰路につくのであった。

 

 

 

 

「はっくしょん!」

 

「親分、大丈夫ですか?寒くないのに何でだろうなぁ」

 

「俺にも分からん。それより、こいつもだいぶ良くなってきたな」

 

大友は、自宅兼事務所の車庫でひときわ大きなくしゃみをしていた。戦車道チーム大友連合会の若頭である水野が彼の調子を気にかけている傍ら、他の組員が角ばりと丸みが混ざった戦車を整備している様子を二人で眺めている。

 

「親父、一年前に派手に暴れたのが昨日みたいですねっ!」

 

「たくっ。慎司、忘れたのか?こいつに乗って戦っていた俺たちやお前達はその……色んな意味で焦ったんだぞ」

 

「……言われてみれば大変そうでしたね。でも今思えばスリリングだったじゃ無いすか」

 

同じく大友連合会の若頭補佐の一人であり、スタイル抜群な双子の姉を持つ『近藤慎司(こんどうしんじ)』が戦車のエンジンを組み立てながら大友と何気ない談笑を交わしている。

因みに一年前の暴れ回った出来事というのは、彼が強豪校の戦車道チームのスカウトを辞退したために、各学校の隊長たちが戦車道の非公式試合(タンカスロンとは別)で彼をめぐって一対一の勝負をしたというものである。

結局腕の差もあり、大友が辛うじて勝利したためにスカウトは破棄されたが、今度は個人的に狙われつつあるために一難去ってまた一難の状況である。

 

「しかし、E-25よ。お前さんも明日からまた現役だから頑張るんだぞ」

 

「そうだぞ。一年前みたいに派手に暴れてくれよ。とは言ってもあの一回だけだったけどな」

 

『はははっ!!!』

 

三人の笑い声に合わせるかのように、組み立て直されたE-25のエンジンが勢い良く掛かった。

このE-25という戦車は駆逐戦車に分類され、史実ではモックアップが作製された程度にとどまったが、知る人ぞ知る一台の名戦車である。

 

「おぉ。すげぇなっ!親父のE-25が動いてらぁ!」

 

「ははっ。また一年前の興奮を思い出したよ!」

 

エンジン音を聞いたのだろう。事務所の上から木村と安倍が降りてきながらそう言う。大友は、嬉しくなってきたのだろう。そのままE-25に上り、ハッチを開けて乗り込む。

彼に合わせるようにして三人の子分達も乗り込み、動作に異常がないかどうか確認する。

 

「機関銃砲塔も異常なし、主砲も異常なし。最後に機関部も異常なしっ!慎司、整備ご苦労だった!」

 

「ありがとうございますっ!親父、これから全国のライバル校とガンガンかち合ってくださいっ!一緒に頑張りましょうっ!」

 

「おうよ。任しとけっ!じゃあ、行くぜ……戦車前進!」

 

慎司によって車庫のシャッターが開かれると、夕焼けに染まった学園艦の道路を走り出すのであった。26.3tの車体を支える履帯が軽快な音を立てて道路を走り回る。

道行く人々はそんな彼らを楽しそうに見つめ、あるいは彼らに対して手を振ったりする。大友達も愛想よく手を振り返したりする。そんなやり取りをしながら走っている内に、事務所の前まで戻ってきていた。

大友連合会は、いよいよ本格的に戦車道に足を踏み入れようとしている。果たして、彼らを待ち受けるのは勝利の女神か……その結末は、まだ誰も知る由が無かった。

 

 




ありがとうございました!今回も原作とは違う展開を入れてみました。次回は第五話を投稿する予定です。
評価やご感想、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第五話 ドタバタと戦車との対面です!

ご覧いただきありがとうございますっ!
今回も原作とは異なる点や一部の原作登場人物のキャラが変わっているかもしれません。
引き続きお楽しみください!


翌日、戦車道を選択した履修者達がかつて大洗学園高校が女子校時代に戦車道で使用していた倉庫の前に集合していた。合計二十七人の履修者+大友連合会の幹部達である。この構成員達を含めると合計四十二人が戦車道の授業に集まったということになる。

 

「誠也君どうしたんだろう。遅いな」

 

「あれ?今日は大友殿と一緒に来なかったのですか?」

 

「今日の朝は忙しいと言ってたからどうしたんだろう」

 

珍しく自身の舎弟が一緒に居なかったことに、みほは違和感を感じて優花里と何気ない会話をしている。すると、周りにいた生徒たちは聞きなれない音がしたため。

その方向に目を向けると、四台の黒色の国産高級車が一輌の駆逐戦車を囲んでそのまま生徒たちの方に向かって来るので、その場にいた全員はその光景に見とれている。

 

「わーいっ!デ〇レンジャーみたい!」

 

「戦車と高級車って……なんか映画みたい!」

 

「何々?なんかの撮影?」

 

「に、西住殿っ!幻のE-25ですよ!」

 

一年生の一人である阪口桂利奈の一言をきっかけに、近くにいた山郷あゆみや大野あや、優花里達がそう言い始める。四人が盛り上がっているうちに、E-25と四台の自動車は興味津々に見つめていた生徒たちの前で停車し、それぞれの自動車から合わせて約九人の少年が降りて来る。

風紀を遵守した模範生とばかりにきちんとした状態で制服を着こなし、襟元には自身が率いる組織の代紋のプラチナバッジを身に付け。

いかにもベテランといった感じのオーラを身に纏っており、登場までは決まったのだが……狐の子は面白というべきだろうか。彼らの会長のように全員がショタといわれる容姿に該当していた。

当初こそ驚いていた全員であったが。彼らを見ているうちに乙女たちの表情が変わっていき、桂利奈達と同じく一年生であった宇津木優季の一言によって彼女達は皆、完全に同じ言葉を口にした。

 

「もぉ。そんな演出して……おませさんなんだから~可愛い♪」

 

『は……はい?』

 

『本当だ。みんな可愛い(のであります、にゃー、ぴょ、もも、ぜよ)!!』

 

予想外の出来事に困惑する大友連合会の幹部達の表情などそっちのけに、彼女達はたじたじとする彼らを一瞬で取り囲む。

 

「ん?何の騒ぎだ……っ?!」

 

「本部長、外の様子を見てく……」

 

まだ車内にいた秀人と慎司の二人はそれぞれの姉に車から引きずり降ろされ、全員の前に突き出される。

 

「ひでくん。今日は、オールバックと伊達メガネにしてないから偉いわっ!」

 

「ちょ、待ってくれ柚子姉ぇ!」

 

「これが私の双子の弟、シンちゃんだよ~」

 

「た、妙子姉ぇ。胸近いっ!てか、当たってるっ!」

 

バタつく二人はこの行動で墓穴を掘ったというべきだろうか。注目の的はこの二人に向く。

 

「副会長と手を繋いでいる子ってもしかして広報補佐の小山秀人君?いつもと全く違うね。それに、近藤さんが頭に胸を乗せている子が慎司君?」

 

一年生メンバーをまとめている少女、澤梓は二人の正体を言い当てる。彼女がそう言ったためか他の一年生たちはまじまじと彼ら二人を見つめる。

 

「本当だ。よく見たら秀人君ってお姉ちゃんの小山副会長に似てるよね。いつもはオールバックに眼鏡でお洒落な感じだけど。特に何もしていなかったら優しそうな顔でかわいい♪それに、慎司君はお姉ちゃんの妙子ちゃんと双子なだけあってよく似ててかわいいっ!」

 

「「か、かわいいって……一応組の幹部で組織を持ってるんですけど……」」

 

バレー部の佐々木あけびにそう言われた二人は、そう言いながら襟元の金バッジ(自身が率いる組織の代紋)を見せるが。

全く意味が無かったため、完全にへこんでしまっていた。何せ同級生にそう言われてしまってはどう言い返せばいいか分からないからであった。

 

「お前たち授業中だぞっ!それに、柚子ちゃんも周りに便乗してどうするんだっ!」

 

「まぁまぁ。良い感じにメンバーがまとまったからいいじゃん。そうだ。大友ちゃんっ!海坊主みたいに顔だけ出さずに降りてきな!」

 

杏が声を張り上げて注意する桃を落ち着かせながらそう言うと、どこか気まずそうにしていた大友とその搭乗員であった水野や木村、安倍といった主なメンバーがE-25から降りて来る。無論、その視線も彼ら四人に注がれることになる。

 

「誠也君と他のみんなもおはようっ!」

 

「おはようございます。みほ姉貴、今日からまた戦車道再開ですね」

 

『あ、姉貴っ?!』

 

大友がみほにいつも通りの挨拶を返した瞬間、楽し気に黄色い声をあげて他の構成員を取り囲んでいた生徒たちが同じ言葉を口にして驚く。それと同時に、杏が彼について紹介を始める。

 

「そうそう。西住ちゃんをみほ姉貴と呼んでるこの子だけどね。何と戦車道チーム大友連合会の会長、大友誠也ちゃんだよ。わかんない事が有ったらこの子達に聞きなよ」

 

「か、会長っ?!じゃあ、若頭とかは?」

 

「ああ。それなら俺の横に居る桔平がうちの若頭さ。後ろにいる英雄と雄飛が若頭補佐で、副会長の弟の秀人が本部長だ。あと、近藤さんの弟の慎司も若頭補佐で他の子達がうちの幹部で子分だな。こんなチームだけど、暴力団とかそんなのじゃないから。何かあったら気軽に相談してくれよ!」

 

赤いマフラーを首に巻き、凛とした目を持つ少女。カエサルこと鈴木貴子が大友に対して何気なく質問すると、彼はフレンドリーな笑みを浮かべながら丁寧に質問に答える。

 

「さぁさぁ。戦車道の授業を始めるよっ!さて、車庫の中には何があるのかな~」

 

杏がそう言いながら車庫の扉を開けたその先には、第二次世界大戦期において活躍し性能のバランスの良さから後世でも高い評価を受けているⅣ号戦車のD型が鎮座していたが、カバーを掛けずに長い間放置した自動車やバイクのように錆が車体を覆い、外装部品が脱落していた。

思っていたのと違ったのだろう。一部の生徒が少し落胆気味にざわめくが、どこか居ても立ってもいられなかったみほと大友が戦車まで近づき、その車体に手を重ねる。

 

「装甲も転輪も大丈夫そう。これで行けるかも」

 

「ええ、そうですね。パーツや戦車の強化は俺達にお任せください」

 

『おぉ~っ!!』

 

この光景を見ていた全員が声に出して感心する。しかし、戦車の状態は良くないため、当然のように沙織がみほに対して疑問を投げかける。

 

「こんなにボロボロで何とかなるの?」

 

「多分なんとか」

 

「恋にしろ戦車にしろ新しいものが良いと思うよ」

 

「全く。沙織はいつも恋に例えたがるな」

 

「いいじゃん別に。でも、戦車は一輌しかないね」

 

この車庫内や校内にあった戦車は、現在このⅣ号戦車D型と三式中戦車・チヌのみである。

他の戦車は、戦車道が廃止された二十年前に売り払われたか、よくてどこかに投棄されているかもしれない。

大友達を除く二十七人分が乗れる戦車を探すしかないのだ。仮にその戦車が見つかっても乗員が不足する場合は、そこに大友連合会の幹部を組み込めばいいのだ。

 

「じゃあ。探そうか」

 

「当時使用していた戦車がどこかにある。いや、必ず校内にある。明後日戦車道の教官がお見えになるため、それまでに探し出すこと。それでは、捜索開始っ!!」

 

「桔平は、一年生の六人についてくれ。英雄と慎司はバレー部の四人。雄飛は、そこの歴女さん方についてくれ。他のみんなは、事務所から道具とか持って来てくれ。最後に角谷会長。河嶋さんや小山姉弟と戦車に関する資料を探していただきたいのですが」

 

「はいよー。じゃあ、河嶋、小山姉弟は資料室に行こうか」

 

『分かりました。会長』

 

「それではみほ姉貴。俺と戦車を探しましょうか」

 

「そうだね。行こうか」

 

大友とみほ達が山の方へと向かい、梓たち一年生六人組には若頭の水野が付き添うことになり。若頭補佐の三人や他の幹部も同じように大友から任されたメンバーに付き添うことで本格的に戦車探しが始まるのであった。

 

 

 

生徒達が戦車を探し始めた次の日、車庫の前には合計六輌の戦車が集結していた。左から八九式中戦車、LT-38軽戦車、M3Lee中戦車、Ⅲ号突撃砲F型、Ⅳ号戦車、三式中戦車・チヌの計六輌が集まったのであった。

これらの戦車を自らで見つけた者達がその戦車に搭乗するということで各戦車に搭乗するメンバーが決まった。

搭乗員が不足していたLT-38軽戦車とチヌには大友連合会の幹部から割り当てることになり、生徒会の三人が率いるEチームには本部長の小山秀人が割り当てられ、ねこにゃー達Fチームには幹部の『上田誠己(うえだまさき)』と『岡崎聡(おかざきさとる)』の二人が割り当てられることとなった。

 

「明日はいよいよ戦車道の教官がお見えになる。粗相のないように戦車を綺麗にしておくんだぞ」

 

「どんな教官かな?」

 

「カッコいい教官が来るから頑張ってね」

 

「はーいっ!武部沙織頑張りますっ!」

 

「本当に男なのかねぇ」

 

杏に自身の欲求を焚き付けられた沙織は、恋する乙女の感情とやらに火が付いたのだろう。

一気にハイテンションになり、その勢いと杏の一言に何かを思った大友がそう言う。

 

「がっちりしていますね」

 

「八九式はがっちりしているだけじゃなくて小回りも利くからな~まぁ、タンカスロンでの話だけど」

 

「そうなんだ。タンカスロンにも興味が湧いてきたわ」

 

「いいアタックができそうです……アタック♪」

 

「やめっ……おふ」

 

Bチームは八九式中戦車を眺めながら木村とあけびが何気ない会話をし、二人のそばで同じようにして眺めていた妙子が隣にいた弟の慎司の後頭部に胸を押し当てたりしてちょっかいを出す。

 

「砲塔が回らないな」

 

「まぁ。そういう戦車というか自走砲というか。まぁ、その辺の戦車みたいに前線向きじゃないのですが。火力は高めだからいいところもありますよ」

 

「それでも象さんみたいぜよ」

 

「ぱおーん」

 

「カエサル、おりょう、左衛門佐っ!!安倍君の言う通り三突は高火力なうえ、継続戦争でソビエトの猛攻を押し返した凄い兵器なんだぞっ!フィンランド人とドイツ人に謝りなさい」

 

『すみませんでした』

 

Cチームでは、エルヴィンがⅢ号突撃砲を揶揄うようなことを言った三人に対して少し説教を交えた後、カエサルやおりょう、左衛門佐の三人が左を向いて謝罪の言葉を口にする。

 

「大砲が二本あるね」

 

「大きくて強そう」

 

「せっかく大砲が二本あるんだ。上の37mmで相手の履帯を切って下の75mm砲でドカーンと相手の装甲をぶち抜く。それでいった方が良いと俺は思うな」

 

「さすが水野のカシラッ!すごく頼りになるっ!」

 

「無線でも今みたいに教えてね~」

 

「……装填も教えて」

 

『沙希(ちゃん)が喋ったっ!!』

 

水野と一年生の六人組が何気ない会話をしていると、その中の一人である無口な不思議ちゃんこと丸山沙希が言葉を発したため他の五人が驚く。

 

「リアルチヌはやっぱりカッコいいのにゃ」

 

「W〇Tに出ててくるチヌそのままだもも~」

 

「ゲームみたいにこそこそするぴよ」

 

「まぁ。それが無難な戦い方ですね。先輩方もW〇Tやってたんすか?俺も好きなんですよね」

 

「そうそう。俺もあれ好きなんですよ。あとは実際に戦車も触りつつ、身体も鍛えるのも良いと思いますけど。どうします?猫田車長」

 

「おぉ。同志が増えたにゃっ!そうだね。せっかくだから身体も動かし始めようか」

 

『賛成でーす』

 

ねこにゃーが率いるFチームはチーム内ですぐに意気投合したのだろう。今後の予定を打ち合わせたりしながら楽し気に話をしている。

 

「うわっ?!すごくべたついてる」

 

「これは磨き甲斐がありそうですね」

 

「整理整頓の大事さが分かるな」

 

「戦車を一から綺麗に出来るなんてやり甲斐がありますっ!」

 

沙織や華、麻子、優花里の四人がそういったやり取りをしている傍らでみほと大友は戦車に上って車内をのぞき込んだり、部品の細部を見て回っていた。

 

「……(Ⅳ号もそうだが。これから他の戦車もいじる必要があるな。改造部品の取り寄せと他の子達の訓練、それに戦術の確立。この辺りは姉貴と話し合うか。みほ姉貴、貴女の戦車道楽しみにしています。何があっても俺は貴女について行く)」

 

「誠也君、どうかしたの?」

 

「いいえ。もう一度みほ姉貴と一緒に戦車道ができるのが、楽しみでちょっと考え事をしていたんですよ。気にしないでください」

 

「そうなんだ。いつもありがとうね。戦車に乗るのは久しぶりだからちょっと不安はあるけど。皆とならすぐにそんなのは無くなると思うな。私の戦車道絶対に見つけてみせる」

 

「はいっ!俺も是非、新しい戦車道を見つけることにお供させていただきますっ!」

 

こうして大洗学園の戦車道は再開の時を迎えると同時に大友は彼女に対する忠義をさらに強固なものとし、みほは新たな決意を胸に抱くのであった。

彼女のこの意志が後に戦車道で大きな改革をもたらすということは、舎弟である彼を除いてまだ誰も知る由が無かったのである。

 




ありがとうございましたっ!次回は第六話を投稿する予定です。
ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第六話 姉貴と舎弟のお手合わせです!

ご覧いただきありがとうございます。今回も原作とは違ったオリジナル展開を入れてみました。
引き続きお楽しみください!


みほ達をはじめとする生徒達に発見された戦車の整備が自動車部と大友連合会の幹部達の手によって早いうちに終わり。次の日には完全に動かせるようになっていた。

今日は戦車に乗る授業が行われるのだが、その教官は豪快かつアバウトな印象の女性だった。

名前は蝶野亜美。国防陸軍の大尉でみほの母である西住しほの教え子であり、現在は国防軍の機甲教導隊所属の隊員も務めつつ日本戦車道のプロリーグ強化委員も務めている人物だ。

 

「蝶野大尉。お久しぶりです。……あの、そろそろ離れてくれませんか?そこまでされると少しキツいので……」

 

「いいじゃない。それに、この間までアメリカに合同軍事演習に行ってた時のくせが抜けてないの」

 

『大友先輩ってモテモテだ~』

 

普段の豪快さを物語るかのように、乗って来た10式戦車から降りて一同に自己紹介をした直後、自身の胸に彼を押し当てる形で大友に抱きついたのであった。

彼も抱きつかれるとは思っておらず。彼女によるスキンシップの激しさに少し困惑する。

一年生六人組の様子を見てさすがの蝶野も観念したのだろうか、抱きつくのをやめた。

 

「それではみなさん。戦車道の本格戦闘試合をやってもらうわ。七輌いることだし、大友君以外の六輌で三対三でフラッグ戦の模擬戦闘をしてもらうわっ!」

 

「あの、教官っ!どういったチーム振り分けにしますか?」

 

「そうね。Ⅳ号戦車とM3Lee、八九式中戦車で白チーム。LT-38軽戦車とⅢ号突撃砲、三式中戦車・チヌで組む黒チームでフラッグ戦をやってもらうわっ!」

 

「でも、私たち。戦車を触ったことがまだないので」

 

「それなら、あなた達のDチームには水野君。Bチームには木村君が。Eチームには小山君が乗って三人をサポートして。あと、Cチームには安倍君がついてね。それじゃあみんな戦車に乗ってね!大丈夫、何事も経験よ。さぁ、みんな乗って乗って」

 

梓の質問に蝶野は答えながら簡単にチームの編成をし、素早く試合の段取りをする。それから各チームが戦車に乗り込んでいったところで戦車道の授業が本格的に始まるのであった。

 

 

 

 

二つのチームはそれぞれのスタート地点に着き、蝶野から簡単な指示を受けていた。戦車道の公式試合におけるフラッグ戦とは、どちらかの旗がついた車輌を撃破すればそのチームの勝利という至ってシンプルな形式だ。

その他には殲滅戦なるものも存在し、こちらはどちらか一方が全滅すれば勝利といった試合形式である。

前者の試合形式で模擬戦を行うことになった大洗学園戦車道履修者一行は、ドキドキや緊張といった心理感情だった。

 

「改めて初めまして。白チームの隊長をすることになった西住みほです。早速ですが、山の中腹にある橋に向かいましょう。そこで黒チームを待ち伏せて持久戦に持ち込みましょう。特にCチームのⅢ号突撃砲には注意してください。あの戦車がもつ75mm砲は特に強力なため、命中すればひとたまりもありません。それでは、前進してください」

 

『了解っ!』

 

みほがBチームとDチームのメンバーに対して軽い自己紹介をしたのち、分かりやすく指示を出したうえ強力な車輌の注意喚起を行う。それから三輌の戦車は前進する。

 

「ねぇねぇ。他の戦車には大友連合会の子達が乗っているけど、私たちは五人だけだね。でも、みぽりんの指示って何か分かりやすいし。それにみんなの性格に合わせて役割配置しているからすごく頼りになるっ!だから、ガンガン指示を出してね」

 

「ありがとう……実は初めてみんなに頼りにされたからすごく嬉しい。じゃあ……遠慮なく指示を出させてもらいますっ!」

 

「西住殿っ!どんどん指示を出してください。西住殿が操る戦車の搭乗員になれて嬉しく思います」

 

「戦車の砲撃の反動というか衝撃を一度味わってみたかったので、お手柔らかにお願いします」

 

「西住さんには恩があるし。どこまでも走ってやるぞ」

 

Ⅳ号戦車の車内はみほを信頼する声で溢れていた。それを物語るかのように、彼女が操る戦車の動きは彼女が率いる他の二輌とは違って初々しさすら無く。悠々堂々と山道を駆け抜けている。

 

「そうそうその調子だよ桂利奈ちゃん。コツが掴めてきているから焦らずマイペースで良いからね」

 

「あーいっ!」

 

「それと梓ちゃん。前も言ったと思うけど、攻撃する時は上の副砲で相手の履帯を切ってから主砲でドカーンもいいし。装甲が薄いチヌのような戦車にはいきなりドーンと主砲でとどめを刺すか、至近距離なら37mmを使っても問題ないからね。まぁ、この戦車の車長は梓ちゃんだから。君の好きなようにしたらいいよ」

 

「ありがとう水野君。また分からないことがあったら水野君に聞くわ」

 

「お安いご用さ。じゃんじゃん聞いてくれても構わないぜ。というか、沙希ちゃんそっちばかり見ていてもだめだぞ。装填手なんだから」

 

「……っ?!」

 

Dチームが乗るM3の車内に乗り込んだ水野はこの戦車の指南書を手に持ちながらも自分なりの考えを交えながら操縦手の桂利奈をフォローする。彼女だけでなく、車長の梓にも彼は自身の考えを交えつつアドバイスをする。

いざ水野自身も戦車に乗って何らかの役割をすると武闘派の名の通りの腕を発揮させるが、彼女達六人がせっかく成長する機会なのでその腕は敢えて出さず。六人に対するアドバイスに徹しているのであった。

チーム内の一人一人を気にかけており、自身の膝の上に乗せていた沙希が明後日の方向を向いていたため。彼女の体と顔をまっすぐにする。

 

「操縦歴が長い木村君の教え方もあってスムーズに進めるようになったわ。あとは根性ね……」

 

「ははっ。根性まで行っちゃうと奥T摩周遊道路とかH奈道路にいる走り屋みたいになっちまうぜ忍ちゃん。まぁ、その方が結構戦車道に役立つんだけどな」

 

「やっぱり根性もこういうところでは役に立つんだ……佐々木、河西、近藤。それに良かったら木村君も。せーのっ!」

 

『根性っ!!』

 

操縦手歴が長い木村の教え方もあってか、Bチームの八九式中戦車は快調に進んでいる。戦車探しから行動を共にすることが多くなったため、彼は車長の磯辺典子をはじめとするメンバーのノリに合わせる。

大友組の幹部二人が加わったことでこの二輌もみほ達のⅣ号戦車のように快調な動きを見せつつある。

そうこうしているうちに中腹の橋に向かう分岐点にやって来たのだが、ここで黒チームの三輌と鉢合わせてしまう。

 

「みなさん。交戦を避けてそのまま橋に向かいます。Dチームは先頭に出てください。私たちでBチームを挟むようにして守りながら進みますっ!」

 

みほの咄嗟の指示でDチームがBチームの先頭に出て走りだす。彼女のⅣ号戦車が最後尾を蛇行しながら走行し、フラッグ車の八九式を狙う黒チームの射線を妨害する。

相手の黒チームも彼女たちのようにコツを掴んだのだろう。三輌から放たれた砲弾がⅣ号戦車の側面装甲を掠めていく。

 

「……ひぇっ」

 

「大丈夫だよ沙織さん。そのままBチームとDチームの無線を聴いていて大丈夫だから」

 

「ありがとうみぽりん」

 

砲弾が装甲を掠める音に対する恐怖心が勝ったのだろう。沙織は小さく悲鳴を漏らすが、それを見たみほが優しく彼女をなだめる。

彼女が元来持つ優しさが効果を発揮したのか、沙織はいつもの調子に戻る。その様子を確認したみほは静かに微笑むと、キューポラから身を乗り出して後ろを振り向く。

黒チームの三輌は千鳥縦列を組みながら彼女達白チームを追いかけているが、幸いにも機動力でこちらが勝っているため、引き離しつつある。間もなくして橋のある場所に着いた。

 

「ここで方を付けます。Dチームは再びBチームを護りつつ橋を渡ってください。麻子さん、バックしながら橋をゆっくり渡ってください。上手く渡れないふりをして相手の三輌が出て来た瞬間。華さんは真っ先に三突を狙ってください。相手は必ず私たちのⅣ号に対して一斉に主砲を向けるはずです。Bチームは38tを。Dチームはチヌを撃ってください」

 

『了解っ!』

 

三輌は彼女の指示通りに動き、しばらくして相手チームが姿を現した瞬間。相手はみほが心の中で予想していた通り38tを先頭にチヌが続き、最後尾に三突といった組み合わせで姿を現して三輌は予想通り一斉にⅣ号戦車に対して主砲を向ける。

 

「今です。撃てっ!」

 

みほがそう言った途端、華は冷静沈着な面持ちで主砲の発射トリガーを引き、見事に三突に命中させて撃破する。それと同時に三突が撃破されて少しパニック気味になる38tとチヌの二輌にとどめを刺すように、DチームのM3が後退を始めたチヌの履帯を副砲で切断し、装甲が薄い左側面に75mm砲から放った砲弾を撃ち込み撃破する。

 

「お嬢さん方やるじゃねぇか。自分達の実力だ。そのままの調子で続けるんだ」

 

「おぉ!さすが水野のカシラっ!カシラのおかげですっ!」

 

テンションが上がっているDチーム六人組の中で特にテンションが高かった桂利奈が声を上げてそう言う。

 

『ファイトー!おーっ!』

 

Bチームのメンバーと木村が車内でそう叫ぶと同時に八九式中戦車の主砲から放たれた砲弾が、逃げたはいいものの近くの泥濘地に背面装甲を晒してハマっていた38tに撃ち込まれるとこちらも撃破されてしまった。

相手の三輌は撃破されたといってもエンジンから白煙を上げてキューポラの横から白旗を出して沈黙していたのであった。

 

『無事勝利出来てよかったです。みほ姉貴』

 

「誠也君、戦車に乗って来たんだ」

 

撃破された三輌が通って来た山道から大友が乗るE-25が姿を現したと思いきや、無線で彼女に対してそう言うと戦車から降りて橋の上で鎮座するみほのⅣ号戦車の前まで歩いていき、指導役を担当していた水野や木村、安倍も降りて来て同じようにⅣ号の前まで行く。

四人揃ってみほ達の前に立つとそのまま両手を膝について謙虚に頭下げて大友は次のように言った。

 

「みほ姉貴の指示は蝶野大尉と一緒に居た際に、聞かせてもらっていたのですが。素晴らしいものでした。そこで俺自身の恥を忍ぶ形になりますが。三対一でみほ姉貴とBチームとDチームの三輌と俺のE-25の一輌でそのまま勝負してくださいっ!!」

 

『お願いしますっ!!』

 

「ふぇっ?!三対一で?……誠也君達がいいなら私はいいよ。BチームとDチームのみんなはどうかな?」

 

『問題ありません』

 

「ありがとうございます。それでは、舎弟・大友誠也とその若衆達は貴女と全力でぶち当たらせてもらいますっ!!」

 

「うんっ!よろしくね」

 

これには、みほを含めた全員が驚いたが。彼女達はこれを快諾し、撃破されたCチームやEチーム、Fチームの三輌の戦車が自動車部と大友組に回収されたのちに勝負が始まったのであった。

 

 

 

この勝負は、最初のスタート地点から始まり。それぞれの戦車が配置に着くと勝負が始まったのであった。車長兼通信手には大友。砲手には水野。装填手には安倍が。最後に操縦手には木村という構成でE-25は走り出したのであった。

 

「お前ら、相手はあのみほ姉貴だ。何があるか分からん。取りあえずBチームとDチームの撃破だ。それからみほ姉貴とやり合うぞ」

 

『はいっ!』

 

「親父、それだったら林の中から近づいてカシラに撃ってもらった方が良いと思うぜ」

 

「そうだな。英雄、桔平そうしてくれ。この戦車は車高が低めといえども塗装がジャーマングレーだからすぐにばれちまうからな。桔平が撃った後にすぐ動いてくれっ!」

 

「おう。分かった」

 

「分かりました。親分」

 

彼は、兄弟分達と一連の段取りをすると木村の提案通りに先程白と黒の二チームが鉢合わせた分岐点の真ん中の林から進入していき、しばらく進んでから速度を落として微速で前進する。

進んでいるうちに橋のある場所の少し前にある平野が見え、ちょうど三輌が縦列を組んでいる姿が目に入る。

 

「桔平。そのままⅣ号の後ろのBチームだ。流石にこの距離じゃこいつでもⅣ号の正面はきついからな。撃てぇ!」

 

大友が指示を出すと、水野は発射トリガーを引く。主砲から発射された砲弾はⅣ号の後ろを走行していたBチームに命中し、撃破することが出来たのだろう。白旗を上げる。

彼の予想通り隠れている場所がばれたのか、残った二輌が一斉に主砲をこちらに向けて攻撃を開始する。

 

「いくぜっ!兄貴っ!」

 

木村がそう言うと、E-25はそのまま林から飛び出して砲弾を避けながら一気に距離を詰めていく。二輌に近づくにつれて砲弾が車体を掠める音が増えていく。

そろそろ二輌とE-25が激突してもおかしくない距離まで来ると、E-25はドリフトターンを決めてDチームのM3を撃破する。

 

「残るは姉貴のⅣ号だけだ。何とか近づいて方を付けるぞお前らっ!!」

 

『はいっ!』

 

BチームとDチームの二輌とは訳が違い、距離を詰めても彼女達は逆に射線内に入らせないようにしているのだろう。大友達のE-25に対して正面から体当たりを繰り返している。

 

「このままじゃ埒が明かん。そのまま時計回りに後退して逆に後ろに回り込むぞっ!」

 

「おう。任せてくれっ!」

 

この時点での彼の考えは間違っていなかった。だが、次の瞬間みほ達のⅣ号は反時計回りに後退を始めたためにE-25は側背面を晒すこととなり、その隙を逃さなかった華が操る主砲から砲弾が発射され、そのまま命中して彼らも撃破されるのであった。

 

「すまねぇなみんな。俺の判断ミスだった」

 

「いえ、今のは俺らも予想できなかったのでみほさんの方が更に上手だったというべきでしょう」

 

大友と水野が何気ない会話を交わしながら外に出ると、BチームとDチームのメンバーがみほを取り囲んで賞賛の言葉をかけていた。

それを見た大友はみほの前まで駆け寄ると、さっきのように膝に手をついて頭を下げて同じように彼女に賞賛の言葉をかける。

 

「さすがみほ姉貴ですっ!貴女が探し始めた”新しい戦車道”が俺には垣間見えましたっ!この調子で頑張ってくださいっ!」

 

「ありがとう誠也君。正直私達も冷や冷やしたよ。でも、これからみんなで頑張っていこうね」

 

『はいっ!』

 

こうしてチーム内での練習試合は、みほの本領発揮が確認できたうえで幕を閉じた。彼女の舎弟である大友は、尊敬する姉貴分に打ち負かされたということにむしろ喜びを感じ、内心と声に出しながら彼女を応援するのであった。

そして、西住みほは今。覚醒の時を迎えようとしているのであった。

 

 




ありがとうございました!次回は第七話を投稿する予定です。なお、次回以降原作とは異なった展開を増やしていこうと思います!
評価やご感想、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第七話 もっと戦車を探します!

ご覧いただきありがとうございます!今回はほぼオリジナルの話になります。引き続きお楽しみください!


模擬戦闘が終わってから数日後、大友と組の構成員達はいつも通り車庫の前まで行くと異様な光景が目に入り、思わず卒倒しそうになった。

金色の塗装が施されたLT-38軽戦車やピンク色に塗装されたM3Lee中戦車、赤色と黄色に塗装されて六本の旗が飾り付けられたⅢ号突撃砲、バレー部員募集のメッセージが車体に書き込まれた八九式中戦車。

アニメキャラクターが砲塔にペイントされたうえ派手な色のネオン管が取り付けられた三式中戦車・チヌそして、Ⅳ号戦車は外見こそ変わらないものの雑貨で車内が覆われていたのであった。

深夜のコンビニエンスストアやド〇・キ〇ーテの駐車場に溜まっているヤンチャな人達の愛車や昭和後半を象徴した特攻服を身に纏い深夜の国道を集団でオートバイや自動車に乗って走り回りながら爆音を轟かせていた方達、成人式で最後のひと暴れとばかりに派手な格好をしてお巡りさん達を困らせる人達が乗っている自動車のようなカスタマイズが戦車に施されていた。

 

「ふははっ妙子姉。はっきゅんが成人式にいるヤンキーの車みたいになってるぞ。それにⅣ号以外はもうヤン車じゃん。輩だ輩ぁ」

 

「へぇ、シンちゃん。そんなにお姉ちゃんにお仕置きされたいんだ。ね、あけびちゃん」

 

「はーい」

 

「えっちょ待てっ!待って助けてぇ!親父助けっ……あーっ!!」

 

「黙ってたらよかったのに」

 

唖然として驚く大友連合会の幹部達の中で若頭補佐の慎司は一人ケラケラ笑いながら戦車を前に楽し気に会話する乙女たちの戦車に対して彼自身が思ったことをそのまま口にする。

慎司の一言を聞いた妙子は、意味深な笑みを浮かべながらそう言うとあけびと一緒に彼の前後に回り込んでそのまま自慢の握力と腕力で拘束し、ジタバタしながら大友に助けを求める彼を戦車の中に引きずり込んでいくのであった。

対する大友は、苦笑いをしながら静かに慎司に突っ込む。

 

「そうしたくなるのは分かるけどよ。悪いけどこれは戦車道の試合には不向きだぞ。それに金ぴかは狙ってくださいと言っているようなもんだぞ」

 

「え?他校は戦車をこんな風にはしないんですか?」

 

「ああ。みんな強化部品以外は特に何もつけないでそのまま戦っているぞ。戦車は車とか単車みたいに飾り付けたりしなくてもありのままの良さがあるんだよな」

 

「そっか……楽しかったんだけどなぁ」

 

彼の一言に気づいた梓は、大友に対して何となく思ったことを質問する。彼は彼女の質問に優しく答えてきつくない程度に指摘すると、梓はシュンとした表情になる。

他のメンバーも大友と梓のやり取りを聞いていたのだろうか、先程とは打って変わって真摯な目つきで何かを考えるような表情になった。

 

「そうだっ!西住ちゃん。派手な塗装とか改造がダメっぽいならなんか面白いアイディアとかない?」

 

「面白いアイディアですか?」

 

「そうそう。それこそ他校にないものとかそれに似たものでも良いからさ」

 

「うーん。明日までに考えておきます」

 

そんな空気を察したのか、杏が新しいアイディアについて隣にいたみほに提案する。彼女はそんな提案が面白いと感じたのだろう。今すぐには思いつかないので少し唸りながら首をかしげる。

すると、本部長の秀人が三枚の紙をファイルにまとめてやって来た。

 

「お取込み中すみません。親分、河嶋さん。まだ残っている三輌の戦車とⅣ号戦車用の主砲がある場所が記された資料が見つかりました。でも、二輌の場所はあやふやで……それに三輌あるうち一輌はめんどくさい所にあるんですよね」

 

「めんどくさいところ?どこにあるんだ」

 

「学園艦の深層部です」

 

「……あそこか。本当に面倒なところにあるな。あそこは危険だし私が行こう」

 

「河嶋さん。俺も一緒に行っていいですか?場所が場所なら知り合いがいるので」

 

「そうか。それならついてきてくれ」

 

「まだ戦車があったなんて……一気に数が増えますねっ!」

 

「そうだね。じゃあ、もう一回戦車探そうか」

 

桃は秀人から戦車の場所を一通り聞くと、自ら進んで学園艦の深層部に行くことにした。大友も学園艦の深層部には何らかのツテあったことを思い出し、彼女に同行することにした。

その間に、秀人からもたらされた情報を頼りに他の生徒達も再び戦車を探し始めるのであった。

 

 

 

大洗学園高校の学園艦深層部は、大洗のヨハネスブルグと呼ばれているほど極端に治安が悪く。リアルで不良漫画の世界が広がっているといっても過言ではなかった。

深層部は甘ったるい香水の匂いで覆いつくされ、人によっては匂いだけで酔ってしまいそうな場所だったが。それも気にせずに大友と桃は堂々と進んでいく。

しばらく進んでいると、二人の女子生徒が彼女達にに声を掛ける。

 

「桃さんに大友の会長さんじゃん。何で二人でこんなところに来てるわけ?」

 

「実はどん底の方に探し物があってな。それでここまで来たんだ。ババ、あいつらはいるか?」

 

「姐さんですか?居てますよ。じゃあ行きましょうか。いくぞトカタ」

 

二人はババとトカタ達に案内されて船底の奥深くへと進んでいく。正直ここまで作り込まなくていいだろうと言いたいほど通路は曲がりくねっており、更に奥には手すりがある。

そこを下った先は行き止まりのような感じであったが、壁の下に違和感があり。そこを手で押すと動くようになっていた。

 

「二人ともありがとう。そういえばこんな作りだったな。行くぞ大友」

 

「はい」

 

桃と大友は、彼女達二人に礼を言うとそのまま壁の奥へと進んでいく。その先では、合わせて五人の女子生徒達がソファーやカウンターの椅子に腰かけてだらけていた。

今まで殺風景な渡り廊下を歩いてきたのだが、ここは打って変わって絢爛豪華な装飾が施され、カウンターのそばにある棚には様々な種類のノンアルコール飲料が取り揃えられている。

何となく食欲を沸かせるかのように燻製肉の香りも少しずつ漂ってくる。

そんな光景に呆気にとられていると、カウンターの方で身体を伏せていた赤いパーマの女子生徒、ラムが二人に気づく。

 

「うほっ。桃さんに誠也じゃん。珍しいね今日は何しに来たの?」

 

「久しぶりだなラム。今日は探し物があってここに来た。ここにいるみんなに聞きたいのだが。戦車のようなものは見たこと無いか?」

 

「戦車?丘にある亀みたいなキャタピラがついたやつでしたっけ?」

 

「そうだ。キャタピラがついた……海賊船みたいに大砲がついたやつだ」

 

「何かどっかで見たような……」

 

「もしかしてこれ?」

 

桃から戦車について尋ねられたマイクを手に持った色白で高身長な生徒フリントが考え事をしていると、カウンターでノンアル飲料をジョッキに入れていた給仕服を身に纏ったマスター風の女子生徒のカトラスが棚の横にあった扉を開く。

扉が開かれると、重厚感があるビスで覆われた鉄製の壁が視界に入った。

 

「今まで来ていて気づかなかったけど、よく見たら戦車じゃねえか。それにしても相変わらずここの燻製は美味えな」

 

「そうだろ?何かの機械とは思っていたんだけど、これが戦車なのか」

 

「よかった。これで一輌戦力の確保が出来た!」

 

興味津々に戦車を見つめるガタイの良い女子生徒、ムラカミと大友は言葉を交わしながら燻製肉を頬張っている。

その傍らで桃は、手を小刻みに震わせながら素直に発見を喜んでいた。

 

「河嶋さん、この戦車は操縦に二人と砲手に二人、そして車長の五人が必要になって来ますよ」

 

「そうなのか。大友、お前の組の幹部はどうだ?」

 

「いいや、それならあたしらが乗りますよ。桃さん、誠也!こいつは大砲も付いてるし、陸の船なんだろ?まぁ、そうでなくても二人には良くしてもらってるからあたしらも一肌脱ごうじゃないの!あんた達もそうするわよね?」

 

『ええ』

 

「ありがとう、お銀!それにどん底のみんなが来てくれると鬼に金棒だ!」

 

二人の後ろからやって来たこの学園艦底にあるバーどん底にいるメンバーを束ねているリーダー格ともいえる褐色肌と鋭い目が特徴である生徒、お銀が高らかに戦車道に参戦するという一言でまた一人ずつ仲間が増えたのであった。

仲間が増えたことで桃はさらに嬉しそうな表情でそう言うのであった。

因みに大友が彼女達五人と知り合ったきっかけは、大洗学園の学園艦が母港に帰港した際に近くにある釣りの穴場でよく一緒になったり、水上バイクでレースをしたりしているうちに仲良くなったからである。

 

 

 

一方陸でも戦車探しは功を奏しており、旧部室エリアではⅣ号戦車用の75mm砲を発見した。

また、発見された戦車は重戦車と歩兵支援戦車であり。いずれも第二次世界大戦期に使用または試作されたルノーB1bisやポルシェティーガー、第一次世界大戦において初の戦車戦を行ったMk.Ⅳ戦車の計三輌の戦車を手にすることがであった。

 

「すごいっ!こんなに強力な戦車があったなんて」

 

「重戦車があればバランスが上手く取れますね。西住殿!それにポルシェティーガーとMK.Ⅳなんてロマン兵器じゃないですか!」

 

みほと会話する優花里は戦車好きの何かに火が付いたのだろう。この二輌について語り始める。

 

「河嶋。人員の配置はどうする?」

 

「MK.Ⅳはどん底のメンバーが搭乗することになりましたが、ルノーB1bisは四名とポルシェティーガーは五名の計九名が必要です。残り九名の大友連合会の者に任せれば良いかと」

 

「それも良いけどね。大友連合会の子達は整備とか担当してるし、他のメンバーにしてみようか」

 

「なるほど。では、募集をかけますか?」

 

杏は彼らの負担を配慮して、人員を学校内にいるメンバーにまで広げることにした。その直後、また新たに進展する

 

「会長、それならポルシェティーガーは私達自動車部が担当しますね。何か私達も戦車とか乗りたくなっちゃったし。大友連合会の子達が勧めてくれたのもあるんですよね」

 

「そうなんだ。じゃあ、P虎は自動車部に決定!あと、B1は誰が乗るの?」

 

「会長それなら風紀委員の僕が先輩方に頼み込んで人員を確保します」

 

「おっ伊達ちゃんは分かる子だね〜。んじゃあ、そど子達によろしく言っといて」

 

大友連合会の幹部の一人である『伊達正義(だてまさよし)』がそど子達風紀委員を勧誘する形でルノーB1bisに搭乗することになったのだ。

こうして、とんとん拍子で戦車道を履修するメンバーが増えることになったと同時に、杏は脳内で次の行動に移ろうとしているのであった。

 

 

 

その日の夕方、大友はみほに誘われて彼女の部屋に訪れていたのであった。大洗学園戦車道チームにしかない個性を生み出すべく、共に考え事に耽っていた。

 

「みほ姉貴、今日のところは他の子達に突っ込みを入れすぎた気がするんですよね。派手な飾りの代わりになるものとかは無いもんですかね?」

 

「そうだね。私達女子高生にパッと受けそうなものとかが良いんだけどな……」

 

「でしたら、大学選抜チームのアズミさんやメグミさん、ルミさんの戦車についている独自のエンブレムやBC自由学園の戦車道チームが戦車に付けている自派閥のエンブレム的なのが良いと思います」

 

「独自のエンブレムか……だったら。動物に例えるとルノーB1bisはカモっぽいし、あとDチームのM3Leeはウサギ小屋で見つかったから。動物に因めば良いと思うな!」

 

彼の何気ない一言で彼女の脳裏に電撃が走り、後の大洗学園戦車道チームを象徴する基礎が今出来上がった。

 

「ええ、良いと思います!それに動物はみんなかわいいし、女子高生受けも良いんじゃないすか?変に個性が強すぎないし、俺は大賛成です!」

 

「そうだね!それにしよっか。じゃあ、私達Aチームは大洗町名物のあんこうに因んで……あんこうチームで!」

 

「うーん。俺らはどうしようかな」

 

「誠也君が乗るE-25は機動力が高くて隠蔽に優れているし、駆逐戦車らしくこそこそするから『イタチさんチーム』で!それに……」

 

「はい。それでい……うぉっと?!」

 

みほは、大友の隣で正座で座り直すとそう言いながら彼を自身の膝の上に寝転ばせて膝枕をする。

 

「誠也君は、他の女の子みたいにかわいいのに昔から自分から際どいところにガンガン突っ込んでいく武闘派だし。イタチも見た目はかわいいのに凶暴だから誠也君と似ているなと思ったんだ」

 

「ははっ。そうですか。というか起き上がって良いですか?」

 

「だーめ。えいっ♪」

 

彼女は少しだけ艶やかな頬をむっと膨らませると、蕩けたような表情でそのまま彼に覆い被さるようにして抱きつくのであった。 

 

 




ありがとうございました!
原作とはかなり異なる展開を入れたうえ、原作より早くナカジマさん達やそど子達、お銀さん達が参戦することになりました。また、あんこうチームに改称も原作より早めました。
次回は第八話を投稿する予定です。ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第八話 強豪校との練習試合です!前編

ご覧いただきありがとうございます!
今回は前編と後編に分けることにしたため、戦闘描写は少なめです。
引き続きお楽しみください!


新たに発見された三輌の戦車のレストアが無事に完了し、本格的に練習が始まったのであった。

戦車に関する基本的な動作や試合における戦術の学習といった基礎固めからはじまり、みほや大友は自らの経験を交えながら他のメンバーの指導をしている。

この二人の教え方が功を奏したと言うべきだろうか。乙女達の腕は日々上達しつつあった。

 

「西住隊長の教え方って上手だよね~」

 

「うんうん。今度の練習試合では、こそこそ作戦ってやつで町の設備をフル活用するんだって!」

 

「へぇ。でも、相手は装甲が分厚い戦車と足が速い戦車を使うんでしょ?すぐに弾かれたり追いつかれたりしないかな?」

 

「もう。あゆみったら、そのためのこそこそ作戦なんだよ。犠牲を減らすための作戦だって西住先輩が言ってたじゃない」

 

「さすが西住流。良い意味で半端ない!」

 

Dチーム改めウサギさんチームの面々は、休憩時間に今度行われる練習試合について語っていた。

みほは、各戦車のチーム名の提案で杏にその才能を見込まれたため大洗学園戦車道チームの隊長に抜擢されたのであった。

大友に関しては当初副隊長補佐という立場だったが、彼と隊長である彼女の関係に目をつけた杏によって副隊長に任命された。

当初は困惑していたみほであったが、舎弟の大友や各戦車の車長達の後押しもあってか。順調に隊長としての務めを果たしつつある。

 

「いよいよ今週の土曜日だね。相手はどんな編成で来るんだろう?」

 

「練習試合といえど、短期間で十輌も揃えた我々ですから相手さんも手は抜いてこないでしょう」

 

みほと言葉を交わしていた大友は、対戦相手である聖グロリアーナ女学院戦車道チームのメンバーに心当たりがあったのだろう。顎に右手を当てながら考え事に耽り始める。

 

「まぁ、相手がどうであれ全力を尽くそうよ。正直練習相手にあの強豪校だって聞いた時は少しびっくりしたけど。みんなで今の調子を維持して頑張れば勝てるかもしれないし」

 

「そうですね。こっちには斬新な作戦を思いつく最高の隊長がいますから。全力が尽くせます!」

 

「ありがとう!じゃあ、こっちには武闘派だけど仲間思いでかっこかわいい副隊長がいるから安心できるな!」

 

「そ、そんな。かっこかわいいなんて……はっくしょん!」

 

「ふふっ。くしゃみをするって事は、私以外にも誠也君の事が気になっている人がいるのかな?」

 

「ははっ。冗談はよしてくださいよみほ姉貴。俺みたいなパンツァーハイ野郎なんかより良い男がいるのに。噂話なんてされてる訳ないじゃないすか」

 

他のメンバーが再び戦車を使って練習に励んでいる中、みほと大友の二人は木の下でくつろぎつつ笑い合いながら会話を続けるのであった。

 

 

 

その頃、聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長室では合わせて五人の少女が紅茶とお菓子を手に取りながらお茶会を楽しんでいた。

彼女達の中で一番お淑やかかつ大人びた少女、ダージリンは一枚の写真を片手に普段のお淑やかさとは打って変わって少しウキウキしていた。

 

「ダージリン様、いつも以上に機嫌が良さそうですね」

 

「ダージリンったら、本当にあの子が好きなのね。あの子には恋人同然に慕っている子がいるのに」

 

「アッサム。本場のイギリス人は恋愛と戦争には容赦は無いのよ。それにお付き合いをしている訳じゃ無いんだから問題ないわ。いつかこの子をわたくしのもとに……」

 

一人の少女、オレンジペコの言葉を皮切りに彼女達の会話が始まったのである。

ダージリンは、左目を閉じながら写真に映された戦車のキューポラから身を乗り出した少年……大友を眺めているのであった。

 

「再びあの子と会えるなんて神様は本当にいたずら好きね。一年前のタンカスロンの交流試合とスカウトの辞退を巡っての戦い……あれほど楽しかったものは無いわ。今度会った時は何を話そうかしら」

 

「そういえば、そんなこともあったわね。私も今みたいにダージリンのチャーチルで砲手をやっていたのだけれど、あの子の操るE-25の砲手の水野君も気になるわ。どうやったら横滑りしながら砲弾を命中させることができるのかしら」

 

ダージリンに同調するかのように、アッサムも水野について語り始める。

その傍らでオレンジペコやもう二人いた女子生徒のローズヒップとルクリリは初めて聞く大友たちの話に興味津々だった。

 

「昨年はまだ別の先輩の下で操縦手をやっていたので大友さんのことはダージリン様との決闘の中継でしか見たことがなかったのですが。本当に男の子なんですかね?」

 

「ええもちろんよ。それに、ああ見えてタンカスロンでは結構な武闘派なのよ。ルクリリ、貴女もタンカスロンへの参入を考えているのならあの子のことを調べることをお勧めするわ。それとローズヒップ」

 

「なんでございましょうか!ダージリン様!」

 

「貴女のお気に入りの慎司君だったかしら?あの子も誠也君と同じ大洗学園に通っているわよ」

 

「マジですの?!何も聞かされていなかったので気になっていましたの!」

 

ダージリンはルクリリの疑問に答えつつ話題を切り替えるべくローズヒップに声を掛ける。

彼女に話題をふられたローズヒップは、何かを思い出したかのようにその場から立ち上がってテンションが高くなる。

 

「あら、向こうに知り合いが居たのはわたくしだけではなかったようね。ローズヒップ、ルクリリ。整備員さん達に特別仕様を施すように言って頂戴。あの子は一筋縄では行かないのだから」

 

この時のダージリンが見せた惚れ惚れした目つきは、この場にいた他の四人を更なる関心に駆り立てた。

何せ彼女の本心を初めて他の面々の前で見せたからだった。ダージリンは練習試合といえど水面下でも戦術を練りつつあった。

 

 

 

それから五日後の土曜日、大洗学園高校の学園艦は大洗港に寄港し、学園艦と港を結ぶレーンから住民の自動車が次々と流れ出てくる。

その中に大洗学園戦車道チームの車列もあった。車列の先頭をあんこうチームのⅣ号戦車とイタチさんチームのE-25の二輌が走行していた。

 

「みほ姉貴。今日は何なりとお申し付けください」

 

「ありがとう。一応作戦通りに動いて後は、状況が変わり次第独断で動いてもらって構わないよ」

 

大友とみほは戦車から身を乗り出しながら今日の試合について打ち合わせをする。

すると、大きな影が大洗学園戦車道チームの戦車を覆い尽くす。

 

「でかっ!」

 

「あれが聖グロリアーナ女学院の学園艦そして、戦車道チームですか……」

 

「みほ姉貴、いよいよお出ましですね。(あの人とやり合うのも一年ぶりってところか)」

 

「うん。そうだね」

 

聖グロリアーナ女学院の学園艦は大洗学園の学園艦よりも何倍も大きく、その維持費や学園艦内の豊かさを象徴するかのように十輌の戦車が車列を作って走行しているのが目に入る。

その編成は以下の通りだ。チャーチルMk.Ⅶ×一輌、マチルダ歩兵戦車×五輌、クルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲ×三輌、クロムウェル巡航戦車Mk.Ⅳ×一輌の計十輌編成である。

遠くからなのでよく見えないが、強力な編成ということが分かった大友は武者震いする。

それからしばらくして試合開始地点に移動した一行は、聖グロリアーナ女学院戦車道チームと対面していた。

 

「本日は急な申し出であったにもかかわらず。試合を受けていただき感謝する」

 

「構いません事よ。こちらも公式試合と同じように十輌で挑んでいただけるなんて光栄ですわ。それと、戦車のエンブレムに動物を使用するなんて斬新ですわね。ですが、わたくしたちはどんな相手にも全力を尽くしますの。量や火力でごり押しするサンダースやプラウダ、統制がズタズタなBCみたいな下品な戦い方は致しませんわ。お互い騎士道精神で頑張りましょう」

 

桃と挨拶を交えたダージリンは、大洗学園側の戦車のエンブレムを見て率直な感想を口にする。その直後、ダージリンは我々は他校と違って気品があるのだ。というアピールをしたのであった。

 

「最後に……誠也君お久しぶりね。貴方の腕が落ちていないか全力でやらせていただきますわ」

 

「ええ。ダージリンさんも相変わらずお元気そうで良かったです。こちらも全力でやらせていただきます」

 

最後に彼女は大友に声を掛けて自身のやる気を彼にアピールし、彼もダージリンに対する敬意を交えて返事をしたところで審査員である笹川香音の一声によって試合が始まるのであった。

 

 

 

 

みほから斥候を任された大友は、ごつごつした岩場が広がる崖から楔形陣を組んで悠々と前進する聖グロリアーナ女学院側の戦車を睨みつけていた。

彼がいるこの場所と距離からだとE-25が持つ75mm戦車砲でチャーチルの車体側面に対して有効な一撃を放つことも出来なくはないが。五輌のマチルダMk.Ⅲに阻まれているうえ、狙撃に失敗してしまえばローズヒップが指揮するクロムウェルに率いられた巡航戦車隊に追い回されかねないのである。

 

「いいか。ローズヒップって子が乗るクロムウェルの走り方は並みの戦車乗りじゃ真似できねえ走り方をするから桔平が二発撃った後は十分に注意しながら退くんだぞ。それと雄飛、早めの装填頼めるか?」

 

「おう。何せうちの慎司からコツを教わっちまったからなあの子は」

 

「分かりました親分。秋山先輩を超える勢いでいきます」

 

大友や木村、安倍が何気ない会話をしながら射程圏内に入りつつある戦車たちを凝視し続ける。あと少しで射程圏内に入るというところで大友達は戦車に乗り込む。

彼らが乗り込むと同時に相手は一輌づつE-25の射程圏内へと入って来る。

無論、それを見逃さなかった水野は手始めにチャーチルの左隣にいたマチルダを一輌撃破し、次にそのままクロムウェルの履帯の切断を試みるも。これは避けられてしまい、相手は大友達の存在に気づいたのか。

そのまま崖の上に向かって集中砲火が行われ、四輌の巡航戦車が彼らの後を追い始める。

 

「こちらイタチチーム。敵一輌の撃破に成功。ウサギさん及びアリクイさんはそのまま崖の上で布陣されたし」

 

「こちらウサギさんチーム。足止めなら任せてくださいっ!」

 

「こちらアリクイさん。一輌でも多く足止めするのにゃー」

 

大友は逃げている間にも他のメンバーに対して必要な指示を行う。今この近辺に居る大洗学園側の戦車は彼が乗るE-25を含めてウサギさんチームのM3Lee、アリクイさんチームの三式中戦車・チヌの計三輌のみである。

残りの七輌は町の方で布陣し、こそこそ作戦の名の通り。

フィールドである大洗町のどこかに潜んでゲリラ戦術を展開しながら相手をじわじわ撃破するという戦法を取るのであった。

これには、みほの犠牲を極力最小限に抑えるというこだわりがあり。彼女が今まで強制されて来た西住流とは真逆の戦法を取るに及んだのであった。

無論、各車長の支持は大きく。同時にみほは車長達を含めた戦車道チームのメンバー全員の信頼を得ることが出来たのだ。

特に彼女を慕っている大友は、そんな彼女の期待に応えるかのように機動力が高く、火力もそこそこあるM3Leeとチヌに目をつけて足止めのみに限定した囮作戦に出ることにしたのであった。

 

「みんな。そのまま左の坂に繋がる岩を撃ってそのままちょっとしたバリケードを作るんだっ!包囲されたら元も子もないからな」

 

『了解!』

 

彼の指示を受けたこの二チームは、左側の坂道にあった大きめな岩に向かって砲弾を撃ち込み、崩れた岩でバリケードを作る。

それからE-25は右側の坂道から登っていき、他の二輌と同じく崖の上で布陣して相手を待ち構える。

それから一分も経たないうちに四輌の巡航戦車が土煙を上げながらV字隊形で彼ら三輌に対して向かってくる。

 

「今だっ!撃てぇ!」

 

大友がそう叫ぶと三輌の戦車から砲弾が放たれるが。最初の数発は距離が離れているため、ほとんど当たらなかった。

四輌の巡航戦車は崖に近づくにつれて密集しはじめていた。

これを見逃さなかった大友や他の二チームはチャンスだとばかりに訓練で培ったチームプレーを活かしてクロムウェルを守るようにしてその前方を走行していた三輌のクルセイダーの履帯を切断し、真ん中を走行していたクルセイダーは梓の判断により。

副砲で切断後、主砲で装甲が薄いエンジンルーム上部に命中させることに成功し、そのまま撃破する。履帯が切断された二輌のクルセイダーと撃破されたもう一輌のクルセイダーによってローズヒップが乗るクロムウェルは、道を塞がれたのであった。

 

「よし、みんなよくやった!そのまま町へすたこらさっさだ!」

 

『了解!』

 

「それと梓ちゃん。良い判断だ。そのまま調子で今日は勝とうなっ!」

 

「ありがとうございますっ!大友先輩」

 

町の方へと退いている最中、戦車から身体を乗り出していた梓に大友は彼女の咄嗟の判断を褒め称える。

彼にそう言われた彼女は緊張したままの表情から自信に溢れた表情に変わった。こうしてこそこそ作戦は次の段階へと移るのであった。

 

 




ありがとうございました!
原作とは異なり、クロムウェルに搭乗するローズヒップさんにしてみました。
プラウダ戦記のローズヒップのアールグレイに対する反応を見て個人的にありかなと思ってそうしてみました。
次回は後編にあたる第九話を投稿する予定です。
ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第九話 強豪校との練習試合です!後編

ご覧いただきありがとうございます!
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引き続きお楽しみください!


緒戦において、二輌も戦車を撃破されたダージリンは内心で焦りを感じていると同時にワクワクしながら本気モードに入ってしまったのである。

 

「さすが誠也君ね。でも、これ以上貴方の好きにさせないわ。他のマチルダの乗員とクルセイダーの乗員は履帯が外れた戦車が復旧次第、町の方へ向かうわよ。町へ入ったら警戒を強めなさい。向こうはゲリラ戦術を展開するはずよ」

 

「敢えて二輌のクルセイダーを撃破せずに履帯を切断し、撃破した一輌を合わせた三輌で道を塞いで私たちの行動を停止させるなんて。ダージリン様が言っていた通り大友さんはただの武闘派ではなく。風変わりな戦術を駆使する方ですね。これからこの戦い方は参考に出来そうです」

 

彼女はチームに必要な指示を行いつつ、大友の腕が落ちていないことに満足しながらティーカップいっぱいに淹れた紅茶を口に含む。

初めて大友の戦法を目の当たりにしたオレンジペコは、彼の戦い方に対して素直な感想を口にする。

 

「こんな格言を知っているかしら?未来とは、今である。あの子は目の前のことに全力を尽くす子よ。仲間のために時間を稼ぐなんて公式試合では中々見れないものよ」

 

「そうなんですか。だとすれば油断は禁物ですね。そこまで出来る余裕があるなんて」

 

ダージリンは、格言を交えてオレンジペコに対して大友について少し語る。それを聞いた彼女は、先程のような調子で言葉を返す。

 

「ダージリン様っ!偵察は私たちにお任せくださいませっ!敵の隠れ場所をあぶり出して見せますわっ!」

 

「ええ、任せたわよローズヒップ。この町は入り組んでいるから十分注意なさい」

 

「もっちろんですわ!では、行ってまいります!」

 

二輌のクルセイダーの修理が完了したのだろう。ローズヒップが血気盛んな声でダージリンに意見を具申する。彼女はローズヒップに対して念を入れて忠告したあと、それを承諾する。

承諾の言葉を聞いた彼女は同じテンションでそう言いながら二輌のクルセイダーを引き連れて再び大友達の後を追い始めた。

 

「……ダージリン様。よかったのですか?ローズヒップさんを先に行かせて」

 

「ええ。ローズヒップだってただのスピード狂じゃないのよ。彼女ならうまく逃げ切るはずだわ。さぁ誠也君……わたくしを楽しませてくださいな。全車前進」

 

ダージリンはオレンジペコと会話を終えると自らも残った四輌のマチルダを率いて町の方へと向かって行くのであった。

そんな彼女の一言を彩るかのように、チャーチルの改造が施された砲塔に取り付けられた17ポンド(76.2mm)砲が太陽に照らされて少し輝く。

 

 

 

 

町で囮役を務めていた典子が率いるアヒルさんチームは町の路地を微速で走り回っていた。囮役は彼女達だけでなく、生徒会四人組のカメさんチームや大友のイタチさんチームの計三輌が囮役であった。

他のメンバーは町のどこかに身を隠しており、隊長のみほや副隊長の大友の指示があり次第動くという戦法であった。

 

「今頃敵チームはパニくっているんだろうな~西住隊長が考えた作戦は頼りになる」

 

「そうですねキャプテン。私達は敵が来ればあそこに誘導すればいいんですから」

 

彼女は操縦手の忍と言葉を交わしながらキューポラから身を乗り出して周囲を見渡している。典子からすれば、大洗の町は庭といっても過言ではなく。

敵を誘い込んで身を潜めている仲間たちのもとへ誘導すれば火力不足の八九式中戦車でも役に立つのである。

丁度その時がやって来たというべきだろうか、一度来た住宅地の交差点の左側からルクリリが乗ったマチルダⅡが右折してきた。

典子とその少女は数秒間見つめ合った後、彼女達の戦車によるカーチェスが幕を開けるのであった。

 

「会敵しました!これより誘きだします」

 

「はいっ!作戦通りあの場所へ誘導してください。カメさんとイタチさんも敵を発見次第、他のチームのもとに誘き寄せてください。余裕があればその場で撃破してください」

 

『了解っ!』

 

他のチームはみほの指示を聞くと行動を開始した。その間にも八九式中戦車はマチルダⅡの執拗な攻撃を躱しながら待ち伏せ場所へと誘導する。

ルクリリは、途中で見失った八九式中戦車が残した排気ガスの匂いを頼りに立体駐車場へとやって来た。

 

「馬鹿ね。あんなジリ貧砲でマチルダの装甲が貫けるわけないじゃない。楽にしてあげるわ」

 

彼女はそう言いながらブザー音が鳴っている建物のシャッターの前に戦車を進める。シャッターが開き始め、彼女はどんどん黒い微笑みを浮かべるのであった。

だが、それと同時に後ろの昇降機が上がり始める。間もなくしてそれに気づいたルクリリが戦車の正面を後ろに向けて姿を現した八九式中戦車に照準を合わせるが。左側面に強い衝撃が走り、そのまま撃破された。

 

「ありがとう。カバさんチーム」

 

「礼には及ばない。次の目標を探し出すぞ!」

 

ルクリリは駐車場奥の昇降機が上っていることに気づく余裕がなかったのだろう。そこからカバさんチームのⅢ号突撃砲が覗き込んでおり、八九式に気を取られていた隙をみて撃破したのであった。

アヒルさんチームとカバさんチームの二輌は次の獲物を探し出すべくその場から離れた。

 

 

 

その頃、カメさんチームは二輌のクルセイダーに追われていた。38t軽戦車の車内では桃が秀人に対して装填を急かしながら二輌に向けて砲撃を浴びせているが、全く命中せず。全て明後日の方向へと飛んでいくのであった。

 

「河嶋さん。38tは現代戦車みたいに走り撃ち出来るわけじゃないんですから、あまり撃たないでくださいよ。それにそろそろお銀さんや園先輩と合流するので」

 

「こうして撃っておかないとけん制にならないだろうっ!」

 

「桃ちゃん。ひで君の言う通りだよ。弾の無駄だし」

 

「桃ちゃんと呼ぶなっ!」

 

桃が小山姉弟とそんなやり取りをしながら次々と砲弾を乱射している。しかし、さすがに空気を読んだのだろう。発射トリガーから手を放して砲塔を正面に戻す。

相手の二輌はカメさんチームが諦めたと思ったのか一気に加速して距離を詰めるが、加速した場所が悪く。

商店街のカーブだったためカーブを曲がり切れずに肴屋本店という場所に二輌同時に突っ込み、近くの路地で待ち伏せていたカモさんチームとサメさんチームによって砲撃を加えられてそのまま戦闘不能になった。

店に突っ込んでいる状態で砲撃を浴びせたためか、建物がその反動で派手に倒壊したのだが。因みにこの店の所有者は観客席で狂喜乱舞していた。

 

 

 

大洗学園側は一気に相手の戦車を半分の五輌まで減らして優位に立っていたのだが、相手側の聖グロリアーナ女学院もやられてばかりではなく。

反撃の狼煙を上げたのであった。手始めにローズヒップが搭乗するクロムウェルがカメさんチームと合流しようとしたウサギさんチームとアリクイさんチームの目の前に現れて単独で二輌を撃破し、ダージリンのチャーチルに率いられた三輌のマチルダⅡが港近くの交差点で合流したカメさんチームやカバさんチーム、アヒルさんチーム、カモさんチーム、サメさんチーム、レオポンさんチームを包囲殲滅する形で撃破した。

遅れてやって来たみほと大友の二人によってもう三輌のマチルダⅡは撃破されたものの、二対二と互角な状況であった。

 

「誠也君、そのまま市街地のほうで方を付けるよ。誠也君がクロムウェルを狙っているように見せて私たちがクロムウェルを撃破するわっ!」

 

「分かりましたっ!クロムウェルに突っ込むふりをするんで、クロムウェルが姉貴の方にケツを向けた瞬間撃ってください!」

 

あんこうチームとイタチさんチームはしつこく距離を詰めて来るクロムウェルの迫撃から逃れながら撃破の手順を打ち合わせていた。

このクロムウェルの走り方は、クルセイダーとは異なり。戦車でありながら峠の走り屋のように器用にカーブでドリフトしたりしながら距離を詰めて来て二輌は撃破されかけていた。

それに終止符を打つべく大友は賭けに出た。もう少しで市街地にある小さめの交差点に出ようとしたところで道幅が三車線分に広がったのである。

 

「よし、今だ!」

 

「おう!」

 

彼の掛け声に合わせて左折してすぐのところで木村がバックギアに入れたのでそのままE-25は後退する。賭けが吉と出たのだろう。

クロムウェルが左折した瞬間に後退したため、自然とすれ違ったのである。

彼の思惑通りクロムウェルは慌ててドリフトターンをして正面を大友達に向けるが、そこに隠れていたみほのⅣ号戦車が現れて換装した長砲身の試し撃ちとばかりにクロムウェルの背面装甲に砲弾を叩き込む。

装甲より速度を重視した巡航戦車に耐えられるわけがなく。あっさりと撃破されてしまう。

 

「これでダージリンさん一輌のみになりましたね。このままケリをつけましょう」

 

「そうだね。もう来たみたいだよ」

 

ラスボスの登場と言わんばかりに堂々とした風格でチャーチルMK.Ⅶは二輌の前に現れた。この戦車が誇る分厚い装甲だけでもその存在をアピールし、今日にいたっては17ポンド砲が装備されているため威圧感が倍増している。

 

「行きますよ……みほ姉貴。せーのっ!!」

 

「「はいっ!!」」

 

二人の掛け声と共に二輌はチャーチルMK.Ⅶに向かって駆け出した。ローズヒップやルクリリが搭乗していたクロムウェルやマチルダⅡとは訳が違って装填の速さが尋常じゃなく。

砲撃の精密さもこちらが圧倒的に優れており、何発か二輌の装甲を掠めていく。

チャーチルもずっと突っ立っているというわけでは無く。車一台が入れるか入れないかの路地に入って弱点の背面装甲を隠そうとすべく後退しながら抵抗を続けている。

 

「行かせてたまるか。英雄、そのままチャーチルに突っ込め。桔平は履帯を切断しろ。みほ姉貴、さっきと同じように後ろに回り込んでください!俺らが何とかします!」

 

「分かった。誠也君、上手く撃破されないでね」

 

「……ええ、賭けてみます」

 

E-25は更に加速し、Ⅳ号戦車は後ろに回り込む機会を伺いながら回避行動を続ける。チャーチルもこの二輌の行動を読むことが出来たのか車体を左右に振りながら後退し始める。

それでもなお二輌の勢いは止まることなく。E-25がチャーチルに衝突するというところで急ブレーキを踏んで停止し、そのまま左の履帯に砲弾を叩き込む。

Ⅳ号戦車はドリフトターンで後部に回り込むと同時に背面装甲に向けて砲撃し、チャーチルは履帯よりも隊長車であるⅣ号に釘付けだったため。ほぼ同じ速さでⅣ号に合わせて砲塔を旋回し、同時に砲撃を浴びせる。

三発も砲弾が同時に撃ち出されたため。三輌の周りは黒煙が覆いつくす。

しばらくして煙が晴れて分かった光景は、Ⅳ号戦車が砲塔側面に大きなかすり傷を作って停止し、チャーチルはキューポラの横から白旗を上げて鎮座し、E-25は車体を斜めにして鎮座しているというものであった。

 

『大洗学園残存車輌数二輌、聖グロリアーナ女学院全車戦闘不能。よって大洗学園の勝利!!』

 

みほは自分達の勝利を告げるアナウンスにあっけを取られ、勝利を確信するのに数十秒の時間を要したのであった。

E-25の車内では四人が自身の腕が訛っていないことに安堵し、静かに勝利を喜んでいた。

 

 




ありがとうございました!次回は第十話を投稿する予定です!
次回もオリジナル展開を増やしていこうと考えています。
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第十話 舎弟を愛でます!

ご覧いただきありがとうございます!お気に入り登録者数七十人を突破致しました。
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引き続きお楽しみください!


撃破された大洗学園の戦車が運搬車両によって搬送されている傍ら、あんこうチームのメンバーやイタチさんチームのメンバーはⅣ号戦車の前で途中で撃破されたチームのメンバーから賞賛の言葉をかけられていた。

みほはおろおろしながらもチームの全員に頼りにされていることに安心し、素直に勝利を喜んでいる。

その傍らで大友は彼女が賞賛されている姿を見てどこか嬉しそうだった。

 

「西住先輩、大友先輩カッコよかったです!今度私たちにも詳しくおすすめの立ち回りを教えてください!」

 

「いや、澤さんや他のチームのみなさんのおかげです。皆さんが私の考えた作戦通りに動いてくれて嬉しく思います」

 

「西住ちゃんに大友ちゃん。二人ともナイスプレーだったよ!みんな、よくできているからこの調子で公式試合も頑張って優勝しちゃおうっ!」

 

『おーっ!』

 

こうしてまた一段と大洗学園戦車道チームの絆は深まったのである。チーム内のメンバーがお互いの健闘を称え合っていると、ダージリンがアッサムやオレンジペコ、ローズヒップを連れてメンバーのもとにやって来たのであった。

 

「貴女が隊長さんですわね。お名前は?」

 

「初めまして。西住みほです」

 

「もしかして西住流の?随分まほさんとは違うのね。でも、今日は楽しかったわ。今度は公式戦で会いましょうね」

 

「は、はい!」

 

ダージリン達がその場から立ち去ろうとした瞬間、慎司が改造を施した愛車のトヨタマークⅡGX81型で乗り付けて来て一同の前で停車してローズヒップの方に目をやる。

 

「よう!久しぶりだな……今はローズヒップって名前になったんだってな。せっかく明日まで寄港日なんだ。今から飛ばそうぜ」

 

「お久しぶりですわねっ!慎司君。早速ガンガン飛ばしますわよー!そのまま唸る加速音でアクセル全開ですわよ!」

 

彼女はテンションが高まった状態で彼のもとへ駆け寄っていき、一度慎司に抱きついた後そのまま車の助手席に乗り込んでいく。

 

「慎司、安全運転でな!青春ってのはいいなぁ」

 

「ええ。親父、行ってきます!」

 

慎司は大友と言葉を交わすとホイールスピンをして発進し、ローズヒップと共に何処かへ走り去っていくのであった。

その様子を見ていた姉の妙子は、自身をスルーしたうえ他の少女を連れてどこかへ行ったのが堪らなかったのだろう。少しだけ目に涙を浮かべつつ頬を膨らませて「シンちゃんのいけず!」と言っていた。

 

「さて、みほさん。ついでですし、こんな格言を知っているかしら?イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない」

 

「はい?」

 

ローズヒップにつられたのだろう。再びダージリンはみほと大友の前まで歩み寄って彼女に対してそう言う。言葉の意味をいまいち理解できなかったのか、みほは首を傾げる。

 

「では、これが答えよ」

 

「おっふ……」

 

ダージリンは今だといわんばかりにそう言いながら大友の右側に行き、同じようにして首を傾げていた彼の右頬にそのまま唇を重ねてキスしたのであった。

対する大友は赤面して倒れそうになり、慌てて典子とナカジマが彼の身体を支える。周りのメンバーはその光景を唖然とした表情で見つめていた。

 

「典子ちゃん、ナカジマさん大丈夫ですよ。ダ、ダージリンさん!みほ姉貴の前でそんなことしたら恥ずかしいだろ!」

 

「ふふっ。そうやって怒る姿もかわいいわね。だから今みたいに愛でたくなるのよ。みほさん、この子は貴女だけのものじゃないのよ。では、またお会いしましょう」

 

ダージリンは頬膨らませて動揺する大友に対してウインクをするとそう言いながらオレンジペコやアッサムと話をしながら学園艦の方へと戻っていくのであった。

その後ろ姿を大友は、どこか照れくさそうにしつつも敬意を交えた目で見つめていたのであった。

 

 

 

 

それから三時間が経過し、彼はみほや優花里、沙織、華と一旦別れて麻子と行動を共にしていた。彼女は他の四人には大友と一緒に家族に会いに行くと伝えたが。

それは表向きであり、彼と二人で過ごすことにしたのであった。

 

「家へ帰らなくて大丈夫なのか?まあ、良いけどよ」

 

「どうせ明日があるし、それに今日は五年ぶりに遊んでもらうぞ。誠也君」

 

小さめのカフェで二人はスイーツを楽しんでおり。今日の試合で一気に食欲が増えたのだろう。次々とお菓子を二人で頬張っている。

この店は土曜日の昼間であるにもかかわらず、客が大友と麻子の二人しか居らず。雰囲気的にもいい感じになりつつあった。

周りに人が居ないので会話も弾みやすく、出されたお菓子について語り合ったりしながらスプーンをお菓子の方へと伸ばしていく。

 

「気になっていたのだが、誠也君はどうして西住さんのことを姉貴って呼んでいるんだ?みほちゃんやみほさんで良いと思うのだが」

 

「俺って家族がいないし。それに、俺より強くて頭がキレるし人柄が良いからそこに惹かれて『姉貴』って呼ぶようになったんだ。みほさんって言ってたのは中学に入る直前までだな」

 

「そうなのか。じゃあ、誠也君のことをお兄ちゃんって呼んで良いか?」

 

「おいおい、それはちょっとなぁ。まあ俺も組の奴から親父とか兄貴って呼ばれているから好きにしていいぞ」

 

「ふふっ。やっぱり誠也君はそうやって西住さんみたいに戸惑うところがあるから本当の姉弟みたいだな」

 

「ははっ。そう言ってくれるとなんかあの人の舎弟として誇り的な何かを感じるな」

 

大友は麻子は本当の恋人のように言葉を交わしながら更にお菓子を頬張る。ほどなくして注文したものが全て食べ終わり、店を後にして水族館へ行ったり。その近くの浜辺を散歩したりしながら残りの一日を過ごしたのであった。

 

「さて、そろそろ帰ろうか。悪いが明日はみほ姉貴と約束事があるから早く帰って寝たいからな」

 

「そうだな。私も最近は朝と仲直りしているから帰ろうか。誠也君……」

 

学園艦の近くにあった浜辺の公園で麻子と夕焼けを眺めていた大友は明日の予定を思い出したのだろう。

彼女との遊びもお開きにして途中まで一緒に帰ろうとするのだが、麻子は両手を広げる。

 

「どうし……へ?」

 

「また一緒になれてよかった。西住さんには、悪いが誠也君をもう一回抱きしめていいか?」

 

「ははっ。全然いいよ」

 

「ありがとう。おかげで何かのもやもやがスッキリした」

 

抱きしめ終えた麻子は少し離れて照れくさそうにもじもじしながらそう言う。

対する彼は数時間前のように倒れそうにはならずに同じように照れくさそうに呟く。

 

「じゃあ。俺からもお返しだ。おぶってやるよ」

 

「いいのか。ありがとうっ!」

 

大友はそう言いながら麻子の前にしゃがむと、彼女は喜色に溢れた表情で彼の背中に乗る。その後、麻子をおぶって自宅まで送ったのであった。

 

 

 

 

翌日。大友はタンカスロンで使用しているT-15軽戦車でみほと大洗の町をドライブした後、町から離れた峠道に入り、ある場所へと向かっていた。

 

「みほ姉貴、わざわざ戦車じゃなくても車なら用意しましたよ」

 

「いいの!たまには誠也君と同じ戦車に乗りたいからそうしたの。やっぱり戦車から身を乗り出すと気持ちいい。小さい頃、お姉ちゃんとこうやってドライブしたんだ。近所の池まで戦車で走りに行ってそのまま釣りをしたり帰りしなにある駄菓子屋さんでアイスを買って食べたりしたんだ」

 

「へぇ、そうなんですか。俺も暇があったら近所の港で釣りをしていましたね」

 

T-15は軽快な音を立てて峠道を走り抜けていく。当然、履帯の音が激しいため。二人は試合の時ようにインカムで会話をしている。

しばらくして峠道を越えた頃、一つの寂れた看板がみほの目に入った。それは、自身が好きなキャラクターであるボコのテーマパークであるボコミュージアムの看板であった。

 

「みほ姉貴、気づいてくれましたか。今日は一緒にここに来たかったんですよね。ほら、みほ姉貴ってボコが好きじゃないすか」

 

「ありがとうっ!今日は楽しもうね!」

 

「ええ、楽しみましょう!」

 

そんな会話をしているうちにボコミュージアムへとたどり着いた。そこは、忘れ去られた町と言うべきだろうか。施設の外部に至っては、長い間手入れがされていなかったのかボコの看板は朽ち果てつつあったが、内部は比較的綺麗であり、まだ閉館したという訳ではなかった。

 

「すっごーい!!こんなところ初めて見た!」

 

「ははっ。俺も一年前に一回だけ来たのですが。相変わらずこの調子ですね」

 

大友は、童心に帰って素直に喜ぶみほを微笑ましく見つめながらT-15を駐車場に止め、一緒に戦車から降りる。

すると、一輌の薄水色に塗装され、大学選抜チームのエンブレムが車体に貼り付けられたFV603装甲車が目に留まる。

 

「……(来ちゃってたのか。会っても挨拶だけはしておくか)」

 

「どうしたの?早く行こうよ!」

 

「いえ、何でもありません。行きましょうか!」

 

彼は、何かを思い出したのだろう。装甲車をどこか気まずそうな顔で凝視しつつもみほに声を掛けられたため、足早に彼女と共にミュージアムの中へと入って行くのであった。

ミュージアムの中は様々なアトラクションが存在し、ボコの世界観に染まった三つのアトラクションを巡った後、二人は土産屋に立ち寄ったのである。

 

「ボコミュージアム限定グッズが多くて選びきれないな~」

 

「グッズの種類が豊富ですね」

 

二人はボコのぬいぐるみといったグッズを手に取って一つ一つを眺め回っている。こうしてかれこれ一時間が経とうとしているが、二人は飽きる気配はない。だが、そろそろボコの劇が始まろうとしていた。

 

「みほ姉貴、そろそろ劇が始まるので行きませんか?」

 

「そうだね!どんな劇なんだろう。ワクワクするな~」

 

二人は時間が来たことを思い出したのだろう。そのまま小走りで劇場の方へ向かって行くと、他に来客がいたのだろう。軍服のような服を身に纏った三人の女性と栗毛の少女が一番前で座っていた。

大友は何かを確信した表情で四人の隣にあった座席にみほと共に座り、劇を見始めるのであった。彼はみほが楽しそうにしていることを嬉しく思いつつ横の座席にいる四人のことが気になって仕方なかった。

そうこうしているうちに劇が終わりを告げ、劇場内が明るくなった瞬間。彼自身の頭の上と右腕と左手に妙に柔らかい感触が伝わるのであった。

 

「「「つっかまーえた♪♪♪」」」

 

「ど、どうも。アズミさん、メグミさん、ルミさん」

 

呆気に取られているみほの反応をそっちのけにアズミが谷間が覗き込んでいる胸を彼の頭に乗せて抱きつき。メグミが右腕をホールドして自身の胸に押し当て、ルミが尻を彼の手に押し付けて左腕をホールドしているが、すぐに彼のもとを離れる。

今の一発で頭がぼーっとしていた大友の膝の上に今度は栗毛の少女こと愛里寿がボコのぬいぐるみを抱えてちょこんと座って満面の笑みを彼に向ける。

 

「誠也君こんにちはっ!今日はそっちの人とデートなの?」

 

「こんにちは愛里寿ちゃん。えっとまぁ、その。お付き合いをしていないからその辺は微妙だな。ははっ」

 

愛里寿は大友の両手を持って目を輝かせながらそう言う。彼は、少しパニック気味になりながらも優しく彼女の疑問に答える。

ここで状況の理解が何となくできたのか、みほは大友に助け舟を出すつもりでリュックサックからボコのぬいぐるみを出して愛里寿に対して声を掛ける。

 

「はじめまして愛里寿ちゃん。私は西住みほって言うの。あなたもボコが好きなの?私も好きなんだ!」

 

「初めまして。わぁ……同じボコファンだ!!」

 

みほと愛里寿の二人は、自身が持っていたボコのぬいぐるみを見せ合いっこしながら言葉を交わしてすぐに意気投合する。

 

「では、隊長。私達は先に戻っていますので三人でお楽しみくださいね~」

 

アズミが愛里寿に対してそう言うと、二人を連れて劇場内から出ていくのであった。大友は自身の膝の上に乗っている彼女が姉貴であるみほと楽し気に会話している様子を見て微笑ましく思いながら愛里寿の頭を優しく撫でる。

 

「みほ姉貴、ボコ友が出来て良かったですね」

 

「うん!今日は来てよかった。愛里寿ちゃんもそう思うよね!」

 

「私もそう思う!誠也君。みほさんを連れて来てくれてありがとう!」

 

三人は同じように微笑み合いながら会話を進める。その途中で愛里寿とみほがお互いに目を合わせてウインクすると、そのまま同時に大友の頬に麗しい唇を重ねてキスするのであった。

 

「み、みほ姉貴?!あ、愛里寿ちゃん?!」

 

「うふっ。二日連続だね。ダージリンさんだけじゃなくて私にもさせてよね」

 

「これで誠也君にちゅーが出来たのは二回目だ♪」

 

「そうなんだ。愛里寿ちゃん!私と一緒だね」

 

「みほさん。もう一回してあげよ!」

 

「えっ。まっ……」

 

「「せーの。ちゅっ♡」」

 

「み、みほ姉貴今日は激しいですね……しかも愛里寿ちゃんまで」

 

大友の反応を楽しむかのように彼女達二人は再び彼に対して、左右から同時にキスする。これが彼にとってとどめの一撃になったのだろう。今にも失神しそうな調子で応える。

こうして、後に激闘を繰り広げる二人の生ける伝説ともいえる少女は邂逅したのであった。

 




今回はオリジナルストーリーを交えた閑話的なものになりましたが、次回も原作に沿いつつオリジナル展開を入れて行きます!
ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第十一話 舎弟と誓います!

ご覧いただきありがとうございます!
もうすぐでお気に入り登録数が八十人台を越えそうです。
また、今回はオリキャラ♂が二人登場します。
引き続きお楽しみください!


大友はみほと愛里寿との甘い戯れから一週間後。彼とみほはいよいよ始まろうとしていた第六十三回戦車道大会の抽選会場に訪れていたのだが、この時彼は完全に油断しており。

会場の入り口に入った瞬間、格好の獲物を見つけた肉食獣の如く知り合いの少女達が彼を一瞬にして包囲したのであった。

性欲だけが逆転した世界なだけあってか、視線がいろんな意味ですごく。乙女ゲーの世界に登場する美男達のように六人の少女達がぐいぐいと大友に詰め寄って来る。

 

「「西隊長!お見事な突撃ぶりであります!」」

 

「お、大友殿。お久しぶりです!遂に戦車道に見参でありますか!西絹代、貴方と拳で語るならぬ戦車の砲で語り合いましょう!そして、その後は……」

 

「まぁ。当たったらよろしく頼むよ絹代ちゃん。てか、その後ってなんだよ」

 

手始めとばかりに、知波単学園戦車道チーム隊長の西絹代がゼロ距離寸前まで詰め寄って彼に対してアプローチを行う。

その傍らで彼女の側近である細見や玉田が囃し立てる。大友は友人である絹代との再会を素直に喜ぶが、彼女が言った意味深な一言に少し疑問を抱く。

 

「エスカレーター組よ。これが男子との対面方法だ。やぁ大友君。昨年の健闘は素晴らしいものだったよ。この後一緒に食事とカラオケでもどうだい?」

 

「ふんっ。外部生はそう言いながらもチャラい女と同じようにナンパしているだけじゃないか。全く品がないな。これは失礼いたしました。ボンジュールムッシュ誠也。こんな黒ヤギなど放っておいてわたくし押田とマリー様と共にお茶会をしながら今後の戦車道の展望について語り合いましょう!」

 

「何だと?!結局エスカレーター組も時代錯誤な言い回しでそう言いながらお茶会と称したナンパをしているじゃないか!同じ穴の狢だな!ストレートに言う我々の方が相応しいに決まっているだろう?!」

 

「やるのか?この子を賭けて前の抗争の続きだ!」

 

「安藤さんに押田さん。まぁ落ち着てくれよ。確かいがみ合いは……」」

 

「「……」」

 

「誠也君。内乱鎮圧お見事よ。はい、あーん♪」

 

「はむっ?!それはどうも相変わらずスイーツが好きだなマリーちゃん」

 

知波単メンバーに続いてBC自由学園の安藤と押田が大友の左右につき、彼を遊びなどに誘おうとするが。彼を取りあうようにして口論を始める。

大友は待っていましたとばかりに二人に対していたずらな笑みを浮かべながらそう言って図星を突く。それに対して二人は照れくさそうに頬を染めて黙り込む。

すると、マリーが満足気に彼の前まで歩み寄り。持っていたモンブランケーキをスプーンですくい、そのまま大友の口に入れる。彼の反応を見て彼女は更に満足気にクスクスと笑う。

再会した友人たちとそんなやり取りを終え、大友は抽選会場内へは行かずにみほと一旦別れて近くの公園へと向かった。

 

 

 

 

公園へ向かうと二人の少年が居た。一人は、黒い眼帯を左目に付けてアンツィオ高校のパンツァージャケットを身に纏い、戦車兵用のヘルメット被った同校三年生の『佐谷吾朗(さたにごろう)』であり。

もう一人はプラウダ高校のパンツァージャケットを着用した二年生『獅堂義孝(しどうよしたか)』だった。彼ら二人は、歩いて来た大友に気づいたのだろう。同時に彼に対して手を上げる。

間もなくして二人の目の前に着くと、二人が座っていたベンチに腰掛ける。

 

「お久しぶりです。佐谷の兄さん。それに、義孝も元気そうでよかったぞ」

 

「何や大友ちゃん。歳が一つしか離れてへんのに堅苦しい挨拶はせんで良いで。まぁ、普段あの子についてるその癖なんやろうな」

 

「ああ、久しぶりだな。大友さん。ようやくこちら側に来てくれて嬉しく思う」

 

三人の少年は、一先ず旧友との再会を喜ぶのである。それからすぐに佐谷が二人に対して話の話題を切り出す。

 

「戦車道の男女混合化が成されて早五年になるなぁ。二人はうまく行っとるんかい?」

 

「ええ、俺はカチューシャさんとノンナさん。それに他のみんなに良くしてもらっている。まぁ、最近はちょっとアプローチ的なのが激しくなって来たのですが」

 

「そら獅堂ちゃん。お前は絵に描いたようなハンサムな顔と性格をしてるからやで。まぁ、本流の戦車道に来てから女の子が前よりグイグイ寄って来てるからその内いかれるんとちゃうか?」

 

「ははっ。もうそれ寸前まで来ていますよ」

 

佐谷が獅堂に対して軽い冗談を交えてそう聞くと、彼は少しだけ笑いながら何かを思い出したかのようにそう語る。

 

「佐谷の兄さん。俺も上手くいっている。姉貴もあの出来事から完全に立ち直って一緒に楽しくしてるし、遠慮なく自分の実力が発揮できている」

 

「せやったら良かったわ。そうかあの子は完全に立ち直ったんか……それに加えて遠慮なく実力の発揮か。その内ライオンどころかどでかい龍が起きてまうわな」

 

次に大友の調子を聞いた彼は、何かに気づいたのだろう。みほをそう例えながら大友に対してそう言う。彼も佐谷が言ったことに共感しながら軽くうなずく。

 

「だけど、佐谷の兄さん。大友さん。今年もウチが勝たせてもらうぜ。俺は大友さんがみほさんを大事にしているのと同じくらいカチューシャさんとノンナさんを大事に思っている。二年前、戦車道強豪校からのスカウトに悩んでいた俺の相談に乗ってくれて。去年入学した時には俺に良い立場を与えてくれたからな」

 

「それやったら俺らアンツィオかて同じや。今年はベストスリーやなくて頂点を目指すで。うちの姐さんと一緒にノリと勢いが一番やってことを日本中の戦車道連中に教えるんや!」

 

「二人とも相変わらず血の気が多いな。じゃあ俺らはあんたら二人に対する下克上だっ!」

 

獅堂の言葉を皮切りに、佐谷と大友も自身の決意表明をその場で行う。それから三人の少年はお互いに見つめ合うと笑顔で拳を合わせてその場を去っていくのであった。

 

 

 

 

大友はその後、みほ達あんこうチームと共に戦車喫茶ルクレールに足を運んで軽食を楽しんでいた。初戦の相手であるサンダース大付属高校に関する話で六人は盛り上がっていた。

 

「西住殿、十対十でこちらと同数だとはいえ、こちらの戦車の装甲をほとんど貫いてしまう戦車ばかりです。なので、この前のこそこそ作戦のように用意周到な戦術を考えないと」

 

「そうだね。せめて相手の使用車輌が分かればいいんだけどな。優花里さん何かいい案はない?」

 

「相手の動きを逆手に取る戦術はどうですか?この前の聖グロ戦だって相手の統率力に付け込みましたし……」

 

「うん!それいいね!当日の動きと前日までに過去の戦術を参考に作戦を立てればいいんだけどなぁ」

 

「そこにいるのは副隊長ですか?」

 

彼女は作戦のヒントを得ようと優花里に意見を求めた。彼女は自身の中にある知識を張り巡らせたところ戦術を逆手に取るという結論に達した。

みほはすぐにアイディアを出してくれた優花里に感謝すると鞄からメモ用紙を取ろうとするのだが、聞き覚えのある声が彼女の耳に入る。

 

「いや、元だったわね。みほ」

 

「エリカさんにお姉ちゃん……」

 

「みほ……続けていたのか」

 

六人が視線を向けた先には、黒森峰女学園の制服を身に纏った二人の少女が立っていた。みほに対して声を掛けた少女、逸見エリカはそう言い直すとどこか複雑な表情でそう言う。

彼女の後ろにいたみほの姉のまほは彼女の名前を小さく呟いた後、表情には出さないが安心したような声でそう言う。ここで優花里が立ち上がろうとするが、大友が静かに制止する。

エリカは大友が彼女を制止したのを確認するとみほに対して次のように言った。

 

「今年は黒森峰が王位に戻るべく、恥辱を味合わせたプラウダに雪辱を果たすんだから。そして、私は西住流の名に恥じないように突き進むわ」

 

「逸見さんあんた……どうしちまったんだ」

 

「誠也、あんたも居たのね。この子の舎弟なんだったらこの子を引き続き支えてあげなさい。けど、私はあんたやこの子を超えて見せるんだから首を洗って待ってなさい」

 

彼女は、何かに取りつかれたかのように凍てつくようなトーンで二人に対して宣戦布告ともとれる一言を発する。表情は先程とは異なり、縄張り争いを行う獣のように闘争心が剥きだしたものとなっていた。

 

「エリカ。もういいだろう帰ろう」

 

「はい、隊長。それと最後に言っておくわ。一回戦のサンダースは例年とはひと味違うわよ。文字通りクレイジーになっているんだから」

 

まほの後ろについて歩いていたエリカは一度立ち止まると、六人に対して忠告じみた言葉を投げかけるとそのままどこかへ去っていくのであった。

 

「あの子ドラマで見るような復讐鬼みたい」

 

「その通りですわ。私達に対して宣戦布告じみたこと言ってましたし」

 

「皆さん。あの逸見エリカさんという方は去年……」

 

「優花里ちゃん。今は辞めておこう。それより話を戻そうか」

 

「そうだ西住さん。このケーキ美味しかったから食べてみてほしい」

 

「ありがとう。麻子さん」

 

沙織がそう言い始めたため、華が共感するようにそう言う。優花里が事の顛末について語ろうとするが、これも大友に制止されてしまう。

我に返った三人がみほの方に目を向けると、彼女はどこか寂しそうな表情をして俯いていたのであった。この空気を打ち破るかのように、麻子がいつの間にか注文していたケーキをみほの前に差し出しながらそう言う。

しばらくすると、みほは元の調子を取り戻したので再び六人でケーキを頬張り始めた。

 

 

 

学園艦と本土の港を結ぶ帰りの連絡船の外では、みほと優花里、大友の三人が潮風に当たっていた。優花里は全国大会に出れるだけでも嬉しかったのだろう。ずっと機嫌が良かった。

 

「全国大会に出れて私は大変うれしく思います。たとえ負けたとしてもそれまでにベストを尽くしましょう」

 

「それじゃあ困るんだよね~」

 

「この前、西住の指揮のおかげで練習試合といえど強豪に勝てたんだ。負けては困る。だから絶対に勝とう」

 

「もし、負けちゃったら……」

 

「「しーっ!!」」

 

「まぁ、とにかく。大洗の戦車道は西住ちゃんと大友ちゃんにかかっているんだからよろしくね。もし負けたら今度こそあんこう踊りかそれより恐ろしいことやってもらおうかな~」

 

すると、風に当たっていた三人のもとに杏や桃、柚子がやって来た。そう言う彼女達三人からかなり勝利に拘っている様子が見て伺える。

不安な顔になっていた柚子が何かを言おうとするが、桃と杏が慌てて口止する。状況を理解していた大友は少し手と身体を小刻みに震わせる。

それだけを言いに来たのだろう。杏と柚子がみほ達に手を振ってその場から立ち去って行った。

 

「大丈夫ですよ!頑張りましょう!」

 

「初戦だけど相手は物量が豊富なサンダース。どんな戦車を使うんだろう……」

 

「西住殿、大友殿。ちょっと外しますね」

 

優花里に励まされたみほは、顎に手を当てて考え事に耽り始めたのである。彼女が真剣に考え事を始めたのを見た優花里は、何かを思いついたかのように船内に戻って行くのであった。

 

「優花里さんどうしたんだろう?それに誠也君、さっき手と身体が震えていたよ。何かあったの?」

 

「いえ、何でもありません。それよりもみほ姉貴。俺はこの大会を機会に貴女と一緒に下克上を成し遂げたい……俺は何があっても貴女に付き従い。みほ姉貴を支える最高の舎弟になると改めて誓います」

 

「もう一番になっているよ。さっきだってエリカさんを説得しようとしてたし、どんな人にだって向き合っていく良い子なんだもん。だからね誠也君、一緒にエリカさんを元の優しい人に戻そうよ」

 

「ええ、必ずあの子を元通りにしましょう」

 

彼はまた彼女がもつ優しさに惹かれて改めて舎弟として誓い直す。そして、みほと大友は赤く燃える夕焼けを背景に手を握り合い、豹変した友を救う決意を共に誓うのであった。

 




ありがとうございました!
エリカさんが原作とは違ったキャラになっちゃっているかもしれません。
次回も原作とは異なった展開を入れて行きたいと思います!
ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第十二話 サンダース偵察作戦です!

ご覧いただきありがとうございます!
前回に引き続き、オリキャラ♂が一人登場します。
お気に入り登録者数が八十人以上を突破しました。感謝感激です!このまま九十人、百人以上を目標にします!
引き続きお楽しみください!


あんこうチーム装填手の秋山優花里と大友連合会若頭の水野桔平はサンダース大付属高校に潜り込んでいた。

こうするに至った経緯は、優花里が公式試合抽選会の帰路でのみほの真摯な態度に心を打たれたからだ。

また、若頭の水野が同行するに至った経緯に関しては学園艦に帰ってくる際に大友達の迎えに訪れていた彼が優花里のことを気にかけ、彼女がサンダースに乗り込むことを水野に話すと彼は協力を名乗り出た。

こういった経緯から二人で早朝にサンダース大付属高校へ乗り込んだのであった。

 

「それにしても女装は正解でしたね。これなら俺でもばれそうにない」

 

「私の髪形と水野君の髪形は似ているからちょっとした姉妹みたいだね」

 

「いやぁ、生まれて初めてこの髪型で良かったと思いましたよ。秋山さん、そろそろ校門ですよ」

 

優花里と水野はサンダース大付属高校の女性用制服を身に纏い、完全に生徒になりきっていたのである。

彼女が彼に対してそう言うほど女装に違和感が無く、姉妹で学校に通っているような感じであった。

優花里がビデオカメラを回しながら学校内の撮影を開始する。

廊下を歩く生徒に声を掛けたり、学校について紹介しながら戦車倉庫に入って行く。

 

「着きました。ここが戦車倉庫ですね。あそこにあるのはM4A1型、こっちにあるのはM4無印、それに僅か七十六輌しか生産されなかったA6があります!一回戦頑張ってください!」

 

「ははっ。俺より戦車に詳しいですね」

 

優花里がM4A6型の傍にいた三人の女子生徒に対してそう言うと、彼女達はフレンドリーに親指を立てる。左側にいた水野は、優花里の知識の豊富さに思わず感心する。

 

「おう。スマホで撮影しながら解説なんてお嬢さん達いや、一人は男か。あんたら戦車好きかい?」

 

「そう言うあんたは、今は戦車道チームとなった『江城連合会(こうじょうれんごうかい)』直系・浜崎一家総長の『浜崎崇(はまざきたかし)』の叔父貴ですか?お久しぶりです」

 

「ああ、久しぶりだな。お前は確か大友の兄貴のところでカシラをやってる水野だったな。何で女装なんかしてるんだ?堂々と男装すりゃあいいだろうが。まぁいい、ゆっくりしてけよ。お嬢さん怖がる必要はねぇよ。俺はあんたの所の大友会長とは知り合いだからよ」

 

「あ、ありがとうございます!浜崎殿は大友殿とお知り合いだったのですね」

 

試合のブリーフィングが行われる部屋へ移ろうとした瞬間、後ろから来たM18駆逐戦車(スーパーヘルキャット型)のハッチから身を乗り出して見下ろすようにしてリーゼント風ツーブロックで高身長の少年……浜崎が制服の校章の上に付けた金色の文字で『浜崎』と縦に書かれた丸いプラチナの徽章を撫でながら二人に声を掛ける。

醸し出している威圧感が優花里を怖がらせたのだろう。水野の後ろに隠れるが、浜崎は怖がらせたことを謝りながらフレンドリーに接する。

今度は、後ろから金髪ロングの女子生徒ケイとベリーショートの女子生徒ナオミが歩いてやって来たのであった。

 

「崇っ!誰とお話ししているの?」

 

「お疲れ様ですケイさん。それに、ナオミさん。客人を歓迎しているだけですよ。そうだ二人とも。大友の所でカシラやってる水野が来ていますよ」

 

「あっ……なんでバラしちゃうんですか……」

 

ケイに声を掛けられた浜崎は二人を労いながら水野の存在を彼女達にばらす。

水野は余裕がある表情から一気に蜂の巣をつついたように焦った表情になりながら彼にそう言うが、気になったナオミが水野の前まで行く。

 

「君が水野君か。時間は空いてる?」

 

「一応空いてます……」

 

「じゃあ、色々とタンカスロンについて教えてくれないか?」

 

「水野君、いってらっしゃい。私は待っているからね」

 

「えっ……と、先に帰ってくれても構わないですよ。秋山さん。もし、先に帰ったら親分によろしく言っといてください。で、では行きましょうか」

 

「ありがとう。いろいろ聞かせて」

 

水野は呆気に取られていた優花里に伝言を伝えると、そのまま満足な笑みを浮かべたナオミと二人きりになるのだった。

 

「そうだ。秋山さんだったか?俺が運転するからよ、観光でもしながら編成について教えてやる」

 

「浜崎殿、大丈夫なんですか?そんな事を喋ってしまって」

 

「全然大丈夫よ!崇、この子をお願いね!いってらっしゃい!」

 

「ありがとうございます!では、お願いします」

 

優花里は、浜崎からの思わぬ一言に驚くが。隊長のケイは気にする様子を見せるどころか。大らかな態度を示したのだった。

 

「お邪魔します……浜崎殿」

 

「ははっ。まぁ、同期なんだしかたくなるなよ。じゃあ行こうか」

 

浜崎は、彼女が車長席に座ったのを確認するとM18を発進させて学園艦の中を案内するのであった。

こうして意外にもあっさりとサンダース大付属高校側の情報を入手することが出来た優花里と水野の二人だった。

 

 

 

 

いつも通り戦闘訓練をしていたみほは、優花里と水野の二人の心配をしていた。

大友は事情を知っていたため、彼女には何も言わずに黙々と練習に励んでいる。

二人の存在を特に気にしていたのは、ウサギさんチームとカバさんチームの面々であった。

彼女達は練習試合の後から水野や優花里と行動を共にすることが多く。意見交換をしながら練習に勤しんでいた仲だったからだ。

 

「水野君と秋山先輩どうしたんだろう?」

 

「カシラと先輩は二人でさすらいの旅に出ちゃったのかも」

 

「何かロマンティックだよね。意外とみんなのためになんかしてたりしてるんだよきっと」

 

「グデーリアン何処へ行ったんだ?カエサルどこか分かるか?」

 

「西が吉と出た」

 

『当たりますように!』

 

カエサルが八卦を使った占いをしていたところ。棒が西の文字の方に倒れたため、梓や優季、あゆみ、エルヴィン達がそう言いながら八卦の道具を拝む。

早速効果が現れたと言うべきだろうか、上空からヘリコプターのローター音が鳴り響いたため。

エルヴィンが首にかけていた双眼鏡を手に取って音の鳴り響いた方を見ると、一機のUH-1ヒューイⅡ型が飛来しており。

そのまま練習が行われていた校庭に着陸する。

 

「皆さんただいま戻りました!」

 

「グデーリアン!水野若頭、サンダースへ偵察に行ってたのか。よく無事だったな」

 

エルヴィンは、副操縦士席から降りて来る優花里を出迎えると同時に彼女を労う。

優花里は嬉しそうにしながらエルヴィンに対して「ありがとうございます」と言いながら左手で頭を掻く。

 

「操縦席にいるのは……崇か。調子はどうだ?優花里ちゃんを送ってくれてありがとう。ところでうちの桔平はどうした?」

 

「よっ。兄貴じゃねぇか。絶好調だよ。あんたのところのカシラなら後ろだ。あーそれなら。今は……

 

「なんだよそれ。おーい桔平どうし……あっ」

 

彼と大友は他愛のない会話を交わしながら水野の存在を聞くが、そう聞かれた浜崎はどこか気まずそうにしながらも後部座席を指さす。

後部座席のドアを開けると、水野がナオミの膝の上に座らされており。どうすれば良いが分からない表情であった。

 

「お、親分……」

 

「Hi誠也。あんたのところの若頭はかわいいわね。また今度連れて来てよ」

 

「やあナオミさん。桔平の面倒を見てくれてありがとう。また今度伺わせてもらうよ」

 

ナオミとも何気ない会話を交わした後に水野を引き取ると、ヘリは静かに飛び立って行くのであった。

 

「その……皆さん。お揃いでどうしましたか?」

 

「あら〜水野君もモテモテだね。それに膝の上に座らされてて姿と女装姿がかわいい〜♪」

 

「………」

 

「ちょっと優季ちゃん。水野君がフリーズしちゃったよ!」

 

水野は同級生からの何気ない一言が深く刺さったのか。以前の秀人や慎司のように凹んでしまったのであった。

 

「誠也君。今の子は?」

 

「ええ、江城連合会若頭補佐の浜崎崇と副隊長のナオミさんです。一年前に縁を持ったもんで」

 

「そうなんだ。それにしても優花里さん、水野君。わざわざ偵察に行ってくれてありがとうね。おかげで戦術が練りやすくなったかも」

 

「西住殿……ありがとうございます!」

 

ヘリが飛び立った後にやって来たみほが、優花里と水野の変装姿を見て労いの言葉を掛ける。

みほを尊敬している優花里にとっては何かものをプレゼントされるより彼女の言葉が嬉しかったのだろうか、その場でスキップをしながら舞い上がる。

みほの言葉を聞いた水野は、流石に凹んだままでは申し訳なかったのだろうか。いつもの調子に戻るのだった。

こうして二人のおかげで対サンダース戦に有利な情報を得ることが出来たみほは、戦術を練ることに専念するのであった。

 

 

 

次の日。みほは練習が終わった際、沙織達あんこうチームのメンバーから労いの言葉を掛けられて先に帰ることにした彼女は帰宅途中に忘れ物があったことを思い出して教室の机の中に入れていた作戦ノートを取りに戻ると、倉庫の方から砲声が聞こえるのであった。

 

「もしかして、沙織さん達……」

 

彼女は居ても立っても居られなくなり、倉庫の前へと向かって行くのだった。

倉庫の前ではⅣ号が応用的な回避運動をはじめとする走行の練習を行っており、舎弟の大友が戦車から身を乗り出してインカムであんこうチームのメンバーに指示を送っていた。

外でストップウォッチを持って立っていた沙織が近づいて来たみほに気づいた。

 

「みぽりん?先に帰っていて良かったのに」

 

「みんな。まだ練習してたんだ。それに、誠也君に教えて貰ってたの?」

 

「そうなんです。みほさん聞いてください。誠也君は、教えるのが上手で以前より早く動けるようになったんです。ですよね?麻子さん」

 

「ああ、こう言うのもなんだが。現代戦車並みに動けるようになったかもしれん」

 

「冷泉殿の言う通り、Ⅳ号でありながら10式戦車やT-90のような動きを見せつつあります!私はまだまだ未熟ですが、精進いたします」

 

「優花里ちゃん。そう畏まらなくても、装填速度が段々と上がっていてるぜ。そのうち猫田さん達みたいに片手で弾を装填しはじめて、いつか自動装填装置みたいになるんじゃねぇか?」

 

華と麻子が嬉々と実力の上達をみほに話す傍ら、優花里が謙虚な態度を示すが。大友がフォローしたことにより、彼女の腕の上達も明らかになる。

彼女達四人は彼による指導の下で自主練習に励んでおり、隊長であるみほが操るⅣ号戦車の乗組員として足を引っ張らないように大友の協力のもと実力の成果を伸ばしつつあった。

 

「みぽりん!大会に勝とうね!」

 

「勝ってお姉さんたちを見直させましょう!」

 

「どこまでも走ってやるぞ」

 

「西住殿、私達にお任せください!」

 

「みほ姉貴、俺はいつでも貴女とその周りのみんなの味方です!」

 

「みんな……ありがとう」

 

この日を境にあんこうチームのメンバー以外にも自主練習に励むようになり、大会前日になる頃には練習試合の時よりその腕を伸ばしつつあった。こうして大洗学園による下克上はまた一歩前進するのであった。

 




ありがとうございました!今回は捏造設定がマシマシだったと思います。次回は第十三話を投稿する予定です!
評価やご感想、お気に入りへの投稿などお待ちしております!


最後になりますが、今回登場した『江城連合会』の設定について紹介します。↓

名前の由来は龍が如くシリーズに登場する『東城会』と『近江連合』から掛け合わせました。


組織名:九代目江城連合会(きゅうだいめこうじょうれんごうかい)
構成員:8690人
会長:??
若頭:??
幹部:浜崎崇及び、他数十名。
所属団体数:数百団体(最大規模で四次団体まで存在する)
概要:一九八〇年代後半に創立された関東最大の戦車道チーム兼タンカスロンチーム
設立当初から乙女の嗜みとも言われている戦車道であったものの、特に男子禁制、男子参加禁止という訳ではなかった。
しかしながら。戦車道における男性の地位は低く。偏見による女尊男卑的な選別の対象にもなりやすかった。こうした経緯もあり、出世もしにくいことから男性の興味は薄れており、戦車道の男性離脱は止まらなかった。
これに目を付けた小規模タンカスロンチームのリーダーだった初代江城連合会会長『江城正人』は戦車道から離脱または疲弊した男性のみならず。同じ経緯で戦車道を辞めた女性を集めて別のチーム創設して

世間から多大な好感を受けており。最盛期の四代目体制時には構成員2万人前後を誇ったが、二〇〇〇年代初頭に自動車やオートバイを使用した学園艦モーターグランプリという。男子の嗜み(女性も参加可能)が設立されたことにより。現在までそのブームが爆発的に起こり。
年々構成員は数を減らしたうえ、戦車道の男女再混合化が国際戦車道連盟で議決された影響を受けてさらに人数を減らした。八代目会長の跡目が審議されている際に戦車道強豪校や法人戦車道チームによるスカウトにつけ込まれ、ついには8690人に数を減らす。
それでも勢いは衰えず、タンカスロン強豪校と互角の戦力を保持している。
収入源は司法の許可を得たうえでの露店経営やイベント会場における物売り、戦車道採用校への出張整備そして警察組織や戦車道連盟と協議を重ねた上のフィールド警備活動(警備費用が必要)などである。
構成員は基本的に穏やかな人物や義理人情を重んじる人物が多かったりするのが特徴。また、タンカスロンや戦車道の試合ではパンツァージャケットの代わりに特攻服を着用する。
設立当初から四代目体制時までは戦車に乗る男性やどこの流派系組織に属さずにフリーで戦車に乗っていた女性達に危害を加えていた『不良戦車女子』との抗争を敢行し、両者を守っていたことから。
『全国中高生生徒会』から指定抗争組織として警戒されていたものの。四代目体制時に起きた。ある事件を契機にこれまでの活動が評価され。指定が解かれた。


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第十三話 白熱、サンダース戦です!

ご覧いただきありがとうございます!
気が付けば、一万UAに達していました。本当にありがとうございます!
引き続きお楽しみください!


ついにこの日が来たんだとばかりに大洗学園戦車道履修者の面々は士気が高まっていた。

その試合が始まるまでの待機時間、サンダース大付属高校側が用意した出店で大洗学園一行は暇を持て余していた。美容室や様々なファストフード店といった出店だけでも一つの商店街ができるんじゃないかという勢いであった。

出店もアメリカの影響を受けたのだろう。ハンバーガーやフライドチキンといった食べ物も完全に向こうのサイズであった。

 

「救護車のほか小規模なシャワー店やヘアサロン店といったものまでありますよ」

 

「本当にリッチな学校なんですね」

 

大友とあんこうチーム一行はサンダース側が出した店舗の量に圧倒されていた。すると、ケイがナオミやアリサ、浜崎を連れて大洗学園一行のもとへ向かって来た。

 

「へいっ!アンジー!」

 

「角谷杏だからアンジーなのね」

 

「何かなれなれしいな」

 

「やぁやぁ。ケイお招きどうも」

 

「何でも好きなもの食べていってね。OK?」

 

「OKだよ。おケイだけにっ!」

 

杏がサンダース大付属高校側の隊長であるケイと冗談を交えながら挨拶を交わしている。

次にケイと後ろにいた浜崎は優花里や大友に目を向けるとそのまま二人の方へ歩いて行った。

 

「へいっ!優花里、誠也!」

 

「「どうも。ケイさん!」」

 

「この前は楽しかった?うちの良いところを知ってくれて嬉しかったわ!」

 

「はい!こちらこそ楽しかったです!浜崎殿、この前はありがとうございます!」

 

「礼には及ばねえよ。来るものは歓迎する。それが俺が率いる浜崎一家の流儀だ」

 

「優花里、またいつだってうちに遊びに来て。うちはオープンだからねっ!それと……」

 

優花里と浜崎が話をしている傍ら。ケイがフレンドリーな態度で彼女に一言告げると大友の前に行き、満面の笑みで彼をそのまま抱きしめる。

大友は、相変わらずこういったスキンシップに対する予想が出来ないのだろう。特に抵抗することなくそのままされるがままの状態になる。

 

「ケ、ケイさん……ちょっとキツいです。それに、そこは……」

 

「聞こえないわ。マイキュートボーイ♪」

 

丁度上半身の”柔らかい部分”が彼の顔を覆いかぶさっており。彼は蚊の羽音のような声で彼女に対してそう言うが、ケイは揶揄うように更に強く抱きしめる。

今更ながらケイと大友との接点は、これも一年前に遡り。サンダース大附属高校の学園艦を使用したタンカスロンで大友組対浜崎一家の試合後に当時の隊長だったメグミとケイと数日を経て親しくなったからだった。

彼女はとにかく。メグミがサンダースの戦力増強と彼を自分のものにするために大友と一対一で勝負した際には、見届け人となっていたものの。ケイも大友の事が可愛くてしょうがないため。久々の再会の嬉しさのあまりこうするのであった。

彼女が大友を放したころには、彼の頭から今にも白煙が上がって来そうな感じで照れくさそうにしていた。

そんなやり取りの後にいよいよ試合が始まったのである。

 

 

 

 

サンダース大付属高校戦車道チーム副隊長、アリサは無線傍受をしながらチームに指示を行おうとしていた。

彼女がなぜ、そんな手段に出たのかというと試合に勝利してチームメンバーの一人である浜崎を振り向かせようとしていたからだ。

アリサは、浜崎とは幼馴染という間柄で幼少期から共に戦車道をやっていた仲だった。中学校に入る直前で浜崎は江城連合会に移り、そのうえ幹部となったのだ。

一時期彼とは少し疎遠になり。サンダース大付属高校の戦車道チームによる戦車道男子引き抜きで一緒になった。

再会した浜崎は中学校に入る直前の彼ではなく。

その時あった可愛らしさを残しておらず、同じ高校二年生でありながら貫禄がついており。

男女関係なく誰とでも仲良く接するような人物になっていたのだ。しかし、彼は誰とでも仲良くすることや戦車道に没頭していたのだろう。

浜崎は恋愛感情なるものは持っておらず、アリサの想いに気づかずにいた。

そうして彼女は、何かデカいことをして彼を振り向かせようと無線傍受を利用したうえでの勝利を思いついたのであった。

だが、通信を傍受しようとしたところ。傍受機が機能しなくなっていたのである。不審に思った彼女が焦りながら周波数を合わせようとしていると、自身の携帯電話のチャットアプリに通知が届く。

 

「崇からだ……もしかしてバレちゃったわけ……」

 

彼女の思い人、浜崎崇からのメッセージからは以下のようなものであった。

 

ーアリサ、何で通信傍受なんてマネをしようと思ったんだ?戦車道は戦争とは違って勝てばいいってもんじゃない。

スポーツなんだからそんなことをしてしまったら、俺達の隊長が大事にしているスポーツマンシップの精神と筋が通らないだろうが。

ケイ隊長には内緒にしておくから頭を冷やせ。何か嫌なことや些細なことがあればいつも相談しろと言ってるだろう。

試合が終わってからでいい、怒らないでおくからそんなマネをした理由を教えてくれー

 

「車長、どうかされましたか?」

 

「別に、何でもないわよ。さぁ、偵察に行くわよ(崇に嫌われちゃったかな?)」

 

搭乗員からの心配に答えつつ、いつも通り指示を出す。だが今、彼女の内心を支配していたのは彼に嫌われたかいないかの心配であった。

浜崎に謝罪のメッセージを送ると今回もチームに貢献すべく。自身が搭乗するM5A1ともう一輌のM5と共に偵察へと赴くのであった。

 

「親父、アリサさんの説得は出来たのですか?」

 

「ああ、一応できたようだ。さて、俺達も動くか。フラッグ車以外の戦車は見つけ次第撃破して追い詰めていく。それから一気に料理するか」

 

彼も隣の戦車に搭乗している組員と話をしながらフィールドの内の森林帯を走り抜けていく。噂をすればというやつだろうか森林帯を抜けようと瞬間、ウサギのエンブレムが描かれたM3Leeやイタチのエンブレムが描かれたE-25、アリクイのエンブレムが描かれた三式中戦車とすれ違った。

 

「さぁ、一仕事だ。お前ら」

 

『へいっ!』

 

浜崎が組員にそう呼びかけながらUターンをして三輌の後を追いかける。M18は自慢の速度を活かして早くも三輌に追いつき、組員のM4A1と共にM3Leeに向けて執拗な砲撃を浴びせる。

さらにタイミングよく、反対側の出口で警戒していたもう二輌の味方のM4A1が包囲殲滅を図るつもりで増援にやって来たのであった。

 

「うちの隊長が考えた火力優勢ドクトリンをご賞味するんだなぁ!」

 

彼がハッチから身を乗り出しながら甲高い声でそう言うが、急加速したE-25が二輌のM4の間に割り込んで急停止し、その二輌も急停止してE-25を撃破しようと一輌に対して砲塔を一斉に向けるが、これをチャンスとばかりに三式中戦車とM3Leeが二輌のM4に向けて砲撃を浴びせて撃破する。

その直前に数百メートル離れていた浜崎達も急停止して砲撃を加えるが、E-25の撃破に間に合わず。撃破された味方戦車の車体に死体撃ちするという形になってしまった。

 

「ちっ。さすが仲間のためなら自分の犠牲も構いやしない武闘派だな。もう少しタイミングが早けりゃ撃破してやったのに……つくづくあん人は俺を楽しませてくれるな。大友の兄貴よ」

 

彼は大友を見失った方向に向かってそう言いながら再び偵察狩りに出向くのであった。

これによって早くもサンダース大付属高校側は二輌の戦車を喪失することになった。

 

 

 

 

何とか浜崎による迫撃を振り切ったうえ、序盤で二輌も撃破することが出来た大友達は隊長のみほと合流して次の行動に打って出ようとしていた。

意外にも序盤でみほの作戦が功を奏して各チームの士気が高まっており、今にも駆け出しそうな勢いだったが、桃が浮かれかけていたメンバーを何とか押さえ込んで彼女に指示を求めた。

 

「西住、見事な作戦だぞ。次はどういく?」

 

「そうですね。しかし、相手には三輌の高火力な戦車や優秀な砲手がまだ残っているため。油断は禁物です。せめて、囮が居ればいいのですが……」

 

「それならあたいらに任せな!間抜けのフリをして敵を引きつけるよ」

 

「お銀、行ってくれるのか?」

 

「ええ、桃さんやチームのためなら間抜けのマネは出来ますよ。囮は任せてください!」

 

「それでは、お銀さん達に囮役をお任せします」

 

お銀はみほや桃に対してそう言いながら右手に持った小さいリモコンのスイッチを押すと、MK.Ⅳ戦車の車体上部から十メートル近くある鉄棒が起き上がり。

車内からカトラスが出てくると、そのまま漆黒にはためく髑髏の旗を掲げるのであった。

 

「陸の海賊船だ~」

 

「ゴー〇イジャーみたいでカッコいい~」

 

「よっ!お銀姐さん」

 

「あんた達も良さが分かってくれたんだ」

 

「うほっ。あたいらの妹分にでもなるかい?」

 

「まぁ、その前に試練としてあたしらと一緒に砲弾という名の魚の餌になろうじゃないの!!」

 

『がお~っ!!』

 

『ひえ~っ!!』

 

ウサギさんチームのあやや桂利奈、あゆみの三人はサメさんチームのムラカミやラム、フリントの三人といつものやり取りをしていたが、どこか微笑ましいやり取りだった。

みほはチーム内が微笑ましい空気に包まれている様子を見てどこか安心するのであった。

 

「それでは、”うわっ騙された作戦”を開始します!」

 

『了解!!』

 

こうして、サメさんチームの面々が囮役を買って出たことによって次の作戦が進行しようとしていたのだった。

この作戦は仕組みこそ単純かつ安直なものであったが、敢えて愚かなフリをして油断した相手を一網打尽にするというものだった。

 

 

 

 

一方偵察に出回っていたアリサが率いる二輌のM5A1は竹林の中で暇を持て余していた。浜崎と大友達が交戦してから最後に、敵戦車が見つかった報告は無く。

偵察役なのでだだっ広い平野を我が物顔で走ろうものなら真っ先に撃破されかねない。また、序盤で二輌も撃破されたこともあり。彼女は焦燥感に駆られていた。

 

「何で見つからないわけ?こんなに探し回っているのに見つからないなんて……」

 

「っ?!アリサ副隊長、黒色の髑髏の旗が……」

 

「敵は馬鹿ね……そんな時代遅れの囮作戦に引っかかるわけないじゃない。今楽にしてあげるわ!隊長、Dの二〇四丘陵にてたった一輌で囮役をやっている戦車を発見しました。車種は不明ですが、仕留めてみます!あんた達行くわよ!」

 

『了解!』

 

そのまま黒い旗の持ち主たる戦車を撃破しようと二輌で竹林帯を横断したうえでの強襲を試みようとする。それまで道に沿って移動していたのだが、竹林帯出口付近にある柵が突然崩れてそこからルノーB1bisと八九式中戦車が姿を現す。

敵の車長の様子から見て、向こうもたまたま柵を破って来たらあなた達が先に居たんだという感じの表情であった。

それぞれの二輌は数秒間お互いを見つめ合ったあと、アリサが率いる二輌はその場から逃げようとするが、B1bisによって一輌撃破される。それから戦車による壮絶な追跡劇の幕が上がった。

八九式中戦車とB1bisより速度が圧倒的に優れたM5A1といえど、距離が離せないでいた。八九式に関しては車体が軽いこともあってか距離を詰めつつある。

 

「とりあえずそのまま真っ直ぐに逃げなさい!隙があればどこか路肩の林に逃げ込みなさい!」

 

アリサは反撃よりも生存を考えて逃走を優先することにした。今いる場所からそのまま真っ直ぐ進めば開けた場所に出るのだが、そのまま待ち伏せされているかもしれない。

しかも、先程海賊旗の上がっていた場所へそのまま進んでいたにしろ何輌か待ち伏せしていたかもしれないのだ。結果として一輌に対して多数の戦車によって包囲殲滅される形となる。

 

「入れそうな隙間がないし、どうしよう……」

 

「車長!前方に三輌の敵車輌を確認!PティーガーにⅢ号突撃砲、M3Leeが近づいてきます!」

 

「もうおしまいよぉ!崇、ごめんなさい!」

 

早速その悪い予感が的中し、彼女と搭乗員たちの内心を諦めの感情が支配するが。開けた土地に出ようとした瞬間、出口付近の茂みから浜崎が乗るM18が飛び出してきてアリサのM5を追いかけていた二輌に向かって突っ込む勢いで駆け出した。これもあってか、突然現れた戦車に困惑した二輌はパニックとなり。

急停車してしまい、そのまま二発の砲弾がそれぞれの戦車に撃ち込まれる。

八九式に対してはオーバーキルと言うべきだろうか、撃ち込まれるとそのまま横転して白旗を出す。

B1bisも急いで車体を旋回するが、そのまま背面に砲弾が撃ち込まれて撃破されてしまう。

 

「た、崇?!」

 

「おらぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

アリサがキューポラから身を乗り出して喊声を上げる彼の顔を見たころには、M18が彼女のM5の前に出て盾代わりとなってポルシェティーガーに向かって砲撃を浴びせると同時に前方の三輌から砲弾を受けて撃破されるが。道連れと言わんばかりにポルシェティーガーも撃破していたのだった。

 

「アリサ!今のうちだ。逃げろっ!!」

 

「ありがとう!崇!!」

 

浜崎が息を切らしながらそう叫びつつ。どこか満足気な表情でアリサに向かって親指を立てる。彼女は左目から涙を流しながら彼に対して手を振りながら感謝する。

二人のやり取りに呆気を取られていたカバさんチームとウサギさんチームはその後を追いかけるのであった。

この時、大洗学園側とサンダース大付属高校側の戦車残存数は残り七輌と同数になっていたのだ。

 

 

 

しばらく経った頃、大洗学園側のメンバーが合流したところでサンダース大付属高校側のナオミが率いた四輌に発見され、今度は大洗学園側がサンダース大付属高校側に追われるという形になったのだ。

反撃に出たアリクイさんチームとサメさんチームが二輌撃破したものの、残ったファイアフライとM4A2の二輌によってそれぞれ撃破される。

また、みほ達が進んでいる道をそのまま行けば。平坦な道と稜線に分かれた場所へと出るのだが、今現在ケイが搭乗するM4E8率いる残り五輌とぶつかりかねないのだ。

 

「皆さん、このままだと挟み撃ちにされてしまいます。でも、諦めないでください!最後まで希望を持ってください!」

 

「諦めないと希望を持つことか……」

 

「こうなったらフラッグ車同士の対決に持ち込んでやる!」

 

大洗学園側のメンバーはここで行われる大規模な反撃によって心理的に追い詰められかけていたが、みほの一言によってチームはもとの士気を取り戻して持ち直し始めた。

 

「西住先輩、後方の鼻の長いのは私たちに任せてください!なので、イタチさんチームとカメさんチームと一緒にフラッグ車を狙ってください!」

 

「うん、ありがとう!やってみるね」

 

ウサギさんチームの梓が後方の守備を名乗り出たことにより、次の行動を考え始めた。ここで危険な賭けになるが、華がこの先にある丘で稜線射撃を敢行しようと思い立ったのだ。

 

「みほさん、必ず一発で仕留めて見せますわ。冷泉さんそのまま丘の上へ。上から狙ってみます」

 

「…………稜線射撃は危険だけど有利に立てる。賭けてみましょう」

 

「はいっ!」

 

「行くぞ」

 

麻子がそう言うと、Ⅳ号戦車はそのまま丘の方へ向かって走り出すのであった。

 

「よし、俺達も賭けに出るか。英雄、もう少し進んだらバックスピンターンだ。桔平、それからのM4撃破だ。それから姉貴に合流する」

 

「少し雑になるけどやってみるぜ兄貴」

 

「さて、ウサギさんたちには鼻が長い奴を食ってもらうか」

 

大友達もあんこうチームに同調するように動き始める。丘を登り出したⅣ号戦車の後を追いかけようとファイアフライの二輌も丘の方へと向かおうとするが、フラッグ車であるカメさんチームの少し前を走っていたE-25が突然バックし、M4A1に向かって正面を向けてスピンターンを決めて撃破する。

これを見たナオミがⅣ号戦車よりも先にE-25を叩こうとして走りながら砲塔をそっちに向けるが、隙を逃さなかったウサギさんチームのM3Leeが副砲で履帯を切断し、側面装甲を晒しながら坂から滑り落ちるファイアフライに主砲の砲弾を叩き込み、撃破する。

撃破されたファイアフライを尻目にE-25は坂道を全速力で駆け抜ける。

 

「華さんお願い……」

 

「ええ……発射」

 

この瞬間で勝負が決まろうとしていた。稜線に登った瞬間、ケイが搭乗しているM4E8がⅣ号戦車に主砲を向けていた。

しかし、ここでも怯まずに華はいつもの通り落ち着きながらシュトリヒを数えつつ発射トリガーを引く。それと同時にM4E8の主砲からⅣ号戦車に向けて砲弾が放たれることになるが。その直前、Ⅳ号の前にE-25が割って入り。そのままM4E8に向けて砲撃を行う。

Ⅳ号戦車から放たれた砲弾は、逃げ惑うM5A1に見事命中したのであった。

なお、M4E8とE-25は相撃ちという形になり。両戦車からは白旗が上がっていた。

 

『M4E8及び、E-25そしてフラッグ車M5A1走行不能。よって大洗学園の勝利!!』

 

勝利のアナウンスが流れている傍ら、あんこうチームのメンバーは戦車から降りてお互いを励まし合っていた。生き残ったM3Leeやフラッグ車のLT-38、Ⅲ号突撃砲のメンバーが手を振りながらみほ達のもとへ向かってきた。

その後ろから撃破車輌回収車の荷台に乗ったメンバーも同じように手を振りながらやって来る。

 

「みほ姉貴!一回戦突破しましたね。勝利に導いてくれてありがとうございます!他のみんなもありがとう!」

 

「五十鈴先輩、ひょっとして俺より射撃の腕があるんじゃないすか?よくあんなちょこまか動く軽戦車を撃破出来ますね。本当にお見事です!」

 

「まぁ、戦車乗りの経験が長い水野君に言ってもらえるなんて嬉しいです。このまま精進しますわ」

 

「誠也君も私の戦車の盾代わりになってくれてありがとう。さっきフラッグ車を庇った浜崎さんみたいでかっこよかったよ!」

 

「へへっ。姉貴のためなら犠牲も構いやしませんよ。それが舎弟ってもんですから」

 

大友と水野はこの大博打の功労者であるみほと華の健闘を称えた後、他のチームメンバーのファインプレーなどを称賛したのであった。

 

 

 

試合が終わった後、浜崎とアリサはチームメンバーのもとを離れて二人きりで話をしていた。

 

「一回戦負けちまったな」

 

「そうだね……残念だね」

 

「そう落ち込むことはねぇよ。大会が終わった後の練習試合やらエキシビションでボコボコにしてやればいいじゃねぇか。それよりも何であんなことをしようと思ったんだ?正直に話してくれ」

 

「それは……試合やこの大会に勝って……崇に振り向いて欲しかったの!!」

 

アリサはどこか吹っ切れた気持ちで浜崎に対してありのままの思いを告げる。彼は唐突な告白に一瞬だけ驚くが、申し訳なさそうに彼女に言った。

 

「だからそんなことを……それならこちらもすまん……幼馴染だからそういうのは気にしていなかったが、そこまで俺のことを思ってくれてたんだな。中学ん時に江城連合会の幹部になって以来そんなものに見向きもしなくなったからな……でも、今目が覚めたよ。都合のいいやつで悪いかも知れねえが、これからもよろしく頼むぜ」

 

「っ?!崇……ありがとう。私も好きだよそして愛しているわ」

 

「俺もだ。アリサ」

 

彼はもう卑怯な手を使おうとした彼女を問い詰めること等どうでも良く思っていた。今までのアリサの気持ちに気づいたのだろう。

浜崎はそのままアリサを優しく抱きしめる。彼女は嬉し涙を流しながら彼の顔を見上げた。浜崎は、そのままアリサの頭を優しく撫で続けるのであった。

 

「Excitingな試合だったわ!みほ!」

 

「ふぇっ?!こ、こちらこそありがとうございます!」

 

「また一緒に戦おうね!」

 

その頃、ケイは満足気にみほを抱きしめていた。何せ、白熱した試合をしたからだった。

彼女としてはお互いに正々堂々とした勝負が出来たうえ、他校との勝負にはない面白さを感じたからだ。次に、その場から離れてどこかへ行こうとする大友に後ろから抱きつく。

 

「それと……ダーリンどこへ行くの!」

 

「おっと?!ケイさんですか。ちょっと戦車の所へ行こうと思いまして」

 

「もーっ!あなたのブラザーもそうだけど、相変わらず不愛想ね。試合の最後にやることと言ったらあれしかないでしょ!」

 

「はい?」

 

ケイは大友の顔を自分の方へ向けるとそのまま左右の頬に唇を重ねて一回ずつキスするのであった。彼は察しこそしていたものの、このまま断るのもどうかと思い。

そのまま受け入れたが、未だに耐性が付いていなかったのか。またもや倒れそうになる。

 

「ふふっ。ダージリンの言った通りますます可愛がりたくなる反応をするわね。じゃあ二回戦も頑張ってね。最後に、みほを守った時の誠也はかっこよかったわ。なんだか痺れちゃう!じゃあね!」

 

「あ、ありがとうございます!またいつか、ケイさんと戦えることを楽しみにしています!」

 

大友は、ケイを敬意を交えた目で見つめながら彼女と握手を交わしたのであった。

それから二時間後、大洗学園のメンバーも試合会場から引き揚げようと撤収の準備に勤しんでいた。

 

「さーて。そろそろ撤収の準備が完了するね!一回戦突破記念にパフェでも食べに行かない?」

 

「うん!行く!」

 

沙織と麻子がそんなやり取りをしていると、麻子の携帯電話に母親である『冷泉麻耶』から着信が入る。

 

「もしもし。どうしたんだお母?」

 

『もしもし麻子?落ち着いて聞いて。おばあちゃんが倒れたの……』

 

「えっ……」

 

彼女は母親からの衝撃的な一言を耳にすると、無意識に携帯電話の通話を切り。そのまま落としてしまう。

 

「どうしたの?麻子」

 

「…………すまないみんな。パフェは無しだ。おばあが倒れた!」

 

『っ?!』

 

「麻子ちゃん、今から車を回す!高速を使って病院に急ぐぞ!慎司、悪いが。車を持ってきてくれ!」

 

「分かりました!親父!」

 

状況を即座に理解した大友は、麻子を急いで病院へ向かわせるべく。車を回すように彼に指示を出すが、その直後。救いの手が差し伸べられる。

 

「それなら私達が乗って来たヘリを使うんだ。エリカ、ヘリを頼む」

 

「しかし、隊長はどうされるのですか?」

 

「私なら構わん。エリカ、頼む」

 

「お姉ちゃん……」

 

その後、エリカの操縦するヘリによって麻子と沙織は、彼女の祖母が搬送された病院へと飛び立っていくのであった。みほ達は、しばらく二人が乗ったヘリを見つめた後、学園艦へと撤収するのであった。

こうして一回戦は大洗学園の勝利で幕を下ろしたのであった。だが、この間にも強豪校が群雄割拠し、勝利の栄光を己の手中に収めんと戦いを繰り広げているのだった。

 




ありがとうございました!次回は第十四話を投稿する予定です。
ケイさんとアリサが原作とは異なり、M4E8とM5A1に搭乗したのは、『こっちの方が似合いそう』という個人的な発想からそうしました。
評価やご感想、お気に入りへの投稿などお待ちしております!


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第十四話 決断と新たな発見です!

ご覧いただきありがとうございます!
今回もオリジナル展開を混ぜ込むことにしました。
引き続きお楽しみください!


一回戦突破から二日後、生徒会室でカメさんチームの四人が過去のアンツィオ高校戦車道チームに関する資料をまとめたりしながら戦術の特徴を絞り込んでいた。

小山姉弟はため息をつきながらパソコンで大会の様子を映した動画を見ていたのだが、M16/43サリアノから身体を乗り出した少年の姿に圧倒されていた。

 

「さすが江城連合会の現役若頭補佐ですね。佐谷の兄さんは相変わらずトリッキーな動きを見せる人だ」

 

「ねぇねぇ。ひで君この人のことを知っているの?それに戦車道チームの江城連合会って二十年くらい前までは指定抗争組織だったよね?悪そうな人じゃなさそうだけどとても手強そう」

 

「まぁ、佐谷の兄さんとは縁を持った人の一人だからね。あと、江城連合会は気合が入った戦車道組織だから特に用心しないと足元をすくわれる。この前の浜崎さんもそうだったが。いざとなれば自分の身も顧みずに突っ込んでいく人が基本多かったりするからな」

 

「秀人、今仕事仲間と言っていたが。この佐谷吾朗という男について何か知っているのか?」

 

「ええ、単刀直入に言うと二年前のアンツィオ高校を第六十一回戦車道大会準優勝に導いた功労者の一人といっても問題ないでしょう。失礼な言い方にはなるのですが。当時、資金面や経験面において乏しかったといっても過言ではないアンツィオ高校戦車道チームを短期間で錬成し、後の練習試合や去年の六十二回大会でも対戦校を苦戦させたのです。それに去年のアンツィオ高校の順位はベストスリーです。油断なりません」

 

「なるほど。文字通りの強豪校だな。我々の訓練の方もこれまで以上に本腰を入れないとな……」

 

姉の柚子の言葉に続いて桃が秀人に質問すると、彼は自身の過去やアンツィオ高校について覚えている限り二人に丁寧に説明する。

資金面や経験面に乏しいという言葉を聞いた桃は、額から少しばかり汗を流す。何せ今の大洗学園戦車道チームに共通していると感じたのだ。

 

「本腰ね。河嶋、小山姉に聞きたいんだけど。もう”アレ”について喋っちゃう?」

 

「か、会長?!それはまずいですよ!というか、うちのひで君の前でそんなこと!」

 

「そうですよ!これは私達三人で内緒にするって!」

 

彼女達二人のうち。桃の様子を見ていた杏があっさりとした表情で二人に対してそう言うと、彼女達は慌てふためくが。杏はどこか観念した表情で秀人を見つめる。

対する彼も申し訳なさそうな表情で三人を見つめ直すと素直に白状した。

 

「廃校の件ですよね。実は、三人が親分や俺達と言い合った日の放課後に聞いちゃったんですよね。というか、もうウチの親父やカシラをはじめとする幹部達はみんな知っています。会長、今度の練習の時に話しちゃってもいいんじゃないすか?聖グロやサンダース戦から他の皆さんの士気が高まったとはいえ、このままだと熱に浮かされた状態になってしまいます。せっかくこうして有望な仲間が多く集まったんだ。最後まで黙っておくより。ここで話してチームを一枚岩にしていかないと意味がありません」

 

「秀人、お前……そこまでこの学園のことを想ってくれていたのか。何か情けないところを見せてしまったな」

 

「いやぁ~秀人ちゃんには参ったよ。どういう風に話そうかな~」

 

桃と杏の二人は、秀人がこの秘密を外部に喋ってしまったということなど細かいことはどうでも良かった。

ただ、自分達と同じように大洗学園を守ろうとする意志が確認できたことが嬉しかったのであった。

 

「俺がここに入学する前の柚子姉の様子や行動で何か腹の中に包み隠していそうな感じがしたので。というか、ブラコンの度が過ぎていたよマジで」

 

「どういうことなんだ柚子ちゃん!」

 

「もうひで君、そんなこと言わないでよ!姉弟なんだからあれくらいいいでしょ!」

 

「まぁまぁ。姉弟でのイチャイチャ話はまた今後にして。秀人ちゃんの言う通り皆に言っちゃおうか。河嶋、小山姉も異論はないよね」

 

「「はいっ!」」

 

「人として一人の生徒の貴重な意見を聞かないと、千人近い人数を束ねる学校の歴代生徒会長の顔に泥を塗っちゃうからね。秀人ちゃん。貴重な意見ありがとうね。おかげでこのことをみんなに話す決断ができたよ」

 

「こちらこそ深く感謝いたします。これからもお三方の補佐としてよろしくお願い申し上げます」

 

こうしてその後、杏による一か八かの決断によって大洗学園戦車道メンバーは大洗学園の現状について知ることが訪れたのだった。

事実を聞いたメンバーの反応は、獰猛な獣によって崖に追い詰められた子羊のように萎縮しそうになったものの、戦車道履修者達に新たな志の火を灯すことになったのは言うまでもない。

 

「そ、そんな……戦車道の世界大会のためじゃなかったのですか?」

 

「それは事実だが。文科省の学園艦教育局よりお前たち一年生が入学する以前に通達され、廃校を免れたいのであれば戦車道大会へ参加し、優勝しろと言って来たのだ」

 

「だからね。みんな、泣いて他の学校に行くよりは希望を信じて抗って……もしかしたら優勝できるじゃん。澤ちゃん。それにウサギさんチームのみんなや他のみんなも泣き出しそうな顔してそんなネガティブな空気を作るの辞めてさ、前向きに考えようよ。今まで本当のことを言わずに腹の中に包み隠して悪かったね」

 

「いいえ、私。戦車道を選択して良かったと感じます。今までこんな経験したことがなかったのでむしろ今が楽しく感じています。それに、せっかく学校生活や戦車道の授業が楽しくなってきたところなのに廃校だなんて……そんなことさせません!みんな……せーのっ!」

 

『えいえいおーっ!!』

 

「勝って兜の緒を締めよとはまさにこのことだな。我が校の興廃この一線にあり。各員奮励努力せよ!」

 

『おーっ!』

 

「バレー部復活どころか廃校だなんて……戦車でも構わない。代々木体育館に行く気で頑張ろう!!」

 

『ファイトーオーッ!!』

 

「そうだ。こうやって皆やる気が上がっているんだから、西住ちゃんからも何かよろしく~」

 

「えっと……皆さん!隊長としては不束な私ですが。新しい戦車道を探し始めてから皆さんという新しい仲間に恵まれてとても幸せです。でも、皆さんと私となら廃校の危機は乗り越えることが出来ると思います!!みんなで絶対に優勝しましょう!!」

 

「さすがみほ姉貴です!皆でもう一度……せーのっ!」

 

『おーっ!!』

 

みほの一言が良い起爆剤にでもなったのだろう。この日を境に戦車道履修者メンバーの腕は少しづつであるものの、上達するのであった。

お互いに苦手な点と得意な点を話し合いながら訓練に励んだり、ある時はサンダース戦前のあんこうチームのメンバーのように大友や水野、木村、安倍といった大友連合会幹部達に教えてもらいながら放課後の自主訓練に励むのであった。

 

 

 

今度はアンツィオ高校に潜入する前の日の放課後、優花里と水野は密かに落ち合い。彼女の部屋で小さな話し合いをしていた。

彼はミリタリー色の豊かな優花里の部屋を楽し気に眺めながら会話を進めていた。

気が付けば戦車砲のトリガーまたは、操縦桿を握っていた水野と幼少期から戦車が友達だった優花里は反りが合うのか、ますます話が進む。

 

「それにしても秋山さんが戦車乗りのサラブレッドだったなんて驚きですよ!お父様は江城連合会の四代目会長。お母様は大洗の龍と呼ばれ、二十二年前最後のひと暴れとばかりに黒森峰に対して圧勝そして第四十三回戦車道大会の優勝……。ロマンの塊っすよ!」

 

「そんなことはないよ。二万人前後も率いてタンカスロンをしていたお父さんや西住殿のようにみんなに慕われていた隊長をしていたお母さんみたいに私は大したことはしていないから……」

 

「いやいや、秋山さんは俺やうちの親分と同じように西住の姉貴を尊敬し、その上身体を張る立派な軍師じゃないですか。それにうちの雄飛が秋山さんの装填の速さには敵わないなんて言ってましたからね。また今度、うちの組の戦車を使って車長でもやってみますか?親分に頼んどきますから」

 

「いいの?!ありがとう!」

 

水野に車長の打診をされた優花里は思わず嬉しくなって若かりし頃の父と母の写真が収められたアルバムを天井に向かって上げると、一枚の分厚い封筒がアルバムから落ちて来る。

気になった二人が一緒に封筒の表を向けると、『未来が託せるあなたへ』という題名で書かれていた。

これを見て居ても立っても居られなかった二人はキョロキョロと周囲を見渡してから封筒の中身を開封すると、そこから一枚の手紙と様々な印がつけられた三枚の地図と写真とメモが出て来た。

 

「水野君。これは……」

 

「ええ。恐らく我々が見つけきれなかった戦車がもう五輌も……」

 

「それより、多分お母さんが書いた手紙を読もうか」

 

優花里と水野が共に手にした手紙内容は、以下のようなものだった。

 

ー見つけたこれを見ているということは、私達の学校に戦車道が復活したということになるわね。文科省の目をかいくぐって隠せた子達の場所を場所を記したメモと地図があります。

私達に出来るのは申し訳ないのですがこれだけです。それでも私は未来が託せるあなたに読んでもらって良かった。一九九七年三月大洗女子学園戦車道チーム隊長、桐生好子ー

 

「ま、まだ残っていた戦車がもう五輌あるなんて……」

 

「ええ、明日にでもうちの組員に引き上げさせますので。それと今は、三日ばかり公欠をもらって島田流本家に今日から出向いている親分に連絡を入れますね」

 

因みに残り四輌の戦車については、ここで語ることにしよう。

57mm機関砲搭載T50-2M型軽戦車、75mm自動装填砲搭載T-40中戦車、Strv m/42中戦車、特三式内火艇・カチ車の四輌であった。

しかし、人員の確保や必要な戦車の整備または強化部品の発注したうえで戦車の改修など手回しをしなければならない。

因みに、現在。大洗学園が保有している戦車で改修に回されている戦車はⅣ号戦車、Ⅲ号突撃砲、LT-38軽戦車、三式中戦車の四輌である。

このタイミングで新しい戦車発見は、大洗学園側にとって勝利の女神の微笑みが向きつつあるといっても過言ではないだろう。

また今現在、島田流本家に赴いている大友は再び自身の戦車道テクニックに磨きをかけるために島田親子の下で学ぶことにしたのであった。

 

 




ありがとうございました。次回は第十五話を投稿する予定です。
今回も捏造設定が出ましたが、こちらも後のストーリーに絡める予定です。
評価やご感想、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第十五話 舎弟、島田流本家に行きます!

ご覧いただきありがとうございます!
お気に入り登録者数九十人を突破致しました。再度感謝いたします!
今回もオリジナル設定及びオリキャラが出ています。
引き続きお楽しみください!


生徒会長の角谷杏から廃校がかかっているという話がチームのメンバーに伝えられたその日の夕方、大友は五人の幹部を連れて島田流の本家に訪れていた。

資金面において余裕があった大友組は、既存する戦車の改修だけでなく。公式試合の三回戦に備えて戦車を購入することを考えていたのだった。

しかし、戦車を集めたにしろ。新たな搭乗員の錬成を行わなければならない。

そこで大友は、島田流の戦車道を通してタンカスロンより戦車道の経験がかなりに浅い幹部の錬成を兼ねて島田流の戦車道からみほが探し始めた"自分の戦車道"の支えになりそうなものは無いかと三日間という期間で探し出そうとしていたのだ。

 

「会長、ここが島田流の本家ですか。由緒正しい流派の総本山といった雰囲気がしますね」

 

「ああ、一年前俺はここで戦車道の応用を学んだ。蓮司、進、浩樹、康介、健太。今日から三日間お前達五人には、同じように戦車道の基礎や応用を学んでもらう。指導役もいい人を呼んだ」

 

「いい人って……島田の家元だけじゃないんですか。会長」

 

「本家だから一人や二人くらい居るだろうな。どんな人だろう?」

 

「ハー○マン軍曹みたいな人じゃね?」

 

「戦車もどんなやつを使うんだろう。島田流が使う戦車ってイマイチパッとしねえし」

 

学園艦からの移動に使用した黒の高級ミニバンから降りるなり、大友連合会幹部の『本宮蓮司(もとみやれんじ)』や『藤田進(ふじたすすむ)』、『小野浩樹(おのひろき)』、『瀬島康介(せじまこうすけ)』、『嶋健太(しまけんた)』の五人が思ったことをそのまま口にする。

噂をすればというやつだろうか。六人が乗って来た自動車の後ろから五式中戦車・チリと九五式軽戦車・ハ号がやって来た。

チリの砲塔の左右前方には、知波単学園のエンブレムが描かれており。中戦車とは思えない大きさの戦車であった。

 

「よう。久しぶりだな大友。若い衆を連れて修行とは奇遇だな。俺も知波単から勉強熱心な子を連れて島田流で学んでいる」

 

「お久しぶりです柏間さん。勉強熱心な子とは?」

 

戦車から降りて来たのは、江城連合会若頭兼直系柏間組組長の『柏間修太郎(かしわましゅうたろう)』だった。

知波単学園のパンツァージャケットに身を包み、高校三年ながら少し貫禄がついている彼は戦車から降りると大友に声を掛ける。

戦車から降りる彼に続いて、もう一人車長席から丸眼鏡の低身長な少女が降りてきた。

 

「お初にお目にかかります。知波単学園一年生の福田と申します!!大友殿、西隊長や柏間副隊長補佐殿から聞いております」

 

「おっ元気が良いな。よろしく頼むぜ福田ちゃん。っていうか柏間さんは確か。知波単の隊長になったんじゃねえのか?」

 

「確かにそうだが。俺は誰かの下に立って支えている方が性に合っているんでな」

 

「相変わらず貴方らしい。見込みがあると感じた人間の下に歳や経験に関係なく支える。それが貴方やり方でしたね」

 

「それはお前もそうだろう大友。一回戦の様子、見させてもらったよ」

 

二人の旧友は静かに笑い合いながら世間話をしている。柏間の隣で福田は、大友の一言をメモ帳にまとめていく。

入り口付近でそんなやり取りをしていると、建物の扉が開き。そこから愛里寿や母である千代の二人が出て来る。

 

「「お疲れ様です!!」」

 

「柏間君、今日の訓練は終わったのね。お疲れ様。あら、誠也君久しぶりね。今日からあなたの後輩さん達のご指導をさせていいただくわ」

 

「お久しぶりです千代さん。今日からお世話になります」

 

『お世話になります!』

 

「よし、戦車のイロハは身体で覚えるのが一番だ!……まぁ、ある程度慣れていると思うが、一から懇切丁寧にやっていくことも大事だ。それじゃあ、行くぞ!」

 

『よろしくお願いします!柏間の叔父貴!』

 

千代が大友と握手を交わしている傍ら柏間と他の五人は丁寧に頭を下げる。一通りの挨拶を終えると、五人は柏間のチリにタンクデサントし、そのまま近くの演習場へと向かって行く。

大友も場所を変えて彼女や愛里寿と共に建物の中へと入って行くのであった。

 

 

 

 

若衆の五人と異なり、彼は千代によって執務室に招かれて愛里寿と彼女と対面する形で椅子に座って千代から切り出された話に耳を傾けていた。

彼は、戦車道に関する事かと思っていたのだが。全くそれに関係なく。むしろ早過ぎる将来の話についてだった。

 

「それで……返事はどうかしら?」

 

「返事とは……」

 

「全く鈍感ね。私の息子になるか愛里寿ちゃんの婿になる事よ。この子からあなたのお話を沢山聞いたわ。あなたの事をますます知りたくなったわ」

 

「ははぁ、それですか。しかし、愛里寿ちゃんはまだ十三歳です。それなら俺以外にも有望な人物が居るはずです。それに、今更先生の下で養子になるのは、伝統ある島田流にご迷惑をお掛けするかと。大変申し訳ございませんが。このお話しは無かったことにさせて下さい……」

 

「あらそれは残念ね。でも何時でも返事は待っているわよ。それともう一つ。西住みほさんはどうかしら?」

 

大友は早過ぎるの将来の話に少し肝を冷やしたが、素直にその意志がない事を伝えた。

千代の隣にいた愛里寿は若干寂しそうな表情をしていたが、千代が彼女の頭を撫でると元の調子に戻った。

千代は彼女の様子を見た後に、次にみほに関する話題をふる。

 

「みほ姉貴なら順調に自分の戦車道を探し始めています。それが功を奏してチームの統制が上手く出来ていますし、俺も入れて皆姉貴の事をとても頼りにしています。あとこれは俺個人の考えになりますが。俺はあの人を担ぎ上げて最高の隊長にしたいんです!」

 

「なるほど。では、彼女は西住まほさんと違い。西住流では無く。我が道を行こうとしているのね」

 

「その通りになります。なので、俺は島田流の戦車道でみほ姉貴の役に立てるものがないか学ばせていただきたく思っています」

 

「分かりました。誠也君、この三日間で島田流から学べるものは学んで頂戴。それと条件が一つあるの」

 

「感謝いたします。条件とは何でしょうか」

 

「条件は………三日間だけでも愛里寿ちゃんのそばに居てくれないかしら?」

 

千代の質問に対して彼は、みほの普段の様子の事を交えつつ彼女に対して抱いている想いや敬意を口にする。

千代はそれに満足したのだろう。

扇子を口元に当てながら小さく微笑み、彼が島田流の下で学ぶことを快諾するのだが。

その直後に条件付きという体であることを大友に告げる。無論彼は、相手の性別が真逆なので唐突な一言に困惑する。

 

「っ?!し、しかし。愛里寿ちゃんはお年頃かと……俺のような男では……」

 

「わぁ……お母様ありがとう!!誠也君、今から私と一緒に戦車倉庫に行こう!!」

 

「あっ。待って愛里寿ちゃん!先生、失礼いたします」

 

母である千代の一言を聞き逃さなかった愛里寿は高いテンションになった直後、椅子から飛び降りて大友の隣まで行き、満面の笑みを浮かべながら少し慌てる彼の手を引いて部屋から出ていく。

彼女は、そんな二人の姿を優しく見つめつつ戦車道連盟関連の書類を手にするのであった。

 

 

 

 

その頃、大友連合会幹部の五人はすぐに練習に精を出しており、この五人が搭乗するコメット巡航戦車は完全に柏間が指揮するチリと同じ動きを見せつつあった。

アズミやメグミ、ルミといったバミューダ三姉妹が得意とする二輌以上の戦車を用いて相手戦車の左右側面か前後に割り込んで急停止して相手を撃破する戦術。

その戦車の特徴を最大限に活用した戦い方で一輌の戦車を使って複数の戦車を撃破するといった応用的な戦術といったものを短時間で理解しつつあった彼らはタンカスロンと違った戦車道の楽しさを身に受けていた。

 

「今日はご苦労だった。その調子で続けるんだ。スポーツは他人から強要されるより自分から進んでやるからこそ楽しいんだ。この調子を維持してお前らの親分を喜ばせてやるんだ」

 

『ありがとうございます!柏間の叔父貴!!』

 

「そうだ。聖グロとサンダースに勝ったんだ。祝いをしてやる。この近くで良い焼肉店を知っているんだ。今日はおごりだ」

 

「叔父貴、ありがとうございます!早速会長をお呼びしますね!」

 

柏間は五人の腕に感心し、自身の行きつけの焼肉店でちょっとした歓迎会と二回戦進出祝いを兼ねて組長の大友も誘うべくポケットから携帯電話を取り出して通話を行おうとするが、先に彼からの着信が来た。

 

「ん?ちょっと持ってくれ。もしもし……大友か。今からお前を誘って皆で焼肉に行こうと思ったのだが……え?来れないのか。分かった若い衆だけ連れて行ってくれとな。……という訳で大友は来れないみたいだ。電話の向こうが少し騒々しい感じだったが、問題はないだろう。じゃあ行くか」

 

『はい!ごちそうになります!』

 

それから五人と柏間は戦車から自動車に乗り換えて焼肉店へと行き、食事と会話に耽りながら親交を深めつつあった。

男子六人は、様々な世間話を交えつつ大友の対人関係について語り合っていた。

 

「蓮司、会長って相変わらずモテモテだな。色んな人に抱きつかれたりキスされたり。本当に大変だよな」

 

「ああ、そんなこと言ったら俺達だって学校のみんなからそれに近いことされてるじゃねえか。この前、近藤の兄貴が俺に話してくれたんだけどよ。練習試合の後、ローズヒップさんを連れてドライブに行ってただろ?その人を送り届けてから家に帰って風呂に入ってたら……何とバスタオル姿の妙子ちゃんが入って来たんだってよ。慌てて出ようとしたらすぐに捕まってえらい目に遭ったみたいだぜ。挙句、その日の晩は一緒のベッドで寝る羽目になったんだってよ」

 

「えーっ!やっぱブラコンってすげえよな!柏間の叔父貴もそう思いませんか?」

 

「そうだな。もしかして本部長の小山の姉もそうじゃねえのか?」

 

「ビンゴですよ叔父貴!小山の兄貴も近藤の兄貴と同じような目に遭ったとこの前話してくれたんですよ。兄貴のお姉さんの柚子さんですけど……あんなおっとりした見た目で妙子ちゃん以上の肉食なんですよ!朝起きて気づいたら一緒のベッドに入ってるのはしょっちゅうで。角谷会長や河嶋さんが見てない時はすぐに手を繋ぎたがったりだとか、アメリカ人並みにすぐキスしたがるみたいなんですよ」

 

「ははっ。やっぱり歳の近い姉を持つ者は大変だな」

 

柏間は、本宮と藤田を中心に現実でも中高生男子がするようなありふれた会話で盛り上がっていた。

そんな猥談じみた会話も飽きて来たのだろう。再び六人は戦車道に関する話題に戻った。

 

「ところでお前たちの学校の戦車はどんな感じなんだ?練習試合で聖グロに勝ち、サンダースを突破したということは。出来が良い戦車を使っているんだろう?」

 

「ええ。みんな気合も入っていますし、それに今ある危機に打ち勝つための手段として一部の戦車を改修に回しています」

 

本宮の言った”危機”の一言が気になったのだろう。柏間は少しばかり眉間に皺を寄せる。

 

「ほう。改修はどんな感じにするんだ?」

 

「まず、隊長車のⅣ号戦車はH型仕様に。Ⅲ号突撃砲は75mm長身砲に換装のうえ、シュルツェンの取り付け。38tはNA型に改修後、5cm砲搭載。最後に三式中戦車は改良砲塔と五式七糎半戦車砲へと換装したチヌ改仕様ですね」

 

「妥当な選択だな。これなら何とかほとんどの戦車に対抗できそうだな。あとは戦術だな」

 

彼は、大洗学園側の戦車が良く仕上がっていることに安心したのだろう。戦車から戦術の話に移る。

 

「戦術に関しては、みほ姐さんが毎回上手く予想し、状況に応じて有効な手段に打って出て。そのおかげで勝利しています」

 

「みほ……?ああ、妹のみほちゃんの方か。西住流とは違った動きを見せつつあるから個人的に気になっているな。正統派が勝つのか革新派が勝つのか……ますます気になるな。すまん、こんな時間になったな。今日はありがとう」

 

柏間は、大友やその関係者に聞きたいと思っていた話題が聞けて満足そうにしていた。

気が付けば、時計の針が午後九時を指していたため、彼は五人に対して感謝の言葉を口にすると、一緒に店を後にするのであった。

 

 

 

 

あっという間に二日目も無事に終了し、残すはあと一日となった日の晩。大友は持ってきたノートに島田流の下で学んだ事を学んだことを書き漏らすこと無く丁寧にまとめていく。

バミューダ三姉妹による包囲戦術、状況によって作戦を即座に練り直す方法といった島田流ならではの戦車道を十ページ位に渡って書き記していた。

 

「やっぱり二日というのはあっという間だな。明日ここを出る前にもう一度柏間さんや島田流門下生の方に五人の訓練に付き合ってもらうか。それと、そろそろ時間だったな」

 

大友は、ふと約束事を思い出したのだろう。そのまま愛里寿が居る隣の寝室に入る。彼女は、待っていたとばかりに彼に対して幼気さが残る無垢な笑みを向ける。

大友も微笑み返すと、そのまま愛里寿が乗るベッドに座った。

 

「愛里寿ちゃん。そろそろ寝ようか。俺は明日からまた学校の方へ戻るよ」

 

「今日で一緒に寝るのも最後だけど、また遊びに来てね!そうだ、誠也君に聞きたいんだけど。どうしてみほさんの事を姉貴と呼んでいるの?」

 

「それはね愛里寿ちゃん。俺が舎弟としてあの人の支えになりたいからだよ。あの人は同じ年でも家族がいない俺にとって年の離れたお姉さんみたいな人だし、頭がキレるからさ」

 

「そうなんだ。だからみほさんを「姉貴」って呼んでたんだ。じゃあ、いつか養子になってくれる日が来たら誠也君をお兄ちゃんって呼んでいい?あと、私のお婿さんになってくれたらアナタって呼んでいい?」

 

「ははっ。構わないけど今のところそれはちょっと難しいかな」

 

彼は、彼女による疑問に答えつつ自身の想いを伝える。愛里寿はそう言いながら大友の右腕を抱きしめると、可愛らしい喋り方でそう言う。

 

「でも、いつまでも待っているよ誠也お兄ちゃん。そろそろ眠くなって来ちゃった」

 

「そっか。好きな本を読んであげるよ」

 

「ありがとう。じゃあ今日はこのお話しを聞かせて」

 

大友は愛里寿を抱きかかえてそのままベッドに寝かせて布団を被せると、近くにあった小説を手に取り。彼女が完全に寝るまで読み聞かせるのであった。

翌日。本宮をはじめとする幹部五人は水野といった兄貴分達を中心とするチームメンバーにも劣らないほど腕に磨きをかけていた。

いよいよ島田流本家から出発しようとしていた頃、大友と柏間はお互いに出発日が同じだったのか。正門の付近でお互いの成果を称え合っていた。

 

「アンツィオ戦頑張れよ。俺達は一回戦で黒森峰にやられちまったが。お前たちなら必ず勝てる。だから、勝っても兜を被り続けている気持ちで挑み続けろ」

 

「柏間さん。ウチの若い衆の面倒を見てくれてありがとうございます。また機会があればよろしくお願いします」

 

「ああ、お安いご用さ。おい、大友。見送りが来ているぞ」

 

「愛里寿ちゃん。わざわざありがとうね。俺はそろそろ行ってくるよ」

 

「楽しかったよ誠也君、他の皆さんもありがとう。そうだ、誠也君。耳貸して」

 

「ん?どうし……っ?!」

 

「えへっ。行ってらっしゃいのちゅーだよ。試合頑張ってね」

 

「愛里寿ちゃん。一年前もそう言ってくれたよね。じゃあ、行ってくるよ。元気でね」

 

大友が愛里寿に言われた通りにしゃがみ込むと、そのまま左頬に彼女からのキスを受ける。愛里寿を見ると、彼女は純真無垢な笑顔でそう言っていた。

大友は愛里寿の頭を撫でた後に、そう言って島田流本家を後にしたのだった。

 




ありがとうございました!次回は第十六話を投稿する予定です!
評価やご感想、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第十六話 二つの学校でドタバタです!

ご覧いただきありがとうございます!もう少しでお気に入り登録者数が百人になりそうです。改めてお気に入りへの登録を感謝いたします!
今回もオリキャラ♂が三人登場します。
引き続きお楽しみください!


大友が島田流本家を後にしたほぼ同時刻。大洗学園とアンツィオ高校とそれぞれの学園艦が次の試合会場付近の同じ港に寄港したため、今回は条件付きで偵察の"許可"を得た大友連合会のメンバーと優花里は三輌の軽戦車でアンツィオ高校の学園艦に訪れていた。

 

「まさか7TP戦車に乗れるなんて……これ以上ない幸せです!」

 

「秋山さんはこれの双砲塔型が好きだったんですよね?でも、気に入ってもらえて良かったです」

 

「好きな戦車に乗れる……それも車長としてなんて!」

 

「今日は大暴れですよ!秋山先輩、姐さんみたいにやっちゃってください!」

 

7TP軽戦車の車内で本部長の秀人や幹部の『塚原丈治(つかはらじょうじ)』の二人と言葉を交わしつつ、アンツィオ高校のイタリア風な町を眺めている。

 

「秋山さんは今日初めてタンカスロンをやるんですよね?俺たちが上手くサポートするんでご安心ください!」

 

「さて、そろそろ決闘場所ですけども……あっ居た。おーい佐谷の兄さん!」

 

三輌の戦車が学校の校門前に到着すると、一輌のC.V.38軽戦車の上に佐谷がヘルメットを脱いで座っており。もう一人一緒に居たおっとりとした感じの少年『西田良夫(にしだよしお)』と共にたこ焼きを頬張っていた。

佐谷は声を掛けて来た塚原に気づくと、三輌に対してフレンドリーに手を振り返す。

 

「よう。結構早く来てくれたな。暇やったから丁度良かったわ。おっ!姉ちゃんがサンダースに水野ちゃんと二人で乗り込んで、姉ちゃんは浜崎と一緒に学園艦観光したんやってな。楽しかったか?」

 

「は、初めまして!私は秋山優花里と言います。あなたは『アンツィオの狂犬』……佐谷吾朗殿ですね!」

 

「おぉ!俺の事よう知ってるやん!今日はよろしく頼むで秋山ちゃん!!じゃあ、早速戦車鬼ごっこ開始や。行くでぇ!」

 

彼が戦車から身体を乗り出して目を輝かせている優花里に対してフレンドリーに声を掛けると、彼女も嬉しそうに応える。

さて、良い感じの雰囲気になって来たところで。佐谷のテンションがさらに上がり、西田と共に戦車に乗り込むと七人に対して鬼ごっこと称した決闘の開始を告げ、そのまま学校の中へ走り去っていった。

 

「佐谷殿、学校の中へ行っちゃいましたけど。大丈夫なんですかね?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。俺らも行きましょう。細かいルールに縛られずに勝負を行う……それがタンカスロンです!秋山先輩、アレを頼みます!」

 

「アレ……そうだね。パンツァーフォー!!」

 

優花里の中でパンツァーハイのスイッチが入ったと言うべきだろうか。佐谷と同じようにハイテンションになり、彼女の高ぶりつつあるテンションに合わせて7TP軽戦車やⅠ号戦車C型、Strv m/38の三輌が一気に走り出す。

タンカスロンは、観客席などは特に決まっておらず。観客の自己責任で間近な観戦が可能なのだ。

それ故か、アンツィオ高校の生徒達が校舎から黄色い声を上げて観戦している。

 

「それにしても佐谷殿、どこに行ったんですかね?全く見当たりません」

 

「あの人の事だ。予想外の所から現れて相手を翻弄するのが得意だから油断できません」

 

優花里と慎司が辺りを警戒しつつ言葉を交わしながら周囲を階段や橋、地下通路などといった場所から現れないかそれらの建築物に対して気を配る。

佐谷を探しているうちに階段がある広場へとたどり着いた。学校内を探し回って一番最後に行きついた場所がここだったので、七人は特に気を引き締める。

すると、階段の方から履帯の音が聞こえてきたたため。優花里がその方向に目をやると、何一つ武装が施されていない演習用の模擬戦車が人が歩くのと同じ速度で階段を下って来ているのが目に入った。

 

「な、何だ。模擬戦車かぁ」

 

優花里が安堵の言葉を口にした途端、後方で停止していたStrv m/38にゆっくりめな機銃掃射が浴びせられ、そのまま戦闘不能になる。

 

「ショータイムの始まりや!!行くでぇ!!」

 

彼女と慎司が回避運動を始めてから後ろを向いた瞬間、先程まで三輌が通って来た道からC.V.38が現れてトリッキーな動きを見せながら残った二輌を翻弄し始める。

そんな動きを見せつつある戦車から佐谷は身体を乗り出しながらかなり高いテンションでそう叫ぶ。

 

「さすが名の通りの狂犬ぶりだ。このままではやられてしまいます。みんな逃げましょう!」

 

「そうですね。逃げるぞ。正義」

 

「おう。捕まってろ慎司!」

 

優花里が指示を出すと、二輌の戦車が元のスペックより早い速度で走り出した。佐谷はそれを見逃すわけが無く。彼の戦車もその後を追いかけ始める。

このC.V.38は対戦車戦闘も想定しているため。派生元であるC.V.33より高火力な上、この戦車が装備するブレダM35・20mm機関砲は残った7TPとⅠ号戦車の背面装甲を貫くことが可能である。

彼女はそれを踏まえてもう一度、先程の広場で練習試合の時のように決着をつけようと学校内を一周していたのだが。相変わらず追いかけて来るC.V.38から距離を離せずにいた。

やはり、向こうはアンツィオ高校の地理を完璧に把握しており。裏路地といった場所を利用してショートカットしながら距離を詰めて来る。

 

「このままじゃ埒が明かない。秋山先輩は先に逃げてください!」

 

「兄さん覚悟ーっ!!」

 

慎司が乗るⅠ号戦車がサイドターンをしてC.V.38に機銃掃射を行うが。全て躱されたのち、側面に数発撃ち込まれて撃破されてしまった。

 

「おっとその手には乗らんで。あとは秋山ちゃんだけや。気合入れて行くで!良夫ぉ!」

 

「は、はい!ノリと勢いで行きますよ親父ぃ!」

 

二輌の戦車を撃破した佐谷と操縦手の西田は優花里の7TPを再起不能にすべく。一気に速度を上げて広場に進入すると、7TPが鎮座していた。

二人が操るC.V.38が好機とばかりに7TPの方へ走り出すが、7TPも同じように走り出した。C.V.38が先程のようにサイドターンを決めて後方へ回り込もうとした瞬間、7TPが後退を始める。

 

「そう来たか。でも、やらせへんで!」

 

一度背面を晒したものの、西田の咄嗟の判断により。即座に車体の正面を後退した7TPの方へ向けると同時に佐谷が発射トリガーを引き、7TPからも砲撃が放たれる。

この一瞬で勝負が決まったのだろう。C.V.38の車体側面には大きなかすり傷が出来ており、対する7TPの砲塔上部から白旗が飛び出していた。

 

「楽しかったわ~。おおきに大友連合会の皆。それに、秋山ちゃん!!」

 

「さ、佐谷殿っ?!」

 

C.V.38から降りて来た佐谷は撃破された7TPから降りてもたれかかっていた優花里のもとへ行き、満面の笑みを浮かべながらそう言って彼女の頭を撫でている。彼の行動に優花里は照れようが隠せていなかった。

 

「俺が勝ってもうたけど。上手いこと戦車を動かせることが出来てたで!もしかして、大洗で車長さんでもやってるんか?」

 

「いえ、私は車長ではなく。隊長車で装填手をやっています。それにしても、タイマー設定をした無人の模擬戦車を使った囮作戦も面白かったです!」

 

「戦車道はスポーツやし、楽しさっていうのがあらんとおもんないからな。まぁ、秋山ちゃんならどんな役割でも向いてそうな気がするわ。せや、本題を忘れてたわ。今から学校内見学兼戦車偵察の始まりやで!チヨ姐さん、もう出て来てええで!」

 

佐谷は優花里の健闘を称えつつ自身の戦車道に対する考えを彼女に語った次に本題である偵察のことを口にしたと思いきや階段の方に向かって誰かの名前を呼ぶと、階段の上からP43.ter重戦車が現れ。

そのまま戦車で階段を下り始めて二輌の戦車の前で停止すると、車長席から緑髪の縦巻きロールで軍服のようなものを身に纏い、凛とした目を持った少女……アンチョビが降りて来る。

彼女を視界に入れた大友連合会の六人や西田が「お疲れ様です」の一言と共に膝に手をついて頭を下げる。

 

「吾朗、この子達とまたやってたのか。お前の歓迎方法はいつもタンカスロンばっかりだな。こんな可愛い子達にはアレが一番だろう?」

 

「……チヨ姐さん。アレですか?ウチの衆はノリと勢いで耐えてたけど、この子らにはヤバないすか」

 

「ふっふ。誠也君達もそうだが、吾朗の佐谷組といいウチの弟といい。可愛い男の子を見ると愛でたくなるんだ。さぁ、お前たち!!一年に一回あるかないかの宴だぁ!!」

 

『んあ?宴?』

 

「それでは、小山本部長。これにて俺は失礼します……」

 

「こちらこそお手伝いありがとうございます西田若頭。あれ?もう行っちまうのか……」

 

佐谷とアンチョビの会話内容よりも乗って来た戦車の修理に集中していた大友組の六人とその手伝いをしていた西田は、最後の”宴”の一言しか耳にしておらず。

何のことを言ってるのか分からなかった六人は特に気にせず修理を終わらせるが、その意味を知っているであろう西田が逃げるようにして校舎の方へと歩いていくのであった。

その直後。言葉の意味が分かってしまったのだ。アンチョビが戦車で降りて来た階段と左側の路地から合わせて二十人近くの少女たちが黄色い声を上げて現れたのだった。

 

「おぉ!戦車乗りの男子……しかもこりゃ可愛いショタっ子達っすね!アンチョビ姐さん!」

 

「あら。みんなかわいい♪ドゥーチェ、佐谷先輩。癒しの時間の提供をありがとうございます♪みなさーん行きますよー」

 

「お、おう。怖がらせへん程度にな。それと大友連合会の皆、悪く思わんといてくれや。男やったらちょっとは無理して耐えなあかんこともあるからな。ほな、秋山ちゃん行こか」

 

「は、はいであります!(ごめんね小山くん)」

 

「……(先に帰れたら伝言よろしくお願いします秋山さん)」

 

佐谷は申し訳なさそうに大友組の六人に対してそう言うと、優花里をC.V.38の砲手席に乗せて戦車倉庫へと向かって行くのであった。彼女は去り際に、秀人といざという時のためのアイコンタクトを交わした。

 

「さぁ、皆!彼らにノリと勢いの楽しさを知ってもらおうか!」

 

『了解です。ドゥーチェ!!』

 

こうして秀人や塚原、慎司、伊達、上田、岡崎の六人は特に抵抗することなくペパロニやカルパッチョといった戦車道乙女たちの”癒しの時間”の必要不可欠な要員としてどこかへとお持ち帰りされてしまうのであった。

 

「はぁ……誠也君。元気にしているかなぁ。次に会ったときはゆっくりお話がしたいな……」

 

そんな喧騒の中でアンチョビは一人、大洗学園の学園艦がある方を見つめながらそう言ってため息をつくのであった。

因みに大友と彼女の接点は一年前にアンツィオ高校で行われた戦車道での交流や彼のスカウト辞退を巡って起きた戦いで彼を狙う戦車道乙女達のストッパー役に入ったことだ。

そんな経緯もあってか大友とアンチョビは協力関係にあった。しかし、彼の人が良すぎる性格に惹かれたのか。彼女もまた機会を狙っていた。

 

 

 

その頃、大洗学園に珍しく訪問者が訪れていた。その訪問者をざっくり紹介するのであれば、安斎千代美……アンツィオ高校戦車道チーム隊長アンチョビの弟である『安斎拓実(あんざいたくみ)』がC.V.33で大洗学園に訪れていた。

彼もまた同じアンツィオ高校に在学している佐谷吾朗と同じく江城連合会の直系組長の一人であり、高校入学前の一年前までは佐谷組傘下安斎組組長だったが、これまでのタンカスロンでの活躍の功績から直系の組へと昇格したのであった。

拓実がなぜ戦車で大洗学園の学園艦に訪れているのかというと、優花里達と同じように許可を得たうえでの偵察だったからだ。

間もなくして、大洗学園の校門前に到着してそのまま訪問前に案内された通り戦車道履修者用の倉庫に向かうと、大友組の水野や木村、安倍が首を長くして待っている様子で手を振っていた。三人の前で止まって戦車から降りると、そのまま再会の喜びに入り浸る。

 

「久しぶりだな水野の兄弟!大友の兄貴と一緒の戦車で砲手やっているんだってな。調子はどうだ?」

 

「ああ、絶好調だよ。そうだ。直系昇格改めておめでとう!」

 

「ありがとう。まぁ、まだ幹部になったばかりだから佐谷の兄貴をはじめとする先輩幹部から色々教えて貰っている」

 

「兄弟いや、安斎の兄貴。構成員はどれくらいなんだ」

 

「おいおい。いつもの通りで良いよ。独立してから少し経つけど、百五十人くらいだな。タンカスロンで使う戦車を考えてもこれくらいの人数だけで十分だと思うな」

 

「兄貴、出世街道まっしぐらだな。そんまま十代目会長の椅子に座っちゃえよ!」

 

「ははっ。安倍の兄弟、それは俺より相応しい人が居るんでな。できればその人に座ってもらいたいね。何ならずっと九代目でいて欲しいくらいだね。そうだ。そろそろ戦車……見せてくれないか?」

 

「そうだったな。そこの扉を開けたら戦車が並んでいるぞ」

 

「ああ分かった。遠慮なく開けさせてもら……」

 

この四人はライバル校同士であるということを忘れて互いの調子を語り合ったり。自身の業界の話にのめり込んでいる。

しかし、ずっとこの話をしている訳にもいかないので拓実も本題に移り、倉庫の扉に手を掛けようとするが。先に倉庫内の方から開く。

水野達三人は誰も居ないはずの倉庫内の方から開くとは思っておらず。四人で思わず動揺していると、みほをはじめとする戦車道履修者の乙女達が談笑しながら姿を現した。

 

「あっ」

 

『…………』

 

「こんにちは!黒の特攻服に戦車それに左襟に付いているバッジ……もしかして江城連合会の戦車乗りさんですか?」

 

「に、西住みほさん?!あ、あのそうです!俺はアンツィオ高校に通っている安斎拓実です。あと、江城連合会では直系組長をやってます」

 

拓実が蚊の羽音のような声でそう言ったと同時に彼女達と一斉に目が合う。みほのフレンドリーな問いかけに少しおどおどとしながら軽く自己紹介する彼であった。

彼のそんな調子と姉と瓜二つな容姿は、彼女達に受けたのだろう。拓実は一瞬で戦車道履修者達に取り囲まれてしまう。

 

「ちょっとあなた。特攻服なんか着てるけど、戦車で暴走行為なんかしてないわよね?一応念のため免許証の確認と車内検査をするわよ」

 

「「がっつきすぎだよそど子」」

 

「は、はい。免許証です……ってもう戦車の中に」

 

「うほっ。あんた結構可愛いじゃん。ウチのバーどん底に来ない?」

 

「ノンアルのアイスフロート飲む?あと色々サービスするけど」

 

「スレンダー系と」

 

「筋肉質……」

 

「「どっちが好み??」」

 

「フリント、ムラカミ。好みを聞く前にこんなイルカのような子にはこれくらいあげるもんさ。どう?楽しいだろ?」

 

「お、お、お姫様抱っこぉ?!もう十六歳なのにぃ!」

 

『よっ!お銀姐さん!』

 

特攻服を身に纏っているためか、そど子とサメさんチームの五人に絡まれている。特にお銀に気に入られてしまったのだろう。

拓実は、そのままお銀に持ち上げられて横抱きされてしまう。その光景を見た桂利奈やあゆみ、あやが囃し立てている。

ここでちょっとした助け舟とばかりにカエサルが彼に話しかけた。

 

「君、アンツィオから来たということは。ひなちゃんは元気にしているか?」

 

「ひなちゃん?……あぁ!カルパッチョ副隊長ですか?元気ですよ。もしかして、貴子さんですか?副隊長からお話は聞いています!」

 

「そうなのか。それは良かった。ところで、どうして大洗学園に来たんだ?」

 

「えっと。それは、戦車が見たくて来たからです。どんな戦車かどうか見てみたいんで」

 

「うちにも遂に来てしまったか。西住隊長、どうします?」

 

「そうですね。せっかく来てもらったので見てもらいましょう。こういうことはお互い様です。安斎君、歓迎します。戦車倉庫に行きましょう!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

こうして拓実はちょっとしたゴタゴタがあったものの、みほが歓迎したことで彼は大洗学園側の戦車を見ることが出来たのであった。

こういったやり取りから大洗学園とアンツィオ高校の双方が互いに得をするという結果になったのだ。

 

 

 

 

夕刻。戦車倉庫前では、わずか数時間で大洗学園側の戦車道履修者達と仲良くなった拓実は戦車道以外で波長が合うと感じたのだろうか。ずっと楽し気に会話を続けていた。

すると、倉庫の前に島田流本家から戻って来た大友がやって来た。

 

「よお、拓実君。来ていたんだな」

 

「お久しぶりです。大友の兄貴。元気そうで何よりです」

 

「ああ。お姉さんの千代美さんは元気にしているか?」

 

「はい、千代美お姉ちゃんは元気にしています。そうだ、柏間のカシラから島田流の本家に赴いていたことは聞いています。改めてご苦労様です」

 

彼が大友とも互いの調子を語り合っていると今度は三輌の軽戦車が倉庫前で停車し、そこから秀人をはじめとする大友連合会の幹部や優花里、見送りに来たペパロニが降りて来る。

それに気づいたみほが倉庫から出て来るなり。大友や優花里、組員達に労いの言葉を掛ける。

 

「誠也君おかえりなさい。三日間お疲れ様!あと、偵察に行ってくれてた優花里さん達もありがとう。そして、お疲れ様!」

 

「みほ姉貴、三日ぶりですね。向こうで色々勉強してきました。姉貴の戦車道に役立てそうなのも幾つかあったので、また後でお話いたします」

 

みほが倉庫の外に出たのをきっかけに、他のチームメンバーも倉庫の中から出て来る。だが、他のチームメンバーが出て来たタイミングでペパロニは慎司に声を掛けた。

 

「そうだ。慎司君、今日は楽しかったぞ。色々ありがとうな。お礼してやるよ。ほら」

 

「こちらこそペパロニ姐さんと一緒に居て楽しかったです!ところでお礼ってなんす……か……うおっ?!」

 

大胆にもペパロニは、大勢の人間が見ている前で慎司の右頬にキスしたのであった。彼は彼女の行動に動揺しかけたものの、どこか嬉しそうにしていた。

しかし、そんなペパロニと慎司のやり取りに納得できない人物が一名いた……姉の妙子である。

 

「シンちゃん?お姉ちゃんのキスは拒否しても他の人のは受け入れるんだ。私にもさせなさい!」

 

「ま、待てよ。他の皆が見ている前で自分の姉とできるか!家でやれ家で!」

 

「ここじゃなきゃ嫌!さぁ、受け止めて!」

 

「だから。家なら良いって言ってるじゃん!って待て。胸を顔の前に近づけるな!何をす……おっふ」

 

ちょっとした言い合いと追いかけっこの末、慎司は妙子に捕まって十秒近く彼女の胸に押し当てられるようにして抱きしめられた後、左右の頬にキスを受けた。

 

「お疲れ様ですペパロニ姐さん。そろそろ我々も引き揚げましょうか。みほさんや大友の兄貴、他の皆さんもありがとうございました。また後日よろしくお願いします!」

 

「arrivederc慎司君、お姉ちゃんと仲良くするんだぞ!」

 

「ひゃ、ひやい……」

 

そして拓実とペパロニは大洗学園の生徒達に別れを告げると、そのままC.V.33に乗ってアンツィオ高校へ戻って行くのだった。

 

 




ありがとうございました!本作のアンツィオ高校の戦車は原作より強化という形になります。また、これはオリジナル設定ですが。アンチョビさんがP43terに搭乗で弟の安斎拓実がP40に搭乗ということにします。
次回の第十七話もオリジナル設定の追加やオリジナル展開にしていきたいと思います。
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第十七話 電撃、アンツィオ戦です!

ご覧いただきありがとうございます!
今回は大洗側の戦車が強化された形で登場します。引き続きお楽しみください!



二つの学校でのドタバタから二日後、二回目の試合の時が訪れた。チームメイト達は早めに試合の準備を終わらせてじゃれ合いながら待機時間の暇つぶしをしていたが。廃校を告知されたこともあり、いつも以上にその場がやる気に満ち溢れていた。

みほや大友、桃の三人が試合会場の地図に作戦の予定を書き込んだりしながら打ち合わせをしていた。

すると、自動車が近くで停車する聞こえてきたので。その方向へ目をやると、アンチョビやカルパッチョ、佐谷が自動車から降りて来たばかりであった。

 

「やぁやぁチョビ子。それにゴロちゃん」

 

「チョビ子と呼ぶな!アンチョビだ」

 

「おう。あんたは大洗学園生徒会長の角谷ちゃんか?俺はゴロちゃんこと佐谷吾朗や。今日はよろしゅう」

 

真っ先に杏がアンチョビと佐谷に声を掛ける。アンチョビは彼女に「チョビ子」と呼ばれたのが気に食わなかったのか、少し顔をしかめた。佐谷は名前の呼ばれ方を気にせずに杏に対してフレンドリーに接する。

 

「それで、隊長は……あっ!誠也君久しぶりだな!」

 

「お久しぶりです千代美さん。元気そうで良かったです」

 

「誠也君も元気そうで良かった。ところで隊長は誰なんだ?」

 

「隊長は隣のみほ姉貴です。副隊長は俺です!」

 

「そうなのか。相手が西住流だろうが島田流だろうが私たちが勝ってみせる!今日は正々堂々勝負だ」

 

挨拶に来たアンチョビが周りを見渡していると、大友が視界に入ったため。真っ先に彼のもとへ駆け寄って彼の両手を握りながら挨拶と隊長について聞く。

大友は彼女に対して敬意を交えて挨拶の言葉を口にしつつ、みほを紹介する。その次に佐谷がみほと大友の前まで歩み寄った。

 

「チヨ姐さん。その子は正真正銘あの西住みほたんや!それに、その舎弟の大友ちゃんがおるから楽しみになって来たで!ほな、今日は砲で語り合おか。みほたん、大友ちゃん!!」

 

「相変わらずあんたらしいな。佐谷の兄さん」

 

「ふふっ。よろしくお願いします!アンチョビさん、佐谷さん」

 

彼は先程の杏とのやり取りと同じように二人に対してフレンドリーな調子で声を掛けた後、握手を交わして乗って来た自動車へと戻るのであった。

 

 

 

 

試合開始の合図と共に大洗学園とアンツィオ高校の両方の戦車が勢いよく配置地点を走り出す。

H型仕様に改修されたⅣ号戦車のジャーマングレーの車体塗装とあんこうのエンブレムが燦々と輝く太陽の光に照らされているのをはじめ、他に改修が施された三式中戦車(以降はチヌ改とする)やⅢ号突撃砲、LT-38(こちらも以降はLT-38.NAとする)が新たな力を発揮すべく堂々と山岳で構成されたステージを駆け抜けている。

 

「先行するアヒルさん及びアリクイさん状況を教えてください」

 

「十字路まであと一キロです」

 

「十分注意しながら街道の様子を報告してください。開けた場所に出ないように気をつけて」

 

「了解、そろそろ街道手前に到達するのにゃー」

 

典子とねこにゃーの二人は、みほから指示を受けつつ十字路まで向かっていた。今回の偵察役はアヒルさんチームやアリクイさんチーム、イタチさんチームとウサギさんチームの計四輌が務めており、一番初めに会敵するであろうその十字路付近にある茂みに隠れて敵の動向を伺う予定だ。

 

「ってもう敵は配置についていたのか。軽くおちょくるか」

 

「大友先輩、おちょくるってどうす……えっ?!ちゃっかり沙希も便乗してるし」

 

大友や梓、沙希が戦車から降りて戦車の種類をみほに報告する。梓がみほに無線で報告している傍ら、大友と沙希は立ち上がって敵側の三輌の戦車(二輌のC.V.38と一輌のセモベンテM40/M41)に対して何度か石を投げつける。

二人の思いがけない行動に梓は、突っ込みを入れながら驚く。石を投げつけられた戦車から人が出て来ることもなければ、金属音が響くこともなかった。

 

「ごめんごめん。戦車乗りは頭に血がのぼりやすい奴がよくいるってこの前みほ姉貴が言ってたから。こうやっておちょくったんだけど、罠に嵌められるところだったな」

 

「罠ですか?まさか、布陣している三輌の戦車は偽物なんですか?」

 

「ああ、偽物だよ。石が当たった時に金属音が響かなかっただろ?じゃあ、やることは一つだな。桔平、機銃であの三輌に掃射しろ」

 

彼は彼女の疑問に答えつつ、アンツィオ高校が仕掛けた罠を見破るのだった。大友の指示を受けた水野が機銃掃射を戦車のハリボテに浴びせると、いともたやすく崩れ去り。周辺に木片が散らばる。

 

「アヒルさん及びアリクイさんへ。二チームが視認している戦車はデコイの可能性があります。退路を確保しつつ攻撃をお願いします。みほ姉貴、恐らく敵チームの何輌かは森林帯をショートカットするなりして姉貴達の背後を突いてくるはずです」

 

「分かったわ。フラッグ車を護衛する皆さん、周囲の警戒を強めてください。敵は機動力を活かして包囲殲滅を図るかもしれません」

 

『了解!!』

 

早くもアンツィオ側の罠に気付いたこともあり、各チームの戦車は警戒を強めることにしたのだった。偵察役に出ていたアヒルさんチーム以外の三輌は十字路の交差点で合流した後に敵のフラッグ車であるP43.terを探し出すべく。大友のE-25を先頭に十字路を北へ進んでいくのであった。

 

 

 

アンツィオ高校戦車道チーム副隊長補佐、佐谷吾朗は自身が搭乗するM16/43サハリアノを先頭に三輌のC.V.38を率いて森林帯をショートカットし、包囲殲滅を図ろうとしていた。

彼は一輌でも多く戦車を撃破したいほどうずうずしており、キューポラから身体を乗り出して上機嫌に鼻歌を歌いながら双眼鏡を片手に周囲を警戒している。

 

「どこに隠れとるんやフラッグ車君は~」

 

「ははっ。佐谷先輩いつも以上にノリノリっすね」

 

「そらそうやろペパロニ君。俺はごつい奴と戦うんが好きやからなぁ。さーて大友ちゃんとみほたんも何処に隠れとるんや。おっと噂をすれば!!」

 

同じように戦車から身体を乗り出していたペパロニと何気ない会話をしつつ一度街道へ出ると、フラッグ車のLT-38.NAを守っていたみほ達とすれ違った。

 

「今日は運がええなぁ。ペパロニ君はフラッグ車とその護衛以外の目標や!みほたんあーそーぼっ!!」

 

「了解っす!!」

 

四輌の戦車は車体の軽さを活かしてサイドターンをしてから進行方向をみほたちの方へ向けると再び勢いよく走り出す。

サハリアノとC.V.38をはじめとする四輌の戦車の方が機動力で優れており、すぐに追いつき始める。

手始めに速度が比較的に遅いポルシェティーガーとルノーB1bisを狙おうとするが、この二輌は突然急加速して追いつこうとしていた佐谷達を振り切る。

 

「なんやっ?!えらい音を立てて加速して行ったで」

 

「多分、モーター辺りをいじったんじゃないすか?」

 

佐谷がこの二輌に呆気を取られていると、ペパロニが自身の知識を振り絞って的確な一言を口にする。事実、戦車道のレギュレーションにエンジン規定は存在しているものの。

モーターに関する規定は特にないため、それに目を付けたナカジマ達レオポンさんチームと慎司によってこちらの二輌は、モーターを高性能なものに載せ替えられたのだ。

 

「レオポンさんチームの皆さんと慎司君はすごいな。どうやったら戦車にあんな改造が施せるんだろう?」

 

「西住さん。ウチの伊達君いわく長年の経験らしいわよ。私はそれよりも本当に規則違反になっていないかが心配だわ」

 

みほは今日の試合までこのことを知らなかったため、小さく微笑みながら彼女達五人に対して率直な感想を口にしている。その傍らでそど子が彼女に相槌を打ちつつ規則に関する心配をしていた。

 

「とりあえずあのサハリアノとここで片を付けます。カモさん援護をお願いできますか?あとの三チームはカメさんを護衛しつつスナイパーに気をつけてください」

 

「こちらカモさん。了解です」

 

彼女はカモさんチームと共に佐谷のサハリアノを迎え撃つべく。B1と共に一度元来た方向へⅣ号を進める。サハリアノが姿を現して真っ直ぐにみほの方へと走ってくる。

まだ相手の射程距離まで余裕があるものの、いつ左右の森林帯のどこかからもう三輌のC.V.38が現れて背後を突いてくるかわからない。

お互いに距離を詰めているうちに射程圏内に入ったのでB1が停止し、車体砲と砲塔からそれぞれ砲弾を放ち。二発ともサハリアノの履帯付近に命中した後にあんこうとカモさんの二輌の周りまで土煙が覆いつくした。

呆気なく撃破されたように見えたが、土煙が晴れて分かったのは。両方の履帯が外れた状態でも健気に走行し、B1から極めて近い距離で停止してそのまま砲撃を浴びせて撃破する。

 

「イイ音聞かせろやっ!!」

 

「そんなのありっ?!」

 

「ヒヒッ!そんなんありに決まってるやろ。ほんまクリスティー式様は偉大やな。ほなさいなら」

 

履帯が無い状態で走行するサハリアノに困惑しているそど子に対して佐谷がそう言いながら右側の林に逃げ込む。華はそれを見逃さずに射撃を行おうとするが、木々に阻まれてまともに射撃を行うことが出来ずにそのまま見失ってしまう。

 

「サハリアノは履帯が無い状態で走行できるとはいえ、このままだと戦闘が難しいはずです。恐らく相手は必ず履帯を直してから戦闘に戻ります。ここは一旦フラッグ車を守っている皆さんと合流しましょう」

 

「出来れば早期決戦にしたいものだな。また履帯が無い状態で逃げられたら面倒だ」

 

「アンツィオの狂犬の二つ名に恥じない戦いぶり……たまりません!」

 

みほ達はカメさんチームを護衛する他のチームと合流すべく。再び戦車を前進させるのだった。

 

 

 

 

護衛から外れたサメさんチームとアヒルさんチームの二輌は、三輌のC.V.38と追跡劇を繰り広げていた。C.V.38の機関砲から放たれる20mm弾を車体に少しづつ受けながらも何とか撃破されずにいた。

追跡の途中で何度か三輌の戦車に砲弾を命中させていたものの。残像だと言わんばかりにすぐに追いついてくる。

 

「あのチビ不死身だ……一体どうなっているんだ?」

 

「全くしぶとい奴だ」

 

「ここは根性で何とかするしか無いのか?」

 

「サメさんチーム及びアヒルさんチームへ。CVは車体の軽さを利用して撃破判定が出ていない戦車を立て直してきている可能性があります。なので車体後部の冷却部を狙ってください」

 

「承知した。車体後部だね」

 

「要するに根性か!」

 

みほからのアドバイスを聞いたお銀と典子は早速彼女からのアドバイス通りに行動に移った。

サメさんチームのMk.Ⅳが急停止したように見せてそのまま後退し、並走していた二輌のC.V.38の後部に攻撃すると、今度は撃破することが出来た。

 

「くそっ!弱点を突いてきやがった。ここは一旦引くぞアマレット!」

 

「つかまってください!ペパロニ姐さん!」

 

ペパロニが乗るCVの操縦手を務めるアマレットは、巧みに戦車を動かしつつ近くの傾斜を下って林に逃げ込んだ。しばらく八九式とMK.Ⅳからの砲撃が続いたものの。

なんとか全て躱しきった後に履帯を復旧させた佐谷と合流し、反撃に出るべく八九式とMK.Ⅳが通るであろう街道に向かった。

 

 

 

大友は一旦あんこうチームやカメさんチーム、ウサギさんチームなどと合流し、緩やかなカーブが続く峠道を進んでいた。

すると、今度はアンチョビが乗るフラッグ車のP43.terや彼女の弟である拓実が搭乗するP40重戦車、三輌のセモベンテM41の計五輌とすれ違った。

 

「いたぞ!フラッグ車と隊長車だっ!」

 

「(あのカバのエンブレムもしかして…)ドゥーチェ。あのⅢ号突撃砲は、私に任せてください」

 

「了解した。私は拓実と二輌のセモベンテであとの五輌を追う。カルパッチョに任せた。行くぞ、拓実!」

 

「ああ、分かった。姉ちゃんはあのポルシェティーガーを頼んだ!俺はM3Leeを仕留める。それから佐谷の兄貴やペパロニ姐さんと挟み撃ちにしよう!」

 

三突とカルパッチョが搭乗するセモベンテはそれぞれの本隊から離れると、戦車ではあるがものの、お互いの車体や砲身をぶつけ合う一対一のタイマン勝負に打って出たのだった。

その一方でみほが率いる五輌の戦車とアンチョビが率いる四輌の戦車による追跡劇が始まった。

 

「ひ、秀人!お前が今日、車長兼砲手をやるのは特別なんだからな!」

 

「秀人ちゃんが車長だなんて珍しいね」

 

「お姉ちゃんはひで君のこと応援してるよ!」

 

「まぁまぁ落ち着いてくださいよ河嶋さん。それとなんかありがとうな柚子姉。おっともう敵さんが来たか。停止!かーらーの後退!食らえ!」

 

「なるほど。今のはわざと隙を見せて撃破したのか。それに三式はもうあんなところにいたのか」

 

「そうなりますね。柚子姉、そのままアリクイさんチームに続いてくれ。あとは佐谷の兄さんに見つからないようにしないと」

 

今回は秀人がLT-38.NAの車長兼砲手を務めており、車長として砲手としての腕を発揮することになった。

彼は改修ベースとなったLT-38から大幅に強化された機動性を活かしてP43.terやP40の二輌から遠ざかり。一輌で残り二輌のセモベンテをアリクイさんチームが待ち伏せている場所へと誘導していた。

二輌のセモベンテの車長はフラッグ車であるLT-38.NAにばかり目が行き、特に罠であるとは考えずに長い斜面を下っていた。

しばらくセモベンテによる追跡劇が続いた後にLT-38.NAは斜面が平坦になりつつあった場所で急停止し、そのまま全速力で後退を始める。

一度停止した直後に後退したLT-38.NAを追い越した二輌は、車体正面をLT-38.NAに向けるべく旋回を始めるが。一輌が近くの岩陰から飛び出してきたチヌ改に撃破され、もう一輌のセモベンテもLT-38.NAにより撃破されてしまった。

因みにアリクイさんチームのチヌ改がここに待ち伏せていた理由に関しては、大友に頼まれてスナイパー役に徹していたからだった。

二輌のセモベンテを排除したカメさんチームとアリクイさんチームは佐谷といった強力な戦車に搭乗する面々に注意しながら戦車を身を隠せる場所へと前進するのであった。

 

 

 

一方みほ達とアンチョビたちは、互いに岩を盾代わりにしつつ撃ち合っていた。アンチョビ達の二輌は数的に不利とはいえど。90mm砲を持つ高火力なP43.terと大洗側の戦車に何とか太刀打ちできるP40で持ちこたえていた。

対するみほ達大洗側は、カバさんチームが護衛から外れてカルパッチョのセモベンテと交戦中であるため。

現在は、あんこうチームのⅣ号戦車やイタチさんチームのE-25、ウサギさんチームのM3Leeの三輌のみだ。

途中まで同行していたレオポンさんチームのポルシェティーガーは、EPS使用時の速さを活かしてフラッグ車であるP43.terに接近戦を挑もうとし、EPSで加速した直後に拓実のP40によって車体側面を撃たれたことで撃破されたのであった。

また、レオポンさんチームだけでなく。アヒルさんチームとサメさんチームも途中で履帯を復旧させた佐谷のサリアノやペパロニのC.V.38によって撃破されている。

なので、もう少しで佐谷やペパロニもアンチョビ達に合流しようとしつつあった。

 

「このまま佐谷の兄さんが合流してしまえば、状況はますます不利になるぞ。もうアレをやるしかないか。桔平、空砲射撃の準備をしろ」

 

「はい。島田流戦車道に応用を加えたアレですね」

 

「みほ姉貴、先日お話しした空砲での推進力と戦車の加速を交えた接近法をやってみませんか?丁度平坦な道ですし、何とかなるかと」

 

「そうだね。ここで決着をつけないと後がまずいからね。やってみようか!」

 

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします。撃てぇ!」

 

大友とみほが無線でのやり取りの後、自身の戦車の搭乗員達に指示を出すと。E-25が後退し、Ⅳ号戦車がE-25の主砲に車体後部をくっつける形で停止した直後。

空砲射撃が行われてⅣ号が押し出されようにして進み始め、戦車の加速も加わったこともあってか。レオポンさんチームがポルシェティーガーに搭載しているEPS機能で加速した時よりも速く飛び出していった。

 

「させるかっ!うぉっ?!」

 

「おい、拓実。今出たらまずいぞ!って言ってるそばからM3にやられたぁ!こうなったら装甲厚に任せて真剣勝負だっ!」

 

飛び出してきたⅣ号戦車を撃破しようと拓実のP40が前に出て照準を合わせようとするが、待ち伏せていたウサギさんチームによって撃破されてしまう。

このことで孤立無援の状態と化したアンチョビは若干自棄になり。真っ向からの勝負に出ようとするが、Ⅳ号戦車の後ろに続いていたE-25の存在に気を取られてしまい。

そのまま後ろに回り込んだⅣ号と正面での肉薄を試みたE-25に挟まれる形で撃破された。

 

『アンツィオ高校フラッグ車P43.ter及びセモベンテM41、大洗学園Ⅲ号突撃砲走行不能。よって大洗学園の勝利!!』

 

「チヨ姐さんお待たせ……って何かすごい撃破のされ方やな。取り敢えず怪我とか無い?」

 

「大丈夫だぞ吾朗。それより、帰りは一緒に乗せていってくれ」

 

「分かった。やっぱり大友ちゃんはあの子の傍に居てて正解やな」

 

大洗学園の勝利を告げるアナウンスが流れている傍ら、佐谷はアンチョビの心配をしつつ。大友とみほの関係について小さく呟いた。

 

 

 

試合終了後、アンツィオ高校により食事会が開かれていた。試合の後もあってか、お互いの健闘を称え合っていた大洗学園側の生徒とアンツィオ側生徒の仲は深まりつつあった。

そんな中で佐谷や大友、カエサル、カルパッチョは四人で集まって飲み物を片手に仲良く会話していた。

 

「やっぱり。大友ちゃんは相変わらずおもろい戦い方するなぁ。みほたんのⅣ号を蹴飛ばす勢いで空砲射撃した後にチヨ姐さんのP43をサンドイッチして撃破したもんな」

 

「兄さんにそう言ってもらえると嬉しいです。でも、みほ姉貴が居たからこそできたことなんです。もし、姉貴があの場に居なかったら少しやばかったかもです」

 

「そう言って大友副隊長はいつも謙虚な態度を取るな。まぁ、さすが西住隊長の舎弟だな」

 

「へぇ、誠也君はみほさんの舎弟だったんだ。これからもみほさんやたかちゃんと仲良くね」

 

「ああ。いつも姉貴や鈴木さんには良くしてもらっているからな。仲良くさせてもらうよ。ひなちゃんも兄さんや拓実君と仲良くな」

 

この四人が続けて談笑していると、周りの喧騒に紛れてアンチョビが優しい微笑みを見せながら大友の傍までやって来た。

佐谷は何かを思い出したかのようにカエサルとカルパッチョに一声かけると、二人を連れて他のメンバーのもとへと向かって行くのであった。

 

「ふふっ。誠也君、二人きりになれたな。こっちで話をしようか」

 

「二人きりですか。何かお話したいことでもあるんですか?」

 

彼はアンチョビの誘いを特に不審に思っておらず。気が付けば他のメンバーからかなり遠ざかり、テントの裏まで来ていた。彼女は鼻歌を歌いながら大友の手を引いて丁度そこで止まった。

 

「誠也君、みほのことはどう思っているんだ?」

 

「姉貴のことですか?ええ、俺より強くて頭がキレて。それに誰とでも優しく向き合える最高の姉貴だと思います!」

 

「そうなのか。因みに何だが。じゃあ私のことはどう思っている?」

 

「千代美さんですか?ああ、それなら。佐谷の兄さんと一緒に経験が浅かったメンバーを引っ張って準優勝に導いたすごい人だと思います。他にもノリと勢いの精神を大事にして色んな人と仲良くできるいい人だと思います」

 

大友がみほの事を言った後に、アンチョビに対して思っていたことを彼女に思いのまま語る。彼がそう語った直後、アンチョビは大友の手を引いてそのまま抱きしめる。

 

「じゃあ、私は誠也君をどう思っているのかというとだな。男の子と思えないほど可愛い見た目をしているのにそうして誰かのために身体を張って尽くせる。かっこかわいい子だと思うぞ。そのままあの子を支えてやってくれ」

 

「は、はい!千代美さん。励ましていただきありがとうございます」

 

アンチョビの行動に驚きつつも。彼女に対して感謝の言葉を口にする。噂をすればというやつだろうか、ここでみほがやって来た。

 

「誠也君、ここに居たんだ。ふふっ。やっぱり皆からモテモテだね……アンチョビさん。誠也君にはこうしてあげるのが一番なんだよ」

 

「っ?!姉貴、千代美さんの前っすよ」

 

みほは大友の右腕を抱きしめると、そのまま麗しい桜色の唇を彼の右頬に重ねてキスする。対する彼は、アンチョビの前にも関わらずこうするみほに驚くばかりである。

 

「ここには三人しかいませんし、アンチョビさんも一緒にしませんか?」

 

「えっ?!良いのかみほ……じゃあ遠慮なくさせてもらうぞ誠也君」

 

「心の準備がま……」

 

「「せーの。ちゅっ♡」」

 

「ふ、二人とも激しいですよ……」

 

「じゃあ、もう一回するね!」

 

「そうだな。これがノリと勢いすごさだ!」

 

彼はボコミュージアムの時のようにみほとアンチョビから左右の頬にキスを受けた。照れくささのあまり、そのまま失神しそうになる大友だったが。

とどめの一撃とばかりに二人に挟まれるように抱きしめられた後、もう一度左右の頬に二人の麗しい唇を受け止めるのであった。

 

 




ありがとうございました!次回は第十八話を投稿する予定です。
今回は原作より早いH型仕様への改修と空砲ブーストの登場になりました。
ご感想や評価、お気に入りへの追加などお待ちしております。


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第十八話 新たな仲間と戦力増強です!

新年あけましておめでとうございます!なんだかんだ言って元旦に投稿するのは初めてになります。
お気に入り登録件数が100件まで行きました。改めて感謝申し上げます。そして、これからもよろしくお願いします!
引き続きお楽しみください!


大洗学園の学園艦は次の試合会場である日本最北端の地に移動していた。日本最北端の地に向かっている事もあってか、目的地に近づくにつれて空は雲が多くなってきていた。

そんな中、大洗学園戦車道チームに新たな進展があった。

 

「次の対戦相手であるプラウダ高校のIS-2と互角に渡り合えるKV-122が戦力増強に加わるなんてすごいです。それに砲塔に描かれた熊のエンブレムということはクマさんチームですね!どんな人たちが搭乗するんでしょうか?」

 

「頼もしい助っ人が転校元の学校で放置されていたのをレストアして持ち込んだんだよ優花里ちゃん。おっと噂をすれば」

 

綺麗な状態で整備されたKV-122をはじめとする新しく大洗学園戦車道チームの一翼を担うことになった約六輌の戦車が戦車道履修者達の前に並んでおり。

その傍らで優花里と大友が戦車を眺めながら話をしていると、校門から三両の黒色の国産高級車が縦一列になって履修者達方へと向かってくる。

それに気付いた大友が何かを思い出したかのように静かに笑う。間もなくして三両の高級車がざわめく履修者達の前で停車すると、合わせて十五人のサングラスを掛けた少年たちが降りて来る。

 

「やぁやぁ。待っていたよ平形ちゃん。それに黒木ちゃん」

 

「改めましてお初にお目にかかります。角谷会長。九代目江城連合会総本部長兼勇彰會(ゆうしょうかい)総裁の『平形勇武(ひらかたいさむ)』と申します」

 

「同じく九代目江城連合会直系・勇彰會舎弟頭の『黒木彰(くろきあきら)』です」

 

フレンドリーに声を掛ける杏に対して平形と黒木は深く頭を下げる。それに合わせて彼らの組員達も手に膝をついて頭を下げる。

その中にいた三人の二年生と思われる少年は、そのまま大友連合会の幹部達の前まで行くと。彼らの前でサングラスを外して優しい微笑みを向ける。

水野をはじめとする組員達は、彼ら三人を視界に入れると同時に「ご苦労様です」の一言と共に手に膝を付けて頭を下げる。

 

「久しぶりだな皆。そして兄貴。少し遅くなっちまったが。皆んなもとに来ることが出来たよ」

 

「気にする事はねえよ。舎弟頭の武や舎弟頭補佐の諒介、清弘。ようやくまとまることが出来たな」

 

「そうだな。ようやく大友組が全員揃ったな」

 

「全くだ。よし、お前ら。今回の大会で戦車乗りの男子も戦車道乙女に負けず劣らずなところを見せるぞ!!」

 

『はいっ!!』

 

三人の少年……『村川武』や『山本諒介』、『我妻清弘』達が大友と再会の挨拶を交わした後に他の組員達にも声を掛けると、彼らは元気よく歓迎の言葉を口にした。

因みにこの三人が大友達と出会った経緯は。かつて通っていた中学校で所属していた男子戦車道部が廃部となったと同時に戦車を格安に買い取り。他の部員をまとめてタンカスロンチームを率いていたところ彼に出会い。

一戦を交えた後に大友の強さに惚れ込んだ三人は、彼と五分の兄弟分となったものの。他の幹部達と同じように「兄貴」と呼ぶようになったのだ。

ここで一部のチーム編成の改変と新設を以下の文章で簡潔にまとめていく。

 

E-25駆逐戦車(新・イタチさんチーム)

車長兼通信手・大友誠也

砲手・村川武

装填手・山本諒介

操縦手・我妻清弘

 

シュコダT40中戦車・75mm自動装填砲搭載型(ヤマネコさんチーム)

車長・水野桔平

砲手・塚原丈治

通信手・上田誠己

装填手・岡崎聡

操縦手・嶋健太

 

Strv m/42中戦車改良型(コヨーテさんチーム)

車長兼通信手・木村英雄

砲手・伊達正義

装填手・藤田進

操縦手・近藤慎司

 

五式軽戦車・ケホ(マーモットさんチーム)

車長兼装填手・安倍雄飛

砲手・小山秀人

通信手・本宮蓮司

操縦手・小野浩樹

 

T50-2軽戦車・S10-57mm機関砲搭載型(キツネさんチーム)

車長兼通信手・黒木彰

砲手・谷元俊平

装填手・津田信介

操縦手・瀬島康介

 

特三式内火艇・カチ(ワニさんチーム)

車長・長瀬充

通信手・松原健夫

砲手・渡部新

装填手・西村大介

操縦手・菅谷寛太

 

KV-122重戦車(クマさんチーム)

車長兼通信手・平形勇武

砲手・米原遼斗

装填手・藤間太一

操縦手・豊松悠人

 

以上六輌の戦車の搭乗員が新たに決まったのであった。

なお。上田や岡崎、伊達の三人が元々所属していたアリクイさんチームやカモさんチームに関しては、ねこにゃーとそど子をはじめとする三人のメンバーが必要な搭乗員の数を満たしていなくても。

最大人数分と同じ動きができるようになったため、新たに発見された戦車の搭乗員へと異動したのだった。

 

「そうだ。大友、私たちカメさんチームから秀人が抜けることになったが。代役は誰になるんだ?」

 

「河嶋先輩、それなら。遅れて来ると言っていたのですが……あ、来た来た。こっちだよ。王さん」

 

「すみません大友さん。記事を書くのについ夢中になってしまって。こんにちは皆さん。放送部の王大河です!皆さんの戦車道を間近に取材してみたいのと興味が湧いて参加させて貰うことになりました。よろしくお願いします!」

 

「おっ。放送部員に興味を引いて貰うとはうれしいね。王ちゃん、今度の試合でバリバリと取材しちゃってね」

 

「はい。よろこんで!」

 

大友が呼んだ最後の助っ人には、放送部の王大河がやって来た。彼女は彼やみほと同じく二年生でありながら高い文章力と編集力を活かして大洗学園や学園内の文化部を盛り上げているだけでなく。

戦車道連盟が運営するホームページのニュース編集にも関わっていたりする重要な人物だ。

そんな彼女の本業の事を考えてカメさんチームの通信手に決まったのである。

 

「そうだ。どうして勇彰會のみんなはこんな曇り空なのにサングラスなんか掛けてるの?本土ではそんなファッション流行ってるの?」

 

「え、えっとそれはその……いつもタンカスロンの試合をする時はこの格好でやるので。この方が落ち着くというかなんというか……せやろ?黒木の兄弟」

 

「角谷会長。兄貴の言う通りですわ。俺らはこの格好が性にあってるもんなんで……せやろ?お前ら」

 

『平形総裁と黒木の親父と同じく』

 

杏は何気ない一言を平形とその組員達に対して放つと、図星を突かれたとばかりに彼と黒木の顔が少し引きつる。

二人の呼び掛けに対して他の組員達も同じような調子で声を揃えて応える。

その調子の原因を解き明かすかのように、ゴモヨとパゾ美が「身だしなみ点検をやりますよ」と言いながら。硬直して額から少し汗を流す平形と黒木のサングラスを取り外す。

サングラスが外れて分かった二人の素顔は、高校二年生でありながら中学生と間違えられても仕方ないくらい幼い顔立ちであり。

どこか気まずそうにしている様子と表情が相まったせいか。一気に戦車道履修者の乙女達の視線がこの二人に注がれる。

 

「いやーんかわいい♪本当に二人とも本当に高校二年生なの?平形君と黒木君も身長が私とあまり変わんないけど、顔立ちがかわいいから全然ありかも」

 

「沙織さんの言う通りですね。二人揃ってサングラスを付けていた理由はこうなるのを分かっていたからですか?何も隠す必要がないのに。おませさんなところがかわいいですね」

 

「全く五十鈴さんの言う通りだ。どこかの誰かさんみたいでちょっと強がりなところがあるな」

 

「高校二年生にもなってかわいいとは……」

 

「ホンマに調子狂いそうですわ。兄貴……」

 

そして、以前にもあったやり取りが再び戦車倉庫の前で始まってしまった。沙織の一言を皮切りに、華と麻子も同じような感想を口にする。麻子はそう言いながら大友の顔をチラッと見る。

沙織のこの一言が二人には、かなり重い一撃だったのだろう。完全にヘコんでいた。

そんな二人に助け舟を出すかのように、離れて様子を伺っていた大友が携帯を取り出して一本の動画を沙織に見せる。

 

「二人ともこんな感じの顔だけど、やる時はやるんだよなぁ」

 

「えっ何々?やる時はやる……って。ええっ?!」

 

『おう。お前らぁ!!こんままケバブハイスクールをいわすぞ。ドッカンドッカン撃ち込めや!!』

 

『兄貴の命令や。動けるもんは俺に続けや!!』

 

彼が彼女に見せた動画に映っていたのは、今の二人のイメージとは一八十度異なったもので。タンカスロンの試合の時を映したものだろう。平形が38t軽戦車から身を乗り出しながら拡声器を使って十数輌の戦車に対して指示を出しており。

その数十メートル前では、黒木がAMC34軽戦車から同じように身を乗り出して木刀を片手に周りの戦車を引き連れて相手の戦車にとどめを刺そうとしている。

服装も今のように学校指定の制服ではなく。江城連合会の他の組員達と同じように特攻服を身に纏っていた。

 

「ギャップがすごいですね。このお二人はパンツァー・ハイといったところでしょうか。ってすみません」

 

「あんた秋山さんって言うんか?そんな気にせんでええよ。パンツァー ・ハイか。まぁ、俺らに丁度いい言葉やわ。ていうか大友の兄貴。去年俺と黒木の兄弟がケバブハイスクールとやり合った時の動画ですやんこれ」

 

「ああ。一応他の奴の戦い方を観て自分に使えそうな戦い方はないか見極める為にこうして保存してるんだよ。さすが江城連合会ナンバースリーの武闘派組織の総裁とその舎弟頭だな」

 

「大友の兄貴。おおきにやで。おかげさんで調子を取り戻すことが出来たわ」

 

「それは良かった。この辺りで立ち話は止めて早速練習を始めようぜ。みほ姉貴、今日もよろしくお願いします」

 

「そうだね。では、皆さん。今日は雪原での戦闘を想定して。迎撃や隠蔽を主眼においた訓練を始めましょう。本日もよろしくお願いします」

 

『よろしくお願いします!!』

 

こうして新しい仲間達とのやり取りを終えて今日も訓練が始まるのであった。大友と同じくタンカスロン界隈から戦車道の世界に足を踏み入れた平形と黒木達であったものの。

戦車乗りとしての経験が豊富だった彼ら二人をはじめとする勇彰會の面々は、すぐに他のチームメンバーと打ち解けることが出来たのだった。

また、新たに大友組の舎弟頭である村川や舎弟頭補佐の山本と我妻に関してはあんこうチームの華、優花里、麻子と同じ役割を持つ者同士ということもあってか。この日の内に他のチームメンバーはもちろん。特に彼女達三人と距離が縮まりつつあった。

 

 

 

 

西住流は、日本国の戦車道における最古の流派にして日本の戦車道には必要不可欠な存在だ。

さて、そんな流派の師範かつ病床に臥す現家元に代わって家元代行を務める西住しほは、自身の娘であるみほが戦車道を続けていた事に対する不満をまほに対して語りかけていた。

 

「まほ。あなたはみほが戦車道を続けていた事は知ってたの?」

 

「……はい」

 

「西住の名を背負いながら勝手なことばかりして……これ以上生き恥を晒すことは許さないわ。『撃てば必中、守りは固く。進む姿は乱れはなし。鉄の掟、鋼の心』……それが西住流。まほ」

 

「私はお母様と同じく。西住流そのものです……っ!でも、みほは」

 

「もういいわ。準決勝は私も見に行く……あの子に勘当を言い渡すためにね。それと、今もみほの傍にいる大友誠也君だったかしら?彼の強がりもいつまで続くことやら」

 

しほが静かな怒りの次に語ったのは、西住流の六つの信条であった。六つの信条を語った後にまほの名を静かに呼ぶと、彼女は内心で母の考えに疑念を抱きながらも賛同の言葉を口にする。

その直後しほはその場から立ち上がり。彼女自身がみほに対する怒りや不満が頂点に達している証拠ともいえる一言と大友に対して思っていることを言い放つと同時に部屋から去って行った。

 

 

 

この日の晩、大友はみほと共に対プラウダ戦の作戦を打ち合わせた後に彼女の家でくつろいでいた。学園艦が最北端に近づきつつあるためか。

もう五月の下旬といった時期であるにも関わらず。二人は部屋の窓から雪が積もりそうな勢いで降り注いでいる光景をずっと眺めていた。

 

「そろそろ夏なのにこの辺りは真冬並みに寒いね。去年、継続高校と練習試合をした場所が雪だらけだったのを思い出すなぁ」

 

「そうなんですか。今思えば、今日はもっと着込んでこれば良かったですよ。帰りに使う車もエンジンを十分温めた後に暖房を効かせまくらないと」

 

「その必要はないよ」

 

「あれ?何で部屋の照明を消すんですか……って。ええっ?!」

 

降り続ける雪を眺めながら大友が彼女の話を聞きながら自身の帰りのことを心配していると、突然みほは含み笑いをしつつそう言いながら机の上に置いてあった照明リモコンで部屋の明かりを消し。

一緒にベッドに座っていた彼を押し倒してそのまま抱きつく。それに対して大友は、いつも以上にスキンシップが激しい彼女の調子に動揺を隠せなかった。

 

「どうせ明日私たちは二時間目からスタートだし。今日は久しぶりに朝まで一緒に居てくれないかな?こういう寒い日は二人で身体を寄せ合って温め合うのが一番なんだよ」

 

「泊まって欲しいということですか?それなら車のトランクに毛布と枕を積んでるんで。取りに行ってもいいすか?」

 

「待って。一つ聞くけど。誠也君って私の舎弟だからお願い事を聞いてくれたりするかな?」

 

「お願い事ですか。何ですか?」

 

「お願い事はね……今日も二人で一緒のベッドに入って欲しいの!」

 

「まじすか?俺なんかで良かったらその……どうぞ」

 

「ふふっ。ありがとう。じゃあ、もう一つのお願い事を聞いてくれるかな?」

 

「はい。何ですか?」

 

一緒の布団に入って欲しいという頼みに大友は少し戸惑うものの、大事な彼女の為を想ってみほの頼みごとを承諾するが。

彼女はこれ以外にも頼み事があったのだろう。彼に再び頼み事をしようとするが。

 

「………すぅ」

 

「みほ姉貴……っあれ?寝てる」

 

寝ぼけるあまりこのようなスキンシップに及んだのだろう。以前のように大友を抱き枕にする形で眠りついてしまったのだった。

 

「……今までのみほ姉貴の気持ちに気付かなくてすみません。プラウダ戦いや、決勝が終わったらみほ姉貴に告白しよう。俺はみほ姉貴のことが大好きです」

 

ここで今まで鈍感だった自分が愚かに感じたのか。この晩、みほに対する感情を友達以上恋人未満から恋愛対象へと切り替えたのだった。

それでもウブでシャイな彼は抱きしめ返すことなく。そのまま眠りに就くのだった。

 




ご覧いただきありがとうございました!
次回は第十九話の投稿を予定しています。
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江城連合会直系・勇彰會
総裁・平形勇武
舎弟頭・黒木彰(黒木組組長)
舎弟頭補佐・長瀬充(長瀬会会長)
大洗学園に転校してきた他の組員達は、傘下の黒木組と長瀬会の組員達である。



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第十九話 激突、プラウダ戦です!

ご覧いただきありがとうございます。今回は少し長めです。引き続きお楽しみください!


五月の下旬であるにも関わらず。大洗学園対プラウダ高校の試合会場は一面銀世界であった。その銀世界に溶け込むべく。全チームの戦車はスノーカモフラージュが施されていた。また、ラジエーターへの不凍液の注入や戦車道連盟公認の冬季用履帯への取り換えも行っていた。

戦車道は戦車という名の兵器の一種を使用する競技であるものの、決して戦争ではない。

とはいえ、こんな極寒の中で長期戦になった場合。食料が無い状態で空腹にでもなってしまえば、心理的ストレスが溜まるだけでは無く。虚無感や不安といったものに駆られやすくなるのだ。

念には念を入れよと言うべきであろう。その長期戦の可能性を見越して大量の使い捨てカイロや缶詰、飲み物などを積み込んでいた。

 

「ついに準決勝ですね。それにしてももっといい場所とか無かったもんですかねぇ」

 

「確かに寒いけど。私は季節外れの雪も良いと思うな。だって皆楽しそうだし」

 

大友とみほが試合会場に関する会話をしている傍ら、他のチームメンバーは季節外れな雪の前に童心に帰ってはしゃいでいた。

カバさんチームやサメさんチーム、アリクイさんチームに関してはもはや工芸品レベルという具合の雪だるまを作り上げていたり。大友組メンバーと勇彰會のメンバーが二つに分かれて雪合戦をしていたり。

平形がアヒルさんチームメンバーやレオポンさんチームのメンバーとバレーボールを楽しんでいる他、黒木に至ってはウサギさんチームのメンバーと杏に懐かれたのだろう。一人一人におんぶを要求されては交代でおぶっているの繰り返しであった。

チームメンバー同士がじゃれ合っていると、メンバーの前に一輌のBM-13が停止する。そこから降りて来たのは、プラウダ高校の戦車道チームの隊長であるカチューシャと副隊長のノンナそして、副隊長補佐の獅堂義孝だった。

 

「隊長のカチューシャさんに副隊長のノンナさん。あと一人は……」

 

「プラウダ高校の戦車道チームの副隊長補佐を務める獅堂義孝だ。それにもう一つの顔があって。江城連合会若頭補佐兼直系・白鳳会(はくほうかい)会長も務めているぞ」

 

「そうなんですね。あっ勇彰會の皆さんや大友殿の子分さん達が獅堂殿に挨拶していますね」

 

『獅堂会長。ご苦労様です』

 

「皆、出迎えありがとう。こんにちは大友さん」

 

「よう。義孝、今日は久しぶりに撃ち合えるな」

 

「ええ。今度は軽戦車だけでなく。色んな戦車で撃ち合えますね。とは言っても俺達白鳳会が搭乗するのは、LTTB軽戦車と……もう一輌は秘密ですけどね」

 

「あらセイヤスキー。このカチューシャともう一度戦えるなんて光栄と思いなさいよ」

 

大友と獅堂が今日の試合のことに関して話していると、カチューシャは堂々とした面持ちで大友に話しかける。

 

「お久しぶりですね。カチューシャさん。今日はよろしくお願いします!ノンナさんもお久しぶりです」

 

「Privet.誠也君。寒い中ありがとうございます」

 

大友がカチューシャ達と会話していると、杏が黒木と桃を連れて彼女達の前までやって来た。

 

「やぁやぁカチューシャ。生徒会長の角谷だ」

 

「……ノンナ」

 

カチューシャがノンナの名前を口にすると、ノンナはカチューシャをそのまま肩車する。それから杏も対抗馬とばかりに黒木に肩車をしてもらう。

 

「まぁまぁ。試合前くらいやんわりと行こうよ。ね?」

 

「なっ……しょうがないわね。よろしく」

 

彼と彼女が合わさった高さで肩車をしたカチューシャとほぼ一緒の高さになった。これを見た彼女は大人しく勘弁して杏と握手を交わす。

それからカチューシャやノンナ、獅堂が自チームの場所へと戻ろとした瞬間。カチューシャはみほと目が合った。

 

「あなたは西住流の。去年は……」

 

「カチューシャさん。それを言うのは……」

 

「おっと。カチューシャとしたことが。今日はよろしくねピロシキ~。タカーシャも行くわよ」

 

「はい。皆さん、それでは失礼します」

 

その瞬間。彼女はみほに対して何かを言おうとしたが。獅堂が彼女が言おうとした一言に対して忠告を行うと、カチューシャは素直に納得した様子を見せる。

彼はみほ達に向かって律義に頭を下げると、カチューシャとノンナの後を追い始める。

 

「あの男の子。隣にいたノンナって人とほぼ同じ身長だし、あの三人が揃っているところをみると本当の親子みたい」

 

「冷静沈着でクールな感じがしますけど、いざとなったら熱血漢になりそうな人ですね」

 

「そこの二人!親子みたいって何よ!まぁ、タカーシャの性格は冷静沈着なだけでなく。カチューシャと同じようにシベリア並みに心が広かったりするんだから」

 

沙織と華が三人と獅堂について語っていると、ノンナの肩に乗るカチューシャが「親子みたい」の一言に突っ込むと同時に彼の性格について述べた後、自身の性格を自画自賛するような言葉を投げかけながら去って行った。

 

 

 

 

大洗学園戦車道チームは、三手に分かれて前進していた。右手の森からはカメさんチーム、サメさんチーム、カモさんチーム、ウサギさんチーム、アリクイさんチームの約五輌が向かい。(これをカメさん中隊)

左手の森からはイタチさんチーム、コヨーテさんチーム、キツネさんチーム、ヤマネコさんチーム、マーモットさんチームの五輌が向かうこととなり。(これをイタチさん中隊とする)

中央部からはあんこうチーム、カバさんチーム、レオポンさんチーム、クマさんチームといった比較的高火力な戦車がフラッグ車を務めるアヒルさんチームの八九式中戦車を守りながら前進していた。(これをあんこう中隊とする)

最初にあんこう中隊が四輌のT-34/76と遭遇及び交戦した後三輌を撃破し、逃げ出した残り一輌の後を追っていた。

しばらく追っているうちにフラッグ車ともう三輌のT-34/76が稜線で待ち構えてるのがあんこう中隊の目に入った。

 

「西住隊長、このまま突撃も良いと思うのだが」

 

「そうです。時代は我々に味方しています!根性と気合で行きませんか?」

 

「突撃ならレオポンに任せて〜この寒さだったらEPSをいつもより長く使っても問題なさそうだし」

 

「いいえ、おそらく敵は先程の三輌を敢えて撃破させた上、フラッグ車を使って私達を誘い込む魂胆だと思います。それに、この先には小さめの町があったはずです」

 

「確かに。西住さん予想は間違ってないはずや。敢えてここは耐えがたきを耐えて防御の姿勢を取るべきやと俺は思いますわ」

 

カエサルや典子、ナカジマが早期決着をみほに提言するが、彼女は慎重に対応した。このみほの予想は間違っているものではなかった。

仮にプラウダ高校側がみほ達を誘い込むことに成功した場合は、稜線を越えた先にある町で包囲殲滅を図るか町の中にある教会逃げ込んだ時は降伏勧告を行い。相手が音を上げるまで待つという心理戦まで持ち込むつもりだった。

しかし、ここで隊長であるみほが冷静な判断を下したことと平形の敢えて防御に徹するという提言が加わったことで舞い上がろうとしていた三人は二人の意見に共感し、逸る気持ちを抑え込んで防御に徹することにしたのだった。

 

「西住ちゃん。こっちは今、デカいくせにすばしっこいのと撃ち合っているから早めに旗車を仕留めてくれたら嬉しいかな」

 

「一応積み重なった倒木や稜線をちょっとした陣地代わりにしているから持ちこたえられそうなのですが、このままだと強行突破されそうな勢いです」

 

「分かりました。こっちもフラッグ車を早く仕留めるように動いてみます。それまで持ちこたえてください」

 

カメさん中隊は既にデカいくせにすばしっこい戦車……獅堂が率いる三輌のLTTB軽戦車と交戦に入っていたのであった。

彼が率いる戦車は、三対五という数的に不利な状況ながら五輌の戦車相手に引くことなく。搭乗員達の練度の高さを限界まで活かしつつ少数精鋭かつ練度重視の編成でカメさん中隊と交戦していたのだった。

 

 

 

プラウダ高校の戦車道チーム副隊長補佐・獅堂義孝は、江城連合会きっての実力派であり。彼自身が数的に不利な立場に置かれても少数精鋭的な部隊運用を活かして数々の戦いを潜り抜けてきた戦いの猛者であり、次期会長候補の一人として名が挙がっている。

そんな彼は今日も愛車のLTTBで砲弾が飛び交う戦場を駆け抜けていた。

 

「小隊長、相手のLT-38.NAにはかなり手強い相手が乗っています。このままだと数で押し込まれてしまいます。それに会長以外の二輌は観測装置と履帯をやられているので、早期決着が望ましいです」

 

「そうだな。今回は今までより分が悪い。敵の隊長車と平形本部長が守るフラッグ車中隊は予想に反して防御を固める姿勢に入った。それに加えてもう一つの森林帯から突破を試みようとする大友さんの中隊も防御の構えを取ったそうだ。これは膠着確定だな」

 

彼はもう一輌のLTTBに搭乗する隊員と言葉を交わしながらカメさん中隊の五輌を突破させないようにけん制射撃を行っていた。

すると、隊長であるカチューシャの幼気かつ愛らしい声が車内に響き渡って来た。

 

「タカーシャ。相手は予想外の動きに出たわ!このまま一旦撤収しなさい。勿論、町へ続く街道上にはもう一輌の”頼れる同志”を配置しておきなさいよ!」

 

「分かりました。少し様子を見てから撤収します」

 

カチューシャと交信を終えた獅堂はカメさん中隊による攻撃が止んだのを確認すると、そのままカチューシャがいる町の方へと撤収するのであった。

 

 

 

 

大洗学園戦車道チームは、戦車の車内で身を寄せ合うか温かい飲み物や食べ物を食べながら寒さをしのいでいた。しかし、こうしていても状況に変化はないため。町の方へ偵察を出すことにしたのであった。

偵察役には、副隊長である大友が名乗り出てて一人で町の方へと向かって行ったのだった。

 

「こちら大友、敵の配置位置を報告します。フラッグ車の護衛にはIS-2とKV-2といった高火力な戦車がついています。また、建物の陰に隠れるようにT-34シリーズが狙撃の配置についているほか、義孝が率いるLTTB部隊が右側の森林帯方面に向かって出発しました。各々の戦車の搭乗員達は戦車の外に出てボルシチを食べてるか焚火で身体を温めています。それでは少し偵察を続けた後に戻ります」

 

「ありがとう。大体敵の配置が分かったから作戦が考えやすくなったわ。気を付けて戻って来てね」

 

彼はみほとの通話を終えると、そのまま双眼鏡で町の方を眺めていた。すると、一輌のT-34-85が目に留まり。その方向に双眼鏡を大きく拡大すると、昼寝をするカチューシャの寝顔が目に入った。

 

「カチューシャさん。日課の昼寝中なのか……やるときはイケイケ寄りの頭脳派なのにこうしてみると癒しになるなぁ。あれ、さっきまで居たノンナさんはどこだろう?」

 

「私ならここですよ……」

 

思わず大友は見とれてしまい。独り言を呟きながらノンナの名前も口にすると、どこか母性を感じさせるような優しい声が彼の耳に入る。それもかなりの近距離で。

 

「あっ…ひゃうっ?!」

 

「ふふっ捕まえましたよ♡私は一年前からずっと寂しかったのですよ」

 

彼は咄嗟に回避行動を取ろうとしたのだが。ノンナに優しく抱きしめられ、今にも彼女のパンツァージャケットからはみ出そうな豊胸が彼の顔に当たる。

対するノンナは母性的な笑みを浮かべながら優しく頭を撫でる。

 

「……ノンナさん。ごめんなさい」

 

「どうしましたか?その表情だと何か訳がありそうですね」

 

しかし、対する大友のどこか罪悪感がある表情に気付いたのか。彼を離すと、トンビ座りをして彼の話を聞くことにした。

 

「俺はノンナさんやカチューシャさん、それに他校の皆さんに可愛いがってもらえる事は嬉しく思います。でも、俺。みほ姉貴という大好きな人が出来たんです!」

 

「あら……」

 

「皆さんの気持ちを踏みにじるような気がするので。この際だから言っておきます。本当に申し訳ございません!!」

 

大友はみほだけでなく。他校の戦車道乙女からの好意に気付いていたものの。今までどうすれば良いか分からないかった自分が情けなかったのか。

ノンナという自分に好意を抱いている一人の女性に対して謝罪の言葉を口にするが。

彼女は、怒ることなく。もう一度彼の頭を優しくなでる。

 

「誠也君。気にする事はありませんよ。恋というものは複雑なものですから。それにあの子の舎弟さんならそのまま恋仲になっても良いと思います。私が君と会う前から、君はあの子の側にいるのだから。引き続きみほさんという一人の女性を大好きで居続けるべきなのですよ。それに私以外の皆さんもそう思うはず」

 

「……ありがとうございます。おかげで何だか気が楽になりました」

 

ノンナは彼のこの悩みを真摯に聞き入れ。彼女なりの大友に対するアドバイスを行い。彼女との関係の進展を望む姿勢を見せた。

対する彼はノンナという尊敬する人物の一人からの言葉が心情にしみたのか。右目から少し涙が出る。

 

「ふふっ。誠也君の役に立ててよかったです。さあ。吹雪が止みましたし、お互い元の場所へ帰りましょう」

 

「そうですね。お互いのベストを尽くしましょう」

 

「誠也君」

 

「はい?んっ……」

 

塔を出ようとした途端、再びノンナから声を掛けられた大友が彼女の方を向くと、額に大好きな人からよくされる行為と同じ優しい感触が走る。

 

「最後だから。これだけは受け止めて欲しかった。Досвидания.」

 

「До свидания.ノンナさん」

 

ノンナは大友を抱つつ額にキスすると、そう言いながら彼とは真逆の方向を歩いてゆくのであった。

対する大友はノンナと同じくロシア語で別れを告げると仲間のもとへ帰るのであった。

 

 

 

彼はそのまましばらく走った後に町の外でカモフラージュを施して彼の帰りを待っていたE-25に乗り込むのであった。

 

「兄貴、ちょっと遅くなかったか?なんかトラブって無かったりしなかったのか」

 

「いいや。ちょっと町で迷子になりかけた。それじゃあ清弘、そのまま森で待っている桔平達に合流してくれ」

 

「ああ。さて、みほさんの作戦はどんな感じに仕上がりそうかな?」

 

「この辺りは守りが薄そうだから一気にかちこむのもいいんじゃねぇか兄貴?俺の装填の速さと村川の兄貴の射撃能力が合わさればイチコロだと思うんだけど」

 

「確かにありだが、厄介なことにT-34シリーズが狙撃役についている。何か相手の意表を突くようなやり方があればいいんだけどな」

 

大友と三人の兄弟分は相手の意表を突くような打開策を考えていたが、中々打開策が浮かんでこない。考え事に耽っている間に森林帯で防衛体制に入っていた中隊の四輌と合流する。

 

「偵察ご苦労様です。親分、敵さんの様子はどうでしたか?」

 

「かなり守りを固めていた。こっちの戦車とほぼ互角だとはいえ、守勢に立たれたらこっち側が溶け切ってしまう。丁度相手の意表を突くような策が無いか三人と考えていたところだ」

 

「あの。大友の兄貴、俺ら勇彰會内黒木組がたまにタンカスロンでやってる”アレ”を試してみたいんやけど」

 

「ん?アレ……彰、ナイスアイディアだな!ということは積んできているのか?」

 

黒木が彼に対してある打開策を提案すると、大友は納得した表情で頷いた。

黒木が嬉々とした表情で自身の戦車の車内に戻ったかと思えば、スピーカーとコンポを取り出したのであった。

 

「もうすぐ空が晴れるし。あとは時間帯的にも夕方やから。夕日を背景に雪原を走るプラウダさん達の所に突入するのはどうや」

 

「ははっ。黒木の兄貴、キルゴア中佐の霊にでも取り憑かれたんですか?」

 

嬉々とした表情でコンポとスピーカーを両手に持つ彼に対して木村が笑いながら突っ込みを入れる。それに合わせて他の幹部達も声に出して笑っている。

 

「そんなわけないやん。大友の兄貴、ただ突撃するだけやったら意味あらへんから状況によって突入するんはどないや?」

 

「そうだな。みほ姉貴の援護に入る形で突入するのが望ましいな。というわけでみほ姉貴風に作戦名を名付けるなら……『やばいのきた作戦』だなっ!お前ら。気合入れて行けよ!!」

 

『『はいっ!!』』

 

こうして大友が率いるイタチさん中隊は独自の作戦を立案した。それから士気を高めると、組員達は各々の戦車に乗り込んで隊長であるみほの指示を待つことにしたのであった。

 

 

 

 

双方が膠着してから四十分近く経過しようとしていた頃。プラウダ高校戦車道チーム隊長、カチューシャが自身の日課である昼寝から覚めた後に再び大洗とプラウダでの撃ち合いが始まったのであった。

杏が率いるカメさん中隊も偵察を出していた。偵察を出したところ、中央部の町へ続く丘の谷間の道がちょっとした雪で埋もれており。榴弾を使って雪を除ければ通行可能になる可能性が高く。

カメさん中隊は、そこを通って町に隠れているであろうフラッグ車を撃破するつもりでいた。

 

「さっきのすばしっこいやつは居なくなったねぇ。そのまま周囲を警戒しながら行こうか」

 

「このまま一気に叩いて西住隊長と大友副隊長にもいいところを見せましょう会長」

 

「そうだねぇ。西住ちゃんと大友ちゃんに頼ってばっかりだし。たまにはいいところも見せないとね」

 

杏と梓が話しながら街道を悠々と進んでいると、雪に埋もれた谷間の道が見えてきた。カメさん中隊の戦車は雪に向けて一斉に榴弾を発射した。

五輌分の戦車の榴弾が撃ち込まれたためか。雪は爆発と共に崩れ去り、雪煙が周囲を覆いつくした。

 

「会長、このまま一気に行きましょう。先行は私達カモさんに任せてください」

 

「いいねぇ。皆もそど子に続いて行こう!」

 

周囲を覆いつくしていた雪煙が晴れつつあったため、カモさんチームを先頭に谷間の道を進もうとするのだが。直後、B1bisが耳をつんざくような砲声と共に撃破されたのであった。

雪煙が完全に晴れきって分かったのは、垂直な装甲と巨体を持つ自走砲……SU-100Yがゆっくりと前進してカメさん中隊の前に現れたのであった。

 

「くらえ。カモさんの仇っ!」

 

サメさんチームのMK.ⅣがSU100-Yに照準を合わせて撃破しようとしたものの。その後ろからやって来たLTTBに撃破されてしまう。

ウサギさんチームが75mm砲でSU-100Yを撃破した次に側面を見せた一輌のLTTBを37mm砲を使って至近距離で撃破したものの、他のLTTBに撃破された。

それからカメさんチームとアリクイさんチームも二輌のLTTBに損傷を与えるなど健闘したが。機動力で勝る三輌によって撃破された。

 

「カメさん中隊の皆さん。怪我はありませんか?」

 

「みんな大丈夫だよ。ごめんね西住ちゃん。二輌しか撃破出来なかった上、面倒なのが三輌そっちに行っちゃったから気を付けてね」

 

「分かりました。ありがとうございます。誠也君、イタチさん中隊を率いてあんこう中隊に合流して。このままみんなでまとまって町でかたをつけるのはどう?」

 

「姉貴、あと五分でそっちに着きます。今姉貴達あんこう中隊と交戦している六輌を側面から叩きますんでもう少し待っていてください」

 

みほは杏達カメさんチームの心配をすると同時に大友達に合流を呼びかける。

彼は、カメさん中隊が獅堂が率いる中隊と交戦を開始した辺りから動き始めたのだろう。あと五分で彼女と合流しようとしていたのであった。

 

「大友の兄貴、夕日が見えたで。へへっ、丁度あの映画みたいに太陽を背にする形になってるわ」

 

「タイミングが良いな……お前ら。かちこみの準備だ。彰、そのまま音楽を鳴らせっ!!」

 

大友の指示を受けた黒木がコンポのスイッチを入れると、そこからワルキューレの騎行が大音量で流れ始める。

因みに史実における湾岸戦争でアメリカ軍の戦車隊が士気を上げるためにかの『地獄の黙示録』よろしくこの音楽を流したことがあったそうだ。

五輌という数であるものの、それを再現するかのように雪煙が豪快に舞う。イタチさん中隊の士気が限界まで上がりきったところで六輌の敵戦車が目に入ったと同時に行進間射撃を開始する。

スピーカーから管弦楽器の音色と戦女神の声が雪原に響き渡り。五輌がそれに合わせて軽快な動きで六輌を翻弄し始める。

 

「すごい……ワルキューレの騎行のメロディーに合わせるようにして六輌もの戦車を撃破するなんて」

 

「そうですわ。敵もやばいくらい混乱していますわね。あのm/42の動きからして操縦手には慎司君が……」

 

「ふふっ。タンカスロン出身の戦車乗りの男の子は奇想天外な戦い方をするから目を離せないわ。それにあの子も相変わらず身を顧みない戦い方をするわね」

 

一方、観戦席から少し離れた場所でオレンジペコやローズヒップ、ダージリンが紅茶を片手に彼らの戦い方に感心している様子を見せていた。

彼女達三人だけでなく。他の観客たちもこの戦い方にずっと目を張り付けていた。

 

「みほ姉貴、このまま俺についてきてください。二人でフラッグ車が隠れている場所へ向かいましょう。ここは防御に適している。他の皆にフラッグのアヒルさんチームを守らせて俺と一緒にフラッグ車を仕留めましょう」

 

「分かったわ。カバさん、他の皆さんと共に防衛線を構築して防御に徹してください。あんこうとイタチさんチームでフラッグ車を仕留めに向かいます」

 

「心得た。マルタ騎士団が三万のオスマン軍を撃破したようにやってみせよう!」

 

みほは大友と共にフラッグ車を仕留めに行くべく。指揮権の一部をカバさんチームに委譲し、二輌で町の方へと向かって行くのであった。

 

「油断は出来ません。物陰には特に注意してください。相手はあのカチューシャさんとノンナさんです。あの二人がタッグを組んで掛かって来た時ほど恐ろしい瞬間はない」

 

「そうね。地吹雪のカチューシャとブリザードのノンナという二つ名があるもんね。けど、私と誠也君が一緒になれば怖いものなんてないじゃない」

 

「姉貴……そうですね。二人いや、あんこうとイタチチームの皆が一緒ならあの二人に対する勝算は高いものだと今気づきました。おっと、噂をすれば現れましたね」

 

大友とみほが話しながら町へ近づいていると、二輌の戦車が二人の視界に入った。隊長車のT-34-85とIS-2だった。この二輌は町の入り口の前で鎮座しており。

彼と彼女を待ち構えていたかのようにゆっくりと前進し、少し前の地面に榴弾を撃ち込んで大量の雪煙を作る。

 

「みほ姉貴、この二輌は俺に任せてください。貴女は東側の入り口から入ってKV-2を警戒しつつフラッグ車を仕留めてください。心配はいりません。俺を信じて」

 

「それでいいの……誠也君を信じるわ。だから、撃破されないでね」

 

「ええ。可能な限りやってみます」

 

みほは大友の言葉を信じて大量の雪煙が町の周囲を覆いつくす中、東側の入り口から町へ入ったのであった。やがて雪煙が晴れて分かったのは、T-34-85とIS-2が最高速度で大友のE-25へ迫ろうとしていたのだった。

 

「やっぱり隊長車が居ないわっ!ノンナ。セイヤスキーをピロシキの中のお惣菜にする勢いで仕留めるわよ」

 

「はい。お任せください」

 

カチューシャとノンナが搭乗する戦車には優秀な搭乗員が乗っているのだろう。かなり精度の高い行進間射撃を行いつつ大友のE-25の装甲を掠めているが、一向に撃破出来ずにいた。

対する彼も何度かT-34とIS-2に砲撃を浴びせるが、巧妙な動きに加えて強力な装甲に阻まれていくばかりだ。

 

「こうなったらT-34に突っ込むフリをしてわざと分厚いところに突っ込むしかねぇよな。兄弟」

 

「ああ。IS-2だって正面装甲の下にゼロ距離で砲撃を浴びせれば撃破できんことも無いからな」

 

「今ならオートローダーに成れんこともないぞ兄貴」

 

「じゃあやるしかねぇよな。掴まってくれ、兄貴!!」

 

大友は自棄になったふりをすることにし、彼のE-25はT-34-85の方へ真っ直ぐと走り出した。無論、被弾してはならないので大きく蛇行運転をしながら接近を試みる。

我妻の操縦技術が微妙に優れていたのだろう。確実にT-34-85まで迫りつつあった。いよいよT-34-85の至近距離に迫ったところでIS-2がその前に割って入る。

 

「よし。今だっ!そのまま車体下部にくっつけ。撃てぇ!そしてそのまま時計回りで後退からのT-34に砲撃!」

 

E-25はIS-2のほぼゼロ距離で停止した後に砲撃を車体下部装甲に浴びせて撃破する。

それから時計回りに後退して態勢を整えてからT-34-85にも砲撃を浴びせて撃破したと同時に大洗学園が勝利したことを告げるアナウンスが会場内に鳴り響いた。

 

 

 

 

試合終了後。大洗学園戦車道チームの待機場では和気藹々とした空気が流れており、お互いの健闘を称え合っていた。そんな中。カチューシャやノンナ、獅堂がみほのもとを訪れていた。

 

「上手く包囲するつもりだったけどそれを見事に交わした挙句、防衛線を構築してセイヤスキーと一緒に私達のところに殴り込んで来るなんて大したものね」

 

「いいえ。正直KV-2にも苦戦しましたし、フラッグ車のT-34/76も思った以上の抵抗を示したので。どうなるかと思いましたよ」

 

「ミホーシャ………言っとくけどまだ戦いは終わって無いのよ。決勝戦は必ず見に行くから。カチューシャをがっかりさせないでよ!」

 

「はい!」

 

カチューシャとみほも互いの健闘を称え合った後、握手を交わした。

 

「お聞きしたいのですが。LT-38.NAに乗っていた方はどちらにいらっしゃいますか。みほさん」

 

「それならこっちにいる角谷会長とその四人です」

 

「ありがとうございます。あなた達がLT-38.NAに乗っていたのですね。あの砲撃お見事なものでした。それに装填速度の速さと操縦技術も素晴らしいものでした。俺が率いる白鳳会を代表して申し上げますが、ウチの組員達もあなたたちの健闘を称えていました。また今度一緒に戦える機会があればよろしくお願いします」

 

「そんな大したことないよ。また機会があったらよろしくね獅堂ちゃん」

 

獅堂は今回の試合で大変に満足したのだろう。杏や桃、柚子の健闘を称えると、彼女達三人とも握手を交わすのであった。その傍らで大河がこの四人の姿をカメラに収めている。

 

「セイヤスキー。あなたミホーシャの舎弟なんだったらこれからも支えてあげなさいよ!」

 

「ええ。ありがとうございます。はい、精進します!お二人との戦いもとても楽しかったです!」

 

カチューシャから励ましの言葉を掛けられた大友は彼女と握手を交わすと、その次にノンナとも握手を交わした。

こうして遂に下克上達成まであと一歩という土壇場に足を踏み入れようとしている大洗学園戦車道チームであった。

 




ご覧いただきありがとうございました。次回は第二十話を投稿する予定です!
今回は大友に対して何故か母性が目覚めたノンナさんの登場でした()
お気に入りへの登録や評価、ご感想などお待ちしております。


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第二十話 それぞれの日常です!

ご覧いただきありがとうございます!今回は黒森峰戦前の日常回です。引き続きお楽しみください!


決勝戦の相手である黒森峰女学園との試合を控えた大洗学園戦車道チーム一行は、来るべき決戦に備えて鍛錬に励みつつ。高校生らしく青春を謳歌していた。

大友がみほやダージリンをはじめとする他校の戦車道乙女達から愛でまわされるように近い感じで。

大友連合会や勇彰會に所属する戦車道男子は大洗学園の戦車道乙女達といわゆる友達以上恋人未満という仲にまで進展していたのであった。

さて、そんな彼ら彼女らの日常風景を覗いてみよう。

 

「はぁはぁ。鈴木先輩、前より一段と装填が速くなってますね……もうそろそろ先輩にも速さで抜かれるかもしれねぇな」

 

「安倍君にそう言って貰えると嬉しいよ。安倍君はどうして装填手をやり始めようと思ったんだ?」

 

「俺はタンカスロンで使う戦車で車長兼装填手の設計が施された戦車に乗ることがよくあったんで。それで装填手の役割に愛着があるんです」

 

「そうなのか。車長兼装填手といえば。ひなちゃんもそうだったな……」

 

「おーい二人とも。この辺りで晩ご飯にしないか?」

 

「すまないな。エルヴィン、おりょう、左衛門佐。さぁ、安倍君。四人で晩ご飯にしよう」

 

「はい。ありがたくいただきます」

 

安倍とカエサルは、役割が一緒ということもあってか。気が合うことも多く。こうして放課後は彼女のシェアハウスで一緒に装填の自主トレーニングをしていたりするのだ。

 

「妙子ちゃん。弟を愛する者同盟は最強ねっ!」

 

「そうですね。小山先輩!今日学校のお風呂は誰も居なさそうですし……このまま混浴とかどうですか?」

 

「妙子ちゃん。それなら任せて。このために副会長になったようなものだから」

 

「「しょ、職権濫用だぁ……」」

 

「二人ともまたそんな事言って。もう決まったんだから今日は逃がさないよ。分かった?」

 

「妙子姉まじで。本気と書いてまじで言ってんの?もうすぐ十六歳だぜ。もうアレで最後って言ったじゃん」

 

「そう言ってすぐお姉ちゃんに反抗して。昔はもっと可愛かったのに……こうしてやる。んーちゅっ」

 

「やめ…ろ…」

 

「あーあ。慎司が早々にのぼせちまった。こりゃダメだな……」

 

小山柚子と近藤妙子の弟に対する“好き“はどこかズレており。恋人に対するそれとほぼ同じ意味を持っていた。

弟である秀人と慎司は姉を大事に思っているものの。ズレた感情を持った彼女らに少々苦労していた。

二人は今日もそれぞれの姉に為す術なく捕まってしまい。今まさに学園内の大浴場に連れて行かれようとしていたのであった。

 

「さぁさぁ。今宵も…」

 

「みんなで…」

 

「アリクイさんチーム特別メニューを始めるももっ!」

 

「さぁ。ねこにゃー先輩、ぴよたん先輩、ももがー殿。いつもの練習場へ出発ですぞ」

 

「ちょっと待ちな。力を思う存分使い放題ならこのアタシ。サルガッソーのムラカミも混ぜな」

 

「待っていましたよ!ムラカミ先輩」

 

「おぉ。ムラカミさん……共にみほさんや大友君みたいに強くなりましょうぞ!」

 

「ねこにゃーや他のみんなにも思う存分アタシの本気を見せつけてやる。目に焼き付けな……じゃあ行こうじゃないの」

 

『おーっ!!』

 

アリクイさんチームの三人と今はヤマネコさんチームに移った岡崎と上田は、聖グロリアーナ女学院との練習試合前から筋トレに励んでおり。この五人が気付いた頃には、自他共に認める運動オタクと化していたのであった。

いつもは五人で筋トレなどをしていたものの、今回からサメさんチームのムラカミも五人に混ざって一緒に自主トレーニングに励むのであった。

 

「あーあ暇だな。何する?夜は戦車を走らせると履帯の音で他の人に迷惑になっちまうからなぁ……」

 

「カシラ、それだったら今から黒木の叔父貴を誘って単車で学園艦外周一周レースやりませんか?あの辺りは家も建ってないし。あと、この時間帯なら車は通らねえし、信号も機能してねえので」

 

「おう。いいなそれ。じゃあ、車庫から俺達の単車を引っ張り出してレースだな」

 

「はいっ!あれ?こんな時間に誰だろう。ってウサギさんチームのみんなとアヒルさんチームのあけびちゃんだ。よく見たら紗希ちゃんは居ませんけど」

 

「せっかく来たんだ。入れてあげよう」

 

「こんばんは水野君。よかったら私達六人と一緒に今から映画を見ない?お菓子とかDVDを持って来たから」

 

「いいねぇ。じゃあ。上がってくれよ皆んな。ところで紗希ちゃんは。それにウチの英雄は見てねぇか?」

 

「紗希ちゃんは黒木先輩と……ね?それに木村君は忍ちゃんやキャプテン、平形先輩と戦車倉庫に残っていたよ」

 

「そうか。黒木の叔父貴って人が良すぎる人だからなぁ……それに英雄と平形本部長は忍ちゃんや磯部先輩となんか意気投合してたしな。それより、梓ちゃん達やあけびちゃん。俺たち大友連合会の六人で観ようか」

 

「わーいっ!ダブルデートならぬシックスデートだぁ!」

 

「ははっ。桂利奈ちゃん。それはちょっと言い過ぎじゃねえか?」

 

大友連合会若頭の水野や幹部の嶋、塚原、小野、瀬島、藤田の計六人は組事務所で暇を持て余してしており。

嶋の何気ない一言で六人は、事務所の車庫へ向かい。自身が所有するオートバイを出そうとするが、そこに紗希を除くウサギさんチームの五人とアヒルさんチームのあけび達がやって来たのだ。

それから彼女達六人は、大友連合会の事務所に居た水野達と合わせて十二人で映画を見始めるのであった。

 

「え。私のお父さんと黒木先輩は似ているからずっとこうしていたい気分やて?もう夜の七時やからベンチでぼーっとしやんと一緒に飯行かんか。何かおごったるで?紗希ちゃん(ホンマに不思議な子やな。何も喋らんでも何を伝えたいんか、なんとなく分かるわ)」

 

「……ありがとうございます。おそばときんつばが食べたいです」

 

「ほな行こか。どうしたん?」

 

「……おんぶしてください」

 

「ええよ。乗り乗り」

 

勇彰會舎弟頭の黒木は、ウサギさんチームの紗希に懐かれており。その理由は、彼女の父親の性格とよく似ているからだそうだ。

今日も二人で学園艦の外側にあるベンチに腰を下ろして夕焼けを眺めていたのだった。

 

「学園艦の底に食べ物が美味い店があったなんて。毎日ここで晩ご飯をご馳走になろうかな。大洗のヨハネスブルクと呼ばれたこの辺も良くなって来たし。たむろってた子達がちゃんと皆んなと仲良くし始めてからこの辺は賑やかになったねぇ」

 

「会長が大友組や勇彰會、そど子の風紀委員会と協力して諸問題を解決してくれたおかげで深層部が明るい場所になれました。ありがとうございます!」

 

「でも。河嶋さんがお銀さん達をはじめとする学園艦底に居た一人一人に気を使ってくれなかったら問題解決は難しかったかもしれません」

 

「桃さん。そど子さんの言う通りですよ。ウチらは望んでもいないのに親に無理矢理入学させられた身。けど、桃さんがそんなアタシ達に気を使ってくれたのと。桃さんが姉貴分のように慕う角谷の会長さんが問題解決に前向きになってくれたおかげで他の連中は改心する出来たのさ。ほら、噂をすれば他の奴らやどん底の三人、風紀委員の二人だって戦車乗りの男たちと仲良くなってるじゃないか」

 

「ありがとうね。この調子で明後日は絶対に勝とうね……」

 

杏は桃やそど子、お銀らと共に。以前は殺風景であったものの、今は明るくなった学園艦底について語り合っていた。

その明るい雰囲気を物語るかのように、伊達や長瀬といった戦車道男子達がゴモヨとパゾ美、どん底メンバーのほか。船舶科の生徒達と仲良くしている。

そんな賑やかな光景の中で杏は勝利への決意を胸に抱くのであった。

 

「これなら私達あんこうと武君のイタチさんチームの二輌だけでも十分重戦車とタイマンできそうですか?」

 

「華さん例えが物騒だなぁ。でも、砲手らしくて良いと思うし。俺自体あんたみたいな強い女性は好きだぜ」

 

「参ったよ優花里ちゃん。装填の速さと知識はあんたが上だよ。隊長車の装填手に相応しいな」

 

「ありがとうございます。山本殿も並の戦車乗りより優れていますから。お互いこの調子をキープしましょう!」

 

「兄貴や英雄もびっくりするくらいの操縦テクニックだなぁ。学年主席は何処の学校でもすげぇや」

 

「勉強はとにかく。こうやって身体で覚えないと意味がないからな。でも、我妻君も中々すごいと思うぞ。男子戦車道部時代から戦車に乗っているだけある。それにさすが誠也君の兄弟分だ」

 

あんこうチームの華や優花里、麻子はイタチさんチームの村川や山本、我妻らと共に密かに特訓していた。

彼女らと彼らはお互いの腕を讃え合いながら進めていたこともあってか。特にあんこうチームの三人はそこそこ実力がある戦車乗りより優れつつあったのだ。

 

「勇武君はどうして戦車乗りになろうと思ったの?」

 

「まぁ、中学に入りたての時に黒木の兄弟と一緒に死にかけの戦車をノリでレストアして知り合いの戦車乗りの親分さんと一緒にタンカスロンに参加してから戦車の楽しさを知ったんや。じゃあ、典子ちゃんは何でバレーが好きなん?」

 

「それは、自分を限界と根性を知るためかな。でも、何かきっかけを作ることって大事だね」

 

「木村君とレオポンさんチームのナカジマ先輩達には、本当に頭が上がらないな。特に木村君、いつもありがとう」

 

「どういたしまして。俺も忍ちゃんの役に立て嬉しいよ。それにナカジマさん達には色々驚かされっぱなしだよ。ははっ」

 

「木村君も戦車でドリフトを決めちゃうのに。そう畏まらなくていいじゃん。今晩も戦車でドリフトしますか」

 

平形と典子は、ポルシェティーガーで華麗な操縦テクニックを披露する木村や忍、ナカジマを始めとするレオポンさんチームのメンバー達を眺めながらそれぞれ戦車道とバレーを始めるきっかけについて語り合っていた。

戦車の車内でも木村や忍、ナカジマが役割を交代し合いながら特訓に勤しんでいた。

こうして、戦車道と青春の双方に精を出している男子と乙女達の日常は刻一刻と過ぎていくのであった。

 

 

 

各々がそれぞれの日常を送っている中、ついに決勝戦の前夜となった日の晩。大友とみほは同じベッドで眠りにつこうとしていた。

 

「みほ姉貴。今日も同じベッドで寝るんすか?」

 

「いいでしょ?私達二人きりなんだから」

 

「参りました。じゃあ、ご一緒させてもらいます(もしかしたらチャンスかもしれない)」

 

彼はいたずらな笑みを浮かべる彼女に降参し、彼女が手招きするベッドへと入るのであった。

大友がみほの待つベッドへ入ると、待っていましたとばかりに彼女は彼を抱きしめる。

 

「私のかわいい舎弟の誠也君。おやすみなさい。明日は頑張ろうね」

 

「ええ。必ず逸見さんを元に戻しましょう。それとみほ姉貴に助けられた小梅ちゃん達は多分、みほ姉貴と会えるのを楽しみにしているはずです。貴女がさらに成長した姿をまほさんや代行にも見てもらいましょう。そして、この学園艦を守って見せましょう。ってみほ姉貴、どうかしましたか?」

 

「そうだね。誠也君いつもありがとう。今思えばあの事故の後、誠也君に一番助けられたなぁ。お母さんから色んなことを言われても私を庇ってくれて改めて本当にありがとう。だからね、私の気持ち。受け止めて………誠也君、大好きだよ。世界で一番愛してるよ!」

 

ベッドに入ってからも起きていた二人は、明日の決勝への思いを胸に豹変した友を元に戻すことと学園を守る意志を再確認した。

みほは、涙目になったものの。大友に対して今までの感謝を語った後、自身の想いを彼に打ち明けた。

それから今までとは違って今度は左右の頬でなく。彼の唇に少し力強くキスした。

 

「んっ?!……みほ姉貴、本当に貴女は強いお方だ。こちらこそ俺の事をここまで思ってくださりありがとうございます。それにすごく今更でごめんなさい。俺もみほ姉貴の事が大好きで愛しています!」

 

「ふふっ。誠也君ならいつかそう言ってくれると思ってたよ。私ね今、すごく嬉しいよ」

 

大友は彼女を抱きしめ返した後、そのまま頭を優しく撫でる。対するみほも彼が自分の事を愛しているという事実に喜んでいる。

 

「じゃあ、もう遅くなりそうだから。今度こそおやすみ。本当に愛してる」

 

「おやすみなさい。俺もみほ姉貴の事を世界で一番愛しています」

 

二人は静かに軽く抱きしめ合うと、一分も経たないうちに深い眠りについた。

こうしていよいよ、みほと大友による下克上は最終局面を迎えつつあったのだ。

 




ありがとうございました!今回でラブコメタグを回収できたと思います!(←多分その前から回収してると思う)
今回は大友とみぽりんだけでなく。他のオリキャラと原作キャラの絡みも書いた日常回でした。
次回は第二十一話を投稿する予定です。次回は少し長編にする予定ですので。前編・後編もしくは、前編・中編・後編に分けると思います。
最後になりますが。お気に入りへの登録や評価、ご感想などお待ちしております!




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第二十一話 下克上達成、黒森峰戦です! 前編

ご覧いただきありがとうございます!今回も捏造設定がもりもりの他、小梅ちゃんの過去が完全オリジナルです。
引き続きお楽しみください!


大洗学園戦車道チーム一行は様々な強豪校との試合を勝ち進み、ついに決勝戦の地へとたどり着いた。試合前に行われる定期点検を終え、試合が始まるまで間。

大友とみほは、相手戦車のスペックが記されたクリップボードを片手に作戦を打ち合わせていた。今までは同数で試合に出ていたものの。今回は相手の方が四輌ほど多い二十輌対十六輌での勝負になる。

それでもなお、この二人が練った秘策によって最後まで奇想天外な戦いが繰り広げられようとしていた。

 

「さて、ついに来ちゃいましたね。手の抜かりがないこの編成……まさに鉄壁ですね。みほ姉貴」

 

「堅固な装甲を持つドイツ戦車を中心にした編成に比べてこっちは汎用性が高い戦車が多かったりするから。持久戦に持ち込めば何とかできるかも」

 

「それだけじゃありませんよ。みほ姉貴による奇想天外な作戦がありますからね」

 

「ふふっ。じゃあ、誠也君というかっこかわいい副隊長さんが本番でその作戦に応用を加えてくれるということも忘れているよ!」

 

「いや、そんな。でも俺は貴女の舎弟として役に立てて嬉しく思います。今日は限界突破する勢いで頑張りましょう!」

 

「ふふっ。ごきげんよう。みほさん、完敗致しましたわ。でも清々しく感じますわ」

 

みほと大友が励まし合いながら両手を繋いでいると、聞き覚えのある声が二人の耳に入る。

その方向に目を向けると、どこか納得したような表情でダージリンがみほにそう語りかける。

 

「ふぇっ?!ダージリンさんにオレンジペコさん……」

 

「こんにちは。いつの間に立っていたんですか?」

 

「誠也君とみほさんが手を繋いだ時からよ」

 

「みほさんに誠也さん。別に隠さなくて良いと思いますよ。男女の友情ほど尊いものはありませんから。あら、言い忘れていました。決勝進出おめでとうございます」

 

「「ご丁寧にありがとうございます」」

 

「貴女方はあれから毎試合、予想を覆す戦い方をして来た。今度はどんな戦い方をするのか楽しみにしているわ。それにそこのかっこかわいい舎弟さんにも期待しているわ」

 

「ありがとうございます。一生懸命頑張らせていただきます」

 

「ええ。ダージリンさんや皆さんの期待に応えれるよう頑張ります!」

 

「みほ、誠也!またエキサイティングでクレイジーな戦いを期待しているからねっ!ファイト、グッドラック!」

 

「「ありがとうございますっ!!」」

 

ダージリンとオレンジペコが観客席へ戻ろうとしたとき、ケイがアリサとナオミを連れてジープで乗り付けて来た。

二人の前で停車すると、ケイが勢いよく車から飛び降りるなりそう言いながら爽やかな表情で右手の親指を立てる。

これだけを言いに来たのだろう。大友とみほに手を振りながら再び車でその場を去っていくのであった。

続けるようにしてカチューシャとノンナが二人のもとへやって来た。

 

「ミホーシャ、セイヤスキー。このカチューシャ様とノンナも見に来たわよ。黒森峰なんかバグラチオン並みにボコボコにしちゃってね!」

 

「は、はい。頑張ります!」

 

「はい。任せてください!」

 

「до свидания Пусть на вечные времена будете счастливые(さようなら。二人が末永く幸せでありますように)」

 

「さようなら。ノンナさん」

 

その次にアンチョビが弟の拓実や佐谷の三人を伴って二人の前までやって来た。彼女はまだ寝ぼけていたのだろう。乗って来た車から降りると同じ調子でそのままみほに軽く抱きつく。

 

「むにゃあ……みほ。今日は頑張るんだぞ」

 

「ア、アンチョビさん。大丈夫ですか?」

 

「あっすみません。姉ちゃん。みほさんが心配しているぞ」

 

「大友ちゃん。ちょっとこっち来てくれや」

 

「はい、何ですか?」

 

みほと拓実が彼女の心配をしている傍ら。佐谷は大友の肩を抱き寄せると同時にそのまま三人から離れていった。それから彼の耳元で周りに聞こえないように小さく語りかけた。

 

「なぁ、自分。あの子には姉貴と言うよりも一人の女として惚れてるんやろ?」

 

「……ええ。昨日の夜にその考えになりました。正直俺はみほ姉貴を愛しています」

 

「そうか。それでええ。口でも素直に言うてるし、今お前が握ったその拳もそう言うてる。でも男が一旦拳を握ったらその筋を通さなあかん。だからずっと傍におるべきなんやで大友ちゃん。最後になるけど今日の試合頑張れや」

 

大友は彼の唐突な一言にすぐ答えが出なかったものの。自身のみほに対する想いを佐谷に対して素直に告げると、彼は納得した表情で頷きながら大友に励ましの言葉を掛ける。

 

「ありがとうございます。必ずみほ姉貴を幸せにしてみます」

 

「お前のその覚悟と今日の試合見届けさせてもらうで。ほな。チヨ姐さんそろそろ目覚ましてくれや」

 

「ふぁぁ……誠也君arrivederci.今日は頑張れ~」

 

「はい。頑張らせてもらいます!」

 

佐谷は彼なりの覚悟に感心したのだろう。満足な笑みを浮かべつつそう言いながらまだ寝ぼけているアンチョビを連れてその場を後にした。

 

「二人とも不思議ね。戦った相手みんなと仲良くなったりするんだから」

 

「それは、皆さんが素敵な人達だからです」

 

「俺もみほ姉貴と同じです。ここまで来てみんなと出会えて良かった」

 

「あなた達にイギリスのことわざを二つ送るわ。四本足の馬でさえ躓く……強さも勝利も永遠じゃないわ。それに愛は、育てなくてはならない花のようなものだ。これからの貴方達はそうあるべきなのよ」

 

「はい。覚えておきます!」

 

「愛が育てるべき花か……」

 

ダージリンは二人に対してイギリスのことわざを送った。彼女が二人に対して送ったことわざは今の二人の関係の進展性を予見したかのようなものだった。

こうした盟友たちとのやり取りを経た後に二人は試合に臨むのであった。

 

 

 

 

黒森峰女学園は、第二次世界大戦期の戦車技術の進歩を彩ってきたといっても過言ではない重厚な装甲と精度の高い攻撃性を重視したドイツ戦車を使用していることもあってか人数の多さも大洗学園と比べてかなり多かった。

それだけではない。黒森峰女学園戦車道チームのメンバーの半数は西住流の門下生であることから。西住流の『撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し』の信条を基にした戦術を得意とする。

だが、それに対してみほと大友は下克上を挑むのであった。

 

「両チーム。隊長及び副隊長は前へ」

 

蝶野の指示と共に大洗側からみほと大友が前に出る。黒森峰側からは隊長のまほとエリカが前に出た。まほは冷静沈着な表情を崩さずにいたが。

エリカに至ってはみほと大友の前に立った瞬間。複雑そうな表情を浮かべた後に不敵な笑みを交えつつどこか納得した表情でこう語りかけた。

 

「久しぶりね。二人とも……まぁ、あんた達ならここまで来ると思っていたわ。良かったわねみほ。あなたには誠也という名の最強の武器があったのだから。まぁ、勝利を手にするのはあたし達なんだから覚悟なさい……」

 

「逸見さん。それなら俺達にだってみほ姉貴やみんなと共に強豪校に対する下克上という目標があるんだ。そう簡単に勝利は握らせねえよ」

 

「さすがね。前も言ったけど私はあんたとこの子を超えるために戦車道を今日まで続けて来たの。だから私もそれだけは譲れないわ……」

 

大友とエリカは互いに違った思いであれど勝利という名の共通した目標があったのだ。この二人はそれを静かに語り合う。

 

「勝利に対する思いは二人とも同じね。本日の審判長、蝶野亜美です。よろしくお願いします。両校挨拶っ!!」

 

「………(みほ、全力で来い)」

 

「(お姉ちゃん全力で行かせてもらうわ)……よろしくお願いします」

 

『『よろしくお願いします』』

 

「では、試合開始地点に移動。お互いの健闘を祈るわ」

 

まほとみほは、口に出さないものの心の中で通じ合っているかのようだった。みほが蝶野の指示を受けてそれぞれの試合開始地点へ向かおうとすると、再びエリカがみほと大友を呼び止める。

 

「みほ、誠也。もう後戻りはできないわね。今更だけど……あんた達とはもう一度一緒にやりたかった。だけど……今日限りあんた達とはもう仲間なんかじゃない。最後に言わせてもらうわ。私はみほ、誠也。あんた達というはねっ返りを西住流という王道のもとで叩き潰させてもらうわっ!!」

 

「だったら能書きは垂れねえで実際にやり合おうじゃねえか。逸見さん。俺はよ今のあんたの一言で久々に熱が入っちまったんでな」

 

「………精々頑張りなさい」

 

エリカは歯に衣着せぬ言葉で二人に対してそう言いつつも表には出さない本当の感情が溢れそうで溢れないでいた。

大友はそれに気付いたのだろう。若干戸惑ったもののこの挑発的ともとれる一言に対して敢えて乗る。彼女も彼の真意に気づいたのか、静かにそう言うとどこか寂しそうに二人のもとを去って行った。

 

「………(ごめんねエリカさん。一人で抱え込ませるようなことになっちゃって)」

 

「みほ姉貴」

 

「せ、誠也君っ?!」

 

そんなエリカの後姿を見たみほは、転校決定直後以来の罪悪感を思い出したのだろう。彼女は少し俯いてしまうのだが。

大友がみほに声を掛けたと同時に彼女の手を引いてそのまま優しく抱きしめた後にみほの両手を握る。彼女は人目の多い場所で唐突にそうした彼の行動に驚く。

 

「みほ姉貴、昨日の晩に俺と一緒に約束したこと覚えてます?その約束の通り今日の試合を通して必ずあの子を元に戻すと同時に下克上を達成しましょう。ただ勝つだけじゃない。守りたいものを守りつつ新しい道を切り拓くというみほ姉貴の戦車道という目標を共に成し遂げましょう!」

 

「誠也君……ありがとう。そうだね。一緒に頑張ろう!」

 

「待ってください!二人とも」

 

「あっ小梅ちゃんに他の皆も……元気そうで良かった!」

 

その場を去ろうとした二人を黒森峰女学園のみほ派の一人である赤星小梅が呼び止めた。

彼女は二人を視界に入れた瞬間に嬉しさが圧倒的に勝ったのだろう。つぶらな瞳から涙が少しばかり出ていた。

小梅の後をついてきた三名ほどの女子生徒達もかなり嬉しそうな表情でみほを見つめている。対するみほも素直に再会の嬉しさに入り浸っていた。

 

「みほさん……あの時はありがとう。あの後、みほさんが居なくなってずっと気になっていたんです。私達が迷惑をかけちゃったから。でも、あなたが戦車道を辞めなくてよかった!」

 

「小梅ちゃん。私は辞めないよ。守りたいものがそこにあるから」

 

「良かった……本当に良かった」

 

小梅は、一年前の大会中に起きた事故でみほに助けられたことに対する感謝の言葉を伝えると同時に彼女が戦車道に復帰したことを喜んでいた。

みほも元の可憐な花のような笑顔を取り戻した彼女を見て改めて安心と喜びに浸るのである。

 

「誠也君も”あの事件”の時はみほさんや私達を守ってくれてありがとう。一つ聞きたいことがあるんだけど。あの頃精神的な原因で一時的に目が見えなくなっていた私の傍に居てくれた男の子の名前を知らないかな?関西弁でとても優しい声をした子だったんだけど……」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。悪いな小梅ちゃん。その男から名前だけは言わないでくれと頼まれているんだ。でもヒントを言うとすれば『他人に絶対迷惑をかけることなく誰よりも自由に生きる』を座右の銘にした男だったよ。その内巡り会えるといいな」

 

「そうなんだ……でも。いつか巡り会えたらいいな」

 

「俺もそう思うよ」

 

小梅が言う”あの事件”とは、第六十二回戦車道大会決勝戦における転落事故の後の黒森峰女学園戦車道チーム内で起きた内乱の事である。

責任を取るようにして副隊長を辞めたみほの後継者を巡るだけでなく隊長の乗っ取りを画策した事件だ。

『堂島一派』というチーム内の派閥の長だった『堂島宗子』が自身の腹心の部下の一人である『渋澤啓都』を副隊長に添え、既に隊長であったまほを引きずり降ろして自身が隊長の座に就こうとしたのだった。

彼女らのやり方は尋常では無く。小梅をはじめとするみほ派の人間たちを標的に次々と精神的に追い詰めたりして地位を確立させようとしたのだが。

因果応報と言うべきだろう。堂島は、みほ派救援の大義名分を持った大友やある少年たちによって阻まれたうえチーム内での権威が失墜しただけでなく。今年に入ってから主力である一軍に名を連ねることなく鬱屈とした学園生活を送ることになったのであった。

 

「みんなありがとう。今日はお互い頑張ろうね!」

 

「はい!みほさん。誠也君。今日はお互いの全力をぶつけ合いましょう!」

 

「ああ。受けて立つぜ小梅ちゃん!」

 

「みぽりん、誠也君!」

 

「さぁ、二人とも。そろそろ行きましょう!」

 

「沙織ちゃん、華さん。今行くよ!みほ姉貴。行きましょう。俺達が居るべき場所へ」

 

「そうだね。行こうか」

 

みほと大友は、小梅と握手を交わした後。沙織と華の呼びかけに応じてチームメンバーが待つ場所……今の二人にとって居なくてはならない場所へ二人で手を繋いで向かって行くのであった。

 

 

 

 

試合が開始された後に二つに分けられたチームがみほの指示を受けて行動を開始していた。

一つは大洗学園戦車道チームの合計十六輌ある内、杏達カメさんチームのヘッツァーに率いられたキツネさんチームやマーモットさんチーム、ワニさんチームの三輌(この四輌をカメさん選抜隊とする)が別行動を取っていた。

もう一つが残りの十二輌がまとまった総本隊であり。副隊長の大友による指揮で隊長車とフラッグ車の両方を務めるあんこうチームを守りつつ陣地を構築する予定である大きな丘へと向かっていたのだ。

 

「いやぁ~黒森峰は森の中からショートカットして西住ちゃん達を袋叩きにしようとしたみたいだけどあの子達に全部躱されたみたいだよ。それにそろそろあの子達が来るかもね」

 

「せやけど。相変わらず敵さんは火力と分厚い装甲に物言わしてうちらのこと潰そうとしてるみたいですわ。俺らは取りあえずこうして茂みに隠れて相手の最後尾に嫌がらせするっていう役割がありますからね」

 

「それから撃った後は逃げたふりをして油断しきった敵にもう一回嫌がらせをするという算段ですが。その後は角谷会長の指揮下になりますので。会長をサポートしますから任せてください」

 

「戦車道男子のカワイ子ちゃんにそう言ってもらえるとなんか照れちゃうな。おっとそう言っている間に西住ちゃんと君たちの親分さんたちが来たよ!」

 

杏は黒木や安倍の二人と会話しつつ三輌の戦車で茂みの中に隠れていた。なお、カメさんチームが以前改修したLT-38をさらに高火力なヘッツァーへと改修したのはこの日の為と後々の大洗学園の戦車道チームの支えにする為であった。

その決断が今、正しいということがこれから証明されようとしていた。手始めにみほ達の後を追っていた十八輌の中で最後尾を走行していた三輌対してカメさんチームやキツネさんチーム、マーモットさんチームの三輌が砲撃を浴びせて履帯を切断する。

それに続けて杏達の挑発に乗った他の二輌のパンターの内一輌はキツネさんチームとマーモットさんチームに履帯を切断されたうえにカメさんチームによって撃破された。

 

「会長、敵さんはめちゃくちゃ怒ってますわ。この辺にして出直しませんか?」

 

「黒木の叔父貴の言う通りです。この際ですからクロ公の偵察を狩るのも良いと思います」

 

「そうだねぇ。という訳で一旦撤収!!」

 

仕返しとばかりに榴弾を茂みの方に撃ち込んでくる一輌のヤークトパンターを尻目に三輌は次の行動へと移るべくその場を走り去って行くのだった。

 

「あのおチビさん達、後で覚えていなさいよ!」

 

「エミちゃん落ち着いて。取り敢えず丘の敵を撃破しないと。冷静に」

 

小梅は茂みの方に隠れていた三輌に対して怒鳴り散らしている級友、小島エミを落ち着かせようと優しく声を掛けている。

履帯を切断または撃破されなかった残りの十三輌は、丘に榴弾を撃ち込んだことによって発生した土煙に隠れるようにして丘の頂上へと向かっていた。

フラッグ車のティーガーⅠに搭乗するまほが煙が晴れた後に視認したのは、大友が率いるイタチさんチームのE-25をはじめとする計八輌の戦車(E-25・Strv m/42・ポルシェティーガー・三式中戦車チヌ改・KV-122・MK.Ⅳ・B1bis・シュコダT-40)だった。

 

「敵はそこそこ火力が高い戦車にここの防衛を任せて先程の煙に乗じてフラッグ車をはじめとする四輌が逃げたみたいだ。防御を固めつつ前進せよ。それに敵のシュコダT-40は、88mm砲ではなく。75mm自動装填砲のようだ。注意が必要な存在であることを留意せよ。ヤークトティーガーは前へ」

 

まほは、他のメンバーに指示を出しつつ周囲の警戒を強めるのであった。無論、彼女は先程取り逃がした三輌の戦車に対して周りより警戒を強めるのだった。

設計ベースとなったティーガーⅡの堅固な装甲を併せ持つヤークトティーガーが盾がわりにと言わんばかりに威圧しながら姿を現した。

これは大洗学園、黒森峰女学園の双方が所有する戦車の中で一番か二番目くらいに攻撃力が高い戦車だ。

 

「よし、撃破することが可能な戦車は今のうちに撃破するぞ。総員に通達、『もっとゆっくりしてけや作戦』です!」

 

『了解っ!!』

 

大友は、みほが今まで付けて来た作戦名を模倣した作戦の開始を無線で合図する。

他の戦車に搭乗するメンバーは彼の指示を受けたと同時に隊列を組んで前進してきている戦車の履帯に狙いを定めてそのまま視認している戦車の履帯を切断する。

またはそのまま撃破する。ヤークトティーガーの搭乗員達は装甲に物を言わせてそのまま突っ込もうとしたのだろう。

履帯を切断されるか撃破されている仲間の存在に気付いた時には、ヤークトティーガーの両方の履帯は全て切断されていしまい。

両方の履帯が切断された場所はかなりの勾配であった為に車体はゆっくりと坂道を下るという形になり。

徐々に側面を晒していく。間もなくして右側面を晒しきったヤークトティーガーは対面していた大洗学園側の計八輌から一斉射撃を受けた後にそのまま横転し、戦闘不能になってしまったのだ。

 

「みんなよくやった!そのまま防御を固めるぞっ!!」

 

『すみません!私達ウサギさんチームはエンジントラブルによって走行不能の可能性があります。他の四輌はフラッグ車を守りつつ先に行ってください!!』

 

大友が次の指示を出そうとした瞬間、無線機から梓の涙声が聞こえて来た。さっきまでノリノリだった八輌の戦車の搭乗員達は異常事態と即座に理解した。

 

『いいえ。仲間を置いていくなんて出来ません。あきらめないで。最後まで希望を持ってください!四輌ではウサギさんチームの皆さんを引っ張って行くのは難しそうです。誰か援護に来れそうな方は居ませんか?』

 

「なぁ。桔平、行ってやれ。俺がみほ姉貴のそばに居るみたいにお前が梓ちゃん達のもとへ行ってやれ」

 

「ですが。俺が抜けたら……」

 

「へへっ。心配すんな。お前の一輌が抜けてもお銀姐さんやナカジマさん、猫田さん、勇武、英雄、園先輩そして俺が上手くやるからよ。下手に今迷ってるうちにクロ公に撃破されたらどうすんだよ。それにお前は大友組の若頭だ。俺が居なくても長男のお前がしっかりやって行かなきゃ意味ねえだろ。だから行ってやれ。さぁ、早く!」

 

「親分……この恩は一生忘れません!梓ちゃん、今行くから辛抱してくれっ!!」

 

『ありがとう……水野君っ!』

 

水野は、梓に対して好意を持っていることもあってか。その梓達ウサギさんチームの危機という場面と防衛線維持の二択を迫られていた。

だが、幼少期からタンカスロンそしてこの戦車道に至るまで共に過ごしてきた大友のあっさりとした言葉によって彼は自分がすべき選択を選び。梓のもとへと走り出すのであった。

 

「………(俺が乗っているこいつなら梓ちゃん達のM3Leeを引っ張ってやれんこともない。だが、もう少し力があればどうにか)」

 

「水野君。なんも一人で抱えることはないで。俺らもあの子らのもとへ向かおうとしてたところや。一緒に行こうや」

 

「水野のカシラ。カシラ一人で向かわせるわけには行かないぜ。大友連合会若頭補佐の安倍雄飛も忘れないでくれよ」

 

「黒木の叔父貴に雄飛まで……恩に着るぜ二人ともっ!!」

 

梓達が立ち往生している川まであと少しというところで黒木のキツネさんチームと安倍のマーモットさんチームが彼に合流してきた。

水野は、二人に感謝の言葉を掛けた後も最高速度でT-40を走らせている内に川の真ん中で停止している五輌に合流したのであった。

 

「遅くなってすまん。さぁ、俺の戦車とM3を連結しようか」

 

「ありがとう……本当にありがとう……っ!!」

 

水野と彼が率いるヤマネコさんの面々がウサギさんチームやみほと協力しながら連結するためのワイヤーを固定し始めるのと同時に不穏な影が現れた。

 

「みほさん……あの時よりはマシだ。恨まないでくださ……なんだこいつっ?!」

 

「お前、感動の場面を台無しにすんなや!それとついにやって来たわに!戦車道の公式試合に!!(なんか勢い余って余計な一言付け足してしもうたわこれ……)」

 

川のほとりの茂みで一輌のⅢ号戦車がⅣ号戦車に照準を合わせよとしていた。このⅢ号戦車の車長もみほのかつての友だったのだろう。

車長は申し訳なさそうにそう言いながら攻撃の指示を出そうとするが、川の流れに乗ってやって来たワニの偽装用風船を装備した特三式内火艇が現れるなりⅢ号戦車をほぼゼロ距離で撃破してそのまま近くの林の中に姿を消したのだった。

なお、この特三式内火艇に搭乗するのは勇彰會舎弟頭補佐の長瀬充をはじめとするワニさんチームの一行だった。

 

「さぁ、行くぜ。ウサギさんチームのみんなっ!健太、アクセルペダルを最高まで踏め!」

 

「了解!気合い入れていきます!!」

 

ヤマネコさんチームのT-40をはじめとする計七輌の戦車がウサギさんチームのM3Leeに助力を加えるためにけん引していると、元の力強いエンジン音が響き渡った後に再び健気に走り出したのであった。

それからまたしばらく走っている内に一本の古びた石製の橋の前で大友達とも合流した。

 

「みほ姉貴、ワニさんチームを除いて全員揃いましたね。こちらの被害はゼロ。それに敵の状況は残存数十六輌と同数に持ち込むことが出来ました。現在、フラッグ車と他三輌の戦車を除くほとんどの履帯を切断したか撃破したため。当分敵さんは我々に追いつけない感じになります」

 

「そうなんだ。みんなご苦労様っ!!この調子で最後まで気を引き締めて頑張りましょう!」

 

『おーっ!!』

 

決勝戦という土壇場である中でも、和気藹々とした空気が流れている大洗学園戦車道チームだった。

この時、ちょっとした気休めに敵側の偵察からも見つかりにくい場所に隠れて戦車の外に出ていた大洗学園戦車道チームの一行のうち。ウサギさんチームのリーダーかつ車長である梓は、堪えきれなかった涙を流して水野に抱きついていた。

 

「水野君…………私、怖かった。怖かったよ……うぅ」

 

「梓ちゃんやウサギさんチームの皆が無事で良かった。戦いはこれからだ。でも、今度はお互いを守り合いながら一緒に戦おう」

 

「うぅ……二人とも尊いよ」

 

対する彼は参ったとばかりに彼女の頭を撫でながらそう言っている。その光景を見ていた沙織はもらい泣きしてしまったのだろう。

彼女もまたそう言いながらハンカチを片手に涙を流している。

だが、しかし。緊迫した空気の中で流れているこの癒しの空気をもとの緊迫した空気が戻ろうとしていた。

 

『こちらワニさんチーム、みほさん。聞こえますか?』

 

「はい、聞こえます。どうかしましたか?」

 

『それがですね。けったいな奴が市街地の中にある団地の中をうろついてたんですわ……大戦末期にドイツ国防軍が試作した超重戦車・マウスです。こないバケモンと正面からかち合ったら一溜りもありませんわ』

 

「そ、そんな?!マウスなんて戦車が乗りそうなくらい大きい戦車だよみぽりん!」

 

「確かに乗りそう……あっ。そうだ!ありがとう沙織さん」

 

西住流の鉄の掟の全てを体現しているといっても過言ではない超重戦車マウス。だが、沙織の何気ない一言によってみほの頭脳に電撃が走ったのである。

 

「みほ姉貴、やることは俺達戦車道男子に任せてくださいっ!」

 

「………ええ。誠也君がそう言うなら」

 

こうして再び現れた脅威、超重戦車マウスというバケモノを討ち取るべく。

大友をはじめとする戦車道男子達は戦車道乙女たちに指一本触れさせてたまるかといわんばかりに奮起するのであった。

 

 

 




ありがとうございました!原作より早くヤークトティーガーのログアウトでした。次回は中編か後編に当たる第二十二話を投稿する予定です。
ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第二十二話 下克上達成、黒森峰戦です! 後編

ご覧いただきありがとうございます。今回でTV版は完結になります。今回も原作と展開が異なるほか、捏造設定も登場します。
引き続きお楽しみください!


副隊長たる大友のE-25をはじめとする計六輌の戦車が超重戦車マウスが隠れているであろう団地へと進んでいた。

楔形隊列を組んで走行していると、明らかにこの六輌をマウスのもとへと誘き出そうとしているⅢ号戦車J型が現れたと思えば蛇行運転をしながらその場を去って行った。

 

「俺達を誘い込んであのでか物の前に引きずり込む腹だろうな。彰、雄飛、英雄。今度は逆にこっちがこの先にある道の両脇を土手に挟まれた道に誘い込んでくれ。俺は勇武と桔平と一緒に誘い込んだ先で待っている」

 

『了解!!』

 

六輌の戦車の内、比較的に機動力が高いT50-2や五式軽戦車・ケホ、Strv/m42の三輌がマウスを大友達の方へと引きつけるべく。

この三輌が速力を上げてⅢ号戦車の追跡を続けていると、Ⅲ号戦車が角を曲がってから少し進んだ先で停止した。

 

「来るぞ……雄飛、黒木の兄貴……全速後退する準備をしてくれ」

 

「おちょくり担当なら俺と英雄兄ぃに任せて叔父貴はⅢ号戦車を仕留めてもらってもいいですか?」

 

「おう任せとき。Ⅲ号をしばいた後は急いで合流するようにするわ」

 

三人がマウスを誘き出す段取りをした直後、持ち名に相応しくないほど巨象にも比肩する巨体を持つ超重戦車・マウスがその姿を現した。

三輌の戦車の搭乗員達はその威容に呆気を取られそうになったものの、マウスの砲塔が旋回した途端に三輌は後退をしながらマウスの主砲から放たれてくる砲弾を回避する。

それから三輌の戦車によるマウスの誘い込みが始まった。無論、マウスの車長は高火力な主砲と重装甲を頼り切っており。

これから思わぬ形で撃破されると思ってもいなかったのだ。それに加えて主砲の俯角が取りずらいことを良いことに車体前面装甲に密着寸前まで車間距離を詰めたり離したりしながら煽って来る二輌の戦車に苛々していたためか、途中で姿をくらましたT-50-2の存在に気付くことなく二輌の戦車の追跡を続けている。

 

「Ⅲ号戦車、お前の相手はこっちや。撃てぇ!!」

 

「くそっ!こっちにも機関砲さえあれば……」

 

黒木は安倍の頼み通りにⅢ号戦車を仕留めるために動いており。m/42とケホを撃破するために団地の出口付近で待ち伏せていたⅢ号を発見すると至近距離まで接近し、車体の背面装甲に四発ほど砲弾を叩き込んでその場から去って行くのだった。

 

「こらーっ!そこの二輌の戦車。男の子なんだから正々堂々戦いなさい!!」

 

「そう言われても。マウス硬すぎるし」

 

「どこも貫通できないし……もうちょっと柔らかくしてくださいよ」

 

「何ですって。マウスのこと馬鹿にして……覚悟なさいっ!!左手に居るケホをサンドイッチにしちゃいなさい!右手のm/42に砲撃準備っ!!」

 

「あ、兄ぃ!マウスが幅寄せしてきてるぞっ!おっかねぇ~」

 

「雄飛。もう少しの辛抱だぞっ!と言ってる傍から平形本部長が来たからそのまま逃げるぞ!」

 

マウスの車長は苛立ちが最高潮に達したのだろう。キューポラから身を乗り出して木村と安倍の二人に対して軽く怒鳴りつけるが。

二人は彼女の一言に対して呆れながらマウスの特徴を揶揄う。これを聞いたマウス車長は再び彼らに対して怒鳴りつけると同時に車内に戻って搭乗員達に指示を出す。

マウスは左側のケホに幅寄せしつつ右側で微速で走り続けるm/42に照準を合わせるために砲塔を旋回した瞬間。マウスの車体の上に平形率いるクマさんチームのKV-122が乗り、後ろから来たT-50-2が燃料タンクを撃ち抜いたのであった。

唐突な出来事に対処できなかったマウスの操縦手がアクセル踏みっぱなしだったこともあってか。そのままエンジンから黒煙が上がって戦闘不能となってしまった。

 

「よくやったな。このままみほ姉貴達と合流するぞ」

 

『はいっ!!』

 

それから六輌の戦車が楔形隊列を組んで市街地に向けて走り出した。しばらく走ったところにある交差点でみほ達と合流しようとしたところ。一輌のパンターⅡに率いられた黒森峰女学園のチーム(パンターⅡやパンターG型×二輌、ヤークトパンター×二輌)と鉢合わせてしまった。

この時に何輌かがフラッグ車のⅣ号戦車を守りつつ反撃に出たのだが、今までのチームとは打って変わって火力と装甲よりも機動性と隠蔽性を重視したこともあってか。中々撃破出来ずにいた。

追い打ちをかけるかのように民家の間を縫うようにして現れたヤークトパンターがⅣ号の後ろにいたアリクイさんチームを撃破した次にカモさんチームを撃破したのだった。

 

 

 

黒森峰女学園戦車道チーム副隊長補佐・赤星小梅は、一年前の事故とみほの後継者争い以降。

己のトラウマの克服や実力の向上から逸見エリカや小島エミといった戦友達と共にその地位を確固たるものとした。

それもあってか。黒森峰女学園戦車道チーム内の実力者の象徴一つと言っても過言ではないパンターⅡに搭乗し、中戦車小隊の指揮を執りつつ第六十三回戦車道大会における一回戦から自身の小隊でチームに貢献してきたのだ。

その実力を今日行われている第六十三回戦車道大会決勝戦でも発揮するのだった。

 

「エミちゃんが率いる十一号車、十二号車はフラッグ車の背後にいるチヌ改とB1bisを。私と後の二輌はE-25もしくはフラッグ車を。エリカさん達が到着するまで持ち堪えるかなるべく早く仕留めましょう」

 

『了解』

 

Ⅴ号戦車・パンターの機動性の高さと火力を活かして曲がり角などを利用しつつ。

当初はみほ達を圧倒していたが、市街戦は不慣れということもあってか繰り出している攻撃がパターン化してしまったことが彼女か大友のいずれかに見抜かれてしまい。

混乱に乗じて指示を受けたであろう大洗側の戦車達が後方から現れた後に小梅が率いていた中隊は瓦解し、彼女が乗るパンターⅡはウサギさんチームのM3Leeによって撃破され、ヤマネコさんチームが残りのパンターを撃破した。

それでも撃破される直前まで小梅達は健闘しており。チヌ改やB1bisだけでなく。途中で撃破されそうになったアヒルさんチームとレオポンさんチームを庇ってこの二輌の盾代わりとなったコヨーテさんチーム(Strv/m42)とサメさんチームは、刺し違えるようにして二輌のヤークトパンターを撃破した。

 

「撃破された四チームの皆さん。怪我はありませんか?」

 

「みんな怪我は無いよ。西住さん。あとはよろしくね」

 

「私やゴモヨ、パゾ美は元気でーすっ!」

 

「心配ご無用。コヨーテさんチームは平気です。慎司も妙子ちゃんを守れてよかったと言っています」

 

「こちらサメさんチーム一門。同じく平気だよっ!桃さんや他の皆の事を頼んだよ。みほっ!」

 

「分かりました。皆さんの分まで頑張ります!それでは、最後の作戦。ふらふら作戦を開始します!」

 

みほが撃破された四チームの安否を確認すると、撃破されたチームから健気な返事や励ましの言葉が返って来た。彼女は撃破された仲間たちの期待に応えるために渾身を込めて作戦の開始を口にする。

 

「やっぱり。あの人には敵わないな……」

 

「そうだね。戦車の性能なんかに頼らず。思いもよらない戦い方するよね……」

 

小梅とエミは、自身が搭乗する戦車を降りてその場を走り去って行くみほ達の戦車を見つめながら彼女の戦い方に感心する様子を見せていた。

しばらく経った後に隊長のまほが搭乗するフラッグ車のティーガーⅠに率いられた本隊が彼女達二人の前を通過していくのだった。

 

 

 

その後の両者の動向は黒森峰女学園の本隊がフラッグ車を護衛するレオポンさんチームのポルシェティーガーやクマさんチームのKV-122、、カバさんチームのⅢ号突撃砲、大友のE-25を追跡するという形となり。

包囲殲滅を図ろうとした何輌かの戦車が住宅地の生活用道路から回り込もうとしたものの、カメさんチームの指揮下に入った残りの各チームのゲリラ戦に遭い。ことごとく撃破されていったのである。

なお、この際にも黒森峰側からの反撃によって撃破されたチームの戦車も存在し。撃破されたのはヤマネコさんチームのT-40やマーモットさんチームの五式軽戦車・ケホ、キツネさんチームのT-50-2、ワニさんチームの特三式内火艇の四輌だった。

この四輌は共に行動していたカメさんチームやアヒルさんチーム、ウサギさんチームの三輌が撃破されそうになった時に先ほどのコヨーテさんチームとサメさんチームのように盾代わりとなりつつ敵と刺し違える形で撃破されたのだった。

 

「水野君、黒木先輩。二度も助けてくれてありがとう……」

 

「男だったらこうして女の子を守りたくなるもんなんだよ。梓ちゃん。それに黒木の叔父貴や他の皆もそう思うだろ?」

 

戦車から降りて水野や黒木達に感謝を続ける梓に対して彼ら戦車道男子達は彼女達ウサギさんチームの面々に優しく微笑み掛ける。

 

「すまないな。長瀬君、安倍君。敵を撃破してくれた上に私達アヒルさんチームとカメさんチームの盾代わりになってくれてありがとう」

 

「お、お前達怪我は無いのか?!結構激しかったぞ」

 

「磯辺先輩、河嶋さん。ご心配なく。俺をはじめとする他の皆平気です。それよりも早く親分やみほさん達のもとに向かってあげてください。親分は今、一対一で逸見さんが乗るティーガーⅡと交戦中ですし。もし親分が撃破されたらフラッグ車と交戦しているみほさんあんこうチームが危ないです。さぁ、早く」

 

「みんな。ありがとうね!すごいかっこよかったよ。いや、かっこかわいいか。さぁ、西住ちゃん達のもとへ向かうよ!」

 

こちらの二チームも戦車道男子達が操る戦車が盾代わりになった上、敵戦車を撃破したのであった。典子や桃、杏の三人が戦車から降りて長瀬と安倍に対して感謝しながら彼らの身を心配している。

彼らはみんな平気な様子を見せており。安倍が三人に優しく微笑み掛けながら大友やみほ達のもとへ向かうように促すと。

それに応えるように杏が改めて感謝の言葉を彼らに掛けつつ生存した三チームを率いて廃校跡で戦闘を続けている大友やみほ達のもとへと向かって行った。

 

 

 

 

廃校跡では、合わせて四輌の戦車が戦闘を繰り広げていた。みほがまほと校舎内の中庭で戦闘を繰り広げている中。その外では大友とエリカも戦い始めようとしていた。

彼のE-25と彼女のティーガーⅡが向き合っている傍ら。撃破された六輌の戦車の前で大友とエリカはキューポラから身を乗り出して静かに語り合っていた。

 

「外は私達だけになったわね誠也。こうすることであんたとやり合うのに余計な茶々を入れられないわね。入り口でバリケード代わりになったポルシェティーガーやKV-122、三突は私の小隊と刺し違えたみたいね。あんたはあの子に花を持たせる為にここにいる。そんなあんたほど厄介な相手は居ないわ。あんたをぶちのめしてどっちが王者に相応しいか白黒つけてやるわ……」

 

「ああ。あんたの言う通りだよ逸見さん。今の言葉で良い感じに熱を整えることが出来たぜ。あんた達黒森峰女学園に勝ってみほ姉貴やみんなで勝利を手にさせてもらう。さぁ……決着をつけさせてもらうぜ逸見さん」

 

「「戦車前進っ!!」」

 

二輌の戦車が前進すると同時に車体が火花を散らしながら擦れ合い始めた。それからはお互いを撃破すべく二輌の戦車は距離を詰め合っている。

E-25は高い機動力と貫通力を持つ75mm砲を持ち合わせている代わりに砲塔を持たない駆逐戦車だ。その特徴を最大限活かしきってティーガーⅡの背後へ回り込もうとするが。ティーガーⅡも低い機動性の代わりに超信地旋回ができる上に高火力な88mm主砲を搭載している。

エリカもその特徴を十分理解したうえでE-25を背後に回り込ませないようにしていた。

 

「このままじゃ背後に回り込めないぞ。清弘、そのまま壊れかけの体育館の方へ行け。遮蔽物と速さを活かして相手を撹乱させるさせるしかない。諒介、速めの装填を頼む。それに武、行進間射撃でも行けそうか?」

 

「刺し違える気で行ってくれるならいけなくもない。それにタイミングが良けりゃ生還もできるかもしれん。そしたらあんこうチームのもとへ行こう」

 

「ああ。頼んだぞ」

 

大友はこれまでのように一か八かの賭けに出るのであった。無論、エリカが搭乗するティーガーⅡもその後を追い始めるが。速度を重視した戦車と装甲を重視した戦車では大きな差もあるために振り切られてしまう。

 

「多分E-25はこの廃校跡を一周して撹乱するはずよ。それにそろそろ回収車がバリケード代わりになっていた三輌を除けたはずよ。今のうちに隊長のもとへ向かうわよっ!」

 

『了解』

 

しばらく大友の後を追っていたエリカは、一旦追跡を諦めてまほの援護に向かうべく元来た道を辿り。三輌の除けられた入り口へ向かおうとするものの。

大友も同じことを考えていたのだろう。そこで再び大友と鉢合わせる。

 

「ここで片を付けてみほ姉貴のもとへ向かうぞ。さっき打ち合わせた通りに頼むぞ」

 

『おうっ!』

 

大友と打ち合わせた通りに三人は指示通りに動く。対するティーガーⅡもE-25の正面に突っ込んで主砲をへし折ってやろうという勢いで前進するのであった。

 

「みほ姉貴と戦った時は失敗したが。清弘、正面装甲に突っ込むふりをしてそのまま時計回りに後退してそのまま後ろに回り込んでくれ。武、行進間射撃になるけど。右か左どちらか狙いやすい方の履帯を切断してくれ」

 

「それなら任せてくれ。腕の見せ所だ」

 

「どっちか好きな方だったら。好きなようにさせてもらうぜ」

 

ティーガーⅡの砲撃を巧みに交わしながら正面装甲まで迫る。この一瞬で勝負が決まったと言うべきだろうか。村川が発射トリガーを引いた瞬間にティーガーⅡの左履帯は外れ。

ティーガーⅡに衝突する手前で停止してからそのまま時計回りに後退して車体後部に砲弾を撃ち込んで撃破する。

 

「………やるじゃない。みんな怪我は無い?」

 

撃破されたとはいえ。エリカはどこか複雑な表情で満足さを伺わせるような一言を一人呟くのであった。

 

「みほ姉貴。今行きます!」

 

大友がそう言いながら校舎の入り口をくぐり抜けた瞬間。ティーガーⅠの砲塔上部から白旗が上がり。エンジンルームから黒煙が上がっているという光景が目に入ったのであった。

 

『ティーガーⅠ及びティーガーⅡ走行不能。よって大洗学園の勝利っ!!』

 

このアナウンスが響き渡った瞬間。大友とみほは見つめ合って勝利を確信した。

 

 

 

 

試合終了後、大洗学園戦車道チームの面々の間にはいつものように和気藹々とした空気が流れていたと同時に守るべきものが守れた喜びに浸っていた。

撃破されたチームの面々が生還したメンバーが帰って来るなり。彼ら彼女らの健闘を称えながら駆け寄る。しばらく経った後に桃がみほと大友に声を掛ける。

 

「西住……大友。みんなを優勝に導いて……ありが……とう……うぅ」

 

「こちらこそ私を戦車道に導いてくれてありがとうございます」

 

「ありがとうございます河嶋さん。もう涙なんて拭いてこれから沢山喜びましょうよ。ね?」

 

桃は二人に対して感謝の言葉を伝え終えると、そのまま泣き崩れてしまう。みほと大友も彼女に対して感謝の言葉を掛ける。

 

「西住ちゃん。大友ちゃん。私達の学校を守ってくれて本当にありがとう!」

 

「角谷会長。私の方こそありがとうございました」

 

「会長、みほ姉貴と一緒に戦車道ができるきっかけになってくれてありがとうございます」

 

その次に杏が二人をまとめて抱きしめると。桃と同じように二人に感謝の言葉を掛けつつ涙を流す。涙を流していたのは桃と杏の二人だけでなく。

少し離れた所で戦車道乙女たちがつられるようにして涙を流し、それを他の戦車道男子達が慰めているというものであった。

 

「会長、誠也君とお姉ちゃん達の所に行きたいので少し離れますね」

 

「はいよー。行ってらっしゃい」

 

みほと大友の二人が杏に見送られながら向かった先はまほとエリカのもとであった。彼女達二人は、みほと大友を視界に入れると同時に歩んでいく。

 

「お姉ちゃん……エリカさん」

 

「みほ……優勝おめでとう。誠也君、みほの傍に居てくれてありがとう」

 

「ええ。どういたしまして」

 

まほは二人の前に前に立つと。みほに対して祝いの言葉を送ったと同時に彼女の傍に居てくれたことに対する感謝の言葉を大友に掛けつつ二人と握手する。

 

「……みほ……誠也。さっきは……」

 

「エリカさん。もういいんだよ。私こそ一人で抱え込ませるようなことをさせてしまってごめんね」

 

「気にする事はねえよ。いつもの逸見さんに戻ってくれて良かったよ」

 

「本当に二人とも優しいわね。誠也、これからもずっとみほと一緒に居なさい。それにみほもこの子を大事にしてあげなさいよ。来年もあんた達と戦いたいわ」

 

修羅と化していたエリカは、元の優しい瞳に戻り。二人に対して試合開始前に言ったことを詫びようとするが。二人は微笑み掛けながら許したのだった。

対する彼女も二人に優しく微笑み掛けながらあたかも二人の関係に進展を望んでいるかの言い回しでそう言った。

 

「西住流とはまるで違う戦いだったが。みほらしくて良かった」

 

「ありがとうお姉ちゃん。『私の戦車道』、見つけることが出来たよ!」

 

「ああ。みほいや、二人とも。これからも頑張るんだぞ」

 

「「はいっ!!」」

 

それからみほと大友は、二人に別れを告げると同時に手を繋いで仲間たちが待つ場所へ帰って行くのであった。

 

 

 

 

大洗学園の学園艦に帰り。学内優勝記念パレードが終わった日の晩。学園艦内の住民の計らいによって祭りはこれからだと言わんばかりに花火が打ち上げられていた。

まだ夏休み前だとはいえ、学園艦内はお盆のお祭りシーズンかのようであった。そんな光景をみほと大友は、彼女の部屋のベッドで共に眺めていた。

 

「みほ姉貴と下克上が達成出来て良かったです。夏休み前に大洗町で行われるエキシビジョンマッチも頑張りましょう!」

 

「そうだね。誠也君ったらいつも戦車の事ばかりだね。夏休みは私と二人で一緒にいっぱい戦車に乗ろうね!」

 

打ち上げ花火が上がる中、再び大友はみほと共に勝利の喜びを分かち合っていた。すると、みほは彼に対してこう語りかけた。

 

「私達二人が出会うきっかけになったのも戦車。思い出を作るきっかけになったのも戦車。一つの物でつながる縁はとても不思議だね。誠也君は優花里さんが言うみたいにパンツァー・ハイなところがあるけど。私はそんな誠也君が大好きっ!!ふふっ。忘れてたことが……ちゅっ♡」

 

「お、俺もです。みほ姉貴!た、確かに縁って不思議ですよね。でもみほ姉貴、俺は貴女に出会えて良かったです。これからもよろしくお願いします!」

 

みほは戦車で繋がった縁について語り終えると、そのまま大友の左頬に優しくキスする。

彼は彼女のスキンシップに若干慣れて来たのだろう。

少し驚いた後にみほと出会ったことに対する好意と感謝の言葉を口にする。

 

「ふふっ。これからもよろしくね!かわいくてかっこよくて強い自慢の舎弟の誠也君。大好きなだけじゃなくて愛してるよ」

 

「俺も愛しています。みほ姉貴。貴女は本当に強い方だ」

 

「誠也君……今度はそのかわいい唇にキスしてもいいかな?」

 

「……ええ。喜んで」

 

二人は自身が想い合っていることを確認すると、そのまま二人はベッドから立ち上がって優しく抱き合い。一番大きな花火が打ち上げられた瞬間にお互いの唇を優しく重ねあったのだ。

こうしてみほと大友による下克上は達成されると同時に戦車道界に大きな衝撃と希望を与えるものとなった。

しかし、大洗学園は本来ならばこれで安泰が約束されるはずであったが。強欲な輩によって再び危機に立たされようとしていた。

 




ありがとうございました。次回はほぼオリジナルストーリーの第二十三話を投稿する予定です。また、”ある人物”が戦車乗りだったという設定が登場する捏造設定ましましの予定でもあります。
次回から劇場版編に突入していきますが。これからもよろしくお願いいたします!
お気に入りへの登録や評価、ご感想などお待ちしております!


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第二十三話 強欲な影と過去

ご覧いただきありがとうございます。前回も予告した通り捏造設定がましましです。
引き続きお楽しみください!


大洗学園が第六十三回戦車道大会に優勝し、表彰式が行われているほぼ同時刻

文部科学省・学園艦教育局局長室

 

『優勝大洗学園っ!!』

 

「やっぱり勝っちゃいましたね。まぁ、負けたら廃校にする気なんて無かったんですけどね。次の計画に移行しましょうか。木下代表……いや、我が盟友・『倉橋行雄(くらはしゆきお)』君」

 

「そうですね。辻局長……いえ、我が総統・『神宮征四郎(じんぐうせいしろう)』君。あれから二十二年……私達はこの時を待ってた。逸材達を見つけ。我々の理想を実現する時が」

 

タブレット端末を片手に優勝旗を手に持つ少年少女らの姿をあざ笑うかのように二人の男は貪欲に塗れた笑みで自分達が二十二年間隠し通して来たであろう本当の名前で語り合っている。

現在は文科省学園艦教育局局長を務めている辻廉太こと神宮征四郎はかつて男子戦車道や女子戦車道に分けられる前にそこそこ強豪校だった学校の戦車道チームの隊長を務めていた。

彼だけだはない。辻に倉橋と呼ばれるこの木下という男もかつては辻と同じ学校のチームで副隊長を務めていた。

しかし、彼がなぜ本名の神宮ではなく。現在の「辻」という苗字を使用しているのか。

それは二十二年前に彼ら二人が率いていた戦車道チーム『真闘派(しんとうは)』がその学校のチーム内において恐怖政治一歩手前までの統制を行い。

地位が低かった自分達の勢力を強引に拡大し、女子達の立場を追いやった。それだけでなく。入学直後に隊長を務めていた三年生を引きずり降ろして隊長の座に就いたのだ。

当然反発する者も出て来てはいたものの、辻は反発する者のありもしないデマを流して叩き潰して来た。だが、そんな彼らの悪行を見かねた者達が居た。

大洗学園が女子校だった頃……大洗女子学園戦車道チーム隊長桐生好子(後の秋山好子)や江城連合会四代目会長の秋山淳五郎、黒森峰女学園隊長西住しほ、同副隊長の世良常夫(後の西住常夫)といった面々によってその悪行を阻止された。

結果として自分達の悪行が世間に露見し、戦車道界のみならず世間的にも立場が危うくなった二人や彼らに付き従っていた真闘派構成員達は世間から姿をくらましたのだ。

だが、特にこの二人は悪運が強かったのだろう。神宮征四郎は父親が法務省のエリート官僚というコネから特に苦労することなく現在のように辻廉太へと名前と顔を変え。

倉橋行雄は彼のように両親が政財界に数え切れないほどのコネがある造船会社の代表取締役と社長だったためか、同じく木下へと名前と顔を変えて親の会社を引き継いで美酒を片手にする日々を送っている。

 

「まぁ、三月では遅すぎると色々理由を付けて学園艦の解体を速めて我々が立ち上げる予定の高大一貫校に大洗学園の戦車道履修者を特別入学させるというのはどうだ?それに学園艦の住民には好待遇を持ち掛け、他の生徒達にも希望する学校への転入斡旋を持ち掛けるのも良くないか?」

 

「そうですね。それなら反発は大きく抑えられると思いますよ。学園艦解体なら我が社の利益が多く出ますし、その利益で戦車道を強化したらいいのでは?寄付なら多く出しますよ総統」

 

「それはありがたい。ゆくゆくは憎き黒森峰や他の強豪校を下して我々が持つ予定の学園の傘下に収めて日本国の戦車道は我々一強にしたいものだ。ククク……」

 

厄介なことに二人の汚い大人によって大洗学園は再び危機に晒されようとしていた。大洗学園だけではなく黒森峰女学園といったみほと大友達と戦って来た戦友たちにも危機が訪れようとしていると言っても過言ではなかった。

 

 

 

 

黒森峰女学園との試合から二日後、大友はみほと共に自身の両親や祖父母が眠る墓地へと足を運んでいた。彼の両親と祖母は彼が小学校に入学してから不治の病で亡くなり。

十二歳の時に母親が亡くなると孤児となったのだ。その後、周囲の親戚や近所の住民から養子の話を持ち掛けられたが。自分がいることで無駄な迷惑を掛けると思い。

彼に付き従う気でいた水野や木村、安倍といった子分達と共に大洗へと引っ越し。それからはタンカスロンで賞金を稼いだり戦車の整備で生活を維持していた。

中学校三年生になると経済に興味を持ち始め、株でも稼ぎを上げるようになったことから彼が持つ資産もとい自身が率いる組の資金は六億三千万円と一部の人間しか知られていないほど高額なものとなった。

そのため資金で困ることなく今までの生活を送ることが出来ているのだ。

 

「みほ姉貴。わざわざ付き合ってもらってすみません」

 

「ううん。いいんだよ。血は繋がっていないけれど私は誠也君のお姉ちゃんだし一緒にいてあげたいからなの」

 

「そうなんですか。ありがとうございます。合掌と持ってきた花束を置いて帰りましょうか」

 

大友はみほと手を繋いで両親と祖母が眠る墓の前まで向かうと、二つ持ってきたうちの一つの花束を大友家之墓と書かれた場所に添えると静かに合掌する。

 

「…………(母さん、父さん、おばあちゃん。俺はまた幸せをつかむことが出来たよ。このままみほ姉貴を沢山幸せにしてあげることにしたんだ)」

 

彼はそう考えながら合掌を終えると、彼女と共に別の墓へと向かう。次に向かった先は周りの墓とは異なってひときわ大きく目立っており。

右下の灯篭には国防陸軍の戦車連隊の紋章が彫刻され、その墓の棹石には『風間譲太郎(かざまじょうたろう)』生没年・一九三五年~二〇〇五年と彫刻されていた。

みほは「風間」という名に見覚えがあったのだろう。もしかしてという表情で大友に語りかけた。

 

「誠也君……この風間って言う人はもしかして」

 

「風間譲太郎陸軍大佐……俺の祖父です。世界最後の戦争こと第二次中国戦争の時に国防陸軍第十一戦車連隊を率いて自ら前線に立って指揮し、他の多国籍軍より早く日本人が捕らわれていた収容所に乗り込んで人質を救出しました。ですがその時、この収容所の所長は悪あがきを続けようとし。六歳の女の子……蝶野大尉を人質にしたのですが。激怒した祖父に撃ち殺され、蝶野大尉は無事に救い出されました。しかし、この時に相手からも銃弾を何発か貰い。足に被弾しました。それも構わずに蝶野大尉を彼女のご両親のもとへ差し出しました。それからは何事もなかったかのように次の戦地へと向かったそうなんですが。この時の怪我が原因で左足が不自由になり。俺が五歳の時に亡くなるまで杖を突いていました」

 

「そうなんだ。じゃあ、そのことがきっかけで蝶野大尉と知り合ったんだ」

 

「ええ。小さい頃に祖父とよく一緒に遊びましたからね」

 

彼は彼女に祖父の事を語り終えると二人で合掌する。再びそれを終えてから乗って来た車に乗り込んで墓場を去って行くのだった。

この墓地から学園艦までは約一時間程かかるため、当然のように会話を交わすこととなる。途中でみほから何気ない話題を振られる。

 

「誠也君。これからもずっと一緒に居ようね。いつか今みたいに姉貴付きじゃなくてみほか昔みたいにみほちゃんって呼んでくれるように結婚できる日まで待っているからね」

 

「ええ。俺もずっと一緒に居たいです。って……み、みほ姉貴っ?!もう結婚まで考えているんですか」

 

「ふふっ。誠也君ったらそういうのには弱いんだから……私達は血のつながりのない義姉弟同士だけど。愛し合っているから今度は義姉弟から夫婦になるのも良いかなって思い始めたの。だからよろしくね。あなた」

 

「ははぁ。みほ姉貴と夫婦ですか……俺みたいなのが姉貴の夫がつとまりますかね?」

 

「大丈夫だよ。私達二人ならきっと乗り越えていけるはずだから」

 

彼は前方を見つつルームミラーで彼女が無邪気に微笑む姿を見ながらハンドルを切っている。みほがそこまで考えているということに大友は戸惑いが隠せないでいたが。

同時に彼は彼女がこれほどまでに自分を大事にしてくれているということに内心で喜んでいた。その内それが大友の表情に出たのだろうか。

みほは大友の表情に気付くと、そのままルームミラーの方を見て微笑むのだった。そんな楽しく甘い戯れが続いている内に二人が乗る黒塗りのセダン車は学園艦のレーンを通って学園艦へと戻って行くのだった。

 

 

 

 

同時刻・秋山理髪店

秋山夫妻は窓から雲行きが怪しくなる空を見上げながら過去の出来事に浸っていた。それは二人がしほや常夫と共に傍若無人の限りを尽くしていた辻と木下を追い詰めた際に神宮()が放った一言についてだった。

 

「優勝ムードの中言うのもなんだけど。母さん、二十二年前。神宮が言った一言を覚えているか?」

 

「ええ忘れないわ。たしか、『今この時私達を倒しても我々の意志に歯止めなど無い。その意志がある限り我々は止まらない』だったかしら。どうして急にそんな事を言い始めたの?」

 

「いいや。確か廃校を撤回する代わりに戦車道大会に優勝するのはどうかと学園艦教育局局長は生徒会の三人に対してそう言ったんだよね?それが何か腑に落ちないというかなんというか……」

 

「そうね。口約束を守ってくれる良い人だったらいいんだけど……文科省の学園艦教育局について調べてみるわ」

 

夫の淳五郎は、江城連合会四代目会長として最前線に立って今は名前を偽っている辻達が率いていた真闘派と戦ったこともあってか。彼が放った言葉を忘れずにいた。

対する妻の好子は辻の放った言葉を思い出しながら淳五郎に語りかける。彼女は彼の腑に落ちない姿勢を察したのだろう。

ズボンのポケットから携帯電話を取り出して学園艦教育局局長である辻を検索から見つけることができたものの。この時の二人は、「あくまで他人の空似だろう」ということで受け流しつつもどこか不穏な空気を感じるのだった。

 

「もう二度とあんな事が起きないことを願うしかないわね。この子達にはあんな辛いことを味わって欲しくはないわ」

 

「そうだね。せっかく五年前に戦車道がもう一度男女混合化されたんだ。もうあんな事はあって欲しくないね。さぁ、母さん。二人のために夕飯でも作ろうか」

 

「淳五郎さんったら優花里に初恋の相手ができた事がよほど嬉しいのかしら。あら布団も被らずに寝ちゃって。若いっていいわね」

 

淳五郎は遊び疲れて眠る山本と娘の優花里の姿を見て少し安心したのか。自ら進んで台所へと向かう。好子はそんな夫の姿と二人の少年少女の姿が微笑ましく感じたのだろう。

布団も被らずに山本の左腕を抱きしめて眠る優花里の頭を優しく撫でると布団を被せて部屋から出ていくのだった。

 

 




ありがとうございました。辻さんをもっと悪役にするも良くね?という発想でこんな感じにしてみました。
次回は第二十四話を投稿する予定です。お気に入りへの登録や評価、ご感想などお待ちしております!


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第二十四話 大洗・知波単・アンツィオ連合VS聖グロ・プラウダ・サンダース連合です!

ご覧いただきありがとうございます。今回から劇場版編突入です。引き続きお楽しみください


七月の初旬。気温も26℃まで上昇し、夏も始まりを告げようとしていた。

さて、そんな夏の始まりを彩るかのように大洗町では戦車道大会のフィナーレを締めくくると言っても過言ではないエキシビジョンマッチが行われていた。

今回行われるエキシビジョンマッチではみほが大洗・知波単・アンツィオ連合の総隊長を務めることとなり。大友や絹代などの勧めもあってか副隊長はアンチョビが務めている。

二人の連携した指揮のおかげもあってか緒戦においてゴルフ場のバンカーで三輌のマチルダⅡとフラッグ車のチャーチルMK.Ⅶの計四輌を包囲していた。

この四輌を包囲するのは大洗学園側だと。みほが搭乗する隊長車兼フラッグ車のⅣ号戦車を除くⅢ号突撃砲やヘッツァー、三式中戦車・チヌ改が包囲網を狭めつつ敵の強襲に備えている。

知波単学園側は副隊長補佐の柏間修太郎が搭乗する五式中戦車・チリや玉田が搭乗する九七式中戦車・チハ改そして知波単学園隊長の絹代が搭乗する四式中戦車・チトの計三輌と日本戦車の中でも高火力な面々が機動力の高さを活かして徐々に四輌の戦車へと差し迫り。

アンツィオ高校側はフラッグ車の先導役を務めている安斎拓実のP40やカルパッチョの指揮下でⅢ号突撃砲と共に狙撃に徹しているセモベンテM40/41×二輌の計三輌が四輌の戦車の装甲を掠めていた。

 

「敵の別動隊は大友と千代美の指揮によって混乱しているようだ。それに加えてあんたの舎弟さんや千代美が率いる精鋭達のおかげで予定よりも長く敵の足止めが出来そうだな。でも指揮は隊長のみほちゃん、あんたに任せるよ」

 

「切込みなら俺に任せてください。行進間射撃が得意ですから」

 

「拓実君に同じく先陣を切っての突入は私も同じく得意としています」

 

「柏間さん。拓実君、西さんありがとうございます。各車、発砲を中止してじわじわと包囲網を狭めてください。包囲をさらに強化し、近距離での撃破を目指しましょう。それではパンツァー・フォー」

 

みほは柏間や拓実、絹代らと会話を終えるとそのまま指示を出して戦車を前進させる。

他の戦車は微速で前進していたものの絹代のチトだけが前進しないでいた。それが気になったみほは一度戦車を止めて彼女に声を掛ける。

 

「西さん。どうかしましたか?」

 

「西住さん。パンツァー・フォーとは一体?」

 

「ドイツ語で戦車前進という意味です」

 

「なるほど承知いたしました。では参りましょう。戦車前進っ!」

 

絹代は疑問に思っていた言葉の意味を理解すると、搭乗員達と共に同じ掛け声を上げてチトを前進させる。こうしてみほ達がフラッグ車の包囲を完成させつつある現在、大友やアンチョビによる指揮の下で市街地に居るチームは敵の主力部隊を抑え込んでいた。

 

 

 

市街地では大友達が遮蔽物や複雑な地理を利用しながら敵を撹乱し、入り組んでいる町の特徴を活かしきって散発的なゲリラ戦を仕掛けていた。

手始めに大友は、M16/43・サハリアノに搭乗する佐谷やペパロニのサハリアノの二輌、典子に率いられた福田や細見と共に機動力を主眼に置いたローズヒップの小隊を叩くために市内を走り回っていた。

 

「文化センターの近くで千代美さんやナカジマさん達が防衛線を構築している今、包囲殲滅を図る機会を狙いつつ敵の切込み隊を叩こう。じゃないと隙を見て敵の主力がフラッグ車を包囲しているみほ姉貴達のもとへ向かうはずだ。兄さんには先鋒を。ペパロニさんには後方を頼みたい。典子ちゃんは福ちゃんや細見さんと共に敵の一部を引きはがしてくれ」

 

「おう任せとき。聖グロ一の俊足ってのと一回撃ち合ってみたかったからな。大友ちゃんガンガン飛ばしていくで」

 

「了解っす!大友の兄貴のケツ持ちならこのペパロニに任せてください」

 

「了解。片が付いたら誠也君の援護に向かおう。さぁ、みんな。根性だっ!!」

 

「心得ました磯辺殿。右に同じく知波単魂を出しきるぞ福田」

 

「はいであります。先輩殿!」

 

大友が佐谷や典子たちに指示を出し終えると同時にE-25と八九式中戦車が交差点を二手に分かれてそれぞれ二輌ずつの戦車がその後を追う。

二手に分かれた彼ら彼女らの後を追っていたのだろうか。ローズヒップが搭乗するクロムウェルに率いられた計五輌の戦車も同じようにして二手に分かれていく。

 

「リミッターカットでもっと追い詰めてこのまま戦車の弱点(けつ)をがん掘りしますわよっ!」

 

「もう。ローズヒップさん!男性が二人もいらっしゃるんですよ!」

 

「あら。ごめんあそばせ」

 

「お、おう。だったら三車線になったところで追い込みをかけるぞローズヒップさん」

 

「分かりましたわ。わたくしは八九式を仕留めますから浜崎さんとクランベリーはチハ改とケホを頼みますわ」

 

「おう。任しとけ」

 

ローズヒップが発した一言をオレンジペコが赤面しながら注意している傍ら。浜崎はローズヒップの一言に笑いそうになりながらも彼女の指示に耳を傾ける。

 

「あ、獅堂さん。わたくしとバニラさんで二輌のサリアノを仕留めますから。E-25の方をお願いしてもよろしいですか」

 

「分かりました。いずれかのサハリアノに搭乗するのはアンツィオの狂犬こと佐谷さんです。くれぐれも注意してくださいね。こちらも余裕があれば援護するようにしますから。お手柔らかにお願いしますオレンジペコさん」

 

「は、はい。よろしくお願いします獅堂さん(一つ年上なのに紳士的な対応をしてくれる方ですわね)」

 

オレンジペコは獅堂が紳士的かつフレンドリーな態度で接しつつ真摯な表情で指示を聞いてくれていることに恍惚としながら彼女もおしとやかな表情と態度で言葉を返す。

彼女は普段、隊長たるダージリンが乗るチャーチルで装填手を務めているものの。ダージリンの提案で試合前にローズヒップ指揮下の巡航戦車隊に編入させたことでクルセイダーMK.Ⅲの車長兼装填手を務めている。

隊長であるダージリンの傍によくいたためか天啓に打たれたかのようにクルセイダーの車長としての腕を存分に発揮し、ローズヒップと共に巡航戦車隊の統率していた。

短期間で車長としての頭角を現し始めたためか。今のローズヒップのように巡航戦車クロムウェルに搭乗し、機動力を活かして対峙する敵達を圧倒してきた先代隊長のアールグレイに近い実力であると目されつつあった。

 

「準決勝の時は対峙することはなかったが。久々にやらせてもらうか。そのままE-25に向かって加速してくれ」

 

「義孝が来るか。兄さんペパロニさん二輌のクルセイダーを頼んだ。俺は義孝のLTTBを仕留める」

 

「任せとき。なんやあのクルセイダーにはゴツイ奴が乗ってる気がしてうずうずしてたんや。ほな行くでペパロニ君」

 

「了解。ブイブイ言わせるっすよ。佐谷先輩!」

 

大友のE-25はもうしばらく進んだ先の交差点を左折し、佐谷とペパロニの二輌のサハリアノは交差点を右折した。後を追っていたLTTBと二輌のクルセイダーもそれぞれ定めた目標を仕留めるために追跡を続ける。

一対一と二対二になったところでその決着が早速つけられようとしていた。

 

「この先を進んだら神社だ。一か八かだが。後退しながら階段を下って降りて来たところを撃つぞ。まぁ、そんな単純な手に乗るとは思わんが。やれるならやるか」

 

「多分大友さんは神社の方へ誘い込んで階段を下りながら俺達を撃破する手筈だ。クラーラさん神社の階段の下で撃てるようにしてくれませんか」

 

「да(はい)」

 

獅堂は大友が神社の階段を後退しながら下り、自分達が降りてきたところを撃って来ると想定していたのだ。そこで比較的に近い位置にいたクラーラと共に挟み撃ちする気でいたのだが。

大友はそれに感づいていたのか、階段を下りきるというところでそのまま加速して後退しながら右に曲がるとクラーラのT-34-85とすれ違う。

T-34がそのままE-25の方に主砲を向けようとするものの。車体後部に砲弾を撃ち込まれて撃破される。

 

「撃てぇ!危なかった……こっちの無線の様子じゃ防衛は上手くいってるみたいだ。予定を変更してみほ姉貴の援護に入ろう」

 

「さすがだな。向こうが一枚上手だったか。そのままゴルフ場へ向かうつもりだろう。こっちも先回りして敵のフラッグ車を狙撃しよう」

 

大友達は態勢を整え直すと同時にゴルフ場の方へ向かう。獅堂も今自分達のいる位置がゴルフ場に近いと気付いたのか。同じようにゴルフ場へと走り出す。

 

「もう俺らもサシになったなぁ。あのペパロニ君を撃破するとは中々やな。ケリを付けようやないか……さぁ行くでペコちゃん!!」

 

「受けて立ちます。佐谷さん」

 

その頃、佐谷とオレンジペコは水族館近くの浜辺で一対一の真剣勝負に出ていた。ここに来る途中まで追跡を繰り返しているだけであったが。

浜辺に入った瞬間、サハリアノの砂漠地帯に有利という利点を活かそうとしたペパロニがオレンジペコが乗るクルセイダーを海の方へ幅寄せしつつ行進間射撃でバニラのクルセイダーを撃破した。同じようにペパロニのサハリアノとオレンジペコのクルセイダーは行進間射撃で撃ち合っていたのだが。

彼女の装填の速さが決め手となってペパロニのサハリアノは撃破された後に佐谷のサハリアノの攻撃も全て躱しきったのだ。

こうして今、一対一での真剣勝負の火蓋が切られたのであった。最初にサハリアノがクルセイダーの方に突っ込んでいくように見せかけて近くの駐車場へと向かって行くのだった。

クルセイダーもその後を追い、サハリアノと同じタイミングで駐車場へ入ると行進間射撃による撃ち合いや車体のぶつけ合いが始まったのだった。

 

「アンツィオの狂犬の名に相応しい戦い方ですね。けど、ここは一気に方を付けるしかありませんね。聖グロリアーナ戦車道の伝統に反するかもしれませんが。海辺の方に後退すると見せかけて一気に距離を詰めて撃破します」

 

「了解」

 

オレンジペコは搭乗員に指示を出すと自身の意のままにクルセイダーを操り始めた。クルセイダーは砲塔を真っ直ぐに向けて海辺の方へ向けて全速力で後退する。

 

「その手には乗らんで。このまま海の方へ引きずり込んで側面を撃つつもりやろな。少し進んだところで停止するんや」

 

この時の佐谷はオレンジペコが意外な行動に出るとも思っておらず。そのままサハリアノを前進させて距離を詰めていたが。間もなくしてクルセイダーが海辺の方へ出ようとしたその時、クルセイダーは前進して一気に距離を詰めてそのままサハリアノの至近距離で停止し、砲撃を浴びせて撃破する。

それと同時に試合終了のアナウンスが流れ、大洗・アンツィオ・知波単連合が勝利したのだった。

 

「負けちゃいましたか。でも伝統以外の戦い方でやってみるのも楽しかったかも……」

 

「ペコちゃんあんたゴツイな。さっきみたいな戦い方も大事なんやで。俺からしたらまたアールグレイさんと戦ってるみたいで楽しかったわ」

 

オレンジペコは戦車から降りてティーカップを片手に思いにふけっていると、佐谷が軽く拍手をしながらオレンジペコのもとへ歩み寄り。微笑みながら彼女の健闘を称える。

 

「そ、そんな。私なんてまだまだ」

 

「まぁ、そう畏まらんでももっと実力を発揮する機会が来るはずや。ペコちゃんは伝統を大事にしながらローズヒップちゃんみたいな新しい感じの子のことも気に掛ける良い子やってこないだダージリン君とアッサム君が言ってたで。俺はゴツイ奴とやり合うのが好きやからまた戦えるのを楽しみにしてるで」

 

「あ、ありがとうございます!(なんだか狂犬の異名には程遠い紳士的な人ですわ)」

 

オレンジペコは畏まっていたが、佐谷に言われた一言が嬉しかったのだろう。彼女が感謝の言葉を口にすると彼は右手を差し出す。

それからオレンジペコも内心でそう思いながら右手を差し出して握手を交わす。

なお、大洗・知波単・アンツィオ連合が勝利した経緯はこの二人が戦っている間に大友が同じようにゴルフ場へ向かっていた獅堂と再び会敵した後に大友が獅堂を撃破し、みほ達と合流した後に柏間や拓実といった戦車道男子と共に包囲していたダージリン達を一気に撃破したのだった。

 

 

 

試合終了後、大友は近くのコインシャワールームで軽く身体を洗い流した後に。自身の子分である慎司や秀人を迎えに天然温泉の前までやって来たのだが。

家族風呂の入り口の前が騒がしかったのでそのままそこへ行くと、妙子と柚子が弟である彼ら二人をそこへ引きずり込もうと両腕を引っ張っており。対する彼ら二人は赤面しながら離れようとしている。その傍らで沙織とみほが二人の姉を説得しようといた。

 

「冗談じゃねえぞ。もう十六にもなって自分の姉と入れるかっ!!自分の弟以外のいい男を探せ」

 

「そうだそうだ。妙子姉、このままだと冗談抜きでお嫁に行けなくなっちまうぞ。さおりん先輩、妙子姉に何とか言ってやってくださいよ~」

 

「まぁまぁ。秀人君に慎司君もお姉ちゃん二人が愛してくれているんだから……ここは素直になろうよ。だって家族なんだし問題ないじゃん。ってあれ?」

 

「「説得になってませんっ!!」」

 

「そうそう。武部さんの言う通り家族なんだからやましいことなんてないよ」

 

「シンちゃんに秀人君。この前もそう言いながら……おっとこれは内緒ね。いやらしいことなんてないんだから」

 

沙織の一言が火に油を注ぐことになったのだろう。二人の姉はこの一言を逃さずに利用し、弟たちに何らかの圧を掛ける。

どうしたらいいのか分からないみほと大友の二人は困った感じの表情でお互いを見つめ合っていると慎司が妙子に対してこう言った。

 

「ちくしょう。こうなったら……えいっ!妙子姉、好きだ」

 

「俺も好きだ。柚子姉」

 

「「二人とも大胆ね」」

 

二人の弟は何かが吹っ切れたのか、そのまま自分の姉を力強く抱きしめる。二人の姉は弟たちの大胆な行動にうっとりとしてしまう。

慎司がそのまま妙子の顔を見上げると微笑み掛けながらこう言った。

 

「妙子姉、ちょっと良いかな?」

 

「どうしたのシンちゃん♪」

 

「あのねお姉ちゃん。俺ちょっと……コンビニ行ってくるっ!!」

 

「待てよ慎司っ!!という訳で俺もコンビニ行ってくる。あばよ柚子姉」

 

「「……え?」」

 

二人の弟は姉たちをもう一度抱きしめ直すとその場から走り出して外に止めていたバイクに乗って天然温泉から離れていくのだった。

数秒経った後に状況を理解した二人の姉は頬を膨らませて目に少しだけ涙を浮かべつつ慎司と秀人の名前を呟きながらその場にへたり込んでしまった。

 

「まぁまぁ。二人ともお風呂で弟君の話を聞いてあげるから行こうよ。ね?」

 

「うぅ……ありがとうございます武部先輩」

 

「武部さんは優しいわね。小さい時のひで君みたい」

 

妙子と柚子は沙織に説得されてその場から離れて他の仲間がいる浴場へと向かって行った。大友はちょっとした一悶着が終わったことに安心すると同じようにその場から離れようとするが、みほが彼の手を握る。

 

「どうしました。みほ姉貴?」

 

「誠也君。その……私達も一緒にどうかな」

 

「えっ……いやいや。他の皆さんもいますし。そういうのはもっとこう何というか二人きりでないと……あっ」

 

大友はみほの思わぬ一言に動揺し、自身が思っていることをそのまま彼女に言ってしまう。それに対してみほはクスクスと笑う。

 

「ふふっ。誠也君の本音を聞けちゃった。今日は無理だけどまた今度ね。じゃあ皆のところに行ってくるね」

 

「ははぁ。これにて失礼しま……おふっ」

 

「隙あり♪バイバイ誠也君」

 

一旦別れようとした途端、みほは大友を後ろから抱きしめる。少し動揺する彼の反応を楽しむかのようにいたずらな微笑みを浮かべると、無邪気に手を振ってその場から離れる。対する彼も優しく微笑みながら彼女の姿が見えなくなるまで左手で手を振る。

 

 

 

 

大友は慎司と秀人の後を追いかけて校門の前までE-25で行くと、彼ら二人をはじめとする自身の組員達や平形や黒木といった勇彰會組員そして生徒会長の杏が何かを話し合っていた。

近づいてよく見てみると杏が複雑な表情で一つの案内状のようなものを持って困惑する少年たちを説得しているようにも見えた。

その横に戦車を止めて彼が降りるなり、少年らは深刻な表情で彼に詰め寄った。

 

「どうしたんだ一体?」

 

「親分かなりマズいことになりました。学校が……廃校に」

 

「なんやさっき文科省の辻とかいう人が来て大洗学園高等学校は今年の八月三十一日をもって廃校になる。みたいなことを言うてたんです。それにこれから明日までに学園艦から退艦しなければならないみたいで」

 

「なんだと。俺達はちゃんと優勝したのにか……文科省は虫が良すぎないですか?角谷会長」

 

水野と平形が大友に対し、あふれ出そうな感情を抑えているような表情で今起きている事態について説明する。対する彼も二人の言葉に動揺しそうになったが冷静に対処する。

 

「その通りだよ。おまけにこんなものまで押し付けて来たよ」

 

「高大一貫新校計画書。何でこんなものを……大洗学園廃校に伴い大洗学園高校の生徒の転学及び旧大洗学園艦出身者の入学斡旋ですか?」

 

大友は杏から高大一貫新校計画なる一枚の紙を受け取り、その内容を軽く確認する。内容を軽く説明するなら陸上にある公共施設を改修してできる私立の高大一貫校のことであり。

後押しには学園艦の建造などで有名な銘王造船株式会社や中学生戦車道界隈で有名な『統心機甲団(とうしんきこうだん)』といった団体が携わる予定のようだ。

 

「あの人の意図が分からないよ私にも。取り敢えず今は戦車道を選択しているみんなが集まりやすいようにするとか戦車を文科省の管轄下にさせないとか最善の策を練らないと」

 

「そうですね。勇彰會や組の皆も事務所にあるもので持ち出しやすいものやタンカスロンで使う戦車は市街地の貸倉庫に移動させよう。それに加えて混乱している各学科や委員会、クラブの方達を見かけたらその人たちを手伝ってあげるようにするんだ」

 

『……はいっ!』

 

唐突な事態に対する最善の策を尽くすために杏は大友に対してそう言いながら計画書を片手で軽く握りつぶしてその場を後にした。

彼も今自分達ができる最善の策として他に困っている生徒達の手助けや自分達が所有する戦車といったものの移動を速く済ませるための指示を出す。

双方の組員達も自分達の身よりも困っているであろう他の級友といった存在が頭に浮かんだのだろう。静かに返事すると、大友と共に最善の策を取るために行動を起こすのだった。

そして、この数時間後。今起きている事態を知る由がない杏以外の戦車道乙女達は廃校という事実を突きつけられることになったのだ。

それと同時に強欲な影に抗うための戦いが今、始まろうとしていた。

 

 




ありがとうございました。捏造設定が登場しましたが、後々絡めます。次回は第二十五話を投稿する予定です。
ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております


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第二十五話 学園艦との別れ

ご覧いただきありがとうございます。今回はオリキャラと大袈裟な感じの捏造設定の登場です。引き続きお楽しみください!


大洗学園に起こっている様々な混乱は混乱大友が率いる大友連合会や平形が率いる勇彰會といった戦車道男子によって沈静化されたものの、戦車道乙女達の戸惑いは収まらずにいた。

そんな中、暇が出来た秀人と慎司といった弟コンビは一号戦車C型の砲塔や車体に座って学園艦の山から見える海や夕日といった風景を見収めるためにかれこれ一時間近く眺めていた。

 

「もう終わりか……この学園艦でしか育たない珍しい花があるってこの前五十鈴先輩が見せてくれたんだけどそれも見れなくなるのか」

 

「そうだな兄貴。小さい頃は妙子姉と虫取りとかして遊んだりとか親に内緒で夜に家から抜け出して星空を眺めたりとか。今思えばさっきは素直にすれば良かったのかもな」

 

「そうだよ。ここで柚子姉と虫取りもしたしウチの父さんが昔タンカスロンで使っていた7TPを始めて操縦したのと一年前に大友の親父が初めて学園艦に来た時にここで大友連合会の結成式も兼ねて戦車集会なんてのもやったよな。もうそれとここからの夕日見れなくなったりできなくなるのか……」

 

「兄貴、もう俺泣いて良いか?我慢できねえよ。他の皆は我慢してるけど俺は限界だ」

 

「ああ。男二人ならバレねえからな。一緒なら……っ……っ」

 

「「……っ……っ!!」」

 

二人の少年はそれぞれの思い出に浸っている内に堪えきれなくなったのだろう。目から涙が零れ落ち、制服のズボンがどんどん濡れていく。

彼らが泣き出して一分も経たないうちにもう二人の足音が戦車の近くまで聞こえてくる。泣くことで精一杯だった二人は涙を拭うことなくその方向に目を向けると妙子と柚子が慈しみに溢れた眼差しで弟たちを見つめる。

 

「二人とも何してるの?お姉ちゃんも混ぜて」

 

「やっぱりここに来てたんだ。ここから見る夕日って綺麗だよね~何で戦車なの二人とも」

 

「た、た、妙子姉。これから兄貴と海岸線を攻めようと思ってたんだ。だよな兄貴」

 

「そ、そうそう。一号のC型って二次大戦の戦車なのに七九キロも出るから。最後にドリフトをしてみたいと思ってさ……ははっ」

 

母性を感じさせるような調子で声を掛ける姉たちに対して目から零れる涙を拭いながら咄嗟に嘯いて何もなかったかのように作り笑顔をする。

 

「「放してくれよ……っ……っ」」

 

「いや!シンちゃんは嘘つく悪い子じゃないから素直になるまでこうする。柚子先輩、こういう時はアレですよ」

 

「そうだね。妙子ちゃん」

 

「「せーの。ちゅっ♡」」

 

「「……っ……っ……」」

 

そんな弟たちの態度に呆れると戦車から降りて突っ立っていた二人の前まで行き、そのまま強く抱きしめると同時にジタバタする二人の顔を両手で支えるとそのまま左右の頬に四回キスする。

それが効果を発揮したというべきだろうか、再び我慢できなくなった慎司と秀人は泣きながら姉たちを抱き返す。

 

「ふふっ。シンちゃんは本当にいい子。いっぱい泣いたり甘えたりして良いんだよ」

 

「ひで君もいい子。いっぱい泣いて甘えてまた元気になってね」

 

「うぅ……っ……っ。こうなったら甘えまくってやる!!」

 

「家族なんだしやましいことはない。妙子姉はさっきそう言ったよな。だったらそうするまでだ……っ……っ」

 

大人しくなった弟を優しく抱きながら頭を撫でる。どこか吹っ切れた弟たちは涙を流しながらそう言って姉たちの胸に顔を埋めるのであった。

この間にも戦車道履修者たちは彼ら彼女ら四人のように心残りが無いように残された僅かな時間を過ごしているのだった。

 

 

 

 

大友はみほの手伝いに来てからいつの間に寝ていたのだろう。ズボンのポケットに仕舞っていた携帯電話の着信で目が覚めた。

眠たい目を左手で擦りながら電話をポケットから出して着信主を確認すると、あんこうチームの沙織からだった。何かあったのかと思い、電話に出る。

 

「もしもし。どうしたんだ沙織ちゃん」

 

「もしもし。誠也君今起きた感じ?私達の戦車なんだけどね。ある人のおかげで待機場所へ持っていけることが決まったの!それに他の皆も来てるから。今からみぽりんも誘って来てくれない?」

 

「そうなんだ。それは良かった。だったら今からみほ姉貴も誘ってそっちに行くよ」

 

「分かった待ってるからね。バイバイ」

 

この時まで寝ぼけていたのだろう。電話を切ってからようやく誰かの膝の上で寝ていることに気付く。それだけじゃない。

そんな彼の姿を見つめている三人の人影も目に映る。意識がはっきりして分かったのは、そんな様子に微笑んでいるみほに膝枕をされていることと待ってましたとばかりに彼を嬉々とした表情で見つめる継続高校のミカやアキ、ミッコの三人であった。

 

「み、みほ姉貴すみません。そこにいるのはミカさんにミッコちゃん、アキちゃんじゃねえか元気だったか。今日のエキシビジョンを見に来てたのか?」

 

「そうさ。それに今の君も何となく気になったんだ」

 

「珍しくミカがストレートだ。それと誠也が元気そうで良かった」

 

「久しぶりだね誠也君。けど、こんな大変な時に来てごめんね」

 

「いえいえ。ミカさん達を招いたのは私の方ですし。それに誠也君の事が気になるのなら良いかなって思ったんです」

 

ミカやミッコ、アキは久しぶりに大友と話せることが出来たて嬉しかったのだろう。嬉々とした表情で彼に話しかける。

大友と彼女ら三人との接点はこれも一年前に遡り。プラウダ高校と継続高校合同の交流会の際、継続高校が戦車不足であることを知った大友は、この問題を放っておけないと感じたため。

プラウダ高校のカチューシャと交渉したうえで大友連合会・継続高校合同チームが勝利すれば使用していないまたはレストアが可能だが手を付けていない戦車を格安で継続高校に売却することを前提にタンカスロンで勝負を挑み。勝利したこともあり。

彼と彼女ら三人は親しく。また、大友を引き抜いて継続高校の戦力に加えることと私的感情で彼を自分の物にするために決闘に臨んだルミの説得役に回ったことから信頼し合っていた。

 

「せっかく君たちに会えたところだけど。私達は君たち二人でいたところを邪魔したみたいだね。じゃあ、また会える日までさようなら。行くよミッコ、アキ」

 

「そうだね。いい感じにの雰囲気になってきたし。じゃあね二人とも」

 

「みほさん失礼しました。バイバイ誠也君」

 

「ああ。みんなさようなら。また会える日まで。行きましょうかみんなのもとへ」

 

「そうだね。行こうか」

 

大友とみほは学校で待つ仲間のもとへ向かうためにマンションの下までミカやミッコ、アキを見送ると同時に手を繋いで学校の方に走り出した。

 

「やっぱりあの二人はくっついちゃったね。そんな気はしてたけど」

 

「戦車道カップルか。初めて見たかも」

 

「ついに舎弟を飛び越えてくっついちゃったんだ……でも幸せならいいや」

 

「アキ、戦車道を続けているとこんなこともあったりするから私は続けているんだ。私は今の君と同じ気持ちだけど、二人の幸せを祈ってあげよう」

 

大友とみほが手を繋いでいる姿を見たアキはどこか寂しそうにしていたが。すぐに気にするのを辞めて一人でころころと笑っていると、ミカは彼女に共感しながらカンテレを軽く弾くのだった。

 

 

二人が校庭まで向かうと、戦車道の履修メンバーが全員集合しており。二人を見たメンバーは手を振って二人の名前を呼んでいたのだが。

よく見るとそこには夏の夜であるにも関わらず。黒のスーツに身を包んだ初老の眼鏡の男性がパイプ椅子に座って手を振るメンバーや二人の方を見て静かに微笑んでいる。

 

「西住先輩と大友先輩が来てくれた!やっぱ二人が居ないと始まらないよね」

 

「そうそう。戦車なんだけどねぇ。何と学園長先生の所有物ということで話が済みそうなんだよ」

 

「ほら。ここに書類もあるし。文科省なんてへっちゃらよ」

 

嬉々とした表情でウサギさんチームのあやや生徒会の杏、柚子が二人の前まで行き。これまでの経緯を二人に説明する。

その後ろで一旦落ち着くことが出来た慎司や秀人の二人が学園長の方を向いて改めて頭を下げる。

 

「この器量……さすが江城連合会初代会長に相応しいですね。色んな学校の不良戦車道乙女とのドンパチを最前線で指揮していただけあります」

 

「それだけじゃないだろう。何てったって学園長先生はその昔。中学生、高校生時代に義理人情と弱きを助け強きを挫く任侠精神を重んじた上で江城連合会を率いていたことから戦車道界の侠客と呼ばれてたこともあっただろう。本当にありがとうございます。学園長先生」

 

「気にする事はないよ。少しでも君たちのためにも動いてみたかったものだからね。ははっ。それはもう昔の話だよ近藤君、小山君」

 

学園長……『江城正人(こうじょうまさと)』はころころと笑いながら畏まった態度で応じる。慎司が初代会長である彼の過去のエピソードを無邪気な笑顔で語っている傍ら大友をはじめとする戦車道男子達は尊敬するような姿勢で彼の話に耳を傾けている。

 

「不良戦車道乙女とのドンパチってそんな事もやってたんですか?!学園長先生もしかしてその右頬にある斜めに横切るような傷跡は……」

 

「昔ね。タチの悪い戦い方をする連中にしてやられたことがあったんだよ。大したことなかったんだけどね」

 

「猫に引っ掻かれたんじゃないんだ」

 

「うそっ?!学園長先生意外とやんちゃだったんだ」

 

江城がそど子に自身の右頬にある傷跡について訊かれると少し困った表情で過去の事について少し話すと彼女の後ろに居たパゾ美とゴモヨが彼の顔を二度見して驚く。

 

「戦車道界の清水次郎長ぜよ……」

 

「「「それだっ!!!」」」

 

そんな彼の過去のエピソードを聞けたこともあってかカバさんチームのおりょうの一言にエルヴィンやカエサル、左衛門佐の三人が彼女に指をさして共感する。

 

「君たち以外の生徒の殆どは既に実家へ帰ったか転校が決まるまでの待機場所へと行ってしまったよ。だけどこうして大事な生徒と二十年近く働いてきた学校で残された時間を楽しく過ごせてよかったと思っているよ」

 

「学園長先生。みんな為にここまで動いてくれるなんてありがとうございます。でも先生はこの後どうされるつもりなんですか?」

 

「実はね。角谷さんから話は聞いていると思うけど。例の高大一貫校の戦車道チームの顧問として迎え入れることを打診されているんだよ。まぁ、私としては乗るつもりは毛頭ないんだけどね。それに幸いにも早速世間様から大洗学園廃校に対して文科省を批判する意見が上がっているから私もしかるべき手は打つよ」

 

江城はそう言いながら生徒達のイキイキとする姿を見て感慨に耽っていると、みほが彼の今後を案じて彼に問いかける。

彼は彼女に対して自分の意志を伝えたうえでこの後の行動について話す。

 

「学園長先生。俺はそうして文科省の教育局が世間様といった多方面から批判される前提で廃校を進めていることで裏があるようにしか……そう思わないか優花里ちゃん。それに辻さんはたしか」

 

「私も同意見であります。確か廃校及び廃艦を推進する学園艦教育局局長の辻廉太氏は私費を投げうってまで自身が経営する孤児院の子供たちと自身を総統とした統心機甲団を率いていますから。高大一貫校に我々を引き入れていずれは強豪校入りするつもりでしょう」

 

「そう考えることで辻褄が合うかもしれないけど。その証拠が何一つ挙がって無い以上、真実も分かりそうにないよ」

 

大友が自身の顎に手を当てると常識的な範囲で考えた後に優花里と共に間違いではない辻の思惑を言い当てるのだが、江城は二人の考えに共感しつつ同じように物思いに耽るのであった。

 

 

 

警察庁・捜査二課

この日の晩、警察庁捜査二課の三人の警部と刑事が机の上に置いたファイルやホッチキス止めした紙束といった資料などを手に取っては睨みつけていた。

その資料には文科省学園艦教育局局長、辻廉太と銘王造船株式会社代表取締役を務める木下の写真や経歴がまとめられている他、辻が運営する孤児院『たいよう園』や彼が総統を務める統心機甲団の経歴そして、この二人の行動を隠し撮りしたかのような写真といったものが取り揃えられていた。

この三人の中をまとめている警部の『鬼瓦源次郎(おにがわらげんじろう)』が大きなため息をつきながら二人が写された写真を机に軽く置く。

 

「しかしまぁ。この二人は何を考えてやがるんだ。大洗学園を廃校にして陸の政府機関跡を改装して高大一貫校建設か。こいつらは自分達が慈善者にでもなったつもりかもしれんが。腹の中では何を考えているのかよく分からん」

 

「全くその通りです。この二人、主だった経歴としては高校一年の夏休み後に北海道の陸上に建てられた私立高校に転校してきてそこの戦車道部の相談役として辣腕を発揮していたようです。その翌年に戦車道連盟で男子戦車道と女子戦車道に分けられたものの。特別な事例として女子戦車道でも相談役の地位を維持し、高校三年生になるとその学校を準優勝まで導いています。高校卒業後は戦車道の大学選抜チームからのスカウトをなぜか辞退し、大学時代及び大学院生時代は戦車道教導塾のアルバイト講師として過ごし。卒業後は辻氏が文科省学園艦教育局職員を経て一年前に局長に就任。木下氏が会社の幹部から実力を買われ、更には代表取締役と社長だった倉橋夫妻から推薦を受けて代表取締役に就任しました」

 

「それに加えて辻氏は私費を投げうってまで様々な手続きが必要だった戦車道家の遺児たちやその他の孤児達を引き取ってたいよう園を設立し。戦車道を通じて入所する子供たちをケアしているそうです」

 

鬼瓦の一言に応えるようにこの中でも若い刑事、『千葉歳三(ちばとしぞう)』は資料を要約した文をメモ帳にまとめており。それを彼に対して話す。

千葉の文を補うかのようにインターネットを用いてこの二人を調べていたもう一人の刑事である『須藤真(すどうまこと)』が辻の官僚以外の顔を鬼瓦に説明する。

 

「そうか戦車道を通じて……だが、大企業の代表取締役との癒着まがいのことをしている疑いが出ている以上。シロかクロかも分からん状況だ。引き続き手の抜かりが無いように捜査するんだぞ二人とも」

 

「「はいっ!!」」

 

辻と木下の思惑通りにいかせないためにもこうして水面下で抗う者達の姿がここにもあった。ここで鬼瓦はふと何かを思い出したかのようにこの二人の刑事を置いて別の資料室へと行き。

二十二年前に起きた様々な事件や社会問題となった出来事に関するもので世間に公表されていない報告が集められた資料を手に取る。

 

「この辻という役人と木下という代表取締役の二人が戦車道を採用する陸上の私立高校へと転学した時期を考えるとあの忌々しい真闘派が解散した時期と被ることになりそうだな。いや、私の考えすぎか?いいや、あの出来事の後。神宮()倉橋(木下)は失踪したはずだ。二十二年経った今になってあぶり出される事実もあるかもしれん。この二人の親族や関係者をしらみつぶしにあたるか……淳ちゃん。淳ちゃんならどうする?」

 

彼が今、手に持つ資料は世間には公表されずに家庭裁判所と教育委員会を通じて警察庁に流れて来たものであり。その資料には神宮と倉橋が率いていた真闘派の情報について詳細に記されていた。

この鬼瓦もかつては淳五郎や好子と協力し、真闘派の悪事を叩き潰した内の一人だった。彼はその事を思い出しながら夜も活発な勢いで光り続ける東京の街を資料室の窓から見つめるのであった。

 

 




ありがとうございました。オリキャラとしての学園長登場でした。次回は第二十六話を投稿する予定です。
評価やお気に入りへの登録、ご感想などお待ちしております!


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第二十六話 戦車道乙女と戦車道男子の日常です!

ご覧いただきありがとうございます!二万UAを突破しました。改めて感謝申し上げます。今回から日常回が主なパートになります。
引き続きお楽しみください!


大洗学園の学園艦から退艦した戦車道履修者の面々は自分達が割り当てられた待機場所兼寮で寝泊まりすることとになり。待機場所の近くに実家がある大友組の一部のメンバーはその実家から通学することとなった。

なお、勇彰會の殆どの面々は寮の近くに江城連合会の本部があるため。そこで寝泊まりすることになったようだ。さて、この寮に残った戦車道男子達は大友連合会の会長。大友や彼の兄弟分である村川、山本、我妻と子分の水野、木村、安倍、秀人や慎司といった弟コンビ。勇彰會からは総裁の平形や舎弟頭の黒木の二人がこの待機場所で寝泊まりすることになった。

一時的な待機場とはいえ、食料や医療品が全校生徒に行き届きにくい状況となっているため。それら送り届けるための手伝いとして大友達戦車道男子が出張っていた。

そんな中、あんこうチームのみほや華、沙織、優花里、麻子は出張っている彼らの夕食を作りながら赤く燃える夕日を眺めていた。

 

「誠也君達、結構長いなぁ……昨日も帰って来てすぐに寝ちゃってたよね。ちゃんとご飯とか食べているのかな?」

 

「そうですね。武君が言うにはちゃんとご飯は食べているそうです。今日で他の授業を履修する人たちや私達の生活必需品が必要数揃うから当分心配は無いと言ってましたわ」

 

「こうやって私達女の子に楽をさせて自分達は他のみんなのために働くってホント良い子達だよね~。みんな好きになっちゃうかも」

 

「それに加えて食料や生活必需品が順番的に他の授業を履修している生徒の皆さんに優先されている中、予定よりも速く届けたりなるべく多く持って帰って来てくれていますよね」

 

「戦車道男子の子達には助けられてばかりだ。だが、ちゃんと睡眠が取れているかも気になるな」

 

「それなら昨日も私達が作っておいたおかずとかご飯を食べた後にすぐ寝ているよ。それで今日みたいに朝早くから戦車に乗って他のみんなに必要なものを届ける手伝いをしているみたい。でも、華さんが言うようにそれも今日までみたいだから今日はみんなと一緒にご飯を食べることが出来たらいいね」

 

みほがそう言った瞬間、校庭の方から戦車の履帯音が聞こえてくる。同じ寮で寝泊まりしている大友達が手伝いを終えて帰って来たのであった。

五人がそれを理解すると、一旦手を止めて校庭へと向かっていく。他のチームのメンバーも彼らの帰りを待っていたのだろう。気付けば同じように校庭に集まっていた。

 

「お疲れ様。みんな本当に助かったよ。疲れてるかも知れないから今からゆっくりしてね」

 

「出迎えありがとうございます皆さん。みほ姉貴、ただいま戻りました」

 

「おかえりなさい誠也君。今からこっちに来て晩ご飯にしない?まだ作っている最中だけど」

 

「あっ作ってくれているんですか。ありがとうございます。じゃあ今から一緒に作りましょう」

 

杏や他のメンバー達に出迎えられた大友が彼女達に頭を下げた次にみほを見つけると優しく微笑みながら彼女の前まで行く。

みほも同じように労いながら左手を持って張り巡らされたテントの近くにある二人用のミニテーブルを指差す。

大友は久しぶりに彼女の出来立ての料理を食べれることが嬉しいのだろう。幼気な笑みを浮かべて賛同する。

 

「という訳で今日は解散っ!みんなお疲れ!」

 

『お疲れ様ですっ!!』

 

大友が後ろにいた仲間達に解散を告げると彼らは膝に手を付けて頭を下げて気が合うメンバーのもとへ向かうまたは彼らに好意を持っているであろう他のチームメンバーが彼らのもとへ駆け寄る。

 

「水野君、よかったら私達ウサギさんチームと武部先輩の七人で晩ご飯にしない?あと、黒木先輩もよかったら……って優季や桂利奈、紗希、あや、あゆみの他に会長に囲まれている。武部先輩どうしましょう?」

 

「ふふっ。じゃあ、ここは澤さんと水野君の二人きりということで。黒木君やみんなは私がまとめるということで。二人で楽しんでね」

 

黒木が杏や残りのウサギさんチームのメンバーに取り囲まれて手を引っ張られたり積極的に誘われている傍ら。

沙織も彼女達に混ざろうとしたのだろう。彼女は梓と水野の手を持つと二人の手を繋ぎ合わせる。

 

「えっちょっと。さおりん先輩急すぎませんか?!梓ちゃん俺の手を持ってどこ行くの?」

 

「武部先輩の言う通りたまには私達二人きりでどうかな?」

 

「えっとまあ。そうだな。良かったらなんか手伝うよ」

 

梓は沙織がしたことに乗り気だったのか、周りのメンバーにバレないように照れくささが勝って戸惑う水野の手を引いてその場から離れる。

彼も素直になって彼女の後ろをついて行くのだった。

 

「はーい。みんなお父さんは疲れているかも知れないから一旦離れてください」

 

『はーい』

 

「……」

 

「沙織ちゃん。俺がお父さんってどういうこと?!あっでも。勇彰會内黒木組組長やから違和感ないな」

 

沙織の呼びかけに紗希以外のメンバーが離れると同時に黒木が沙織にツッコミを入れるが。

彼も戦車道チームの傘下組織の親分という身分のため。それほど気にならなかった。

 

「黒木ちゃんって本当に丸山ちゃんに懐かれてるよね。ねえ。丸山ちゃん。私にそこ代わってくれない?高級干し芋あげるからさ」

 

「……結構です。先輩のそばがいいです」

 

「紗希ちゃんったら大胆ね。じゃあ私は先輩の右腕」

 

「じゃあ私はあやちゃんとお腹を半分こ!」

 

「あたしは先輩の左腕かな?会長と武部先輩はどうします?」

 

「そうだね。私が右手で武部ちゃんは左手よろしく〜という訳で厨房へパンツァー ・フォー……なんてね」

 

「結局この状態に戻るんかいな……まぁ、ええけど」

 

紗希が黒木の背中にしがみ付き続けている様子を見た杏が彼女を持ち込んでいた干し芋で釣ろうとするが。紗希はそれを断る。

優季が紗希につられたように再び黒木の右腕を軽く抱きしめ始めると桂利奈やあや、あゆみそして杏や沙織が便乗して再び彼を取り囲んで寮の中へと入って行くのだった。

対する黒木は仕方ないな。という感じの表情でそのまま彼女たちと共に歩み始めた。

 

「黒木の兄弟……大変そうやな」

 

「ははぁ。そうですね。英雄兄い。黒木の叔父貴が連れて行かれたし。俺たちはどうしようかな」

 

「そうだな。平形本部長や弟コンビを誘ってコ◯スにでも行くか?と言いたかったけど俺たちにも迎えが来たみたいだな。よお忍ちゃん」

 

「木村君、良かったら慎司君や平形先輩と一緒に来ない?ってさっきまでそこに居た慎司君や秀人君が居ない」

 

平形や安倍、木村が寮の中に連れ込まれる黒木を眺めながら五式軽戦車・ケホにもたれかかっていると、アヒルさんチームの忍や典子、あけびの他にカバさんチームリーダーのカエサルもやって来た。

 

「そう言えば慎司がレオポンさんチームの皆さんがどうとか言ってたよなあ。本部長も行ってしまったのか?あれ。妙子ちゃんは」

 

「本当だ。あの子ったら慎司君となんらかの糸で繋がっているのかしら?多分あの子の元へ向かってそうだわ」

「糸……確かにありえそうだな」

 

弟コンビ達が気になった忍と木村がそう言いながらなんとなく林の方を見つめるのだった。

この時、慎司と秀人は小走りでレオポンさんチームの元へ向かっていた。弟コンビの内、慎司はチームのリーダーであるナカジマに憧れを抱いており。

彼は周囲にいる女性の中で姉の妙子を除いて戦車の整備などで彼女とよく一緒になることが多く。

また、第六十三回戦車道大会の間は一緒にポルシェティーガーを整備していたことや共通の自動車という趣味があったことから意気投合し、放課後も遅くまで二人で一緒に学校に居たということもあったからだ。

 

「慎司、俺は陰から見守っておくからこっからは一人で行ってこい。がんばれ」

 

「お、おう。行ってくるよ兄貴」

 

秀人は慎司を軽く励ますと、木陰に身を潜めるのであった。慎司は軽くうなずくとそのままポルシェティーガーの上に座って夕陽を眺めているレオポンさんチームのもとへと向かう。

 

「皆さんお疲れ様です。良かったらその……俺も混ぜてくれませんか?」

 

「いいよ。慎司君、私とホシノの間においで」

 

『ゆっくりしていてね!』

 

慎司は四人に優しくそう言われると照れ臭くなりそうな気を押し殺しながらナカジマとホシノの間に座るのだが。この二人は彼が座った途端、密着寸前まで距離を詰める。

 

「き、今日は夕日が綺麗ですね。皆さんはいつもここで晩ご飯にしているのですか?」

 

「そうだよ。今日は近くのコンビニまで行ってお弁当とかお菓子、ジュースを買って来ちゃった。慎司君も同じようなものを買ってきた感じ?」

 

「はい。皆さんのお話を聞いてみたくて俺も似たようなものを買って来ました」

 

慎司が帰ってくる途中でコンビニで買ってきた食べ物などを袋から取り出すと同時にナカジマの口が開いた。

 

「そっか。何から話そうかな……慎司君は好きな子とか出来たことないの?」

 

「それってどう言う意味ですか?」

 

「ははっ。恋愛的な意味でだよ」

 

「っ?!実は俺……まだ一回も無いんです。この前のローズヒップって子も友達以上恋人未満って感じの仲です。それに今まで趣味に生きてきた戦車バカなんで」

 

ナカジマの問い掛けに対して慎司は目をキョロキョロさせると少し顔を赤くさせながら答える。

彼の表情が可愛らしく感じたホシノは彼の頭に自身の頬を密着させると耳元で語りかけた。

 

「へえ。そうなんだ。私からじゃあもう一つ聞くけど……今ここにいる自動車部四人が君の事をそう言う意味で好きだとしたら誰を選ぶ?」

 

「そ、そ、それは……俺はレオポンさんチームもとい自動車部の皆さんの操縦テクニックや整備技術に憧れを感じてるので選べません。というかそうなってしまったら先ず。妙子姉やさおりん先輩、大友の親父に相談しますっ!……あ」

 

『慎司君ったらかわいい♪』

 

「ひゃっ?!おふっ……」

 

慎司は悪戯な笑みを浮かべたホシノの問い掛けに対して赤面しながら自分なりの考えと思いを口走ってしまい。ふと我に帰ると蚊の鳴くような声を漏らす。

そんな彼の反応がさらに愛らしく感じたのだろう。四人はそのまま慎司を抱きしめる。

 

「うぅ……っ…っ…シンちゃん。もうお姉ちゃんのそばにいてくれなくなっちゃうのかな?」

 

「それは絶対無いと思うよ妙子ちゃん。家族だし嫌いになったわけじゃないから大丈夫だよ」

 

「でも。私が秀人君の事を好きだとしてお付き合いを始めたとしたら柚子先輩から奪っちゃう感じになっちゃうかもしれないじゃん」

 

「いや、あくまでも血の繋がる姉弟で恋人同士じゃないから問題ないし。柚子姉ならさすがに理解してくれると思うよ」

 

慎司がナカジマ達に愛でられている様子を近くの茂みに隠れながら見ていた妙子は、涙を浮かべながら何処か寂しい気持ちになっていた。

秀人は落ち着いた感じの喋り方で彼女を慰めようとしている。

 

「じゃあ、秀人君をシンちゃんだと思ってぎゅってして良いかな?大丈夫、キスしたりしないから。それにブラコンを卒業するきっかけになるかも」

 

「何でそういう発想になるのっ?!……誰かに見られていないから良いけど(このやり取りを柚子姉なら快諾してくれそうかな?)」

 

「じゃあ……シいや、秀人君。いつもありがとう。好き〜っ!」

 

「どういたしま……おふっ(柚子姉より強い上同じくらい柔らかい)」

 

彼は彼女の力になりたかったのか、そのまま抱きとめる姿勢に入ると妙子から力強く抱きしめられる。

妙子と秀人では身長が10cm少々彼女の方が大きいため、恵まれたサイズの胸が彼の顔面を直撃し。それに加えて力強く抱きしめられたこともあって埋められる形になり。

彼は自身の姉のものと同じ心地の虜になってしまう。

 

「ちょっと強くしすぎたかな?でも…何か楽になった気がするからありがとうね!それに変われた気もするっ!」

 

「力になれてよかったよ。じゃあ、戻って柚子姉と一緒に何か食べよ」

 

「いいの?じゃあ、ご一緒させて貰うね」

 

「立ち止まってどうしたの。具合でも悪いの?」

 

「ごめんなんでもないよ……(秀人君、私は……君の事が大好きかも♡)」

 

「よかった。今日の晩ご飯は何にしようかな〜」

 

妙子は元の元気さを取り戻し、秀人は彼女の様子を見て安心するとそのまま夕食に誘う。

妙子は喜んで秀人と一緒に寮まで向かうのだが、途中で立ち止まる。心配した彼が彼女に声を掛けると平気な様子を見せたため。

夕食のことを考えながら再び歩み始めたのだが、妙子が秀人に対する"好き"のギアをlikeからloveにシフトしたことなど彼は気付かないのだった。

 

「他のみんなも行ってしまったな。安倍君、良かったら私たちとも一緒にならないか?」

 

「あっいいですよ。いつも仲良くしてくれてる先輩の頼みを断るわけないじゃないですか」

 

「ありがとう。アンツィオ高校のひなちゃんが君の事を知りたいって連絡して来たんだ。よかったら明後日辺りあの子に会ってみて欲しいのだが」

 

「そうなんですか。たしか鈴木先輩の幼なじみのカルパッチョさんは副隊長さんでしたよね。俺なんかでよかったら全然構いませんけど」

 

「ひなちゃんもきっと喜んでくれるだろうな。すまない、前置きが長くなったな。そうだ、夏なのにこの辺りは寒いから一緒にマフラーをしないか?いや、した方がいい」

 

「ふ、二人マフラーですか?まぁ、いいですけど(まさかねぇ…いや、気のせいだろうな)」

 

安倍は戦車から離れて歩きながらカエサルと話していると、立ち止まった彼女からいわゆる二人マフラーというものをされ。内心で少し迷った後に承諾する。

 

「よし行こうか。ところで安倍君って好きな子はいないの?」

 

「居ないですねぇ。大友の親分や水野のカシラみたいに戦車バカなんで逆に女性が多い戦車道やタンカスロンを続けていても出来ませんでしたね」

 

「それは勿体ない。戦車道は女性が多いから出会える機会をもっと大事にしないとダメじゃないか。私もいるがそれはまた今度話すとしよう」

 

「いらっしゃるんですか。ははぁ。そうですね。それに気を配るようにしてみます(俺はありえないとして親分や村川の叔父貴辺りかな?)」

 

「それで良し。君にいい出会いがあることを願うよ(なんて鈍感な子なんだ……やっぱりひなちゃんに協力を頼んでよかった。君が大好きに決まってるじゃないか雄飛君)」

 

慎司や秀人に続いて鈍感な安倍は、カエサルからの行為や何らかの意味を含めた会話に気づくことなく。

そのまま他のカバさんチームメンバーのもとへ向かっていくのだった。対する彼女は彼の鈍感さに驚きを隠せないでいたが。そんな様子を内心で愛らしく感じるのだった。

 

 

 

夜が更けて時間も午後十時頃になり。他のメンバーが就寝したであろう時間帯にみほと大友は、二人で寮の近くにある展望台に訪れて星空を眺めていた。

さて、この展望台に訪れた二人は明後日の出来事について話し合っていたのであった。

 

「例の高大一貫校への転学手続きの為に親の判子がいるとは聞いていました。今回は代行いや、家元のもとへ向かわなければならないのですか」

 

「そうなの。お母さんがね今更都合が良すぎると感じるかもしれないけど、来なさいって言ってたの。それに私とよかったら誠也君とも話してみたいと言ってたわ」

 

「そうなんですか。だったら俺も行きますよ。大事なみほ姉貴を一人で向かわせるなんて出来ません。是非、俺も西住先生と腹を割って話してみたいと思っていたんです。あの方だってみほ姉貴が貴女自身の戦車道でも強いという事が十分理解できたと思います。大丈夫です。何があっても絶対にみほ姉貴を守ります」

 

「誠也君……いつもどんな時でも側にいてくれてありがとう。熊本に帰ったらお姉ちゃんも喜んでくれるわ」

 

「いえ、こちらこそ。俺もまほさんの事は気にしていたんです。なんだかんだ言って大会が終わったあの時から長く話した気がしませんから。何を話しましょうか」

 

大友はみほをどんなことからでも守るという熱意を思い出したのか。そのまま隣に座っていた彼女を優しく抱きしめる。

みほも嬉しくなったのだろう。同じようにして抱き返したりして話していると聞き覚えがある少年の声が二人の耳に入る。

 

「誠也君、この声ってまさか…」

 

「うちの桔平に間違いありません。バレないように近づいてみますか」

 

二人は立ち上がって手を繋ぐとそのまま水野がいるであろう場所へ静かに向かうと、そこには彼の頬を両手で包んだ梓の姿があった。

 

 

 

一年生ウサギさんチームのリーダーである澤梓は、大友組若頭の水野桔平に出会って話し始めてから好意を抱いていた。

彼も彼女の好意に若干気づいており。思わせぶりは一切せずに大事な仲間として接してきた。しかし、そんな水野も気付けば梓のことを好きだと自覚するようになった出来事があった。

決勝戦において渡河中だったウサギさんチームのメンバーを自分の意思で助けた他、フェルディナント駆逐戦車から梓を守る為に刺し違えたりしたからだった。

お互いに好意の認識があったものの。言い出せずにいたが、この日となって遂に梓から打ち明けたのであった。

 

「水野君、夜の戦車ドライブありがとう!すごく楽しかったし明日もタンカスロンとかみんなの昔話を聞かせてね」

 

「うん。明日も戦車で何処か行こうか。今日みたいにそのまま国道を走って夜の大洗港を眺めたりだとかマイナーだけど良い夜景スポットに行こうか」

 

二人は水野の愛車であるI号戦車C型(タンカスロン仕様)の上に座って他愛もない会話を続けていた。

すると、梓は水野と身体を密着させた後に恍惚とした表情で肩にもたれかかる。

 

「どうしたの眠たいの梓ちゃん。もう帰って明日にする?」

 

「ふふっ。水野君も本当は同じくせに……私は水野君の事が大好きなの。ちゅっ♡」

 

「……え?」

 

彼は彼女の表情に気付かなかったのか。彼女が眠たいと勘違いしてしまい。心配するのだが、梓は静か微笑むとそのまま水野の右頬に小さい唇を重ねてキスする。

彼はようやく彼女のした事を理解し、思わず驚いてしまう。驚いたのには梓にされたことだけでなく。自身の想いを彼女に読まれてしまったからだった。

 

「やっぱり女の子ってすごいなぁ。俺も大好きだよ梓ちゃん」

 

「水野君もそう言ってくれると思った。ねえ。私達これからも大好きなままで居ようね」

 

「ああ。俺も親分がみほさんを愛してるみたいになれてよかったよ。あの二人に負けなくらい仲良くしようね。梓ちゃん」

 

水野も素直な気持ちになって梓に自身の想いを伝えた後にそのまま抱きしめ合う。十秒近く経った後に彼女が彼の頬を両手で包んだ。

 

「水野君は誰にも渡さない。だから私としてくれないかな?」

 

「ああ。いいよ……愛してるよ梓ちゃん」

 

「私も愛してる」

 

彼が両手で彼女の身体を支えると同時に梓はそのまま自身の唇を同じように小さな彼の唇にそっと重ねたのだった。

 

「さて、邪魔をするとまずいので帰りましょうかみほ姉貴」

 

「そうだね。私達と同じ子がこれからも出来る気がするなぁ……」

 

「はい。あいつにも梓ちゃんという大事な子が出来て良かったと俺は思います」

 

この様子を見ていた大友とみほは二人に気付かれないようにそっと離れると静かに水野と梓の幸せを祈るのであった。

 

 




ありがとうございました。次回は第二十七話を投稿する予定です!
評価やお気に入りへの登録、ご感想などお待ちしております!


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第二十七話 舎弟と実家に行きます!

ご覧いただきありがとうございます。今回は短めですが。お楽しみいただければ。と思います。
引き続きお楽しみください!


みほは大友と共に実家へ持って帰る土産選びを終えた後、彼と共にボコミュージアムに訪れ。

再び愛里寿と一緒に遊びながら最近あった出来事について話していた。

 

「みほさんと誠也君が通っている大洗学園が廃校になったなんて大変だね。それに口約束とはいえ約束を破るなんてひどい…」

 

「それに再度抗議するために私の学校の生徒会長さんが今日、文科省に行ってるの。進展があれば良いんだけど」

 

「みほ姉貴。角谷会長なら上手くやってくれます。会長曰く現に日本戦車道連盟の児玉理事長と蝶野大尉の協力を得ているそうです。それにもしかすると愛里寿ちゃんのお母さんもとい島田流家元に協力を呼びかけるかもしれません」

 

話の途中で愛里寿から学園が廃校になったことを心配され。みほは現在の状況を彼女に説明する。

大友はそれを補うように杏から個人的に話された内容をみほに話した。

 

「確かに。お母様なら協力に応じてくれるかも……だけどもし。大洗学園と私が現在隊長をさせて貰っている大学選抜チームと戦わなければならない時が来たら。みほさんと誠也君に……」

 

「愛里寿ちゃん大丈夫だよ。その時が来ても何かの縁だと思えば良いんだよ。誠也君もそう思うよね」

 

「俺もそう思います。何も愛里寿ちゃんが申し訳なく思うことなんてないよ。その時が来たらお互い正々堂々戦おう」

 

話の途中で愛里寿は、これから起こるであろう運命を悟ったのだろう。目線を下に向けて持っていたボコの縫いぐるみを力強く抱え直す。

それに気づいたみほと大友は二人で彼女を抱きしめて優しく彼女に語りかけていく。

 

「……ありがとう。二人とも優しいね。あっそうだ。みほさんに誠也君ってもしかしてお付き合いしてるの?」

 

「「っ?!」」

 

「だって私を抱きしめてくれた時からずっと手を繋いでいるもん。本当のお父さんとお母さんみたいで良いね。誠也君、みほさんを絶対幸せにしてあげてね。私は誠也君とみほさんの事が大好きだから二人には幸せになって欲しいの」

 

「愛里寿ちゃん……」

 

彼女は二人から抱きしめられた際に手を繋ぎ合っている事に気付いたのだろう。

感謝の言葉を口にすると同時に微笑みを浮かべながら図星を指した。対する二人は少しばかり驚くが。

愛里寿はそのまま大友に対して自身の想いを告白する。それを聞いた彼は彼女の名前を呟くと申し訳ない気持ちになった。

それでも愛里寿は、許す気でいたのだろう。そのまま語り続けた。

 

「誠也君。私のお婿さんのことやお兄ちゃんになる事を気にしていたりする?私は全然構わないよ。だって誠也君は私と出会う前からみほさんの舎弟さんだったんだよね?普通ならお付き合いするところを舎弟さんになって「みほ姉貴」って言っているもん。お母様と私がその事を知らずに話を進めたっていうところがあるからこそ誠也君はみほさんを幸せにして欲しいの」

 

「ありがとう。愛里寿ちゃんも優しいね。絶対にみほ姉貴を幸せにするよ。だって俺は愛里寿ちゃんにとても感謝しているし尊敬しているから。尊敬する人の想いは絶対貫くよ」

 

彼女の想いを全て理解した大友も自身の想いを愛里寿に告げるとそのまま彼女の頭を優しく撫でる。

 

「約束だよ誠也君。みほさんと誠也君の二人がずっと幸せでありますように……はいどうぞっ!」

 

「ボコのお守りだ。それに幸せを祈ってくれてありがとう愛里寿ちゃん!」

 

「ありがとう。ずっと大事にするよ」

 

愛里寿は二人の幸せを祈ると同時に幼気な笑みで微笑むと真っ白なボコのお守りを二人の手に添える。

みほと大友はもう一度感謝の言葉を口にすると、彼女を優しく抱きしめるのであった。

 

「そろそろ私達は用事の時間が来たから。今日はこの辺りにしない?」

 

「そうだね。みほさん、誠也君。また会える日まで待っているよ」

 

「今日はありがとう愛里寿ちゃん。また今度会えたらね」

 

楽しい時間はすぐに過ぎると言うべきだろう。気付けば二人が仲間のもとに戻る時間となったため。

愛里寿に別れを告げるとそのまま大友の車に乗ってボコミュージアムを後にしてそのままみほの実家へと向かうのであった。

愛里寿は二人が乗る黒色のセダン車が見えなくなるまでずっと手を振り続けたのであった。

 

 

 

大洗学園の生徒会長たる角谷杏は日本戦車道連盟の理事長を務める児玉七郎や教官を務める蝶野亜美を伴って文部科学省の学園艦教育局局長たる神宮征四郎(辻廉太)のもとを訪れていた。

辻は杏の他に戦車道界の大物ともいえる児玉七郎と蝶野亜美が来ていたことに少し戸惑っていたが、普段の冷静さを取り戻して対応し始めた。

 

「廃校の件は決定しているんです」

 

「ですが。我が校が優勝すれば廃校は免れるという約束したはずです」

 

「口約束は約束ではないでしょう」

 

「辻く…いや、辻局長。あなたの立場なら廃校を回避する善処が出来たはずです」

 

「私もその通りだと思います。それに民法九十一条にも口約束は有効だと記されています」

 

「角谷さん、蝶野大尉。私としても可能な限り善処したんです。ご理解ください。それに児玉理事長、私一人の一存では心苦しい場合もあるんです。こちらもご理解ください(どいつもこいつも面倒ばかりだ。私の提案を受け入れれば良いものを……)」

 

「分かりました。では、また機会があれば伺わせていただきます」

 

辻は冷徹な態度で各々の疑問に応じては内心で毒づきながら三人に対してデタラメを口にする。

彼にとって運が良く。その真意に気づかれる事がないままこの日の訪問は終わりを迎えたのであった。

 

「もうすぐだ。もうすぐで私の愛する妻と愛する我が子を奪った連中の大元を排除する段取りができるぞ。そうだ。この私こそ日本戦車道の頂点に相応しいに決まっている……ククク」

 

間も無くして三人が局長室を後にすると、机の上の書類棚の横に置いていた小さな写真立てを手に取り。憎悪や悲しみ、寂しさに満ちたドス黒い笑みを浮かべながら独り言を呟くのであった。

 

 

 

生徒会広報、河嶋桃は副会長の小山柚子やその弟で広報補佐役を務める小山秀人と共に生活に困る生徒達の対応に追われていた。

大友組や勇彰會といった戦車道男子達が出張って問題を迅速に解決してくれているものの。他の寮が老朽化しつつある影響や思わぬ形で様々な道具が必要になったりといった問題が起き続けていた。

 

「河嶋先輩!他校の不良戦車道女子と風紀委員の三人がトラブルになりそうだったところを戦車に乗ったまた別の学校の男の子と黒木組長に助けられて今、ここに帰ってきているそうです」

 

「それは本当か!柚子ちゃんに秀人、すまないが後は頼んだぞ。ちょっとそど子達のもとに行ってくる!」

 

桃が一人の女子生徒からそど子達カモさんチームが危険な目に遭ったということを耳にした途端、二人にその場を任せて真っ先に仮の生徒会室から飛び出していった。

校庭から飛び出してすぐのところでカモさんチームのルノーB1bisに続いて一輌のコメット巡航戦車が校庭内に入ってくる。

 

「河嶋さん…」

 

「「「ごめんなさいっ!!!」」」

 

「お前達。心配したんだぞっ!絡んできた相手がどうしようもないやつだったらどうするんだ!」

 

三人の反省した態度が理解できたのだろう。この時の彼女は珍しく怒るよりも先にそど子やゴモヨ、パゾ美の心配をする。

その次にコメット巡航戦車のキューポラから身を乗り出して三人の様子を見守る少女のような容姿をした黒髪の少年を見つめる。

 

「そうだ。君、三人を助けてくれてありがとう!」

 

「礼には及びません。すごい……もしかしてヘッツァーの装填手と砲手を務めている河嶋桃さんですか?」

 

「き、君。どうして私の名前を?!」

 

「おっといけない。これは失礼しました。俺、戦車道が好きで大会も観に行ってました。だから貴女の名前を知っていたんです。今からゆっくりお話をしたかったのですが。これから用事があるので失礼します。また園さんや後藤さん、金春さん、河嶋さんに会えたら良いと思っていますからその時は沢山大会の事を話してくださいね!」

 

「それはありが…って。君、待ってくれ!君の名前も教えてくれないか?!」

 

何処か大友に似てるようで全く彼とは違う感じのこの少年は謙虚な態度を取りつつ彼女達四人を尊敬するような事を言った後に、優しく微笑みながら四人に向けて頭を下げると同時にキューポラの蓋を閉めて戦車を元来た方向に旋回させてその場を後にする。

桃はとにかく三人を助けてくれたことや彼女自身を含めた他のメンバーを知ってくれていた事が嬉しくてしょうがなかったため。

少年の名前を聞こうとしたときにはもう戦車の走行音によって掻き消されたのであった。

 

 

 

ボコミュージアムを後にし、北九州市の国道沿いにあるビジネスホテルで一泊することになった大友とみほの二人は早めに一緒のベッドに入って軽く抱き合うような感じで眠りについていた。

何かの縁だろうか。この日の晩、みほが見た夢の内容は一年前。転落した小梅を救出したことで大会に負け、母であるしほがその事を問い詰める際に自身の寮の部屋に入ってきたところを一緒にいた大友と言い合いになったというものであった。

 

『何を言いに来たつもりですか…西住先生』

 

『大友君。これは西住流を背負うものにはあってはならない問題なのよ』

 

『人一人の命が危うくなってまで背負わなければならないものなんですか?』

 

『……』

 

『そんなもんがあるわけ無えだろう!!』

 

みほを叱責しに来たであろうしほの厳しい雰囲気にも屈さず。あたかも龍に飛び掛からんとする猛虎のようにしほを怒鳴りつける。

この時みほは一度きりであろう舎弟が見せた他人に対する怒りの姿を目の当たりにする。

 

『みほ。貴女は西住流の未来を担う一員なのよ。それを忘れないように』

 

『代行。あなた、自分の娘に向かってよくそんな冷たい態度を取れるな。大体戦車道は人殺しや戦争賛美の競技なんかじゃない。お互いを尊重し合いながら行う競技だろうがっ!!あんたならそれを一番理解しているはずだ!!』

 

『……あなたやみほも何れその本質が分かる日が来るわ。不毛な言い争いはこれで終わりよ』

 

『本質ってな……』

 

『誠也君!もう……いいの。私が……っ……っ』

 

『みほ姉貴……俺は何があっても貴女のそばに付き添い。絶対にお守りします!それにいつか姉貴が最後の一線を越えなきゃならない時が来たら……その時は俺も一緒に飛び越えます!!』

 

『ありがとう……っ……っ』

 

しほが部屋を去ると大友は泣き崩れるみほをそのまま強く抱きしめ直すのだった。

みほはそんな夢の世界からは直ぐに目が覚め。デジタル時計の時間を見ると明け方も近かった。

そのまま何となく抱き合いながら眠っている大友の幼気な寝顔を見つめ直して安心すると同時に愛でたくなる気持ちになったみほは、右手の人差し指で彼の左頬を優しく突く。

対する彼は擽ったく感じたのか幼気な声を漏らす。

 

「ふふっ。誠也君ったらほんとにかわいい。マシュマロみたいな頬っぺたをしてるから今度はあれしか無いよね……どんな時も私を守ってくれてありがとう。大好きだし愛しているよ。かっこかわいい私の舎弟の誠也君……大好き。ちゅっ♡」

 

「……んっ……愛してます。みほ姉貴……」

 

みほがもう一度優しく抱きしめ直して大友の右頬にキスすると効果が現れたと言うべきだろうか。

彼は寝言で彼女に対する好意の言葉を口にする。この寝言を聞いたみほは額ににもう一度キスしたところで眠りにつくのであった。

 




ありがとうございました。辻さんの過去はオリジナルですが。ちょっとずつ掘り下げていきます
。あと、今回登場したコメット巡航戦車に乗る謎の男の娘の正体も次回以降明かしていきます。
次回は第二十八話を投稿する予定です。
ご感想や評価、お気に入りへの追加などお待ちしております!


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第二十八話 もっと舎弟を愛でます!

ご覧いただきありがとうございます!引き続きお楽しみください!


翌日。大友とみほは実家の前に到着し、家の門が開くまで待っていた。実家とはいえ逃げるようにして大洗学園に転校して以来潜ったことが無かった門の前に車を止めて外で待っていると、二人を呼ぶ声がする。

 

「みほ。おかえり。それに誠也君もよく来てくれた」

 

「お姉ちゃん……ただいま」

 

「お久しぶりです。まほさん」

 

「ああ。誠也君、みほみたいに私服じゃなくて学校の制服なのか。暑くないか?」

 

「いえ。身近にある正装がこれだったので」

 

姉のまほの呼びかけに対してみほは素直に言葉を返す。大友は謙虚に頭を下げる。

まほは大友の服装が学校指定の制服であることが気になったのだろう。彼と何気ない会話を交わしていると重厚感がある鉄製の門が機械音を上げながら開いた。

 

「行こうかみほ。誠也君、後から客間まで来てくれないか?大丈夫、みほは私に任せてくれ」

 

「……ええ。お任せします。みほ姉貴、また後で」

 

「また後でね。誠也君」

 

まほは大友に気を使ってみほの手を優しく引くとそのまま玄関の方へ向かっていく。

彼はそのまま来客用の駐車場まで車を持って行き。施錠できたかどうか確認していると、一人の男性が穏やかな笑みを浮かべながら彼に声を掛ける。

 

「久しぶりじゃないか。大友君、元気にしていたか?」

 

「お久しぶりです。おやっさ……いえ、三代目」

 

「三代目か……懐かしい響きだね。前みたいにおやっさんと呼んでくれれば良いのに」

 

「俺も組を持つ戦車道男子の一人なので。業界用語的な意味と尊敬の意を込めて三代目と呼ばせていただきます」

 

大友はかつて江城連合会の三代目会長であり。現在はみほとまほの父親である常夫に対して尊敬の意を込めて頭を下げる。

対する常夫は、畏った態度で応じる大友にフレンドリーに接し続けると同時に懐かしさに入り浸る。

 

「大友君よく来てくれたね。それと今更だけど……みほのそばに寄り添ってくれてありがとう。あの時私はしほさんを抑えることに精一杯で何もしてやれなかった……だが、そんな時に君があの子のそばに寄り添ってくれて良かった」

 

「そんな。三代目が罪悪感を感じる必要はありません。正直、俺のような若輩者が言うのも何ですが。あの時は誰も悪くなかったんです。それに俺は愛するみほ姉貴の舎弟ですから。出来る限りそばに居てあげないと筋が通りませんから」

 

「ありがとう。やっぱり君はみほの舎弟いや、これからそばにずっと居るべき存在だ。時間を取らせてすまないね」

 

「三代目……みほ姉貴を必ずお守りしそばで支えます。では、失礼します」

 

常夫は何もする事が出来ずにしほを説得し続けることで精一杯だった自分を情けなく思い続けていたが。

大友が常夫を勇気付けようと自身の考えを語ると、彼は元気を取り戻したのか。大友に対して感謝の言葉を口するとその場を去っていくのであった。

それから彼もみほとまほの元へ行くために地面に置いていた学校用の鞄を手に持ってからそのまま中庭を通り。客間まで行くと二人としほが大友を待っていたかのように見つめる。

 

「……ご無沙汰してます。西住先生」

 

「よくいらっしゃいました。大友君、そのまま上がってちょうだい」

 

「失礼いたします」

 

大友はしほと挨拶を交わすとそのまま縁側から客間へと入り。みほとまほの間に座る。

彼が座った直後、しほの口がゆっくりと開いた。

 

「さて、揃ったわね。単刀直入に言わせてもらうわ……みほ、優勝おめでとう。貴女の想いがこもった戦車道は見ていて気持ち良かったわ。次に大友君。みほを支えてくれてありがとう。これからもこの子を支えてくれないかしら?」

 

「お母さん……ありがとう」

 

「ええ。どういたしまして。お任せください自分としてはこれからもみほ姉貴を支えていく所存であります」

 

みほと大友の二人はしほの思いもよらない一言に驚き、顔を合わせるが。今まで見せる事が少なかった彼女個人の本音が聞けた事に安心するのであった。

しほは二人が安心したのを確認すると続けるようにして語り始めた。

 

「廃校の話は聞いたわ。実はさっき蝶野大尉からその件について連絡があったの。だからその件で今から常夫さんと共に三日ほど家を留守にする予定よ。それに来年も貴女の戦車道がどこまで成長したかを見たいと思っているわ。あとこっちとしては西住流の真髄を見てもらう為というのもあるの。だから廃校にするなんて私としても惜しいと思うわ」

 

「ありがとうお母さん。来年も正々堂々受けて立たせてもらいます。誠也君もそう思うよね」

 

「ええ。みほ姉貴の戦車道という新しい花をそう簡単に枯らすわけには行きませんからね。来年もよろしくお願いします」

 

しほは『みほの戦車道』を認めつつもやはり、西住流の家元としてのプライドがあるのか。その存在をアピールする。

対するみほと大友は、しほのアピールに応じるように笑顔で言葉を返す。

直接会ったことでみほとしほの間にあった壁が崩れ去ったのだろう。これ以降のやり取りも穏やかなものが続いた。

そんなやり取りが続いているうちにヘリコプターが降下して来る音が聞こえて来ると同時に常夫も部屋にやって来る。

 

「さて、時間が来たようね。そうだわ。みほ、せっかく来たんだしゆっくりして行きなさい。ここは貴女が生まれ育った家なんだから……」

 

「そうだね。じゃあゆっくりさせて貰うわ。行ってらっしゃいお父さん、お母さん」

 

「ああ。行ってくるよ」

 

「行ってきます。みほ」

 

父と母の二人は娘達に手を振ると部屋を後にしたのであった。みほやまほ、大友の三人はその背中を静かに見届けた。

三人がしばらく部屋でくつろいでいるとヘリコプターが再び飛び立つ音が聞こえ、さらに五分経った後に聞こえなくなった。

 

「みほ姉貴。先生もといお母様と仲直りできてよかったですね。これでお互いを隔てていた壁が無くなったように見えます」

 

「そうだね。私は今、胸がすっと軽くなったような気がするの。少しだけでも家族みんなでお話できてよかったわ」

 

「ああ。みほの言う通りだ。ちょっと間だが、また団欒と出来た気がするな」

 

「すみません。みほ姉貴、まほさん。ちょっと横になってもいいですか?なんか安心したら眠たくなってしまったので」

 

「うん。いいよ。誠也君も沢山くつろいでね」

 

「ふふっ。ゆっくりするといいぞ誠也君」

 

「では、失礼します」

 

三人はどこか安心した調子で思ったことを口にし始める。そんな中、大友は急に眠たくなり。

使っている座布団を枕の形にしてから自身の鞄の中からイヤホンと携帯電話を取り出し、そのままイヤホンを携帯電話に繋いでから好きな曲が入った曲を集めたリストの再生ボタンを押すと同時にぐっすりと眠り始めた。

 

 

 

昼寝を始めてからどれくらい経ったのだろうか。誰かが付けていたイヤホンの左側を外すと同時に目が覚めたのであった。

すぐ起き上がれずにいた為、しばらくは右のイヤホンから流れてくる『24時間シンデレラ』という曲のリズムに乗ってその歌詞を口ずさむ。

 

「素直にI love you.届けよう。きっとYou love me.伝わるさ君に似合うガラスの靴を探そう。二人でstep&goいつまでも……って。ま、まほさんすみません」

 

「おはよう誠也君。もうすぐ夕方だし、よかったら一緒に晩ご飯の材料を一緒に買いに行かないか?みほが今、戦車の準備をしてくれているんだ」

 

歌詞を口ずさんでいるうちに意識がはっきりとしてわかったのは。左イヤホンで同じ曲を聴いているまほに膝枕をされており。

彼の額を優しく撫でつつ母性を感じさせるような微笑みを向けながら買い物に誘う。

 

「ええ。是非ご一緒させていただきます。みほ姉貴は玄関の方ですか?」

 

「ああ。今から一緒に行こうか」

 

大友は勧誘を快諾すると、縁側に置いていた靴を持ってまほと共に玄関に向かい。靴を履いてから玄関を出ると、みほがⅡ号戦車の砲塔の上に座っており。

二人の姿を視界に入れると元気よく手を振る。まほと大友がゆっくり手を振り返すと砲塔から降りてそのまま大友の隣まで行き、右腕を抱きしめる。

 

「おはよう誠也君!今から私やお姉ちゃんと一緒に三人デートだね。今日の晩ご飯は何が食べたい?」

 

「おはようございます。そうですね。俺的にはお二人が好きな食べ物や今食べたいというものに合わせたいと思っています」

 

「そうなのか。遠慮なんかしなくていいんだぞ誠也君。でも、そう言うなら私はカレーがいいかな。みほは何がいい?」

 

「じゃあ私もお姉ちゃんの好きなカレーということで。家から三十分くらい走った先にあるスーパーに行こう!」

 

「そうですね。みほ姉貴、まほさん。運転なら俺に任せてください。お二人はゆっくりして下さい」

 

「すまないな誠也君。じゃあ運転は任せよう。さあ、行こうか二人とも」

 

大友による運転のもとで近所のスーパーへと向かい。食材などを購入して再び家に戻る途中でみほが夕焼けに染まった風景を楽しむ傍ら、大友とまほは車内で戦車に関する会話を交わしていた。

 

「そう言えば誠也君。君がタンカスロンを主体に戦車を乗って来ている姿を見て思ったことなのだが。その……君みたいに可愛らしい男の子が戦車に乗っていたらギャップ萌えというものを感じるんだ。どうして戦車乗りになろうと思ったんだ?」

 

「ははぁ。ギャップ萌えですか……そうですね。俺の父さんと母さんが少し前の俺みたいに二人で戦車に乗って戦車道チーム。それこそ江城連合会の大幹部としてタンカスロンやその本流である戦車道を転戦していたんです。だから今は亡き両親に憧れていつも近所で一緒に遊んでいた桔平や雄飛、英雄と一緒に戦車に乗るようになってみほ姉貴やまほさん。他の諸先輩方と出会えたんです」

 

「そうなのか。タンカスロンは戦車道と違ってより本格的な戦車戦だし、何より戦車の改造規定が緩いから相手も容赦なく立ち塞がってくるだろう。そう言う相手にはどうしているんだ?」

 

「そんな時は、改造戦車には改造戦車をぶつける。だとか戦車道連盟が公認している模造対戦車火器などを使用したりしてますね。あとは相手の動きを予想するとかですね。俺が乗っているT-15も今じゃ特注の自動装填装置を乗っけて国防軍の90式戦車や10式戦車みたいにポンポン撃ちまくってますね。あと、超信地旋回も可能です。それ故かギリギリタンカスロンに参加できる10.99トンです」

 

「相変わらず徹底した戦い方を好むんだな。大洗で戦車道を復活させる以前もタンカスロンに参加して来たということは、それを知ったクラスメイトの子たちは皆んなびっくりしたんじゃないか」

 

「ははっ。そんなこともありましたね。一年生の二学期の時、タンカスロンで大きい稼ぎが狙える大会があったのでそれに出るために学校の体育祭を不参加にして。不参加者用の課題を提出するために戦車を使って学校へ訪れたら俺のクラスの子たちと担任の先生がその練習をしていたんでそのまま戦車から降りたら驚かれましたね。優花里ちゃんという子はその事を知っていたんでいつも通りの反応でしたが。タンカスロンということもあってか皆んなからさらに心配されましたね」

 

「ふふっ。やっぱり君みたいな子が戦車に乗っていると皆んなからそんな反応をされると思ったよ」

 

「まほさんはやっぱりなんでもお見通しにされる方ですね。参りました。おっともう帰ってきましたね」

 

まほが大友に対して思っている事を問い掛けると、彼は自分が戦車乗りになった経緯や今まで経験してきた戦い方、周囲の反応などを彼女に対して覚えてる限り語る。

そんな思い出話をしているうちに家に到着したのであった。それから夕食や入浴などを経て就寝する時間になった際、大友に色んな意味で越えるべき壁に遭遇した。

 

「誠也君。どうしたのおいで。私とお姉ちゃんと三人で一緒に寝ようよ」

 

「誠也君。タンカスロンの時の勇猛果敢な君は何処へいったんだ?戦車だけでなく寝床も共にしないか。大丈夫、みほも良いと言っているんだ」

 

「みほ姉貴、まほさん。俺は枕と掛け布団だけでいいので……」

 

「「だーめっ♪」」

 

「でしたらこの事は先生と三代目には内密でお願い致します。では、失礼します」

 

みほとまほは大友を三人用の布団へと誘っていた。彼は彼女達二人が自分に好意を持ってくれているということを嬉しく思いながら決断に悩んでいた。

何故なら彼女ら二人の両親にバレることだけでなく。

愛するみほの許しがあるとはいえ、他の女性それも彼女の姉であるまほも一緒ということになり。

寝床を共にする場合はどう考えても自分がサンドイッチされる西住サンドというものが出来上がってしまうのだ。

結局大友はみほを寂しく思わせたくないという結論に達したことから三人で寝床を共にするということを選択した。

 

「みほ姉貴、まほさん。おやすみなさ……ひゃうっ?!」

 

「ふふ。お姉ちゃん流石だね。誠也君を可愛がる方法をよく知っているね」

 

「ああ。みほ、お前のことだからこうする事ぐらい私に分かるぞ。誠也君の頬っぺたは本当にマシュマロみたいに柔らかいし、いい匂いがするな。安心して眠れそうだ。おやすみ二人とも」

 

「おやすみなさい。お姉ちゃん、誠也君。明日はいっぱい遊ぼうね」

 

「は、はい。おやすみなさい」

 

みほとまほは脚を大友の身体に絡めたり抱き枕のように抱きしめたりした後に頬同士をくっ付けて眠りについた。

彼にとってこれだけでも十分な刺激になったのだが、その翌日は今までにない経験をすることになる。

 

 

 

次の日もあっという間に過ぎて一日が終わりを迎えようとした頃、大友が茨城の寮に戻る準備を終えて仲間達と連絡を取り合ったりしているうちに夜が更けてきたのであった。

さて、もう寝る時間か。と彼がそう考えながら昨日と同じ寝床に行くと案の定、昨日の様にみほとまほが彼を待っていたとばかりに手招きする。

 

「ははぁ。今晩もですか……失礼します。みほ姉貴、まほさん」

 

「昨日はあんなに恥ずかしがっていたのに今日は素直だね誠也君」

 

「ああ。そうだな。何だかんだ言って三人で過ごす夜もこれで最後になるな……みほ、頼んでいた通りに頼むぞ♪」

 

「はーい。お姉ちゃん。誠也君、今晩は私達二人の愛を受け止めてね♡」

 

「お、お二人の愛ですか?」

 

みほとまほは、昨日と同じよう大友を抱きしめると彼の耳元でそう語りかける。対する彼の脳内は真っ白になっており。ただ唯一入ってきた「二人の愛」という言葉に釘付けになる。

 

「誠也君、私はみほと同じように君の事が大好きだ。だが、君はみほという愛すべき人間が出来た。だからこそ今晩だけでもいい。みほの愛だけでなく。私の気持ちを受け止めてくれないか?そうする事でまた別に君以外に愛すべき人間を作るきっかけになるかもしれないんだ。今更になるが絶対に一線は越えない」

 

「お願い誠也君。私は構わないから今晩だけでもお姉ちゃんの気持ちを……ね?」

 

「みほ姉貴、分かりました。今晩きりですがよろしくお願いします。まほさん」

 

大友は二人の気持ちを受け止めることにし、何をされてもいいやと思うのだが。やはり彼にとって刺激が強すぎる結果となる。

 

「ダージリンやケイ、千代美そしてみほからから聞いたのだが。抱きしめるよりもキスする方が可愛い反応をするんだって?だったら私にもさせてくれないか」

 

「お姉ちゃん!誠也君はね。ほっぺたにしてあげるとすごくかわいい反応をするんだよ。そうだよね誠也君。……ちゅっ」

 

「は、はい……」

 

「本当だな。みほ、悪いがここからは私にさせてくれ」

 

「はい。どうぞ。誠也君、後はお願いね!」

 

「誠也君。大好きだ。ちゅっ♡」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

「お姉ちゃん。今度は二人で同時にだよ♪」

 

「ああ。誠也君、君は本当にかわいい。だから受け止めてくれ」

 

「「せーの。ちゅっ♡大好きだよ(ぞ)誠也君」」

 

「俺も大好きです……」

 

大友はある程度の覚悟を決めていたものの。みほからの優しいキスから始まり。

まほから左右の頬と額と合わせて三回のキスから二人同時のキスで止めを刺されたのだろう。好意を口にするとそのまま卒倒するように眠りについたのだった。

 

「ふふっ。ぐっすり眠ってしまったな。ありがとうみほ」

 

「どういたしまして。私は誠也君が皆んなから可愛がられるのを見ていると舎弟にして良かったと思うの。だからお姉ちゃんも誠也君の事を可愛がってくれてありがとう」

 

「みほ、誠也君とならずっと幸せにいられると思うから。ずっと仲良くするんだぞ。おやすみ」

 

「おやすみなさい。お姉ちゃん」

 

二人はぐっすり眠ってしまった彼を抱きしめ直すとそのまま同じようにして眠りについた。

翌朝、みほと大友は軽く朝食を交えた後にまほに途中まで見送られてから大洗学園の仲間達のもとに戻るのであった。

 




ありがとうございました!次回は第二十九話を投稿する予定です!
今回はオリ主×西住姉妹という組み合わせでした。
ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております!


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第二十九話 二人が居ない間の仲間達です!

ご覧いただきありがとうございます!今回は大友とみぽりん以外の日常回です。引き続きお楽しみください!


みほと大友が熊本県へと向かった日の夕方、大友連合会舎弟頭の村川は華の実家に訪れており。

厳粛な空気に圧倒されていた。普段は陽気で真面目な彼だが。彼女と共に五十鈴邸の正門を潜り、彼女の母である五十鈴小百合と対面してからずっと表情を一つ変えずに真顔であった。

村川を緊張させすぎて申し訳なく思った小百合と華が早速、戦車道に関する話題を振った。

 

「村川さん。華さんから貴方が戦車道の経験が長いことから色んな事を教えてくれて頼りになる可愛いお友達と言っていましたが。本当に華さんとは仲睦まじいようですね」

 

「そうですよ。お母様、武君は最近転校してきた子で前の学校でも戦車道部だったみたいで。可愛らしさがある反面、その経験を活かして私に色んなことを教えてくださるんです。それにこの前の華道の展覧会で使った戦車型の花器を一緒に選んでくれたんです。そうですよね?武君」

 

「は、はい!お…僕自身、華さんに仲良くしていただいてることもあってすごく感謝しています」

 

村川は彼女ら二人の口から出た「可愛い」という一言に赤面しそうになりながら声を震わせて華に対して思っていることを口にする。

 

「それは母親である私としても嬉しく思いますわ。だからこそ私からお願い事があります村川さん。……転学してもこの子のそばに居てくれませんか。華さんもそう思っているでしょう。十七年間貴女と共にいて見抜いてないと思ったかしら?」

 

「ふふっ。お母様は流石ですわ。武君、私は貴方の事が大好きです。強引かも知れませんが私とお付き合いをお願いできませんか?」

 

「そんなの……良いに決まってるじゃないか華さん!出会って短いけど転校して来た日に最初に話しかけてくれたし。あと同じ砲手という事もあって。気が合うと感じたし、何なら華さんみたいに肝が据わった女性がタイプだったりするから。俺は今すごく嬉しいんだ」

 

小百合からの思わぬ一言から始まり。華から想いを告白された事で赤面してしまう村川であったが。

嬉しくなっていてもたってもいられなくなった彼も華の想いを受け入れることにした。

 

「武君。ありがとうございます!お友達を飛び越えて恋仲になっちゃいましたけど。これからも宜しくお願いしますわ」

 

「ああ。よろしくね華さん。俺、大友の兄貴がみほさんを愛するみたいに頑張るよ!」

 

小百合が二人を見つめて微笑んでいる傍ら、華と村川はそう言いながら手を繋いで見つめ合っている。

この微笑ましい光景を三人に気付かれないように襖を少し開けて覗き込んでいた新三郎に関しては華に村川という男が出来た事が嬉しかったのか。静かに涙を流して喜んでいた。

 

「そうだわ。華さんと村川さんに私からお話ししておきたいことが……今更になって申し訳ないのですが。私はあの時、戦車なんて鉄屑になれば良いとか言っていたワケについて話しておきたいと思うの」

 

「お母様、そのワケとは何でございますか?」

 

「私が戦車そして戦車道を嫌いだった理由についてよ。村川さんや他のお友達の男の子達なら今から話す事は絶対しないと思うけど……私は高校生の頃通っていた学校で入学して来た新入生達が率いていた真闘派という不良戦車道チームによって純粋に戦車道を勤しんでいた親友達の心や尊厳をズタズタにされた挙句、廃人同然にまで変えられたの。それからしばらくしてある人達によって殲滅された真闘派の残党の言い分は『我々は男子を蔑み戦車道を独占しようとする悪どい女子共を成敗し、戦車道男子の時代を築くための正義の軍団だ。』なんて言っていたけど、私の親友やその学校の戦車道乙女は悪どいどころか聖人君子という人物の子で傲慢無礼では無かった……なのにそんな厚顔無恥で強欲な輩に最後まで向き合い助けようとしたのに廃人同然に変えられた。……それで私は真闘派が悪いのに戦車や戦車道が嫌いになったの。それと華さんが戦車道を始めた時はあそこまで酷く言ってしまったの。だけど、貴女が一生懸命に勤しみ。村川さんという戦車道男子も負けず劣らずな姿というものを見させて貰ったおかげで嫌いじゃなくなりましたわ」

 

「お母様にそんな過去が……だから反対なされたのですね」

 

「真闘派がやばい奴らという事は噂に聞いていたが。そこまでやる奴らだったとは……」

 

小百合は戦車道を嫌っていた理由と高校生の頃、自分の身に起こったことを二人に話す。彼女もまた間接的に真闘派から傷つけられた者の一人であり。

そんな彼女の過去を聞いた華と村川は驚きが隠せないでいた。

 

「辛気臭い話をしてしまってごめんなさい。話を変えましょう。華さんと村川さんはお互いのどこに惹かれたのかしら」

 

「そうですね。見た目の可愛らしさに反しての力強さそして優しさですわ。武君は私の友達の一人である大友誠也君という子と一緒に数々の戦いを潜り抜けてきたこともあり。とても戦車戦に長けているんです。また、どんな子にも優しく接したりする子ですから惹かれていったんです」

 

「じゃあ、俺は肝が据わっていたり。砲手の模範になるプレーが多いという多彩なところに惹かれたからなんだよね。あとは花の扱いがとても丁寧なところが良いと感じたんだ」

 

こうして五十鈴家にも穏やかな空気が流れ始めてこのような微笑ましい談笑は夜の七時頃まで続いたようだった。

 

 

 

一方、微笑ましいやり取りをしていたのは村川と華だけでなく。我妻と麻子も二人で近くの神社の祭りに訪れており。

彼と彼女は人がそこそこいる中、人混みから離れているベンチに腰掛けながらベビーカステラを頬張っていた。麻子に関しては我妻とは仲が他の男子と比べて特に良かったためか。

自然と互いの身体を寄せ合っていた。二人は内心でその事に気づきながらもくつろいでいると、麻子の口が開いた。

 

「ところで清弘君って好きな子とか出来たことが無いのか?」

 

「そう言われてみれば無いな。大友の兄貴や平形本部長みたいにパンツァー・ハイというか戦車バカというか。恋愛がどうとか言う前に戦車に乗る事ばっかり考えていたよ」

 

「やっぱり。類は友を呼ぶとはこの事だな。ということは前の学校でもそうだったんじゃないか。よかったらその昔話を聞かせてくれないか」

 

「ああ。もっとも俺が転校してくる前は平形本部長や黒木組長、長瀬さん、武の兄貴、諒介と俺の六人で伯爵高校に通っていてそこでも毎日戦車を乗り回していたよ。大洗学園みたいに学校行事の参加不参加が自由だったから。そんな時はマリナちゃんっていう先輩に部費を稼いでくるとか言ってタンカスロンでガッポリ稼ぐとかだったな。本当に今まで戦車にべったりだったよ」

 

「でもそう言いながら私が話しかけてみたら今まで出会ってきた男の子よりかなり開放的なところが多かったりして可愛げがあって良いと思っているぞ。だからこそ聞いてくれないかその……清弘君ともっと仲良くなりたいし君の事をもっと知ってみたいから私とお付き合いをしてくれないか?」

 

「へ?」

 

我妻は麻子に恋愛に関する事について聞かれた後に自身の昔話も終えると彼女は静かに笑い。

自身の想いを打ち明けてからそのまま顔を彼の右肩に乗せる。急な出来事に思考が停止していた我妻は蚊が鳴くような声を漏らす。

 

「すまない。急すぎた」

 

「そんなことないよ。今まで麻子ちゃんの想いに気付かないでいてごめんね。その……初めて告白されたから嬉しいよ俺は。それに普段から仲良くしてくれるから断る理由なんて無いからいいよ」

 

「ありがとう。これからもよろしく(沙織も相談に乗ってくれてありがとう)」

 

「ああ。よろしく。そうだこれからちょっとした記念としてファミレスで何か食べないか?好きなデザートとか奢るよ」

 

「いいのか清弘君……うん!行こう!」

 

我妻は麻子が自分をそこまで思っていてくれた事が嬉しくてしょうがなかったため。

無論、想いを受け止めるのであった。対する麻子も嬉しくなると同時にこの事で相談に乗ってくれたかけがえの無い親友に内心で感謝していた。

それから二人はお互いを見つめ直すと手を繋いでその場を後にするのであった。

 

 

この日の晩、山本と優花里は寮から離れた先にある展望台で星空を眺めながらベンチに腰掛けていた。

ここはみほと大友が同じようにして腰掛けていた場所であり。二人もまた健全的な意味で良い感じの雰囲気に包まれていた。

 

「兄貴とみほさんも楽しんでいるかな?しかし、近くに海の眺めが良いところがあったとは思わなかったよ」

 

「そうですね。諒介殿。それに月が綺麗ですね」

 

「今日は満月だからはっきりとしていて本当に明るく見えるよな。あとそれってこの前テストに出てたやつだよね。俺、国語が苦手だから意味を忘れちゃったから教えてくれない……って優花里ちゃん?」

 

「諒介殿……月が綺麗の意味は。私流に言えば諒介君が大好きだという意味です。誰も見ていない満月の夜だから言えたんです」

 

言葉の意味が気になった山本が優花里に言葉の意味を聞いた瞬間。彼女は今だと言わんばかり彼を優しく抱きしめる。

赤面する山本に対して優花里は母性を感じさせるような声でその意味と自身の想いを耳元で囁く。

 

「優花里ちゃん……俺みたいなパンツァー ・ハイ野郎で良かったら良いよ。それに兄貴がみほさんを愛しているみたいに俺も愛してみるよ」

 

「諒介君、本当に愛してる。実は私のお母さんもお父さんに告白する時にこの台詞を使ったんだ」

 

「そうなんだ。親子でロマンチストっていいよね。あっ流れ星。優花里ちゃんとずっと仲良くありますように!」

 

「ありがとう諒介君。私もそう思うよ」

 

山本と優花里はお互いに愛し合う事にしたのであった。その瞬間、あたかも二人の関係が良い方向へと進む事を示唆するかのようにひとすじの流れ星が輝く夜空を駆け抜ける。

山本が咄嗟に願い事を口にすると優花里は彼に共感しながらもう一度、彼を抱きしめるのであった。

 

 

 

安倍は親分である大友が熊本県の西住流本家に赴いている中、自身のタンカスロンでの愛車である五式軽戦車・ケホに乗り。

弟分の伊達や岡崎、上田の三人を連れてカエサルとカルパッチョが待つ待ち合わせ場所である海辺の駐車場へと向かったのだが。

到着した途端、彼女ら二人が二輌のC.V.38の持ち主であろうサングラスをつけた上、特攻服を身に纏った合わせて六人の少女らの内一人が木刀をカエサルに突きつけている光景が四人の目に入った。

 

「なっ?!あいつら……聡!そのままあいつらの前に割り込め」

 

「はい。兄貴」

 

彼の指示通り動いたケホがカエサルとカルパッチョに加勢するかのように正体不明の不良戦車道乙女の前に割って入る。

それから安倍は車長席から飛び降りて初めて尊敬する先輩の前で怒りの姿を露わにする。

 

「おい!てめぇら。何やってるか分かってんのかコラァ。ああん?」

 

「何すかお前。私達はこの二人が私達のシマで女同士でイチャイチャしてたからお話ししてただけっす。ほら、痛い目をみたくなかったら部外者はあっちに行けよ」

 

「チッ。やっぱ話し合いをするだけ無駄か。誠己、鈴木先輩とカルパッチョさんを連れて離れていろ。それと今、近くのタンカスロンショップに居る慎司と本部長達に連絡を取れ。俺はこの馬鹿共とやり合わねえと腹の虫が収まらないんだ」

 

「へい。兄貴。鈴木先輩、カルパッチョさん。こちらへ」

 

「安倍君!それはダメだ。君の身に何かあったら私は…」

 

「そうよ安倍君。たかちゃんの言う通りよ」

 

上田によって安全な方向へ誘導されているカエサルとカルパッチョは今にも泣き出しそうな表情で今にもがっつこうとする安倍を引き止めようとする。

 

「こんな半端モンの後輩ですんません。鈴木先輩。でも、俺は貴女やその友達であるカルパッチョさんを守りたいんです」

 

「かっこいいっすね〜。後悔すんなよ戦車道男子!」

 

安倍は笑顔で二人の方を見つめるとそのまま戦車に乗り込み。不良の挑発を無視すると同時に万が一のために積んでいた砲弾を装填する。

 

「後悔するのはてめぇらの方だ!チンピラ戦車道女子。いくぞオラァ!」

 

「はーい!ストップ!」

 

「ストップ?……ってチンピラをよく見たらペパロニさんにアマレットさん、ジェラートさん、パネトーネさん?!それにドッキリ大成功?」

 

カルパッチョの陽気な掛け声に調子が狂った安倍が指示を出す前にその方向を見ると、彼女がカエサルと共に『ドッキリ大成功』と書かれた看板を手に持っており。

チンピラと思っていた女子達の方を見ると同じ看板を持ったペパロニ達の姿が目に入った。

 

「安倍君に他のみんな。本当に悪かったっす」

 

「たは〜っ!俺はてっきり本当に不良戦車道女子かと思いましたよ。たまにはこんなスリルもありですね。皆さん」

 

「いいですよ。皆さん凄みがある演技をしていて見てるこっち側も気持ちよかったので」

 

「良いに決まってるじゃないすか。何ならVシ○マに出ていても違和感ないかも」

 

「全然許しますよ。というかちょっと怖かったかも」

 

ペパロニ達アンツィオ高校の女子達が安倍達四人に必死に謝るが、四人はドッキリと分かると幼気な笑顔でそれを許して戦車から降りてそのままもたれかかる。

 

「安倍君。これは単なるドッキリと思うか?」

 

「はい?」

 

「安倍君、私やひなちゃんを守ってくれてありがとう。ドッキリなんて手荒な真似をして悪かった。だけど受け止めて欲しいんだ私の気持ちを……雄飛君大好きだ!それに愛している……っ」

 

カエサルいや、貴子はそのまま安心してもたれかかっている彼の目の前まで行くと力強く抱きしめて嬉し泣きをしながら自身の想いを彼に語り終えると一旦離す。

赤面して身体を震わせている彼の小さな顔を両手で支えると彼の両頬に二回キスする。

 

「あ、あ、あ、ありがとうございます!!鈴木先輩っ!!俺なんかで良かったら。それに鈴木先輩を大事にします!!」

 

「ふふっ。君は本当にかわいいな♪そう言ってくれて私も嬉しいぞ」

 

「「「お二人ともおめでとうございます。お幸せにっ!!」」」

 

安倍は貴子の想いを理解し、感謝の言葉を口にすると抱きしめ返す。彼女はそんな彼の姿を愛らしく思いながら頭を優しく撫でる。

その傍らで伊達や岡崎、上田の三人も兄貴分である彼と先輩である彼女という一組のカップルが成立したことが嬉しかったのだろう。拍手しながら二人の幸せを祈る言葉を口にする。

 

「なんだなんだ。チンピラ戦車道女子どころかアンツィオ高校の皆さんや鈴木先輩がいらっしゃるぞ」

 

「あっほんとだ。あれ?安倍の兄貴、これは一体どういう状況なんだ」

 

「それに。よく見たらドッキリ大成功って書いてあるから。大したことは無かったんだろうね」

 

「ああ。ちょっと手の込んだ先輩からの告白かな?」

 

「そうだったのか。つまりこのドッキリは先輩が兄貴を振り向かせるために仕組んだものだったのか。鈴木先輩に安倍の兄貴、おめでとうございます」

 

「とりあえず。二人がついにくっつくとは……これは尊いそしてめでたい」

 

「ああ。愛し合う戦車道乙女と戦車道男子という最強の組み合わせだ。おめでとうございます」

 

その次に7TP軽戦車で乗り付けてきた慎司や秀人、塚原の三人が安倍からの説明でドッキリであった事を理解すると他の三人のように安堵し、同じように二人の幸せを祈るような発言をする。

 

「よっ慎司君!久しぶりだな。お姉ちゃんとのラブラブはどうだ?それに好きな子は出来たか!」

 

「あっ。お久しぶりですペパロニさん。好きな子は相変わらず出来ていませんね。憧れている人なら居ますけど」

 

「何だって?!好きな子は居ないけど憧れている人ってのはどこのどいつだ!」

 

「あっえっと……同じ大洗に通うレオポンさんチームのナカジマさんやホシノさん、スズキさん、ツチヤさんの四人です」

 

「あーあの。ポルシェティーガーの姉さん達か。ふふっ慎司君、たまにはこのペパロニとデートはどうだ?」

 

「ぺ、ペパロニさんとデートすか?!」

 

「そうだ。男の子が女の子の事をよく知るためには差しでデートする方が良いってウチのアンチョビ姐さんが言ってたからな。というわけで行くぞ慎司君!」

 

「なるほど。男が女性のことをよく知る為には差しでデートする方が良いならそうします。それに最近、気になる事が幾つかあるのでそれもペパロニにさんに相談したいと思います」

 

「よし。このペパロニに任せとけ!」

 

ペパロニにデートから誘いを受けた慎司はナカジマをはじめとする異性のことで相談したいこともあったのだろう。

彼は言われるがまま彼女の後をついて行き、一緒のC.V.38に乗り込んでその場から走り去って行くのであった。

 

『『さあ、他の皆んなもどうする〜♪』』

 

「お誘いどうも。悪いけど俺はこの後、ある子から呼び出しを受けているんだ。また今度機会があれば」

 

残った秀人や伊達、岡崎、上田、塚原の四人は他のアンツィオ生に取り囲まれてナンパされるが。

秀人は約束事を思い出したのか誘いを丁寧に断ると7TP戦車に乗ってその場を後にするのであった。

程なくして貴子やカルパッチョ、安倍の三人とナンパされた三人もそれぞれ分かれてその場を後にするのだった。

 

 

小山秀人は、実姉の柚子と親友の姉である妙子から呼び出しを受けて閑散とした臨時生徒会室に入る。

彼は何らかの相談があるのだろうと思いながらソファーに腰掛けて待っていた彼女達二人の向かい側にあるもう一つのソファーにどっかりと腰掛ける。

 

「二人ともどうしたんだ。何か困ったことがあるのか?この前園委員長達に絡んだ輩達がこの辺りにまた出て来たとか。足りないものが有るとか他に何か相談したいことがあるなら気軽に話してくれ」

 

「ふふっ。ひで君ならそう言ってくれると思った。さあ、妙子ちゃん!」

 

「相談事はね……私、秀人君の事がシンちゃんと同じくらい大好きなの!戦車道大会中に色んなお話をした事や決勝戦前に他の皆んなに内緒で学園艦のお風呂に入った時とかこの前シンちゃんがナカジマ先輩達にハグされているところ見て寂しそうにしていたところを慰めてくれた時からあなたの事が大好きになっちゃったの……だから私みたいにエッチな身体をした女で良かったらお付き合いして欲しいの」

 

「(まじかよ妙子ちゃん。俺は仲間として好きだけど、ここまで思ってくれてたなんて。嬉びと感謝しか浮かばねえよ)……断る理由なんて無いよ。だからこれからは恋仲として妙子ちゃんを大事にするよ」

 

「ありがとう秀人君……これからもよろしくね!」

 

「ああ」

 

秀人は妙子からの大胆な告白によって度肝を抜かれてしまい。完全に硬直しながら内心で悩んでいたが。

彼は次第に元の冷静さを取り戻して彼女の想いを受け止める事にしたのだった。

 

「二人とも仲良くなさいね。ひで君が女の子と結ばれてよかった。お姉ちゃんは今すごく嬉しいわ!」

 

「ありがとうございます。柚子先輩!私、秀人君を柚子先輩に負けないくらい愛でてそして仲良くします!」

 

「ありがとう柚子姉。絶対に妙子ちゃんを幸せにするよ」

 

「さあ二人とも。こんな埃くさい生徒会室を後にして別のとこへ行ってらしゃい!楽しんでね」

 

「「行って来まーす!!」」

 

「そうだ柚子姉。今までブラコンとか言ってきたけど。本当はどこか嬉しかったし楽しかったよ。本当にありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

姉の柚子は弟に彼女が出来た事が嬉しくてしょうがなかったのか二人を励ますと同時に穏やかな笑顔で部屋から出る二人を見送るのだが。

途中で秀人が立ち止まって彼女に本心を打ち明けると同時に感謝の言葉を口にする。

同じように柚子も相槌を打つと静かに見送り。二人の姿を見送るとソファーに腰掛け直すと弟との思い出浸った後に改めて愛する彼の成長が嬉しくなったのか。両目から涙を流し始めた。

 

 

 

秀人や柚子、妙子の三人のやり取りを生徒会室の隣にあったマット置き場の壁に耳を当てて聴き終えた木村と忍は同じように二人が付き合い出した事を嬉しく思いながらその場を去ろうとするが、忍が木村を呼び止めた。

 

「ねえ木村君。たしか木村君は好きな子が出来た事が無いって言ってたよね。だからこの際だから聞いて欲しいの…」

 

「だったら。いきなり過ぎて引くかもしれないけどさ、俺忍ちゃんの事が好きだ」

 

「私は木村君の事が好きなの!」

 

「「え?」」

 

お互いが好意を抱いていることもあってか想いを打ち明けるタイミングがほぼ同時になってしまったため。

思わず驚く二人であったが、それも束の間。忍の方から木村をマットに優しく押し倒して抱きしめる。

 

「木村君も私の事を好きだと思ってた。だっていつも私に気を使ってくれるし。戦車の事で分からない事があったら誰よりも早く教えてくれるから。それにそんなかわいい顔と体付きだからとても愛らしくて仕方なかったの。だから私のものになってくれないかな。私達二人でならこの先も走って行ける気がするの」

 

「……忍ちゃん。俺は今、すごく嬉しいよ。だってお互い好き同士だからさ。ああ、このまま何処へだって一緒に走って行こう。大好きだよ忍ちゃん」

 

「私もよ木村君」

 

それから両想いだった二人はそれぞれの想いを打ち明け終えると好意の言葉を口にした後にそのまま抱き合いながらお互いの顔を見つめ合い始めるのであった。

 

 

 

この日の晩、桃と柚子が二人で近くのコンビニに行ってから帰る道中で男女間の恋愛に関する話で盛り上がっていた。

この二人は秀人と妙子が付き合い始める以前から大友とみほの関係にも気付いており。ずっとその事で持ちきっていた。

 

「そう言えば大友と西住は今、熊本の実家に帰ってるようだな。あの二人は大会の間ずっとチームを支えてくれてたから少しでもゆっくりしてもらわないとな……二人とも楽しんでいるのかな」

 

「そうだね。あの二人だからずっと愛し合ってそう。だって同級生なのに西住さんのことを「みほ姉貴」って言ってるぐらいだから。私もあの子みたいに舎弟さんが欲しいよ桃ちゃん」

 

「柚子ちゃんには秀人がいるだろう!って今はもう近藤の姉の方と付き合い始めたらしいじゃないか」

 

「もうそれ知ってたんだ。嬉しいけどちょっぴり寂しいかな」

 

「はぁ。柚子ちゃん。もうブラコンは卒業したんじゃなかったのか」

 

桃は柚子の中にある特殊な感情が残っていることに突っ込みながら話を進める。

彼女は歳が離れた弟や妹達がいる為、柚子や妙子が特殊な感情を抱いていることに関しては理解を示しており不快に思っていなかった。

そんなやり取りが続いているうちにコンビニから少し離れた先にある小規模な駐車場に一輌のコメット巡航戦車が停めてあるのが目に入り。

それだけでなく。一人の少年が砲塔の上に座って夜の海を眺めていたのだった。

 

「あのコメットはまさか……おーいっ!そこの君!」

 

「あの子がこの前桃ちゃんが話していた子ね」

 

咄嗟に桃が走りながら少年に声を掛ける。彼はそばまで来た桃と柚子の存在を理解すると砲塔から降りて二人に向かって頭を下げる。

 

「はぁはぁ。ようやく会えたな」

 

「こんばんわ。河嶋さんと小山柚子さんですね。あっそうだ。この前は用事があったため名乗れませんでしたが。この辺り出身で楯無高校一年生の『桐村遥馬(きりむらはるま)』って言います。今晩はゆっくりお話が出来そうですね」

 

「君の名前は遥馬君というのか。楯無高校か……聞いた事が無い学校だな。その学校、戦車道チームはあるのか?」

 

「残念な事に俺が入学する前に廃部となったそうです。ですがこうして俺は自分が小さい時から世話になってるこの子という愛車がありますから。社会人や学生が混合で試合をするイベントがある時はこの子で昔から戦ってきました」

 

「そうか。君は戦車道を小さい頃からやっていたのか」

 

「桃ちゃん。私は今、戦車との縁を感じちゃった。私の家にもひで君が乗っている7TPがあったのを思い出したわ」

 

桐村と名乗るこの少年は軽く自己紹介を交えながら早速桃と柚子の二人とも打ち解けあっていた。

彼女ら二人は同じ学校の戦車道男子と似ているような似てないような気がすると感じながら彼と戦車に関する話で盛り上がる。

 

「あの。二人は悩み事とかありませんか?よかったら相談に乗りますが……」

 

「良いのか?だったら二つほど聞いてもらうか。私は砲手もやっていたりするが。砲手の腕に関しては皆無に等しい。戦車道に関する事は以上だ。その次に学校に関する事だ。このままだと全校生徒全員が希望する学校への転学もしくは無条件で転学斡旋される高大一貫校への転学が行われた際、今後他の生徒達になんて言えばいいか分からないのだ」

 

「桃ちゃん…」

 

桐村は大洗学園が置かれている状況や戦車道大会で桃の弱点を知って居たのだろうか。

彼女らを気遣うかのように彼は相談事や悩み事に乗ろうとする。桃はどこか気が楽になったのか自身の悩み事を彼に打ち明ける。

その傍らで柚子が悩み事を語る桃の手を優しく握る。

 

「なるほど。確かに砲手は難しいですよね。シュトリヒの計算とかもありますから。でも俺的に河嶋さんは何もできないという人じゃ無い気がします。小山さんもそう思いませんか?」

 

「そうだね。桃ちゃんは時々パニックになったりするけど、寮に来た時は自分から問題解決に動こうとしたり。一回戦の時も舞い上がりそうだったみんなを抑えたし、サメさんチームの子達からもすごく頼りにされているから砲手の腕が全てって訳じゃないし。桃ちゃんは装填がとても上手じゃない」

 

「あとはせっかく戦車道界に希望を与えた大洗学園がこのままだと廃校になってしまうのは俺も悲しく感じます。ですが、河嶋さんや小山さんが罪悪感を感じる必要はありません。悪いのは学園艦教育局の強引なやり口です。俺からすれば高大一貫校への入学斡旋とは名ばかりの学園乗っ取りであり。結局は私立化して思うがままにしたいだけでしょう。特にあの辻という局長には何らかの裏があると俺は踏んでいます」

 

桐村は柚子と一緒に桃を励ましつつ。彼自身の大洗に対する思いやほぼ間違いではない推測を彼女らに語る。

そんな二人の励ましが声を奏したのか、桃は完全に元気を取り戻したのであった。

 

「……ありがとう二人とも。落ち込んでいる暇はない。会長分まで頑張らねば」

 

「桃ちゃん。私のことも忘れないでね!」

 

「ああ。そうだったな。遥馬君、相談に乗ってくれて助かった。申し訳ないがそろそろ私達は寮に戻らなければならない時間だ」

 

「待ってください。夜道なので戦車でですが二人をお送りします」

 

「何から何まですまないな。お言葉に甘えさせてもらおう」

 

「ふふっ。いつも通りの桃ちゃんに戻ってよかった」

 

彼女達二人は桐村の気遣いに感謝しながらコメットに乗り込んで寮に戻っていくのだった。

この時一部の者達を除いてこの桐村遥馬が大洗学園の廃校問題という名の暗闇や辻の野望に抗い切り裂かんとする者の一人である事は桃と柚子を含めてまだ誰も知る由がなかった。

 




ありがとうございました。次回は第三十話を投稿する予定です。また次回も捏造設定がかなり割り込んできます。
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第三十話 欲深き者

今回も捏造設定マシマシな上、原作よりも早く大洗連合結成です。
引き続きお楽しみください。


文科省学園艦教育局局長・辻廉太は、銘王造船株式会社代表取締役・木下恒雄と大洗学園戦車道チームをいかにしてその配下に加えるべきか電話でやり取りしていた。

 

「総統、私的に大洗学園戦車道チームを大学選抜チームと総統が率いていらっしゃる統心機甲団で殲滅する予定のようですが。私に良い提案が有ります」

 

「良き提案とは何かね?倉橋君」

 

「この際、大洗学園戦車道チームだけでなく。必ずや大洗学園の助っ人に現れるであろう様々な学校の戦車道選手や江城連合会の戦車乗り達も新たな高大一貫校の配下に加えるべきなのです」

 

「ほぅ。素晴らしい。君のおかげで私にも良い考えが浮かんだよ」

 

木下の提案を受けた辻は静かに笑うと同時にさらに欲張った考えが脳裏に浮かんだのであった。

 

「大洗学園救援には私が様々な条件を付けた上で参加を許可するというのはどうかね。また、あの学校の戦車道チームの男子達は手強いようだから蚊帳の外に出してからうまく罠に嵌めてから試合に参加させるというのもありじゃないか?恐らく蚊帳の外に置かれた戦車道男子達は江城連合会を頼るはずだからな。義理人情に厚く任侠精神を掲げる江城連合会のことだ。絶対に精鋭メンバーを抽出して大洗救援に赴いてくるだろう。だからこそ彼らにも参加条件を提示するんだ」

 

「素晴らしいですな総統。それにもう一つ朗報があります。先日私は隣国から三輌の良い代物を入手致しました。それを総統が率いる統心機甲団に献上したいと考えています。して、その代物とは総統がかつて搭乗されていたIS-3……それも近代化された自動装填砲搭載型のIS-3Aともう一つがT-103重戦車。極め付けは様々な機能が自動化されたカール自走臼砲でございます」

 

辻の貪欲さをさらに助長するように木下は、自身のツテで入手した三輌の車輌を彼に献上する意思を伝える。

 

「流石だな。A型に至っては戦後改修型でタイミングが良い。最近戦車道連盟で一九四五年年末までに計画された戦車の戦後改修型および改造された型式の車輌や一部の戦後戦車も戦車道に参加しても良いことになったからね。そのテストも兼ねて使用するか。それにカールも自動化されているようだから考え方によっては戦車になるからな。ククク……」

 

「考え方によって……ですか。総統の権限なら出来なくも無いですからね。それではそろそろ例の廃艦に関する会議がありますので失礼いたします。早くねじ伏せて配下に加えられると良いですな」

 

「ああ」

 

辻は第六十三回戦車道大会終了直後、戦車道連盟において施行された新たなレギュレーションを思い出したのだろう。木下に自身の権力を誇張するかのように電話越しで不気味な笑い声を漏らしながら語る。

木下はこれからある会議の事を思い出したのか、辻に来たするような一言を残すと電話を切る。

 

「辻局長。大洗学園生徒会長・角谷杏様及び日本戦車道連盟理事長・児玉七郎様、蝶野亜美陸軍大尉殿、西住流家元・西住しほ様、戦車道連盟男子勧誘課課長・西住常夫様そして島田流家元・島田千代様がお越しになられています。応接室でお待ちしております」

 

「ご苦労。君はゆっくりしていても構わない(ちっ。よりによって戦車道の家元達だけでなく。来年度から戦車道連盟副理事長が内定している世良まで引っ張って来るとは……本当に面倒ばかりだ)」

 

辻は部屋に入って来た秘書を労うと同時に内心で毒を吐きながら腰掛けていた椅子から離れて応接室へ向かうのであった。

 

 

 

応接室では辻一人に対して杏や児玉、蝶野、しほ、常夫そして千代の六人で大洗学園の廃校に関する舌戦が再び起こり。

今回はしほや常夫、千代の三人から辻に対して戦車道の今後を交えながら大洗学園廃校に対する話題に話を移すのであった。

 

「辻局長、若手の育成なくしてプロ選手の育成は成しえません」

 

「右に同じく。今や諸外国の一部では再混合化によって戦車道の男女の比率が一対一になる兆しにあります。今回の件を強行すれば、男子のプロ選手育成の機会を損ねる可能性があります」

 

「したがって島田流家元である私としても。戦車道を嗜む男子の割合が他校に比べて高い大洗学園の廃校はどう考えても無益なものであると考えます」

 

「西住課長及び島田先生両名が仰るように。有望な少年少女らを育む機会が生まれようとしている学校を廃校にするのは先見性に欠けます。そしてその様に考えの隔たりがあっては、私がプロリーグ設置委員会の委員長を務めるのは難しいかと。それにまして少数精鋭に長けるチームを分散させる方が無益に値する上、可能性を自ら封じ込めることにもなるでしょう」

 

「し、しかし。プロリーグの委員会は今年度中に設立しないと我が国の誘致が難しくなります。それは御三方もご存知かと……それに少数精鋭と言えど、まぐれで優勝した学校ですし(これも計算のうちと言えどここまで来るとは。だが、ここで下がっては私と子供達の機甲団が覇権を握ることが出来ん)」

 

しほや常夫、千代からの問い詰めを自身の計画に他校の精鋭を加える計算のうちにしていたものの。

予想よりも強い抗議に押され気味であった辻は、三人に対して現実に関する事で紛らわそうとするが、敢えて口を滑らす事にした。

 

「戦車道にまぐれなし。在るのは実力のみです!どうすれば認めていただけますか?」

 

「……でしたら。私が率いる統心機甲団と大学選抜チームとの試合に勝利すれば考えます。それに少数精鋭性が事実なのかを確かめてみたいので五十輌対三十輌以上というのはどうですか?勿論、他校からの協力も許可します。ただし、そうする場合は貴学大洗学園戦車道チームも含めた大洗連合のチームはこちらの抽選という形に致します(待っていたぞ。統心機甲団の出番が来た。それに江城連合会も大洗に加担する口実が出来たはずだ)」

 

「分かりました。噂では口約束は約束ではないそうなので、今ここで誓約書を交わしてください!そして勝利すれば廃校の撤回をよろしくお願いします」

 

「ええ。今度こそ誓約いたします。早めではありますが健闘を祈りますよ角谷会長(上手くハメる事ができたな。あとは殲滅のみだ。私の子供達の力を思い知るが良い)」

 

こうして辻と杏達六人の交渉は終わりを迎えたのであった。しかし、この時。辻は自身の思惑が上手くいったことで高を括っていたが。

杏は彼の強欲さに屈しない意志を持っていたのだった。

 

 

 

統心機甲団は、現在文科省学園艦教育局長である辻廉太が私費を投げうって設立された戦車道チームである。その実力は社会人チームや大学選抜チームに太刀打ちできる程であり。

総統である彼に代わって実質的な隊長であり機甲団の元帥を務める『伊庭宏斗(いばひろと)』の指揮力も合わさってその影響は全世代の戦車道界に波及しつつあった。

また、その勢力も大きいものであり。辻が経営する孤児園たいよう園の生徒や後から加入した団員を含めるとその数は四百名である。

さてそんな統心機甲団の幹部団員達は、総統であり父である辻が招集をかけた事により。

機甲団の本部であるたいよう園の会議室に集まっていた。少年少女という年齢でありながらも玄人同然の面持ちである彼ら彼女らは辻が部屋に入るや否や軍隊式の挨拶で彼を出迎える。

 

「辻総統閣下に敬礼っ!!」

 

「すまないね。君達、何も総統じゃなくて“父さん"と呼んでくれても構わないよ」

 

「いいえ。それは総統に対して無礼かと……」

 

「ははっ。そう畏ることないよ宏斗。さて、議題に入るとしよう」

 

辻は自身の養子達が父親としてでなく。一つの軍団の指導者として自身の名を呼んでくれた事を嬉しく感じながら畏った表情で視線を合わせる少年少女らをフレンドリーな調子で労うと同時に上座に腰掛ける。

 

「さて、先日から君達に話していた高校生連合との試合の件だが。やはり確定してしまった。この件は私が前線に立って指揮を執ろう」

 

「つまり。お父様いえ、総統閣下ご自身が出撃されるということですね!」

 

「君の言う通りだよ玲名。今回は彼の優勝校、大洗学園から始まり。黒森峰女学園、聖グロリアーナ女学院、プラウダ高校、知波単学園、サンダース大学附属高校、アンツィオ高校、継続高校といった強豪の中でも精鋭の方達が連合を組んで私達と闘うのだ。また、我々の味方には大学選抜チームがついてくれる。だからこそ私が代表して君達の指揮を執る」

 

杏達を対応している時とは打って変わって冷酷な役人としてでなく。一つの家庭の親のように幹部の一人である『吉良玲名(きられいな)』の質問に丁寧に答える。

 

「総統閣下いや父さん、その試合の目的は一体」

 

「そうだったな。今回の目的は第六十三回高校生戦車道大会終了直後、戦車道連盟にて議決された一九四五年年末までに計画された戦車の戦後改修型および改造された型式の車輌や厳重な審査を重ねた上、運用可能になった一部の戦後戦車が戦車道において相応しいかどうかという実証を兼ねて行われることとなったからだよ」

 

「なるほど。ということは、こちら側も一部の戦後戦車を運用することになるのか」

 

「ああ。その通りだ。この事には大洗学園の戦車道チームの生徒会長や戦車道連盟の児玉理事長が喜んで賛成してくれたよ。蟠りは一切ない。という訳で皆んな。私や宏斗と共に頑張ろうではないか。会議は以上だ。他に質問は?」

 

『異議なし』

 

「では閉会する(流石私の子だ。宏斗、お前の鋭さこそ今後の日本戦車道に相応しい)」

 

養子達の中で特に辻が溺愛している伊庭が表情を少し曇らせながら試合が行われる理由について聞くと、辻は本当の理由を語らずに建前での理由で伊庭を含めた子供達に語るのであった。

こうして辻と子供達との会議は閉幕し、彼と伊庭を残して子供達は退室していった。

 

「他の子供達もそうだが。宏斗、お前は私にとってかけがえのない存在だ。そこで頼みがある。私と旧友の木下代表が計画している高大一貫校の戦車道チームの隊長をお前にやって欲しいんだ」

 

「父さんと木下さんには昔、世話になったから喜んで引き受けるよ。だけどその前に。今度の試合は本当に蟠りは無いんだよね?」

 

「無いさ。まさか世間を賑わせている廃校騒ぎのことか?大丈夫、私は逆に廃校を撤回する理由も作ろうとしているんだ」

 

「……分かった。父さんがそこまで言うなら僕は信じるよ。父さんと久しぶりに前線に行けるなんて嬉しいから」

 

「ああ。期待しているぞ宏斗」

 

伊庭は父である辻が考えている思惑に気付きつつも敢えて追及せずに何気ない親子の会話を交わすのであった。

それから辻は他の子供達の後を追って退室する伊庭の背中を見つめながら小さく呟くのであった。この時の彼は役人や総統としてでなく一人の親として伊庭を見つめたのであった。

 

 

 

試合の取り決めから二日後、大洗学園戦車道チーム車長会議は紛糾の様相を呈していた。

紛糾の発端は大洗学園連合チームの車輌数が最低量の三十輌しか抽選されておらず。その上、大友達戦車道男子が全員抽選外だったのだ。

一方、どう考えても統心機甲団・大学選抜チーム連合は五十輌という数の暴力であった。

 

「五十輌対三十輌ってどう考えても戦争やないかっ!!辻のダボ、ええ加減にせえよ」

 

「兄貴っ!落ち着くんや。せやけど、三十輌以上は絶対言うたわりに最低数ってなんやねんな。俺らの事をなめくさりおってあのボケ」

 

普段は穏やかで優しい性格の平形と黒木の二人は、辻から送られてきた大洗連合チーム抽選結果を見るや否や滅多に見せない怒りの姿と怒鳴り声を上げる。

 

「勇武、彰。二人とも……気持ちは俺にだって分かる。最悪少数精鋭運用を得意とするみほ姉貴や他のみんなの策に賭けるしかねえのが現状だ」

 

「戦車道男子のみんな。ごめんね……私もすごく悔しい」

 

「なんも会長が謝ることやありません!悪いんは辻のアホウです!」

 

「ウチらも怒鳴り散らしたりしてすみません!兄貴、こうなったら出来る限り手を尽くすしかありません!」

 

「せやな。会長、ウチらに出来ることがあったら何でもやりますんでお申し付けください」

 

大友と杏が共感しながら二人を宥めていると、平形と黒木は普段の落ち着きを取り戻したのか。

今度は二人が杏に詫びながら出来る限りの事について考え始めると、大友が何かを思いついたかのように二人に声を掛けた。

 

「勇武、彰。相談したい事がある。みほ姉貴、皆さん。俺たち戦車道男子はちょっと外させてもらっても良いですか?」

 

「誠也君……」

 

「姉貴、こんな所まで来て申し訳ないのですが。あとは、抽選された皆さんでの話し合いということでお願い申し上げます。河嶋さん、勝手を言って申し訳ないのですが。河嶋さんにしばらくの間、副隊長を務めて貰いたいのですが」

 

「ああ。任せろ。いい案を探してくれることを期待しているぞ」

 

「はい。では、失礼いたします」

 

こうして戦車道男子達は部屋を後にすると大友に連れられ、自分達の戦車の前まで来たのであった。

平形や黒木、長瀬が大友に話しかけようとした途端。大友はそのまま三人の方を向いて軽く頭を下げる。

 

「勇武……俺たち大友連合会を江城連合会に加えてくれ。肩書きはどうだっていい。こうなった以上、あの人に頼むしかねえ」

 

「大友の兄貴……頭を上げてください。江城連合会一門八六九〇人に大友の兄貴を嫌いな奴なんて居りません。九代目や他の兄弟は皆んな兄貴を尊敬してます。それに江城連合会の誰よりも強い兄貴を肩書き無しで出迎えることは出来ません」

 

「そうです。あの人なら兄貴を絶対に歓迎します」

 

「大友の兄貴なら大丈夫です。平形の兄貴に任せてください!」

 

三人は大友の両手を握ると、二つ返事で彼を歓迎する様子を見せた。平形の言葉の通り、勇彰會の面々はその言葉を待っていましたとばかりに優しく微笑む。

 

「親分。是非、江城連合会に入りましょう。今が潮時です」

 

「皆んな。ありがとう。早速で悪いが、江城連合会本部まで向かうぞ」

 

「「はいっ!!」」

 

三人の兄弟分や水野を始めとする子分達の説得もあり。大友は江城連合会に加入する意志を固めて子分達と共にその本部へと向かったのであった。

 

 

 

平形と黒木の案内で江城連合会の本部に到着すると、江城連合会側でも大洗連合救援の段取りをしていたのだろう。

統心機甲団や大学選抜チームが保有する戦車に太刀打ちできる戦車が十二輌程駐車場に並んでいた。

さて。本部に到着した大友を待っていたかのように、一人の貫禄のある少年が彼らに気付くと。優しく手を振りながら近づいて来た。

大友や平形、黒木も彼の存在に気付いたのだろう。膝に手をつけて頭を下げる。

 

「誠也、元気やったか?色々大変やったな。それに勇武と彰も元気にしとったか?」

 

「お久しぶりです。三上組長。舎弟頭たるお方が自ら迎えてくれるなんて」

 

「「ご苦労様です!三上の親父」」

 

彼を出迎えたのは、九代目江城連合会の舎弟頭かつ直系・三上組組長である『三上栄一(みかみえいいち)』であった。

この三上という少年は平形や黒木が戦車乗りになるきっかけになったと同時に勇彰會の出身母体である三上組組長だ。また、現九代目江城連合会の最古参の組長であり。同級生である柏間や佐谷からも尊敬されており。敬称付きで呼ばれていたりする。

 

「まあ、立ち話も何やから会議室に行こか。それと勇武だけやなくて彰も九代目から話があるみたいやで」

 

「九代目からですか……ほな行きましょうか」

 

大友や平形、黒木は三上に案内されて会議室へと向かって行くのであった。三上が会議室の扉を開くとそこには、大友が一戦を交えて来た戦友達が彼を待っていたのだ。

その中でも一際目立つ存在であったのが九代目会長……桐村遥馬の存在であった。

 

「大友さん。遂に江城連合会入りを果たされるんですね」

 

「ええ。九代目いや、他に居る皆んな。今日から改めてよろしく頼むよ」

 

桐村が大友を労いながら平形が座るはずの総本部長席に彼を座らせる。大友が一通りの挨拶を終えた頃にようやくそれに気づく。

 

「あれ?ここは勇武の席であり。江城連合会という組織のナンバースリーに値する総本部長の席のはずじゃ……」

 

「水臭いこと言うなよ大友の兄貴。あんたに見合った席だから良いに決まってんだろ?」

 

「そうですよ。大友さん。あなたは本部がある大洗の大洗学園に通っているし何より今まで少数精鋭運用を得意として来ましたからね」

 

「せやで大友ちゃん。これからお前の大友連合会はさらにデカくなるはずや。それに若頭補佐や並の幹部じゃ勿体ないからのう」

 

「そうですよ大友の兄貴。兄貴なら上手くやれます!」

 

「他の皆んなの言う通りだ。会長の九代目や若頭の俺ときてその次の総本部長はお前が良い決まっているだろ」

 

畏って遠慮気味になりかけていた大友を後押しするかのように。浜崎や獅堂、佐谷、拓実、柏間達が彼を励ましていく。

戦友達の励ましや期待に応えるべく大友は席から立ち上がると同時に他の戦友達に語り始めた。

 

「皆んなありがとう。この場を借りてこのような事を言うのも何だが。俺は愛するみほ姉貴や一度一緒に勝利を勝ち取った皆んなの笑顔、大洗学園を取り戻したい。だからこそここに居る皆んなの力を借りたい。もうここに居る皆んなは聞いているかも知れないが。大洗連合三十輌に対して敵さんは五十輌という戦争そのものというべき数で勝負を挑んで来た。さらに生意気を言わせて貰うとしたら、弱きを助け強気を挫く任侠精神を重んじる江城連合会として立ち上がるべきだと思う。たとえそれが罠だとしてもだ」

 

「大友さん。あんたの言う通りだ。俺たちはもうすぐ百年になろうとしている戦車道の伝統を黎明期から支えてくださっている戦車道乙女の皆様や世間様あっての江城連合会だ。そんな三十対五十なんて筋が通らねえことを阻止し、共に大洗学園廃校を阻止しようとする戦車道乙女の皆様に助太刀しようじゃねえか。異議を唱える者は?」

 

『『異議なし!!』』

 

「ではこれより二日後の大洗連合救援の準備開始とする。粉骨砕身で試合に挑むように!」

 

『『押忍!!』』

 

大友と桐村による決意表明から始まって江城連合会の面々は大洗連合救援の意思を再確認すると同時に戦いに身を投ずる江城連合会の戦車道男子の眼となった。

 

「次に人事について発表する。先ず勇彰會総裁・平形勇武殿を舎弟頭補佐に任ずる。次に勇彰會内黒木組を直系昇格と同時に組長、黒木彰殿を若頭補佐とする。安斎組組長・安斎拓実殿及び二代目桐村組組長『堂島大生(どうじまだいき)』殿を本部長補佐に任ずる。佐谷組組長、佐谷吾朗殿を若頭補佐筆頭から舎弟頭に任ずる。不肖三上組組長たるワシを江城連合会本家最高顧問とする。そして最後に新たに直系・大友連合会として加入する大友誠也殿を総本部長に任ずる。この人事決定に異議がある者は挙手されたし」

 

『『異議なし!!』』

 

「では、本日この時をもってこの人事とします。それではお席をご移動ください」

 

こうして江城連合会の新しい人事が決定したのであった。江城連合会の面々は大友の事を信用した上で彼に総本部長を任せたのだ。

 




ありがとうございました。次回から大学選抜&統心機甲団戦に突入です。
ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております。


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第三十一話 大洗・江城連合チームVS統心・大学選抜連合チーム戦始まります!

ご覧いただきありがとうございます!原作とは違い。五十対五十にしてみました。引き続きお楽しみください!


大洗連合チームは、戦車道男子が蚊帳の外に出され。五十対三十という数的不利な状況に置かれていたものの。

試合が始まる直前、不穏な空気に包まれていた戦車道乙女達の不安を打ち破ることが起きたのであった。

みほとまほが連合チームを代表して。大学選抜チーム隊長の愛里寿と統心機甲団総統、辻と挨拶を交わそうとした瞬間にそれは起きた。

 

「待ってください。新たに大洗連合チームと合同を組むチームが今到着し、現場に向かっています。名は……こ、江城連合会?」

 

「え?(江城連合会ということはまさか……)」

 

蝶野が新たに大洗連合と合同を組むチームの名を呟くと、不安に染まっていたみほの表情が徐々に明るくなったと同時に大洗連合チームのメンバーが待機する方角から合わせて十九輌の戦車が現れ。

その中には、大洗学園戦車道チームの副隊長・大友誠也をはじめとした戦車道男子の姿もあり。

戦車道乙女達が喜色に溢れた声を上げる傍ら。十九輌の戦車は、みほとまほの後ろに停車し。

E-25から大洗学園のパンツァー ・ジャケットに身を包んだ大友が降りて来るなり。みほを優しく抱きしめる。

 

「みほ姉貴、お待たせして申し訳ございません。ただ今お助けに入ります」

 

「……っ……っ……誠也君!ありがとう……」

 

みほは舎弟たる大友が戦友達を連れて参戦してきた事が嬉しかったのだろう。思わず泣きながら抱き返す。

呆気にとられているまほの前に現れた柏間は、彼女に頭を下げるなりこう言った。

 

「俺たち戦車道男子も参戦する。もうすぐお盆だから屈強なお中元達を連れてきたぞ」

 

『『よろしくお願いします!!』』

 

「ああ。ありがとう」

 

柏間の言葉に合わせるようにして他の幹部達は、回れ右をして。後方で待機する戦車乙女達に頭を下げる。

 

「江城連合会の参戦ですか……ところで君達の会長は?(やはり来たな。我が機甲団で捻り潰してくれるわ)」

 

「それならもう来ます。おっと……噂をすれば何とやらです」

 

辻は彼らを束ねる会長の存在が気になったのか、みほの手を握っていた大友に話しかける。

彼が後ろの方を指差すと、待機する戦車道乙女達の後ろから悠々と走る一輌のコメット巡航戦車が現れた。

 

「桃ちゃん!あのコメットはまさか……」

 

「そ、そ、そ、そんな!!そんな事があって良いのか?!」

 

「そうよ!あのコメットは……」

 

「「よかったね!そど子!!」」

 

柚子がその存在を確認すると、いてもたっていられない程嬉しくなり。桃とそど子に至っては現実を直視出来ていないのか、パニックになり始める。

ゴモヨとパゾ美は、柚子と同じように嬉しくなってそど子を囃し立てる。

間も無くしてそのコメットがみほや大友達の前に停車すると同時にキューポラから現れたのは純白の特攻服に包んだ少女のような容姿をした黒髪の少年……桐村遥馬だった。

この時の桐村の表情は、普段の彼から考えられないくらい凛々しくなっており。その凛々しさに色を加えるかのように特攻服の背中には、大空を飛び回らんとする応龍の刺繍が施されていた。

彼はみほとまほに軽く頭を下げた次に辻の目を直視してゆっくりと口を開く。

 

「九代目江城連合会会長、桐村遥馬だっ!!これより江城連合会は弱気を助け、強気を挫く任侠精神のもと。大洗連合指揮下に移る!!」

 

「ほぅ。良いでしょう。審判長、私は参加を認めます。島田大学選抜チーム隊長は如何なさいますか?(待っていたぞ。桐村遥馬。君こそ抑えられれば、此方が勝ったも同然)」

 

「丁度、五十輌対五十輌となるため。参加を認めます(遥馬お兄ちゃん。やっぱり来てくれたんだ)」

 

「分かりました。辻総統と島田隊長の了承を得たため。江城連合会の大洗連合参加を認めます。早速ですが。一同、礼っ!!」

 

こうして江城連合会一門が大洗連合に加わった事により。互角の戦力となった両者であった。

この時、辻は相変わらずのように内心でドス黒い我欲をぶちまけていたのだが。そんな彼にも終わりの時が近づこうとしていたのだった。

 

 

 

大洗・江城連合チームの主だった面々は、チームの再編成を兼ねた作戦会議を行なっていた。チームの再編成はお互いの意見を譲り合ったり応用を重ね合ったりしていたためか。円滑に進みつつあった。また、フィールドの東西の平野や中央部の丘陵といった三方向から攻める『こっつん作戦』まで取り決められた。

さて。乱雑な表記ではあるが、大洗・江城連合チームの編成は以下の四中隊に分かれた。

 

たんぽぽ中隊:Ⅳ号(H仕様)、E-25、KV-122、コメット、チャーチル、マチルダ、P43ter、Pティーガー、B1bis、三式中戦車・チヌ改、P40、M4A1・FL10、クルセイダー

 

ひまわり中隊:ティーガーⅠ、ティーガーⅡ、パンターG型、44Mタシュ、M16/43サハリアノ(佐谷車)、Ⅲ号突撃砲(G型仕様)、五式軽戦車・ケホ(安倍車)、LTTB、T-34-85×二輌、IS-2、KV-2、M51スーパーシャーマン、セモベンテ

 

あさがお中隊:九七式中戦車・チハ改×二輌、五式中戦車・チリ、四式中戦車・チト、特三式内火艇、M4E8、シャーマンファイアフライ、M4A1、M18・スーパーヘルキャット、M3Lee、T-40中戦車、MK.Ⅳ、五式砲戦車・ホリ

 

どんぐり中隊:ヘッツァー、T-50-2、八九式中戦車、strv/m42、C.V.38、五式軽戦車・ケホ(福田車)、BT-42、M16/43サハリアノ(西田車)

 

こうしてどのチームも公平な戦力分けとなり、大学選抜チームと統心機甲団が保有する強力な戦車に対抗できるようになっていた。

 

「それでは、こっつん作戦ということでよろしくお願いします。最後に会長の遥馬君をはじめとする江城連合会の皆さん改めてありがとうございます」

 

「こちらこそ皆さんのお役に立てて良かったと思っています。今日ここに参加している江城連合会一門は皆、文科省がしでかした筋の通らない事や義理を欠いたことに対するケジメも兼ねてやってまいりました。粉骨砕身努めさせていただきます」

 

作戦会議も閉幕しようとした頃、みほが江城連合会の面々に向かって改めて感謝の言葉を口にすると会長の桐村が謙虚な姿勢で応じながら大洗救援に臨んだ真意を彼女に伝えたのであった。

 

「相変わらず君らしいな遥馬君。来てくれて嬉しいよ」

 

「右に同じくそう思いますわ。まさか貴方と手を組める日が来るとは」

 

その傍らで大友を始めとする他の組員達も同じ真意を表すかのように静かに頷いている。

まほやダージリンといった各校の隊長達も桐村の一言を真剣に聞きながらもどこか安心した表情になっていたのだった。

間もなくして作戦会議は終了し、各校の隊長や江城連合会の幹部たちが作戦会議を行っている部屋から出ていく中、みほと大友は静かにお互いを見つめ合っていた。

 

「誠也君、どんな時でも嫌な顔をせずについてきてくれて私はすごく嬉しいわ。ありがとう!」

 

「みほ姉貴についていくと決めた日からそう心に決めたんです。それに廃校撤回の義理を欠いた落とし前をつけてみんなでもう一度学園に帰りましょう」

 

「そうだね……誠也君。私は友達のみんなや助けに来てくれた人達の為にも絶対に勝ちたい。それに愛してる誠也君と愛し合える日を取り戻すためにも絶対に勝とう」

 

「ええ。俺はみんなや貴女の為なら絶対に勝てる気がします。絶対に勝ちましょう」

 

「気が早いけど……私とキスしてくれないかな誠也君」

 

「いいですよ。お互いの健闘を祈りましょう。愛していますみほ姉貴」

 

「私も愛してるよ誠也君」

 

二人は自分達が持っている意志を静かに語り合った後に愛する気持ちをお互いに語り合いながら。身体を抱き合い、そして自身の唇を優しく重ね合ってキスした。

キスを終えて手を繋ぎ合うと、静かに立ち上がって仲間たちのもとへ向かって行くのだった。

 

 

 

銘王造船株式会社代表取締役、木下恒雄こと倉橋行雄は警察庁捜査二課の警部である鬼瓦や刑事の千葉や須藤の問い詰めに遭っていた。

無論。辻と協力し、大洗学園の乗っ取りだけでなく各校の精鋭たちを引き込もうとした事が裏目に出たほか。子会社の内部告発といった動かぬ証拠が出た以上、逃れることは出来なかった。

何せこの三人が廃校問題以前から彼らの行動を注視していたこともあっての事だった。更に倉橋を驚かせる一言を鬼瓦は放った。

 

「お前、ここまで私に追い詰められてまだ分からないのか。お前が二十二年前に顔と名前を変えて今日まで生きて来たことだって知っているんだ。まだあんな事を引きずっているのか」

 

「鬼瓦警部。あなたふざけているのですか?私の罪は認めましょう。しかし、私の何を知っているんだ?」

 

「ここに全部書かれているぞ。エリート官僚だった神宮征四郎の父を通じて司法取引を行い。倉橋行雄から木下恒雄へと名前を変えた事をな……」

 

「なっ?!今になってなぜそれが……どうやってそれを!!」

 

鬼瓦が懐から取り出した一枚の紙を手にすると、倉橋は絶句した。なぜなら自身の名前や両親の名前だけでなく。同じように顔と名前を変えた辻こと神宮とその両親のサインまで書かれたものであった。

倉橋は冷静さを失い。喚き散らしながら鬼瓦を睨みつける。

 

「ようやく正体を現したな倉橋。さぁ、どうして大洗学園を巻き込むような事をしたんだ?」

 

「もう捕まる以上話すしかないな。全てはあのお方の理想の為だ。ただそれだけだ」

 

「本当にそうなのか?一度まともに更生し、戦車道に少しでも貢献したお前のことだ。"あの事故"をきっかけに辻いや神宮とまた手をとりあったのだろう」

 

「ふんっ好きに解釈しろ。もはやこれまでだ。全ての容疑は認める。だから逮捕しろ。もし、あの人に会う機会があるなら申し訳なかったとだけ伝えてくれ」

 

倉橋は再び暗闇に身を落とした本当の理由を鬼瓦に語らず。唯一無二の親友である神宮を最後まで悪く言うことは無く。

再び犯した自身の過ちを受け止める真摯な姿勢で鬼瓦に両手を差し出すと、早速手錠がかけられたのだった。

須藤に連れられて社長室を出てもなお。その姿勢を崩すことは無かったそうだ。

 

「警部。今入った連絡ですが、辻は子供達を伴って大洗学園と試合を開始したようです。頃合いを見て検挙しますか?」

 

「……そうだな。今は辻の野望に抗う子供達に任せるしかないか。早く現場に向かうぞ」

 

「今回の件、同情できるような出来ないような……警部、俺は複雑になって来ました」

 

「自分でも調べているうちにあの悲しい事故に当たるとは……千葉君。現場へはヘリで向かうぞ」

 

「はい。ヘリでも三時間ほど掛かりますが、何とか急いでみます」

 

こうして倉橋という辻の腹心を捕らえた鬼瓦達は、双方の連合チームの戦いが始まると同時に本丸である辻を捕らえようと試合会場へと向かうのであった。

その一方で真相を知る由がないみほや大友、他の戦車道少年少女らは興廃が懸かった戦いに身を投じていたのだった。

 




ありがとうございました!次回から戦闘メインの第三十二話を投稿いたします!
ご感想や評価、感想などお待ちしております!


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第三十二話 落とし前をつけてやる。覚悟しろ!!

ご覧いただきありがとうございます!
今回も原作と違う点が多々あります。引き続きお楽しみください!


大洗連合チームの大きな動きとして中央部を高火力な戦車で編成された

ひまわり中隊の戦車が前進していた。

この中隊の眼となる軽戦車や快速戦車が先陣を切っており。安倍の五式軽戦車・ケホを先頭に獅堂のLTTB、佐谷のM16/43・サハリアノの三輌が無線で周囲の状況を知らせながら前進していた。

 

「前方に統心機甲団のT-44-100が四輌及び大学選抜のパーシングが五輌の合わせて九輌が周囲を警戒しています。また、敵の偵察車輌にも注意されたし」

 

「了解。先行する三輌にも余裕があったら敵の目を潰してもらいたい。引き続き霧隠れする気で行くぞ」

 

『了解』

 

三輌だけでなく。残りの戦車の車長達もいつでも指示が出せるように周りの警戒を強めている。

大隊長であるみほの指示を中心に合わせて四つの中隊の戦車が中央部を突破しようと前進している。

そんな中、東部の平原を前進しているたんぽぽ中隊が早速敵の中隊と遭遇し、交戦が始まるのであった。

 

「拓実君、九代目!射程圏内に入らないように微速で後退しながら攻撃するぞ。大宮君は近くのローズヒップさんを援護してやるんだ!」

 

『了解』

 

「任せてください本部長!ローズヒップさん。こっちやで!」

 

大友の指示を受けた三輌のうち、三上組若頭の『大宮和義』が搭乗するM4・FL10は、慌て気味に後退するクルセイダーの右後ろから援護射撃を行う。

堅牢な正面装甲を頼りに斜め右方向から前進して来た二輌のT44-100は、M4の援護射撃により足止めされることになり。二輌は体勢を立て直そうと全速後退を開始するのだった。

大友や桐村、拓実がこれを見逃すわけがなく。攻撃が一時的に止んだ二輌の履帯に三輌の戦車が砲撃を浴びせる。

全速後退中だったためか、履帯が外れた際に大きくスリップしたことから車体側面を晒す結果となり。

チャーチルとP43.terから砲撃を浴びせられて撃破されてしまう。これ以降は睨み合いが続く膠着状態となった。

 

 

 

西部の森林地帯を前進していたあさがお中隊も同じ規模の敵中隊と遭遇した後に交戦が始まっていた。

この時の敵側の編成はT-44-100中戦車が五輌、SU-101が四輌、SU-122-44が一輌、パーシングが四輌、M24チャーフィーが一輌という内容だった。

レギュレーション改訂後に使用可能となった戦車も混ざっていることから早速あさがお中隊の面々は会敵当初こそ苦戦を強いられていたいたものの、体勢を早急に立て直して撃ち合い始めた。

 

「こちらケイ。絹代、修太郎達知波単ズは回り込もうとしてくるパーシングを抑えて。私達サンダースとラビット達大洗はスナイパーを一輌でも仕留めるわよ!」

 

「心得ました。我ら知波単はパーシングを足止めするぞ。ホリ車と細見と玉田の二輌は身を隠して強襲の準備だ。先輩、私と一緒に」

 

「ああ。機会があれば逆包囲したいところだ」

 

あさがお中隊の隊長であるケイの指示を受けた絹代達は生い茂った草木を頼りにパーシング迎撃に向かった。

途中にある茂みが特に濃い場所では二輌のチハ改とホリがエンジンを切って身を隠し、絹代が搭乗するチトと柏間が搭乗するチリが坂道で敢えて砲塔だけを出してハルダウンで待ち構えているとチャーフィーを先頭に大学選抜側のパーシングが達が現れた。

 

「まだだ……慌てるなよみんな。まだだ……」

 

絹代が無線機を片手にそう呟きながら砲撃の機会を伺っている。その間にもチトとチリを捕捉した五輌の戦車が全速力で向かって来る。

間も無くして五輌の戦車が細見達が身を隠している茂みの前を通り過ぎると、その茂みから勢いよく三輌の戦車が飛び出し、思わぬ形で敵と遭遇した大学選抜の五輌は先にこの三輌を殲滅しようとしたのか。

五輌は車体を三輌の方に向けるとハルダウンしていた二輌が同時に飛び出して砲撃を開始した。

 

「今だ!くさびを打ち込めっ!」

 

チトとチリの二輌が砲撃を始めたと同時に後退しようとしていた五輌に対して他の三輌も砲撃を始めたこともあってか包囲殲滅される形となった。

なお、この時。チャーフィーが装甲が厚い一輌のパーシングを先頭に包囲を脱出し、去り際にお返しとばかりにホリを撃破する。

結果として知波単側の砲弾を弾ききった一輌のパーシングとチャーフィーを逃すこととなり。絹代達が撃破できたのは三輌のパーシングだった。

 

「一輌撃破!統心機甲団は後退を開始してます!」

 

「こっちも一発仕留めた!でかしたぞ水野。逃すかよ!」

 

「崇!援護するわ!」

 

砲撃戦の中。水野のT-40が統心機甲団側のT-44-100を一輌撃破し、それに続くように浜崎のM18も逃げ遅れたSU-101を撃破する。

機甲団側は体勢を整えようとしたのか、そのまま後退して元来た道を辿り始める。

T-40やM18、アリサのM4A1は追撃を開始したものの。惜しくも機甲団に逃げられてしまうのだった。

 

 

 

たんぽぽ中隊とあさがお中隊が敵と交戦している中、まほが率いるひまわり中隊は中央部の高地を奪取し、攻撃の配置に着き。

砲撃の準備を整えて狙撃で両チームの援護を始めようとした途端、中隊の戦車の至近距離で大きな爆発が起きた。

 

「なんなのよこれ〜っ!!」

 

「頭上から?これは自走砲しか考えられないぞ」

 

カチューシャが唐突な砲撃と爆風に困惑している傍ら、彼女の警護役に当たっている獅堂が冷静を保ちながら的確な一言を放つ。

 

「まほ君。ここはもうやばいで!惜しいけど早よ離れなもう一発来るかもしれんで!」

 

「そうだな。総員、後退せよ!」

 

佐谷は周囲が混乱に包まれる中、真っ先に中隊の安全を考え。まほに撤退を進言する。

彼女は彼の言う通り。中隊のメンバーに退却の指示を出す。まほを始めとする中隊のメンバーは、急いで高地を下り始めるが。

小梅のパンターだけが配置についた場所からうまく後退できずにいた。

 

「さっきの砲撃でうまいこと前進できない。どうしよう……」

 

「小梅ちゃん!俺のサハリアノでけん引したるからもう一踏ん張りや!」

 

「はい!佐谷さん」

 

彼女が打開策を考えていると、隣の窪地で配置についていた佐谷が後退できない小梅に気付いたのか。

サハリアノの後部をパンターの前面装甲に向けると、連結器で素早く戦車同士を連結する。

 

「そのまま全速力で行くで!しっかり掴まっとくんや!」

 

「分かりました!」

 

しばらくして小梅のパンターが佐谷のサハリアノに牽引されて全速力で斜面を降り始めると、パンターの背面装甲すれすれに先程と同じ爆風が伝わる。

小梅が背後を改めて振り向くと、戦車の主砲から放たれたとは思えないくらい破壊力が凄まじいことを物語る光景が目に入る。

高地の頂上はすっかり禿山とかし、辺り一面には砂埃が舞っていた。

 

「もう離してええやろ。何ともなくてよかったわ」

 

「ありがとうございます!佐谷さん!(もしかして……あの時の)」

 

高地を降った先の街道で他の仲間が待っているなか停車し、佐谷は連結器を素早く切り離しながら小梅の身を心配する。

彼女は危機一髪というところで彼に助けられたことに対して感謝の言葉を口にしながら内心でかつて自身を助けてくれた少年の事を思い浮かべる。

再びひまわり中隊が前進し、たんぽぽ中隊に合流すべく峠道を進んでいると、いくつかの砲弾がそれぞれの戦車の装甲を掠め始める。

 

「右方向に大学選抜のパーシングが七輌、左方向から統心機甲団のT44-100が四輌、SU-101が三輌接近……合わせて十五輌が接近中です。敵は恐らく包囲網を形成する模様!また、それに合わせて北東からの砲撃も激しくなってきています!」

 

「了解。先程の砲撃は中隊をこの包囲網に誘い込む事が目的だったのか。各車全速力で振り切るぞ」

 

ケホに搭乗する安倍が中隊長のまほに敵車輌の数を報告しながら先程と同じ砲撃が飛んでくる位置も報告する。

 

「くそっ。このままじゃ最後尾を守るカチューシャさんが危ない。ここは俺が行くしかないか……ノンナさん」

 

「どうしました。義孝君?」

 

「俺が囮になります。早く他の皆さんと逃げてください」

 

「ちょっと?!タカーシャ、囮になるってどういうことよ!」

 

「義孝君。それなら私も一緒に。ご機嫌よう。カチューシャ様、ノンナ様……一緒に戦う事が出来て光栄でした」

 

「それなら。あたしらKV-2も足止めのために出るべ。カチューシャ様、早くにげてくだせ!」

 

「……二人ともすみません。では、共に行きましょうか」

 

「クラーラ、何よその流暢な日本語は!それにかーべーたんのニーナ達までどうして?!」

 

獅堂のLTTBが一度停止したかと思えば、そのまま敵が来る方向へと旋回し始める。

無線で困惑するカチューシャをよそにT-34-85に搭乗するクラーラやKV-2に搭乗するニーナやアリーナ達までもが自身が搭乗する戦車を敵が来る方向へと向ける。

 

「何をする気?早く来なさい!差し違えるなんてダメよ!」

 

「いいえ。全員は無理そうですからノンナさんと一緒に行ってください」

 

「カチューシャ、ここは残念ですが義孝君達の言う通りにしましょう。大丈夫、貴女を一人にしません」

 

「カチューシャさん、ノンナさん。勝手な真似をしてすみません……俺も戦車道を嗜む者の端くれ。気持ちだけでもそっちに居られるかな?」

 

カチューシャはそのまま戦車を走らせながらも。敵の方へ向かっていく獅堂達を引き戻そうと無線機に向かって涙声で引き留め止めるのだが。その間にもLTTBやT34-85、KV-2の三輌は迫りくる敵車輌の方へ突き進んでいく。

ノンナは差し違えてまでカチューシャや他の中隊のメンバーを守ろうとする彼ら彼女達三人の意を汲むことにしたのか。

同じようにカチューシャを説得することを選択した。

 

「………退却するわ。タカーシャ、クラーラ、アリーナ、ニーナ。あんた達怪我でもしたら許さないんだから……っ……っ……」

 

『『За Правду』』

 

カチューシャは四人の意志が身に染みたのか。この時の彼女は四人に対する感謝の感情もあったものの。

四人を見捨てるような気もしたのか、若干の罪悪感が声にも滲み出る。カチューシャが涙声でそう言い残すと獅堂達がロシア語でそう言いながら姿を見せた敵戦車に向かって自分達が乗る戦車を前進させる。

敵は恰好の的が現れたとばかりに三輌を集中砲火を浴びせようとするのだが、機動力が高いLTTBとT-34-85の二輌に翻弄され始める。

この時の天候は雨だったため。

二輌は、峠道のカーブを滑るように走りながら平原から現れる敵車輌を撃破したのちにバリケード代わりなるかのように側面を向けて狭いカーブに停止してもう二輌の戦車と差し違えるのであった。

LTTBとT-34-85が撃破された後に体勢を整えようとしていたSU-122-44の履帯を切断したKV-2も大学選抜チームと統心機甲団の戦車による集中砲火に晒された後に撃破されてしまった。

だが、この三輌の戦車に搭乗していた獅堂やクラーラ、ニーナ、アリーナ達が起こしたこの行動は決して無駄なものではなかった。

敵チームの足止めとなっただけでなく、ひまわり中隊の面々そしてカチューシャが逃げ切ることができたのだ。

 

 

 

一方、杏が率いるどんぐり中隊の面々はひまわり中隊を砲撃した原因を突き止めるべく。

中型トラックがやっと一台通れるほどの道幅の峠道を身を隠しながらさらに奥深くへと進んでいるうちに戦車砲にしては大きすぎる発砲音がどんぐり中隊一行の耳に入ってくる。

 

「まさか国防軍の九九式自走155mmりゅう弾砲なんて持ち込んでるわけな……ってあれは?!カール自走臼砲っすよ!!」

 

「嘘やろ。あんなバケモンを統心機甲団が保有してたやと?」

 

「それだけじゃないっすよ黒木の叔父貴!カール自走臼砲の他にT-103重戦車といった高火力な戦車やカールがいる場所を決戦場にするつもりなのか、要塞のようなものを築いています!」

 

「くそっ!どれもウチの中隊じゃ敵わないじゃねえか」

 

C.V.38のペパロニが身を乗り出して砲声がする方向に双眼鏡を向けると、小規模な町の跡と思われる川が流れる開豁地の高台に一輌のカール自走臼砲が鎮座していたのだ。

中隊一行は、戦車をバレないように停車させた後に同じように身を乗り出して双眼鏡で開豁地の方を見つめ始めた。

カールを守るようにして展開するT-103重戦車や五輌のT-44-100中戦車、三輌のSU-101駆逐戦車そして一人の男……辻がIS-3A重戦車から身を乗り出して自身が率いる機甲団の団員達に指示を送っている姿も目に入った。

敵に高火力な戦車が揃っている以上、どんぐり中隊の勝率はかなり低かった。だが、ここでどんぐり中隊の面々に救いの手が差し伸べられた。

 

「どんぐり中隊のみんな!俺たち大友組が今すぐそっちに向かうから上手くタイミングを合わせて攻撃を始めようぜ。大友一門全員集合っ!!」

 

『『はいっ!親分』』

 

「それは名案だな!頼んだぞ大友!」

 

「河嶋さん。ありがとうございます。では、どんぐり中隊の皆さんに助太刀します!」

 

大友率いる大友連合会の面々がどんぐり中隊の助太刀になることになり。各中隊に散らばる大友連合会幹部達が元気よく無線で返事する。

同じように桃も喜色に溢れた声で彼の提案に賛成するのだった。程なくして各中隊に属する大友組メンバーがどんぐり中隊に合流すべく移動を始めたのであった。

 

「誠也君、必ず戻ってきてね……とても頼りにしているから」

 

「必ず戻ります。みほ姉貴。九代目、大宮君。俺の代わりにみほ姉貴を守ってくれないか?それと勇武、俺と一緒に来てくれないか?」

 

「はい。大友さんに代わってみほさんをお守りします」

 

「分かりました叔父貴。絶対に敵は寄せつけません」

 

「了解やで兄貴っ!勇彰會も全員集合や!」

 

『『押忍!!』』

 

「……(さあ、辻総統……落とし前をつけてやる。覚悟しろ!!)」

 

大友は大隊長であり愛するみほの言葉を静かに受け止めると、頼りにしている桐村と大宮の二人に彼女の護衛を任せるのであった。

それから舎弟頭補佐の平形を連れてどんぐり中隊の助太刀や辻に対するケジメも兼ねて要塞化された開豁地へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

要塞化した開豁地で自分達の方に向かってくるであろう敵を待ち構えていた辻はIS-3Aのキューポラから身を乗り出してタブレットを片手に敵を殲滅するシュミレーションに耽っていた。

すでに敵の戦車を四輌ほど撃破し、敢えて一部の団員に油断させたうえで。敵の慢心を誘い込もうとしていた。

 

「このまま敵は我々の場所を発見し、総攻撃を仕掛けてくるはずだ。迎撃を怠るなよ諸君」

 

「了解。父さ……いえ、総統。敵が総攻撃を仕掛けてくることはあり得ると思いますが、逆に捨て身の特攻とばかりに少ない数の敵が高火力なカールやT-103重戦車そして機甲団総統車であるIS-3Aを狙いに来たらどうされるつもりですか」

 

「良い質問だ宏斗。そんなこともあろうかとこのカールに続く橋を私の戦車で砲撃して破壊するつもりだ。無論、ただ突撃して来るだけの馬鹿が来たらね……ククク」

 

「そうですか……(父さんの様子が変だ。まるで何かに取り憑かれているようだ)」

 

辻の指示を耳にしていた伊庭は、彼の指示が疑問に思ったのか思ったことを口にする。

辻は相変わらず不敵な笑みを浮かべながら殺意も感じられる音調で彼の質問に答えるのだった。

この時伊庭は、これまで信頼し慕ってきた彼が自分達の前で見せたことがないであろう恐ろしさすら感じる表情と声で彼の異常を感じとるのだが、そのままそっとしておく事にするのだった。

 

「辻総統、敵戦車が五輌接近してきます!E-25及びT-40、KV-122、五式軽戦車・ケホ、strv/m42です。総員迎撃開始っ!」

 

「任せましたよ。T-103とカールも攻撃開始。三輌を木っ端微塵にしなさい(血迷ったか……我が軍団の恐ろしさを教えてやるっ!!)」

 

警戒に当たっていた一輌のT-44-100が大友や水野、平形達が搭乗する三輌の戦車を捕捉すると同時に総統である辻に報告する。

彼はドス黒さが滲み出た笑みで指示を出しながら内心で殺意を剥き出しにするのだが。

辻の理想と彼の軍団の最強神話も間も無くして終わりを告げるのであった。

彼のIS-3AはT-103やカールなどと共に三輌に向けて砲撃を開始するのだが、三輌は岩や廃墟などを巧みに利用して砲撃を回避するのであった。あたかも天の加護を受けているかのように。

 

「おかしいぞ。こっちまでたどり着くまでに近い道には待ち伏せを置いていたはずだ。それどころか待ち伏せている戦車の後ろに回り込んで撃破しているじゃないか。総員、逆包囲を始めるんだ!」

 

「すみません!四号車撃破されました!」

 

「同じく七号車も!」

 

「こうなったら私が行くしかないようだな。カールが砲撃を開始する。無差別砲撃だから総員注意せよ!」

 

辻のもとに次々と仲間が撃破された報告が上がって来る。堪忍袋の緒が切れた彼は自らが搭乗する戦車を前進させながらカールに無差別砲撃を指示するのであった。

 

「こちらワニさんチーム。敵のIS-3が廃墟跡に向かいました!どんぐり中隊の皆さん!今です」

 

「りょーかい。どんぐり中隊前進!」

 

どさくさに紛れて川の近くでカモフラージュを施していた長瀬達ワニさんチームは、辻のIS-3Aの様子を監視しており。

彼が自ら前線に上がったところを確認すると、同じように峠道で身を隠しながら大友達の三輌に敵の情報を送っていた杏は長瀬の合図を聞くと同時にどんぐり中隊を前進させるのであった。

カールとT-103が鎮座する高台に続く橋に向かってBT-42を先頭に飛び出してT-50、M16/43・サハリアノ、C.V.38を積んだ八九式中戦車、五式軽戦車・ケホ(福田車)そしてヘッツァーが続く。

 

「しまった。T-103、橋を戦車ごと崩せ!それにもうすぐ吉良副隊長の増援が到着するからなんとかしろ!」

 

カールの搭乗員がT-103に指示を出すとT-103がどんぐり中隊の面々の方に向けて旋回しようとするものの。

高台と廃墟跡を繋ぐ坂道の方から突如現れたstrv/m42ともう一輌のケホによって撃破されてしまい。

程なくしてカールも至近距離で撃破されるのであった。

 

「木村ちゃん、安倍ちゃん。ありがとうね。さーて私達もケジメをつけに行こうか河嶋、小山、王ちゃん」

 

「「「はい!!」」」

 

杏が率いる亀さんチームは他のどんぐり中隊メンバーに高台を占拠させると廃墟で追跡を繰り広げる大友の援護に向かうのであった。

 

 

 

大友が乗るE-25は、オートローダー化されたIS-3Aと対峙していた。ただでさえ高火力な122mm砲から通常よりも早い発射速度で放たれるため、廃墟群を巧みに利用しつつ反撃のチャンスを伺っていた。

 

「もうすぐで会長達カメさんチームが時計塔跡に到着する。そこで片を付けるぞ」

 

「こんなものが使用可能になるなんて時代の変化を感じるよ。おかげでいつもより回避行動が増えた気がするよ」

 

操縦手の我妻が廃墟群の中にある時計塔に向かって進んでいると、その近くで待ち伏せているカメさんチームのヘッツァーが目に入るのだった。

 

「よし、Uターンで突っ込むフリをして会長に撃破してもらうぞ。武、また行進間射撃になるが砲撃も頼んだぞ」

 

「ああ。腕がなるよ。なんてったて相手は大物だからな」

 

E-25は時計塔の近くでUターンすると、そのままゆっくりと姿を表せたIS-3Aの方へ向かって全速力で進み始めるのであった。

相変わらずのようにIS-3Aも自動装填を頼りに行進間射撃で進んでいたが、時計塔の手前で左の履帯を切断されて前進できなくなってしまう。

 

「会長今です!」

 

「はいよー」

 

履帯が切断された場所の隣にあった納屋から飛び出してきたヘッツァーがIS-3Aの車体後部に砲撃を浴びせて撃破するのであった。

 

「くっ……馬鹿な……私が戦車の性能に頼りきっていたのか……?」

 

撃破されたIS-3Aの中で辻は己が乗る戦車の性能に頼りきっていたことにようやく気付くのであったが。

同時に彼に終わりの時が訪れたのだった。

突然上空から一機の警察用ヘリコプターが現れたと同時に試合中断の旨を伝える無線が両チームの戦車に流れるのであった。

 

「辻局長、あなたを共謀罪で逮捕します」

 

「……どういうことなんだ?」

 

「父さんが……逮捕?」

 

「いずれ来ると思いましたよ鬼瓦警部……私の負けです」

 

間も無くして警察のヘリコプターが降下したかと思えば後部座席から鬼瓦が逮捕状を片手に現れたのだ。

大友は目の前の光景に追いつけていないのか、今目の前で起こっている光景に呆気を取られ。

その直後に辻を援護しようと現れた伊庭は父が逮捕されるという事実に直面したのか言葉を失う。

対する辻は何かを悟ったかのように鬼瓦の前まで行くと両手を差し出したのであった。

 




ありがとうございました。次回は辻さんの過去(捏造&オリジナル)を主な話にしていきたいと思います。
ご感想や評価、感想などお待ちしております!


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第三十三話 狂った経緯

ご覧いただきありがとうございます!今回は原作と違ったオリジナルストーリーかつ重めかもです……
引き続きお楽しみください!


かつて自らが標榜した“行き過ぎた正義“によって傍若無人の限りを尽くした神宮征四郎こと辻廉太は、法務省のエリート官僚だった父のコネで顔と名前を変えて更生し、第二の人生は真っ当に歩むはずだった。

行き過ぎた正義を標榜したことを悔み続け、今度は転校先の学校で親友の倉橋と罪滅ぼしに戦車道を嗜む者達の良き相談役として更生の道を歩み始めた。

高校卒業が間近となった彼ら二人は相談役としての腕を買われて大学選抜チームから推薦が来たものの。

かつて自分達が苦しめてきた者達の他に対立した西住しほといった者達と再び顔を合わせる事によって自分達の正体がバレることを危惧した後に推薦を辞退し、戦車道教導塾の講師として戦車道に関わり続けた。

二人は講師としても成功し、多くの人々から慕われたのだった。

 

「辻局長いや神宮。一度更生し、多くの人から慕われたことやこれ以降の経緯は調べさせて貰ったよ。どこで道を誤ってしまったんだ。せめてこの子達の為にも話してやってくれないか」

 

「警部さんその前に僕達から……父さん。僕達みんな父さんに隠し事をしていた事があるんだ。それにみんな黙っていたんだ」

 

「隠し事?」

 

鬼瓦は今回の一件にまで踏み込んだ理由を辻に聞こうとするが、彼より早く伊庭の口が開き。

彼の後ろから次々と養子達が全てを悟った表情で辻の前まで集まってくる。

 

「……本当は父さんにもう一人僕と同じ名前の“宏斗“という名前の子供がいた事をみんな知っていたけど隠していたんだ」

 

「総統いえ、父さん。私達は今までお父さんのお陰でここまで来れた事に感謝しているわ。だけど、警部さんの言う通りどうして道を誤ってしまったの?教えて」

 

「みんな本当にすまなかった……私が愚かな欲望に負けたせいだ。二人の言う通り。私には血の繋がった宏斗という息子がいた」

 

辻は伊庭や吉良といったお互いを信頼し、慕いあっている子供達から事の発端について聞かれると。

彼は自身の過ちを彼ら彼女らに詫びながら真相を語り始めた。

 

 

 

辻宏斗……辻廉太とその妻である辻美葉(つじみわ)との間に産まれた子供であり。また戦車道の素質があり。

辻と彼女が息子の宏斗に幼年向けの戦車道教導塾に通わせたところ、優秀な戦績を出し続けたのであった。

男子ではあったが、男女問わず周囲から慕われており。そんな彼の将来は後に男女再混合化される事が審議されていた戦車道界に貢献し、その発展を支える事であった。

父であった辻はかつて自分とは異なり。正しき道を歩み多くの人々から慕われる息子の宏斗が彼にとっての生きがいであった。

また、中学生の戦車道連盟選抜チームへの推薦が来たことで宏斗の人生は良い方向へ進むはずだった。

だが、それは長く続かず。辻が妻と息子を連れて千葉県の実家へ帰ろうとした時にそれは起きてしまった。

森林沿いの国道を自動車で走行中、突然飛び出してきた重戦車を避ける事が出来ずにそのまま衝突するという事故であった。

 

「こうして私はこの事故で愛する妻と愛する我が子を失ったのだ。そして思わぬ事実が明るみになったのだ」

 

「思わぬ事実……」

 

「これも調べさせてもらったよ父さん。飛び出して来た重戦車を操縦していたのは当時現役だった西住流門下生が事故直前に酒を飲んだ末に起きた酒気帯び事故だったそうじゃないか」

 

「その通りだ。私はその時、文科省学園艦教育局副局長だった。私はありとあらゆるコネとツテを使い。そいつを無期懲役にまで追い込んだ。だが、私の怒りはこれで収まることは無く。次にその矛先を西住流本家に向けようとしたが。そんな時に私の親友である木下君から親が居ない子供達の為の孤児院を作り社会に貢献しないかという提案が舞いこんできた。そして宏斗や玲名、君達と巡り合い。心に深く負った傷も癒えていった。しかし、五年前に……」

 

辻は妻子を同時に失った怒りと悲しみから西住流を戦車道界から排斥しようとする算段をしている時に木下こと倉橋と共に孤児院たるたいよう園を設立した後に伊庭や吉良といった血は繋がらないものの、かけがえのない存在に出会い。

同時に彼の心身は癒えていったのだが。五年前に戦車道が再び男女混合化されると、心の奥底に押し殺していた闇の自分……かつて真闘派の総統として多くの混乱を招いた神宮征四郎としての彼が目を覚ましたのであった。

そして、自身が率いる統心機甲団に準ずるもう一つの戦力を確保しようとした結果が再び同じように闇に身を落とした倉橋と共に高大一貫校の設立を思い立ったことだった。

 

「そこで私たち大洗学園に白羽の矢が立ったという訳ですね。辻局長」

 

「君の言う通りですよ角谷さん。一年前に局長に就任した私は、統廃合準対象校だった大洗学園を私の権限と根回しで一気に統廃合対象に引き上げてテストも兼ねて君達に戦車道の復活を勧めたのです。その後にこの試合の参加者も配下に加える予定でした……また、最終的には西住流と島田流といった流派も配下に収めることも」

 

「そんな復讐の為に私達を危機に晒した後に今度は自分の権限で廃校を撤回しなかったのか……ふざけるなっ!!私達だけで無く。こうして今ここで試合に参加している他の学校の子達まで巻き込んだのかっ!!」

 

杏の的確な一言を耳にした辻は、自身が計画した事を彼女ら大洗学園の生徒達だけで無く。騒ぎを聞きつけてやって来たミカ達にも語る。

大洗学園が廃校という危機に立たされた本当の理由を知ってしまった桃は堪えて来た怒りを爆発させるかの様に大きな怒鳴り声をあげると地面に転がっている石を手に取り。

力強く辻の方向へ投げつけるのだが、石が当たったのは辻では無く。彼の前に立った伊庭の額であった。

 

「何故だ。何故君はそいつを庇うんだ。そいつは君達を良い様に利用し、汚名を一緒に被せようとしたんだぞっ!!」

 

「僕もこの人がしようとしていた事は間違っていると思います。それでもこの人は僕と」

 

「私達にとって……」

 

「「大事なお父さんなんだっ!!」」

 

桃は、伊庭が辻を庇ったことに疑問を投げかけながら同じ調子で再び辻を罵ろうとするが。

それに対して伊庭は、辻がして来たことを間違っていると認めながら吉良と共に父である彼に対する想いを口にする。

 

「宏斗、玲名。みんな……本当にすまなかった。皆という宝物が在りながら愚かにも私は道を踏み外してしまった……それでもこの私を大事に思ってくれるのか……っ……っ……」

 

「父さん。みんな父さんがまた元の優しい父さんになって戻って来てくれる事を信じているよ」

 

「戻ってきてくれたらまたみんなと一緒に色んな人達と一緒に戦車道をやろう!」

 

泣き崩れる辻に対して伊庭と吉良は優しく語りかけながら彼との再会できる日を楽しみしている事を口にする。

周りに居た他の団員達も優しい表情で静かに頷いている。

 

「ありがとう。今度はちゃんと反省してみんなの前に戻ってくるよ。また会える日まで」

 

「神宮……さあ、行こうか」

 

辻は子供達に感謝の言葉を口にすると、鬼瓦と共に到着したパトカーの後部座席に乗り込んだのだった。

伊庭や吉良達統心機甲団団員達は、養父または恩師である辻を乗せたパトカーが見えなくなるまで見つめ続けたのであった。

その次に伊庭は静かにこれまでのやり取りを見つめていた大友の前まで行った。

 

「あなたが大友誠也さんですね。ただ今試合の継続が審議されていますが。あなたと正々堂々戦いたいと思っています!」

 

「宏斗君……分かった。今は混乱しているから混乱が収まるまで俺たちの間でちょっとした休戦にしよう」

 

「ありがとうございます!不束者ですが、よろしくお願いします!」

 

「ああ。お互い頑張ろう」

 

こうして残された統心機甲団団員達や大友達は、試合を続行する事を選択したのであった。

ここで逮捕された辻廉太こと神宮征四郎のこの後について語ろう。

彼は親友の倉橋と獄中で再会した。そして共に五年の刑期を務め上げて社会復帰し、日本の戦車道に貢献する人物として再評価される事になるのだった。

 




ありがとうございました。色々やらかした辻さん(神宮)と木下(倉橋)ですが、少し救済を入れてみました。
次回は戦闘メインの第三十四話を投稿する予定です。
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第三十四話 決戦!遊園地大乱闘です!

お久しぶりです!第三十四話になります。
それでは、どうぞ!


辻の逮捕によって中断されていた試合が再開され。大友連合会一門とどんぐり中隊の面々は同じくたんぽぽ中隊やあさがお中隊、ひまわり中隊といった全ての中隊と合流し、遊園地跡に向けて移動していた。

 

「どんぐり中隊の皆さんや江城連合会の皆んな。それに誠也君が戻って来てくれよかった……」

 

「心配をお掛けしてすみません。こちらこそみほ姉貴がご無事で何よりです。九代目、大宮君。みほ姉貴を守ってくれてありがとう」

 

「どういたしまして。他のたんぽぽ中隊の皆さんのおかげで俺も何とか持ち堪えることが出来ました。それにカズが最先鋒に立って牽制してくれたおかげでもあります」

 

「会長にお褒めの言葉を頂けるなんて光栄です。やっぱり自分が乗る戦車の性能や実力を最大限に活かしきらないと意味がないですから」

 

「二人とも誠也君がいない間バックアップしてくれてありがとう!おかげでこっちも戦いやすかったよ」

 

「いえ。西住大隊長や同じⅣ号の通信手さんのおかげ敵の攻撃を避けきる事が出来ました」

 

大友が乗るE-25や桐村のコメット、大宮のM4・FL10がみほのⅣ号戦車を囲むように前進している中、四人の間で会話が行われていた。

曇り空でありながらスクエア型のサングラスを外さずに砲塔の弾倉に砲弾をなれた手つきで素早く装填している大宮は謙虚な態度でみほと会話している。

 

「そういえば大生君だったかしら?一通りの動きは問題ないから期待しておくわ。同じく重装甲を有しているタシュなんだから攻めに徹して他のチームの防御を固めるようにした方がいいんじゃないかしら(……この子は何処かで見た気がするわ)」

 

「あっはい。ありがとうございます。逸見さんや皆さんのご期待に沿えるよう頑張ります」

 

車列の中間で並走していたティーガーⅡに搭乗するエリカは、44Mタシュに搭乗する堂島に既視感を抱きながら彼に対する期待を交えながら助言する。

堂島はエリカが自分に対して期待してくれた事が嬉しかったのか。ころころ笑いながら彼女に感謝するのだった。

 

「高校生戦車男子の期待のホープが二人も居るわね。ふふっ。それにどこかの誰かさんみたいに可愛らしい見た目ね」

 

「二人とも良い目をしているし。何より可愛らしさもウチの拓実や誠也君と同じくらいだ。とは言っても大宮君はサングラスで表情がよく分からないが……」

 

「そうね。へいっカズ!どうして曇り空なのにサングラスなの?」

 

「この方がやる気が出やすいので。それにそんなに見つめられると調子狂いますわ……」

 

二人の戦車男子の会話を耳にしていたダージリンやアンチョビ、ケイが二人の可愛らしさが残った容姿と姿勢が気に入ったのか。

三人で大宮と堂島の見た目について話し合っていると、ケイが装填を終えて一息ついていた大宮に声を掛ける。

対する彼は照れながら本当の事を誤魔化すのだった。

 

「そんで。三上さん。俺ら戦車男子は先陣を切る形で遊園地に行く予定やけど。さっきのどんぐり中隊みたいに俺とカシラの良夫が偵察に行くから三上さんと柏間のカシラ達で先導の方を頼んでええか?」

 

「おう。兄弟ら佐谷組に任せるわ。修太郎。一応いつでも撃てるようにしとこか」

 

「分かりました。みんな全周警戒を継続しつつ。攻撃態勢を取るんだ」

 

『はいっ!』

 

佐谷と西田が搭乗する二輌のサハリアノ快速戦車が大隊から離れて行く傍らで江城連合会幹部達の戦車は攻撃態勢を取りながら全周警戒に入るのであった。

 

 

 

大学選抜チームと辻が居なくなった統心機甲団連合チームの一部は、遊園地方面に敵が向かっているとの情報を得て前進していた。

そんな中、二輌だけとなった統心機甲団の伊庭と吉良が搭乗するT-44-100とSU122-44が大学選抜チームの切り込み部隊に混ざって前進していた。

 

「伊庭君と吉良さんやったか?二人ともさっきの戦いは見させて貰うたで。流石社会人チームに渡り合えるくらいの実力を持っとるだけあるのう。今頃、敵は遊園地跡で陣地を築いとるやろうからそれを破壊するのがワシら切り込み部隊や。いきなり突っ込めとは言わん。高火力なワシのチャリオティアの援護射撃のもと先行するT28が突入する算段や」

 

「分かりました。では、僕は他のパーシングに搭乗する皆さんに混ざって突入したいと思います。玲名、嶋野さんと共に援護射撃を頼む」

 

「ええ。混乱に乗じてチャンスを伺うわ」

 

伊庭と吉良に嶋野と呼ばれる男こと『嶋野太志』は、現大学選抜チーム内一の武闘派としてその名を轟かせている人物だった。

彼の功績を簡単に語るのであれば、戦車道が男女再混合化された際に混迷を極めていた戦車道界隈を平定した立役者の一人であり。

大胆にも入学した学校では切り込み隊長を務めてその学校を準優勝に導いたという功績があるのだ。

また、江城連合会の佐谷組組長の佐谷吾郎やその系列の安斎組の安斎拓実の出身母体である元・嶋野連合の会長だったことから。

経験豊富な彼は、晴れて大学選抜チームの一員として迎え入れられたのだった。

 

「ぐふふっ。今日こそ三上や柏間、佐谷、安斎そして大友ぉ。白黒つけたろうやないか。お嬢、突入ならいつでもできまっせ」

 

「了解。太志の突入に合わせる形でアズミやメグミ、ルミ達も向かわせる」

 

「そら。助かりますわ。ほな、失礼します」

 

かつての兄弟分や子分達の名前を呟きながら濁った笑い声を上げつつ。愛里寿と交信を終えると、吉良と共に見晴らしが良い丘に布陣して狙撃の態勢を整えるのであった。

 

「ふふっ。嶋野くんこっちはメグミとルミとお取り作戦に出るから。派手に頼んだわよ」

 

「任せなはれ。ワシがあんガキ共をいわしたるさかいな。楽しみにしといてくれやアズミはん」

 

大学選抜チーム側はバミューダ三姉妹が戦車から排出される煙幕を使った欺瞞作戦の援護のもと、嶋野は自身が率いる男子チームと伊庭と吉良による切り込み部隊による東通用門奇襲を敢行しようとしていたのだった。

 

 

 

一方その頃、ペパロニと搭乗している戦車を交換したアンチョビはC.V.38軽戦車から双眼鏡を片手に身を乗り出してジェットコースターの上から敵の動向を他のチームメンバーに知らせていた。

 

「何であそこまで戦力を集中させるんだ?いくら正面装甲が強固なパーシングでも正面から突っ込めば袋のネズミなのに……」

 

「ドゥーチェ、敵の位置は判りますか?」

 

「そうだな。敵主力と思われる部隊は南正門に集中している感じだな。部隊の割合的にも八対二いや、九対一か?他の門は防衛に徹したのちに南門の援護に回った方が良いと思うな」

 

「ドゥーチェ。やっぱりおかしいですよ。さっき雨が上がったばかりなのにそこまで土煙が上がるはずなんて……」

 

「……そう言うことか!これは土煙じゃない戦車の排気ガスによる煙幕だ!大隊長、これは陽動作戦に違いない!」

 

西門で絹代らと共に防衛に当たっているカルパッチョがアンチョビとのやり取りで今までの戦闘の過程を思い出したのだろうか。

その事を指摘すると、アンチョビは考え込んだ後に東通用門や西門、北門を防衛するメンバーに危険が迫っていると理解したと同時にみほに対してその事を伝えたのだった。

 

 

 

西門では、絹代のチト車の左右に展開するチハ改に登場する細見と玉田が敵を待ち構えながらもいきり立っていた。

現在、西門を防衛するのは絹代をはじめ。細見や玉田、福田、柏間、安倍、典子、木村、長瀬といった面々だった。

 

「くそ憎きパーシングめ……ホリ車の城戸殿(柏間組若頭)の仇を取る為に突撃してやる!」

 

「右に同じく。ここは損得勘定なしに突撃!」

 

「………」

 

「福ちゃん、どうしたんだ?お前さんらしくねえな」

 

仲間を撃破された事にいきり立つ彼女らの傍で福田は考え込みながら俯いていた。

それに気づいた柏間が気遣って声を掛ける。その途端、福田が声を張り上げた。

 

「お叱りを承知で申し上げます!!仲間の仇を取るならば相手の意表を突く動きをすべきだと思います。いたずらに突撃してしまっては、それこそ仇討ちどころか共倒れの死に損ないであります!」

 

「福田……今はお前の提案に乗ろう。お前に策があるんだな」

 

「大丈夫だ福ちゃん。みんなで一丸になろう」

 

福田のこの一言によってこの後、敵の意表を突く戦いが繰り広げられる事になるのであった。

 

 

 

その頃、北門では混乱が生まれていた。敵部隊が突入してきた際、突入してきた戦車をM24チャーフィーと勘違いしたローズヒップのクルセイダーが突っ込んでいった先にはT28駆逐戦車そして、今回の試合において試験的な運用がなされるであろうチャリオティアが陣取っていたのだった。

 

「はっはっはっは!やっと会えたなぁ。佐谷ぃそれと安斎!今日こそ白黒つけようやないかっ!」

 

「「嶋野の親父っ?!」」

 

チャリオティアのキューポラから身を乗り出す嶋野は、甲高い笑い声を上げながら佐谷と拓実に対して挑戦的な態度を取る。

 

「これはアカン……吾郎、拓実!早う逃げや!」

 

「親父!兄貴、早く逃げてください!」

 

ここで三上と佐谷組若頭の西田が彼ら二人の戦車の前に出てチャリオティアの後方から展開しようとしていたパーシングを一輌撃破したものの。

T28とチャリオティアによって三上のスーパーシャーマンと西田のサハリアノが撃破されるのだった。

こうして再び激戦の火蓋は切って落とされた。

 

 

南門では敵戦車が四輌であるということが判ったのか、まほのティーガーⅠとカチューシャのT-34-85が中央広場や東通用門の仲間の元に向かい。

エリカのティーガーⅡや堂島の44Mタシュ、ノンナのIS-2は四輌いる敵戦車の撃破に向かった。

 

「行くわよ大生くん!あなたは右側を頼んだわ!」

 

「分かりました。砲手、車体側面を狙え!」

 

「逃しません……そこね」

 

ティーガーⅡや44Mタシュ、IS-2は一旦別れるとすれ違いざまでの砲撃を行い各個撃破するのであった。

瞬く間に撃破されたパーシングの姿を見たチャーフィーが回れ右をして後退しようとするのだが。

ノンナが搭乗するIS-2から逃れることが出来るわけなく。右折しようとしたところそのまま撃破されたのだった。

 

 

みほや大友、まほといった主だった面々が中央広場から舞台跡に追い詰められた仲間達のもとに着いた頃には、数十輌の仲間の戦車達が敵によって完全包囲されており。

今にも一斉に撃破されるかもしれないという状況であった。また、この状況に陥る間にも西門の防衛に当たっていた長瀬の特三式内火艇やお銀達のMK.Ⅳが撃破されている。

 

「どうしよう皆んなを助けなきゃ……」

 

「くそっ。こっちは二輌だけだぜ梓ちゃん。突っ込むにしろこっちが蜂の巣にされちまう」

 

梓と水野が試行錯誤して包囲されている仲間の救出を考えていると、紗希が梓の肩を静かに叩く。

 

「紗希。観覧車の方を指差してどうしたの?」

 

「観覧車……ミフネ……」

 

『『それだっ!!』』

 

「おう。お嬢ちゃん。お坊っちゃん、えらい盛り上がってるやんけ」

 

「私達にも何か手伝わせて!」

 

梓達ウサギさんチームと水野達ヤマネコさんチームが包囲されているチームを救出する打開策を思い立ったと同時に後方から佐谷のサハリアノが小梅のパンターを伴って現れた。

 

 

 

一方、大学選抜チームの主力に包囲された面々は包囲する戦車が出す威圧感に圧倒され。

身動きが取れないでいた。さらに恐怖心を煽ろうとした嶋野がキューポラから身を乗り出して高笑いしながら柏間や浜崎、大宮、平形、黒木といった面々に語りかける。

 

「お前ら。防御固めて殲滅を図ろうとしてたみたいやけどなぁ。そんなん裏の裏までお見通しや。せやろ、大平?」

 

「あ?あんた今なんて言うた?」

 

嶋野は大宮の名前を未だに覚えきれていないのか。彼の名前を読み間違えてしまう。

その瞬間。大宮は今までにない威圧的な一言を放つと同時に掛けていたサングラスを外した。

サングラスが外れた瞬間、無理やり力んでいるであろう可愛らしい顔で嶋野を睨みつけているのが戦車乙女達の目に止まった。

 

「「(やだっ……あの子可愛い……)」」

 

しかし、そんな空気を大宮張本人が引き裂く。

 

「あんたいい加減ワシの名前を覚えろやっ!!ワシの名前は大平やない大宮じゃコラァ!!ついでに三上の親父の仇も取ったるわ!!」

 

「ほう。相変わらず威勢の良いガキやのう。よっしゃ砲弾の雨降たるわ!」

 

大宮と嶋野のやり取りが双方のチームの運命を決めたといっても過言ではなく。

嶋野のチャリオティアが前に出て彼のM4・FL10を砲撃しようとした瞬間。後ろから轟音が聞こえて来る。

 

「嶋野さん!観覧車が後ろからぁ!」

 

「何やと?!」

 

嶋野がメンバーの一人に言われて気付いた頃には、観覧車が一人でに坂を転がって自分達の方にめがけて向かってきているということだった。

これによりチーム内に動揺が走り。

大洗連合チームの包囲殲滅どころでは無くなったのであった。

 

「よしっ!敵は混乱しているな。そのままマガジンの砲弾を撃ちきれっ!撃てぇ!」

 

T-40中戦車の水野は砲手の塚原にそう言ったと同時に観覧車をうまく避けきったM3Lee、サハリアノ、パンターから砲撃が開始される。

混乱していた何輌かのパーシングの車体上面装甲が狙撃に徹していた四輌によって撃破され。

この瞬間、一気に大学選抜チーム側の数が減ったのであった。

 

「やってやるやってやるやーってやるぜ」

 

混乱する大学選抜チーム側に希望の光が灯されたというべきだろうか。愛里寿の可憐な声が各車に鳴り響くのであった。

いよいよ。この戦いも最終局面に向かいつつあった。

 

 

戦いはさらに激しさを増していた。各チームが再び分散し、それぞれの戦いに臨んでいた。

ある者は他校の盟友や恋人との息の合った連携で敵を翻弄し、またある者は途中で撃破された仲間の仇討ちの為に「やられたらやり返す」の志のもと戦車乙女達と連携して奇想天外な方法で撃破しながらも共に数を減らしていた。

 

「さて、みほ姉貴達はバミューダ三姉妹の御三方や愛里寿ちゃんとおっぱじめたか……」

 

他の仲間が戦っている中、大友は伊庭や吉良と対面していた。対する彼と彼女も静かに見つめて勝負の開始を待ちわびていた。

 

『『戦車前進!!』』

 

今、大友は"みほの戦車道“を支えた者の一人として自身の信念のもと動き始めた。

愛するあの人の為……そんな想いが今の彼や彼と同じE-25に搭乗する村川や山本、我妻にも溢れ出ていたのか。

彼ら自身が驚くほど一輌で社会人チームと張り合える同レベルの者達が乗る二輌の戦車を圧倒していた。

E-25には砲塔が付いていないだが。相手が固定砲塔だろうが普通の砲塔が付いていようが今の彼らは止められない。

だが、相手も二対一という状況を利用して攻撃を何度も避け切るたびに包囲を重ねて来る。

はっきり言ってお互いのパターンが読めない戦いだった。それでも戦いにはいつか終わりが訪れる。

微妙なタイミングのズレだったというべきだろうか。再びE-25を包囲しようとした次の瞬間、一か八かでT-44-100の車体側面に砲撃を浴びせて撃破する。

そして、全速力で左後ろに後退してSU-122-44の車体後部にも砲撃を浴びせて撃破する。

 

『大洗連合チーム残存車輌八輌、大学選抜チーム残存無し。勝者、大洗連合チーム!!』

 

半日にも満たない短くも濃い戦いはこうして終わった。

 




ありがとうございました!
次回で最終話になります。
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最終話 愛する貴女といつまでも

今回で最終話になります。
引き続きお楽しみください!


大友は試合終了後、伊庭と二人でチームメンバーから離れて互いの健闘を称え合いながら今後の事について話し合っていた。

 

「やはり。テレビでも観たように大友さんは強い人でした。戦っているこちらとしても気持ちが良かったと思っています」

 

「ああ。こちらこそ吉良さんとの連携プレーや緒戦での総力戦にはひやひやしたけど。流石、社会人チームと渡り合えるだけあるな。こんな事を聞くのもなんだけど……そっちにいる男子は良かったら江城連合会の系列組織で拾いたいと思っているんだ。君達がその気なら是非来てくれないか?」

 

「それには僕も同意します。しかし、玲名といった女の子達はどうすれば……」

 

「それなら。俺に任せてくれ。西住流や島田流の門下生になれるように掛け合ってみるさ。この際、女子だけじゃなくて。男子でも他の戦車道流派に関心があるならそこの門下生になれるように算段するからよ。安心してくれ」

 

「ありがとうございます!貴方ならそう言ってくれると思いました!そろそろ時間ですから。またお会いできる日を楽しみにしています!」

 

「ああ。達者でな」

 

今回の一件はしばらくのあいだ辻として生きて来た神宮征四郎が起こした起こした事件ではあったものの。

彼と心を通わせ信頼し合った。子供達の新たな居場所は幾つかに分かれた。これまで通りたいよう園に在籍しているものの。総帥不在となった統心機甲団は解散した。

後に女子団員は大友の仲介によって西住流もしくは島田流の門下生となり。

男子団員は若干名が前者のように関心がある戦車道流派門下生となるか江城連合会系組織の勧誘に応じて日本本土にある戦車戦フィールドの治安維持に尽力すべく。

系列組織の幹部待遇で迎えられた者達は組織のため、世間のために動いた結果好感を得たのだった。

 

 

 

佐谷吾朗はかつて自身の命をかけて助けた小梅にその事を悟られたくなかったのか。

いつもの戦車バカの精神で修理し終えたばかりの愛車であるサハリアノの砲塔の上に立ち、目が合った江城連合会幹部達に勝負をふっかけまくっていた。

 

「コラァ桐村ちゃん!チヨ姐さんや他の隊長さんらとイチャイチャしてんとコメットに乗って掛かって来いや!それに大生も逸見くんとの話を辞めて掛かって来い!」

 

「佐谷の兄さん……あんたも人のこと言えないぜ。赤星さんこちらへ」

 

「小梅、いってらっしゃい。佐谷さん。もう諦めたらどうなんですか?」

 

桐村やエリカの背後から小梅が姿を現して佐谷の事を待ちわびていたかのように見つめる。

対する佐谷は桐村とエリカからそう言われてしまって大人しくなったのだろう。静かに小梅と目を合わせる。

 

「佐谷さん。私は貴方とずっと会いたかったんです。身も心もズタボロにされた私を助けてくれた時から……あの時から声だけは何とか頭の中から離さないようにしていたんです!私の目が見えそうになっていた頃に少しだけ見えた顔を見せてください!」

 

「………もう誤魔化しは通用せんということか。小梅ちゃんビンゴやで。俺が一年前に小梅ちゃんの白馬の王子様になってたとまでは知らんかったんや。今も昔もこんなんやけどこの顔で間違いないな」

 

小梅の想いが一年越しに叶ったというべきだろうか。佐谷が戦車から降りながら被っている軍帽と愛用している眼帯を外すと、普段は独特なキャラを気取っているとは思えない中性的な顔が小梅の前に曝け出されたのだった。

 

「佐谷さん……ありがとう。そして大好きです!!」

 

「小梅ちゃん……俺もや」

 

次の瞬間。小梅は嬉しさから両目から涙を流しながら目の前まで来た佐谷を力強く抱きしめる。

対する佐谷も自身の奥底で眠っていた小梅に対する感情を彼女に告げると優しく抱き返す。

 

「すごい今更だけど。大生君あなたもしかして一年前の内乱の時に隊長派に味方した男子中学生の一人でしょ?とぼけても無駄よ」

 

「はあ……バレちゃったら仕方ないですよね。馬鹿な姉の横暴に耐えかねてしたことです。それに何か役に立ちたくて逸見さんのエスコートをやらせてもらいました」

 

「そんなこと無いわよ。今度時間があったら二人きりで会えないかしら」

 

「は、はい!その時は良かったらご一緒させていただきます」

 

エリカは周囲の視線が佐谷と小梅の二人に集まったのを良いことに。普段は周囲に見せないであろう。

穏やかな態度で堂島の頭を優しく撫でていた。対する彼も赤面しながら彼女の誘いに乗るのであった。

 

「誠也君!」

 

「みほ姉貴お待たせし……へ?」

 

「大好きと頑張りましたのちゅーだよ。もう皆んな前でしちゃったけど。それも恥ずかしくないよ」

 

「み、みほ姉貴には頭が上がりません。皆んな前なので俺からはこれで」

 

「ふふっ。それでも嬉しいよ」

 

みほは戻って来た大友に駆け寄り。抱きしめた後にそのまま彼の右頬に桜色の唇を重ねてキスする。

彼女の思わぬ行動に他のチームメンバーは戸惑いを隠せないでいたが。

それも構わずに大友はみほを優しく抱きしめた。

 

「そうだ。ここは大洗学園の戦車道乙女と戦車道男子の絆の深さの宣伝を兼ねてアレを言っちゃうね。はいはーい皆んな注目!なんと我が大洗学園には、西住みほ隊長や大友誠也副隊長以外にも世にも珍しい戦車道カップルが複数います!先ずは期待の星である一年生の澤ちゃん水野ちゃんカップル!まだまだ行くよ〜小山弟&近藤姉カップル、木村&河西の操縦手カップル!ほか隊長車カップルとして村川&五十鈴カップル、山本&秋山カップル、我妻&冷泉カップル。先輩後輩カップルとして安倍&たかちゃんカップルが居まーす!!他校や学園の皆んなもこの子達のように青春戦車道を目指そう!!」

 

杏は大友とみほの行動を見て何を思ったのか。ここでいつの間に仕入れたのか分からない的確なスキャンダルネタを他校の面々に対して大声で発表する。

当の本人達は何故それを大衆の前でぶちまけるんだ。という表情で杏を一斉に見つめたが。他校の面々は羨ましそうに彼ら彼女らを見つめるのであった。

こうして最後は盛り上がりを見せた上で大洗連合対大学選抜チーム戦は幕を下ろした。

 

 

 

大洗学園の学園艦が人々のもとに戻ってから二週間後、遅く始まった夏休みを満喫していた大友とみほはそれぞれお気に入りの私服に身を包んで山の展望台から戻って来た学園艦を眺めながら大友の愛車であるE-25の上で集めて来たシロツメクサで花冠を作っている。

彼は相変わらず。少し生真面目な性格なままのか。黒のスーツズボンにカッターシャツという服装であり。対するみほは純白のサマードレスである。

 

「みほ姉貴、先生と仲直りできて良かったですね。先生も自流でも良いから時には西住流の心も思い出し、仲間を大事にと言って仲直りしてくれて良かったと俺は思います」

 

「私がここまで来れたのは誠也君が私の舎弟さんになってくれたおかげと色んな人達に会えたからだよ。誠也君……ずっと一緒に居られるように私は誠也君と結婚して誠也君のお嫁さんになりたいな♪」

 

「みほ姉貴……俺もいつまでもみほ姉貴と一緒に居たいと思っています。お嫁さんになってくれるのは嬉しいのですが。俺はたとえ世界が変わっても貴女についていく。そう心に決めていますから何回生まれ変わってもみほ姉貴の側に居させてください!!」

 

「誠也君」

 

「みほ姉貴」

 

二人の絆は更に強くなった。大友とみほはそれぞれの想いと愛を語り合う。

二人は完成させたシロツメクサの花冠にその気持ちを込めて同時にお互いの頭に乗せるのであった。

 

「「いつまでもどんな時も」」

 

「「これからも二人一緒だよ(ですよ)」」

 

「「愛してるよ(ますよ)」」

 

流れ星が夕焼けの空を駆けると同時に大友とみほはお互いの身体を抱きしめ。静かに唇を重ね合った。

こうして一人の少年が愛する少女の為に尽くし、愛し合った青春の物語は多くの人達に語り継がれることになるのであった。

 




今までご愛読いただきありがとうございました!この作品が初めての完結となります。
これからも小説作りを頑張っていきたいと思います!
短い間でしたが。心より感謝御礼申し上げます!


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