ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】 (月乃杜)
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第一章:吸血姫
第0話:リリカルからありふれへ


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 新暦八三年。

 

 ミッドチルダの聖域ミッドチルダ支部では、所属をしている仲間達で溢れ返っていた。

 

 居なくなったユート――緒方優斗の行方を求めて。

 

 とはいえ、ユーキからしたら行き成りユートが居なくなるのはありがちだし、心配そのものはしていなかったりする。

 

「ユーキ姉ちゃん、ホントにユート兄ちゃんは大丈夫なのかな?」

 

「大丈夫、ヴィヴィオ……兄貴はこれまで幾多の世界を渡り歩いた。突然に居なくなるのはよくある事さ。この世界から自分の意志で出るなら、【閃姫】は全員エリュシオンに回収している筈だからね」

 

「うう……だけど〜」

 

「確かに兄様は過去にまで跳ばされても平然としてはいますが、やはり心配にはなりますよユーキ姉様」

 

「アインハルト、大丈夫だっての。兄貴が必要なら、【閃姫】を招喚するしさ」

 

 【閃姫】の招喚、それはユートの側妃達を喚び出す術である。

 

 ユートは必要に応じて、自らの【閃姫】を自分の居る場所に喚べた。

 

 但し、その世界での行動によって獲られるコストを支払う為、すぐに喚べる訳では無かったし、無制限に喚べる訳でも無いのだが。

 

 喚ぶのは身の周りの世話を焼けるシエスタが多く、同じくらい比翼の鳥にして連理の枝たるユーキが喚ばれている。

 

 どちらも最初の転生地、ハルケギニアで出逢っているのだが、シエスタはあの世界の人間であり、ユーキは肉体こそオルレアン大公の娘のジョゼットだけど、その魂はユートと同じ世界の出身、橋本祐希が転生をした存在であったと云う。

 

 現在、この【魔法少女リリカルなのは】主体世界は【魔法戦記リリカルなのはForce】が終了した時間軸であり、とはいえそもそもフッケバインの事件なんて遥か前に終わっていた為、割と平和な毎日を送っていたりする。

 

 そんな日々の中で行き成り行方を眩ませたユート、ユーキが曰く別の世界へと跳んだらしい。

 

 必要なら喚ばれるだけ、だから心配なんてするのは無駄な労力でしかなくて、然しヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトとアインハルト・ストラトス、他にも複数人が初めての経験に等しかったからこそ聖域ミッドチルダ支部で屯をしていた。

 

「ん?」

 

「どうしたの? ユーキ姉ちゃん……って、それは」

 

「ダブルドライバー?」

 

 ユーキの腰に顕れたのはダブルドライバー、つまり仮面ライダーWに変身する為のデバイスである。

 

「どうやら兄貴が呼んでるみたいだね」

 

 取り出したのは緑色をしたUSBメモリみたいな形の機器、【ガイアメモリ】というやはり仮面ライダーWに変身するツール。

 

「変身!」

 

《CYCLONE》

 

 スイッチを押してやり、ダブルドライバーの左側のスロットへ装填。

 

「ジョゼット、暫く身体を頼んだよ」

 

 フッとユーキの意識が消えると……

 

「まったく、いつも留守番ばっかりなんだから」

 

 すぐに目覚めて自分自身へ文句を言う。

 

「お久し振りですジョゼットさん」

 

「うん、久し振りよね……ヴィヴィオもアインハルトもかしら? 何だか他にも一杯居るみたいだけど」

 

 ジョゼットとはユーキの憑依した転生先の娘だが、胎児の頃にユーキと融合をしているから一つに混じり合っていたが、魂の一部を分離してユーキの記憶にあるジョゼットの人格とし、留守番役をやって貰っていたりする。

 

 極稀に……だけど。

 

 それから数時間くらいの刻が経過した。

 

「ただいま」

 

 再びジョゼットと一つになり、彼女との記憶の同期をしてしまう。

 

「お帰りなさい」

 

「お帰りなさい……」

 

「おふぅ、疲れたねぇ」

 

 ヴィヴィオとアインハルトは首を傾げる。

 

「他のみんなは?」

 

「スパーとかランニングに出てます。私とアインハルトさんは留守番ですね」

 

「ジョゼットさんの話し相手をしてました」

 

「う〜ん、みたいだねぇ」

 

 記憶同期が完了した為、今まで何をやっていたのか“思い出せた”。

 

「ユート兄ちゃんは?」

 

「【ありふれた職業で世界最強】って世界に居たよ。まだオルクス大迷宮を抜けてないから、一年くらいは掛かるんじゃないかな?」

 

「え゛、一年〜っ!?」

 

「私の試合、観て貰えないんですね」

 

 驚くヴィヴィオと嘆いているアインハルト。

 

「ま、ある程度の知識は渡しておいたから。後は何とかするでしょ」

 

 ユートと直に話したから御満悦なユーキは、取り敢えず【閃姫招喚】は無理そうだなと考えつつ、新しい【閃姫】候補に思いを馳せるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 世界はいつだってこんな筈じゃなかった事ばかりだ……とは誰の言葉か?

 

 ユートがこの地に来てから数年、高校に入ってから二年目となった訳だけど、この地球には【仮面ライダー】シリーズが放映されていて毎週が愉しい。

 

 【プリキュア】シリーズや【スーパー戦隊】シリーズもバッチリ放映してて、その愉しみを共有している友人も居た。

 

「ハジメ!」

 

「優斗!」

 

 男同士で日曜日に待ち合わせ、端から見たら危ないデート風景だろうか?

 

 勿論、断じてデートなんかではないとユートは断言をするけど。

 

 友人との他愛ない遊興、【仮面ライダー鎧武】……劇場版を観る為の御出掛けという訳だ。

 

 この月に普通はやらないのだが、ユートがちょっとした伝手で映画を映画館で再演させたから。

 

 どうせ、現状では女の子の知り合いなんてレストラン園部の娘と顔見知り程度でしかなく、あそこの洋食を夕飯にするのは珍しくないにせよ、それだけの関係でしかなかった。

 

 一応、高校ではクラスメイトではあるが……

 

「面白かったなハジメ」

 

「うん、やっぱり仮面ライダーは良いよね」

 

「ハジメはやっぱり買ってるんだろ?」

 

「戦極ドライバーやゲネシスドライバー?」

 

「ああ」

 

「勿論だよ。鎧武……葛葉紘汰になった心算で変身とかやるのが愉しくてさ」

 

「だよな、葛葉紘汰葛張りの変身は愉しいよな」

 

 尚、観るのは初めてだが情報はバッチリだった為、ユートは葛葉紘汰が最終的にどうなるか識っている。

 

 まぁ、ネタバレする外道ではないから言わないし、それに折角だから自分自身も新鮮な気持ちで仮面ライダーを愉しみたかった。

 

 というか、『新世界の神になる!』というのは何だか一四歳の心を擽る。

 

 日曜日は目一杯に愉しい時間を過ごした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 明けて月曜日。

 

 この週始めは、誰にとっても憂鬱な日であろう。

 

 会社勤めのお父さんや、学校通いのお兄さんお姉さん達は、昨日の愉しかった日々を一週間後にまた味わう為にも地獄を進む。

 

「お早う、南雲」

 

「うん、お早う緒方君」

 

 そんな朝早くに出会った二人、だけど挨拶は交わせど本当にそれだけ。

 

 ユートは気にしないと言ったのだが、ハジメからの提案というか約束で学校では最低限の接触で済ます、そういう事になっていた。

 

 恐らくは自分が受けている虐めにユートを巻き込まない為なのだろう。

 

 ハジメはユートが強いのは知ってるが、クラスには天之川光輝なる存在が居るから厄介だ。

 

 アレは自分が敷いた正義(笑)以外はシャットアウトしており、常に自分に都合が良い解釈しか出来ない、愚かしい御都合解釈主義者である。

 

 万が一にユートと虐めを行う檜山大介一派が揉めた場合、天之川光輝は勝ってしまうユートを悪と見做して断罪しようとする筈。

 

 それこそ悪役令嬢(笑)を断罪する王子(笑)の如くに……だ。

 

 まぁ、ユートなら誰にでも解る――それでも天之川光輝一派には解らない――やり方で檜山大介達を粛清しそうだが、荒事になるのはやはりハジメも望まない。

 

 だからハジメとしては学校で付き合いはこういう薄いものでも良かった。

 

「お早う、園部。今夜も美味い晩飯を頼むな」

 

「おは……って、こらぁ! 誤解を受ける様な科白を言ってその侭去るなぁぁっ!」

 

 周りが赤い顔でキャーキャーと騒ぐ中、園部優花がやはり真っ赤になりながらプンスカ怒る。

 

 【ウィステリア】という洋食専門レストランが在って、ユートはご飯を作ったりしない一人暮らし故に夕飯は必ず其処で摂っていた。

 

 そして【ウィステリア】の経営をしてるのは、園部博之と園部優理で園部優花とはつまり二人の一人娘である。

 

 将来は【ウィステリア】の二代目を常々標榜しており、其処に日参をしている上にクラスメイトですっかりと顔馴染みな常連客として、園部優花にも記憶されてしまっていた。

 

 また、最近はどうしてか園部優花が自らオカズを作って運んでいて、ユートが言った科白はあながち嘘ではなかったりする。

 

 本人が曰く自分の腕前を上げるべく練習しており、それの処理を頼んでいるだけだと云う。

 

「菅原、宮崎もお早う」

 

「お早う、緒方」

 

「お早う」

 

 園部優花と合流するかの様に登校する菅原妙子と宮崎奈々の二人は彼女とは仲の良い友人同士らしく、ユートが【ウィステリア】に通うのは園部優花に会う為だ……と二人の頭の中では完結をしていた。

 

 それをからかわれてて、余計に優花が意固地になるという負のスパイラル。

 

 知っていてからかうのがユートであり、意外と愉しくそれに応えてもいた。

 

「お早う、遠藤」

 

「あ、ああ。お早う緒方」

 

 遠藤浩介は天然ステルスという謎の仕様を持っていて、謂わば彼は超が付くくらいに究極的な影の薄さで目立たない。

 

 それは本人的には良くなくてもまだ良い方で、何故か機械にも上手く認識されないから三回に二回は自動ドアが開かないなんて笑い話も。

 

 そんな遠藤浩介を簡単に見付けるユート、彼からしたら驚きの相手だろうが、やはり嬉しくもあった。

 

 尚、ユートには【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】という神のギフトにして進化をした目がある為、ステルス幽霊すら見付ける高性能で、遠藤浩介を視る事も割と容易い。

 

 元より眼の能力は視る事で効果を及ぼすものだが、ユートの【神秘の瞳】とは正に視る事に特化した魔眼なのだから。

 

「お早う、白崎に八重樫」

 

「お早う、緒方君」

 

「あら緒方君、お早う」

 

 天之河光輝の一派。

 

「序でに天之河と坂上も、お早う」

 

「ああっていうか、序でにって何だ!?」

 

「おう、お早うさん」

 

 所謂、幼馴染みな四人であるが故の正当的なる一派であった。

 

 白崎香織は正統派ヒロインらしい美少女、ほんわかとした雰囲気を持っていて校内では【二大女神】とか恥ずかしい二つ名が蔓延る始末だ。

 

 些か天然気質な処があるけど、瑕疵ではなく魅力として映る辺りが白崎香織のクオリティ。

 

 八重樫 雫は女の子としては一七二cmと高めであり、長い黒髪をポニーテールに結わい付けている剣道小町、【八重樫流】道場を実家に持っていて当人もそれなりな強さを誇っている。

 

 まぁ、ユートから視たら未熟でしかないが……

 

 天之河光輝とはユートからすると徹底的に合わない、万が一にも某かあったとしても彼と同調をする事は有り得ないくらいに。

 

 坂上龍太郎は脳筋である……以上。

 

「谷口、中村、お早う」

 

「おっはー、緒方君」

 

「お早う、緒方君」

 

 ちんまい谷口 鈴は元気なおバカさん、ムードメーカーで頭に二つピョコンと跳ねた御下げがトレードマークである。

 

 中村恵里は谷口 鈴とは謂わば親友として付き合ってて、いつも一緒で傍に居るというイメージ、眼鏡を掛けた黒髪ショートボブな娘で、ユート的には腹黒な気質を感じていた。

 

 ユートが朝の挨拶を交わすのは大体がこの面子であるが、自分からはしない癖に挨拶をしなければ煩い天之河光輝と特に親しい訳では無い脳筋な坂上龍太郎はものの序でだ。

 

 他は基本的に挨拶をされれば返す程度。

 

「南雲君もお早う、今日もギリギリだね。もう少し早く来ようよ」

 

 白崎香織がニコニコ笑顔で挨拶をする相手は、眠そうな表情をしたハジメである。

 

「別に遅刻をした訳じゃ無いんだ。社会に出れば一〇分前行動とか当たり前だとはいえ、予鈴すら鳴ってない今は充分な時間だろ?」

 

 ハジメではきっと無難な返ししかしないだろうからと、庇う形にはなってしまったけど白崎香織に対して物申すユート。

 

「それはそうかもだけど……」

 

 間違ってはいないからか困った表情になってしまう白崎香織だが、此方も彼女ではなく勇者(笑)とも云える天之河光輝が反論。

 

「それでも早く来るべきじゃないのか?」

 

「それならほら見ろ、未だに門を潜ってすらいない生徒が幾らでも居るぞ。そろそろ予鈴も鳴るというのに困った連中じゃないか。白崎も天之河も連中にこそ言ってくるべきだろうに?」

 

「そ、それは……」

 

「話を逸らすな! 今は南雲の事を!」

 

「ハジ……南雲は遅刻処か予鈴前には教室に入っているんだ。注意を受ける理由などは全く無いし、縦しんば有るにしてもそれは教師の役割だろう。予鈴が鳴っても教室に居ないか或いはもう遅刻をして来ているなら未だしも、そうでは無い筈なのに南雲が天之河に注意される筋合いは無いぞ」

 

「な、何だと!」

 

 社会に出れば確かに早目の行動をせねばならないだろう、だけどハジメもそれくらいは弁えての今の行動なのだ。

 

 ユートの識らない原典では文字通りどうなのかを識らない、だけどこの世界線に於けるハジメは

間違いなく予鈴前には来ている。

 

「予鈴が鳴る直前にも拘わらず正門を潜っていない生徒に注意をしに行かず、きちんと教室に来ている南雲に注意をするのは筋が通らないと言ったんだが……補足が無ければ理解が出来ないか?」

 

「くっ!」

 

 天之河光輝がとても尊敬してる祖父の仕事柄、筋が通らないのは赦されない。

 

 故に天之河光輝は去っていったのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一時間目からの勉学に励むのは学生の務めであるが、ユートからしたら既に知っている知識でしかなくて、天之河光輝みたいな文武両道とかを地で往くという訳でないにしても、その成績は普通にトップになっていた。

 

 園部優花とその友人達、割かし仲が良い理由は勉強を中間や期末試験で即席の教師役をしているからで、当然ながら両親とも知り合いとなってしまう。

 

 娘の成績が上がれば喜びもするという事か?

 

 偶に園部優花が父親である園部博之からの御礼であると称し……

 

「はい、お父さんがいつも勉強を見てくれる御礼だってさ……」

 

 ()()()()()()弁当を差し入れてくる。

 

「サンクス、親父さんには御礼を言っといてくれるか?」

 

「わ、判ったわ」

 

 取り敢えず建前だとは判っているのだが、恥ずかしいのだろうしわざわざ晒す必要もあるまい。

 

 朝食はカロリーメイト、昼食は栄養ゼリーで済ませているユートからすれば、この差し入れは寧ろ有り難いものだから。

 

(せめてシエスタを招喚出来れば……な)

 

 いや、作れない訳じゃないのだから自分で作れよ……とか言いたくなる環境。

 

(うん? いつものやり取りが始まったか……)

 

 正に懲りないと言うか、余りハジメに好かれていない白崎香織、普段からやる気のない無気力少年として周りから視られるハジメ、そして構うのは【二大女神】として絶大な人気を誇っている美少女様。

 

 当然ながら嫉妬の視線に晒され、視線で人を殺せるのなら数万回は死んでいるくらい睨まれる。

 

「南雲くん……珍しいね、教室に居るの。ひょっとしてお弁当? 若し良かったら一緒にどうかな?」

 

 不穏な空気が教室に蔓延し始めて、ハジメは『もうやめて』と悲鳴を上げた。

 

 正直、自分に構うのなんてやめて欲しいとさえ思っており、何だか意味不明な方言を叫びたくなる。

 

 当然ながらハジメは抵抗を試みた。

 

「えっとさ、誘ってくれてありがとう……白崎さん。だけどもう僕は食べ終わったから、天之河君達と食べたら良いんじゃない?」

 

 そう言うと中身を搾り取られた昼のパッケージを、これ見よがしにヒラヒラとして見せる。

 

 正直、断ったら断ったで『てめえは何様だ!』とか思われそうだが、昼休憩という憩いの刻をずっと針の筵で居るよりマシだ。

 

 然しながら、ハジメによるその程度の抵抗など意味は成さないと謂わんばかり白崎香織は追撃を掛けた。

 

「ええっ! お昼それだけなの? それはダメだよ、南雲君! ご飯はちゃんと食べないと。私のお弁当を分けて上げるから、ね!」

 

 もう勘弁して欲しい! と切実に思い、周りの空気に気づいてくれと心の中でKY認定をしてしまう。

 

 どんどん増していく周囲からの圧力に、冷や汗を流していたハジメに救世主……寧ろ勇者(笑)が現れた。

 

 白崎香織の幼馴染み達、つまりは天之河光輝の一派というか一派の張本人。

 

「香織、こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。折角の香織の美味しい手料理を、寝ぼけ眼の侭で食べるなんてはっきりと言って俺が許さないよ?」

 

 容姿端麗な爽やか笑顔、気障な科白と共にキランと歯を輝かせてる天之河光輝に対し、小首を傾げながらキョトンとなる白崎香織。

 

 恋愛には積極的に動いているみたいなのだが、周りからの事には少々鈍感というか天然気質な彼女にとって、天之川光輝のイケメン特有フラッシュや科白も効果がまるで無いらしい。

 

「えっと? 何で私が南雲君に御弁当を誘うのに光輝君からの許しが要るのかな?」

 

 裏表無く素でハジメを扱き下ろす天之河光輝だったが、上には上が居るとばかりに無邪気な表情で裏表も無く聞き返す香織に、雫は無意識にだろうが思わず『ぶほっ!』と吹き出してしまう。

 

 いっそ憐れすら誘う態度だが、天之河光輝という男は御都合解釈の権化な為、困った様に笑みを浮かべるだけだった。

 

 とはいえ、学校内で人気の四人組が一同に集まっている現実に、周りから煩いばかりの視線が突き刺さり深い溜息を吐くハジメ。

 

 頭の中でくらい愚痴っても罪にはなるまい。

 

『コイツらもういっその事全員、異世界にでも召喚されたら良いのになぁ』

 

 天之河光輝や白崎香織、八重樫 雫に坂上龍太郎なぞ女神や王女や巫女とか、いつ異世界召喚を受けてもおかしくないだろうに……とか半ば本心で。

 

 その瞬間、願いが叶ったのかハジメの目の前に立つ天之河光輝の足元には純白に光り輝ける円環と見た事の無い幾何学模様が顕れたのだ。

 

 明らかな異常事態発生、直ぐに周りの生徒達も気が付いたけど、全員が金縛りにでもあったかの様に輝く紋様――所謂、魔法陣だと思しきものを注視する。

 

 魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たす程に拡大をして、自身の足元にまで異常が迫ってきた事で、漸く悲鳴を上げて慌てる生徒達。

 

 四限目の社会科が終わっても未だに教室に残って女生徒達と談笑に興じていた畑山愛子教諭が、咄嗟に『皆、早く教室から出て!』叫んだけれど魔法陣の輝きがまるで爆発をしたかの様に光るのはそれと同時である。

 

 逃げる間など全く無く、光により真っ白に塗り潰された教室が異常から解放をされた時、辺りは静寂によって満たされていた。

 

 異常から解放されながらもやはり異常な侭で、教室の中には既に生徒も教師も誰もが居なかったのである。

 

 食べ掛けの弁当、散らかっている箸や飲み干されたペットボトル、蹴散らされている教室の備品などはその侭に人間が居た痕跡を残して、その姿を忽然と消してしまっていた。

 

 集団神隠し事件と呼び世間から注目を浴びる事になるが、それは今現在だとこのクラスの者達にはユートも含め最早、別の話であったと云う。

 

 

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第1話:異世界召喚なんて今更だよな

 取り敢えず一話分じゃあアレだから、早目に第1話を投稿しておきます。





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 他の生徒は兎も角としてユートは、目を閉じる事も無く敢えて見開いて全てを視ていた。

 

 ユートの目は緒方優斗としての人生を半ばで終え、嘗て転生をする際に下級神【純白の天魔王なのは】に転生特典(ギフト)として与えられた『よく視える目』が進化に進化を加えたモノであり、【神秘の瞳】と呼ぶ程の性能を持つ。

 

(成程、この転移現象って通常の魔法じゃないな)

 

 術式の解析など朝飯前と言っても良かった。

 

 騒然とする無数の気配、周囲を見渡せばクラスメイトと畑山愛子先生の姿。

 

 そして目の前に在るのは巨大な壁画。

 

 一〇mはあるであろう、壁画には後光を背負っている長い金髪、薄ら笑いを浮かべた中性的な顔立ちをした人物が描かれていた。

 

 正直、気色悪い。

 

 その背景には草原や湖、山々が描かれていてそれらをまるで包み込むかの如く彼の人物は、両手を広げているという構図である。

 

 美術的に観ればきっと美しい壁画なのだろう。

 

 だけどユートから視ると気色悪さが先立ち、笑みも薄ら笑いにしか見えないという、目を逸らしたくなってしまう絵でしかない。

 

(広間みたいだな。しかもクラスメイト全員が普通に余る可成りの広さだ)

 

 大理石っぽい光沢を放つ滑らかさ、そんな白い石造りの建築物は彫刻が彫られた巨大な柱に支えられて、ドーム状の天井な大聖堂というべき場所か?

 

 最奥にある台座の様な、一段高くなった場所の上に居るみたいで、ユートの傍に園部優花と愉快な仲間達が立ち尽くしている。

 

 特に怪我も無いらしく、確り自分の脚で立っていたのは何よりだ。

 

見る限りクラスメイトに欠員は無く、あの時に教室に居た生徒は皆がこの状況に巻き込まれたらしい。

 

(ハジメは呆然としているみたいだな。無理も無い、両親がアレだから知識は有るんだろうが、現実にコレとなれば言葉も無いか)

 

 ハジメの近くに白崎香織と八重樫 雫、その序でに天之河光輝と坂上龍太郎。

 見知った顔は全く欠ける事無くこの場に居る。

 

 周囲を見るとこの状況の説明を出来そうな連中が、この台座を取り囲む様にして立っていた。

 

(コイツらが召喚の実行者という事か? 若しくは、その意志を受けて迎えにでも来たのかね?)

 

 連中は全員が白地に金の刺繍がされた法衣らしき、服装を身に纏って傍らには先端が扇状に広がってて、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられた錫杖の様な物を置いている。

 

 その中の一人は特に豪奢で煌びやかな法衣を纏い、縦に長くて細かい意匠をした烏帽子っぽい物を被る、正に老齢という皺くちゃな人物が歩み出て来た。

 

 とはいえ、老いて益々といった感じに覇気を出し、熟達した僧を思わせる雰囲気を醸し出している。

 

 老人は手に持った錫杖を鳴らしながら、外見に合う落ち着いた声で此方へ話し掛けて来た。

 

「ようこそ我らがトータスへお出で下さいました……勇者様と同胞の皆様方」

 

(やはりそう来るか)

 

 本当に御多分に漏れず、まんまな科白であろう。

 

「歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、皆様方には宜しくお願い致しますぞ」

 

 イシュタル・ランゴバルドと名乗る彼は、好々爺然とした微笑みをユートというか勇者に見せた。

 

(勇者ってやっぱり彼奴、天之河光輝辺りだろうな)

 

 遥か前世の昔にユートもDQ世界の一つで、勇者と呼ばれた事も確かにありはしたが、今現在はそういう職務には全く縁が無かったし、何より勇者というか魔王と呼ばれた方が座り良い。

 

 神殺しの魔王だし。

 

 だいたいにしてこの手の召喚勇者は昨今だと単なる踏み台な事も多いから、ユート的には御免被る。

 

 場所は移り、可成りデカいテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

 そして煌びやかな作りな部屋、素人の目にも豪華にして絢爛な調度品や飾られている絵画、きっと晩餐会でも行う場所なのだろう。

 

 上座に近い方に畑山愛子と天之河光輝達の四人が、後はその取り巻き順に適当に座っており、よく見ればハジメは最後方に居た。

 

 尚、ユートは八重樫 雫と園部優花の間である。

 

 全員が着席するとカートを押しながらメイドさん達が入って来て香りが立つ紅茶っぽい……恐らく紅茶に間違いないと思う飲み物をテーブルに並べた

 

 クラスの男子が色めき立つくらい、美人なメイドがズラリと並んでいる様は、目の保養にはなりそうだ。

 

 状況が状況ではあるが、思春期男子の欲望というものは健在で、男子生徒の大半がメイド達を凝視しており、当然ながら面白くない女子達の視線は氷河期かと叫びたくなる冷いモノを宿していた。

 

「お、緒方は凝視したりはしないの?」

 

「ん? 両隣を美少女に囲まれてるのに必要か?」

 

「なっ!?」

 

「ちょっと?」

 

 言われた園部優花だけでなく、飛び火した八重樫 雫も思わず赤くなる。

 

 そもそもにしてユートは職業メイドに余り興味などは無く、そういうのは人形を鑑賞する程度の気分だ。

 

 全員に飲み物が行き渡るのを確認し、イシュタルが訥々と話しを始めた。

 

「さて、貴殿方に於いては嘸や混乱をしている事でしょうから、最初から説明をさせて頂きます。先ずは私の話をお聞き下され」

 

 聞くまでも無い身勝手極まる内容だった。

 

 

 要約するとこうだ。

 

 この世界はトータスと呼ばれており、トータスには大きく分けて三つの種族が存在しているという。

 

 人間族、魔人族、亜人族……この三種族で亜人族は所謂、獣の特徴を宿す獣人とエルフなどを一緒くたにしている様だ。

 

 人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしいが、どうやら人間族と魔人族は数百年にも亘り戦争をしているとか。

 

 まぁ、よくある話だ。

 

 地球でも単なる肌の色の差で戦争が出来るのだし、種族自体が違えばそりゃあ争いも起きるのだろう。

 

 魔人族は数こそ人間族に及ばないが、個人の持つ力は相当に大きいらしい。

 

 故に力の差を数で対抗していたそうで、戦力の方は拮抗し大規模な戦争はここ数十年間起きていのだが、最近は異常な事態が多発しているのだと云う。

 

 魔人族の魔物の使役。

 

 魔物というのは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形。

 

 だがこの世界の人々も、正確な魔物の生体に関しては判明してない様だ。

 

 判るのはそれぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく、強力で凶悪な害獣であると云う事くらい。

 

 今までは力に差は在れ、数で拮抗させていた戦力だったのに、魔物の使役により数のアドバンテージが崩されてしまった。

 

 こうなると人間族は不利になってしまい、いずれは滅亡も必至となっている。

 

「貴殿方を召喚したのは、我々が崇め奉る聖教教会の唯一神……エヒト様です。エヒト様は悟られたのでしょう、この侭では人間族は滅ぶのだと。それを回避する為に勇者様を喚ばれた。貴殿方の世界はトータスの世界より上位にあり、例外無く強力な力を持っている筈なのです。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。人間族を救い給う勇者様方を送ると。是非その御力を発揮し、エヒト様の御意志の下で魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

 イシュタルは恍惚とした表情を浮かべ、神託を聞いた時の事を思い出しているのだろうが、正直に云うと爺さんのあんな顔は見たくもなかった。

 

(キモいな。爺さんのあの表情といい、あの気色悪い信仰といい最悪なんだが)

 思わず眉根を顰めてしまう程、胡散臭くてキナ臭い話をされているのだし。

 

 そこを畑山愛子先生が、立ち上がって猛然と抗議をしてくれた。

 

「巫山戯ないで下さい! 結局はこの子達に戦争をさせようって事でしょう! そんなのは許しませんよ! 先生は絶対に許しませんとも! 私達を早く帰して下さい! 生徒達の御家族も心配している筈です! 貴方達のしている事はただの誘拐、犯罪ですよっ!」

 

 栗色ショートボブな髪、身長は一五〇cm程度にしかなくて、大人の女性というよりプリティでキュアっキュアな女子中学生。

 

 綺麗というより可愛い、学校のマスコット的な扱いを生徒からされているが、年齢は二五歳になる。

 

 一七歳な高校生から見れば八歳も差があるお姉さんながら、男女共に彼女の事は口煩い妹みたいに接しているらしい。

 

 愛ちゃんと愛称で呼ばれ親しまれているのだけど、やはり彼女はそう呼ばれると直ぐに怒る。

 

 本人としては威厳のある教師を目指してるらしく、現状での扱いは正に真逆と云うしかないからだ。

 

 今回も理不尽に召喚された理由に怒り、立ち上がったのだろうけど皆からは、『また愛ちゃんが頑張っている』などと、ほんわかした気持ちになるのだ。

 

 イシュタルに食って掛かる畑山愛子先生を眺めていたのだが、イシュタルの紡ぐ言葉に凍り付く事に。

 

「気持ちは御察しします。然し……あなた方の帰還は現状では不可能なのです」

 

 シン……とこの場に静寂が満ち、重く冷たい空気が辺りを支配していた。

 

 ユートとハジメ以外は、何を言われたのか理解が出来ない表情で、言った本人たるイシュタルを見遣る。

 

「ふ、不可能って……ど、どういう事なんですか!? 喚べたのなら普通は帰せる筈でしょう!」

 

 畑山愛子先生が、思わずイシュタル教皇に対し激昂をしていた。

 

「先程も言った様に、貴殿方を召喚したのは我らが神エヒト様です。我々人間に異世界に干渉する様な魔法は使えませんから、貴殿方が帰還を出来るかどうかもエヒト様の御意思次第という事ですな」

 

「そ、そんな……」

 

 畑山愛子先生呆然となり椅子に腰を落とす。

 

 周りの生徒達も黙っていられず騒ぎ始めた。

 

「おいおい、嘘だろ!? 帰れないって何だよ!」

 

「嫌よ! 何でも良いから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇぞ! 巫山戯んなよな!」

 

「どうして、何で……?」

 

 最早パニックに陥ってしまう生徒達。

 

 ユートからしたら本当によく有りそうなテンプレに過ぎず、『力を貸せ』とか『召喚する手段は有るが、送還方法は無い!』だとか召喚モノあるあるだった。

 

 最悪なのは召喚者を奴隷扱いするとか、巫山戯るのも大概にしろと言いたくなるくらいの話。

 

 尚、このタイプもユートは普通に跳ね返したけど、ソウ・ユウトが見事にハマってしまっていた。

 

 生徒達が狼狽える中で、教皇シオン張りに『狼狽えるな小僧共!』をやりたくなるのを堪え、イシュタルが此方を静かに観察しているのを逆に観察をする。

 

 イシュタルの眼の奥に、明らかな侮蔑が込められているような気がしたけど、これまでの言動やエヒトを語る気色悪い表情から考えてみれば、恐らく『エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか』なんて考えているのであろう。

 

 異世界人がエヒトなんて神を、信仰してある筈が無いだろうに解らないのか、まさか異世界もエヒトが創ったと、アホな事を考えているからだろうか?

 

 いい加減で話を此方側に持ってくるべく、パニックが全く収まらない中にて、ユートが動こうとしたけど天之河光輝が立ち上がり、目前のテーブルをバンッ! と両手で叩いた。

 

 それなりにけたたましい音が鳴り、パニックで騒いでいた生徒達が黙り込む。

 

「皆! 今ここでごねて、イシュタルさんに文句を言っても始まらない。彼にだってこればかりはどうしようもないんだぞ。俺は……俺は戦おうと思っている。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って放っておくなんて俺には出来ないよ! それに人間を救う為に召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。イシュタルさん? どうでしょうか?」

 

「ふむ、確かにそうですな……エヒト様も救世主様の願いを無碍にしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、その通りですな。ざっと、この世界の人間族と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えて良いでしょう」

 

「うん、それなら大丈夫。俺は戦う! 人々を救い、皆が家に帰れる様に。俺がこのトータスも皆も救ってみせるさ!」

 

 握り拳を作って宣言する天之河光輝、所謂イケメンフラッシュと共に無駄に歯がキランと光り輝く。

 

(チッ、出遅れた。これは拙い流れだな……)

 

 行き成り話をぶった切れないから、話が終わるのを待っていたユートだけど、天之河光輝が先に話を始めてしまう。

 

「へへっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな……俺もやってやるぜ!」

 

「龍太郎……」

 

(何を感激してるんだか、脳筋だから自分の意見を持ってないだけだろうが!)

 

「今の処はそれしか無いわよね。気に食わないけれど……私もやるわ」

 

「雫……」

 

(気に食わないなら断れば良いだろうに)

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

(だ〜か〜ら、誰かに追従なんてするなよな!)

 

 天之河光輝一派により、何だか賛同する流れというものが出来、クラスメイト達が次々と賛同していく。

 

 畑山愛子先生はオロオロと狼狽え『ダメですよ〜』と涙目で訴えているけど、天之河光輝が無駄に大きなカリスマで作る流れの前では余りにも無力だった。

 

「何だか普通に皆が戦うって流れだが、天之河は本気でそんな莫迦を言っているのか?」

 

 流れをぶった斬る言葉を向けるユートに、言われた本人は表情を変える事無く振り向いて口を開く。

 

「君は戦わないのか?」

 

「戦う戦わない以前の問題として、お前らは戦争をする意味を理解してるのか?」

 

「意味だって?」

 

「殺し合いだ。それなりに平穏な日本に暮らしてて、行き成り殺伐とした殺人がお前に、お前らに出来ると思ってるのか?」

 

「さ、殺人? それは言い過ぎだろう!」

 

 ギョッとなる天之河光輝だけど、それでも持ち前の“御都合解釈”で反論。

 

「そうだぜ、臆病風に吹かれてんじゃねーよ」

 

 檜山大介が追従する。

 

 ユートが檜山大介を邪魔する事もあり、明らかに目の敵にしていたからだ。

 

 流れはもう変わらない。

 

「そうか……」

 

 ユートは立ち上がると、腕をビュッ! と横薙ぎに一閃……まではしないで、その途中で止めた。

 

「ヒッ!?」

 

 天之河光輝が息を呑んだのも無理は無い。

 

 その頭のすぐ其処には、紙一重で停まる重厚な刃金……明らかに真剣の太刀が有ったからだ。

 

「若しこれが実戦ならば、今頃は天之河の頭は斬れて死んでいただろうな」

 

「な、あ……」

 

「誰かを殺す意味を考え、誰かに殺される覚悟を決めるんだな。戦争をしたいと言うのなら……ね」

 

 ユートは自らの左腕を伸ばすと、右手に持った太刀を振り下ろす。

 

 斬っ!

 

「キャァァァァッ!?」

 

「イヤァァァァッ!」

 

「ヒィッ!」

 

 女子を中心に悲鳴が上がるが、ユートは何処吹く風といった具合だ。

 

「こんな風になる可能性、それを解った上で言っているんだな?」

 

「な、な……」

 

 ブシューッ! 大分、遅れて落ちた腕の切り口から赤い血液が噴出すると天之河光輝の顔をベッタリと濡らした。

 

「戦争をするってのは即ちこんな事が日常茶飯事に起きるって話だよ。部位欠損で済むならまだ御の字だ。場合によれば生命を呆気なく喪うんだからな」

 

「うう?」

 

 ユートの言葉に呻くしか出来ない天之河光輝。

 

「莫迦! 何をやっているのよ!?」

 

「園部……」

 

「すぐに治療をしないと、こんなに血が!」

 

「ああ、心配は要らんよ」

 

 落ちた腕を持ち上げて、ユートは左腕をくっ付ける様に傷口と傷口を合わせてやると……その時、不思議な事が起こった!

 

「え?」

 

「傷口の組織を破壊しない様に綺麗に斬ったからね、こうしてやれば普通にくっ付くって寸法だ」

 

 念の為に【狩人×狩人】世界のマチが使う念能力、それにより腕を縫合しておけば完璧だろう。

 

「もう、莫迦よ! だからって斬る?」

 

「ま、心配してくれたのはありがとうな」

 

 “左手で”園部優花の頭を撫でてやった。

 

 これは動くのを確認させてやる為でもある。

 

「イシュタル・ランゴバルド教皇」

 

「な、何ですかな?」

 

「当然ながら衣食住を全員に保証するんだろうね?」

 

「は、はぁ。それは勿論、ハイリヒ王国とは話が付いておりまして、勇者様方にはそちらへと移って頂き、戦闘訓練をしながら恙無く生活をして頂きます」

 

「そ、なら良い。これだけ言ってパフォーマンスまでして尚、戦うんだってんなら好きにしたら良いさ」

 

 チンという音が何故だか酷く大きく響いた。

 

「ハイリヒ王国と言ったがそれは?」

 

「この神殿はハイリヒ王国の国内に在る神山の頂上に造られており、麓には王国が広がっている訳ですな。創世神エヒト様の眷属たるシャルム・バーン王が建国された由緒正しき王国で、勇者様方の召喚がエヒト様より御神託成された日に、王国とは既に連携を取っておりますので、受け入れの準備も整っております」

 

 訥々と語るイシュタル・ランゴバルド教皇。

 

 最早、誰も何も言わないのはやはりアレが原因か、 余りにも衝撃的に過ぎて頭が回らないのだ。

 

 全員が神殿の外へ移動、その光景を見てこの場所が少なくとも、日本の何処かという可能性は消える。

 

 雲が下に見える高度で、なのに息苦しくも無い。

 

 恐らく生活環境を魔法か何かで、調節をしているのだろうと考えられた。

 

 太陽の光を反射してて、煌めく様な雲海と透き通る青空という、とても雄大な景色にクラスメイトだけでなく、畑山愛子先生までもが呆然と見蕩れていた。

 

 満足気なイシュタル教皇に促されその先に進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてくる。

 

 大聖堂内で見た物と同じ素材だろう、美しい回廊を進みながら促される侭その台座に乗った。

 

 見れば台座には、巨大な円形に幾何学模様を描いた魔法陣が刻まれている。

 

 柵の向こう側は雲海で、落ちたら間違いなく命が無い為に、生徒達は中央へと身を寄せていた。

 

 とはいっても初めて観る景観に興味は湧くらしく、周囲を皆がキョロキョロと見渡していると、呪文詠唱をイシュタル教皇が始めたらしく言葉を紡ぐ。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん【天道】」

 

 簡単な呪文立ったけど、効果は確かに出たのだろう足元の魔法陣が輝き出し、ロープウェイの如く台座が動き出して地上へ向け斜めに下り始めた。

 

 台座に刻まれた魔法陣、先程の詠唱はそれを起動する為のキーワード、恐らくそういう事なのであろう。

 

 雲海を抜けると地上が見えてきた。

 

 眼下に広がる大きな国、山肌からせり出す様に建築された巨大な城と、放射状に広がっている城下町。

 

 ハイリヒ王国の王都という訳だろう、台座は王宮と空中回廊で繋がった高い塔の屋上に続いていらしく、其処へゆっくりと降りた。

 

 未だに不安はあるのか、クラスメイト達は何も喋る事はなく、畑山愛子先生も視線を彷徨わせている。

 

 それにチラチラとユートを見ているが、その中でもやはり腰に佩かれた太刀に目が往くらしい。

 

 生徒が平然と危険物を出したのが気にならない筈もなく、しかも今まで気付かなかったからには持っていた訳もないのに、いつの間にか当たり前に腰に佩いていたのだから。

 

「国王に会うみたいだし、村正は仕舞っておくか」

 

 “村正”と聞いて社会科の先生としては、聞き逃せなかったのか目を見開く。

 

 一応、現代社会だけでなく歴史もイケるからだ。

 

 畑山愛子先生に鑑定眼は無いが、本物ならいったい幾らの値が付くか知れない代物である。

 

 消えた“村正”にまたも目を見開く畑山愛子先生、もう頭は一杯一杯だったしお腹も一杯だと頭を振る。

 

 イシュタル教皇に促され移動を開始、ハイリヒ王国の中枢たる謁見の間にまで通された。

 

 

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第2話:残念系美少女お姫様との夜会

 取り敢えず、何話か先の新しい噺が書けたから投稿しました。





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 王宮に着いたユート達、寄り道をするでなく真っ直ぐに玉座がある謁見の間へ案内をされ、道すがら騎士やメイドや文官と思しき人が此方を見つめてくる。

 

 まぁ、教皇なんて要職にあるイシュタル・ランゴバルドが直に案内する人間、その素性も判り切っているからこそだろう。

 

 畏敬の念を籠めた瞳で見ていたし、若いメイドなんかは天之川光輝に見惚れているのが丸判り。

 

 流石は容姿端麗で文武両道な輝くイケメンカリスマ天之川光輝、“さすこう”とでも云うべきだろうか?

 

 やはり公式イケメンとは造られたイケメン転生者と違い、極自然とモテたりするものなのかも知れない。

 

 赤くて金糸で模様が描かれたバカ長い通路に敷かれた絨毯、巨大な鉄扉が開かれてすぐに見えたそれは、ゲームなんかでもお馴染みであり、ユートも前世ではトリステイン王国の王宮、ガリア王国の王宮などでは普通に見た事があった。

 

 まぁ、ガリア王国だった場合は王宮というよりは、イザベラ・マルテス・ド・ガリア王女の住む別宅に近い小宮殿(プチ・トロワ)に行く事が多かった。

 

 理由? イザベラの寝室に行く為にである。

 

 最終決戦前に一ヶ月程、寝食を忘れて励んだ結果は良好だった為に、ユートが異世界放浪から何とか帰還したら、四人の子供の父親として迎えられたし。

 

 四人の内訳はシエスタ、カトレア、イザベラ、ジェシカだった。

 

 順番はジェシカ→シエスタ→カトレア→イザベラ、つまり僅かな差でシエスタとカトレアも受精に成功して孕んでいたと云う。

 

 ジェシカはアルビオン戦役中には、既に妊娠していたのが判明していたから、あらゆる意味で長男を産んだのは当然の流れ。

 

 それは兎も角、謁見の間には玉座の前で立っていた覇気ある初老の男性とか、隣に金髪碧眼で美しい女性だとか、女性によく似ている年若い少女と、明らかに幼い小学生高学年くらいの少年が居た。

 

 間違いなく国王と王家の人間、国王の見た目からすると王妃は三十代半ばか或いは後半だろうが、容姿は二十代でも通用しそうな程に若々しく、その王妃から遺伝子を確り受け継ぐ王女らしき少女と王子だと思われる少年。

 

 余程の事が無い限りは、王族は美男美女ばかりなのかと、ユートは溜息を吐きたくなるものだった。

 

 また、レッドカーペットの両サイドには右側に武官らしき鎧や豪奢な衣装を纏う連中、左側には文官らしき連中が合わせると並んで三〇人くらい立っている。

 

 進み出るイシュタル教皇だが、当然ながら止める者など居なかった。

 

 国王らしき男性が教皇の手の甲へと、軽く触れない程度にキスをする辺りから宗教側の力が強いらしい。

 

 自己紹介をされた結果、エリヒド・S・B・ハイリヒが国王の名前の様だ。

 

 その後はルルアリア・S・B・ハイリヒ王妃殿下、リリアーナ・S・B・ハイリヒ王女殿下、ランデル・S・B・ハイリヒ王子殿下の名を紹介される。

 

 後は騎士団長メルド・レギンスや宰相など、王宮で高い地位に在る人間の紹介も同時にされた。

 

 その最中、ランデル王子の視線は白崎香織にチラホラ向けられて、リリアーナ王女は天之川光輝に向かっていたのが判る。

 

 どちらもヒロインや勇者的な容姿だし目の保養になるのだから仕方がない。

 

 取り敢えず、ユートとしてはランデル王子には全く興味が湧かなかった。

 

 当たり前だ、腐女子的なショタコンじゃあるまいし少年に興味を持つ筈が無い。

 

(リリアーナ・S・B・ハイリヒ……ね。暫く世話にはなるにしても、ある程度の情報を集め終えたら消える心算だが、王宮の情報源があった方がやっぱり楽だろうしな)

 

 こういう場合には上手く接触して情報源になって貰うのが吉だろう、とはいえ召喚モノは王女が悪党なんて場合もあるから注意は必要。

 

(だけど問題は単なるお姫様だと情報の収集は難しい処かな?)

 

 ならば情報源と報告係、この二つに役割をきっちりと分けるべき。

 

(そうすると、情報源にはお姫様専属メイドなり侍女なりを抱き込むか?)

 

 報告係にリリアーナを、情報収集には専属のメイド辺りを使う、専属でないと情報の拡散とか面倒臭くもなるし、若いお姫様ならば専属の侍女などは少し歳上程度の年齢だろう。

 

 面倒で無駄の多い長話はマルチタスクで処理してしまい、ユート的に必要な事を考える方に意識を集中していた。

 

(実際、子爵家の僕ですら父上が付けてくれたメイドは五歳くらい歳上だった。間違っても中年なオバサンじゃあなかったからな)

 

 この世界もそうだと限らないが、違ったら違ったで若いメイドに手を付けて、リリアーナの専属になれる様に本人に捩じ込んで貰えば良いだろう。

 

 無駄に長かった話も終わった事で、晩餐会が開かれ異世界の料理を堪能した。

 

 見た目は【ウィステリア】で食べる洋食と殆んど変わらなかったけど、極偶にピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたものの、実際に食べてみれば非常に美味なもの。

 

 ランデル王子が食事中、白崎香織に矢鱈と話しかけていたのを、クラスの男子がやきもきしながら見ていたなんてエピソードも。

 

 ハジメをチラッと見てみれば、そんな情景に少しの期待とすぐに落胆するといった百面相をしていたが、白崎香織の相手をランデル王子に求め、年齢的に無理だと判断したのだろうか?

 

 つまり、白崎香織は完全に初恋が空回りしているという形らしい。

 

 ぐいぐいと攻めてハジメが男子連中に殺される覚悟をした上で、既成事実でも作らなければ靡く事なんて無いのではなかろうか?

 

 事実としてユートは相談をされた事がある。

 

 切実な顔で『白崎さんを堕としてくれない?』と、ある意味で最低な相談だったと苦笑いしてしまう。

 

 晩餐会が終わって解散、案内された各自には一部屋ずつ与えられていた。

 

 天蓋付きベッドは可成り豪奢だし、キングサイズとはいかないけどそれなりに大きなベッドは、ユートが本来の身長で居ても余裕で大の字になれる。

 

 寧ろ二人くらいなら普通に並び寝れそうな横幅に、メイドでも連れ込みたくなる衝動に駆られた。

 

 深夜の丑三つ時ともなれば誰しも寝ていそうだが、現代日本でそんな時間なら起きている人間も多い。

 

 リリアーナ・S・B・ハイリヒ王女は、普段ならば既に寝静まる時間だったのだが、勇者召喚が神エヒトにより行われて初めて見た異世界人、そんな幻想的な時間に心が沸き立ち眠れぬ夜を過ごしていた。

 

「仕方がありませんわね、ヘリーナ……」

 

「はい、姫様」

 

 王族程ではないにせよ、それなりに美しい専属侍女ヘリーナが、リリアーナに呼ばれて直ぐに室内へと入って来る。

 

 暗い茶色のロングヘアーと切れ長の目、肌は白くて女性にしては高めの身長と程よく主張をする胸元に、腰はキュッと括れてお尻はボンッと大きいが引き締まってだらしなさは無くて、エプロンを締めている腰の高さが脚の長さを強調しており、二十代の半ばだろう頗る美女……というのが、専属侍女ヘリーナだった。

 

 その佇まいからは中々に出来る侍女という雰囲気を醸し出し、だけどお姫様に付く専属なだけにこれまで男と縁の無い生活らしい。

 

「御用でしょうか?」

 

「悪いのだけどワインでも持って来てくれない?」

 

「この様な深夜に飲まれるのは、流石に宜しくは無いと思いますが……」

 

「判ってはいるのですが、今宵は少々寝付けなくて」

 

「勇者様方との、延いては異世界人との初邂逅でしたからね。御気分が昂られているのでしょう」

 

 仕方がないと立ち上がるヘリーナ……

 

「それなら良い物があるんだけどな」

 

「「っ!?」」

 

 然し、突然に室内で響く男の声にリリアーナが肩を震わせ、ヘリーナは驚きながらも辺りを見回す。

 

「誰ですか! 此処は姫様……リリアーナ様の御部屋ですよ!? 隠れてないで出てきなさい、無礼な!」

 

「では、御言葉に甘えて」

 

 スッと現れたのは黒髪に黒瞳、身長は一七六cmでそれなりの高さの少年――ぶっちゃけユートである。

 

「どなたですか? 帝国の間者……或いは……」

 

 まぁ、多少なり護身術を嗜んでいるのだろう。

 

 それなりには様になっている構え、だけどユートが間者なり刺客なりならば、ヘリーナはとんだ素人芸を晒している事になる。

 

 実際に素人芸だが……

 

 ヘリーナは戦闘が出来る程に強くは無いから。

 

「リリアーナ姫が心乱されている勇者一行の一人で、名前は緒方優斗という」

 

「勇者様の!?」

 

「まぁ、誰が勇者か明言はされてないけど……少なくとも僕じゃないだろうし、実は目星も付いている」

 

「そ、そうなのですか?」

 

 やはりこの話題に食い付いて来たリリアーナ。

 

「それで、御用件は?」

 

 油断無く訊いてくるのはヘリーナである。

 

 切れ長な目を更に細め、ユートの真意を探らんとしているのは明らか。

 

「目的はあるよ。先ず前提として僕らは全く無関係なトータスに喚ばれ、已むを得ないとはいえど強制的に戦争に駆り出された」

 

「それは……確かに申し訳無く思いますわ」

 

「帰れないからには戦争に参加しないと衣食住も侭ならないし、強くならないと簡単に死んでしまうから、明日からの訓練も手抜かりは許されない。今まで戦争なんて対岸の家事、喧嘩をした事すら無い生徒も居る中で戦争に強制参加だ」

 

「うう……」

 

 やはり申し訳無さを感じたのか、リリアーナは呻く事しか出来ずにいた。

 

「だから必要なモノを得ようかと思ってね」

 

「必要なモノ……ですか? それはいったい?」

 

「情報」

 

「情報?」

 

 鸚鵡返しに訊ねる。

 

「情報とは力也、未知こそは真の敵……というのが僕の持論だからね。地球人で異世界トータスに関して、全く情報が無いのは頂けないよな?」

 

「でしたら、教皇様や他にもメルド団長か御父様にでも訊くか、或いは図書館で本を読まれるのも手です」

 

「偽りを書かれた書物も、修飾された情報も不要だ。要るのは飾らない生の情報でね、だから頼みたいのが其処の侍女さんに無理じゃないレベルの情報収集と、姫殿下がそね情報の報告をして欲しいってものだよ」

 

「な、成程……」

 

「私が情報収集を? よもや間者の真似事をせよと、そう仰有いますか?」

 

「そんな難しく考えなくても良いさ。普段から王宮で流れる噂話しとか、必要なものを取捨選択して流して欲しいだけだから」

 

「は、はぁ」

 

 情報収集はRPGで基本の中の基本だ。

 

 仮に『武器や防具は装備しなけりゃ意味がないぜ』とか、『ようこそ、ここは○○村です』とかの情報でも無いよりは良い。

 

 ゲームなら攻略本だとか攻略サイトで、大概は普通に情報も得られるだろう、だけど生ファンタジーなんて村の名前さえ、村人から聞かないと判らない訳で、どうしても必要となる。

 

「その対価として手土産の代わり、地球の土産物屋で買える御菓子を持参した」

 

「……トータスに来る事を予想が出来ない筈なのに、いったいどうやってお土産を用意したのですか?」

 

「僕が異世界に行くのって珍しくもない。だから何処の世界にでも通じそうな貴金属やこの手の食べ物、それを特殊な時空間魔法で仕舞ってあるんだよ」

 

「まぁ……!」

 

「そんな事が?」

 

 リリアーナもヘリーナも驚き目を見開く。

 

「京都土産の生八つ橋だ。中々に美味しいよ?」

 

「ちょっと惹かれますわ」

 

「序でに飲み物も用意してあるし、地球の話を聞かせて上げるから、食べながら盛り上がってみようか」

 

「良いですわね」

 

「ひ、姫様!?」

 

 いつの間にかノってしまっているリリアーナ、流石にギョッと目を剥いてしまったヘリーナだが……

 

「ならば私が毒味を」

 

 一つ摘まんで食べた。

 

「ああ? ズ、ズルい!」

 

 咀嚼するヘリーナだが次第に愉し気になる。

 

 どうやら生八つ橋は気に入ったらしく、二つ目へと手を伸ばしたから驚きながらペシッ! とヘリーナの手を叩いた。

 

「何故、毒味なのに二つ目にまで手を伸ばしているんですか!?」

 

「コホン、大丈夫みたいですね……」

 

 ヘリーナは咳払いをして明後日の方を見遣るけど、タラリと汗を流しつつ頬を朱に染めている。

 

「まったく、もぅ……」

 

 そんな専属侍女にプンスカと頬を膨らませた。

 

「数は有るんだから食べると良い。ワインよりは此方の方が飲み物は良いしね」

 

 珈琲……カフェオレを出してやる。

 

 カフェインは寝る前に摂るのに向かないが、ユートは珈琲と紅茶はどちら派? と訊かれたら、珈琲派と答えるくらいで用意が出来た飲み物は珈琲だった。

 

「あら、甘くて美味しい」

 

 甘いモノを摂る中で珈琲は悪くない。

 

「苦いですが甘さを押さえてくれますわね」

 

 どうやら、リリアーナにとっては良い食い合わせとなった様である。

 

 三人で生八つ橋を食べながら、ユートからは地球の話を聞かせてやり、反対にリリアーナからはトータスに関する話を聞いた。

 

 話は二時間くらいに及んだが、流石にリリアーナも眠たくなった様だし次回の約束をして御開きに。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日になって、生徒達には戦争に向けて訓練と座学が始まった。

 

 生徒に一二cm×七cmの銀板プレートが配られると、それを不思議そうに見ている生徒+愛子先生に対して騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を行う。

 

 わざわざ騎士団長が訓練に来た訳だが、対外的にも対内的にも“勇者様一行”を半端な者に預ける訳にはいかず、騎士団は副団長に任せて騎士団長自らが出向いたのだという。

 

 尚、面倒な雑事は副団長に押し付けたらしい。

 

「よぉし、全員に配り終わったな? このプレートはステータスプレートと呼ばれている。文字通りに自分の客観的なステータスを、判り易く数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だ。失くすなよ?」

 

 メルド団長は豪放磊落な性格で、これから戦友となるだろう生徒と普段着的な喋り方を騎士団員達も通させると、笑いながら言っていたものだ。

 

 気楽なのは良い事だと、ユートとしては思う。

 

 実際、下手に堅苦しいのはやり難いだけだから。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう? そこに一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される」

 

 言われた通りにする。

 

「『ステータスオープン』と言えば、プレートの表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもんは知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

 天之川光輝がメルド団長から、アーティファクトに関する説明を受けてるが、早い話が古代遺失物(ロストロギア)を現代技術でも造れる様になった、くらいの話であるらしい。

 

「ステータスオープン」

 

 プレートの魔法陣に血が付着すると光が放たれたかと思ったら全体的に闇色に染まった。

 

 ステータスプレートは本人の魔力の色により色が変わり、本人とプレートの色が一致する事で身分証明とするのだとか。

 

 某かの走査を受けたしやっぱりなと思いつつ、ユートは浮かんできた文字を確認する。

 

 

ユート・オガタ・スプリングフィールド

レベル:1

??歳 男

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

 

技能:錬成魔法 言語理解

 

 

「何じゃこりゃ?」 

 

 ちょっと有り得ない数値だ。

 

「態々、走査を受け容れたから普通に表示をされたみたいだけど……」

 

 カンピオーネは通常の魔術師からみて数百倍の呪力を保有しているらしく、魔術関連などのそういったモノを無効化してしまう。

 

 だから態と走査が出来る様にしてやったけど、この量産型アーティファクトはおかしいのか?

 

「全員見れたか? ならば説明をするぞ。まず最初に“レベル”があるだろう? そいつは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルとはその人間が到達出来る領域の現在値を示していると思ってくれれば正解だ。レベル100という事は、人間としての全潜在能力を発揮した極地という事だ。とはいえそんな奴は普通、そうそう居ないんだけどな! アッハッハッハ!」

 

 どうもゲームみたいな、レベルアップ=ステータスアップではなく、ステータスの上昇に伴い潜在値を上げたと判断されてレベルが上昇する仕組みらしい。

 

「ふむ……まぁ、別に構わないか」

 

 色々と考える事はあるけど、ユートの考えている通りなら寧ろほくそ笑みたい気分である。

 

「取り敢えず普通に見せれば良いか」

 

 どうやらこれをメルド・ロギンスに見せねばならないらしい。

 

「後は……各ステータスは見た侭だ。大体レベル1の平均だと10くらいだな。お前達ならその数倍から、数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! ああ、ステータスプレートの内容は報告してくれよ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 言いながらステータスを見て回るメルド団長だが、天之川光輝のプレートを見て驚いている。

 

 勇者で数値は全て100を叩き出し、普通なら技能も二つか三つなのに可成りの数が有るらしい。

 

 規格外な奴め……と笑っていた。

 

「次はお前か、見せてみろ。ふむ? んん……? 錬成師に数値は……はて?」

 

 メルド・ロギンス団長が見て首を傾げてしまいながら、ステータスプレートをコンコンと叩いたり色々と調べていた。

 

 天之河の数値から鑑みて或いは数値が微妙過ぎだったのかも知れない。

 

 ユートにステータスプレートを返して端に居たハジメも最後に回ぢて、メルド・ロギンス団長にハジメもプレートの全容を見られた。

 

 ユートと同じ天職は錬成師で数値は全て10であると、このトータスという世界の人間族に於ける平均値だった様である。

 

 技能も錬成と言語理解の二つだけしか持たず、そもそも異世界人の全員に付く言語理解を除けば実質上は一つだけ。

 

 メルド団長もハジメまでがユートと同じくで、どう言ったら良いか判らないらしく当たり障りの無い科白で言い繕っている。

 

 だが然し普段からハジメを目の敵にする檜山大介、そしてその取り巻きの一党がそれを見逃す訳も無い。

 

 思った通り虚仮にしに行った為にユートが止めようと動き出す前に愛子先生が動く、だがそれはハジメにトドメを刺す行為にしかならなかった。

 

 同じ非戦闘職で平凡数値と言うが、彼女の天職とは作農師というトータスに於ける食料事情を一変させる程の、勇者に次ぐ上にある意味では超が付く様なレア天職だったからだ。

 

 しかも魔力は天之川光輝と同じ100、技能にしても作農師にピッタリとハマるものがズラリと勢揃いなのだから堪らない。

 

 尊敬すべき畑山愛子先生にトドメを刺され、ハジメは死んだ魚みたいな目をして遠くを見つめたと云う。

 

 愛子先生は大慌て。

 

「今夜はリリアーナの所に行く前に、ハジメの部屋に行く必要がありそうだね」

 

 ユートは溜息を吐いて、予定を変更するのだった。

 

 

.




 漸くオルクス大迷宮に入って転移トラップに掛かって続く……な感じです。

 園部優花のエピソードが追加されて、思った以上に尺を取られました。

 ステータスプレートの意味合いを変更したのでユートの数値などが変わります。






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第3話:錬鉄の英雄みたいにはいかないけれど

 Fateが無い世界となっていたのを存在する感じに直しました。





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 夜中の一〇時になって、コンコンと扉を叩く音を聞いたハジメは、扉を開くべくベッドから降りる。

 

 ステータスプレートを、何度見ようが目を擦っても変わらない天職、変わらない数値、変わらない技能。

 

 別に『俺TUEEE』とかをしたかった訳ではないし、チート……キタァァッ! したかった訳でもない。

 

 だけどこれは無いだろうと嘆きたくなり、ベッドの上で沈み込んでいたのだ。

 

 誰かが訪ねて来たのなら気分転換にはなるだろう、天之川光輝や檜山大介みたいなのでない限り。

 

 まぁ、少なくとも女子がパジャマ姿だとか、或いはネグリジェにカーデガン姿で来たりはしないだろう。

 

 クラスの女子と仲良しという訳でも無いし……

 

 話し掛けてくる白崎香織が居たかと、憂鬱な気分が更に沈み込むハジメ。

 

 ハッキリと迷惑だとまで言わないが、彼女が誰にでも優しくてオタクな自分にもそれで話し掛けてくれているのだろうけど――誤解全開――、その度に痛々しいまでの視線を感じるし、天之川光輝が煩いのだ。

 

「はぁい、誰?」

 

 とはいえ、男子でも訪ねて来る相手が判らない。

 

 白崎香織の事で反感を買っているのだから。

 

 ガチャ、扉を開けてみれば居たのはユート。

 

「お、緒方君?」

 

「よう。二人だけだから、名前で良いだろう。クク、男同士で『月下の語らい』も無いけど……な」

 

「はは、良いよ。入って……優斗」

 

 ユートのジョークに苦笑いを零しつつも、ハジメは部屋へと招き入れる。

 

 ユートが持参した座布団を敷き、互いに床へ座るとやはり持参した珈琲と菓子を置いて話を始めた。

 

「ステータスプレートに関しては聞いている」

 

「そっか、笑って良いよ。僕はトータスの平均値でしかないオール10、天職もありふれた職業で技能なんて実質一つだけ。愛子先生も非戦系職だったのに貴重な作農師、魔力も100で技能が天之河君並の数で、僕だけが役立たずな無能だってさ。檜山君達が言っていた通りなんだよ……」

 

 自虐が過ぎるハジメに対して、ユートは溜息を吐いた。

 

「ハジメ、僕も同じだ」

 

「え?」

 

「メルド・ロギンス団長がハジメの時と似た様な反応をしていたろ?」

 

「う、うん」

 

「僕の天職は錬成師、能力値はオール10、更に技能は錬成と言語理解のみ」

 

「ま、全く同じ!?」

 

 どんな偶然かと驚愕をするしかない。

 

「そういう事だ」

 

 ユートも頷いた。

 

「ハジメはオタクというものだ」

 

「そんなの知ってるよ」

 

「だからこそ知識に在るんじゃないか?」

 

「……え?」

 

「無能と勇者パーティから追い出された主人公、然し追い出されてからが正しく主人公が主人公たる所以に目覚めてチート化する」

 

「確かにラノベとかその手の物語ならそうかも知れないけど……さ」

 

 現実ではそんなに上手くいく訳が無い。

 

 そもそも、オール10のステータスは何ら誤解する余地も無く雑魚だ。

 

「チートじゃなくても莫迦みたいに強くなる事例は決して皆無っていう訳じゃ無いんだがな」

 

「まさか……」

 

 『そんなオカルト有り得ません』とばかりに、ハジメは瞑目しつつ首を横に振る。

 

「お前は戦うものではなく生み出すものに過ぎん……余計な事は考えるな。お前に出来る事などは常に一つ」

 

「……え、何を?」

 

「その一つを極めてみろ。忘れるな、常にイメージするのは『最強の自分』だ」

 

「え、えぇ!?」

 

 訳が解らず叫ぶハジメ。

 

「お前だって識っているだろうに? あの錬鉄の英霊の言葉さ」

 

 オタクなハジメだからこそ理解も叶う科白というものが在り、有名な漫画などのキャラクターの科白は寧ろ一度は言ってみたい。

 

「未来の英霊エミヤ……だね」

 

「才能としては決して一流に届かず、努力に努力を重ねて重ねて重ねて重ねて、漸く周りの背中を見付けられた彼の英雄」

 

「だけど僕は……」

 

「得意の魔術は投影魔術、想像した剣を創造する者。【英雄王(ギルガメッシュ)】が曰く【贋作者(フェイカー)】、視た剣を自らの心象風景に記録し、それを現実世界に投影する最早、固有魔術とも呼べる域にまで達していた」

 

 因みに云うと、当時からエロゲが苦手だったユートは【Fate/】シリーズその物をそもそもプレイしておらず、派生系はエロゲじゃないけど全く識らなかったりする。

 

 現在、識っている理由の一つは前世で義妹のユーキからレクチャーされていたからであり、今一つは今生で実際に地上暦一九九五年に起きた大四次聖杯戦争に参加し、更にユートが干渉しなかった一巡目に於ける平行世界で、第五次聖杯戦争に参加した事により知識を補完したのだ。

 

 まぁ、アーチャーというかエミヤの科白に関しては実際に聞いた訳では決して無く、ユーキからの又聞きな知識だが……

 

「造る……もの……か」

 

 確かに有名な科白とはいえ、天職が鍛冶師なら一〇人に一人は持つありふれた職業な錬成師というハジメに、こんな話をした理由なんて明確に過ぎる。

 

「だけど所詮は漫画の……キャラクターの言っていた科白だよ。それこそそんなのは現実的じゃないんじゃないかな?」

 

「仮面ライダーになりたいんだ~とか言ってさ、DXの変身ベルトを腰に巻いて『変身!』とかやっておかながら今更ながら現実的とか」

 

「仮面ライダーだって玩具のベルトなんかじゃ、結局は僕には成れないのさ……」

 

「そうかな? 錬成師なら成れる仮面ライダーだって在るんじゃないか?」

 

「錬成師だから成れる?」

 

「先にも言ったが錬成師、それは戦う者じゃない。飽く迄も造る者なんだ。別に造るなら刀剣類や槍や鎧である必要も理由も無いだろう、例えば現代兵器はハジメならではの錬成とかにならないか?」

 

「現代兵器……? 拳銃とかの事だよね。可成り精密な部品が要るんじゃ……」

 

「そうかな? 確かにすぐ現代レベルとなれば難しいかもだが、鉄砲なんてのは種子島……火縄銃みたいな原始的な銃だって有るし、簡単な物から造っていけば少しずつ進化させられる。要はやるかやらないかだ」

 

「拳銃……火縄銃……やるかやらないか……か」

 

 火縄式(マッチロック)から燧発式(フリントロック)に変えるだけでも進化だ。

 

 まぁ、デジモンで云えば幼年期Ⅱから成長期へと進化した程度のものだけど。

 

「ハジメにその気があるのなら、休みの日や今みたいな時間帯に教えてやるさ」

 

「教えるって何を?」

 

「勿論……」

 

 ニヤリと口角を吊り上げながら……

 

「錬成だよ」

 

 一振りの短剣を造り上げ言い放つのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 草木も眠る丑三つ時……

 

「今晩は、リリアーナ姫にヘリーナ」

 

 どうやってか忍んで部屋に入り込むユート。

 

「あの、どうやって入って来てるんですか?」

 

「え? 普通にリリアーナの後ろから付いて行ってるだけだが?」

 

「「怖っ!」」

 

「冗談だ」

 

 二人は胸を撫で下ろす。

 

 実は昨晩はそれで一緒に入り込んでおり、それなのに二人が気付けなかったのは気配を辺りに溶け込ませてしまい、暗闇へと完全に紛れていたから姿も気配も判らなかったのだ。

 

 このやり方なら臭いすら誤魔化せる為、狼でさえもユートを見付けられない。

 

「ま、今日も愉しく情報の交換といこうか?」

 

 ちょっとした御茶会に、リリアーナは嬉しそう。

 

 ヘリーナも未だに警戒を完全に解いてはいないが、リリアーナの嬉しそうな顔を見て表情を綻ばせた。

 

「今宵はどら焼きだ」

 

「戴きま〜す」

 

 昨晩、教えて貰った食事の時の作法に則り、声を出して『戴きます』をする。

 

 文字通りに。

 

「う〜ん、美味しい♪」

 

「はい、美味しいですねぇ姫様」

 

 もう毒味も何も無い侭、かぶり付く二人はその甘味に幸せ一杯夢一杯に蕩けた表情で、頬を朱に染めながら舌堤を打った。

 

 そして恒例という程には日数も経ってはいないが、取り敢えずは情報交換を始めてしまう。

 

「まぁ、それではえっと……錬成師としての知識で南雲ハジメさんの教師を務めるのですか?」

 

「ああ、錬成師の技術ならば僕に一日の長があるからね」

 

「錬成に?」

 

「まぁね。例えばこんな感じかな?」

 

 ヒュン! 行き成り何も無い所から品の良い綺麗な装飾が成され、青い宝石がエッセンスの様に填め込まれた腕輪が顕れた。

 

「ど、何処から?」

 

「僕の【創成】という技術だよ。元々は【錬金】と呼ばれる魔法だったんだが、進化して【錬成】になってから更に進化、【創成】となったと云う訳だね」

 

「然し、確か錬成には素材が必要な筈ですわ。それに簡単な武器を造るのがやっとだと聞きましたし」

 

「素材なら沢山有るだろ」

 

「へ? 何処に……」

 

「大気中に一杯……ね」

 

「大気中って、つまり空気の中にですよね?」

 

 そこら辺の知識はどうやら有ったらしい。

 

「正確には原子より小さな暗黒物質(ダークマタ)だ」

 

「だーくまた?」

 

 リリアーナにはよく解らないから、思わず鸚鵡返しに訊ねてから気付いた。

 

(私、バカッぽい?)

 

 おバカに見えないか心配するリリアーナだったが、ヘリーナにも理解は及んでいない様であり少し安堵をしてしまう。

 

「ダークマタとは原子と呼ばれる物質より更に小さな粒から成り、それらを瞬時に組み合わせて想像をしたアイテムを創造する技能。故に名前は【創成】だ」

 

「は、はぁ……」

 

 生返事になるがそこら辺は仕方がない、ダークマタなんて完全に知識の埒外。

 

 少なくともトータスには無い概念なのだから。

 

「兎に角、僕はこうやって自分の好きな時に、好きなアイテムを創り出せるんだと覚えて措けば良いよ」

 

「そ、そうしますわ」

 

「そうですね」

 

 リリアーナもヘリーナも理解を諦めた。

 

 ユートの【創成】とは、昔から使っていた【錬成】と呼ばれる、ハルケギニアに於ける魔法――【錬金】が進化した魔法だったのが【カンピオーネ!】主体の世界で、智慧の女神であるメティスから権能を簒奪した際に【叡智の瞳(ウィズダム・アイ)】と共に進化した技能である。

 

 【叡智の瞳】はより視える【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】に、【錬成】はよりあらゆる物を造り……創る【創成】に。

 

 最早、ユートにとっては素材とはダークマタで賄えてしまい、腕輪型の魔導具は云うにも及ばずであり、その気になれば機構さえ識っていれば機械類すらも、ダークマタから創造可能。

 

 いちどでも創造したら、何処ぞの錬鉄の如く記録をされるから、いつでもポンと出せる訳である。

 

「折角だからリリアーナ、ちょっと腕を出してみ?」

 

「え、はい」

 

 何をしたいのか激ニブではないリリアーナはすぐに理解し、ドキドキと胸を高鳴らせながら左腕をユートへと差し出す。

 

 カチャリと二の腕に填められた腕輪、それはまるで誂えたみたいにリリアーナの美を引き立てていた。

 

 謂わば初めての男の子からのプレゼント、恋い焦がれた相手からでは無いにしても、自分は王族なのだから自由恋愛なんて以ての外であり、少しくらいは夢を視ても良いだろうと思い、嬉しそうにはにかんだ。

 

 羨ましそうなヘリーナに対しては、ワンポイント的なブローチを創造してから胸に着けてやる。

 

 台座はプラチナであり、円形の中央に紅玉を填めたブローチが、ヘリーナの大きな胸に品良く輝く。

 

 リリアーナもヘリーナも女な訳で、こんなプレゼントを貰っては嬉しさの笑みを隠せない。

 

 勿論、蛇蝎の如く嫌っている相手からならポポイのポイだったろうが、ユートからならちょっと嬉しかったのは内緒にしたい真実。

 

「じゃあ、地球の物語……そうだな【かぐや姫】でもいってみるか? だから、リリアーナ姫も」

 

「リリィ」

 

「うん?」

 

「私達だけの時はリリィと呼んで下さい」

 

「愛称でか?」

 

「はい」

 

「じゃあ、リリィ」

 

「はい」

 

 漫画日本昔話的な物語をユートが語り、リリアーナ――リリィはトータスに伝わる昔話を語った。

 

 昔話は勿論だが虚構なども多いが、場所によっては真実を詠う場合もあるし、モノによっては真実を覆い隠す場合もあった。

 

 故にファンタジー世界に来たら、民間伝承などから情報を集める事もある。

 

 何しろユートの経験上、単なる昔話がある意味では超が付く程、重要な情報だった事が山程にあるから。

 

 例えば、ユートが勇者をやったDQ世界に於いて、幼馴染みが語る勇者ローシュの昔話で、勇者が星になったと語られる赤い星……それが実は勇者処か邪神の本体を封じたモノだとか。

 

 だからこそ仮に民間伝承でも、決して莫迦に出来たものでないと調べている。

 

「では私は……そうですね……【ライセン大峡谷の怪】といきましょう」

 

 端的に聞いてみて取り敢えず判った事、ライセン大峡谷の『ライセン』というのが国や街の名前が今とは違うくらい、それこそ現在で最も古いハイリヒ王国も無かった時代、とある国の貴族の姓であった事。

 

 そしてライセン大峡谷は魔法が使えず、凶悪な魔獣が棲み着いて聖光教会――聖教教会の前身の異端者を処刑する場所として使われていたらしい。

 

 それ故に異端者の不浄な悪霊が今尚、成仏もしないで漂って人々に祟る……というのが【ライセン大峡谷の怪】という事だった。

 

 具体的な霊障も一応だが聞いたものの、祟る部分に関しては首を傾げるだけ。

 けど【ライセン大峡谷】は覚えておこうと思った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝からは普通に訓練が開始されており、ステータスプレートに書かれた天職や技能に応じて、それぞれに鍛えていく方針らしい。

 

 勇者の天之川光輝。

 

 剣士の八重樫 雫。

 

 拳士の坂上龍太郎。

 

 治癒師の白崎香織。

 

 いつもの四人組は所謂、【勇者】パーティ的な扱いであり、天職からして鍛え方が非常に判り易い。

 

 正にクラスの中核となるパーティであろう。

 

 人が複数居れば派閥というものが出来上がる。

 

 勇者(笑)パーティ。

 

 永山パーティ。

 

 園部パーティ。

 

 檜山パーティ。

 

 こんな感じにパーティを組んで、それが一種の派閥みたいな感じで訓練にも臨んでいった。

 

 勿論、無所属的な派閥を組まないはぐれ者なんかもやはり居る。

 

 南雲ハジメが代表格で、ハジメは数値が絶対的に低いし、非戦系職でありふれていて周囲からしたら余り使えない天職、パーティに入れたくないのが普通だしハジメ本人も入るのは気が進まなかった訳だ。

 

 ユートも同じくだけど、違いとしては日本でも仲の良かった園部パーティと、訓練をしていたりする。

 

 投術師の園部優花。

 

 操鞭師の菅原妙子。

 

 氷術師の宮崎奈々。

 

 元々が仲良し三人組で、パーティとしてはもう一人くらい欲しい処だった為、ユートに声を掛けた……のは菅原妙子と宮崎奈々。

 

 園部優花はそれを真っ赤になりながら止めたのだけど、二人の強引DEマイウェイなパーティ勧誘に苦笑いしながら入った形だった。

 

「じゃあ、ちょっと試しに君らの理想的な戦い方ってのを見せようか。其処から見取り稽古的に色々と技術を盗んでくれ」

 

「わ、判ったけど……緒方ってそんな事が出来たりするんだ?」

 

「まぁね」

 

 少し不良娘っぽい風貌ながらも、園部優花は可愛らしい性格で実家の手伝いも普通にする良い子であり、洋食店【ウィステリア】のお客さんからの受けも可成り良かった。

 

「うわっ!」

 

「すごっ!」

 

「これは……」

 

 それはまるで舞い。

 

 神に捧ぐ神楽舞いの如く軽やかな動きで舞い躍り、短剣を次から次へと投擲をして、全てが的となっている藁人形へ命中していく。

 

 しかも藁人形では判り難いが、命中した全てが急所を的確に突いていたのだ。

 

「【緒方逸真流投擲術】……そして【緒方逸真流操鞭術】だ!」

 

 今度は鞭を取り出してやはり舞い踊るかの動きで的へ鞭を放ち、しかも投擲から鞭へ移行するのも流れるかの様にスムーズだった。

 

 思わず見惚れるくらいに巧い技術に目を奪われた園部優花達。

 

「おいおい、お城で舞踏会でもやるのかよ?」

 

 其処へ檜山一派が来て、ニヤニヤしながら茶々を入れてくる。

 

「え〜っと、誰だっけ?」

 

「あ?」

 

「おい、巫山戯てんのか」

 

「俺らを知らねってよ!」

 

「舐めてんじゃねー!」

 

 檜山大介が憤り、他三人も怒りを露わにしてユートへと怒鳴る。

 

「いや、知らんがな。話した事も無い人間を名前すら知る筈が無いだろうしな。だいたい、お前らの固有名詞を覚える価値があるのか?」

 

「てめえ、ぶっ殺すぞ!」

 

 怒り心頭でユートを囲むハジメ命名、小悪党四人組が武器を構えてきた。

 

「ちょ、やめなさいよ! 檜山、中野、斎藤、近藤! 四人で囲むとか有り得ないでしょうが!」

 

「はっ、訓練だよ訓練!」

 

 檜山大介が園部優花からの抗議に反論する。

 

「そうそ、訓練だって!」

 

「ぎゃははは!」

 

「まぁ、訓練でも怪我は付き物だけどなぁ!」

 

 止める気は毛頭無いと、檜山一派が攻撃開始。

 

「そうだな、訓練に大怪我は付き物……ってな」

 

 ユートは口角を吊り上げながら呟く。

 

「さぁ、ショータイムだ。お前の罪を数えろ!」

 

 ユートは手にした短剣を投げ付ける。

 

 カッカッカッカッ!

 

 近藤? の四肢を貫く刃が行き成りドンッ! と、小さな破裂をする。

 

「ギャァァァァァァッ!」

 

「【緒方逸真流投擲術】……【十字壊】+インヒューレントスキル、【ランブルデトネイター】!」

 

 ランブルデトネイターによる爆発は飽く迄も小さなもので、四肢欠損の危機とかは一応無いであろうが、放っておけば大変な事になるレベルで壊れた。

 

 近藤? は剣を持てず、地面をゴロゴロ転がり回りのた打つ。

 

「や、やりやがったな! ここに焼撃をのぞ……」

 

 中野? が叫びながら、魔法らしきを唱える。

 

「長い! 【緒方逸真流操鞭術】……【竜牙】!」

 

 当然ながらわざわざ詠唱を待ってやる理由は無く、再び手にした皮製の鞭を揮って肩へ二連撃を放つ。

 

 魔法は中断されて武器を落とす中野?

 

 肩の骨が砕けてしまい、「いぎゃぁぁっ!」などと泣き叫んでいた。

 

「くそ、ここに……」

 

「いちいち遅いんだよ! 【緒方逸真流操鞭術】……【天竜閃】!」

 

 突き出した腕、グルグルと螺旋を描きながら皮の鞭が真っ直ぐ斎藤? の顔に直撃をする。

 

「あぎゃぁぁああっ!?」

 

 強制バク転をしながら、斎藤? と思われる男は吹き飛んだ。

 

「よくも!」

 

 檜山大介が怒り憤って、ユートに突っ込む。

 

 軽戦士を天職としている檜山大介は、軽い鎧と剣で身軽さを武器に戦うタイプと云えた。

 

「身軽と軽い剣撃は意味が違う!」

 

 いつの間にその右腕に、パイルが付いた青い籠手を装備したユート、檜山大介の剣を躱して腹にパイルを当てて……

 

「どんな装甲でも撃ち貫くのみ! リボルビング・ブレイカァァァァーッ!」

 

 ガンガンガンガンッ!

 

 回転式弾倉から弾丸を撃ち放ち、パイルバンカーへと衝撃を伝えた。

 

「げは、がはっ! ぐふ! あじゃぱぁぁぁっ!」

 

 ぶっ飛ぶ檜山大介。

 

 既にユートの右腕は元の生身に戻っている。

 

 死屍累々とはこの事で、四人は痛みに泣き叫びのた打ち回る中心で、ユートは薄ら笑いを浮かべていた。

 

「何をしているんだ!」

 

「ああ、正義(笑)の味方様がお前らを助けに来てくれたぞ? 小悪党な四人組を……な」

 

 固有名詞は覚えてなかったがハジメが何だかそう呼んでいた気がする。

 

「な、何て酷い事を!」

 

 天之河光輝がやはりというべきか早速非難の声をユートに対して上げた。

 

 白崎香織が治癒師としての腕を振るう。

 

 小さな治癒魔法では間に合わないと、もう一人居る治癒師の辻 綾子を呼んでの治癒となった。

 

「どうしてこんな虐めをしたんだ、緒方!」

 

「虐め? 四人で囲って一人に対し武器や魔法を向けるのが虐めだと認識するなら兎も角、一人でそれに立ち向かった無能極まる錬成師に虐められる……ねぇ?」

 

「そうよ、天之河。檜山達は訓練とか称して緒方を囲んで結果、返り討ちに遭ったってだけよ!」

 

 園部優花が訴える。

 

 本人は否定するだろうが友人二人からして、明らかにユートへ好意を持っている彼女は、ユートが本当に一方的な理由で暴力を振るったなら未だしも、理由が理由だけに庇うのは当然の流れであった。

 

「訓練だからって明らかにやり過ぎだろう!」

 

「つまりはあれかな? 天之河としては、僕が……名前何だっけ? こいつらからリンチを受けていれば満足だと言いたい訳だ?」

 

「違う、そうじゃない!」

 

「いいや、そうだろうね。恐らくそうなっていたらお前は『やられる緒方にも問題があったんじゃないかな?』とか言って、リンチをした小悪党四人組の擁護をした挙げ句、加害者である連中を被害者に祭り上げるくらいはしたろうな」

 

「なっ!?」

 

 言い掛かりにも程があると言いたかったが……

 

「心当たりがあるだろ? 白崎と八重樫ならな」

 

 天之河パーティの女子、二人に対して質問をされて言い募れない。

 

「えっと……」

 

「う〜ん」

 

 しかも白崎香織も八重樫 雫もそれを否定しなかった。

 

「香織、雫?」

 

 沈黙が雄弁に……それは取りも直さず白崎香織も八重樫 雫も天之河光輝がそれをすると、そう考えている証明であったと云う。

 

 

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第4話:約束や契約は守ってなんぼ

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 訓練所でのいざこざで、ユートはメルド団長に呼ばれて一種、事情聴取みたいな感じで話をしている。

 

「優斗……お前が無抵抗な大介達を傷付けたとか云うのは本当か?」

 

「ふーん、それは誰が?」

 

「誰でも良い」

 

「良くは無いな。それともハイリヒ騎士団では事情を曲げて他者を裁くというのが御家芸か?」

 

「な、何?」

 

 行き成り騎士団にまでの波及に言葉が詰まった。

 

「もう一度訊く、それを伝えたのは……誰だ?」

 

「事情を聴いているのは、寧ろ此方なんだがな……」

 

 何故か自分が事情聴取をされ遂、メルドは頭を抱えたくなってしまう。

 

「ったく、光輝だ」

 

「成程、勇者の言葉だから丸っと信じて断罪か。碌でもない国と騎士団だな」

 

「違う! 当然、全て正しいなんて思ってはいない。だから聞かせて欲しい! 若しかしたら何らかの誤解があるかも知れん!」

 

「誤解があったら寧ろ……えっと、小悪党四人組の方に非があると認めるに等しいんだけどな」

 

「む?」

 

「まぁ、良いか。訓練中、僕は園部達……メルド団長には優花達と言った方が通りも易いか?」

 

「そうだな」

 

 ユートは基本的に名前で呼ぶが、この世界では余程の親しい相手以外は地球に於いて苗字呼び。

 

 此方ではトータスの人間に限り、ファーストネームで呼ぶ様にしている。

 

 だからメルド・ロギンスはメルド団長だった。

 

 現状、地球での名前呼びは南雲家の面々のみ。

 

「彼女らと訓練していた。其処へ小悪党四人組」

 

「待った」

 

「何だ?」

 

「その小悪党四人組とは、つまり大介達の事か?」

 

「大スケベ? 変態変質者って意味かな?」

 

「もう良い、続けてくれ」

 

 初めから覚える気が無いと諦める。

 

「連中が絡んできた」

 

「絡んできた?」

 

「僕の戦い方は基本的には家の伝統武術、【緒方逸真流】というのを使ってる。八重樫が八重樫流って剣術を使う様に……ね」

 

「成程……」

 

 別に珍しくもない話。

 

 武術の流派が有るなら、それを使った方が良い。

 

「僕の使う【緒方逸真流】は基本動作が舞い。舞踏を以て武闘と成すっていう、だから見た目には踊っている様にも見えるだろうな」

 

 愚直実直武骨なメルドには解り難いが、舞いが武の動きに直結するのもまた、珍しい訳ではない。

 

「それでからかい半分に、連中が絡んできた訳だけどまぁ、自分達が独り身なのに僕が女子と愉しそうだからやっかみ半分かな?」

 

「むう、それは……」

 

 判らないでもないのか、メルド団長は眉根を顰めて唸るしかない。

 

「これは声を録音した物」

 

 正確にはサーチャーを予め撒いて、拾った声を別の媒体に乗せた物だ。

 

『ちょ、やめなさいよ! 檜山、中野、斎藤、近藤! 四人で囲むとか有り得ないでしょうが!』

 

『はっ、訓練だよ訓練!』

 

『そうそ、訓練だって!』

 

『ぎゃははは!』

 

『まぁ、訓練でも怪我は付き物だけどな!』

 

『そうだな、訓練に大怪我は付き物……ってな』

 

 園部優花の止めようとする声、それを嘲笑っている檜山大介に続く中野? と斎藤? と近藤の四人組。

 

 声からもそれは聴いて取れて、明らかにユート一人を四人組が囲んでいるのが判る内容だった。

 

「その後、攻撃をしてきた小悪党四人組に併せて反撃はしたな。それで? 何処ら辺が無抵抗な連中を一方的に攻撃しているのかな? 寧ろ教えて欲しいな」

 

「そ、そうだな。確かに、これは申し開きのしようも無いだろう。済まなかったな優斗」

 

 メルド団長も理解して、ユートに頭を下げる。

 

「へぇ……」

 

 まさか騎士団長の地位に在るメルド団長が、勇者の同胞とはいえ外部では一介の平民に過ぎないユートに頭まで下げるとは。

 

 正に愚直で実直な彼らしいのかも知れなかったが、ユートはメルド団長の評価を上げるしかない。

 

(彼の……メルド団長からの訓練を受けていれば死ぬ確率、僅かながら減らせるのかも知れないな)

 

 戦争に絶対など無いし、幾らユートが無双しようが数に対抗するにはやっぱり限りがあり、それこそ全てを解放しなければならないくらいだ。

 

 だが、自分達を召喚したエヒトなる神がどう出るのか判らないし、今は教会と断絶するのも良くない流れになりかねない。

 

(侭ならないな)

 

 個人戦ならばどうとでもするが、やはり戦争となると勝手も違う。

 

 どちらにせよユートが死ぬ事は無いだろうが……

 

「然しな、どうして光輝はあんな嘘を吐いたんだ?」

 

「本人に嘘を吐いたなんて自覚は無いな」

 

「どういう意味だ?」

 

「天之川は自分の中で勝手に物事を咀嚼し、自分の中の正義に当て嵌めるという悪癖があってね。御都合解釈主義ってやつで、天之川が僕が無抵抗な小悪党四人組をいたぶったと言ったのなら、天之川の中ではそういう事になっているんだ」

 

「なぁっ!?」

 

「事実と齟齬があろうが、自分の中で都合の良い解釈をして、自分の正義感ってのを満足させる。だから、無自覚無意識に虐めをしても気付きもしない。誰かを陥れてもアイツの中では、正義を執行しただけさ」

 

「なんて歪んだ人間性だ」

 

「普段の言動や容姿端麗、文武両道な外面が良過ぎて一部を除き、それを理解もしていないだろうね」

 

「一部とは?」

 

「僕とハジメと白崎と八重樫……くらいか」

 

「前者二人は兎も角として後者、香織と雫は幼馴染みだから……か?」

 

「ああ、脳筋な坂上は自分で考えるのを放棄してるんでね。理解してないな」

 

 こうなると、勇者だからと天之川光輝の言葉を信じ過ぎるのも問題だろうと、やはり頭を抱えたくなったメルド・ロギンスだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後は適切な処断が成され、先ずユートは訓練中の実剣使用は怪我もあり、それを咎める必要性無しとされたが、やはりやり過ぎという事もあって厳重注意となった。

 

 小悪党四人組は訓練と称して行き成り四人で囲み、訓練という名のリンチにしようとして返り討ちに遭った訳で、怪我が治ったなら基礎から訓練をすると厳しい処分が与えられる。

 

 勿論、天之川光輝が抗弁したが聞き入れられる事は無かったと云う。

 

 食事も終わって食休み、そしてハジメの部屋へ。

 

「よ、ハジメ」

 

「優斗……あのさ、檜山君達と争ったみたいだけど、大丈夫だったの?」

 

「檜山……誰だそれ?」

 

「え゛?」

 

 ハジメは頭を抱える。

 

「一応、教えておくから」

 

 仕方がないとハジメは、小悪党四人組の名前を順番に挙げていく。

 

「リーダー格が檜山大介、次に近藤礼一、中野信治、斎藤良樹。これが優斗の言う小悪党四人組だよ」

 

「興味無いな」

 

 キッパリと言われガクリと項垂れた。

 

「まぁ、良いんだけどね。それで昨日の続きだけど」

 

「そうだな。先ずは貰った手袋を見せてくれるか?」

 

「え、錬成用の魔法陣が描かれた手袋だよね?」

 

「勿論だ」

 

「う、うん。判ったよ」

 

 ハジメが取り出したのは唯一、ハイリヒ王国から貰った道具である。

 

 ハイリヒ王国は勇者に対して宝物庫の解放を決め、アーティファクトをそれぞれに渡した。

 

 特に勇者たる天之川光輝には、キラキラ輝く鎧やらサークレットに加え、特殊な聖剣まで与えられてる。

 

 だけど戦闘系ではなく、非戦系の天職だったハジメに対して、ハイリヒ王国側もどうすべきか苦慮をした結果、錬成用手袋を渡してお茶を濁したのだった。

 

「ふーん、成程な。こんな程度の物か……」

 

「優斗?」

 

「だいたい判った」

 

「ブッ、君は何処の通りすがりの仮面ライダー?」

 

 実は世界の破壊者的な力は持っているが、ハジメも流石にソコまで知らない。

 

「これならこいつで普通に良いな」

 

「? これは……」

 

 腕輪に見えるが装飾品というより、何だか機械的に見えて異質である。

 

「これはCADという」

 

「CAD?」

 

術式補助演算機(Casting Assistant Device)と云ってな、魔法の補助をする為の演算用機器だ」

 

「それって?」

 

「早い話が紙や鉱物に術式や魔法陣をいちいち書き込まなくても、そいつを軽く操作してやればやりたい事を代わりに演算してくれるって訳だ。詠唱も要らん」

 

「そんな凄い物が!?」

 

「ああ、元々は超能力を使うエネルギー【PSYON】用だったのを、魔力で扱う用に改造していたやつだ」

 

「えっと、くれるの?」

 

「僕には使い途も無いし、ハジメなら必要だろう? どうやらこの世界の人間は魔力の操作が出来ないみたいだし、それならば術式を肩代わりする機械は便利な代物だからな」

 

「あ、ありがとう」

 

「構わんよ。どうせ雫に渡す用に造った失敗作だし」

 

 ボソリと呟く。

 

「? 何か言った?」

 

「何でも無い」

 

 目を逸らしながら本当に何でも無い風を装おう。

 

「それじゃあ、座学を始めるぞ」

 

「はい!」

 

 錬成についての教授が、今夜もまた始まった。

 

 とはいえ、座学なんてのは大した事も言えない。

 

 そもそもがユートだって【創成】は感覚的にやっており、頭の中であれこれと考えてる訳ではなかった。

 

 必要なのはイメージ。

 

 勝利のイマジネーションとか叫んだ時もあったし、創りたい物を具体的に想像して実体化、創造するのがユートのやり方。

 

 イメージの強さ具体性、出来れば細かな機構なども確りしていれば、創造した際の手助けとなるだろう。

 

 要は集中力(コンセトレーション)想像力(イマジネーション)、錬成を上手くやるにはそれを念頭に置いた上で、後は数を熟して慣れていくしかない。

 

 ユートの教えを受けて、ハジメは錬成を開始する。

 

 対象となるのは青銅。

 

 嘗て、青銅のギーシュが得意としていた金属錬成、取り敢えずはこれで青銅製ゴーレムのワルキューレを造るのが目標。

 

 錬成の魔法陣が入っている手袋ではなく、CADを使っての謂わば初錬成。

 

「うわ、結構やり易い」

 

「兎に角、数を熟さない事には上手くならないけど、単に数だけ熟しても駄目なんだよな」

 

「そうなの?」

 

「一つ一つ丁寧に造る事を心掛け、完成した品は量産が出来る様に何らかの形で記録しておく」

 

「き、記録?」

 

「前回、話した錬鉄の英雄は自身の心象風景に記録していたと言ったろ?」

 

「た、確かにそうだけど」

 

「僕も似た感じだ。僕の中には広大な世界が存在し、その中には創った物が記録されている」

 

「うう……」

 

「ま、ハジメの場合は普通に出来ないからな。CADに記録が出来るから心配はしなくて良い」

 

「ホントに!」

 

 ユートが渡したCAD、それは元々はとある少女に渡すべく製作していた物、だけど失敗してしまったから御蔵入りしていた。

 

 それを昨夜、リリアーナの所で夜更かしした後に、ちゃちゃっとハジメ用へと改造をしたのである。

 

「さて、ハジメにも目標は必要だろうね」

 

「目標?」

 

「頑張っていれば騎士団の使う剣や鎧程度は、数日もあれば作製が出来る様にもなるだろう」

 

「そうかな?」

 

「少なくとも僕は出来た。とはいってもハジメに出来なきゃならないとは決して言わない、だが出来ないと目標なんて泡沫の夢だ」

 

「その……目標って?」

 

 ユートはアイテムストレージから、一つの機器を取り出して見せた。

 

「……へ? こ、これは……まさか!」

 

 何だか顔みたいにも見えるが、それは手の指に填めて使う機械だ。

 

「イクサナックル!?」

 

 そう、仮面ライダーキバに登場するライダーシステムの仮面ライダーイクサ、それに変身する為のツールデバイス。

 

「可成り初期に造っていて忘れていたモンだ」

 

「わ、忘れていた?」

 

 ユートはベルトを装着、そしてイクサナックルを填めて左掌で押す。

 

《READY……》

 

 機械的に区切りながら、電子音声が流れてきた。

 

「変身!」

 

 イクサベルトに合着。

 

《FIST ON》

 

 その瞬間、粒子化されていたイクサスーツが形を持って爆現、ユートに装着をされる形で変身完了した。

 

「ほ、ホントに変身した? 仮面ライダーイクサに」

 

 仮面ライダーなんて居ないと発言したハジメだが、目の前には確かに仮面ライダーの姿が在る。

 

「さっきも言ったんだが、こいつは忘れていた物だ。実は完成してない」

 

「それって……」

 

「要するに過去編で使われたイクサと大差無いんだ」

 

「ああ、バーストモードやライジングイクサには成れないんだね」

 

 意味を漸く理解した。

 

 確かにそれは未完成でしかないのだろう。

 

「残念ながらね。完成品という意味だとそんな数は無いからな」

 

 殆んどが聖魔獣を使った仮面ライダーで、純然としたライダーシステムは数点しか造ってはいない。

 

「僕に出来るかな?」

 

「イクサは難しいだろう、躯体の粒子化が出来ない。だから造るならG3だな」

 

「仮面ライダーG3」

 

 【仮面ライダーアギト】に登場するパワードスーツタイプの仮面ライダーで、警視庁の氷川 誠が装着員となって戦った。

 

 量産型仮面ライダーでも基本的に、単純な機械仕掛けではないから粒子化などが出来ないと難しいけど、仮面ライダーG3は違う。

 

 装着なのだ。

 

 つまりは粒子化しなくて済む唯一の仮面ライダー、そして頑張れば錬成で造れない事もない。

 

 まぁ、機械的なものではなく仮面ライダーの鎧としてではあるが……

 

 専用兵装と共に造り上げれば、非戦系のハジメでも充分に戦える筈だ。

 

「仮面ライダーG3の鎧、そして現代兵器を造れ」

 

「……」

 

「約束しよう」

 

「約束?」

 

「若し、仮面ライダーG3を完成させたなら、某かの御褒美をやるよ」

 

 そういうユートの口角は吊り上がり……『付いて来れるか?』と訊いていた。

 

 だからハジメも口角を吊り上げて約束する。

 

「造るさ! 約束、忘れないでよ優斗!」

 

 そして何故か交わされるフォーゼ式友達拳骨。

 

 交わされた約束が果たされるかは疑問も残るけど、ハジメは兎にも角にも言われた青銅製ゴーレム錬成に力を入れた。

 

 何よりも造りたいという想いが迸るから。

 

「そうだな、近場の約束として騎士団に卸せる武具を完成させて、実際にメルド団長に渡せるレベルになったら、何か魔法が使える様にしてやるよ」

 

「ホントに?」

 

「ああ、だから頑張れ」

 

 ユートの教えを受けて、ハジメの錬成の技能はメキメキ上がる。

 

 ユートが持つスキル……【教導:B】は今日も良い働きをしたものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さて、そろそろ恒例化しても良さそうな異世界交流といきますか」

 

 リリアーナの部屋にて、ユートはリリアーナとヘリーナの二人に言う。

 

 まだまだ三日目だけど、それでも毎日の事だ。

 

「そうですわね」

 

「明日からも恒例と致しましょう」

 

 どうやら二人に異存など無さそうだった。

 

「そういえば、南雲さんに錬成の授業をしているとか聞きましたが、どんな感じでしょうか?」

 

「うん? 僕が教えたんだから上手くなってくれないと困るかな? 取り敢えずは騎士団の武具を錬成させてみようかとね」

 

「成程、非戦系の天職でも役立つのですわね!」

 

 何とか役に立たないと、恐らくは天之川光輝辺りが嫌味を言ってくるだろう、檜山大介が虐めの的にしかねないのもある。

 

 ハジメの才能ならば間違いなく、畑山愛子先生と並び立つ存在になれる筈と、ユートはそう思っていた。

 

「そうです! 今夜は我が国の御菓子を用意しましたから、此方を食べてみませんか?」

 

「へぇ、なら御言葉に甘えてみようか」

 

「フフ」

 

 微笑みながらヘリーナに持って来て貰う。

 

 わざわざ用意するだけあってか、確かに美味しそうな御菓子が出てきた。

 

「では、どうぞ」

 

「お姫様が手ずからか?」

 

「フフフ、あ〜ん」

 

 どうやら市井のあれこれを勉強したらしく、愉しそうに『あ〜ん』をしてくるリリアーナに、ユートは口を開けて御菓子を口内へと入れて貰う事にする。

 

「はぐ」

 

「はぇ?」

 

「ペロッ」

 

「ひゃうっ!?」

 

 リリアーナは指にまで食い付かれ、更には舐められておかしな悲鳴を上げた。

 

 ちょっとしたイタズラの心算だったが、市井で流行っているとヘリーナから聞かされたから、身近でいて家族ではない異性で更には年齢が程近い異性として、ユートにやってみたら斜め上の行動。

 

 リリアーナは頬が熱くなるのを感じる。

 

「わ、私の指は美味しかったでしょうか?」

 

「う〜ん、悪くなかった」

 

 ボンッ! と瞬間湯沸し器も斯くやで真っ赤にそまる顔、恥ずかしいのだろう視線が定まらず彷徨う。

 

「も、も、もう少し召し上がりますか?」

 

 何てとんでもない事を、遂々口走るくらいにテンパっていたらしい。

 

「じゃ、遠慮無く」

 

 指から手の甲へ、更には手首から腕へと少しずつだが上に向かう舌。

 

 リリアーナは何処か恍惚とした表情で、その情景を瞳をトロンと蕩けさせながらみつめていた。

 

 時折、嬌声が出てしまいそうになるのを、もう片方の手で口を押さえて何とか留めている。

 

(あれ? 私、何だかイケない遊びを覚えています? だけど何だか……こんなゾクゾクしてしまって抗えませんわ!)

 

 ふと涙すら浮かべて潤む碧い瞳を横に移すと……

 

「ハァ、ハァ……」

 

 ヘリーナが自分の指を舐めているのが見えた。

 

 自分がされているのを、想像しているのだろう。

 

(ひょっとして私、チョロいんでしょうか? うう、私は王女なのにチョロいんですね……でも気持ち良くなってますわ)

 

 普通、男にこんな事をされたら不快に思いそうな、それがイタズラ心でヤらせたらハマっているという。

 

 二の腕にまで至ってからそろそろ拙いと思ったが、止める機会を失ってしまって首筋まで至る。

 

「リリィ、美味しいよ」

 

 ゾクゾクッ! 駆け巡るモノが何かは理解が出来なかったリリアーナだけど、脳髄にまで響くユートの声を聞いて、内股になってしまったと思ったてら到頭、耳朶を甘噛みされていた。

 

 ヘリーナを見たら何だか右手がイケない場所に伸びており、本当にイケない遊びに耽っているのだと自覚してしまう。

 

 だけどそれが不意に止まって、思わずユートの方を見たリリアーナは……

 

「もう少し」

 

 潤んだ瞳で上目遣いに、おねだりをしてしまった。

 

 それに応えたユートは、耳朶から頬へと唇を付けて浮かんでた涙を舐め取り、唇を軽くリリアーナの唇に重ねてやった。

 

(あ、これ……私のファーストキスが奪われちゃいました)

 

 その日はもう話し合うとかの雰囲気ではなくなり、おかしな気分の侭で解散という事になる。

 

 翌日もユートは訓練後に夕飯→風呂→ハジメの訓練→リリアーナの部屋というのを繰り返して、その仲も徐々にだが近付いていると云ってよかった。

 

 一週間が過ぎた頃には、ハジメも騎士団へと最初の納品をしている。

 

 約束通り、ユートは褒美にインストール・カードを渡してやった。

 

 【雷撃】と【能力之窓】と書かれた白いカードは、ハジメの中に入り込んだ。

 

 

南雲ハジメ

17歳 男 

レベル:15

天職:錬成師

筋力:18

体力:26

耐性:13

敏捷:40

魔力:73

魔耐:51

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成] 雷撃 能力之窓 ??? 言語理解

 

 

 訓練に身を入れており、相手がユートだったからか上がり幅も、初期値の低さを鑑みれば伸びた方。

 

 自身の能力を視れる魔法――ステイタス・ウィンドウはステータスプレートに書かれた能力が書かれているが、真骨頂は其処にある訳では無かった。

 

 アイテム・ストレージにアイテムを入れる、つまりは容量こそ小さいながらもアイテムボックス的な魔法とも云えるのだ。

 

 武器や道具の予備など、仕舞っておけるのは地味に有り難いし、将来的に完成したG3システムを仕舞っておき、【装備】のコマンドで瞬時に装着が可能。

 

 雷撃を使えば普通の銃にレール加速が付加出来て、レールガンとして弾を撃ち放てるのも魅力だろう。

 

 ハジメは喜んだ。

 

 リリアーナとヘリーナとの夜会は、少しずつ過激にエスカレートしていく。

 

 王族としていつか政略的に嫁ぐ身でありながらも、この関係に心地好さを感じていたリリアーナだけど、やはり政略結婚という王族の務めが邪魔をしていて、最後の一線は守っていた。

 

 だけど、見てしまう。

 

 ユートとヘリーナが柱の影でキスし、肢体をまさぐられ恍惚としていたのを。

 

 ユートのイケない部位をその手で触り、ズボン越しではなく直に撫でるなんてイケない事をしていたのを目撃してしまったのだ。

 

 よもや、わざとリリアーナに見せ付けたとは気付かない為、嫉妬して悔しくて自分は我慢していたのに、ヘリーナばかりズルい! という思いに囚われる。

 

 だから一週間と二日目、ヘリーナが遅刻した不自然さに気付かず、リリアーナは一線を越えてしまう。

 

 その日、白いシーツに赤い染みを残す布団の上で、裸体を晒す男女が居た。

 

 そしてユートは当初からの計画、王宮を離れた際の情報源と報告役にヘリーナとリリアーナを味方に抱き込む事に成功する。

 

 また、今度はハジメへと突っ掛かる小悪党四人組、当然みたいに白崎香織による仲裁があり、天之川光輝も関わってきた。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば訓練の無い時は図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなる為に空いている時間も鍛錬に充てる。南雲も、もう少し真面目になった方が良い。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかも知れないだろ?」

 

 何をどう解釈すればそうなるのか、意味不明な解釈にハジメは呆然となる。

 

 天之川光輝からはまるでサボっているみたいに言われたり、本当に散々な目には遭ったものの、ユートがやって来て庇ってくれる。

 

「訓練の休みに自分の技能を磨いて、知識を得るというのがサボりだとか、頭は大丈夫か? 天之川」

 

「な、何だと!?」

 

「勘違い野郎がいつまでも勘違いしてるな。ハジ……南雲は錬成師、非戦系職なんだから本来は戦いに参加をする必要は無い。訓練も最低限の自衛が出来れば良いんだよ! 必要なのは、天職の錬成師として錬成の技能を高める事だ。それをしてないなら成程、サボりと言わざるを得ないよな。だが、南雲は自分の技能を磨いている。やるべき事をやっている南雲がサボっている? お前、リーダーには向いてないわ。視るべき処も視れず虐めを看過し、本当に努力をして結果を出している者を罵倒するんだからな!」

 

「ぐっ!」

 

「寧ろお前は小悪党四人組の虐めを肯定したよな? 正にお前はリーダーというより勇者失格だわ!」

 

「なっ!?」

 

 実際にハジメはきちんと結果を出していた。

 

 教わった通りに錬成を磨いていき、僅か一週間程度でハイリヒ王国騎士団が使う一般的な剣や槍と同程度の武具を錬成している。

 

 それを騎士団に卸す事もやっていたのだから。

 

 再び問題を起こしたという事で、檜山大介一派への騎士団の当たりは強い。

 

 ハジメが騎士団に良質な武具を卸していたからで、それを非戦系だから無能と蔑む連中を莫迦だと考えるのは当然だからだ。

 

 何やかんやがあったが、最初の訓練から二週間が過ぎて、初の実戦訓練としてオルクス大迷宮に挑む日まで関係は続くのだった。

 

 

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 次は漸く大迷宮へ。




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第5話:月下のちゅうと創成

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 宿場町ホルアド。

 

 ハイリヒ王国のお膝元、冒険者ギルドが存在している程度には大きく、何よりも此処にはオルクス大迷宮というダンジョンが在る。

 

 ユートが、リリアーナとヘリーナを喰って数日後、遂に来るべき刻が来たという訳だ。

 

 移動だけでもそれなりの時間が経過し、勇者一行は今日は宿屋に泊まって翌日からダンジョンアタックに臨む事になる。

 

 ユートは空き時間に少し動こうと考えた。

 

「あれ? 緒方君、何処に行くのですか?」

 

「先生か。ちょっと行きたい場所が道すがらに有ったんでね」

 

「余り遅くなってはいけませんよ?」

 

「先生が今晩の相手をしてくれるなら、早く帰って来るよ?」

 

「な゛!?」

 

 一五〇cmと中学生程度のちみっこさだとはいえ、畑山愛子は二五歳で成人式はとっくに越えた大人。

 

 意味はすぐに理解したらしく、真っ赤な顔になったのは羞恥か怒りか?

 

「こらぁ! 先生をからかっちゃいけません!」

 

「はいはい」

 

 そう言って外出した。

 

 行き先は冒険者ギルド、どうせいずれ近い内に王国を出る心算だし、ギルドに登録すれば素材買い取りに色が付くと聞いたから。

 

「緒方!」

 

「お、園部か」

 

「何処行くのよ? もう遅い時間なのに」

 

 訓練する時にユートは、基本的に園部優花の一派と行動をしていた。

 

 だから、リリアーナ達とは違う場所で仲は良かったと云える一人だろう。

 

「ほら、夜の方が都合の良い施設も在るだろ?」

 

「夜の方……が……」

 

 考えていて赤くなる。

 

「え、それって……しょ、しょう……か……」

 

 口にするのも恥ずかしかったのか、ちょっとずつ声が小さくなっていく。

 

「冒険者ギルドはやっぱりロマンだろ?」

 

「……へ? 冒険者ギルドって、あれ?」

 

「何を考えたのかな〜?  園部のえちぃ」

 

「っ! ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!

 

 全身真っ赤になって走り去る園部優花。

 

「からかい過ぎたか」

 

 だけど反省も後悔もしてはいなかった。

 

 冒険者ギルドで首尾良く冒険者になれたユートは、宿屋に戻って来た際に一人の少女を発見。

 

「うん? あれは白崎香織だよな。部屋はハジメの……まさかヤりに来たとか? 流石に無いかな?」

 

 天職が治癒師の白崎香織は謂わば、パーティを組めば要となる回復魔法が得意だったし、適性云々を鑑みなければ攻撃魔法を使えない訳でもない。

 

 実際、降霊術師たる中村恵里も攻撃魔法を使える。

 

(まぁ、ハジメの激励か何かなんだろうが、ハジメは迷惑がってるんだよなぁ)

 

 モテる美少女が積極的に話し掛けてる訳で、しかもクラス処か学年処か学校でトップを争う【二大女神】の一角ときた。

 

 どれだけ嫉妬の視線に晒されたか、どれだけ小悪党四人組に虐められたか。

 

 実際の内容なんかは見聞きしていない為、ユートは何の用事かまでは判らなかったが、この世界の主人公と目されるハジメからして果たしてヒロインか?

 

(天然で好きな男も居る訳だが、付き合っている訳でも無いし……貰ってしまっても構わないかな?)

 

 王宮を出る時に攫ってしまうかと、白崎香織の先行きを考えていると……

 

(うん? 小悪党四人組のリーダー……だったか? 白崎香織を視ていたけど、ストーカーか何かか?)

 

 檜山大介が居た。

 

 ハジメを虐めている連中のリーダー格なのは判る、だけど名前が出てこなくて未だに小悪党四人組と一括りにしている。

 

 明日には実戦訓練と称して【オルクス大迷宮】に挑むけど、何やら起きそうな予感を犇々と感じた。

 

「あれ、園部?」

 

「やっと帰ってきたんだ。まさか本当にしょ、しょ、娼館とか行ってないよね」

 

「だから冒険者ギルドだと言ったろ? で、部屋まで来て何の用だ?」

 

「話がしたくて……」

 

「恐いのか?」

 

「う゛……」

 

「二人は?」

 

「タエとナナも同じだし、甘えられないでしょ」

 

 確かに、仮にもリーダー格な園部優花が甘えてしまうのも問題か。

 

「外だと他に見られるし、部屋に入るか?」

 

「あ、うん」

 

 相当に心細くなっているのか、頬を朱に染めながらも素直に頷いた。

 

 室内に入った優花は紅茶を出されて一服、人心地が付いて溜息を吐いた。

 

「ねぇ、緒方は迷宮に入って戦うのは恐くないの?」

 

「恐くはないな」

 

「な、何で?」

 

「慣れているから」

 

「慣れてるって……」

 

「僕はこういうのには既に慣れ切ってる。今更、魔物の百匹や千匹が幾ら来ようが殺し尽くすまで」

 

「……強いんだ」

 

「経験値は高いからね」

 

 全く緊張すらしていないのは、園部優花にも見て取れていた。

 

「そうだ、君らに御守りを上げよう」

 

「私達って、タエとナナにも渡せって事よね?」

 

「ああ。少しは君らを守ってくれるだろう」

 

 ユートはちょっと考える素振りを見せると……

 

「こんな感じか」

 

 手に三つの装飾品を持って呟いた。

 

「え……へ?」

 

 驚きに目を見張る。

 

「ベースはどれもプラチナを使ってる。ペンダント型のは紅玉と黄玉でどちらも火属性、火に対する耐性が八〇%に上がる。序でに、スピオキルトを籠めてあるから攻撃力、守備力、素早さが倍になるし、毒や麻痺や石化や混乱や恐怖なんかのデバフを防ぐ護符だ」

 

「な、何だか聞いてる限り凄まじいばかりのお守り。それってもうアーティファクトじゃないの?」

 

「この世界の技術基準ならそうかもね」

 

 【守護のアミュレット】が完成した。

 

「で、これは園部のな」

 

「ペンダントじゃないのは判るけど……」

 

「髪留めのバレッタ」

 

「ああ、成程」

 

「ベースは同じプラチナ、留め具は真鍮。真ん中の石は翠玉で風属性。周りには火の紅玉、水の藍玉、土の柘榴石を配置しているが、石に籠めた属性は適当だ」

 

「適当……なんだ」

 

 意味を持たせた訳では無かったりする。

 

「風属性を八〇%、土火水の属性を五〇%上げてくれる効果に、【守護のアミュレット】と同じバフ効果、デバフ防御効果がある」

 

「そうなの?」

 

「ほれ、後ろ向いてみ」

 

「う、うん……」

 

 大人しく後ろを向くと、ユートが櫛で園部優花の髪を梳き始める。

 

「え、ちょっ!」

 

「動かない」

 

「は、はい……」

 

 顔が真っ赤な園部優花、大人しく梳かれている内に何だか気持ち良くなった。

 

 優しく梳いてくれるし、本格的ではないが好意らしきを向けてる男の子の手、何と表現して良いのか解らない気持ちが湧き上がる。

 

 綺麗に梳かれた髪の毛、其処にバレッタを填めた。

 

「【清廉のバレッタ】だ。アーティファクト級なのは説明した通り。一応は最初に身に付けた人間以外には装備が出来ないけど、下手に晒すと危険だというのは理解出来るな?」

 

「え、ええ」

 

 ユートからしたらちょっと性能の良い魔導具を造った心算だが、この世界……トータスの人間からしたら紛う事無きアーティファクトとういう事だ。

 

「訊いて良い?」

 

「何だ?」

 

「さっきまで無かった筈のペンダントとバレッタ……これっていったい?」

 

「南雲の錬成を知っているよな?」

 

「ええ、確か檜山達からはありふれた職業で世界最弱とか呼ばれてたわ」

 

「ひやま? 誰かは知らんが莫迦なんだな」

 

「どういう事よ」

 

 園部優花も檜山大介程には思わないが、アレは謂わば鍛冶職なら一〇人に一人は持ち、国御抱えの鍛冶師は全員が持つありふれたと言わざるを得ない職業。

 

 加えて初期能力値なんかオール10、これでは幾ら上がっても大した数値にはならないし、レベルが最大にまでなっても果たして、どの程度になるものか。

 

「南雲の天職は錬成師で、その能力は錬成。こいつは極めれば化けるタイプで、本当に究極にまで鍛えたら如何なるアイテムも製作が可能な、下手したら化け物染みたモノを造れる力だ」

 

「う、嘘でしょ流石に」

 

「事実として、君に贈ったバレッタと二つのペンダントは遂さっき、僕が錬成と同じタイプの力で創り上げた物だからね」

 

「……マジに?」

 

「この世界風に云うなら、技能:創成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+汎暗黒物質生成][+精密生成][+圧縮生成][+宝石創造][+金属創造][+魔法付加][+瞬間創造][+鉱物融合][+量産生成][+消費魔力減少][+妄想力強化][+機械生成][+服飾生成][+生機融合][+概念付加]……って感じだろうな」

 

「な、何よそれ? だいたい汎暗黒物質っていったい何なのよ?」

 

 某【とある】の未元物質とは少し意味が違う物で、早い話がニュートリノだのアキシオンだのタキオンだの素粒子といった物が暗黒物質だけど、汎暗黒物質とは未分化の汎用的に扱える代物だ。

 

「ダークマタとも云って、ざっくり原子より更に小さな物質だと考えれば良い。これを原子に、更に分子にして物質化させる技能だ。何も無い所から創った様に見えて、実際には汎暗黒物質を練り上げて創ったんだ。想像の侭に創造をしてね」

 

「じょ、冗談……じゃなさそうよね。南雲も同じ事が出来るって事?」

 

「其処までじゃないだろ。とはいえ、素材さえ有ればアーティファクトを自由に造れてもおかしくないな」

 

 ゴクリと固唾を呑む。

 

「既にある程度は教授しているからね、後は南雲自身のやる気次第か」

 

「何処までやれると思っているの?」

 

「そうだな、最低限で現代兵器くらいは造れるんだろうね。派生技能がどれだけ得られるか……だけどな」

 

「買ってるんだ、南雲を」

 

「自分と似た技能持ちだ、色々と教えたくなるさ」

 

「そうなんだ……」

 

 園部優花は冷めてしまった残りの紅茶を飲み干す。

 

「装飾品は贈ったけどさ、対価次第で武器も創って上げるよ?」

 

「対価? とはいっても、私はお金なんて無いし」

 

 日本のお金なら僅かながら持ってるが、女子高生の常識的な金額に過ぎない。

 

 況んや、トータスの通貨ルタなんて一ルタも持ってはいなかった。

 

「お金である必要は無いと思うけどな」

 

「お金……以外……ね」

 

 フッとユートを見ると、行き成り頬を赤くしたかと思えば……

 

「んっ!」

 

 ユートの唇に自分の唇を重ねてきた。

 

 固く閉じた目を開けて、園部優花は驚愕して後ろへと下がり、あわあわと両手をバタバタと振りながらも言い募る。

 

「ち、ちがっ! 頬っぺ、頬っぺに軽くの心算で!」

 

 思い切りが良すぎた自分の行動と失敗、羞恥の余り涙目になって言い訳した。

 

「んむっ!?」

 

 テンパる園部優花の肩を掴み、今度はユートから唇を重ねると、開いた口から舌を侵入させて舌同士を絡ませてやる。

 

「ん、んんっ!?」

 

 驚愕に目を見開きつつ、絡まる舌の感触を味わっている園部優花、目がトロンと蕩けて閉じてしまう。

 

 溜まっていた涙が一筋、頬を伝って床に落ちた。

 

 何秒? 或いは何分間をそうしていたのか、ゆっくりと唇が離れて互いの混ざり合った唾液で橋を架け、ある程度まで唇が離れたら真ん中から途切れる。

 

 未だに夢心地な侭な瞳でボーッとする園部優花を、ユートはソッと抱き締めた状態でいた。

 

 端と我に返った園部優花はユートの胸に顔を埋め、プルプルと肩を震わせながら服の端を掴んでくる。

 

 恥ずかしさからユートをまともに見れないのだ。

 

 頬にキスだけでハードルは高かったのに、間違えて唇にファーストキスを捧げてしまい、今度は本格的なディープキスで二度目を奪われた訳だから。

 

 見た目には遊んでいそうなギャル風だが、その実は純情可憐な女の子である処の園部優花に、この現実は耐えられるものではない。

 

 多大な犠牲を強いられ、対価を支払った園部優花は確かに、強力な武器を創成して貰ったのである。

 

 【回帰の短剣】と名付けられたこれは、投擲用短剣が一二本セットで入っているホルダーで、投擲したらまるで補充されるかの如くホルダーに戻ってくる仕様な上に、魔力を流し込めば刃の切れ味や貫通力を流した魔力に応じて上げる。

 

 また、魔法を籠める事で魔法剣状態にして投擲するなどの効果もあった。

 

 更に簡単な自己修復効果を持つ為、基本的にメンテ要らずの武器である。

 

「無茶苦茶な性能よね」

 

「“優花”の唇の代償だ、良い物を張り切って創るくらいはするさ」

 

「っ! ばか……」

 

 俯きながら小さく呟く様に言ったものだった。

 

 足早に部屋に帰った優花は早速、渡されたペンダントを菅原妙子と宮崎奈々に渡しておく。

 

 その後に色々と邪推? されてしまったが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 オルクス大迷宮。

 

 反逆者オルクスが造ったとされる迷宮、魔物がどうやってか次々に湧いて出る厄介な場であると同時に、魔石を得られる冒険者にとって稼ぎ場でもあった。

 

 その入口はまるで御祭り騒ぎの様相を醸し出して、人人人でぎゅうぎゅうに犇めき合っている。

 

 その中にはユートが普通に居たし、キョロキョロとする南雲ハジメも居た。

 

 天之川光輝のグループ、永山重吾の派閥、檜山大介の小悪党四人組、園部優花のチームなど他にも幾つかグループを作っているのがちらほらと。

 

 ユートとハジメはソロに近い中立だろうか?

 

 目立つのは騎士に囲まれている畑山愛子だった。

 

 愛子の天職は作農師で、ステータス数値は魔力以外はハジメと変わらないが、魔力だけなら天之川光輝と同じく100で、技能欄には作農師に相応しい技能が所狭しと並んでいる。

 

 メルド・ロギンス達からすれば、ある意味では勇者な天之川光輝より驚愕して称賛し迎えたものだった。

 

 食料事情が一変する程の伝説的技能だったから。

 

 戦闘力はこの際は問題で無くて、作農師という天職はこの地の誰もが垂涎の的として見る。

 

 戦闘なんて以ての他で、本来ならオルクス大迷宮に入るなど有り得なかった。

 

 なのに愛子が此処に来ているのは、偏に耳許で囁かれた言葉を気にしてだ。

 

『生徒を危険な迷宮に送り込んで、自分は作農師という天職に甘えて安全な場所で見ているだけ』

 

 この二週間、そんな囁きが毎日毎晩と続いていて、ノイローゼにでもなりそうな状況だった。

 

 だからこそ、最初の一日だけでも生徒達と大迷宮に入って、その大変さを経験しておきたいと我侭を言ってしまったのである。

 

 悩んだメルド・ロギンス騎士団長だが、熱意に圧されて騎士達でガチガチに囲い込んだ上で戦わせない、そんな条件で今日だけという約束をして連れて来た。

 

 尚、原典では当然の事ながら大迷宮になど入ってはいないし、その間は普通に各地を巡って農作業の手伝いをしていたのである。

 

 オルクス大迷宮は緑光石という特殊な鉱石が多数埋まっている為に、灯りが無くてもある程度ならば視認が可能。

 

 そして光源からよく見れば大迷宮は魔物の巣窟で、斃しても斃してもうじゃうじゃと湧いてくるのが嫌でも判った。

 

 魔素がマテリアライズ、そうして産まれるのが謂わば魔物な訳で、魔素が在る限りは魔物が居なくなる事は無いだろうと、ユートは当たりを付けている。

 

 そして基本的に魔素は、ダンジョンの奥になればなる程に濃密になる所為か、降りれば魔物も格段に強くなってくるし、技能なんかも色々と使ってくる。

 

 魔素がそもそも物質化した存在故に、魔力操作なんかを容易く行えた。

 

 ユートは錬成師という天職に従い、青銅ゴーレムのゲシュペンストを魔物へと嗾けている。

 

 まぁ、初期のギーシュが造ったワルキューレみたいな簡易ゴーレムだけど。

 

 然しながら人間の身長の約三分の一、一般的な身長を一六〇cmとした場合の五三cmくらいしかなく、魔物をペチペチと叩くだけの攻撃には、檜山大介を中心に嘲笑うクラスメイト達。

 

 以前にぶっ飛ばされた筈だが、記憶喪失にでもなったかの様な態度だ。

 

 ハジメは自身の能力が有用だと言われて喜んではいても、未だG3システムは未完成だから立場は微妙な処。

 

 取り敢えず錬成で迷宮の床や壁を変化させる事で、魔物を封じたりして斃すのを頑張っていた。

 

 貰ったCADのお陰で、凄まじい迅さで錬成可能となってたし、雷撃で魔物を斃すのも実に早い。

 

 とはいっても目立たないが故に、メルド・ロギンス団長でさえハジメの実力を見誤っていたし、リーダーとして進む天之河光輝など気にも留めてなかった。

 

「あ、あの……きっと……レベルアップすれば大丈夫だと思いますよ南雲君!」

 

「ん、ああ……そうだね」

 

 八重樫 雫は特に此方を見てないけど、白崎香織は励ましに来てくれた事から優しい人柄なのだろう。

 

(白崎香織……か、メインヒロインじゃないのかも知れないな)

 

 そんな様子を視ていて逆にメインヒロインではない疑いが濃厚になり、思わず肩を竦めてしまうユート。

 

 まぁ、顔が可愛くて性格もバッチリだったからクラスでは人気者であろうが、ライトノベル的なメインヒロインには足り得ないのだろう。

 

 二〇階層の魔物も天之川光輝にとっては物足りないのか、ちょっと危ない場面があってメルド団長から叱られはしたが、特に傷を負った様子も見受けられない。

 

 ステータスも上がってそれに伴いレベルも上がり確実に実力も付いた。

 

(ハジメは……)

 

 ハジメは錬成を巧く使っており、中々に巧く殺れている。

 

 本人はダメダメだと自嘲していたが、ユートからすればある意味で教え甲斐はあるものだった。

 

 ユートは既に現段階にてクラスメイトを見限って、何らかの事故を装い消える心算でいる。

 

 弱いからと嘲笑う連中、弱いからとシカトする連中なんて見限るしかない。

 

 連中からすれば自分達が見限った心算だろうけど、実際にはユートの方こそが見放したのだから。

 

(さて、状況予測からして今日この日が何か起きる筈の分岐点だ。恐らくそれがハジメ覚醒イベントかな。それに乗じて動くかね)

 

 某か起きるのはそろそろの筈なのだ。

 

 ユートのこれは予知とか予言とかの類いではなく、状況下に在る情報を無意識に読み取り、直感的に何かあると感じるというもの。

 

 当たるも八卦当たらぬも八卦よりはマシなレベル、何が起きるかなんてのは判らないし、正確な時間すらも判っていない。

 

 飽く迄も直感だからだ。

 

 天之河光輝が【天翔閃】という大技を繰り出して、ダンジョン崩落の危機を招いたとし、メルド団長から拳骨を喰らった後……

 

「あれは何かな? 何だかキラキラしてるよ」

 

 白崎香織の指摘に全員が指差した方を見る。

 

 水晶の様な結晶体が蒼白く涼やかで煌びやかな輝きを放ち、それはまるで壁から大輪の華が咲いた様だ。

 

「ふむ……あれはグランツ鉱石だな。大きさ的にも悪くないし珍しいな」

 

「どんな鉱石なんだ?」

 

 ユートが訊ねると……

 

「何かしら効力を持っている訳ではない。とはいえ、その美しさから貴族の御婦人や御令嬢方に人気でな。指輪、イヤリング、ペンダントなんかに加工して贈ると喜ばれる。特に求婚の際に選ばれる宝石としては、トップ3に入ると聞く」

 

 何だか色々解り易く説明をしてくれた。

 

「はぁ、素敵ぃ……」

 

 白崎香織がうっとりとした瞳で頬を朱に染めつつも、然り気無くを装いソッと南雲ハジメの方へと視線を向ける。

 

 気付いたのはユートと親友である八重樫 雫と、今一人……それは檜山大介であった。

 

「だったら俺らで回収してやろうぜ!」

 

「こら、勝手な事をするんじゃない! まだ安全確認をしていないんだぞ!」

 

 怒るメルド団長の言葉を聴こえない振りをし、軽戦士としてか手慣れた感じにヒョイヒョイッと崩れ掛けていた壁を登って行く。

 

「団長、トラップです!」

 

 騎士の一人が見分ける為の道具、フェアスコープで鉱石周りを視て青褪めた。

 

「な、なにぃ!?」

 

 警告は既に遅い。

 

 檜山大介がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心として魔法陣が展開され瞬く間に部屋全体に拡がって輝きを増す。

 

 グランツ鉱石というちょっと美味しい獲物を囮にした罠である。

 

「くうっ、撤退するぞ! 全員早く部屋から出ろ!」

 

 メルド団長からの指示だったが時既に遅くて、ユートの見立てでは一種の転移系トラップが完全に発動。

 

 オルクス大迷宮の第二〇階層は次の瞬間には、誰かしらが居た痕跡を欠片も残さず静寂に包まれるのだった。

 

 

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 人形操者云々を錬成師に変更しました。




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第6話:小ボス戦で奈落に落ちました

 っぽい噺と多少の差違があります。





.

 転移トラップにより跳ばされたからには、先ず行うのは現状の認識である。

 

 突然の転移に浮遊感を覚えたハジメは、尻餅を突いてしまい尻の痛みに呻き声を上げながら、どうなったのか周囲を見渡す。

 

 クラスメイトの殆んどはハジメと同じ様だったが、メルド団長や光輝達などの前衛職の生徒は、既に立ち上がって周囲の警戒をしているし、ユートはそもそも転移に全く慌てず怯まず、転移後も普通に立っているみたいだった。

 

 まるで転移になれているかの如く振る舞いである。

 

 転移系の魔法陣、それは現代の魔法使いには不可能な事で、それを平然とやってのける辺り神代の魔法とは既知外だと云えた。

 

 ユート達が転移した場所とは、一〇〇mはありそうな巨大な石造りの橋の上。

 

 見上げれば天井も高く、二〇mはあるのだろう。

 

 石橋の下は全く何も見えない、深き闇の淵が奈落の如く広がっていた。

 

 石橋の横幅は一〇m程度だし、手摺も縁石も無くて足を滑らせれば掴む所なんて無いから真っ逆さまに落ちるのみ。

 

 今現在、ユートやメルド団長やクラスメイト達は、その巨大な石橋の中間に集められていた。

 

 橋の前後の先に奥へ続く通路と階段が見える。

 

 非常に拙い状況なのは、メルド団長にも理解が出来たらしく、生徒達に向けて厳つい顔を険しくしながら指示を飛ばす。

 

「お前達! 今直ぐに立ち上がってあの階段の場所まで走るぞ……急げぇっ!」

 

 激しい雷鳴の如く指示をされ、生徒達はあたふたとしながらも指示に従う。

 

 ユートも異論など無く、指示の通りに走った。

 

 ふと視れば騎士団員に護られた愛子先生も、手を引かれながら走っている。

 

 生徒達がしている事を、せめて一度だけでも目に刻まねば……と、この大迷宮に同道した愛子先生だが、正しく足手纏いでしかない状態だった。

 

 オルクス大迷宮と御大層な名前の迷宮トラップが、まさかこの程度で済む筈もなくて、ユート達が急いでも撤退は出来ず仕舞いに終わってしまう。

 

 橋の入口に赤黒い魔法陣が顕れ、其処から行き成り剣や盾を持ってる骸骨――トラウムソルジャーと呼ばれる魔物が出現して行き先を塞いでしまったからだ。

 

 ならば逆方向に撤退を、だけどそれも叶わない。

 

 反対側の通路にも魔法陣は顕れて、赤黒い光を放って一体の巨大な魔物が顕現をしてきたのだ。

 

 顕れた巨大なる魔物を、メルド団長は呆然となりながら見つめ、呻く様な呟きでそれの名前を呼ぶ。

 

「まさか……ベヒモス……だというのか……?」

 

 大量の魔物と究極の一、正しく前門の虎に後門の狼という、危機的な状況へと放り込まれたのだった。

 

「悪辣な罠だな。危機を乗り越えなければ死ねとか、そう言いたいのかね?」

 

 ユートは呟きながらも、戦闘準備を始める。

 

 とはいっても、飽く迄も人形操者という()()()()()としての……だけど。

 

 その技能は、五〇cm弱のゴーレムを造って操るというのと、人形という形を取らず武装を人間用に喚び出すというもの。

 

 そういう事にしてある。

 

 ゲシュペンストMKーⅢを喚び、ペチペチと叩かせる戦法は何だかほんわかとさせてくれて、女子からの受けも良かったのだけれど、流石にこんな状況下に於いては単なるKYだろう。

 

 右腕にリボルビング・ブレイカーを装着、左腕にはシールドクレイモア付きの五連装チェーンガンを装着して、両肩にはレイヤードクレイモア、頭にダレイズホーンを装着して戦う。

 

 当たり前だけどユートが装着していてもおかしく無い、そんなレベルにダウンジングサイズされていた。

 

 脳内に流すBGMは勿論【鋼鉄の孤狼】である。

 

「全弾、持っていけっ! レイヤードクレイモア!」

 

 数が多い上に止めど無く溢れる様に、赤黒い魔法陣から次々と顕れて向かってくるトラウムソルジャー、それに対して放たれるのは積層指向性地雷弾。

 

 アルトアイゼンと違うのは開いたハッチ部分にも、弾丸が積み込まれているという点だ。

 

 ゲームでは一機にしか使えないが、バラ撒くという特性上から割かし近くからぶっ放して弾筋に拡がりを持たせ、近場のトラウムソルジャー数十匹を砕く。

 

「今だ、進め!」

 

 橋の上に展開していたのは全滅、ユートの戦い方に驚くクラスメイトや騎士団の騎士達だったが、今この時は前に進むのが正解だと理解しており、取り敢えず武器で戦い魔法を放って、顕れるトラウムソルジャーを屠っていった。

 

「せやぁぁっ!」

 

 白金色に真ん中は翠の石を填め、周囲に赤と青と暗い赤の小さな石が填まったバレッタで長めの茶髪を纏めた優花が、腰に着けているホルダーから投擲用短剣を抜き出しては投げる。

 

 普通なら小さなホルダーに入った短剣、すぐに弾切れとなる筈だが無くなるという気配も無く、二〇本、三〇本と次から次へと投擲を続けていた。

 

 威力も素晴らしいもの、トラウムソルジャーの頭を貫き、首の部位を貫いて、剥き出しな背骨を貫いて斃してしまっている。

 

「そこっ! 其処よ!」

 

 投げる事に対して補正が付く天職、投術師の優花は当然ながらこの武器に対して相性が凄まじく良い。

 

 勿論、投げるという意味なら普通の剣をぶん投げるというのも手だし、カードでも投げる事によりきっと壁に刺さるなんて真似も。

 

 とはいえ、ユートから贈られた武器という想い補正が付いたこれなら、余程の格上でも無い限り敗けはしいかも知れない。

 

「優花っち、すごっ!」

 

「水を得た魚?」

 

 宮崎奈々と菅原妙子……親友の二人が驚く。

 

「ナナ、タエ! アンタ達も底上げされてんだから、さっさと前に出なさい!」

 

「「了解!」」

 

 優花はまだ魔物と戦うのは恐いが、それでもユートがくれた護符と武器が有るのだからと奮戦した。

 

 武器は持っていないが、ペンダントで能力の底上げが成されている宮崎奈々と菅原妙子も前に出るけど、そもそも鞭術師な菅原妙子は兎も角、氷術師を天職とする宮崎奈々は近接戦に向いてはいない。

 

 根は真面目だが見た目におっとりしたギャルという感じな菅原妙子、鞭の扱いに慣れたらしく今は長くしなるロープ状の物ならば、大概は上手く扱えるが故に手にした長い皮の鞭を巧みに操り、トラウムソルジャーの両肩を粉砕していく。

 

「喰らえ、りゅうが!」

 

 誰かから教わったのか、技名まで口にしていた。

 

 スレンダーな体格をしたノリの軽い宮崎奈々だが、性格に反した氷系の魔法に強い適性を持つ。

 

「凍り付いて!」

 

 それ故にか氷結関連なら殆んど無詠唱で放てた。

 

 斯く云う優花も投術師、中距離が本領であるからか近接は余りせず、ユートからキスを代価に貰った短剣で上手く距離を空ける。

 

「むう、三五階層に現れるトラウムソルジャーを翻弄するとは……」

 

 三人の強さは底上げされたものだが、それを知らないメルド団長は唸った。

 

 だけど湧いて出る数が余りにも多く、火力という点でどうしても不足する。

 

 そしてこの三人がユートの薫陶を受けて、上手く戦えていた事が本来の世界線での出来事に亀裂を生む。

 

 未だに大多数が橋からの離脱を出来ず、天之河光輝が率いるパーティのメンバーは元より、メルド団長を含む騎士団員や天之河光輝パーティのメンバーと親しい谷口 鈴、中村恵里も未だに居た上に愛子先生と、それを護る騎士達も残された状況であった。

 

 ユートもトラウムソルジャーよりベヒモスが危険と判断しており、橋の方へと戻って五連チェーンガンで牽制を始めている。

 

「ええい、くそったれ! もう保たんぞっ! 光輝、お前らも早く撤退しろ!」

 

「嫌です! メルドさん達を置いて行く訳にはいきませんよ! 絶対に皆で生き残るんです!」

 

「くっ、こんな時に我が侭な事を言う!」

 

 引き際をまるで理解してない天之河光輝に対して、メルド団長は苦虫を幾匹も噛み潰した様な、渋い表情になってしまう。

 

 この限定間ではベヒモスの突進を回避など難しく、逃げ切る為には障壁を展開してから、押し出される様に撤退するのが良い。

 

 とはいえ、そんな微妙な匙加減というのは戦闘に於けるベテランだからこそ、若く経験の足りない天之河光輝達には難しいだろう。

 

 だけど若さ故にかどうも自分なら、この状況をどうにか出来ると盲信しているみたいで、メルド団長からの撤退命令に対して一向に従おうとしない。

 

 メルド団長は誉める事で伸ばそうとしたが、これは完全に裏目に出てしまったと云えるだろう。

 

「光輝! 団長さんの言う通り撤退しましょう!」

 

 状況判断が出来たのか、八重樫 雫は天之河光輝を諌めるべく腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まった事じゃねぇだろ? 俺はお前に付き合うぜ、光輝!」

 

「龍太郎……ありがとな」

 

 それなのに坂上龍太郎の言葉に、更なるやる気を漲切らせてくれた。

 

「チィッ! 状況に酔ってんじゃないわよっ! この莫迦ちんども!」

 

「雫ちゃん……」

 

 舌打ちして苛立つ幼馴染みに、白崎香織は心配そうな声音で呟く。

 

 その時、一人の白崎香織のよく知る者が天之河光輝の前に現れた。

 

「天之河くん!」

 

「は? 南雲!?」

 

「な、南雲くん!?」

 

 ハジメはリーダー不在のクラスメイトが纏まらず、何とか園部パーティで保たせている状況を打破する為に戻って来たのだ。

 

「早く撤退をしてよっ! 皆の所に! 判らない? 君が居ないとクラスメイト達がバラバラだよ! 早く戻るんだ!」

 

「行き成り何なんだよ? それより、何故こんな所に来ているんだ! 此処は君が居て良い場所じゃない! 南雲はさっさと……」

 

「そんな事を言ってる場合なのかっ!」

 

 確かに未だG3システムを完成させてはいないハジメ、純粋な戦闘力という意味では愛子先生くらいしか勝てる相手は居ない。

 

 だけど今はいつもの様に苦笑いしながら、物事を軽く流す訳にはいかないと、怒鳴ったのが効を奏したのか思わず目を見開き硬直する天之河光輝。

 

「あれが見えないの!? 皆パニックになってる! 率いるリーダーが不在だからだよ!」

 

 胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ、天之河光輝はその差す先を見遣る。

 

 トラウムソルジャーに囲まれ、右往左往をしているクラスメイト達。

 

 何とか戦えている者も、何人かは居るみたいだけど状況は上手くない。

 

 二週間にも及ぶ訓練の事など、丸っきり頭から抜け落ちたかの如く誰もが好き勝手に戦っていた。

 

 効率的に戦えてない為、幾ら一部の者が奮戦しても敵の増援が続々と顕れて、未だ突破出来ずにいる。

 

 トータスの人間族よりもハイスペック故に命を落とした生徒はまだ居ないが、それも時間の問題だろう。

 

「一撃で切り抜ける力が、今は必要なんだよ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! 僕には出来ない、そんな事が可能なのは勇者の力を持つ天之河君だけなんだ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見てよ!」

 

 混乱し怒号が響き悲鳴を上げるクスメイト、天之河光輝は頭を振ってハジメに頷いた。

 

「ああ、判った。確かに、南雲の言う通りみたいだ。直ぐに行く。メルド団長、すいま……」

 

「いかん、下がれぇっ!」

 

 先に撤退する旨を伝えようとしたが、メルド団長を振り返った瞬間、彼の悲鳴と同時に障壁が砕ける。

 

 凄まじい衝撃波はまるで暴風の如く荒れ、ハジメは吹き飛ばされそうになったのを……

 

「くっ、錬成!」

 

 何とか錬成で防ぐ。

 

 舞い上がる粉塵、それがベヒモスの咆哮一つで吹き払われた。

 

 倒れ伏し呻き声を上げるメルド団長と騎士達。

 

 どうやら衝撃波の影響で身動きが取れないらしく、中々起き上がろうとしない中で、天之河光輝達はすぐに起き上がった。

 

 メルド団長達の背後に居た事、ハジメの造る石壁が衝撃波を防いだ事で受けたダメージは小さかった。

 

「うぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 

「やるしかねぇだろよ!」

 

「……そうね、何とかしてみるわ!」

 

 天之河光輝からの必死の問い掛けに、起き上がった二人がベヒモスに向かって突進をする。

 

「香織、君はメルドさん達の治癒をしてくれ!」

 

「うん、判ったよ!」

 

 香織が走り出す頃には、ハジメは団長達の所に駆け付けていた。

 

 石壁を作り出しており、気休め程度でも無いよりはマシであろうと、CADの操作を必死にしている。

 

 天之河光輝は分が出せる最大の技を放つ為、聖剣を構えると詠唱を始めた。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらし給え! 神の息吹よっ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たし給え! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許し給え――【神威】っっ!」

 

 詠唱の終了と共に突き出した聖剣から、激しい極光がこれでもかと迸る。

 

 天翔閃と呼ばれてる技と同系統だが、その出せている出力は段違いだった。

 

 橋を震動させながら石畳を抉り飛ばし、ベヒモスへと極光が直進している。

 

 八重樫 雫と坂上龍太郎は詠唱の終わりと同時に、さっさと離脱しているのだがギリギリの戦いだったらしく、二人はもうボロボロになっていた。

 

 結構なダメージだ。

 

 放たれた光属性の砲撃は轟音と共に、そのベヒモスの硬い身体に直撃をする。

 

「これなら、どうだ?」

 

 天之河光輝が前を見た。

 

「流石にやったよな?」

 

「だと良いんだけど……」

 

 坂上龍太郎の言葉だが、八重樫 雫は難しい表情で返すしかない。

 

 莫大な精神力を消費する必殺技故に、天之河光輝の疲労は可成りのものだ。

 

 切札を切った天之河光輝は肩で息を吐く。

 

 終わって欲しいとは思っていたが、埃が落ち着いた先に無傷のベヒモスの姿。

 

「ば、莫迦な……」

 

「光輝のアレで無傷?」

 

 愕然となる勇者(笑)様、雫も驚くしかない。

 

 ベヒモスは低く重たい唸り声を上げ、天之河光輝達を殺意と共に睨んでいる。

 

 頭を掲げて頭の角が甲高い音を立て、赤く熱っせられていき遂に頭部の黒い兜全体が燃え滾った。

 

「退けっ!」

 

 声を上げたのはユート、五連チェーンガンで牽制をしながら突っ込む。

 

「全弾、持っていけ!」

 

 レイヤードクレイモア、その指向性地雷弾が激しく連射され、ベヒモスの頭部に突き刺さり破裂する。

 

「伊達にこんな頭をしている訳じゃない!」

 

 ダレイズホーンで斬り裂いてやり、更に右腕に装着されたパイルを突き刺す。

 

「どんな装甲だろうと……撃ち貫くのみっっ!」

 

 ガンッガンッガンッガンッガンッガンッッ!

 

 弾装からの六連発。

 

「リボルビング・ブレイカァァァァァァッ!」

 

 順番は滅茶苦茶だけど、『切り札』のレベルで武装を使うユート、ベヒモスはそれにより満身創痍となっているらしい。

 

 トドメにアルトアイゼンやゲシュペンストMKーⅢには無い、【究極ゲシュペンストキック】でも喰らわせてやろうかとモーションに入るが、火事場の馬鹿力というべきかベヒモスによる突撃が来た。

 

「チィッ!」

 

 舌打ちするユートは取り敢えず下がってみたけど、未だに離脱していなかった面々に、悪態を吐きたくなるのを堪える。

 

(何を惚けてるんだ?)

 

 トラウムソルジャーに関しては未だに湧き続けて、彼方側の戦力では危険という状況に変わり無い。

 

 ベヒモスの突撃に防御をするユート、其処へ援護の心算か魔法による攻撃が、ベヒモスへと突き刺さっていく中で、炎が二発と風が一発……ユートに向かう。

 

 ベヒモスの攻撃を防御していたユートに躱しようは無くて、だけどその直前に白崎香織がフラリと立ちはだかる形に。

 

「香織、危ない!」

 

 別に白崎香織がユートを守ろうとした訳ではなく、単にベヒモスの突撃による震動に足を取られ、ふらついてしまっただけだ。

 

「白崎さん、八重樫さん! 危ないです!」

 

 結果として白崎香織が、炎の玉の直撃を喰らう羽目に陥り、吹き飛んでしまったのを八重樫 雫が助けようと手を伸ばして、それを助けるべく畑山愛子が手を伸ばた結果、更にベヒモスにより橋の一部が崩落という連鎖でユートにぶつかってしまい、ユートと一緒にこの階層より下に落ちてしまうのだった。

 

「「「キャァァァァァァァァァァァァッ!?」」」

 

 誰もが言葉も無くなり、だけど悲劇は続く。

 

 ユートのお陰で勢いが落ちたとはいえ、突撃を喰らって弾き飛ばされた少女、勢いは死なず突撃が端にまで到達して、魔法攻撃をしていた者や近場に居た者が突撃により壁やトラウムソルジャーに挟まれてしまった事などが重なる。

 

 しかも生きているベヒモスが再び兜を赤熱化したから堪らない、何とか騎士達が押し返したものの生徒達は半壊、騎士も複数の死亡者が出る最悪の結末。

 

 後に語られる。

 

 園部優花が見ていた事故の全貌、氷術師の宮崎奈々が参加した魔法の一斉射、この時に檜山一派がユートに向け、悪意を持って魔法を放った事で護りが瓦解、あの悲劇に繋がったと。

 

 最終的にユートを巻き添えとし、白崎香織と八重樫 雫と畑山愛子教諭は崩落した橋から墜落、犯人たる檜山一派と何人かの生徒がベヒモスに潰され、更には何人かが焼け死んでいる。

 

 その責任の所在を追及しようにも、犯人は死んでしまってどうにもならない。

 

 生徒達は意気消沈して、特に幼馴染み二人を失った天之河光輝は荒れており、坂上龍太郎が何とか抑えている状態。

 

 優花もユートが崩落から落ちたのを直に見ていて、激しく落ち込んで暫く部屋から出て来なかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一人の少女が居る。

 

 背は低めで胸も張れる程にはなく、容姿は不細工では決して無く可愛らしいという部類な感じだ。

 

 五歳の頃に父親が自分を庇って事故死した。

 

 割とありふれた出来事、本人からしたら冗談ではない出来事だが、万人からの視点では何処にでもありそうな悲劇に他ならない。

 

 母親はちょっとしたお嬢だったらしく、父親と熱愛の結果として家族の反対を振り切って結婚した。

 

 故に依存のレベルで父親とはベッタリである。

 

 そんな母親は父親の死に耐えられず、だから“夫を殺した娘”に当たった。

 

 仕方がないと思う。

 

 自分が悪かったのだ。

 

 だから耐えた、耐えるしかないと思っていた。

 

 所詮は自分など母親にとって、父親の付属物に過ぎなかったのだから。

 

 いつか終わる。

 

 そう考えてもいたから、巧妙な虐待と本人の沈黙故に何年も、その虐待が知られる事は無かった。

 

 そんな毎日だから彼女の表情は暗く、友達など出来る筈もなかっし、自分でも暗く沈んだ顔は端から見たら不気味に見えたかも知れないと思う。

 

 そんな毎日に変化が訪れたのが九歳の時。

 

 母親が見知らぬ男を家に連れてきた、横柄な態度でガラの悪いその男に猫なで声で科垂れ掛かる母親。

 

 そんな男と暮らす毎日、それは三文小説にでも出てきそうなありふれたもの、男は幼い自分に気持ち悪い視線を向けてきた。

 

 幼心に危機感を持って、髪の毛を短くカットしたし一人称をボクに変え、まるで少年の様な振る舞いにて自分を守る。

 

 その所為で日常会話くらいはしていた者も離れて、いよいよ独りぼっちになってしまった。

 

 だけど所詮は少年の真似は真似、本質的に少女であるからには縋った藁は紛う事なく藁に過ぎず、母親が仕事で居ない夜に男が襲い掛かってくる。

 

 幸い備えをしていたから悲鳴を聞いて、近所の人が通報してくれたから貞操は無事に守られた。

 

 だけど生活が戻る事など夢幻の彼方、迎えられたのは母親からの憎悪の視線と張り手である。

 

 母親の視点からは自分が男を誑らかしたらしくて、男が屑である事を知らしめるのではなく、自分が男を引き離したという事に変換されていたらしい。

 

 醜い母親の本性を知り、自殺して終わらせようと家をフラリと出て、河川敷で少女は一人の少年と出逢うのだった。

 

 しつこく事情を訊いてきた少年に、端折りに端折った事情説明をする。

 

 少年は故に自己解釈にて理解した心算になった。

 

 可哀想な少女に言う。

 

『もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる』

 

 絶望して壊れ掛けていた少女に、そんな少年の言葉は強烈であったろう。

 

 少年のお陰で少女が学校に行けば、沢山の誰かしらが話し掛けてくれた。

 

 全てが少年のお陰で。

 

 こうなれば少女の心は、少年に対して堕ちる。

 

 児童相談所が少女の母親の素行から虐待を疑い調査を開始した際、場合によっては少年から引き離されるかもと、『母親大好きな娘』を反吐が出そうになりながらも演じた。

 

 母親が引き攣り恐怖する表情を浮かべ、少女は知ってしまう……やり方一つで立場や感情など容易く反転するのだと。

 

 だから耳許で囁いてやる――『次は、何を奪って欲しい?』……と。

 

 母親は蒼白になり悲鳴を上げて逃げ出した。

 

 少女にとって少年は正に王子様となる。

 

 それが勘違いだったと、それを知るのは間も無くの事であった。

 

 ヒーローがモブを救い、称賛されるというちょっとしたルーチンワーク。

 

 自分が救われる“物語”は少年にとって、終わった出来事に過ぎない。

 

 守ってくれると言った。

 

 独りじゃないと言った。

 

 だけどならどうして?

 

 ヒーローにヒロインとは付き物だが、自分は少年のヒロインではなかったのだと気付いてしまう。

 

 少年のヒロインはとっくに決まっていた。

 

 まぁ、皮肉にもヒロインは少年をヒーローだと思っていなかったが……

 

 ベヒモスにより弾き飛ばされた少女……中村恵里は走馬灯を視ながらヒーロー――天之河光輝を見つめながら思う。

 

(助けて光輝君)

 

 手を伸ばしながら請う。

 

(死にたくないよ、怖い、助けてよ光輝君!)

 

 だけれど、天之河光輝の視線は既に落ちた白崎香織に向けられており、自分にはチラリとも向けてない。

 

 知られない侭に落ちて死ぬのが堪らなく怖かった。

 

 特別にはなれなかった、ありふれたモブが命を落としただけ、そんなありふれた結末でしかない。

 

 涙を零した中村恵里は、一言だけ呟いた。

 

「嘘……吐き……」

 

 守ってくれなかったし、独りぼっちにしたじゃないか……と。

 

 奈落に落ち逝く中村恵里は目を閉じて、現実の全てを拒絶するのであった。

 

 ガシッ!

 

「……え?」

 

 一瞬、天之河川光輝が助けてくれたのかと僅かな希望を懐き、ソッと閉じていた目を開くと……

 

「だ、大丈夫? 生きるのを諦めないで中村さん!」

 

 其処には錬成した突起を掴み、奈落に落ちていくだけだった自分の手を掴んだ『ありふれた職業で世界最弱』と蔑まれた南雲ハジメが笑顔を浮かべて居た。

 

「な……ぐも……くん?」

 

 一瞬にして突起と掴み所を錬成し、中村恵里を救い出したハジメはメルド団長の助けもあり、這い上がる事に成功したのだ。

 

 ベヒモスも崩落に巻き込まれて落ちたらしい。

 

 一〇人以上の死体を運び出し、落ちて遺体すら残らなかった四人も居たから、勇者はガタガタとなる。

 

 だが、教会と王国にせっつかれて一〇日後には再びオルクス大迷宮へ。

 

 世界はいつだってこんな筈じゃなかった事ばかり……とは誰の言葉だったか?

 

 それが残された生徒達を苛んだのである。

 

 

.




 でも結果は同じです。




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第7話:コブラとライダーシステムでエヴォリューション! ファハハハハハ!

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「やれやれだぜ」

 

 思わず何処かの空条さんみたいな科白を宣いつつ、落下する三人の身体を重力魔法で引き寄せる。

 

 概念重力系引力魔法。

 

 自らが指定したモノだけを引力で引き寄せる概念を持たせた魔法で、重力魔法をクウネル・サンダース(偽名)から習ったというか見せて貰ってから修業し、最終的に修得をした魔法。

 

 概念付与は殊の外、難しいとはいえ一度でも修得が叶えば最早、使う事は難しいものではなくなる。

 

 三人を抱えたユートは、衝撃を軽くする魔法を自らに掛けると、自由落下して奈落の底へと落ちていく。

 

 落下する途中の崖の壁に穴が空いており、そこから鉄砲水の如く水が噴き出していた。

 

 滝の如くなっているが、そんな滝が無数にある。

 

 衝撃を緩和しているから大したダメージも無いが、何度も滝に吹き飛ばされて壁際に押しやられ、最終的に壁からせり出ていた横穴から流されてしまった。

 

 そうして奈落の底に辿り着き、川を流され揺蕩うと川辺に乗り上げたらしい。

 

「ふう、まったく以てやれやれだぜ」

 

 JOJO立ちしながら、そんな風に呟くと目を閉じて辺りを探る。

 

「オルクス大迷宮の奈落の底みたいだが、魔物の強さはベヒモス程じゃないな」

 

 当然ながらベヒモスとは中ボスであり、下手をすれば小ボス程度の魔物。

 

 だが、小ボスとはいってもボス級はボス級であり、一般的に湧く雑魚と比べれば相当に強い。

 

 勇者がレベル70を越えて尚、一人では立ち向かえないのが小ボスだろう。

 

 此処がオルクス大迷宮の最下層だとして、湧き出る魔物は当然ながら強いのであろうが、雑魚なぞ所詮は雑魚でしかない。

 

 簡単にボス級に対抗する力は無いのだから。

 

「さて、先ずは結界だな」

 

 パチンと指を弾いて結界を展開した。

 

 この行為自体が詠唱であり舞でもある為、結界は普通に展開されている。

 

「封鎖領域、展開完了と。火を熾こして……これで後は此処の探検だね」

 

 再び指を弾いて火を熾こしたユートは、三人を火の側に寝かせると結界の外へと出て行く。

 

《EVOL DRIVER!》

 

 腰に装着したのはユーキ謹製のエボルドライバー、手にするのはエボルボトルと呼ばれるボトル。

 

《COBRA!》

 

《RIDER SYSTEM!》

 

 スロットの右側にコブラのエボルボトル、左側にはライダーシステムのエボルボトルを装填した。

 

《EVOLUTION!》

 

 右側に付いてるハンドルを前へと回す。

 

《ARE YOU READY?》

 

 ニヤリと嗤いながら腕を胸元でクロスして組むと、叫びながら両腕を下側へと伸ばした。

 

「変身っ!」

 

 ユートの言葉に合わせ、本人の前後からプラモデルのランナーみたいなものが挟み込み、再び顕れた時には赤い複眼を持つ凶悪な鎧が装着されてる。

 

《COBRA! COBRA! EVOL COBRA! HUAHAHAHAHAHA!》

 

「仮面ライダーエボル」

 

 全体的に黒いインナー、仮面の部分はまるで口を開いた蛇であった。

 

 鎧部分も金の縁取りで、赤や青が派手派手しく目に痛い、悪魔と呼んでも差し支えない姿をしている。

 

 【仮面ライダービルド】に登場したダークライダーであり、ラスボスでもある仮面ライダーエボルは最終フォームがユートに相応しい特性と名前から、ユーキが渡してきたのだった。

 

 ユートの特性とは太陰で真属性は闇、その意味する処はブラックホール。

 

 だから押し付けたとか。

 

「さぁて、仮面ライダーにわざわざ変身する必要性も感じないが、折角ハジメが頑張ってG3システムを造ると云うんだし……な」

 

 取り敢えず、上に登る為の階段を捜すユート。

 

 移動を開始した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ハッ!」

 

 仮面ライダーエボルと成ったユートが、不気味な姿の兎っぽい魔物を蹴ると、頭が吹っ飛んで死んだ。

 

「雑魚いな。仮面ライダーエボルのスペックが高いのもあるんだが……」

 

 パンチ力が五八t。

 

 キック力が六三t。

 

 流石は中盤以降から出るダークライダーで、因みにこのフォーム時は全体からして二%らしい。

 

 事実としてブラックホールフォームという、更なるスペックアップした姿から戦闘力を五〇倍にも引き上げる事が可能であるとか、何処の超サイヤ人かと問いたくなる出鱈目さ。

 

「魔物の肉って確か特殊な魔力を含むから、人間とかが食べると毒同然だとか、ハジメが言っていたよな」

 

 つまり、兎っぽい癖して食料には成り得ない。

 

「ま、僕は大丈夫だろう」

 

 恐らく、本質的に人間とはいえ可成り変質もしているが故に、ユートが魔物の肉を食べても平気だろう。

 

「サバイバルは基本だし」

 

 次の獲物を求めて彷徨いていると、今度は白い熊みたいな魔物と遭遇した。

 

「熊……か。熊鍋には出来ないんだろうが、取り敢えず食料になって貰おうか。お前らも僕を食いたいんだろう? だったら御相子ってやつだよな」

 

『ガァァアアッ!』

 

 襲い来る熊は長い爪を持つ腕を振り回して来た。

 

「ふっ! ん?」

 

 紙一重で躱した筈だが、何故か爪による斬撃で衝撃を受けた。

 

「躱し切ったと思ったら、まさかの風攻撃か」

 

 精霊を介さない攻撃故に契約者として、攻撃の無効化をするのは無理だった。

 

 真空を生み出す攻撃なのだろうが何の事は無い。

 

「おりゃっ!」

 

 パンチを喰らわせてやれば死ぬ程度の弱さ。

 

「獲物、獲物♪」

 

 敵ではなく肉。

 

 単なる“獲物”としてしか認識してない爪熊など、ユートからすれば狩り易い魔物である。

 

「お、今度は五匹か」

 

 白い体躯に赤黒い線が走る尻尾を二本持った狼で、簡単に識別として名付けるなら二尾狼だろうか?

 

 蹴りが得意そうなくらい脚が発達した兎を蹴り兎、そして先程の熊を爪熊とか呼ぶなら悪くない名前。

 

「お前らもわざわざ食われる為に出張ってきたのか、それならその命は貰い受けてやるよ」

 

 一斉に襲い掛かってきた二尾狼を、それぞれパンチの一撃で屠ってやる。

 

「やっぱりエボルはオーバースペックだよな」

 

 ユートが使う限りどれでもオーバースペック気味、早い話がどのライダーでも大差は無い。

 

 こうして拠点へと帰るまでには再び蹴り兎を斃し、序でに降りる為の階段を見付ける事に成功した。

 

「参ったね。これはまさか上に登る階段は無いか?」

 

 どうやら一度でも最下層に降りたら、戻れない仕組みになっているらしい。

 

「そうなると……どういう事なんだ? 確か聞いた話ではオルクス大迷宮ってのは百階層だって。此処って最下層じゃないのかな? 或いは……」

 

 もう一つの可能性。

 

「オルクス大迷宮とは上ではなく、この最下層から下へ向かうのがそうだという事なのか? つまりこの下こそが真のオルクス大迷宮という訳だな。面倒だが、上に行けないなら攻略しないと戻れない仕組みか」

 

 随分と凝った迷宮だが、自然と創られた迷宮なのか或いは、人により造られた迷宮なのか?

 

「然し、だとすると食料はどうするんだ?」

 

 人は食わねば餓えるし、飲まねば渇くのである。

 

 一週間や二週間ならば、餓えても死なない。

 

 だけど渇くのだけは数日も放って措けば死ぬ。

 

「まぁ、川があるから最悪でも飲み水くらいは確保が出来るとして、食い物なんてどうやって調達しろと? 魔物は本来だと食料にはならないし……な」

 

 まさか二百層から成る、この大迷宮に下手したなら数ヶ月×人数分、其処まで大量の食料を持って戦えと云うのだろうか?

 

 有り体に云えば不可能だと言わざるを得ない。

 

 その量で何トンに及ぶと云うのか、馬車を何台も連れて行く羽目になる。

 

 こんな狭苦しい洞窟内、しかも場合によれば路無き路を行く時もあろう。

 

 現地調達しようにも魔物は食えないし、野生動物は鼠一匹すら見た事が無い。

 

 尚、答え合わせの一つとするならば、他の大迷宮に在る神代魔法の空間魔法を使えば、亜空間ポケットやアイテムボックスと呼ばれる相当な大容量の倉庫を創れるし、時間に干渉が可能な神代魔法の再生魔法を使って保存も出来る筈。

 

 因みにユートには不要、亜空間ポケットを応用したアイテム・ストレージというのが既に有り、同様の事を普通にやれるからだ。

 

「まったく、僕は未だしもあの三人の食料は僕が持ってる食材を提供しないと。本当に面倒臭いな」

 

 対価は勿論取るが……

 

「うん? 何だ……こんな濃密な魔力が壁の奥から? 魔物……じゃないな」

 

 明らかに空洞とは思えない壁の向こう、魔物だとしたら所謂『いしのなかにいる』状態である。

 

 普通に死んでいるだろうから、少なくとも生命体の可能性は極めて低い。

 

「試しに掘ってみるか」

 

 ユートは壁に手を付け、【創成】の要領で壁に穴を空けていく。

 

 正確に魔力の源まで。

 

 奇しくも原典のハジメが錬成でやった様にだけど、それより素早く精密な技術で掘り進めていった。

 

「これか……」

 

 大きさはバスケットボールくらい、青白く発光をしている鉱石である。

 

 濃密な魔力だと思ったが正しく、千年を越えて地脈を奔る魔力が長い時を掛けて魔力溜まりを作り結晶化した物、【神結晶】と呼ばれる神代の天然遺失物。

 

 それが更に数百年掛けて内包する魔力が飽和状態となり、それが液体となって溢れ出すのだが、それこそが如何なる怪我や病気も癒して、飲み続ければ寿命が尽きないとも云われている不死の霊薬――【神水】。

 

 所謂、エリクサーと同じ効果と思えば正解だ。

 

 ユートは【神結晶】という存在は識るが、当然ながら視るのは初めてだった。

 

 だけど溢れ出る水を自身の【神秘の瞳】で視た鑑定の結果、エリクサーだとかエリキシル剤と呼ばれている霊薬と同じレベルの癒し効果が有ると視える。

 

 流石に欠損部位に関してはどうにもならないが……

 

「ふむ、ラッキーだった。この液体を瓶詰めにすれば癒しの水を量産出来る」

 

 取り敢えずはアイテム・ストレージに格納した。

 

「三人が起きていてもおかしくないし、そろそろ拠点に戻るべきかな?」

 

 ユートは足取りも軽く、封鎖領域を展開した仮拠点へと戻る。

 

「最悪、これを飲ませておけば餓えはしても死なないだろうからな」

 

 割かし滅茶苦茶な事を考えながら。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 地上に戻った生徒達は、一様に暗い表情をしながら王宮に帰り着く。

 

 メルド団長はエリヒド王や宰相、その他の重鎮達の前で子細に報告をした。

 

 二〇階層まで順調に攻略をしていた事、檜山大介がグランツ鉱石に仕掛けられた転移トラップを発動させてしまった事。

 

 六五階層に跳ばされて、ベヒモスとトラウムソルジャーに挟まれ、混乱してしまった勇者一行が混戦状態となった事。

 

 檜山大介とそのパーティが緒方優斗に、悪意を持って魔法を放った事。

 

 その際に白崎香織が偶然に前へ出て、代わりに魔法が命中して崩落した部分から足を滑らせた事。

 

 それを助けようとして、八重樫 雫が共に落ち掛けたのを、畑山愛子がやはり助けようとして、緒方優斗を巻き込んで落ちた事。

 

 ベヒモスの突撃で犯人の檜山大介とそのパーティ、更に何人かの生徒と騎士が死亡してしまった事。

 

 ベヒモスは橋から落下、命辛々でオルクス大迷宮を脱出した事。

 

 現在の勇者達は情緒不安定であり、下手に大迷宮に行かせたらまた死者を出しかねない事。

 

 全てを報告したのだ。

 

 当然ながら有能な勇者のパーティ、更に作農視たる畑山愛子を迷宮に連れ出しておきながら護れなかったなど、メルド団長を罪に問う声は大きかった。

 

 然しながら、リリアーナが間に入って何とか減刑、騎士団長の職を罷免される事になる。

 

 所謂、懲戒免職ではないから一応は退職金も出るのだが、厳しい沙汰となったのは間違いない。

 

 その後、リリアーナに呼ばれたメルド団長は彼女の執務室に通された。

 

「メルド、参りました」

 

「御苦労様です」

 

 部屋にはリリアーナ以外には侍女ヘリーナのみで、メルドは自分に何の用事か判らなかった。

 

「私にどの様な用向きでありましょうか」

 

「メルド団長……いえ元でしたね。メルド・ロギンス殿と呼びましょう」

 

「はっ」

 

「用向きは簡単ですわ」

 

 リリアーナはメルド団長……否、メルド元団長に対して用件を伝える。

 

「私の私的な護衛騎士に任じます」

 

「は、はぁ?」

 

 流石に呆気に取られて、間抜けた返事になった。

 

「確かに貴方は失態を演じましたが、優秀な騎士である事に相違ありませんわ。ですので、騎士団長を罷免されたのなら私が直接雇うと言っているのです」

 

「し、然し!」

 

「メルド、既にお父様との話は付いています。貴方はこの話を受けなさい」

 

 王族からの命令である、罷免されたとはいえ騎士であるメルド・ロギンスに、否やを言える筈も無く。

 

「謹んで御受け致します。我が姫君」

 

 跪いて答えるのだった。

 

 そんな一幕があった中、生徒達の表情は暗い。

 

 特に天之河光輝が酷く、幼馴染みの白崎香織と八重樫 雫を失ったのだから、無理は無いにしても下手人たる檜山大介達は死んで、責める相手が居なくなったのが拍車を掛けた。

 

 偽善者たる彼は檜山大介達の遺体に、唾掛ける事も出来ずに燻っている。

 

 そんな天之河光輝が自身の心の平穏を守る為には、誰かを責めなければどうにもならない。

 

 だから対象を決める。

 

「そうだ、檜山達が狙ったのは緒方だ。可哀想に……香織も雫も緒方に巻き込まれて死んだ。否、緒方は死んだかも知れないが二人は生きていて、俺が助けるのを待っている筈さ」

 

 何をどうしたらそんな答えに行き着くのか、ユートが聞いたら頭の中を開いてみたくなる超御都合解釈。

 

「そうさ、今頃はあの暗い迷宮の中で香織も雫も先生も俺を待ってる。助けないといけないんだ! そう、俺が……俺は勇者だ!」

 

 最早、ラノベにありがちな重度の厨二病患者並。

 

 況してや、天職が勇者だとはいえ高らかに叫ぶなど痛い人間としか思えない。

 

 ユートは普通にやるが、そもそもそういうのを彼はバカにする立場、ハジメを責めるそういった連中と同じの筈なのに、自ら声高に勇者を名乗っている。

 

 天之河光輝の中では既にユートは死亡、何故か幼馴染み二人と愛子先生だけは生きており、勇者たる自分の助けを健気に待っているヒロインに据えていた。

 

 止めるべきストッパー、八重樫 雫が居ないからには暴走は必至、坂上龍太郎は脳筋で自分から考えられない故に、天之河光輝へと追従するだけであろう。

 

「ふふ。待っていてくれ、香織、雫、先生。俺こそが勇者なんだから!」

 

 静かに呟いた。

 

 割と早くオルクス大迷宮に再度潜るのも、勇者復帰が大きな理由である。

 

 そんな勇者は何故だか、いつも以上にやる気に溢れていたのだと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 王宮の一室で中村恵里は目を覚ました。

 

「此処は?」

 

「鈴達の部屋だよ」

 

「鈴?」

 

「うん、エリリン。良かったよ……丸二日も寝ていたんだもん!」

 

「そっか、南雲君に助けられて……私はすぐに意識を落としちゃったんだね」

 

「うんうん、あの後ね! 南雲君がエリリンをずっと背負ってたんだ!」

 

「そっか、命の恩人ね……お礼を言わないと」

 

 あの時、落ちる中村恵里を唯一、気に掛けて助けてくれたのがハジメ。

 

 『守る』と言ってくれた天之河光輝は、見向きすらしてはくれなかった。

 

(本当は理解してたんだ。光輝君にとってボクは単なる舞台装置、若しくは……ゲームのNPCでしかないって事は。一度助けてしまえば勇者にとってはハッピーエンドを迎えるNPC、ヒロインと添い遂げるのが勇者で、ボクはヒロインにはなれない)

 

 誰にでも優しいから特別には誰もなれない、だから周りを少しずつ排除してしまえば自分しか居なくなると考えていたし、トータスに来てそれが実現出来そうだと内心では考えていた。

 

 特に邪魔なのが幼馴染みである二人、今ならそんな二人が居なくなってしまってチャンスなのに、何故か心が踊らない。

 

(本当にボクしか居なくなったら、光輝君はボクだけを見てくれるのかな?)

 

 何と無く有り得ないと、そんな気がしてならない。

 

「どうしたの?」

 

「うん、南雲君はどうしてるの? お礼を言いに行きたいんだけど」

 

「南雲君か。この二日間、部屋から出て来ないんだ」

 

「二日間? 食事とか」

 

「食堂にも来なくってさ」

 

「……え?」

 

 トイレくらいは行っているだろうが、まさか食べていないのだろうか?

 

「ちょっと行ってくる」

 

「あ、うん……」

 

 中村恵里はよく解らない焦燥感に駆られ、部屋を出てハジメの部屋へ向かう。

 

 閉ざされた扉。

 

「あ、空いてる」

 

 然し試しに開けようとしてみれば、何ら抵抗する事も無く扉は開く。

 

 無用心な事に鍵を掛けて無かったらしい。

 

「南雲……くん……」

 

 ソッと顔だけを室内へと入れて覗いて見れば……

 

「…………」

 

 何やらぶつぶつと呟き、錬成の光を灯していた。

 

「何をして……」

 

 抜き足差し足忍び足……

 

 背後から見てみると其処には、銀で縁取られた青い籠手らしき物が床に転がっており、ハジメ自身は鎧にも見える何かをどうも錬成しているみたいだ。

 

「最強の自分……想像するのは最強の自分……」

 

 鬼気迫るとはこの事か、少しずつ少しずつ錬成を使って形を整えていた。

 

「南雲君、南雲君!」

 

 背中から肩を掴んで揺すりながら叫ぶと……

 

「だれ?」

 

 窶れて目の下に隈が浮かんでおり正直、恐怖を感じる表情をしていた。

 

「な、南雲君? いったい何をしてるの?」

 

「錬成だよ。僕に出来るのはそれだけだから。約束したんだ、僕は仮面ライダーになる……」

 

「か、仮面ライダーって、特撮ヒーローの?」

 

「成れるさ……優斗だってイクサに成ったんだから。僕だってG3に成れなきゃ嘘だよ。成るんだ、最強の自分に……仮面ライダー、ヒーローに。造る、造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る造る! 僕は造るんだ!」

 

(何を……彼はいったい、何を言ってるんだ?)

 

 駄目だ。

 

 この侭ではハジメは駄目になってしまう。

 

 今は無理にでも休ませ、食事を摂らせて寝かさないと死んでしまうかも。

 

 意を決した中村恵里は、部屋を出ると食堂に。

 

 食堂で簡単な食事を貰ってきて、それを持って再びハジメの部屋へと戻る。

 

「南雲君! んぐ」

 

 肉入り野菜スープを口に含んだ中村恵里は……

 

「――え? むぐっ!」

 

 無理矢理にハジメの顔を自分に向かせ、口の中の物を口移しで食べさせた。

 

「んぐ、ぐっ!」

 

 舌を使って肉や野菜を、唾液の混じるスープと共に移動させていく。

 

 その際にハジメの舌と絡み合い、グチュグチュという水音が淫猥に響いた。

 

「な、か……」

 

 絡み合う唾液が舌と舌を繋ぎトロリと橋を架けて、何かを言わせず再びスープを口に含み、また口移しでそれをハジメに食べさせるのを繰り返す。

 

 驚きに思考を放棄してしまったのか、ハジメはただ口移しで食べさせられているスープを腹に収めた。

 

 救命措置のマウストゥマウスとはいえ、見た目には充分に可愛らしい中村恵里とのファーストキス。

 

 ハジメの下半身は否が応にも脹れ上がった。

 

「あの、中村さん?」

 

 漸く食事が終わり、互いに向き合って座り込んでしまう二人。

 

 沈黙に耐え切れなかったハジメが口を開く。

 

「いったい、どうして?」

 

「南雲君、二日間も見なかったって鈴から聞いたよ」

 

「谷口さんから?」

 

「それで……ちょっと心配になったから」

 

「そうだったんだね、心配させてゴメンね」

 

「それは良いんだけど……どうしたの? 寝食を忘れて……? 何?」

 

 何故かハジメの顔が青褪めている。

 

「ご、ゴメン……トイレ」

 

「え、まさか……」

 

 どうやら寝食だけでなく出すモノも出さず、錬成に耽り続けていたらしい。

 

 慌ててトイレに駆け込んだハジメを見て……

 

「もう、南雲君っておバカなんだから」

 

 いつの間にか自然と笑いが込み上げてきた。

 

 

 

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 各自、何をしているか? という閑話みたいな噺になりました。




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第8話:兎さんにさえ勝てなかった

 残りは1話分か……





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 何故、こんな事に?

 

 ベッドの上でハジメは、どういう訳だか中村恵里と同衾していた。

 

 勿論、二人の衣服に乱れなどは無かったし、変な液塗れとかでも当然無い。

 

 ハジメの初めてが喪われた訳では無いのだ。

 

 寝間着代わりの白シャツなハジメ、ネグリジェ姿の中村恵里という組み合わせで同衾している理由だが、二日間も徹夜していたのを咎められ、一緒に寝て上げると言われて添い寝をして貰っているのだ。

 

 ――強制的に。

 

 実はやっている本人も、少し戸惑いを覚えていた。

 

 幾ら普段は大人しくて、人畜無害っぽいハジメとはいえど男、同年輩の女子とこんな形で接近したら流石に煩悩を刺激して、襲われてしまう可能性がある訳だけど、自分から添い寝をしたら襲われるのを期待していたみたいに思われる。

 

(期待? 違う、ボクは……ボクが好きなのは光輝君だから……そう、南雲君にこうしてるのは命の恩人だからで!)

 

 ふと聴こえてきたのは、明らかな寝息。

 

「スースー」

 

(寝てる? 女の子が添い寝してるのに寝たの?)

 

 ちょっとショックかも、それが中村恵里の心境だ。

 

(ひょっとして、ボクって実は魅力に欠けてる?)

 

 だから膨れっ面になりながら、イタズラしてやると右手をハジメの股間に。

 

 ビクビクと脈打つ硬くて長い棒……

 

(じ、じ、じ、直に触れちゃった!? しかも勃ってるんだけど? って、ボクと寝てるから……か)

 

 ハジメは何も思わなかった訳ではなく、すぐ傍で香る女の匂いや温もりや柔らかさにパトスが噴出しかねない状態ではあったけど、二日間の完徹と魔力回復薬こそ使っていたにしても、錬成を続けていた精神的な疲労が睡眠欲を優先させたに過ぎない。

 

 原典みたいな反則クラスのアイテムや力が無い為、どうしたって無理が生じるのも仕方がないだろう。

 

「ゴクリ」

 

 当たり前だけど中村恵里は男のモノに触れる機会は無く、視るのも当然ながら初めての事である。

 

 嘗て母親が連れて来た、あの男(クズ)に襲われた時も完全な未遂だし。

 

 だから眠るハジメが目を覚まさない様にイタズラ、触れて擦って色々としてみたら、何だか爆発してしまって驚愕する。

 

「や、ヤっちゃった」

 

 勿論、知識としてこれがどういう現象かは識っている中村恵里は、手に付着した爆発の跡を眺めながら、妖艶な笑みを浮かべた。

 

「ハジメ君、可愛い」

 

 一度、爆発したからだろうか? ハジメの顔が何処かスッキリしていて思わず呟いたけど、男の子としては割と致命的な科白だ。

 

 顔か? それとも……

 

 翌朝、何故か夢精にしては生々しい跡が残っていて激しく動揺するハジメ。

 

 横に眠る中村恵里を起こさない様に布団から抜け、こっそりとパンツを洗ったのは言うまでも無い。

 

 再び錬成に精を出すが、朝食の時間はすぐにきた。

 

「南雲君、朝御飯はどうするの? 何なら今朝もお口で食べさせて上げようか」

 

「だ、大丈夫だから」

 

 流石にそれはどうかと思ったハジメは、食堂へ大人しく行って食べる事に。

 

「エリリンが朝帰りって、南雲君! 鈴のエリリンとナニをしてたの!?」

 

「な、ナニもしてない!」

 

 ブンブンブンと首を横に振るハジメだが、明らかに出した跡からまさか? という思いもあった。

 

 ジト目な谷口 鈴の態度にタジタジなハジメだが、中村恵里がそこへ援護射撃をしてくる。

 

「鈴、大丈夫だからね? 南雲君は夜中に女の子と居ても紳士だよ」

 

「つまり、南雲君って相当なヘタレなんだね?」

 

 クリティカルヒット!

 

「がふっ!」

 

 援護射撃というよりは、何と少年の純情へトドメを刺したのであった。

 

 寧ろ、ハジメの知らない間に襲ったのは中村恵里の方だが、そこら辺は知られない様に内緒にしておく。

 

 朝御飯も食べたしハジメは部屋で内職に耽った。

 

「ねぇ、南雲君」

 

「ん? 何かな?」

 

「周りに有る籠手や肩当て脛当て、今の南雲君が手掛けている胸アーマーを見る限り、全身鎧を一式みたいなんだけど……これって、いったい何なの?」

 

「僕さ、前に優斗と約束したんだよ」

 

「約束?」

 

「仮面ライダーG3を造ったら御褒美をくれるって」

 

「仮面ライダーG3?」

 

「えっと、仮面ライダーは知っている?」

 

「一応は。詳しくはないんだけど」

 

「【仮面ライダーアギト】に登場する仮面ライダーの一人。『仮面ライダーになりたかった男』、氷川 誠が“装着”するんだ」

 

「装着? 変身ではなく、装着なの?」

 

「うん、劇場版で同系列の仮面ライダーG4とか無くはないけど、正式なTV版の仮面ライダーでは唯一、装着する仮面ライダー」

 

 人間の手で機械的に造られた仮面ライダーの先駆、お仲間な仮面ライダーG4を除けば、基本的に装着する仮面ライダーは居ない。

 

 仮面ライダーG1はTV処か劇場版にすら出ない、しかも形が何と無くクウガ……未確認生命体第4号に似ている程度でしかなく、完全な未知を使っていない仮面ライダーである。

 

 仮面ライダーバースも、一応は人間の手で開発された仮面ライダーであるが、それでも扱いにセルメダルを使用する制約付き。

 

 変身するタイプだし。

 

 故に今現在のハジメでは造れないし、兵器のレベルも些か高いと考えた。

 

 況してや、変身するのはまだまだハジメの錬成では荷が重いのである。

 

 ユートが造れるのだってユーキが普通に造れた為、その技術を教わっていたからに他ならない。

 

 つまりは純然たる科学の産物を、【創成】によって量産していた訳だ。

 

「だから僕にも作れる筈、優斗からそう言われた」

 

「そっか、学校では親しそうには見えなかった」

 

「僕が臆病でシャットアウトしてたんだ」

 

 万が一にユートが虐めの標的になって、ハジメとの関係を煩わしいと思われたらと考えると。

 

 まぁ、トータスでの強さを見れば杞憂でしかないのは一目瞭然だが……

 

「でも、鎧って重いんじゃないの?」

 

「僕のステータスの技能、錬成の中に面白いものを見付けたんだ」

 

「面白い?」

 

「うん、大迷宮から出て気付いたんだけどね」

 

 

南雲ハジメ

17歳 男 

レベル:18

天職:錬成師

筋力:20

体力:32

耐性:18

敏捷:45

魔力:80

魔耐:63

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+魔法付与] 雷撃 能力之窓 ??? 言語理解

 

 

 空色のステータスプレートを見せられ、中村恵里は目を見張って凝視した。

 

「魔法付与?」

 

「そう、魔法の効果を魔石や宝石に付与が出来る錬成の派生技能らしい」

 

「でも、それって南雲君が使えないと意味が無いんじゃないの?」

 

「硬くする魔法と軽くする魔法、僕のCADに入っているんだよ」

 

「硬くすると軽くする?」

 

 ユートが派生技能として出る様に、ハジメへ授業をしていたのが良かった。

 

 そして予めこの魔法を、ハジメに渡すこのCADへインストール済み。

 

 つまりは、重いG3の鎧を出来るだけ軽量化が可能という事だし、金属鎧を更に硬くする事も出来る。

 

 ベルトの部位にエネルギージェネレータを設置し、其処をエネルギー供給源として魔法の効果を持たせる予定だった。

 

 軽くなるから少なくとも歩いて攻撃をする事は可能だろうし、硬くなれば防御が上がってダメージも受け難くなる。

 

 元よりユートはこの手の物を造るのは得意な訳で、必要な魔法は基本的にこのCADにはインストールをしてあった。

 

 軽くする事と硬くする事は元より、身体サポートの強化魔法も可能。

 

 ハジメでも扱える魔法、故に魔法付加が出来る。

 

 あのCADは元々が雫……北山 雫という別世界の女の子に渡す為に造っていた物の試作品且つ失敗作、成功した完成品を渡した後は放ったらかしにしていた物で、なのは主体世界でのデバイスや魔法の技術を盛り込んだ試作機として後に構築をしていた。

 

 PSYON用だったのが魔力で扱えるのは、この時に行った改修の為である。

 

 また、わざわざコイツを引っ張り出したのは彼方側の【高機能性遺伝子障害(HGS)】の人間が、力を制御し易い様なデバイスの製作をする為の試作機を造る雛型にしていたからだ。

 

 廻りに廻って試作機でしかなかったこれを、ハジメが使う用に引っ張り出した辺り、彼の力に共感をしたという事だろう。

 

 イメージインターフェースも組み込まれている為、ボタン制御はサブとしての機能でしかない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 所は変わって……

 

「はぁ……」

 

「優花っちぃ、いい加減で元気出しなよ……部屋の中が暗いからさ」

 

 宮崎奈々は優花が先程、というか帰ってきてからはずっと鬱ぎ込み、バレッタを視ながら溜息を吐く事を繰り返すのを諌めていた。

 

 ユートが奈落に落ちたのを見てしまい、大迷宮から帰って来てから泣き晴らしたかと思えば、この鬱状態がずっと続いていた。

 

「優斗……」

 

 ボソリと名前を呟く。

 

「っ! うう……」

 

 真っ赤になりながらも、涙を零すとか随分器用な事をしている優花、宮崎奈々も菅原妙子もペンダントの事と、特別に誂えたらしいバレッタの話からも優花の想いは理解しており、流石に茶化す気にはなれない。

 

 天之河光輝は絶賛、御都合解釈で精神的自慰行為に耽っている。

 

 つまり、『俺は悪くない』とか『悪いのは檜山で、檜山と仲違いした緒方が悪いんだ』とか、闇堕ちしたかと思うくらいにアレで、坂上龍太郎が世話を焼いている状態だった。

 

 三人のヒロインを救う為の修業は継続中。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 オルクス大迷宮。

 

 仮面ライダーエボルから変身解除をしたユートは、拠点とした封鎖領域にまで戻ってくる。

 

 あの三人が起きていたら流石に、エボルの姿は衝撃が強過ぎるだろうから。

 

 そして結界内に入って、その途端に剣を向けられてしまったのだが、その剣を弾いて押さえ付けたら何だか押し倒した感じになり、困ってしまうユート。

 

「で、何で剣を向けてきたのかな? 八重樫。一応は命の恩人の心算なんだが」

 

「わ、悪かったわよ。警戒するしかないでしょうが、こんな状態だと」

 

「まぁ、判らんでもない。敵意は無いと考えても良いのかな?」

 

「どうせ敵わないんなら、無駄に敵意を向けないわ。香織と先生も良い?」

 

「う、うん」

 

「先生は構いません」

 

 それで漸く八重樫 雫から退いたユートは、手を貸して雫を起き上がらせる。

 

「それで、此処は?」

 

「奈落の底」

 

「奈落?」

 

「オルクス大迷宮の最下層……と思われていた場所」

 

「思われていた? それ、どういう意味よ?」

 

「簡単に云えば、オルクス大迷宮は上の百階層をクリアしたら、真のオルクス大迷宮を往く仕様らしいな。上への階段は無いくせに、下への階段は見付かった」

 

「なっ!」

 

 八重樫 雫が驚愕して、白崎香織も愛子先生も驚きに目を見張った。

 

「つまり、百階層に降りたらノンストップで真オルクス大迷宮に挑み、恐らくは更に百階層を進む必要性があるんじゃないかな?」

 

「まだ、更に百階層?」

 

「しかも、ザッとこの階層を探索してみたが、少なくともベヒモス一匹にオタオタしている程度の連中に、戦える魔物じゃなかった。まぁ、流石にベヒモス程に強くはなかったがね」

 

「ベヒモス一匹にって」

 

「あんな突撃と赤熱頭くらいしか脳が無い闘牛擬き、殺ろうと思えばいつだって殺れた。だけど僕が無双して終わらせたとして、連中は弱い侭だからな。それとも僕一人に戦争を押し付けるか? 己が弱さを言い訳に使って」

 

「そ、そんな心算は……」

 

「だよな、戦争に真っ先に賛成した始まりの四人だ。なのにいざとなったら他人に丸投げ、有り得ない愚行だよな? それってさ」

 

 グサリと二人――八重樫 雫と白崎香織の胸を貫く言葉の刃。

 

 あれは確かに天之河光輝が真っ先に賛成をしたし、坂上龍太郎がすぐに追従をして、八重樫 雫が仕方がないからと賛成、白崎香織も親友がやるならと消極的ながら賛成した。

 

 愛子先生の反対を無視してまで賛成し、他の生徒の反対意見は出し様が無くなる流れだったのは間違いないだろう。

 

 唯一、ユートが反論らしきをしたが……

 

 真っ先に賛成したと言われても反論など出来ない。

 

「取り敢えず僕は大迷宮の攻略をする。実際に何階層あるかは知らないけどな、ゲームなんかだと最終階層に外へ出る仕掛けとかが、一応だが存在している場合もある訳だし」

 

 寧ろ、上に行く階段が無いという事は最終階層まで来い……という事。

 

 脱出路が用意されていないとは考え難かった。

 

「あ、私達はどうすれば良いの?」

 

 八重樫 雫の質問に……

 

「え、知らんよ」

 

 にべもなく答えた。

 

「し、知らんって……」

 

「僕は下に降りるとは言ったが、君らの処遇まで僕が知る訳も無いだろうに」

 

 余りにも冷たい物言い、八重樫 雫だけでなく白崎香織も愛子先生も、どう言って良いのかを判断が出来ずにいた。

 

「ど、どういう事ですか? 緒方君だけでってぇ」

 

 愛子先生が涙目になって真意を訊ねてくる。

 

「端的に言えば足手纏い、一人でなら此処からの階層でもどうとでもなるけど、流石に足手纏いを三人も連れて行くのは……ね」

 

「あ、足手纏いって何? これでも私は剣士の天職で八重樫流を学ぶ者なのよ! 香織だって治癒師だから怪我を治すエキスパート。戦闘職じゃない先生はまだ仕方がないにしても、私達は足手纏いにならないわ」

 

 暗に愛子先生は足手纏いになると言っているけど、本人もそれは理解しているから文句も言えない。

 

「残念ながら、八重樫達の戦闘力じゃ話にはならないんだよ。この奈落の魔物の強さ的にはな」

 

「――は?」

 

「ベヒモスには及ばない、だけど八重樫ではまともに戦う事すら出来んよ。恐らくは蹴り兎の一匹すら」

 

「くっ、私が兎の一匹も斃せないって言いたいの?」

 

「そう言った心算だが」

 

「良いわ、見てなさい!」

 

 八重樫 雫は怒り心頭で結界の外へ出た。

 

 蹴り兎は一番の雑魚で、二尾狼や爪熊といった複数で繰るのや、一撃が強力な魔物も出るから危険なのだが無防備に、アーティファクトの剣を持って。

 

 アーティファクトとか云われても、あれは単に今では喪われた技術で造られた魔力剣というだけであり、古代遺失物(ロストロギア)と呼ぶにも足りぬガラクタとしか思えない。

 

 況してや、刀に近いからと選んだ剣だろうがやはり刀には成り得ない物。

 

 つまりは八重樫 雫の力を生かし切れないのだ。

 

 ユートも得意は刀だが、【緒方逸真流】はそもそも武器を選ばない。

 

 無ければ無いで充分戦えるという訳だ。

 

「ったく、しょうがない」

 

 結界外に出ると案の定、蹴り兎に苦戦していた。

 

 蹴り兎の素早さに翻弄をされており、まともに剣を当てる事すら叶わない。

 

「くっ、強い!?」

 

 八重樫 雫の刃は決して蹴り兎に当たらないのに、折りを見て蹴ってくるのを完全に避けられず、少しずつダメージが蓄積する。

 

「高が兎一匹に何てザマよ……緒方が言った通りか」

 

 何とか油断無く動いて、致命的なダメージは避けているのだが、僅かな時間でボロボロになっていた。

 

 八重樫 雫が期を狙って居合いの一撃を放つ。

 

「なっ! 躱され……」

 

 必勝のタイミングだったのが、見事なまでに外されてしまって隙だらけに。

 

「ガッ!?」

 

 逆にクリティカルヒットと云うべき蹴りの一撃を、その胸に喰らい吹き飛ばされて壁に激突。

 

「ぐふっ!」

 

 壁が砕ける程の勢いで叩き付けられ、口から血を吐き出しながら前のめりに倒れてしまった。

 

「うう……」

 

 ちょっと気色悪いけど、見た目から兎の筈の魔物が八重樫 雫には、とんでもない怪物に見えている。

 

 漫画やアニメではそれによるダメージが大して表現されない、或いは防御力が凄いアピールかという感じで流されるが、岩が砕ける勢いで人間の身体がぶつかったら、人間の柔い肉体は破壊されてしまう。

 

 八重樫 雫の背中は背骨から何から砕け、服がボロボロで皮膚もグズグズに、肋骨も数本は砕けて残りは罅になっている。

 

 脚の骨も砕けて曲がってはいけない方向に曲がり、腕もぶつけた拍子に砕けているらしいし、内臓の方にもダメージがあった。

 

 正しく満身創痍を地で逝く状態だろう。

 

「兎……が、いちばん……よわそ、だった、あれで……」

 

 蹴り兎のステータスが、いったいどの程度かは判らないが、間違いなく今現在の八重樫 雫の倍以上は強いと思われる。

 

 雑食なのか蹴り

 

 兎が八重樫 雫へとヒタヒタ、ニヤリと嘲笑いながら近付いてきた。

 

《ATTACK RIDE CLOCK UP》

 

「お前は何を喰おうとしている? クソ兎が!」

 

 斬っ!

 

 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 

 

「教えてやるよ。これが、モノを殺すっていう事だ」

 

 ユートの内なる力には、這い寄る混沌が在る。

 

 嘗て、【魔法少女リリカルなのは】主体世界での、約二〇年前の時代に於ける天乃杜神社で世話になった際の事だ、ピンチに陥った退魔巫女たる天神かんなと天神うづき、助っ人として居候中の木島 卓の三人を助けるべく、這い寄る混沌の力を喚起させるのに祭神たるイチ様、水杜神社から来たナツ様の神氣を流し込んで貰ったら、どういう訳かマゼンタカラーで一八個のライダーズクレストが刻まれたディケイドライバーが顕れた。

 

 まぁ、使い易い力だから有り難く使ったけど。

 

 爾来、ユートは仮面ライダーディケイドに変身する事が可能となり、放浪期に世界を放浪しては出るのを繰り返すと、ユートが識る仮面ライダーフォーゼまでのライダーカードを手に入れる事が出来た。

 

 後に【カンピオーネ!】世界で仮面ライダーウィザードを知り、自らウィザードライバーを造った後で、ライダーカードにウィザードが在ったのに気付いて、更にゴーストやエグゼイドやビルドやジオウ、果てはゼロワンなども知識として得たらカードが手に入り、今のユートは基本的にそれらにカメンライドが可能。

 

 だからユートは仮面ライダーディケイドに変身し、その侭でクロックアップをしたら、ライドブッカーのソードモードで蹴り兎の体を一七分割してやった。

 

「流石に細かくし過ぎた。まぁ、魔石くらいは持って帰るかね」

 

 変身を解除して八重樫 雫をお姫様抱っこにして、拠点となる封鎖領域へと戻るユート。

 

 ズタボロな八重樫 雫をみた白崎香織は、泣きながら回復させるべく呪文詠唱をしようとする。

 

「莫迦、待て!」

 

「な、何で止めるの?」

 

「こんな皮膚や骨から内臓までグチャグチャな状態、変に回復魔法を使っておかしな形で回復したらどうする心算だ?」

 

 ハッとなる白崎香織。

 

「そうですよ! 骨が曲がった状態でくっ付いたりしたら一大事です!」

 

 その可能性に思い至った愛子先生が叫ぶ。

 

「ど、どうしたら……」

 

 今までは怪我をしたとかいっても、普通に回復魔法を使えば治る程度のものでしかなく、こんな一秒先で死んでもおかしくない重傷なんて看た事もない。

 

「チッ、今回は仕方ない。こいつを使う」

 

 青白いバスケットボールくらいの大きさがある鉱石……それは【神結晶】だ。

 

「飲ませるのと同時に身体全体に掛ける」

 

 ユートは八重樫 雫の着た物の“全部”を剥ぎ取ってしまうと、先ず自身の口に【神水】を含んで口移しに飲ませる。

 

 そして更に身体全体……余す事無く掛けてやった。

 

 因みに、近くでずっと見ていた白崎香織と愛子先生はユートの所業に吃驚し、口出しをする事すら出来ないでいる。

 

 不可思議な現象が起き、八重樫 雫の肉体はみるみる元の健康な状態に戻っていくのだった。

 

 難があるとすれば裸体を晒して、見えてはならない部位までバッチリみえてしまっている事か。

 

「ちょ、雫ちゃんがマッパだよ〜!」

 

「これ以上、八重樫さんを見てはいけません!」

 

 慌てている白崎香織に、低いからピョンピョンと跳ねながら、ユートの目を閉じさせようとする真っ当な教師……愛子先生。

 

「これでも着させろ」

 

 ユートが白崎香織に渡したのは、聖闘士が聖域での修業時代に着る丈夫なだけの簡素な服、スカート付きだから女性聖闘士の見習い用の服だろう。

 

 取り敢えずショーツも無い侭、そんなスカートの付いた服を着させた。

 

 その間、ユートは拠点から暫く外へと出ていく。

 

「思った通りだったな……部位欠損はどうにもならないにせよ、あそこまで壊れていても癒やせる水か」

 

 【神水】の有用性を鑑みたなら、必要な分を小さな容器に容れておくべきだ。

 

 ユートは【創成】によりプラスチックの試験管っぽい容器、コルク栓っぽい物を幾つかセットで創ると、その中に【神水】を容れる作業に没頭した。

 

 数分後、着替えが終わったと愛子先生が呼びに来るまで延々と。

 

 

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第9話:三つの選択肢から決断する刻

 ユートのステータスプレートの中身を変更しるに伴い、文章の内容もそれに則した形で改稿をさておきました。





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 ユートが拠点に戻ってみると涙目で睨んでくる八重樫 雫。

 

「どうかしたか?」

 

 見ればまるでレ○プ犯を睨むみたいな……まるで私は穢されましたという様な感じの目だったし、自身を抱き締めるみたいな格好でペタンと女の子座りで座り込んでいた。

 

 まぁ、ショーツ無しだから短いスカートで丸見えとかは勘弁なのだろう。

 

「スカートよりズボンの方が良かったか?」

 

「有るんならそっちを出しなさいよ!」

 

「何を怒ってるんだ?」

 

 ズボンを投げ渡しながら疑問を呟く。

 

「……私の裸を! 緒方君が見たんでしょうが! 未婚の! 乙女の! 柔肌を! しかもファーストキスまで奪ってくれて!」

 

「見たは見たけど、身体中あちこちがボロボロだったんだぞ。特殊な性癖でも無い限りそんなもん見たって興奮はしないな。ファーストキスだと言われても、救急措置をカウントしていたら一般的な救命なんて出来んだろう」

 

「そ、そういう問題じゃあ無いわよっ! くっ、乙女の唇を何だと思ってるの!」

 

「じゃあ、あれか? 魔物に喰われていた方が良かったのか?」

 

「そ、そんな訳!」

 

「間違えるな。八重樫は勝手に結界の外に出て、勝手にやられて死に掛けたんだ。自業自得で重傷を負ったのを、此方は善意で貴重な回復アイテムを使って治してやった。マッパにしたのは治療行為だったんだが、何か文句でもあるのかな?」

 

「うぐっ! そ、それは……」

 

 勝手に出て行き勝手に死に掛けたのは間違え様の無い事実だし、八重樫 雫は確かに文句を言える様な立場では無かった。

 

「しかも案の定、蹴り兎の一匹すら相手に出来なかったよな? あの程度の動きに翻弄されたし、一撃を貰っただけであの体たらく」

 

「ぐっ!」

 

 悔しそうに表情が歪む。

 

「え、雫ちゃんが兎さんにやられたの?」

 

「香織、アレは兎()()なんて可愛らしいもんじゃないわよ。あの気色の悪い姿は」

 

 異常に発達した脚故にユートもアレを蹴り兎だと称したのだ。

 

「ですが、剣の扱いを心得ている八重樫さんが成す術も無く斃される程ですか、本当にそれは強い魔物なんですね……」

 

 愛子も雫の実家についてくらいは知っている。

 

 八重樫流剣道場。

 

 とはいえ雫が持っているアーティファクトが刀ではなく、極めて形が似ているシャムシールっぽい剣では実力が十全ではないのも仕方がない。

 

「取り敢えず、刀だろうが何だろうがそもそもの話で八重樫の能力が足りてない。それで蹴り兎には勝てる訳が無いんだよ」

 

「……それでも一番弱い、そうなのね?」

 

「強いにしても所詮は兎。熊に敵う道理も無いだろうな。だけど単純な実力は二尾狼の方が低いみたいなんだよな」

 

 実はそんなに弱くない蹴り兎はやり様によっては複数の二尾狼をも斃せる。

 

「だけど私がこんなザマだとすると香織と先生は余計に……」

 

「言っただろう? 君らは足手纏い、だから僕は一人で行くんだ」

 

「私達はどうすれば良いのよ?」

 

「この拠点で黙って待っていれば良い」

 

「待つって、それはいつまで?」

 

「知らん。百階層だからな、少なくとも一〇日は見ないといけないかもね」

 

「と、一〇日も!?」

 

 ()()()()()だから若しかしたらそれ以上掛かるかもしれず、仮に順調に一〇日で済んだとしても行きだけにそれなら、戻りに一〇日が掛かるという事。

 

 そしてまた一〇日掛けて最深部までと。

 

 つまりは一ヶ月間。

 

「あの、緒方君。それなら八重樫さんと力を合わせて戦った方が良くないですか?」

 

「八重樫は足手纏いだと言ったろ、居たとしても寧ろ邪魔になるだけさ」

 

「緒方君はそんなに強いの? 私を邪魔者扱いする程に?」

 

「ああ、あのベヒモスだって僕が一人だけならば簡単に斃せた。だけど、僕が無双しても意味が無いからな。そうしたら莫迦共が莫迦をやらかすしやれやれだぜとか、香ばしいポーズを執りながら言いたくなるくらいだよ」

 

 ユートにとって勇者(笑)も誰も足手纏いでしかないが故に、ベヒモス戦にしても連中に経験を積ませる為だけの戦いだった。

 

「まぁ、僕の力を見せれば納得はするか……ああ、やっぱ無理かな?」

 

「何でよ?」

 

「勇者(笑)の幼馴染みだ、変な御都合解釈とかされても厄介だからな」

 

「しないわよ! 光輝じゃないんだから!」

 

「し、雫ちゃん……」

 

 存外と良い性格をしている八重樫 雫。

 

「それで、力って?」

 

「僕の天職は知ってるか」

 

「錬成師でしょ? 何だか蒼いゴーレムみたいなのを造っていたわよね」

 

「うん、それな。けど前にも言ったろ?」

 

「……へ?」

 

 ユートは自分の闇色をしたステータスプレートを三人に見せてやる。

 

「これは?」

 

 八重樫 雫が首を傾げてしまう。

 

「能力値も小さいし技能も派生技能が山ほど有るけど錬成と言語理解だけ……」

 

 白崎香織は意味が解らないという風情。

 

「これが何なんですか?」

 

 愛子先生は腕組みをしながらよく判らないらしくやはり首を傾げている。

 

「この世界のステータスを表示するプレートだ、見ての通りだが実際には小悪党四人組を容易く斃した事から有り得ないのは、前の模擬戦の時にも話した筈だよな?」

 

「確かに言われたけど……そんなに隔絶しているって事なの?」

 

「そうだ。あの時はボソッと言っただけだったけどな、実際の僕のステータスは概算で60000くらいの筋力だと思われる」

 

「ろっ!?」

 

 余りに桁違いが過ぎて吹かしだと思ったのか、首を横に振る八重樫 雫。

 

「いやいや、流石に有り得ないでしょ?」

 

「ま、地球での能力が出力されていないからな。実際の数値までは判らないんだが……」

 

「レベルが全員1だったから確かに緒方君の言う事にも説得力があるわ。だけど緒方君が其処までの強さなのが納得いかないのよ!」

 

 確かに八重樫 雫の言い分は一理があったから、ユートは真実を話す決意をした。

 

「僕はとある場所で王をやっている」

 

「王?」

 

「天魔真王……天魔がどっから来たのかは知らんが真王は地球で僕が名乗っていた王号だ」

 

「はぁ?」

 

 またもや意味が解らない話に八重樫 雫は間抜けた声を上げる。

 

「正確には平行異世界での地球、もっと正確に云うと古代ベルカと呼ばれていた時代に群雄割拠してた無数の王の一人だ」

 

「古代ベルカって何よ?」

 

「そういう世界が有ったんだと思えば良い。覇王だとか聖王だとか雷帝だとか、他にも冥王や竜王なんかが居た中、真王として起ったのが僕だよ」

 

 天魔真王というのは、ジクウドライバーが変化したテンマシンオウドライバーによって変身をした姿がそれだったというのは理解していた。

 

 狼摩白夜からの情報から【仮面ライダージオウ】、この作品の謂わば主人公の常盤ソウゴが、最終回にてゲイツとツクヨミが殺られた後にオーマジオウドライバーを顕現、仮面ライダーオーマジオウに変身をしたと云う事らしい。

 

 そんな機能は付けていないが、何故か似た現象が起きてテンマシンオウドライバーに変化したのである。

 

 その姿は仮面ライダーシンオウがジオウの色違いだからか、やはり同じくオーマジオウの色違いであったと云う。

 

 しかも仮面ライダーオーマジオウと同様の能力を有しており、軽くチートだからちょっとばかり引いてしまったユート。

 

「ま、そんな訳で錬成師とはいっても僕はパッと見ただけじゃ計れないんだよ」

 

「「「……」」」

 

「取り敢えず目に見える形で見せようか」

 

 ユートの腰にはマゼンタカラーのバックルを持ったベルトが顕れた。

 

「な、何?」

 

「行き成り出てきた?」

 

「ベルトさん?」

 

 香織が言うそれはドライブである。

 

「ネオディケイドライバーという」

 

「ネオって?」

 

「本来のディケイドライバーはバックルの色が白で此処に描かれる紋章だって九つの筈だ。だけどこれはバックルはマゼンタだし、紋章もディケイドとジオウを除く一八個もあるだろう?」

 

「う~ん確かにそうね。つまりその分はパワーアップをしてるからネオ?」

 

「それで正解だ、八重樫」

 

 通常のディケイドライバーだと他の仮面ライダーのカードを直に扱ったりは出来ない筈なのに、このネオディケイドライバーは何故なのかそれを可能としていた。

 

 事実として実際、ユートは仮面ライダーカブトへと変身せず、アタックライドのクロックアップを使用しているのだ。

 

「それでどうすると?」

 

「勿論、こうする」

 

 行き成りBGMが大音量で響く。

 

 それは門矢 士が、仮面ライダーディケイドへと変身する際の音楽である。

 

 ライドブッカーから引き出すディケイドが描かれたカード、マゼンタカラーのバックルが九〇度回転してバックルが開かれた。

 

 ディケイドのカメンライドカードを裏返して、ライダークレストが描かれた方を前面に。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE……》

 

 スリットからカードを装填し両手でバックルを勢い良く閉めた。

 

《DECADE!》

 

 黒のアンダースーツにマゼンタ主体のアーマーに緑の複眼、バーコード顔な仮面ライダーディケイドの姿へと変わる。

 

「なっ! 本当に変身したっていうの?」

 

「う、嘘……」

 

「はわわ!?」

 

 八重樫 雫は驚愕して、白崎香織はハジメが特撮に興味を持つが故に知識としてはあるが、やはり驚きに両手を口元に添えながらも目を見開く。

 

 愛子先生ははわわ軍師みたいだ。

 

「CSMやDXな玩具じゃないんだ。変身が出来るのは当たり前だね」

 

「CSM? DX?」

 

「バ○ダイから発売されている玩具だよ。ハジメなんて毎年、仮面ライダー全部のアイテムを買っているからな」

 

「南雲君が!?」

 

 反応したのは白崎香織で、やはりというべきか目をキラキラとさせている様である。

 

「ああ。現在、放映中……帰ったら新しい仮面ライダーをやってるんだろうが、仮面ライダー鎧武にしてもDX戦極ドライバーとか、DXゲネシスドライバーは言うに及ばず、武器類とかロックシードも無駄に全部を集めているな」

 

 とはいえ、子供用の玩具だからサイズは小さいし安全に考慮された丸みを帯びた造りだが……

 

「勿論、仮面ライダーディケイドのDXディケイドライバーも持っていた」

 

 あの黒歴史でしかないDXディエンドライバーも当然の如く。

 

「判らないのは玩具が発売されてるって事はよ、つまりそれは特撮のキャラクターって事よね? 何でそれで本当に変身しちゃってるのよ!?」

 

「僕の中には、クトゥルフ神話にも出てくる神の一柱たる這い寄る混沌ナイアルラトホテップの力が在った」

 

「クトゥルフ神話って……そんな小説の創作神話じゃないの!」

 

「それを言ったら宗教に於ける神話はその全て、人間が考えた創作でしかないだろうが」

 

「そりゃ、まぁね……」

 

 中々に宗教家を敵に回す科白であった。

 

「だいたい、それじゃ何で緒方の中にそんな力がって話にもならない?」

 

 後ろの二人がうんうんと首肯している。

 

「先ず、僕は転生者というカテゴリーに入る」

 

「転生者って、神様から力を貰って好き放題に暴れる人の事だよね? 確か女の子を洗脳したり、戦争を起こして大量虐殺をしたりする」

 

「か、香織……」

 

 余りにも的確? な説明対して八重樫 雫が冷や汗を流す。

 

「まぁ、間違っているとは言わないが……な。実際にそんな奴らにも会うからさ。それにそういった能力なら持っているし」

 

「マジ?」

 

「神様から貰った訳じゃなくて、自分で動いていたら手に入れていただけだよ。僕は天然で這い寄る混沌だったらしくてね、下手に力を覚醒させたら人格までも呑まれる。だから別の神、イチ様とナツ様の二柱から力を喚起して貰ったんだ。人格を呑まれない様にさ。その結果がこのネオディケイドライバーという訳だよ」

 

「……え、緒方君ってそれじゃあ神様?」

 

「その欠片の一つ……だ。這い寄る混沌は【無貌の神】とか【千の貌を持つ者】とか云われていて、貌を持たないが故に逆説的に千の貌を持ってる神だからな。老若男女の様々な姿を持っているし、一つ所に二柱の這い寄る混沌が居たとしてもおかしくない」

 

「性別も無い?」

 

「ああ、僕自身が這い寄る混沌と闘う身でもある訳だし僕の敵は女性体だからな」

 

 そう言って写真を八重樫 雫に投げ渡す。

 

「長い銀髪に碧眼、アホ毛が伸びた美少女ね」

 

 その名をニャル子。

 

 最初に転生をして以来もう随分と殺り合っている不倶戴天の敵である。

 

「何で僕の力がディケイドだったのか判らんが、だけど他の仮面ライダーへと変身をするとかなら這い寄る混沌みたいに貌を変える性質だったよ。それに仮面ライダーならよく識っているから僕的には使い易かったしね」

 

 しかも当時は得ていた能力を喪っていた為に、何らかの力がないと闘えない事情があった。

 

 それは無理矢理に【黒の王】と【白の王】が使った【真シャイニング・トラペゾヘドロン】を使った影響だった訳で、鬼神楽事件を終えた際にはイチ様の神氣を丸ごと――性交にて暫く存在するだけの神氣以外は全部を流し込んだ――与えて貰って復活をしたが……

 

 因みに、ネオディケイドライバーだけではなくマシンディケイダーも在る。

 

「そういう訳で僕は普通に変身が出来るんだよ」

 

 ディケイドの変身を解除しながら言う。

 

「仮面ライダーは低スペックでもパンチ力が1tくらいはあるし、僕自身の力も加えれば11tだからな」

 

「仮面ライダーが1tで、何で緒方君が10tなのよ?」

 

「鍛えてますから」

 

 シュッと響く鬼流な敬礼に近いポーズを取りながらユートは答えた。

 

 尚、仮面ライダーで最低スペックの1tというのは仮面ライダーG3である。

 

「鍛えて10t? 確か、重量級プロボクサーだって1tを出すのも苦労するって聞くけど……」

 

「ふむ」

 

 ガンッ! と迷宮の壁を殴り付けると、壁が普通に砕け散ってしまう。

 

「「「……え?」」」

 

 そういえば二日くらい前にも模擬戦後に地面を殴ってクレーターを作ったし、空手か何かで氷を蹴って割るみたいなのも確かにあるだろう。

 

 然しながら割と頑丈だろう迷宮の壁を砕くというのは、それもまた違う話だと思う三人は目を見開いて驚くしかない。

 

「理解はしたかな?」

 

「え、ええ」

 

 脳筋な坂上龍太郎とてこんな馬鹿げた力は持っていないのに、明らかに筋肉も背丈も下回りそうな筈のユートは容易くやってのけた。

 

「こんな事って……」

 

 文字通り桁違いな能力は普通に強い。

 

「仮面ライダーも多分だけどこのくらいは普通に出来そうだよな」

 

 流石にG3はそんなにも強くないし、通常フォームもそこまで大袈裟な能力は無いだろうけど、少なくとも仮面ライダーエボルブラックホールフォームが完全なる本気を出せば、そこら辺の大陸くらいならドパン出来る筈。

 

 というかブラックホールを創れば惑星ごととか……そもそも星狩り族だし。

 

 元スペックが低いクウガとてアルティメット化すれば充分に強い。

 

 そしてユートの場合は素のスペックに+αして仮面ライダーだから普通に強かった。

 

「解ったろ? 君らは足手纏いにしかならないんだ。君らと足並み揃えていたら一〇日がそれこそ一ヶ月になりかねないぞ」

 

「うぐっ!」

 

「まぁ、せめてどれか一つでも1000に届いているなら連れて行っても構わないけどな」

 

「む、無茶よ。光輝だって全能力が650になったばかりなのに……」

 

 全体的にはハイスペックな勇者(笑)君達とて、どうやら普通に廃スペックなユートには遠く及ばないらしい。

 

「……一人じゃ蹴り兎にも瞬殺されそうだな」

 

 勿論、複数パーティのレイドで闘ったのならば勝てる可能性もある。

 

 だけど蹴り兎を一匹相手にそんな体たらくであれば、もっと下の層にまで降りたら間違いなく死ぬだろう。

 

 そんな話の最中にク〜ッと何だか可愛らしい音が愛子先生のお腹から響く。

 

「は、はう……」

 

「確かに腹が減ったな」

 

 取り出すのは蹴り兎。

 

「それ、どうすんのよ」

 

「食うに決まってる」

 

 ジリジリと肉が焼かれる蹴り兎、毛皮を剥いで内臓を抜いて殆んど素焼き。

 

「そういえば私達のご飯はどうしたら……」

 

 というより八重樫 雫の目はユートの焼いている蹴り兎に注がれており、それに伴って白崎香織と愛子先生も視線をそちらへと移す。

 

「食いたいなら別に構わないが、この世界の魔物って普通の人間が食ったら身体が砕けて死ぬぞ」

 

「って、それじゃあ緒方君は何で食べようとしているのよ!」

 

「そもそも僕は普通じゃないから、何かイケる気がする!」

 

「はぁ?」

 

「僕が転生者だと言っただろう? 世界を渡り歩ける僕は嘗て別の世界の地球で神殺しの魔王カンピオーネになった。根本的には人間だとしても、肉体は随分と変質を遂げているんだよ」

 

「そ、そう」

 

「だから僕は食べても死なない。だけど君らが食べたらまず死ぬけどな」

 

 しかもただ死ぬよりも生き地獄を一瞬だけとはいえ受けるのが目に見えている。

 

「だとしたら、私達は餓えとも戦わないといけないっての? 約一ヶ月間も?」

 

 渇きは近場に川が有るから問題も無いだろう、だけど一ヶ月も餓えとの戦いは厳しい。

 

「ふむ、優花くらいに親しければ最低限の食くらいは保証もするんけどな」

 

「優花って……そういえば緒方君は可成り親しくしていたんだっけ」

 

「【ウィステリア】の常連だし、中間や期末考査の時には勉強も教えてるから。僕は作れるけど作らない、だから朝昼は適当なもので我慢して、夜に【ウィステリア】という訳だ」

 

「確かに、緒方君の昼間は南雲君張りな栄養ゼリーばかりだったわよね」

 

 八重樫 雫はユートの昼に於ける食生活を思い出したらしく苦々しい表情となってしまった。

 

「ま、良いか。僕のいつもの昼食用栄養ゼリーだけで良ければ渡しとく」

 

 ドサドサと栄養ゼリーが何処からともなく落ちてくる、その数は三百個で一人頭が百個ずつという事らしい。

 

「さ、三食が栄養ゼリーを一個だけ……」

 

「嫌なら食べなくても構わないさ」

 

「うう、贅沢は言えないわね」

 

 栄養ゼリーが一食一個とはいえ餓えは解消されるか? 一〇日で三〇個が消費されれば三〇日で九〇個だ。

 

 残り一〇個は日程がズレた場合の保険、三日間くらいしか保たないけど。

 

「あの~緒方君、やっぱり私達も連れて行って貰えませんか?」

 

「だから愛子先生、邪魔にしかならないんだよ。はっきりと足手纏いだから!」

 

 愛子先生の嘆願をバッサリ切って捨てる。

 

「それとも、ダンジョンで魔物に喰われて死にたいという遠回しな自殺志願?」

 

「ち、違いますよ! だけど女の子が三人だけでこんな場所に残されるのは……」

 

「随分とまた、先生はアレだよね」

 

「? 何ですか?」

 

「図々しい」

 

「はうっ!?」

 

 何だか罵倒されて哀し気な表情となる。

 

「女の子って、二五歳である先生が? 図々しいにも程があると思うんだが? アレかな? 見た目がちみっこい中学生だから女の子にカテゴリーしちゃったとか?」

 

「グフゥッ!」

 

 今度は別の意味で胸が痛くなったらしい。

 

 年増でちみっこの正しくWパンチ、畑山愛子のHPは最早0寸前である。

 

「お、緒方君が護るくらいは出来ないかしら? ほら、男の甲斐性って云うじゃない!」

 

「自分の女ならそうする。然るに君らはそうじゃないから護る気は無いな」

 

「む! それは……」

 

「誰かを護りながら戦う、それがどれだけ大変か知らないのか? どうして僕がそんな面倒を負わなければならない。それでもと言うならせめて僕のモノになってから言うんだね」

 

「そ、それは……」

 

「況してや、『始まりの四人』が護れとかどの口が言う」

 

「ぐっ!」

 

 戦争に賛成した四人。

 

 勿論、積極的に賛成をした訳では決してなくて幼馴染みの決断に追従した形だ。

 

 それでも戦争の流れにしたのは間違いない。

 

「あの時、せめてすぐ賛成しないで交渉を持ち掛けるなりが出来た。にも拘らず真っ先に勇者(笑)が賛成、男共に人気な君らも消極的賛成ときては、反対も出来ないんだからな」

 

「それはさっきも聞いた」

 

 苦い表情となる。

 

「でも、香織には好きな人が居るのよ……」

 

「ちょ、雫ちゃん!?」

 

 行き成りの暴露に真っ赤となり慌てる。

 

「知った事じゃないだろ。男と命を天秤に掛けてどちらが大切かってな?」

 

 貞操を守って死ぬのか、或いは生きる為に身を捧げるのか? それは好きにすれば良いというのがユートの談だった。

 

「此所で過ごすという選択だってある。少なくとも僕が護るのは身内だけだ」

 

 暗い顔になる白崎香織、八重樫 雫は睨みたくなるのを抑えていた。

 

「僕はこれから試しに造るものがある。だから、完成するまでに決めろ。残るか、身内になって来るか寄生して運を天に任せるかを……だ」

 

 大きな釜を準備しながら説明を行う。

 

 中にはキラキラした水状の何かで火を点けて、中身をグツグツと炊き始めた。

 

「な、何をしてるのよ?」

 

「錬金術」

 

「はぁ?」

 

 ユートは八重樫 雫からの質問に答え、必要な素材を釜へと放り込んでいく。

 

 魔物の肉。

 

 万能中和剤。

 

 神水。

 

 魔物の血液。

 

 魔石。

 

 素材を理解し分解して、成分の抽出、新たなる物へと再構築をする。

 

 アトリエ系錬金術士による錬金術の基礎にして奥義であり、ユートがソフィーと共にプラフタから学んで修得した技術だった。

 

 ぐーるぐーると釜の中を掻き混ぜる、ぐーるぐーるぐーるぐーる……と。

 

 程無く完成したのは白い丸薬、ユートは成し遂げたと満足そうに頷いている。

 

「さて、決めたのか?」

 

 チラッと見遣ると肩を震わせる白崎香織、困った顔になる八重樫 雫、頭が湯立っている畑山愛子先生。

 

 愛子先生の場合は教師と私人の狭間でグラグラしており、白崎香織はやはりハジメの事が気に掛かるのだろう。

 

 八重樫 雫はどうしたらと考えたみたいだったのだが、下手な考えは休むにも似てやはり何も思い付かない侭で時間切れとなる。

 

 ユートとしてはどれを選ぼうと全て自己責任の範疇であるし、どちらでも好きにすれば良いといったスタンスであった。

 

 だから……

 

「……御願い……します」

 

 八重樫 雫は三人を代表してそして唇を押さえながら、ユートへとそれを苦々しそうに告げてくるのを溜息も無くジッと見つめているのだった。

 

 

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 明日に新しいのを書けなければ、連続投稿は終了という事になります。




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第10話:封印されている女の子?

 ギリギリ書けました。





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 八重樫 雫は八重樫流の道場を運営する一族の娘、だけど若し彼女の才能というのがせめて普通ならば、今現在の八重樫 雫は無かったに違いない。

 

 だけど彼女の才能は半端なモノではなかった。

 

 結果として八重樫流道場で剣の道を突き進む。

 

 仮令、八重樫 雫本人は可愛い物が大好きな実に、実に女の子らしい趣味を持っていたとしても。

 

 部屋が実に今時の女の子を体現していても……だ。

 

 そして後輩は疎か同級生からも『御姉様』呼ばわりされ、ソウルシスターズなんていう頭のおかしな集団が居てもである。

 

 心の中では女の子の夢とまで云うか、お姫様願望を持っていて『護られたい』と思っている。

 

 だけど実際はどうか?

 

 莫迦な幼馴染みの尻拭いでオカン体質が身に染み、剣道が強くて美少女なだけにアホな後輩や同輩や先輩が湧いていて、護られる処か真逆の立ち位置に居た。

 

 まぁ、幼馴染みに救われてはいたのかもだが……

 

 子供の頃に『あんた、女だったの?』なんて言われた事もあり、美少女なりに色々とあったのである。

 

 とはいえ、ある意味では護られたいという望みは、叶ったと云えるだろう。

 

「あああっ!?」

 

「し、雫ちゃん!」

 

「八重樫さん?」

 

 突然叫んだ八重樫 雫、白崎香織も愛子先生も心配そうに見ると……

 

「嘘!」

 

「や、八重樫さんが!?」

 

 石化していた。

 

 ビキビキと乙女の柔肌が硬い灰色に変わっていき、痛みを感じているのか悲痛な叫びを上げている。

 

「其処か!」

 

 グサッ! 短剣が蜥蜴みたいな魔物の頭を貫いた。

 

 ビクビクと痙攣しながら命の灯火を消される。

 

「ったく、早速の足手纏いって訳かよ!」

 

 ユートは金色の針を取り出すと、石化していた腕に躊躇い無く突き刺す。

 

「あっ!」

 

 痛みは無い筈だが針を刺された感覚はあったのか、八重樫 雫は思わず声を上げてしまう。

 

「石化が解けた?」

 

 驚く白崎香織。

 

「【金の針】という対石化アイテムだ」

 

 使い捨てだが大して高額という訳でもない。

 

「兎に角、落ち着ける場所でヤりたいから移動してるんだが、足手纏いにはならないでくれよ」

 

「そう言われても……」

 

 正直、三人は別にヤりたくは無い訳で。

 

 だけど戦闘に秀でている剣士の天職持ちで、しかも実家の道場で基礎からやっている八重樫 雫があんなボロボロに、それも雑魚も同然で完膚無きまでに斃される様な場所に置いていかれてしまっては、仮令それが半月程度でも気が狂いそうになる。

 

 況してや、ユートが迎えに来なかったら餓死してもおかしくないから、付いて行くしか手は無かった。

 

 その代償が肢体で支払えというのは、やはり女の子としては初めては好きな男を相手に……とか夢見たくはなるもの。

 

 果たして命の代価として安いのか高いのか、三人にはその判断は付かない。

 

 だけど、少なくとも白崎香織には好きな相手が居るから、それを鑑みればどうしても理不尽に感じた。

 

「怪我は無いか?」

 

「な、無いわ」

 

「そうか」

 

 ドキリと胸が高鳴る。

 

 可愛い物が好きで護るより護られたい、お姫様気質な八重樫 雫にとって先程のやり取りは理想的だ。

 

 ソウルシスターズが蔓延る八重樫 雫の周囲的に、どうあってもお姉様という護る者となりがちであり、現勇者(笑)の暴走に頭を痛めるオカン体質も、やはり自らを追い込んでいた。

 

「然し、デバフ系が来たとなると厄介だな」

 

「デバフ系って、さっきの石化みたいなのよね?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 ユートは頷く。

 

「さっきのは蜥蜴っぽかったからバジリスクモドキ、という程には強くないか」

 

 本当にバジリスクなら、それなりに強いとユートは考えるし、そもそもにしてこの世界の魔物なのだからバジリスクそのものな筈もないだろう。

 

「そういうアイテムって、何処から持ってきたの?」

 

「別世界に行った時に買った物を、僕が再現したりしているんだよ」

 

「別世界?」

 

「そう、ゲームとか漫画……“みたいな”世界が有ってね。此処もそんな世界の一つだろうに」

 

「まぁ、ファンタジー世界とは云えるかな?」

 

「八重樫に使った【金の針】もそんな一つ、石化解除専用のアイテムだよ」

 

「限定的なのね」

 

「使い捨てで高価な物でもないからな」

 

 ファイナルファンタジーと呼ばれる世界観が有り、カオスや皇帝や暗闇の雲やゼロムスやネオエクスデスやケフカやセフィロスなどといった存在と戦った。

 

 そんな世界で、だいたい使われている石化解除するアイテム、【金の針】を手に入れたら複製をしない筈もないだろう。

 

 世の中には様々なデバフがあり、石化は普通の世で受ける事など無い。

 

 某石化世界とかならまだしも、メドゥーサが現存するとかでなければ。

 

 だけどユートの居る地球では有り得る話、なら必要なアイテムであろう。

 

 八重樫 雫は四歳の頃、剣才を発揮してしまってから始まった日々、フリフリな服を着たいとかキラキラなアクセサリーが欲しい、そんな女の子としての欲を抑えるという。

 

 天之河光輝も見た目に反して王子様足り得ない中、漸く逢えたのが肢体だけを要求する人物とか、八重樫 雫は泣いても良い。

 

 どんどん下に降りていく中で、ユートは確実に魔物を屠っていく。

 

 散弾銃の如く羽を飛ばしてくる梟モドキ、これに関しては普通に流星拳で対処をしていた。

 

 小宇宙は異世界であるが故に使えないが、単に音速の拳ならば身体能力だけでも放てるからだ。

 

 極限までに鍛え上げて、更にはカンピオーネとなったが故の強化、出来ない方が寧ろおかしいレベル。

 

 勿論、バジリスクっぽいのと含めて食肉として美味しく戴きました。

 

 タウル鉱石やフラム鉱石など、興味深い鉱石類などの採取も忘れない。

 

 ユートはこれでも工房を持つ錬金術士である。

 

 素材の採取はアトリエ系錬金術士の基礎だった。

 

「【フラム鉱石】……艶のある黒い鉱石で熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏五〇度程であり、タール状の時に摂氏一〇〇度で発火する。その際の熱は摂氏三〇〇〇度に達する。燃焼時間はタール量による……か」

 

 上手くやれば火薬の代わりにはなりそうだ。

 

「うん? 魔物か!」

 

 気配察知系のスキルなら反応しないスキルを持っていそうだが、ユートがやっていたのは【円】である。

 

 身体を覆うオーラを拡げる事で、それに触れた存在を感知する事が可能。

 

「はっ!」

 

 襲って来たのは鮫モドキな魔物、タールの中を泳いできたらしい。

 

 首を斬って殺した。

 

 鮫モドキの表皮は斬った感触から、物理的な衝撃を緩和する特性を持っていたみたいだが、そんなの全く以て関係は無い。

 

 薄く鋭く唯斬るのみ。

 

 とはいえ、どの魔物にも云える事が有るとすれば、八重樫 雫では一〇〇%勝てないという事。

 

 一応、アーティファクトのシャムシールっぽい剣を抜いているが、そもそもにして反応すら出来てない。

 

 休憩中、愛子先生からのお話がしょっちゅうある。

 

 勿論、愛の囁きだとか甘いお話ではなくOHANASHIの類いだ。

 

「聞いてるんですか!?」

 

「聞いてる聞いてる」

 

 けんもほろろなユートにバンバンと地面を叩き……

 

「痛いですぅ!」

 

 泣き言を叫んでいた。

 

「その、年頃だからそういう行為をしたいというのは解りますが!」

 

「先生も?」

 

「違います! ですから、白崎さんも八重樫さんも、将来的な事があります! ですから対価とか言わないでもう少し……」

 

 どうも一応は対価を支払うしかないと考えたけど、やはり完全に納得はしてないみたいで、こうして休む際にガーガーと怒濤の文句だった。

 

「ある魔女は言いました。与えられたモノには須く、それに見合うだけの代償、対価が必要。与え過ぎてもいけない、奪い過ぎてもいけない。過不足なく対等に均等に……でないとキズが付く。現世の軀に、星世の運に、天世の魂に……と」

 

「それは?」

 

「果たして先生や白崎達の命と貞操、比べて重いのはどちらなのかな?」

 

「うっ!」

 

「寧ろ、貞操で済ませているのを有り難がれ……とまでは言わないが、決めたなら文句を言うのは大人としてどうかと思うがね」

 

「うぐぅ……」

 

 ぐぅの音しか出ない。

 

 確かに命有っての物種、それは確かであるから。

 

 処女を守って死ぬというのも手だが、助かりたいと願うならどちらも守りたいが通じる訳が無い。

 

 最低限、ユートを相手にそれは甘い考えだろう。

 

「もう、面倒だからさっさと喰ってしまおうかな?」

 

「……え゛?」

 

「いつまでも処女だから、文句を言えるんだからな。さっさと処女を散らしたら文句なぞ言い様も無いし」

 

「あわわ!?」

 

 まるで、あわわ軍師みたいに腰が引けていた。

 

「もうちょい良さげな場所に出て、確りとした拠点を作った上で汗だくは嫌だと思ったから、シャワーくらいは浴びさせてやろうかと気遣った心算だったけど、こうも喧しいんなら気遣う必要も無いだろうしな」

 

 などと脅してやったら、白崎香織も八重樫 雫も首を思い切り横に振る。

 

「或いはアブノーマルに、行き成り『尻パイル』的な感じに、僕の最大限に勃起したモノを先生らの菊門からブスリ! と」

 

「お願いだから普通に……普通にシて! もう流れが止められないなら、せめて良い想い出に!」

 

 尻パイルは嫌だったのか八重樫 雫、涙目になりながら切に! 切に訴えた。

 

 白崎香織も覚悟自体は決めている。

 

 ユートの言う『始まりの四人』というキツい言葉、それはクラスメイトや先生を戦争に駆り立てた自分を含む勇者パーティの事。

 

 あの不良に絡まれていたお婆さんと子供、二人の為に土下座を繰り返した優しい『南雲君』を痛ましい争いの渦中に放り投げ最早、白崎香織がハジメに好意を向ける資格が無いと考え、ハジメに上げられないなら処女なんて、有っても虚しいだけでしかない。

 

 だから喪失して肉体的にも精神的にも、痛い思いをして謝りたかった。

 

 白崎香織は天然だから、何処かズレているらしい。

 

 そんな事で謝罪にも贖罪にもなりはしないのだというのに、単に罰を欲しているに過ぎないのであろう。

 

「さて、行くぞ」

 

「待って!」

 

「何だ?」

 

「やっぱり栄養ゼリーだけだとちょっと……」

 

 お腹に溜まらないというのは理解している。

 

 何故ならユートの学校での昼食は、優花が弁当を持って来てくれなかったなら普通に栄養ゼリーだから。

 

「あのね、私はご飯を作れるから対価! 食材を提供してくれたら私が美味しいご飯を作ります!」

 

 流石に耐えかねたのか、白崎香織も必死だった。

 

「ま、良いけどな。抱く時にガリガリなのもアレだ。僕は特殊な性癖なんか無いからね」

 

 合法ロリは好きだが……

 

 取り敢えず普通の釜や、鍋や包丁やまな板といったキッチン用具、そして普通の動物の肉に野菜に白米、味噌や醤油やマヨネーズといった必須食材などを提供してやる。

 

 結果として全員が懐かしいとも云える、日本食というものを心行くまで食する事が出来るのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「拙いな」

 

「え、何が?」

 

「この先のフロアは毒で満たされている」

 

「毒ぅ!?」

 

「ああ、薄い毒霧で覆われているから君らが入れば、命は無くなるな」

 

「そんな……」

 

 八重樫 雫は鬱ぎ込む。

 

 この先に行けなければ、帰れないという事。

 

 当然ながら、白崎香織も愛子先生も青褪めていた。

 

「仕方がないか」

 

 ユートは翠色の鉱石を、アイテム・ストレージから取り出した。

 

「グランツ鉱石じゃない、どうして緒方が?」

 

「あのクズがトラップに掛かった際、序でに引き寄せてアイテム・ストレージに入れておいたんだよ」

 

 ユートの権能にスサノオから簒奪した【我が右手が掠め盗る(トリック・オア・トリート)】が有る。

 

 この権能なら視認したり何らかの認識さえしたら、自らの右手の中に掠め盗る事が可能だった。

 

「それをどうするのよ?」

 

「君らに首輪を着ける」

 

「「「は?」」」

 

 行き成り意味不明な事を言われて、どう返事をしたら良いのか迷う。

 

「正確には僕が創る首輪に対デバフを付与する」

 

「……それが、首輪である理由は?」

 

「性奴隷っぽくて興奮する……からかな?」

 

「何でやねん!」

 

 最早、ツッコミ処しかない科白であったと云う。

 

 いずれにせよ対毒装備も無しには進めない訳だし、已むを得ずグランツ鉱石製の首輪を受け容れた。

 

 折角のグランツ鉱石が、性奴隷用の【隸属の首輪】に化けるとか、二〇階層でこれを見た時には思いもよらない結末だろう。

 

「因みに、グランツ鉱石じゃないんだけど、身体能力アップに各属性魔法軽減にデバフ無効化の複合効果付きアクセサリーを、大迷宮に入る前に優花パーティへとプレゼントしている」

 

「この扱いの差よ」

 

 八重樫 雫は嘆きたくなるのを必死に押さえた。

 

 取り敢えず、毒のフロアに足を踏み入れる事が可能となった為、早速フロアへ入ってみる四人。

 

「うわ、現れたわね」

 

 虹色の蛙。

 

「死んどけ」

 

 ドパン! ユートが電撃を帯びた状態で指先にて、コインを弾き飛ばした途端に虹色蛙は頭が吹き飛ぶ。

 

 とある電撃姫が得意としているレールガン。

 

「本当に色んな技があるって訳ね……」

 

 呆れる他に無い。

 

 今度は飛んでる昆虫……でっかい蛾である。

 

「モスラ?」

 

「わぁ、歌いたくなるね」

 

「呑気ね、香織は」

 

 モスラっぽい蛾の魔物が鱗粉をバラ撒いてくる。

 

「効果は麻痺か。僕に効く筈も無いけどな!」

 

 再びドパン!

 

 超電磁加速砲が再び火を噴いた形で、モスラ擬きがバラバラに吹っ飛んだ。

 

「直接は食いたくないな」

 

 誰だって蛾なんか口に入れたくは無かろう。

 

「ま、錬金術で丸薬にするから問題も無いな」

 

 それに食べるのはユートという訳ではない。

 

 更に降りたら密林。

 

「此処は迷宮の筈なのに、何で密林が有るのやら」

 

 巨大な百足が樹の上から降ってきた。

 

「きしょいわ!」

 

 ドパン! してみたが、節から別々に分かたれての攻撃行動。

 

「ちぃ、面倒な!」

 

 分裂百足が分かれた侭、ユートだけでなく後ろに控える三人にも、普通に攻撃を仕掛けてくる。

 

「やらせるか!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 仮面ライダーディケイドへと変身すると……

 

《ATTACK RIDE CLOCK UP》

 

 仮面ライダーカブトなどに変身せず、ディケイドの侭でクロックアップ。

 

「おりゃぁぁぁぁっ!」

 

 目にも留まらぬ迅さでの加速をし、ユートは手にしたライドブッカー剣モードで次から次へと斬り裂き、一気呵成に分裂百足を追い詰めて殺してやる。

 

 歩を進めると次に出たのが樹の魔物、トレント擬きという訳であった。

 

「これは、蔓か!」

 

 まるで鞭を揮われている気分となる。

 

「死ねや!」

 

 ドパン! と、電磁加速砲が火を噴いた。

 

「うん? 真っ赤な実?」

 

 危機に陥った生存本能故にか、真っ赤に染まった実を落としてきた。

 

「食えるかな、食えるかな……ゲット」

 

 早速、実にかぶり付く。

 

 瑞々しく美味しい甘味が口の中に広がった。

 

「美味いし毒も無いな」

 

 西瓜みたいな味の果実、お土産としてアイテム・ストレージに仕舞い、残りは留守番待機中の三人に食わせる事にした。

 

 折角だからトレント擬きが全滅するまで狩尽くす。

 

 そしてハーフポイント、即ち真なるオルクス大迷宮の五〇階層であった。

 

 やはりいつもとは違い、脇道の突き当りにある空けた場所に、高さ三mの装飾をされた荘厳なる両開きの扉が有り、その扉の脇には二対な一つ目巨人の彫刻が壁に埋め込まれるかの如く鎮座している。

 

「まぁ、動くんだろうな」

 

「動くわよね」

 

「うん、動くよね」

 

「動きますね」

 

 ユートへと追従をするかの様に、八重樫 雫と白崎香織と愛子先生が口々に。

 

 扉の前まで行かないと、どうやら動かないらしい。

 

《ZERO ONE DRIVER!》

 

「ネオディケイドライバーじゃない?」

 

「自己主張が激しいね」

 

 やはりズレた感想を持った白崎香織。

 

「プログライズキー」

 

 先ずはプログライズキーをバックルへ近付ける。

 

《AUTHORIZE》

 

 黄色いプログライズキーが認証された。

 

 トランスロックシリンダーのロックが解除されて、ライジングホッパープログライズキーの展開をして、キーモードとなったそれを手にした侭ポーズを取る。

 

「変身っ!」

 

 ライズスロットへ装填。

 

《PROGRIZE!》

 

 左側のライズリベレーターが展開され、プログライズリアクタが解放された。

 

《TOBIAGARIZE RISING HOPPER!》

 

 黄色い飛蝗型ライダモデル顕れると、ユートに合着するかの様に飛び上がる。

 

《A JUMP TO THE SKY TURNS TO A RIDER KICK!》

 

 黒いアンダースーツに、黄色のアーマーで仮面すらも黄色の赤い複眼、飛蝗をモチーフとした仮面ライダーゼロワン・ライジングホッパーと成った。

 

 戦闘準備は完了した為、扉へと近付いてみる。

 

「窪み……何かを入れるみたいだな」

 

 中央には二つの窪みがある魔法陣、両開きの豪奢な扉を開くのに必要みたいではあるが、流石に手掛かりが少な過ぎた。

 

「よくは判らんが力尽くでやってみるか?」

 

 取り敢えず思い切り力を籠めて押してみる。

 

『オォォオオオオオオ!』

 

 突然の雄叫びと共に扉の両横の彫刻が動き出す。

 

「わぁお、御約束だな」

 

 一つ目巨人、サイクロプスというやつであろう。

 

《Attache case opens to release the sharpest of blade》

 

「アタッシュケース?」

 

 八重樫 雫が首を傾げるけど、ユート――仮面ライダーゼロワンは構わないで展開する。

 

《BLADE RIZE》

 

 アタッシュカリバーブレードモード、再びアタッシュモードへと変形。

 

《CHARGE RIZE》

 

 また展開。

 

《FULL CHARGE!》

 

 この一連の行動により、アタッシュカリバーに攻撃エネルギーが収束。

 

「喰らえ!」

 

 仮面ライダーゼロワンが振り被り、一気にアタッシュカリバーを振り下ろす。

 

《KABAN STLASSH!》

 

「おりゃぁぁぁっ!」

 

 黄色の斬撃が動き出してすぐのサイクロプス〈右〉を襲い、真っ二つに斬ってしまった。

 

「悪いが動き出すのを待つ心算も無くてな」

 

 アタッシュカリバーを手放し、今度はゼロワンドライバーのライズスロットに刺さるプログライズキーを押してやる。

 

《RISING IMPACT!》

 

 ベルトから鳴り響く電子音声と共に、今度は右脚にエネルギーが収束された。

 

「お前を止められるのは、唯一人……僕だ!」

 

 ジャンプして蹴りの体勢に入り、仮面ライダーゼロワンはサイクロプスを殺すべく襲撃する。

 

「てりゃぁぁぁぁあっ!」

 

 仮面ライダーゼロワン・ライジングホッパーによる必殺技、ライジングインパクトがサイクロプス〈左〉の目玉を貫いた。

 

『グギャァァアアアッ!』

 

 結局、サイクロプス共は何もさせて貰えない侭に、仮面ライダーゼロワンによって殺された。

 

「この魔石は……自身こそが鍵だったって訳かよ」

 

 形からして扉の窪みへと入るみたいだ。

 

 鍵の作用か、両開きの扉が重苦しい音と共に開く。

 

 開かれた扉の奥は光一つ無くな真っ暗闇が拡がり、内部はどうやら大きな空間になっているらしい。

 

 夜目は利くからだいたいの事は見えて判る。

 

 中は聖教教会の大神殿で見た大理石の様な艶やかでツルツルな石造りであり、太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。

 

 部屋の中央付近には巨大な立方体が置かれており、光沢を放っているそれにはナニかが生えている。

 

「何なんだろうな」

 

 一応、危なかったら困るので三人は置いてきた。

 

 生えているそれは人型、長い髪の毛を持った小さな人型が、立方体に下半身と両腕を埋め込まれている。

 

「女の子……だよな?」

 

 身体の線や胸元が僅かに脹らみを見せているから、男という可能性は限り無く低い……筈だ。

 

「……だ、れ?」

 

 その人型はやはり女の子らしく、可愛らしい声で訊ねて来るのだった。

 

 

 

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 予定より早くゼロワンを出してみた。




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第11話:運命の鎧は運命を感じた相手に

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 真のオルクス大迷宮……ハーフポイントの五〇階層で二体の一つ眼巨人(サイクロプス)を討ち果たしたユートが、扉を開けて部屋に入って見付けたのは何と一二歳くらいの金髪緋目な女の子。

 

「取り敢えず危険は無さそうだな……」

 

 女の子をスルーして三人を呼び込んだ。

 

 白崎香織、八重樫 雫、そして畑山愛子先生が封印された女の子を見て憤るが、ユートは至極冷静に……

 

「落ち着ける場所みたいだから、此処で支払いをして貰おうかな」

 

 命の代価を求めた。

 

「ちょっ、助けないの?」

 

 立方体に封印された少女を見て叫ぶ八重樫 雫に、ユートは本気かと言わんばかりに首を傾げる。

 

「何で? 封印されてる。ならば見た目通りの年齢じゃないな。恐らく長命種、しかも封印されているなら真っ当な生き方をしたのかどうかも怪しい」

 

「そ、それは……」

 

「ちが、う……わたし……うら、ぎられた……だけ」

 

「とか言ってるけど」

 

 ユートの八重樫 雫との会話を聞いていた少女が、自分は単に裏切られたのだと釈明をしてくる。

 

「一方の言い分だけを聞いて解った気になるなよ」

 

「う……」

 

「だいたい、遺跡なんかに封印が施してあるんなら、妄りに解くべきじゃない。それで最低最悪の魔王復活とかになって、責任を取れるのか? 八重樫は」

 

「と、取れない……」

 

「天之河光輝なら考えもせずに封印を解くんだろう、何しろ奴は偽善者だしな。解いた後に疫災とかあっても御都合解釈で言い訳するだけだろうな、まったく目に浮かぶ様だよ」

 

 確かにありありと見えてしまい一応、幼馴染みとしては何とも言えなくなり、白崎香織も八重樫 雫も押し黙るしかない。

 

「【仮面ライダークウガ】でも、妄りに遺跡を暴いた結果として嘗てリント族を恐怖に沈めたグロンギ一族が復活、何百何千もの人間が連中に殺されたんだぞ」

 

「特撮の物語でしょ!」

 

「残念ながら実話だよ」

 

「っ!?」

 

 少なくともユートはよく識る事実である。

 

「他にも水晶内に封印されていた女の子、それを助けるべく水晶を何とかしたら何故かラスボスだった……みたいな話を聞いた」

 

「はい?」

 

 八重樫 雫は余りに不可解と思ったのであろうが、これはまだ再誕世界に暮らしてた頃、麻帆良学園都市に現れた宝石翁から女の子を複数人託された図書館島の魔女……黒芝かなえから彼女らを預かった後、本人達から聞かされた話だった上に、そのラスボス本人からも聞いたから間違いない事なのだろう。

 

「そんな訳で僕は推奨しないんだが、どうしても助けたいなら他がヤってる間、体が空いてるのが助けてみれば良い」

 

 バサリと何故か布団を敷き始めるユートに、三人はこれから抱かれるのだと、強く意識をしてしまったらしく頬を朱に染める。

 

「せ、先生から逝きます」

 

「先生!」

 

「愛ちゃん!」

 

 白崎香織は兎も角として雫は思わず、いつもは使わない愛ちゃん呼びで叫んでしまっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ガキン! ガキン!

 

「な、何よこれ! ちっとも壊れやしないじゃない」

 

 バキンッ!

 

「折れたぁ!?」

 

 使っていた武器が折れ、刃の半分が地面に落ちる。

 

(まぁ、そうだろうとも。簡単に破壊出来たら封印にならんからな)

 

 アーティファクトであるとはいえ、高が通常金属の剣でしかないシャムシールっぽいそれで、あの立方体の破壊が叶う程度であるのならば、ユートがさっさと封印を解いた。

 

 理由は簡単で、その程度の封印で出られないなら、封印された少女の力も高が知れているからだ。

 

「あの……」

 

「何かな? 愛ちゃん……あ・い・ちゃ・ん先生」

 

 ボッと瞬間湯沸し器も斯くやと赤くなる。

 

 バスタオル一枚な姿で、見られてないけど向こう側には白崎香織と八重樫 雫が居る状態、羞恥心は既にMAXでキスまでされてしまった。

 

 しかも普段は先生としか呼ばないユートに、行き成り明らかに親しみの篭った声で『愛ちゃん』と呼ばれて照れてしまったのだ。

 

 愛子も既に二五歳だし、普通ならば結婚していてもおかしくなく、それでなくとも婚約していたり最悪、彼氏が居るなりする年齢。

 

 当然ながらそれなりには男との付き合いはあったのだが、本格的な交際にまでは及ばなかった。

 

 況んや、『御突き愛』をする処かキスすらもない。

 

 最近では二五歳で処女も珍しいかもだけど、まさかファーストキスすらしてなかったのは最早、天然記念物並ではなかろうか?

 

 勿論、必ずしもそうではないのだろうが……

 

 畑山愛子は可愛い。

 

 小さくて顔立ちも幼く、胸も絶壁ではないけど大きいとは御世辞にも云えない程度、二五歳で既に成長の余地も無くなった年齢で、身長が一五〇cmしかない上に童顔だ。

 

 高校生処か中学生と思われても仕方がない訳だし、そもそも成長が中学生時代に止まったらしい。

 

 学生からは人柄と容姿、それにちょっとした愛嬌から人気な愛子“先生”ではあるけど、同じ年頃の男とちゃんとした交際が出来なかった理由でもあった。

 

 見た目が中学生の女性、成人男性が愛子との交際なんてのは、端から視たなら□リコンでしかない。

 

 仮に二五歳の男だったとして、愛子とホテルに行くのは躊躇うだろう。

 

 主に中学生をホテルへと連れ込んだ援交犯扱いか、未成年者略取とか言われて両手が後ろに回りかねないのだから。

 

 果たして『同い年だ』が信用されるか?

 

 最終的には嘘を言ってはいないから解放されるにしても、再び愛子と交際しようと思えるものか? という問題もある。

 

 そんな訳で畑山愛子は、今から起きる出来事に恐怖もあるし、相手が生徒だから背徳感も感じているが、ドキドキと心臓が高鳴ってもいた。

 

 勿論、そういうおかしな性癖がある訳では無いし、脅される形で最終的に自分から頷いた『合意』であるにせよ、好きな相手という訳でも無いのだから普通は嫌で嫌で堪らない筈。

 

 だけど、いざヤり始めると優しく触れられており、まるで恋人がする様なキスをされ、ハッキリと云えば若者故のがっつく感じとかが無く、寧ろ触られて安堵している自分に驚く程。

 

「あ、あの……緒方君って初めて……ではないんです……よね?」

 

「まぁ、童貞ではないな」

 

「ですよねぇ!」

 

 初めてではないから焦りやがっつく感じが無くて、寧ろ大人の余裕すら見せられている訳だ。

 

「男の初めてなんて無様だからね、とても見られたもんじゃないよ?」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 こういう会話を愉しむという余裕もあったのだが、ユートの脱童貞は本人が言う通り無様だったと云う。

 

 嘗てのユートは脱童貞を掲げて、大財閥のお姫様たる覇道瑠璃との決戦(笑)時に太股で擦れた分身から、白いアレを発射してお腹に掛けてしまったのだから。

 

 そんな苦い経験など有ったからではないのだけど、多くの経験――二千年から三千年は掛けて積んできたが故に最早、ユートに死角など有りはしない。

 

 行き成り『感じさせる』とかで、おかしな部分を触りまくったりするでなく、軽くキスをしながらソフトタッチ程度に触れ、会話で緊張感を解してくるのも、ユートが既に童貞ではないのだと、畑山愛子先生が感じた理由である。

 

 その内に『もっと触って欲しい』と思ったら堕ちた証拠、愛子はユートの唇が近付いたら自分から唇を重ねて、舌を自ら絡ませる様にディープなのを極めた。

 

 潤んだ瞳が雄弁に語る。

 

『もっとシて……」

 

 ソコまできて漸く本格的な御触りが始まった。

 

 ユートのホルモンは女性の警戒心を薄める。

 

 本来なら通報ものな事案であれ、ユートを通報したりしない程度には警戒心が低くなるのだ。

 

「欲しくなった?」

 

 抗えない。

 

 若し、畑山愛子が処女でなければまだ抵抗したかも知れないが、初めて味わった甘美な感覚に最早抗う事は不可能だった。

 

 故に愛子は頷く。

 

 ユートもシャワーを特設してやった甲斐はあって、仄かに薫る女の匂いが湯気と共に鼻を突き、既にその下半身は準備万端だ。

 

 幼い見た目に拘わらず、大人の薫りを漂わせている愛子を早く抱きたいとか、中々に愉しくなっている。

 

 愛子先生の準備も整い、ユートは彼女の初めての証を貫いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 さっきまでは少女(仮)を救出しようと頑張ってた筈の白崎香織と八重樫 雫、然し突然の甘い嬌声に吃驚してしまい思わず振り返ってみれば、あの可愛らしい先生が何処か淫靡さを醸し出して喘いでいる。

 

 それからたっぷりと凡そ二時間にも亘る『生徒と先生……いけないの、貴方は私の教え子なのよ』とか、古いアダルトビデオみたいなタイトルの動画を見せられている気分を味わう。

 

 だけどアダルトビデオと違うのは、AV男優やAV女優の演技による白々しいセ○クスなんかではなく、生々しい本当の性交を見せ付けられている処だ。

 

 ペタンと女の子座りをしながら、二人は顔を熟れた林檎の如く真っ赤に染め、あの可愛らしくマスコット扱いな『愛ちゃん』の痴態に見入ってしまう。

 

 本物の喘ぎと本物の絶叫を上げる『愛ちゃん先生』の姿は、同じ形をした別のナニかにしか見えない。

 

 初めての後も三回くらい行われたプレイに、香織も雫もいつの間にかすっかりデキ上がっていた肢体を、右手が股間に伸びて知らず知らずの内に慰める。

 

 尚、痩せこけて弱っていた少女(仮)もガン見していたりするが、流石に二人はそこまで気付いていない。

 

 初めに愛子にしたのは、見た目は兎も角として年齢は大人だったからであり、二五歳にもなれば心の奥底はどうあれ、対外的に整理も付けているが故。

 

 まだ一七歳な小娘に過ぎない二人は、やはり理想という名の妄想に縋るきらいもあるから、取り敢えずは恩師の性交を見せ付けて、肉体だけでもヤる気にさせる狙いがあった。

 

 それは上手くいったみたいで、二人は見事に股間を洪水で潤している。

 

 次のターゲットとするは八重樫 雫だ。

 

 これも好みとかでは決して無く、ポニーテールは好きだけど決して無く!

 

 一応は、好きな相手が居る香織に親友の痴態を見せるのが目的。

 

 只でさえ恩師の痴態に濡れているのに加え、親友の痴態まで見せられては心はまだしも、肉体は反応してしまうだろうから。

 

 それに、八重樫 雫という少女には外キャラとは別に内キャラが激しいタイプだと感じていた。

 

 そんな雫を抱いた後は、目論見の通りに香織もデキ上がり、頭の中では『イヤ』と連呼しながら好きな男――南雲ハジメの顔を思い浮かべていたが、ユートのソレは通常とは違う所為で数分もすれば嬌声を上げて喘いでいた。

 

 初めての貫通に初めての絶頂、その後は自ら上になって腰を振る大盤振る舞いだったと云う。

 

 四時間後、すっかり終わってスッキリしたユート、ふと見遣ったら少女(仮)が潤んだ瞳で視ていた。

 

「それで……君は其処から助けて欲しいのか?」

 

 コクリと頷くも視線自体はユートの分身に釘付け、ゴクリと固唾を呑んでしまう辺り、やはり見た目通りの年齢ではあるまい。

 

 見た目的にはエヴァンジェリンの一〇歳より上か、封印も恐らく彼女がそれなりの実年齢時に行われた。

 

 見た目だけは一二歳で、封印された時期は日本的な成人年齢くらいなのか? 封印期間は相当長そうだ。

 

 何故ならユートの目に、彼女にはユートがよく知っている存在と似た特徴が映っており、それが故に見た目も寿命も通常の人間とは違うと考えた。

 

 エルザ。

 

 ダルシニとアミアス。

 

 ギャスパー・ヴラディとヴァレリー・ツェペシェ。

 

 アーデルハイト。

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

 月村すずかや月村 忍、或いは綺堂さくら。

 

 即ち、吸血種として血液を何らかの糧とする存在、挙がった者達は月村 忍を除き、ユートと可成り親密な関係を築いている。

 

「君は吸血種だな?」

 

「……ん、そう」

 

 どうせバレているなら、嘘を吐く意味なんか更々無かったし、下手に嘘を吐いて心証を悪くしたくないと正直に答えた。

 

「名前は?」

 

「……あれーてぃあ」

 

 アレーティア? は何故か途轍も無く嫌そうな顔で言い放つ。

 

「そんな顔になるとか……自分の名前に嫌な思い出でもあるのか?」

 

 アレーティアというのは決して悪くない名前だ。

 

 少なくとも変なキラキラネームを付けられるより、遥か彼方にマシだとユートは某・勇者(笑)を思い出しながら言う。

 

 尚、顔は既に忘れた。

 

「わたし、おじ……さま……に、うらぎ……られた、むかしのなまえ、もう……いらない……」

 

 辿々しいのは力が入らないからか、だけど憎しみより哀しみが強い気がした。

 

(愛が哀に変換された……という訳か)

 

 憎むより哀しかったと、そういう事なのだろう。

 

 おじさまとやらが血の繋がりのある伯父や叔父か、血の繋がりは無いが家族みたいに仲良くしていた小父なのか判らないが、よっぽど親しかったのは間違いない事実であろう。

 

「そうか……そういえば、君と同じ吸血姫は月と関わるな。エヴァンジェリンも封印中は月の満ち欠けとかで魔力が変わるし」

 

 【腐食の月光】だとか、月という名前自体に何らかの関わりがある場合も。

 

「それなら、(ユエ)ってのはどうだろうな?」

 

「……ゆえ?」

 

「アレーティアとは呼ばれたくないんだろ?」

 

「……ん、いや」

 

「だから、ユエ。夜空に浮かぶ月を意味している」

 

「……わかった……ゆえ。わたしはゆえ」

 

「さて、ユエ。君は封印を解いて欲しいんだよな?」

 

「……むし……をされて、じょうじにふけられると、は……おもわなかった……けれど……」

 

 ジト目で言われる。

 

「で、封印解除の対価には何を支払う?」

 

「……たい……か?」

 

「そう、対価だ。例えば、さっき僕に抱かれていた娘らは、この迷宮での生命の保証に肢体を対価に支払った訳だな」

 

 今はマッパでナニやら変な液体でドロドロな三人、力尽きて気絶をしている訳だが、遂先頃まではユートの下で腰を振っていた。

 

「……なんでも……する! あなたがしてほしいと、おもうなら……」

 

「何でも?」

 

「……ほんとに……たすけ……てくれる……なら……あなたのものにだって……なる」

 

「自分自身を懸けると?」

 

「……ん、わたし、は……にじゅっさい……すぎて、ふういん……された……からだ、は……ちっちゃい。だけど、なにをするのかは……わかる」

 

 どうやら本気らしいし、ユートが三人を抱いていた事から、それが報酬になると理解した科白である。

 

 成程、見た目は幼くても瞳には確かな理性の光。

 

 本気だし正気らしい。

 

「それじゃあ、先ず前金を貰おうか」

 

「て、まえ、きん……?」

 

 それは今現在でのユエがユートを性的に良くする、そんな方法をヤれという話であったと云う。

 

「手もアソコも後ろの穴も使えないけど、口なら空いているだろう?」

 

 一〇分後、漸く目的を果たしたユエの顔はユートの迸るパトスで汚れていた。

 

 それはもう、合法なれど一般的には案件になりそうな状態である、彼女の見た目が見た目なだけに。

 

 取り敢えず、汚れてしまった顔は水をぶっ掛けて清めてやる。

 

「じゃ、約束通りに封印を解くか。変身っ!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 ネオディケイドライバーにカードを装填、仮面ライダーディケイドに変わる。

 

《FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!》

 

「せやぁぁっ!」

 

 バキンッ!

 

 ライドブッカーソードモードでファイナルアタックライド、立方体を斬り裂くと何かが破壊された音が鳴り響いて、ガラガラと次の瞬間にはユエを捕らえていた封印が砕け落ちた。

 

「……え、うそ」

 

 仮面ライダーディケイドは魔化魍やアンデッドなど斃せない筈の敵を破壊し、斃してしまったという実績があるのだけど、ユートも平成仮面ライダーのカードを集め切ると【破壊概念】が少し使える様になって、余りにも呆気なく……だ。

 

 ユートはこうした概念をどうこうする力を得ては、それを組み合わせて扱うのを調べていた。

 

 ディケイドが一部扱える破壊の概念、本来なら間違いなく斃せない不死生物の“破壊”は、破壊者だから出来たと云うのが思考停止でしかないと考えるから。

 

「【神結晶】から零れ落ちる【神水】だ。飲むと快復する筈」

 

「……ん、飲む」

 

 試験管っぽい瓶を受け取ったユエは、何が何だか解らない侭に中身を煽った。

 

(助けた相手とはいえさ、もう少し疑えよ)

 

 とても裏切りを受けた娘の所業ではない。

 

「……治った? 本当に」

 

「部位欠損までは無理だろうが、大概のダメージにせよ精神力にせよ疲労にせよ快復させる水だからな」

 

 正に何処ぞの仙人が食べる豆も斯くやの効果。

 

「約束は果たした。ユエも契約は果たして貰うぞ」

 

「……ん、私は貴方のモノ……貴方の名前を教えて」

 

「ユート……通りすがりのユート・オガタ・スプリングフィールドだ、確りと覚えておけ」

 

「ん、ユート、ユート……宜しくユート。私はユエ……“貴方の”ユエ」

 

 それはとても嬉しそうに言ったものだった。

 

「……ユート、貴方は」

 

《ATTACK RIDE》

 

「……え?」

 

 行き成りライドブッカーからカードを引き抜いて、それをネオディケイドライバーへと装填した。

 

《DEFEND!》

 

 それは仮面ライダーウィザードの防御魔法。

 

 その後ろへユエを連れて逃れる瞬間、何か攻撃らしきものが降ってきた。

 

「……っ!?」

 

 天井に張り付く多脚は、二本の尻尾に鋏の腕を持つ蠍に酷似した魔物。

 

「う、なにぃ?」

 

 のそりと目を擦りながら寝惚け眼で起き上がってきた雫は、ドン! と落ちてきた蠍擬きに……

 

「キャァァァァァッ!? 何? ホントに何なの!」

 

 悲鳴を上げていた。

 

「八重樫! 白崎と先生を連れて此方に逃げろ!」

 

「ディケイドって、何よ、何がどうなってんの〜? もう! 香織、先生!」

 

 弛緩した二人の身体とは相当に重量感が増す為に、ひぃこら言いながら移動をしていた。

 

 幸い、蠍擬きはユートとユエを睨んでいたから途中で気付かれたが、どうにか移動をする事は出来たから助かる話。

 

「あの魔物は?」

 

「知らん。ユエを助けたら現れたし、恐らくユエ解放で動くトラップだろうよ」

 

「ユエ?」

 

 見れば助けようとしたが叶わなかった少女の姿。

 

「え、結局は助けたの?」

 

「対価は払って貰った」

 

「ちょ、こんな小さな子にヤったの?」

 

「まだヤってない」

 

「まだって……」

 

 見た目が一二歳であり、仕方がないのかも知れないけど、明らかにユエを年下だと思い込んでいる雫。

 

「後で纏めて説明はしてやるよ。だいたい、先生達が起きてまた説明とか面倒なだけだろうが」

 

「……確かに」

 

 今から雫に説明しても、香織はまだしも愛子先生が噛み付いてくるは必定。

 

 ならばわざわざ戦闘中に説明するより、終わらせてから二人を起こして改めて説明した方が良い。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくるから……ユエと八重樫は大人しく待っていろ」

 

「……待って」

 

「どうした、ユエ?」

 

 行こうとしたらユエに呼び止められた。

 

「……私も戦う」

 

「無茶を言うな。一応回復はしたろうが本調子じゃあ無いんだろ?」

 

「……あれは叔父様が用意した魔物だと思う。なら、私が立ち向かわないと!」

 

「やれやれ、めんどいな。サガーク!」

 

 何やら白い円盤みたいなモノが飛んできた。

 

「そのジャコーダーは変身アイテム兼武器だ」

 

 楽器のリコーダーを模した武器であり、変身する為のツールでもあると云う。

 

「……ん、変身」

 

 使い方は何と無くだけど理解したらしく、小さな呟きと共にベルトになって腰に装着されたサガークの、右側のスロットにジャコーダーを差し込む。

 

《HENSHIN》

 

 サガークから生き物とは思えぬ聲が響いた。

 

 それはファンガイア一族が造った【運命の鎧】で、ファンガイアのキングである登 太牙が使用した物。

 

 黒いインナースーツの上に纏うは、白と銀のアーマーであり複眼は青。

 

 歴史上、最初期に開発されたが故に武器はジャコーダーの一つ、フェッスルもウェイクアップフェッスルを一つだけしか持たない。

 

 だけどユエには無関係。

 

「……仮面ライダーサガ、女王の判決を言い渡す……死刑!」

 

 ユエは仮面ライダーサガに変身、ユートの変身する仮面ライダーディケイドと蠍擬きに挑むのだった。

 

 

.




『それは誰じゃ?』

「遠藤、僕は割と気が合うお前を死なせる心算は無いんでな」

「緒方……」

「これをやるよ」

 それは瓢箪にも見える。

「これは?」

「シノビヒョウタンっていう名前で、シノビドライバーを出せるツールだ」

「シ、シノビ……只でさえ影が薄い俺が暗殺者なんて天職で、今度は忍者かよ」

 ガクリと四つん這いとなって項垂れる浩介。

 遠藤浩介。

 天職は暗殺者である上、元の地球でも影の薄さならナンバーワン、自動ドアですら反応しない程の彼は、ユートと朝に軽く挨拶する程度には話す。

 それ以外でもそれなりに会話をするし、話の方だって割かし盛り上がるのだ。

 故に勿体無い人材であると考え、ユートは仮面ライダーの力を渡す。

「まぁ、使ってみろよ」

「お、応」

 シノビヒョウタンを腰に傾けると、リキッドみたいな物が腰に巻き付いた。

 シノビドライバー。

 浩介はメンキョカイデンプレートを手に持ったら、右脚をバッと上げると腰を落として、片手を地面に付いたら……

「変身っ!」

 メンキョカイデンプレートをドライバーにセット、【シュリケンスターター】を時計回しで回す事で五行を収集。

《DAREJA OREJA NINJA……SHINOoooBE KENZAN!》

 背後に顕れたガマエレメントが口から装備を吐き出すと、遠藤浩介の身体へとそれらが装着されていく。

 紫を基調とした忍者っぽい姿、顔には手裏剣を模したアンテナを持ち、センリゴーグルは黄色をしている仮面ライダーシノビ見参!

「【忍】と書いて刃の心! 仮面ライダーシノビ!」

 何処か香ばしいポーズを決めながら、浩介は高らかに自らの仮面ライダーとしての名前を告げた。

 存外とノリノリに。

 どうやらこの世界線では深淵卿ではなく、仮面ライダーシノビが活躍する事になりそうだ。



 何て噺も有ったり無かったりします。




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第12話:蠍擬きを斃したら蠍剣さんな雫が仲間入り

 っぽい噺から解離が激しくて殆んど使えない……





.

 仮面ライダーサガとなったユエは、何処か女性らしいフォルムとなっているのが原典のサガとの相違点。

 

 とはいえ、本来の身長より普通に伸びている辺り、仮面ライダーディケイドでアスムやワタルが変身した際の身長を想起させた。

 

 そんなユエを見て雫が思った事……『何で?』

 

 それは紛う事無き嫉妬、自分には仮面ライダーの力をくれないのに、出逢って間もないユエには渡す。

 

 命の代価としてではあるにせよ、抱いた女より優遇されているユエに嫉妬心が湧き上がる。

 

 自分でも思いもよらない心の動き、一回抱かれただけで完全に堕ちているではないか……と。

 

 もっと乱暴なら。

 

 もっと厭らしい欲望の目を向けてきたなら。

 

 だけど違った、恐らくは愛し愛されるカップルでのセ○クスでも有り得ない、優しくキスをされて撫でられて、まるで愛しい者を見る慈しみの瞳を向けられ、愛し合う恋人同士の睦み合いを思わせる行為。

 

 勿論、それは今も気絶中な香織と愛子先生も同じ、自分だけが特別扱いをされた訳じゃないのは判る。

 

 それでも勘違いをしたくなる行為、何回も絶頂へと導かれて果ては気絶をしてしまい、だけど夢の中でも優しく撫でてくれていた手の感触を覚えていた。

 

 短い時間だからユエは、間違いなく抱かれてなどいないだろうにそれで何故、仮面ライダーの力を貰えているのか? 自分との差は何なのかが解らない。

 

 だから嫉妬した。

 

 悔しかった。

 

 ユートに自分を認めて欲しいと、今は本気で望んでいる自分に気付けない侭、横に立てない自分の弱さに絶望するしかなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユエは仮面ライダーサガの力、その使い方をふんわりとだが理解している。

 

 所謂、何と無く解る……という程度だったけど。

 

 ユートの創る聖魔獣には共通する能力が付加されており、その一つが装着者へ自身の使い方を脳内に刻むというもの。

 

 ユートが造り出している仮面ライダーとは二種類、【至高と究極の聖魔獣】により創造された聖魔獣型、そしてほぼオリジナルに近い形で造られた原典型。

 

 仮面ライダーウィザードが原典型で、仮面ライダーゼロワンなどが聖魔獣型、仮面ライダーサガも聖魔獣サガークという名前の蛇型な聖魔獣を創造し、能力としてサガの力を装着者へと纏わせる形を取っている。

 

 武装であるジャコーダーも同時に創造された所謂、サガークの一部的な物だったりするのだ。

 

 尤も、原典と同じく別々に使う事も視野に入っている訳だが……

 

 また、ユートは拘り故に仮面ライダーの時は基本的に仮面ライダーとして闘うから、余り魔法やら何やら――ウィザードの時はウィザード由来の魔法は使う――使ったりしない。

 

 でもユエにそんな拘りがある筈もなく、普通に魔法を使って戦っていた。

 

「ん、【蒼天】!」

 

 蒼白い炎の塊が天より降ってくる最上級魔法。

 

 しかも生身で使うよりも威力が増し、更には消耗が軽減されているらしい為、本来なら復活直後のユエは血を啜り、漸く一発を放つのがやっとの筈だったのに二発目が使える様だ。

 

「……凄い、凄く良い……これならユートの隣に立って戦える!」

 

 その呟きは誰に聞かせる心算もない為に、小さく漏れ出た科白に過ぎなかったのだけど、どうしてか雫の耳にハッキリと聴こえた。

 

 ギリィッ! いつの間にか握り拳を作るくらい嫉妬が全開となる。

 

 悔しくて悔しくてだけど目を離せなくて。

 

「私、実はチョロイン? ばっかみたいよね、肢体で代価を支払うだけの関係に気持ちを求めるとか……」

 

 本当に抱かれた程度で、こんなに気持ちを揺るがされるなどと思いもよらず、自嘲していた雫が視たのは何故かユエを下がらせて、自らトドメを刺すユート……仮面ライダーディケイドの姿であったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは突如として現れた蠍擬きに疑問を持つ。

 

(この蠍擬き、ユエを助けるまでは出て来なかった。そもそも端から見れば白崎や八重樫、愛子先生を抱いていた僕は隙だらけに見えた筈なんだがな)

 

 実際には隙なんて作ってはいないが、飽く迄も端かから視た場合は女を抱いている真っ最中の男なんて、隙だらけの殺りたい放題な図でしかない。

 

 魔物に知性が有るなら、間違いなく殺り時だった。

 

 浅慮な知性なら……だ。

 

(かといって、あんな魔物に思慮深さが有るとは思えないし……な。つまりユエの封印を解いたから現れたのであって、それまでは現れる条件が満たされていなかった訳だ)

 

 その条件とは即ち、ユエの封印解放であるのは自明の理だ。

 

(ならば魔物を配置したのはユエを封印した張本人、おじさまとやらなのは先ず間違いない。ならば目的は何なんだろうね?)

 

 そもそも、ユエを封じた後に吸血鬼の一族というか『おじさま』とやらは王位に就いたらしいが、それは何年続いた栄華なのか?

 

 少なくとも、三百年前に吸血種族の王国は滅亡し、ユエを除いて絶滅しているみたいだが、普通に生きても二百年は生きられまい。

 

 ある程度は長生きみたいだけど、所詮は定命の種族には違いないのだから。

 

 つまり、執拗にユエ封印に拘る理由が無かった。

 

(まさか、封印を解いたならこれくらいは斃せとか、親バカ全開の置き土産……とかじゃなかろうな?)

 

 封印を解いたのが女性だったらどうするのか?

 

(となると、ユエに殺らせるより封印を解いた不埒な男が実力を見せるべきか)

 

 ユートは仮面の奥で口角を吊り上げる。

 

 『おじさま』に裏切られたとユエは言っていたが、それまでの『おじさま』や周囲の吸血種族に関して、もう少し詳しく聞いておこうと考えながら……

 

「ユエ、下がれ」

 

「……ユート?」

 

「僕が殺る」

 

「……? 判った」

 

 小首を傾げるユエだが、外見が仮面ライダーサガだからちょっとシュール。

 

 ユートは蠍擬きの流星の様な針攻撃に、ライドブッカーソードモードで全てを斬り払い、アタックライドのカードを取り出す。

 

《ATTACK RIDE SLASH!》

 

 切れ味を引き上げられたライドブッカーソード。

 

「おりゃ!」

 

 斬り付けるとダメージは普通に入る。

 

「シュテル鉱か。確か籠めた魔力の分だけ硬度が増す特性……だったな」

 

 とはいえど、この程度の硬度ならば問題は無い。

 

「一気に片付ける」

 

《FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!》

 

「どぉりゃぁああっ!」

 

 ディメンジョンスラッシュにより、横薙ぎに一閃をして上下真っ二つに斬り裂いてやった。

 

「今は亡きユエ、アレーティアのおじさまとやら……確かに彼女は戴いた」

 

 まぁ、美味しく『戴きます』をするのはこれからだったりするけど。

 

「だから、汝の魂に幸いあれと心から願おう」

 

 変身解除してから呟き、まだ『おじさま』とやらの真意も知らぬ内から何を言ってるのかと、自嘲をしながらユエの許へと戻る。

 

 蠍擬きの解体は後だ。

 

 ユエもサガの変身を解除して、ユートの方へとテトテトな足取りで歩み寄り、ガバッと抱き着いていた。

 

「どうした?」

 

「……ん、何でも無い」

 

 よく判らないがユエを抱き締めてやる。

 

「……ありがとう」

 

 こうしてユート一行に、ユエが加わる事になった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どうした、先生?」

 

「結局、助けたんですね」

 

「まぁね。彼女に悪意は感じなかったし、裏切られたと言った時の表情は憎悪より悲哀が先立っていたよ。恐らく親より親しい間柄、だから余計に哀しかったんだろうが……ね」

 

 愛子先生の言葉にユートは真摯に答える。

 

「そうなんですね……」

 

 そんなユートの言葉に、愛子先生は納得の色を見せたが、雫が何故かブスッと膨れっ面をしていた。

 

「どうした八重樫。獲物が折れて御冠なのか?」

 

「違うわよ!」

 

 シャムシールっぽい剣はユエの封印を斬ろうとして折れてしまい、今は刃部分が半分になった本体を鞘に戻している。

 

 使えない武器に使えない自分、御機嫌斜めな理由としては確かに妥当だけど、実際にはチョロイン化していた自分の心の整理が付かずに苛立ちを感じていて、しかも肢体は誉められたにしても『始まりの四人』という事で、八重樫 雫としては疎んじられているかもとか、そう考えたら贅沢な事は言えずにいた。

 

 とはいえ、勇者(笑)一行と合流するまでは抱いて貰えると、心の伴わない関係でもある意味で前向きに考える辺り、苦労人な雫らしいのかも知れない。

 

 雫にとって幸か不幸か、ユートのセ○クスは普通とは違う為に所謂、普通な男との行為に比べて快感など何倍も凄い事になる。

 

 元々はたった一人の少女……の姿をしている魔導書の精霊、【ナコト写本】のエセルドレーダを絶頂させるべく磨いたテクニック、そして“あの技能”ではあるのだが、当然の事ながら普通の女の子にも有効且つエセルドレーダよりも効く超絶技能、その上にユートは無限性欲と無限射精とか訳の解らない能力を嘗ての戦い、夢幻心母を依代として復活した強壮たる【C】にエロ同人みたいな事をされて獲得しているが故に、決して衰えない処かヤればヤる程に元気になる分身に相手は腰砕けだ。

 

 もう、物理的に。

 

 雫にはそもそも、香織とは違い特別な好意を持った相手は居なかった。

 

 それは愛子先生も同じではあるが、彼女は『先生』が先立つ為にか『生徒』と関係を持ってしまった事に頭を抱えている。

 

 然しながら、雫は同級生である為にそういう悩みは特に無い。

 

 ユートが肉体的に千年を越えて生き、精神的にだと数千年を在り続けているとは思ってもないし。

 

 香織はやはりまだハジメに未練がありそうだ。

 

 とはいえ、生き残る為に違う男へ肌を赦した時点でヒロイン気質な香織的に、最早ハジメに愛される資格は無いと感じていた。

 

 まぁ尤も、原典に於いては残念ヒロインだが……

 

 それにあんなに感じて、初めてで絶頂まで至らされてしまい、事が終わって後に気絶から我に返った途端に自己嫌悪だった。

 

 どれだけ香織が心の中で『ハジメ君』と、普段は呼べない名前呼びで叫んでいても、いつしか頭の中まで真っ白に染まり甘い嬌声を上げて悦んでいた事実は、受け容れ難い事実として重く乗し掛かる。

 

 ハジメに抱かれている、そう言い聞かせながら受け容れていた筈が、いつの間にか『ユウ君』に変わっており、あろう事か自分から腰を振って求めだした。

 

 正気に返ったら頭を抱えたくなるのも当然。

 

「あの、その子を助けたのは対価を支払うからだと、八重樫さんからは聞きましたが?」

 

「そうだよ、先生」

 

「そ、そんな小さな子を! 駄目です! そんな事、先生は許しませんよ!」

 

「本人が構わないと言っているのに、先生の許可とか要らんだろうに。飽く迄もプライベートなんだから」

 

「そ、それは……」

 

「言ってみれば、ユエは僕の彼女になりますと宣言をしたから、彼女を助けたというのと同じ。学校の先生が生徒の恋愛事情に介入をする権利が有るとでも?」

 

「あ、ありませんが……」

 

 真っ当な恋愛事情ならばそうだが、明らかにそうではない二人だとも言えるのだろうけど、やはり返されるだけだと口を閉じる。

 

「緒方君」

 

「どうした? 八重樫」

 

「ユエ……さんにサガークだったかしら? あれを渡したのはどうして?」

 

「戦う意志を確認したし、僕はそんな意志を示したら【閃姫】やその候補には力を与えている。戦いたくないというなら護るだけだ」

 

「せんき……って?」

 

「僕の恋人、側妃、呼び方は色々あるが……早い話が僕の傍に在る事を望んだ者であり、【閃姫契約】を交わした者達の事だね」

 

「ユエさんとも?」

 

「手付金は貰った。だけど契約は交わしていないな」

 

「手付金?」

 

「八重樫だってしたろ?」

 

「…………っ!」

 

 言わんとする事に思い至ったのか真っ赤になった。

 

 ユエは下半身と両腕が、立方体により拘束されていたのだから、使える部分なんて限られている。

 

 そして彼女は貧であり、そこを使うにはボリュームが圧倒的に足りない訳で、ならば残るのは一ヶ所だけしかあるまい。

 

 雫もヤったから解った。

 

 天然な香織は今回は始終がマグロさん、だから特殊なプレイはしていないが、何故か赤くなっているなら識っているらしい。

 

 一応は二五歳の愛子先生も保健体育の知識は有る。

 

「白崎も解るんだ」

 

 ビクッ! と肩を震わせている香織を呆れた風に、雫がやれやれと口を開く。

 

「香織って、南雲君の趣味に合わせたくてアダルトなコーナーに突撃したから。私を道連れにしてね」

 

「ちょ、雫ちゃん!?」

 

 多分だが言わない約束とかだったのだろう、うら若き乙女がアダルトコーナーに突撃したとか。

 

「成程、知識は有るのか。なら次回は期待しても良さそうだね」

 

 ニコリと香織に向かって微笑んでやったら、何故かプルプルと赤い顔の侭で震えだした。

 

「で、何でユエにサガークを渡した事を聞きたい?」

 

 愛子先生が教師の視点で香織に御説教を始めたのを他所に、雫の方へと向き直ると改めて話を聞く事に。

 

「ユエさんにサガークを渡したのは【閃姫】? 候補だからと言ったわよね」

 

「言ったな」

 

「なら、私にも頂戴と言ったらくれる?」

 

「いや、八重樫は此処を出たら勇者(笑)に合流するんだろうに。白崎と先生も。少なくとも、僕は連中に力をくれてやる心算なんか無いからな。君に渡したら、連中は調子ぶっこいて渡せと迫って来るに決まっているんだろうから」

 

「……戻らない」

 

「はぁ?」

 

「緒方君、貴方の【閃姫】にして下さい」

 

「雫ちゃん!?」

 

「や、八重樫さん?」

 

 DOGEZA。

 

 プライドも何もをかなぐり捨てて、DOGEZAしてまで【閃姫】にして欲しいと願う雫。

 

「其処までして仮面ライダーの力が欲しいか? 好きでもない男に媚びを売ってまで欲しがるのか?」

 

「媚び……そう言われても仕方ないよね。確かに欲しいもの、あれだけの力が私にも有ればって思うもの。あんな力を見せられた後でこんな事を言っても、きっと信じて貰えないだろうとは思うよ。だけど私は貴方が抱いてもいないユエさんに力を渡したのが悔しくて……嫉妬……した」

 

 原典、ユートの識らない世界線に於いて八重樫 雫はハジメへの想いをひた隠しにしてきた。

 

 理由は親友の好きな相手を自身が好きになってしまった浅ましさ、他にもあるけど一番の理由はこれであったのは間違いない。

 

 それを今更ながら『私も南雲君が好き』などとは、香織に対して言えるものではなかったであろう。

 

 だけどユートは違った。

 

 性欲の捌け口としてなら香織を抱いたが、ユートは香織に、香織はユートに対して“特別”を懐いてはいないからだ。

 

 だから素直になれる。

 

 ステータスの及ばない力にも惹かれたが、抱かれてお姫様みたいに扱われたのが嬉しくて、ユート自身にも惹かれてしまった。

 

 正にチョロインだけど、香織が関わらない相手だけに今なら言えるから。

 

「僕は勇者(笑)に合流しないし、僕自身の価値観で動いている。意に沿まぬ殺しをさせるかも知れないし、助けられる誰かを見捨てるかも知れない。そんな時、八重樫は僕に従えるか? 【閃姫】は僕の使徒であるからには、主たる僕に従う義務が発生する。そうだな……何処ぞの霧魔人が言っていた言葉を借りたなら、『大魔王様の御言葉は全てに優先する』……だな」

 

「大魔王って……」

 

 強ち間違いでもない。

 

 神殺しの魔王の一人で、そもそもが大魔王バーンを斃した一員でもある。

 

 魔王を討つは魔王に等しい力の持ち主である。

 

 勇者(笑)ではなく勇者の至上命題だろう。

 

 仮面ライダークウガに於いては顕著に、【究極の闇】を討つにはクウガ自身が同じ力を持った【凄まじき戦士】になる必要がある。

 

 【究極の闇】と称されるグロンギ一族の長、ン・ダグバ・ゼバを討てる存在は【凄まじき戦士】と“成り果てた”クウガだけだと、そう云われていた。

 

 最終的にクウガは【凄まじき戦士】のアルティメットフォームに変身をして、自分自身の笑顔の為に戦ってたン・ダグバ・ゼバを、飽く迄も誰かの笑顔の為に戦い抜いた訳だが……

 

 神殺しの魔王も似た様なもので、神を殺せるという事は神に等しい力を持つに至った者として、各国での裏機関では腫れ物を扱うかの如く対応をされる。

 

 ドラゴンクエスト系なら【ダイの大冒険】も同様、原典では結局たった一人でバーンを斃したダイ。

 

 大魔王バーンを討った、それは即ち大魔王と同等かそれ以上の力の持ち主。

 

 ダイ自身もそんな力を揮った自分が、果たして人間の姿をしているものなのか……と、恐怖心を懐いていたのも事情である。

 

 ドラゴンクエストⅡ……その主人公に当たる人物、ローレシアの王子も別作品でのアフターとして、破壊神シドーを魔法も持たない身で討つ破壊神と同等なる危険人物、とある魔物による奸計とはいえ自身もその事に悩んでいたロランは、ローレシア王国を出奔してしまったと云う。

 

 正しく至上の命題だ。

 

 それは兎も角としても、ユートの【閃姫】は盲目的に従う存在ではないけど、基本的なスタンスとしてはユートの恋人であり従者。

 

 必要ならユートの言葉に従わねばならない。

 

「ユエは出来るな?」

 

「……ん、私はユートを支えるだけ」

 

「と、ユエは言ってるな。八重樫は出来るのか?」

 

「……」

 

「雫ちゃん?」

 

「八重樫さん……」

 

 沈黙してしまった雫に、不安そうに香織と愛子先生が気遣う。

 

「今晩、ユエさんの後で良いから私を抱いて」

 

「は? まぁ、君らに求めたのはそういう事だから、それは構わないけど……」

 

「最後まで気絶はしない、口でも胸でもお、お尻でも好きに使って構わないわ」

 

「ちょ、八重樫さん!?」

 

「雫ちゃん、いったい何を言っちゃってるの!?」

 

 危ない発言に大慌てとなる愛子先生と香織。

 

「覚悟を示したい。私にはそんな事くらいしか出来ないから……ね」

 

「し、雫ちゃん」

 

 身一つで出来る事など、確かに高が知れている。

 

「私は可愛い物が好きで、小さい頃はフリルが付いたピンクの服とかを着たかったし、部屋にはお人形とか飾っているわ。お化粧して綺麗な服や宝飾で着飾り、彼氏の腕に自分の腕を絡ませて一緒に歩くの。勿論、彼氏が自発的に車道側を歩いてくれて私はは歩道側。不良に絡まれたら彼氏が護ってくれて、そんなお姫様みたいなのに憧れてた」

 

「知ってるよ」

 

「緒方君なら全部を叶えてくれる。誰かを好きになる切っ掛けなんてね、きっとそんな些細な事なんだよ。今ならよく解るわ」

 

「うん……私も南雲君を好きになった切っ掛けは些細な出来事だった」

 

 何の暴露大会なのかと、愛子先生は『はわわ』などとはわわ軍師みたいになっており、ユートも困ったなと頭を掻いていた。

 

 ユエは静観中。

 

 極限状態で頭がパニックなのは間違いない。

 

「オッケーだ。其処までの覚悟を持つなら同行しても構わないし、同行する為の力も与えよう」

 

 バッとユートを見ると、いつの間にか紫色の柄を持つ曲線を描く片刃の剣を持っており、それを雫に対して投げ渡した。

 

「これは?」

 

「武器、壊したろ? 刀じゃないけどあれと似た感覚で扱える剣、サソードヤイバーだ」

 

「サソードヤイバー」

 

「鞘は無いから抜刀術とかは出来ないけど、そいつの鍔としてこいつを装着してみると良い」

 

 投げ渡されたのは蠍型のオブジェで、しかも単なるオブジェではなく脚がワシャワシャと蠢いていた。

 

「サソードゼクターだよ。【仮面ライダーカブト】に登場する仮面ライダーサソードに変身するツール」

 

「っ!? これがなの? ベルトじゃないのね」

 

「ベルト型じゃないのだって存在するさ。カブト系はカブトとガタックとパンチホッパーとキックホッパー以外、全部がベルト型じゃないツールだ。ブレスレットだったり銃だったり剣だったりとね」

 

 その一つが仮面ライダーサソードの剣、サソードヤイバーという訳だ。

 

「えっと、変身?」

 

 言われた通りにサソードゼクターを、サソードヤイバーの鍔に当たる部位へとセットしてみる。

 

《HENSHIN!》

 

 サソードヤイバーから、電子音声が鳴り響きながら持ち手から姿が変化。

 

 仮面ライダーサソードのマスクドフォームへ。

 

「か、変わった!?」

 

「マスクドフォームだね。仮面ライダーカブト系だとそれが基本形態、キャストオフすればライダーフォームに成れる」

 

「キャストオフ!」

 

 サソードゼクターの尻尾部分を押し込む。

 

《CAST OFF》

 

 ガシャガシャとパーツが切り離される準備形態に、そしてオーバーアーマーとしてのパーツを弾き飛ばしてしまい、下から現れたのは緑の複眼に紫を基調とした蠍モチーフで左右非対称の仮面ライダー。

 

《CHANGE SCORPION!》

 

「変身をしたなら使い方はもう理解したな?」

 

「う、うん」

 

 驚いた事にサソードゼクターを手にした時、使い方が頭に入ってきたのだ。

 

 だから解る。

 

 カブト系仮面ライダーの脅威的なシステム、つまりクロックアップという時間の外側に自らを置く事で、有り得ない速度を出しながら知覚も追い付く仕様。

 

 因みに、仮面ライダーファイズアクセルフォームも通常の千倍の速度を出せるのだが、知覚まで加速される訳ではないから使える者は限られてくる。

 

 実際に使用した乾 巧と門矢 士は、その高い能力で使い熟していたのだ。

 

「す、凄い……」

 

 熱に浮かされたみたいにサソードの仮面の下にて、雫はその能力に頬を朱に染めながら呟く。

 

 蛹から成虫となる見立てのキャストオフ。

 

 逆にアーマーを戻して、防御力重視のプットオン。

 

 目にも留まらぬ高速機動のクロックアップ。

 

 更にサソードは様々な毒を刃に湛え、斬ると同時に毒を送り込む原典には無い独自機能が存在している。

 

 主な機能だけでも生身の自分では、どれだけ鍛えたとしても追い付かない。

 

 そして、ユートが創造をした聖魔獣の全てに備わってる完全状態異常無効化。

 

 仮面ライダーサソードとなった雫は、改めてユートの“旅に”付いていく事を確かに誓うのだった。

 

 

.




 仮面ライダーサソード、ステータス的には若干だけどノイントに劣る程度……で良いかな?




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第13話:リリアーナ姫と伝話しよう

 伝話は誤字に非ずです。





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 取り敢えずは落ち着いた事もあって、ユートはアイテム・ストレージの中から携帯魔導伝話(マナフォン)を取り出す。

 

「スマホ?」

 

「否、マナフォンって呼んでいる。携帯魔導伝話機というやつでね、魔素さえ在るなら普通に通話が出来る代物だよ」

 

 雫の質問に答えながら、ユートは番号を押す。

 

 トゥルルルルという変哲もない呼び出し音が響いてるのが聴こえてきており、香織が現代文明の利器を使うのに好奇心を刺激されたのか口を開た。

 

「えっと、緒方君」

 

「どうした、白崎?」

 

「誰に掛けてるのかな?」

 

「うん、リリィ」

 

「「「……」」」

 

 三人が沈黙する。

 

「それって、リリアーナ・S・B・ハイリヒ王女殿下の事……だよね?」

 

「他にリリィなんて知り合いは居ないな」

 

 リリーという錬金術士の知り合いなら、ユートにも心当たりはあるのだが……

 

「ど、どうしてリリィと? それは彼女は気さくだから誰とでも普通に話しそうだけど……」

 

「え、そりゃ……夜中にはヘリーナも加えて、色々とハッスルしているからね」

 

「「「ブフゥーッ!」」」

 

 三人同時に吹き出すが、これは仕方ない話だろう。

 

 何しろ相手は一国の王女であり、幼いとはいえ王子が居るから本来は政略結婚をする身である。

 

 そして基本的に王候貴族は純潔を尊ぶ為、王女様というものは処女を守るのも仕事だと云っても良い。

 

 それを毎晩ハッスルとかヤっちゃってどうする! などと、三人は思い切り叫び出したくなるのを抑えるので精一杯だったと云う。

 

「リリィとシちゃったの? え、えちぃ事を」

 

「一週間で随分と仲好くなれてね、オルクス大迷宮に入る数日前に喰った」

 

 クラァッと雫は意識が遠退きそうである。

 

 万が一にでも妊娠していたら大事になる事請け合いであり、日数的には仮に孕んでいても自覚症状すらも無い筈だ。

 

「もしもし、リリィか?」

 

〔はい、勿論貴方のリリィですわ〕

 

 完全に堕ちてる!?

 

 愛子先生が白目を剥いてしまった。

 

「漸く此方も落ち着いて、こうして連絡を取ってみたんだが……」

 

〔はい、此方からも報告をしたい事が幾つか。ですがやはり御無事でしたのね。愛子達はどうなりました? ユート様が居らっしゃる以上、心配は要らないと思いますけど〕

 

「まぁ、三人共無事だよ」

 

〔それは良かったですわ、ランデルが荒ぶって仕方がありませんもの〕

 

 ランデルは第一王子で、つまり時期ハイリヒ王国の国王で、香織に一目惚れをしたらしく初日から随分と熱い視線を送っていた。

 

 当人には全く気が付かれていなかったけど。

 

「第一王子はどうでも良いんだ。勇者(笑)一行はどうなったかな?」

 

〔はぁ、先ず香織を喪って勇者である彼は沈み込んでいましたが、最近になって復活しています〕

 

「勇者(笑)自身も割かし、どうでも良いかな?」

 

〔……ですか。え〜っとですね、勇者一行が十数名と騎士団員が数名、死亡してしまいましたわ〕

 

「何っ! ウチの連中が? 十数名も死んだ?」

 

〔……御冥福をお祈り致しますわ〕

 

 そんなやり取りで一番に反応したのは、我らが愛子先生であったのは寧ろ当然の流れだろう。

 

「生徒が……十数名って、死んだ? 何故!?」

 

〔今の愛子さんですか? ベヒモス戦でユート様が落ちた際に、抑えられていたベヒモスが解放されてしまいました。その結果として重量級のベヒモスに押し潰された者、頭の赤熱に燃やされた者が居たそうです〕

 

「という事らしい」

 

「そ、そんな……そんな事って……嗚呼、どうして? どうしてですか!」

 

「言っちゃ何だが、小悪党四人組も位置的に死んでると思うから、あいつらに関しては自業自得だな」

 

「自業……自得……?」

 

「リリィも言った通りに、抑えていた僕を攻撃したりするからそんな状況に陥る羽目になった。なら奴らに関しては自業自得としか、言い様が無いだろうに」

 

「そ、それは……」

 

 可哀想なのは小悪党四人組に巻き込まれた連中だ。

 

 何の瑕疵も無く、ユートが排除された煽りを喰らったのだから。

 

「然し、十数名……ねぇ。園部優花、宮崎奈々、菅原妙子、遠藤浩介、南雲ハジメ、谷口 鈴、中村恵里、今言った中で死亡者は?」

 

〔いえ、居ませんわ〕

 

「そうか、不幸中の幸いというべきかな?」

 

 愛子先生にとっては不幸でしかないが、ユートからしたらそれなりに挨拶をする仲だったり、友人だったりとそこそこに仲が良いのが今の面子だ。

 

 とはいえ、中村恵里に関しては谷口 鈴の親友ポジという意味でしかない。

 

「男の名前が二人も!?」

 

 雫が戦慄を覚えている。

 

「南雲君!?」

 

 そして、処女を喪失して挙げ句の果てに何度も中へ出され、とてもハジメに顔を見せられないと落ち込んでいた香織だが、やっぱり気にはなるらしく反応。

 

「ハジメと遠藤とは仲が良いんだよ」

 

 ハジメは仮面ライダー、他にもゲームや漫画や小説の話で盛り上がれる人材、遠藤浩介は地球に居た頃からステルス性能が凄まじいレベルで、ステルス・モモの技能でも付けたら無敗の間諜になれると、スカウトを目的に近付いたのだが、此方も割と話が合った。

 

 尚、ステルス・モモとは何処ぞの麻雀漫画に出てくるライバル高校のメンバーの一人で、麻雀をやってなくても消える恐るべき少女の事である。

 

「それに基本的にハジメとは仮面ライダーを観たり、漫画を一緒に読んだりとか遊ぶ事なんか多かったし、何よりハジメの両親である愁さんと菫さんの所では、一緒にアルバイトもしていたからな」

 

「アルバイト?」

 

「愁さんはゲームの会社で社長、菫さんは超人気少女漫画家だからな」

 

「そういえば!」

 

 香織はどうやら心当たりがあったらしい、

 

 谷口 鈴は割とジョークを言い合う仲で、優花程ではなくともそれなりに話す相手でもある。

 

 尤も、それで優花がやきもきしていたりするけど、ユートも気付きながら放置していた。

 

「ハジメがどうしているか判るか?」

 

〔ヘリーナから聞いた話では自室に籠っているとか。何かを造っているらしく、鉱石などを王宮の錬成師から幾つか分けて貰っているそうですわ〕

 

「へぇ、約束を守っているんだな。感心感心」

 

〔約束……ですか?〕

 

「ああ、とある物を完成させたら御褒美を上げようってね。きっと完成させる、アイツは普段はのんびりしているが、やる時にはきっちりやるからね」

 

〔それと……〕

 

 何だがリリアーナが言い淀む辺り、ハジメに何かがあったのかも知れない。

 

「どうした?」

 

〔恵里がハジメさんの部屋に入り浸っておりまして、その……二日程前になりますが、ヘリーナがメイドに聞いたらシーツがぐちゃぐちゃになり、赤い染みが……点々と〕

 

 明らかに事後である。

 

「それは……ハジメにおめでとうと祝福を贈るべき、なんだろうかねぇ」

 

 祝え! とか?

 

「相手は勿論……」

 

〔恵里です。その日から、彼女とハジメさんの距離感が縮んでいましたから〕

 

「そうか」

 

 中村恵里はユートから見ても可愛らしい容姿だが、腹に逸物抱えている腹黒さを見抜いていた。

 

 それさえ無ければコナを掛けたかも……と思う程度には悪くない容姿。

 

(天之河に好意を向けていた筈だが、何かの策略にしては処女まで捧げるのは、ちょっとやり過ぎだよな。天之河に捧げたい筈の処女を捧げてまで? 或いは、マジに惚れたのか?)

 

 ユートは鈍感難聴ではないから余程、上手く隠していない限りはだいたい好意の推移が判る。

 

 流石に白亜達、実妹やら親族のそれは判らなかったりするし、事実として白夜や白音や白雪といった好意を持ってくれていた、分家の女の子の好意に気付いてはいなかった。

 

「どうしてそうなったか、その過程とか判るか?」

 

〔何でもあの日、ユート様がオルクス大迷宮から戻らなかったあの時に、彼女はハジメさんに命を救われたそうです。勇者様は全く目もくれなかった中で彼だけが命懸けで〕

 

「そういう事か」

 

 ユートの調べでは彼女、中村恵里が天之河光輝へと好意を向ける理由は判らなかったが、恐らく『守る』関連で某かがあったのだ。

 

 だが、天之河光輝は中村恵里を護ろうとしなかった上に、ハジメが命懸けで護った事で彼女の中で何かしら働きがあり、天之河光輝に失望してハジメへ好意を懐いた……と考えられる。

 

(まぁ、ハジメはヘタレな処があるから中村恵里から迫ったんだろうな)

 

 大当たりだったと云う。

 

「他に報告は?」

 

〔数日後、勇者様方が再びオルクス大迷宮に挑むという話になりました〕

 

「残りの十数名でか?」

 

〔はい、全員参加が教会より義務付けられまして〕

 

「クズ共が!」

 

 ユートの聖教教会に対する好感度は、既にマイナスに振り切っていた。

 

 愛子先生が居れば作農師に遠慮して、教会としても無理は言わなかったろう。

 

 だが、この世界線に彼女はオルクス大迷宮の奈落の底であり、ユートも原典を識らないが故にどうにもならなかった訳だ。

 

 とはいえ、教会に見切りを付けるに丁度良い分水嶺となった。

 

〔報告は以上ですわ〕

 

「そうか。なら遠藤に伝えてくれないか?」

 

〔遠藤……確か浩介さんでしたか?〕

 

「教会を調べろ……と」

 

〔は、はぁ〕

 

 よく判らないが、ユートが言うなら伝えるまでだ。

 

 通信が終わり携帯伝話機のスイッチを切る。

 

「色々と動きがあったよ」

 

「あの、南雲君の話をしていたみたいだけど!」

 

「ハジメに彼女が出来た」

 

 ピシッ!

 

「……え?」

 

「御相手は中村恵里」

 

「え、恵里ちゃんがって、どうして!?」

 

 狼狽える香織にユートは『狼狽えるな小娘ぇっ!』とか、思わずやりたくなるのを押さえ付ける。

 

「あの日にどうやら命懸けで救われたらしい。帰ってからの中村はハジメに対して随分と世話を焼いているみたいだね。因みに二日前にはベッドイン」

 

「ぐふぅっ!?」

 

 処女喪失並のクリティカルヒットを喰らう。

 

 既にユートに処女を捧げてしまい、ハジメに会わせる顔が無いとか思いつつ、やはり好意を捨て切れない香織だったが、まさか彼女を作られるとは思いもよらず轟沈した。

 

「……白崎がハジメに告白して付き合っていた場合、僕は君から対価は取らなかったろう。ハジメは友達だから身内に入るしね」

 

「うう……」

 

「まぁ、仮に告白をしてもフラれた可能性が高かったんだけどな」

 

「なっ! 何で!?」

 

 これでもハジメに対して随分と心を砕いた心算で、好感度はそれなりに高いと思っていただけに、ユートの言葉は承服出来かねる。

 

「ハジメは学校で可成り、見縊られていたよ」

 

「それは知ってるわ」

 

 雫が答えた。

 

「故に、【二大女神】とか言われてる学校の人気者、白崎香織に構われているというのが、連中には許せない事だったんだろうね」

 

「そ、そんな……」

 

 香織の与り知らぬ所で、ハジメが疎まれていたとか言われて、驚いてしまうのは気付いてなかったから、はっきり言えば、アウト・オブ・眼中だったからだ。

 

 眼中に無い連中の気持ちなぞ、そもそも香織に解る筈もなかったのである。

 

「君が構う度に殺気を漲ぎらせる莫迦共、常に特に酷かったのが小悪党四人組のリーダーと天之河だった」

 

「小悪党四人組、檜山君達の事かな? それとどうして光輝君が?」

 

「小悪党四人組のリーダーは君に執心していたから、君がハジメに構うのが許せなかったのさ。天之河なら仕方ないと思っていても、ハジメを相手にするのなら自分でも良いと、手前勝手な事を考えていたみたいだからな。天之河は生粋からの厨二病でね、ヒロインとして君が傍に侍るのを当然としていた。後はサブヒロインとして八重樫を傍に侍らせたかった。とはいえ、自分でも無意識にやっていたみたいだがね。だから、白崎がハジメに構うとぐちぐちと言っていただろ? ヒロインが優しいから構うのだと思っても、面白くは無いから文句を言っているんだし、自然とハジメへの当たりはキツくなっているのは、小悪党四人組が虐めをしてもまるでハジメが悪いかの様に言っていた」

 

 これも雫は理解していたからか、苦々しい表情になってしまう。

 

 そう、ヒロインは香織で自分はサブヒロイン。

 

 侍るのが当たり前程度に思われていた訳だ。

 

「取り敢えず明日、階層を降りるから準備はしといてくれ」

 

 嘆く愛子先生と項垂れる香織、困った表情となってしまう雫に、ユート以外は現状で無関心なユエ。

 

 雫はそれでも嬉しかったのか、サソードヤイバーをゴシゴシと磨いていた。

 

 夕飯は香織が泣きながら作った物を食べ、シャワーも浴びると各々が自由行動という事になる。

 

 暫く座禅で精神修養をしていたら……

 

「あの、緒方君」

 

「どうした、先生?」

 

 愛子先生がバスタオル姿でやって来た。

 

「抱いて貰えますか?」

 

「そりゃ、先生達の役割はそうだから構わないけど、今夜は随分と積極的に来ているな」

 

「先生失格だとは解っていますが、やっぱり生徒達が死んだと聞いて頭の中が、ぐちゃぐちゃなんですよ。だから、今だけで良いですから忘れさせて下さい! 向こうと合流したら先生で居たいですから、今だけは貴方の女として嫌な事も、理不尽な事も全部忘れさせて欲しいんです……」

 

 涙の跡と赤く充血した瞳から、今まで泣いていたのは一目瞭然である。

 

 本当に忘れたい訳では無いだろうが、きっと本当に頭の中がぐちゃぐちゃになってパニックなのだ。

 

「良いよ、エッチな事しか考えられないくらい滅茶苦茶にして上げるよ」

 

「え、それはそれで困ってしまう様な……」

 

 だけどもう遅い。

 

「キャァァァッ!?」

 

 特設したベッドに押し倒され、愛子先生は只の愛子としてユートに抱かれてしまうのだった。

 

 愛子先生が抱かれてから二時間後、取り敢えず気絶した彼女は違う布団に寝かせておくと、今度は香織がやって来て顔を真っ赤にしたかと思うと百面相を始めたり、何だか忙しそうにしていたり。

 

「何してんだ?」

 

「ひゃわっ!」

 

 声を掛けられて吃驚したらしく、肩をビクッと震えさせて振り返る。

 

「あ、緒方君……」

 

「用事があって来たんだろうに、何で百面相なんかをしているんだ?」

 

「うっ!」

 

 視線がウロウロとあっちこっちを彷徨わせるけど、意を決したのか瞳を確りと前へ見据えた。

 

「抱かれに来ました!」

 

「……ハジメに彼女が出来たのが哀しくて、忘れさせて欲しい……とかか?」

 

「な、何で!?」

 

 そりゃ、さっき愛子先生が似た理由で来たからだ。

 

「ま、僕は抱けるなら理由は問わんよ。マグロじゃあ愉しくないし、色々と使わせて貰いたいしな」

 

「ふぇ?」

 

「折角だから色々と教え込んでやるよ」

 

「それはそれで困ってしまう様な……」

 

 二時間前にも愛子先生が同じ事を言っていた。

 

 という訳で言い訳は不要で押し倒す。

 

「うひゃぁぁぁっ!?」

 

 二時間後、今度は雫が。

 

「示し合わせて来てるのか君らは? ってか、八重樫はユエの後とか言っていなかったか?」

 

「順番、ユエさんに譲って貰ったのよ」

 

「まぁ、別に構わないが。八重樫は合流しないで付いて来るんだな?」

 

「ええ、私は貴方が好き。自分自身でも単純だと思うんだけどね。まさか幾ら、お姫様願望みたいなものがあったとはいえ、初めての相手だからって好きになるとか思わなかったわよ」

 

「普通は好きになってから抱かれるしな」

 

「強い力が欲しいと思ったのも確かなのよね」

 

「ジョグレス進化をして、今の状態な訳か」

 

「ジョグレス進化?」

 

「ジョイント+プログレスの造語だよ」

 

「進化はどっから来たの? 脈絡が判らないわ」

 

「デジタルモンスターってのが居てね、成長をすると進化と呼ばれる世代が上がる現象が起きる。通常進化の他にアーマー進化とか、ジョグレス進化が有るって訳だね」

 

「へぇ」

 

 よく解っていなさそう、というより興味も無いのかも知れない。

 

「ま、良いか。好きになってくれたのは割と嬉しい、やっぱり好意が有るか無いかは反応に違いがあるし」

 

「そ、そう? 優花とは……未だなのよね?」

 

「好意は持ってくれてる。だけど焦っても失敗するだけだからね、ゆっくり仲を縮めていこうと思ってた」

 

「優花ともスるのよね?」

 

「向こうが望めば……な。別にヤりたくて仲好くしている訳じゃない」

 

「そっか……私とヤるのは愉しい?」

 

「充分に美少女で胸も大きいし、肢体の線も女の子として美麗なんだ。愉しめなかったら嘘だろう?」

 

「ありがと」

 

 どちかともなく唇を重ね合わせて、グチュグチュと舌を絡ませていく。

 

 熟練の舌使いとはいかないまでも、まだ初々しさの残るこれも悪くない。

 

 一生懸命に舌を動かし、ユートの反応で色々と頑張っている様は、確かに愛情を感じたものだった。

 

 ユートの手が胸に触れ、愛撫を始めると更に舌が激しく絡み、身体を固く縮こませるのは慣れていないが故であろう。

 

 それから二時間が経ち、本人が言っていた通り気絶をせずに耐え切り、肢体の全てを使ってユートとの睦み合いを熟す。

 

 とはいえ、息も絶え絶えとなって紅い顔でグッタリとベッドに俯せ状態だ。

 

 ユートはその侭、雫を寝かせてやると特設シャワーで身を清める。

 

「……待ってた」

 

「そうか。どうして八重樫に譲ったんだ?」

 

「……ゆっくり時間を気にせず愛して欲しかった」

 

「成程な」

 

 次が待っている状態は、ユエとしてもせっつかれるみたいだったのだろう。

 

「……初めてだから」

 

「じゃあ、取り敢えず互いに確かめ合う事から始めてみようか」

 

「……ん、来て」

 

 再生の力が強いと行為の真っ最中に言われたけど、体力は確かに回復が凄い事になっている。

 

 それだけに割と遠慮する事無く、ユエの小さな肢体を存分に愉しめた。

 

 大きければ大きいなり、小さければ小さいなり愉しめるのだから、ユート的には身長も胸も大小に拘りを持っていない。

 

 ユエは確かに初めて。

 

 再生の力も流石に処女膜までは再生しないらしく、一度貫いてやったら二度目の破爪は無かった。

 

 とはいえ、再生力で破爪の痛みもすぐに治ったらしいから、即激しい動きをしても平気な様だ。

 

 それに見た目は一二歳でありながら、表情は妖艶で可愛らしさと淫靡さを併せ持つ為、ユートの下半身の分身は盛大にハッスルをしてくれる。

 

 数時間、タフなユエとは時間を確かに気にする必要も無く、ユートは彼女から奉仕を受けて充分に愉しませて貰うのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 仮面ライダーサソードとなり雫は、魔物との戦いに獅子奮迅の活躍を見せる。

 

 とはいえ、可成りマニアックなプレイまでさせられてしまい、実際は羞恥心から暴れていたに過ぎない。

 

 約束通りだから文句など言えないが、余りの恥ずかしさに朝食中はずっと俯いていた程だ。

 

 ユエも変身をして戦う。

 

 仮面ライダーサガに成って戦えば、使っている魔法の威力が増大する上に消費も抑えられるから便利だ。

 

「……ん、緋槍!」

 

 しかも、ユートと昨夜に【閃姫契約】を済ませて、恒星数個分の大容量エネルギーを扱える様になっているが故に、そもそも消費に関しては考えなくてもよくなっている。

 

 バンバン、最上級魔法を出鱈目に放っても御釣りがくるのだから。

 

 ジャコーダーを伸ばしたりして、武器としても普通に使っているユエ。

 

 サソードとサガのコンビだけでも、オルクス大迷宮の攻略は充分に過ぎた。

 

《KAMEN RIDE AGITO!》

 

 だからユートは基本的にカメンライドを色々使い、普段は余り使ってはいないカードも使っていた。

 

《FORM RIDE AGITO……FLAME!》

 

「はぁぁっ!」

 

 ディケイドアギトに変身して、更にフレイムフォームとなったユートはすぐに剣を使ってティラノサウルスに似た白い魔物を斬る。

 

「大した強さじゃないが、出てくる量がおかしいな」

 

「しかも、何か皆が花を咲かせてるわね」

 

「……可愛い」

 

 仮面ライダーとして戦う三人が口々に言う。

 

「こりゃ、寄生されているのかも知れないな」

 

「どういう意味?」

 

「状態異常に傀儡とか有るだろ?」

 

「まぁ、言わんとする事は判るわね」

 

「要はそれだよ。さっきから引っ切り無しに現れる、だけど法則性があるんだ。とある方向に向かおうとすると、ティラノサウルス擬きやラプトル擬きが増えている傾向があってね」

 

「つまり、其処へは行かせたくないって事よね」

 

「黒幕が居るって処だろ」

 

 ユートは検証の為に……

 

閃熱呪文(ギラ)!」

 

 まるでレーザー光線みたいなギラを放った。

 

 ピチュン! 根元から花が落ちたラプトル擬き。

 

「グルッ……グガァァァァァァァァッッ!」

 

 すると丸っきり親の仇と言わんばかりに、ラプトルが花を踏み潰し始める。

 

「な、何よ突然?」

 

 ラプトルの行き成り過ぎる凶行に、雫は呆然となりながら見守る。

 

「やっぱりな」

 

「……どういう事?」

 

「花が落ちたこの様子からして、どうやら操られていた間の意識も確りとある」

 

 ユエからの質問に答え、更に呪文の準備を始めた。

 

「喰らえ! 氷獄呪文(マヒャデドス)ッッ!」

 

 巨大な氷の刃が雨霰と、容赦無くラプトルモドキへと降り注ぎ、やはり爬虫類だったのか敢えなく全滅をしてしまう。

 

「……ユート、魔法も割と凄い?」

 

「これでも異世界で魔法使いが貴族をやってる場所で子爵位だったし、別の世界では賢者……と言っても判らないかな? 魔法使いと僧侶の呪文全般を扱う事をやっていたからね」

 

「い、異世界ですか?」

 

 愛子が震える声を出す。

 

「そ、異世界。僕にとって地球以外の世界とか珍しくも無いんだよ」

 

 異世界転移は何度も経験しており、それ処か異世界転生すらしていた。

 

「それで、どうするの?」

 

 雫が訊いてくる。

 

「今の内に黒幕の処まで、一気に駆け抜ける!」

 

 既に場所は掴んだ。

 

 余計な戦いはせず中ボスが居るだろう場所へ。

 

 幸い仮面ライダーなら、脚の疾さの値も当然高い。

 

 魔物を操る黒幕が只で行かせる訳も無く、ラプトルだけでなくティラノサウルスも嗾けてきた。

 

「凍獄っ!」

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)ッ!」

 

 それらは露払いとばかりにユートとユエ、魔法使いコンビの火力でぶっ飛ばして始末する。

 

 尚、ユートが斃した魔物は自動的に魔石が手に入っており、剥ぎ取りは現状では面倒だからやらない。

 

「此処が黒幕の本拠地か。ああ、変身は解除するな。恐らく魔物みたいに花を咲かせて操られるぞ」

 

「変身してたら操られないって事?」

 

「八重樫、正解だ。本物は兎も角として、此方は僕の想像した通りに創造する事が可能だ。状態異常なんて当たり前なデバフに対処をするのは寧ろ常識」

 

「常識とまで……」

 

 毒に麻痺に石化に混乱、傀儡化なんてのも経験している身としては、デバフに対抗処置をする必要性を感じるのは当然の話。

 

「問題は先生と白崎か」

 

「まさか、あの首輪で防げないって事?」

 

「可能性としてね。あれは可成り適当に造ったから。仕方がないからこれを貸すけど、合流したら返して貰うからな」

 

 香織と愛子先生に渡したのはガシャット。

 

「これは?」

 

「量産型の仮面ライダー、ライドプレイヤーに変身をするツールだ」

 

 香織かはの質問に答え、使い方の説明をする。

 

 何の事はない、スイッチを押すだけだった。

 

 スイッチを押す。

 

《KAMENRIDER CHRONICLE》

 

「変身っ!」

 

 電子音声後に再び押す。

 

《ENTER THE GAME! RIDING THE END!》

 

 また電子音声が響くと、二人は画一的な姿に地味な色をしたライドプレイヤーに変身した。

 

 

.




 そろそろオルクス大迷宮は締めたい処。




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第14話:名前で呼んで

 どっかで聞いたサブタイトルである。





.

 戦わないにしても操られかねないし、香織と愛子先生にはライドプレイヤーに変身して貰う。

 

 香織は兎も角としても、愛子先生は身長が低い。

 

「な、何で先生はちみっこいんですかぁぁっ!?」

 

 だから愛子先生は有らん限りに叫んだという。

 

「さっさと進むぞ」

 

《ZERO ONE DRIVER!》

 

 ユートは仮面ライダーディケイドの変身を解除し、腰にはゼロワンドライバーを装着した。

 

 バックル部分のみだが、腰に据えるとヒデンリンカーが左側から伸びて、右側に合着する事により装着が成されるのだ。

 

「本当に自己主張が激しいんだね……」

 

「ビルドドライバーとか、ジクウドライバーなんかも似た様な感じだぞ」

 

「そうなんだ……」

 

 香織の感想に律儀な答えをユートが返しながらも、黄色い飛蝗が描かれているライジングホッパープログライズキーを手にする。

 

 ライジングホッパープログライズキーを、腰に装着したゼロワンドライバーのバックルへ近付けると……

 

《AUTHORIZE》

 

 認証された音声が響く。

 

 トランスロックシリンダーのロックが解除されて、ライジングホッパープログライズキーを展開。

 

 ポーズを取って叫ぶ。

 

「変身っ!」

 

 右側のライズスロットへと装填した。

 

《PROGRIZE!》

 

 左側のライズリベレーターが展開され、プログライズリアクタが解放される。

 

《TOBIAGARIZE RISING HOPPER!》

 

 飛蝗型ライダモデル顕れると、ユートに合着するかの如く飛び上がった。

 

《A JUMP TO THE SKY TURNS TO A RIDER KICK!》

 

 黒いインナースーツに、黄のアーマーに赤の複眼、飛蝗をモチーフとした仮面ライダーゼロワン・ライジングホッパーに変わる。

 

「確か、仮面ライダーゼロワン……だったっけ?」

 

「まぁね」

 

 ゼロワンドライバーは、まだ色々と使用頻度も少ないが故に、使える時に使っておきたかった。

 

「さぁ、一気に突っ切る! 僕に付いて来い!」

 

「あ、はい……」

 

 いつもとは違う荒々しさのある科白に、雫は思わず見惚れてしまっていたが、すぐに返事をする。

 

 どうも可成り真剣に恋する乙女と化したらしい。

 

 ティラノサウルス擬きやラプトル擬きを叩きつつ、亀裂の様な穴が空いた壁を見付けて全員で入る。

 

「【創成】!」

 

 ユートは自分の技能を用いると、亀裂みたいな穴を閉じて余計な魔物が入って来ない様にした。

 

 広い空間になっており、緑色の球が浮遊している。

 

「ふん、この緑の球が操る為の某か……か。無駄だ、僕にこんなもん効かんよ。勿論、仮面ライダーに変身した雫達にもな!」

 

 言うだけはあってか確かに仮面ライダーサソード、仮面ライダーサガ、更には二人のライドプレイヤーが魔物みたいに操られる様子は全く以て無い。

 

「フッ、備え有れば憂い無しとはこの事だ。出てきたらどうだ? それで隠れている心算とはな」

 

『ギィッ!』

 

 現れたのは全身が緑色、人間の女性を模した姿だが気色悪さが目立ち、頭には赤い花が咲いていた。

 

「アルラウネっぽい魔物、アルラウネ擬きか或いは……似非アルラウネだな」

 

 どっちにしろ偽者扱いに違いは無いが……

 

 操れない事に似非アルラウネが首を傾げているが、女性みたいな外観な癖して可愛らしさの欠片も見当たらなかった。

 

「僕が殺るから、君らは少しばかり下がっていろ」

 

「私もちょっと戦ってみたかったんだけど」

 

「サソードの実験は後で、僕もまだ使用頻度が少ないゼロワンドライバーを使いたいからな」

 

 黒を主体に黄色いラインが入るアタッシュケース、然し“これは武器です”。

 

 アタッシュカリバーと呼ばれるそれを展開する。

 

《Attache case opens to release the sharpest of blade》

 

 アタッシュケースとしての握りがその侭、柄の役割を果たす大きな片刃の剣。

 

 アタッシュカリバーを振り回し、ユートは似非アルラウネへと駆け出した。

 

「はぁっ! たぁっ!」

 

 斬っ! 斬っ!

 

 余りにとろくて全てが当たり、斬り傷で似非アルラウネが呻いている。

 

「弱っ! 『操る』が効かなけりゃ雑魚かよ?」

 

 遅いだけでなく柔いし、力も碌すっぽ無い。

 

 本当に真のオルクス大迷宮の魔物か? と本気で疑ってしまうレベルだ。

 

「雑魚過ぎるだろう」

 

 折角の蠍擬き以来現れてない小ボスかと思いきや、他者を操れなかったら残念雑魚と化すらしい。

 

「もう良いや。一応は礼儀として言っておくがね……『お前を止められるのは、唯一人……僕だ!』と」

 

 ゼロワン用の決め科白、此方も力が入らない。

 

 取り敢えず、新しいプログライズキーを出してからスイッチを押してやる。

 

《BLIZZARD!》

 

 ライジングホッパープログライズキーを取り出し、その白に近い水色のプログライズキーをオーソライザーへと当てた。

 

《AUTHORIZE》

 

 改めて、白に近い水色のプログライズキーが認証をされる。

 

 トランスロックシリンダーのロックが解除されて、フリージングベアープログライズキーを展開しベルトへと装填した。

 

《PROGRIZE!》

 

 再びライズリベレーターが展開され、プログライズリアクタが解放される。

 

 北極熊を思わせる真っ白なライダモデルが降ってくると、やはりゼロワンへと合着するべく重なった。

 

《ATTENTION FREEZE FREEZING BEAR!》

 

 シアンカラー主体となるアーマー、胸元や背中の方は緑色で顔も熊っぽい。

 

《FIERCE BREATH AS COLD AS ARCTIC WINDS》

 

「一気呵成に叩く!」

 

 腕に装備されたトランスパーにより、腕力が強化をされている為に現在までに使った中で最強のパワー。

 

 プログライズキーを再び押し込むと……

 

《FREEZING IMPACT!》

 

 掌のポーラーフリーザーから冷気を発射、似非アルラウネを凍結させる。

 

「喰らえ、フリージングインパクト!」

 

 そして雑魚だった事へ、万感の怒りを籠め思い切りベアークローを叩き付けてやった。

 

『グギャァァァァァァァァァァアアアッ!』

 

 大爆発した似非アルラウネを見て、漸く溜飲を下げたユートは変身解除。

 

「ふぃーっ」

 

「お疲れ様」

 

「疲れてないのが珠に瑕、疲れる程の敵じゃなかったからね〜」

 

 雫も変身解除しながら、ユートを労うが本当に大した相手ではなかった。

 

「……寧ろ気疲れ?」

 

 ユエが正解だ。

 

「フリージングベアーですかぁ、『荒ぶる息吹は極地の寒波』といった感じですかね?」

 

 愛子先生も三人が変身を解除したから、ライドプレイヤーを自分も解除する。

 

 それに香織も続いた。

 

「さて、今現在は似非アルラウネも居ないから拠点を作って休もうか」

 

「それは賛成。ティラノサウルス擬きやラプトル擬きが百越えは大変だったわ」

 

 仮面ライダーサソードの実力を計るには良いけど、流石にあの数を相手にするのは面倒臭い。

 

 いつも通りに香織が料理を担当、愛子先生は手伝いをしている。

 

 ユエも一応のお手伝い、だけど余計な何かを入れたりして、役に立たない処か足手纏いだった。

 

 ユートと雫は拠点設営、とはいっても普通の寝床としてテントを張り、ユートが誰かしら抱く為のベッドを別に作るという。

 

 夕飯後は一人一人が順繰りにやって来て、午前三時になった時に居たのは雫。

 

 裸で互いに温もりを確認し合う様に抱き合ってて、ユートの未だに元気一杯なモノが太股に挟まっている状態ながら、行為そのものは終了して後戯の真っ最中である。

 

 告白されてサソードを渡した訳だし、ある意味では二人は恋人同士に近い。

 

 まぁ、ユートが恋愛をしていたのだとはっきり云える事例は、最初の世界での狼摩白夜(無自覚)、ハルケギニアでのシエスタとカトレア、ドラゴンクエストのナンバリング11に於けるベロニカの四回だけ。

 

 後は好みで手を出したりはするが、基本的に恋愛の要素は無かった。

 

 覇道瑠璃の時は割かし、恋愛に近かったけど。

 

「ねぇ、緒方君」

 

「どうした? ヤり足りないならまた挿入するが?」

 

「違うから! 私はどれだけえちぃのよ? じゃなくてね、緒方君って私の事を八重樫って呼ぶよね?」

 

「そりゃ、そうだ。八重樫を白崎とは呼べまい?」

 

「まぁ、そうだけどね……違くて、一応は私から告白した形じゃない?」

 

「そうだな」

 

「それで、優花の事は名前で呼ぶんだから私の事も、雫って呼んで欲しいなって思ったんだけど……」

 

 顔を紅く染めながら上目遣いで懇願する雫。

 

「じゃあ、雫で」

 

「軽いわね!? これでも一大決心だったのよ!」

 

「名前で呼ばれたいなら、普通に呼ぶさね。そもそも僕はそっちがデフォだし」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「という訳で、雫と呼んで欲しいならオッケーだよ」

 

「う、うん……って、何か行き成りおっきした?」

 

「今の顔が可愛かったからちょっと元気になった」

 

「もう、ばか……」

 

 取り敢えず二回戦ばかり追加して眠る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝には再びホルアドに向かう勇者(笑)一行。

 

 作農師たる畑山愛子先生が居れば、そのレア天職の威光を笠に何とか戦いたく無い連中だけでも止められるのだが、この世界線では彼女は奈落に落ちた。

 

 だから誰しも納得する様な理由付けも出来ない為、全員参加が義務付けられるという強硬姿勢。

 

 ハジメは恵里と恋人になって日が浅いが、宿屋での一泊で互いに素肌を晒せる仲にはなっていた。

 

 数日前……

 

 あのトラップの悪夢で、行方不明となったその中にユートの名が有った。

 

 他にも、愛子先生や白崎香織や八重樫 雫の名前も有った訳だが……

 

 だけど一連の悪夢をつくった檜山大介は死亡して、更にはリーダー役をしていた天乃河光輝が引き籠り、他に騎士団やクラスメイトの明確な死者、天乃河光輝だけでなく他のクラス連中も殆んどが意気消沈。

 

 暫くして勇者(笑)は訓練を再び始めたらしい。

 

「ハジメ君……」

 

「ああ、中村さん」

 

 ノックして入ってきたのは中村恵里、クラスメイトの中でも生き残った一人であり、ベヒモスに弾き飛ばされて奈落に落ちそうになった彼女をハジメが救って以来、こうして日参で部屋に通って来る様になった。

 

 仲が良かった白崎香織と八重樫 雫が行方不明で、親友である谷口 鈴も持ち前の明るさに翳りがあり、居た堪れない状況だ。

 

「また食事を持って来てくれたんだね」

 

「ハジメ君、そうしなかったら食べもせず頑張っているから」

 

「うん、御免ね」

 

「謝らないで、私がやりたいからやってるだけ」

 

 甲斐甲斐しい通い妻……中村恵里はそんな感じに、南雲ハジメの世話を焼く。

 

 彼女がハジメの部屋へと初めて来て、更に二日後に色々と……空腹や尿意などを我慢しながら錬成をしているハジメに、恵里はあろう事か自分の直○にハジメの小水を流し込ませた。

 

 直○内に流れ込む小水、完全に止まったら恵里は急いでトイレに駆け込んだ。

 

 つまり、ハジメの代わりにトイレへ行ったという。

 

 それ以降、恵里は定期的にトイレへ向かっている。

 

 二日後……間違って別なナニかを直腸に出してしまったハジメに、妖艶な表情で唇を重ねる恵里の行動、鈍感でもこれだけされたら好意に気付く。

 

 だから唇を離されたら、すぐに再び唇をハジメの方から奪った。

 

 吃驚していた恵里だが、拒絶の色は無いから一安心なハジメ。

 

「いつも世話を焼いてくれてありがとう、中村さん」

 

「私がしたかっただけ」

 

「でも、ありがとう」

 

 今は兎に角、御礼を言っておきたかったから。

 

 そして更に時が経つ。

 

「完成しそう?」

 

「何とか精密な部品が完成出来る様になってきてね、少しずつだけど全体完成の目処も立ったよ」

 

「凄い! ねぇ、完成したらハジメ君はまた私を護ってくれる?」

 

「うん、勿論護るよ」

 

「嬉しい!」

 

 頬を朱に染めながら抱き付く恵里に、柔らかな感触と女の子の香りというコンボを受けて、ハジメは自分の男の子がムクムクと勃ち上がるのを感じた。

 

 心頭滅却と唱えながら、ハジメが見つめる部品……青と銀を主体とした人の形を模したそれはユートとの約束の証でもある。

 

「ひゃっ!?」

 

「ハジメ君、おっきいよ」

 

「な、中村さん……だから駄目だよこんなの」

 

 サワサワとハジメの中のハジメが撫でられる。

 

「ねぇ、恵里って呼んで」

 

「え、恵里さん?」

 

「呼・び・捨・て……で」

 

 見た目には幼い部分がある恵里だったが、その様は艶やかで淫靡な雰囲気を醸し出していた。

 

 さて、中村恵里。

 

 彼女はユートの識り得ない本来の世界線に於いて、最悪の裏切者となり天乃河光輝を洗脳してエヒト側に行ってしまう。

 

 理由は天乃河光輝を独り占めにしたいが故。

 

 彼を独占するのは性質上で不可能、そんな判断をした恵里は日本でさえ他者を蹴落としたがっていた。

 

 この異世界トータスでなら叶うと悦び、日本に帰る心算も更々無かった様だ。

 

 だが、この世界線に於いて天乃河光輝は香織香織と叫びながら失態を演じて、恵里など見向きもしないで危うく死ぬ処。

 

 そんな時唯一、見付けて救ってくれたのが正に彼、南雲ハジメである。

 

 一時に見てしまった好きな男の失態と、見もしなかった筈の男の活躍。

 

 死の淵に立たされた経験と救われた熱、吊り橋効果もあるのかも知れないが、単純過ぎるかもだけど……いつの間にか目で追う様になってしまう。

 

 だから日参して興味を惹こうと頑張っていた。

 

 幸いな事に天乃河光輝とは違い、ハジメの良さには誰も気が付いていないか、唯一気付いていた白崎香織は行方不明。

 

 自分がアタックしていても誰も何も言わない。

 

 ハジメの側に居る事で、満たされていた恵里。

 

 此処に『綺麗な中村恵里』が爆誕したのである。

 

 そして遂に完成したのがG3システム、その完成を祝し二人はプチパーティーを開き、少しだけだったがアルコールを飲んだ。

 

 互いに正体を喪う程ではないが、それでも酔っ払って精神が開放的になって、翌朝に裸身を晒した状態でベッドの上にて、陽の光を浴びているハジメと恵里が居たのだとか。

 

 白いシーツには赤い染みが点々としていたと云う。

 

 『綺麗な中村恵里』は、ハジメの為に処女まで捧げてしまったが、酔った勢いとはいえ実に嬉しそうにしていて、ハジメも意を決して恋人となったのだ。

 

 ユートが、リリアーナへと連絡する二日前の話。

 

 初々しいカップルが誕生したは良いが、恵里の親友たる谷口 鈴は恵里に先を越されて白目を剥いた。

 

 ホルアドの宿屋を出発、オルクス大迷宮へ再びやって来た生徒達。

 

 クラスメイトの実に半数が死亡、教師を含めて四名が行方不明となってからも彼らはダンジョンの攻略をさせられる。

 

 勇者 天之河光輝。

 

 拳士 坂上龍太郎。

 

 結界師 谷口 鈴。

 

 降霊術師 中村恵里。

 

 土術師 野村健太郎。

 

 重格闘家 永山重吾。

 

 暗殺者 遠藤浩介。

 

 治癒師 辻 綾子。

 

 付与術士 吉野真央。

 

 曲刀師 玉井淳史。

 

 操鞭師 菅原妙子。

 

 氷術師 宮崎奈々。

 

 投術師 園部優花。

 

 闇術師 清水幸利。

 

 錬成師 南雲ハジメ。

 

 これが現状に於いての、彼らクラスメイト達。

 

 問題なのは士気が決して高いとはいえない事。

 

 特に勇者(笑)として皆を引っ張る筈の天之河光輝、彼が沈み込んで碌に機能していないのがヤバい。

 

 それでも、クゼリー・レイル騎士団長による指揮があるから、何とかこれ以上は死なずに進めている。

 

 というか、クゼリーとしては何故に副団長が繰り上がらず、リリアーナ付きの近衛騎士だった自分が……と文句を言いたかった。

 

 理由はメルド元団長が、リリアーナの近衛騎士へと任じられたから。

 

 ハジメもなし崩しとはいえ恋人になった恵里を護りつつ、自分の造り上げた剣と錬成そのものを武器に戦い抜く。

 

 天職が降霊術師な恵里ではあるが、別に他の魔法が使えない訳ではないから、ハジメが錬成して造り上げた杖で、ハジメと共に戦いを続けている。

 

 そんな親友に感化されているからか、結界師として腕を磨く谷口 鈴も仲間を護る仕事を頑張っていた。

 

 勇者(笑)も『香織、雫』と呟きつつ、聖剣を揮って取り敢えず一兵卒的な戦いはやっている。

 

 その背中を護る形なのが坂上龍太郎だった。

 

 仁村明人と相川 昇は死んでるが本来なら愛ちゃん護衛隊となっていた者も、普通に頑張って確りと動いていたし、サブリーダー的な永山重吾パーティも戦いに慣れてきているらしい。

 

 その甲斐あって六五層、トラップで強制的に跳ばされてしまい、クラスメイトを幾人も失った場所に再びやって来たのである。

 

 だが、顕れたベヒモスはやはり強かったし、帰り道を塞ぐトラウムソルジャーにより逃げるのも不可能。

 

 ハジメは遂に封印を解除するのであった。

 

「自信はまだ無い。だけど……それでも、やるしか無いならやってやるさ!」

 

 ハジメがユートに与えられた力である、能力之扉(ステイタス・ウィンドウ)を発動する。

 

 ステイタス・ウィンドウLV:1。

 

 

南雲ハジメ

17歳 男 

レベル:65

天職:錬成師

筋力:75

体力:62

耐性:53

敏捷:110

魔力:280

魔耐:105

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]  雷撃 能力之扉 ??? 言語理解

 

 

 錬成系派生技能をユートの教えに従って勉強してきたハジメは、相当な数を得る事に成功しているが故に造り上げた傑作。

 

 それはユートとの約束の形でもあった。

 

 アイテム・ストレージを操作して装備品の装備を。

 

「なっ!? 南雲か?」

 

 坂上龍太郎が驚く。

 

「GM-01スコーピオン……アクティブ!」

 

 黒いインナースーツに、銀と青の装甲と赤い眼を持ったパワードスーツ。

 

 それは仮面ライダーG3であったと云う。

 

 スコーピオンは突撃銃に類する物、装弾数は七二発と多いのかも知れないが、割とすぐに撃ち尽くす。

 

 威力はそれなりにあるのだが、やはりベヒモスに対しては威力が不足しているらしく、牽制程度の役にしか立ってはいない。

 

 一応、ユートから貰った技能の雷撃により謂わば、電磁加速砲として使えるにしても、まだ威力が伴っているとは云えない状態。

 

「くっ! 実際の劇中でもアンノウンにそうだったのは判るけどさ!」

 

 あっさり撃ち尽くしてしまい、ハジメはスコーピオンを手にした侭で次の武装を取り出した。

 

「GG-02サラマンダー……アクティブ!」

 

 スコーピオンと連結し、サラマンダーを放つ。

 

 重低音の銃撃が響いて、三発の弾丸が発射された。

 

 威力は約二〇t。

 

 グレネードランチャーと呼ばれる武装だ。

 

 装弾数は三発でしかないのだが、ハジメがユートから与えられた今一つの力、雷撃を用いて加速させる。

 

 電磁加速砲となり、威力は【ライダーキック】宛らの破壊力を秘める程。

 

『グギャァァァアアッ!』

 

 三発目がクリティカル、ベヒモスは死んでこそないものの、堪らず倒れ伏してしまっていた。

 

「今だ! GS-03デストロイヤー、アクティブ!」

 

 近接戦闘用武装で所謂、超高周波振動剣という種類のものである。

 

 バイブレーションソードと云うと解り易いか?

 

 刃の部分に超高周波を流し振動を起こす事により、端的に云ってしまえば切れ味を増すという事。

 

 尚、仮面ライダーアギト本編では不遇な武装だ。

 

「パワーMAX!」

 

 斬っ!

 

 トドメとばかりにハジメはベヒモスの首を落とす。

 

「やった! 凄い! 流石はハジメ君ね!」

 

 本当の喋り方を封印中な恵里は、女の子らしい話し方をして手放しに誉めた。

 

 当然、行き成り仮面ライダーになったハジメに一同が呆然となる。

 

 恵里は知っていたから特に驚きなど無いが……

 

「南雲、お前……?」

 

 脳筋な坂上龍太郎もこれには驚くしかなかった。

 

「ふわぁ、仮面ライダー」

 

 谷口 鈴は普通に知っていたらしく、やはりハジメを見て驚いている。

 

 捕縛用GA-04アンタレスは使わずに終わった。

 

 驚嘆はクゼリー団長も……ではあるが、今はダンジョンの中に居るのだから惚けてばかりは居られない。

 

「佳し、取り敢えずは脱出をしますよ!」

 

 騎士団でトラウムソルジャーを何とか片付けたし、急ぎオルクス大迷宮からの脱出を試みた。

 

 その戦いの中心となったのは、仮面ライダーG3を装着したハジメである。

 

 オルクス大迷宮から脱出をした勇者(笑)の一行……クゼリー団長は勿論だが、クラスメイトもG3を解除したハジメを視ていた。

 

「ハジメ……だったか?」

 

「はい?」

 

「貴方のアレは錬成で造った物なの?」

 

「ええ、そうですよ」

 

 クゼリー団長との会話を聞いてたクラスメイトは、そんなハジメの答えに対してざわめいている。

 

「相当な時間が掛かりましたし、集中力も可成り必要で食事すら侭なりませんでしたけどね」

 

 暗に仮面ライダーG3を造るのは簡単じゃないと、クゼリー団長に釘を刺しているのだった。

 

「そもそも、G3システムだって漸く運用可能なくらいになった訳ですし」

 

 細かな部品とかシステムの動きなど、本当にミスれば自分が危険だから半端無い集中力を要したのだ。

 

 中村恵里のちょっと危ないくらいの献身が無くば、完成はもう少し遅れていたかも知れない。

 

 まぁ、ヤンデレというのはこういうもの? なのかもだけど。

 

「ならば王国や彼らに造って欲しいと依頼しても?」

 

「難しいですね。自分の命を護る装備だから集中力も途絶えませんでしたけど、普段から無能と蔑ろにされてきて今更、彼らの為にとか思えませんし。天之河君が曰く僕がG3システムを造る勉強はサボっている……という事らしいですし」

 

「ぐっ、ううっ!」

 

 余りにもベヒモスに有効な武装、それを造っていたハジメを無能と嘲笑っていたクラスメイト。

 

 勿論、基本的には檜山の一派がやってきた事だが、ハジメにはそんな分け方なんてどうでも良い。

 

 何より、天之河光輝などハジメはサボっているから檜山が訓練をした……などと嘯き、虐めを看過する処か肯定していたのである。

 

 そんな連中にありふれた職業と莫迦にされてきて、真面目に連中の為の武器を造るなど、どんな聖人君子かM野郎だという話。

 

 因みにだが、恵里が身に付けている装備の金属部品に関しては、ハジメが錬成で造り出した物だ。

 

 恋人になったし、ハジメがG3システムを造るのに異常なレベルで献身してくれた為、命を護る防具をと思うのは寧ろ当然。

 

 果たしてクラスメイト、況してや天之河光輝というのは、ハジメが介護レベルの献身を受けてまで漸く造った武装を受け取る資格があるものか?

 

 クラスメイトだから同郷だからという、薄っぺらい理由で? 有り得ない。

 

 ハジメにとって恋人である恵里と、向こうに居た頃からの友人であるユート、そして故郷の家族以外は等しく価値が無い。

 

 否、天之河光輝クラスが価値無しのレベルであり、騎士団長を辞したメルドや愛子の方ならまだ恩師とか呼べるだろう。

 

 仮面ライダーG3システム……それは帝国の皇帝が訪れる日、ハジメが新たに手にした力で更なる能力の向上が成される。

 

 仮面ライダーG3ーXとして……だ。

 

 説明も終わったとして、ハジメは恵里と部屋に。

 

 クゼリー団長は人格者であるが故に、勇者(笑)は自らの行いのダメ出しを不意討ちで喰らった上、白崎香織と八重樫 雫が行方不明であるショックが抜け切らない為か、これ以上の問答は出来ずに終わった。

 

 大物狩り(ジャイアントキリング)の初快挙に興奮していたからだろうか? 今晩のハジメは恵里が何度も絶頂に至る程に激しかったらしい。

 

 そして、情報収集に動いていたリリアーナ専属侍女のヘリーナが、ユート謹製の姿を隠せる魔導具により部屋でバッチリ視ていた事は知り様が無い。

 

 況んや、ヘリーナがそれを視ながらユートに抱かれた幻想を懐きつつ、自身を慰めていたなんて知覚などしている筈も無かった。

 

 帝国からの使者が来た日の前日、リリアーナの部屋に忍び込んだユートだが、色々とやってくれた御褒美を上げた為、翌日のあれやこれやに間に合わなくなり掛けたのは余談であろう。

 

 

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第15話:解放者であり反逆者と破壊者

 色々と足したり変えたりはしましたが、っぽい噺からの流用が多かったり。





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 安全な領域を作っては、えちぃをユエ、香織、雫、愛子と代わる代わるしながらも先へと進む。

 

 どれくらいの時間が経ったのか最早、よく判らなくなるくらいオルクス大迷宮を彷徨っている気がした。

 

 偶には香織と雫で3P、或いはユエと愛子で3Pをしてみたり、四人を同時に5Pで決めてみたりする。

 

 もうすっかり慣れたか、好きな男が明確に居た香織もユートの分身を口にするくらいしており、もう何度絶頂に至ったか数えるのも億劫となった程だ。

 

 ユエは【閃姫】となり、正式な彼女扱いである訳だから、ユートの性的な望みは全て叶える義務がある。

 

 だから尻パイルすら受け止めるし、百合が見たいと言われたら同じく【閃姫】となった雫と性に耽った。

 

 【閃姫】となる前から、雫のステータスは爆上がりしていたが、なってからは更なる向上が見られた。

 

 ユートの潜在能力の覚醒という、抱いた相手の潜在的な能力を引き出す力。

 

 【閃姫】になれば更なる潜在能力の覚醒が可能で、今の八重樫 雫のステータスはちょっと勇者(笑)にも勝るだろう。

 

 

八重樫 雫

17歳 女

レベル:70

天職:剣士

筋力:1000

体力:850

耐性:770

敏捷:2000

魔力:700

魔耐:720

技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+無拍子] 縮地[+爆縮地][+重縮地][+震脚][+無拍子][虚空縮地] 先読[+投影] 気配感知 隠業[+幻撃] 制限解放 闘氣 咸卦法 言語理解

 

 

 勇者(笑)より迅い。

 

 更に数日後……

 

「ふむ、遂に百階層目か」

 

 恐らくは真のオルクス大迷宮の最終階層に着く。

 

 その進んだ先は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間で、柱の一本一本が直径にして五m程度の太さがあって、螺旋の模様と木の蔓が巻き付いている様な彫刻が彫られている。

 

 柱の並びは規則正しく、一定間隔で並んでいた。

 

 天井までは約三〇mだといった処か、地面も荒れてなどいない平ら慣らされた綺麗なもので、何だか荘厳な雰囲気を感じさせる空間であったと云う。

 

 ユートがユエ達を待機させて、辺りを警戒しながらも歩を進めると全ての柱が淡く輝き始めた。

 

「チッ、何だ?」

 

 柱はユートの立つ場所を起点とし、奥の方へと順繰りに輝いきを放つ。

 

 警戒をしていたものの、特に何も起こらない。

 

 更に警戒しつつ先に進むユートは、自身の持っているスキルを以て感覚を研ぎ澄ませていった。

 

 どれだけ進んだろうか、前の方に行き止まり。

 

 正確には行き止まりではなくて巨大な扉、全長にして約一〇mはあろうかという両開きの扉だった。

 

 美しいものだと素直に言えそうな彫刻が彫られて、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が目に留まる。

 

「扉……か。若しやこれは反逆者とやらの住処か?」

 

「……かも知れない」

 

「ユエ、待っていろって言っただろうに。雫達もだ」

 

「……少なくともユートが進んだ場所は安全」

 

「私だって戦うわよ」

 

「こういう場所だ。きっとラスボスとか出てくるぞ」

 

「……望む処」

 

「そういう事ね」

 

 脅かした心算であるが、逆にユエも雫もニヤリと口角を吊り上げ、不敵な表情となって見上げてきた。

 

 こんな如何にもラスボスの部屋な感じ、ユートには情報を総合的に無意識領域で統合計算する未来予測があるが、正しく本能レベルで警鐘を鳴らしている。

 

「フッ、上等だよ」

 

「……んっ!」

 

 ユートもユエも扉を睨み付けると、二人は足並みを揃えて扉の前まで行こうと柱の間を越えたる。

 

「なにぃ!?」

 

 扉までは三〇m程か? ユート達と扉までの空間に巨大な、見覚えが全く無い赤黒い魔法陣が顕れた。

 

 こいつは勇者(笑)達を、窮地に追い込んだ魔法陣であり、直径が一〇m程度だったのに対し目の前の魔法陣は三倍にも亘る大きさ、構築された術式もより複雑で精密なものである。

 

「ラスボス……か」

 

「……大丈夫、私達は……絶対に負けないから」

 

「ええ!」

 

「そうだな、その通りだ」

 

 ユエの宣言に雫が同意、今度はユートの方がニヤリと口角を吊り上げて笑う。

 

 魔法陣は更に輝きを強めると、弾ける様に赤黒い光を放った。

 

 目を腕で遮りながら先を見据え、光が収まった時に魔法陣が有った場所に顕れた存在とは……

 

『『『『『『グギャァァァアアアッ!』』』』』』

 

 体長約三〇mで六つもの赤青黄白黒緑とカラフルな頭に長い首、赤黒い眼をして鋭い牙を持つ正に怪獣と呼べる存在。

 

「多頭を持つ大蛇となると神話のヒュドラ、擬きか」

 

 常人では耐えられそうにもない殺気を放ちながら、ヒュドラの六対一二の眼がユートとユエと雫を睨み付けてきていた。

 

 ネオディケイドライバーが装着され、ライドブッカーが左腰に佩かれる。

 

 ユートはライドブッカーを開き、ディケイドの絵柄が描かれたカードを出す。

 

「変身っ!」

 

《KAMEN RIDE》

 

 バックルにカードを装填してやり、開いたドライバーを閉じた。

 

《DECADE!》

 

 幾多のディケイドの幻影が顕れ、ユートへと収束が成されていく。

 

 黒いインナーにマゼンタ主体のアーマー、緑の複眼を持つ仮面ライダーディケイドに変身をした。

 

「……おいで、サガーク」

 

 現れた白い蛇型の人工モンスター、サガークがユエの腰にベルトとして装着。

 

「……変身っ!」

 

 ジャコーダーをサガークベルトの右横部、スロットに一時差し込んで再び抜き放つと、中央部が回転しながらサガークが喋る。

 

《HENSHIN》

 

 【運命の鎧】と称される仮面ライダーサガ、劇中ではファンガイア一族を統べる新キング、登 太牙が使っていた鎧であった。

 

「……ヴァンパイア一族の女王ユエ! 仮面ライダーサガ、征く」

 

 白と銀を基調としている仮面ライダーサガ、ユエがヒュドラへ向かっていく。

 

「来なさい、サソードゼクター!」

 

《STAND BY》

 

 サソードヤイバーからの電子音声に反応したのか、サソードゼクターが地中から現れて雫の手の中へと納まる。

 

「変身!」

 

 サソードヤイバーの鍔となる部位にセット。

 

《HENSHIN!》

 

 雫はサソードヤイバーを持つ手から姿が徐々に変わっていき、仮面ライダーサソードのマスクドフォームへと変身した。

 

「まずは一発だ!」

 

「ゆ、優斗……言い方!」

 

 何故か雫の頬が朱に染まるが、幸いな事にサソードの仮面で判らない。

 

《ATTACK RIDE BLAST!》

 

 ユートがカードを装填し引き金を引いてやり……

 

 BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG!

 

 一発処か分身した銃身、その銃口からは一二発もの弾丸を撃ち放つ。

 

 だが、黄色い頭が狙われた赤い頭を護る様に前へと進み出て、その身を以て庇ってしまう。

 

「地属性の盾役ってか? どうやら、頭の色で役割が分担されているみたいだ」

 

「……ん、そうみたい」

 

 頭は六本もあり、黄色が盾という防御役なのは此方でも理解をした。

 

「つまり、色的に赤が火、青が氷、緑が風、黄が地、白が光、黒が闇……かな」

 

「黒はどんな能力を?」

 

「闇で攻撃なら既にしてきてもおかしくないからな、デバフ系の可能性もある。闇なら恐慌辺りかもな? どちらにせよ、仮面ライダーには効かないから心配は要らないよ」

 

「本当に便利よね」

 

「……ん、下手したら怖い幻を見せられてた」

 

 ならば、それならそれでやり様はあるもの。

 

「ユエ、雫、同時に狙う! 僕は赤を狙うから!」

 

「……ん、判った。それなら私は青を!」

 

「なら私は黄色に牽制!」

 

 防御役も同時に狙えば、防御は手薄になる筈。

 

《FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!》

 

《WAKE UP》

 

 ユートはファイナルアタックのカードを装填して、ユエはサガークにウェイクアップフェッスルを吹かせてやり、雫もサソードヤイバーに装着されたサソードゼクターの尻尾を一旦持ち上げると、再び押し込んでサソードゼクターの尻尾の針部分でスイッチを押す。

 

「はぁぁぁっ!」

 

「……やぁぁぁぁっ!」

 

「ライダースラッシュ!」

 

《RIDER SLASH!》

 

 顕れた数枚のエナジーフィールド、ディケイドのライダーズクレストが描かれたそれを、潜り抜けながら蹴りを放つディメンションキックと、ヒュドラに対しジャコーダーを伸ばして貫くユエ、雫は黒い液体を垂れ流すサソードヤイバーで黄色の頭を斬り裂く。

 

 宣言した通り赤と青と黄の頭へと同時に、必殺技をぶつけに往った。

 

 思った通りに黄色の頭が防御しようとしてくるが、雫の攻撃の所為で護れずに赤と青の頭は普通に必殺技を喰らって砕ける。

 

 そして、ライダースラッシュにより一番防御が高い筈の黄色い頭も砕けた。

 

「む?」

 

「……白いの!」

 

 白の頭が光りを放ったかと思うと、砕けた筈の黄色と青色の頭が復元した。

 

「チッ、やっぱり光属性って処か? そりゃ有るよ、回復系っての。バランスの良い奴だマジに!」

 

 白は修復だか回復だかを担当する頭なのだろう。

 

「ユエ、雫、こうなったら一気に殺るぞ!」

 

「……一気に?」

 

「殺る?」

 

「こういうのは回復役を残すのは面倒だ。ダメージを入れても逐一回復をされるからな! 僕が回復役も盾役も含めて全ての頭を吹っ飛ばす、雫はクロックアップして全体に攻撃をして、ユエは頭が吹っ飛んだなら胴体にトドメを!」

 

「判った、優斗!」

 

「……ん、了解した」

 

 ユートはライドブッカーを開き中から新たなカードを取り出す。

 

 カードの絵は何処と無く機械っぽい外見、眼の色が黄色な仮面ライダー。

 

 名前の欄は【FAIZ】と書かれてあった。

 

《KAMEN RIDE FAIZ!》

 

 ライダーカードを装填、ディケイドファイズの姿へと再変身したユート。

 

《FORM RIDE FAIZ……ACCEL!》

 

 更にフォームライドを使って強化形態、ファイズ・アクセルフォームに成る。

 

「殺るぞ……ユエ、雫!」

 

「……ん、殺る!」

 

「了解!」

 

 ヒュドラからの炎や氷や風という攻撃を躱しつつ、お互いに頷き合い物騒な事を言い放つ。

 

 左手首に装着されているファイズアクセル、それのボタンを押してやる。

 

《START UP》

 

 これにより一〇秒間というカウントが始まった。

 

「はっ!」

 

 ユート……ファイズの姿は掻き消え、目にも留まらぬ疾さで駆け抜けヒュドラに攻撃を繰り返す。

 

「クロックアップ!」

 

《CLOCK UP!》

 

 雫もクロックアップ。

 

 カブト系仮面ライダーなら全員が持つ、超高速移動をする為の手段だ。

 

 ヒュドラの認識圏外からサソードヤイバーにより、斬撃を幾度となく繰り出してダメージを与える。

 

 そしてそれを見たユートが更にカードを装填。

 

《FINAL ATTACK RIDE FA FA FA FAIZ!》

 

 赤い円錐形のポインターが六つ、ヒュドラの頭全てに狙いを付けて並ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁああっ! アクセル・クリムゾンスマァァァァッシュッ!」

 

 一度に六つの頭が砕け散るヒュドラ。

 

 尚、通常でのファイズは技名を叫ばない……というか平成仮面ライダーでは、必殺技の名前を叫ぶ方が珍しいだろう。

 

 モモタロスの『俺の必殺技パート○』とか……

 

「……征く!」

 

 ユエは再びサガークに、ウェイクアップフェッスルを吹かせる。

 

《WAKE UP!》

 

 ジャコーダーをサガークの右側のスロットへ差し、ベルトのバックル中央部が回転、ジャコーダービュートをヒュドラへと伸ばして身体を拘束。

 

「……女王の判決を言い渡す……死だ!」

 

 必殺仕事人の要領でユエ……仮面ライダーサガが、ヒュドラへジャコーダービュートを刺し、赤い皇帝の紋章を通しギリギリと持ち上げ、増幅された魔皇力を過剰なまでに注ぎ込む。

 

『クルァァァァン!』

 

 けたたましい轟音を響かせながら、スネーキングデスブレイクをかました。

 

 その破壊力は凄まじく、ヒュドラの肉体を消し飛ばす程に大きな爆発を起こしたと云う。

 

《3、2、1……TIME OUT》

 

 アクセルタイムが終了、ファイズからディケイドに戻るユート。

 

 反対側にはユエと雫――仮面ライダーサガと仮面ライダーサソードが立つ。

 

「ふむ、やっぱりだった」

 

「……どういう事?」

 

 変身解除してトタトタと走り寄り、呟いたユートに訊ねてくるユエ。

 

「あの状態でも即死してはいなかった。イタチの最後っ屁か下手したら第二形態に移行していたな」

 

「……しぶとい?」

 

「蛇……僕が行った世界の一つで竜蛇は女神であり、再生の象徴でもあったよ」

 

「……再生の象徴、だから起き上がると?」

 

「可能性の一つとしてね。それで不意を突かれてしまってダメージを受けるとか無いからな」

 

 だからこそ、最後の〆としてユエにトドメを刺させたという訳だ。

 

「さぁ、蛇は出たんだし? 今度は鬼でも出るか?」

 

 重々しく扉を開いたその先は……

 

「館……だと?」

 

 大迷宮の奈落より更なる底の地獄の奥、ジュデッカでも在るのかと思ったが、其処に存在していたのは寧ろエリュシオンの如く。

 

 一瞬、地上かと錯覚する様な景色であったと云う。

 

「へぇ、悪くない環境だ。反逆者の住処とか云うからどんなオドロオドロしそうな場所かと思ったが、随分と良い暮らしじゃないのかこれは?」

 

「……でも、私が封印されていた場所の管理者」

 

「まぁね」

 

 まるで太陽が照っているみたいな環境で、円錐状の物体が天井高く浮いてて、底面に煌々と輝く球体が浮いていた。

 

 緑に溢れて小川が流れ、せせらぎが耳に心地良い。

 

 というか、この何処かしら野球場くらいの広さを持つ空間の奥、その壁からは何故か滝が流れている。

 

 しかも魚が生息している辺り、あの滝は何処かに繋がっているのだろうか?

 

 端の辺りにはどういう訳かベッドルームが、御丁寧な事にそこそこの大きさがあるから、五人で使うにも便利は良さそうだった。

 

 何も植えられてないし、何も飼われていないとはいっても、畑や家畜小屋なども完備されている。

 

 確かに此処で生活をするのは可能そうだ。

 

 まぁ、迷宮の最奥というのは間違い無さそうだし、ユートは取り敢えずこの場の探索を考える。

 

「雫、白崎、愛子先生……君ら三人は此処で待機でもしてれば良い」

 

「緒方君は?」

 

「ユエと館を探索するさ。館にまでトラップは無いと思うけど、万が一に侵入者絶対殺すトラップとか有ったら、先生達は生き残れないかも知れないしね」

 

「再生力の高いユエさんは兎も角、緒方君は大丈夫なんですか?」

 

「問題無いよ」

 

 ユートは少しだけだが、スカウト……斥候系の技能も持ち合わせているから、その気になればトラップを捜して解除も、別に出来ないという事もない。

 

 まぁ、本職の盗賊には負けるのだろうけど。

 

「退屈なら三人でレズってても構わないよ」

 

「「「ヤりません!」」」

 

「さよけ」

 

 百合百合に興味無いのか一斉に突っ込まれた。

 

 早速、館に向かったなら内部には容易く入れたし、入口にトラップも無い。

 

「まぁ、此処で反逆者とやらが暮らしていたんなら、入口にトラップを仕掛けて自分が入れない、何て莫迦な話にしかならないか」

 

 とはいえ、魔力波形なんかでマスターは入れるとか仕掛けなら、問題無く入口にトラップを作れるが……

 

「殆んどの部屋にプロテクトが掛かっているのか? キーになる何かを見付けない限り、入れない様になっているんだろうか」

 

 工房らしき部屋も封印がなされていた。

 

 無理矢理に破壊をする事も不可能ではないのだが、若し変な仕掛けがしてあって館全体が崩れたら? と思うとやるのは頂けない。

 

「まぁ、広いとはいっても所詮は限定空間なんだし、いずれはキーも見付かるとは思うけど……な」

 

「……残りは三階」

 

 ユエが呟く。

 

「二階は現状でどうにもならないし、こりゃあ三階に期待するしかないか」

 

 二階から上がる階段を見付けたし早速、ユエと共に三階へと上っていく。

 

「三階はこの大部屋だけみたいだな……」

 

 一階にはでかい風呂が有ったし、魔力を注げば普通にライオンの口から湯が溢れ出た。

 

 封印もそうなのだけど、施設自体は生きている。

 

 故に扉は普通に開いた。

 

「魔法陣……か。しかも、今まで見たより精緻なものだな。より大容量な情報を扱っているのか?」

 

「……骨」

 

「誰の骸かは知らないが、服飾は随分と立派だ」

 

 黒地に金の刺繍がされた綺麗なローブを身に纏い、豪奢な椅子に座っている様はあの状態で亡くなったのが判る。

 

 視るからに見苦しかったりしない辺り、恐らく死期を覚ってこの人物は静かに眠ったのだろう。

 

「部屋にはいっても起動しない辺り、踏まないといけないみたいだね」

 

「……大丈夫?」

 

「罠って線は低いだろう。はっきり言って此処は別荘と聞かされても違和感とかないし、この骸が反逆者とやらなら某か伝えたい遺言でもあるんじゃないか?」

 

 少なくとも、外で顕れたヒュドラみたいな話にはならないだろうと考えた。

 

 部屋としてはそれなりの広さだが、戦闘をやらかすには流石に狭過ぎる。

 

「まぁ、何かあったら頼むぞユエ」

 

「……ん、任せて」

 

 二人は唇を重ね合わせ、暫く堪能してからユートは魔法陣へ一歩を踏み出す。

 

 魔法陣の中央まで来ると純白の光が爆ぜ、某か入り込む様な感覚に襲われる。

 

(勘としては受け容れるべきと云う事か)

 

 感覚的にそう感じ取り、それを自ら取り込んだ。

 

 光が収まったのを期に、ユートが目を開くと其処には黒髪、そして骸が纏った黒衣の青年が立っている。

 

『試練を乗り越えよく辿り着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えば判るかな?』

 

「オスカー・オルクス……成程、オルクス大迷宮ってのは本人の姓から取った名だった訳か」

 

 名前の由来を知らなかったから納得したユート。

 

『ああ、悪いのだが質問は許して欲しい。これは只の記録映像の様なものでね、生憎と君の質問には答えられない。だが、この場所に辿り着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何の為に戦ったのかと……メッセージを残したくてね。この様な形を取らせて貰った。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者では無い……という事をね』

 

「反逆者であって反逆者では無い? リドルって訳じゃ無さそうだけど……」

 

 其処から先は正に真実、この世界に起きている愚かな戦いの歴史。

 

 ユエから聞いていた話、聖教教会から聞いた歴史。

 

 オスカー・オルクスの語る歴史が真実であるなら、その全てが全く覆ってしまう事になる。

 

「狂った神々とその子孫、地上で起きた人間に魔人に亜人の戦争とそれを裏から操る神。だけどその戦争は基本的に神託によるもの。神代から続く神々の子孫が七人の先祖返りを中心に、“解放者”となって争いに終止符を……か。だけど、洗脳により解放者の計画は破綻した。最後に残ったのが大迷宮の創造主の解放者であり、神の遊戯盤を破壊しようとした反逆者か」

 

 オスカー・オルクスは、最後に到達者へ言葉を(はなむけ)として贈ってきた。

 

『君のこれからが、自由な意志の下にあらん事を』

 

 そうして消えるオスカー・オルクスの映像。

 

 同時にユートの中に入り込むのは、オスカー・オルクスが使った神代魔法。

 

「【生成魔法】か……僕と相性の良い魔法だ。上手く使えば個人スキル【創成】のパワーアップになるな」

 

 それに今一つ。

 

「……ユート、大丈夫?」

 

「問題無いよ。面白い歴史の裏を聞いたってだけだ」

 

「……ん、こんなの私も知らなかった」

 

「オルクス大迷宮はユエの時代、三百年前には有ったんだから普通にそれよりも前の時代、下手したらそれこそ千年は前かもだから。ユエが知らないのは無理も無いだろうね」

 

「……ユートはどうする? この話を聞いて」

 

 それはユエの行動の指針にもなるのだ。

 

 依存と云われても仕方がないが、だけど今のユエは浦島太郎みたいなもので、三百年が経っていると自覚して若さを保っていても、外に知り合いなんて一人も居ないのだ。

 

 吸血鬼の王国も既に存在しないし、縦しんば存続していても自分を騙して封印した連中でしかない。

 

 行き場が無い。

 

 生き場が無い。

 

 ユートに捨てられたら、ユエには縋るべき縁が全く無かった。

 

 元より原典でも同じ事、その対象がハジメかユートかの差違があるだけ。

 

「ふむ。どっち道、神を名乗るエヒトは殺す必要が出てきたかもね」

 

「……どういう事?」

 

「僕らを召喚したのが奴、エヒトだというなら還った処で再び召喚される。僕らじゃなくても別の地球人が召喚されかねない。何より奴は地球の存在を知った。下手したら地球でトータスと同じ事をやらかす」

 

「……確かに」

 

「フッ、僕は門矢 士じゃないけどディケイドの力を持った世界の破壊者だし、奴の秩序(せかい)を破壊してやるまでだ。自らが招いたのが世界の猛毒(プロヴィデンス・ブレイカー)だとは、全くツイていないな偽神エヒト。クックック」

 

 この物語(せかい)を破壊する……門矢 士風に言えばそういう事だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ち、違うの!」

 

「遂ね、ホントに魔が差したと言うかね!」

 

「そんな心算じゃなかったんです! し、信じて下さい緒方く〜ん!」

 

 館の二階、書斎や工房でオスカー・オルクスの遺産として、めぼしい物を頂戴してからベッドルームまで戻って来たら、本当にレズっていた三人がイチャイチャと慰め合っていたり。

 

「まぁ、何だ。取り敢えずは混ぜて貰おうか。ユエもお出で」

 

「……ん」

 

「ちょっ!」

 

 脱ぎ始めたユートとユエに驚く雫。

 

「前にも5Pはヤったろ」

 

「ヒッ!」

 

「あわわっ!」

 

 既にカチンコチンな分身を視て、香織も愛子も今更ながら恐怖に戦慄する。

 

 もう何度も受け容れているモノとはいえ、やっぱりまだまだ慣れてはいない。

 

「戴きます」

 

「……戴かれます」

 

 こうして三人はユートとユエに、美味しく性的に戴かれてしまうのだった。

 

 その際の寝物語に召喚をされた真実を聞かされて、喘ぎながら天之河光輝が犯した短慮に乗った自分達を情けなく思うのは『始まりの四人』の内二人。

 

 愛子も或いは引っ張叩いても止めるべきだったと、生徒達を戦場へ向かわせる事になったのを悔いた。

 

 とはいえ、すぐに頭の中が真っ白になったけど。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 数時間後……

 

 折角のでかい風呂だし、気絶している三人はベッドに放っておき、ユエと共に入浴を愉しんでいる。

 

「……ユートはエヒトと戦うと言った」

 

「ああ、世界を救う為なんかじゃないけどな」

 

「……世界を破壊する?」

 

「ああ。言ったろ? 僕が使う仮面ライダーの力ってのは、とどのつまり特撮の【仮面ライダー】シリーズから来ている……と」

 

「……ん、特撮が何なのかは解らないけど。要するに舞台劇みたいなもの?」

 

「まぁ、そうだね。そして仮面ライダーディケイドの原典の主人公、門矢 士は記憶を喪い力を持たない侭で光写真館に住んでいた。仮面ライダーキバである、紅 渡に導かれ九つの世界を巡る旅に出た。最終的に『仮面ライダーを斃さないといけないのに仲間にしてしまった』と非難をされた挙げ句の果てに、九人もの仮面ライダーに襲われて戦う羽目になった。そんな噺だったんだが、最後は旅を続ける選択に落ち着いたんだろう、僕の知り合いにはその果てを観た娘が居て、平成仮面ライダーと呼ばれる世界を巡ったらしくて、僕が使うネオディケイドライバーは、謂わばその証。実際にライダーズクレストも本来は、ディケイドを除く九個だったのが、ジオウとディケイドを除く一八個に増えていたからね」

 

「……それがユートの力、仮面ライダーディケイド」

 

 ユートも這い寄る混沌の力を喚起して、仮面ライダーディケイドのネオディケイドライバーに変わった、その理由はよく解らないというのが正しい。

 

 だけど相性はバッチリ、何故なら【仮面ライダー】は仮面ライダーフォーゼまでなら視ていたし、ユートは自身を【模倣者(イミテイター)】と呼んで憚らない程であり、仮面ライダーディケイドとは成程確かに他の仮面ライダーの姿と力を模倣する存在だからだ。

 

「ユエはどうしたい?」

 

「……私には帰る場所も、待っている人も居ない……だからユートに付いてく。私をユートの“旅”に連れて行ってくれる?」

 

「他の【閃姫】と扱い的には変わらんぞ?」

 

「……ん、構わない。欲しいんならいつでも良いし、招喚もしてくれて構わないから。他の【閃姫】とだって仲好くしてみせる」

 

「良い子だ。ならこの世界からユエを攫ってやるさ」

 

「……ん、ありがとう」

 

 その後はユエが血を吸ったり精を吸ったり、風呂でイチャイチャを繰り返す。

 

 ユートはオスカー・オルクスの館から、ほぼ全ての遺産を受け継い(ぬすん)だ形になるが、折角だからと骨休めも含んでオルクス大迷宮に留まる事にする。

 

 理由の一つはそもそもが天之河光輝達と『勇者ごっこ』に興じる気は無くて、他の大迷宮を巡って全ての神代魔法を得る下拵えという意味で、連れ歩く事になる香織と雫と愛子を鍛えるのが目的だった。

 

 ライドプレイヤーに変身すれば、香織と愛子も確かにオルクス大迷宮の深層でも戦える程度に強化はされるが、魔人族との戦いは疎か場合によれば人間とも戦う事になり、いちいち三人が止まっていては話にならないから。

 

 相手の命を奪う意味を、逆に命を奪われる覚悟を促さねばなるまい。

 

 それに能力値だけ上がっても、使い熟せないのでは却って害悪になる。

 

 これは必要な措置だ。

 

 尚、ユート以外はオスカーの【生成魔法】との相性が良くなかったらしくて、全員が覚えはしたが使い物にはならないらしい。

 

「約束を守っていたから、【生成魔法】はハジメにやるかな」

 

 ダンジョンアタックの前にした約束、ハジメは確かにG3システムを完成させており、彼の錬成魔法を遥かに強化してくれるであろう【生成魔法】を与えるのも良いであろう。

 

「っと、その前に僕は先生と香織を連れて一回は王都に戻らないとな」

 

 一応、話は通しておかないといけないし、リリアーナとヘリーナを味わうのも久し振りにヤっておきたかったのと、ハジメに魔法を渡す為でもあったから。

 

 それに愛子先生は連れ回すより、クラスメイト達の方を見ていて欲しい。

 

 ユートは暫く味わえないからと、愛子先生の肌の柔らかさと温もりをタップリと堪能しておくのだった。

 

 

.

 




 雫のステータスにはまだ伸び代があります。




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第16話:堕ちた白崎香織

 展開が違い過ぎて……





.

 白崎香織 一七歳 乙女にして最早処女に非ず。

 

 好きな男に捧げたからではなく、好きな男の友人に命を救う代価として喰われたからである。

 

 どれだけ触ってみようと膜は無く、すんなり奥まで指が入り込むのが哀しい。

 

 好きな男――南雲ハジメに初めてを捧げたかった、だけど自分の処女を奪った男は言う、何かしら特異点崩壊でも起きない限りは、白崎香織が南雲ハジメへと好意を伝えてもフラれるだけである……と。

 

 白崎香織は南雲ハジメに疎まれていた。

 

 そんな筈は無いと自らに言い聞かせるが、ユートはハジメから『白崎さんの事を堕としてくれない?』と冗談めいて言ったとか。

 

 其処は『犯してくれない?』でなかっただけマシと思うべきか、結局は犯されたにも等しいから同じだったと嘆くべきか。

 

 拠点を作って休む度に、親友や先生と自分で代わる代わる抱かれた。

 

 香織の知識的に男というのは、数回も発射してしまえば空撃ちになる筈だが、ユートは一人につき数回を発射しながら、全く衰える素振りもなかったりする。

 

 寧ろ、毎日毎時間とヤり続けても量や勢いが変わらない訳で、無限リロードとか本人が言うのもジョークではなさそうだ。

 

 膜の確認をしていたら、気持ち良くなってきてしまった頃、先生が気絶したと判る絶叫が響いてきて香織はゆっくり立ち上がる。

 

 特設された仕切りを抜けると、やっぱりピクピクと痙攣しながら見せちゃ駄目なあれこれになった可愛らしい先生が倒れている。

 

 次は自分の番。

 

 そうやってオルクス大迷宮を降りていたが、抱かれ始めた頃に仲間入りをした吸血姫も普通に加わって、ユートとの時間の幾らかを持っていく。

 

 順番は守るし、始めから【閃姫】という恋人というか奥さんというか、そんな関係を望んでいたからであろう、ユエへの態度は自分や親友や先生とはまた違うものなのが、最近は無性に苛立ちを感じていた。

 

 小さな身体は愛子先生もだが、彼女は大人の教師を自認しているから遠慮して慎みも持つが、ユエに遠慮なんて言葉は皆無だ。

 

 おんぶして貰ったり血を飲ませて貰ったり、果ては香織の目の前でキスをねだったりとヤりたい放題。

 

 しかも律儀に応えてキスをしているし。

 

 何故かイライラした。

 

 もっと構って欲しいし、自分もキスをしたい。

 

 頭の中に浮かんだ思いに首を横に激しく振る。

 

 何を考えているのか? それではまるでユートに愛して欲しいみたいだ。

 

 先程から処女膜の有無を確かめる行為に拍車が掛かっており、水音の方も可成り激しく聴こえてくる。

 

 ユートの顔がちらつき、その度に指の動きがより激しく、より滑らかに、より艶かしく、より淫らになっていった。

 

「……香織、煩い」

 

 ビックゥッ! 肩を震わせて真っ赤な顔で涙目になりつつ香織が振り向けば、確りと緋色の目を開いているユエが居るではないか。

 

 というより、今宵はユエと香織が二人で同じ布団で眠って、雫と愛子先生による3Pが本日のプレイ。

 

 だから二人切りで眠っていた訳だが当然、隣で致していたら判ってしまう。

 

「……そんなにユートが好きなら、普通に連れていって欲しいと頼めば良い」

 

「嫌いだよ。私は南雲君が好きなのに、大迷宮の魔物が異常に強いのを良い事に私の初めてを奪ったもの」

 

「……対価と聞いたけど、それはいけない事?」

 

「お、女の子の初めてなんだよ? 男の子とは違って確実に判るモノが無くなっちゃうんだから!」

 

「……私も喪った。ユートが私を貫いたからだけど、嬉しかった」

 

 恍惚とした表情。

 

「そりゃ、ユエさんはそうだろうけど……」

 

 寧ろ、三〇〇年間拗らせてきたモノを捨てれたのは嬉しいだろう、自分を救ってくれた心赦せる程の相手だったのだから。

 

「……香織はユートを想いながら弄ってた」

 

「うっ……」

 

 ギクリとする。

 

「……抱かれる内にいつの間にか心を持ってかれた」

 

「……」

 

 ユートが嫌いだ。

 

 処女を奪ったから。

 

 ユートを許している。

 

 大事にしてくれるから。

 

 ユートが好きだ?

 

 身も心も虜にするから。

 

(訳、解んない)

 

 雫は素直に告白をして、ユートの旅に付いて行く事を表明した。

 

 元々が乙女気質だから、初めての男に入れ込んでしまうのも無理はないかも、これがハジメなら香織だって躊躇無く付いていく。

 

 寧ろ憑いて逝く勢いで。

 

「……仕方がない。淫乱な香織を満足させる」

 

「へ? 満足って……ちょっと! ええっ!?」

 

 その侭、ユエに翻弄された香織は美味しく『戴きます』をされて、翌朝は疲労で休む羽目になったとか。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「リリィから連絡がきた」

 

「リリィから? いったい何て?」

 

 雫の質問に頷き答える。

 

「帝国から使者が送られてくるそうだ」

 

「ヘルシャー帝国から?」

 

 ヘルシャー帝国は所謂、『力こそぱぅわぁ!』とか叫びそうな実力主義国家。

 

 今までハイリヒ王国へと接触してこなかったけど、それはエヒトからの神託と召喚の間が無さ過ぎたし、帝国としては行き成り異世界から勇者とか言われて、『ハイそうですか』といく訳もなく、取り敢えず傍観の姿勢を取っていたから。

 

 然し、勇者(笑)が六五層という冒険者にとって悪夢な階層を、ベヒモス討伐の末にクリアしたと聞いて、重い腰を上げたらしい。

 

「という訳で一旦、王国へと戻るから。白崎と先生はクロニクルガシャットを返してくれ。君らは向こうに帰すから。雫は帰さない、解るな?」

 

「ええ、私も優斗が戻らないなら帰る心算もないわ」

 

 ユートが戻るなら是非も無いが、元より戻る気が無かった上にオスカー・オルクスの話した真実もあり、七大迷宮を行脚する気満々みたいで、ならば雫も付いて廻るだけである。

 

 何よりユエと二人切りにしたら、遠慮も無くユエが美味しい思いをする筈だ。

 

 シェアは仕方がないとしても、わざわざ独り占めをさせたくはなかった。

 

「という訳で、ユエは悪いが暫く雫とこの場で待機。僕は白崎と先生を連れて、ハイリヒ王国の王宮にまで戻るから」

 

「戻るって、戻る方法とか有ったの!?」

 

 香織が驚愕をするけど、ユートは首を傾げた。

 

「だって、戻れるなら私達がした事って……」

 

「うん? ああ、この奥に転移魔法陣が有ったから、それで外に出てから移動系魔法を使うんだよ」

 

「へ、え? そうなんだ」

 

 とんだ赤っ恥である。

 

「……私も連れて行ってくれない?」

 

「雫はあっちに戻りたくなったのか?」

 

「違うわ。私は貴方から離れたくないもの。だけど、ケジメは必要だと思うわ」

 

「ケジメ……ねぇ」

 

 律儀な雫なだけに本気でそう考えたのだろうけど、それだとユエを独りぼっちにしてしまう。

 

「だけどユエは今は亡き、吸血族の女王だったんだ。下手に聖教教会には見せたくないから、連れては行けないんだよ。ユエを独りにするのは憚れるし」

 

「それは……」

 

「それにステータスの問題もあるんだ」

 

「ステータス? ステータスプレートも無いのに」

 

「これ?」

 

「え? ステータスプレートじゃないのよ!」

 

 ユエが雫に見せたのは、既にユエの魔力の色に染まったステータスプレート。

 

「創った」

 

「は? つくったって」

 

「僕の固有技能の【創成】ってのは、ハジメの錬成の上位互換な力だ。暗黒物質を素材にして原子結合による物質化、想像したモノを創造する技術だ。そして僕の瞳は【神秘の瞳】という名前の魔眼。視ればだいたいの構造が把握してしまえるから、ステータスプレートを作製も出来たんだよ」

 

 この世界では量産品とはいえアーティファクトを、ユートは事も無げに複製をしたのだと言い切る。

 

 

ユエ・オガタ

本名:アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール

レベル:73

323歳 女

天職:神子

筋力:380

体力:500

耐性:200

敏捷:320

魔力:15000

魔耐:13000

 

技能:自動再生[+痛覚操作] 全属性適性 複合魔法 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収] 想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動] 血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約] 高速魔力回復 状態異常完全耐性 闇之魔法 生成魔法

 

 

 やはり魔力が凄まじく、付随して魔耐も高かった。

 

 因みに、ユートに抱かれて潜在能力の覚醒が成されたからか、元の数値よりは高くなっている筈らしく、状態異常完全耐性というのも知らない技能だとか。

 

 毒耐性や麻痺耐性や石化耐性や混乱耐性や恐慌耐性などの、状態異常に対する完全耐性だろう。

 

「問題なのは、天職である神子というやつだよ」

 

「神子?」

 

「ヤバいと思うんだよな。この世界はエヒトって神が幅を利かせてる。それなら神子とはいったい誰の神子だ? と、訊かれたらやはりエヒトなんだろう」

 

「それって?」

 

「下手するとエヒトによる操り人形。まぁ、傀儡系も状態異常ではあるから或いは弾けるけど、最悪なのが冥王ハーデスみたいな感じだった場合だよ」

 

「……冥王ハーデス?」

 

「ユエはそりゃ知らんな。地球はギリシアの神話に出てくる神の名前だ。死者を管理している冥界を支配する神で、僕の居た地球では度々地上支配に乗り出すんでね。戦女神アテナがそれを食い止めるべく、聖闘士と呼ばれる神の闘士と共に闘うんだ。一応、神話的に親族ではあるんだけどな」

 

 まぁ、親族が争う神話は珍しくもないけど。

 

「で、神子との関連性だが……ぶっちゃけ、ハーデスは地上侵攻の折りに本体はエリュシオンに封印して、その時代の地上で最も清らかな人間を依代とする」

 

「依代……つまり、乗っ取るって訳?」

 

「そうだよ、雫。ハーデスの神子として生まれながらに定められ、【YOURS EVER】と刻印されたペンダントを着けていた」

 

「それで?」

 

「ハーデスは瞬……依代に入り込み、冥王ハーデスとして君臨をしたよ」

 

「それじゃ、ユエさんも」

 

「エヒトの器にされる可能性がある。出来たら今はまだ教会に晒したくはない」

 

 今は……いずれ隠し通せなくなるし、この大迷宮を出れば見付かるだろうが、幾ら何でも教会のお膝元のハイリヒ王国の王宮に連れて行くのは駄目だろう。

 

「……良い。私が留守番をするから」

 

「ユエ?」

 

「……寂しくさめざめ泣きながら留守番してるから」

 

 頭を抱える雫。

 

 流石にそれは反則だと、困った表情になっていた。

 

「なら、私が残るよ」

 

「香織?」

 

「白崎さん!?」

 

 突然の香織からの発言に驚愕し、目を見開きながら声を上げる雫と愛子先生。

 

「考えてたんだ。恋人が出来た南雲君の前に処女を喪った私が現れて? それでどうするのかって、ずっと考えていたよ」

 

 昨夜はユエとお楽しみをしていたが、それで吹っ切れたのかも知れない。

 

「私は緒方君が嫌いです」

 

「まぁ、好かれはせんな。雫が異常なだけ……とばかりは言えんが、命の対価とはいえ処女を奪われたんだから当然だ」

 

 誘拐犯に恋してしまう、そんな事例も皆無ではなかったり、だから雫が異例だとは決して云えないけど、は香織の言い分が普通だ。

 

「でも、もう私は緒方君に全部を捧げちゃったんだ。貴方の舌が指が触れていない部位は無いってくらい、私は緒方君に……」

 

 頬が紅い辺り恥ずかしい事を言っている自覚有り、だけど止まる心算も無いのだろう、口を開いた。

 

「南雲君じゃない、緒方君を想いながら私は昨夜……自分を慰めてた」

 

「か、香織!?」

 

「はわわ!」

 

 確かに紅くなるだけの、恥ずかしいエピソード。

 

「……ん、煩かった」

 

 ユエが香織と致した理由がそれだった。

 

「もう私は南雲君を好きだった頃には戻れないから、それなら緒方君に責任を取って貰いたい」

 

「責任……ねぇ……」

 

 確かにユートのヤり方、あれの快感を知ってしまうと他所の男に抱かれても、碌に感じなくなっているかも知れない。

 

 あの強烈過ぎる快感は、ユートだからこそ与えられるモノであり、他の男では作業にしかならない筈だ。

 

「判った、付いて来たいなら連れて行こう。ユエとは違って戦力にはならないだろうから、仮面ライダーの力も改めて渡すべきか」

 

 ユートは結局、帰すのは畑山愛子先生のみとなった事を、ちょっと頭を抱えながら受け止めた。

 

「じゃあ、これからは私も名前で呼んで? ゆう君」

 

 ハートが語尾に付きそうなくらいの笑顔を浮かべ、ユートの名前というか愛称で改めて呼ぶ香織に……

 

「そうしよう、香織」

 

 やはり軽く名前で呼ぶ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「で、こうなりますか」

 

 夜中、リリアーナの部屋に現れたユートと愛子先生と雫の三人。

 

 出口となる魔法陣から出ると、其処は魔法が分解されるライセン大峡谷。

 

 だけどユートは知った事かと、そんな特性ガン無視で瞬間移動呪文(ルーラ)を使って王宮内に。

 

 既に夜更けだったから、リリアーナの部屋に忍び込んだという訳だ。

 

「それにしても、お久し振りですね雫。それに愛子さんも」

 

「久し振り、リリィ」

 

「お久し振りです殿下」

 

 互いに挨拶を交わして、ユートがヘリーナの淹れたお茶を飲んでいるのを見遣るリリアーナは、溜息を吐きながら頬に手を添えた。

 

「それにしても……折角の帰還でしたのに、雫達を連れてきては御愉しみは無しですか?」

 

 ギョッとなる二人だが、ユートはしれっと……

 

「普通に五人で愉しめば良いだろうに」

 

 今宵は四人同時に抱くと言い放つ。

 

「やっぱり手を出していましたか、しかも愛子さんは教師でしょうに……」

 

「チャンスは逃さない性質だからね」

 

 一方の雫も頭を抱えたくなっていた。

 

 若しやと思っていたが、本人が肯定したから確定はしていたにせよ、リリアーナ当人から言われてしまっては誤魔化し様がない。

 

「まぁ、それなら愉しみましょうか」

 

 その夜は今までとは変わった5Pで燃え上がる。

 

 まさかのお姫様とメイドなお姉さんの参加により、愛子先生も雫もちょっとだけ大胆になったから。

 

 翌朝は疲労からだろう、リリアーナは起きるのが辛かったらしい。

 

 帝国の使者が王宮入り、ヘルシャー帝国の使者がやって来る当日、リリアーナは腰を押さえつつヨロヨロと謁見の間へ。

 

 赤いカーペットが敷かれた謁見の間には、聖教教会からイシュタルが率いている司祭が数名、王国側からは国王に王妃に王女に大臣と重鎮で占められており、迷宮攻略メンバーとなっている勇者(笑)達、国王の座る玉座から対面するかの様にゲストの帝国からの使者の数名が立っている。

 

〔リリィ、フットワークの軽い皇帝が自ら来ると思ったんだが〕

 

(はい、私も実はその心算で話してました)

 

 念話での会話だ。

 

 昨夜の寝物語にガハラド皇帝に関する情報を渡されており、その際に容姿関連の情報も受けている。

 

〔あ、居たわ〕

 

(え? 何処ですか?)

 

〔真ん中の奴、使者の右側に居る護衛が魔導具による姿変化か。よく視ればリリアーナの言っていた容姿、今現在の容姿がそいつに被っている感じだ〕

 

(なっ! 護衛の振り?)

 

〔そうなるな〕

 

 ユートは笑いを押さえ、リリアーナは驚愕した。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上かる武勇を、今日は存分に確かめられるが良かろう」

 

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝致します。して、どなたが勇者様なのでしょうか?」

 

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

 

「はい」

 

 国王の言葉に天之河光輝が言われた通り前へ出る。

 

〔確かにあいつが勇者(笑)だが、ベヒモスを斃したのって仮面ライダーG3……つまりハジメだろうに〕

 

(やっぱり、勇者様の方が見映えするからでは?)

 

〔下らん見栄……か。それで仲間の手柄を横取りね、何処のあーぱー勇者だよ〕

 

 ベヒモスを斃すには光輝ではレベルも士気も共に足らず、結局はハジメが自分の切札とも云えるG3システムを装着して戦った。

 

 然しものベヒモスも所詮は上澄みに配置された魔物でしかなく、仮面ライダーG3の武装には太刀打ちが出来なかったのである。

 

 勇者(笑)光輝を筆頭に、迷宮攻略のメンバーが次々と紹介をされていく。

 

「ほぅ、成程。貴方が勇者様ですか。随分とまたお若いですな。失礼ですが本当に六五層を突破したので? 確か、あそこはベヒモスという怪物が出ると記憶しておりますがな?」

 

 天之河光輝を観察する様に見遣る使者、イシュタルの手前だからか露骨な態度まで取らないものの若干、疑わしい目で視てきた。

 

 護衛の一人が値踏みするが如くジロジロと舐める様に眺めてきて、その視線に居心地が悪そうに身動ぎをしながら、天之河光輝は口を開く。

 

「えっと……ではお話しましょうか? どの様にあのベヒモスわ斃したかとか、あっ! そうだ、六六階層のマップを見せるというのはどうでしょう?」

 

 天之河光輝の必死な提案だが、使者はあっさりと首を振るとニヤリ……と不敵な笑みを浮かべてきた。

 

「いえ、お話はもう結構。それより手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもして貰えませんか? それなら勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっ……と、俺はそれでも構いません」

 

 若干、戸惑った様な視線でエリヒド国王の方へと振り返ると、エリヒド国王はイシュタルに確認を取る。

 

 イシュタルは頷いた。

 

 神威を以て帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、帝国は完全な実力主義というのを国是とし、皇太子すら必ずしも血縁にするとは限らない気性だとか。

 

 ならば早々に本心から、ヘルシャー帝国認めさせるには、実際戦って貰うというのが最も早いと判断したのであろう。

 

「構わぬよ、光輝殿。その実力を存分に示されよ」

 

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

 急遽として勇者VS帝国使者の護衛という、模擬戦が決定してしまった。

 

 結論だけ云えば勇者(笑)がボロ敗けした形である。

 

(ま、所詮は現代日本人。戦争の意味も知らず、殺される覚悟も無い口先だけの男に過ぎんか。それにどうベヒモスを斃したか話す、まさか仮面ライダーG3を装着して、自分が斃しましたとでも言う心算だったのかアイツは)

 

 何処かの黄金の獅子座が居れば、『男として認めん!』とか言いそうな程に、今の天之河光輝は精彩というものを欠いているのだ。

 

〔格好悪いですわね〕

 

 リリアーナの視線は既に勇者様でなく、勇者(笑)に向ける失望と蔑みのモノに最早、成り果てていた。

 

 そしてイシュタルにより護衛がガハルド本人だと、明かされた事で天之河光輝は茫然自失となる。

 

「こんなのが勇者とはな。本当にベヒモスを斃したのか怪しいもんだぜ」

 

 既に皇帝ガハルドには、呆れと疑心しかなかった。

 

「待って下さい!」

 

「あん? 確か勇者一味の誰だっけか……?」

 

「中村恵里といいます」

 

「んで、何だよ?」

 

「ベヒモスを斃したのは確かです。だけど斃したのは光輝君じゃありません!」

 

「おいおい、だったら随分と話が違わねーか?」

 

 慌てたのは王国側重鎮、とはいえ勇者一行を下手に拘束は出来ない。

 

「じゃあ、誰が斃したってんだよ?」

 

「ハジメ君です」

 

「ハジメ? 確か勇者一味に居たと記憶してるがよ」

 

 そしてその指摘には焦ってしまうハジメ。

 

「ちょ、恵里?」

 

「だって、この侭だったらハジメ君の功績が有耶無耶にされちゃう! ボクは、そんなの嫌だよ!」

 

「へ? ボ、ボク?」

 

「あ……」

 

 遂々、本来の一人称やら口調で話してしまう。

 

「えっと、実は普段からの話し方は本来のものじゃなくて……一人称もボク……だったりするんだ」

 

「うわ、恵里ってボクっ娘だったんだね」

 

「あ、あれ? 何か普通に受け容れられてる?」

 

 オタクなハジメにとってボクっ娘は美味しいだけ、流石の恵里もそれは予想の範疇外だったと云う。

 

「ふん? コイツが?」

 

 パクパクとバカ面を晒す天之河光輝を他所にして、皇帝ガハルドはハジメの事をジロジロと観ていた。

 

「冗談だろう、このガキが戦士って面か?」

 

「む!」

 

 その言い方に当然だけど恵里は眉根を顰めていた。

 

 だが然し反論がハジメのすぐ近くで起きる。

 

「当然だろう。そもそも、ハジメは錬成師。造る者であって戦う者じゃない」

 

「ぬぅ!?」

 

 使者や本物の護衛が驚愕しながら見遣ると、其処には今までは居なかった筈の黒髪の少年が居た。

 

「お前は?」

 

「其処の負け犬な勇者(笑)やハジメの同郷だ」

 

「だ、誰が負け犬だ!」

 

「お前だよ、勇者(笑)」

 

「っていうか、君は生きていたのか!?」

 

「見りゃ判るだろう。僕が幽霊にでも見えてるか? 寧ろ頭は大丈夫か?」

 

「何で頭の心配をされているんだよ!?」

 

 言われなければ解らないのだろうか? というより言われても理解が出来ないのだろう。

 

 勇者(笑)の方は扨置き、皇帝ガハルドが口を開く。

 

「ほう、貴様の名は?」

 

「緒方優斗。まぁ、ステータスプレートにはユート・オガタ・スプリングフィールドとなっているけどね」

 

「つまり、ユートという名で間違いない訳か」

 

「そうだよ」

 

「今まで何処に居た?」

 

「ずっとこの場でやり取りを見ていたが、気が付かなかったのかな? 戦士としては随分と迂闊だったね。暗殺し放題の隙だらけだ」

 

「言ってくれるな……」

 

 皇帝ガハルドは少なくとも勇者(笑)より興味を惹かれたらしく、ふてぶてしい態度のユートに凶悪な笑みで会話を続ける。

 

「ふん、なら今度はお前さんが戦ってみるか?」

 

「……構わないが、それはどうなんだ?」

 

 国王や教皇的にと暗に言ってみると……

 

「まったく、ガハルド殿はそういう遊びが過ぎる」

 

「そうですな。貴方は本気で言っておられますか? ガハルド陛下」

 

 苦言を言うエリヒド国王とイシュタル教皇。

 

 わざわざ勇者(笑)とやっていた模擬戦を止めたというのに、またぞろ模擬戦をされたのでは困る。

 

「まぁ、余興だ……」

 

「待て!」

 

「うん?」

 

 皇帝ガハルドが話しているのを天之河光輝が止め、それに多少の不機嫌さを込めた眼を向けた。

 

「あ、いや……皇帝陛下にではなく……」

 

 と言いつつユートへ顔を向ける勇者(笑)。

 

「一緒に落ちた香織と雫はどうしたんだ!?」

 

「はぁ?」

 

「香織と雫と愛子先生の居場所を教えろ! 君が生きているんなら、香織達だって生きてる筈! というより君が連れているんじゃないのか!?」

 

「知っていても教えんよ、お前みたいなのにはな」

 

「なっ! 緒方! 香織達は君みたいなのがどうにかする様な、そんな安い娘じゃないんだぞ!」

 

「あんな死と隣り合わせのダンジョン内、男女が寄り添えば所謂、種族保存本能が働くのは不思議かな?」

 

 取りも直さず、喰ったと言いたげなユートに……

 

「っさまぁぁぁぁぁっ! 決闘だ! 俺が勝ったら、香織達の居場所を白状して貰うからな!」

 

 叫ぶ天之河光輝。

 

 一人で激昂する勇者(笑)だが、ユートは冷めた瞳でそれを見つめながら言う。

 

「で?」

 

「な、何だ? で、とは」

 

「天之河が勝てば香織達の居る場所を教えるとして、それなら僕が勝ったらお前は何を差し出すんだ?」

 

「な、何だと? 神聖なる決闘を賭け事にする心算なのか!?」

 

「……本気で言ってるのか天之河? 否、正気か? 頭は本当に大丈夫か?」

 

「な、何を!」

 

「お前は決闘に勝った場合の条件を僕に出したな?」

 

「そ、それが何だ?」

 

「その時点でお前は決闘で賭けを申し込んだんだよ」

 

「ち、ちがっ!」

 

「違わないだろう。賭けとは互いに某かを賭けて何らかの勝負を行う事。そして賭けは“お互いに賭ける”のが当たり前だ。従って、天之河がリスク無しで勝負を挑む事は許されない」

 

 キレて口調からおかしくなっているが、どうもド頭にキてまともな思考すらも出来ないらしい。

 

 まぁ、御都合解釈というのは天之河光輝の必殺技ではあるのだが……

 

「な、なら俺は!」

 

「命を賭けろ」

 

「は?」

 

 流石にイシュタル教皇が何か言おうとするのだが、行き成り身動ぎすら出来なくなった。

 

「……!?」

 

 呼吸は辛うじて出来て、死に直結しないにせよ全く動けず、声を上げる事すら叶わなかった。

 

 ユートというより内部の優雅が、更に奥の瑠韻を叩き起こしてやらせている。

 

 ユートには都合、三つの人格が存在しているのだ。

 

 主人格の緒方優斗を基点としたユート。

 

 ユートの生まれる前に死んだ双子の兄、緒方優雅となる筈だったユートと一つに融合した赤子が、前世の記憶を元に再構築した人格である優雅。

 

 そしてユートの破滅型の因子、優雅が魂の相克とは成らなかったが故に世界の修正力が生んだ第三人格。

 

 何故か少女としての人格であり、結局は表に出ない限りは相克とならない味方となってしまう。

 

 万が一にでも表に出たら何処ぞの祝福の風も吃驚、大暴走をして世界に破滅を齎らしてくれる。

 

 普段は寝ている瑠韻は、起きれば優雅と違って影響を及ぼすのも可能だ。

 

「し、死ねとでも?」

 

「ふん、死ぬのが怖いか? 戦争は殺すか殺されるかの二択、お前みたいな偽善者で御都合解釈大好き野郎は敗ければ無様を晒すし、勝てば傲慢にも命まで取らないとか言うんだろうな? どうせ捕虜にしてもお前の見てない所で死刑にするに決まってるのになぁ?」

 

「そ、そんな事が!」

 

「あるに決まっているさ。お前の士気を崩さない様、飽く迄も秘密裏にだがな」

 

「巫山戯!」

 

「巫山戯てなどいないさ。さて、決闘だったな」

 

 最早、興味など無いと謂わんばかりに話を戻す。

 

「待って!」

 

 突然の声に皆が驚くが、知っていたユートとリリアーナは特に驚かない。

 

「なっ!? 雫?」

 

 それは姿を消していた、八重樫 雫その人だった。

 

 

.




 香織が堕ちました。





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第17話:二人で一人の半分こ怪人

 香織のパワーアップ必須なんだけどなぁ……





.

「雫! やっぱり無事だったんだな!?」

 

 決闘云々も忘れ去ったらしく、天之河光輝は雫へと急いで駆け寄る。

 

「香織や先生は? 本当に無事で良かった。俺は信じていたぞ!」

 

 両手を差し出して雫の手を握ろうとした天之河光輝だったが、雫は嫌悪感すら湛えた表情で一瞥して……

 

「気安く触らないで」

 

 バチッ! と天之河光輝の手を叩きスッと避けてしまった。

 

「し、雫……?」

 

「相変わらずよね光輝は、相手がどう思っているかなんて関係無い。自分の御都合解釈に合わせて“光輝の中では”、私が再会に涙しながら受け止める筈だったんでしょうね」

 

 その視線は飽く迄も冷徹という、幼馴染みの男の子を視る目では決して無い。

 

 感涙に咽び泣き抱き締められてもおかしくはない、そんなシチュエーションである筈なのに、雫の目は冷たく天之河光輝を見据え、抱き締める処か一m以内に近付こうとしない。

 

 クラスメイト達も普段を知るが故に、雫の態度には違和感を感じていた。

 

「おいおい、雫よ。光輝は随分とお前らを心配していたんだぜ? ちったぁそれを留意してやれよ」

 

「龍太郎は黙ってなさい」

 

「うっ!?」

 

 坂上龍太郎が取り成そうとしたが、雫はやはり冷たい……絶対零度の視線にて一瞥しながら言う。

 

「いい加減でうんざりよ、光輝の御都合解釈もそうだけど、龍太郎の脳筋具合も何で私だけが面倒を見ないといけないのかしら?」

 

 幼馴染みの四人組こそ、『始まりの四人』とユートから蔑称される者であり、ユートに好意を持った今の雫からしたなら、嫌われる要因である以上は絶対に覆したい事柄である。

 

「し、雫……? 何を言っているんだ? そうか! 緒方に何かされたのか! そうなんだな!」

 

 随分と断定的だが……

 

「なっ!」

 

 真っ赤になりながら狼狽える姿は、充分に根拠と成り得る態度であった。

 

「くっ、緒方! 雫に何をしたぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「言っただろう? あんな死を濃密にした空間内で、生存本能ってやつが働けば男女はどうなるかってな。“雫”の反応を見れば明らかだろうに」

 

「っ!」

 

 流石にどんな御都合解釈をしようと、雫がユートとナニをやらかしたかなど、周りもすぐに理解をした。

 

 当然、天之河光輝も。

 

「はっ! 香織は! なら香織はどうした!?」

 

「同じだ。愉しかったよ、三人の肌は中々に瑞々しくて甘美な味わいだった」

 

 ブチッ!

 

「殺してやるぅぅぅっ!」

 

 天之河光輝の中で、キレてはならないナニかがブチッとキレてしまった。

 

 聖剣を抜いてユートへと攻撃を仕掛ける。

 

 ユートは特に無反応で、“天之河光輝の中では”目で追えず、躱す処か防ぐ事すら出来ないとなった。

 

 天之河光輝の中ではという註釈付きだが……

 

 ガインッ! 甲高い金属同士がぶつかり合った音、見れば怒りに目尻を上げた雫がユートの前に立って、天之河光輝の聖剣の一撃を自らが持つ刀に似た紫主体の武器で防いでいた。

 

「し、雫っ!?」

 

 つまり、何の事はない。

 

 ユートは雫が防ぐからと余裕綽々で見ていただけ。

 

「ほんっとうに救えない、光輝……アンタのその御都合解釈にはほとほと愛想が尽きたわ! 決闘だったかしら? 私が受けて上げるから覚悟なさい!」

 

 この時の天之河光輝が、面白いくらい狼狽えていたのは間違いない。

 

「雫……何でだよ……」

 

 そんな天之河光輝を冷やかに見つめる雫。

 

「光輝、アンタは昔っから選択肢の一つ一つを誤り続けていたのよ」

 

「選択肢? な、何を言っているんだ?」

 

「私は昔、アンタに会ったばかりの頃には私の王子様になってくれるんじゃないかって、莫迦みたいな話だけど期待したのよ」

 

「……は?」

 

「でも違ったわ。アンタは私の為の王子様なんかじゃなかった。守るなんて言いながら上辺だけでちっとも守ってくれなかったわね」

 

 正に黒歴史の暴露だ。

 

「何を……」

 

「言ったでしょ、アンタは一つ一つの選択肢を間違えてきたのよ。ゲームだってそうでしょう? 選択肢を誤ればエンディングに辿り着けない。光輝は私というヒロインとの仲を縮める為の選択肢を間違い、EDを見損ねたって話よね」

 

「な、何だよそれは?」

 

「決闘でしょ? さぁ……始めましょうか!」

 

 余りの展開に勇者(笑)もそうだが、周りもまた付いていけて無かったりする。

 

 納得がいかないのか? まだ何か言いたげであった天之河光輝、然し取り合わない雫に仕方が無く聖剣を構え直す。

 

「雫、アイツに手籠めにされて従っているのは判ったけど、俺に勝てる心算でいるならそれこそ誤りだぞ」

 

「手籠めにされた覚えなんて無いわね。私は私の意志で優斗の恋人をやってる。優斗は光輝と違って間違わなかったのよ」

 

「香織や畑山先生にまで手を出したんだろう! それの何処が間違っていないって云うんだ!」

 

 ギリギリと奥歯を噛み締めながら、吐き出すかの様に叫ぶ天之河光輝。

 

「言ったわよね、優斗が。あんな死を濃密にした空間では、私達は肌を重ねるしか生を感じられないのよ。アンタの最後の間違いは、落ちた私達を捜そうともしなかった事。勇者としては身勝手に動けないとか言いたいかしら? 其処で女を……個人を取らなかった、その時点で光輝が私達を侍らせる資格が無いって事、いい加減で解りなさい!」

 

「くっ!」

 

「そして光輝がグダグタしてる内に、私も香織も先生までも優斗のモノにって、そういう話よ!」

 

「アアアアアアアッ!」

 

 気が狂いそうなレベルで叫んだのは、雫が抱かれたからか? 香織が抱かれたからか……誰にも判らない侭に、光輝が狂ったかの如く雫ではなくユートの方を攻撃した。

 

「莫迦よね、本当に莫迦。さぁ、来なさい。サソードゼクター!」

 

《STAND BY》

 

 ジョゥントを通って城の床に穴を掘り進み、サソードゼクターが雫の手の中へ納まる。

 

「変身っ!」

 

《HENSHIN》

 

 サソードヤイバーを手にした右腕から、マスクドフォームのサソードに。

 

「なっ!?」

 

 坂上龍太郎だけでなく、全員が驚愕に目を見開いてしまっている。

 

「キャストオフ!」

 

 サソードゼクターの尻尾部分を押し込むと……

 

《CAST OFF》

 

 電子音声が鳴り響いて、ガシャガシャとパーツが切り離される準備形態に。

 

 蠍なのに蛹をイメージするオーバーアーマーを持ったサソード、そのパーツを弾き飛ばしてしまう。

 

 アーマーの下から現れたのは、緑の複眼に紫を基調としたアーマーを身に纏う蠍モチーフで左右非対称となる者。

 

《CHANGE SCORPION!》

 

 仮面ライダーサソード。

 

「マジかよ?」

 

 モノホンの仮面ライダーとなった雫に、坂上龍太郎は固唾を呑んでしまう。

 

「はっ!」

 

 仮面ライダーサソードと成れば、一〇〇mを五.四秒という速度で走れたりするけど、更にステータス的に二〇〇〇という勇者(笑)より俊敏な雫のスペック、これにより更なる速度上昇が見込め、変身シーケンスを経て尚余裕で天之河光輝に追い付いて防御した。

 

「やると思ったわ!」

 

 不意討ちにもならないと仮面ライダーサソード――雫が嘲る様に言う。

 

「し、ずく……なのか?」

 

「ええ、仮面ライダーサソード。私は八重樫 雫本人に間違い無いわね。」

 

 ドカッ! と、ヤクザキックの要領で天之河光輝の腹を蹴り付ける。

 

「ガハッ!」

 

 後ろに吹き飛ばされて、ゴロゴロと滑稽なピエロの如く転げた。

 

「光輝、判っていたとはいえアンタは私を怒らせた。彼氏を不意討ちで攻撃されたのよ、当然ぶっ飛ばされる覚悟はあるのよね!?」

 

 そう言ってサソードゼクターの尻尾を上げ、すぐにまた下ろすというアクションを取る。

 

「ライダースラッシュ!」

 

《RIDER SLASH!》

 

 起き上がった天之河光輝に対して、雫は黒い液体がドロリと刃から垂れ流されるサソードヤイバーにて、斬っ! 斬っ! 斬っ! と幾度も斬り付けた。

 

「ギャァァァァァァァァァァァァアアアアッ!」

 

 起き上がり様に何度も斬られた光輝は、キラキラな鎧を粉砕されて倒れる。

 

 服まで粉砕されており、上半身は素っ裸でズボンも可成りギリギリ。

 

 DBの戦いで孫悟空とかがよくなる格好だ。

 

 憐れにも天之河光輝は、惨めな格好で倒れていた。

 

「フッ、フロニャ力を参考にした非殺傷設定だけに、やっぱり裸になったか」

 

 ある意味で恐ろしい事を宣うユートに、違う理由で戦慄した視線を送ってきたクラスメイト達。

 

「痛みは本物だが、死なないし傷も出来ない優れものだからな。フロニャ力……素晴らしいモンだろ」

 

 異世界フロニャルド。

 

 トータスとはまた別に、獣人のみで形成される世界であり、世界に満たされた【フロニャ力】なる特殊な力が働いていて、武器により攻撃されても致命傷を負うことは無く、一般人ならダメージ次第で前後するが二〇分程度の短い時間だけど【けものだま】になってしまうのだ。

 

 また、召喚された勇者を始めとする一部のツワモノは【けものだま】にならずに済むも、その代わり今回での天之河光輝みたいに、装備している防具が粉々に粉砕されるだろう。

 

 しかもダメージの度合いによっては、その下に着ているものも破壊される。

 

 服だけならまだマシで、下着が粉砕された日には……筋骨隆々なオッサンとかがそうなれば誰得なのか?

 

 ユートはそんな特殊力場【フロニャ力】を解析し、聖魔獣仮面ライダーに対して標準装備、オン・オフを自由に出来る仕様にしているのだ。

 

 雫も愛想が尽きたとはいっても幼馴染み、殺したいとか憎んでいた訳では無いから非殺傷設定で斬った。

 

 斬られた痛みは有れど、天之河光輝に斬り傷が残ったりはしない筈だが……

 

「わ、我が国のアーティファクトの鎧ががが……!」

 

 エリヒド・S・B・ハイリヒ国王は、精神的にだがダメージを受けたらしい。

 

 南無。

 

「序でだから二度と子作りがデキない様にしたろか」

 

 ユートはそんな恐ろしい事を言いながら、短剣を手にして天之河光輝を見る。

 

 【不能の短剣】と呼んでいる短剣で、これに刺されてもダメージは一切負わないのだが、刺されて以降は二度と分身が勃起をしなくなり、子胤が玉々から作られなくなってしまうという男にとっては忌まわしい、強姦魔によく使う魔導具。

 

 本来なら自身の強過ぎる性欲の抑制の為、性欲すら喪う覚悟で造り上げた逸品……の心算ではあったが、自分に刺しても大した効果は上げられなかった。

 

 副産物的に強姦魔へ試したら、勃起していた分身が一瞬でヘタリ込んだのだ。

 

 そして二度と使い物にはならなかったし、医者に調べさせたら子胤を作る機能が完全に死んでいたとか。

 

 自分には殆んど効かなかったのに、他人には効き過ぎるくらい効いたという。

 

「どうしたら良いかな? この侭だと香織や雫に対して不埒な行為に及ぶかも、だしな?」

 

「やめたげなさい」

 

 苦笑いな雫に、ユートも短剣を仕舞ってジョークだと謂わんばかりの態度ではあるものの、目が全く笑っていない辺り本気だったと永山重吾は後に語る。

 

「さて、僕との決闘もしないとな」

 

(お、鬼だ……)

 

 全員が思ったと云う。

 

 そんな中でハジメだけはキラキラした純粋な瞳で、仮面ライダーサソードへと変身した雫を見つめる。

 

「ハジメ君、雫が良いの? ボクよりも……」

 

「え、そうじゃないんだ! 仮面ライダーサソードに本当に変身したからさ! 多分、優斗に貰ったんだと思うんだけどね」

 

 ユートがイクサナックルとイクサベルトを使って、実際に仮面ライダーイクサに変身したのを見ている身としては、やはり興奮を隠せない様子だった。

 

「そうなんだ……だったらボクも仮面ライダーになったら愛してくれる?」

 

「え、別にならなくってもあ……愛するよ?」

 

「うん、嬉しい。でもね、雫を見ていて思ったんだ。単に護られるだけの女より横に並び立ちたいなって」

 

「恵里……」

 

「ハジメ君……」

 

 最早、キスでもするんじゃないかと思えるくらい、甘々な雰囲気をコッソリと漂わせる二人だが、すぐ近くの遠藤浩介は砂糖を吐く思いに耐えていたりする。

 

「おら、起きろや愚図!」

 

 倒れた天之河光輝に対して容赦無く蹴るユート。

 

「ぐはっ!」

 

 目を覚ましたらしいが、ヨロヨロと立ち上がる辺りまだ本調子ではない。

 

「う、うう……」

 

「さっさと起き上がれよ、勇者(笑)様よぉ! 本当に愚図だな!」

 

 ドカッ! と再び蹴る。

 

「ぐわっ!?」

 

 当然ながらまた転けた。

 

「チッ、愚図勇者(笑)が」

 

 余りにも酷い事をしているが、先程からの言い掛かりにも等しい言動からか、イシュタル・ランゴバルド他神職者は兎も角として、他は流石に自業自得であると黙り込む。

 

「くっ、何をするんだ?」

 

「決闘をするとか言い出したのはお前だろ、何をいつまでも寝ているんだ」

 

「う、そうだが……」

 

 雫の豹変に驚愕を禁じ得ないし、圧倒的な力で屠られたショックもある。

 

 精神にダメージを与える非殺傷設定だからだろう、今もフラフラしているのは仕方がないと云えた。

 

 だけどユートに勇者(笑)の事情はどうでも良い。

 

 やる事は山程にあるし、こんな奴一人にいつまでも(かかずら)っていられないのだから。

 

「早く着替えて来いよ」

 

「わ、判っている!」

 

 すぐに新しい服と鎧……アーティファクトを纏い、漸く確りした足取りとなりユートの前に立つ。

 

 やはりキラキラだった。

 

「さて、始めようか」

 

「ま、待て!」

 

「何だよ?」

 

 流石に冷静になったか、雫に手も足も出ずにやられたのが衝撃的で、怒り狂ってはいないらしい。

 

「俺が勝ったら香織も雫も畑山先生も、必ず返して貰うからな!」

 

「なら、僕が勝った場合は何を差し出す気だ?」

 

「なっ! これは神聖なる決闘だぞ? 賭け事に使うなんて不謹慎だろう!」

 

「……なぁ、ヘルシャーの皇帝さん?」

 

「あ? 何だよ」

 

「僕は今、何かおかしな事を要求したのかね?」

 

「いや、全然。勇者の方から賭けを申し込みながら、相手にだけリスクを負わせる莫迦な餓鬼は居るがな」

 

 中々に辛辣である。

 

「皇帝陛下?」

 

「おい、勇者の小僧」

 

「は、はい?」

 

「さっきあの姉ちゃんが言っていた通り、御都合解釈がひでーなぁ? おい」

 

「そんな事は!」

 

「なら、今の会話は何だ? 自分は勝った場合の要求を平然として、相手にそれを許さねーってのがお前らの流儀かよ? はっきりと言うが、そんな輩を信じる程に帝国は甘かねーぞ」

 

「ぐっ、判り……ました」

 

 ガハルド皇帝はユートの弁護をしたのではなくて、勇者が信用出来ない輩では困るから発言した。

 

 故にユートは特に借りとは思ってないし、ガハルド皇帝も貸したなどとは考えてはいない。

 

「なら、此方が勝てば仮死状態にさせて貰おうか」

 

「は? 仮死状態だって? どういう意味だ!」

 

「心配しなくてもきちんと蘇生はしてやる。後遺症も残らないさ」

 

「……良いだろう。どうせ俺が勝つからな」

 

 再び聖剣を正眼に構える勇者(笑)、ユートはやってみたかった事を行うべく、赤い機器をアイテム・ストレージから取り出す。

 

「あれはダブルドライバーなのか!?」

 

 ハジメが驚く。

 

「知ってるの?」

 

「うん、【仮面ライダーW】の主人公の左 将太郎がフィリップと共に使う変身ベルトだよ。だけど相棒とか居るのかな?」

 

「相棒……フィリップって人の事?」

 

「ダブルドライバーって、メイン変身者がボディメモリを、相棒がソウルメモリを使って変身をするんだ。そして変身中、フィリップの精神は二重人格みたいに仮面ライダーWと一緒になるんだよ」

 

「へぇ」

 

 ハジメの説明を受けて、恵里は理解を示す。

 

 黒いUSBメモリみたいな物を出すと……

 

 カチリ。

 

《JOKER》

 

 スイッチを押した。

 

 それに合わせて電子音声が鳴り響く。

 

 緑色のガイアメモリが、ダブルドライバーの右側のスロットに転送されたのを確認して……

 

「変身!」

 

 ユートは叫びながらも、黒いガイアメモリを左側のスロットへと填め込んで、両方を最後まで押し込む。

 

《CYCLONE/JOKER!》

 

 再び鳴り響く電子音声、激しい音楽が鳴って緑色の風が激しくユートを包む。

 

「な、何なんだ?」

 

 どうやらオタクではない天之河光輝は識らないが、ハジメはその出来事に興奮を隠せない。

 

 右に緑色、左に黒色という半分ずつに赤の複眼を持つデザイン自体はシンプルな仮面ライダー。

 

 仮面ライダーWだった。

 

「「さぁ、お前の罪を……数えろ!」」

 

 何故か声は二人分が重なって聞こえてくる。

 

「罪? 俺にそんなものがある訳ないだろう!」

 

「解らないならそれこそ、お前の罪だ!」

 

「黙れぇぇぇっ!」

 

 勇者(笑)の大振りの一撃だが、聖剣の刃を右手首で完全に受け止めた。

 

『所詮は聖剣(笑)だね』

 

「だ、誰だ?」

 

 天之河光輝には聞き覚えの無い声が、仮面ライダーWから聞こえてくる。

 

『君に話す事は何も無い、似非勇者……若しくは公式勇者(笑)が!』

 

「かっこわらい?」

 

 実は天之河光輝に対する勇者(笑)は公式、原作者が自ら綴る程に完璧な(笑)。

 

 それを“もう一人のW”は識っていた。

 

〔にしても、兄貴は大概だよねぇ。まさか【ありふれた職業で世界最強】の世界に居たなんて……さ〕

 

〔そういうタイトルか……まぁ、先ずは奴を潰してからだな――ユーキ〕

 

 ソウルメモリを使ったのはつまりユーキ、ユートの義妹にして【閃姫】でもあるパートナー。

 

 初めてこそ恩師に譲った形だが、身体すら重ねてる身魂の全てで繋がる存在。

 

 比翼の鳥、連理の枝。

 

「ふっ! はぁっ!」

 

「がはっ!?」

 

 受け止めた聖剣を上に弾き飛ばし、すぐに腹へ蹴りを喰らわせてやる。

 

 勇者(笑)は吹っ飛んだ。

 

『弱いな。まぁ、勇者(笑)は始終弱かったっけ?』

 

 ユーキの死は【ありふれた職業で世界最強】が一応の最終回を迎えた後な為、勇者(笑)の末路も当然ながら識っている。

 

『とっとと終わらせるよ』

 

「ああ、そうだな」

 

 ジョーカーメモリをスロットから抜き、右腰に有るマキシマムスロットに装填してスイッチを叩く。

 

《JOKER MAXIMUM DRIVE》

 

 Wがジャンプをして蹴りの体勢に入ると、真ん中から身体が上下に擦れる。

 

「「はぁぁぁっ! ジョーカーエクストリーム!」」

 

 蹴りが天之河光輝に命中した瞬間、もう片方の身体の脚が蹴りを入れる形になって擦れた。

 

「グハァァァァァッ!」

 

 今度こそ壁にまで吹き飛ばされた勇者(笑)、壁へとめり込んでしまうものの、意識だけは残っている。

 

「うう、卑怯だぞ!」

 

(チッ、手加減が過ぎた。どうせ非殺傷を使うんだから殺すレベルで撃つべきだったか……)

 

 仮死状態にしてやる心算だったが、明確な意識を持っているらしく留まった。

 

「卑怯?」

 

「そ、そんな借り物の力で……いい気になるなんて、卑怯者が!」

 

「借り物? 仮面ライダーは確かに東映の映像物だ。借り物と言えば借り物とも言えるが、ダブルドライバーやガイアメモリが借り物だと言うなら、お門違いも良い処だな天之河」

 

「な、なにぃ?」

 

 莫迦な勘違いをしている天之河光輝に、溜息混じりで説明をしてやる。

 

「ダブルドライバーにせよガイアメモリにせよ、どちらも僕の能力で創った物。ハジメの錬成とよく似ている能力でね。実際にハジメが仮面ライダーG3を造り上げているだろう。僕のはその上位互換だ、やれる事も当然ながら多いのさ」

 

「ま、まさか!?」

 

 天之河光輝とて驚く事実であったと云う。

 

「雫のサソードゼクターやサソードヤイバーもそう、僕が創った物を与えた」

 

「莫迦な……」

 

「ハジメを無能と侮って、錬成の勉強をサボりと断定した何処ぞの勇者(笑)様、今どんな気持ち? サボりと無能と断定した相手が、自分の斃せなかったベヒモスを斃して、ねぇねぇ今どんな気持ち?」

 

 所謂、NDKで煽った。

 

 真っ赤になって耐える様は見苦しいまでに。

 

「素手で勝負しろ!」

 

「はぁ、愚かな」

 

「なっ!?」

 

「良いが、お前は聖剣を手にしているよな?」

 

 鎧はまたもや粉砕されているが、聖剣は未だに健在だから両手にひん握っている状態だ。

 

「俺は素手だ!」

 

「いや、両手で聖剣を握っていて素手とか……」

 

 まさかとは思うのだが、気付いていないのか?

 

「もう良いや。掛かって来るんだな」

 

 投げ槍に言うと、遠慮無く聖剣を握り締めた侭で、普通に振り被りながら此方へ駆けて来る。

 

「やれやれだぜ」

 

 ユートは言いながら……

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

 

 グチャ、ベキィッ、メキョッ、ネチョォッ!

 

 気色悪い人体が壊される音を鳴り響かせ、序でにと謂わんばかりにガチャン! 聖剣も粉砕してやった。

 

「オラオラッシュ……」

 

 ハジメは引き攣りながら最後に『オラァッ!』と、トドメの一撃をくれてやるユートを、呆然と見つめていたのだと云う。

 

 

.




 ジクウドライバーを腰に装着、ライドウォッチを手にした香織。

《KAORI!》

「変身!」

《KAMEN RIDRE KAORI……KAORI!》

 仮面ライダーカオリ。

「祝いなさい! って、何でやねん!?」

 勿論、ジョークである。




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第18話:戦いの神VS神の使徒

.

 ボコボコにされてしまう天之河光輝、そして心臓があっさりと停止した。

 

「魂掌握! 読み込み……開始! 簒奪!」

 

 【狩人×狩人】な世界でユートが手にした念能力、即ち【模倣の極致(コピー&スティール)】である。

 

 自分が心肺停止までさせた相手の、若しくは自分が性的に絶頂させた相手の魂を掌握→読み込みで能力を閲覧して、其処から能力の簒奪か模写が可能だ。

 

 絶頂させるのは当然ながら性的にだから、女性相手にしか行われない行為。

 

 殺して逝くか性的にイクかの違いである。

 

「終了」

 

 ユートは天之河光輝から全ての技能を簒奪した。

 

「おら!」

 

 ドゴンッ! 左胸へ鈍い音を響かせて踏み付ける。

 

「ちょっ!」

 

 死人に鞭打つ行為を見て流石に声を上げた雫だが、『ゴボッ!』と息を吹き返したのを見て安堵した。

 

 幾ら見放したとはいえ、やり過ぎだと思ったから。

 

 ユートは刃が粉砕された聖剣を拾い上げる。

 

「脆いな聖剣の癖に」

 

 何故かガーン! とか、聖剣がショックを受けたみたいな感情が伝わってきて寧ろユートが驚く。

 

「まさか、人格は無さそうだが……意思は在るのか」

 

 デバイスとはまた違う、簡単な意思は感じる。

 

「わ、わ、我が……我が国のあーてぃふぁくとが……聖剣がががが!」

 

 余程ショックだったか、泡を吹きコテンと引っくり返ったエリヒド国王。

 

 天之河光輝の装備品が壊れるというのは、云ってみればハイリヒ王国に於ける宝物が減るという事。

 

 しかも勇者(笑)に与えられるだけあり、一応は最高級品の装備であろう。

 

「おい、勇者ってのは弱いのかよ?」

 

「皇帝、あれが強い様に見えるなら目を医者に見せた方が良い。あれを強いと思えるなら頭を医者に見せた方が良い。そもそも実力主義とはいえ玉座にふんぞり返って鈍った皇帝に敗ける程度の勇者(笑)が強い訳があるものかよ」

 

「成程な。処でお前らが使う装備は何だ?」

 

「仮面ライダー」

 

「仮面ライダー?」

 

「僕が認めた身内にのみ、渡している力だよ」

 

「つまり、俺らに渡したりはしないと?」

 

「奪いに来るなら来いよ、但し帝国最期の日を迎えたいなら……な」

 

 ユートは敵対者に一切の容赦は無い。

 

 ヘルシャー帝国にせよ、ハイリヒ王国にせよ、或いは神にせよ奪いに来たなら滅ぼして混沌の海にバラ撒いてやるまでだった。

 

「さて、行くか雫」

 

「ええ、判ったわ」

 

 歩を進める二人に慌てて待ったを掛けるのは……

 

「お、おい! 光輝をこの侭にしていく気か!?」

 

 坂上龍太郎。

 

「光輝を起こしても面倒しかないわ。何だか可成りのダメージみたいだし、安静にさせておくのね」

 

「いや、これだと蘇生したのにまた死ぬんじゃね?」

 

 坂上龍太郎の言葉は正当であり、放っておけばいずれ力尽きて死ぬ。

 

 ユートは勇者(笑)が死んでも別に何も思わないが、楔で時間稼ぎでもしておくかと、イシュタル・ランゴバルドへの拘束を解く。

 

「ぐっ!?」

 

 拘束を解かれたと気付いてユートを睨むが、老い耄れの殺気も混じらぬ睨みなど何処吹く風よ。

 

「イシュタル・ランゴバルド教皇、勇者(笑)を助けて欲しいか?」

 

「むう……貴方は何が望みですかな?」

 

 今、此処で暴れてみても勇者(笑)は死ぬだけ。

 

 すぐにそれを理解して、交渉に応じる辺り老獪なる教皇様というべきか。

 

 然し甘い。

 

「今回の件は明らかに勇者(笑)の責任。まさかとは思うが教皇ともあろう者が、それを理解出来ない無能ではないだろう?」

 

「ぐむぅ、それは……そうですな」

 

 苦虫を噛み潰した様な、そんな表情をしたいものの表に出さない、確かに老獪さでは皇帝や国王より遥かに上みたいだ。

 

「ならば……聖教教会及びハイリヒ王国とヘルシャー帝国のトップが一同に介しているんだ。その名前に於いて誓って貰おう」

 

「ふむ?」

 

「ユート・オガタ・スプリングフィールドとその仲間に対し、聖教教会とハイリヒ王国とヘルシャー帝国はその権利を認めて、決して異端とはしない……とな。そもそも、異世界の人間がこの世界の宗教に迎合しないのは当たり前。それすら考えず異端だとはしない、若しくは僕の持つ物を奪う為などで追っ手を掛けないと誓って貰う」

 

 国の名前や宗教の名前、そしてそのトップの名前に於いて誓え……と、ユートは事も無げに言う。

 

 とはいえ、勇者(笑)の死を看過するのも問題だと、イシュタル教皇とエリヒド国王とガハルド皇帝の名、そして国と教会の名に於いて宣誓した。

 

 瞬間、凄まじい光が放たれて何かに縛られる感覚が三人を襲う。

 

「んだ、こりゃ? おい、てめえ……何をした?」

 

 ユートの掌中には、翼に天秤を付けた感じの鷲を象る印璽が有る。

 

「これは鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)……その効果は、誓約した者の言葉を絶対遵守させるという、封印級の魔法具。つまりはあんたらはさっきの宣誓を決して違える事は出来ない、魂まで束縛する程の代物だからね」

 

「なっ! アーティファクトだとでも!?」

 

 驚くイシュタル・ランゴバルド教皇。

 

「あんたらの尺度で云えばそうだが、これは僕の世界で使われている物だよ」

 

 正確に云えば、ユートの再誕世界で造られた物で、この世界の地球ではない。

 

 これで少なくとも時間稼ぎは出来るだろう。

 

 とはいっても、宣誓したのはイシュタル・ランゴバルドであり、エヒトがじかに刺客を送るのは可能であるから、攻撃はされるだろうと踏んでいた。

 

「それじゃあ、僕は行かせて貰う。此処には愛子先生を送りに来ただけでね」

 

「先生を?」

 

「永山か。天之河がアレだとサブリーダー的なお前に話しておくべきか」

 

「ああ、やったのは緒方ではあるんだが……頼む」

 

 実際、リーダー格である天之河光輝をボコったのはユートであり、永山重吾はちょっと文句を言いたいのだろうが、やはり自業自得な面が強くて言えない。

 

「さっきも少し言ったが、取り敢えず僕は三人と共に奈落に落ちた。オルクス大迷宮の百階層より更に下に行くしかなくて、魔物は強くなる一方だったんでね。僕が三人を護らないと間違いなく死ぬ状況だ」

 

「マジかよ? 非戦系天職の畑山先生や治癒師の白崎は兎も角、バリバリ前衛職の八重樫がか?」

 

「飛び出して蹴り兎と名付けた兎型の魔物から、一撃で致命傷を受けていたくらいだからな」

 

「なっ! 一撃でだと?」

 

「はっきり言ってベヒモスに苦戦する程度の戦力で、あそこに降りるのは正しく自殺行為でしかないな」

 

 ベヒモス程ではないが、それでも上澄みの迷宮に出る魔物より数倍は強いし、一度でも降りたらまともな手段では上に戻れない。

 

 因みに、ユートは迷宮脱出呪文(リレミト)を使えるのだが、仕様的にパーティを組んだ者で最大数は六人という制約が在る。

 

 問題なのは“パーティを組んだ”という状況だが、これはユートがパーティであると意識的なり無意識なりで認識する必要があり、残念ながら当時の香織と雫はパーティに入れなかったのである。

 

 これはユートの意識に、『始まりの四人』なんてのが有ったからで、愛子先生だけなら実はリレミトにて脱出は可能だった。

 

 とはいえ、それを伝えても流石に愛子先生だけ脱出とか、納得などしないだろうから言わずにいたのだ。

 

 まぁ、お陰で愛子先生も抱けて得したのは確か。

 

 尚、今現在はパーティを組める状態になっている。

 

「三人には結界で待つか、肢体で対価を支払ってでも護られながら付いて来るか選ばせたが、付いて来る方を選んだんだよ。因みに、寄生で護られない侭に付いてくる選択も有るには有ったけど、実質的に死ぬだけだから薦めはしなかった」

 

「だろうな……」

 

「で、出口となる魔法陣を見付けたからこうして出てきたが、雫と香織は僕と行く選択をした。だからこそ先生を連れて来たんだよ。先生には作農師の技能を使って欲しいんだろ?」

 

 チラリとリリアーナを見ながら言う。

 

「はい、ありがとうございますユート様」

 

 現状で、エリヒド国王は聖剣が砕けたショックから気絶しており、国政に口を出さないルルアリア王妃や幼いランデル王子よりも、リリアーナが受け答えるのが仕事だった。

 

「合流しないっていうならお前ら、何処に行こうというんだ?」

 

「神頼みではなく帰り道を捜す旅に出るさ」

 

「帰り道……か。確かに、必要ではあるかもだな」

 

 イシュタル・ランゴバルド教皇は、天之河光輝からの質問に『救世主の事は無碍にしない』的なふんわりした回答はしてるものの、決して確約をした訳では無いのだから必要かも知れないと永山重吾は考える。

 

 これが天之河光輝なら、『イシュタルさんを信じられないのか!』と、莫迦を言うのは火を見るより明らかな話だろう。

 

「判ったよ。それじゃあ、取り敢えず三人は別行動を取るんだな?」

 

「ああ、悪いな永山」

 

「構わんよ。それで少しでも帰る為の可能性が上がるんならな」

 

 本当に天之河光輝と違って話が出来る男だ。

 

 それだけで感動してしまえる程、天之河光輝はダメダメだったと云う。

 

 帰る為にはエヒトが邪魔だし、取り敢えず七大迷宮を踏破してみる事にしているユート。

 

「ああ、そうだ。近い内に地球へ情報を届ける心算なんだが、家族にメッセージを送りたい奴は居るか?」

 

『『『『は?』』』』

 

 全員がギョッと目を剥きながら声を上げる。

 

「肉体は無理でも意識だけは飛ばせる方法が確立出来てね、だから向こう側との情報交換をしようと」

 

「どどど、どうやって?」

 

 食い付いたのは優花。

 

「あ、優花。久し振り」

 

「う、うん。久し振り……じゃなくて! どうやって向こうと交信を?」

 

 それは全員が聞きたい。

 

「この姿が答えだよ」

 

「その半分こ怪人が?」

 

「仮面ライダーW。二人で一人の仮面ライダーでね、ドライバーに刺さっている二本のガイアメモリ、左側はボディメモリで僕が担当している」

 

『そして右側がソウルメモリでボクの担当なのさ』

 

「え? だ、誰?」

 

 仮面ライダーWなユートから聞こえたもう一人の声を聞き、思わず疑問を持った優花だったが先程の言葉から一応、推測をする事は出来ていた。

 

『ボクは緒方祐希。優斗の義妹(いもうと)でソウルメモリを担当する相棒役』

 

「仮面ライダーWはソウルメモリ側の意識を引き込むからね、今頃ユーキの肉体はジョゼットが動かしているんだろうな」

 

『まぁね』

 

「何か、一人二役な独り言に聞こえるんだけど……」

 

「だろうね」

 

『あはは、初めましてだね……君は……園部優花さんだよね?』

 

「え、うん。そうだけど」

 

『そっかそっか。園部優花さんかぁ』

 

 ユーキも彼女についてはそれなりに識っている。

 

「?」

 

 何に納得しているのかが判らない為、優花としては小首を傾げるしかない。

 

「仮面ライダーWに成れた……つまり、ソウルメモリとユーキの意識が此方側へリンク出来た。ならその逆も可能な訳だよ」

 

「そっか、ファングメモリだよね?」

 

「ハジメ、正解だ」

 

 声を上げたハジメに対してユートは頷く。

 

 ファングメモリは唯一、フィリップ側から翔太郎の意識を喚び出し、彼自身が戦う為のメモリだった。

 

 仮面ライダーWファング/ジョーカー。

 

 白い右半身と黒い左半身で構成されており、これがある意味で仮面ライダーWの中間強化形態。

 

(ユーキ、という事だから遠隔招喚で地球に喚ぶ)

 

(了解。身体は?)

 

(冥界に用意してあるよ。それを使ってくれ)

 

(判った)

 

(地球でやっている事業も引き続き行ってくれるか、トータスから何人か連れて行く可能性があるんでね)

 

(つまり、立場の強化とか資金稼ぎだよね?)

 

(そういう事)

 

 既にユートはある程度、この世界の知識はユーキから貰っている。

 

 オラオラッシュの際の、短い時間で知識の受け渡しをしているからだ。

 

 天之河光輝の相手など、その片手間で充分過ぎた。

 

 彼が弱いという訳ではないのは、既にステータス値だけならばメルド元団長の二倍を越えている事からも明らかだが、普通に戦えばまだメルド元団長が勝つ。

 

 高いステータス値でごり押しをするなら、三倍以上は必要となるだけの経験差が二人の間にはある。

 

 因みにだが、限界突破なる技能を使えば短期決戦に限り勝てるだろう。

 

 尤も、それは最早使えないが(笑)

 

(じゃあ、一応だけどね。ヒロインを教えとくから、連れ帰る以前に救うかどうかは任せるよ)

 

 列挙された名前。

 

 シア・ハウリア。

 

 ティオ・クラルス。

 

 ミュウ&レミア。

 

 但し、現時点で出逢っていないヒロインのみ。

 

(ミュウ&レミアって?)

 

(母娘だよ。ミュウが四歳の女の子で、レミアはその母親なんだけど未亡人)

 

(成程……)

 

(それぞれ、シアが兎人族でティオが竜人族、ミュウ&レミアが海人族だよ)

 

 見事に亜人族ばかりだ。

 

 ユートはエリキシル剤を坂上龍太郎に渡すと、今度こそ謁見の間を出て行く。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 変身の解除後、部屋に荷物を取りに行く雫とは別れて外に出た途端に現れたのは長い銀髪に碧の瞳を持つシスター。

 

「誰だ?」

 

「待っていましたよイレギュラー」

 

 シスター服を脱ぎ捨て、本来の姿に立ち返る。

 

 見た目にはワルキューレっぽいドレスアーマーに、服はヘソ出しで純白。

 

「イレギュラーだと?」

 

「我が名はリューン。我らが主たるエヒト様に逆らい足る者、抹殺します!」

 

「さっきイシュタル・ランゴバルドは誓約を交わしたばかりだが、どうやら命令系統が全く別みたいだな。エヒトを我らが主と呼ぶ、つまりエヒトの使徒か」

 

 ユートはすぐ結界を展開すると、右手を天高らかに上空へと掲げた。

 

 そんなユートの右手へ、高速にて飛翔する青い物体が納まる。

 

 いつの間にか腰に機械的なベルトが装着。

 

「変身っ!」

 

《HENSHIN》

 

 ベルトに合着させるは、青いクワガタの姿の機器。

 

 ベルト部を中心に姿が変わっていき、マスクドフォームの仮面ライダーガタックに変身。

 

 赤い複眼に銀と青を基調としたアーマー、両肩にはガタックバルカンが装着されており、明らかに他より高い戦闘力を与えられているのが判る。

 

「先程とは違う姿?」

 

「仮面ライダーガタック、俺は俺にしかなれない……でもこれが俺なんだ!」

 

「意味不明ですね」

 

「喧しいわ!」

 

 決め台詞は適切な場所や場面で使わないと無意味、そういう意味でガタックのこれは確かに意味不明。

 

 ユートは両肩のバルカンをリューンとやらに向け、毎分五〇〇〇発と云われるイオンビーム光弾を放つ。

 

「チィッ!」

 

 それを弾く辺り、エヒトの使徒リューンとやらは、そこら辺の仮面ライダーな怪人と同じかそれ以上。

 

 ユートは、ガタックゼクターのゼクターホーンを開いて動かす。

 

「キャストオフ!」

 

《CAST OFF!》

 

 上半身を包むマスクドアーマーが開き、パージする事で下からライダーフォームが現れた。

 

《CHANGE STAG BEETLE!》

 

 ガタックホーンが頭へと合着し、クワガタ虫の角と同じ形に変化する。

 

 仮面ライダーガタックのライダーフォームだ。

 

 ガタックバルカンの代わりに肩へ装着されたガタックカリバーを抜き放って、空を悠々と飛んでいる使徒リューンに自らも飛翔して追い縋る。

 

「なっ!? まさか、飛べるのですか!」

 

「仮面ライダーガタックは飛べない。だが、僕自身は飛ぶスキルが有るんだ!」

 

「くっ!?」

 

 舞い踊る動きでガタックカリバーを振るうユート、その姿は様になっていた。

 

 そもそも、ガタックを選んだ理由がこれだ。

 

 ユートは都合、三つもの【緒方逸真流】を修得しており、その一つがつまりは【緒方逸真流八雲派双刀術】という分家の一つ八雲家に伝わる舞戯である。

 

 ガタックカリバーはこの舞戯を扱うに、丁度良い長さと二刀流が可能な数。

 

(ステータス的には大体、六〇〇〇〜八〇〇〇くらいって処か? はっ、つまり勇者(笑)じゃ逆立ちをしても敵わない神の使徒が居るって訳かよ。しかも数的に台所のGの如く)

 

 天之河光輝のステータスは知らないが、戦ってみた大体の感覚でオール七五〇といった処。

 

 限界突破で二二五〇程度であり、とても敵うとは思えない差があった。

 

(だけど残念、ガタックのスペックに僕自身の能力が加われば、一万にも満たない能力では勝てんよ)

 

 斬っ! 斬っ!

 

「ぐはっ!?」

 

「終わりだ」

 

《ONE TWO THREE》

 

 ガタックゼクターのスイッチを三回押す。

 

「ライダーキック!」

 

 ガタックホーンを元々の位置に戻し、すぐにホーンを再び開いて倒す。

 

《RIDER KICK!》

 

 波動変換をしたタキオン粒子により、威力を高めた蹴りを御見舞いしてやる。

 

「キャァァァァッ!」

 

 本来なら原子崩壊を起こして爆発するのだろうが、わざわざ非殺傷設定で斃したから死にはしない。

 

 吹き飛んで身体は動かせないけど、確かにリューンはまだ生存している様だ。

 

「うぐっ、こんな莫迦な」

 

「神の使徒、こんなもんだとしたら大した事も無い」

 

「余りいい気にならない事ですね、私も所詮は使徒の中で失敗作に過ぎません。感情が表に出過ぎ力も低いが故に、こうして監視任務に就くのが精一杯。本当の使徒はもっと強い……」

 

「それは愉しみな事だが、今はお前で愉しもう」

 

「な、なにぃ?」

 

 その意味が計りかねないのか、リューンは動けない身体を横たえた侭。

 

 ガタックゼクターが離れて変身が解除され、ユートはリューンの鎧兜や服に手を掛ける。

 

「な、何を!?」

 

「何ってナニだな」

 

 服を剥ぎ取られて漸く、リューンにもナニをヤりたいのか理解する。

 

「よ、よしなさい! 私は神の使徒リューンですよ! 貴方が如き人間が……」

 

 戦いの後、敗けた女兵士は悲惨な事になるのが謂わば御約束。

 

 リューンも御多分に漏れなかったに過ぎない。

 

 その後、ユートは彼女をワイルドベスタに封印し、プライムベスタ――ハートスートの【CHANGE】Aとして創り変えた。

 

「これで香織のライダーも決まったな」

 

 ブレイド系オリジナルの仮面ライダーリューン。

 

 試作したジョーカーラウザーのコピー品、ジョーカードライバーで使うカードの最初の一枚が完成した。

 

「取り敢えず変身だけなら出来る様になったな」

 

 ピラピラとプライムベスタを指に摘まみ、動かしながらその絵柄を見遣る。

 

 其処にはワルキューレを思わせる女性、そんな意匠で絵が描かれていた。

 

 

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第19話:今この時こそ魂を燃やす時だ!

 漸くここまで来ました。





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「諸君、兄貴の【閃姫】並びに候補者諸君! 今この時こそ、魂を燃やす時だ」

 

 ユーキの呼び掛けに反応したのは、既に【閃姫】だったり将来はそうなりたい候補者達である。

 

「皆、兄貴の許へ行きたいかぁぁぁぁあっ!」

 

『『『『応っ!』』』』

 

 ノリノリでやってしまうユーキに、集まった【閃姫】と候補者が悪ノリした。

 

「さて、兄貴の許へ行けるのは直に招喚されるボク、そして序でに三人分の空きが有るから、残り三人を決めたいと思う!」

 

 やんやんやと騒ぐ辺り、ノリが良い連中である。

 

「という訳で、大じゃんけん大会だ!」

 

 揉めるのは理解しているユーキは、初めから話し合いなんて投げ捨てていた。

 

 そして始まるじゃんけん大会、勝利した三人が壇上へと上がる。

 

「ヴィクトリー!」

 

 紅と翠の虹彩異色で長いブロンド、ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトが左腕を高らかに挙げてピースサイン。

 

「勝利のVです」

 

 少し恥ずかしそうな表情なのは、長い碧銀の髪の毛をポニーテールに結わい付けた、左には青と右に紫の虹彩異色を持ちたる覇王っ子……アインハルト・ストラトス。

 

「勝ちました」

 

 黒髪を三つ編みお下げにした眼鏡っ娘、暁美ほむらが小さく手を挙げる。

 

「まぁ、行ってもすぐには会えないけどね」

 

「ユーキ姉ちゃん、どういう事ですか?」

 

「遠隔招喚。兄貴は異世界トータスに居るんだけど、ボクらが行くのは彼方側の地球だからね」

 

「成程、理解しました」

 

 頷くアインハルト。

 

「ほむほむはビヨンドライバーを持ってってね」

 

「ほむらです。取り敢えずは判りました」

 

 暁美ほむらはカイザギアとビヨンドライバー、それに纏わるミライドウォッチを持っている。

 

 仮面ライダーカイザであると同時に、仮面ライダーホムラでもあった。

 

 役処はウォズながらも、彼らは通り名が仮面ライダーの名前であり、ほむらもそれに倣って仮面ライダーウォズではなくホムラと、そう名乗っている。

 

 因みに、仮面ライダーゲイツの役割を果たしているのがシュテル、仮面ライダーシュテルとなっていた。

 

 では、ツクヨミは?

 

 答え、現状は居ません。

 

 ユーキはビルドかカリスに成るし、ツクヨミ成分は特に不要との事。

 

「そういや、ジョーカードライバーを送ってくれって言われてたなぁ」

 

 ジョーカードライバーというのは、仮面ライダー剣のジョーカーが腰に着けているジョーカーラウザー、それをドライバーとして造った物だ。

 

 ユーキが。

 

 カリスラウザーとの違いは色、ハート型のバックルが赤ではなく緑色。

 

 腰に据えるとベルト部が左から伸びて右側に合着、待機音がその時点から鳴り響くので、【CHANGE】Aのラウズカードを真ん中に有るスリットにスラッシュ、ラウズすると変身をする。

 

 要するにカリスラウザーとやる事は同じ、違いがあるとすればブレイバックルやギャレンバックルみたいにバックルとして、腰へと装着をする処だろうか。

 

「それじゃ、行っくよ〜! 魔法陣展開……遠隔招喚開始!」

 

「ああ、そうです。トリニティが可能かどうか実験をお願いしますね」

 

「ちょ、シュテル! 今更いうかな!? もう!」

 

 シュテルからの要望は、叶える方向性で往くと返事はしておいた。

 

 トリニティ。

 

 仮面ライダージオウ・トリニティと同じく、つまり仮面ライダーシンオウ・トリニティへの強化変身だ。

 

 ビヨンドライバーの持ち主たるほむらに、仮面ライダーゲイツ枠なシュテル、そして仮面ライダージオウ枠のユートがトリニティ用ライドウォッチを使えば、この形態に変身が可能。

 

 こうしてミッドチルダから四人が居なくなる。

 

 ユートが戻るまで四人も戻らないが、聖域や【OGATA】に関しては基本的に独立稼働しているから、トップとはいえユートが居なくても回るのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「尾行を御苦労様だよな、優花」

 

「気付いてたんだ」

 

 エヒトの使徒リューンとの闘いが終了、結界を解除したら優花の気配を感知したから誘導した。

 

「改めて久し振り」

 

「うん……」

 

 何だか気も漫ろにユートを視たり、視線を彷徨わせたり忙しくしていた。

 

「話があるんじゃないか? 無いならさっさと戻りたいんだが」

 

「まっ! 待ってよ……」

 

 ユートの服を掴みながら俯く優花は、何だか可成り気弱に感じてしまう。

 

「その、雫と……付き合ってるの?」

 

「んにゃ?」

 

「だ、だって……その……し、シたみたいな事を……言ってたし」

 

「セ○クスを?」

 

「ブッ! く、口に出して言うなぁぁぁぁっ!」

 

 余程、恥ずかしかったのか真っ赤になり怒鳴る。

 

「シたかどうかならシた」

 

「っ! そっか……」

 

 逃げる様に踵を返そうとする優花だが、そうはさせじと廻り込んだ。

 

「いっ!?」

 

 捕まり押し倒されてしまった優花は、更に顔を紅く染めていたが瞳が潤んでいるのはさっきの答え故か。

 

「キスしたい」

 

「は? 雫を抱いたって言った舌の根も乾かない内に何言ってんのよ!」

 

「久し振りにキスしたい」

 

「ふ、巫山戯ないでよ!」

 

「巫山戯てないよ」

 

「じゃ、じゃあ雫はどうする訳?」

 

「問題は無い。僕は優花も雫も同時に相手をする」

 

「さ、最低……」

 

「うん、最低だよね」

 

「わ、判っていてどういう心算よ?」

 

 不機嫌度MAXというかハザードオンというか……ヤベェ的なナニかが優花の瞳に宿っていた。。

 

「僕は女の子に対して決して誠実とは言えない」

 

「……そうね」

 

「だからこそ、余計な嘘は吐かない」

 

「……」

 

 ジッとユートの目を見つめている、それは本当なのか判断が出来ないから。

 

「優花には僕が何歳くらいに見えてる?」

 

「え、と言われてもね……私と同じじゃないの?」

 

 つまりは一七歳。

 

「実は数千歳とか言ったら信じる?」

 

「優斗が嘘を吐かないと云うのが本当なら、数千歳と言われて納得するわよ」

 

「やっぱり信じられない……かな? この世界では、初めて話すんだけどね」

 

「……聞きたい。キス……して良いから聞かせ……て……んっ!」

 

 ソッコーで唇を奪う。

 

「もう、キスが好きなの? そういえば武器を貰った時もあんなキス……」

 

 頬にする心算が目を閉じていたから間違えて唇に、恥ずかしくてあわあわしていた優花に、ユートは自ら唇を重ねた挙げ句に舌まで入れるディープなのをやらかしていた。

 

 優花もユートを嫌っていない処か、好意を持っているからキスに拒絶反応を見せてはいない。

 

 それにユートの話を聞いてみたかった。

 

 特にまだ誰にも、雫にも香織にも話してはいないらしいそれを。

 

 ユートは話した。

 

 キスをしながら転生者の事や次元放浪の事、そして自分が持つネオディケイドライバーの事実など。

 

 ユート自身は識らなかったが、不倶戴天の敵といえるニャル子がヒロインだとか云う【這いよれニャル子さん!】なる作品の最終巻にて、幾多の這い寄る混沌が説明されていた。

 

『終わりなき旅の途中の、すべてを破壊しすべてを繋ぐニャルラトホテプがいた』……と。

 

 挿絵も影で隠されてはいたが、明らかにアウトコース真っ只中の姿で描かれていたと云う。

 

 それ故にユートの内側に在る這い寄る混沌の力が、ネオディケイドライバーという形を執ったのだろう。

 

 ディケイドライバーではなく『ネオ』なのが肝。

 

 しかもオリジナルよりも便利になっていた。

 

 各ライダーに変身をしなくても、アタックライドを発動出来たりするから。

 

「転生者って、何処の世界のラノベよ?」

 

 流石に呆れる優花へと、ユートはキスをする。

 

「って、胸元にキスマークとか付けちゃ駄目よ!」

 

「嘘は吐かんよ。何なら、ネオディケイドライバーで変身して見せようか?」

 

「うぇ?」

 

 ユートはネオディケイドライバーを顕現させると、左腰に佩かれたライドブッカーを開いてカード一枚を取り出す。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 マゼンタカラーで左右非対称のアーマー、緑の複眼を持つ悪魔とか呼ばれている仮面ライダーディケイドに姿を変えた。

 

「仮面ライダーWの時にも思ったけど、本当に変身が出来るのね」

 

「まぁね」

 

 変身の解除に伴って肩を竦めるユート。

 

 というより、普通に優花が仮面ライダーとか言っているのが吃驚である。

 

「仮面ライダーに詳しかったりするのか?」

 

「詳しくはないわ。単純に優斗が好きそうだったから調べただけよ」

 

 プイッと真っ赤な顔を、ユートから逸らした。

 

「うわ、何? この可愛らしい生物……」

 

「か、かわっ!?」

 

 再び唇を奪われた。

 

「んんっ! ん? うぐぅぅぅっ!」

 

 ユートの腰に硬いナニかが有るのに気付いた為か、キスの抗議より此方の抗議をしたい処だ。

 

「仕方がないだろ? こんなに可愛い優花にのし掛かってるんだ。しかもキスをして接触過多だから硬くもなるだろう」

 

「ば、ばか! 早くどきなさいよ!」

 

 興味無さそうに言うが、アレが雫を貫いたのだと思うと意識をしてしまうし、一人の女の子としては興味津々なのは仕方がない。

 

 まぁ、ユートとしてみれば手折るのはまだ先と考えているし、今すぐどうこうしたい訳ではなかった。

 

 問題は某・勇者(笑)辺りが雫や香織を喪ったから、自棄を起こしてレ○プに走ったら拙い点だったが……

 

(何とかなるかねぇ)

 

 今の勇者(笑)なら優花でも対処は可能な筈。

 

 優花に関してはゆっくりと心行くまで愉しみたい、だから焦らずちょっとずつ心に侵食して逝く心算だ。

 

 だから今はキスまで。

 

 もう少ししたらタッチもしていきたかった。

 

 ユートがあっさりどいたのを訝しい表情で視る。

 

「……しないんだ?」

 

「嫌がられてまでヤる気は無いよ。強姦は好かないんでね……敵対者以外は」

 

 最後にボソリと言ったのは聞こえなかったらしい。

 

「そう、雫や香織……それに愛ちゃん先生とはヤったんじゃないの?」

 

「命を護る対価としてね」

 

 恋愛感情とか互いに無かったのだ、ヤるまでは間違いなく……だが。

 

 今現在の雫はユートへと恋愛感情を持っているし、どうも愛子先生も怪しかったりする。

 

 香織もプラスかマイナスかと訊かれればプラス。

 

 割かし無理矢理なえっちだったが、乙女心とは斯くも複雑なものらしい。

 

「それとも、優花も迷宮で死にそうな目に遭って僕に肢体を差し出す?」

 

「……やめとくわ。流石に死にたくはないもの」

 

「懸命だ」

 

「ん……」

 

 またキスをした。

 

 英語で云うならディープなキスで、舌を絡め合って唾液が混ざり合う互いを求める口付けである。

 

 水音を響かせながら何度も離れてはくっ付きを繰り返して、我慢の限界がくるまで堪能し尽くした。

 

 キスから数分後だろう、漸く本当に離れたユートと名残惜しそうな優花。

 

「それじゃ、僕は行くよ」

 

「うん」

 

「いずれまた、運命の交叉路が交わる時に会おう」

 

「何よ、それ」

 

 苦笑いしながら別れ。

 

 ユートは次の行き先へと向かい、優花は手を小さく振って別れを惜しんだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 王宮に設えられた幾つかの部屋、その一つに男女の影が寄り添っている。

 

 南雲ハジメと中村恵里、恋人として付き合い始めたばかりの、初々しさ全開なカップルだった。

 

 何度か既に身体を重ねている二人だが、流石に今宵はそんな理由でこの場に居る訳ではない。

 

「漸く来たんだね」

 

「ああ、謁見の間でも会ってはいるけど久し振りだなハジメ。中村も」

 

「久し振り、優斗」

 

「久し振りだね、緒方君」

 

 地球でも友人として付き合いがあり、共に南雲 愁や南雲 菫の下でアルバイトをする仲間、そして謂わばハジメとはオタク仲間でもあった。

 

 ハジメの両親、南雲 愁はゲーム会社の社長で南雲 菫は人気少女漫画作家、ユートもプログラミングは出来るし、別の世界で漫画や小説を書いた経験を持つから、即戦力としてどちらからも重宝されたものだ。

 

 因みに、漫画や小説を書いた経験がある世界とは、【エロマンガ先生】の世界である。

 

 一応、ハルケギニアでも出版社を創設して出してはいたが……

 

「話は聞いているハジメ、仮面ライダーG3が完成したみたいだな」

 

「約束通りと言えるか微妙ではあるけどね」

 

 仮面ライダーG3とは、パワードスーツを“装着”するタイプで、パワーアシストが付いた鎧を着込み、現代兵器で戦うのである。

 

 当然ながらパワードスーツの部分は機械が詰め込まれており、ハジメが造った物が単なるフルプレートな鎧と変わらない物とは色々と違いがあった。

 

「流石にあれを完全再現とか求めてないさ」

 

「う、うん」

 

 早速、仮面ライダーG3を装着したハジメを見て、ユートは至極満足そうに頷いている。

 

「良い出来だ。ハジメならやれると思っていたけど、想像以上に悪くないな」

 

 誉められて照れるハジメだが、悪い気はしなかったから頭を掻いていた。

 

「これなら御褒美に相応しいだろうね」

 

 そう言いながらカードを一枚渡してやる。

 

「これ、インストール・カードだよね? 【生成魔法】って?」

 

「オルクス大迷宮で手に入れた神代魔法の一つだ」

 

「「なっ!?」」

 

 ユートから得た答えに、ハジメも恵里も驚愕をしてしまうのも無理は無い。

 

 知識の上でならハジメも神代魔法を知っているが、生成魔法は初めて取得成功なモノに当たる。

 

「コイツが有ればより速く精密に、魔法の付与も自由自在にやれる筈さ」

 

「正に錬成師の為の魔法、これなら色々とイケる気がするよ、優斗!」

 

「七大迷宮とはどうやら、反逆者の烙印を押されてしまった解放者が造った迷宮らしく、表層の迷宮と別に真の大迷宮が存在してて、クリアをすると神代魔法が手に入る仕組みらしいね」

 

「す、凄いなそれ」

 

 ハジメも恵里も驚愕を禁じ得ない。

 

「さ、問題はハジメの能力が弱い事だが……」

 

「それは?」

 

 丸薬を取り出すユートに嫌な予感がする。

 

「これは魔物の血肉から、力の成分となる部分を分解抽出、再構成して造り出した錬金術のアイテムでね。食べたら苦しむけど能力が大幅に上がる。トータスの人間からすれば夢の道具。食べる食べないはハジメが決めろ。それと中村」

 

「え、はい?」

 

 水を向けられ肩を震わせてしまう。

 

「君にもだ」

 

「ボ、ボク?」

 

「場合によっては中村が、ハジメのアキレス腱になりかねない。弱い侭では蹂躙され搾取るだけでしかないんだ、ならば強くならないといけないだろう?」

 

 ソコまで言うと恵里が、ヒョイッと丸薬を手にした途端、口にい入れてしまってハジメが大慌て。

 

「え、恵里!?」

 

「ボクは、ハジメ君の足手纏いは嫌だ!」

 

 ドクン!

 

「ぐっ!?」

 

「ああ、吐いて! 魔物の肉は毒物と同じなんだ! 内側から壊れて壊れて死んでしまう!」

 

「そんな失敗作を食わせる訳が無いだろうに」

 

 一応、シミュレータ上で安全は確保してある。

 

「嗚呼っ!?」

 

 中村恵里の内側から壊れて治り壊れて治る、小さな規模ながら繰り返されていく破壊と再生の円舞曲。

 

 それはまるでエンドレスワルツの如く繰り返され、中村恵里という女の子を正に根本から変えていった。

 

 背丈が僅かながら伸び、胸が増量されたのに合わせて腰に括れが、お尻も少しおおきくなっている。

 

 顔立ちも未だに幼さを残しながら、整い方が綺麗な方面にシフトして童顔でありつつ色気を醸し出す。

 

 解り易く云えば中村恵里の顔で、ユエみたいな妖艶な幼女的な色気を得た。

 

 ハジメはそんな恵里を見て分身が力強く勃起する。

 

 今ならちょっと街に出たらナンパが寄り付く筈。

 

「ボ、ボクは……?」

 

 此処に『綺麗な中村恵里〈真〉』が爆現した。

 

 その後、ハジメも丸薬を飲んだと云う。

 

 同じ過程を踏んで身長が伸び、胸板が厚くなった上にシックスパックな腹筋。

 

 目付きが多少なり鋭さを持ち、何処か色気が出ているのは愛嬌だろうか?

 

 尚、見えていない部分で分身が肥大化していた為、勃起時に約一五cmだった分身は、今や二〇cmにもなっている。

 

 ユートの三〇cm越えよりマシだし、既に『痛い』を経験した恵里なら受け容れるのも可能であろう。

 

「くっ、確かに死なないみたいだけど……滅茶苦茶、痛いよ?」

 

「それでステータスが上がって技能が増える。良かったじゃないか? 大迷宮で魔物にかぶり付くよりマシだと思うけどな」

 

「そりゃ、そうだけどさ」

 

 

南雲ハジメ 

17歳 男

レベル:???

天職:錬成師

筋力:4300

体力:3200

耐性:3700

敏捷:5000

魔力:6100

魔耐:6020

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成] 魔力操作 胃酸強化 雷撃 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光] 風爪 夜目 遠見 気配感知 魔力感知 熱源感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 恐慌耐性 傀儡耐性 魅了耐性 全属性耐性 先読 金剛 豪腕 威圧 念話 追跡 高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 限界突破 能力之扉 ??? 生成魔法 言語理解

 

 

中村恵里 

17歳 女

レベル:???

天職:降霊術師

筋力:2300

体力:1500

耐性:3000

敏捷:2020

魔力:4800

魔耐:5080

技能:降霊術 魔力操作 胃酸強化 天歩[+空力][+縮地] 風爪 夜目 遠見 気配感知 魔力感知 熱源感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 恐慌耐性 傀儡耐性 魅了耐性 全属性耐性 先読 金剛 豪腕 威圧 念話 追跡 高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力]  言語理解

 

 

 ハジメに比べて多少なり低いが、少なくとも恵里が勇者(笑)に敗ける事は無くなっている。

 

 因みに、現在の勇者(笑)のステータス……

 

 

天之河光輝 

17歳 男

レベル:1

天職:勇者

筋力:10

体力:5

耐性:5

敏捷:10

魔力:0

魔耐:5

技能:言語理解

 

 

 レベルドレインにより、レベルとステータスの値が軒並み減り、技能もユートの【模倣の極致(コピー&スティール)】で簒奪済みだから言語理解しか保持していない。

 

 天之河光輝は正真正銘の勇者(笑)と成ったのだ。

 

 

 鍛え直せばステータス値は普通に増えるが、技能が戻る事など最早有り得ないから使えない存在である。

 

 ユートからしたらユーキからの情報も加味した上、天之河光輝から技能を簒奪して+レベルドレインをしてやった。

 

 何故だか裏切ってエヒト側に付くらしいのだけど、そのファクターが実は敵側に居ない事に、ユーキが気付いていなかったりする。

 

 まぁ、邪魔にしかならない勇者(笑)なだけに排除も間違いではあるまい。

 

「そうだ、遅れたが言わせて貰う。おめでとう」

 

「えっと、ありがとう?」

 

「ほら、恋人が出来た事への言祝ぎだよ」

 

「あ、ああ!」

 

「それとも祝え! の方が良かったか?」

 

「……へ? 何それ?」

 

「ああ、この世界ではまだ未放映だもんなぁ」

 

 ユートの世界ではほむらがこの役割だ。

 

 尚、ユートも放映自体はまだ観ていない知識のみ、それは仮面ライダー01も同じ事だ。

 

「そういえば、中村の装備はハジメが造ったのか?」

 

「うん、一応だけどね」

 

「恋人の装備は自分がって拘りはあるか?」

 

「恵里の安全の為だから、無いには無いよ。出来たら自分でやりたいけどね」

 

「なら、今は甘えとけ」

 

 ユートは闇色のローブを取り出して言う。

 

「これは?」

 

 恵里は畳まれていたそれを広げ、単なるローブではなさそうなそれを見ながら質問をした。

 

VSS(ヴァーサス)

 

「ヴァーサス?」

 

「Variable Support Systemの通称だよ」

 

「ヴァリアブル・サポート・システム……」

 

「昔、とある女の子から造り方を学んだんだけどね。僕は基本的に使わないから仕舞った侭、忘れていた物を可成り久方振りに出したって訳だ。それからTT、Trick Toolだ」

 

「トリック・ツール……」

 

「術師の中村なら杖型が良いだろう」

 

「あ、ありがとう」

 

「因みに銘はVSSの方が【(あんく)】でTTの方は【尖架(せんか)】。どちらも取説を渡しておくよ」

 

「う、うん」

 

 渡された取扱い説明書、然しながら別の何かも一緒に渡される。

 

 ハジメから隠す様に渡された辺り、内緒にしておけという意味だと理解した。

 

 紫色で小さな長方形をしており、真ん中にコブラの意匠が金色でマーキングをされていて、カードが入っているデッキに見える。

 

「ソイツは保険だ」

 

「保険?」

 

「万が一、ハジメに与えた力が暴発したら止めてやってくれ。その為の力だし、仕事の対価でもある」

 

「わ、判ったよ」

 

 使い方は当然ながら使えば理解が出来るし、わざわざ教える必要性は無い。

 

「どうしたのさ?」

 

「いや、(あんく)の丈は大丈夫かと思ってね」

 

 嘘ではない。

 

 まぁ、ほぼ自動的に丈は調整されるけど。

 

 ハジメが声を掛けてきたのは独占欲か? ちょっと恵里に近付き過ぎた。

 

「ハジメは生成魔法を練習して早い処、G3ーX完成を目指してくれ」

 

「うん、判っているさ」

 

「G3はマイルドに仕立て直して、中村に使わせてやれば無駄にもならない」

 

「そうだね」

 

「それから、アザンチウムとシュタル鉱石なども渡しておくから利用してくれ」

 

「ア、アザンチウム!」

 

 トータスで一番硬いとされる鉱石で、単純にコーティングをしただけでも凄まじい効果を生み出す程。

 

 オルクス大迷宮に於けるオスカー・オルクスの館、その封印されていた工房に眠っていた鉱石、ユートは既に視たから暗黒物質を織り込んで創れるし、ハジメに譲っても問題は無い。

 

 神鍛鋼(オリハルコン)神金剛(アダマース)など、強力な神秘金属は時間も掛かってしまうが、アザンチウムは硬いだけの通常金属だから量産も利く。

 

「それから僕が行く前に、君らには教えておこう」

 

「「?」」

 

「この世界の神エヒト……その真実をね」

 

 

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 次で第一章は終了です。




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第20話:日本で話を通しましょう

 何か足りない情報があったら一報下さいな。





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「さてと、始めますかね」

 

 小さな機器を押すと……ピンポーンと電子音が鳴り響いて屋内に報せる。

 

〔はい? どちら様でしょうか?〕

 

 それは男性の声。

 

「南雲 愁さんの御宅で間違いありませんか?」

 

〔は? 愁は私ですが〕

 

 飽く迄も余所行きの喋りで自分こそ、南雲 愁である事を伝えてきた。

 

「ボクの名前は緒方祐希。貴方の会社でアルバイトをしてた緒方優斗の義妹で、大事な御話しがあって参りました」

 

〔優斗君の!?〕

 

 バタバタとする音と共に出てきた大人の男女。

 

「君が優斗君の妹さん?」

 

「正確には義妹、血の繋がりは有りませんよ」

 

 ユーキは小さく微笑みながら訂正をした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユーキは家に上げて貰った上で、紅茶にケーキまで御馳走になりつつ用件を話す事になる。

 

「先ず、行方不明事件に於ける被害者である兄貴……緒方優斗との連絡が出来ました。これにより」

 

「本当かい!?」

 

「本当に優斗君と?」

 

 被せる様にユーキに詰め寄る二人、愁と菫の剣幕に引き気味になった。

 

「は、はい。とはいっても帰るとかそういうのはまだ無理なんですが……」

 

「ど、どうしてだい?」

 

「正直、被害者の家族を集めて纏めて話した方が良いと思います」

 

「……む、確かにな」

 

 ユート達のクラス全員、それに社会科担当の教師も加えて約三〇人余、被害者の家族は単純に両親だけでも二倍になる。

 

 まぁ、恵里みたいな両親の居ない者も居るが……

 

 南雲 愁が被害者の家族と立ち上げた【家族会】、既に二ヶ月が経っているにも拘わらず、何ら手掛かりの一つも見付からない。

 

 だけど南雲 愁も南雲 菫も諦めてないし、【家族会】と連携を取って少しでも情報を得たかった。

 

 そんな時に手掛かりらしきがやって来たのだ。

 

 だが、それはそれとして気になる事が一つ。

 

 ケーキを食べるユーキをジッと見つめる二人。

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、いや……」

 

「貴女の容姿が……その、ねぇ?」

 

 ユーキは特におかしな姿をしている心算は無いし、髪型はいつも通りにポニーテール、伊達眼鏡はちょっとした科学者的ファッションで掛けている。

 

 青い髪の毛は日本人としては珍しいが、アニメ的な世界にはよくある色だ。

 

 寧ろ、青や紫はアニメ的な表現に過ぎず、飽く迄も黒髪とする場合もある程。

 

「何と云うか……」

 

「その……ね」

 

 言い淀みながらも二人は頷き合い、意を決した様に口を開いた。

 

「「何故にタバサ?」」

 

 何処のフュージョン乃至ポタラ合体か、ジョグレス進化かと云わんばかりの揃った科白に納得する。

 

「タバサ姉さんじゃなく、妹のジョゼットなんだけど……ねぇ」

 

「「はい?」」

 

 やっぱり科白が揃った。

 

「え、つまり君は【ゼロの使い魔】の世界でジョゼットに憑依転生したと?」

 

「そうだよ。橋本祐希だったボクは自分で言うのって烏滸がMAXだろうけど、それなりの科学者な発明家だったんだ。それで造った物の実験で死んじゃった。所謂、神様転生ってやつでボクは(高町はるな)に頼んでジョゼットに憑依転生したって訳さ」

 

「転生!」

 

「しかも憑依?」

 

 緊急性が無いと判ったかからか、二人はオタク魂を奮わせて存分に発揮しているらしい。

 

「だけど優斗君の義妹というのは?」

 

「兄貴も同じく転生者さ。ハルケギニアで出逢ってからずっと……ボクは兄貴と比翼の鳥で連理の枝みたいな間柄でねぇ」

 

「何と……」

 

「勿論、魔法も使えるよ。兄貴もボクも……ねぇ」

 

 実際に魔法を見せたら、二人は凄く驚きながら受け容れてしまう。

 

 二人には希望が出来た。

 

 魔法を使える存在が実際に居て、しかもハジメ達の生存も確認が取れたから。

 

「だけど、どうして帰って来ないんだい?」

 

 それが不思議だ。

 

 そもそも、虚無の担い手たるジョゼットである上、予備云々に関係無く虚無を扱えるユーキであるなら、【世界扉(ワールド・ドア)】の魔法も使える訳だし、上手くすれば帰れるのではないか? と愁は考えたのである。

 

「座標が判らないというのもあるけど、一番の癌になっているのがエヒトルジュエ……あの“世界”を司るとか不遜を宣う偽神」

 

「せ、世界をって、まさかハジメ達は!」

 

「勇者(笑)召喚で巻き込まれて、異世界トータスへと拉致されたんだよ」

 

「なっ!?」

 

「勇者召喚ですって?」

 

 驚愕する愁と菫。

 

「偽神というのは?」

 

「彼奴は元人間。だけど、神化した訳じゃないんだ。実際に彼奴は神力なんて扱えないからねぇ」

 

「どうして召喚なんて?」

 

「愉しむ為に。愉悦の為に新しい風を呼び込むべく、自分が異世界の存在であるが故に識る異世界の知識、それを基に勇者(笑)を召喚したのさ」

 

「た、愉しむ為に?」

 

「そう、異世界トータスはエヒトルジュエの遊技場。人々は盤上の駒に過ぎないという訳だよ。だけどそれにも飽いたのか、こうして地球から人間を拉致ってきて新しい駒に据えたんだ。勇者(笑)の一行としてね」

 

「そ、そんな……ハジメ、あの子も?」

 

 絶望的な表情で訊ねてくる菫に頷く。

 

「兎に角、なるべく全員に都合の良い日……日曜日が良いかな? 何処か広そうな場所で情報を開示したいんだけど……」

 

「判った。それなら来週、ウチの会社の会議室で」

 

 話はトントン拍子に進んでいく事に。

 

「そう言えば、祐希ちゃんは何処で寝泊まりを?」

 

「兄貴の施設にはボクは、基本的にノーチェックで入れるからねぇ。其処で寝泊まりするさ」

 

 そもそも、其処には既にヴィヴィオ達も寝泊まりの準備をしていた。

 

「此処に泊まりなさい」

 

「はい? けど、ボクにも仲間が居るから……」

 

「連れてきなさい。な〜に大丈夫、家はそれなりに広いからね」

 

「まぁ、確かに広いかな」

 

 一般家庭としては充分、ゲーム会社の社長だったり人気少女漫画家だったり、それなりに稼ぎは良いから家も数人が余分に寝泊まりするくらいは許容範囲。

 

「ふぅ、御願いします」

 

 二人は微笑みながら静かに頷いた。

 

 そして呼ばれてやって来たユーキの“仲間”に驚愕する事になる。

 

「ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトです」

 

「ハイディ・E・S・イングヴァルトです」

 

「暁美ほむらです」

 

 ガックンと顎が外れるくらいに口を開き……

 

「「何でやねん!?」」

 

 ツッコミを入れた。

 

 ゼーゲブレヒトの意味する処とか、ほむほむが三つ編み御下げの眼鏡っ娘と、ユートがいったいどういう介入をしたのか、オタク魂を大いに刺激された様だ。

 

 日曜日の会議室。

 

 それなりに広いながら、やはり一杯一杯になる。

 

 八重樫虎一に八重樫霧乃だったり、白崎智一に白崎薫子だったりと雫と香織の両親が居た。

 

 ちょっと歳が高めなのは畑山昭子、畑山愛子の母親なのは名前から御察し。

 

 父親や祖父母は来れなかったらしい。

 

 天之河美耶……元々だとヤンキー達の女帝にして、現在では有名ファッション雑誌の編集長を務めている天之河光輝の母親も居た。

 

 園部博之と園部優理も、日曜日はレストランなんて開けて然るべきだろうに、優花の両親が揃っている。

 

 遠藤英和と遠藤実里……遠藤浩介の両親、二人は実に二男一女を世に産み出したながら、何故か一男一女と思われがちである。

 

 因みに、一九歳で大学生の遠藤宗介と小学六年生の遠藤真実という兄と妹が、決して仲は悪くないのだろうけど、世間様からはこの二人が遠藤家の子供と思われている訳だ。

 

 遠藤浩介と偶に遊ぶから二人はユートと知り合い、遠藤真実も兄の浩介よりも頼れる兄みたいに見てて、彼は少し凹んだ事も。

 

 勿論、他にも檜山家とか近藤家とか永山家などと、ユートのクラスメイト達の親は基本的に来ている。

 

 だけどやはり中村家からは誰も来ていない。

 

 中村恵里の父親は死亡、母親は失踪しているから。

 

 そんなざわめきの中に、一際異彩を放っているのがユーキ、ヴィヴィオ、アインハルト、ほむらの四人。

 

 ユーキは身長一五〇cmも無くて、ミニマムな青髪という日本人の名前で呼ばれるにはおかしい容姿。

 

 ヴィヴィオとアインハルトは明らかに外国人だし、虹彩異色だから地味ながら目立っていた。

 

 一番、名前も見た目にも合致する暁美ほむらだが、纏う雰囲気がやはり普通とは云えない。

 

 ユーキに近い雰囲気で、それはやはり数百年を生きた魔女だからだろうか?

 

「皆さん、初めまして……今回の【家族会】の召集を呼び掛けた緒方祐希です」

 

「ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトです」

 

「ハイディ・E・S・イングヴァルトと申します」

 

「暁美ほむらです」

 

 自己紹介をされたけど、いまいち要領を得ない。

 

「此方の三人は付き添い、余り気にしないで下さい。ボクは【家族会】に出席をする事情があります」

 

「事情とは? それに今回の召集は南雲君の筈だ」

 

 白崎智一が言う。

 

「南雲 愁さんには召集を手伝って頂きましたけど、実際の呼び掛けはボク主導と思って下さい」

 

「むう、それで? 進展があったという話だが?」

 

「はい、兄貴……緒方優斗からの連絡がありました」

 

「緒方優斗? 確かに居たと思うが……」

 

 白崎智一からの認識などこの程度だが、園部博之と園部優理、遠藤英和と遠藤実里はやはり別。

 

「優斗君からか!」

 

「成程、彼からなのか」

 

 声を出す園部博之と遠藤英和の両名、細君の二人も驚いている様だ。

 

「ボクの兄ですよ」

 

 それに納得した。

 

「それで、優斗君から連絡というのは?」

 

「先ず、彼らは退っ引きならぬ状況である事でした」

 

 その言葉に緊張が走る。

 

「巫山戯ていると感じるかも知れませんし、不快感を持たれるかも知れません。然しながらボクがこれから言う事は全て真実と思い、それを前提に聞いて下さいとしか今は言えません」

 

 シンと静まり返る会議室の中、完全な沈黙を確認したユーキは口を開いた。

 

「兄貴達は異世界トータスに居ます」

 

「は?」

 

 誰だか知らない中年が、訝しい表情で声を上げた。

 

「おい、巫山戯てんのかよ嬢ちゃん?」

 

「檜山さん、それも込みで聞く様に言われたばかりだろう?」

 

 苗字を聞いてユーキ的には納得しかない。

 

 あんな糞餓鬼を世に送り出す親だ、場合によっては屑の可能性も皆無じゃないのは理解している。

 

 小悪党四人組のリーダーの親なら然もありなん。

 

 とはいえ、荒々しいだけで屑野郎という訳でも無さそうである。

 

「ヴィヴィオ、プロジェクターを準備してくれる?」

 

「はーい」

 

 ヴィヴィオが持ってきたのは正にプロジェクタで、要するにディスプレイ装置の一種、画像や映像を大型スクリーンなどに投影する表示する装置だ。

 

 これは彼らにも解り易くする為、記録媒体の規格ははユートが用意していた物だが、プロジェクタに関してはユーキがこの世界一般でも通じる外観で、数日の時間を掛けて造った。

 

「これから見せるものは、あの教室で起きた一部始終となります。兄貴は万が一に備えて周囲にナノマシンくらいのサーチャーを飛ばしていましたから、それを確保して見せる訳です」

 

 サーチャーと聞いて愁と菫は、ヴィヴィオとアインハルトをガン見する。

 

 サーチャーと云えば正に【魔法少女リリカルなのは】でお馴染み、バラ撒いて情報収集によく使われているアレだからだ。

 

 ヴィヴィオとアインハルトは【魔法少女リリカルなのは】の登場人物であり、当然の様にサーチャーにも詳しい筈だろう。

 

 プロジェクタから出力をされた映像が、モニタへと随分と綺麗なレベルで映し出された。

 

 それは一般的な高校で、昼休みを体現した光景。

 

『はい、お父さんがいつも勉強を見てくれる御礼だってさ……』

 

『サンクス、親父さんには御礼を言っといてくれ』

 

『わ、判った』

 

 微笑ましい男女のやり取りは、ボーイ・ミーツ・ガールを思い起こす。

 

 ちょっと朱色に染まった頬で、男の子へと“父親から”と念押しして渡している女の子。

 

『南雲くん……珍しいね、教室に居るの。ひょっとしてお弁当? 若し良かったら一緒にどうかな?』

 

 不穏な空気が教室に蔓延るが、黒髪の少女は全く以て気付かないで“南雲君”を誘っていた。

 

 ピキリと額に青筋を浮かべた白崎智一氏。

 

『えっとさ、誘ってくれてありがとう……白崎さん。だけどもう僕は食べ終わったから、天之河君達と食べたら良いんじゃない?』

 

 栄養ゼリーのパックを見せながら言う“南雲君”、更に白崎智一氏の額に青筋が増える。

 

『ええっ! お昼それだけなの? それはダメだよ、南雲君! ご飯はちゃんと食べないと。私のお弁当を分けて上げるから、ね!』

 

 其処へ無駄に爽やか笑顔の少年がやって来た。

 

『香織、こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。折角の香織の美味しい手料理を、寝ぼけ眼の侭で食べるなんて俺が許さないよ?』

 

『えっと? 何で光輝君からの許しが要るのかな?』

 

 その瞬間、白崎智一氏は『ブフッ!』と吹き出す。

 

 だけれど次の瞬間には、爽やか笑顔な少年の足元を中心に、純白に光り輝ける円環と見た事の無い幾何学模様が顕れた。

 

 この異常な事態に直ぐ周りの生徒達も気が付いたのだけど、全員が金縛りにでもあったかの様に輝く紋様――所謂、魔法陣だと思しきものを注視している。

 

 四限目の社会科が終わっても未だに教室に残って、女生徒達と談笑に興じていた畑山愛子教諭が咄嗟に、『皆、早く教室から出て!』叫んだが、魔法陣の輝きがまるで爆発をしたかの様に光るのは同時。

 

 最早、逃げ場は無し。

 

 光が収まった後には誰も教室には居らず、飲み掛けのペットボトルや食べ掛けの弁当箱が有り、椅子やら机が散乱した状態だった。

 

「異世界召喚……なのか? これはやっぱり」

 

 仕事柄、こういうのには詳しい南雲 愁が呟く。

 

「以上です」

 

 又もやシンとなった。

 

「これが事実だとして……君の兄はどうやって連絡を取ってきたのかね?」

 

「ボクと兄貴には意識を互いに飛ばす技術が有る」

 

「意識を?」

 

「兄貴から連絡があって、此方にそれを繋ぐ物が顕れたからね、彼方へとボクの意識を飛ばしたんだよ」

 

 白崎智一からの質問に、ユーキは淡々と答える。

 

「どうやってかね?」

 

「こうやってさ」

 

 ユーキが言うと同時に、二つのスロットを持つ赤いバックルのベルトが腰へと装着された。

 

「なっ!?」

 

 驚く白崎智一。

 

「ダ、ダブルドライバー? って、まさか!」

 

 南雲 愁も驚いていると何かが跳ねて来る。

 

「ファングガジェット!」

 

 牙の記憶たる【ファング】を内包したガイアメモリを持つガジェット、ユーキはそれを変形させてスイッチを押して……

 

《FANG!》

 

 高らかに叫ぶ。

 

「変身!」

 

 同時にスロットの左側に黒いメモリが刺さり、右側には変形させたファングを差し込んだ。

 

《FANG/JOKER!》

 

 音楽が流れながらユーキの姿が変化していく。

 

 赤い複眼で全体的に白黒のツートンカラー、右側は白で左側は黒となってアクセントで金色がある。

 

「「仮面ライダーWファング/ジョーカー」」

 

 名乗りを上げた際には、二人分の声が重なって聞こえてきた。

 

「ゆ、優斗君かい?」

 

 南雲 愁が仮面ライダーWへ話し掛けると……

 

「お久し振りだね、愁さんに菫さん」

 

 間違いなくユートの声が響き安堵する。

 

「それに、博之さんに優理さんと壮介さんに実里さんも久し振り。他は知らないから初めましてだろうね。仮面ライダーWファング/ジョーカーの片割れである緒方優斗だ」

 

 ユーキが仮面ライダーにマジ変身したのも驚きには違いないが、ユーキではない声が普通に聞こえてくるのも驚く話。

 

「既にユーキから話は聞いていると思うが、今現在の僕らは異世界トータスへと拉致されている。こうして意識だけを仮面ライダーWとして動かせたのは僥倖、早速だがユーキに連絡してこの場を設けて貰った」

 

「つまり、優斗君が色々と判っている事を説明してくれるんだね?」

 

「そうなるね」

 

 何処か窶れて見える南雲 愁と南雲 菫、園部夫妻や遠藤夫妻もやはり心配なのだろうと判る。

 

 ユートは召喚されてから天之河光輝が、戦争という行為を真っ先に賛成したというのと、彼を含む【始まりの四人】……白崎香織、八重樫 雫、坂上龍太郎の事も話したら天之河美耶もだけど、白崎智一と薫子、八重樫虎一と霧乃が青褪めていた。

 

 もう一組は坂上夫妻であろうか?

 

「僕としては交渉をして、最低限で戦いたく無い者や戦いに向かない者くらい、戦争に不参加は確約させたかったんだけど、天之河が無駄にカリスマを発揮して参戦を決めたから、流れ的に不可能になってね」

 

 しかも大人気な香織と雫まで、消極的ながら賛成をしてしまった。

 

 これでは大して影響力を持たないユートでは、どうにか出来る筈も無かろう。

 

 意気消沈する【始まりの四人】の親達、特に天之河美耶の様子は酷かった。

 

「お父さんの影響が強いのは判っていましたが……」

 

 天之河完治という弁護士が居た、彼は天之河光輝を溺愛していたし様々な事を教えていた。

 

 天之河光輝にとっては、仮面ライダーやウルトラマンみたいなヒーロー。

 

 だけど彼は失敗した。

 

 天之河光輝に清濁併せ呑む事を教える前に死んで、彼は濁を許容出来ない愚かな人間に成り果てる。

 

 都合の悪い事は都合良く解釈するのもその一環。

 

 そして天之河夫妻は結局の処、天之河光輝を導く事が出来なかったのである。

 

 その集大成がトータスで発揮されたのだ。

 

 戦争参戦表明の後には、翌日から早くも訓練。

 

 ステータスプレートにて能力を確認して、二週間後には実戦訓練という名目でオルクス大迷宮へ。

 

 大迷宮で起きた悲劇。

 

「小悪党四人組がベヒモスという、巨大な魔物を抑えていた僕に魔法を誤射したと見せ掛けた攻撃により、偶々前に出た香織が当たって奈落の底に落ち掛けて、それを雫が助けようとしたけど道連れになり、それを更に愛子先生が助けようとしたけど失敗、僕を道連れにして奈落に落ちた」

 

「因みに、小悪党四人組は檜山大介とその取り巻きの事だよ」

 

 白崎夫妻は気絶したくなるし、八重樫夫妻も頭を抱えてしまい、畑山昭子など本当に気絶していた。

 

 とはいえ、ユートが生きているからには三人も無事に居る訳で、だからか白崎夫妻も八重樫夫妻も気を確りと持っていた。

 

 小悪党四人組の親達は、皆から冷たい視線を向けられてしまう。

 

 彼らが直接的に何かした訳ではないが、天之河美耶を口汚く罵ったばかりで、人殺しの親だとされた訳だから当然だろう。

 

 ある意味では天之河光輝より悪質なのだから。

 

「さてと、これが僕らの今現在に置かれた状況だが、問題は他にもある」

 

「と、言うと?」

 

「先ず、帰還を約束されたとは言ったけど、エヒトが約束した訳じゃないんだ。寧ろエヒトは勇者召喚により遊戯盤の駒を増やしたと考えている。魔人族を仮に絶滅させても帰さない可能性が高い」

 

「な、何だって!?」

 

 それでは話が違う。

 

 何の為にハジメが命懸けで戦っているのか!

 

 南雲 愁は拳を握った。

 

「解放者からの情報では、エヒトは人間や魔人や亜人を玩具か何かと思ってて、愉悦の為に戦争を故意に起こしていたらしい。当然、勇者召喚もその一環なんだからそうなるな。下手したら魔人族側もエヒトが操っている可能性が高い」

 

「か、完全なマッチポンプじゃないか!」

 

 白崎智一が憤るのは無理も無いし、他の親達も怒りに表情を歪ませている。

 

「そこで僕ははぐれたのを良い事に、秘密裏で七大迷宮の攻略を行う心算だ」

 

「七大迷宮の?」

 

「七大迷宮は七人の解放者が反逆者となり、引き隠った謂わば隠れ家的な場所。そしてオスカー・オルクスと同様に、他の解放者達も神代魔法をそれぞれ継承が可能な様にしている筈だ。ならば神代魔法の中になら有るかもだろ? 次元さえ超える魔法がさ。エヒトもそれで勇者召喚をしたんだろうしな」

 

「な、成程……確かに」

 

 納得した南雲 愁だが、ユートは既に識っていた。

 

 んなモンは存在しない。

 

 七大迷宮で手に入るだろう神代魔法は……

 

 オルクス大迷宮……【生成魔法】。

 

 ハルツィナ大迷宮……【昇華魔法】。

 

 ライセン大迷宮……【重力魔法】。

 

 メルジーネ大迷宮……【再生魔法】。

 

 バーン大迷宮……【魂魄魔法】。

 

 シュネー大迷宮……【変成魔法】。

 

 グリューエン大迷宮……【空間魔法】。

 

 どれも時空の壁を越え、次元の海を航るには不向きな魔法である。

 

 ユーキが曰く、世界を航るにはこれらを全て集め、更に強固な意志力を以てして概念魔法に至る必要性があり、どれもハズレにして全てが必須なのだそうな。

 

 概念魔法ならユートとて幾つか使えるし、そもそもエヒトさえ存在しなければオーロラカーテンを使って次元移動も出来る。

 

 エヒトこそが癌なのだ。

 

 下手に還ればエヒトは、トータスに見切りを付けて地球で同じ事を始めてしまうだろうし、あの地球には明確な超越者(オーバーロード)が居ないから、奴が神に成り済ますのは普通に可能であった。

 

 そうでなくともGレベルでエヒトの使徒が湧いて出てきて、地球の制圧に乗り出した場合に地球は滅茶苦茶にされてしまう。

 

 その懸念から地球に帰還が出来なかったし、ユーキからもその点に関して注意を受けていた。

 

 エヒトの使徒がGレベルで湧くのも、ユーキから得た情報なだけに困る。

 

 まぁ、唯一の利点としてはリューン並の美女であると云う事だろう。

 

 それに連中のステータスはオール12000と判明したし、リューンは不完全であると自らが言っていたから、若干低かったのだろうという推測が立つ。

 

 天之河光輝がフルスペックとなっても1500で、つまりは八倍という強さを持つのがエヒトの使徒。

 

 本気でまともに相手取れない連中である。

 

 尚、ユートの再誕世界は戦女神アテナが地上を守護しているし、リリカル世界にも【まつろわぬ神】だったアテナが居る為、此処みたいにはいかない。

 

 ユートが齎らした情報で一番聞きたくなかった……既に半数が死亡したという訃報により、檜山大介を含む小悪党四人組の親達は、当然の事ながらも吊し上げを喰った。

 

 何しろユートが抑えていたベヒモス、それをユートに攻撃した所為で抑えが無くなり、檜山大介を筆頭に十数名が轢き潰されたり、赤熱化した頭に焼かれたりして死んだのだ。

 

 小悪党四人組本人らには同情の余地も無かったが、巻き添えを喰らった形となる生徒や騎士、彼らの痛みや苦しみは如何程であったのか想像に難くない。

 

 どんな育て方をしたのかと怒りを露わにするのは、当然の流れであったのだろうし、何より当の檜山大介が死んでいては生け贄の羊は親しか居ないのだ。

 

 こうしてユートから情報を得た事で、南雲 愁にせよ南雲 菫にせよ少し安堵していた。

 

 飛びっきりの爆弾も落とされたけど。

 

「あ、ハジメには恋人が出来たから」

 

「「なにぃぃぃっ!?」」

 

 ふたりは訃報よりも反応をしたと云う。

 

 

.

 




 その後、白崎家と八重樫家と畑山家の親〜ズを別室に呼んだユートは、香織と雫と愛子先生を喰っちゃった事を伝えました。

 当然、白崎智一は激オコだったのは言うまでもないであろう。




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第二章:超越兎
第21話:幸運グッズにはウサギの尻尾があったかな


 第二章が始まります。





.

 オルクス大迷宮を抜け、魔法陣の光に満たされている視界だが仮令、何も見えていなくても明らかに空気が変わった事は解る。

 

 数千年の年月が経過し、澱んだ奈落の空気とは一線を画するからだ。

 

 新鮮な空気を感じてか、香織も雫もユエも笑みを浮かべてしまう。

 

 光が収まり、目を開けたユート達の視界には……

 

「また洞窟!?」

 

 香織を絶叫させる洞窟の侭であったと云う。

 

 転移陣を越えたなら地上だと、香織は無条件に信じていたから落胆を隠せてはいなかった。

 

 全く代わり映えしない、相変わらずな光景に思わず叫んだ香織、ペタンと女の子座りでへたり込んでしまった雫。

 

 ユートはポリポリと頭を掻きながら言う。

 

「ま、反逆者と呼ばれていたんだからね。幾ら何でも直接的に繋いでないさ」

 

「……ん、秘密の通路だから隠すのが普通」

 

 ユートの言葉に手を繋ぐユエが、それを肯定するかの様に言った。

 

「という訳で、香織もへばってないで立つ」

 

「は、はい……」

 

 ゆったりと立ち上がろうとする香織、ユートは溜息を吐きながら手を差し出してやる。

 

「あ、その……ありがと」

 

「何ならお姫様抱っこして運ぼうか?」

 

「けけ、結構かな!」

 

 そんな風にからかわれ、香織は赤くなりながらも慌てて立ち上がった。

 

 訓練をして体力は付いていたし、ユートに抱かれて潜在能力を引き出されていたから、ステータスも充分に上がっている。

 

 故に香織だって疲れている訳ではなく、自分の足で立って歩く事が出来る程度には強かった。

 

 ネタを知る雫は苦笑い。

 

 緑光石すら無い洞窟ではあるが、ユートは光の玉を出して灯りを灯せる。

 

 そもそも視るに特化した【神秘の瞳】は、その気になれば夜目が幾らでも利く訳で、吸血種のユエもそれは同じ事だった。

 

 途中、封印が施されている扉やトラップ類も有ったのだが、それは手に入れたオルクスの指輪が反応し、悉くを解除していく。

 

 暫くそうやって進んでいくと到頭、外から入ってきているであろう光を見付ける事が出来た。

 

「外! 外だよ、出られたんだよ雫ちゃん!」

 

「ええ、良かったわね」

 

「うう、色々とあったけど……良かったよ〜!」

 

 香織は、やはり嬉しさからだろう感慨無量といった感じに涙を流す。

 

 ユートの手を握っているユエの力が強く籠められ、新月の様な表情が三日月の光の如くとても柔らかく、喜色を表して小さく笑みを浮かべていた。

 

 香織からしたら二ヶ月、ユエはもう三百年は地上の光を見ていなかった訳で、天に耀く陽の光を眩しそうに見つめている。

 

「……風を感じる。大迷宮内は大気の流れが殆んど無いから澱んでた」

 

 三百年間は吸えなかった清浄な空気は、それだけで嬉しいものだとユエは理解が出来た。

 

「ユエ、三百年振りの風と光はどんな気分だ?」

 

「……ん、最高」

 

 ユートからの問いに答えたユエは、男が見れば魅了されそうな暖かな笑み。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 こうして、ベヒモスとの戦いからずっと見ていなかった地上へ、ユートと三人の帰還が叶うのだった。

 

「まぁ、行き先がライセン大峡谷なんだがな……」

 

「……不毛の大地」

 

 洞窟を出た先は崖が切り立つ渓谷、前か後ろにしか進む道は有りそうに無い。

 

 ユートは飛べるけど。

 

「ユエ、此所はライセン大峡谷だから魔力の扱いが、ちょっと大変だろう?」

 

「……ん。魔力結合が困難だから困る」

 

「一〇倍くらい濃密にすれば使える筈だ」

 

「……それだとすぐに息切れしてしまう」

 

 アイデンティティーが脅かされる。

 

「此処がライセン大峡谷って訳だな」

 

 夜会の時に聞かされた、ライセン大峡谷の怪。

 

 少し前も王宮へ愛子先生を連れて行く為に通っているが、魔法が分解されてしまってまともに使えない。

 

「嘗てはライセン家という聖光教会の意向に従って、異端者を処刑していた伯爵一族が使っていた処刑場」

 

「ちょ、怖い話をしないでよね!?」

 

 雫が叫ぶ。

 

 見れば雫も香織も怯えた顔になっていた。

 

「ああ、折角の爽快感に水を差したな」

 

 とはいっても、やっぱりライセン大峡谷は処刑場だった事に違いない。

 

「ユエ、魔力結合が阻害されるけど安心しろ」

 

「……ん、力尽くだと大変なのに?」

 

「【閃姫】は特典として、凄まじいエネルギー量を持つタンクが使える。魔力として出力すれば殆んど無制限に魔法が使えるさ」

 

 恒星数個分のエネルギーを確保してある。

 

「何で急に魔法がどうとか話してんのよ?」

 

「そいつは随分迂闊だな、サムライガール」

 

「誰がサムライガールよ、って! まさか魔物?」

 

「正解だ」

 

 ユートは腰にディケイドライバーを出現させると、左腰のライドブッカーからカードを取り出す。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 黒いインナーに緑の複眼を持つ、マゼンタカラーで左右非対称なアーマー。

 

 仮面ライダーディケイドに変身をした。

 

「……サガーク」

 

 ユエの腰にベルトとなってサガークが装着。

 

「……変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 ジャコーダーを右側にあるスロットに填め込んで、すぐにも抜いてしまう。

 

「私も変身するわ!」

 

《STAND BY》

 

 ジョウントを通って顕れたサソードゼクターが地面から飛び出し、雫の手の中へと飛び込んだ瞬間……

 

「変身!」

 

 サソードゼクターをサソードヤイバーにセット。

 

《HENSHIN!》

 

 仮面ライダーサソード・マスクドフォームに。

 

 

 仮面ライダーとなって、あっという間に襲って来た魔物を殺し尽くした。

 

 蹂躙と云っても良い。

 

「ふう……」

 

 変身解除して一息を吐いた五人は、取り敢えず移動をしようと考える。

 

「……魔法が扱い易い」

 

「仮面ライダーに変身すると魔法は別のエネルギーに変換されるから、魔法を使ってそれがライセン大峡谷で分解されたりはしない」

 

「……地味に便利」

 

 ユートからの説明にユエは染々と思った。

 

 故に仮面ライダーサガの状態なら、魔法は正に使いたい放題という訳だ。

 

 エネルギーの残量を気にする事無く、分解されてしまう心配も要らないから。

 

「にしても、弱かったな」

 

「正直、仮面ライダーに成る必要は無かったわね」

 

「……私は魔法を使う為に必要だったけど」

 

 ライセン大峡谷の魔物、それはオルクス大迷宮から考えると弱い。

 

「多分、オルクス大迷宮の魔物が異常なんだろうな」

 

「成程、そういう事か」

 

 納得した雫。

 

「この絶壁は登ろうと思えば登れそうだね。どうするかな? ライセン大峡谷は七大迷宮が有る場所だし、樹海の方に向かって探索でもしながら進むか?」

 

「樹海側に?」

 

「峡谷を抜けてから行き成り砂漠横断は嫌だろう? 樹海側なら町にも近そうだと思うぞ雫?」

 

「確かにね」

 

(さて、ユーキが言っていた通りに逆算した日数で、ライセン大峡谷に出た訳だけど……)

 

 此処でヒロインの一人、シア・ハウリアという名前の兎人族と会う筈。

 

 原典では魔物に追われているらしいし、下手なタイミングでは既に喰われた後とか洒落が利かない。

 

『一応、兎人族は亜人族として見れば造形も良くて、愛玩奴隷や性奴隷としても人気が高い。シア・ハウリアはその中でも一際美少女だから、助けて恩を売るのも悪くない。彼女が支払える対価は能力か女である事だけだしね』

 

 こういう辺りはユーキも流石と云うべきか。

 

 兎に角、彼女も持ち前の能力である程度は此方に合わせて動く筈、というのがユーキからのアドバイス。

 

 魔物の能力から考えて、ライセン峡谷その物が迷宮という訳でなさそうだし、迷宮への入口が別に存在をしている可能性がある。

 

 ユートは普通に翔べるから絶壁を超える事は可能、ライセン大峡谷の探索自体必要だったので、特に誰も反対したりしない。

 

 どっち道、シア・ハウリアなる兎人族を道中で捜すのだから、道なりに行けば良いであろう。

 

 ユートはマシンディケイダーを出し、ユエを背中に乗せて香織を後ろに、雫には別の魔導単車を出してやって進む事に。

 

 ライセン大峡谷というのは基本、東西に真っ直ぐと伸びている断崖である。

 

 脇道は殆んど無いから、道なりに進めば迷う事なく樹海へと到着する筈。

 

 迷う心配が無いのだし、迷宮の入口らしき場所などが無いか注意をしながら、マシンディケイダーで道を爆走していた。

 

 とはいえ、爆走さている間にもユートは魔物を蹴散らしている。

 

「まさかバイクが有ったなんてね」

 

「凄いけど、ゆう君ってば免許とかは有るのかな? 因みに雫ちゃんは無いよね?」

 

「……免許?」

 

 ユエには免許の概念自体が当然無かった。

 

 マシンディケイダーにて大峡谷内を進んでいると、余り遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてくる。

 

 それなりの威圧であり、今までに相対していた谷底の魔物より強そうだ。

 

 もう大した刻も置かず、接敵をするであろう。

 

 大型の魔物が現れた。

 

 真のオルクス大迷宮見たティラノサウルス擬きに似ているが、頭部が二つあるから謂わば双頭のティラノサウルス擬き。

 

 だけど注目するべきは、双頭のティラノなんかでは決して無く、足元をぴょんぴょんと跳ね回って半泣きで逃げるウサミミ少女。

 

 マシンディケイダーを停めて、ユートは胡乱な眼差しで今にも喰われそうであるウサミミ少女を見遣る。

 

「見付けた……」

 

 青に近い白髪を長く伸ばしたウサミミの美少女で、聞いていた通りの容姿だったのもあるが、目を惹いたのはやはり凄まじいまでの露出度な服装だろうか。

 

 まぁ、見るからに服装がドロドロな上に鼻水や涙で顔も美少女が台無しだし、あれでは百年の恋も冷めてしまいそうだが……

 

(残念ウサギだな)

 

 苦笑いをしながらユートは再びマシンディケイダーを走らせ、ウサミミの少女シア・ハウリアに近付く。

 

「何かしら? あれは」

 

「……兎人族?」

 

 雫も見付けたみたいで、遠目に見えるシア・ハウリアに疑問を持ち、雫よりも目が良いのかユエは兎人族と判ったらしい。

 

「兎人族って谷底が住処なのかしら?」

 

「……聞いた事ない」

 

「あ、犯罪者として落とされたとか? 昔そんな処刑が有ったんだよね?」

 

「……悪徳なウサギ?」

 

 香織も雫もユエも首を傾げながら、逃げるウサミミ少女を見つめていた。

 

「優斗、どうするの?」

 

「ま、取り敢えず喰われたら交渉も何も無いしね」

 

 取り敢えずは助けるという事らしくて、雫も香織もちょっと安堵している。

 

 若し見捨てると言われた場合、二人も見捨てるという選択しか無くなるから。

 

 ライセン大峡谷落としが処刑方法の一つとして使用されていたのは確かだが、そもそもライセン一族などオスカー・オルクスの手記に有るミレディ・ライセンが唯一の生き残りであり、今現在はそういう使われ方をしていない筈なのだし、ウサミミ少女が犯罪者である訳ではあるまい。

 

「香織がやってみるか?」

 

「え、でも私はガシャットなら返しちゃったし」

 

「やるなら新しいのを渡すんだが、どうする香織?」

 

「……やるよ!」

 

 ウサミミ少女の方が此方を発見したらしい。

 

 双頭のティラノ擬きから吹き飛ばされ岩陰に落ち、それでも四つん這いになりながら這う這うの体で逃げ出して、必死に優斗達が居る方へと駆けてきた。

 

 双頭ティラノ擬きが爪を振い、それで吹き飛ばされたウサミミ少女はゴロゴロと地面を転がる。

 

 だがその勢いを殺さず、猛然と逃げ出して優斗達へと近付いて来た。

 

 それなりに距離はある筈なのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが大峡谷に木霊して優斗達に聴こえる。

 

「だずげでぐだざ〜い! ひぃっ、死んじゃうよ! 私、死んじゃうよぉぉっ! だずけてぇ〜、おねがいじますがら〜っっ!」

 

 涙を滂沱の如く流して、折角の美少女な顔をぐしゃぐしゃにして、必死に駆けてくるそのすぐ後ろには、双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女を喰らわんとしていた。

 

 微妙に間に合わないし、この侭では優斗達の所まで辿り着くよりも前に、彼女は喰われてしまうだろう。

 

「モンスタートレインか、MMORPGとかだったらマナー違反だし、これだと普通にMPKになるぞ」

 

「……傍迷惑な」

 

 優斗もユエも呑気だ。

 

「ほれ、香織」

 

「あ、うん。ありがと」

 

 渡されたのは大きさ自体は大したものでもないが、緑色のハートを模したそれは中心にスリットが有る。

 腰に据えるとカードが顕れて左から右へ合着して、ベルトとして機能を果たすそれにカードホルダー。

 

 開いたら一枚だけ入っていたので出すと、ワルキューレの意匠が描かれているトランプみたいな物。

 

 ハートのA、【CHANGE】と端の方に書いている。

 

「まっでぇ〜! おねがいですから、みすでないでぐだざ〜い!」

 

 ウサミミ少女はどうやら見捨てると勘違いしたか、更に煩いくらいに声を張り上げて叫んだ。

 

 香織は苦笑いをしながらカードをスリットに。

 

「変身っ!」

 

《CHANGE!》

 

 まるで水を潜ったかの様なモーフィング、其処には仮面ライダーとは似ても似つかない銀髪女性。

 

「あれ? 仮面ライダー、じゃないよね?」

 

 双頭のティラノが逃げるウサミミ少女の向かう先に此方を見付け、殺意を向けてくると共にけたたましいまでの咆哮を上げた。

 

『グゥルァアアアア!』

 

「ほら、使い方は同じだから早く行け」

 

「もう、判ったよ〜」

 

 ちょっと膨れっ面となりながらも、背中に翼を展開して高速匍匐飛行で一気にウサミミ少女の許へ。

 

「行っくよ〜!」

 

 手にしたのは弓。

 

 醒弓ジョーカーアローとでも云おうか、赤いラインが緑色なだけのカリスアローと変わらない代物。

 

 双頭ティラノがウサミミ少女に追い付き、片方の頭が顎を開いてウサミミ少女に喰らい付かんとしていたのを、使徒リューンと同じ姿の香織がジョーカーアローにて攻撃する。

 

 ドピュッ!

 

 ちょっと卑猥な擬音が聞こえた気がしたのだけど、香織は全く気にせず連射で双頭ティラノ擬きを攻撃。

 

 峡谷に響き渡る音と共に一条の閃光が通り抜けて、目前にまで迫っていた筈の双頭ティラノの口内を突き破りつつ後頭部を粉砕して光の矢が貫通をした。

 

 所詮は地上の魔物だからだろう、簡単に斃せてしまって首を傾げる香織。

 

 生命を失った片方の頭が地面へと激突してしまい、双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てその場に引っくり返る。

 

 その際の強い衝撃にて、ウサミミ少女は再び吹き飛ばされていた。

 

「うきゃぁぁぁぁっっ! た、助けて下さ〜い!

 

「はいよ」

 

 パッと掴んで引き寄せ、その侭で地面へと置く。

 

 あっさりめだったけど、痛い目を見ずに済んだのは地味に嬉しかったらしく、優斗をポーッと見ていた。

 

「トドメだよ! ってぇ、カードが一枚しか無い? もう、仕方ないかな……」

 

 バックルをジョーカーアローに取り付け、スリットへとスラッシュさせる。

 

《MIGHTY!》

 

 読み取られたカード名は【MIGHTY】で、仮面ライダー剣系の新世代ライダーが使っていた単独必殺技用。

 

 マイティグラビティというカードで、重力を発生させて破壊力を増す。

 

「グラビティシュート!」

 

 仮面ライダーグレイブが使ったカード、グレイブは剣撃に乗せていたものだったのだが、香織は放たれるエネルギーの矢へと乗せて射っていた。

 

 そして双頭ティラノ擬きは残りの頭を吹き飛ばされてしまい、呆気なく死んでしまったのだと云う。

 

「うう、グロいよ〜」

 

 もう、パンッ! と弾ける様に目の前で吹っ飛んだから、香織からしたらさぞかし気持ち悪かろう。

 

「にしても、弱かったね」

 

 それだけは間違いなく、香織は戦ってみた感想を話してきた。

 

「真のオルクス大迷宮が強かっただけだなやっぱり、ライセン大峡谷は処刑場に使われていただけあって、魔法が無ければ辟易するんだろうが、それでも僕らの敵じゃないよな」

 

 雫も香織も別に二ヶ月も食っちゃ寝をしていた訳ではなく、戦いに慣れる為の修業を行っていた。

 

 ユエはアレーティア時代に戦争をしていた訳だし、レベルもそこそこは高かった上に、魔力特化型ステータス値で魔法が可成り強いから、真のオルクス大迷宮でも見劣りはしていない。

 

「うう、ありがとうございます。あの御願いします! 助けて頂けませんか?」

 

「だから助けただろうに」

 

「いえ、違くて! 家族を助けて欲しいんですぅ!」

 

 ウサミミ少女――シア・ハウリアが凄い剣幕で目的を言い募る。

 

「聞いたろ? 香織、雫。こうしてヒトはひたすらに図々しくなれるんだよ」

 

「ああ……」

 

「確かにちょっとね」

 

「……」

 

「助けてくれて当たり前、くらいに考えてるぞ?」

 

 シア・ハウリアはそれを聞いて青褪めた。

 

 急ぎ過ぎて図々しいとか思われたのだ……と。

 

 ユエは余り人の事を言えないからか、口にチャックをしており黙して語らないを示していた。

 

「ま、待って下さい!」

 

「何だ?」

 

「ダイヘドアを簡単に斃せる貴方達だからですぅ! 御願いします! 家族を助けてくれたなら何でもしますから!」

 

 香織も雫も頭に右手を乗せると天を仰ぐ。

 

「「あちゃぁ!」」

 

 やっちまったと謂わんばかりの態度である。

 

「何でも……ね。助けるというのはどういう事だ?」

 

「は、はいですぅ! 私は兎人族ハウリアの一人で、シアと云いますですぅ!」

 

「緒方優斗」

 

「八重樫 雫よ」

 

「白崎香織だよ、宜しくねシアさん」

 

「……ん、ユエ」

 

 漸く名を名乗るシアに、ユート達も名乗った。

 

 シアは訥々と語る。

 

 ハウリアと名乗る兎人族達は、【ハルツィナ樹海】で数百人規模の集落を作りひっそり暮らしていた。

 

 兎人族は聴覚や隠密行動には優れてもいるものの、他の亜人族に比べてみればスペック的に低いらしく、ステータス的にも平均値か其処らで、亜人族の中でも格下と見られている。

 

 ハジメを思い起こしていたユートと香織、彼もまた平均的に低いスペックだった上に、仲間である筈の者から下に視られていた。

 

 性格的には皆が温厚で、兎人族の者は誰もが争う事を善しとはせず、集落全体の仲間を家族として扱う絆が深い種族だと云う。

 

 そしてシアを見れば解る通り総じて容姿に優れて、森人族の様な美麗さとまた異なった可愛らしさや愛嬌があるので、帝国などに捕まって奴隷にされた時は、愛玩用で大人気の商品となるそうな。

 

 ある日のハウリア族に、異常な女の子が生まれた。

 

 兎人族は基本的に濃紺色の髪だが、その子の髪の毛は青みが掛かった白髪で、亜人族に本来は無い筈たる魔力を持ち、魔力操作を行える上に固有魔法までもを使えたのである。

 

 ハウリア族は大いに困惑をしたが、亜人族一の家族の情が深い種族たる兎人族なだけに、普通なら魔物と同じ力を持つとして忌み嫌ってもおかしくないのに、ハウリア族は女の子を見捨てる選択肢を捨てていた。

 

 とはいえ、樹海の深部に存在する亜人族の国である【フェアベルゲン】に若し女の子の存在がバレれば、その子は間違いなく処刑をされるだろう。

 

 魔物は正に不倶戴天の敵であり、国の規律にも魔物を見付けたなら即刻殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした者が、追放処分を受けたという例もある程。

 

 そもそも被差別種族たる亜人族は、只でさえ排他的なのだし自分達以外の種族が【フェアベルゲン】へと入る事さえ嫌う。

 

 ソコへ来て魔物と同じ力を持つ女の子だ。

 

 ハウリア一族は女の子をひた隠しにして、一六年間ひっそりと育ててきた。

 

 だけど遂に彼女の存在が国にバレてしまう。

 

 故にこそハウリア族は、【フェアベルゲン】で捕まる前に、一族ごと樹海を出てしまったのである。

 

 取り敢えず北の山脈地帯を目指すことにしたのは、山の幸があれば生きていけるかも知れないからだ。

 

 未開拓地ではあるけど、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシで、生きるのに必死だったと云うのもある。

 

 処が件のその帝国により目論見が潰えた。

 

 樹海を出てから直ぐに、本当に運が悪く帝国の兵に見付かり、一個中隊規模とあっては勝ち目なと無く、ハウリア族は南に逃げるしか道は無い。

 

 か弱い女子供を先に逃がす為に、男達が帝国の追っ手の妨害を試みるものの、そもそもが温厚で平和的な兎人族VS訓練されている帝国兵では、既に戦うまでもない歴然とした戦力差があり、気が付いてみたなら半数以上が帝国兵に捕らわれてしまっていた。

 

 仕方無しと全滅を避ける為に、ライセン大峡谷へと辿り着いたハウリア族は、苦肉の策ではあるが峡谷内へと逃げ込んだ。

 

 魔物に襲われるか帝国兵が居なくなるのが早いか、これは分が悪い博打にしかならない賭け。

 

 なのに反転を全くしない帝国兵、そうこうしている内に想定通り魔物が襲来してきて、最早これまでかと帝国兵に投降をしようとしたのだが、魔物が回り込みハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしか無くなる。

 

「気が付いたら、六〇人はいた筈の家族も今となっては四〇人程しか居ません。このままでは全滅ですぅ、どうか御願いですから助けて下さい!」

 

 涙々に語るシアは成程、哀れを誘う内容ではあるのだが、ユートにはハッキリと云えば関係が無い。

 

 ユートは善人でなければ正義の味方でもない訳で、何処ぞの勇者(笑)だったり未来の錬鉄の英雄だったりしないから、実利が無ければ動いたりしないのだ。

 

 勿論、ユートにも情くらいは有るから琴線に触れたら或いは……だろうけど、果たしてシアの言葉がそれに当たるかと訊かれれば、首を横に振るだけである。

 

 だけどシア・ハウリア、彼女はある意味で幸運だったと云えよう。

 

(ユーキからの情報通り、つまり【ハルツィナ大迷宮】に入る為の鍵、亜人族との絆を育む絶好の機会か)

 

 打算塗れの絆だが……

 

「シア・ハウリアだったな君は」

 

「は、はいですぅ」

 

「何でもすると云うなら、奴隷にもなるんだな?」

 

 ギクリと肩を震わせて、意を決した表情で……

 

「なりますぅ!」

 

 奴隷となる事を了承するのであった。

 

 

.

 




 シアの運は良いか悪いかまだ判らない?




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第22話:ハウリア族との邂逅ですぅ

 あんまり進まないな……





.

 シア・ハウリアは必死になって逃げていた。

 

 【フェアベルゲン】からも帝国兵からも魔物からもあらゆる全ての悪意から、家族であるハウリア一族を巻き込んでの大逃走劇。

 

 当時は六〇人は居た筈の面々だが、今や四〇人程度にまで減っている。

 

 理由は年寄りや子供などが付いて来れなかったり、やはり何人かが捕らえられたりした為だ。

 

 シアは本来なら亜人族が持たない魔力を有してて、固有魔法も発現しているのだけど、この魔法は謂わば予知の類いである。

 

 シアには見えていた。

 

 金髪緋眼の少女と“白髪で片目に眼帯を付けてる”少年の姿が。

 

 だから漸く見付けたと思っていた為に失望した。

 

 金髪緋眼の少女は確かに居たが、見知らぬ長い黒髪をストレートに伸ばしている少女、ポニーテールに結わい付けてる少女が居て、“黒髪黒瞳”の少年が居たのだから。

 

 白髪で隻眼の少年は?

 

 あの黒髪の少女達は誰?

 

 シアに判っているのは、自らが扱える忌み子の証とも云える予知が、明らかに外れてしまっていた事だ。

 

 だけど仕方がない。

 

 こうなれば彼らに助力を乞う以外に無いのだから。

 

「だずげでぐだざ〜い! ひぃっ、死んじゃうよ! 私、死んじゃうよぉぉっ! だずけてぇ〜、おねがいじますがら〜っっ!」

 

 どちらにせよ今を逃せば一族も自分も、良くて奴隷に堕とされるのだろうし、悪ければ命そのものを落とす羽目になる。

 

 だからシアはあらん限り必死に叫んだものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あの、これは……」

 

「首輪」

 

「ですよねぇ!」

 

 翠の石で形作られたそれはシアの首に装着されて、首輪なのは誰が見ても間違え様もない。

 

 よく見たなら金髪緋眼の少女は兎も角、二人の黒髪の少女達は同じ首輪を着けていた。

 

「一応、グランツ鉱石製。喜べとは言わないけどな」

 

「婚約指輪や結婚指輪にも使われる鉱石で、いったい何を造ってるですぅ!?」

 

 亜人族にそんな習慣は無かったが、知らない訳でもないのか絶叫するシア。

 

 きっと父親か母親辺りから聞かされたのだろう。

 

「う〜、とはいえこれって私が貰われた証ですぅ?」

 

 婚約指輪ならぬ奴隷首輪ではあるが、男のモノとなった証みたいな代物だ。

 

 シアが未来視で視た相手ではなかったが、力は間違いなく強いみたいだから、必ず連れて戻りたいシアとしては、奴隷でも何でも構わなかった。

 

 どうせ自分が代に出来るのは、未来視の力か無駄に豊満で可愛らしい容姿を持つ女としての自分自身。

 

 どうやら女を求められたらしく、可愛く産んでくれた亡き母に感謝である。

 

 まぁ、兎人族は基本的に愛嬌があって容姿端麗ではあるのだが……

 

「さて、どう分けるか」

 

 マシンディケイダーにはどう頑張っても、ユートを含めた三人が精々だ。

 

 香織のシャドウチェイサーも同じだが、本人の腕前から二人が限界であろう。

 

 それ以前に免許を持たない香織は、シャドウチェイサーがAI制御で走らせている状態であり、無理な事は出来なかったりする。

 

「雫にもマシンを出すか」

 

 【マシンゼクトロン】を亜空間ポケットが出す。

 

 サソードの紋章が描かれたマシンゼクトロン。

 

「ねぇ、こんなのを何で今まで見せなかったの?」

 

「雫、あっちには勇者(笑)が居たんだぞ?」

 

「どういう意味?」

 

「免許も無しにバイクに乗るとか、絶対にギャーギャー抜かすに決まっている」

 

「ああ、確かにね」

 

 無駄に正義感が強いが故に文句を言うだろう。

 

 交通法規を守るべきだ……と間違いなく言う筈だ。

 

 とはいえ此処は異世界、日本の交通法規なんて存在しない処か、交通法規自体が存在していない。

 

 その国で守るべき法律が有るなら守る必要はある、無いからといって無視をするのも有り得ないが、果たしてこの場合は律儀に守るべきかという話だ。

 

 ユートは必要だから使っているし、雫も香織も必要だから受け容れた。

 

「ユエは僕の後ろに」

 

「……ん」

 

「シアは雫の後ろに」

 

「判ったですぅ」

 

 香織は一人乗りだけど、二人乗りはちょっと怖かったから悪くない。

 

「じゃあ、ハウリア一族の救出にレッツゴー」

 

「レッツゴーですぅ!」

 

 ファンタジーな世界に、三台ものマシンがライセン大峡谷を走る。

 

 マシンディケイダー。

 

 マシンゼクトロン。

 

 シャドウチェイサー。

 

 シアとユエはどうしてもこういうのに慣れなくて、すぐに乗り熟せるとユートも考えてない。

 

 実はシア辺りは割と乗り熟すが、流石にそんな事までユーキから聞いてないから判らなかった。

 

「良かったですぅ。視えていた未来と違っていたからどうなるかと思ったけど、家族を……父様達を何とか助けられそうですぅ」

 

「視えていた未来?」

 

「あ、はい」

 

 雫に聞き咎められて説明をするシア。

 

「【未来視】と云います、仮定した未来が見えるというもので、若しこれを選択したらその先どうなるか? みたいな感じですぅ……それに危険が迫っている時は勝手に視えたりします。とはいっても、視えた未来が絶対という訳でもないんですぅ。それで少し前に見たんですぅ! 金髪で緋色の眼の少女と白髪隻眼の方が私達を助けてくれている姿が! だけど視えていた少女は居ましたが、見知らぬ貴女が居て……白髪隻眼の男性は寧ろ居ませんし」

 

「えっと、白髪隻眼の男性って……誰の事?」

 

 雫の知り合いにそんな、正に厨二病真っ只中な男性なんて存在しない。

 

 それなのにユエらしきが一緒に居たのが解せない、それなら視えるべきは雫はまだしも、ユートである筈ではなかろうか?

 

(後で優斗に訊いてみるしか無いわね)

 

 マシンゼクトロンを運転しながらそう考える。

 

 更にシアが語る固有魔法の【未来視】とは、任意で発動する場合には仮定した選択の結果としての未来が視えるというものだけど、それをやる為には膨大なる魔力、一回で枯渇寸前になる程に消耗してしまう。

 

 パッシブの場合もあり、直接と間接を問わずシアにとって危険と思える状況が迫ってる場合に発動する。

 

 此方も魔力を可成り消費するが、アクティブトリガー程ではなく、約三分の一くらいの消費だとか。

 

 シアは元居た場所にて、ユート達が居る方に行くとどうなるのか?

 

 そんな仮定の選択をし、結果として自分と家族達を護ってくれる白髪で隻眼の男が視えたらしい。

 

 それ故に彼を捜す為に、こんな危険極まりない場所に飛び出してきて、単独の行動をしていたのだとか。

 

 救い主に相当、興奮していたのであろうが……現れたのはまさかの別人。

 

 それでも一縷の望みに賭けて接触したのである。

 

「ねぇ、少し思ったんだけどさ……そんなに凄い固有魔法持っているってのに、何で貴女の事バレたの? 危険を事前に察知出来るのなら【フェアベルゲン】の人達にもバレなかったんじゃない?」

 

「はう! じ、自分で使った場合は暫く【未来視】は使えなくなりまして……」

 

「バレた時は既に使った後だった? いったい何に使ったのよ?」

 

「ちょ〜っとですねぇ……友人の辿る恋路が気になりまして……」

 

「出歯亀じゃないのよ! 貴女、貴重な魔法を何に使ってる訳!?」

 

「あうぅ、今は猛省をしておりますぅ〜」

 

「残念ウサギとしか思えないわねまったく」

 

 運転中じゃなければ頭を抱えていただろう。

 

「ユートさん、皆さん! もう直ぐ父様達、皆が居る場所ですぅ!」

 

「耳元で怒鳴らないでよ! 飛ばすわよ!」

 

 雫はマシンゼクトロンのアクセル全開に、ユートもマシンディケイダー全開で高速スピードで走った。

 

 勿論、香織もシャドウチェイサーを飛ばすのだが、彼女の場合は謂わばAIがやっている事である。

 

「見付けた。ウサミミ付けたオッサン……無駄に美形とかがワイバーン擬きに襲われているな」

 

 ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み、兎にも角にも必死に体を縮めているのだが、ウサミミだけがちょこんと見えていた。

 

「何て言うか、身体隠してウサミミ隠さずだよな」

 

 中にはシア並の美少女でウサミミとか、眼福な娘も居るみたいなのだが……

 

 人数は二〇人ちょっと、見えない連中も合わせれば確かに、シアが言っていた通り四〇人程度であろう。

 

 兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも中々御目に掛かれなかった飛行型の魔物、ワイバーンに近しい姿をしているからワイバーン擬きと呼んだ。

 

 体長は三〜五m程度で、鋭い爪と牙を持った凶悪さに加え、モーニングスターの様に先端が膨らんで刺が付いた長い尻尾。

 

「ハ、ハイベリア……」

 

 雫の後ろのシアが震える声で呟いた。

 

 空を悠然と飛翔している六匹の【ハイベリア】なる魔物は、ウサミミ人間たる兎人族を狩るべき獲物として見定め、舌舐め擦りでもしているかの様だ。

 

 ハイベリアの一匹が遂に行動を起こし、大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下、一回転をして遠心力の乗った尻尾により岩を殴り付ける。

 

 破壊音と共に大きな岩が粉砕され、兎人族の子供が絶叫を上げながら這い出してきて、兎人族の男性が慌てて掴んだ結果として二人は縺れ合い転倒。

 

 近場に居た美少女兎人族が悲鳴を上げる。

 

 ハイベリアはその顎門を開き、無力な兎を喰らおうと兎人族の子供と男性へと狙いを定めた。

 

 凄まじい一撃で腰が抜けたのだろう、動けないでいる子供に男性の兎人族が覆い被さり何とか庇おうとしている。

 

 兎人族の美少女は同胞のその先の未来を幻視したらしく、カタカタ震えながら地面を生温かい液体で濡らしてしまっていた。

 

「無駄に器量良しで無駄に肉付きが良くて、愛玩動物か性奴隷か食肉かと正しく無駄に獲物なんだな」

 

「あ、嗚呼……」

 

 シアも絶望の表情となっていた。

 

「助けるのが契約だ」

 

《ZERO ONE DRIVER!》

 

 マシンディケイダーを走らせながら、ユートは腰に飛電ゼロワンドライバーを装着し、右手にはマゼンタのプログライズキー。

 

《WING!》

 

 オーソライザーで認証。

 

《AUTHORIZE》

 

「今回は空中戦で戦ぁぁぁってやるぜ! 変身っ!」

 

《PROGRIZE》

 

 バックル右側のスロットへ装填した。

 

《FLY TO THE SKY! FLYING FALCON!》

 

 黄色のラインの飛蝗型なライダモデル、マゼンタのラインな隼型ライダモデルが同時にユートへ合着。

 

 ライジングホッパーとしての部分が移動、マゼンタのフライングファルコンが基調となる姿となった。

 

 太股やボディにショルダーに仮面がマゼンタカラーなフライングファルコン、然しながらライジングホッパーの黄色が端々に散見がされる姿に、複眼は赤から緑に変化をしている。

 

SPREAD YOUR WINGS AND PREPARD FOR A FORCE(翼を広げ、風力を受け止めろ)

 

「仮面ライダーゼロワン、それが僕の名だ!」

 

 オートに変えてユエを残す形にて、マシンディケイダーから翔び上がった。

 

「……と、翔んだ?」

 

 マシンディケイダーに乗りながら、変身をした仮面ライダーがゼロワンとか。

 

 高速飛行で肉食未遂現場まで現着……

 

「おりゃぁぁあっ!」

 

 ユートは蹴りの体勢にて突っ込み、でハイベリアのド頭をブッ飛ばす。

 

『ギィィヤァァァッ!?』

 

 あっさりと頭を粉砕されてしまい、蹴りの威力から肉体が崖に激突して肉片化したハイベリア。

 

「ふん、やっぱりオルクス大迷宮の深部の魔物に比べると雑魚いな」

 

「ヒィッ!」

 

 兎人族の子供が股座を濡らしながら後退る。

 

 端から視ればハイベリアという魔物を、別の魔物がブッ飛ばした図でしか無いのだろう、つまりは次なる獲物はやはり自分と考えても仕方がない。

 

 人語を喋った事に関しては聞いてなかったらしく、華麗? にスルーをされてしまった様である。

 

 取り敢えず子供は無視、可愛い女の子なら誤解も解きたいが、子供でしかも男なら今すぐ誤解を解く意味も無いだろうから。

 

 まぁ、少し向こう側では地面を同じく濡らしているシアと同年代らしき女の子が恐怖に戦慄しているが、この際だからそちらも見ない振りをしてやった。

 

 十代後半女子としては、年頃の男子……ユートは既に数千年ばかり存在しているが……に視られたくない姿だろうから。

 

 粗相をしたなんて。

 

「雑魚ならすぐに済むな」

 

 再び翔び上がったユートは二匹目のハイベリアへと向かい、アタッシュカリバーを取り出して斬る。

 

『グギャッ!』

 

 首を落とされてしまい、自らも落下して逝った。

 

「固まってくれたか」

 

《CHARGE RIZE》

 

 一旦、アタッシュカリバーを閉じて充填。

 

 フライングファルコン・プログライズキーをベルトから抜き出し……

 

《FLYING FALCON ABILITY……》

 

それをアタッシュカリバーのスロットへと装填。

 

《PROGRIZE KEY CONFIRMED READY TO UTILIZE》

 

 再び開く。

 

《FULL CHARGE!》

 

「お前らを止められるのは唯一人……僕だ!」

 

《FLYING》

 

「ギャバ……じゃなくて、カバンダイナミック!」

 

《KABAN DYNAMIC!》

 

 凄まじいエネルギー斬撃を放つタイプで、ユートはカバンダイナミックという必殺技を極める。

 

 それにより固まって行動していたハイベリア共は、纏めて斬撃の嵐に呑み込まれて消え逝くのみ。

 

 ウサミミ連中は皆が揃って青褪めていた。

 

 弱い彼らにとってみればハイベリアもゼロワンも、等しく滅びを与えん事を……的脅威に移るのだろう。

 

 失礼な話だがそれは仕方がない事、仮面ライダーは見た目がヒーローというのは日本で慣れているからに過ぎず、見慣れない者からすればやっぱり怪人と何ら変わらないのだから。

 

 そも、仮面ライダー1号からしてショッカーの怪人たるバッタ男、異形な身体に秘めたる力を護る為に揮うからこそのヒーローだ。

 

「正義でも悪でも、殺し合う人はみんな悪魔だから」

 

 だけど自然界では当然、こうして殺し合って生き残りを懸ける。

 

 食欲なだけにある意味、純粋な殺し合いだろう。

 

 其処に人間みたいな悪意など無いのだから。

 

 地面に降り立つユート、仮面ライダーゼロワンを視るハウリア族の面々には、明らかな恐怖心がまざまざと表れている。

 

 フライングファルコン・プログライズキーを抜き、変身を解除してみても変わらないのは、亜人族としては最弱の彼ら兎人族は人間ですら、自分達の生活を脅かす脅威にしかならないからであろう。

 

「あ、貴方はいったい?」

 

 初老にもまだ差し掛からない男性が、ユートの方を見ながら問うてくる。

 

「ハウリア族だな?」

 

「は、はい……」

 

「シア・ハウリアと結んだ契約に則り救出した」

 

「……え? 娘と……結んだ契約ですか?」

 

「娘?」

 

「私はカム・ハウリア……ハウリア族の族長であり、シアの父親です」

 

「成程、だいたい判った。どうやらシアは母親似だったみたいだな」

 

 目の前の父親を名乗ったカムはシアと似ていない、ならDNAの殆んどは母親から受け継いだのだろう。

 

「とおさまぁぁぁっ!」

 

 折り良くというべきか、雫が乗るマシンゼクトロンがシアを後ろに乗せ追い付いて来た。

 

「シア、無事だったのか! 良かった!」

 

「父様! 皆も無事で何よりですぅ!」

 

 シアの登場にハウリア族は漸く一息吐く。

 

「あっという間だったみたいね、優斗」

 

 ハイベリアの肉片を見つめながら、雫はやれやれと肩を竦めてしまう。

 

「所詮は地上の魔物って処だからな。オルクス大迷宮みたいな強さは多分だが、無いんだろうね」

 

 空飛ぶ魔物で緊急を要したから、仮面ライダーゼロワン・フライングファルコンで出たユートだったが、魔物はダイヘドアと変わらない程度の強さ。

 

 過剰戦力だった。

 

 シアからの説明を受けたカムが近付いてくる。

 

「ユート殿で宜しいか? この度はシアのみならず、我が一族の窮地をお助け頂き何と御礼を言えば良いのか判りませぬ。父として、そして族長として深く感謝を致します」

 

「構わない。対価はきちんと貰ったからな」

 

「対価……ですか……」

 

 シアの首に着けられている翠の首輪、それが謂わば奴隷の証たる首輪だとシアから聞いており、やっぱり父親としては難しい表情にならざるを得ない。

 

 妻の忘れ形見でもあり、魔力持ちで魔物の技能たる魔力操作を持つとはいえ、可愛がって育てた実の娘が奴隷となるなど、父親としては許容も出来なかった。

 

 だが然し、こうして助けられたからには対価を支払わねばならないのは理解も出来たし、寧ろ無意味にも無料で助けられたりしたら裏を疑うレベルの話。

 

 シアは胸元と腰周りと脚と腕を、申し訳程度で隠している踊り子なのかと見紛う格好だが、決してビッチとかではない貞淑さを持ち合わせている。

 

 それが奴隷になるなど、明日には処女喪失の報せが来そうで怖い。

 

 人間族と同じで亜人族も処女膜を持ち、処女という概念も併せ持っているし、男と目合うと膜を擦り切られてしまい、処女喪失だとも理解していた。

 

「わ、私が代わりに奴隷となりますからシアは解放して戴けませんか?」

 

「オッサンを奴隷にして、いったい誰得だよ!?」

 

 シアの格好をしたカム、悍ましい想像をしてしまい吐き気を催すユート、更に後ろではやはり想像したらしい雫と香織が手で口元を押さえている。

 

「父様、大丈夫ですぅ! ユートさんは約束の通りに一族を救ってくれました。私は喜んでこの身を捧げる所存ですぅ」

 

「シ、シア!」

 

 ぶわわっと涙を流すカムを視て、悪役だなと今更ながら思ったりするのだが、だからといってシア奴隷化を止める気は更々無い。

 

「ああ、寸劇は終わってくれないかな?」

 

 取り敢えず止める。

 

「それで、シアを連れて行くのは決定として……だ。あんたらはこれからどうやって生きていく?」

 

「どうやってとは?」

 

「最弱の兎人族。待っているのは魔物の餌か、或いは帝国兵や奴隷商人に捕まって奴隷となるか」

 

「……うっ!」

 

「シアとの契約は果たした訳だが、これから先も変わらない生活をするんだろ? そうなると結局は近い内に全滅するぞ」

 

「それは……」

 

「今までは【フェアベルゲン】の庇護が有ったから、蔑まれながらも安全だけは保証もされていたろうが、今はそれも無いんだから」

 

「その通りですな……」

 

 カムもそれは認めた。

 

「僕に示せる全滅を避ける道は二つ」

 

「二つも?」

 

「一つは胸糞悪くなるかも知れないけど、シア以外の年頃な女の子を僕が引き取る事で、相対的に全滅を避けるという方法だ」

 

「そ、それは……」

 

 ラナ・ハウリアやミナ・ハウリアなど、シアよりも歳上ながら若い女の子は確かに居るし、彼女らが無事ならハウリアが根絶やしにはならない筈。

 

 若しハウリア族とは違う一族と出逢い、子を成せばハウリアの血は残る。

 

 仮にユートが全員を抱いてハーフとはいえ子を成しても、一応だけどハウリアの血族は残せるだろう。

 

 か細い糸みたいな可能性に過ぎないが……

 

 カムがソッと見遣れば、ラナ達は自身に起きるだろう出来事に震えていた。

 

 ユートが言う通り胸糞悪くなる方法である。

 

「二つと言いましたな? では今一つとは……」

 

「お前達、ハウリア族を僕が強くする!」

 

「は、ぁ?」

 

「最弱の兎人族という悪評はどうでも良い。そいつを覆して強くなればお前達は生きていけるだろう?」

 

「む、無理ですよ!」

 

「やる気がなけりゃあな。だが、素質とやる気が皆無でさえないなら、僕が強くしてやれる」

 

「た、対価とかは?」

 

「これに関しては無料だ。シアの奴隷化はちょっと貰い過ぎな面もあるしな」

 

「貰い過ぎ?」

 

「対価は均等にだ。与え過ぎても貰い過ぎてもいけないんだよ」

 

「そうですか……」

 

「一部を奴隷にするのは、奉仕に対する生活の保証とかで相殺になる」

 

 ビクッと震えるハウリアの女の子達。

 

「好きな方を選べ」

 

 カムの決断次第で色々と変わる、それが理解出来るが故に不安そうなハウリアの女の子達。

 

「強く……なれますか?」

 

「断言しよう。僕が一年間を使って君らを鍛え上げたなら、間違いなく亜人族の最強をも越える……と」

 

「く、熊人族をも!?」

 

 どうやら熊人族とやらが亜人族で最強らしい。

 

「ちょ、ちょっと待って! 一年間って言ったけど、まさかハウリア族の強化に一年も使う気?」

 

「ああ、一年間は修業しないといけない。短時間で身に付くのは根拠の無い自信と付け焼き刃くらいだぞ。雫はそれをよく識っていると思ったが?」

 

「わ、解るけど! 帰還とかどうするのよ!?」

 

「心配するな。良い魔導具が有るんだよ」

 

 ユートはハウリア族を引き連れ、再びオルクス大迷宮へと籠る。

 

「また此処に……」

 

「邪魔が入らない様にな。それに強くなったら大迷宮の魔物は指標になる」

 

「はぁ、それで? 優斗の言う魔導具ってのは?」

 

「コイツだ」

 

 取り出したるは球形で、硝子張りなジオラマ……というか呼び方はダイオラマであった。

 

「ダイオラマ魔法球と云ってな、コイツの内部で外部の一日を過ごすと三〇日間が過ぎるって代物だ」

 

 某・第三王女から贈られた物である。

 

「一日が一ヶ月って事? つまり一二日間で約一年間が過ぎる……」

 

 三六〇日なら五日間ばかり足りないが、凡そ一年間が過ぎる計算だった。

 

「ま、余り女の子にはお勧めしないけどな」

 

「ああ、歳を取るものね」

 

「それは嫌かな……」

 

 雫も香織も若いとはいえ女の子、歳を経るのは普通に抵抗があったらしい。

 

「其処で僕との【閃姫契約】が活きる。取り敢えずは年齢を重ねないからな」

 

「ま、マジに?」

 

「ああ。僕と同じ刻を在り続ける祝福にして呪いだ」

 

 祝いと呪いは似た漢字、若い侭で変わらず在り続けるのは人の欲を体現してはいるが、持ったら持ったで死にたがる者も居る。

 

 全く困ったものだ。

 

「この中で兎人族を鍛えてやるさ」

 

 兎人族は隠密性に長けていると聞くし、その長所を伸ばしながら他も鍛える。

 

 恐らく白筋肉の割合が多いだろう兎人族、緒方家により脈々と受け継がれてきたピンク筋肉を作り鍛える方法で、少しでもそれを増やして鍛えれば、熊人族とやらが幅を効かせているのもすぐに終焉の刻!

 

「ま、取り敢えず意識改革からだがな」

 

 あんな雑魚を相手に震えるメンタルでは話にならないし、気弱な種族だとも聞いているから下手すれば、魔物すら殺せない可能性もあるからだ。

 

 ユートはニヤリと口角を吊り上げ、ハウリア族強化計画を練り始めた。

 

 

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 月曜日から残業強化週間に入る為、投稿がやり難くなります……はぁ。




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第23話:ハウリアの一族に逆襲の機会を

 日曜に書けるだけ書いて何とか投稿に漕ぎ着けました。





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 修業、それは技芸や学問を修める行為。

 

 修業、それは力無き者が力を得る為の通過儀礼。

 

 修業、それは弱い心根を叩き直すハー○マン軍曹。

 

 ユートは精神修養から入って、肉体をこれでもかと苛める物理修業をさせた。

 

 戦いになって戦えませんとか、洒落にもならないと考えていたユートだけど、まさかの全員がそれだったのには恐れ入ったものだ。

 

 魔物を一匹、殺すだけにまるで罪深い自分達を叱咤しながら殺り、花や虫を踏み潰さない様に自分が痛い思いをしてでも避けた。

 

 某・宇宙刑事に名も無い花を踏み付けられない様になろうとか在るのだけど、本当に踏み付けられないと言われた日には、ユートも頭を抱えたくなった。

 

 恐るべしハウリア族。

 

 別に殺しに慣れろとか、外道に成れとか言う心算は更々無いが、殺るべき時に殺れないなど自身だけではなく仲間をも殺す愚行。

 

 このトータスは日本とは違い、生命が恐ろしい程に軽い世界なのだ。

 

 何しろ、ユーキから聞いた【ありふれた職業で世界最強】の世界というのは、神を名乗るエヒトルジュエがゲームの盤上と考えて、人間族も魔人族も亜人族も全てを盤上の駒扱いをしているくらいだから。

 

 勇者(笑)も所詮は偽神が力を与えたに過ぎない為、神の使徒の出来損ないにすら劣る程度のスペック。

 

 こんな世界で命を護るのならば、他者の命を軽んじるのも致し方無しである。

 

 帝国兵など嗤いながら、兎人族を捕らえ殺し犯す。

 

 ならば自分達が奴らを殺したとして、何が悪いと云うのだろうか……と。

 

 勿論、無意味に無辜なる者を殺害するのは悪だ。

 

 罰せられるべき悪徳だ。

 

 だが、嗤いながら悪徳を成す者を殺すのは悪か?

 

 悪ではあるだろう。

 

 人殺しはいけない事だと法律も存在するからだ。

 

 だけどユートは言う。

 

「亜人族はケモノ風情だ、ならば殺しても我々は決して罰せられない。寧ろ神の加護無きケモノ風情が死んで神に詫びろ……くらい、神殿騎士とかなら言うらしいぞ? なのに君らはそれを許容するのかな?」

 

 これもユーキ情報。

 

 原典では愛子先生の護衛だった神殿騎士デビッド、彼がシアを称してそう明言をしたらしい。

 

 尚、ハジメにぶっ飛ばされたとも聞いたが……

 

 ユートは精神修養によりハウリア族の精神強化を、かといって倫理を投げ捨てさせる心算も無い。

 

 善には善を悪には悪を、誠意には誠意を仇には仇を返す事を覚えさせる。

 

 肉体修業でピンク筋肉、タイプⅡα繊維を増やす事により、戦いをし易い肉体へと変えていくのも忘れずに行った。

 

 持久力の赤筋と瞬発力の白筋、その中間でどちらの特徴も併せ持つピンク筋。

 

 緒方家ではどちらも必須とし、このタイプⅡα繊維を鍛え作る方法を伝えてきたのである。

 

「ですぅ! ですぅ!」

 

 瞬発力は高い兎人族は、ピンク筋を作り易い。

 

 そもそもがピンク筋とは白筋に赤いミトコンドリアが増え、ピンク筋へと変化をしたモノだからだ。

 

 一年間は長い様で短い、そんな短期間でも鍛え上げれば強くなる。

 

 とはいえ、DBみたいな激的なパワーアップなど、普通は見込めない話だ。

 

「取り敢えず、ピンク筋が確りし始めたら重力修業も始めないとな」

 

 序でに香織と雫も修業を始めている。

 

 香織は武神流閃華裂光拳の修業、あの過剰回復呪文(マホイミ)と同じ効力を得られる秘拳なら、魔物とか亜人族とか魔人族の区別も無く破壊が可能だろうし、ちょっと試しに創ってみたエヒトルジュエの使徒たるリューンのコピー体へと、ユート自身が閃華裂光拳を放ったら、間違いなく破壊する事が出来た辺りを鑑みれば、やはりあれも生命体の括りだったらしいし。

 

 可成り凶悪な切札だ。

 

 雫は純粋に剣技を磨く、やはり天職が剣士であるのも然る事ながら、サソードで抜刀術は出来ないにせよ殆んど刀と遜色無い戦いが可能な上、アザンチウム製の刀をプレゼントされたのが嬉しかったらしい。

 

 正確には刃をトータス一硬いアザンチウム鉱石で、峰部分にシュタル鉱石という魔力次第で硬化するが、粘りを出せた物を使っての確りとした太刀だった。

 

 刀を頬にスリスリとする雫は、パル君なるハウリアの少年が涙目になったくらい怖かったらしい。

 

 抜刀術……八重樫流での居抜きが冴え渡るのだが、ユートの【緒方逸真流】を相手に磨きが掛かる。

 

 ユートの流派も戦国時代に初代が興して鍛え上げ、練りに練った超実戦用剣術であり、ユート自身も実戦で使ってきた技術だった。

 

 つまりは完全なる実戦を擬似的に体験が可能な為、訓練では得られない冴えを見せ始めたのだ。

 

 ステータスでは見えないナニかが確実に上がって、恐らくは純粋剣技に於いて云えば勇者(笑)君を最早、遥かに超越してしまっているのではなかろうか?

 

 まぁ、今の天之河光輝はレベルも1でステータス値は初期の一〇分の一程度、技能は言語理解のみでしかない無能勇者(笑)だが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その頃、件の天之河光輝はと云えば……

 

「あ、勇者さまぁ……」 

 

 漏れ出てくる天之河光輝の部屋からの甘い嬌声は、毎晩が取っ替え引っ替えで別の女のモノだった。

 

 あの日……帝国の使者と護衛にプラス皇帝がやって来た際、天之河光輝視点で自らに侍るべき香織と雫が悪党、緒方優斗にNTRをされてしまった事が判明。

 

 しかもボコボコにされ、死ぬかも知れないレベルで重傷を負わされてしまい、一応はエリキシル剤という薬をユートが置いていったから一命を取り留めたし、王宮の治癒師や辻 綾子の治癒魔法も有り、肉体的には復調もしたのだが……

 

 序でに云えば天之河光輝視点で恋人も同然だった筈の香織と雫を喪った事を、王宮に仕える女性達は決闘騒ぎを観ていた者の口から知っており、失意の勇者様を慰めるべく閨を供にしていて、勇者(笑)は目出度く童貞を卒業していた。

 

 勇者様で甘いマスクたるイケメン故に、王宮の一部を除くメイドや女性騎士や治癒師などが、天之河光輝からお情けを受けて悦んでいたのだと云う。

 

 尚、“一部”を除くというそれは雫を『お姉様』と慕うソウルシスターだ。

 

 ソウルシスターに男など不要、雫お義姉様さえ居れば良いのである。

 

 だから雫を連れ去ったという緒方優斗なんて悪党、いつか刺してやるなど危ない思考だったとか。

 

 本当に因みにだったりするのだが、近い将来でこのソウルシスターズはユートの策謀に嵌められ、全員が目出度く処女喪失をしてしまったと云う。

 

 雫に閨で泣き付かれて、ユートが一計を案じた結果の話である。

 

 

 閑話休題

 

 

 天之河光輝が色に溺れているのは、童貞を卒業して性の良さに覚醒したからでは決して無く、それも有るからだろうが……復調後に肉体が何故か重たく感じ、トータスに来たばかりの頃に感じた漲ぎる力を、まるで感じなくなったのを訝しんでステータスプレートを見たら、ステータスの値が初期値ですらない低さで、レベルも1に下がっていた上に、技能まで無くしてしまっていたからだ。

 

 これでは御飾り勇者。

 

 南雲ハジメの初期値にすら劣る能力値、技能無し、レベル1、オマケに聖剣は砕かれて喪われていたし、勇者用にと与えられていたアーティファクトの鎧なども修復不可能なくらい砕け散り、使える武具は一般的な鎧に一応はアーティファクトの剣くらい。

 

 しかもそれは雫が要らなくなったからと、王宮へと残したシャムシールっぽい半ばから折れた剣。

 

 それをお情けでハジメが繋ぎ合わせた物だ。

 

 無能と呼ばれていた筈の南雲ハジメ、それがどうやってかアーティファクトを修復する凄まじい錬成師。

 

 王宮の錬成師ですら及びも付かない腕前、その腕でつくり上げた仮面ライダーG3なる鎧と現代兵器。

 

 しかもどうやったのか、いつの間にか天之河光輝の元々のステータスを越える力を持っており、生身でも坂上龍太郎を打ち倒す。

 

 それに最近では頓に美しくなった恋人の恵里。

 

 彼女が基本的にハジメの部屋に入り浸り、食事などの世話を焼いているのは、王宮侍女なら誰もが知っている事実だと云う。

 

 普段の天之河光輝なら、『余り恵里に面倒を掛けるのはどうかと思うよ。彼女も君の世話ばかりしている訳にはいかないんだから』とか何とか言うのだけど、はっきり恋人宣言をしていては如何な御都合解釈主義の天之河光輝とはいえど、莫迦な発言が出来る筈も無かったのだと云う。

 

 というかだ、ハジメ君の恋人だと嬉しそうに言って回る恵里を見て、それで尚も莫迦を言える程の勇者ではない勇者(笑)だった。

 

 一応の訓練はするけど、実戦訓練としてオルクス大迷宮に入るのは、肉体的な不調を理由に延ばしている状況で、それが許されているのはユートが生きて連れ帰った畑山愛子先生が物申したから。

 

 作農師として働いているその代わりに、戦いに出たくない生徒を戦わせないと契約を交わしたのだ。

 

 それだけ作農師の働きは期待されており、ユートが連れて帰ったお陰もあって責められない状態とか。

 

 益々以てイラ付いていた天之河光輝、メイドを部屋に連れ込んでは性欲を吐き出していた。

 

 何度視てもステータスプレートの値は変わらずで、訓練で一応の数値上昇こそあるが、今までみたいな上がり方ではなかった。

 

 これではレベルが最高値の100になったとして、能力値はどれも1000に届かないだろう。

 

 だからまた色に溺れている訳だが、実はメイドにしろ女性騎士にしろ数回も来たら来なくなる。

 

 順番云々ではない。

 

 天之河光輝は気付いていないが、早い話が下手くそだからである。

 

 そもそもが童貞卒業してすぐだし、苛立ちから自分の性欲発散だけで腰を振るから女性側が満足しない。

 

 出したらすぐに寝てしまうから、まるっきり単なるオ○ホ扱いである。

 

 つまりはダッチでヤってろという話だった。

 

 下手くそが出すだけ生で出すから、それこそ下手をしたら産まない予定の子供を孕みかねない。

 

 だから来なくなる。

 

 そんな負のスパイラルに気付かない天之河光輝は、今日も苛立ち紛れに中出しをしていた。

 

 暫く経って……

 

 結果、誰もが天之河光輝の御相手をしなくなる。

 

「ちくしょう、俺なんて……どうせ俺なんて……」

 

 ユートがシア・ハウリアと出逢い、ハウリア族達を鍛え始めた頃は右手が恋人と言わんばかり。

 

 オカズは香織や雫の写真であり、今や二人の写真は天之河光輝のアレでドロドロに汚れていた。

 

「どうせ俺なんて……」

 

「クスクス……良い具合にやさぐれてますねぇ」

 

「……え?」

 

「いつもニコニコ、貴方の隣に這い寄る混沌です」

 

「は?」

 

 天之河光輝の隣にはいつの間にか、長い銀髪に碧眼のアホ毛美少女が。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「大分、板に付いてきたみたいだな……」

 

 ハウリア族の修業を始めてから約半年が経過して、現実世界に於いては六日間が経過をした頃、ハウリアのパル君(一〇歳)でさえも戦い方が良くなった。

 

 最初の三ヶ月間は肉体の改造として、ピンク筋を増やす事と基礎固めを中心にやってきて、四ヶ月目から応用編も始めている。

 

 勿論、基礎は疎かにしない方向性で鍛え抜いた。

 

 更に二ヶ月が経った今、カム・ハウリアを中心とした一部隊が完成しており、捕まえてきた奈落の魔物を見事に殺している。

 

 危機察知能力と隠密性、兎人族が他の亜人族よりも高いのがこの二つであり、やはり忍系統の能力上げが一番覚えが早い。

 

「これなら今現在、造っているあれを渡せるだけには成長もしそうだ」

 

 先ず、ユートが優先をしたのが盗賊(スカウト)としての職能を上げる事。

 

 ステータスプレートには意図してか、それとも造る際にどうしても不可能だったのかは判らないのだが、削られた機能が存在している事に気付いた。

 

 ステータスプレート……魔力を含む血を着ける事により本人を走査、これによって名前と年齢と天職に加えて、天職に則した技能と各種能力値を記載する。

 

 その際にはプレートが、魔力光を反映していた。

 

 ユートなら闇色であり、ハジメなら空色、ユエだと緋色に変化をしている。

 

 また、能力値と技能に関しては隠蔽をする機能が有るのも把握した。

 

 そんな中で削られた機能らしきを発見、実際に跡から再現をしてみたら職能というのが顕れたのだ。

 

 アーティファクト故に、恐らく再現し切れなかったという処かと思ったけど、職能の中に“魔力操作”が存在しており、ひょっとしたら意図的に削った可能性も考えられる。

 

 魔物しか覚えられない、故に魔力操作を持つというのは魔物と同義、それなら亜人族が魔力操作を持つに至るのは何故か?

 

 恐らく亜人族は神を名乗るエヒトルジュエに造られた人種、森人族や土人族はファンタジーの鉄板だし、エヒトルジュエがユーキの言う通り、元が人間だった成れの果てならエルフとかドワーフを識り、造ろうと考えてもおかしくない。

 

 他の亜人族も似た経緯で生まれた人種、だが森人族は本来なら魔法に長けている筈なのに、この世界では亜人族は全て魔法を扱えないとされていた。

 

 当然ながら森人族もだ。

 

 エヒトルジュエはつまる話が失敗した。

 

 亜人族の全てが神の加護無き魔法を扱えぬ人種だとされるのは、この自ら犯した失敗に森人族へ八つ当たりしたからではないか?

 

 まぁ、想像の範疇でしかないのだが……

 

 だけど極稀に魔物としての先祖返り、魔力操作持ちが誕生する事があった。

 

 それが恐らくシアだし、ユエでもあるのだろう。

 

 更に数千年も前の亜人族の一人、リューティリス・ハルツィナだったのかも知れない。

 

 おかしな話だと思った。

 

 亜人族が魔力も待たないならば、何故にリューティリス・ハルツィナやメイル・メルジーネは神代魔法を操れたのか?

 

 まぁ、ユーキからメイル・メルジーネとは海人族と吸血種族のハーフらしく、吸血種族は魔法を扱えるとユエからも聞いていた為、その所為で扱えた可能性は高いが、リューティリス・ハルツィナは純森人族。

 

 この世界基準で魔力は持たない筈だ。

 

 その答えが先祖返りではあるが、ステータスプレートに削られた機能が有るとしたらそこら辺に関わりがありそうだった。

 

 結果、見付けた機能というのが“職能”であって、これは“有効化されてない技能”の事だと判明する。

 

 魔物を喰らうと技能を獲るのも、その魔物が持った技能が職能から有効化されるのが原因だろう。

 

 しかもポイント制とか、ファンタジー心を擽る。

 

 というか、ポイント制だから有効化しないと技能に追加されず、天職持ちだと幾つか天職に則した技能が自動的に有効化されるのだと理解した。

 

 亜人族は魔力操作自体が無い者が多く、造られたという存在故にかリソースを特殊な部位に奪われている感じである。

 

 リソースを奪われ切れなかったシアやリューティリスなどが、稀に魔力を持って産まれてくるらしい。

 

 ちょっと試したい事とか出来たけど、こればかりはユエやシアは元より香織や雫にも頼めなかった。

 

 頼めるのはハウリア族、それも女性だけである。

 

「ミナ・ハウリア」

 

「はい?」

 

「僕に抱かれて魔法少女になってみないか?」

 

「はぁ?」

 

 怪訝な表情となるミナ・ハウリア、然しその意味を理解したのか真っ赤な顔になって逃げ出した。

 

 好感度も稼がずにでは、こんなもんだろう。

 

「にしても、あの白いケダモノみたいな言い方は無かったかな」

 

 某・QB的な言い回しは流石に有り得なかったと、ちょっとだけ反省と後悔をしていたユートだと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後、ミナ・ハウリアとは多少のギクシャクとかあったが、特にそれ以上の事も無い侭に修業終了。

 

 一年間をシアも修業し、ユートからアイゼンⅡというデバイスを貰う。

 

 種類はアームドデバイスであり、ヴィータが使っている【グラーフアイゼン】をコピーした物だ。

 

 飽く迄も純粋なコピー品でしかないが、一応は追加機能も付けておいた。

 

「諸君、ハウリア族の戦士諸君! 君らは今や亜人族で最強を誇る熊人族にすら後れは取らない!」

 

『『『『おおっ!』』』』

 

 どよめくハウリア族。

 

「偵察の結果だが、諸君らの家族を殺害し奴隷化した帝国兵は、未だに諸君らを捜しているらしい!」

 

 今度はざわつく。

 

「諸君らを奴隷とする為、諸君らを愛玩動物か性欲を吐き出す道具としか視ていないが故の愚行! ならば諸君らのすべきな何か?」

 

「戦争であります!」

 

「慈悲はありません!」

 

「目にモノを!」

 

「狙い撃つまで!」

 

 口々に叫ぶ男達。

 

 女性達も帝国兵に思う処はあるのか、やはり嫌悪感を丸出しにしていた。

 

 何だか、ミナ・ハウリアだけは潤んだ瞳でユートを見ていたりするが……

 

「諸君らの気持ちは充分に理解した。良かろう、ならば戦争だ!」

 

『『『『『おおおおおおおおおおっ!』』』』』

 

 男女問わず喝采。

 

「卒業の証を授与するから取りに来い!」

 

 ユートがカム・ハウリアを始めに、ハウリア族へと渡すのは黒いプレート。

 

 刀みたいな意匠の飾り、松毬みたいな木の実の意匠が中心に有り、刀みたいな飾りを動かせば切れる感じに造られていた。

 

「量産型仮面ライダー黒影トルーパー。マツボックリロックシードは備え付け、装着したら専用化されるから気を付けろ」

 

 軽く説明されたカム。

 

「変身!」

 

《ICHIGEKI! IN THE SHADOW!》

 

 マツボックリアームズとかの掛け声は無く、その後の科白のみが電子音声にて響き渡る。

 

 仮面ライダー黒影は足軽や忍者がモチーフであり、危機察知能力や隠密性に長けるハウリアに丁度良い。

 

 能力自体は低めだけど、ハウリア族は全員が闘氣を操れる様にした為、肉体的には正しく熊人族にさえも拮抗以上の力を出せる。

 

 槍型の影松以外に本人の要望で銃や剣なども与え、完全に戦闘員と化してしまったハウリア族。

 

「あ、あの……」

 

「私のは?」

 

 シアとミナがソッと挙手をしながら訊く。

 

 シアは兎も角、ミナは抱かれるのから逃げたから、そんな風に解釈をして泣きそうである。

 

「シアはこれを」

 

「ブレスレットですか?」

 

「それからミナは、戸惑わせたから詫び代わりだ」

 

「え?」

 

 蒼と黒を主体にしている何かのグリップだった。

 

「シアはライダーブレス、仮面ライダーザビーに変身するツールだ。ミナの方はドレイクグリップ、仮面ライダードレイクに変身するツールとなる」

 

「仮面ライダー奴隷苦? 奴隷になって苦しめという事ですか!?」

 

「どんな勘違いをした! ドレイクはドラゴンフライといって、蜻蛉という地球の昆虫の事だよ!」

 

「あ、う……」

 

 恥ずかしさから真っ赤になるミナ。

 

「済まなかった」

 

「うぇ?」

 

「ちょっとした実験をしたくてな、それは魔力持ちには不可能だったんだ」

 

「魔力持ちには不可能」

 

 シアやユエを見る。

 

「そして性質上、僕がヤれるのは女の子のみだから。候補は数人ばかり居たが、偶然に目に付いた君を選んだんだ」

 

「その後、ラナやセナには実験? とかの声を掛けなかったんですか?」

 

「ヤる事が事だったから、君に断られたから他を当たるのは憚られた」

 

「そ、そうですか……」

 

「だから詫びの印。実験も別に付き合う必要は無い。やらなくても困る内容でも無くてな」

 

「どんな実験ですか?」

 

「魔力を持たない者に魔力を持たせる実験。上手くいく保証も無かったがね」

 

「……そうですか。これは受けとりますね」

 

「ああ、重ねて済まなかったなミナ」

 

「いえ……」

 

 ちょっとしたハプニングはあったが、遂にハウリア魔改造計画は終わった。

 

「では、諸君! ちょっと戦争してこようか」

 

『『『『応っ!』』』』

 

 ちょっとコンビニ行って来ようか……みたいなノリで戦いに向かうハウリア。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートの一行は階段に差し掛かり、先頭をユートとして順調に登っていく。

 

 というか、ハウリア族はシアとミナしか居ない。

 

 後は元々からパーティのユエと雫と香織のみ。

 

 そして遂には階段を上り切って、ユート達は無事にライセン大峡谷からの脱出を果たしていた。

 

 そんな登った崖の先に、帝国兵が屯ろっている。

 

「おいおい、マジかよ? 生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方無く残ってただけなんだがな、こいつぁ、いい土産が出来そうじゃないかよ」

 

 シアとミナを見ながら、帝国兵Aがニヤニヤしつつ言い放つ。

 

 三〇人は居る帝国兵に、周りは大型の馬車数台。

 

 野営の跡が残っていて、全員がカーキ色の軍服っぽい衣服を纏って、剣や槍に盾を携えてユート達を見るなり驚愕の表情を見せる。

 

 とはいえ、そんな表情も直ぐ喜色へと変えると品定めをする様に、シアとミナの二人を見ている。

 

「小隊長、白髪の兎人も居ますよ! 確か隊長が欲しがってましたよね?」

 

「へぇ、ツイてる。あれは絶対に殺すなよ?」

 

「小隊長様〜。もう一人、女が居ますし、ちょっとくらい味見しても良いっすよねぇ?」

 

「仕方がねーな。俺の後なら好きにしろや」

 

「おっひょ〜、さっすがは小隊長様だぜ! 話が判る人だよな!」

 

 好き勝手を言う連中に、二人は嫌悪感丸出し。

 

 当然だがユエ達もだ。

 

「それに、何だか綺麗処が三人も居るじゃねーか? コイツらも戴きだぜ」

 

 小隊長とやらがユエと雫と香織を、順番に睨め付けながら言った。

 

 帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、ユエ達をニヤニヤしながら視てた小隊長と呼ばれた男が、ユートの存在に気が付いたらしい。

 

「あん? お前は誰だ? どうやら兎人族じゃあ無さそうだがよ?」

 

「ああ、どちらかと云えば人間族だろうな」

 

「はぁ〜? なんで人間が兎人族と一緒に居るんだ? しかも峡谷から来たとか……若しかして奴隷商か? まぁ、別にどうでもいい事か。そいつら皆、国で引き取るから置いていけよ」

 

 断る筈が無いと断定したらしく、ユートに対し命令をする小隊長殿(笑)。

 

 ユートがそんな言葉に従う筈も無く、寧ろ戦いに来たのだから答えは……

 

「御断りだ」

 

「……今、何つったよ?」

 

「断ると言ったんだがね、お前は難聴か何かなの? シアは僕のモノ、ミナだって貴様如きには勿体無い。ユエも雫も香織も一人として渡す気なぞ無くってな。未だ死にたくないなら帝国に帰るんだな」

 

 返って来た不遜な言い方に小隊長(笑)は激怒。

 

「おい小僧、口の利き方には気を付けろよ。俺達が誰か解らないくらい頭が悪いのか?」

 

「だいたい判った。貴様らに頭が悪いとか、誰も言われたくないんじゃないかってのも……な」

 

 ピクピクと痙攣している額に、怒気を抑えながらも小隊長(笑)は続ける。

 

「成程、此方もよぉっ〜く判ったよ。てめぇが単なる世間知らず糞餓鬼だって事がなぁ。それならちょいとばかり世の中の厳しさってのを教えてやる。そっちの嬢ちゃんらはえらく別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯してから奴隷商に売っ払ってやるよ!」

 

 否、抑えてない。

 

「ならば戦争だ!」

 

 パチンと指を鳴らすと、シアとミナが叫んだ。

 

「ザビーゼクター!」

 

「ドレイクゼクター!」

 

 ザビーゼクターがジョウントを通り、シアの手の中に納まるとそれをライダーブレスに合着。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 左手首から姿が変化し、仮面ライダーザビー・マスクドフォームに変身する。

 

 一方のミナの握るドレイクグリップに、やはりジョウントを通って顕れ出てきたドレイクゼクターが勝手に合着される。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 グリップを持った右手から変化し、仮面ライダードレイク・マスクドフォームに変身をしたミナ。

 

「はぁ?」

 

 意味が解らず小隊長(笑)が声を出すが、そんな隙を見逃す二人ではない。

 

「アイゼンですぅ!」

 

 ガチャンガチャンッ! 巨大化してシアにピッタリなサイズになるハンマー、それがアイゼンⅡ。

 

「死んで!」

 

 ドパン!

 

「ギャッ!?」

 

 ミナのヘッドショット。

 

 小隊長(笑)の近場に居た帝国兵Aが、頭を吹き飛ばされて絶命した。

 

「なっ、てめえ!」

 

『『『『『『ウギャァァァァァァッ!?』』』』』』

 

「な、何だ!?」

 

 行き成り悲鳴が聴こえ、小隊長(笑)が振り向いたら其処には……

 

「は?」

 

 黒い鎧兜の異形が帝国兵を影松で刺している姿が、帝国兵連中は呆気なく全滅をしていた。

 

「ハウリア族による逆襲劇は愉しめたか?」

 

「な、んだと……」

 

 あの異形がハウリア族、何の冗談かと思ったのも束の間、すぐにも先程は二人のハウリアが姿を変えたのだと思い出す。

 

「御代は貴様の命だ」

 

「嫌だ、死にたくない! 俺はまだ死にたくねーよ! 待っ!」

 

「待たないですぅ! 轟天モード!」

 

 ギガントフォルムに相当するモードに形態変化し、それを冗談みたいに振り回すハウリアの異形。

 

「あ、悪魔め……」

 

 グシャッ! 敢えなく、地面の染みに変わってしまう小隊長(笑)の最後の科白には、ユートも思わず吹き出してしまったものだ。

 

 それらしきを原典で言ったのは、グラーフアイゼンの使い手だったから。

 

「皮肉が利いてるね」

 

 【フェアベルゲン】へと乗り込む前に、景気付けの勝利を得たハウリア族。

 

 ユート一行はリューティリス・ハルツィナが遺した【ハルツィナ大迷宮】を目指して一路、【フェアベルゲン】が存在している筈のハルツィナ大樹海へと向かうのだった。

 

 

.




 ちょっと意味不明な独自設定、ポイント性で技能を増やせるけど、機能は削られていました……と。




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第24話:ケモミミ男って誰得だろう?

 何とか書けました。





.

 ハルツィナ樹海。

 

 【フェアベルゲン】という亜人族の国が存在している樹海で、元々はシア達のハウリア族もこの国出身であったのが、魔力持ちとして生まれたシアをハウリアが匿い、最近になってそれが露見したから処断される前に逃げたらしい。

 

「つまり、弱い振りをしておくと?」

 

「そうだ。舐めて掛かってくれた方が好都合だしね」

 

 カム達との話し合いで、【フェアベルゲン】に於けるハウリアの動き方の相談をしているが、最初は強くなったのを殊更に強調しない方向性でいく心算だ。

 

 舐められていた方が油断を誘えるし、その上で連中を圧倒出来れば良い。

 

「ねぇ、優斗」

 

「どうした、雫?」

 

「会議をするのは良いんだけど、何で私を膝に乗せて後ろから抱き締めてるの? 嬉しいけど恥ずかしい、カムさんとかガン見してるんだもの」

 

 本気の羞恥心に目を背けるカム達。

 

「ほら、義妹がトータスにまで発生したって悩んでいただろ?」

 

「うう、そうだけど……」

 

 雫にとって義妹(ソウルシスター)とは、彼女への愛を拗らせた女性によって構成されているが、義妹と名乗りながら歳上まで居るのがシスタークオリティ。

 

 地球で義妹筆頭となるのは天之河妹、何かと雫へと絡むらしいがユートは見た事も無い。

 

 イケメン天之河光輝の妹なら、嘸や美少女なのだろうとは思うのだが……

 

「あ、一つ訊きたい」

 

「何だ?」

 

「私もね、仮面ライダーを知らない訳じゃないのよ」

 

「そうか?」

 

「うん。本当に軽い知識って感じなんだけどね」

 

「で?」

 

 雫に先を促す。

 

「仮面ライダーゼロワン、私にはそんな仮面ライダーの知識は無いわ」

 

 それはそうだ。

 

 仮面ライダーゼロワンとは令和ライダーの一号で、この世界では仮面ライダー鎧武が放映中。

 

 つまりは未来の仮面ライダーなのである。

 

「ふむ、それならちょっと見せよう」

 

 雫から少し離れて立ち、ネオディケイドライバーを腰に顕現させた。

 

 ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 仮面ライダーディケイドへと変身した。

 

「おお、これがユート殿が変身をする!」

 

 見ていたカムが興奮気味に叫んだ。

 

「次はこれだ」

 

《KAMEN RIDE DRIVE!》

 

「え?」

 

 真っ赤なボディにヘルメットみたいなフェイスに、左肩からタイヤみたいなのをくっ付けた姿に変わる。

 

「仮面ライダードライブ」

 

「ド、ドライブ?」

 

「更に……」

 

《KAMEN RIDE GHOST! LET's GO KAKUGO GO GO GO GHOST! GO GO GO GO》

 

「仮面ライダーゴースト」

 

「はい?」

 

 パーカーを被った橙色の仮面に黒い眼、仮面ライダーゴーストになるユートに訳が解らない雫。

 

《KAMEN RIDE EX-AID! MIGHTY JUMP MIGHTY KICK MIGHTY MIGHTY ACTION X!》

 

「コイツが、仮面ライダーエグゼイドだ」

 

 バッチリお目眼な異質、マゼンタな髪の毛を思わせる仮面、それが仮面ライダーエグゼイド。

 

《KAMEN RIDE BUILD! HAGANE NO MOON SAULT RABBIT & TANK YEAH!》

 

 スナップライドビルダーに挟まれて変身。

 

 赤と青のツートンカラーであり、複眼も右が青色で左が赤色となっている。

 

「仮面ライダービルド」

 

「知らないライダーばかりじゃないのよ!」

 

「そして……」

 

 次のカードを装填。

 

《KAMEN RIDE ZI-O! KAMEN RIDER ZI-O!》

 

 黒を主体としたアーマーであり、時計の針を模したアンテナで特徴的なのは眼が【ライダー】と書かれているという点だろう。

 

「これらが二〇一三年以降に活躍する仮面ライダー、ドライブ、ゴースト、エグゼイド、ビルド、更に平成最後の仮面ライダージオウという訳だな」

 

「平成……最後のって? え、天皇陛下が亡くなるって意味?」

 

「否、生きた侭で次に変わるらしいよ」

 

「らしいって?」

 

「僕も知らんからな」

 

 ユートは仮面ライダーだとフォーゼの頃までしか生きてない為、その先の事など判る筈もなかった。

 

 そこら辺の情報はだいたいが狼摩白夜から齎らされており、飽く迄も情報だけでしか識らないのである。

 

「あれ、それじゃゼロワンってどうなるのよ? 最後のがジオウっていうなら」

 

「仮面ライダーゼロワンは令和最初のライダーだよ」

 

「れいわ、新しい元号!」

 

「そう。仮面ライダーゼロワンはつまり01だから、令和01でありレイワンでレイワでもあるな」

 

「二重に引っ掛け……」

 

 既に雫と香織にはユートが転生者だと、オルクス大迷宮を出る前に教えているから納得はしたらしい。

 

「ゼロワンドライバーって造ったばかりだったしな、テストも碌すっぽしていないから丁度良かったのさ。大して強くないし」

 

 大して強くない魔物共、確かに性能テストをするのには悪くない環境。

 

「いやいや、私はサソードにならないと大迷宮の魔物は斃せないんだけど?」

 

 流石に地上の魔物に後れを取りはしないだろうが、まだ大迷宮の魔物とガチに勝負して勝てる自信が雫には無い。

 

 やはり蹴り兎に敗北したのが自信喪失の原因か。

 

 実際のステータス的問題もあり、雫の数値はユートに抱かれて可成り上昇してはいるが、タイマン張らして貰えば何とかなるけど、群だと流石にヤバかった。

 

「大丈夫。雫も闘氣を修得したし、魔力との融合まではまだ出来ないにしても、相当の実力になっているのは間違いないよ」

 

 闘氣による身体強化は、雫的に力より相性が良くて扱い易い。

 

「それに今も見事な纒だ。そうやって続けていれば、必ず大成するよ」

 

「う、うん……」

 

 ちょっと照れながら頷く雫は半端無く可愛かった。

 内側から放たれる闘氣、これを揺らぎ無く身体の周りに纏わせる【纒】。

 

 【狩人×狩人】に於ける念の四大行というのだが、魔力や闘氣や霊力などでも普通に応用が利く。

 

 雫、シア、ユエ、香織の四人はこの基礎たる四大行を【発】を除いて一年間、確りと修業をしていた。

 

 それはカム達もだが……

 

 魔力を持たぬ亜人族達、然し生命体であるからには氣は存在する為、闘う為の氣……即ち闘氣を覚えさせるのは必定。

 

 とはいえ、『やれ』と言われて『はい』とソッコーで出来る筈も無かったし、身体で覚えさせた方が早いから、【心転身の術】を用いて相手を乗っ取った上、闘氣をその身体で扱ってやり【纒】と【絶】と【練】を実際に行った。

 

 尚、ハウリア族は【絶】が凄まじく上手かったり。

 

 四三人分の【心転身の術】は時間が掛かったけど、全員が闘氣を扱える様になったから甲斐はある。

 

 クラスメイトにもやれば闘氣を扱える様になったのだろうが、シアが身内となったからシアの家族であるハウリアを強化したけど、わざわざクラスメイトなんていう“他人”に此処までやってやる気は無い。

 

 ならハジメと優花は? と思うだろうが、そもそもこの強化はハウリア族独立を掲げるのに必要だったから思い立ったに過ぎない。

 

 つまり、クラスメイトと再会した時には思い出しもしなかった方法だ。

 

 確実に強化が可能な方法なのは、再誕世界で出逢ったゲートの向こうの住人、テュカ・ルナ・マルソー、ユノ・ルナ・エルシャー、ロゥリィ・マーキュリー、レレイ・ラ・レレーナなどにやって判っている事ではあるのだけど。

 

 これはこれで割と面倒臭いと云うのもある。

 

 それに大概は仮面ライダーの一つも渡せば、何とかなってしまうのも拍車を掛けているのだろう。

 

「そういえば、優斗が一番好きな仮面ライダーは?」

 

「仮面ライダーブレイド」

 

 だからこそ仮面ライダーアルビオンや仮面ライダードライグへの変身方法は、ターンアップやオープンアップの方式なのだ。

 

「そうなんだ。ジョーカードライバーはそれが理由だったりするの?」

 

「んにゃ。単純にカリスラウザーは義妹のユーキに渡していてね、新しく造ったのがジョーカーラウザーを元にしたドライバーだったってだけだよ。元ネタ……判るかどうか知らないが、四条ハジメって奴が使っていたカリスラウザー」

 

「確か、仮面ライダーディケイドの【ブレイドの世界】に出てくる社長よね?」

 

「当たり。あれの中央部を緑にしたのが香織に渡したジョーカードライバーだ。能力は特に変わらんがね」

 

「じゃあ、香織のあの変身って?」

 

「僕が斃したエヒトの使徒リューン。本人曰く出来損ないで、完成品より能力が低いみたいだな」

 

「そうなんだ」

 

「仮面ライダーカリスも、マンティスアンデッドの真の名前がカリスだったからみたいだし、仮面ライダーリューンもソコからだ」

 

「ああ、そういえばそんな設定よね確か。イーグルアンデッドとライバル関係みたいだったっけ?」

 

「らしいね」

 

 サソードとどっこいどっこいがリューン、完全なるエヒトの使徒は全能力値が12000らしい訳だし、斃せない程じゃないレベルなのは助かる。

 

 馬車に揺られて数時間、漸くでというべきだろうか一行は、【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着。

 

 樹海の外から見る限り、単なる鬱蒼とした森にしか見えないが、一度中に入ると直ぐにも霧に覆われてしまうらしい。

 

「それではユート殿、中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆さんを中心にして進みますけど、万が一はぐれると厄介ですからな。それと行き先は、森の深部の大樹の下で本当に宜しいのですな?」

 

「まぁな。聞いた限りで、そこが真の迷宮と関係してそうだからね」

 

 カムから樹海での注意と行き先の確認をされた。

 

 大樹というのは【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大なる一本樹木の事で、亜人達には【大樹ウーア・アルト】と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づく者は居ないのだとか、ユーキ経由で聞いた話だ。

 

「さて、と……」

 

 ユートは識っている。

 

(どうせ今回は入れない。必要なのは【四つの証】、【再生の力】、【紡がれた絆】だったな)

 

 【四つの証】はオルクス大迷宮で手に入れた指輪、オスカー・オルクスの紋章付きのこれだろう。

 

 恐らく最低限、四ヶ所を廻って【オルクスの指輪】と同じ物を持ってこいと、そういう話なのだ。

 

(【再生の力】も神代魔法にあった【再生魔法】の事だろうし、メイル・メルジーネの迷宮に行かないと)

 

 海人族と吸血族のハーフであり、再生魔法の使い手だったメイル・メルジーネの迷宮は、当然ながら海に存在している。

 

 

 ユート達はカム達を先頭に樹海内を歩む事に。

 

 【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮と思われているのだが、樹海の魔物共は奈落の底の魔物と同レベルが彷徨う魔境という事になってしまい、とても亜人達が住める場所ではなくなるであろう。

 

 それ故にユートは樹海の奥に、【オルクス大迷宮】みたいな真の迷宮の入口が何処かに有ると踏んだ。

 

 カムから聞いた【大樹】は正しく、怪しさ大爆発と云える場所である。

 

「それとユート殿、出来る限り気配は消して貰えますかな。大樹は神聖な場所とされております、余り近付く者などは居りませんが、特別禁止されている訳でも無いので、【フェアベルゲン】や他の集落の者達とも遭遇してしまうかもしれません。我々は……その……お尋ね者なので見付かると厄介なのです」

 

「ああ……僕もユエ達も、ある程度の隠密行動は出来るから大丈夫だよ」

 

 ユエも香織も雫も、奈落で培った方法で気配を薄くしていき、ユートはいつも通りに気配を辺りに混ぜるという手法。

 

「ッ!? これは、また……ユート殿、出来たらユエ殿と同じくらいにして貰えますかな?」

 

「ん? やり過ぎたか?」

 

「はい、結構です。話には聞いていましたが、あんなレベルで気配を辺りに混ぜられてしまっては、我々でも見失いかねませんな〜。全く流石ですなぁ!」

 

 兎人族は全体的に身体のスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。

 

 それは地上に居ながら、奈落で鍛えていたユエと同レベル、そう考えれば彼らの優秀さが分かる筈だ。

 

 正に達人級といえるが、ユートのソレは有り得ないレベルで上を行く。

 

 そもそも気配とは万物が持つ為、動かぬ樹や岩でも実は喧しいレベルで気配を感知が出来てしまうもの。

 

 気配を消す【氣殺】は、確かに当人が持つ気配を辺りから消すが、その代わりに気配の空白地が出来る。

 達人の中で更なる上級者となれば、そんな空白地を違和感として感じる事すら出来てしまう為、下手に消しても居場所を知られてしまう可能性があった。

 

 ユートのは気配を辺りの気配に同化させている為、そんな空白地という違和感が顕れたりしない。

 

 その上で【氣殺】自体は出来ているから、本気になれば目の前に居ながらにして姿を消してしまうに等しいレベルで感知不能に。

 

 カムは修業で感知力をも以前より凌いだ自信があったけど、人間族でありながら自分達の唯一の強みすら凌駕されて苦笑いとなる。

 

 ユエはユートの優秀さに我が事の如く自慢気に無い胸を張り、香織と雫は未だに追い付いてすらいない事が信じられず、シアは複雑そうな表情となっていた。

 

 ユートはいずれ旅立つと知っており、シアとしては一緒に行きたい考えだ。

 

 元々がハウリア族からは距離を取る気だったけど、一人旅はカム達が付いて来そうだったし、ユートから交換条件で奴隷にされたのはある意味で助かる。

 

 だけどユートの実力は、仮面ライダーとか何だとか無関係に高く、足手纏いになって捨てられないかとか考えてしまうのだ。

 

 女としてはハウリア族であるシアも自信アリだが、ユエは見た目に幼い顔立ちながら妖艶で、知識だけは嘗て王族だっただけあってか豊富、後は知識を実践で使って擦り合わせていき、ユートの性欲を満足させている感じだった。

 

 香織はほんわかな美少女であり、端からは守りたくなる女の子という感じで、女子力も可成り高い。

 

 そして雫だ。

 

 ユエを抱くのがユートは好きだが、雫は構うのが好きだと謂わんばかり。

 

 普段からイチャイチャとしているのはユエより雫、おっぱいを触るとかではないから、性欲を鎮めたいという話では無さそうで。

 

 胸なら三人よりシアの方が大きいし、雫より上手く挟んで上げられ……ではなくて、色々と出来てしまうのだが雫には敵わない。

 

 胸の大きさ云々でなく、違うナニかに敗北中だ。

 

「それでは、そろそろ行きましょうか」

 

 カムの一言と共に準備を終えた一行は、ハウリア族を先頭にして樹海へと踏み込んだ。

 

 道ならぬ道を突き進む。

 

 直ぐに濃い霧が発生して視界を塞いでくるものの、やっぱりというかユートは路を見失わなかった。

 

 カムの足取りにも迷いは全く無く、現在位置も方角も完全に把握している。

 

 どんな理屈か、亜人族は亜人であるというだけで、樹海の中で正確に現在地も方角も把握出来る様だ。

 

 ユートは亜人族ではないのだが、この濃霧に惑わされてはいなかった。

 

 まぁ、折角の見せ場だから水を差すまいと黙って、カム達の案内を受ける。

 

 順調に進んでいたけど、カム達が立ち止まって周囲を警戒し始めた。

 

 ユートもユエ達も感じている魔物の気配。

 

 どうも複数匹の魔物に囲まれているようで、ユートが樹海に入る前に量産型の戦極ドライバーとは別に、ハウリア族に与えた武器類を構えた。

 

 本来の彼らはその優秀な隠密能力で逃走を図るのだろうが、既に一流な戦士に成長をしたハウリア族達は普通に戦えるのだ。

 

 あの帝国兵を斃した様に魔物とだって。

 

 事実、量産型戦極ドライバーで黒影トルーパーへと変身し、シアとミナの二人がザビーとドレイクに変身した上で全員掛かりだったとはいえ、ヒュドラすらも討ち果たしたハウリア族。

 

 実戦証明は既に終えた。

 

 各々が短剣だったり分銅だったり鎖鎌だったりと、違う武器を手に持ちながら近付く魔物を待つ。

 

「「「キィイイッ!」」」

 

 叫び声が聞こえた。

 

 霧を掻き分け、腕を四本も生やした体長六〇cm程の猿が三匹、ハウリア族へ襲い掛かってくる。

 

「猿……四つ手猿とでも呼ぼうかな」

 

 ダイヘドアとか正式名称が判るなら兎も角、見た目だけで判断しないといけない魔物を仮称する。

 

 コイツらは四本の腕を持つ猿だから四つ手猿だ。

 

 まぁ、正式名称とか云っても此方が勝手に付けている名前だけど。

 

「アイゼン!」

 

 本物みたいな返答は無いのだが、シアの意志を受けたアイゼンⅡが形状変換。

 

 轟天がギガントならば、今回の突撃モードはラケーテンフォルム。

 

 ラケーテンとはドイツ語でロケット、名前の通りにロケット噴射みたいなものがハンマーの後ろから噴出して威力や速度が上がる。

 

「ねぇ、突っ込もう突っ込もうって思っていたんだけどさ……」

 

「雫は寧ろ突っ込まれる方だろうに」

 

「そっちじゃないわよ! シアさんのアレ、グラーフアイゼンじゃないの?」

 

「グラーフアイゼンって、リリカルなのはのだよね」

 

「ええ。形もそうだけど、明らかにグラーフアイゼンの変換でしょ、あれは」

 

 雫も香織も【魔法少女リリカルなのは】は御存知だったらしく、シアに渡したアイゼンⅡの元ネタは理解しているらしい。

 

「グラーフアイゼンなぁ、ヴィータに頼んでコピらせて貰ったんだ。改造するって約束で。序でにシグナムとシャマルにもレヴァンティンとクラールヴィントをコピらせて貰ったしな」

 

「「……」」

 

 二人はツッコミ切れなくなってしまった。

 

「おっしゃ、どりゃぁぁあああですぅ!」

 

 ラケーテンフォルムと同じく先端が尖り、敵を粉砕するべくシアがクルクルと回転しながら突撃。

 

「グギャッ!」

 

 四つ手猿の一匹の頭を、これにより粉砕した。

 

 

 二匹は二手に分かれて、一匹はカムへ、もう一匹は見事なまでにミナへ四本の腕の鋭い爪を振るおうと向かっていく

 

 カムは手にした短剣を揮って、四つ手猿の頸にある頸動脈を切り裂いた。

 

「ギャバッ!?」

 

 敢えなく墜落する。

 

 ミナは……

 

 ドパン!

 

 普通にリボルバーによるヘッドショット、脳漿と血を垂れ流して死ぬ猿。

 

 最早、ハウリア族は弱者では決して無かった。

 

 ユート達が手出しせずとも魔物を屠るとか、武器の力だけではあり得ない。

 

 その後も魔物には襲われたが、ハウリア族が簡単に片付けていく。

 

 樹海の魔物はそれなりに厄介な筈だが、ハウリア族にとっては狩られる獲物と大差がないのだ。

 

 樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれる。

 

 歩みを止めるユート一行だが、これは人数も殺気も連携の練度も今までの魔物とは比べ物にならない程、ウサミミを動かし忙しなく索敵するカム達。

 

「どうやら今度は魔物じゃなさそうだな」

 

「その様ですな」

 

 掴んだ相手が何者かは、ユートもカム達も理解しているし、作戦通りに往く事を表情だけで頷き合う。

 

 そしてやって来るは……

 

「お前達、どうして人間と居る!? 種族と族名を名乗れ!」

 

 虎模様の耳と尻尾を持つ筋骨隆々の亜人、厳つい顔の虎人族であったという。

 

 虎人族と思しき人物は、カム達に対して裏切り者を見るかの如く眼を向けた。

 

 両刃の剣が抜身の状態で握られており、その周囲に数十人もの亜人達が殺気を滾らせつつ包囲網を敷いているらしい。

 

「あ、あの私達は……」

 

 カムが弱々しく額に冷汗を流しながら、弁明をしようとするがその前に虎人族の男の視線がシアを捉え、大きく目を見開く。

 

「青掛かった白髪の兎人族だと? 貴様らは……報告のあったハウリア族か! 我ら亜人族の面汚し共め! 長年に亘り同胞を騙し続けて忌み子を匿うだけでは厭き足らず、今度は人間族をも招き入れるとはな! 最早これは反逆罪だっ! 弁明など聞く必要も無く、全員この場で処刑する! 総員、かかっ!?」

 

 ドパンッ!

 

「ギャァァァッ!?」

 

「な、何だ?」

 

 リーダーらしき虎人族の男が、問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、ユートの意を受けたミナが引き金を引いた。

 

 余りに理解不能な攻撃に凍り付き、声が上がってきた方を虎人族の男が振り返った瞬間、ドパン! 再び音が響いて今度は本人の頬に擦傷が出来る。

 

「っ!? な、何だ?」

 

 人間みたく耳が横に付いていたら、確実に弾け飛んでいただろう箇所だ。

 

 聞いた事の無い炸裂音、虎人族を以てしても反応を許さない超速の攻撃。

 

 この場の敵対亜人族の誰もが硬直をしていた。

 

「どうした? 全員を処刑するとか言っておきながら何を戸惑う?」

 

「な、あ……」

 

「周囲を囲んでいる奴らも全てを把握しているから、お前らは既に詰んでいる」

「なっ……莫迦な……!」

 

 亜人族は唯一の例外を除いて魔法行使が出来ない、魔力を持たない多種族連合みたいなものだ。

 

 兎人族、虎人族、熊人族といった獣の特徴を備えている、古くは【獣人族】と呼ばれていた連中に加え、森人族や土人族という一部を除き獣の特徴は持たないが人間族と異なる種族を加えて構成されていた。

 

 三〇〇年前に亡びたとされる吸血種、数百年前に消えた竜人族も広義で亜人族と呼べるだろう。

 

 虎人族の男は見た事も無い強烈な攻撃、しかも明らかに此方が潜む位置を割り出した事に警戒を強める。

 

 どうやらハウリア族の娘が味方の場所を把握して、不思議な道具で攻撃をして来たらしいのは理解しているものの、だからといってどうこう出来る訳も無い。

 

「飽く迄もハウリアを処刑するならば容赦はしない。お前ら亜人族が問題にしてる忌み子、シア・ハウリアは僕のモノでね。その家族の命は僕が保障している。だから……殺る心算ならば覚悟を決めろ!」

 

 凄まじいまでの威圧感、ソコに【念】と殺意を混ぜて亜人族へと叩き込む。

 

 濃厚に過ぎる威圧感を、真正面から叩き付けられた虎人族の男は、ダラダラと冷や汗を大量に流しつつ、ともすれば恐慌に陥りそうな心を叱咤している。

 

 まるで意味も無く喚いてしまいそうな、そんな自分を必死に押さえ込んだ。

 

(じょ、冗談じゃないぞ! こんな奴が人間だというのかよ! まるっきり化物じゃないか!)

 

 歴戦という意味でなら、この虎人族など及びも付かない敵と闘い続けており、この程度の威圧感は例えば冥王ハーデスなら万分の一にも満たない。

 

「この場を引くというのなら追わない。敵対をしないならわざわざ殺す必要性も無いんでね。さぁ、選べ。僕らに敵対をして無意味に全滅するか、それとも大人しく巣に帰るのか……」

 

 ユートが軽くジェスチャーをすると……

 

「はっ!?」

 

 いつの間にか目の前に居た筈のカムが、自身の背後に居るのに気が付いた。

 

「ま、まさか……」

 

「他のハウリア族も、お前の部下の背後に回っているんだ。つまりはいつでも殺れるからな、ほら……路を選ばせてやるぞ」

 

 隠密性なら確かに兎人族の右に出る種族は無いが、目の前に居ながら僅かな虚を付く事すらせず背後に回られた事実。

 

 彼は【フェアベルゲン】の第二警備隊隊長である。

 

 【フェアベルゲン】と、周辺の集落間に於ける警備が主な仕事。

 

 魔物や侵入者から同胞を守護するというこの仕事、彼は……彼らは強い誇りと確かな覚悟を持っている。

 

 故に、例え部下共々全滅させられると理解しても、安易に引く事が出来る筈もなかった。

 

「……選ぶ前に一つだけ聞きたい」

 

「何だ?」

 

 虎人族の男は掠れそうになる声に必死で力を込め、ユートに対してたった一つの質問をする

 

「いったい何が目的だ?」

 

 この答え次第では全滅をしてでも止める、不退転の決意をしながらの質問に、ユートは瞑目をしながらも口を開く。

 

「大樹ウーア・アルトだ」

 

 即ち、ハルツィナ大迷宮の入口と目される場所。

 

 

.




 ミナ・ハウリア。

 原典では空裂のミナステリアと名乗る少女であり、園部優花の事をハジメを巡る愛人友達認定している。

 この世界では厨二化していない為に、普通の少女として描かれています。

 オリキャラではありません。




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第25話:その時、不思議な事が起こった!

 説明ばかりに……





.

「ウーア・アルトだと? あんな場所にいったい何の用事がある?」

 

 【フェアベルゲン】にとって大樹ウーア・アルトというのは、国家成立以前から存在して神聖視こそされているが、特に何があるでもないから観光資源にすらならないものだ。

 

「ハルツィナ大迷宮に挑みたくてね、樹海の深部たる大樹ウーア・アルトにまで行きたいのさ」

 

 正直、亜人を奴隷にする為だとか自分達を害するのが目的かと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない【大樹】が目的だとか。

 虎の亜人族は疎か全ての亜人族にとり【大樹】は、云ってみれば樹海の名所の様な場所に過ぎない。

 

 そんな場所に行きたいと言う、それは物好きな範疇でしかなかった。

 

 ユートの言葉は亜人族からしたらおかしなもの。

 

「な、何? おかしな事を言うな。大迷宮とは此処、ハルツィナ樹海そのものを指している。一度入れば、我ら亜人族以外は決して抜けられぬ天然の迷宮だぞ」

 

「そんな訳が無いだろう」

 

「な、何だと!?」

 

 妙に自信満々に言われ、虎人族の男は訝し気に問いを返した。

 

「此処を大迷宮というには魔物が弱過ぎる」

 

「な、弱いだと?」

 

「大迷宮の魔物ってのは、簡単そうな兎が一匹であれ化物揃い。少なくとも僕が降りた【オルクス大迷宮】の奈落はそうだったんだ。そもそも……」

 

「そもそも何だ?」

 

「七大迷宮っていうのは、七人の【解放者】達が残した試練だ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろう? 幾ら通常は魔法が扱えないとはいえ、亜人族なら誰でも深部に行けたら試練になってないだろうに。だから樹海自体が大迷宮ってのはおかしな話なんだよな」

 

「むう……」

 

 虎人族の男はユートからの情報に、困惑をしてしまうのを隠せなかった。

 

 言っている意味が理解の範疇外だったから。

 

 樹海の魔物はそれなりに厄介で虎人族もそうだし、最強種たる熊人族だったとしても数が来れば面倒な、それを弱いのだと断じる事もそうだったが、そもそも【オルクス大迷宮】の奈落というのも、【解放者】とやらも迷宮の試練だとかも聞き覚えの無い話ばかり。

 

 普通なら『戯言を!』と切って捨てていたに違いないが、この場にてユートが適当な戯れ言で誤魔化してくる意味はない。

 

 ユートは現在、虎人族達に圧倒的優位に立っている訳であり、誤魔化しなんて微塵も必要無いのだから。

 

 若し本当にユートが亜人や【フェアベルゲン】には興味が無く、大樹ウーア・アルト目的だというなら、部下を無意味に死なせてしまうよりは、さっさと目的を果たさせて立ち去って貰った方が幾分か良い。

 

 そう判断した虎人族の男だったけど、ユートが余りにも脅威故に自分の一存で野放しにする訳にもいかないから、この件は自分の手に余ると理解をした。

 

「お、お前が国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行く程度であれば構わないと判断をする。部下の命を無駄に散らす訳にもいかんのでな」

 

 周囲の亜人達が動揺する気配が広がる。

 

 このハルツィナ樹海で、侵入して来た人間族を見逃すのが異例だったからだ。

 

「とはいえ、一警備隊長の私如きが独断で下していい判断ではない、本国に指示を仰ごうと思う。お前の話も長老方なら知っている方が居られるやも知れぬし、本当にお前に含む処が無いのなら、この伝令を見逃し私達と待機して貰う」

 

 中々に強い意志を瞳に宿して、ユートを睨み付けてくる虎人族の男の言葉に、少しばかり考えてみた。

 

 彼からすればギリギリの譲歩なのだろう、元来ならハルツィナ樹海に侵入した他種族は問答無用で処刑されると聞いている。

 

 彼も本当は処断したくて仕方ないが、そんな莫迦な事をしようとすれば間違いなく部下の命を失うだろうと理解していた。

 

 それも最弱と蔑まれた、ハウリア族によって。

 

 危険極まりないユート、そして何故だか凄まじい強さなハウリア族を、決して野放しには出来ないが故のギリギリな提案。

 

「判った。アンタの冷静な判断を尊重しよう。そちらから仕掛けて来ない限りは僕や雫達は勿論、ハウリア族にも手出しをさせない」

 

「……感謝する」

 

「その代わり先程の言葉、曲解せずに伝えてくれ」

 

「勿論だとも。ザムよ! 聞こえていたな? 長老方に余さず御伝えしろ!」

 

「了解!」

 

 部下Z(スレイヤーズ風)を伝達に遣いを出した虎人族の男、それに頷く部下Zは素早く【フェアベルゲン】へと戻る。

 

 ユートは警戒は解かないものの、身体を弛緩させて伸びをしながらユエや雫や香織とイチャイチャし始めており、シアが何だか羨ましそうに視ていた。

 

 今なら! 部下らしきが動かんとした瞬間、背後から尖った何かが当たる。

 

 ゾクリと冷や水を背中からぶっ掛けられた気分に、虎人族の部下Aはゴクリと固唾を呑んだ。

 

「下手に動かない方が身の為だよ? 先程の約束は、そちらが攻撃を仕掛けてきたら反故にしたと見做し、ハウリア族に君らの殲滅をさせるからな?」

 

「りょ、了解している」

 

 笑顔は脅迫である。

 

 ユートの笑顔だったが、その目は笑っていない。

 

 本気で殺る心算だろう。

 

 カムを見れば間違いなく本人なのに、まるで別人を見ている気分だった。

 

 題するならば『戦士』、単なる御人好しなオヤジに過ぎないハウリアの族長、それが一端の戦士の顔となってこの場に居る。

 

 他は見えないがやはり、同じく戦士の顔で自分達を追い詰めているのだろう、シア・ハウリアなる忌み子の為に人間族を頼った。

 

 その結果がこれとは……

 

 どうやら、ハウリア族を追い込み過ぎたらしい。

 

 当のユートは女の子らと遊んでいるが、隙らしきは全く見付けられず驚愕する他になかった。

 

 当のユートは女の子らと遊んでいるけどな!

 

「来たな。森人族が居る、【フェアベルゲン】の長老格の一人か?」

 

「わ、判るの?」

 

「判るよ、雫。風の精霊が教えてくれたからね」

 

「せ、精霊って……」

 

 虎人族の警羅隊には再び緊張が走る。

 

 霧の奥から数人の新たな亜人達が現れたのだけど、中央に居る初老ながら美しい男が特に目を引いた。

 

 ストレートで長い金髪、知性を備える碧眼。

 

 細身で吹けば飛んで行きそうな雰囲気を感じるが、威厳に満ち満ちている容貌には皺が刻まれてはいるものの、それがアクセントとなってより美しく魅せた。

 

 人間族に近いながらも、その横に長い耳から森人族だと推測が出来る。

 

「初めましてだ、森人族の長老さん?」

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? お前さんの名は何という?」

 

「緒方優斗。貴方は?」

 

「私の名はアルフレリック・ハイピスト。この樹海の国【フェアベルゲン】に於いて長老の座を一つ預からせて貰っている。お前さんの要求は遣いの者から聞いているが、その前に聞かせて貰いたい。『解放者』という言葉は何処で知ったのであろうか?」

 

「オルクス大迷宮の奈落、その最下層に解放者の一人……オスカー・オルクスの隠れ家が有ってね。其処でオスカー自身の記録映像に語られたよ、延々とね」

 

 オスカー・オルクスは、決して悪人ではないのだろうし、寧ろ善人なのは理解も出来るのだけど話が諄くて余りにも長いのだ。

 

 割と顔は良いが下手すれば『陰険眼鏡』と呼ばれそうなオスカー・オルクス、だけど彼は真摯な表情にて全てを話してくれた。

 

 勿論、彼が所属していた組織――【解放者】についての話も。

 

 元々はエヒトから神託を降される巫女、ユーキからの原典知識から【聖光教会】総本山の大司教に名を連ねるリエーブル家の人間、ベルタ・リエーブルこそがリーダーだったらしいが、オスカー・オルクスがこの【解放者】に身を委ねた際のリーダーは、ミレディ・ライセンだった様だ。

 

 固有魔法……【運命視】という、人の未来の可能性を視る魔法を扱えたとか、シアの固有魔法に割と近いモノであろう。

 

 それとは違う神代魔法、オスカー・オルクスは彼女の力を詳しく説明してくれなかったが、ユーキからはちゃんと聞いていた。

 

 【重力魔法】と端的には云われるが、その本質とは惑星のエネルギーを自在に操る魔法らしい。

 

 重力操作はその一端でしかなく、ミレディ・ライセンは重力としてしか発現をしていなかったのか、単純に重力以外に適性が無かったのか?

 

 或いは使えていたけど、伝えていないのか?

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

「ふ〜む、奈落の底のう。聞いた事がないのだがな、それを証明は出来るか?」

 

 ユートがアルフレリックの眼を見遣ると、嘘吐きの色を宿しているのが判る。

 

 或いは亜人族の上層部に情報を外へと漏らしている裏切者が存在する可能性を考えて、敢えて知らぬ存ぜぬでユートに訊いているのかも知れない。

 

「証明になるかは知らん、この魔石とオスカーが着けていた指輪ならどうだ?」

 【宝物庫】と呼ばれているアーティファクトから、地上の魔物では有り得ない質を誇る魔石を幾つか取り出し、ユートがアルフレリックへと渡した。

 

「ムウ、これは……こんな純度の魔石、この樹海でも見た事が無いぞ……」

 

 驚くアルフレリックと、驚愕の声を上げる隣に居る虎の亜人、恐らく彼が長老の一角なのであろう。

 

 オルクスの指輪も見て、アルフレリックは刻まれた紋章を見て目を見開くと、どうにか気を落ち付かせる様に吸った息を吐いた。

 

「成程、確かにお前さんはオスカー・オルクスの隠れ家に辿り着いたようだな。良かろう、取り敢えずだが我らが【フェアベルゲン】に来るが良い。私の名前で滞在を許そうではないか。勿論、ハウリアも一緒に」

 

 その言葉に周囲の亜人族だけではなく、ハウリア族も驚愕の表情を浮かべる。

 

「ま、待て! 何を言ってるアルフレリック!」

 

「そうですよ、長老様!」

 

 虎の亜人を筆頭にして、抗議の声が猛烈に上がった訳だが、未だ嘗て【フェアベルゲン】に人間族が招かれた事は無かったのだし、このアルフレリックに対する批判はまぁ、当然の事なのではあるのだろう。

 

「彼等は客人として扱わねばならぬ。その資格を有しているのでな。それが長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだよ。それをお前も知らぬ訳ではあるまいに?」

 

 アルフレリックが周囲の亜人達を厳しく宥めるが、抗議の声はユートの方からも上がった。

 

「警備隊の隊長らしき奴にも言ったが、そもそも僕は大樹ウーア・アルトに用があって、【フェアベルゲン】には興味が無いんだよ。問題が無いって言うなら、僕らはこの侭、ウーア・アルトに向かいたいんだが」

「確かに今なら大樹に行ける時期だがな、残念ながら一日ばかり早いのだよ」

 

「ん? 時期……周期か何かでもあるのか?」

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、我ら亜人族だとて方角を見失う。一定周期で霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは早くて明日だ。これは【フェアベルゲン】の亜人族なら誰でも知っている筈だがな」

 

「あ!」

 

 カムがアルフレリックから視られ、思い出したかの様に声を上げる。

 

「周期を忘れていたな?」

 

「も、申し訳ありません」

 

「まぁ、構わないけどな」

 

「……え?」

 

 アッサリと許され戸惑いの表情を浮かべるカム。

 

「どうせ行ってもハルツィナ大迷宮には入れん」

 

「ほう、面白い事を言う。その根拠を聞いても?」

 

 アルフレリックが目を細めながら問う。

 

「ハルツィナ大迷宮へと入る為には、【四つの証】と【再生の力】と【紡がれた絆の道標】ってのが必要なんだとさ」

 

「四つの証?」

 

 雫が首を傾げる。

 

「オルクスの指輪に刻まれた紋章、多分だがライセンやハルツィナやバーンとか他の大迷宮にも有る筈だ」

 

「それを七つ中四つも見付けて来いと?」

 

「最低限で過半数だとさ」

 

 驚く雫に戯けるユート、だけど必須な理由は想像も付いていた。

 

「……再生の力、私?」

 

「違うな。数千年は前らしいからユエが生まれた時代よりずっと前で、ユエ前提は有り得ないだろうに」

 

「……ん、確かに」

 

 納得したユエ。

 

「それじゃ、再生の力って何なのかな?」

 

 それならば……と香織が疑問に思う。

 

「【再生魔法】。神代魔法でメイル・メルジーネという海人族と吸血族のハーフだった女性が使っていた。恐らくこれを手に入れろという意味だろうね」

 

「……再生魔法」

 

「再生魔法にメルジーネの紋章でもアリだろうから、最低限で四ヶ所を廻れば済むんだが、再生魔法を外したら最大で六ヶ所も廻らないといけなかった訳だよ」

 

「うわぁ……」

 

 冷や汗タラリな雫。

 

「大変そうだよね」

 

 香織も苦笑いである。

 

「それじゃ、紡がれし絆の道標は亜人族の案内を意味しているのですかね?」

 

「そうだろうな」

 

「ですぅ!」

 

 シアがちょっと嬉しそうにしているが、彼女は身分的に奴隷なのは気にしていないのだろうか?

 

「然し思うんだが、それを当の案内される場所で明かしてどうするんだろうな。それならもっと前に警告をすべきだろうよ」

 

「ああ!」

 

 そういう警告はせめて、樹海の入口でするべきである筈で、案内された後に実はこれが必要ですだとか、間抜けにも程がある事案であろう。

 

「【四つを証】と【再生の力】を携えて、亜人族との【紡がれた絆の道標】を以て訪れよって事なんだろ。いずれにせよ、【紡がれた絆の道標】以外は集まっていないから、ハルツィナ大迷宮には入れないよ」

 

「あれ? それなら此処にはどうして来たですぅ?」

 

「面倒事を早目に片付けときたかった」

 

「面倒事ですか?」

 

(亜人族との話し合いは、どうしても必須事項だよ。まぁ、単純なウーア・アルトへの案内役はハウリア族に任せるんだが……な)

 

 つまり、仮に【フェアベルゲン】と行う話し合いが上手くいかずとも、問題にはならないのである。

 

 況してや、ユートは案内が無くても迷いはしない。

 

 その確認が出来たのも、ちょっとした旨味だろう。

 

「そんな情報を何処で仕入れたのやら?」

 

 ハウリア族ではないと、アルフレリックも考える。

 

 シアの態度から彼女が知らないのは見ても判るし、ハウリア族は長老の一角には名を連ねていない。

 

 森人族に虎人族に熊人族に土人族に翼人族、大まかにはこの種族が長老に名を連ねるからだ。

 

「情報源は明かしても意味が無い。敢えて言うなら、【ありふれた職業で世界最強】だな。香織と雫ならばこの意味が解るよな?」

 

 目を見開く二人は青褪めた表情となり、口をパクパクと開閉させている。

 

「う、そ……でしょ?」

 

「まさか、私達の世界は……そういう事なの?」

 

 それは絶望に近い。

 

 当然ながらそんなオタク知識が無い連中は、ユエやシアを含めて意味不明だと首を傾げていた。

 

「寝物語に教えてやるよ」

 

 そんな囁きにも余り反応を出来なかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 濃霧の中を虎の亜人――ギルの先導で進んでいく。

 

 アルフレリックを中心にし周囲を亜人達で固めて、ユート達やハウリア族を引き連れ、既に一時間程は歩いている筈だ。

 

 虎人族は割と素早さがあるのか、ザムとやらの伝令は相当な駿足らしい。

 

 暫く代わり映えのしない樹海を歩いていると、突如として霧が晴れた場所へと出てきた。

 

 別に全ての霧が無くなった訳でなく、一本の真っ直ぐな道が出来ている状態、道の端に誘導灯の様に青い光を放っている拳大の結晶が地面に半分埋められて、それを境界線に霧の侵入を防いでいるみたいだ。

 

 青い結晶を視ている事に気が付き、アルフレリックが解説をしてくれる。

 

「あれはフェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には何故か霧や魔物が寄り付かないのでな【フェアベルゲン】も近辺の集落も、この水晶にて囲んでいる。魔物の方は比較的にという程度だがな」

 

「ふ〜ん、四六時中霧の中じゃあ気も滅入るだろう。住んでる場所くらい霧は晴らしたいのは解るが……」

 

 樹海の中であっても街の中は霧が無いらしいけど、ユートが注目したのはそれではない。

 

「フェアドレン水晶を少し貰えないか?」

 

「いや、渡せる筈も無かろうに……」

 

「ちょっとだけ、先っぽだけで良いからさ」

 

 何故か香織と雫が頬を朱に染めたが、ユートは気にせず交渉? を続ける。

 

「この世界の金も少しはないと困るし、魔導具を造るにしても危ない物は売りたくない。魔物避けは悪くないと思うんだよ」

 

 ユートが考えたのは魔物が寄り付かないという事、確かにそんな機能を持った魔導具なら、商人や冒険者などを中心に売れそうだ。

 

「じゃから、諦めよと言うておろうが!」

 

「僕が諦めるのを諦めろ」

 

「意味が解らんわ!」

 

 アルフレリックが若干、キレ気味に怒鳴ってきた。

 

「NARUTO……」

 

「そして私達の世界も?」

 

 やはりまだお悩み中だ。

 

「仕方がない。現物が有れば後からでもやれたけど、ケチな森人族だな」

 

「誰がケチか!」

 

 文句など聞かないとばかりにジッと、フェアドレン水晶を視ているユートは、(おもむろ)に両手をパンと叩き合わせる。

 

 所謂、拍手を一発。

 

 力の循環……即ち円環と螺旋を示す動きを最小限に行い、ユートは力を持たぬ無為なる暗黒物質を原子に変換して固着させる。

 

 円環(ウロボロス)螺旋(カドケウス)、それはどちらも蛇をイメージさせた。

 

「なっ!?」

 

 ユートの掌の中に青い光を放つ結晶体、フェアドレン水晶が乗っている事に、アルフレリックが驚愕して目を見開き呻いた。

 

 それは他の亜人達も同様であり、既に『その時、不思議な事が起こった』とかは慣れたのか、ユエ達からは特にリアクションは無かったらしい。

 

「よし、上手くいったな」

 

「そ、それは……?」

 

「勿論、フェアドレン水晶だけど?」

 

「ば、莫迦な……いったいどうやって?」

 

「僕が攻略した大迷宮は、オルクス大迷宮だと説明はしたろうに」

 

「だから何だと?」

 

「ああ、知らないよなぁ。オスカー・オルクスって、天職は錬成師だったんだ」

 

「え? 南雲君と同じ」

 

 やはり香織が反応した。

 

「彼が使った神代魔法は、【生成魔法】というんだが……錬成師なら垂涎の的、正に錬成魔法の上位互換。創る事に掛けて最上な魔法だと云える」

 

「それを手にしたと?」

 

「大迷宮は解放者の試練、攻略の暁には神代魔法が手に入る仕組みだ」

 

「な、何と!?」

 

 勿論、生成魔法とは創る事に特化した魔法なのは、間違いない事実ではあるのだが、アーティファクトを創る魔法である。

 

 流石にユートの【創成】みたいな、暗黒物質の錬成までは出来やしない。

 

 再び歩き出して暫く時間が経つと、ユート達の眼前に巨大な門が見えてきた。

 

 極太な樹と樹が絡み合いアーチを作っており、其処には木製の一〇mはあるだろう、両開きの扉がデンと鎮座をしている。

 

 樹で作られた防壁の高さは約三〇mはありそうで、亜人の【国】というに相応しいまでの威容を感じた。

 

 ギルが門番らしき亜人に合図を送ると、重厚な音を立てて門が僅かに開く。

 

 樹の上からは亜人達からの視線が降り注いだ。

 

 これが長老アルフレリック自ら迎えに来た理由で、下手をすれば絶対に一悶着があったに違いない。

 

 【フェアベルゲン】……それは自然との融合とでも云おうか、随分と美しいと形容が出来る街並み。

 

「ふふ、どうやら我ら誇る故郷、【フェアベルゲン】を気に入ってくれたようで私も嬉しいよ」

 

 表情が嬉しげに緩んで、囲の亜人達やハウリア族の者達も、こんな時ばかりはちょっと得意げとなる。

 

「中々に美しい街並みだ、空気も美味いし自然と調和した見事な街だよ」

 

「……ん、とても綺麗」

 

「凄いわね」

 

「うん、雫ちゃん」

 

 ド直球な称賛を受けて、流石にそんなに褒められるとは思ってなかったのか、亜人達は驚きの表情となって此方を見つめる。

 

 とはいえ、故郷を褒められたのが嬉しいかったか、そっぽを向いていながらもケモミミや尻尾を、ピクピクと動かしている様子だ。

 

 様々な視線に晒されながらも、ユート達はアルフレリックからの案内で街中へ入ると先に進で行く。

 

 それなりな広さを持った会議室みたいな場所にて、改めて自分達が得た情報を亜人へと伝えた。

 

「……成程。それが先に言っていた試練に神代魔法、それに狂った神による盤上のゲーム……か」

 

「どの道、この世界は亜人に優しくないから今更感が溢れるだろうね」

 

「そうだな」

 

 この世界の神たるエヒトの真実を聞いたとしても、アルフレリックは全く顔色を変えたりしない。

 

 そもそもが神から見放されたとされる亜人に取り、トータスという世界は決して優しいとは云えないし、『だからどうした』と対岸の火事にも等しかった。

 

「フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟がある。それはこの樹海の地に、七大迷宮を差し示す【紋章】を持つ者が現れたなら、それが仮令どの様な者であれ決して敵対したりしない事。そしてその者を気に入ったのであれば、望む場所に連れて行く事」

 

「それは【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者たる、リューティリス・ハルツィナが伝えたのか?」

 

「うむ。解放者の意味までは伝わっておらんのだが、仲間の名前と共に伝えたものなのだとされる」

 

「そりゃ、攻略者に手出しはさせたくないだろうな。大迷宮の攻略が出来るならそれは凄まじい実力者だ。要らん抵抗で亜人が殺られても困るだろうしね」

 

 オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑が存在しており、その内の一つと同じだったからだとか。

 

「僕は有資格者な訳か」

 

 この説明で人間を亜人族の本拠に招き入れた理由、それを充分に理解が出来たユートは、面倒が無いなら特に問題は無かった。

 

 二人が話を詰めようとした時、階下がちょっとばかり騒がしくなる。

 

 ユート達のいる場所とは最上階で、階下にはシア達ハウリア族が待機中の筈であったが、どうやら彼女達が争っているらしい。

 

 アルフレリックはユートと顔を見合わせて、それと同時に立ち上がって階下へと下りていく。

 

 熊の亜人や虎の亜人に、狐の亜人、背中に翼を持つ亜人、小さく毛むくじゃらの土人族などが剣呑な眼差しをハウリア族に向けている処であった。

 

 ユート達が下りてきたのに気付き、彼等は一斉に鋭い視線を送ってくる。

 

 熊の亜人が強い声で発言をしてきた。

 

「アルフレリック。貴様、どういう心算で人間を招き入れた? こやつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなどとは……返答によっては長老会議で貴様に処分を下す事になるぞ!」

 

 亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵、それを国内に入れたものだから熊人族の男は激昂しているのだ。

 

「口伝に従ったまででな、お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できる筈だがな?」

 

「何が口伝だっ! そんなもの眉唾物ではないか! 【フェアベルゲン】の建国以来、一度も実行された事など無いだろうが!」

 

「故に今回が最初になるのだろう、それだけの事でしかないのではないかな? お前達も長老なら口伝には従え、それが【フェアベルゲン】の掟なのだからな。我ら長老の座にある者が、掟を軽視してどうする」

 

「ならば、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言う心算なのか! 敵対してはならない強者だと!?」

 

「その通りだ」

 

 【フェアベルゲン】では種族的に見て能力の高い、幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。

 

 兎人族に長老枠が無いのは弱いからだ。

 

 裁判的な判断も長老衆が行う訳で、の場に集まっている亜人達が当代の長老達らしいのは理解出来る。

 

 口伝に対する認識には、少し差がありそうだが……

 

 アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種で二百年くらいが平均寿命の筈。

 

 流石はエヒトルジュエが造った出来損ないとはいえエルフ、寿命は他の種族の単純に二倍である。

 

他の長老とアルフレリックでは大分年齢が異なって、価値観にもそれなりに差があるのかもしれない。

 

 だから、アルフレリック以外の長老衆はこの国内に人間族、果ては罪人が居る事に我慢がならない様だ。

 

「それならば今、この場で試してやろう!」

 

 激昂をした熊人族の大男は行き成り拳を振り上げ、ユートに対して重たい拳で殴り掛かってくる。

 

 その時、不思議な事が起こった!

 

 

 

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 本当はジンとの直接的な対話? までやり切りたかったんだけど……




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第26話:オラオラの次は無駄無駄をしてみた

 ライセン大迷宮までもう少しかな?





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 周りから見て間違いなく『不思議な事が起こった』と云える現象、三百年を生きる――実質的に二十数年――ユエですら御目に掛かった事が無い現象である。

 

 熊の特徴を持つ熊人族、アルフレリックとの会話に遠慮が無い辺り、彼こそが熊人族から輩出された長老であると理解が出来た。

 

 粗野な見た目に反する事は無く、立派に野蛮人としか云えない短気さで森人族の長老アルフレリックへと喰って掛かる。

 

 そして凶行に走った。

 

 試すとか何とか言いながらも、試合とか模擬戦ではなく行き成り殴り掛かって来たのだ。

 

 端から視たら雫の脚くらいに太い腕で、筋骨隆々な身体はユートと見比べても覆い隠せるくらい横幅的な恰幅が良かった。

 

 肥満体では決して無く、筋肉故に重たいであろうと判る肉体をしている。

 

 そんな熊人族が無遠慮に手加減も無く殴った。

 

 殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った!

 

 留まる事を知らぬ暴行、だけど絶句していた香織や雫らなら兎も角、狐人族や翼人族や土人族などはニヤニヤしながら視ている。

 

 【フェアベルゲン】では人間族も魔人族も等しく疎まれており、彼らからしたら熊人族の長老は正に正義を執行している認識……という事なのであろう。

 

「ゆ、優斗……」

 

「ゆう君!」

 

 二人は既にユートへ心を奪われており、個人差こそあるにせよ抱かれるのだって今は忌避感も無い。

 

 そんなユートが暴行を受けたとあらば、許せる筈も無かったであろう。

 

《STAND BY》

 

 サソードヤイバーが起動して、サソードゼクターもジョウントを通過し地面から顕れ、雫の手の中へ飛び込んで来ていた。

 

 香織もジョーカードライバーを腰へとセットして、ハートスートのカテゴリーA……【CHANGE】リューンのカードをカードホルダーから取り出している。

 

 一触即発の雰囲気を醸し出す仲、やはりムカついたのかシアもザビーゼクターを呼び出したらしく手の中に握っていたし、ライダーブレスも左手首に装着中。

 

 ミナは“あの時”の羞恥が勝る為に、ユートからの誘いを拒絶してしまってはいたが、それを揶揄せずに真っ直ぐ見てくれていたのは嬉しかった。

 

 シアを奴隷にしたと聞いた時にはやっぱり人間族、相容れる筈も無いと失望に近い感情を持つ。

 

 しかもそんなシアの前で口説いてくるし、どういう神経かと思っていたのに、その時の事を謝罪された上に皆とは違うドレイクグリップという物を渡された。

 

 最初は『奴隷苦』とか、奴隷になって苦しめと言われた気分だが、どうも勘違いだったらしい。

 

 ドレイクとはドラゴンフライ……蜻蛉を意味しているのだと言われる。

 

 蜻蛉というのは知らないのだが、ドレイクゼクターみたいな形をした昆虫であると聞いた。

 

 勿論、ドレイクゼクター程に大きくはなくて精々、指先に留めても苦にならない程度だとか。

 

 ミナの意志を感じたか、ドレイクゼクターが既に周りを飛んでいた。

 

 カム達も戦極ドライバーを準備万端に整える。

 

 そんな中……

 

「四八発」

 

 何処か愉しそうな弾んだ声で数字が読まれた。

 

 ゾクゥッ! 氣を操れる様になってから、雫達も少し気配には敏感になっていたのだが、背中に氷を大量にぶち込まれた様な悪寒、その感覚が背中を這い上がり奔るのを感じる。

 

 直に自分達へと向けられてたモノでもあるまいし、こんな濃密な悪寒……死の予感にまで昇華された感覚を感じるなんて、異常だとしか思えない事態である。

 

 識っている、雫も香織も単純な知識としてではあるのだが、これを……

 

 ユートが氣を教えてくれた時、そのやり方にまるで【狩人×狩人】の念法修得の修業みたいだった。

 

 氣とか言うから寧ろDBみたいなのを予想していたのに、意外と云えば意外な修業だったのを覚えてる。

 

 とはいえ、ユートは首を傾げながら……『基本的には同じだろ』と言う。

 

 氣を纏う【纏】。

 

 氣を消す【絶】。

 

 氣を増幅する【練】。

 

 かめはめ波などは放出系の【発】だと云えた。

 

 氣を感じるのも【円】と考えれば成程……と。

 

 やっている事は同じだ。

 

 DBみたいなダイナミックさは足りないが、対個人に重点を置くなら問題など無いのだろう。

 

 そして念法で識っている知識の一つ、念を使えない人間が念を叩き付けられた場合は、それだけで死亡してもおかしくないとか。

 

 事実、キルアなど念を覚える前に念を浴びていて、凄まじいまでの悪寒を感じているくらいだ。

 

 死を連想する程に。

 

 兎に角、今や念法を修得したに等しい筈の雫達からしてこの悪寒。

 

「一発には一発だ」

 

「ば、莫迦な……俺の拳を無抵抗に受けて無傷!?」

 

 氣を纏い【練】の侭にて維持をする応用技【堅】、念の籠らぬ拳など幾ら受けてもダメージは入らない。

 

「温いな」

 

「なにぃ!?」

 

「温い上に軽い拳だった。あれで亜人族最強種族か、ハウリア族にそんな温くて軽い地位は明け渡したら? お前、弱いわマジに」

 

「ふざっ」

 

 この瞬間だった。

 

 ――その時、不思議な事が起こった。

 

 そんなナレーションが聞こえた気がしたのは。

 

「四八発。威力やダメージは関係無い、一撃必倒の拳での四八発を受けた気分はどうだった?」

 

 いつの間にかユートが立っており、何故かDIO様みたいな香ばしいポーズを決めている。

 

「フッ、貧弱貧弱ゥ!」

 

 しかも鼻で嗤って正しくDIO様な科白を!?

 

 しかもしかも、いつの間にか金髪で女性みたいな?

 

 更に云えば熊人族の男は吹き飛び、血塗れとなって完全に意識が途絶えているみたいだった。

 

 尚、貧弱貧弱ぅ! とはディオの科白であり決してDIO様ではない。

 

 同一人物だが……

 

「本当に不思議な事が起こったんですけど!?」

 

 雫はサソードゼクターを手にした侭で絶叫する。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 熊人族の男……長老らしきが四八発のパンチを繰り出して来て、ユートは全てを無防備に受けた……様に端からは見えるであろう、だけど雫や香織とかの氣を修得した連中は気付いた筈だと、ユートは口角を吊り上げながら呟く。

 

「時は停止する」

 

 ゆっくりと立ち上がり、マスターテリオンモードにわざわざ移行、長い金髪に金瞳となって明らかに女性と見紛う容姿となった。

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYーーーッ!」

 

 愉悦を含む表情で叫び、ユートはその拳を握り締めて振るう。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄……!」

 

 無駄の一言に付き一発、先ずは四七発の拳。

 

「無駄ぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして抉り込むかの如くコークスクリューパンチ、コイツを左頬へと打ち込んでやった。

 

 四八発目の拳である。

 

「そして時は動き出す」

 

 静かなる世界。

 

 静寂なる世界。

 

 それが再び喧騒に満ち、ユートはバンッ! と香ばしいDIO様ポージング。

 

 走馬灯というモノが存在している。

 

 死に際して人は思考加速により、刹那の刻で永い夢みたいなものを視るとか。

 

 熊人族の長老はその域に確かに居た。

 

「あ……ありの侭、今起こった事を話すぜ!」

 

 独白というヤツだ。

 

「俺はあの人間族を殴っていたと思ったら、いつの間にか殴られていた」

 

 何が起きたのかは完全に理解の範疇外。

 

「な、何を言っているのか判らねーと思うが俺も何をされたのか判らなかった」

 

 単に理解を放棄した。

 

「頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった……ぜ……」

 

 意識はソコでプツンと、途絶えてしまっていた。

 

「四八発。威力やダメージは関係無い、一撃必倒の拳での四八発を受けた気分はどうだった?」

 

 ユートは瞑目しながらも熊人族の長老に訊ねるが、当然ながら吹き飛ばされて意識が無くなっているから返答は無い。

 

「フッ、貧弱貧弱ゥ!」

 

 正しく貧弱な熊人族と、ユートは嘲るのだった。

 

「前回、天之河には条太郎のオラオラッシュでやったからな。今回はDIO張りの無駄無駄ラッシュだ」

 

 単純に科白回しが違う、それただけの事である。

 

「何でDIO様ごっこしてるのよ?」

 

「アハハ、判んないかな」

 

 兎に角、DIOな科白を言っているだけのごっこ、つまりは遊びでしかない。

 

 ユートが仮面ライダーに変身して言う、劇中の科白なんかも謂わばそれだ。

 

 例えば、仮面ライダーディケイドに成れば……

 

『僕は破壊者だ!』

 

『通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!』

 

 などとそれらしい科白を口にしてる訳で、早い話がDX○○ドライバーとかを子供が身に着けて、成り切りごっこ遊びをしているのと似ているだろう。

 

 それは即ち、遊びを入れられるくらい余裕が有るというのもそうだが、ちょっとした拘りなんか有るのかも知れない。

 

「っていうか、あれは誰? ってレベルで顔が変わってるわよ!?」

 

「アリカ・アナルキア・エンテオフュシアのコスプレだったり?」

 

「確かに似てるわね。二重な眉じゃないし瞳の色とかは違うけど……」

 

「金髪はDIO様的な?」

 

「それでわざわざ?」

 

 呆れてしまう二人。

 

 そして見事に付いていけないユエとシア。

 

「ジ、ジン……」

 

 土人族の長老が呟く。

 

 亜人族の誰もが絶句し、硬直をしていると……

 

「さて、貴様らは僕と敵対する意志は有るかな?」

 

 長老達へと殺気を迸らせながらジロリと視線を向けてやるものの、頷く亜人族は誰一人として居なかったらしい。

 

 アルフレリックの執り成しにより、ユートが亜人族の蹂躙をする悲劇は何とか回避されていた。

 

 ジンなる熊人族の長老は内臓がグシャリと破裂し、全身の骨が粉砕骨折するとか可成りの危険な状態ではあったのだが、一命だけは取り留める事に成功する。

 

 雫が蹴り兎にやられた時に近いが、より重体となったのがジンなる熊人族。

 

 【フェアベルゲン】でも高価な回復薬を湯水の如く使い、本当に生命を拾っただけ儲け物な状態であり、最早二度とは戦士としての戦働きは出来ないらしい。

 

 稍をして当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルアに、ジンの名前を呟た土人族のグゼ、そして初めから居た森人族のアルフレリック、熊人族のジンを除く五人がユート達と向き合って座っている。

 

 ユートの両隣には香織と雫が陣取り、ユエは何故かユートの膝の上に座って、その後ろにハウリア族全員が固まり座っていた。

 

 長老衆の表情は固くて、緊張感に満ちている。

 

 戦闘力では亜人族中でも一、二を争う程に強かったジンが、本気で殴り掛かっていたにも拘わらず回数を数えている余裕すら持ち、更には無傷で同じ回数での報復すらしていたユート、それは即ち【フェアベルゲン】に住まう亜人族の誰も敵わないという事。

 

「それで? 結局はどうしたいんだろうなアンタら、僕はちょっと大樹ウーア・アルトの下へ行きたいだけなんだが、別に邪魔さえしなければ敵対する事だって無かったんだがな」

 

 それはアルフレリックも聞いた通り。

 

「亜人族全体の意思ってのを統一してくれないとさ、場合によって何処まで殺って良いのか判らないしな。僕は殺し合いになってから老若男女を区別する程に、御人好しじゃ無いんでね。戦争をしたいなら構わないんだが、それだと老人だろうが女だろうが赤ん坊だろうが関係無い、そうなったら【フェアベルゲン】最期の日になるだけだしな」

 

 ゾッとする様な透明無垢の黒曜石の如く黒い瞳で、威圧する意味すら無いのだと散らばる凶悪濃密な気配を受け、長老衆は固唾をのんで乾いた口を何とか潤すしかない。

 

 その言葉の内容には殺意しか存在していなかった。

 

「こ、此方の仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか! それで友好的になれるとでも思うのか?」

 

 土人族の長老のグゼが、苦虫を百匹くらい噛み潰したような表情で、怒りの侭で呻くみたいに呟く。

 

「あの熊が此方を殴っている時はヘラヘラと嗤って、逆襲されたらキレるだとか無いわ〜。餓鬼の喧嘩では見た事もあったけどな? 先に殴って来たのは熊で、僕は同じ回数で返り討ちにしただけ。再起不能になったのは貧弱だったからだし自業自得じゃないか」

 

「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつでも国の事を思っていてっ!」

 

「つまり国の事を思っていれば、初対面の者を殺して良い理由になるんだな? 【フェアベルゲン】では」

 

「そ、それは……然し!」

 

「宜しい、ならば戦争だ! 僕も日本の事を思って、【フェアベルゲン】を滅ぼそうじゃないか!」

 

 この世界の日本では決してないが……

 

「……は?」

 

「【フェアベルゲン】流に則り、日本国首相から受けた許可の下にお前らを殲滅させる!」

 

「なっ!?」

 

 流石にアルフレリックも驚愕をしてしまうものの、このテロリストや何やらが多い世界で、ユートは掃除屋みたいな仕事をしていたりするけど、その時に得た許可みたいなものだ。

 

「【フェアベルゲン】よ、これは聖戦だ!」

 

「ちょっと! あっさりと戦争しようとしないで!」

 

「そうだよ!」

 

 雫と香織に両腕を取り押さえられてしまった。

 

「グゼ、気持ちは判るんだが……下手に刺激しないでくれ。お前も彼の力は見たろう? それに彼の言い分は全くの正論だよ」

 

 グゼはアルフレリックの言葉に、落ち着きを取り戻したのか座る。

 

「我々に戦う意志は無い。君も軽々しく戦争などとは言わないで欲しい」

 

「知らんよ。アンタら次第だからなそれは」

 

「やれやれ。確かに、この少年は【解放者】の紋章の一つを所持しているんだしその実力も、彼の大迷宮を突破したと言うだけの事はあるよね。僕は彼を口伝の資格者と認めるよ。あの力で本当に戦争をされたら、命が幾つ有っても足りやしないしね」

 

 狐人族の長老たるルア、糸目でユートを見つめると他の長老はどうするのか、残り四人の長老を見回す。

 

 その視線に翼人族のマオと虎人族のゼルも、思う処は可成りあるようだけど、已むを得ないとして同意を示した。

 

 土人族の長老グゼだけは意見を放棄、他の者の言葉に従うスタンスとなって、飽く迄も自分自身が同意をしないとする。

 

 アルフレリックが代表となりユートに言う。

 

「我ら【フェアベルゲン】の長老衆は、緒方優斗……お前さんを口伝の資格者として認めよう。それ故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ……可能な限りは末端の者にも手を出さない様に伝えもしよう……然しだ」

 

「絶対とは言えないか?」

 

「そうだ。知っての通り、亜人族は人間族を良く思っていないというより寧ろ、可成り憎んでいるとも言えるだろうな。血気が盛んな者達は長老会議での通達を無視をする可能性もある。特に今回、再起不能にされたジンの種族、熊人族からの怒りは抑え切れないであろうな。アイツは粗暴に見えて人望があったのでね」

 

「ふ〜ん、それで?」

 

 全く意に介さない様子のユート、アルフレリックの話に何ら痛痒を感じない。

 

 間違いなく攻撃を受ければ殺す……と、ユートの瞳から意志を強く感じる。

 

 アルフレリックはそんなユートの意志を理解して、それでも【フェアベルゲン】の長老格として同じく、ユートへ強い意志の宿った瞳を向けて言う。

 

「お前さん方を襲った者達を殺さないで欲しい」

 

「殺意を向けてきた上に、攻撃までした相手に手加減しろとでも?」

 

「その通りだ。お前さんの実力なら可能であろう?」

 

「あの熊が一番の手練だと云うなら、確かに手加減は可能だろうね。そうする為の手段も有るっちゃ有る。だが、そんな事をしていたら間違いなく調子付くな。次から次に襲って来る可能性もあるだろう、いちいちそれで手加減なんぞをしていられるかよ、面倒臭い。気持ちは判らないでも無いんだがな、そっち側の事情は僕に関係のないものだ。死なせたくないってんなら死ぬ気で止めろ。曰く……撃っても良いのは撃たれる覚悟のある者だけだ」

 

 ユートにとって敵対者は殺すのが当たり前であり、死ななかったらラッキーと思うしかない。

 

 そもそも、殺し合いでは何が起こるか判らないし、手加減して此方が要らないダメージを喰らわないとは限らないのだ。

 

 御優しい誰かさんが甘さを見せ、結果として味方側が痛い目を見るなど莫迦らしいにも程がある。

 

 誰がそんな天之河光輝みたいな真似をするものか!

 

「待て!」

 

 虎人族の長老のゼルが、この話合いに口を挟む。

 

「それならば、我々は大樹の下への案内を拒否させて貰うぞ。口伝でも、気に入らない相手を案内する必要は無いとあるのだ!」

 

 交渉にもならない。

 

 そもそも案内はハウリアが行うし、初めからユートには霧の結界は効いていないのだから、実は案内人が必要無いのである。

 

「ハウリア族に案内して貰えるとは思わない事だな。そいつらはそもそも罪人。我々【フェアベルゲン】の掟に基づき裁きを与える」

 

 ユートは怪訝な表情となって虎人族の長老を見遣るものの、明らかに本気で言っている様子だった。

 

 曲解せず余す事無く伝えろと言われた筈なのだが、ゼルとかいう男はちゃんと伝えなかったらしい。

 

 自分達がハウリア族に、ボロ敗け同然だったと。

 

「何があって同道していたのか知らんが、ここで貴様らはお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った咎人。そいつらは【フェアベルゲン】を危険に晒したも同然なのだよ。既に長老会議で処刑をする処分が下っている!」

 

 何だかドヤ顔で言い放ったゼルに、ユートは瞑目をしながら一言……

 

「愚かな」

 

 ザムとあいう伝令役と、意味も自覚も無しに自分が【フェアベルゲン】を危機に晒していると、丸っきり思わない長老ゼルに対して呟いた。

 

「どういう意味だ!?」

 

 そんな叫びを無視して、ユートはハウリア族の方を向いて問う。

 

「ああ言ってるが、諸君は無為に死にたいか?」

 

「いいえ」

 

 カムは拒否。

 

「ならば戦争だ! カム率いるハウリア戦士の諸君、戦争を始めようか」

 

「了解です、ユート殿! ハウリアの家族達よ、我らは最早【フェアベルゲン】を故国とは思わぬ。此処は既に敵地と知れ!」

 

『『『『『『『応っ!』』』』』』』

 

 全員が立ち上がる。

 

 ギョッとなるのは処刑をすると断じたゼル、そしてアルフレリックも取り成す心算がこの有り様に驚愕に充ちた顔だ。

 

「ゆ、優斗殿?」

 

「生存権は生物の権利だ。それを侵すならば立ち向かうのは当然、これはお前ら【フェアベルゲン】と彼らハウリア族の生存権を懸けた戦争という訳さ」

 

「ば、莫迦な!?」

 

 余りにもぶっ飛んだ話に目を見開くが、ハウリア族は既に戦闘準備に入った。

 

「変身っ!」

 

『『『『『『『変身っ!』』』』』』』

 

 カム以下、四〇人が一斉に量産型戦極ドライバーのカッティングブレード操作により、備え付けられていたロックシードをカット。

 

《ICHIGEKI! IN THE SHADOW!》

 

 一律で電子音声が鳴り響くと、上空にクラックが開いてマツボックリアームズが降り、カム達の顔を覆う様に装着されると鎧化。

 

 黒影トルーパーに成る。

 

 シアとミナも既に手にしていたゼクターを装備。

 

「「変身!」」

 

《HENSHIN!》

 

《HENSHIN!》

 

 ザビー・マスクドフォームとドレイク・マスクドフォームに変身、シアは手にアイゼンⅡを持って構え、ミナは武器でもある変身銃を直に構えた。

 

 元よりこの可能性は伝えてあった為、ハウリア族は迅速に戦闘準備をしていたのである。

 

 黒影トルーパーは量産型であるが故に、スペックは大した事も無いのだけど、それでもこの世界に於けるステータス的に3000は越える為、仮に最強種たる熊人族でも確実に手に余る処か、寧ろあっさりと斃されてしまうだろう。

 

「アーティファクトか?」

 

 その姿を変えたハウリア族を見て、アルフレリックが見当違いを叫んだ。

 

 翼人族と狐人族の長老は迷惑そうにゼルを睨むが、ハウリア族を最弱と見下して処刑を決めたのは彼らとて同様、謂わば同罪だから文句など筋違い甚だしい。

 

 これが強化前な原典でのハウリア族なら、シアが泣きながら寛恕でも願うのであろうが、既に戦士として殺しも経験をした彼らは、戦う意志を以て武器をその手に取るであろう。

 

「我らは生きる! モナの忘れ形見のシアも殺させはしない! 槍を取れ、我が家族達よ! 我々を殺すと息巻く【フェアベルゲン】に亡びを!」

 

 狂気ではない。

 

 正気でもない。

 

 戦に出る戦士と成りて、仇敵の【フェアベルゲン】を討つ!

 

 カムの檄にハウリア族は『えいえい応!』と応え、槍……影松を構えた。

 

 【仮面ライダー鎧武】の劇中、黒影トルーパーとは単なる雑魚的な扱いだとはいえ、量産型にありがちな性能低下は無いから使い方次第であろう。

 

 それから始まったのは、云ってみれば蹂躙だった。

 

 ハウリア族の身体能力は一年間、ピンク筋の獲得とその鍛練を欠かさず行い、極限にまで鍛え抜かれているし、武器の扱いなども確りと覚えていったものだ。

 

 それを思えば亜人族だの何だと云ってみても、所詮はちょっとばかり喧嘩が強かったり、特殊な能力が有るという程度でしかなく、本格的な戦闘訓練を受けたハウリア族に敵う筈無し。

 

 数値的にも1000すら越えない程度で、3000を越えるであろう黒影トルーパーには勝てはしない。

 

 何よりも……

 

「どっせいぃぃですぅ!」

 

「喰らいなさい!」

 

 ドパン!

 

 倍以上はあるザビーや、ドレイクまで居るのだ。

 

 一応は後に退ける様にと非殺傷設定で斃す。

 

 アルフレリックは頭を抱えるしかなく、他の長老達も悪夢の具現に項垂れた。

 

「判った、我らの敗北だ。【フェアベルゲン】は彼らハウリアとの話し合いを望みたい、戦いを中止して貰えないだろうか!」

 

 遂には折れる。

 

 森人族と狐人族と翼人族の連名、虎人族と土人族はそれに従う旨が長老会議に寄越され、熊人族は真っ先に叩き潰されて機能していないと云う。

 

「良いだろう」

 

 これでユートの望みの侭の交渉が可能となったし、戦争はやり過ぎたにしても怪我の功名、ユートはカム達に戦いの中断を伝えるのであった。

 

 

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 戦争はあっさり終結。




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第27話:魔軍司令ってのはハドラーだからこそ

 タイトルの意味は森人族とエルフ、同じ亜人とされても魔法を使えないのと使える者、やっぱり別だよねって感じです。

 尚、某・魔軍司令サマはユートが念入りにボコった過去があります。

 ハドラーじゃない方ね。





.

 ユートは再び【フェアベルゲン】の長老衆と会合を行うが、この場にはカムとシアの父娘が追加される。

 

「無駄な時間を過ごした。もう少し迅速にいきたいものだね」

 

 ユートの言葉に苦々しい表情となるのは、虎人族の長老ゼルと何とか回復した熊人族の長老ジン、土人族の長老グゼの三人。

 

 ゼルは大口を叩き戦争の切っ掛けを作った本人、ジンはユートに殴り掛かって返り討ちに、グゼはジンと仲が良かったからユートに反感を持っていた。

 

 翼人族のマオと狐人族のルアの二人は基本的に悪い印象は無く、掟に従う事をハッキリ言い切ってたし、決して人間に友好的ではないにせよ、口伝にある者なら問題無しであるとしていたからだ。

 

「取り敢えず戦争してはみたが、単なる虐殺にしかならなかったみたいだな」

 

「「うぐっ!」」

 

 ぐうの音しか出ないゼルとジン、グゼもそっぽを向くしか無いようだ。

 

「優斗殿には感謝をする」

 

「戦を起こしたのに感謝をされるとはね」

 

「誰一人殺さんでくれた、それだけでも感謝だよ」

 

 虐殺と言ったものだが、実際には誰も死んでない。

 

 本来、闘氣を操れる様になったハウリア族ならば、如何に熊人族や虎人族といえども、後れを取らない処か楽に斃せる。

 

 わざわざ仮面ライダーに変身する必要性は無い。

 

 それでもハウリア族達を変身させた理由が、ユートの造った仮面ライダーには非殺傷設定が可能だからに他ならなかった。

 

 アルフレリックとしてはそれを感謝する。

 

 非殺傷設定は殺す必要性が無い場合、面倒な手加減をしなくて済むのが魅力的な設定だから付けたのだ。

 

 手加減して反撃を喰らうとか、本末転倒も極まれりといえるのだから。

 

「然しお前さんはそもそも何がしたいのかね?」

 

「初めから言っている通りだけど? リューティリス・ハルツィナが管理者たる【ハルツィナ大迷宮】へと行く事。ハウリア族は道案内を頼む予定だったから、当然ながら虎が莫迦を言ったのを聞き逃しはしない。とはいえ、ハウリア族って既に【フェアベルゲン】で最強だから、戦えば勝てると判っていたけどね」

 

 最強種たる熊人族のジンが苦い表情を歪める。

 

「言っておくが、仮面ライダー黒影トルーパーに成ったから強い訳じゃないぞ。ハウリア族は素の力で以て最強なんだ。仮面ライダーは手加減というか殺さない為に使わせたからな」

 

 言い訳すらさせない。

 

 

 確かに黒影トルーパーになれば、ステータス的には上がるのも確かな話。

 

 +3000ともなれば、本来の勇者(笑)が最大限まで鍛えた場合の、極単純に二倍の能力が変身で得られるのだから。

 

 尤も、全てが+3000ではないのだが……

 

 だけど【フェアベルゲン】の絶滅タイムが望みではないユートは、敢えて変身をする様に指示していた。

 

 オルクス大迷宮を出る前に万が一、戦争になったら変身し非殺傷設定を使って懲らしめる様に……と。

 

 これが効を奏したのだ。

 

 皆殺しにする気は更々無かったし、ならば中途半端に殺害して恨みを買っても仕方がない。

 

 アルフレリック、ユートの一応は森人族(エルフ)に対する配慮でもある。

 

 ユートはエルフとの付き合いも割と長く、古くからはハルケギニア時代から、ユートの死の原因となった那由多椎名の転生した姿、シーナや鉄血団結党からの面々、ルクシャナやアリィーのコンビ、ティファニア・ウェストウッドとその母といったエルフと交流をしてきたし、某・島戦記的なハイエルフやハーフエルフやエルフとの交流。

 

 他にも色々とエルフとは仲良くしてきた。

 

 森人族も毛色こそ異なるにせよ、エルフはエルフであるから仲良くしたいのは事実だった。

 

 無理なら仕方がないが、努力もしないで無理と言いたくない。

 

 此処で虐殺したら関係の修復は不可能となる為に、だからこそ戦争となった際にも生かした。

 

 特定の誰かではなくて、森人族への配慮として。

 

 森人族が吸血族や竜人族みたいな、魔法が扱えている種族なら亜人族ではなく歴としたエルフとして独立していたろうが……

 

「な、何故だ? ハウリア族というより兎人族は基本的に貧弱で気弱な種族だ。種の総体として!」

 

 ジンが解せないとばかりに口を開く。

 

「貧弱貧弱ゥな熊人族から言われても……な」

 

「くっ! 確かに貴様とは戦いにすらならなかった。俺が貧弱だと言われても、それは仕方がないだろう。だがな、兎人族のそれは種としてのものだぞ!」

 

「カムの意見は?」

 

「鍛えてますから」

 

 シュッと何だか敬礼に近いポーズで宣うカムだが、言わずと知れた有名な響鬼のアレである。

 

「鍛えてどうにかなるか! 忌み子……否、シア・ハウリアなら魔力持ちだから有り得るが、他のハウリアはそうではあるまい!?」

 

「教える気は無い。それを知ってそもそもどうする? 秘密を知ればハウリアにマウントを取れるとか?」

 

「そういう心算は無い」

 

「意外だな」

 

「随分と俺は低評価だな」

 

「行き成り殴り掛かって来た奴の評価としては妥当、そう思っているんだが……熊人族の長老は違うのか? 意味不明な言いがかりをされて、挙げ句が殺す勢いで殴って来た相手を高評価にする事が出来るのか?」

 

「……無理だな」

 

 言われてみれば確かに、ジンがユートと同じ立場であれば、相手を低く評価していたであろう。

 

「兎に角、兎人族を鍛えたのは【フェアベルゲン】が頼れないからには自分達で生きる必要があるからな、シアとの契約に基づきカム達を強くした」

 

「契約とは?」

 

「家族を助けて下さいだ。対価に私を好きにしてくれて構いません……とね」

 

「つまり、シア・ハウリアの今の身分は?」

 

「僕の奴隷。首のチョーカーはその証だな」

 

 忌み子とはいえ、亜人族にとって奴隷とは忌避感が強いのか、長老衆の表情が固いものへと変わる。

 

「奴隷としておかないと、迂闊に人間族の街に立ち寄れないだろう」

 

「む? 人間族の街?」

 

 アルフレリックが疑問の声を上げた。

 

「シアはハウリア族からも出て、僕らに付いて来ると明言をしている。奴隷にしたのは僕のモノだと牽制をする為でもある」

 

 勿論、シア自身をユートが好きに出来るのもあったからこそ。

 

 ユートが『落ち着いたら処女を貰うから』と囁いてやると、顔を紅くしながら期待の眼差しでユートを見遣り小さく頷いている。

 

「仮面ライダーとやらは、アレはアーティファクトではないのか?」

 

「違う。この世界の場合はそう呼ぶのかも知れんが、アレは僕が造った物だ」

 

「アレで強くなった訳では無いと言ったが……」

 

「正確には強くはなるな。熊人族の筋力でさえ三桁、それが確実に四桁なら明らかに強い。但し、ハウリアは既に普通に四桁の能力を持っている

 

『『『っ!?』』』

 

 長老衆は驚愕した。

 

「現在の【フェアベルゲン】長老衆は最優六種族から輩出されているな?」

 

「うむ。森人族、虎人族、熊人族、狐人族、土人族、翼人族の六種族からだな」

 

 勿論、亜人族は他に沢山の種族が存在している。

 

 犬人族や狼人族や猫人族といった種族で、森人族や土人族を除けば元々が彼らは獣人族とされていた。

 

 いつから亜人族と呼ばれ始めたか定かではないが、少なくとも組織【解放者】が存在した数千年前には、確かに獣人族とされていたらしいと、ユートはユーキから聞いている。

 

「はっきり言って熊人族より強いハウリアってのは、どれだけ優秀なんだろうかと思ってね」

 

「ハウリア族を長老に据えろと言いたいのか?」

 

「否、違う。ちょっとした嫌味だから気にするな」

 

 それは無理だろう。

 

「ハウリア族は追放されたからね、独自に生きる為の力を得たからにはそうやって生きていくさ」

 

「成程、【フェアベルゲン】には最早頼らぬし……頼られる心算もないか」

 

「そういう事だね」

 

 アルフレリックは的確に意味を察していた。

 

「アルフレリック、それはどういう事だ? そもそも我々がハウリアを頼る?」

 

「今後、【フェアベルゲン】に不利益があるやも知れんが、その際にハウリア族を頼るなという意味だよ」

 

 アルフレリックは溜息を吐き、脳味噌までもが筋肉なジンに説明をする。

 

「不利益とは何だ?」

 

「さてな、不利益は不利益としか言えんよ。起きるかどうかも判らんしな」

 

「どういう意味だ?」

 

 本気で考えられぬ脳筋、坂上龍太郎を思い出す。

 

「例えば、帝国で奴隷が足りないと補充感覚に樹海を侵略するかもな」

 

「莫迦な、樹海の霧に迷うだけではないか!」

 

「仮に樹海が邪魔だと言って火を掛けたら?」

 

「なっ!?」

 

 亜人族にとっては此処、【ハルツィナ樹海】は故郷であり神聖な場所だけど、人間族からすれば邪魔なだけのものであり、火を掛けて焼き尽くすくらいはしてもおかしくない。

 

「そんな時にハウリア族をお前らが頼ったとしても、頼られる心算なんかは無いって事だよ」

 

「助けない……と?」

 

「何を驚愕しているんだ。ハウリア族は【フェアベルゲン】と袂を分かったし、理由が追放であるからには助ける訳が無いだろうに」

 

 同族意識は無い。

 

 【フェアベルゲン】からの追放、モナの忘れ形見のシアを抹殺しようとしていた事、助ける理由など全く有り得なかった。

 

 これはカムだけの意見ではなく、ハウリア族の全員による共通した意見。

 

 元よりハウリア族は一族を以て家族とする。

 

 だからこそ、シアが理由で【フェアベルゲン】追放の憂き目に遭いながらも、誰もシアを恨んだりしていないのだから。

 

 亜人族だから助けるとは誰も思えない。

 

「ドライじゃな」

 

「戦いなんてそんなもんだろうに」

 

「自分が殺される立場でも同じ事が言えるのかな?」

 

「自分が……ならね」

 

 殺すというなら殺される覚悟を持たねばならぬ。

 

 人を呪わば穴二つ掘れ、即ち相手の墓穴と自分自身の墓穴を。

 

 誰かを害するなら自らも害されて当然なのだから。

「ハァ、予想はしていた。だからこの子を遣わせる。入って来なさい」

 

「はい、お祖父様」

 

 アルフレリックに促されて入室したのは、見た目が明らかに森人族の少女で、額に装飾品を着けた可憐な容姿、シアと同い年か下手したら年下かも知れない。

 

 金髪に翡翠色の瞳の少女が頭を下げる。

 

「アルテナ・ハイピストと申します」

 

「ハイピスト? お祖父様とか呼んでいた辺りから、アルフレリックの孫か?」

 

「うむ、アルテナは間違いなく私の孫娘だ」

 

「……で、どうしろと?」

 

「連れて行って貰えぬか」

 

「……亜人族が人間の街に容易く入れないのは、理解をしている筈なんだが」

 

「対外的にも実質的にも、お前さんの奴隷としても構わぬよ。シア・ハウリアもそういう扱いであろう?」

 

「そうだがね。正気とは思えないな。仮にも人間族、しかもハウリアのシアには首輪を着けて、奴隷扱いをしてるのに同じ奴隷扱いで孫娘を差し出すとか……」

 

「お前さんとの縁を少しでも維持したい。それも佳き縁をな。その為ならば孫娘をも差し出そう」

 

 長老としてはある意味、まともな思考である。

 

「とはいえな、シアは戦闘力も高くなっているから連れて行けるが、アルテナは何か武術でもしてるか?」

 

「いえ、特には」

 

「どうやって付いて来る気なんだ? 足手纏いを連れ歩く趣味は無いぞ」

 

 ハウリア族はカムを筆頭に全員、強化されているから大した問題も無い。

 

 ミナ・ハウリア、二二歳の乙女は付いて来たがっていたのが意外だが……

 

 尚、ユートが作製をしたステータスプレートによるシアの能力値。

 

 

 

シア・ハウリア

16歳 女 

レベル:40

天職:占術師

 

筋力:114

 

体力:143

 

耐性:120

 

敏捷:200

 

魔力:3600

 

魔耐:3700

 

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来] 魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅲ][+集中強化] 闘氣解放[+強化][+放出]

 

 

 

 咸卦法は未だ覚えていない為に、闘氣と魔力の同時運用とかは出来ない。

 

 念能力的には強化系で、それに特化されていたシアだったが、放出系にも少しだけ適性があったらしく、『ハウリア波』を覚えた。

 

 早い話がかめはめ波。

 

 魔力も闘氣も同じだけの強化値な為、今現在は魔力による強化が主である。

 

 因みにまだ抱いてない、それ故にパワーアップ前だと云えよう。

 

「アルテナ自身は?」

 

「私はお祖父様の御意向に従います」

 

 まぁ、祖父と孫であると同時に族長にして長老で、森人族のトップが下したのだから、命令には従うしかないのだろう。

 

 哀しいかな縦社会。

 

 そもそもがシアみたいなのが異例、元々シアは一族からも距離を置く気だったからユートの奴隷扱いで、ナニをされても命さえ保証されればと、ネガティブに考えていたくらいだから。

 

 強くなった今もユートの傍にと考えてるが、それは純粋な好意からである。

 

 他二人は人間族だけど、ユエは亡んだ吸血族の女王であり、括りとして見れば間違いなく人間族の亜種、亜人族と変わらないのだ。

 

 そんな吸血姫なユエを、ユートは香織や雫と少なくとも同程度には可愛がり、意外と性欲が旺盛な彼女のそれを受け止めていた。

 

 とはいえ、ユート自身の性欲がユエを遥かに凌ぐ程に強いから、寧ろユエの方が真っ先にダウンをして、ぐったりとしたユエで性欲を鎮めているけど。

 

 偶々、行為を視てしまったシアはガタガタ震えてしまうくらいで、だけど女の部分は怖いくらい反応しており、股間は温かく潤されていたのに気付き、その日は初めての自慰に耽った。

 

 オカズとしたのはユートの有り得ないレベルに反り返る分身、それに貫かれる自分自身をあの時のユエにコラ絵したモノだ。

 

 正直、最中のユエは同性のシアから視てもドキリとするくらい淫靡で美しく、見た目の幼さがまるっきりマイナスにならない処か、そのギャップが興奮させるのでは? と思えた。

 

 そしてユートは見た目は整ってこそいるが普通で、中性的な顔立ちをしているのが余計に目立たなくしていたが、以前に触らせて貰った腕の筋肉は細身なだけで発達はしていたし、硬さとしなやかさが両立をしていて触り心地は程に良く、闇にも思える黒い瞳は引き込まれそうになる。

 

 そして一番が同族意識。

 

 シアのステータスプレートには確り、【魔力操作】という技能が有った。

 

 魔力を持たない亜人族は疎か、人間族や魔力に長ける魔人族でさえ持ち得ない筈の技能である。

 

 ユートのステータスプレートは、バグっていたのか碌な情報が無かったけど、本人が普通に魔力操作していたし、ユエのステータスプレートの方には間違いなく【魔力操作】と記載されていたのだ。

 

 つまり二人はシアにとって数少ない同種、家族であるハウリア族すら立ち入れない存在。

 

 嬉しかった。

 

 世界に唯一の『化け物』に生まれ、モナに泣き付いていた自分だったのに。

 

 『仲間』が居たから。

 

 兎人族は群れを成して個を示す弱者の集団。

 

 独りには耐えられない。

 

 其処に異性……子を授かれる相手が同種だと判り、只でさえドキドキと心音が高鳴るのに、色々と大切にされてシアの心はユートに惹かれ続けていた。

 

 それにユエだけでなく、香織と雫も抱いているなら自分だって入れるのでは? と思ってしまう。

 

 ユートの奴隷としての証となる翠のチョーカーは、シアを縛り隷属させる楔ではなく、ユートがいずれはシアを自分のモノにするという婚約“首”輪に思え、ソッとチョーカーを撫でて想いを馳せていた。

 

 そしてシアは知らないのだが時折、そうして幸せそうな表情をしていたのを、アルテナは遠目にではあるものの見ており、亜人族のシアをあんな顔にさせたという人間族に興味を覚え、アルフレリックが近似での血縁の女から、ユートの下へ行く者を捜していると聞いて真っ先に挙手をする。

 

 名目は監視。

 

 実質的には奴隷となり、シアに近い立場でユートと縁を繋ぐ為で、当然ながらソコには性行為をするのも含まれるからか、親族達は余り乗り気ではなかったのもあったし、上手く立ち回ればシアが持つアレみたいなのを貰える可能性だってあるから、アルテナとしては願ったり叶ったり。

 

 人間族という事で恐怖は確かにあるし、熊人族でも最強戦力たる長老のジンを軽く再起不能にした力は、脅威でしかないアルテナではあるが、好奇心が勝ったというのが一番であろう。

 

 雌として強い雄に惹かれるのも、生物の本能として亜人族故に高いのかも知れないし、出来ればシアとも仲良くしたいと考えてた。

 

 それ故の立候補。

 

 その証拠に白い肌は頬が朱に色付いてて、ユートを見る翡翠色の瞳にも恐怖と好奇心が同居していた。

 

「アルテナ・ハイピスト」

 

「は、はい!?」

 

 直接、声を掛けられビクリと肩を震わせながらも、気丈に返事をする。

 

「運動能力は高いか?」

 

「い、いえ。通り一般程度には動けますが決して高い訳ではありません」

 

「だろうな。魔法も使えないエルフで運動能力も並、下手をしたらシアより低いという事か」

 

 魔力が使えない以上は、シアみたいな魔力を身体の能力上昇に使えず、氣など扱えないからにはこれだって不可能という事。

 

「森人族も亜人族ですし、魔力が扱えないのは普通の事ですが?」

 

「僕の識るエルフ、君らと……森人族と同種の存在は精霊魔法を操る魔法操者(マジックユーザー)だよ」

 

「……は?」

 

「それも相当に強力な」

 

「そんな、まさか!?」

 

「思い出すのはハドラー、魔軍司令だったが失敗続きで後が無くなり、ザボエラから超魔生物に改造されたアイツだよな」

 

「……?」

 

「様々な魔物と合成され、超魔生物化されながら魔力を喪ったら意味が無いと、自身の魔族としての肉体を捨てて、超魔生物そのものと成り果てた。君ら亜人族とは(いたずら)に人間の部分を残した為に魔力を喪った超魔生物みたいだよ。魔物の特徴だけが突出してしまった……な」

 

 ざわりと騒然となる。

 

 シアを魔物と断じたが故に殺処分が当然と考えていた亜人族が、実は魔物との合成により魔力を喪失した人間だと言われたのだ。

 

 これは侮辱でしかない。

 

「貴様!」

 

 未だにユートを許せないグゼが喰って掛かる。

 

「“本物”のエルフは精霊と高い親和性を持つのに、森人族は魔力自体を持っていない。もう一つ……僕はエルフから何故か好かれ易いみたいでね、ハーフですらまるでニコポしたかの様だったが、君らにはそんな兆候が一切見られない辺りエルフなのは見た目だけ、偽物としか思えないんだ」

 

「……世界が違うからとは思えませんか?」

 

 ユートが異世界人なのは既に知っており、異世界のエルフだからでは? ともアルテナは考えた。

 

「確かに世界が違えば理も変わるが、僕の識るエルフは皆が同じ世界のエルフな訳じゃない。ハルケギニアのエルフ、アレクラストのエルフ、ドラクエ世界でのエルフ、ゲート世界に生きたエルフ、デイドリーマー世界のエルフ。色々な世界のエルフが全て同じ反応を示す中、君らだけは違うとなれば……どちらが異質と考えるか解るだろうに? 魔力持ちのシアを異質とした君ら亜人族なら……な」

 

『『『『っ!』』』』

 

 ぐうの音も出ないくらい正論であったと云う。

 

 グゼやゼルでさえ。

 

「だ、だけど……それならそんな技術が有ったなんて何故、異世界人の貴方に言えるんですか?」

 

「“この世界(ありふれた職業で世界最強)”の事は少し識る機会があってね」

 

 ビクリと肩を震わせたのは雫と香織。

 

「神代魔法には生命体へと干渉する【変成魔法】というのが有って、それを使い熟せれば既存の生物を強化したり、果ては合成したりも可能みたいなんだよね。獲られる場所は【シュネー大迷宮】、魔人族の領地に存在しているらしいな」

 

「シュネー?」

 

「リューティリス・ハルツィナの盟友が造った大迷宮らしいぞ。数千年前に神より反逆者とされた……な」

 

「っ! ハルツィナ樹海の始祖……リューティリス・ハルツィナの盟友?」

 

「組織【解放者】の一員、そして七つの大迷宮を造った七人は、全員が神代魔法の繰り手だった。リューティリス・ハルツィナの場合は【昇華魔法】らしいな。ならばリューティリスも持っていた筈、シアと同じく魔力操作の技能を」

 

「な、何故?」

 

「この世界の魔法は古くから滅茶苦茶だ。何しろ、小さな火種を熾こすだけで膨大な魔法術式の魔法陣を必要とし、更には厨二臭い呪文詠唱まで必須だとか、それなら神代魔法一つ起動するのに、必要な魔法陣や呪文はどれだけ膨大な量になるんだろうな?」

 

「そ、それは……」

 

「これを可能とする技能が魔力操作だ。魔法陣も詠唱も要らないからタメだけで放てるんだもんな」

 

 正論だ。

 

 神代魔法は強力過ぎるにせよ、この世界の人間が使うには不適切過ぎた。

 

 膨大な魔法陣に長過ぎる呪文詠唱、火種だけで嫌になるくらいなのに神代魔法ともなれば、それは果たして一生に一回も使えれば良いのではなかろうか?

 

「最近は、魔人族が極めて強力な魔物を操る様になってしまって、人間族は滅亡の危機に瀕していたとか。だからエヒトが異世界から勇者(笑)を召喚したんだと聞いたが、【シュネー大迷宮】の攻略者が魔物を変成したんだろうな」

 

「っ! それって……」

 

 アルテナは驚愕する。

 

「亜人族も対岸の火事とか言ってられんぞ。魔人族が人間族を滅亡させた次は、間違いなく亜人族が標的になるだろうからな。まあ、それは逆でも同じだが」

 

「ぐっ!」

 

 ゼルが呻く。

 

 エヒトから見放されたとされる亜人族、ならどちらかが勝利を納めたら次なる標的は? 当然、亜人族に向かうに決まっていた。

 

 エヒトルジュエの目的は愉悦で、世界全てを自らの(たなごころ)の上で転がす事なのだから。

 

 平和は退屈でしかない。

 

「なればこそ、アルテナをお前さんに預けるのだよ。お前さんは身内に優しいと聞くしな」

 

 現にハウリア族は身内、シアを介して随分と味方をしているのだし、アルフレリックも其処を期待する。

 

 一度は正しく戦争状態になったが、ユートは完全にフラットだとアルフレリックは推測していた。

 

「だがアルフレリックよ、コイツが人間族と戦うか? 同族だぞ」

 

「……無意味な戦いはせんだろうが、【フェアベルゲン】に攻め込む者とは戦ってくれよう」

 

「そうだな。契約するならそれは遵守しよう。若しも僕が契約を破るとしたら、契約者が裏切った場合のみだからな」

 

「では、我らは【フェアベルゲン】代表として我が孫たるアルテナを預けよう。身分はシア・ハウリアと同じを望む」

 

「必要な時に手は貸そう。そちらが裏切らない限り、契約は有効とする。但し、人間族の領土に攻め込むとかは許さん。飽く迄も亜人族が虐げられた場合だ」

 

「それで構わぬよ」

 

 此処に契約は成された。

 

「然しそうなるとアルテナは少し鍛えないとな」

 

「……うっ!」

 

 現状では役立たずを通り越して足手纏いだ。

 

「仕方ない。プロトタイプを造っていたゼロワンドライバーと違い、本当に造って間もないんだがな」

 

 ユートが取り出したのは青を主体とした銃、そして真っ黒なバックルのベルトである。

 

「使い熟せる様に訓練して貰うからな」

 

 それを渡されたアルテナはあたふたしてしまう。

 

「こ、これは……?」

 

「エイムズ・ショットライザー。ゼロワンドライバーのお仲間って処だ。まぁ、アルテナはゼロワンドライバーを見た事が無いか」

 

 ポイッと何か投げたのをアルテナが受け取った。

 

 更に投げ渡されたのは、半透明な黒に橙色をしているガジェット。

 

「ラッシングチーター・プログライズキー。仮面ライダーバルキリーに変身が出来るシステムだよ」

 

「っ!」

 

 まさか行き成り渡されるとは思いも寄らず、吃驚しながらソッと銃身を撫でて見つめる。

 

「銃なんて知らないだろ、訓練は必須だね。とはいえ変身してみると良い」

 

「ど、どうやって?」

 

「プログライズキー自体のスイッチを押して、後ろの空いてる場所に容れろ」

 

《DASH!》

 

 アルテナは言われた通りにする。

 

《AUTHORIZE》

 

 電子音声が鳴り響く。

 

《KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER……》

 

 しかも凄い自己主張して仮面ライダーと響いた。

 

「え、どうすれば?」

 

「もう判る筈だろ」

 

 確かにいつの間にかやり方が理解出来ている。

 

 バックルにショットライザーを填め込み……

 

「へ、変身!」

 

 プログライズキー展開、トリガーを引いて叫んだ。

 

《SHOT RIZE!》

 

 放たれた銃弾。

 

 それはアルテナ自身へとぶつかり、姿を異形なる者へと変えて往く。

 

《RUSHING CHEETAH!》

 

 チーターを模した仮面、白いインナーに橙色をした左右非対称なアーマーで、複眼は黄色をした人型。

 

TRY TO OUTRUN THIS DEMON TO GET LEFT IN THE DUST(この悪魔的速度、煙に巻けるならやってみな)

 

 それこそが、ゼロワン系の仮面ライダーバルキリーであったと云う。

 

 

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 シアのステータスはまだ強化前のです。修業をしてある程度は原典の現在位置より僅かに強いけど。




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第28話:小学生な暗殺者と明星姉妹

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「見付けましたよ」

 

「な、何なんだてめえは! 殺し屋か!?」

 

「違いますが違いません。今は我が王にして夫である真なる王の仕事を手伝い、日銭を稼ぐだけの暁の明星というだけ」

 

「なっ!? 最近、売り出し中の明星姉妹かよ?」

 

 茶髪をポニーテールに結わい付け、眼鏡を掛けた奥には闇の蒼な瞳。

 

 シュテル・D・スタークス・オガタが本名だけど、此処では【暁の明星】という二つ名が横行中。

 

「さぁ、貴方の罪を数えて下さい!」

 

「ゲェ!? それならば、てめえはまさか! 【黄昏の魔女】?」

 

 反対側の少女に叫ぶ。

 

「可愛くない二つ名です。でもその通り。我が真王の寵妃が一人、宵の明星」

 

 本名はほむら・A・緒方だったりする。

 

「ちくしょうが!」

 

「畜生は貴方でしょう? 小学生を誘拐しては性的に暴行を繰り返し、いったい何人の少女の人生を狂わせたのか」

 

「るせぇ、ババァが!」

 

 ピシリ!

 

 その瞬間、世界が凍ったかの如く静まり返った。

 

「言ってはならない事を、貴方は言いました。 故にゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

 ほむらは『あちゃー』とばかりに天を仰ぐ。

 

 ほむらもそうなのだが、シュテルは約六〇〇年前の古代ベルカへと跳ばされ、真王と共に群雄割拠を駆け抜けた真王妃の一人。

 

 見た目は高校生だけど、生きた時間だけなら何処かの吸血姫レベル。

 

 ババァは禁句であった。

 

《STERN!》

 

 いつでも起動出来る様に巻かれたジクウドライバーを扱うガジェトツールで、ライドウォッチと呼ばれている一種の時計。

 

 表の盤を回すとウォッチにはシュテルの顔。

 

 ドライバーの右側に有るD'9スロットに装填し、上部のライドオンリューザーを押してロック解除。

 

「変身!」

 

 ジクウサーキュラーを、時計の反回転させる。

 

《RIDER TIME!》

 

 理論具現化装置ジクウマトリクスで、ライドウォッチのデータが顕在化され、シュテルの身体を覆った。

 

《KAMEN RIDER STERN!》

 

 電子音声の調子はゲイツのものと同じ。

 

「仮面ライダーシュテル、見参です!」

 

「な、な、な……」

 

 ロリコン犯罪者が驚きながら指差す。

 

「やれやれ、仕方がない。シュテルは年齢の事を言われるの嫌がるし」

 

 幼女愛好者な変態にとっては、高校生処か中学生でも下手したらババァだが、そんな理屈など取り敢えずどうでも良い。

 

「少し頭、冷やそうか」

 

 それは別の人である。

 

《BEYONDRIVER!》

 

 ほむらもベルトを装着、黒を下敷きにしてライムグリーンがあしらわれた色、ビヨンドライバーと呼ばれるベルトである。

 

《HOMURA!》

 

 ミライドウォッチというライドウォッチと異なる、然しながら規格が違うだけで同じ働きのガジェトを、右側の窪み……マッピングスロットへと装填をして、クランクインハンドルを前へと向けた。

 

《ACTION!》

 

 ミライドウォッチのカバーを開いて、ディスコ風に脚光を浴びる中……

 

「変身っ!」

 

 レバーを押し込んだ。

 

《TOUEI! FUTURE TIME SUGOI JIDAI MIRAI! HOMURA……HOMURA!》

 

 中央モニターにライダーとしての顔が投影されて、仮面ライダーホムラに変身完了をする。

 

 まぁ、ぶっちゃけてしまうと仮面ライダーゲイツと仮面ライダーウォズの色違いな2Pカラー。

 

 そもそもにしてユートの仮面ライダーシンオウも、仮面ライダージオウの色違い2Pカラーである。

 

 ユートの特性上から模倣は得意だが、独創性が欠如とまでは云わないものの、どうあっても足りていないが故に、こんな苦肉の策で補っていた。

 

 ジオウ、ゲイツ、ウォズを名乗るのはちょっとアレだったのは、ジオウに関しては単純に変身者である処の常磐ソウゴが【時の王】で【時王】だからジオウ、ゲイツとウォズに至っては本名かどうかは扨置いて、本人の通り名がライダー名に使われており、ならばとシュテルとほむらも名前を直接的にライダー名にし、姿はゲイツとウォズの色違いで造った訳だ。

 

 尚、仮面ライダーツクヨミに相当する者は今現在、該当者が居ないのでそれを巡り水面下で争っている。

 

 とはいえ、狼摩白夜に分がありそうではあるが……

 

 ヴィヴィオやアインハルトなどの所謂、VIVID組は肉体関係があるのはやはり強いと、年齢にそぐわない感想を懐いていると云う。

 

「さて、一気に殺ります」

 

「殺っちゃ駄目でしょう、シュテル!」

 

「非殺傷が可能だから問題ありませんよ。ホムラは、そいつが逃げない様に塞いでいて下さい」

 

「はぁ、手早くして下さいシュテル」

 

 犯罪者など目にも留まらぬとばかりに言うほむら、シュテルはシュテルで静かに首肯する辺り、舐められているとしか思えない。

 

「クソが!」

 

 BANG! BANG!

 

 シュテルに向けて放たれる二発の銃弾。

 

「アホですか。私が纏う鎧やインナーを見てその程度の豆鉄砲が効くと、本気で思っているのですか?」

 

「ぐっ!」

 

 そもそも、t級の攻撃を受ける前提のアーマーでありインナー、拳銃の弾丸など正しく豆鉄砲に等しい。

 

 せめて電磁加速砲くらいは欲しい処である。

 

 それも拳銃クラスでなど決して無いレベルで。

 

 シュテルは隙だらけである犯罪者に対し、無造作に歩いて近付きながらライドウォッチのスイッチを押してやる。

 

《FINISH TIME!》

 

 ジクウサーキュラーを、再び反回転させた。

 

《TIME BURST!》

 

 フィッと跳躍をすると、右脚を突き出す形で犯罪者に蹴りを放つ。

 

「たぁぁぁっ!」

 

 ドゴンッ!

 

「ギャァァァッ!」

 

 敢えなく吹き飛んで気絶した犯罪者を、溜息吐きながらほむらが拾う。

 

「あれ、終わったんだ」

 

「美晴ちゃん」

 

「仮面ライダーなお姉さんは仕事が速いよね」

 

 手には四五口径デトニクスを持つ“小学生にしか見えない少女”が、不敵な笑みを浮かべながらシュテルとほむらを視ていた。

 

「スズカゼミハル、貴女の仕事は終わりましたか?」

 

「うん、きっちり〆ておいて殺ったよ」

 

 デトニクスの銃口を息で吹き付け、右目をウィンクで閉じつつ物騒極まりない事を平然と言い放つ美晴……涼風美晴だった。

 

「確か貴女のお友達も犠牲になり掛けたとか?」

 

「まぁね、だから私が殺りたかったんだけどな」

 

「生きてますよ彼。私達の装備は殺さないシステムが組み込まれていますから。まぁ、死ぬ程に痛いのは変わりませんけどね」

 

「ある意味で拷問器具だ」

 

 いっひっひと、実に愉悦とばかりに美晴は笑う。

 

 小学五年生らしい無垢で残酷な笑み、平然と殺せる胆力と非常識加減。

 

(この世界、トータスだけでなく地球も余り救いは無いのかも知れないわね)

 

 仮面ライダーホムラから暁美ほむらに戻りながら、自分より背丈が低い美晴を見つめて考える。

 

 ユートがトータスに召喚され、ヴィヴィオとアインハルトと共にやって来ていたほむらは、シュテルを喚び出してSS機構なる組織へと向かった。

 

 ユートがやっていた商売以外の仕事、ゲーム会社のアルバイトや少女漫画家のアシスタント、それ以外に有ったのがSS機構と政府公認アンチテロ屋だった。

 

 トリニティ実験をやるまでも無く、ほむらの要請でシュテルを遠隔招喚して、折角のコストを支払ってしまったユートだったけど、ヴィヴィオとアインハルトには南雲家を頼み、ほむらとシュテルには涼風美晴の方を頼みたかったのだ。

 

 ユーキにはネット通販、『まほネット』を管理して貰いたかったし、人手としてもう一人が欲しかった。

 

 特に涼風美晴は小学生で暗殺者、下手をしたらいつ死んでもおかしくないし、護らせる意味でも二人には期待をしている。

 

 古書店【ですぺら堂】の店主から仕事を依頼され、ターゲットを暗殺してから掃除まで、この全の地球はテロリストや犯罪者などが横行し過ぎていた。

 

 元々、美晴の両親も犠牲になった人間らしい。

 

「兎に角、今は情報を吐かせる為に殺す訳には」

 

 ドパン!

 

「ちょっ!」

 

 ほむらが言い終わる前に美晴が撃った。

 

「大丈夫、兄ちゃんから教わったスマッシュをしただけだから。二度と小学生を抱けない様に……さ」

 

 視れば股間から血を流している様だ。

 

「どうせ情報を洗いざらい吐いたら殺すのに……」

 

 今更ながら股間スマッシュに意味は無い、無いが……悶え苦しむそいつに同情など湧かない。

 

 何人もの小学生が犠牲となり、中には男の娘までもが居たらしいと聞く。

 

 余りに救いの無い悍ましい犯罪、男の娘な小学生は股間のモノを斬り落とされていたらしいし。

 

 成程、付いていなければペタンな少女で通じるし、穴は後ろにちゃんと有る。

 

「こんなのが官僚だとか、この世界の政治は可成り腐れているわね」

 

 ほむらの容赦無い科白、この世界の人間として美晴も少し恥ずかしい。

 

(何だって【まど☆マギ】のほむらさんにダメ出し喰らってんだろ、この世界の日本政府は……)

 

 異世界から来たほむら、しかもアニメキャラクターの筈が、本当に現れたりしたからさぁ大変。

 

 美晴も割と暁美ほむらを識っているし、魔法少女にも成れたのも確認した。

 

 しかも何故かよく識らない仮面ライダーに成る。

 

 仮面ライダーなのは自分で名乗ったから間違いないのだろうが、ライドウォッチなるアイテムやジクウドライバーなんて美晴の知識には無いのだ。

 

 現在、日曜日に放映中なのは【仮面ライダー鎧武】であり、使用されるベルトは【戦極ドライバー】と、【ゲネシスドライバー】。

 

 ジクウドライバーでは決して無いし、今までに放映されたどの仮面ライダーのベルトでもない。

 

(ま、良いか。兄ちゃんの知り合いなんだし二人とは仲良くしとこ)

 

 暗殺パートナーなユートの知り合い、しかも自らを嫁だと宣う“二人”だし、数年後に自分が生きていたら仲間に入れて貰えれば、きっと愉しいだろうから。

 

「じゃあ、今夜は焼肉屋にでも行く?」

 

「打ち上げね」

 

「悪くありません」

 

 政府要人で少女愛好家な犯罪者を殺処分が出来て、折角だから焼肉屋で焼き肉パーティーをしようとか、ある意味でイカれた思考の持ち主だった。

 

「ユーキさん達も誘ってみましょうかホムラ」

 

「そうね、美晴ちゃんは良いかしら?」

 

「構わないけど」

 

 

 という訳で電話する。

 

「もしもし、ユーキ」

 

〔ほむら?〕

 

「仕事が終わったから打ち上げに焼肉屋へ行こうと、三人で話していたんだけどユーキもどう?」

 

〔……〕

 

「ユーキ?」

 

 無言なユーキに首を傾げているほむら。

 

〔夜は焼き肉っしょー!〕

 

「わっ、吃驚した!?」

 

〔何だかビルドとして言わなきゃ駄目な気がした〕

 

「意味が判らないわ」

 

〔うん、ボクもだ。美晴にヴィヴィオ達も紹介するのはアリかもね〕

 

「じゃあ、仕事が大丈夫そうなら声を掛けて」

 

〔了解〕

 

 幸い、ヴィヴィオもアインハルトも仕事は無くて、皆で焼肉屋へ向かう。

 

 当然、美晴はヴィヴィオとアインハルトの存在に、目の玉を飛び出すくらいには吃驚するのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 オルクス大迷宮。

 

 ダイオラマ魔法球内部、其処で半月が過ぎた。

 

 その半月の間に聖闘士張りの基礎修業をやらせて、ステータス的な基本能力を上げると同時に色々と慣らしておく。

 

 魔物を殺すのもその一つだと云えた。

 

「スピードに優れている、仮面ライダーバルキリー。エイムズショットライザーを武器に、スピードで勝負をするタイプだな」

 

「バルキリー」

 

 実験すら済んでないが、仮面ライダーバルカンなら既に造り終え、実験だけはしてあるのだから同型であるこれも問題は無い筈だ。

 

「言っておくが使い熟せるかどうか、これから訓練をしてみても駄目だったなら返して貰うから」

 

「……うっ、はい」

 

 頷くアルテナを見ながら思うのは……

 

(仮面ライダーバルカンも誰かに渡すか)

 

 ……である。

 

 神エヒトルジュエの使徒リューンは、出来損ないでありながら可成り強い。

 

 少なくとも勇者(笑)様が本来の力で最大限レベルを上げ、限界突破という技能を使っても届かない程度には高い数値を持つ。

 

 ユーキから聞いていた、天之河光輝のステータスは全能力1500、三倍にしても4500にしかならないのである。

 

 派生技能【覇潰】を使えた場合だが五倍になれば或いは互角になるだろうが、然しそれは無理をするから短い時間でしかない。

 

 限界突破が約八分。

 

 その終の派生技能である【覇潰】は更に短い上に、使い終われば極端に弱体化をしてしまうとか。

 

 つまりウルトラマン並に早く敵を斃さねば、自らが殺られる羽目になるのだ。

 

 リューンですら斃せない勇者(笑)様、本気で笑い話にしかならない存在自体が冗談の塊である。

 

 だけど仮面ライダーは、ユートの見立てで少なくともクウガ・マイティフォームで平均して5000強、ライジング化なら8000程度になりそうだったし、況んやアルティメットクウガなら一気に100000は固いと思われる。

 

 勿論、全能力が同じではなく平均値が……だけど。

 

 恐らくは、仮面ライダークウガ・アメイジングマイティで、使徒の完成体をも遥か彼方に置き去りレベルで上回るだろうと考える。

 

 仮面ライダーアルティメットクウガ並ともなれば、仮面ライダーエグゼイド・ムテキゲーマー辺りか。

 

 単純なスペックならば。

 

 ユートはエヒトルジュエの使徒(完成体)を、能力的にアンノウンよりは上だろうが、エルロードより遥かに下回ると思っていた。

 

 多分、エルロード級だと20000〜25000くらいだろう。

 

「取り敢えず僕は一旦外へ出る。そろそろ大樹に行ける筈だからな」

 

「あ、はい」

 

 本来の目的とは早い内に【フェアベルゲン】と接触する事だが、大樹に行くのも目的の一つである。

 

 ユートはユエ、香織、雫にシアを加えて大樹へ向かう事になった。

 

 道案内はシア一人で充分だし、カム達にはアルテナの修練をして貰う。

 

「確かに霧が薄れたな」

 

 大樹に向かう道の濃霧は晴れてこそいないにせよ、亜人族による道案内は普通に可能なレベルだ。

 

「では行くですぅ」

 

 張り切って道案内をするシア、ユート達はシアの後ろから付いていく形に。

 

(まぁ、僕一人なら濃霧も無関係に進めるけどな)

 

 其処は空気を読んだ。

 

 ある程度、歩を進めると大樹らしきが聳える広場に出てきた。

 

「へぇ、これがウーア・アルトか……枯れてるなぁ」

 

「枯れてるわね」

 

「枯れてるね」

 

 ユートの感想に追従をする雫と香織。

 

「……ん」

 

 ユエも首肯した。

 

 大樹と呼ばれるだけあり大きさは想像をした通り、途方もない巨大さで直径は五〇mくらいはありそう。

 

 周囲の木々が青々とした葉を盛大に広げているのにも拘わらず、大樹ウーア・アルトだけが何故か枯れ木となってる異様さ。

 

「あはは……この大樹は、【フェアベルゲン】建国前から枯れているそうです。だけど朽ちる事はないし、それでいて枯れた侭で変化も見られません。霧の性質と大樹の枯れながら朽ちない事から、いつしか神聖視される様にはなりました。それだけでしかないので、早い話が観光名所みたいなものですぅ」

 

 皆が向けてくる疑問顔、シアは解説をした。

 

 ユートはユーキから聞いていた石板を捜し、大樹の根元の方まで歩み進む。

 

 其処には確かに石板が建てられていた。

 

「オルクスの扉と同じ紋様……か。やっぱり此所で間違いないな」

 

 その古い石版に七角形、その頂点の位置には七つの文様が刻まれている。

 

 オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと同じで、ユートは一応の確認の為にオルクスの指輪を出した。

 

 指輪の文様と石版に刻まれた文様、その一つは確かに同じものの様である。

 

「確か裏に……」

 

 ユートは石板の裏側へと回ると、お目当ての七つの紋様に対応して指輪を嵌め込む窪みを見付ける。

 

「こいつか」

 

 手に持っているオルクスの指輪を、表のオルクスの文様に対応する窪みに実際に嵌めてみたら、石板が淡く全体的に輝き出したではないか。

 

 輝く石板を見ていると、次第に光が収まっていって代わりに、光を帯びた文字が浮かび上がってくる。

 

『四つの証』

 

『再生の力』

 

『紡がれた絆の道標』

 

『全てを有する者に新たな試練の道は開かれる』

 

「『四つの証』は他の迷宮の証の指輪、『再生の力』は再生魔法、『紡がれた絆の道標』は亜人族の案内。それを以て【ハルツィナ大迷宮】の入口が開く訳だ。ユーキからの情報通りって訳だね。そして余計な付随する何かも無いとは素晴らしい話じゃないか」

 

「付随する何かって?」

 

 雫が訊いてきた。

 

「偶にあるんだ。別の世界が混じって本来は存在しない何かが追加されるって」

 

「「う゛っ!」」

 

 そういえば、アルテナの修練にかまけてまだ二人に例のあれやこれやを話していないのに気付く。

 

「戻ったら今夜でも寝物語に聞かせるよ」

 

「……そうね。いつまでも目を背けてらんないわ」

 

「うん、雫ちゃん」

 

 何やら決意をした様子、然しながらユエとシアには解らず、やはり二人で首を傾げてしまっている。

 

「……それで、此所はまだ駄目なら次はどうする?」

 

「ライセン大峡谷の方で、【ライセン大迷宮】を捜して攻略する」

 

 ユエからの質問にユートは答えた。

 

「確かにオルクス大迷宮に戻るのに毎回、ライセン大峡谷を通るものね」

 

「原典でも二番目に攻略したのが其処らしい」

 

「うぐっ!」

 

 雫に精神的ダメージ。

 

「詳しい場所は判らないんだが、其処は虱潰しにやるしかないかな」

 

 尤も、手段はあるけど。

 

「それじゃ、オルクス大迷宮に戻るぞ」

 

 僅か一日でも一ヶ月分、アルテナがどうなったのかを知るには、時間的に丁度良いと云えた。

 

 あっという間に戻ってきたユート達。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)って便利よね」

 

迷宮脱出呪文(リレミト)も有るのに、私達はゆう君のパーティに入れなかったって……」

 

「仕方ないだろ。パーティメンバーは可成りふわっとした感じだしな。無意識にでも認めてないとパーティ加入が出来ないとかな」

 

 オルクス大迷宮の深部にはライセン大峡谷側から、オルクスの紋章の指輪により出入りしている。

 

 正確には別の転移口を創って、カムを含めた数人が出入り出来る様にした。

 

「やってるな」

 

「ユート様」

 

 修業とか何とか云ってもやる事は変わらない。

 

「今日は此方でシアとユエも含めて……ね」

 

「そ、そうですか」

 

 意味を正しく理解して、アルテナは紅くなった。

 

 そして夜、ユートは四人と順繰りにキスを交わし、同時に相手を始める。

 

 その最中に綴られていくユートの転生物語、そしてこの世界の事にも触れられて知る本来の世界線。

 

 とはいえ、ハジメが奈落へ落ちた場合は生き残れたか怪しいとも伝えた。

 

 やはり香織は食い付いたのだが、何しろそれを話している真っ最中が自分の鞘にユートの槍を納める番、気持ち良くなって絶頂へと至り、涙を零しながら今更だと香織は理解をさせられたものだった。

 

 

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第29話:心火を燃やす人に成ってみた

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 ユートに跨がった香織、互いに着衣など身に付けていないのは、風呂から出てすぐに天蓋付きベッドへと直行したから。

 

 今宵は香織が主役で抱かれる為、お姫様抱っこしてベッドまで運んだのだ。

 

 そして残りの二人が此処へ来るまでに、既に潤っていた鞘へユートの槍を納めたのである。

 

 深夜の寝る前には香織の股座は期待と、嘗て好きだった男の子への背徳感に加えて、現在進行形で自分を好き勝手にしているユートに対する情により下着までグッショリと濡れ、風呂で粗方を流してもこうやってベッドの上に来れば、また簡単に潤ってしまう。

 

 こんなエッチな娘にされたんだ……と、紅くなった頬を弛ませユートの槍先を自らの鞘から“納刀しては抜刀”を繰り返していた。

 

 ユエと雫が来る頃には、既に一回戦が済んで俯せになり荒い息を吐いている。

 

 とはいえ、ユートが終わったのではなく香織が絶頂を迎えただけでしかなく、未だに元気一杯な分身を視た雫が苦笑いを浮かべて、いつもの様に唇を重ねた。

 

 それはユエも同じく。

 

 暫くは三人の美しい肢体を堪能し、会話らしい会話も無い侭に貪っていた。

 

 三人が五回戦を済ませ、ユート自身もそれなりではあるが満足した頃、漸くといった感じで話し始める。

 

「ユエは兎も角、香織と雫は僕が転生者なのは聞いているな?」

 

「ええ」

 

「それは聞いたよ」

 

「……ん? 転生者?」

 

 ユエだけ反応が違う。

 

「偶に出てきた単語だが、やっぱり聞き慣れないか。転生者は一度なり死んでしまった人間が、生前の記憶を保持して新しい生を得た場合を云う」

 

「……つまり、例えば小父様が違う顔に違う種族ながらも、私の前に私を認識して現れるみたいな?」

 

「まぁ、そんな感じだね。大抵は物語として語られている世界観に生きる」

 

「……ん? だとしたら、ユートにとってこの世界は物語の中?」

 

 やはり雫と香織は酷く、そして強く反応を示す。

 

「間違いじゃないよユエ、【ありふれた職業で世界最強】というらしい」

 

「……長いタイトル」

 

「多分、なろう系だから。昨今なら珍しくもないよ」

 

「ま、待って!」

 

 雫からちょっと待ったなコールが掛かる。

 

「【なろう】でそんなタイトルは見た事が無いわ!」

 

「無意味な事を。この世界がそうなら、そのタイトルを書けたら予言者になれるだろうが」

 

「……!?」

 

 嘗てクリエイターである一人の男も言った、異世界に若しあの浮遊城が実在するなら……と。

 

 インスピレーションは、多かれ少なかれ異世界からの干渉もあり、この世界が【ありふれた職業で世界最強】ならば、それが小説なりアニメなりで公開される事は有り得なかった。

 

 だからこそ、この世界に【リリカルなのは】な人物は存在しない。

 

 何故ならこの世界では、【魔法少女リリカルなのは】が放映されているから、逆説的に存在しない証左となる訳だ。

 

 

 だから彼方側では驚くであろう、本物のヴィヴィオ達が現れたりしたら。

 

 香織の顔にいよいよ余裕が無くなりつつある。

 

 お腹の奥底から追り上がってクるナニかに翻弄されていて、パクパクと何かを喋るでも無く口だけを開閉させつつ、真っ赤な頬には瞳に浮かんだ涙の一滴が零れ落ち、イヤイヤと首を横に振っていた。

 

 この瞬間が一番キツい、そして香織も雫もユエも……この場に居ない愛子先生までもが大好きな刻。

 

 ビクンッ! 大きな波が香織を襲って背中を伸ばし弓形りになると、香織の口から嬌声が吐き出された。

 

 プツンと糸が切れたかの如く意識を喪い、ユートの胸元へ顔を埋める形で眠りに就いてしまう。

 

「さて、次は雫の番だね」

 

「お、お手柔らかに……」

 

 とは言うものの、絶頂に至るまでの感覚も良いものだけど、至る瞬間がこの上無い快楽に包まれるが故にお手柔らかを本当に望む訳ではない。

 

 始まったらひたすらに、意外と健気に奉仕をしてくれる雫は、今日も今日とてそれなりなお胸でユートの分身を挟む。

 

 ユートはこの世界の原典を識らない、香織の本来の相手はハジメだと思うが、メインヒロインはユエだと最近になって判明した。

 

『私、サブヒロイン?』

 

 香織が固まったのは無理からぬ事、あのホルアドでの【月下の語らい】は何だったのか……と。

 

『それでも……それでも、不安だというのなら……』

 

『……なら?』

 

『守ってくれないかな?』

 

 何だかヒロインが逆転をした感じだが、割と好感触だったのではないか? とすら思っていたのに。

 

 何故かユエがメイン。

 

 ユートが相手でもメインは張れない、即ち完璧なるサブヒロイン枠だと云う。

 

 雫は雫でハジメに惚れ、親友と恋愛の板挟みに悩み抜き、無意識でハジメへの好意を自覚しない様にしていたらしいと聞かされて、がっくり四つん這いになってしまった。

 

 その際に後背位でヤられてしまったが、それは取り敢えずどうでも良い。

 

「わ、私が好きになったのは優斗だから!」

 

「そうだな、嬉しいよ」

 

 原典とは違う。

 

 結局は気の持ちようだったのかも知れない。

 

 因みに、君付けでないのはユートの要請からだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ライセン大峡谷を探索、大迷宮への入口を捜すべく三手に分かれていた。

 

 雫と香織。

 

 ユエとシア。

 

 ユート。

 

 基本的には生身に於けるフォワード型とバックス型が組んだ形で、遊撃となるユートが一人で動く。

 

 仮面ライダーに変身したら余り意味が無くなるし、飽く迄もこれは生身としてのポジショニング。

 

 ユートはリリカルなのは風に云えば、ガードウイングに当たるだろうから単独で遊撃が一番だ。

 

 ぶっちゃけ、フェイトとポジション的にドン被りをしていて、必然的にチームでMOGISENを始めるとユートとフェイトが組む事は無かったりする。

 

 尚、MOGISENとは極めて実戦に近い戦闘訓練であり、非殺傷さえ守っていれば何をやっても有りと判定されていた。

 

 勿論、常識の範囲内で。

 

 当たり前だが行き成り、男女で乳繰り合うのはNGであり、それを平然とヤろうとしたすずかに全員が、戦慄を覚えたのだと云う。

 

 最近では、仮面ライダーVS仮面ライダーなんて、プチライダー大戦みたいなMOGISENも。

 

 何しろ一〇年以上は前、紫天ファミリーやユートやほむらが、ファイズ系でのライダー戦を見せた辺り、なのは達も変身したがったのだから。

 

 面倒だったから龍騎系のデッキを渡しておいた。

 

 高町なのは→仮面ライダーゾルダ。

 

 フェイト・テスタロッサ→仮面ライダータイガ。

 

 月村すずか→仮面ライダーナイト。

 

 アリサ・バニングス→仮面ライダーシザーズ。

 

 八神はやて→仮面ライダーインペラー。

 

 クロノ・ハラオウン→仮面ライダーアビス。

 

 アリシア・テスタロッサ→仮面ライダーファム。

 

 緒方優雅→仮面ライダーリュウガ。

 

 緒方祐希→仮面ライダーオーディン。

 

 ユーノ・スクライア→仮面ライダーベルデ。

 

 仮面ライダーガイと仮面ライダーライアは不在で、ミラーモンスターは現在だと中村恵里の許に。

 

 仮面ライダー龍騎の場合はユーキの意向もあって、普通にユートが持っている状態で、サバイブのカードもナイトとオーディンとで三枚に分けられている。

 

 カメンライドで龍騎にも成れるのだが……

 

 相生呂守はオルタナティブゼロ、相生璃亜にはオルタナティブを渡してある。

 

 龍騎系は無駄に多いから分けるのが楽だった。

 

 相生呂守と相生璃亜とは所謂、ユートと同じ転生者の兄妹であり、苗字と名前を続けて読むとアイオロスとアイオリア、黄金聖闘士の兄弟と同じ名前となる。

 

 【闇の終焉】に関わってきたが、ぶっちゃけ単なる賑やかしにしかならなかった存在で、それでも取り敢えず友人にはなれた。

 

 少なくともミッドチルダに潜伏していた莫迦共より話が出来たし、璃亜は容姿もそれなりに可愛かったから仲良くする分には問題なども無かったのである。

 

 ユートは途中で止まり、見せ札の【宝物庫】を起動して、水色のデカイ物体を取り出して腰に据えた。

 

 ベルトが左側から伸長、右側へと合着をされる。

 

《SCQRASH DRIVER!》

 

 何処かしら若本ヴォイスな電子音声が響いた。

 

 次にユートはスクラッシュドライバーのパワープレススロットに、スクラッシュロボットゼリーという物を装填……

 

《ROBOT JELLY》

 

 アクティベイトレンチを押し下げる。

 

「変身!」

 

 ケミカライドビルダーが生成され、頭頂部スクラッシュファウンテンと胸上部スクラッシュノズルから、ヴァリアブルゼリーが噴出すると、ユートの全身を包み込んだ。

 

《TSUBURERU! NAGARERU! AFUREDERU! ROBOT IN GREASE! VURAAAAAA!》

 

 金と黒を基調としていて赤い複眼を持つライダー、仮面ライダーグリスに変身をしたユートは、魔物狩りをしながら先を進んだ。

 

「良し、スクラッシュドライバーは成功したな」

 

 ユーキの謹製ではない、ユートが造ったスクラッシュドライバーで、スクラッシュゼリーもドライバーも彼方と意味が違っており、当然ながら互換性は無い。

 

 ユーキのビルドドライバーやスクラッシュドライバーとは本物と同じ代物で、フルボトルもスクラッシュゼリーも【ビルドの世界】のドライバーでちゃんと使えてしまう。

 

 事実として使えた。

 

 故にこそハザードレベルが必須であり、エボルドライバーもハザードレベルが高くないと扱えない代物、ユートでないとまともに使えなくなる。

 

 ユートのそれは創造された聖魔獣を纏う物であり、システムその物が全く別であるが故に、やるべき事と見てくれこそ同じながら、互換という意味では全く以て使えない。

 

 このスクラッシュドライバーもそうで、云ってみれば聖魔獣グリスを装着して戦っているのだ。

 

「取り敢えず大迷宮を見付け出しておかないと」

 

 見付けて行き成り大迷宮の攻略を開始とはならず、一度は近場の街にまで行ってから、ある程度は物資の補充をしておく心算だ。

 

 そもそも、先に見付けないと場合によっては見付けてまた街に戻る羽目に陥りかねず、だからまずは入口だけでも捜しておく。

 

 ユートは兎も角として、香織と雫はそろそろ人心地が付きたいだろう。

 

 そういう配慮もあった。

 

 序でに大迷宮内で構築したスクラッシュドライバーの実験も兼ね、こうやって試しに使っている訳だ。

 

 ビルド系の仮面ライダーは基本、ユーキが率先して造っていたからユートは手を出さずにいたのだけど、この世界にはエヒトルジュエの使徒が居るし、人間では大迷宮クラスの魔物討伐は不可能ではないにせよ、可成り大変なのだけは理解した為、見せ札的な意味でも派手に仮面ライダーの力を使っていきたい。

 

 そもそもビルド系を造るのは、ユーキ自身も賛成をしてくれていた。

 

 其処で先ずは、スクラッシュドライバーを造ったという訳である。

 

 理由はビルドドライバーだと、拡張性が非常に高くてパワーアップアイテムなんかも有ったから。

 

 スクラッシュドライバーならば、初期能力は高いが拡張性という意味では特に何も無いのが造り易い。

 

 まだ造って無かったからシアにはザビーを渡したのだが、若しあの時に有ったらこのグリスなりクローズチャージなりを渡していた可能性が高く、最終的にはグリスブリザードやクローズマグマにでも成っていたのであろう。

 

「確かグリスはドルオタ、しかもダークキバだったりイクサ(旧型)だったり?」

 

 魔物を武器も使わず素手で潰しながら、探索兼思考の中に在ったユートが考えていたのは、スクラッシュドライバーの本来の使い手についてだ。

 

 尚、ドルオタとは謂わばアイドルオタクである。

 

 どうでも良いが……

 

「で、クローズチャージは肉壁……じゃなく脳筋か。そういえばクローズチャージは龍我って名前だった筈だよな? それで脳筋……若し天之河が暴発したら、坂上に止めさせるか?」

 

 坂上龍太郎。

 

 龍の字を持つ脳筋。

 

 正に肉壁そのものだし、存外とイケる気がする。

 

 ユートは天之河光輝という存在を信用してない為、某かの防衛装置は必須だと常々考えてはいた。

 

 本来の防衛装置たる雫が自分の許に居るし、香織は防衛装置に不向きだったから良いとして、他に候補者は坂上龍太郎くらい。

 

 他に近い友人枠というと谷口 鈴と中村恵里だが、恵里はハジメの彼女となってからはべったり甘々で、とてもではないが頼めたりはしないし、谷口 鈴とは良く云えば波風を立てないタイプ、悪く云えば事勿れ主義である為に防衛装置にはならないだろう。

 

 可愛らしい容姿ではあるのだが、天之河グループなだけに余り関心が無い。

 

 抱く前なら【二大女神】でさえ“そう”なのだ。

 

 まぁ、自分のモノとなれば関心も普通に沸く。

 

「それにしてもやっぱり、この世界では精霊と接触がし辛いな。あんな莫迦みたいな魔法陣に詠唱が必要になるだけあるわ、まったく困った話だね……」

 

 お陰で探索が捗らない。

 

「はぁ、どうしたもんか」

 

「ああっ!」

 

 溜息を吐いていた矢先、大声を上げるシア。

 

「何かあったか?」

 

 急ぎ駆け付けるとシアが何だかあわあわしながら、岩壁を指差して騒いでいるのを見付けた。

 

「どうした、シア?」

 

「み、見付けましたよ! ライセン大迷宮の入口!」

 

「本当か?」

 

「は、はい!」

 

 ユートは仮面ライダーグリスでシアは仮面ライダーザビー、ユートはまだしも正しく女の子という感じにはしゃぐザビーは、ちょっとシュールであろう。

 

 あれだ……見た目だけが影山 瞬だと考えて想像をすれば理解も出来る筈。

 

 或いは矢車 想でも可。

 

 解り辛いならキャピキャピと跳ねるザビーだとか、絵面が何だか物凄い事になっていそうだ。

 

 何と無く加賀美 新だと有りな気がするのだけど、一〇〇%無いというよりも正に有り得ないと断言が出来るのが三島正人だろう。

 

 いや、実際に加賀美 新は普通に戦闘後はしゃいでいたから……

 

『よっしゃ、強いぜ俺!』

 

 はしゃいでいたのはザビーじゃなく、仮面ライダーガタックの時だけど。

 

 全員集合して、シアからの案内でその場所へ。

 

 巨大な一枚岩が谷の壁面に凭れ掛かる様に倒れて、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所が在る。

 

「こっちですぅ!」

 

「取り敢えず引っ張るな、シアは殆んど完全な強化系だから、身体強化してたら凄まじいんだからな」

 

「……煩い」

 

「アハハ……」

 

「よっぽど嬉しかったんでしょうね」

 

 はしゃぎながらユートの手を引っ張るシア、ユートは引かれつつ困った顔に、ユエは鬱陶しそうに顔を顰めていて、香織は苦笑いを浮かべており、雫は何と無くだが気持ちが解っている様子だ。

 

 シアに連れられ岩の隙間に入ると、壁面の側が奥に窪んでいて意外な程に広い空間が存在していた。

 

 その空間の中程まで歩み進むと、シアがニコニコとした表情でビシッ! と壁の一部に向けて指差す。

 

 指先を視てみれば全員の視線の先……其処には岩壁を直接削って作ったらしき装飾の入った長方形の看板が存在しており、酷く厳つい看板に反して妙に女の子らしい、丸文字でこう掘られていた。

 

【おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪】

 

 エクスクラメーションマークや音符、これが妙ちくりんな具合に凝っている処が何とも言い難い。

 

「……ウザいな」

 

「……これっていったい」

 

 ユートとユエの声が重なって響くが、呆然としながら香織と雫も含めて地獄の谷底とはとても思えない、微妙にファンシー化をした看板を見つめている。

 

「大迷宮の入口。お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや〜、本当にあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮が」

 

「雫はどう思う?」

 

「多分、本物よ」

 

「その根拠は?」

 

「……ミレディよ」

 

「だろうな」

 

 “ミレディ”という名、それはオスカー・オルクスの手記に出て来たライセンのファーストネーム。

 

 ライセン大峡谷の名前から姓はそれなりに有名ではあるが、ファーストネームの【ミレディ】に関しては特に知られていない。

 

 組織【解放者】が活動をしていたのが、約数千年も前の事だから無理も無いのだろうが、にも拘らず迷宮らしき入口に【ミレディ】の名前となれば。

 

「……私も本物だと思う」

 

 ユエも頷いていた。

 

「そうだな、取り敢えずは見付けたと考えようかね。この場にマーキングしたら町に向かおう」

 

 看板は見なかった事に。

 

 ライセン大迷宮発見後、魔動車に全員を乗せて走って凡そ数時間か其処らで、目的地のブルッグの町が見えてくる。

 

 町の周囲を堀と柵で囲まれてる小規模な町であり、街道に面した場所に木製の門があって、その傍に門番の詰所らしき小屋。

 

 小規模とはいえ、どうやらそれなりに充実した買い物が出来そうだった。

 

 町の方からでも魔動車を視認出来る辺りまで来て、魔動車を【宝物庫】へ仕舞ってから徒歩に切り替えたユート一行。

 

 暫く歩いて漸くに町の門まで辿り着く。

 

 やはり門の脇の小屋は、門番の詰所だったらしくて武装した男が出て来ると、ユート達のすぐ目の前にまで小走りにやって来た。

 

 革鎧に長剣、スタンダードな兵士装備っぽいけど、彼らは兵士というよりかは冒険者にも見える。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを見せて欲しいんだが。それとブルックに来た目的は?」

 

 ユートと香織と雫とユエの四人は、懐からステータスプレートを出す。

 

 対外的に奴隷なシアは、特に必要は無かった。

 

 当然、ユートのステータスプレートは偽装してる。

 

「食料の補給がメインだ。今現在は旅の途中でね」

 

「そうか」

 

 気のない声で呟きつつ、門番らしき男がユート達のもつステータスプレートをチェックした。

 

「特に問題は無さそうだ。そっちの兎人族は……そういう事なんだろうな。白髪で美少女とか悪くないな。随分な綺麗処を手に入れたもんだな。白髪の兎人族なんて相当レアじゃないか? あんたって、実は意外に金持ちだったりするか? しかも黒髪の美少女や金髪の美少女まで侍らせてさ」

 

 チラチラと四人の美少女を見ながら、羨望と嫉妬の入り交じった表情で門番がユートに尋ねる。

 

「どうだかな。これでも腕は立つ心算だけど」

 

「まぁ良い、通っても構わないだろう」

 

「そうか。ああ、そうだ。素材の換金がしたいんだ。ギルドは何処にある?」

 

「それなら中央の道を真っ直ぐ行けば良いさ。其処に冒険者ギルドがあるから。店に持ち込みたいんなら、ギルドに訊けば簡単な町の地図をくれるぞ」

 

「そりゃ親切だな。助かったよ、ありがとう」

 

 情報を得てすぐ門を潜って町へと入っていく。

 

 兵士が曰く、ブルックという名の町中はそれなりに活気があった。

 

 オルクス大迷宮が有ったホルアド程ではないけど、露店も結構出てて呼び込みの声、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

 久方振りな町の喧騒に、ユートだけでなく香織達も少し興奮気味。

 

 メインストリートを歩いて行くと、一本の大剣が描かれた看板を発見した。

 

 ホルアドの町でも見れた冒険者ギルドの看板だが、規模はそちらに比べて二回り程度は小さい。

 

 ユートは看板を確認し、重厚そうな扉を開いて中へと踏み込む。

 

 飲食店と兼任した建物、冒険者らしき連中が食事を摂っているが、酒を飲んでいる様子が無いのは置いていないのだろう。

 

 入った途端に視線が鬱陶しいレベルで突き刺さる。

 

 やはり美少女四人が視られているらしく、感心の声を上げる者やボーと見惚れている者も居れば、恋人らしき女冒険者に殴られている者も居た。

 

 悲しき男の性よ。

 

 ちょっかいを掛けて来る冒険者は意外にも居らず、理性的な事に観察だけで留められていたからユートはカウンターへ向かう。

 

 ユートがハルケギニアに生きた時代、冒険者ギルドの受付嬢はラピス・フォルトゥーナという美人を据えていたが、この町の受付嬢は恰幅の良いオバチャン。

 

「いらっしゃい、冒険者ギルド・ブルック支部にようこそ。御用件は何だい?」

 

「素材の買い取りを」

 

「素材の買取か。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

 

「はい、これな」

 

 偽装されたステータスプレートを出すと、オバチャンがチェックをして返却をされる。

 

「うん、間違いなく」

 

 買い取りにステータスプレートは不要だが、冒険者と確認されたら買い取り額が一割増しとなるのだ。

 

 冒険者になれば特典など様々に付いてくる。

 

 生活に必要となる魔石、回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものが殆んど、素人連中が自分で採取しに行くことはまず無いし、危険に見合った特典が付いてくるのは当然だろう。

 

 ギルドと提携をしている宿や店などは、一割〜二割程度は割り引きされるし、移動馬車を利用する場合も高ランクなら無料で使えたりすると聞いていた。

 

「そうだ、序でだから雫達も登録しておくか?」

 

「良いわね」

 

「そうしようかな」

 

「……ん、問題無い」

 

 奴隷扱いでステータスプレートを出す事も無いシアを除き、雫と香織とユエの三人は冒険者登録をする。

 

「三人で三千ルタだよ」

 

 登録料金は千ルタ。

 

 ザガルタ鉱石に他の鉱物を混ぜると、異なった色の鉱石になるらしい。

 

 それに特殊な刻印を施したのがルタ硬貨。

 

 青から始まり、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類が存在して青を一ルタとして順に五、十、五〇、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。

 

 貨幣価値は日本と同じとなっていた。

 

 ユートは黒い硬貨を三枚……三千ルタを支払う。

 

 返却された三人のステータスプレートは、天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに【冒険者】と表記をされて、更にその横に青色の点が付いていた。

 

 硬貨と同じく色でランクが示される訳で、青ランクが一番下のランクとなる。

 

 ユートはホルアドの町で冒険者登録をしてある為、既に職業が冒険者となっており、その横には黄色の点が付いていた。

 

 ある程度の活動はしていたからか、実はランクも上がっていたのである。

 

「じゃあ、買い取り品を見せてくれるかい?」

 

「オッケー」

 

 ユートが【宝物庫】から毛皮や爪や牙、そして魔石を取り出して置いた。

 

「こ、こりゃあ……まさか【ハルツィナ樹海】の素材じゃないかい?」

 

「正解」

 

「樹海の素材は良質なものが多いからね、売って貰えるのは助かるよ。中央なら幾分か高値で買ってくれるんだけど……」

 

「やっぱり珍しいのか?」

 

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷ってしまえば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入ったりはしないかね」

 

 シアを見て納得した。

 

 シアの協力を得て樹海を探索したのだと、そう推測をしたから樹海の素材を出しても不審とまでは思われなかった様だ。

 

 オバチャンが全ての素材を査定し金額を提示して、見れば六四万二千ルタという結構な金額。

 

「これで大丈夫かい?」

 

「ああ、この額で充分だ」

 

 ユートはお金を受け取り序でに、オバチャン謹製のマップを貰って冒険者ギルドを後にした。

 

 

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第30話:祝え! スマ・ラヴ生誕の刻である

 思ったより早く書けた、ライセン大迷宮は次です。





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 オバチャン――キャサリンさんなる受付嬢から受け取ったマップ、もう地図というよりガイドブックとか呼べる代物でブルックの町を散策している五人。

 

 最早、慣れたが男の視線が可成り鬱陶しいものの、キャサリンさんのマップで散策自体は快適だった。

 

「此処が【マサカの宿】、マップではお勧めだと書かれているが……」

 

 天職:書士なキャサリンさん、そのマップはお金も取れるレベルなだけに信頼を寄せている。

 

 紹介文には割高だけど、食事が美味くて風呂を完備しているとあった。

 

(どんな『まさか』がある宿なんだろうな?)

 

 尚、宿の名前は経営者のファミリーネームであり、『まさか』な出来事が起きる【マサカの宿】という訳では決して無い! 筈?

 

 だけどユートは知らなかった、【マサカの宿】では本当に『まさか』の出来事が起きるとは(笑)……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【マサカの宿】の中は、一階が食堂になっているらしく、軽く見たら男女複数の人間が食事をしている。

 

 ユート達が入るとまるでお約束の如く、香織と雫とユエとシアに視線が集まってきたが、相手にしていられないと視線を無視して、カウンターへと向かった。

 

 一五歳くらいだろうか、それなりに可愛らしい少女が現れて、にこやかな営業スマイルで口を開く。

 

「マサカの宿へようこそ、いらっしゃいませーっ! 本日はお泊りでしょうか? それとも、お食事だけをなさいますか?」

 

「宿泊の刻! じゃなく、このガイドブック見て来たんだけど、記載されている通りで良いのかな?」

 

 オバチャンの特製の地図を少女が見て、『成程』と合点がいった様に頷いた。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、確かに書いてある通りです。何泊のご予定でしょうか?」

 

「一泊食事付き、あと風呂の方も頼むな」

 

「はい。お風呂は一五分で百ルタになりますね。この時間帯が空いてますが?」

 

 少女が時間帯表を見せてくると、なるべくゆっくり浸かりたい気分だったし、男女で分けるとして二時間くらいは確保したい。

 

「二時間くらい欲しいな」

 

「えっ、二時間も!?」

 

 驚愕する少女だったが、ユートも精神的には日本人だから譲れない。

 

 純英国人な兄は鴉の行水レベルだったが……

 

「え〜と、それでお部屋はどうなさいますか? 取り敢えず二人部屋と三人部屋が空いてますけど」

 

 朱に染まる頬で好奇心が含まれた瞳、そういうのが気になるお年頃な少女なのだろうが、食堂に居る客達まで聞き耳を立てているのはどうかと思う。

 

 美少女が四人となれば、可成り目立つとは思っていたのだが、やはりこの四人容姿は相当らしい。

 

 学校の【二大女神】に加えて吸血姫と兎人族の娘、しかもユエはエロリ吸血姫で幼い容貌に妖艶さを併せ持ち、シアはユエでは持ち得ないスタイル抜群な肢体という別の意味でエロい。

 

 男共の視線を釘付けにするには充分過ぎた。

 

「両方を頼む」

 

「へ?」

 

「両方だよ。五人居るのは判るだろうに」

 

「そ、そうですが……」

 

「今日はシアを可愛がってやる心算でね。三人には悪いが今夜は遠慮して貰う」

 

「……仕方がない」

 

「そりゃ……ね」

 

「やっぱり一生の想い出になるから」

 

 ユエは静かに瞑目して、雫と香織は顔が紅い。

 

 シアが真っ赤になって、更には三人の美少女の科白によって周囲がざわつき、少女も頬を赤らめている。

 男共は世の絶望であると暗い表情を浮かべており、モテの格差に泣いてさえいる様に思えた。

 

 宿屋の看板娘? は顔を真っ赤にしてチラチラと、シアとユートを交互に見つめている辺り興味津々。

 

「ユ、ユートさん。はい、私の処女を貰って下さい! 今宵はユートさんに全部の初めてを捧げますぅ!」

 

「声がでかい!」

 

「はうっ!」

 

 口走った事の恥ずかしさから口を閉じるシアだが、もう遅いとばかりに男共の鼻から赤いモノが噴出しており、女性連れだった野郎はビンタを喰らっていた。

 

 厨房の奥から少女の両親と思しき女性と男性までが出て来て、温かな視線にて此方を注目している。

 

 きっと御主人辺りが……『昨夜はお楽しみでしたね』とか言うのだろう。

 

 まぁ、愉しむんだけど。

 

「騒がせたな。さっき言った通りで頼む」

 

「す、凄い……あんな人と二人っ切りで御部屋に? はっ、マサカ御風呂を二時間も使うのはそういう事だと云うのね!? お互いの身体で洗いっこするんだ! そ、それから……全部の初めてって事は? お口もアソコも後ろも……な、何てアブノーマルなっ!?」

 

 少女は妄想の中に浸ってしまい、それを見かねてしまった女将さんらしき女性がズルズルと少女奥に引きずって行く。

 

 そんな少女代わりに父親らしき男性が、手早く五人の宿泊の手続きを行った。

「うちの娘がすみません」

 

 理解の色が宿った瞳で、頭を下げられてしまう。

 

「あ、汚れた布団はその侭で構いませんから」

 

 要らん事を言われた。

 

 これ以上は男共のパトスを刺激し過ぎ、暴発の恐れもあるからとさっさと部屋へと行かせて貰う。

 

 暴発していそうなのは、【マサカの宿】の看板娘ちゃんも同じだけど。

 

(あの娘、さっきの会話をオカズに今夜は独り遊びでもするのかね?)

 

 ユートも要らん事を考えながら部屋に入り、風呂の時間までは軽く睡眠を取る事にした。

 

「ユートさん、もう御風呂の時間ですよ?」

 

 今宵は三人共が遠慮し、別室で眠る事になる。

 

 シアは今宵だけは新妻の如く振る舞えるのだ。

 

 白い肌だが紅くなった顔でユートを起こしてるが、起きたらつまりヤるべき事をヤる訳で、やはり羞恥心は刺激されていた。

 

「うん、時間か。シア」

 

「は、ひ!」

 

 ビクンと震えつつ背筋を伸ばすシアに、ユートは思わず苦笑いを浮かべる。

 

「そう緊張するな。風呂前にアイゼンⅡを渡してくれないか?」

 

「アイゼンをですぅ?」

 

「ちょっと改造をな」

 

「は、はぁ……」

 

 首からチェーンで下げた待機状態のアイゼンⅡを、シアは要領の得ない表情で外すと手渡す。

 

「この待機モード以外では戦闘用、鉄槌モードと突撃モードと轟天モードの三種が有るな?」

 

「ハイですぅ」

 

 グラーフアイゼンで云うハンマーフォルム、ラケーテンフォルム、ギガントフォルムの三種類だ。

 

 ギガントフォルムを轟天と呼ぶのは、このフォルムでの攻撃に『轟天爆砕』と叫ぶから。

 

「これに黄金モードを追加してみようかなとね」

 

「黄金モードですぅ?」

 

「ゴルディオンハンマーって訳だ。クックッ、自分が重力魔法を渡す前に重力系を使われたとして、いったいどんな気持ちだろうな? ミレディ・ライセンは」

 

「……?」

 

 どうやら意地悪を兼ねてパワーアップさせる心算だと理解し、シアはユートを微妙な表情でみつめる。

 

 アイゼンⅡにどんな機能を付け足すか、容量的にも後一つが精一杯な為にちょっとした二者択一に悩み、どうせだからネタに走るかと【勇者王ガオガイガー】のゴルディオンハンマーを採用した。

 

 もう一つはヴィータが使うギガントとラケーテン、二つの機能を併せ持っている【ツェアシュテールングスフォルム】が候補に挙がっていたが、それだと面白味が無かったのと敵対者、エヒトの使徒を文字通りの光にしてやろうかと猟奇的な意味での選択。

 

 因みに、此方を選択した場合は破壊モードという名になっていた。

 

「時間、掛かりますか?」

 

「んにゃ、完成したモノを組み込むだけだから一分と掛からんよ」

 

 握り締めて光と共に足下を巡るベルカ式魔法陣。

 

 その色は闇色。

 

「はい、完成した」

 

「はやっ!」

 

 確かに渡して一分以内、【創成】を応用しているからユート以外は不可能な、既知外染みた速度である。

 

 【ゴルディオンハンマー】――正式名称は【グラビティ・ショックウェーブ・ジェネレイティング・ツール】とされ、世界一格好良いピコピコハンマー。

 

 作用対象へ強烈な重力波を浴びせ掛け、光速以上の速度により落下させる事で光子変換する兵器。

 

 要は『光になぁれ!』と言う通りの物だ。

 

「危険だから余り使う機会は無いが、必要な時は容赦無く使う様にな」

 

「了解ですぅ!」

 

 量産されてGの如く湧き出る使徒には、この上無い超兵器となるであろう。

 

「それじゃ、シア。風呂に行くか」

 

「は、ハイですぅ」

 

 やっぱり真っ赤になる。

 

 まぁ、普段から裸とは云わないまでも可成り肌を晒す服装だが、決して裸ではないと主張しているシアは羞恥心が普通にある。

 

 男と風呂に入るなんて、そんなシチュエーションが恥ずかしくない訳も無く、頬が朱に染まるのは女の子として当然の感情。

 

 風呂場でお互いに脱ぎ、ユートはシアの香織にも雫にも況してや、ユエに有ろう筈もないプルプル震える巨乳に癒され、シアはシアでユートの下半身に付いているモノの凶悪さに固唾を呑み、序でに脱いで初めて判る細身ながら筋肉が絞り込まれ付いている事実に、筋肉が好きな訳ではないが逞しさを視て、お腹が熱くなるのを感じていた。

 

 ユートの分身は邪神……強壮たる【C】が取り憑く夢幻心母に突入した際に、グッチョグチョな触手から襲撃を受け、全身を隈無く犯されてしまった結果としてある意味、生体改造を受けてしまったに等しくて、それが魂にまで染み付いていたが故に、転生をしても変わらない状態である。

 

 女を悦ばせる事に特化をした巨根は、何処ぞの超絶美形主人公かニトロ砲かと云わんばかりのデカさで、しかも処女なら兎も角としてこのデカさなのに、相手には苦痛を碌に与えず挿入する事が可能であり、射精も割かし自由自在なレベルでコントロール出来る為、余程に早く相手が絶頂に至らない限り同時に絶頂する事も可能。

 

 更に精液に女を興奮させる成分が混ざっているらしくて、イケばイク程に相手は性的な興奮状態を維持されてしまい、気絶してしまうまで肉体を使ってしまうらしい。

 

 その量もエロゲの主人公レベルで、一回で子宮内を圧迫してしまうとか。

 

 また、その癖に子胤として見ると貧弱なのかデキ難い体質であった。

 

 本当に子供が欲しいなら一ヶ月間、飲まず食わず眠らずヤり抜いて射精を続ける必要があるくらいに。

 

 尚、ハルケギニア時代にユートの子供が何としてでも欲しかったガリア王国の王女、イザベラ・マルテス・ド・ガリアはそれを実践して見事に後継者となるであろう子を身籠った。

 

 戦いに行けば死ぬかも知れず、そうなれば何処ぞのガリア国内に於ける貴族のボンボンに抱かれねばならない上に、吐き気を催す事に子胤を受け容れて産まねばならなくなる。

 

 それが嫌で頑張った。

 

 それは最早、狂気の沙汰とも云えるであろう。

 

 実際、邪神戦役に於いてユートは二年間も帰っては来ず、妊娠して出産をしていなければ間違いなくそうなっていた流れだ。

 

 邪神戦役での英雄であるユートの子供だからこそ、寧ろ名誉や栄誉に拘りを持つ貴族を黙らせた。

 

 しかも、立派な後嗣たる男子だったからジョゼフは孫を王太子とする。

 

 第一王女たるイザベラと英雄ユートの子供であり、文句を付けそうな大公派は絶滅させられ、問題なんかも無かったらしい。

 

 それは兎も角として……様々な意味で性行為に特化したユートは無限リロードで精子が秒刻みに復活し、無限射精が出来てしまうから時間さえ有れば何人でも何発でもイケる。

 

 シアは肩を掴まれ抱き寄せられて、風呂に入る前にお互いを綺麗に洗いっこ。

 

 入ったら入ったで盛り上がる気分の侭、キスでそれを鎮めてあちこちを触り合っていた。

 

 そしていよいよシアの方も我慢の限界に達したら、風呂から上がって軽く拭いてから部屋に戻り、鍵を確り掛けた上で結界まで展開をしてベッドへ直行。

 

 シアの初めてを『戴きます』してしまった。

 

 初めてであるが故に行為は五発で終了、まだ慣れていないシアは三発目の絶頂を迎えて気絶する。

 

 他の二発は子宮ではない部分に放った。

 

 翌朝、ユートの腕の中で目を覚ましたシアは目覚めのキスをする。

 

 トロ〜ンと蕩けている瞳は魅力的で、朝勃ちしていたユートの分身が更に硬度を増した為、目覚めの一発をしてスッキリさせると、食堂で待つユエと雫と香織の三人に合流をして、宿屋をチェックアウト。

 

 ライセン大迷宮へと向かう前に買い物である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 取り敢えずバラけて意味は無いし、全員で動く事になったのだが早速というか冒険者向きの店に向かう。

 

 普段着などの纏め買いが可能らしい。

 

 流石はキャサリンさんが勧めているだけあってか、品揃えは豊富、品質良質、機能的で実用的でありながら見た目も忘れずという、正しく期待を決して裏切らない良店である。

 

 だけど入店した途端……

 

「あらん、いらっしゃい。可愛い子達ねぇん。来てくれてお姉さん嬉しいぃわ、た〜ぷりとサービスをしちゃうわよぉ〜ん」

 

 化け物が居たのである。

 

 身長は二m強とかユートの本来の身長より一〇cm以上高く、全身にバンプアップでもされたのか如く、脹れ上がった筋肉という名の天然の鎧を纏う。

 

 ユートが細身のマッチョなら、此方はトランクスの第三形態超サイヤ人も斯くやなゴン太な筋肉だ。

 

 身近なら坂上龍太郎とか居るが、比べ物には決してならない程である。

 

 

 更にはすわっ劇画か? とか思うくらい濃ゆい顔、禿た頭頂部にはチョコンと一房の長い髪が生えてて、三つ編みに結わい付けられており、その先端をピンクのリボンで纏めている。

 

 彼? が動く度に全身の筋肉がピクピクと動いて、軋む音を立てつつ両手を頬の隣で組み、くねっくねっと吐き気を催すレベルにて動いていた。

 

 服装はシアのレベルで、ゴン太の腕と脚部と腹筋が丸見えの服装、香織の魂が抜け掛けるくらいに衝撃的な存在だったと云う。

 

 ユート以外は硬直した。

 

 香織は魂が抜ける寸前、シアはもう意識が飛び掛けてたし、ユエは奈落の魔物を越えた化物の出現に悲壮なる覚悟を決め、一戦を交える戦士の目をしている。

 

「……」

 

 雫は静かだ。

 

「あらあらぁ〜ん? どうしちゃったのかな四人共? 可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ〜ん。ほら、笑って笑って?」

 

 笑えねぇと言いたくなるのを堪える女性陣。

 

 凄まじいまでの笑顔で、身体をくねらせながら接近してくる化物に、遂に堪え切れなくなったユエは禁句を呟いていた。

 

「……貴方は人間?」

 

 ピシリと空気が凍って、化物が憤怒の表情から咆哮を上げる。

 

「どぅあ〜れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけでSAN値直葬をされそうな化物だ、ゴラァァアアッッ!」

 

「……ご、ごめんなさい」

 

 ユエが恐怖から震えて、涙目になり後退っていた。

 

 シアはペタンと女の子座りで座り込み、少し下半身が冷たくなってしまう。

 

 香織は完全に魂が抜け、ユートが慌て積尸気転生波で繋がりを戻していた。

 

 そして雫は……

 

「……」

 

 実は立った侭で気絶中。

 

 ユエが、咄嗟に謝罪すると化物は再び笑顔? になって接客に勤しんでくる。

 

「良いのよ〜ん。それで、今日はどんな御品をお求めかしらぁ〜ん?」

 

 

「この娘の服を買いたい。丈夫で長持ちでデザイン的にも良さそうで、シア……この娘が今着ている服に近い物を頼む」

 

 平然とユートが注文し、化物はニコニコとへたり込んだシアを抱えて店の奥、彼? の領域へと連れて行ってしまった。

 

 結論だけ言うと化物……店長たるクリスタベル氏の見立ては見事としか言えないレベル。

 

 そもそも店の奥へ連れて行ったのも、シアが粗相をした事に気が付いたから、着替える場所を提供するという有り難い気遣いだ。

 

 

「いや〜、最初はどうなる事かと思いましたけど……意外に良い人でしたよね。クリスタベルさんは」

 

「……ん、人は見た目に寄らないもの」

 

「そ、そうだね」

 

「……」

 

 店を出た五人。

 

 シアとユエは絶賛して、香織も苦笑いをしつつ頷いているが、雫だけは未だに白目を剥いて気絶しておりユートに背負われていた。

 

「不意討ちで見たからか、一番ショックを受けたみたいだね」

 

「雫ちゃんの美意識からは対極だか……かな?」

 

 可愛いものが大好きで、実は香織より乙女チックなだけに、雫の脳が許容範囲を越えたのであろう。

 

 耐性は付いたから次なら大丈夫、それに行き成りの出会い頭でなければ普通に受け止めたと思われる。

 

 雫もそこまで柔ではないのだから。

 

「それに割と良い性格しているよ……な? 雫」

 

「ギクリ」

 

「雫ちゃん、口でギクリとか言う人は初めて見たよ」

 

 気絶は本当だったけど、ユートの背中で既に目覚めていながら、温もりを感じたくて気付いても寝た振りをしていた雫。

 

 ヤられて恋して乙女チック全開とか、雫の脳内葛藤で出した答えは歪である。

 

 だけど初めての相手に、雫は意味を見出だしたいと無意識に思い、ユートへの恋心に換えてしまったのは理解も出来た。

 

 所詮、恋心など無自覚な錯覚に過ぎないのだから、想いを持てばそれが恋だとも云える。

 

 仮に、本当に仮にレ○プされて堕ちたのだとして、それもまた恋なのだから。

 

 まだユートとの関係の方がマシであろうか?

 

 潤んだ瞳に朱に染まる頬でユートを見つめる雫は、確かな恋心に衝き動かされている様だし。

 

「優斗は平気だったの?」

 

「別にクリスタベルが僕に危害を加えた訳じゃ無し、あれが彼のスタンダードならそれで構わないからね」

 

「強心臓よね……」

 

「雫だって慣れりゃ問題も無いだろ。あれは出会い頭だったから驚いただけ」

 

「まぁね……」

 

 雫だって、普通にあれが失礼千万だとは理解する。

 

 だけど出会い頭に会って思わず気絶した、汗顔の至りとはこの事であろう。

 

 雑談しながら次は道具屋に回ろうと、一行が歩みを進め始めたら其処へ何人かの男がズラリと現れた。

 

 それは冒険者という風体の男が大半ではあるけど、その中には何故かどっかの店のエプロンをしている男も居る。

 

「宿屋に居た連中だな……それと冒険者ギルドに居たのも……か」

 

 ユートに覚えのある顔、【マサカの宿】で見た男共だと判断をし、更にギルドに居た男共も加わってた。

 

 いつの間にか数十人の男共に囲まれており、その内の一人が前に進み出る。

 

「ユエちゃんとシアちゃんとカオリちゃんとシズクちゃん……で名前は合っているよな?」

 

「……合ってる」

 

 訝しい表情となるユエ、亜人族なのに『ちゃん』とかで呼ばれて驚いた表情をするシア、自分の名前が出て小首を傾げている香織、そして呼び止められた理由を何と無く察した雫。

 

 ユエからの返答を聞き、男は後ろを振り返ると他の男共と頷いて、決死の覚悟でもした様な目でユエを、シアを、香織を、雫を見つめてきた。

 

 他の男連中も前に出て、誰かしらの前に出てくる。

 

 全員がまるで示し合わせたかの如く……

 

『『『『ユエちゃん、俺と付き合ってください!』』』』

 

『『『『シアちゃん! 俺の奴隷になれ!』』』』

 

『『『『カオリちゃん! 俺の嫁になって!』』』』

 

『『『『シズクちゃん! 俺をしばいて!』』』』

 

 何だか口説きに来たらしいが、各々で口説き文句が違うのは仕方がないとしてシアは亜人だからか。

 

 尚、奴隷の譲渡は主人の許可が必要となるのだが、宿でのやり取りからユートとシア仲が可成り良いのが周知されている。

 

 故に先ずは奴隷たるシアから落したら、主のユートも説得しやすいだろうと、そんな風に連中は思ったのかも知れない。

 

 対外的に奴隷としたが、シアは自由の身であるからユートに抱かれたのも己れの意志、何を言われようともシアの意志が揺らぐ事など有り得ないが、この連中はワンチャン有りとでも思っている様だ。

 

 告白を受けた四人は……

 

「……シア、香織、道具屋は此方」

 

「あ、はい。一軒で全部揃うと良いですね」

 

「でも大概はゆう君が用意するんだよね? 道具屋で何か入り用なのかな?」

 

 何事も無かったかの如くスルーし歩みを再開する。

 

「優斗、食料はどういったのを買うのかしら?」

 

「折角、料理担当が二人も居るんだ。調理から出来る野菜や肉類を買おうか」

 

 雫もスルー、ユートと共に食料品店へと向かった。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 返事は!? 返事を聞かせてくれよ!」

 

「……断る」

 

「御断りですぅ」

 

「スッゴく嫌かな」

 

「莫迦じゃないの? 何で私にはMが来るのよ!」

 

 それは正しく一刀両断であったと云う。

 

『『『『ゲフッ!』』』』

 

 (いにしえ)の言葉でアウト・オブ・眼中だった訳で、殆んどの男が崩れ落ちてしまう。

 

 とはいえ、やはり諦めの悪い莫迦が悪足掻きをしたくなる程度に四人が美少女だった為、そういう莫迦が実力行使に出てきた。

 

「俺のモノにならないってんなら、力尽くででも俺のモノにしてやるぜっ!」

 

 アホで莫迦な男の雄叫びを聞き、他の男共の眼光も意味無く光を宿していた。

 

 ユエ達を逃さない様に、複数で取り囲むとジリジリ迫って来る。

 

 所謂、ルパンダイブにてユエへと飛び掛かってきた男だったが……

 

「漢女になるが良い」

 

 呟くユート。

 

 ドパン!

 

「ハウッ!?」

 

 手にした黒と赤を基調としたモーゼルカスタム……暴君の魔銃とも言われている自動式拳銃クトゥグアで男の“尊厳”を破砕した。

 

 ビクンビクンと股間から血を流しつつ痙攣する男、これが同じ男のする所業かと戦慄を覚える周囲。

 

「ユエもシアも香織も雫も……全員が僕のモノでね、無理えちぃとかするんなら二度とヤれなくしてやる。もう一度言う、『漢女になるが良い!』……とな」

 

「……成程、良い手段」

 

 懲りずにまた襲いに来た莫迦に対し……

 

「……【凍柩】」

 

 水系統上級魔法で凍らせてしまう。

 

「お、俺は本気なんだ! 本気でユエちゃんが!」

 

 ニコリと男を魅了してしまう笑顔を浮かべ、何故か極一部のみの氷を溶かす。

 

「へ? どうして股間だけ溶かしたんだ?」

 

 その時、男は先程の男の末路を思い出してしまう。

 

「ま、まさか……そんな、まさか……嘘……だよね? ユエちゃん」

 

「……狙い撃つ!」

 

 風の礫を放つ魔法が股間に向けて放たれた。

 

「アバババババババババババババッッ!」

 

 軈て、永遠に続くかと思われた悪魔の集中砲火は、男の意識の喪失と同時に終わりを告げた。

 

一撃で意識を失わせずに、確実にダメージを蓄積させる風の魔法、それを正しく神業の如く“股間”へ放ったのである。

 

 ユエは指鉄砲を形作った人差し指の先を、フッ! と吹き払い置き土産にあの言葉を残した。

 

「……漢女になるが良い」

 

 その後も数人が男としての死を迎えて、第二第三のクリスタベル……謂わば後のマリアベルちゃん達が、誕生した瞬間であった。

 

『Happy Birthday!』

 

 鴻上社長の祝福が聴こえてきそうな程に。

 

 そしてユートとユエに、『股間スマッシャー』という二つ名が付いてしまい、これが後に冒険者ギルドを通し王都にまで名が轟き、男の冒険者連中を震え上がらせる事となる。

 

 スマッシュ・ラヴァーズ……略してスマ・ラブと、ユートは兎も角としてユエは原典通りに呼ばれる様になってしまうのだった。

 

 戦慄と恐怖と絶望を残してオルクス大迷宮に戻り、天蓋付きのベッドでシアも含めた四人もの美少女を、ユートはたっぷりと可愛がってやり、翌朝早くに迷宮を出てからライセン大峡谷へと向かう。

 

 そして遂に第二の大迷宮……【ライセン大迷宮】に足を踏み入れるのだった。

 

 

.

 




 ユートとユエが目出度くスマ・ラブに……


 


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第31話:ライセン大迷宮のトラップと緋の騎神

.

「多分、これだな」

 

「若しかして仕掛け扉?」

 

「そうだ。でないとおかしいからね」

 

 入口だと明言しながら、壁しか無い訳だから。

 

 例の看板の有った場所、其処を基点に大迷宮の入口を捜していたが、それらしき窪みを見付けていた。

 

「入る前に変身しようか。ライセンでは魔力が分解されるから、一〇倍の強度で使わないといけないけど、仮面ライダーなら普通に使えるからね」

 

「成程」

 

 雫は頷く。

 

 特に魔法に頼りがちであるユエと香織、うんうんと頻りに頷いていた。

 

 ユートの造った仮面ライダーの特性、魔力を変質させた別のエネルギーとする為に、魔力を分解するなどのデメリットを受けない。

 

 AMFやアンティナイトといった、魔力や念力などを阻害する物は当たり前に出てくる為、別のエネルギーと化したら? と考えて組み込んだものだ。

 

 目論見通りにAMF内でも魔法は使えた。

 

 霊力や(あまつさ)え、氣力までも封じられるかも知れない、エネルギー封印は割とよく有るのだから。

 

「サソードゼクター」

 

《STAND BY》

 

 地中からサソードゼクターが飛び出してきた。

 

「……サガーク」

 

 フヨフヨと飛翔してくるサガーク。

 

「ザビーゼクター!」

 

 ジョウントを通り空からシアの手に、ザビーゼクターが納まった。

 

 香織は腰にジョーカードライバーを顕現させると、カードホルダーから一枚のカードを取り出す。

 

 ユートはグリスの変身を解除していた為に、改めてネオディケイドライバーを腰に顕現させた。

 

 準備をすませた五人は、その言葉を一斉に叫ぶ。

 

『変身!』

 

 サソードヤイバーの鍔部に対し、サソードゼクターを合着させると……

 

《HENSHIN!》

 

 サソードヤイバーを手にした左手を基点にアーマーが徐々に構築されていき、雫が仮面ライダーサソード・マスクドフォームの姿へと変わった。

 

 ユエの腰にベルトとなって合着されたサガークの、右側に付いているスロットへジャコーダーをセットして引き抜く。

 

《HENSHIN!》

 

 生き物というより機械的な音声で喋るサガークは、【運命の鎧】とも呼ばれるキバ系列最初期型サガを、ユエの小さな肉体に纏わせていき、大人サイズに伸びたユエの身長と共に、何処か女性的ラインのインナーを着てる仮面ライダーサガに変身をした。

 

 シアは左手首のライダーブレスに、ザビーゼクターを合着させる。

 

《HENSHIN!》

 

 左手首から装甲が構築、仮面ライダーザビー・マスクドフォームに変身した。

 

 香織が持つカードとは、エヒトの使徒たるリューンを封じてるハートスートのカテゴリーA、【CHANGE】RYUNのカードだ。

 

 普通なら種族名として、【CHANGE】APOSTLEでも良さそうだが、普通に名前で表示をされていた。

 

 これは早い話が元のカードを【CHANGE】CHALICE、この様に書いてあるに等しかった。

 

 この【CHANGE】RYUNを、ドライバーの中央に設置されたハート型で、緑色をしたスリットにスラッシュ。

 

《CHANGE!》

 

 水のエフェクト付きによるモーフィングによって、今回は使徒リューンではなく仮面ライダーリューンとしての姿になる。

 

 とはいっても独創性が低いユートは、仮面ライダーカリスの色違いに創造をした聖魔獣リューン。

 

 聖魔獣の名前はリューンを封印してから決めた。

 

 全体的に白で、アーマーなどが銀色、複眼は緑色のカリスだと思えば正解だ。

 

 そしてユートはいつもの通り、ディケイドの絵柄が描かれたライダーカードをネオディケイドライバーへと装填……

 

《KAMEN RIDE》

 

 ガシャン! とバックルを閉じる。

 

《DECADE!》

 

 一八ものシルエットが顕れて、素体のディケイドへと一つになっていく。

 

 緑色の複眼に黒のインナーにマゼンタカラーで左右非対称のアーマーという、仮面ライダーディケイドの姿に変わるユート。

 

「良し、皆……行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

「……ん、判った」

 

「ハイですぅ!」

 

 ユートの言葉に返事をしながら、ライセン大迷宮を進み始める一行だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 始めの第一歩。

 

 行き成り真っ暗闇の中、仕掛け扉な石壁がクルリと回って仕舞ったその瞬間、僅かな風切り音と共に……

 

「矢か」

 

 全く光を反射しない様に小細工をした漆黒の矢が、侵入者を排除せんと無数に飛来してきていた。

 

 受けてもダメージの一つも負わないが、黙って受けてやる義理も無い。

 

 ソードモードのライドブッカーで切り払う。

 

 闇の中でも関係無く見えている証明、ユート自身は夜目が利くのだとしても、実は聖魔獣の能力の一つに暗視が常備されていた。

 

 よって、香織と雫の二人にもちゃんと見えてたし、ユエもシアも見えている。

 

 一本の金属から削り出した造りで、二〇本もの艶の無い黒い矢が無造作に地面へと散らばり、最後の矢が地面に叩き落とされて再び辺りには静寂が戻った。

 

「艶消しか。これなら僅かな光でも反射はしないな」

 

 拾った矢を観察すると、落ちていた矢も含めて自分のアイテムストレージに。

 

「あれ? 持ってくんだ」

 

「要らないけどね」

 

 アザンチウム鉱石製ならまだしも、この矢の材質ではゴミにも等しい。

 

 周囲の壁がぼんやりと光ると辺りを照らし出す。

 

 一〇m四方の部屋内で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸び、部屋の中央には石版が設置されてる。

 

 外の看板と同じく丸い、女の子文字で……

 

【ビビった? ねぇ、ビビっちゃた? チビってたりして、ニヤニヤ】

 

【それとも怪我した? 若しかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ】

 

「『ニヤニヤ』とか『ぶふっ』の部分が、深堀りされて強調してある辺りから、ひたすらにウザいな」

 

 全員が一致した意見で、一斉に頷いている。

 

「パーティで踏み込んで、万が一にも誰かが死んでいたら、生き残りは怒髪天を衝く勢いで怒り狂うわね」

 

 雫の目は笑ってない。

 

「本当にお茶目さんかな、かな?」

 

 香織など背後にスタンドが顕れていた。

 

「ですぅ!」

 

「……ぶっ飛ばしたい」

 

 怒り心頭で叫ぶシアと、静かに怒りを露わとしているユエ、全員が仮面ライダーだから表情こそ見えてはいないが、苛立ちは誰もが持っている事であろう。

 

「このっ、ですぅ!」

 

 ブンブンゴガンッ!

 

 ラケーテンフォルム相当の突撃モードなアイゼンⅡにて、シアが石板を破壊してやると下に何やら文字が掘られていた。

 

【ざんね〜ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ〜。プークスクス!!】

 

「ムッキ〜ッッ! 潰す、絶対的にぶっ潰して磨り潰してやるですぅっっ!」

 

 余りの腹立たしさに興奮して絶叫をするシア。

 

「シアの奴、見事に迷宮の造り主を喜ばせる行動を取っているよな〜」

 

「仕方がないわよあれは」

 

 ユートの呟きに雫が頭を振りながら言う。

 

 兎に角、こうしていても始まらないとばかりに一行は大迷宮を進んだ。

 

「魔物が出ないな」

 

「ですぅ、オルクス大迷宮張りの魔物を想像していたんですけど……」

 

 今ならある程度であればハウリア波をぶっ放して、魔物をぶちのめすくらいも可能だが、修業を始めて間もない頃は地獄だった。

 

 ユートが【魔獣創造】で再現した魔獣の蹴り兎を、何とか一匹を斃したかと思えば、次から次に矢継ぎ早で出してきたデスマーチ。

 

 聖魔獣ではなく飽く迄も魔獣なのは、きっとユートの優しさなのだろう。

 

 激しく間違った優しさに思うシアだったが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 道なりに通路を進むと、ちょっとばかり広大な空間に出る。

 

 階段や通路や奥へと続く入口が規則性も何も無く、ごちゃごちゃに繋がり合っていて、それはブロックを適当に組んで造られた様な場所であったと云う。

 

 一階から伸びている階段が三階の通路に繋がっていたかと思ったら、その三階はと云えば通路が緩やかなスロープで、一階の通路に繋がっていたりする。

 

 二階では階段の先が何も無い、単なるの壁に過ぎなかったりと、凄まじいまでに滅茶苦茶だった。

 

「随分と迷宮らしい場所、迷わす為には何だってやるみたいな迷宮だよ」

 

「……ん、本当に迷いそうになる」

 

 ユートの吐く感想にユエが頷いた。

 

「ふん、流石は腹の奥底まで腐った奴の迷宮ですぅ。この滅茶苦茶具合が奴の心を表してるんですよ!」

 

「まぁ、でもな。ミレディの人格は生まれてから随分と経って形成されたから」

 

 やはり怒り心頭ウサギに苦笑しつつ、ユーキ情報として得ていたミレディに関する情報を口にする。

 

「ミレディ・ライセンは、ライセン大渓谷周辺を領地とするライセン伯爵家に生まれた娘だ。父親は彼女の情操教育は施さず神代魔法を扱う装置みたいに接していたらしい」

 

「……神代魔法を扱う装置というと?」

 

「離れていても浮かして、渓谷に落とせる重力魔法。万が一に罪人が暴れても、危険無く処刑が出来るって寸法さ」

 

「な、何よそれ……」

 

「ミレディさんが可哀想過ぎるよ!」

 

 ミレディの境遇には多分に同情的になる雫と香織。

 

「情操教育をしなかったのは淡々と、毎日連日に亘って処刑を繰り返すから精神が壊れかねないからだな。優しさからじゃなく、装置が壊れると勿体無いから」

 

「益々酷いよ!」

 

 ミレディ・ライセンとはある時期まで、自分の境遇にすら興味を持たない子供であったが故に、香織からの言葉は当時だと響く事も無かったであろう。

 

「そんなミレディに楔を打ち込んだのがベル」

 

 彼女の破天荒過ぎる行動に心乱され、少しずつだが心を形成していくミレディだったが、契機というのはいつか必ず訪れる。

 

 ベルは父のライセン伯爵に捕らわれ、大峡谷へと落とされてしまった。

 

 父親の言葉を無視して、ミレディはベルを捜すべく峡谷へと降り、ベルの死を以てある意味で完成する。

 

 父親は神代魔法は惜しいが仕方がない……と言い、“無謀”にも余りに愚かしい事を命じた。

 

 ミレディを処分せよと。

 

 出来る筈が無いと何故、気付けなかったのか?

 

 所詮はライセンの名が無くば何も出来ぬ無能故か。

 

 ミレディは“ベルの様に笑い”ながら言った。

 

『廃棄処分? やれるもんならやってみればぁ?』

 

「当然ながら処分されたのは父親の方。オスカー・オルクスとの出逢いの数年前の話らしい、ライセン伯爵家が全滅したのは」

 

『願わくば……人が自由な意思の下に生きられる世界になりますように』

 

「ベルの遺言は【解放者】のキャッチコピーになり、だから映像でもオスカー・オルクスが言っていた」

 

「……確かに」

 

 ユエも聞いている。

 

「そしてライセン大迷宮だけど、多分だが最初に攻略をするべき迷宮なんじゃないかと推測してる」

 

「どういう事?」

 

「先ず、魔物が出ない」

 

「? だから?」

 

 ユートの言葉の根拠が解らない雫、香織もやっぱり理解に苦しむらしい。

 

「つまり、この大迷宮では魔物の心配をせず純粋に、迷宮攻略が可能なんだよ。トラップはキツいかも知れないが、それで死ぬのなら神代魔法を得るに足りないという事だね。【解放者】の目的は偽神エヒトルジュエを殺す意志を持ってて、それに足る力を持ち合わせる者に、切札(ジョーカー)として神代魔法を継承させるという意図だ。トラップくらいは軽く越えろって話なんだろうね」

 

「成程……他は?」

 

「大迷宮の中には幾つかの【証】が無いと入れない、そんなのが有るのは【ハルツィナ大迷宮】でも判っているよな? だから明確な順番も有ると考えたんだ」

 

「確かにそうね。順番が無いなら【証】は要らない。【ハルツィナ大迷宮】は、七つの内で五番目に攻略をするべきって事?」

 

「早くても……な」

 

 【証】は四つが必要で、再生魔法も必須となるのだけど、【メルジーネの証】と共に再生魔法を修得すれば同時に得られる。

 

 勿論、これはどの大迷宮にどの神代魔法が存在するかを知っていればこそ。

 

 下手をすれば最後回しになりかねない。

 

「次にミレディ・ライセンはゴーレムに魂を固着し、今も尚在り続けている事」

 

「そうなの?」

 

「数千年も生きてるんだ、凄いお婆ちゃんだね」

 

 驚く雫は良いとしても、香織は少しズレていた。

 

 ロリBBAなユエが胡乱な瞳で【凍柩】を放たんとするのを、シアが羽交い締めにして止めていたり。

 

「恐らくは見極めの為に、当時は【解放者】のリーダーだったミレディが残ったんだろう」

 

 全員じゃなかった理由は判らないが、取り敢えずはミレディがわざわざ残った理由は見極めだと思う。

 

「それにこうやって呑気に話せるのは、この大迷宮に魔物が居ないからだしね。そういう意味でも最初に入る大迷宮なんだろうさ」

 

「そうかも」

 

 何ならこの場でえちぃをしても構わないくらいに、トラップが無い場所は静寂に満ちていた。

 

「ま、どれも事前知識が無いと至れない答えだよ」

 

 原典知識。

 

 少しだがユートはそれをユーキから得ている。

 

「さぁ、進もうか」

 

 ユートの呼び掛けに全員が頷いて進んだ。

 

 迷宮探索の基礎中の基礎となるのがマッピングだ。

 

 ユートが常々言っている『情報とは力也』、『未知こそが真の敵』というのも裏付けられる。

 

 マッピング情報無しとはやはり迷宮ではキツい。

 

 とはいえこの複雑な構造の迷宮で、正確にマップを作成出来るとも思えない。

 

 だけどユートはステイタス・ウィンドウの【全自動地図作成機能(オート・マッピング・システム)】によるマッピングが可能。

 

 フルスペックでないと、この機能の恩恵に与れないのだが、これを使った場合は3Dマップが展開され、更には最短距離を走らせてくれる攻略情報付き。

 

 まぁ、トラップに関しては存在だけを報せる機能である為に、実際に見てみない事には判らない。

 

「躱せぇっ!」

 

 丸鋸が壁や床を走る罠、躱せない程の速度や隙間ではないし、そもそもにしてその気になったら……

 

「おらぁっ! ですぅ!」

 

 破壊も可能である。

 

 壁は緑光石とは明らかに異なる鉱物で、薄青い光を放っているから物は試しに【鑑定】スキルを使ってみると、【リン鉱石】であると表示をされた。

 

 『空気に触れると薄い青に発光する』てある。

 

 暗闇だった最初の部屋、恐らくは何らかの処置をする事で、最初は発光しない様にしてあったのだろう。

 

「っ! Panzer hindernis……展開!」

 

 直感、第六感とか云えるナニかに従いユートは雫と香織とユエとシアを近くに置き、真正ベルカ式の術式でバリア系防御魔法をとして黒い多面体を展開する。

 

 その直後に、ユート達の頭上からギロチンの如く刃が射出されると、高速振動をしているらしくバターでも切るみたいに床に食い込んでいった。

 

 直撃コースだった刃は、防御魔法に弾かれている。

 

 ユートは舌打ちをして、他は全員が硬直していた。

 

「完全な物理トラップか。しかも二重に張られていたから気付けないとかな〜、マッピングシステムも完璧じゃない訳だし……」

 

 この場のトラップが既に発動していた為、同じ場所に仕掛けられたトラップに気付けなかったユート。

 

「はぅあぅあ〜、し、死ぬかと思いましたぁ〜」

 

「……ん、私は死なない。でも痛いのは嫌」

 

「今のって魔法よね?」

 

「うん。【リリカルなのは】でヴィータちゃんが使っていたよね。あれは深紅だった気がするけど」

 

 四人は漸く危機が去ったと知り、口々に息を吐き出しながら喋る。

 

「僕の魔力光は闇色だからだよ」

 

 仮面ライダーに変身した際には、出来る限り他の力は使わない心算だったが、思わず使ってしまった。

 

「屈辱に思う前に自分自身の未熟を憂うべきだよな」

 

 そして同じミスはしない様にするべきだ。

 

 更に進んで行き左折をした一行。

 

「うぅ〜ん、何か嫌な予感がしますぅ。何と言うか、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 

 進む階段の中程まで進んだ頃に突然、シアがそんなことを言い出した。

 

 シアのウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いているけど、彼女の天職は占術師だし某か感じている可能性もある。

 

「階段系トラップとなると……スロープか!」

 

 ユートはすぐに雫と香織を脇に、右手にシアを掴んでユエを背負うと飛翔。

 

 その本当に直後だった、ガコンと嫌な音が響いたかと思うと、行き成り階段から段差が消えていた。

 

 傾斜が可成りのキツさな下り階段だったのだけど、階段の段差が思った通りに引っ込んでいて、スロープになっているではないか。

 

 更には地面に小さな無数の穴が空き、タールらしき潤滑液が溢れ出していた。

 

「……フラグウサギ」

 

「わ、私の所為ですかぁ? 私が悪いんですぅ?」

 

「否、ナイスアシストだ。お陰で回避が出来た」

 

 責めるユエの言葉に泣きっ面なシア、だけどユートからすればトラップに気付く切っ掛けである。

 

 地面に降りて優しく撫でてやると、シアは照れ照れと肢体をクネクネさせた。

 

 見た目はザビーだけど。

 

 見た目はザビーだけど!

 

 大事な事だから二回言いました的だが、シュールに過ぎる光景にサソードな姿の雫もカリスっぽい姿をした香織も苦笑い。

 

 カサカサそんな嫌な音を立てる何かが存在するのに気付き、全員が階下を視てみれば夥しい数の蠍が蠢いているのが見えた。

 

 体長は一〇cmくらい、謂わば普通の蠍だろう。

 

 脅威は感じないのだが、何だか在り方がGっぽいからだろうか? 生理的嫌悪感は圧倒的に勝る。

 

 ユートが翔べてないと、あんな蠍の海に飛び込んでいたかと思い、皆が全身に鳥肌が立ってしまった。

 

「嫌がらせにも程がある」

 

 ユートの科白に全員で頷いており、ちょっと下を見たくたいからと天井の方を見遣れば、発行する文字が在るのに気が付いて読む。

 

【彼等に致死性の毒はありません】

 

【でも麻痺はします】

 

【存分に可愛いこの子達と添い寝を堪能して下さい、プギャー!!】

 

 どうやらリン鉱石の比重を高くして書いた文字らしいのだが、薄暗い空間ではこの薄青い光が滅多矢鱈に目立つ事この上ない。

 

 此処に落ちた者達は蠍に全身を這い回られながら、麻痺する身体を必死扱いて動かし、正しく藁にも縋る思いで手を伸ばすだろう。

 

 そして発見をするのだ、こんな戯けた文字を。

 

 黙り込む女性陣。

 

「余り相手にはするなよ。今はトラップ回避を喜べ」

 

「……ん、助かった」

 

「うう、ミレディめぇ!」

 

「遊びが好きみたいね」

 

「ちょっと巫山戯過ぎかな……かな?」

 

 兎に角、横穴に入っていたユート達は先に進む。

 

 

「シアの【選択未来】……あれが何度も使えればいいんだけどね」

 

「うっ、練習はしているのですが……」

 

 それはシアの固有魔法であり、仮定の先の未来を垣間見れるというものだが、一日に一回しか使用が出来ない制約付き、魔力消費め多大な為に余り使えたものではない固有魔法である。

 

 とはいっても【閃姫契約】は済ませ、恒星が数個分の膨大なるエネルギーを扱えるし、練習次第では連続使用も可能かも知れない。

 

「仕方ないか。戻るよりもこの横穴を行くぞ」

 

「……ん」

 

「ハイですぅ」

 

「了解」

 

「行こう、皆!」

 

 この先、視るも嫌らしいトラップが色々と有ると、少しウザいなと感じながらもリン鉱石の照らす通路、それをユート達はゆっくりと歩いて行く。

 

「面倒なトラップが多い。その割には嫌がらせレベルの蠍くらいしか居ない」

 

「確かに最初に入る大迷宮って感じよね」

 

 まともに戦う魔物なぞ、オルクス大迷宮の表層部に於ける最上層の雑魚レベルも居らず、ユート達は始終をトラップ回避だけに注視が出来ていた。

 

 この後も次から次へと、面倒臭いトラップが。

 

 天井がまるっと落ちてくるトラップ、その後に有った石板の文字ときたら……

 

【ぷぷー、焦ってやんの、ダッサ〜い】

 

 だったりしてシアがキレていたし。

 

 特にスイッチを押したでもなく発動するトラップ。

 

 定番な大玉スロープで、避ける事が出来ない大きさだったり。

 

 シアが轟天モードにしたアイゼンⅡで破壊をしようとしたが、それはちょっと長さ的に振り回せないし、ユートが止めて先ずファイナルアタックライドによるディメンジョンキック。

 

 第二陣を感知していたからシアには、ハウリア波を撃たせて破砕してやった。

 

 まんま、かめはめ波だ。

 

「にしても金属製な上に、溶解性の液体をバラ撒いてくる大玉とか、直に触らなくて良かったと心底思う」

 

「ですぅ……」

 

 そして入った場所から走り込み、出口を抜けた先に地面は無かった。

 

 下にはヤバそうな液体を湛えたプール。

 

 頭上からは溶解液を撒き散らす金属玉が降り注ぎ、プールへとドボンドボンと落ちていく。

 

 それは煙を吹き出しながら沈殿していった。

 

「殺す気満々だな!」

 

 飛べるのが嬉しいくらい殺意に満ちたトラップ群、それを抜けた先には長方形の奥行きがある大きな部屋となっている。

 

 壁の両サイドには無数の窪み、その中に騎士甲冑を纏う数mばかりの像が立ち並んでおり、大剣や大盾を装備する如何にも騎士ですと謂わんばかりに屹立をしていた。

 

 部屋の一番奥には大きな階段が、そしてその先には祭壇の様なな場所が有って奥の壁に荘厳なる扉

 

 祭壇の上に、菱形の黄色い水晶の様な何かが設置をされていた。

 

「漸っとミレディの住処に到着したのかな? 周りの騎士甲冑は……きっと動き出すんだろうな」

 

「……大丈夫、御約束は守られる」

 

「それって襲われるって事ですよね? 全然大丈夫くないですよ?」

 

「優斗、どうする?」

 

 口々に話すユエとシア、雫が話し掛ける頃には中央まで進んで、御約束は確かに守られたのである。

 

 ガコン! と。

 

「やっぱりな」

 

「……ん」

 

 騎士達の眼の部分がギンッと光り輝く。

 

 金属の擦れる音を立てながら、窪みから五〇体もの騎士達が抜け出てきた。

 

「全員、下がれ。こいつらは僕が叩き潰すから」

 

「でも?」

 

「下がれ!」

 

「りょ、了解よ」

 

 再び強く言われて雫は頷くしかない。

 

 全員が部屋の始まりまで下がったのを感じ取って、ユートはディケイドの変身を解除する。

 

「ゆう君!?」

 

 香織が驚く。

 

起動者(ライザー)の名に於いて我が許へ来よっ! 千の武器を持つ魔神よ……【緋の騎神】たる汝、テスタ=ロッサ!」

 

 ユートの紡ぐ言葉に従う様に、まるでジョウントを抜けてくるゼクターの如く顕現をした緋色の騎神。

 

 それはユートがある世界で斃し、魔王化の呪いを解いた際に自らが【起動者】となり手にした力。

 

 【緋のテスタ=ロッサ】であったと云う。

 

 

.

 




 リリカルなのはで出そうとしている設定です。

 実はありふれと軌跡と、どちらをやろうかと迷った末に此方を書いたので……




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第32話:天でも地でもなく命は人の世に還る

 タイトルはゼロワン式にしたかったけど、英語力が無いので意訳の方を。





.

「嘘……でしょ?」

 

「雫ちゃん、あれは何? 知ってるみたいだけど」

 

「七mで緋色の騎神テスタ=ロッサ。嘗ては呪われてオルトロスの秘術により、紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)と成り果ててしまったわ」

 

「魔王……」

 

「今は普通のテスタ=ロッサみたいだし、異世界とは関係無く造ったのかしら」

 

 ユートの仮面ライダーの由来を考えると、本物ではなくコピーの可能性も高い気がする雫。

 

 そしてテスタ=ロッサ、緋の騎神は顕現をさせている様々な武器で、騎士達を軽々と捩じ伏せていた。

 

 槍、刀、薙刀、弓、銃、大剣、小太刀、盾、扇子、片手剣、投擲剣、鎖、鞭、錫杖、棍棒、戦斧、鉄槌、甲拳、鎌、戦輪、二刀剣、蛇腹剣、鉤爪、飛去来器、短剣、鎖鋸、槍斧、熊手、鍬……

 

 種類は豊富で、緋の騎神か紅き終焉の魔王かは兎も角として、千の武器を持つ魔神などと呼ばれるだけあり様々に使っていた。

 

 武器にはなるが武器では無い物までも。

 

「あれらは何処から出してるのかな?」

 

「……魔力とは違うエネルギーを固着し物質化して、武器に変化させている」

 

 香織の疑問に答えたのは意外にもユエ。

 

 機械に詳しい筈も無い、だけどこの現象には心当たりがあるらしい。

 

「……サイバーアップと呼んでた、エネルギーを鎧化させる技術で武器化させているらしい」

 

「サイバーアップって……スーパービックリマン? 確か私達が生まれるよりも前に展開していたシール、私もよくは識らないんだけどね、アトリエシリーズの漫画を描いてる人が昔に描いていた漫画らしくって、ちょっとだけ調べたわ」

 

 其処から多少なり辿ってビックリマンシリーズというのを知り、超聖理力なるモノを昇華させて鎧化させるサイバーアップを天使が使っていた……と。

 

 ユートのそれは間違いなくサイバーアップを応用、武器化させて顕現をさせているものである。

 

「でも、どうしてユエさんが知ってるの?」

 

「……オルクス大迷宮攻略の最中、香織達が眠った後に抱かれた時、魔力の運用技術の一旦として見せて貰った事がある。因みにまだ私には出来ない」

 

 ユエは魔力の扱いが巧みなだけに、教えれば出来そうだと見せた事があった。

 

 サイバーアップなる言葉もその際に教えたのだ。

 

「片付いたぞ」

 

 いつの間にか戦いは終了しており、部屋のど真ん中に緋色の騎神が一騎のみで佇んでいる。

 

「再生してたから、斃した破片はアイテムストレージに収納してやった」

 

 本来は無制限に再生する騎士だったが、破片が無くなれば再生も利かない。

 

 数を徐々に減らして最後には無くなった。

 

「べ、便利ね……」

 

 雫は呆れてしまう。

 

「さて、扉を破壊するなり何なりして進むぞ」

 

 物騒な事を宣うユート、まるで魔王だったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「核が無い?」

 

「ゴーレムは基本的に核をエネルギー源として置き、動かす動力に使っている筈なんだが、その核が無いって事は何者かが直に動かしていた筈だ」

 

「そうなの?」

 

「雫、僕が偽りの天職として人形操者なんてしていたのは、元々がゴーレム運用をしていたからだ。例えばコイツとか」

 

 ユートはコインを弾き、ガチャガチャみたいな機械に入れると、実際にガチャガチャみたいにカプセルを吐き出した。

 

「コイツは旧型だけどな。さっきのコインが核となってゴーレムに装着、こうしてカプセルトイの如く出てくる仕組みだ」

 

 カプセルが破壊されて、中から黒いロボットみたいなゴーレムが顕れる。

 

「ゲシュペンストS型」

 

 PTXー002ゲシュペンスト・タイプS。

 

 三機が製作されたマオ社のゲシュペンスト、形式番号を同型機で占有した最初で最後の機体で、PTXー001ゲシュペンストRはギリアム・イェーガーが使って、PTXー003ゲシュペンストTは後にPTXー003Cアルトアイゼンに改修されているが、タイプSは敵にパイロットごと鹵獲されていた。

 

 尚、マオ社にはユートが別口で手に入れていた機体――【ガンダムエピオン】を提供していた為、初期型から性能の高いPTが造られていたりする。

 

 その所為でスーパーロボット大戦OGsな世界で、PTはゲーム版の機体より高い性能だった。

 

 主に云うならスーパーロボット大戦OGsより前の宇宙……スーパーロボット大戦αな世界のゲシュペンストと比べ、高い性能を誇っていたのである。

 

 ユートが出したのは謂わばOGsのゲシュペンストをミニマム化、故に旧型とはいえそれなりに性能が高いゴーレムだった。

 

「核は云ってみれば頭脳の役割も果たす。それが無いならつまり誰かの遠隔操作って可能性が高い」

 

「ミレディ・ライセンね」

 

「そういう事。という事は彼女、此方を把握しているんだろうな」

 

「情報アドバンテージ……取られたかぁ」

 

 雫は何が言いたいのかを理解して頭を抱える。

 

「まぁ、だから僕だけ戦ったんだけどね」

 

「そういう事……ね」

 

 同じアドバンテージを取られるなら、仮面ライダーのデータを渡さない形で。

 

 それが目論見だった。

 

 因みにだが、扉は破壊をしなくても開けた。

 

「マスクドライダーの二人は必要になったらキャストオフしろよ。初めからする必要は無いからな?」

 

「了解」

 

「了解ですぅ」

 

 マスクドライダーシステムを使う雫とシア、これも行き成り使って情報を丸裸にされ難くする為だ。

 

「まぁ、サガとリューンは普通に運用で構わない」

 

「ん、判った」

 

「了解だよ、ゆう君」

 

 ユエのサガは兎も角としても、香織のリューンならミレディを怒らせる可能性が高いが、それで集中攻撃をされたら流石に拙い。

 

 何故ならリューンの場合は仮面ライダーリューン、更にエヒトの使徒リューンという二つの姿が在る。

 

 エヒトの使徒は型自体は同じらしいから、後者ならミレディも見知っているだろうし、間違いなく彼女は『あのクソ野郎』の遣いと勘違いをするだろう。

 

 事実として、ナッちゃん――ナイズ・グリューエンとの出逢いで一回は使徒を見ている筈だから。

 

 本来の扉の先はスタートへ戻される部屋になっていた筈だが、どういう訳なのか普通に通路だった。

 

 その先は広大な空間で、闇が広がる中には巨大なる正方形ブロックが、幾つもの数で浮いている。

 

「生成魔法で重力魔法でも付加をしたみたいだな……それに空間魔法で拡大した訳か。先には気配が在る」

 

 どうやらミレディの胸先次第らしいが、恐らく此方を観察した結果だろう。

 

 あの蠍が変成魔法の産物だとして、騎士ゴーレムは生成魔法で造った物へと、昇華魔法を付与して性能を上げている感じか?

 

「ミレディ本人も更に強大な一点物のゴーレムへと、魂魄魔法で魂を宿らせているみたいだし、ゴーレムには再生機能が有ったから、再生魔法もだろうしなぁ。七つの神代魔法を惜しみ無く使っているって訳か」

 

 変成魔法だけ何故か微妙な使い方をしているが……

 

(軽く麻痺らせるだけの蠍を見付けて配置、こいつは有り得ないだろうからな)

 

 変成魔法なら割と自由な生物改変が出来ると聞く。

 

(まぁ、僕には【魔獣創造】が有るから要らんけど、【創成】を生成魔法で強化が出来たし、補助用に使えるかも知れないかな?)

 

 七つの神代魔法とはいえユート的に、既に持っている能力の補助用にしか考えてはいなかった。

 

「ユートさん!」

 

 シアが叫ぶが、その前にユートは動いている。

 

「Gインパクトステーク」

 

 あからさまに重力兵器を使ってやった。

 

 それは隕石の如く落下してきたブロック、ユートはそれをGインパクトステークで破壊したのである。

 

「手荒い歓迎痛み入るが、そろそろ出てきて貰おうか……ミレディ・ライセン」

 

 呼び掛けると猛烈な勢いで何かが上昇をしてきて、あっという間にユート達の頭上に出ると、浮いた状態でその場に留まり巨大なるゴーレム騎士が、ギンッと光る眼光によって此方側を睥睨してきた。

 

「うわぁ」

 

「……凄く……大きい」

 

「ま、正しく親玉って感じですね……」

 

「おっきいね」

 

 雫、ユエ、シア、香織が巨大ゴーレム騎士に対する感想を呟く。

 

 全身甲冑で全長が二〇m程度はあった。

 

 左手には鎖が巻き付いたフレイル型のモーニングスターを装備、右手には何も持っていないが某かあるのは間違いない。

 

「出たな! ミレディゴーレム!」

 

 まるでゲッタードラゴンでも現れたかの如く叫び、巨大ミレディゴーレム出現をある意味で歓迎する。

 

「やほ〜、はじめまして。みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ〜」

 

 ミレディゴーレムが陽気な声で自己紹介してくる。

 

「リィン?」

 

 何と無くだが声の感じがリインフォースⅡっぽく、思わず呟いてしまうユートはミレディに銀髪蒼瞳幼女なユニゾンデバイスを幻視してしまうが、聞いていた容姿は金髪だった筈だ。

 

「緒方優斗。右から順番に白崎香織に八重樫 雫に、ユエとシア・ハウリアだ」

 

「あ、御丁寧にど〜も〜。じゃなくてさ、君はいったい何者なのさ?」

 

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!」

 

「意味が判らない!」

 

 仮面ライダーなんて概念が無いし、それはそうだろうとユートも思う。

 

「何者とか言われてもな、人間とか仮面ライダーって以外に何と答えろと?」

 

「君らを観測していたけど変な格好になるわ、迷宮のトラップは次々とクリアしていくわ、思わずリスタートさせずに呼び込んじゃった訳よ」

 

「やっぱり観測してたか」

 

 番人が居るからには観測をする手段も有る筈だと、ユートも睨んではいたから意外とは考えていない。

 

「迷宮攻略者。神代魔法を得る為に七大迷宮を攻略中の人間だ。他に説明なんて必要だとは思えないが?」

 

「……どうして君らは神代魔法を求めてるんだい?」

 

「さて、序でみたいなもんだからな。僕らはエヒトに異世界から召喚されたらしくてね」

 

「あのクソ野郎に? それは大変だったね」

 

「神代魔法を七つ全て集めた上で、概念魔法に至れば世界を渡る魔法にも手が届くらしいからな」

 

「……何で概念魔法の事を知ってるのかな?」

 

「僕にも情報を得るモノが有ってね」

 

 原典知識持ちな比翼の鳥にして連理の枝。

 

 後ろの方では地球サイドが苦笑いをしている。

 

「ふ〜ん。それが何なのか訊きたいけど……」

 

「お互いに話をする目的ではないだろう?」

 

「そだね」

 

「ならば、勝った方が全てを手にすれば良い。所詮、この世は弱肉強食。強ければ生きるし弱ければ死ぬ。だから僕はお前に勝って、ミレディ・ライセンの全てを戴くとしようか。迷宮の攻略者の証も神代魔法も、お前が隠し持つ御宝も……ミレディ・ライセン自身すらをもな」

 

「欲張りだね。なら君は何を差し出すんだい? 賭けるなら等価なモノを差し出さないとね」

 

「勿論だ。僕は勇者(笑)とは違うから……な」

 

 勇者(笑)は自分が有利なだけの賭けをしようとしていたが、流石にアレと同じなのは矜持に障った。

 

「先にも言ったが僕が勝てばミレディ・ライセン……君の全てを戴く訳だから、当然ながら賭けるべき対象は僕の持つ全て」

 

「良いね、愉しくなるよ」

 

 普段ならウザい話し方で相手を煙に巻くミレディ、今回ばかりはちょっとマジになっているらしい。

 

「その前に聞かせてよ」

 

「何を?」

 

「そのオーちゃんでも造れなさそうなゴーレムだよ、ソイツの名前くらいはさ」

 

「緋の騎神テスタ=ロッサという」

 

「神を名乗るんだ?」

 

「それは造った連中に言ってくれ。この七騎神を造ったのはあの世界の基準で、千年以上は前だがな」

 

「面白い! だったら私が証明するよ、オーちゃんのゴーレムの強さをね!」

 

 片や二〇m級ゴーレム、片や七m級の人型決戦兵器とサイズが三倍違うけど、ユートは意に介した様子も無く闘うべく刀を抜く。

 

 ゼムリアストーン製で、アザンチウムがこの世界で最硬ならば、ゼムリアストーンはあの世界で最硬だ。

 

「全員、ミレディゴーレムに対して攻撃開始だ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 とはいえ、仮面ライダーの背丈は変身後に高くなっていても高くて二m弱。

 

 二〇mが相手なら一〇倍はたっぱが違う。

 

 幾ら仮面ライダーが強い能力を持つとはいっても、スケール差というのはやはり如何ともし難い。

 

 一〇倍の差は技巧で何とか出来る域を遥かに越え、サソードヤイバーはミレディゴーレムからしたなら、単なる爪楊枝でしかないであろう。

 

 戦いで爪楊枝に斃される人間もそうは居まい。

 

 というか、爪楊枝で斃されるのはちょっと……ではなく可成り嫌だ。

 

 尚、“そうは居まい”というのはやり方次第で殺れる可能性があるから。

 

 長めの爪楊枝をプッと吐いて額から脳を撃ち抜く、或いはもっと的確に毒薬を仕込んでも良い。

 

 ミレディゴーレムは表面は違うが、その下に本当のそのとしてアザンチウムを使用しており、アザンチウム製のミレディゴーレムの装甲VSゼムリアストーン製の刀という形に。

 

 【空の軌跡】を始めとする【軌跡シリーズ】でお馴染みの鉱石、これで最強の武具を造れたりするのだからその硬度も推して知るべしであろう。

 

 実際にリィン・シュバルツァーも、【灰の騎神】ヴァリマールの武器としてこのゼムリアストーンを使っている。

 

 ユートの刀……ムラマサブレードがミレディゴーレムの装甲を斬った。

 

 上の装甲の下側に漆黒の装甲が有って、それこそがアザンチウム鉱石を用いた真なる鎧。

 

「くっ、アザンチウム鉱石の装甲を斬り裂くとは!」

 

 スケールこそ三倍だが、人間レベルな仮面ライダーよりは近いからか、ミレディゴーレムにより大きめな斬撃が加えられる。

 

 運動性は確実にテスタ=ロッサの方が素早いから、ミレディゴーレムの攻撃を往なしては斬るを繰り返しており、そこら辺はいつもの【緒方逸真流】の動きで闘えている。

 

 ミレディは本来であるならば、五〇体の騎士を従える【王】の如く戦えていた筈だが、ユートが斃す度に騎士ゴーレムの破片を自らのアイテムストレージに容れてしまい、従える騎士が居なくなっていた。

 

「【禍天】!」

 

 重力球を生み出してくるミレディだが……

 

「ン・カイの闇よ!」

 

 ユートも一一もの重力球を発生させて相殺する。

 

「ま、まさか重力魔法!? というよりこのライセンであれだけの魔法を?」

 

 驚愕するミレディ。

 

「ちょっとは驚いたか?」

 

「使えるなら今更必要なんて無くないかな?」

 

「飽く迄も重力魔法だよ。神代魔法のそれは星のエネルギーを扱う魔法であり、重力の操作はその一旦にしか過ぎないだろ?」

 

「……其処まで知っているなんてね」

 

 情報源が凶悪過ぎた。

 

「さて、次だ」

 

 ユートは変身こそ解除をしたが、未だに腰に装着をされたネオディケイドライバーにカードを装填。

 

《FINAL FORM RIDE……SA SA SA SASWORD!》

 

「へ?」

 

 仮面ライダーサソードな雫が間抜けな声を上げる。

 

「ちょっと擽ったいぞ」

 

「え、まっ! ヒアッ?」

 

 何だか本当に擽ったかったのか、それとも気持ち良かったのか判らない嬌声を上げながら身体にパーツを付けて、有り得ない形へとガシャンガシャンと変形をしていき、何故かテスタ=ロッサのスケールに変化、サソードムラマサーとして握られた。

 

「フッ、原典とは違っててサブライダーもファイナルフォームライドが可能だ」

 

 更にカード装填。

 

《FINAL ATTACK RIDE……SA SA SA SASWORD!》

 

「ライダースラッシュ!」

 

《RIDER SLASH!》

 

 斬! 斬っ! 斬っ!

 

「うわぁぁっ!?」

 

 アザンチウム鉱石の装甲すら傷付ける斬撃。

 

 それでも三倍のスケールだからこそ助かっただけ、同じスケールなら完全に斬り伏せられていただろう。

 

「このっ!」

 

 天井から無数のブロックが降ってくる。

 

 だが然し……

 

「無駄だ! Panzer hindernis……展開!」

 

 闇色の魔力光で作られたバリアが、降り注ぐブロックを防いでくれていた。

 

「うっそ!? 平然と魔法を使うだけでなくこれ程の強度の防御魔法って!」

 

 余りにも有り得ない光景に驚愕を通り越して最早、感動すら覚えてしまうくらいなミレディ。

 

「魔法であって魔法じゃないからな」

 

「どういう意味?」

 

「普通は闘っている最中、そんなネタバレはしないんだが、今回は取り敢えずだが別に構わないか」

 

「余裕じゃないか?」

 

「ピンチに陥らせても貰えなくってね」

 

「くっ!?」

 

 ある意味でウザいと感じたミレディだが、これが煽りなのも理解していた。

 

「仮面ライダーが魔法を使えるのは、仮面ライダーというフィルターを通す事で魔力を似て非なるモノへと変換するから。つまり分解を受けていないのさ」

 

「まさか!?」

 

「僕の世界にはAMF――アンチ・マギリング・フィールドというAAAランクの防御魔法が有る。対象の魔力結合を阻害してやり、フィールド範囲内での魔法の発動を困難にするっていう代物だな。魔力の分解と魔力結合の阻害はまた違うだろうが、結果として魔法が使い難くなるという結果は変わらない。だけど魔力でなければAMFも意味を成さないからね」

 

「成程……」

 

「さて、再開しようか」

 

 ユートはニヤリと口角を吊り上げると……

 

「は?」

 

 複数の……千は下らない数の武器を周囲に浮かせ、悠然と浮かぶ緋の騎神の姿を見て、ミレディが間抜けな声を上げていた。

 

「ちょっ、何さそれ!?」

 

「緋の騎神テスタ=ロッサは千の武器を持つ魔人だ、中々に壮観なものだとは思わないか? ミレディ」

 

 元々が緋の騎神の力か、それとも紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)の異名だったのか、それは使う当人もよくは知らない事だが、ユートが使うのはエネルギーを武器に固着させた物を持たせる事で様々な武器――文字通り【千の武器】を使わせる事を可能としているのだが、ならばそれを同時運用とて可能な訳で。

 

偽・王の財宝(フェイク・ゲート・オブ・バビロン)ッッ!」

 

 それを一斉に高速で射出をすれば、彼の慢心王様張りな宝具の真似事も出来てしまうのだ。

 

「ギャァァァァァァアアアアアアアアアアッッ!?」

 

 凡そ女の子が発するとは思えない絶叫と共に爆音を響かせ、巨大なゴーレムがその勢いで吹き飛んだ。

 

「テスタ=ロッサ!」

 

 それは緋の騎神の名前ではなく、手にした緋色なる武器の銘であった。

 

 シャーリィ・オルランド使っていた武器、チェーンソーと銃が一体化した凶悪な獲物だったりする。

 

 基本的に同時期に起きた【零の軌跡】と【閃の軌跡】だったが、彼女はクロスベルで割ととんでもない事を本来なら仕出かすけど、それ以前に遊撃士であったユートと猟兵団【赤い星座】が闘った際、嬉々として……そして鬼気として挑んできたのが彼女。

 

 フルボッコにしてやったら何故か気に入られた為、【閃の軌跡】側でユートと共にトールズ仕官学校に通うとか、余りに意味不明な事態となり【零の軌跡】というか【碧の軌跡】で行った凶行……イリアに女優生命を断たせたアレをやる事も無かったと云う。

 

 尚、当然の如くフィー・クラウゼルとぶつかった。

 

 彼女は一貫してテスタ=ロッサを使って、ユートも機構を熟知していたから、こうして緋の騎神テスタ=ロッサのサブウェポンとして持たせていた。

 

 勿論、ゼムリアストーンで造られた特別製。

 

「喰らいなよ!」

 

 チュイーンッ! 甲高い音を辺りに響かせながら、チェーンソーの刃がミレディゴーレムの左胸部分を斬り抉っていく。

 

 更に追撃とばかりに放たれる銃弾も、贅沢なまでにゼムリアストーン弾だ。

 

 胸部がグチャグチャとなったが、流石はアザンチウム鉱石で鎧った上に強化もされているであろうから、破壊するには時間が掛かると思われるが、ユートとしてはそんな時間を掛けての破壊をする気は無い。

 

 弱体化させれば充分だ。

 

 テスタ=ロッサが離れ、更に鎖による拘束。

 

黄金星雲乃鎖(ゴールデンネビュラチェーン)!」

 

 グルグルと縛り付ける。

 

大熊捕縛(グレートキャプチャー)!」

 

「なっ、動けない!」

 

 神鍛鋼(オリハルコン)、ガマニオン、銀星砂(スターダストサンド)という、神秘金属の合金製の鎖。

 

 しかも配合は黄金聖衣のものな上に、神血(イーコール)での強化すらしているアンドロメダの星雲乃鎖と同じ造り。

 

 異世界だから小宇宙による強化こそ不可能だけど、それでもミレディゴーレムでは千切れない強度。

 

 ブロックに仰向けで拘束されたミレディゴーレム。

 

「シア、殺れ!」

 

「アイゼン、黄金モード! ですぅ!」

 

 上空にはアイゼンⅡを手にしたシアの姿が……

 

 黄金モード――【勇者王ガオガイガー】の決戦兵装を模した巨大ハンマーだ。

 

 そしてそれを扱う義手、マーグハンドが顕現する。

 

「ハンマーコネクトッ!」

 

 シアのより遥かにデカイ腕が装着された。

 

「ゴルディオン……ハンマァァァァーッッ!」

 

 黄金モードアイゼンⅡを手にして、全体的に黄金色一色に輝きを放つシア――仮面ライダーザビー。

 

 特殊な燐光を纏う事で、ちょっとした保護膜を展開して黄金色となる。

 

「な、何を!?」

 

 見た目にはザビーな姿、そんなシアが持つアイゼンⅡの凶悪な変化を見ては、ミレディも流石に危機感を覚えたらしい。

 

 マーグハンドから釘を取り出し……

 

「ハンマーヘル!」

 

 ミレディゴーレムの左胸に釘を、アイゼンⅡにより全力で叩き込んだ。

 

「嘘っ、貫かれた!?」

 

 弱体化された上に強力な釘な為、ミレディゴーレムの左胸の装甲はアッサリと貫かれて核へと届く。

 

「ハンマーヘブン!」

 

 更には釘を引き抜いた。

 

「嗚呼っ!?」

 

 最早、ミレディゴーレムは核を喪って動けない。

 

 追い討ちだとばかりに、シアはゴルディオンハンマーを振り下ろす。

 

「光になぁぁぁれぇぇぇぇ……ですぅ!」

 

 重力波を発しながら高速で打ち下ろされ、ミレディゴーレムは光子のレベルにまで分解されていく。

 

「オーちゃんのゴーレムがぁぁぁっ!?」

 

 最後の絶叫だった。

 

「香織、ブランクカードをあの光に投げろ!」

 

「へ、はい!」

 

 言われた通りにカード、プロパーブランクを投げる香織、カードが光子を吸収して再び回転しながら香織の手に戻っていく。

 

「ABSORB?」

 

 ハートスートのカテゴリーQ――【ABSORB】MILADY GOLEMと書かれたカード。

 

 名前に関しては通り名、或いは認識された名前が付く様である。

 

「単体では意味が無かったよね、このカテゴリーQっていうカードは」

 

 ちょっと残念そうだが、雫は何かに気付く。

 

「でも、ジョーカードライバーがカリスラウザーと同じ物なら、普通にミレディゴーレムに変身が出来たりするんじゃないの?」

 

「出来るよ。始がカテゴリーJでウルフアンデッドに成ったみたいにな」

 

 仮面ライダーリューンには更に、ラウズアブゾーバーが標準装備されており、ワイルドフォームへの変身も可能だし、ジャックフォームも用意されていた。

 

 仮面ライダーカリスが元だから、キングフォームでは無いのがミソである。

 

「ユートさん、核ですぅ」

 

「ああ」

 

 テスタ=ロッサから降りたユートは、シアから渡された核を持って隠し部屋へと向かった。

 

 四人もそれに倣う。

 

「此処がミレディの部屋、この小さなゴーレムが部屋で活動する為の物か」

 

 下手をしたらユエよりも小さなゴーレムだ。

 

「まぁ、必要は無いな」

 

 何故ならユートは最早、ミレディを逃がす心算など無かったから。

 

「積尸気冥界波!」

 

 小宇宙は使えないが技は魔力でも扱える。

 

 ちょっと威力は弱まるのだが、神が相手なら兎も角として人間の魂を引き抜くのには充分過ぎた。

 

 ミレディの魂魄が核から引き抜かれる。

 

 魂だけだから声も出していないが、普通に悲鳴を上げているであろう。

 

「魂魄から霊体情報に対しアクセス、アストラルより生前の記録を精査」

 

 人間の体は水が35L、炭素20Kg、アンモニア4L、石灰1.5Kgに、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄を80g、フッ素7.5g、鉄を5g、ケイ素を3g、その他少量の15の元素と個人のDNA情報によって構成をされていると云う。

 

 これは【鋼の錬金術師】でエドワード・エルリックが人体錬成時に言っていた事だが、一番の問題となるのが魂の錬成であった。

 

 母親の錬成に失敗して、自身は片脚を喪ってしまった上に、弟は全身を奪われてしう結果になったけど、ユートの【創成】はあれとシステムが異なり、更にはそもそも魂も確保した状態だから錬成などしないし、する必要性すらも無い。

 

 特殊な力を持っていない汎暗黒物質を【創成】で、人体錬成に必要となる物質を創り、それを以て人間の身体を創り出した。

 

 冥界で転生する前な為、漂白されていない魂に生前の記録が宿る為に、姿形もそうだがDNA情報すらも塩基配列を正しく結合し、ミレディ・ライセンの形を素っ裸で成してしまう。

 

「積尸気転生波!」

 

 魂と肉体を繋ぐ鎖が断たれた――完全に死亡をした状態であれ、繋ぎ直し蘇生させる秘技を使いミレディの魂を肉体に。

 

「カハッ!」

 

 蘇生されて数千年振りの呼吸故か噎せ、咳き込みながらゆっくり目を開く。

 

 蒼い瞳をパチクリと瞬かせると、(おもむろ)に起き上がって両手を見た。

 

「あ、う……」

 

 声帯での発声に戸惑い、タイムラグを生じさせながらも声を出す。

 

「な、生身? 私……生きてる……」

 

 祝え! それは数千年前に死した希代の魔術師たるミレディ・ライセン復活の瞬間であった。

 

 

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 ミレディ・ライセン復活です。そろそろ次の章に進みたい処……




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第33話:重力魔法とミレディをGETだぜ!

 今回で一応、第二章は終わりになります。





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 見た目的には【ありふれた職業で世界最強零】時点のミレディ・ライセンで、肉体年齢は一応だが一六歳としてある。

 

 パッと見では下手すると高校生や中学生というか、小学六年生くらいにも見えてしまえるが、彼女の当時の姿だから文句を言われても困ってしまうだろう。

 

 飽く迄もアストラルへと刻まれた一六歳時の記録を基にして構成した訳だし、どうしても文句を言いたいなら両親のDNAに言って欲しい。

 

 だけど動いている。

 

 手が、脚が、心臓が……

 

「最早、幾年月かも忘れるくらい振りに生身の身体を動かした感想は?」

 

「ゴーレムとは違うね」

 

「まぁ、可成り感覚なんかが異なるだろうな」

 

「うん、悪くない気分だ。オー君やナッちゃん、メル姉達には悪いと思うんだけど、今の私は生きてる実感を堪能してるよ」

 

「その……オー君だとか、ナッちゃんやメル姉ってのは【解放者】のメンバーだよな? オー君が謂わば、オスカー・オルクスで……ナッちゃんはナイズ・グリューエン、メル姉というのがメイル・メルジーネか」

 

「お、よく知っているね。そういえば何だか情報源が有るみたいに言ってたか」

 

「まぁね。だから【解放者】の七人に関しては多少なり情報もあった。ミレディの情報が多かったがね」

 

「ミレディたんの?」

 

 少なくとも本編で唯一、生きた――ゴーレムだったけど――【解放者】だったのと、ウザい口調から情報の露出も大きかった。

 

 映像のみとかではやはり全てが判る訳ではない。

 

「さて、僕が勝った訳だからミレディは僕のモノだ。生き返った肉体で早速ヤってみるかな?」

 

「う゛……悪いんだけど、それは少しだけ待って貰って良いかな?」

 

「何故?」

 

「勿論、賭けは君の勝ち。ミレディちゃんは君のモノだから、好きにする権利は当然ながらあるよ」

 

「そうだね」

 

 胸は物足りないが美少女――数千年モノだけど――なのは間違いなく、充分に愉しめるとユートは踏んでいるのだ。

 

「その、ね。私には好きな人が居たんだ」

 

「オスカー辺りか?」

 

「違うよ。ううん、若しもあの時に彼と出逢わなかったら或いは、オー君やナッちゃんとそんな関係に発展をしたかもなんだけどさ。たった一日足らずの出逢いだったんだ。会えないのは理解しているけど、せめて彼処に行って私は未来に進むって誓いを立てたい」

 

「彼処……ね」

 

「其処で誓いを立てるまで綺麗な身体で居たいって、我侭を言っているのは理解してるけど……御願い! ユー君」

 

「ユー君ねぇ? つーか、ミレディが好きになったっていう男か? 名前は?」

 

「知らない」

 

「うぉい!?」

 

 首を横に振りながら言うミレディに、ユートも少し呆れ気味となってしまう。

 

「素顔も見てない。名前も通り名だったらしいから」

 

「やれやれ、で? 通り名は何て云うんだ?」

 

 どちらにせよ数千年前の人間、今更ながら再会など出来る筈も無い。

 

「ゼロワン」

 

「……は?」

 

 周囲で聞いていた香織や雫やユエ、シアまでが首を傾げたくなる名を告げた。

 

「そう、ゼロワン。格好良かったんだ〜。素顔は知らないけど、私を護ってくれながら『お前を止められるのは唯一人、僕だ!』なんて叫んでさ〜」

 

 正しく恋する乙女な体で頬を朱に染め、イヤンイヤンと頬に手を当てながら、クネクネと素っ裸な肢体を動かしている。

 

「『お前を止められるのは唯一人、僕だ!』……そう言ったのか?」

 

「記憶が曖昧になっていたけど、ゼロワンの事だけは決め科白と一緒に覚えていたから間違いない筈だよ」

 

 ユートは難しい表情となりながら言う。

 

「ゼロワンは二種類だけ。同じ石ノ森作品なんだが、大昔の特撮作品で【人造人間キカイダー】の後番組、【人造人間キカイダー01】か若しくは、【仮面ライダー01】って事になる。そしてミレディの言ってた決め科白なら、間違いなく仮面ライダーの方だろう」

 

「し、知ってるの!?」

 

「一応は」

 

 まだこの世界の地球では放映されてない、令和という新時代の仮面ライダーの第一号である。

 

 ユート自身も狼摩白夜からの記憶で識るのみだ。

 

「だが、主人公の飛電或人の決め科白は『お前を止められるのは唯一人、俺だ!』な訳で……一人称が『僕』な仮面ライダーゼロワンとなると」

 

「ゆう君しか居ないよね」

 

 香織が引き継ぐ。

 

「……へ?」

 

 ミレディがユートを見遣りながら、間抜けた声を上げてしまうのは仕方ない。

 

「ええぇっ!? ユー君がゼロワンって、いったいどういう事さ!?」

 

「じゃあ、論より証拠と」

 

「百聞は一見に如かずね」

 

 雫も似た格言を。

 

《ZERO ONE DRIVER》

 

 ユートが【飛電ゼロワンドライバー】のバックルを腰に据えると、ヒデンリンカーが伸長してきて右側の側面と合着。

 

 自己主張をしながらも、ベルトとして装着された。

 

《JUMP!》

 

 ライジングホッパープログライズキーのスイッチを押すと、一言だけの簡潔な電子音声が鳴り響く。

 

 ドライバーのオーソライザーに認証させる。

 

《AUTHORIZE》

 

 トランスロックシリンダーのロックが解除されて、ライジングホッパープログライズキーの展開。

 

 黄色い飛蝗型ライダモデル顕れると、そこら辺を飛び回り始めてくれた。

 

 キーモードとなった為、それを手にした状態でバッとポーズを取る。

 

「変身っ!」

 

 ライズスロットへ装填。

 

《PROGRIZE!》

 

 左側のライズリベレーターが展開され、プログライズリアクタが解放されて、ライダモデルがユートへと合着をするかの様に飛び上がり、のし掛かってくるとまるで装着される鎧に変化をして合体。

 

 

《TOBIAGARIZE RISING HOPPER!》

 

 仮面ライダーゼロワン・ライジングホッパーに。

 

《A JUMP TO THE SKY TURNS TO A RIDER KICK!》

 

 それを見たミレディは、少し小首を傾げていた。

 

「似てる。間違いなく似てはいるんだよ」

 

「似てるだけ?」

 

 雫は意外そうに訊く。

 

「いや、本当に似てるよ。だけどやっぱり違うんだ」

 

「そうすると此方か?」

 

 ライズリベレーターを戻して、ライジングホッパープログライズキーを取り出したユートは新しくキーを手にする。

 

《SHINING JUMP!》

 

「あれ?」

 

「どうしたのよ香織?」

 

「何だかいつものプログライズキーと違う形……」

 

「そういえばそうね」

 

 プログライズキーの尻柄の辺り、ちょっとした凹みが付いている。

 

《AUTHORIZE》

 

 オーソライザーに近付けると認証されたらしくて、プログライズキーからは激しく光を放つが、ユートの造ったゼロワンのシステムに【衛星ゼア】は要らないが故に、衛星軌道上にまで届いたりはしない。

 

 各プログライズキーにはライダモデルが粒子状態で封入され、オーソライザーで認証をすると解放される仕組みとなっていて、更にプログライズ……早い話が装填すると仮面ライダーの素体状態の者と合着して、アーマーとなるのがユートのゼロワンシステム。

 

 ライダモデルが弾丸として放たれ、素体ライダーを撃ち抜く様に合着をするのがエイムズシステムだ。

 

 顕れたのは小型を背負う大型の飛蝗型ライダモデルであり、データのネットで捕まえる様にユートと合着をした。

 

 ユートも通常のライズアアーキテクターが、シャイニングアーキテクターへと変化を成す。

 

《THE RIDER KICK INCREASES THE POWER BY ADDING TO BRIGHTNESS!》

 

 飛蝗の後ろ脚を模す推進機器……シャイニンググラディエーターが装着。

 

《SHINING HOPPRE!》

 

 赤い複眼に黒いインナーにライトイエローのアーマー姿は、ライジングホッパーの意匠をある程度は残した侭に変化をしていた。

 

WHEN I SHINE,DARKNESS FADEE(僕の光が闇を消す)

 

「仮面ライダーゼロワン・シャイニングホッパー」

 

「これ、基本のライジングホッパーをパワーアップさせた感じ?」

 

「そうみたいだね」

 

 どんなシチュエーションで使われたかまで知らないのだが、ライジングホッパーを直にパワーアップさせたと云わんばかりに飛蝗型の仮面ライダーゼロワン。

 

「似てる。極めて似てる。だけどやっぱり何かが違うんだよ……」

 

「「ええっ!?」」

 

「ですぅ!?」

 

「……もうこれで良いんじゃない?」

 

 驚く香織と雫とシアに、面倒臭そうなユエ。

 

「ひょっとして青みとかが掛かったりするか?」

 

「っ! そうだ! 確かにそんな感じだったよ!」

 

 我が意を得たりみたいに叫ぶミレディ。

 

「ならこれかな?」

 

「それは?」

 

「仮面ライダーバルカンのアサルトウルフプログライズキー。これを外して」

 

 言いながらユートが外したのは、プログライズキーの尻柄の艶消し銀のパーツだった。

 

「アサルトグリップ」

 

 更にはシャイニングホッパープログライズキーへと填め込み、シャイニングアサルトホッパープログライズキーにしてしまう。

 

 長い名前だ。

 

《HYPER JUMP!》

 

 アサルトグリップの赤いスイッチを押すと、いつもとは少し違う音声が響き、それをゼロワンドライバーのオーソライザーに。

 

《OVER RIZE》

 

 これもまた違う。

 

 プログライズキーを展開させて、ユートが天高く掲げるとライダモデルらしきが頭上に浮かんだ。

 

WARNING,WARNING. THIS IS NOT A TEST!(警告、警告……これは訓練ではない)

 

 シャイニングアーキテクターへと合着。

 

《HYBRID RIZE……SHINING ASSAULT HOPPRE!》

 

 先程の仮面ライダーゼロワン・シャイニングホッパーに、青いアーマーが追加された感じの姿になった。

 

NO CHANCE OF SURVIVING THIS SHOT(この一撃で生き残る術などない)

 

 仮面ライダーゼロワン・シャイニングアサルトホッパー、それはシャイニングホッパーにアサルトウルフのパーツが散見される姿。

 

「お前を止められるのは、唯一人……僕だ!」

 

 微妙に飛電或人と異なる決め科白を言ってみたら、ミレディの蒼い瞳が潤んで涙を浮かべている。

 

「それ、そうだよ。あの時に出逢ったゼロワンだよ。仮面ライダーゼロワン……声も思い出した。確かに、君だったんだね」

 

 大切なナニかに廻り会ったのだと、この時ばかりはミレディもまるで十代程度の乙女の如く、ユートへと抱き付いてきた。

 

「だけど、どういう事? ミレディさんの生きていた時代は下手したら数千年は前で、優斗は現代に生きているのよ?」

 

「ミレディの記憶が可成り曖昧みたいだし、この分だと時間を遡行して出逢った訳じゃ無さそうだな」

 

「あっけらかんと言うわね……遡行したとか」

 

「僕には珍しくも無いよ」

 

「そ、そうなの?」

 

「古代ベルカに跳ばされ、聖王や覇王と共に真王をやった事もあるからね」

 

「……群雄割拠の時代か」

 

 雫には想像もつかない、況してや王の一角など。

 

「世界や時間を跳び越えるのは今更だからね」

 

 それも雫には想像が出来ない現象であろう。

 

「再誕世界でも二十数年前に跳ばされたな」

 

「ちょっと!?」

 

「で、結婚前の両親に会ったりダメ親父のチームと闘ったりした」

 

「スッゴい危ない事をしてるわね!」

 

 下手に闘って父親を抹殺したらどうする気だ? という意味で驚く。

 

「そこら辺は、元の世界線に回帰する為にもある程度の節度は保ったさ。まさかダメ親父を殺したり、母さんをNTRしたりなんてのはしない」

 

 そういう意味で云うと、某・神にも悪魔にも凡人にもなれた男は、可成り冒険をしていたのだと思う。

 

 選択肢次第で恋人の母親をも抱いている訳だし……何より完全に世界線が変化していたのだから。

 

 尚、母さん――アリカをNTRしてはいないけど、完全に男女のソレなレベルで甘えていたりする。

 

 正確には二十数年前ではなく、母親を救い出して後に【OGATA】本拠ビルに匿った際に……だが。

 

「つまり、優斗が過去へと跳ばされるのはデフォ?」

 

「其処までは言わないよ。実際、僕はミレディの居た過去には多分だが跳んではいないからね」

 

「どうして判るのよ?」

 

「ミレディの記憶が曖昧に過ぎる」

 

「は?」

 

 意味が解らなかったか、雫は間抜けな声を上げながら小首を傾げる。

 

「どういう事?」

 

「数千年でボケたんなら、それも構わないんだがね。恐らくはそうじゃないよ」

 

「ボケって……でも違うならどういう事なの?」

 

「僕がミレディと逢ったのはもう少し未来で、しかも恐らくはどちらも決定的な時間移動はせずにだよ」

 

「? よく解らないよ」

 

 見た目相応な表情と態度は昔のミレディには無く、自らを変えてウザくなった頃にも余り見られない。

 

「先ずは、ミレディ自身が普通に数千年を過ごしたからには、君が時間移動なんてしている筈が無いな」

 

「まぁ、そうだね」

 

「では僕は? 少なくとも今現在の僕は時間移動してる訳が無い。未来の僕は? やはりそれも有り得ないだろう。それなら君の記憶が曖昧な理由が無いよ」

 

「やっぱり記憶がネック? だとしたら……」

 

 ユートはシャイニングアサルトホッパープログライズキーを、ゼロワンドライバーから引き抜いて変身を解除しながら言う。

 

「……あ」

 

 ちょっと寂しそうな顔で思わず声を出すミレディ、どうやらオスカー・オルクスやナイズ・グリューエンらより、『ゼロワン』への想いが強かったらしい。

 

「先にも言った時の邂逅、何らかの原因で僅かな時間のみ同じ場に立ったんだ。記憶が曖昧なのは世界意思みたいなモノに、ミレディを含む全員の記憶を消されたんだろう」

 

「全……員? オー君とかナッちゃんやメル姉も?」

 

「どうしてその三人を? 否、つまり僕と出逢ったのはヴァンドル・シュネーとリューティリス・ハルツィナとラウス・バーンが仲間になる前って事か」

 

「あ、そういえば……」

 

 何と無くだが言った仲間の名前……というよりは、愛称だがオー君とナッちゃんとメル姉の三人。

 

 オスカー・オルクス。

 

 ナイズ・グリューエン。

 

 メイル・メルジーネ。

 

 これに、ミレディ・ライセンとリューティリス・ハルツィナとラウス・バーンとヴァンドル・シュネーを加えた七人が、七大迷宮の創造した【解放者】だ。

 

「記憶は消されたんだろ。とはいえ、どうもミレディの記憶消去は不完全だったみたいだけどな」

 

「嬉しいけど複雑だよ」

 

 ミレディはまるで夢現、オスカー達も何だか不思議な感覚は持っていた為に、頭から否定をされたりはしなかったが、やはり寂しさを感じていたから。

 

「問題なのは、記憶消去って過去側だけに働く訳じゃない事だね」

 

「え、まさか?」

 

「僕を除く雫達もその際、記憶は喪われるだろう」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 驚く雫達。

 

「本来ならな」

 

「本来ならって?」

 

「僕の【閃姫】になってる雫達は、僕の能力が一部だが使えるんだ。パッシブ系スキルも幾つか有るけど、【特異点:EX】を可成り弱めた【特異点:B】くらいで付いている状態だよ」

 

「特異点って、若しかして【仮面ライダー電王】?」

 

「そう。時間改変の影響を受けない存在、電王に変身する野上良太郎やハナの様な存在だね」

 

「え、ゆう君って電王に成れるのかな?」

 

「変身なら可能だ、香織」

 

「本当に?」

 

「パスにベルトにイマジンの三点セットが有ればね。パスとベルトは持っているけど、イマジンが居ないから変身してもプラットフォームでしかない」

 

 そう言うと雫が……

 

「プラットフォームって、龍騎で云えば」

 

 仮面ライダー龍騎からの想像をしていた。

 

「『折れたぁっ!?』みたいなもんだな」

 

「「ぶふっ!」」

 

 ネタを知っていたからか噴き出す雫と香織。

 

「折れたって何?」

 

「【仮面ライダー龍騎】という噺で龍騎がブランク体の侭に敵さんと戦った際、ライドセイバーがポッキリと逝ったんだがね」

 

「はぁ? 武器が壊れるのって普通だよね?」

 

 当然、ミレディ・ライセンには理解が出来まい。

 

 それはトータス組となるユエとシアも同様であり、二人も意味がよく解らないと首を傾げていた。

 

 あれは撮影の時に不備で起きたアクシデントだが、(スーツアクター)の人がアドリブをした結果だ。

 

 だから面白い。

 

 当たり前だがネタを知らなければ、意味不明な科白でしかないであろう。

 

「取り敢えず、これで心配は無くなった……か?」

 

「そ、そうだね。ユー君が『ゼロワン』なら話は簡単だよ。本当に間違いなく、君がそうなんだね?」

 

「このトータスに転生者か転移者が他に居て、特典に【仮面ライダーゼロワン】系列を得てなければな」

 

 ピンポイントでそういう輩が居れば話は違う。

 

「居ないでしょ」

 

「居たらもっと有名だと思うよ?」

 

「ま、雫と香織の言う通りだろうな。だから安心して身を委ねると良い」

 

「や、んっ!」

 

 耳許で囁かれたミレディは熱い吐息に頬を染める。

 

 お腹の奥からジンワリとナニかが溢れてくる感覚、事実として股間が既に潤いを帯びていた。

 

「まぁ、その前にイベントを済ませておこうか」

 

「イ、イベント?」

 

 未だに頬を朱に染めながらも聞き返す。

 

「神代魔法だよ。さっさと重力魔法を寄越せって話」

 

「ああ、でもユー君ってば重力球とか使っていたし、ミレディたんの重力魔法って必要有るのかな?」

 

「君のは正確に云うなら、『星のエネルギーに干渉する魔法』だ。僕も自分自身の能力に絡めればそれなりに使えるさ。実際オスカー・オルクスの生成魔法も、僕の【創成】の補助に使って使い勝手が良くなった。お陰でミレディの肉体創造もスムーズだったしな」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 あれ? と思う。

 

「生成魔法で肉体をって、変成魔法じゃなく?」

 

「ああ、僕はまだヴァンドル・シュネーの大迷宮には行ってないしな」

 

 クリアしたのはオルクスとライセンのみだ。

 

「でも、生成魔法ってのは『無機的な物質に干渉する魔法』であって、生命体へ干渉をするなんて……」

 

「確か変成魔法は『有機的な物質に対する干渉魔法』だったか? 生命エネルギーが得られてないならば、人間であれ魔物であれその素材は全て無機物。骨だってカルシウムの塊に過ぎないんだぞ?」

 

 カルシウム自体は一応、無機物と呼んで差し障りも無いだろう。

 

 だいたい、カルシウムを有機物と定義したら血の中に鉄分が存在する以上は、鉄分も有機物か? という話にまで拡がるのだから。

 

 恐らくそこら辺は意識の問題なのだろうし、それにユートは昔にガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグを治す際、寧ろ破壊された肉体を無機物として直してから魂を積尸気転生派で戻し、復活をさせた過去もある。

 

 事実として壊れたガトウの肉体を、ユートは単なるカルシウムや蛋白質の塊として修復していた。

 

 尚、有機物とは炭素を含む化合物の中で炭素と酸素からなる物を云う。

 

 また、有機物とは生物の体内で作られる炭水化物、脂肪、蛋白質などの他に、無数の人工的に合成された有機化合物が有る。

 

 つまり、カルシウムにせよ蛋白質にせよ事実上では有機物であったり。

 

 ユートは意識的に生命体として活動してるか否か、それで分けているから問題も無く力を使えていた。

 

 つまり、ミレディの肉体も生命活動する前は生命体に非ず、生成魔法で普通に創造の補助が出来る。

 

 とはいえ、原典のハジメが同じ事をやろうとしても当然ながら不可能。

 

 ハジメに出来るのは精々……というには物騒過ぎるのだが、近代兵器的アーティファクトの製作くらい。

 

 ユートの場合は【創成】を主に、生成魔法を副にしているから成り立つ。

 

 そもそもにして【創成】とは、汎暗黒物質に干渉をして想像を創造に変換する能力なのだから、生命体を生命活動前の状態で創造をするのは御手の物。

 

 難しく考える必要自体が無かった。

 

「それじゃ、魔法陣に乗ってくれる?」

 

 言われた通り魔法陣の中に入るユート達だったが、今回の場合はオルクスの時とは違い、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているから、記憶を探るプロセスは無くて直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。

 

 ユート達は経験済みな事だから思う処も無いけど、シアは初めての経験に身体を跳ねさせていた。

 

 前回はオスカーの長ったらしい説明込みで時間も掛かったが、今回は僅か数秒で刻み込みは終了した為、割とあっさりと神代魔法を手に入れる。

 

「ユー君はすんごい適性、何なのこれ? ってレベルなんですけど……」

 

「僕の転生特典は『魔法に対する親和性』だからな、それが再転生してからも活きてるんだろう」

 

 可成り拡大解釈されて、精霊に慈愛を受けてしまい精霊魔法など、本当に魔法と付けば何でも良いのかと云いたくなるくらい親和性が高い。

 

「金髪ちゃんも可成り適性が高いね。ポニテちゃんは余り適性は高くないかな。ロングちゃんは割かし高いけど、それでも金髪ちゃん程じゃないね。ウサギちゃんは吃驚するくらいに適性が無いよ」

 

「やっぱりですぅ」

 

 判ってはいたがシアには魔法適性が殆んど無い。

 

「ウサギちゃんは自分自身の体重の増減くらいだね。ポニテちゃんは武器に重力を掛けて威力を増すとか、ロングちゃんはそれなりに重力魔法を扱える筈だよ。で、金髪ちゃんは弟子にしたいレベルで高い適性だ。ユー君はもう勝手にやっててって感じかな?」

 

 投げ遣りだったがユートもそれで構わなかった。

 

 そして、折角の神代魔法が体重の増減にしか使えないシアは打ち拉がれる。

 

「シアの適性……ねぇ? やっぱりシアは肉体作用の方が合うんだな」

 

 根っからの強化系とか、何処のゴン・フリークスかと思える特性である。

 

「ま、それは後で良いか。それじゃあ、ミレディ」

 

「あ、うん……」

 

 取り敢えず魔法陣のある部屋に扉が有り、其処からミレディの部屋に入る。

 

「何にも無いな。本に観葉植物に集合写真くらい?」

 

 オスカー・オルクスらしきと、ミレディ本人と他に数人が写る写真。

 

 中心に居る二人こそが、眼鏡はオスカー・オルクスで少女がミレディだろう。

 

 他にも数名、【解放者】の中心人物たる七人が写る写真だった。

 

「無いなら無いで良いか」

 

 ユートはキングサイズのベッドを出した。

 

「今のって、オー君の持っていたアーティファクトの【宝物庫】じゃないよね? 何なの!?」

 

「亜空間ポケット。機能的には【宝物庫】と同じだ」

 

 色々と上位互換だが……

 

「さて、始めようか」

 

「はぇ?」

 

 お姫様抱っこでベッドに連れられ、ドサッと真っ白なシーツの布団の上に乗せられるミレディ。

 

「や、優しくしてね?」

 

「問題は無い」

 

「――あ!」

 

 数千年モノながら新生した肉体の処女をユートへと捧げ、初めての行為で初めての絶頂を経験する。

 

 時に激しく攻められて、時に優しく撫でられ、時には緩やかに動かれながら、欲しい時にキスをくれるからすっかり参ってしまう。

 

 翌朝、腰砕けで立てなかったが故に、ライセン大迷宮を出るのを一日伸ばしてしまい、更に雫達を加えた乱交に突入していた。

 

 ミレディは完全に溺れてしまっていたと云う。

 

 

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 次からは第三章:竜人姫……の予定です。




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第三章:竜人媛
第34話:ブルックの町での最後の一時


 一応、今回から新章。





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 一通り愉しめたライセン大迷宮での逢瀬、ユート達は真っ当に迷宮脱出呪文(リレミト)で大迷宮から出てしまう。

 

「水で川に流す最短距離が有ったんだけどな」

 

「「「「要らない」」」」

 

 取り敢えず見た目の説明から、雫と香織が水洗便所を想像してしまった上に、明らかに溺れそうな仕掛けにシアもユエも閉口をするしかなかった。

 

「にしても、オルクスの時は使って貰えなかった魔法が今はアリ……か」

 

「前は彼女とかより以前に仲間や友達とさえ思われて無かったって、こういう所でマイナスな部分とか出てくるよね」

 

 オルクスの時はユートが二人を友人認定すらしてはおらず、パーティを組めていなかったからリレミトの範囲対象外だった。

 

 唯一、畑山愛子先生だけは対象内だったのだけど、この場合はそう言った処で彼女は折れないだろうし、話さず三人を諸共一緒に喰ったのである。

 

 ミレディが何だか一つ所を見ているのに気付く。

 

「どうした?」

 

「あ、ん。ちょっと……」

 

「若しかしてベルタの……ベルの死んだ場所か?」

 

「っ! どうして?」

 

「言っただろうに、僕には情報源が有るってさ」

 

「そっか、その情報源とやらはミレディたんとベルの事も識ってるんだねぇ」

 

「ちょっと違う情報源だったりするけどな」

 

「――?」

 

 可愛く小首を傾げているミレディに、ユートは苦笑いを浮かべてしまう。

 

 【ありふれた職業で世界最強】の原典知識だけど、ユーキが識っていたのは飽く迄もWeb版の最終話〜アフターが幾つかまで。

 

 【ありふれた職業で世界最強零】に関する情報源、それは狼摩白夜であった。

 

 白夜がこんなアニメとか特撮の知識が豊富な理由、それは実は香織と似たり寄ったりな理由だった。

 

 香織が所謂、オタク知識を身に付けたのはハジメの趣味に合わせたかったからであり、白夜もまたユートの趣味に合わせて知識を得ていたらしい。

 

 特に仮面ライダーなら、自分の好きなライダーを語れるレベルで、その中でも【仮面ライダーアギト】が好きなライダーだと云う。

 

 だから転生特典で獲ていた【ゲネシスドライバー】と【ピーチエナジーロックシード】との引き換えに、ユートはアギトの【オルタリング】を渡した。

 

 彼女の死んだのは令和に入ってから、それ故にこそ【仮面ライダーゼロワン】の情報も持っていたのだ。

 

 【ありふれた職業で世界最強零】の情報で、ライセンで死んだというベルタの事もユートは識り得た。

 

「墓参りでもしたいなら、少し寄り道しても構わないんだが?」

 

「お墓は無いよ。ううん、正確にはもう風化しちゃって無くなってる筈。地形も変わって場所も判らなくなってるかな?」

 

 数千年……数十世紀も経ったら確かに地形は変化もしているだろう。

 

 仮に二千年だったとしても相当に変わる。

 

 某・石化世界でもそれは証明をしているし。

 

「死んだ場所は判る?」

 

「え、うん。ライセン大峡谷は大して違わないから」

 

「なら行こうか」

 

「良いの?」

 

「そのくらいは時間を取れるよ。別に大迷宮攻略だって性急にって訳じゃない」

 

「うん、ありがと」

 

 頬を染めて潤む瞳。

 

 香織と雫は『スケコマシ』と、遠い目をしながらも見つめていたと云う。

 

 墓参りとはいかないが、ベルタへの報告も済ませたミレディを加えた一行は、取り敢えずブルックの町に戻る事にする。

 

「お、戻ったんだな」

 

「覚えていたんだ」

 

「そりゃ、な。まだ十代とはいえ綺麗所を侍らせてる上に、珍しい白髪の兎人族の奴隷持ちだぜ? 鮮烈過ぎて忘れられねっての」

 

「成程な」

 

「しかも何か増えてるし」

 

 金髪ポニーテールに蒼い瞳な美少女、ミレディ・ライセンを見ながら言う。

 

「羨ましかろ?」

 

「てめ、言うかそれ!」

 

 ハーレム状態で美少女を侍るユートに、ブルックの門兵をしている男は羨望と嫉妬を目に込めた。

 

「しかもこれから更に増える予定だ」

 

「も……」

 

「も?」

 

「もげちまえ!」

 

 下半身の事を言っているのか、誰得で涙目な門兵がユートに叫んだ。

 

「取り敢えずはステータスプレートな」

 

「確認したが、新顔の分はどうしたんだ?」

 

「ちょっと無くしててね、ギルドで作って貰う予定」

 

「そうか、なら仕方ない。再発行は割と高いぞ?」

 

「金には困ってないさ」

 

「羨ましいねぇ。美少女を侍らせた上に金持ちかよ。通って良いぞ」

 

 ブルックの町の門は通過出来たし、前に宿泊をした【マサカの宿】へ向かう。

 

 

 【マサカの宿】に着く前から、ジロジロと嫉妬を含む視線やエロい視線が此方に突き刺さってきていた。

 

 だけど何人かは怯えた目をしているし、何故か股間を押さえていたからきっと美少女を視て、思わず自慰でもしたくなったのだろうと気にしないユート。

 

 勿論、そんな筈は無い。

 

 何しろ――『スマ・ラヴ』という単語が飛び交っていたのだから。

 

「因みに、ミレディたん達を無理矢理に襲って来たらどうしたの?」

 

「平成始まりの仮面ライダーが四本角を生やしつつ、真っ黒な身体で黒い複眼になって、そいつらを燃やしてるんじゃないか?」

 

「えっと?」

 

 意味が解らなかったらしいミレディは、困った顔でポリポリと頬を掻いてしまうけど、一応は怒ってくれるらしいから喜ぶ。

 

 ミレディも【閃姫】契約をしたし、彼女の一人……ハーレムメンバーと認識をされているし、自分の為に彼氏が怒るなら悪くない。

 

 尤も、意味を間違いなく理解した香織と雫は真っ青になっていたが……

 

(ゆ、ゆう君が過激だよ……雫ちゃ〜ん)

 

(ま、まぁ、嬉しいと言えば嬉しいけどね)

 

 お姫様思考な雫としては守られたい訳で、自分の為に騎士様が怒りに燃えるのは確かに悪くない。

 

 ユートが言ったのは流石に過激だが、それを差し引いても雫としては頬を朱に染めてしまう。

 

「ようこそマサカの宿へ、御宿泊ですか? それとも御食事でしょうか?」

 

「宿泊、一週間で。風呂を使いたいから頼む」

 

 一五歳くらいの看板娘、ソーナ・マサカに注文を伝えていく。

 

「えっと、やっぱり二時間ですか?」

 

「ああ、それで頼む」

 

「それでは、御部屋はどうなされますか?」

 

 何故か頬を染めながら、ソーナが訊ねてくる。

 

 ミレディを見て増えているのに気付き、どういった部屋割りにするのか興味は尽きない様だ。

 

 この場に男はユートのみであり、雫と香織とユエとシアに加えてミレディ。

 

 前回はシアだけがユートと泊まって、ベッドの白いシーツには点々と赤い染みが落ち、まるで暴れたかの様にシワだらけ。

 

 一五歳ならその意味合いが理解も出来よう。

 

「三人部屋を二つ」

 

「さ、三人で!? それはつまり新しい人も加えて……ゴクリ」

 

 更に真っ赤になりつつ、何やら妄想を始めた。

 

「おい?」

 

 卑猥な科白が小さいながら聴こえてくるし、ソーナの中でユートは可成り外道な扱いらしく、ジト目になりながらドスの利いた声色で呼ぶが復帰しない。

 

 ゴンッ!

 

「ふぎゃっ!?」

 

 遂に背後から父親らしき男が拳骨を加え、ズルズルと襟を掴んで奥に連れ戻してしまい、奥さんらしきがカウンターに入ると……

 

「済みませんね、御客様。三人部屋を二つですね? 畏まりました」

 

 テキパキと手続きを済ませ鍵を二つ渡してくれた。

 

「組み合わせはどうする? 基本的に僕と同じ部屋でヤる心算だけど」

 

「部屋は二つでもスる時は皆で構わないんじゃない? 優斗は別に6Pとかでも問題無いでしょ?」

 

 ざわりと周囲がざわめき始め、しまったと雫は迂闊な事を言った口を閉じる。

 

 頬は真っ赤だ。

 

「良い具合にえちぃくなったな雫も」

 

「だ、誰の所為よ?」

 

 食事も摂って風呂にも入る六人、浴槽を汚さない様に外でイチャイチャとして一発ずつヤり、続きは部屋に戻って六人が揃い踏みして身体を擦れ合わせつつ、誰かがユートの分身を挿入している間、キスや愛撫で互いに気分も肢体も高め、昂らせ合っていく。

 

 数時間後には再生能力の高いユエだけが残ってて、それでも激しく責め立てられて気絶してしまった。

 

 そんな情事を六人で繰り広げていた頃……

 

「ふふ。貴方達の痴態……今日こそはじ〜っくりと、ねっとり見せて貰うわ!」

 

 下弦の月夜の闇を照らしており、風に攫われた雲の上から輝きを魅せていた。

 

 柔らかな月の光が地上の【マサカの宿】をうっすら照らし出し、その屋根からロープを垂らしてしがみ付きながらも、宛ら何処かの特殊部隊員の如く華麗なる下降を見せる一人の少女の影が浮かび上がる。

 

 三階にある角部屋の窓まで降りるとそこで反転し、逆さまになり窓の上部より顔を覗かせた。

 

「くふふふ、この日の為にクリスタベルさんに教わっていたクライミング技術、そしてその他よ! まさかこんな場所に居るとは思うまい。さ〜てと、果たしてどんなアブノーマルプレイをしているのか、ばっちり確認して上げるから!」

 

 ハァハァと盛りの付いた猫の如く荒い息をしつつ、ユートの宿泊する部屋へと目を凝らすこの少女こそ、【マサカの宿】の看板娘たるソーナだったりする。

 

 とっても明るく元気で、ハキハキとした喋り方をしており、いつも動き回っている働き者な女の子。

 

 取り分けて美人という訳でも無いけど、謂わば野に咲く一輪の花の如く素朴で可憐な看板娘ちゃん。

 

 町の中には彼女を狙っている独身が結構居る。

 

 現在、ソーナは自ら持てる技術の全てを駆使して、ユート達の部屋の覗きへと全力を費やしていた。

 

 その表情は彼女に惚れている男連中が見たならば、一瞬で幻滅してしまうであろうエロオヤジっぽさ。

 

「くっ、やはり暗いわね。よく見えない……もう少し角度をずらせば」

 

「溜まってるのか?」

 

「そういう訳じゃないわ。でも後学の為にも見ておきたいのよ。それにしても静かね? もう少しは嬌声が聞こえるかと思ったんだけどな……」

 

「後学じゃなく実践付きで教えようか?」

 

「ちょっと怖いかなぁ……って、待ってよ!? 話し掛けてくるのは誰?」

 

 ここは三階の窓の外で、ソーナのみたいにアホな事でもしない限りは、こんな場所で間近に声が聞こえる事は有り得ない。

 

 ソーナはダラダラと滝の様な汗を流し、まるっきり油を差し忘れた機械の如く動きで振り返ると……

 

「愉しそうで何よりだね」

 

「お、御客様……」

 

 臍まで反り返った分身を堂々と晒し、腕組みをしながら浮かぶユートが居た。

 

「今すぐにもロープを切られてこっから落ちるのと、“優しく抱かれる”のとはどっちが良い?」

 

 タラリと汗一筋。

 

 地上までは十数mはある以上、当然ながらロープを切られて落とされるの論外としても、今の科白からして『優しく抱かれる』という意味を考えると?

 

 然しながらロープを簡単に切れそうな鋏、いつの間にか持っていたそれを手にするユートは、冗談抜きでロープを切りに来る筈だ。

 

「や、優しくして下さい」

 

 ガッチガチに硬そうで、太さは細身とはいえソーナの腕くらい、皮はズル剥けで凶悪な先端がヌラヌラと月明かりに卑猥なる輝きを反射して、もう凶器にしか思えない分身を見ながら、絞り出す様にソーナは言うしかなかったのだと云う。

 

 翌朝、ソーナは自分自身の部屋には居らず、ユートの宿泊していた部屋で他の女の子らと寝ていた。

 

 この場にもう処女は居ない筈が、鮮血が滴り落ちて赤黒い染みを作っていたらそれは驚きだろう。

 

 流石に早起きをした雫が叫んだが、ソーナの所業を聞いて自業自得とする。

 

 雫とて赤の他人に情事を観られたくは無い。

 

 それに『ロープを切られて落ちるか』、『優しく抱かれるか』で後者を選んだのはソーナ本人。

 

 理不尽な二択とはいえ、それならば文句など言えよう筈もなかった。

 

 因みに、ソーナは『嘘吐き〜』と涙目になっていたりするが、どうやら可成り激しくされたらしい。

 

「覗きは論外だとしても、ソーナが混ざりに来るなら歓迎するよ」

 

「あ、はい……」

 

 だけど凄く気持ち良くされてしまったのも事実で、何度も何度もイカされ喘ぎ絶頂の叫びをあげさせられたソーナは、赤くなりながら頷いていたと云う。

 

 尚、一晩中帰って来なかったソーナをマサカ夫妻が心配しており、朝帰りした不良娘はお尻百叩きの刑を執行されたらしい。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ブルックに戻ってからの約一週間、ユートは冒険者ギルドでミレディのステータスプレートを作る。

 

 ユートが造って渡しても良かったが、ミレディの服やら靴やら新たに買うのだから序でに作ったのだ。

 

 勿論、新たなる美少女が現れたが故に冒険者ギルドは色めき立つが、ユートと腕組みをしているのを見て『またコイツかよ!?』……とか、嫉妬と羨望の視線を向けられたのは言うまでも無いであろう。

 

 ブルック冒険者ギルドの支部の扉が開き、ここ数日ですっかり有名人となった六人――ユートと雫と香織とミレディとユエとシアが入って来たのを見たギルドの中のカフェに屯していた冒険者達は、片手を上げて挨拶してくる者も居れば、連れの美少女達に見蕩れながらユートを睨む者など、それぞれな対応をしてきていたが、其処に決して陰湿なものはない。

 

 彼らは美少女の誰か一人でも手に入れようとして、ユートに対して決闘騒ぎを起こした者が数知れず。

 

 “股間スマッシュ”という身の毛の弥立つ恐ろしい所業を成したユエを口説く勇気は出ないが、ならばと外堀を埋める様にとユートから攻略を考える莫迦が、実はそれなりの人数が居たのである。

 

 だけどユートがそんなのを受ける理由も無かった、だから『決闘だ』と言いに来た連中は須らく【不能の短剣】を刺してやった。

 

 刺されても血は出ない、痛くも痒くも無い短剣ではるが、その本領は刺された者にしか解らない。

 

 刺した後でこれ見よがしにミレディとイチャ付き、胸やら股間にまで手を伸ばした辺りで、短剣に刺された冒険者が絶望した。

 

 無修正のAVも斯くやな股間が熱くなるシーンで、自らの分身が全く起動してくれなかったから。

 

 受けたダメージは痛く無かったが、心はクリティカルなダメージである。

 

 二度と勃ち上がらなくなった分身に、ギルド内にも拘わらず自慰に耽りながら泣いていた冒険者達。

 

 そんな色んな意味合いで『男の敵』なユートだが、この町の中ではユエと共に“股間スマッシャー”と、決闘が始まる前に相手の玉を滅殺する“決闘スマッシャー”なコンビとして有名を馳せ、一目置かれる存在なのだったりする。

 

 スマッシュ・ラヴァーズなる二つ名が浸透してて、【二人はスマ・ラヴ】とかどっかのプリティでキュアキュアみたく呼ばれたり。

 

「おや、今日は全員で来たのかい?」

 

 ユート達がカウンターに近付くと、いつもの通りにキャサリンが対応をして声を掛けてくれる。

 

「ああ。そろそろ町を出る心算なんでね、キャサリンさんには色々世話になった訳だし挨拶をしておこうかと思ったんだ。序でに言えば折角だし目的地関連での依頼があれば受けておこうと思ってさ」

 

 この一週間というもの、重力魔法を籠めた魔導具を造るのに専念をしたくて、キャサリンに良さげな場所は何処か無いかと訊いてみたら、ギルドの空いた一室を無償で貸してくれた。

 

 世話になったというのはそういう意味だ。

 

「そうかい、もう行っちまうのかい。そりゃあ寂しくなっちまうねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ〜」

 

「冗談はよして欲しいね。宿屋に棲息する変態娘といい、ユエ達に踏まれたいとか言って町中で行き成り土下座までしてくる変態共といい、『御姉様』だとか連呼しながらストーキングする変態共といい、未だに決闘を申し込んでくる阿呆共といい……碌な奴が居ないんだけどな? 出会った奴の七割が変態共で二割が阿呆だとか、いったいこの町はどうなってんだって話なんだが」

 

 ソーナは言わずもがな、ブルックの町にはユートの連れの美少女を巡ってて、暇なのかどうかは知らないが日々鎬を削っている。

 

 即ち、【ユエちゃんに踏まれ隊】、【シアちゃんの奴隷になり隊】、【香織ちゃんに罵倒をされ隊】、【雫御姉様の妹になり隊】、【ミレディちゃんに潰され隊】であったと云う。

 

『潰されたいって何!?』

 

 重力魔法で冒険者を潰したのが切っ掛けで、おかしな性癖に目覚めた連中とかも居たらしい。

 

 尚、男連中は素っ裸にして広場で亀甲縛りの状態にて放置してやり、女の子はユートに襲い掛かって来たのでぶちのめし、敵認定をしたからヤり捨ててやる。

 

 命を狙ったからには命を奪われても仕方がなくて、貞操と命とどちらを喪いたいか訊かれ、泣く泣く貞操を選んだのである。

 

 まぁ、すぐにも啼く啼く絶頂してしまうけど。

 

 因みにだが、基本的には訴えられたりしない。

 

 理由はそもそも襲撃したのが彼女らで、しかもイカされて満足感を得てしまったから寧ろ、次もされたいとか思ったくらいだとか。

 

 ユートは自分が満足するだけの腰振りはしないし、相手をイカせて満足させる事も確りとヤる。

 

 結果、イカされた者達は完全に満足していた。

 

「まぁまぁ。何だかんだで活気があったのは事実さ」

 

「随分と嫌な活気だよね」

 

「で、次の目的地は何処にするんだい?」

 

「フューレン」

 

 雑談をしながらも仕事はきっちり熟すキャサリン、フューレン関連の依頼が無いかを捜し始めている。

 

 中立商業都市フューレン……ユートの次の目的地は【グリューエン大砂漠】に存在する七大迷宮の一つ、【グリューエン大火山】となっていた。

 

 そうすると大陸の西の方へと向かわなければならないのだけど、その途中には【中立商業都市フューレン】があるので、取り敢えず一度は寄ってみようという話になったのだ。

 

 【グリューエン大火山】の次は、大砂漠を超えたから更に西に在る海底に沈む大迷宮――【メルジーネ海底遺跡】が目的地となる。

 

「おや? 丁度良さげなのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。空きが後一人分あるんだけど……どうだい? 受けるかい?」

 

 差し出された依頼書を受け取ると、ユートが内容の確認をしてみると確かに、依頼内容は商隊の護衛依頼であり、どうやら中規模な商隊のらしくて一五人程の護衛を求めている様だ。

 

 ユート以外だと香織と雫とユエが冒険者登録しているが、枠が一つなら仕方がないからユートだけが護衛に就いて、他のメンバーは別の馬車での移動という形になるのだろう。

 

「連れを同伴するってのは大丈夫なのかね?」

 

「ああ、それは問題無い。流石にあんまり大人数だと苦情も出るだろうけどね、荷物持ちを個人的に雇っていたり、奴隷を連れている冒険者だって居るからね。況してやこの子らも結構な実力者だ。一人分の料金で更に五人も優秀な冒険者を雇える様なもんだ。特に断る理由も無いさね」

 

「成程、確かに。それならどうするかな?」

 

 御遣い系の任務でもあればと思っていたのだけど、護衛任務というのはやった事の無いタイプ

 

 魔導車を使ったら馬車の何倍も早くフューレンに着く事が可能で、それなのに護衛任務により他の者との足並みを揃えるというのはちょっと手間だと言えた。

 

「……特に急ぐ旅じゃないとだろうし、私は三〇〇年で変わった世界を観て回りたいと考えてる」

 

「そうですねぇ〜、偶には他の冒険者方と一緒というのも良いかも知れません。ベテラン冒険者のノウハウというのも、ひょっとしたらあるかもですぅ」

 

「私としてもユエさんと同じく、じっくりと観て回れるならそうしたいわ」

 

「雫ちゃんに同じくかな」

 

 ユエとシアと雫と香織、どうやら護衛任務を受けてみようと言いたいらしく、一斉にミレディに向く。

 

「ミレディたんも構わないけど? ユエちゃんシアちゃんの意見も悪くないし」

 

 どうやら意見は一致したらしいし、ユートは頷くとキャサリンに依頼を受けることを伝えた。

 

 七大迷宮の攻略にはまだまだ時間が掛かるだろう、ならば意味も無く焦った処で致命的なミスを誘発してしまうし、シアの言う様に冒険者独自のノウハウが得られれば、これからの旅でも何かしら役に立つ事などあるかもだった。

 

「あいよ。それなら先方には伝えとくからさ、明日の朝一で正面門にまで行っとくれよ」

 

「ああ、了解だ」

 

 依頼書受け取るのを確認すると、キャサリンが後ろに控える香織と雫とユエとシアとミレディへと目を向けて口を開く。

 

「あんた達も身体には気を付けて元気でおやりよ? この子に泣かされたら何時でもウチにおいで。あたしがぶん殴ってやるからね」

 

「……ん、随分と御世話になった。ありがとう」

 

「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難う御座いました!」

 

「親身になってくれて本当に助かりました」

 

「また、ブルックに来たら会いに来ますね」

 

「ミレディたんは新顔ではあるんたけど、色々と助言は助かっちゃったよ」

 

 シアは特に嬉しそうで、このブルックの町に来てからというもの、自分が亜人族であるという事を忘れそうになる程。

 

 全員が全員、シアに対して友好的という訳ではないのだが、それでも目の前のキャサリンを筆頭にソーナやクリスタベル、ちょっとアレだがシアのファンだという人達は、亜人族という点で差別的扱いをしない。

 

 それがシアには嬉しかったのである。

 

「あんたも、こんないい子達を泣かせんじゃないよ? 精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

 

「それは理解しているさ」

 

 大真面目な顔で返してきたユートに、キャサリンが一通の手紙を差し出す。

 

「これは?」

 

「あんた達は色々と厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びの様なもんだよ。他の町でギルドと揉めた時にはさ、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかも知れないからねぇ」

 

 手紙の一通で御偉いさんに顔が利く、キャサリンはどうやら並々ならぬコネを持つらしい。

 

「詮索は無しだよ? 佳い女に秘密は付き物さね」

 

「そうだね、それならこれは有り難く貰っていくよ」

 

「ああ、素直で宜しい! 色々とあるんだろうけど、決して死なない様にね」

 

 オバチャンだけどミステリアスな女性、キャサリンに見送られて冒険者ギルドを出たユート一行、雫が未だ苦手らしいクリスタベルにも挨拶をしに行く。

 

 幸いにもガチムキな漢女に襲われなかった事もあってか、ユートはクリスタベルとはそれなりの距離感で付き合えていた。

 

 そして最後の夜という事もあり、ソーナも初めから混ざっての7Pを愉しむ。

 

 特にユート達がブルックを出れば、再会する可能性が低い事もあってソーナは酷く甘えん坊になった。

 

 殆んど妊娠する心配など無いが、やはり万が一という事もあるから魔導具にて確実に避妊をしておく。

 

 一期一会。

 

 場合によっては二度と会えない可能性から鑑みて、ソーナは寧ろ妊娠して他の男を受け容れる素地を無くしたいくらいだが、一五歳の身空での妊娠は母子共に宜しくない。

 

 そんな訳で諦める。

 

 代わりにその日の閨での睦事では、一番愛して貰ったソーナ・マサカだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユート達が護衛をする筈の商会が待つ馬車へと近付くと……

 

「お、おい、まさか残りのメンバーは『スマ・ラヴ』なのか!?」

 

「マジなのかよ! 嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってきたんですけど!?」

 

「み、見ろよ……俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

 

「いや、それは単にお前が飲み過ぎだからだろう?」

 

 美少女達の登場に喜びを隠せないが、中には股間を両手で隠し涙目になる者、手の震えをユート達の所為にしている者など、反応は様々なものとなっている。

 

「ああ、君達が最後の護衛チームかね?」

 

「そう、これが依頼書」

 

 懐から取り出した依頼書を見せると、纏め役の男がそれを確認し納得した様に頷いて自己紹介してきた。

 

「私の名前はモットー・ユンケル。この商隊を率いるリーダーをしている者だ。君のランクは未だ黄だし、他の人達は青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いてる。道中での護衛は期待させて貰うよ」

 

「……もっとユンケル? 商隊のリーダーを務めるのは大変なんだね」

 

「へ? ええ、まぁ……慣れたものですよ」

 

 実は日本の栄養剤みたいなファミリーネームだったが故の言葉、流石にそれをモットー・ユンケルが察する筈も無い。

 

「取り敢えず期待は裏切らないよ。僕の名前はユートで順番に、香織と雫とユエとシアとミレディだ」

 

「そいつは頼もしいな……処で君、この兎人族の娘を売る心算は無いのかね? 若し売ってくれるのなら、それなりの値段を付けさせて貰う……」

 

 その時、ユートの姿が掻き消えたかと思うといつの間にか馬車の幌の上に。

 

「変身!」

 

 腰にはアークルと呼ばれるベルト。

 

 音を響かせながら所謂、モーフィング的な変化。

 

 刺々しい漆黒の体躯に、あちこち金があしらわれている紋様、“黒い複眼”を持っていて禍々しい姿へと変わっていた。

 

 モットーの視線が値踏みするかの如くシアを見て、僅かな時間で先程の科白を宣うのは想像がつく。

 

 兎人族で青みの掛かった白髪、珍しいというだけでなく超美少女だ。

 

 モットー・ユンケルも、商人の性で珍しい商品には口を出さずに居られない、シアの首輪から奴隷と判断をして、所有者たるユートに売買交渉を持ち掛けた事から、きっと優秀な商人なのであろう。

 

 彼の過ちはたった一つ、ユートのモノに目を付けてしまった事。

 

「選べ……死よりも絶望をする輪舞を舞うか、大人しく謝罪をして無かった事にするのかを」

 

 放たれたのは威圧。

 

 仮にその手の威圧に慣れた者であれ、今のこれを浴びたら失禁は必至なレベルで強く凄まじい。

 

「仮面ライダークウガ・アルティメットフォーム」

 

「聖なる泉枯れ果てし時、凄まじき戦士、雷の如く出で太陽は闇に葬られん」

 

 冷や汗を流しながら自分の知識から、名前とアイデンティティーワードを口にする雫と香織。

 

「どうする?」

 

「な、無かった事に……」

 

 何をされるのかは判らなかったが、身の毛も弥立つ碌でもない事なのは理解をしたモットー・ユンケル、故に先程の科白の撤回を申し出るのだった。

 

 

.

 




 取り敢えず怒りを露とした事で、ユートのスタンスをモットー・ユンケル氏に伝えた感じです。




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第35話:ミレディちゃんのへ〜んしん!

 新年一回目です。





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 モットー・ユンケル氏の馬車とは別の馬車、性能は折り紙付きでユンケル氏の馬車が玩具みたいだ。

 

 正直、モットー・ユンケル氏は馬車に関しても食い付いてはいたが、シアでの失態からか恐くてユートに何も言えずにいた。

 

 護衛のユートは他の護衛と同じ馬車だから会話も侭ならないけど、ミレディはこの際だから謂わばユートの嫁と話そうと考える。

 

 ブルックの町から馬車で中立商業都市フューレン、其処までに掛かる日数とは約六日となっていた。

 

 太陽が昇る前に出発し、沈む前に野営の準備に入る事を繰り返す。

 

 それを既に三回繰り返しして、ユート達はフューレンまで残す処を三日の位置まで来ていた。

 

 ここまで特に何事も無く順調に進んでユート達は、隊の後方を預かっているが故に長閑なもの。

 

 今日も今日とてミレディは雫達と情報の擦り合わせを行い、必死にユート一行の彼是を憶えようとした。

 

 初日は雫らがトータスに召喚され、オルクス大迷宮に向かうまでの話を雫達がして、ミレディはライセンでベルに会ってから死に別れてしまい、オスカー・オルクスとの出逢いまで。

 

 二日目はオルクス大迷宮で奈落――真のオルクス大迷宮に落ち、ユートに初めてを捧げる契約をして護られながら、ユエとの出逢いや実際に初めてを捧げて、オスカー・オルクスの住処に辿り着くまでを。

 

 ミレディは【解放者】として、オスカー・オルクスやナイズ・グリューエンやメイル・メルジーナと出逢う旅路を話した。

 

 そして三日目……

 

 ライセン大迷宮に入り、ミレディと出逢うまでを語り尽くし、ユートとの性活の濃厚さを語る雫と香織とユエとシアの四人。

 

 真っ赤になりながらも、その気持ち良さにイカされ続け、余り自分達がユートを満足させていないのではないかという懸念。

 

 ミレディはヴァンドル・シュネーを名乗る男と出逢った事、ハルツィナ共和国でリューテュリスと出逢いラウス・バーンと出逢い、様々な事が起きたのを。

 

 更にミレディは一番気になる事を訊ねた。

 

「それで、君達のアレって何なのかな?」

 

「アレって……仮面ライダーに成る?」

 

「そう、それ。ユー君だって『通りすがりの仮面ライダーだ』とか言ってたし』

 

「えっと、何て言えば解り易いかしら?」

 

「この世界には無いしね」

 

 ミレディからの質問に、雫も説明の仕方をちょっと考えてしまうし、香織とて苦笑いを浮かべていた。

 

「私達の世界にはテレビっていうのが有るのよ」

 

「テレビ?」

 

「映像……と言っても判らないわよね。ああ、もう! 兎に角、架空の物語ってのが誰にでも観れるアーティファクトとでも思って」

 

「若しかして、オー君が造った現場を記録するアーティファクト?」

 

「っ!? あ、そう言えば……立体映像なオスカー・オルクスが説明をしてくれたわね。長々と反逆者であって反逆者じゃないとか、【解放者】についてとか」

 

「あれで物語を? 平和な世界なんだね」

 

「ちょっと違うけど、記録したモノを再生するというのは間違ってないか……」

 

 ミレディ的にはオスカーが延々と、某かの物語を語る姿が立体映像で映し出されるのを想像していた。

 

 全くの違うナニかだ。

 

「取り敢えず話を先に進めるわ。仮面ライダーという物語が在って、私達が変身していたのが仮面ライダーな訳ね。四〇年以上前に、【仮面ライダー】という始まりの物語が放映されてから爾来、【仮面ライダーV3】や【仮面ライダーX】や【仮面ライダーアマゾン】や【仮面ライダーストロンガー】や【仮面ライダー(新)】や【仮面ライダースーパー1】が放映されてきたのよ」

 

「随分と多いけど、どれが君達な訳?」

 

 何と無く理解したらしいミレディは、要するにその物語の仮面ライダーに実際に変身していると理解だけはしてくれる。

 

「どれも違うわ」

 

「ん? オリジナル?」

 

「いえ、放映された仮面ライダーに間違いないけど、今までに言ったのは次のも含めて【昭和仮面ライダー】の括りよ」

 

「【昭和】?」

 

「私達の国では象徴となる天皇陛下の在任中、一定の暦が使われるの。【明治】から始まって、【大正】、【昭和】、【平成】という具合に四回変わったわ」

 

 正確には元号自体はそれ以前からも使われてたが、明治維新から始まる歴史という意味では間違いない。

 

 尚、ユートが元の世界で死んでから六年後に当たる二〇一九年……平成天皇が存命中に天皇が代わって、元号は令和になって新たな【令和仮面ライダー】という括りが始まった。

 

「昭和は六四年間続いて、六四年目の途中から平成に変わった。【仮面ライダーZX】の一〇号ライダー祭りがあって、【仮面ライダーBLACK】が放映された。続編で【仮面ライダーBLACK RX】が放映、それ以降はテレビ放映されない形で、【真・仮面ライダー(序章)】、【仮面ライダーZO】に【仮面ライダーJ】にまで続いたけど、平成に製作されながら此処まで【昭和仮面ライダー】の括りよ。私達のは【平成仮面ライダー】に括られているのよ」

 

「本当に沢山だねぇ」

 

「【平成仮面ライダー】は更に多いわよ」

 

「はぇ?」

 

「平成第一号な【仮面ライダークウガ】以降は最低でも二人、多ければ一三人も新規に登場するから」

 

「はぁ?」

 

「しかも量産型的な意味で良ければ、同じのが一万人も居たりするわね」

 

「うわ〜、あのクソ野郎の狗が可愛く思える人数だ。総数は知らないんだけど」

 

 エヒトの使徒も量産型ではあるが、人数は一万人も居ないのだろう。

 

 少なくともミレディ達、【解放者】が知る限りは。

 

 早い話が総数を知らないのである、何故ならエヒトは当時だと【解放者】を追い詰めるのに、彼らが護るべきヒト種族を洗脳していたから。

 

 使うまでも無かった。

 

 ユートが相手にした使徒――リューンは、量産する過程での失敗作らしい。

 

 要するに必要スペックを満たさなかったのである。

 

 使徒共の基本スペックが全能力値が一二〇〇〇で、リューンを始めとする失敗作はそれより遥かに弱い。

 

 勇者(笑)が【限界突破・覇潰】を使えば対抗し得る程度のスペック、エヒトはそんな“不完全”なモノを失敗作と断じた様だ。

 

 まぁ、それでもこの世界の腕利きの能力から視て、桁違いなオーバースペックではあるのだが……

 

 少なくともメルド団長の二〇倍以上のステータス値だから、仮に彼が限界突破を使えても何ら意味を成さないのである。

 

 ユートの仮面ライダーは最低限が六〇〇〇前後で、元スペックが高い場合なら一五〇〇〇くらいにまではなっていた。

 

 【平成仮面ライダー】、これこそがユートの本領であろう。

 

 【昭和仮面ライダー】はディケイド以降から徐々に名前やらが出たし、実際に劇場版でも登場をしてて、リ・イマジネーションなら仮面ライダーアマゾンだって本編に登場済み。

 

 てつをだけどリ・イマジネーションな仮面ライダーBRACKとRXも。

 

 後は、仮面ライダーZXを主役に据えた漫画版。

 

 だけどやっぱり始まりは【仮面ライダークウガ】、死んだのが二〇一三年であり二五歳だったユートは、一九八八年生まれ。

 

 【仮面ライダークウガ】を放映時、一二歳であったからちびっこと呼ぶには少し薹が立っていたものの、【仮面ライダーフォーゼ】まで確り観てきた。

 

 雫は更に【平成仮面ライダー】のタイトル=主役の仮面ライダーの名前を挙げていく。

 

 【仮面ライダークウガ】〜【仮面ライダー鎧武】、今現在の放映されたモノ。

 

 尚、数ヶ月が過ぎた事で既に【仮面ライダードライブ】に変わっていたけど、それを雫が知る由などある筈もなかった。

 

 また、地球側でユーキが確り全話をCMカットした上に、最高画質で録画しているのは言うまでも無い。

 

 正に比翼の鳥にして連理の枝、ユートが欲する物を用意が出来るなら可能な限りはしてくれる。

 

「仮面ライダー龍騎ねぇ、一三人が何年か後に増えた……と? しかも擬似的なのを含めれば二人が増えてしまう訳だ」

 

 仮面ライダーの名を冠する事の無いオルタナティブとオルタナティブ・ゼロ、神崎士郎の造ったライダーデッキのデータを基にし、自らが造り上げた香川英行教授は、瞬間記憶能力を持つ一種の天才だった。

 

 神崎士郎のミラーワールドや仮面ライダーの資料、それを僅かな時間で盗み見て憶えたのだから。

 

 後は恐らく東條 悟が手に入れたタイガのデッキ、これも参考にしていたのは間違いないと思われる。

 

「そういえばミレディさんのは、どの仮面ライダーになるんだろ? 仮面ライダーは使徒と戦うのに必須とゆう君は言っていたよ」

 

「まぁ、ステータス値底上げになるからね。私も奈落で仮面ライダーサソードになってないと、あっさりと死んでいたのは実感をさせられたし」

 

「私も仮面ライダーリューンに成って、力が底上げをされたのは解るかな」

 

 はっきり言ってしまうと完成形たる使徒には若干、ステータス値が物足りないのだけど、本人が強くなればそれも加算される訳で、必殺技を当てれば普通に斃せるだけの力は有った。

 

「う〜ん、ミレディたんとしてはゼロワン系列が良いんだけどな」

 

「あ、やっぱり?」

 

 仮面ライダーゼロワン、ユートが変身したその姿に惚れたからこそ、オスカーやナイズとは仲が進まなくなったと云える。

 

 ならば、成れるならやっぱりゼロワン系列にと考えてもおかしくない。

 

「ゼロワン系列が良いならそうしよう」

 

「うわっ!? ユー君ってば聞いてたの?」

 

「偶々な。シアと香織には晩飯の準備を頼む」

 

「判りました」

 

「了解だよ」

 

 このパーティで食事を作る当番は無く、基本的にはシアと香織が協力をして作る事になっていた。

 

 ユートは今までの世界に幾つか、美食が主な所へと行った経験があるが故に、昔は出来ない訳ではないが極めて美味い訳でもない、そんな料理しか出来なかったし、そもそもは料理自体をやりたがらなかったが、そういう世界では仕方無くやっている内に、美味しい物を作れる腕前にはなる。

 

 その世界を出れば作らなくなるし、ユートの料理の腕前を知る人間は少ない。

 

 学園で料理バトルをする世界だったり、有り得ない程に食材が豊富な地球であったりする世界、新聞社が文化として美食を比較する世界、中学生が食堂経営をする親と共に暮らしながら料理バトルをする世界と、自分で料理しなくても済む世界が有ったが、幾つかはやるしかなかった。

 

 因みにだが、有り得ない程に食材が豊富な地球……其処で見付けた食材などはエリシオンで生態系を築いていたり、ユートの保有をする惑星型の機械生命体、ユニクロンの内部に創ったインナースペースで育てたりしており、その気になればいつでも食べられる。

 

 今現在、シアと香織が使う唐揚げ用の油もそれで、決して汚れず無制限に使える油だったり。

 

 当然ながら知識は有り、香織と雫はツッコミ待ちかと思った程だ。

 

 出来上がってきた料理はパーティで食する。

 

 他の護衛に御裾分け? しませんが何か?

 

 この日も特に何もない侭で野営の準備となった。

 

 冒険者達の食事関係とは即ち自腹である。

 

 周囲を警戒しながら食事を摂る為、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないという事であろう、冒険者と別々に食べるのは暗黙のルールらしい。

 

 冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてて、余り美味しいとは云えない燻製や硬いパンを水で飲み込む感じだ。

 

 凝った食事を準備するとそれだけで荷物が増えて、いざという時には邪魔になるからなのは当然の流れ。

 

 そんな侘しい食事をする代わりに、町に着いてから貰った報酬にて美味いものを腹一杯食べるというのがセオリーなのだと云う。

 

 だけどそんな事情なんてユート一行には無関係。

 

 そもそも護衛はユートが一人だけで受け、後方を進む馬車は単に付いて来ているだけのユートの連れで、いざとなれば護衛の真似事はするから、寄生パーティでもない雫達は確り料理を作って食べていた。

 

 ユートも当然ながら此方で食べていて、冒険者達は元よりモットー・ユンケル達すら羨む環境である。

 

 食材はユートが宝物庫から幾らでも出していたし、馬車の中は空間湾曲をした広々な部屋となっており、寝る時は脚を投げ出し謂わば大の字で眠れる程。

 

 まぁ、流石に護衛であるユートは其処までしない。

 

 だけど美少女が作る食事を美少女達と食べるなど、日照り続きな冒険者からしたら『巫山戯るな!』と叫びたくなる待遇。

 

 しかも日替わりで美少女による『あ〜ん』、涙無くしては語れないくらい悔しい思いをしていた。

 

 更には美少女の誰かしら護衛の代わりを任せつつ、明らかに馬車内では組んず解れつの『御愉しみ』だ。

 

 真夜中はユートが護衛をして、美少女達は眠りに就くけど所謂、ヤり疲れによる気絶後強制睡眠である。

 

 どんな護衛だと商隊から冒険者まで叫びたかった。

 

 自分達が硬いパンや干し肉を苦慮しながら食べている中で、美味しそうな温かい肉入りクリームシチューや柔らかい白パン、見るからに芳醇な香りが漂いそうなワインなど、シアと香織の女子力を存分に見せ付ける食事内容を見せ付けられるし、シアとイチャイチャしてどれだけ可愛がっているかを見せ付け、ユエとも身体をくっ付け合ったり、膝に乗せたりして可愛がって見せていた。

 

 勿論、純粋な人間にしか見えないミレディや香織や雫も同じく。

 

 そして夜中のアレだ。

 

 かといって護衛任務を蔑ろにしている訳でも無く、深夜の見張りと護衛は基本的にユートがやっている。

 

 つまり、それ以外は緊急時でない限り任務外。

 

 シアは御裾分けくらいしても良いのでは? と思わなくもないが、実質的には兎も角として対外的に奴隷の身分では、勝手な提案も当然ながら出来ない。

 

 冒険者達もユートに何か言えたりしないのだけど、それは初日に見せ付けられた仮面ライダークウガ・アルティメットフォームによる威容と、ユートから発せられた凄まじい殺気に怯えてしまっていたからだ。

 

 仮面ライダークウガに関しては、腰のベルトが特殊なスーツやアーマーを瞬間装着させる自作アーティファクトだと説明された為、あの異形は飽く迄も鎧兜の類いであり、化け物や怪物や魔物ではないとされた。

 

 事実として雫がサソードヤイバーとサソードゼクターを用い、仮面ライダーサソードに変身して見せて、鎧兜だと証明している。

 

 どう見ても人工物であるサソードヤイバーとサソードゼクター、アークルも同じく人工物ときては信じるしか無かったのだ。

 

 身体強化の魔法が掛かるパワーアシスト機能付き、高硬度な鎧兜による防御力などを持ち、それぞれ別に特殊能力を備えた魔導具、アーティファクトとなればモットー・ユンケルとしても目を輝かせたものだが、ユートの殺意に怯えて何も言えなかった。

 

 黒い複眼のアルティメットフォーム、それは原典の五代雄介が脳裏に視ていた破滅型のクウガ。

 

 聖なる泉が枯れ果てて、即ち人間としての優しさを喪った姿であり、【凄まじき戦士】にして【究極の闇】と成り果ててしまった、グロンギ一族のン・ダグバ・ゼバに等しい存在。

 

 勿論、本来のクウガでは無いにせよ原典の写し身、能力は普通に同じだった。

 

 あの凶悪なパイロキネシス……プラズマ化で発火させる超自然発火現象は特に恐怖の象徴足り得る。

 

 ユートとしては御裾分けを欲しいなら、確り自らが頼みに来た場合は考えなくもないのだが、物欲しそうな目を向けたからといって食わせてやる気なんかは、一切合切無いのだった。

 

 此方から譲歩をする理由など、そもそもにして何処にも無いのだから。

 

 其処へやって来る男。

 

「ああ、恥を忍んで頼みたいのだが……」

 

「何だ?」

 

「モチベーションを保つ為に食事を分けて頂けないか……と思ってな。勿論だが代金は支払わせて貰う」

 

 

 冒険者のリーダー格らしきガリティマが、遂に我慢の限界にきたのかユートへと頼みに来る。

 

「……シア」

 

「ですぅ?」

 

「連中にパンとクリームシチューを分けてやれ」

 

「はい、ですぅ!」

 

 使い捨ての皿にクリームシチューを盛り、白パンを添えてガリティマを含めて一四人の冒険者へと配って回った。

 

 その後はモットー・ユンケルからも請われ、食事を同じように分けてやる。

 

 冒険者達は貪る様に夕飯として食べた。

 

「うめぇ!」

 

「これが究極のメニューというものか?」

 

「正に至高のメニューだ」

 

「何たる、何たる!」

 

 静かに食えない連中だ。

 

「一人一食で八〇〇ルタ、一一二〇〇ルタになるぞ」

 

「了解した」

 

 ぼったくりではない。

 

 この世界の貨幣価値は、どうやら一ルタ=一円で良いみたいで、つまり一食で八〇〇円なら良心的だ。

 

 内容はクリームシチューにパンにワイン、御代わりは無しでの価格設定。

 

 外食したと思えばこんなものであろう。

 

 況してや、シアみたいなとんでもないレベルの美少女によそって貰えたので、正しく至福の刻と云えた。

 

 それから二日が経過し、道程が残す処は後一日程度になった頃、長閑な旅路を壊す愚かにして無粋に過ぎる襲撃者が現れる。

 

「敵襲です! 数はざっと百以上っ! 森の中から来ますぅ!」

 

 異変に最初に気が付いたのはシアだ。

 

 街道沿いの森の方へと、シアがウサミミを向けながらピコピコと動かしたら、ポケッとした表情を一気に引き締め警告を発した。

 

 その警告に冒険者達の間には一気に緊張感が走る。

 

 現在、通っている街道は森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではなく、大陸一を誇る商業都市へのルートな為に。道中の安全はそれなりに確保されているくらいだ。

 

 魔物に遭遇する話はよく聞くものの、その数も精々が二〇体前後でしかなく、余程に多くても四〇体程度が限度の筈である。

 

「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは、勢力を溜め込んでいたからなのかよ? くそったれ! 街道の異変くらい調査しとけよな!」

 

 護衛隊のリーダーであるガリティマは、悪態を吐きながら苦い表情となる。

 

 商隊の護衛はユートを含めると全部で一五人。

 

 臨時に加えて香織と雫とユエとシアとミレディを含めて二〇人、この人数では商隊を無傷で守り切るというのは可成り難しい。

 

 戦争は数だと云われている通り、単純に物量で押し切られるからである。

 

 温厚の代名詞の兎人族であるシアを、普通に戦力として勘定をしているのは、ブルックの町にて【シアちゃんの奴隷になり隊】とか巫山戯た一部過激派による行動にぶちキレたシアが、その拳に強化のオーラを纏って、逐一と湧き出てくる変態達を吹き飛ばしたという出来事が、畏敬の念と共に冒険者達に知れ渡っているからだとか。

 

 ガリティマがもういっその事、部隊の大部分を足止めにしてでも商隊は逃がそうと考え始めたそんな時、考えを遮るようにユートの声が響いてくる。

 

「何かしら迷ってるなら、僕達が何とかしようか?」

 

「な、何?」

 

 余りにも気軽い口調で、まるで信じられない提案をしたユートに、ガリティマはその提案の意味を掴みあぐねてしまい、間抜けな声で聞き返してしまった。

 

「僕らが殲滅の為に前線に出るから、ガリティマ達は此方を抜けた魔物を斃してくれれば良い」

 

「な? い、いや、それは確かに……この侭では商隊を無傷で守るのは難しいのだがな。そんな事が本当に出来るのか? この辺りに出現する魔物はそれほど強いわけではないだろうが、数が百を越えていては……どうにもな」

 

「この商隊の護衛リーダーはガリティマ、アンタだ。アンタが決断をしないと、要らない犠牲が出るぞ?」

 

「くっ!」

 

「心配するな。僕は出来ない事を出来るとか抜かす程に見栄っ張りじゃない」

 

「……頼むぞ」

 

「ああ、任せろ」

 

 あの仮面ライダーの威容やユートの殺気、ガリティマはこれに賭ける事を決めたらしい。

 

「さて、僕の【閃姫】たる諸君! 漸く退屈から解き放たれる。敵は魔物が僅かに百匹か其処らでしかない訳だが、ちょっとした運動には丁度良いだろう」

 

 全員が苦笑い。

 

 相手が知性体なら煽りでしかない科白だ。

 

「シア、距離は?」

 

「そろそろ接敵ですぅ!」

 

「なら、来い! ガタックゼクター!」

 

 ブブブブブと羽根を震わせる様な音を響かせつつ、ジョウントから抜け出てきた蒼いクワガタ。

 

 右手に掴んだユートは、ゼクターベルトに。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 仮面ライダーガタック・マスクドフォームに。

 

「サソードゼクター!」

 

《STAND BY》

 

「ザビーゼクター!」

 

「……サガーク」

 

 それぞれに喚ぶ。

 

 香織は腰にジョーカードライバーを装着、カードを取り出して中央のスリットへとスラッシュ。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 雫はサソードヤイバーへとゼクターを嵌め込むと、仮面ライダーサソードの姿に変身をした。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 シアはザビーゼクターをライダーブレスへ合着し、黄金色を基調とした仮面ライダーザビーに。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 自らがベルトに変化したサガーク、その右側に空いたスロットへジャコーダーを差し込んで抜くユエは、仮面ライダーサガと成る。

 

「変身!」

 

《CHANGE!》

 

 スラッシュされた途端、水が霧の様に変化をするとモーフィング、仮面ライダーリューンに成る香織。

 

「あれ? ミレディちゃんは何にも無いよ……」

 

「これを使うと良い」

 

「これは?」

 

「取り敢えず造った間に合わせ、サイクロンライザーって名前だ。それにロッキングホッパーゼツメライズキーも渡しとく」

 

「えっと……」

 

「腰に据えればベルトになるから、装着したら使い方は頭にラーニングをされる筈だよ」

 

「わ、判ったよ」

 

 言われた通りにすると、確かに理解が出来た。

 

《ROCKING!》

 

 ライズスターターを押すと電子音声が響く。

 

 ロッキートビバッタを模したロストモデルが顕れ、ミレディはサイクロンライザーへゼツメライズキーを嵌め込み、赤いレバーを引いてやった。

 

《FIRST RIZE》

 

 ロストモデルを突き破りミレディと合着。

 

《ROCKING HOPPER!》

 

 深藍色の鎧と仮面に複眼はマゼンタの異形。

 

《BLAKE OVER》

 

 仮面ライダー1型。

 

 ユートは取り敢えずという感じに得た情報だけで、フォースライザーを基――本来は逆だろうが――にして作製したサイクロンライザーと、ロッキングホッパーゼツメライズキー。

 

 ミレディ・ライセンは、そんな不安定極まりいだろうベルトで、ゼロワン系列の仮面ライダーに成るのであった。

 

 

.




 実は劇場版は観れてないので情報が少ないのに……仮面ライダー1型を何故に出したのか?




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第36話:フューレンに着いて早々のトラブル

 原作で正式に勇者(笑)の聖剣に意志有りと……

 随分と愉快な意志が?





.

 先ずは喰らえよと云わんばかりに、ユートは両肩のガタックバルカンを構え、毎分五〇〇〇発の亜音速なイオンビーム光弾を撃ち放ってやった。

 

 ジョウントを応用している【無限弾装】が本領ではあるが、ユートのガタックは魔力弾を放っている。

 

 魔力をイオンビームへと変換している訳だ。

 

 百か其処らの魔物など、次々と叩き潰していく。

 

 マスクドフォームの侭、シアのザビーと雫のサソードが取り残しを叩く。

 

 シアはハンマーで叩き、雫は剣で斬っていった。

 

「……【緋槍】」

 

 仮面ライダーサガとなったユエは、基本的に魔法を使って戦うスタイルだ。

 

 中級の火魔法の【緋槍】が魔物を焼き散らす。

 

「【緋槍】!」

 

 それはミレディ・ライセンの仮面ライダー1型も同じであり、ユエより精密なコントロールで同じ魔法を撃ち放つ。

 

「全員、退け!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 チャージし高エネルギーを圧縮、プラズマ火球弾として放たれたガタックバルカンは、一Km範囲のあらゆる物質を高温と超高圧にて消滅せしめたのだ。

 

「な、何たる……」

 

「恐ろしいまでに強い」

 

 モットー・ユンケル氏もガリティマも、他の冒険者も茫然自失となるくらいにアッサリ、百を越える魔物を屠る仮面ライダーと名乗る異形を見つめていた。

 

「キャストオフするまでも無かったな」

 

 ガタックゼクターが離れて変身解除、ユートはクルッと踵を返しながら呟く。

 

 それに並ぶのはやっぱり変身を解除した雫達。

 

「これ、返さなきゃ駄目? この侭欲しいんだけど」

 

「それはまだ不安定だから駄目だよ。後で別のを渡すから我慢してくれ」

 

「むぅ……」

 

 ミレディは仮面ライダー1型が気に入ったらしく、これを使いたいと頼んでいるみたいだが、ユート的にはこれを使い続けるのには難色を示す。

 

 本当にバルカンやバルキリーの為のショットライザーより試作型に過ぎない、それが故に完成したのならまだしも、今は制式として扱うのは製作したユートとしてはしたくないのだ。

 

「フォースライザーもそうだがな、やっぱりショットライザーの方がマシか」

 

 エイムズ・ショットライザーは森人族のアルテナ・ハイピストに渡した物で、仮面ライダーバルキリーに変身が出来る銃型の変身用デバイスである。

 

 それと同じ形ではあるが仮面ライダーバルカン……同型の仮面ライダーに変身する物も有った。

 

 フォースライザーとは、滅亡迅雷.netの滅と迅が使った仮面ライダーの変身用デバイスである。

 

 問題なのは名前。

 

 仮面ライダー滅と仮面ライダー迅、要するに二人は本人の名前が仮面ライダーとしての名前だという事。

 

 【仮面ライダージオウ】でも、通り名が仮面ライダーの名前だったのに今回もとか、ちょっと困ったものだと思うユート。

 

 仮面ライダーミレディ? ちょっと無いかなと思いはしたが、既にジクウドライバーやビヨンドライバーでやらかしている。

 

 即ち、仮面ライダーホムラとか仮面ライダーシュテルで。

 

「まったく豪胆ですなぁ。貴方は周囲の目が気にならないのですかな?」

 

 周囲の目……最早お馴染みとなる嫉妬と羨望の目、更には【閃姫】となる雫や香織やユエやシアやミレディといった女の子に対する感嘆、そしてイヤらしさを含んだ好色な目。

 

 しかもそれだけでなく、兎人族であり珍しい白髪で肢体はメリハリが利いて、顔立ちは美しくも可愛らしいシアに対する値踏みを含んだ視線である。

 

 大都市の玄関口ならばそれこそ様々な人間が集まる場所なのだ、好色の目だけではなくて謂わば利益も絡んだ注目を受けているらしい。

 

「今更それを気にしても、ある意味では仕方が無いだろうし、気にするだけ無駄と考えているよ」

 

 そんなユートの答えを聞いて、苦笑いを浮かべてしまうモットー・ユンケル。

 

「フューレンに入れば更に諸問題が増えそうですな。やはり彼女を……シアさんを売って頂く気にはなりませんか?」

 

「あれだけ堂々とイチャイチャ見せ付けてやったのにな、それでも未だに売るとか思っているなら商人なんて辞めてしまった方が良い」

 

 個人使用の馬車に乗っていたシアだが、売る心算が無いのをアピールするべくイチャイチャと、モットーだけでなく冒険者の連中にも見せ付ける様にイチャイチャとしてやった。

 

 堂々とキスをしてやり、あの巨乳を服の下から直に揉んでみたり、仕舞いには所謂……Bまでは見える様にやらかしているユート。

 

 尚、冒険者連中はそれを視た直後には雉撃ちに行ってしまったのだと云う。

 

 きっと彼らもタップリと撃って来たのだろう、スッキリとしながら自己嫌悪に陥る目で呆然としていた。

 

「いえ、まぁ……似た様なものですな。彼女の事ではなく別の売買交渉ですよ。貴方の持つあのアーティファクト、あれをやはり譲っては貰えませんかな?」

 

「アーティファクト?」

 

「仮面ライダーでしたか、あれに『変身』? をするあのアーティファクトを、是非とも私に売って頂きたいのですよ」

 

「で、何処に転売する? テンバイヤーは」

 

「テンバイヤー?」

 

 意味が解らなかったか、モットー・ユンケルは首を傾げている。

 

 テンバイヤーとは転売をする者、転売屋の事を揶揄するスラングだ。

 

 基本的に迷惑極まりない存在でありユートも昔は可成り迷惑を被ったものだった。

 

「まぁ、やはり国に」

 

「売るのが帝国にせよ王国にせよ、軍事バランスを激しく崩すぞ? そうなれば今は魔人族と戦争をしてるから良いが、それが終われば持っている国が、持たない国を急襲し攻め亡ぼしてしまうだろうな」

 

「っ!? それは……」

 

「欲に目が眩んで国を亡ぼした『死の商人』か、歴史に名前が刻まれる偉業だな?」

 

「ぐっ!」

 

 確かにそれは刻まれそうだが、決して名誉ではない凄く嫌な刻まれ方。

 

「然しですな、貴方も色々とバラ撒いている様に見受けられますが?」

 

「僕がライダーシステムを渡すのは基本的に身内だ。殆んどは僕自身の(モノ)って話だからね」

 

「そ、そうですか……」

 

 少しチラ見をしたのはユートの連れた少女達に対して。

 

「ハイリヒ王国だろうが、ヘルシャー帝国であろうが……魔人族、亜人族だろうが竜人族も吸血族も無関係なんだよ。僕に種族なんてのは無意味だ。要は個人を気に入るか否か……でしかないからね」

 

 それが故に此処には吸血族のユエが、亜人族のシアが、人間族の香織達も居るのだから。

 

 種族全てを『坊主憎けりゃ袈裟まで』的に憎んだりはしない。

 

 実際、ハルケギニアでも吸血種もエルフも翼人も当然ながら人間も纏めて傍に置いていた。

 

 全てを等しく呑み込む、それは真なる闇にして黒穴たるユートの特質、だけどだからこそ『等しく滅びを与えん事を』と、彼の女王の加護を受けてもいる。

 

「では【宝物庫】は?」

 

「確かに武器ではないが、彼の【宝物庫】は形見だからな。誰かに渡せるもんじゃなくってね」

 

「形見……ですか?」

 

「そうだ。これを造った者から受け継いだ形見って訳さ」

 

 オスカー・オルクスが嘗て住み込んでいた大迷宮にて、ユートが手に入れた一つがこの指輪型のアイテムストレージだった。

 

 創り手たるオスカー本人と空間魔法の使い手であるナイズ、再生魔法の使い手のメイルが製作に関わったと思われる【宝物庫】。

 

 尚、当初に造ったばかりの頃はオスカーとナイズの二人のみが携わった。

 

 だけどそれでは時間が経てば中身が経年劣化をする、だから時間に干渉をする再生魔法を込めているのだろう。

 

「むぅ……然しですな」

 

「何だ?」

 

「貴方が持つアーティファクトは個人が持つには余りに過ぎた物、その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ? そうなれば、かなり面倒な事になるのでしょうなぁ……例えば、彼女達の身……」

 

 ゾワリッ!

 

「あ、嗚呼……」

 

「どうした? 続きを言わないのか?」

 

「そ、れは……」

 

 威圧感?

 

 恐怖?

 

 威容?

 

 ガタガタと震えてダラダラと汗を流すモットー・ユンケル氏、彼は今正に名状し難いナニかに怯えるしかない状況。

 

「まあ、その時は誰に喧嘩を売ったか教えてやるさ。個人、組織、国、連合……我が力以て等しく滅びを与えん事をってな」

 

「本当にそんな事がで、出来るとでも?」

 

「仮面ライダークウガ・アルティメットフォームは僅かな時間で数万もの人間を虐殺出来る」

 

「……は?」

 

 嘗て、グロンギ一族が長たるン・ダグバ・ゼバは復活してから都内にて三万もの人間を殺したと云う。

 

 それだけでなく同族たるグロンギ一六二体をも虐殺して回った。

 

 しかも人間の虐殺には、単に余剰能力の超自然発火を使うだけで。

 

「ハイリヒ王国の人間ってのは総数で何人居るんだ? ヘルシャー帝国は?」

 

「そ、それは……」

 

「何十万? 何百万か? それとも何千万人? いずれにせよ、アルティメットフォームに成れば一週間も要らない。絶滅タイムだ」

 

「うう……」

 

 確と見た訳ではないが、アルティメットフォームと呼ばれた黒い異形、あれは海千山千の商人たるモットー・ユンケルをして恐怖しか無かった。

 

 あれが実際に暴れたならば確かに、国が崩壊させられてもおかしくない。

 

 黒い眼に四本の金色の角を持ち、肩は凶悪なまでに鋭利で放つは悍ましさすら感じる異彩を持ったオーラ、只のアーティファクトではないとは思ってはいたのだ。

 

「まぁ、駄目だ駄目だとか拒絶ばかりしていてもアレだよな」

 

 そう言い取り出したるは少し小さめなポーチ、中々に高価そうな革製でベルトに通して使う訳だが革製のベルトも付いている。

 

 モットーユンケルはポーチ投げ渡されて戸惑いを覚えた。

 

「こ、これは?」

 

魔法鞄(マジックポーチ)って名前で、云ってみれば【宝物庫】の簡易版って処だろうね」

 

「なっ!?」

 

「五〇m四方の倉庫くらいの容量、内部時間は停止をしているから劣化しない、小さく見えて多少の大きさも関係無く容れられるし、手にしている状態でならば『収納』と『解放』も自由自在、『閲覧』で中身を知る機能も付いている」

 

 今の科白が即ち、機能を使う為の呪文みたいなものだとは、モットー・ユンケルにも理解が出来る。

 

「勿論、買い取りだから確りと対価は貰う。手慰みにこの数時間で造った魔導具だし、一つ一千万ルタ程度で売ろう」

 

「か、買った!」

 

 思わず叫ぶのは商売人としては仕方がない。

 

 モットー・ユンケルは、一億ルタを先行投資として支払いをして、一〇個もの【魔法鞄】を購入する。

 

 尚、オマケとしてモットー本人用に一個を貰った。

 

 血を一定の場所に付着させると専用化する訳だが、これはステータスプレートの技術の応用だ。

 

 あっという間に一億ルタを稼いだユートに、雫達も呆れる他なかったと云う。

 

 モットー・ユンケルとの商談も終わり、ユート一行は中立商業都市フューレンに到着した。

 

 フューレンの東門には、六つの入場受付がある。

 

 持ち込み品のチェックを其処でしているらしくて、ユート達もその内の一つの列に並んでいた。

 

 ユートは商会で公証人の立ち会いの下、一億ルタを支払われる事となる。

 

「この度はとんだ失態を晒しましたが、若し何かしらご入り用の際は我が商会を是非ご贔屓に。貴方は普通の冒険者とは違う様です。特異な人間とは繋がりを持っておきたいものなので、それなりに勉強させて頂きますよ」

 

「随分と商魂が逞しいね、モットー・ユンケル氏は」

 

 別れ際の科白に苦笑いを浮かべるユートは、踵を返してミレディを見つめた。

 

「ミレディ」

 

「な、何かな?」

 

「チラホラと僕の指を見ていて、何も無いもんだろうにな?」

 

「そ、それは……うん」

 

「気になるなら訊いてくれて構わないぞ?」

 

「判ったよ。その【宝物庫】なんだけどさ」

 

「御期待通りと言うべきか……オスカー・オルクスの遺体に填められていた」

 

「じゃあ、形見って!」

 

「勿論、オスカー・オルクスの形見って事だね」

 

 ゴクリと固唾を呑んだ。

 

「オー君の……形見……」

 

「僕はこれを手放したり、況してや売る心算なんかは更々無い。だけど若し誰かに譲るとしたら」

 

 ユートはミレディの左手を持ち、オスカー・オルクスの【宝物庫】を薬指へと填めてやる。

 

「嘗ての仲間たるミレディ・ライセンにだけだ」

 

 ポタッ……

 

「ミレディ?」

 

 突然、涙を流し始めるからユートのみならず、雫達もギョッとしてしまう。

 

「ちょっと、ミレディ?」

 

「ミレディちゃん?」

 

 あわあわと狼狽えている雫と香織。

 

「違くて、ミレディちゃんは嬉しいだけさ!」

 

 涙をグシグシと拭いて、ウィンクしながらサムズアップして見せる。

 

「ありがとう、ユー君! オー君の形見をくれて」

 

「元々は初めての攻略者みたいだから、埃だらけにするよりは活用しようと思って遺体から頂戴したけど、ミレディが居るなら君が持つ方が相応しい。因みに、ダンジョンで見付けた御宝は由縁は兎も角、見付けた人間の物になるルールに従ったと言っておく」

 

「あはは、理解してるよ。オー君の遺体からって言ってたけどさ、遺体その物はどうしたのかな?」

 

「椅子に座って逝ったらしくてね、だから墓を建てて埋葬をしたよ」

 

「そっか、うん。感謝するしかないね」

 

 ミレディは左薬指に鈍く輝く【宝物庫】の指輪を見ながら、悪くない対処を聞いて随分と上機嫌で言ったものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 中立商業都市フューレン――高さ二〇m、長さにして二百Kmの外壁で囲まれた大陸一の都市である。

 

 あらゆる業種がこの都市で日々の鎬を削り合って、夢を叶えて成功を収める者も居るし、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多く存在した。

 

 観光で訪れる者や取引に訪れる者、都市での出入りの激しさでも大陸一と言えるであろう。

 

 その都市の巨大さ故に、フューレンは四つのエリアに分かれていた。

 

 手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具や家具類などを生産や直販をしている職人区、様々な業種の店が並ぶ商業区だ。

 

 四方にはそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近しい程に信用のある店が多いというのが常識だとか。

 

 メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなり阿漕で真っ黒な商売……闇市みたいな店が多いらしい。

 

 まぁ、時々とんでもない掘り出し物が出たりするからか、冒険者や傭兵の様な荒事に慣れている者達が、この辺りの界隈をよく出入りしている。

 

 そんは話しているのは、案内人と呼ばれている職業の女性だった。

 

 モットーが率いる商隊と別れると、証印を捺された依頼書を持ち冒険者ギルドにやって来たユート達。

 

 だけど宿を取ろうにも、そもそも初めて訪れた都市では、いったい何処にどんな店が有るのかがさっぱりなので、キャサリンさん程に精密ではないだろうが、ギルドでガイドブックを貰おうとしたなら、案内人の存在を教えられた。

 

 案内人の女性……リシーに料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのだ。

 

「宿をお取りになりたいのでしたら、観光区へ行く事をお勧めしますわ。中央区の方にも宿は有りますが、彼処はやはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービス的には観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 

「それなら素直に観光区の宿にしとくべきだろうね。それじゃあ、観光区で何処がお勧めなんだ?」

 

「それは、御客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿がそれこそ数多く御座いますから」

 

「御飯が美味しくて、風呂があれば取り敢えずは文句も無いな。女の子が多いからやっぱり風呂は無いと。立地は考慮しなくて良い。それから責任の所在が明確な場所が良いかな」

 

「せ、責任の所在ですか? それはいったい……」

 

 リシーは先程まで注文に頷いていたが、行き成りの『責任の所在』という言葉に首を傾げてしまう。

 

「ほら、僕らは可愛い娘が沢山居るだろ?」

 

「そうですね」

 

 白崎香織――顔は可愛い系で艶やかな黒髪をストレートに流したロングヘア、胸はそれなりに育っているがやや物足りない。

 

 八重樫 雫――綺麗系で胸も可成り大きい、伸びた黒髪をポニーテールに結わい付け、背丈も女の子としてはスラリと高めで何と無く『お姉様』と呼びたい。

 

 ユエ――長い金髪に宝石の如く緋色の瞳、背丈は低いし胸は余り無いが決して絶壁ではなく、余りに整った顔立ちはビスクドールの如く、全体的にバランスが整った美少女。

 

 シア・ハウリア――パーティの中でも一番の巨乳、兎人族らしい可愛らしさが前面に押し出されて且つ、珍しい青みが掛かった長い白髪が白い肌にアクセントを加える。

 

 ミレディ・ライセン――美しくて蜂蜜の様な金髪をポニーテールに結わい付けており、胸はユエより小さくて断トツだが貴婦人とか令嬢の様な振る舞いから、やはり美少女として見られていた。

 

 成程、リシーは不細工ではないが普通な顔立ちで、普通な体型だから一女性として見れば羨ましくなるくらいである。

 

「確かにトラブルホイホイみたいな陣容ですね」

 

 歩けば厄介事から寄ってきそうだった。

 

 リシーはユートの両隣に座って軽食を食べるユエと香織、そしてその両隣に座る雫とシアとミレディの方へと視線を向けて、納得したと云わんばかりに頷く

 

 実際に周囲の視線を可成り集めていた。

 

 しかもシアは兎人族だ、他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ち掛ける商人は居るし、羽目を外して暴走する輩も出てくるだろう。

 

「それなら警備が厳重な宿などでは? そういう事に気を使う方も多いですし、良い宿を紹介出来ますが」

 

「それで構わないけどね、欲望に目が眩んだ連中ってのは時々とんでもない莫迦を仕出かすからさ。警備も絶対でない以上、初めから物理的な説得を考慮した方が良いんだ」

 

「ぶ、物理的説得ですか? 成程、それで責任の所在という訳ですか」

 

 意図を理解したリシー、案内人根性が疼いたらしく俄然やる気に満ちた表情となり、グッと握り拳を作りながら計画を立てる。

 

「お任せ下さい」

 

 了承をして、リシーは次に雫達の方に視線を移し、五人にも何かしら要望が無いかかを聞いた。

 

 プロとして出来得る限り客のニーズに応えようとしている点、それを鑑みればリシーも彼女の所属している案内屋も当たりだ。

 

「……混浴貸し切り状態のお風呂が欲しい」

 

「大きなベッドがあったら嬉しいですね」

 

「余り声が響かない部屋が良いかな」

 

「トイレは近場にないと、ちょっと困る。後、軽食が食べられると嬉しいかも」

 

「特には無いけど……覗き対策は必要かもね」

 

 それぞれの要望を伝える五人の女の子、一つ一つは何て事もない要望だけど、全てを組み合わせると自ずと意図が透けて見える。

 

 リシーも察したみたいで一応はすまし顔で了承するのだが、僅かに頬が朱に染まっている辺り彼女も確り女性という訳だ。

 

 尚、やはりと言うべきかユートに向けられているのは嫉妬の視線。

 

 それぞれにタイプが違う美少女を五人も引き連れ、尚且つ五人共がどう考えても抱かれる前提で宿の要望を出している訳で、それは嫉妬しても仕方がない。

 

 暫く他の区について話を聞いていると、ユート達は不意に強く不躾で粘着質な視線を感じた。

 

 ユートのモノたる香織、雫、シア、ユエ、ミレディに対してとても気持ち悪い視線で、本人達にしてみれば眉を顰めるしかない。

 

 その視線の先を辿ると、豚が居たとしか形容の仕様が無いナニか。

 

 見るからに重そうな体躯は軽くても百Kgは超えていそうな肥え、脂ぎった顔には豚鼻と頭部にちょこんと乗っかっているベットリした金髪、身形だけは普通に良い服を着ている。

 

 はっきり云ってしまえばオーク貴族、それが香織達を欲望で酷く濁った瞳にて凝視をしてきていた。

 

 キモいとはこの事か。

 

「うげっ!」

 

 女性が上げて良い悲鳴ではないが、オーク貴族を視たリシーは余りにも気色悪いそれに顔を顰める。

 

 ノッシノッシと歩いてくるオーク貴族は、ユートに対し尊大な態度で言う。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの女共……わ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い!」

 

 だがユートはシカト。

 

「宿屋に行ったらすぐにも始めるか?」

 

「流石にそれは無いわよ。折角の商業都市だからね、買い物だって愉しみたい。香織もそうでしょ?」

 

「うん、ちょっと愉しみだったんだ。服とか見てみたいかも」

 

「あ、私は靴が欲しいんですけど……」

 

「……新しいリボン」

 

「ミレディちゃんは最近の流行は判んないし、やっぱ服屋とか行きたいかな」

 

 オーク貴族を置いてきぼりにして、六人+リシーはその場を離れていく。

 

「ま、待て!」

 

 待てと言われて待つ莫迦は居ない……とばかりに、ユートはガン無視を決め込んで女の子らとの会話に花を咲かせていた。

 

 時折、えちぃ冗談で場を和ましたりするのだけど、話す人間が人間なら単なるセクハラである。

 

「レ、レガニドッ! そのクソガキを殺せぇぇぇ! わ、私を無視したのだ! な、嬲り殺せぇっっ!」

 

「いやいや坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。せめて半殺し位にしときましょうや」

 

「殺れぇ! い、良いから殺るのだぁぁぁああっ! お、女は、傷付けるな! あれらは私のだぁ!」

 

「やれやれ、了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

 

「い、幾らでもくれてやるからさっさと殺れぇっ!」

 

 レガニドと呼ばれた巨漢はオーク貴族に雇われている護衛らしく、ユートから視線を逸らさずオーク貴族話し、多額の報酬の約束をすると口角を吊り上げる。

 

 金にしか興味が無いか、下手したらゲイ野郎なのか……珍しい事に香織達には目もくれない。

 

「わりぃな坊主。俺の金の為にちょっと半殺しになってくれ。な〜に、殺しはしねぇよ。とはいえ嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

 拳を構えながら言う。

 

 流石に場所的に腰へ佩いた剣は使わないらしい。

 

「おいおい、レガニドって【黒】のレガニドか?」

 

「【暴風】のレガニド? 何であんな奴の護衛なんてしてるんだ?」

 

「そりゃ金払いが良いからじゃないか?【金好き】のレガニドなんだからよ」

 

 周囲がヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。

 

 天職を持っているかまで窺い知れないが、【黒】は上から三番目のランクで、戦闘系天職を持たない場合はこれが最高ランクだ。

 

 殺る気満々な闘氣を噴き上げるレガニド、ユートは全く取り合わず歩く。

 

「おいおい、この俺を舐めてるのか? 無視たぁな。おらぁっ!」

 

 グシャッ!

 

 ユートに拳が突き刺さる……というか、レガニドの拳が砕けてしまった。

 

「……は?」

 

 骨が砕けて皮膚も破れ、レガニドの拳はズタズタとなっている。

 

「ウギャァァァァッ!?」

 

 不意に襲ってきた痛み、レガニドは情けない悲鳴を上げ、地面をゴロゴロのた打ち回るのであった。

 

 

.




 愛ちゃんの再登場は近いか……




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第37話:日本人ならやっぱり米を食いたいよね

 モチベーションががが!
 ゼロワン……女の声っぽいけどあれが亡? 予測されるのはウルフさんらしいけど……





.

 フューレンの冒険者ギルド支部長であるイルワ・チャング、秘書的立場であるドットの二人に支部長室に通された一行。

 

「で、何か用かな?」

 

「あれだけ暴れて用も何も無いでしょうが!」

 

 叫ぶドットだったけど、ユートは首を傾げた。

 

「僕は何か怒られる様な事をしたか?」

 

「な!? レガニドの拳を砕いておきながら!」

 

「ふむ……アンタは泥棒が屋根を渡っていたら屋根が抜けて怪我をした。そう言って泥棒が訴訟をしたら、そして泥棒が勝訴したなら金を支払うのか?」

 

「ハァ? そんな滅茶苦茶がある訳が……」

 

「今の状況は正にそれだ。ネグレクトだったか? そいつが僕をムーミンに命じられて殴り掛かってきたら、柔なネグレクトの拳が砕けた……と。自業自得って言葉は理解が出来るか?」

 

「くっ!」

 

「くっじゃねーよ。理解は出来るのか? 殴ったら拳が砕けた。だから被害者が悪だと抜かす冒険者ギルドのフューレン支部さん?」

 

「それは……」

 

「ムーミンが愚かな行動に出たのは僕の連れ欲しさ、成程な……美しい連れが居るから罪だと?」

 

 勿論、そんな事を言っている訳ではない。

 

 イルワとしては貴族との揉め事を収めるべく動き、結果としてユート達を連れて来させただけである。

 

「と、兎に角だ。先ずは、育児放棄(ネグレクト)ではなくレガニドだ。殆んど掠ってすらいないぞ。それからムーミンではなくプーム・ミン男爵家の人間だ」

 

「え? オークじゃなく? てっきりオーク貴族だとばかり……」

 

「「ブフッ!」」

 

 思わず噴き出してしまうイルワ支部長とドット。

 

 ひょっとしたら二人も、あのムーミン……では流石にムーミンに失礼千万か、プームをオークだと思っていたのかも知れない。

 

 というか、オークが居たのかとユートは驚いた。

 

 尚、亜人族の一種族たる豚人族の事らしくて、同じ亜人族内でも余り好かれてないとか。

 

 基本的に別世界のオークと同じで、性欲過多で基本は強姦だからだろう。

 

 和姦? 美意識的に視てプーム・ミンとヤりたいという人間の女性は、果たしてどれだけ居るのか?

 

 視覚的だけではなくて、人格面に於いても……だ。

 

 想像すれば解り易い。

 

「ゴホン! 取り合えず、プーム・ミンに関しては良いとして、レガニドとの争いに関してだが……」

 

「争うも何も、あいつらが勝手に盛り上がっていただけに過ぎないな。そもそも僕はまともに目すら合わせていない」

 

「む、う……」

 

 これでユートも手を出していれば、喧嘩両成敗とか言えたのかも知れないが、ユートは全く剣も抜かず拳も振るわず、目さえ合わさず取り合いもしなかった。

 

 結果、レガニドが殴り付けてユートの防御力に拳が砕かれたという。

 

 無論、そんな筈は無い。

 

 拳が入る丁度その時に、ユートは運動エネルギーのベクトルを反転、全て拳に向かわせてやったのだ。

 

 某・一方通行さんの技能――ベクトル操作も、簡単な反射くらいなら可能であるが故に。

 

 あれも割かし弱点は在るものだが、それを見抜いて攻撃を加えるだけの能力がレガニドに有る筈もなく、簡単に拳を潰された。

 

 知られなければ良い。

 

 気付かれなければ良い。

 

 よく悪党が自慢気に言っているではないか?

 

 つまりはそういう事だ。

 

 ユートは善性こそ有れ、『正義』を唾棄する『悪』であるから、悪徳に染まるのも良しとしていた。

 

 例えば強姦。

 

 ユートは好きになれないプレイだが、それでもヤる時にはヤっている。

 

 勿論、無辜の民に対してヤったりはしない。

 

 基本的に敵対者に対し、性欲を満たすのとスキルやアビリティを簒奪する為、単なる我欲という訳でも無いのだが、それでも我欲は我欲でしかない。

 

 男は殺して女は犯す……スキルやアビリティを簒奪の為なら、敵対者はどちらも殺せば良いのだろうが、それなら性欲も満たせれば尚良しだった。

 

 幻想世界……ある少女が名付けたその世界名故に、ユートがそう呼ぶ世界には『妖精』と称される見た目は少女な色取り取りな存在が居り、侮蔑され差別を受けながら“戦闘員”として国に使われていた。

 

 勿論、『妖精趣味』とか変態扱いを受ける覚悟で、彼女らを犯す事に快感を覚える人間も居る。

 

 現在では市民権を得てはいるが、嘗ては兵士ですらない彼女らは護ってた人間から侮蔑を受けていた程に扱いは悪かった。

 

 当然ながらユートは種族そのものに蟠りなど無く、敵対をしてきた妖精は犯していたし、味方ならば普通に抱いていた訳である。

 

 そうやって技能や能力を簒奪か模写していた。

 

 毒には毒を悪には悪を……毒を以て毒を制するにも近いかも知れない。

 

 ユートが簒奪及び模写が可能なのは能力系、つまり技術(スキル)技能(アビリティ)魔法(マギカ)と云う感じだ。

 

 魔法とあるが、これには霊能力や超能力も含まれ、仮にユートが一方通行君を殺害し、簒奪をしていたら超能力としての一方通行が完全に扱えてたであろう。

 

 因みに、プーム・ミンとやらも今頃は酷い目に遭っている筈だ。

 

 ダークザビーゼクターにダークサソードゼクターの精製する毒を付着させて、それをプーム・ミンに刺させるという悪逆非道を。

 

 尚、ダークゼクターとは原典でも登場をしたダークカブトゼクターが元だ。

 

 元々のダークカブトゼクターは、カブトゼクターのプロトタイプで謂わば0号に当たる。

 

 だが、ユートは折角だからと全ゼクターにダークを造ってしまった。

 

 真なるは闇属性故にか、ダークというのはどうにも惹かれてしまうらしい。

 

 現状、全てのダークゼクターはユートの管理下で、ダークザビーゼクターを使ったのは、魔物による事故を装う為だ。

 

 

 勿論、認識阻害を使って普通の魔物に見せ掛けて、事故を完全演出している。

 

 今頃ならプーム・ミンは痙攣しながら、お漏らしをしつつ全身を溶かされる様な痛みと酸欠による苦しみを受け且つ決して死ねず、狂えず意識を失えない地獄を味わっているだろう。

 

 殺しはしない。

 

 ある意味で死は安らぎ、ならば生き地獄を味わうが良い、それがユートの考え方の一つであるからには。

 

 まぁ、ユートの冥界へと堕とせば無間地獄で永劫の苦しみを与えられるが……

 

 ダークサソードゼクターには、登録された如何なる毒をも精製するオリジナルのサソードゼクターに無い機能が付いている。

 

 それで精製された毒は、プーム・ミンを苦しめてくれたろうと、黒い笑みを浮かべつつユートは思った。

 

 結局、ユートは手出しをしていないと報告も挙げられてしまい、そもそもにしてプーム・ミンが女欲しさに余計な争いを挑んだ事、どう考えてもユートに非が無いとしてイルワは解放をするしかなかったと云う。

 

「ああ、解放早々で申し訳が無いのだが……」

 

「何だ? 僕には僕の目的が有るからさっさとこんなケチが付いた町、出て行きたいんだけどな?」

 

「正直言って済まないね。実は君に依頼をしたい」

 

「は? ステータスプレートは見せたろ。黄ランクにギルド支部長が自らとか、ちょっと有り得ないな」

 

「黄ランクね。私はランクが全てとは思っていない。君はそもそも黒ランクであるレガニドを退けたしね。それにまさかの先生からは紹介状を貰っているし」

 

「自爆だろうに」

 

「本当にそうかい?」

 

「……まぁ、聞くだけ聞いても構わないけどな」

 

 どうやらイルワ・チャングは疑っているらしい。

 

 流石は海千山千のギルドの一つ、フューレン支部を統括する支部長か。

 

 尚、先生とはブルッグの町で受付オバサンをしていたキャサリンさんであり、昔は凄まじい美女だったと聞かされた。

 

 イルワ支部長は彼女から教えを受けていたらしく、『先生』と呼び慕っていたのに加え、少年ながら淡い想いを懐いていた様だ。

 

 写真? らしきを見せられたが、確かに面影はある美女とイルワ君の姿が……

 

(時の流れは残酷だな……けど、今からでも痩せたらこうなるんじゃないか?)

 

 痩せれば普通に美女に戻りそうだが、よもや本人に『痩せたら?』とか無礼が過ぎて言えない。

 

「で、依頼とは?」

 

「これを見て欲しい」

 

 イルワ支部長が置いたのは一枚の依頼書。

 

「これに書いてある通りで依頼は行方不明者の捜索。北の山脈地帯の調査依頼を受けたある冒険者一行が、予定を過ぎても戻って来なかった為、冒険者の一人の実家が捜索願を出した……というものなんだ」

 

「ほう? 行方不明者ね」

 

「最近の事なのだけどね、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査の依頼が成されたんだよ。北の山脈地帯は一つ山を超えると、殆んど未開の地域となっていて大迷宮の魔物程ではないが、それなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。この冒険者のパーティーに本来のメンバー以外の人物が少々ながら強引に同行を申し込んで、紆余曲折あったが最終的に臨時パーティーを組む事になったんだ」

 

「クデタ伯爵家の三男坊、ウィル・クデタ……か」

 

 男爵家のプーム・ミンといい、またぞろ貴族と関わるのかと辟易する。

 

「クデタ伯爵は個人的にも友人なんだが、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていた。とはいっても連絡員も居たし私が把握をしていたんだがね。今回の調査依頼に出た後、彼へと付けていた連絡員も消息が不明となった。クデタ伯爵も慌てて此方に捜索願いを出したんだよ。伯爵自身も家の力で独自の捜索隊も出しているけど、手数は多い方が良いからね。ギルドにも昨日だが捜索願いを出してきたんだ。最初に調査の依頼を引き受けたパーティは可成りの手練だったよ。彼らに対応が出来ない様な何かがあったとしたなら、並みの冒険者ではどうしようもないし、却って余計な犠牲者が出てしまうんだ。だけど、依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。だから君達という訳だよ」

 

「まぁ、確かに黄ランクと残りは青ランクとはいえ、実力は金ランクと自負しても良いくらい有る心算だ。それに……自作アーティファクトも有るから底上げも出来るんでね」

 

「自作……とは?」

 

「僕は錬成師と同じ様な、だけど異なる技能が有る。それを使えばアーティファクトの作製が出来るのさ。そしてアーティファクトを造る技術は僕の実力だし、当然ながら加味されて然るべきだろう?」

 

「確かにそうだろうね……然しアーティファクトを造る程とは」

 

「錬成師はありふれた職業らしいけど、場合によっては世界最強にだってなれるらしいからね」

 

「そういうものなのかな? 私も錬成師に知り合いくらいは居るんだが……」

 

 香織と雫は苦笑い。

 

 ユートの科白は明らかに“この世界”のタイトルの揶揄だったから。

 

 正確には魔導器と称されるアイテム、ポーション類を魔導薬、装備類を魔導具と称するのだが、ユートは薬とその他を分けている為に魔導具は総称とした。

 

「北の山脈か……途中にはウルの町が有るんだな」

 

 地図から道順を調べて、補給地となる町を見付けたユートは、その町の特徴と今現在の状況を思い出す。

 

(確かリリィとの連絡で、ウルの町の話が出たな)

 

 行き先的に悪くないし、ユートはイルワの依頼に乗る事を決める。

 

「此方の予定に無い依頼であるからには、多少の色は付けて貰うよ?」

 

「む、色とは?」

 

「先ず、依頼金の上乗せ。依頼金自体は変えられんだろうが、アンタの懐から出せば何とかなるだろう」

 

「まぁ、構わない」

 

 寧ろ金で済むなら良いといえる結果だ。

 

「次に、ウィル・クデタは素人だとしても調査依頼はそれなりのパーティが行った筈、それが場合によっては全滅の危機だ。ならば、黄ランクと青ランクパーティが解決……はギルド的に威信が傷付く」

 

「ランクは君を黒にして、他は赤ランクとしよう」

 

「それで問題は無い」

 

 実質、ギルドランクなど飾り程度にしか思っていないユートだが、いつ何処で必要になるか判らないから保険くらいにはと思う。

 

 必ずしも要る訳でなく、だけど有ったら便利な資格といった感じである。

 

「持ち帰るのは本人乃至、良くて遺体、最悪で遺品という形で問題無いな?」

 

「ああ、それで良いよ」

 

 実際にイルワ支部長も、生存を絶望視とまではいかないが、それでも死んだという可能性が高いとみて、ユートに依頼をしている。

 

 ユートもウィル・クデタが生きている可能性は低いと見ており、万が一の可能性が無いでもないがやはり遺品で我慢して貰う事を考えてしまう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 交渉を終えたユートは、すぐにも車で移動する。

 

「目的地はウルの町だ」

 

「ウルの町?」

 

「ああ、ウィル・クデタは北の山脈への調査依頼を受けた冒険者パーティに寄生していたらしい。途中での町はウル。湖畔の町で水が豊富だからか稲作がされていると聞く」

 

「「稲作!?」」

 

 日本人たる雫と香織が、殊の外食い付いてきた。

 

「若しかして、だから依頼を受けたのかしら?」

 

 少し口元がニヤケている辺り、やはり日本人として米食に飢えていたらしい雫が訊いてくる。

 

「ああ。僕は生まれが英国で母親は火星の一国の女王だったが、転生前も異世界ハルケギニアではあるんだけど、更に前は日本人だったから米は好きだよ」

 

「英国人なの!?」

 

 黒髪に黒瞳とか日本人の特徴がはっきりしながら、ユートがまさかの英国人という発言に驚く。

 

「容姿は前々世から引き継いでいるからな。僕の再誕世界は【魔法先生ネギま!】や【聖闘士星矢】が主になっていて、【ゲート】や【怪奇警察サイポリス】や【隠忍】や【鬼神童子ZENKI】なんかが習合されていたからね」

 

「それはまた……」

 

 というか、ハルケギニアと繋がっているからには、【ゼロの使い魔】とも習合していたと云えるのだし、更には【恋姫†無双シリーズ】や【キャッスルファンタジア〜エレンシア戦記〜】もそうだ。

 

 正に混沌とした世界観。

 

「英国人で【魔法先生ネギま!】って、ネギ先生とはひょっとしたら兄弟?」

 

「二卵性双生児で僕が一応は弟だな」

 

「一応……ね」

 

 精神的には早熟だけど、それは仕方がない。

 

 転生者で記憶保持が成されている以上、人格だって一から構築されている訳ではないのだから。

 

「とはいえ、精神的には間違いなく日本人だよ僕は。米を食べたい気持ちは充分に持っているさ」

 

 ハルケギニアに生まれようが英国に生まれようが、心は変わらず日本人というのがユートの主張。

 

 さて? ウルの町までは車に乗って行く訳だけど、一行は既にユート、香織、雫、ユエ、シア、ミレディという六人パーティだからバイクで荷けつもツラい。

 

 全員に支給するのも可能ではあるのだが、ゆったりとしたいならバスを出してしまおうと考えた。

 

「何でバス?」

 

「単なるバスじゃないさ。一種のキャンピングカーってやつでね。外観の大きさこそ少し大きめな車でしかないが、中は空間湾曲技術で拡げてある」

 

「え、まさかナっちゃんの空間魔法を!?」

 

「違うよ、ミレディ。確かに空間魔法と同じ事が出来てるが、ナイズ・グリューエンの神代魔法とは別物の力だから」

 

「そうなんだ……本当に、ユー君は私達の神代魔法と似た能力を使えるんだね」

 

 重力系も使っていたし、【創成】はオスカー・オルクスの生成魔法に近い。

 

 魂魄や時間への干渉に、ユートからの説明によると仮面ライダー、これも変成魔法に近い生命への干渉、更には一時的にあらゆる力を向上させる昇華魔法に近い力も持つと聞く。

 

(本当に何で神代魔法を集めてるんだろ。まぁ、概念魔法を得るには必要かな。それに元々の力の補助には使えてるみたいだしね)

 

 ミレディがユートに付いていく理由、確かに賭けをして負けてしまったから、ユートのモノとなったのも間違いないが、その深淵にはユートの監視という意味も含まれていた。

 

 勿論だが、【仮面ライダーゼロワン】たるユートへの好意が一番にある。

 

 それでも監視は必要。

 

 エヒトへの反逆にして、神からの世界解放は個人の嗜好だけで止められない、七人の【解放者】の総意だったのだから。

 

「ホント広いわね」

 

 中を見回す雫。

 

「……ん、寝室がある」

 

 ユエとしてはユートとの性活は、血を吸えるだけでなくそれに近い液体を堂々と飲める場で大切だ。

 

「御風呂まで有りますよ」

 

 そして性活で汚れたら、風呂で洗い流せるのが嬉しいシア。

 

「わぁ、本格的なキッチンまで有るんだよ〜」

 

 料理番の一人として香織は嬉しそう。

 

「最早、これだけで隠れ家でも作れそうだね」

 

 改めてバスの内部を視たミレディは思った。

 

 外からは中が見れなかったが、内部はホテルか? と云わんばかりの豪華絢爛さを醸し出している。

 

 一階分しか無かった筈の階層が三階建て、一階には生活に必要なキッチンやら風呂場やら御手洗い場やら更衣室やらが揃っており、二階と三階は生活スペースな個人部屋とされていた。

 

 性活部屋と来客用である雑魚寝部屋も一階だ。

 

 雑魚寝部屋は百人くらい押し込める広さを持って、衝立で男女別にする事なども出来るし、ちゃんと風呂とトイレと台所は完備されている。

 

 ユートや【閃姫】の為の部屋を超一流ホテルに於けるロイヤルスイートルームとすれば、雑魚寝部屋とは謂わば三流の民宿だった。

 

 差別? 断じて否。

 

 これは区別。

 

 大切な女の子とそうではない誰か、同じ扱いをする理由などあるまい。

 

 それに差別をするなら、それこそ何も無い空間のみの部屋に押し込める。

 

 特にトラブルも無い侭、ユート一行はウルの町へ。

 

 ユート用の性活部屋には全員が集まり、キャッキャウフフ的な行為に勤しむ。

 

 因みに、このバスは高いレベルのAIが完備され、行き先さえ入力しておけば勝手に走ってくれる。

 

 勿論ながら運転も可能、そこら辺は臨機応変で幾らでも変えていけた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ウルディア湖を臨めるは湖畔の町ウル、ミレディの時代もこの湖はウルディア湖という名前だった。

 

 そんな町にある宿屋――【水妖精の宿】に畑山愛子を筆頭とした一団が宿泊をしている。

 

 この宿屋の名前はその昔にウルディア湖から現れた妖精を、一組の夫婦が泊めた事が由来だであるとか。

 

 ウルディア湖はウルの町の近郊にある湖、大きさは日本に存在している琵琶湖の四倍程だった。

 

 一階部分がレストランになってて、ウルの町の名物である米料理が揃えられており、店内の内装は落ち着きがあって目立ちこそしないが、細かな部分にまでも拘っている装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがあるし、天井には派手過ぎないシャンデリアを完備、『老舗』と呼ぶに相応しいとても歴史を感じさせる宿だったと云う。

 

 高級過ぎて落ち着かないと言い、愛子先生は他の宿を希望していたのだけど、【神の使徒】とか【豊穣の女神】とまで呼ばれ始めている愛子先生や生徒達を、よもや普通の宿に宿泊させるのは外聞的に有り得ないとして騎士達の説得の末、ウルの町に於ける拠点として確定する。

 

 とはいえ、王宮の一室で過ごしていた事もあって、愛子先生達はこの宿屋にも次第に慣れ、滞在している内に落ち着ける出来る場所にまでなっていた。

 

 愛子先生は農地改善にて生徒の立場を守るという、ユートとの相談の上で決めた仕事に精を出しており、優花パーティの三人プラス玉井淳史と清水幸利の五人が【愛ちゃん護衛隊】として付いてきている。

 

 原典との差違は玉井淳史の友人が二人、この場には居ないという処であろう。

 

 理由はあのオルクスでの大量死の際、二人が轢死か焼死かは判らないが死んでしまっていたから。

 

 それでも玉井淳史がこうして居るのは、単純に独りで取り残されたくなかったに過ぎない。

 

 何しろ清水幸利だけならばまだしも、優花達みたいな女の子達までが戦いに赴くし、無能と呼ばれていたハジメまでが戦う中に一人で引き篭る、外聞が悪いにも程があるのだから。

 

 【愛ちゃん護衛隊】は、単純に魔物対策ではない。

 

 聖教教会から明らかなるハニトラ要員、見目だけは麗しい神殿騎士が護衛へと付けられた為、コイツらから『愛ちゃん先生』を守る意味合いがあった。

 

 まぁ、愛子先生本人としては『先生』だから否定をするだろうが、とっくの昔にユートにお熱状態な為、ハニトラ要員に気を移すなど有り得なかったが……

 

 取り敢えず、神殿騎士の戯れ言など気にも留めない愛子先生に、優花達も安心をしていたけどつい先頃、清水幸利が失踪していた事が判明する。

 

 愛子先生は作農師として仕事をしていつ忙しいし、優花達が持ち回りで捜しているが見付からない。

 

 闇術師として普通に強い清水幸利だから、攫われたなんて事は無いと思われるものの、愛子先生は心配をしていたから優花達も必死に捜索をしていた。

 

 それはそれとしてウルの町には米があり、日本食に近い食べ物を食べられるのが楽しみの一つ。

 

 今宵も全員が一番奥にある最早、専用となりつつあるVIP席に座りその日の夕食に舌鼓を打っていた。

 

「ふわぁ、相変わらず美味しいよ〜。こんな異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったな」

 

「見た目はシチューだけどスパイシーよね」

 

 ホクホク顔でカレー? を食べているカレー大好きっ娘な優花。

 

 宮崎奈々も特に異論は無いのか、スプーンを口へと運んで相好を崩す。

 

「いやいや、カレーよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? これ、日本は負けてんじゃないか?」

 

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べた事が無いからでしょう? ホカ弁の天丼と比べちゃダメだよ」

 

 玉井淳史の言に菅原妙子が反論をする。

 

 多少なり違いはあるが、極めて日本食に似通っていてテンションが上がっている生徒達、ウルディア湖の魚や北の山脈地帯の山菜や香辛料、そしてお米という素材の豊富さがこんな食事を提供してくれていた。

 

 美味しい料理にて一時の幸せを噛み締めている愛子先生達の許へ、六〇代くらいの年輪を刻む口髭の見事な男性が、にこやかな表情で近寄って来る。

 

「皆様方、本日の御食事は如何ですか? 何か御座いしたらどうぞ、遠慮なさらず御申し付け下さい」

 

「あ、オーナーさん」

 

 彼は、【水妖精の宿】のオーナーであるフォス・セルオなる紳士。

 

 スラッと伸びた背筋に、とても穏やかに細められた瞳で、今は白が交じった髪をオールバックにしている男性だった。

 

「いえ、今日もとても美味しいですよ。本当に毎日、癒されています」

 

 一団を代表してニッコリ笑いながら愛子先生が答えると、フォスも嬉しそうにしながら礼を言う。

 

「それはよう御座います。我々としても腕によりを掛けた甲斐がありますな」

 

 だけどその表情もすぐに曇る事となる。

 

 

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 遅くなった上に尻切れ、本当は合流まで書きたかったんだけど……




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第38話:再会するちっこい先生

 天之河光輝君に対するアンケートを実施しました。最終的な扱いを決めてなかったので……





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 その暗い表情からして、悪い報告なのだろう。

 

「実は大変申し訳無いのですが、香辛料を使った料理は今日限りとなります」

 

「ええっ!? それって、もうこのニルシッシル――この世界に於けるカレーライス――を食べれないって事ですか?」

 

 オーナーからの突然過ぎる激白に、カレーが大好物な優花が強い衝撃を受けた様に問い返した。

 

「はい、誠に申し訳が御座いません。何分、ストックしていた材料が切れてしまいして。いつもならこんな事が無い様に在庫を確保しているのです。然しながらここ一ヶ月程は、北の山脈地帯が不穏という事らしく採取に行くものが激減しております。遂先日も、調査に来られた高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして益々、採取に行く者が居なくなりました次第で。当店としても次にいつ入荷するかは最早、判りかねる状況なのですよ」

 

 オーナーも可成り困っているらしく、優花から問われて申し訳無さそうな表情を浮かべて答える。

 

「あの……その不穏っていうのは具体的には?」

 

「何でも魔物の群れを見たのだとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越える毎に強力な魔物が居るらしいのですが、わざわざ山を越えてまで此方には来ないのですよ。処が最近になり何人かの者が、居る筈の無い向こうの魔物の群れを見たのだとか」

 

「そ、それは……確かに……心配ですね……」

 

 愛子が眉を顰める。

 

 他の皆もこれからの食事事情や、魔物が現れたという話に若干沈んだ様子で互いが顔を見合わせた。

 

「いやはや、食事中にする話ではありませんでした」

 

 フォスは、やはり申し訳無さそう表情で場の雰囲気を少しでも和らげたいと、極めて明るい口調になって話を続ける。

 

「然しですな、その異変も若しかするともう直ぐ収まるかもしれません」

 

 

「どういう事ですか?」

 

「実は本日の丁度、日の入りくらいに新規の御客様が宿泊に居らしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索の為に北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしくて、相当な実力者の様ですね。若しかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやも知れませんよ」

 

「ほぅ……」

 

 フォスにそう言われても愛子先生達はピンと来ない様だけど、食事を共にしていたデビッド達……護衛の騎士は一様に感心が半分、興味が半分の声を上げた。

 

 デビッド達の知る限り、フューレン支部長イルワは冒険者ギルド全体で見ても最上級クラスの幹部職員、そんなイルワ支部長に指名依頼をされるというのは、可成りの実力者の筈だったからである。

 

 それに戦闘者としては、やはり強者に対して好奇心をそられ騎士達の頭には、有名な金クラスの冒険者が羅列されていく。

 

 デビッド達のざわめきに愛子先生達が不思議そうな顔をしていると、二階へと通じる階段の方から男女の声が聞こえてきた。

 

 それはカウンターテナーを思わせる様な男の声と、一〇代と思われる数人から成る少女達の声である。

 

 男の声を含めて聴くだけなら声優か? と思わせる綺麗な声質であり、何処かで聴いた様な声だったが、それに対して反応をしたのはオーナーのフォス。

 

「おやおや、噂をすれば。彼らですよ騎士様。彼らは明朝には此処を出るそうなので、若しもお話しになりたいのでしたら、今の内が宜しいかと」

 

「そうなのか、了解した。随分と若い声だが、【金】のランクにこんな若い者が居たのか?」

 

 正直、脳内で羅列していた有名な【金】クラスに、今現在で聞こえている様な若い声の持ち主が居ない。

 

 故に戸惑いを隠せないのだが、そんな事をしている内に件の男女は話をしながら近付いて来た。

 

 このVIP席とは三方を壁に囲まれた一番奥の席であり、店の全体を見渡せる場所でもある。

 

 カーテンを引いて個室にする事までも可能であり、相当に目立つ愛子先生達の一行は、【豊穣の女神】と愛子先生本人が呼ばれる様になって、更に人目に付く事となっていたが故にか、食事の時はカーテンを閉める場合が多かった。

 

 そして今日も御多分に漏れず、VIP席のカーテンは閉めてある。

 

 そのカーテン越しに会話の内容が聞こえてきた。

 

「もうもう! ユートさんってばえちぃにも程がありますよ?」

 

「ホントだよ! ユエさんと私とシアちゃんの三人のお、お尻を……同時になんて……もう!」

 

「……これが尻パイル」

 

 聴いた途端に真っ赤な顔になる愛子先生、更に優花と宮崎奈々と菅原妙子。

 

 三人同時に……だとか、尻パイルだとか不穏な言葉ではあるが、四人は普通に意味を理解したらしい。

 

 デビッド達と玉井淳史、男衆はちょっと理解が出来なかったのか、真っ赤になった女性陣に首を傾げた。

 

「あんたらはまだマシよ? 私なんて『ハイヨー! シルバー!』とかリード付き首輪でポニーテールを弄られたし、お尻にあんなのを突っ込まれた上……に、もうお嫁に往けないわ!」

 

「雫ちゃんはユウ君以外に貰われる予定だったのかな……かな? だったら悲しいけどサヨナラだね」

 

「そんな予定無いわよ!」

 

「光輝君とか?」

 

「一番有り得ないわ!」

 

 名前が出てハッとなる。

 

「え゛!? まさか香織と雫……なの?」

 

 優花は驚愕していたが、端と見回せば信じられないという表情な宮崎奈々と、菅原妙子と愛子先生。

 

「ミレディさんとしては、もう少し普通を求めたいと思うのは贅沢かな?」

 

「一番、普通のプレイだったと思うんだが?」

 

「お、お尻と彼処の交互とか普通じゃないよ!?」

 

「いやいや、普通だって。ミレディの時代だとアブノーマルなプレイなのか?」

 

「うぐ、これがジェネレーションギャップ?」

 

 やはり何だか顔が真っ赤になる会話。

 

「? 何を話しているのかサッパリ理解が出来ない。このよく解らない言語を、愛子には解るのか?」

 

「……へ?」

 

 玉井淳史は兎も角としてデビッド達、護衛の騎士はそもそも言葉自体を理解してはいなかった。

 

「あれ、普通にスルーしていたけど……これって若しかして日本語?」

 

 優花が気付く。

 

「そういえば、普段は此方の言葉が始めから理解出来てましたから、トータスの言語を自然と使っていましたけど、これは確かに私達の国の言語ですね」

 

 言語理解なる技能が無いからには、敢えて日本語で話すとトータス人には理解不能な会話となる。

 

「そういえば、合間に造っていたのはプログライズキーよね? 黒いのとピンクのやつ……」

 

「ピンクじゃない」

 

「うん?」

 

「マゼンタだ」

 

「こ、拘るわね」

 

 ユートと雫の声だ。

 

「モノは試しにレジェンドライダー・プログライズキーを造ってみたんだよ」

 

「へぇ、レジェンドっていうと今までのライダーって意味よね?」

 

「まぁね」

 

《DESTROY!》

 

《KING!》

 

 電子音声が鳴り響く。

 

「……これって意味が有るのかしら?」

 

「実は無い」

 

「そうよね……だって確かどっちもレジェンドライダーの力が使えるし、優斗はどっちも成れるじゃない」

 

「否、ディケイドは兎も角としてジオウには成れん。あれは飽く迄もシンオウ、仮面ライダーシンオウだ」

 

「そっちも拘るのね……」

 

 何の話かはちょっと付いていけないが、間違いなくよく知る声であった。

 

「ゆ! 緒方君!?」

 

 矢も盾も堪らず声を荒げてカーテンを開く愛子先生の行動は、優花を始めとしてデビッドら騎士達すらも予想外だったと云う。

 

(今、絶対に優斗君って言いそうになったわよね? やっぱり愛ちゃんも堕としてたって訳? だったら、何で私にはキスくらいしかしないのよ!?)

 

 優花が剥れる。

 

 ユートが優花としたのはディープながらキスのみ、それでも優花からしたなら凄い進歩だったろうけど、当たり前の様に雫と致したと聞いているし、香織まで毒牙に掛けているとか。

 

 一応、多少の御触りくらいは有ったけど。

 

 しかもしかもだ! 今の会話から更に何人かヤっている女の子が居るらしい。

 

 愛ちゃん先生も堕ちているなら、やはり彼が毒牙に掛けているのだと判る。

 

 そんな気はしていたが、ならばどうして勇者側へと戻したのか解らず、やはり気のせいかとも思った事だってあったけど、どうやら堕ちているのは間違いないらしい。

 

 何故なら声を荒げながらも『愛ちゃん先生』の顔に朱が差し、潤んだ瞳は確かな恋心を見て取れたから。

 

「まったく、まったく! 貴方という人は! 八重樫さんや白崎さんやユエさん……と先生……だけじゃ飽き足らず、またこんな娘達を手籠めにしたんですか? 先生は許しませんよ! ええ、許しませんとも!」

 

「先生の許可は要らないだろうに。それとも男女関係は先生が審査して許可しないといけないのかな?」

 

「そ、それは……」

 

「だいたい、手籠めとかは流石にちょっと外聞が悪い言い方だ。そもそも二人は自主的に肉体関係を結ぶ事を望んだんだしね」

 

 とはいえ、奴隷の首輪を着けていたり勝負に勝って手に入れたり、端から視れば明らかに強制である。

 

 まぁ、シアの首輪なんて今や飾りでしかない。

 

 正確には状態異常耐性とHPMP回復と身体強化の効果を付けた魔導具、それに万が一を考えてハルケギニア時代の異世界放浪期、辿り着いた世界の義弟が考えた魔導具――【異物排除】も付けてあるから、間違っても妊娠をしたりしない効果を持っていた。

 

 ユートは妊娠をさせ難い体質だが、間違って妊娠させる可能性は零ではない。

 

 事実として、一夜だけの関係で孕んでいたなんて知らなかったが、星華が星那という娘を産んでいた。

 

 とある一夜の関係だが、一発大当たりで星華は妊娠をしていたらしい。

 

 ユートに教えられていなかったのは、当時にして既に二六歳だった星華であるのだが、ユートはその頃であると戸籍上は七歳だったからという理由。

 

 星華はとんだショタコン腐女子に見られ兼ねない、だからせめてユートが相応の年齢――日本で婚姻可能な一八歳になるまで待たないと……と考えて、星那の存在をひた隠しにした。

 

 これは星華が日本人で、ユートから教育を受けた際も日本の義務教育分を教えた為で、当然ながら男女の婚姻可能な年齢にしても、日本国憲法に準じて教えられていたからだ。

 

 尚、ユートの生まれた国は英国であり、余り年齢に頓着はしない傾向にある。

 

 因みに、星那とユートが出逢ったのは地上暦にして二〇〇五年、【ハイスクールD×D】世界から還って来た際、教皇である紫龍に報告するべく双魚宮にまで差し掛かった時。

 

 ユートが戸籍上で一二歳の頃だった。

 

 残念ながら星華の目論見は脆くも崩れ去ったのだ。

 

 それは兎も角……

 

 ユートも妊娠し難いからといって、いつまでも避妊を考えない訳にはいかず、だからといって薬に頼るとかゴムを着けるなどはアレだったし、魔導具を使うという方法を採ったのだ。

 

 

 前者は飲み過ぎとか相手の体に良くないだろうし、後者はいまいち盛り上がらないというか、派手に中へぶち撒けたいからである。

 

 そもそもが一夜での回数が多いので、いちいち着けたり外したりしていたなら盛り下がるし、物理的には未だしも気分的には萎えてしまうであろう。

 

「久し振りだね先生」

 

「そ、そうですね……」

 

 エキサイトしてしまい、汗顔の至りとばかりに赤面する愛子先生。

 

「優花、それに菅原と宮崎も久し振りだな。皇帝訪問の時以来か?」

 

「そうね」

 

「お久し振り」

 

「うんうん、久し振り」

 

 順次、挨拶を交わす。

 

「それと……玉井淳史……だったな」

 

「うぉい!」

 

 まるでオマケ扱いな為、思わず叫ぶ玉井淳史。

 

 尚、騎士には目も呉れないユートに対しデビッドらは鼻白む。

 

 ユート的には挨拶も済んだ為、次は優花達が知らないメンバー紹介。

 

「……ユエ。ユートの女にして最強の魔法使い」

 

「シアですぅ。ユートさんの女にして最強のハンマー使い?」

 

 そりゃ、ハンマーなんて武器はそう使う人間も居ないだろう。

 

「ミレディちゃんだよ! ユー君の女さ! そんで以て最強の魔法使いの座は渡さないからね!」

 

「……そうはいかない」

 

「師匠に弟子は敵わない」

 

「……師匠越えは弟子の務めと云う」

 

 何やかんやで師弟にしてライバル、二人はどうやらそんな関係らしい。

 

「あれ? 何だろうかな、緒方に対して殺意しか湧かないんだが……」

 

 ユートの女を名乗る少女が三人、そんな男のロマンの体現に玉井淳史が宣う。

 

 しかも【二大女神】たる者が、頬を朱に染めている辺りその感情を窺い知れ、更なる激情が玉井淳史の中に湧いてきた。

 

「6Pしてんのかよ!?」

 

 正にその通り。

 

 因みにだが、最強の魔法使いの座はお互いに譲らないと言って憚らないけど、ユートに関しては言及しない辺り、シェアする事には文句など無いらしい。

 

「はぁ……相変わらずみたいで逆に安心しました」

 

 呆れるしかないにせよ、元気なのは良い事だから。

 

 ある一部分に元気が有り余っているみたいだが……

 

 ニルシッシルを注文し、持ってきて貰ったそれを食べながら話す。

 

 オルクス大迷宮を出てからの旅路……とはいっても神殿騎士共が居るから要所は省いていた。

 

「つまり、旅の最中で彼女……シア・ハウリアさんやミレディさんに出逢って、旅を供にしていると?」

 

「まぁね。ミレディはユエの師匠をしてくれるくらい魔法に長けているし、シアは兎人族としては戦闘力が高いから役に立っている。それに……先生なら理解も出来るよね?」

 

 ボッ! と紅くなってしまう程に頬が熱い、つまりはそういう関係であると、確かに愛子先生には理解が出来てしまった。

 

「は、はい……」

 

 お腹が熱く滾るのが判る愛子先生、ミレディみたいな小さな――愛子先生主観――子がユートの燃え滾る熱を持ったお肉の棒を突き込まれるのを想像したし、シアの愛子先生では決して持ち得ないデカブツにて、ユートのアレを挟み込んで上下に動かし、シア自身の舌が先っぽを這う情景……その時のあられもない表情を妄想してしまい、御股が潤っていきショーツに染みが作られていた。

 

「え、と……旅は続けるんですか?」

 

「勿論。この世界の神なんか当てにならんしな」

 

 ピクリと神殿騎士連中の眉が蠢く。

 

「どういう意味だよ?」

 

 玉井淳史が訊ねてきた。

 

「何の約束も保証も無く、勇者として戦わないといけないんだ。当てになるとでも思ったのか? 玉井は」

 

「っ!? 約束ならされたじゃねーか! イシュタルさんが言っていたんだぞ! 緒方だってその場に居たんだし、それで何でそんな話になるんだよ?」

 

「イシュタルが言っていた……『救済さえ終われば帰してくれるかも知れない。イシュタルさん? どうでしょうか?』という天之河の言葉に対しての『ふむ、確かにそうですな……エヒト様も救世主様の願いを無碍にしますまい』っていう返しの事か? 何処に確約した科白が在った?」

 

「……え?」

 

 動揺したのは玉井淳史だけでなく、優花や宮崎奈々や菅原妙子も同じくだ。

 

「無碍にされたら? あの時にエヒト自らが『還す』と約束をしたのか? 違うだろう、イシュタルがひょっとしたら還してくれるかも知れない……と、予想を言ったに過ぎなかった筈。いつから確約したと勘違いをしていた?」

 

「そ、それは……」

 

「無碍にしなかった結果、英雄として持て囃されましたで終わるな。やっぱり還せませんでしたとか言われるだけだ。そして次の戦争に向かうだろうね」

 

「次のって何だよ?」

 

 ギョッとなる玉井淳史、更には優花達も同じくだ。

 

「亜人族とだろうな」

 

「だから何でだよ!」

 

「それがエヒトの目的だからに他ならない」

 

「……は?」

 

 ピクピクと騎士連中の額に青筋が浮かぶ、余りにも自分達の奉じる神を侮辱されたから。

 

「エヒトの目的は戦争だ。だからこそ不和の種を蒔いて種族間で争わせている。しかも愉悦の為ってんだから救われない話だよ」

 

「はぁ? 人間族を滅亡の危機から救うんじゃ!?」

 

「違うな、間違っているぞ玉井!」

 

「な、何だって!?」

 

「元よりエヒトがやらかした茶番劇。そもそも勇者? の召喚だって新しい駒が欲しかったに過ぎない」

 

「こ、駒?」

 

「魔人族側には魔人族側でエヒトの従属神に当たる奴が居て、此方側と似た様な事をやっているさ」

 

「じゃ、じゃあ……明人と昇は何の為に死んだんだよ? あんな潰されて!」

 

 どうやら玉井淳史の友達がベヒモスに轢死させられたらしく、悔しそうな表情で拳を握り締めている。

 

「ハッキリ言ってやるよ、無駄死に犬死にだった」

 

「そんな……」

 

 残念ながらユートは特に明人や昇には全く心当たりは無く、端的にその死んだ意味を突き付けてやる。

 

 正確には苗字なら気付いたであろう。

 

 仁村明人と相川 昇。

 

 対ベヒモス戦に於いて、チャージしてきたベヒモスにより轢死した。

 

「いい加減にしろ!」

 

 此方の話の真っ最中に、騎士隊長を務めるデビッドが怒鳴ってくる。

 

「先程から聞いていれば、エヒト様を侮辱しおって! 許されると思っているのか貴様は!?」

 

「許す? 誰が? そもそも僕はエヒトを信仰してはいない。それは勇者(笑)も同じだぞ?」

 

「な、何だと!? この、異教徒がぁぁぁっ!」

 

 激昂するデビッドだったが一つ過ちを犯した。

 

「この様な賎しく汚らわしい獣風情を連れている辺り許されざる行いだ、やはり貴様は異端者だったのだ! 最早、許しておけぬ! 先ず汚らわしい獣から粛清してくれるわ!」

 

 剣を抜いてシアに向け、振り下ろしたのである。

 

「言ったな? そして……やったな愚か者が」

 

 ゴトッ!

 

「な、に……?」

 

 その鈍い音に下を見ると見覚えのある剣を握る腕、明らかに肩口から切断をされたと見て取れるモノが、テーブルの上へと無造作に転がっていた。

 

 デビッドが脂汗を流しながら右肩を睨むと……

 

 ブシュゥゥゥッ!

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァアアアッ!?」

 

 今まで何事も無かった肩から、思い出したかの如く鮮血が噴き出した。

 

「うでぇぇっ!? お、俺の……腕が、俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっっ!!」

 

 既に、異教徒も異端者も亜人族も頭には無くなり、唯只管(ひたすら)に痛みを訴えながらも床に仰向けで寝転がり、子供が玩具でも強請るかの様な感じでジタバタと藻掻き苦しみ抜いて蠢いている。

 

 それにしても、ユートの前で腕を喪う人間の何とも多い事か。

 

「た、隊長!?」

 

 二番手らしき騎士がキッとユートを睨むが、当人は先程から全く変わらぬ……腕組みをしながらふてぶてしい態度で椅子に座って、デビッドが晒す無様を視て嗤っていた。

 

 明らかにユートが何かをしたのだが、それはこの場の誰にも判らないというか見えていない。

 

 小宇宙を使えない現状、それでも魔力などを使って頑張れば雷速すら生身で越える為、常人ではその目に留まる事すらも無い。

 

 とはいえ、魔力なら連中も感知が不可能ではなく、だから今回は念力(PSYON)を使って強化した。

 

 連中がPSYONに対して全く無反応なのを良い事に、身体強化を行った上で最も素早く放てる技を使ったのである。

 

 牡牛座のアルデバランが使う威風成角(グレートホーン)……居合い拳に於ける一つの究極形から放たれる山羊座のシュラが使う聖剣抜刃(エクスカリバー)がそれだ。

 

 ユートの聖剣抜刃は漫画的に視ると浮かぶは村正、即ち村正抜刃(エクスカリバー)であり、それ故にか居合いの構えな威風成角は相性が抜群だった。

 

 抜刀術は刀舞にも存在しているし、ユートからすれば組み合わせない理由自体が見当たらない程。

 

 とはいえ、だからといってアルデバランが聖剣抜刃を使ったり、シュラが威風成角を使ったりは出来ないのだし、ユートだからこそのコラボレーションとは云えるだろう。

 

 恐らくデビッドは疎か、チェイスや他の騎士連中や強化された雫達、優花達も見えたりしなかった筈だ。

 

「し、白崎嬢っ! 隊長に癒しの魔法を!」

 

 チェイスが縋る。

 

 一応、魔法陣と長い詠唱で彼らも治療魔法は使えるのだが、天職が治療術師たる香織に比べれば手慰みの程度でしかなく、多少の傷なら癒せるであろうけど、こんな部位欠損レベルでは役に立たない。

 

「御断りします」

 

「な、何故っ!?」

 

「シアさんは私のお友達、彼女に剣を向けた人を治療したくありません」

 

「し、然し……亜人族とは神に与えられし魔法を持たない、即ち神に見放された種族なのですよ! 隊長の行いは間違っていません」

 

 激昂するチェイスだが、愛子先生が冷めた目で見つめながら口を開く。

 

「正直、失望しました」

 

「「「え?」」」

 

 痛がるデビッドを除き、神殿騎士愛子専属護衛隊の副隊長チェイス以下、近衛騎士クリスとジェイド……三人が驚愕をした。

 

「特にチェイスさんです」

 

「わ、私が何か?」

 

「私の為なら信仰すら捨てると仰有りながら、貴方は今さっき何と言いました? 『亜人族とは神に与えられし魔法を持たない、即ち神に見放された種族なのですよ! 隊長の行いは間違っていません』でしたね。信仰を本当に捨てられるとは思ってませんでしたが、貴方の言い様は信仰の奴隷にしか思えませんでした。それは御二方や隊長さんも同じです」

 

 最早、名前すら呼ばない愛子先生に愕然となる。

 

「近衛騎士の御二方も」

 

「「ううっ!?」」

 

「私との出逢いを運命だ、身命を賭すと誓う、そんな事を言いながら私の思いなど無視ですか?」

 

「そ、それは……」

 

「だ、だが……」

 

 クリスとジェイドがたじろいでしまう。

 

「白崎さん、彼を治療して上げてくれませんか?」

 

「え、でも……」

 

 普段は優しい香織だが、この旅に付いていく条件の中に、ユートがやらない事はしないというのが在る。

 

 誰かが助けを求めても、ユートが助けないなら見捨てるという事だ。

 

 今回は明瞭にユートが傷付けた訳で、治療なんかをしたら見放されてしまう。

 

 ハジメの許へと行けなくなったからには、ユートに見放され捨てられるのは、香織にとって耐え難い苦痛にしかならない。

 

 従っていれば愛して貰えるのに、わざわざ反発などしたくはなかった。

 

 まぁ、肉欲を満たす意味で愛されるのだが……

 

 オロオロとする香織は、愛子先生とユートを交互に見遣るしかない。

 

「ゆ……緒方君、白崎さんの治療魔法の力を借りても良いですか?」

 

「その心は?」

 

「四人を私の護衛から解任します」

 

「へぇ……それを騎士連中が約束するなら構わない」

 

 ユートがチェイスを見据えつつ、ニヤリと口角を吊り上げ嗤いながら言う。

 

「ぐっ!」

 

 彼らの意志は実際に本物であり、愛子先生への想いに偽りなど当然だが無い。

 

 とはいえ、やはりエヒトへの信仰は洗脳レベルにて施され、簡単に捨て去れる様な根が浅いものではないのも事実なのだ。

 

 近衛騎士の二人もそう、神殿騎士程では無いにせよトータスの常識からして、シアへのデビッドの行いは正当であったから。

 

「そういえば、アンタらには妹とか居ないか?」

 

「は? 隊長には修道女の妹さんが居るが……今現在は隊長との折り合いが悪いのと、信仰に疑問を持って辺境に飛ばされています。祈りにより魔法全般に高い能力を発揮する【祈祷師】という天職を持つ、魔法のエキスパートですね」

 

「ほう? 悪くないな……天職も信仰的にも。それで名前は?」

 

「フィリム・ザーラー」

 

 デビッド・ザーラーの妹であり、本来の世界線では魔王(ハジメ)に見出だされてフルールナイツとかいうメイド集団に属し、名前もプリムラという源氏名っぽいのを名乗っている。

 

 ユートとしてはなるべく現地人の仲間を増やしたいと考えており、それならば直に仲間とするなら女の子が良かった。

 

 むさい男を連れ歩きたくはないし、香織や雫やユエやシアやミレディといった【閃姫】に色目を遣ってきたら争う未来しかない。

 

「その娘を此方に渡すなら解任はさせないように言えるが……どうする?」

 

「ぜ、是非も無し!」

 

 この失態を取り返せるなら已むを得ない、チェイスは膝を付きながら答えた。

 

 本人の了承もなく決められたが、フィリム・ザーラー本人は割かし乗り気になるのは近い未来の出来事。

 

 

.




 いよいよティオが登場する……筈。




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第39話:優花の悩み事と決断の刻

 中々、進みません。





.

 【水妖精の宿】に於ける宿泊施設、その一室で重なり合う二人分の人影。

 

 ベッドは白いシーツを乱しながらギシギシと軋む音を響かせており、人影の方はそれなりの時間を同じ形で保つが、暫く刻が経つと形を変えつつ再びギシギシとベッドを軋ませている。

 

 艶を含む甘い声が上がっていて、人影が形を変える直前には一際に大きな声を上げていた。

 

 始まってから数時間後、漸くベッド上での男女相撲が終了した為、二人は布団を腰の辺りまで掛けると、抱き締め合う様に腕を回してお互いが肌の温もりを感じつつ、女性の方は汗だくになりながら満足気で気だるい表情になり、頬を朱に染めて男の胸板に顔を擦り付けている真っ最中。

 

 男は終わってからも軽くコミュニケーションを……早い話が後戯と呼ばれているプレイ中である。

 

 こういうコミュニケーションは大切だと、必ずこうして抱いた女性の“全員”に行っていた。

 

 一対一でも一対複数人でも必ず……だ。

 

 荒い息を吐いていた女性――愛子先生は、相手の男――ユートを見上げながら膨れっ面となり口を開く。

 

「ああやって女の子を増やすんですね、優斗君は」

 

「今回みたいなのは滅多に無いよ。ユエは知っての通りだったし、シアの場合は対外的な奴隷としてでないと連れ歩けない。ミレディはライセンの名前から判るだろうが、嘗てオスカー・オルクスの仲間で【解放者】のリーダーだったのが、独りでゴーレムに魂を宿して生き永らえていたのを、先ずは勝利してミレディの立場を明確にしつつ肉体を与えてやったんだ」

 

「確かに聞きましたよ? ですけど……」

 

 不満そうな愛子先生だったが、自分が離れていた間に女の子が二人も増えて、ちょっとしたヤキモチといった処だろう。

 

 『先生として』と言いながらも、やはりオルクス大迷宮で抱かれ続けていたからか、すっかりユートへと執着が湧いているらしい。

 

「言っておくけど僕には、そもそもそんな相手がそれこそ何百人と居るよ?」

 

「ふぐぅ!?」

 

「最初の人生では知らないだけで許嫁はいたみたいだけど、ちゃんと付き合った恋人すら居なかった」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ハルケギニア時代からは貴族であったし、甲斐性さえあれば複数人でも娶る事は出来たからね、それこそ正妻を二人に側室をそれなりの人数、妾となると数えるのも億劫になるくらい」

 

「そんなに!? っていうか正妻が二人って?」

 

 驚愕に目を見開いてしまう愛子先生に、苦笑いを浮かべているユート。

 

「元々ド・オルニエール子爵家に僕は産まれたけど、ラ・ヴァリエール公爵家の次女カトレアと婚約をしてね。本人は病で療養の為にラ・フォンティーヌで一代限りの子爵位を与えられてくらしていたんだが、僕が病を治すのに奔走した結果として完治、婚約してラ・フォンティーヌを貰う予定になったんだ。だけど戦とかで戦功も有ったから最終的には大公に、だからラ・フォンティーヌ大公家をカトレアとの間に産まれた子供が嗣ぎ、ド・オルニエール子爵家を長年メイドをしていたけど騎士爵とか騎士候とか勲爵士と呼ばれているシュヴァリエになって、貴族になれたからシエスタという子が産んだ子供が嗣げる事になったんだよ」

 

 だから正妻が二人だ。

 

「そうだったんですね」

 

 頭がパンクしそうだが、それでも咀嚼をして自分の中で組み立てる。

 

 尚、最終的にラ・ヴァリエール公爵家に産まれた娘は四人となるが、三女たるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを除いた三人共、ユートが貰い受ける話となってしまい、ラ・ヴァリエール公爵家は四女カリンとユートの子供が嗣いだ。

 

 それは兎も角……

 

「今現在の人生でも僕は、始まりの世界たる再誕世界で近衛木乃香と結婚をして居るし、子供を成しただけの相手も何人居るんだよ。何より埼玉県麻帆良自治国は重婚がアリだったから」

 

「え゛?」

 

 自治国だけあり法律自体は基本的には日本のものを踏襲していたが、婚姻に関する法律は独自のものであったし、他にも幾つか違った法律も存在していた。

 

「そして僕は麻帆良自治国の所謂、王様みたいな立場だったからね」

 

「お、王様……ですか?」

 

「愛子先生にも理解が出来たかな? 今更ながら増えても変わらないんだよ」

 

「はふぅ……」

 

 最早、絶句するしかない愛子先生は思わず溜息を吐いてしまう。

 

 そんな姿も可愛らしく、ユートのムスコ様がムクリと元気良く勃ち上がって、愛子先生のお腹を圧迫。

 

「……あ」

 

 硬くなり天を衝くムスコに気付き、愛子先生は小さく吐息を漏らしつつ紅く頬を染めていた。

 

 再開される相撲大会で、今度こそ意識を失ってしまった愛子先生を、ユートは優しく撫でながら取り敢えずの眠りに就く。

 

 お悩みな優花。

 

 契約の下に、チェイスがデビッドの妹を此方へ呼び出す算段を考えたり。

 

 翌朝、朝食を摂ってから朝早くに北山脈地帯を目指す心算であるユート達の前には、何故か出立準備を整えた愛子先生と愛ちゃん護衛隊のメンバー。

 

 即ち……

 

 園部優花。

 

 宮崎奈々。

 

 菅原妙子。

 

 玉井淳史。

 

 そして護衛対象となってる愛子先生を含む五人だ。

 

「何で居るんだ?」

 

「私達も行きます」

 

 ムン! と薄い胸を張りながら答える愛子先生。

 

「あのさ、僕らは別に遊びに行くんじゃないんだよ。フューレンで受けた冒険者依頼の任務遂行の為だ」

 

「勿論、判ってますよ〜。昨日の夜にそれは聞きましたからね」

 

「依頼内容は不穏な北山脈地帯の調査に出た冒険者が行方不明で、その中に素人な貴族の三男坊が混ざっている為、ギルドと伯爵家の双方から捜索依頼が出た。一人は素人とはいっても、受けた冒険者はプロだったんだ。それが行方不明という事は潰滅したんだろう」

 

「うっ!」

 

 玉井淳史が怯む。

 

「当然だけどこの意味が解るよな? ランクは聞いてないが、恐らく最低であれ黒ランクの冒険者だろう。それが潰滅って事は相当に厄介な事が起きてるんだ。作農師の出る幕は無いし、優花達も僕の造った魔導具で底上げされた処で精々、三桁のステイタスだろ? せめて三つは四桁じゃないと話にもならない」

 

 ステイタスは筋力と体力と耐性と俊敏と魔力と魔耐の六項目、つまり半分くらいは四桁でないと駄目だと言っている。

 

 真なるオルクス大迷宮ではないし、ライセン大峡谷の魔物よりは強いにしても恐らく通常の相手ならば、それだけあれば足手纏いにならないと考えたのだ。

 

 飽く迄も足手纏いにはならない……と。

 

 はっきり言ってしまうと戦力には考えていない。

 

 勿論、身内ならライダーの力を与えても構わないのだが、この中で与えられるのは愛子先生のみであり、優花も一応は候補ではあるものの、まだ渡すには少しばかり足りていない。

 

 せめて初めてを捧げるのを躊躇わないくらい想いを持つか、若しくはもういっそ処女を捧げるか。

 

 そうなれば仮面ライダーは最低限でも数値が数千、ハウリア族に与えた量産型でも三千にはなる。

 

 余程の強敵か或いは数でもなければ充分な戦力。

 

 とはいえ、ユートが確かめてみた限りでも強化無しな素のステイタスであれ、筋力が六〇〇〇〇と高いという事が実は判明したし、雫達も仮面ライダーに変身すれば八千とか高い数値をプラスされるし、技能なども派生を増やしたりした。

 

 だからちょっと強い程度の魔物に後れは取らない。

 

 そしてそれは彼の冒険者のチームも同様な筈だが、其処へ冒険者に憧れるとか莫迦な貴族の素人が入り、恐らくはそれが原因で潰滅したのだと考えられる。

 

 素人を護りながらでは、本来の力を発揮も出来なかったろうし、何より脇目も振らずに逃げ出す事すらも出来なかったのである。

 

 貴族の糞餓鬼の所為で。

 

 分を弁えない愚か者による潰滅、更に云うなら此処にも五人ばかり居る。

 

 愛子先生も多少は抱かれて能力も上がっているが、そもそも戦闘訓練を受けてないから余り強くない。

 

「だいたいにして馬なんかでは追い付けないぞ」

 

「どういう事? まさか、走る方が迅いとか言うんじゃないわよね?」

 

 優花が訝し気に訊いてくるが……

 

「ある意味ではそうだな」

 

 アッサリと肯定した。

 

「僕の俊敏は七三〇〇〇、普通に馬よりも迅く走れるからなぁ」

 

「はぁ?」

 

 通常のステイタスプレートでは計れなかった数値、ユートはこの超量産型であるアーティファクトを改良してみたのだ。

 

 

ユート・オガタ・スプリングフィールド

 

レベル:???

 

???歳 男

 

天職:天魔真王

 

職業:冒険者 黒ランク

 

筋力:60000

 

体力:48000

 

耐性:42000

 

敏捷:73000

 

魔力:160000

 

魔耐:320000

 

技能:???

 

 

 

 これが判明したユートのステイタス、技能は多過ぎて表示が完全にバグっているらしくて、ユートが改良したステイタスプレートでもクエスチョンになるだけであったと云う。

 

 魔力がアホみたいな高さであり、それに伴い魔耐が高いのはカンピオーネとしての特性だと思われる。

 

 また、三万程度かと思ったら結構な数値の筋力。

 

 この分だと、アルティメットクウガの筋力も予想よりは高そうだ。

 

「な、何じゃこりゃ?」

 

 見せられたステイタスプレートの数値に、玉井淳史は頭を抱えてしまう。

 

 トータスの一般的な数値が10か其処ら、騎士団長だったメルドがあの年齢まで頑張った300程度で、玉井淳史も600とか叩き出して強いのだと思っていたのが、まさかの桁違いな数値である。

 

 それも百倍とか。

 

「どうなってんだよ!? レベルも判らないし……ってか、天職の天魔真王ってのは何なんだ!?」

 

「数値に関しては超々頑張った結果だな。天職は僕が真王だったからだろうが、天魔がどっから来たのかは僕も知らん。日本に第六天魔王なんてのも居たけど、僕はあれとは殆んど無関係だからなぁ」

 

「織田信長かよ……」

 

 そもそも天魔真王とは、別世界のユートが天魔王を討った際に得た称号。

 

 それが故にユートが判る道理は無い。

 

「魔力や魔耐はどうなってるんだ?」

 

「神を殺したからだな」

 

「は? 神殺しで魔力とかが上がるって、お前は何処のカンピオーネだよ!?」

 

「何処と言われてもな……この身は神殺しの魔王で、カンピオーネなのは間違いないんだよ」

 

「……マジ?」

 

 普通ならジョークの類いか単なる嘘吐き呼ばわり、然しながら数値が嘘である事を否定する。

 

 千や万すら越えて十万、三桁が精々な玉井淳史からしたら正に化け物と呼ぶしかなく、勇者(笑)ですらも一蹴した実力の裏付けにはなるものだった。

 

 まぁ、アルティメットなクウガもそうだから正しく化け物でしかない。

 

(っていうか、俺らの地球ってんな物騒だったのか? 神様が闊歩するとか)

 

 実に誤解である。

 

「そういや、仮面ライダーに成れるから神様も殺れたのか? 仮面ライダーWに成っていたし」

 

「んにゃ、仮面ライダーの力はもっと後で手に入れたんだよ」

 

 とはいっても、前世では仮面ライダーディケイドの力を得ていたし、あながち間違ってるとも云えない。

 

 だけど仮面ライダーWに限定すれば、可成り後になってから手に入れたという話に嘘は無かった。

 

「だいいち、仮面ライダーに成ったからって神を殺れる訳じゃないしな」

 

「そりゃそうか……」

 

 能力的には其処まで高い訳ではないのだ。

 

 尤も、エヒトの使徒より弱いにせよ戦えない程でもなかったが……

 

 必殺技なら当たりさえすれば、確実ではないが斃せるだけの火力がある筈。

 

「それで、走るんじゃないみたいだけど……」

 

「話を戻せばこういう事」

 

 ユートは優花の言葉に、アイテムストレージ内からマシンディケイダーを喚び出した。

 

「バ、バイクゥ?」

 

「という訳だ。確かに馬は人間よりは速いかも知れないが、流石にバイクには敵わないだろう? 況してや生物であるからには疲労もするだろうしね」

 

「バイクは反則でしょ」

 

「そうは言われてもな? ほら、仮面ライダーだからバイクは必須ってね」

 

 現在、放映中である筈の【仮面ライダードライブ】は主に車だけど。

 

「とはいっても、愛子先生はどうしても行きたい?」

 

「はい。えっと……昨晩にも言いましたが、清水君が行方不明となってから町でも捜索はしていましたが、一向に見付かりません」

 

 昨晩……と言った処で、愛子先生が紅くなる。

 

 睦み愛の後の後戯中に、農作業だけでなく清水幸利の捜索をしているのだと、割と素直に話していた。

 

 尚、睦み愛の真っ最中は頭の中が真っ白になって、腰を振るだけのおバカさんになる為に、そもそも会話が成立しなくなる。

 

 後戯中も際どくて敏感な部位をいじめられるから、途切れ途切れな嬌声混じりの報告だったが……

 

「清水……ね。確か闇術師だったか。実力はそれなりに有ったんだったよな?」

 

「ええ、だから攫われたとかは多分だけど無いわ」

 

 優花が質問に答える。

 

「序でに言えば寝込みを襲われたってのもねーな」

 

「室内は綺麗だったしね」

 

 玉井淳史と宮崎奈々が、優花の言葉に追従する様に情報を伝えてきた。

 

「だとしたら自発的に出て行った訳か。なら放って置けば良い、餓鬼じゃあるまいし……とはいかないか。僕の勘ではな」

 

「勘って何だよ?」

 

「神殺しの魔王は戦いに於ける勘が凄まじいんだよ」

 

「戦いって、神殺し!? え、あれってマジだったのかよ!?」

 

 まさかまさかのモノホン発言に驚きの玉井淳史。

 

 ほんの冗談の心算で――『俺らの地球ってヤベー』とか思っていたし、ユートがカンピオーネだとは思う筈もなかった。

 

「仕方がないか」

 

 ユートは此処に来た際にも乗ったキャンピングバスを出すと、慣れた手付きで内部の雑魚寝しか出来ない客室の準備をする。

 

「えっと……ゆ、緒方君? このミニバスは?」

 

「愛子先生達を連れて行けば良いんだろ? こいつなら皆が乗れるからね」

 

「は、はぁ……」

 

 促されて乗ったらやはり驚愕をしてしまう内部で、愛子先生も優花達も開いた口が塞がらない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「雑魚寝……ね。香織達は二階や三階に個室を貰っているのよね?」

 

「そりゃ、彼女らは曲がり形にも【閃姫】だからな」

 

 やはり不満は有るもの、優花が文句を言ってきた。

 

「【閃姫】って言われてもピンとこないわ」

 

「恋人や細君や愛人の事。【閃妃】というのも有るんだが、此方はその世界にて正式に婚姻を結んだ乃至、緒方をそういう意味で名乗っている者の事だね」

 

「その世界って……優斗が転生者で違う世界出身なのは聞いていたけど、幾つも世界を回って奥さんも沢山って訳?」

 

「沢山って程じゃないな。例えば立場上、どうしても正式に婚姻しないといけない娘も居たんだ。例えば、アトリエ世界のシア・ドナースターク。再誕世界での近衛木乃香。ハルケギニアのカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ」

 

「何か、全員を識っているんですけど……」

 

「まぁ、アニメやゲームや小説で聞く名前だしな」

 

「ホントなんだ。香織達からも聞いていたんだけど、つまりはこの世界も?」

 

「【ありふれた職業で世界最強】というタイトルで、ラノベとして描かれている世界観らしいね」

 

「ありふれたって事は……主人公は錬成師の南雲?」

 

「当たり。本来ならハジメがオルクス大迷宮で奈落に独り落ち、孤独と痛みに耐えながらユエと出逢ったって感じらしいな」

 

「……南雲は落ちなかったわね。代わりに優斗が落ちたって事かぁ」

 

「それで色々と変わった。ハジメなんか人格からして変わっていたみたいだし」

 

「判らないもんよね」

 

 優花は香織達よりは冷静に受け止めたが、それというのも香織と雫が既に受け容れていたからである。

 

「何はともあれ個室が欲しければ【閃姫】になる事、それが一番の早道なんじゃないかな」

 

「せ、【閃姫】にって……つまり優斗と?」

 

 それを意味する処を知るが故に、優花は真っ赤な顔になり口を噤んでしまう。

 

 吝かではないのだけど、見た目は如何にも遊んでいそうギャルっぽい風貌をしながら、実は純情で可憐な性格をしているだけに羞恥から動けなくなった。

 

「本当に可愛いよな優花。この侭、自分の部屋に攫ってしまいたくなるくらい。だからこそだ、偶然とはいえ仲好くなった君との仲はゆっくりと進めたかった」

 

 今更、優斗には恋愛なんて気持ちは懐けないけど、擬似的にそんな気分を味わってみたいと、そんな風に思う事くらいはある。

 

 その対象に選んだのが、【二大女神】と称されている娘達ではなく、園部優花であったという訳だ。

 

 出逢いは本当に偶然。

 

 それはそうであろう? ユートはこの世界の原典をタイトルからして識らず、故に主な登場人物とて誰が誰かも判らない。

 

 しかも実は違う世界との混淆世界。

 

 ユートはその混ざっていた世界観の中、テロリストや政治犯などを殺す仕事を政府筋から受けていた。

 

 敵は【大いなる絆】とか名乗る連中、他にもテロルは幾らでも起きている。

 

 尚、【ありふれた職業で世界最強】な世界自体からして、テロやクーデターなどが頻繁に起きていた。

 

 アフターでは、深淵卿がこれに立ち向かう事も……

 

 そんな刺々しい仕事帰りに寄った【ウィステリア】での食事、憩いの場という雰囲気を気に入って所謂、リピーターとなっていたのだが、その内にアルバイト的な感じで仕事をしていた優花がオーダーを取りに来たのが切っ掛け。

 

 同じ高校に通う事となったし、中間や期末考査では頭を悩ませている優花+αに勉強を教えてやった。

 

 それが今現在に繋がる訳だが、宮崎奈々と菅原妙子の二人はそうでもなかったのに対し、優花との仲に関しては割と縮まっていく。

 

 それでも決定的なナニかが無い侭、トータス召喚の日を迎えてしまった。

 

 初めての決定的なナニかはやはり、武器を造る対価として優花からしたキス。

 

 まぁ、本人は頬へする気だったのが勢い余ってか、唇へのファーストキスを捧げる羽目になった挙げ句、即セカンドキスをディープに奪われてしまった。

 

 最初のは本当に唇と唇を重ねただけの、すぐに離してしまったキスだったが、セカンドキスはユートから行き成りだったし、喋っていたから開いていた口の中に舌を捩じ込まれ、舌を絡め取られて混ざった唾液を嚥下させられてしまう。

 

 数秒とも数分とも付かない刻を、唇と唇を重ねた侭にまるで媚薬でも服用したかの様な気分を優花は味わっていた。

 

 ユートが奈落に落ちて、ヘルシャー帝国が動くまで再会は叶わず、暗鬱な感じだったのは間違いない。

 

 漸く会えたら雫と香織がユートと付き合っていて、何と無く愛子先生も怪しい感じがしたのは、やっぱり女の勘なのか?

 

「優斗が仮面ライダーW、雫が仮面ライダーサソードに成っていたわよね」

 

「ああ」

 

「香織も? それに他の、ユエさん達も……」

 

「仮面ライダーに成れる。その為のツールを渡しているからな。雫にはサソードヤイバー、香織はジョーカードライバーで、ユエにはサガーク、シアはライダーブレスとザビーゼクター、ミレディは暫定的にサイクロンライザーを渡したが、今は何も渡していないな」

 

 取り敢えず、エイムズ・ショットライザーを渡そうと考えているが……

 

 仮面ライダーバルカン、基本形態にシューティングウルフを、派生形態としてパンチングコングを使い、アサルトウルフに進化する二号ライダー枠。

 

「私も欲しいって言ったらくれるの?」

 

「基本的に【閃姫】にしか渡してない。拡散させたくはないからな」

 

「身内だけって事?」

 

「そうだね、キスくらいでは身内扱いは出来ないよ」

 

 意味は理解が出来るし、紅くなる優花は取り敢えず聞きたい事を訊ねる。

 

「仮面ライダーはステイタス的にどんな感じ?」

 

「現状、プレートに出ないから詳しくは判らないが、感覚的に低い数値で五千、高い数値なら八千〜一万って処だな」

 

「はぁ? それは桁違いね……私達の数値だと高くても四桁いかないのに」

 

 場合によっては五桁とか優花には有り得ない話で、彼女自身も数値は三桁止まりが精々だった。

 

 聞いた話では坂上龍太郎の筋力は四桁近いのだが、それでも届いていないという感じだとか。

 

 尚、雫はユートとの契約による強化無しで俊敏の値が四桁に届くし、勇者(笑)がレベルドレインされていなければ、全能力が四桁に成っている筈だった。

 

 因みにだが、勇者(笑)は必死にレベルを上げ直して何とか元の数値くらいには成ったが、最大限の100に到達しても本来なら成る筈の全1500には最早、成る事は無いであろう。

 

 今現在の勇者(笑)だと、レベルは60でしかなくて数値も最大値で700。

 

 一応、メルド・ロギンスの倍以上ではあるけれど、勇者(笑)としては大した事のない数値だった。

 

「其処まで数値が高いなら無敵なんじゃない?」

 

「そうでもない。ヒュドラって魔物がオルクス大迷宮の最奥に顕れるんだがな、コイツは通常の仮面ライダーだと互角がやっとだ」

 

「なっ!?」

 

「それに真の神の使徒……エヒトに召喚された勇者じゃなく、奴が造った人形は全数値が12000だ」

 

「ちょっ!」

 

「判るか? 勇者(笑)たる天之河が最大限に鍛えても理想値で全1500程度。限界突破を使って三倍にしても4500。終の奥義的な限界突破・覇潰で五倍になっても7500程度だ。しかも覇潰はウルトラマンと同程度しか保たないんじゃないか? 更には使い終われば極端に弱体化する。エヒトの使徒はそれこそ、十万とか百万とか出てきてもおかしくない。三分間では斃し切れる筈もないというより、一体を斃すだけですら不可能なんだよ」

 

「詰んでるじゃないの!」

 

「勇者(笑)が主軸ならな」

 

「……あ」

 

 最早、勇者(笑)は主軸や主役では決して無い。

 

 技能を一つも持っていない勇者(笑)は、G3ーXを装着したハジメには敵わない程度でしかなかった。

 

 当然の事ながら、秘密裏に仮面ライダーの力を渡された恵里には、敵う道理が有ろう筈もないのである。

 

「処で、限界突破の奥義なんて有ったんだ?」

 

「ああ、情報源が有るから判ったんだけどね」

 

「情報源?」

 

「原典知識持ち」

 

 ギョッとなる優花だが、香織と雫は既に通った道。

 

「さて、仮面ライダーが欲しいか?」

 

「正直、生き残りたいなら強くなるしかないのよね。でも人間の限界ではエヒトの使徒の一人すら越えられないなら……」

 

 優花は死にたくないし、敗けたくもなかったから。

 

「ゆ、優斗の女になれば、くれるのよね?」

 

 決意はしたけど恥ずかしいし、それにやはり怖いという思いもあった。

 

 初めては痛いというのは常識の範囲、それに自分の胎内に優斗のだとはいえ、男の肉の塊を捩じ込まれるのに恐怖を感じない筈もなかったし、羞恥が湧かない筈もないのである。

 

 一番、恥ずかしい部位を見せるのだから当然。

 

「ホント、可愛いよな……優花ってさ」

 

 天之河光輝の傍に在ったのもあるが、【二大女神】には美少女だと認識をしながらも、普段から食指が動かなかったにも拘わらず、優花には女の魅力というのを確かに感じてた優斗は、いつか壊れるくらいに抱き締めたいと思っていた。

 

(若しかして胃袋を掴まれたんだろうか?)

 

 シエスタにせよ、やはりユートは胃袋を掴むのが良いらしい。

 

「それなら今夜は優花の刻を貰おうか」

 

「う、うん……」

 

「さて、話は纏まったな。問題はどの仮面ライダーにするか……だが?」

 

「えっと、私の投擲が使える仮面ライダーとか?」

 

「ねーよ、そんなん」

 

 ガン! 凄まじい衝撃を喰らってしまう。

 

「短剣なら無くはないが、投げ武器じゃないんだよ。何よりあれって鎧武の派生形態だからな」

 

 仮面ライダー鎧武・イチゴアームズ、正確に云うならあれはイチゴクナイ。

 

 本来なら立派な投擲武器だったりするが、少なくとも仮面ライダー鎧武で投擲武器として使われた試しは無いと思う。

 

「何が良いかな?」

 

「私は詳しい訳じゃないから任せるわ」

 

「取り敢えず武器は以前に渡した【回帰の短剣】を使えば良いとして、メインは仮面ライダーの備え付けを使う感じか……」

 

 ユートはネオディケイドライバーを装着。

 

「何をするの?」

 

「今からカメンライドしていくから、気に入ったのが有れば申告をしてくれ」

 

「待って、カメンライドって確か主役ライダーにしか成れないわよね? そっから選ぶの?」

 

「あ、大丈夫。ディエンドの召喚みたいに変身が出来る仕様だから」

 

「そ、それは便利ね……」

 

 ネオディケイドライバーの“本来”のスペック的に考えて、門矢 士が使っているであろうそれとやはり機能に差違は在った。

 

 仮面ライダーディエンドの召喚、主役ライダーのみならずサブライダーや量産ライダーまで可能だけど、ユートのネオディケイドライバーは、それを召喚ではなく変身で可能とする。

 

「じゃ、始めるぞ」

 

「判ったわ」

 

 ネオディケイドライバーを展開、先ずは平成第一号仮面ライダーたるクウガ。

 

《KAMEN RIDE KUUGA》

 

「へぇ、ディケイドからじゃなくても直に変身が出来るのね」

 

 優花は成程と頷く。

 

《KAMEN RIDE AGITO》

 

 次は仮面ライダーアギトへと変身をした。

 

「あ、解除しなくても連続で変身出来るんだ?」

 

「そりゃね」

 

 いちいちディケイドへと戻る必要は無い。

 

《KAMEN RIDE G1》

 

「へ? クウガじゃない……わよね」

 

「仮面ライダーG1だね。仮面ライダーG3の前身、G2とは違って人型だから普通に変身出来る」

 

 そもそもG2は仮面ライダーとは呼ばないだろう。

 

「次は……」

 

《KAMEN RIDE G3》

 

 仮面ライダーG3。

 

《KAMEN RIDE G4》

 

《KAMEN RIDE ANOTHER AGITO》

 

 仮面ライダーG4から、仮面ライダーアナザーアギトと立て続けに変身。

 

 時間を掛けたが次から次に変身して、仮面ライダージオウまでの仮面ライダーに変身を続けるのだった。

 

 

.




 ユートの能力値は暫定的なもので、場合によっては変更も有り得ます。

 さて、優花はどれにするべきか……次話までに決めてしまわないと。




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第40話:失せ者? 捜しに成功しました

 可哀想なこの世界線での勇者(笑)ですが、末路は決まってしまった様です。

 アンケートに御答え下さり有り難う御座います。





.

 決定された優花に渡される仮面ライダーの力。

 

 何処と無く嬉しそうにする優花は、やはり可愛らしい女の子だとユートは少し笑みを浮かべてしまう。

 

 夕飯の後の深夜に優花がユートの部屋を訪ねてきたのは、勿論ながら約束通りユートに初めてを捧げる為であり、期待感と恐怖とが入り交じった表情だった。

 

「こ、今晩は優斗」

 

「今晩は、優花」

 

 優花は用意をされていたピンクの寝間着姿、雑魚寝をする男女共用な客室から抜けて来るのは、宮崎奈々と菅原妙子と玉井淳史……更には畑山愛子先生という見張りまで居ては難しかったに違いない。

 

「取り敢えず座ろうか」

 

「う、うん……」

 

 緊張で心臓もバクバクと普段より早鐘を打ち鳴らしており、顔も真っ赤になっている自信があった。

 

 顔だけでなくきっと全身の血が沸き立ち、真っ赤になっているに違いない。

 

 今夜、優花は何も知らない女の子から女に成る。

 

 ユートの槍が優花の中で鞘走り、熱いリビドーの塊を受け止める事に。

 

 初めては痛いだけだとも聞くし、怖いという感情は確かに感じていた。

 

 だがそれ以上に抱かれたいと、香織や雫が……ユエやシアやミレディが羨ましいと思ってもいたから。

 

 ベッドの上に座る。

 

 早速、始めるのだろうかと構えていたが、ユートは紅茶を淹れて優花の方へと差し出してきた。

 

「飲むと良い。緊張をしているみたいだからね」

 

「あ、うん」

 

 飲んでみると美味しい。

 

「僕は基本的に珈琲の方が好みだけどね」

 

「そうなの?」

 

「双子の兄は泥水とか抜かしてくれたがな」

 

「双子……ネギ・スプリングフィールドよね?」

 

「まぁね」

 

 よく考えたならばユートのステータスプレートは、名前の表記がユート・オガタ・スプリングフィールドであった。

 

 取り留めない話に花咲かせて緊張は解れ、笑顔での応答が出来る様になる。

 

 そして漸く覚悟が決まったのか、キュッとユートの服を掴み潤んだ瞳で見上げる様に見つめた。

 

 軽くキス。

 

 次に舌を入れたディープなキス、あからさまに風呂に入ったりシャワーを浴びたりしないのは、ユートも優花も部屋に来る前には済ませていたから。

 

 キスで舌を絡ませながら少しずつ触り、何十分かをそう過ごし優花がすっかりデキ上がった頃を見計らい決定的な行為に及んだ。

 

 絶叫と嬌声が入り交じり二時間くらい続く。

 

 優花はこれが初めてであるが故に、三発くらいで終わりにしたのである。

 

 それはいつもの事だ。

 

 負担が大きいから初めてでは手加減をする。

 

 ベッドの上にグッタリと俯せで肢体を投げ出して眠る優花、純白のシーツには点々とした赤い染み。

 

 そして秘部から溢れている液体が、優花の初めてを貪った証しとなっていた。

 

 最早、後戯に付いていく体力も無いらしい優花は、荒い息を吐きながらも眠りに就いている。

 

 優花の可愛らしいお尻を撫でると、ピクリと反応をしてくれるから面白い。

 

 とはいえ悪戯も程々に、ユートは布団を二人で被ると眠りに就いた。

 

 翌朝、恥ずかしそうに起きてきた優花が、朝の生理現象を口で鎮めてくれる。

 

 実に可愛らしくて遂々、一発分をハッスルしてしまったが、優花は何だか嬉しそうにしていた。

 

 もう少しで北山脈地帯へ到着をする訳で、ユートは優花だけでなく愛子先生やミレディやユエにシアに雫に香織と、8Pをやらかしてしまったのである。

 

 宮崎奈々と菅原妙子……それに玉井淳史を放置した侭で、ユートの個室に備え付けられたキングベッドに散らされた花々がぐったりと横たわる。

 

 再生力の高いユエでさえ気絶をしていた。

 

 それから暫くして目的地に辿り着く。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その頃のハイリヒ王国の王宮内、天之河光輝が坂上龍太郎やその他の迷宮攻略を行うパーティで戦闘訓練をしていた。

 

 その中にハジメと恵里の姿は何処にも無く、それが天之河光輝をして苛立たせている様だ。

 

 レベルも漸く70にまで成り、以前と同程度に戦えるだけの実力は得ている。

 

 問題は技能が言語理解の他に無いという事。

 

 天之河光輝の技能は全てがユートの念能力により奪われており、ある意味では無能と成り果てていた。

 

 序でにレベルドレインによってレベルも1に戻り、天之河光輝はレベル70に成るのも相当な苦労をしたものでる。

 

 勘違いをされがちだが、彼はやるべき事をやるのに手間は惜しまない性格で、ある意味では勤勉だったから成長は早いのだ。

 

 しかも所謂、天性の才能を持つからか更に成長著しいのである。

 

 才能の無駄遣いも此処に極まれりという。

 

「南雲と恵里は今日も来ていないのか?」

 

「ん、そうだな」

 

 訓練も終わりを迎えて、天之河光輝は坂上龍太郎に苛立ち紛れに訊く。

 

「まったく、自分の我侭に恵里を付き合わせるとは」

 

「そ、そうだな……」

 

「恵里の付き合いが良いからといって毎日、連れ回すのは良くないだろう!」

 

「あ、ああ……」

 

 坂上龍太郎も脳筋ながら理解している事、ハジメと恵里は恋人だという事実。

 

 ハジメが自分自身の都合に付き合わせているのでは決して無く、恵里がハジメと付き合っているのだ。

 

 交際という意味で。

 

 それに日頃から坂上龍太郎は、『やる気の無い奴に何を言っても無駄』と嘯くのだが、今現在のハジメがやっているのは本人の技能を活かした事、錬成による恵里用のG3の製作及び、自らのG3の改良だった。

 

 無駄とは流石に言えない事をやっている。

 

 まぁ、あの依存症な母親から産まれただけあって、恵里もその気がやはりあるらしく、それが若さ故にか性欲に変換されていて事ある毎にヤっちゃってたりする訳だが……

 

 ハジメも魔物で造られた丸薬で強化され、男の象徴も巨大化と持続力が上がっているから何とかなるが、強化されているのは恵里も同じ事で、時間さえ有ればベッドの上でだけではなくトイレ、風呂場、柱の陰、岩場の陰など場所を選ばずにヤっていた。

 

『ね、ハジメ君。其処って空き部屋なんだよ』

 

『そ、そうなんだ……」

 

『だから、シよ?』

 

 何が『だから』なのかは理解不能だが、魔物の丸薬を飲んでから恵里は性欲が弥増しているらしい。

 

 空き部屋に引き摺り込まれたハジメは、ズボンからまだ柔らかい分身を取り出され、恵里のヌメッとして温かい口内に呑み込まれてしまうのだった。

 

 ハジメ自身も若いから、ちょっとした刺激と恵里の淫靡な雰囲気に中てられ、すぐに元気一杯となる。

 

 そうなれば恵里からすればしめたもの、ガチガチになったハジメの分身を自らの胎内に沈めてしまう。

 

 後はハジメがイクまで、そして恵里がイクまで互いに求め合うまでだ。

 

 ハジメだって男だから、それ自体は嫌いじゃないから誘われればヤっている。

 

 寧ろ自らが求める事すらあったし、ユートから貰った【異物排除】の魔導具が無くば、いつ妊娠していてもおかしくなかったとか。

 

 この魔導具のお陰で所構わず発情が出来ていた。

 

「漸く完成したよ」

 

「意外と早かったね」

 

「まぁ、一度は造った物な訳だからね。それに貰った生成魔法が良い働きをしてくれたんだよ」

 

「G3のアーティファクト化計画だっけ?」

 

「うん。今まではちょっとした硬い鎧でしかなかったんだけど、生成魔法の力と僕の派生技能を組み合わせたら、とんでもないくらい強化されちゃったんだ」

 

 四つの人型が佇む中で、ハジメは恵里と共に満足気な表情をしていた。

 

「クウガをモデルにして造られたG1。G3の改良型なG3ーX。G3の量産試作型っぽいG3マイルド。本来なら装着が危険なG4……G2以外のGシリーズが完成だよ!」

 

 尚、G5は無い。

 

 ハジメが纏う予定なのが仮面ライダーG3ーX。

 

 恵里が仮面ライダーG3マイルド。

 

 G1とG4は取り敢えず予定が無かった。

 

「って、恵里? どうしてズボンのチャックを降ろすのかな?」

 

「御祝いに口でして上げようかと思って」

 

「今までも普通にしていたよね? 口もアソコもお尻も全部を使ってるよね?」

 

「やん、照れちゃうな」

 

 羞じらう恵里だったが、既にロックオン済み。

 

 この後、思い切り搾り取られるハジメであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 G3マイルドを渡され、ハジメと昼間っからヤれてウキウキな恵里だが……

 

「うっ!?」

 

 背後から誰かに口を塞がれて、人影の無い場所へと引き込まれ押し倒された。

 

 見た覚えは無いがどうも騎士らしく、それらしい服で腰に剣を提げている。

 

 はぁはぁと荒い息を吐きながら、恵里の服を乱暴に引き裂いてしまう。

 

「んんっ!?」

 

 年齢の割に小さな乳房が露わとなり、涙目で騎士を睨み付ける恵里。

 

「お、お前が悪いんだ! そんな幼い風貌の癖に色気を振り撒きやがって!」

 

 とんだ冤罪もあったものだと思うが、名も知らない騎士はガチャガチャと腰のベルトを外してズボンを降ろし、外気に晒された分身が硬くなっていく。

 

「んんんっっ!」

 

「心配しなくてもすぐ天国に連れて行ってやるさ」

 

 手慣れていない辺り童貞だろう、若さ故の過ちとか言われても許されない。

 

 本当に童貞の様で前戯は疎か、雰囲気作りにキスをする事さえ無く下着に手を掛けてきた。

 

「ガブッ!」

 

「っ! いてーな!」

 

 噛み付いてやったら平手打ちをされる。

 

「っ! ふん、お前のその粗チンで女を感じさせられる訳が無いだろ?」

 

「粗、粗チンだとぉ!?」

 

 因みに、騎士の分身は決して小さい訳ではない。

 

 一応は平均値というか、だいたい一五cmくらいであろうか? 対して比ぶる対象は今現在のハジメだ。

 

 約二五cm。

 

 本来のハジメだと騎士とどっこいどっこいだろう、然しユート謹製の丸薬を飲んだ影響が肉体の端々に顕れており、アッチの方まで強化されていた。

 

 ユートが意図的にそうしたのか、或いは単純に副作用みたいなのもかはハジメにも恵里にも判らないが、恵里も強化が成されていた辺り、意図したものではないのかも知れない。

 

「それにボクは彼氏以外に挿入れさせる気は無いよ」

 

「なにぃ……」

 

 バクッ!

 

 言い募る事が出来ず騎士はその場から消えた。

 

「フフ、御苦労様。食事の味は美味しかったのかな? ベノスネーカー」

 

 ベノスネーカー。

 

 ミラーモンスターと呼ばれる一種、スネーカーの名の通り蛇型をしている。

 

 仮面ライダー王蛇の契約モンスターであり、紫色が主体のコブラ型モンスターで可成り狂暴なタイプだ。

 

 勿論、このベノスネーカーはユートが【至高と究極の聖魔獣】で創造した存在な為、それ程までに狂暴という訳でもないのだけど、やはり気が荒い部分があるのは仕方がないだろう。

 

 恵里と契約をしていて、騎士を喰わせたのも恵里が殺った事。

 

 ユート謹製ミラーモンスターは契約者のエネルギーを糧にする為、取り分けて捕食をさせる必要性は無いのだが、こういう時に恵里は積極的に使っていた。

 

 また、オルクス大迷宮では魔物を喰わせている。

 

 中村恵里は歪んでいた。

 

 ハジメとの交際でマシになりはしたものの、人間を『食事』と言い切れる程度には歪みを保っている。

 

 ユートも知りながらこれを……仮面ライダー王蛇のカードデッキを渡した。

 

 美少女だからでは無く、とある理由から万が一での保険として……だ。

 

 中村恵里が天之河光輝に懸想していた頃、トータスに来た事で野心を刺激された彼女は、周囲に存在する天之河光輝の侍る女を排除しようと考えていた。

 

 好きな男を独り占めに、誰しも考える事だろう。

 

 天之河光輝みたいな外面はキラキラした男なら尚更な話、謂わばモテるのだから独り占めは難しいから。

 

 因みにだが、今現在での恵里は天之河光輝に全くの好意が存在しない。

 

 流石にオルクス大迷宮の事から千年の恋も醒めて、更には南雲ハジメに想いを移すイベントを経た為に。

 

 尚、居なくなった騎士に関しては特に騒ぎも起きたりせず、翌日以降も通常の騎士団運営だったらしい。

 

 居ても居なくても構わない人間だった様で、喰われた後も気にされる事などは無かった様である。

 

 そして遂に運命のー大迷宮攻略が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 北山脈地帯に到着をしたユート一行、バスからゾロゾロと降りていく。

 

「それで、これからどうするんですか? 人海戦術には人数が足りませんし」

 

「先生、こんなだだっ広くて険しい山を当てなど無く捜し回りたいか?」

 

「えっと……」

 

 大自然の山脈を見遣り、タラリと汗を流す。

 

「遠慮したいですねぇ」

 

 あっという間に挫折してしまったらしい。

 

「それで? 人海戦術じゃないならどうするのよ」

 

「サーチャーをバラ撒くに決まっている」

 

 言うが早いかサーチャーを早速バラ撒いた。

 

 何やら小さな光が無数に浮いており、それがユートの命じる侭に飛翔する。

 

 空中にモニターが顕れ、ユートが仮想デバイスを操つると、サーチャーから送られてきた映像が表示されていく。

 

「こ、これは!?」

 

 優花は驚愕した。

 

「これ、まさか【魔法少女リリカルなのは】に出てくるサーチャーかよ?」

 

 玉井淳史は識っていたらしく、優花とはまた違った意味で驚きを露わにした。

 

(それにしても、ハジメをオタク呼ばわりする割にはコイツら、普通にアニメの知識が有るよな)

 

 結局、コイツらも観る事は観ているのだろう。

 

「玉井君、そのリリカルとかって何ですか?」

 

「【魔法少女リリカルなのは】ってアニメですよ! 高町なのはという小学生が主人公で、一部では魔砲とか呼ばれるパワー思考なんだけど、そんな女の子達が活躍をするんです。放映は二〇〇四年と二〇〇五年と二〇〇七年で三期までを、漫画で第四期のシリーズをやってる人気作品ですよ」

 

「は、はぁ……」

 

 熱く語られて引いてしまう愛子先生ではあったが、どうやらある程度は熱意も伝わったらしい。

 

(こりゃ、明らかに視聴をしていたな。しかも漫画も読んでいるみたいだし)

 

 素晴らしいまでに語った玉井淳史に、ユートは生暖かい視線を向けていた。

 

「識っているなら話は早いってもんだ。サーチャーで周囲を調べるだけの簡単な御仕事ってな」

 

 完全に手持ちぶさたとなってしまう同行者達。

 

 仕方ないから玉井淳史が【魔法少女リリカルなのは】を語り、愛子先生がそれを理解するまでに至る。

 

「見付けた」

 

「え? 何をですか?」

 

「戦闘の痕跡。比較的新しいものだが……何だろう、盾や剣が焦げているな」

 

 可成り状態が酷いのが、モニター越しにも判る。

 

「現場に急ぐぞ!」

 

 ユートが駆けると同時に雫が先駆け、ユエ、シア、香織、ミレディの順で一斉に駆け出した。

 

「ちょっと、待ってよ!」

 

 叫びながら優花も駆け出して、そんな後を追う様に宮崎奈々と菅原妙子と玉井淳史が走り出し、一番遅れて愛子先生が慌てて走る。

 

 だけど体力的にキツく、ユートとずっと居た雫達は全く疲労していないのに、優花達はもう肩で息を吐きつつヨロヨロ駆けていた。

 

「ゼハァ、ゼハァ! 何だよこの差は……」

 

「キツいよぉ」

 

「し、死にそう……」

 

 玉井淳史を筆頭に、宮崎奈々と菅原妙子は弱音を吐き始める。

 

 愛子先生は声を出す元気すら無くなっていた。

 

「ねぇ、ちょっと待って! 皆が疲れてしまっているのよ!」

 

「時間が惜しい。あの様子じゃ手遅れっぽいけどな」

 

「……う」

 

 人命が懸かっていると聞いては、疲れたから動けませんなどと言えやしない。

 

「仕方がないな」

 

 ヒョイ!

 

「キャッ!?」

 

「うひゃぁぁぁっ!?」

 

 ユートは優花と愛子先生をそれぞれ、肩へと乗せてから再び駆け出した。

 

 小柄とはいえ人間を二人も乗せているとは思えない速度、しかも軽々とそれを熟す膂力に驚愕を禁じ得ない優花と愛子先生。

 

「っていうか、何で二人は特別扱いを受けてんの?」

 

「差別反対……」

 

 宮崎奈々と菅原妙子が、ユートに抗議をしてくる。

 

「差別じゃなく区別だよ。二人は君らと違うOK?」

 

「どう違うのよ!?」

 

「そりゃ、ベッドで可愛がる関係?」

 

『『『ぶふっ!』』』

 

 一斉に吹き出した。

 

「ゆ、優斗!?」

 

「緒方君!」

 

 余りに決定的過ぎる科白で真っ赤な二人、特に優花は処女喪失したのが遂先頃の事なだけに恥ずかしい。

 

 否、それでなくとも閨事をバラされたら羞恥心から顔を上げられなかった。

 

「兎に角、先を急ぐ」

 

 最早、質問は許さないとばかりに駆け抜ける。

 

 取り敢えずその場所へと移動し、現場に着いて実際に手に取ってみた武具は、やはり黒々と焼け焦げているらしい。

 

「何なんだこれ?」

 

 玉井淳史が呻く様に呟いたのは益体も無い科白。

 

「何らかの高熱に晒されたんだろうな。下手すると竜のブレスとかかもね」

 

「りゅ、って! ドラゴンなんて居るのかよ!」

 

「そりゃ居るさ。竜人族という種族は竜と人のどちらでもあり、どちらにも成り切れない半端者とか云われているくらいだしな。竜という魔物が存在していないとおかしいだろ?」

 

「それは……まぁ」

 

 竜人族なんて竜が居るからこその概念だ。

 

 更に先へ進むとそこには争いの形跡が散見された。

 

 立ち折れた木や枝に踏みしめられた草木、折れた剣や飛び散る血痕もある。

 

 それらを発見する度に、愛子達の表情が強ばっていくし、堪えるのか顔色も悪くなる一方だった。

 

 暫くの間は争いの形跡を追っていくと、一番前方で索敵を担当するシアが光る何かを発見する。

 

「ユートさん、これってば冒険者さんのペンダントでしょうか?」

 

「遺留品かも知れないな。調べてみようか」

 

 シアからペンダントを受け取って汚れを落とすと、通常のペンダントではなくロケットと気付き、め金を外して中を見てみると女性の写真が入っていた。

 

「写真か。この世界は剣と魔法のファンタジーなのに時折、こういう科学の代物が出てくるよな。誰かしらの恋人……か?」

 

 大した手掛かりではないだろうが、錆びたり欠けたりといった風でもないし、最近の物だと思われたから回収はしておく。

 

 その後も遺品と呼ぶべき物は発見されたのだけど、全てを持って帰っても邪魔だろうし、身元特定に繋がりそうなのだけは取り敢えず回収しておく事に。

 

「おかしいな」

 

「……ん、どうしてか魔物に会わない」

 

 どれくらい探索したか、日もそろそろ暮れて野営の準備に入る時間に差し掛かっていたが、野生動物以外で生命反応が特には無く、魔物との遭遇も警戒していたが感知すらされない。

 

「戦闘痕から派手に襲われたみたいだが……」

 

「……既に引き上げた?」

 

「かも知れないな」

 

 ユエからの意見に頷く。

 

とはいえ位置的には八合目と九合目の間、未だ山は越えていないとは言え普通であれば雑魚くらいの魔物の一匹や二匹出てもおかしくない筈で、逆に不気味さを感じてしまうのも確か。

 

 暫く探索をしていたら、サーチャーが又もや異常のある場所を探し当てた。

 

 大規模に破壊された跡があったのだ。

 

 ユート達が急行したそこは大きな川、上流に小さい滝が見えて水量が多く流れもそれなりに激しい。

 

「途中で大きく抉れてる。横からレーザーか何かに抉り飛ばされた感じか」

 

「流石にレーザーとか無いでしょうよ」

 

 雫が否定する。

 

「まぁ、カメラくらいならまだしも……ね」

 

 カメラなら開発されてもおかしくないが、曲がり形にも魔法が存在するのに、一足飛びで光を集積させて放つ兵器が開発されるとは考えられない。

 

 それこそ、そういう知識と技術を持った転生者なり転移者が居なければ。

 

 例えばユーキみたいな。

 

「どうやらこの辺りで大規模な戦闘があった様だね。この足跡からするとそれなりに大型で、二足歩行する魔物だろうけど。そういえば山二つ向こうに越えたらブルタールってオーガっぽい魔物が居た。だけどこの抉れた地面からすると……何か別のも居た?」

 

 ブルタール……オーガの類いで、防御を大幅に引き上げる【金剛】の下位互換な【剛壁】という固有魔法を持っているし、基本的に群れを成して行動しているからそれなりには強敵だ。

 

 尚、【金剛】を魔物から簒奪しているから【剛壁】は要らない子である。

 

「川を下ってみるか」

 

 若しかしたら川を流された可能性もあると考慮し、ユートは下流に向かい川辺を下っていく。

 

 暫く進むと先程より立派な滝に出会す。

 

「ハァハァ……二人も抱えて元気よね」

 

 流石に疲れが出始めたのか雫の息が荒い。

 

「雫も抱えようか?」

 

「魅力的な提案だけれど、何処に抱えるのよ?」

 

 既に両肩には優花と愛子先生が居る。

 

「背中におんぶ」

 

「何だか絵面的に情けないから止めとくわ」

 

 想像したのか表情が引き攣っていた。

 

 両肩の二人と背中に張り付く雫の図……確かに酷い絵面になりそうだ。

 

 二人を抱えながら軽快に滝の横の崖を降りて行き、滝壺付近へと着地をする。

 

 滝によくある清涼な風、それが一日中探索に明け暮れ疲れた心身を優しく癒してくれた。

 

「うん? 人の気配か……風じゃなく水と土、滝の向こう側の洞穴か……ユエ」

 

「……ん、了解」

 

 両手が塞がるユートに代わって魔法を使う。

 

「【波城】、【風壁】」

 

 滝と滝壺の水が真っ二つに割れ、飛び散る水滴は風の壁によって払われた。

 

 水系魔法の【波城】と、風系魔法の【風壁】、これは高圧縮した水の壁を作る複合魔法である。

 

 詠唱をせず陣も無しに、二つの属性の魔法を同時に応用して行使、愛子先生はユエの能力を知っていたから驚かないけど、優花達は驚愕に目を見開きつつ口をポカンと開けていた。

 

「今、詠唱無しで?」

 

「陣も出ないし……」

 

「無詠唱なんてなよくある技術だろ?」

 

 宮崎奈々と菅原妙子……二人の言葉にユートは呆れながら言う。

 

 斯く言うユートも通常は詠唱したり魔法陣を現出させたり、割と普通な魔法の使い方をしていた。

 

「さて、行くぞ。ユエなら一日中でも保つがな」

 

 【閃姫】故に恒星にして数個分のエネルギー強度と量を扱えるタンクを使えるユエは、魔法の効果を幾らでも持続が可能となってはいるけど、だからといって無駄に時間を過ごす意味は全く無い。

 

 僅かな光しかないから、ライティングで光を生み出し洞窟内を進むと、空洞となる開けた場所に来た。

 

「見付けた」

 

 金髪の青年……二十代といった処か、端正な顔立ちから育ちは良さそうだ。

 

「貴族っぽいからコイツがイルワの言ってたボンクラ……ウィル・クデタか」

 

 当たりを引いたらしい。

 

「それにしてもボンクラってのは酷いわね」

 

 雫が苦笑いをしながらも呟くと……

 

「ボンクラさ。ギルド支部長の命令とはいえ冒険者が護衛をした。結果、アイツは生きている。アイツを護った冒険者は力及ばず死んだろうが、護衛対象は生き残らせた。優秀だったのは間違いないな」

 

 忌々しそうに応えた。

 

 人格面は判らないけど、少なくとも冒険者としては有能だ、死なすには惜しいと思える程度には。

 

 実力は兎も角、冒険者の度量は黒のなんちゃらとは比べ物にもなるまい。

 

「こんなボンクラを護る為に死すべきじゃあるまい、勿体無い話だよなホント」

 

 ユートはウィル・クデタらしき青年の襟首を掴み、億劫そうに手を振り被るとパパパパパパパパンッ! 往復ビンタを喰らわせた。

 

「い、痛い? いったい、何なんですか!?」

 

「お前は、クデタ伯爵家のウィル・クデタで間違いはないな?」

 

「……へ? 貴方は?」

 

 パン! ビンタをする。

 

「疾く答えろ! 然もなくばビンタを続けるぞ」

 

「ヒッ! そ、そうです! 私はクデタ伯爵家の三男であるウィル・クデタ! 貴方はいったい?」

 

「イルワ・チャングの依頼でお前を捜しに来た冒険者……ユート・オガタ・スプリングフィールドだ」

 

「イルワさんが、私を? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ。あの、貴方も有難う御座います。イルワさんから依頼を受けるなんて、余程の凄腕なのですね」

 

 何処か尊敬を含む眼差しを向けてくるウィルだが、どうやら往復ビンタを喰らった件は気にしてはいないらしい。

 

 少なくとも、男爵家だというオーク貴族(プーム・ミン)より人としての度量は上の様だ。

 

 ウィル・クデタは自分達に起きた出来事を話す。

 

「私達は教えられた今日の日付からすると五日前に、ユートさん達と同じ山道に入り五合目の少し上の辺りでしたか突然、一〇体もの巨躯な魔物のブルタールと遭遇しました。そんな数と戦闘は出来ませんからね、私達は撤退をしましたが、ブルタールの数がどんどん増えていき、気が付いたら六合目辺りの川でしたよ。ブルタールの群れに囲まれてしまい、包囲網を脱出する為に、盾役と軽戦士だった彼らが犠牲になってしまいました。私達は追い立てられながら、大きな川に出た其処で……うう……」

 

 ウィル・クデタは思い出したのか震え始める。

 

「絶望が現れたのです……あの漆黒の竜!」

 

 その漆黒の竜はウィル達が川沿いに出て来た瞬間、特大のブレスを吐き出してきて、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落をしてしまい流される。

 

 アップアップしながらも見た限り、そのブレスにより一人が跡形もなく消え、残りの二人もブルタールと漆黒の竜に挟撃されていたのだという。

 

 その後ウィルはといえば……流される侭に滝壺へと落ち、偶然に見付けたこの洞窟に身を隠したとか。

 

 ウィルはグジグジと泣き始めるが、ユートからすれば忌々しい限りだ。

 

 恐らくベテラン冒険者な彼らは、ウィル・クデタなる素人さえ居なければ最低でも半分は生き残れた可能性が高い。

 

 聞く限りでは漆黒の竜に出会ったのはそれなりに後だから、上手く身を隠せたら犠牲者を出す事も無く、彼らは逃げおおせたかも知れないのだ。

 

 無論、可能性は可能性、上手く逃げ切れずに死んだ可能性もある。

 

「兎に角、フューレンへと急いで戻るぞ。ウィル・クデタ……アンタには彼らの代わりに情報を伝える義務が有るからな!」

 

 ウィル・クデタの嘆き、そんなものは考慮に値しないのだと、ユートはウィル・クデタを立ち上がらせて洞窟を出るのだった。

 

 

.




 ハジメ達の出番を作ったら予定を大幅に超過して、ティオ戦に入る事すら出来ませんでした……

 正確には恵里の出番となっていますけど。





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第41話:クラルス一族 神の毒に呪いあれ

 ティオ登場。





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「それにしても竜……か、久し振りにドラゴンステーキといくか? クックッ、獲物を前に舌舐めずりとは三流のする事、某・専門家な兵士が言っていたけど、食肉(えもの)を前に舌舐めずりは仕方がないよな」

 

 割ととんでもない事を、ユートは平然と言う。

 

(でも竜は魔物なのかね? だとしたらこの世界の竜は不味い……のか?)

 

「あ、あの……」

 

「何だ? ボンクラ三男」

 

「ボ、ボンクラ三男って……ああ、いえ。そんな事よりユートさんでしたか? まるであの絶望と戦うみたいな事を仰有いますが?」

 

「当たり前だろう」

 

「じょ、冗談でしょう? ゲイルさん達がまともに戦えなかった相手ですよ!」

 

「ゲイル・ホモルカか? ゲイでホモって、名は体を表すとはよく云ったよな」

 

 ゲイもホモも同性愛者を示す言葉で、特に日本に於いては男色家を表す。

 

 彼の冒険者リーダーたるゲイル・ホモルカは、何と恋人が男で本人も男であると聞いている。

 

 しかも何だか死亡フラグを建設していたらしい。

 

 ある世界に主人公を神雷から救った結果、代わりに本来なら彼が行く筈だった世界や人を救うべく行った世界……其処で知り合って仲好くなってあろう事か、男女の仲にまで発展をした恋愛神が曰く、彼女の仕事は道筋を立てる事であり、死亡フラグ――『俺、帰ったら結婚するんだ』とかをほざくと、結婚が出来ない様にするんだとか。

 

 ゲイル・ホモルカはそれに触れてしまった訳だが、だからといってあの世界の恋愛神な緒方花恋が居る筈も無い。

 

(この世界って、エヒトルジュエと眷属神アルヴくらいだと思ったんだけどな)

 

 後はリューンみたいな、量産型の使徒……一神教で云う天使が大量生産をされている程度だ。

 

 まぁ、外見的に限ったらヴァルキリーっぽくて何処ぞの清貧戦乙女(ロスヴァイセ)を思い出すが……

 

「と、兎に角! 私は反対です!」

 

「確かにお前自身は依頼主でも何でも無いにせよだ、イルワ・チャングから受けた依頼内容からすれば竜と戦うべきではないかな」

 

「でしたら!」

 

「仕方がない、ウルの町は諦める方向性だろうな」

 

「は? どうしてウルの町がどうとかって話に?」

 

 本気で理解が及ばない、そんな顔で訊いてくる。

 

「簡単な話だ。竜の目的は暫定的だがウィル・クデタ……お前だからな」

 

「は、はぁ!?」

 

 正しくとんでもない予測をされ、ウィル・クデタは絶叫を上げるしかない。

 

「落ち着け、暫定的な予測ってだけだよ」

 

「で、でも!?」

 

 ウィル・クデタだけではなく、雫達……ユート一行や愛子先生と護衛隊の面々も驚き目を見開いている。

 

「そもそも、最初に襲撃を仕掛けてきたブルタール、あれからしてウィル・クデタだけでなく、この北山脈地帯に潜り込んだ鼠を始末するべく放たれた可能性が高い。そして冒険者を面倒な相手と視た誰かは竜という最強の一手を放った」

 

「な、私達が標的?」

 

「まるで挟撃されたみたいにじゃない、挟撃されたんだよ……文字通りにな」

 

「ど、どうして!?」

 

「この北山脈地帯で何かしら疚しい事を仕出かしていた奴からすれば、調査に来た冒険者なんか邪魔者以外の何者でも無いだろ?」

 

 言いたい事はウィル・クデタにも理解は出来たが、それでも自分が狙われているなどと思いたくも無い。

 

「だいたいにして、何者かってのは誰ですか!」

 

「ハイリヒ王国というか、神山で勇者召喚が行われたのを知っているか?」

 

「え、はい。概要くらいにはですが」

 

 勇者召喚という科白に、愛子先生が顔を上げた。

 

「普通、天職持ちはそれなりにレアらしいが、勇者とその仲間は全員が天職を与えられてた」

 

「それは凄いですね」

 

「まぁ、中には非戦系天職だったり、ステイタス数値が低かったりした者も若干ながら居たがね。それで、その中に闇術師も居た」

 

「ゆ、緒方君!?」

 

 ユートの意図を気付き、愛子先生が絶叫をする。

 

「闇……術師……洗脳! え、まさか? 私を狙ったのは勇者一行の闇術師?」

 

「ち、違います! 清水君がそんな事をする筈がありません!」

 

「シミズ君? それがその闇術師の名前ですか?」

 

「違います! 絶対絶対! 違うんですっっ!」

 

 愛子先生が大きく首を振りながら絶叫、目には大粒の涙が溜まっていた。

 

「いい加減で現実を見ろよ先生。明らかに操作された動きの魔物は闇術師の魔法で洗脳されているだろう、そして同じ頃に姿を消した清水幸利。町には姿が無いからこの北山脈地帯にまで捜しに来たんだろう?」

 

「そ、れは……」

 

 違うと更に言い募りたい愛子先生だが、状況証拠だけを鑑みれば極めて黒に近いグレーと言わざるを得なかったし、少なくとも本人を見付けて否定して貰わないとならないだろう。

 

「ねぇ、でも魔人族も魔物を操る術を得たのよね? そもそもそれが理由で私達が召喚されたんだし」

 

「そ、そうですよ! 魔人族の仕業の可能性の方が高いんじゃないですか?」

 

「魔人族の使っているのはヴァンドゥル・シュネーが使っていた変成魔法、オルクス大迷宮にて手に入れた生成魔法が無機物の操作ならば、変成魔法は有機物の操作を行う魔法。これにより動物を魔物化、若しくは魔物を強化して操っているんだろうがな」

 

 ミレディを見遣りながら言うと……

 

「うん……ヴァンちゃんの変成魔法は魔人族の領地に置かれているからね。魔人族なら手に入れてもおかしくはないかな?」

 

 肯定する様に頷いた。

 

「そ、そうなんですか? でもどうして【解放者】のお仲間なのに、魔人族領に大迷宮を?」

 

「ヴァンちゃんは魔人族と氷竜人族のハーフ、ミレディちゃん達はそれぞれ所縁の地に自分の大迷宮を置いたからさ」

 

「所縁の地?」

 

「オー君はオルクス大迷宮だけど、嘗て孤児院の兄弟を攫われた場所を大迷宮に造り変えたし、ミレディたんはライセン大峡谷の内部にライセン大迷宮を拵えたのさ。同じ様にメル姉だとメルジーネ海底遺跡って呼ばれてる場所、ナっちゃんはグリューエン大砂漠で、ラウ君が神山にバーン大迷宮を、リューちゃんがハルツィナ樹海だったっけか? で、ヴァンちゃんがシュネー雪原だよ」

 

 今現在と嘗ての呼び名が異なるが、一応はユートから聞いて把握をしていた。

 基本的には彼女らの姓が付けられている為、物凄く判り易いと言えば判り易いのではなかろうか?

 

 当たり前だが【解放者】が動いていた頃、元々の名がそうなハルツィナ共和国とライセン大峡谷を除き、他は後に名付けられたのは明白である。

 

 尤も、ハルツィナ共和国はハルツィナ樹海と名前を変えて、国もフェアベルゲンに変化をしているが……

 

「可能性としては0じゃないという程度。清水幸利がやっていると考えた方が、幾らか納得も出来るんだ。というより、本来は自分達でやる予定だったのかも知れないな」

 

「? それはいったいどういう意味ですか?」

 

「動機の問題だ。清水幸利が魔物を洗脳している理由がいまいちでね。そこで、魔人族が清水に接触したと考えた」

 

「なっ!?」

 

 それが意味する処を正しく理解した愛子先生。

 

 即ち、清水幸利が魔人族に寝返ったという。

 

「どうしてそうなるんですか!?」

 

「先ず、少なくとも洗脳か操作かは判らないが魔物が何らかの意思を受けて動いているのは確か。ではその目的は何だ?」

 

「目的……ですか?」

 

「魔人族だったとしたら、この北山脈地帯で動く理由はウルの町しかない」

 

「そうなんですか?」

 

「変成魔法を持つからには単純に魔物を増やしたいのなら、魔人族の住まう国たる魔国ガーランドでも出来る事だ。わざわざ人間の町の近くまで来る理由が有るとすれば、魔人族はウルの町を襲撃する心算だろう」

 

「え?」

 

「ウルの町を襲撃って!」

 

 愛子先生が驚愕に目を見開き、カレー効果で愛着を持つ優花も叫ぶ。

 

「ど、どうしてですか?」

 

「愛子先生だよ」

 

「……へ?」

 

「戦争に於いて糧食というのは大切だ。作農師なんてレア天職持ちが次々と糧食を量産している。邪魔者と厭うのは当然だろうに」

 

 愛子先生が固唾を呑む。

 

「そ、そんなぁ。ゆ、緒方君がやる様に言ったんじゃないですか!?」

 

「意外と早く動いたよな」

 

「予測してた!?」

 

 当たり前だ。

 

 明らかに魔人族が不利になる作農師の活動なんて、ぶち壊したいに決まっているのだから。

 

「予測が出来ていたから、今回の推理も成り立つ」

 

 事前に情報が有ったればこそ、予測をする事も叶うというものだろう。

 

「だけど、連中は自分達でやるより上手くいきそうな人材に目を付けた」

 

「それが清水君?」

 

「勿論、清水が天之河みたいなタイプなら乗らなかっただろうが、生憎とアイツはコンプレックスの塊だ。城で何度か見かけた時も、『俺が勇者なんだ』とか、『あいつら莫迦ばかりだ』とか、『俺をモブ扱いしやがって』とか呟いていた。要するにオタク根性丸出しで異世界転移俺TUEEE! とかしたがっていたのさ」

 

 掻く云うハジメ辺りも似た事は考えていたろうが、彼の場合はありふれた職業で低過ぎる数値の所為で、あっという間に夢破れたと言っても過言ではない。

 

「それに気付いた魔人族が清水を勇者として迎えたらどうだ? 愛子先生を抹殺したらという条件でね」

 

 青褪める愛子先生。

 

「まさか、そんな……」

 

 フラフラと覚束無い足取りで下がり、ペタンと尻餅を突いてしまった。

 

「アイツは常日頃から言っていたからな、魔人族とてそんな言葉は聞いたろう。利用し易いとか与し易いとか思われたろうな」

 

「そんな、そんなぁ……」

 

 ガタガタと震えつつ涙を浮かべながら、愛子先生はガクリと俯いてしまった。

 

 涙が地面に染みを作る。

 

 ユートの言った事は飽く迄も予測に過ぎないけど、情報からして違うと言えないのだ。

 

 黙って居なくなった。

 

 闇術師の洗脳が成されたであろう魔物や竜。

 

 これだけでも最早、白とは言えないくらいにグレーであろう。

 

 寧ろ真っ黒であった。

 

 それにユートの場合は、“情報源”が情報源なだけに疑う余地しか無いのだ。

 

(ユーキから、清水幸利に関して注意する様に言われていたからな)

 

 だからといって某か干渉をする気にはならない。

 

 というより、清水幸利について聞いたのはそもそも仮面ライダーWに変身し、勇者(笑)をボコった日なのだから既に手遅れである。

 

「まぁ、あれやこれや言っても仕方がない。確実だと判る事は洞窟を抜けたら、間違いなく竜がウィル・クデタを襲いに来るって話」

 

「うぇ!?」

 

「当たり前だろう。竜の受けた命令は恐らく目撃者となった連中――ゲイル・ホモルカのパーティとウィル・クデタを抹殺する事だ。まだお前が生きているからには、命令も解除されちゃいないだろうさね」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 情けない声を上げるのは仕方がないのだろうけど、ユートは情け容赦無く外への一歩を踏み出した。

 

 当初は武器や防具くらい身に付けていたのだろう、然し今現在のウィル・クデタは丸腰であり、竜は疎かスライム相当な魔物にすら勝てはすまい。

 

 恐らくレベルも低いだろうし、そもそも召喚されたクラスメイトとは違って、トータスの人間は能力が低いとされている。

 

 レベル60を越えているメルド・ロギンスでさえ、最も高い数値で漸く300そこらだと云うのだから、ウィル・クデタなど三桁処か20を越える数値すらも有るかどうか。

 

 尚、装備やライダーシステムを渡す気は一切無い。

 

 話をしていたらいつの間にか外付近だった所為か、違和感無くウィル・クデタは外に出てしまう。

 

「グゥルルルルッ!」

 

 低い唸り声を上げつつ、艶光をする黒き鱗で全身を鎧い、翼をはためかせながら空中より金の瞳にて睥睨をする、それは間違い様が無いくらい“竜”だった。

 

「ヒィィッ! 絶望が! 漆黒の竜がぁぁぁっ!」

 

「狼狽えるな小僧っ!」

 

「おがぁぁぁしゃまぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 両腕を振り上げてウィル・クデタを吹き飛ばす。

 

 ドシャァアッ! 車田落ちと呼ばれる頭からの落下でピクピクと痙攣しつつ、仰向けになって倒れ伏したウィル・クデタだったが、気絶はしてなかったからかすぐに漆黒の竜から身を隠す様に、玉井淳史の後ろへと逃げ出してしまう。

 

「チッ、素人が。邪魔をするよりはマシか」

 

 何処ぞの赤ロン毛なヘビースモーカー神父だとか、堕天使エロメイド聖人とかの気持ちが解る気がする。

 

 成程、確かに愚痴りたくもなるであろう……と。

 

「ゆう君、どうするの?」

 

「ふむ」

 

 ユートからしたら強敵でも何でも無い。

 

「あれぇ? ヴァンちゃんと似た感じが……若しかしてこの竜って?」

 

 ミレディが呟く。

 

 竜の体長は約七m程。

 

 騎神と同じくらいな為、使えば同じスケールで戦闘が出来そう、全身を艶やかな黒の鱗に鎧われており、長い前足には岩さえ裂けそうな五本の鋭い爪がある。

 

 背中から大きな翼が生えていて、少しばかり輝いて見える事から恐らく魔力を纏っているのだろう。

 

 宵闇に浮かぶ月を連想させる黄金の瞳は、竜種というのが爬虫類だと謂わんばかりに瞳孔が縦に割れて、おどろおどろしくも剣呑に細められていたが、宝石を思わせる美しさだった。

 

ライセン大峡谷の谷底で見たハイベリア、極一般的な認識では厄介な高レベルの魔物ではあるが、目の前の黒竜に比べれば雑魚以外の何物でもない。

 

 大空の王者……その様に云われるだけの威容を竜は確かに放っていた。

 

「僕にとって竜は相性が良過ぎるんだよ!」

 

 香織の質問に答える様に叫び……

 

「呪え、呪われよ我が怒り以て竜蛇を呪え赤き堕天使……神の毒。我が悪意にて全ての竜蛇を呪え呪え呪え呪え呪え……呪い在れ!」

 まるで悪意そのものを、竜蛇への呪いに換えたかの如く聖句を紡いだ。

 

「【神の毒より呪い在れ(ドラゴン・イーター)】」

 

 【神の毒より呪い在れ】――結界型権能で、ユートがカンピオーネに転生後に【ハイスクールD×D】な世界に帰還して、英雄派と呼ばれる【禍の団】の一派との戦いの中で、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスの意志を邪魔と断じた曹操が、冥府の王たるハーデスからコキュートスに封じられたサマエル、【龍喰者(ドラゴン・イーター)】を借り受けて力を分離するべく嗾けた際に、サマエルを逆に喰らってやって権能を獲た。

 

 本来は悪意を持たない筈の聖書の神、それが唯一人に悪意を向けたのである。

 

 それは竜蛇を殺す概念に昇華され、正しく凄まじいまでの呪いに変換をされてしまった。

 

 無限の龍神オーフィスをも弱体化させる程に。

 

 今現在は紅い空間が広がっている訳だが、この空間は竜蛇の全能力を百分の一にまで落として、あらゆる技能や魔法を使用不可能とした上で、結界内で受けたダメージは結界から出ないと治癒しない機能があり、更にユートに限られるにしても能力が一〇倍になる。

 

 ギリギリで竜化は解けていないが、飛ぶ力もブレスも封じられてしまった。

 

 墜ちる七mの巨体。

 

 竜化が解けてないのは、既に成立しているからか?

 

「フッフッフッ、不思議だろうな? 何が起きたのかも理解が出来まい?」

 

〔グルル!?〕

 

 正気を保たぬ竜だけど、やはりこの空間に囚われては何も出来ず、動きも矢鱈と鈍くなっていた。

 

「おらっ!」

 

〔ガァァッ!?〕

 

 顎に蹴りを入れてやると巨体が上空に吹き飛ぶ。

 

「嘘……」

 

 パンチ力が約10t。

 

 キック力が約25t。

 

 とはいえコイツの自重を鑑みれば、吹き飛ばすのは無理ではないかと思うが、膂力がそれだけあったという事だろう。

 

 実際、4000tを越えるデモンベインをワンパンで吹き飛ばしたマスターテリオンも居る。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

 

 オラオラッシュにより、殴り付けられる漆黒の竜は血飛沫を上ており、硬い筈の竜鱗も砕け散っていく。

 

〔ま、ま、ま……〕

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無っ!」

 

 今度は無駄無駄ラッシュだが、結局は単純にぶん殴っているだけである。

 

〔まつ、まて、ひあっ!〕

 

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ! アリーヴェデルチ(さよならだ)!」

 

 今度はアリアリラッシュ……イタリア語だから普通はCorsaだけど。

 

 尚、最後の科白はイタリア語で別れの挨拶となる。

 

「次は……」

 

〔ま、待つのじゃ!〕

 

『『『『っ!?』』』』

 

 魔物だと思っていた竜が喋った事に、殆んど全員が驚愕に目を見開いた。

 

 ミレディは『やっぱり』と言わんばかりだったし、ユートは喋ろうが喋るまいが関係無かったから驚きは特に無い。

 

「竜人族か。だとしたら、君の名はティオ・クラルスで間違いないか?」

 

〔わ、妾の名前を知っておるのか? 如何にも、妾は最後の竜人族たるクラルス族の一人じゃ〕

 

「やっぱり情報通りだな。いつ何処で出逢うかまでは聞いてないが、本来であればハジメのヒロインだった一人。ユエとシアにティオが加われば、後はミュウとレミアの母娘のみだ」

 

 尚、地球人側は除く。

 

「それにしてもだ、洗脳はいつ解除された?」

 

〔御主に顎を蹴り抜かれた時には解けておったわ!〕

 

「蹴り? 最初の一撃じゃないか」

 

〔あの脳天を衝く衝撃で、妾は正気を取り戻した〕

 

「成程な」

 

 無駄に痛い目を見ていたというティオ・クラルス、その背中は悲哀を漂わせている気がする。

 

「取り敢えず人型を取れ。洗脳も解除されたんなら、攻撃の意志は有るまい?」

 

〔うむ、承ったのじゃ〕

 

 光と共にティオ・クラルスが縮んでしまい、黒くて長い髪の毛に金の瞳で黒い着物を着た美女に成る。

 

 胸はシアよりでっかい、彼女がメロンならティオはスイカであろう。

 

 スケールからすれば程好い大きさなユエは、その胸を視て自らの胸をペチペチと触っていた。

 

「面倒を掛けた。本当に申し訳ない」

 

「随分とアッサリ洗脳をされたもんだな?」

 

「う、うむ。これにはふか〜い訳があってのぅ」

 

「深い訳? 不快なとか、不愉快な訳じゃなく?」

 

「おうっふ、中々に辛辣な事極まりないのぅ」

 

 元々は隠れ里に住んでいたティオ、然し数ヶ月前に局地的な大魔力を観測。

 

 この世界に何かがやって来たのを感知した。

 

 数百年も前から竜人族は表舞台に関わらないという種族の掟が出来たのだが、流石にこの未知の来訪者の件を何も知らない侭で放置するのは、自分達にとっても不味いのではないかと、一族での議論の末に調査の決定が成されたのである。

 

 ティオは割と強引に自らが調査するという目的で、集落から飛び出してきたのだと云う。

 

 山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族である事を秘匿して情報収集に励む心算だったのだが、その前に休息をと思い少しばかり休んでいた。

 

 周囲には魔物もいるし、竜人族の固有魔法【竜化】により、先程まで取っていた姿の黒竜状態になって。

 

「そんな折りじゃったの、妾が眠っておるのを良い事に黒いローブを着た男が、闇魔法による洗脳を仕掛けてきおってのぅ」

 

「闇……魔法……」

 

「恐ろしい男じゃったの。闇系統の魔法に関しては正しく天才だと言っても良いレベルじゃろうな。そんな男に丸一日懸けて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど流石に耐えられんかったよ。ホンに一生の不覚じゃった!」

 

 ぬぐぐっ! と悔しげな表情で拳を握るティオ・クラルスだったが……

 

「それって要するに調査に来ていながら丸一日の間、魔法が掛けられているのにも気付かないくらい爆睡していたって事だろうに」

 

 ユートが莫迦を視る目を向けながら言った。

 

「そ、そうとも云うの」

 

 明後日の方向に目を逸らしていたと云う。

 

 尚、一日という時間が判ったのは単純に、黒ローブ本人が――『ま、丸一日も掛かるなんて』と愚痴っていたのを聞いたから。

 

 洗脳されても記憶は普通に残るし、自意識を封じられた訳ではないのだ。

 

 洗脳後、ローブの男に従って二つ目の山脈以降で、魔物の洗脳を手伝わされていたらしい。

 

 そんなある日、一つ目の山脈へと移動をさせていたブルタールの群れが、山に調査依頼を受け訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令に従って追い掛け回した。

 

 ブルタールの中の一匹がローブの男に報告に向かい万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは厄介と考え万全を期してティオを放った様だ。

 

 そして現在、脳天を衝く程の激震を喰らって正気に立ち戻るも、それを主張する前に『オラオラオラオラオラオラ』とか『無駄無駄無駄無駄』とか『アリアリアリアリアリ』とかユートが叫びながらフルボッコにしてくれたのだと云う。

 

「ふ、巫山戯るなぁっ!」

 

 ティオ・クラルスの事情説明が終えた時、激昂しながら絶叫が発せられた。

 

 ウィル・クデタが拳を握り締め、その瞳に怒りを宿しティオを睨んでいる。

 

「……操られていたから、ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方がない……とでも言う心算かっ!」

 

 心境に余裕が出来たからだろう、仲間として連れて来てくれた冒険者達を殺された事に対する怒りが湧き上がってきたらしい。

 

「……」

 

 ティオ・クラルスは一切の反論をしなかった。

 

 静かにウィル・クデタの言葉の全てを受け止めて、金の瞳が真っ直ぐに彼の目を見つめている。

 

 その態度が余裕に取れてまた気に食わないのか……

 

「大体にして、さっきの話だって本当かどうかなんて判らないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

 

 更に言い募った。

 

「……今の話は真実じゃ。それは竜人族の誇りに懸けて嘘偽りでないと誓おう」

 

 ティオの言葉に反論しようとするウィルだったが、それに対して急にユエが口を挟んでくる。

 

「……きっと嘘じゃない」

「そんな、一体何の根拠があって!」

 

「……竜人族は高潔にして清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も今よりもっと身近なもの。彼女は『竜人族の誇りに懸けて』……と言っていた。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘吐きの目とはどういうものか、私はよく知っているから……」

 

 今にして思えば三百年前のユエの周囲には、嘘が溢れ返っていたのであろう。

 

 最も身近な嘘に目を逸らし続けた結果が、あの裏切りに繋がっていたのだからユエは痛い授業料を支払わされたものだった。

 

 そんな痛くて苦い経験をしながらユートに懐いているのは、(ひとえ)に言葉から嘘を全く感じなかったからである。

 

 ユートとて全く嘘を吐かない訳ではないが、悪意のある嘘を吐いて誰かを故意に傷付けたりしないから。

 

 それを感じるからこそ、図らずも三百年間守り続けた処女を捧げたし今も尚、愛人として御奉仕するのに躊躇いがない。

 

「ふむ、我らが表舞台から消えて数百年。この時代にも竜人族の在り方を知る者が未だに居たとは……否、“昔”と言ったかの?」

 

 既に数百年前のしくじりにより、歴史の表舞台から姿を消す事を余儀無くされた竜人族、そんな自分達の在り方を未だに語り継ぐ者が居る、だからか若干嬉しそうな声音のティオ。

 

「……ん、私は吸血鬼族の生き残り。私が本来生きてた三百年前は、よく王族の在り方の見本に竜人族の話を聞かされた」

 

「何と吸血鬼族の……しかも三百年前とは……成程、死んだと聞いていたのだが……主が嘗ての吸血姫か。確か名は……アレ」

 

「……ユエ」

 

「ふむ?」

 

 本当の名前を呼ばれ掛けたユエは、ティオの科白に被せて今の名を告げた。

 

「……今の私の名前。大切な人に貰った大切な名前。だからそう呼んで欲しい」

 

 それはまるで宝物であるかの如く、ユエの心に暖かなナニかを感じさせた。

 

「くっ、それでも! それでも殺した事に変わりないじゃないですか! それはどうしようもなかったってのは判ってはいますけど、それでもっ! ゲイルさんはこの仕事が終わったら、その時はプロポーズをするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

「実はホントに花恋姉さんが居たりするのか? この世界には……」

 

 原作が違うし習合もされていないから居ません。

 

「だから殺すべきだと?」

 

「そうです! それにまた洗脳されたりしたら!」

 

「いや、丸一日も掛かる訳だから流石に二度も同じ手に掛からんだろう」

 

「今の内に処分を!」

 

「まぁ、そこまで言うなら仕方がない。ほれ」

 

 ウィル・クデタはユートから手渡された片手剣に、戸惑いを覚えながらユートの顔と剣を交互に見る。

 

「それはレプリカに過ぎないんだが……」

 

「な、何じゃ? 妾を殺す気満々な嫌な気配じゃの」

 

「竜殺しの聖剣アスカロンという」

 

「あ、アスカロン?」

 

「竜殺しとはのぅ」

 

 ミレディが思い出す。

 

「オー君が造った【ドラゴン殺せる剣】みたいな?」

 

「そういや有ったな、彼の工房ん中に」

 

 効力の程は窺い知れないのだが、オルクス大迷宮の邸に存在したオスカー・オルクスの工房内に、試験的に造ったらしい竜殺しの剣――【ドラゴン殺せる剣】という“銘”の剣が無造作に置いてあった。

 

 そう、銘が【ドラゴン殺せる剣】だった訳であり、思わず『電車斬り』とかを思い浮かべてしまう。

 

「そのアスカロン・レプリカは嘗て、僕の知り合いが天使長から授かった剣を視て【創成】で創った物だ。レプリカとはいえきちんと竜殺しの概念が付与され、普通に竜への特効が付いているから、結界で弱体化して人型に戻っている上に、ダメージも効いている今ならお前みたいなボンクラでも殺せる。だからティオ・クラルスを斬って遠慮無く殺すと良い」

 

「え、あ……う……」

 

「刃を寝かせて押し当てるだけでも焼け爛れ、醜く酷い傷が残せる聖剣だから、復讐をしたいなら幾らでも殺れば良い」

 

「で、ですが……その……貴方は止めようとか思わないのですか?」

 

「止めて欲しいのか?」

 

「いえ、例えばですが」

 

「復讐を止める気は無い。虐げられた者が仕返しをするのは権利みたいなもの。復讐は何も生まないとか、連鎖がどうのとか、復讐をした後は虚無感しか残らないとか、訳知り顔で綺麗事を言う心算は更々無いな。だから殺せば良いさ、尤も……ティオ・クラルスってクラルス一族だと言っていたから、つまりはクラルスの族長とか姫君って身分。今度は人間族が竜人族から復讐されるかも知れんが。魔人族との戦争中に他と殺り合う余裕が有ると良いんだけど……な」

 

「なっ!?」

 

「さっき連鎖がどうのとか言ったろ? 綺麗事じゃなく事実として理由の如何に拘わらず、復讐された者の親族が復讐した者に復讐をする。有り得るとは思うんだけどな」

 

「それは。でしたら何故、私を止めないのですか?」

 

「それも含めて好きに考えて好きに行動しろ。その昔に【解放者】って連中だって言ってる。『人の未来が自由な意思の元にあらん事を切に願う』ってさ」

 

 尚、文句を言いたいであろうクラルスの姫と【解放者】のリーダーだった少女は今現在、口を動かせない様にされている。

 

(竜人族はその様な事などせぬわ!)

 

 やらかしそうな若者とか居るけど。

 

(自由の意味が違うし!)

 

 それは自由というよりは横暴であろうか?

 

「で、ですが!」

 

「結局、お前は殺せない。そういう事だな」

 

「っ!」

 

 ビクリと肩が震えた。

 

「お前、僕が賛同して殺してくれるのを期待したか? 流石はボンクラ貴族だ。貴族が肌に合わないって、いったいどんなジョークかよって話だな」

 

「う……」

 

「寧ろ、イルワが言っていた通り冒険者にこそ向かないな。人間を殺せなかったら仲間諸共に殺されるしかないのに」

 

 盗賊が敵対者で仲間が女なら、目の前で犯される可能性だってある。

 

「イ、イルワさんがそんな事を?」

 

 ガクリと座り込んでしまうウィル・クデタ、その様は黄昏ているというべきではあるが、ユートはそんなボンクラ貴族など最早どうでも良いと見切りを付け、ティオ・クラルスの方へと向き直り……

 

「さて、ティオ・クラルス……君には訊いておきたい事がある」

 

「ふむ、迷惑を掛けた事だしの。訊かれた事には偽り無く答えよう」

 

 改めて口を動かせる様になったティオと、話し合いを始めるのであった。

 

 

.




 変態化は免れました。




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第42話:フューレン支部長との大交渉

 携帯電話が壊れて新規にしたけど、ガラケーの皮を被ったスマホの所為かスッゲー使い難いんですけど……





.

「それで、妾に訊きたい事とはいったい何かのぅ? スリーサイズですら答えてしんぜようぞ」

 

「スリーサイズは後回しで構わない」

 

「聞かないじゃなく後回しなんだ……」

 

 呆れる雫を他所にユートは会話を続ける。

 

 訊くのは確定である。

 

 ユートがしたい質問は早い話が北山脈地帯に溜まった魔物の事、この侭で放っては置けない以上は情報が欲しい。

 

「ふむ、妾が見た時には三千か四千は居ったがのぉ」

 

「よ、四千って! フューレンに来る時に出てきた魔物ですら二百には届かなかったのに!?」

 

 その数に戦慄を覚える雫が叫んでしまい、他もミレディみたいな経験者でもなければやはり青褪めた表情となる。

 

 ユエは判り難いがそれでも眉根を寄せていた。

 

「三千から四千……ね。どうやらその情報は古いみたいだね」

 

「どういう事じゃ?」

 

「今、サーチャーを向かわせてみたんだが……桁が一つ違うわこれ」

 

 サーチャーからの映像が空中にモニターで映される。

 

「あ、サーチャーか!」

 

 リリカルなのはが好きなのか、玉井淳史はすぐに対応していた。

 

 其処には夥しい数の魔物が所狭しと蠢く、正しく地獄に等しい様相が見て取れる。

 

「け、桁違いってあれは……」

 

「下手すると五万から六万だな」

 

 香織の科白にユートは概算だが大凡その数で答えた。

 

「こりゃ、また……大変な事になっちゃってるねぇ」

 

 ミレディは呑気なものだ。

 

「ど、どうしたら? あんな数がウルの町にまで来たら!」

 

「間違いなく呑み込まれるよな。ウルの町の最後……か」

 

「そんな呑気な!? だいたい不謹慎ですよ!」

 

 愛子先生はオロオロと狼狽えていたが、流石に彼女へ『狼狽えるな小娘!』とかはやらない。

 

 っていうか、やったらKY以外のなにものでも無いし。

 

「取り敢えず山を下りるか」

 

「ま、待って下さい!」

 

「こうか?」

 

 ユートがクルクルと見事な舞いを舞い始める。

 

「舞って下さいじゃありません! ユート殿ならあの魔物をどうにか出来ませんか?」

 

「あ、そうですよ! ドラゴンすら圧倒したゆ、緒方君なら!」

 

 ウィル・クデタの提案に愛子先生が希望を見出だす。

 

「こんな勾配がキツい場所で? 冗談言っちゃいけないな。平地なら兎も角、此処じゃ色々と零れ落ちるだけだぞ」

 

「出来ない……とは言わないんですね緒方君」

 

「意味の無い嘘は吐かないと以前にも言ったろ」

 

 ユートは基本的に女の子に対して誠実とはいえない、複数を侍らせる事を普通にやらかすくらいには不誠実である。

 

 だからこそ意味も無く悪意が有る嘘は吐かないし、必要だと思った事はしてもやった。

 

 それが一人だけを見ないで複数を侍る対価に近いし、願いを叶えるくらいはしてやりたい事でもある。

 

「此処に居ても余り意味は無いだろうね、だから早々に山を下りてウルの町に報せるべきじゃないのかな?」

 

 それは紛う事無き正論であり、愛子先生も無視は出来なかった。

 

「わ、判りました……」

 

 確かにこんな山中でやれる事は限られてくるし、ウィル・クデタは確保したのだから早く下山をするのは至極当然。

 

 寧ろ、数万の魔物が犇めく北山脈地帯に居続ける事の方が問題。

 

 愛子先生は素直に頷くより他になかったのである。

 

 ある程度まで下山をすると、停めてあるキャンピングバスの有る場所にまで辿り着く。

 

「これは? 馬車じゃないみたいですが……」

 

「魔動車。魔力を糧に走る車だ」

 

 ユートがハルケギニア時代に造った魔導具、魔動車や魔動単車というのが便利に使われていた。

 

 何しろ馬車よりずっと速い乗り物だし、国王陛下に献上したりヴァリエール公爵やグラモン元帥に渡したり、或いは貴族家に売却をしたりと大活躍だった。

 

 当然、ガリア王家やアルビオン王家や帝政ゲルマニアなど近場の国王や皇帝閣下に献上もする。

 

 それに格安で【魅惑の妖精亭】にも売っていた。

 

 技術力が上がった今なら、それらよりも上の性能を持たせられるのも当然だし、空間湾曲も当時より強く可能となっているからこのキャンピングバスみたいな高級ホテル並の内装にも出来た。

 

「まさか自動で走るなんて」

 

 科学が存在しない世界であるが故にか、やはり科学の産物に驚愕を禁じ得ないウィル・クデタ。

 

「部屋は来る前と殆んど変わらないから。玉井とウィル・クデタが右側、宮崎と菅原が左側を使う様にすれば良い」

 

「あれ、優花っちは?」

 

「個室に案内したが?」

 

「何でよ!?」

 

 宮崎奈々はかなり腹が立ってるけど、ユートからしたら当たり前。

 

「赤の他人な宮崎と自分の女である優花、どちらが優先されるかなんて普通に判るだろうに」

 

「お、女ぁ? 優花っちとヤっちゃった訳?」

 

「その通りだと言っておく」

 

 宮崎奈々は流石に羞恥からだろうか頬が紅くなる。

 

「元々が時間の問題だったんだ。ヤっていてもおかしくないだろ」

 

「そうかもだけど……」

 

「ちょっと優花が羨ましいかも」

 

 沢山の娘を侍らせるとはいえ、こうして大事にされるなら呑み込めるという事か、ちょっと憧れを懐く菅原妙子がやはり頬を朱に染めて呟いた。

 

 暫くは単純に路なりで走らせるだけだし、暇が出来たから取り敢えずヤる事にした。

 

「いや、別に構わないんだけど。私はあんたのお、女になったんだから……さ。だけど魔物があんなに降りようとしている中で呑気にって思うとね」

 

 やはり優花としては魔物が気になるのか難色を示す。

 

「僕は僕の考えに基づいて動いているからね、文句を言われても困ってしまうかな」

 

「それは……そうかもだけどさ」

 

「兎に角、やる事が無いんなら特に問題も無いだろ?」

 

「そりゃ、暇だけどね」

 

 運転手要らずな魔動車で人手は使わないし、食事の準備もシアと香織が居れば事足りた。

 

だからちょっと遠慮がちである。

 

 結局はヤってしまう辺り流されている優花、しかも雫とユエを交えてのレズプレイをさせられる。

 

 恥ずかしかったけどユートとの付き合いから、またヤらされるのは火を見るより明らかだから慣れるしか他無いだろう。

 

 ベッドの上で溜息を吐く。

 

 ウルの町はこのトータスで唯一のカレーを出す町、それが若しも無くなったら悲しかった。

 

「気持ち良くなかったか? 随分と喘いでいた様だったのに」

 

「き、気持ち良かったわよ! あんな風になるなんて思わなかったくらいには」

 

「そりゃ、頑張った甲斐もある」

 

「ゆ、優斗こそ……どうだったの? 私の口……とかさ」

 

「まぁ、テクニックという意味では辿々しいから余り」

 

「うっ!」

 

 これでも懸命になって舌を這わせたし、口の中に迎え容れて頑張ってはみたのだが……

 

「それでも一生懸命な優花を見ていたら興奮したよ」

 

「っ!? そ、そう」

 

 不意討ち過ぎて顔が紅くなるのを止められない、思わずにやけてしまうのを止められない。

 

「あ……」

 

 シャワーを浴びたばかりだった優花は、石鹸と本人の仄かな香りがミックスされてユートのリビドーを直撃していたのに加えて、先程の笑みはにやけていたというより喜びに満ち、優花の魅力を引き出す要因となっていた。

 

 そんな優花の唇をユートは奪わずには居られない。

 

 恋愛感情は最早、持てないかも知れないユートではあるけれど、好感や嫌悪感は普通に持ち合わせているが故に、園部優花をユートは好んで懐に容れたのだ。

 

 愛情はあるのだから。

 

 愛を籠めて愛情の迸りを放つ、精神的にも物理的にも凄まじく熱い一発を。

 

 それは実際に優花自身も味わっているのだから理解が出来た。

 

「ん、んんっ!」

 

 優花は実は陰で宮崎奈々と菅原妙子が覗いている――ユートは気付いているが――のも知らず唇を貪られ、逆に貪ってもいた。

 

(うわ、うわぁ! 優花っちが凄い事になってるよ~)

 

(蕩けた表情で……あんなに求めるんだ……凄過ぎる)

 

(見てよ、おっぱい! 優斗っちの手が優花っちのおっぱいを触ってるよ!)

 

(何も言わずにされるが侭って、受け容れてるんだ……)

 

 えっちぃのはダメとか思っても、やはり年頃の女の子なだけあって興味津々らしく、二人は太股同士をモジモジ擦り合わせながら優花のキスシーンをガン見していた。

 

 時折、ユートの手が優花の胸や太股を優しく触れていたり、更にはショーツ越しに大事な部位を人差し指で擦ったり、それを見ていて二人は息を呑んで熱くなる御股を激しくモジモジとさせた。

 

 流石にヤらないとは思うけど、始めてしまいそうな雰囲気で二人は固唾を飲んでしまう。

 

「ねぇ、優斗ぉ……もう一回……」

 

「場所を変えるか」

 

 ヤるなら覗きが居ない場所で、ユートは優花をお姫様抱っこして自身の部屋に運び、美味しく『戴きます』をさせて貰った。

 

 宮崎奈々と菅原妙子の二人は、改めてあの優花がユートとそういう仲に発展したのだと理解して、少し羨ましいと思ってしまった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「折角の空き時間。向こうと連絡をしようと思う」

 

 ウルの町まで一時間くらいで着く距離だったが、彼方側の様子もそろそろ知りたかったユート。

 

「そっか、優斗は地球と連絡が取れたわよね」

 

 雫はその手法も知っている。

 

「あ! じゃあ、お父さん達とも連絡が出来るのかな?」

 

「一旦はユーキと話してそれから日にちを決めて……という事になるだろうから、すぐにとはいかないんだけどな」

 

 それに白崎智一とはちょっとした喧嘩をしているし。

 

 八重樫家の面々は受け止めてくれたみたいだが、娘を『マイ・エンジェル』とか宣う親バカな彼、そんな彼が香織とセ○クスしましたと言われてキレない筈もない。

 

 ユーキの身体を借りて仮面ライダーWファング/ジョーカーの侭で戦い、当たり前だけど一撃で叩き潰してしまった。

 

 帰ったら一発くらい殴らせてやるけど、流石にユーキの肉体ではさせる心算など無いのである。

 

「彼方側では南雲家のアルバイトはユーキが、美晴のアシスタントをシュテルとほむらが担当しているんだが……」

 

「南雲家って……」

 

「そういやそんな話もしたわね。南雲君のお父さんの仕事?」

 

「両方」

 

「両方? 南雲君のお母さんもって事ね。どんな御仕事だっけ」

 

「少女漫画家。かなりの人気漫画なんだよな」

 

 南雲家の大黒柱たる愁はゲームクリエイターであり、自ら起業をしてゲームを作る会社の社長をしている。

 

 南雲 菫は人気少女漫画家として働くが、朝が滅法弱いという欠点を持っていて朝食を摂る事が滅多に無いと聞く。

 

 起業家や漫画家としては成功を納めながら、人としてはちょっとダメダメな処があるのが南雲家クオリティ。

 

 尚、南雲 愁は重度の厨二病を長く患っていたらしい。

 

 故にか、ユートの厨二病を擽る能力に拝んだものだった。

 

「そういや、最近では集団神隠しも世間から忘れられ掛けているらしいが、当時は『現代のメアリー・セレスト号事件』とか騒がれていたらしいぞ」

 

「それは……また……」

 

 雫が呆れているのは世間の事かメアリー・セレスト号の事か?

 

「それじゃ、ちょっと……な」

 

 ユートがダブルドライバーを腰に巻き付ける。

 

 同じ頃、ユーキの腰にダブルドライバーが顕現をした。

 

「聞こえてるかユーキ?」

 

〔兄貴? 何か用かな?〕

 

「取り敢えず報告。それと次の【家族会】はいつにする?」

 

〔報告……ね。ボクの方は順調に手伝いをしてるよ。愁さんはVRだヒャッホーとか、菫さんも愉しそうで何よりかな〕

 

「VR技術を渡すのか?」

 

〔AR技術もね。尤も、愁さん所の会社が一人勝ちは宜しくない。無いとは思うけど兄貴が経験をしたSAO事件を仕出かされても困るしさ〕

 

「余りにもオーバーテクノロジーは世間的にヤバいぞ?」

 

 【SAO事件】はユートが迷い込んだ世界で起きたVRゲームによる【デスゲーム化】で、【ソードアート・オンライン】というゲームに約一万人が閉じ込められてしまった事件を指す。

 

 また、AR技術は【オーディナル・スケール事件】であの世界に使われていた技術だ。

 

  色々とあった事件であったが、割とすぐに起きた【アリシゼーション事件】で上書きされてしまった

 

「ま、注意は怠らないでくれよ」

 

〔うん、判っているさ〕

 

 若干、マッドな気質があるユーキだけど常識を捨てている訳ではないのだから。

 

「それじゃ、報告会を再開しようか」

 

 ユートはユーキとの報告会を続けた。

 

 ユーキの声が聞こえない雫達からすれば、ユートが独り言を呟いているようにしか見えない光景である。

 

ダブルドライバーを外して通話を切ったユートは、手にしたそれを亜空間ポケット――アイテムストレージへと仕舞う。

 

 まだユートをよく知らないウィル・クデタは、そんな様子を見て目を見開いていた。

 

「そろそろウルの町に着く、雫は寝物語に頼んだ事をやっておいてくれ」

 

「了解よ」

 

「香織はシアとユエを連れて手分けをして結界石を町の周りに配置を頼むぞ」

 

「了解だよ」

 

「お任せあれ!」

 

「……ん、任せて」

 

 ウィル・クデタが知らない所で何やら決めていたらしいが……

 

「私達は?」

 

 寝物語に参加してはいたものの、優花は自身の役割を聞かされてはいなかった為にちょっと不安そうに訊ねてきた。

 

「先生と住民に呼び掛けをしてくれ。それは宮崎と菅原と玉井も同じくだ」

 

「判ったわ」

 

 一応の役割が有ってホッと胸を撫で下ろす優花達。

 

「あ、あの……私は?」

 

「僕とフューレン行きに決まっている」

 

「ぐっ!」

 

 ウィル・クデタをユートは戦力として全く考えていない。

 

 所詮、彼は護衛対象でしかないのだから危険に晒すのは論外でしかないが故に。

 

 早速、行動開始と相成った訳だが矢張というかウィル・クデタがごね始めた。

 

「やはりこんな時に私だけが安全な場所に行くのは……」

 

「お前に何かあれば依頼は失敗、クデタ伯爵家が報復に動いたらどうする心算だ?」

 

「家はそんな真似しません!」

 

「所詮は貴族だ。信用が出来る筈も無いな。お前を見れば正に貴族が服を着て歩いているみたいなのはよく解る。あのプーム・ミンとかいう男爵家のオーク貴族がそうだったみたいに……な」

 

「なっ!? ミン男爵家と同一視されるなんて、侮辱以外の何物でもありませんよ!」

 

「現にお前は依頼の失敗を全く考慮に入れず、此処に残るとか我侭を平然と抜かしているだろうに」

 

「うっ!?」

 

 どうやらミン男爵家はそれなりに有名らしいが、それは確実に悪名の方だった様である。

 

 然もありなん。

 

「そう思われたくなかったら言われた通り、フューレンに行くのが吉だと思うけど違うのか?」

 

「それは……然し……」

 

 否定は出来なかった。

 

「冒険者に依頼失敗をしろと平然と宣う、正しく貴族的な言動だと思ったんだけどね」

 

 侮辱……だけど正論である。

 

「兎に角、さっさとフューレンに行ってイルワ・チャングから報酬を貰う。それで晴れて此方も自由の身になれるからな」

 

 暗に邪魔者とか枷といわれて、落ち込んでしまう。

 

 勿論、フォローなどしない。

 

 ユートはウィル・クデタの後ろ襟を掴み、態とらしくベルカ式の闇色な魔法陣を展開させる。

 

 本来ならそんなモノは出さないのだが、今はウィル・クデタが居るから【魔力操作】的な真似はしない方が良かろうと考えた結果、魔法陣を使っての行使だった。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)!」

 

 一度でも訪れた場所なら瞬間的に戻れるDQ由来の呪文。

 

 シリーズ次第で効果や消費MPも変わるが、ユートが行使したのはDQⅢ的な効果と消費だ。

 

 ユートが扱う呪文の殆んどが、DQⅢ由来のものだからである。

 

 その理由がユートの最初に疑似転生した世界が、DQⅢの上世界たるアリアハン王国だったから。

 

 勇者オルテガとその妻の間に生まれた勇者アレル、その双子の弟という立場であったと云う。

 

 尤も、ユートは生まれながらにして完成された【緒方逸真流】を体得した身であり、勇者流剣技を覚える心算が無かったからサボりにしか見えず、祖父から勘当されて家を出たから勇者と呼ばれる事は終ぞ無かったが……

 

 その後はランシール経由で経験値を積み、ダーマ神殿を目指して遊び人に転職後は再び経験値稼ぎに戦い、そして賢者に再転職して呪文の契約を済ませた。

 

 何故かそこら辺は【ダイ大】式だったのは笑ったが、オルテガの血筋に変わらないからか勇者しか使えない呪文も覚える事に成功。

 

 ユートはランシールでブルーオーブを手に入れており、次なる目標としてまだ滅んでいなかった彼の町で更にオーブを入手する。

 

 そして人伝にされていたイエローオーブも手にし、ジパングへと渡ってヤマタノオロチを撃破してヒミコの死を明かして、次代たるイヨと婚約をする事になった。

 

 パープルオーブをも手に都合、四つのオーブを手に入れてしまったユート、砂漠の国イシスで王女を虜にした挙げ句、ピラミッドに奉納された魔法の鍵や海の底に沈む最後の鍵すら手にしており、数年後の勇者アレルとそのパーティは苦労をする羽目に陥ったけど、ユートからしたら知った事でも無かったから放置する。

 

 戦士並の剣技、武闘家並の体術、賢者並の魔法、遊び人の技能や何故か商人の技能、勇者の呪文という有り得ない能力を持ち合わせるユートは、この世界の職業概念には無い【バトルマスター】、【パラディン】、【天地雷鳴師】、【ゴッドハンド】、【魔法戦士】、【スーパースター】などといったDQⅥ由来の職業すらをもモノにしていた。

 

 その後は当然ながらアレル達と争いが起きたが、ユートがオーブなどの宝物を、アレルが武闘家フォンの貞操を賭けて決闘をする事になったけど勿論、敗けるなどと有り得ない話でしかなかった。

 

 それは兎も角、ユートはルーラでフューレンの町の近くまで瞬時に移動をしてしまう。

 

 大都市だけあり並ぶ人間が多い中で、ユートは門まで歩いて来て門番に話し掛けた。

 

「冒険者ギルド・フューレン支部長イルワ・チャングの依頼にて、クデタ伯爵家が三男たるウィル・クデタを連れ戻った。急ぎ取り次ぎを御願いしたい」

 

 不審そうに門番がユートとウィル・クデタを交互に眺め、差し出された闇色のステータスプレートを見た後、一枚の紙――イルワ・チャングがユートに渡した依頼状を見て驚愕しながら、事の次第をイルワ・チャングに伝えに走る。

 

 依頼状は本物で、ステータスプレートには黒ランクを示す丸い点が有った為だ。

 

 それに貴族の子弟が絡むとあっては、一門兵がどうこうと出来る域を遥かに越えていた。

 

 秘書の男――確かドットだったか――が遣いとして現れ、ユートとウィル・クデタを支部長の元へ連れていく。

 

 すぐに支部長室に通されると、イルワ・チャングが喜色満面にて出迎えて来た。

 

「よく無事だったね、ウィル」

 

「イ、イルワさん。今回の事は申し訳ありませんでした。イルワさんが付けてくれたゲイルさん達を私は見殺しに……」

 

「いや、君だけでも無事だったのは不幸中の幸いだとも!」

 

 友人たるクデタ伯爵の息子なれば甥にも等しく、何かと気に掛けていたウィル・クデタが死ぬかも知れないと、彼が憔悴していたのをユートは知っている。

 

「ゲイルのパーティに感謝をしておくんだね。僕が行った処で死んでいたら意味が無かったし」

 

「勿論だとも! 君にも感謝しかないよ。約束通りの報酬は支払わせて貰うよ」

 

 前払いでランクは上がっていたけど、お金などは後払いだったから支払われる事となっていた。

 

「それと、ウルの町のギルド支部から先程連絡が来たのだが、あれは本当の事なのだね?」

 

「ああ。約六万の魔物がウルの町を目指して移動している」

 

「何という事だ! どうして?」

 

「首謀者は清水幸利。数ヶ月前に召喚された勇者の一味の一人で、恐らく魔人族に誘われて裏切ったんだろう」

 

「では、その目的は?」

 

「豊穣の女神と名が知られている畑山愛子、やはり召喚された一人ではあるが……ね」

 

「そして君もかい?」

 

「そうだよ」

 

「ハァ、何たる事態に……」

 

 頭が痛そうなイルワ・チャングを見ていたウィル・クデタだが、ハッとした様にユートへと向き直って叫ぶ。

 

「貴方なら何とか出来たんじゃありませんか?」

 

 まるで弾劾するが如く。

 

「出来たとして、それがどうしたっていうんだ? 僕の受けた仕事は飽く迄も『ウィル・クデタ本人か或いは最悪でも遺体か遺品を、このフューレンに持ち帰る事』であって、六万の魔物を相手に大太刀回りをする事じゃない。何より依頼に有る護衛対象を一番危険な町に残して? お前は冒険者の仕事を舐めてるのか!?」

 

「ううっ!?」

 

「今一度言うが、お前は冒険者に向かない。二度と冒険者に成りたいとか戯れ言を抜かすな! お前は精々、貴族家三男として政略結婚の駒にでも成るが良い。その方が安全だろうしな」

 

「そ、それは……」

 

「プーム・ミンみたいな男だったらハズレを掴まされた事になるんだろうが、基本的に貴族は余程の怠慢でない限り美男美女の集まりだからな。上手くすればユエ並の美少女しか居ない貴族家に婿養子に入り、其処を継ぐ立場にだって成れるんだし、命懸けの冒険者に成る意味は無いだろうに」

 

 本当にユエ級の美少女が居るかは判らないが、少なくともユエ――アレーティアは吸血鬼族の姫であり女王と成った訳で、それにリリアーナみたいな王女も居るのだから、余程のハズレな相手でもなければ大丈夫な筈だ。

 

 少なくともユートがハルケギニア時代、差し出された貴族の少女達は皆が美少女だった。

 

 まぁ、【閃姫】にした一部以外は流石にもう名前と顔が一致していないけど、少なくともハズレと呼べる不細工な娘は居なかった。

 

 とはいえ、借金をどうにかして欲しくて娘――本人の娘でなく傍系から養女にした場合もあり――を差し出すのに不細工を選ぶなど寧ろ戦争を仕掛ける気満々だと、そう思われても仕方がない所業ではあるのだが……

 

 尚、実はグラモン伯爵家からも最終戦争から数年後に娘が差し出された為、お金の都合をして上げた事もあったのだけど……

 

 名前はナルセーナ・ド・グラモンだったが、立場上はグラモン元帥の長男の愛人の娘だった。

 

 早い話が長男が数年前に妻以外に抱いた平民――但し魔法を扱えたから平民メイジ――が孕んだのを認知した形らしい。

 

 髪の毛の色が薄い青だったからガリア王家の御落胤か、その血筋を引くかいずれかだろう。

 

 少なくとも母親は茶髪だったから隔世遺伝、グラモン家の長男は自分にも母親にも似ていなかった彼女を、他の男の娘かも知れないナルセーナを我が子と認知して育てていたらしい。

 

 美談っぽくも聞こえるのだが、土系統魔法を扱えたからと魔法の力がそこそこ高く、ユートに差し出された時期にはラインに達していた程だったのもあるだろう。

 

 また、ナルセーナを見たユーキが転生者を疑った。

 

 理由はナルセーナであの容姿、ユーキはラノベで見知った存在だったらしく、聞き取り調査をした結果はシロであったと云う。

 

 恐らくはキャラクターだけ習合されたタイプだと結論付けた。

 

 ユーキからの進言と本人からの希望もあり、彼女も【閃姫】にしているから普通に当時から数年後のだいたい一七歳くらいの年齢で今現在もユートの許に居る。

 

 それは扨置き、ユートとしてはウィル・クデタが冒険者に向かないと本気で考えている。

 

 そもそもステータスが視ただけの概算でしかないが、恐ろしく低い数値でしかなかった。

 

 レベルも1で能力も碌すっぽ鍛えてないのが丸判りだったし、触った身体も鍛えてない人間のそれだ。

 

 これで冒険者とか何の冗談かと頭にくる。

 

 親切の押し売りだが、ウィル・クデタだけが死ぬならマシな方でしかなく、仲間を連れて行けば仲間も死ぬのである。

 

 嘗て関わった世界――四方世界と呼ばれた世界でビギナー戦士を党目としたパーティが行き成り殺害されてしまった挙げ句、メンバーである三人の少女達は敵対するゴブリンに殺される乃至は犯されるかされそうになっていた。

 

 ユートが冒険者としての知識を伝えようとしたのを面倒臭がって追放した為に、サポートを受けられなかったのもあったろう。

 

 まぁ、神官と魔術師と武道家の少女達はダメージこそ受けたがユートに助けられて事なきを得た。

 

 党目が選択を誤れば熟練の冒険者パーティでさえ全滅の憂き目に遭うのが普通、ウィル・クデタは決して冒険者になど成るべきではないと確信をしているユート。

 

 実力だけの問題ではなく、報連相の義務も怠りユートに数万の

魔物と戦うべきと宣う辺りがまた冒険者の資質を疑わせる要因となっている。

 

 ユートが冒険者としてフューレンに来た理由は仕事の完遂と、イルワ・チャングへの報告をするのと今後の事を相談する為でもあったのである。

 

 冒険者が仕事をするには、依頼が出され報酬が提示されランク上限が設定されて依頼状を提出して誰が関わるかをはっきりさせてから行われるのが常。

 

 稀に冒険者ギルドを通さず仕事を受ける場合もあるが、基本的にそれは自己責任の範疇としてギルドは一切合切の関与をしない。

 

 損しようが死のうが……だ。

 

 責任の所在も問題だった。

 

 ユートは様々な世界で冒険者をしている為、当然ながらランクは兎も角として能力はベテランと変わらない。

 

 それが唐突に起きた突発性のイベントなら未だしも、今回は時間が二日間くらいは空いている。

 

 魔物がウルの町に侵攻するのは二日後、つまり準備期間が充分に取れるのだから相談にイルワ・チャングを訪ねるのは当たり前。

 

 誰が好き好んで無償で数万もの魔物と戦うものか!

 

「先ずは報酬に関してだ」

 

「待って下さい! 町の危機だというのに報酬? 貴方は巫座戯ているのですか!」

 

「巫座戯てるのはお前だろうに、如何なる仕事も報酬有りきだというのに、そもそもイルワ・チャングもフューレンギルド支部長として決して安くない給金を獲ている筈だがな?」

 

 ユートがイルワ・チャングを見遣ると、当然と言わんばかりに首肯をして見せた。

 

「まったくこれだから貴族は! どうせ金に困った事なんか無いんだろうな? そういやプーム・ミンも百万ルタでシアを寄越せとか抜かしていたな」

 

「ぐっ!」

 

 図らずも自らがオーク貴族(プーム・ミン)と同じだと証明して、唸り声を上げるしか出来なかった。

 

「映像越しの概算だったんだが、雑魚でも真のオルクス大迷宮に於ける第一層、蹴り兎や二尾狼や爪熊とどっこいどっこいくらいだ。それを纏めているっぽい魔物だとベヒモス級か少し弱いくらいか」

 

「真のオルクス大迷宮とは?」

 

「オルクス大迷宮は表層の百層を抜けて初めて、本来の大迷宮へと歩を進める資格を得るんだ。僕は勇者一行の一人の腐れた行動で、偶然ながら落ちた先が真のオルクス大迷宮だったんでね。反逆者なるオスカー・オルクスの隠れ家に行ってしまったよ」

 

「な、何と!」

 

「まぁ、ベヒモスすら殺せない程度の人間じゃあ、第一層で死ぬのは雫が死に掛けてよく判ったよ」

 

「雫とは君と居た黒髪をポニーテールにした?」

 

「天職は剣士で能力も既にトータス準拠では一線級、それが悉く攻撃を避けられて一撃を喰らっただけで瀕死に追い込まれた」

 

「雑魚でそんなレベルかね?」

 

「つまり、金ランク銀ランク黒ランクを集めても果たして百匹を殺せるかどうか?」

 

 黒の何とかとやらを見た限り、百匹は於か半分も殺せそうにはなかったけど。

 

「報酬は雑魚を一匹で一万ルタ、率いる小ボス級を百万ルタかな」

 

「数万匹だから数億ルタ……か」

 

 青褪めてしまうイルワ・チャングだが、別にユートは絶望に叩き込む為に来たのではない。

 

「取り敢えず、雑魚も小ボスも一律で一万ルタにしてやるよ」

 

「それでも魔物数×一万ルタだ、数億ルタには変わらないよ」

 

「仮に六万匹なら六億ルタだから相当な出費だな」

 

「そ、そうだね……」

 

 ウィル・クデタは憤るものの、先程の様な反撃を受けたら何も言えなくなる為、黙って事の成り行きを視ているしかなかった。

 

「数万だから五万と数千匹って事にして、数千匹の魔物はサービスしてやるよ。だから五億ルタだ」

 

「それでも高いね」

 

「そうだな。僕はこれから教会……の上と喧嘩をする予定なんだが、その際にギルドが敵対せず味方となる約束をするなら半額にまで減らしても構わない」

 

「聖教教会……の上? まさか!」

 

「神とその使徒だ」

 

「何故……と訊いても?」

 

「知ればそれなりに背負うぞ? 巫座戯た神の一派との戦い」

 

「知らねば背負えないだろう?」

 

「成程な。まぁ、今は先程の話を約束してくれれば良い」

 

「……了解した。君とその一行には最大限の配慮を約束しよう」

 

 ウィル・クデタもドットも驚愕を露にしてしまう。

 

「後はそうだな、金ランクにしてくれたら五千万ルタをオマケだ」

 

「二億ルタか。ランクを上げるだけでそれなら悪くは無いかな? 数万もの魔物を潰せるなら確かに金ランクだろうしね」

 

 交渉を終えてガッチリと握手をしたユートとイルワ・チャング、其処には凶悪な笑顔が浮かんでいたと後に見ていた二人は語る。

 

 ユートは戦闘準備の為にウルの町までルーラで戻り、イルワ・チャングは二億ルタという大金を掻き集める仕事に掛かった。

 

 二日後……

 

「遠くに見えてきたな」

 

「魔物が七で大地が三?」

 

「それ処じゃ無いけどね」

 

 ユートの言葉に香織と雫が軽口を叩いている。

 

「作戦としては先ず、ユートさんが大型な攻撃で半分以下に減らすんでしたよね?」

 

「そうだよ、シア。君らの出番はその後になるな」

 

「……私やミレディも?」

 

「砲撃は後からで構わないさね。僕の実力をフューレンのイルワ・チャングに見せ付ける為だよ」

 

 ユートはサーチャーの映像を、フューレン支部でイルワ・チャングが観れる様にしてあるのだ。

 

 恐らくウィル・クデタやドットも観るだろうが構わない。

 

「妾も参戦するぞよ?」

 

「作戦通りにするなら構わない。ティオの実力、竜化無しでのそれを見せて貰おうか」

 

「フフ、任せよ!」

 

 流石に竜化はされても困る。

 

(実験その2、シュテルとほむらにはユーキを伝手に伝えてある。さぁ、Show Timeだ!)

 

 これからは始まるのは正しく、巫座戯たレベルの茶番劇。

 

 ユートは愛子先生の可愛らしい顔を見遣りつつも、茶番劇(ファルス)を始めるべく笑顔で口を開くのだった。

 

 

.

 

 




 漸く次で大決戦か。




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第43話:蹂躙殲滅絶滅タイム

 先にアルファポリス様で碌に進まないながらもオリジンになる噺を投稿しました。

 まぁ、宜しければ読んで下さい。






.

 ユートは土の壁を造り出してその上に立つ。

 

 始まる茶番劇とはいえ確りとやるべきなのだから、一世一代の舞台と云わんばかりにウルの町を見下ろした。

 

 サーチャーからの映像を空中に投影されたモニターに映し出し、マイクを浮かべてスイッチオン。

 

「諸君! ウルの町の諸君!」

 

 それは演説。

 

 ウルの町の民に向けた演説は、これからの布石の一つとなる。

 

「見ての通り、事前に通達していた様に魔物が数万規模でこの町に迫って来ている!」

 

 モニターを見れば明らかな為、ウルの町の住人は悲痛な面持ちとなっていた。

 

「だが、貴公らが悲歎に暮れる事など無いと敢えて言おう!」

 

 その科白にどういう事かとざわざわとざわめく人々。

 

「何故ならこのウルの町には貴公らを救うべく、動いておられる方が既に居らっしゃるからだ!」

 

『『『『おおっ!』』』』

 

「貴公らの為に心を砕き食を支えて下さる豊穣の女神、即ち愛子様である!」

 

「ふぇ!?」

 

 突如、名前を『豊穣の女神』という最近付いた二つ名と共に呼ばれた愛子先生は、ビクリと肩を震わせながら間抜けな声を出す。

 

「私は豊穣の女神たる愛子様を護る守護聖騎士、セイントである! 愛子様の命の下にウルの町を護る! 我が牙は牙無き者を護る為に、この身は命の盾となりて闘う者である!」

 

 何だかよく判らない住人だが、愛子のネームバリューはそれなりに大きくなり、顔を知らない町の人間は居ないくらいだ。

 

 そんな愛子を傍に演説をしているユートなれば、町の人間も信用をするしかあるまい。

 

 況してや、今現在の愛子は純白のドレスに腕や首や腰に品の良いデザインな金のアクセサリーを身に付け、頭にもまるでお姫様みたいなクラウンを着けており、本当に女神様と見紛う美しさだった。

 

 足りない身長は厚底なブーツで誤魔化し、ウィッグで長髪を演出している状態であり、仮面ライダーウォズの変身シーンみたいな感じにライトアップされ、キラキラと美しく魅せてくれている。

 

 愛子先生はそもそもユートが戻るなり、行き成り今の装備を渡されて着る様に言われて着替えて来たのであり、まさか豊穣の女神を強調する為だとは思わない。

 

 尚、デザイン元はユートが自らを聖騎士(セイント)と名乗っている事からも判る事だが、アテナ――城戸沙織のアテナ神殿に於ける正装だったりする。

 

 勿論、城戸沙織と愛子先生ではスタイルや身長が違い過ぎるので色々と変えてるが、愛子先生が映える形で作り上げていた。

 

 クリスタベルが……

 

 ユートは予めユーキから聞いていた『豊穣の女神』に関して名前を利用するべく、彼女に作農師として動く様に言ったのだ。

 

 曲がり形にも神と信仰されているエヒトルジュエ、前世では教会を味方に付けるべく動いたけど、国より力を持つ宗教とは斯くも面倒臭いものだから。

 

 そしていつか着せる日が来るだろうと確信して、クリスタベルに愛子先生用女神装束を依頼した。

 

 フューレンを出る際に受け取り今に至る。

 

 クリスタベルは嬉しそうに作っていたらしい。

 

 そしてこの晴れ舞台にユートは陽の目を見た衣装に大満足、実在に着替えて最初に見せて貰った際には、そんな場合ではないのにも拘わらず下半身が盛ってしまったくらいである。

 

 見せた本人は嬉しいやら恥ずかしいやら、真っ赤になってしまった訳だが……今は赤を通り越していて更に紅い。

 

(どういう事ですか!?)

 

 涙目になりつつ口パクして訊ねてくる程だ。

 

 打ち合わせらしい打ち合わせはしておらず、愛子先生には衣装に着替えて傍に立っている様に要請をしただけだった。

 

 愛子先生はユートを戦いに駆り立てた訳で、ならば責任を取れ……ではないのだろうが、やはりやるべき事はやって欲しい処。

 

 それがよもや女神推しだったとは愛子先生も思うまい。

 

「うばぁ……」

 

 何だか凄まじい『愛子様』コールを受け、遂に白目を剥いて気絶をしてしまう。

 

「ちょっと、優斗! 愛ちゃん先生が気絶しちゃったわよっ!? うわ! 魂が抜け掛けてる?」

 

「まだ〆が残ってんのに、仕方がない先生だなぁ」

 

 本人が聞いたら理不尽を感じたに違いない。

 

 ユートはクイックイッと念動力で愛子先生の身体を操作すると、『んっん!』……声色を作る。

 

『我が聖騎士(セイント)よ、貴方の力をウルの町の為に! 」

 

 香ばしいポーズを取らせつつ、腹話術で喋らせながらユートは片膝を付いて……

 

「御意の侭に」

 

 了承の意を示した。

 

「ウルの町の諸君! この剣こそが此度の戦で貴公らに勝利を約束するであろう!」

 

『『『『『ウオオオオオオオオオオオッッ!』』』』』

 

 ユートが一振りの両手剣を天高く掲げながら叫ぶと、呼応するかの如くウルの町の住民達がスタンディングオベーション。

 

「って、あれは【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】!?」

 

「エクスカリバーって、アーサー王伝説に出てくる?」

 

「あ、ああ。だけどあれは寧ろ、【Fate/】シリーズに登場しているアルトリア・ペンドラゴンが使うエクスカリバーだぜ?」

 

 玉井淳史は存外と詳しかった。

 

 ユートが使うカンピオーネとしての権能、【麗しの騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)】という。

 

 その能力はエクスカリバーを使うモノで、アルトリアが使っていた真名解放は元より、【ハイスクールD×D】に登場する七振りの聖剣エクスカリバーの機能を扱う事も可能とし、更には竜骨として得た鞘が【全て遠き理想郷(アヴァロン)】となっている。

 

 更に云えば、鎧の竜骨がその他の武器を扱う能力に変化した。

 

 即ち、【勝利すべき黄金の剣(カリバーン)】や【最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)】をも使える様になった訳だ。

 

 今回使うのは当然ながら聖剣としての真骨頂、即ち宝具としての最大攻撃たる真名解放である。

 

約束された(エクス)……」

 

 極光を湛えた剣を両手に持って振り上げた。

 

勝利の剣(カリバー)ァァァァァァァァァァァアアッ!」

 

 ユートの言霊を受けてエクスカリバーから湛えられた極光が、極太なる光の斬撃として煌めきを放ちながら振り下ろされた。

 

 その気になれば小惑星を分断、大都市を両断する耀ける斬光が魔物の群れを薙ぎ払い、約数千匹という全体から視ても膨大なる数を消し去ってしまう。

 

『『『『『ウオオオオオオオオオオオオオッッ!!』』』』』

 

 それをモニター越しとはいえ目の当たりにしたウルの町の住民達が歓声を上げる。

 

「見たか! ウルの町の民よ! これぞ愛子様より導かれた我が力――約束された勝利の剣也!」

 

 最早、年寄りなんかは涙すら流す勢いだった。

 

 玉井淳史は『まんまじゃねーか』と呟いている。

 

「さて、次々と往こうか」

 

 ユートは権能を解除して今度は魔法に移行。

 

「あれ? またエクスカリバーを使う訳じゃないのかよ?」

 

 それには優花が答える。

 

「同じ攻撃を作業的にやるより、違う攻撃でメリハリを付けるって言っていたわよ」

 

「マジかぁ? それってつまり、さっきのエクスカリバーみたいな規模の攻撃を複数持ってるって事なのかよ!?」

 

 それは正に恐るべき事実であったと云う。

 

 それに応えるかの如くユートが何やら叫びながら舞いらしきを動きに付け始めた。

 

「カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク……灰燼と化せ 冥界の賢者 七つの鍵を以て 開け地獄の門!」

 

「げぇぇっ!」

 

「な、何よ?」

 

「あれは……ハーロ・イーン?」

 

「ハロウィン?」

 

「ハーロ・イーンだよ! 【バスタード】って作品に出てくる強力な魔法だ!」

 

 説明の合間に呪文詠唱が完成。

 

七鍵守護神(ハーロ・イーン)ッッ!」

 

「マジにマジですか!?」

 

 ぶっ放された光線。

 

 異界の七門を開いて流れ込むエナジーを己が身を媒介に収束し、強大無比な破壊光線とする古代語魔法(ハイ・エンシェント)だ。

 

「ってか、確かあれって古代神の名前を羅列してるんじゃあ……」

 

 何故にこの世界で使えているのか甚だ疑問である。

 

「また数千匹が消えたわね」

 

 宮崎奈々が呟く。

 

 七鍵守護神(ハーロ・イーン)により魔物の群れが再び消える。

 

 最早、蹂躙でしかない。

 

「暗黒の玉座以て来たれ風の精霊 古き御力の一つ今その御座に来臨す 闇の王にして光の王 闇より出でて其を打ち砕く者」

 

「どっかで聞いた様な?」

 

 玉井淳史もすぐには判らなかったらしく、首を傾げて呪文詠唱に聞き入っていた。

 

(ソール) この(たなごころ)に来たれ」

 

「ま、まさか……【エルナサーガ】のアレか!?」

 

「アレって何よ?」

 

 菅原妙子が訊ねる。

 

「熱核系の魔法」

 

「熱……“核”……?」

 

「作中じゃ毒素扱いだったけど、謂わば放射能を残留させるんだ」

 

 詠唱が続く。

 

 【エルナサーガ】でヴァーリが使い、エイリーク王が『止めろ、この先は禁呪ぞ!』と叫んだ程に危険性が高い。

 

「万物に先立ち古き生まれの星の素子 此処に契約を重ね 舞いて精霊を遊ばす 寄りて寄りて星の力を示さん 今こそ我が敵の上に神の業火降らさん……」

 

 遂に完成してしまう詠唱。

 

熱核雷弾(シャーンスラーグ)!」

 

 そもそも、雷撃(ソールスラーグ)という魔法は強大な魔法力を持つ王族にしか使えないとされ、更に上の熱核雷弾は凡そ人の扱える範囲を越えている。

 

 前段階の火雷球でさえ山を吹き飛ばす威力、完全版の破壊力や範囲は当然ながら凄まじい。

 

「一気に二万は消えた!?」

 

 熱核雷弾が消える前に黒い塊が顕れた。

 

「まさか、マイクロブラックホール?」

 

 原典でも似た魔法で放射能を除去していたし、ユートも同様の措置を取ったのであろう。

 

 黄昏よりも昏きもの

 血の流れより紅きもの

 時の流れに埋もれし

 偉大なる汝の名に於いて

 我ここに闇に誓わん

 

「ま、魔王様? 魔王様はいったい何処!?」

 

「落ち着きなって。今度は何?」

 

 菅原妙子の質問に玉井淳史が語るあの魔法。

 

「【スレイヤーズ】に登場をする魔王シャブラニグドゥの力を借りた魔法だ! あれこそシャブラニグドゥが居ないと使えない筈!」

 

 【スレイヤーズ】の黒魔術とは高位魔族の存在力にアクセスし、力を引き出して扱う魔法であるが故に、当然ながら力の源たる魔族が居ないと成立はしない。

 

 例えば作中、魔竜王ガーヴが滅びた為に魔竜烈火咆(ガーヴ・フレア)が使用不可能となった。

 

 因みに、その時の事件に関わっていた冥王フィブリゾも滅びている為に、彼の力を借りた魔法も使えなくなっている。

 

 ならばユートはシャブラニグドゥの力を借りた魔法をどうやって使うのか? そもそも使えるのか? という話になるが……

 

 我らが前に立ち塞がりし

 全ての愚かなるモノに

 我と汝の力以て

 等しく滅びを与えん事を!

 

 問題無いと云わんばかりに詠唱を完成させた。

 

竜破斬(ドラグスレイブ)!」

 

 黄昏よりも昏く血の流れより紅い魔力の奔流が、消し飛ばす魔物達を混沌の海へと還していく。

 

「マ、マジかよ……」

 

 玉井淳史は戦慄すら覚えた。

 

「そろそろ随分と減ったみたいだがまだ万単位か。もう一撃くらい撃っとくかな」

 

 ユートは清水幸利を魔物と同時にピチュンしてしまわない様に、一万切ったら仮面ライダーで個体を潰しに行く予定だ。

 

 とはいっても時間が掛かる為、可成りの数をピチュンしておくのは必定。

 

「来い、ガタックゼクター! ハイパーゼクター! パーフェクトゼクター!」

 

 ユートが呼び掛けるとジョウントを通り、先ずはガタックゼクターがユートの手に納まる。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 ベルトを中心に装甲が拡がり、黒いインナーに青い装甲で赤い複眼を持つ仮面ライダーガタック・マスクドフォームになった。

 

「キャストオフ!」

 

《CAST OFF CHANGE STAG BEETLE!》

 

 マスクドアーマーが弾け飛び、中から現れたライダーフォーム。

 

 横に倒れていたガタックホーンが頭部に装着、ユートは右手へと新たにハイパーゼクターを取る。

 

「ハイパーキャストオフ!」

 

 カブトムシの角に当たる部位、スイッチとなるゼクターホーンを押し込むと音声が響いた。

 

《HYPER CAST OFF!》

 

 ハイパーキャストオフにより、モチーフがクワガタである証となるガタックホーンが巨大化して、胸部が内部にタキオンプレートを収納するガタックプロテクターに再構成、腕や脚のパーツも変化をして仮面ライダーガタックハイパーフォームとなる。

 

《CHANGE HYPER STAG BEETLE!》

 

 更に手にしたパーフェクトゼクターに集う黒いゼクター、それは本来の物とはまた別物たる三機のダークゼクターだった。

 

 再びゼクターホーンを押す。

 

《MAXIMUM RIDER POWER》

 

 そして青いスイッチから順番に四つのスイッチを押していく。

 

《GATACK POWER》

 

《DARK THEBEE POWER》

 

《DARK DRAKE POWER》

 

《DARK SASWORD POWER》

 

 ダークゼクターズの力が合わさり更なる音声が響く。

 

《ALL ZECTER COMBINED!》

 

 持ち手と刃の部位がガチャリと 90゜曲がり、それは剣の形から銃の形となる。

 

「マキシマムハイパーサイクロンッ!」

 

 引き金を引きながら叫んだ。

 

《MAXIMUM HYPER CYCLONE! 》

 

 パーフェクトゼクターはソードモードとガンモード、今では珍しくもない近接と遠距離の両方へと対応した武器、ソードモードだと【マキシマムハイパータイフーン】となり、ガンモードの場合は今回の【マキシマムハイパーサイクロン】という技になる。

 

 銃口から放たれるは渦巻く虹色の美しく凶悪なエネルギー砲で、魔物達を縦横無尽に原子崩壊させながら突き進んでいった。

 

 一万は消滅したであろう。

 

「良し、こんなもんだろう」

 

 ユートは満足そうに頷いて変身を解除した。

 

「残りは数千匹だ。個別に殲滅をしていくぞ!」

 

『『『了解!』』』

 

 ユートの【閃姫】達が応える。

 

 作戦上、ユートが先ずは 敵である魔物を一万以下にまで減らし、清水幸利をピチュンしない様にした上で、残りが一万匹を切ったら個人による殲滅戦へと移行する。

 

 

 減らす為の手段はユートが使うMAP兵器的な攻撃。

 

 それが【約束された勝利の剣】であり、【七鍵守護神】であり、【熱核雷弾】であり、【竜破斬】であり、【マキシマムハイパーサイクロン】だった訳だ。

 

 他にも使っていないだけで手段は幾らか有るが、エヒトルジュエが何らかの手段で視ているらしいとユーキから警告されていたし、全ては見せない方向性だった。

 

 仮面ライダーの最強形態も本来は見せない心算だったが、ガタックだけなら既に初期形態は見せていたから成ってみた。

 

 一応、ミレディ達【解放者】が大迷宮に使っている認識阻害法を聞いて、それを此方風にアレンジしたモノを常に展開はしてるが、エヒトルジュエの使徒リューンみたいなのが直に来れば、普通に見られてしまうであろう。

 

 認識阻害もどれだけ効いているかは判らない。

 

 雫がサソードヤイバーを右手に持ち、左手を横に伸ばしながら喚ぶ様に叫ぶ。

 

「サソードゼクター!」

 

 地面を掘り起こして顕れたのは紫主体の蠍型機械。

 

《STAND BY!》

 

「変身!」

 

 柄に当たる部位にサソードゼクターを填め込むと……

 

《HENSHIN!》

 

 電子音声と共にサソードヤイバーを基点とし、マスクドアーマーを含むインナーと装甲が装着。

 

 仮面ライダーサソードに成る。

 

 香織さ緑色のハートを模しているバックル――ジョーカードライバーを腰に据えるとベルトが伸長して装着。

 

「変身!」

 

《CHANGE!》

 

 リューンというエヒトルジュエの使徒を封じたハートスートのカテゴリーA、それを中央のスリットへと読み込ませた。

 

 電子音声と共にモーフィングが開始され、瞬時に白を基調としたカリスの姿……仮面ライダーリューンへと変わる。

 

 尚、直に戦った事すらある筈のミレディの精神衛生上から使徒の姿になるのは控えていた。

 

「ザビーゼクター!」

 

 右腕を天高く掲げて叫ぶシア。

 

 それに応えてザビーゼクターがジョウントを抜け、素早くシアの白魚の様な見た目にはパワフルとは思えない指が開かれる右手の中へと納まった。

 

「変身!」

 

 左手首のライダーブレスに填め込むと……

 

《HENSHIN!》

 

 ライダーブレスを基点にして装甲がシアを鎧っていき、仮面ライダーザビー・マスクドフォームと成った。

 

「……サガーク」

 

 ユエが喚ぶとサガークがフワフワと飛来、ユエの腰にベルトとして装着されるとジャコーダーを右のスロットへ挿し込み引き抜く。

 

「……変身!」

 

《HEN……SHIN!》

 

 キバット族とは違い人工モンスター故か、機械的な声で応えると【運命の鎧】と呼ばれる最初期に造られたサガを纏う。

 

 仮面ライダーサガと成った。

 

 雫、香織、シア、ユエは最早、既定の路線と云えよう。

 

《SHOT RIZER!》

 

「ミレディちゃんも往っくよ! あのクソ野郎共はぶっ潰す!」

 

《BULLET!》

 

 腰にはエイムズ・ショットライザーを装着したベルトを装備し、プログライズキーのライズスターターを押す。

 

 サイクロンライザーではなく、エイムズ・ショットライザーへと切り換えたのだ。

 

 因みに、指揮官の認証は必要が無いからゴリライズはしない。

 

 背面のライズスロットに装填。

 

《AUTHORIZE》

 

 展開してキーモードに。

 

《KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER……》

 

 自己主張が激しいベルトの音声を聞きながらショットライズトリガーを引く。

 

「変身!」

 

《SHOT RIZE!》

 

 銃口から放たれるライダモデルを内包した【SRダンガー】が、一旦はミレディから離れながらもUターンしてくる。

 

「はぁぁっ!」

 

 それをミレディは殴り付けた。

 

《SHOOTING WOLF!》

 

 青と白を基調に赤いラインを持つ水色の複眼の仮面ライダー……仮面ライダーバルカン・シューティングウルフに変身をする。

 

THE ELEVATION INCREASES AS THE BULLET IS FIRED(放たれた弾丸の様に進化は加速する)! 》

 

「私も行くわ」

 

「優花っち?」

 

「何で優花まで!?」

 

 宮崎奈々と菅原妙子が訊ねてきた。

 

「私も【閃姫】として仮面ライダーの力を貰ったから」

 

「優花っち、それ本当?」

 

「うん。戦う義務は発生しないって言われたけどね、同じ【閃姫】として遅れを取ってるから。役に立たないと香織達に申し訳が無いわよ」

 

 それも含めて義務は無いが、やはり心情的な圧力は加えられそうだったのもあるだろう。

 

 勿論、香織達が圧力を掛けるなんて事はしたりしない。

 

 この場合の圧力とは罪悪感。

 

 オーク貴族ではあるまいし何もせず優遇を受ける、あの厚顔無恥とは違い優花に耐えられる筈も無いのだから。

 

「キバーラ!」

 

「は~い、ウフフ」

 

 小さな白色を基調にした蝙蝠が飛来、優花はキバーラと呼ばれた蝙蝠を右手の指先で摘まんで掲げると叫んだ。

 

「「変身!」」

 

 キバーラと共に変身コールし、その姿は仮面ライダーキバの面影を持つ白に紫のアーマーを持ち、赤い複眼の仮面ライダーキバーラへと姿を変えた。

 

「仮面ライダーキバーラ!」

 

 園部優花が選んだのは即ち……仮面ライダーキバーラだった。

 

 他に比べて出遅れた感があった優花だったが、それならばユートが仮面ライダーディケイドである事を鑑みて、作中のヒロインである光 夏海が仮面ライダーキバーラに変身したのを参考にして、優花も仮面ライダーキバーラに成るのを考えたのだ。

 

 まぁ、光 夏海はなんちゃってヒロインだったりするのだが……

 

「では、妾もやるかのぉ」

 

 長い黒髪を風に棚引かせているスイカみたいな胸を、黒い着物に隠す金の瞳な妙齢の美女が黒くて四角い物を手に立ち上がる。

 

「主殿、有り難く借り受けよう」

 

 禍々しい龍の紋様を描くそれ、即ちカードデッキをバッ! と前に突き出すと、ティオ・クラルスの腰にベルトが顕れた。

 

 龍騎系仮面ライダーが扱うそれは本来は、鏡かそれに準ずる映すモノが必要となるのだが……

 

「変身!」

 

 ユートが造ったそれは鏡などは必要とせず、カードデッキを掲げればベルトが顕れる仕組みだし、ミラーワールドに行かなくても戦いを行えた。

 

 オリジンでもミラーワールド外で戦えたのだけど、此方は始めから外での戦いを前提にしてある。

 

 カードデッキを左側のスロットからVバックルに装填、仮面ライダードラゴンナイトと同じ要領でデッキがバックル内部で回転し、ティオ・クラルスの姿を禍々しいまでの黒い竜の騎士へと変えた。

 

「仮面ライダーリュウガ、参上」

 

 東洋龍みたいなドラグブラッカーと西洋竜なティオ・クラルス、形こそ違え同じ漆黒のリュウ繋がりで緒方優雅が持つ仮面ライダーリュウガのカードデッキをティオ・クラルスに貸し与えている。

 

「ふむ、中々に悪くないのぉ……我が戦いを篤と御覧じると良い!」

 

 

 人型のティオ・クラルスの戦闘は基本的にユエに近い。

 

 【ハイスクールD×D】世界的な言い方ならば、パワータイプのウィザード――リアス・グレモリーに近いといった感じだ。

 

 因みに、リアスの兄のサーゼクス・ルシファーはテクニカル寄りのウィザードである。

 

「さぁ、実験を始めようかって……別にビルドに変身する訳じゃないんだがな。そうなると『何かイケる気がする!』が正しいのか?」

 

 これからユートが変身するのは仮面ライダーシンオウ、仮面ライダージオウの色違いである。

 

 今回は前回の仮面ライダーWとはまた違う実験をしたい。

 

 その為の仕込みはユーキ経由でしてあり、後は変身をするだけの状態にまで持ってきている。

 

 やる事は正しく実験だ。

 

《ZIKU-DRIVER!》

 

 装着されるジクウドライバー、手にはシンオウライドウオッチ。

 

 ウェイクベゼルを90゜回転、レジェンダリーフェイスが現れて能力がアクティベーションされ、ライドオンスターターを押したら電子音声が鳴り響く。

 

《SHIN-O!》

 

 D´9スロットにライドウオッチを装填、ライドオンリューザーを押してロックを解除、ジクウドライバーのメインユニットのジクウサーキュラーを回転させた。

 

「変身!」

 

 装填が成されたライドウオッチのデータをロード、ジクウマトリクスに伝達される仕組みだ。

 

《RIDER TIME……KAMEN RIDER SHIN-O!》

 

 変身したのは仮面ライダージオウの色違い故に、色以外は基本的にジオウとの変わりはない。

 

 ザイトウインドーに表示されるのは……2008。

 

 ユートが初めてシンオウに変身した西暦を示していた。

 

 古代ベルカ時代に造ったはみたものの、最終的にファイズへ変身するだけで終わってしまう。

 

 結局、まつろわぬイングヴァルトが顕れるまで使う事も無くて、死蔵されていたジクウドライバーとライドウオッチ。

 

 西暦二〇〇八年、ミッドチルダの新暦なら五九年にまつろわぬ神として顕れたクラウス・G・S・イングヴァルトとの闘いに於いて解禁をされたのである。

 

 ユートはもう一つのライドウオッチを取り出し、トライアングルスターターを押してやった。

 

《SHIN-O TRIANGLE HEART!》

 

 左側のD´3スロットに装填してユナイトリューザーを回す。

 

《SHIN-O!》

 

《STERN!》

 

《HOMURA!》

 

 ジクウサーキュラーを回転。

 

《RIDER TIME KAMEN RIDER SHIN-O!》

 

《TRIANGLE HEART TIME!》

 

 光が収束されて照射。

 

《MITTHU NO TIKARA KAMEN RIDER SHIN-O! STERN! HOMURA! TRIANGLE TRIANGLE HEART!》

 

「仮面ライダーシンオウ・トライアングルハート!」

 

 見立てという言葉が有るけど、似せて造られたからかユートが想定しない形態、【トライアングルハート】となったシンオウ。

 

「久し振りだな二人共」

 

「はい、久し振りですね」

 

「ホント、久し振りなんですよ」

 

 仮面ライダーシンオウ・トライアングルハートの内部、其処にはユートとシュテルとほむらの三人が揃って立っている。

 

 ユートとシュテルとほむらは、古代ベルカ時代に跳ばされてしまって後の聖王オリヴィエと覇王イングヴァルト、黒のエレミアたるヴィルフリッドと友誼を結んだ。

 

 暫くは平和で周囲が戦争しているなんて思えない程、だからと云わないがオリヴィエやヴィルフリッドとの仲は可成り良かったし、クラウスとも切磋琢磨をする仲で悪くは無かった。

 

 時折、メイドと仲好くするからオリヴィエ達に追い回されたり、ヴィルフリッドとエロイベントが起きて、『花恋姉!』と絶叫してしまったり色々と愉しい日々。

 

 あの運命の日に……オリヴィエが 揺りかごの聖王となる決意と共にクラウスを倒して出て行った時、ユートとシュテルとほむらは聖王の関係者から拘束され、ヴィルフリッドは小旅行で居なかった。

 

 決定的に歯車が違えてしまい、シュトウラからユートは三人を伴い居なくなり、戦争の被害者達を集めて小さな領主となって戦争に関わり始める。

 

 それは戦争でも捨て置かれていた小さな自治国の姫君を助けたのが切っ掛け、“最初の”【真王妃】とも云える美しい少女。

 

 其処から始まる【真王】ユートの台頭から、“三人”の【真王妃】と顧問戦技官ヴィルフリッドによる真王国の興り。

 

 真王ユートと真王妃シュテルと真王妃ほむらがファイズ系仮面ライダーとなり、顧問戦技官であるヴィルフリッドが鍛えた闘士(ヴァール)が一丸となり、世界に楔を打ち込む事となった。

 

 だが、人々は知らない。

 

 実は最初の真王妃リルこそヤバいまでの存在だった……と。

 

 小自治国家でしかない其処を、ずっと小さな少女領主が護り続けられた意味と、仮にも貴族だった彼女があっさりとユートを引き込んで王妃の位置に就いた意味を。

 

 後の世のアシュリアーナ真王国の、第一真王妃【神異】リルベルト・ル・ビジュー・アシュリアーナ。

 

 嘗て、ユートがその世界にて出逢い……とある秘術で転生をしていたその世界の主人公の母親にして超重要人物。

 

 転生後も魔導力は備えた侭で、再会の約束とその時こそ【閃姫】となる契約を果たすべく、未だに一二歳の身体で超頑張ったのだ。

 

 だから今でも真皇国の国号とはアシュリアーナだし、ユート達が居ない本国を政務と軍務の双方を司り護ってもいた。

 

 姉のラルジェント・ル・ビジュー・アシュリアーナと共に……だ。

 

「実験は成功したな」

 

「聞いた時には驚きましたが」

 

「確かにトライアングルハートなら時間軸さえ飛び越えるものね」

 

 この辺はジオウ・トリニティとも変わらない能力、故に上手くいくのでは? と考えたのだ。

 

「では、報酬は後でたっぷり可愛がって頂くとして……」

 

「今は再会を邪魔する無粋な魔物を狩りましょう」

 

「殲滅タイムだな」

 

 シュテル、ほむらの言葉を受けたユートがニヤリと口角を吊り上げながら言う。

 

 そして動き出す仮面ライダーシンオウ・トライアングルハート、それと同時に【閃姫】達も殲滅に動き出すのであった。

 

 

.




 魔物はまだ数千くらい残っているので個人戦に移行しました。

 仮面ライダーシンオウ・トライアングルハート……仮面ライダージオウ・トリニティの色違いであり、名前はリリカルなのは主体世界だったからだと思って下さい。

 トライアングルが片仮名だけど。




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第44話:自由と平和の守護者となって

 ちょっと遅れました。





仮面ライダーシンオウ・トライアングルハートとなって駆け出すユートにつづく形で、仮面ライダーサソードに仮面ライダーリューンに仮面ライダーザビーに仮面ライダーバルカンに仮面ライダーサガに加え、仮面ライダーキバーラと仮面ライダーリュウガが魔物に向かって行く。

 

 その偉容は敵なら恐怖しか沸かないが、味方なら頼もしい限りというより他はない。

 

「ヘイセイバーはちょっと趣味じゃないからな」

 

 基本装備もジオウ準拠な為に、シンオウ・ディケイドアーマーから新たにヘイセイバーを扱える様になったが、煽ってんのか? と云わんばかりに音声が酷く凄まじいまでにウザかった。

 

 HEI SEI! HEI SEI! HEI SEI! とか煩い事この上なかったし。

 

 平成をどんだけリスペクトしているのか? しかも聞いた敵からは『HEY! HEY! HEY! って、バカにしてんのか!?』と言われた。

 

 HEISEIであってHEY! HEY! ではないのだが、『パンツめくれ』みたいな空耳なのだろう。

 

 因みに、余りにもウザいから一回しか使っていなかったりする。

 

 ディケイドライドウオッチも、超針回転剣ライドヘイセイバーも……前者は普通にディケイドへと変身をすれば良いだけだったし、後者は前述をした通り使うには喧し過ぎだったからだ。

 

 故にユートはサイキョーギレードで闘っている。

 

 正確にはジカンギレードを左手に二刀流の状態だ。

 

「はぁっ!」

 

  ユートの【緒方逸真流八雲派双刀術】が魔物を斬り伏せる。

 

 ユートが使う元々の技は【緒方逸真流宗家刀舞術】で、狼摩白夜から【緒方逸真流狼摩派鉄扇術】を習い、更に二つの技を活かす為に【緒方逸真流八雲派双刀術】を八雲白迦から習っていた。

 

 ユート――仮面ライダーシンオウ・トライアングルハートの攻撃は高いが、それを飛び越える程のステータス値が魔物を情け容赦無く屠っていくものの、如何せん数が莫迦にならないから時間はどうあっても掛かる。

 

「ユート、分散した方が効率的だと具申しますが?」

 

「そうだな。召喚は二日間くらいなら維持も出来る。シンオウじゃなくファイズで往こうか」

 

 ユートはジクウドライバーを外して三人に分散する。

 

「え、何かアニメで観た感じの娘が二人も出てきた?」

 

 驚く玉井淳史。

 

 短い栗色の髪の毛に蒼い吊り気味な目、そして変身していないからバリアジャケット姿にルシフェリオンを持っている、星光の殲滅者たるシュテル・スターク。

 

 長い黒髪を二本の三つ編みに、赤色のリボンで結わい付けついる眼鏡っ娘、そして学校の制服でも通じそうな魔法少女ルック。

 

 所謂、【メガほむ】である。

 

 アニメとは少し違うルートを通ったらしく、まだユートと出逢った頃はこの姿であったが故に鹿目まどかがアルティメットまどかになる事も無く、ユートがワルプルギスの夜を叩き潰した挙げ句の果てに魔法少女のデメリットを粉砕してしまい、きゅうべぇを追い出してしまったユートに付いて行く決意をしたのがこの世界のほむらだったりする。

 

 結果としてユートとシュテルと古代ベルカに跳ばされてしまい、四苦八苦をしながらもシュトウラ国でクラウスの庇護を受けた。

 

 クラウスが覇王の道を往く事になった後、アシュリアーナ公国に流れて闘いを決意したほむらは、アシュリアーナ公女リルベルト・ル・ビジューと共にユートを王としたアシュリアーナ真王国の王妃となり、シュテルを含む三人にて寵愛を受けてきたのである。

 

 リルベルトは未だに彼方側だったが、この場には【黄昏の魔女】と【暁の魔王】が揃っている。

 

 転生前と同じく【神異】の二つ名を持ち、魔導力をも操る魔導士(ラザレーム)である事も変わらないリルベルト・ル・ビジューは、ある意味で最強の嫁でもあったが、それが故に戦わせる事に躊躇いもあった。

 

 実際にリルベルト・ル・ビジューとギネビィア・ハフェ・シエルの闘いを視ていた身としては、あれを再現させる事は恐怖しかないのだろうから。

 

 仮令、彼の本が既に彼女の中に存在しないのだとしても、それは彼女があの力を振るえない理由にはならないのである。

 

 ユートとしては、大人しく政務と軍務をしつつ午睡でも愉しんでいて欲しい。

 

 だから喚ぶのは基本的にこの二人だけで、ユートも含めた仮面ライダーとして闘う。

 

 三人はそれぞれ、ユートがファイズドライバーを、ほむらがカイザドライバーを、シュテルがデルタドライバーを腰に装着。

 

 ユートがファイズフォンを開いてコードを入力していく。

 

 【5】【5】【5】【Enter】……

 

《STANDING BY》

 

 ほむらもカイザフォンを開いて変身の為のコードを入力。

 

 【9】【1】【3】【Enter】……

 

《STANDING BY》

 

 最後にシュテルがデルタフォンを口元に近付けて変身コードを音声入力、それと同時にユートとほむらも同じ言葉を叫んだ。

 

「「「変身!」」」

 

《STANDING BY》

 

 ユートがファイズドライバーに、ほむらがカイザドライバーに、シュテルがデルタドライバーにそれぞれのフォンを挿し込む。

 

《COMPLETE!》

 

《COMPLETE!》

 

《COMPLETE!》

 

 ドライバーから各々の色のフォトンブラッドが血流の如く流れ、その身体にはインナーとアーマーを纏わせていく。

 

 古代ベルカ時代、真王として列強たる王と闘った仮面ライダーファイズ。

 

 真王妃としてファイズと共に戦場を駆け抜けた【黄昏の魔女】仮面ライダーカイザ。

 

 同じく【暁の魔王】と呼ばれ怖れられながら闘った仮面ライダーデルタ。

 

 今此処、トータスの地にアシュリアーナ真王国の真王と王妃が降り立った。

 

 ユートがシンオウ・トライアングルハートに変身したのは飽く迄も実験で使っただけだし、あっさりと鞍替えをしたのは当然であったから仮面ライダーファイズとして立つ。

 

 ファイズが手にするのは赤い閃光を湛えたファイズエッジ、本来はオートバジンのグリップとして装備されているが、ユートはいつでも使える様にアイテムストレージに仕舞い込んである。

 

 斬っ、斬っ! と連続して魔物を斬り裂いていた。

 

 カイザはカイザブレイガンで、ガンモードにして撃っていた。

 

 元々、魔法少女となっても魔力が低くて魔法に頼れなかった為、ほむらはとある事務所とか色々と銃器などを拝借し、それで魔女や使い魔などを斃してきたのだ。

 

 どちらかと云えばブレイドモードよりガンモードが使い易い。

 

 更に本来のカイザには存在しない左腕の盾、これは魔法少女としてのほむらの装備品だ。

 

 これを使えば時間関係の魔法をある程度だが使用可能。

 

 しかも今のほむらは【閃姫】だから、魔力量という問題は無いと言っても良いだろう。

 

 デルタが持つのはフォンブラスターではなく、ルシフェリオンと呼ばれる魔法杖だった。

 

 高町なのはを基礎とするからにはやはり、高町なのはと同じ能力だという事が大きいのだろう。

 

 ルシフェリオンにより放たれる魔法こそが、シュテル・スタークたる仮面ライダーデルタの戦い。

 

 炎熱変換された魔力が飛んで、魔物を一匹また一匹と屠る。

 

 迅さではフェイトを基礎とするレヴィに劣るが、それもユートとの【閃姫契約】により能力値が大幅に向上する事で補えている。

 

 攻撃力は申し分ないし、防御力もなのはと同じタイプなバリアジャケットで、相当に硬いのがウリだと云えた。

 

 そして未だに本領を発揮していない仮面ライダーサソード。

 

 それはザビーも同じくだ。

 

 カブト系仮面ライダーはホッパーや劇場版の三ピカは除くけど、防御力の高いマスクドフォームと機動力に優れて必殺技をも使えるライダーフォームが有り、当然ながら単純な火力はライダーフォームの方が上だ。

 

 パンチやキックの力はマスクドフォームが高いが、必殺技を使えるのやジャンプ力や機動力が高いのが大きいとも云える。

 

 何より仮面ライダーカブトの敵たるワーム、コイツらも蛹形態から脱皮(キャストオフ)して特殊な能力であるクロックアップが使用可能となる。

 

 それに対抗するのがライダーフォームという訳だ。

 

 それでは何故使わないのか? それは必要が無いから。

 

 この魔物共は蹴り兎や二尾狼、良くて爪熊くらいの性能。

 

 そんな雑魚を率いる小ボス型も精々がベヒモス程度。

 

 仮面ライダーの能力は初期値が低めに設定されているクウガでさえも、蹴り兎や二尾狼や爪熊など雑魚に過ぎないし、ベヒモスとてグロンギ族の【ズ】にすら圧倒的に劣る程度でしかなかった。

 

 況んや、飛べないとはいっても【ゴ】ならエヒトの使徒を大幅に

上回るであろう。

 

 ならばこの様な群れですらない有象無象な魔物、ライダーフォームに成るまでも無いからキャストオフしないで戦っていたし、シアからしたらマスクドフォームでも機動力は確保が出来ており、アイゼンⅡを振り回せば充分だったのである。

 

「コイツら確かに真オルクスでの蹴り兎か二尾狼くらいね」

 

 サソードヤイバーで斬り裂きながらも独り言ちる雫。

 

「おらぁ! だっしゃらぁぁぁぁぁぁぁぁあっ! ですぅ!」

 

 シアは何なら余裕すらあった。

 

 仮面ライダーカリスの色違い、黒が基本なカリスとは逆に白が殆んどな鎧やインナー、仮面ライダーリューンな香織はリューンアローで中距離攻撃、近付かれたならばリムの部分で斬る近接攻撃。

 

 オリジンたるカリスと同じ戦い方をしているが、実は大して披露はしてないけど使徒のリューンも同じ戦い方だったりする。

 

「はっ、はぁっ!」

 

 距離に余り関係無く安定して戦える強味、更にはリューンだからこそ持つのが飛行能力。

 

 使徒リューンは普通に飛べた、それが仮面ライダーにも反映されているらしい。

 

《MIGHTY!》

 

「グラビティシュート!」

 

 ワイルドベスタの【MIGHTY】を使った必殺技、志村純一が変身する仮面ライダーグレイブと同様のものであるが、技の見た目からどちらかと云えばラルクか?

 

「……【蒼天】」

 

 仮面ライダーサガに変身をしたユエは、魔法によるごり押し戦法が変身前以上に目立つ。

 

 仮面ライダーサガになってMPが増大するのもだが、【閃姫】となって魔力値も上がっている

 

 というより【閃姫】となってからは外付けMPが有るが故にか、全くMP残量を気にせず魔法を撃てるのが良い。

 

 あのエネルギータンクは【閃姫】が増えれば容量も増す。

 

 現在は恒星が四個分のエネルギー量だが、この恒星とは地球に於ける太陽の事ではない。

 

 アンタレスレベルの大きさだ。

 

 はっきり云えば、全【閃姫】が一斉に最上位魔法を二四時間体制で毎分撃ったとしても、決して枯渇する事がない程であった。

 

 それこそ、【腐蝕の月光】アーデルハイトが火星の全域をテラフォーミングしても、余裕で有り余るくらいの容量であると云う。

 

  ユエがミレディ――仮面ライダーバルカンに併せる形で魔法を放つ。

 

「ミレディちゃんの必殺技を喰っらえぇぇぇっ! 【炎凰】!」

 

「……【雷龍】!」

 

 二人はライバル的な関係を持ちながらも、割と仲が良くて師弟な関係にもなっていた。

 

 その関係で魔法談義に花咲かせる事も多く、そうなると魔法好きなユートは兎も角として他の者は付いて行けなくなる。

 

 二人の放った魔法は通常魔法の最上級魔法と重力魔法の複合技であり、【炎凰】は火炎の最上級と重力魔法の複合でカイザーフェニックスみたいな火の鳥が飛翔して敵を焼き尽くし、【雷龍】は雷撃魔法と重力魔法の複合技だった。

 

 尚、【炎凰】も【雷龍】もオリジナル? はユートが見せてやったカイザーフェニックスとサラマンドラバーンという、炎の魔法をアレンジしたモノを二人が自分なりに解釈して重力魔法と通常魔法を組み合わせたものだったり。

 

 本当のオリジナルは前者となるのが【DQダイの大冒険】に於ける大魔王バーンの必殺技であり、後者が【輝竜戦記ナーガス】の主人公たるナーガスの必殺技だ。

 

「流石は【解放者】のリーダーに吸血姫よな。では妾も往くぞよ」

 

 仮面ライダーリュウガとなったティオ・クラルスは、バルカンとサガの魔法を見て気合いを入れ直すと自らの魔法を放つ。

 

 まぁ、普通に上級魔法だ。

 

 契約をした訳では無いので飽く迄もティオ・クラルス本人の力量による魔法、仮面ライダーリュウガは仮面ライダーサガとは違って身体能力が伸びるタイプだから、ティオ・クラルス自身の魔力値は特に上がったりしない。

 

 ユートの仮面ライダーは身体系と魔法系、どちらかが伸びる或いは半々などでどちらも伸びるという能力の向上が成される。

 

 例えば、龍騎やタイガやナイトやリュウガが身体系、ファムとか意外かも知れないがゾルダが魔法系である。

 

 仮面ライダーオーディンは最強を目指して、どちらも二倍で上がる辺り徹底していた。

 

 つまりは、ティオ・クラルスの場合だと魔法より肉弾戦こそ本領を発揮するのである。

 

「ふん、埒が明かんの」

 

 ティオ・クラルスがバックルに装填をされたカードデッキから、一枚のカードを引き抜いて左腕に装着された暗黒龍召機甲ブラックドラグバイザーへ装填。

 

《ADVENT》

 

 本来だと契約カードが変化した召喚カード、とはいってもユートの造った仮面ライダーであるが故に始めから召喚カードとして構築をされていた。

 

 そう、召喚カード。

 

『グワァァァァァッ!』

 

 何処からともなく顕れたるは、暗黒の長い巨躯を持つ蛇の様な龍――暗黒龍ドラグブラッカー。

 

「征くのじゃ、ドラグブラッカーよ! 愚昧なる魔物共を焼き尽くし喰らい尽くすが良い!」

 

 主命に従いドラグブラッカーが暴れ始める。

 

 本来の主は優雅だが、本人が貸し与えたからドラグブラッカーも仮初めの主たるティオ・クラルスに従っている。

 

 ユートがドラグレッダー、優雅がドラグブラッカー。

 

 優雅はユートの影故に役割的な感じで主となったが、滅多に表に出ない優雅は持っていても余り意味が無いからと貸した。

 

 その恐るべき黒炎のブレスと牙や爪が、魔物を蹂躙していく姿はどちらが敵か判らない程。

 

 しかもドラグブラッカーは魔物を牙で咬み千切り、咀嚼をしている事から本当に喰らっているのがよく判る。

 

「あのデカイのが主殿が言うておった小ボスじゃの」

 

 再び引き抜かれるカード。

 

《FINAL VENT!》

 

 黒い龍の顔を思わせるクレストが描かれたカード、それは必殺技を発動する為の物だった。

 

 ドラグブラッカーがリュウガの周囲を飛び、リュウガ本人は浮かび上がる様に空中を翔ぶ。

 

「はっ!」

 

 回転しながらドラグブラッカーの前に、巨大な口を開いたドラグブラッカーの黒炎を背中から受ける形で左脚を前に蹴りを放つ。

 

 龍騎と同じくドラゴンライダーキック。

 

 小ボスと周囲を侍る雑魚が一緒くたに消し飛んだ。

 

 仮面ライダーキバーラと成った園部優花、腰に装備されている剣は抜かず別口で太股に装備をする【回帰の短剣】を投げ付けたり、キバーラから供給される魔皇力を物質化させた投擲用短刀を投げ付けていた。

 

 特に投擲用の短剣はエミヤ的な投影魔術みたいな代物ではなく、一般的な投影魔術のアイテムに過ぎない為に無くそうが壊れようが惜しくもなく、故に刺さった短刀にとある術を施してある。

 

「ランブル・デトネイター!」

 

 パチンと指を弾くと短刀に魔法陣が顕れ、その瞬間に爆発を起こして魔物を破壊していく。

 

 IS(インヒューレント・スキル)ランブル・デトネイター。

 

 【魔法少女リリカルなのはStrikerS】に登場するジェイル・スカリエッティなるマッドに造られた戦闘機人、数の子と揶揄されるNo.5に当たるチンクが使っていた先天技能である。

 

 先天技能(インヒューレント・スキル)の名が示す通り、戦闘機人のそれは後天的に発現しないもの。

 

 だけどユートは上手く手にする事に成功をした。

 

 レジアスを味方に付けただけでは原典の流れが変わらないのか、ゼスト隊は捜査をした場所で戦闘機人に襲撃され、原典通りになりそうだったのをユートが逆襲撃をかましてやる。

 

 ゼストは手遅れ、然しチンクと戦っていたクイント・ナカジマと別の場所で戦っていたメガーヌ・アルピーノは確保、チンクも倒して秘密基地に連れ帰った。

 

 敵対者に容赦しないユートは、チンクの幼い肢体をタップリと嬲ってやり、何度もイカせてやった挙げ句の果てに実験だと称して念能力の【模倣の極致(コピー&スティール)】を使ったのだ。

 

 果たして彼女ら戦闘機人のISをコピれるのか?

 

 大概の能力系なら上手く盗れる筈だからと一際、盛大にチンクを 絶頂させてやり彼女の技能を閲覧した結果、ランブル・デトネイターを発見したから簒奪した。

 

 模写ではなく簒奪だったから、チンクは処女と共にISを喪失する羽目に陥る。

 

 ユートは自らが扱える能力を、インストール・カードとして創り出せる為、【ランブル・デトネイター】と無駄に凝った豪奢な装飾と共に書かれたカードを創出し、それを優花に渡してやったのだ。

 

 魔皇力で創ったとはいっても、この短刀が金属なのは間違いないからか、上手くランブル・デトネイターが発動していた。

 

「どうやら上手くやってるみたいだな」

 

 ユートは満足そうに頷く。

 

「そろそろ終わらせよう。先生のオーダーも熟さないとな」

 

 即ち、清水幸利の捕縛。

 

 ユートの中ではとっくに清水幸利が犯人で固まっている訳だが、これは勇者(笑)みたく思い込みや御都合解釈では決してない。

 

「私達も終わらせましょう」

 

 ブラスターモードなデルタフォンを腰から外すシュテル。

 

《READY》

 

 バックルのミッションメモリをデルタムーバに当たる部位の上部スリットに装填すると、ポインターモードへと切り替わる。

 

「チェック!」

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 ピピピピピと軽めの音を響かせてベルトのバックルからフォトンブラッドが、ポインターモードなブラスターへとチャージされた。

 

 引き金を引くと三角錐状のポインターが放たれ、巨体な魔物の動きを制約してしまう。

 

「ルシファーズハンマー!」

 

 抑揚の無い声で放つドロップキックこそ、必殺技のルシファーズハンマーで威力は24tと云う。

 

『グギャァァッ!』

 

 Δの紋様と共に赤い炎に包まれ灰となって崩れ落ちた。

 

 オルフェノクではないが……

 

 ほむら=カイザも腰の後ろ部分に装着された双眼鏡、カイザポインターを外して……

 

《READY》

 

 カイザフォンに付いたミッションメモリを装填、ポインターモードに変形させて右脚に装着。

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 カイザフォンの【Enter】キーを押すと、フォトンブラッドがカイザポインターへと流れていく。

 

 脚を魔物に向けると、円錐状のポインターが拘束してしまう。

 

「はぁぁぁっ! ゴルド……スマァァァァァッシュ!」

 

 ファイズでは技名など叫んだりしないが、ユートがやっていたから基本的に二人も叫ぶ。

 

 ほむらも見事なドロップキックでゴルドスマッシュを放った。

 

 魔物はΧの紋様を浮かべ青い炎に包まれて灰と消える。

 

 ユートはファイズアクセルからメモリを外し、ベルトのファイズフォンに装填をする。

 

《COMPLETE!》

 

 フルメタルラングが開いて肩へ移動、フォトンブラッドも赤から銀へと変化さてアルティメットファインダーが黄から赤へ。

 

 ファイズアクセルフォーム。

 

「一〇秒間だけの中間フォーム、篤と味わえ魔物共!」

 

《START UP!》

 

 ファイズアクセルの赤いスイッチを押すとタイムが……

 

 何と赤いポインターが一〇〇は顕れて、複数の小ボスをポイントしてしまった。

 

「はぁぁっ! アクセルクリムゾンスマァァァァァッシュ!」

 

 百体を同時に撃破。

 

 魔物共はΦの紋様と共に青い炎に包まれて灰となり崩れた。

 

《THREE TWO ONE TIME OUT》

 

 タイムリミットで自動的に元のファイズへ戻る。

 

《REFORMATION》

 

 アクセルメモリは引き抜く。

 

「まだ多少は残るか」

 

 ユートはファイズの侭ではあるけど刀を手に……

 

「迅き風よ光と共に解放されよ……」

 

 

 とある世界で視た技、悪鬼羅刹の業と忌み嫌われたモノだとか。

 

爆炎(ティルトウェイト)

 

 仲間が居ない方向へ。

 

「鳳龍核撃斬っ!」

 

 刀に爆炎の威力を乗せて放つという秘奥、残った魔物を殆んど炭へと変えてしまった。

 

 残った魔物は雑魚ばかりだし、山脈側へと逃走して行く。

 

「古代ベルカ時代の戦時中以来ですかね、あれを見たのは」

 

 シュテルも冷や汗が流れる。

 

「それじゃ、清水を捜すか」

 

 勢い余って殺してなければ良いと思いながら言った。

 

 

.




 清水を捕まえるまでいかなかった……



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第45話:裏切者へ哀しい結末を

 少しだけ早めに書けました。




.

ユートは風の精霊に頼んで清水を捜すが、何故かこの世界では精霊とのアクセスが困難で恣意的に接続する必要がある。

 

 とはいえ、接続さえ出来れば捜す事は其処まで難しくはない。

 

I found it(見ぃ付けた~)

 

 遥か古のカセットブックという遺品も同然な代物が存在してて、フクロボなる英語勉強カセットのキャラクターが存在する。

 

 昭和もまだ五十年代だ。

 

 因みにフクロボはフクロウをパロった水色のロボット、造られた際に英語ではなく日本語しか喋れず放逐され、女神だか何だかから【困ったボタン】を与えられ旅立っている。

 

 ユートの科白はかくれんぼをしていたフクロボと少女が、隠れていたオッサン? を見付けた際のものである。

 

 I found it.……は少女の方が言った科白だけど。

 

 尚、ユートがこんなのを知っていたのは昭和四十年代に生まれた叔母の一人が、中学生時代に購入したのを大事に保管していて幼い頃に聴かされたから。

 

 英語が出来ればある程度は海外で会話に困らないと言われて。

 

 ユートがフクロボを知ってから興味を懐いたのは、ロボットという科学の産物ではなく【困ったボタン】という不思議アイテム。

 

 趣味の魔導具造りはこのアイテムから来ていた。

 

 それは兎も角、虚空瞬動の様な感じで瞬時に清水幸利の乗る空中を浮遊する魔物の背後に着地。

 

《READY》

 

「え?」

 

 突然の電子音声に振り返るも、時は既に遅くファイズフォンを開いて【Enter】キーを押す。

 

 手にはファイズショット。

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 ピピピピピと警戒な音を響かせながら、赤いフォトンブラッドがフォトンストリームを通って右手の甲に填まるファイズショットへとチャージされていく。

 

「せあ! グランインパクト!」

 

 

 振り向き様に、清水幸利の頬へとグランインパクトが極る。

 

「ギャァァァァァァアアッ!?」

 

 本来なら5.2tという破壊力な上に、ユート自身の腕力が加わった凶悪な一撃だから清水幸利の上半身乃至、首から上が吹き飛んでもおかしくなかったろうけど、非殺傷設定の“所為”で痛いという“だけ”で死なずに終わる。

 

 まぁ、魔物から落ちたから地面の染みになってしまうかも?

 

 ユートは殺傷設定にて魔物にもグランインパクトを喰らわして、面倒臭そうな表情になりながらも清水幸利を追い掛け、ギリギリで地面にぶつかる前に回収に成功をすると、右足首を握って引き摺りつつウルの町へと戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 清水幸利……真性のオタク。

 

 クラスメイトは彼自身が徹底的に隠したから知らない事実だが、それこそハジメに小悪党四人組が虐めで言った『キモオタ』という言葉に当て嵌まるレベルだ。

 

 家の部屋にはエロゲが積まれ、薄い本が厚いタワーになるくらいに積み上げられていて、それこそ清水幸利のリビドーを鎮めるのに一役も二役も買っている。

 

 御気に入りな美少女フィギアもあられもない姿で所狭しと列べられていたし、何なら清水幸利の眠るベッドに可動式の美少女フィギアがキャストオフ状態で置かれ、変な染みが股間や顔などに染み付いてしまっていた。

 

 尚、オ○ホが合着されてある辺りからして、果たしてどんな理由からベッドの上に置かれているのかは知れようというもの。

 勿論、普通のフィギアも硝子製ラックに並んでいる。

 

 壁一面に美少女ポスターが貼られていて、やはり幾つかは股間部や顔や胸に変な染みが……

 

 本棚には漫画やラノベが並んでいたし、エロ漫画やAVなど歳を誤魔化してネット通販して手に入れており、擦り切れるまで読んでいたしAVの喘ぎ声を聴きながらフィギア遊びもしていた。

 

 シチュエーションも勇者として異世界に召喚され、国のお姫様やメイドや助けられた町娘と和姦、或いは敵将を強姦なんてのも頭の中で試したし、寧ろ魔王軍で国を落としてお姫様を嬲りモノにするなんてのも考えた程。

 

 当然ながら召喚をされた当初、リリアーナが紹介されたその夜に彼女のあられもない姿を夢想しながら耽ったものだ。

 

 何しろリアル・プリンセス。

 

 妄想もリビドーも全力全開手加減無しで働き、一日に数発も壁を汚してしまうくらい。

 

 当然ながら家族には知られていたし、兄や弟から煩わしいと思われていて態度で表したり言葉が飛んでくる事すらある。

 

 流石に親は心配をしてくれていた様だが、清水幸利からしたなら寧ろそれこそが煩わしい。

 

 中学生時代は虐めに遭った経験から、高校生に上がってからそれをひた隠しにしていた。

 

 南雲ハジメという羊が居たし、何よりそれを視る限り知られたりしたら、自分も同じ目に遭うのは火を見るより明らか。

 

 そんな清水幸利にも転機が訪れる……と、勝手に思った出来事こそトータスへの勇者召喚。

 

 はっきり云って『異世界キタァァァァァァアアッ!』と、何処ぞの仮面ライダーの如くリアクションを取りたくなる程に。

 

 ラノベや漫画やアニメで夢想はしていたが、有り得ないと捨てていた勇者召喚による異世界転移、しかもチート持ちとなればま浮わつくのも無理はない。

 

 実際にチートだった。

 

 少なくとも能力はトータス人の一般人の数倍、闇術師という天職と闇魔法という技能。

 

 他にも程々な技能が二~有り、ニヤつくのを止められない。

 

 だけどすぐに現実へ引き戻されてしまったのは、地球でイケメンな文武両道チート野郎とも云える天乃河光輝の天職が【勇者】で、全ての能力が100という清水幸利の倍は有るのだ。

 

 技能も一杯みたいで、メルド・ロギンス騎士団長からして『規格外な奴』と誉め称える程。

 

 メルド・ロギンスはレベル60越えで能力は300くらいだが、レベル1で三分の一に達しているならば、天乃河光輝が同じレベルになればメルドの倍以上となるのは最早、約束されている様なものであろう。

 

 自分も或いはメルドを越えるかも知れないが、天乃河光輝には決して並ぶ事すら叶わない。

 

 何の事は無い結局、清水幸利は勇者のオマケでしかなかった。

 

 勇者を彩る賑やかし、即ち単なるモブというやつである。

 

 清水モブ夫という訳だ。

 

 しかも【二大女神】や愛子先生やもう一人が奈落の底に落ちて、否が応でも死という事象を頭に焼き付けられてしまい、清水幸利は部屋に引き篭る様になった。

 

 幸いにももう一人が愛子先生を連れて戻り、清水幸利の引き篭りが誰かに文句を言われる事も無くなり、そしてその間に読み続けていた闇術に関する本。

 

 結果として闇術に大きな適性を持っていた清水幸利は、洗脳という極めつけな魔法を手にした。

 

 とはいっても、簡単に使える程に御都合的なモノでもなかった。

 

 例えば城のメイドさんに使いたくても、自我が有る存在に対しては相当な時間が掛かると判明し、その間に気付かれてしまえばどうなるかは知れたもの。

 

 肩を落とした清水幸利だったがふと気付き、魔人族がやっているという魔物の支配とかならばどうか? と考えた。

 

 魔物は自我が薄く多分に本能的な存在、これなら自分でも支配してしまえるのでは?

 

 実験的に王都から抜け出しては雑魚を相手に洗脳を試してみて、人間に比べると容易く支配が可能だと判明した。

 

 その後、勇者(笑)に付いていくのではなく愛子先生が作農師として動くと聞き、優花が結成をした【愛ちゃん護衛隊】に交じり北の山脈で魔物を支配する事にする。

 

 まぁ、ウルの町に来たのは彼からすれば北の山脈という狩場として丁度良かったから。

 

 清水幸利が闇系統に特化しているとはいえ、僅かな時間では群れのリーダーを支配するという効率的な手法でも、精々が千に届けば御の字でしかも二つ目の山脈に棲むブルタール級がやっと。

 

 再会した時には皆が偉業に畏怖と畏敬の念を懐き、特別扱いをするのを夢想してやってきたけど、限界は早々と訪れたのである。

 

 だけど幸運? にもとある存在の助力と全くの偶然にも支配が出来たティオの存在が、何と四つ目の山脈の魔物すらも支配する力を清水幸利に与えた。

 

 こうして得た力に、清水幸利の精神的なタガは完全に外れてしまったのである。

 

 満を持して自らの“特別性”へ悦に入りながら、ウルの町へと魔物の大群を差し向けた。

 

 契約に基づき恩師たる愛子先生を殺す為、魔人族の勇者として迎え入れられる為に。

 

 自身の身体能力が高くないのは自覚しており、空飛ぶ魔物に乗って最後方で見物をしていた。

 

 刹那、目を焼く凄まじいまでの極光が魔物の軍勢を消し飛ばす。

 

「……は?」

 

 完全に意味不明だ。

 

 確かに勇者(笑)辺りが聖剣へと付与された魔法で、極光? っぽい光線を出せていたのは覚えているのだが、勇者(笑)はホルアドのオルクス大迷宮に挑戦中であり、況してやあそこまで凄い威力では有り得なかった。

 

 寧ろあれは【Fate/】シリーズのセイバー、アルトリア・ペンドラゴンが使う【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】を思わせるくらいの……それすら越える威力ではなかったか?

 

 そう思ったら今度もまた凄まじい威力の光線が放たれた。

 

 まるで【バスタード】の古代語魔法……【七鍵守護神】である。

 

 又もや凄まじいばかりの熱波が拡がり、魔物の軍勢を焼き滅ぼしていくのが見えた。

 

 まるで【聖戦記エルナサーガ】の最強魔法【熱核雷弾】の如く。

 

 又もや放たれる赫い極光はまるで【スレイヤーズ】の竜破斬。

 

 そして極めつけとして放れたのは虹色の極光、まるでパーフェクトゼクターでマキシマムハイパーサイクロンを放ったかの如く。

 

 その後は次々と減っていく魔物だったが、再び凄まじいばかりの攻撃が放たれ魔物が壊滅したかと思ったら、後ろから《READY》という音声が響いて、振り向いたらファイズが後ろに立っていた。

 

 直後の衝撃と凄い痛みに意識は混濁し、気付けば周りには見覚えのある連中や仮面ライダー達に囲まれ、目前には殺す予定だった筈の愛子先生の姿が在ったのだ。

 

 本当に意味不明で理解が追い付かないが、あの六万にも届く魔物の軍勢が僅か一時間足らずで溶けて消えたのは解る。

 

 余りにも理不尽。

 

 いつだって世界はこんな筈じゃなかった事ばっかりだ……とか何とか思いながら、茫然自失となって愛子先生の顔を視ているしかない清水幸利であったと云う。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 愛子先生は顔を引き攣らせながらそれを見つめる。

 

 契約通りにユートが清水幸利を連れてきたのは良い、良いのだが足首を持って頭がガンガンと地面に打ち据えられながら、狩りで獲た獲物を引き摺るかの様に連れてきたのだから仕方がないだろう。

 

「あの、緒方君?」

 

「何かな、先生?」

 

「し、清水君が何だか大変な事になってるんですけど……」

 

 そのド頭をしこたま打ち付けられた所為か、タンコブだらけになっている清水幸利。

 

「特に気にしない事だね。尚、僕は一切合切気にしていない」

 

「気にして下さい! 嗚呼、何て事に……清水君! しっかりして下さい清水君!」

 

 ガックンガックンと揺さぶりながら叫ぶ愛子先生だが、清水幸利は余計に酷い感じになってた。

 

「う、ううん?」

 

 だが、その甲斐もあってか上手く清水幸利は気が付く。

 

「な、何が……ハッ! 俺は……確か……ファイズに殴られて?」

 

 自分でも何を言っているのかが理解出来ていない。

 

 ファイズに殴られたとかいったい何を血迷ったかと、清水幸利はブンブンと首を横に振った。

 

 だけど今一度、顔を上げてみたら確かに仮面ライダーファイズの姿が其処に在る。

 

「うおわぁぁぁっ!?」

 

 トータスへの異世界召喚自体が非現実的だが、仮面ライダーが居るのもまた非現実的である。

 

 だけど、ユートが仮面ライダーWに変身したのは見ていたからか漸く気が付いた。

 

「お、お前は……緒方か!?」

 

 目の前のファイズがユートであるという純然たる事実に。

 

「ああ、そうだ」

 

 ユートはファイズフォンを操作して変身を解除する。

 

 ファイズギア一式を装備している以外は、特に変わりない姿の侭に本来のユートに戻った。

 

 やはり吃驚する清水幸利ではあるが、愛子先生も余裕がある訳ではないからか話を始める。

 

「清水君、貴方がこんな事をした理由は魔人族と契約して私を殺す為ですか?」

 

「へぇ、莫迦ばっかりだと思っていたけど意外と冷静に答えに辿り着いたんだな」

 

 それは肯定の意。

 

「特別でありたい……そういう意図で勇者として迎えてくれる。魔人族から持ち掛けられたのですね」

 

「もう何もかも解ってるんだな。そうさ、あの日に俺は魔物を集める為に町を出た。その時に魔人族に会ったのさ。俺のこの力は勇者に相応しいものだって、畑山先生を殺せば魔人族の勇者に迎え入れるって契約をしたんだ!」

 

 初めて肯定された気分だったのかも知れない、清水幸利は恍惚とした表情で語ってきた。

 

 正直、気持ち悪い。

 

「清水君はそれで本当に良いと、そう考えていたのですね?」

 

「当たり前だろ。赤の他人な先生と俺……どっちを選ぶかなんて決まってんじゃねーか!」

 

 哀しそうな瞳の愛子先生だったけど、それでも予め聞かされていたからショックは小さい。

 

「貴方がしたい事は理解をしました……ですけど、私一人を殺す為にウルの町の全体を危機に陥れる様な必用はありましたか?」

 

「そのウルの町も標的なのさ」

 

「え?」

 

 これにはユートを除いた全員が唖然となってしまう、一応は似た事を言われていたがまさか……といのが本当の思い。

 

「魔人族からしたら人間の町なんか無くなった方が良いんだろう、序でに町を滅ぼす為に魔物を貰ったんだからな」

 

「清水君……」

 

 まさか、此処まで歪んだ事を考えていたとは流石に思ってはいなかった愛子先生、自分が清水幸利を上手く導けなかったのが原因なのかと拳を握り締めた。

 

「そうまでして勇者(笑)になりたかったのか?」

 

 凄くニュアンスが違う気がする優花や雫達。

 

「当たり前だろう! 俺が勇者になるべきだった! 天之河じゃなく誰でもなく、この俺が!」

 

「勇者がそんなに良いもんかね。嘗てロトゼタシアで勇者をやった経験があるけど、『悪魔の子』とか言われて国を挙げて追い回されたし祖国は魔物に亡ぼされるし、身勝手に使命を押し付けられる……いったい勇者なんかの何処が愉しいんだろうな?」

 

 ハルケギニア時代の放浪期の事だったが、ユートはDQ世界へと精霊神ルビスからの頼みで向かったのを切っ掛けに、ナンバリングを中心に疑似転生や転移などにて渡り歩いた。

 

 ルビスからの依頼だという事でも判るだろうが、最初に向かったのDQⅢの世界だけど勇者という訳ではなく、勇者アレルの双子の弟という立場であったと云う。

 

 Ⅲ→ロト紋→紋継ぐ→DQⅠ→DQⅡ→DQⅥ→DQⅣ→DQⅤ→ダイ大→DQⅦ→DQⅧ→DQⅨ→DQⅩⅠ……が基本の流れ。

 

 但しⅩは行ってすらいないし、DQⅣは逆に派生作品とも云える【トルネコの冒険】も関わった。

 

 まだ二十代後半という人妻との付き合いからだが……

 

 それは兎も角、まだユート自身も気付いていないがDQⅩⅠに当たる世界、遂に勇者として疑似転生を果たした訳だが、生まれたばかりの時に故郷が亡ぼされてしまったし、成人して城に行けば何故か【悪魔の子】呼ばわりされるし、碌な目に遭わなかったのだ。

 

 だから今回も勇者(笑)の気が知れないとしか思わない。

 

 そして清水幸利の気も知れないといのが正しかった。

 

 ユートは二度と勇者なんて立場に成る心算は無いのだから。

 

 まぁ、似た様な立場には幾らか成ってしまったりするけど。

 

「俺なら上手くやれるんだよ! 俺が! 俺が勇者だったら!」

 

「たった今、目論見を僅か数人に潰された程度のお前がか?」

 

「なっ、なっ!?」

 

 屈辱からか悔しさからか顔を真っ赤しながら表情を歪ませる。

 

「自分の計画すら上手く出来ずにいた癖に、自分が勇者なら上手く出来たとか烏滸がましいにも程ってもんがあるだろうに」

 

「う、うるさい! うるさい! うるさい! 俺が勇者なら全てが上手くいったんだ! それなのに仮面ライダー? それになんなんだよあの魔物を殲滅した攻撃! 意味が解んねーよ! クソッタレがぁぁぁっ!」

 

 ユートに煽られた清水幸利は、暴れ出して愛子先生の背後に回ると長い針を手に、彼女の首筋へとその針を構えて見せる。

 

「動くな! 勝手に動いたりしたら刺すぞ! こいつは北の山脈の魔物から手に入れた猛毒の針だ。刺されば藻掻き苦しんで死ぬ事になるんだからなぁっ!」

 

 迂闊に動けなくなる香織達だったけど、ユートは意にも介さないで一歩を進める。

 

 

「緒方ぁ! テメエ、出来ないとか高を括ってんな? いつだって刺せるんだぞ!」

 

「なら、やってみろ」

 

「な、なにぃ!?」

 

「だけど心しろよ、やればお前は人質を失う。そうなれば此方に躊躇う理由自体が無くなるからな」

 

 ゾワリとしたナニかが清水幸利の背筋を通った。

 

「どうした、やらないのか?」

 

「ううっ!?」

 

「やれば精々、苦しめて嬲り殺しにしてやるがな!」

 

 凄惨な笑みが本気を思わせた。

 

「ぐっ!」

 

 清水幸利が人質を取って有利な筈なのに、会話の主導権は変わらずユートにあったのだ。

 

 かといって、清水幸利は闇系統の魔法は天才的だったとしても、肉体的には一般人よりは上であれ術師なだけに、メルド・ロギンス辺りには敵わない程度である。

 

 勇者(笑)みたく満遍なく上がる訳ではないのだから。

 

 ハァハァ荒い息を吐く所為で、見た目には中学生っぽい愛子先生を後ろから抱き締めた状態な為、清水幸利は端から視たなら単なる変質者にしか思えない。

 

 他所から視れば膠着している、実際にはユートが主導権をひん握った状況下、ユートが行き成り手の中に四角いボックス状の機械を手品みたいに出した。

 

「なっ!?」

 

 すわ、反撃か!? 清水幸利が警戒心を露わとするが、ユートは機器に白い龍のクレストが描かれたカードを装填、腰にその機器据えると伸長されたシャッフルスラップで装着が成される。

 

 ターンアップハンドルを引きながら……

 

「変身!」

 

 叫ぶユート。

 

《TURN UP!》

 

 ベルトとなった機器……アルビオンバックルから、カードのクレストと同じクレストが描かれているオリハルコンエレメントが顕れ、ユートがそれを潜ると更に電子音声が鳴り響く。

 

《Vanishing Dragon Balance breaker!!!》

 

 【白龍皇の光翼】の禁手である【白龍皇の鎧】だが、本来であれば仮面ライダー剣系の変身をしなくても直に禁手化が出来る。

 

 これは偏に癖である。

 

 反応が一拍くらい遅れたが問題は無い、ユートは【白龍皇の光翼】の力を展開した。

 

《Reflect!》

 

 原典【ハイスクールD×D】に於いては、兵藤一誠が【赤龍帝の籠手】から発動した能力だけど、本来のReflectは【白龍皇の光翼】の能力だったりする。

 

 キンッ! 放たれた貫通性の高い魔法が反射され、撃った存在へとその侭返してしまう。

 

「ギャァァアアッ!」

 

 丁度、心の臓へと命中したらしく魔人族らしき男が落ちた。

 

「ふん、愛子先生を殺る心算だったみたいだな」

 

 射線からしてユートも清水幸利も巻き込んでいたらしい。

 

「あ、痛い!」

 

「っ!」

 

 可愛らしい声で悲鳴を上げたのは愛子先生、振り返れば清水幸利の持った針が愛子先生の細い首に刺さっていた。

 

「清水……」

 

「ち、ちがっ!」

 

「死ね」

 

 ドパン!

 

 瞬時に手にしたのは黒と紅が彩る重苦しい雰囲気なオートマチック拳銃、モーゼルの架空銃ではあるがユートは普通に再現した。

 

 イタクァと共に。

 

 五〇口径という凶悪さで火を噴いたクトゥグア、清水幸利の頭は風穴処の話ではなく即死した。

 

「嬲る心算だったが、意外と腹に据えかねたらしいね」

 

 愛子先生を傷付けられたというのが、ユートにとっては許し難い行為に映ったのであろう。

 

 幾度も情を交わせば絆されるのも有り得るし、愛子先生を割かし大切に思っていたのだろう。

 

「あ、愛ちゃん先生! 毒は? 大丈夫なの?」

 

「え、ええ。私は別に。ですが、清水君が……嗚呼っ! 頭がこんな事に? ゆ、緒方君! どうしてですか!? 私が大丈夫なのって知っていますよね? 私の首に着いてるチョーカーを用意したのは貴方なんですから!」

 

「ど、どういう事?」

 

 優花は意味が判らなかったのか小首を傾げてしまう。

 

「先生のチョーカーは優花に上げたバレッタと同じ、対デバフ効果が付与された魔導具なんだよ」

 

「それって、対毒や対麻痺なんかの効果が付いてる?」

 

「まぁね。因みに対妊娠な効果も有るから万が一も無いな」

 

 なんて言うと、優花を始めとする女性陣がほんのり赤くなる。

 

 対妊娠というか、【異物排除】の効果で男のアレも排除対象となっている訳だ。

 

 見渡せば半分以上が困惑中。

 

 まぁ、行き成りクラスメイトがド頭を五〇口径の弾丸で破裂させられて死ねば、流石に精神的なキツさがあるのだろう。

 

 香織など真っ青だし。

 

「さて、先生には朗報がある」

 

「朗報?」

 

「実は真のオルクス大迷宮で先生は僕に処女を捧げなくても、帰す事は出来たって話なんだ」

 

「それって、悲報の間違いじゃないですか?」

 

「でも、随分と気持ち良さそうだったよね?」

 

「うぐっ!」

 

「それは扨置き、本来なら迷宮脱出呪文のリレミトで先生を連れ出す事は出来た。だけど残念ながら【始まりの四人】だった香織と雫は不可能。パーティに入れられなかったからね」

 

 愛子先生は兎も角として、これは香織も雫も既に聞いた事。

 

 ユートのリレミトはパーティを組んだ人間でないと効果を発さない為、無意識でパーティインを拒んだユートは二人をリレミトで帰す事が出来なかった。

 

「今は可能だけどね」

 

 ライセン大迷宮を脱出するのにリレミトを使い、二人もそれにより大迷宮を脱出したのだから。

 

「だから先生には【願い】を叶える権利がある。どんな願いも可能な限り一つだけ叶えて上げる」

 

 何処の神龍かと云わんばかりの科白に、愛子先生は清水幸利の死のショックも吹き飛び目を見開いてユートを見つめるのだった。

 

 

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 次で決着かな?




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第四章:海人娘
第46話:下水で泳いだ海人族の幼女


 そろそろ次の章になります。





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 青褪めた表情となっているクラスメイトの面々だがこれは無理もない、裏切者だとはいえクラスメイトの一員だった者の頭がドパンされたのだ、吐かなかっただけまだマシと云えよう。

 

 生々しく流れ出る赤黒い血、上半分の無くなった頭、仰向けに倒れた清水幸利の遺体……

 

 どれを取っても日本では先ずを以て見ない光景だった。

 

 尤も、ユートからしたらきっとそれは何も識らないが故の幸せな事だったろう。

 

 ユートはこの世界ありふれた職業で世界最強の地球であり日本という国で、血塗れとなって倒れた両親を視た小学二年生を知っているし、本人も助かりはしたが拳銃で撃たれたなんて話を当事者から聞いていた。

 

 存外とこの世界の日本はデンジャラスゾーンである。

 

 清水幸利を自らの手で所謂、暴君の魔銃で殺したユートがその場で言った内容は、愛子先生からして清水幸利の死を一瞬だが忘れてしまうくらいの衝撃が奔る。

 

「どんな願いもって、アンタはいったい何処の神龍よ?」

 

 まぁ、言われても仕方ない。

 

「僕に処女を捧げる娘は大きく分けて三種有って、【閃姫】契約、願望成就、それとは無関係な子作りなり好意なりだ」

 

「無関係なこ、子作り? それに好意?」

 

 子作りという言葉に優花が照れたらしい。

 

「ああ。まぁ、最終的に【閃姫】として契約する可能性もあるから実質は二種類だね」

 

「その内の一つが願望成就?」

 

「そうだよ、優花。だから先生は一つだけ願いを叶えられるんだ。とは言うものの、飽く迄も一つだけという括りだからね。よく考えないといけない」

 

「あ、愛ちゃん先生! 願い事を増やして貰うとか?」

 

「テンプレ過ぎねーか?」

 

 よくある願い故に。

 

「別に構わない」

 

「「「「構わないの!?」」」」

 

 優花だけでなく玉井淳史や宮崎奈々や菅原妙子までが叫んだ。

 

「とはいえ、叶えられる願いは飽く迄も一つだけ。願いを消費して増やせるのは一つだよ」

 

「プラマイ〇って事?」

 

「そういう事」

 

 因みに、【閃姫】契約した場合でも願い事を叶える事もある。

 

 大した願いに対応しないけど、いざやとなれば【閃姫】だからこそ回数は多い。

 

 また違ったモノだから。

 

「緒方っち、例えばどんな願いが叶うのかな?」

 

「ん? 宮崎には関係無い話なんだが……まぁ、良いか。そうだな……地球に帰るとか?」

 

「……え、マジに?」

 

 流石に驚く宮崎奈々。

 

「可能だ。但し、願いを言った者か帰還させたい対象の一人だけだけどな」

 

「一人だけって……」

 

 当然ながらそれは愛子先生自身が拒絶をする内容だろう。

 

「先生は嫌がるだろうし何より、仮に帰りたがっても止めておいた方が良い」

 

「何で?」

 

「先生が一人で帰ってみろよ? 生徒の親が黙っていない。学校の方も生徒をおっぽり出したとか、懲戒免職を喰らう案件。マスゴミも喧しいだろうし、政治の闇にも狙われる筈だ。そうなったら独りで生きていけるか?」

 

「マスゴミって、ひょっとしたら緒方っちは報道が嫌い? それに政治の闇や懲戒免職……」

 

 懲戒免職は確かに有り得そうではあるが、政治の闇とはいったい何なのか理解に苦しむ。

 

「政治には闇が付き物だからさ。この世界の地球では平和な日本でさえ命が軽い。弁護士一家が政敵に狙われて小学二年生の女の子共々に狙われて、それで助かったのは女の子だけだったとかな」

 

 そんな女の子が今や殺し屋とか世知辛いにも程がある。

 

 ユートは頭を抱えたくなった。

 

 何処の世界にも歪な闇は在るとは思う、事実として【リリカルなのは】の世界でも時空管理局にてトップ――最高評議会が犯罪者も同じだったくらいだ。

 

「……若しかして、このタイミングでそんな事を言い出したのは?」

 

「先生が考えた通りだ」

 

「ですが、それならどうしてわざわざ清水君をこ、殺したんですか? 必要性があったとは思えないのですが……」

 

「あったのさ。先生が望まないなら埋葬して終わり。次の家族会では清水が死んだと報告するだけでしかない。だけど貴重な願いを使ってまで先生が望むなら……ね」

 

 含みを持たせた言い方に違和感を感じるが、出来たら清水幸利をこの侭にはしたくない。

 

「でしたら……」

 

「この世界には地球も含めて冥界や霊界、死後の世界というモノが存在していない」

 

「……え?」

 

 愛子先生が言おうとしたら遮って口を挟んでくるユート。

 

「どういう事でしょう?」

 

「あの世が在ると無いとでは魂の先が変わる。在る場合は魂がそちらへと飛んで行き、冥界なり霊界なりで所謂処の死後の裁判を受けて天国なり地獄に逝き、場合によれば輪廻転生の輪に戻るんだ」

 

「は、はい」

 

 それは愛子先生も識ってる。

 

 呼び名は世界により違う。

 

 ユートの再誕世界はハーデスが支配する冥界、【幽☆遊☆白書】では霊界、【ドラゴンボール】では単純にあの世と呼ぶし、【ブリーチ】ではソウルソサエティなんて呼んでいた。

 

「それでは、死後の世界というのが無い場合は? 魂は僅かな時間で霧散して消滅してしまうんだ。だいたい、一〇分くらいが目安となるみたいだが……魂の強度次第では時間も延びるし、転生して新たな生を得る事も稀にあるな」

 

「ではこの世界では?」

 

「魂魄魔法というのを使わないと基本的に霧散して消える」

 

 死後の安寧も罰も無く消えて無くなると聞き、愛子先生だけではなく皆が青褪めていた。

 

 特に既に友人を亡くしてしまった玉井淳史は、友人の名前を呟きながら青くなっている。

 

「とは言うものの、実は僕が居る時点で“僕の冥界”が存在していてそちらに飛ばされる。今頃、清水も冥界で地獄門の先の裁きの館で天英星バルロンに地獄逝きを宣告された頃かな?」

 

「じ、地獄逝き!?」

 

「まさかあんな莫迦を仕出かした清水が天国に逝ける……なんて思わないよな?」

 

「……」

 

 押し黙るのは肯定した証左。

 

「僕の冥界ってのは?」

 

 やはりそこら辺が気になったのか玉井淳史が訊ねてくる。

 

「僕はカンピオーネでもあるのは知ったな? ならば理解も出来ると思うけど、冥界の王ハーデスを都合三回くらい斃しているから。その簒奪した権能で冥界の創造、冥闘衣の創造と召喚、一二時間限りの蘇生を使える様になった」

 

「マジかよ……」

 

 因みに、冥界創造の権能である【冥界の庭の掟(ヘル&ヘヴン)】には派生権能として【冥王の証たる衣(ハーデス・サープリス)】と神衣を解放する【冥王神衣解放(ハーデス・カムイ)】というのが存在している。

 

 本来、オリンポス一二神の範疇に無いハーデスだが、天帝ゼウスと海皇ポセイドンに並ぶ大神なれば有ってもおかしくないと考えたからか、普通にハーデスの神衣が使える様になっていた。

 

 この権能は【闇の書の終焉】の際に、何故か顕れた闇の神アプスと闘うのに用いられている。

 

 本当に因みにだが、アプスを斃して神氣を喰らった為にアプスの権能も簒奪していた。

 

 【闇に刻まれし烙印(デモンズ・スカー)】と云い、魔傷を与える能力であると同時に解除すら可能な権能、しかも体内のエネルギーに反応する為に小宇宙や魔力や霊力やPSYONや闘氣などを使う事が出来なくなるという。

 

 ギル・グレアムの部下がアプスの魔傷に侵された際、対価を支払わせて解除をしてやった。

 

 約定を違えたからには高い支払いをさせられても、文句の一つとて言えなかったであろう。

 

 この呪い染みた権能は余り使わないが、闇と親和性が滅茶苦茶なレベルで高いユートはアプスと同じかそれ以上のレベルで使い熟せる権能だった。

 

「まぁ、何が言いたいかと言うとだな……僕が居る今現在のこの世界には冥界が存在する訳だからさ、普通に魂魄が保護されて冥界へと飛んでいる。であるからには清水ではなく、他の生徒を一人限定だが生き返らせる事も可能だぞ」

 

「っ!?」

 

 驚愕に目を見開く愛子先生。

 

 十数名もの生徒達がオルクス大迷宮にて死亡が確認されており、今また清水幸利が死んだ。

 

 殺したのはユートだが、自らを余りにも不甲斐ないと責めているのも事実、自虐が過ぎるやも知れないけどそう思うしかない。

 

「意地悪ですね。そんなの普通は選べないですよ……」

 

「じゃあ、選ばないか?」

 

「清水君を生き返らせて下さい」

 

「良いのか? 他にも沢山居るっていうのに、例えば玉井と連るんでる二人とか」

 

「それは理解してます。それでも私は清水君を目の前で見捨ててしまいました。だから!」

 

「ま、この場合は選択が出来ないのが唯一の不正解だろうね」

 

 ユートは肩を竦めて言う。

 

 玉井淳史は拳を握り締めるが、それでも何も言わずに愛子先生の選択を見守っていた。

 

 清水幸利に手を翳したユートが行うのは肉体的な修復、元よりアストラルからの情報を基にして肉体の創り直しすら可能であるのなら、こうして肉体を修復する程度なら幾らでも可能。

 

 とはいえ、それも決して万能とは云えない。

 

 嘗て、スプリングフィールドの父親の仲間であったガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグという男が居たが、彼はアスナとタカミチの二人を逃がして自らは死亡してしまう。

 

 ユートはそれを見付けてガトウの肉体を修復して魂を再び縫い付け蘇生した。

 

 死ぬまで手出しは叶わなかったが故に死して後に蘇生させた訳だが、何しろ肉体の修復は治癒系の魔法で“治す”のとは全く異なり“直す”作業であるが故に、麻酔も使わず肉体を切った貼ったを繰り返す事にあるから激痛という言葉も生温い、狂わんばかりの痛みが襲うのだから。

 

 黄金聖闘士・蠍座のミロが使う真紅光針(スカーレットニードル)も激痛から降伏か死か、然もなくば発狂をするかの三択だと云われているが、これはそれよりも遥かに酷い激痛となる。

 

 ユートが汎暗黒物質を用いた【創成】により、清水幸利の頭を元の状態へと戻す。

 

 ミレディの時みたいに全身を情報だけで創るのとは違い、本体は特に傷付いていないから頭だけを直せば良い清水幸利は割と簡単に修復可能。

 

 あの時より早く修復が完了した。

 

「カレン、聴こえるか?」

 

〔聴こえてるわよ〕

 

 面倒臭そうな声……念話が響く。

 

「清水の魂はどうした?」

 

〔勿論、地獄に堕としたわ〕

 

「そりゃ、そうだろうな。何処だ?」

 

〔嘆きの川……コキュートスにぶち込みましたし、今頃は凍り付けになっているのでは?〕

 

「随分と奥に……」

 

 最奥たるジュデッカの手前である。

 

「悪いが解放して此方に戻してくれ」

 

〔また面倒な……判ったわ。埋め合わせはして貰うから〕

 

「了解した」

 

 ユートの冥闘士が一人、天英星バルロンのカレンはその冥衣が示す通り裁きの館の主。

 

 やっている事はハーデスの冥闘士である天英星バルロンのルネと同じだ。

 

 ユートは溜息を吐くと、疾く送り返されてきた清水幸利の魂を積尸気転生波で括り直す。

 

「これで蘇生は完了した。後はどうしようが僕にはもう関係は無い。それじゃ、僕らはフューレンに向かわせて貰うから、先生達はウルでやるべき事をしてくれ」

 

「わ、判りました……」

 

 愛子先生は作農師の仕事を続けるし、優花達は愛ちゃん護衛隊として留まるであろう。

 

 そしてユートはフューレンにまで戻ったなら、イルワ・チャングから報酬を受け取り再び旅に出る予定となっていた。

 

 次の目的地はグリューエン大砂漠に存在している大迷宮のグリューエン火山、其処で神代魔法の一つたる【空間魔法】を手に入れる。

 

 空間操作などは双子座の黄金聖闘士にとっては十八番だし、ユートは空間の操作関連なら可成り得意としていたけど、生成魔法が【創成】の補助に使えている事から空間魔法も似た感じに使えるだろうと期待もしていた。

 

 ミレディの重力魔法もユートの重力系魔法などの補助に使えていたし、その深奥たる星のエネルギーに干渉するというのもバッチリだ。

 

 神代魔法はユートが元から持っている能力への補助に調度良い具合だったと云う。

 

 まぁ、七人の【解放者】が望む使い方ではないのはミレディの微妙な表情を見せられたから理解もしている。

 

「それじゃ、行くぞ皆」

 

『『『『了解』』』』

 

 香織、雫、ユエ、シア、ミレディに加えティオがユートと共にフューレンへ向かう訳だが、今回はキャンピングバスを使っての移動ではない。

 

 ユートを囲う様に手を繋いで立つ【閃姫】達、ユートは雫の肩に手を乗せて叫んだ。

 

 尚、しれっと暁美ほむらとシュテル・スタークの二人が交じっているが、そこは誰もツッコミを入れては来なかった。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)!」

 

 強力な魔法力が放出されてユートと【閃姫】達が大空を舞い、フューレンの方向へ向けて飛び去って往くのを愛子先生達は見送る。

 

「あ、俺も仮面ライダーに成れるかどうかを訊くの忘れていたぜ」

 

 色々と情報が錯綜したからか玉井淳史は訊きたい事をうっかり忘れていたらしい。

 

 どうせ成れないので問題は無いが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 フューレンに到着した一行がズラリと並んでいる連中の最後尾に並ぶ。

 

 とはいえ、美女美少女の集まりなだけに目立つ事この上無いのは仕方があるまい。

 

 そしてやはりというか、シアのメロンやティオのスイカに目が吸い寄せられる男の哀しい性。

 

 女連れの男の場合は、抓られたり爪先を踏み躙られたりと悲惨な事になっていた。

 

「ねぇ、清水を置いてきたけど良かったの?」

 

「構わんよ。どうせ今の清水は先生にすら腕力で劣る程度の一般人だしな」

 

「どういう事よ?」

 

 話し掛けて来た雫の疑問に答えてやる。

 

「清水を殺した際、奴の技能である闇魔法や派生技能は簒奪しているから既にアイツに残されているのは言語理解のみ。ステイタス値にしてもレベルドレインで吸収したから精々、ハジメの初期値かそれより劣る身体能力でしかないからな」

 

「なっ!?」

 

「【模倣の極致(コピー&スティール)】を使ったからな。僕が【狩人×狩人】な世界で修業をして修得した念能力なんだが、前にも教えた様な気はするけど自ら殺害した相手か性的にイカせた相手の魂を掌握、持てる能力を奪うなりコピるなりするって感じだな。肝っていうか制約としては飽く迄も『自分で』やらないといけないけどね」

 

「誰かが殺したのでは駄目……と?」

 

「そういう事。奴を僕が撃ったのは先生を傷付けたからってのもあったが、自ら殺さないと闇魔法を簒奪出来なかったのもあるんだよ」

 

「成程ね。愛ちゃんが清水を生き返らせるのを望むのも折り込み済みな訳ね」

 

 当然ながら愛子先生の希望は理解していたし、それならば予め危険な洗脳を使える魔法を剥奪しておきたかった。

 

「やぁ、レディ達。良かったら俺と……」

 

 ドパンッ!

 

「グギャァァァァァアアアッ!」

 

「盛るな。二度とお前の遺伝子が拡散されない様に処置した。漢女になって反省してろ!」

 

 見た目にチャラいがイケメンな部類に入るだろう男が、シア達へ声を掛けてきた上に触れたその瞬間に漢女が誕生したのである。

 

 きっとその内にブルックの町のクリスタベル辺りへ弟子入りし、立派な漢女として服飾関係での仕事に就くであろう。

 

「うわぁ、スノーベルもあんな感じでああなったのかな?」

 

 ミレディが呟く。

 

 ミレディが【解放者】として活動していたであろう千年以上前も、○○ベルと名乗る漢女の存在が恐るべき事に確りと在ったのである。

 

 今回、チャラ男は不運だった。

 

 先ずを以てシアに触れたのが如何にも拙いが、選りに選って六万近い魔物を殺しまくった挙げ句の果てに、大して親しくもないがクラスメイトを殺した反動から気が昂っていたユート。

 

 普段ならユーキがすぐに気付いてケアをしているのだが、今回はそれが無かったから凄まじいばかりに暴力的に凶暴化をしていた。

 

 結果、自分のモノに汚ならしい手で触れてきたチャラ男を漢女にするべく、モーゼルカスタム――暴君の魔銃の片割れたるクトゥグアで穢らわしい股間を潰してやったのだ。

 

 チャラ男は男として死んだのである。

 

「うむ、狙った獲物は逃さぬか。流石は主殿」

 

 ティオがウンウンと頷く。

 

「まぁ、仕方がないわよね」

 

「私達もあんな人に触られるのって生理的に無理かな、かな」

 

 基本的に御人好しな二人をして辛辣な科白なのはチャラ男が気色悪かった様だ。

 

「……ん、自業自得」

 

 シアとは仲の良いユエからしたら塵芥が触れるなど許せない所業、地球組な香織と雫の仲が特に良いからかユエはシアとの仲を特に深めていた事もあり、ユートとの閨事ではシアと組む事が多くあって所謂、ユートの望みで百合プレイを披露する際は『ユエ×シア』な掛け算が出来上がってしまうから、貝合わせで互いの秘部を慰め合うのだって珍しくもないくらいだった。

 

 勿論、ユートが組ませれば『ユエ×香織』だとか『シア×雫』だとかも有る。

 

 ユートは男同士の交わりは好きではないけど、百合プレイを観るのは自らを勃ち上がらせる為の精力剤的に好む。

 

「あ、美晴ちゃんが股間にドパンをしちゃっていましたよ? 余り情操教育上宜しくないんじゃないかな?」

 

「肯定ですね。ミハルは相手が性犯罪者とはいえ情け容赦無く股間を撃ちました」

 

 こないだの性犯罪者へ股間ドパンッ! 事件を思い出したほむらとシュテルが、ユートに対して苦言を申し立てた。

 

「美晴が? 漢女を量産し過ぎたか?」

 

 股間をスナイプする小学五年生、シュールに過ぎる絵面が完成である。

 

「おい、お前ら!」

 

 チャラ男をドパンした後は見向きもしないで話し込むが門番と思われる男が二人、やはり騒ぎを聞き付けたのだろうが大慌てでやって来た。

 

「これは何の騒ぎだ!」

 

「あそこで血を流して蹲った奴は?」

 

 矢継ぎ早に詰問タイムな強面な門番だったが、ユートが女の子を何人も……しかも凄い美女美少女ばかりを連れているから、嫉妬や怨鎖ややっかみの類いも含まれていそうなのはユートに詰問しながらも、確り視線はシアのメロンやティオのスイカに向かっている辺り判り易い。

 

 無論、可愛さなら抜群な他の娘達にも。

 

「あの男が連れに手を出そうとしてね。見なよ、こんなに怯えてしまっている。兎人族なこの子に手を出そうとしたし、きっと自分の奴隷にしようとしたんだな。醜い股間の膨れ上がったアレを遂々、攻撃してしまったとしていったい誰が責められるんだ?」

 

「む、それは……」

 

 勿論、現代日本では通じない論拠。

 

 ユートのやった事は単なる傷害罪ではあるが、まるで性犯罪者が悪いと言わんばかりの言ったもの勝ち的な科白を並べ、シアがユートの胸の中に居て性犯罪者が怖くて震えている様にも見えたのが根拠となり、チャラ男が無理矢理に立たされて連れて行かれる事になった。

 

 チャラ男、哀れなり。

 

「処で、黒髪黒瞳で沢山の女性連れの青年……君はユートという名前かな?」

 

「イルワ・チャング辺りから言われたか?」

 

「やはりか? フューレン冒険者ギルド支部長のイルワ氏から、君が来たら真っ先にギルドへ通して欲しいと通達があってね」

 

「了解した」

 

 ユート一行はこれ以上並ぶ必用は無くなったみたいで、門番を案内役として冒険者ギルドの方へと向かうのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 フューレン冒険者ギルド支部の支部長室に通された一行を待っていたのは、ギルド支部長であるイルワ・チャングと秘書のドットの二人。

 

「ウィル・クデタは?」

 

「今は迎えに来た両親に会いに宿へ行ったよ」

 

「そうか。まぁ、居なくても問題無いな」

 

 報酬を受け取るだけならイルワ・チャングが居れば事足りるのだから。

 

「さて、君への報酬は二億ルタ。それに冒険者ギルドフューレン支部長の名に於いて後ろ楯になる事と、君のランクを金へと上げる事だったね」

 

「その通り」

 

「二億ルタは流石に即金とはいかなくてね」

 

「……だろうな」

 

 百万ルタくらいなら即金で支払えるだろうが、やはり億なんて単位にもなると支部長の一存にてポンとはいかない。

 

「という訳で、暫く待って貰えると助かるんだ。実はクデタ伯爵……グレイルにも相談してね。何とか金策は出来そうなんだよ」

 

「そいつは何よりだね」

 

「金ランクへの昇級と後ろ楯の件は今すぐにでも可能だよ。何なら君の連れも同じランクにしたって構わない。実際、映像を見せて貰ったが君にも遜色の無い活躍だったじゃないか」

 

 ユートはこのフューレンでイルワ・チャングが戦いを観れる様に、空中投影が可能なモニターを使える簡易デバイスを置いて行き、サーチャーで撮影をした映像を送っていた。

 

 正直、イルワ・チャングとしてはユートに対して決して敵対をしたくない。

 

 敵対をしたらその瞬間にはフューレンが根刮ぎ消滅する未来しか見えないのだから。

 

 ユート達が変身をしていた仮面ライダーもそうなのだが、何よりも間違いなく一発でも撃たれたら町が消えるあの攻撃。

 

 怒らせて撃たれて消えるフューレンの町とか、

冗談でも起きたら困る出来事である。

 

「兎に角、君とは良い関係を築きたいものだね。ギルド支部長としても個人的にもだ」

 

「それは重畳。此方としても無意味な敵を増やす心算は無いからね」

 

 こうしてガッチリと握手を交わす二人。

 

 因みに、ユートのステータスプレート改を見せられたイルワ・チャングは数万とか十万なんて、無茶苦茶な数字を持つ事に白目を剥いたとか。

 

 万が一にもユートに対して不義理を行ったら、間違いなくフューレンは跡形も無く消えると。

 

 イルワ・チャングとの会合後、宿屋からやって来たクデタ伯爵夫妻とウィル・クデタ。

 

 どうやら御礼がしたいらしいクデタ伯爵夫妻、ウィル・クデタらはやはりまだ不満顔だったから改めて彼が冒険者に向かないと突き付ける。

 

 クデタ伯爵夫妻は一応だがそれなりに影響力を持つ伯爵家らしく、イルワ・チャングと同じくでユートの後ろ楯になると約束してくれた。

 

 ユートはその後、暫くはフューレンの町に滞

在をしてほむらやシュテルとデートを愉しんだ。

 

 二人からしたら数ヵ月振り、ユートからしたら時間軸の変遷から三年くらい振りの逢瀬であり、それぞれで二人切りになって宿屋でたっぷりと愛し合ったものである。

 

 その後はユエ、香織、雫、ミレディという順番でデートをしたユートは『主殿』と自分を呼んでくるティオ・クラルスの扱いを考えつつ、シアとのデートを敢行していた。

 

 シアも嬉しそうにしているが、周りからしたら毎日毎日違う女の子を連れているナンパ野郎にしか見えないであろう。

 

 しかも連れ歩く女の子の水準は非常に高い。

 

 事実、目の前でクレープっぽいお菓子を売っている青年は『またかよ!』みたいな目で睨んできているし、ユートの感知でどうやら監視をされているのが判っていた。

 

 しかもしかも、連れられている女の子達は基本的に幸福そうな表情で腕を組んだり所謂、恋人繋ぎで手を繋いだりしているのである。

 

 現にシアも『えへへぇ』と嬉しそうな顔で腕にしがみ付き、頭をユートの身体に密着させながら歩いていた。

 

 何ならおっぱいを押し付けるから豊かな双丘の狭間に沈み込むユートの腕、もうパプパフでもしているかの如くユートの腕を挟み込む。

 

「シア、当たってる処の話じゃないんだが?」

 

「当ててるんですよ!」

 

 だから、当たってる処の話じゃない。

 

「ユ、ユートさんのオチ……流石にはしたないですけどアレだって挟んでるじゃないですか。腕くらい構わないですよね?」

 

 まぁ、シアの胸部装甲はティオを除けば一番の巨乳であるが故に、ユートも挟まれて擦り上げられるのが心地好いからシア相手にはよくやって貰っている訳だが……

 

 水族館たるメアシュタットからこっち、シアの御機嫌は鰻登りに上がっていてサービス満点といった処だった。

 

「うん?」

 

「どうしました?」

 

「地下の下水路か? 気配がある。ヒトの気配でしかも可成り弱まっている感じだ。元々が小さいみたいだけどな」

 

「それって、気配の主は子供って事ですかね? なら助けませんと!」

 

「シアならそう言うわな。取り敢えず子供相手に対価がどうのも無いだろうし……行くか」

 

「はい、ですぅ!」

 

 シアは喜色満面で答えたのだと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 フューレンの町は規模がでかいのもそうだが、普通に下水道が通っているくらいには技術的にも発展しており、汚水は下水道を流れて外へと排出をされているらしい。

 

 そんな下水道の汚水に流される小さな影。

 

「あれか?」

 

「私が行きましょうか?」

 

「否、必要は無い」

 

 ユートが右の掌を上向けにして、クンッと人指し指を曲げる仕草をしたら子供が汚水の中から浮かび上がって来た。

 

「ふぇ?」

 

「PSYONをエネルギー源とする超能力」

 

 勿論、術式を当て嵌めて魔法の様に術式を動かしたりも可能ではあるが、こうして遺志だけの力で無軌道にも扱い易い能力でもある。

 

 それこそ、念動力(サイコキネシス)瞬間移動(テレポート)精神潜航(サイコメトリー)などの超能力は有名であろう。

 

 他にも天眼通や天耳通や他心通や神速通や宿命通や漏尽通という六神通も、超能力の一端として考えられているもの。

 

「この子、この耳の形からして海人族か?」

 

 エメラルドグリーンでフワッとした髪の毛に、耳が鰭の様な独特の形をしたものだった。

 

 指の間には膜が有り、泳ぐ為の器官である事を窺わせる。

 

「見た目から四歳か五歳くらいか?」

 

「ですねぇ」

 

「で、こんな汚水で泳ぐ趣味が無いなら」

 

「きっと碌な理由じゃありませんよ」

 

「……そうだな」

 

 ユートは思い出す。

 

 助けるべきヒロイン達、ユエとシアとティオに加えて海人族のミュウというのが居た筈。

 

(つまり、この子がミュウか)

 

 本来の主人公が居ない状況では誰もが危なかったのは確かであり、ミュウもこうして手を伸ばしたからには助けるしかあるまい。

 

 ユートはミュウの着ている粗末な服を脱がせ、スッポンポンに剥いてしまう。

 

「ちょ、ユートさん! 御腰がムズムズしますなら後から御相手しますよ? 幾ら何でもこんな小さな子を相手に……」

 

 スパン!

 

「あ痛ぁ!」

 

 ハリセンでどついてやった。

 

「汚れを落として着替えさせるだけだ!」

 

 ユートは取り敢えず生活魔法とカテゴライズされる魔法を使う。

 

 シャワーで汚れをすっかり落として、温風によりすぐに乾かしてやると小さな服を取り出して、それをミュウ? へと着せ替えてやった。

 

「その服は?」

 

「今さっき【創成】で造った」

 

「マジ、パないですね」

 

 着替えも終わり、ユートはミュウ? を抱えてから立ち上がる。

 

「どうしますか?」

 

「人気の無い場所に転移する」

 

 テレポート。

 

 ルーラと違い正真正銘の空間転移である。

 

 高台に移動して宿泊アイテムのコテージを展開して、ベッドに気絶しているミュウ? を寝かせてやるともう一つのベッドにシアと座ってイチャイチャとし始めた。

 

 ミュウ? が起きたら大変に拙い事態になるのだろうが、シアは魅力的に過ぎるというのに今朝から無防備な接触で下半身がヤる気に充ち満ちてしまっており、シアも抱っこ状態からユートの股間が隆起しているのに気付いた為に頬を紅くしながら互いに顔が近付き、唇を重ねてしまって我慢も限界となったのである。

 

 ユートは普段なら我慢も出来ているのだけど、少し前の【清水幸利の乱】で殺り続けた箍が外れた侭で、ほむらやシュテルや【ありふれーズ】も抱いたというのに未だ燻る小火(ぼや)がエロチックなシアにより大火となってしまう。

 

「あの子が起きるまでに鎮めて下さいね」

 

 何て言うシアも実際はミュウ? の事さえなければとっくにデキ上がっている肢体を擦り付け、口と豊満なお胸でユートのヤる気に満ちた下半身を鎮めるべく動き始める。

 

 一時間後、漸くミュウの目が覚めた頃にはシアも身体を清め終わっていたのは、流石に自重したユートが早めに終わらせた結果であった。

 

 

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 表記がミュウ? なのは、飽く迄もユートがまだ未確認だったからです。



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第47話:シアの怒りでウッサウサ

 存外と早く書けました。





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 一時間という短い時間で取り敢えず終わらせた二人……ユートとシアは、備え付けのユニットバスで身体を清めて臭いも散らしておく。

 

 年齢一桁の幼女に嗅がせる臭いではないのだから当然の処置だろう。

 

「うゆ?」

 

 目を覚ました幼女――ミュウ? がキョロキョロと辺りを見回している。

 

「目が覚めたみたいだな」

 

「良かったですぅ!」

 

「っ!」

 

 突然、声を掛けられてビクリと肩を震わせたが幼女――ミュウ? は危険が無さそうだと判断をしたらしい。

 

「あの、ミュウはミュウです。お兄ちゃんとお姉ちゃんはどなたですか?」

 

 存外とハッキリした喋りだが、まだ警戒心は解いていないらしく自らを抱き締める様な仕草。

 

「僕は優斗。人間族……かな?」

 

「私はシアといいます。兎人族ですよ」

 

 一応、カテゴリーとしては人間ではあるものの神殺しに転生したり、魔族と魂の契約をしていたりとしっちゃかめっちゃかな自覚はある。

 

「ユートお兄ちゃんとシアお姉ちゃんなの? よろしくお願いしますなの」

 

 親の躾が良いのか、それともこの子が礼儀正しいのか? 或いはその両方かは定かではないが、ペコリと頭を下げるミュウにユートもシアもほんわかとした雰囲気となる。

 

(多分、母親似だろうし……レミアだったかな? 随分と美しいんだろうね)

 

 ユーキから聞いていた海人族の母娘という事でミュウを、二十歳半ばくらいに成長させた姿を夢想してみた。

 

 まぁ、幼女だからペタンコなだけに胸は可成り盛った想像だったが……

 

 尚、実際に逢ったら殆んど想像と変わらない姿に驚愕を禁じ得なかったり。

 

 胸も。

 

 ユートがレミアを妄想していると、ク~ッという音がミュウのお腹から響く。

 

「腹、減ってるみたいだな」

 

「……」

 

 ちょっと恥ずかしそうに頷いた。

 

 ユートはアイテム・ストレージ内から、お茶と串肉とお握りの三点セットを取り出してミュウに与える。

 

「ほら、これを食べると良い」

 

「ありがとうなの」

 

 ちゃんと御礼を言って受け取る辺りからやはり礼儀正しいミュウは、お茶で口の中を湿らせてから串肉にかぶり付いて咀嚼をする。

 

 パーッと表情が明るくなった。

 

「おいしいの!」

 

 これはトータス産ではなく日本で作られた軽食的な弁当であり、これと同じセットがまだ幾つかアイテム・ストレージに容れてある。

 

 因みにこの世界のではなく【リリカル】世界の日本で、作ったのは高町桃子だから美味しいのも当然の事だった。

 

 幾つか有るとはいえ、百も二百も有る訳ではないから目に見えて目減りをしたけど、美味しそうに頬張るミュウを見れたので悪くないと思う。

 

(ヴィヴィオの小さい頃を思い出すね)

 

 出逢った頃はまだミュウくらいの年齢だった事もあってか、ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトの幼い頃を脳裏に描いた。

 

 シアもミュウを見てニコニコしているのだが、彼女の場合はユートとの子を成した後を妄想しているのでベクトルが少し違う。

 

「それで、ユートさん。ミュウちゃんはどうする御心算ですか?」

 

「真っ当な手段としては保安署に預ける事だろうな……海人族ってのは亜人への差別が仕事をしていないレベルで、ハイリヒ王国では保護されているんだ。預ければ手厚く保護してくれるだろう」

 

「そ、それは……でも……」

 

 この世界……トータスでは広義では亜人にカテゴライズされる種族が、魔力を持つからと個別種族とされている場合もあった。

 

 今は亡びている吸血鬼族と竜人族がそうであったし、現在は人間族と戦争の真っ只中な魔人族も同様であろう。

 

 つまり、魔力が無い種族が亜人族として括られているという訳だ。

 

 勿論、遥か昔の【解放者】が一人たるメイル・メルジーネは兎も角として、海人族は魔力を持たない亜人族という括りである。

 

 事実としてミュウからは魔力を感じない。

 

 精神力を意味するMPは持っているにしても、魔力値はどうやら0であるらしかった。

 

「あの、私達で送るのはどうでしょう?」

 

「却下だ」

 

「何故ですか!?」

 

「阿呆、只でさえ誘拐されてこんな場所に居るんだろうに。下手に連れ歩いたら僕らも誘拐犯共の仲間入りだぞ!」

 

「うぐっ!」

 

 通常、西の海のエリセンに住まう海人族。

 

 それが東側のフューレンに独り切りで居る理由なんて、エリセンの親許から拐かされたに決まっているのだから。

 

 因みに、ミレディからの情報から赤の大砂漠が現代のグリューエン大砂漠で、赤竜大山が目的地のグリューエン火山、その先の無法都市アンディカの辺りがエリセンに当たるらしい。

 

 尚、ウル湖と神山とライセン大峡谷は当時と名前が変わらず、ハルツィナ大樹海は白の大樹海でハルツィナ共和国が存在していたと聞く。

 

 つまり、次の大迷宮が存在するグリューエン火山の先にエリセンが在り、そして其処にこそ別の大迷宮――メルジーネ海底遺跡が在る。

 

 エリセンは行き先と被っていた。

 

 だけど、だからといってミュウを連れて行くなど二重の意味で有り得ない。

 

 一つはシアに言った通り、誘拐されてこんな場所に居たミュウを連れ歩くと自分達まで誘拐犯扱いだという事。

 

 二つ目はユート達の旅が物見遊山ならば問題も無かったが、大迷宮の攻略をするのが目的なのに何ら力を持たない幼女を連れて行けないのだ。

 

 まぁ、一旦はエリセンまでミュウを送り届けてからメルジーネ海底遺跡を攻略後に改めてグリューエン火山の攻略をすれば良いとも云えるけど、少なくとも魔人族が既にシュネー雪原の大迷宮をクリアしている事実、後れを取るのは余り宜しくない事態を引き起こしかねない。

 

 例えば、大迷宮の入口を破壊する……とか。

 

 実際に真のオルクス大迷宮の第百層を丸ごと潰して出入り不能にしたユート、ライセン大峡谷側の隠し出口に入口を増設しているからハウリアが出入りしているが、本来の入口からは入れなくしている辺り懸念は当たり前だろう。

 

 ライセン大迷宮も入口を潰した。

 

 此方もミレディの部屋からの出口側に隠し入口を増設してあり、攻略は不可能な状態にしているから徹底をしている。

 

 だからこそ近場から順繰りに攻略したい。

 

 ハッキリ云ってしまえばミュウを連れて行くのにはデメリットばかりなのだ。

 

 シアは自らも似た境遇に成り得るから同情というより、自身に被せて考えてしまい自分で何とかしたいのかも知れないが……

 

 【閃姫】の一人と成ったからには多少の我侭は叶えてやるけど、破滅のロードを突き進むというのは多少とは云わない。

 

(そういえば、本来のハジメはミュウをどう扱ったんだろうな?)

 

 境遇は変わらない筈だからやはり保安署か? とも思うが、だとしたらレミアと共にヒロイン枠に納まる筈など無いであろう。

 

 この世界の主人公とはいえ、ユートより出来る事には限りがある南雲ハジメならばどうした?

 

 二人はヒロイン枠だから間違いなくエリセンへと一緒に行ったろうが、それはいったいどうやって納得させたのだろうか?

 

 ユーキなら答えを識っているだろうが……

 

(攻略本を読みながらRPGをしてもな)

 

 多少なら知識も欲しいが、答えを欲している訳ではないのだ。

 

「兎に角、ミュウは保安署に預ける。僕らはこれからグリューエン火山に行くんだからな」

 

「うう、はい……」

 

 ユートが完全に決定したからにはシアでは覆し様もなく、力無く頷く事しか出来ずに表情が沈んでウサミミもへにゃっと垂れてしまう。

 

「ミュウ、これから君を守ってくれる人達の所へ連れて行く。きっと多少の時間は掛かるだろう、でもいつかはエリセンにも帰れる筈だから」

 

「……ユートお兄ちゃんとシアお姉ちゃんは?」

 

 ユートからの言葉にミュウは不安そうな声で、ユート達がどうするのかと訊いてきた。

 

「ゴメンな、着いたら今はお別れなんだ」

 

「やっ!」

 

「まぁ、そう言うわな」

 

 絶望的な状況下で垂れ下がる蜘蛛の糸の如くか細い希望、四歳という護られなければ生きてはいけない幼児からすればユートは正にヒーロー。

 

 そんな護り手の手を放せる筈もなかった。

 

「ユートお兄ちゃんとシアお姉ちゃんが良いの! ミュウは二人と居たいの!」

 

 殊の外に拒絶が返ってきたのは想定済み。

 

 ミュウが丸っきり駄々っ子の様にシアの膝の上でジタバタと暴れ始めた為、シアは戸惑いを浮かべるばかりである。

 

 大人しい感じだったのはユートとシアの人柄を確認中だったからであり、信頼が出来る相手だとミュウは判断したのらしく駄々を捏ねてきた。

 

 本来はもっと明るい子なのだろう。

 

 可愛い女の子が信頼してくれるのは決して悪い気はしないのだが、公的機関への通報はどうしても必須な事ではあるし、旅先で【グリューエン大火山】という大迷宮の一つに挑まねばならないからには、ユートもミュウを連れて行く心算なんて更々無かった。

 

「仕方がない……な」

 

 全力で不満を露わにしていたミュウを、ヒョイッと抱きかかえ強制的に保安署に連れて行く。

 

 ミュウからすれば本当にか細い希望の糸だし、離れたくないから保安署へ行く道中、ユートの髪を盛大に引っ張って、頬を伸びてない爪で引っ掻いたりと抵抗を必死に試みた。

 

 端からは視れば寧ろユートこそ誘拐犯として、事案だと保安署に通報されていただろう。

 

 髪はボサボサで頬に引っ掻き傷や小さな紅葉を作り保安署に到着、保安員達が目を丸くする中でミュウに関する事情の説明をする。

 

 保安員が表情を険しくする辺りやはり問題しか無い事だったらしく、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要という事で、ミュウを手厚く保護する事を約束して署で預かると申し出た。

 

 本部からも応援が来るらしく、自分達はお役目御免だろうと引き下がろうとしたのだが……

 

「ユートお兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」

 

 潤んだ瞳で上目遣いに言われた。

 

 この侭別れてはどうにも宜しくないと判断したユートは、ちょっとばかり難しいかもとは思うものの説得する事に。

 

「ミュウ、僕らはこれから君と別れて行くべき道を進むだろう」

 

 ジワ~と涙が浮かぶ。

 

「僕は西の海のエリセンに行った事は無い」

 

「?」

 

 首を傾げるミュウ。

 

「グリューエン大砂漠を抜けたらエリセンに行く予定はあるんだが、若しミュウがエリセンに居てくれたら案内とかして貰えたら嬉しい」

 

「っ!」

 

 涙目ながら顔を上げたミュウの表情は吃驚したというものと喜色に似たもの、二つが綯い交ぜとなった不思議なものだったと云う。

 

「出逢いがあれば別れもまたある。だけどそれなら再会ものだったまたあるんだよミュウ」

 

「ユートお兄ちゃん……エリセンに来てくれるの? シアお姉ちゃんも?」

 

「勿論だ」

 

「絶対に行きますよ!」

 

 涙ぐむミュウ。

 

「だから今は笑顔で別れよう。ミュウを思い出す時の顔が笑顔である様に」

 

「ん、わかったの! ママと待ってるの!」

 

 先にミュウがエリセンに居る可能性は低いが、それでも約束だとこの世界には無い指切りをしてユートとシアは保安署を離れた。

 

 軈て保安署見えなくなるくらい離れた場所まで来た頃に、やはり後ろ髪を引かれているシアに対してユートが声を掛けるその瞬間……

 

 ドォガァァァアアアアアアアアアンッッ!

 

 背後でけたたましいまでの音で爆発が起きて、黒煙が上がっているのが見えた。

 

「ユートさん、あそこは!」

 

「保安署! まさかミュウ!?」

 

 未だに視線は感じたから狙いはシアかと思っていたが、やはりミュウにも狙いを付けていたのかとユートは拳を握り締める。

 

「行くぞ、シア!」

 

「合点ですぅ!」

 

 駆け出す二人。

 

 ユートはミュウに何かしらあったら必ず落とし前は付ける……と、深淵の闇より尚深い闇の底より怒りを露わとしていたのだと云う。

 

 保安署に着いてみれば表通りに署の窓硝子やら扉が吹き飛び、バラバラと散らばっている痛ましい光景が目に入ってくる。

 

 建物その物は余り破壊されてはいないらしく、即刻倒壊という様な心配が無さそうなのは正しく不幸中の幸いか? ユートとシアが中に入ってみると対応をしてくれた年嵩な保安員や若い保安員が俯せに倒れているのを見付けた。

 

「これは酷いな……両腕が折れている」

 

 気を失っているみたいだし、他の職員達も同じ様にダメージを受けて気絶している。

 

「命に関わる怪我をしている人は居ませんね」

 

 シアは魔力は有れど魔法が碌に使えないから、取り敢えずミュウを捜しに奥へ。

 

「大丈夫か?」

 

「う、君はさっきの? ぐっ、痛みは激しいが、死ぬ程ではなさそうだよ」

 

「すぐに治してやる」

 

「君は治癒魔法を?」

 

「まぁね。えっと……彼の者らに優しき光と慈悲なる癒しを……ベホマラー」

 

 適当な詠唱とベルカ式魔法陣で誤魔化しつつも特定領域に回復の力を流すベホマラーの呪文を。

 

「おお!」

 

 他の気絶した職員も含めて癒された。

 

「ユートさん! 捜しましたが、ミュウちゃんが何処にも居ません! それとこんな物が!」

 

 手渡された紙……『海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族や黒髪と金髪の女共を連れて○○に来い』と書かれていた。

 

「ユートさん、これって……」

 

「欲張ったもんだな、愚かな。ミュウだけでは厭き足らず、僕のモノに手を出すだと? 木っ端な半端者共が、誰に喧嘩を売ったのか教えて欲しいみたいだなぁっ!」

 

 手にした手紙を握り潰すて焔で燃やし尽くし、他者が見たら悪夢に魘されてしまいそうな凶悪で邪悪な笑みを浮かべる。

 

「連中は保安署での僕らのやり取りを、何らかの手段で聞いていたんだろうね。ミュウが人質として役に立つと判断したから口封じに殺すよりも、どうせならレアな兎人族も手に入れようとでも考えたんだろうよ」

 

 シアはの表情は決意を露わとしていた。

 

「私は……ユートさん!」

 

「解っているか? これで関わるんなら中途半端は許されないぞ。雫から聞いたみたいな勇者(笑)の様に、期待を持たせるだけ持たせて捨て置くなんてのは絶対に……だ」

 

「は、はい! 勿論ですよ!」

 

「了解だ。最早、こいつ等は僕らにとっても完全に敵だからな……奴等の全て壊してミュウとの絆を繋ぐぞ!」

 

「はい、ですぅ!」

 

 これから先、危険であろう旅路に同行させる気は無かったユートとしては、エリセンにて再会をする約束だけで別れるのが良いと考えた。

 

 ちょっと助けただけでアレだったし、情が沸いては後で困った事態になりかねない。

 

 だけど再び誘拐されたとあっては放って置くという訳にはいかないし、自分には関係が無いと見捨ててしまう判断をしたらシアは確実に悲しむ。

 

 況してや、連中はシアや香織達――即ちユートの【閃姫】をも奪おうとしている訳だから、連中は既にユートの敵であった。

 

 情けも遠慮も容赦も一切合切微塵も無用。

 

 ユートの怒りに触れたからには連中は視る羽目に陥るだろう……悪夢の王の一欠片を。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで、ユートさんはどうやってミュウちゃんを救い出す御心算ですか?」

 

「手紙に書かれた場所に素直に行って待ち構えてる連中の一番偉そうな奴、それから情報を抜き出してやるさ。他はどうせ邪魔なだけだからなぁ……皆殺しにしてやれば良いだろう」

 

「そ、そうですね……」

 

 完全にブチキレていらっしゃる!?

 

 シアはちょっとだけ粗相をしてしまう。

 

「手が足りないから皆を呼ぶか」

 

 戦力としては過剰でもこれは大都市に有りがちな闇だとすると、広域範囲に亘って組織の癌細胞が蔓延しているだろう。

 

 一つ二つ切除してもキリがない、であるならば一気呵成に全ての癌細胞を切除をするべき。

 

 ユートの呼び掛けに【閃姫】+αが集う。

 

 +αとはティオの事、彼女はまだ【閃姫】契約を交わしている訳でな無いのだ。

 

 だからデートも一応はしたけど唯一、褥を共にしていない相手でもある。

 

 まぁ、ティオ本人は今すぐに抱かれても構わない程度には思っていたみたいだが……

 

「ティオも来たのか?」

 

「ふむ、ユエ達とお茶をしておったら呼び出しが掛かったと言うたのでな。なれば妾も主殿の下へと馳せ参じねばと思うてな」

 

 長い黒髪を撫で付けながら言う様はとても似合っており、更には美貌と胸部装甲も相俟って余りにも美しい所作であったと云う。

 

「先ずは説明を。余り時間も掛けられないから、やるべき事を簡潔に言うぞ。尚、今回のミッションでは一〇〇%の殺しを行う事になる。抜けたいなら申し出てくれ」

 

 殺し……それを聞いて肩を震わせたのはやっぱり地球組となる雫と香織。

 

 元より戦争で慣れてるユエやミュウの為ならばエーンヤコリャなシア、【解放者】として教会の連中は殺していたミレディ、やはり慣れたものであるティオは普通にしていた。

 

 そして雫と香織も覚悟自体は決まっている。

 

 まだ怖い。

 

 だけど、ユートに付いていく事を自らが決めて【閃姫】契約をしたからには、いつか殺人も行うのだろうと考えてはいたのだ。

 

 罪無き人を害する訳ではないのが救いか。

 

 説明を受けた彼女らはミュウを救う事に否やは無いから作戦の遂行は確実にやる。

 

「雫、香織」

 

「な、何よ?」

 

「何かな?」

 

「別に外れても構わないぞ? 【閃姫】だからといって殺人に手を染める理由は無いからな。況してや慣れる必要性なんかもっと無い」

 

 嘗て、人を殺める事に慣れるなと恩師から言われた事があるユートだが、結局はもう慣れきってしまっているからこそ二人に言う。

 

「大丈夫よ。私は覚悟も決めていたし」

 

「ゆう君のそれは牙無き人の牙となる為、だから私も牙を振るうんだよ!」

 

 香織も伊達や酔狂でハジメへの好意を封印してまで、ユートの【閃姫】となった訳ではないという事である。

 

「判った、ならミッションスタート!」

 

 パチンと指を鳴らして作戦開始となった。

 

 最初の行き先は当然ながら手紙にあった場所だった訳だが、ミュウの姿は無かった上にチンピラがうじゃうじゃと居たから、そいつらはあっという間に潰滅させてやる。

 

「ほら、ミュウは何処だ? さっさと吐いたなら楽に殺してやるぞ」

 

「ふ、巫座戯んな! てめえ、俺らをフリートホーフと知ってやがんのか!?」

 

「フリートホーフだか何だか知らんが喧嘩を売られたからには言い値で買ってやる」

 

「くっ!」

 

「くっ! じゃねーよ、ミュウは何処だ?」

 

「知るか!」

 

 ザクッ!

 

「イギィィィッ!」

 

 ナイフで太股を刺されて悲鳴を上げる。

 

「ほら、痛い目見たくなかろ?」

 

「だ、れ……が……」

 

 要らない所で根性を見せるチンピラに対して、ユートはドリル状の針を刺す。

 

「ぐっ!?」

 

 ハンドルが付いた針、ハンドルをクルクルと回すと針が太股へ徐々に埋まっていき、チンピラは痛みから寧ろ声が出ない。

 

 半ばまで埋まった針をユートはニヤリと口角を釣り上げ……

 

「ま、まさか? やめっ!」

 

 強引に引き抜いた。

 

 グジュリと嫌な音と共に抜ける針。

 

「ギャァァァァァァァアアアアッッ!」

 

 チンピラの悲鳴と共に血が噴き出す。

 

 それでも吐かない辺り、面倒臭くなってしまったユートは霊力を手に集めていく。

 

「すぐに吐けばまだ人間の尊厳だけは保てたものを……愚かな奴」

 

「な、何をする気だ!」

 

「喋りたくないならもう喋るな。頭の中に直接訊いてやるまでだ」

 

「は?」

 

 ヌルリ……

 

「ヒッ!?」

 

 ユートの指先がチンピラの頭の中へ沈む。

 

 グチュリグチュリ……

 

 それはまるで脳味噌を掻き回すみたいな?

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 

 それは痛みこそ無いが酷く桿ましい感触であったのだろう、ビクンビクンと痙攣しながら涙から涎から鼻水から垂れ流しになっており、あまつさえ小便や糞まで垂らしていた。

 

 その間にもユートの指はチンピラの頭の中にて蠢いていて、その度にユートは某かの理解が出来たかの様な表情となっている。

 

 霊医学の一種であり、本来は霊具たる手袋を填めて行われる作業を素手でやっていた。

 

「よし、取り敢えずだがアジトの位置なんかは判ったぞ。ミュウが何処かまでは知らなかったみたいだけどな」

 

 ヌルッと指を引き抜くとチンピラは未だに痙攣しながら倒れ伏す。

 

 命こそ無事ではあるが人間としてこうは成りたくない、そう思わせるには充分過ぎるくらいであったと云う。

 

「さ~て、だいたいの情報は得られた」

 

「さ、さっきのって何なの?」

 

 悍ましい光景に身震いしながら雫が訊いてきたけど、それは他の皆も同様であったのか顔色が余り良いとはいえない。

 

「心霊医術と云ってね、あれは医術というよりは情報を得る為の外法かな? 気を確りと持っていれば発狂するだけで済むんだが、あのチンピラはそこまで確り持ってなかったみたいだ」

 

「そ、そう……私達には使わないでね」

 

「あれは基本的に敵から情報を得る為のものだ。味方に使う筈も無いだろうに」

 

「ええ……」

 

 まぁ、それは信じている。

 

「それより手分けしてフリートホーフのアジトや攫った者を閉じ込めておく場所、それらが判ったから手分けをして潰滅と攫われた者の救出だ」

 

 全員が頷く辺りからしてフリートホーフの遣り口にムカついていたらしい。

 

 ユートからの指示でシアが向かうのは商業区の中でも外壁に近く、観光区からも職人区からも離れている場所だった。

 

 公的な機関の目が届かない完全に裏の世界であり大都市の闇、真っ昼間でも何故だか周囲は薄暗く歩く者も暗い雰囲気を放っている。

 

 七階建ての大きな建物が鎮座していて、其処は表向きには人材派遣業だが裏では人身売買の総元締をしている裏組織【フリートホーフ】の本拠地となっていた。

 

 此処は常なる日頃であれば静かで不気味な雰囲気を放っているが、現在はそれが嘘の様に騒然としていて激しく人が出入りをしている。

 

 普段から伝令などに使われている下っ端の男達の表情は、丸っきり訳が解らない事態に混乱して焦りを露わにしつつ恐怖に溢れていた。

 

 どさくさに紛れて肉体を透明化されいるシアとティオの二人が、このフリートホーフの本拠地に隙間を縫うが如くで侵入を試みる。

 

 透明化呪文(レムオル)

 

 DQⅢな世界観で賢者なユートは普通に修得済みな呪文で、気配も臭いも消えないから動物とか魔物には意味の無いにせよ人間社会では使えない訳でもなかった。

 

 尚、原典のゲームではエジンベアに入るそれだけの為の呪文でしかないからか、ナンバリングではⅢ以降は登場していなかったりする。

 

 気配が消せるハウリアなシアなら意味も有り、こうしてちょっと潜入するのに向く呪文だったりするが、ユートの初使用は風呂の覗き――不可抗力――だったりするから哀しい。

 

 けたたましいまでの怒号の中、慌ただしく走り回っている組織の連中をと避けながら進み往き、遂には最上階――きっと御偉いさんがふんぞり返るであろう部屋の前にまでやって来た

 

 扉の向こうから中年男の低くて野太い怒鳴り声が此方側まで漏れ出す。

 

 シアのウサミミがピクリと跳ねた。

 

「おい、巫座戯てんじゃねぇぞ! ゴラァ!? てんめぇ、もう一辺言ってみやがれや!」

 

「ひ、ひぃ! で、ですから、潰されたアジトは既に六〇軒を越えました。我々を襲撃してきているのはおかしな鎧兜に身を包んだ化物の一人だけと二人組が四組になります!」

 

「それじゃあ何か? たった九人のクソッタレ共に天下のフリートホーフが良い様に殺られてるってのかよ? あぁん?」

 

「そ、そうなります……げぶらっ!?」

 

 

 怒鳴り声が止んだかと思うと何かがぶつかる音がして中は一瞬だけだが静寂に包まれた事から、どうも報告をしていた下っ端だか中間管理職だかの男が怒鳴っていた幹部? 若しくは首領? らしき男に殴り倒されでもしたのであろう。

 

 現在は特に変わっていないが、鎧兜というのは仮面ライダーに変身をしていた為のもの。

 

 ユートが一人、香織と雫ペア、ユエとミレディのペア、シアとティオのペア、ほむらとシュテルのペアの合計九人によるフリートホーフのアジト急襲作戦。

 

 男が報告を受けた通り、六〇ものアジトが僅か九人程度に潰滅させられていたのである。

 

 其処に慈悲は無く、ユートは基本的に殺傷設定でアジトのトップ以外の連中を虐殺していた。

 

 主に破壊を中心とするからか、変身しているのは仮面ライダーディケイドであったと云う。

 

 言っていた通り、フリートホーフの破壊を行いミュウとの絆を繋ぐその為にも……だ。

 

「てめぇら、そのクソ共を何としてでも生かして俺の前まで連れて来いっ! 生きてさえいれば腕が無かろうが脚が無かろうが状態は問わねぇぞ。この侭じゃあ、フリートホーフの面子は丸潰れなんだからな。そいつらにゃ、生きた侭で地獄を味わわせて見せしめにする必要がある。見事に連れてきた奴にゃ、報酬として五百万ルタを即金で出してやらぁな! それも一人につき……だ! 組織全ての構成員に即伝えろっ!」

 

 

 幹部だか何だか知らないが偉そうな男の号令と共に室内が慌ただしくなり、組織の構成員全員に伝令するべく部屋から出ようと扉を開く。

 

 扉の外から透明な侭で聞き耳していた二人は互いにを見合わせ頷き合うと、シアが待機形態だったアイゼンⅡをサイレントモードで突撃形態――ラケーテンフォルムへ変換し大きく振り被った。

 

 その場でロケットの如くハンマーヘッド後部からエネルギーが放たれ、クルクルと回転をしながら室内の人間がドアノブに手を掛けたであろう、その瞬間を見計らって回転により得られた遠心力と重力魔法を乗せて振り抜いた。

 

 ドガアアアンッッ!

 

 激しいまでの轟音を響かせて木製の扉だったが木っ端微塵に粉砕され、ノブに手を掛けていた男は衝撃の余波だけで全身を破壊されてしまって、後ろに居た連中も破壊されて砕けた木片で全身を貫かれる、若しくは殴打されて満身創痍の有様で扉とは反対の壁に叩き付けられ死亡する。

 

「別に構成員へ伝えに行く必要はありませんよ。何しろ本人がこの場に居ますからね」

 

 シアは右手のアイゼンⅡを右肩に乗せてポンポンと動かしながら宣言をした。

 

「外の連中は妾で引き受けよう。シアよ、主殿も情報を捜しておる事じゃし成るだけ手っ取り早く済ますのじゃぞ?」

 

「はい、ティオさん。あの、の……ありがとうご御座います」

 

 ちょっと赤らめた顔で御礼を言うシア。

 

「くっ、てめぇらが例の襲撃者の一味か……って、その容姿はリストに上がっていた奴らじゃねぇかよ? 確かシアにティオだったか? 後はユエとカオリとシズクとミレディとホムラとシュテルとかが居たな。は、成程……確かに見た目は極上だ。だが人数と今の状況からすると襲撃してきているのがリストの女共か? まぁ良い、お前ら今すぐに投降するなら命だけは助けてやるぞ。な~に、すぐに天国に連れて行ってやる。フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思っていないだろう?」

 

「煩い、話が長いですぅ!」

 

 ズガンッ!

 

「アギャァァァァァァアアアッッ!?」

 

 好色な眼でシアとティオを見ながら下らない事を話し始めた男……ハンセンに対してシアは冷々とした眼差しを向けると最早、問答無用だと謂わんばかりに鉄鎚攻撃を撃ち放った。

 

 躱そうにも生憎とシアは素早くて右肩から受けて血飛沫を上げる。

 

「私が知りたい情報はミュウちゃんの居場所のみなんですよ、変身!」

 

 飛んできたザビーゼクターが左手首に填まったライダーブレスと合着……

 

《HENSHIN》

 

 オートでシアをザビーに変身させた。

 

「ふむ、では妾も」

 

 黒い龍のクレストが掘られたカードデッキを前へと掲げると、空中に行き成り出現したVバックルがティオの腰に装着される。

 

「変身!」

 

 Vバックルにカードデッキを装填すると内部でクルクル回り、仮面ライダーリュウガのシルエットがティオに合着して変身完了。

 

 騒ぎを聞きつけて本拠地にいた構成員達が一斉に駆け付けて来るが、それは正に地獄の一丁目へようこそ……という話でしかない。

 

《STRIKE VENT》

 

 黒いドラグブラッカーの頭を模したナックルがリュウガの拳に装着された。

 

「セイヤァァァアアアッ!」

 

 本来は火の玉を放つのが主流の攻撃だが、今回はまるで自らがブレスを吐くが如く漆黒の熱線を撃ち放ってやる。

 

『『『『『ウギャァァァァァァァァァァアアアアアアアアアッッ!?』』』』』

 

「生憎と妾は剣使いでは無くての、妾と相性が良いこの攻撃で退場して貰うとしようか」

 

 先の壁までが吹き飛び、フリートホーフ本拠地は風通しも見通しも良くなった。

 

《ADVENT!》

 

 更にはドラグブラッカーの召喚。

 

 先の攻撃で蜘蛛の子を散らすが如く逃げ出した構成員連中、それへの追撃としてティオが喚んだという訳である。

 

「さぁ、食事の時間じゃぞ」

 

 阿鼻叫喚。

 

 ドラグブラッカーが構成員を捕食していく様は地獄そのものかも知れない。

 

 この命が綿より軽いトータスという世界では、原典のハジメみたく喰われる人間も珍しい訳ではあるまいが、それでもだからといって喰われたい人間が居る筈も無いのだ。

 

 外が蹂躙中、シアは手にしたアイゼンⅡをビシッと前へ突き付けて……

 

「さぁ、アイゼンの頑固な汚れになりやがれ! ですぅ!」

 

 まだ部屋に残る構成員とハンセンに対して言い放つのであった。

 

 

.




 ミュウの一件が一息吐けば彼方側と家族会をする事になりそうです。




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第48話:逢魔ヶ刻へ殲滅の祝砲を上げよう

 月曜処か火曜にも間に合わなかったなぁ……





.

 シアとティオによる蹂躙が行われたフリートホーフの本拠地、仮面ライダーリュウガに変身したティオは容赦なく屠っていくし、何ならドラグブラッカーに捕食すらさせている。

 

 仮面ライダーザビー・マスクドフォームとなったシアも、部屋に残っていたフリートホーフの構成員を叩いて潰し、片腕を肩口から喪って激しく出血するハンセンはアイゼンⅡの轟天モードにより下敷きにしてやった。

 

「さて、ミュウちゃんは……貴殿方が攫った海人族の少女は何処に連れて行きましたか?」

 

「う、うるせぇ! 誰が教えるかよ!」

 

「G2」

 

 アギトのGシリーズに非ず。

 

「あぎゃっ!?」

 

 仮面ライダーザビーだから表情は見えていないのだが、恐らく底冷えをする様な目を向けているのは間違いあるまい。

 

 シアの神代魔法……重力魔法への適性はミレディが曰く、可成り低くて精々が自分の体重を若干ながら軽くしたり重くしたり出来る程度。

 

 故にこれはシアの力ではなく、ユートがシアの為にアイゼンⅡへと新たに付加した魔法だ。

 

 元々、グラビティショックウェーブの機能を持たされたアイゼンⅡだったが、重力魔法を組み込んでその重量を増す事による破壊力の増加を目論んでいたのである。

 

 現状、一〇倍にまで重量を増やせる。

 

 元々の轟天モードなアイゼンⅡのヘッド部に於ける重量は約五〇〇kg、倍加すれば一tという相当な重さになる訳だからハンセンは苦しそう。

 

 シアはアイゼンⅡの下敷きとなったハンセンに、「ミュウちゃんは何処ですか?」と訊ねる。

 

 ハンセンは先程までの威勢は何処へやら? と謂わんばかりに無様な命乞いを始めた。

 

「た、助けてくれぇ! 金なら好きなだけ持って行っても構わんから! もう二度とお前らに関わったりもしない! だから……ッガフッ!?」

 

「煩いですね、貴方は只私の質問に答えれば良いのです。理解しましたか? 理解が出来ないと言うならその都度、重さが倍々に増していきます。内臓が飛び出さない内に私からの質問の答えを言う事を薦めますよ」

 

 シアの可愛らしい声でザビーが言うのは余りにもシュールだった。

 

 中身が可愛いウサギさんだとはこの蜂を見て思う人間はまず居まい。

 

 ミュウと名前を聞かされハンセンは訝しい表情となるが、すぐに海人族の子と言われ思い至ったのかアイゼンⅡの重みに苦しみながらも答える。

 

「きょ、今日の夕方……ころ、行われ……る、裏オークションの、会場の地下に移送……された」

 

 どうもハンセンはシアとミュウの関係を知らなかったらしく、ミュウという海人族の子供に拘る理由が解らなかった様だ

 

 実際にはシア達とミュウのやり取りを見ていたハンセンの部下が、咄嗟の思い付きだけでシアの誘拐計画を練って実行したのだろう。

 

 シアはフリートホーフからすれば誘拐リストの上位に載っていたし、ハンセンの部下が自ら誘拐して組織内の発言力を増したかった……とかそんな処だったのかも知れない。

 

 シアは今回の作戦で借りたファイズフォンⅩにより連絡を入れる。

 

「もしもしユートさん」

 

〔シアか、どうかしたか?〕

 

「あの、先程フリートホーフの本拠地を襲撃しまして……ミュウちゃんの居所を突き止めました」

 

〔でかした、シア!〕

 

「えへへ、後で一杯褒めて下さいね。それでですがユートさんは今って観光区ですね? 恐らくはそちらの方が近いので先に向かって下さい」

 

〔そうか、了解した〕

 

 ユートに詳しい場所を伝えると電話を切って再びハンセンに顔を向けた。

 

 アイゼンⅡの重力魔法を解き通常の重さに戻すと肩に担ぎ直し、アイゼンⅡの重さから解放されたが出血多量で意識が朦朧とし始めているハンセンを睥睨している。

 

 死に掛けるハンセンはザビーに――シアに対して必死に手を伸ばして助けを求めた。

 

「お、御願いだ……助け……い、医者を呼んで……頼むから医者を呼んでくれぇぇ!」

 

「子供達の人生を散々食い物にしておきながら、それは流石に都合が良過ぎるというものですよ。だいたい、貴方みたいな人間を逃したりしたら、ユートさんに怒られてしまいます。という訳なので……さよならグッバイですぅ」

 

「ヒィッ! や、やめろ……やめてくれ! 人の心が有るんなら!」

 

()()()らしいですからね……有りませんよそんなモノは」

 

 グシャリッ!

 

 某・超絶美形主人公と似た返しをしたシアが、ハンセンのド頭へとアイゼンⅡを振るいヘッド部が命中して勢い良く脳味噌をぶちまけた。

 

 アイゼンⅡを振り回し付着した血を吹き飛ばし、此方に戻ったティオに向き直る。

 

「ティオさん、ミュウちゃんが心配です。こんな場所はさっさと潰して早くユートさん達と合流をしましょう!」

 

「う、うむ。それにしても主殿もそうだがシアもやはり大概よのぉ……」

 

「はて? ……何か仰有いましたか?」

 

「な、何でも無いのじゃよ。うむ」

 

 特に何も無さそうだからシアは首を傾げつつもフリートホーフ本拠地の破壊活動に勤しんだ。

 

 それから一時間もしないでシアとティオの二人が立ち去った其処には、屍山血河と謂わんばかりに無数の屍と瓦礫の山だけが残った状態である。

 

 中立商業都市フューレンに於いて、裏世界では三指に入る巨大な組織――フリートホーフはこの日を境に消滅の憂き目に遭うのだった。

 

 フリートホーフ消滅。

 

 本拠地の生存者――0。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 シアから情報を受け取ったユートは裏オークション開催地に向けて走る。

 

 目的がオークションであるからには生命の危険は無いと踏むが、ミュウは四歳児ながら賢い娘だから己れの境遇を理解しているのだろうし、可成りのストレスを感じる筈だから奪還するなら早い方が良い。

 

 ユートは後悔していた。

 

 こんな事ならミュウを手放すのではなかった、あの子がヒロイン枠なら常に傍に置いておくのが正解だったのでは? そうは思ったが大迷宮攻略に連れ回すには幼な過ぎる。

 

 それ故に常識的な判断に目を曇らせた。

 

 嗚呼、だからこれはきっと八つ当たり。

 

 時折、フリートホーフの構成員らしきを見掛けては殺害していくのだから。

 

「全員が地獄逝きだ。無間地獄で永久に、死という安らぎも発狂という救いも無く未来永劫を苦しみ続ければ良い!」

 

 死んだフリートホーフの構成員や幹部は冥界に於ける裁判官代わり、天英星バルロンの冥衣を与えているカレン・オルテンシアに逝き先の処遇を予め伝えてある。

 

 永劫に救われない無間地獄で死すらも死せない苦しみを。

 

 勘違いをしている人も居るだろうが、そもそもユートが神様転生で得たのは『魔法に対する親和性』と『流れなどがよく視える目』、オマケとして自身が生前に集めたサブカルチャーとそれらを容れる亜空間ポケットである。

 

 無限の魔力とか不老不死とか【無限の剣製】だとか【王の財宝】、神転あるあるなチート能力に比べると一段処か三段は落ちるモノ。

 

 まぁ、力の付与をしたのが下級神に成り立てだった【日乃森なのは】で、元より大した能力を与えられなかったのも確かではある。

 

 それと意外なというか、ユートが想定していなかった事もあったから今現在が確立された。

 

 先ず、『魔法に対する親和性』が予め高かったから【錬金】という【ゼロの使い魔】系の魔法を使いまくった結果、年齢的に有り得ない成長を遂げたのが有るだろう。

 

 更には【錬金】は【錬成】という魔法に進化をしたし、『よく視える目』も【探知(ディテクト・マジック)】という魔法を目を開いている時は常に使った結果、魔眼というレベルの眼――【叡智の瞳(ウィズダム・アイ)】に進化をした事。

 

 ユートの今は【錬成】と【叡智の瞳】に集約をされていると言っても過言ではない。

 

 事実として今でさえユートを支える能力が何かと問われれば、メティスを殺し権能を簒奪してから進化した【創成(クリエイション)】と【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】だと答えるだろう事からも窺える。

 

 ユートが使う仮面ライダー変身シリーズとて、殆んどがこの能力と【魔獣創造】の禁手によって創られた聖魔獣によるもの。

 

 仮面ライダーディケイドは這い寄る混沌の力を解り易く具現化したモノだが……

 

 【カンピオーネ!】世界で創った仮面ライダーウイザード系のベルト、自身のウイザードライバーや草薙護堂のカンピオーネドライバー、エリカ・ブランデッリのビーストドライバー、リリアナ・クラニチャールやアリアンナ・ハヤマ・アリアルディやカレン・ヤンクロフスキのメイジドライバーは基礎を【錬成】で、後は魔導具造りに近い方法で製作をしている。

 

 尚、平行世界の【ミスラが最後の王】の世界とは一切繋がらない平行異世界なのが判明した。

 

 死んで権能を“譲った”筈のデヤンスタール・ヴォバンや、ユートの子を産んで引退した羅 翠蓮、ハルケギニアに移動していたアイーシャ夫人など居る筈の無い神殺しが確認されたからだ。

 

 それは兎も角、ユートの力は基本的に多元世界を航り旅して得たものであり、万能でもなんでも無いという事。

 

 ある意味でディケイドと同じ。

 

 何の因果かはたまた祟りか? 這い寄る混沌の力を持ったユートは、這い寄る混沌を討った後に唯一残されたこれをイチ様とナツ様という二柱の女神に喚起して貰った結果、仮面ライダーディケイドに変身が可能となった訳だが、世界を航るという性質もディケイドと同じくとなった。

 

 扨置き、ユートは神でもなければ万能者でもないちょっと力がある人間。

 

 戦いで無双は出来てもやはり出来ない事は多々有るもので、そんなユートの足りない部分を補うのが【閃姫】の役割でもあるのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 シア達に透明化呪文(レムオル)を掛けた状態でユートは潜入、入口には黒服を着た巨漢が見張っていたから騒ぎを起こさない為だ。

 

 下手に騒いでまたミュウが連れて行かれてしまっては面倒でしかない。

 

 地下を潜入して暫く経つと無数の牢獄を発見してしまう。

 

 監視らしき男が入口に居たが居眠り中らしいから都合は良く、監視の前を素通りして行くと牢の中には人間の子供が一〇人ばかり、冷たい石畳の上で身を寄せ合い蹲っているが間違いなく今日のオークションで売り飛ばされる子供達。

 

「あれ? 大人も居るのか……」

 

 二十代半ばか? 背の低い眼鏡を掛けた女性が子供達を庇う様に睨んできた。

 

 背中まで届く長い茶色の髪の毛、派手さは無くて特徴も然程に有る訳でもないが可愛らしい容姿をしている。

 

 このトータスの人間族とは殆んどが聖教教会の信者である為、人間を奴隷や売り物にするというのは基本的に禁じられている。

 

 応用的にはアリで人間族の中でも売買の対象となるのは犯罪者という、神を裏切った者であるとして奴隷扱いや売り物とすることが許された。

 

 当然ながら牢内で震えている子供達が揃いも揃って奴隷堕ちするべき犯罪者である筈は無くて、正規の手続きで奴隷堕ちした人間はれっきとした表のオークションに出品される。

 

 違法に誘拐されたのは間違いない。

 

 女性は判らないが、この様子からして犯罪者だとは流石に到底思えなかった。

 

 ユートは自分が入ってきた事で怯える子供達と睨む女性に対し、鉄格子越しに優しく穏やかに静かな声色で質問をする。

 

「海人族の女の子が此処に居なかった?」

 

「先程、連れて行かれてしまいました。あ、貴方はどちら様ですか?」

 

 子供達を庇う女性が訊いてきた。

 

「海人族の子を助けて保安署に預けたんだけど、保安署を爆破して連れ去られてしまったんだよ。だからフリートホーフを潰滅させて助ける為に来たって訳だ。君は唯一の大人みたいだが?」

 

「私は水森月奈。此方風にならツキナ・ミズモリと名乗るべきでしょうか?」

 

「日本人! どういう事だ? エヒトは僕ら以外にも召喚していたのか!?」

 

「……え? じゃあ、貴方は勇者ですか?」

 

「う゛……」

 

 ユートの顔が嫌悪に染まる。

 

「えっと?」

 

「一応はそうだが……正直、勇者(笑)と一緒くたにされたくはないな。あんな愉快な人間と同じだとかさ、マジで死にたくなるよ」

 

「は、はぁ?」

 

 月奈は訳が解らないといった風情。

 

「まぁ、詳しい話は後で。取り敢えず今は君らを助けに来たんだ」

 

「本当に助けてくれるのですか!?」

 

 驚愕浮かべて叫ぶ月奈だったが、大声を出してしまったのは如何にも失敗でその声は薄暗い地下牢に反響してしまう。

 

 『あっ!』と慌てて両手で口を塞いだ月奈ではあるものの、監視の男にはやはり聞こえていたらしく目を覚まして、足音をドタドタと重苦しく響かせながら地下牢にまで入ってきた。

 

「何だ、てめえ? いったい何者だ!」

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

 

「は?」

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 いつの間にか装着されたマゼンタカラーに色付いたネオディケイドライバー、展開された状態にてカメンライドカードが装填されてドライバーが閉じると、電子音声と共にディケイドのシルエットが集約されて仮面ライダーディケイドの姿へと変身を完了する。

 

「な、何あれ?」

 

 月奈が呟く。

 

《ATTACK RIDE BLAST!》

 

 ドパパパパパパパパパンッッ!

 

「ウギャァァァァアアアッ!」

 

 分身をする銃身で蜂の巣にしてやったら本当に呆気なく絶命した。

 

「こ、殺した……のね……こういう世界だと知ってはいたけれど」

 

 青褪めて悪くなる表情は日本人の感性なら仕方が無いのだろうが、勇者(笑)みたいな感じは無い辺り人間としての格は可成り上と視た。

 

「警笛も鳴らさないとか莫迦なのかね」

 

 呆れましたといった感じに呟いたユートだったけど、目を丸くしていた子供達と月奈を見遣りながら鉄格子の鍵を開けるべく呪文を使う。

 

解錠呪文(アバカム)

 

 カチャリと鍵が開いた。

 

「今のは魔法ですか? でも、陣も詠唱も無かったみたいですが……」

 

「トータスの魔法事情は知ってるみたいだね? 僕の魔法はトータス産じゃないんだよ」

 

「? 地球に魔法が?」

 

「無くもないけどな」

 

 どうやら月奈は仮面ライダーもドラクエも知識に無いらしく、トータスで得たこの世界での魔法の扱い方から不思議に思った様だ。

 

「月奈と言ったか、悪いんだけど子供らを頼めるかな? 入口に仲間が来ているから安全面としては問題も無い筈だ。どうやら僕はもう少し暴れないといけないみたいだからね」

 

「わ、判りました。皆、行こう」

 

「保安署の連中ももうじき駆け付けるだろうし、冒険者ギルドのイルワ支部長にも色々と伝手が有るから手を回してくれる筈。細かい事は彼に丸投げしてしまおう。月奈は残っていてくれると捜す手間が省けるんだがな」

 

「そうさせて貰いますね」

 

 月奈はイルワと呼ばれた支部長に同情の念を持ったが、自分の身分から余り手助けなどは出来ないと考えている。

 

 イルワにもファイズフォンⅩを渡してある為、連絡はその番号に掛ければ一発であった。

 

 巨大な裏組織と喧嘩になったと報告された上に後ろ楯宜しくと言われ、イルワ・チャングは執務室で真っ白になってしまい早速ながら後ろ楯になったのを後悔したものである。

 

 月奈としては同胞と云えるユートを逃がしたくはないし、大人しく仲間とやらに保護をして貰う事を決めて子供らを促した。

 

 ユートがオークション会場に向かおうと動いたその時、後ろの方から少年らしき声が響く。

 

「兄ちゃん! 俺達や姉ちゃんを助けてくれてありがとう! あの子の事も絶対助けてやってくれよな! すっげー怯えてたんだけど、俺には何にも出来なかったんだ……」

 

 まだ子供だからか? それとも少年の性質なのかは判らないが、どうやら亜人族とかは無関係にミュウを心配していたらしい。

 

「悔しかったなら強くなれ。今は無理なら今回は僕がやるさ。だから若しも次に何かがあったなら少年……その時こそ君が動けば良い」

 

 呆然となる少年に後ろ姿で右腕を横に伸ばし、サムズアップをして見せるユート。

 

 ユートが居なくなってから少年はまるでヒーローでも見たかの如く、その瞳をキラキラさせながら少しだけ男らしい顔つきとなり、ユートがした様にサムズアップをした。

 

 月奈はそんな少年に微笑ましい眼差しを向け、子供達の皆を連れて地上へと向かう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 オークション会場の客は凡そ百人程で、誰もが妙ちくりんな仮面を装備していて音の一つも立てずに目当ての商品が出てくる度に番号札を静かに上げていた。

 

 貴族か商人か? 疚しい事をしている自覚自体はあるから、自らの素性をバラしたくないが為に声を出す事すらも憚るのだろう。

 

 細心の注意を払っている彼等ですら、その商品が出てきた瞬間に思わず驚愕の声を漏らした。

 

 二つの商品となる二人のヒト。

 

 一人は間違いなくミュウ、二m四方の水槽に入れられており、ユートが与えて着ていた服は剥ぎ取られ素っ裸な状態で水槽の隅で膝を抱えて縮こまってしまっている。

 

 海人族は水中でも呼吸が可能、本物の海人族であると証明する為に水槽へと入れられているのだろうが、一度は逃げ出したからか小さな手足には金属製の枷を嵌められていた。

 

 今一人は大人らしい金髪碧眼で白い肌の女性であり、元々から大人しいのか淑やかなのかは判らないが現在は弱々しく項垂れてしまっている。

 

 彼女も素っ裸ではあるが、特に狼藉を働かれた感じでは無い事から商品としては大事にされていたのかも知れない。

 

 裸なのは魅力を存分に魅せ付けて商品価値を引き上げる為か、ならば少なくとも意味も無く狼藉をして価値を下げたりはしないだろう。

 

 男共が目を見張り中には口笛を吹く輩も。

 

 ミュウではなく金髪碧眼の美女に対してなのは流石に当然、彼女は女としての価値だけでも高値に設定が出来そうなくらいだ。

 

 だけど肉感的でスラッとした顔立ちな美女というだけでなく、彼女には商品としての付加価値がまた別に付いていた。

 

「さぁ、今度の商品は貴重なる海人族の子供! そして何と異世界人の美女ですよ!」

 

『『『『おお!』』』』

 

 事前に知らされていたとはいえ男共が驚嘆するのも無理はなかった。

 

 フリートホーフは水森月奈以外にも異世界人を確保していたらしく今現在、出品をされているのが正しくもう一人の異世界人らしい。

 

 【勇者】として初めから聖教教会に保護をされている天之河光輝らと異なり、水森月奈や彼女は召喚された訳ではないから【言語理解】の技能を持たないが故に、割かしすぐに異世界人としての馬脚を表してしまったのだ。

 

 こうして捕らえられたのも無理は無い。

 

 とはいえ、二人は頭は良かったからかリスニングで何とか現地の言葉を覚えられたのが幸いし、今時分までは無事に過ごせていたのである。

 

 片言でも喋れれば暮らしていけたのだから。

 

「おい、異世界語で話しなさい」

 

 俯いた女性は口を開かない。

 

「チッ、喋りなさい!」

 

 鞭を床に振るうと女性の肩が震えた。

 

「全く、碌に話さないとか礼儀を知りませんね。海人族の方は辛気臭い餓鬼ですし、人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。余所者と半端者の能無しの風情が!」

 

 司会の男が怒鳴り散らしながら鞭を振るって、ミュウの居る水槽には棒を突き降ろそうとした。

 

 思わずミュウは目を瞑り衝撃に備えるものの、衝撃の代わりに届いたのは……

 

「屑野郎が……その科白はそっくりその侭お前に返してやるよ!」

 

 ずっと聞きたかった声である。

 

 行き成り顕れたユートが司会の男の頭を蹴り付けると、司会の男の頭が破裂した様に弾け飛んで血飛沫が周りに汚れを作った。

 

 ピクピクと生きていた痕跡として痙攣をしながら倒れた頭無しな死体。

 

 ユートは絶命した男の事など視界にも収めず、右拳を振るって水槽を殴り付けると軽快な破砕音が響いてミュウが囚われた水槽から中が勢いよく吹き出した。

 

「あん!」

 

 そんな流れの勢いに中に居たミュウも外へと放り出されたが、すぐにフワッと温かいナニかに受け止められたのに気付いて固く瞑っていた目を、ゆっくりと……そーっと開けてみる。

 

「またびしょ濡れだな? 水も滴る良い女と言いたいんだけど……よく頑張ったねミュウ、君を助けに来たよ」

 

 軽く冗談を言いながら笑顔を向けたユートに、ミュウはジーッと顔を見つめた侭に囁くが如く小さな声で訊ねた。

 

「……ユートお兄ちゃん?」

 

「再会する約束はちょっとだけ早くに叶ったみたいだ、ミュウが呼ぶユートお兄ちゃんで間違いは無いよ」

 

 その優しい声にミュウは大きな瞳をジワッと涙にて潤ませると……

 

「ユートお兄ちゃんっ!」

 

 抱き付いて来て嗚咽を漏らし始めた。

 

 優しい表情でユートはミュウの背中をポンポンと叩くと毛布でくるんでやる。

 

「序でに君も取り敢えず着ると良い」

 

「Thanks」

 

「英語? 見た目からして米国人か? 兎に角、ミュウを連れて下がっていろ」

 

 理解は出来たらしく頷いて丈夫なだけの粗末な服を身に付けてミュウを抱っこ、言われた通りにユートから離れて下がっておく。

 

 ミュウも大人しくしていた。

 

「血を見る事になるからミュウの目は塞いどいてくれると助かる」

 

「Ok」

 

 向こうのリスニングは完璧らしいとユートは考えて前へ、其処へ丁度良くドタバタと足音を立てて黒服を着た男達がユートを取り囲む。

 

 客席に居る客達――貴族やら商人らしき連中は、どうせ敵う筈も逃げられよう筈も無いと思っているのだろう、多少はざわめいてはいるが特に逃げ出す様子はなかった。

 

「このクソ餓鬼が俺達、フリートホーフに手を出すとは随分と頭が悪いみたいだな。その商品を置いていくならせめて苦しまずに殺してやるぞ?」

 

 二十人は居る屈強そうな男共は数の優位に酔い痴れており、自らの勝利を信じてやまないらしくユートに降伏勧告をしてくる。

 

 ミュウは周囲を囲むガチムチ共に怯えており、金髪女性の胸に顔を埋めて不安そうにしていた。

 

 

「大丈夫だ、ミュウ」

 

「ユート……お兄ちゃん……?」

 

「数だけの雑魚なぞすぐに片付けてやるからな、そしたら一緒に行こうか」

 

 飽く迄も優しい声色でミュウは心がほっこりと暖かくなるのを感じる。

 

 一方の完全に莫迦にされた黒服連中は額に青筋を浮かべ……

 

「相当な大言を吐く。何なんだ貴様は?」

 

 御約束な事を訊ねてきた。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

 

 ネオディケイドライバーのバックルを開いて再びカードを装填する。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 仮面ライダーディケイドに成った。

 

「アーティファクトか!?」

 

「餓鬼をぶち殺してあれも手に入れろ!」

 

 仮面ライダーディケイドとなったユートを見た黒服リーダーは大声で命じた瞬間……

 

 ドパンッ!

 

 素早く抜いたライドブッカーをガンモードへと変形させて、乾いた破裂音と共にリーダー格と思しき黒服の頭部へと命中させた。

 

 ユート以外の誰も事態を理解できないと謂わんばかりに目を丸くし、頭部から脳髄を撒き散らしつつ力尽きて崩れ落ちるリーダー格を見る。

 

《ATTACK RIDE BLAST!》

 

 ドパパパパパパパパパパパパパンッッ!

 

 隙を突く形でアタックライドのカードを装填したユートは更に発砲、黒服達は何をされたのかも理解が叶わず頭部が爆ぜてしまう。

 

 あっという間に二〇もの死体が完成した。

 

 通りすがりの仮面ライダーを名乗るユートを、漸く恐るべき相手だと悟った黒服たちは後退りをし始めたし、貴族や商人の客達は悲鳴を上げ我先にと出口へと殺到する。

 

「何が起きた? 何で……こんな事にっ!」

 

 恐怖と混乱に陥り、だけど必死に虚勢を張って声を荒げている黒服の一人はサブリーダーなのだろう、とはいえ更に一〇人ばかり奥からやって来たがこの場の惨状を見て息を呑んでいた。

 

「フッ、誰に喧嘩を売ったのか理解をしたか? お前らは見せしめに皆殺す。僕の連れに手を出すとどうなるのか、お前らの生命でせめて終わり際くらいは興じさせろよ!」

 

《ATTACK RIDE SLASH!》 

 

 今度はソードモードに変えて更に強化する為のアタックライドカードを装填。

 

「オラオラオラ!」

 

「ギャァァァアア!」

 

「ウワァァァッ!」

 

「死にたく……」

 

「嗚呼あっ!」

 

 最早、襲撃すら叶わず斬られていくだけの的と化した黒服が絶叫を上げる。

 

 黒服は全滅して本当の意味でフリートホーフは全滅したも同然となった。

 

 何人かは生かしてイルワ・チャングギルド支部長の許へ送ったけど。

 

「さぁ、残りはお前らだ」

 

 青褪めるのは客達。

 

 逃げようにも何故か扉が開かないから結局は逃げそびれた連中、中には大物貴族や商人だったりその子弟だったりが何人も混じっている。

 

「ま、待て! 私を誰だと……」

 

「さぁ? 知らないな。此処に居るのはハイリヒ王国の次期国王ランデル・S・B・ハイリヒ殿下の為にならぬ国賊のみよ。リリアーナ・S・B・ハイリヒ王女殿下は心を痛めている。平然と人身売買をする輩が我が国の貴族や商人に居る筈などないから、オークションに参加した連中は国賊として討って欲しい……とな」

 

「なぁっ!?」

 

 ユートが取り出したのは正しくその旨を明記した指令書であり、間違いなく王家の紋様が捺された制式文書であったと云う。

 

 此処に突入前、リリアーナに伝話機で連絡をして準備して貰い、ルーラを使って城まで取りに行ってあったという訳である。

 

「そもそも、仮装パーティーの行列よろしく仮面を被ってるから顔も判らん。ああ、取らなくても構わないさ。どうせ知らん顔だからな」

 

《KAMEN RIDE DOUBLE!》

 

 黒い左と緑の右半身な仮面ライダーWに。

 

「さぁ、お前達の罪を数えろ!」

 

 これを言う為だけにカメンライドした。

 

《FINAL ATTACK RIDE……DO DO DO DOUBLE!》

 

 必殺技発動カードたるファイナルアタックライドのカードを装填。

 

「はっ!」

 

「う、うわぁぁぁぁあああっ!」

 

 大パニックとなる客達。

 

 ディケイドWが緑色の風の流れに乗ってフワリと浮かび上がる。

 

「ジョーカーエクストリーム!」

 

 それは真ん中からズレて黒の左半身が蹴りを当てた瞬間に、緑の右半身が元に戻る勢いと共に蹴りを見舞う正しくエクストリームな必殺技。

 

 そんな必殺技を上級貴族らしき男にぶつけて、その余波で他の客も吹き飛ばされる。

 

『『『『『うわぁぁぁぁあああっ!』』』』』

 

《FORM RIDE DOUBLE ……LUNA/TRIGGER》

 

 青い左半身と黄色い右半身の【仮面ライダーWルナ/トリガー】にフォームチェンジ、ユートはその手にトリガーマグナムを持つ。

 

《FINAL ATTACK RIDE DO DO DO DOUBLE!》

 

「トリガーフルバースト!」

 

『『『『『ウギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!』』』』』

 

 生き残りを根刮ぎトリガーフルバーストによる一斉掃射で撃ち殺す。

 

 誰一人として生かして返さない。

 

 ネオディケイドライバーが消え変身解除。

 

「ミュウの目と耳を塞いでくれてありがとうな……って、英語の方が良かったか?」

 

「NO……大丈夫、日本語なら話せます」

 

「成程、少なくともバイリンガルか」

 

 ならば話は早い。

 

「それじゃ、離脱しようか」

 

「判りました」

 

 金髪女性はミュウを抱っこした侭でユートに付いていく。

 

「ユエ、ミュウは確保した。オークションの客とフリートホーフの残り滓も殲滅。そちらの準備は終わったか?」

 

〔……ん、準備は完了〕

 

「そうか、ならフィナーレだ」

 

 外に駆け出すと女性をミュウと共に抱き上げて大空を舞う。

 

「アンタ、ミュウの目と耳を放して良いぞ」

 

「アイリーン」

 

「うん?」

 

「私はアイリーン・ホルトンです」

 

「ホルトン?」

 

 知識には有る名前、米国はホルトン一族といえば世界でも有数の金持ちだった筈だ。

 

「まぁ、詳しくは後でも構わないか。ミュウ、目を開けてみな」 

 

「ふぇ?」

 

 ユートに言われソッと目を開けるミュウ。

 

「ふわぁぁっ!」

 

 感嘆の声、目を開けてみれば周囲は町を一望が出来るくらいの上空だったから。

 

 逢魔ヶ刻であるが故に地平の彼方には沈もうとしている夕日により、全体的に真っ赤でまるで町が燃え上がるかの如く。

 

 地上は美しいイルミネーションの様な人工の光がポツポツと灯され、ミュウは初めて見る雄大な光景に瞳を輝かせてはしゃいでしまう。

 

「ユートお兄ちゃん凄いの! ミュウ、生まれて初めてお空を飛んでるの!」

 

「フフ、嬉しそうで何よりだよ。ミュウ、それにアイリーンも。これから盛大に祝うからド派手な花火が見れるぞ?」

 

「花火?」

 

「花火というのはそう……爆発だな」

 

「爆……発?」

 

 小首を傾げるミュウ、碌な説明を出来ていないとは思うがどうせ結果は同じだ。

 

「お祝いですか?」

 

 アイリーンも首を傾げている。

 

「フューレン三大悪組織の一つ、フリートホーフの撲滅記念として祝砲を放とうと思ってね」

 

 ユートはシアからの連絡が来るまでにアジトを潰しつつ、フリートホーフの建物と判明している場所へ幾らか術式を仕掛けながら走っていた。

 

「さぁ、Show Timeだ。あ、た~まや~」

 

「うーん、た~まや~?」

 

「か~ぎや~」

 

 ユートとミュウとアイリーンの声が黄昏の空に響き渡ったその時、フューレンの町全体に轟く程の轟音が響いたかと思えば周囲のフリートホーフの関連する建物を巻き込み、壮絶なる衝撃が走って裏オークション会場だった美術館も、歴史的な建造物? そんなん知るか! 芸術品? 食えない御宝に興味はねー! と言わんばかりに木っ端微塵のミジンコちゃんに粉砕されていった。

 

 そして文字通りの意味で爆炎が燃え広がって、フューレンの町は真っ赤に染まっている。

 

 序でと言っちゃ何だが雷龍や炎凰がフリートホーフの建物を破壊していたし、金色に輝く人型が建物を巨大な鉄鎚の下敷きにしていた。

 

「ふぇぇぇっ!?」

 

「どうだ、ミュウ? 愉しいだろう?」

 

「花火……怖いの」

 

 寧ろ『キタネー花火』でしかない。

 

 これによりフューレンに巣食う寄生虫が如きの組織は完全に消滅が確認されて、残された二つの悪徳組織の連中を震え上がらせる事となる発表がイルワ・チャングから成されるのだった。

 

 

.




 水森月奈――33歳で『世界に救世主として喚ばれましたが、アラサーには無理なので、ひっそりブックカフェ始めました。』の主人公。

 光る球体から数々のチートをせしめて異世界に跳ばされたが、別世界のエヒトルジュエの召喚と変に干渉してトータスに到着してしまった。

 ありふれと習合されてた地球では無いから月奈に仮面ライダーの知識は無い。

 アイリーン・ホルトン――二十歳前後。

 月奈と違い普通にありふれと習合された結果として米国の金融財閥一家の末娘、両親と兄が居るのも原作と変わらないのと『マスクドライダー』の知識を持っている。






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第49話:“血”祭りの後のお片付け

 フューレンの一件は完全に終了……





.

 全てを終えた。

 

 殺るべき人間は皆殺しにしたし、破壊するべき施設は皆破壊をしているし、捕まえるべき人間はきちんと捕らえている。

 

 首魁たるハンセンはシアが殺してしまったのだけど、副首魁みたいな男や参謀役の男はちゃんとユエや雫が捕らえてくれていた。

 

 取り敢えず一旦集まっておく。

 

 異世界人の水森月奈とアイリーン・ホルトンの二人の処遇を考えねばならないから。

 

「ぶっちゃけるとアイリーンは【ありふれた職業で世界最強】世界の地球で米国はニューヨークに生まれた人間、水森さんは平行異世界の地球に於ける日本人という事になるな」

 

「あの、私がこの世界の地球の生まれじゃないとはどうして考えたんですか?」

 

「僕がディケイドに変身した際、水森さんはそれが仮面ライダーだと判らなかったろ?」

 

「仮面ライダー?」

 

「日本人が仮面ライダーを、幾ら女性であっても全く名前すら識らないのは有り得ないよ」

 

 仮に全く興味無しだったとしてもコマーシャルなどで名前くらいは出るし、外には仮面ライダーの名前を出す子供だって居るくらいだ。

 

 つまり、全く識らないのは存在しない世界に住まう人間だからに他ならない。

 

 勿論、極論が過ぎるのは理解してる。

 

 ひょっとしたら仮面ライダーが特撮として存在する世界でも、本当に知識を持たない人間が居ないとは限らないからだ。

 

 それでも名前を聞いた事すら無いのはやっぱりユート的には考え難かった。

 

「そんな訳で判断をした。アイリーンは仮面ライダーを『マスク・ド・ライダー』と認識した」

 

「私はドラゴンナイトなら識っています」

 

「仮面ライダー龍騎の海外版だね」

 

 仮面ライダー龍騎は多少の設定変更をした上で【KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT 】という形で,二〇〇九年の一月に全米ネット局CWにて放映をされた。

 

 龍騎がドラゴンナイトでリュウガがオニキスと名前も変更をされている。

 

 勿論、人物は役者や設定から全てが別物。

 

 主人公も城戸真司では決して無い……キットって踏まえた名前ではあるけど。

 

「さて、君らの処遇が問題と云えば問題だ」

 

「処遇……ですか?」

 

「水森さんはこれからどうする? はっきり言って一番困るのは貴女だよ」

 

「わ、私が!?」

 

「僕らが地球に帰るのにアイリーンは付いて来れば後は実家、ホルトン家から迎えを貰えば国許に帰れるだろうからこの際の問題は無いんだけど、水森さんは平行異世界の地球人だから座標も判らない以上は帰せない」

 

「あ、そっか……」

 

「しかも帰れたら帰れたで、今度は救世主として別の異世界に跳ばされる訳だからね」

 

「あうっ!」

 

 それがあったか! と、月奈は頭を抱えたくなってしまう。

 

「光る球体……仮に神だとして、恐らく管轄違いの【ありふれた職業で世界最強】世界には手出しが出来ないけど、戻ればやっぱり普通に干渉をされて異世界に向かわされるだろうね」

 

「そう、ですよね……」

 

 チートは前払いで既に受け取り済みであるからには、行かないなんてのは我侭に他ならないというのは理解していた。

 

「だから水森さんが取れる選択肢としてはだ……帰れない事を前提条件に考えた場合」

 

「は、はい!」

 

「勇者(笑)な天之河に合流して聖教教会から保護を受けるのが一つ目だね」

 

 ユート本人からしたら実はこれが一番有り得ない選択肢だった。

 

 それを理解しているからか、周りが『うわぁ』とか声を上げているので頭の良い月奈は『ああ、これはダメなやつね』と正答に辿り着く。

 

「次が教会ではなくハイリヒ王国の保護を受けるべく……」

 

「また勇者様に合流ですか?」

 

「まぁ、天之河はハイリヒ王国を拠点に活動をしているからな。尚、ヘルシャー帝国は余りお奨めはしない。弱肉強食で強さが正義とか抜かすのがガハルド皇帝だしな」

 

「確かに嫌ですね……」

 

 スローライフをしたい月奈としては戦い上等な帝国はダメダメであろう。

 

「第三の選択肢は一切合切の保護を受けずにこのトータスで生きていく」

 

「今まで通りですね……でも……」

 

「そうなると、フリートホーフ以外の連中からもいずれは狙われる羽目になるな」

 

「ですよねぇ」

 

 これも前までなら兎も角、月奈としても今現在では取りたくない選択肢だと云えよう。

 

 攫われる可能性が高い上に今度は助けが来ないだろうし、そんな事になったら果ては性奴隷すら有り得るからだ。

 

(まぁ、アラサーで性奴隷なんて誰得な気がしないでもないけどね)

 

 実際に性的な目で視られていたのはアイリーンの方であり、月奈は特にそういった目を向けられてはいなかった。

 

 いなかった……筈だが、肢体のメリハリや美貌では確かにアイリーンには劣る月奈だけど、決して醜女という訳ではなく普通に三三歳としては可愛らしい容姿であり、気付いてないだけで実は性的な目で確りと視られていたりする。

 

「第四の選択肢はシアの家族が居る真オルクス大迷宮の百層目で人目を忍んで暮らす」

 

「シア……さん?」

 

「其処の兎人族だよ」

 

「初めましてですぅ」

 

「あ、初めまして」

 

 兎人族というか亜人に偏見が有る訳でもないからか普通に挨拶を返す月奈。

 

「取り敢えず暮らすのは問題無さそうだね」

 

 皆も頷く。

 

「さて、次は帰れる事を前提条件に考えた場合だ」

 

「はい」

 

「その前に訊くけど、水森さんの男性経験は?」

 

「は? え、それって関係あるをですか?」

 

「勿論。こんな時に無関係なセクハラ発言はしないよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 月奈はユートを信用している為に、顔を林檎の如く真っ赤に染めながらも耳打ちをしてきた。

 

「しょ、処女……です……」

 

 本好きで本さえ読めれば幸せだった水森月奈は三三歳になるまでに男との付き合いは殆んど無く、学生の頃に遊び半分なごっこ付き合いは有ったかも知れないが続く筈もない。

 

 手さえ握らずに終わった。

 

 恋愛でさえない自然消滅と呼ぶのすらも烏滸がましいものだし、其処に肉体関係なんて有る訳がないのである。

 

「こ、答えましたよ! それで?」

 

 早口に訊ねて来たのが照れ隠しだと理解も出来るから苦笑いをしながら月奈に教えた。

 

「僕の特殊な能力に『願望実現』というのがある。昔は使えなかったけどね、カンピオーネに成ってから今まで持ちながら出力が出来なかった力を具現化出来た賜物だ」

 

「願望実現って、アラジンと魔神のランプの魔神みたいな?」

 

「そうだね。水森さんは識らないかもなんだけど、第四次聖杯戦争や第五次聖杯戦争で獲た聖杯の機能が願望実現器というモノでね。その機能の是非は兎も角として、僕はカンピオーネというのに成ってから使えなかったモノを出力可能になって獲た能力、【万能の杯より溢れ出る(グレイテスト・ジ・ホーリーグラール)】により割と広く願いを叶えてやれるんだ。何しろ死者蘇生すら出来るからね。神の権能と一括りにしてはいるけど、元が神と無関係でも神懸かった力は権能として扱える様になったから」

 

 まぁ、死者蘇生は権能無しでも可能だが……

 

「話だけ聞くとドラゴンボールの神龍よね」

 

「ドラゴンボール……ですか」

 

 どうやらドラゴンボールは知っているらしく、すぐに内容の理解を示してくれた。

 

「お金は掛かるんだけどね」

 

「お金を取るの!?」

 

「僕は『願い叶えまっすぃーん』になる気は全くこれっぽっちも無いからな」

 

「ああ、そういう……」

 

 やはり賢い月奈は理解した。

 

「つっても、次元移動と次元世界座標の取得とかお金だと数億円でも足りない」

 

「億単位なのね……」

 

 リリカル世界は次元の海を航る艦船が存在しているが、それでも時空の壁を破る術など持ち合わせてはいない。

 

 それをやるのだから端した金でやってやれる事では無かった。

 

「それと私が……しょ、処女とかどうとかにいったいどんな関係が?」

 

 アラサーでも恥ずかしいものは恥ずかしいのか吃るわ頬を赤らめるわ、何とも愛子先生と変わらないくらいに可愛らしい女性である。

 

「さっき、僕はお金だと数億円でも足りないと言ったよね?」

 

「ええ、確かに言ったわ」

 

「それが美女美少女の処女だと解決する」

 

「……はい?」

 

「例えば娼婦って初めてはどうしてるんだか知らないけど、売ればそれはそれで高値が付くとは思わないかな?」

 

「それは……」

 

 処女を、女性の初めての奪うという行為は男のつまらない自尊心を満たす。

 

 所謂、征服欲みたいなモノを……だ。

 

 まぁ、泣かれたり逃げたりと面倒臭い一面とかもあるから必ずしもではないが……

 

「人にもよるけど初めてってやっぱり大切にしたいとか思うだろ?」

 

「まぁ、確かに……大切にし過ぎてアラサーまで拗れたりするけどね」

 

 恋人が居なければ行きずりにヤらない限り処女の侭で歳を喰う、月奈はアラサーになっても未だに処女である訳だから拗らせつつあった。

 

 だからといって犬にでも喰わせる勢いで捨てるモノでも無いだろう。

 

「そして価値は僕が決める。お金と違って存外とフワリとした価値観だから、本来なら一〇億は貰う案件でも生涯に一度の処女である意味無料化をする訳だよ」

 

「つまり、緒方君に抱かれれば私は元の世界へと帰して貰える……と?」

 

「そういう事」

 

 処女だ何だと云っても要は男を受け容れた事が無い証拠みたいなモノで、単純な肉体の一部として視た場合は襞状の器官でしかない。

 

 それをユートの分身で貫かせるだけで一〇億円を失わずに済むという寸法、処女膜を喪うか大金を失うのどちらがマシかは判らないけど。

 

 即金を出せないけど処女だからと散らして願いを叶えて貰う……そういう事も割とあった。

 

「その、妊娠とかしたら?」

 

「まずしない。一度で妊娠なんて一回だけしか無かったし、基本的には一ヶ月くらい飲まず食わずで休みもしないでヤり続けてやっとくらいだ」

 

「一回はしたの!?」

 

「僕も意外だったんだけどね。まぁ、大丈夫」

 

「何処ら辺が大丈夫なのやら」

 

「大丈夫だよ。星華……ああ、僕が文字通り一発で孕ませた相手だけどね、彼女ともそれ以降はヤっていたけど孕まなかったから」

 

 某かの条件が揃ったか何かしたのだろう。

 

「それに万が一にも妊娠したら産めば良い」

 

「だ、誰が育てるの?」

 

「僕の【閃姫】でもメイドでも。育てられる者は幾らでも居る。何なら水森さんが【閃姫】に成って自ら育てても構わない」

 

「せんき?」

 

「愛人、妾、側室、側女……好きに呼べば良いが、早い話が恋人以上で正室未満的な立場。とはいってみても、正室と側室の違いは殆んど無い」

 

「要は貴方の女……みたいな感じに?」

 

「そうなるね」

 

 やはり聡いだけある。

 

 香織や雫には無かった賢明さが水森月奈には備わっており、流石は異世界行きになったとかいう中でも光る球体から多くのチートを上手く要求しただけはあった。

 

 アラサーなら女盛りの年齢であり、見た目にも中々に可愛らしい容姿でユートから視ても決して悪くないと思う。

 

 折角の出逢いだから欲しいと考えられる程度には魅力的な月奈、一期一会のこれを逃すのは如何にも惜しいと感じるユート。

 

 アイリーン・ホルトンも見た目は相当な美女であり、月奈とはまた違った魅力を醸し出しているけど……此方は自分達の帰りに同席させるだけだから機会は無いかも知れない。

 

「ま、すぐに決める必要は無いさ。君らが勇者(笑)の所に行きたいならハイリヒ王国の王宮に送って上げる。教会か王室の保護を受けたいなら話も通して上げるよ」

 

「あの……」

 

「どうした? アイリーン」

 

 挙手してきたアイリーン、【ありふれた職業で世界最強】世界の人間だから月奈みたいな話し合いは要らないからと、参加をしていなかっただけにちょっと驚く。

 

「この侭、ユートの御世話になるのはアリ?」

 

「それも選択肢の一つだな。とはいえ僕らの旅は基本的に危険だから付いて来るのはお奨め出来ないんだよね。だから真オルクス大迷宮でさっきも言ったが、ハウリア族と共に暮らしながら帰れる日を待って貰う事になる。付いて来る心算があるなら戦闘訓練をした上で仮面ライダーに成って貰う必要がある」

 

「庇護を受けるのは良いのね?」

 

「構わない」

 

「だったら私は御願いするわ」

 

 アイリーンはそう言い晴れやかに破顔する。

 

 やはり女性としては魅力的に映るアイリーン、米国人だけにスタイルが良くて長い金髪も手入れがよくサラサラ、枝毛も無い完璧に近い美貌の持ち主なのは間違いない。

 

 ユートは密かにダブルドライバーでユーキとの交信を行い、アイリーン・ホルトンと水森月奈について何か識らないかを訊いてみた。

 

 結果は識らない。

 

 どうやら二人の存在を示す原典は大本の世界でユーキが死んだ後に出たものみたいだ。

 

 残念だがそれは別に良い。

 

「水森さんはどうする? アイリーンは帰る時に一緒する事で後は米国に戻るだけで済むけれど、貴女は時空の壁を突破して座標を捜し出した上で次元の海を越えて、更には別の時空樹すら到達をしないと帰り様が無い。しかも帰れたら帰れたで別の異世界行きが決まっている訳だが?」

 

「ぐふっ!」

 

 地味にダメージを受ける月奈。

 

 月奈の持っているペンダントは光る球体謹製、細か過ぎる彼女の要求に『面倒だからこれで何とかしろ』と渡された物で、握ると検索画面が脳内に浮かび、食べ物もお金――飽く迄も行く筈だった世界の――も出したい放題らしい。

 

 月奈の要求で無くしても自動で戻る機能付きと可成り破格のチートアイテムだ。

 

 そんなのを貰いながらやはり行きたくないとか通用する訳も無く、この世界に引っ張られて来たから干渉されていないに過ぎなかった。

 

 また、本来の救世主は魔力値も莫迦みたいに高くてMPも最大値だが、魔法は現地で覚えねばならない処を救世主だけが使える防御系大魔法も扱える様にして貰っている。

 

 はっきり云うと、月奈は一人だけだったらそもそもフリートホーフに捕まらなかった。

 

 世話になった人達を人質にされなければ。

 

 しかもその気になればペンダントから飲食物は出し放題であり、趣味の読書にしても本だって出せるから一生涯を引き隠って暮らすのも可能。

 

 何しろ出すのにお金も何もリスクは一切無いという正にチートアイテムなのだから。

 

(正直、これを渡してしまうと私も困るけど……地球の日本に暮らすなら戸籍とかも居るしなぁ)

 

 処女ではなくペンダントを対価にとかも考えたのだが、よくよく思えば専用化されていた場合は他人には無価値でしかない。

 

 ペンダントを対価に元の世界へと帰るにせよ、また光る球体に頂戴と言って貰えるとは流石に思えなかったし、やはりアラサーの処女を散らされるしかないかな? とかユートの顔を観ながら、二人切りでの閨事を妄想してみたり。

 

 ユートは経験豊富っぽいし優しくしてくれそうなのは、ユートのこれまでの自分やアイリーンへの態度から何と無く想像が出来ていたし、何よりもミュウがあれだけ懐いているのがその証左となるのではないか?

 

(戦いでは相手を殺していて凄く恐かったけど、それだって向こうの自業自得だものね)

 

 意外と恐怖を感じていない事に驚く月奈。

 

「取り敢えず、僕らがグリューエン大火山に向かうまでに決めれば良いよ。イルワ・チャングとの話し合いや物資を買ったりすれば、数日間はこのフューレンの町に滞在をするからね」

 

「判ったわ」

 

 月奈が返事をして、アイリーンも頷いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「倒壊した建物が三〇棟、半壊した建物が五四棟に、あろう事か消滅した建物は八棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員は幹部やハンセンも含めるとニ九〇名、重傷で運び込まれた者が僅か数名 それで、何か言い訳はあるかい?」

 

「ムカっ腹が立ったから殺った。其処には後悔も反省も全くこれっぽっちも無い」

 

「はぁぁぁぁっ……」

 

 冒険者ギルドの応接室へとやって来たユートを相手に、持ち込まれた報告書を片手にジト目になりながら睨んでくるイルワ・チャング。

 

 膝にはミュウを乗せて出された茶菓子をたべさせる姿、そして反省など欠片も無い科白を聞いて激しく脱力してしまう。

 

 微笑ましい光景だとは思うが、ユートのやらかしを鑑みれば精神的なダメージを負っていた。

 

「正直、やり過ぎ……というか殺り過ぎだとは思わなかったのかね?」

 

「人の女を攫おうとしていたんだ、殺されて文句なんぞ言わさないさ。一般には決して手は出していないし、生かしてギルドに何人か寄越してやっただろうに」

 

「まぁ、確かに私達も裏組織に関しては手を焼いていたからなぁ……今回の一件は助かったといえば助かったとも言えるよ確かにね。フリートホーフは明確な証拠を残さず、表向きは真っ当な商売をしていたし、違法な現場を検挙しても結局の処は蜥蜴の尻尾切りさ。彼等の根絶なんてはっきり言えば夢物語というのが現状だった。だったんだが……これで裏の世界の均衡が大きく崩れたから、保安局と連携して我々の所の冒険者も色々と大変になりそうだよ」

 

「本来はフューレンの行政部とかが何とかするのが普通だったのが、僕の身内にまで手を出そうとしてから潰して殺った訳だよ」

 

「フューレンに於ける裏世界三大闇組織の一つ、それをちょっとした切っ掛けで殲滅かぁ……洒落になっていないよね本当にさ」

 

 苦笑いなイルワ・チャング。

 

 アラフォーっぽい彼が一気にアラフィフとかになったみたいで少し哀れを誘う、流石に可哀想になってユートはイルワへと提案をしてみた。

 

「ああいった類いの犯罪者共が二度と僕らに手を出したくなるなる様に、謂わば見せしめを兼ねて盛大にキタネー花火を上げてやったんだ。イルワ支部長も僕らの名前使ってくれて構わないぞ? 例えばイルワ支部長お抱えの【金ランク】って、秘密兵器だという事にしたらフューレンで相当な抑止力になるだろう」

 

「おや、そんな事をしてしまって良いのかい? はっきりと言えば、それはもの凄く助かるのだけれどね。君はそんな利用のされ方は嫌うタイプだと思っていたんだがな」

 

 イルワはユートの提案に意外そうに驚くけど、その瞳は『是非とも!』と雄弁に物語っているのが判り、肩を竦めて思わず苦笑いとなるユートであったと云う。

 

「持ちつ持たれつ、後ろ楯にもなって貰っている訳だからね。このくらい構わない。イルワ支部長なら匙加減も心得てるだろうしな、僕らの動きでフューレンの裏組織が真っ二つに割れての大抗争が起きた……とか、それに一般人が巻き込まれたなんてのはやっぱり後味が悪いからさ」

 

「……ふむ、助かるかな。君は基本的に自分の身内以外は知らないと言い放つ方だと思っていたよ」

 

「基本スタンスはね。だけど社会に出て活動をするからには、あれこれと配慮だって必要になってくるもんだからな」

 

「ハハ、確かにね」

 

 原典の月奈みたく引き隠っているなら構わない事だって、社会に出ているからには社交性というものはやはり大事なのである。

 

 況してや、ユートは【リリカルなのは】主体の世界ではアシュリアーナ真皇国の真皇だ。

 

 基本的な処は若くて美しい真皇妃リルベルトがやってくれているが、やはり真皇本人たるユートがやらねばならない事も幾らかは有る。

 

 尚、若いとは見た目の話で実際には数百年間をユートと共に生きていた。

 

 とはいえ、ユートの【閃姫】は肉体だけではなく精神も老いないから今も若々しい。

 

 ポスト・フリートホーフとなる残りの二大組織ではあるが、勢力を伸ばそうと画策したがイルワの効果的なユートの名前の使い方により、町規模での大きな混乱が起こるなどといった事は特に無かったのだとか。

 

 こんな事態もあったからであろうか? ユートは『フューレン支部長の懐刀』とか『悪夢の王(ロード・オブ・ナイトメア)』とかの二つ名が付く事になったのである。

 

 ユートは暴れに暴れた訳だが、イルワ支部長が関係各所を奔走してくれたお陰と意外にも治安を預かる保安局が正当防衛だという理由で不問としてくれたので、問題も無く普通に開放をされておさまっていた。

 

 保安局的に、一度預かった子供を保安署を爆破されて奪われたというのが堪えていて、その解決を屍山血河を築いたとはいえ溜飲が下がったというのも手伝い、正当防衛処か下手したら過剰防衛に当たりそうな行為に目を瞑ったらしい。

 

 何よりも日頃、自分達……保安局を莫迦にするかの如く違法行為を重ねる裏組織には御立腹だったらしく、先日に挨拶だと訪ねて来た還暦を越えた保安局長は実に男臭い笑みを浮かべてながらも、ユート達に向け五代雄介張りのサムズアップをして帰って行ったものだった。

 

 局長の足取りが妙に軽かったのが彼のその心情を如実に表しているのだろう。

 

「それで、ミュウ君についてだが」

 

 ミュウはクッキーを両手で持ち、まるでリスの様に美味しそうな表情でパクついていたのだが、イルワ支部長からの視線に肩を震わせた。

 

 ユート達と引き離されるのは嫌、幼女ながらもミュウは見事な上目遣い+涙を瞳一杯に浮かべると言う高等テクニックを披露する。

 

「ああ、こちらで預かって正規の手続きを経てからエリセンに送還するのか、或いは君達に預けて依頼という形で送還をして貰うかという二通りの方法がある。君達はどちらが良いかな?」

 

「……何? 後者は構わないのか? 国に保護を受ける海人族の子供だぞ、公的な機関に預けるのが普通だろうに」

 

「先ず、君のランクが【金】というのが活きた形になっているよ。それから君が暴れた原因というのがミュウ君の為だった。ならば信用して任せても構わないだろうという話になってね」

 

 イルワ支部長の説明を聞いたシアはユートの方を見つめ……

 

「ユートさん……私、絶対にこの子を護ってみせますから。一緒に……御願いします!」

 

 ガバッと頭を下げた。

 

 シアはせめてミュウが家に帰り着くまで一緒に居たい様で、他の面々はパーティリーダーとなるユートの判断に任せるらしい。

 

「ユートお兄ちゃん……一緒……め?」

 

 中々に高等テクニックを極自然と遣い熟してくるミュウに戦慄を覚えつつ、そもそも取り返すと決めた時にはミュウ自身が望むのなら連れて行って構わないと考えていた。

 

「理解してるな? 護るという行為とは云う程に簡単な話じゃない。雫から聞いた勇者(笑)みたいに『俺が君を護る』とか言いつつ、結局は役立たずだった……何て例もある。シア、勇者(笑)みたいにならないと誓えるか?」

 

「うっ、確かにそうですが……私はミュウちゃんを護りたいんですぅ! だから敢えて誓います」

 

「そうか……まぁ、僕も情を懐かせ過ぎたからな。これで放っぽり出したらそれこそ天之河並だし、勇者(笑)と同じとか寒気しか感じんからね」

 

「ユートさん!」

 

「ユートお兄ちゃん!」

 

 喜色満面なシアとミュウ。

 

 【海上都市エリセン】に行く前に【グリューエン大火山】の大迷宮攻略があるけど、護ると決めたからにはユートも既に覚悟完了をしていた。

 

 キラキラとした笑顔で喜びを露わにして抱き付いてくるのだが、そんなミュウだったけど行き成りとんでもない事を口走る。

 

「……パパ」

 

「………………はい? ミュウちゃんや、よく聞こえなかったからもう一度言ってくれるか」

 

「パパ」

 

「それは海人族の独特な言語で『お兄ちゃん』っていう意味かな……かな?」

 

 思わず香織みたいな話し方に。

 

「違うの、パパはパパなの」

 

「いや、ちょ~っと待ってくれないか」

 

 嘗て、ヴィヴィオにも似た呼び方をされそうになったのを何とか『ユート兄ちゃん』に矯正した過去があったが、あの時と今回ではユート的に考えて異なっている気がする。

 

「あの、ミュウちゃん? どうしてユートさんがパパなんでしょうか」

 

 シアが問い掛けた。

 

「ミュウね、パパ居ないの。ミュウが生まれる前に神様の所に行っちゃったの……キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにも居るのにミュウには居ないの。だからユートお兄ちゃんがパパなの」

 

「!?」

 

 中々に重たい話である。

 

「ヴィヴィオの時は求めたのが母性だったから、何とか矯正したんだがな。ミュウが求めるものは父性……父親ってか。こりゃ矯正はムズいな」

 

 ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトは【最後の聖王】と名高きオリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローンであり、求めていたのは原典と同様に『ママ』であったが故にユートは『ユート兄ちゃん』に落ち着かせた訳で、ミュウ的に父親が欲しいなら仕方がないと諦める事にした。

 

「判ったよ、パパで構わない」

 

「ホント? ミュウのパパなの?」

 

「ああ、エリセンに着くまでだけどな」

 

「……うん」

 

 聡い子故に理解はしていた。

 

 ユートとの関係はエリセン……故郷に着いたら終わりを迎える儚いものである事を。

 

「まぁ、そうだな。折角の関係をすぐに解消しても面白くないか……エリセンではミュウのママとも()()()したいしね」

 

「う、うん! パパなんだからミュウのママとも仲良くするのは当然なの!」

 

 四歳児だから意味は理解していないのだろう、ユートの仲好くとミュウの仲良くは意味合いが似ている様で違う。

 

「ちょっと、優斗? まさか人妻にまで手を出す心算じゃないわよね?」

 

 心配したのか雫が訊ねてきた。

 

「人妻じゃない、独身女性だよ。シングルマザーではあるんだろうけどね」

 

「……あ!」

 

 ミュウのパパはミュウをママに仕込んだまでは良かったが、まだ妊娠をしている時期に事故により帰らぬ人として空の星となっている……とか。

 

 つまりは未亡人。

 

 しかもミュウはまだ四歳だから産んだのは四年くらい前、仕込んだのはその一年前だとして異世界の婚姻事情的に視ればミュウのママは下手をしたら愛子先生くらいの年齢である。

 

 異世界だと三〇歳なんて完全なる嫁き遅れで、王候貴族なら一桁台で婚約して十代で結婚も割かし当たり前な世界。

 

 況してや、ユーキからの情報でミュウの母親であるレミアは原典ハジメのヒロインの一人だと云われており、ならば若く美しい海人族の女性としてミュウと共に立っていた筈。

 

 ユート的にはミュウの愛らしさからレミアの美しさに期待大、別にだからミュウを可愛がるとかの打算は全く無いユートだが、レミアの事を考えるくらいは罪にはなるまい……雫達の心情を扨置いた場合は。

 

 尚、ミュウの『パパ』呼びを盾にレミアに迫るとか外道な遣り方はしない。

 

「あの、でしたら私がミュウちゃんのママって呼んでくれても良いですよ?」

 

「あ、シアさんが抜け駆けを!?」

 

『『『!?』』』

 

 シアの発言に雫が反応、香織やユエやミレディやほむらにシュテル、何故かティオまでもがその科白に『まさか!?』という無言の反応。

 

 ティオには未だコナを掛けた覚えなど全く無いユートとしては首を傾げる。

 

「や、ママはミュウのママだけなの」

 

 然しながら、ミュウは冷たく『ママ』と呼ぶのは飽く迄も実母(レミア)のみだと言い放ってくれた為に、シアはガックリと項垂れてウサミミも悄々と沈んでしまったと云う。

 

 結局はシア達の事は普通に『お姉ちゃん』呼びをする事と相成るのであった。

 

 

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 次回は家族会を挟みます。




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第50話:ある日に第二回家族会の開催を

 今回は新たな毒牙に掛かる犠牲者候補が……





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 地球の某所某会議室。

 

 南雲 愁と南雲 菫の夫妻がその上座というべき場に座っており、その隣に陣取るのは腰にまで伸ばした青髪をポニーテールに結わい付けている少女――緒方祐希である。

 

 今日はある意味で第二回目の家族会の日。

 

 前回の家族会でユーキはユートの意識を喚び出して、トータスに召喚されたクラスメイトについての説明を行っている。

 

 当然ながら荒れた荒れた。

 

 何故なら召喚された生徒の十数名が死亡したと云うのだから、死んだ生徒の親からしたら巫座戯るなと叫びたいだろう。

 

 実際、檜山某は怒鳴った。

 

 尤も、檜山大介とその一派たる小悪党四人組がやらかした事を説明されたら途端に黙ったが……

 

 勿論だが檜山某は台所のGでも視るかの如く、汚ならしいモノ扱いを受けてしまう。

 

 小悪党四人組の他の三人の親共々。

 

 そして天之河夫妻もやはり槍玉に挙げられてしまったのは当然の流れ。

 

 天之河光輝が自分の一派を率いて戦争賛成の意を示してしまい、その結果が十数名の死亡に繋がったのだからこれも当然。

 

 まだ生きている生徒もいつ死ぬか判らないときては、親としては生きた心地がしないというのが南雲夫妻も含めた意見である。

 

 とはいえ、天之河夫妻を責めても仕方がないというのも確かであった。

 

 尚、正確には前回の家族会に出席したのは奥さんだけだったりする。

 

 ちらほらと入ってくる親~ズ。

 

 何と、天之河家からは夫妻だけでなく勇者(笑)の妹である天之河美月も参加してきた。

 

 兄ではなく『御姉様』たる雫の事が心配だったのと、何より雫が恋人を作ったとか聞いてしまったから【義妹達(ソウルシスター)】としては気が気でないと云う事らしい。

 

 天之河美月とは雫を悩ませる【ソウルシスター】の第一人者、即ち地球側に於ける最初の一人という事であった。

 

 天之河美月は兄――天之河光輝と雫の婚姻を推奨しているのだが、その理由は飽く迄も自分が真なる雫の義妹となる為であるのだから筋金入り。

 

 徐々に集まる家族会の面子だが、檜山某を始めとしてハジメを虐めていた小悪党四人組の親達は欠席の旨を聞いている。

 

 当然だろう、吊し上げを喰らうと判りながらも既に死んだ息子の事を聞きたいとは思わない。

 

 そして時間がきて南雲 愁による開会が宣言される事で第二回家族会が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 トータス。

 

 フューレン支部の会議室ではユートがミュウを抱っこしつつ座り、香織と雫も神妙な面持ちにて隣に座って時間がくるのを待っている。

 

 ユエ、シア、ティオ、ほむら、シュテル、更にはまだ居る月奈とアイリーンは外様みたいなものだから黙って座っていた。

 

 第二回家族会の日時が決まったのでそれに合わせている形であり、イルワ支部長にはギルド内部の会議室を借りている状態だ。

 

 ユートの腰には既にダブルドライバーが装着をされていて、右手には黒いUSBメモリに似ている【J】と書かれたガイアメモリ。

 

 切札の記憶――ジョーカーメモリだ。

 

 ユートが置いている時計の秒針がチックタックチックタックと刻一刻と刻まれ、残す処は一分も無い状態であるから雫も香織も緊張気味。

 

 変身した状態ならテレパシーを介しての会話が可能かもと言われ、それなら他の皆には悪いけれど話したいと二人は頼んできた。

 

 ユートは敵に対しては残虐で苛烈で冷酷でまるで悪魔というか魔王というか冥王ではあるけど、身内に対しては有り得ないくらいに優しく甘いという処があるのだ。

 

 今回の事も雫と香織の願いに二つ返事だったのだからそれは窺える。

 

「そろそろ時間だね」

 

 ダブルドライバーを装着しているから意思疎通は出来ており、ユートは立ち上がると黒いジョーカーメモリのスイッチを押す。

 

《JOKER!》

 

「変身!」

 

 電子音声が鳴り響いたそれを左側のスロットへと装填すると、ジョーカーメモリがフッと内部から消失してしまった。

 

 勿論、彼方側ではユーキがファングメモリにて同じ動作で右側のスロットに装填している。

 

 ユートの身体が一瞬グラ付く。

 

「やれやれ、俺は留守番だな」

 

「……ユーガ」

 

 ユエがその名を呼んだ。

 

「よう、久し振りだなお前ら」

 

 ユートの意識が肉体を留守にする時には普段は内部に在る優雅が主導権を握るのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユーキは白亜のガジェットツール、ファングを手にして形を変えていきメモリモードにしてから

スイッチを押す。

 

《FANG!》

 

 左側のスロットにジョーカーメモリが出現。

 

「変身!」

 

 右側の空きスロットにファングメモリを装填してやると……

 

《FANG/JOKER!》

 

 電子音声が再び響いて姿を変える。

 

 右半身が白で左半身が黒に赤い複眼を持っている半分こ怪人――仮面ライダーWファング/ジョーカーの姿へ。

 

「さて、第二回目となる家族会だ」

 

 先ずは単純な報告から始まる。

 

「では優斗君、トータスという世界で今現在はどうしているか報告を頼めるかい?」

 

「はい、愁さん。今の召喚された者達は三組に分かれて行動している」

 

「三組に?」

 

「王都からホルアドを拠点としてオルクス大迷宮での訓練をしてる勇者(笑)組。これは言わずもがな……勇者(笑)の天之河を中心に動いている」

 

 言語理解を除く技能を喪い、レベルドレインを受けてレベルも1に下がって能力値が初期ハジメをも下回る体たらくだった天之河光輝だったが、それでも頑張ってレベルアップを果たした。

 

 技能が無くても聖剣に宿る魔法は扱える為に、新たな聖剣とはいかないまでも宝剣を与えられて大迷宮探索を続けている。

 

 女が寄り付かなくなったから暇だったし。

 

 天之河光輝が使う天翔閃や神威などは剣に刻まれた魔法陣と詠唱で放つ魔法、技能とは無関係だから魔力と魔法陣さえ有れば使えるのだ。

 

 宝剣クラスなら魔法陣も刻まれていた。

 

「これには腰巾着な脳筋を筆頭に永山重吾が率いている永山パーティ、南雲ハジメ、中村恵里といったメンバーが共に動いている」

 

「ハジメが……」

 

 南雲 愁は瞑目して無事を祈るしかない。

 

「勇者:天之川光輝。拳士:坂上龍太郎。結界師:谷口 鈴。これが勇者(笑)パーティのメンバーとなる。重格闘家:永山重吾。土術師:野村健太郎。暗殺者:遠藤浩介。治癒師:辻 綾子。付与術士:吉野真央。これが永山パーティ。錬成師:南雲ハジメ。降霊術師:中村恵里。ハジメのコンビって感じだな」

 

 生き残って且つオルクス大迷宮に挑む一〇名という訳だが、何しろ半数が死亡したから本来であればもっと休むべきだろう。

 

「次は畑山愛子先生が率いるチーム」

 

「愛子が!?」

 

 教師とはいえファンタジーな世界で生徒を牽引している事に畑山昭子が仰天した。

 

「作農師:畑山愛子。曲刀師:玉井淳史。操鞭師:菅原妙子。氷術師:宮崎奈々。投術師:園部優花。これが第二のチームだね」

 

「あ、あの……」

 

「どちらさん?」

 

「清水と云います。ウチの幸利はどうしたのでしょうか? 前回は名前が挙がっていたのに」

 

「清水は愛子先生のチームだったんだけどねぇ……魔人族に勇者にしてやるとか言われてクラスメイトも先生も裏切った」

 

「そ、そんな……」

 

「先生に頼まれて生かしてはいる。だけどもう力も無いから城に軟禁かな?」

 

 清水夫人はガクリと座り込む。

 

 いつの間にか息子が人類の裏切者ではそうなるのも仕方がない。

 

「あの、やっぱり犯罪者として少年院行きになったりしますでしょうか?」

 

 こう見えて清水幸利の両親はそれなりにオタクな次男を気に掛けていたが、本人にはそれも全く通じていなかったから歪みに歪んだ。

 

 やはり兄弟とは仲違いしていたからか? 或いはそれ以前の問題かは判らない。

 

 いずれにせよ、少年院に送られたらまともに後の人生を進む事は難しくなる。

 

「幸い誰も死なせていないからな。クラスメイトが口を噤めば誰にも咎められはしないだろうし、何より異世界召喚とかゴシップ記事の連中くらいしか相手にしないだろうよ」

 

「そ、そうですか……」

 

「無罪にはなるが無実じゃない。罪を数えないなら地球でも同じ事を繰り返すだろう。だからこそ敢えて貴女達に告げよう『さぁ、お前達の罪を数えろ!』……とな。清水が若し無事に帰って来たとしてどう向き合うか、よくよく考える事だね」

 

「は、はい」

 

 生かしておいたからこその言葉。

 

 正確には殺して蘇生したのだが……

 

「最後に僕の部隊。僕本人に治癒師:白崎香織。剣士:八重樫 雫の三名だけど、現地の者が数名ばかり一緒に部隊を組んでいる」

 

「ほう、現地の人とは」

 

 興味があるらしい南雲 愁。

 

「人間族も居るが、ウサミミを持つ兎人族や吸血種族の元女王や竜人族のお姫様、海人族の少女と色んな種族が居るな」

 

「ほうほう!」

 

「それは……何とも!」

 

 南雲 菫までが反応をし出した。

 

「それに関しては無事に帰ってからで良いだろ。今後についてだが、勇者(笑)組はオルクス大迷宮の表層域を百層までクリアする予定だ」

 

「百層域とは?」

 

 勇者(笑)の父親、天之河聖治が訊ねてくる。

 

「オルクス大迷宮は全二百層から成る長大な迷宮なんだが、前半の百層までが現代に伝わっている状態なんだよ。勇者(笑)達も更に百層が有るなんて未だに知らない」

 

「そんな広さだと物資はどうするんだい? やはり現地調達とかが基本かな?」

 

「愁さん、水は兎も角として食材はあの大迷宮には殆んど有りませんよ」

 

「無い?」

 

「唯一、食べられるのがトレント擬きの赤い実くらいですかね」

 

 林檎っぽい西瓜味の果実である。

 

「じゃあ、食糧はどうするんだい?」

 

「持ち込みが無くなれば御仕舞い」

 

「シ、シビア過ぎだろう!」

 

 叫ぶ南雲 愁。

 

「オルクス大迷宮の百層以降は真オルクス大迷宮とも云える。一度でも降りれば上に上がる階段は無くなるんでね、だから毒と判りつつ魔物を食らって死ぬ……以前に魔物に殺されるか」

 

 とはいえ、百層まで降りたなら流石に六五層から一気に落ちた雫と違いステイタス的にある程度は戦えるとも思うが……

 

「本来、真オルクス大迷宮は他の全ての大迷宮をクリアしてから総仕上げで入るべきなんじゃないかと思う。でないと幾ら何でも鬼畜仕様にも程があるからさ」

 

「と、言うと?」

 

「先程も言ったが食糧が無いに等しい。果実だってすぐに手に入る訳じゃないから。それから魔物がちょっと強くなり過ぎだ。百一層目はレベルが低かった雫が一撃で死に掛けたけど大した強さじゃなかった。だけどラスボスは鬼畜過ぎだろう……多頭蛇――ヒュドラは防御と回復と炎と氷と雷と、更には精神汚染系の力を持っていて、斃したかと思えば第二形態になるんだからな」

 

 仮面ライダーだったから余裕すらあったけど、普通のステイタスなら間違いなく詰む。

 

 ユートは識らないけど、仮面ライダークラスのステイタスだった原典のハジメでさえ苦戦するわ第二形態に殺され掛かるわ、天之河達が仮に最下層まで降りても果たして斃せたかどうか?

 

 それだけ強かったのである。

 

 能力の高さと再生力からして変成魔法と再生魔法と昇華魔法は確実に使っており、到達者を殺る気満々なラスボスであったと云う。

 

 生成魔法と魂魄魔法と空間魔法と重力魔法は使われてなさそうだが、やはり凄まじいまでの魔物だったのは間違いあるまい。

 

「他の神代魔法を手に入れてから準備万端に挑むべき大迷宮だったよ」

 

「それならどうにか出来たと?」

 

「食糧問題は空間魔法で僕みたく亜空間ポケットを創れば良い。再生魔法が在れば内部時間を停止する事だって出来るし、昇華魔法で性能的に引き上げが可能なんだからね」

 

「そんな事が出来るのかい?」

 

「出来るよ。ミレディ――一〇世紀以上前に生きていた【解放者】って組織のリーダーだった少女なんだけど、ミレディ曰く仲間の一人たるナイズ・グリューエンが特殊な閉鎖空間を創って暮らしていたらしいからね」

 

「倉庫も創れる訳か」

 

「そういう事」

 

 食糧問題はこれで解決。

 

 尚、オルクス大迷宮で手に入る生成魔法を併用すれば【宝物庫】なんて魔導具が作製可能。

 

 それはオスカー・オルクス本人が造り出しているから検証済みである。

 

「魔物の強さだけど、変成魔法で自身の強化とか可能みたいだ」

 

「ほう?」

 

 武人一家な八重樫の爺様が反応した。

 

「ラウス・バーンも魂魄魔法でパワーアップする術を持っていたとか。というか、現代に残っている技能の『限界突破』やその究極派生技能である『限界突破・覇潰』は魂魄魔法の流れを汲むものらしいね。ラウス・バーンも魂魄魔法で三倍化や五倍化なんて強化をしていたみたいだし」

 

 【限界突破】は三倍化、派生技能の【限界突破・覇潰】は五倍化という割と強い能力。

 

 時間切れでパワーダウンしてしまうが、使っている間は相当な万能感に包まれる。

 

(まぁ、五〇倍にパワーアップする超闘士化からしたら大した事も無いけどな)

 

 超サイヤ人への変身と同じだがユートはサイヤ人じゃないし、【ウルトラマン超闘士激伝】から超闘士の名前を流用している。

 

 似た様なものだし。

 

「変成魔法と魂魄魔法を併用したら一時的にでもパワーアップが可能、ヒュドラでも斃せる可能性が見えてくるってもんだ。重力魔法で火力向上も見込めるだろうしね」

 

 考えれば考える程にラストダンジョンというべき体なオルクス大迷宮。

 

「七つの神代魔法は地球に帰還する為にも必要な魔法らしいし、僕のチームは神代魔法獲得の為に七つの大迷宮を攻略しているんだ。僕だけなら帰るのは不可能じゃないんだけど……ね」

 

 ボソリと呟くユートとて何も後先を考えずにいればの話だが……

 

「そんな魔法が有るのかい?」

 

「概念魔法。まぁ、概念を付与ってのは幾らか僕もやっているけどね。ミレディ達、【解放者】は概念魔法を生成魔法で魔導具化に成功しているって言っていたな」

 

「帰るには必須か……」

 

 南雲 愁は溜息を吐く。

 

 前進はしているにしても息子が帰ってくるにはまだまだ時間が掛かりそうだから。

 

「問題は概念魔法で帰還が可能になったとして、果たして帰れるかどうか……だな」

 

「どういう意味だい? 帰還が可能なのに帰れないって……頓知?」

 

「勇者(笑)は自分の力をトータスの為に使わないと気が済まないらしい。仮に僕やハジメ辺りが戦わないと言えば奴は『トータスの人々を見捨てるのか』とか阿呆な事をほざく。実際に魔人族との戦争も基本的に奴が主導したのは前回に話した通りだからね」

 

「つまり、トータスという異世界で人間族を救うまで帰らないと天之河光輝君が言うと?」

 

「帰るべきじゃないとさえ言いそうだ」

 

 有り得そうだと考えたのは天之河聖治と天之河美弥と天之河美月の天之河ファミリー、勇者(笑)を知る八重樫家と白崎家の面々であった。

 

 全員が頭を抱えてしまう。

 

「よくぞあれだけ歪んだものだ。しかも戦争ってのをまるで理解していない。多分、いざ魔人族にトドメを刺すまで追い詰めたら攻撃を止めるぞ。話し合おうとか捕虜にすればとか、莫迦な事ばかりほざいてね」

 

〔当たりだよ〕

 

 ユートの予測を聞いたユーキが答える。

 

「因みに、トータスのヒト種族は魔人族も亜人族も竜人族も吸血族も全ては過去にエヒトが人間族を変成魔法で作り替えたものらしい」

 

「じゃあ、何でハジメ達を召喚したんだ?」

 

「楽しむ為に」

 

「……は?」

 

 南雲 愁の瞳からハイライトが消えた。

 

 艶消しの黒い瞳が語る……『言え』と。

 

「奴……エヒトルジュエは【到達者】だ」

 

「到達者?」

 

「人の限界に到達した者」

 

 それは力無き者から視れば神の如く存在に映ってもおかしくはない。

 

「世に神と称されるには幾つか種類が在るんだ。真に神氣を持つ神である場合、古代に宇宙から飛来した異星人である場合、到達者や超越者である場合なんかだね。神氣を纏う神だと天威、顕象、神域という三種類が存在する」

 

「三種類?」

 

「天威は始めから神として誕生した者。顕象は自然界の一部が神の形を取った者。そして神域とは人間が神に神化した者を云う」

 

「人間が神にって有り得るのかい?」

 

「多少、意味合いは違うけど日本では死んだ人間の生前の偉業を讃えて奉る、或いは祟りを畏れて崇めるって感じになっているんじゃないかな? 平将門然り菅原道真然り豊臣秀吉然り徳川家康然りだろう?」

 

 平将門と菅原道真は祟り神として畏れられ奉られた存在であり、豊臣秀吉や徳川家康はその功績を以て神号を与えられていた。

 

 とはいえ死者は死者。

 

 真に人間が神化した神人類はその力を振るう者の事を云うのだ。

 

 そもそも、ユートを転生させた【純白の天魔王】日乃森なのはがそんな神の一柱。

 

 日乃森フェイトや日乃森はやてと名乗っている親友と共に神化して、今は下級神として上位神に当たり夫でもある【朱翼の天陽神】の下で従属神の仕事に就いている。

 

 尚、普段はユートも彼女の事を【高町なのは】……と旧姓で呼んでいた。

 

「エヒトルジュエは到達者として力を持っている訳だが、名乗る程に神という訳じゃないらしいから余り問題視はしていない。だけど戦争の決着も無しでは厄介なのが天之河だとか、本来は味方の筈の勇者(笑)って訳さね……困ったもんだ」

 

 肩を竦めながら言う。

 

 チラリとユートが視たのは天之河光輝に面影が見える中学生くらいの少女、とはいえキラキラな勇者(笑)たる天之河に似ているだけに顔は一級処ではなく特級、年齢的にも守備範囲なだけにアレに似た顔だからか澄ました表情を壊してやりたくなってしまう。

 

 やはり荒魂(優雅)の影響は有るのだ。

 

 ユート自身は和魂と幸魂が強くて優雅は荒魂と奇魂が強い関係ではあるが、相互に干渉し合うからどちらも精神に影響を受けてしまう。

 

 ユートが味方に甘いのは和魂が強いからだが、敵に苛烈なのは優雅の荒魂の影響であった。

 

 逆に基本的に荒々しい優雅がツンデレか!? という具合な態度なのはユートの和魂から影響を受けているから。

 

 総じて四魂のバランスが取れている。

 

(ふーん、天之河美月……だねぇ)

 

 ユーキはニヤリと口角を吊り上げた。

 

「他にも強力な精神生命体が神を名乗る場合もあるかな。今現在で云えば到達者のエヒトルジュエはそれに近い」

 

「近い?」

 

「どうやら元人間の到達者たるエヒトルジュエは肉体を疾うに喪って精神だけの存在らしい」

 

〔流石に情報源(ソース)は明かせないけどそれは確かだよ。奴は神域と呼ばれる異空間に引き籠っているんだけど、理由は純粋な精神生命体ではないからか通常空間に出てしまうと魂が霧散してしまうからさ。肉体が無いからね。だから使徒として生み出した連中やアルヴみたいな中途半端に強力な個体を地上の不和を作る為、送り込んでいるって訳だよ。因みに、アルヴは魔国ガーランドで魔王役を演っている。尚、アルヴの真名というか実際上の名前はアルヴヘイト。エヒトルジュエがエヒトと短く名乗っているのと同じだね〕

 

 真の名前を使うと切札の一つが強化されるし、隠しているのがあのエヒトとアルヴだ。

 

〔ま、所詮は単なる魔王に過ぎない。実力的にもドラクエⅥのムドー(偽)程度でしかないよ〕

 

「レイドック王が変質させられていたアレか? あの程度で魔王とか名乗ってんの? 魔王なんていうから身構えていたんだがな」

 

〔雑魚だよ雑・魚。後は一応の概念魔法くらいは扱えるけどね〕

 

 大した存在ではない。

 

 エヒトルジュエはアルヴヘイトを創った存在であるし、アルヴヘイトすら器には足りなかったと吹く程度には強力ではあるが……

 

「楽しむに関してだけど……奴にとっては世界というのはゲーム盤で、人間はゲームの駒に過ぎないという認識だ。万を越えて在り続けたエヒトルジュエは退屈したんだろうね。だから屍山血河を築くのを愉しいと感じたのかも知れない。途中までは上手く回せていたのに一気に不利になって敗れた人間の絶望を観て嘲笑うんだ」

 

「何と悪辣な……」

 

「奴こそ最低最悪な魔王だろう」

 

 南雲 愁は嘆いてしまうが、ユートからしたならアレこそがオーマジオウに与えられていた称号に相応しいとすら思う。

 

〔兄貴は強い。強過ぎると判断されたらしいね。エヒトの使徒が襲って来るくらいには。イレギュラー扱いだから……さ〕

 

「ああ、リューンな」

 

〔リューン? アハトとかノイントとかゼクスとかじゃなくって?〕

 

「ああ、そう名乗ったがって……まさかエヒトの使徒って数の子だったのか?」

 

〔そうだよ。連中は量産品ながらいちいち名前が数字だったりする」

 

 顔もスタイルも基本的に数打ちだけに変わりのない連中であり、唯一の違いたる名前すら数字に過ぎないというのが正に量産品たる所以か。

 

「じゃあ、リューンは……そういえば奴は半端者みたいな話だったか? エヒトの使徒の能力値って確か全12000らしいが、奴は半分くらいしか能力が至っていなかったからな」

 

〔成程、数字すら貰えなかったんだ。だから自ら名付けてリューン……ね〕

 

「こうして考えるとシェーラってまだマシな類いだったんだな……」

 

 覇王将軍シェーラは覇王グラウ・シェラーから名前の一部を与えられた……と言えば聞こえは良さそうだが、実際には名付けが面倒だから自分の名前から付けただけだった。

 

 因みに、獣王ゼラス・メタリオムもゼラスから自らの獣神官ゼロスの名を付けたが、此方は自らの名の一部を与えたのが正しい。

 

 とはいえ名付けはされていた為にシェーラも、リューンに比べればマシであったとか。

 

「ま、斃した相手はどうでも良いか」

 

 今や香織用の仮面ライダーの名前である。

 

 その後も話は続いて、仮面ライダーのシステムをクラスメイトに渡さないのか? なんて話題も出たが、『拡散したくない』のと『身内以外には渡す心算は無い』というのに加え、『清水みたいな裏切りが無いとは限らないし、小悪党四人組みたく仲間を攻撃するかも知れない』など尤もらしい事を言われて閉口してしまった。

 

 特に大きかったのが、例えば連中の中の一人がヘルシャー帝国にライダーシステムを手土産代わりで亡命した場合、手に入れたそれをガハルド・D・ヘルシャーは返還をしない。

 

 そうなればユートはヘルシャー帝国を亡ぼしてでも取り返すし、システムを売った亡命者は間違いなく殺処分とする……と言われたのだから。

 

 親からすれば強い力に護られて欲しいとは思うのだろうが、ユートにとってクラスメイトなんて同郷ですらないのである。

 

 肉欲に塗れた関係であってもユートは身内扱いをするが、赤の他人は本当に他人にしか該当しないと割かし徹底していた。

 

 それでも仲良くなれる人間は居るし金で売却をした事もある。

 

 だが……裏切る可能性が高いクラスメイトになど渡せるものか! というのがユートの考え。

 

 既に都合、五人が裏切りを働いている。

 

 天之河光輝も怪しいし、腰巾着でイエスマンの坂上龍太郎なぞ語るにも値しない。

 

 香織と雫も奈落での事が無ければ同じ扱いでしかなかったのである。

 

「香織と雫は僕に抱かれて、僕に付いてくるという選択をしたからライダーシステムを渡した」

 

 そう言われては親バカな白崎智一も口を閉じるより他には無く、悔しそうに愛娘の貞操を食い散らかす男を睨むしか出来なかったという。

 

 それでもユートを通して白崎家と八重樫家は、行方不明扱いの娘と話せたから落ち着く。

 

 また、遠藤家はユートと知らない仲ではなかった事も手伝って、宜しく頼まれたので遠藤浩介には少し配慮を約束したのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 第二回家族会は終わる。

 

 ユーキもダブルドライバーを解除してしまって元々の……一四〇cmにも満たない身長の姿に。

 

「天之河美月」

 

「……何?」

 

 帰ろうとする天之河美月に話し掛けた。

 

「話があるんだけどちょっと良い?」

 

「構わないけど」

 

 緊急避難的とはいえ最愛の御姉様を汚した男の義妹であるユーキ、個人に恨みは辛みは無いにしても良くは思えない相手だ。

 

 天之河光輝(あに)が敵視しているとかはこの際だと関係が無いらしい。

 

「単刀直入に言うと、兄貴の女にならない?」

 

「ハァ? 誰が雫御姉様を汚した男になんか貞操を捧げるものですか!」

 

義妹(ソウルシスター)としては寛恕出来ないって事かな?」

 

「当然でしょ!」

 

 怒りを露わとする姿も美少女で、あの高校へと入学したら香織達が卒業した後に新たな【女神】と成りそうだ。

 

「ボクとしてはキラキラ勇者(笑)(あまのかわこうき)の妹だけに容姿に優れる君を兄貴の性処理をさせたいんだけどねぇ……」

 

「ブフッ! 恋人や愛人ですらない!?」

 

 まさかの性処理(よごれ)役発言に対して噴き出すしかない天之河美月。

 

「まぁ、ジョークは置いといて」

 

 ジト目を向けられる。

 

「君にもメリットは有るよ?」

 

「メリット? 貴女の兄の女に成るのが?」

 

「判らない?」

 

「判る訳が無いでしょ!」

 

「頭は悪く無さそうだけど、天之河光輝の妹なだけに細かい事は考えられないのかねぇ?」

 

「何かスッゴい侮辱をされた!?」

 

 兄と同じとは侮辱らしい。

 

「よく考えてみな。兄貴が雫を抱くんだ」

 

「ぐっ!」

 

 ムカつくだけだった。

 

「唇を重ね合わせて舌と舌が絡み合い唾液が交じるみたいなディープキス、肉体同士を絡ませ合って混じり合う汗、秘所を舐め合って兄貴の口内には雫の愛液が……更には雫の口内を秘所を菊門を貫く兄貴の分身には色々な液体に濡れる」

 

 怒りしか湧いてこない天之河美月……というよりは最早、憎しみで人を殺せたら! 的な顔。

 

「雫の直後に抱かれるって事になればそれらの……某かの液体が間接的に君を濡らす」

 

「……え?」

 

「間接キスならぬ間接セ○クスだねぇ」

 

「え、え?」

 

 先程の憎しみは何処へやら? ポーッと頬を朱に染め始める美月の頭には雫のあられもない姿と重なる自分。

 

「それだけじゃない」

 

「ま、まだ有るの?」

 

「兄貴は3P4P当たり前だけど、女の子を複数抱く時には百合(レズ)らせて愉しむんだ」

 

「そ、それは……まさか?」

 

「雫に抱かれたく無いかなぁ?」

 

 鼻を押さえて踞る美月。

 

 グルグルとその場面が妄想されていた。

 

(やっぱり肉欲は有るんだねぇ)

 

 義妹とか名乗っても、寧ろ義理の関係だからこそなのか? プラトニック・ラヴとはいかないのかも知れない。

 

 ユーキが義妹だからこそユートと愛し合うのと同じ……ではないが……百合だし。

 

 天之河美月は雫の結婚相手に天之河光輝をと考えていたが、それはそうなれば誰憚る事も無く自らが義妹に成れるからに他ならない。

 

 寛容にも他の義妹の台頭を赦せるのも将来的には自分こそ、“自分だけ”が唯一無二の義妹であるという矜持が有ったればこそである。

 

 それが……抱かれる?

 

 誰が誰に?

 

 自分が雫御姉様に?

 

 最早、天之河光輝と雫の結婚など吹き飛んだと云わんばかりの美月。

 

「勿論、兄貴とずっと一緒に居なけりゃならない上にちゃんと愛を持って接しないといけないよ。それに雫だけが対象にはならないしねぇ」

 

「理解しているわ」

 

 雫と真なる家族に成れるなら別に天之河光輝である必要など美月には無く、ユートに愛情を持つのも厭う理由になどならない。

 

 自分が他の女とヤるのも文句は無かった。

 

「初めては当然ながら兄貴と一対一だからね」

 

「判ってます」

 

 天之河美月はルンルン気分で帰宅したとか。

 

「クスクス、兄貴にはもっと女の子を増やして貰わないとねぇ?」

 

 ハルケギニアの時代から全く以てブレてはいないユーキの行動原理は、今もまた此処に新たなる犠牲者? を生み出したのであった。

 

 

.




 無理矢理に惚れさせるより利点を与えて不利益を呑み込ませるとか。



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第51話:因果の交叉路が交わる瞬間〔前編〕

 先週の月曜日に携帯電話が全損をしてしまって殆んど書けなかった日々。


 しかもコロナの悪影響でショップは四時まで、土曜日になるまでの数日間は活動不能とか。





.

「それで、どうするの?」

 

 雫も久々に家族と話せて御満悦な様子でユートに今後の方針を訊ねる。

 

「グリューエン大砂漠のグリューエン大火山に向かうのは勿論だが、ミュウが居るから仕方無いんで大火山は素通りして先ずエリセンに行くべきかも知れないなとは思っている」

 

「確かに大迷宮であるグリューエン大火山にまで連れて行けないわよね」

 

「ああ。取り敢えず水森さんとアイリーンを一先ずオルクス大迷宮の最下層に連れて行く」

 

「それも有ったかぁ」

 

 非戦闘員たる水森月奈とアイリーン・ホルトンは当然ながら、戦いが中心となるユートの旅路に付き合わせる訳にもいかないからオルクス大迷宮の最下層、オスカー・オルクスの隠れ家に引き籠って貰う事にした。

 

 一応、ユートが造ったステータスプレートにて二人の能力を調べてみたが、『Error』と表示をされて考えていた通りだったと云う。

 

(矢っ張りか……)

 

 ユートは頷く。

 

 自作したとはいってもベースはトータス製であるステータスプレート、ユートが考えた通りなら二人のステータスが表示される訳は無い。

 

 能力も神様を名乗る光玉から特典を貰っていた水森月奈は兎も角、アイリーン・ホルトンなんて基本数値はハジメやユート並にゴミと変わらないのであろう。

 

 錬成師という非戦系天職のハジメを戦いに駆り出した勇者(笑)と違い、ユートはこんな二人を戦わせようなどとは思っていないので、オルクス大迷宮行きは二人にとっても妥当な線であろう。

 

 因みに、ミュウにもオルクス大迷宮に籠って貰っておいてエリセンまで行き、その上で迎えに行ってルーラで飛べれば安全だったのだが……

 

「や、ミュウも一緒なの!」

 

 そう言って聞かなかった。

 

 まぁ、護ると決めたからには護る。

 

 少なくとも、キラキラ勇者(笑)みたいに口先だけ善い事を宣う気は毛頭無いのだから。

 

 オルクス大迷宮の最下層たるオスカー・オルクスの隠れ家に着き、ユートはカム達ハウリア族へと二人を頼んでおく事にする。

 

「――という訳だから頼んだぞ」

 

「了解致しました」

 

 ある意味で親子な関係のカム・ハウリアと信頼というのは大きく、カムも亡き妻であるモナの忘れ形見のシアが幸せそうな顔をしているのを見るのが幸福な事であり仮令、大勢の中の一人であるとはいえ納得をして見守っていた。

 

「それじゃあ、優斗さん。取り敢えず私達は此処までです」

 

「どちらにするかはよく考える様にな?」

 

「はい、ありがとう御座います」

 

 月奈は帰還を望むかユートに付いていくのかを考える時間を貰った。

 

「私も帰還が叶うのを待っていますね」

 

「まぁ、ダラダラと時間を掛ける気は無い」

 

「フフ、頑張って下さいね」

 

 チュッと軽くマウス・トゥ・マウスに月奈が驚きの表情となってアイリーンを見遣る。

 

「ア、アイリーンさん!?」

 

「ツキナもしたら?」

 

「し、したら……って……私と彼はそんな関係じゃありません!」

 

「私も違うわ。でも彼が頼りだし、ならやる気になって貰う為にも唇くらい赦すわ。まぁ、私としては肢体を赦すのはまだ遠慮したいけど」

 

 流石にまだ肢体を赦せる程には無かったけど、米国人故の開放的な感覚からかキスした様だ。

 

 普通は頬だろうが……

 

 アイリーンに刺激されたのか、月奈は頬を真っ赤にしながらユートの頬へ軽く唇を当てる。

 

「ア、アラサーのキスが喜べるかは微妙だと思いますけど……宜しくお願いしますね」

 

 どうにも三十代なのを気にしているらしいが、ユートからすれば十分にイケる気がする訳で。

 

「水森さんのキスなら充分に嬉しいよ」

 

「そ、そうですか? あ! そうだ。水森さんじゃなく『月奈』って呼んで下さい。さん付けも要りませんから」

 

 真っ赤なのは先程のキスによる羞恥だろう。

 

「了解した、月奈」

 

 でも今の赤らめた顔は呼び捨てにされた照れ、特定男子からの初呼び捨てによるものだった。

 

「では、確かにお預かり致しました」

 

 カムが頭を下げる。

 

 カム――ハウリア族にとってユートは命の恩人であると同時に力を与えてくれた族長すらをも越える群れのボスにも等しく、更にはカム個人からすればある意味で義息子であるのでユートからの頼まれ事は完璧に熟したい処であった。

 

 というか、族長の娘とエッチらグッチュらしている時点で次期族長だろう。

 

 避妊具な首輪……ユートがシアに初めて贈ったという曰く付きな魔導具に幾つか付与された効果に有る【異物排除】による副産物で、男のアレをも異物として排除するから避妊具としても使えるなんて代物の為に、只でさえデキ難い体質なのだから孫が産まれる期待は出来ないが、いずれ産まれたら族長の座をユートに譲って楽隠居をするのも良さそうだと考えていたり。

 

 ハウリアの若い女の子は割かし妾の座を狙っている者も居り、最筆頭はミナで次点がラナというのはまだ良いのだが……ネアはヤバいだろうと頬を紅く染める一〇歳な同胞に汗を流すが……

 

 ネア・ハウリア――同い年なパル・ハウリアなる友達が居るけど、あの日にユートにより一族朗党を救われてから怪しい目を向ける少女。

 

 原典では『外殺のネアシュタットルム』という中二真っ盛りな名を名乗る。

 

「そういや、アルテナの訓練はどん感じだ?」

 

「真面目に頑張っていますな。既に仮面ライダーバルキリーも使い熟しは充分ではないかと」

 

「足りない能力は埋まったか?」

 

「そちらも基礎訓練を疎かにはしてません」

 

「なら、いずれは迎えに来ても良さそうだ」

 

「彼女も喜びましょう」

 

 仮面ライダーバルキリーに変身する為のツールであるショットライザーとラッシングチータープログライズキーを渡した後、アルテナは魔法球に籠ってハウリア族もやった修業をしていた。

 

 基礎訓練でステータスの向上によるレベルアップは元より、仮面ライダーバルキリーに変身しての実戦訓練にも身を入れているらしい。

 

「にしても、アルフレリックも強かだな」

 

 ユートがハウリア族を優遇する理由がシアにあると考えたが故に、孫娘のアルテナをユートへと宛がっていざという時の一助とする心算だ。

 

 他の種族より優遇される筈だと考えて。

 

 そしてそれは正しい。

 

 ユートは身内に甘いからアルテナの一族たるハイピストやそれに連なる一族は、他の亜人族に比べて優遇が既に約束されている様なものである。

 

 それを狙ってアルテナーー正確には一族の誰かをユートに宛がう心算だったが、孫娘のアルテナがまさかの立候補には驚いたろう。

 

 とはいえ、立候補したといっても男との経験は

疎か手を握る処かまともにお付き合いすらした事が無い森人族の生粋なお姫様、そうであるからには『御突き愛』などそう簡単に出来る筈もないが故に未だ処女の身である。

 

 だからといっていつまでも処女の侭でその身をユートに開かねば、結局は御客さんである事からは脱却が出来ず優遇もされない。

 

 なので、アルテナは少なくともユートが七大迷宮を二つくらいクリアするまでに覚悟完了して、肢体を晒し自らの胎内へユートの凶器を受け容れなけれならなかった。

 

 若しいつまでも寵愛を得ない侭で居た場合は、アルテナの代わりが……もう少し若いというよりは幼い従姉妹辺りが送り込まれるだろう。

 

 アルテナより歳を重ねていては駄目なのか?

 

 アルフレリックはハウリアでも二十代なミナやラナではなく、十代のシアを宛がったカムから鑑みて十代を送ろうとは考えていたらしい。

 

 だけどネア・ハウリアみたいな十代に成ったばかりな少女を送り込まない、そんな理性だけは残っていたのか飽く迄も一二歳以上を目指す。

 

 アルテナは一六歳だから送られてくるのならば一二歳以上で一六歳以下となる。

 

 尚、アルテナに今の立場を譲る意志は全く無いから覚悟自体は決めようとしていた。

 

「じゃあ、確かに預けたから」

 

 こうしてユートは再び地上へ。

 

「次なる目的地は懐かしきホルアド」

 

「ホルアド? 何でまた?」

 

 雫が首を傾げる。

 

「イルワ支部長から頼まれたこの手紙をホルアドのギルド支部長に渡す為だよ」

 

「早速の御仕事って訳?」

 

「内容は僕らの【金ランク】昇格の承認をする為の依頼状って話らしい」

 

「ああ、フューレン支部長だけが決めても駄目って事ね。まぁ、別に構わないでしょ」

 

「そうだね、雫ちゃん」

 

 ホルアドの町は二人も久し振りとなるのだ。

 

「オー君の大迷宮の入口が有る町だったよね」

 

「ああ、ミレディの頃は当然ながら全く違うんだろうけどね」

 

「そりゃね。千年も二千年も経ったら最早、別物というか異世界に近いよ」

 

 ライセン大峡谷みたいに変化に乏しい土地なども有るには有るが、それはヒトの手が殆んど入っていないからに他ならない。

 

 事実、ヘルシャー帝国はハイリヒ王国より後に興た国であり、これがヘルシャー帝国の所領として変化を及ぼすというのは当然の帰結であろう。

 

 キャンピングバスに乗って進む一行。

 

 瞬間移動呪文(ルーラ)でないのは四歳児でしかないミュウに対する配慮もある。

 

 あれはテレポーテーションの類いではなく高速移動であり、着地の衝撃も割と半端ではないというのに四歳児を連れて行うのはどうかと。

 

 仮にテレポーテーションをするにしてもユートの転移可能距離は一度に約一km程度、同時転移人数も精々が四名でしかないから余り移動に向いてはいない。

 

 【絶対可憐チルドレン】の葵から能力を簒奪したくなるくらい低く、ユートはテレポーテーションを使う事自体が少なかった。

 

 尚、サイコメトリーは精神系故にか割と上手く扱える能力であり、サイコキネシスはムウ程には使えないと云うしかない。

 

 取り分け急ぐという程でもないけど、魔人族が他の大迷宮に挑む可能性があるからにはゆっくりし過ぎてもいられないのたが……

 

 ユートは雫や香織やシアやユエやミレディとの閨事を愉しみつつ、ミュウが寂しがらない様にと気を遣う事もしていた。

 

 ティオはまだそういう関係ではない。

 

「香織、カードが増えてるわね」

 

「あ、雫ちゃん」

 

 ユートとの情事も終わってミュウに構いに行ったのを見計らい、香織がラウズカードを裸の侭に開いているのを見た雫が話し掛ける。

 

「……私達も手伝って先のウルの町での戦闘で何枚かカードが増えた」

 

「そうですね。仮面ライダーカリスでしたか? 香織さんの仮面ライダーリューンのオリジナルが使うラウズカードと同じっぽい力が得られそうな魔物を、私やユエさんで見繕って封印していきましたからね」

 

 ユエとシアも話に加わってきた。

 

 ミレディも含めて全員がマッパな侭だったが、女同士で百合プレイもするとか今更ながらだから羞恥心も湧かない。

 

「うん、ありがとう。ユエさんとシアさんのお陰で可成り揃ってきたよ」

 

 原典では香織とユエはハジメを挟んで恋の鞘当てをする仲であり、香織はシアやティオも含めて呼び捨てにしていたがこの世界線に於いての現状では『さん』付けにして呼んでいる。

 

 雫も香織以外は『さん』付けが基本、ユエは皆を呼び捨てでシアは全員を『さん』付けだ。

 

 ミレディは愛称で呼ぶのが基本であるが呼び様が無いミュウやユエやシアは名前に『ちゃん』付けで呼んでいた。

 

 『かおちゃん』、『しずちゃん』、『ティーちゃん』、『ユー君』がミレディの呼び方だ。

 

「だけどカテゴリー2はどうしよう……」

 

「スピリット・ヒューマンね」

 

 ラウズカードのカテゴリー2は武器の強化という機能であり、ブレイドならスラッシュ、ギャレンならバレット、レンゲルならスタッブとなっているのが、カリスの場合は『スピリット』という特殊なカードであったと云う。

 

 相川 始はジョーカーアンデッドから【スピリット・ヒューマン】で人間の姿に変身、【チェンジ・マンティス】でマンティスアンデッドであるカリスに()()をしているのだ。

 

 「ミレディさんのゴーレムでアブゾーブ・ゴーレムは有るし、早くジャックやキングも欲しいと考えているんだけどね」

 

 カテゴリー2だけでなくカテゴリーJやカテゴリーKもやはり必要である。

 

「光輝を封印してみる?」

 

「冗談はやめて、絶対に嫌だよ!」

 

 ハジメを諦めてしまった挙げ句、ユートにまで嫌われてしまったら香織は精神的にどうにかなってしまうから。

 

 天之河光輝は既に二人にとって癌に等しい。

 

 香織はラウズカードを仕舞うとおもむろに雫へ抱き付いてキスをした。

 

「か、香織?」

 

 ちょっと吃驚した雫だったが、ベッドの上で互いに裸を晒しているだけに雫もキスを受け容れてしまっている。

 

 香織×雫や香織×ユエと百合プレイをさせられていた彼女らにとっては正しく今更だったから。

 

 想像するからに恐ろしくて遂、雫の温もりを求めてしまった香織はその後にユエとシアとミレディも加えて百合プレイを愉しんだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 所は変わってオルクス大迷宮の上澄み。

 

 淡く輝く緑光石だけが頼りの薄暗い地下迷宮に激しい剣戟と銃撃音と爆音が響き渡る。

 

 天之河光輝の宝剣が魔物を斬り、G3ーXであるハジメの銃撃が魔物を貫き、恵里や野村健太郎達の魔法が魔物をぶち抜いていた。

 

 尚、恵里は魔法を使いながらもG3マイルドを

装着して銃撃も行っている。

 

「万象切り裂く光 吹きすさぶ断絶の風 舞い散る百花の如く渦巻き 光嵐となりて敵を刻め! 【天翔裂破】っ!」

 

 勇者(笑)には壊れた聖剣に代わる宝剣が与えられていたけど、やはり聖剣に比べるとどうしても一段は性能面で劣っていた。

 

 とはいえ、ユートからしたら聖剣も大した性能だとは云えない魔法具でしかないが……

 

 因みに壊れた聖剣は今現在、ユートの手に収まっていて修復を試みる事すら不可能である。

 

 ユートは聖剣に意思らしきものが有ると考えたから、この意思をもっとはっきりした意志へ変えて意識を持たせようと考えていた。

 

 その芽生えた意識体に肉体を与える。

 

 但し、()()のな!

 

 女の子にして勇者(笑)を喜ばせてやる心算なんてのは更々無い為に、間違いなくユートは聖剣を少年としての肉体を創ってやるだろう。

 

 聖剣は随分と天之河が好きらしく、ユートが振るうのを嫌がっているみたいだからきっとBLな展開をしてくれるに違いない。

 

 それを思うとユートはその時を想像して口角を吊り上げたものだった。

 

 それは兎も角、宝剣を全力での腕の振りと手首の返しで加速をさせながら自分を中心に光の刃を無数に放った勇者(笑)。

 

 此方を空から襲い掛かろうとしていた五〇cm程の蝙蝠型の魔物だったが、一〇匹以上を一瞬で細切れにされてしまい碌すっぽ攻撃も出来ず血肉を撒き散らして地面に落ちた。

 

 硬質な顎を持つ蟻型の魔物、空を飛び交う蝙蝠型の魔物、更には気色の悪い無数の触手を持った磯巾着型の魔物……それらが円形で約三〇mくらいの部屋で無数に蠢いている。

 

 この部屋の周囲に八つの横穴が存在していて、其処からコイツらが溢れ出していた。

 

 【オルクス大迷宮】の上澄みとはいえ八九層に来た天之河光輝が率いるパーティ、坂上龍太郎、谷口 鈴の三人となっている。

 

 永山重吾の率いているパーティは野村健太郎、辻 綾子、吉野真央、遠藤浩介の五人。

 

 そして、仮面ライダーG3ーXたる南雲ハジメと

仮面ライダーG3マイルドな中村恵里だ。

 

 玉井淳史、宮崎奈々、菅原妙子、園部優花、清水幸利は作農師たる畑山愛子先生の護衛で不在である為に、僅か一〇人の手勢でオルクス大迷宮を攻略に来ていた。

 

 本来の世界線ならハジメが居ない状態ではあるのだろうが、小悪党四人組のパーティが加わっている筈だったのだけど、連中は自ら莫迦をやらかして死んでしまっている。

 

 まぁ、ハジメと恵里のコンビが仮面ライダーとして頑張っているから小悪党四人組が居ない事など感じさせていない。

 

 知識に有る通り、レッドアイザーやパーフェクターなどの部品も原典と同じ性能にした。

 

 勿論、使っている素材などは本物と異なっていて飽く迄も、このトータスで入手が可能な素材により構築されている。

 

 修復の事も鑑みて……だ。

 

 GMー01スコーピオンによる連続射撃でハジメは出来るだけ魔物を減らし、恵里も魔法をメインに使いつつも同じく射撃をしていた。

 

 勇者(笑)の部下になった心算は無かったけど、取り敢えず今は共に動くしかない。

 

 基本的には拳士の坂上龍太郎と重格闘家の永山重吾と勇者(笑)の天之河光輝が前衛を務めつつ、中衛にハジメと恵里が入りG3のコンビで戦いを繰り広げ、術師組の辻 綾子や谷口 鈴や野村健太郎や吉野真央が後衛で魔法を使う形。

 

 天之河光輝はハジメが防御の高いG3ーXを纏うのだから前衛をやらせるべきだと阿呆な主張をしてきたが、そもそも仮面ライダーアギトやギルスやアナザーアギトと違ってG3は武器を見て判る通り中距離での戦いこそが本領。

 

 一応、近接武器も持っているが攻撃を喰らう事を前提にしてはいない。

 

 劇中でも近接ではいまいち輝けなかった。

 

 近接が出来るのと専門なのては天と地程に違いがあるのに、平然と宣う天之河へ意見をしたのは恋人たる中村恵里。

 

『じゃあ、私もG3だから前衛だね』

 

 最近、頓に綺麗になった恵里。

 

 胸は五センチ、腰の回りはマイナスニセンチ、お尻は三センチ……谷口 鈴が羨むくらい女らしくなっていて、顔も元々の可愛らしさに艶が加わってそう……ユエに近い魅力を醸し出している。

 

 騎士達が思わず振り返るくらいには魅力的に、この場に死んだクラスメイト共が居れば香織の時みたいな嫉妬や殺意を向けただろう。

 

 こうなってくると恵里の立ち位置は香織や雫の付属物BーーAは谷口 鈴ーーでは勿体無い訳で、天之河光輝としては無意識に第三のヒロイン扱いをしたいのだ。

 

 当然、第一ヒロインは香織で第二ヒロインは雫の心算でいる天之河光輝(ピエロ)

 

『君は術師だろう! 大丈夫、恵里は俺が必ず護って見せるさ』

 

 キランと輝く白い歯。

 

『ハジメ君も術師だし、何より戦場に出る天職じゃないよ?』

 

『南雲はあんな鎧に身を包んで強力な武器を持っているんだ! 前衛が当たり前さ』

 

 持っていなかった頃も普通に戦場へ出していた癖に、まるで最初からG3を使っていたかの様な言い種に眉根を寄せる。

 

『いずれにせよ、G3を使うのは私も同じだからハジメ君が前衛なら私も前衛で』

 

 それで仕方がないと折れた。

 

 中村恵里は最早、天之河光輝の『護る』発言に対して一切の信用をしていない。

 

 あの死にそうだった時に命懸けで手を差し伸べてくれたのはハジメ、だからこそ彼を冷遇している天之河光輝を許せない程に腹立たしかった。

 

 天之河光輝からすれば新たなヒロイン候補とかになっているが、恵里は既に見切りを付けハジメと本格的な交際を始めている。

 

 だから本当に今更だった。

 

 偶に前衛を抜けてくる魔物を見て恵里は舌打ちをしながら、GSー03デストロイヤーを起動させると斬り裂いて殺してしまう。

 

 近接武器も装備しているから出来ない訳ではなかったし、ステータスがユートのお陰で二人共が上がっていたから楽勝ではあった。

 

 やはり厄介なのは飛行する魔物の蝙蝠の魔物、前衛組の隙を突いては後衛に突進する。

 

 ハジメと恵里だけではやはり足りないのか幾らかは抜けてしまうものの、其処はソレと頼りになる【結界師】が城壁となってそれを阻む。

 

「刹那の嵐よ 見えざる盾よ 荒れ狂え 吹き抜けろ 渦巻いて 全てを阻め 【爆嵐壁】!」

 

 谷口 鈴の詠唱が完成。

 

 攻勢防御魔法【爆嵐壁】が発動する。

 

 攻撃系の呪文を詠唱する野村健太郎の一歩前に出て突き出した両手の先に微風が生じた。

 

 風であるが故に見た目は変わらない為、魔物達も谷口 鈴など気に留めず攻撃魔法を仕掛けようとしている野村健太郎に向かい襲い掛かるのだが、魔物の突進に合わせて空気の壁が大きく(たわ)む様な形で現れる。

 

 蝙蝠モドキが幾ら突っ込もうが衝突してしまうだけであり、空気の壁は撓む程度で一匹足りとて通しはしない。

 

 蝙蝠モドキ全てが空気の壁に衝突した瞬間に、撓みがまるで限界に達した様に衝撃を放ちながら爆発した。

 

 爆発だけで肉体を粉砕されたり、迷宮の壁にまで吹き飛ばされて生々しい音と共に拉げて絶命する個体すら居る。

 

「ふふん! アンタ達、此処はそう簡単には通さないんだからね!」

 

 谷口 鈴の得意満面な声がけたたましい戦闘音の狭間に響き、同時に一斉に前衛の三人が大技を繰り出していた。

 

 敵を倒すことより足留めに徹して自分達が距離を取る事を重視した攻撃。

 

 そして天之河光輝の号令に従い動いて殲滅していき、遂には魔物共を全滅させる事に成功をするのであった。

 

「漸く九〇階層か」

 

 次への階段も見付けて小休止する中で、天之河光輝は感慨深く暗い階段の底を見つめていた。

 

「この階層の魔物でも難なく斃せるようになった事だし、オルクス大迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりなんだな」

 

「そうだなぁ。何しろ俺らぁ今までに誰も到達した事の無い階層で可成り余裕を持って戦えてんだもんよ!  きっと何が来たって俺らなら蹴散らしてやんぜ! それこそ魔人族が来てもな!」

 

 勇者(笑)らしい科白を受け脳筋の坂上龍太郎が豪快に笑いながらそんな事を言い、天之河光輝と拳を付き合わせて不敵な笑みを浮かべ合った。

 

 八重樫 雫というストッパーが居ないパーティは坂道を転げ落ちる球体の如く、当たり前だが此処で谷口 鈴は何の役にも立たないだろうし疑問にも思っていない様子。

 

 覚醒済みな恵里がその煽りを喰らって精神疲労から眉間の皺を揉み解ぐした。

 

 これまでは何かと二人の行き過ぎをフォローして来た苦労人な八重樫 雫が居たから良かったのであろうが、居なくなったら此処まで負担が掛かる二人だとは思ってはおらず、どうしてあんな口先な男を欲しいと依存すらしていたのかと疑問にすら考えてしまう。

 

 最近は本気で殺ってやろうかと鏡を見る機会が微妙に増えてしまった恵里、ベノスネイカーの牙が勇者(笑)を襲うのもアリかな? ハジメを扱き下ろす天之河光輝に対して半ば本気で殺意を漲ぎらせていた。

 

 真性の御人好したる八重樫 雫は天之河光輝へと好意を持っていた頃は邪魔者でしかなかったが、今となっては早く戻って来て欲しいとすら思える人材であったと云う。

 

 小休止も終わって勇者(笑)達は未踏の九〇階層へと遂に足を踏み入れた。

 

 それは原典に有る流れながら原典と異なるが故に様々な違いが起きる分岐点、それは誰にも判らない未来でもあったのだろう……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 特に名前の無いキャンピングバスがホルアドに向けて爆走をしている。

 

 とはいえ、路無き道を突き進むとは思えない程に揺れが無いから走っている感覚はゼロ。

 

 本当に家で寛ぐ感じで銘々に過ごせた。

 

 ミュウを誰かに預けてそれ以外と閨を共にする性活にも慣れてきて、今宵は明日から地球に戻るほむらとシュテルを加えての御乱交をする。

 

 積極的な百合行為に励むシュテルに新たな扉が拓きそうな雫だが、後ろからユートに突かれてはやはり男が良いとか思ってしまうとか。

 

 御姉様とか無いわーと考える程度には。

 

「いっつも妾が留守番は無かろうに……」

 

「どうしたの、ティオお姉ちゃん?」

 

「何でもないぞよミュウよ」

 

 そして()()とはまだユートと関係を持たないティオ・クラルスであった。

 

 ティオはパーティ内でも胸が一番大きいので、ある意味では母性の塊でもあるが故にかミュウもそれなりに懐いており、原典のハジメ達が見たら『誰だコイツ!?』と優しい笑顔で接してくるだろう原典ハジメ並に驚愕される事は請け合い。

 

 ユエからしても伝説の竜人族として憧憬の目を向けているし、シアもその生き様には胸を打ったのだと言えるくらいに竜人族だった。

 

 ティオ・クラルスにとってユートの存在は天啓にも等しい相手、神を信仰しない処か厭う立場でありながらそう思わざるを得ない。

 

 数百年前、種族間の壁を乗り越えて生きる事をしていた竜人族であったが、それはエヒトが彼らを絶望させる為のスパイスとして見逃していたからに他ならない。

 

 その気になればいつでもやれた筈なのだから、それは確かに正しいのであろう。

 

 ユートからの情報と()()()()を照らし合わせれば間違いないと云える。

 

 何故に母上(オルナ)は死なねばならなかったのだろうか? 父上(ハルガ)は討たれねばならなかったのだろうか?

 

 母上の死を視たティオは暴発し掛けた。

 

『我等、己の存する意味を知らず』

 

 父上が朗々と語るは竜人族をヒト足らしめている言葉であり言霊。

 

 それは静かなる声色。

 

 寧ろ語り掛けるというよりまるで、己の中の某かを確かめているかの様であったと云う。

 

『この身はケモノか或いはヒトか。世界の全てに意味有るものとするならば、その答えは何処に」

 

 ハルガの声に立ち止まり、ヒトとケモノとその狭間にてそれを聞き入ってしまう。

 

『答えなく幾星霜。なればこそヒトかケモノか、我等は決意以て魂を掲げる』

 

 生き様。

 

『竜の眼は一路の真実を見抜き、欺瞞と猜疑を打ち破る』

 

 ヒトの理性が……

 

『竜の爪は鉄の城壁を切り裂き、巣食う悪意を打ち砕く』

 

 ケモノの力が……

 

『竜の牙は己の弱さを噛み砕き、憎悪と憤怒を押し流す』

 

 互いに矛盾しながらも共存してきた二つが…… 

 

『仁、失いし時、我等はただの獣なり』

 

 今正に(せめ)ぎ合う。

 

『然れど、理性の剣を振るい続ける限り――我等は竜人である!』

 

 竜人族の矜持はケモノがケダモノとなる程には安くはないと、父上の言霊に合わせて涙を流しながら共に詠い上げたティオ。

 

 然しながら復讐という甘美な思いに囚われなかったかと問われれば否であり、ユートの力はそれを成すのに使()()()と考えてしまった。

 

 ソッとユートに渡された【仮面ライダーリュウガ】のカードデッキに触れ、あの力強い漆黒の龍の姿を脳裏に思い描くティオ。

 

 自分達とは違いどちらかと云えば脚を持つ蛇とも云える姿だったが、何故かそれは竜とはまた異なる龍の姿だと認識をしていた。

 

(そういえば、ユエの魔法の【雷龍】や【蒼龍】があんな姿をしておったのぉ)

 

 地球に於ける東洋龍と西洋竜。

 

 そんな違いではあるが、リュウの因子を持ったドラゴンという存在なのは変わらない。

 

(主殿は否定せなんだな)

 

 ユートはティオの復讐心に否定をぶつけたりはしないで、だけど意味も無く煽るという訳でもなく淡々と言葉を紡いだ。

 

『復讐をしたいなら止めない。復讐心に縛られたくないならそれも良い。願わくは()()()()後悔しない道を歩んで欲しい』

 

 それはきっと復讐の焔に焼かれた事があるからこその言葉、勇者(笑)辺りが『復讐なんて何も生み出さない、そんな事は止めるんだ!』などと言っても所詮は復讐心を持った事も無い甘ちゃんの科白だと決して響かないだろうが、ユートのあれは復讐心に焼かれて身を焦がした事があるからこその言霊だと響き渡った。

 

(主殿は後悔をしたのじゃな?)

 

 復讐を成した事にではなく、復讐に走らねばならなかった事に――即ち護れなかった事に。

 

(なればこそ……じゃな)

 

 リュウガのカードデッキを握る。

 

(この奇跡にも等しい集まり。故にこそ護りたいものじゃな……主殿よ)

 

 人間族、竜人族、吸血族、亜人族、異世界人、

流石に人間族と戦争中である魔人族までは居なかったが、異なる種族が依り集まるパーティ。

 

 小さな集まりに過ぎないが、それが奇跡にも等しいのだとティオは識っていたから。

 

(確か妾の天職は守護者じゃったか。ふむ、確かに妾に相応しいやも知れぬな)

 

 護り手たるティオ・クラルス。

 

(この小さな生命も、主殿が護りたい全てを妾も護りたいと思うておる)

 

 その中には烏滸がましくも思うが、ティオ・クラルス――自分自身も入っていると考えると胸が暖かくなってきた。

 

(いかんな、妾……本気になったやも知れん)

 

 ティオは自分に付いて来られる者を、自分よりも強き雄を(つがい)として求めていた。

 

 ユートはステータスもそうだったが、その全てに於いてティオを上回ると実感わしている。

 

 強く偉大な雄を求めるは雌の本能。

 

 なればこそのこの想いは確かな気持ちとなり、近い内にユートに身も心も捧げたいと思った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ホルアドの町。

 

 オルクス大迷宮の入口が存在する町でもあり、ミレディ・ライセンからしたらオー君と初めての共同作業をした場所でもある。

 

 人工神結晶を渡されて使った地で、吃驚してしまい奈落にそれを落としてしまったのだが……

 

「まさか、ユー君が手に入れていたとはね」

 

 結晶はあの時より大きかったが、それはあれから千年を越えている証左とも云えるだろう。

 

 ホルアドの冒険者ギルド支部。

 

 ユートはミュウを右肩に乗せて悠々とギルドの両開きな扉を開いて入るのだった。

 

 

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 次回は再会するユートと勇者(笑)とハジメ……



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第52話:因果の交叉路が交わる瞬間〔中編〕

 遂に遠藤浩介のあのシーンが!





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 冒険者ギルドホルアド支部の内装や雰囲気は、ハジメ辺りが思い描くであろうその侭だ。

 

 壁や床は所々が壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥やら何やらの染みがあっちこっちに付着して不衛生な印象がある。

 

 内部の作りは他のーーフューレン支部やブルック支部などと同じで、入って正面がカウンターとなって左手側には食事処があった。

 

 他の支部とは違い酒も出しているらしく、昼間から飲んだくれたおっさん達が屯している。

 

 どうやら二階にも座席が有るらしく、手摺越しに階下である此方を見下ろしている冒険者らしき者達も居り、しかも二階に居る者らは総じて強者の雰囲気を醸し出していて、ローカルルールでもあるのか暗黙の了解かは兎も角、高ランク冒険者は基本的に二階に行くのかも知れなかった。

 

 更には冒険者自体の雰囲気も他の町とは異なるものらしく、誰も目がギラついていてブルックの冒険者ギルドみたいなスローライフ的な雰囲気は皆無と云える。

 

 まぁ、そもそもが冒険者や傭兵などは魔物との戦闘を専門とする戦闘職が望んで迷宮に潜りに来ているのだから、気概に満ちているのは当然といえば当然なのだろうが……

 

(とはいっても、そいつを差し引いてもギルドの雰囲気がピリピリしてるな?)

 

 明らかに尋常ではない様子だった。

 

 どうやらホルアドの町に歴戦の冒険者をして、深刻な表情にさせる某かが起きているらしい。

 

 ユート達がこのギルドに足を踏み入れた瞬間、管を巻く冒険者達の鋭い視線が一斉にユート達を捉えて睨み付けると、彼らの視線の余りにも余りな剣呑さに右肩に乗っていたミュウが悲鳴を上げるとユートの頭にしがみ付く。

 

 考えてみるが良い。

 

 中には非モテで自家発電か、若しくは金が有るなら娼館の娼婦で性欲を満たすばかりの荒くれ共が冒険者な訳で、はっきり云うと山賊盗賊海賊とかと変わらない連中も少なくないのである。

 

 下手すればゴブリンやオーク並。

 

 そんな中に美女美少女を沢山侍らした小僧が、可愛らしい幼女を肩に乗せて現れた。

 

 モテない輩からしたら巫座戯た話でしかない。

 

 殺気を飛ばして睨み付けるのは寧ろ当然でしかなく、血走った眼光がユートだけではなく囲われた美女ーーティオや美少女ーー香織達やミュウにも向くのは必然であろう。

 

「ひうっ!」

 

 ミュウは涙ぐんでしまう。

 

 怯えて震えるミュウを肩から降ろしたユートが片腕抱っこに切り替えると、ミュウはその胸元に顔を埋め外界の情報を完全にシャットアウト。

 

 下手をしたらトラウマにすらなり兼ねない連中の態度に対してユートは、プチリとキレてはいけないナニかがキレる感覚を覚えた。

 

 血気盛んに酔った勢いで席を立ち始める一部の冒険者達、彼等の視線はーー『巫座戯た餓鬼をぶちのめす!』と雄弁に物語っていて、このギルドを包み込む妙な雰囲気からくる鬱憤を晴らす為の八つ当たりと、女日照りな連中からはやっかみの混じった嫌がらせである事は火を見るよりも明らかであろう。

 

 単なる依頼者であるという可能性など微塵にも捨てて、取り敢えずぶちのめしてから考えようという荒くれ者そのものな思考回路にてユートの方へ一歩を踏み出そうとして……

 

 ドパンッ!

 

 鈍いながらも軽快な音に停まる。

 

 いつの間にかユートが手にした金属の筒から、何やら大きな音を響かせて放たれたのだと筒の口から煙を上げる事で気付く冒険者達。

 

 ドンッ!

 

 指向性の殺意の波動に魔力を乗せて放たれてくるとんでもないプレッシャー、それは物理的なる威圧感とでも云おうか? 彼らが感じているその感覚の名前は即ち【恐怖】である。

 

 まるで神に睨まれたかの如く恐怖は雑魚ならば意識を刈られ、辛うじて気を失っていない連中にしても大瀑布の様な汗をダラダラと流しながら、顔色は幽鬼みたいに青褪めてガクガクと震えてしまっていた。

 

 股間からは生温かい液体を零している者まで出る始末であり、中には呼吸困難に陥っている輩も居る有り様だったと云う。

 

 そんな永遠に続くかと思われた威圧が圧力を弱めたお陰で、何とか持ち直し始めた冒険者達ではあったのだが……

 

「今、こっちを睨んだ奴ら」

 

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

 畏怖すら感じる声に肩を震わせた。

 

 何処か怪物でも見た様な恐怖が張り付いていた彼らだったが、そんな事など知った事では無いのだと言わんばかりにユートは要求……というよりも命令を発する。

 

「踊れ」

 

「「「「「「「え、へ?」」」」」」」

 

 余りにも突然に状況を無視した命令に戸惑いを見せる冒険者達、そんな彼らへユートは更に言葉を続けてやる。

 

「何だ、聞こえなかったか? 今時、難聴なんてのは流行らないぞ。僕はお前らに踊れと言った。当然ながら笑顔を浮かべて怖くないってアピールをしながら、モノの序でで手も振って無害であると自己主張をしろ。お前らの所為でウチの子が怯えているだろう? トラウマになって恐怖症を患ったらどうする心算だよ……なぁ?」

 

 それなら、そもそもこんな場所に幼子を連れてこなけりゃ良いだろう! と全力でツッコミたい冒険者達だったが、ドラゴンか魔王かといった感じの怪物に口答えは出来ない。

 

「……早く踊れ」

 

「お、踊れと言われても……」

 

 ドパンッ!

 

「ヒッ!?」

 

 足下に何かを放たれて腰を抜かす。

 

「ならば強制ダンスだ」

 

 ドパパパパパパンッ!

 

「ウギャァァァァァァァアアアッ!」

 

 口答えをした冒険者に放たれる非致死性弾。

 

 それにより当たった身体の部位が跳ねる様に動いており、連続でやるとまるで舞踊をしているかの如くであったと云う。

 

 ゾッとなる他の冒険者達は同じ目には遭いたくないからと、見様見真似で手足を動かして自主的に地球で云う【白鳥の湖】を舞い始めた。

 

 基本的にはガチムチなオッサン連中が多い中で舞が舞われる異様な場、それの直視をしてしまったミュウは口元を押さえて宣う。

 

「う、気持ち悪いの……」

 

 至極尤もな意見であろう。

 

 ガチムチのオッサンが無理矢理に貼り付けた様な笑顔で『あらえっささ~』と謂わんばかりに、【白鳥の湖】を踊っているシーンを想像してみるが良い、それは正しく精神を殺す気満々な悍ましい場面でしか有り得ない。

 

 幼女の素直でドストレートな感想にオッサンな冒険者達は心をへし折られ、更にはユート御怒りの銃撃で非致死性弾を額にドパンッ! されてしまって気絶を余儀無くされた。

 

「チッ、役立たず共が!」

 

 舌打ちした挙げ句の罵倒とか随分と非道な扱いではあるが、そもそもが身勝手な妬心に駆られての睨みとか明らかに喧嘩を売っていたのは彼方、文句を言える立場でも無いであろう。

 

 一階の冒険者の全員が気絶して、二階の冒険者は我関せずと目を逸らした事を受けてユートは再びミュウを右肩に乗せ、引き攣った笑みを浮かべている受付嬢が居るカウンターへ向かった。

 

 ブルックの町のキャサリンさんと違いテンプレで可愛らしく年齢も恐らく十代後半な受付嬢が、逃げたいと頭の中に警鐘を鳴らしながらも一応はプロとして口を開く。

 

「い、いらっしゃいませ。本日は当ギルドへようこそ……どの様な御用向きでしょうか?」

 

 依頼を受ける冒険者なら先ずは貼られた依頼状を持って来る筈で、ならば受付嬢に用が有るとするならば依頼を出す客か依頼を熟した冒険者。

 

 とはいえ、あれだけのアーティファクトを持つ依頼人というのも考え難い。

 

 右肩の海人族らしき少女が居なければ間違いなく冒険者と断じていた。

 

「受付嬢さん、支部長は居るかな? フューレンのギルド支部長イルワ・チャングから手紙を預かっているんだけど、こいつは本人に直接渡してくれと言われているんだよ」

 

 そう言いつつ自分のーー但し勝手気儘に改造をしているステータスプレートを、カウンターの上に置いて受付嬢へと差し出す。

 

 受付嬢は緊張に喉がヒリヒリしながらもプロらしく居住まいを正し、ステータスプレートを受け取って書かれた内容の確認をした。

 

「は、はい。お預かりします。え、金のマーク……金ランクの冒険者!? フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですかぁ?」

 

 普通は一介の冒険者がギルド支部長から直接の依頼を受けるなど有り得ない話ではあるのだが、渡されたステータスプレートに表示がされている情報は最高ランクの証。

 

 冒険者に【金】のランクを持つ者は全体の一割に満たないとされるが、理由の一つに戦闘系天職を持たない者は原則として最高位が【黒】まで、【銀】と【金】の認証は成されないから……というのがあった。

 

 メルド・ロギンスが嘗て召喚された勇者達へと説明をしたけど、そもそも天職を持つ人間の方が珍しいとされていた上に戦闘系天職は非戦系よりも更に珍しいのだとか。

 

 ハジメの【錬成師】は取り分けありふれた職業だったりするが、それ以外は持っている方が少ないレアケースだったりする。

 

 きっとエヒトは錬成師が嫌いなのだろう。

 

 受付嬢が驚いたのは【金】ランクがSSRだからというだけでなく、このランクの認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然だが彼女も全ての【金ランク】冒険者を把握しており、ユートの事を知らなかったから思わず驚愕の声を漏らしてしまったという訳だ。

 

「受付嬢さん、個人情報の流出ってのは宜しく無いんじゃないかな?」

 

 受付嬢がハッとして周りを見れば、ギルド二階に居る冒険者と職員も含めた全ての人が受付嬢と同じく驚愕に目を見開き、ユートを凝視していて建物内が俄に騒がしくなっていた。

 

 ユートの指摘に自分が個人情報を大声で晒してしまった事に気付き、タラリと冷や汗を流しつつもその表情を青褪めさせると凄まじいまでの勢いで頭を下げ始める。

 

 服装こそ間違いなく受付嬢な少女ではあるが、見覚えのある()()()()()()()()を頭に着けた少女が……だ。

 

「ももも、申し訳ありません! 本当に、本っ当に申し訳ありませ~んっ!」

 

「別に構わない……とは言わないけど取り敢えず、こんな所で受付嬢ごっこか? スールード」

 

「いけずですねぇ、ユートさん。正装ではありませんし、今は()()と呼んで下さいよ」

 

 ニコリと誰もを魅了出来そうな笑顔を浮かべながら、鈴鳴ーー永遠神剣第四位【空隙】の担い手であるスールードはまるでユートに媚びるみたいな口調で言い放った。

 

「まぁ、良いか。受付嬢ってんなら受付嬢らしくギルド支部長に取り次いでくれ」

 

「本当につれませんね。判りました」

 

 スールードというか鈴鳴はコロコロと笑いながら仕事を熟すべく引っ込んだ。

 

「本当にトータスに何をしに来たんだ?」

 

 煌玉の世界とされる世界を自らの永遠神剣を用いて滅ぼした張本人、今の鈴鳴は本体から僅かば

かりの力を分けられた分体に過ぎない。

 

 それ以降も偶にこんな感じでユートと関わるのだが、特に悪意などは持たず流しの仕事人をしている節があった。

 

 実際、様々な仕事人をしているから鍛冶師からメイドさんまで色々とやれるみたいだ。

 

 本体は知らないけど煌玉の世界以降にて分体がユートの前に現れて世界を滅した事は無い。

 

 気を遣っているというより、本人が曰く『嫌われたくないじゃありませんか』だそうな。

 

 這い寄る混沌もちったー見習えと云いたい。

 

 数分も経った頃、ギルドの奥からけたたましく足音を鳴らしながら何者かが現れた。

 

 勿論、鈴鳴ではないだろうから何事かと音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身に黒装束を纏う黒髪の少年が凄い勢いで飛び出てユートの方へと向かって来る。

 

「緒方!」

 

 それは思い切り見覚えのある少年。

 

「は? 遠藤……か?」

 

 遠藤浩介であったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ホルアドギルド支部長室。

 

 支部長室まで通されたユートは取り敢えずだが自己紹介をして、ミュウに菓子を与え膝に乗せた状態でソファーに座る。

 

 一緒に来てた香織、雫、ユエ、シア、ティオ、ミレディも同じく座って此処に招いた張本人であるホルアドギルド支部長ロア・バワビスが対面側に陣取り、隣に遠藤浩介が座っていた。

 

「お茶です」

 

 人数分のお茶を持ってきたのは鈴鳴、人数分には一つ多い気はしないでもない。

 

 ガタイが良くて左目に大きな傷が入った迫力のある男、年齢は月奈の倍近いのではなかろうかという年輪が顔に刻まれている。

 

 その眼からは長い年月を経て磨かれたであろう深みがあり、全身から覇気が溢れていて見るからに偉いさんだと解るだけのカリスマがあった。

 

 天之河のそれがチャチに見える程に。

 

 何故か受付嬢の仕事に戻らず座る鈴鳴だったりするのだが、これまた何故か注意をしない支部長に首を傾げてしまうユート。

 

 だけど分体とはいえ基本的にはユートより実力自体は高いーー但しそれはエターナルであろう真の本体ーー永遠神剣の担い手たるスールード故、下手に騒ぐのは悪手であると考えてスルーをしておくしかない。

 

 ちゃっかり()()()()()も用意済みだし。

 

 ロア・バワビスが現れるまでに遠藤が騒ぎ立てたが、既に同じ様に騒いで勇者(笑)や騎士団に何かがあったことを晒してしまったのだろう。

 

 道理でギルドに入った時に一種異様な雰囲気が辺りに蔓延をしていた訳である。

 

 遠藤浩介から話を聞いたユート達。

 

 早い話が九〇層にまで進出に成功をしたけど、其処で魔人族の女が待ち伏せしていたらしい。

 

 女の繰り出す魔物に翻弄され、しかも谷口 鈴が石化されてしまったりと確実に不利な状況。

 

 遠藤浩介はステルス性を見込まれて騎士団が居る場所に戻り、クゼリー団長に報せるという役割を与えられたのだと云う。

 

 その後はクゼリー団長から援軍を……という名目で地上に戻されたのだが、女魔人族が何故か仲間をスルーして転移魔法陣がある層までやって来て騎士団が迎撃を始めた。

 

 遠藤浩介を一人だけ逃がして。

 

「お、俺を逃がす為に、団長や皆が……」

 

 悲壮感を漂わせるのは一人だけ逃げた罪悪感もあるのだろうが……

 

 取り敢えず遠藤浩介から一通りを聞き終わった訳で、ユートは初めて魔人族に接触したウルの町での事を思い出す。

 

「やっぱり大規模な作戦を始めたんだな」

 

 それは予測されていた事で、ミレディ辺りからしたら勇者パーティだろうが魔人族だろうが亜人族だろうが関係は無く、『あのクソ野郎』を斃してくれるなら誰でも良いと考えている筈。

 

 実際に【解放者】は組織の人員が神代魔法の使い手からしてちゃんぽんで、人間族なミレディとラウスとオスカーとナイズに魔人族と氷竜人族のハーフなヴァンドゥル、海人族と吸血鬼族のハーフなメイル、森人族なリューティリスと云う具合に基本的な全種族が揃っていたのだから。

 

 流石に多種多様な亜人族が全てではないけど、類い稀に見る多様性のある集まりだった。

 

 だからこそ大迷宮はそれぞれの所縁の地に造ったのであろう、ミレディがライセン大迷宮をライセン大峡谷に造ったみたいに。

 

 藁にも縋るというか、種族は疎か世界すら関係無く願ったのだろうから。

 

(ああ、そうだな。お前の願いを叶えられるのは唯一人……僕だ!)

 

 既に何度も抱いて情を交わしたからには相応に愛しさを感じるミレディ、ならば彼女の願いである『あのクソ野郎』くらいは殺してやる心算だ。

 

 ハジメや恵里が居て窮地に陥るというのも考え難くてユートは首を傾げてしまうが、遠藤浩介もロアも深刻な表情をしていて室内は可成り重苦しい雰囲気で満たされている。

 

 それを他所に膝の上で幼女(ミュウ)が御菓子を頬張っている為に、どうにも深刻になり切れてはいなかった。

 

 どの道、ミュウには難しい内容の話。

 

 ならば御菓子を与えて食べさせて意識を話から逸らしたい、それが効を奏している形ではあったのだが……

 

「ってか、何なんだよ! その子は! どうして菓子なんて食わしてんの!? 今の状況を理解してんのか!? 重吾も健太郎も……天之河達だって死ぬかも知れないんだぞ!?」

 

「ひぅ!? パ、パパ~!」

 

 この場の重たい雰囲気を打ち壊す様なミュウの存在に、耐え切れなくなった遠藤浩介が苛立ち紛れに指を差しながら怒声を上げる。

 

 そんな剣幕に驚いたミュウが小さく悲鳴を上げながらユートに抱き付いた。

 

 遠藤浩介は遠藤真実の繋がりから仲良くしている友人枠ではあるが、当然ながら義理とはいえ娘を罵倒して怖がらせるなど許されない。

 

「遠藤……ミュウに八つ当たるとか死にたいか? 今すぐにでも小悪党四人組や他のクラスメイトーー名前は殆んど識らないーーの居る冥界に旅立たせようか? 冥界の王……冥王ユートの名に於いて無間地獄に招待するぞ?」

 

「ひぅ!?」

 

 先程のミュウと同じ悲鳴を上げて浮かしていた腰を落とす遠藤浩介、殺意の波動と謂わんばかりの殺気に中られてしまいソファへと倒れ込んで、生まれたての小鹿の如くプルプルと震える両脚で誰得な涙目となっていた。

 

 ユートの背後に豪鬼すら霞むナニかを幻視してしまった為にか、耐えてはいたものの股間を生温かい液体が少しだけ濡らしてしまう。

 

 そんな遠藤浩介を尻目にミュウを優しい笑顔で宥めているユート、ロアはちょっと呆れた表情をしつつ埒が明かないと二人の話に割り込んだ。

 

「ああ、何だな。イルワからの手紙でお前の事は大体を判っている心算だ。随分と大暴れをした様じゃないか?」

 

「まぁ、成り行き任せだけどね」

 

「成り行き程度の心構えで成し遂げられる事態では決して無いがな」

 

 ロアは如何にも愉しいと謂わんばかりの笑みを浮かべながら唇の端を吊り上げる。

 

「あの手紙にはお前さんの【金ランク】への昇格に対する賛同の要請と、出来得る限りの便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていたぞ。一応は事の概要を俺も掴んではいるんだけどな……僅か一〇人足らずで六万にも近い魔物を殲滅し、半日と掛からずフューレンに巣食う癌とも云える闇組織の壊滅とか、俄には信じられん事ばかりをやらかしている訳だが……な。まさかイルワの奴が適当な事をわざわざ手紙まで認めて伝えて来るとは思えん。お前が実は魔王だとか言われても俺は最早不思議に思わんぞ」

 

 魔王はトータスにとって魔人族の王を指す。

 

 魔国ガーランドの魔王アルヴは相当な実力者らしく、魔王とは畏怖と共にジョークでロアが口にしたものである。

 

 まぁ、魔王が強いのはアルヴがエヒトの眷属として創られた存在だからだとユートは聞かされていたし、エヒトがエヒトルジュエであるのと同様にアルヴはアルヴヘイトが真の名前だ。

 

 連中が真の名を隠すのは情報通りなら概念魔法に名前を使うものがあり、それの効果を二段階にする為という理由が一つにあるらしい。

 

 事実、エヒトの名前よりエヒトルジュエの名前に於いて使った方がより強力だったとか。

 

 然しユートはそんな魔王にも劣るなどと露にすら考えてはいかなった。

 

「魔王、魔王……ねぇ。ハドラー? バラモス? それともムドーかな? いずれにせよ敗けるとは思えないんだけどな」

 

 どれも大魔王の前座でしかないし。

 

「直に戦った事でもあるのか?」

 

「ハドラーは転移直後が丁度、アバンとマトリフとブロキーナが魔王軍と戦う直前だったのに巻き込まれる形で一回な。【凍れる時の秘宝】を使った一年後の戦いは参戦拒否された。見た目が縮んで五歳児だったからな。マァムの世話に始終していたよ」

 

 結果、マァムから慕われて大切なモノを戴いてしまった訳なのだが、レイラはニコニコと受け容れてしまっていた辺り望んでいたみたいだ。

 

「バラモスは戦ってない。勇者アレルと後の初代サンケンオウのみで戦ったからな。大魔王ゾーマとの戦いは参加したが……百年以上経ってから再び戦う事になるとはなぁ」

 

 大魔王ゾーマや側近との戦いにアレルはジパングに来てユートに増援要請をしてきた。

 

 フォンの事もあるから手伝ってやる。

 

「ムドーは戦って斃したよ。大して強くはなかったけどな」

 

 イザと共に暮らしていた事もあり、ライフコッドからの旅立ちも二人でだという縁もあった。

 

 真ムドーはレイドック王の変異体よりは強かったのは間違いないが、所詮は『四天王最弱』みたいな序盤の魔王でしかない。

 

「ってか、何でドラクエの魔王と戦ってるとかをマジに言えてる訳?」

 

「ドラクエ世界に行ったから」

 

「さいですか」

 

 ハルケギニア時代の最終決戦直後、フルパフォーマンスで【黒の王】と【白の王】が嘗て振るった最終兵装ーー【シャイニング・トラペゾヘドロン】を放ち、時空間を破砕して放浪をする羽目に陥った際に様々な世界を渡り歩いた。

 

 最初の世界が【ありふれた職業で世界最強】な世界に来る前の【魔法少女リリカルなのは】の世界だったが、一六年以上前だから高町恭也でさえ当時だと不破恭也という三歳児くらいだった為、其処がリリカル世界とは気付けなかったのだ。

 

 混じって習合された【神楽シリーズ】の一つである処の【鬼神楽】、その世界観で神様の一柱であるイチ様に拾われたのである。

 

 力を喪って小宇宙は疎か魔力すら使えなくなっていたユートは、イチ様とナツ様の二柱に残されていた力ーー這い寄る混沌の神力を喚起して貰う事により【ネオディケイドライバー】化されて、今現在みたいな仮面ライダーディケイドへの変身能力を手に入れた。

 

 何故にディケイド? とは思ったが後に判明というかユーキから聞いて理解をする。

 

 実質は兎も角、『終わりなき旅の途中の、全てを破壊し全てを繋ぐニャルラトホテプ』が居たのだと云うのだから。

 

 つまりは問題ナッシング。

 

 尤も、最初はディケイドのカメンライドとアタックライドとファイナルアタックライドのカードしか無くて、旅をしていたら唐突に増えていく形だったのは首を傾げてしまうけど。

 

 因みに、ユートのカードは平成・昭和仮面ライダーの()()に及ぶがまだ令和ライダーは無い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 遠藤浩介が冒険者ギルドに居たのは高ランクの冒険者に勇者(笑)達の救援を手伝って貰いたかったから、当然ながらステータス的に低いから深層まで連れて行くことは出来ないのだが、それにしても転移陣の護りくらいは任せたかった。

 

 其処に駐屯をしている騎士団員も勿論居るが、王国への報告などやらなければならない事が多々有るし、そもそもにして騎士団長クラスでもないとレベルが低過ぎ、精々が三〇層の転移陣を護るくらいしか出来やしない。

 

 七〇層の転移陣を護るなら【銀ランク】以上の冒険者の力が必須であった。

 

 そんな訳で二階に居た高位ランク冒険者に対する大暴露を晒し、しかも任務となるのがまさかの第七〇層に在る転移陣の守護だとか。

 

 幾ら何でも尻込みをするだろう。

 

 あの冒険者ギルド内のピリピリギスギスとした雰囲気はその所為だった。

 

「魔王ってトータスではガーランドの王だよな、僕はそんなに弱そうに見えるのか?」

 

「魔国ガーランドの魔王は相当な実力者と聞く、それを雑魚の如く言うとは随分な大言壮語を吐くものだな……お前さんが言う程の実力者だというなら冒険者ギルド・ホルアド支部長である俺からの指名依頼を受けて欲しい」

 

「……勇者(笑)共の救出か?」

 

 『救出』という言葉を聞いて意識を此方に戻した遠藤浩介はその身を乗り出して叫んだ。

 

「頼む、緒方! 頼れる人間が余りにも少ない。緒方ならやれるんだよな? この際だから天之河を助けろなんて事は言わないから、重吾や健太郎を! 辻や吉野を助けてくれ!」

 

 永山パーティのメンバーである。

 

 そもそもにして遠藤浩介も永山パーティの一員として動いており、永山重吾と野村健太郎は親友と呼べるだけの間柄だった。

 

 ユートと遠藤浩介は互いに苗字呼びをしてるが、その理由は実は親友とまではいかないからだ。

 

 何故なら遠藤浩介とはその妹の遠藤真実(まなみ)を介した友人であったから。

 

 まだ小学生でしかなかった遠藤真実が大学生のナンパ紛いを受けて困っていた際、ユートが助けたのが切っ掛けとなって随分と懐かれた。

 

 この世界では小学五年生を性の対象にしようとして、暗殺された莫迦が居るくらいだからおかしくはないのだろうが……

 

 尚、それは天之河率いる四人組が見ていたらしいのだが、本来の歴史では雫が救出して遠藤真実は【義妹(ソウルシスター)】と化してしまったのだと思われる。

 

 少なくともこの世界線では。

 

 どうやら彼女は天之河美月、始まりの義妹とはクラスメイトらしいから話も聞けたろうし。

 

 処がユートの介入で義妹化は防がれた。

 

 今を以て遠藤真実が雫のソウルシスターといった事実は存在していないし、寧ろユートへ積極的なアタックを繰り返しているくらい。

 

 尚、この際に天之河が『暴力で解決をしようだなんて野蛮だとは思わないのか?』と、自分も同じやり方しか出来ない癖に宣った。

 

 その時点で合わないと確信する。

 

 コイツの場合は自分が『正義』の執行が叶わなかったから議論を摩り替え、此方を罵る事で自らの『正義』を示したいだけだからだ。

 

 天之河云々は兎も角として、真実を助けてからは彼女に家へ連れて行かれ家族である両親と二人の兄を紹介されていた。

 

 遠藤浩介とはそれで出会ったのである。

 

 遊びに行くのも基本的にユートと遠藤浩介へとくっつく形で遠藤真実がというか、遠藤浩介の方が遠藤真実のオマケな扱いだった。

 

 遠藤真実の心の中では。

 

 コブ付きだから……というか本人がコブ扱いだからか、遠藤浩介とはハジメの様な親友枠にまで昇り切らなかった要因だ。

 

「両親だけでなく真実からも頼まれてるしな」

 

「……え? 真実?」

 

「こうにぃを宜しくってさ」

 

「あの真実が……マジに?」

 

「普段は小生意気でも兄妹仲は良好な訳だから、そりゃ心配だってするだろうさ。僕の妹もそんな感じだぞ?」

 

 というよりLOVEだった。

 

「そ、そっか……」

 

 ユートは【神秘の瞳】を持つが故に遠藤浩介を見失わない、それが嬉しかったから友人となった経緯を持っている。

 

 何しろステルス性能は機械すら誤魔化すから、如何な親友たる永山重吾や野村健太郎とはいっても見失うし、果ては親兄妹に至っても見失うのだだからこんな嬉しい事はない。

 

「だから遠藤……否、いい加減で浩介と呼ぼうか。天之河や坂上は兎も角、僕もハジメや中村は心配なんでね。序でにで良ければ助けよう」

 

「本当か! 緒方……否、優斗!」

 

「ああ。ロア支部長、悪いが指名依頼の依頼状を発行してくれないか?」

 

「無償で動くと思われたくないからだな?」

 

「正解」

 

 流石はギルド支部長。

 

「浩介、僕は割と気が合うお前を死なせる心算は無いんでな。それに漸く名前呼びになった途端に死なれてもね」

 

「優斗……」

 

「だから、コイツをやるよ」

 

 それは瓢箪にも見えるガジェット。

 

「これは?」

 

「シノビヒョウタンっていう名前で、シノビドライバーを出せるガジェットツールだ」

 

「シ、シノビ……只でさえ影が薄い俺が暗殺者なんて天職で、今度は影の存在である忍者かよ」

 

 ガクリと四つん這いとなって項垂れる浩介。

 

 そもそもの天職は暗殺者である上に、元の地球でも影の薄さならナンバーワン、自動ドアですら三回に一回しか反応しない程だから相当だ。

 

 まぁ、親友枠にまで超進化して欲しいし勿体無い人材であると考えたし、遠藤真実は将来的には【閃姫】契約も有り得るから準身内扱いで良いと思い仮面ライダーの力を渡す事にした。

 

「取り敢えずは使ってみろよ」

 

「お、応」

 

 シノビヒョウタンを腰に傾けると、リキッドみたいな物が腰に巻き付いた。

 

 即ち【シノビドライバー】と呼ばれるベルトであり、ミライダーとされる仮面ライダーの一角の仮面ライダーシノビに変身が可能なツール。

 

 浩介は【メンキョカイデンプレート】を手に持って、右脚をバッと上げると腰を落として片手を地面に付いたら……

 

「変身っ!」

 

 メンキョカイデンプレートをドライバーにセットし、【シュリケンスターター】を時計回しで回す事で五行を収集。

 

《DAREJA OREJA NINJA……SHINOoooBE…… KENZAN!》

 

 背後に顕れたガマエレメントが口から装備を吐き出すと、遠藤浩介の身体へとそれらが装着されていく。

 

 紫を基調とした忍者っぽい姿、顔には手裏剣を模したアンテナを持ち、センリゴーグルは黄色をしている仮面ライダーシノビ見参!

 

「【忍】と書いて刃の心! 仮面ライダーシノビ!」

 

 何処か香ばしいポーズを決めながら、浩介は高らかに自らの仮面ライダーとしての名前を告げた。

 

 存外とノリノリに。

 

 どうやらこの世界線では深淵卿ではなく、仮面ライダーシノビが活躍する事になりそうだった。

 

 

 

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 本当は一気に大迷宮といきたかったけど……




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第53話:因果の交叉路が交わる瞬間〔後編〕

 まさかの前中後編の三話体制……





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 暫くは苗字呼びが続いていた浩介との仲が進んで親友とまではいかないが、友人枠としてはそれなりな関係となったユートは機嫌良くオルクス大迷宮へと向かう。

 

「そういえば訊いていなかったな」

 

「何がだ?」

 

「ハジメと中村が居て何で敗けた?」

 

 それは微かな疑念である。

 

「僕が一旦戻った際に使っていたG3をハジメは強化していた筈。中村もマイナーチェンジ品であるG3マイルドを使ってなかったか?」

 

「G3ーXとG3マイルドなら使っていたさ」

 

「だろうな。強化用にアザンチウム鉱やシュタル鉱や燃焼石やフラム鉱石、必要になりそうな鉱石を色々と渡しておいたんだからな」

 

 トータス最硬を誇るアザンチウム鉱石。

 

 魔力を籠めると硬くなるシュタル鉱石。

 

 現代兵器を造るのに使えそうな燃焼石やフラム鉱石、序でに硬度8だが冷やすと脆くなって熱すると再び硬化するタウル鉱石や緑光石など。

 

 使い途が解り易い物から与えた上にインストール・カードを渡して、神代魔法たる【生成魔法】も修得させたのだからアーティファクトを造るのに何も問題は無い筈だろう。

 

 本物程に強化されずともそれなりには強くなれたと思うから、ちょっとくらい強力な魔物を嗾けられても大丈夫と考えていた。

 

「強いわ硬いわ石化は使うわ、オマケに回復までされたら二人だけじゃ対処が難しかった」

 

 どうやらそうは問屋が卸さないらしい。

 

「それで中村が力尽きて倒されたんだが……南雲がキレて、何故かギルスに成ったんだ」

 

「そうか、で?」

 

「驚かないのか!?」

 

「何処か驚く要素が有ったのか? ああ、中村がたおれたのは単純に体力が尽きたって事だろう。一応は()()で強化したけどねぇ……」

 

「え、だって……南雲がギルスに成って……」

 

「ハジメにはプロメスの因子を埋め込んであるし変身しても別に驚かんよ。意外なのは不完全変身でギルスに成った事だ。アギトに成ると思っていたからな」

 

「なっ!?」

 

 プロメスとは仮面ライダーアギトの力を死に際に散布した火のエル、オーヴァーロード……闇の力たるテオスに反逆を試みた神の使徒の一柱であった存在。

 

 七柱のエルロードの中で唯一、人間側に味方をしたという火のエルはテオスとの闘いに敗れてしまい消滅、自らの因子を散布して更に沢木哲也の中の因子を喚起させていた。

 

 ユートはそんな火のエルの因子をハジメに仕込んでおいた為、ハジメがアギトかギルスに変身をするのは規定事項に過ぎない。

 

 正確にはアギトライドウォッチから力を採取してあっただけだが兎に角、プロメスの因子による変身はどうやら出来た様だと安堵する。

 

「それで変身した直後に天之河が『南雲が化け物になった。彼奴は魔人族のスパイだったんだ!』とか言って行き成り【天翔閃】を背中から叩き込んだんだ」

 

「……殺すか、莫迦之河勇者(笑)!」

 

「いや、天之河の名前は勇者じゃないんだが」

 

 ユートからしたら勇者なんてレッテルに等しいのだから当然だが罵る言葉として使う。

 

「……若しかして中村にも何かを? 俺にシノビを渡して南雲にはアギト、なら中村もと考えるのは自然だよな?」

 

「まぁね。知らないならまだ使ってないのか」

 

 彼女――中村恵里にはハジメの恋人だからという事で、準身内扱いにより王蛇カードデッキを与えていたのだが……

 

 ハジメのステータスプレートに『???』と書かれていたのが、『光之力』という火のエルを表す技能だったりするが、カードデッキは技能とは無関係だからステータスプレートに表示される事は当然ながら無い。

 

 王蛇だったのは元来ならば中村恵里が裏切りを働く筈……つまりは敵になる予定だったと聞いていたから皮肉な感じにだ。

 

「ああ、中村が何かしようとはしていたんだ」

 

「で?」

 

「天之河が気付いて――『恵里、不意討ちなんていう勇者の仲間として恥ずべき行為はやめるんだ』とか叫んで、逆に魔物に襲われて大ダメージを受けてしまって」

 

「莫迦之河勇者(笑)、役立たずなだけじゃ厭き足らず足を引っ張っているのかよ! 何か助けに行きたく無くなってきたんだが……」

 

 アレを助ける事になると考えたらやる気メーターが急速に下がってしまう。

 

「ちょ、助けるのは天之河じゃなく南雲や中村や重吾達なんだろ!? そうだよな?」

 

「そうだけど……なぁ……ぶっちゃけ、仮面ライダーが一人居れば良くないか?」

 

「俺に一人で逝けと!?」

 

 若干、走る速さが落ちているのを気にしている浩介、しかも仮面ライダーシノビに変身したばかりの自分だけに()()とか鬼畜な。

 

「優斗、後で沢山サービスするからお願い」

 

「わ、私も! 南雲君を助けたいし……」

 

 雫と香織は流石にやり方を心得ていた。

 

 とはいっても、幼馴染みの奇行に雫は頭が痛いとばかりに首を横に振っていたりする。

 

 最早、天之河光輝とは縁切りしたい程に。

 

 香織も快楽に負けユートに走りはしたものの、南雲ハジメを好きだった過去を忘れた訳ではないのだからやはり心配なものは心配だったし、彼女

たる中村恵里はハジメを盗られたとはいえ友達だったのだから助けたい。

 

「な、なぁ」

 

「どうした? 声を潜めて」

 

「八重樫だけじゃなく白崎とも?」

 

「そうだが?」

 

「……金髪ロングや金髪ポニテやウサミミやギルドに置いてきた黒髪ロングのお姉さんも?」

 

「ユエとミレディとシアはそうだ。ティオとはまだ関係はしていない」

 

()()……な」

 

 浩介はいずれヤるんだなと理解したと同時に、真実も相当に苦労するなと、お兄ちゃんとしては同情をするしかない。

 

 確か、優花とも仲が良かったからひょっとしたら他にも複数人が居そうだ……とも。

 

 実に正解である。

 

 よもやハイリヒ王国のお姫様やその侍女すらも喰っちゃったとは思うまい。

 

「取り敢えず莫迦之河がクソ役立たずだっていうのだけは理解した。ならチンタラと走って階層を降りている場合じゃなさそうだな」

 

 ユートは左腰に佩いたライドブッカーを開き、一枚のカードを取り出してネオディケイドライバーを開いて装填。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE FOURZE!》

 

 全身が殆んど白で埋め尽くされ、シャトルにも似ている頭部に橙色の複眼を持った仮面ライダーフォーゼに変身する。

 

「うぇ? ディケイド!?」

 

 驚く浩介を他所に更なるカードを装填。

 

《FINAL ATTACK RIDE FO FO FO FOURZE!》

 

「丁度、この下が戦場みたいだしな!」

 

《ROCKET ON》

 

《DRILL ON》

 

 電子音声というより機械音とも云うべき音が鳴り響くと、ディケイドフォーゼの右腕にロケットモジュールが装着され、更には左脚にドリルモジュールが装着される。

 

「ライダーロケットドリルキィィック!」

 

 天井ギリギリまで飛び上がり、床をくり貫く勢いにて左脚のドリルモジュールを叩き付けた。

 

 床にはポッカリと孔が穿たれ、ユートは下へ下へ突き進んで行くと数秒後には終着点に。

 

 ドガンッ!

 

 凄まじいまでの爆音と共に彼方から見れば天井をぶち抜いて着地、其処にはちょっとばかり大きめな魔物が下敷きにされて死んでいた。

 

 まぁ、稼働するドリルに貫かれた上に仮面ライダーの必殺技として十数tの衝撃を受けるとか、生きていられる生物などそうは居まい。

 

 孔を通じて仲間が雪崩れ込む。

 

「香織はハジメと中村の回復を、然る後に倒れているのは確かクゼリー団長だったか? 彼女の方も回復をしてやってくれ!」

 

「はい!」

 

「ユエとミレディは勇者(笑)一味と永山パーティの護衛を頼んだぞ」

 

「……ん、任せて」

 

「了解だよ!」

 

「シアは石化解除役で谷口を治療」

 

「了解ですぅ!」

 

「雫は僕と敵の迎撃」

 

「判ったわ!」

 

 【閃姫】全員に指示を飛ばすユート。

 

 茫然自失となる勇者(笑)一味と永山パーティ、何が何やら頭がパニックで口を出せない。

 

 【閃姫】達はユートの指令を忠実に守る。

 

「南雲君、恵里ちゃん!」

 

 すぐに香織は手を翳して治療系魔法を発動。

 

 シアも持たされた石化解除薬を谷口 鈴に。

 

 ユエは攻撃魔法の準備、ミレディは結界系魔法を発動させる事で後ろの連中を護る。

 

「重吾、健太郎!」

 

「うおっ?」

 

「だ、誰だよお前は!?」

 

「は? 俺だよ、俺!」

 

「「俺俺詐欺!?」」

 

「何でだぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 気付かれていないステルス状態ではないけど、何故か二人が浩介を認識してくれない。

 

「落ち着け、浩介。今のお前はシノビだ!」

 

「……あ!」

 

 ユートから受けた指摘に漸く自分の今現在の姿を思い出す浩介。

 

「こ、浩介?」

 

「お前、つまり遠藤浩介なのか?」

 

 永山重吾と野村健太郎が驚きを露わとしながら仮面ライダーシノビな浩介に訊ねる。

 

「そうだよ! 援軍を連れて来たんだ」

 

「援軍って……白崎と八重樫はまぁ、判るとして。他のは誰なんだよ? しかも一人は仮面ライダーフォーゼ? いつから宇宙キターと友達に?」

 

 仮面ライダーフォーゼと云えば『友達』だ。

 

「あ、いや……あいつ、優斗だから」

 

「緒方ぁ?」

 

 頭が付いていかない永山重吾。

 

「その姿……お前はいったい何者だ!?」

 

 ユートはフォーゼのカメンライドカードをバックルから取り出して……

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

 

 ディケイドの姿に成りつつ答えた。

 

「って、ディケイドかよ!?」

 

「しかもバックルの色がマゼンタ?」

 

 ツッコミを入れる永山重吾と野村健太郎。

 

「な、何で緒方が……」

 

 未だにボロボロな勇者(笑)が目を見開く。

 

「ゆう君! 南雲君と恵里ちゃんの回復完了! すぐにクゼリー団長さんも回復するよ!」

 

「此方も石化解除完了ですぅ!」

 

 どうやら回復はクゼリー騎士団長を除き恙無く終わったらしい、因みに勇者(笑)と坂上龍太郎の回復は後回しで良いと考えていた。

 

「さて、魔人族。此方も立て込んでいるからな。大人しく帰るなら今回だけは見逃してやるけど、どうする?」

 

「……な、何だって?」

 

 こんな魔物に囲まれた状態で普通の人間のする発言とは思えず、驚愕をしながら魔人族の女は聞き返してくる。

 

戦場(いくさば)での判断は迅速にした方が良いと思うがな。端的に僕は死にたくなければこの場から消えろと言ったんだ。理解したか?」

 

 どうやら自分の聞き違いではないと判断をし、表情を消した魔人族の女は唯の一言『殺れ』……とユートを指差しながら魔物に命令を下す。

 

 魔人族の女はこの突然の事態、しかも虎の子となるだろう【アハトド】が理解の及ばぬ攻撃にて一撃で死んだ事、それにより冷静さを欠いていたからか致命的な判断ミスをした。

 

 アハトドは敬愛する上司からの賜り物の魔物であり、決して失いたくないという思いを持っていたというのに、それを穴を空けて踏み付けにしているユートへと怒りを懐いていたのが原因。

 

 本来の彼女は死の間際にさえ冷静さを欠かない所謂、本物の女戦士といえる存在ではあったのだろうが、感情を持つ生き物であるからには沈着冷静な侭で居られない時もある。

 

「そうか、敵って事で構わないんだな?」

 

 仮面の奥で瞑目しつつ訊ねるが既に攻撃に対する反撃を行う準備は万端。

 

《ATTACK RIDE MACH!》

 

 仮面ライダーブレイドが使うラウズカードと同じ効果を持ったアタックライド、描かれている絵は当然ながら素早く動くブレイドの姿。

 

《ATTACK RIDE SLASH!》

 

 ライドブッカーのソードモード、それの威力を引き上げるアタックライドをすぐに装填。

 

 斬っ! 斬斬斬斬斬っっ!

 

 向かってくるのだけでなく姿を消していた魔物まで、ユートはマッハの効果で忙しなく動き回りながら斬り捨てていく。

 

「なっ!? 莫迦な……」

 

 やはり驚愕を禁じ得ないらしい。

 

「姿だけを消しても気配や魔力なんかが駄々漏れじゃ意味が無いだろうに」

 

 中途半端が過ぎるという事だ。

 

 尤も、武の達人なら単に気配を消しただけなら気配の空白を違和感として感じる為、本当に姿を隠す心算であるなら気配は周囲に溶け込ませる事こそが肝要。

 

「くっ!」

 

 女魔人族は悔しげな表情となる。

 

 そもそも、あれは気配や姿を消す固有魔法だろうに動いたら空間が揺らめいてしまうなどとは、これでは意味がないにも程があるだろう。

 

 奈落の魔物の中にも気配や姿を消せる魔物は居たが、どの魔物も余りに厄介極まりない隠蔽能力を持っていたのだ。

 

 それらに比べれば動くだけで崩れる隠蔽など、ユートから視たら正しく稚拙なものである。

 

「ならば!」

 

 蝙蝠の身体に猫の頭が付いた魔物が大量に迫り来るのを受けて……

 

「シア!」

 

「はい、ですぅ! 変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 以心伝心と云わんばかりにユートの言いたい事を汲み取り、シアは予め手にしたザビーゼクターをライダーブレスに填め込みザビーに変身。

 

「キャストオフ!」

 

 すぐにザビーゼクターを半回転させる

 

《CAST OFF CHANGE WASP」

 

 弾け飛ぶマスクドアーマー、その下からライダーフォームの仮面ライダーザビーが現れた。

 

《FINAL FORM RIDE THE THE THE THEBEE!》

 

 そのカードはザビー用のファイナルフォームライドのカード、主役ライダーのみが取り上げられる番組故に原典には存在しないカード。

 

「ちょっと擽ったいぞ」

 

 シアの背後へと廻って何かを開く様に腕を広げると、何やらパーツが付いて曲がってはいけない方角に首やら腕やら腰やらが曲がりながら変形、その姿はまるで巨大なザビーゼクター。

 

「ザビー・ザ・ビーだ!」

 

 更にカードを装填。

 

《FINAL ATTACK RIDE THE THE THE THEBEE!》

 

 尻尾的な部位を曲げて敵に向ける。

 

「ザビー・スティンガー!》

 

 ドパパパパパパパパパパパパパパンッッ!

 

 連続で放たれる蜂の針が猫蝙蝠を貫いた。

 

「わ、私もあんな変形をしたんだ……」

 

 以前、サソード・ソードにファイナルフォームをした雫なだけに青褪めてしまう。

 

 キメラと云える合成獣っぽい魔物が地を駆けてユートへと迫るも、ユートは普通にカードを取り出してサイドハンドルを開きバックルを九〇度で回転、ラウズリーダーへとカードを読み込ませてやると電子音声が鳴り響く。

 

《ATTACK RIDE GIGANT!》

 

 それは低空対地用の四連装ミサイルランチャーを喚び出すカード、仮面ライダーG4が使う兵器で威力も凄まじい火気だった。

 

「発射」

 

 トリガーが引かれて放たれるミサイルがキメラへ向かって飛翔、けたたましい爆音と震動を起こしながら地面にクレーターを作りキメラが粉砕されてしまう。

 

 序でにと云わんばかりにライドブッカーをガンモードに換えると、サイドハンドルを引きライドリーダーに金色でディケイドのライダークレストが描かれたカードを装填。

 

「だから、それで隠れた心算か?」

 

 ユートは何も無い場所に銃口を向ける。

 

《FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!》

 

 トリガーを引けばディケイドのクレストを描かれているエネルギーのカード一〇枚が出現して、銃口から放たれた攻撃は一枚を潜る毎に増幅をされていき破壊力を増していった。

 

 攻撃そのものはディエンドのファイナルアタックライドと大して変わらない。

 

「なにぃ!?」

 

 ブルタールに似て非なる、恐らくはブルタールを基型に変成魔法で強化したブルタールモドキの魔物が纏めて数匹が貫かれた。

 

「例え動かずとも風の流れに大気や地面なんかの震動に視線や殺意に闘氣に魔力の流れに体温等、これらを誤魔化せていない時点で単なる射的の的でしかないな」

 

 最早、斃してしまった魔物には目も向けないでユートは新たな殺戮劇を演じるべく動く。

 

 唖然となる女魔人族に仮面ライダーという一応は城で一回くらい見たにせよ、その力には度肝を抜かれて立ち尽くしている勇者(笑)達。

 

「チィッ、行け!」

 

 だが女魔人族もぼうっと視ている心算などある筈も無いらしく、すぐに多数の狼モドキな魔物を

ユートへと嗾かけてきた。

 

「させないわよ! 変身っ!」

 

《HENSHIN!》

 

 雫は仮面ライダーサソードに変身。

 

「コ、コイツもか!」

 

 女魔人族は忌々しげに呟く。

 

 斬! 斬! 斬っ!

 

 雫はマスクドフォームの侭でサソードヤイバーを揮って縦横無尽に斬り捨てていった。

 

「くっ、鈴も皆を護らなきゃ……」

 

「鈴ちゃん、無理をしないで」

 

「だけど、護りが……結界師である鈴の、仕事」

 

 クゼリー騎士団長の治療も済んだ香織に石化から戻ったばかりの谷口 鈴が宥められるが、自らの仕事として結界を張る事をやろうとフラフラしながらも動く。

 

「……心配は要らない」

 

 其処に立つはミニマムながらも何処か立ち上る

淫靡な雰囲気を持つ吸血姫、ミレディ・ライセンの魔法を正しく受け継ぐ大魔術師である。

 

「……黒天窮」

 

 迸るスパークの中心に小さな闇の球体が出現、そいつは一種のブラックホールにも等しい魔法であり、回転しているかの如く渦巻いた漆黒の球体は直径数m程のの大きさに膨れ上がり、超絶的な勢いで周囲の一切を空間ごと捩じ切りながら中心部へと圧縮をして魔物を吸い込み、その存在ごと消し去ってしまうのだった。

 

「うんうん、とっても素晴らしい威力だよ。流石は我が愛弟子だねぇ」

 

 規模も威力も申し分の無い黒天窮にミレディはどうやら御満悦だったらしく、うんうんと頷きながらドヤ顔でお誉めの言葉を口にする。

 

「……ウザい」

 

 そのドヤ顔にイラっとしたが……

 

「そ、そんな莫迦な事が?」

 

 自慢の魔物が尽く屠られていく。

 

「あ、あの御方に賜った魔物が次々と!」

 

 信じられないという思いが強い女魔人族に対して質問を投げ掛けるユート。

 

「お前の目的は何だ?」

 

「は、話すと思うのかい? 人間族に有利になる様な事をこの私が」

 

「いや、一応の質問さ。それと人間族とか魔人族とかは僕には関係無い。見たら判る通り亜人族が普通に仲間に居るんだぞ?」

 

「くっ、化け物め……」

 

「天才、化け物。思考停止した奴が越えられない存在を揶揄する言葉だ。底が浅いからそんな科白が出てくる」

 

「ぐぅ……」

 

 最早、ぐぅの音しか出ない。

 

「ゆ、優斗……」

 

「無事で何よりだ、ハジメ」

 

「う、うん」

 

 ユートの隣に立つハジメ。

 

 背中に斬り裂いた痕があるものの、傷に関しては確りど治癒している様で胸を撫で下ろす。

 

「仮面ライダーG3から仮面ライダーギルスに……ならば次は判るな?」

 

「僕は芦河ショウイチ枠?」

 

「それもアリだろ? 津上翔一には成れなかったかも知れないが、それでもお前ならきっと成れると思ったからプロメスの因子を与えたんだ」

 

「やっぱり優斗が原因だったんだね」

 

「でなけりゃ、ギルスに成る訳も無いだろ」

 

「ふふ、そうだね」

 

 ハジメは取り敢えず自分に起きた変化に気付いていたからか、起きても特に混乱をしている様子は見受けられなかった。

 

「ま、待て! 南雲は怪物で魔人族の仲間だ! それなのに……緒方も魔人族の仲間なんだな?」

 

「もう黙れよ勇者(笑)。お前の御託は疾うに聞き飽きたんだからな」

 

「なっ!?」

 

 動こうとする天之河光輝だったが、ドスン! という轟音に阻まれた。

 

「君は!?」

 

「邪魔するなら私が容赦しませんよ」

 

 仮面ライダーザビーたるシア・ハウリアが手にしている鉄鎚、アイゼンⅡが轟天モードで天之河の目の前に落とされたのだ。

 

「ふっ、はっ!」

 

 キィン! 甲高い音を鳴らしながらハジメの腰に装着されるのはギルスのメタファクターではなくて、正しく仮面ライダーアギトのオルタリングであったと云う。

 

「変身っ!」

 

 烈帛の気合いを籠めて叫びつつベルトの両サイドに有るスイッチを押した。

 

 ベルト中心部の【賢者の石】からオルタフォースと呼ばれるエネルギーが噴出、ハジメの全身を包み込んで筋肉や器官を超人の如く強化。

 

 ワイズマンモノリスを胸部中央に持ち、黒色のインナースーツに金色のパワーシェルアーマー、赤い複眼を持つ仮面ライダーアギトに成る。

 

「アギトに……成れた!」

 

 ギルスは怪物感が高い姿をしているが、やはりアギトは同じ怪物感でもヒーローと呼ぶに相応しい姿であると云えた。

 

「動き出してる未来は誰にも止められないんだ。この先のPOSSIBILITYは僕達だけのモノ!」

 

「ああ、そうだ。誰の為でなく挑む事を恐れない事こそが未来への進化だ!」

 

 ユートが一枚のカードを取り出す。

 

《FINAL FORM RIDE A A A AGITΩ!》

 

「ちょっと擽ったいぞ」

 

「げっ、本格的に芦河ショウイチ!?」

 

 何だか曲がってはいけない方角に曲がりながら変形をするアギト、それは本人が乗るバイクが変形した様な姿――アギトトルネイダー。

 

「中村、来い!」

 

「オッケー」

 

 未だにG3マイルドな中村恵里がアギトトルネイダーに乗り、ユート自身も乗り込んで空中を往くサーフボードの様に浮遊しながら動く。

 

 狙いは六本脚の亀モドキのアブソド。

 

 口を開いて白いエネルギーを吐き出さんとしているのが見えるが、これは自爆しようとクゼリー騎士団長が【最後の忠誠】なるアーティファクトから吸収した魔力だ。

 

《FINAL ATTACK RIDE A A A AGITΩ!》

 

 必殺技のディケイドトルネード。

 

 端から視れば【仮面ライダーディケイド】放映版での再現とも云え、アギトトルネイダーに乗るディケイドとG3の姿。

 

 まぁ、G3マイルドだけど。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 放たれた純白の光線を斬り裂く様に突き進み、ユートはライドブッカーソードモードでアブソドを斬り、恵里は背後からGGー02サラマンダーというグレネードランチャーを放つ。

 

 斬っっ! 轟っっ!

 

 二つの必殺攻撃に加えて更にアギトトルネイダー自身の突撃をも喰らい、硬い甲羅に覆われていたアブソドは堪らず爆発してしまった。

 

「あ、嗚呼……」

 

 アハトドだけでなくアブソドまで喪う、女魔人族にとっては悪夢の連続としか思えない出来事に呆然となる。

 

「今一度訊ねよう。此処で何を企んだ?」

 

「う……」

 

「話せば命だけは助けるが……」

 

「それで私は肉奴隷かい? 冗談じゃない」

 

「捕虜にする気は無いんだけどね」

 

 捕まれば肉奴隷は特に否定していない。

 

「ま、話さなくても理解はしている」

 

「な、なにぃ!?」

 

 わざわざ魔人族が大迷宮に居る理由なぞそんなに多くはないし、そもそもにして既にやっている事も鑑みれば想像はつく。

 

「このオルクス大迷宮には真の大迷宮を目当てに来たんだろう? つまりは神代魔法を獲る為」

 

「なっ!?」

 

「お前達、魔人族の誰かが魔国ガーランド領内の大迷宮で変成魔法を入手。それにより魔物の強化と従属化が可能となり、お前みたいな魔物使いが出てきた訳だからな。処が他の大迷宮は人間族の領地が殆んどな上に後は亜人族の国だ。だからこそ準備に時間が掛かったんだろうね」

 

「魔法の名前まで?」

 

「フッ、此方は神代魔法の担い手だった本人からの情報があったからな。何処に誰の何の神代魔法が有るか全てが判っているのさ」

 

「っ!? そうか、お前も攻略者という訳か! ならばその化け物染みた力も頷ける よもやあの御方と同様の者が居たとはねぇ」

 

 どうやら神代魔法の担い手たる人物を崇拝しているらしい女魔人族、左手首に巻いていた白い包帯らしき物を解き始める。

 

「こうなれば……私に力を貸しな! 仮令、資格が無くても今この時しか無いんだからね!」

 

 高らかに右腕を掲げて叫ぶ。

 

「その左手首のは!」

 

「わ、私のブレスと似てるですぅ」

 

 ユートもシアも驚く。

 

「しまった!」

 

 気付いた時には遅かった。

 

 空間を破って顕れた何かが女魔人族の右手の中へ納まっており、それを左手首に装着されている機械的なブレスレットに填め込んだ。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 銅色のそれを中心にインナーとアーマーが形成され、女魔人族の姿を全く別のナニかへと徐々に変えていく。

 

《CHANGE BEETLE!》

 

「仮面ライダーケタロス……だと!?」

 

 それは【仮面ライダーカブト】の劇場版に登場をする仮面ライダー、金銀銅の三色のライダーが存在していてケタロスは銅ライダーだ。

 

 ケンタウロスオカブトをモチーフとしており、マスクドフォームは三ライダー共に無い。

 

「カメンライダー? 貴様が名乗った?」

 

「誰から手に入れた?」

 

「何?」

 

「そいつを誰から手に入れた?」

 

 目的云々より遥かに殺気立っていた。

 

「知らないわね。私はあの御方から授かっただけだし、これがカメンライダーとやらだとは知らなかったわ」

 

「そうか、ならばそれは此方が戴こう」

 

「何を?」

 

「カブティックゼクターを戴かせて貰う」

 

「授かりながら今まで使えずにいたこれを使えたからには最早、お前達に勝ち目は無い!」

 

「それはどうかな?」

 

 仮面ライダーディケイドと仮面ライダーケタロスが互いに向き合い、そして武器をその手に持って動き出す。

 

「クロックアップ!」

 

《CLOCK UP!》

 

 どうやら使い方は識っているらしい。

 

 ガキィッ!

 

「なにぃ!?」

 

 超絶スピードに加えて死角からの攻撃にも拘わらず、ユートは女魔人族――仮面ライダーケタロスの攻撃を防いで見せた。

 

 マグレではないとばかりにユートは攻撃を幾度も受けながら防ぐ。

 

「莫迦な!? 見えているのか?」

 

 仮に違う時間軸に身を置くにしても物理的に此方へと干渉するという事は即ち、逆説的に此方も彼方へと干渉が可能であるという事だ。

 

「只、迅いだけの攻撃など通じんよ」

 

 干渉が出来るならユートは攻撃も防御も可能、視るに特化した【神秘の瞳】は伊達ではない。

 

「とはいえ面倒は面倒か」

 

 楽に闘えるならそうしたいのだ。

 

 ヴーン! ライドブッカーからカードを引き抜くと、サイドハンドルを引いてライドリーダーを回転させてカードを装填すると……

 

《KAMEN RIDE KABUTO!》

 

 ディケイドカブトへと変身した。

 

「な、何だと!?」

 

「仮面ライダーカブト。ケタロスとは同型でね、それがどういう意味か解るか?」

 

「同型?」

 

《ATTACK RIDE CLOCKUP!》

 

「なっ!?」

 

 思わずクロックアップする。

 

《CLOCK UP!》

 

 互いにクロックアップをしているからには周りの人間には見えてないが、互いに互いを認識する事が出来ているという事である為、ライドブッカーソードモードとゼクトクナイガンがぶつかり合って火花を散らしている。

 

 とはいえ、女魔人族は近接戦闘が得意なタイプでは無いらしくケタロスの能力と合致していないみたいで、そもそもが近接戦闘を得意としているユートには圧され気味であった。

 

「くっ!」

 

《CLOCK OVER!》

 

 制限時間によりクロックアップ終了し、二人の姿が再び現れた。

 

「クソ、何て事だい!」

 

 どうやら元々はカブティックゼクターに認められてはいなかったらしく、変身そのものが初めてだった女魔人族は同じ仮面ライダーと闘った経験処かまともに使ってすらいない様だ。

 

(カブティックゼクターは三つ、ケタロスカブティックゼクター以外にヘラクスカブティックゼクターとコーカサスカブティックゼクターが在る。恐らくは彼女以外に最低限、二人の劇場版仮面ライダーが魔人族側に居るんだろうな)

 

 金のコーカサスに銀のヘラクス……残りの二人が誰なのかまでは判らないが……

 

「そろそろ終わりだ」

 

 サイドハンドルを引いてライドリーダーにカードを読み込ませる。

 

《FINAL FORM RIDE SA SA SA SASWORD!》

 

「ちょっと擽ったいぞ」

 

「また!?」

 

 変形していくサソードな雫、巨大なサソードヤイバーへと変わりユートの手に納まると、カード

を新たに装填した。

 

 サソード・ザ・ソードである。

 

《FINAL ATTACK RIDE SA SA SA SASWORD!》

 

 黒く粘つく液体が刃から滴り落ちた。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! 我が魂はガーランドと共に在りぃぃぃぃっ!」

 

 逃げる間も与えられずに吹き飛ぶ女魔人族から離れていくカブティックゼクター、ユートは素早く飛翔していたそれを確保してしまう。

 

「くっ、上級防御魔法が素通り?」

 

「僕のスキルに【不撓不屈】ってのが有ってね、如何なるレベル差も防御も最低でも一〇%の確率で貫くものだ」

 

「ば、莫迦な……そんな技能、聞いた事も」

 

 それは無いだろう、異世界の少女を抱いた際にコピーをしたスキルなのだから。

 

 ギリギリ、本当にギリギリの数えで一二歳だったから幸いしたというべきか。

 

 本来ならコピーだと劣化するけどこのスキルは特に劣化する事も無く、フルスペックでの使用が出来ているけど実は回数が二回になっている。

 

 元の持ち主な本人は三回まで使えるけど。

 

「遺言を聞く心算は無い。捕虜にして辛い思いをさせようとも思わない。トドメを刺すのがせめてもの慈悲だと思え」

 

「感謝しよう。だけど心しな、私の恋人が、ミハイルがあんたをいつかは殺すよ」

 

 女魔人族は敗北した時点で覚悟を決めたらしく瞑目をしており、その時をジッと待っているといった風情であったと云う。

 

「無駄だね。僕は神殺し、カンピオーネでもあるんだ。神を名乗る奴に踊らされている程度じゃ、僕には敵わないさ。逆に殺してやるから地獄で添い遂げるが良い。だがその覚悟は敵ながら見事、訊いておこう……貴公の名は?」

 

「……カトレア」

 

「っ! そうか、ならば御免!」

 

《FINAL ATTACK RIDE KA KA KA KABUTO!》

 

「ま、待て、緒方! 彼女はもう戦えないんだから何も殺す必要は無いだろう!」

 

「あ? 何を言ってんだあの脳味噌があっぱらぱーな御花畑勇者(笑)は……」

 

 ユートは無視を決め込む。

 

「そうだ! 捕虜にすれば良い。無抵抗の人を殺すなんてのは絶対に駄目だ。俺は勇者だぞ、緒方も仲間なんだから、この場は勇者たる俺に免じて引いてくれ!」

 

 既に知った事かとカブトの必殺技のライダーキックの体勢へと移行している。

 

「くそ、ならば!」

 

 天之河光輝は表と裏で緑と茶の違う色を持った機器を手にすると、それをいつの間にか着けていたベルトのバックルに填め込む。

 

「確かこいつには殺さないシステムが!」

 

《HENSHIN!》

 

 緑を主体にしたアーマーに赤い複眼を持つ異形な姿へと変わる天之河光輝。

 

《CHANGE KICK HOPPER!》

 

 それはマスクドライダーシステムで番外に位置しているホッパーゼクター、変身を完了してすぐにベルトのスイッチを操作する。

 

《CLOCK UP!》

 

 高速移動からホッパーゼクターの脚の部位を引き上げて……

 

《RIDER JUMP!》

 

 ジャンプ後に再び元の位置に脚を戻した。

 

《RIDER KICK!》

 

「オォォォリャァァァァァッ!」

 

 クロックアップ無しのユートでは流石に追い付かず、勇者(笑)天之河光輝の愚行を止める事すらも出来ずにカトレアはキックを喰らう。

 

 右脚のアンカージャッキが弾かれ……

 

「嗚呼ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 カトレアがその勢いでド派手に吹き飛ばされた後に爆発を起こした。

 

「これで捕虜に出来る。龍太郎、彼女を連れて来てくれないか?」

 

「え゛……俺がか?」

 

 凄く嫌そうな顔でノロノロと立ち上がると、仕方がないとカトレアが吹き飛ばされた方向へと歩いて向かう。

 

 ホッパーゼクターを解除した天之河光輝は鼻で

嗤いつつユートに対してドヤ顔を向けてきた。

 

 『どうだ』と言わんばかりに。

 

「童貞卒業、おめでとう」

 

 そんな勇者(笑)にユートは冷めた表情で……とはいえ仮面で見えないが、蔑む口調となり祝福の言葉を紡ぐのだった。

 

 

.




 もうすぐアニメ版のラストに……




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第54話:勇者(笑)と勇者は似ている様で違う

 本作はありふれ世界で起きてもおかしくない事を別作品から登場人物を出して起こします。

 例1――地球で政治犯やテロリストが頻繁していて小学生暗殺者が殺して回る。作品は【CANDY&CIGARETTES】

 例2――地球から異世界人が教会と無関係に顕れた場合のトータス人の対処。作品は【盗掘王】と【異世界に救世主として喚ばれましたが、アラサーには無理なので、ひっそりブックカフェ始めました】

 例3――強力な技能だけどマイナスも有って奴隷になりそうな少女。作品は【商人勇者は異世界を牛耳る!~栽培スキルでなんでも増やしちゃいます~】

 まぁ、出すのはヒロイン枠だけですが……





.

「童貞卒業って、確かに俺は童貞じゃないけど、今は関係が無いだろう」

 

「童貞卒業は隠語だよ」

 

「は?」

 

 理解していないらしい勇者(笑)。

 

 ユートは変身を解除して仲間達の方へ。

 

「皆、御苦労様だったな」

 

「また変形させられたしね」

 

 雫はサソードの変身を解除しながら何だか遠い目をして呟いた。

 

「私は南雲君の役に立てたから」

 

 もう互いに違う相手とヤっちゃってるから香織も既に、ハジメとは添い遂げられない事は理解もしているのだがやはり後悔もあるらしい。

 

「ん、御褒美待ってる」

 

「私としては一晩中愛して戴ければと」

 

 ユエとシアは欲望丸出し、朗らかな笑顔になって言う。

 

「やぁやぁ、ミレディちゃんの活躍が魅せられなかったのは残念だったかな?」

 

「然り気無く重力魔法で皆を援護してたろ」

 

「あり? バレてたか」

 

 巧みに重力魔法を使ってのサポート、派手さには欠けるがミレディの働きは大きかった。

 

「ティオにも帰ったら褒美を考えないとな」

 

 ミュウの面倒をみてくれているのだから正しく内助の功というやつであろう。

 

「おい、緒方!」

 

 納得のいかない勇者(笑)が話し掛けるタイミングで……

 

「持ってきたぞ、光輝」

 

 坂上龍太郎が戻ってきた。

 

 気持ちの悪い遺骸を、ポタポタと流れる血に汚れながらそれを手にして。

 

「ああ、待っていた……ぞって、龍太郎? 俺はあの女魔人族を連れてきてくれって言ったんだぞ。何で魔物の死骸を持ってきたんだよ?」

 

「何を言ってる。だからこれがさっきの女魔人族の()()なんじゃないか」

 

「……は? 遺体って、そんな筈があるものか! 仮面ライダーってのは殺さない機能が付いているんだろう?」

 

「お前、何を莫迦な……仮面ライダーって怪人を斃すのが目的に造られるんだぜ? 殺さない機能なんて有る筈が無いだろうに」

 

「なっ!? だって緒方や雫のは!」

 

 何を勘違いしているのか理解はしたが、女々しいにも程がある科白を宣う天之河光輝。

 

「非殺傷設定の事を言っているなら勘違いも甚だしい。僕の製作したライダーシステムには手加減用に非殺傷設定を付けてるが、それ以外にそんなもんは付いていない。カトレアのヘラクスにも、天之河のキックホッパーにも……な」

 

「な、んだと……」

 

 よろける天之河光輝を支える者は居ない。

 

「言った筈さ、童貞卒業おめでとうと。この場合の童貞ってのは性経験の無い男って意味じゃなく殺人経験の有無を指す」

 

「さ、殺人!?」

 

「因みに、一応は女の子の場合は処女扱いされるものではあるが、一般的に童貞と称される場合もあるな」

 

 どうでも良い話だが……

 

「ち、違う……俺は殺人なんてしてない……」

 

「カトレアを殺害したのはお前だろ天之河」

 

「殺人は悪しき行いだぞ! やって良い事じゃないんだ。俺は殺ってない!」

 

「確かに殺人は忌避されるべきだ。だけどそれが許される事態もある」

 

「莫迦な! 有り得ない!」

 

「あるさ。それが戦時中に敵兵を殺害する事」

 

「っ!?」

 

 ビクリと肩を震わせる。

 

「戦時中、敵兵を殺すのに忌避感を感じたり罪に問うたりしていたら戦えないだろうに」

 

 それは至極尤もな話。

 

 そもそも、戦争の最中に敵兵を殺す度に罪になるなら誰も兵士になんてならない。

 

「だ、だが!」

 

「戦時中は寧ろ殺さない方が非国民とか言われて罵られ、更には村八分にだってされてしまう案件なんだよ。良かったな、魔人族と戦争の真っ最中だから誰も天之河を責めんよ」

 

 ニコリと笑いながら言うユートに混乱をしている天之河、『違う違う』とブツブツ呟いているのが些か鬱陶しい。

 

 まぁ、ユートからしたら天之河光輝なんてどうでも良い存在でしかないのだし、いつまでもこのオルクス大迷宮に居る心算は無かった。

 

「そろそろ戻るぞ。ああ、坂上」

 

「な、何だよ?」

 

「カトレアの遺体は此方で引き取る」

 

「え、ああ……」

 

 いつまでもヒトの遺体を抱いていたく無いのか異論は挟まず渡してきた。

 

 ユートはその遺体をアイテムストレージに仕舞ってハジメ達を促し地上へ向かい、そんなユートらを追う形で勇者(笑)一味や永山パーティも動き始める。

 

 変身は解除をしてしまっているが、既に全員が回復も済ませているから上層の魔物なんて相手にはならない。

 

 上澄みとはいえ、仮にも九〇層まで降りたのは伊達ではないという事であろう。

 

「ねぇ、緒方君」

 

「どうした、辻?」

 

 香織以外でもう一人の治癒師である辻 綾子が話し掛けてきた。

 

「クゼリー団長は大丈夫なの?」

 

 今はまだ絶賛気絶中のクゼリー騎士団長、それはメルド・ロギンスの代わりに騎士団長を任された女性騎士、普通なら副団長が繰り上がりで任命されるのだろうが、ホセ副団長は自分には荷が重いと拒否していたのが理由らしい。

 

 実力的には問題無いクゼリー団長だったが、如何せん相手は神代魔法の強化を受けた魔物に基本的には人間族より強い魔人族、経験不足が否めなかったという処だ。

 

「危なかったが大丈夫。香織の治療系魔法は可成り高いからな。それにエリキシル剤も飲ませてあるから傷痕も残らんよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 ホッとした様な悔しい様な複雑な表情をしている辻 綾子ではあるが、それはクゼリー団長が助かったのと香織の能力の高さによるものだろう。

 

 途中に騎士団が確保していた転移陣を使っての大幅なショートカットが出来るから、思っていた以上に時間が短縮出来たのは少し嬉しい。

 

 クゼリー団長も助かったとはいえおかしなアーティファクトを使って、身体も精神も疲弊し切ってしまっているから早く休ませたいし。

 

 程無くして入口まで戻ってきていた。

 

「おや?」

 

 オルクス大迷宮を出たら何故か凄まじい人数の戦力が並んでおり、その先頭にはロア支部長の姿が在った上にスールード――鈴鳴も受付嬢スタイルの侭で立っていた。

 

「ロア支部長、何なんだこの騒ぎは」

 

「何って、お前達の援護の為に人手を集めたんじゃないか! まさか終わったのか?」

 

「ああ、勇者(笑)とその一行は無事だ」

 

「そ、そうか」

 

 勇者(笑)が無事と聞いたロア支部長は集めていた戦力を解散させる。

 

「パパ~!」

 

『『『パパァァッ!?』』』

 

 ミュウを知らない者達が叫んだ。

 

 パタパタと小さな足音を立てながら駆け寄ってくるのは、翠石色のふわっとした髪の毛を揺らす海人族の幼女たるミュウ。

 

「おっと」

 

 抱き付いて来たミュウを優しく受け止めてやり抱き上げると、キョロキョロとミュウの保護者役を任せていた人物を捜す。

 

「ミュウ、迎えに来たのか? 近くに居ないみたいだがティオはどうした?」

 

「うん、あのね……ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰って来るかもって言ってたの。だから御迎えに来たの。それでティオお姉ちゃんは……」

 

「主殿よ、妾は此処じゃよ」

 

 人混みを掻き分けて腰まで伸ばした黒髪に金瞳の美女――ティオが現れた。

 

「ティオ、こんな場所でミュウから離れるというのは迂闊だろ」

 

「きちんと目の届く所に居ったよ。ちょっと不埒な輩が居ての、幼子に凄惨な光景なんぞ見せられんじゃろう?」

 

「オッケーオッケー、それならしょうがないかも知れんな。それで? その自殺志願の愚者は何処に居るんだ?」

 

「主殿、それなら妾がきっちり〆ておいたから落ち着くのじゃよ」

 

「何だつまらん。まぁ、良いか」

 

「ホンに、主殿は子離れが出来るのかの?」

 

「案外とする必要は無いかも……な」

 

「うん?」

 

 意味が判らないと首を傾げるティオ。

 

 ユートが教えられた限り、ミュウの母親であるレミアは未亡人の侭で数年間を暮らしている。

 

 夫はミュウがまだお腹の中に居た頃に事故死をした様で、当然ながら行き成り再婚なんて出来る筈もなくてミュウを産んでからも独り身。

 

 とはいえ、ミュウが産まれてから早四年。

 

 周りに支えられてもいるし、再婚相手を目指す男共が下心込みとはいえ色々と面倒も見てくれているから取り敢えず生活はどうとでもなるけど、ミュウが父親の存在を求めているのも理解しているからこそいずれは……とも考える頃合い。

 

 其処に『パパ』と呼ばれる男が登場。

 

 原典ではレミアはミュウの科白に合わせる様にしてハジメを『アナタ』と呼んでいたとか。

 

 恐らく同じ事になるだろう。

 

 ユートは契約上で処女を求めるが別に処女厨という訳ではないし、寧ろ美しい未亡人なら問題無いとばかりに喰ってしまうタイプだ。

 

 まだレミアの容姿は知らないが、ミュウの容姿を究極進化させればだいたいの容姿は判る。

 

 尚、進化したら中学生、超進化で高校生くらいの年齢を想像した感じになり、究極進化で大学生~新婚さんくらい……二十代半だろうか?

 

 美女な未亡人なんて美味しいだけだから今から楽しみだとユートは思っていた。

 

 しかも夫はレミアが妊娠中に死んだ訳だから、実はそれ程に抱かれていた訳でもない。

 

 初夜から数えても三ヶ月くらいで妊娠が発覚をしていて、其処から抱いていないなら正に百夜もヤれていない可能性が高かった。

 

 ならばワンチャンあるだろう。

 

「兎に角、用事は済んだ」

 

「その様じゃの」

 

 後ろに見慣れぬ集団が居るのはティオからも見えていたし、それが謂わば勇者(笑)の集団なのも理解をしている。

 

 青い顔で何やらぶつくさと呟いている顔だけは良さげな男、偶にユートがキラキラ勇者(笑)とか言っているからアレが勇者(笑)だと判断。

 

(主殿に比べるのも烏滸がましいのぉ)

 

 そして早々に見切りを付けた。

 

 実力的にも精神的にも勝る処か拮抗に辿り着ける部分すら無く、恐らく座学やスポーツ辺りならカリスマ性を発揮する所謂、優等生タイプでしかないと考える。

 

 恐らくまともに誰かを殺した事も無かったのだろうが、眼の濁り具合からどうも初めて誰かしら殺害したらしい。

 

 しかも何だか呟きは否定的なものばかり。

 

(いかんのぉ、アレはいずれ堕ちる。まぁ、主殿が気に掛けぬ相手なればどうでも良いか)

 

 ティオとしては未だに抱かれてもいない内から嫌われたくはなかったし、ユートの考えを最優先に考えた結果として勇者(笑)は放置。

 

 無論、単なるイエスマンになる心算は無い。

 

 これでも数百年を越えて生きてきたのだから、多少なり他より知識の上で役に立てる。

 

 嘗ての吸血姫も知識的には二〇年くらいで止まっているし、十代なシア達は及ぶべきもないのはティオも理解していた。

 

 ならば参謀的な立ち位置に成れるだろう。

 

 ティオがユートを『主殿』と呼び、肉体関係を結ぶ事すらも厭わないのは理由があった。

 

 今はユートにも言えない理由、それは理知的だと云われている竜人族にあるまじきもの。

 

 とはいえ、ユートを慕うのは本当だ。

 

 元よりティオは自らを打ち負かせるだけの男に嫁ぐと考えていたし、集落で近い年頃の男は誰もティオには敵わなかったのもある。

 

 そんなティオにユートは一対一で勝った。

 

 これ程の戦士ならば種族の違いなど問題では無いと、敗けたその時からティオはユートと添い遂げる意志を固めていたのである。

 

 優れた雄には雌が群がるものだとティオ的には他の娘達の存在を認めてもいたし。

 

 ミュウを任されるのも信頼の証しだと受け取っており、取り敢えずは早めに閨に呼ばれたいというのがティオの差し当たりな目的。

 

 そんな中で小柄且つ水色の髪の毛を動き易い様に肩口で揃えた革鎧に金棒を持つ少女が、何故かオロオロとしながら辺りを見回していた。

 

「あの娘御は何をオロオロしとるのかの」

 

 恐らくは彼女も勇者(笑)救助隊の一員として雇われていた一人、いったい何故にあんなに困り果てているのだろうか?

 

「どうしたのかの?」

 

「あ、う……御仕事がぁ……」

 

「うん? 仕事とな?」

 

「今回の御仕事はランクフリーで役割さえ果たせば依頼料もそれだけ増える歩合制でしたのに! 入る前に終わっちゃいました~!」

 

「何とまぁ、美味しい仕事だったのじゃな」

 

「はい」

 

 勇者の救助隊は可成り重要――少なくともトータスでは――な事だけに、ロア支部長も相当に報酬面で奮発をしたらしい。

 

「それなのに~、これじゃ借金の利息すら返せなくて奴隷にされちゃいますよ~!」

 

「それはまた、難儀じゃな」

 

 ユートが仕事の始まる前に終わらせたから一人の少女が奴隷堕ちというのは、ティオとしてみればちょっと看過が出来ない事柄である。

 

 一応、参加しただけで獲られる報酬も有るのだかそれではやはり足りないという事らしい。

 

「ふむ、なれば仕事を無くした我が主殿に()うてみるかの?」

 

「……へ?」

 

 水色髪な少女は目を真ん丸にして驚いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで連れて来た……と?」

 

「うむ」

 

「とはいえ、それを然も僕の所為みたいにいわれてもな。急がないとハジメが死んだら目も当てられないし」

 

「確かに。まぁ、この娘も色々とあるのじゃよ。それに借金奴隷となっては不幸じゃろ?」

 

「不幸ではあるが、トータスでは普通だろ」

 

「日常茶飯事じゃな」

 

 何処かで大抵が起きる出来事なのはフューレンで確認済み。

 

 そもそも、今はユートの腕の中で眠るミュウがその犠牲者の一人ではなかったか?

 

「それで、ティオはこの子にどうしろと? 報酬が減った分の補填か? だけど歩合制ならつまり彼女……えっと……僕は優斗。君の名前は?」

 

「あ、申し遅れました。私はメーネです」

 

「妾はティオじゃ」

 

 序でにティオも名乗る。

 

「勇者(笑)の救助隊として仕事をする筈が当てが外れたとか聞くが」

 

「はい……」

 

「借金持ちですぐにお金が要ると?」

 

「はい、今月の利子を支払えないと奴隷に」

 

 ブルリと震えながら言うメーネ。

 

「因みに幾らくらい借金を?」

 

「ざっと一千万ルタ程……」

 

「莫迦なんじゃないか?」

 

「酷っ!?」

 

 何をどうしたら一千万ルタなんて借りるのかを微に細に訊ねたいくらいであったと云う。

 

「うう、最初は五〇万ルタだったんですが……」

 

 何でも武器が壊れては買い直すのを繰り返して結果、今や返せる当てがない一千万ルタにまで膨れ上がったらしい。

 

「武器をそんなに買い替えるのか?」

 

「実は技能に凄いデメリットが有りまして」

 

「技能……ね。メーネのステータスプレートを見せて貰っても構わないか?」

 

「あ、はい。これです」

 

 

 

メーネ

 

レベル:24

 

16歳 女

 

天職:剣士

 

職業:冒険者【青】

 

筋力:570

 

体力:143

 

耐性:74

 

敏捷:121

 

魔力:32

 

魔耐:24

 

技能:超人

 

『超人』……持ち主の筋力を戦闘中に二〇倍化する

 非戦闘時は常時数倍化される 不壊でない武器は高確率で破壊される

 

 

 

 筋力が下手な勇者組より強い、というかこの世界の人間族の枠組みに於いて最強クラス。。

 

 技能の『超人』が凄まじいメリットを持っている反面、凄まじいまでに恐るべきデメリットにより完全に相殺されてしまっていた。

 

「素手で闘ったらどうだ? それとも拳も壊れてしまうとかか?」

 

「あ、いえ……斬られたり殴られたら痛いじゃないですか」

 

「上がるのは本当に筋力だけか。確かに武器持ちのリーチは欲しいな」

 

 防御や俊敏は上がらないらしい。

 

「あのクソ野郎の悪ふざけとしか思えない技能だよね。可哀想に」

 

 同情をするミレディ。

 

 確かに悪ふざけな技能ではあるだろう。

 

「君に必要なのは絶対的に壊れない武器か技能を無くす、このどちらかになるんだろうな」

 

「壊れない武器……確かに理想的ですね。だけど、技能の為に戦いばかりをしてきましたから今更、技能無しでは生きられませんよ。それなら幼い頃から無くなれば……」

 

 土台、無理な話だと薄ら笑いを浮かべる。

 

「緒方、何故助けてやらない? 可哀想だとは思わないのか!」

 

「あ、何か復活した」

 

 メーネという美少女に良い処でも見せたいのかどうか知らないが、何故か復活をした天之河光輝が詰め寄ってきて何だかがなる。

 

「大丈夫だ、きっと俺が守ってやるから」

 

 キラキラ勇者(笑)がキラキラ笑顔を振り撒きながら、キラキラ言葉でメーネに白く並びの良い歯をキラキラさせつついつもの科白を宣う。

 

 正しくキラキラ勇者(笑)の真骨頂。

 

「出来もしない約束はしない事だ」

 

「何だと?」

 

「オルクス大迷宮でもカトレアとの闘いを真っ先に始めた癖して、斃すのを――殺すのを躊躇ったから潰滅し掛けたろうが」

 

「人殺しが肯定されて良い訳があるか!」

 

「言った筈だ。戦時中の敵兵殺しは寧ろ称賛されるべき事。当たり前だが、無辜の民を殺害したら普通に犯罪だろうけどな」

 

「くっ、だが……」

 

「所詮は平行線。僕は天之河と戦闘談義をする気は無いんだ」

 

 何かを言おうとする勇者(笑)を遮った。

 

「それで、出来もしない口先だけの約束じゃないならきちんとしたプランは有るのか?」

 

「そんなの、借りたお金を返せば良い」

 

「お前、頭は大丈夫か? キラキラ勇者(笑)は勉強が出来る筈だろうに」

 

「どういう意味だ! というより、キラキラ勇者とか呼ぶのはやめろ!」

 

「(笑)が抜けてるぞ」

 

「は?」

 

 口にしないから解り難いが、ユートは天之河を勇者と呼ぶ際には必ず“(笑)”を付けていた。

 

 こう見えてユートは【勇者】という存在を高く評価しており、故にどう考えても似非勇者としか思えない天之河には勇者(笑)呼びしかない。

 

 勇者アレル――Ⅲ。

 

 勇者アルス――ロト紋。

 

 勇者アロス――紋継ぐ。

 

 勇者アレフ――Ⅰ。

 

 勇者アレン――Ⅱ。

 

 勇者ユウリ――Ⅳ。

 

 勇者ティミー――Ⅴ。

 

 勇者イザ――Ⅵ。

 

 勇者アバン――ダイ大。

 

 勇者ダイ――ダイ大。

 

 ドラクエ系の勇者達と直に関わった身としては勇者(笑)天之河など似非も似非、最終的には自分も勇者にされてしまった訳だがあんな似非と同じにだけはされなくなかった。

 

 まぁ、半ばまで『悪魔の子』だったけど。

 

 尚、アレンはローレシアの王子として勇者の子孫という立場ではあるが、ユート的にはやっぱり勇者という括りにしてしまいたい。

 

「コホン、何で行き成り頭の心配をする?」

 

「そもそも、何で借金をしたのか理解していないからだよ。金を用意すれば済む話じゃない」

 

「借金さえ返せば奴隷になんてならなくて済むじゃないか! 君、借金の額は?」

 

「い、一千万ルタですが……」

 

 胡散臭げに答えるメーネ。

 

「よし、リリィに頼んで用意して貰おう」

 

「それすら他人任せかよ!」

 

 天之河が用意出来る額ではないと思ったが、まさかの国頼みだとか莫迦過ぎて話にならない。

 

 因みにユートなら用意が可能。

 

 何しろ、モットー・ユンケル氏に魔法の鞄を売った利益だけで億越えをしたのだから。

 

「借金を返済してもまた借金塗れになるぞ」

 

「何故だ?」

 

「メーネは冒険者を職業としていて、技能の所為で武器を常に破壊してしまう。武器の買い替えに生活費、それだけで何十万ルタが飛ぶか知れたものだろうに」

 

「なら、冒険者を辞めれば良いじゃないか」

 

「それは天職:勇者に今すぐ勇者を辞めて花売りでもやれと言うに等しいと理解してるか?」

 

「どうしてそうなる!」

 

「お前は天職が勇者だから勇者(笑)として見られているが、花売りをしろと言われてやれるか? メーネの天職は剣士で技能は超人、闘う事を前提としながら闘う職業を辞めろとお前は言っている訳なんだがな?」

 

 別に花売りに限らないが、今まで戦闘関連ばかりだったのが違う職業など簡単にはいかない。

 

 慣れない内はこんな世界では誰も雇わないであろうし、そもそも果たして闘う以外の事を器用にやれるのか? という疑問もある。

 

 事実としてご飯を作れるか訊いてみたら『出来ません』と答えられたし、食事は宿屋で出されるものを食べるか干し肉など保存食だと云う。

 

 確かに宿屋は一種のレストランを兼ねる為に、泊まり客以外が食堂に居るのも珍しくない光景であるし、それは地球やトータスに限らず調理が出来る人間さえ居れば何処でもそうだ。

 

 まぁ、当たり外れは有るだろうが……

 

「坂上が曰く努力しないからだとかだったか? ならば坂上がいますぐ調理師をやれといわれてやれるかね?」

 

「む、無理だぜ」

 

「努力不足なんじゃないか?」

 

「いや、けどよ……」

 

「少なくともハジメは将来の夢とまではいかないにせよ、手に職を持ってアルバイトもしているから努力不足ではないんだがな? ああ、職に貴賤無しと考えればお前らの基準で『そんな職業なんて』と言うのはそもそも、その職業の人間達を貶す行為に他ならないぞ」

 

 坂上龍太郎は努力と根性さえ有ればとか言ってしまうタイプで、ハジメが居眠りや遅刻寸前などをするのは努力しないからだと扱き下ろした。

 

 実際に『何を言っても無駄』と断言もしたくらいで、確かに居眠りは宜しくないしアルバイトが原因なら控えるべきではあるが、まるで何もしていない様に視られるのも不愉快な話である。

 

 実際に割と有能な息子に無茶振りをしているのは南雲 愁に南雲 菫、本来なら学業を疎かにさせてはならない立場の両親なのだから。

 

「天之河、お前がリリィに金を用意させるなんて莫迦な案しか出ないなら僕が動く。だけどそうなった場合はお前に何かを言う資格は一切無くなるからそう思え」

 

「飽く迄も駄目だと言うのか?」

 

「言ったろう、返済してもまた借金塗れになるをだと。時間稼ぎ以上の意味が無いんだよ」

 

「くっ!?」

 

「雫から聞いてるぞ。子供の頃、虐められていた雫に対して虐めをしていた連中に『虐め駄目、格好悪い』と言うだけに留まったと」

 

「それで充分じゃないか。実際に虐めはなくなったんだ」

 

「お前の見ている場所でやらないし、より陰湿な虐めに切り替わっただけ。そう雫に言われて相手にしなかった……そうだな、雫?」

 

 ユートが天之河光輝でなく雫に訊ねると……

 

「ええ、間違いないわ」

 

 頷いて肯定した。

 

「っ! 雫に何をした!?」

 

「お前、御都合解釈にしても莫迦過ぎるだろ。実際に言われた記憶も捏造し始めたか? お前自身――『ちゃんと俺が言ったんだからそんな筈無い。若しそう感じるなら雫に問題があるんじゃないか』――そう言ったそうだが?」

 

 目を見開く天之河光輝。

 

 実際の科白は違うが、大まかには間違いの無い科白であったからである。

 

「それとも言った覚えが無いと、雫が僕に洗脳でもされて言わされた偽りだと……雫の目の前で本当に宣う心算か!? 『アンタ、女だったの?』とか言われた髪が短かった頃の雫の心の傷に塩を塗りたくって踏み躙る行為をするのか?」

 

「……」

 

 遂には黙り込む。

 

 訴えられた事は確かにあったからだし、確かにそれからは特に何かした訳ではないから。

 

 自分が言ったからもう問題など無い筈なのだと

雫本人の訴えを切り捨てた。

 

「だからコイツで宣誓しろ」

 

「それは?」

 

 天之河は首を傾げてくる。

 

「ああ、確かお前は気絶していたんだったか? 単純に忘れたかは知らんが、これに宣誓をしたら呪いのレベルで絶対遵守を強いられる」

 

「なっ!?」

 

「因みに、ウルの町で神殿騎士が僕を異端者と呼んだからな。教皇は魂を潰される苦しみを受けた事だろうよ、クックッ」

 

 邪悪な笑みを浮かべるユートにドン引きだ。

 

 事実、あの日にイシュタル教皇は死ぬかと思う苦しみに喘いでいたらしい。

 

「【魔法先生ネギま!】に登場する封印級魔導具――『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』だ。勿論、本物の……な。効果は言った通り絶対遵守の封印級魔導具。どうする? 約束しないなら邪魔をすると見なして此処で話しはしないだけだがな」

 

「わ、判った……」

 

 天之河光輝は苦虫を噛み潰したかの如く表情で宣誓する。

 

「天之河光輝の名に於いて、緒方優斗とメーネの話し合いに以後を含め干渉しないと誓う」

 

 鵬法璽から光が放たれて一瞬、天之河光輝の表情が歪んでいた。

 

 魂にまで干渉するが故のものだろう。

 

「じゃあ、話を始めようか」

 

「は、はぁ……」

 

「君に提示するのは二つ」

 

「若しや、先程仰有った壊れない武器の提供と技能の削除という?」

 

「そうだ。僕にはどちらも可能だからね」

 

 ゴクリと喉を鳴らすメーネ。

 

「但し、どちらにせよ対価が大きい」

 

「う、ですよねぇ!?」

 

「壊れない武器は百億ルタ」

 

「グアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 値段を言った途端に苦しみ出す天之河光輝。

 

「お、おい? 光輝!?」

 

 心配する坂上龍太郎だったが、香織も雫もしらーっとした表情で見つめるだけだ。

 

「光輝、貴方は御勉強が出来るのに物分かりが悪いわね。干渉しないと誓ったばかりでしょ」

 

 理解する天之河光輝、これが鵬法璽の効果であり誓いを破った場合のリスクであると。

 

 確かにさっきは百億ルタと聞いて思わず文句を言いそうになり、そして魂を圧し潰さんとする苦しみに悶え苦しまされた。

 

 恐るべき魔導具である。

 

 そしてそんな物を持っているユートに対しては戦慄を覚え、同時に嫉妬心が心に巣食うのだけど本人は気付いてもいない。

 

 天之河光輝の服のポケットでナニかが蠢いたのだがそれすらも本人は気付かない侭。

 

「技能の削除とは?」

 

「僕の念能力という魔法とは異なる力によるモノでね、僕自身が相手を殺すか性的に絶頂させるかして魂を掌握すると、相手の能力を閲覧し盗み出す事が可能となるんだ」

 

「ギャァァァァァァアアアアアッ!?」

 

 絶叫を上げてのた打つ天之河光輝。

 

「懲りないな勇者(笑)は」

 

 今の科白に自分の技能が喪われた理由を察したのか、話に入り込もうと考えて再び魂を圧し潰すダメージを負ったらしい。

 

 やはり莫迦であったし、鵬法璽を使って正解であったとユートは自分の正しさを実感する。

 

「盗み出す……って、ええ? こ、殺すか絶頂……絶頂? それってつまり私がユートさんと?」

 

「流石に死にたくは無いだろ?」

 

「それはそうですけど……」

 

 真っ赤な顔でアワアワと頬を両手で挟みながらユートを見つめる。

 

「まぁ、百億ルタなんて払える筈も無いんだから壊れない武器を求めても肢体で支払う事になりそうだけど……ね」

 

「うっ!」

 

 怯むメーネ……

 

「グガァァァァァァァァアアアアアッ!?」

 

 とのた打ち回る勇者(笑)。

 

「いい加減に学習をしろよ勇者(笑)」

 

 呆れてしまうユートは最早、勇者(笑)など見向きもしないで呟いていた。

 

 メーネは見るからに美少女だから文句を言いたかったのだろうが、鵬法璽による宣誓に抗える筈も無くて苦しみに悶え喘ぐのみである。

 

「どうしたいかはメーネに任せるが?」

 

「あう、それは……」

 

「取り敢えず現物を出して見せようか」

 

 ユートはアイテムストレージ内に()()している剣を幾つか取り出す。

 

「こ、こんなに?」

 

「これは渡せないけど一応だね」

 

 それは鳥が翼を開いた様なデザインの鍔を持つ両手剣、美しい銀色が悠久の凱を越えて尚もくすまない永遠不滅を醸し出す。

 

 銘は【勇者の剣】だが、ゲーム的には【勇者の剣改+3】となり見た目は【ロトの剣】の柄と鍔に【天空の剣】の刃を足した感じだ。

 

 有り体に【真・勇者の剣】であろう。

 

 鍔のデザインは【ロトの剣】と多少の差違があるし、刃も【天空の剣】は上半分で下半分は【ロトの剣】だったりする。

 

 流石にロト紋の世界から【王者の剣】や【ロトの剣】を持ち出しはしなかったが、ユート本人が勇者を務めた世界からは【真・勇者の剣】を持ち出していたのだ。

 

 尚、通常の【勇者の剣】は鍛ち直して置いてきたからそれが【王者の剣】となっている。

 

神鍛鋼(オリハルコン)と呼ばれる神秘金属を鍛えた逸品でね。僕が嘗て揮った【真・勇者の剣】という」

 

「勇者ですか?」

 

「天之河と一緒にされたくない。彼奴は勇者(笑)であって勇者じゃないんでね」

 

 違いがよく判らない。

 

「君に渡すのは【覇者の剣】だよ」

 

「これも同じ素材?」

 

「一応は神鍛鋼製だね」

 

 ユートが当時の全てを懸けて鍛えた【真・勇者の剣】に比べると三段くらい劣るが、それでさえ凄まじい切れ味と強度と耐久性を持つ。

 

 正確には超魔生物ハドラーが手にした物ではなくて、ユートが当時に同じ材質で実験的に鍛えた剣でしかない。

 

 ハドラーが持っていたのは消滅してるし。

 

 メーネは気に入ったのか【覇者の剣】を掲げた侭に、キラキラとした瞳で刀身の美しさに見惚れているのであった。

 

 

.

 




 勇者(笑)との確執は確実です。




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第55話:ユートVS天之河……再び

 グリューエン大火山はまだです。





.

「気に入ったみたいだな、覇者の剣」

 

「う、綺麗で見惚れてしまうんですよ」

 

 ユートからしたら流石にロン・ベルクが曰く、『居眠りしながら鍛った様な手抜きの武器』という程ではないが、それでも【真・勇者の剣】に比べれば三段は劣る物でしかない。

 

 覇者の剣の謂わばレプリカ。

 

 本物と同じく神の金属、永遠不滅の金属などと呼ばれる神鍛鋼(オリハルコン)製であるが故に仮令、メーネが全力全開手加減無しで振り回しても壊れない筈だ。

 

 勿論、同じ材質の武器で高位レベルが同格同士で全力にて必殺技をぶつけ合ったら壊れてしまうだろう事は、真魔剛竜剣が鎧の魔剣を相手に折れた事からも判るだろう。

 

 とはいえ、超人の技能で揮うだけなら問題無く使えるとユートは考えていた。

 

「欲しいならそれを上げるけど、対価は百億ルタかメーネの肢体になるぞ」

 

「グギャァァァァァァァァアアアッ!」

 

「いい加減で煩いな勇者(笑)は」

 

 そろそろ死ぬんじゃなかろうか?

 

「うわぁぁっ! 光輝が泡吹いて気絶した!」

 

 坂上龍太郎が大慌てだったが……

 

「これで静かになるな」

 

 ユートは絶叫が無くなると安堵していた。

 

「それで、どうする?」

 

「か、肢体で……あうう……」

 

 恥ずかしくて仕方がないのか真っ赤になりながら呻いている。

 

 お金は当然ながら無くて、支払いに使えるのがメーネ本人の肢体だけならそもそも選択の余地が全く無かった。

 

 だからこそ天之河光輝も騒ごうとしてダメージを負ったという訳だ。

 

 瞳を潤ませ、頬は真っ赤っか、モジモジとして内股気味なメーネは確かに可愛らしくて、雫にしても自分が男なら欲しいのかな? とか思ってしまう程度には思えてしまう。

 

「なら、覇者の剣はメーネの物だ」

 

「は、はい! おりはるこんがどんな金属かは知りませんが、壊れない剣! 素晴らしいです」

 

 鞘に仕舞って腰に佩くと少し剣の方が大きいのはメーネが小柄故、ちょっと不恰好な気もするが本人は気にしていなかった。

 

「序でに軽装だが、青鍛鋼(ブルーメタル)の防具も渡すから装備をすると良い」

 

「ぶるーめたる……ですか?」

 

「神鍛鋼みたいな神秘金属じゃなく、魔法金属と呼ばれる金属の一つが青鍛鋼だ。とある世界では最強クラスの防具がコイツで造られてるな」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

 【光の鎧】と呼ばれる鎧、勇者アレルが地下世界アレフガルドで大魔王ゾーマと戦うべく旅をしていて手にしたラダトーム三神器の一つであり、後の世に【ロトの鎧】と呼ばれた物。

 

 三神器の他は流白銀(ミスリル)製の【勇者の盾】と神鍛鋼製の【王者の剣】である。

 

 因みに、【ロトの兜】は後に鎧に合わせて造られた代物であり、勇者アレルは兜を装備をしてはいなかった。

 

 ユートが出したのは革鎧に青鍛鋼を張り付けた軽装型鎧で、サイズ調整も可能だから剣みたいな不恰好にはならない。

 

 籠手、脚当て、ベルト、胸当て、ヘッドギアが一セットとなった装備品だ。

 

 ドラクエⅢ的には防御力+45、呪文の威力を軽減、HPを微回復といった処である。

 

「うわぁ! 何だか一人前の気分ですよ」

 

「実際は半人前だけどな」

 

「うい、現実に戻さないで下さい~」

 

 盛り上がっていたのに水を差されてへちゃ顔となり、メーネはうじうじとユートを恨みがましい目で睨む。

 

「勘違いは正さないとな」

 

「はう~」

 

 メーネ撃沈。

 

「とはいえ、存外と可愛らしくコーディネート出来たみたいじゃないか」

 

「え、えへへ。そうですか?」

 

 やはり誉められたら嬉しいのか笑顔で返してくるメーネ。

 

「さて、実験をしておきたいな。坂上」

 

「あ? 何だよ」

 

「このデカイ盾を持てるか?」

 

「確かにデケーな」

 

 二つの大きな銀色の盾を坂上龍太郎が試しにと手に持ってみた。

 

「がっしりしてるが持てねーこたねーな」

 

「なら、そこで確り構えていてくれ」

 

「あん? まぁ、良いけどよ。光輝が気絶しちまってるから宿屋に行きてーんだが?」

 

「放っておいても大丈夫だと思うけど……坂上が気にするなら仕方ない」

 

 ユートはアイテムストレージから更に一振りの両手剣を取り出す、そんな剣を見た覚えがあった坂上龍太郎は吃驚した顔で見つめる。

 

「それ、確か光輝の聖剣か? 緒方に折られちまった筈だが……直ってやがるな」

 

「そう、天之河の聖剣だ。修復しといた」

 

 そう言って聖剣を地面に刺す。

 

「ほら、お前の主が彼処に倒れているから宿屋に連れて行ってやれ」

 

 ユートが言うと光を放つ聖剣が()()()()()()()に変化をしてしまった。

 

「マ、マジかよ」

 

「光輝の聖剣が美少女に?」

 

 驚く坂上龍太郎と雫だったが、ユートは呆れながらそれを否定する。

 

「あ、それ男の娘だから。普通に股間にはアレがぶら下がっているし胸も絶壁だから」

 

「「ブフッ!」」

 

 だから噴き出してしまう。

 

「聖剣には銘が無いみたいだからアベルグリッサーと名付けた。ソイツの名前もアベルになる」

 

 確かに男の名前であったと云う。

 

「何で男にしたんだ? 光輝が男なんだから相棒たる聖剣はラノベとかなら女だろう?」

 

 意外と識っていた坂上龍太郎にユートは呆れた表情で言い放つ。

 

「何で天之河が喜ぶ事をせにゃならん」

 

 理由は嫌がらせ以外の何物でもなかった。

 

「という訳でアベルグリッサー、お前の主人を宿屋に連れ込んでやれ」

 

「……」

 

 コクリと頷いて絶賛気絶中の天之河光輝をヒョイッと持ち上げその侭、軽い足取りでホルアドの宿屋へと向かって歩く。

 

 元々、この聖剣は天之河光輝を主と定めて折られるまでは常に傍に在った。

 

 それだけ天之河光輝が好きな聖剣、アベルグリッサーは人の姿を得てとても嬉しそうである。

 

「フッ、後で部屋を覗いたら天之河とアベルグリッサーの精液塗れな痴態が観れそうだな」

 

「うぉい!?」

 

 股間を見なければ貧乳美少女にしか見えないのだし、下手に襲ったりすれば間違いなく事に及んでしまうだろう……アベルグリッサーが。

 

 それは最早、強姦にも等しい。

 

「そうなると、アベルグリッサー攻めで天之河が受けか? BL的には」

 

 

「ギャァァァアアッ! 光輝ぃぃ! 光輝が危ねー! ゴフッ?」

 

 襟を掴まれ噎せる坂上龍太郎。

 

「何処に行く? 実験したいから早く構えろ」

 

「光輝がBLとかいかがわしい事になっちまうじゃねーか!」

 

「アベルグリッサーを襲わなけりゃ、そんな事にはならん。襲ったらそれは自業自得だ」

 

「うぐっ!」

 

 坂上龍太郎は親友がせめて目を覚まさないか或いは、目を覚ましても決して血迷わないのを祈る事しか出来なかったと云う。

 

「で、実験って何をやるんだよ?」

 

「何、簡単だ。覇者の剣が実際に超人の技能により破壊されないかを調べたい」

 

「つまり、盾で防いでろと?」

 

「ああ、多少なり危険はあるけどな」

 

「判ったよ」

 

 やれやれと頭を掻きながら坂上龍太郎は二枚の盾をそれぞれの手に持ち、腰を落としてがっちりと構えて前を向いた。

 

「良いぜ」

 

「じゃあ、メーネ。覇者の剣であの盾を攻撃してみてくれ」

 

「わ、判りました」

 

 言われるが侭にメーネは覇者の剣を構える。

 

「往きます! とあぁあ!」

 

 駆けるメーネはその膂力を以て覇者の剣を振り回して、坂上龍太郎が手にする二枚の盾へと攻撃を幾度も繰り出す。

 

 ガキャン! ガギィンッ!

 

 金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、かと思えば坂上龍太郎が吹き飛んでしまう。

 

「どわぁぁぁぁぁあああっ!」

 

「りゅ、龍太郎君!?」

 

 驚いた香織が駆け寄るも特に怪我は無い。

 

「いつつ、何つー馬鹿力だよ?」

 

 ふと盾を見ると……

 

「げっ!」

 

 横薙ぎに真っ二つだった。

 

「お、俺……よく生きていたな」

 

 恐るべし結果に流石の脳筋……坂上龍太郎も青褪めてしまう出来事である。

 

「うわっ! 剣が壊れていませんよ!」

 

 今までは僅か一振りで破壊をされていた為にか感動しつつ、メーネは覇者の剣を天高く掲げる事で無事をアピールしていた。

 

「流石はオリハルコンかぁ」

 

 雫の知識的にオリハルコンというのは最強クラスの金属、神により与えられた特別なマテリアルという認識を持っている。

 

「神鍛鋼で駄目なら神金剛(アダマンタイト)を使った武器を渡すしかなかったからな」

 

「アダマンタイトってオリハルコンより硬いって事になるの?」

 

「通常のアダマンタイトはオリハルコンより劣るとされてるが、僕の言う神金剛は神鍛鋼と同じく神の金属……神秘金属の一種でね。ギガース共が纏う金剛衣(アダマース)の素材でもあるな」

 

 正しく侵されざる物だ。

 

「な、なぁ」

 

「どうした坂上?」

 

「ひょっとしたらこれ、俺って万が一にも死んでいた可能性がないか?」

 

「斬り所が悪ければ坂上が真っ二つだったな」

 

「うぉい!?」

 

 本当に死んでいた可能性があると聞いて青褪めてしまう坂上、然しながらユートは特に気にした風でもなく言い放つ。

 

「大丈夫、おキヌちゃんは言っていた」

 

 まるで天の道を往き総てを司る男の如く人指し指を伸ばした右腕を天に掲げて言う。

 

「死んでも生きられます」

 

 お婆ちゃんは言いそうに無い科白である。

 

「いや、俺は別に幽霊に成りたい訳じゃ無いんだけどな?」

 

「よくおキヌちゃんが幽霊の事だと判ったな? 坂上って【GS美神】の世界に行った事でもあったのか?」

 

「何でだよ? 其処は普通なら漫画で知ったとかだろ! 異世界に行く発想はどっから来た?」

 

「実体験」

 

「何でだぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 理不尽な科白に坂上の絶叫が木霊した。

 

「序でに言えば死んでも幽霊となって【眼魂】を一六個集めれば生き返れるぞ?」

 

「あいこん……って、何じゃそりゃ?」

 

「【仮面ライダーゴースト】の主要アイテム」

 

「ゴースト? んな仮面ライダー居たか?」

 

「【仮面ライダー鎧武】の後番の【仮面ライダードライブ】、更に翌年の後番が【仮面ライダーゴースト】だよ」

 

「鎧武は知ってるが、ドライブ?」

 

「今、地球で放映してる」

 

「ああ、そういやもう終わった頃か」

 

 坂上龍太郎は別に毎週、特撮を観ている訳では無いが情報くらいは得ていたらしい。

 

「まぁ、それは兎も角。メーネ、覇者の剣の頑丈さは理解が出来たな?」

 

「は、はい! 私の技能でも壊れない剣! とってもとっても素晴らしいです!」

 

「なら、契約通りで構わないな?」

 

「け、契約……私って余りメリハリが利いた肢体じゃありませんけど?」

 

「充分に魅力的だと思うがね」

 

「そ、そうですか……」

 

 魅力的だと言われた歓喜と羞恥心が綯い交ぜとなった表情、内股となりモジモジと擦り合わせながらユートを見つめる。

 

「取り敢えず、まだ覚悟は決まらないだろうから君には依頼をしよう」

 

「は?」

 

「ある場所で匿っている地球人、つまりは僕らの同郷の者を護衛して貰いたい」

 

「護衛……ですか?」

 

「衣食住は不自由しないぞ」

 

「う、悪くないかも」

 

 これまでは武器を買い替えるだけで借金浸けの毎日で、まともに衣食住を賄うのはメーネにとって可成り要求度が高かった。

 

「受けるなら其処へ送る。彼女らには僕が説明をするからね。依頼内容は基本的に彼女らと同じ場所で生活をしつつ、彼女らがストレス発散の為の御出掛けで護衛をする形だな」

 

「な、成程」

 

 ユートとしては月奈とアイリーンを住み心地が良いとはいえ、洞窟内でのみ何ヵ月も過ごさせようとは思っていない。

 

 メーネの件は渡りに舟であったと云う。

 

「っと、そうだ。坂上」

 

「何だよ?」

 

「これはさっきの件の対価だ」

 

「へ?」

 

 投げ渡された物を受け取り、それを見て首を傾げてしまう。

 

「何だこりゃ?」

 

 それは水色を主体とした機器で金色のレンチが右側にくっ付いた代物と、ハジメが昼食代わりにしている飲むゼリーに似た何か。

 

「スクラッシュドライバーとドラゴンスクラッシュゼリー。仮面ライダークローズチャージに変身をする為のツールだよ」

 

「か、仮面ライダー? ってか、クローズチャージって何だ?」

 

「ゴーストの後番の【仮面ライダーエグゼイド】の更に後番、【仮面ライダービルド】に登場する二号ライダーだよ」

 

 正確には仮面ライダークローズの万丈龍我が、ビルドドライバーではなくスクラッシュドライバーを用いて変身した強化版。

 

 仮面ライダークローズの中間フォームだ。

 

 勿論、ユートが造った物で聖魔獣クローズチャージを着込むタイプであり、ハザードレベルなど別に必用は無いし、オリジナルに有った好戦的になるというデメリットも有りはしない。

 

 因みに、ロボットスクラッシュゼリーを使って仮面ライダーグリスに変身をした際に使っていた試験済みなスクラッシュドライバーだ。

 

「坂上、お前に期待するのは天之河の抑えだ」

 

「光輝の抑え?」

 

「奴が暴発したらお前が止めろ。然も無くば僕は容赦無く天之河を殺す!」

 

「っ! 殺すって、お前……」

 

「奴はそれだけ有害化している。キックホッパーに変身出来るにも拘わらず変身しなかったのも、いざという時に自分を高く魅せる為だろう」

 

「そんな事は……」

 

 無いとは言えない。

 

 ホッパーゼクターなんて坂上龍太郎も教えられておらず、知らないが故に天之河光輝を責めたりも出来なかった。

 

 即ち、『どうして使わない?』……と。

 

 だけど若しかしたら天之河光輝は酷くピンチに陥って初めて、アレを使って仮面ライダーとしての戦いをしていたのかも知れない。

 

 つまり、ユートが言う通りに……だ。

 

 坂上龍太郎はブルッと震えてしまう。

 

 親友がナニか違うモノにでも成ってしまったか成り変わられたのではないか? 自分でさえ理解が及ばない天之河光輝が空恐ろしい。

 

「仮面ライダークローズチャージはスペックだけなら仮面ライダーキックホッパーより上だけど、如何せんカブト系ライダーにはクロックアップが在るからな」

 

 はっきり云うと仮面ライダーのスペックなんてMSの脚である、つまりは飾りでしかないとさえ暴言を吐けるレベルだったりする。

 

 仮令、クローズチャージのパンチ力が三〇tを越えていようと、何故か十分の一以下でしかない三tのキックホッパーが圧勝しても決して不思議ではないくらいに。

 

 特に他の作品の仮面ライダーが戦う場合はこれが顕著と成り易い。

 

 それは兎も角……

 

 ユートが坂上龍太郎にクローズチャージを渡したのは、以前にスクラッシュドライバーを使って仮面ライダーグリスに成った際に考えていた事を実行した形だが、それがわざわざ【仮面ライダークローズ】だった理由は脳筋で【龍】の名前を持つ万丈龍我が変身をするから。

 

 一段階上の中間フォームにしたのはユートが未だビルドドライバーを造ってない為、最初に造ったスクラッシュドライバーとドラゴンスクラッシュゼリーを渡したのである。

 

 坂上龍太郎が信頼に足るならいずれクローズマグマにするのもアリだろう。

 

「天之河を殺されたくないなら気張れ」

 

「わ、別ったよ。キバッて往くぜ!」

 

 キバットみたいな返事である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートはメーネを連れてライセン大峡谷側からの出入口を使い、オルクス大迷宮の最奥に位置している第百階層――オスカー・オルクスの隠れ家たる邸へと向かった。

 

 そもそもホルアド側からは一から降りねばならないし、ユートが第五〇階層……ユエが封印をされていた部屋を境に完全封鎖をしている。

 

 そう、今回みたいに魔人族が入り込み神代魔法を奪われたりしない様に。

 

 それに第五〇階層はユエとの出逢いの場所でもあるし、雫達の初めてを『戴きます』した場所でもあったから余人を踏み込ませたくない。

 

 故にこそライセン大峡谷側からだ。

 

「という訳で、君ら二人の護衛としてメーネが来る事になった」

 

「は、はぁ……」

 

 ユートから借りた本を読んでいて呼び出されてしまった月奈は困惑、アイリーンはニコニコしながらもそれを受け容れているみたいだ。

 

「御買い物とかには頼めるの?」

 

「勿論、というよりそれが目的だ。カム達はちょっと護衛に向かないからな」

 

「確かにそうね。ハウリア族は端から視れば愛玩奴隷な兎人族だもの、これだとトラブルしか呼ばないでしょうからね」

 

「そっか……」

 

 アイリーンの説明に納得の月奈。

 

「ストレスも溜まるだろうから買い物くらいしたいだろ? 本だってトータスの物を読みたくはないか月奈?」

 

「読みたくても読めません」

 

「文字なら心配するな。翻訳(リード・ランゲージ)の魔法をインストール・カードで覚えさせてやるから」

 

「それは有り難いですけど……」

 

 未だに覚悟完了していない身で良いのだろうか……と考える。

 

「言語理解の技能と同じくサービスだよ。言葉と文字は異世界での胆の一つだからね」

 

「そっか……」

 

 頬を朱に染めて少し嬉しそうな月奈を見て、アイリーンは『誑し込む男ね』と納得していた。

 

 とはいえインストール・カードは男なら多少の熱を感じる程度だが、女性の場合は何故か性的な快感を感じてしまうのは【言語理解】の技能を貰った際に体感をしていた為、アイリーンは兎も角としても月奈は少しばかり躊躇いを覚える。

 

 それでも異世界の本を読む魅力には抗えなかったのか、思い切って目を固く閉ざしながら胸元を開いてユートから渡されたインストール・カードを押し付けた。

 

「ん、嗚呼……ハァン!」

 

 やっぱりキたと思いながらも快楽に酔い痴れて周りが見えず、喘ぎ声を出しながら熱い胸を押さえつつ股間にじんわり伝わる熱に戸惑う。

 

 以前にも感じた快感が胸を中心に拡がりを見せており、ゆっくりと脳髄を蕩けさせる悦楽はお酒では味わえない極上の酔いを感じさせ、徐々に下へ下へと移動する感覚が遂に股間に達した。

 

「ひうっ!」

 

 この時の感触が癖になりそうで怖い。

 

 脚が震えて立っていられなくなり膝を付いてしまい、恥ずかしくて手を股間は疎か胸にも伸ばせないもどかしさを思いつつ熱が過ぎ去るのを待っているしか無かった。

 

 問題点はそれが故にイク事が出来ないで自慰にて感じるだけ放置したみたいな不満、此処まで来たらちゃんと絶頂までイキたいのに止められてしまうのが戴けないのである。

 

 倒れて肩で息を吐きながら熱く滾る頬を地面で冷ます月奈。

 

「ユート、ツキナの痴態に興奮した?」

 

「まぁね。アラサーとか三三歳だから何とか言ってるけどやっぱり女盛りな年頃だよ。自慰をしてるみたいでちょっと興奮してる」

 

「なら、私でも興奮してくれるかしら?」

 

「アイリーンはアイリーンで月奈には無い魅力が有るからね。あんな風に乱れられて興奮しなかったら男が廃るさ。だろ、カム?」

 

「いやぁ、ハハハ……シアには内緒で御願いしたい処ですな」

 

 ウサミミで糸目ながらも顔は普通に整っている兎人族のオッサンは、股間を脹らませているのを恥じ入りながら隠してしまう。

 

 死別しているとはいえ愛するモナに申し訳が立たないし、下手してシアに知られたりしたら軽蔑の目を向けられてしまいかねない。

 

 ユートのハーレムを容認するのと父親の浮気や不倫――妻は先立っているから本来だとそれには当たらないが――を認めるのとはまた別だ。

 

「フフ、私に魅力を感じてくれるなら今日、私の初めての経験を貴方に貰って欲しいわ」

 

 割ととんでもない事を言う。

 

「良いのか? 月奈と違ってアイリーンは地球に戻るだけで済む。態々、僕に初めてを捧げずとも帰れるんだぞ?」

 

「貴方に助けられて好意は持ってたわ。こうして衣食住の面倒を見て貰い、更に気まで遣って外へ出る護衛まで用意してくれてる。オマケに貴方にバージンを捧げれば私はユートの身内扱いで色々と手伝ってくれるのよね?」

 

「まぁ、それは間違いない」

 

「ホルトン家は兄が嗣ぐから私は何処かホルトン家に有益な家に嫁ぐわ」

 

「それも間違いないな。実家の世話になっていたからには実家の役に立つのは当たり前だしね」

 

「随分と貴族的な言い方ね」

 

「前世は子爵子弟から始めて末は大公だった訳だからね。貴族風にノブレス・オブリージュも理解はしているさ」

 

「前世……ね」

 

 一応、月奈からもそんな概念は聞いている。

 

 趣味の範疇外だったから詳しくなかったけど、そもそもにして神様を名乗る光る球体に喚ばれて異世界に向かうのも、ジャンルとしては大まかに異世界モノの一種であるから。

 

 とはいえアイリーンにはどうでも良かったし、今はユートの寵愛が欲しかった。

 

「私、出来たら自分で商売みたいな事をしてみたいと思うわ。ユートにそれを手伝って欲しい」

 

「成程ね。その対価に契約を?」

 

「わ、私の肢体で契約の価値が有るなら」

 

 恥ずかしくない訳ではないからやはり頬を染めてしまうが、それでも目的の為に躊躇いは無いと云わんばかりに見つめてくる。

 

「オッケーだ。アイリーンをたっぷりと味わわせて貰うから覚悟はする様に」

 

「ええ」

 

 頷くアイリーンの肩を抱き、彼女に宛がわれた部屋へと二人で向かう。

 

 尚、倒れた月奈はメーネが部屋へ運んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、朝食を摂る月奈とメーネはユートとアイリーンを交互に見ながら紅くなってしまう。

 

「何、二人共?」

 

「な、何でもないの!」

 

「はい、何でもありませんよ!」

 

 アイリーンに声を掛けられて慌てる二人。

 

「僕らはグリューエン大砂漠に向かう。次に来るのはメルジーネ海底遺跡をクリアしてからになるんじゃないかな」

 

「そうなんだ……」

 

「そうですか」

 

 また少し間が空くと聞いて何故か少し落ち込み気味な月奈とメーネだが、アイリーンはニコニコと笑顔を浮かべて時折に手を子宮の有る辺りを撫でて嬉しそうに、笑顔とは違う穏やかな表情へと変わっているのに二人は気付く。

 

(ちょっと羨ましいかも)

 

(もっと早く覚悟を決めてたら今頃は……」

 

 二人が思う事は一様にユートとアイリーンの昨晩の行為、知識だけは豊富で実践経験は皆無である月奈はそれを考えてしまうし、知識も碌に無いメーネの場合はキスより先が思い付かない……振りをしていた。

 

 こうしてオルクス大迷宮を後にしたユート。

 

 王宮に舞い戻りリリアーナや侍女のヘリーナとの交流後、グリューエン大砂漠へパーティを率いて向かって行った。

 

 再び天之河光輝が絡んで来たが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「俺と決闘をしろ、緒方ぁぁっ!」

 

「またか、懲りないな」

 

 呆れを含む声に更なる声を上げる。

 

「今度は俺が勝つ! 俺が勝ったら香織と雫、それにユエとシアとティオとミレディとミュウを……皆を解放して貰うからな!」

 

 ユートの額に血管が浮く。

 

 誰に断って呼び捨てているのか? 現によく解ってないミュウは兎も角、他は不快感を表情にまで出していた。

 

 流石にいつもの事だから香織と雫は苦笑いを浮かべるだけだが、ティオなど()()()()が立つと云わんばかりに腕を擦っているではないか。

 

「解放も何も、ミレディ達は自由な意志の許に生きている。僕が束縛をした覚えはないんだが……それで? その代わりにお前は何を差し出す?」

 

「うっ!?」

 

「まさか、以前と同じく自分だけがノーリスク・ハイリターンな賭けをしたい……と?」

 

「くっ!」

 

「とはいえ、もうお前に視るべきは特に無いか。それならホッパーゼクターとゼクトバックルを渡して貰おうかな」

 

「な、なにぃ!?」

 

 ユートが言ったそれが衝撃的だったのか天之河光輝が絶叫を上げた。

 

 技能を喪い自信から喪っていた天之河光輝が、再び立ち上がれた原動力とでも云うべき代物こそホッパーゼクターと、それを使う為のツールであるゼクトバックルである。

 

 それを渡せと言われてはそうなろう。

 

「どうした? やはり相手にだけリスクを負わせる卑怯者か?」

 

「い、良いだろう! どうせ俺が勝つ!」

 

 卑怯者呼ばわりに鼻白みながら、何処からくる自信かは判らないが取り敢えずは賭けが成立したらしい。

 

 天之河光輝の腰にはゼクトバックル。

 

 そしてピョンピョンと跳びながらその手の内に納まるはホッパーゼクター、ZECTの計画から――ネイティブの計画からは外れた番外的な機体として加賀美 陸が造らせたゼクターだ。

 

 まぁ、このホッパーゼクターが何処の世界から持ち出された物かは知らないけど。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 ホッパーゼクターを便宜上、表側の緑色主体となる方を前してゼクトバックルにセット。

 

 ベルトを中心としインナースーツとアーマーが形成されていく。

 

《CHANGE KICK HOPPER!》

 

 蛹をモチーフとするマスクド・アーマーを持たず初めからライダーフォームとなった。

 

 ユートが変身しようとしたその時……

 

「クロックアップ!」

 

《CLOCK UP!》

 

 行き成り右側に有るスイッチ操作でクロックアップをした。

 

『『『『なっ!?』』』』

 

 これには審判役のクゼリー団長を始めとし、雫や香織は勿論だが坂上龍太郎も驚愕をする。

 

「へぇ?」

 

 ユートからしたら感心ものだ。

 

 偽善者としての顔をかなぐり捨ててまで不意討ち気味に行動したのだから。

 

《RIDER JUMP》

 

「ウオオオオオオッ! 喰らえぇぇぇっ!」

 

《RIDER KICK!》

 

 正しく天之河光輝にとって乾坤一擲とも云えるライダーキック。

 

 ガシッ!

 

「……は?」

 

 だけどその一撃は、クロックアップで違う刻の流れに居て見えない程の迅さの筈の天之河光輝による攻撃は、割かしあっさりとユートの手によって防がれてしまっていた。

 

 動きが止まって仮面ライダーキックホッパーの姿が顕れ、それは利き脚の足首を持たれてブランと垂れ下がる情けない姿。

 

「くっ、放せ!」

 

「『くっころ』じゃないのか。まぁ、僕はオークじゃないしこいつも女騎士じゃないしな」

 

 ポイッと投げ捨てる。

 

「うわっ!?」

 

 それは可成り格好悪い姿であったと云う。

 

「くそ、何故だ!」

 

「クロックアップで不意討ちした心算だったんだろうが僕には通用しない手だったな」

 

 違う刻の流れ?

 

 ユートの目――【神秘の瞳】に見切れない程ではないし、これでも再誕世界では刻をある程度なら操れる刻闘士だとか時貞だとかとも闘った。

 

 クロックアップを見切るくらい容易い。

 

「来い、ホッパーゼクター!」

 

「な、何だと!?」

 

 ピョンピョンと跳ねるそれは確かにホッパーゼクター、それがユートの手の内に納まってすぐにゼクトバックルへとセット。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 但し、それは裏側を正面にしたもの。

 

《CHANGE PUNCH HOPPER!》

 

 姿形は殆んど変わらない色違いな姿と、明らかな差違としてキックホッパーが脚にアンカージャッキを持つのに対し、仮面ライダーパンチホッパーは肘にアンカージャッキを持つ。

 

 このアンカージャッキこそが必殺技を放つ際に稼働し、キックなりパンチなりの威力を高めるのに使われるモノだ。

 

「フッ、征くぞ!」

 

 攻撃法もパンチホッパーは拳、キックホッパーが蹴りを主体として攻撃を繰り出す。

 

「ガハッ!」

 

「だけど、パンチホッパーが蹴りを使えないって訳じゃないんだけどな!」

 

 ユートに蹴り飛ばされる天之河光輝。

 

「畜生が!」

 

「おっと、何とぉぉ! まだまだ! 当たらなければどうと云う事はない!」

 

 連続蹴りを放ってくるキックホッパーの猛攻を容易く躱す。

 

 互いにクロックアップが使えるからには優位性は損なわれ、どちらもクロックアップは使わずに通常の戦闘に終始していた。

 

「当たれ、当たれ、当たれよ!」

 

「いっそ憐れだな」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

《CLOCK UP!》

 

 又もや不意討ち気味なクロックアップ。

 

「今度……こ……そ……?」

 

 何故かクロックアップした様子の無いパンチホッパーの姿が消えていた。

 

「何処に行った?」

 

 姿は疎か気配も音も無く臭いもせず……

 

「クルダ流交殺法・最源流移動技【神移】」

 

 ユートが転生したアシュリアーナ公国の公女と婚姻を結んでアシュリアーナ真王国を興した訳だけど、彼女の転生前の世界にも当然ながら行った事がある。

 

 クルダ流交殺法とは其処で覚えた闘技。

 

 中でも最源流と呼ばれる云わば初代クルダ王であるカイ・シンクに創られた技、それはどれもがとんでもないレベルのものばかりだ。

 

 【神移】もその一つ。

 

 使う際には凄まじいまでの負担を脚へと掛けてしまうが、完全に相手から見えなくなってしまう程に姿が消える移動技。

 

「クルダ流交殺法影門死殺技【裂破(レイピア)】!」

 

 いつの間にかというしかない。

 

 キックホッパーの胸元にはパンチホッパーの蹴りが突き刺さる。

 

「なっ!?」

 

「クルダ流交殺法影門最源流死殺技【神音(カノン)】!」

 

 ドンッ! という衝撃が伝わりキックホッパーのアーマーやインナーが塵と化した。

 

「う、あ……?」

 

 元の姿で尻餅を付く天之河光輝。

 

「お前の敗けだ、天之河」

 

「ゴフッ!」

 

 殺さない様に仮面ライダーのアーマーのみへとダメージを与えたけど、多少なりとも本体である天之河光輝にも入っていたらしく吐血する。

 

「勝者、緒方優斗!」

 

 それを見たクゼリー団長が高らかにユートの勝ちを宣言するのであった。

 

 

.




 今回は暴発ではありませんでした。

 尚、尻の初めては奪われていません。




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第56話:破壊者VS異時の王者

 月曜にも間に合わなかった……

 闘いは続いてます。





.

 ユートはホッパーゼクターを外し変身解除してしまい、天之河光輝には目も呉れず坂上龍太郎の方へと歩み寄る。

 

 その際に天之河から離れたホッパーゼクターの方は回収し、アイテムストレージ内へとさっさと収納してしまった。

 

 後はゼクトバックルだが、どうせバックルだけではもう何も出来やしないから後回し。

 

「今回はこれで許すが次は無い、親友を殺されたくないなら命懸けで止めるんだな」

 

「わ、判ったぜ」

 

 最早、用は無いとばかりに離れた。

 

「ま、待て!」

 

「光輝、もうヤメロ! 敵わないのが判らない程じゃないだろ?」

 

「放せ、龍太郎! 俺は……俺は!」

 

 その瞳は濁りに濁っていた。

 

「いい加減にするんだな。【神音】は超振動を与えて対象を塵にしてしまう攻撃。一応は死なない様にライダーのアーマーやスーツだけに狙いを絞ったが、それでも余波で吐血するダメージを受けたんだからな」

 

「俺はまだ敗けてない! だからホッパーゼクターを返せ!」

 

「意識を僅かにでも途絶えさせた時点で敗けてるのは確定だろうが。お前はそんな程度の事すらも理解が出来ないのか?」

 

「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 ヒステリックに怒鳴る天之河光輝はポケットをまさぐり、其処から一つの小さな機器を取り出してスイッチを押した。

 

《ZIーO!》

 

「それは!」

 

「ハハハ! 変身!」

 

 お腹辺りに持っていくとモーフィングタイムとばかりに変化。

 

《ANOTHER TIME!》

 

 殆んど白で構成されて白眼を剥き歯も剥き出しな仮面、はっきり云えば醜悪なヒトガタのパロディでしかなく悍ましいにも程がある怪人が出来上がった瞬間である。

 

《ZIーO!》

 

「見たか、これぞ仮面ライダージオウ! 時の王者……つまり俺は勇者にして王者、勇者王だ!」

 

 ドガァァァァンッッ!

 

「ゴハァァァッ!?」

 

 行き成り蹴り飛ばされた。

 

「ちょっ、緒方!?」

 

 慌てる坂上龍太郎だったけどユートがジロリと天之河光輝を視る目は蔑むモノ。

 

「お前が、勇者(笑)如きが勇者王を名乗るな! 凱達の勇気が穢れるわ!」

 

 結局は何処の世界線から来たのか判らなかったのだが、記憶喪失だった卯都木 命を囲ったりもしたから余計に赦せない。

 

 ハルケギニア時代の最終決戦直前に顕れたのがプロトJアーク、その中に呉越同舟と云わんばかりに卯都木 命とオリジナルのアベル。

 

 まぁ、オリジナルとはいっても赤の星の指導者ではなくソール11遊星主のパルス・アベルで、オリジナルの意味はパスキューマシンによるコピー体ではないという意味だ。

 

 尚、どちらも性的に戴きました。

 

 だからこそ気分が悪い訳で、イラッとして思わず蹴った……反省も後悔もしていないという。

 

「ぐっ、よくも! この仮面ライダージオウを傷付けるなど!」

 

「黙れ、アナザーライダーが!」

 

 ユートはキッパリと言い放つ。

 

「アナザーライダー?」

 

「仮面ライダーWならドーパント、仮面ライダー剣ならアンデッド、仮面ライダー鎧武であるならインベス。つまりは仮面ライダーの敵の怪人枠という訳だよ」

 

 近いのはドーパントやゾディアーツ、機器を使って怪人に変態をするタイプであろうか?

 

「実際、音声もアナザータイムとか言っていたろうが!」

 

「違う! 俺こそ時の王者! 最高最善の王者となる存在!」

 

 ()()ではないらしい。

 

「お前が成れるのは文字通り、最低最悪の魔王そのものだよ……変身っ!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 カードをマゼンタカラーのバックルを持っているネオディケイドライバーに装填、サイドハンドルを押し込んでバックルを元の位置に戻したら、ディケイドのライダークレストが浮かび上がって変身を開始する。

 

「全てのアナザーライダーの力を統べし、裏のライダーの王……ではあるがな。それなら僕は全ての仮面ライダーを破壊し繋ぐ者……仮面ライダーディケイドとして相手してやる」

 

「ディケイド……だと?」

 

「少なくとも、お前みたいな怪人枠じゃないさ。正真正銘の仮面ライダーの一人だからな」

 

 とはいえ、ユートが仮面ライダーディケイドの力を獲た経緯が邪神たる這い寄る混沌ナイアルラトホテップの神力を、イチ様とナツ様の神力により喚起させた上でフィルタリングをし、ナイアルラトホテップの神格に覚醒しない様にした訳だからある意味では怪人と大差無い。

 

「巫座戯るなぁぁぁっ!」

 

《AGITΩ!》

 

 オドロオドロしい音声と共にモーフィングして緑を主体とするアナザーアギトに。

 

 見た目は木野 薫のアナザーアギトに近い。

 

 尚、これを受けてか木野アギトは正式名称として【仮面ライダーアナザーアギト】と差別化。

 

 目の前のアナザーアギトは別物である。

 

 クラッシャーの部位がむき出しの歯だし。

 

「アギトにはアギトだ、変身」

 

《KAMEN RIDE .AGITΩ!》

 

 アナザーアギトに対抗して仮面ライダーディケイドアギトに変身した。

 

 違いはベルトのみで姿形は仮面ライダーアギトのグランドフォーム。

 

「はっ! たぁっ!」

 

「く、くそ!」

 

 どうやら初めからアナザーライダーの力を持ち合わせているらしいが、此方は此方で仮面ライダーの力を持ち合わせている。

 

「そのあからさまなアナザーアギトの姿、それで仮面ライダーの心算とか草生えるな?」

 

「煩い、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「悔しけりゃ、正式な仮面ライダーに成ってみせたらどうだ?」

 

 狼摩百夜から聞いた話では、一応だがアナザーウォッチで変身をしても正式な仮面ライダーに成れる可能性は有るとか無いとか、とはいってみても仮面ライダーシノビに成れる筈の青年が普通にアナザーシノビと化した辺り眉唾らしいが……

 

 因みにアナザーアギトが唯一、仮面ライダーアギトに変身したが、それは飽く迄も津上翔一から奪ったアギトの力をライドウォッチにした物を埋め込まれたからに過ぎない。

 

「己れ!」

 

《GAIM!》

 

 仮面ライダー鎧武とは似ても似つかぬオドロオドロしい姿、やはり歯が剥き出しになった鎧武者というか落ち武者っぽい姿。

 

「殺れ!」

 

 亀裂からインベスっぽいナニかを召喚したが、ヘルヘイムに繋がるのか?

 

《KAMEN RIDE GAIM!》

 

 一方のユートは仮面ライダーディケイド鎧武に姿を変えて挑む。

 

《ORANGE ARMS HANAMICHI ON STAGE!》

 

「鎧武には鎧武ってな」

 

 使っているのはライドブッカーのソードモードであり、インベスっぽいナニかを次から次へと撫で斬りにしていく。

 

「ほら次はお前だ!」

 

「ぐっ、このぉっ! 俺はこれでも八重樫流を習っているんだぞ!」

 

「それがどうした? 【緒方逸真流】を御座敷剣法と一緒にするなよ!」

 

 流石に雫がカチンときたらしいが、空気を読んで文句を言い出さない。

 

 一応、八重樫流も実践剣術の流れを汲むもので御座敷剣法とか呼ばれたくはなかった。

 

 まぁ、まともに実戦で使ったのはトータスに来てからが初めてだけど。

 

「何故だ!」

 

「何がだ?」

 

「仮面ライダーディケイドなら知っている。だがあれはディケイドまでの九人、ディケイドを含めて一〇人の仮面ライダーに変身する筈だろう! 何でディケイド以降の仮面ライダーに変身しているんだよ!」

 

「そんな事か」

 

 何を言い出すかと思えば益体も無い。

 

「よくドライバーを視ろよ」

 

「? 色が違う……」

 

 ディケイドライバーのバックルは白色なのに対して、このネオディケイドライバーはマゼンタというピンクに近い色である。

 

「ネオディケイドライバー。一八個のライダークレストが刻まれている事からも判るだろうに」

 

 確かにライダークレストの数は一八個。

 

「仮面ライダーディケイドは平成一期を駆け抜けて後、平成二期をも駆け抜けて変身が可能となったって訳だ。モノホンの仮面ライダーディケイドである門矢 士が……な」

 

「莫迦な、数が合わない! 鎧武以降のライダーも居る計算になるぞ!」

 

「そうだな、アナザーライダーに合わせるだけでは芸が無い。魅せてやるよ」

 

 ユートはサイドハンドルを引いてマゼンタカラーのバックルを九〇度回転、ライドブッカーの中から一枚のカードを取り出して装填する。

 

《KAMEN RIDE GHOST!  LET's GO KAKUGO GO GO GO GHOST! GO GO GO GO!》

 

 飛翔しているパーカーを纏って、ユートの姿が仮面ライダーゴーストに変化をした。

 

「な、何だ? ソイツは……」

 

「仮面ライダーゴースト。現在放映中の仮面ライダードライブの後番、つまりは来年の秋に放映される予定の仮面ライダーだよ」

 

 ニヤリと口角を吊り上げるが、仮面の所為で見えている筈もない。

 

 頭のフードを外して素顔が露わにして……

 

《GANGAN SABER!》

 

 ガンガンセイバーを喚び出すと駆けた。

 

 未だにアナザー鎧武な天之河光輝は手持ちの剣で対応をするが、剣士としての地力が違っていては敵う筈もなく圧されてしまう。

 

「なぁ、雫よぉ」

 

「どうしたのよ、龍太郎?」

 

「光輝の奴、いつの間にあんな仮面ライダーに関して詳しくなったんだろうな……」

 

「え、そういえばそうね。光輝は子供向けヒーロー番組なんて興味が無かったし」

 

 天之河光輝にとってヒーローとは天之河完治を指しており、特撮のヒーローなんて彼からしたならば虚飾に溢れた偽物に過ぎなかった。

 

 にも拘らず、今の天之河光輝は仮面ライダーの知識を至極当然の如く引き出している。

 

「少なくともキックホッパーの時はそこまで詳しくなかったわ。まるでアナザージオウになってから急に知識を得た感じよね」

 

 考え難いがそうとしか思えなかったという。

 

 ユートの攻撃に対処が出来ない天之河光輝は、少しずつ後ろに下がってしまっていた。

 

「くっ!」

 

 揮われる【緒方逸真流】の剣技……否、刀舞には対処しようにもヒラヒラ動かれて全く打ち合いにもなっていない。

 

《FOURZE!》

 

「今度はアナザーフォーゼか」

 

「アナザーと呼ぶな!」

 

 仮面ライダーフォーゼのパロディとしか思えない醜悪な姿、アナザーフォーゼに変身をしてきた天之河光輝にやれやれだぜ……とばかりな態度。

 

「いちいち面倒臭いな。それならこれだ」

 

 カードを装填されてブォーンという音を鳴らす機器、それはまるでディケイドの顔を思わせる様なデザインをしてモニタ部分の左右に【21】の意匠が刻まれている。

 

 ケータッチと呼ばれる仮面ライダーディケイドの強化用アイテム、とはいえこれは本来の物とは違いが存在していた。

 

《KEITOUCH TWENTY ONE!》

 

 ユートは指で液晶の中のライダークレストへと順次触れていく。

 

《W OOO FOURZE WIZARD GAIM DRIVE GHOST EX-AID BUILD ZI-O ZERO-ONE……FINAL KAMEN RIDE DECADE! COMPLETE TWENTY ONE!》

 

 それは仮面ライダーディケイド・コンプリートフォーム21……緑だった複眼はマゼンタに変化をしていたし、顔も黒を基調に銀色の線が引かれた感じの配色となっていた。

 

 ヒストリーオーナメントは本来だと平成一期のみだが、此方は平成二期のヒストリーオーナメントも最強フォームの絵柄で存在していて、中央部にグランドジオウ、右側には平成一期ライダー、左側には平成二期ライダーとなっている。

 

 背中には裏打ちまでマゼンタカラーのマントを羽織っているのだが、其処には平成一号と二号の仮面ライダー、FAR、FFRで総計が七〇枚のカード

が貼り付くキワモノっぽさで、何とクウガ・ライジングアルティメットまで網羅していて本来での変身者からして門矢(カード屋) 士であったと云う。

 

 何故か頭が一段増えて仮面ライダーゼロツーのカードとなっている。

 

(((((ダサッ!)))))

 

 当人と天之河光輝を除く全員の一致した思いはとても辛辣だった。

 

「仮面ライダーディケイド・コンプリートフォーム21……ってな」

 

「な、何だと?」

 

 天之河光輝の中の仮面ライダー知識は鎧武まででしかなく、アナザージオウを仮面ライダージオウだと思い込む残念仕様。

 

《FOURZE……KAMEN RIDE COSMIC!》

 

 喚び出されるのは本人ではなく虚像に過ぎないのだがその力は本物との大差は無い、そして仮面ライダーフォーゼ・コズミックステイツとは即ちフォーゼの最強フォーム。

 

 ユートはファイナルアタックのカードを取り出して、ケータッチをバックルにした代わり右腰に装着したバックル部分にそれを装填してやる。

 

 その動きをトレースする仮面ライダーフォーゼ・コズミックステイツ。

 

《FINAL ATTACK RIDE FO FO FO FOURZE!》

 

 フォーゼはバリズンソード、ディケイドに成っているユートはライドブッカーのソードモード。

 

「おりゃぁぁぁっ!」

 

「グハァァァァァアアアッ!?」

 

 斬撃をクロスした攻撃に晒されて吹き飛ばされるアナザーフォーゼは、ゴロゴロと転がりながらアナザージオウに戻ってしまう。

 

「クソが!」

 

《W!》

 

「ふん、今度はアナザーWか」

 

 やはり醜悪な仮面ライダーWのパロディ的な姿をしたアナザーW。

 

《W……KAMEN RIDE XTREME!》

 

 顕れたのは仮面ライダーW・サイクロン/ジョーカーエクストリーム、赤い複眼で緑が右側に黒が左側に中央を銀色といった配色をしたWの最強フォームだ。

 

《FINAL ATTACK RIDE DOU DOU DOU W!》

 

 ディケイドとWがそれぞれにライドブッカーソードモードとプリズムソードを持ち、各々が縦一文字に斬撃を振り下ろしてやる。

 

「ウギャァァァァァァアアッ!」

 

 吹き飛ぶアナザーW。

 

「ふむ、やっぱりコンプリートフォームの必殺技は大味になり易いな」

 

 基本的にはディケイドの隣に最強フォームに成った仮面ライダーが立ち、動きをトレースしながら必殺技を一緒に放つのである。

 

 だからどうしても大味になった。

 

(こうなると、ディエンドライバーの召喚ってのは便利だよな……)

 

 実はディエンドライバーというかネオディエンドライバーはユーキが持っている。

 

 別にユートみたいにユーキが内から溢れる力を具現化したみたいな話ではなく、ネオディケイドライバーの機構はユートの物からだいたいが理解出来たし、何よりも【ジオウの世界】には関わりを持った為に海東大樹が持つネオディエンドライバーを調べる機会があったらしく造った。

 

 正確にはユーキが直に関わったのは【ビルドの世界】だが、世界が一つになってしまった現象で二〇〇〇年~二〇一九年までの仮面ライダー達が

ある意味で一堂に会する世界となり、その侭関わりを持ったのが正しい。

 

 とはいえ、一部は過去にアナザーライダーが現れた影響から歴史が目茶苦茶になったとか。

 

 行き成り桐生戦兎と万丈龍我がツナギーズとやらのファンになったり……

 

 それは兎も角、天之河光輝がまた懲りもしないで変態――もう変身と呼びたくない――をする。

 

《DENーO!》

 

「今度はアナザー電王か? 懲りないな本当に頭が良いのか疑うね」

 

 御勉強は出来るタイプ。

 

 顕れたのは何か目が長い電王のパロディ。

 

 ユートは本来のケータッチのカードを装填……

 

《DENーO……KAMEN RIDE LINER!》

 

 電王のライダーズクレストに触れて【F】と書かれた部位に触れ、仮面ライダー電王ライナーフォームが姿を顕したらすぐにFARカード装填。

 

《FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DENーO!》

 

 やはりディケイドなユートはライドブッカーソードモードで、電王ライナーフォームはデンカメンソードを揮って攻撃。

 

「W電車斬り!」

 

「ガハァァァァッ!?」

 

 変態しても即対応する仮面ライダーの最強フォームで対処してしまう。

 

「くそ、何故だ! どうして手も足も出ずにやられてしまう!?」

 

「決まっている。お前は徒に変態を繰り返しているだけ、そもそも使い熟していないのにその姿になってどうする? 況してや天之河が識っているかは知らんが、ディケイドコンプリートフォームは初めての変身で門矢 士はオーガ、リュウガ、ダークカブトをあっという間に屠っているんだぞ。僕でも同じ事くらいは出来る。続けて僕のターンってやつだ」

 

《KUUGA……KAMEN RIDE ULTIMATE!》

 

 顕れたのは仮面ライダークウガ・アルティメットフォーム、赤い複眼バージョンだから小野寺ユウスケではあるまい。

 

《FINAL ATTACK RIDE KU KU KU KUUGA!》

 

「でりゃぁぁぁあああっ!」

 

 仮面ライダークウガ・アルティメットフォームと共にアルティメットキック。

 

「グハァァァッ!」

 

《AGITΩ……KAMEN RIDE SHINING!》

 

「ドロー! ファイナルアタックライド!」

 

《FINAL ATTACK RIDE A A A AGITΩ!》

 

「おりゃぁぁっ!」

 

「ギャァァァァァァァアアアッ!」

 

 ライドブッカーソードモードとシャイニングカリバーによる斬撃。

 

《RYUKI……KAMEN RIDE SURVIVE!》

 

「ドロー! ファイナルアタックライド!」

 

《FINAL ATTACK RIDE RYU RYU RYU RYUKI!》

 

「はぁぁっ!」

 

「グギャァァァァアアッ!」

 

 仮面ライダー龍騎サバイブがドラグバイザーツヴァイのソードモードで、ユートのディケイドは相変わらずライドブッカーソードモードで焔を纏った斬撃クロス。

 

《FAIZ……KAMEN RIDE BLUSTER!》

 

「ドロー! ファイナルアタックライド!」

 

《FINAL ATTACK RIDE FA FA FA FAIZ!》

 

「どりゃぁぁぁっ!」

 

「ぎゃびりぃぃぃぃんっっ!」

 

 ライドブッカーガンモードと、仮面ライダーファイズ・ブラスターフォームのファイズブラスターによるWシュート。

 

「何で『ずっと俺のターン』をやってんだ?」

 

 余りにも常軌を逸する行為に茫然となってしまう坂上龍太郎。

 

 更にケータッチを操作しようとするユートに対して、流石に拙いと思ったのか雫が慌ててそんな行動を止めに入る。

 

「もうやめて、優斗!」

 

「HA☆NA☆SE!」

 

「とっくに光輝の精神的ライフは〇よ! もう勝負は着いたのよ!」

 

 それはもう、本当にとっくの疾うに。

 

「チッ、雫に免じてこのくらいにしてやる」

 

 どうやらまだ足りなかったらしく、舌打ちをしながら天之河光輝に近付いていつの間にか転がり落ちるアナザージオウのウォッチを拾う。

 

「悪夢の王の一欠片よ 世界の戒め解き放たれし凍れる黒き虚ろの刃よ 我が力 我が身と成りて共に滅びの道を歩まん 神々の魂すらも打ち砕き……【神滅斬(ラグナブレード)】!」

 

「なっ、ラグナブレードって!?」

 

 混沌言語(カオス・ワーズ)は理解が出来ずとも魔法名は普通に判るから驚愕する雫達、金色の魔王たるロード・オブ・ナイトメアから力を借りる黒魔術、そんなモノを使えば驚かれてしまうのも無理はないだろう。

 

「消え失せろ!」

 

 斬っ!

 

 ユートが神滅斬によりアナザーウォッチを斬り捨てると完全にそれは消滅した。

 

「これで良しだな」

 

 虚無の刃を消して呟く。

 

 そしてユートは天之河光輝を一瞥して次に坂上を視ながら言った。

 

「今回は生かしておく。スクラッシュドライバーを渡したばかりだしな。だけどこんな事が続く様なら間違いなく殺すから、それが嫌なら命懸けでその莫迦を止めるんだな」

 

「お、応……」

 

 冷や汗を流しながら頷く坂上龍太郎。

 

「ああ、香織」

 

「何かな、龍太郎君?」

 

「後で光輝の治療を頼めないか?」

 

「……仕方がないかな、判ったよ」

 

 スッゴく厭そうな顔で言われて頬を引き攣らせてしまうが、辻 綾子の治療魔法の腕前ではこんなダメージは癒せないと判断する。

 

「た、頼むぜ」

 

 肩に天之河光輝を抱えて出て行った。

 

 それを見届けて訓練所から食堂へ向かう一同は非常に疲れた表情である。

 

 それはそうであろう、我らが勇者たる天之河光輝が真面目に勇者(笑)になっているのだから。

 

 これでは先行き不安しかない。

 

 しかも単なる無能錬成師と当初は目されていた筈のハジメ、それが仮面ライダーG3ーXを造り上げる快挙を成し遂げた上に仮面ライダーアギトへと変身する力を得たが、天之河光輝により断絶する危機に陥っている現状を永山パーティリーダーの永山重吾は重く見ている。

 

「ねぇ、優斗?」

 

「どうした雫?」

 

「何だか後半戦はグダグダだったんだけどさぁ……変身→攻撃→変身→攻撃って感じで」

 

「そうだな」

 

 はっきり云って勇者(笑)が莫迦過ぎた。

 

「彼奴はどうやら知識を直接的に叩き込まれていたらしい。だけどそれで戦える程に甘い筈も無いんだよ仮面ライダーは。小野寺ユウスケとかベルトを得て簡単に戦っている様に見えるから甘くみたんだろうが、実際にそんな簡単にいく訳もないんだからな」

 

 恐らくはアナザージオウウォッチを起動させたと同時に、何処までかは知らないがジオウ関連と後は()()()()()()()()()仮面ライダーの知識を脳に、しかも割と自然に記憶から喚起可能な様に叩き込まれたのだろう。

 

「実感が篭ってるわね?」

 

「ドラクエⅣは知っているか?」

 

「ええ、一応は」

 

「第3章:武器屋トルネコ……あれって基本的にはレイクナバの町の武器屋でアルバイトをしながら【破邪の剣】を売却しに来る客を待ち、首尾よく売却されたら売り払わず資金を貯めて自分で買って旅に出るのがジャスティスだ」

 

「まぁ、一人旅だし武器くらいは良いのが欲しいわよね」

 

「処が現実では破邪の剣を売りに来る客なんかが居る訳も無く、ある程度の資金が出来たらそれなりの装備品を買って旅立つ。そもそも破邪の剣は序盤ではそれなりの武器、わざわざレイクナバなんて端っこの田舎町じゃなくエンドールとかで売るだろうし、何よりもエンドールとレイクナバを結ぶ道は橋が落ちていて売りに来る客なんて居る筈も無いからね」

 

「ああ、そうよねぇ」

 

 大きな港町という体でもないレイクナバの町でそんな労力を払ってまで、破邪の剣を売却しに来る暇人がそうそう居たりはしない。

 

「結果、独り切りで銅の剣を振り回してモンスターに集られ死亡。ゲームはバランス問題もあるから一通りの武具さえ装備して、ちょっとずつ戦わせて……一回戦ったら家に泊まって快復してを繰り返して独りでもやれるんだが、そもそもが怪我を一泊で治せる訳も無いからな。()()()()()()()()()()()()()()モンスターからフルボッコを受けて絶命していたよ」

 

「あ、行ったんだ……ドラクエⅣの世界に」

 

「奴を勇者と呼ぶなと言ったろ? 勇者を見知った物としては、あれを勇者と呼びたくない」

 

 それは切実な話だったと云う。

 

 まぁ、余り関係が無い話だが……

 

 ユートがドラクエ世界を巡る順番はⅢ→ロト紋→紋継ぐ→Ⅰ→Ⅱ→Ⅵ→Ⅳ→Ⅴ→ダイ大→Ⅶ→Ⅷ→Ⅸ→ⅩⅠ→というのが正しい。

 

 Ⅹはそれ自体を経験していなかった。

 

「勇者ユウリが天空の勇者として戦った世界は、勇者イザが勇者として戦った世界の未来だったからね。僕は嘗てグレイスと呼ばれた国の地下で眠りに就き、コーミズ村の地下で褐色肌の姉妹により目覚めた」

 

「マーニャとミネア……」

 

 実は座標だけ見るとグレイス城とコーミズ村は割と合致している。

 

 尚、ミネアは転生の秘儀を以て転生をしていた【閃姫】ターニアであったと云う。

 

「そんな訳でⅣの世界のトルネコを見に行ったら丁度、フルボッコにされて死んでいたのを見付けてしまってね。導かれし者って何だったのかとか思ってしまった程だよ」

 

「それは……また……」

 

「慣れないレベル1の商人が戦闘したらそうなる訳だな。天之河も慣れない仮面ライダーっていうかアナザーライダーに変態しても碌に戦える筈が無かったのさ」

 

 だから知識も経験も実力も全てに於いて格上であるユートには簡単に斃された。

 

「僕の場合は闘い方を理解しているしきちんとした訓練に実戦経験という裏打ち、更には何度も使っている慣れもあるからやれていたんだ」

 

 ユートがネタに走る事が出来る程度には慣れていた訳である。

 

「結局、数を出しても意味が無いのね」

 

「だから雫には剣、しかも刀に近い形状をしてあるサソードヤイバーを使うサソードを渡した」

 

「有り難う」

 

 相当に解り易い力を渡してくれたのだと理解して雫としては助かった。

 

「ん? おい、確か香織は天之河の治療に行ったんだったな?」

 

「え、ええ……」

 

「坂上はどうした?」

 

 ユートの質問に……

 

「俺がどうかしたか?」

 

 当の本人が答えた。

 

「どうして食堂に居る?」

 

「え いや……光輝が目ぇ覚ましたら何か食わしてやろうかと思ってよ」

 

 どうやら食料を求めて来たらしい。

 

「チィッ、なら今は二人だけか!」

 

「優斗? どうしたのよ!」

 

「香織が襲われている」

 

「はぁ? 誰に……まさか!」

 

「天之河に決まっているだろう!」

 

 ユートは食堂を飛び出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 少し遡って……

 

「やめて、光輝君!」

 

 天之河光輝にベッドの上に押し倒された香織は叫ぶが、全く取り合わない梨の礫とはこの事かと云わんばかりな態度。

 

 気絶していた天之河光輝に治癒魔法を掛けていたら、行き成り起き上がってきたかと思えば手首を握り締めて力任せに香織をベッドへ叩き付けるかの如く倒したのだ。

 

「香織、俺とお前は恋人なのにどうして浮気をしたんだ!?」

 

「な、何を言ってるのかな? そんな事実は一秒足りとも無かったでしょ! 光輝君と私は幼馴染みというだけで一度もお付き合いをした覚えは無いよ! どうしたのいったい?」

 

「大丈夫だよ香織、俺はそれを咎めはしても怒ったりはしないから。仕方が無かったんだよな? 緒方にあんなダンジョンでの生死を懸けて肉体関係を結ばされたんだもんな。だから俺がちゃんと上書きをして上げるよ」

 

「違う! 確かに最初はそうだった! だけど私は自ら肢体を差し出していたんだよ! それに……元々、私が好きだったのは光輝君じゃない!」

 

「そんな筈があるか!」

 

「ヒッ!?」

 

 それは顔芸の如くで思わず息を呑む。

 

「わ、私が好きだったのは南雲君だよ! 今は違うけど、今はゆう君と居るのを愉しいと思ってはいるけど……決して光輝君じゃない!」

 

 一気に言い切ると信じられないという顔で見てくる天之河光輝。

 

「南雲? 選りに選ってオタクで無能でしかも、遂には魔人族に魂を売った裏切者だぞ!」

 

「仮面ライダーアギトに成ったのがどうして裏切者になるのかな? それならアナザージオウに成った光輝君はどうなの?」

 

「アナザーじゃない! 仮面ライダージオウ! 俺は時の勇者王なんだ!」

 

 あんな仮面ライダーの醜悪なパロディーの姿を本気で仮面ライダーとか言っている天之河光輝、それはもう既に狂気の域に達していた。

 

「大丈夫、大丈夫だ。俺は緒方よりよっぽど巧いんだ。だからすぐに俺無しじゃ居られないくらいに気持ち良くしてやるよ香織」

 

 ビリィッ! 文字通り絹を引き裂く様な音と共に露わとなる香織の秘密の洞窟。

 

 今までに視たのも掻き分けて潜り込んで来たのもユートのみの場所。

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 嘗て、オルクス大迷宮にてユートが下ろして視た時には叫ばなかった香織が、天之河光輝により引き裂かれたら(つんざ)く程に絶叫を上げた。

 

「そうだ、緒方みたいなヘタレが香織を前に勃つ訳が無いんだ。つまり香織はまだ処女! 今すぐ俺が香織の初めてを貰って上げるよ!」

 

 よく天之河光輝を『悪意は無い』とか『人間の性善説を信じている』とか云われているけれど、それはきっと全くの勘違いなのだろう。

 

 見たいものしか見ず、己れの発言は一〇〇%が正しいと信じ、自分こそが正義で、自分の考えは否定すべき部分がないと考えている。

 

 正しく御都合解釈の超究極体。

 

 普段は言わない『南雲はオタク』という科白も原典に於いてバッチリ言っている辺り、悪意が無いなど有り得ないのがよく解る発言だった。

 

 そして、雫の一件もこう考えられる。

 

 正しい自分が彼女らに言った以上はイジメなんて無くなる筈であり、ならば雫は単なる思い込みやイジメられていた弊害で穿った見方をしているに過ぎない……と。

 

 正義で否定されない自分の言葉で一度解決したからには、二度も同じ事をする必要性を感じないのが天之河光輝。

 

 それがエゴに包まれたらこうなる典型。

 

 香織はまだ処女である……と、既にユートだけでなく香織自身も認めているのに本気で思っているのだから始末に負えない。

 

「さぁ、往くよ」

 

 ピチュン!

 

「「え?」」

 

 香織と天之河光輝、同時に二人の声が響く。

 

「ウギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアッッ!」

 

 刹那、股間を押さえながら天之河光輝は有らん限りの絶叫を上げるのであった。

 

 

.

 




 本当の意味で次回は旅立ちます。




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第57話:永山パーティ+αと話し合おう

 出発まで往けなかった……





.

「な、何がどうなってるんだよ?」

 

 ベッドの上に仰向けで寝転がる下半身に何も身に付けない香織、そしてやはり下半身を諸出しにして転げ回る天之河光輝の図は坂上龍太郎の頭を混乱させている。

 

「天之河が香織を襲ったんだよ」

 

「なっ! 光輝が?」

 

「僕はハーレムを築く癖に独占欲が強いんだよ。だからか、僕が抱いた女性は基本的に他の男が抱く事が出来なくなる。無理にヤろうとすればこの通りな訳だ。汚ならしいポークビッツがピチュンをしてしまう」

 

 三〇cmを越すユートからしたら平均的なサイズはポークビッツと変わらない。

 

 一応だが某・超絶美形主人公やネクロロリコン並にはデカイ為、天之河光輝が仮に挿入出来たとしても感じたりしないだろう。

 

 とはいえ、そんな巨根となった背景が背景なだけに余り喜ばしくはなかったりする。

 

 まぁ、図らずも女性を悦ばせる事が出来ているのだからもう文句は言わないが……

 

「か、香織! 光輝の治療を!」

 

「イヤ! それって光輝君のアレに手を翳せって事なんだよ? だから絶対にイヤ!」

 

「けどよ!」

 

「龍太郎君、レ○プ犯に同情は禁物だよ」

 

「うっ!」

 

 香織の口から天之河光輝が仕出かした事を語られて、息を呑んで当人を見つめるとギャーギャーと股間を押さえつつゴロゴロとのた打ち回っているのが余りにも憐れだ。

 

「坂上、これを飲ませろ」

 

「これは?」

 

「ハイポーション。ピチュンしたモノは治らないだろうが、それでも血止めや傷の治療くらいにはなるだろうさ」

 

「す、済まねぇ」

 

 ハイポーションを受け取り、天之河光輝に飲ませてやると漸く落ち着きを取り戻して意識を失ってしまう。

 

「大丈夫だったか?」

 

 新しい毛布を掛けてやって香織の全身が隠される事で、何とか震えていたのが止まったらしくてユートに肢体を預けた。

 

「有り難う、ゆう君。恐かったよ」

 

 幼馴染みの豹変と襲撃は心臓に悪い出来事だったのは間違いがない。

 

「にしても、光輝……遂にやらかしたわね」

 

 自分達が離れて情緒不安定だったのは見て取れたが、よもやこんな浅慮で短絡的な行動な出るとは思わなかった雫。

 

「坂上、次は本当に無いぞ」

 

「わ、判った」

 

 ふと視ればアベルグリッサーが聖剣モードにて転がっており、恐らくは天之河光輝もアレが謂わば男の娘だと理解した筈である。

 

「ねぇ、今夜のゆう君の御相手はユエさんだったよね?」

 

「……ん、そう」

 

「順番を変わってくれないかな? 勿論、今度の私の番はユエさんに譲るから」

 

「……了解した」

 

「ゴメンね」

 

「……構わない。ユートに甘えると良い」

 

「うん」

 

 原典ではハジメを巡るライバルであるが故にか呼び捨てだし、寧ろ順番があるなら奪い取るくらいはしていたろうが、この世界線では割と仲好しだからかこんな感じであったと云う。

 

 食堂に戻った一同。

 

 永山重吾は苦悩をしていた。

 

 十数人が最初に死んでしまい、数人が畑山愛子先生に付いて行って、只でさえメンバーに不安が残っていたというこの状況下。

 

 ユートと香織と雫が戻らないのは既定事項だとして、ハジメが抜ける可能性が濃厚になってしまっているからだ。

 

 当初、ハジメは【ありふれた職業で世界最弱】と思われていたが、実際はG3システム的に現代兵器すら造り上げてしまった。

 

 しかも今は仮面ライダーアギトである。

 

 更には中村恵里とは恋人という関係を築いている為、ハジメが出て行けば普通に彼女も一緒に出て行くであろう。

 

 そうなれば永山パーティ+坂上龍太郎と谷口 鈴+勇者(笑)という余りにも余りな構成になる。

 

 だからといってハジメや恵里に残れと言うには自分達の態度が悪かった。

 

 永山重吾自身は特にハジメを虐めたり、或いはそれに類する様な真似はしていないにしても例えば檜山一味による虐めを看過していたし、自分達の仲間に入れたりもしていない。

 

 謂わば無関心だったのに実は有能であったから仲間入りしろ……など、恥知らずにも程があるからとても言えなかった。

 

 勇者の名の下にクラスメイトが一丸となって戦うなど最早、夢のまた夢でしかない事は永山重吾ならずとも理解をしている。

 

 それが理解出来ないのは天之河光輝、即ち勇者(笑)のみだったりするから笑えない事実。

 

 取り敢えずこの場に居るクラスメイトが勇者(笑)を除き一堂に介した。

 

「御茶です」

 

 メイド――ニアという雫の御付きとなっていた少女が御茶を全員に行き渡らせる。

 

 永山重吾は御茶で喉を湿らせ口を開いた。

 

「さて現在、集まれるだけのクラスメイトが集まった訳だが……」

 

 永山重吾。

 

 野村健太郎。

 

 辻 綾子。

 

 吉野真央。

 

 谷口 鈴。

 

 坂上龍太郎。

 

 南雲ハジメ。

 

 中村恵里。

 

 八重樫 雫。

 

 白崎香織。

 

 緒方優斗。

 

 おっと、遠藤浩介も居た。

 

 そして永山重吾達からしたら謎の美女美少女に加えて美幼女、ユートに黙って従っている様に見える辺り仲間なのは間違いがないのだと考え敢えてツッコミは入れていない。

 

 金髪美少女が二人、黒髪に着物っぽいのを着ている美女、兎人族らしき美少女、そして多分に視た事はないが恐らく海人族の美幼女。

 

 女性ばかりである。

 

「えっと、取り敢えず自己紹介くらいはして貰って構わないか?」

 

「そうだな。仲間になった順に自己紹介を」

 

 ユエ達が頷いて立ち上がる。

 

「……ユエ。本来の名前は捨てた」

 

「シア・ハウリアですぅ。見ての通り兎人族として産まれました」

 

「ミレディたんはミレディ・ライセン。ユー君には色々な彼是があって付いてきているんだ」

 

「妾の名前はティオ・クラルスじゃ。宜しく頼むぞよ」

 

「ミュウはミュウなの!」

 

 言われた通り仲間になった順で名乗る。

 

「因みに、ミレディ以外は人間族じゃない。見るからに兎人族や海人族な二人は判ると思うけど、ユエは吸血鬼族でティオは竜人族だ」

 

「吸血鬼族に竜人族? 確か調べたらどちらも既に亡びてなかったか?」

 

「ああ、ユエは唯一の生き残りだ。ティオはどうにかクラルス一族だけが僅かながら隠れ里的な場所で暮らしているらしいな。言っておくが教会には言うなよ。吸血鬼族も竜人族も三百年前と五百年前に教会主導で亡ぼしたんだ。間違いなく厄介な事になるし、そうなったら魔人族の前に人間族が滅亡する事になるぞ」

 

「わ、判った」

 

 ()()滅亡させるのか、永山重吾は理解をして頷いた。

 

「それで、今回は何の集まりだ?」

 

「知っての通り、俺達は色々とガタガタになってしまっている」

 

「そうだな。契機は小悪党による愚かな攻撃により香織を始めとする僕ら四人が奈落に落ちた事。それに伴いクラスメイトの半数がベヒモスにより轢死させられるか、頭部の赤熱に生きながら焼かれるかして死んだ訳だからな。しかも小悪党供も纏めて……ね」

 

 無様に過ぎる死であったと云う。

 

 尤も、死んだのは小悪党四人組とハジメを蔑む男子女子ばかりだったからユートとしては正しくザマァとしか思えない。

 

「緒方、俺達の所に戻って来ないか?」

 

「御断りだ」

 

「あっさりと言うんだな」

 

「僕はそもそもエヒトの名に於いての魔人族との戦争に賛成した心算は無い。戦線離脱は此方としては好都合だった訳だね」

 

「仲間を助けようとは思わないのか?」

 

「クックッ」

 

「何が可笑しいんだ?」

 

 ユートが笑う……というか嗤っているのを眉根を攣める。

 

「その物言い、天之河みたいだぞ」

 

「っ!?」

 

 確かにレ○プ魔と成り果てた天之河光輝ならば今の科白を言いそうで、言った本人だけではなく周囲のクラスメイトもちょっと不愉快そう。

 

「だいたい、お前らは国や教会の言いなりになってまで何の為に戦う?」

 

「勿論、元の世界へ……地球に帰る為だ!」

 

「どうやって?」

 

「それは……イシュタル教皇が言っていただろう。俺達が戦争に参加して人間族が勝利すれば勇者の一行たる俺達を無碍にはしないと」

 

「それは前に雫達とも話したんだが……エヒトがそれを保証した訳じゃなく、イシュタルが無碍にはしない()()()()()()と言っただけだぞ。必ずや帰すとエヒト自身が保証したなら兎も角、僕はそんな話を信用してはいない」

 

 全員が――それこそ永山重吾を含めて()()が目を見開いていた。

 

「それにエヒトの目論見やら何やらを教えて貰う機会もあってな。それを加味して考えると絶対に帰れないな」

 

「そんな!?」

 

 谷口 鈴が泣きたくなる表情で口を開く。

 

「どういう事だ? 目論見とは?」

 

「トータスの神エヒト、真名はエヒトルジュエというらしいが……奴は永く在り続けた結果として思ったんだ。退屈だとな」

 

「た、退屈?」

 

「だから自らの無聊を慰めるべく地上に干渉をして戦争を起こさせた」

 

「……は?」

 

「方法は簡単。自らの使徒、銀髪の女を使い教会から命令を出す。場合によっては洗脳も辞さないらしいな」

 

「マ、マジかよ?」

 

 信じられないのか呆然と訊ねてきた。

 

「数百年前の竜人族、三百年前の吸血鬼族の滅亡も奴が干渉をした結果だ。竜人族は融和政策により人間族も魔人族も亜人族も竜人族も吸血鬼族も無い、垣根を取り払って行こうと数百年間を頑張ってきたが一瞬で台無しにされた。エヒトルジュエは地上が融和して平穏になるのが赦せなかったらしいな。そもそもこれは当時を生きたティオから聞いた話だから間違いはない」

 

 全員がティオを見ると静かに頷く。

 

「ああ、間違ってはおらぬよ。我らは仲良く暮らせればと思ったのじゃが、いつの間にか我々が悪しき思想で動いておる事にされておっての……父上も母上も殺されてしもうたのじゃよ」

 

 その沈痛な面持ちに皆が俯いた。

 

「じゃからこそじゃ、小さな集団ではあっても妾は主殿と共に()きたいと思うた。主殿に集うは正しく奇跡のパーティよ!」

 

「き、奇跡?」

 

 大言壮語ともいえるティオの言葉にキョトンとなる辻 綾子はその科白を鸚鵡返しに呟いた。

 

「御主はそうは思わぬか? 嘗て我らは他種族との融和を目指しておったが神により望みは潰え、一族も緩やかな亡びに向かっておる。主殿は小さいとはいえそれを体現しておる。吸血鬼族からは嘗ての吸血姫ユエ。亜人族からはハウリアの姫であるシアに海人族のミュウ。そして憚りながらも竜人族の妾。魔人族は居らぬがホンに奇跡の集団であろうよ」

 

「それは……確かに……」

 

 戦争真っ只中な魔人族が居ないのは仕方がないにせよ、ティオの言葉には力が籠められているのだと辻 綾子は感じていた。

 

 数百年を懸けた悲願に数百年の雌伏、それはつまり千年の想いが籠められた言葉なのだから当然と云えば当然かも知れない。

 

 それにトータスの人間と地球の人間を別種族に括れば更に増える形となる。

 

「むう、ならば緒方は俺達とは別に行動するからには何かしら指針が有るのか?」

 

「勿論、帰る為さ」

 

「な、なにぃ!?」

 

 ユートとしては何故に其処まで驚かれたのかが解らず寧ろ驚いた。

 

「この世界の魔法が神代魔法と呼ばれる魔法の謂わば劣化版……否、神代魔法を源流として幾つにも支流を持つというべきかな? そんなモノだとは理解しているか?」

 

「あ、ああ。座学で学んだからな」

 

「その源流たる神代魔法を集めれば最源流とも云える概念魔法に至れるそうだ」

 

「が、概念魔法……」

 

 ユートは敢えて概念魔法を神代魔法の最源流として扱い、神代魔法を獲る事への意味合いを強く推していった。

 

 因みに此処は現在、特殊な認識阻害結界が展開されていて話し合いを覗き見出来ない。

 

「神代魔法……か。それを獲る為に緒方は俺達と違う道を行くというのか?」

 

「そうだ。未だに獲た神代魔法は二つだけだから成るべく急ぎたいのさ」

 

「どんな魔法なんだ?」

 

「生成魔法と重力魔法。生成魔法は特定金属への魔法付与が可能。重力魔法は言うまでもないと思うんだけどな」

 

「そ、そうか……」」

 

 生成魔法はアーティファクトさえ造れる魔法だと永山重吾も理解をする。

 

「他にどんな魔法が?」

 

「バーン大迷宮に魂魄魔法。メルジーネ海底遺跡に再生魔法。ハルツィナ樹海に昇華魔法。グリューエン大火山に空間魔法。シュネー雪原の氷雪洞窟に変成魔法だ」

 

「い、いや……殆んどさっぱり判らんが?」

 

「勉強不足だな? 帰る術を獲られる最重要施設をまるで理解が出来ないとか」

 

「む、無茶を言うな! この世界の事に其処まで堪能になれるか!」

 

 キレて怒鳴る永山重吾をユートは冷やかな目で見つめ、イラッとする彼に対して溜息を吐きながらハジメへと目を向けた。

 

「ハジメ、説明を」

 

「わ、判った。バーン大迷宮は教会総本山に当たる神山の内部に在ると見られてる。メルジーネ海底遺跡はエリセンに。ハルツィナ樹海は亜人族の国のフェアベルゲンに。グリューエン大火山というのはグリューエン大砂漠の先に。シュネー雪原は魔国ガーランド内だね」

 

 ずっと勉強をしていたからか原典よりも多くの発見をしていたらしい。

 

「お前らが無能の無駄な足掻きと白眼視していた事が結実した訳だ」

 

 言われて全員が目を逸らす。

 

 永山パーティは特段、ハジメを虐めたりしていないとはいえやはり内心は役に立たないと考えた事があったのだから。

 

 知識もまた力だと理解をしていなかった。

 

 判った心算で解っていなかったのである。

 

「……オルクス大迷宮を含むなら謂わば七大迷宮の事か。それなら俺達が迷宮をクリアしたら?」

 

「七大迷宮の神代魔法は正しくクリアをした者ならば、種族に関係無く修得をする事が可能となっているからな。クリアすれば修得するだろ」

 

「クリアすればか……若しかして不可能と思われているのか?」

 

「思われているも何も()()()だ」

 

「な、何故だ?」

 

 永山重吾が少し不快気な表情で問う。

 

 第九〇階層にまで降りた実績に多少ながら自信を持ったのだろうが、それは単なる勘違いでしかない事をユートはよく知っている。

 

「俺達はこれでも九〇階層まで降りたんだぞ? それでも不可能だと云うのか!」

 

「理由は二つ」

 

「ふ、二つだと!?」

 

 ピースサインを出すユートに驚愕する。

 

「一つは言わずもがな、実力不足という問題だ。オルクス大迷宮は特別に大変な場所だというのを加味しても、他の大迷宮でさえ永山達ではクリアが覚束無いだろうよ」

 

「っ!」

 

「信じられないか?」

 

「あ、当たり前だ!」

 

 やはりというべきか、永山重吾だけの話ではなく辻 綾子や野村健太郎も不愉快そうだ。

 

 永山パーティの中では唯一、遠藤浩介だけはそれを真摯に受け止めている。

 

「ならば問おう。()()オルクス大迷宮に於いての第一階層……即ち第百一階層以降は上に上がる為の階段が無いから一気に第二百階層まで行く必要があり、水は兎も角として食糧はある場所でちょっとした強敵から獲る以外に無い状況で、しかも魔物は強さだけでなくデバフ系も使い出してくる。毒、麻痺、石化、操作など遠慮は無い。更には一階層が丸々で火気厳禁だったり毒霧が覆う部屋なんて階層その物がトラップなんてのも在る。命辛々で抜けても第二百階層のラスボスは多頭蛇(ヒュドラ)でな、六つの頭のそれぞれに炎、氷、防御、精神攻撃、治療、雷という役割が在り、それらを仮に潰せても第二形態に移行して真なる第七の頭を持つ怪物に変態するらしいが、果たしてそれを聞いて尚も自分達ならばクリアが出来ると自信を持てるか?」

 

 シンとなる一同。

 

 余りにも余りな内容に青褪める女子。

 

 尚、第二形態に関してはミレディから教えて貰ったものである。

 

「えっと、マジにか……それは?」

 

「当たり前だろ、僕は無用な嘘は吐かん」

 

「じゃあ、緒方はどうやって真? のオルクス大迷宮をクリア出来たんだよ!」

 

 永山重吾の常識では有り得ない。

 

「元々ね、オー君のオルクス大迷宮は他の六つの大迷宮をクリアしてから臨む総仕上げ的な場所として造られたんだ」

 

「……え?」

 

 口を開いたのはユートではなく金髪ポニーテールな少女、ミレディと名乗った娘だった。

 

「実際、オー君の大迷宮に入る前に()()()()()()()()()大迷宮で神代魔法を獲ていたら間違いなく有利になったよ!」

 

「え、と……貴女はいったい?」

 

「ミレディ・ライセン。ライセン大峡谷の大迷宮を管理していた本人さ!」

 

 再びシンとなり……

 

『『『『ハァァァァッ!?』』』』

 

 訳を知る者以外が絶叫したと云う。

 

「ミレディは千年以上というか数千年も前に神――エヒトと戦った反逆者だ。とはいえ、それは勝てば官軍なだけだがね」

 

「つまり、本当は違う?」

 

「人が自由な意志の許に暮らせる事を願って戦った【解放者】、決して正義の味方では無かったのだろうが……仮面ライダーみたいな存在だな」

 

 今ではミレディ本人も仮面ライダー。

 

「だが、数千年も前の人間がどうして?」

 

「神代魔法の一つに魂魄を操るモノが在るのさ。それでミレディの魂をゴーレムに移し変えていたから、僕は彼女のアストラル・マトリックスから生前の情報を得て創り出した。新しい肉体に魂を移し変えれば完成だ」

 

「待て、それはつまり……緒方なら死者すら生き返らせる事が可能なのか?」

 

「魂が在ればな。若し他の【解放者】の魂が残っていれば蘇生も叶ったんだが……」

 

 性格的には一癖も二癖もありそうな連中ではあるのだが、各々が生まれ持った神代魔法の扱いにはついては中々に巧く、仲間に加えるのも悪くはないとすら思っていたから。

 

 まぁ、ミレディが抱かれた後に不意に見せる寂しそうな顔……やはり嘗ての仲間に想いを馳せる事があるからというのもあった。

 

 因みに、そんなミレディは余りにも美しく見えるからムクムクとユートのユートが屹立してしまうが故に、再び未成熟に見えて艶かしい肢体へと襲い掛かり貪ってしまう訳だが……

 

「だったらクラスの連中だって!」

 

 ハッとなる辻 綾子や谷口 鈴。

 

「この世界にはあの世……冥界なり何なりが存在していない。そしてあの世が存在しない場合は魂というのは一〇分か其処らで霧消霧散してしまう。余程に強靭な魂なら霧散せず何百万年と掛かって転生もするらしいがね」

 

 実際にそうやって転生した連中が居る地球にも関わった事がある。

 

「そ、そうなのか?」

 

「ああ、神が居ればあの世を創造もしたんだろうがな。この世界のエヒトは所詮は偽神に過ぎないから自分の魂が霧散しない様に、神域を創って引き隠るのが精々だったらしいからね。この世界の地球に神は存在していないし」

 

 冥王ハーデスみたいな存在は無かった。

 

「とはいえ、僕は冥界の創造が出来るから持っていてね。恐らく死んだクラスの連中はそっちに逝ってるだろうな」

 

「ど、どうしてそんなもんを創れるかは置いとくとして……じゃ、じゃあ?」

 

「言っておくが、何のメリットも提示せず死者の蘇生なんてしないぞ」

 

「っ! クラスメイトだぞ!?」

 

「知った事か。そもそも人間の命は基本的に一つだろうに。死んだらそれまで、死者蘇生を行うってのは命の価値を軽くする。DBだって『ドラゴンボールが有れば死んだ地球人は生き返れる』とか言われて殺されるのを是とされたろうに」

 

「……だが!」

 

「一人につき一〇億$を支払え」

 

「¥じゃなく$かよ!? つーか、高い!」

 

「二束三文な安物なら態々、生き返らせる程ではないんじゃないか?」

 

「ぐっ!」

 

 命の価値を論じるなら高値でも支払うべきであろうが、二束三文の金銭で買える安物なら生き返らせる価値が有るのか?

 

 そう言われてしまっては永山重吾も二の句を継げないでいた。

 

 ユートは天の道を往き総てを司る男の如く右腕を掲げて人指し指を伸ばし……

 

「ヒイロ・ユイは言っていた、『命なんて安い物だ……特に俺のは』……と。だから彼は容易く自爆を選べるんだろうしな」

 

「それはそうだろうが……」

 

 ちょっと頷けない。

 

「扨置き、二つ目。それは既に僕がクリアしている大迷宮――オルクス大迷宮は総合第一五〇階層、ライセン大迷宮は入口と最深部の扉を封鎖してしまっているからだ」

 

「な、何だと!?」

 

 確かにそれではクリアは強さ云々の問題では無くなってしまう。

 

「基本的に大迷宮はきっちりクリアしないと神代魔法を獲られない、つまり出口側からゴールまで行っても意味が無いんだ」

 

「大迷宮にはそれぞれにコンセプトが有ってね、そのコンセプトに沿ったトラップなんかを突破するのが修得方法なのさ!」

 

 造った張本人が言うと説得力がある。

 

「封鎖とやらはどうすれば解ける?」

 

「普通の人間じゃ無理だな」

 

「無理?」

 

「そうだ。仮に天秤座の武器の複数を一度にぶつけても傷一つ付かないし、何なら黄金聖闘士達が数人でも不可能。というか、弱点的な問題があるから黄金聖闘士一二人が全力全開手加減抜きでの一撃に懸ければ、命と引き換えになるが破壊する事も出来たりするんだよな」

 

「な、【嘆きの壁】じゃねーか!」

 

「其処までやっても更に超次元により神の加護が無いと粉微塵に成るけどね」

 

「どんだけ容赦が無いんだ!?」

 

 ユートが置いたのは【嘆きの壁】。

 

 聖闘士星矢の冥王ハーデス篇、地獄の最下層たるジュデッカの更に奥に聳える壁である。

 

 砕くには太陽の光を以てせねばならない。

 

 本格的に誰も寄せ付けない心算だとしか思えないレベルであったと云う。

 

「で、何とかなりそうか?」

 

 なる筈もなかった。

 

 あの世を創造したとか何とか言っていたから、嘆きの壁も創れたりするのだろうし。

 

「緒方はどうしてそんな色々な力が有る?」

 

「僕は転生者だ」

 

「は? まさか莫迦にされてるのか?」

 

「もう一度言う、僕は転生者だ。神から転生特典(ギフト)を与えられてラノベやアニメや漫画の世界に生まれ変わった者。最初に生まれ変わった世界は【ゼロの使い魔】、識っている者も居るとは思うがね。次に生まれ変わったのが【魔法先生ネギま!】や【聖闘士星矢】なんかが複雑に交じり合った習合世界。他にもハルケギニア時代に於ける最終決戦後に世界を越えて様々な世界を旅していた。その時にネオディケイドライバーを顕現させたんだよ」

 

「顕現させた?」

 

「最終決戦……這い寄る混沌ナイアルラトホテップと闘ったあの決戦で僕は切札として【輝くトラペゾヘドロン】を使った。その副作用だったのか、僕は使えていた力を丸っと使えなくなってしまったのさ。だけど唯一、あの最終決戦で知った自分の正体から持っていた這い寄る混沌としての神力を喚起すれば取り敢えず力は使えるから。とはいえそんな事をすれば、僕は人格を這い寄る混沌に塗り潰されていたろうけどな。それを防ぐ為に拾われた家に居た二柱の女神に力を喚起して貰い、人格を塗り潰されるのはフィルタリングした結果がネオディケイドライバー」

 

「いや、なんで這い寄る混沌の力からネオディケイドライバーとやらが?」

 

 どうやら永山重吾は識らないらしい。

 

「僕も識らなかったんだが、【這い寄れ!ニャル子さん】という作品の最終巻で現在過去未来世界をも越えて這い寄る混沌が集った。その中には居たそうだ……仮面ライダーディケイドが」

 

「マジか?」

 

「言ったろ、僕も識らなかったと。情報は確かだからマジだろうね」

 

 まだ識らなかった全員が息を呑む。

 

 何度か説明もしていたから知る者は知る情報であるが、永山パーティらには話していないだけに当然の如く衝撃的な事実であろう。

 

「っていうかさ、這い寄る混沌って邪神とはいえ神様ってやつだろう? 緒方が神様?」

 

「這い寄る混沌はその欠片が無数に存在しているからな。特定の顔を持たぬ【無貌】故に逆説的には【千の貌】を持つ者。さっき言ったディケイドが這い寄る混沌の一つとして描かれた作中にも、それこそ様々なる媒体やら何やらで描かれた這い寄る混沌が無数に存在していたんだ。デモンベインのナイアもそうだし、邪神シリーズのケイン・ムラサメもそうだったしな」

 

「ああ、成程……ペルソナにも出てくるな」

 

 ユートは千在る貌の一つに過ぎない。

 

「それに這い寄る混沌ってのは人間に化けている間は飽く迄も人間。神の力は持ち合わせていないから僕が神というのもまた違う。市乃や夏那からフィルタリングして貰ったから這い寄る混沌化は避けられたしね」

 

「市乃とか夏那って誰だ?」

 

「元水の神と夏の神。市乃は力を使い果たしてしまって人間に転生したからな。夏那は神の侭だけど人間の世界に……俗世間に住まうに辺り市乃に合わせて改名したんだよな」

 

 尚、立場的には水杜神社の宮司とその妻の養女という事にして戸籍を得ている。

 

 市乃は両親から生まれ直して女子高生になった頃に、天神神社に訪れていたユートとある意味に於いて再会をして記憶と力を取り戻した。

 

 肉体的には人間であるが神力も持ち合わせる……とはいえ、元々が戦闘力は皆無だっただけに強くはないのだけど。

 

「ま、便利な力だよ。忌々しいナイアルラトホテップの力って事を除けば……な」

 

 ユートは自嘲しながら言ったものだった。

 

「なぁ、緒方。頼みがあるんだが……」

 

 永山重吾の科白の先はだいたい判る。

 

「俺達に仮面ライダーのツールを貰えないか?」

 

 思った通りの内容。

 

「駄目に決まっているだろう。況してや貸して欲しいを通り越してくれとか、どんだけ図々しい事を言ってるんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「さっきも言ったが御断りだ。ライダーにせよ何にせよ、僕が力を与えるのは身内か準身内のみ。少なくともこの場に居る身内は全員がライダーの力を持っているし準身内にも渡しているからな、他に渡すべき相手は存在しない」

 

 リリアーナとヘリーナは身内扱いだがこの場に居ないし、ライダーシステムなどを渡している訳でも無かった。

 

「この場の身内?」

 

「僕にとって身内とは男の場合は親友くらいにはなっている必要がある。女の子の場合は【閃姫】と言っても判らんか……早い話が夜中にベッドの中でプロレスごっこに励む仲だな」

 

 直接的な表現を避けてみたが谷口 鈴も辻 綾子も吉野真央も意味を理解したか、ほんのりと頬を朱に染めてユートをチラ見してきた。

 

「じゅ、準身内とは?」

 

「身内の身内だな」

 

「身内の身内?」

 

「例えば親友の恋人……とかな」

 

 ユートが見たのはハジメの隣に座る恵里、それに気が付いたのか少し恐縮しているらしい。

 

「或いは身内の家族がそうだ」

 

 見たのはシア。

 

 シアの一族は基本的に一族全体を家族と扱うと聞くし、だからかシアやカムだけではなく全員がハウリアを名乗っている。

 

 森人族ならハイピストなのは長老にして森人族の長たるアルフレリックとその血族、それだけしか名乗ってはいないであろう。

 

「ハジメと浩介は親友枠だから仮面ライダーの力を与えたし、中村はハジメの恋人だから渡した訳だが……永山達は違うよな? 因みに親友の友達は単なる他人扱いだからな」

 

 世知辛い話である。

 

「だから、浩介が見慣れない仮面ライダーに成っていたのか?」

 

「仮面ライダーシノビ。【仮面ライダージオウ】に登場するミライダーの一人だな」

 

「ジオウ? それは天之河が言っていた」

 

「あれはアナザージオウ。仮面ライダージオウの敵役で中ボスだな」

 

「中ボスって、じゃあラスボスは?」

 

「アナザーディケイドだとか」

 

「マジにか……」

 

 話も終わりとばかりにユートは立ち上がると、吉野真央、谷口 鈴、辻 綾子の三人をそれぞれに見回しながら言う。

 

「ライダーシステムが欲しいなら僕の寝室にでも来るんだな」

 

 ギョッとなる三人。

 

「たっぷりと可愛がってやるからさ」

 

 内心では誰も来ないと確信しながらも一応だが言っておくのは、万が一にも三人の中の誰か一人でもその気になればラッキーだから。

 

 ユートは手をヒラヒラと動かしながら退室してしまい、それに雫やユエ達の【閃姫】組も揃って退室していく。

 

 今宵の御相手は香織に譲ったユエは仕方がないからシアと寝る予定だ。

 

 そして香織は紅い顔でユートの腕に組み付き、今宵に起きるであろう快楽を思うのだった。

 

 

.




 次は確実に出発の筈。




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第58話:鈴の決意と新たな旅路

 最後ら辺が少し雑い。





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 話し合いは終わったが永山パーティのメンバーは色々と複雑だ。

 

 まさかライダーシステムを貰う為に吉野真央や辻 綾子を差し出すなど出来やしない、勿論だけど本人がそれで構わないのなら止めないが……

 

「要は肢体で払え……か」

 

 吉野真央は自らの肢体を抱き締める様にしながら呟く。

 

「多分だけどお金で支払うならやっぱ億単位での請求よね?」

 

「だろうな」

 

 そんな吉野真央の科白に永山重吾が頷いた。

 

 ライダーシステムが現実に在るのなら果たしてその価値とは如何程か、はっきり言ってしまうと価値など付け様がないという事に。

 

 壱億? 十億? 百億? そんな()()で本来ならば買える物ではないのだから。

 

 例えば実際にカブトゼクターとベルトをセットで開発するとして、果たして幾らくらい掛かるのかを考えてもみるが良い。

 

 況してや、この世界の地球ではタキオン粒子が未発見であるからには先ずそれを捜す必要があるだろうし、鎧兜を量子化してそれを瞬間的に着込める技術も必須であろう。

 

 ハジメならまだ近似技術である程度なら可能かも知れないけど、科学的には普通に無理で無茶で無謀な試みにしかなるまい。

 

「わ、私はちょっと……」

 

 野村健太郎を見ながら辻 綾子は呟く。

 

「別に嫌々で行けとか言わん」

 

 ライダーシステムは欲しいがだからかといって貞操を捧げて来いとか、永山重吾はそんな莫迦を言う程に腐れてはいなかった。

 

 取り敢えずは解散となり、ハジメは部屋に戻る事にしたから恵里を伴い食堂を出る。

 

 永山重吾達も各々の部屋へ。

 

 それは谷口 鈴と坂上龍太郎も同じくだったのだろうが、そんな常識とは裏腹にハジメの部屋へと谷口 鈴は向かっていた。

 

 コンコンとノックをする。

 

「誰?」

 

 思った通りの声に安堵しつつ答えた。

 

「あの、鈴なんだけど……」

 

「何で鈴がハジメ君の部屋に来るの? まさかのNTR宣言なら受けて立つよ」

 

「ち、違うから! エリリンに話があったの! 南雲君に用事じゃないよ!」

 

「……仕方ないな」

 

 ガチャリと開く扉……

 

「な゛!?」

 

 其処にはネグリジェ姿の恵里。

 

 それに仄かな汗の臭いや若干、上気をしている表情を視るに励もうとしていた……というより既におっぱじめていたらしい。

 

 ゴクリと固唾を呑む谷口 鈴、今の恵里は普段の姿からは想像も難しいくらいに色っぽい艶姿。

 

 ちょっと前に比べて何故か色気が弥増していたのは気付いていたが、始めようとしていた今の姿にはまだ敵わないレベルである。

 

「あ、あの……鈴はお邪魔だったかな?」

 

「うん、邪魔。数時間後に出直して」

 

 思い切り愉しむ気満々な科白に引き攣ってしまうも、それで諦める訳にはいかないと意を決して恵里へと話し掛ける。

 

「あの、少し話があるんだ!」

 

「だから数時間待って。五発くらいハジメ君のを抜いたら聞いて上げるから。それとも手伝う? ハジメ君、ちょっと凄いよ?」

 

「て、手伝わないよ!」

 

 魔物肉などを錬金術で合成した特殊な団子を食べた二人は、容姿が少しばかり上向いただけではなくセ○クスに於ける耐久性も上がった。

 

 まぁ、それ以前の自分を知らないからどう上がったかも解っていないが……

 

 ハジメはユート程にダイナミックな変化をしていないけど、長さ固さ太さが倍近くにもなった上に射精が出来る量も一度の多さと回数が普通より増えていたりする。

 

 ユートみたいな無限ではないけれど、それでも恵里を悦ばせるには充分過ぎた。

 

 何処ぞの勇者(笑)に比べると長持ちするのもあって、恵里は勇者(笑)を見限って正解だったのかも知れない。

 

「じゃあ、部屋で待ってるから」

 

「うん、また後でね」

 

 全く取り合って貰えずガックリと肩を落として部屋を離れる谷口 鈴だったが……

 

「アアン! 凄いよハジメくぅん!」

 

 響いてきた嬌声に固唾を呑んだ。

 

「エ、エリリンの方が凄いよ!?」

 

 薄い壁だから丸聞こえとはいえ魔法か何かで声を遮るくらいして欲しかった。

 

 数時間後……本気で数時間も待たされてしまった谷口 鈴は、ちょっと睨み気味に恵里を視てしまうのも無理はあるまい。

 

 だけど仄かな湯気と石鹸の香りなどから未だに事後なのだと理解して、頬を朱に染めてしまいながら視線も上手く定まらなかった。

 

「で、私とハジメ君の邪魔をしてまで何?」

 

 辛辣に過ぎる。

 

「えっと、仮面ライダーを緒方君から貰うにはどうしたら良いのかなってさ」

 

「抱かれたら?」

 

「ブーッ!」

 

 余りに直接過ぎて噴いてしまう。

 

「緒方君が言っていた事だよ? 欲しいなら身内になるか準身内になるかってさ。だけど私みたいな準身内になるにしても、緒方君の身内の身内にならないといけないんだよ? ハジメ君は鈴にだって渡さない!」

 

「要らないよ!?」

 

「ハジメ君の何が悪いの!」

 

「ちょ、面倒臭いよエリリン!」

 

 要ると言えば怒るだろうに要らないと言われてキレたら困ってしまう。

 

「で、結局の処……話は?」

 

「急に戻らないでよ。あのね、勿論だけどエリリンの南雲君が欲しいなんて言わないけど、やっぱりライダーシステムは使えると鈴は思うんだ」

 

「確かに使える。実際、私が貰ったのは可成りの物だから」

 

「そういえばエリリンが貰ったのって?」

 

「これ」

 

 それは蛇に見える紋様が描かれた紫色の機器であり、中には何枚かのカードが納まっていると思しき代物だった。

 

「仮面ライダー王蛇のカードデッキ!?」

 

「そう。あの時、女魔人族をベノスネイカーに喰わせようとしたのに光輝君に邪魔された」

 

「エリリンが凶悪化した事案について!」

 

 残念ながら割と素であったと云う。

 

「不意討ちに横から喰わせれば間違いなく勝てたんだけどね」

 

「エリリンが怖い……」

 

 龍騎系仮面ライダーにとって、ミラーモンスターが不意に顕れ人間を掻っ浚うのは至極当然な出来事でしかなく、仮面ライダー王蛇となった恵里も既に何人かの騎士なり何なりをベノスネイカーに喰わせていた。

 

「多分、身内の身内……緒方君の準身内はライオトルーパーとかの量産品が普通なんだと思う」

 

「エリリンは?」

 

「ハジメ君の彼女だからサービス?」

 

 初めて出来た恋人であり互いの初めてを捧げ合った仲、特にハジメはオタク仲間という訳でもなかったが共通の趣味、共通のアルバイトなどこの世界で殊更に仲が良かった。

 

 それ故に恵里にはサービスで作中で可成りの強さを魅せ付けるダークライダー、仮面ライダー王蛇のカードデッキを渡してやったのである。

 

 勿論、それは恵里の本性を知るユートからすると皮肉でもあったのだが、今の彼女はその性質が可成り緩和されているみたいだった。

 

「じゃあ、やっぱり御身内さんになる方がお得……なのかなぁ?」

 

「少なくも、遠藤君辺りに態々アタックするより本人にして良い物を貰った方が得だと思うよ」

 

「うーっ、だよねぇ」

 

 身内の身内――準身内に成るというのは取りも直さずユートの友人と恋人に成るという意味。

 

 ハジメには恵里が居て手放さないなら浩介へとアタックするしかないが、別に好きでも無いのにヤるなら迂遠なやり方より直にユートへ向かった方が良い訳だ。

 

「でも、今日は止めた方が良いよ鈴」

 

「え、何で?」

 

「今夜は香織が甘えたい筈だから」

 

「……ああ、そっかぁ」

 

 それこそ好きでも無い男に迫られた挙げ句の果てにショーツを破り取られ、暗がりだったから見えやしなかったろうけど秘所を晒したのだ。

 

 嫌な記憶を上書きして欲しいというのは確かにあるであろう。

 

「どうせだから答えを伝えて予約したら? 確実に抱いて貰える様に」

 

「う、うん」

 

 何だかいつの間にか抱かれるという答えが出ているが、誘導されたのだとは流石に谷口 鈴には解らない事実だった。

 

 その後……

 

「うん、鈴を焚き付けた。サバイブ疾風のカードを宜しくね」

 

 恵里が()()()に連絡をしていたりする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、リリアーナが専属侍女ヘリーナを連れて訪問をしてきた。

 

「直に会うのはお久し振りですわ」

 

「そうだな」

 

 色々とあって中々、会いに来れなかったのは間違え様がない程に事実である。

 

「飽きられたのかと」

 

「まさか? 色々と忙しかったからね」

 

「一応、これが報告書になりますわ」

 

 ヘリーナから受け取った紙の束をユートに渡すリリアーナ、現代人としてはやはり紙媒体というのは少し古めかしい。

 

 今時ならスマホやタブレットを使うだろうし、パソコンでフラッシュメモリを使うのも良い。

 

「なぁ、リリィ」

 

「はい?」

 

 可愛らしく小首を傾げる様は視る者からしたらあざといが、少なくもリリアーナにそんな意図など全く無い天然物であろうか?

 

 

 流石は王女様というか普通に可愛い。

 

「少しパソコンなりタブレットなりを使ってみないか? 情報媒体としては紙より嵩張らないと思うし使い熟せれば便利だと思うしな」

 

「……パソコンですか? それはひょとしなくてもユートさんの世界で使われる?」

 

「ああ」

 

「わ、私に使える物でしょうか?」

 

「使い方は知識をインストールすれば良いから、特に問題も無い筈だよ。後は慣れだね」

 

「慣れ……ですか」

 

「で、どうするよ?」

 

 パソコン自体は多少なり場所を取られるのだろうが、ノートパソコンならそれも大きく緩和されるからオススメであった。

 

「試してみたいですが……文字とかは? 此方のに変換されるんでしょうか?」

 

「出来なくはないがメモリの無駄遣いだろうし、僕が翻訳魔法を使おうか。昔に造った眼鏡型魔導具が有るからね」

 

 翻訳(リード・ランゲージ)を眼鏡に付与させれば良いだけの簡単な御仕事、それは昔に神雷から少年を護った所為で不幸になる少女達を救うべく神雷を使った創造神に、その世界へ自分を行かせる様に言った時にとある魔法研究者の御姉さんに贈った物と同じアイテム。

 

 尚、それらの行為に何だか感動したお姫様から逆求婚をされましたが、スマホでユーキに連絡をしてみたらそれが正しいらしくて……

 

「判りましたわ、御願いしますね」

 

 そしてイチャイチャし始めてお外とはいっても自室ではないという意味だが、リリアーナとヘリーナを『戴きます』して部屋に戻って3Pを続けてしまった訳である。

 

 それを見せ付けられた少女が一人。

 

「ま、まさかのリリィと侍女の御姉さんが緒方君

と密会……しかもヤっちゃったんだけど?」

 

 まざまざと視ていた谷口 鈴は自身の御股を潤しながら、真っ赤な顔で室外での三人の行為を目に焼き付けていた。

 

 勿論、わざとである。

 

 谷口 鈴が覗いているのを承知の上でリリアーナとヘリーナを抱いて見せたのだ。

 

 何だかんだ云っても興味津々だった谷口 鈴は、あっさりと罠に掛かってしまう。

 

 実際、トロンと蕩けた表情で右手は胸や御股に伸ばされていたのだから。

 

「うう、あんな風に毎晩毎晩代わる代わるシてたら鈴なんて入り込めないよ……」

 

 こうなると夜には既に決まっているみたいだし朝方にでも突撃するか?

 

 谷口 鈴は意を決して……

 

「先ずやるべきは!」

 

 水場で下着の洗濯であったという。

 

「うう、何だか情けな過ぎるよ~」

 

 自慰をしたのだから自業自得である。

 

 更に翌朝、握り拳を作りながら叫ぶ。

 

「女は度胸!」

 

 どうやら覚悟完了らしくユートが朝食後の飲み物として、一人で自前の珈琲タイムを愉しんでいるみたいだからチャンス到来。

 

「ふむ、美味い。流石はフェイトのオススメするブレンドだな」

 

 正確には栞――ルーナが姉の味を再現した物を貰ったものである。

 

 栞は【閃姫】の一人と成っているからいつまでも若々しく、まるで嘗ての姉がフェイトにした様に笑顔で珈琲を淹れてくれていた。

 

 勿論、この『フェイト』とはフェイト・アーウェルンクスを示している、 間違ってもフェイト・テスタロッサではないと云えるであろう。

 

 フェイト・アーウェルンクスが居た世界とは即ちユートの再誕世界、【魔法先生ネギま!】以外にも【聖闘士星矢】がウェイトを占める世界でもあり、他にも【怪奇警察サイポリス】や【GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり】が混じったり、【隠忍シリーズ】だったり【型月】のシリーズだったりが入り交じり習合する混淆世界でもある。

 

 【聖闘士星矢】が混じる為にユートは聖域にて双子座の黄金聖闘士の位をアテナより拝命をしていて、嘗ての龍星座にして天秤座の聖闘士であった紫龍が教皇として聖域を治めていたが前教皇のシオンより百年も早く死んでしまい、已むを得ず教皇に就任して次世代のアテナと聖闘士を育成、若き聖闘士が教皇に成れるくらいに成長をした後にアテナの許可を以て教皇を退任、双子座の黄金聖衣を譲渡――代わりにユートが造った双子座の黄金聖衣を聖域に渡した――されて世界を出た。

 

 フェイト・アーウェルンクスは別世界も面白そうだと、暫くはユートに付いて回ったものでそれも飽きたらエリシオンに引っ込み、珈琲という自らの趣味を全開に暮らしていたりする。

 

 また、フェイト・ガールズは基本的に大分裂戦争戦中戦後にフェイトに拾われて恩義を感じていたが、原典と違って顔こそヘルメット型の兜により不明だったものの【ジェミニ】にも強い恩義と愛情を感じていた為、【閃姫】となり長命種亜人として以上に長生きして今現在はエリシオンにて暮らし、フェイトが経営する【喫茶ネギま】でのアルバイトをしていたり。

 

 ルーナは特にジェミニ大好きオーラを出していたから、フェイトが気を利かせて偶に珈琲豆を届ける任務を仰せつかる。

 

 ユートの飲む珈琲はそんな中の一つだ。

 

「お、緒方君! 今、良いかな?」

 

「構わないよ。珈琲でも飲むか?」

 

「い、戴きます」

 

 淹れられた珈琲は黒い液体、カップの載っているソーサーには小さな砂糖とミルク。

 

「最初にブラックで一口、それから砂糖とミルクを加えて味を調えると良い」

 

「う、うん……」

 

 鼻腔を擽る香りは悪くない。

 

「う゛、苦っ!」

 

 見た目に違わず御子様舌だった谷口 鈴は顰めっ面になって舌を出す。

 

 そして砂糖とミルクをぶち込んで飲んだ。

 

「ふう、御馳走様」

 

「御粗末」

 

 取り敢えず砂糖とミルクを入れたら飲めるだけの味に変化したらしい。

 

「で、用件は?」

 

 別っている癖に態々訊いた。

 

「ライダーシステムについて!」

 

「渡すのは構わないさ。だけど当然ながら対価は

必要となるぞ?」

 

「お金か……か、肢体かだよね?」

 

「そうなるな」

 

 迂遠な形な準身内に成るくらいなら……

 

「は、初めてだから普通に……して下さい」

 

 御初で青○は嫌だった。

 

 谷口 鈴の“開通式”が行われて彼女は無事に仮面ライダーと成る。

 

 その陰ではよもや親友が新たな力を獲たなどとは思いもしなかったが……

 

《SURVIVE!》

 

 仮面ライダー王蛇と成った恵里は早速貰った【サバイブー疾風ー】を発動、正しく疾風一陣が吹き荒れベノバイザーツヴァイが握られると手にしたカードを装填、電子音声が鳴り響き竜巻と共に仮面ライダー王蛇サバイブに変身した。

 

「あは♪ あはは!」

 

 グリンと首を回す様は王蛇そのもの。

 

 中村恵里はハジメの恋人に成ってから随分と落ち着いたが、元々が持ち合わせていた後天的な歪みや狂気が無くなった訳ではない。

 

 普段はハジメとセ○クスをする事で性欲と共に解消していたが、オルクス大迷宮で勇者(笑)によりカトレアをベノスネイカーに喰わせるといった所業を邪魔され可成りキてしまっていた。

 

 だから変身さえすれば雑魚と知りつつも態々、強化変身してまで魔物退治に出たのだ。

 

 夜中にはハジメが鎮めてくれるけどセ○クスと殺しの快感はまた別物、紅 音也がヴァイオリンを弾くのとイクサに変身する快☆感がきっと別なのと似ているのではなかろうか?

 

 恵里が一頻り暴れ回って魔物も大分居なくなったのだが、一際に大きな魔物が意図的に残されていてベノバイザーツヴァイにカードをベント。

 

《FINAL VENT!》

 

 ベノスネイカーは鏡が割れる様なエフェクトと共にベノヴァイパーへ進化。

 

 地を這うベノヴァイパーは何故かバイク化し、王蛇を乗せて疾走をしながら毒液を吐く。

 

「死ね!」

 

 そして盛大に轢き逃げアタックを極めた。

 

 仮面ライダーといえば轢き逃げアタックとかに定評もあるが、仮面ライダー龍騎系だとサバイブをした龍騎やナイト、オルタナティブが轢き逃げアタックによりトドメを刺している。

 

 気持ち良さそうにベノヴァイパーから降りて、変身を解除してから魔物の素材や魔石の剥ぎ取り

をすると、後は知らないと云わんばかりに放って置いて城へと戻った。

 

 残骸はまた別に魔物が喰らうだろうから。

 

 帰ったらシャワーが無いのが残念だけど風呂は完備されているから入浴、夕飯後はハジメの部屋に入り浸り夜中になれば共にベッドへ。

 

 スッキリと性欲が解消されたらハジメの腕枕で眠りに就いた。

 

 ある意味でルーチンワーク。

 

「早く城を出て気侭な冒険者生活をしようね」

 

 眠るハジメの頬をツンツンと(つつ)いて呟くと目を閉じた。

 

 既に恵里も……勿論ながらハジメも城に残ろうだなんて思ってはいない。

 

 ハジメはギルス化した際に行き成り背後から斬り付けられ、恵里は隙を窺ってベノスネイカーを嗾かける予定が狂わされた。

 

 どちらも勇者(笑)の所為で……だ。

 

 ならば最早共に在るには能わず、ユートが城を出るのと同じく出ようと話し合ったのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 鈴は自らが貰ったライダーシステムを手にして

は真っ赤になり、そうかと思えばニヤニヤとニヤケる百面相をしていた。

 

「はうう、まだナニかお腹に入ってる感覚」

 

 初めてをユートへと捧げた夜に僅か三発程度の

短い時間だったが、鈴にとっては凄く長い時間に感じられる一時であったと云う。

 

「痛いって言っても聞いてくれないんだもん」

 

 初めてを貫かれた痛み、お腹の中の鍛えようが無い部分を抉られるその瞬間を迎えて泣き叫んだ鈴だったが、ユートは『痛みを与えたのが誰か、傷を付けたのが誰なのかを刻み込むこれは謂わば儀式だ。だからこの瞬間だけは決して手加減しないと決めてる……悪いけどな』――そう言いながら鈴の開通式を行った。

 

「まぁ、これは貰えたからもう良いけどさ」

 

 それは虎のライダーズクレストが描かれている四角い箱、仮面ライダータイガのカードデッキであったと云う。

 

 一号機は勿論ながら此処ではない世界に居る者が持っている訳だが、恰かも平行世界と云おうかリ・イマジな世界が幾つも在るから幾つも存在していておかしくないと云うのか、ユートは二号機を普通に造って鈴に与えた。

 

 龍騎系仮面ライダーは仮面や鎧やスーツなどはバリアジャケットや騎士甲冑みたく、エネルギーの物質化により構成されていて契約モンスターの力をインストールして完成される。

 

 鈴の場合はデストワイルダーだ。

 

 だから契約モンスターが居ない状態になったらブランク体になり、故に聖魔獣デストワイルダーを着込むという形にはならなかった。

 

「試してみようかな?」

 

 貰ってからまだ変身はしていない。

 

 部屋に姿見を用意して貰ったから変身はすぐにでも可能だし、玩具を買って貰ったばかりの子供みたいな心境である。

 

 CMSやDXの変身ベルトを買ったら取り敢えず試しに『変身』したくなるみたいな。

 

 キーンキーンキーン! 煩いくらいに耳鳴りがする中、鈴がタイガのカードデッキを姿見へと翳してやるとVバックルが腰に。

 

「ふおおおおっ! テンションが爆上げだよ! 作中通りにVバックルが装着された!」

 

「変身っ!」

 

 左側のスロットからVバックルへと装填されるカードデッキ、同時にタイガの鏡影とも云うべきが鈴に向かって顕れる。

 

「仮面ライダータイガ……英雄に憧れて、だからこそ英雄に成り損なって、そして死んで初めて誰かの為の英雄と讃えられた……か」

 

 ちょっとしんみりしてしまった。

 

 鈴は別に英雄に成りたい訳ではないのだから、特に気にする必要は無い筈だ。

 

「けど、ガタイが良過ぎるよねタイガってさ。まぁ、鈴が変身しているからか何処と無く女性っぽいラインなんだけど……」

 

 とはいっても、本来の鈴の体型は子供っぽいから少しコンプレックスがある。

 

「取り敢えずゆう君は鈴の事を魅力的だって言ってくれたもん! って、鈴は誰に向かって言ってるんだろ?」

 

 ユートには体型は割と二の次、若し一生に一人としか目合う事が出来ないならそれこそ一番の好みを優先したかもだけど、もっけの幸い? にもユートは複数の女性と関係を持っていた。

 

 だからこそ気にしない。

 

 小さくて女性の脹らみに欠けていてもそれはそれで愉しめるし、逆に肉感的で胸も大きい女性らしさ全開な相手でも愉しめる。

 

 【閃姫】にしないなら処女の有無も問わないから所謂、人妻……正確にはNTRはどうかと思うから未亡人にも手を出すし、仮に恋人持ちであっても条件次第では手を出してしまう。

 

 昔にドラクエⅣ世界でネネを喰っちゃったが、その時点ではトルネコが死亡中だったり。

 

 FC版で云われていた設定と違い若く美しい、子供を産んだとは思えないくらい整った体型をした奥さんで、子を成すまでは毎晩励んでいたらしいもののポポロが産まれてからは御無沙汰だったのも良かった。

 

 改めてユート色にネネの膣内が染まったし。

 

 変身を解除した鈴は溜息を一つ吐いて頬を朱に染め、実際に仮面ライダーへと変身をした余韻に浸ってしまう。

 

 初変身の高揚感、それは仮面ライダー好きなら必ず通る道であるからには鈴も御多分に漏れなかったのであろう。

 

 尚、鈴は抱かれた後からはユートを香織と同じく『ゆう君』と呼ぶ様になった。

 

 恋人なんて甘ったるい関係ではなく愛人だとか妾だとか、正妻は疎か側室にすら及ばない地位だと鈴は考えているが、それでも自分に初めての証を刻んだ男に情は懐いている。

 

 それに普通なら初めてでイク事は難しいと聞いていた鈴だが、痛みに堪えながらいつの間にやら痛みとか違う感覚が頭を支配していき、甘い嬌声を上げ始めて逆に怖くなったくらいだ。

 

 一発目から絶頂を迎えたのだから。

 

 思い出したらまた紅くなる。

 

「鈴も旅に出ようかな?」

 

 本当は皆を見捨てて逃げたくはなかったけど、今は天之河光輝に嫌悪感すら持っている。

 

 理由は簡単、勇者(笑)レ○パーが傍に居て良い気分で居られる訳が無い。

 

 今は強制的に宦官化しているからもうヤり様も無いだろうが、だからと云ってもそれとこれとは話が別と云えるのだから。

 

「顔が良ければナニをしても良いって訳じゃないんだよ」

 

 それに仮面ライダータイガのカードデッキを持っている鈴、永山重吾達はユートからライダーシステムを得る条件を聞いている。

 

 ならばこれを持つ鈴を彼らはどんな目で視てくるかなど想像すらしたくない。

 

「けど、一人旅はちょっと恐いかなぁ」

 

 見知らぬ世界のトータスで一人旅、地球でだってやれない自信がある鈴からすれば敷居が高いと言わざるを得ない。

 

「ゆう君に連れて行って貰うかな? 寧ろ浚って欲しいくらいだけどね。きっとカオリンもシズシズも鈴みたいに抱かれてるだろうから立場は変わらないし、だったら変な目で視られたりもしないよね? ユエさんやシアさんやティオさんもそうなのかな? うわ、ゆう君ってば絶倫さんだよ。流石にミュウちゃんは違うか……パパとか呼ばれていた……し? あれ? ミュウちゃんのお母さんとそんな関係なのかな? 不倫? あ、未亡人って線もあったか。未亡人なら独身だもんね」

 

 これからの事を思うと一人言が多くなる。

 

「エリリンと南雲君はどうするんだろう? 二人も仮面ライダーなんだし、やっぱりお城を出て行くのかな?」

 

 南雲ハジメが仮面ライダーG3ーXをやっていたのは知っていたが、そもそも本人すら知らない内に火のエル――プロメスの因子とやらを植え付けられており、それに覚醒して仮面ライダーギルスに変身した上に更に仮面ライダーアギトへと再覚醒を果たしている。

 

 そして恵里は仮面ライダー王蛇のカードデッキを与えられており、あの女魔人族を喰わせる気だったと聞かされていた。

 

「お城に残れば間違いなく二人は仮面ライダーとして利用されるもんね」

 

 これも寝物語に聞いたが、仮面ライダーはスペックにバラつきがあるけど最低限で量産型仮面ライダーのライオトルーパーでさえ、単純な筋力が3000くらいにはなるらしい。

 

 耐性や俊敏も各仮面ライダーで装甲が異なるから何とも云えないが、生物的な仮面ライダーであるアギト系や響鬼系でも高い水準であり、クウガもタイタンフォームなら俊敏が可成り犠牲になるがそれだけに硬くなるそうな。

 

 仮面ライダー龍騎はスペックがAPとして表現されるが、1APで0.05tとなるから龍騎で200APというパンチ力は即ち10tという事になる。

 

 アギトの7tより強い。

 

 そして装甲はそれを受ける前提で構築されていて然るべき、ならば自然と高い数値に至るという事になるのであろう。

 

 まぁ、仮面ライダーアギトの場合はクロスホーン展開で更にパワーを増すのだけど。

 

「明日、訊いてみよう」

 

 鈴の苦悩は続くらしい。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、結局はユートが城を出るまでに永山パーティの面々はライダーシステムを得られない侭に終わり、野村健太郎はある意味でホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 まだ付き合ってこそいないが、辻 綾子に好意を持っていたからだ。

 

「それじゃ、僕らは旅に戻る。グリューエン大火山やメルジーネ海底遺跡、他にもバーン大迷宮やハルツィナ樹海にシュネー雪原の氷雪洞窟と行かねばならない場所は多いからな」

 

 苦い表情な永山重吾はやはり残って欲しいのかもしれないが、だからと云って帰る術をエヒトの慈悲? に縋る以外に見付ける心算なユートを止める訳にもいかない。

 

「優斗、僕らも旅に出るよ」

 

「やっぱりか?」

 

「ギルスに成った途端に斬り付ける勇者(笑)とはやっていけない」

 

「私もだね。彼氏を傷付けられて黙っていたくはないから」

 

「そうか、なら一緒に来るか?」

 

 ユートが誘うが……

 

「取り敢えずは冒険者として動いてみる」

 

「そうか」

 

 どうやら二人旅をするらしい。

 

「鈴もゆう君と行きたいって言ったら連れて行ってくれる?」

 

「「「「「なっ!?」」」」

 

 永山パーティや坂上龍太郎が驚愕する。

 

 因みに、勇者(笑)は居ない。

 

「構わないが……」

 

「ま、待て! どういう事だよ!?」

 

 待ったを掛ける永山重吾。

 

「鈴は仮面ライダーになったんだ」

 

「は?」

 

 驚く永山重吾、坂上龍太郎も大きく目を見開いて驚愕をしていた。

 

「意味は……解るよね?」

 

 仄かに紅い頬が全てを語る。

 

「ようこそ、鈴。大迷宮攻略組へ」

 

 ユートが差し出す手を笑顔で取る鈴の姿が何だか遠くに行った感じに見えた。

 

「一応、仮面ライダークローズチャージや仮面ライダーシノビは残るんだ。問題も無かろう」

 

 益々、神の使徒とか呼ばれた勇者(笑)の人数が減ってしまって問題だらけだが、文句を言うに言えない永山パーティは呆然自失。

 

「では、行ってらっしゃいませユートさん」

 

 そんな中に在って、王女のリリィと侍女ヘリーナだけが笑顔で見送るのであった。

 

.

 




 鈴は仲間に、ハジメと恵里は我が道を。




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第五章:解放者
第59話:各々の道を往く者達


 これで暫く皆大好き勇者(笑)様は出番無し。





.

「皆、行ってしまったのか?」

 

「ああ。香織も雫も鈴も緒方とな。それに恵里も南雲と一緒に城を出た」

 

「そうか……」

 

 今は少し落ち着いたのか見た目はイケメンだが頭脳は御都合解釈、勇者(笑)天之河光輝は窓から外を眺めながら坂上龍太郎と会話をする。

 

「鈴まで居なくなったのか。しかも恵里がどうして南雲と?」

 

「鈴はお前の傍に居たくないそうだぜ」

 

「俺の……傍に?」

 

「香織をレ○プしようとしたお前に愛想を尽かしたって処だろ」

 

「っ! 違う、香織と俺は恋人で!」

 

「まだ言ってんのかよ! いい加減にしろよな、光輝と香織が付き合っていた事実は無いだろ! そもそも雫から聞いたが、香織は南雲の事が好きだったってよ」

 

「なっ!?」

 

「けど、檜山の莫迦がやらかして奈落に落ちちまってよ……生き残る為にも緒方に護って貰う必要があった。奈落の魔物は二〇階層に降りたばかりだったレベルじゃ、戦闘職な雫でさえ一撃で死に掛けるって話だったからな。緒方が護らないと三人は確実に生きて返れなかった。まぁ、それで香織は緒方に気を移したんだろうな」

 

 実際には何度も何度も抱かれ続けて嫌でも何でも笑顔を振り撒き、『私は貴方に抱かれて幸せです』みたいに自分を騙してきたのが事実になったのが正しい。

 

 元々はユートを苦手にしていた香織。

 

 理由は遠藤真実をユートが助けた際の暴力行為にあるが、当時は好きになったばかりのハジメのやり方を見ていただけに余計に苦手意識を持ってしまっていた。

 

 だけどユートみたいなやり方も確かに必要であると感じ、魔物を相手に必死に護ってくれているのを見ると少しだけ苦手意識が薄れる。

 

 更には雫だ。

 

 知ってはいたが雫はそもそも剣より可愛らしい小物を持ちたく、動物のお人形なんかが好きだったし胴着なんかより可愛い洋服を着たい根っからの女の子、護るより護られたいお姫様気質。

 

 下に下にと降りるに従い魔物は強く狡猾になっていく中、剣は保険に持っていたけど特に揮ったりしないで大人しく護られながら頬を朱に染めていたのを間近で見ていた。

 

 そんな雫が抱かれる様になってから『好きよ、優斗が好きなの!』と本気で言いながら抱かれて幸せそうな表情を浮かべていたのだ。

 

 それを思えばユートの愛人も悪くないかも? とか考え始めてしまう。

 

 ユート自身はユエを、雫を、香織を、愛子先生を抱いて全く衰えない性欲を四人にぶつけていたから、今更ながら告白すらしていないハジメへの想いなど消し飛ばされていた。

 

 ハジメが嫌いになった訳じゃなく、ユートへの想いがハジメへの想いに勝り始めたのだ。

 

 最終的に香織はユートの傍を選ぶ。

 

「じゃあ、雫は何でだ?」

 

「本人に聞いたよ。あいつは向こうでも此方でも『御姉様』とか呼ばれていたよな」

 

「あ、ああ……」

 

 地球での急先鋒にして先駆者(パイオニア)となるのが実妹、天之河美月であるだけにちょっと居た堪れない気分になるけど。

 

「だけどよ、雫自身は誰かを護るより護られたいってのが本当なんだとさ」

 

「俺が居ただろう!」

 

「確かに光輝は雫に会った時、護ってやるとか言っていたけどな……結局はそれが果たされていなかったって事らしいぜ」

 

「そんな事!」

 

「雫が小学生時代に受けてたイジメ、あれはお前が原因だった上に根本的な解決はされてなかったらしいな。覚えはねーか?」

 

「……無いな」

 

 既に実情を知る坂上龍太郎は目を見開く。

 

「本気で言ってんのかよ?」

 

「ああ、特に無かった筈だ」

 

 これは雫が見限る訳だと頭を抱えたくなってしまう坂上龍太郎。

 

「あいつはイジメを受けていたのを光輝に相談したよな?」

 

「されたな」

 

「で、お前はどうした?」

 

「勿論、仲違いは良くないから彼女らに言った。雫をイジメないようにってな」

 

 一言を言い含めたくらいでイジメが無くなるのなら、そもそもそいつらだって初めからイジメなんてしてはいないだろう。

 

「だけど雫からまた相談されたろう?」

 

「よく知っているな。確かにされたが、俺がきちんと言ったんだからイジメなんてもうしている筈がないんだ。雫の勘違いさ」

 

 そうして見過ごした結果がアレだ。

 

 天之河光輝は自らの正しさに酔っている。

 

 究極的に正しい自分が言ったからにはイジメは無くなった筈であり、それを否定する意見など耳を貸す価値すら無い……と無意識に耳を閉ざす。

 

 だから二度目の救済など有り得ないと考えるし決してやりはしないのだ。

 

 その必要性を感じていないからこそ。

 

 これが天之河光輝の限界。

 

 柔軟性が欠如していて自らが信じた事を神聖視すらしており、他者の言葉に左右されないといえば聞こえは良さそうだがつまり、他人の意見など聞く気が無いという。

 

 自分の意見こそが究極的に正しくてそれに反するのは全てが悪で仮令、教師の言葉ですら自分と反目すれば間違いだと考える。

 

 天之河光輝は見たいものしか見ないし聞きたい事しか聞かないという。

 

 だからあのイジメも――俺が雫の為に彼女らへと意見をした、だからイジメをしなくなった筈だから雫を俺は護った。雫がまだイジメられるとか言っているけど有り得ない。

 

 そんな短絡化された思考により、()()()()()()()()()イジメが収まったという事になったのである。

 

 坂上龍太郎は思った。

 

(スンマセン、光輝の親父さん御袋さん。それに美月も済まねぇ。ひょっとしたら俺は光輝を連れて帰れねぇかも知れねー)

 

 それは諦念であったと云う。

 

 そして天之河光輝は喪ったモノが大き過ぎたのか却って、丸っきり自慰後の賢者タイムみたいな心境に一時的ではあろうが陥っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 リリアーナはユートから贈られたパソコンを、部屋の中で起動をする。

 

 魔力を電気変換する魔導式を使ったコンバーターが有る為に、パソコンを使う為の電気くらいはリリアーナが一人だけでも賄えていた。

 

『初めましてだな』

 

「え? あの、貴方は?」

 

 モニタに映し出されたのは金色のマスクに鎧を纏う青い身体を持つ異形。

 

『俺はマグナモン。デジタルモンスター、略してデジモンと呼ばれる電子生命体だ。まぁ、こいつの喋る説明書だとでも思ってくれれば良いさ』

 

「えっと……そ、そうですか」

 

 電脳獣(デジタルモンスター)

 

 ユートが前々世でも好きだったそれは電脳世界(デジタルワールド)と現実世界を往き来して、様々な事件に小学生~高校生くらいの少年少女がパートナーデジモンと共に戦う物語。

 

 まぁ、【デジモンフロンティア】は主人公達がデジモンに進化するからパートナーは居なかったりするのだが……

 

 マグナモンもそんなデジモンの一体で、属性はフリー、進化レベルはアーマー体、種族は聖騎士型となっている。

 

 デジモンの属性は基本がワクチン種とデータ種とウィルス種、更にアーマー体とハイブリッド体という特殊なモノも存在していた。

 

 アーマー体とは古代デジタルワールドに於いて存在したデジメンタルを使う進化の方法の一つ、だけど永い時の流れの中に淘汰されてしまったものでもある。

 

 マグナモンはそのアーマー体、基本的に成熟期と変わらない能力にしかならないが【奇蹟のデジメンタル】や【運命のデジメンタル】は究極体にも匹敵する力を与えてくれた。

 

 所属はロイヤルナイツで、ネットワークセキュリティの最高峰でイグドラシルという神に等しい存在に仕えている。

 

 と言いながら、実際にはこのマグナモンは飽く迄もユートが神器である【魔獣創造】の禁手たる【至高と究極の聖魔獣】で創造した聖魔獣。

 

 本物と何ら変わりは無いがある意味で偽物でしかなく、【ハイスクールD×D】世界で神器を手にした際に初めて創造したのがロイヤルナイツで、

始祖のインペリアルドラモン・パラディンモードを除く一三体が創られている。

 

 リリアーナのパソコンに潜むマグナモンは謂わば水先案内人であると同時に、究極体にも匹敵する能力で彼女を護る護衛でもあった。

 

 元よりマグナモンはユートからそういう扱いを受ける事も多く、前にもとある女性の守護役を担わされている。

 

 因みにユートには普通のパートナーデジモンも居り、デジヴァイスの一種であるDーアークの中に仕舞った状態にしていた。

 

 嘗てアリス・マッコイの許に顕れた四聖獣からの遣いドーベルモン、消えつつあった彼のデータ――主に人格など――をサルベージして再構成した成長期デジモンのガジモン。

 

 ガジモンは元のドーベルモンに進化、ケルベルモンに超進化、ジンロウモードに変化して究極進化でアヌビモン、融合進化でプルートモンに。

 

 やはり冥府や冥界と関わるデジモンとなる。

 

 リリアーナは仮面ライダーに成って自分から戦う訳ではないお姫様、故に認識阻害や変身魔法などを使えば傍に居易いサイズのマグナモンを護衛として置いたのだ。

 

 マグナモンはオメガモンやアルファモンなど、況んやエグザモンみたいな巨体ではなくて精々が小柄な大人、姿そのものを変えてしまえば護衛としてとても優秀だった。

 

 事実として実際に別世界にて【OGATA】を展開した時、秘書を任せた女性――桜井穂波を護る仕事を確りとやってくれている。

 

 携帯型デバイスのDー3を持たせているから必要な時以外は待機させられるのも大きい。

 

 本来のDー3には無い機能ではあるが……

 

 この城で何かしら起きた場合の保険的な意味でマグナモンに任せた訳で、パソコンを奨めたのも半ば彼を護衛とする為であったと云う。

 

「という訳だ」

 

「成程、確かに神代魔法を持つ魔人族が襲撃して来たらメルド達だけでは危険ですね」

 

 説明を受けたリリアーナは納得した表情となり鈴を手にして鳴らす。

 

 チリンチリンと小気味良い音が鳴り響き暫くしたら扉がノックされた。

 

「メルドです、姫様」

 

「御入りなさい」

 

「はっ、失礼致します!」

 

 騎士団長をクビになり、リリアーナに直接雇われ近衛騎士に転身したメルド・ロギンス。

 

 彼を呼んだ鈴はアーティファクトらしい。

 

 何だかどっかの団長さんが彼を慕う女傑から渡された鈴っぽいが、あっちは正真正銘の単なる鈴であるのだと思われる。

 

「何か御用でしょうか?」

 

「ええ、貴方に面通しをしておきたい方が居りまして」

 

「面通し? それは新しく護衛を入れたという事でしょうか?」

 

「その通りですわ」

 

 ニコリと微笑むリリアーナは確かなお姫様としての可憐さが滲み溢れていた。

 

「マグナモン、出て来れますね?」

 

『ああ、Dー3でリアライズしてくれればな」

 

 リリアーナは言われた通りにDー3を翳してやりマグナモンをリアライズする。

 

《REALIZE!》

 

 小さな四角いモニタが光を放ち、顕れた人影はその真の姿を露わとしていく。

 

「なっ!?」

 

 金色の鎧兜に青い身体に尻尾、しかも行き成り顕れたとあっては亜人族が忍び込んだと誤解をしても責められまい。

 

「初めましてだな、メルド・ロギンス。俺の名前はマグナモン。優斗が用意したリリアーナ姫への護衛だ」

 

「何? ユートが……だと?」

 

 マグナモンの言葉に驚愕してしまう。

 

「そうだ。だが、お前達の本分を侵す事は此方の望む処ではない。俺は飽く迄も緊急時に於いての備えだからな」

 

「つまり俺達、近衛騎士が用済みとなった訳では無いと?」

 

「そうだ。俺は見ての通りに人間とは言い難い姿をしているしな」

 

「成程……な」

 

 確かに通常の護衛は人間であるメルド達こそが向いているだろう、それはメルド・ロギンスをしてそう思わせるには充分に過ぎた。

 

「了解した。普段の護衛は俺達に任せて貰おう。だが危急の際には任せて良いんだな?」

 

「ああ、任せて貰おう。ロイヤルナイツが一人たるマグナモンの名に於いて護って見せるさ」

 

 種族を越えて二人は拳を合わせる。

 

 メルド・ロギンスとマグナモン、リリアーナの守護騎士として日向から日陰から動く者同士として解り合った瞬間だったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 愛子先生が王都にまで戻ってきた。

 

 正確には愛子先生率いる一行が……というべきであり、共に動いていたメンバーも当然ながら一緒に戻ってきている。

 

 その為に永山パーティは大いに喜んだ。

 

 何しろ、既に半壊していた神の使徒(笑)だったのが更に人数を減らすわ、勇者(笑)は役立たずで竿も立たなくなっているわで最早、戦闘集団としては機能していないと云えるのだから。

 

 ギリギリで坂上龍太郎が仮面ライダークローズチャージに、遠藤浩介が仮面ライダーシノビに成れるから何とかいけそうだが……

 

 玉井淳史、宮崎奈々、菅原妙子、清水利幸、園部優花という五人が戻ってきただけで可成り違ってくる筈。

 

 畑山愛子先生は非戦系天職だから戦えないけどこれで戦力補充だと、永山重吾は胸を撫で下ろす気分で六人の帰還を喜んでいた。

 

「……は?」

 

 先ず、清水利幸が戦えないという余りにも無慈悲な宣告を受けるまでは……だが。

 

「ど、どういう事ですか!?」

 

 愛子先生は哀しそうに説明をする。

 

「つまり、清水は俺達を裏切って魔人族側に付こうとして緒方に計画を潰された?」

 

 教える必要は無かった気もするが清水利幸が力を喪っており、その経緯を伝えるにはどうしても言わない訳にはいかなかったのだ。

 

「力を喪ってって、やっぱり光輝が技能を喪っていたのは緒方が原因かよ」

 

 坂上龍太郎は得心がいったらしい。

 

「清水、何だって裏切ったんだ!?」

 

 戦力の補充を期待していたからか永山重吾の科白には険が含まれていた。

 

「既に清水君は充分過ぎる罰を受けていますからこれ以上は責めないで下さい」

 

「だ、だけど!」

 

「私も至らなかったんです」

 

 とはいえ、一教師が生徒の全てに目を向けるなど土台不可能な事である。

 

 清水利幸は伏せた侭で喋らない。

 

 裏切りを働き、愛子先生を殺し掛け、ユートに殺されて、愛子先生の慈悲で生き返ったが技能は言語理解しか無くなり、レベルも1に戻ってしまった上に初期値より遥かに、それこそハジメの初期値より低い数値になってしまった。

 

 勇者がどうのという話ですら無くなったのだから喋る気にもならないのである。

 

「それにしても、アンタ達も何だか意気消沈しているみたいね?」

 

「うっ、まぁな」

 

 優花からの問いに苦い口調となる。

 

 互いの情報交換に努めたらどちらも芳しくない状況であり、どちらにもユートが関わっていたのが改めて理解出来た。

 

「結局、良くも悪くもアイツが関わるのか」

 

「悪く関わったのは清水や天之河に問題があったからでしょ!」

 

 半眼で永山重吾を睨み付けながら優花が言い、それが正しいと理解していたからか永山重吾は黙り込んでしまう。

 

 実際、身内扱いな浩介は仮面ライダーシノビのツールを貰えたくらいだし。

 

 ユートは愛子先生も優花も他のメンバーも知っている通り簡単に人間を殺せる感性を持ってはいるが、逆に味方に対しては優しいを通り越して甘い対応をする場合もある。

 

「緒方はマジに教会を信じてねーんだな」

 

 話を聞いたらどうやら神代魔法を得る旅というのは共通認識らしく、坂上龍太郎は親友があっさりと信じた教会をユートは全く信じず独自に帰る手段を得ようとしている事に驚く。

 

「後は仮面ライダーの力……あれが有ったら魔人族との戦争も少しは楽になるんだがな」

 

「少しは楽とかそんなレベルじゃないわよ」

 

「どういう事だ?」

 

「仮にパンチ力が低いクウガでもステータスプレートの筋力に合わせると5000くらいにはなるって、それよりも低い仮面ライダーであっても最低限3000を越すらしいわ」

 

「俺らとは桁違いかよ」

 

 雫みたいに得意分野が1000を越す場合などあるが、今現在での永山重吾達のステータス値はまだ三桁台であった。

 

 それでも三〇年は頑張ってレベルを上げていたメルド・ロギンス元騎士団長、今やそんな彼を遥かに凌駕しているのも事実ではある。

 

 何しろ彼のステータス値は高くて300を少し越したくらいなのだから。

 

 まぁ、彼もハジメが贈ったG4で概算ではあるものの、原典みたいに仮面ライダークウガを越えるのは無理でも2000くらいの筋力ならば使える筈だった。

 

 流石に強化魔法を付与していてもオリジナルの仮面ライダーG4程ではない。

 

 優花としてはコイツらをすぐにも見捨てたい処だったが、ユートが信頼していると思われる人物――遠藤浩介の存在が引き留める。

 

 ユートが浩介と仲良しだったのを優花は知っていたし、この場に彼を残して行ったのなら少なくとも完全に見放した訳ではあるまい。

 

 まさか、まだ喰ってない吉野真央や辻 綾子を喰う為に見放していないとは思えないし。

 

 そんな理由だったらちょっと嫌かも。

 

 その後もそこそこな情報交換をしてから優花はキッパリと言う。

 

「兎に角、天之河は私達に近付けないで」

 

「お、応」

 

 いずれにせよ、強姦魔と化した天之河光輝には近付きたくもなかったからだし、その意図を流石に理解したのか坂上龍太郎も頷いた。

 

「処で、園部は仮面ライダーに成ったらしいけど力は借りれるのか?」

 

「一応、クラスメイトを見殺しにする心算なんて無いわよ。でも天之河が近付いて来たら国を出ていくから気を付けなさい」

 

「わ、判った」

 

 暫定リーダーな永山重吾は皆の安全を守る為にも了承をするしかない。

 

「そういや何のライダーなんだ?」

 

「仮面ライダーキバーラ」

 

「キバーラって、仮面ライダーディケイド劇場版に出てきた光 夏海がキバーラと変身する?」

 

「優斗がディケイドだから……ね」

 

 仮面ライダーディケイドのヒロイン役にも等しい光 夏海、そんな彼女が変身したのがつまりは件の仮面ライダーキバーラ。

 

 キバット族でキバットバットⅢ世の妹らしいからキバットバットⅡ世の娘か?

 

 どうやって子作りしているのかとか、そもそも母親はいったい誰なのか……とかのツッコミをしてはいけないのであろう。

 

 尚、ユートのキバーラはキバットバットⅢ世の実妹的にキバットバットⅡ世の因子を予め分けてから創造をしている。

 

 だからユートのキバットバットⅡ世は間違いなくキバットバットⅢ世とキバーラの父親だ。

 

 そしてユートの創ったキバット族はユートが造った【闇のキバの鎧】、【黄金のキバの鎧】、【姫騎士のキバの鎧】の管理をしている。

 

 因みに【姫騎士のキバの鎧】はキバーラの事であり、特に名前が無かったからそれらしく付けたものだったりする。

 

 仮面ライダーキバーラが姫騎士って感じだから良くないか? みたいな感じだ。

 

 更に云えば原典で人工モンスターだったサガークは【運命の鎧】を管理し、今はユエが使用しているというのが現状であったと云う。

 

 まぁ、全部がユートの神器――【魔獣創造】の禁手たる【至高と究極の聖魔獣】で創造した人工モンスターな訳だが……

 

「助かるよ。浩介と龍太郎が仮面ライダーに成れるんだが、他にも成れる南雲と中村は城を出てしまった。谷口も緒方に付いて行ったからな」

 

「南雲と恵里? それに鈴もって……」

 

 恵里や鈴とヤったのか? 何て思った優花。

 

「谷口は即断即決なのかね。中村はずっと前から仮面ライダーに成れたみたいだがな」

 

 それを黙っていたのが不満なのだろう。

 

「多分、中村は切札にしておく心算だったんだ。敵を騙すなら先ず味方から、人の口に戸は建てられないだろ? 実際、天之河に邪魔されなきゃあ上手く魔人族を斃せていたんだからな」

 

「浩介……」

 

 浩介が恵里を庇う様に言ったのを驚く永山重吾だったが……

 

「遠藤、居たの?」

 

「居たよ! ずっと園部の目の前に!」

 

 優花は遠藤浩介が()()()のに驚いていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 赤銅色の世界だと【グリューエン大砂漠】とは正しくそう表現する以外にない場所、赤銅色をした砂はそれ自体が微細な粒子で、常に一定方向から吹く風で舞い上がった砂が大気の色すら砂と同じ赤銅色に染め上げており、全てに於いて見渡す限り一色となっている。

 

 砂漠には大小様々な砂丘というものがそれこそ無数に存在し、その表面は風に煽られて常日頃から波立っていた。

 

 表面の模様や砂丘の形が刻一刻と変わっていく様相は、まるで砂丘全体が生きているのだと表現したくなる程である。

 

 燦々と照る太陽、そんな灼熱のエネルギーを溜め込かんだ砂の大地が苛烈とも取れる程な熱気を放っており、外気は四〇度を軽く超えているだろうと思われ、舞い散る砂と合わせて旅の道としては最低最悪の環境だろう。

 

 普通ならば。

 

 外の過酷な環境など知るかと言わんばかりに突き進む白い乗り物、魔力を電気に変換した上で動く駆動八輪なキャンピングバスが砂埃を後方へと巻き上げながら爆走をしていた。

 

 そう、ユートの一行はグリューエン大砂漠を往く真っ最中である。

 

 キャンピングバスに乗っての悠々自適な旅路であり、バスも自動操縦的にAI制御がされているから某かトラブらない限り問題は無い。

 

「う、うわぁ……」

 

 黒黒金金白の髪の毛の持ち主がマッパで男へと縋り付き、蕩けた表情で嬌声を上げながら全身を汗で濡らしていた。

 

 鈴は真っ赤になりながらペタンと女の子座りをしつつ、モジモジと内股を擦る様な仕草をしながらそれを見つめている。

 

 ユートが雫、香織、ユエ、ミレディ、シアという五人の美少女と絡み合うという情景を。

 

 因みにティオはミュウを寝かし付ける役に涙を流していたとか。

 

 そんな御乱交を見せ付けられては、初心な鈴をして発情致してしまうのは仕方がない。

 

 感覚的に真綿で首を絞められたかの様な発情の仕方をしていて、左手がほんのりとした脹らみへ向かい、右手が男の到達点とも云える茂みの奥へと向かっていた。

 

 良い具合に発情していた鈴はいつの間にか近付いていたユートに喰われ、目が覚めたら翌日の昼になっていて驚愕してしまう。

 

 鈴の性感帯開発記はどうやら順調な様だ。

 

 キッチンに立つのはシアと香織。

 

 シアと香織が基本的におさんどんをしてくれるのは有り難く、余り炊事をしないユートからしたら感謝の極みというもの。

 

 とはいえ、ユートは別に料理が出来ない訳では決して無かったりする。

 

 実際に料理関係の世界でそれなりに評価される程度にはやれるし、間違っても暗黒料理人だったり米を洗剤で研いだりはしない。

 

 流石にチート転生万歳な人々みたく5つ星レストランのシェフ並とかではないけど、少なくとも

料理漫画である程度には活躍が出来る程度には。

 

「という訳で偶にはゆう君の御料理も食べてみたいかな」

 

「……メンドイ」

 

「本当にやりたがらないね、ゆう君ってば」

 

「そうですよね」

 

 香織もシアも呆れてしまう。

 

「判ったよ、一品だけメインディッシュを作る。それで良いだろう?」

 

 已む無しと瞑目しながら言うと、香織もシアも手を合わせて喜んだ。

 

 前々世では親の脛齧りだった頃は母親や祖母が御飯を作ってくれたし、家を出て三流大学に通う大学生や社会人だった頃には妹の白亜や分家筋の長女達が甲斐甲斐しくも世話を焼いてくれた。

 

 ハルケギニア時代はそもそも下級の子爵位とはいえ貴族だったから、メイドが何人も揃えられていて炊事洗濯掃除などは彼女らの仕事だったし、シエスタが専属になってからは余計にする必要性など無くなっている。

 

 今生では三歳までは従姉のネカネが世話をしてくれて、四歳から五歳までは京都の近衛家で生活をしていたから問題も無く、京都を出てから後はアメリカはアーカムシティで覇道家の世話になっており、魔法世界ではシエスタを招喚していたから身の回りの世話役を任せていた。

 

 早い話が碌に自分でやらなかったのだ、その所為か余り家事をやりたがらない。

 

 ユートは材料をデンと出して下処理を済ませ、そしていよいよ料理を開始した。

 

「って、それ……何だか見覚えがあるけど?」

 

 全長が約一〇mくらいで脚を八本も持つ獰猛そうな爬虫類である。

 

「ガララワニって生物」

 

「ガララワニ? 確か【トリコ】の序盤に出てきた一kgが二〇万円とかいう?」

 

「こいつは充分に成熟しているからその程度には値が付くだろうね」

 

「そんなのを何処で手に入れたのかな?」

 

「そりゃ……【トリコ】の世界でだが」

 

「ですよねぇ!?」

 

 当たり前な事をとばかりに答えられた。

 

 転生者だったり異世界転移者だったりするのは香織も知らされたし、それならば【トリコ】世界へユートが行っていてもおかしくない。

 

 その日は美味しいステーキが食べられて雫達は

満足感に充たされていたが、香織は美味しかったけどやっぱりやり切れない何かを感じたとか。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 暫くは特に何も無い日々だったが、更に進んだら遂にトラブルらしきに出逢ってしまう。

 

「あれは……サンドワームって処か?」

 

 見た目は巨大な蚯蚓。

 

「誰かが襲われてるな。ガラベーヤっぽい服装なのは砂漠故にか……」

 

「ガラベーヤ?」

 

「エジプトの民族衣装だよ」

 

 フード付きの外套を羽織っているのは砂漠だからだと判るし襲われているのも理解が出来るが、知能が低い砂蚯蚓が未だに獲物を喰わず周りを廻っているだけなのが気に掛かる。

 

「えっと、やっぱり助けないの……かな? あのね……ゆう君が助けないなら私も約束通り動かないよ? ホントだよ!」

 

 涙を浮かべながら言う科白ではない。

 

 ユートは香織の目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭うと、本人の目の前で口許まで濡れた指を持っていきそれをペロリと舐めた。

 

「な、何を!?」

 

 カーッと香織は顔に血が上るのを感じる。

 

 恥ずかしくて……それに少し怖くてオロオロと瞳を右往左往させてしまう。

 

 ユートは身内に甘いくらいで優しくて、敵にはとことんまで苛烈で、無関係な人間には特に何も感じない。

 

 それが白崎香織の知る緒方優斗だから。

 

「僕は正義の味方じゃない。だけど人間の自由と尊厳を護る……仮面ライダーだ!」

 

 本物とは云えない、オリジンでは決して無い、そもそもがユートの原典は別に在る。

 

 それでも今、此処に立つ緒方優斗はそれを名乗るだけの闘いをしてきた心算だ。

 

「そうだね、自由な意志の下に」

 

 ミレディが頷く。

 

《ZEROーONE DRIVER!》

 

 ユートはゼロワンドライバーを装着。

 

 合わせてミレディもエイムズ・ショットライザーを腰に装着した。

 

 そして二人は揃ってプログライズキーのライズスターターを押す。

 

《JUMP!》

 

《BULLET!》

 

 ユートはオーソライザーにプログライズキーを認証させた。

 

《AUTHORIZE》

 

「変身!」

 

 ライジングホッパープログライズキーを展開してライズスロットへと装填してやる。

 

《PROGRIZE. TOBIAGARIZE RISING HOPPER!》

 

 黄色い飛蝗型をしたライダモデルと一つになりユートは、仮面ライダーゼロワン・ライジングホッパーに成った。

 

《A JUMP TO THE SKY TURNS TO A RIDER KICK》

 

 一方のミレディもライズスロットへシューティングウルフプログライズキーの装填をして展開――これは原典では何故かやらない正しい変身方法。

 

《AUTHORIZE……KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER》

 

「変身!」

 

《SHOT RIZE!》

 

 SKダンガーが放たれてUターンし、ミレディがそれを正拳突きにするとライダモデルが解放されて身体をスーツとアーマーが鎧う。

 

《SHOOTING WOLF. THE ELEVATION INCREASES AS THE BULLET IS FIRED》

 

 青色を主体とする左右非対称なアーマーを纏う青い複眼を持つ、仮面ライダーバルカン・シューティングウルフと成ったミレディ。

 

「お前を止められるのは唯一人、僕だ!」

 

()()エヒトルジュエをぶっ潰す!」

 

 変身した二人はバスを出て砂蚯蚓の所へ。

 

「あらあら、出遅れたわね」

 

「わ、私はそんな心算じゃなかったんだけど」

 

 雫の言葉に呟く香織。

 

「……何? あの仮面ライダーは……」

 

 鈴には見覚えが無い。

 

「ユートさん、ミレディちゃん……置いて行かれてしまったですぅ」

 

「此処で活躍して、主殿に貫いて欲しかったのじゃがのぉ」

 

 残念そうなシアとティオではあるが、ティオのそれは性的な我欲に塗れていた。

 

「……仕方がないから待つ」

 

 ユエはキャンピングバスが進むに任せる。

 

 あっという間に辿り着くゼロワンとバルカンの二人は、地上の魔物など相手にもならないとばかりにソッコーで打ちのめしてしまった。

 

「どうやら病にでも罹患したみたいだな」

 

「そだね。うん、この症状ならミレディちゃんが知ってるよ」

 

「そうなのか?」

 

「昔に聞いた覚えがあるのさ。ナッちゃんがその為の薬を作っていたらしいしね」

 

「ナイズ・グリューエンがな。つまり、この病はグリューエン大砂漠特有の病だと?」

 

 フードを取り払い露わとなる青年の顔、二十台という若さは人間族なら見た侭の年齢であろう。

 

 顔は苦しそうに歪められ大量の汗が浮かんでいて呼吸も荒く脈も早い。服越しに触れてさえ判るくらい全身からは高熱を発していた。

 

 強烈な圧力が内部から掛かっているのかと思える程に血管が浮き出ており、目鼻の粘膜から出血もしているとか異常な状態は単なる日射病や風邪という訳では決してあるまい。

 

 ミレディは首を横に振る。

 

「違う。これは魔物の固有魔法、まぁ、この辺りの魔物が使う固有魔法だから間違いじゃないんだけどね……」

 

 厄介な病だが、それだけに数千年も前から謂わば特効薬も存在していると云う魔物の固有魔法を原因とする病。

 

「魔力の過剰活性と体外への排出が出来なくなるって病気……だよ。ナっちゃんの嫁たるスーシャ・リブ・ドゥミバルの妹で、ある意味ではもう一人の妹のユンファ・リブ・ドゥミバルって娘が罹患していたらしいんだ」

 

 痛々しい表情をしながらミレディは青年を診て言うのであった。

 

 

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 新章に突入ですが、つまりはアニメ第一期を越えたという意味でもあります。

 そろそろ他のも書かないと……




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第60話:特撮ヒーローは仮面ライダーだけに非ず

 うん、どうしても此方を書いてしまう。




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 魔力の過剰活性と魔力の自然排出が不可能だという状態に陥る魔物の固有魔法、それにより青年は夥しいまでのダメージを受けている。

 

「ミレディ、治療法は?」

 

「静因石と呼ばれる石を薬にした物を飲ませれば治る。実際、スーシャちゃんの妹ちゃんもそれで治ったって話だしね」

 

「今は持っているか?」

 

「いや、有る訳ないじゃん」

 

「それもそうか。ドレインタッチ!」

 

「へ?」

 

 ユートが触れると魔力が吸収されていく。

 

「ライフドレインやレベルドレインじゃなくて魔力を吸収するタイプだからな。あの世界は改めて考えてもゾッとするよ」

 

 ウィザードリィ世界は危険に満ちた世界だったと今も思うくらいだ。

 

 ユートが関わったのは凶王の試練場から視ると千年くらい前で、そして凶王の試練場そのもの~ウィザードリィⅤに当たる部位。

 

 前にユートが使った鳳龍核撃斬もあの世界に於いて、ショウという侍から習った鳳龍の剣技という技術である。

 

「さて、取り敢えずは落ち着いた筈だけどな」

 

 魔力が過剰に活性化していて排出が出来ないにしても、マナドレインで魔力そのものをユートが吸収すれば一時的にでも症状は治まる筈。

 

 排出が出来ないというのは飽く迄も自然排出が出来ないのであり、誰かが無理矢理に吸い出すのは不可能ではないらしい。

 

「この先は確かアンカジ公国だったな」

 

「へぇ、ミレディちゃんの時代だと大した町も無かったんだけどな」

 

「取り敢えずバスに運ぶか」

 

「助けるんだ?」

 

「……ミレディ、僕を誤解してないか?」

 

「誤解……ねぇ」

 

 ジト目で視られたユートだが、昔に関わりを持った世界での義理の弟じゃあるまいし、ジト目は好物ではないので止めて欲しい処。

 

 因みに彼はジト目と強気と眼鏡と赤面とツンデレがストライクゾーンらしく、パートナーとなった女の子は正しく全属性を兼ね備えたある意味で最高の相棒であったと云う。

 

 尚、ユートはお姉さん属性が好みなので狐耳に尻尾の獣人な義理の姉と宜しくヤっていた。

 

「僕は別に見知らぬ誰かを助けない訳じゃない。例えば崖から落ちそうな誰かが居れば普通に助けるさ。まぁ、優先順位が有るから二人の内の一人しか助けられないなら男女の別が有れば女、知り合いと知らない人間なら知り合いという感じにはなるだろうがね」

 

「どっちも助けるとは言わないんだ」

 

「前提条件は()()()()しか助けられないである以上、それを覆す答えは答えにならない上に寧ろどちらも助けられず、自らも落ちるという莫迦な話になりかねないよ」

 

 よく第三の選択肢的に『どちらも助ける』とかあるが、そもそもそれは前提条件を違えていると理解をしていないし、別に格好良くもなければ素晴らしくもない愚かでしかない答え。

 

 何より、天之河っぽい答えでユート的には虫酸すら走るのであった。

 

(そういえば、あの(ネギ)も同じ答えを出しそうだよな……()()()

 

 晩年の彼なら最早、そんな莫迦な答えなど出したりしないだろうが若かりし頃、子供先生だとか呼ばれていた頃なら間違いなくそうしたろう。

 

 ユートがクイッと指を曲げると青年がフワッと浮き上がり、それをプカプカと浮かせた侭の状態で持ち運んでやる。

 

 自分の女(ミレディ)に抱き付かせて運ばせる気は無いし、自分で男に抱き付く趣味も無いが故に。

 

 キャンピングバスに戻ってみると香織が複雑そうな表情で立っていた。

 

「どうした、香織?」

 

「あの、ゴメンね」

 

 行き成り謝罪、その理由には察しが付く。

 

「どうにも君らは僕を誤解しているよな」

 

「ご、誤解?」

 

「どうせ意に沿まぬ事をやらせた……とか思っているんだろう?」

 

 香織が躊躇いも無く頷く。

 

「あのさ、そんな薄情な人間に女の子が寄り付くと思うか? 天之河は面だけは良いから端から見ただけの連中は夢中になるんだろうが、香織と雫は天之河と恋人になりたいか?」

 

 今度は二人して即座に首を横に振った。

 

「そういう事だよ」

 

 ユートの【閃姫】に成った女の子達の大半は、救われたのが理由で堕ちている。

 

 例えばハルケギニアでケティ・ド・ラ・ロッタとその専属メイドが二人、命や貞操の危機だったのを助けたのが切っ掛けで懐かれた。

 

 ユーキも究極的にはそうだ。

 

 勿論、単純に交流をして懇ろになった相手だって幾らでも居る訳だが……

 

「兎に角、気にする必要は無い。僕だってやりたくなけりゃやらん」

 

「う、うん……」

 

 ほぅ……と頬を朱に染めながら頷く香織を見つめて雫は思う。

 

(こうやって堕ちていくのね。私も含めて)

 

 今のユートは香織にとって理想的な男の子とでも云おうか、ハジメに見たそれよりずっと理想的で心臓はバクバクと高鳴るし、子宮がキューっと締め付ける様な痙攣をして男の槍を受け容れ易くする為の潤滑油で入口を潤していた。

 

 肢体は熱くなって今すぐでもベッドへ連れ込まれたら、香織はまるで抵抗も出来ずにあっさりと受け容れるだろう。

 

 ハジメが好きだった気持ちに嘘は無かったが、今の香織にどちらかを選べと言われたらユートを選ぶくらいに、現在は想いを募らせていた。

 

「どうしても気にするなら今晩にでも激しいのを頼もうか?」

 

「う、うん……」

 

(堕としのテクニック……というより光輝みたいに無意し)

 

 ジャキン!

 

「ちょっ!?」

 

 行き成りアタッシュカリバーを展開して雫の首筋へ刃を突き付けてきた。

 

「今、スッゴい不愉快な気分になったんだけど。雫はナニヲカンガエタノカナ、カナ?」

 

 瞳にハイライトが浮かんでいないし顔に笑みを貼り付けていて怖い。

 

「な、何も考えていません!」

 

「なら良いが……」

 

 どうやらアレと同じにされるのが魂の奥底から厭だったらしい。

 

「鈴、客室に布団を用意してくれ」

 

「あ、うん。了解だよ」

 

「シアは手伝いを」

 

「判りました」

 

 取り敢えず危機は去ったにせよ、魔物の固有魔法の脅威が取り払われた訳では無いのだ。

 

 目を覚ますまでは寝かせておくべきだろう。

 

「香織は僕らのと別に彼の食事を。粥が良い」

 

「うん、判ったよ」

 

「雫は香織の手伝いをしてくれ」

 

「了解」

 

 ユートはプログライズキーを外し変身を解除すると、青年を再び念動力で浮かべると客室の方へと向かって歩く。

 

 ミレディもショットライザーからプログライズキーを抜き取って変身解除。

 

「ふう……」

 

 特に疲れた訳でも無かったが指示を受けた訳でもないし、同じく何も指示をされてないユエと共に待つ事にした。

 

「ユエちゃんのライダーシステムはまた別物だったよね?」

 

「……ん、そう。魔法を扱い易い様にとサガークを渡された」

 

「そっかそっか。確かにユエちゃんの魔法の才能は凄まじいもんねぇ。ミレディたんも教え甲斐ってのがあるよ」

 

 実際、嘗ての時に【解放者】のメンバーの中にユエが居たら……とすら思う。

 

 今現在のミレディはユエの師匠。

 

 魔法の才能という意味では全属性適性を持っている上に、ミレディの重力魔法にさえユートを除けば一番の適性を示した。

 

 この意味は大きい。

 

(重力魔法の真骨頂は星のエネルギーに干渉するという事。重力操作はその中でも一番難しい部分が顕在化されたが故にそう呼ばれてる)

 

 その気になれば重力操作以外でも、地震を起こしたり火山を噴火させたり氷山を作ったりといった真似が可能。

 

(フフ、愉しみだよ)

 

 ミレディはユエの未来に思いを馳せる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夕飯後は皆で風呂に入ってイチャイチャと愉しい事をヤっていた。

 

 発見した青年は睡眠呪文――ラリホーマで眠らせた上で布団に放り込んでいる。

 

「明日にはアンカジ公国に着く。それまでに気が付いて事情も聴けるだろうから今夜は取り敢えず愉しもうか」

 

 ティオは今日も残念賞。

 

 実はティオへ一番に懐いているミュウ、だからどうあっても彼女がミュウを寝かし付けなければならなかった。

 

「えっと、ティオさんは良いのかな?」

 

「問題は無いよ。本当にその気ならミュウをエリセンに届けた後、一対一で数百年モノの処女を貰い受けるからね」

 

「数百年モノ……」

 

 何だかワインみたいな言い方をされたけれど、それはある意味で処女を拗らせている。

 

「ティオさん、本当に処女なの?」

 

「雫が言いたい事も判るが、少なくとも本人からの申告はそうだよ」

 

 嘘を吐いているとは思えなかったし、此処で仮に嘘を吐いてもヤれば判るから意味は無い。

 

 ユートは【閃姫】にする以外で処女と非処女の区別に興味は無いし、だから非処女でも構わないとは言ったが本人は頑なに処女だと言う。

 

 それならそれで構わない。

 

 本当に男を知らない無垢で真白のキャンバスならば自分色に染めるまでだし、男を知る塗りたくられたキャンバスであるなら改めて自分色に染め直すだけなのだから。

 

 ユートはどちらであっても愉しめる。

 

 まだ大した回数を熟していない鈴は手加減されながらも息絶え絶え、それでも何発も絶頂させられて気持ち良さで満足気に目を閉じていた。

 

「ね、ゆう君」

 

「どうした? 足りなかったか?」

 

「いや、充分過ぎるから。じゃなくてさ、ゆう君は仮面ライダーに成れるよね」

 

「何を今更」

 

 鈴の話に聞き入る香織達。

 

「他の特撮関連は成れないのかなって思って」

 

「他の特撮……スーパー戦隊、ウルトラマン、メタルヒーロー辺りか?」

 

「有名処だとそれらだね」

 

 有名かそうでないかは別にして超星神グランセイザーなど、特撮モノは幾らか存在していて何なら王蛇な人が主人公を演じたシャンゼリオン何てのも存在している。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよな」

 

「ん? それだとスーパー戦隊やウルトラマンには成れるみたいだよ?」

 

「成れるぞ」

 

「え、マジに?」

 

「勿論だ」

 

 どちらも機会に恵まれてハルケギニア時代に於ける異世界放浪期に、スーパー戦隊の世界やウルトラマンの世界に入り込んだ。

 

「スーパー戦隊は【侍戦隊シンケンジャー】だ。とはいえ、色は既存のシンケンジャーには無かったりするけどな」

 

「どゆ事?」

 

「やって見せた方が早いか」

 

 ユートは立ち上がってバッと何かを剥ぎ取る様な仕草をすると、何故か白い着物っぼい服を着た状態となっていた。

 

 何処ぞの超絶美形主人公様がよくやる瞬間的な着替え法である。

 

 アイテムストレージには入ってないから久し振りに亜空間ポケットから出したのは、シンケンジャーが変身に使うショドウフォンだった。

 

「一筆奏上……はっ!」

 

 書かれた文字は【闇】、それは銀色のスーツを身に纏い【闇】を顔に張り付ける戦士。

 

「シンケンシルバー、緒方優斗!」

 

 追加戦士としては珍しくもない銀の戦士と成ったユート、シンケンシルバーは腰にシンケンマルを佩いて名乗りとポーズを決めた。

 

 正確にはユートの場合の名乗りは殿や姫の後――『同じくシルバー、緒方優斗!』といった風になるのが普通なのだが……

 

「僕がハルケギニアに居た頃に起きた最後の闘いの後、次元の狭間に落ちて時空間を放浪する羽目に陥った。その際に行った世界の一つがつまりは【侍戦隊シンケンジャー】の世界」

 

「ふわぁ、本当に異世界転移したんだ」

 

「ある意味では君らもしているけどな」

 

「そういえばそうだよね」

 

 地球からトータスへの召喚もまた転移に違いはないのである。

 

「さて、ウルトラマンだが……」

 

「あ、うん!」

 

「一応、ウルトラマンの世界に行ったんだとは思うんだが……なぁ」

 

「うん?」

 

 ちょっと歯切れが悪いのにイラついたのか? 雫がおっぱいを背中に押し付けながら……

 

「一応って何よ?」

 

 はっきりと問い正しに来た。

 

「む、鈴には出来ない事を!?」

 

「し、失礼な!」

 

 豊かな胸を背中に『当ててんのよ』をするには鈴の胸は致命的に足りてなかった。

 

 グイグイと柔らかな感触が押し付けられるのは中々に悪くなく、話の真っ最中でなければ雫の事を押し倒していただろう。

 

 実際、その柔らかさに反比例する様にユートの分身は硬い槍と化しており、その先端を愛おしそうに撫でているミレディ。

 

「ほら、話が出来ない」

 

 言われて仕方無く動きを停めた。

 

「僕が行った場所は古代の地球だったんだよ」

 

「古代の地球?」

 

「ああ、其処には幾らかの怪獣も居たんだ」

 

「か、怪獣!?」

 

「どうやら異星人が大量に持ち込んだらしくて、地球で怪獣が頻繁に現れた理由らしいな」

 

 まぁ、その殆んどの怪獣は活動を停止していたから古代~現代まで生き延びた様だ。

 

「それで活動していた怪獣に追われていた女性を助けたんだが、その女性こそウルトラウーマンってやつだったんだよ」

 

「ウルトラマンじゃなくウルトラウーマン?」

 

「ああ……ウルトラウーマンアルフォンヌ。とはいえ人間体で地球を旅していたみたいだが」

 

 尚、この頃はそもそもそんな呼び名すら無かったと思われる。

 

 何しろ、最初にウルトラマンを名乗ったのが即ち初代ウルトラマンなのだから、ウルトラウーマンなんて存在すらしていなかった。

 

「何で変身ってか……」

 

「どうなのかね? ウルトラマン達の本来の姿は人間と変わらない方だったが、超人化してからは寧ろ仮の姿として使われている。メビウスやゼロ……ケンとマリーの間に産まれたタロウみたいな若いウルトラマンは超人の方の姿で産まれたんだろうしな」

 

「ケンとマリー? タロウの両親? ウルトラの父とウルトラの母?」

 

「うん? 知らなかったか」

 

「鈴は其処まで詳しい訳じゃないから」

 

 まぁ、女の子なんだし特撮よりプリキュアみたいなのが好きかも知れない。

 

 プリキュアもいい加減で息が長い作品であり、初代プリキュアから一〇年を過ぎている。

 

 鈴が幼い頃にリアルタイムで観ていたとしても全くおかしくなかった。

 

「僕はアルフォンヌから聞いたんだ。彼女の本来の所属先は【銀十字軍】で、マリー隊長の下で働いていたってな」

 

 光の国の【銀十字軍】といえばウルトラの母が長らく隊長を務める女性型ウルトラ戦士の花形的な部署、アルフォンヌも自身は治せないとはいえ回復系の能力を持っている。

 

 因みに、エンペラ星人との闘いにて負傷をしたまだ大隊長ではなかった頃のウルトラマンケン、彼をマリーが介抱の主導した事により恋愛関係になったらしい。

 

 尤も、アルフォンヌが存在する噺と特撮での噺は可成り矛盾を孕むから其処は怪しいが……

 

 二万歳か其処らのウルトラマンと一四万歳だというウルトラの母、元の姿が地球人と変わらないなら寿命も大して違わなかった筈なのに一二万歳も離れているのは明らかにおかしい。

 

 まぁ、そこら辺はどうでも良かった。

 

 大人の事情で考えるな……感じろって事だ。

 

「勇気なら元の鬼に還るから『元身』だったし、隠忍だと『転身』だったからな。まぁ、姿を変えるから『変身』でも良いか。一番の万能な言葉だろうしね」

 

 そもそもがスーパー戦隊の『○○チェンジ』は普通に『変身』という意味で通るし。

 

 【侍戦隊シンケンジャー】は『一筆奏上』となっているけど、幾つか違うのも有るけど半分くらいはそうだった筈。

 

 ユートも詳しくは覚えてないけど。

 

 軽く思い出すと【恐竜戦隊ジュウレンジャー】は『ダイノバックラー!』、【五星戦隊ダイレンジャー】は『気力転身、オーラチェンジャー!』で惜しい、【忍者戦隊カクレンジャー】の場合は『スーパー変化、ドロンチェンジャー!』とか、あの頃は変身アイテムの名前が最後に来たからかそんな感じだった。

 

(ゴーカイジャーが『ゴーカイチェンジ』だったんだよな?)

 

 でも次の【特命戦隊ゴーバスター】の掛け声が『レッツ、モーフィン』だったが…… 

 

「兎に角、アルフォンヌと出逢って世界が謂わば【ウルトラマンSTORY 0】の世界観だと判った。だからアルフォンヌが光の巨人――ウルトラ一族の一人だと聞いて取り敢えず提案してみた」

 

「提案って、どうせえちぃ提案よね?」

 

 ジト目な雫だったが、ユートは嘗ての義弟の様なジト目が好物だったりはしない。

 

「まぁ、えちぃ提案なのは確かだ。内容は光の巨人に戻りたいか? だったからな」

 

「戻す?」

 

「そもそも、アルフォンヌが古代地球で人型の侭に怪獣から追われていたのは力を使い果たして、ウルトラウーマンに戻れなくなったからだから。ウルトラセブン達は異星人の干渉から地球を護るべく結界を張ったらしいが、アルフォンヌは連れ出せなかったんだろう」

 

「確かにそれなら縋りたくはなるか……」

 

 ある意味でユートは悪辣である。

 

「で、アルフォンヌさんは受け容れたの?」

 

「凄く悩んでいたな。光の巨人に戻る術自体が、僕とのセ○クスを意味するしね」

 

「あ、潜在能力の開花!」

 

「そう。変身が出来なくなったとはいえ彼女の中の光が消滅した訳じゃない。ならば僕とヤっての潜在能力の開花なら光の巨人に戻せる。別途での対価も当然ながら戴くがな」

 

「対価?」

 

 香織が訝しい表情となった。

 

「光の巨人に戻ったら人間体とウルトラウーマンとしての肉体、それを研究させて貰うっていうのが彼女に対する対価」

 

「あ、それでウルトラマンに?」

 

「まぁね。一週間ばかり共に過ごして覚悟を決めたアルフォンヌを抱いて……上手く光の巨人に戻れたから先ず光の巨人とさての肉体を色々と調べさせて貰った」

 

「うわ、何かエロエロしいよ? ユー君」

 

 顔を紅く染めたミレディが言う。

 

「実際、人間サイズに成ったアルフォンヌをペタペタと触り捲ったからな。光の巨人だと性的には感じないらしいが、羞恥心が無くなる訳じゃないからか人間体になったアルフォンヌは可愛らしかったよ?」

 

 反応が良かったのである。

 

「で、そのデータを基型に二人分の光の巨人の肉体を構築したんだ」

 

「二人分?」

 

「だから僕は二つのウルトラマンに成れる」

 

 取り出した機器は確かにウルトラマン変身アイテム、一つは【スパークレンス】でウルトラマンティガに成るアイテムで、今一つは【エボルトラスター】というウルトラマンネクサスに変身する為のアイテムだった。

 

「どうしてティガとネクサスを選んだの?」

 

 鈴としては首を傾げるしかない。

 

「特定の変身者に固定されていないから」

 

「へ? ネクサスはデュナミストが変わるから解るんだけど、ティガはマドカ・ダイゴしか変身をしなかったよね?」

 

「TVではな。でもティガはそもそも闇の巨人に成り果てた際はダイゴの先祖が変身していたし、ウルトラマンダイナ以降ではマドカ・ツバサとか古代人のアムイが変身している」

 

 基本的にはマドカ・ダイゴだが……

 

 尚、ユートが識らないニュージェネレーションではそれこそ他にも変身者が居る。

 

「ティガでは『誰でも光に成れる』ってマドカ・ダイゴ本人も言っていたからな」

 

「そうなんだ……」

 

 取り敢えず鈴は納得する。

 

「そして造った石像ティガと石像ネクサスを取り込んで、これら変身アイテムを造って変身そのものは可能になったんだけどな」

 

 とはいえ、最初に造ったウルトラマンティガの石像と一体化してスパークレンスを使い変身してみたは良かったのだが……

 

「僕の真属性が闇だからか、ティガダークに成ってしまったよ」

 

「「「うわぁ」」」

 

 曲がり形にもウルトラマンを識っている三人は頬を引き攣らせてしまう。

 

「それ、どうやって解決したの?」

 

「更に三体の闇の巨人を造って野心ある人間へと力の誘惑を囁いた。大喜びで闇の巨人に変身したから奴らの闇を受け容れて光に変換したんだよ。名前はカミーラにダーラムにヒュドラ」

 

「「「うわぁ……」」」

 

 意味を理解して再び三人は引き攣った。

 

 ティガダークのマイナスにダーラムとヒュドラとカミーラのマイナスを受け容れてプラスに変換

をして、ティガトルネードからティガブラストを経てウルトラマンティガ・マルチタイプに。

 

 わざと闇の巨人を暴れさせて光の巨人に成る為の生け贄にした訳で、やはり悪辣極まりない闇の戦士がピッタリなユートであったと云う。

 

「お陰でウルトラマンネクサスはラスボスであるダークザギっぽくは成らず、普通にウルトラマンノアとして変身が出来たんだよな。一分しか保てなかったし、後はネクサスに成ったけど」

 

 ウルトラマンノアは凄まじい力を持っているだけに、ユートでも当時は一分間でエネルギーが尽きてしまう程だったらしい。

 

「ウルトラマンもいつか機会があれば変身をしてみるさ。再誕世界で両面宿儺之神が復活をした時みたいに……な」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 翌朝、眠らせていた彼が起きたと聞く。

 

 取り敢えず意識こそ取り戻したが、未だ体内に状態異常を抱える青年は立つ事すらまともに出来ない有り様であった。

 

 高い砂漠の気温も相俟ってか可成りの発汗をしていたから、脱水症状の危険もあったしちょっと混ぜ物をした水を飲ませてやる。

 

 水一リットルに対し塩を三グラムに糖分を四〇グラム混ぜたのだ。

 

 普通の水を飲ませるのは却って危ない。

 

 青年は自分の使命を果たせない侭で倒れた事を思い出したのか、暢気にしている場合ではないと気を取り直してユート達に自己紹介をする。

 

「先ずは助けてくれた事に感謝の言葉を言わせて欲しい、本当に有り難う。あの侭死んでいたらと思うと……我が故国のアンカジまで終わってしまう処だった。私の名はビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

「どうやらとんだ大物を拾ったらしいな。確か、アンカジはエリセンより運送される海産物の鮮度を極力落とさないまま運ぶ為の要所。その海産物の産出量は北大陸の八割を占めている。要するに北大陸に於ける一分野の食料供給でほぼ独占的な権限を持っているに等しい。アンカジのゼンゲン公爵はそこら辺の名目だけの貴族じゃあなくて、ハイリヒ王国の中でも信頼の厚い屈指の大貴族だってリリィも言っていたからな」

 

 このグリューエン大砂漠を目指すと話した際に教えられた情報だ。

 

 ビィズ・フォウワード・ゼンゲンもユート達の素性に加え、更には冒険者としてのランクを聞いて目を剥き驚愕を露わにする。

 

「何と、これは神の采配か! 非力な我らの為に女神を遣わして下さったのか!」

 

 などと宣い天に祈り始めた。

 

 エヒトが喚んだのは確かだが采配などでは決して無いし、寧ろそんな風に謂われるのは遺憾でしかないのだが言っても良くないだろう。

 

 女神と云えば【豊穣の女神・愛子様】ではあるのだがこの場合、美少女で見るからに優しそうな雰囲気の香織の事を示すが、当の本人はよく解らないらしくキョトンとしている。

 

 別に好きでもない男から『女神』とか呼ばれたくはないが、だからといって香織だけが『女神』なのは面白くないのか雫は不満そう。

 

 鈴は自分はそんな柄じゃないからか特に何とも思わなかったらしい。

 

 アンカジの人口は約二七万人。

 

 今から数日ばかり前、アンカジの町で原因不明の高熱を発し倒れる人が続出をした。

 

 突然、初日だけで凡そ三千人近くが意識不明に陥った上に、症状を訴える人が二万人にと一割に近い人数に上ったのだと云う。

 

「直ぐに医療院は飽和状態に、公共施設の全てを開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったのですが、進行を遅らせる事は何とか出来ても完治させる事は出来なかったのです」

 

「あれは通常の病じゃなく砂漠の魔物が使ってくる固有魔法だったからね。多分だけど水源が汚染されたんじゃないかな?」

 

「お嬢さんの言われる通りです」

 

 ビィズ・フォウワード・ゼンゲン――ビィズは悔しそうに頷いた。

 

「僅か二日で死者すらも出た中で、我が国の薬師の一人が飲み水に『液体鑑定』を掛けたら水には魔力の暴走を促す毒素が含まれている事が判ったのです。直ちに調査チームが組まれ最悪の事態を想定つつも、アンカジのオアシスを調べさせたら案の定、オアシスそのものが汚染されていたという結果が出てしまいました」

 

 当たり前の話だけどアンカジの様な砂漠のど真ん中にある国に於けるオアシスは生命線であり、その警備と維持管理は厳重に厳重を重ねてある訳だから、アンカジの警備を抜いてオアシスに毒素を流し込むなど不可能に近いくらいに、あらゆる対策が施されている筈。

 

「一体どうやって、そもそも誰がと調査チームも首を捻っていましたが、それよりも今重要なのは二日以上前からストックしてある分以外の使える水が無くなってしまったんです。汚染された水を飲んで感染してしまった患者を救う手立てが無いという状況となってしまいました」

 

「静因石は無いの? ミレディちゃんの知り合いがこの病を静因石で治した事があるわ」

 

「確かにあれは魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊な鉱石、ですが静因石はこの砂漠のずっと北方にある岩石地帯か【グリューエン大火山】で少量の採取が可能な貴重な鉱石。粉末状にしたのを服用すれば体内の魔力を鎮める事も出来るのは知っていますが、北方の岩石地帯は遠過ぎるので往復には少なくとも一ヶ月以上掛かりますし、【グリューエン大火山】に入って静因石を採取して戻って来れそうな冒険者は既に病に倒れてしまっている。生半可な実力では【グリューエン大火山】を包み込む砂嵐すら突破が出来ない」

 

 ミレディの言い分は理解するも、現段階に於いては最早不可能と言うしか無いらしい。

 

「しかも水に余裕が無いから仮に冒険者が居ても行く事が出来ないか」

 

「はい。だから自分が父の名代で救援要請に」

 

 その救援要請にしても総人口が二七万人を抱えるアンカジ公国を一時的に潤すだけの水の運搬、【グリューエン大火山】という大迷宮に行って戻って来れるだけの実力者の手配など容易く出来る内容ではないだろう。

 

 だからといって公国から要請を無視する事なんて出来ない、故に一度アンカジ公国に向かい現状を調査しようとするのが普通、然しながらそんな悠長な手続きを経てからでは丸で遅い。

 

 だからこそ強権の発動が出来るゼンゲン公か、その代理を務める公子ビィズが直接救援要請をする必要があった。

 

「父上や母上や妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用する事で何とか持ち直したが衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった」

 

「だからアンタが出た訳か」

 

 頷くビィズ。

 

「ウイルス性の病みたいな潜伏期間みたいなのがあるのか体質などの個人差かは判らないが、要は今になって発症したんだな。静因石の粉末とやらを飲まなかったのか?」

 

「家族が倒れて国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に動揺していた様だ。私は万全を期して静因石を服用しておくべきだったのに。今、こうしている間にもアンカジの民は命を落としていっているというのに何て情けない!」

 

 貴族としては珍しいタイプの様だからユートも手を貸すのは吝かではない。

 

 きちんと()()を寄越すのであれば。

 

 冒険者とは慈善事業ではないからそもそもにして無償奉仕など有り得ず、対価を確り支払わない者に貸す手は猫のモノすら無い。

 

 天之河光輝辺りが聞けば間違いなく『巫座戯るな』と()()()反論をするだろう。

 

 何処ぞの魔術使いみたいになるのがオチでしかない、それが無償で働く者への()いだと云うならばそれはどんな皮肉か?

 

 まぁ、あれでも勇者(笑)様だからそうはならないのであろうが……

 

 正に(エヒト)に愛された勇者(オモチャ)と呼ぶには相応しいと云える。

 

「あの、ゆう君……」

 

「やれやれ、治癒師な香織としてはやっぱり見ていられないのかな?」

 

「ご、ゴメン」

 

「謝らなくて良いさ。ビィズ殿、此方はアンカジを救う手立てが無くもない。きちんと対価を支払うなら【金】ランク冒険者として貴方の依頼を受けても構わないが如何?」

 

「ほ、本当に!?」

 

「ああ。とはいえ【金】ランクは高いぞ」

 

「アンカジ公国が救われるなら! 多少の高値であっても是非依頼をしたい」

 

「了解だ、その依頼……【金】ランク冒険者であるユート・オガタ・スプリングフィールドの名に於いて引き受けた!」

 

 後ろで香織が嬉しそうにしているのを感じながらも、ユートはビィズ公子に仕事として引き受ける旨を伝えるのであった。

 

 

.




 ウルトラマンの噺は……っぽい噺として僅かに書いて放置してます。理由は単純にアルフォンヌが出てくる噺の本が無くなっていたから。




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ありふれIF――若しユートが独り旅に出てデジモンの力を好んで使ったら?

 ちょっと続きが書けず【っぽい噺】的な外伝を掲載してみました。





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 天之河光輝が原因でユートは王城を出奔。

 

 正確には追放されたのだが……

 

 勿論、天之河光輝の言い掛かりだとか要らないカリスマ全開によるもので、天之河を慕う女子――本編で科白も一切合切存在せずに死んだ連中――の誹謗中傷や罵倒はこの際だからどうでも良かったのだが、コイツらの命を救うのが正直に云ってしまえば面倒臭くなったのである。

 

 その後、某・小悪党四人組が本編の通りに動いた結果として白崎香織に魔法が当たって八重樫 雫が助けようとしてやはり落ちそうになった際に、ハジメを掴んだから三人で奈落に落ちた。

 

 尚、ユートが干渉しなかったから畑山愛子先生はオルクス大迷宮に行かなかったりする。

 

 そしてライセン大峡谷でハウリア族を救った後に亜人族と戦争となり、結果として熊人族は壊滅寸前にまで追い込まれてしまった。

 

 オルクス大迷宮をクリアしなかった弊害から、そもそもユートの目的に七大迷宮の攻略も無かった為に、彼らを害しても別に問題が無かったというのが大きい。

 

 アルフレリック・ハイピストは荒ぶるユートを鎮めるべく、孫娘のアルテナ・ハイピストを差し出して赦しを請うより他になかった。

 

 他の長老衆も一族の若く綺麗処な美少女を差し出す事で何とか事無きを得る。

 

 暫くはフェアベルゲンで爛れた性活を送っていたユート、亜人族に関してはその間に掌握をしてフェアベルゲンそのものを乗っ取った。

 

 アルテナを女王に据えて正式にフェアベルゲン女王国を建国、当たり前だがハイリヒ王国もヘルシャー帝国も魔国ガーランドも認めなかった訳だけど、知った事かと云わんばかりに【フェアベルゲン女王国】として国境線を引く。

 

 アルテナはすっかり骨抜きにされていたし、ハウリア族も再びフェアベルゲンに所属する事になった上、問題だったシア・ハウリアもユートから側室扱いをされていた。

 

 まぁ、原典では基本的に残念ウサギだったりするのだがナイスバディな美少女に違いはない。

 

 奈落に落ちたハジメだが、二人も弱者が居ながらその自覚も無いとか困った事になってしまい、それで八重樫 雫が死に掛けてしまう。

 

 ギリギリで何とか神水の流れる場所に錬成により潜り込み、三人は生き永らえる事に成功はしたものの独りでなかった事から魔物を喰らうなんて真似も出来ず、G3の鎧と近代武器で何とか動く事が出来るという有り様。

 

 原典に比べると余りにも遅い。

 

 神水が有るから飢餓は感じても死んだりはしないだろうが、飢えから更に三人の速度は遅くなる一方であったと云う。

 

 そうしている内に脚は止まり、魔物に襲撃されない場所に身を隠すだけの日々が続いた。

 

 約一ヶ月後にユートが発見するまでの間にまるで冬眠するみたいに……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ヘルシャー帝国が攻めてきた。

 

 ハルツィナ樹海の大迷宮を調べたら入れないという事から、先ずライセン大迷宮を攻略しに行って何故か大迷宮の造り主たるミレディ・ライセンを連れて帰ってきたユート。

 

 物見からの報告にアルテナがそんなユートへとどうするべきかを訊ねる。

 

「取り敢えず潰す」

 

「取り敢えずで潰せるのですね……」

 

 毎晩の相手をしていたアルテナはすっかり参ってしまい、今や完全にユートの信望者と化してしまっていた。

 

 それは他の長老衆の孫や下の娘やシアも同様であり、ユートは彼女らを鍛え上げて一種の親衛隊みたいな感じに取り立てている。

 

 また、幾人かの有望な者は男女問わず引き立てていたから戦力も整っていた。

 

 【アルテナ親衛騎士隊】――実質的にユートの側室部隊と【フェアベルゲン騎士団】。

 

 騎士団長には熊人族の長老ジンが就任。

 

 初代騎士団長なので何の権威も無い者を就任させるのは問題だったからだ。

 

 数年したら交代で二代目が就任予定。

 

「では親衛隊を連れて行かれますか?」

 

「今回は一人で良い」

 

「え、ですが……」

 

 質は亜人族が上なのに亜人族の奴隷が増えている理由、それが質を凌駕する数の暴力という理不尽極まりないもの。

 

「確かに数の暴力は質を凌駕する」

 

 有名な武将だって数と武器の差には死を覚悟するしかなかっただろうし。

 

「だが、それは大したレベル差が無いからだよ。僕は君らが()()()()と呼ぶに相応しい力を持っているから……ねぇ」

 

「バケモノ……ですか……確かに熊人族の長老であり現在は騎士団長のジン様も貴方をバケモノと呼びましたが……」

 

 この世界では自分より強い相手はバケモノという事で通っていた。

 

 ユートは基本的にテンサイとバケモノという、言ったら何だか負けた気がする言葉は使わないのだけど、この世界では人間魔人亜人の別に拘わらずバケモノという科白を乱発する。

 

 正直、『バケモノだから仕方がない』とか『テンサイだから仕方がない』なんて、言っていて恥ずかしくないのかと思うくらいだった。

 

 斯く云うユートも前々世で一度だけ言ってしまった事があり、後から言われた()()の顔を視てから自分が恥ずかしくなったものである。

 

 ユートがフェアベルゲンからハルツィナ樹海を出てみれば、帝国兵は疎かヘルシャー帝国に於ける皇帝ガハルド・D・ヘルシャーや皇太子らしき男まで居り、更には何故か元クラスメイトである勇者(笑)連中までが居た。

 

 きっと正義感(笑)溢れる勇者(笑)君が、邪悪なる亜人族を誅罰に来たのであろう。

 

 お笑い草であった。

 

(……園部と遠藤、ハジメも居ないな。他には……あれ? 『始まりの四人』の白崎と八重樫も居ないみたいだが)

 

 ハジメは落ちたと最近になって諜報部隊として育成したハウリアから聞いている為、今回の件が終わったら助けに行く予定である。

 

(リリィも居るのは何でだ?)

 

 こっそり笑顔で小さく手を振ってきた。

 

 リリィ――リリアーナ・S・B・ハイリヒとは、実は肉体関係を持っているから敵対はしないであろうが、帝国や勇者(笑)が潰されるのを見学にでも来たのだろうか?

 

「ほう、亜人共だけかと思えば人間族も居たとは驚きだな」

 

 自分の有利を全く疑っていないのか悠々とした口調で話し掛けてくる皇帝ガハルド。

 

「ふん、まさか皇帝や皇太子が自ら足を運ぶとはそんなに帝国は人手不足なのか?」

 

「貴様、無礼な!」

 

 名前は覚えてないけど皇太子某が叫ぶ。

 

「貴様らが認めようが認めまいが既にフェアベルゲンは一つの国、その主が皇帝にタメ口を利くのはどこら辺が無礼なんだ? 寧ろまだ皇太子に過ぎない貴様が無礼だろうに」

 

「れ、歴史ある我が帝国と轡を並べた心算か!」

 

「歴史ある? 高が三〇〇年程度の浅い歴史を誇るのか?」

 

「き、貴様ぁぁぁっ!」

 

 ほとほと怒りっぽい輩である、カルシウムが足りていないのではなかろうか……と場違いにも程がある心配をしてみた。

 

「それに亜人族の国という意味ならハルツィナ樹海には、ハルツィナ共和国って国が存在していたし歴史云々は三〇〇年なんて目じゃないぞ」

 

 フェアベルゲン自体もそれなりに歴史があるのだし、少なくともヘルシャー帝国よりはマシ程度には歴史は長い筈。

 

「そんな事より何故、緒方がフェアベルゲンの主だとかの話になっている!?」

 

 勇者(笑)君が顰めっ面になり訊ねてきたが、この表情はきっとユートが偉い立場なのが相当に気に喰わないのであろう。

 

「フェアベルゲンの森人族長老アルフレリック・ハイピストの孫娘、アルテナ・ハイピストが女王をしている。僕はその配偶者だからな」

 

「なっ!?」

 

 追放に処し、『してやったり』な心算だったのがいつの間にか英達していたとか、勇者(笑)君は信じられないという表情だ。

 

「さて、無駄話は此処までにする。お前らは要するに『亜人が国とか生意気だから〆てやる』と、喧嘩(せんそう)を売りに来たんだな?」

 

「おう、その通りだ。我々、帝国が亜人共を奴隷として使ってやってんのに面倒な事をされた日にゃ困るからな。況してや、教会もテメェらの国興しを認めちゃいねーぜ?」

 

 奴隷という言葉に勇者(笑)が反応するものの、皇帝ガハルドは言いたい事を言い放つ。

 

「知った事じゃないな」

 

「な、なにぃ!?」

 

「そもそも、お前らは普段から亜人族を神の加護無き悪しき種族呼ばわりだろうが。今更、教会が干渉出来ると思うなよ」

 

「チィッ、ならテメェは……」

 

「異世界の人間がどうしてエヒトルジュエに対して配慮が要る?」

 

「エヒトルジュエだぁ?」

 

「ああ、お前らはエヒトルジュエの真名すら知らされてなかったんだったか。エヒトの本当の名はエヒトルジュエ、因みに魔人族を束ねるアルヴはエヒトルジュエの従属神アルヴヘイト。理解をしたかな? お前らの戦争はエヒトルジュエとアルヴヘイトによる茶番劇さ」

 

 当然ながら『莫迦な!』とか『異端者め!』などの罵詈雑言が飛び、信じる連中なんて基本的なは居なかったがどうでも良い。

 

 これは神代魔法の担い手にしてライセン大迷宮を造った当時の生き字引、【解放者】のリーダーであったミレディからの情報と現代で知り得ていた情報から組み立てたもの。

 

 エヒト様マンセーなこの世界の人間が理解するとは思っていなかった。

 

「ま、生き残れたら精々エヒトルジュエの駒として踊り続けるが良い。生き残れたら……な」

 

「勝てる心算か緒方!」

 

「此方の科白だ勇者(笑)君、お前ら如きがこの僕に敵うと思っているのか? 愚かで無知蒙昧に過ぎるな勇者(笑)も皇帝も」

 

 とはいえユートをよく識らない連中がユートに勝てると皮算用しても仕方がない。

 

「まさか!」

 

 永山重吾が口を開く。

 

「浩介がいつの間にか仲良くなったのか知らんが園部と話していて、何故かすぐに城を離れる様な任務――愛子先生の御仕事護衛隊――に就いたのは緒方と戦いたくなかったから?」

 

「成程、遠藤と園部なら確かに避けるわな」

 

 何しろ、二人には事前に話していたから。

 

(居ないのは逃げたからか。園部は僕が遠藤とは友人だと知っているもんな)

 

 彼女の両親が経営するレストランには一緒に行った事もある。

 

 見れば園部優花だけでなく友達の二人も見当たらないし、揃って愛子先生の護衛に就いたと考えれば良さそうである。

 

「では始めよう。戦争とも呼べない虐殺を」

 

 手にしたのは長細く小さなモニターが付いている玩具みたいな機器。

 

「あれは……ディースキャナ!?」

 

 誰かが言ったがユートからしたら顔も知らない誰かとしか思えない。

 

 ユートが選ぶのは【火】の力。

 

 轟っ! 全身に螺旋を描く焔が絡み付いていきまるで、火がバーコードみたいな形に球状にも視える形で左手に集まる。

 

 火のデジコードをディースキャナのスキャナ機能にてスキャン……

 

「エンシェントスピリットエボリューション!」

 

 それは本来、全てのスピリットを使い最強最後の武神に進化する為の文言だが、ユートは【火】のヒューマンスピリットと【火】のビーストスピリット……その全ての力を使うのに用いた。

 

 アニメなら進化の歌が流れる場面。

 

 【火】のヒューマンスピリットを使った場合はアグニモンに、【火】のビーストスピリットを使った場合はヴリトラモンに進化する。

 

 そしてダブルスピリットエボリューションにて【火】のヒューマンスピリットとビーストスピリットを同時に、その()()()()を用いた場合ならばアルダモンへと進化をするだろう。

 

 ならば一部とは云わず全てなら?

 

「ウオオオオオオオオオオッッ!」

 

 腕が脚が体が頭が……全ての【火】属性のスピリットにより鎧われていく。

 

 それは巨大な四つ脚の竜を見る者にイメージさせる威容を放つ存在。

 

「エンシェントグレイモン!」

 

 元々、同じ属性のヒューマンとビーストのスピリットとは古代デジタルワールドで初めて究極体に進化した一〇体のエンシェントデジモン達が、後世の為にと自らの力を二分して隠し遺した物であったと云う。

 

 ならば同属性全てのスピリットを余す事無く使ったなら、エンシェントデジモンに究極進化する事も可能という事だろうか?

 

 まぁ、このスピリットはユートが手に入れていた神器の【魔獣創造】を禁手化させた【至高と究極の聖魔獣】で創造したエンシェントグレイモンから造った物だが……

 

 エンシェントグレイモンの威容に勇者(笑)達も皇帝ガハルドも目を見開き、皇太子などは失禁をしながら尻餅を突いていたくらい無様を晒す。

 

「嘘……だろ? エンシェントグレイモンだと? 本物ならマジにヤベェ!」

 

 言ったのはどうやら永山パーティの男らしいが最早、エンシェントグレイモンに進化をしているユートには関係は無い。

 

「死ね、偽神の玩具共……オメガバースト!」

 

 

 

【Digimon Analyzer】

エンシェントグレイモン

属性:ワクチン種

世代:究極体

種族:古代竜型

古代のデジタルワールドを救った十闘士の一体であり、初めての究極体でありながら並の究極体を凌駕する程の力を持つ【火】の闘士。エンシェントガルルモンと共に最後まで生き残りルーチェモンを封印したとされる。必殺技は大地の気を集め竜巻にして全ての敵を巻き込み吹き飛ばすであろう【ガイアトルネード】と、強烈なる閃光と共に周囲数キロに亘って超爆発を引き起こす【オメガバースト】だ!

 

 

 

 オメガバーストにより近場に居た勇者(笑)共や皇帝共は兎も角、万の帝国兵は全てが消し飛ばされて肉片すらも遺さなかった。

 

 爆発から覚めた勇者(笑)や皇帝は刻が停まった

かの如く、背後に存在した何かが消滅してしまった空間を見つめている。

 

 何も無い。

 

 オメガバーストにより抉れた大地以外は何もかも根刮ぎ消え去っていた。

 

「お、緒方ぁぁぁぁぁあああああっ!」

 

 怒り狂った勇者(笑)が聖剣を抜いて斬り掛かって来たが……

 

 バキン!

 

「っ!?」

 

 エンシェントグレイモンの装甲に負けて折れ、半身となる折れた刃が後ろ側にクルクルと回転をしながら飛んでカランと落ちた。

 

『無意味だな』

 

 ユートは一言だけ呟く。

 

「何故だ、何故殺したんだ!」

 

「戦争だからだ。お前達から仕掛けた戦争で殺されて何が不満だ? 自分達は殺しても良いが敵は許されないってか? 正に屑勇者(笑)に相応しい自己解釈だな」

 

「違う!」

 

「ああ、奴隷狩りの心算だったな。帝国と一緒に居たんだから殺すより捕まえて女を犯したかったのか……屑勇者(笑)君」

 

「ち、違う!」

 

「じゃあ、お前は何をしに来た?」

 

「亜人族の説得に……」

 

「武力を見せびらかして奴隷に成れと?」

 

「違う!」

 

「違わんよ。少なくともガハルド率いる帝国兵はその心算しか無かっただろうしな」

 

「ち……」

 

「最早、無意味だ。僕に敵対して無事にいられるとは思うなよ」

 

「なっ!?」

 

 エンシェントグレイモンの背後に人に近いが明らかに人ではない巨体。

 

「アルファモン」

 

「オメガモン」

 

「マグナモン」

 

「ロードナイトモン」

 

「ガンクゥモン」

 

「デュークモン」

 

「スレイプモン」

 

『エグザモン』

 

「デュナスモン」

 

「アルフォースブイドラモン」

 

「ドゥフトモン」

 

「クレニアムモン」

 

「ジエスモン」

 

『『『『『『我らロイヤルナイツ!』』』』』』

 

 唱和された彼らの所属名。

 

 中には明らかに人より寧ろ獣に近い姿だったり人間の大人くらいだったり、或いは莫迦みたいな巨大な竜みたいだったり様々。

 

 嘗て、【ハイスクールD×D】世界にて手にした【至高と究極の聖魔獣】で最初に創造した聖魔獣こそが一三体のロイヤルナイツ。

 

「ロイヤルナイツよ、主として命じる」

 

「何なりと」

 

 デュークモンが応える。

 

「ヘルシャー帝国を亡ぼせ」

 

「……御意」

 

 飛び上がるロイヤルナイツ。

 

 デュークモンとしては頷き難い命令だったのだろうがそれでも主の命に従う、それは命令さえ熟すならやり方を選べるからでもある。

 

「莫迦な……我が帝国を……」

 

 先程のユート――エンシェントグレイモンと似た威容、即ちハッタリの類いではない事に気が付いたガハルドが膝を付く。

 

 空を飛ばれては間に合わないし、縦しんば間に合っても何も出来やしない事は明白。

 

 その日、ヘルシャー帝国は滅亡した。

 

 

 

.

 

 




 色々と足りない文章ですが連載じゃないからこんなもんだと思います。

 エンシェントグレイモンに成るのは書いた噺の中では【ゲート】以来かも……




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第61話:英雄

 好感度を数値で書いている部分がありますが、ぶっちゃけ数値は気にする必要無しです。

 可愛い女の子が若干高めなだけで基本的に初顔合わせではフラットなので。





.

 ユートにはアンカジ公国を救う為の手管が確かに存在しそれを使えばビィズが態々、ハイリヒの王都だか近隣の町だかに行く必要性は無い。

 

「何と言えば良いか、まさか馬が曳かない金属の馬車……否、馬が曳かないからには()車とは呼べぬから……ふむ?」

 

「馬の字を取って車だな」

 

「成程、その車とはまるで我が邸の如く住めるというものなのか?」

 

「勿論、普通は違う。僕は内部空間を大きく歪めて拡大し広さを確保したんだ。住み心地は其処らの宿屋を越えるのは確かだね」

 

 客室用の大部屋に未だ寝かされたビィズの呟きにユートが答える。

 

「まだ動くには宜しくない身体状況だ。ベッドは魔法の掛かった空飛ぶベッド。それで移動をして貰うけど問題は無いな?」

 

「あ、ああ。然し空飛ぶベッドとは、アーテァファクトなのかね? これは」

 

「まぁね……とはいえ、そんなに高く飛べる訳じゃないしスピードも出ない」

 

「寧ろスピードが出たら怖いのだが?」

 

「ま、それはそうだな」

 

 アンカジ公国の公都とでも呼べる町。

 

「フューレンすら越える乳白色の壁か。外の赤銅色とのコントラストが映えるな」

 

「気に入って貰えて何よりだ」

 

「成程、某かのアーテァファクトで造られている光の柱がドームを形成して余計な風や砂から町を守る仕組み……だな」

 

「その通り。お陰で我が国の町が砂に埋もれたりする心配は無い」

 

 ちょっとした自慢なのだろうが、空飛ぶベッドに寝た状態でらいまいち締まらない。

 

 光り輝く巨大な門からアンカジへと入都をするユート達、砂の侵入を防ぐ目的から門まで魔法によるバリア方式になっている。

 

 驚かせない為にキャンピングバスからは降りて門まで来たが、やはり公子が何故か空飛ぶベッドに寝かされているのには驚いていた。

 

 とはいえ、本人が気にしない様に言うからには門番が異を唱えるのは有り得ず通す。

 

 入ってみた公都はアンカジの状況が強く影響をしているらしくて雰囲気は暗く覇気も無い。

 

 まぁ、だからといって空飛ぶベッドに寝かされた次期領主に気がついた時には、直立不動となって兵士達も覇気を取り戻していた。

 

 アンカジの入場門が高台に有るのは、此処を訪れた者がアンカジの美しさを最初に一望出来る様にという、この地の人間の心遣いらしい。

 

 現状がアレではあるのだが場違いにもユートは美しい都だと思った。

 

 東側に太陽光を反射し煌めく広大なオアシスが在り、その周辺に多くの木々が生えていてい砂漠とは思えないくらい緑が豊か。

 

 オアシスの水が町中に幾つか支流となって流れ込み、此処は砂漠のど真ん中にも拘わらず小船が幾つも停泊をしていた。

 

 そして公都の至る所に緑の豊かな広場が設置されており、只でさえ広大となる土地を伸び伸びと利用をしているのが見て取れる。

 

「北側は農業地帯なんだな。確かアンカジ公国は果物の産出量が豊富だったっけか」

 

「ああ、多種多様な果物を育てているぞ」

 

「ふむ、お土産に買って行くのも良いかな」

 

「ならば今回の件を解決してくれたら贈らせてもらおう」

 

 随分と太っ腹というか、恐らく何らかの対価をと考えていた処に降って沸いた会話だったから、それにビィズが乗っかったのであろうが……

 

「なら、楽しみにしているよ」

 

「勿論だとも」

 

 ビィズからすれば特産品をお土産に贈る事により対価と出来るなら万々歳。

 

「西側の一際大きな白亜の宮殿、荘厳さと規模からしてビィズや領主が住む場所か?」

 

「その通り」

 

 ビィズは頷いた。

 

 中々に性格は良いらしいビィズの評価を一段階上げたユート、その評価は勇者(笑)な天之河光輝を-一〇〇〇〇としたら一〇〇くらいだろう。

 

 尚、基本的な数値は一〇だと告げておくし、【閃姫】の数値は一〇〇〇〇と()()()MAXを越えていたりする。

 

 本来のMAXは-も+も一〇〇〇だ。

 

 まぁ、とはいってみても明確な数値化を実際にしている訳ではない。

 

 天之河光輝がドン底だから-一〇〇〇〇であると判るし、出会ったばかりの人間は賊でもない限りは一〇に固定されているだけ。

 

 尚、可愛い女の子なら二〇である。

 

 本当に因みにだが、【始まりの四人】とレッテルが貼られていた頃の香織と雫は精々がニか三でしかなかった。

 

 愛子先生はその時点で一五〇は往ったが……

 

 そしてその頃の天之河光輝は-一〇〇〇であるというと、ユートがどれだけ彼を毛嫌いしているかが理解出来るというもの。

 

 あの破滅した青い正義君みたいで胸糞悪い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 軽く観てはいたが早くユートを連れて行きたいビィズは……

 

「出来たらユート殿達にも活気に満ちた我が国を御見せしたかったが、今は時間がない故に公都の案内は全てが解決した後にでも私が自らさせて頂きたい。一先ずは父上の所へ」

 

 促す様に言った。

 

 ビィズの言葉に頷いた一行は今回の疫災の正に原因たるオアシスを背にして進む。

 

 宮殿内の領主用執務室に入る一行。

 

「父上!」

 

「なっ!? ビ、ビィズ! お前いったいどうしっ……いや、ちょっと待て……そのベッドはいったい何だ!? どうして空を浮かぶベッドに寝ているんだ?」

 

 云ってみれば顔パスかビィズを伴い宮殿に入ったユート達はその侭、領主たるランズィ公の執務室へと通された。

 

 ランズィ公も衰弱が激しいと云われていたが、治癒魔法と回復薬を相当に用いて努力と根性にて執務に取り掛かっていた様である。

 

 そんなランズィ公だったけど先日に救援要請を出しに王都へ向かわせたビィズが帰ってきた事に驚き、更には息子が空を浮遊するベッドに寝かされている様相を見て、執務室に来るまで宮殿内で働くメイドや執事や警備兵などが見せたのと同じ様に目を剥いてしまっていた。

 

「実は私も感染していたらしく……」

 

「な、何だとぉぉっ!?」

 

 先日は元気だったと思い、それで支援要請の為のメッセンジャーを任せたのだというのにまさかの感染宣言。

 

 ランズィ公としては驚愕しかあるまい。

 

「公子は砂蚯蚓に襲われていてね」

 

「なっ! よ、よく無事で……」

 

「病が不幸中の幸いだった。奴らもこの病持ちは喰いたくなかったらしいね」

 

「な、成程」

 

 病持ちを喰えばその病が移る可能性が高いのを本能的に気付き、砂蚯蚓はビィズを喰らうのを躊躇っていたという訳だ。

 

「さて、ビィズ公子が帰ってきたのは病の所為も勿論あるんだが……実は僕には今回の病を何とか出来る当てが有ってね」

 

「なにぃ!? それは誠かね?」

 

「勿論、天地神明に懸けて偽りは無い。公爵閣下に偽りを企む心算は無いからね」

 

「む、むぅ……」

 

 それが本当なら領主としては朗報だろうが、果たして出会ったばかりの人間を信用が出来るかと云えば難しい。

 

「病をどうやって癒すのだね?」

 

「普段は静因石を砕いた粉を服用しているとか聞くけど」

 

「事実だな。我々が罹患した病は魔力の過剰な活性化にあるのだが、静因石には魔力の活性を鎮める効力があるからな」

 

 正しく病と薬の関係を知っている。

 

「静因石を欠片で構わないからくれないかな? 僕なら複製が出来る」

 

「複製?」

 

「そう、神代魔法の生成魔法の一環でね」

 

「神代魔法だと!」

 

「嘗ての担い手が次代に遺した継承の魔法陣を見付けてね、僕は生成魔法という神代魔法を行使する事が出来るのさ」

 

「な、何という……良かろう」

 

 ランズィ公は静因石を持って来させるとそれをユートに手渡した。

 

「これが静因石……【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】でこれを視れば」

 

 嘗て、最初の転生時に日乃森なのは――【純白の天魔王】から与えられた転生特典(ギフト)は基本的に二つ、『魔法に対する親和性』と『魔力などの流れを視る眼』である。

 

 内、『魔法に対する親和性』は応用性が非常に高くて魔法だけでなく小宇宙の支流となるエネルギー全てが扱い易くなり、魔法を覚える早さも凄まじいまでに、異世界の魔法や魔術や錬金術などにも造詣が深くなったし、知識を基に新たに開発をする事も可能、魔法の道具を造る事にも長けるし精霊との親和性もあるから精霊王や精霊神などともアクセスしてしまえた。

 

 そして『魔力などの流れを視る眼』というのも()()何てファジーに過ぎる上、【ゼロの使い魔】系魔法たる【探知】を寝る時以外に使い続けていたら眼に宿り、【叡智の瞳(ウィズダム・アイ)】へと進化をしてしまう。

 

 魔眼は基本的に視て効果を発するモノだが、取り分けユートのこれは視る事に特化されていた。

 

 そして【カンピオーネ!】の世界にてアテナの母という神話を持つメティス、メドゥサと語源を同じくするメドゥサ、メティス、アテナは謂わば三位一体(トリニティ)を成す女神。

 

 そんなメティスが顕現したので討ち斃して性的にも食肉的にも喰らい、その神氣を奪い尽くした際に権能という形で【錬成】が【創成】に進化、【叡智の瞳】が【神秘の瞳】に進化をした。

 

 常時展開型権能であり、その気になれば世界すら見通してしまう機能を備えている。

 

 なればこそ、静因石を【神秘の瞳】により視て

効果や原子配列などを識る事も可能なのであり、そして理解さえすれば【創成】により創る事が出来てしまうのだ。

 

「情報の取得一〇〇%」

 

 この一〇倍%で云うと敗けフラグっぽい。

 

 最初は普通に勝てるけど最終的に無様を晒すというか、何と無くだが天之河っぽくって厭だったから絶対に言いたくは無い。

 

【創成】開始(クリエイト・スタート)

 

 初めての構築だから時間が掛かってはいるが、

それでも汎暗黒物質が再構築されて原子配列が成されていき、少しずつにでも形が形成されていくのが目に見えて判る。

 

「お、おおっ!?」

 

 ランズィ公が目を見開く程にガン見してしまうくらいは凄い光景。

 

 物質化が完了した時、その場には大きく純度の高い静因石がドシン! と置かれていた。

 

「まさか本当に……」

 

「何という純度に大きさだ!」

 

 ランズィ公も大臣らしきオッサンも驚愕に満ち溢れた表情をしている。

 

「さて、次だ」

 

「次とは?」

 

「普通に砕いて粉にして飲むだけ、それだとすぐに治る訳じゃない筈」

 

 ランズィ公の質問に返しながらもミレディの方へと顔を向けた。

 

「ん~、そだね。一発で治ったりはしないな」

 

 ミレディの言葉にハッとなる。

 

「た、確かに症状は緩和されるが完治には多少の時間が掛かるし、静因石も必要となるな」

 

 即治るならもっと簡単に治療をされている筈だから、やはり何度かに分けて飲む必要があるみたいだとミレディの答えは想定通り。

 

「ランズィ公、ちょっとこの部屋に色々と出すけど構わないかな?」

 

「む? ああ、構わない」

 

 ユートはその科白に頷くと大きな釜と長い棒を取り出し、更には釜を煮る為の火の代わりとなるであろう魔導コンロに幾つかの薬品。

 

 魔導コンロに火を入れて釜をセットアップすると薬品を流し込み、更にその薬品を火で煮ながら長い棒によりグールグルと掻き混ぜていく。

 

「アトリエ系の錬金術?」

 

 香織にはそれが何か理解したらしい。

 

「そう、僕はソフィーの家の屋根をぶち抜いて入り込んでしまってね。ベッドに寝ていた彼女を押し倒す形で出逢ったんだ」

 

「ソフィーのアトリエ……ね」

 

「やっぱりか」

 

「やっぱりって?」

 

 雫の言葉に納得するユート。

 

「実は僕が識っているのは【アーランドの錬金術士】まででね、アーランドにも行ったけど最初に行ったのがキルヘン・ベルだった」

 

 キルヘン・ベルはソフィーが暮らす街。

 

「ソフィーと一緒にプラフタから錬金術を習っていたんだ。因みに宿泊費代わりに護衛と採取の手伝いもしていた」

 

 ユートは不思議シリーズ→黄昏シリーズ→アーランド→ザールブルグ→グラムナートという順番で関わっている。

 

「アーランドまでしか識らないとはいえ、出逢ったソフィーとプラフタもゲームのアトリエが原典になる筈。そして僕は基本的に主人公の傍に出易いみたいでね、だからソフィーが主人公だろうなとは当たりを付けていたんだ」

 

「そういう事か」

 

 雫は納得した。

 

「やっぱりフィリスとリディー&スールも次回作や次々回作の主人公だったのか?」

 

「ああ、ソフィーやプラフタと出逢ったんなら逢っているわよねぇ」

 

 【フィリスのアトリエ~不思議な旅の錬金術士】と【リディー&スールのアトリエ~不思議な絵画の錬金術士】……【ソフィーのアトリエ~不思議な本の錬金術士】も含めて不思議シリーズ三部作となっている。

 

 ユートは中身の薬品がすっかりと馴染んだのを確認したら、大釜の中には静因石と回復薬であるスタミナポーションとマナポーション、それに加えて中和剤を放り込んだ。

 

 そしてグールグル、グールグル。

 

「錬金術は素材を理解し分解して効力を抽出してからそれらを合成し再構成させる技術。端目には単純にグールグルと掻き回しているだけに見えるんだけどな」

 

「確かにね」

 

「だけど実際には()()というのはエネルギーの増幅や円環を意味し、決して無意味に掻き回しているって訳じゃないんだ」

 

「回転……」

 

「螺旋のカドケウスと円環のウロボロスと言ったら理解して貰えるかな?」

 

 カドケウス、若しくはケリュケイオンとも云うそれは二匹の蛇が螺旋を描く様に翼持つ杖に絡まる様相を云い、ウロボロスは自らの尾を食む蛇として描かれている。

 

 共通しているのはどちらも蛇として描かれている事と、いずれも錬金術と関わりを持つという事であろうか。

 

 ユートは象徴としてカドケウスに増幅、ウロボロスには循環の意味を持たせていた。

 

 そういう概念をイメージしているからか定かではないが、ユートの錬金術は師匠たるプラフタをして『素晴らしい』と言い放つ程に高い技術で、一時期はソフィーに妬心を懐かれたくらい。

 

 まぁ、解り易くイメージを伝えたらソフィーも腕前が上がったから収まったけど。

 

「完成だ」

 

 暫くの時間をグールグールとやっていたら遂に薬が完成に至るものの……

 

『『『ちょっと待てぇぇっ!』』』

 

 然しながら今この場に於いて、皆の思いは一つになって釈然としない気持ちを吐き出す。

 

「どうした、皆して」

 

 ユートは()()()()()静因石の薬を一つ手に取りながら首を傾げた。

 

「何で()()()()()()が大釜から出るのよ!?」

 

 至極真っ当な意見を叫ぶ雫。

 

「そうは言われてもな。ゲームでも普通にこうして出てくるだろ? 僕もゲームでプレイしていた時は数を熟した時にどうやって容器を準備しているのかと思ったけど、まさか容器に入った状態で完成するとはね」

 

「んな、莫迦な……」

 

 そう、莫迦な……なのだよ。

 

 何処ぞのリッチーみたいに言いたくなるくらいにおかしな現象、こんな事が起きるのは当然ながら【創成】により創造力を以て創造するユートくらいである。

 

 ソフィー、フィリス、リディー&スール、アーシャ、エスカとロジー、シャリステラとシャルロッテ、ロロライナ、トトゥーリア、メルルリンス、エルメルリア、リリー、マルローネ、エルフィール、ユーディット、ヴィオラート、ネルケ、ライザリン……ユートに関わった主人公達が声を大にして叫ぶ筈だ。

 

 まぁ、約一名ばかり錬金術士ではない主人公も居たりするけど。

 

 アーランドの錬金術士までしか知識が無いという割に、不思議シリーズや黄昏シリーズにまでもドップリと関わっていた。

 

 因みにに全員が喰われている。

 

「兎に角、薬は完成したんだ。ランズィ公は民に薬を与える様にな」

 

「了解したが……対価は如何程かね?」

 

 随分と話が解る領主である。

 

「いずれは神やその使徒と敵対するかも知れないからね、その際に敵対しないでくれたら嬉しいとだけ言っておくよ」

 

「神と!?」

 

「此方から敵対はしないが、向こうが敵視をしたらどうにもならん」

 

「む、むぅ……」

 

 神への敵対――やはり悩ましいのかランズィ公は頭を抱えていたが、人間とは現金なものであるから現世利益を与えないエヒトと危機を救ってくれたユート、果たしてどちらに付くべきかは遂先頃に薬を飲んで元気になった妻と息子と娘を見てしまっては心を決めるしかあるまい。

 

 尚、神の使徒とは元クラスメイトを指している訳では決して無く、判で捺した様な同じ顔立ちに数字を名前にする無表情がデフォなワルキューレっぽい連中の事。

 

 ユートが斃して犯して封印したリューンは謂わばデキ損ない、能力が半分程度しか無く感情的に過ぎるという事らしい。

 

「にしても、瓶に詰められた状態で出てきたのは一万歩譲って良しとしても……」

 

「良しとする気無しじゃないか」

 

「良しとするにしても、数が凄まじいわね」

 

 雫が言う通り、僅か数時間でこの公国の民達の全員に回せる程に【魔力過剰活性化特効薬】なる新薬が完成した。

 

「魔力を螺旋に編む事で直線より多く組み込めるのと、それを円環させる事でロスをより少なくするという仕組みだ。それにより僕は従来の錬金術士よりもずっと短い時間でより多くのアイテムを造れるんだよ」

 

 驚きの新事実に文字通り驚愕する一堂。

 

 それはつまり、マルローネが一ヶ月間を殆んど休まずに錬金するであろう【賢者の石】をもっと短い期間で製作可能という事。

 

「け、賢者の石ならどのくらいの期間で?」

 

 だから雫は訊いてみた。

 

「数日だな」

 

「ウソ……でしょ?」

 

「嘘なもんか。実際に数日で造ったぞ」

 

 成程、それならもっと期間の短いアイテムならば数時間で数を造れる訳だ。

 

「ランズィ公」

 

「む、何かね?」

 

「オアシスの水は有るか?」

 

「有るには有るが飲めないぞ」

 

 水差しに入った水をコップに移して渡しながらランズィ公は言う。

 

 渡されたユートはコップを……

 

「ゴクン」

 

 煽って水を飲む。

 

『『『『あ゛ぁぁぁぁぁぁああっ!?』』』』

 

 選りにも選って水を飲んだユートに、全員が目の玉を飛び出す勢いで叫んだ。

 

「やっぱり毒の方だな」

 

「だ、大丈夫なの? ゆう君」

 

 香織が心配そうに訊いてきたし、他の皆もハラハラした表情で見つめてきている。

 

「大丈夫。僕には毒も呪いも効かないから」

 

「毒も……呪い……も?」

 

「そ、呪いも。僕は精霊神――風の聖痕で云う処の精霊王――と契約した総契約者(フル・コントラクター)だからね。水の精霊の力で常に毒素は打ち消されているんだよ。それに呪いにしても強壮たる【C】の神氣を喰らっても正気を保てるって時点で効いていない。それ処か無害なエネルギーに変換して取り込んでしまえるな」

 

 その余りな内容に驚く雫と香織ではあるけど、残念ながらトータス組には意味不明。

 

 ユートは【機神咆哮デモンベイン】の世界へと跳ばされ、関わって更には何故か【黒の王】とその魔導書たる【ナコト写本】の精霊たるエセルドレーダに気に入られ、交流すら持ったユートではあるものの最終決戦は元の世界に帰るチャンスとなる【一にして全、全にして一】たる【Y】招喚に居合わせなければならないから【夢幻神母】を媒介に招喚された【C】へと突入、その際に捕らえられて犯され神氣を送り込まれてしまう。

 

 然しユートは正気を失ってSAN値直葬されてしまう処か、神氣を逆に喰らい尽くす勢いで逆襲をしてやったくらいだ。

 

 本来なら容量をあっという間に越えて破裂してもおかしくないが、ユートは余裕綽々で呑み込んでしまっていたのである。

 

 まぁ、まだ普通の人間の域だったから魂を少しばかり穢されてしまい、副作用から【性欲の無制限な増大】と【精子と精液の無限リロード】と【分身の肥大化】と【僅かな好意に反応する催淫ホルモン】なんて、どう考えてもエロティカルにしかならない能力が足されていたりした。

 

 DTだった時は太股に先が擦れて射精していたのと比べて大進化である。

 

 今では某・超絶美形主人公やニトロ砲にも後れは取らないであろう。

 

 自前で【快楽増大】も出来るし。

 

「オアシスの水を取り込んだ結果、これは毒素による汚染だと判明したんだ」

 

「ああ、そういう事ね」

 

 雫も納得してくれた。

 

 ユートは何事か思考に耽りランズィ公の方へと視線を向ける。

 

「オアシスに病を発症させる毒素を出す魔物が居る筈だ。恐らく、ウルの町やオルクス大迷宮の時みたいな魔人族による陰謀」

 

「何でそう思うのよ?」

 

「どれも魔物による計画だからだ」

 

 ウルの町では清水利幸に魔物を貸与。

 

 ホルアドの町ではカトレアという魔人族の女が自ら魔物を率いていた。

 

 そしてこのアンカジ公国ではオアシスの汚染に魔物を使ったらしい。

 

「魔人族はミレディの嘗ての仲間、ヴァンドゥル・シュネーが遺した大迷宮である氷雪洞窟で神代魔法の変成魔法を入手、それは『有機物に干渉をする魔法』らしいからね。恐らくだがその魔物は特性を強化されているんだろう」

 

「うん、かも知れない。ヴァン君の魔法を使い熟しているなら充分に可能だろうね」

 

 ミレディが首肯し肯定する。

 

 案内は不要なくらい判り易い場所にオアシスは在るのだが、何しろ現在は民が思い余って飲まない様に兵士を置いていたから領主が居た方が話はスムーズに進む筈。

 

 思った通りにいって満足気なユート。

 

 特効薬の効果で元気一杯なランズィ公は足取りも軽くオアシスに案内してくれたし、巡回中だった兵士も領主様が居たとあってはユートを通さない訳にもいかないのだから。

 

 相も変わらずオアシスは光を反射して美しく輝いており、これが毒素を含んでいるとはとてもではないが見えない。

 

「だけど僕には視えている。【神秘の瞳】を舐めて貰っちゃ困るね」

 

 ユートの【神秘の瞳】なら魔力の流れも生命力の流れも視ようとすれば視えるし、その気になったら水底に蠢くナニかだって視えるのである。

 

 透視も可能だからだが、ユートはこれを余り使おうとはしない。

 

 理由はオン/オフは可能だけど一度オンにしてしまうと、オフにするまで透視は続いてしまって視たくも無いモノ(男のハダカ)が視えてしまうからだ。

 

「ランズィ公、調査をしたチームはオアシスをどの程度調べた?」

 

「確か資料ではオアシスとそこから流れる川と、井戸の水質調査と地下水脈の調査。地下水脈は特に異常は見付からなかったと聞く。とはいえ調べられたのはこのオアシスから数十メートルが限度だからな、底にまでは手が回っていないのだ」

 

「だろうね。だけどオアシスの底に魔物が居るみたいだ」

 

「まさか、本当に!? オアシスの警備と管理に【真意の裁断】というアーティファクトが使われているが、地上に設置した結界系でオアシス全体を汚染されるなど有り得ん事だ」

 

「【真意の裁断】ってのはアンカジを守る光のドームだな? 砂の進入を阻んでいる」

 

「そうだ。しかも空気や水分などの必要な物なら普通に通す作用がある便利な障壁なのだ。そして何を通すかは設定者側、つまり私達で決める事が出来る。あれには探知機能もあって何を探知するかの設定も出来るのだよ。その探知の設定は汎用性があって、闇系の魔法が組み込まれている為に精神作用すらも探知可能だ」

 

 要するに『オアシスに対して悪意のあるモノ』と設定すれば、【真意の裁断】が反応をして設定をしたランズィ公に伝わるのだと云う。

 

「だけど魔物は確かに存在する。恐らくアーティファクトを誤魔化す事が出来たんだろう」

 

「な、何と!?」

 

「先ず魔物を追い立てる」

 

 驚くランズィ公を敢えてスルーしてユートは魔力と闘氣を融合、陰陽合一法とも呼ばれる技術ではあるが【魔法先生ネギま!】を識るならきっと咸卦法と呼んでくれる。

 

 魔物の特性が判らない現状で魔力だけを流すのはリスクが高い、咸卦法は支流同士のエネルギーを一時的に一つ戻したモノで吸収や反射がされ難いのを期待していた。

 

 ドカンッ! けたたましい轟音を響かせながら爆発が起きてスライムっぽい魔物がオアシスから投げ出される。

 

「バ、バチュラム……か? だがデカイ!」

 

 驚きのランズィ公。

 

「本来のバチュラムは一mか其処らの筈!」

 

 成程、あれなら一〇mはありそうだ。

 

「ふむ、折角だから見せようか」

 

 一〇m程度では()()()けど問題無い、此方も大きさは自由自在に変えられるし。

 

「あれは!」

 

「エボルトラスター!?」

 

 ユートが手にした機器を見た香織と雫が驚愕に目を見開く。

 

「絆……ネクサス!」

 

 鞘から剣を抜くみたいにエボルトラスターを引き抜くと、孤門一輝の如く呟きつつ光を放つそれを天高く掲げた。

 

 銀色の巨人が顕現、ウルトラマンネクサス・アンファンスがバチュラムの前に出る。

 

「へ、変身した?」

 

 ビィズが驚愕していた。

 

 ネクサスとしては一番の弱いフォームであり、まともに戦って敵を斃した事が無い。

 

 とはいえ、バチュラムは特殊能力特化型らしいからこの姿でも充分だろう。

 

 というより所詮はスライムだからか動きが蠢く形だからか、若しくは水中から引き摺りだされたからか? 速度は余りにも緩慢で遅い。

 

『デュアッ!』

 

 抜刀を思わせるポーズから広げた両掌の間にはエネルギーがチャージ……

 

『ダァァァアアッ!』

 

 初代ウルトラマンのスペシウム光線を思わせる右腕を曲げて縦に、左腕を右腕の前で水平にして

十字を組んだ状態でチャージされた光エネルギーを放射する。

 

 ウルトラマンネクサス・アンファンスの必殺となるクロスレイ・シュトロームだ。

 

 呆気なく消滅するオアシスのバチュラム。

 

 クロスレイ・シュトロームのポーズを解除して残心を忘れず、もう魔物は居ないと【神秘の瞳】で判断したネクサス――ユートは天を見上げる。

 

『ジュワッ!』

 

 そして両腕を伸ばして翔んだ。

 

「様式美に拘ったわね」

 

「だけど其処がゆう君の可愛い所だよ」

 

「……」

 

 香織はすっかりユートに参ってしまっているのか頬を赤らめて言うのを見て、雫も変われば変わるが根本的には深みに嵌まった親友の明日を憂いつつも……

 

「そうね」

 

 自分自身が嵌まっているのに苦笑した。

 

「あれがウルトラマンですかぁ」

 

「……ん、綺麗だった」

 

「いやぁ、仮面ライダーも良いけどウルトラマンも中々に良かったよ」

 

「主殿……素晴らしい」

 

「パパ、かっこいい!」

 

 トータス組にも概ね好評だが、やはり好意を持つ相手というフィルターは有るのだろう。

 

「……処でユートは翔んで行ったけど何処に?」

 

 ユエは疑問を口にしつつコテンと首を横に。

 

「此処に居るぞ」

 

「あら、早かったわね」

 

「正体バレしてなきゃ、『おーい、おーい!』とか叫びながら手を振って駆けて来るのもアリなんだろうけどな」

 

「初めから正体バレしてそれは白けるわね」

 

 昭和の佳き時代のウルトラマンでは正体バレをしてないし、戦闘機が墜ちた際に変身する事などもあるから『○○はどうした?』とか話題に挙がると……『おーい、おーい!』と叫びながら手を振って駆けて来る御約束もある。

 

「ユートパパ~」

 

 抱き付いて来るミュウを受け止めて抱き上げると頭を撫でてやった。

 

 スリスリと胸に頬擦りをする姿は可愛らしくて微笑ましい光景だが、ミュウも女である点は変わらないからかちょっと複雑だし、ミュウを大人化させたお姉さんが母親と考えると余り仲良くさせるのは、未亡人らしいミュウの母親まで寄り添いそうだと雫も香織も……否、全員が一致した想いなのは間違いない。

 

「さて、それじゃあオアシスの浄化もするか」

 

「オアシスの浄化……そんな事まで君には可能だと云うのか?」

 

「ランズィ公、僕は出来ない事を出来ると法螺を吹く心算は無いよ」

 

「う、うむ。では頼めるかね?」

 

「勿論だ」

 

 ミュウを降ろしたユートは先ず汚染されているオアシスに手を浸す。

 

「やはりこの世界の精霊にはアクセスがし難いんだよな。水の精霊神……その存在に於いて代行者たる我が呼び声に呼び掛けに応えよ、トータスの水の精霊達よ」

 

 言ってみれば世界とは国であり精霊神とは即ち国王や皇帝を意味し、精霊王は上級貴族の中でも大公や公爵の位置に存在して、精霊主は貴族という形になり、意思は在るが意志を持たない小精霊を平民という括りにすれば解り易い。

 

 ユートは日本で云えば関白とかその辺りか若しくは征夷大将軍、謂わば精霊神の地上代行者と呼んでも差し支えは無かった。

 

 どちらかと云えば北欧はアスガルドに於いてのオーディンとヒルダみたいな関係か?

 

 兎に角、小精霊は精霊神の地上代行者と云えるユートに対して力を貸す義務が生じる。

 

 精霊主とは殆んど同格の扱いだったりするが、実際にはユートの方が格上だ。

 

 とはいえ、当然ながら精霊主からすれば新参なユートだから彼らにある程度は配慮をする。

 

 元より精霊術師は小精霊に力を借りたなら必ず礼を以て接するものだし、幾らユートが格上でもそこら辺の行動は変わらない。

 

「アクセス完了、オアシスの水を浄化!」

 

 ユートは水の精霊主ラクスを通じて精霊神との契約を行ってから、毒素を自動的に浄化してしまう体質となっていた。

 

 浄化は水の精霊の領分であるが故に。

 

 だから、ユートが恣意的に浄化の力を使ったならオアシスを汚染する毒素も分解と浄化が成されて無害化、普通の水へと戻してしまう事が可能であったのだと云う。

 

 オアシスが光を放ったかと思えばユートが立ち上がり、ランズィ公とビィズの方を向いて浄化が終わった事を伝えると、二人は涙を流しながらもユートの手を取り礼を言うのであった。

 

 

.

 

 

 

 




 タイトルはウルトラマンネクサスのOPから、クロスレイ・シュトロームで消滅する雑魚が相手でしたけど。



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第62話:吹雪が大活躍する大火山

 漸くグリューエン大火山に突入案件。

 取り敢えずは書けたから投稿します。





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 アンカジ公国のオアシスを浄化したユート達はグリューエン大火山に向けて出発。

 

 グリューエン大火山は当然ながらナイズ・グリューエンが生きていた時代、そんな名前で呼ばれていたりはしなかった。

 

 グリューエンとは村の名前でナイズの生まれた謂わば故郷、その村はナイズが異端とされたと聞かされた村人が彼の家族を殺害してしまった為、報復とも云える空間魔法の爆発にてナイズ以外が消滅した為に消えて無くなる。

 

 北方へ約百キロ進んだ先に直径にして五キロ、標高は三千メートルの巨岩がそれだ。

 

 通常の円錐状となる成層火山ではなくて極めて巨大で平べったい丘といえば解り易い。

 

 オルクス大迷宮みたいに大迷宮の一つとしては周知されているが、彼処みたいに冒険者が山の様に入り込む事は無かった。

 

 理由は内部の危険性がオルクス表層に比べると上であり、そもそも辿り着ける人間が殆んど居ないし魔石回収の旨味が少ない事が挙げられる。

 

 【グリューエン大火山】は巨大な積乱雲の如く砂嵐が渦巻いており、大火山を覆い尽くしてしまい姿を完全に隠す程だった。

 

 まるで流動する壁。

 

 【ラピュタ】は本当に在ったんだっ! 火山が空中に存在したら言いたくなる様相である。

 

 更には砂嵐の中に砂蚯蚓を含む魔物も可成りの数が潜んでいて、視界が悪い中で情け容赦も無く奇襲を仕掛けて来るらしい。

 

 流石は大迷宮の一つであるというべきなのか、並みの実力の者には決して門戸を開いてはいないのであろう。

 

 要は最低限でも大迷宮に到達しろとナイズ・グリューエンは言いたい訳だ。

 

「ナっちゃんは優しかったからね。オー君みたく入り込んだが最後……みたいにはしたくなかったんじゃないかな?」

 

「成程、判らないでもないな」

 

 辿り着けなければ挑もうとした人間が無駄に死ぬ事も無い上に、つまりは神代魔法を手に入れる

資格も無いという事だから。

 

「ミレディ、大火山の入口は頂上だったな?」

 

「うん、そだよ」

 

「キャンピングバス……オプティマスプライム、トランスフォーム!」

 

「へ?」

 

 内部は空間湾曲技術で創られた疑似異空間であるが故に、外部装甲が複雑に変形をしてもユート達には何ら影響は無い。

 

 オプティマスプライムが変形(トランスフォーム)を完了すると人型機動兵器としか思えない姿になり、背中に付いたテスラ・ドライブのユニットで大空を舞う。

 

 ユートが【スーパーロボット大戦α】な世界で入手をした星帝ユニクロンの骸、その中には二つの勢力のトランスフォーマーの遺骸が散乱していた為、トランスフォーマーと呼ばれる超ロボット生命体の研究が捗った。

 

 コイツはキャンピングバスの形をしてはいるものの、実はその原型とはオプティマスプライム――日本のG1で云う処のコンボイである。

 

 通常のコンボイは翔ばないけど、シリーズ中ではスーパー合体で翔べるコンボイも居た。

 

 キャンピングバスが基型の癖にコイツは普通に翔べるけど、それはテスラ・ドライブユニットを背中に装着しているが故。

 

 尚、オプティマスプライムに意志自体は存在しているけど、魔法デバイス程の意識ですら持たされてはいない。

 

 その内に新しくオプティマスプライムを組んでちゃんとした意識も与えたい、それこそユートが密かにトランスフォーマー計画として考えている事でもある。

 

 星帝ユニクロンの警備員的に。

 

 因みに現在は所謂、クストースと呼ばれていたガンエデンの下僕たるカナフ、ケレン、ザナヴや量産型のアフ、ズロア、スナピル、量産型ジンライ――トランスフォーマーに非ず――が守護者となって動いていた。

 

 量産型ジンライもAIで動いているが茶々号や田中さん程度の物ですらない。

 

 星帝ユニクロンとは【トランスフォーマー】の世界に於けるラスボスっぽい存在、惑星レベルの巨体で星型から人型にトランスフォームする。

 

 【マイクロン伝説】ではマイクロンを生み出した者でもあるらしいが、設定上だと平行世界に在る全てのユニクロンは同一個体だとか。

 

 誕生の経緯すら別物でも。

 

 ユートは【第三次スーパーロボット大戦α】の後に、GGGの大河長官から依頼を受けて謂わばバンプレのオリジナル連中を率いて木星へ。

 

 その捜索で木星の異相が異なり重なる次元に、頭を喪ったユニクロンの死体? を発見。

 

 大河長官の目論見の通り自分で確保する。

 

 惑星レベルの巨体だから内部も可成り広々としていて、恐らくはオートボットとディセプティコンだろうトランスフォーマーの遺骸が朽ちて野晒しになっていた。

 

 後でちゃんと弔ったが、その前に遺骸を調べさせて貰ったのは言うまでもないだろう。

 

 データ内というか記憶野にオートボット総司令官オプティマスプライムと、ディセプティコンの破壊大帝メガトロンの記録も在った。

 

 尚、彼らの記憶はサイバトロンとデストロンと明記されていたから、オプティマスプライムというのも実はコンボイという名前である。

 

 G1なのかマイクロン伝説系なのかビーストウォーズⅡ~ネオなのか、或いはまた別の平行世界に在るモノなのかも判らないが有効に使った。

 

 特にユニクロンは惑星型機動拠点として上手く改良をしたし、内部も太陽系が幾つか入りそうなくらいに空間湾曲して生きた惑星――居住可能惑星を幾つも保有している。

 

 その惑星の中の一つは完全なる第一次産業用であり、現在では【機動戦士ガンダムSEED】に登場したユニウスセブンの人々を密かに助け出していて、この第一次産業惑星ユニウスセブンで働いて貰っていた。

 

 リーダーはアスラン・ザラの母親だ。

 

 因みに第一次産業惑星ではあんまりだと言って

レノア・ザラがユニウスセブンの名を付けた。

 

 また、レノア本人はレニィ・サーラと名乗って若返っている為に最早、別人にしか思えないくらいになっていて元夫が息子くらいしか判別不可能であると思われる。

 

 それは兎も角、ユートのキャンピングバスというのはコンボイのデータから人工的に構築をした人造トランスフォーマーで、オプティマスプライムの名前を与えているという訳だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 グリューエン大火山の入口に辿り着いた一行は早速とばかりに準備をする。

 

「じゃあ、ミレディ。ミュウの事は頼むぞ」

 

「了解、了解! このミレディちゃんにまっかせなさ~い!」

 

 薄い胸を叩きながら請け負うミレディ。

 

 大迷宮の創始者の一人たるミレディはグリューエン大火山には入らないとして、今回はティオの代わりにミュウの面倒を見る役目だ。

 

 概念魔法はユートさえ獲れば良いのだろうけど一応、本当に一応ではあるが仲間にも挑戦させてみようと考えた。

 

 まぁ、インストール・カードで覚える事も出来ると云えば出来るが、楽に修得させるというのもどうかと思ったのである。

 

 ハジメの生成魔法は仮面ライダーG3を完成させた御褒美だから問題は無い。

 

「キャンピングバスは岩塊に偽装させておく」

 

「オッケーだよ」

 

 穴を穿ちキャンピングバスを内部に入れてしまうと外側を幻影魔法による偽装を施した。

 

「ミュウ、すぐに帰ってくるからミレディと大人しく待っていてくれ」

 

「うん、ミュウはまってるの。パパをしんじてまっているの!」

 

 涙ぐむミュウを抱き抱えたユートは頭を撫でながらあやす。

 

 ミュウにも理解は出来ていた。

 

 この先に行けるだけの力は自分には無い上に、下手に付いていけば大好きなパパの邪魔にしかならないのだ……と。

 

 だから待つ。

 

 必ず帰ってくると信じて。

 

 ミュウがバスへと戻ったのを見届けた一行は、アーチ状になった岩石の下に内部へ続く階段を見付けて下るべく動く。

 

「さて、鈴は大迷宮攻略が初だったな」

 

「え? オルクス大迷宮なら潜ってるよ」

 

「表層のな」

 

「表層……真のオルクス大迷宮ってやつ?」

 

「そうだ。オルクス大迷宮は表層の第百階層まで下りると中ボスと戦闘になり、斃せたら真のオルクス大迷宮に下りる為の魔法陣が顕れるらしい。道理で登りの階段が見付からなかった訳だよ」

 

「登りの階段が無いって、つまり下りたらノンストップで行くしか無いって事?」

 

「まぁな。オルクス大迷宮のコンセプトは総合的な能力を見る事にある。何を使ってでも真のオルクス大迷宮の第百層まで下りて、ラスボスであるヒュドラを斃せって事なんだろうな、食料の事を考えると空間魔法は必須だ」

 

「神代魔法を駆使しなきゃ駄目なんだね。そんな大迷宮にゆう君は神代魔法を一つも持たない侭に攻略しちゃったんだ……」

 

「僕はそもそも色々と代わりになるモノをもっていたからな」

 

 空間魔法と生成魔法とまでは云わないまでも、錬成魔法を使って宝物庫っぽいアイテムは欲しい処であろう。

 

「コンセプト……かぁ。それもミレディさんからの情報だったよね」

 

「ああ。大迷宮は試練であり、神代魔法というのは鼻先の人参。そして神代魔法を獲る為に必須となるのが大迷宮のコンセプトをクリアする事だ。とはいえ、オルクス大迷宮は総合力の試しだったから単に百層まで下りてヒュドラ退治をすれば良かったみたいだし、ライセン大迷宮はミレディが直に合否の判断をしたから識らなくても特に問題は無かったな」

 

「割と綱渡りだったね……」

 

 万が一にもコンセプトをクリアしていなかったと判断されたら、神代魔法を獲られなかったという事だから鈴も驚いた。

 

「それで優斗、グリューエン大火山のコンセプトってずばり何?」

 

「忍耐」

 

「に、忍耐?」

 

「正確に言うと『暑さによる集中力の阻害とその状況下での奇襲への対応』かな」

 

「確かに、妾を以てしても暑いの」

 

 和服っぽい着物を着たティオも汗を掻いていて長い黒髪が濡れ、服も汗を吸っているのか濡れているのが判るくらいだ。

 

 匂い立つ女の薫りがユートの下半身を刺激してくれる辺り、割かしユートがティオを抱いていないのは飽く迄もミュウをあやす役があるからで、本当はすぐにでも抱きたいくらい女を感じさせてくれている。

 

 ユートの識らない原典のティオならプラマイ〇な感じだろうが……

 

「あっつい!」

 

 鈴が叫ぶ。

 

「行き成り壊れるな。大迷宮のコンセプト的にはアウトだったらどうするよ」

 

「うぐっ!」

 

「とはいえ、対処が出来るかも試練の内なら特に問題も無いのかね?」

 

 ひょっとしたら対処しても良いのか?

 

 下手に楽したら神代魔法が獲られない可能性もあり、ユートは何ら対処をしないで仲間の愚痴を聞きながら動いていたけど。

 

「そういえばゆう君って汗を掻いてないね」

 

 やはり神官っぽい服装な香織も汗だくとなり、雫やユエやシアも全身グッショリとなっているにも拘わらず、ユートの服はあからさまに乾いてあるし本人も汗一つ流していない。

 

「僕は四大精霊神の総契約者(フル・コントラクター)だって言ったろう。熱で僕がダメージを受けたりしない」

 

「な、何ですかそれ!?」

 

「……ズルい」

 

 シアが叫び、ユエも暑さからぐったりしながらも文句を言ってきた。

 

「まぁ、良いか。これで神代魔法を獲得出来なかったらやり直させるからな」

 

 ユートが指先を弾く。

 

 所謂、指パッチンというやつで『素晴らしき』人がグルンガスト参式を破壊するのにも使っていた仕草である。

 

「あれ? 暑さが……」

 

「うん、雫ちゃん。涼しくなった訳じゃないんだけど暑苦しさは無くなったよ」

 

「周囲の熱をある程度だが遮断した」

 

 飽く迄も暑いと言いたくなるレベルが低くなったに過ぎないが、それでも決して快適ではないにせよ環境は悪いものではなくなる。

 

 天然のブービートラップとして行き成り噴き出すマグマ、事前の兆候すら無く本当に突然だからユートが土と炎の精霊術で察知をしていなければ危険極まりない場所だろう。

 

 熱をある程度とはいえ遮断するだけではなく、こうした場合でも可成り使える。

 

 岩肌が露出した場所に薄い桃色の鉱石が覗いており、それが本来なら必要だったろう静因石だとはすぐに判った。

 

 だけど今はユートが【創成】で創った静因石を更にアトリエ系錬金術で薬に換え、公都民へ無償で与えているから既に採取の必要は無い。

 

 そもそも浅い階層では小さい静因石しか出ないから効率も悪かった。

 

 七階層まで下りてくる。

 

 公式な冒険者の下りた記録では此処までが最高となっていたから、更に下の階層に下りたならばユート達が新記録樹立となる筈。

 

「マグマ牛って処か」

 

 マグマを纏う牛が現れた。

 

 魔物の一種で間違いなく、マグマを身に纏う事から火系の魔法は効き目が薄いだろう。

 

「ヒャダルコ!」

 

 カチン! 氷結呪文で凍り付くマグマ牛。

 

「呆気ないな」

 

 とはいえ、ユートの放つヒャダルコは一般的な魔法使いのヒャダルコの何倍も強く、下手をしたらマヒャドのレベルの凍気を放っている。

 

『これはマヒャドではない、ヒャダルコだ』

 

 ヒャドじゃない辺り流石に大魔王バーン程ではなかったりするが、ユートの魔力の強さなら出来てしまう遊び心だった。

 

 ヒャダルコはヒャドと違いグループ殲滅呪文だから範囲が広いけど、マグマ牛を一匹相手するのに広範囲は要らないから収束している。

 

 マグマ蝙蝠やマグマ蛇やマグマカメレオンなどマグマや赤熱を纏う魔物ばかりが現れた。

 

 此処は火山だから仕方がないが……

 

「ヒャダイン!」

 

 赤熱化したウツボや炎の針を無数に飛ばしてくるハリネズミ、結構な数がわらわらと出てきたけどマヒャデドス級のヒャダインで殲滅した。

 

「……ん、【凍柩】!」

 

 全属性に適性を持つユエも大活躍をする。

 

 また、ティオもそれなりに活躍中だがシアや雫や香織は余り活躍の場が無い。

 

 香織も魔法を使えない訳ではないが魔法陣とか詠唱とか、兎にも角にも実戦的とは云えないのが何とも困りものだからだ。

 

 適性の問題だろう。

 

「序でにマヒャデドス!」

 

 オルクス大迷宮でやっていた訓練は戦闘に慣れるのが主目的であり、効率とか実戦的とかはまた別にやる予定だったらしい。

 

「優斗ってダンジョンでもサクサク進むわね」

 

「慣れだよ、慣れ」

 

「慣れ……ねぇ? やっぱりゲームやアニメなんかの世界で?」

 

「放浪期に色々と行く羽目になったからな」

 

 雫の問いに答えながら苦笑する。

 

「どんな世界? ヒャダルコとか使っていたし、ドラクエが鉄板なのは理解するわ」

 

「FFやスターオーシャンやテイルズ」

 

「それは、また……」

 

 FFだとカオスや皇帝や暗闇の雲などラスボスを退治して回った。

 

 とはいえ、Ⅶくらいまでだったけど。

 

 スターオーシャンはⅠ~Ⅲまでで、特にⅠは下手したらNTRも斯くやなレベルで主人公の幼馴染みとくっ付いた。

 

 跳ばされた際に記憶喪失になってしまったのと懐かれてしまった為に。

 

 Ⅱではクロードが惑星エクスペルに跳ばされずに別の世界に行き、何故か神懸かったというか明らかに女神らしき美女を連れて戻ってきた。

 

 女神の名前はアストレアだと云う。

 

 Ⅲは原典と余り変わらず。

 

 テイルズは噺の繋がりが基本的に無い――デステニィは後年に出てるが――から一つ一つを無難にと云いたいが、ファンタジアで得た【閃姫】の中にミント・アドネードとアーチェ・クラインと聞いたら何故そうなった? とか思われるだろう。

 

 真相はクレスとチェスターが過去へ跳び村が滅ぼされる前に村を救い、小骨が刺さっていた過去の闇を祓ったのに付いて行って、村はクレス達に任せて黒騎士がミント母娘を誘拐しようとしていたのを止めたのが切っ掛け。

 

 つまり元の世界のミントではなく、クレスとの出逢いが無かったミントだからである。

 

 アーチェも同じくだ。

 

 因みに、アーチェの非処女説は当人を抱いた際に完全に思い込みな勘違いだと判明した。

 

 ユートのアレは【C】の呪いで大砲になってはいるが、処女でない限り痛みは感じない筈なのに初夜では普通に痛がっていたのだ。

 

 調べたら膜も健在、記憶を洗ってみたら彼氏らしきが居たのは事実だが性的な関係は無かった。

 

 添い寝くらいしかしてないのをアーチェが勘違いをしていたらしい。

 

 お間抜けな話だ。

 

 テイルズもヴェスペリアまでは行ったのだが、それより先の世界には行かなかった。

 

 それでも様々なダンジョンを潜っている上に、何なら迷宮都市というのにも行っている。

 

 確かセリビーラとか云ったか?

 

「私達も慣れなきゃ駄目よね」

 

「そうだね、雫ちゃん」

 

 ふんす! とばかりにガッツポーズな香織。

 

 ユートがマヒャデドスまで使った所為で魔物が潰滅、次の階層まではのんびりと話をしながらでも良いくらいで水を飲んだり携帯食を食べたりしながら歩いている。

 

「あ、序でに訊きたかったんだ」

 

「どうした、香織?」

 

「ゆう君って光輝君が前から嫌いだったよね」

 

「……まぁね」

 

「どうしてかなって」

 

「……青い正義とか名乗る莫迦連中が居てね」

 

「青い正義? ブルージャスティス?」

 

「ああ、そんな名前だよ」

 

 二度と会わないだろうが一度でも要らない。

 

「そのリーダーが天之河みたいな性格の優男で、持ち前の正義(笑)感から色々とやらかしてくれたんだよ。ある理由から奴隷の娘を連れていたら、開放しろとか言ってくるわ、断れば決闘だーとか騒いでくるわ。本人は望んでもないのにな」

 

「「うわ」」

 

 香織も雫も声を揃えてしまう。

 

 鈴も苦笑いだ。

 

「正直、奴の転生かと思ったくらいだ」

 

「ひょっとしたらさ、私達はその正義(笑)君が連れてた仲間みたいに思われてた?」

 

「雫、正解だ」

 

「ぎ……」

 

「ぎ?」

 

「ぎゃぁぁぁぁああああああっ!」

 

 美少女だと認めながら余り接触が無かった事の理由を知り絶叫してしまう。

 

「奴には仲間が二人居てね、男は脳筋戦闘バカで女はリーダー至上主義。とはいえ、最後は二人が死んでリーダー格は色々と奪われた上で追放だ。女の方は牢獄に入っていたのに輪姦された挙げ句に首を自分で突いて死んでいたとさ。牢番は見過ごしたと言い、犯人は全員が自首している」

 

 輪姦という科白に女性陣全員が眉根を顰めたのだが、犯人が自首をしているし牢番が揃って見過ごした事実から別の意味で顰めた。

 

 意味を理解したからである。

 

 その女は憎まれていた。

 

 嫌われていた。

 

 仕返しがしたいと思われていた。

 

 牢番は態と見過ごして、犯人達は女である事を後悔するレベルで目茶苦茶にしてやった。

 

 死んでいたのが世を儚んでの自決か、そう見せ掛けた他殺かは定かではない。

 

 いずれにせよ世の為とか言ってリーダーよいしょなだけの女は死んだのである。

 

 因みにリーダーのその後は……ユートの知った事でもないだろう。

 

「確かに私らに龍太郎だわ」

 

「何だかスッゴく嫌だよぉ」

 

 最早、天之河光輝は完全に見限られていた。

 

「其処まで嫌う光輝に、どうして聖剣……えっと、アベルグリッサー? を修復したのよ」

 

「流石に可哀想だったからな」

 

「は? 光輝が?」

 

「いや、そりゃ……天之河の頭は可哀想だけど」

 

「それ、意味が全く違うわよね」

 

 頭が可哀想な天之河は置いておき……

 

「アベルグリッサー……否、ウーア・アルトが」

 

「ウーア・アルト?」

 

 何故にアベルグリッサーの話でウーア・アルト何て名前が出たのか、雫にはさっぱり解らなかったみたいだがシアが気付く。

 

「ウーア・アルトって、フェアベルゲンの大樹であるウーア・アルト?」

 

「正しくそれだ」

 

 我が意を得たりと頷くユート。

 

「大樹ウーア・アルト。その名前は万の年月をも越えて存在した女神の名前だ」

 

「……へ?」

 

 シアにも訳が解らない。

 

「聖剣ウーア・アルトの意思に触れて判った事なんだが、そもそも聖剣とは大樹の底の底たる根底にて、根と地下鉱石が融合した特殊な魔導金属が存在するらしくそれを鍛えた物らしい。僕は聖剣を視て組成を理解したから、新たに汎暗黒物質から創造が出来たんで接ぐ為の金属として使った。

どうやら女神ウーア・アルトはエヒトルジュエと戦って敗北、已むを得ず未来の勇者に託す為にか自らの魂を聖剣に封じた様だね」

 

「未来の勇者……ねぇ」

 

「未来の勇者……かぁ」

 

「未来の勇者……?」

 

 アレをよく識る雫と香織と鈴が自分が見限った残念勇者(笑)を思い出す。

 

「ん? という事は本来は女神様……つまり女性なのよね? なのに身体を男性にしたの?」

 

「だから、天之河を喜ばせる心算は無いと言っただろうに」

 

 本神の了承――永い年月が経って磨耗したからかユートが再生しても喋れなかったので首肯させた――を得て肉体の再生をしたのである。

 

「じゃあ、あの男の娘の姿は?」

 

「一五歳くらいの少年の肉体に元々の顔をくっ付けた感じだね」

 

 黒髪の凄まじい美少女な顔はウーア・アルト……彼女自身の顔を完全に再現してやった。

 

 胸は胸板で下半身に小さいながらも男の象徴がぶら下がっていながら、顔だけは大元を完全再現とか天之河への嫌がらせ此処に極まれり。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「それにしても、マグマの魔物はそれなりな強いみたいだな。これなら八階層から下に行って戻れなかった冒険者ってのも頷けるな。しかも魔石の純度はオルクス表層の第四〇階層と変わらん程度でしかない。貴重な静因石も上と変わらないとあっちゃ、確かに此処を拠点にする旨味みたいなのは丸っきり無いな」

 

 素直にオルクス大迷宮の表層第四〇階層で狩りをした方が建設的なくらいだ。

 

「まぁ、僕は魔物の素材的に旨味はあるがな」

 

 成分の抽出で炎系の特性を他に移すのも良いだろうし、或いは皮などをひっぺがして炎耐性付きの革鎧を造っても良い。

 

 要は使い途を考えれば良いのだから。

 

 順繰りに下りていくユート一行、原典ハジメと違い静因石を必要としないからそれを取ってしまいミスる事も無く、円満に五〇層――グリューエン大火山の麓辺りまで下りてきていた。

 

「どうやら此処が目的地らしいな」

 

 階段を下りた先には自然に手を加えてないからか歪つな形をしていて広さが把握出来てないが、三km以上はありそうな広大さ。

 

 地面はマグマで満たされて所々の岩石が僅かな足場となっており、周囲にしても壁がせり出している所もあるし削れている所もある。

 

 空中は上層部と同じく無数のマグマの川が交差していて、殆んどが下方に在るマグマの海へと消えていっていた。

 

 煮え滾る灼熱の海、恒星のフレアの如く噴き上がる火柱、ユートの冥界に存在する血の池地獄の様な様相が其処を地獄みたいだと思える程。

 

 中央の島に辿り着く。

 

「……この地がナイズ・グリューエンの住処?」

 

 ユエが下り立った島を見回して呟いた。

 

「階層の深さ的にもそう考えるべきだろうけど、そうなると……だ」

 

「この場には最後のガーディアンがいる筈よな……主様よ」

 

「ティオの言う通りだな。真のオルクス大迷宮の最下層にはヒュドラ、ライセン大迷宮の最奥にはミレディ・ゴーレムだった。全員、変身だ!」

 

『『『了解!』』』

 

 ユートの指令に頷く少女達。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 ユートは仮面ライダーディケイド。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 雫は仮面ライダーサソード。

 

「変身!」

 

《CHANGE!》

 

 香織は仮面ライダーリューン。

 

「ん、変身!」

 

《HEN……SHIN……》

 

 ユエは仮面ライダーサガ。

 

「変身!」

 

 鈴は仮面ライダータイガ。

 

「変身ですぅ!」

 

《HENSHIN!》

 

 シアは仮面ライダーザビー。

 

「変身!」

 

 ティオは仮面ライダーリュウガ。

 

 何が起きて何が現れるか判らない状況下ゆえにこそ、切札とも云える仮面ライダーへと変身するユート一行の前にマグマの攻撃が。

 

「宙を流れるマグマからか!」

 

 ユートは手で殴り付けて叫ぶ。

 

「妾が!」

 

《STRIKE VENT!》

 

 放たれたマグマ塊をティオがドラグブラッカーの頭を模した手甲から、激しく黒いブレスにも似た炎を放った事により相殺をしてしまう。

 

「ティオ、同じカードは三枚しかないんだから余り乱発はするな!」

 

「了解なのじゃよ」

 

 普通は一枚なのだが、ユートの造ったカードデッキには遊戯王などみたいに三枚ずつカードが揃えられており、一回の変身で三回まで同じ武器や技を使う事が出来る。

 

 カード自体は一度使えば消えるから次に変身をするまでは使えないのだが……

 

「はっ! 全員、防御か回避!」

 

 ユートの指示に全員が従う。

 

 防御が高いか魔法障壁が使えるなら防御に徹したし、素早く動けたり異界に逃れる能力が有る者は回避をしていた。

 

 頭上を流れるマグマ流や地上のマグマの海からマシンガンも斯くやの炎塊が放たれる。

 

「チッ!」

 

 ユートはライドブッカーをガンモードに。

 

《ATTACK RIDE BLAST!》

 

 連射連射連射で撃ち落としていく。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 仮面ライダーサソードな雫は斬っていた。

 

「うりゃぁあ、ですぅ!」

 

 シアはシアでアイゼンⅡで叩く叩く。

 

「す、素直に回避した鈴って……」

 

 明らかに格が違うと落ち込みたくなる鈴。

 

「鈴ちゃんは最近になって合流したんだから仕方がないよ」

 

「そう言うカオリンは弓で落としてるよね」

 

 香織もカリスアローみたいなリューンアローを使い、回避をしながら落とせる炎塊はきちんと撃ち落としている。

 

「……【絶禍】!」

 

 仮面ライダーサガなユエ、魔法の名前を呟くと渦巻く球体が出現して辺りを飛び交うマグマの塊を次々と引き寄せ呑み込み、闇黒の星が全てを超重力で圧縮していく。

 

「ユエユエまで!?」

 

 仮面ライダーサガの時はまだしも、本来の姿は小さな少女で見た目は鈴とも大した違いがないというのに、魔法を扱う姿はまるでクイーンでも見ている気分になるくらい様になっていた。

 

 まぁ、原典の仮面ライダーサガはキングだったりする訳だが……

 

『ゴァァァァアアアッ!』

 

「マグマの巨大蛇!」

 

 行き成り現れた巨大なマグマ蛇だったのだが、ユートはカードをネオディケイドライバーへ落ち着いて装填。

 

《FINAL FORM RIDE……SA SA SA SAGA!》

 

「……え?」

 

 自分の変身している仮面ライダーの名前に動きをピタリと止めるユエ。

 

「ちょっと擽ったいぞ」

 

 うにょ~んと追加パーツの装着をされたサガが変型をし始める。

 

「……うみゃぁぁぁぁぁあああっ!?」

 

 曲げてはならない方向に腕や脚が曲がるし、首は一八〇度回転して収納され、巨大なサガーク――サガサガークに()()

 

 所謂、原典に出てきたマザーサガークっぽい姿でユエは浮遊していた。

 

《FINAL ATTACK RIDE……SA SA SA SAGA!》

 

 ユートが乗って浮遊するサガークが子サガークを次々と放ち、それは何匹も現れる巨大なマグマの蛇へと特攻して潰していく。

 

「普通のマグマ魔物じゃないな」

 

 グリューエン大火山に現れたマグマの魔物達はマグマを纏う存在であり、斃せば魔石や素材を獲られる連中であったのに対してコイツらは死んだら弾けて消えた。

 

「本体を持たない?」

 

 つまり、バチュラムみたいにマグマの形を蛇に形成する魔石が有るのだろう。

 

「次から次へと来るな……」

 

 何十匹が存在するのか? 子サガークが潰しても潰してもマグマ蛇は現れる。

 

「或いはあの時の遺跡のゴーレムみたく直していたりするのかね?」

 

 一万のゴーレムが壊れたら修復されて戦列に戻る悪夢の行進を思い出す。

 

「已むを得ないな」

 

 ネオディケイドライバーからカードを出して、ユートが変身解除したと同時に仮面ライダーサガ

たるユエも元に戻った。

 

 変身を解除したユートは別のベルトを装着。

 

《ZEROーONE DRIVER》

 

 手にしたプログライズキーのライズスターターを押してやる。

 

《BLIZZARD!》

 

 フリージングベアープログライズキーをオーソライザーへ。

 

《AUTHORIZE》

 

 展開してキーモードでスロットインをすると、ライダモデルがズン! と顕れた。

 

「変身っ!」

 

《PROGRIZE!》

 

 ライズリベレーターが開放されてライダモデルがゼロワンに重る。

 

《ATTENTION FREEZE! FREEZING BEAR!》

 

 ライジングホッパーの黄色いアーマーが移動、シアン色のアーマーが主軸となって鎧った。

 

《FIERCE BREATH AS COLD AS ARCTIC WINDS》

 

 仮面ライダーゼロワン・フリージングベアへと変身をしたのである。

 

 両掌より放たれる冷気。

 

「面倒臭いからマグマ事、全て凍らせてやる! お前らを止められるのは唯一人……僕だ!」

 

 ユートは別のプログライズキーを出してそれをオーソライザーへ。

 

《BIT RIZE》

 

《BYTE RIZE》

 

《KIRO RIZE》

 

《MEGA RIZE》

 

《GIGA RIZE》

 

《TERA RIZE!》

 

 六回に亘る読み込みを行った瞬間にプログライズキーの頭を叩いてベルトに押し込んだ。

 

《FREEZING TERA IMPACT!》

 

「うおおおおおおおおっっ!」

 

 部屋を、マグマ流やマグマ塊やマグマの海を、仲間以外の全てを凍結させていく。

 

「はぁぁぁああああっ! フリージング・テラ・インパクトッッ!」

 

 ドガァァァァァァァアアアンッ!

 

 凍り付いたマグマの海を破壊する。

 

「これでどうだ!?」

 

 マグマ蛇は……最早現れなかった。

 

 

.




 次はフリードの登場ですが……




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第63話:真なるエヒトルジュエの使徒の名は九番目

 九番目……原典ではみんな大好きノ○リさん。

 アイリーが直に出てくる場面が何処なのか判らない……



.

 其処は部屋……だろう。

 

 黒く静謐な雰囲気の小部屋に魔法陣が在る。

 

 恐らく晩年のナイズ・グリューエンが没しただろう場所か、若しくは本当に魔法陣を設置する為だけに用意をしたのか?

 

「何だろうな()()

 

「何かしらね……」

 

「ちょっと判らないかな」

 

「鈴にはさっぱりだよ」

 

「……ん、意味不明」

 

「私には判りません」

 

「右に同じくじゃ」

 

 この場に居た誰もが理解し得ない()()

 

 『汝の名を呼べ』というメッセージ。

 

「汝の名を呼べって事は、少なくともメッセージを遺したであろうナイズ・グリューエンの名前を呼んでも意味は無いか」

 

「なら、試しに私の名前を。八重樫 雫」

 

 シン……

 

「ま、まぁ、何も起きる訳無いか……ハハハ」

 

 恥ずかしかったのか苦笑いをする雫。

 

「昔に行った世界で似たメッセージが在った」

 

「どんな?」

 

「『四郎の名を呼べ』だったか」

 

「四郎?」

 

「天草四郎時貞」

 

「……あ! それ【AMAKUSA1637】?」

 

 雫は気付いた。

 

 主人公の少女が1637年へ旅行中に仲間達と跳ばされた物語で、徳川家光が将軍であった時代の天草四郎時貞の故郷で目覚めた噺。

 

 ざっくり云うと、主人公は天草四郎時貞のTS的なそっくりさんだった事から()()()彼の代わりを努める事になる。

 

 紆余曲折、コミック12巻分の物語が終わって最終話に一人だけ現代に……しかも【天草の乱】ではなく【天草の変】として分岐した歴史の先で、自分以外の人間は居なかった事になっているという世界、少女は大人になって天草四郎時貞が遺したと思われる遺産の謎に挑戦する。

 

『四郎の名を呼べ』

 

 誰がどう呼ぼうと動かない遺産……彼女――春日野英理は最早、自分しか識らない天草四郎時貞の真の名を呼んだ。

 

『夏月! 早弓夏月!』

 

 遺産は開かれ、中から出てきたのは仲間達が使っていた携帯電話であったと云う。

 

 その内容は先の世界に行ったであろう見届け人たる春日野英理に向けたメッセージ。

 

「確かに似てるけど……完全に偶然よね」

 

「ナイズ・グリューエンが早弓夏月や英理を識ってるとは思えないしな」

 

「英理……ねぇ……」

 

 ジト目を向けられるが嘗ての義弟(ミナト)じゃあるまいし別にジト目は好物ではない。

 

「名前っつってもな、そもそも汝のってのが早速だけど意味不明だから。この遺跡そのものがいつか来る大多数に向けて遺された物なのに、誰かしら特定の人間が来ると予測していたのか?」

 

「だとしたら、鈴達には関係無し?」

 

「どうだろうな。その名前が判れば何らかの良さそうなアーテァファクトが貰えるのかもな」

 

「それなら損は無いのかな?」

 

「時間の無駄かも知れないが……試してみるか」

 

 ユートはダブルドライバーを装着する。

 

「へ? 仮面ライダーWにでも成るの?」

 

「成ってどうする。ユーキ、今は良いか?」

 

 ユートはユーキとの簡易ホットラインとも云えるダブルドライバーを通じて連絡した。

 

〔構わないよ。次の家族会の予定?〕

 

「違う。ああ、天之河に最後通牒を叩き付けたのは言っておく」

 

〔……やらかしたか〕

 

「やらかしたよ」

 

〔美月を勧誘してるんだけどなぁ〕

 

「誰だ、美月って?」

 

 ユートが美月で思い出すのは柴田美月だが――よもや別の世界の人間は関係あるまい。

 

〔天之河美月。勇者(笑)の妹だよ。あの面だけは恵まれた勇者(笑)の妹だけに可愛いんだ〕

 

「天之河を殺ったら怨まれそうだな」

 

〔どうだろうねぇ〕

 

 そればかりは訊いてみるしかないだろう。

 

〔で、用件は?〕

 

「ナイズ・グリューエンのグリューエン大火山を攻略したんだが、魔法陣の部屋に『汝の名を呼べ』ってメッセージが有るんだが、原典にも有るメッセージか?」

 

〔……無いよ。オスカー・オルクスみたいなメッセージを簡単に遺しただけだ〕

 

「成程、だとしたらその違いは僕の介入にあるって事になりそうだな」

 

〔よく判らないけど何か判明した?〕

 

「ああ、助かったよ」

 

〔うん、なら切るね〕

 

 電話みたいな会話をした二人はダブルドライバーを外して……

 

「ゼロワン!」

 

 ユートはその名を呼びつつ魔法陣に入る。

 

「え、それで良いの?」

 

「いつになるとも知れない最初の一人、それなら誰かに向けたメッセージは有り得ない。だけど、あの時代の人間と若し何らかの接点があるとしたらミレディが過去に会った僕、仮面ライダーゼロワンだけだろう」

 

「あ、確かに」

 

 未だに過去のミレディと逢ってはいないけど、それでも今のミレディが言う限り間違いなく逢っているのだろう。

 

 魔法陣に乗ったからかユートを走査する何かが頭の中に干渉する為、態と無防備に近い状態にして走査を受け付けてやった。

 

 どうやら試練はクリアらしくて、空間魔法が焼き付けられていく。

 

 ガコンと壁の一部が開いた。

 

『人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う』

 

『ナイズ・グリューエン』

 

 簡易なメッセージである。

 

 そして更に床の一部が開いてせり上がる台座とそれに載る宝箱らしき物、そして恐らく攻略の証となるであろうペンダントが置かれていた。

 

「何だ?」

 

 罠は無さそうだから開いてみる。

 

「罠処か鍵も掛かってない? つまりゼロワンにしか渡されない何か……か」

 

 開けた宝箱の中身は手紙と……

 

「プログライズキーだと?」

 

 見た事も無い赤いプログライズキーだった。

 

 封蝋を外して中身を取り出す。

 

「読めるな」

 

 その文字は現代と変わり無いが故にユートにも普通に読める文章った。

 

『其処に居るのがゼロワンであると仮定して私はこの手紙を遺そう。私達は殆んど覚えていなかったのだが、ミレディの記憶に君の名前と愛情が残されていた。更にオスカー、我々の錬成師である彼のポケットに入っていた簡単な文の手紙と私の手紙と同梱した物と同じ形のアーテァファクトらしき物。我々はそれを使ってある計画を進めた。詳しくはそのプログライズキーというアーテァファクトを使ってくれ。とはいえ全ては君に任せるものとする。君の自由な意志の下に』

 

 手紙を読んだユートは赤いプログライズキーを手にして視てみる。

 

「僕のプログライズキーと外観に変わりは無いみたいだね」

 

《SPACE!》

 

 ライズスターターを押してやると空間を意味する単語が鳴り響いたが、恐らく本来はこの世界の言葉だったものが言語理解で翻訳されたのだろうと推測をしていた。

 

《AUTHORIZE》

 

 オーソライザーに認証させプログライズキーを展開しライズスロットへと装填をする。

 

《PROGRIZE! NAIZ GRUEN!》

 

 『変身』と言わなかったのはこれが変身の為の

プログライズキーではないからだ。

 

「成程、そういう事か」

 

 ユートは理解をする、彼ら【解放者】の目論見がいったい何処に有るのかを。

 

「どうだったの?」

 

「このプログライズキーには解放者の魂が封入をされている」

 

「魂が?」

 

「魂魄魔法を使ったんだろうな。しかも安全の為に全てではなく、ナイズ・グリューエンプログライズキーにはナイズ本人の魂が五割、他が一割程度の魂だ」

 

「どういう事よ?」

 

「つまり、解放者のプログライズキーを全て集めれば全員の魂が手に入る。其処から蘇生をすれば

ミレディ以外の【解放者】も復活する」

 

「っ! 本当に?」

 

「ああ、神山にラウス・バーンプログライズキーが有るし、海底遺跡にはメイル・メルジーナプログライズキーが有る。但し、ゴーレム化していたミレディは別だし、オスカー・オルクスの場合はどうやらハルツィナ樹海に有るみたいだね」

 

「復活させるの?」

 

「クラスメイトの連中と違って充分に役立ってくれる人材だ。させない理由が無いだろう」

 

 雫はクラスメイトがディスられて眉を顰めてしまうが連中は十把一絡げでしかなく、僅か七人でも神代魔法の担い手たる【解放者】の中核達は使える生え抜きな人材ばかりである。

 

 ウザかったミレディの事を鑑みると人格面までは保証されないが……

 

「人格的には問題もあるけど、それを補って余りあるくらい有益な存在だろうね」

 

「人格的にって?」

 

「メイル・メルジーナはS、逆にリューテュリス・ハルツィナはMらしいぞ」

 

「うわぁ……」

 

 ミレディ情報だから間違いない。

 

 とはいえ、この二人は同性のミレディですら見惚れる美女であると云うし、ユートとしてはこの二人に会うのが楽しみな事だ。

 

 翻ってクラスメイトは人格的に褒められない上に役立たず、生き返らせても恐らく邪魔にしかならないと践んでいた。

 

 女子も容姿は十人並みだから目の保養にすらもならないだろう。

 

 自分の女ならまだしも、そんな連中を生き返らせてやる義理や義務など何処にも無い。

 

 ユートは部屋から出ると【嘆きの壁】と【超空間】によって隔てた。

 

 【嘆きの壁】は冥界の奥深くジュデッカの更に先の奥深く、ジュデッカとエリシオンを隔てる壁として存在をしている。

 

 【超空間】も同じくで、これは神か神器を身に着けた者以外が入ると塵になり消えてしまう。

 

 例えばアテナの血を受けた聖衣、例えばハーデスの許可証となる腕輪などがそれに当たった。

 

 ユートは神ではないが神氣を纏えるからこの手の【超空間】にも、神聖衣や覚醒前の聖衣無しで普通に入れたりする。

 

「これで魔人族が後から来ても【嘆きの壁】と【超空間】に阻まれて入れまい」

 

「え、えげつないわね」

 

 この二つを知るが故に雫は冷や汗を流す。

 

 だけど其処へまさかの来訪者が……

 

「なにぃ!? 人間族だと!」

 

 それは竜らしきに乗った……即ちドラゴンライダーというべき男、しかも赤毛に浅黒い肌に尖っている耳というその風体は何処か死んだカトレアを思い起こされる。

 

「魔人族……か」

 

 つまりは魔人族である。

 

「貴様ら、神代魔法を得る為に来たか!」

 

「何か問題でも? 少なくとも此処は人間族による支配地域、魔人族が来るよりは自然な話だと思うけどな?」

 

「チッ、厄介な!」

 

 舌打ちする魔人族の男、そう……男だ。

 

 カトレアみたいに女なら愉しいかも知れないのだろうが、男では目の保養にすらなりやしないのだから当然だし、寧ろ此処で舌打ちをしたいのはユートの方であっただろう。

 

「神代魔法を得た人間族、危険な存在だ。此処で排除させて貰うぞ!」

 

「ふん、逆もまた真なりだと思うがね、察するにお前が変成魔法の使い手って訳か」

 

「何だと?」

 

「カトレアという女魔人族、愛子先生共々ウルの町を亡ぼそうとした名前も知らん魔人族。どちらも変成魔法を使える様に思えなかったからな」

 

「っ! そうか、連絡を断ったからおかしいとは思っていたが……貴様がカトレアとレイスを!」

 

 今一人は全く知らない名前だったが、恐らくはウルの町を攻めるべく清水利幸を利用しようとしていた魔人族、攻撃を跳ね返したら直撃をして死んでしまった訳だが……

 

「許さん!」

 

「此方の科白だ。貴様はゆ゛る゛さ゛ん゛!」

 

「余裕あるよね、ゆう君って……」

 

 てつをな『ゆ゛る゛さ゛ん゛』を言える程度に

は余裕なユートに、鈴は魔人族が乗る白竜やその後ろの夥しいまでの灰色の竜を見ながらも、逆に冷静になりツッコミを入れる事が出来ていた。

 

「そもそもお前は勝てんよ」

 

「何だと!?」

 

 ユートはニヤリと口角を吊り上げたと同時に、権能を発動する為の聖句を詠み上げていく。

 

「呪え、呪われよ我が怒り以て竜蛇を呪え赤き堕天使……神の毒。我が悪意にて全ての竜蛇を呪え呪え呪え呪え呪え……呪い在れ!」

 

「ぬあ! それは……」

 

 ティオが叫ぶ。

 

「【神の毒より呪い在れ(ドラゴン・イーター)】」

 

 ユートが権能を発動するとドロリとした空気に変化し、辺りが血を連想させるくらいに真っ赤な空間で満たされてしまう

 

 瞬間、夥しい数の灰竜共がまるで蚊取り線香に煙られた蚊の如くボトリボトリと落ちた。

 

「な、何が起きたぁぁああっ!?」

 

 魔人族の男は絶叫を上げる。

 

「うおっ!?」

 

 だが、すぐに足場がグラついて黙った。

 

 何事かと目を見開いたら騎乗をしていた白竜までもが落ちているではないか。

 

「莫迦な、ウラノス!?」

 

 どうやらあの白竜の名前らしいが地球で云うとギリシア神話の天空神とか、随分と大仰な名前を与えられている()()()である。

 

「くっ、貴様! いったい何をした!?」

 

「言ったろう、お前は勝てんよ……と。ドラゴンを連れてれば最強とか思ったか? 甘いな、甘過ぎる認識だ。世の中には相克というものが存在しているのさ。その存在そのものに対する強力無比なカウンターってやつがな」

 

 竜蛇に対する竜殺し。

 

 神に対する神殺し。

 

 どれだけ強力な存在であろうが相克の前には膝を折るしかないのである。

 

 例えば三頂の女神ですら相克が相手ともなれば痛い目を見る、津名魅だろうが鷲羽だろうが訪希深だろうが相克たる反作用体に対抗をするのは難しいのだから。

 

 ユートの使った力はサマエルという堕天使から獲た権能で、サマエル自身がその世界で龍喰者(ドラゴン・イーター)と呼ばれる龍や蛇などに対する絶対的な相克。

 

 無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスにすら通用してしまう程に強力なモノだった。

 

 ユートはそれを文字通り喰らう事で自らへと取り込み権能と成したのである。

 

「そ、相克……だと!?」

 

「この赤い結界は【神の毒より呪い在れ(ドラゴン・イーター)】、本来は敵意など持たないとされる聖書の神がドラゴンに対して呪いとも呼べる程の敵意を懐き、堕天使サマエルを変質させてしまった力を僕が取り込み使える様にしたものだ」

 

 【聖書の神】とやらは識らない魔人族の男ではあるが、どうやら可成りのレアケースによるものらしいのは理解をする。

 

「ドラゴンに自信アリだったのかも知れないが、僕にとってドラゴンは獲物でしかないのさ!」

 

「くっ、灰竜よ!」

 

 空中から落ちて喘ぐ灰竜に魔人族の男が命令を下したが何もしない……否、出来ないのだと気付かされてしまった。

 

「まさか!」

 

「気付いたみたいだな。そう、その通り。灰竜とやらも白竜もステータスは軒並み百分の一にまで下がっているし、魔法や技能なんかも行使不可能に陥る上に結界内で受けた傷は此処を出ない限り治療される事も無い。最強ドラゴン軍団とかやりたかったのかは知らんが、今やお前のドラゴンはちょっと訓練した人間族以下だよ」

 

「莫迦な!?」

 

 例えば筋力が5000だったとして百分の一も減れば僅か50、一般人がレベル1で平均値にして10らしいから鍛えた人間なら充分勝てる。

 

 尚、ドラゴンに由来するモノは軒並み弱体化をされるからドラクエのドラゴンは鋼鉄並とも云う竜鱗でさえ、激しく弱体化の煽りを喰らってしまい軟らかくなってしまうので刃が通らないなんて間抜けな事にもならない。

 

「魔人族の男。お前の最強ドラゴン軍団は最早、最強ドラゴン軍団(笑)となった。硬い強い迅いがウリのドラゴンも今や柔い弱い遅い御荷物よ」

 

「ば、莫迦な莫迦な莫迦な莫迦なっ!?」

 

 だが、魔人族の男が白竜や灰竜を見遣ると確かにグデっとした様子で明らかに弱っていた。

 

 肌の色からは判り難いが青褪めた顔で語彙力の欠如した言葉を垂れ流す。

 

「だからこんな事も可能だ」

 

 ユートが右腕を左側に横曲げにして右側へと薙ぐ様に一閃をさせると……

 

『『『『『グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアッ!』』』』』

 

 灰竜が爆炎を上げながら墜ちて逝く。

 

「なっ!?」

 

「くっく、アニメで観て一度はやってみたかったってやつだよな。まぁ、前にも何度かやった事はあるんだけどね」

 

 驚愕の魔人族の男を前に笑うユート。

 

 アニメ【スレイヤーズNEXT】だったろうか? 獣神官ゼロスが飛翔する黄金竜の群れに対して行ったのがこれ、黄金竜を相手に高位魔族としての強さを見せ付ける仕草として覚えていた。

 

「灰竜は全滅だ、残りはやはり弱体化した白竜――ウラノスだったか? それに貴様だ魔人族の男」

 

「グ、バ……」

 

「フッ、バケモノめ……か?」

 

「うっ!?」

 

「大抵が二言目にはそれだ。だがそれは罵倒にはならない、寧ろ称賛と呼んでも良い」

 

「称賛……だと!?」

 

()()()()()()()僕も一度だけ使った言葉だ」

 

 掛けられた方は称賛となるのだが、掛けた者は謂わば恥の上塗りをしたに等しいのである。

 

 ユートがその莫迦な事を仕出かしたのは最初の

緒方優斗としての人生、自分より五歳も年齢が下なのにも拘わらず自分よりも強い刀舞士であった緒方白亜、妹に対して『お前は天才だから!』と詰る様に言い放ってしまった。

 

 祖父にはぶん殴られるし白亜には泣かれてしまうし、母である蓉子の作った夕飯はその所為でか不味く感じるわ散々だったのは確か。

 

「バケモノ、天才……良い言葉だよな? 努力が足りず実力も伴わず相手がバケモノだから天才だからと言って傷を舐めてりゃ良いんだからさ」

 

「っ!?」

 

「こちとら様々な世界に跳んで、時には死に掛ける事すらあって手にした力だってのにお前らは単に一言を言えば良い……楽だよな本当に」

 

 ユートの言葉を戯れ言と吐く程には落ちぶれていなかったのか、羞恥心に身悶えながらも目を逸らすという行動に出る。

 

「……フリードだ」

 

「何?」

 

「我が名はフリード・バグアー! 忌々しきなれど貴様の言は間違いではない。故にいつの日にか貴様を殺す我が名を知りおけ!」

 

 魔人族の男――フリード・バグアーはウラノスと共に去って行く。

 

「逃がして良かったの?」

 

「此処での目的は達したし、後は余禄に過ぎないから構わんさ」

 

 別にユートは殺戮者ではない。

 

「それに遅くなったらミュウが怒る」

 

「そうね、早く帰りましょうか」

 

 頷く雫。

 

 封鎖前に雫やユエらも空間魔法を修得したのだけど、やはりユエの適性はユートと変わらないくらいに高かった。

 

 そしてやはりシアは驚く程に低い。

 

「にしても、ユエさんは何と無く判るんだけど。優斗は何でこんなに適性が高いのよ?」

 

「それは僕の転生特典(ギフト)としか言い様が無い」

 

「神様転生で貰った能力……確か、『魔法に関する親和性』だっけ? 精霊術が使えたり詠唱が楽に唱えられたり、ファジー過ぎないかしら?」

 

「僕もそう思うよ」

 

 余りにも曖昧な表現だったからなのか、それとも態とこんな仕様にしたのか……ユートとしてみれば後者な気がしてならない。

 

 【ハイスクールD×D】世界で暴発してしまって消滅し掛かった際、【カンピオーネ!】世界まで連れて行きカンピオーネに転生させる事で消滅を免れさせ、更にはパワーアップまでさせてくれた【朱翼の天陽神】日乃森シオンの目的はいまいち判らない。

 

 同じ星神(ワールド・オーダー)ガイナスティアの星騎士(ワールド・ガーディアン)という立場らしいのは聞かされたし、【風の聖痕】の世界観を同じく往き来――ユートの場合は【カンピオーネ!】世界の習合だが――した身として同じ女性を抱いた感想を言い合う酒の席でも笑いながら話したものではある。

 

 因みにその女性とは大神 操だった。

 

「ま、便利ではあるよ。チートに胡座を掻くよりはマシに使えるから……ね」

 

 貰い物でも力は力だったから有り難く使わせて貰うが、それに胡座を掻いたら踏み台の完成だと理解しているからこそハルケギニア時代、格上とばかり闘って傷だらけになりユーキを泣かせてきたのは最早、良い想い出にしても構わない案件であるとユートは考えている。

 

 今では好物――世界によっては不味くて食えない場合もあるが――なドラゴン、ハルケギニア時代では火竜山脈の火竜を初めて殺して食った上に骨を使って魔導具のアンドロメダ【聖衣】を作製し、正しく竜三昧を尽くしたけど当時のユートはまだ大して強くないから相当に傷付いた。

 

 尚、アンドロメダ【聖衣】は聖衣製作に必要な神秘金属を獲られた為に造り直されてシエスタに一時期は渡していたが、現在は【ハイスクールD×D】世界の【白銀の聖女】アーシア・アルジェントが使用をしている。

 

 シエスタ本人は牡羊座の黄金聖衣をハルケギニア時代に与えられており、再誕世界の地球に於いて牡羊座の貴鬼と共に聖衣修復師となった。

 

 一度は第二次邪神大戦で破壊の限りをされ尽くしたペガサス聖衣、それを修復したのも貴鬼ではなく三日月島に訪れたシエスタである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 迷宮脱出呪文のリレミトを使えば元の入口に戻れるのはある意味で有り難く、ユート達はあっという間にキャンピングバス――オプティマスプライムの場所まで戻って来れた。

 

 とはいえ、本来の仕様ではユート本人を含めて六人までしか運べない。

 

 六人はウィザードリィのパーティ仕様だろうと思うが、七人を越しているからには一度で帰還をするのは本当なら無理だ。

 

 だけど其処は少し前の世界で、とある少女を抱いて簒奪+インストール・カードで相手に戻すというコンボで手にしたユニークスキルが有る。

 

 【全力全開(オーバー・ブースト)】というそのスキルは、魔力とスタミナを全消費して一撃の威力を何倍にも引き上げてくれる為、今回の呪文でも威力というより巻き込める人数を増やしてくれていた。

 

(結界が有ったから【赤龍帝の籠手】は使えなかったし、偶には使わないと『何の為に私から持ってったのよ!』とか言われそうだしな)

 

 【神の毒に呪い在れ】はユートが龍系の能力を使えなくなる制約が有るし、あのスキルを簒奪するのに必要な行為まで及びながら死蔵させていたら今頃はのんびり暮らしている彼女に会ったら、絶対に文句を言われてしまうだろう。

 

 そんな訳で今回は使ったのだ。

 

「帰ったぞ……ミュウ、ミレディ」

 

「パパ~!」

 

「ユー君!」

 

 ミュウが胸に抱き付いて来て、ミレディまでもが思い切り右腕へと抱き付いて来る。

 

 その様はまるで若奥様と子供の如くだ。

 

「心配はしてなかったけどさ、魔人族が白竜に乗って灰色の竜を大量に引き連れて大火山に潜ったから、どんな塩梅だったのか気になったよ」

 

「魔人族――フリード・バグアーとか名乗ったんだったか、そいつは空間魔法を獲られずに撤退して行ったよ。此方は適性云々もあったけど全員修得に成功をした」

 

「そっかそっか! うんうん、ミレディちゃんは信じていたよ」

 

 その割には未だ放さないし離れない。

 

 ミュウも離れない心算なのか、ガシッとしがみ付いて顔をユートの胸板に押し付けながらスリスリと擦り付けていた。

 

 二人して寂しかったらしいのは理解する。

 

「攻略の証のペンダントも手に入れたしな」

 

 サークル内に女性がランタンを掲げている姿が刻印され、ランタンの部分だけはくり抜かれており穴がぽっかりと空いているペンダント。

 

「うん、後はこれを持って月に導かれるだけだ。早い話がグリューエン大火山をクリアしてないとメル姉のメルジーネ海底遺跡には入れない」

 

 この話は寝物語にミレディから聞かされたのでミュウをエリセンに送り、先にメルジーネ海底遺跡に行く案は却下するしかなかったと云う。

 

「そうか……」

 

 ちっとも離れないミュウに目を向ける。 

 

「ったく、ミュウは今夜くらい添い寝してやるから離れてくれないか?」

 

「うゆ?」

 

「腹減ったし御飯を食べたい」

 

 作り置きの晩御飯がちゃんと用意をされているので、先ずは何はなくとも夕飯を食べて腹を満たしておきたかった。

 

 取り敢えず今夜の予約はミュウとなり性欲の方は満たせないが、我慢をしてくれたミュウの為の御褒美なので問題など無い。

 

「あれ? ミレディさんの御褒美は?」

 

「良い大人が御褒美をねだるな」

 

「うう……」

 

 流石に幼いミュウを相手に『ズッコイ!』とは言えないミレディであったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「おお、存外と早いお帰りでしたな」

 

 ランズィ公と奥さんとビィズ公子ともう一人は金髪美少女、何処と無くビィズ公子と似ている気がするしランズィ公の奥さんとは姉妹みたいに見える辺りビィズ公子の妹さん、名前はアイリー・フォウワード・ゼンゲンだと聞かされていた。

 

 アイリー公女はどうやら亜人族に隔意は無いみたいで、ミュウやシアといったあからさまな部位を持つ者にも笑顔を見せる。

 

 そしてユートを見て……

 

「ほぅ」

 

 頬を朱に染めた。

 

 ユートが命の危機を救ってくれたのを教えられたのかも知れない、貴族の女の子だけにそういうのに憧れは有りそうだし。

 

 何よりアンカジ公国は正に滅亡の危機だったのを鑑みれば、ユートとの繋がりを保つ為に後継ではないアイリーをユートに差し出すとか高位貴族の家なら普通にやる。

 

 そんな話も前以てされていたのかも知れない、そんな雰囲気が感じられてならない。

 

 確か歳は一四歳らしいから成人まで一年足らずという事だし、そもそもリリィと同い歳であるならばユートも喰うのに問題は無いのだから。

 

 そもそもユートの場合は上は四十代から下は数えで一二歳が守備範囲、つまり年さえ明けていれば一一歳でも範囲内という事になる。

 

 事実、【全力全開(オーバー・ブースト)】や【不撓不屈(ネバー・ギブアップ)】をユートに託した少女も年明け前の一一歳時で既に喰われているくらいだ。

 

 別にユートは幼女愛好家(ロリコン)という訳では決して無く、合法ロリは好きだがガチロリに手出しする事は無かった……のだが、ハルケギニア時代は貴族でしかもトリステイン王国の貴族など基本的に貧乏、借金持ちも珍しくないとか莫迦な連中が多い国だった。

 

 結果、ユートから娘を借金の形に差し出すのが通例の如く罷り通る。

 

 前例が無いと貴族は二の脚を踏むが、生憎というか前例が存在していたから問題無く差し出して来たのだ。

 

 他ならない、ユートがモンモランシ伯爵家への借金に対してモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシを要求、それを通した上で彼女を一般から視たならば明らかな側室的な立ち位置に置いていた。

 

 【魔法少女リリカルなのは】主体世界に於ける聖域は一二宮、双魚宮の黄金星闘士として魚座の黄金聖衣を与えられているのがモンモランシーであり、彼女が【閃姫】としてユートに抱かれているからこそ現在も傍に居る。

 

 故にこそ貧乏貴族は娘を差し出すが、モンモランシーが借金の形になった際は確かにまだ幼女の域だったろう、然しその時のユートも似たり寄ったりの年齢だったのを考慮に入れてはおらずに、何故か八歳~一二歳くらいの少女を差し出してきていたのだ。

 

 流石に一桁歳は無かったにせよ、一二歳ならば本当にギリギリ考えられる年齢として受け容れたのだが、今現在は数えで一二歳だから一一歳でもイケるのが罪深さを痛感させる。

 

 子供がデキ難いから、この年齢でも出産という負担が掛かり難いのもあった。

 

 因みにだが、ハルケギニア貴族の莫迦連中なら平民で八歳とか平然とヤり棄てる者も多少ながら居て、ユートと初めて出逢った際のシエスタが性の知識を持っていたのは、()()()()()も有り得ると母親が教えていたのが原因らしい。

 

 ユートの予測は当たりだったのか、アイリーによる攻勢は香織達が唖然となるくらいだった。

 

 しかも『将を射んとするなら先ずは馬を射よ』とばかりに、ミュウのお姉ちゃん的な立ち位置を確保しているのに戦慄すら覚える。

 

『……アイリー、おそろしい子!』

 

 ユエがネタに走りながら呟いたのを聞いていた雫と香織と鈴、ユートに睨まれてブンブンと首を横に振ったものだった。

 

 尚、この場面は主役の娘がずぶの素人ながらも三時間半にもなる演劇の全てを記憶、丸暗記をしていた事実を知り高笑いをしながら『おそろしい子!』と言うのであり、名前を呟いたりは決してしていない。

 

 『○○、おそろしい子!』というのは謂わば、後世での創作に過ぎなかった。

 

 一週間をアンカジの公都にある宮殿で過ごしたユート達、観光デートを全員とした上にアイリーともデートをしている辺りがユートらしいか。

 

 そのアイリーが朝、ユートの寝室で裸になって眠っているのも()()()と云えばらしい。

 

 そして遂にエリセンの町に向かう為に動き出したユート一行を、アンカジ公国の領主一家総出で送り出しに出てきている。

 

 そんなユート達の前にザッザッと砂を踏み締め現れたのは所謂、修道女の服を来た女性達であったがその顔はまるでお人形、プラチナブロンドに蒼い瞳を持つ作り物めいた表情の修道女。

 

「これはノイント殿、如何された?」

 

九番目(ノイント)……へぇ」

 

 ランズィ公が名前を呼ぶまでもなく顔立ちから察していたけど、どうやら間違いないとユートは

判断をしてニヤリと口角を吊り上げる。

 

 そもそも、修道女達の顔立ちは隠れてはいるが明らかにノイントと判を捺したみたいに同じ。

 

 恐らく一〇番目以降の量産品だろう。

 

「遂に動きますか、イレギュラー」

 

「その物言い、リューンと同じだな神の木偶」

 

「あの様な半端者と同じにしない事です」

 

「変わらんさ、所詮はリューンより性能が上なだけの木偶人形だからな」

 

 挑発の心算は特に無いが、ピクリとも表情が動かない辺りがリューンとは確かに違う。

 

 ふと見ればミレディの顔から表情が抜け落ち、殺意の波動を噴き出している。

 

「ランズィ公は下がった方が良い」

 

「ま、まさか……教会と確執があるのは理解していたが?」

 

「あれは教会とはまた別だよ。そもそも教会は動けないからね」

 

「な、何と?」

 

 教会とハイリヒ王国とヘルシャー帝国は魂にまで及ぶ絶対遵守の契約を、教皇と国王と皇帝の名に於いて結んでいるから決してユートを異端とは扱えないのだ。

 

 無理にそれをしても周りにユートへの畏怖を植え付けるだけでしかない、ならばと真のエヒトルジュエの使徒が攻勢の為に出てきたのだろう。

 

「御託は要らない。さぁ、始めようか」

 

 ユートはその手に()()()()()()()()()()()言い放つのだった。

 

 

.




 教皇が動けないこの噺に異端者呼ばわりしてくる司教だか何だかは出ない為、メルジーネ海底遺跡に行ってアンカジに帰ってくるというプロセスの前にイベント戦闘に突入します。



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第64話:この世界はジーっとしててもドーにもならない

 ちょっと脇道に逸れた……いつもの事かな?





.

「君らは他の連中を。僕が九番を殺る」

 

「九番……ああ、ノイントってそうよね」

 

 そもそも、リューンみたいな出来損ないは名前というかナンバーを与えられなかった為に自分で名を付けていたが、エヒトルジュエの使徒というのは名前が番号順に並んでいる。

 

 その基礎はドイツ語なだけにエヒトルジュエは厨二病という風評被害? が出ていた。

 

「犯るの間違いじゃないの?」

 

 ジト目な雫に対し……

 

「さて、どうかな?」

 

 取り敢えずは誤魔化した。

 

 全員が腰にベルトを装着する。

 

『『『『変身!』』』』

 

 仮面ライダーサソードMF。

 

「神に会っては神を斬る!」

 

 仮面ライダーリューン。

 

「私は貴女達をムッ殺す!」

 

 仮面ライダータイガ。

 

「英雄になりたいとは思わないけど!」

 

 仮面ライダーバルカン。

 

()はお前らをぶっ潰す!」

 

 仮面ライダーサガ。

 

「……女王の判決を言い渡す、死刑!」

 

 仮面ライダーリュウガ。

 

「そなたらは妾が斃そうぞ!」

 

 仮面ライダーザビーMF。

 

「ウッサウサにしてやりますぅ!」

 

 決め科白とも云えないものやネタも混じるが、彼女らなりの戦いの決意だけは伝わってきた。

 

「此方も始めようか」

 

 ちょっとした()()()をしてから、ユートはスパークレンスを手にした侭に腕をぐるりと回しながら天高く掲げて叫ぶ。

 

「ティガァァァァァァァアアアッ!」

 

 勿論、無意味に巨大化をする気は無く人間大の大きさ――二m程度に抑えておいた。

 

 しかも通常の、銀の顔に赤と紫の体色をしているウルトラマンティガ・マルチタイプではなく、殆んどが暗黒の様な色を持つ光の巨人とは真逆に位置している闇の巨人――ティガダーク。

 

 仮にも神の使徒を名乗るからには光属性が主と考え、闇の巨人たるティガダークの方に変身をしてみたのである。

 

 まぁ、今は巨人じゃないけど。

 

 巨体の維持にエネルギーを割かないからか? 変身可能時間は普段の一〇倍にも及ぶ。

 

『征くぞ、九番!』

 

 普通に喋るティガダーク。

 

 ノイントは二振りの剣を持って二刀流になると戦闘へ突入をした。

 

 ウルトラマンの闘い方は基本的に徒手空拳で、中には武器を扱う者も何人か居る程度。

 

 ウルトラセブン、ウルトラセブン21、ウルトラマンゼロ、ウルトラマンマックスなどみたいな頭に武器を持つタイプも居るし、ウルトラマンジャックなど後付けで武器を獲る場合もある。

 

 ウルトラマンティガは完全な徒手空拳であり、後は光線技を以て闘うタイプだ。

 

 故にこそ、ティガダークへと変身したユートも徒手空拳での戦闘を行っていた。

 

『セアァァァッ!』

 

「その程度で神の使徒たる私に届くとでも?」

 

 ノイントは余裕綽々でティガダークの蹴りを避けるが……

 

「な、なにぃ!?」

 

 更に疾くなったティガダークの勢いに追い付かれてしまい、ノイントは腹――しかも鳩尾に爪先による蹴りを思い切り喰らってしまう。

 

「がはっ!?」

 

 神の使徒だろうが何だろうがステータスの値が高いだけであり、人間の身体を基礎として造られた事に変わりはないが故に、人間の弱点の急所も当然ながら同じ場所に抱えていた。

 

 鳩尾は急所の一つである。

 

「ぐ、うう……」

 

 五〇m越えに加えてん万tな常態じゃないから巨人モードのパワーは持たないティガダークも、然しながらそこら辺の仮面ライダーを越えるだけのスペックは普通に有った為、ノイントの受けたダメージも可成りのものであったと云う。

 

『ダメージで動きがトロ臭くなったぞ!』

 

「ガアアアッ!」

 

 顎への一撃を決めたティガダークはエネルギーを刃に変換する。

 

 超魔生物ハドラーが覇者の剣を装備していたみたいに手の甲から剣が生えた感じになる訳だが、エネルギー刃でありながらその形は確り装飾すら再現された立派な剣を形成していた。

 

 正しく覇者の剣その物だが、ウルトラマンに於いてもメビウスやヒカリやギンガ辺りが似た攻撃をしている。

 

 違いは正しくエネルギー刃なメビウス達とは異なり、ユートのそれは殆んど物質化の域にまで達しているという事だった。

 

 ノイントは二刀流とはいえリーチの差が無くなってしまい、更にはユートの剣術が見た事もないのらりくらりとした動きに変わって戸惑う。

 

 【緒方逸真流】に切り換えたのだ。

 

「くっ、イレギュラー!」

 

『さっきからイレギュラーイレギュラーと煩いったらないな』

 

 イレギュラー云々に関しては全く以てどうでも良い事だが、いちいち口に出されると煩わしいと感じてしまっても仕方がない。

 

『ランバルト光弾!』

 

「くぅっ!」

 

 肩に掠めて傷みに呻くノイント。

 

「イレギュラー!」

 

 手を突き出してきたけど、ノイントがいったい何をしたかったのかがさっぱり解らない。

 

『何だ?』

 

 怒りっぽくなっても無表情を貫くノイントの顔が驚きに染まる。

 

「莫迦な……分解が……効かない?」

 

『ああ、さっきの魔力消費はそれかよ。お前らの固有魔法か? リューンは使わなかったが』

 

「出来損ないには使えませんよ」

 

 どうもリューンみたいなのを出来損ない出来損ないと蔑む傾向が強いみたいだ。

 

(全員、分解とかいう恐らくは対象を問答無用で

原子の塵にしてしまう固有魔法を持つらしいから戦う際は充分に気を付けろ)

 

〔〔〔〔〔〔〔了解〕〕〕〕〕〕〕〕

 

 基本的に判で捺した量産品だから、ノイントに出来た事は他の連中にも可能なのだろう。

 

 一応、ユートはパーティの常態を観られるという技能が有るから心配しながら離れていない。

 

 さっきの魔法も別の世界では有益に使っていた魔法で、その時の仲間が色々と試したりするのが好きで話も合ったから愉しいものだった。

 

 何人かからはユニークスキルも獲られたのも大きかったし、そういえば幼女愛好家な勇者からも実はユニークスキルを獲ている。

 

 積尸気冥界波で擬似的に生命を奪い魂を掌握してやり、其処からユニークスキルを簒奪してしまった上でインストール・カード化して渡せば彼は実質ユニークスキルを喪わないし、元の世界に還っても神に返す分とは別だから消えない。

 

 幼女愛好家でそれを此方に押し付けてくる困り者だが、天之河に比べれば充分過ぎるくらい人格的な勇者であった。

 

『デラシウム光流!』

 

「くっ!」

 

 ランバルト光弾に比べて遅いから上手く避けた……心算だろうがそうはいかない。

 

 尚、タイプチェンジ無しで技を使える理由とはティガダークだから……原典のティガダークは持たないが、そもそもティガダークとはいえ本体となるのはティガのマルチタイプ。

 

 何故だか闇の巨人に変身するとマルチタイプ、スカイタイプ、パワータイプという全タイプの力を併せ持つらしい。

 

 マルチタイプのバランス、パワータイプの力、スカイタイプの疾さが渾然一体となって全体的にマルチタイプより強くなっていた。

 

 昔に成ったばかりのティガダークにそんな力は無かったから、ダーラムとヒュドラとカミーラの闇を取り込んだ影響だと思う。

 

 勿論、原典のティガダークがそんな能力を有している訳はないから、力を純然たるエネルギーとして取り込めるユートだったから……だ。

 

『フッ! ハァァアアアッ!』

 

 体勢が崩れた処へティガダークなユートは先ず腕を腰に据えて次に真っ直ぐ伸ばし、それを横に広げるかの様に水平な常態にしつつカラータイマーからエネルギーをチャージ。

 

『ジュアッ!』

 

 右腕の肘を曲げて縦に、左腕を横にしてL字を作り出して強力無比な黒い光線を放つ。

 

『ダーク・ゼペリオン光線!』

 

 放たれたダーク・ゼペリオン光線がノイントに向かって真っ直ぐ放たれた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!」

 

 躱すのは難しく何とか防御に徹する。

 

『だが甘い!』

 

 ティガダークなユートが右と左の開かれた掌を拳の常態に握り締めた。

 

『ダークゼペリオン……超・光・波ぁぁぁぁぁあああああああっっ!』

 

 右腕を前に伸ばして拳を開きながら放ったのは【ウルトラマン超闘士激伝】で闘士ウルトラマンや闘士ウルトラマンタロウ、闘士ウルトラマンネオスが使う超光波という極めて強力な技にして、既存の光線技からシフトが出来る優れもの。

 

 何倍にも威力を増した光線がノイントを襲撃してきて、その技の余りの重さに如何な神の使徒を名乗ろうがどうにもならず……

 

「アアアアアアアアアアアアアッッ!」

 

 ノイントはエネルギーの奔流に呑み込まれ吹き飛ばされて敢えなく気絶した。

 

『光の――今は闇の巨人か。その力の前には如何なるモノも膝を折るしかないんだよ』

 

 ユートはノイントが墜落した場所へと移動。

 

『パッと見た感じリューンと変わらんな……』

 

 鎧や服をひっぺがして鑑賞をした結果、完全に見た目は同じ――それこそ顔の作りから3サイズに至るまで、序でに中の具合がどうかも試してみようかと犯る気満々な辺りがユートらしい。

 

「待て! 強姦魔! 今すぐにその女性から離れるんだ!」

 

 振り向けば二十歳になるかならないかくらいの黒髪な青年が立っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「また変な世界に来たな」

 

 青年は何度か世界を巡ったが基本的には地球であったのに対し、此処はどうやら地球とはまた違う惑星らしいのが判明している。

 

「うん?」

 

 視れば黒い誰かと銀の女性が闘っていた。

 

「あれはウルトラマン? しかも黒いティガって……ティガダークなのか?」

 

 青年はティガの力を使うウルトラマンオーブ――【スペシウムゼペリオン】を見知っているだけに、ティガが悪さをするのを見るのは流石に気分が良くない。

 

「ああ!?」

 

 戦闘に勝利したティガダークが銀髪の女性から鎧や服を剥ぎ、下着の一つも着けない真っ裸にして所謂、お姫様抱っこの形に抱えて連れて行ってしまおうとしていた。

 

「くっ、ジーっとしても、ドーにもならねー!」

 

 この侭では女性が女としての尊厳を文字通りに犯されしまう、青年はいつもの口癖みたいな科白を叫びながらティガダークの所へ走る。

 

「待て! 強姦魔! 今すぐにその女性から離れるんだ!」

 

 叫ぶとティガダークが振り返った。

 

『誰だ?』

 

 ユートは青年に見覚えが無い。

 

 強姦魔呼ばわりを取り敢えず否定しないのは、敵対者たるノイントを犯る気だったのは間違いない事実だったから。

 

 とはいえ、ウルトラマンの姿では性的な行為も出来ない――寧ろエロ画像が如くヤっている姿など見たくない――から人間の姿に戻る心算だ。

 

『断る』

 

 いずれにせよユートが青年の言う事を聞かねばならない理由そのものが無い。

 

「だったら!」

 

『それは……」

 

 青年は赤い機器と黒い機器を手に、腰のホルダーから弾丸みたいなカプセルを取り出した。

 

融合(You GO)!」

 

 カプセルにはウルトラマンが描かれている。

 

『シュワッ!』

 

 次にウルトラマンべリアルのカプセル。

 

「I go!」

 

 黒い機器に装填。

 

『ウエェッ!』

 

 準備は整った。

 

「Here we go!」

 

 赤い機器のトリガーを引き、青年はカプセルの力の読み取りを行う。

 

 背後のウルトラマンとウルトラマンべリアルが青年と同期した動きをしている。

 

 当然ながらイメージであり、本物の二人が後ろで動いている訳ではないのだが……

 

 再びトリガーを引く。

 

「決めるぜ、覚悟!」

 

《FUSION RIZE!》

 

 機器から音声が流れた。

 

「はぁぁっ、はっ!」

 

《ULTRAMAN!》

 

《ULTRAMAN BELIAL!》

 

「ジィィィィィィードッ!」

 

《ULTRAMAN GEED……PRIMITIVE!》

 

 手を開いてグングンアップされていく目付きが鋭い赤と銀の巨人――ウルトラマンジード。

 

「見た目はシルバー族の典型的な感じだが目付きが悪いな。闇トラマンか偽トラマン?」

 

 ティガダークこそ正真正銘で闇トラマンだというのを棚上げして失礼な事を呟く。

 

 闇トラマンは早い話が闇の巨人の事を云っている為、今のティガダークなユートを指し示していると言っても過言ではなく、偽トラマンというのはザラブ星人などが化けたりしたタイプのモノで偽ウルトラマンや偽メビウスなどがそれだ。

 

 尚、どちらもザラブ星人が化けていた。

 

 ユートは真っ裸なノイントの肢体を()()()()にてガチガチに固めてしまうと、此方も突き出した右手をジードとは異なり拳に握り締めてグングンアップ。

 

 光の巨人と闇の巨人が対峙する。

 

『っと、此方も……はぁぁ、はっ!』

 

 ティガダークが両腕を頭の辺りで交差させると気合い一閃で腕を下ろす。

 

 闇色だったティガダークが銀と赤と紫の体色を持つウルトラマンティガ・マルチタイプに。

 

『なっ! 光のウルトラマンティガに?』

 

 驚きに人間だったら口をあんぐり開けていたかもしれない。

 

『僕には光も闇も関係無い』

 

『そ、そんな……』

 

 光の巨人である矜持か、若しくは闇の巨人に対して何らかの隔意でもあるのか? 彼の光の巨人は衝撃を隠せないでいた。

 

『お前は僕……というか、この姿を見知っているみたいだが僕はお前を識らない。故に名乗れ』

 

『……ウルトラマンジード』

 

『ジード……ね、知らない名前だな』

 

 偽トラマンとは本物を識る者が居ない場所では意味を成さない、つまり彼――ジードは少なくともザラブ星人が化けた様な偽トラマンではない。

 

(あの姿は普通にシルバー族だからな、やっぱり闇トラマンでも無さそうだ)

 

 そもそも闇トラマンは基本的に暗い色調だ。

 

 先程までのティガダークを例に挙げる迄もなく例えば闇の三巨人――カミーラ、ダーラム、ヒュドラがそうだし、ウルトラマンべリアルやダークファウストやダークメフィストやダークルシフェルなどがそうだろう。

 

 例外も居るがだいたいがそれだ。

 

〔優雅兄、聞こえるか?〕

 

〔あん、どうしたよ? 此方は量産品共をぶっぱしている真っ最中だぜ〕

 

 緒方優雅。

 

 本来は前々世で緒方優斗の双子の兄として産まれる筈が死産、その魂は生きていたユートの中に

取り込まれて融合していた。

 

 ユートの魂の階梯が高かった理由である。

 

 融合から長い間は特に意志は認められなかったものの、前世であるハルケギニア時代にフォェボス・アベルと闘う事になった際に死に掛けてしまって一度だけ覚醒をした。

 

 今生では完全覚醒をしており、両面宿儺之神の権能を使えば表に出て仮初めの肉体で動く事すら可能となっている。

 

 その場合は神の闘士的には双子座の冥衣を身に纏うし、それ以外ではドライグバックルを使うのが御気に入り。

 

 ウルトラマンで別れ別れになる場合だと優雅は今みたいにウルトラマンネクサスに成る。

 

 因みにユートは双子座の黄金聖衣、アルビオンバックル、ウルトラマンティガがデフォだ。

 

 ノイントの場所に行く前に少し()()()と称して【閃姫】達の護衛として分かれておいた。

 

 仮面ライダーは基本的に飛べないから。

 

〔ウルトラマンジードって識ってるか?〕

 

〔はぁ? 何で今、そんな名前が出るよ? っていうかまさか……居るのか?〕

 

〔目の前にね〕

 

〔マジかよ……〕

 

 僅かな時間でシナプスのやり取りをして交信をする双子の能力的なアレ、優雅はどんな確率だよ……と呆れたくなった。

 

〔ウルトラマンジード、ニュージェネレーションと呼ばれるM78星雲系のウルトラマンだな〕

 

新世代(ニュージェネレーション)?〕

 

〔今現在……否、もう変わったか? トータスへの転移前まで観ていたウルトラマンギンガを皮切りにウルトラマンビクトリー、ウルトラマンX、ウルトラマンオーブから続くウルトラマンの一人だな。因みにウルトラマンルーブ、ウルトラマンタイガ、ウルトラマンZなんてのもいずれは登場する予定だ〕

 

 尤も、ウルトラマンルーブというのウルトラマンロッソとウルトラマンブルが合体した存在であったり、ウルトラウーマングリージョという妹が居たりするのだが……

 

〔特にタイガはウルトラマンタロウの息子だ〕

 

〔ゼロがセブンの息子だし、第二世代が現れ出したって事かな? 性格にはウルトラマンケンの息子のタロウが第二世代で、タイガとやらは第三世代に当たるのかも知れないけど〕

 

 とはいえ、ウルトラマンやジャックやエースの息子なんてのはまだ聞かないらしい。

 

 無論、レオとアストラも。

 

 意外なのはそもそも恋人らしき相手が居た筈のウルトラマン80にも子供が出てない事。

 

〔取り敢えず、ウルトラマンジードの特徴を教えておくぞ〕

 

〔ああ、頼んだ〕

 

 一番の特徴は謂わばタイプチェンジみたいなもので、ジードライザーのカプセルを入れ換えてやればフュージョンライズし、二つのウルトラマンから特徴を引き継ぐ形で得られるらしい。

 

 ウルトラマンジード・ソリッドバーニング。

 

 ウルトラセブンとウルトラマンレオのカプセルで変身するロボットみたいなフォーム、ティガで云えばパワータイプみたいなものだと云う。

 

 ウルトラマンジード・アクロスマッシャー。

 

 ウルトラマンヒカリとウルトラマンコスモスのカプセルで変身する為か、身体の色は青と銀になるフォームでティガ的にはスカイタイプ。

 

 ウルトラマンジード・マグニフィセント。

 

 ウルトラマンゼロとウルトラの父のカプセルを用いて変身するフォームで、超能力と攻撃力が強化されるとか……ティガではなくダイナのストロングとミラクルを足した感じらしい。

 

 ウルトラマンジード・ロイヤルメガマスター。

 

 テレビ放映版では最強形態とも云えるらしく、ウルトラマンキングとウルトラマンべリアルのカプセルで変身、絶対的な超能力を発動しあらゆる敵を一撃で屠る様だ。

 

 ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルが在り、エボリューションカプセルで究極進化をした形態。

 

〔成程、今は基本形態のプリミティブって事か。舐められたもん……って訳でも無いんだろうけど、テレビドラマじゃないんだからピンチでフュージョンライズとかはやらせない〕

 

 通信を切り戦闘に復帰するユートではあるが、この時に掛けた通信時間は0.00005秒だった。

 

『デヤァァッ!』

 

『ヘアァァッ!』

 

 互いに謎の雄叫びを上げながら戦闘突入。

 

 殴る、蹴る、飛び上がって更に蹴り。

 

 ウルトラマンVS怪獣の戦いには有りがちであるけど、少なくともウルトラマンジードのそれは

基本に忠実であると云えた。

 

『セヤァァッ!』

 

 ティガのパンチに吹き飛ぶジード、然しすぐに起き上がると蹴りを放って来た為にそれを拳にて受け止め、蹴りの勢いを殺さず後ろに往なしてやりぶっ飛ばす。

 

 流石はウルトラマンべリアルを斃したとかいうだけあり、決して弱い訳ではないみたいだが甘さ脆さはまだ目立つが、優雅からの情報では人間として生きた一九年の人生しかないらしい。

 

『出でよ、装鉄鋼(メタルブレスト)!』

 

『なっ!?』

 

 行き成り顕れた銀色の鎧に驚くジード。

 

 ユートはウルトラマンに【ウルトラマン超闘士激伝】な要素も含めており、ノイントに対して使ったダークゼペリオン超光波もそれだった。

 

 ユート自身として超サイヤ人と同じ超化が出来るし、サイヤ人じゃないからそれを【超闘士】と呼んでいる訳だが、ウルトラマンの姿でもそれは当然ながら可能であり超闘士ウルトラマンティガや超闘士ウルトラマンネクサスにも成れた。

 

『肉体を極限にまで鍛え上げた武闘家が武装をした姿を【闘士(ファイター)】と呼ぶ。闘士ウルトラマンティガ――今の僕はそう言える存在だ!』

 

『ファ、ファイター?』

 

 勿論、ウルトラマンジードの元世界に闘士なんて存在していないから戸惑う。

 

『ハァァアッ!』

 

『グアッ!』

 

 突然のスピードアップにジードは付いていけずいとも容易く拳を顔に喰らう。

 

『な、何故……タイプチェンジをした訳でもないのにスピードが上がった?』

 

『簡単な話だよ。お前も地球に住んでいたのなら

漫画なんかは読んだろ? 闘氣を扱う漫画なんかも有ったろう? ウルトラマンの光線は云ってみれば体内エネルギーなんだから、そういう使い方が出来るのさ。事実、ウルトラマンジードも光線を放つ意外に防御したり出来ている筈。装鉄鋼を身に付けると武闘家に成り切った感じに光線用のエネルギーを闘氣みたいに使えるんでね』

 

『そ、そんな……莫迦な……』

 

 余りの衝撃からよろけるジード。

 

 自らを【模倣者(イミテイター)】と嘯くだけにある意味で面目躍如か?

 

『こうなったら!』

 

 ジードの中の人はジードライザーを手にするのだが、ユートは優雅に言っていた通りでそんな暇を与えたりはしない。

 

『ハァァアッ、ハッ!』

 

『うぐぅっ!』

 

 しかもちゃっかり……

 

『ハァッ!』

 

 自分はスカイタイプにチェンジしていた。

 

『っ!? タイプチェンジしたら装鉄鋼とやらが変化した?』

 

 闘士ウルトラマンティガが装備する装鉄鋼とはマルチタイプ、スカイタイプ、パワータイプというタイプ別で変形をする特殊な物。

 

 マルチタイプだと闘士ウルトラマンジャックに近い形状だが、スカイタイプにチェンジをするとパーツが鋭角的になりつつパーツ数が減った印象を受けるだろう。

 

 逆にパワータイプにチェンジをした場合ならば丸まった印象で重装甲に見える筈。

 

 また色も変化する。

 

 マルチタイプは赤と紫と銀の色がバランス良く

配置、スカイタイプは紫と銀、パワータイプなら赤と銀という感じとなるのだ。

 

 装鉄鋼と共にスカイタイプへとチェンジをした闘士ウルトラマンティガに翻弄されるジードではあるが、それなりに戦闘経験を持つからには翻弄されてばかりでは居られないと反撃。

 

 だけど悉く躱されてしまう。

 

 スカイタイプはスピードに特化している為にか攻撃が当たらないのだ。

 

『ランバルト光弾!』

 

『くっ!』

 

 青い円形状のジードバリアで防ぐが……

 

 パリン!

 

『わ、割れた!?』

 

 何処の研究所のバリアかと云わんばかりに軽い音を立てて割れる。

 

『ガハッ!』

 

 幸いにも威力が低いランバルト光弾だったのとバリアで減衰したのとで、腹部への直撃を受けてもダメージそのものは低かった。

 

『くっ!』

 

 起き上がると闘士ウルトラマンティガは又もやタイプチェンジ、再びマルチタイプに装鉄鋼と共にその姿を変えている。

 

『こうなったら! ジーっとしてても、ドーにもならねぇ! ウオオオオオッ!』

 

 獣の如く咆哮しながら全身を発光させ、赤黒い稲妻状の光エネルギーを両手に集中して腕を謂わばスペシウム光線の様に十字に組む。

 

『必殺技に懸けるか? ならば!』

 

 腰を落として両腕を腰に据え、更に腕を前へと伸ばして横へと広げるポーズでエネルギーチャージを行い腕をL字に組んだ。

 

『レッキングバースト!』

 

『ゼペリオン光線!』

 

 そして互いに必殺光線を照射したのである。

 

『レッキングね、光の巨人としては中々に物騒な名前だな……』

 

 Wrecking――破壊や解体を意味している単語だけど、【レッキングクルー】なんて解体ゲームが在ったし何と無く判るだろう。

 

 レッキングバーストは七〇万度の光線技でありゼペリオン光線とも抗する。

 

 闘士ウルトラマンティガが拳を握った。

 

『ハッ! まさか!?』

 

『そのまさかだ、ゼペリオン超光波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!』

 

 L字を解いて開いた拳から更に収束されているゼペリオン光線が放たれ……

 

『ウワァァァァァァァァァアアアッ!?』

 

 ウルトラマンジードは呑み込まれ消える。

 

 視れば、力尽きたウルトラマンジードが人間の姿に戻って気絶をしていた。

 

『ふぃぃっ!』

 

 それを見届けて闘士ウルトラマンティガも人間――ユートの姿に戻る。

 

「やれやれ、面倒臭い話だね」

 

 取り敢えず気絶したジードは縛って転がすと、意識を取り戻して踠くノイントの方へ行く傍らで優雅へ通信。

 

〔優雅兄、そっちはどうなった?〕

 

〔うん? まぁ、取り敢えずは俺が落とした奴を鈴のタイガが潰していく。他は飛んでいても割と何とかしているんだけどな〕

 

〔まだ鈴には早かったか……〕

 

〔仲間になったばかりだし、仕方がねーよ〕

 

 実際、鈴は空を舞うエヒトルジュエの使徒には対抗が出来ていなかった。

 

 ピョンピョンとジャンプするが届く筈もないのだからどうにもならない。

 

〔仮面ライダーは基本的に飛べないしね〕

 

 勿論ながら飛べる仮面ライダーも居た。

 

 仮面ライダークウガだってアルティメットに成れば実は飛べるのだし、飛行性能は兎も角として最強フォームの主役仮面ライダーは飛べる者も割と居たりする。

 

 仮面ライダーウィザードなら内部のドラゴンの力を発揮した時点で跳べたし。

 

〔こうなれば反則臭いが飛翔呪文(トベルーラ)でも修得させてみるかな?〕

 

〔ま、お前さんの【閃姫】なんだからあの義弟みたいに魔改造もアリ……だろうさ〕

 

 嘗ての義弟(ミナト)君はまだまだ弱かった仲間を正しく()()()な魔改造をしていった。

 

 斯く云うユート自身もその恩恵は受けていたのだし、仲間が強くなる分には特に義弟君へ文句を言う心算だって無かったのである。

 

〔そうだね〕

 

 努力しないで力を手に入れたら人間は腐るし、努力しなくなるのは余りに良くない。

 

 だからユートも滅多矢鱈と力を与えたりしないのだが、仮面ライダーの力を【閃姫】や身内に対して容易く与えているのだから今更か。

 

〔オーバーレイ・シュトローム!〕

 

〔あ、決着した?〕

 

〔応ともよ! 量産品共は全て叩いちまったからノイントは確保しろよ? 香織のキングが必要なんだからな〕

 

〔確保済みさ。今からたっぷりと調教してやってから封印するよ〕

 

〔頑張れよ~、性的に〕

 

 プツリと通信が切れた。

 

「さて、エヒトルジュエの使徒ノイント」

 

「くっ、殺せ!」

 

「誰がオークかっ!」

 

 行き成りノイントに『くっころ』されて御機嫌が斜めだが、結局は調教というか犯るべき事を犯るのだから文句は言えない。

 

「別にお前からエヒトルジュエの情報を聞き出そうとか思ってはいない。お前は只、僕の戦闘による猛りをその肢体で受け止めて、我が【閃姫】の力として封印されろ」

 

「う、やめなさいイレギュラー! この身は我が主のモノ! 触れるな!」

 

 触手も斯くやな金色の鎖にグルグル巻きにされて自分では動けないノイントだが、鎖の方がウネウネと動いて勝手に恥ずかしい部分がユートの目の前に開かれていく。

 

 だいたい二時間くらいが経ったろうか?

 

 ヒクヒクと手足を痙攣させながら茫然となってハイライトの喪われた瞳が虚空を見つめており、口元から唾液ともつかない液体が一筋流れていて全身が汗やユートの体液に汚れ、大事な部位からも白い粘液が溢れて意識が半ば飛んだノイントの姿が横たわっている。

 

『私に感情など有りません』

 

 ヤられながら言っていたが明らかに感情を露わとして嬌声を上げ、喘ぎながらも嫌がっていたのにいつしかノイントから求め始めていた。

 

 ユートはノイントに見せ付ける様にブランクのカードを取り出す。

 

「今から封印する。精々、香織の力となれ」

 

「は、い……マイ、マスター」

 

 未だにハイライトが消えた侭ながらも歓喜した表情を浮かべ、エヒトルジュエではなくユートを御主人様(マスター)と認めたノイント。

 

 自ら求めるくらいに僅かな時間で快楽に堕ちてしまったらしい、流石はエセルドレーダでさえも認めただけはあるのだろう。

 

 ヤり過ぎたかと思いつつカードを投げる。

 

 光を放ちながらカードに吸収封印されてしまったノイント――絵柄は銀髪にヴァルキリー姿をして双剣持ち、カテゴリーKのEVOLUTION【NEUNT】と書かれておりスートもハートだ。

 

「これで香織のカードは殆んどが揃ったな」

 

 まだ一三枚は揃わないからワイルドフォームというか、キングフォームには成れないけど聞いた話ではまだ原典小説なら五巻か其処ららしい。

 

 未だに物語的には半分にもならないとかだから特に焦る必要性は無かった。

 

「ちょっと調子に乗って時間を掛け過ぎたしな、さっさと合流しないと」

 

 憮然としたジードの人間体を見つめる。

 

 一応はノイントが何者でエヒトルジュエと名乗る偽神の目論見も伝えたし、そこら辺に関しては納得してくれたのだと思うが……

 

「朝倉 陸……話した通りで奴らは世界を蝕む謂わば害虫、言ってみれば異世界からの侵略者がそれに成功したに過ぎない」

 

「判ってるさ」

 

 成功したからには最早、エヒトルジュエこそが神でノイント達が使徒というのも間違いでは無いのかも知れないが、それに賛同が出来ない勢力群がレジスタンスになっていたり、ユートみたいな

イレギュラーが立ち向かったりしているのだし、何より力を殆んど喪ったとはいえこの世界の正しく守護者――女神ウーア・アルトも健在。

 

 今は男の娘な身体だけど。

 

 つまりは万の年月が経ちながら未だに不完全な支配であり、その神権が続くかも判らない状況になっているのがトータスである。

 

 それにユートはそのエヒトルジュエの神権そのものを侵すべく動いていた。

 

「それで朝倉 陸、君はどうするんだ?」

 

「どうって?」

 

「君が平行世界の地球でウルトラマンべリアルを相手に闘った、正真正銘のウルトラマンだというのは理解したんだけど、君は僕の行いをウルトラマンとして止める……か?」

 

「そ、それは……」

 

 正直、可成り難しい問題だ。

 

 ユート達は異世界人だが侵略者ではなく拉致られただけ、聖剣に封じられた守護女神ウーア・アルトからの承認もある。

 

 翻ってエヒトルジュエは正に侵略者でしかない上に、支配者としては最低な行為に身を浸しているけど間違いなく、彼こそがトータスを万年に亘り支配してきたのも事実。

 

「ウルトラマンゼロ、彼が僕を迎えに来るまでに旅をして自分の目で見てみようと思う」

 

 朝倉 陸はウルトラマンゼロに修業がてら連れて来られたらしく、本来は地球に行く予定が何故か変な時空の歪みでトータスに居た様だ。

 

 恐らくはアイリーンや月奈と同じく勇者召喚の余波、その煽りを受けて跳ばされて来たのではないかと推測される。

 

「そうか、僕も邪魔をされないなら敢えて君とは敵対をする気は無い。取り敢えず互いに不干渉って事で構わないな?」

 

「ああ、それで良いよ」

 

 一緒に旅をしているペガを下手な争いに巻き込みたくなかったから。

 

 朝倉 陸――ウルトラマンジードは勇者(笑)なんて及びもつかない好青年だった。

 

 不干渉だけど万が一、何らかの助けを必要とした時には連絡が出来る様にスマホにしか見えない魔導式携帯伝話機を渡し、ユートは【閃姫】達が待つアンカジ公国の公都へ向かい、朝倉 陸は置いてきたペガという相棒の許へそれぞれ歩く。

 

 それぞれ……歩く?

 

「何で同じ道を?」

 

 何故か同じ方向へ向かう朝倉 陸に訊くと……

 

「相棒のペガがアンカジに居るから」

 

 至極真っ当な理由であったと云う。

 

 

.

 




 朝倉 陸――ウルトラマンジード。

 ウルトラマンべリアルとの決戦から暫く経って再び現れたウルトラマンゼロに連れられ、相棒のペガと共に平行異世界の地球へ向かう筈が勇者召喚の煽りでトータスに来てしまった。




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第65話:所は変わってあの二人は?

 何とか書けました。





.

「へぇ、こいつがジードライザー。ウルトラマンジードに変身する為のツールか」

 

「まぁね」

 

 アンカジ公都に帰る傍らにジードライザーという陸が使う変身ツールを見せて貰う。

 

「サンクス」

 

 これでジードライザーを造れるだろう。

 

「そういや、相棒のペガって?」

 

「ペガッサ星人って異星人の子供だよ」

 

 少なくとも大人とはいえないだろう、何歳かは判らないが……

 

「ペガッサ星人か」

 

 ペガッサ星人ならユートも知っている。

 

「ウルトラセブンと哀しい闘いをした星人だ」

 

「哀しい闘い?」

 

 元々、ペガッサ星人に地球侵略の意図など無かったのだが、ペガッサシティの軌道上に地球が在ったから地球の軌道を動かして欲しいと考えたけど地球にそんな技術は無い、そうモロボシ・ダンに言われて地球を破壊しようとした。

 

 とはいえダンとアンヌは助けたかったらしく、地球から逃げる様に警告はしている。

 

 だけど地球人にペガッサシティを逆に破壊されてしまい、復讐をするべく動いたペガッサ星人とウルトラセブンが闘ったのである。

 

 一応、死んではいない筈だが……

 

 尚、ウルトラセブンでは地球人の愚かしさというのが強調される噺が多い。

 

 ドラマ内ならノンマルト事件がそうだ。

 

『ウルトラ警備隊のバカ野郎!』

 

 ノンマルトを攻撃した時の、それを見た子供の科白である。

 

 また、ノンマルト事件を含む様々な悪行だったり実は現行の地球人が侵略者だったりの証拠が詰まった【Ωファイル】、これを巡って地球人側とウルトラセブンとが対立をした。

 

 それでも地球人を愛するウルトラセブンは故郷の仲間に訴えたのだろう、自らが虜囚の身となる事を理解しながら。

 

 フルハシ参謀との友情、キリヤマ隊長への口封じなど色々と板挟みになりながらモロボシダンではなくカザモリマサキとして、懐かしいウルトラ警備隊の制服に袖を通して。

 

 因みに、元ウルトラ警備隊のキリヤマは役者の死亡で登場が見送られただけであり、小説版にはキリヤマ老人がちゃんと登場していたりする。

 

 【Ωファイル】の解放から、ウルトラセブンは死に掛けていたのをカプセルに封じていたカザモリマサキを戻し、モロボシダンからウルトラセブンに変身して宇宙に戻った。

 

 その後、見た目からウルトラセブンがカザモリマサキ元隊員と一体化したっぽい感じで、ウルトラアイを手にウルトラセブンへ変身している。

 

 とはいえ、ウルトラセブン以降のウルトラ戦士をガン無視した設定ではあるが……

 

 アンカジ公国の公都に着いた二人。

 

 ユートの仲間達は優雅がアンカジ宮殿に向かわせた為、取り敢えず此処で朝倉 陸と鉢合わせになる事は無いだろう。

 

「ペガ、出てきて! 彼は僕らの事情を知っているから大丈夫だよ」

 

「リク……」

 

 まるで影から顕れた感じで明らかにミニサイズなペガッサ星人が所謂、ダークゾーンと呼ばれる特殊な空間からひょこっと顔を出す。

 

「本当にペガッサ星人の子供なんだな」

 

「っ!」

 

「心配するな。リクも言っていたが、君の事情はちゃんと理解している。虐めたりしないから出てきてくれないか?」

 

「う、うん。リクが信用してるなら」

 

 ペガがダークゾーンから完全に姿を見せる。

 

「初めまして、僕は緒方優斗。ユートと呼んでくれれば良いよ」

 

「僕はペガ、ペガッサ星人です」

 

 挨拶はコミュニケーションの基礎だろう。

 

「さて、僕も仲間達が待っているからそれ程には

時間を取れない」

 

 ユートは確認しておきたい事がある。

 

「リクとペガはいつこのトータスに?」

 

「半年は過ぎたかな?」

 

「そうだね、六ヶ月くらいは確実に経ったよ」

 

 ユートの質問にリクが確認するとペガも首肯をしながら言う。

 

「やっぱりエヒトルジュエの勇者召喚が原因っぽいな。ウルトラマンゼロは迎えに来れるのか? このトータスまで」

 

「其処はゼロを信じるしかないよ」

 

 ウルトラマンゼロはユートの知識通りであるならば、ユートが持つネクサスの上位版たるノアの力を得ているから多元宇宙(マルチバース)を割と自在に往き来が可能となっている筈。

 

 とはいえ、地球とトータスが果たしてどれだけ離れているかが問題となる。

 

 少なくとも半年もの間、リクとペガを発見していないのだからまだ見付けられないのだ。

 

「飯や宿泊はどうしてる? 着ているのは地球の服みたいだが……」

 

「まぁ、洗濯しながらね。御飯は冒険者になって稼いでるんだ」

 

「へぇ、ランクは?」

 

「半年じゃ大して上がらないよ。赤になったばかりだからね」

 

 つまり、最低限の青よりはマシという事。

 

「余り稼げてないな、それ……」

 

「野宿に死なない程度の食事を確保が出来ている程度の稼ぎだね」

 

 冒険者は初期だと稼げない。

 

 ()()()な【鑑定(アナライズ)】持ちとかならまだ話は別であろうが、普通は地道にポイントを上げてランクをアップするしかないのだ。

 

 そういえば鈴木一郎氏はそんな能力をあっさりと手に入れていたな……と考える。

 

 彼はユートがその世界線の地球に降り立った際にバイト先の人、寧ろ彼の幼馴染みで巫女さんな高杯光子との仲の方が深かった。

 

 とはいえ、漫画ならありそうな幼馴染み女性が男に想いを寄せる……的な彼是と歳上で巨乳好きな鈴木一郎氏、残念ながら高杯光子――ヒカルは彼の好みからは外れていたのである。

 

 そんな訳で偶々、出逢って紹介された後は自発的にヒカルとの逢瀬をしてきたが、酒を飲みながら愚痴を聞かされた事もあった。

 

 歳下な幼馴染みで胸も残念なヒカルはどうしても彼の好み的に駄目だったとか。

 

 取り敢えず、長年の想いを持ちながら異世界に本来の召喚された筈の少年の代わりにパリオン神により挿し込み召喚されたユート、前日のデートで頬にキスして貰える程度には仲好くなれた。

 

 翌日には召喚されてしまった訳だが……

 

 ルモォーク王国の転生者王女による召喚だったのは王女本人から聞いた。

 

 通常のサガ帝国による勇者召喚ならユニークスキルが幾らか貸与されるらしいが、一切合切そんなモノは無かった上にレベルも1から必要となる経験値が莫大過ぎて上がらないとか無理ゲーも良い処だろう。

 

 まぁ、元の力がレベル1で【超越者】の称号を獲るくらいに強いから問題は無いけど。

 

 本来の八人目が何処の誰だかユートは識らないけど、取り敢えず襲ってきた魔族を討ち転生者のユリコ王女を拉致った。

 

 又候(またぞろ)、日本人召喚(らち)なんて莫迦をやらかされたら困るからである。

 

 紫髪に紫瞳で絶世とか傾国とか枕詞が付きそうな美女だったが、何故か自分の容姿に自信を持てない揺らぎがあったユリコ王女。

 

 故に『こんな醜女を抱けますか!?』とか言われて『勿論』と売り言葉に買い言葉、その日の内に喰っちゃったユートは取り敢えずユリコ王女を秘密基地に匿いつつ、世界情勢を観るべくルモォーク王国を出て動き始める。

 

 判ったのは勇者召喚がサガ帝国で頻繁に行われており、それは【魔王の季節】とやらに合わせている儀式らしい事で、ルモォーク王国はユリコ王女のユニークスキルと鼬人族が持ってきた道具で俄な勇者召喚に挑んだらしい事も判明。

 

 シガ王国の王祖たるヤマト・シガはサガ帝国の召喚勇者だった事。

 

『ヤマト・シガ……日本人ならシガ・ヤマトだな。何だろう、ヒカル並の腐女子がシガ王国の王祖かも知れないとか思ってしまったんだか……」

 

 所謂、BL的な掛け算である。

 

 少女漫画の【テニ×勇】に【シガ×ヤマト】という掛け算が確かに在った筈で、ヒカルに奨められて読んだ記憶も有ったりするから。

 

 正直、BLは()()公爵令嬢だけで充分だ。

 

 旅をするのに【鑑定】は役立ったもの。

 

 それから暫くして鈴木一郎氏との再会をして、パリオン神の神託の巫女からユートはパリオン神がルモォーク王国の召喚に介入し、本来ならされない筈の召喚が成された事を聞かされた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「リク、これを」

 

「これは?」

 

「鞄は【魔法の鞄】ってやつで、空間拡張がされているから結構な量が入る。中には一千万ルタくらい容れたから暫くは宿泊とかも出来る」

 

「え、でも……」

 

「お金は使い切れないくらいに稼いでいるから気にしなくて良い。どうせトータスでしか使えんし散財とも云えんよ」

 

「助かるけど……」

 

「な~に、施しってわけじゃない。ウルトラマンゼロに会って彼の変身ツールとかも視てみたいからさ、その時に口利きをしてくれたら嬉しい」

 

「クス、判ったよ」

 

 ちょっとした欲を出したら苦笑いしながら受け取ってくれた。

 

「リク、これで野宿しなくて済むね」

 

「ペガは殆んどダークゾーンじゃないか」

 

「そうだけどさ」

 

 仲が良さそうで何より。

 

「序でに下着と服も提供しよう。パンツなんかは洗ったら暫く穿けないんだろう?」

 

「うっ、それも助かるけど……」

 

「心配しなくても新品だ。ファンタジーな世界では現代人の困り事っていうと現代の服が着れない事もあるからさ」

 

「現地の服はどうも合わないんだよね」

 

「因みに、女の子だとやっぱり下着や生理用品が困るんだろうな」

 

「あはは、そうだね」

 

 女性の下着や生理用品とか言われても反応に困ってしまうだろう。

 

 リクとペガのコンビと別れたユートは仲間である【閃姫】達の許へと戻る。

 

「実際、下着も生理用品も必須なんだよね」

 

 【閃姫】から求められるアイテム類でトップに躍り出るくらい必要とされていた。

 

「そういや、ルルを買った時にも始まっていたから大変だったよな……」

 

 奴隷商人ニドーレンからアリサとルルを買ったは良いが、初夜から行き成り始まってしまったから肩透かしを喰らったものだ。

 

 アリサに綺麗な布を頼まれるがユートはそれで生理用品を渡した。

 

 因みにだが、アリサとルルは腹違いの姉妹でありクボォーク王国の王族の出だったりする。

 

 ルルは侍女のリリが御手付きになった結果で、王族とは認められていなかったが……

 

「あ、戻ってきた!」

 

 雫がポニーテールを揺らしながら駆け寄って来たり、ユエが逸早く肩車の位置に乗っかってきたりと甘えて来たのを受け止める。

 

「よう、リクはどうしたんだ?」

 

「別れたよ。彼には彼の道があるからね」

 

「そうかよ。じゃあ、俺もお前の中に戻るぜ」

 

「お疲れ様、優雅兄」

 

 手をひらひらとさせながら消える優雅は即ち、再びユートの中に戻るのであった。

 

「あの優雅さんって……」

 

「香織、聞いていないのか?」

 

「余り話して貰えなくて……戦闘中だったし」

 

「それもそうか」

 

 ユートが話すのは基本的な事だけだ。

 

 優雅の本来の名前は緒方優雅。

 

 双子の兄になる予定だったが死産してしまい、その魂はユートと融合してしまった事。

 

 ユートがハルケギニア時代に死に掛けた際に、その人格が覚醒をしてしまった事。

 

 今世でも【ハイスクールD×D】世界で消滅しそうになり、やはり覚醒をして【カンピオーネ!】世界で権能により外に出られる様になった事。

 

 結果、優雅は双子座の冥衣やドライグバックルやエボルトラスターを使う分身に近い存在としてユートの中に在る事などをだ。

 

「成程。確かに優斗が信頼するに足る訳ね」

 

 雫はそれに頷いた。

 

「……ユーガ、良い人?」

 

「死んじゃったお兄さんがユートさんの中に生きていたんですねぇ」

 

「文字通りの意味でのぉ」

 

 ユエとシアとティオも納得したらしい。

 

「良かったよ~」

 

 鈴は泣き出すくらいに。

 

「ま、それだけじゃなさそうだけどね」

 

 そしてミレディはどうやら隠された事情に気付いているみたいだ。

 

「うゆ?」

 

 連れて来られたミュウは理解してなさそう。

 

 実はミレディの考えている通りだが、ユートとしては優雅のそれを明かす心算は現状では無い。

 

 何しろ優雅本人からしたなら、黒歴史というよりかは闇黒歴史とまで云えるくらいに消し去りたい過去の事実なのだから。

 

 ユートも出来れば暴露したくなかった。

 

「やぁ、ランズィ公」

 

「改めて凄まじいのだな、君らは」

 

「危険な存在として教会に突き出すか?」

 

「はっ、冗談はやめて欲しい。私に自殺願望などありはしないさ。何よりも言ったぞ、恩人に仇を成す者など我らがアンカジ公国に居ない!」

 

「そうさ、これは公国の民も全員一致した意見だからね!」

 

 ランズィ公がはっきり公言し、リィズ公子も同じく頷きながら言ったものだった。

 

 アイリー・フォウワード・ゼンゲン、アイリー公女など恋する乙女みたいな顔でユートを見ていたりするし、どうやらこの公国にユートへ敵対する人間は出そうにない勢い。

 

 先の闘いで見せた姿に恐れる処か惚れ直すとか中々に胆が据わっている。

 

 そしてユートはまた要らん事を……

 

「アイリー、また会おう」

 

「ユート様……」

 

 水色のチョーカーを填めながら言った。

 

 【閃姫】に渡している物の劣化版ではあるが、そのチョーカーは【閃姫】が着けている物と遜色のない出来で、【異物排除】と【物理障壁】と【魔法障壁】が籠められた魔導器である。

 

 ちょっとした女子会を【閃姫】としたアイリーは特に【異物排除】の()()に興味津々。

 

 勿論、毒物が体内に入った場合やアルコールが入った時に排除する機能は当然だが、男のアレも排除対象となる訳でつまりデキる事を怖れずヤれる避妊具という意味合い、元よりユートはデキ難いが仮にそもそもデキない相手だったとしても、余程でない限りデキるという特質を持っているからには、やはり着けていた方が無難でもあるなだと聞かされていたのだ。

 

 早い話がユートが【閃姫】にそんな魔導器を渡すのは、自分の女を妊娠の心配無くヤりたいからという事になる。

 

 それを渡されたアイリーがどう思うかなんてのは最早言わずもがな。

 

 雫は『あちゃ~』とばかりに手で額を押さえながら天を仰いだ。

 

 ユートの性的特質の一つに【絶対的妊娠】というのが在り、それは性行為が可能な異性であれば確率が低いだけで必ず妊娠するというもの。

 

 正確には常時発動型の権能、ギリシア神話に於けるオリンポス一二神のトップたるゼウスを弑奉って獲た【絶倫神王】という。

 

 何と無く悪意しか見当たらない名前だが、これに関してはグリニッジ賢人議会の議長アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールが譲らなかった。

 

『何で選りに選って雷霆とかじゃなくソッチ方面の権能を獲てるんですかぁぁああっ!』

 

 真っ赤な顔で怒鳴ってきたからそれで承諾するより無かった。

 

 顔が赤かったのは怒りからだろうか?

 

 嘗てユートが行った異世界の中に肉体的な作りの違いから異種族間交配が不可能、ハーフという概念が無いという世界が存在していた。

 

 例えばフォーセリアやハルケギニアなどみたいにハーフエルフや半翼人みたいな、人間とエルフとか人間と翼人みたいな両方の特徴を持つ半種族が産まれたりするが、その世界では人間とエルフでさえ子を成したり出来ないらしい。

 

 ハイエルフとエルフですら別種族扱いで妊娠はしないらしく、異種族交配は人間と耳族との間で辛うじて可能な程度だった。

 

 尚、ハイエルフは神の眷属で半神として創られた種族であり、神となら一応の交配は可能であると教えて貰っている。

 

 だけどユートの場合はエルフやハイエルフ処か獣人でも交配可能だし、別世界の半人半馬とさえ馬の部分から普通にヤれば妊娠させられるのだ。

 

 これもゼウスの逸話からくる権能故の事らしいのだけど、基本的に子供は相手方の種族の特徴を99%も引き継ぐが故に、亡びそうな種族をある意味で救えてしまう背徳的な能力であろう。

 

 99%が相手側の特徴だからか近親交配も出来てしまう為、次世代の全員がユートの子供だったとしても遺伝子的な問題を生じさせず次世代同士で交配させられるからだ。

 

 種族を問わないのも近親交配もゼウスの逸話を鑑みれば確かに有り得る。

 

 例えば異種族がどうのこうの云う前にゼウスは動物の姿で人間の娘と交わるし、姿を借りた動物の特徴を確りと子供に残しているだろう。

 

 尚、近親交配に関してはアダムとイヴが人類の祖なら二人の子供同士でヤったのか? 何ていうツッコミが元でゼウスは無関係と思われる。

 

 再びキャンピングバスに乗ってエリセンへ進むユート一行、そんな矢先にユートがヤる事なんて特に代わり映えはしない。

 

 最近は【閃姫】が殆んど揃った状態だからか、全員を褥に呼び、乱交に走る事が多くなっていて

いたから最初こそ一対一だった鈴は翌日から始まる乱交とレズプレイに驚愕させられた。

 

 ユートはBLこそ好きではないが、レズプレイは観ていて割と興奮する事が出来るからヤらせる事がよくある為、鈴も三日目からは雫とのレズプレイをさせられている。

 

 とはいえ、ユートが興奮するのは本当らしくて一通り終わった後の激しさ、それが如実に顕していると云えよう。

 

 死屍累々とも云えている惨状にも拘わらず未だ

元気な下半身なユートは起き上がると、バスローブみたいな服を身体に身に付けてキッチンへ向かって歩き出す。

 

 ゴクゴクと喉を鳴らし水を飲んでいると気配を感じてその場へ向かった。

 

「ティオ、どうした?」

 

「主殿か」

 

 静かに走行するキャンピングバス故に屋上へと出ても問題無く、何よりバリアフィールドにより風を無効化しているから吹き荒ぶ風を感じる事すら出来ない。

 

「月見をな」

 

「月見?」

 

 確かにこの夜空は快晴で月がよく見えた。

 

「で、黄昏ている理由は?」

 

「なぁ、主殿よ」

 

「何だ?」

 

「妾は主殿の好みから外れるのかの?」

 

「……は?」

 

 潤んだ瞳に赤らめた頬、そして床に散らばったアルコールの臭いがする瓶の数々から明らかに酔っ払っている。

 

「妾は胸ならばシアにすら勝ると自負しておるのじゃよ? なのに主殿は胸の無いスズにすら傾倒しておるのに妾は一向に褥に呼ばれぬ」

 

 嫌っていないし別に好みから外れる事も特には無いティオ、あの胸で挟まれるのは良さそうだと常々とまでは云わないが思っているくらいだ。

 

 然しながらミュウを寝かし付ける役割も必要となるし、既に【閃姫】だったりそれを目的に呼んだりした相手は優先的に抱く為にまだ【閃姫】の括りに無いティオは丁度良かった。

 

「別に抱かれずとも君の目的は僕の目的に沿うんだから、多少の普段働きと戦闘時の戦働きだけでも構わないんだぞ?」

 

「うぬ?」

 

「その目的は復讐、エヒトルジュエに対するな。

其処で裏切った連中を恨まない辺り竜人族ってのは高潔というか」

 

「恨んでおったよ、憎らしかった。暴発し掛かる程に妾は……」

 

「数百年で頭が冷えた……か?」

 

「それもあろうが、主殿を利用しようと考えたのも確かよな。主殿程の力を持つならば或いは……と期待もしたものよ」

 

「そうか」

 

「怒らぬのかの?」

 

「一つ言っておくが、僕も感情を持つ生物に違いないからキレる時にはキレる。だけどこれでも僕は何千年も在り続けたんだ。流石に女の子の我侭をちょっと言われた程度、キレたりしないさ」

 

 その割に天之河に対してはキレまくるが……

 

 まぁ、美女の可愛らしい我侭と独り善がりにして正義(笑)の塊な勇者(笑)の我侭では全く別物で、誰がそんな男の我侭を笑って赦すものか。

 

「フフ、女子には甘いの。そんな主殿じゃからこそ妾も惚れたのやも知れぬな」

 

「惚れた……ね」

 

「妾は抱かれてでも目論見を果たしたいから抱かれるのでは無い、妾自身が主殿に惚れたが故にこそ女として閨を共にしたいのじゃよ」

 

「そうか、ならエリセンに着いてミュウを母親に会わせたら抱かせて貰おうか」

 

「ふむ、やはりミュウの世話役を御役御免にならねばならぬかや」

 

「そういう事だね」

 

「なれば仕方があるまいよ」

 

 そう言ってユートの顎へ右手を優しく添えながら唇を軽く重ねてきた。

 

「今はこれで良しとしておこうかの」

 

 微笑みを浮かべてペロリと唇を舐め取る仕草はとても艶かしい。

 

「ふむ、どうやら妾に魅力が無い訳では決して無さそうで安心したぞよ」

 

 ミュウの眠る部屋へ戻るティオの視線は確かにユートの下半身へ注がれている。

 

「不意討ちは卑怯だろうに」

 

 頭を掻きながら反り勃つ自分の分身をどうやって鎮めたものかと思案した。

 

 尚、寝室で寝起きのユエが吸血と()()で口により鎮めてくれたので助かったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時と所は少し変わる。

 

 それは即ち、ライセン大峡谷。

 

「ホントに魔法が使えないな」

 

「そうみたいだ。恵里の降霊術も僕の錬成も使えないからね」

 

「まぁ、ボクらは一応だけど仮面ライダーに成れば戦えるから問題は無いけどね」

 

 ライセン大峡谷を訪れたのはハジメと恵里というカップル、場所場所だというのに恵里はハジメと腕組みをしながら歩いていた。

 

「オルクス大迷宮以外で間違いなく大迷宮が存在するとされてるライセン大迷宮、ハルツィナ樹海の二ヶ所だからね。オルクス大迷宮の生成魔法はユートから貰っちゃったから、ライセン大迷宮かハルツィナ樹海をクリアしてみよう」

 

「うん、そうだね。ハジメ君」

 

 そんな甘々な雰囲気を醸し出す二人に襲い掛かる魔物、シアを追い回した双頭のティラノサウルス擬きダイヘドア、ハウリア族を追い回していたワイバーン擬きのハイベリアが何を思ったのか襲撃を仕掛けて来る。

 

「ふん、ボクとハジメ君のラブラブを邪魔しようなんていー度胸だよ……変身!」

 

 紫主体の王蛇カードデッキを掲げVバックルを腰に装着、叫びながらデッキボックスをバックルに装填してやり仮面ライダー王蛇に成る。

 

「はぁ、イライラするなぁ」

 

 気だるそうに首を回しSWORD VENTのカードを

ベント・イン……

 

《SWORD VENT!》

 

 召喚機たる牙召杖ベノバイザーから電子音声が鳴り響くと、ベノスネイカーの尻尾を模した剣――ベノサーベルが地面に刺さる。

 

「さてと、邪魔モノなナマモノは殺りますか」

 

 物騒な事を呟き、恐らくは仮面の向こう側にて三日月の様に口許を吊り上げ走った。

 

 一方のハジメはオルタリングを腰に顕現させて構えを執り、いっそ喧しいくらいに待機音が鳴る中で両腰のスイッチを叩く。

 

「変身っ!」

 

 黒いアンダースーツに金色の鎧、金の二本角を持ち赤い複眼の仮面ライダーアギト・グランドフォームに。

 

 【超越肉体の金】である。

 

「はぁぁっ!」

 

 恵里とは反対側の魔物へと向かった。

 

 恵里は荒々しい闘い方でダイヘドアを斬って斬って斬り捨てる、更には突進には突進だとでも云わんばかりにカードを装填。

 

《ADVENT!》

 

 銀色主体なサイ型ミラーモンスターのメタルゲラスを召喚して突っ込ませた。

 

 単純な大きさはダイヘドアの方が何倍も巨体ではあるが、パワーという意味ならメタルゲラスの方が純粋に高かったから蹂躙に近い。

 

「飛べるのがアンタらだけじゃないって教えて上げるよ!」

 

 ボクっ娘で男っぽい口調は嘗て、義父に当たるチンピラに性的に襲われたくなくて矯正したものであり、今まで普通の女の子口調こそが偽りという名の仮面だった。

 

 意気揚々とカードを装填する。

 

《ADVENT!》

 

 緋色のミラーモンスターたるエビルダイバーが

召喚され、恵里――仮面ライダー王蛇はその背中へと乗り込んだ。

 

 基本が飛翔体であるエビルダイバーなだけに、こうして仮面ライダーを乗せて翔ぶ事も可能。

 

《FINAL VENT!》

 

 エビルダイバー用のカードを装填する。

 

 サーフィンしようぜ! とばかりに光るネットの波は潜らないが波乗りの如く走らせた。

 

「ハイドベノン!」

 

 勢いに乗ってハイベリアを砕いていき、更にはダイヘドアも何匹か潰していく。

 

 エビルダイバー、メタルゲラスとくれば次にだすのは……

 

《ADVENT!》

 

 王蛇の本来の契約モンスター、ベノスネイカーであろう。

 

《UNITE VENT!》

 

 発動されたのは結合を意味するUNITEのカードであり、その冠する名前の如く三体のミラーモンスターが合体した。

 

 獣帝ジェノサイダー。

 

 胴体と上顎にメタルゲラスが、尻尾と下顎にはベノスネーカーが、背中にはエビルダイバーという構成になっている。

 

《FINAL VENT!》

 

 王蛇、ライア、ガイのライダーズクレストを集めた感じの必殺技用カード。

 

 ジェノサイダーの腹部にマイクロブラックホールが生成され、吸収する力が余りに強くて魔物達はズルズルと引き摺られていた。

 

「ハァァァァアアッ、ドゥームズディ!」

 

 その必殺技により次々と蹴りで抵抗を喪ってしまった魔物がブラックホールに呑まれていくと、それはまるで掃除機がゴミクズを吸収するかの如く様相であったと云う。

 

 欠陥も有る必殺技だが、放てば文字通りの意味で()()してしまった。

 

「ふん、ざまぁ」

 

 やはりオルクス大迷宮の深層に比べて弱いからだろう、恵里はそのスペックを如何無く発揮をして危なげ無く魔物を滅殺した。

 

 ハジメも単純スペックでは仮面ライダー王蛇に及ばないものの、やはり高い能力を駆使して先ずはグランドフォームで格闘戦をしている。

 

「ふっ、はぁぁっ! たぁぁっ!」

 

 単なるパンチでも七t、キックなら倍を越えた一五tという重さを持っていた。

 

 巨大な魔物で重量もそれなりだろうが、そんな一撃をまともに喰らえば只では済まない。

 

 左腰のスイッチを叩くとアーマーが青に変化をして、オルタリングからストームハルバードと呼ばれる武器を引き抜き振り回す。

 

 仮面ライダーアギト・ストームフォーム。

 

 【超越精神の青】とされる姿だった。

 

 幾つかダイヘドアを潰し更に右腰のスイッチを叩くと、今度はアーマーの色が赤に染まりオルタリングからフレイムセイバーを引き抜く。

 

 【超越感覚の赤】たる仮面ライダーアギト・フレイムフォームだ。

 

「ふっ、たぁぁっ!」

 

 炎を孕む斬撃がダイヘドアを斬り、近くにまで飛翔してきたハイベリアを真っ二つに裂いた。

 

 次に自ら生成魔法で造ったシュタイフという名のバイクが、仮面ライダーアギトに変身したのと同時に変化したマシントルネイダーに乗る。

 

 実は劇中で【闇の力】テオスが後押ししてから変形が出来るのだ。

 

 マシントルネイダーがスライドしてスライダーモードとなり、恵里がエビルダイバーに乗ったみたいにサーフボードの様にホバリング。

 

 カシャンとアギトの角が六本となり、必殺技の【ドラゴン・ブレス】――早い話が轢き逃げアタックを仕掛けてハイベリアを砕く。

 

 更に残ったダイヘドアに向け……

 

「はぁぁっ! とりゃぁぁぁあああっ!」

 

 マシントルネイダー・スライダーモードから勢いを乗せて放つライダーキック、【ライダーブレイク】によって片を付けた。

 

 その後は仮面ライダーアギトの侭でその超越感覚の赤に再び変わってライセン大迷宮への入口を発見、然しながら【嘆きの壁】により阻まれてしまい如何な仮面ライダーの攻撃とはいえ全く効果は望めず跳ね返されてしまう。

 

「そういえば言ってたね」

 

「緒方君が壁を造ったって話だっけ?」

 

 二人は徒労感から溜息を吐くのだった。

 

 

.

 

 

 

 




 今回はエリセンまでのクッション回。




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第66話:娘をママへ会わせよう

 休みで書いていたら興がノって早めに書き終えてしまいました。





.

 ユートの許に携帯魔伝話が鳴り響く。

 

「もしもし、ハジメか。どうした?」

 

〔あのさ、今は大迷宮が有るライセン大峡谷に居るんだけど〕

 

「封鎖の事か?」

 

〔そうだよ〕

 

 御出でませ的な看板は見付けたが入れない様にされた意味不明な壁。

 

〔あの壁って何だっけ?〕

 

「【嘆きの壁】だな」

 

〔【聖闘士星矢】に出てくる冥界は地獄、それも最終地獄ジュデッカの深奥に在る壁。地獄とエリシオンを繋げる【超空間】を隠すモノ……か〕

 

「その通りだ」

 

〔魔人族がこれ以上に力を付けない様に閉鎖したんだっけ? まったく、何処の冥界だよ」

 

 意味が判らないよとばかりなハジメ。

 

「僕は【カンピオーネ!】な世界に行ったから、神の権能を使える様になった。冥界の王ハーデスから得た権能で僕は冥王として振る舞える程度の力は持っているのさ。因みに、仮に【嘆きの壁】を突発しても【超空間】に阻まれているからね、それも突発するには神の与えた加護や神器が必要となるな」

 

〔それだと僕らも駄目じゃん!?〕

 

「神の血を塗り込んだ装備品とか」

 

〔有る訳がないだろ!〕

 

 その呆れが籠ったハジメの科白は至極尤もであったと云う。

 

「判ったよ、取り敢えずブルックの町に行って待っていてくれ」

 

〔ブルックの町?〕

 

「ああ、僕がエリセンの方のメルジーナ海底遺跡をクリアしたら合流するから」

 

〔メルジーナ海底遺跡? まさか、遺跡荒らしに転職でもしたの?〕

 

「否、大迷宮の攻略なんだがな」

 

〔……え?〕

 

「ああ、そういえば大迷宮に関しては今やしられてるのはオルクス大迷宮とライセン大迷宮とハルツィナ樹海くらいだったか」

 

〔そうだけど……〕

 

 【解放者】が反逆者に仕立て上げられてから既に千の位が使われるくらいに経ち、大迷宮に関するデータは散逸して【オルクス大迷宮】と【ライセン大迷宮】と【ハルツィナ樹海】の三ヶ所しか最早、人間族には知られていないらしい。

 

 グリューエン大火山が大迷宮の一つだというのも忘れ去られた知識だとか。

 

 況んや、シュネー雪原の大迷宮なんて知識的に残っている筈もなかった。

 

「近場がブルックの町になるからライセン大峡谷で野宿も辛かろ?」

 

〔まぁね。ちゃんとベッドでヤりたいし〕

 

 小声だったがユートには聴こえていた。

 

「避妊は確りな?」

 

〔ユートがくれた魔導器を着けて貰った上だから大丈夫だよ〕

 

 聴こえていたのに気付き、多少ながら声が上擦りつつもそう答えるハジメだが……

 

「近藤さんに穴を空けて妊娠しようとする女性も居るからな、実は偽物を身に付けて気付けば中村のお腹が脹れてました……なんてならない様に気を付けろよ?」

 

〔りょ、了解……〕

 

 昔から知る中村恵里なら『まさか、そんな事をする訳が無いよ』と返したであろうハジメだが、猫かぶりをやめてしまった彼女の本性を知る今なら『ヤりかねない』と考えてしまう辺り、ハジメも中村恵里をよく見ているらしい。

 

 魔導器に宿る魔力の波長から、ちゃんと視ていればきちんと判る筈だから性欲に溺れ切らなければ大丈夫だろう。

 

「ブルックの町に着いたら【マサカの宿】がお奨めだ。それからギルドではキャサリンという受付のオバチャンを頼れ」

 

〔オバチャン? その、若い受付嬢じゃなくって年嵩なオバチャンなのかな?〕

 

「ハジメ……お前、ホルアドの受付嬢が若さ全開だったからって余り夢見るなよ? 場合によってはオバチャン処かガチムチなオッチャンだという事も有り得るんだからな」

 

〔グフッ!〕

 

 中二病は卒業した筈なハジメだったが、やはりというか未だに芽は残っていたらしくてギルドの受付嬢は美女とか、行き成り凄い何かをやる事でギルド長の許へと呼ばれて、更には初めから高いランクを与えられる……みたいな。

 

 昔、アリサが迷宮都市セリビーラで言っていた事をハジメも夢見ていた気があった。

 

 ホルアドの受付嬢は鈴鳴――スールードだ。

 

 実際は何万年も今の姿の侭で在り続けた所謂、【永遠存在(エターナル)】という者の一人である。

 

 まぁ、普段は第四位の永遠神剣を持って行動をしているから気付き難いのだが、そもそもそれは幾つにも分けられた分体に過ぎない。

 

 仮に死んでも本体ではないから問題も無いと云う訳で、ユートと何度か敵対する事もあったりするが逆に味方になる事もあった。

 

 勿論、その時は分体とはいえそのどちらと云えば幼さのある肢体を愉しませて貰っている。

 

 敵対した場合は血湧き肉躍る本気の殺し合いをしているが、これは寧ろ殺し愛にも等しいというべきなのか? 決着をしたら遺恨も忘れて求め合い【御突き愛】をしていたりする辺り、明らかにこの二人は普通で無い関係だろう。

 

 だから見た目だけならホルアドの受付嬢である鈴鳴は【美少女受付嬢】だった。

 

 ハジメが夢見るのも已む無しである。

 

 とはいえ、ユートの見立てではキャサリンとて痩せればまだまだイケる美女だと思われた。

 

 それこそフューレン支部長イルワ・チャングから見せられた当時の写真のキャサリン並に。

 

〔兎に角、待っていれば良いんだね?〕

 

「ああ。あ、宿ではソーナ・マサカって娘が客の相手をしてるけど目は付けられるなよ」

 

〔な、何で?〕

 

「覗かれるぞ、情事を」

 

〔……了解したよ〕

 

 色々と普通では無いらしい事だけは。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 リリアーナの自室。

 

『どうにもおかしな雰囲気だな』

 

「雰囲気……ですか?」

 

『ああ。私が退化しチコモンの状態で認識阻害を掛けてまで行なった城内の探査だったが、国王にしても大臣にしても高位の者らが虚ろな瞳でブツブツと呟いていた』

 

「御父様までも!?」

 

 リリアーナは最近だと母親であるルルアリア・S・B・ハイリヒ王妃とは歓談も交え食事を摂ったりもするが、父王とは御無沙汰気味であったのを思い出しはしてもまさか……という思いがどうしても抜けない。

 

『異端という言葉を紡いでは苦しむのを繰り返していたな』

 

「異端……それではユートさんを異端に?」

 

『恐らくはな。前に銀髪のシスターが会いに来たのを覚えているか?』

 

「確か、シスターエーアストですわね」

 

『クックッ、エーアスト……な』

 

「どうしたのです?」

 

 マグナモンの失笑が気に掛かる。

 

『我が主から聞いた話によるとその昔、反逆者と現代で呼ばれる組織【解放者】が戦ったとされるエヒトルジュエの使徒の名にエーアストが有ったと記憶している』

 

「っ! そんな大昔の人物が?」

 

『人間ではあるまいよ。我らが主により生み出されたのと同じ、エヒトルジュエが神代魔法か何かで造り出した神造人間といった処か』

 

「貴方も神代魔法で?」

 

『否、神の力が関わるのは確かだがな。神器だと前にも説明したろう? 我らが主ユートは強力な神器を幾つか所持する。平行異世界の地球の神の一柱……【聖書の神】と俗称で呼ばれる存在が造った神器システム。そのバグにより発生した神滅具の一つ、【魔獣創造】の禁手たる【至高と究極の聖魔獣】にて生み出されたのが我々――ロイヤルナイツと称されるデジモン、その紛い物とでも云う聖魔獣なのだ』

 

「紛い物……ですか……」

 

『基本的には本物と変わらない。違うのは真なるデジタルワールドに自然発生をしたのではなく、主により創り出された存在だと云う事だな』

 

「そうですか」

 

『そんな事より姫の父君だがな』

 

「! そうですわ!」

 

 ちょっとおセンチな気分になったが、これからの話は家族の事だから放っては置けない。

 

『この侭では魂を押し潰されながら主を異端扱いするかも知れんし、向こうから受けた情報によるとエーアストの同類であるノイントが動いていたらしいのだ』

 

「神の使徒がですか?」

 

『ああ。教会ではなくエヒトルジュエ本人に仕える身だからイシュタルは苦しまん。しかも下手に王の身に何かあれば姫が一時的に女王になるしかならなくなり、こうなってくると姫の身にも危険が及びそうだ』

 

「確かにランデルの年齢を考えますと最低限でも五年は即位が出来ませんわね。ランデルしか居ないなら兎も角、成人に近い私が居るからには王国の舵取りは私の仕事になりますわ」

 

 ランデルは王太子に当たるだろうが、年齢的にはまだ一〇歳の小僧に過ぎない。

 

 ならば王女ではあるが四歳は上のリリアーナが

中継ぎの女王になるのが真っ当、というより寧ろ母親である王妃のルルアリアが一時的に国政を司っても良さそうな話だ。

 

 問題があるとしたら彼女がハイリヒ元王女で、現国王が婿養子ならば……と註釈が付く。

 

 流石にそうでないなら一時的にもハイリヒ王権を揺るがす人事は出来ないだろう。

 

 ユートのハルケギニア時代、本来の世界線では王女のアンリエッタが王権を継いだが本当ならば元王女の王妃が中継ぎをするべきだった。

 

 喪に服すとか言ってサボったから王権が揺らいでいたし、本来は教皇にもなれたマザリーニ枢機卿がいつまでも宰相の真似事を貴族から疎まれながらやっていたり、本来なら有り得ない状態だったのは間違いないだろう。

 

 因みに、ユートが居た世界線ではアンリエッタがアルビオン王国の王妃に、トリステイン王国にはルイズが女王に即位した上で使い魔の平賀才人が王配となった。

 

 勿論、平民で使い魔なんて身分では王配になぞ普通は成れないのだろうが、先ずは平賀才人とはアルビオン戦役や邪神戦役の【英雄】の一人として名を上げており、その上で高位貴族の養子という立場を得てから婚姻に至っている。

 

 解り易く、ド・オルニエール侯爵の義息子にしてラ・フォンティーヌ大公の義弟という形だ。

 

 大公なんて某大公家くらいしか最早、無くなっていた――何処ぞの大公家は公爵に落ちた――から

表立って文句を言える貴族は居なかった。

 

 リリアーナとしては家族を助けたいとは思うのだが、自分を守る事すらやっとな現状ではどうしようもない。

 

 護ってくれるのはマグナモンだったり近衛騎士だったりだが……

 

 マグナモンは当然ながら超絶的な強さだろう、だけど飽く迄もユートが厚意で付けてくれた護衛な上に、亜人差別が蔓延るこの世界では大っぴらには出せない切札であるからには、表に出して戦わせるのは本当に最後の手段だった。

 

 であるからには、通常の護衛は近衛騎士であるメルド達に任せるしか無いだろう。

 

(不謹慎ですが暫く御無沙汰でしたしユートさんに御会いして淋しさを慰めて貰いたいですわね。ならば、マグナモンとメルド……正確には表向きはメルドだけですけど。愛子殿の御仕事の視察という名目で城から出ましょうか)

 

 リリアーナは皮算用にならない様にマグナモンと内容を詰める。

 

「マグナモン、愛子殿の作農師としての御仕事はいつ頃か判りますか?」

 

『それなら来週から入っている。アンカジ公国の方だった筈だ』

 

「あら、他国ですの?」

 

『彼処は食糧関係が農業で成り立つからな』

 

「ユートさんは?」

 

『主ならアンカジを出てエリセンに行った筈』

 

「割と近いですわね」

 

 ならば丁度良いかも知れない。

 

『私は愛子殿の仕事の視察という名目で城を一時的に出て避難をしますわ』

 

 考えを口にすると……

 

『悪くないな。【愛ちゃん護衛隊】の園部優花と宮崎奈々と菅原妙子は主の身内である【閃姫】と

準身内に当たる。つまり愛子と共にアキレス腱になりかねないのだ。序でにヘリーナとニアを世話役として連れ出してしまえ』

 

 何だか+αを付けて賛成された。

 

「……ヘリーナは兎も角、ニアというと雫の部屋付きを任されていた? ユートさんったらいつの間にニアにまで手を出してたのかしら?」

 

『ヘリーナだけでは手が届かない部分を任せる為の協力者らしいな』

 

「そうですか」

 

 仕込みとしては可愛い容姿のメイドを身繕い、変わった甘い御菓子で釣りながら仲良くして謂わば好感度を稼ぎ、少しずつ相手の警戒心を解きほぐしていって誰も見てない場所に誘導しつつ甘い言葉を掛けて気分を盛り上げ、ちょっとした隙を見せて絆されたのを確認してからキスまで持っていき、様々な経験に裏打ちされた技術で蕩けさせてイケそうなら最後までパックリと。

 

 ニアは雫の話をすると嬉しそうに話を聞いてくるし、『雫も望んでる』と耳打ちをしたらキスで蕩けて判断力が曖昧になっていたのもあってか、割とすんなりと堕ちてくれたのである。

 

「もう、ユートさんったら。私なんていつでも諸手を挙げて待ってますのに……って、ヘリーナも知っていましたわね!」

 

『当然だな』

 

 何はともあれ、計画をマグナモンと立ててからメルドを巻き込んだ脱出劇が始まりそうだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 エリセンは海の町。

 

 海人族が王国から保護を受けている土地だ。

 

 砂漠の端の港からエリセンへ船で向かう必要性がある訳だけど、そこはそれとばかりにキャンピングバス――オプティマスプライムが強化パーツを装着してキャンピングヨット化して海を往く。

 

 キャンピングヨット化したオプティマスプライムが進んで二時間、エリセンの町の可成り近くで停まる羽目に陥っていた。

 

 周囲を海人族と思われる男に囲まれたから。

 

 揺蕩う波を観ながらシアと雫のおっぱいを揉んでいたら、穂先が三股の槍――トライデントを突き出した複数の男共が激しい音を立てながら一斉に海の中より現れたのだ。

 

 その数は約二〇人くらい、エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレの如く耳を持った海人族であると判る集団である。

 

 どいつもこいつも皆が皆、警戒心に溢れ剣呑に目を細めているのは恐らくミュウが攫われたからであろうが、だからといって敵意を丸出しにして囲むなどユートからしたら『どうか殺して下さい』と頼む行為でしかない。

 

 況してや、ミュウが御昼寝中だから女の子との御愉しみの真っ最中だったと云うのに邪魔をされた形だからイライラする。

 

 シアと雫も外で波の揺らぎと潮風を浴びながら雰囲気が盛り上がり、紅い顔でキスをしたり更にはユートの下半身をズボン越しに触れたりなど、赤の他人な誰かに視られるには余りにも恥ずかしい場面だったから完全に真っ赤だ。

 

 そんな痴態に眉根を顰めつつもユートから視て正面に位置する海人族の男が、右手に持つトライデントを突き出しながらも問い掛けて来た。

 

「お前達はいったい何者だ? そして、どうして此処に居る? その乗っている物は何だ?」

 

 

 ユートは二人にキスをして揺ったりたちあがるのだが、三又の槍を突きつけられて包囲されている状況で態々、色ボケに走るのが余裕をかましたふてぶてしい人間としか映らなかったらしい。

 

 尋問した男の額に青筋が浮かぶ。

 

「貴様!」

 

 実際に余裕なのだから仕方がないのかも知れないけど、シアも雫もちょっとは空気を読んで欲しいと考えたのは贅沢なのだろうか?

 

 取り敢えずは今の一触即発の状況を打開したいと考え、ユートに代わってウサミミを揺らしながらシアが海人族へ答えようとした。

 

「あの、その……少し落ち着いて下さい。えっと、私達はですね……」

 

「黙れっ! 高が兎人族如きが勝手に口を開くなど何様の心算だ!?」

 

 兎人族の地位は樹海の外の亜人族の中でも低いらしく、海人族の男は答えたシアに対して怒鳴り散らしてくる。

 

 海人族から見れば舐めた態度でしかないが故に意地があり、他の亜人と違い差別対象として視られていない矜持からか槍の矛先はシアへと向き、凄まじいまでの勢いで突き出された。

 

 仮面ライダーに成らずとも身体的に強化をされただけでも、シアの身体に海人族の攻撃など通ったりしないのだが、槍の軌道は頬に当たっている位置だったのは浅めに攻撃を入れ少し傷を付けて警告しようとしたのだと思われる。

 

 警告に過ぎなかったにせよ、シアに攻撃が通ったりしないにせよ、その行為は仮令ミュウを攫われて気が立っていたとしても許されざる行為で、ユートは静かにエボルトラスターを鞘から抜き放つとキラリ……光を放った。

 

 銀色のウルトラマンネクサス・アンファンスがグングンアップで約四九mの巨体を顕す。

 

『デュワッ!』

 

『『『『ハァ!?』』』』

 

 海人族の全員が目を見開いて、光の巨人化をしたユートの姿にあんぐり口を開いていた。

 

『フン!』

 

 超能力で船から吹き飛ばしたら……

 

『ハァァッ!』

 

 居合いの様な構えから右腕を縦に左腕を横にしてクロスさせる。

 

『クロスレイ・シュトローム!』

 

 放たれた光線だったが、海人族を直撃する訳ではなく少し離れた位置へのコース。

 

『『『『ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!?』』』』

 

 だからといって被害を受けない訳では無い。

 

 吹き飛んでいった男共、海人族だから海で溺れたりはしないだろうにせよ衝撃で気絶した。

 

『オプティマスプライム、強化パーツパージ』

 

 ヨットのパーツをパージしたオプティマスプライムはバス型に戻り、ウルトラマンネクサスはそれを両手で持って空を仰ぎ飛ぶ。

 

『ダァァァッ!』

 

 あっという間にエリセンの真上。

 

『ミュウ、起きてるか?』

 

「パパ?」

 

『自分の家がどの辺りか判るか?』

 

「えっと……」

 

 ミュウの前にはディスプレイが幾つか浮かんでおり、パッパッと画面がだいたい一〇秒毎に切り替わっていく。

 

「あ、これなの!」

 

 ミュウの視点を第三視点から捉えたユートは、エリセンはミュウの家の前まで行って降りる。

 

 ズンッ! 小さいながら地響きを鳴らしながら着々をしたウルトラマンネクサス。

 

『レミアという女性は在宅か?』

 

 海人族も王国兵士も何事かとわらわら集まってきたが、五〇m近い銀色の巨体を見て驚愕と恐怖に戦慄をするしかない。

 

 ヨロヨロと別の海人族の女性に肩を借りながら出てきた美女、それはミュウを大人にしたらそうなるという典型的な姿をしていた。

 

「私がレミアです!」

 

 巨人を前にしながらも気丈な態度で名乗る辺りは好感が持てる。

 

『脚に怪我をしているのか』

 

 肩を借りないと歩けないくらい酷いダメージを受けているらしく、肩を支えてくれていた女性が腰を抜かしていたからフラフラ足取りが怪しく、明らかに怪我を負っているのが判った。

 

 ウルトラマンネクサスは二mくらいに小型化をすると、キャンピングバスを置いてレミアをスッとお姫様抱っこで抱えてやった。

 

「あ、あの……?」

 

 行き成り人外な存在に触られてビクッと肩を震わせるものの、それでも自分を指名した銀色の人に何かを言い掛けるが……

 

「レミアさんから離れろ!」

 

 小型化したならイケると践んだか、海人族の男の誰かが槍を構えて飛び掛かって来る。

 

『パーティクル・フェザー!』

 

「うわっ!?」

 

 小さな光線の塊を放って槍にぶつけてやると、海人族の男も勢いに引かれて吹っ飛んだ。

 

「詠唱も無しに魔法だと!?」

 

 魔法ではないのだが、何も知らない王国兵士はウルトラマンネクサスの攻撃に驚く。

 

『メタ・フィールド!』

 

 ウルトラマンネクサス・ジュネッスに変身しながら、メタ・フィールドと呼ばれる異相空間を造り出したユート。

 

 完全隔離されたメタ・フィールド内に入ったのはウルトラマンネクサスとレミア、キャンピングバスとその中に居るメンバーだけであった。

 

 外では行き成り消えた事に全員が驚愕する。

 

 ユートはメタ・フィールドに余剰エネルギーを与えると元の姿に戻った。

 

「に、人間族!?」

 

「まぁ、間違いじゃない」

 

 キャンピングバスの入口たる扉を開いて中へと入ると、其処には涙を浮かべながらティオに抱っこされたミュウが居る。

 

「ミュ、ミュウ……?」

 

「ママァッ!」

 

 ティオから降りてミュウが駆け出す。

 

 ユートはそんなミュウがすぐに抱き付ける様にレミアを降ろしてやった。

 

「ママ、ママ、ママァァァッ!」

 

「嗚呼、ミュウ……ミュウなの? 本当にミュウなのね!?」

 

 抱き付いてきたミュウを座った侭に抱き締めてやるレミアだが、脚に負った怪我の痛みが響いてきて……

 

「っ!」

 

 小さく呻いた。

 

「ママ? ママ、あしがいたいの?」

 

 顔を顰めるレミアに不安気なミュウはユートを見て叫ぶ。

 

「パパ! ママのあしをなおして!」

 

 吃驚して顔を上げるレミア。

 

「……へ? ミュウ、貴女……今何て言って……? パパ!? パパって言ったの?」

 

 バス内にはそこそこの人数が居るが、ミュウと自分を含めて全てが女性ばかりの中に在って一人だけ男なのは、先程まで銀色の巨人だった人物しか居なかったりする訳でレミアは振り向く。

 

 そのパパと呼ばれた男性はミュウを優しそうな視線で見つめていた。

 

「心配するな、ミュウ。パパがすぐに治す」

 

「うん!」

 

 その瞳にはパパに対する信頼感が溢れていて、微塵にも失敗とか不可能など考えてない。

 

「レミア……さん、ちょっと恥ずかしいとは思うが脚を見せて貰うぞ」

 

「……え? あ……っ!」

 

 M字開脚させられて下衣が丸見えになる体勢にさせられ、生足を異性にジロジロと視られているシチュエーションに頬を朱に染める。

 

 生娘ではないにせよまだ二四歳の若い女性であるレミアは、見知らぬ男にこんな事をされて何も感じない程に達観はしていない。

 

 というか、場合によっては下衣を着けていない事もあるから恥ずかしくなった。

 

 【再成】と呼ばれる力が在る。

 

 エイドスの履歴を最長二四時間まで遡り外的な要因により損傷を受ける前のエイドスをフルコピーして、それを魔法式に変換し上書きをしてしまう事で損傷を無かった事にする魔法。

 

 刻に干渉するという程ではないが、そういった能力なら権能の中にあるが故にユートはレミアにそれを使った。

 

 回復系の魔法ではなく刻を溯行させる事により傷を無かった事にする、刻の神カイロスから簒奪をした権能の派生型の一つ。

 

「嘗ての栄光は今此処に……【美しきあの頃へ(リワインド・バインド)】」

 

 本来の使い方としては相手を胎児にまで戻して存在を消滅させるのだが、可成り加減をして傷を追う前にまで戻してやれば良い。

 

「ぬ、う……難しい……」

 

 ユートは別の権能に切り換える。

 

「在りし姿を取り戻せ……」

 

 この侭では戻し過ぎてしまうと考えてか更なる派生させた権能を。

 

「【輝ける刻の追想(リターン・オブ・タイム)】」

 

 何とか上手く権能を制御したユート。

 

「ハァハァ……上手く……いったか?」

 

 目の前には茫然自失でミュウを抱いたレミアの姿が在り、確かにユートの権能は上手く働いたらしいと口角を吊り上げ……愕然とした。

 

「あれ?」

 

 ついさっきまでは妙齢の美女が立っていた筈なのに、ミュウを抱く海人族の女性……は何故だか雫や香織くらいの少女に成っている。

 

 顔立ちからレミアなのは間違いない筈なのに、見た目が明らかに若返っているのだ。

 

「えっと、レミア……さん?」

 

「え、はい。そうですけど……あの、どうかなさいましたか?」

 

 まぁ、姿見とかで自分を見ていないと客観的には判らないのだろう。

 

「ママ……なの?」

 

「ミュウ?」

 

 首を傾げるミュウにレミアも首を傾げる。

 

 ユートは『やっちまったぜ』とか思いながらも姿見を出してレミアの前に。

 

「あら、あらあら? まぁ、これは若い頃の私でしょうか?」

 

 ミュウを抱いている少女が自分だとすぐに気付いたらしく、ほんわかした雰囲気で頬に手を当てながら呟いた。

 

「ちょっとおかしな方向性になったな。取り敢えず元に戻さないと……」

 

 ジリッと後退るレミア。

 

「えーっと、戻さないと駄目……ですか?」

 

「……気に入ったなら構わないけどね」

 

 あからさまにホッと胸を撫で下ろす辺り()()なのだと理解が出来る。

 

 今はだいたい一六歳くらいの姿らしく、本来の二四歳だった頃に比べて肌の張りやノリが格段に違い、二十歳中盤となれば曲がり角に差し掛かる訳だから小皺を気にする年代まで後少しとなり、折角若返っているなら女性であれば今の侭で居たいのだろう。

 

 単純にスキンケアで若返って見えているのでは無く、肉体そのものを過去へと溯行させた結果だから今のレミアは旦那と子作りする前にまで戻っている状態だ。

 

 だからといって過去を歪めて変えた訳ではないから、ミュウがタイムパラドックスによって消えたりもしない。

 

 レミアが結婚して初夜で初めて生娘を卒業したのなら、ミュウの年齢からして六年前に処女を今は亡き旦那に捧げた訳で、一八歳の時に仕込んで一九歳の時にミュウが産まれた計算だ。

 

 レミア自身は遊んでる感じじゃなくて、旦那とも結婚までは清い関係だった可能性もあったし、何よりこの世界の避妊方法は寸前に抜くぐらいしか無いみたいだから、下手にヤったらそれより前に妊娠をしていた可能性もあるのだ。

 

 尚、雫に調べて貰ったら確かにレミアは処女だったらしい。

 

 本人が気に入ったなら戻す理由も無いからと、ユートはその侭にしておく事にした。

 

「本当に皆様、有り難う御座います。ミュウを救い出して戴いた上に私の怪我も治して貰って更に若返らせて戴けるなんて」

 

「そっちは間違ってやったんだけどな」

 

 余波というか、力加減を間違っただけ。

 

「あの権能は刻の神カイロスをぶっぱした時に、神氣を喰らっていたから獲られたもんだからな。そもそも奴が使った際も単純に時間を溯行させて胎児より前に戻す力だったし」

 

「た、胎児より前にって……」

 

「前世持ちで前世が強力且つ凶悪だと返り討ちにされたり……とか」

 

「裏浦島か!」

 

 雫のナイスなツッコミ。

 

 因みにユートは前世持ちと云えなくはないが、今より強いかといえばそうではない。

 

 最初の頃ならいざ知らず、今現在なら間違いなく現状のユートの方が強いであろう。

 

 当たり前だ。

 

 肉体的に未熟だった時ならば単純に肉体性能が勝っていたが、今は数々の世界を経験しただけでなく前世の知識も持ち合わせている上、神殺しを成した魔王にも列せられて神の持つ権能を幾つも手に入れている。

 

 それに本来なら一つ有るだけでも破格と云える神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)を、元々の持ち主から剥ぎ取ったり転生者が獲たのを剥ぎ取ったりして一人で幾つも保有していた。

 

 まぁ、その内の二つは同時に扱うものでは無かったりするし、とある権能を使ったらそもそもが扱えなくなる欠点もある。

 

 それに有効活用しているのは精々が三つだけ、神器が存在した世界で敵対した少年から剥ぎ取った【魔獣創造】、【闘神都市】世界でユーキが見付けた転生者から剥ぎ取った【白龍皇の光翼】、同じく【闘神都市】世界に転生をしていた嘗ての分家筋の長男たる狼摩優世が持っていた【赤龍帝の籠手】くらいだろう。

 

 特に【魔獣創造】は宿した瞬間に禁手に至り、【至高と究極の聖魔獣】という亜種として顕現をしていて、デジモンのロイヤルナイツを皮切りに様々な部分で活用をしまくっていた。

 

 まぁ、宿した瞬間に禁手というのは他の神器も同じな訳だが……

 

「さて……それじゃ、そろそろメタ・フィールドも切れる頃だから御仕事を開始するかね」

 

「御仕事……ですか?」

 

「ミュウをエリセンまで連れて来たのは人情的な意味合いも勿論あるが、仕事としての側面もあったからそこら辺の報告やら何やらをやっておかないといけないし、やらないと無闇矢鱈と海人族やエリセン常駐の王国兵士と敵対する事になる」

 

「まぁ、そんな事が……」

 

 レミアからしたらユートは娘を送り届けてくれた上に怪我まで治療して貰い、剰え若返らせてもくれた大恩人だと云っても過言ではない。

 

「では私も口添えさせて貰いますね」

 

「そうしてくれると有り難いな」

 

「ではでは」

 

 そうしてレミアにより行われたのは……

 

「ええっと、つまり彼らはミュウちゃんを貴女の許へ送り届けた冒険者であり、しかも【金】ランクだと云う事ですか?」

 

「はい、相違ありませんわ」

 

 レミアがユートと腕を組み、ミュウは肩車をされて大喜びという【閃姫】から見たら絶叫したくなる光景だったと云う。

 

 実際、レミアが怪我も治って歩いているのやらミュウが懐いた状況を見て尚、ユートを海人族の子供を攫いに来た野郎だと叫べる連中など居る筈もなかった。

 

 別の意味で睨んでいるし、女性陣はレミアに新しい春が来たとか喜んでいるしで中々に騒がしかったりするけど。

 

 光の巨人に成ったのや攻撃したのはそういった技能と、謂わばあちらが行き成りシアの額を槍で刺して殺そうとした事への正当防衛と称した。

 

 それはサーチャーで録画されていたから真っ先に潰され、シアを攻撃した海人族の男は牢にぶち込まれる羽目に陥る。

 

 【金】ランク冒険者であり、フューレンの町のギルド支部長イルワ・チャングがその身分を保証しており、更には雫と香織は未だに神の使徒へと数えられていた為にか、レミアとミュウを救った

大恩人を貶めたとしては如何な王国が庇護をしている海人族とはいえ、軽い罰則くらいは喰らってしまうだろう。

 

 何より堪えたのがレミアの虫を視る目に加えてユートに御礼という頬へのキス、しかも何故だか若返っているのだから可憐な乙女だった頃を思い出させられ地獄に沈む。

 

 憐れな。

 

 ユート達への疑いは晴れ、レミアには新しい春がきたと囃し立てられた上でミュウが単なる慕うを通り越しパパ呼び、しかもユートがレミアの家に宿泊とか海人族の【レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会】とやらは議会が紛糾して荒れに荒れたらしい。

 

 哀れな。

 

 暫くの日数はレミアの家に宿泊をし骨休めをしていたが、全員が充分な休息を取った後はミュウを説得して【メルジーネ海底遺跡】へと向かうのだった。

 

 

.




 ミレディにとってもうすぐ運命の刻……





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第67話:鈴だって御役に立ちたい!

 脱水症状と夏バテでダウンしました。





.

 メルジーネ海底遺跡。

 

 海人族と吸血族のハーフとして生を受け神代魔法をも操るメイル・メルジーネが造ったとされる大迷宮、勿論だがミレディならある程度の情報は持っているのだろうが、流石に攻略本を見ながら攻略をする気は無いユートは普通にミレディを置いて攻略に乗り出す。

 

 一応だが攻略の証の使い方は聞いたけど。

 

「月明かりを特定の場所でグリューエンの攻略の証を翳す……ね。ゲームみたいな設定ではあるが、ナイズ・グリューエンはロマンチストなのかな? 中々に趣のある設定だ」

 

「ふむ、なればやはり大迷宮の攻略には順番というのが有りそうよの」

 

「ああ、少なくともメルジーネ海底遺跡に入るにはグリューエン大火山から攻略しないといけない訳だし、ハルツィナ樹海は四つの証が鍵の一つになるからな」

 

 月を眺めながらユートとティオが語り合う。

 

 キャンピングバスたるオプティマスプライムは再びヨットパーツを装着、キャンピングヨットとなってユート達は大海を航っていた。

 

 ティオがユートの隣に居るのは他の娘が遠慮をしてくれたから、今まではミュウの世話係を任されていてイチャイチャと出来ずにいたのだけど、ミュウは母親の許で待つ事になっている。

 

 つまりは役目から解放されたのだ。

 

 頬を朱に染めてユートの方へ科垂れ掛かっているティオの姿が、まるで恋する乙女の如く見える

のはきっと見間違いではあるまい。

 

「ようやっとこうして寄り添えるの」

 

「本当に良かったのか? 見ての通り僕は浮気者とかいうレベルじゃないぞ。この世界だけで見ても何人の娘と閨を共にしたものか」

 

「フフ、強き雄が群れを作る時に雌が複数居るのに何の蟠りがあろうか。妾も群れに迎え入れて貰えるなら本望というものじゃよ」

 

 勇ましくも麗しい黄金の竜眼も潤んだ瞳となっており、今までに雄の唇を一度も赦した事が無いティオの艶々した唇が近付きユートの唇とゆっくり重なり合う。

 

 僅か数秒に過ぎない重なりはすぐに離れるが、今度はユートからティオにキスをした。

 

「んっ、激しいのじゃ……」

 

 目を閉じて軽く開いていた口の中へユートの舌の侵入を赦し、グチュグチュと唾液が混ざり合いながらティオの舌と絡み蹂躙されている。

 

 本当に出逢ってまだ一ヶ月と経たないにせよ、長い時間を御預けされてきただけに望みが叶って涙を流すティオ、蹂躙されるだけでは足りないと自らも舌を積極的に絡ませていった。

 

 ソッと片目を開けてユートの下半身を視れば、あの夜の時みたいに確り屹立している。

 

 求めてくれているのだと嬉しく思い、手を伸ばして白魚の様な指をユートの下半身の屹立をした部位へ絡めた。

 

(妾をもっと求めてたもれ、妾を貴方のモノに……妾の全てを征服して欲しいのじゃ!)

 

 ティオが仲間になるまでは一番だったシアよりも大きな胸を鷲掴みに、然しながら乱暴にするのではなく優しく包み込む様な揉み方に御腹の奥深く……赤ちゃんを育てる部分がジュンと燃え上がるが如く熱くなってくる。

 

 月明かりに照らされながら二つの影はゆっくりとしつつ、だけれど激しく重なり合って男の影が女の影の上に覆い被さった。

 

 暫くの間、波に揺れるのとはまた違った揺れがヨットを揺らしていく。

 

 清涼とした夜の月の下、熱いマグマの如く睦み合う男女を見守る者は居なかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、女の顔をして朝餉を食すティオに全員が苦笑いを浮かべるしかない。

 

 まさか、部屋に戻らず外で始めてしまうなんて予測は……ついたが本当にデッキの方でヤるとは思わなかったのだ。

 

 ホクホクと朝餉を食べているティオは出逢った当初から美女ではあったが、何故か今は何処かしら艶の様なナニかが見て取れる気がする。

 

「うん、どうしたのじゃ?」

 

「あ、何でも無いわ」

 

 雫が代表して首を横に振った。

 

 実は雫、覗き見をしていて自分の御股を濡らしてしまったので恥ずかしそう。

 

「フフ、漸く主殿の寵愛を戴けたのじゃ。これからは雫達とも閨を共にする事もあろうからのぉ。妾は特に気にしておらんよ」

 

「き、気付かれてるし……」

 

 穴があったら入りたい気分だった。

 

「さて、今宵は例場所に着く。メルジーネ海底遺跡の攻略をするんだ、各人は確りと体調を整えておいてくれ」

 

『『『『了解!』』』』

 

 昼寝するも良し、読書するのも良しだ。

 

「……ユートはどうする?」

 

「メタルクラスタホッパープログライズキーってのを作製する予定だ、ユエ」

 

「……メタルクラスタホッパー?」

 

「ああ。白夜……僕の【閃姫】の一人なんだけど、彼女の記憶からするとシャイニングアサルトホッパーより強力なゼロワンの中間フォームだよ」

 

「……ん? 中間フォームって?」

 

「初期には無い仮面ライダーも居たんだが、大概は持っている初期フォームと最強フォームの中間に位置する強化フォームだな」

 

 仮面ライダー龍騎や仮面ライダーカブトには無かったし、仮面ライダーキバもフォームチェンジは兎も角として――ドガバキはテレビ放映に出てない為――中間フォームは無い。

 

 仮面ライダーディケイドもコンプリートフォームという最強フォームだけ、中間フォームに位置するフォームというのは無かった。

 

「仮面ライダークウガならアメイジングマイティだし、仮面ライダーアギトならバーニングフォームがそれに当たる。仮面ライダーブレイドならジャックフォーム、仮面ライダー響鬼なら響鬼・紅だろう。仮面ライダー電王はクライマックスフォームもライナーフォームも最強フォームといえそうだからな……」

 

 飽く迄もイマジンが戦っていたクライマックスフォームと良太郎自身が戦うライナーフォーム、どちらも最強フォームと云えるとユート的には考えている。

 

「アメイジングマイティって、確かまともに出たのは一回だけじゃなかった?」

 

「雫、それを言ったらアルティメットフォームなんて最終回前に数分間だけだぞ」

 

「そうだけどね」

 

 仮面ライダークウガはテレビ長編が久方振りという事もありまた特殊だろう。

 

 メタルクラスタホッパープログライズキーを造るにせよ、流石に『造ろう』→一分後に『完成だ!』という訳にはいかない。

 

 だからといって数日も掛かったりはしないのだろうが、それなりの時間はどうしたって必要になってくるから今までは造ってなかった。

 

 半日以上の暇な時間が有れば女の子と愉しい事をしていたのもあるが……

 

「ねぇ、優斗」

 

「どうした、雫?」

 

 解散したと思ったら赤い頬をした雫が部屋の方まで付いてきていた。

 

「大迷宮を攻略したら……さ。ティオさんみたいにして欲しいなって」

 

「ティオみたいに?」

 

「その~、外で夜中に」

 

「青姦がしたいと?」

 

「その、月下の海でってのも何だか良さそうっていうかロマンチストかなって……」

 

 見れば真っ赤になっている辺り、恥ずかしい事を要求している自覚は充分にあるらしい。

 

「雫がしたいなら構わないが?」

 

「う、うん……」

 

 頷くと走って行ってしまった。

 

 ティオが初めての痛みの後に気持ち良さそうな顔でヤっていたのを観て、雫としては自分の中の女が疼いてしまったのだろう。

 

「さて、造るか」

 

 メタルクラスタホッパープログライズキーの謂わばガワは簡単に造れるが、問題は中身となるであろう聖魔獣ゼロワン素体の強化パーツ。

 

 当たり前だが単純に聖魔獣を創って終わりなんて話には決してならない、そもそもがそれぞれの仮面ライダーで造り方は違うのだから。

 

 ゼロワンドライバーは起動の為の機器であり、聖魔獣ゼロワンが量子化して入るデバイス。

 

 このゼロワン素体にプログライズキーに容れた強化パーツが装着され、仮面ライダーゼロワンに変身が完了をする事になる訳である。

 

 当然ながらメタルクラスタホッパープログライズキーも、メタルクラスタホッパーの強化パーツをプログライズキーに設置しておき、ドライバーで喚起されたらゼロワン素体と合着させるのだ。

 

 つまりはドライバーの中の聖魔獣ゼロワンへと装着する強化パーツを造る必要があった。

 

 それに強化パーツにはそれぞれプログライズキーに合わせた能力を持たせ、魔導具みたいな働きをする鎧として機能させねばならない。

 

 フリージングベアープログライズキーならば、両手から吹雪を出せる機能だろう。

 

 白夜の記憶から視た仮面ライダーゼロワン・メタルクラスタホッパーは、小さな飛蝗が形を成した群体みたいなもので攻撃や防御に使っているという印象だった。

 

「はぐれ……否、メタルキング鋼を使うか」

 

 素材も相当に気を遣う。

 

 実際の素材が判らないからには見た目に似ていて使える物、それを使って出来得る限り似せて造るより他にないのだ。

 

 メタルキング鋼は死んだメタルキングを魔力で絞り液体化して地面へと消えない様にした物で、作り方はメタスラ鋼やはぐれメタル鋼と特に変わった事はしない。

 

 問題はメタルキングはそんなに生息しているという訳ではないから、捜すのも可成り手間を掛ける必要があるという事だろう。

 

 しかもあの形で素早いしパルプンテやベギラマ処か、個体によってはベギラゴンを使ってくるのまで居て中々に手強い。

 

 淘汰されず強くなったスライムが灼熱の炎を使ってくる様なものだ。

 

 まぁ、それでも結構な量を保有している。

 

 記憶にあるメタルクラスタホッパーの鎧を造る為に必要な物をピックアップ、当然だが素材としてのランクが高い物を吟味してから使う。

 

 アトリエシリーズでも初期のは兎も角として、後のシリーズでは素材にランクが有った。

 

 ランクが低くてもやり方次第でランクを高める手段もあるし、ランクが低いからといって素材を捨てたりはしていない。

 

「だいたいの素材は吟味終了、後はメタルクラスタホッパーの鎧を構築しないとな」

 

 見た感じでは形状記憶液体金属か何かであり、恐らく相転位か何かの技術が使われている。

 

 相転位ならPS装甲という物が存在しているし、ユートもユーキから造り方を聞いていた。

 

 あれは無重力空間でないと造れないらしいが、メタルクラスタホッパープログライズキーを造ったらしい人間は、そんな空間で造ったなんていう描写は無いから此方は可能な筈。

 

 別に本物を造る必要も無いし。

 

 それにユートは一から科学技術を構築まで出来ないが、既に在る技術を応用して別の技術として転換する事は可能だ。

 

 錬金術や【創成】を応用していけばメタルクラスタホッパーの鎧を構築も出来る。

 

 仮令、それが紛い物だとしても。

 

 こうして順調? に造り上げていくが、やはり例のあれには間に合わなかったりする。

 

 取り敢えず切りが良い処で作業は終了してしまったユートは、夕餉まではティオとのイチャイチャで今まで構わなかった分を補充。

 

 夕餉を摂った後は日が完全に落ちて月明かりが海を照らす時間帯を待つ。

 

 当然ながらミレディから予め聞いていた場所、座標に待機をした上で……だ。

 

 のんびり座って待っている間は雫が隣に座っていたり、ユエが背中に貼り付いていたりとやはりイチャイチャとしていた。

 

「そろそろ時間か」

 

 ユートはグリューエン大火山で手にした証を、アイテムストレージから取り出すとグッタリしながら寝ている【閃姫】を起こす。

 

 太陽が水平線の向こう側へと消えてしまって、その代わりにと月が輝きを放ち始めた。

 

 中々に洒落たペンダント、サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれ穴が空いているのだが、ミレディ曰くこの穴に月の光を満たすとメルジーネ海底遺跡への入口が開くのだとか。

 

 ユートが太陽光を反射して放つ優しい月光へとペンダントを翳すと変化が現れる。

 

「はわぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。凄く綺麗ですねぇ」

 

「ホントに不思議ね。穴が空いているのに」

 

 シアがうっとり見つめながら感嘆の声を上げ、それに同調する香織も瞳を輝かせている。

 

 普通の感覚を持った女の子が普通に綺麗な物へ目を輝かせる、鈴やユエやティオ……況してや雫なんかは頬を朱に染めて目が離せずにいた。

 

 ランタンが少しずつ月の光を吸収する様に底の方から光を溜め始めており、穴空きの部分が光で塞がっていく光景は小さいながら女の子達の心を鷲掴みにしているらしい。

 

「ふ~む、どうやらこの場所に何らかの仕掛けが成されておるのやも知れぬな?」

 

 ティオが推測を述べるがきっと正解だろうと、ユートも魔導具と思われるそれを興味深く観察していると、ランタンに光を溜め切ったペンダントが全体に光を帯びていく。

 

 ランタンから一直線に光を放って海面のとある場所を指し示していた。

 

「……とっても粋な演出。オスカーやミレディとは大違い」

 

「重力魔法なんかとは違って幻想的だな」

 

 ミレディが云うにはおもろい所も有るには有るけど、ちょっとお堅い性格で好きだと言ってくれる女の子――一〇歳以上離れてる――に困ってしまう青年だという事だが、『月の光に導かれて』というロマンチック感が溢れる道標にはユートとて感嘆の声を上げてしまうくらい遊び心がある。

 

 特にミレディの【ライセン大迷宮】の入口に在る『御出でませ』を知っているシアは、ユートと同じくで感動が滅茶苦茶に深かった。

 

 とはいえ、ペンダント内のランタンが何時まで光を放っているのか判らない、感激していたら消えてしまいました……では困るから導きに従って、キャンピングヨット航行させる。

 

「ちょっと待って!」

 

「どうした、雫?」

 

「ヨットでどうやって海底に向かうのよ?」

 

「メルジーネ海底遺跡と云うからには海底に有るのは判り切ってる。ヨットだからヨットの侭だとは思ってくれるなよ」

 

 ユートはキャンピングヨットに命じる。

 

「オプティマスプライム、潜航モードへトランスフォーム!」

 

 特に返事も無いが形状を変えていくオプティマスプライム、鋭角的になり水が漏れてこない様なバリアが張られたオプティマスプライム・ヨットモードがダイバーモードにトランスフォームをしたのだった。

 

「まぁ、確かに名前からして海底に有るって判るんだもんね……」

 

 ちょっと恥ずかしそうに呟く雫。

 

 夜間の漆黒の海、海上はまだ月明かりで明るかったのだが、証の導きに従って潜行したら真っ暗闇になってしまう。

 

 そんな中を潜水モードとなったオプティマスプライムのライトと、ペンダントの放っている光だけが漆黒の闇を切り裂いていた。

 

「それにしても、ダイバーモードだったかな? バリアを張って普通に潜っちゃうなんて吃驚しちゃったよね、雫ちゃん」

 

「そうね、確かにバリアを張ってるから海水が入ってこないんだろうけど……潜る為と海底の水圧に負けない様に鋭角的になっただけとか、驚くしかない仕様よね」

 

 香織と雫は感嘆というより呆れている。

 

 解せぬ……と首を傾げるユート。

 

「海底の岩壁地帯か」

 

 無数の歪つな岩壁がまるで山脈の如くに連なっており、オプティマスプライムが近寄っていってペンダントの光が海底の岩石の一点に当たると、鈍くて低い正しく重低音を響かせながら海底震動が発生を始めた。

 

 岩壁の一部が扉の様に真っ二つに裂けて左右に開き出したのだ、その先は光を拒む真なる闇だと云わんばかりに真っ暗。

 

「これじゃ、普通に捜しても見つからないよな。運良く見付けるなんて無理だわこりゃ」

 

 現在、大迷宮と人間族に伝わっているのは僅かに三つだけでしかなく、有名なオルクス大迷宮とライセン大迷宮、そしてハルツィナ樹海に存在しているとされる大迷宮だけ。

 

 だけど恐らく反逆者のファミリーネームだかを冠した地に有る、ユートは元々からそういう風に考えて図書館でハジメと調べていた。

 

 そして反逆者の名前を冠する地は七ヶ所が存在しており、七大迷宮との数の一致から場所だけは把握をしていたのである。

 

 正確には神山の【バーン大迷宮】は【神山】としか呼ばれない為にその名前を冠してはおらず、グリューエンと呼ばれる地名が二ヶ所も重複して存在していたのだが……

 

 グリューエンの名前は大砂漠と大火山の二ヶ所が有ったからどちらなのか判らなかったのだが、これに関してはミレディから教えられたからグリューエン大火山がそうだと判明した。

 

 メルジーネ海底遺跡の入口を見付ける難解さ、これでは口伝など途切れても仕方がない。

 

 グリューエンの大迷宮は名前を冠してる土地が二ヶ所だし、シュネー雪原は魔人国領だから確かめ様が無かったのだろう、神山に反逆者の大迷宮が存在するなど伝承に残せる訳もなかったし。

 

 ユートはオプティマスプライムを海底の割れ目へと侵入させていく。

 

 既にペンダントのランタンは光が半分程度にまで減って光の放出を止めており、この暗い海底を照らしているのはオプティマスプライムに備え付けられたライトだけ。

 

「ふむ、海底遺跡と聞いた時から思っておったのだが……そもそも我らはだいばーもーどなる代物が有るから往けるが、そうでなければ迷宮に入る事も出来なさそうじゃなぁ」

 

「……強力な結界でも使えないと無理」

 

 ティオの言葉にユエが頷いて言う。

 

「メルジーネ海底遺跡にはグリューエン大火山を攻略しないと来れん、つまり空間魔法を覚えてないと入れないっていう前提が有ったんだろう」

 

「ああ、つまりは入るのに空間魔法を利用するのがセオリーなのね」

 

 ユートは空間魔法前提の場所だからこそ順番がこうなったと考え、それに賛成をする雫も頷きながら言った。

 

 ゆったり深く潜行しながら自分達みたいな代物――潜水形態とも云うオプティマスプライムが無い場合の攻略方法について考察している。

 

「幻想的な入口だったから感動したけど、普通に考えたら超一流な魔法の使い手がそれこそ何人も居ないと此処に入るのも侭ならなかったよね」

 

 香織も追従した。

 

 気を引き締め直したユート達は海底の様子に対し更に注意を払う。

 

 そうした瞬間に鈍い音と震動が。

 

「何だ!?」

 

「……んっ!」

 

「ひゃあっ!」

 

「何なのじゃっ!?」

 

「キャアアッ!」

 

「くぅっ!」

 

「あわわっ!」

 

 横殴りの衝撃が船体を襲って一気にある方向へと流され始めたのだ。

 

 ユートの声を皮切りにユエが、シアが、ティオが、香織が、雫が、鈴が声を上げる。

 

 オプティマスプライムがグルグルと回るけど、この程度でどうにかなる程に柔ではない。

 

 すぐにもオートバランサーや慣性制御システムが働き安定をさせた。

 

「この激流は何処に続いているんだろうな?」

 

 目を回している皆を見ながら呟くユート。

 

 外の様子を観察すると緑光石の明かりが洞窟内の暗闇を払拭し、内部全体を視る事が出来るだけの視界を確保している。

 

 洞窟内を流れる巨大な円状の激しい奔流に捕まっているらしく、オプティマスプライムの制御をしながら流されるが侭に進むとレーダーが無数の物体を捉えた。

 

「どうやら何かが近付いてるね、大迷宮内なだけに魔物なんだろうが……」

 

 幾つか使わない様に封印した技能を解放したら多分だが判るだろうが、あれはイージーになり過ぎるきらいがあるからこそ封印したのだ。

 

 実際、あれは使うと手放せなくなる。

 

 そんな訳でユートは自身で今現在にえるであろう技能のみを使う。

 

「飛び魚か? まぁ、飛び魚モドキっつ話だろうけどな。喰らえよ!」

 

 オプティマスプライムはトランスフォーマーであるからには、きちんと戦闘能力も持たされているので取り敢えず魚雷をぶっ放す。

 

 飛び出してきた飛び魚モドキが次々と粉砕されていき、バラバラになってその屍を大量に晒して海の藻屑と化していた。

 

「うわぁ、まるで死んだ魚の目みたいですぅ」

 

「シアよ、韜晦するのはよすのじゃ。ハッキリ言うて正しく死んだ魚よ」

 

「はう~、オプティマスプライムさんはえげつないですぅ」

 

 風情の欠片も無い。

 

 幾らか進んだが何故か似た景色に戻るのを腑に落ちないとして調べるユート。

 

「これは……洞窟が円環状になっているみたいだ。だとしたら某か仕掛けがあるな」

 

 詳しい事をミレディから聞いている訳ではないから、【解放者】のリーダーが居るからといって攻略が楽になるとはいかない。

 

 攻略情報が無いのだから。

 

「仕掛け?」

 

「そうだよ、雫。七大迷宮は別に入り込んだ者を殺したい訳でも閉じ込めたい訳でもない。攻略をするのならやってみろと困らせたいに過ぎない」

 

「まぁ、意地悪と言えばそうだけど……ね」

 

「という事は、何らかの方法さえ見付ければ必ず攻略は叶う様に造られている」

 

「確かに……」

 

「とはいえ、このメルジーネ海底遺跡はグリューエン大火山を攻略した事が大前提。ハルツィナ樹海も攻略そのものは指定していなかったが再生の力……再生魔法だけは指定してきたからそれには何らかの意味が有る筈。そしてこの遺跡は空間魔法かグリューエンの証のいずれかを必須としているんだろうな」

 

 推測だが間違いではない筈だ。

 

「……ユートはどっちだと思ってる?」

 

「少なくとも、この洞窟のギミックにはグリューエンの証だろうな」

 

「……どうして?」

 

「ユエ、例えばオルクス大迷宮だとオルクスの証を手に入れない限り他の重要な部屋には入れなかったろ?」

 

「……ん」

 

 ユートの言葉に頷くユエ。

 

「あれは生成魔法無しでは余り意味を成さないからというのもあるけど、確実に生成魔法の入手とオスカー・オルクスのメッセージを見て貰う為に

仕掛けたんだろう」

 

「……つまり?」

 

「単に入る為だけに使うとも思えないし、何よりこいつを見ろ」

 

「……光が残ってる」

 

「まだギミックを解除する役割が残されているって証拠だよ」

 

 取り敢えずキャンピングヨットバージョンたるオプティマスプライムをもう一周させる事にし、何かの手掛かりが無いかを全員で捜してみる事にして動き始めた。

 

「あ、あれかな?」

 

 香織が見付けたメルジーネの紋章。

 

 この円環洞窟の数ヶ所に約五〇cm程度の大きさな【メルジーネの紋章】が刻まれている場所を発見、【メルジーネの紋章】とは五芒星の頂点の一つから中央に向かい線が伸びてその中央に三日月状な文様が有るというもの。

 

 それが先程に香織が見付けたモノを含め五ヶ所に存在する事になる。

 

「五芒星の紋章に五ヶ所の目印、光を残しているペンダントとなれば……ね」

 

 首から下げたペンダントを取り出したユート、オプティマスプライムの窓越しに翳してやったら案の定というかペンダントが反応。

 

 一直線にランタンから光が伸びると、紋章に当たってそれが一気に輝き出す。

 

「魔法でこの場に来る人達は大変だよね、直ぐに気が付けないと魔力が保たないかな」

 

 苦笑いを香織は浮かべて言った。

 

「確かに、グリューエン大火山の時とはまた違うギリギリまで頑張っていかないと死にかねない」

 

 ユートが頷く。

 

 魔法での維持は当然ながら精神力とかMPとかゲーム的に云われてるモノを消費してしまうし、それだけでなくスタミナや先とは違う意味合いでの精神がガリガリと削られてしまう。

 

 そうなるとやはり魔法で……というのは香織の言うのは間違いではなかった。

 

 ユートは紋章へランタンの光を注ぐ。

 

 二ヶ所目、三ヶ所目、四ヶ所目と同じく紋章にランタンの光を注ぎ、最後の紋章の場所にやって来た頃にはランタンに溜まっていた光も後す処は一回分程度の量となっていた。

 

「やるぞ、皆」

 

 全員が頷いたのを確認してペンダントを翳し、最後の紋章に光を注ぐと円環の洞窟から轟音を鳴り響かせながら先に進む道が開かれ、壁は真っ二つに分かたれる。

 

 オプティマスプライムを奥へ進めると真下へと通じる水路が有った。

 

 その侭、路なりに進めて往くと突如として浮遊感――エレベーターに乗った時みたいな感覚があったかと思えば落下する。

 

「なにぃ?」

 

「うきゃぁぁああっ!?」

 

「あう~っ!」

 

「……んっ!」

 

「ひゃっ、ですぅ!?」

 

「ぬあっ?」

 

「はわわ~!」

 

 ユートが、雫が、香織が、ユエが、シアが、ティオが、鈴が悲鳴をそれぞれに上げていた。

 

「チィッ!」

 

 ユートは舌打ちをして鈴を抱き締める。

 

「オプティマスプライム、テスラドライブでホバリングだ!」

 

 特に応える声は無いが、オプティマスプライムは言われた通り航行に使っていたテスラドライブ

を飛行というか浮遊に切り換えた。

 

 フワッとした感覚から成功と判る。

 

「大丈夫か、鈴?」

 

「う、うん……鈴は大丈夫だよ」

 

 鈴本人はそうは言いながらいまいち顔色は良くなくて、無理矢理に踠いてユートから距離を取る様に雫の方へと向かう。

 

「ふむ、鈴よ……そなた……」

 

 ティオには何やら心当たりがあるらしい。

 

 静かになって外を改めて視ると先程までと打って変わって海中ではなく空洞、取り敢えずは周囲に魔物の気配なかったしユート一行は船外に出てみる事にした。

 

 外は大きな半球状の空間であり、ふと見上げてみれば天井には大きな穴が空いていて原理は不明ながら水面が揺蕩っていて、水滴の一つも落ちる事は無く波が打っていた。

 

 どうやらオプティマスプライムは彼処から降りてきたらしい。

 

「海底遺跡というか洞窟みたいだな。こっからが本番という事かね?」

 

「……ん、全部水中でなくて良かった」

 

 

 今までのショートカットの事を考えてユートはオプティマスプライムを仕舞い、洞窟の奥に見えている路へ進もうとメンバー全員を促した直後……

 

「水幕結界!」

 

 ユートが右腕を天へ掲げながら叫び高密度の水が障壁となり全員を覆う。

 

 その瞬間に頭上から圧縮された水流がユート達に襲い掛かってきた。

 

 ユエがよく使う【破断】と同じタイプ、若しも直撃をすれば人体など容易く穿つものである。

 

 ユートの使った水幕結界は同じ属性であるのを利用して水のレーザーを巻き取り、その侭で往なしてしまったから即席でしかない障壁ながら全く揺るがず受け止めた。

 

 【危険感知】スキルから使った障壁、鈴を除く全員が心得たものでこの奇襲にユエもシアも雫も香織もティオも動揺してない。

 

 そう、鈴を除いて……だ。

 

 結界師顔負けの結界。

 

(鈴、ゆう君にとって要る?)

 

 それは余りの衝撃だった。

 

「鈴ちゃん、平気?」

 

「う、うん」

 

 突然きた攻撃にどうして良いのか解らなかった鈴は、思わず大きく離れ様としてしまい躓いてしまい香織が抱き抱えたのだが、ユートは躊躇いもしないで結界を展開している。

 

「ごめんね、カオリン」

 

「気にしないで良いよ、私だって最初はこんなんだったんだから」

 

「うん……」

 

 普段ならセクハラの一つもしていそうな癖に、グリューエンの時も先程も自分醜態を晒した事に落ち込んでいた。

 

 実際、香織が言った様にオルクス大迷宮では雫も香織も愛子先生も基本はこうで、移動砲台に過ぎなかったとはいえ戦争を経験していたユエなら未だしも、シアだって似た様なものでしかなかったのが経験を積んで今が在る。

 

 ティオも戦いの経験なら有るし、数百年の生は決して伊達ではないのだ。

 

 仲間になったばかりの鈴は謂わば、香織や雫やシアが通った道を進んでいるに過ぎないのだが、役に立ててないのではないか? などと考えてしまうと表情が暗くなるのであった。

 

 

.




 原作では香織の悩みが鈴になった感じです。




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第68話:路を進む者と下がる者

 一週間は点滴の為の通院生活でした……





.

 ハイリヒ王国の王都は神山のすぐ近くに在り、それが故に神山から王城を繋ぐ魔法の道具が存在しているのだ。

 

 そんな王城の割と良い部屋を我らが勇者(笑)は使っており、今はそもそも神の使徒(笑)の人数も減ったから一人一部屋となっている。

 

 アベルグリッサーを横に置いた天之河光輝は、カテーテルの入った我が子を見つめていた。

 

 ユートが一応はと置いていった医療キットを使って、メイドさんが嫌々ながら潰れた天之河光輝の分身を握りカテーテルを容れたのだ。

 

 因みに、そのメイドさんは嘗て勇者(笑)であった天之河光輝と肉体関係にあった事を鑑みれば、正しく大した株の大暴落だと云えるであろう。

 

「おやおや、黄昏てますね?」

 

「お前は!」

 

 一人切りだった部屋に居なかった筈の人物に対して御花畑な勇者(笑)も警戒した。

 

 長い銀髪に翠の瞳を持つ少女、何故か頭頂部にアホ毛ビロンと伸びていてクスクス笑う。

 

「私、参上!」

 

 何処かの赤鬼の如くキレッキレなポーズを決めながら言うが、天之河はそれを冷めた視線でボケッと見つめるだけだった。

 

「おや、ノリが悪いですね。だから敗けるんでしょうけどね」

 

「ノリがどうとか関係無いだろう」

 

「チッチッチ!」

 

 片目を瞑り右人指し指だけ伸ばして横に振るという行為は、今の天之河にとってイラつかせるだけのウザさがある。

 

 それがどれくらいウザいのかと問われたなら、普段のミレディのウザさが一ミレディだとしたら調子ぶっこいたミレディが一〇〇ミレディと換算して、今の彼女は六〇ミレディはウザいと判断をしても構わないレベルだ。

 

 まぁ、天之河光輝はそもそもミレディ・ライセンを知らないが……

 

「良いですか? 戦いなんてのはいつだって何処だってノリが良い方が勝つんですよ!」

 

「何を莫迦な……」

 

「仮面ライダーの主人公達は正にそのノリの良さに支えられて来たんですよ。別名は主人公補整とも云いますけど……貴方には有りませんでしたよね主人公補整なんて」

 

「俺が勇者だ! だから俺が主人公だ!」

 

「御花畑ですね? 今時、勇者が主人公だなんて流行りませんよ。『なろう』を紐解けば勇者なんて主人公処か良くて主人公の引き立て役か妹ちゃんとしてのヒロイン枠、悪けりゃ引き立て役処か踏み台にしかなりませんって」

 

 クスクスとSAN値がガリガリと削られそうではあるが、むしゃぶり付きたくなるくらい魅力的な邪悪の笑みを浮かべて言ってやる。

 

「引き立て役?」

 

「貴方は寧ろ踏み台ですね」

 

「嘘だっっ!」

 

「そういうのは竜宮礼奈さんでないと決まりませんよ? そもそもにして貴方は主人公なんかじゃありませんしね」

 

「はっ、なら緒方が主人公だとでも?」

 

「クスクス、莫迦を言っちゃいけませんねぇ? 彼は正真正銘イレギュラー。主人公? オリ主とかが精々に過ぎませんよ。謂わば、物語(せかい)の破壊者と自ら自戒を込めて言っていますしね」

 

「? 何を言っている?」

 

「まぁ、貴方に返しは期待してませんよ」

 

 肝心な仮面ライダーの知識でさえ彼女が脳内に焼き付けなければならなかった程、天之河光輝はサブカルチャーに詳しくは無かったから。

 

「おっと、スールードが居るから長居は無用でしょうね。これを上げましょう」

 

「うっ?」

 

 投げ渡されたのはアナザージオウウオッチみたいなウオッチだが違う物。

 

「これは?」

 

「アナザージオウⅡウオッチですよ」

 

「つまり、これで仮面ライダージオウⅡに!」

 

(私、()()()()ジオウⅡって言いましたよね? これが彼の御都合解釈という悪癖ですか……素晴らしいではありませんか! 私にとっては正に生ける手駒に丁度良いですねぇ!)

 

 ニヤリと悪い笑みを浮かべる彼女はアナザージオウⅡのウオッチを、恍惚とした気持ち悪い顔で見つめる天之河光輝を見据え嗤っていたと云う。

 

 これはユート一行がメルジーナ海底遺跡に入るほんの数分前の出来事である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 フジツボに似た魔物が放つ高圧縮された水による攻撃、ウォーターカッターという物が存在しているがそれはダイヤモンドすら切断するという、つまりまともにアレを喰らったら軟らかい人体など簡単に貫くのだ。

 

 如何に耐性があろうが関係無い、防ぎたいならせめてアザンチウムの肌になれという事。

 

 フジツボ擬きは天井全体にびっしりと張り付いていて、穴の空いた部分から【破断】を放っていた様でそれは可成り生理的な嫌悪を抱く光景であったと云う。

 

 フジツボ擬きも見た目に違わず水中生物である為にか火系には滅法弱いらしく……

 

「喰らうが良い!」

 

《STRIKE VENT!》

 

 仮面ライダーリュウガへと変身をしたティオの攻撃により焼き尽くされた。

 

 面倒なフジツボ擬きを殲滅した後は奥の通路へ進めるユート一行、先程の部屋よりも通路は低くなっており、揺らめく海水が膝くらいまでガッツリと満たされている。

 

「スパロボ的には海適性がSだから困りはしないんだが、だからといって歩き難さが完全に緩和をされたりはしないんだな」

 

 海水を掻き分けつつ愚痴を言うユートだけど、【スパロボ】だの海適性がSだのというネタなんて地球組でないと理解が出来ない。

 

「ゆう君って海適性がSなんだ?」

 

「完全な平行異世界の地球で七個集めればどんな願いでも叶えてくれる球を使ってね、そのお陰で僕は魔法を使わなくても科学に頼らなくても深海や宇宙でも生きられる」

 

「それ、ドラゴンボールだよね!?」

 

 鈴がとんでもない話にツッコミを入れた。

 

「ギネ復活の為の為に閻魔大王から悪党抹殺リストを受けて殺ってたが、クウラは宇宙空間でも生きられるフロスト族だったからな。安全確実に潰す為にも僕も宇宙空間で闘えないと困るからね。その為の保険でフロスト族が持つ適性に近い能力を貰ったって訳だよ」

 

「とんでもないよ、ゆう君……ってかギネ? それって悟空やラディッツのお母さんでバーダックの奥さんの?」

 

「ああ、惑星ベジータがフリーザに消滅させられた際に死んだみたいでね。あの世界は此方と違ってあの世が在るから生き返らせるには閻魔大王から許可を取る必要があったんだ。ドラゴンボールでの蘇生は無許可で出来るんだろうが、あれだとスーパードラゴンボールならば未だしも地球のやナメック星のドラゴンボールじゃ、生き返らせるのは困難だったからね」

 

 ギネが二児の母と呼ぶには余りに可愛かったから生き返らせた訳だが、ユートが生き返らせる為にはあの世のギネと接触を持つ為にも閻魔大王と話す必要性があったのである。

 

 肉体は普通に創れば良い。

 

 寧ろそれによりギネは男に抱かれる快楽を知る身ながら処女となり、ある意味で初めての夜にはユートを色々と愉しませてくれた。

 

 サイヤ人は食欲と戦闘欲求以外は淡白らしく、二児の母とはいえ余り抱かれて無かったみたいで結構新鮮な反応をしてくれたもの。

 

 尚、GTの究極のドラゴンボールは存在していたとして使う事は考慮するにも値しない。

 

「うん? また出たな」

 

 ユートが見た方向から魔物が出た。

 

 手裏剣と見紛う様に高速回転しながら直線的、或いは曲線を描いて高速で飛んでくる。

 

「ザビースティンガー、連射ですぅ!」

 

 左腕のライダーブレスに合着したザビーゼクターの尻尾から放たれる針、エネルギーを固着させた半物質化されたモノを射ち放って撃墜してやると水面に浮かんだのはヒトデ擬き。

 

「足元!」

 

「私が殺るよ!」

 

《TORNADO!》

 

 水中を這う海蛇擬きな魔物が高速で泳いでくるのをユートが感知し、香織はカテゴリー6であるトルネードのカードをスキャンし吹き飛ばす。

 

 因みに、香織のカードは基本的に仮面ライダーカリスのプライムベスタを大元にしてはいるが、それ以外にも何枚かは規定外でワイルドベスタと呼ばれるカードも所持していた。

 

 勿論、アンデッドが封印されている訳ではなく飽く迄も封じられているのはトータス産の魔物、カテゴリーKはノイント封印で手に入れた香織は早くワイルドフォームなりキングフォームなりとパワーアップしたいと思っている。

 

「……弱いな」

 

 ユートが呟くと鈴は兎も角として、他のメンバーは全員が頷いた。

 

「ゆう君、どういう意味?」

 

「大迷宮の魔物は単体で強力、複数で厄介、単体で強力且つ厄介ってのがセオリーだ。そこら辺はグリューエン大火山で鈴も実地に知れたろう? 処がこの場に出たフジツボ、ヒトデ、海蛇なんてグリューエン大火山の魔物に比べても弱いんだ。ゲームとは違うっていっても、ゲームだったなら次のダンジョンの方が魔物は強い筈だろ」

 

「それは……そうだよね……それでも余りお役に立てない鈴っていったい?」

 

 自虐的な鈴。

 

 大迷宮をまだ余り知らない鈴以外は首を傾げるのだけど、それに対する解はこの通路の先にある大きな空間で示されたのである。

 

「離れろ!」

 

 その空間にユート達が入った途端に見た目だけなら強そうではない、半透明でゼリー状のナニかが通路へと続く入口を一瞬で塞いでいた。

 

「私が征くわ! ハァァァッ!」

 

《RIDER SLASH!》

 

 雫――仮面ライダーサソードが先手必勝とばかりにサソードゼクターの尻尾を押し込みつつ毒の刃を以て駆け抜ける。

 

 

 雫は壁を壊そうとサソードヤイバーを振るったのだが、ゼリー体たる表面が飛び散ったに過ぎず壁は壊せてはいなかった上に、飛沫がサソードのアーマーへと付着をした。

 

「嘘、アーマーが溶けてる!?」

 

 仮面ライダーのアーマー故に簡単にドロドロにはならないが、それでも飛沫が付着している部位は明らかに溶け始めて慌てる雫。

 

「雫よ、暫し我慢せよ!」

 

 仮面ライダーリュウガとして使った侭にしていたドラグブラッカーの頭を模した手甲――ドラグクローから黒い炎を放ち、サソードのアーマーを溶かしたゼリーの飛沫を焼いた。

 

 ティオは絶妙に加減をしたからゼリー状の飛沫だけを焼き尽くしたものの、これの本来の用途を鑑みれば熱くて堪らないのかゴロゴロと転がっているのを香織が見兼ね……

 

《BLIZZARD!》

 

 本来はクラブスートに属するワイルドベスタのカテゴリー6で消火する。

 

 鎮火して落ち着いた雫に回復呪文のベホイミを掛けてやるユート。

 

「助かったけど酷い目に遭ったわ……」

 

 一息を吐いた雫だったがユートは残念な表情――仮面で見えないが――をして叫ぶ。

 

「また来る!」

 

 ゼリーの壁から離れたと思えば今度は頭上から無数の触手が襲いきて、更に云えば先端など槍の如く鋭く尖っているみたいだけど見た目は間違いなく出入り口を塞いだゼリー。

 

「いかんな、アレにも強力な溶解作用があるやも知れぬ」

 

「……ん、風壁」

 

 ユエが障壁を張る。

 

「喰らうが良いわ!」

 

 更にはティオがドラグクローから黒炎を繰り出し触手を焼き払ってやった。

 

「中々のコンビネーションだ、ユエにティオ」

 

 ユエの魔法による鉄壁の防御、その防御に護られつつティオが攻撃をするコンビネーションは、中々に堂に入っていたものである。

 

 

「聖浄と癒しをここに【天恵】!」

 

 ベホイミでは治し切れていなかった雫の受けたダメージを香織が癒す。

 

「雫ちゃん、どうかな?」

 

「有り難う、香織。後は戻ってからね」

 

 そんな風に動く仲間を見てやはり暗い鈴。

 

「……む? ユート、このゼリーはどうやら魔法も溶かすみたい」

 

 言われて見れば確かにユエの張った障壁がジワジワと溶かされていた。

 

「ふ~む、やはりか。先程から妙に技の威力が失われると思っておったのじゃ。どうやら彼奴めは炎に込められたエナジーすらも溶かしてしまっておるらしいの」

 

「魔力処か仮面ライダーの力まで? という事はアレは原初か!」

 

「原初とな?」

 

「混沌の海から殆んど未分化の侭、世界に産まれ堕ちた混沌の落とし子とも云える存在。魔物と変わらない様に見えて魔物じゃない」

 

「何と、まぁ」

 

 ゼリーはエナジーそのものを溶かす強力にして厄介な能力、魔物ではないが大迷宮の魔物に相応しい存在だとも云えた。

 

 そして遂にゼリーを操っているであろう存在が姿を現わす、天井の僅かな亀裂から染み出すが如く出てきたソレは空中で形を成していく。

 

 半透明の人型ではあるが手足は鰭、全身に極小の赤いキラキラした斑点を持って頭部には触覚の様なモノが二本程生えており、宙を泳ぐ様に鰭の手足をと動かすその姿はクリオネだった。

 

 とはいえ全長一〇mのクリオネなど魔物というのも憚れる。

 

 巨大なクリオネ擬きは特に予備動作をするでも無く全身から触手を飛出させ、同時に頭部からはゼリーの飛沫をシャワーの様に飛び散らせた。

 

「焦熱結界!」

 

 ユートが右腕を外から内側へ薙ぐと火炎と呼ぶにも荒々しい焦熱の結界が顕れ、巨大クリオネ擬きの原初の放った飛沫を防ぐ。

 

「炎の結界、攻防一体の……な」

 

 水幕結界と違って焦熱結界は炎だから触れれば燃える、それを応用すれば文字通り攻防一体となって扱えた。

 

(まぁ、アレでは残念ながら水幕結界と焦熱結界しか出てこなかったんだが……」

 

 当然ながら元ネタがある。

 

 【輝竜戦記ナーガス】という作品、これに出てくる魔神は四源で種族が分かれていてそれぞれが水魔神(ハイドロ・ディーバ)地魔神(ゲー・ディーバ)炎魔神(パイロ・ディーバ)風魔神(アエロ・ディーバ)と呼ばれた。

 

 とはいえ、主人公が水魔神と炎魔神のハーフな母親で人間の父親を持つ魔神と人間のハーフという事から、雑魚や小ボスくらいしか地魔神や風魔神は出てきておらず、結界も地と風のモノは出てくる事も無かったのである。

 

 ハルケギニア時代に魔法でナーガスの攻撃である炎竜焼牙や水竜斬刃を使ったが、今ならもっと完全な形で完全なモノとして行使可能であるし、結界系も取り敢えず独自に創ったりもした。

 

「! チッ、神力(メギン)っていうか小宇宙が使えないといまいちだなやっぱり!」

 

 魔力で作る焦熱結界が蝕まれている。

 

「嵐流結界!」

 

 焦熱結界の後ろに風の属性の嵐流結界を展開、

【輝竜戦記ナーガス】本編には存在していなかった風の魔神力(ディーバメギン)を使った結界。

 

 風の結界だったのは理由があった。

 

「炎・竜・焼・牙……」

 

 炎の魔神力の集束による攻撃。

 

「サラマンドラバーン!」

 

 風は炎を煽り強化する。

 

 嘗て、【風の聖痕】で炎の神凪一族が風の風牙衆を討伐後に取り込んだ理由でもあった。

 

「ナーガスは炎と水の魔神だったし、風魔神の中に味方が居なかったから使えなかった手だ!」

 

 嵐流結界を通る際に炎の威力を弥増して極炎の竜と成り、巨大クリオネに向かって焔の牙を剥き出しに襲い掛かった。

 

 因みにだが、仮に主人公の霧山竜輝に風魔神の仲間が居ても敵が炎魔神であるからには水の魔神力を中心に使わねばならず、余り意味が無かったからというのも多分にあったりする。

 

 尚、剪定事象となった【輝竜戦記ナーガス】の世界に干渉した結果として、あの世界のヒロイン枠やその他を拾い上げて【閃姫】としている為にユートの冥界、エリシオンの一角に彼女らが暮らしていたりするのだが……

 

 それは兎も角として炎竜焼牙が巨大クリオネを焼くものの、強い再生力により余りダメージにはなっていないらしい。

 

「原初なだけに食い意地と生き汚さはサイヤ人とカンピオーネを足して掛けてるよな」

 

 魔神力は小宇宙と同じ力を源流とする親戚にも近い間柄、魔力や氣力や念力や霊力の一元の力を喰えたり溶かしたり出来ても、四元合一の力までも可能だとは思っていなかったユートだったが、どうやらちょっと認識を改めた方が良さそうだと巨大クリオネを視て考え直す。

 

 よくよく見れば、巨大クリオネの腹の中に先程まで斃してきたヒトデ擬きや海蛇が存在していて溶かされており、よくファンタジーモノの漫画で見られるスライムに溶かされる動物を彷彿とさせてくれた。

 

 勿論、人間もそうやって消化されるのだ。

 

「ふ~む、どうやら弱いと思っておった魔物とは本当に只の魔物でしかなく、こやつの食料だったみたいじゃな主殿よ。こうも無限に再生されては流石に敵わん、魔石は何処に在るのじゃ?」

 

「あれ、そういえば……こいつって体躯が透明の癖に魔石が何処にも見当たりませんね?」

 

 ティオの言葉にシアが改めて巨大クリオネをを見るが、確かに普通なら見え見えな筈の魔石らしき物が何処にも見えない。

 

「どうなってんのよ?」

 

「確かにティオさんの言う様に魔石を狙いたいのに魔石が見当たらない?」

 

 雫と香織も事実に気付いて愕然となる。

 

「……ユート?」

 

 訝し気にユートを見上げるユエ。

 

「言ったろ、奴は魔物に見えて魔物とは異なる。原初という未分化の混沌、その僅かな飛沫がこうやって形を取ったモノなんだよ。魔石なんて持ち合わせてはいない」

 

「っ!? そんな!」

 

 ユエに答える形で巨大クリオネについて語られてしまい、まだまだ馴れない鈴が泣き出しそうな表情となって叫んだ。

 

「優斗君、 魔石が存在しないって云うならそれを狙うのは無理なのかな?」

 

「無理だな。強いて言うのなら、あのゼリー状の体躯……その全てが魔石とも云えるだろうけどね、ああも再生をされてはな。それと気配が全体的で気付けなかったが、壁も床も天井も奴の気配が有るから或いは既に腹の中みたいだ」

 

「じょ、冗談でしょ?」

 

 香織からの質問に対してユートが事実を話すと雫が絶望の声を上げ、それと時を同じくして再び巨大クリオネが触手とゼリーの豪雨だけでなく、海水を伝って魚雷の如く体躯の一部を飛ばしてきてくるなんて攻撃を仕掛けてくる。

 

 悪夢の王の一欠片よ

 

「……ユートが詠唱?」

 

 珍しく詠唱をするユートにユエが驚く。

 

 

 世界(そら)の戒め解き放たれし

 凍れる闇き虚ろの刃よ

 我が力我が身と成りて

 共に滅びの道を歩まん

 神々の魂すらも討ち砕き

 

 

神滅斬(ラグナブレード)!」

 

 橙色のスパークを放つ闇色の刃は神すら斬り裂く虚無の剣、それは混沌の一部を刃の如く振るうという金色の女王(はは)の力。

 

「こちとら、矜持すらも捨て置き使ったんだ! 今すぐに叩っ斬ってやる!」

 

 ユートは仮面ライダーに成ったら仮面ライダーの力を、ウルトラマンに成ったらウルトラマンの力を……という縛りをしていた。

 

 成るべくなら……程度のものだが。

 

 所謂、舐めプと云われればその通りだろうけど原典のヒーローを思えばそれくらいはとも。

 

 だけど所詮は矜持、仲間の命と自分の意地を秤に掛ける心算なんて無いのだ。

 

「おりゃぁぁぁっ!」

 

 ユートは魔力量が大きいとはいえこの神滅斬の

維持はやはり短い、その為に可成りの短期決戦をユートは強いられてしまうものの、原初が相手でも決して引けは取らない魔法。

 

 その気になれば物質は疎か精神体や虚空さえも斬れる必滅の刃である。

 

 擬態能力か何かで壁に変じていたらしいそれもユートが斬り裂き剥がれ逝く、まるで古くなった壁紙が剥がれるが如くであったと云う。

 

「壁それ自体が原初じゃなかったか」

 

「若しそうなら怖いですよ!」

 

 泣き言を言うシア。

 

「質量が相当でかいらしいな。際限なく湧いてくるぞ、一閃型の神滅斬じゃあ焼け石に水か」

 

 如何なる存在をも斬り裂く神滅斬とはいえども

欠点は有り、一閃型だからその場を攻撃するしか出来ないのと際限の無い再生で斬撃を防ぐ事なども不可能ではない事が挙がる。

 

 本体への攻撃も愈々以て激しさを増したからか巨大クリオネも壁全体から凄まじい勢いで湧き出してきて、更には水位が徐々にだが上がってきて膝辺りまでだったのが腰の方まで増水していた。

 

 本来なら背が極めて低いユエは既に胸元を越えて水に浸かっているが、仮面ライダーサガに変身しているから問題無く腰までだ。

 

「ちょっと面倒臭くなった」

 

「ちょ、優斗? 不穏で剣呑な事を言わないで? 何をする心算よ!?」

 

 慌てる雫にユートはディケイドの変身を解除、更には何かリングを手首に装着している。

 

()()を使えば必要も無いんだが……」

 

 という呟きと共に……

 

「コール、サイバッスッタァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァアアーッッ!」

 

「「「ハァ!?」」」

 

 それは小型ながら白亜のボディを持つ鋭角的なデザインのロボットを思わせる姿、【スーパーロボット大戦】のシリーズでも登場回数の多い機体であり、魔術的な要素も併せ持つというその名も高き魔装機神サイバスター。

 

「「「何でやねん!」」」

 

 思わずツッコミを入れる地球組女子三人だったけど、ユートは【スーパーロボット大戦】に無印から始まりαシリーズやOGなどには参戦もしていたし、【VXT】にも参戦をしていたのだからサイバスターを纏う鎧を造っていてもおかしな話ではないのである。

 

 機械式ではない魔導甲冑の一種ではあるけど、作中でサイバスターが使える武装は全て装備しているが故に、甲冑からカロリックミサイルが発射される不思議な光景も見られた。

 

「で、サイバスターに成ってどうするの?」

 

「一切合切の全てを焼き尽くす」

 

「……まさかとは思うけど?」

 

 雫はタラリと汗を流す。

 

「サァァァイ、フラァァァァッシュ!」

 

「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 ユート――サイバスターの全身から光が立ち上ったかと思うと、目映い輝きが部屋全体を覆い尽くすが如く拡がっていった。

 

 MAP兵器【サイフラッシュ】、魔装機神は全てが装備しているMAP兵器の中でもゲーム中に完全改造しない限り唯一、敵味方識別機能を持った装備である。

 

 尚、ヴァルシオーネもサイフラッシュを基にして開発された【サイコブラスター】を持っている訳だけど、魔装機神ではないから当然の事ながらカウントをしてはいない。

 

 光が収まると気配が消えていた。

 

 数分くらい目を閉じていた彼女らであったが、視力が回復してきたのか顔を上げ始める。

 

「……ん、終わった?」

 

 ユエが訊いてきた。

 

「欠片が残っていれば再生されるだろうけどね、それでも攻略中にって事は無い筈さ。それに奴には強力な再生否定をぶっ掛けたから再生すれば寧ろ削られる」

 

「再生否定? 念能力……とかじゃないわよね? カンピオーネの権能か何かかしら?」

 

「雫、違う。これは魔法だよ」

 

「へ?」

 

「恐らくこの世界では神代魔法の先に在るとされる【概念魔法】と同質のモノ、あの世界に於いては原始魔法と呼ばれていたモノだよ」

 

 とはいえ、流石にユートも岩から生きた山羊を創ったりは出来ないのだが、代わりに時間なんかは大幅に短縮されているし概念の付与といった事が普通に出来る。

 

「あれにとって再生否定は毒物に近い、HPを削られながら回復していくから再生は遅々として進まないだろうな」

 

 正しく巨大クリオネには毒であった。

 

 サイバスター化を解除して再びディケイドへと変身、ユート一行はメルジーネ海底遺跡のその先に向かうべく歩を進める。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 一方のその頃……

 

「美味しい!」

 

「またこれが食べられるなんて」

 

「これだけが幸福だよ」

 

「マジ、それな!」

 

 ウルの町で美味しいスパイス料理に舌鼓を打つ優花達、再びこの地にやって来たのは穀倉地帯のウルの町の活性化は必須だったからだが、優花達からしたらやはり美味しい御飯にありつけたのが何より嬉しかった。

 

 不幸な事はある。

 

 玉井敦史は友人を二人も喪ったし、パーティの中で清水利幸が裏切りを働いたのだから。

 

 だがそれを乗り越えて今を生きていた。

 

「うばぁぁぁぁぁっ!」

 

 我らが愛ちゃんを除いて。

 

 愛子先生はド派手に【豊穣の女神】と祭り上げられてしまい、町には豊穣の女神像なる物がいつの間にか設置されており、町に入る前から叫びを上げてしまったものだった。

 

 余りにも恥ずかし過ぎて白目を剥いたもので、今も御飯を美味しく食べながら項垂れている。

 

 とはいえ、玉井敦史には懸念もあった。

 

 ユートなら死者蘇生が出来るらしいが、対価を支払わねばクラスメイトといえど力は使わないとはっきり言われ、やはりそれに対して完全に納得がいかないからであろう。

 

 理屈は解らないでもない。

 

 仮に自分がそんな力の持ち主だったとしたら、それを他者に知られて見知らぬ誰かが止めどなく『蘇生しろ』と詰め寄せたと考えれば、確かに嫌にもなってしまうというもの。

 

 それでは『他人蘇生まっすぃーん』と変わらないではないか……と。

 

 そう、理解はしているが玉井敦史の心は納得し切れてはいなかった。

 

 正直に云えば頼みたいという気持ちは当然ながら持っているが、ユートは情に訴えても恐らくは決して頷かないとそこは判る。

 

 情に訴えるという意味ならユートの【閃姫】になったという優花に頼んで貰ったらどうなのか、それを実際に彼女へと訊いてみた事もあったのだがキッパリ、けんもほろろに断られた。

 

『それ、私に何のメリットがあるのよ?』

 

『園部まで緒方みたいな事を言うなよ』

 

『あのね、アンタのその御願いの為に私は優斗に言わなきゃならないのよ。――貴方の寵愛を捨ててでも玉井の願いを聞いて下さい――ってね』

 

『な、何でそうなる!?』

 

『当たり前でしょ。他の男の為に命を甦らせてくれなんてさ、優斗のお、女として有り得ないの。だからアンタがそんな莫迦を私にやらせるなら、アンタは玉井は一生涯を抱く事も出来ない私を養う為に生きなければならないわ』

 

『なっ!?』

 

『仮にそうなっても今更、私は優斗以外にだ、抱かれたくないもの……玉井はあいつらの為に借金を背負ってでも独り身を貫きつつ、私を養っていく覚悟がある訳?』

 

『……』

 

 日本では基本的に人の命の重さを学ぶが、ちょっと昔は命の価値などトータスのレベルで軽かった事もある。

 

 それこそ吹けば飛ぶ程に軽い。

 

 半世紀以上はまえの世界大戦でどれだけ生命が失われたか、それを思えばトータスみたいなやはり吹けば飛ぶレベルに命の価値が軽い世界で戦争の為に動いたクラスメイト達の命が軽んじられたとして、果たして何の文句を言う資格があるのだろうか? という話。

 

『忘れないで。私も同罪だけど、天之河に賛同をして戦争に参加した時点で私達は命をチップにしていたんだって事を。死んだなら自業自得って、きっと優斗なら言うでしょうね』

 

『だ、だったら! 緒方は自分が俺と同じ目に遭ったらどうすんだよ?』

 

『その時は相手が優斗の身内なら生き返らせるんでしょうね。それが優斗に許された優斗自身が得た能力なんだから』

 

『っ!』

 

 死者蘇生の能力はユートがこれまでに生きて、そして闘い続けてきた結果として得た能力であるからには、ユート自身の我侭でユート自身の責任を以てそれを行使するまで。

 

 つまりはそういう事だ。

 

 玉井敦史は優花に頼むという事が不可能であると理解し、同時にどうあっても二人を生き返らせる事が自分には不可能だと刻まれた。

 

 不可能、不可能、不可能、不可能!

 

 自分達は神様から召喚されてチートな能力を手にして、我が世の春だと浮かれていた……浮かれてしまっていた。

 

 戦争の意味に気付きもせず天之河光輝の言葉に従い、帰る為なら仕方がないと真実に蓋を被せて突き進んだ結果がこれだとは。

 

 否、意味ならユートが身を斬って教えてくれていた筈ではないか?

 

 赤い血を流して戦争に参加する意味を。

 

「ハハ、何だよ……結局は自業自得ってか?」

 

 涙を流しながら座り込むしかなかった数日間、玉井敦史は今現在を暮らしている。

 

 取り敢えずは皆でバカをやって飯を食う。

 

 その内にそれこそユートが帰る為の手段を手に戻って来るのだろうし、せめて愛子先生を護りながらそれを待っていようと考えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユート一行は順に下へと降りて行き今は密林を彷徨う形で歩いている。

 

 とはいえ、退屈凌ぎは必要という事で夕飯を食べたら全員が裸になって御乱交を愉しんだ。

 

 雫が、ユエが、香織が、ティオが、シアが、鈴が……この場には居ないミレディ以外が一時に抱かれており、勿論だがユートの身は一つだから余りは女の子同士で慰め合ってユートのヤる気を盛り上げていた。

 

 BLはユート的に他人が勝手なヤってるのは構わないが、自分自身がヤりたくないし視たくないと考えているけど、GLに関しては観て参加して愉しみたいとすら思っている。

 

 尚、BLは何処ぞの転生公爵令嬢が大好物だったのをユートはぼんやり思い出す。

 

 しかも転生平民や転生侯爵夫人まで腐な人だったし、三人が集まるとBL的に文殊の智恵を付けてしまって手が付けられない。

 

 まぁ、ユート自身は他の国でまだちょっと幼い婚約者と暮らしていたけど。

 

 そんな事をしながら密林を抜けてみれば今度は船の墓場みたいな場所に出るのであった。

 

 

.




 メルジーネ海底遺跡はクライマックスかな?

 仮面ライダーゼロワンは終了、来週から仮面ライダーセイバーですねぇ……



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ありふれIF――全員のステータスのレベルが1の理由

 ちょっと設定変更をしたので判り易く書いてみました。位置的にはオルクス大迷宮に入る二日くらい前を想定しています。





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 檜山パーティ。

 

 それは四人組の小悪党であり、やっている事はみみちくていつかは自業自得で死んでしまいそうな莫迦共である。

 

 今日も今日とて檜山大介をリーダーとしている小悪党四人組は絶好調、莫迦をまたぞろ始めようとユートへと近付くのだった。

 

「よお、緒方」

 

「小悪党リーダーか、何だ?」

 

「なっ! 誰が小悪党リーダーだよ!?」

 

「お前だが、それで?」

 

「チッ!」

 

 檜山大介は忌々しそうに舌打ちをしたものの、すぐにも気を取り直して話し掛けてくる。

 

「俺と模擬戦をしようぜ?」

 

「はぁ? 僕とお前は仲良く模擬戦なんて仲じゃ間違っても無かったと記憶するが……? 何か間違った事を言っているか?」

 

「何だよ、恐いのか?」

 

「先ずお前は正しい日本語を学び直して来いよ。全ての話はそれからだな」

 

「テメッ!」

 

 呆れた表情のユートを見て本気で言っているのを理解したのか、檜山大介は顔を歪めながらユートに対して激昂しかけるが……

 

「やったらどうだ?」

 

 キラキラ勇者(笑)が横から介入してくる。

 

 もう、思いっ切り余計過ぎる茶々を入れてきた莫迦之河にユートは苦虫を噛み潰したみたいな、そんな表情となって……それをスマイル満開と云わんばかりに隠して口を開いた。

 

「どうしても殺れってなら殺るけど、お前が自ら賛同したのを忘れるなよバ……天之河」

 

「? 勿論だ」

 

 どうせ理解していないと思いつつもユートは、ルールを定めるべく話し合う。

 

 ルールは至って簡単。

 

 勝敗は気絶したら敗けというもので、『参った』など降参するのは無し。

 

 これは檜山大介からの提案で天之河も賛同し、ユートは『アホが』と口に出さずに賛同。

 

 場外敗けは無しで基本は訓練場全体が模擬戦の場として使用され、観戦者となる外野は邪魔にならない場所で見学をする事になる。

 

 審判を一人――八重樫 雫が行う事になった。

 

 勇者(笑)がするとか言い出したが、檜山大介との模擬戦を真っ先に賛同したとしてユートが拒否をしたからだ。

 

 ミスジャッジされては敵わないので。

 

 それと、こうして審判を付けるからには模擬戦をする選手が勝手に決着を宣言して終わらない。

 

 天之河辺りなら寸止めして、『見切れなかったろう、俺の勝ちだ!』とかほざきそうだったからその内に戦る可能性を鑑みてそれを提案した。

 

 勝敗が決したら敗者は速やかに敗けを認める事も追記したが、これはよく『油断しただけだ!』とかほざく莫迦が居るからである。

 

 油断しようがどうだろうが実戦なら死ぬだけなのを理解しない科白に他ならず、当然ではあるがそんな愚かでみっともない科白は赦されない。

 

 模擬戦であるからには殺してはならないけど、怪我をするのは覚悟をする事。

 

 実戦を想定した模擬戦闘で怪我をしないなんて有り得ない、一応はそれに備えて二人の治癒師――白崎香織と辻 綾子を待機させる。

 

 尚、檜山大介は辻 綾子が担当する事になったのを当の檜山大介は舌打ち、天之河も嫌そうな顔でユートを睨んだが決めたのは八重樫 雫だ。

 

 ルールを設定後、ユートに相対する様に立っている小悪党四人組にハジメは目を剥いた。

 

 四対一など有り得ないと思ったのだろうけど、これはユート自身が認めた内容。

 

 これで油断云々では逃げられないから。

 

「ちょっと緒方君、大丈夫なの?」

 

「何がだ? 八重樫」

 

「だって、四対一だなんて……」

 

「確かに数の暴力は危険だ。どっかの誰かさんも『数は力だよ』とか言っている」

 

「だったら!」

 

「だけどそれは似たり寄ったりの力関係、乃至(ないし)

最低限でダメージを与えられるならの話だよ」

 

「……は?」

 

 意味が判らないよ……と首を傾げる八重樫 雫の姿は可愛らしいの一言。

 

 ユートは、これで天之河光輝の取り巻きでなければなぁ……とか考えてしまう。

 

「ティラノサウルスの周りを蟻が戯れた処で何の痛痒を与えられると?」

 

「お、緒方君……貴方は……」

 

 余りにも尊大な科白に呆れてしまった。

 

「知らないわよ?」

 

 八重樫 雫は事前にユートからステータスプレートを見せられており、どう考えても一対一でさえ厳しいものがあると考えていたのにこれだ。

 

 

 

ユート・オガタ・スプリングフィールド

レベル:3

??歳 男

天職:錬成師

 

筋力:15

体力:12

耐性:14

敏捷:18

魔力:12

魔耐:14

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+想像補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解][+鉱物創造] 言語理解

 

 

 

 何故か錬成に関してはアホみたいな派生技能が生えていたが、能力値はハジメよりはマシといった感じか? 可成り低め。

 

 因みに錬成の派生技能に関しては『錬成をしまくったら生えてきた』と説明を受けた。

 

 まぁ、ユートは元々が【錬金】という魔法から【錬成】にハルケギニア時代で進化させてたし、更に【まつろわぬメティス】を性的にも肉食的にも喰らって【叡智の瞳(ウィズダム・アイ)】と共に進化、【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】と【創成】を獲ていたのだから簡単に生えてもおかしくはない。

 

 そう、おかしくはないのだとも!

 

 そして始まるのは模擬戦闘訓練……の名を借りた私刑(リンチ)でしかないと皆は見る。

 

 ニヤニヤする小悪党四人組。

 

 八重樫 雫が気になるのは何処か……そう、何処か幼馴染みの天之河光輝もニヤついていた事。

 

「模擬戦、始め!」

 

 八重樫 雫の号令に始まった。

 

「此処に風撃を望むぅ! はっはぁ! オラァ、死ねや! 風球っっ!」

 

 風魔法に適性を持つ檜山大介が何かノリノリで風球を放つ。

 

「当たらなければどうという事は無い!」

 

 それをあっさり躱したユートはパン! 柏手を打って叫んだ。

 

「想像を以て創造を成せ……錬成!」

 

 今は本来の力を晒す気など無いからステータスプレートに書かれた錬成を使う。

 

 手を地面に付けた途端に顕れたゴーレム。

 

「な、何だ!?」

 

 それは約三mサイズのであり、色は蒼色をしていて見た目に重厚感があるカブトムシみたいな頭をした人形だった。

 

「征け、ゲシュペンストMkーⅢ!」

 

 地面を走るのではなく滑る様に進むゴーレム――ゲシュペンストMkーⅢ、又の名をアルトアイゼン・ナハトとでも呼ぶべき機体。

 

「なっ!? はやっ!」

 

 先ずは槍術師の近藤礼一へと向かう。

 

 近藤礼一は手にした槍のリーチを利用して突きを何発も連続して放つが、如何せん練度がまるで足りていないから軽く躱されてしまった。

 

「くそ!」

 

 横薙ぎに払うがそれは受け止められる。

 

「なっ、何だよ!」

 

 ゲシュペンストMkーⅢは右腕に装着をされているリボルビングブレイカーを腹に押し当てると、装着されていたリボルバーの弾丸を全弾惜し気も無く放ってやった。

 

 ガンガンガンガンガンガンッ!

 

 それによる衝撃を諸に喰らう近藤礼一は……

 

「げはっ! がはっ! ぐばらぁぁっ!?」

 

 防具の無い鳩尾に喰らっては堪らず吐き出して倒れる。

 

「れ、礼一!?」

 

 叫ぶ檜山大介だったが既に白眼を剥いて気絶をしてしまって返事が無い。

 

「次だ」

 

 ゲシュペンストMkーⅢは僅かに地面から浮いてホバーで進み、しかも迅いから小悪党四人組程度では上手くあしらえない。

 

 気絶して敗北した近藤礼一は捨て置き更なる敵を求める蒼き鋼鉄の孤狼が、次なるターゲットは炎術師の中野信治に定めて進んだ。

 

「く、来るんじゃねー! 此処に炎撃を望むぅぅぅぅっ! 火きゅ」

 

 中野信治が長々と暢気に詠唱をしていると間を詰められる。

 

「ヒッ!? やめ……」

 

 ゲシュペンストMkーⅢは顔を天に仰ぐと一気に地面へ向けた。

 

 それにより、蒼くて長い角――ダライズホーンが中野信治の肩から叩き付けられてしまい勢いよく吹き飛ばす。

 

「ぐぎゃっ!」

 

 壁に激突しあっさりと気絶した。

 

「更に次だ」

 

 淡々と言うユートに空恐ろしく感じたらしく、風術師として斎藤良樹はゲシュペンストMkーⅢに向かって風球を放つものの、それを容易く避けて左腕の五連チェーンガンを放ってやる。

 

「うがががっ!」

 

 とはいえ、それは間に合わせな機体故に威力には難が有り牽制という以上の意味は無い。

 

「レイヤードクレイモア!」

 

 然しながら最接近する隙は作れたから肉薄し、ゲシュペンストMkーⅢの両肩がガパッと開いて放たれるベアリング弾。

 

「ウギャァァァァァァアアアッ!」

 

 風術師として風の結界を展開すれば良いものを魔法を使う事すら叶わず、斉藤良樹は吹き飛ばされると気絶させられてしまった。

 

 あっという間に三人の仲間をやられてしまい、檜山大介はガタガタと歯の根が合わない。

 

「な、何なんだよぉ! 何でお前のステータスで

こんな事が……」

 

「ステータス、ステータス……な。お前らは全員が勘違いをしている」

 

「な、何だと!?」

 

「確かに僕らは召喚されてステータスを与えられたかも知れない。だけど地球で得ていたものが何も無かった事になる訳じゃない」

 

「ハァ?」

 

 訳が判らないと怪訝な表情となる檜山大介に加えて、やはり判らないらしい審判の八重樫 雫を始めとするクラスメイト達。

 

 監督役のメルド・ロギンスもそうだ。

 

「例えば一〇〇mを一一秒で走れたとしようか、それにはステータスにして70という数値が必要だとして、仮に小悪党リーダーのお前が地球にて満たしていたとする。つまりお前は先に言った通りの速さで走れるがトータスに来てステータスプレートには60とあった。ならばお前はトータスでは一〇〇m走を一一秒以上掛かる、つまり弱体化をしている事になるよな?」

 

「う? うう……?」

 

 檜山大介は混乱している。

 

「……確かにそれだと弱体化?」

 

 八重樫 雫は理解したらしい。

 

「だけど、緒方君は何故そう考えたの?」

 

「簡単だ。僕のステータスプレートに書かれていた技能は錬成と言語理解のみ、しかも能力値はといえばオール10だった」

 

「そ、そうね……」

 

「有り得ないのさ、それはね」

 

「どうしてよ?」

 

「こういう事……だっ!」

 

 ユートが地面を殴ると鈍くけたたましい爆音と共に小さなクレーターが空く。

 

「なっ!?」

 

 小さな……とはいえ、それは聖闘士が小宇宙を籠めて放ったと考えたらの話であり、どう考えても人間の力と拳の強度的に硬い地面に空く穴だとは思えないレベルだ。

 

 実際、筋力が既に200越えの天之河光輝でも地面を殴ってこんな穴は穿てない。

 

「感覚的な筋力は約60000かな?」

 

「うん? 何よ?」

 

 ボソリと呟いたから八重樫 雫には聴こえていなかった様だ。

 

「僕は元々が実家の剣術を習っていて先祖伝来の修練方法で鍛えていた。細身に見えるが筋肉が目に見えて脹れた坂上や永山より腕力は強い」

 

「確かにそれで筋力が10はおかしいわね」

 

「僕の予想だが、ステータスプレートに表されているのは召喚された際に付与されたこの世界でのシステム上の能力だ。僕は弱体化されていないし技能も使えたから、つまり能力を削ったりは出来ないんだろう。恐らく本来の能力にプラスされる形でシステム上の能力が使えるんだ」

 

「それって……」

 

「仮に地球で筋力が此方風に換算して200だったら、僕の10を足して210が本当の能力値になるんだろうね。そしてこの世界のシステム的に能力値が上がっていく訳だ」

 

 他のクラスメイトはそもそも能力がプラス分より低くて単純に強くなったと思い込んでいたのだろうが、ユートは能力が余りにバカ高いものだから10は有り得なくて違和感に気付いた。

 

 それは勇者(笑)天之河光輝や坂上龍太郎なんかも同じ、元々の地球での数値が召喚された際に与えられた能力を下回っていたのである。

 

「それによく考えてみな」

 

「……え?」

 

「僕や南雲の能力値オール10とか勇者(笑)君の能力値オール100、そんなあからさまに作られた数値が有り得る筈も無いだろうに。縦しんば、筋力と俊敏が同じにしても耐久や魔力や魔耐までが同じ? どんな偶然だよ。僕と南雲が天職だけでなく能力まで同じなのを鑑みて、エヒトとやらはどうやら錬成師が御嫌いらしいな」

 

「作為的に作られた能力……」

 

 驚愕する八重樫 雫、そしてユートが地面を穿って腰を抜かしてしまう檜山大介。

 

 だけどKYは何処にでも……

 

「つまり緒方は皆を騙していたんだな!」

 

 湧いて出るものだった。

 

「日本語を理解しろ、天之河」

 

「なにぃ!?」

 

「本気で言っているなら小学一年生の国語からやり直して来い、話はそれからだ」

 

「誤魔化すな! お前がステータスを低く見せていたのは明白だろう!」

 

 ユートは会話を止めた。

 

「八重樫、天之河案件はお前が担当だろう?」

 

「!?」

 

 どうやら凄く嫌だったらしい。

 

「おい、緒方!」

 

 ユートは無視して未だに腰を抜かす檜山大介に向き合い……

 

「征け、ゲシュペンストMkーⅢ!」

 

 ゲシュペンストMkーⅢを動かした。

 

「ひぁ!?」

 

 漏らす檜山大介を他所にユートは情け容赦無く攻撃を開始する。

 

「よせ、緒方! 檜山は既に戦意を喪失しているんだぞ!」

 

「勝敗は気絶のみにて着ける、これはそいつが言い出した事。模擬戦の審判は八重樫でありお前じゃない、従って八重樫が停めない限り停まる理由は何処にも無い!」

 

 ゲシュペンストMkーⅢが跳んだ。

 

「ジョーカーを切らせて貰う!」

 

 先ずはレイヤードクレイモア。

 

「アギャァァァァァアアアッ!」

 

 落ちる勢いを利用してダライズ・ホーン。

 

「ガハッ!」

 

 思い切り振り抜いて檜山大介を空へ。

 

「喰らえ!」

 

 五連チェーンガンをバカスカ撃つ射つ討つ!

 

「あぎら!? あばばばばばば!」

 

 トドメに墜ちる檜山大介にリボルビングブレイカーで胸をぶち抜く。

 

「どんな装甲だろうと打ち貫くのみ!」

 

 既に弾丸はリロードされている。

 

 ガンガンガンガンガンガンッ!

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!」

 

 その組合せはアルトアイゼンリーゼから。

 

 ドシャァッ! 謂わば車田落ちで真っ逆さまに

地面へとキスをする檜山大介、カランカランカランと薬莢も地面に落ちて転がる。

 

 ブシャァァッ! ブリブリブリッ!

 

 失禁+脱糞コンボ。

 

「うわっ! 気絶を確認、勝者は緒方君!」

 

 その時点でユートの勝利が宣言された訳だが、八重樫 雫は檜山大介を直視出来ず鼻も摘まむ。

 

 この時の事を恨みに思った檜山大介はハジメではなくユートを、オルクス大迷宮の第六五階層のベヒモス戦にて狙った為に白崎香織、八重樫 雫、畑山愛子が奈落へと落下し、檜山大介を含む小悪党四人組と他に一〇人以上のクラスメイトが死亡する事となる。

 

 失禁に加えて脱糞してしまった檜山大介に対して嫌そうな顔で癒す辻 綾子、白崎香織が素知らぬ顔で明後日の方を視ているのはやはり檜山大介を直視したくないからか。

 

「一応、与えられたステータスが元の能力に加えられるからトータスでパワーアップはしている。技能も天職に紐付けされて与えられたんだろう。だから【神の使徒】とか呼ばれる君らは地球に居た頃より強い。それは南雲もだけどプラス分が僅か10じゃあな、実感するには全く足りないんだろうね。僕も10だとなぁ……」

 

 八重樫 雫は自分の右手をグッパグッパと握っては開くを繰り返す。

 

「ねぇ、緒方君……」

 

「おい、緒方! 聞いているのか!?」

 

 話し掛けようとした八重樫 雫だったのだけど、天之河が叫んでくれて邪魔をした。

 

 ちょっとイラッとする八重樫 雫だが……

 

 ゴガンッ!

 

「さっきから喧しいわ!」

 

 ユートが拳骨を背後から喰らわせて気絶させ、更にはヒョイッとぶん投げてしまう。

 

「で、何だ?」

 

「えっと、何か他に気付く点は有るのかしら? 緒方君なら割と気付きそうだし」

 

「そうだな、レベル」

 

「レベル?」

 

「メルド団長から受けた説明だとレベルというのはステータスが上がる事で上昇、100が上限となってソコからはステータスが上がらなくなる……という話だったが、僕らはそれなら一七年間をどうしてきたんだって話になる」

 

「どういう事よ?」

 

「何で全員がレベル1なんだ? ステータスプレートを持つまでは全員がレベル1とか有り得ない話だ。調べてみたがステータスプレートの力とは飽く迄も個人認証された能力の標示のみであり、それ以外の如何なる機能も存在していなかった」

 

「調べたってアーティファクトを!?」

 

「アーティファクトね、名前負けも良い処だな。僕から視たら単なる魔導具でしかないよ」

 

「そうなんだ……」

 

 惚ける八重樫 雫、ユートからしたら魔導具造りは『趣味で御座います』と言えるレベルだ。

 

「けど、確かに全員がレベル1っておかしいわ。一七年間を寝ていた訳じゃあるまいし」

 

 ステータスプレートが何らかの措置をしたという可能性は無く、これではまるでトータスに来て初めてレベルが生えてきた様ではないか?

 

 事実として今までにステータスプレートを持たなかった後の仲間、彼女らのレベルはそれなりに上がっていたりするのである。

 

「だから召喚された際に与えられたって?」

 

「恐らくはね。詳しくは視ていないから判らないんだが……召喚陣にはトータスのレベルシステムが焼き付けられる様に細工されていたんだろう」

 

「うわぁ……じゃあ、私達の世界が上位だとか何とかはどうなのよ?」

 

「んな訳も無いだろう」

 

 まぁ、或いは在るかも知れないが……

 

「どっちにしろ、見える情報だけを鵜呑みにした小悪党四人組の何とも愚かな事か」

 

 【情報は力也】であるからには情報を軽視すると生き残れない、ユートは実感としてそれを知っているからこそ持論としていた。

 

「さて、行かせて貰う。僕はそもそも御遊びには興味が無いんでね」

 

 訓練を御遊びと称したユートは手をヒラヒラとさせながら立ち去る。

 

 二日後の【オルクス大迷宮】にて事件は起き、八重樫 雫はユートの言葉――御遊びの意味を思い知る事になるのであった。

 

 

.

 

 

 

 

 




 どうにもありふれのレベルや技能なんかに少し違和感があって、その違和感を解消した理由付けといった感じですね。

 尚、アイリーン達のステータスはシステム外としてerrorとなります。





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第69話:メルジーネ海底遺跡を征服!

 モバスペ消滅の為のゴタゴタから一ヶ月半が過ぎて漸く先に進めました。

 取り敢えず読者様からの御厚意で【ネギま!】と【聖闘士星矢Ω】は目処が立ちました。

 【ハイスクールD×D】は現状、どうにもなりませんけど。

 ハーメルンに転載した分の一話を三分割してから聖剣までの話は戻せますが……





.

「全ては我らが神の御為にぃぃぃっ!」

 

「嗚呼、エヒト様ぁ! 万っ歳ぃぃぃぃっ!」

 

「己れ異教徒めぇ! 我らが神の為にこの場で死んでしまえぇぇぇぇっっ!」

 

 何だか目茶苦茶に酷い狂信的な場面を見せられているユート達。

 

「何つーか、気持ち悪いな」

 

「な、何なのこれぇ……」

 

 始まった立体映像みたいなそれは生々しくて、目を覆いたくなる宗教戦争だった。

 

 御互いが信じる神の為にと刃を揮い魔法を撃ち放つ姿と其処に浮かぶ狂気の笑みは、トータスに来たばかりの時に見たイシュタル・ランゴバルトが浮かべた笑みに近しい。

 

「まったく、船の墓場っぽい所に出たかと思えば行き成り船上ならぬ戦場かよ」

 

「面白くないわよ!?」

 

「判ってるさ雫、愚痴るくらい構わないだろ」

 

「や、アン! 何で行き成り盛るのよ? 此処は戦場なのよ!?」

 

「幻覚みたいなもんだ。ほらあそこでも盛っているじゃないか」

 

「……へ?」

 

 言われてふと皆が見遣れば……

 

「いやぁぁぁぁ!? 異教徒め、放せ! 今すぐに放しなさい!」

 

「うるせー! 異教徒を俺の性水で浄化して犯ろうってんだろうが!」

 

「嗚呼っ!?」

 

 確かに盛っていた。

 

 戦場では有りがちというか、斃された女騎士をバーバリアンみたいなガチ男が鎧や服を剥ぎ取りつつ、自分の下半身を露わにして醜いブツを挿入する場面であったと云う。

 

「うわぁ……」

 

 正しく美女と野獣の体である。

 

「どうせ幻覚ならそれを観ながら盛るのもオツなもんだと思うが?」

 

「んな訳がないでしょ! ちょっ、まだ盛るの? 駄目だってば! ヤりたいならせめて大迷宮探査が終わってベッドの上でぇぇっ!」

 

 尚、必死の食い下がりにもめげないユートにより三発くらいイカされた雫はげっそりと窶れてしまっており、序でに盛った他の娘までヤり抜いてある程度は満足したから探索を再開。

 

 解放者たるメイル・メルジーネが造り上げたであろう映像だったが、ユートの性欲により見なかった事にされてしまうのであった。

 

 メイル・メルジーネは泣いても良い。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 全員が見上げているそれは地球でも中々無いであろう巨大な帆船、全長は雄に三〇〇m以上はありそうで地上に見えている部分だけで一〇階建て構造になっている。

 

 船にはそこかしこに荘厳な装飾が施してあり、朽ちていても見ている者に感動を与えた。

 

 しかも木造で何百、下手をしたら何千年も前に造られたのだとしたらトータス世界も大した技術を保有していたもの。

 

「飛ぶぞ」

 

 ユートが全員を大気の結界に包んで豪華客船の最上部にあるテラスに降り立つと、やはりというべきか周囲の空間が歪みを見せ始める。

 

「ああ、またか……碌な光景じゃないだろうから、全員気を確り持つんだぞ」

 

『『『『……了解』』』』

 

 全員の重たい返事、周囲の景色は完全に変わって今度は海上に浮かぶ豪華客船の上だった。

 

 夜空に満月がキラキラと優しく輝いている。

 

 月下の豪華客船は船自体が光に溢れて甲板には豪奢な飾り付け、更には立食式の料理が所狭しと並んで人種すら違う多くの人々が豪華に過ぎている料理を口にしちつ楽しそうに談笑していた。

 

「これはパーティー?」

 

「そうみたいだね香織。煌びやかなもんだけど、此処からどう動くものやら……な」

 

 ホッと胸を撫で下ろす香織、雫や鈴も予想したいた凄惨な光景というのとは程遠いだろう賑やかな船上パーティーにほっこりし、ユエやティオは未だに厳しい表情をしていたがシアも雫達みたいに煌びやかな光景を穏やかに見つめている。

 

 幾らかの話をしているのが聴こえてきた結果、どうやらこの船上パーティーは終戦記念らしい事が判り、しかも他者殲滅とか他国侵略なんてのではなくて和平条約を結ぶものだとか。

 

「成程、だから船上で亜人族や魔人族まで笑いながらパーティーを愉しんでるって訳か」

 

「こんな時代があったんだね」

 

 香織の表情は綻んでいた。

 

「果たしてそうかの?」

 

「……ん、絶対に油断は出来ない」

 

 何も言わずパーティーを見つめていた雫と鈴とシア、そんな中でティオとユエの二人は未だに厳しい顔の侭で視ている。

 

「ティオからしたらこの場面の後が怖いか?」

 

「フフ、主殿は流石の御賢察よの。妾からすれば確かに怖い」

 

 嘗ては種族を越えた里を目指した竜人族ではあったが、いつの間にか竜人族は世界の敵にされて滅亡の一途を辿ってしまった。

 

 ティオの父母もそれで死んだ。

 

 だからこそあのパーティーみたく他種族で喜びを分かち合う姿は、ティオからしたらある意味でのトラウマを刺激してくれる。

 

「ユエはやはり戦争を経験してるからか?」

 

「……ん、私は戦争の道具として王の座に就いてたから。叔父様……は、気遣ってくれていたけど結局は私を封じてまで玉座を欲したし……」

 

 ユエはアレーティア時代に所謂、移動砲台みたいな感じで強大な最上級魔法を詠唱も無しでバカスカ撃ち放っていたらしい。

 

 敵軍からしたら恐怖しかなかっただろう。

 

 それが故にあの光景が続くなどとはとても思えずに顰めっ面となっていた。

 

「優斗も二人みたいに思ってる?」

 

「これは神代魔法を獲る試練だ。このほのぼのなパーティーを見せて何を試練とする?」

 

「ああ、そうよね」

 

「況してや、此処の担当はメイル・メルジーネだからね。ミレディ曰く――『メル姉はSっ気タップリだから気を付けてね』だそうだしな」

 

「ミレディさんの御墨付き……かぁ」

 

 嫌な御墨付きもあったものである。

 

「あれは……」

 

「どうしました、ユートさん?」

 

「シア、あのフードを見ろ」

 

「? チラッと銀髪が見えましたね……銀髪?」

 

 どうにも最近になって銀髪に余り良い想い出が無かった様な気がして、シアはパーティーの最中だというのにフードを被った人物を凝視する。

 

「な、何でしょうか? 途徹もなく嫌な予感がしてきたですぅ……」

 

「終戦の為にどれだけの人間が奔走をした事か、正しくこれは全てのヒトの偉業だろうにな。果たしてあれは終戦からどれくらい経っているのかまでは判断が出来ないが、蟠りの全部が全部消えた訳は無い。それでもあれだけ笑い合えるなんてのはこんな平和を望んだ者がそれだけ多かったんだろうに。それを汚すのがエヒトルジュエ、僕らを新たな駒として喚んだクソ神って訳だよ」

 

「あそこに居るのはその頑張った人達であろう、エヒト……否さエヒトルジュエはそんな頑張りを無にしよる」

 

「……許せない」

 

 戦争の悲惨さをよく知ってるユートとティオとユエは自然と呟いていた。

 

 暫くは晴れ晴れと平和を享受する人々を見ていたユート一行、少し経つと甲板に用意されていた壇上に初老の男が登って手を振り始める。

 

 そんな男の様子に気付き喋り合っていたヒトらはそれを止めて注目、皆の目には彼に対し一様に敬意のらしきものが見て取れた。

 

 彼の男の傍には側仕えらしき男と先程からちらほらと見られるフードを被った人物、普通にならそれは可成り失礼に当たると思うが然しながら、フードを被るその誰かについてはいずれも注意をしていないらしい。

 

 パーティーの喧騒静まり返り注目が集まると、壇上へと立つ初老の男による演説が始まった。

 

「この場に居る諸君! 平和を願って、その為に身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君よ、平和の使者達よ! この佳き日に一同に会する事が出来たのを私は誠に嬉しく思う。この長きに亘る戦争を私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来た。そして悪夢としか思えぬ戦争から今のこの光景を目に出来た事、私の心は震えるばかりだ!」

 

 人間族らしきこの王が始めた演説であったが、誰しも身動ぎ一つしないで聞き入っている。

 

「成程。和平の足掛かりとなった事件にすれ違いや疑心暗鬼、それを覆す為の無茶、道半ばで散っていった友の事もねぇ」

 

 演説には皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を押さえ涙を堪えたりと様々な反応。

 

 蟠りが無いとは云わないがやはりそんな犠牲を払ってまで漸く手にした平和、だけれどユートはこれが試練であるからには胸糞も後味も悪い展開だと気付いていた。

 

「どうやらこの男は相当初期の頃から和平の為に裏工作していたみたいだな、こうして人々が敬意を示すのも頷ける話だが……それだけにヤバい」

 

「え、どういう意味よ?」

 

 ふと言う科白に雫は驚く。

 

「すぐに判るさ……すぐにな」

 

 ユートの目はフードの誰かさんに向いた。

 

 演説も終盤に差し掛かり熱に浮かされたが如く盛り上がる国王、その場の雰囲気とて否が応でも聴いていた者らが盛り上がっていく。

 

「――こうして和平条約を結び終え一年が経って私は思うのだ…………そう、実に愚かだったとな」

 

 ユートは呟やいた。

 

「どうやら始まったな」

 

 先程まではカリスマ溢れる善王の体で話していた筈の人間族の王、然し今の彼は何やら熱に浮かされたかの如く瞳で辺りを見回す。

 

「実に実に愚かだったよ。高が獣風情と杯を交わす事も、異教徒共と未来を語る事も……正しけ愚かの極みだった。私の話を理解が出来ているのかね諸君? そう、君達の事を言っているのだよ」

 

「何を言っている、アレイストよ! いったい何がどうしたと言っ……がはぁっ!?」

 

 人間族の国王――アレイスト王の突然な豹変に、魔人族らしき男が動揺した表情で前に進み出たとおもったら胸を剣に貫かれてしまう。

 

 刺された魔人族の男は肩越しに振り返り……

 

「ば、かな……」

 

 刺したであろう人間族を見ると驚愕し表情を歪めた侭で崩れ落ちた。

 

 どうやらその人物とは因縁浅はかならぬ関係であったらしく、信じられないといった顔で逝く事になってしまったのである。

 

「へ、陛下ぁぁぁああっ!」

 

 つまりは彼も魔人族の国王だったのだろうが、先程の刺した男は気の置けない酒友か何かか。

 

 騒然となりながらも倒れた魔人族の王? らしき男に数人の男女が駆け寄った。

 

「さて諸君、私が最初に言った通り諸君が一同に会してくれた事は素直な気持ちで本当に嬉しい。我らが神から見放された悪しき種族の如きが国を作り、我ら人間と対等の心算で居るという耐え難い現状も、創世神にして唯一神たる“エヒト様”に背を向けた上に下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この佳き日に終わる! 諸君ら全てを滅ぼす以外に平和など有り得んのだからな! それ故に各国の重鎮を一時に葬り去れる今日が私は堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実なる下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ……エヒト様ぁ! エヒト様ぁぁぁぁ! この瞬間を見ておられますかぁぁぁぁっ!?」

 

 膝を付き天を仰いで涙を流しながら哄笑を上げるアレイスト王、その合図同時にパーティー会場の甲板を完全に包囲するのは見るからにザ・船員という風体から変わる兵士達であった。

 

 その後は凄惨極まりない虐殺。

 

 碌な抵抗も侭ならず斬られ抉られ焼かれていく各国の重鎮達、首を落とされたり捻られたり更には上半身と下半身が泣き別れさせられたり。

 

「うっ、げぇぇぇぇぇっ!」

 

「鈴、余り視るな」

 

 エレエレと嘔吐く鈴の顔を腹の辺りに押さえ込んで見えない様に目隠しする。

 

「ゆう君? あの、鈴……吐いちゃったからばっちいよ……?」

 

「構わん。【閃姫】は僕と共に歩む使徒であり、謂わば恋人や妻や言い方は悪いが側室や愛人や何なら妾とか兎に角、自分の女だからな。吐いたくらいで手放す心算は無い!」

 

「……あ、りがと」

 

 これを見ていたユートの【閃姫】達は一様に思った――『堕ちた』……と。

 

 実際に真っ赤な林檎みたいな頬で縋り付いている鈴、試練の真っ最中なのも忘れて温もりを感じて目を閉じてしまう。

 

 えちぃけど折りに魅せる優しさに堕ちるというのが【閃姫】達だった。

 

 事実として紛り形にも香織はハジメが好きだった筈だが、今はユートに想いを寄せてきちんと愛を育んでいる。

 

 尻軽と言う勿れ、処女の痛みを刻み付けられて何度も何度もユートの分身を胎内に覚えさせられセ○クスの快感を教え込まれて、遂にはハジメの名前を言わなくなってユートの名前でイクばかりになっていった。

 

 最初の頃は『ハジメ君ハジメ君!』と叫んでいたものだが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アレイスト王は数人の部下を伴って船内へと戻っていったが、幾人かが慌てて船内へと逃げ込んだらしいからヒト狩りでも愉しむ気なのかも。

 

 フードの人物も船内に消えた。

 

 同時に周囲の景色がぐにゃりと歪む。

 

「あの映像はさっきの狂信者染みたのを見せたかったんだろうな」

 

 頷くユート一行の【閃姫】達。

 

「取り敢えずは休もうか。魔物が出そうな気配も無いみたいだし、鈴も流石に今の侭だと気持ち悪いだろ?」

 

「うん、確かに……」

 

 ユートに受け容れられたとはいえ、吐瀉物塗れなんてのは鈴としては是が非でも遠慮をしたい処であろう。

 

「じゃあ、脱ぐね」

 

「いやいや、脱ぐって鈴は露出狂なのか?」

 

「ちょっ、何て事を言うの!?」

 

「じゃあ、何故に脱ぐ?」

 

「脱がなきゃ着替えらんないよ!」

 

 至極真っ当な事を言った鈴ではあるのだけど、ユートは困った表情てなって首を傾げた。

 

 男がやっても可愛いげは無い。

 

「そもそも着替えなんて持ってるのか?」

 

「あ゛っ!」

 

 鈴はオスカー・オルクスが仲間の魔法を用いて開発した【宝物庫】という、アイテムボックス的な便利アイテムを持ってはいないのだ。

 

 当然ながら背中に背負ったリュックサックっぽい物に入り切らず、余計な物は持っては来れない悲哀があったのは想像に難くない。

 

「どどど、どうしよう?」

 

「心配せずともちゃんと綺麗にしてやるからさ、鈴はほら……此方を向いてろ」

 

「う、うん」

 

 言われた通りにするとユートは詠唱らしきを唱えて両手を翳す。

 

「唄?」

 

 それは短いながら唄の様であったと云う。

 

柔洗浄(ソフト・ウォッシュ)

 

 水浸しだが汚れは確かに落ちた。

 

「次だ」

 

 再びの詠唱。

 

乾燥(ドライ)

 

 名前の通りに乾いていく鈴の服や下着。

 

「序でに」

 

 三度の詠唱が唄われる。

 

消臭(デオドラント)

 

 洗浄→乾燥→消臭の三段構えで鈴の吐瀉物による汚れと臭いを洗い流した。

 

 ドラクエやFFやテイルズやウィザードリィやメガテンなど、よく識る魔法の類いとは全く別の魔法に全員が驚いてしまう。

 

「優斗、さっき鈴に使った魔法は?」

 

「別の世界で覚えた生活魔法」

 

「生活魔法……確かにゲームの魔法に普通は無いわよね。ラノベ関係になら割とよく有るかしら?」

 

 強力な火力を伴う攻撃的な魔法や癒しの魔法などとは異なり、洗い物をしたり乾かしたり臭いを消したりといった生活に役立つのが生活魔法で、ユートも普通に暮らしていく上で割かし重宝していたりする。

 

 ゲームでは汚れたからと軽く水を出す魔法なんて無駄なメモリは使えないし、何よりプレイヤーが面倒臭いだけで恐らく投げ棄てるだろう。

 

 そしてクソゲー認定待った無し。

 

「今は休憩中なら訊いて良い? どんな世界で、どういう女の子達を堕としていったの?」

 

 ニッコリと微笑む雫。

 

(目が笑ってないけどな!)

 

 見れば興味津々なのか香織も鈴もユエもシアもティオも、何故か黙って聞く体勢に入っている辺り話すしか無さそうだ。

 

「簡単に言えばソシャゲのプログラマーをしている三十路男と異世界に跳ばされた。とはいえ僕と彼は別の経路で跳んだから同じ世界線で同じ時間軸の存在ながら、全く違う場所と違う時間軸へと跳ばされたからな」

 

 どちらも見た目に幼い女神が異世界に召喚をしたのは変わらないが、ユートは勇者召喚を地上に伝えた幼女神が予知にて召喚しておけば自分自身の利益に叶うと知り喚んだのに対し、彼は彼自身の前世から関わるらしい竜女神が世界線の違う彼を縒り纏めて召喚をしたのだと云う。

 

 幼女神はユートが地球で知り合った彼の幼馴染みの異時空同位体を勇者召喚していて、それ故に彼を巡る一悶着も多分にあった。

 

 ユートは元より“勇者”に余り良い想いを持たなかった為に、余計と勇者を好かない気分になるのも仕方がない話。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一通りに語り終えて再び動き出す一行。

 

「ゆう君、あれで終わりなのかな? 私達、何もしてないんだけど……」

 

「この船の墓場が終着点だろうね。勿論、結界を超えて海中を探索も可能だろうが……深部に進むなら船内を進めさせると思う。幾らSっ気があるとはいっても意味も無く船外作業をさせんだろう。あの幻影は見せる事自体が目的だったのかもな。エヒトの狂信者を見せ付けたその上で、この船を探索させるとか中々なSらしい趣向だったよね。特にこのトータス世界の連中にとっては」

 

 聞いた話ではこの世界では人口の実に八割もの存在がエヒト教信者、残りは神の加護無き亜人族と異教の魔人族という括りらしい。

 

 因みに吸血鬼族と竜人族は亡んだ扱いであり、カウントはされていなかったりする。

 

 そして人間族に限れば九割が信仰者という頭がおかしい状態で、この世界の人々はその殆んどが高い信仰心を持っていた。

 

 本当に一般的な日本人からしたらおかしい。

 

 若しメルド・ロギンス元騎士団長辺りがこんな惨たらしい迄の、信仰心の行き着く果てを見せつけられたなら精神を相当に苛むであろう。

 

 しかもこの大迷宮は魔法が使えない状況下での試練だった【ライセン大迷宮】とある意味で真逆であり、攻略者の精神状態に作用されやすい魔法の力こそが攻略の要となる。

 

 信仰心が低い一般的な日本人だからこそ精神的圧迫もこの程度に済んでいるのだ。

 

「私達にも問題よ。ある程度は割り切りも出来ているけど、流石にあれは鈴程じゃなくともキツい内容だったもの」

 

 雫も吐かなかったとはいえ気分は悪い。

 

「ゆう君は平気なのかな?」

 

「僕が何千年を在り続けていると思っている? あんな程度でいちいち動揺なんてしていたらすぐに殺される環境だってざらにあったよ。だからと言って平気って訳でも無いがな」

 

 ユートだって気分爽快とはいかなかった。

 

 ユート一行はアレイスター王らが進んだ道を、追い掛けるが如く進んでいく。

 

「キモいな。あれがそうなのか」

 

「さっきの光景って……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていう事なのかな?」

 

「否、あれはあのフードを被った奴が少しずつ少しずつ洗脳をした結果だろうね」

 

「へ? せ、洗脳?」

 

「ああ、リューンやノイントと闘って勝った後のお楽しみタイムで聞き出した奴らエヒトルジュエの使徒の固有技能に分解と洗脳が有るんだよ」

 

 事実としてユートには効かなかっただけで確りと分解を使っていたらしい。

 

「ティオの時……竜人族が神敵として急襲された時にも奴らエヒトルジュエの使徒は暗躍してたって話だし、節目節目で他種族で仲良くしようとする連中は数千年の中でも現れていたらしいんだが、そういうのを希望を持たせながらギリギリで絶望に落とすのを、エヒトルジュエが愉しい余興として観ているんだそうだ」

 

「何じゃと? 父上から全ては神の仕業であるとは聞いておったが!」

 

 そのやり方が陰湿に過ぎる。

 

「まぁ、神を自称する連中なんて大概がそういったものだろうさ」

 

「……実感が籠ってる?」

 

 ユエが首を傾げた。

 

「幾つか例を識っている。例えば【泡の中央界】を創ったとされる【初めに立ちし者】は支配を好みヒトの嘆きを喰らった」

 

 創った世界でヒトを虐げて負の精神エナジーを

喰らい、支配欲と食欲を同時に満たしていたというのが予測されていたのだが、【初めに立ちし者】本人がその行為について肯定をしたから間違いはなかった。

 

「また別の世界では超聖神が創造した世界に態と不和の種をバラ撒き、決して争いが絶えない様に二重三重に仕掛けを施していた。それでも人々は聖魔和合や大層の統一と平和を望んだのが癪に障ったらしく、自らが全てを無に帰して世界を創り直そうとしたらしい」

 

 争いを拒むなら用は無いと言い放った程。

 

 尤も、【初めに立ちし者】とは違ってその争いで獲られた力を自らに還元をしてその先の闘いに備えていた辺り、無意味に世界を玩具箱や遊戯盤みたいには考えていなかったのだろう。

 

「世界によってはヒトの信仰を獲るべく文明開化を赦さない神々なんてのも居たな」

 

「どういう事ですぅ?」

 

「簡単に言えばシア、僕みたいなのが大量輸送やら何やらを世界に齎らせると神罰とか言って理由も報せず一方的に亡ぼし破壊するんだ」

 

「そ、それは……」

 

 余りにも余りな話に閉口するシア。

 

「僕の生まれた世界でも神々は自らの行いを棚に上げて人間の争いを生まれた星を蝕み、宇宙すら汚す忌むべき者として『愚かだ』『哀しい』とか言い放って人類の粛清をしようと企んだよ」

 

 そもそもが神々からして自分勝手に神同士による争いを繰り返し、その争いはそれこそ宇宙に在る違う星々にまで波及をしていた筈である。

 

 単にそれを人間が真似たに過ぎない。

 

「実際にアレイスター王の事もエヒトルジュエ絡みなのは間違いない。何だか危ない感じで色々とキモい事を叫んでいたから」

 

「うん、あれはまるでイシュタルさんみたいだったよね、トリップしている真っ最中の。凄く痛々しいかったよねアレ」

 

 聖教教会の教皇サマは女子高生からイタイ人だと思われていたらしい、ユートは彼の痛々しいばかりの老人に『ざまぁ』と思ったのだと云う。

 

 ユート一行が先程の光景を考察しながら進んでいると、前方に白くヒラヒラしたものが見えたので足を止めて光を照らす。

 

 正体は白いドレスを着た女の子だったのだが、こんな場所に普通の女の子なんて居る筈が無いのだから撃ち殺すべく、暴君の魔獣でクトゥグアの弾を撃ち放ってやった。

 

 BANG!

 

 額にヒットしたその瞬間、女の子が廊下に倒れ込んだかと思えば手足の関節を有り得ない角度で曲げて、蜘蛛かと云いたくなる感じに手足を動かして真っ直ぐに突っ込んで来る。

 

『ケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』

 

 奇妙で奇天烈な笑い声が廊下に響き渡り前髪の隙間から炯々と光る眼が、まるでどっかの都市伝説みたくユート達を射抜きながら迫って来た。

 

「嫌だあああああああああああっっ!」

 

 キモく恐ろしいという光景を見た鈴が絶叫を上げて頭を抱える。

 

「死んどけ、メラ!」

 

 ユートが小さな火球を指先から放つとキモいだけの存在にあたり……

 

 轟っ!

 

『ギエエエエエエエエエエエエッ!?』

 

 全身を巻き込み天井にすら至る火柱となって、ソレを一気呵成に焼き尽くすのだった。

 

「あれ、メラゾーマじゃないわよ!?」

 

「今のはメラゾーマではない………………メラだ」

 

 一応、そう進言していた筈なのに何故か雫からは全否定をされてしまう。

 

「あのぉ、メラとかメラゾーマって?」

 

 余りの酷い炎に驚いて若干ながらチビりそうになったシアが、小さく右手を挙げながら代表をするかの様に質問をした。

 

「此処とは違う世界で賢者に成った僕が修得していった呪文体系、火球呪文と呼ばれるメラってのは最初に覚える最初級呪文で、メラゾーマってのは二番目に強い火球呪文」

 

「因みに一番目は?」

 

「メラガイアー」

 

 尚、ユートはDQⅢの時点で最上位呪文修得をしていたりする。

 

「同じ呪文でも魔力資質や魔力強度や魔力容量、それによって威力も範囲も桁違いになるんだ」

 

 大魔王バーンは魔力容量についてのみ言及をしていたが、それだけでは其処までの差を出す為にはそれこそ莫大な量を必要とする筈。

 

 例えば一つの魔法に10のMPが必要であった場合、強度が1ならば10の消費の侭になる処であるのだろうが、強度が2となると消費は5に減る……逆説的に10の消費で威力は倍になる。

 

 質が上がればこれらがより顕著となるだろう、大魔王バーンは正しく質も量も強度も高い反則級の魔力の持ち主だった訳だ。

 

 ユートも流石に未だバーンには及ばないけど、通常の魔術師の数百倍ともされる呪力を持つと云われるカンピオーネありで、しかも元々の量も質も強度もそこら辺の魔術師を凌いでいた為にか、本当に大魔王バーンにも迫る勢いで強化というか凶化されてしまっている。

 

 故にある程度は大魔王バーンごっこに興じる事が可能なくらい余裕を持てた。

 

 メラガイアーでカイザーフェニックスを撃てるのだから相当であろうし、その気になればそれこそフェニックスウイングやカラミティエンドなんかも放てる筈だ。

 

 世の中では星をドッカン出来ないと弱いみたいな風潮があったりするが、そんな莫迦な話は無いというのをユートは経験則から識っている。

 

 例えばの話で地上という【蓋】を破壊するのに黒のコアを使った大魔王バーンと、かめはめ波の一発で月を消し飛ばした亀仙人では果たしてどちらが強いのか?

 

 言わずもがな大魔王バーンである。

 

 つまりはそういう事だ。

 

「メラガイアーが使えるんだ。だったら他のも使えたりするの?」

 

「雫が言ったのはイオグランデ、マヒャデドス、バギムーチョ、ギラグレイドの事か? それなら使えるぞ」

 

 今までに最高位だった呪文の一段階上の呪文、これまではメラゾーマ、マヒャド、イオナズン、ベギラゴン、バギクロスがそれだった。

 

 無論、ドラクエⅢで賢者だったユートはそれらの全てを修得しているし、何なら勇者の呪文でさえも使い熟す事を可能としている。

 

「使う時は気を付けてね」

 

「判ってるよ」

 

 メラガイアー以外は基本的に範囲攻撃であり、下手に使うと味方を巻き込んでしまうから。

 

 先に進めば進む程に怪奇現象系が増えていき、廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うとその扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たったからと天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いて見下ろしていたり、何かしら引き擦る音が廊下からしたかと思ったら生首と斧を持った男が現れ迫ってきたりとホラーとしか思えない出来事で一杯。

 

 殆んどはユートが閃熱呪文で撃ち抜いたり蹴りを放ったりで破壊したが、いい加減で精神的には

危なっかしくなっている少女()が一人。

 

 鈴は歩きながら涙目で香織に訊ねる。

 

「ねぇ、カオリンってああいうホラー系とかって苦手じゃなかったっけ?」

 

「ああ、何だか荒事に慣れちゃったからかな? 平気じゃないけど大丈夫になったみたい」

 

「そ、そうなんだね」

 

 香織とて元々が苦手なホラーを平気になっている訳ではないにせよ、色々な経験によりいつの間にか我慢が出来る様になったらしい。

 

「うう、鈴も頑張るよ」

 

 反面で鈴はホラーが苦手な訳ではなかったが、やはりリアルに視るのとはまた別物だった。

 

「やれやれ、此処の……【メルジーネ海底遺跡】の創設者たるメイル・メルジーネってのはとことんまで精神的に追い詰めるのが好きらしい。流石はミレディが引き攣りながらSだと言うだけある」

 

「ゆう君は平気なの?」

 

「積尸気を使う僕が死霊を恐れてどうするよ? 何より僕は死後の世界たるハーデスの冥界を運営してるんだぞ」

 

「積尸気? ハーデスの冥界って? 聖闘士的なやつなの?」

 

「鈴は女の子だし、原作が発表されたのはそもそもが一九八〇年代だからな。知識として知らないのも無理は無い。寧ろ識っていた雫や香織がアレだったんだろう」

 

「「アレって何!?」」

 

 何だかアレ呼ばわりされて二人は声を揃えての抗議をしたものだった。

 

「鈴も一応は聖闘士星矢くらい識っているけど、其処まで詳しい訳じゃないんだ」

 

 始まりは西暦一九八五年の昭和六〇年の事で、平成生まれの鈴が仮に識らなくてもそれは無理からぬ事だが、西暦ニ〇一二年にはアニメ的続編に当たる【聖闘士星矢Ω】を放映しているから見聞きをしていてもおかしくはない。

 

 因みにユートも平成生まれだけど、男だったから普通に週刊少年ジャンプは読んでいた訳だし、聖闘士星矢に興味を向けて古本を読んだり新刊として新装版を読んでもいた。

 

 寧ろ好きな漫画だったからこそハルケギニアでも【聖衣】なんて魔導具を造り、一ニ宮騎士団を組織して運営を行ったりしていたのだ。

 

 しかも一ニ宮騎士団は【魔法少女リリカルなのは】な世界でも運営したし、あの世界のギリシアには本営となる聖域すら構築をしている程。

 

 というより、やり過ぎなレベルで冥界には何と黄金聖闘士だった者達が住んでいる。

 

 ユートの冥界のエリシオンはハーデスの頃とはまた別物で、タナトスがニンフと戯れていた様な花畑みたいな場所も在るには在るが、ある程度は黄金聖闘士の希望を聞いて構築してもいた。

 

 例えば牡羊座のムウは聖衣修復や製作がやり易い様に、神鍛鋼やガマニオンや銀星砂が手に入り易い鉱山が有る場所を希望してきたから近場には鉱山を創っている。

 

『はぁ、昔は少ない在庫をどうするべきか考えるのも大変でしたのにね』

 

 ムウは三種類だけでなく他の神の闘士の闘衣の素材まで無限に産出する鉱山を目の当たりにし、呆れるやら喜ばしいやらどう言えば良いのか判らない複雑な表情であったと云う。

 

 元より無限とも云える汎暗黒物質を【創成】により物質化が出来るが、権能により冥界を構築したのはそれすら越えた謂わば擬似的世界創造とも云うべきものだった。

 

 金色の女王と白痴の女王から祝福をされていたが故に、人間という矮小な存在から考えれば有り得ない力――汎暗黒物質を自在に操る能力を得られたユートだからこそ、権能にこの力を足す事によって可能だった冥界の構築である。

 

 ユートの場合は権能にせよ神器にせよ持っている某かが干渉してパワーアップしていた。

 

 冥界を創る【冥王の箱庭の掟(ヘル&ヘブン)】は先に述べた通りだし、神器の【聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)】とアーサーの剣の竜骨がユートの後付けで得た権能の【麗しの騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)】と連動をした結果、やはり権能がパワーアップをして本家本元? 的なアルトリアのエクスカリバーやカリバーン処か【最果てにて輝ける槍( ロンゴミニアド)】まで扱える様になっている。

 

 ものの序でに遺された竜骨たる鞘と鎧の呪力を取り込んでしまったから鞘で【全て遠き理想郷(アヴァロン)】を得て、鎧で一ニ人の――ユートを含めて一三人の円卓の騎士を構築してしまえる権能になった。

 

 

 閑話休題

 

 

 

 更に先に進むユート達。

 

「アレイスト王やフードは完全に見失っているにせよ漸く船倉にまで辿り着けた訳か」

 

 鈴が役に立てないという重圧下に在る所為か、すっかり弱気になってしまっていて困った。 

 

 そもそも鈴は仮面ライダーの力を得るべく付いてきたのであり、少なくともユートが好きだから付いてきた訳では決して無くて、力を得る対価としては仕方がないと身内にして貰うべく抱かれただけである。

 

 そう考えるとビッチっぽくなるかもだけれど、某勇者(笑)の暴挙から傍に居るのは躊躇う。

 

 ヤられる事は同じでもせめて自分の意志で抱かれる相手くらい選びたかったのだ。

 

 だけど存外に優しくされて気持ちが良かった、酷い目に遭うかもと思っていたから意外だったのもあるし、脳内にユートの囁きが染み渡るのが余りにも心地好く聴こえたのである。

 

 香織と雫がユートに付いていく気になったのも納得したのと同時に、若しユートの興味が離れたら捨てられるかも知れないと怖くもあった。

 

 殊更に媚びてしまったかも知れないけど終わった後は愛しいと感じていたし、香織が呼ぶみたいに『ゆう君』と鈴も呼んでいる。

 

 愉しいと感じていただけに捨てられて今を喪いたくはない、まるで天之河グループが音を立てて崩壊してしまったかの如く喪失感はもう要らないのだから。

 

 まさか仮面ライダータイガになっても余り役に立てないとは思わなかったし、それで役立たずと罵られたら生きていけないくらい好意を懐いてしまっていた。

 

 鈴が項垂れているとまたもや異常事態が発生しだしたらしく、急に辺りを濃い霧が立ち込め視界を閉ざし始めている。

 

「鈴、聖絶だ!」

 

「にゃ、は……はいぃ! ここは聖域なりて 神敵を通さず――【聖絶】っっ!!」

 

 ユートの言葉で反射的に光のドームを展開させたその瞬間、ヒュッ! という風切り音が鳴り響いて霧を切り裂き何かが飛来してきてドームへと当たって弾かれる。

 

「へ?」

 

 間抜けな声を上げる鈴の頭を乱暴に撫でてやりながら……

 

「よくやった!」

 

 鈴がきっと欲しかった言葉を伝えてやった。

 

「首の高さに合わせた極細な糸とかマニアックなトラップを!」

 

 光の膜たるドームに弾かれたのは糸、下手をしたら首がポトリと逝く致死性の物理トラップ。

 

 更に留めど無く連続で風を切る音が鳴り響き、今度は四方から八方から箭が飛来してきた。

 

「中々に嫌らしいね、解放者はっ!」

 

 ユートは刀を揮って箭を叩き落とす。

 

「飛び道具は神鳴流には効果が無い!」

 

「優斗って緒方逸真流って言ってなかった?」

 

「神鳴流も詠春さんから一年間くらい習っているから問題は無い」

 

「そ、そう……」

 

 雫もまさか一年間で一つの流派に堪能とか思えなかったが、ユートは無為な嘘は吐かない筈だから一応は修得したのだろうと思った。

 

 ユートは原典を識らない。

 

 だから香織と鈴の役割が入れ代わったかの如く進んでいたのも識らなかった。

 

「きゃぁぁっ!?」

 

「暴風?」

 

 原典で香織が居た位置に偶々居た鈴が暴風に煽られてしまい、悲鳴を上げながら鈴は暴風により吹き飛ばされてしまった。

 

「ちぃっ!」

 

 舌打ちしながら走る。

 

 ユートは正確に鈴の位置を把握していた為に迷い無く突っ切っていると、今度は前方の霧を切り裂いて長剣を振り被る騎士風の男が襲い掛かってきたのを刀の鞘で受け止めた

 

「人の女に手ぇ出して無事に済むと思うな!」

 

 往なしたと同時に身体をクルリと回しつつ後ろへと回り込み、騎士らしき男の腰を横薙ぎにして上半身と下半身を泣き別れさせる。

 

 だが直ぐにも同じくらいの技量を持つであろう剣士や拳士や弓士など、も様々な武器を持っている武闘派の者共が霧に紛れて襲い来た。

 

「面倒臭いな……【緒方逸真流宗家刀舞術】が奥義の一つ――【颯真刀】!」

 

 それは修得する為に死に掛ける必要があるとされる奥義の一つ、名前は漢字こそ当て字みたいになっているが走馬灯という刹那で振り返る自身の人生を意味している。

 

 走馬灯は死に至る瞬間に脳内物質の過剰分泌により極限まで思考が加速され、ほんの一秒にも満たない時間で記憶の波が夢現に押し寄せる現象。

 

 ならば加速した思考に併せて肉体を動かせるのならどうか? 思考は電磁的パルスとなり肉体にも作用をするから不可能ではない。

 

 走馬灯を視る刹那を駆け抜ける奥義こそがこの【颯真刀】であった。

 

 五〇体に近い戦士の亡霊達ではあったものの、ユートにより一秒と経たず消滅させられた。

 

 更に大剣を上段にふり被る大男が現れたけど、『弐真刀!』……チンと刹那の刻に二回攻撃をする奥義により首チョンパされてしまう。

 

 こいつは抜刀術の一種で、抜刀と納刀の動作を二回分の攻撃にして本来は超近接戦闘で二人の敵の首をチョンパする技。

 

 【緒方逸真流】の創始者である緒方優之介も、戦国時代の倣いとして戦場(いくさば)に立ち首チョンパしていたものだった。

 

「鈴、返事をしろ! 鈴っ!」

 

 ユートが鈴の気配を元に探索を行うものの変な気配が重なっている。

 

「此処だよ、ゆう君!」

 

「……鈴」

 

 鈴が微笑みを浮かべながらユートに近付く。

 

「もう、すっごく怖かったよ」

 

「そうか……」

 

「うん、だから慰めて欲しいんだ」

 

 背丈が低いから鈴は爪先立ちになりながらも、ユートの首に腕を回して抱き付くとゆっくり唇を重ねるべく近付けてきた。

 

「随分と見縊られたものだな」

 

「え?」

 

 チャキッ! 刀の刃が鈴の首筋に当てられたのに気付いて離れる。

 

「ど、どうして?」

 

「愚かな、全て視えているんだ。鈴に取り憑いた悪霊が! 積尸気使いを舐めるなよ!」

 

 看破された鈴……に取り憑いた女の亡霊はニヤッと口角を吊り上げる。

 

「アハハ、それが判っても貴方にはどうする事も出来ない……もう、この女は私のものよ!」

 

「言ったろ、積尸気使いを舐めるなと! 流石に本家本元なデスマスクやデストールやマニゴルドには劣るが……な」

 

 ユートは右腕を天高く掲げて人差し指をピンと伸ばすと燐気を収束していく。

 

「ま、待ちなさい! 何をするのよ? この女はアンタの女でしょ! 傷付ける心算なのッ!? そもそも私が消滅すればこの女の魂も壊れてしまうわよ? それでも良いの!?」

 

「消滅? 単に消滅が出来るなんて思うなよな。こちとらは積尸気使いだと言ったぞ」

 

「な、何を!?」

 

 燐気が最高潮にまで高まった。

 

「積尸気冥界波ぁぁぁぁぁっ!」

 

「ば、莫迦な!? 複雑に絡み合っている筈の私と小娘の魂が一つ一つ解されていくぅぅっ?」

 

 積尸気冥界波――蟹座の黄金聖闘士デスマスクが使っている蟹座の奥義、勿論ながら過去の蟹座のデストールやマニゴルドも使えた技だ。

 

 敵の魂を黄泉津比良坂へと送る一撃死な技で、喰らえばエターナル・フォース・ブリザード的に相手は死ぬ……仮死だから黄泉の穴に落ちるまでは生きているけど。

 

 余程の強者でもなければ抗う事など出来ず魂が肉体から引き剥がされるのみ。

 

「その存在は、今この時を以て滅びるが良い! 積尸気魂葬波!」

 

 スドォォォン!

 

『グギャァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!?』

 

 特に何かを破壊するでなく無意味に魂を爆発させる奥義で、亡霊の魂は悲鳴を上げて散々になり消滅してしまう。

 

「お前は意味も無く只消え失せろ」

 

 霊的な存在を爆発させるが故に最早、亡霊など転生も叶わぬレベルで滅びたのである。

 

「貴様の魂に幸いは要らない、平穏も災いも要らない……虚無へと還れ」

 

 金色の御許ですらない無限の虚無へ……

 

「鈴」

 

「ん?」

 

 ユートが唇を重ねると鈴が目を覚ます。

 

「な、何で鈴ってばゆう君にキスされてんの? これっていったいどういう状況!?」

 

「魔力による気付けだ。それとも背中から喝を入れて起こして欲しかったか?」

 

「キス……で、良いです……」

 

 鈴は恥ずかしそうに言ったものだった。

 

「んんっ!」

 

「お前はもう僕のモノだ、誰にもやらないし手放してもやらん。お前の唇も胸……はいずれ子が生まれたら譲るが、膣なんかもう僕のブツ以外は受け容れさせてやらない」

 

「は、恥ずかしい事を言わないでよ……鈴だけじゃない癖に……」

 

「僕は七つの大罪の殆んどを網羅しているから、

沢山を欲しがる癖に独占欲も強いのさ」

 

「……地獄に堕ちるよ?」

 

「死んだら即転生するし、そもそもにして死後の世界たるあの世――ハーデスの冥界は僕の領域さ。エリシオン以外に僕は逝かない」

 

「ず、ずっこい! ゆう君ってずっこいよ!」

 

「鈴が死んでも肉体を与えてエリシオンに迎え入れてやる。宇宙が滅びても永劫に愛してやるから覚悟して僕のモノで居るんだね」

 

「な、何て殺し文句……鈴だけじゃないのにお腹がキューッてなっちゃうよ~」

 

「じゃあ、さっさと遺跡をクリアしてベッドへ行こうか」

 

「う、うん……」

 

 もう一度、ユートは鈴の唇を奪ってやる。

 

「んんっ! ぷはぁ!」

 

 鈴は『もう逃げらんないよ』と頬を紅く染めながら女の子座りをしていた――股座を女の子の液体でネットリと湿らせて。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「まったく、今から始めるんじゃないかってヒヤヒヤしたわよ」

 

「ごめーん、シズシズ」

 

 とはいえ御股は湿っていて気持ち悪い。

 

「取り敢えず行くぞ」

 

 ユートの号令に頷く一行。

 

 抜けた先で淡い光が海面を照らしそれが天井に揺らめく波を作り、その空間には中央に神殿の様な建造物が存在している。

 

 四本の巨大な支柱に支えられ、支柱の間に壁は無くて謂わば吹き抜けになっていた。

 

 中央に有る祭壇らしき場所にはとても緻密で、更には複雑な魔法陣が描かれている。

 

 神殿の周囲は海水で満たされて、海面に浮かぶ通路が四方に伸びて先端は円形になってその円形の足場にもまた魔法陣が描かれていた。

 

 四つの魔法陣が爆発的に輝いて幾人かの人影が顕現、即ちユートと【閃姫】のパーティがこの場へと到達したのである。

 

「あれは魔法陣か、どうやら攻略したみたいだ。手間を掛けさせられたけどな」

 

「……ん、色々とキツかった」

 

 ユエが肯定をする。

 

「う~ん、ラスボスが待ち構えているかと思ったんだけどな」

 

「雫ちゃん?」

 

「だって、今までの大迷宮ではオルクス大迷宮でヒュドラでしょ? ライセン大迷宮でミレディゴーレム、グリューエン大火山では名前は付けてないけど莫迦みたいな数の魔物。だから此処でだってもう一悶着くらいあるかなってさ」

 

「ああ、確かに」

 

「……んん、ちょっと楽?」

 

 始めから大迷宮を攻略してた雫と香織とユエはヒュドラから始まるボスに辟易していた。

 

「いえ、此処も充分ですからね?」

 

 シアはウサミミをフリフリしながら言う。

 

「主殿よ、此処はシアの言う通りで充分に大変な場所だったぞよ。海底洞窟も普通はあんな海水を潜る船なぞ有りはせぬし、クリアするまで可成りの魔力を消費し続けるのじゃよ。普通の者であれば大概は溺死よのぉ」

 

 シアに追従をするティオはいつになく真剣なる面持ちで語った。

 

「あのクリオネみたいなのは有り得ないくらいの強敵だったしね」

 

「それに亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないからまた魔力頼りになる。ゆう君は刀に魔力を纏わせていたから簡単に見えたけど、あんなに大軍と戦って突破しなきゃならないんだよ? 難易度は間違いなく高かったよ!」

 

 うんうんと頷く雫と香織。

 

「ま、終わった事だな。それにレミアやミュウの容姿から性格は兎も角、メイル・メルジーネには期待をしているんだよね。オスカー・オルクスみたいな映像を遺してくれていると嬉しい」

 

「優斗らしいと云えばらしいけどさ」

 

「あはは……」

 

 雫の言葉に苦笑いな香織。

 

「そもそも、この世界の人だったら信仰心が強いだろうからあんな狂気を見せられたら……ね」

 

「狂信者でもないとキツそうだよな」

 

 例えばイシュタル・ランゴバルト教皇みたいな奴なら、寧ろ嬉々として『神よ神よ』と気持ち悪い表情で恍惚としそうだし、メルド・ロギンスの場合は目を逸らしたくなるのではなかろうか?

 

「それじゃあ、魔法陣に入ろうか」

 

 神代魔法を得る手法は変わらないから魔法陣に入れば頭を走査され、合格基準に到達していると認められたら頭に刻み込まれる形だ。

 

「何だこりゃ?」

 

「似た様な場面が延々と垂れ流しね」

 

「ひょっとしたら本来は別れ別れにされて各々が試練を受ける筈だったのかもな」

 

「ああ、期せずして私達は一緒に居たからか」

 

 どうやら別れ別れになって経験したモノを見せる筈だったらしいが、ユート達は普通に全員で居たからか意味は無かったみたいである。

 

「で、再生魔法だ」

 

「これでハルツィナ樹海も行けますね」

 

 ユートの言葉に頷いたシア、やはり故国であるフェアベルゲンに在る大迷宮だからか気合いが入っている様子。

 

「あれ? 祭壇か何かかな?」

 

 香織の視線の先に現れた直方体の祭壇から光が溢れて映像を結び、エメラルドグリーンの綺麗な髪の毛を長く伸ばした美しい女性が顕れた。

 

「メイル・メルジーネ……か」

 

『貴方の名前を教えてくれるかしら?』

 

 グリューエン大火山の時と同じ質問であるなら答えは決まっている。

 

「ゼロワン……だ」

 

『どうやら私のもう一人の妹ときちんと出逢えたみたいで嬉しいわ、ゼロワン』

 

 恐らく名前を言うとそれに反応して先の映像が切り替わる仕組み、何気に高度な絡繰りではあるのだが造ったのは錬成師にして生成魔法の使い手――オスカー・オルクスだろう。

 

 最初の話の内容はオスカー・オルクスと丸被りだったから聴かなくても良かった。

 

『……どうか神に縋らないで、頼らないで欲しい。与えられる事に慣れないで、掴み取る為に足掻き続けて。己の意志で決め、己の足で前へ進んで。どんな難題でも答えは常に貴方の中に有るのだし貴方の中にしか無い。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志の許にこそ幸福は有る。貴方に幸福の雨が降り注ぐことを祈っています』

 

 Sとは思えない優しい表情で誰しも見惚れそうになる微笑みをを浮かべ、穏やかな口調はまるで小鳥か何かの囀ずりにも似ていて歌姫と云われても納得しそうな声音だった。

 

『そしてゼロワン、貴方には私達の全てを託したいと思います。勿論ですがそれをどうするかは、貴方の自由の意志の許に決めて構いません。願わくは本当の意味で貴方に会いたいとは思います』

 

 祭壇がパカリと割れて出てきた水色を基調としたプログライズキー。

 

 ユートはゼロワンドライバーを腰に装着してからライズスターターを押す。

 

《REVERSE!》

 

 オーソライザーに認証させた。

 

《AUTHORIZE!》

 

 そして装填。

 

《PROGRIZE……MAEL MELUSINE!》

 

「やっぱりメイル・メルジーネの魂が五割だな。それで他の【解放者】の魂は一割程度か」

 

 どうあれ、【メルジーネ海底遺跡】を皆無事にクリアする事に成功したユート。

 

「戻ろう、ミュウとレミアが待つエリセンに」

 

 それは正しく凱旋であったと云う。

 

 

.

 

 

 




 ちょっと長めでしたが、メルジーネ海底遺跡を一気に終わらせたかったのと一応は少しずつ書いていたのをくっ付けた為です。



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第70話:又も勇者(笑)がやらかした!

 何とか書けました……





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 離脱経路がヤバそうだから迷宮脱出呪文を使って出てきた一行、然しながら外部に出てから直ぐにユートは辺りを見回して眉根を顰める。

 

「どうしたのよ?」

 

「空気がおかしいんだ」

 

「空気がって?」

 

「服のボタンを掛け違えたみたいな……」

 

「どういう意味?」

 

 雫にはいまいち解らないらしい。

 

「解り易く言えばそうだな、列車を進める線路の路線が切り替わった感じだろうか?」

 

「路線が切り替わるとか言われても……」

 

 やはりピンと来なかった。

 

「それって本来の世界線から外れたって事なんじゃないかな?」

 

「鈴? そ、そうなの?」

 

「鈴もゆう君が感じるナニかは感じられないよ、だけど若しかしたらそういう事かなって」

 

「鈴の言葉通りだ」

 

 ユートはそんな鈴の言葉を肯定して頷く。

 

「少なくとも僕らが歩んだ歴史とは異なる歴史が好き勝手に造られた上に成り立つ世界線だ」

 

「それだと皆はどうしたのかな?」

 

 やはり香織は仲間が心配な様だ。

 

「僕の造ったライダーシステム乃至は護符を持たせた者は時の特異点みたいに影響は受けないよ。当然ながらそれ以外は完全に呑まれてしまっているんだろうけど……な」

 

「それって……」

 

「君らは勿論、愛子先生と愉快な仲間達も大丈夫な筈だ。ハジメと中村もライダーの力を与えているから問題は無い。勇者(笑)組は浩介と坂上にはライダーシステムを与えたからな」

 

「それ、ぶっちゃけると永山パーティ-遠藤君くらいしか影響を受けてないんじゃないの?」

 

「そうとも云うな」

 

 浩介を除いた永山パーティは諸に悪影響を受けているだろうが、それ以外は何で世界が変化したのか首を傾げている事であろう。

 

「じゃあ、キャサリンさん達は?」

 

 シアが困った様に呟く。

 

 ライダーシステムも護符も無い町で知り合った人々も影響を受けたのだろうか? ……と。

 

「町や施設で云えば、オルクス最深層、フューレンの町、ウルの町、ブルッグの町、アンカジ公国は僕の力で加護が働いてるから住む人間も含めて大丈夫。序でにフェアベルゲンもな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「だからシアは心配しなくても良いよ」

 

「はい! ですぅ」

 

 王宮とホルアドとエリセンは無理だろうけど、大半がユートの影響下にあった。

 

 故にホルアドに居た鈴鳴(スールード)は頭を抱えていたりするが、流石に自己責任の範疇だろうから知った事では無いユート。

 

 刻の軛から切り離された永遠存在、下位神剣を使う分体とはいえそこら辺に変わりはないから、当然ながらどっかの莫迦がやらかした改変なんかの悪影響は受けない。

 

「けどまたぞろやらかしたか」

 

「まさか!? これを光輝が?」

 

「他に誰がやるんだよ」

 

「そ、それは……」

 

 勇者(笑)たる天之河光輝はやらかし過ぎ最早、ユートからの信用など皆無でしかない。

 

 皆無に等しいのではなく皆無である。

 

「兎に角、エリセンでミュウとレミアを回収してから王宮に行くぞ」

 

「光輝君を殺しちゃうの?」

 

「香織、其処は坂上がどうするか次第だ」

 

「龍太郎君次第……」

 

 坂上龍太郎に仮面ライダークローズチャージへ変身するスクラッシュドライバーを渡してあり、彼がどう動くかによって天之河光輝の今後の処遇

が決まってくる。

 

 見事に止めたら見込み在りとするが……

 

 取り敢えずはエリセンに向けてバスの速度を上げていくユート、目的地はエリセンのミュウ宅となるのは考えるまでも無い。

 

「それで、結局は何が起きてるのよ?」

 

「歴史改変」

 

「それって、電王みたいに過去へ遡ったとかそういうやつ?」

 

「それも在るんだろうが、今回はジオウ系の力を使ったんだろうな」

 

「ジオウってアナザージオウなら優斗が破壊したんじゃなかった?」

 

 アナザージオウウォッチは確かに破壊したが、ユーキからの情報ではアナザージオウⅡのアナザーウォッチも存在するらしく、それこそが本編にて加古川飛流が歴史改変に使ったウォッチの力。

 

「仮面ライダージオウはジオウⅡにパワーアップをしている。同じくアナザージオウもアナザージオウⅡに成っているんだそうな」

 

「ああ……」

 

 納得したのか頷く雫。

 

 ともあれエリセンに向かった一行だったけど、やはり騒然としている辺り間違いなく歴史改変に呑まれているらしい。

 

透明化呪文(レムオル)で姿を消してレミアの家に向かう方が良さそうだ」

 

 ドラクエⅢ本編では遅い修得の割に使い様が無かった呪文の代名詞だが、現実で姿を完全に消せるのは存外と使えるものである。

 

 実際、本編ではエジンベアに入るくらいにしか使えない癖に修得レベル35と魔王バラモスも斃せそうな時期に覚え、必要なエジンベアで使うのは【消え去り草】というアイテムだった。

 

 ユートはこれを潜入などに使っており、気配を周囲に溶け込ませた上で透明化すれば派手な音を立てない限りは見付からない。

 

 但し、人間が相手の時に限られるが……

 

 気配は誤魔化せても体臭までは誤魔化しが利かない――風の精霊に隠させる事は可能――から余り使えない為、魔物相手に透明化呪文なんて使った試しは無かった。

 

 因みにだが後に初代三ケンオウの一人となったカダルから聴いた話だけど、勇者アレルは試しにと透明化呪文で魔物を誤魔化せるかやってみて、やはり失敗をしたのだと云う。

 

 一応はカダルも止めたのだが……

 

 エリセンの港町入口でユートは透明化すると、足音も立てない静かな加速でミュウとレミアが待つ家に向かって行く。

 

 当然ながら家なは鍵が掛かっているが問題なと有りはしない、開扉呪文(アバカム)を使っても構わないのかも知れないがやはり秘密裏に動くなら扉を開けるのは拙いであろう。

 

 少なくとも入るのには。

 

(まぁ、テレポートすりゃ良いんだけどな)

 

 ユートのテレポートはヤードラット星人の使う瞬間移動、その為に移動をするには知り合いが居ないといけなかった。

 

 とはいえ、ルーラみたいな呪文もあるから特に不便はしていないのだが……

 

 シュン! 家の中に入るユート。

 

「ヒッ!」

 

 レムオルが切れたから姿が丸見えとなってしまった為、それを見咎めたレミアが声を上げそうになったのを素早く動いて背後を取り、口を左手で覆って右手でレミアの右手首を拘束した。

 

 恐怖からガタガタ震えている。

 

 ユートの顔を確認していないからレミアからしたら見知らぬ誰か――身体の線から男だと判断をした――が行き成り現れ、更には背後から口を押さえて動きを止められたのだから恐怖しかない。

 

「レミア、僕だ……ユートだ」

 

「んっ!?」

 

 ビクッと肩を震わせつつソッと後ろに目を向けると、確かに知った顔が困った表情をしながらも自分を拘束していた。

 

「今から放すから叫ばないでくれよ?」

 

 コクコクと頷くのを確認して放す。

 

「プハァ! アナタ、脅かさないで下さいませ。凄く恐かったんですよ?」

 

「済まないね、町の雰囲気がアレだから内密に入るしか無かったんだよ」

 

「そ、それです! 皆さんがアナタをまるで犯罪者みたいに捜してるんです。『破壊者』とか何とか言いながら……余りに恐くてミュウと引き籠っていたんですけど」

 

「そうだったか。重ね重ね済まないな。どうやら僕らと召喚された……違うな、召喚されて僕らを巻き込んだ勇者(笑)が莫迦をやらかしてくれたのが今の状況なんだ」

 

「勇者……ですか?」

 

「ああ、()()()()()()()()らしくてね」

 

 アナザージオウⅡの力で歴史改変を仕出かしてくれた訳である。

 

 とはいえ、そろそろ鬱陶しいと感じるのも確かだからいずれは抹殺したくなるだろう。

 

「兎に角、今は此処を出よう。事態が収拾されればまた帰って来れるから」

 

「は、はい。すぐにミュウを連れてきます」

 

 レミアは頷くとミュウの部屋へ向かう。

 

「さて、余り意味の無い改変になった訳だけど……坂上はどうしているかね?」

 

 割かしどうでも良いとは思うものの、ライダーシステムを与えた一人として気にはなった。

 

 リリアーナに関してはマグナモンを防衛戦力として置いてあり、特に危険は無いと考えてはいるが彼の邪神が斜め上な行動に出た場合はその限りではない。

 

 ややあって、ミュウを抱っこしながら戻ってきたレミアと共にオプティマスプライム飛行モードへと瞬間移動して、ユートは機体をハイリヒ王国の王宮へと向けて出発をした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 自室でヘリーナと共に籠るリリアーナ。

 

 元は雫の専属メイドだったが雫が居なくなり、手が空いた事でリリアーナに引き込まれてしまったニアは、現在だと間諜に近い感じに動いていてこの場には居なかった。

 

「いったい何が起きているのでしょうか?」

 

「判りませんわ。ですがマグナモンが指摘をした通り何かが起きています。主にユートさんが何故か『破壊者』などと呼ばれて手配されましたから光輝さんの仕業でしょうけどね」

 

「また勇者様ですか……」

 

 ヘリーナには既に勇者たる天之河光輝に対して一切合切の敬意が無い。

 

 畏敬の念など最早懐き様がなかった。

 

「今はニアが情報を持ってくるのを待ちます」

 

「それしかありませんね」

 

 ユートが王宮に戻った際、ニアも間諜としての紹介をリリアーナがしたその日に抱かれており、確りと加護が働いているから彼女もリリアーナやヘリーナと同じく、元々の記憶を持った状態にて活動をしているので助かる話だ。

 

「はぁ、颯爽登場とかして助けて貰えないものでしょうか?」

 

「幾らユートさんでも限度はありますわよ」

 

「ですか……」

 

 まぁ、ユートは戦闘力だけならトータス内では神の使徒すら叩ける強さを有している訳だけど、だからといって何だって出来るというのも違うからリリアーナの科白に間違いはない。

 

「にしても、ヘリーナも馴染みましたわね」

 

「それは……」

 

 ユートが齎らしたトータスの言語に翻訳された娯楽小説、ユートがハルケギニア時代に世界観に合わせて書き直した既存の小説やユート自身によるオリジナル、更にはエロマンガ先生と呼ばれるイラストレイターが存在する世界で手に入れていたラノベなどをリリアーナ、ヘリーナ、ニアは読んでいたりする。

 

 特にあの世界でユートが【閃姫】とした少女達の作品にハマったらしく、全作品を是非とも読みたいとユートにおねだりをしていた。

 

 因みに、『颯爽登場』は後に『銀河美少年』と続くロボットアニメである。

 

 ファンタジー世界の人間がラノベなどにハマり易いのは、ハルケギニア時代にユートがラノベを齎らしたが故によく知っていた。

 

 リリアーナもムラマサ先生が書いた作品を読んでいる内に、会って話してみたいと思うようにもなったのだと云う。

 

 一方の間諜をしているニアはどういう状況なのかの情報収集に努め、この事態がやはりと云うか天之河光輝により齎らされたものだと理解する。

 

 実際に天之河光輝がまるでハイリヒ王国の王の様な体で玉座に座っていた。

 

「何ていう事を……」

 

 エリヒド国王もルルアリア王妃もランデル王子も皆、天之河光輝の座る玉座の横で素座りを強制されていながら文句すら言わない。

 

「そういえばあの方はユート様と闘って無様に敗けた時、自分を勇者王とか名乗ってド突かれていたんでしたか? それで玉座を奪った訳ですか。しかも陛下や妃殿下も殿下も何故か文句も言わない辺り、某かがあったと考えるべきですね」

 

 ニアの持つ魔導具には間諜なら垂涎の的となる機能を有しており、こうして矢鱈滅多に近付いてもバレずに行動を可能としていた。

 

 彼女に自覚は無いが、ユートに抱かれたからには歴史改変の余波は受ける事も無かったから逆に受けた人間の事は解らない。

 

 当然だが間諜は出来ても戦闘力は低いニアでは天之河光輝から王族を救えないし、仮にルルアリア王妃が性的虐待を受けていたとしても見過ごすより他には無かったりする。

 

 幸いにもそれは無い。

 

「ああ、勇者様は玉無しでしたっけ?」

 

 香織をレ○プしようとしてユートの加護により棒も玉も砕け散った。

 

 ユートが偶に『僕の【閃姫】になると僕以外は抱けなくなる』とか言うが、まさかこういう文字通りの()()だとは誰も思うまい。

 

 幾ら歴史改変をしようがユートと香織が結ばれており、香織が歴史改変の余波から外れているからにはどうしても治らなかった天之河光輝の股座に生えていた()()()()()J()r().()は今尚も粉砕された侭であったと云う。

 

「さて、取り敢えず姫様の所に戻りますか」

 

 情報収集を終えたニアは玉座を離れた。

 

 ニアがリリアーナの部屋に戻るとマグナモンが侵入不可のシステムを起動する。

 

 ユートが造った拠点構築防衛用魔導具であり、リリアーナも知らない内に彼女の部屋に設置されていた訳だが、話をマグナモンから聞く限りではユートが初めてリリアーナとヘリーナを閨で貫いた翌日には、二人が気絶をしている間にパパッと設置してしまっていたらしい。

 

 場合によっては避難場所と出来るのが大きく、必要なら食糧や水なども備蓄しておける。

 

 しかも部屋の大きさはハイリヒ王国のお姫様なだけにそれなりだったが、魔導具を起動してからは空間が拡大されて本人の部屋の部分を除けば、本来の広さの百倍にも及ぶから正しく王宮内に於ける砦と成っていた。

 

「ニア、御苦労様でしたね」

 

「いえ、それが御役目ですから」

 

 リリアーナに労われて恐縮してしまうニアは、ヘリーナから果実水を渡されて飲み干す。

 

「やはり事態は思ったより可成り深刻な様です。陛下も妃殿下も殿下も勇者様にまるで傅く下僕の様な感じでしたし、メルド様も掌を返したかの様にユート様を悪だと叫ばれてました」

 

「やはりメルドも……」

 

 現在はリリアーナが個人的に雇う近衛騎士である筈が、一番に異変を察知してこの場に馳せ参じる人物でありながら丸で音沙汰無し。

 

「メルドは我が主から加護を受けてないからな。我が主に抱かれて【閃姫】か【準閃姫】などにでも成るか、ライダーシステムなり護法具なりを受け取ったなどがなくば仕方があるまいよ」

 

「ライダーシステム? 護法具?」

 

「有るだろう? 我が主達が仮面ライダーに成る為の魔導具だよ。護法具は確か……今は【閃姫】に成っている園部優花嬢とその仲間や畑山愛子嬢が渡されていた筈だ」

 

「そういえば優花は最初に着けて無かったバレッタを愛しそうに触っていましたわね」

 

 恐らくそれが護法具なのだろう。

 

 本当に因みにだが、そこら辺の石ころを簡易な護法具にして清水幸利や玉井淳史にくっ付けられており、飽く迄も一応の保険レベルで莫迦をやらかさない様にしてあった。

 

 優花や愛子先生を護る為に。

 

「それでマグナモンはどう動くと良いと考えていますか?」

 

「今は拠点防衛で構うまい」

 

「と、言いますと?」

 

「我が主が坂上龍太郎という者と交わした約束があるからな。奴がどう動くのかで我々の動き方も違ってくるだろう。それに万が一にも他で動きがあれば初動が遅れる場合も否めん」

 

「な、成程……」

 

 単にマグナモンが暴れれば良いという訳では決して無く、寧ろ社会的には無意味に恐怖を撒き散らしかねないが故に動き難い。

 

「そも、我々――ロイヤルナイツはネットセキュリティの守護を司る最高峰として我が主より産み出されたのだ。攻めより護りこそが本領となる」

 

 だからこそマグナモンは護衛なのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ブルックの町のマサカの宿。

 

 ソーナ・マサカは懲りもせず美味しそうな客――ハジメと恵里の情事を覗くべく勤しんでいた。

 

 その情熱を別の場所に向ければ一角の人物にも成れそうだが、本人は至って大真面目でヤっているのだから些かアレかも知れない。

 

 まぁ、だからハジメ謹製アーティファクトにより防御をしている。

 

 朝っぱらから二人は盛っていた。

 

 昨夜も遅くまで頑張っていたハジメだったが、男の生理現象として朝の棒勃ちは若さ故に避けられなくて、何より隣に着衣一つ無い裸体の恵里が寝ていて素肌がハジメのJr.を刺激してくれているのだから堪らない――寧ろ溜まる!

 

「もう、無駄射ちなんてダメダ~メ」

 

 起きた恵里がそう言って御奉仕をしてくれるから再び情事に及ぶ、それにより結局は昼前までは部屋に篭り切りになってしまう。

 

 二人はユートからライダーの力を与えられていた上に、ブルックの町もユートの加護を受けていたから王宮やホルアドやエリセンに比べて平和を享受しており、ライセン大迷宮に挑めない以外はハジメは恵里と共にリア充を愉しんでいた。

 

 起きてから数発目の絶頂を互いに駆け上がったら流石に疲労感から休憩、それでもキスをしたり御触りしたりとお互いに労り合っている。

 

「どうにも昨夜から空気がおかしいよね」

 

「うん。ボクも偵察がてらにベノスネイカー達を

出しているんだけどね、ホルアドの町は緒方君を勇者(笑)の光輝君が指名手配をして賑わってるみたいなんだ」

 

「優斗を……天之河君が指名手配? 幾ら勇者でもそんな事が可能なのかな?」

 

「ボクにも判らない。少なくともブルックの町にそんな混乱は無いんだけどさ」

 

「……天之河君が某かやらかした?」

 

「多分ね。ボクらが王宮を出る切っ掛けからして光輝君のやらかしだったでしょ?」

 

「まぁね。白崎さんを襲った辺り、恵里まで襲われたら嫌だったから」

 

「もう、ハジメ君ったら」

 

 そう言って恵里はキスの雨を降らせる。

 

「となると、優斗はその対処をする事になるからライセン大迷宮はまだ御預け……かな?」

 

「そうなるね。なら暫くは愉しい性活だね」

 

「うん、優斗がくれた護法具で避妊も出来るから妊娠の心配も無いし」

 

「ボクは産んでも良いんだけどね」

 

「それは僕が恵里と子供に責任有る立場を取れる様になってからだよ」

 

「うん」

 

 【異物排除】の効果は凄まじいものがあって、本人の肉体にとって異物となるモノは何であっても排除が可能で、元々は毒物を警戒した護法具でありながらウィルスや寄生虫は疎か男の精子すら排除してしまえる為、ある意味では最強の避妊具として使えてしまう護法具と相成った。

 

 だからハジメは生射ちで恵里の胎内を焼いてしまえるし、恵里もハジメの欲望を直に感じる事が出来て幸せそうにしている。

 

 恵里としては妊娠しても構わないが、ハジメは自分が二人――恵里と子供を養える様になってからと堅実に考えていた。

 

 しかもそれは高卒でも可能。

 

 他のクラスメイトは将来なんて漠然としか考えてない、それは恐らくキラキラ勇者(笑)も似たり寄ったりでしか無いのだろうに、オタクと蔑まれるハジメこそは将来を堅実に決めている。

 

 それは正しく皮肉でしかあるまい。

 

 話し合いも終わり、結果的に二人は動かないと決めたので昼になるまでマサカの宿でイチャイチャとしているのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 愛ちゃん護衛隊は相変わらず穀倉地帯となっているウルの町を中心とし農業に精を出しており、清水幸利も余計なモノ――闇術師の闇魔法などを喪った状態で農作業をやらされている。

 

「本当なの、キバーラ?」

 

「ええ、主様から連絡があったわぁ」

 

 小さな白い蝙蝠擬き――キバーラからの報告を受けている園部優花、歴史改変が天之河光輝により行われた可能性があるのだと聞かされて頭を抱えたくなってしまう。

 

「どうしてそんな?」

 

「どうやらアナザージオウⅡの力を這い寄る混沌から受け取ったらしいわぁ」

 

「アナザージオウⅡ? 確かアナザージオウ自体は壊された筈だけど……」

 

「まぁねぇ、だけどアナザージオウⅡウォッチは別に存在しているものぉ」

 

「本当に厄介ね。だけどウルの町も私達も変わり無いのはどうして?」

 

「優花は主様の御寵愛を戴いているでしょぉ? 貴女の先生もだけどぉ……ウフフ」

 

 まだまだ初心な優花は紅くなる。

 

「序でに言えばぁ、貴女のお友達は護法具によって護られているしぃ? ウルの町も主様の加護を受けているわぁ」

 

「それで無事だったんだ」

 

「そぉうよぉ」

 

 優花は護法具――髪の毛を飾るバレッタに手を伸ばしてソッと触れ、頬を朱に染めて『優斗』などと呟きながら瞳を月夜の灯りへ向けた。

 

「それにぃ、主様はお米の産地たるこの町を甚く御気に入りだものぉ。優花だって異世界のカレーであるニルシッシルは確保したいわよねぇ?」

 

「それは確かにそうね」

 

 ユートが町に加護を仕掛けていた理由は幾つか存在するが、ウルの町の場合はやはり米の産地であるのが一番の理由であろう。

 

 ユート自身はアイテムストレージ内に米は有るのだけど、有限であるからにはやはり産地が在るなら確保しておかねばなるまい。

 

 実際にウル産の米を確りと確保済み。

 

 フューレンは一応の後ろ楯たるイルワ・チャングに何かあれば具合が悪く、折角の後ろ楯が無くならない様にしておくのが理由。

 

 ブルックはソーナ・マサカを抱いたのが理由という辺り、やはりユートは関係を持った相手には甘いくらいに優しくなれる。

 

 アンカジもフューレンと似た理由ではあるが、実はアンカジ公女のアイリー・フォウワード・ゼンゲンと割かし良い仲になったのも理由だった。

 

 エリセンに加護を敷いて無かった理由は至って簡単、そもそも加護自体が単なる保険に過ぎなかったから【メルジーネ海底遺跡】の大迷宮攻略後

で間に合うと思ったから。

 

 それで後手後手に回った訳だが致命ではないのだから、原因を排除してしまえばそれでこの異常な事態も終息をする。

 

 ユートに焦りは無かった。

 

 王宮のリリアーナは自室に篭ってマグナモンが護れば良いし、ヘリーナとニアもリリアーナが匿えばそれで充分に護られる。

 

「それで私達はどうしたら良いかしら?」

 

「この場に留まるべきねぇ」

 

「どうして?」

 

「今更、王宮に戻るのに何日が掛かるかしらぁ? それならぁ、比較的安全な此処に留まった方が良いわぁ」

 

「そうかもね……」

 

 そもそもがこのウルの町に今居るのはユートの瞬間移動呪文のお陰であり、馬車なんか時速にして二〇km有るか無いかでしかないから王宮の在る王都まで数日は確実に掛かる。

 

 町から出れば魔物も現れるであろうし、それは仮面ライダーキバーラになれば屠れるにしても、やはり意味も無く危険と隣り合わせな旅行に出たい人間は居ないし、乗馬は何とか出来るにしても馬車を操るスキルは無いのだ。

 

 乗馬が出来て馬車は操れない? それは当然であろう、日本でも単車の免許証で四輪車の運転を許可したりしない。

 

 普通四輪で原付きは簡単な講習を同時進行により受けて乗る事は可能だが……

 

 ならば優花だけが馬で飛ばすか?

 

 仮面ライダー的なバイクを持たない優花では、馬で走るのが精々でしかない。

 

 然しながら馬は生き物であるからにはどうしても休憩を挟まねばならず、どっちにしろ今からでは事態収拾に間に合う筈もなかった。

 

「ま、必要なら向こうから迎えに来るか」

 

「そうねぇ、主様の今回の目的は坂上龍太郎とやらの見極めだしぃ……少なくとも優花は要らない子ではあるわねぇ」

 

「言い方!」

 

 要らない子じゃないもん! スッゴく肢体を求めてくれてるんだから! などと場違いな感想を頭に浮かべながら優花は眠りに就く事にする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 坂上龍太郎。

 

 努力と筋肉は自分を裏切らないとでも言いたいのか鍛え上げた肉体に拳士の天職、ボディビルダーの魅せる為では無く闘う為の筋肉を鍛えてきた経験に裏打ちされた説得力を持つ。

 

 最近の困り事は幼馴染みで親友の天之河光輝が暴発してやらかすという、余りにも自分ではどうしようもない事態であったと云う。

 

「畜生! 俺は結局何も出来てねー!」

 

 壁を殴り付けながら不甲斐ない自分を罵るだけ罵って気を鎮める。

 

 ユートと天之河光輝の決闘騒ぎを始めとして、アナザージオウなる怪人に変態して更なる決闘を仕出かした親友、ユートも『仏の顔も三度まで』だが自分は仏じゃないから三度も赦さんとばかりに最後通諜を突き付けた。

 

 何とか次を起こしたら自分が殴ってでも止めるから的な言い分で譲歩を引き出せたというのに、天之河光輝が一ヶ月も経たない内にまたやらかしてくれたのだから堪らない。

 

「やるしかないのか……」

 

 王宮内では何故か勇者様への万歳三唱であり、もう既に天之河光輝を見限っていた筈のメイド達や女性騎士達が又候、熱い視線を送っているというおかしな事態にも陥っていた。

 

 幸い? なのが香織はユートの庇護下であり、今現在のおかしな事態の余波は受けていないからだろうか、()()()()()J()r().()は今も御亡くなりになった侭だから性的な関係はもう結んでいない点。

 

 坂上龍太郎は天之河光輝の居場所が玉座の有る謁見の間だと知り、すぐにもスクラッシュドライバーを手にして駆け出した。

 

「光輝ぃぃっ!」

 

「やぁ、龍太郎か。どうしたんだ? 女が欲しいなら幾らでも見繕うぞ」

 

「巫座戯んな! またやらかしやがって! どうして大人しくしてらんねーんだよ!」

 

「ハッハッハ、何を言い出すかと思えば益体も無い事を。俺は勇者にして王、勇者王なんだから。こうして玉座に在るのが正しいのさ」

 

「まだそんな事を! ド畜生がぁぁぁっ!」

 

 水色のバックルを腰に据える。

 

《SCQRASH DRIVER!》

 

 ベルトが伸長してきて合着すると、何処かしら若本ヴォイスな重低音電子音声が響き渡った。

 

 坂上龍太郎はスクラッシュドライバーのパワープレススロットに、スクラッシュドラゴンゼリーという物を中央へと装填する。

 

《DRAGON JELLY!》

 

 次に前面の右側に付くアクティベイトレンチを押し下げてやった。

 

「変身っ!」

 

 ケミカライドビルダーがガタンガタンと生成されると、頭頂部スクラッシュファウンテンと胸上部スクラッシュノズルからヴァリアブルゼリーが噴出し坂上龍太郎の全身を包みむ。

 

《TSUBURERU! NAGARERU! AFUREDERU! DRAGON IN! CROSSーZ CHARGE! VURAAAAAA!!》

 

 現れたのは銀色のアンダースーツに銀色の鎧に両肩に龍の紋様、液化装備ヴァリアブルゼリーを硬化させた水色で半透明な顔と胸部装甲。

 

「龍太郎、その姿は……」

 

「仮面ライダークローズチャージだ! 今の俺は敗ける気がしねーっ!」

 

 決して死なせない為に、遂に幼馴染みを止めるべく【仮面ライダークローズチャージ】に変身をする坂上龍太郎であった。

 

 

.

 

 

 

 

 




 今回は場面が飛び飛びでクローズチャージによる戦闘まで往けなかった。




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第71話:グレイテストタイム!

 ちょっと遅くなりましたが何とか日曜更新。





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 坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)は仮面ライダークローズチャージに変身をしたが、天之河(あまのかわ)光輝は何処か不機嫌そうにそれを見詰めている。

 

「……んで、……ぇが……」

 

「光輝?」

 

 その手に持つのはアナザーウォッチ、絵柄は確かにアナザージオウに似ているかも知れない。

 

《ZIーO》

 

 スイッチを押せば低く濁った電子音声。

 

「変身!」

 

 まるでベルト――ジクウドライバーに挿すかの様にアナザーウォッチを腰に。

 

《ANOTHER TIME》

 

 三つの金色の輪が顕れて回転しながら天之河の周囲を纏わり姿を変えていく。

 

ZIーOⅡ(ジオウツー)!》

 

 胸の中央に【2015】と書かれ、本来であれば複眼に位置する場所に右側へ【ZIーO】左側には【2015】という年号、全体的に白いが肩や胸や襟首には金色も使われている。

 

 そして相変わらずクラッシャーは剥き出しになった歯が不気味であった。

 

 右手に長針を左手に短針を意味する剣を手に、仮面ライダークローズチャージを睨む。

 

 果てしなく何処までも歪みに歪み切ってしまった天之河光輝に、坂上龍太郎は哀しみを湛えた瞳を向けながら拳を構えた。

 

「どうしても敵対するのか、龍太郎?」

 

「お前がそんな力を手放して大人しくしてくれるなら態々、俺が仮面ライダーに成ってまで光輝と闘う理由なんて無かったんだ!」

 

「俺は勇者だ! 力を手にしてそれを行使しなければならないんだ!」

 

「もう、誰もお前を勇者だなんて思っちゃいねーじゃねーか! ソイツの力でねじ曲げなけりゃ、誰も光輝を勇者だなんて思ってねーよ! 天職が勇者なだけの張り子の虎だ!」

 

「黙れぇぇぇっ!」

 

 勇者である事を坂上龍太郎にまで否定されて、天之河光輝は両手の剣を振り翳して駆ける。

 

「光輝……お前……」

 

 親友にまで平然と斬り掛かる天之河光輝を見た坂上龍太郎は、悲しそうな声で名前を呼ぶと力を籠めた拳を揮って剣を止めた。

 

 ある意味に於いて凄惨を窮めた闘い。

 

 坂上龍太郎は親友を死なせたくないからこそ拳を揮い、天之河光輝はそんな想いなど知らぬとばかりに両手の剣を揮う。

 

 今の坂上龍太郎は正に仮面ライダークローズの本当の変身者――万丈龍我と変わらない。

 

 この場に若し桐生戦兎と万丈龍我を見知っているユーキが居たならば、間違いなく坂上龍太郎に

万丈龍我を幻視したのではなかろうか?

 

 拳法家と格闘家の違いこそあれ拳を得意とする処や脳筋な処もそっくりだし。

 

「チィッ、流石に素手は不利かよ……だったら! 来いよ、ツインブレイカー!」

 

《TWIN BREAKER!》

 

 腕のノズルからゼリーが吹き出てそれが武器の形を成していく。

 

 ツインブレイカー。

 

 ツインの名が示す通り二つの顔を持つ武器で、バンカー攻撃を行うアタックモードとビーム攻撃が可能なビームモードが有り、近接オンリーである仮面ライダークローズチャージは離れた位置からも攻撃が出来る。

 

 まぁ、戦隊モノとかなら一つの武器で近接中距離の両機能はお馴染みだろう。

 

 クローズが使うビートクローザーも有るけど、坂上龍太郎は剣を得手とはしていないから特には使わないだろう、これが初期のクローズではなく一段階上であるクローズチャージを渡した理由でもあった。

 

 グレートクローズはクローズの正当進化系列、しかもスクラッシュドライバーではないから当然ながらツインブレイカーは持たず、だからと云って只でさえ仮面ライダークローズより高スペックなクローズチャージから始めさせたのも少しアレなのに、TV版最強の仮面ライダークローズマグマなど使い熟せる訳が無い。

 

 ユートが莫迦みたいな身体スペックでありながらも、か弱い女の子達を抱き潰したりしないのは慣れているからである。

 

 行き成り今現在の廃スペックだったらそれこそ力加減が利かずに、今頃は女の子達の屍山血河のど真ん中に突っ立っていた事であろう。

 

 仮面ライダークローズと仮面ライダークローズチャージは大したスペック差は無いが、仮面ライダークローズマグマは約二倍にも及ぶ事から振り回されかねなかった。

 

 尤も、スクラッシュドライバーによるものだと公開スペックは飽く迄も初期状態のものであり、闘えば闘うだけ戦闘力が増していくシステムを積んでいるから本当に当てにならないが……

 

「喰らいやがれ!」

 

 ブレイグリップのトリガーを引くと二つの砲口からビームが放たれた。

 

「くっ、汚いぞ龍太郎! もっと正々堂々と闘う心算は無いのか!?」

 

「身勝手を言うな!」

 

 相も変わらずな天之河光輝に苛立つ。

 

 此方は何とか止めてユートによる抹殺から護りたいのに、これでは止める事など出来はしないから武器を手にしたのに。

 

 自分が相手になってみて初めてユートの気持ちが理解出来た気がして、坂上龍太郎は実に嬉しくない気分になりながらツインブレイカーを放つ。

 

 砲撃と剣撃では単純なリーチが違うからか闘い難そうなアナザージオウⅡ――天之河光輝からしたら今の坂上龍太郎は卑劣な攻撃をしてくる奴で、きっと()()()()()坂上龍太郎は卑劣漢に堕ちたのだと……そういう事になっているのだろう。

 

 或いは……

 

「くっ、緒方に洗脳されたんだな龍太郎! 何て卑劣なんだ緒方の奴め!」

 

 誰かの所為にするかであろう。

 

 因みにユートが洗脳するなら幻朧魔皇拳を敢えて選ぶ為、見るからに洗脳されていますといった感じにしか思えない。

 

 特に狂乱後は明らかに洗脳を受けていると解るだけのものがある。

 

「うぉぉぉっ!」

 

 ビームを放つが当たらない。

 

「くそ、何で当たらないんだよ!?」

 

「無駄だ龍太郎、仮面ライダージオウⅡには未来を予知する能力が在るんだ! お前の攻撃の軌跡は予め視えているぞ!」

 

 確かに仮面ライダージオウⅡにもそんな能力は在るのだが、天之河光輝のはアナザージオウⅡという怪人枠でしかない――というか仮面ライダーシンより怪物然としたアナザージオウⅡを仮面ライダーとか有り得ないだろうに。

 

 初代に当たる仮面ライダー一号自体はショッカーの怪人だが……

 

(あのアンテナが回ると未来を視れるってか? ならば一度に視れるのは一つの未来だけ!)

 

 せめてもう一人、仮面ライダーかそれに並べる者が居れば完全な予知は難しくなりそうだ。

 

「対象は基本的に一人か、ならば手札が増えれば問題も無いな。尤も、手札が増えるのはアナザージオウⅡも同じだがな」

 

「なっ!?」

 

「誰だお前は!」

 

 行き成りクローズチャージの隣に顕れた存在、青と白の体色に尻尾を持ち黄金の鎧兜を身に纏う仮面ライダーとも違う異形なる騎士、亜人族が近いかも知れないがそれともやはり異なる者。

 

「我が名はマグナモン。我が主の愛しむ女性からの要請により仮面ライダークローズチャージ――汝に与力しよう」

 

「お、俺に? 愛しむ女性って誰だよ?」

 

「今は言えぬ。危険が及んでは本末転倒故にな。

本来は貴殿に与力する必要性は無かったのだが、あの方達ての希望だからこそ私は此処に居る」

 

「我が主ってのは緒方だな?」

 

「その通りだ。我が主がお前を勇者(笑)よりかは評価していたのも与力の理由よ」

 

「俺を?」

 

「今は良かろう。来るぞ!」

 

 再びぶつかり合う。

 

 対象が二つになった所為か予知は精度が落ちてしまったらしく、クローズチャージとマグナモンの攻撃を捌くのがやっとになっていた。

 

 クローズチャージのツインブレイカーも当たる様になり、アナザージオウⅡは苛立たしいと云わんばかりに新たな戦力を喚ぶ。

 

《GAIM!》

 

 おどろおどろしい電子音声で召喚されたのは、落武者宜しくアナザー鎧武であった。

 

「征け、仮面ライダー鎧武!」

 

 だけど天之河光輝は頑なに仮面ライダー呼びを止めていない。

 

「アナザー鎧武か、仮面ライダー鎧武極みアームズなら未だしも……」

 

 アナザー鎧武とは飽く迄も仮面ライダー鎧武の

アナザーライダー、スペック上でもそれに相当したものでしかないのだ。

 

 最強フォームの極みアームズならイケそうではあるが、初期フォームのスペックで魂の籠らないアナザーライダーが如き究極体に等しいアーマー体なマグナモンに敵う筈も無かった。

 

「プラズマシュート!」

 

 かめはめ波っぽい格好で放たれたプラズマ球が

アナザー鎧武を貫く。

 

『Gyaaaaaaaa!?》

 

「やはり弱いな」

 

 ノイズと共に消え逝くアナザー鎧武にマグナモンが言い放った。

 

 葛葉紘汰が変身した仮面ライダー鎧武なら躱すなりしたのだろうに、アナザー鎧武はその侭受けての消滅なのだから言いたくもなる。

 

「所詮はお前のステージじゃなかったな」

 

 そう言うと再びアナザージオウⅡに向き合うが、彼のクラッシャーは何処となく愉悦に嗤っている様にも見えた。

 

「何を嗤う?」

 

「今ので仮面ライダー鎧武を斃した心算か怪物、全然甘いんだよ!」

 

 言い放つと同時に再びアナザー鎧武が。

 

「なっ!? さっきマグナモンが斃したのに? どういう事だよ!?」

 

「成程。アナザージオウⅡの歴史改変能力を以て、アナザー鎧武が斃された歴史を改変したんだ」

 

「はぁ!? 何じゃそりゃぁぁっ!」

 

 マグナモンからの解説に絶叫を上げてしまった坂上龍太郎、アナザージオウⅡである天之河光輝は得意気な感じに胸を張っている。

 

「って、だったら他のアナザーライダーも?」

 

「召喚したら斃しても出てくる無限サイクルとかになりそうだな」

 

「マジかよ……」

 

「そうなると我が主が来てしまうぞ」

 

「うっ!」

 

 それは避けたい坂上龍太郎。

 

「一応、迷宮から出た我が主はゆっくり飛ばして【閃姫】の方々とイチャイチャしながら来てくれているからな、直ぐ様に到着したりはしないにしても既に可成り近場に来ているらしい」

 

「イチャイチャって、まさか緒方って全く痛痒を感じて無いのかよ?」

 

「感じる訳があるまい。破壊者は自ら自嘲を込めて名乗るし、この世界の殆んどの町には結界が張られて改変を受けず、我が主の大切な方々に至っては護符を与えられているからな。ライダーシステムも同様だから坂上龍太郎、お前も歴史改変を受け付けなかったのだよ」

 

「まさか、んな事になっているとはよ~」

 

 つまり、【仮面ライダージオウ】本編に於いて主人公の常磐ソウゴを苦しめたアナザージオウⅡの歴史改変だったが、ユートはアナザージオウⅡに備えた訳では無かったにしろ防備をしていたから、全く以て勇者(笑)の行動にも痛痒は感じてなどおらず大空で、オプティマスプライム飛行モードの一流ホテル並な部屋の中、【閃姫】となった少女達を抱いて快楽を味わっているのである。

 

「まぁ、蟻が恐竜に噛み付いた程度には鬱陶しいと感じはしたろうがな」

 

 尚、さっきから黙って聴いていた天之河光輝はピクピクと青筋を立てていた。

 

 痛痒を与えていない。

 

 女の子とイチャイチャしている。

 

 町には結界が張られて無意味な改変。

 

 まるで虫けらに例えられた事。

 

 その全てが天之河光輝の癪に障る。

 

「貴様! 怪物風情が!」

 

《KUUGA》

 

 顕れたのは仮面ライダークウガ・マイティフォームを模したアナザークウガ、オリジナルと違って他のアナザーライダーと同じく普通のサイズな辺り、天之河光輝の器の小ささを如実に表していると云えるだろう。

 

 ユートに比べればアレも小さい――勇者(笑)の名誉の為に云うと彼のは真っ当なサイズで短小とか粗チンとかではない――天之河光輝なだけにクウガもミニマム化したのかも知れない。

 

「やはり増やすか。私なら一撃の下に葬れるのだろうが、無かった事にされるのはどう考えても些か面倒臭い話だな」

 

 アーマー体ながら究極体級の力を持つが故に、ロイヤルナイツの一角に数えられるマグナモンは通常のアナザーライダー程度、軽く斃してしまえる程度には当然ながら強かった。

 

 仮にアナザーライダーがアナザーディケイドを除く全てが揃っても、マグナモンなら必殺技であるエクストリーム・ジハード辺りで一掃する事すら可能だが、結局はアナザージオウⅡの歴史改変で元の木阿弥では意味が無い処かそれこそ無意味に消耗をしてしまう。

 

 流石に成長期に退化したら殺られるのは此方になるだろうし、そんな斃し方はマグナモンとしても執る訳にはいかない。

 

(やはり我が主を待たねばならんか)

 

 ユートなら確実にアナザーライダーを仕止められる筈、マグナモンははっきり信頼をする目を天へと向けながら現実も見つめる。

 

 更にはアナザーブレイド、アナザーファイズ、アナザー響鬼、アナザーキバ、アナザーアギト、アナザー電王、アナザー龍騎、アナザーカブトという平成一期のアナザーライダーが出揃う。

 

(確か奴は仮面ライダーの知識は無かった筈が、俄知識を刷り込まれているのか……度し難いな)

 

 ユートみたいに神の力を借りたとはいえ自らに取り込み利用しているのではなく、完全に呑み込まれてしまっている天之河光輝を視てしまっては蔑むしかない。

 

「坂上龍太郎」

 

「な、何だよ?」

 

「こうなれば我が主が来るまで保たせるしかないだろう。流石にお前の働きを認めて今回だけなら殺したりはすまい。だから割り切れ」

 

「ぐっ、判ったよ」

 

「万が一にも我が主が勇者(笑)の抹殺に動いたら……擁護くらいはしてやる」

 

「信じるぜ!」

 

 仮面ライダークローズチャージとして闘う今、坂上龍太郎はマグナモンを信頼していた。

 

 始まった闘いはある意味で一方的なものだが、それでもアナザージオウⅡに無かった事にされてしまう斃した事実、次から次へと出てくるみたいに湧き出るアナザーライダー。

 

(所謂、第一期のアナザーライダー以外に出さないのは第二期を出せない?)

 

 そういえばいつの間にかアナザー鎧武は消えて第一期のアナザーライダーのみだ。

 

(召喚の限界か)

 

 ユートなら全仮面ライダーを召喚が可能だったから気付けなかったが、どうやら天之河光輝によるアナザージオウⅡは九体を出すのがやっと。

 

 アナザーディケイドは単に出せないだけであろうと納得する。

 

 考えてみれば当然。

 

 自動車やバイクはガソリンが必要、電車だって電気が必要、自転車とて誰かが漕ぐ事で走るし、生物なら食物を必須とする――即ち動力を必要としていて動力を動かすにはエネルギーが要る。

 

 召喚にも何らかのエネルギーを使っている筈であり、ユートも当然ながらライダー召喚の為にはカードにエネルギーを封入していた。

 

 仮面ライダーディエンドとて流石に無軌道なる召喚は無理で、何処かに限界が存在している可能性があるのではなかろうか?

 

 アナザーライダーの召喚に天之河光輝がナニをどれ程に消耗したのかはマグナモンにも判らない事だが、いずれにせよナニかを幾らかは消耗しているのは間違いなくて、トータスという世界に合わせているなら魔力か生命力――MPかHPだ。

 

(試してみるか?)

 

 予測が間違っていたらピンチに陥りかねないのだが、上手くすれば天之河光輝を消耗させる事が出来るかも知れない。

 

 本物のアナザージオウⅡたる加古川飛流の場合がどうだか、実際の仮面ライダーディエンドがどうなのかは兎も角として、頑として今以上に召喚をしない天之河光輝は或いは……である。

 

 マグナモンもデジタルワールドでは消耗も少なくて、デジタルワールドの食べ物を食べていればそれで良かったりするのだが、リアルワールドでは消耗がそれなりに激しくてリアライズ中の食費もバカにならない。

 

 普段は基本的にDー3の内部にデジタライズをしているのも消耗を避ける為と、Dー3の持ち主たるリリアーナのエネルギーをデジタルエネルギーへと変換して、マグナモン本人は食べなくても済む為に食費の節約になるからだ。

 

「おい、勇者(笑)。我が主なら全ての仮面ライダーを召喚してのけるぞ? なのにお前が召喚するアナザーライダーは半分以下か?」

 

「何だと!? 怪物が生意気な!」

 

 憤る天之河光輝。

 

「ちょ、おい! 何で煽ってんだよ!?」

 

 そして焦る坂上龍太郎。

 

「ならば召喚してやる!」

 

 煽り耐性が無い天之河光輝は簡単に乗ってきたのだが、果たしてそれが余裕からくるものか無理を承知してのものかは判別不可能。

 

《DOUBLE》《OOO》《FOURZE》《WIZARD》《GAIM》《DRIVE》《GHOST》《EXーAID》《BUILD》……

 

 おどろおどろしい電子音声が鳴り響くと同時に召喚され、ノイズが実体を結んで顕現が成されていくアナザーライダー達。

 

 アナザーW。

 

 アナザーオーズ。

 

 アナザーフォーゼ。

 

 アナザーウィザード。

 

 アナザー鎧武が再び。

 

 アナザードライブ。

 

 アナザーゴースト。

 

 アナザーエグゼイド。

 

 アナザービルド。

 

 アナザージオウⅡ本人を含め平成仮面ライダーのアナザーライダー達、アナザーディケイドを除いて一九体が勢揃いをしたのであった。

 

「フッ、坂上龍太郎……少し無茶をさせるやも知れんが気張れよ」

 

「へっ、任せろよ!」

 

 ある意味では戦友となった二人は互いに笑い合いながら――坂上龍太郎は仮面で見えないけど――拳を当て合った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 オプティマスプライム飛行モード、オプションとの合体によりヨットモードみたいに空へ適応をさせたモード変更により、快適な空の旅をしながらもブレないユートは【閃姫】とイチャイチャをしている真っ最中。

 

 巨大なキングサイズのベッドの上にて、真っ白なシーツも最初は糊も効かせてピッチリしていた筈だが、今やしわくちゃとなってしまったその中に素っ裸で肌と肌の付き合いというか『突き愛』をしているユートと【閃姫】な皆さん。

 

 【異物排除】の効果を持たせた魔導具無しでは最早、いつデキちゃってもおかしくはないくらいに【閃姫】達の胎内はユートの白い欲望によってドロドロにされ、早寝をさせた四歳児のミュウと添い寝をするシングルマザーなレミアを除けば、ユートの舌が這わない部分は無いと云っても過言ではないだろうし、ユートの熱き欲望は胎内は疎か全身をもドロッドロに汚していた。

 

 特にティオはレミアと合流をするまでミュウの保母さん状態だった為、エリセンの町に着くまで我慢を強いられてきたからか漸く数百年越しにまで守られた鋼の処女を散らして間も無いからか、『突き愛』を他より所望されていたくらいだ。

 

 現在は雫がポニーテールを弄ばれながら所謂、後戯の真っ只中であり紅く頬を染めながら雫自身もユートのアレに手を伸ばし、互いに慰め合っている状態である。

 

「ねぇ、優斗」

 

「うん?」

 

「若し私が光輝組じゃなく、普通にフリーだったら声くらいは掛けてくれたのかしら?」

 

 雫は切なそうな表情となりながら上目遣いにてユートを見つめてくる。

 

 正直に云えば可成り可愛らしい。

 

 ユートのJr.がこれでもかというくらいおっきをしてしまい、触れていた雫の肩がビクリッと震えてしまうくらい急激に。

 

「声くらいは掛けたかもね」

 

「ど、どうして?」

 

 今度は期待に満ちているのが表情だけでなく、Jr.を触れている手の動きからも判った。

 

「僕の性癖的にかな?」

 

「せ、性癖ぃ?」

 

 ポニーテールがシュンと元気が無くなる辺り、ちょっとガッカリした感じか?

 

「僕が『ありふれた職業で世界最強』の世界に来る前まで、『魔法少女リリカルなのは』が主体の世界に居たのは話したよな?」

 

「え、ええ……まぁね」

 

 タイトルを言われると複雑な表情となるのは未だに変わらず、やはり暮らす世界が漫画やアニメや小説やゲームなどサブカルチャーに存在していたというのが引っ掛かったらしい。

 

「僕は原典で識る大方の事態を終わらせてからはミッドチルダの方で皆と暮らしていたんだけど、行き成り此方側の地球に跳ばされてしまっていたんだがそれは置いとく」

 

「あ、置いとくんだ……」

 

 そもそも誰の仕業かなど上司(なのはさん)這い寄る混沌(ニャル子)のいずれかである可能性が高く、次点でまた別の神による干渉といった可能性もあった。

 

 ニャル子が天之河光輝に干渉した辺りを鑑みると彼女の仕業かも知れない。

 

「それと性癖と何の関係が?」

 

「高町なのは、フェイト・テスタロッサ、アリサ・バニングス、月村すずか、アリシア・テスタロッサ、八神はやて、リインフォース・アイン、リインフォースⅡ……他にも沢山いるんだけど共通している点があった」

 

「共通項?」

 

「原典ではサイドテールやストレートやボブカットやミドルショートな筈の娘ら、オマケで言えばヴィヴィオやアインハルトなんかもそうなんだが――全員がポニーテールなんだ」

 

「は? 全員……が?」

 

「全員がだ」

 

「で、義妹でやっぱり昔からポニーテールにしていたユーキに訊いてみたら」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

『ボクらがポニテな理由? 兄貴は本気で言っているのかな?』

 

『……何が言いたい?』

 

『兄貴が大好物だからに決まってるさ』

 

『な、んだと……?』

 

『そもそも、今もボクのポニテをふぁさふぁさと触ってるじゃん』

 

『ううっ!?』

 

『こうやって優しく気持ち良くなれる触り方をしてくれるから、皆が(こぞ)ってポニーテールに結わい付けているんじゃないさ』

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「そんな風に呆れられた」

 

「ポニーテールが好きなのは理解をしているわ。今だって私のポニーテールをふぁさふぁさしているし、匂いを嗅いでみたり噛み噛みしてきたりとか御風呂で確り洗わないと臭いや味で嫌われたりはしたくないから大変よ」

 

「おおっ!」

 

 確かに雫のポニーテールを弄んでいるのを見ればポニテスキーは確実。

 

「正直、ポニテで自慰みたいな事をされた時にはどうしたものかと思ったわよ」

 

「む?」

 

「出されて髪の毛ガビガビになるんだもの」

 

 ユートは無意識でポニーテールを弄ぶらしく、確かに性癖と呼べるだけのものが有る様だ。

 

「手でなら幾らでもシて上げるし挿入()れたいなら構わない、だからせめて自覚して触れて欲しいと思うのは我侭や贅沢な話かしら?」

 

「謝った方が良いか?」

 

「謝らないで……触られるのは嬉しいから」

 

 頬処か全身を真っ赤にするくらい恥ずかしいと謂わんばかりで、それを隠したいのか或いは曝らけ出したいのかユートの肉体に自らの肢体をくっ付けてスリスリと擦り始めた。

 

 剣術を習うが故に程好く鍛えられた雫の肢体、筋肉もしなやかで柔かく体温も先程の羞恥心から若干高めになっていて、それでいてスキンケアにも気を遣っているのかスベスベとしているから、ユートのJr.の敏感な先端部にも意図的に肌を当てて擦ってくるから性欲が弥増す。

 

 そろそろヤって欲しいのだろうと理解をして、ユートは静かに雫をベッドに横たわらせ唇を重ねると、雫が欲するモノを欲するだけ与えてやるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 時間も丁度良くて全員が風呂を済ませた上で、料理担当のシアや香織の御飯を食べ終えた頃にはハイリヒ王国の王都、王宮の真上にオプティマスプライムが辿り着いている。

 

「さて、今現在は王宮内の謁見の間では天之河と坂上が闘っている」

 

「龍太郎が? ああ、約束か」

 

 納得した雫が頷く。

 

「リリィに付けていた護衛のマグナモンがどうやら加勢したらしく報告してきた」

 

「マグナモンってデジモンよね?」

 

「そう、ブイモンが【奇跡のデジメンタル】によりアーマー進化すると成れるアーマー体ながら、その実力は究極体に匹敵するから身体の大きさも考慮してリリィに付けてたんだ」

 

「そういや、リリィとヘリーナさんにも何だか早めに手を出していたらしいし、最近では私付きの専属メイドだったニアまで抱いたのよね?」

 

「まぁね」

 

「わ、悪びれもしないとは……」

 

 呆れるしかない雫と苦笑いな香織。

 

「既にマグナモンに煽られてアナザーライダーもアナザーディケイドを除き、全て召喚しているらしいから無かった事にされるのもあってそれなりに苦戦中らしい」

 

「それで、どうするの? 殺っちゃう? あの糞野郎の勇者なんでしょ?」

 

 ミレディは殺気を迸らせていた。

 

「マグナモンからの擁護もあってね。約束もしているから今回だけは生かしておくさ」

 

 甘いとは思うものの約束は約束。

 

「僕も今回はシンオウで往くけどね、一分くらいの時間も掛かるから取り敢えず君らは仮面ライダーに変身して牽制を頼んだ」

 

『『『『了解』』』』』

 

 ユートは氣弾を放って屋根に穴を空ける。

 

「降りるぞ」

 

 ノーロープバンジーで全員が王宮の謁見の間へと降り立つが、慣れていない鈴はティオが抱えて降りてやる事になった。

 

 当然ながらミュウとレミアはお留守番。

 

「か、香織……雫……鈴」

 

 醜い白に近い灰色の怪人が三人を見て呟くが、生かしておいて欲しいとは思ったのに今は嫌悪感が先立つ。

 

「何て姿よ、光輝」

 

「無いよ、これは無いよ光輝君」

 

「気持ち悪いよ~」

 

 完全否定の三人に天之河光輝はユートを睨み付けて叫ぶ。

 

「よくも龍太郎だけでなく香織と雫と鈴までもを洗脳してくれたな? 許さないぞ緒方!」

 

「許さない……だって? 許さないのは此方の方だ勇者(笑)よ!」

 

 何だか勇者に成る前のアバンとハドラーのやり取りに似ており、皮肉にもハドラー側が天之河でアバン側がユートの役割となっていた。

 

 ユートの怒りは本当に約束通り殺さずに済ませるか判らないくらいに大きい。

 

「皆、変身だ!」

 

 ユートの意を受けて【閃姫】はそれぞれ変身のツールを以て……

 

『『『『変身っ!』』』』

 

 変身をした。

 

 仮面ライダーサソードの雫。

 

 仮面ライダーリューンの香織。

 

 仮面ライダータイガの鈴。

 

 仮面ライダーバルカンのミレディ。

 

 仮面ライダーサガのユエ。

 

 仮面ライダーザビーのシア。

 

 仮面ライダーリュウガのティオ。

 

 これに加えて仮面ライダークローズチャージな坂上龍太郎にマグナモン、ユートを含めて合計が一〇人にもなるけどアナザーライダーは倍近い。

 

「アナザージオウⅡか。巫座戯た真似を二度と出来ん様に粉々に砕いてやる!」

 

《ZIKUーDRIVER!》

 

 ユートは右と左にスロットを持つジクウドライバーを腰に装着し、闇色のシンオウライドウォッチを右手に、銀色の派手なライドウォッチを左手に持って先ずはシンオウライドウォッチの前面の

ウェイクベゼルを九〇度回転させ、ライドオンスターターを押してやる。

 

《SHINーO!》

 

 次に左手のライドウォッチのグレイテストスターターを押す。

 

《GREATEST SHINーO!》

 

 電子音声と共にグローリースモールが展開されると其処には中央をシンオウ、グローリースモールには一九人の仮面ライダーの顔が在った。

 

 ユートが迷う事も無く二つのウォッチを両側のスロットへ装填をすると、先ずは二つの起動音――アークルとオルタリングによる音が響き更に……

 

《ADVENT COMPLETE TURN UP CHANGE BEETLE SWORD FORM  WKAE UP KAMEN RIDE CYCLONE/JOKER TAKA TORA BATTA THREE TWO ONE SYABADUBI TOUCH HENSHIN SOIYA DRIVE KAIGAN LEVEL UP BEST MATCH!》

 

 各仮面ライダーの代表的な音声が響く。

 

 ブレイドとカブトの間に鳴り響いたチリーンという音は響鬼の音叉だろう。

 

「変身っ!」

 

 ユートがジクウドライバーのライドオンリューザーを押し、ジクウサーキュラーを回転させてやる事で両端のスロットへとセットされたライドウォッチのデータを同心円状に展開ロードをして、ジクウマトリクスへと伝達をさせる。

 

《RIDER TIME!》

 

《GREATEST TIME!》

 

 装填されたライドウォッチが鳴り響いて何故か唄い出した。

 

《KUUGA AGITΩ RYUKI FAIZ BLADE♪》

 

《HIBIKI KABUTO DENーO KIVA DECADE♪》

 

《DOUBLE OOO FOURZE♪》

 

《WIZARD GAIM DRIVE♪》

 

《GHOST EXーAID BUILD♪》

 

《IWAE! KAMEN RIDER GREATEST SHINーO!》

 

 ほむほむ――暁美ほむらの声で祝われる。

 

 その姿は仮面ライダーグランドジオウの正しく色違いな2Pカラー、グランドジオウは全体的に金色が使われているけど此方はライダーレリーフが銀色で周囲が金色、アンダースーツは白色をしてクラッシャーなどが黒い。

 

 仮面ライダーグランドジオウと配色が逆転をしている仮面ライダー。

 

「仮面ライダーグレイテストシンオウ」

 

 嘗て、闇の遺失宇宙船と闘う際に変身をしている仮面ライダーテンマシンオウを除けばシンオウの最強フォーム――最高最善の真王がトータスへと降臨をするのであった。

 

 

.




 仮面ライダーグレイテストシンオウ――仮面ライダーグランドジオウの2Pカラー、配色は完全に逆転させた感じになっています。

 グランドジオウには無い特殊能力にはクレストチェンジが有り、これにより召喚をされる存在が仮面ライダーだけとは限らなくなる。

 名前的には【最高の真王】という意味。





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第72話:清濁併せ呑む教え

 今回の闘いは可成り雑です。





.

 グランドジオウの色違いな2Pカラーとして造られた仮面ライダーグレイテストシンオウと成ったユートは、自身の身体を鎧うアーマーに刻まれた銀色のライダーレリーフに触れる。

 

《AGITΩ!》

 

 すると顕れたのは仮面ライダーアギト・シャイニングフォームが使う双剣状態のシャイニングカリバーにて、一足跳びに木野 薫が変身をしていた仮面ライダーアナザーアギトに似た風貌にして、アナザーアギトそのものたるソイツに斬り掛かると斜め十字に裂いた。

 

 余りにも一瞬であるが故にマグナモンですらも反応が出来ない。

 

 アナザーアギトはノイズを残して消滅。

 

「殖やされても困るからな」

 

 アギトは一人ではないとはタイムジャッカーのスォルツの言葉であったか、アナザーアギトにはゾンビかキョンシーか噛み付いた相手をアナザーアギトに換える能力を持つ。

 

 近場の誰かを噛んでアナザーアギトを増殖されても面倒臭いだけだから真っ先に斃した。

 

「む、無駄だ!」

 

 無かった事にする歴史改変でアナザーアギトを再び顕現させようとする天之河だが……

 

「な、にぃ!?」

 

 一向に顕れないから焦りを覚えて叫ぶ。

 

「無駄と言いたいのは此方だ」

 

「な、何だと!?」

 

「今は仮面ライダーグレイテストシンオウに成っちゃいるが、本質的に僕は仮面ライダーディケイドなんだよ」

 

「だから何だ!」

 

「仮面ライダーディケイドは世界の破壊者として九つのリ・イマジネーションな平成第一期仮面ライダーの世界を巡り、多くの仮面ライダーやその世界の怪人枠と出逢ったり闘った。そして怪人枠の中には【ブレイドの世界】のアンデッドみたいに不死で殺せない存在、【響鬼の世界】の魔化魍みたいに鬼の『浄めの音』でないと斃せない存在なんかも居た」

 

 アンデッドは本来なら死に至るレベルで痛め付けてやり、バックルが開いた状態になって封印のカードで封じるしかない。

 

 魔化魍は鬼達――その世界の仮面ライダーが使う『浄めの音』によってのみ斃せる。

 

「だけど仮面ライダーディケイドはそのルールを逸脱、アンデッドも魔化魍も普通に斃してしまったんだ。正にルールの破壊者だよな?」

 

「まさか……」

 

「世界の破壊者としての力で斃されたからには、アナザーライダーの死を無かった事には出来ん。再び召喚する事は出来るだろうがな」

 

 因みに、アナザーウォッチのルールとなる例のオリジナルの力が無いと斃せないというあれとて破壊は可能だが、ネオディケイドなユートであれば第一期だけでなく第二期の平成仮面ライダーにも成れるからそれで普通に斃せてしまう。

 

 尚、ユートは勘違いをしているが……ジオウⅡやグランドジオウは普通にアナザーライダーを斃す力を持っていたりする。

 

「糞っ!」

 

《AGITΩ》

 

 アナザーアギトを再び召喚する天之河光輝ではあるが、ユートもシャイニングカリバーでアナザーアギトを又もや斬り裂いた。

 

『ウギャァァァッ!?』

 

 アナザーアギトはノイズとなり消える。

 

「ああっ!」

 

 元々、天之河光輝では大した数を召喚が出来なかったらしいからこうして潰され、アナザーライダーを再召喚するとなると可成りコストが嵩む様である。

 

 とはいえ、再召喚を繰り返させるのも面倒である事には違いない。

 

「アナザーライダーを斃せ」

 

「はい! ですぅ!」

 

 パチンと指を鳴らすといの一番に仮面ライダーザビー・マスクドフォーム――シアがアイゼンⅡを片手に返事をして、アナザーカブトに向かって駆け出すと大きく振り被る。

 

「おっしゃぁぁ、どりゃぁぁですぅ!」

 

 バキャン! とけたたましい音を響かせながらブッ飛ぶアナザーカブト。

 

 起き上がったアナザーカブトはクロックアップによる高速移動を開始。

 

「キャストオフ!」

 

《CAST OFF CHANGE WASP!》

 

 開かれていくマスクドアーマーが一気に弾け飛ぶと、近付いてきていたアナザーカブトを目掛けて一斉に襲う形になった。

 

「クロックアップですぅ!」

 

《CLOCK UP!》

 

 腰のゼクトバックルに付いたトレーススイッチをスライドさせて高速移動。

 

 アナザーカブトもクロックアップをしたものの既にシアは準備も万端に整っていた。

 

「クロックアップが遅いんですよ! ゼクターニードルマシンガンですぅ!」

 

 左腕のザビーゼクターは雀蜂をモチーフにしている為、その尻尾部分の針もまた武器と成り得る訳でシアはそれを連続射出。

 

『アガァァァァァッ!』

 

 諸に喰らったアナザーカブトが悲鳴を上げているのを横目に、シアは再びザビーゼクターを操作してやる。

 

「再びおっしゃぁぁ、どりゃぁぁですぅ!」

 

 ヘッド部を巨大化したアイゼンⅡで殴ってやり、アナザーカブトがブッ飛ぶ先にはグレイテストシンオウたるユートの姿。

 

「よく意図を察した、でかしたぞシア!」

 

《KABUTO!》

 

 仮面ライダーカブトのライダーレリーフに触ると音声が響き、レリーフからニュルッと顕れたのはパーフェクトゼクター。

 

「ダークザビーゼクター!」

 

 瞬時に装着されるのは黒を基調とした雀蜂型、ダークザビーゼクターである。

 

 黄色のスイッチを押す。

 

《THEBEE POWER》

 

「ハイパースティング!」

 

 パーフェクトゼクターのソードモードで放たれる一撃、それはアナザーカブトの心臓部を抉り出して貫き通した。

 

 爆発四散するアナザーカブトはやはり破壊者たるユートの一撃がトドメな為か、天之河が歴史を改変して無かった事にしようにも出来ない。

 

「くっ!?」

 

 悔しがる天之河を視てミレディはニンマリと笑みを浮かべて……

 

「征っくよ、ユー君」

 

 ショットライザーをベルトから外すと、照準をアナザー鎧武に合わせトリガーを引いてやる。

 

 所詮は魂など持たないNPCに等しいアナザーライダー故か、大した動きも出来ずにミレディ=仮面ライダーバルカンの銃撃を喰らう。

 

「アハハハ! やっぱ気持ち良いよこれ!」

 

 何だかミレディが急性トリガーハッピーと化しているみたいだが、エヒトの勇者(笑)が放ってきた敵を撃つのが愉しいのであろう……きっと。

 

「ほいさ!」

 

 重力操作でアナザー鎧武をユートの方へと放り投げるミレディ、恐らくヤり切ったという笑顔でも浮かべているかも知れない。

 

《GAIM!》

 

 仮面ライダー鎧武のライダーレリーフに触れ、

火縄大橙DJ銃を召喚して更に無双セイバーと合着させると……

 

「火縄大橙無双斬!」

 

 予めロックシードは装填されていたので一気に必殺技を放った。

 

『ギィィヤァァァァッ!』

 

 真っ二つとなりアナザー鎧武は爆散した。

 

「次は私だよ!」

 

 言うが早いか香織――仮面ライダーリューンは、三枚のカードを取り出してラウズしていく。

 

《FLOAT》

 

《DRILL》

 

《TORNADO》

 

 仮面ライダーカリスならお馴染みのコンボを極めるその三枚。

 

《SPINING DANCE!》

 

 グルグル風を竜巻を纏いながら回って浮くと、身体をドリルの如く回転しつつアナザーブレイドを蹴り上げた。

 

「ゆう君!」

 

 その目的は誉めて貰う為と不純ではあるけど、ハジメと絆を結べない侭に処女を喪失した香織にはもうユートだけなのだから仕方無い。

 

 吹き飛んだアナザーブレイドに対し……

 

《BLADE!》

 

 仮面ライダーブレイドのライダーレリーフへ触って重醒剣キングラウザーを召喚したユートは、五枚のカードを模したエネルギーの膜に向かって

キングラウザーを振り下ろす。

 

「どりゃっ!」

 

 剣撃がそれを通過して増幅されアナザーブレイドを縦一文字に斬り裂いた。

 

『ギャァァァァッ!』

 

 アナザーキバと闘っていた仮面ライダーサガであるユエも、皆に続けとフエッスルをサガークに咥えさせてやる。

 

「……女王の判決を言い渡す」

 

《WAKE……UP……》

 

 仮面ライダーサガたるユエがジャコーダーを構えると周囲が闇に包まれ、キバの紋章が暗闇となった空へと浮かび上がった。

 

 ユエはアナザーキバにビュートモードとなったジャコーダーを突き刺す。

 

『がっ!?』

 

「……死だ」

 

 ジャンプしてキバの紋章を潜り抜け着地して、アナザーキバを宙吊りに拘束。

 

 増幅された魔皇力を送り込んだ。

 

 爆発こそしたが非殺傷設定であったから死ぬ事も無く大空を舞う、

 

《KIVA!》

 

 ザンバットソードを召喚。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 斬撃を飛ばしてトドメを刺すユート。

 

 アナザーキバは再び爆発してしまい、今度こそその生命を喪うのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 最後にアナザービルドもクローズチャージである坂上龍太郎にぶっ飛ばされ、フルボトルバスターを手にしたユートによりトドメを刺されてしまって爆散する。

 

 折角、召喚をしたアナザーライダー達が遂には全滅の憂き目に遭って天之河光輝は地団駄を踏んで悔しがっていた。

 

「糞っ! 何故だっっ!?」

 

「あん?」

 

 突然の絶叫に訝しい表情となるユートだけど、天之河光輝の絶叫の対象は別に居る。

 

「香織、雫、鈴、龍太郎! 何故、緒方に味方をするんだ!? 俺達は幼馴染みじゃないか!」

 

「何だ、単なる泣き言か……詰まらん」

 

 それが聴こえたのか、天之河光輝がユートの方をキッと睨み付けてくるが何処吹く風だ。

 

「光輝、貴方は今更それを言わせたいの?」

 

「……雫?」

 

「あんたはやり過ぎたのよ。私や香織や鈴だけじゃないわ、龍太郎だってもう光輝を庇えないの。優斗に味方する理由は優斗の方が正しいからよ」

 

「莫迦な!」

 

 有り得ないと云わんばかりの天之河光輝だが、既に香織も鈴も顔を明後日の方へ逸らしていた。

 

 まぁ、どちらかと云えばユートが正しいというだけでしかないのは雫も言いながら理解していた訳だし、ユートも正義の味方の心算が無いのだから正しいとか言われても困る。

 

 天之河光輝は真っ向から否定していた。

 

「アナザージオウとか怪物に成ってまであんたは

何がしたいのよ!?」

 

「仮面ライダーだ! 俺は怪物なんかじゃない!

 正義のヒーローで勇者の俺こそが正しいのであって、緒方なんかあんな卑怯な力が無けりゃ単なる無能な錬成師じゃないか!」

 

「どの口が言うのやら」

 

 ユートとしては呆れる他ない。

 

 卑怯な力とは仮面ライダーの力であろうけど、自分は当たり前に使いながら他人を詰る根性など最早、支離滅裂になっているとしか思えないくらいに阿保な事を宣う。

 

「いい加減にして! そもそもあんたは仮面ライダーなんて観た事すら無いでしょうが!」

 

 天之河光輝にとってのヒーローというのは即ち祖父――弁護士の天之河完治の事を意味していて、仮面ライダーやメタルヒーローやウルトラマンやスーパー戦隊に子供達が夢中になっている中で、どうして()()()()()()()に夢中なのかまだ子供であった頃の天之河光輝は本気で思っていた。

 

 そもそもがユートが足りない部分こそユーキの力を頼むが、だいたいは自らの力を用いて用立てて仮面ライダーなどの力を獲ているのに対して、天之河光輝の場合は仮面ライダーキックホッパーから始まりアナザージオウⅡに至るまで他人任せでしかなく、勇者(笑)の天職ですらエヒトルジュエなる神(笑)からの貰いモノ。

 

 貰った力を上手く使うのと力に振り回されているのは意味が違うし、ユートがどうかは別にして明らかに天之河光輝は後者である。

 

 天職の勇者(笑)だけでも一杯一杯だったのに、仮面ライダーキックホッパーやアナザージオウを使い熟せる筈も無く、そもそも怪人枠でしかないアナザージオウはエゴが前面に出てしまう。

 

 まぁ、天之河光輝は本人が元々にしてエゴの塊だったから大して違いは無かったかもだが……

 

「雫っ!」

 

「光輝、あんたってさ……昔っからそうよね」

 

「な、何がだよ?」

 

「いつだって御都合解釈。そうよ、私がイジメを受けていた時だって! あんたに助けを求めたらあんたがした事と言えば『雫ちゃんと仲良くして欲しい』とか何とか言っただけ。アフターケアも無くて私は陰で余計に陰湿なイジメに遭ったわ。それを言ったら『あの子達は良い子だよ』だの、『雫の勘違い』だの、挙げ句の果てには『仲良くしろ』? 巫座戯ないで! 誰がイジメをしてきた連中と仲良くしたいものですか!」

 

 雫の慟哭に仮面ライダークローズチャージたる坂上龍太郎は、『あちゃ!』と頭に右手を添えながら天を仰いでしまう。

 

 その話題は比較的に天之河光輝が落ち着いていた所謂、意味は違うが『賢者タイム』だった時に挙げていたが見事に首を傾げていたもの。

 

 『きっと悪気は無かった』、『皆、良い子達だよ?』、『話せば判る』と言うばかり。

 

「私はあんたに出逢ったばかりの頃は私を女の子にしてくれる『王子様』になってくれるかも……ってさ、勝手な期待を懐いていた事だってあったんだけど……バッカみたいよね。あんたの無駄に良い容姿と『雫ちゃんのも、俺が守って上げるよ』って甘ったるい科白に逆上せてたんだから……」

 

 坂上龍太郎の時とは迫力が違って後退りすらしてしまう天之河光輝。

 

 守ってくれる、甘えさせてくれる……女の子で居ても良いのかも知れないと期待した雫は物の見事に裏切られた形だ。

 

 確かに勝手な期待を押し付けて勝手に失望しただけ、そう云われてしまえば雫も決して否定などする事は出来ないにせよ……である。

 

 今でこそ艶やかな黒髪を伸ばしポニーテールに結わい付け、端からは『クールな美少女剣士』みたいな評価を得て香織と並び立つ雫ではあるが、昔は短く刈った髪の毛に服装も地味でしかなかった上に女の子らしい話題にも付いてはいけない。

 

 それというのも雫の顔立ちが可愛い系でなく、美人系だったから子供だった頃は変に悪目立ちをしてしまったのが原因、当然ながら長じればそれは立派な女の武器足り得るけど。

 

 実はそれを気にして二人だけの夜に少し聴いてみた――『私、昔は髪の毛が短くってね。優斗の好きなポニテじゃなかったのよ』……と。

 

『それはそれで悪くないね。幼馴染みだったなら是非とも見てみたかったよ』

 

 その答えに思わず熱く燃えて盛った。

 

 まぁ、当時は正しく餓鬼に過ぎなかったであろう天之河光輝に女の機微など解らないし、つまりは解決に導くだけの知恵など有る筈も無い。

 

 四年生に上がって香織と同じクラスになれて、彼女が傍に居てくれたから心折られずに平静になって暮らせたのである。

 

「きっと私も悪いのよね。私はいつも中途半端、あんたを突き放す事が出来なかったわ」

 

「し、雫……?」

 

 いつしか雫は天之河光輝には頼らなくなって、その傍らでこいつが無意味にトラブった際にいつもフォローに回り、ハジメが天之河光輝に諭すという名目で詰った時にも『御免なさいね、光輝に悪気は無いのよ』とかこっそり耳打ちしていた。

 

「光輝、あんたさ……前に教室で南雲君に言った事があったわね」

 

「な、何を?」

 

「『いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから』だったかしら? だったら言って上げる。いつまでも私や香織の優しさに甘えるのはどうかと思うわよ。私達だって光輝に構ってばかりはいられないんだから」

 

「っ!?」

 

 言葉のブーメランとはこの事だろう。

 

「お、緒方なら良いのかよ!?」

 

「良いに決まってる」

 

「何故だ!?」

 

「私、優斗の愛人だもの」

 

 数秒間――固まる天之河光輝。

 

「あ、愛人だと?」

 

「あのね、優斗の周りを見なさいよ」

 

 言われて見回すと仮面ライダーが一杯。

 

「この仮面ライダーは龍太郎を除いて女の子よ、そして全員が愛人という立場だわ」

 

「なっ! それて良いのかよ!? つまり緒方は女性をコレクションにしているんじゃないか!」

 

「昔のあんたと何が違うのよ?」

 

「俺は皆をコレクションだなんて!」

 

「思ってなくても視るからにそうでしょうが! 優斗だって別にコレクションだなんて思ってはいないわよ! 女好きで強欲で割と嫉妬深いだけ、女の子を養えて蔑視しなくて全員を愛せるんなら問題も無いわね」

 

「雫……やっぱり洗脳……」

 

「しつこい! くどいのよ、あんたは! 自分が気に入らなくて理性的に判断が出来なくなったら取り敢えず洗脳とか、気持ちが悪いわ!」

 

「っっ!?」

 

 最早それは弾劾であったと云う。

 

「か、香織……」

 

「ねぇ、光輝君。女の子は乱暴にされて悦ぶなんて普通は無いんだよ?」

 

「っ!」

 

 レ○プ未遂を許さないという断固たる科白に、天之河光輝は絶句をするしかなかっと云う。

 

 仮面ライダーリューン、カリスと変わらない姿をしているだけに恐怖すら募った。

 

 違いは色と女性らしい体型くらい。

 

「鈴……」

 

 顔を逸らすだけなのは鈴が基本的に事なかれであるからだろう。

 

「光輝、はっきり言うわ。この場の私や香織や鈴はあんたに惹かれたなんて事は無いのよ」

 

「っ!? どういう……」

 

「簡単よ。あんたの上辺しか知らない娘達ならばキャーキャーと言うでしょう。でもあんたを知れば知る程にあんたに惹かれなくなるのよ。あんたが抱いたっていうメイドや女性騎士も今や光輝が歴史改変しなけりゃ付いては来ない」

 

「ぐっ!」

 

 まるで黒田 光ルートな伊藤 誠みたいに。

 

「もういい加減で楽になりなさい光輝」

 

 必殺技祭りだぁぁぁあああっっ!

 

 仮面ライダーサソードのライダースラッシュが斬り刻み、仮面ライダーリューンのスピニングダンスが極り、仮面ライダータイガのクリスタルブレイクに引き摺られて爪を突き立てられ、仮面ライダーサガのスネーキングデスブレイクにより貫かれて、仮面ライダーリュウガのドラゴンライダーキックに蹴られ、仮面ライダーザビーのライダースティングに打ち抜かれ、仮面ライダークローズチャージのスクラップブレイクを極められて、非殺傷設定とは思えないくらいにズタズタでボロボロにされてしまう。

 

《ALL TWENTY TIME BREAK!》

 

 更にだめ押しであると謂わんばかりに上空へとアナザージオウⅡを蹴り上げ、平成仮面ライダー

の全てを放映順に召喚をしたユート。

 

 正しくオール二〇周年記念必殺キックが炸裂、トドメは仮面ライダーグレイテストシンオウによる蹴りで〆。

 

「ぐわはぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

 大爆発して吹き飛んだがカトレアと違って間違いなく生きており、天之河光輝の変身が解除されて地面へと落ちるアナザージオウⅡウォッチ。

 

 グシャッ!

 

 ユートはそれを踏み潰した。

 

 これにより改変された歴史は元通りになったらしく国王のエリヒド達も気が付く。

 

 非殺傷な必殺技という矛盾した攻撃で死ぬ程の痛みを受けながら死ねず、泡を吹きながら気絶をした天之河光輝は取り敢えず医務室に寝かせる事で放置をした。

 

 回復させてやる必要も無いからだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 翌朝になりベッドの上で目を覚ましたユートの隣には、リリアーナとヘリーナとニアの三人が未だに疲弊からか眠っていた。

 

 ずっと不安感と闘っていただけに安堵が欲しいという気持ちも理解出来たし、他の【閃姫】達も快く? 譲ってくれたのだそうな。

 

 取り敢えずユートも三人を気遣ってか優先的に可愛がってやったものである。

 

「さてと、家族会といきますか」

 

 ちょっとムラッとキタからもう一発ずつ三人を抱いてから朝食を摂った。

 

 朝食後に全員を集める。

 

「始めるぞ」

 

「これは……何?」

 

 この場にはウルの町に居た畑山愛子先生を含む優花達、愛ちゃん護衛隊も戻って来て生き残りのクラスメイトが集まっていた。

 

 勿論、天之河光輝も。

 

 ユートはリリカルっぽい仮想ボードと空中へと投影されたモニタを出し、それを操作していたのを優花に訊かれて口を開く。

 

「漸く次元通信の準備が終わったんで僕が態々、仮面ライダーWファング/ジョーカーに変身をして地球とトータスを疑似的に繋ぐんじゃなくて、直に会話が可能な様に出来たって訳だよ」

 

「そんな事が!」

 

「此方には魔導を、向こうには科学を修めた者が揃っているんだから出来ない事は余り無い」

 

 現在は謂わばチューニング中であった。

 

「よし、無事に繋がったな」

 

 ヴン! という音と共に映し出されるのは懐かしい向こう側の景色であり、長くて青い髪の毛をポニーテールにした見た目に幼い少女。

 

『『『『タバサァァァッ!?』』』』

 

 全員ではないが【ゼロの使い魔】を見知っていた者達が声を揃えて絶叫をする。

 

「やぁ、兄貴。顔を見るのは久方振りだねぇ? 仮面ライダーWに成って判ってはいたんだけど、取り敢えず元気そうで何よりだよ」

 

「そっちも壮健で何よりだ。向こうはどうだ? 一番に飛び出しそうな連中とか」

 

「抑えるのに苦労したよ。リル王妃に説得して貰えて助かったさ。勿論、ラル王姉殿下もね」

 

「まぁ、直接的に会える場所に居るんだからな。リルからの返事は?」

 

「その時になったら来てくれる手筈さ」

 

「了解した」

 

 重要な申し送りも終わっていよいよだ。

 

「マイエンジェル! 漸く会えた!」

 

「お、お父さん……」

 

 いの一番に顔を出してきたのは白崎智一であり

天使呼びが恥ずかしい香織、一応は前回で疑似的に会話くらいはさせたのだがやはり足りなかったらしい。

 

 取り敢えず全員に思い思いな会話を楽しませてやるユートだが、天之河光輝は遠くでそれを見せられているだけでしかなかった。

 

 ユートが天之河光輝に気遣う理由など全く無いのだから当然であろう。

 

「それじゃ、此方で起きた事に付いて話そうか。先ず僕は帰る為に必要な七つの鍵の内の四つを手に入れる事に成功した」

 

「おお! 神代魔法だったか、つまりは半分を越えたんだね」

 

 南雲 愁が嬉しそうに言い、他の家族達も何処と無く嬉しそうにしている。

 

「だけど事ある毎に邪魔をされていて困った事に遅れ気味だよ。本当はもっと早く動きたいんだけどな……」

 

「邪魔を? 魔人族という奴かい?」

 

「否、天之河光輝」

 

 バーーン! とか擬音が付きそうな暴露に頬を引き攣らせる天之河夫妻と天之河美月。

 

「ど、どういう事ですか? 何だか最後通諜を突き付けられたと聞きますが!?」

 

 天之河美弥が慌てて訊いてくる。

 

「アナザージオウⅡという怪人に成って歴史改変を仕出かしてね、お陰で四つ目の神代魔法を獲てから王宮に蜻蛉返りだよ」

 

「アナザージオウⅡ?」

 

「邪神から貰ったらしい。前にもアナザージオウに成って要らん事をしてくれたしな」

 

 天之河聖治と天之河美弥は頭を抱える。

 

「弁護士だったとかいう天之河完治はどうやら、弁護士としては一流でも祖父としては駄目だったみたいだね。本当に必要な事を教えるのを後回しにした挙げ句、教える前に死んだから天之河光輝は歪みまくっているんだよ」

 

 天之河完治は幼い天之河光輝にはまだ早いだろうと、自分の仕事などの綺麗な部分だけを教えて

汚ない部分を教えていなかった。

 

 綺麗事をほざくばかりであり清濁併せ呑むという度量を持たないのだ。

 

「緒方! お爺さんを悪く言うな!」

 

「言うさ! お前という失敗作を世に放ったんだからな!」

 

「しっ!?」

 

 余りの暴言に絶句する天之河光輝。

 

「そもそも、弁護士は正義でも何でも無いだろ」

 

「な、何だと!?」

 

「それなりな大金を受け取り、依頼を遂行するのが弁護士の仕事だ」

 

 依頼内容とかにも依るのだが……

 

「相談くらいなら一万円で初回無料なんて事務所も増えてるが、着手金に報酬に日当に実費などでん十万と支払わないといけない。それは天之河の祖父も同じで決して無報酬で弁護士なんかしてはいない。食ってかないといけないからな」

 

「そ、そんな事くらい判ってる!」

 

 多分だが将来設計に弁護士も有るのであろう、その手の知識くらいは得ていたらしい。

 

「勿論、一口に弁護士と言ったって様々な仕事が存在する訳だが……正直、テレビの情報だけで判断したら犯罪者の罪を軽くするのに腐心する仕事というイメージがある」

 

「な、なにぃ!?」

 

 所詮は一例でしかないのだが、会社の法律的なあれこれを調べたりする仕事なんかはテレビなどで拡散される情報ではなく、基本的に弁護士やら検事やらが動いた云々がメディアに載るのは裁判によるもので、大概は重犯罪者だったりするから一般的な弁護士のイメージはそれに沿うかも。

 

「何人も殺した殺人犯を意訳すれば『頭がおかしいから殺しても仕方がない、だから罪を軽くして上げないと可哀想だろう』って話だ」

 

「っ!?」

 

 飽く迄もニュースになった裁判を観た際の謂わば極論、ユート自身は弁護士や検事の仕事を実際に見知っているからそんな風に考えていない。

 

 とはいえ、ニュースで裁判関連を観ればそんな感じに弁護士が仕事をしている訳で、恐らくだけど天之河完治が天之河光輝へと伝えなかった闇の一つではなかろうか?

 

 被害者遺族の心を無視してでも死刑を求刑された殺人犯を減刑、最低でも無期懲役にするのに使われる言い訳がユートの言った『頭がおかしい』というか、精神的にあれやこれやという一般的には『仕方がなかった』という判断となる。

 

 勿論ながら病院で精神鑑定もするが……

 

 求刑通りにならなかったら被害者遺族は遺憾であるだろうし、単純にニュースだけで弁護士を観た場合は寧ろ悪党である。

 

「【仮面ライダー龍騎】の仮面ライダーゾルダに変身する北岡秀一弁護士――彼も重犯罪者を減刑にさせては大金をせしめていたしな」

 

「っ!? そ、そんなのとお爺さんを一緒くたにするな! お爺さんは……お爺さんは……」

 

 本人は不服に思っていた様だが、あの浅倉 威も無罪にこそならなかったが減刑には成功していた北岡秀一の手腕は、正しく被害者遺族からしたなら悪党弁護士に他ならない。

 

 兎に角、ユートは天之河光輝など見ずモニタの向こうの天之河聖治と天之河美弥に顔を向ける。

 

「これ以上、彼奴が邪魔をするなら今回は坂上が頑張ったから保留にしたが、今度こそ殺処分にさせて貰うから」

 

「「っ!」」

 

 平然と抹殺宣言をしてくるユートに驚愕を通り越してしまう。

 

「ま、待って下さい! クラスメイトを殺すなんて駄目ですよ!」

 

 やはりと云うか愛子先生が待ったを掛けるが、ユートとしては言いたい事もあった。

 

「これは愛子先生を早く彼方に還す為に必要な事なんだから邪魔をしないで欲しいね」

 

「わ、私ですか?」

 

「トータスに召喚されて半年を過ぎてしまった。愛子先生は学校をある意味で無断欠勤半年になっている訳だが、まだ学校に愛子先生の籍って残っているのかな?」

 

「あ゛……」

 

 今までトータスを生き抜く事にかまけていて、そこら辺に全く無頓着だったのに気が付いてしまった愛子先生は、愕然となりながら両手を床に付いて四つん這いで茫然自失となる。

 

「異世界に召喚されました……なんて、事実だとしても学校が信じるかな? 否、信じる信じないという以前に色々な軋轢を躱す為の羊にされるんじゃないかね?」

 

「スケープゴート……ね」

 

 ユートの言いたい事を雫が答えた。

 

「それなのに天之河が邪魔をしてまた遅れたよ。それなのに許せと? 聖母を通り越して頭がイカれてると思われるぞ。そいつは生きている限りは僕の邪魔をするだろうしな」

 

 だからこその最後通諜だったのだから。

 

 

.




 別に弁護士に隔意は無いですよ?




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第73話:聖剣ウーア・アルトをゲットだぜ!

 今回は第三回家族会です。





.

 畑山愛子先生の進退に関わる。

 

 確かに召喚をされてから半年が過ぎてしまった今として、果たして学校に愛子先生の籍が残っているのか疑問が生じてしまった。

 

「まぁ、籍は残っているだろうね」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 バッと顔を上げる。

 

「ああ、籍を残しておけばスケープゴートにし易いだろう?」

 

「……え?」

 

「既に学校を辞めさせた相手じゃ万が一に生徒に某かあった場合、詰め腹を切らせる事が難しくなってくるからな。下手したら自分達が犠牲になりかねないから愛子先生が学校を免職されるとしたなら、生徒に某かあった責任問題が表面化してからになるんじゃないか?」

 

「そ、それは……」

 

 つまり詰め腹を切らせる為だけの生け贄の羊、愛子先生にとって絶望しかない話であろう。

 

「しかも懲戒免職の可能性も高いね」

 

「うう、そんな~」

 

 懲戒免職を喰らったらもう教師生命は間違いなく終わるし、他の職業に就く事も難しくなるのも不可能に近くなるだろう。

 

「愛子先生の肢体じゃあ春を売っても……存外と売れるのか? 主に真性のロリコン辺りに」

 

 年齢は二五歳だから間違いなく合法でありながら見た目は中学生、小学生を越えたらBBAだと云うロリコンというよりペドに近い奴でもなければ売れそうである。

 

「嬉しくありませんよ! っていうか、春なんて売りませんから!」

 

 春を売るとは早い話が文字通りの売春であり、当たり前だが余程の淫乱でもない限りは好んで売りたいとは思うまい。

 

「まぁ、本当に懲戒免職になっても確か愛子先生の実家は農家だったよね?」

 

「え、はい」

 

「愛子先生の天職は作農師だからきっと実家では重宝されるよ」

 

「それは……それも嬉しくありません」

 

 愛子先生との寝物語で聞いた話だと昔に起きた盗難事件、その犯人に仕立て上げられた愛子先生を外部者では唯一、先生だけが信じてくれて割と大きな声で愛子先生の無実を信じてくれた。

 

 最終的に愛子先生の無実が証明された訳だが、先生は居られなくなってしまう。

 

 愛子先生はそんな恩師みたいな教師に成りたくて将来を目指したのだとか。

 

 愛子先生はまだ何も成し遂げてはいないのに、懲戒免職になって教師生命を断たれてしまうのは余りにも困るが、だからといって生徒が殺処分を受けるというのも受け入れられない。

 

「だけど基本的に遅れは天之河が余計な事をするからだし、こうなれば寧ろ天之河光輝なんて生徒は居なかった事にした方が良くないか?」

 

「な、何て事を言うんですか!」

 

「天之河の所為で何人が死んだ?」

 

「……へ?」

 

「天之河が積極的に戦争参加を表明した所為で、いったい何人の生徒が死んでいる?」

 

「そ、それは……その……」

 

 口篭る愛子先生、そして流石に堪らなかったのか天之河光輝が口を開いた。

 

「待て! 然も俺の所為みたいに言うな! 殺したのは檜山だろう!」

 

「誰もお前が直接殺したなんて言っていないさ。だが戦争に参加する=人死にが出るというのは示した筈だし、お前は皆に向かって言ったよな? 確か『皆が家に帰れる様に、俺がこのトータスも皆も救ってみせるさ』……だったか。救う処か半数が死んでいる訳だがな。皆が家に帰る? どうやっても不可能だったんだよ。お前の大言壮語が皆を惑わせ死なせたのは事実なんだしな」

 

「ち、違う! 檜山が香織を撃ったから! 俺は守れる筈だったんだ!」

 

「筈も何も、事実として誰も守っていないだろ。僕はまぁ良いさ。小悪党四人組も自業自得だし、

ハジメに関しては初めからお前にとって守る対象外だったろうしな。だけどお前に賛同した十数人や香織に雫に愛子先生は守れなかった」

 

 そも、そういう悪意から守ってこそ。

 

 全部を守ると言いながら突発的な事象だったから守れませんでした……などと、天之河光輝は理想を只追うだけで理想を追い越せない夢想家に過ぎないのだと証明したのである。

 

「違う、違う、違う! 違うっ!」

 

「これが現実だ」

 

 ユートは冷たく言い放った。

 

 実際、ハジメは天之河光輝にとって守る対象ではないと考えている。

 

 何しろ虐められるハジメを助けない処か文句を言うくらいで、雫は『悪意は無い』と言っているけどユートに言わせればどう好意的に考えてみて()()()()()しても『悪意しかない』だ。

 

 天之河光輝本人にその自覚が全く無いだけに、余計と性質が悪いのだとさえ云えた。

 

 ユートからしたらどっちにせよ守れないのだしどうでも良いけど、ハジメの両親は天之河光輝を睨んでいたし頭を抱える天之河聖治達。

 

「ゴホン、それで残り三つの鍵たる神代魔法とやらは場所など判っているのかね?」

 

 其処がやはり気になったのか八重樫虎一が代表して訊いてくる。

 

「勿論、把握している。実際に莫迦が騒ぎを起こしたからアレだったが最終的にはこの近くに在る大迷宮に入る予定だったしね」

 

「待て、緒方」

 

「どうした、永山?」

 

「この近くに大迷宮が在るとか聞いた事が無い。それは本当の事なのか?」

 

「大迷宮を造った七人の【解放者】、とは云っても今は反逆者と呼ばれている。その内の一人から直接聞いた話だから間違いない」

 

「直接? 確かに大迷宮は七ヶ所在るとされてはいても、実際に存在が確認される乃至は未確認ながらそうだとされる場所は三ヶ所だけだったのに……って言うか、それなら全員で行った方が良かったんじゃないのか?」

 

「役にも立たない連中なんか連れて言って要らない犠牲を出しても……な」

 

「む、うう……」

 

 ライダーシステムが有れば能力がバカみたいに上がるから攻略も叶うが、ユートが再三に亘って言っている通りで身内以外に与える気は無い。

 

 女の子なら【閃姫】と成るのが一番早道だし、男の場合は親友クラスの仲であるのがそうだ。

 

 故に現状、天之河光輝を止める為に与えられている坂上龍太郎を除いたら、男はハジメと浩介のみが仮面ライダーに変身をする事が出来る。

 

「まぁ、いずれにせよ下手に聖教教会に噛み付いても良くて無一文での放逐、下手したら神敵認定で殺しに来ただろうから戦争参加は取り敢えずでもやる必要はあったが……まさか何の交渉も無しに言われるが侭に参戦を表明するとはな」

 

 参戦表明自体はするしか選択肢が無かったが、せめて色々な譲歩を引き出す話し合いくらいする必要はあった筈なのに、キラキラ勇者(笑)は行き成り参戦表明をしてしまった。

 

 当然ながら余りにも考え無しな天之河光輝に、両親以外の家族会の面子が白い目を向けている――妹の美月までも。

 

 天之河聖治は泣きたくなったし奥さんは泣いてしまっている。

 

「本当に天之河の頭が良いって設定は何処に溶けて消えたんだろうな?」 

 

 成績がトップで自慢の息子……の筈が応用の利かない頭でっかちでしかなかったのだから、自分達の教育も躾も父親――天之河完治に任せ切りにしていたのを今更ながら後悔したのであろう。

 

 家族会と妹の美月からは白眼視され、両親には泣かれた天之河光輝はどうして自分がこんな目に遭うのかと理不尽を感じていた。

 

(俺は……俺は……俺が勇者なんだぞ!?)

 

 最早、アイデンティティーだとでも言いたいのか『勇者』の天職にしがみ付き、それが下らないエゴを増幅させている結果になっているのだとは気付けない。

 

「さて、こっから先だが……神代魔法を残り三つ、こいつを手に入れるのが先決だろうね」

 

「残り三つとはどんな魔法かな?」

 

「そうね、気になるわ」

 

 流石はオタクなハジメの両親なだけに其処らは気になるらしい愁と菫。

 

「この近辺の大迷宮で『魂魄魔法』、ハルツィナ樹海で『昇華魔法』、氷雪洞窟で『変成魔法』。

まぁ、名前だけだといまいち解り難いかも知れないけど前に少し説明はしたよね?」

 

 変成魔法は確かに解り難いけど前回で多少なり教えてある。

 

「概ねはな」

 

「完全に理解した訳では無いわよ」

 

 然もありなん。

 

「この三つを手にしたら更に概念魔法の習得が叶うのも前に教えた通り」

 

 尤も既にユートは概念を魔導具に付与したり出来ているし、別世界で“原始魔法”を習得しているけど恐らく割と似た魔法だ。

 

 だからといって邪魔になる訳でもないだろう、何より他の神代魔法と同様に既に使える力の補助になる筈で、覚えて損をするでもないからこうして先ずは神代魔法を覚えて回っていた。

 

「さて……折角、顔を合わせたのだから改めて話したいな緒方優斗君」

 

「白崎さん……」

 

 白崎智一氏が話をしたかったらしい。

 

「香織の事ですか?」

 

「ぐぐっ! その顔でマイエンジェルを呼び捨てにされると……クるものがあるな」

 

 流石は親バカというか、ユートの本当の顔にて愛娘への呼び捨て行為で額に青筋を浮かべつつ、それでも智一氏も極力は笑顔を浮かべている心算であるらしい。

 

「くっ、君が還ってきたら一発殴りたい!」

 

「そりゃ、構いはしませんが……拳が壊れてしまっても知りませんよ?」

 

「ぬっ!?」

 

「僕とて生身の人間? だから殴ったら金属みたいだったなんて有りませんが、それでも鉄心を入れた硬質ゴムを殴る様なものですからね」

 

 素人が殴ったら指の骨を骨折するであろうし、玄人ならば文字通りに拳が破壊される。

 

「ま、取り敢えず香織の初めての男として一発は殴られる心算だったし、戦闘力を最低限にまで落とせば骨折とかは無いだろう」

 

「くっ! 初めての男だと!? 判っちゃいたが今すぐ、本当に今すぐ無性にぶん殴りたい!」

 

 当の香織は真っ赤な顔で俯きつつもチラホラとハジメを窺うが、特に感想も無かったのか恵里と手を繋いでいた上に恋人繋ぎだった。

 

 此方も判っちゃいたけど衝撃が奔る。

 

(本当に南雲君の恋人なんだ……)

 

 今更ハジメに対して好意なんかは見せられない身体であるにしても、それでも嫌いになったから離れた訳では無かった為か地味にショックを受けはしたけど、これで完全に諦められたのかも知れない……と瞑目をしながらそう考えた。

 

 どうせユートに散々抱かれたのだから。

 

「そう言えば雫も……」

 

「うっ、飛び火したかぁ」

 

 八重樫虎一が雫を見遣ると自慢のポニーテールで顔をガードする。

 

 当たり前だが情事の話を女の子が好んでしたがるものではない、況してや親族に聴かれるなんてそれはどんな精神的な暴行かという話だ。

 

 既に香織も雫も茹で蛸みたいに真っ赤っかで、香織は顔を伏せて雫はポニーテールガード中。

 

「セクハラは父親でも成立するぞ?」

 

「む、それは……」

 

「ふむ、仕方がない」

 

 ユートの指摘に白崎智一と八重樫虎一が黙り、漸く次の話に入れそうだと嘆息をした。

 

「それでだ、ウチの娘をキズモノにしてくれたからには責任を取って貰えるのかな?」

 

「話題が全く転換されてないわよ!?」

 

 八重樫虎一の話に雫がツッコむ。

 

「責任……ね。【閃姫】に成って貰ったからには取らない理由は無いですね」

 

「しれっと進めた!?」

 

 雫のツッコミは華麗にスルーされた。

 

「とはいえ、そうなると僕の本来の世界に嫁ぐ形になってしまいますが……」

 

「本来の世界とは?」

 

「僕は平行異世界の地球からやって来た異邦人、即ち本来の世界というのは貴方達が住む地球とは違う地球。場合によっては理すら異なる世界」

 

『『『『『なっ!?』』』』』

 

 そこら辺を識っていた永山達は兎も角として、親~ズは驚愕するしかない情報である。

 

 鈴がパーティに合流する直前の話し合いにて、自身を転生者だと明かしているから永山パーティは平行異世界についても心得ていた。

 

「平行……()世界?」

 

 白崎智一が聞き慣れないのか呟く。

 

「平行世界に関しては識っていますね?」

 

「所謂、if(若しも)の世界だな」

 

「その通り。分岐点から右に歩いた世界と左に歩いた世界は、選んだ世界も選ばれなかった世界も等しく存在しているという考え方」

 

 簡単に云えばそうなる。

 

「もっと解り易く言えば――オルクス大迷宮にて、小悪党四人組のリーダーがこの世界では香織を撃った訳だが、平行世界ではハジメが撃たれて奈落に落ちたなんてのも在るね」

 

「「「「え?」」」」

 

 今の話に反応したのはハジメと恵里と南雲 愁と南雲 菫の四人だった。

 

「ちょっと待って、それって本当にあった事だったりしない?」

 

「喩え話には終わらんな」

 

「それじゃ……」

 

「奈落に落ちたハジメは爪熊に左腕を切り落とされて喰われ、神結晶を獲て神水を飲んで命こそ拾ったけど『奈落の怪物』とでも呼ぶべき存在に成り果て、更には多頭蛇の攻撃で右目を喪ってしまって――遂には『魔王』にまで成った」

 

「僕……が……?」

 

「因みに、一人称は『俺』になった」

 

「うへぇ……」

 

「序でに厨二病が再発した様な容姿に」

 

「ぐふっ!」

 

 そして崩れ落ちるハジメ。

 

 然しそうなると恵里が気になるのは自分がどうだったのかである。

 

 ハジメが落ちたなら自分を助けたのは誰か? それこそ天之河光輝なのか?  

 

(無いね、少なくとも光輝君の『守る』は口先だけだもん)

 

 守る守ると言いながら結局は守ってなんてくれなかったのが天之河光輝、そんな大仰な約束など

しなくても助けてくれたのがハジメだ。

 

 だけどユートの喩えではハジメが落ちており、助けてくれる存在が居ない事になる。

 

「あのさ、ボクはどうなるのかな? ハジメ君が奈落に落ちたなら助けは?」

 

「中村……か。ユーキ、中村はどうなるんだっけ? 僕は識らないけど」

 

 ユートは飽く迄も必要な知識のみの又聞きだけに全てを識る訳ではない、それが故に判らない事が出たらこうして訊いてみるしかない。

 

「オンドゥルルラギッタンディスカァ!?」

 

「了解した」

 

『『『『『ええっ!?』』』』』

 

 意味を理解出来なかった面々が叫ぶ。

 

「という事らしいぞ」

 

「何が!?」

 

 恵里もよく解らなかった一人らしくて叫ぶしかなかったと云う。

 

 オンドゥル語という、【仮面ライダー剣】に於いて剣崎一真――椿 隆之氏の滑舌の悪さからくる

言葉の代表格にしてオンドゥル語の大元となった科白で、ローカスアンデッドと闘うブレイドを見つめるだけの仮面ライダーギャレンを見付けて、仮面ライダーブレイドの剣崎一真が『ダディヤナザーン

! ナズェミデルンディス! オンドゥルルラギッタンディスカァ!?』と叫んだのが発祥とされる。

 

 尚、『ナズェミデルンディス!』と『オンドゥルルラギッタンディスカァ!?』の間には戦闘の科白というか

 

 まぁ、機材の問題なども恐らくはあった空耳がネタ化したものなのだが……

 

 早い話が、仮面ライダーギャレン――橘 咲也が実際に裏切っていた訳ではないけどこの場合だと『中村は裏切ったよ』の意訳される。

 

 ちょっとした二人の御遊びだ。

 

「要するに違う世界線の中村は小学生の頃に心が傷付いて自殺でもしようかと考えていた折りに、天之河光輝が話を聞いてくれた上で『俺が守る』という必殺技を発動、惚れたけど天之河光輝には殺意の波動を放つ女子が多数居たし、香織や雫が居るのが当たり前な空気になっていたから告白でもしようなら虐めの対象待った無し、だからこそ裏から始末したいけが地球では侭ならないんで、このトータスで成し遂げてやろうと企んだ結果として魔人族の誘いにでも乗ったんだろうね」

 

「うっ!」

 

 魔人族云々は兎も角、的確な指摘に恵里は思わず息を呑んでしまっていた。

 

「確かにボクはあの侭だとそうしてた。ハジメ君と恋人になったからそんな気はもう無いけど」

 

 愕然となったのは天之河光輝。

 

 本来ならすぐ傍にヤれる相手が居たのに知らぬ間に掻っ浚われていた上、()()()()()()()()()()()でしかないハジメが相手とか拳をギリギリと握り締めた。

 

「そういう意味ではハジメがファインプレーといった処か。勇者(笑)なんぞに固執しても不幸にしかならないだろうしね」

 

 しかも完全に侮られている。

 

 香織の笑顔が、雫の信頼が、鈴の無邪気さ全てがユートへと向けられていて、更に様々なタイプの美女美少女がユートに侍る形で傍に居た。

 

 少し幼い感じの金髪美少女なユエとミレディ、青み掛かった白髪な兎人族のシア、艶やかな黒髪に妙なる顔立ちで胸も一番大きなティオ。

 

 それ処かどうもリリアーナ王女がユートを見る目が怪しく、まるで恋する乙女が御相手でも見るかの如く熱く潤んでいた。

 

 美しいお姫様の御相手は勇者である筈なのに、丸っきり見向きもされていない気がする。

 

 有り得ない、有り得てはならない。

 

 だけど其処は勇者(笑)天之河光輝の超絶技能、【御都合解釈】が発動して飽く迄もそれは無意識に在り、天之河光輝が直に考えた事では決して無い上に違う事を考えていた体となる。

 

 所謂、天之河光輝中では的な。

 

「緒方!」

 

「何だよ、煩いな天之河。今は話中なんだから少し静かにしてろ」

 

「何だ、そのぞんざいな態度は!」

 

「今更、お前に気遣う理由が無いしな」

 

「っっ! 俺と決闘しろ! 俺が勝ったなら皆を解放するんだ!」

 

「これだよ、解ったかな? 天之河聖治さんや。このお邪魔虫っ振りが天之河の真骨頂だ」

 

「本当に申し訳無い!」

 

 天之河聖治は普通に良い人らしく天之河光輝の莫迦を見て青褪め、一心不乱に土下座までしての謝罪をしてくれたのでユートも悪意を持ち様が無かったし、奥さんもペコペコと元ヤンとは思えないくらいに低姿勢だった。

 

 完全に育て方を間違ったというより父親に任せ切りにしていたツケ、ユートが話した様に弁護士な天之河完治は正義感を煽る心算は無かったのであろうが、まだ早いと考えて世界の闇に関しては全く教えていなかったらしい。

 

 教える前に亡くなったから天之河光輝は間違った正義に固執した形なのか、ユートが言った様な事をトータスでやらかしたのだ。

 

 地球では息子の悪評など聞かなかったのだが、それは火消しをどうやら雫や八重樫家がしていてくれた結果らしく、若しもそれが無かったのなら間違いなく問題提起されていた。

 

 そういう事なのだろうと理解する。

 

 天之河光輝は目を見開いて驚愕するしかない、両親が行き成りユートに謝り始めたのだから。

 

「緒方ぁぁっ! お前、ウチの両親に何をしたんだぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 故に激昂するのだが……

 

「黙れ、勇者(笑)風情が!」

 

 ギョッとなる様な視線に黙る他無い。

 

「決闘なら受けても構わないが、お前は何を差し出す? 前にも言ったが、他者にリスクを求めるなら自身もリスクを提示しろ」

 

「ぐっ!」

 

 とはいえ、天之河光輝に差し出せる物など既に無いと言っても良かった訳だが、技能はもう既に【言語理解】しか所持してないしレベルを差し出したならば完全に詰む。

 

「ふう、なら【ウーア・アルト】を貰おう」

 

「うーああると? 何だか判らないがそれで良いなら構わない」

 

 何だか天之河光輝が腰に佩く聖剣の輝きが弱くなった気もするが気のせいだろう。

 

「ルールの設定と契約書による絶対遵守の契約、これをしないと御都合解釈主義者は信用がならないからな」

 

 ユートが例の【魔法先生ネギま!】製魔導具の鵬法璽に替わる魔導具――【絶対遵守の契約書(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命ずる)】を出す。

 

 名前は【コードギアス】の主人公――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがギアスを使う文言から、『ランペルージ』ではなく本来の名前にしたのはちょっとした拘り。

 

 実は世界間移動中に聖杯の願いを叶える機能が発露してしまい、【コードギアス】の世界に引き込まれたのだが何と原作は終わっていた。

 

 その場所に居た三人はユートも識る少女達で、願い事を聞いてやった事があったからか拘り的なネーミングとなったのだ。

 

 それは兎も角……

 

 書かれた内容を契約した者に絶対遵守をさせる正しく魂魄まで縛る魔導具、鵬法璽と同じタイプの魔導具ではあるがより細かく書き込んでしまえるから割と使い易くて、契約書という体裁上からこうして双方向で行えるのも大きい。

 

 内容は決闘による賞品の設定と決闘内容によるルールそのものの設定。

 

 天之河光輝は『ウーア・アルト』の譲渡でありユートは『【閃姫】の解放』となる。

 

 ルールは『この世界で獲たモノのみ使う』事、恐らく天之河光輝は卑怯な力(仮面ライダー)さえ無ければ錬成師など無能、今の自分でも決して敵では無いと考えたのであろう。

 

 そして王族貴族や家族会の一同が見守る中で、場所は訓練所としていつも使っていた広場。

 

 審判には歴史改変から元に戻り、リリアーナの近衛騎士に復帰をしたメルド・ロギンスを迎え、ユートと天之河光輝が約二〇mの距離で対峙をする形で始まった。

 

 王族貴族からの下馬評はユート一に対し天之河光輝が九といった感じ、一はリリアーナから得た評価である為にか九を得た筈の天之河光輝は憮然となったのが笑える。

 

「始め!」

 

 メルドの声に合わせ動こうとした天之河光輝が固まってしまう。

 

 ユートの手に何らかの機器が握られて回転させながら正位置に納め、右手に持った状態で天高く掲げながら叫んだからだ。

 

「重甲っ!」

 

 雁字絡めの罠を仕掛けるルール無視の奴らに、『愛の掟』で闘いそうな甲虫をモチーフとしている青き戦士――

 

「ブルービート! 重甲ビーファイター!」

 

 メタルヒーローの一角【重甲ビーファイター】の主人公の甲斐拓也が装着者なブルービートへと『重甲』し、重々しそうながらも機敏なアクションで構えを取ると天之河光輝に名乗った。

 

「待て待て待て!」

 

「何だよ?」

 

「卑怯な力は無しだと言ったろう!」

 

「仮面ライダーじゃないし、そもそも契約書に書かれた内容は『このトータスで獲たモノのみ使う』という事だ。インセクトアーマーや装着用のデバイスのビーコマンダーも、このトータスにて獲た【錬成】の練習過程で造った初期作品だぞ。其処のいったい何の問題が有るんだ? 言っておくが【絶対遵守の契約書】はサインをした人間を等しく縛るから、僕が契約違反をしたら間違いなく縛られて動きを止められるからな」

 

「くっ!」

 

「要するにお前が聖剣やキラキラな聖鎧を使うのと同じだ」

 

 確かに天之河光輝は今現在、聖剣アベルグリッサーと何とか国御抱え錬成師が修復をした聖鎧を装備しており、その気になったなら『天翔閃』や『神威』を放てるであろう。

 

「う……うるさいうるさいうるさい!」

 

「お前……くぎゅぅが言うなら可愛いげもあるが、男が言ってもひたすらウザいだけだぞ」

 

「黙れ! 卑怯な力は使うな!」

 

「やれやれだぜ」

 

 感情だけでモノを言うのは変わらないらしく、こればかりは死んでも治りそうに無い。

 

 『重甲』の解除をしたユートはトントンと足を地面に二度ばかり付くと、右腕を曲げ気味に掌を上側に向けて指をヒョイヒョイと内側に動かす。

 

 完全に舐めた感じの煽りであった。

 

「緒方ぁぁぁぁぁぁ……」

 

「錬成」

 

 走り出して一歩を踏み出す天之河光輝……

 

「……ぁぁぁっ!?」

 

 足下に大穴が口を開いて落ちた。

 

 カランカランと聖剣を地面に落としていたのをユートは拾う。

 

「はい、錬成っと」

 

 再び足を地面にトントンと付くと大穴が閉じ、天之河光輝は地面の中でプレスされる形に。

 

「こ、光ぉぉぉ輝ぃぃぃぃいいいっ!?」

 

 絶叫する坂上龍太郎。

 

 重々しく地面にプレスされては死んだかも知れないと思ったろうが、流石にこれを『やらかした

』と判断するには厳しいと考えている。

 

「坂上、地面は軟らか目にしたから今すぐ掘り返せば死なないと思うぞ?」

 

「ほ、本当か!?」

 

「ほれ、スコップ」

 

 ユートが地面の鉄分で総鉄製スコップを錬成して渡してやると、坂上龍太郎が『うおおおっ!』と脳筋爆発で掘り返し始めた。

 

「優斗、二つばかり訊きたい」

 

「何がだ? メルド近衛騎士殿」

 

「先ず、さっきのは何だ?」

 

「見ての通り、錬成で地面に穴を空けて天之河を其処に落とした」

 

「訊きたい事が増えた。錬成の魔法陣やら詠唱はどうしたんだ?」

 

「魔法陣は靴底に仕込んである。ハジメの手袋を見る限り可能だと判断したからな。詠唱に関してはこの世界の魔法の理では詠唱も無く魔法を使えるのは【魔力操作】を持つ魔物だけ、だが例外として魔法適性が高いとそれに併せて詠唱を短くする事が可能だったな?」

 

「その通りだ」

 

「僕の魔法適性は非常に高い。というか親和性が高いと云っても過言ではないと言うべきかな? しかも錬成に近い力を地球でもよく使っていたから僅か一日で錬成の派生技能が埋った程だ」

 

「なっ!? だから詠唱が要らないと?」

 

「その通り。派生技能に【複製錬成】や【高速錬成】というのが在り、一度でも造ったら以降から同一規格で錬成が可能だし、錬成の速度も凄まじく上がる。空を飛べない限り有効な穴空け錬成をやらない理由があるかな?」

 

「無い……な」

 

 錬成師が直に闘うなんて()()()()()()のだからこんな発想自体が無い。

 

 【複製錬成】は銃の弾丸を造るのに便利な為、ユートも実はそれなりに弾丸製作で使っていた。

 

 更には【高速錬成】と【自動錬成】を組み合わせると、僅か一日足らずでユートなら弾丸を一〇万発とか一気に錬成をしてしまえる。

 

 しかも一mmの狂いも無く完全な同一規格で……だから、銃のパーツ造りなんかに於いても故障などがまず無いと云って良い。

 

 勿論、メンテナンスを怠れば別だが……

 

「次に聖剣をどうする心算なんだ?」

 

「どうするも何も、賞品をどうしようとも此方の自由だと思うが?」

 

「は? 賞品はウーア・アルトとやらで聖剣では無いだろう!」

 

「メルドは何を言ってる? だから決闘の賞品は()()()()()()()()()だろうに」

 

「はぁ!?」

 

 メルドが驚愕に目を見開き口をあんぐりと顎が外れそうな程に開けた。

 

 驚いたのはエリヒド王もである。

 

「ア、アベルグリッサーでは?」

 

「それは此方で勝手に付けてた偽りの名前だね、本来の銘はウーア・アルトと呼ぶべきだ」

 

 より正確な銘はユートも識らなかったりするのだが、少なくとも神樹の女神ウーア・アルトが宿ってからの聖剣の銘はウーア・アルトだろう。

 

 まぁ、聖剣その物には既に用は無い。

 

 必要なのは宿った女神ウーア・アルト本神で、元々が彼女の為に構築した【女神の器】に容れて()()()()()に宿す予定。

 

 どういう金属なのか理解したからには聖剣と同じ金属は【創成】が出来るし、造り出す事になる新しい聖剣は今の聖剣より高性能になるだろう。

 

 当然ながら真の【女神の器】は女性体であり、日本人形の如く長い黒髪の美少女顔はアベルグリッサーな器と同じだが、ユートがイメージから識った女神ウーア・アルトと同じ肢体にしているのが【女神の器】である。

 

 未だにユートは変成魔法を獲ていないのだが、そもそもユートの【創成】は無機物有機物の別無く使用が可能であり、イメージ次第では人間すら構築が可能となっている。

 

 【ハガレン】の世界とはそもそも理が違うから人体錬成でおかしな事にならないし、肉体を持って行かれたりも当然ながら無い。

 

 問題が有るとしたら倫理。

 

 まぁ、【ハガレン】も倫理も有ってそんな感じになっているのだろうが……

 

「ま、待つのだ! 聖剣を持って行かせはせぬ。兵士達よ、奴から聖剣を取り戻せ!」

 

「全くやれやれだぜ……重甲!」

 

 再びインセクトアーマーを纏うユート。

 

「インプットマグナム!」

 

 このインプットマグナムという銃は番組の始めからビーファイターが使っており、三つの数字を入力する事で様々な機能を使える万能性を持ち、二代目レッドル登場からパルセイバーという短刀が出て、それとの合体により更なる威力増強すら可能となった代物。

 

 【1】【1】【0】【INPUT】ビームモードにして、ユートは兵士達に銃口を向けてトリガーを躊躇う事も無く引いた。

 

 放たれたビームが兵士を一撃で沈める。

 

「なっ、なっ!?」

 

 あっという間の話でエリヒド王は唖然。

 

 【8】【1】【8】【INPUT】――火炎放射を放つモードで焼かれる兵士、【2】【8】【9】【INPUT】の磁石ビームモードで鉄剣などならば取り上げる事も可能。

 

 遂には騎士まで出てきた。

 

「やれ、騎士達よ!」

 

 騎士団長に就任したクゼリー・レイルは苦渋の決断で王命に従い騎士を動かす。

 

「往きなさい!」

 

 前騎士団長にして今はリリアーナの近衛騎士の筆頭たるメルド・ロギンスから聞いてはいたが、まさか自分がユートの相手を敵対的な意味でする事になるとは思いもしない。

 

 ユートは冷静にパルセイバーを合着。

 

「セイバーマグナム!」

 

 【9】【6】【4】【INPUT】――破壊弾モードにしてトリガーを引く。

 

「マキシマム破壊弾モード!」

 

 パルセイバーを合着させたセイバーマグナム、それは各モードを強化してくれる。

 

 只でさえ高い威力にマキシマムモードで威力を高めた為に鎧は大きな穴を空けて破壊されたし、非殺傷設定だから痛みこそ本物のダメージと変わらないが死なないのを良い事に、凄まじい痛みを与えてやった。

 

 全員が呻き声を上げるか気絶をするか。

 

 クゼリー・レイル騎士団長は絶望に頭を抱えたくなるが、王命を果たさない訳にもいかない宮仕え故に副団長ホセを動かす。

 

「副団長!」

 

「仕方がないでしょ」

 

 メルド・ロギンスはリリアーナが個人で近衛に任命したから仮令、エリヒド王といえど命令権は無かったからホセが行くしかない。

 

「スティンガーウェポン!」

 

 背面に装備された個人武装、ブルービートのは両刃の剣の形をしている。

 

「スティンガーブレード!」

 

 回転させ威力を増して必殺技になる武器。

 

「ビートルブレイクッッ!」

 

「出落ちかよぉぉっ!?」

 

 対応など叶わずホセも沈んだ。

 

 ほんっとうに仕方無くクゼリー・レイルが剣を抜いて相対したが……

 

「うがぁぁぁっ!?」

 

 漸く掘り出された天之河光輝が苦しみに喘ぎ、ゴロゴロとのた打ち回っていた。

 

「勇者様に……な、何が?」

 

「契約書による縛り付けだな」

 

「……え?」

 

「本人が邪魔しなくても他が邪魔をしたら普通に

発動するし、さっきからエリヒド王の命令が出る度に死ぬレベルで苦しんでるんだろうな」

 

 それを聞いたエリヒド王が慌てて命令を撤回、天之河光輝も落ち着きを取り戻す。

 

 完全に気絶したけど。

 

 こうして家族会は波乱に満ちたものとなったが概ね成功、その後は鈴の両親に鈴を喰っちゃった事を説明したり、天之河美月が雫との百合目当てとはいえ【閃姫】に成りたいとの申し出などがあったけど悪くない話し合いであろう。

 

 そしてユートは神山のバーン大迷宮へ単身にて挑み、見事に【魂魄魔法】をゲットした序でながらラウス・バーンプログライズキーもゲット。

 

 残す処は神代魔法は二つでプログライズキーが三つ、【昇華魔法】と【変成魔法】と【リューティリス・ハルツィナプログライズキー】と【ヴァンドゥル・シュネープログライズキー】と【オスカー・オルクスプログライズキー】である。

 

 取り敢えずユートは落ち着いただろうミュウとレミアの故郷エリセンへ、二人を帰らせる為にも一旦はそちらへと戻るのであった。

 

 

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 まだだ、まだ死なせんよ! 役割は果たして貰いたいですからねぇ……




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第74話:花の蕾に約束を

 残業三昧で遅れました。





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 大空を往くオプティマスプライム。

 

「はぁ? 神山のバーン大迷宮に行って来た? つまり魂魄魔法を得たの!?」

 

 いつの間にか大迷宮に挑み、そして魂魄魔法を得たらしいユートに雫が大声を上げる。

 

「ああ、攻略の証が二個有れば入れると聞いていたからね。さっさとクリアしてやった。ラウス・バーンプログライズキーも手に入ったよ」

 

「連れて行ってくれれば……」

 

「雫達が姿を消して気配の同化なんかが可能なら一人くらいは連れて行ったが?」

 

「……私は無理ね」

 

 見回したがシアですら首を横に振る。

 

 兎人族のウリはその隠密性だと云えるのだが、シアは修業の結果もあって存在密度が増したからだろう、現在のカム達みたいな隠密性を持っていないらしい。

 

 勿論、シアが本格的にそっち方面を鍛え直せば話は別なのだろうけど。

 

 尚、ユエだけは返事をする余裕が無くユートの上で腰を懸命な様子で振っていた。

 

 ハウリアというか兎人族の隠密性を考慮して、忍者っぽい量産型仮面ライダーな黒影トルーパーを与えた訳で、カム達はそれを見事に使い熟しているのは偶にオルクス大迷宮に行くけどその度に実感をしてしまう。

 

 仮面ライダー黒影は足軽か忍者かみたいな姿、明確な忍者仮面ライダーはシノビ系列くらいだったし、量産型が存在する黒影を選ぶのは寧ろ必然だと云えた。

 

 神山は聖教教会の本拠地、謂わば敵の懐に飛び込むにも等しいからには隠密性は必須である。

 

「処で今日は飽く迄も見学だからと言って居させているあの子、確か聖剣に宿る女神様でウーア・アルト……だったわよね。ちゃんと女の子になっているみたいだけど」

 

「ああ、男の肉体は天之河への嫌がらせで纏わせていたに過ぎないからな。天之河から離れたなら真の【女神の器】に容れても問題は無い」

 

「はっきりと嫌がらせと言うのね」

 

「嫌がらせだとも。彼奴を喜ばせて僕に何の益が有るんだよ?」

 

「まぁ、無いけどね」

 

 雫は溜息を吐いた。

 

「何だか着物が似合いそうな容姿よね」

 

「黒髪だし体型も日本人っぽいからな」

 

 長い黒髪にスレンダーだからその気になったら日本人と言い張れるウーア・アルト、彼女は前にユートと一種の契約を交わしている。

 

 若しも自分の正体にも気付かず無意味に聖剣を天之河光輝が手放した場合はユートに仕える事、そして今日のこの日に天之河光輝は愚かにも聖剣を賭けの材料にする事を良しとした。

 

 故に神樹の女神ウーア・アルトは晴れて今日、ユートの女の一人としてこの場に居る。

 

 薄く白い服を着て座りつつ紅い頬でモジモジと

内股となって此方を観るウーア・アルト、男女の営みは知識として有るけど実際にヤった経験など無かったから恥ずかしくも興味津々らしい。

 

 暫くしたらユエが真っ赤な顔で絶叫を上げながら弓形に背を反らす。

 

 ユートもそれに合わせる形でユエの胎内へと、熱い欲望の塊を吐き出すのだった。

 

「そう言えば光輝君だけトレーラー部分に放り込んだよね」

 

 香織が小首を傾げながら呟く。

 

「そうだな」

 

「どうして光輝君だけを客室の大部屋ですらないトレーラーに?」

 

「奴を客扱いすらしたくない。そもそも勝手に付いて来たがったんだ、どんな扱いをされても文句は言わさん」

 

 エリセンでミュウとレミアを降ろしたらその足でハルツィナ樹海へ向かい、大迷宮に挑む予定で動いていたユートだったが何故か天之河光輝が付いて来ると言い出したのだ。

 

 勇者の自分が神代魔法を得ればきっとユートより強くなれる……などと放言をして。

 

 そんな輩を連れて行ったのだとして何の役に立つものか、未だに勇者という天職が讃えられても当然だと思い込んでいる様だし、そんなものは全く勘違いも甚だしいというのに……だ。

 

「兎に角、渇かない程度に飢えない程度に保存食と水を与えて放置しておけば良いさ」

 

「優斗も大概よね……」

 

「アハハ」

 

 まともな食事すら出さないと宣言するユートに呆れる雫と苦笑いの香織。

 

「そんな事よりユエがくたばったから次は君らだと判ってる?」

 

「そうね、八重樫 雫……逝きます!」

 

「白崎香織も逝くよ!」

 

「何故に悲壮な決意で来るかな?」

 

 先程まで百合百合しく肢体を絡ませ合っていた雫と香織だったが、自分の番がきて嬉しくユートに向かったもののその反面でユエみたいに激しくイカされて気絶させられるのが理解出来ているからには、悲壮な決意を以て抱かれるのは致し方が無いのではなかろうか?

 

 僅かな時間に次々と陥落していく女の子達に、ユートは溜息を吐きながら欲望をぶち撒けた。

 

 飽きる事など無く何度も何度でも……とばかりに【閃姫】となった彼女らの胎内を焼くとその度に歓喜の絶叫を上げてくれる。

 

 ユート自身もそんなはしたない顔で絶頂をする彼女らを視ていると、更にムクムクと下半身のJr.が猛りを上げて元気爆発してくれた。

 

 尚、そんなユートの事など知らず天之河光輝はトレーラー内でボソボソと保存食を食べて飢えを凌いでいたと云う。

 

 扱いが勇者ではないと憤るが、文句があるなら連れては行かないと言われて黙るしかない。

 

 ユートは天之河光輝みたいなタイプが基本的には嫌いであり、似たタイプの人間とはやはり性格的に合わない場合が多かった。

 

 昔の双子の兄――ネギ・スプリングフィールドがそんなタイプに近かったからか、多少の隔意を持っていたのも事実であった訳だし。

 

 とはいえ、裏火星に行ってからは改善も成されていたから流石は主人公と思ったものである。

 

 逆に改善の余地が全く無かったタイプとしてはブルージャスティスなるチームを率いていた奴、リュートという名前だった彼は最終的にパーティが消滅して破滅へと驀地だった。

 

 パーティメンバーの男はユートのというよりは義弟の仲間の女性に殺られ、女は捕らえられた後で怨み骨髄な連中に散々犯された挙げ句の果てに自害か殺されたか、牢屋内で明らかに性的暴行を受けた状態で死んでいたらしい。

 

 状況だけならば犯されたショックによる自殺にも見えたのだが……

 

 自称正義が悪でしかなかった悪例であろうか、当然ながら天之河光輝レベルなリュートに対するユートの評価は極めて低く、〇を通り越して-の評価しか連中には付けていなかった。

 

「あ、始まっちゃった……」

 

「また唐突に始まったな、鈴」

 

「こればかりは仕方がないよ~。自分で制御とか出来る訳じゃあるまいし……ゆう君、悪いんだけどアレが欲しい」

 

「ほら」

 

「うん、有り難う」

 

 鈴が欲したのは□リエと生理痛用の薬、当たり前だがファンタジーな異世界であるトータスには生理用品など存在せず、ならばファンタジー世界の住人はどうやって生理を凌ぐのか問われれば、清潔な布を宛がうのがだいたいの共通認識だ。

 

 ハルケギニアやアトリエ世界やその他の世界、ファンタジーで生理用品が無い場所ではそれだった訳で、だからユートは生理用品を大量に購入をしていて必要に応じ【閃姫】達に与えていた。

 

 勿論、【閃姫】以外で与える場合がある。

 

 以前に訪れた世界では召喚されたは良かったのだが、この世界みたいに能力が紐付けされたりしていなかったからユート本人に力が無かったら詰んでいた……そんな世界で【閃姫】招喚はまだ出来ない状態だった事もあり奴隷を購入。

 

 見た目は日本人と西洋人で似てはいなかったが

姉妹で、本来なら年齢的に無理がありそうな妹を喰っちゃったけど、それは姉の方が始まってしまっていたのを血の臭いから気付いたから。

 

 仕方無く姉の方に□リエを使わせて妹の奉仕を見学させてやった。

 

 因みに妹はユートの守備範囲ギリギリな年齢、挿入が可成りキツかったのは否めない。

 

 ユートから□リエを貰った鈴はいそいそと手慣れた感じに使用をする。

 

 ユートの仲間になれて良かったと安堵してしまう瞬間が、まさかの□リエを使った時だというのは持っていた生理用品が切れて以来は布を使っていた鈴からすれば、天啓を得たにも等しい事だったのかも知れない。

 

 実際に雫と香織がどうやって凌いでいたのかを聞いた鈴は、背後にサンダーブレイクするくらいの衝撃が奔ったのだから。

 

 勿論、今はユエとシアとティオも手放せないと愛用をしているくらいだった。

 

 というか、一応はユエも初潮を済ませていたのをちょっとだけ驚いたユート。

 

 鈴が無理になったから飛ばして次のシアが受け持つ番、当然と云うかシアはティオに近い御胸様で先ずは御奉仕をするのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 海の町であるエリセンに到着後は直ぐミュウというかレミアの家に直行、既に騒ぎは納まっていたし歴史改変が消えたからか始めからなのか? 特に荒らされたりしていない様である。

 

 トレーラー内で保存食の食っちゃ寝をしていた

天之河光輝は捨て置き、ユート一行はレミア宅にて歓待を受けて魚料理を堪能した。

 

 マグナモンは変わらずリリアーナ王女の護衛に残し、坂上龍太郎と永山パーティは王宮で訓練をしながら待つ形になり、畑山愛子先生と護衛隊も下手に分散しては危険だからと王宮に居る。

 

 だからエリセンにはいつものパーティに加えて勇者(笑)のみが来ていた。

 

 本当は勇者(笑)も要らなかったが強硬に付いてきた訳で、厚かましいにも程があるとユートとしては御立腹だったりする。

 

 だからこそレミア宅には招かない。

 

 あの勇者(笑)の事だからレミアを見れば又もや『俺が守る』とか、不愉快極まりない寸劇をやりそうだったからきちんとレミアとの顔合わせすらもさせていなかった。

 

 何しろミュウを見れば『だいたい判った』的に理解も出来るだろうが、レミアは一児の母な未亡人としては若くて可成りの美女なのである。

 

 それこそ死んだ夫の後釜をエリセンの海人族の男共の誰もが狙うくらいには。

 

 下手したら人間族までもが……

 

 そして年齢は二五歳と三十路にすら達していない若さ、天之河光輝が見れば間違いなくコレクションに加えたくなるだろう。

 

 あの鬼畜は誰彼構わず……否、美人に限定をして誰彼構わず『俺が守る』と言い放つが実際に守った事は恐らくだが雫も含めてきっと皆無。

 

 誰も守れない勇者は正しく勇者(笑)だ。

 

 何だか段々と腹が立ってきたから奴が死んだら望みを叶えてやろう……と、昏い笑みを浮かべていたら流石にドン引きされてしまう。

 

(天之河、誰かを守りたいなら守らせてやるさ。そういう事を()()()()()()()()()()()人間に介入させて……な)

 

 ユートが嘗て介入した世界の一つにはそういう訳が解らない存在も居た。

 

(な~に、安心するが良いさ。お前が守りたがる美少女はた~くさん居る世界だからな)

 

 それも様々な属性でそれこそ何人も何人も救わねばならない女の子達が居る。

 

 きっと大喜びするであろう。

 

 守れれば……の話ではあるけど。

 

 ユートとてあれは面倒臭かったのを覚えてて、ヒロイン枠の娘らが美少女揃いだから頑張れたのだけど、そうでもなければ投げ出したくなる程であるのだから相当だった。

 

「あら、あなた」

 

 考え事をしつつユートが歩いていたらレミアに呼び止められる。

 

「レミア、ミュウが居ない場所での『あなた』は

やめて欲しいんだが……」

 

「あらあら、良いじゃないですか」

 

「ミュウの手前だから『あなた』呼びを黙認しているけど、自分に好意を持たない相手から呼ばれても嬉しくないんだよ」

 

「好意が無い訳ではありませんわ。これでも私とて今までに再婚を考えなかった訳ではありませんもの。只、今の私はミュウを優先していますわ。私の気持ちよりミュウがパパと呼んで懐くくらいの方なら、私もこの身を寄り添うのに否やはありませんから」

 

 愛した夫以外に自ら愛したいとは思えない、だからミュウが『パパ』と呼ぶ相手に身を任せるだけ……というレミア。

 

「ですからあなた、あなたなら私を御好きになさって構わないですわよ?」

 

 亡き夫以外で唯一受け容れる条件がミュウで、ユートはその条件をたった一人だけ満たした。

 

「とはいっても、私は嘗て一人の男性を――夫を愛し愛された身ですから……あなたに初めてを捧げるのは無理ですし、あの人を忘れたりも出来ないでしょうけど。正直、亡き夫に身を捧げた私で悦んで戴けるかは判りませんわ」

 

 ちょっと自虐的なレミアにユートは顔を近付けると……

 

「んっ!? むぅ~~っ!」

 

 自らの唇を重ねてレミアの口を塞ぐ。

 

「プハァッ! 何を為さるんですか!」

 

「手を出して構わないって言ったからキスしたんだけど、若しもレミアがそれを嫌だったなら謝るんだが……どうだ?」

 

「確かに言いましたし別に嫌ではありませんわ、でも突然過ぎますから吃驚したんです!」

 

「そうか。亡き夫に身を捧げていたから僕が愉しめないって懸念は要らない」

 

「……え?」

 

「僕は不倫こそしないが未亡人ならバッチコイ、実際に以前にも未亡人を抱いている」

 

「そうなのですか?」

 

「まぁ、旦那を殺したのはある意味で僕だったりするんだがな」

 

「ちょっ!?」

 

 何だかとんでもない事を言い出したユートに、流石の『あらあら、うふふ』なレミアも吃驚して目を見開いてしまう。

 

 それだと意図的に未亡人を作ってまで抱いた事になってしまうからだ。

 

「勘違いが無い様に言っておくけど、向こうが僕を殺しに来たのが切っ掛けだからな?」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ、僕が疑似転生――っていうか転生の概念は理解出来るか?」

 

「えっと……」

 

 冥界なりあの世なりソウル・ソサエティなり、死後の世界が明確に存在して神々に管理を成されている世界ならまだしも、トータスはエヒトルジュエが遊び気分で神を僭称しているに過ぎない。

 

 だからこそ魂も僅かな時間で霧散してしまい、転生をする事も無いのであろう。

 

 だけど魂を保護する魔法――魂魄魔法が存在するのならば、そういう世界というかあの世を創造も出来るとユートとしては思うのだが、エヒトルジュエに創造する能力が欠如しているのか若しくは()()()()()考えが及ばないか。

 

 ユーキ経由で得た百夜からの情報では自分の魂を保護する神域とやらは創造しているらしいし、恐らくは後者が当たりであろうとユートはアレを嘲笑うしかなかった。

 

「転生というのは死んだ後の魂が新しく生を受ける事だけど、このトータスでは魂が僅かな時間で消えてしまう事から転生をする魂は無いか有っても記憶の保持に必要な部位は消失してるかな?」

 

「……つまり、あなたはその転生をしていると? それも何度も」

 

「そうだよ。通常転生で二回と疑似転生は幾度となくしているな」

 

 通常転生は肉体の死に伴う生まれ変わりの事、最初の緒方優斗としての死で日乃森なのはさんから転生特典を貰い、転生処置を受けてハルケギニア――【ゼロの使い魔】の世界へ転生をして更に、その世界での一五〇歳代の頃に再び死亡した後で

平賀才人が産まれたハルケギニアに通じる地球――【魔法先生ネギま!】や【聖闘士星矢】の他にも【型月】や【怪奇警察サイポリス】や【隠忍】など様々に入り混じる混淆世界に自ら転生した。

 

 疑似転生とは肉体は滅んでない状態で魂だけを一時的に切り離し、別の世界で母親の腹から産まれ生を受ける事で行われる転生の事である。

 

 通常転生との違いは疑似転生で人生を終えたら再び元の肉体――この場合はユート・スプリングフィールドの肉体に戻るという処にあった。

 

 例えば【八男って、それはないでしょう!】の世界へ疑似転生をした場合、ユート・フォン・ベンノ・バウマイスターとしてアルトゥル騎士爵とヨハンナの間に八男として誕生、本来の八男君であるヴェンデリンは誕生していないであろうし、元来の主人公である筈の一宮信吾もこの世界線では魂の交換による憑依転生が成される事も無く、普通に税込みで二五万くらいの給料を貰うだけの二流商社の社員で人生を終わった筈である。

 

 また、疑似転生とはいっても手に入れた物品はアイテムストレージへと仕舞えば持ち出せるし、【閃姫】との契約も普通に可能だから気に入った娘を籠絡しても良い。

 

 何らかの技術を得たら他世界でも扱える。

 

 きちんとメリットが有るからこそ疑似転生なんて面倒そうな事をしているのだ。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 頭の良いレミアは何と無くではあるのだろうが理解をしたらしく、ユートの説明に対しうんうんといちいち首肯をしている。

 

 そこら辺は某・勇者(笑)より遥かに説明をするのが楽だと思えたし、可愛らしい仕種からはとてもではないが一児の母とは思えない雰囲気を醸し出していた。

 

 それでいて先程のキスでは唇を奪われながらも慣れた感じは、見た事も無いレミアの亡き夫の影がチラホラと見え隠れをしている。

 

 きっと抱いたら抱いたでその亡き夫の色を見付けられるだろうが、然しながらユートは真っ白な

キャンバスに自分色を好き勝手に塗りたくるのも好きだけど、既に他人色が塗られたキャンバスを自分色に塗り直すのも割かし好みだ。

 

 塗りたくる真っ最中なのを押し退けて塗るのは好ましくない、だけどレミアや嘗ての世界に於けるアマーリエ義姉さんみたいに()()()()()()キャンバスになら何も問題は無い。

 

「ま、そんな訳で長男が自らの無能を棚に上げて僕を逆恨みしてさ。それで殺しに来たから謂わば

正当防衛ってやつだよ」

 

 実際には単なる自爆だったが……

 

「確かにそれならそうなりますね」

 

 レミアに言っていない真実としては王国側的には長男を廃してユートを立てる、長男が物分かりの良い態度なら男爵くらいにして領地の一部を与えるのも吝かではなかったが、とてもそんな風にはなりそうになかった処か何処ぞの財務卿の弟に唆されての自爆である。

 

 ユートは長男を助けようと思えば助けられたのだろうが、命を狙った人間を救ってやる程に甘い対応はしないから放置した。

 

 結果、長男は死亡する。

 

 当然だけどユート暗殺未遂犯の烙印を捺されて死んだ長男、家族である妻と二人の子供にもそれは波及をしてしまう。

 

 とはいっても、どうやらそこら辺は歴史通りの事だったらしいのは後で知った。

 

 違ったのは本来の主人公とユートの行動。

 

 すぐにアマーリエ義姉さんを保護してしまい、各種へ根回しをして合法的に彼女を自分の傍へと置いたのだ。

 

 二人の子供達の心配はしていたが流石に其処まではどうしようも無く、その後に何とか引き取る事で纏まったのは被害者たるユートが申し出たのもあるであろうし、何よりも僻地の開拓事業にはユートの力が必須であるからには御機嫌窺いといった意味もあった筈。

 

 何にせよユートはアマーリエ義姉さんが好ましかった訳で、自分のモノにする為には正しく手段を選ぶ心算すら無かった。

 

 結局はアルトゥルとアマデウス――前バウマイスター騎士爵と現ブライヒレーダー辺境伯の談合が行われて、アマーリエ義姉さんがユートの筆下ろしをする『あてがい女』として選ばれて彼女の方もそれを了承をしたし、ユートが態々手に入れた彼女を手放す気などあろう筈もなく妾にランクアップ? をしてもそれは当然の流れ。

 

 流石に立場上から側室には出来なかったけど、長男から女として視られず二七歳にして終わったと思っていたのが、ユートにより再び女として褥に就く事を存外と悦んでいた。

 

 元よりある意味で長男より仲好くしていたのも大きかったであろうが……

 

「子供を産んだ未亡人? レミアの魅力はそれで衰えたりしない処か寧ろ輝いてさえいるよ」

 

「あ、有り難う御座います……」

 

 今までにもその手の絡みは多々有ったのだが、レミア自身がその気にならなかった。

 

 だけどユートはミュウが懐いているのもあり、先のキスも驚きはしたけど嬉しくもあったのだ。

 

 他にも沢山の相手が居る事に目を瞑れば悪い気はしないレミアであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 天之河光輝が乗るトレーラー部分を切り離し、仲間内でヨットモードなオプティマスプライムに乗って海にユラユラと揺られ、ワイワイとしながら美味しい夕餉を海の上で愉しんだ。

 

「光輝の事はあれで良かったの?」

 

 雫が訊いてくる。

 

「構わんだろ。どうせ食っちゃ寝を繰り返しているだけだったんだしな」

 

 トレーラー内に催眠導入剤入りのガスを充たして天之河光輝は眠らせた。

 

 こんな綺麗な夜空を観ながら海を揺られる船の上で、【閃姫】や【閃姫】ではないし正式なものには出来ないが御気に入りの女性とその娘との、謂わば船上逢瀬を愉しんでいるというのに間違いなく絡むと判っている勇者(笑)など、この場に呼ぶ訳が無いのである。

 

 はっきり場違いだと言いたい。

 

 ミュウを抱っこしながらレミアが凭れ掛かり、羨んだ【閃姫】が我先にと空いた場所で凭れ掛かって来るし、夕餉はレミアを中心にして基本的に調理担当のシアと香織が手伝って作ってくれた。

 

 又候(またぞろ)、行われる迷宮探索の為に英気を養うのは冒険者として間違っていない。

 

 そしてこの中に相手をするだけでも疲れるだろう天之河光輝を入れないのも、決して間違っていないとユートは自信を持って云える。

 

「そういえばゆう君、ビーファイターなんてのも造っていたんだね」

 

 鈴がニコニコと訊いてくる。

 

「ああ、識っていたのかビーファイター。アレは僕が初日に錬成の具合を確かめる為にと初日に造った試作品だよ。お陰で良い具合に派生技能が生えてきたんだが、それで作業は随分と楽になったから序でに全ビーコマンダーやコマンドボイサーやインセクトコマンダーまで造ってしまったよ。勿論、インセクトアーマーとかも並行してね」

 

「コマンドボイサーやインセクトコマンダーって事は、ビーファイターカブトに登場したビーファイターも変身可能なんだ?」

 

「ああ。流石に未だカブテリオスやクワガタイタンみたいな巨神兵は造って無いけど。ビートマシンやネオビートマシンもね」

 

「造っていたら見てみたかったな~♪」

 

 意外と特撮が好きなのだろうか?

 

 尚、造るのはメタルヒーローにしようと初めから考えていたのだが、理由は仮面ライダーに成るシステムは大量に造っていたし、ウルトラマンもティガとネクサスには変身出来ていた訳であり、スーパー戦隊もシンケンジャーには成れたから。

 

 まぁ、ガイファードなりシャンゼリオンなりに何なら超星神シリーズに成っても良かったのだがいまいちノらなかった。

 

 取り敢えずの実験の心算でブルービートを造ってみたらノってしまい、ジースタッグとレッドルに加えてカブトにクワガーにテントウまで造り、ヤンマ、ミン、ゲンジ、アゲハまで造り込んでしまったのである。

 

 とはいってもいつもの如くインセクトアーマーに関しては【至高と究極の聖魔獣】により創造をした聖魔獣、コマンダーや武装に関しては錬成を使って造り上げていた。

 

「へぇ、ちょっとやってみたいかも」

 

「せめて仮面ライダータイガを使い熟してから言って欲しいけどな」

 

「うぐっ!」

 

 最もな意見に口篭る鈴。

 

「ま、使うだけなら構わんか……ほら」

 

 鈴に渡されたのはコマンドボイサーとテントウのインプットカード、カブトとクワガーは男だから女性用でテントウと気を遣った形である。

 

 早速とばかりに鈴がコマンドボイサーにカードを挿入して……

 

「超重甲っ!」

 

 パワーワードを叫んだ。

 

 コマンドボイサーへと命令が届いて鈴の肉体をテントウのネオインセクトアーマーが鎧う。

 

 メタリックな紫色を基調としている名前の通り天道虫をモデルにしたビーファイターテントウ、鈴の身長が変化する訳ではないからちょっとだけ

不格好だが、背面に装備されたフィニッシュウェポンのテントウスピアーを出して振り回した。

 

「おお!」

 

 愉しんでいる様で何よりではあるのだが武器を室内で振り回すおバカな鈴に、ユートとしては頭が痛くなる気分であったと云う。

 

 順次、コマンドボイサーで遊んでる【閃姫】に呆れながらもユート自身、仮面ライダーに変身をするのが愉しいから気持ちは理解が出来る。

 

 ミュウも『超重甲』をしたがっていたのだが、流石に危ないからとレミアと一緒に止めた。

 

 ある程度なら身長を変えられるから鈴や香織や雫が『超重甲』しているものの、ミュウくらいに背が低いと流石に『超重甲』が不可能だったし。

 

 結局は気遣いは無駄になってビーファイターを全て出してしまう事に。

 

 折角だから写真を撮ろうと云う事で『重甲』と『超重甲』でビーファイター揃い踏み。

 

 とはいっても一〇人も居ないから飽く迄も通常のレギュラー陣だけ、インセクトメダルの戦士であるヤンマとゲンジとミンとアゲハは無しで。

 

 未だに遊ぶ面々からユートは抜け出す。

 

「やれやれ……アレはDXコマンドボイサーだとかDXビーコマンダーじゃないんだけどな」

 

 つまりは玩具ではないと言いたい。

 

 とはいえ止める心算も無いから心行くまで遊ばせておこうと思っていた。

 

 ミュウとレミアの二人がユートと座る。

 

「ミュウ、賢い君なら判っていると思う」

 

「……うん」

 

 今回こんなクルージングに繰り出したのは今後の闘いを鑑みて、ミュウとも離れねばならないと考えていたからであった。

 

 ミュウは聡いから何を言われるのか理解していたらしく、ギュッとユートの服を掴みながら然した騒がずに耳を傾けてくれている。

 

「ミュウ、約束しよう」

 

「約束?」

 

「僕は約束事や契約事に偽りは言わないし反故にもしない。若し僕が約束を破ったり契約違反をするとしたら、それは履行不可能になった場合と……契約した相手が裏切りを働いた場合だけだ」

 

「……うん」

 

 流石に履行が不可能になったら仕方がないから謝罪をするだろうし、相手が裏切ったら普通に敵でしかないから履行する必要も無い。

 

 とはいえ今までにユートがどうあっても履行が不可能……なんて約束自体した事が無かった。

 

 基本的に裏切りは嫌いだからそれをやらかした相手には容赦しない。

 

「だから約束……全てを終えたらもう一度、必ず君に会いに戻る。レミアと待っていて欲しい」

 

「……本当なの?」

 

「勿論だ。そしたら僕の居た世界に皆で行こう。きっと愉しいからさ」

 

「うん、約束……なの……」

 

 言っている事は聞き分けの良かったミュウではあるが、その瞳からはボロボロと大粒の涙が我知らず溢れ出していた。

 

 本当は行って欲しくないけど止められないのだと理解しているから、ミュウは青い瞳から涙を流しながらもパパに手を振る選択肢を自らに課したのである。

 

「行って……らっしゃい……なの……」

 

 パパの娘として恥ずかしくない様に。

 

 だけど……

 

「折角の娘との会話に……空気を読めないな」

 

 いつだって世界はこんな筈じゃ無かった事ばかりであるとは、何処の誰の科白であったのかは兎も角として異常は起きる。

 

「うゆ?」

 

「あなた?」

 

 ユートは空を見上げて恐い顔になった。

 

 雲が急速に溢れ出して月光は呑まれて消え失せてしまい、オプティマスプライムは凄まじい勢いで辺りを覆う濃霧に囲まれてしまう。

 

「優斗!」

 

「ゆう君!」

 

「……ユート!」

 

「ユートさん!」

 

「主殿!」

 

「ゆう君!」

 

「ユー君!」

 

 雫、香織、ユエ、シア、ティオ、鈴、ミレディが遊んでいた侭の姿で、異常事態を感知したのかすぐに飛び出してきた。

 

「チィッ! 皆、何が起きるか判らないんだ! 油断無く気を付けろ!」

 

 ビーコマンダーやコマンドボイサーで遊んでいたから全員がビーファイターで、ユートも適当に

ベルトを選んでツールを使って変身をする。

 

《ZEROーONE DRIVER!》

 

 選ばれたのはゼロワンドライバー。

 

《HYPER JUMP!》

 

 ユートが使うのはシャイニングアサルトホッパープログライズキーであり、アサルトグリップの赤いスイッチを押すといつもとは少し違う音声が響き渡りそれをゼロワンドライバーのオーソライザーで承認。

 

《OVER RIZE!》

 

 プログライズキーを展開させるとライダモデルが頭上に浮かぶ。

 

WARNING,WARNING. THIS IS NOT A TEST(警告、警告……これは訓練ではない)!》

 

 シャイニングアーキテクターを纏ったユートへと合着。

 

《HYBRID RIZE……SHINING ASSAULT HOPPRE!》

 

 その姿は仮面ライダーゼロワン・シャイニングホッパーに、青いアーマーが追加装着されたという感じだろうか?

 

《NO CHANCE OF SURVIVING THIS SHOT!》

 

「ミュウもレミアも離れるなよ」

 

「はいなの!」

 

「判りました、あなた」

 

 何が起きるのか判らない状況。

 

 因みにだが、天之河光輝の安全に関しては全く考慮に入れていない埒外扱いである。

 

「主殿、あれを見よ!」

 

「スーパーロボット並の巨体……」

 

 ティオ――ビーファイタークワガーが指を差した方向には三〇mクラスの巨体、然しながら人型ではなく何処と無くだが魚のシルエット。

 

「ク、鯨……かな?」

 

 香織――レッドルが呆然と呟く。

 

「魔物……じゃなさそうだな」

 

 仮面ライダーシャイニングアサルトホッパーなユートが【神秘の瞳】で視た限り、魔物と呼べる存在だとは到底思えないナニかを感じていた。

 

 寧ろ真逆の存在。

 

「クジラさん、助けてって」

 

「何? ミュウ……君は……巫女体質!」

 

 ミュウの科白は恐らく鯨からの声無き声。

 

 ユートは仮面の奥で目を見開いてしまうけど、恐らく幼いが故の純粋さからだろうがミュウには巫女体質が備わっているらしく、中でも神憑りに近い力を持ち合わせているのかも知れない。

 

 声無き声を聴く――卑弥呼みたいな存在は稀有であるし、長じても力を喪わない様にするには訓練をするしかない。

 

「助けて……か」

 

 ミュウにはいずれ神憑りの力を持つ【閃姫】たる太刀の媛巫女――清秋院恵那を紹介するべきかも知れないと考えつつ、並列思考で鯨の助力を請う声無き声に思いを馳せた。

 

 あの鯨は力こそ比べると大した事も無いけど、間違いなく光鷹翼に近いモノだ。

 

 つまり存在が見えていながらも観測されない、在りながら無いという矛盾を持つモノ――即ちそれは俗世間では神と称される。

 

 より正確に表すなら高位次元知性体、神とかよりは寧ろ此方の方が誤解も余り無くて良いのかも知れない。

 

 【スレイヤーズ】では赤竜神スィーフィードも魔王シャブラニグドゥも、いずれの属性であっても高位次元知性体に変わりはないのだから。

 

 そして突如、事態は大きく動く。

 

 ユートの目に映るのは時空間の乱れと静止が、まるで矛盾無くレッツらまぜまぜされる不可思議に過ぎる光景、レミアは掴めたがミュウは何故か自らが動くかの如く掴めない。

 

「ミュウッッ!」

 

 神憑り。

 

 しかも制御が利かない神憑り程に危険な事など無いと、嘗て清秋院恵那が自らの神刀たる天叢劍に乗っ取られたのを視て理解していた。

 

 嘗てアンドロメダの瞬が冥王ハーデスの依代となった事で解っている事。

 

(ああ、約束だ。必ず迎えに行ってやるさ!)

 

 ユートはレミアを抱き締めながらミュウへ再び約束を心の内で叫ぶのだった。

 

 

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 漸くミレディとの出逢いの噺です。




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第75話:邂逅する幼女と【解放者】達

 随分と遅くなりました。扱うのが解放者達なんで色々と資料を漁ったり、基本的に原作は電子書籍にしての購入だから別口で使っていたら読めなくなる為に可成り遅れてしまったのですよねぇ。





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「チッ、何て事だよ!?」

 

 レミアは傍に寝ているがミュウだけが居ない、パッと見回しても居なかった。

 

「皆は……可成り遠いな」

 

 ユートはレミアの顔を優しく撫でて周囲に居るであろう【閃姫】の気配を探り、序でにミュウの気配も捜してみたが小さいからか見付からない。

 

「レミアを連れて行くのは悪手か」

 

 単純に足が遅くなる。

 

「ミュウには変身ツールこそ渡していないけど、保険に()()を渡してあるから大丈夫な筈」

 

 実はミュウも無力では決してない、万が一を考えてミュウにも扱えそうなアイテムを渡してあるからだ。

 

 とはいえ四歳児なミュウに過剰な戦闘力などを期待はしておらず、飽く迄も合流までの時間稼ぎが出来れば『よっしゃ、ラッキー!』くらいに考えての事である。

 

「取り敢えずレミアを起こすか」

 

 まさか傍に誰も居ないとなればレミアが泣きながら徘徊しかねないから。

 

 ユートは沢山の女の子と縁を結び、その大半と肉体的にも精神的にも結ばれてきたけど愛情が薄れたとかはなく、寧ろ強欲に全てを手放さないくらいに求め続けるだけの愛着を持つ。

 

 レミアとはまだ肉体的には結ばれていないが、それでもユートとしては既に誰かに渡す選択肢など有りはしない。

 

 自分なら幸せに出来るとか自惚れる気は無い、然しながら今のレミアにとってはミュウの傍にて成長を見守るのが幸福の一つ、離れる事が何よりも不幸な事だと考えたならばミュウがユートの事を『パパ』と定義している現状、レミアからしたらユートと離れるのはミュウの不幸でしかないから離れられないであろう。

 

 離れる事が叶わない成人男性となればレミアがユートに擦り寄るのも無理からぬ事だと云えて、ならば本当の夫の様に接するしか無いと考えても仕方がない。

 

 本当の夫は亡くなっているから不倫にはならないし、愛した夫が死んでから五年が経ったのだからいい加減で喪に服するのも良い筈だから。

 

 それに夫以外を識らないレミアがミュウを切っ掛けとするとはいえ初めて、そんな亡き夫とは違う男に興味を懐いたのだから周りの奥様方は喜びを以てユートを迎え、周りの独身者――中には既婚者まで――は嘆きと哀しみと絶望を以て迎えた。

 

 ユートは男共はどうでも良いとして、奥様方からの支持はレミアを手にする上で有り難い。

 

 勿論ながらムリえちぃに及んだりはしないが、レミアが望めばいつでもウェルカムである。

 

 ユートはシステム的に処女が相手の方が良いのだが、別に本人は処女厨ではないから未亡人でもレミアくらいの美女に不満など無い。

 

 基本的にユートは不倫などしないのでレミアが

未亡人なのは正に天啓……レミアの亡き夫の事を考えると不謹慎極まりないけど。

 

 ユートは起き上がる。

 

「ん……ハッ! ミュウ? ミュウは何処?」

 

「起きたか、レミア」

 

「あなた!? ミュウは?」

 

「残念ながらこの場に居るのは僕らだけなんだ。ミュウは恐らく何らかの力の影響下に在ったから一人で何処かに居る筈」

 

「そ、そんな……捜さないと!」

 

「落ち着け!」

 

「落ち着いてなんて居られません!」

 

 ユートの叱責に全身で反論するレミア。

 

「狼狽えるな!」

 

 更なる叱責に肩を震わせる。

 

「さっき言った力は決して悪しき存在ではなかったから、少なくともすぐにミュウが危機に陥ったりはしない。それにミュウにも力は与えているからいざとなればそれを使うだろう」

 

「力? 仮面ライダーやビーファイターですか? でもあれはあなた自身が使わせなかったではないですか」

 

「仮面ライダーやビーファイターはある程度までなら身長を変えられるから、よっぽどの背丈差でもなければ扱うのに問題は無い。それこそ僅かに一四〇cmしかなくても……ね。だけどミュウだと一〇〇cmかそこらしかないから」

 

 四〇cmは流石に大きな差だった。

 

「身長が足りなくても使える物を渡したからね、問題は無いから心配は要らないよ」

 

「でも……」

 

「それでも心配になるだろうからすぐに捜すさ。ミュウに力を渡したのも最低限で身を守る為でしかないからね」

 

 飽く迄も命の危機に瀕さない様にする為でしかなく、そもそも渡したは良いが出来れば余り使って欲しくは無かった。

 

 属性的にはピッタリだったけど原典的には敵でありイメージが良くないのが理由。

 

 特に()()の内の一つはミュウが使うのを想像すらしたくないが、ユート自身も忌々しいと感じる這い寄る混沌の神力を形にしたネオディケイドライバーを使っていたし、結局は力など使う者次第だと考えて渡していたのである。

 

 使わせない為にもユートは早目にミュウを捜し当てたいし、そうなるとレミアを連れて行くのはスピードダウンにしかならない。

 

「私も行きます!」

 

「駄目だ」

 

「何故ですか!?」

 

「出来たら早く捜したい。レミアが居ると自然と脚が遅くなる。魔物が居れば護る事も考えないといけない、そうなればミュウが危険に晒されるって可能性が高まる。本末転倒だろ?」

 

「それは……はい……」

 

「此処に結界を構築する。六次元からの攻撃さえ徹さない結界だから安心して待っていてくれ」

 

「ろく……じ……げん?」

 

 意味が解らなかったらしく小首を傾げる姿が、子持ちとは思えない可愛らしさだった。

 

 ユートが構築した結界はよく使ってるいつもの【封鎖領域】ではなく、【まつろわぬアーサー】から簒奪した【麗しの騎士王】による派生権能。

 

 元々が【カンピオーネ!】主体世界の彼処には行く予定が無かったけど、【ハイスクールD×D】世界でアーシアを殺されたと思い込み暴走をした結果、消滅の危機に瀕したユートは直属の上司である【朱翼の天陽神】の神号を持つ日乃森シオンがそちらの世界の真の神の一柱たるパンドラへと連絡して送り込み、自らの神氣を幾らか差し出して【簒奪の円環】を用いて神殺しに転生させた。

 

 パンドラ自身は未来から来たユートによって、転生が上手くいく事を識っていたから了承をしたのだと後に語る。

 

 幾らかの時をカンピオーネとして過ごした後に

権能の名前について、英国はグリニッジ賢人機関の前議長プリンセス・アリス――アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールの住まいへ突撃、中国にて六年前の過去に跳ばされて【まつろわぬアーサー】が降臨した現場に居合わせ、アーサーを討つ事で過去のアリスを助けてアーサーの神氣を獲たユートは、鎧と剣と鞘の竜骨を同時に入手をした為に持ち合わせていた【ハイスクールD×D】世界由来の神器――【聖剣創造】と結び付いたのもあってか、極めて強力で派生権能が幾つも発生をするイレギュラーまで起きた。

 

 【麗しの騎士王】の単純な能力は名前の通り、Fate由来のアルトリア・ペンドラゴンが使用した【約束された勝利の剣】を手にする権能だったのだが、【聖剣創造】の力と剣の竜骨により派生をしたのが【勝利すべき黄金の剣】と【最果てにて輝ける槍】、更に【ハイスクールD×D】由来となる七振りに分かたれたエクスカリバーまで扱える割かし意味不明な権能となっている。

 

 そして今回の結界について、それは鞘の竜骨と結び付いた結果として生まれた権能で【全て遠き理想郷】と成り、派生権能として結界を構築する特殊な権能として働いてくれるのだ。

 

 まぁ、最初に使ったのがサーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵との決闘だったが……

 

 六次元からの攻撃さえ徹さないとは【全て遠き理想郷】が持つ能力の一つだ。

 

 というか、ユートが識る範囲にしか権能も働かないのであろう。

 

 それを思えば通常のカンピオーネの能力とは、基本的に謂われを基に構築されていたから無知でも普通に使えたらしく、あの神話や魔術に全く以て無知蒙昧な草薙護堂でさえ最初の権能は割かし使えるモノとなっていた。

 

 因みにその権能は今やユートが獲ている。

 

 【最後の王】と闘うのに邪魔ばかりしてきたから思わず殺し、勿体無いから権能も簒奪してやったので【東方の軍神】を草薙護堂は喪失した。

 

 尚、殺害こそしたが静花の願いにより一応とはいえ蘇生だけはしてやったけど、権能は余り使えない雷避けの代物くらいしか残されていないし、名前だけの正史編纂委員会のトップにされる。

 

 原典的に残されていたエリカ・ブランデッリとの結婚も形だけでしかなく、彼女が産んだ子供は草薙護堂蘇生の対価にユートと優雅による輪姦で孕んだユートの娘だった。

 

 ユートは基本的には子を成し難い体質だけど、優雅がユートの前後で抱いたら一〇〇%妊娠する事になる為、それを利用して態とエリカ・ブランデッリを妊娠させたのだ。

 

 優雅の子を孕む確率は常に〇%である。

 

 一般の――反町達から見ればイタリアン美女との結婚に、更には可愛い娘まで産ませた嫉妬するしかない状態の草薙護堂だったが、エリカ・ブランデッリとは夜の性活をした事など一夜足りと無かったし、子供の父親でも何でも無いのに朝から晩まで汗だくで働いて育てなければならない。

 

 正しく不幸のドン底であったと云う。

 

 そしてその最期はエリカ・ブランデッリを奪われて、リリアナ・クラニチャールには愛想を尽かされてしまい、祖父の草薙一郎は老齢で彼よりも先に没していたし、草薙静花も居なくなっていたから独り寂しく布団の中で冷たくなっていたと、正史編纂委員会の職員が見付けたらしかった。

 

 血の繋がってない娘は正史編纂委員会の真なる

トップとして、半分だけ血の繋がる姉や妹と共に

働いていたので気付きもしなかったとか。

 

 尤も、草薙護堂の原典は主人公だからこそ赦された暴虐無人さだったから自業自得だろう。

 

 

 閑話休題

 

 

 ユートが駆け出そうとしたら……

 

「待って下さい!」

 

 声を掛けられた。

 

「どうし……んむ!?」

 

 振り返ると爪先立ちで背伸びしたレミアの唇が重ねられる。

 

「つ、続きを……ミュウと帰って来られたら……続きをして下さいね?」

 

 頬を紅く染めながら涙を浮かべて言うレミア、今すぐに抱きたくなる衝動にすら襲われそうになるユートだが、ニヤリと口角を吊り上げて謂わばサムズアップをして叫ぶ。

 

「必ずな!」

 

 走るユートの後ろ姿をレミアは見送りつつも、まだ柔らかく温かな感触が残る唇に指を這わせて跪くと、願いを込めて両手を胸元で合わせながら神様とはエヒトルジュエだから祈らないにせよ、ユートに祈りを捧げて待つのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方のミュウはピンチに陥っている

 

 魔物らしき存在に囲まれてしまったからだが、それがまた悍ましい姿をしていた。

 

 見た目には狼っぽいがゾンビも斯くやな姿で、毛皮を持たない血肉が露出したモノ。

 

 クジラが護ってくれていたらしいがそれをする毎に弱るらしく、影となってミュウの傍に張り付いたそれが余りに弱々しい。

 

 クジラ? が曰く――汝が同胞の許へ、強き海の子の許へ――と誘ってくれていたみたいだ。

 

「いまはパパとママにごうりゅうするの!」

 

 パパ――ユートさえ居れば何とかなると考えている無心の信頼は痛いが、ユート自身はそれに応えられるだけの能力は持っている。

 

 何処かの勇者(笑)と違って。

 

 おかしな巨狼から逃げながら何とかユートを捜したいミュウ、然しながら四歳児の女の子には少し荷が勝ち過ぎるミッションだ。

 

 ミュウは亜人族に属するが故に魔法を使えないから、単純にその脚で逃げるしか出来ないのが痛いという処。

 

「しかたがないの……」

 

 パパから事前に渡されていた機器を手にして、それを両手で挟む様に持つと瞑目する。

 

「ミュウだっていつまでもあしでまといじゃいられないの!」

 

 それは少し縦に長い水色を基調とした機器で、上側に小さなモニタが付いていて浮かんでいるのは【水】という漢字――正確には紋様。

 

 一四〇cmにも満たないミュウではユート作の仮面ライダーやビーファイターは使えない為に、万が一にでもユート達とはぐれた場合に身を守るアイテムを別途で渡している。

 

 使って欲しくは無くてもミュウの命には代えられない、だから遊び半分ではなく本当にヤバいと思ったら迷わず使えと厳命もしていたのだ。

 

 くるんと一度回転をしたら左手を胸元に持っていくと光の束が回転しながら手の周りに顕れる、ミュウは機器の先端部で光の束をなぞる様に滑らせながら叫ぶ。

 

「スピリットエヴォリューション!」

 

 ミュウに渡されたそれは【ディースキャナ】と呼ばれるデバイスで、【スピリット】と呼ばれるエンシェントデジモンが遺したモノをスキャンして人間を進化させるアイテム。

 

 当たり前だが機器も可成り昔にユーキが造った物であり、スピリットは【魔獣創造】という神器の亜種禁手――【至高と究極の聖魔獣】により創造した十闘士のデジモンをヒューマンとビーストの二つに分けたモノだ。

 

 実際にユートが使う場合は【火】のスピリットか【闇】のスピリット、麻帆良に顕れたゲートの向こう側でもアホな皇女親衛隊を相手に【火】のスピリットを使ってやった事もある。

 

「ラーナモン!」

 

 イタリア語で蛙を意味する水属性のヒューマンスピリットにてミュウが進化をしたラーナモン、

ユートが余り使って欲しく無い理由は原典に於いて敵だったのと、【水】のビーストスピリットのカルマーラモンがオバサン臭い烏賊だからだ。

 

 あの愛らしいミュウが、引っ繰り返した烏賊の口に当たる部分からオバサンの上半身が突き出ている姿に変わる……『ないわ』と叫びたくなるのも無理からぬ事。

 

 【デジモンフロンティア】でアイドルをしていたラーナモンは未だしもマシだが、オバサン臭しかしないカルマーラモンへと進化された日には……

レミアが見たら卒倒するに違いない。

 

 嘗て、違う世界の地球で光のエレメンツとして産み出された三井家のほのか、彼女に万能薬をした【光】のスピリットを渡した事があるのだが、彼女もヒューマンスピリットだけでなくビーストスピリットを使わざるを得ない事態に陥ったし、ともすれば融合進化や古代進化までしたのだ。

 

 【水】に中途パーツを使う融合進化は設定されてないが、デジモンとしての元の姿に戻るという古代進化は可能ではある。

 

 ミュウには必要なら躊躇うなと厳命をしたし、万が一にも追い込まれたらビーストスピリットを使うだろう。

 

 実際、ラーナモンと化したミュウはその決意を小さな胸に秘めていた。

 

「ジェラシーレイン!」

 

 酸性雨により溶かされる血肉の巨狼。

 

「早くパパとごうりゅうしないと。きっとパパがママをまもってくれてるから!」

 

『済まない』

 

 そんな思念波がミュウの頭に響いた。

 

「影さんなの?」

 

 クジラの小さな影、これがミュウを誘う張本人らしいのだがミュウはよく判らない。

 

『済まない……』

 

 弱々しく謝るばかりのクジラ影。

 

「ちゃんと話してほしいの!」

 

 だが余りにも弱々しくなっている所為なのか、或いは最早それを語る程の力すら持たないのか? それとも初めから会話機能が限定でもされているのかはミュウに計れないが、どちらにしてもまともな会話が成立していない。

 

「影さん、弱ってるの……」

 

 若しかしたらこうしてミュウ達を此処へ誘ったのが最後の力だった可能性もある。

 

『求める……創造する者。刻の証を遺す者よ』

 

 これは語り掛けというよりは寧ろ譫言の類いか独白なのだろう。

 

「そうぞうする?」

 

 ――想像を創造する力だ……とはユートの言葉、ミュウは影の言葉を理解し切れていなかったけど半ば確信をする。

 

「パパの事なの?」

 

 ユートは錬成師の天職を得る前から【創成】という上位互換の力を使い続け、故にその手の力に対しては高い適性を獲得もしていた。

 

 神器たる【聖剣創造】や【魔獣創造】などを、いとも容易く使い熟すその理由は最初の転生以来から【錬金】を【錬成】を、そして今や世界創造の一部にも等しい【創成】を使ってきたから。

 

 【創成】の真骨頂は完全な汎暗黒物質の操作にあり、その気になれば【神秘の瞳】で完全に見抜いた物質ならば大概は汎暗黒物質を用いて創り出す事すら出来てしまう。

 

 ユートが死者蘇生をハーデスの権能以上に使えるのも、ハーデスの権能で蘇らせた死者の遺伝子から何まで全てを視て記録し、死者の完全な肉体を【創成】で創り出せてしまうからだ。

 

 この事に気付いたから可能になった。

 

 【ハガレン】世界特有の【錬金術】ではないから『持っていかれる』事も無く、況してや不完全処かナニを造ったかも知れないナニかがデキ上がる事も無い、謂わば彼の兄弟が正しく追い求めた【完全なる人体錬成】の究極形。

 

 ユートが技師として、そして女として彼女を求めた対価に彼の腕と脚を元に戻したそれ、だからこそ究極の対価足り得るとして『誰かの一生』を自分のモノにしているのだ。

 

 まぁ、彼女は苦笑いをしながら頷いた辺りからユートへの気持ちは無くて、だけど新たなる世界への興味と彼が全てを取り戻せば“技師”としては必要無くなる事もあった。

 

 それにその時に男として気持ちを持たずとも、ヤり続けていればいずれは情が湧く事もある。

 

 彼女がユートの【閃姫】に成れた事からもそれは明らかだろう。

 

 それは兎も角……

 

『異なる刻、同じ場所に重なりし“二人”を。主と同位の者達を我が許へ』

 

「へ? ふ、二人……なの?」

 

 正直、まだ四歳児には難しいから飽く迄も感覚的に捉えていたミュウは、ユートだけではないと聴かされて若干パニックになる。

 

「う~ん、ミュウには解らないの。これはきっとパパあんけんなの!」

 

 人はそれを丸投げと云うが、何処かの脳筋とは違ってギリギリまで考えての丸投げである。

 

 何処かの脳筋は抑々(そもそも)が考える事を止めるから、同じにするのはミュウへの侮辱だろう。

 

「レインストリーム!」

 

 集中豪雨で敵を押し潰す必殺技で巨狼を潰し、影さんが導く侭に進んでいく。

 

「今は進むのみ! なの」

 

 血肉の巨狼が連れる巨狼よりは小さな眷属が、ラーナモンと成ったミュウに襲い掛かった。

 

「ウンディーネブレイク!」

 

 ミュウは脚と周囲に高密度で高速化された水を纏わせ、血肉の巨狼の眷属を後ろ回し蹴りを放ってぶっ飛ばしてやった。

 

 ラーナモンに【ウンディーネブレイク】なんてのは必殺技は疎か得意技にすら無い。

 

 だけど水を操作する能力は十闘士の水属性として持ち合わせる為、水を直に操作して必殺技でも得意技でもない純粋な技として放ったのだ。

 

 技のモデルはアグニモンの【サラマンダーブレイク】、此方は普通に必殺技で炎を纏った蹴りを放つというもの。

 

 要するに属性だけ変えた技である。

 

「ウェットウンディーネ!」

 

 濡れる水精霊とか、灼熱の火精霊なバーニングサラマンダーのラーナモン版だろうか?

 

 バーニングサラマンダーみたいに相手を燃やす訳ではないが、水は土と同じく重量があるからか血肉の巨狼の頭を潰した。

 

 精霊術師の世界では風が最弱などと云われる、それは軽いからというのが理由。

 

 尤も、単にぶつけ合ったら四属性では力負けをするというだけでしかなく、抑々にして適材適所を無視した力一辺倒主義者の傲慢でしかないが、単なる力押しなら多大なエネルギーを持つ火属性が一番とされ、水と土もその重量がある故に威力だけなら風に勝るのも確か。

 

 単なる火を拳大で放つバーニングサラマンダーが必殺技足り得るのもそれが理由、ラーナモンというかミュウが放った水は見た目こそ拳大というバーニングサラマンダー並の大きさではあるが、密度を高めて重量は見た目相応では決してなかったらしい。

 

 重量が重量だから速度は大した事もないけど、だがやはり重量故に当たりさえすれば威力は充分に高かった。

 

「次なの!」

 

 グッと身体を捻りながら……

 

「アクアストーム!」

 

 技を放ってやる。

 

 ヴリトラモンのフレイムストームみたいな技、別にラーナモンの必殺技に有る訳ではないのだから寧ろ水さえ操れれば使える為、カラマーラモンへとスライドエヴォリューションなどしなくても扱える訳で、まるで嵐の如く水の塊が渦巻きながら血肉の巨狼の眷属を数体程巻き込んでグチャグチャに水圧で圧し潰した。

 

「グ、グロい……なの」

 

 水は透明だしその有り様がまざまざとミュウの

目に映って吐き気を催す。

 

 元々、魔力が無いからこの世界の亜人は魔法を扱えないというだけであり、資質が無いという訳では決して無くて海人族として常に水に触れてきた為にミュウは水適性が非常に高かったのだ。

 

 何とか血肉の巨狼も斃したけどラーナモンへの初進化は四歳児の体力を削っ為、終わった途端に緊張感が切れたのか進化が勝手に解除される。

 

「ふぃー、なのぉ……」

 

 仮面ライダーウィザードみたいな溜息だけど、ユートがよくやるからか真似をしていた。

 

 まぁ、ユート自身も仮面ライダーウィザードのDVDを【カンピオーネ!】世界で観てやり始めた口だけど。

 

 正確にはネオディケイドライバー以外で初めての仮面ライダー、【魔獣創造】はその後で獲得をしたから当時は特殊な金属糸と金属で造ったのがウィザードライバー。

 

 とはいえ、実験で草薙護堂を使ってプロトタイプにカンピオーネドライバーや、エリカ・ブランデッリにビーストドライバーその侭なマギウスドライバーを造っていたけど。

 

 因みに、量産型としてメイジドライバーと同じなメイガスドライバーを造ってリリアナ・クラニチャールに売っている。

 

 安全になったからとへたり込むミュウだけど、其処へ足音と共に誰かが近付く。

 

「あら、大丈夫かしら? 同族のお嬢ちゃん」

 

「マ、ママ!?」

 

「へ? ママって……その切り返しは想定していなかったわね」

 

 謎の人物は海人族の女性だった。

 

 ママではないが美しい容姿に強き肢体であり、ミュウが目指すパパのバディ足り得る存在。

 

「はじめまして、同族のおねえさん。ミュウの名前はミュウなの」

 

「あら、御丁寧に。私はメイル。メイル・メルジーネよ。メルジーネ海賊団を率いてるわ」

 

「へ? メイル・メルジーネおねえさん?」

 

「ええ、宜しくねミュウちゃん」

 

 ミュウは識っている。

 

 メイル・メルジーネは故人であり、しかも亡くなったのは千年を越える過去の出来事だと。

 

「な、なんで生きてるの?」

 

「はい? へ? 私は生きてちゃ駄目?」

 

 カトラスと呼ばれる剣を腰に佩くメイル・メルジーネと名乗った同族女性、そんな彼女は何だかショックと謂わんばかりである。

 

「えっと、そうではないの! ただ……」

 

 慌てて(かぶり)を振るミュウだが……

 

「はっ! また来たの!」

 

 又も血肉の巨狼と眷属。

 

「ああ、こいつらまたかぁ」

 

 どうやらメイル・メルジーネも血肉の巨狼と闘っていたらしく、うんざりとした表情となりながらもカトラスを抜刀する。

 

「お嬢ちゃんは……ミュウちゃんは逃げなさいな。このメイル御姉さんが相手をするからさ」

 

「ミュウも闘うの!」

 

「は? 莫迦な事を言わないで!」

 

 ダメ出しするメイルを尻目に再び取り出したるはディースキャナ、左手にデジコードを纏わせてそれをなぞる様にスキャン。

 

「スピリットエヴォリューション!」

 

 ミュウは【水】のヒューマンスピリットを纏う事で再びデジモンに進化。

 

「ラーナモン!」

 

「ええっ!?」

 

 見るからに五歳にすらならない幼女なミュウ、それが見た目に一三歳か其処らの全く違う姿へと変化し、流石のメイル・メルジーネも吃驚仰天するしかない事象だったと云う。

 

「ジェラシーレイン!」

 

 透かさずラーナモンは酸の雨にて血肉の巨狼の眷属を溶かしてやった。

 

「うわ、えげつないわね。だけど嫌いじゃない、『氾塊浪』!」

 

 巨大な水の塊がやはり血肉の巨狼の眷属を洗い流すかの如くなメイル・メルジーネ。

 

「えっと、ミュウちゃん……ラーナモン?」

 

「ミュウで良いです、なの!」

 

「じゃあ、ミュウちゃん。さっき使ってたそれはアーティファクトなのかしら?」

 

「パパとくせいのまどうぐで、ディースキャナなっていうの! 入れてあるスピリットをロードしていちじてきにデジモンに進化するの!」

 

 よく判らないメイル・メルジーネだったけど、仲間に稀代の錬成師が居るから似た者と変換。

 

「む、また来たわね! 躾の成っていない駄犬にはお仕置きよ! さぁ、犬でありながら豚の様な悲鳴を上げなさいな! 『水刃鞭』!」

 

 本来は水流を鞭として振るう魔法らしいけど、カトラスの刃を砕いた物が混じっている水流は宛らチェーンソー、抉られた挙げ句に吹き飛ばされた巨狼に更なる連撃で削られていく。

 

 ミュウは目を見開く。

 

 母親のレミアに似たおっとりとふわふわしている雰囲気を漂わせていたが、いざ戦闘になったらメイル・メルジーネの方こそえげつない攻撃を繰り出し、えげつない罵倒をしているのだから、

 

「うん、ママじゃないの……」

 

 きっと見た目だけならパパの好みだとは思うのだが、単純な戦闘のバディならまだしも果たして女としてのバディに成れるのか?

 

 見習いたい様なそうで無い様な……

 

 ミュウはメイル・メルジーネを横目に冷や汗を流しながら戦闘を続けた。

 

「ウンディーネブレイクッ!」

 

 周囲に水を回転させて逆回し蹴り。

 

 血肉の巨狼は面白いくらいに吹き飛んで木端微塵にされていく。

 

「強いわね……あのアーティファクトの力だとしても中々にやるわ」

 

 メイル・メルジーネも同じく巨狼を叩き伏せながらラーナモンを観察していた。

 

「ウォーターダガー!」

 

 牽制として放たれる水の塊。

 

 アグニモンで云えばファイアダガーという技、【水】だから燃やさないけどその重量も然る事ながら、ダイヤモンドすら両断するウォータージェットの要領が使われていて、高い貫通力を持たせるべくドリル状に超高速回転させているから威力は充分に過ぎる。

 

 幸いな事に血肉の巨狼もその眷属も力だけなら大した事は無いが、不幸な事に数だけは一丁前と云うべきかワラワラと現れた。

 

 数の暴力にラーナモンなミュウはユートが嫌がりそうだが、スライドエヴォリューションをしてカルマーラモンになるべきかと考える。

 

 単純なパワーならビーストスピリットの方が上であり、扱える水量も大幅に増えるから可成りの全体攻撃も可能となるのだ。

 

 但し、可愛いげも無いオバサン臭やイカ臭さしかしないであろう姿だけど、ミュウもそれは理解しているからビーストスピリットでの進化をしたいと思ってはいなかった。

 

「レインストリーム!」

 

 傍の血肉の巨狼を集中豪雨。

 

「ウェットウンディーネ!」

 

 正しく【水】の十闘士と謂わんばかりな怒涛の

水属性攻撃を見て……

 

「ヒュー、やるわねミュウちゃん」

 

 メイル・メルジーネも破顏。

 

 暫く経って漸く半分を切った頃に黒髪で眼鏡を掛けた青年と赤毛の青年、そして長いサラサラとした金髪をポニーテールに結わい付けた少女が、メイル・メルジーネとミュウの元へ駆けてきた。

 

「オスカー君、ナイズ君、()()()()ちゃん!」

 

 ミュウの識らない二人の青年は兎も角として、少女は明らかにミレディ・ライセンである。

 

「ミレディお姉ちゃん?」

 

「おや、君はミレディちゃんの事をしっているんだね? 種族がよく判らないけど……」

 

 ミレディの言葉にミュウは進化解除。

 

「え、海人族? しかもディーナちゃんよりずっと幼いし!?」

 

「ミュウはミュウなの。ところでミレディお姉ちゃんは何をしてるの?」

 

「……へ?」

 

 挨拶をしてきたと同時にまるでダメな知り合いに何故か指摘するかの如く、ミレディ・ライセンはミュウから詰問を受けるのであった。

 

 

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 因みに、ミレディがヌルヌルではなかったのは時間がずれていたのと、ミュウに敵が集中をしたからという理由があったりします。

 原作を識らない者ばかりだから文章にはしていませんでしたが……




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第76話:過去と未来の邂逅

 凄く遅くなりました。




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 メイル・メルジーネの仲間達――【解放者】との合流後、ミュウはこれからの指針について話し合わなくてはならない。

 

 とはいえ、【解放者】は本来なら七人の筈だが今は未だ四人しか居ない。

 

 つまり他の三人に関しての情報は漏らしてはならないと、賢いからかミュウでもその事実に行き当たり会話に気を遣う。

 

 早い話が残り三人――ラウス・バーン、リューティリス・ハルツィナ、ヴァンドゥル・シュネーに関しては居ないものとして扱う必要があった。

 

「オスカー・オルクス……お兄さん?」

 

「あれ、僕の事を知っているのかい?」

 

「メイド好きなオスカーお兄さんなの」

 

「グフッ!? な、何故にそれを……」

 

 喀血したかの如く息を吐くオスカー・オルクスは眼鏡を正位置に直しながら訊く。

 

「パパが言ってたの」

 

「そ、そうなのかい?」

 

 引き攣るオスカー・オルクスにミレディ大爆笑だったが、ナイズ・グリューエンはミュウからの言葉に少しばかり疑念を覚えた。

 

「ミュウちゃんだったか?」

 

「はい、なの」

 

「君のパパ? は、どうやってオスカーの性癖を知ったんだい?」

 

「性癖とか言うな!」

 

 鬼畜眼鏡(オスカー・オルクス)は扨置いてミュウは答える。

 

「ミレディお姉ちゃんから聞いたの」

 

「へ?」

 

 寝耳に水なミレディは驚愕。

 

「ミ・レ・ディ……?」

 

「ちょ、待って! オー君! 知らない、ミレディさんは知らないから!」

 

 リーダーによる仲間の情報拡散は流石に見過ごせないのだと、オスカー・オルクスは眼鏡の位置をクンと直しながらズモモモッ! とミレディへと詰め寄った。

 

「それからきれいな美人さんだけどまちがいなくドSなメイルお姉ちゃん」

 

「……ミュウちゃんのパパさんに物言いたいのだけれども、まさかミレディちゃんったら私の情報も拡散していたのかしら?」

 

「ちょっ、メル姉……怖い、怖いから!」

 

 暴力的な笑顔で詰め寄られて涙目。

 

「ナイズ・グリューエン……ナイズお兄さん」

 

「む、私の名前を知る……だと!?」

 

 ナイズ・グリューエンは故郷の名をファミリーネームとする風習の土地だったが、とある理由からグリューエンの名前を捨てていたからナイズの名前からグリューエンを想起するのは難しい。

 

「きっと一番のじょうしきじんな人」

 

 悪くはないが良い訳でもない微妙な評価であったと云う。

 

 それと『じょうしきじん』の後に『人』は付けないものだが、未だに四歳児なミュウに言ってみてもそれは野暮であろうというもの。

 

 四歳児――地球なら幼稚園の年少組でしかないであろう子供相手に、国語的なマウントを取りたい人でなしは流石に【解放者】の中に居ない。

 

「ミレディお姉ちゃん……」

 

「あれ、ミレディさんも?」

 

「何で此処に居るの?」

 

「ゲフッ!」

 

 小さな女の子に存在から否定された気分となり吐血をした。

 

 ミュウとしては『パパ』の傍に居る筈の彼女が居るから、ちょっとした疑問を覚えて訊ねたのに過ぎなかったのだが……

 

「ミ、ミレディさんの存在が全……否定……だと? うう……そんな莫迦な……」

 

 涙ぐむミレディにミュウは首を傾げた。

 

(ん~、ミレディお姉ちゃんはミュウのことをしらないみたいなの……オスカーお兄さんたちのことをかんがえるとこのミレディお姉ちゃんは)

 

 ユートからの薫陶を受けているミュウは原典より遥かに賢く知識も多いからか、『だいたい判った』と今現在の状況を理解しつつある。

 

 ミュウの知識は既に小学生高学年くらいになっているらしいし、実は性知識もそれなりに得ているから赤ちゃんは『キャベツ畑から』とか『鸛が運んでくる』なんて誤魔化しは効かない。

 

 流石に細かい知識は無いにしても、どうやったら子供がデキるのかくらいは解っていた。

 

「然し、此処は何処なのだろうな」

 

 ナイズ・グリューエンが口を開く。

 

「ミュウちゃんは心当たりとかないかな?」

 

「ないの! オスカーお兄さん」

 

「そ、そうか……」

 

 四歳児に何を期待しているのかと、オスカーは

自嘲をしながら笑う。

 

「けどじつはどうすれば良いのかはなんとなくだけどわかるの!」

 

「そうなのかい?」

 

 オスカー・オルクスは血の繋がらぬ弟や妹が居るからか、ミュウという存在に対してもすぐ馴れた感じに話せている。

 

「クジラさんから聞いたの」

 

「クジラ? 若しかしてその光る影?」

 

「そうなの!」

 

 とはいえオスカー・オルクスには聴こえない声では確かめ様が無い。

 

「それで、何と言われたんだい?」

 

「そうぞうするもの……ときのあかしをのこすもの……ことなるとき……おなじばしょにかさなるふたり……あるじとどういのものたちをわがもとへ」

 

 光る影クジラからの言葉を伝えるとオスカー・オルクスも他の【解放者】も難しい表情。

 

「オスカー、これは……」

 

「そうぞうするもの……創造する者、つまりは僕を――錬成師を指すのだろう」

 

「そうだな」

 

「ときのあかしをのこすもの……刻の証を遺す者はアーティファクトを造れるだけの力を持つ錬成師という意味だろうね」

 

 確かにアーティファクトとはこの世界に於ける定義で古代の遺物、ユートが【ありふれた職業で世界最強】世界たるこの地に来るまでの世界では古代遺失物(ロスト・ロギア)と呼ばれたアイテムを指すであろう。

 

 そして嘗ては自らの錬成師としての力を他者と比べ『異常』とすら評したアーティファクト・メイカーな自分、オスカー・オルクスは間違いなく光る影クジラが言う存在だと云えた。

 

「然し、ことなるとき……異なる刻とは時代が違うという事なのか? おなじばしょにかさなるふたりとは違う時代ながら同じ場所に現れた二人? つまり僕レベルの錬成師がもう一人居る?」

 

「パパなの!」

 

「え?」

 

 ミュウの言葉に驚くオスカー・オルクスだが、それには構わずミュウは更に口を開く。

 

「ミュウのパパがれんせいしなの!」

 

「そういう事か!」

 

「どういう事? オー君」

 

「要するに偶々だろうけど、僕とミュウちゃんの

お父さんの二人が違う時代ながら同じ土地に足を踏み入れたからこそ、ミュウちゃんの頭を浮遊する影クジラとやらは僕らとミュウちゃん達をこの場に引き入れたんだろう。ミュウちゃんのお父さんと合流し、錬成師としての力を振るうべき場所で何かを造る乃至は修復をする事で還されるんじゃないかな?」

 

 オスカー・オルクスが自らの考えを述べると、理解をしたのか三人が頷いた。

 

「そうなるとミュウちゃんの父親……その人物を捜さねばならないか?」

 

「ナっちゃんの言う通りだね」

 

「その必要は無いの!」

 

 ミレディをミュウが遮った。

 

「どゆ事?」

 

「パパならやるべき事をきっとじぶんでりかいしてしまうの! だからミュウたちはもくてきちにいちもくさんなの!」

 

「なるへそ、だったらミュウちゃんを信じて向かおうかな? 本当に大丈夫なんだよね?」

 

「うん!」

 

 確認されて自信満々に頷くミュウにミレディもニカッと笑顔を浮かべた。

 

「で、行き先は?」

 

「あのお城へ!」

 

 指差した先には一際目立つ建造物。

 

「オッケー! オー君、ナっちゃん、メル姉! 小さなお姫様からの御願いだよ! 一丁張り切って神代魔法の使い手の力を見せ付けてやったろうじゃないのさ!」

 

 悍ましい気配がミュウの純粋なる願いを踏み躙らんと、血肉の巨狼以外にもデカイ蛙みたいなのやタール状の死神っぽい魔物などが凄まじいまでにウザいレベルで無数に湧出、ミュウが指差した先の廃城までの道を呑み込む勢いだった。

 

「スピリットエヴォリューションなの!」

 

 【水】のヒューマンスピリットによる進化に、既に見ていたメイル・メルジーネ以外が驚きに目を見開く。

 

「ラーナモン!」

 

 今日だけで三回目の進化。

 

 見た目には愛らしく思えるラーナモンだけど、【デジモンフロンティア】本編ではアイドルとは名ばかりの嫌な女を全開で、ユートとしてみればミュウが()()ならないのを祈りたい処。

 

「くぅ! 皆負けてらんないよ!」

 

 とはいえ、ミュウは少し興奮気味。

 

 ユートは聖闘士をやっていたし、紫龍が引退をしてから教皇の地位に座っていたから子供が修業や実戦をするのもアリな考えだが、だからといってミュウが闘うのを容認している訳でも無い。

 

 然しながらユート自身も子供だからと動けない時期が確かに有り、ミュウの気持ちが解らないでもない二律背反なジレンマからディースキャナを渡して【水】のヒューマンスピリットとビーストスピリットを容れておいたのだ。

 

 【水】だったのはミュウが海人族だから水適性が高いから、実際に荒れた下水道を流されながら溺れる事も無くユートとシアに保護された訳だから見立てに間違いは無い筈。

 

 そして事実としてミュウは行き成りスピリットを使い熟し、自称『異常』な【解放者】達と肩を並べて闘っていた。

 

「ポセイドンフォォォォースッなの!」

 

 ミュウは本来なら属性違いの技を水属性で行使をしたり、こんな大技を使ってみたりと適性という意味ではやはり大当たり。

 

 近場に水が大量に在るからウォーグレイモンXのポセイドンフォースさえ使えた。

 

 勿論、本物に比べれば御粗末極まりない程度の技でしかなくて、ユートの【模倣者(イミテイター)】としての力を思えば精度が荒く威力は低い。

 

 それでもやれたのだから適性の高さよ。

 

「オスカーお兄さん!」

 

「な、何だい? ミュウちゃん!」

 

「此処はミュウ達に任せて先に行け、なの!」

 

「……はぁ?」

 

 開いた口が塞がらないオスカー・オルクスに対してミュウは……

 

「パパはきっとすぐにむかうの! だからこそ、オスカーお兄さんもいくべきなの!」

 

 オスカーに先を促す。

 

「なっ! 然し君みたいな幼い娘を残して先へ進むなんて!?」

 

 オスカー・オルクスは孤児院の出で、血の繋がらない孤児院を卒院した兄姉やまだ孤児院に居る弟妹が幾人も居り、しかも内の二人はとある事件に巻き込まれ現在もこんこんと眠り続けている。

 

 ミュウの幼気な姿にオスカー・オルクスもそれを思い出したのだろう、ミュウを気遣う様な科白が自然と突いて出てきていた。

 

「かんちがいをしないでほしいの!」

 

「勘違い?」

 

「こんかいのみっしょんは、オスカーお兄さんを

おしろにつれて行って、れんせいしとしてはたらいてもらうことなの!」

 

「そ、それはそうだが……」

 

「つまり、オスカーお兄さんがおしろにつくのが早ければ早いほどミュウのあんぜんがかくほされるというものなの!」

 

「むっ!?」

 

 饒舌に然し舌足らずな話し方で説教されてしまうオスカー・オルクス、ミュウとしてはさっさと目的地に行って欲しいのだ。

 

「ここでオスカーお兄さんがだらだらと魔物とたたかってもじたいはかいけつしないの。というかほんまつてんとうなの!」

 

「そうかも知れないが……」

 

「パパだけがおしろに行ってもダメなの。だからオスカーお兄さんは行くべきなの!」

 

「了解したよ」

 

 ミュウの勢いに圧されて頷いた。

 

「それと、ミレディお姉ちゃんはごえいでオスカーお兄さんと行ってほしいの!」

 

「ふぇ? ミレディさんも!?」

 

「パパはれんせいしなんだけどたたかう人でもあるの!、一人でもどうとでもなるけどオスカーお兄さんはつよくても、本当はたたかいはしないたいぷなの」

 

 それは間違いではない。

 

 オスカー・オルクスは闘う事は出来るが戦士ではない、然し魔力が高いから自然と身体機能に上乗せ強化されて闘えるだけの力は確かに有る。

 

 それでも本来は造る事に特化されていた。

 

 戦闘だってミレディやナイズやメイルが魔法を主に闘うのに対して、オスカーは魔導具というか

アーティファクトを用いて闘っている。

 

 色々な機能を備えてる黒傘や眼鏡がそうだし、何なら服も防御機能を備えていた。

 

 勿論、アーティファクトに魔法を籠めるのなら籠めるべき魔法を使えないといけないだろうし、オスカー・オルクスが魔法を全く使えない訳ではない筈だが、知り合いに頼んだりも出来るし実戦では役に立たないレベルなのかも知れない。

 

 この世界の魔法とは適性次第では莫迦みたいに複雑な魔法陣や長ったらしい詠唱が要るから。

 

 況してや、今回のオスカー・オルクスは錬成をする為に廃城に行こうというのだから、当然ながら戦闘は別の人間に任せねばならない。

 

 つまり護衛が必要となる。

 

 それをミレディに任せるのはミュウが未来に於ける本人から聴いたから、ユートと――ゼロワンと出逢わなければ或いは自分はオスカー・オルクスに想いを寄せたかも知れない、それだけ長い時間を過ごしてきたのだ……と。

 

 実際にオスカー・オルクスこそはミレディにとって最初の仲間、ヴェルカ王国の王都ヴェルニカ

に嘗て存在しオルクス工房にて働く棟梁が認めたオルクスの後継者。

 

「ミレディちゃん、貴女も行きなさいな」

 

「メル姉……了解だよ!」

 

 兎にも角にも本来在るべき場所に戻る為には、ミュウの導きに従うしかないと考えた。

 

 ならば……

 

「やってやるわ!」

 

「やってみせよう!」

 

 最後まで貫き通すまで!

 

 オスカー・オルクスとミレディはこの場からは即離れると、自身に出来得る最上位の速度を以て

廃城に向かって駆け抜けた。

 

「ミュウちゃん……か。変な道具で変身っていうか進化? をしていたけど」

 

「メイルと同じ海人族、そういえば何処となくだけどディーネに似ていたかもな」

 

「ああ、メル姉の妹の……」

 

 メイル・メルジーネが仲間になる際には色々とごたごたしたが、その原因の一つに種違いの妹のディーネの事があった。

 

 海人族という畑は同じだから二人は海人族としての容姿で似通っているけど、実質は吸血鬼族の父親と海人族の母親を持つメイルに人間族の父親と海人族の母親を持つディーネと、ハーフとしても種族が若干ながら異なっている。

 

 元々ディーネの父親に攫われたというメイルの母親、とはいっても酷い扱いは決してしていなくて何とか関心を惹きたくてプレゼントをしてみたけど受け取って貰えず、遂には単なる小さな花を贈ってみたら『仕方のない人』と微笑みを浮かべながら受け容れたらしい。

 

 つまりディーネの父親バハール・デヴォルトはメイルの母親のリージュを犯して孕ませたのではなくて、頼み込んで説得をして大量の贈り物は拒まれながらも小さな花を一輪で受け容れられて、漸く産んで貰ったのである。

 

 彼なりに愛していたのであろう、メイルが受け止められるかは別にして。

 

 抑々にして彼はメイルの存在を知らなかったらしいから、メイルを初めて目の当たりにして漸く()()とやらに行き着いたくらいだ。

 

「ちょっと興味深い」

 

「オ、オー君……やっぱりロ……」

 

「違う! 僕が興味深いと言ったのはミュウちゃんを進化?させたアーティファクトにだよ! っていうか『やっぱり』って何だ!?」

 

「コリンちゃんとケティちゃんを」

 

「違うっつーたろうが!」

 

 コリンとケティとはオスカー・オルクスと血の繋がらない孤児院の小さな妹達、そんな彼女らとは勿論だがそういった関係に成ったなんて覚えは全く以て皆無である。

 

「オー君!」

 

「チィッ、次から次へと矢継ぎ早に!」

 

 蛙モドキな魔物が一〇〇は下らない数で次々に湧出(ポップ)してきた。

 

「喰らえ!」

 

 アーティファクト【小さな魔剣】――使い捨てにされる文字通りに投擲用の小剣、刃に魔法が籠められていて爆裂や灼熱や氷結などの効果を刺さった対象に与える。

 

 人間に刺さればえげつない効果を発揮してしまうのは、嘗てオスカー・オルクスが弟妹を救う為に聖光教会に歯向かった際に確認済み。

 

 アーティファクト【黒傘】――様々な魔法が幾つも籠められており、使い方次第では攻撃も防御も治療も自在に使い分ける事が可能な万能傘。

 

「六式【大嵐】!」

 

 嵐を起こし……

 

「二式【衝璧】!」

 

 大地の壁を築きつつそれを割って弾丸の如く撃ち放ったり出来る。

 

 黒衣に身を包む鬼畜眼鏡オスカー・オルクス、その身に付けた衣装の全てはアーティファクトという、正しく『この身はアーティファクトで出来ている』と言わんばかり。

 

「やっるぅ! 流石はオー君!」

 

 ミレディも【禍天】というDQで云うベタンに似た重力魔法で潰しながら叫んだ。

 

「ミレディッッ!」

 

「へ? あっ!」

 

 更に湧出した腐った肉体を持ち、躯躰のあちこちからヒトらしき手足を生やしている腐食の霧を纏った竜がミレディに攻撃を仕掛けて来て、喰う心算なのか牙の生えた大口を開けていた。

 

 顕れる魔物はどいつもこいつも醜悪そのものであり、基となる蛙や竜や狼やヒトの正しく悪意を以て捏ね回した醜悪なるパロディ。

 

 視ているとガンガンSAN値が削られる。

 

「うわっ、魔法が間に合わ……」

 

《AX RIZE!》

 

「――え?」

 

「どりゃぁぁぁぁああっ!」

 

 ミレディの危機に颯爽登場・銀河美少年……ではなく謎の全身鎧に仮面まで着けた誰か。

 

「だ、誰?」

 

 その声に振り返るけど……

 

「ほんっとうに、誰ぇぇぇぇっ!?」

 

 全く見覚えが無くて叫んでしまう。

 

「……?」

 

 だけど何故だろうか? 何故か判る……彼? は今さっき微笑みを浮かべていたんだ……と。

 

「仮面ライダーゼロワン、それが僕の名だ!」

 

「ゼロ……ワン……?」

 

 その名前がミレディ・ライセンの小さな胸の中……心の奥底に刻み込まれた瞬間である。

 

「お前らを止められるのは唯一人、僕だ!」

 

「キャッ!?」

 

 ミレディを片手で抱き抱える様に自身へ寄せると可愛らしい悲鳴を上げた。

 

 右手で持ち肩に担ぐ【オーソライズバスター】のアックスモード、それを先ずは簡単な操作をして銃の形へと変形をさせる。

 

《GUN RIZE!》

 

 そしてライジングホッパープログライズキーのライズスターターを押す。

 

《JUMP!》

 

 オーソライズバスターのスロットにプログライズキーをスロットイン!

 

《PROGRISE KEY CONFIRMED.READY FOR BUSTER!》

 

 エネルギーがチャージされていき、ゼロワンはそれを両手で持って支えてトリガーを引く。

 

《BUSTER DUST!》

 

 放たれた攻撃で蛙モドキが吹き飛ばされた。

 

「す、すごっ!」

 

 驚愕のミレディ、オスカー・オルクスも驚愕をしているらしい。

 

「漸く見付けた!」

 

「ホントですぅ!」

 

「良かった、無事みたいだよ」

 

 現れたのは仮面ライダーゼロワンとはまた別の青と緑と赤のメタリックカラー。

 

「ブルービート!」

 

「ジースタッグ!」

 

「レッドル!」

 

 現れた三人が思い思いに名前を叫びながら香ばしいポーズを決める。

 

「「「重甲ビーファイター!」」」

 

 何だか背後が爆発した。

 

「雫、シア、香織!」

 

 声からしてブルービートが雫、ジースタッグがシア、レッドルが香織らしい。

 

 確かに離れ離れになる前にレッドルを香織が、ビーファイタークワガーをティオが使っていた筈だし、ビーファイターテントウは鈴だった。

 

「ビーファイターカブトなユエさん、ビーファイタークワガーなティオさん、ビーファイターテントウな鈴はミュウちゃんっていうかラーナモンの所に置いてきたわ!」

 

 ブルービートの雫が言う。

 

「助かる。だったら此方の護衛は頼んだぞ」

 

「了解よ!」

 

「了解ですぅ!」

 

「了解したよ!」

 

 三人は頷いてジャンプ、ユート――ゼロワンの傍に着地をして右手を背後に回す。

 

「スティンガーブレード!」

 

「スティンガークロー!」

 

「スティンガープラズマー!」

 

 それはビーファイターのスティンガーウェポンと呼ばれる近接武装。

 

「行って、ゼロワン!」

 

「目的はアーティファクトの修復ですぅ!」

 

「此処は私達に任せて欲しいよ!」

 

 ゼロワンが頷くとミレディを抱えた侭で跳躍、オスカー・オルクスが居る場まで一気に跳ぶ。

 

「うひゃぁぁぁぁっ!?」

 

 ジェットコースターも斯くやな速度で跳ばれて悲鳴を上げるミレディ、だけど本当に僅かな時間でオスカー・オルクスの許へと到着した。

 

「うわっ!」

 

 ゼロワンにお姫様抱っこされたミレディを見たからか、それとも行き成りゼロワンが現れたからなのか? オスカー・オルクスも吃驚だ。

 

「き、君は?」

 

「仮面ライダーゼロワン、それが僕の名だ!」

 

 再び名乗るとオスカー・オルクスの近くに在るアーティファクトを視る。

 

「成程、だいたい解った」

 

「な、何がだい?」

 

「僕とオスカー・オルクス、あんたが喚ばれたのはこいつを修復する為らしいな」

 

「っ! まさか、ミュウちゃんのパパさん?」

 

 ミュウから聞いていたオスカー・オルクスは、直ぐにもゼロワンがミュウの言っていた『パパ』だと判断をする。

 

「ミュウとも会ったか。ならこの場に他の二人の【解放者】が居ないのはミュウの護衛に?」

 

「あ、ああ」

 

 察したらしいゼロワンの科白に頷いた。

 

「ならば始めよう、過去と未来……並ぶ事は決して無かった稀代の錬成師の奇跡のコラボレーションを初めて行う」

 

「確かに奇跡かも知れないね」

 

「ま、どっかの錬金術師は『奇跡の殺戮者』だから気に入らないかもだけど……な」

 

 聖闘士なら当たり前に『奇跡』を起こして敵を斃したりするし、某・奇跡の殺戮者的には面白く無いかも知れないと【SAO】主体世界で出逢った彼女を思い出す。

 

「少しだけ権能で視た過去からも察した」

 

「過去視って、まさか再生魔法?」

 

 メイル・メルジーネがディーネの父親を過去視で視たらしく、直近に於けるディーネとのやり取りを知ってしまったと聞くが、それこそ彼女――メイル・メルジーネの再生魔法の力だった。

 

 時間にすら干渉する神代魔法。

 

 ユートは遂最近でメイル・メルジーネの使っていた再生魔法を獲ている。

 

 そして神代魔法はユートの持つ能力の補助として使用をしており、ユートが使う過去視系権能は本来だと眠らないと使えないモノだったのだが、今は再生魔法の力を補助に眠らずともある程度は視れる様になっていた。

 

 夢神オネイロスから簒奪した【夢と現とその狭間(ドリーミング・ザ・ワンダーランド)】と云う権能だ。

 

 それは国という境界の内部で眠りに就いて視る夢という形で過去を覗く権能、可成り条件を絞らないと視たい過去を視るのに時間が掛かるとかの欠点も有るが、それでも必要な時に必要な情報を齎らしてくれる権能は役立ってくれる。

 

「さぁ、このオベリスクを修復しようか」

 

 廃城の塔、その屋上は直径が約一〇mくらいの円状をしていてユートが視ているのは、中心地に屹立した一mくらいの高さの方尖柱(オベリスク)だった。

 

「君も錬成師な訳だろうが、その実力の程はどうなんだい?」

 

「そうだな。数千年のキャリアだからそれ相応に使える」

 

「数千年?」

 

「僕は定命ではあるけどその範囲は大きくてね、それに加えて死んでも転生して違う人間として再び甦る。まぁ、姿も名前も変わらんけどな」

 

「? よく判らないね」

 

「判らなくて構わない。兎に角、僕はオスカー・オルクス……貴方より錬成師として巧くやれると、少なくとも自惚れでなくそう思っている」

 

「面白い冗談……と言いたいけど、君の自信の程が本当かどうかを見てみたいね。ミュウちゃんからの御墨付きも有る事だし」

 

 ミュウは『パパ』に対して自信を持っていたと考えると、ユート自身の言葉から信じてみるのも一興かとオスカー・オルクスは思った。

 

 それに若し自信が本物ならば視て技術を盗むのもアリであろう……と。

 

「雫とシアは前衛、香織は中衛でサポートをしてくれ。ミレディは後衛で魔法を放ちつつ全体的な指揮を頼む!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 返事をしてから当たり前に組み込まれていたのに気付くミレディ。

 

「あれぇ? ミレディさんも!?」

 

 振り向くけど既にゼロワンなユートはオスカー・オルクスと共にオベリスクへと向き直って、錬成作業の工程に関して話し合いを始めていたから溜息を吐いて言われた通りに。

 

「んじゃ、殺っちゃうよぉぉ!」

 

 得意の重力魔法を用いて数を叩く。

 

 残念ながらキラキラとした青緑赤の三人組は、その実力が判らないから取り敢えずの措置。

 

「壊劫!」

 

 迫り来る魔物共を圧殺する。

 

「スティンガープラズマー! 喰らって!」

 

 四連装イオンエネルギー発生装置から放たれるは高電圧ビーム、香織が纏うレッドルはスティンガーウェポンは中距離での闘いが得意。

 

「往くですぅ! スティンガーブーメラン!」

 

 シア――ジースタッグは先端に付くアーム部分を外して、それを投げ飛ばす事で中距離攻撃も可能だからと先ずは投げた。

 

 高速回転しながら魔物を切り裂き、ジースタッグの手の中に戻ると再びスティンガークローとして装着、割と斬れ味が高い近接武装として揮うと魔物を斬って捨てていく。

 

 使い勝手は悪いかも知れないが八重樫流を下敷きにスティンガーブレードを揮う雫、雫本人は知らされていない事実として道場剣法ではなく実戦剣術として、実は裏側でも八重樫家の名前は轟き吼えていたりする。

 

 それだけに雫の剣法も殆んど剣術と変わらない事を、知らぬは正しく本人ばかり也と割かし殺す技術を持っていた。

 

「八重樫流【霞穿】!」

 

 刀を使った時程の速度ではないが高速三段突きを放って魔物を屠る。

 

「黒渦!」

 

 合間合間でミレディが魔法を放つ。

 

 ドカン!

 

「えっ!?」

 

 ミレディが気付かない位置に湧出した魔物が、短剣に刺されて爆発をしたらしい。

 

「オー君の【小さな魔剣・爆裂式】?」

 

 そう思って方尖柱の方を見たら……

 

「違う、ゼロワン君だ!」

 

 オスカー・オルクスは苦心をしながら錬成へと集中をしていて、明らかに余所見をしていられる状態で無いのが見て取れたのに対してゼロワンの手が何かを投げた体勢だった。

 

「ランブルデトネイター」

 

 それはユートがこの世界へと来る前の世界――【魔法少女リリカルなのは】主体世界に於けるスカリエッティ・ナンバーズの五番目【チンク】が持つ先天技能(インヒューレント・スキル)【ランブルデトネイター】。

 

 手に触れた金属爆発物に変換して自らの意志を以て爆発させるISであり、当然ながら生物へと使えば結果は可成りえげつなくなる。

 

 ISも謂わば能力系に当たるからかユートの使う【模倣の極致】を使えば簒奪or転写が可能で、現在もチンクが生きている事を鑑みればどうやって獲たかは言わずもがな。

 

 尚、タイミングはレジアスがユート側にも拘わらず転生者の所為で原典通りに潰滅をさせられた

ゼスト隊、この時に死ぬ予定だった連中を掻っ攫ったユートはその場のチンクを倒して気絶させ、隠れ家でたっぷりとヤらせて貰ったのである。

 

 その際にチンクのランブルデトネイターを簒奪してやった。

 

 因みにきちんと使用するのが可能になった為、後にインストール・カードを渡して再びチンクも使える様してやっている。

 

「君、器用な事をするんだな……」

 

 オスカー・オルクスは驚愕を禁じ得ない。

 

「そんな事より遅れているぞ」

 

「む、判っているさ」

 

 自信満々だったのも理解が出来てしまうくらい迅くて丁寧、綻びなどは決して赦さないとばかりに妥協すらしない。

 

「錬成とは詰まる処がパズルみたいなものだよ、正解に向けてパズルのピースを美しく嵌め込んでいく。必ず完成形の正答があるのだから最適解を以てそれを完成させてやれば良い」

 

「至言だね、想像をして創造する。それが僕達――錬成師というものだ」

 

 口角を吊り上げて頷くオスカー・オルクスは、その最適解に向けてピースを嵌め込む。

 

「雷龍!」

 

「氾禍浪・大蛇!」

 

「震天!」

 

「グラビティクラッシュじゃ!」

 

「クロスウェイスライサー!」

 

「ジェラシーレイン!」

 

 程無くユエのビーファイターカブトやメイル・メルジーネやナイズ・グリューエンに、ティオのビーファイタークワガーに鈴のビーファイターテントウ、更にミュウのラーナモンが駆け付けた。

 

 どうやら魔物の湧出を此方に集中したらしく、向こうは全滅させた様である。

 

「フッ、これで終わりだな」

 

「そうだね」

 

 ユートとオスカー・オルクスの作業も終盤となっており、謂わば互いにパズルのピースが残す処は二欠片まで来ている状態。

 

 稀代の錬成師なだけにすぐ終わらせた。

 

「どうやら結界が働き始めたらしい」

 

「恐らく何らかの封印なんだろうね」

 

 ゼロワンとオスカー・オルクスは互いに向き合うと……

 

「御疲れ」

 

「そっちこそ」

 

 ハイタッチを交わす。

 

「結界が直ったからには僕らは直ぐ本来の世界に

還される筈」

 

「そうだろうね」

 

「記憶も恐らく曖昧になるだろうけどこれを渡しておくよ」

 

「これは?」

 

「プログライズキーと説明したメモだ。若しも覚えていたら造ってみると良い」

 

「よくは判らないが……判った」

 

 受け取ったオスカー・オルクスは中身の空っぽなプログライズキーとメモをポケットに。

 

「よかったの! クジラさんがありがとうって言っているの!」

 

 ミュウが進化を解除してニッコリと笑う。

 

「ゼロワン君! 君は、君達は……君達の生きる地で自由に生きられているかな!?」

 

 真っ赤な顔のミレディが訊ねてきた。

 

「自由な意思の下に……ね」

 

「っ! うん! うん!」

 

 それが聞きたかったミレディは涙を浮かべながら何度も頷いた。

 

「また、会おうね……未来でさぁぁぁぁっ!」

 

「ああ、また会おう。僕のミレディ」

 

 最早、聴こえてはいないだろうが……

 

 御互いの隔たりは強まり、砂嵐にでも放り込まれた様な感覚と共に【解放者】は過去へと戻り、ユート達は未来へと回帰する。

 

 ふと気が付けば気絶したレミアとミュウを抱き締めているユート、周りには『重甲』や『超重甲』が解除された【閃姫】達の姿。

 

「戻って来たのか」

 

「ん? あなた……ミュウは!?」

 

「此処だよ」

 

「嗚呼、ミュウ!」

 

 眠るミュウを抱き締めるレミア。

 

「どうやら結界の効果か覚えているみたいだね、レミアも」

 

「え、はい」

 

 特殊な結界だったからかレミアは気絶こそしていたが、あの不可思議な場所での出来事も確りと記憶していたらしい。

 

「覚えているなら丁度良い。続き、しようか」

 

「は……はい……」

 

 その意味を理解しているのかレミアは頬を朱に染めながら俯くが、顔は喜色に溢れている辺りからして嫌では無さそうで何より。

 

「むぅ、ミレディちゃんは除け者?」

 

「ミレディ……」

 

 未来のミレディは不可思議空間に来ていたのだけれど、過去ミレディだった頃に会った記憶が無いから空気を読み仮面ライダーバルカンに変身して遠くから援護射撃に徹していた。

 

「約束したろ? 未来で会おうって」

 

「う、うん!」

 

 今のミレディにはあの時の記憶が完全に戻っている為、その『約束』も確かな記憶として思い出していたのか頷くとキスをしてくる。

 

「ああっ! もう、ミレディちゃんったらズルいですよ!」

 

 ミレディが離れた瞬間にレミアもキスをしてきたのだが、此方はディープに舌まで絡ませてきたから一瞬ではなく水音を響かせていた。

 

「ちょ、レミアちゃんだって!」

 

 自分は軽く唇を重ねただけだったのにディープキスはズルい! とばかりに、ミレディも透かさずディープキスをしてくる。

 

「二人共、いい加減にしないと下半身が元気になってしまうんだが?」

 

「「望む処!」」

 

 仲良くハモる二人にユートはやれやれと首を振りながらミュウをベッドへ連れて往く。

 

 その後はたっぷりと気絶をするまでミレディとレミアの二人を愛してやるのであった。

 

 尚、色々と【閃姫】達はスキルアップをしていたのを確認している。

 

 

.




 元の小説が書籍版なだけにタブレットを使えないと参考に出来ない分、書くのが可成り遅れてしまいました。紙の本は持ってないので……




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第77話:フェアベルゲン領国

 前回程は待たせずに済みました。





 

.

「昨夜は御愉しみでしたね」

 

 ドラクエでも有名な科白を宣い凄いジト目な感じで雫が睨んでくる。

 

「応、愉しかったぞ」

 

「くっ、悪びれもしないし!」

 

「レミアとミレディを抱いて愉しくないなんて、それこそ二人に失礼ってもんだろうに」

 

「むぅ……」

 

「だいたい、聞き耳を立てていたなら入って来て混ざれば良かったんだ」

 

「あのね……ミレディさんは兎も角、レミアさんの邪魔をするのは野暮ってもんでしょ」

 

 レミアがいつしかユートに惹かれていたのは、雫だけでなく【閃姫】全員の共通した認識。

 

 最初こそミュウが『パパ』と慕う男性に対するポーズの心算だったのかも知れないのだろうが、実の『パパ』を知らないとはいえあそこまで心酔に近い慕い方にある意味で苛立ちこそあったのが本当の処、それが段々とポーズながら数年振りの男の温もりに触れている内に意識せざるを得なかったのだ。

 

 最初からマイナスとプラスが混在していた為、どちらに振り切れるもフラット――零になってしまうのもユートの行動次第、マルチエンディング的な状態だったのがレミアである。

 

 そして本当にちょっとずつちょっとずつ惹かれていったのが、決定的になったのは遂先頃の出来事だったのだからアレがトドメだったのだろう。

 

『続きを』

 

 それは正しくレミアにとって心底からの科白であったと云う、そして彼の事件を終えた昨夜には遂にユートと結ばれたレミアは雫が眠る姿を見た際に浮かべていたのは幸せそうな表情だった。

 

「レミアさんも前の旦那さんを考えてか素直にはなれなかったけど、優斗と出逢ってから少しずつだけど惹かれていたもの」

 

「それは……素直に嬉しいな」

 

 嫌われるより好かれた方が良い。

 

「あ、そうだわ」

 

「どうした?」

 

「ちょっと訊きたい事が有ったのよ」

 

「訊きたい事とは?」

 

「クロノ・トリガーって識ってる?」

 

「識ってる。有名人の三人が組んで製作をしたっていうゲームだからな」

 

 FFシリーズの坂口博信氏、DQシリーズでの堀井雄二氏、漫画家の鳥山 明氏がトリオを組んで製作したスクウェア発売のRPGだ。

 

 しかもそれ以外も可成りのドリームスタッフで製作されていたらしい。

 

「それが?」

 

「その続編は識ってる?」

 

「クロノ・クロスだな。識ってはいるしクリアもしたが、前々世の僕は頭が良かった訳では無いからストーリーが難解で、断片的にしか覚えていないな。それで?」

 

 嘆息してしまうのは嘗てを思い出したからか、クロノ・クロス自体を思い出したからか?

 

「クロノ・トリガーは刻を駆ける物語、クロノ・クロスは平行世界を往き来する物語だったわ」

 

「まぁ、そうだな。一〇年前のセルジュの生死を基点に二つに分岐した歴史をホームから移動して目の当たりにした主人公セルジュ。だからレナというヒロインが解り易く教えてくれるんだよな。ホームのレナはセルジュを当たり前に幼馴染みとして受け容れ、アナザーのレナはセルジュを死んだものとして受け止めていた」

 

「ええ、そうね」

 

「で? クロノ・クロスにまで言及したって事は平行世界に関してか?」

 

「まぁね……」

 

 ちょっと語り難そうな雫。

 

「【ありふれた職業で世界最強】というのが私達の世界なのは判ったけど、本来とは歴史? が違っているんでしょう?」

 

「そうだな」

 

 抑々にしてユートが居なくても混淆世界だからある程度の差違は有る訳だが、当然ながら雫が訊きたいのはそういう無関係な部分じゃない。

 

「例えばの話……よ。私結ばれたのは本来での歴史なら南雲君だったのよね?」

 

「そうらしいが?」

 

「あっさり答えてくれたわね。それにしてもまさかの南雲君かぁ……ひょっとしてスッゴく葛藤とかしたんじゃない?」

 

「した……らしいな。親友の好きな相手に好意を懐いて罪悪感が半端無かった様だね」

 

「そうでしょうね。他ならない私自身が若しそうなったら葛藤しちゃうもの」

 

 正しく本人だからこそ理解も出来た。

 

 今は相手こそ原典とは違うものの香織と謂わばシェアしている形だが、そうなった切っ掛けからして罪悪感とは縁遠いから葛藤はしない。

 

 何しろ生命の対価として香織と共に初めてを捧げて、その延長でユートに情を懐く様になってから好意に変わっていったのだから。

 

 香織はある種の強迫観念から『好きにならないといけない』みたいな感じからだったらしいが、それでも何ヵ月と身体を重ねていくにつれて感情も付いてきたみたいだ。

 

 尚、愛子先生は初めてを捧げた時点で生徒との情事の葛藤が凄まじく、なのに二度三度と身体を重ねたからかいつしか『好きだから仕方無い』と自分を騙す様にして心を守る内に、それが本当だと錯覚したのが事実と刷り代わった感じだろう。

 

 そういう意味では雫が一番に素直であったし、可愛らしい反応も一番に魅せてくれたもの。

 

「それに、メインヒロインは香織じゃあなくってユエさん」

 

「そうだね、前にも話したけどメインヒロインはユエだよ。寧ろ香織はフラれているらしいね」

 

「ああ、判る気がするわ。実際、優斗も言っていたものね。南雲君は香織の突撃に迷惑をしていたんだ……って」

 

「まぁね、ハジメは天之河や坂上に雫と香織も含めていっその事、異世界に召喚されれば良いのにってあの日に思っていたらしい。とはいえ、まさか自分も含めて教室内の全員が召喚されるとは露にも思わなかったろうけど」

 

 ユートの説明に汗をタラリと流す雫は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「わ、私もかぁ……」

 

 まぁ、四人組といっしょくたにされていたのだから無理もあるまい。

 

「だから思うんだけどユエさんが南雲君にとってメインヒロインという事は、ひょっとして今現在で優斗の傍に居るのって本来は皆が南雲君に侍るハーレム要員だったりするの? 正直、南雲君がハーレムを構築するってのがいまいち判んないんだけど……」

 

「今のハジメを見れば確かに考えられないよな、だけどハジメ・ラヴァーズに間違いは無い」

 

「ハジメ・ラヴァーズって……」

 

 謂わばハジメの恋人達。

 

「原典だと奈落に落ちたのはハジメ一人だけだ。命懸けでオルクス大迷宮を降りてユエを解放してからライセン大峡谷へ、其処でシアに出逢ったし

ウルの町の一件でティオと、フューレンの町での一件でミュウと出逢っているんだ。ミレディだけはゴーレムの侭で大迷宮に篭っていたがね」

 

「で、レミアさん……か」

 

 正確には香織が加わってレミアである。

 

「私はいつのタイミングで?」

 

「確か……次というか最後の氷雪洞窟で素直になれたみたいだな」

 

「そっか」

 

 何と無く知りたいと思っていた事が知れたから満足したらしい。

 

「あ、これからハルツィナ樹海の大迷宮よね? すぐに向かうのかしら?」

 

「否、その前にやっておきたい事が有るからね。一度はフェアベルゲンに寄る事になるな」

 

「そうなんだ。じゃあ、光輝は?」

 

「うん? 彼奴なら大迷宮の攻略時に出す予定。それ以外では居ても邪魔にしかならないからな」

 

「……」

 

 居ても居なくても毒にも薬にもならないならば未だしも、天之河光輝は居るだけで邪魔にしかならない毒という訳だ。

 

「本当は連れて行きたくも無いんだ」

 

 ユートからしたら最早、居なくなれば良いのにと思うレベルでウザかったという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ハルツィナ樹海の入口にオプティマスプライムをトレーナーモードで待機、天之河光輝は睡眠薬で今も眠りこけているから放置の方向でユート達はフェアベルゲンへと向かう。

 

「またお前か」

 

「確かギル……だったか?」

 

 虎人族のギルは以前にもユートと遭遇をしているから顔見知りだ。

 

「そうだ。此処に来たという事は遂にハルツィナ樹海の大迷宮に挑むのか?」

 

「まぁね、必要な物と魔法が手に入ったからさ。ギルには悪いがその前にフェアベルゲンの方でも用事が有ってな。長老連中に会いたいから部下に先触れを出して貰えるか?」

 

「それは構わないが……」

 

 元よりユート達がこの地に戻るのは折り込み済みであり、特に森人族が長老のアルフレリック・ハイピストが孫娘たるアルテナ・ハイピストを送り込み、ある程度の仲を築き上げているのだからシアの存在こそ気になるもののフェアベルゲンに入る事を忌避はされまい。

 

「ザム」

 

「はい!」

 

 前にも長老であるアルフレリック・ハイピストらを呼びに行ったザム君、此処でも再び御遣いに行かされる事になった訳だ。

 

「なぁ、ギル」

 

「何だ?」

 

「まだシアに忌避感が有るのか?」

 

「我々は古くより掟として従って来たんだ。今更ながらそれを破る事に些かの抵抗は有るだろう」

 

「まぁ、掟は大切だよな。僕らも阿保らしいとは

思いつつ昔からの掟を守ったりしていたしね」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。其処では女性は女性である事を捨てて、仮面を被らなければならない。万が一にも異性に仮面の下の素顔を見られたら……」

 

「見られたら?」

 

「見た相手を殺すか……愛するしかない」

 

「何じゃそりゃ!? 殺すのは兎も角としても、何故に愛するなんて話になる?」

 

「知らんよ。そういう掟なんだからな」

 

「いや、意味が解らん!」

 

「僕にもフェアベルゲンの掟、魔力持ちを処するとか意味が解らんよ」

 

「む!?」

 

「だけど掟は掟と従って来たんだろ?」

 

「それは……」

 

「抑々にしてそれが()()()()のだという事以外に明確な理由は?」

 

「な、に?」

 

 ギルは首を傾げてしまう。

 

「何やら面白そうな話をしておるな」

 

 ガサガサと草木を掻き分けてアルフレリックが護衛と共に現れた。

 

「アルフレリック、久し振りだ」

 

「うむ。アルテナは元気かね?」

 

「元気だよ。今はオルクス大迷宮の深奥で一種の花嫁修業をしているらしいし」

 

「ハハハハ、君に預けた甲斐はあったのかな? それで? 先ずは来訪の理由を聴こうか」

 

 片目を閉じた状態で杖を両手に持って地面へと突く森人族の長老、アルフレリック・ハイピストは早速とばかりに話を振てくる。

 

「実はそろそろ僕のトータスでの()も終わりに近付いてきてね」

 

「ほう?」

 

「生成魔法、重力魔法、空間魔法、再生魔法に加えて先日には魂魄魔法も獲た。残るはハルツィナ樹海の昇華魔法と氷雪洞窟の変成魔法のみだ」

 

「それは、また……残りは二つか。それでは此処には昇華魔法とやらを獲る為に?」

 

「主な目的はそうだよ」

 

「そういえばフェアベルゲンにも用が有るという話だったが?」

 

「ああ。エヒトが僕らを召喚した抑々の目的は、人間族を魔人族の脅威から救う為という建前だったんだが、ならばエヒトが言う様に仮に魔人族を滅ぼしたとして奴は本当に僕らを元の世界に還すと思うか?」

 

「無い……であろうな」

 

 ユートから嘗て聞いた真名エヒトルジュエは、享楽から地上で人間族と魔人族の戦争をやらせているらしく、折角の駒を魔人族との戦争だけで還してしまう筈が無い。

 

「ならば還さなかった勇者(笑)や僕らをエヒトルジュエはどう使うと思う? 否、魔人族を滅ぼした後の人間族はどう使われると考える?」

 

「それは……まさか!?」

 

「嘗て、数百年前にはエヒトルジュエの気に入らない政策をしたからと龍人族を滅ぼし、三百年前には王弟が気に入らない事をしたからと吸血種族を滅ぼした。そして今回の戦争で人間族か魔人族のどちらかが滅びたとして、()()()()は何処になるんだろうな?」

 

「我ら亜人族……か」

 

「イグザクトリー」

 

 アルフレリックにその言葉の意味は判らなかったけど、恐らく『正解』と言われたのであろうという事は理解が出来た。

 

「フェアベルゲンは霧により亜人族以外は森に惑わされるね。まぁ、僕には効かないんだけどな。だからハルツィナ樹海に引き篭れば問題は無いと思っているのかも知れないが、前にも言ったろうけど霧が邪魔なら樹海を焼けば問題も無くなる。神の狂信者共は信望する神に命じられたら手段を選ばないぞ?」

 

「む、うう……」

 

 この霧は亜人族に効かないが故に恐らくだが、数千年前にリューティリス・ハルツィナが仕掛けたものと思われる訳で、彼女が亡き後でも霧が引かないなら何らかの核が存在していて其処から力を引き出しているのだろう。

 

 その核の候補はウーア・アルト。

 

 女神ではなくハルツィナ樹海の枯れた大樹の方のウーア・アルトである。

 

 尤も、枯れているのは見せ掛けだけだというのは枯れていながら朽ちない大樹ウーア・アルトを見れば判るというもの。

 

「取り敢えず移動しないか? フェアベルゲンに入れたくないなら何処か落ち着ける場所……が樹海に有る訳も無いし、入口のオプティマスプライムにまで移動しても良いが」

 

「何、構わんよ。一応だがアルテナの婿殿という建前もあるしな」

 

 そういう意味ではアルフレリックはユートにとって義祖父となる訳であり、正式な婚姻関係ではないし結婚式だって挙げないけど間違いなく身内となっていた。

 

 アルフレリックがアルテナをユートに差し出したのは正しく英断、仮にユートが言った様な事が起きたとしても確実に兎人族と森人族だけは守られるであろう。

 

 フェアベルゲンにて長老会議が行われる場所――以前にも熊人族のジンがユートを襲って返り討ちに遭った建物に長老やユート一行が集まる。

 

 土人族の長老グゼと虎人族の長老ゼルは不愉快だと謂わんばかりの態度、熊人族の長老たるジンは決まりが悪そうな表情をしていた。

 

 翼人族のマオと狐人族のルアは中立的な立場を貫くが、マオの場合は記者魂からか可成りユートを興味深そうに見ている。

 

 森人族のアルフレリックのみは孫娘アルテナを差し出した関係からか、ユートに対しての当たりが可成り柔らかいものとなっていた。

 

 形は歪つでも義理の祖父と孫なれば。

 

「さて、話の続きをしようではないか」

 

 御茶と御茶請けが用意されてアルフレリックが一口を飲む、同じポットから出された御茶を一番に飲んだのは毒味の意味合いがある。

 

 ユートに毒物は効かないと聞かされていたからポーズみたいなものだし、仮に御茶に毒物を仕込まれずとも器に塗られていたら意味も無い。

 

 とはいえ、若し本当に毒を盛ったとしたならば犯人は黒幕も実行犯も纏めて処されるが……

 

(そういや、昔に行った世界で獣人と仲良くしたくない貴族が王に毒を盛ったよな。グラスに毒を塗って獣人側から贈られたワインに入っていたかの様にがなり散らしていたっけか)

 

 ユートが解決したら獣人側大使の妹さんに懐かれたのはある意味で当然の流れ――その事件の前に出逢っていて迷子だったのを助けたのも有るし――

だった訳だが、人の善し悪しを計れる魔眼持ちな可愛らしいお姫様にも好かれて押し掛け嫁に。

 

 世界神に改造して貰ったスマホでユーキへと確認したら、どうやら獣人大使の妹さんが懐き過ぎた事以外は原典的に規定路線だったらしい。

 

 基本的にユートは獣人とか好きな部類であり、意味無く排他だったり傲慢だったりしない限りは友好的に接するし、何ならエルフやケモミミ娘が【閃姫】に居たりもする。

 

 出逢った当初はまだ幼かった大使の妹さんも、数年後――彼女やお姫様より先に出逢った王の弟の公爵の娘がヤれる年齢になる頃には充分な年齢に成っていて、その子もユートの【閃姫】として受け容れたのだった。

 

 因みに、原典主人公はハーレムを築きこそしたけどユートとは違いファンタジー貴族を人生経由していない為、どうしても複数の嫁を貰う事には抵抗があったらしく――それでも九人も嫁が居る――どうしても二の足を踏んだ様である。

 

 ユートは金を稼ぎまくっていた事や貴族としての身分、転生前も実妹により牽制されていたから女の子との縁が実家の分家筋以外に無かったけど本当はモテていた事実、それらが総合されたのかハルケギニアでは正妻が二人――ド・オルニエール大公家とラ・フォンティーヌ侯爵家のそれぞれにシエスタとカトレアが正室として入った――以外に側室として貴族家から輿入れしたり、隣国の姫を孕ませるまでヤり続けたりしたしメイドや平民の女の子や、借金の形にと貴族から受け取って平民の愛人より下の扱いで閨係を受け持たされる事になった八歳~一六歳くらいの娘などあの頃だけでも百人を越えて性的な関係を持ったユートだけに原典主人公が手を出さなかった娘らも普通にヤっちゃっていた。

 

 本当に因みにだが、八歳~一〇歳の娘は数えで一二歳までは手出ししてはいない。

 

 ハルケギニアに年齢による法的区分は無いし、どうやらこのくらいの年齢でも貴族同士や平民同士は兎も角、貴族が平民に手を出すのなら普通にやらかすらしくて平然と送り込んで来たのだ。

 

 お陰様? でユートの性的倫理観はぶち壊れてしまって守備範囲が拡がった。

 

 元より合法ロリは好みだったのに糅てて加え、タバサやジョゼット(ユーキ)を相手にする関係から多少の幼い容姿に慣れてしまったのである。

 

 何しろミニマムなあの双子は年齢より明らかに幼い容貌なのだから。

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

「さて、アルフレリックとは少しだけ話したんだけど初めから話す……僕のトータスでの旅も終盤に差し掛かっている。実際にハルツィナ樹海の迷宮に挑めるだけの条件が揃った。四つの印に関しては既に五つ、再生の力もメルジーナ海底遺跡にて再生魔法を獲ている。神代魔法は残す処は二つ、それがハルツィナ樹海の昇華魔法と氷雪洞窟での変成魔法だ」

 

「確かに終盤だな。そしてハルツィナ樹海に在る神代魔法をも獲る訳か」

 

「そうだよ、アルフレリック。召喚された僕らが元居た世界に戻るには神代魔法を獲ないとならないだろう。エヒトルジュエも恐らくはそこら辺の力で召喚したんだろうし、ならば真逆の送還も同じく神代魔法を必要とするだろうからね」

 

 実際にはユートならディケイドの力でオーロラカーテンを出し、識る世界であるなら往き来する事が可能だったから神代魔法を獲る必要は無い。

 

 試した事があるけどディケイドの力の中には、どうしてか鳴滝が使っていたオーロラカーテンが存在しており、後から令和ライダーすら識っている狼摩百夜に聞いたらディケイドの門矢 士も普通に使っていたとの事。

 

 【仮面ライダージオウ】で殆んどレギュラーの扱いで現れ、オーロラカーテンを展開して世界間を往き来していたのだと云う。

 

 たがら仮面ライダーディケイドの能力を有するユートなら、このオーロラカーテンの力を扱えてもおかしくないらしい。

 

 とはいえど、それをすると下手をしたら地球の座標を知られてエヒトルジュエの干渉を赦してしまいかねなく、結局はアレを処する必要性があると考えたから取り敢えず神代魔法を獲る大迷宮廻りに精を出している。

 

「先程もアルフレリックには話したが、エヒトルジュエが僕らを還す事は無い。それ処か魔人族を滅ぼした後は亜人族へと矛先を向けるだろうね。仮に滅ぼされたのが人間族でも変わらない」

 

「なっ!? どうしてそうなる!」

 

 虎人族の長老ゼルが叫ぶ。

 

「僕の得た情報では亜人族とは嘗て、エヒトルジュエが人間族を攫って魔物の持つ因子を加えて造り出した人造生物の子孫だ。奴からしたら原種である人間族や成功作の魔人族に比べて失敗作たる君らを残したいとは思うまいよ」

 

「失敗作!? というか、エヒトルジュエに造られたとは何だ!?」

 

「まぁ、もう数万年は前だと云うから誰の記憶にも何処の記録にも無いんだろうがな。エヒトルジュエは自らを宿す肉体を造る為の実験で原種となる人間を幾人も攫い、先にも言った通り魔物の持つ因子を植え付けてキメラを造ったらしい」

 

「そ、それが我らの先祖……だと?」

 

「そうだ。だけど最初に造られた亜人族は魔法を扱えない失敗作、後に龍人族や吸血族や魔人族を造ったみたいだな」

 

 いずれも高い魔法への適性が在るから成功という事なのだろう。

 

「亜人族が昔から蔑視を受けるのはエヒトルジュエからすれば君らが失敗作だから。それにヒトは下を蔑ませれば安心感を持つからな、不満なんかは下を捌け口にすれば良いって話なんだろうさ」

 

 下に不満の捌け口が在れば上に態々突っ掛かったりしないし、魔法を扱えないから幾ら身体能力が高くても結局は狩り易い獲物と化してしまい、殺り易くて犯り易い。

 

「事実、君らは禁忌の掟がどうのとたった一人の兎人族の少女を寄って集って処する処すると騒ぎ立てていたな? 実に愉しそうだった」

 

「うっ!? ち、違う! 掟だから……」

 

 ゼルが言い訳をするが……

 

「大迷宮の攻略者には手を出すなというのも掟だった筈だけど君らは挙って無視をしていたよな、選りにも選って長老が自ら率先をして手出ししてきた上、やられたら逆恨みをして襲われても殺すなとか言うわ、ハウリアを殺すぜ! とか抜かすわと掟はどうした? な感じだったろうに」

 

「「うぐっ!」」

 

 ゼルだけでなく熊人族の長老ジン・バントンも二の句を告げなくなる。

 

 掟掟と言う割には長老衆の間で定められた掟をガン無視したジン・バントン、成程……確かめてみたいのは無理も無いけど試合をするというのならまだしも、行き成りバカ力に任せて殴り掛かったのはどうであろうか?

 

「前置きは長くなかったが、君らが置かれている立場は理解して貰えたかな?」

 

「この侭、我々も安穏とはしていられないと? いずれは対岸の火事だった人間族と魔人族の戦争が決着したら、次は僕らフェアベルゲンが渦中に巻き込まれる……かな?」

 

「そういう事だ」

 

 狐人族の長老ルアは理解をした。

 

「その場合に君が助けるのはハウリアと森人族、シア・ハウリアとアルテナを差し出した形だから君の身内扱いなのだね?」

 

「その通りだ。この場合は例えば崖っぷちで落ち掛ける森人族と熊人族が居たら、どちらを助けるかの二者択一なら悩むまでも無く森人族だよ」

 

「ふむ、若し僕ら狐人族からも女を差し出すと言ったなら助けて貰えるのかい?」

 

「優先度なんかはあるだろうが、選択肢で初めから外したりはしないだろうね」

 

 少なくとも『どちらを救いますか?』という、選択肢くらいは出てくる筈だ。

 

「君に亜人族に対する(わだかま)りは?」

 

「無いな」

 

 澱み無く即答だったと云う。

 

「今までの経験から向こう側による傲慢な態度だったり、或いは超が付く排他的だったりする事は屡々あったけどね。僕の方から突き放したりはしなかった心算だよ」

 

「それは重畳」

 

 ルアは満足そうに頷いた。

 

「それで、そんな話をするからには貴方に某かの意見があるのですか?」

 

 翼人族のマオが訊ねてくるのは良いのだけど、何故か彼女はペンにノートらしきを手にしている辺り、ユートはふと『マスゴミ』という褒められない単語が脳裏に浮かんだ。

 

 『マスゴミ』とはマスコミの中で特に対象者の

粗捜し、揚げ足取り、プライバシーの侵害、時には事実の捏造すらして『報道の自由』の意味を履き違えて振り翳す塵芥な記者である。

 

 そういえば一歩間違えれば『マスゴミ』に成りかねない生徒が、麻帆良女子中学校にてユートが副担任を務めた3ーAに居たなと思い出す。

 

「ある」

 

「それはどんな?」

 

「こういう場合は後ろ楯を得るのが良い」

 

「後ろ楯……? 話の流れからして貴方が後ろ楯になるという事?」

 

「正確には僕個人じゃない」

 

「と、言いますと?」

 

「僕は異世界でアシュリアーナ真皇国の真皇という座に就いている」

 

「アシュリアーナ真皇国?」

 

 耳慣れない言葉にマオだけでなくアルフレリックやジンにグゼにゼルも、首を傾げてしまうしか無い様で互いに顔を見合わせていた。

 

「アシュリアーナ真皇国とは僕がその昔に存在したアシュリアーナ公国の公女を娶り、公王という形で新たに興した国が大きくなって今現在の形にまで成った国だよ。僕の君主号は【真皇】だけど大概は昔の【真王】の方を使うね」

 

 ベルカではとある国の外れの小さな公国でしかなかったアシュリアーナ公国、双子の公女であった姉のラルジェント・ル・ビジューと妹のリルベルト・ル・ビジュー、然しながら姉のラルジェントは前世での経験からか引き篭りがちであったが故に、亡き公王から引き継いで国政はリルベルトが執り行っていた。

 

 別の異世界にてアシュリアーナ聖王国が聖王女

だった二人、ラルジェント・ル・ビジューは既に囚われの身で国政はリルベルト・ル・ビジューが執っていて、実は見た目からはそう見えないけど二児の母だった彼女は死ぬ前にユートとの取り引きに応じている。

 

 『最期まで息子達の行く末を見守りたい』と、死ねば出来なくなる事をしたいが故に。

 

 それに応じる対価として聖王女リルベルトは、来世の人生をユートへと委ねたのだった。

 

 先に消滅していたラルジェントまで紐付けされ双子として再誕したのは思いも寄らなかったが、折角だから姉妹としての生活も愉しませて貰っていたらしい。

 

 リルベルトがアシュリアーナ公国の第一公妃となり、公王として立ったユートを自らの転生後も持つ【神力魔導】を用いて隣に立ち闘った。

 

 その後は公国から王国となり、ユートが既に呼ばれていた【真王】の君主号からアシュリアーナ真王国としてベルカの諸王と肩を並べる。

 

 当時は聖王女といえば【ゆりかごの聖王】の座に就いたオリヴィエ・ゼーゲブレヒトを指していたから、アシュリアーナ聖王国の聖王女なんてのを名乗るのは憚られたらしいし、リルベルトの夫となったユートが真王なら真王妃で良かった。

 

 第二真王妃と第三真王妃としてシュテル・スタークと暁美ほむらが娶られ、更には愛人枠としてヴィルフリッド・エレミアがユートの傍に侍る。

 

 とはいえ、ベルカの乱世は互いに空を大地を汚す兵器を使っての滅し合いに等しくなった為に、ユートは真王国だけでなく竜王国など亡びた国の民を連れて離脱、当時から人が皆無な無人世界であった世界に入植して【アシュリアーナ真王国の領国】という形で治めていく。

 

 そうして統合されたのが現在の形に成っているアシュリアーナ真皇国であり、ユートは王の中の王的に君主号が【真皇】となるのであった。

 

 古代遺失物や質量兵器などと時空管理局からは呼ばれそうな物を平然と防衛兵器としている為、幾度と無く時空管理局の海側とは戦り合っているものの、敗けた事が無いから向こうもでかい声で非難も出来ない上に、時空管理局のトップである最高評議会がやらかしたが故に最早、説得力に欠けるからか何も言って来ない。

 

 そんな国のユートは国主。

 

「長老による議会制はその侭に、その上へ女王を置いて僕がその女王を娶る形を以て『アシュリアーナ真皇国フェアベルゲン領国』を成立させる事を提案する!」

 

『『『『『っ!?』』』』』

 

 それは長老衆だけでなく、雫達も聞いてはいなかったユートの国防プランであったと云う。

 

 

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 ifでのプランに近いです。



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第78話:アシュリアーナ真皇国

 最近は可成りの遅筆っ振りです。





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「アシュリアーナ真皇国フェアベルゲン領国? つまりは婿殿の国が後ろ楯となる……と?」

 

 ユートの言葉にアルフレリックが目を見開いて驚きを露わにし、ルア、グゼ、ジン、マオ、ゼルという五人の長老も戸惑いを隠せない。

 

「幸いにも僕は様々な世界を巡り、様々な種族と触れ合う機会に恵まれたからね。亜人族も君らみたいなの以外に可成りの存在と多々出逢ったさ。だから僕には亜人と呼ばれる者への蟠りも侮りも相手がそれを持たければ此方も持たないな」

 

「相手が持たなければ……とは何かね?」

 

 アルフレリックの質問だったが、ジンもゼルもグゼも心当たりがあったのか目を逸らす。

 

「例えば『高が人間風情が』と何処ぞの熊人族が

叫びながら殴ってきたら、此方もそれこそ殺す勢いで一切の遠慮無くぶん殴るだろうね」

 

「ああ、成程の」

 

 ジンを見て頷いた。

 

 事実としてユートは数十発分の殴られた攻撃をやり返し同じ回数を殴ってやったのである。

 

 但しジンの拳はユートには効かなかったけど、ジンは後で回復薬を湯水の如く使わないといけない重傷を負い、ユートがフェアベルゲンを出る際にベホマを掛けなければ今も臥せっていたろう。

 

 実際に本来ならもう闘いは出来ない身体になっていた筈だが、ユートのベホマにより快復をしているから闘う気があるのならば闘える。

 

「女王を置いてお前さんが娶るか、確かにそれならばお前さんにはフェアベルゲンに強い縁が結ばれるな。然し女王とは誰を?」

 

「いや、アルテナに決まっているだろ」

 

「ま、まぁ確かにな」

 

 追放状態のハウリアは女王など有り得ず、それでユートが知る亜人族の女の子はアルテナくらいしか居ないのだ。

 

「とはいえ、飽く迄もアルテナの女王就任ってのはフェアベルゲンを纏める為の方便。それにより森人族が亜人を支配するって話には繋がらない。先にも言ったが長老議会による合議制を無くす事は無いし、だからといってアシュリアーナ真皇国が君らを支配、隷属させるなんて莫迦な話にも決して繋がらない。一応は宗主国として徴税はするだろうが、亜人族の生活は基本的に変わらないと思ってくれて構わない」

 

「確かに奴隷の様に扱われては堪らぬな。保証は君がしてくれるのだな?」

 

「ああ。僕に亜人に対する蟠りが無いからには、トータスで永らく行われてきた酷い蔑視なんかはしないさ」

 

 【ハイスクールD×D】世界の妖怪なんて正しくトータスの亜人と似たり寄ったり、【閃姫】として名を連ねた九重や母親たる【半閃姫】の八坂は狐人族の長老ルアと似た狐耳と狐尻尾を持つし、九重がヤれる見た目にまで成長してから初めてを八坂に導かれつつユートに捧げ、二人して御奉仕をする親子丼を喰っちゃうくらいに燃え盛ったのは良い想い出だろう。

 

 翼人族にしても単純に翼を持つだけであれば、再誕世界の半妖たる桜咲刹那が白い翼を持っている烏族の女の子だったし、【グローランサー】の世界には有翼人が存在していて何の因果かやはり半有翼人のモニカ・アレンと仲好くなった。

 

 尤も、モニカと仲好くなるのはハルケギニアにユートが転生をさせた関係から義務に近いものがあったのも事実だが……

 

 他にも獣人やエルフなんてファンタジー世界ではよく有る種族なだけに、ユートが仲好くするのも別におかしな話でもない。

 

 フェアベルゲンでも熊人族の長老ジンが余計な茶々を入れなければ、ユート側からは仲違いをする心算など更々無かったのである。

 

 図らずもアルフレリックがアルテナを差し出したが故に、今回の事をユートが考えたのであるから彼の功績は大きいと云えた。

 

「それと掟関係の整理もしておきたい」

 

「掟か。ハウリアの為……否、シア・ハウリアの為にかね?」

 

「それが無いとは言わないが、実際にはちょっと違ってね。あの魔力持ちを魔物の力を持つ忌み子とする掟には物申したい。シアとは関わり無く、掟その物に僕は疑念を持っているんだ」

 

 ユートの言葉はやはり長老衆には意味が解らないのだろう、又も互いに顔を見合わせながら困惑の表情を浮かべていた。

 

「掟に疑念とは何だ?」

 

 掟を盾にユートに殴り掛かった経験を持っているジンが訊ねて来る。

 

 熊人族は腕力至上主義な処はあるのだろうが、ジン・バントンは長老なだけに多少は脳筋な部分が薄かったらしい。

 

「取り敢えず大迷宮攻略者に手出し無用だとか、気に入ったら大樹に案内をするだとかは良いさ。問題なのはやっぱ魔力持ちを処するってヤツだ」

 

「まぁ、シア・ハウリアの事を考えるならばそう言うだろうな」

 

 頷くジン・バントン。

 

「それで、その掟の何処に疑念が有るんだい? これからを考えて話は聴くさ」

 

 ルアも聴く体勢だ。

 

「君ら亜人族はこのハルツィナ樹海で霧に紛れていれば、ある程度は高い身体能力で人間族を斃せているだろう。だけど外に出たら熊人族でさえも人間族の奴隷として連れ去られる事も屡々ある。それは何故だ?」

 

「知れた事。奴らが魔法を使うからだ」

 

 亜人族は魔法を使えないが人間族は使えると、この一点が身体能力的に優位な筈の亜人族が奴隷に甘んじる理由、勿論だが死ぬ気で頑張れば何人かを道連れには出来る……だが無意味だ!

 

 結局は自己満足で死ぬだけなのだから。

 

 長老達ですらフェアベルゲンの外に出たいなどとは思わない。

 

 人間族は単純な身体能力に於いては熊人族は疎か虎人族や土人族にも敵わないが、魔法が使えるのと奸知に長ける部分があった。

 

 森人族のアルフレリックや孤人族のルアくらいなら未だしも、ジンやゼルやグゼは脳筋の類いだからどうしても相性は良くない。

 

 因みに兎人族は賢い訳でも況してや戦闘力が高い訳でもないが、気配探知や穏行に長けている――つまりは逃げ隠れが巧い種族である。

 

 ハウリア一族は仮面ライダー黒影トルーパーに変身が可能なのと、元々に持つ種族特性に加えて

ユートからの修業を【教導B】の恩恵を受けた上で一年間を過ごした事で、度胸も満点で果てしなく天井上がり、判らんちん共をとっちめるだけの戦闘力を身に付けていた。

 

 特にシアの場合は魔力操作という技能と共に、高い魔力を持ち合わせていて――魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅲ][+集中強化]

と派生技能も単純な身体能力の上昇が見込める。

 

 [変換効率上昇]は数字がイコール魔力を強化に充てる派生技能であり、Ⅰで魔力1が魔力と魔耐性を除く能力値が+1となるからⅢのシアは能力値が+3となっていた。

 

 3とは少ないと思うかも知れない、然しながらシアの魔力は既にユートに処女を捧げてプラスされている上に、【閃姫】契約による上昇分も含めれば10000を優に越えているのだ。

 

 仮に魔力が15000ならば×3で筋力と体力と耐性と俊敏が+45000という事、変換効率上昇とは即ち掛け算なのだから。

 

 ユートに抱かれるというのは決してマイナスな事ではなく、友愛にせよ情愛にせよ愛を以て抱かれたなら処女喪失という代償で能力の上昇や技能の修得乃至は俊英化が成され、極々稀にではあるが【輝威(トゥインクル)】を獲る場合もあった。

 

 当たり前な話だが所謂、未亡人で夫を亡くした女性は基本的に処女ではないだろうからこの恩恵には与れない。

 

 だけど処女膜さえ有れば問題は無いらしいと、実は最近になってだけど判明している。

 

 プレシア・テスタロッサ相手に。

 

 何故ならプレシア・テスタロッサはアリシアを産んだ未亡人、夫とは生活の擦れ違いから別れたと聞いていたユートが婚姻前くらいに肉体年齢を戻したら肉体的には処女な筈で、その上でプレシアを抱いて処女膜を貫いたらどうなるか? という実験を本人に了承を得て試してみたら実際に能力値が上がっている事が確認が出来たし、何なら正式な【閃姫】契約すらも可能だったのである。

 

 聞けば婚姻は二三歳でアリシアを授かったのが二八歳の頃だったと云う、そして研究があったから結婚までは肉体関係を持たず処女喪失は初夜だったらしいので、二二歳くらいにまで肉体年齢を巻き戻してやった。

 

 約三十数年振りな二度目の破爪をたっぷり愉しんだ後、魔力が可成り上がっていたのには吃驚するしかなかったし、身体能力もそこら辺の男顔負けなレベルで上がっていたので実験は成功。

 

 約六〇年の人生経験のお陰か、本当の意味での初めては単に痛いだけだったらしい破爪も二度目は痛みを愉しむ余裕すらあったと云う。

 

 尚、若かりし日のプレシアは黒髪のフェイト・T・ハラオウン――つまり【StrikerS】のフェイトを彷彿とさせてくれた。

 

 やはり親子である。

 

 

 閑話休題

 

 

「そう、魔法というアドバンテージが有るからこそ人間族は優位に立てるんだ」

 

「何が言いたいのかね?」

 

「アルフレリック、誤魔化しはいい加減で止せ。それともまさか本当に気付かないのか?」

 

 ユートの痛烈な科白に然しものアルフレリックも目を逸らす。

 

「どうやらきちんと気付いてはいるみたいだし、其処は少しばかり安心をしたよ」

 

「むう、確かに御主の言う通りだろうな」

 

「アルフレリック?」

 

 ジンが訝しい表情となる。

 

「ジンよ、我々は魔法を使えるであろう魔力持ちの同胞を処してきた。だが若しも保護してきたら魔力持ちもある程度は増えていたろう。そうなれば魔力持ちの同胞が人間族を抑えて奴隷化される者も減ったのではないか?」

 

「なっ!?」

 

 掟を真っ向から否定する言葉を長老の一人たるアルフレリックから出て、ジンは言葉を失う勢いで驚愕を露わとしてしまう。

 

「アルフレリック、それは禁忌の者を……魔物の力を持つ悪魔の子を庇い立てるという事だぞ!」

 

 ゼルが叫ぶが……

 

「くっくっ!」

 

 ユートが笑う……否、嘲笑う。

 

「何が可笑しい!?」

 

「別にアンタを笑ったんじゃない。昔に僕が関わった世界で勇者をやらされた事があったけどな、魔王に憑かれた王に『悪魔の子』呼ばわりをされたな……とね」

 

「はぁ?」

 

「本来は世界を救う勇者が=『悪魔の子』だと、散々っぱら追い掛け回されたものだよ」

 

 それ自体は嬉しくない想い出ではあるのだが、あの世界で得た【閃姫(モノ)】も多い。

 

 だから苦笑いが浮かんだ。

 

 因みに【閃姫】は基本的に元の世界から出たらユートの創造した冥界のエリシオンに住まうが、それ以前は星帝ユニクロンの内部宇宙の始まりの星に居住、更に以前はハルケギニアが存在している星の龍状列島に住んでいた。

 

 勿論、【閃姫】以外に彼女らが傍に置きたいと願った人間なども住む。

 

 例えば【SAO】主体世界の【閃姫】の一人である桐ヶ谷直葉としては、兄である桐ヶ谷和人とその妻となった桐ヶ谷(旧姓:結城)明日奈くらいは死に別れたくないと言われ二人を招いている。

 

 尤も、折角だからとSAO関連の仲間は割かし皆が住んでいたりするけど。

 

 【閃姫】と同じく招喚に応える義務さえ果たせば自由に暮らせる環境で、SAO組はVRゲームをやりながら暮らしに必要な仕事をしていた。

 

 エギルも奥さんと喫茶店を経営しているくらいに馴染んでいる。

 

 それは兎も角、ユートとしてはフェアベルゲンの者に訊きたい事が有ったのだ。

 

「それで、僕としては訊きたいんだが」

 

「ふむ?」

 

「あの魔力持ちを処せって掟は()()()()作ったんだろうな?」

 

「な、何だと?」

 

 アルフレリックではなくジンが声を出したのも無理はない、掟を作ったのが誰かなどと根源的な事を訊ねられたのだから。

 

「いつで誰が……だよ。そんな意味不明な掟を作ったのは……?」

 

 意味不明……確かに魔力持ちを損なうというのがフェアベルゲンの国益にならないというのなら、これ程にも莫迦げていて意味が判らない掟というのも珍しくないだろうか?

 

「そうだよねぇ」

 

 頷くのはミレディだったが、ライセン大迷宮から仲間入りしたからフェアベルゲンの面々には誰なのかさっぱり。

 

「だ、誰かね?」

 

「問われて名乗るのも烏滸がましいが、我こそは

嘗て世界の邪悪なる神に反逆せしめた偉大なりし七人にしてリーダー! ミレディ・ライセンとはこのミレディちゃんの事さ!」

 

 右手の横チャキでぱっちり御目めをウィンクしながら、左足を軽く横上に膝曲げしつつブリブリな娘っ子を演出して高らかに名乗る。

 

『『『『『『『うざっ!』』』』』』』

 

 この時こそ外様とフェアベルゲンとか人間族と亜人族など、隔てる某かを越えて全員の心が一致していたのだと云う。

 

 ユートとの出逢いというか再会からその兆候も無かったが、正しく『うざレディー』の面目躍如といった処だった。

 

「ミレディ・ライセンだと? 莫迦な……人間族であった彼女が森人族であった我らが祖とも云うべきリューティリス・ハルツィナより長生きが出来る筈があるまい。況してや見た目は十代半ばくらいではないか!?」

 

 祖……とはいっても直接的な先祖という訳ではないのだが、ハルツィナを治めていた身分だったのは伝わっていたらしい。

 

 まぁ、王族宜しくハルツィナの名を冠しているのだから判りそうなものか。

 

 とはいえど、ライセン大峡谷を除けば大迷宮が

存在する土地は反逆者とされた【解放者】が迷宮を造り上げてから後、いつの間にか彼らの名前が付けられていた様ではあるが……

 

 それこそいつ誰が付けたのかは判らないけど、【解放者】の主要人物が拓いた場所だとは当時なら判っていただろうし、本当にいつの間にか定着をしていたのかも知れない。

 

 アルフレリックがミレディ・ライセンの名前を識っていたのは、【解放者】主要人物七人の名前がリューティリス・ハルツィナにより残されていたからであろう。

 

 実際にオスカー・オルクスの名前も彼は識っていたのだから。

 

「ミレディは正真正銘、ライセン大峡谷に設置をされたライセン大迷宮の主たるミレディ・ライセン本人だよ。恐らくは仲間達が造ったゴーレムに

魂を定着させて生き続けたんだ」

 

「仲間達とは【解放者】のかね?」

 

「ゴーレム本体はオスカー・オルクスの生成魔法で構築、メイル・メルジーナの再生魔法を付与して多少のダメージは再生させられる。ゴーレムには関係が無いがナイズ・グリューエンの空間魔法でゴーレムの巨体が動く空間を確保、アザンチウムで護られたゴーレムの核に魂を宿す器をヴァンドゥル・シュネーの変成魔法で造り、ラウス・バーンの魂魄魔法で魂魄を抜き取り宿したんだろ。そして全体的な強化にリューティリス・ハルツィナの昇華魔法を使った。更にゴーレムはミレディ本人だから重力魔法が使えたしね、正しくアレは【解放者】七人のコラボレーションだったよ」

 

 ミレディゴーレムが如何無く闘える場を整えたナイズ・グリューエンも含めて。

 

「ユー君……」

 

 仲間を褒められたのが嬉しかったのか、ミレディの顔が真っ赤に染まって瞳が潤んでいる。

 

「まさか、千年を越えて【解放者】が未だ生存をしていたとはな」

 

「運が良かったとも云えるな。魂が確りと確保されていたし意識もはっきりと持っていたからね、

肉体は魂魄に生前の記録が残っているからそれを基に再成し、新品になった肉体へミレディの魂を括り直してやった訳だ」

 

「御主、死者の蘇生が出来るのか!?」

 

「このトータスには死後の世界――冥界なり冥府なりソウルソサエティなりが存在しなかったから、死者の魂は一〇分もすれば消失する。強い魂魄なら来世に転生も出来る、怨念にでも塗れていればこの世に繋がれてしまう。だけど普通は消失するもんだからね」

 

「そうか……」

 

 とはいえ、今は冥界の主たる冥王ユートが居るからトータス出身の魂も消えたりしないでユートの冥界に導かれるけど。

 

 先代冥王ハーデスをアテナがニケで刺し貫き、消滅の間際でユートはハーデスの神氣を奪った。

 

 結果、【カンピオーネ!】主体世界へと行って神殺しの魔王――カンピオーネに転生をしたユートは神氣を権能に変換、この時点で一九九〇年に於ける冥王ハーデス、二百数十年前のLCに於ける冥王ハーデス、NDに於ける冥王ハーデスから獲た神氣で三つの権能を簒奪していた。

 

 文字通り冥王の箱庭たる冥界を自由に創造してしまえる【冥王の箱庭の掟(ヘル&ヘブン)】、しかも創造の際に必要な部分は違えず創造が可能な為に、【創成】を掟に組み込んだからかユートが組成を識るであろう鉱石や宝石などが無制限に産出される故、ユートが自身の冥闘士に仕立てた元黄金聖闘士の二人――牡羊座のムウと元教皇でもある牡羊座のシオンは大喜び。

 

 何しろ神鍛鋼やガマニオンや銀星砂が好きに使いたい放題のやりたい放題だから。

 

 二つ目はハーデス百八の冥闘士を生み出す力、百八個の冥衣を創造する【天輪する百八の魔星(ランブル・スペクターズ)】、聖衣モドキである元黄金聖闘士が着ける冥衣以外の冥衣の創造を可能とし、ユートの意志か冥衣の意志で冥闘士を選んでしまえる。

 

 事実としてそうやって選んだ冥闘士が何人か既に存在しており、例えば天猛星ワイバーンの奏は【戦姫絶唱シンフォギア】で死亡した天羽 奏へと冥衣を渡したのだし、天貴星グリフォンのセレナは同じ世界のセレナ・カデンツァヴナ・イヴへと冥衣を渡したし、天雄星ガルーダのアイリは再誕世界の第四次聖杯戦争で死んだアイリスフィール・フォン・アインツベルンに冥衣を渡した。

 

 【冥界返し(ヘブンズキャンセラー)】というのは名前の原典は【冥土返し】、名前は漢字が違う以外に変更は無い。

 

 生きてさえいれば基本的に誰でも死なせないというカエル顔の医者、ユートのはハーデスがやっていた一二時間の限定的な蘇生である。

 

 LCのハーデスは平行世界の存在だったからか悪くない権能だったが、NDのハーデスはユートがアテナと滅ぼしたハーデスとある意味で同一の神だからかショボい権能だった。

 

 それに【冥界返し】の派生権能で、大地に群がる人々の屍をゾンビの如く使役する【地獄絵図(ヘルズゲート)】、死者の冒涜とも云える権能で死んだ人間……に限らないが存在にAIみたいな知能を与えて自在に動かせる。

 

 千人の死体が有るのならば千体もの兵隊が造られるという訳だ。

 

 因みに、【ハイスクールD×D】世界の冥府の王ハーデスと【ゲート】世界の冥王ハーディからも神氣を得ており、幾つか派生権能を修得するに至っている。

 

 内の一つが冥王ハーデスの冥衣の創造と神衣への転神……本来、神衣とはギリシア神話体系に於けるオリンポス一二神が纏う鎧。

 

 実はハーデスはオリンポスの三大神でありながら天帝ゼウスと海皇ポセイドンと違い、オリンポス一二神ではないから神衣は無いと思われるが、それでも謂わば三幹部とも云えるだろう彼に神衣が無いとは考え難い。

 

 そんな想いが冥王の神衣を創り上げた。

 

「然し、死者蘇生などと……我々は魔力が無いから判らぬが、そんな魔法も有るのかね?」

 

「無くはないわね。とはいえ魂なんてのはものの数分もあれば消えちゃうから、蘇生したいのならその間に魂魄魔法と再生魔法を使わなきゃだね」

 

 再生魔法で肉体修復を行い、魂魄魔法で抜けた魂を保護して肉体に戻すというのが流れ。

 

 正確には魂魄魔法で魂の保護→肉体の修復→魂を戻すという流れだろう。

 

「けどさ、多分だけど可成り時間は掛かるよ~。少なくともユー君がミレディさんにやったみたいな短時間では無理だよね。魂魄魔法で魂の定着をする場合は数日間は掛かるんだから。

 

 ユートは僅かな時間でミレディの肉体を魂からの記録を元に創造、魂をその創造した肉体に謂わば定着させるのに一分足らず。

 

 一〇分も有れば完了していた。

 

 正しく例えればクロックアップしたカブト系のライダーを視る別世界のライダー。

 

「リューちゃんが昇華魔法を使っても有り得ない速さだったもんね」

 

「リューちゃん?」

 

「君達も知ってるリューティリス・ハルツィナ、ミレディちゃんは許可されてリューちゃんって呼んでるよ」

 

 ざっくばらんに呼べる仲だから。

 

「このハルツィナ樹海の祖と云うべき方ですな、とはいえ何分にも我々すらその実態は判らぬから教えて貰えぬかね? ミレディ・ライセン殿」

 

「え、知りたいの? 余りお薦めしないけどさ……知りたいなら教えるよ」

 

「是非に」

 

「……判った」

 

 悲壮な覚悟でミレディはリューティリス・ハルツィナについて語る。

 

「先ず、リューちゃんは【ハルツィナ共和国】の女王様。あの国は、“守護杖”っていう代々の王に受け継がれていたアーティファクトに選ばれた者が王に成るんだ」

 

「つまり、血縁で王の子が継ぐ訳じゃ無いのか。王子や王女が居るとかじゃなくて?」

 

「無いね。実際、リューちゃんは乙女な侭だし。“守護杖”はリューちゃんだからこそ自在に扱える代物だったよ。その分、幼い頃から次期女王として孤独感があったらしいよ」

 

「そりゃあ……つまり『ぼっち』か」

 

 ぼっちな女王様とか。

 

「天職持ちで『蟲心師』」

 

「ちゅうしんし? 中心? 否、若しかしてそのちゅうしんしのちゅうはこう書くのか?」

 

 『蟲』である。

 

「そだよ~」

 

 苦笑いがやけにリアリティーをそそる。

 

 天職を持たない人間も居る中で天職持ちなのは良いが、選りに選って蟲を操る天職とは『ぼっち』なのも已むを得ないのか?

 

 蟲を操るなら当然だが『G』もアリだろうし、あの黒光りをする台所の悪魔はシエスタからして殺意の波動に目覚めそう、あれを何万と操れてしまう女王様とは何なのやら。

 

「何より凄まじかったのが、実はリューちゃんってばドMだったんだ」

 

 ドMだったんだ……ドMだったんだ……ドMだったんだ……

 

 全員が固まった。

 

「ド、ドM?」

 

 まるで絞り出すが如く訊くアルフレリックに対して、ミレディは明後日の方角へと視線を逸らしながら然し確りと頷く。

 

「メル姉がさ、獣人族ってか海人族なのに私達と居るのが気に入らない奴と模擬戦をしたんだけど……ね、勿論だけど神代魔法の使い手に敵う筈も無くってドS全開なメル姉に『ワン』と吠えさせられたんだよ。狼人族だったのにね? それを見たリューちゃんがさ……メル姉を『御姉様』とか呼び出すし、オマケに顔を真っ赤にしながら『ハァハァ』しちゃうし……ねぇ」

 

「ゲフッ!」

 

 アルフレリックが血を吐いた。

 

 まさかの同族が、しかもハルツィナ共和国を治めた女王がドMだったとか。

 

「罵倒されて『ハァハァ』、鞭で打たれたら打たれたで『初めての経験』とか言いながら御股を濡らして『ハァハァ』しちゃうド変態だったなぁ」

 

「も、もう止めてくれんかね?」

 

 アルフレリックはギブアップして誰得な爺様の涙目となっている。

 

 万が一にも孫娘がそんな変態だったら軽く死ねると思うくらい頭を抱えたのだと云う。

 

 因みに本来の世界線ではドMの変態となって、シアに粘着をする百合娘に成り果てる筈ではあったけど、ユートとの出逢いのお蔭か性癖が顕在化しなかったらしい。

 

「それと序でに言うと、リューちゃんが女王様だった頃に『魔力持ちは処する』なんて阿保な掟は全く無かったよ」

 

「ほ、本当かね?」

 

「抑々リューちゃん自身が神代魔法の昇華魔法を

使う魔力持ちだし、国民にして戦士たる“獣人族”の中にも魔力持ちで固有魔法を扱える連中だって居たんだよ?」

 

『『『『『『なっ!?』』』』』』

 

 驚愕する長老衆。

 

「ミレディ、獣人族ってのは?」

 

「元々はハルツィナ共和国での彼らは獣人族って呼ばれてたし自称もしていた。公然とした呼び方は亜人族――人間の亜種なんて別称じゃなかった筈なんだよね」

 

「だけどアルフレリック達は自らも亜人族と名乗っているし、これはやっぱりか?」

 

「うん、ユー君の想像した通りだね」

 

 ユートは『掟』に疑念を持ったからミレディに相談を持ち掛けていた。

 

「どういう事かね?」

 

「いつの間にか獣人族の呼び方が悪意あるモノ、亜人族に本人達も変えられていたんだ」

 

「ば、莫迦な……」

 

 アルフレリックが愕然となる。

 

 それは他の種の長老衆も同じだったらしくて、グゼもゼルもルアもマオもジンも難しい顔に。

 

「恐らくは掟も悪意ある改変をされていたんだ、獣人族が固有魔法を身に付けると面倒臭いから。

獣人族の魔力は魔物由来であり、それを持つ事は忌避されるべきだ……とね」

 

「いったい、いつ誰が?」

 

「時期的には【解放者】が反逆者とされてから後だろうし、誰がなんてトータスで神様ごっこに興じるエヒトルジュエに決まっている。奴の使徒は洗脳に長けているみたいだからね」

 

 思い出されるのはメルジーネ海底遺跡にて見た過去映像、人間族の王が獣人族や魔人族を呼んだ終戦式典で明らかに豹変したと思われる態度の変わり様と、エヒトルジュエの使徒()()()()()()()()()()()銀髪修道女の姿。

 

 あれがノイント本人か或いは他のナンバーズの誰かなのかは判らないのだが、少なくともアレが何らかの悪影響を齎らしたのは間違いない。

 

 因みに同じ顔ながらノイントとリューンでは、二人を試したが下半身の味わいは別物だった。

 

 リューンが失敗作だからかそれともナンバーズでも個人差があるのかは又候、別のナンバーズを相手にヤってみないと判断は出来ないだろう。

 

「神は何処まで我らを苦しめる!?」

 

「何処までも」

 

「なにぃ!?」

 

「言ったろ? エヒトルジュエにとってみれば、君らは単なる失敗作に過ぎない。せめて苦しみに喘いで興じさせろって事なんだろうさ」

 

「ぐぅむ……」

 

 神から見放された種族というのは確かな情報だったという訳だ。

 

「理解したか? 所詮、亜人族はエヒトルジュエにとって単なる失敗作で他の種族のフラストレーション解消の為のスケープゴートだ」

 

 元々の祖先は龍人族や魔人族や吸血鬼族も同じ人間族ながら扱いの差よ。

 

 確かに龍人族も吸血鬼族も滅ぼされているが、それはエヒトルジュエの気に障ったからでしかなくて、そんなのが無くても亜人族は無条件で嫌われていた存在。

 

「成程、我らは我らで庇護者……後ろ楯が無くば、近い将来に滅びる定めか」

 

 それをはっきりと認識した。

 

 よもやエヒトルジュエが手を回して掟にまでも介入し、本来なら祝福するべき魔力持ちを処する様にしていたとは……

 

「我らはいったい何の為に魔力持ちの同胞を処してきたのか」

 

 その衝撃は余りにも痛かったと云う。

 

「訊きたい」

 

「何を?」

 

「若し、我らフェアベルゲンがアシュリアーナ真皇国に降り領国となるを受け容れた場合に生じるメリットとデメリットをだ」

 

「どっちを先に訊きたい?」

 

「ではデメリットから」

 

 やはり悪い方を先に済ませたい様だ。

 

「デメリットねぇ、どうしたって後ろ楯となる国の領国という立場から税金の支払いは必要となるって事だね」

 

「ふむ、税金……か」

 

 当たり前だがフェアベルゲンはハイリヒ王国、ヘルシャー帝国、ガーランド魔王国のいずれにも所属しないから税金を取られたりしなかった。

 

 納める義務も無い。

 

 だけどアシュリアーナ真皇国に所属する領国と成れば、其処に盟主国とも云える真皇国に税金を支払わねばならないのは至極当然の義務。

 

「とはいえ、税金というデメリットは生活水準の上昇などメリットと裏表だ。義務を果たせば権利が生じるのも当然だからね」

 

 義務を果たさず権利を主張する資格は無いが、逆を云えば義務を果たすなら同価値の権利を得て当然であり、ある程度の主張をする事も許されてくる訳である。

 

 まぁ、ユートが経験したシャドウミラーが居た“彼方側の世界”では腐った官僚が利権を貪るとか困った政治体制だったが……

 

「他は?」

 

「さぁ、何か有るかな? 少なくとも今の真皇国に不平不満は出ていないし」

 

 アシュリアーナ真皇国は本国たる皇都ジュリアネスが領国から税金を徴収している立場だけど、数百年間を治めてきたものの小さないざこざこそあるにせよ、大きな戦にまで発展をした事なんかは特に無かった。

 

 まぁ、ある程度の腹を満たして生活水準が高ければ不平不満で暴れる暴徒化は無いもの。

 

 昔の日ノ本で百姓一揆とかが起きたのだって、満たされない腹を抱えていたからに他ならない。

 

 要は生活の安定化こそが必須なのだ。

 

「小さな不満はそりゃいずれ出る。だけど今みたいな状況に不満を持ちながら泣き寝入りをする事は無くなる筈さ」

 

「確かに……な」

 

 長老衆による合議制だって誰しも歓迎をしている政治体制ではないし、転生モノあるあるなのが王政、帝政、共和政の彼是だ。

 

 何処ぞの厨二病黒魔人は『合衆国日本』を謳って世界を纏めようとしていた。

 

 大概、共産政はそっぽを向かれる。

 

「女王を置く理由は盟主国となる真皇国の真皇に対する花嫁的なものだと話したな? それならば新たに誰かを就かせるより既に差し出されているアルテナが丁度良いだろ?」

 

「確かに……」

 

「女王というか領王は真皇の代理人、だからこそ長老会議の最終決定権を持たせる。長老衆の合議を行い、女王が最終決定をして政治に反映をさせる形になるな。だけどこれは森人族がフェアベルゲンの支配者になるという意味じゃない」

 

「そうだろうな」

 

「序でに長老衆による合議制の下に他種族による話し合いの場も設けた方が良いかもね」

 

「うん? それは……」

 

 きょとんとなるアルフレリックだが……

 

「それって両院制議会?」

 

 雫が訊いてきた。

 

「まぁ、上院と下院は名前の通りの上下関係な訳じゃないから少し違うけどね」

 

 ユート自身はNAISEIをしたかった訳じゃなく、貴族だったり真皇に成ったりと政治に関わる立場になる事があるだけで、故に米国の上院下院とか日本の政治体制とか殊更に興味は無い。

 

 因みに日本の上院が参議院、下院が衆議院と呼ばれている。

 

「上院は元老院と呼ばれる国も多いから長老衆の事で構わないだろう。一般枠から各種族の代表を二名くらい出して下院を設立すれば良い」

 

 長老衆とは別に設立するし、下手な不公平さは要らないから各種族から二名くらいが妥当だと、ユートとしては考えたのである。

 

「まぁ、そこら辺は追々で良かろう」

 

 今の侭ではパンクしてしまう。

 

「すぐに結論は言えん。少しばかり長老衆で話し合うので暫し待って貰えるかね?」

 

「じゃあ、その間に僕らはハルツィナ大迷宮へと攻略に向かうが構わないな」

 

「うむ、そうしてくれると助かるな」

 

 こうしてユートは取り敢えず勇者(笑)を拾う為に入口、オプティマスプライムが置かれた場所にまで戻るのであった。

 

 

. 




 仮面ライダーディケイドがスピンオフで強化されたコンプリートフォーム21に、それに伴って仮面ライダージオウ本編にも出なかったからもう出ないだろうと出したネオコンプリートフォームでしたが、これを原典に併せてコンプリートフォーム21に変更致しました。

 尚、第56話:破壊者VS異時の王者です。




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第79話:侵入! ハルツィナ大迷宮

 久し振りな一週間投稿……





 

.

 ハルツィナ樹海の大樹ウーア・アルト。

 

 ユートは既に女神のウーア・アルトから大樹の真実を聞かされ、この遥か地下に存在しているであろう特殊な鉱石――ウーア・アルトの根と鉱石が融合した聖剣の素材――も獲ており、女神を宿す為の器と共に刀の形をした聖剣を造っていた。

 

 銘は聖剣【大樹】と何の捻りも無いものだが、元々の聖剣に付けたアベルグリッサーよりはマシだと思うし、鍛たれてから何万年と経って劣化はしてないが骨董品で能力的に視るべきものも無い聖剣に比べたら威力も魔法も充分。

 

 ユートはこの世界の勇者ではないがDQ世界で勇者をしてたし、別の世界でも勇者の称号を獲ていたのに加えてその世界に於ける魔王を斃して、【真の勇者】なんて称号も手に入れていたからかウーア・アルトもユートを勇者と目した。

 

 聖剣【大樹】は余り使わないだろうと思うが、せめてエヒトルジュエにトドメを刺すのに使って本懐を遂げさせる心算だし、それを話したら凄まじく懐かれて勇者(笑)はどうでもよくなったというくらいに喜んだ。

 

 現在のウーア・アルトは、約三〇cm程度の謂わばユニゾンデバイスなリインフォースⅡくらいの背丈となり、ユートとは実際に『ユナイト』した状態で大樹ウーア・アルトの前に立っている。

 

「おい、緒方!」

 

「何だ?」

 

「俺の扱いが少し雑過ぎないか? 俺は世界を救う勇者なんだぞ!」

 

「お前の活躍度に相応しい扱いの心算なんだが、文句を言える立場だと思ってるのかよ?」

 

 ずっと眠らされていた天之河光輝――()()()を【勇者(笑)】が不服そうに言うのをあしらう。

 

 事実、トータス組たるユエ、シア、ミレディ、ティオならば未だしも地球組な香織、雫、鈴までもが不快感を露わとしている辺りが勇者(笑)という立場を表していた。

 

 女の子だからこそ不愉快極まりないレ○パー、香織は【閃姫】だから既にユート以外に抱かれる事が出来なかったから事無きを得たが、そうでなければ天之河光輝の欲望の侭に犯されていたのだから視線には憎しみすら篭る。

 

 幼馴染みの気安さや情は既に無い。

 

「クソッ!」

 

 ブー垂れながら腰に佩く聖剣(笑)を抜いた。

 

 現在の天之河光輝の装備は、キラキラな聖鎧と聖なるサークレットと聖剣(笑)アベルグリッサーという、ユートに破壊された物では無くて雫により破壊された鎧を修復したポンコツと、女神の脱け殻でしかない力を殆んど喪った聖剣(笑)だ。

 

 一応、【天翔閃】や【神威】は放てるが威力は半減していて草すら生えるポンコツな聖剣(笑)、勇者(笑)と正しく御揃いであったと云う。

 

 抑々、ユートが欲しかったのは中身たる女神のウーア・アルトでしかなく、脱け殻な聖剣(笑)に用は無かったから模擬戦後に女神ウーア・アルトを【女神の器】に容れてから聖剣(笑)その物に関しては返却をしていた。

 

 DQ的には攻撃力+90くらいだった聖剣は、今や攻撃力+65くらいに下がっている。

 

 籠められた魔法も元々が極大閃熱呪文に届かない程度の威力だったが、今はベギラマよりマシなくらいにまで威力が落ちてしまっていた。

 

 【神威】がそれだから【天翔閃】に至っては、最早ベギラマよりも何割か威力が低い。

 

 総じて今現在の勇者(笑)は全盛期の半分くらいの戦力しか持っていなかった。

 

 それでも尚、神代魔法さえ獲たらユートよりも強く成れると思い込んでる辺りが滑稽である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 印を填め込むと入口が開いて漸く大迷宮内へと侵入を果たしたユート達、此処に来るまでに数日を要したのだが、やはり獣人族以外を惑わす霧は厄介だった。

 

 まぁ、ユートには効かないけど。

 

 霧が立ち込めている間はフェアベルゲン滞在を許可され、折角だからとアルテナもオルクス大迷宮から呼んで愉しく過ごした。

 

 その際に何故か土人族のスミサと名乗る少女がユートに御酌したり、滞在中の世話を焼いたりと何かと気を遣ってくれたのだが、どうやらグゼの孫娘の一人らしくて長老たる彼から仲良くする様に言い遣っていたらしい。

 

 ユートを嫌っていたグゼが何の冗談かとも思ったのだが、どうやら彼もユートと仲違いをしても得るものは無いと悟ってアルフレリックみたいに孫娘を差し出してきたのだとか。

 

 スミサはアルテナと幼馴染みで割かし仲良し、別世界みたいにエルフとドワーフは仲が悪いとかも無くて、『アルテナが居るなら私が行く』と言って自分から進み出たらしい。

 

 スミサはユートの識るドワーフに並々ならぬ好奇心を以て訊ねてきた。

 

 流石に手は出さなかったが仲睦まじいというのが相応しく、ユートはドワーフといえば『コレ』という知識と技術を教えてやった。

 

 ドワーフはずんぐむっくりで指先が不器用とかイメージもあるが、実際には可成りの器用さを持った種族であるが故に武器防具や装身具の製作には一家言を持つ。

 

 この世界の土人族はそういった仕事はしていなかったらしいが、確かめてみたらスミサの器用さはそれなりに高かった。

 

 それなりなのは恐らく今までにそれをやらなかったから、慣れていないのが原因だと思われたからアルテナと共に真オルクス大迷宮へと行かせ、鍛冶や彫金の修業をやらせてみる事に。

 

 トータスでの鍛冶は錬成師が錬成をする事により賄われるが、単純な技術だけで鍛冶が出来るのならスミサを鍛冶師にしてみたい。

 

 それは兎も角、ユート達がハルツィナ大迷宮に入ると入口が閉じて妙な感覚が突如として襲う。

 

「な、何だこれは!?」

 

「狼狽えるな! 単なる転移だ」

 

「た、単なる?」

 

 魔法陣がびっしりと描かれた床、全員の視界が暗転して光が戻る皆の目に映るのは木々が生い茂る茶と緑の樹海。

 

 ユートは冷静に辺りを見回した。

 

「成程……な、こう来たか」

 

 冷静というか冷たい視線。

 

「ユ、ユートさぁん! これは樹海に戻されたんでしょうか?」

 

「違うな。そんなのを入口に仕掛けたら誰も入れないじゃないか。此処は既に大迷宮内だ」

 

「うぇっ!?」

 

 ウサミミをピクンピクンさせるシア。

 

 ユートにとってシアは癒やし、豊満でムチッとした肢体に可愛らしい顔で感情によりピクピクと動くシア自慢のウサミミ、しかも薄着だから肢体がより鮮明にアピールされて無自覚にエロい。

 

 もう何度も閨を共にしているが全く厭きさせない仕種もそうだし、基本的に努力家でユートが悦びそうなプレイを予習しては実践してくれる。

 

 まだ初めてを貰ってから間もない頃、教えてもいない口技やそれに伴い豊満なソレを寄せて扱くなんて、何処で覚えたのかを訊いてみたら驚くべき事に『こうしたらユートさんが嬉しいかも』という感覚だけで練習をしたのだとか。

 

 そしてエロいウサギさんというだけでは無く、ウサミミを持つのは伊達では無いというべきなのだろうか、既に動き始めているのにユートは感心しつつ自分も動いた。

 

「アイゼンⅡ!」

 

 それは八神ヴィータと現在は名乗る【雲の騎士団(ヴォルケンリッター)】の突撃隊長が持つアームドデバイスをコピーした代物、偽・グラーフアイゼンとも呼ぶべきの非人格型デバイス【アイゼンⅡ】。

 

 普段は単なる指輪の形をした装飾品ながらも、シアの意志に魔力が乗ると変形して武装化。

 

「どっしゃあ、オラァァ! ですぅ!」

 

「ごはぁぁあああっ!?」

 

 アイゼンⅡの突撃型にて天之河光輝の後ろから、殴り易そうなド頭をしばき倒した。

 

「シ、シア!?」

 

「何をしておるのじゃ!?」

 

 驚く雫とティオだったけど、透かさずユートによる剣戟により二人も吹き飛ばされ……

 

「キャァァッ!?」

 

「グフッ!」

 

 悲鳴を上げて樹木へ背中からぶつかる。

 

「ゆう君!? 行き成り攻撃するって雫ちゃんとティオさんに何を?」

 

「はわわ~」

 

 驚く香織と鈴。

 

「な、何? 私、優斗に疎まれる様な事をした覚えは無いんだけど……」

 

「わ、妾もじゃ」

 

 起き上がる雫とティオが恨めし気な瞳を向けてユートに言い募る。

 

「オラァァ! 死ぬですぅ! お前なんか死ねば良いのですぅぅぅっっ! 動く公害が! 顔だけ男(笑)がぁぁぁぁっ! キモいんですよ! 笑うな変質者ぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

「ギャァァァァァァァァァアアアアッッ!?」

 

 近くではシアが天之河光輝をアイゼンⅡでしこたま殴っていた。

 

「ひぃぃっ!? シアシアが襲い掛かるバイオレンスだよ~っ!」

 

 余りのはっちゃけ振りに恐怖する鈴は自らを抱き締める形でガタガタ震える。

 

「……シア、まさかの勇者(笑)を暗殺事案?」

 

 ユエは冷静に呟く。

 

「おい、偽者……今すぐに雫とティオの居場所を吐いてから早急に逝け」

 

 ユートが聖剣マサムネを突き付けながら雫? とティオ? に言い放つと、フッと二人の表情がフラットになると無機質な雰囲気を醸し出す。

 

「え、偽者って……あの雫ちゃんとティオさんが? そんな!」

 

 衝撃でクラクラする香織。

 

「じゃ、じぁあ……あっちでシアシアが光輝君を殴っているのも偽者だから?」

 

 鬼の形相で殴り続けるシアは鈴も覚えがあり、

それはアニメ【ひぐらしのなく頃に】という作品で主人公の前田圭一が、【鬼隠し編】のラストでヒロイン枠の竜宮レナと園崎魅音をの身体や頭を『さとしのバット』で滅多打ちにしてる場面。

 

「ひゃあはははははっ! ですぅ!」

 

 病的なまでにL5罹患者な表情が恐い。

 

「偽者なのも間違いないんだが、シアは天之河を相手にフラストレーションが溜まっていたから」

 

「どゆ事?」

 

「『シアさんは俺が守るから』とかいつも通りの妄言と共に肩へ触れたり、『緒方なんかと一緒に居るべきじゃない!』と頓珍漢な事を言ったり、キラキラスマイルをチャージしてみたりとシアの神経を逆撫でしていたからな」

 

「うわぁ……」

 

 鈴も呆れる他に無い。

 

 ドン引きな鈴――序でにヒャッハー中なシアをも放置し、マサムネで偽者な雫の首筋に傷を付けながら尚も訊ねる。

 

「お前らに求める事はたった一つ、疾く答えろ……本物の雫とティオは何処だ?」

 

 それに一切答えようとしない雫モドキに対し、ユートはズブリと切っ先を押し込む。

 

 血が流れ出ない辺りが人間ではないと見て取れるけど、見た目は普通に雫なのに何ら躊躇いも無く傷付けていた。

 

「答えないか……それとも答える機能を持たされていないのか?」

 

「機能って?」

 

「魚が水の中で生きられるのはエラから酸素を取り入れる機能を持つからだ。人間はそれを持たないから水の中に居られる時間が短い。コイツらも特定の質問に答える機能を持たないから答えないって訳だ。昔に似た状態が有ったからね」

 

「似たって?」

 

「【スレイヤーズ】世界でシルフィール・ネルス・ラーダの父親や街の人間、彼らは冥王フィブリゾにより仮初めの生命を与えられていた。受け答えもはっきりしていて意志も生前の侭だったんだが、中央区の建造物に関しては答えてくれなかった。彼らにそれに関する知識は有ったんだが、答える機能を持たないから答えられない……とね」

 

 本人がそう言っていたから間違いない。

 

(結局、ガウリィはリナとくっ付いたから余りと言うのはあんまりだけど、それなりに好感度を稼いでいたから【閃姫】に成るのを了承してくれたんだよな~)

 

 ユートが複数の女の子と関係をしているのは知っていたけど、見知らぬ誰かと恋に落ちるには既にガウリィへの想いが強過ぎたからか、ユートの提案に暫くは悩んでいたけど最後には頷く。

 

「んじゃ、どうすんの?」

 

「そうだよ、仮にも雫ちゃんの姿だし」

 

 鈴と香織の科白に今も尚、狂喜乱舞をしている

シアへと視線を向けてみると二人は顔を逸らす。

 

「所詮は偽者、割り切れ」

 

 そしてユートはあっさりと雫モドキとティオモドキの首を断つ。

 

「「ヒッ!」」

 

 色々と吹っ切れてはいても、流石に友達の姿をしたモノを斬られるというのはやはり抵抗があったらしい。

 

「オラァァァァァアアッッ! ですぅっ!」

 

 シアも勇者(笑)モドキにトドメを刺したらしく、上半身と下半身が泣き別れをして上半身側が吹き飛ばされた。

 

「ふん、血も出ないとか生命体ですら無いのか。或いはそういった生物なのか?」

 

 どちらにせよ敵には違いない。

 

「それにしても、雫ちゃんとティオさん……序でに光輝君が心配だよ」

 

 香織としては、やはり行方不明な仲間を心配せず――勇者(笑)は殆んど敵扱いだったが――には居られなかった。

 

「大丈夫だろ。あんな明らかに避けようが無かった入口で、致死の罠なんか仕掛けていたりする筈が無いからな。この大迷宮は飽く迄も【解放者】の造った試練なんだ。入口で初見殺しの罠なんて試練にならないからね」

 

「あ、そっか」

 

 そんな意味不明な罠を仕掛けるのは掛かるのが敵と断定している場合、しかも本当の入口を別に作らないと自分達も入れない。

 

「つまり転移は複数人の場合だと別れさせる為だろう。ソロだと余り意味があるとは思えないんだけどな……」

 

 若しもこれでソロだったら、転移させる意味が抑々にして無かった処……とはいえ恐らくだけど、パーティプレイ前提なのが大迷宮なのだろう。

 

 規模からして一番簡単なライセン大迷宮でさえソロは厳しく、パーティで或いはレイドを組んでの攻略を推奨していると思われる。

 

 SAOでは六人パーティを八組の一レイドとしていて、四八人フルレイドで攻略をする事が上層ともなれば当たり前になっていた。

 

 とはいえ、正確には四八人を上限としていてもパーティがフルパーティとは限らないから八組ではなく九組とか、そういった変則的なレイドも珍しい話ではなかったが……

 

 特に【黒の剣士】は原典では基本的にソロだったと聞くし、ユートのギルドにサブマスで登録をしていなかったら正しくソロだったみたいた。

 

 ともあれ、四つもの証が無ければ入れもしない

大迷宮なだけにパーティ処かレイドを組んでいるのが普通、【解放者】達はそんな心算で大迷宮を構築していたのだろう。

 

(恐らくトラップもパーティ前提。しかも大樹の入口に有った注意書きからして、この大迷宮の謂わばコンセプトはズバリ『絆』だ)

 

 入口の転移と探られた頭、そして入れ換わっていたパーティメンバー、入れ換わった仲間を見破れるのか? 見破れずとも疑心暗鬼に陥る事無く『絆』を維持が出来るのか?

 

(そんな処だろうね)

 

 そういう意味では天之河光輝を選んだのは正しく妙手と云えた。

 

 何故なら雫とティオは未だしも、天之河光輝との間には敵意は有れど『絆』など皆無だから。

 

(いっそ、大迷宮攻略失敗を謳ってどさくさ紛れに殺るか?)

 

 黒い波動を揺蕩わせてるユートにシアが敏感に

反応をしていた。

 

(怖い事を考えていますね……)

 

 まぁ、偽者とはいえ天之河光輝の姿をしていたナニかを、全力全壊手加減抜きで叩いていたシアにだけは言われたくあるまい。

 

 然しながら天之河光輝如きに使う時間など短いに越した事はなく、奴の所為で二度手間を取ってまで大迷宮攻略をしたくなかった。

 

 ()()()()()抹殺は無しの方向性で。

 

「にしても、ゆう君もシアシアも三人が入れ換わっていたのがよく判ったよね」

 

「……ん、私は気付けなかった」

 

 鈴の科白に頷くユエ、雫が心配なのか言葉こそ発しなかったが香織も頷いている。

 

「僕の目は【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】という魔眼の一種だから見破るくらい出来るさ。シアの場合は種族特性が危機察知と隠密だからね、その侭なら気付かなかったろうけど生憎とシアは僕の【閃姫】なんだ。種族特性が大幅に強化されていたんだろうさ」

 

 原典では寧ろユエを攻撃するハジメを嗜めていたシアだが、此方では天之河光輝の様子がおかしいとすぐに気付けた訳だ。

 

 特にフラストレーションが溜まりに溜まっていたからか、気付いた瞬間にアイゼンⅡを振り被って振り下ろしていたのである。

 

 暫く樹海内を散策しているとユートが目の前の虚空を指差していた。

 

「どうやら魔物らしい。僕の識らない奴みたいで判別は出来んがね」

 

「え、どのくらい?」

 

(おびただ)しい数、この感じだと群れが当たり前な魔物か? 多分だけど昆虫っぽいな」

 

「うぇ、虫型の魔物かぁ」

 

 鈴が嫌そうな表情に。

 

「来たぞ! 鈴は結界で奴らを分断しろ」

 

「りょ、了解! ベルファ、セットアップ!」

 

《Ok SUZU》

 

 アームドデバイス【ベルファ】――鈴に与えられた魔法の媒体となる杖であり武装、原典を識らないユートではあるけど鈴の動きや適性から扇型のデバイスを造って渡していた。

 

 受け答えはするが非人格型デバイス。

 

 【魔法少女リリカルなのは】主体世界に居たならデバイスは造れないのか? と寝物語に鈴から問われたユートは欲しいという鈴に造った。

 

 雫には刀型のアームドデバイスを造って渡しているのだが、サソードヤイバーでも割と事足りるらしくて今現在は腰に佩く程度。

 

 香織の場合は人格を持つインテリジェントデバイスを考えたからまだ造っておらず、シアは既にアイゼンⅡというアームドデバイスを持たされていたし、ユエとミレディは本人の希望から指輪型の非人格型なデバイスを造る予定。

 

 尚、ティオは要らないそうな。

 

「聖絶ぅっ!」

 

 顕れた魔法陣は近代ベルカ式とこの世界のモノが同時展開、詠唱は機械が肩代わりをしてくれるから『魔力操作』の技能が無くとも普通に無詠唱でイケた。

 

 魔法は便利な力かも知れないが、詠唱だったり集中だったりと僅かなり時間が掛かるのがどうしても不便な処、とある世界では魔法の発動をするのに発動媒体としてCADというのを使う。

 

 機械を使って発動速度を早める為にだ。

 

 これらの技術も使ってアームドデバイスとして完成したベルファ……

 

 蜂っぽい魔物が正に夥しい数が翔んで来ていたのを、ユートの指示通りに聖絶を張って半分以上を彼方側へと分断してやり、此方側には三〇匹か其処らしか残されていない状態だ。

 

「よっし、大成功!」

 

 ガッツポーズの鈴。

 

「よくやった鈴、良い子だ」

 

「ふあっ!?」

 

 ポンポンと軽く頭を叩かれた鈴は頬を朱に染めながらニヘラ~と笑みを浮かべる。

 

 谷口 鈴、やれば出来るし褒めれば伸びる子だと皆から認識されていた。

 

「殺れ! シア、ユエ、香織!」

 

「はい! ですぅ! グラビティ・ショックウェーブ!」

 

「……ん! 緋槍・白蓮華!」

 

「了解だよ! マハリト!」

 

 シアのグラビティ・ショックウェーブで粉砕されてしまう蜂モドキ、ユエからは炎の槍というべきモノが百もの数となり放たれて蜂モドキを焼き尽くし、香織はユートから習った炎魔法を放ってやはり数多くを焼いた。

 

 アイゼンⅡは物がハンマーという事もあったから勇者王――勇者(笑)に非ず――のゴルディオンハンマーの能力を付加している為、グラビティ・ショックウェーブで光にする事も出来たし放って粉砕なんて真似も可能。

 

 ユエの魔法は緋槍の改良版、その大元となるのは白銀聖闘士・盃座の水鏡が使う氷槍白蓮華で、謂わば炎バージョンの白蓮華という事になる。

 

 氷みたいに白くはないけど。

 

 香織が使ったマハリトは【ウィザードリィ】の魔法で、【狂王の試練場】の約千年前の世界へと関わった際に修得をしたものだ。

 

 ドラクエ系でも別に良かったのだが、折角だからと此方を香織に修得させた。

 

 そういえば僧侶系だった娘が一時的に行方知れずとなり捜索したが、翌日には何事も無かったかの様に戻って……

 

(……いないな)

 

 何故か戻ってからは積極的になってユートと仲を深めて、しかも躊躇っていた【閃姫】になるのを了承したのだから驚くしかない。

 

 それまではユートがコナを掛けてみても困った表情となっていたのだが……

 

「鈴、聖絶を解除しろ」

 

「っ! 了解!」

 

 ユートの両手に宿る魔力を見て頷き言われた通りに聖絶を解除した。

 

「この右手に極大爆裂呪文(イオナズン)、この左手に極大閃熱呪文(ベギラゴン)……」

 

 純粋なるエネルギー化された呪文が右手と左手

に収束され、その両手を目の前で拍手するかの如く合わせて呪文同士を融合させる。

 

 ドラクエⅢ世界で勇者アレルの時代から百年もの刻を跨ぎ大賢者カダルが完成させた合体呪文、それは本人も使っていたけど主に異魔神が席巻をしていた時代、賢王ポロンが使って魔王軍を翻弄してきたものだった。

 

 ユートはそれをすぐ間近で視ていた上、当人も大魔王ゾーマの部下たる魔王バラモスが地上支配に乗り出した頃、家を出て遊び人から賢者に転職をしていたから使えるだけの素地を持つ。

 

「閃吼爆裂イオラゴンッッ!」

 

 イオナズンとベギラゴンのエネルギーが融合、スパークをしながら一つの新たなる呪文となって

完成され、蜂モドキに向かって放たれると極大の爆裂と閃熱の合わさる耀きが大迷宮に弾けた。

 

 しかも爆光は兎も角として、魔力の完全制御が成されていたから爆発がバックファイアで此方に来る事も無い。

 

 対閃光防御などしていなかった彼女らは一瞬の煌めきに目を閉じるけど、余りにも大きな爆裂音

を聴いて徐々に目を開いてみる。

 

「うわっ! 全滅じゃないですか!」

 

 シアが驚きに叫ぶ。

 

 自分達の攻撃では三〇匹を駆逐するだけでしかなかったのが、未だに百は下らない数を維持していた蜂モドキは少なくともこの近くに残ってはいないらしい。

 

「ふぃーっ」

 

 軽く息を吐くユート。

 

 ふと見遣ると……

 

「ですぅ」

 

「……ん」

 

「かなかな」

 

 口に出している訳じゃないのだが敢えて言葉にしたらこんな感じか? キラキラした瞳で真っ直ぐにユートを見つめて来ている。

 

 鈴は苦笑い。

 

 ユートも意味を察していた。

 

「シア、ユエ、香織、良い子だ、よくやったな」

 

 鈴の時と同じく頭をポンポンと軽く叩き褒めてやると、頬を朱に染めてパーッと表情を輝かせながら喜色満面の笑みを浮かべる。

 

 尚、ユエはドヤ顔であったと云う。

 

 鈴が褒められて羨ましかったらしい。

 

「取り敢えず先に進むか。雫とティオも恐らくはこの先に居るんだろうからな」

 

「そうでしょうね」

 

「……ん、間違いない」

 

「そだね~」

 

 それは全員の一致した意見。

 

 そして女の子達の一致した意見がある。

 

(勇者(笑)さんの名前が出なかったですね)

 

(……勇者(笑)、哀れ)

 

(光輝君、忘れられてるのかな?)

 

 それは即ち、ユートが素で天之河光輝の名前を出さなかった事だった。

 

 平均的な赤ん坊くらいの大きさ、まるで百足の如く動く無数の脚、それでいて口は蜘蛛であり、七つの複眼を持ち黄色と黒が毒々しい二重奏を醸し出し、尾っぽの針から纏う緑の粘液を撒き散らす生物として受け容れ難い冒涜感溢れた魔物は、こうして取り敢えず全滅させられた後に頭の隅へと追いやられてしまう。

 

「然し、昆虫系……か。リューティリス・ハルツィナは『蟲心師』だったらしいからこれからも出てくるんだな……蟲の魔物が」

 

「うわぁ……」

 

 実に嫌そうな顔な香織。

 

「まぁ、さっきの赤錆色のスライムっぽいのみたいな魔物も居るから蟲ばかりじゃないだろ」

 

 ユートはそう言いながら歩を進めた。

 

らわりを

 それから約二時間が経った頃に新たな魔物が現れる、見た目は完全なる猿が棍棒などで簡単ながら武装をした連中。

 

 仲間を捜していたユート一行に襲い掛かって来る猿モドキだが……

 

「邪魔だ、メラミ!」

 

「鬱陶しいですよ、突撃ファイアですぅ!」

 

「……邪魔、凍柩」

 

「ダルト!」

 

「殺っちゃえ、ベルファ!」

 

 火球――普通の魔法使いならメラゾーマ級だが――を放つユート、突撃モードにて頭を砕くシア、ユエと香織は氷系魔法で凍らせてしまい数秒程度で呆気なく斃してしまうし、鈴はベルファを投げて薙ぎ払っていった。

 

「ふう、カオリンがまさかの司教に適性がアリとかさ……」

 

「そうだな、僕としては先ず僧侶で回復とかを覚えつつ司教に……と思ったから予想外だわ」

 

 【ウィザードリィ】はⅠ~Ⅴまでのシリーズと、Ⅵ以降では全くの別物だと云える。

 

 ユートが行ったのはリルガミンとホウライという二国が戦争をしていた時代、つまり一番の元祖たる【ウィザードリィ~狂王の試練場~】よりも更に千年前の世界だった訳だが、ユートは侍として参戦をしたから【ウィザードリィ】系列ならば魔法使いの呪文が扱えるけど、同時に普通ならば有り得ない君主の適性と忍者の適性により一人で魔法使い系と僧侶系の呪文を使え、更に宝箱を開く技能を持ち合わせるチーターだった。

 

 というか、侍として参戦したのは解り易く刀を使っていたからというのがあり、君主は抑々にしてこの時代では特殊な血筋以外は成れないとされていたし、忍者の適性は【NARUTO】世界に行った影響からだろう。

 

 故にか職業を調べても適性が判らなかった為、ユートは侍という事にしたのだ。

 

 僧侶系呪文は使わなければ君主を疑われない、忍者もそれらしい動きをしなければ良い。

 

 まぁ、侍大将のショウにはバレてしまったからとあるダンジョンでは如何無く力を発揮した。

 

 というよりユートは【ウィザードリィ】世界の常識範囲外からの来訪者、しかも神様特典による『魔法に対する親和性』によりあらゆる埒外技術を修得し易い状態だから、実は超能力や霊能力や錬金術なども含めた全てに高い適性を持つ為に、こんな意味不明な状態になったらしい。

 

 リルガミンとホウライの神はユートの職業を、まんま『異邦人』として定めた。

 

 次元移動をしていたユートを引き込んだのが、【ウィザードリィ】世界の神とされるモノ達だから正体も識っていたし、唯一の『異邦人』として力を借りたのだと云うから当然か。

 

 暫く歩くとどうやら猿モドキは作戦を変えてきたらしく盛っている真っ最中、数匹が一人の少女を輪わしているという胸糞悪くなる光景だけど、シアとユエと香織と鈴は違う意味で真っ青に青褪めてしまう。

 

 長い黒髪がボサボサになって瞳のハイライトは消え、服も申し訳程度に着ているとは烏滸がましいレベルで引っ掛かり、身体のあちこちに汚ならしい液体をこびり付かせた同年代の人間の少女。

 

 

「た、すけ……ゆ……と……」

 

 それは行方不明の雫の形をしていた。

 

 猿モドキの汚ないモノが出入りをするのは雫の鞘の内、もう何度も吐き出したらしく溢れ返った液体が憐れを誘う。

 

 はっきり云えばユートにアレが偽者なのは視て取れており、抑々にして【閃姫】である雫と性交に励めるのは主たるユートのみ。

 

 無理に犯ろうとすれば天之河光輝みたいに下半身のモノがピチュンしてしまう。

 

 ならば香織達が何を恐れているのか?

 

「消滅しろ、爆炎(ティルトウェイト)!」

 

 ユートが聖剣マサムネに爆炎(ティルトウェイト)の呪文を掛けると灼熱すら生温い獄炎が刃に宿り、術者の周囲には既に爆炎の効果の余波が渦巻いていた。

 

「ちょっ、ゆう君! 本物の雫ちゃんやティオさんや光輝君が何処かも判らないのに!」

 

「居ないのは確認している」

 

「あ、はい……」

 

 ドスの利いた声に押し黙るしかない。

 

 ユートは沢山の娘を侍らす強欲と色欲の強さを持ちながら、自分のモノに手を出されるのを嫌う嫉妬も持ち合わせている。

 

 偽者なのは理解しながら肖像権の侵害をしやがった猿モドキ共、最早生かす価値など微塵にすら感じないユートの行動は迅い。

 

「消えてなくなれ、鳳龍っっ! 核撃……ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!」

 

 【ウィザードリィ】世界で侍大将ショウが使っていた鳳龍剣術、その中には禁じ手とされている大技が存在しているのだと云う。

 

 大地を斬り裂く鳳龍地裂斬。

 

 虚空を斬り裂く鳳龍虚空斬。

 

 そして魔法との複合技……【DQダイの大冒険】で云う魔法剣だ。

 

 ユートは呪文の中でも最高位となる究極呪文――爆炎(ティルトウェイト)を選択。

 

 ヤってた猿モドキも雫に扮してた猿モドキも、そして樹海すらもこれにより炭すら残さず消滅をさせており、鈴が最高位の結界魔法で護りながらも余波が凄まじい事になっている程。

 

 動揺を誘う心算だったのかも知れないけれど、完全に当てがハズレた猿モドキ共は消滅。

 

「雫はもう僕のモノだ。その姿でさえ利用する事を許しはしない!」

 

 後ろの【閃姫】達はそんなユートに恐怖をしながらも、其処まで言われた雫に羨望を向けつつも自分がその立場ならきっと同じ事を言ってくれる筈だと、胸を高鳴らせ期待する表情を向けてしまうのであった。

 

 

.




 【ウィザードリィ】は言わずと知れた【ウルティマ】並に古いゲーム、ユートが介入していたのはル・ケブレス=鳳凰が作中に於ける【御老体】と協力して引き込んだ【狂王の試練場】から視て千年くらい前、ワードナーが奪ったアミュレットを持つリルガミンのエルフの王族とホウライの侍大将が闘う戦争状態の地でした。



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第80話:ゴブる雫とブヒる勇者(笑)

 余り進まなかったな……





.

 焼け野原の方が可愛いげもある光景が目の前に悠然と広がっている。

 

 

 鳳龍核撃斬により焼けるよりも焼失してしまった樹海、少なくとも射線上に居たであろう魔物は全てが何も残さず消えてしまっていた。

 

「ゆう君を怒らせた末路か~」

 

 冷や汗を掻きながら鈴は呟く。

 

 侍大将ショウが一度だけ使った鳳龍核撃斬も、数キロは先の建物にまで衝撃波が及んだ程の一撃なれば、この結果は初めから火を見るより明らかなものであったのだろう。

 

 あの時も数千から成る軍勢――烏合の衆だったが――を纏めて消し炭すら残さなかった。

 

 当然ながら樹海は焼失したのだから周りがよく見渡せている。

 

 ユートは冷静沈着だった、頭の中は北極も斯くやに冷やかなくらいで何ならSEEDがパーン! していてもおかしくないレベルだった。

 

 然しながら心の中は煮え滾るマグマより熱く、太陽の中心部より燃え盛っていたのだ。

 

 何ならフリーザにクリリンを殺された孫悟空、或いは初めて超闘士化した闘士ウルトラマンの如くと云っても過言ではないくらいに。

 

「これで向こうからも此方の現状が判るだろう、雫とティオも合流して来るんじゃないかな?」

 

「かも知れませんが……」

 

 シアがジト目だったけど、やはり嘗ての義弟の様な萌え要素足り得ないのはユートがジト目属性に萌えないからか?

 

 とはいえ、ユートはシアが普通に可愛いと思っているから萌え要素は要らないのだが……

 

「そして普通に光輝君はスルーなんだね」

 

 ユートにとって天之河光輝はシアの萌え要素の一億倍は要らない存在、シアに萌え要素を追加するのと天之河光輝を仲間にする二者択一が有れば間違いなく前者を選ぶ。

 

 考える余地など全く無い。

 

「さて、どうせ向こうから接触して来るだろう。暫くは暇になるし……」

 

 周囲に魔物は居なかった。

 

「ちょっと愉しい事をしようか」

 

 ニコリと笑う。

 

「ユ、ユートさん……」

 

「ブレないよね」

 

「……ん、正にユート」

 

「や、優しくして欲しいよ」

 

 シアは溜息、香織はブレないユートに呆れて、頷くユエに紅くなる鈴、ユートは熱い激情を性欲に変換して彼女らへと叩き付けたのであった。

 

 小一時間ばかり五人で愉しい事をしていたら、何やら向こう側から騒がしい音が響き渡る。

 

「どうやら来たらしいな」

 

 一応は着替えているもののグッタリとしている【閃姫】達、ユートは何度か果てても未だに元気一杯なのが解せないシアや鈴や香織。

 

 再生の力故にかユエは復活している。

 

「ゆう君、光輝君の事でストレスが溜まっていたのかな?」

 

「性欲も溜まっていたよね」

 

 此処に来る前に確りとヌいて来た筈だったが、無限の性欲は伊達ではなかった様である。

 

 オマケに連れて来る必要も無かった勇者(笑)を連れて来る羽目になり、相当なストレスが溜まっていたらしいユートは知らず知らずの内に狂暴な性欲も溜めていた。

 

 僅か小一時間で四人を足腰立たなくするくらいに激しかったと言えば解るだろう。

 

『ゴブッ!』

 

 ゴブリンが現れた……コマンド?

 

「って、ゴブリンだよ!?」

 

「あわわ、聖絶!」

 

「……緋槍!」

 

 緑の肌なナイスガイ? ゴブリンが現れた事にパニックな香織と鈴とユエ。

 

「何を愉快なパニックを起こしてるんですか? あれって雫さんですよ」

 

「「「……え?」」」

 

 シアの指摘に驚く三人はユートを見てきたから頷いてやると……

 

「「「ハァァァァッ!?」」」

 

 ユエまで目を見開いて絶叫した。

 

「え、本当にアレが雫ちゃん?」

 

「シズシズ?」

 

「……驚き」

 

 今の雫は一〇〇cmにも満たない緑の体躯で、武器らしい武器も持たない無防備状態。

 

 武器や防具は兎も角、服は恐らくデフォルトで装備くらいしているのだろう。

 

『ゴブッ、ゴブゴブ!』

 

 何やら身振り手振りでジェスチャーをしてくる雫ゴブリン、だけど口から出るのは『ゴブゴブ』

だったから何が何やらである。

 

「ほんっとーに、雫ちゃんなのかな、かな?」

 

『ゴブ!』

 

 やはり解らない。

 

「この侭、シズシズは元に戻れないの?」

 

『ゴブブッ!?』

 

「ああ! シズシズゴブリンが涙目!?」

 

 当たり前だが醜いゴブリンの姿で一生を終えたくない雫は泣きたくなる。

 

「にしても、【四方(ゴブスレ)世界】のゴブリンより愛嬌があるもんだよな」

 

「うぇ!? あの女の子は性的に喰われて男の人は肉食的に食われる? ゆう君ってそんな世界にも行っていたの?」

 

 何故か矢鱈と詳しい鈴は真っ赤な顔をしながらも食い付きが良い。

 

「そうだが、どうした?」

 

「だ、だってぇ……何気無く雑誌を読んだら行き成り拳法だったけどシズシズっぽいポニテな娘が、ゴブリンみたいなきちゃない雄に犯されてる場面だったからさぁ……」

 

「ああ、ローナか」

 

「へ? 名前……有るの?」

 

「当たり前だろう」

 

 因みに【ゴブリンスレイヤー】は【まおゆう】と同じく、個人名は作中には出てこず基本的には

『女神官』や『妖精弓手』と職業や性別や種族で称されており、誰かが誰かを呼ぶ場合は二人称――『彼』や『彼女』や『貴方』などが使われるか若しくは、『ゴブリンスレイヤー』や『娘っこ』や『野伏殿』など通り名や個人での呼び方など、様々な通称が使われる。

 

「一応、言えば【閃姫】だから会えるぞ」

 

「まぢ?」

 

「勿論だとも」

 

「でも処女じゃないと成れないんじゃ?」

 

「おかしな事を言うな? 彼女は剣士君に想いこそ懐いていたが処女だったぞ」

 

「え? あれ? 若しかしてゴブリンにヤられたんじゃ無いんだ?」

 

「危なかったが助けたからな」

 

 ユートが識らない原典では普通に女神官の視ている目の前で犯されたが、ユートが介入をしている平行世界では汚ないモノを鞘の内に押し込まれる直前でゴブリンを殺したからセーフだった。

 

「んじゃ、女魔法使いちゃんは?」

 

「ヒエナ?」

 

 『眼鏡を掛けて杖を手に持つ女性の魔術師』であろう事は想像に難くない。 

 

「腹に毒の短剣を刺されていたけど解毒呪文(キアリー)が使えるから問題は無いし、傷も速やかに回復呪文(ベホマ)で治してやったからな」

 

「……青年剣士君は?」

 

 ジト目な鈴。

 

「ゴブリンにズタズタにされていたな」

 

「やっぱり女の子()()助けたんだね」

 

 『だけ』を強調する鈴に対して……

 

「別に意図してやった訳じゃないぞ。一党を組む

予定だった女神官(リィナ)に渡していた緊急信号発声装置が起動してから救出に行ったからな。その時には剣士君はズタズタ、ヒエナは切腹した毒状態で、ローナは犯される寸前、リィナは矢傷を受けていて失禁涙目だったってだけだからな」

 

 言い訳に聞こえそうな事を言った。

 

 特殊な腕輪を予め女神官に渡していたユート、それは合流呪文(リリルーラ)の目印に成る代物。

 

 尚、本来の助っ人であるゴブリンスレイヤーは

ユートの介入が原因で、行動に一日の遅れがあったから助けには来れていない。

 

 何はともあれ、あの世界に於けるゴブリンとは醜悪そのものであったからか、雫が変じているだろうゴブリンには愛嬌すら見て取れていた。

 

 魔物には違いないけど。

 

「流石に僕もゴブリンじゃ抱けないから元に戻って欲しい。まぁ、その内に戻るんじゃないか?」

 

「そうなのかな? 雫ちゃんがゴブリンの侭だったら私もちょっと困るかな……友情は無くならないにしてもさ」

 

 ゴブリンと笑顔で戯れるとか端から視たならば危ない女である。

 

「先にも言ったけど大迷宮は飽く迄もミレディ達――【解放者】が、神代魔法継承の為の試練として用意をしたモノだ。入口で致死性のトラップなんて有り得ないんだよ。元に戻せないってトラップも有り得ないならいずれは戻る筈さ」

 

「そうだと良いんだけど……」

 

『ゴブゥ……』

 

 神妙な表情で頷く香織とゴブリン雫。

 

「恐らくは階層を抜けて新たに転移するくらいのタイミングか、もう少し先になるのかは流石に判らないにしても……この大迷宮のコンセプトを鑑みれば『絆』を試しているんだろう」

 

「絆がコンセプト?」

 

「そうだよ。入口にも書いてあったじゃないか、『紡がれた絆の道標』と……な。『四つの証』と『再生の力』に関してはウーア・アルトに着いてから手に入れに行けば良いけど、『紡がれた絆の道標』ってのが獣人の案内ってのはちょっとばかり解せなかった」

 

「……ん、解せない?」

 

「絆なんてアイテムみたいに取りに戻れるもんじゃない、それならそれに関しては初めから樹海の入口で注意書きをするべきだろう? つまりは、大迷宮のコンセプトが『絆』を示せって暗に示していたんだろうね」

 

 ユエが鸚鵡返しに訊ねて来たから答えてやる、それは態々大迷宮の入口であった理由。

 

「絆ですかぁ」

 

「じゃあ、雫ちゃんがゴブリンになっちゃったのもそれに関係してる?」

 

「仲間だと見破れるか? 見破ったとして受け容れられるのか? そんな感じだろうね」

 

 予想に過ぎないが……

 

 ミレディは大迷宮の情報は余りくれないから、予想が正しいかどうか今は判らない。

 

『ゴブ、ゴブブ!』

 

「蒼覇とサソードヤイバーが無くなった?」

 

『ゴブゥ! ゴブゴブゴブ!』

 

「転移してゴブリン化したと気付いた時から無くしていた……ね。なら武具は別の場所に転移させられたんだろう、厄介なもんだな」

 

 どうやら雫は貰ったサソードヤイバーも刀である【蒼覇】も喪って落ち込み中らしい。

 

「何でゆう君、雫ちゃんのゴブゴブ語を理解してるんだろ?」

 

「鈴には判んないよ」

 

 ちょっと有り得ない光景に首を傾げる。

 

「心配は要らない。マイスターたる僕なら取り戻す事が出来るからね」

 

 ユートが【帰巣】の魔法を使うと喪われた筈の武器――蒼覇とサソードヤイバーが顕れた。

 

『ゴブブー!』

 

 蒼覇を腰に佩きながらサソードヤイバーを握るゴブリンの図だが、其処には嬉しそうにしている雫の姿が幻視されて微笑ましい。

 

「……雫が嬉しそう」

 

「そりゃ、武器とはいってもユートさんから戴いた贈り物ですからねぇ」

 

 ユエとシアの科白に頷くのは香織。

 

「ゴブリンの姿じゃ、身長制限的にサソードへの変身は無理だ。かといって蒼覇は雫の体格があってこその刀だからな……これを」

 

『ゴブ?』

 

「蒼覇と対を成す小太刀で【清純】だ。ゴブリンの身長なら小太刀が大太刀レベルだろうからね」

 

『ゴブブ!』

 

 背に合わぬ蒼覇とは違い、清純は確かに今なら大太刀みたいに扱える。

 

 尚、この二振りはユートが鍛った太刀と小太刀

でありそれ以外の何物でもない

 

「準備も整った事だし、ティオを捜すぞ」

 

「やっぱり普通にスルーしちゃうんだね」

 

『ゴブブゥ』

 

 結局、名前を呼ばれなかった天之河光輝に少しだけ哀れみを感じてしまう幼馴染みーズ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 更に向かった先に新たな展開。

 

「ゴブリンがゴブリンと闘っているな」

 

 能力値が通常のゴブリンと大差無いからか? 恐らく闘い方からティオらしいゴブリンが複数のゴブリンと闘い、傷だらけになってそれでも諦めないとばかりに攻撃していた。

 

「スカラ、ピオリム、バイキルト……合体呪文スピオキルト!」

 

 ティオ・ゴブリンが一瞬だけ光輝き、すぐにも優勢になって周りのゴブリンを屠っていく。

 

 三種の強化呪文の効果を更に倍化して掛けるという合体呪文、故に大きく身体機能が増幅されたティオ・ゴブリンは勝てたのだ。

 

『ゴブゥ!』

 

「どうやら大丈夫っぽいな、ティオ」

 

『ゴゴブ!』

 

 頷くティオ・ゴブリンに笑い掛けてるユート、同じゴブリン語を話す雫・ゴブリンは兎も角としてユートはどうやってコミュニケーションを? と頭を抱えてしまう一堂。

 

「ねぇ、ゆう君はどうやってシズシズやティオさんとどうやって話してるの?」

 

 まさか、何処かの世界線の魔王と正妻みたいな互いを視れば通じ合うなんて、おかしな話ではあるまいに……

 

「多分、カンピオーネの【千の言語】とこの世界に来た際に強制付与された【言語理解】が組み合わさって、ゴブリンの言語を翻訳してしまっているんじゃないか?」

 

「え、じゃあ……あっちのゴブリンの言葉も判ったりするの?」

 

「んにゃ、解らん」

 

「はぇ?」

 

 先程の言葉と矛盾するユートの否定には又候、理解不能だと首を傾げてしまう鈴。

 

「恐らくは、雫らが明確な人間だからゴブリン語も人間の言語として解してる。純粋なこの世界のゴブリンの言語は流石に解らないんだろうね」

 

「そうなんだ……」

 

「とはいえ、これじゃ不便か」

 

 ユートは手に銀鉱石を二つばかり取り出して、握り締めて魔力を流してやった。

 

「完成した。これを掛けてみろ」

 

 銀細工のペンダント。

 

 雫・ゴブリンとティオ・ゴブリンが言われた通りに首に掛ける。

 

「話してみると良い」

 

「……判る? 香織」

 

「あ、判る! 判るよ雫ちゃん!」

 

 思わずゴブリンな身体の雫に抱き付く香織に、雫はあわあわと慌てた表情に。

 

「ふむ、主殿……判るかぇ?」

 

「僕は初めから判るからな」

 

「であったのぉ……」

 

 所作がティオなゴブリンというか、ゴブリンがティオの所作を執っているというべきか。

 

 見た目がゴブリンなのに何処か優雅で流麗で、美しさすら感じさせてくれた。

 

 本来の姿は艶やかで胸も大きく肉感的な男好きをする肢体であり、ミュウの一件が無かったなら数百年物の処女をすぐにも散らしたいくらいに美しい女性である。

 

 今はゴブリンだがな!

 

「よし、全員集合したし……次に向かうか」

 

「え、ちょっ! 光輝は?」

 

「ん? ああ、居たなそういや」

 

 すっとぼけというか、目に入れるのも存在するのも御断りという感じであったと云う。

 

「ふむ、主殿は勇者というのに隔意を持っておる様じゃが……渡り歩いたという世界で某かがあったりするのかの?」

 

「……嘗て疑似転生とはいえ勇者アレルの双子の弟だった。それは構わない、アレル自身は勇者として最上の存在だったからな。実際に勇者になった時は『悪魔の子』とか言われて追われたり村は潰されたり碌な事が無かったが、これも別に良いさ。問題は召喚勇者。中には明らかなハーレム願望持ちで天之河みたいなキラキラフェイスでポーカーフェイスは出来ないバカ勇者も居たしな」

 

 ハーレム願望自体はユートもブーメランだから構わないのだが、少なくとも好きになれるタイプの人間ではなかっただろう。

 

 何しろ『無視されるのは有り得ない』だとか、可成り自意識過剰な人間だったから。

 

 これは全ての召喚勇者に共通はしない、まともな勇者も要るからだし、前述の勇者も話せない訳では決して無かったのだ。

 

 他にも天職が勇者ながら最弱だった女の子にすら勝てず排除された事例もある。

 

 『勇者』というモノには希望が持てない理由も確かにあったという事。

 

「最弱の女の子? という事はこの世界じゃないのよね……」

 

 雫が最弱で想像したのはハジメ。

 

「一度、異世界に跳ばされて活動していたんだ。あの世界の少女とエルフ、それに同じく日本人で跳ばされた青年……パーティを組んでいてね。けど僕は彼女と関係を持ってすぐ日本に逆に跳ばされてしまった。仕方がないから暫く日本人としての活動に移行して高校生として動いていたら又候、勇者召喚での集団拉致に巻き込まれたんだ」

 

「それはまた……」

 

「折角、悠那達と可成り仲好くなっていたのに。とはいえ昔に比べて肉感的に成長した彼女と再会出来たのは悪くなかったけどな」

 

 代わりにユートの識らない原典は完全無視に、流れが可成り違ってしまっているけど。

 

「あの時の勇者(笑)も天之河レベルだったな」

 

「うわぁ」

 

「御愁傷様だよね」

 

「あれと同レベルなんだね」

 

 雫も香織も鈴も同情を禁じ得ない。

 

 更に進むが幸いにユートの鳳龍核撃斬の影響なのか、魔物が未だに散発的にすら出て来ないから割かしイチャ付きながら歩いていた。

 

『ブヒーッ!』

 

 其処へ来て遂に魔物が現れる。

 

「うわ、最悪な!」

 

 それは【四方世界】のゴブリン並に女の子からの悪評が高き魔物、場合によれば亜人族にも数えられるヒトを模した豚面――オーク。

 

 豚面に肥えた成人男性といった肥満体を持ち、高い性欲で女性を襲う性欲魔人。

 

 尚、世界によっては豚面だけあってチャーシューになる美味さらしいのだが、このトータス世界のオークは煮ても焼いても食えなさそう。

 

「死ね、氏ねじゃなく死ね! 豚野郎!」

 

『ブヒ、ブヒヒーッ!?』

 

 御多分に漏れずこのオークも香織に凸してきたから、ユートは女神ウーア・アルトの神聖力が宿された新たな聖剣マサムネを振り上げた。

 

 棍棒で防御しようとしたがアザンチウムの刃を

相手にしては真っ二つ、それでも僅かに稼げた刻を無駄にはしないで何とかバックステップ。

 

「チィ、しぶとい!」

 

『ブヒーッ!』

 

 何だか両腕を挙げて左右に振っている仕草をしてくるが知ったこっちゃない。

 

「冥界に逝け豚が!」

 

『ブフーッ!』

 

 必死に避けて躱すオーク。

 

「あれ、八重樫流だわ」

 

「え? って事は光輝君!?」

 

 見た目がオークだから華麗さは無いにしても、見慣れていたからこそ雫は気付けた様だ。

 

「ゆう君、絶対にあれが光輝君だって気付いていて攻撃をしてるよね」

 

「間違いなくね」

 

「どさくさに紛れて殺る心算なのかな?」

 

「本当に殺りそうで怖いわ」

 

 香織と雫の会話だったが、今の絵面は美少女とゴブリンの密会であったと云う。

 

「あ、何か掠れたよ?」

 

「ヤバいわね……」

 

 雫はダッシュしながら小太刀の清純を抜刀して聖剣マサムネを防ぐ。

 

 因みに、マサムネの銘とは【SaGa3~時空の覇者~】での四聖剣――エクスカリバー、ソロモン、クサナギ、マサムネから来ている。

 

 【SaGa2~秘宝伝説~】でも秘宝の一つにして女神の欠片として登場、【魔界塔士SaGa】に於いては回数の制限が無い上に『かみ』には効き難い

エクスカリバーより使える武器として、ラストダンジョンで手に入る。

 

 ユートは何気に御気に入りらしい。

 

 

 閑話休題

 

 

 ガキンッ! マサムネと清純がぶつかり合い、甲高い金属音が辺りに鳴り響いた。

 

『ブヒ!?』

 

 まさかゴブリンに助けられるとは思わなかったのだろう、勇者(笑)オークが腰を抜かしながらも驚愕に目を見開いている。

 

「助けるんだ?」

 

「ごめん、だけど一応は幼馴染みだったんだから目の前で死なれると……さ」

 

「そうだな、そうかも知れないな」

 

 勇者(笑)オークをまるでGでも視るかの如く、然しながらゴブリン化しているとはいえ【閃姫】たる雫の願い、聞くのは吝かではなかったユートは聖剣マサムネを鞘へと納刀する。

 

 雫も、レ○プされ掛けた香織でさえも勇者(笑)を見捨てられないのは解っていた。

 

 勇者(笑)が何か更なる決定的な莫迦をやらかせば流石に見捨てるかもだし、どうせ初めから女という観点からは視ていないのだから問題は無い。

 

 雫も最初はときめいたらしいが……

 

 ユートは手頃な大きさの石ころを拾う。

 

「錬成魔法」

 

 基本的には【創成】を使うから余り使う機会の無い錬成魔法、それを使って石ころを某かの魔導具へと変化させてそれをオーク化した天之河光輝の口に放り込んだ。

 

『ブヒーッ!?』

 

「とっとと呑み込め」

 

『ブフゥッ!』

 

 そして無理繰り呑ませる。

 

「な、何をするんだ緒方!?」

 

 その瞬間に天之河光輝の声が出た。

 

「こ、これは?」

 

「雫とティオに渡した魔導具と同じ魔法を仕掛けた石を呑ませた。あれの効果でお前はオーク的なブヒブヒ語が天之河語に変換されているのさ」

 

 ゴブリン二匹がシルバーアクセサリのペンダントを身に付けているのに気付く。

 

「あ、あのゴブリンが……雫とティオさん?」

 

「とか驚いているが、お前はお前で豚野郎だろ。漸く中身に外見が追い付いたな」

 

「そ、そんな訳があるかぁっ!」

 

 醜い内面に外見が伴った……など、天之河光輝からしたら有り得ないのであろう。

 

(そういや、豚人族は居るんだよな。オークとは違うらしいけど……豚人族のルーツではありそうな話かな?)

 

 物語的なオーク程に貪欲ではないが、豚人族もそれなりに繁殖力が高いらしいから。

 

 因みに今の天之河光輝みたいな豚面ではなく、普通に豚耳と尻尾を持った人間だとか。

 

 それはそうだろう、熊人族や虎人族や狐人族なども特徴が肉体へと表れはしても顔が熊や虎や狐そのものだったりはしない。

 

 つまり、豚人族が天之河光輝みたいな豚野郎という訳では決して無かった。

 

「それより、俺には石ころを呑ませたのに雫達にはアクセサリとはどういう事だよ?」

 

「あ? 何で僕が天之河の為に銀細工なんかしなくちゃならんよ?」

 

「ぐっ!?」

 

「抑々、錬成師無能説を推していた様な奴らに何で造って貰えると思った?」

 

「無能と呼んでいたのは檜山や他の連中だろ? 別に俺は何も言ってない!」

 

 確かにこの天之河光輝は言ってないであろう、然しながらユートは識る者から聞いている。

 

 【ありふれた職業で世界最強】に於ける原典、天之河光輝がハジメを間違いなく『無能』だと言っていた事を。

 

「というより錬成師を前線に出そうとか考えていた時点でお前らが無能だ」

 

「な、何だと!?」

 

「後方支援特化の錬成師を前線に出す? 戦術のせの字も理解していないだろう」

 

「だが、全員が一致団結するのは当然!」

 

「一致団結? 初めからしていないじゃないか。小悪党四人組は学校でのノリでハジメを平然と虐めていたしな。況してや僕の邪魔をして十数人のクラスメイトを死なせた」

 

「それは……」

 

「しかも撃たれたのは香織だった」

 

「……」

 

 これで撃たれたのがハジメなりユートなりなら天之河光輝も檜山大介を庇う言動をしたのだが、何しろ攻撃を受けたのは端から視れば香織だった訳だから、それを擁護する事は流石に憚れたのか此処は閉口をするしかなかった。

 

「もう一度言う、お前が無能なんだよ!」

 

 ユートは地面から鉱石を得て更に錬成魔法によりDQで皆勤の【鋼鉄の剣】の構成をした。

 

「こうやって工房で武具を造っていた方が余程、前線に出るよりも役に立つってのにな」

 

 縦しんば前線に立つとしても、補給線で武具を修復したりする後衛に居るべきである。

 

 錬成師に直接戦闘をやらせている輩を無能と呼ばず何と呼ぶのか? という話。

 

 まぁ、ユートは闘えるのだが……

 

 戦士、武闘家、魔法使い、盗賊、僧侶、商人、遊び人、賢者、バトルマスター、旅芸人、パラディン、スーパースター、魔法戦士、レンジャー、

船乗り、海賊、魔物ハンター、天地雷鳴師、ゴッドハンド、羊飼い、吟遊詩人、笑わせ師、踊り子――そして勇者。

 

 ドラクエ3、6、9で登場した職業を網羅するくらいに闘い慣れているのだから。

 

 尚、ユートが行ったアトリエ世界で錬金術士も追加された模様。

 

 幾らか言い争いは続いたものの、まだ大迷宮に入ってからそんなに経たない序盤も序盤といった事実から、天之河光輝も押し黙るしか無くなって取り敢えずは先へと進む事に。

 

 再生魔法は試していない。

 

 この大迷宮は入る際に再生魔法を指摘してきている為、当然ながら再生魔法対策は成されていると考えるべきだからだ。

 

 そんな事実は無いが、何ならそれでも頭が悪い莫迦が再生魔法を使った場合に備えた罰則的な、その手のトラップが仕掛けられている可能性をも鑑みた結果である。

 

 鳳龍核撃斬の跡が無い樹海部分を進むと巨大な樹木っぽい魔物が現れた。

 

 顔は無いが人面樹と呼ばれるDQモンスターみたいな魔物、とはいえ本体が太さ一〇mの高さが三〇mとか普通に人面樹より大きいと思われる。

 

(昔にアバンが魔の森で遭遇した特殊な人面樹もこんな感じだったのかな?)

 

 アバンが勇者見習いみたいな感じで旅を始め、必殺技を修得するのに持つ技能の個々レベルを上げようと、『武術の神様』と称される人物からの教えを受けるべくロモス王国の魔の森へ入った。

 

 魔の森はネイル村の在る場所ではあるものの、本来なら普通にモンスターが徘徊するだけだった筈なのに、魔王ハドラーが幅を利かせ始めてからは特殊モンスターが現れ出したのである。

 

 巨大な人面樹もその一つ。

 

 大量のモンスター群に巨大な人面樹とレベルがまだ低いアバンとロカには荷が重いだろう戦闘、盗賊っぽい女性による手助けが無ければ危なかった場面だったろう。

 

 ユートがアバンと出逢ったのは、【凍れる時の秘宝】によりハドラーを封印する為の闘いの場、【ロト世界】から【天空世界】へ渡る最中だった時に、【ダイ大世界】の三柱の神が干渉して召喚されてしまい落ちた先が其処だった。

 

 なのでカール王国を出てからの旅路はアバンやロカやレイラから聞いただけだが、原典では見ていない【アバンの大冒険】は愉しめたもの。

 

(まぁ、それは兎も角として……能力がガタ落ちな雫とティオと天之河は戦力外だな)

 

 雫は武器を持っているけど十全に闘える身体ではないし、ティオも魔法や龍化が出来ない状態で変身も不可能ときては仕方がない。

 

 天之河は論外。

 

「この位置、魔物の強さから視てフロアマスターの可能性が高いな」

 

「つまり、斃さないと進めないのね?」

 

「ああ、雫。それと判っているだろうけど」

 

「私とティオさん、それに光輝は闘えないわね。後ろに下がっているわ」

 

 聞き分けが良くて何より。

 

「待て、緒方! 俺は闘える!」

 

「武器が無く、仮に有っても普段の動きすら出来ないお前が役に立つ訳無いだろう。無能はすっ込んでろ!」

 

「ぐっ!」

 

 ユートの指摘に歯噛みする天之河光輝。

 

「征くぞ! 鈴は三人の護りを頼む」

 

「了解だよ!」

 

 この大迷宮のコンセプトが『絆』であるからには天之河を見捨てるのは拙いと判断、鈴をガードとして残す事で取り敢えず見捨ててないアピールをしておく。

 

 ユートの嘗ての家たる緒方家は、戦国時代に興された剣術の【緒方逸真流】を伝えていた。

 

 この流派は特殊な鍛え方で様々な武器を扱う事を旨としており、然しながら一人が鍛え抜くには扱う武器は多過ぎる事から宗家に【刀舞術】を、分家にそれぞれ別の武器による技術を継承していく形を取っている。

 

 ユートは宗家だったから【刀舞術】を習っていたのだが、分家筋の狼摩家の長女たる狼摩白夜から【鉄扇術】を、同じく分家筋の八雲家の長女たる八雲白珈から【双刀術】を習っていた。

 

 右手に聖剣マサムネを、左手にアザンチウムで造った扇を持って、のある意味で二刀流状態となったユートは不規則な機動を描いて襲い来る枝を斬り捨て、刃物の如く葉が手裏剣みたいに飛び交うのを斬り払い、まるで防弾の様な木の実を真っ二つにしていき、地面から槍の如く切っ先を持つ根が突如として現れれば扇を展開して防ぐ。

 

 元々が熊や狼や野犬や山猫など野生動物と闘って磨かれた技術を、緒方家開祖は戦国時代に於ける戦争で人斬りの技術も磨いた。

 

 故に人間だけでなく魔物との闘いにも充分に使える技に昇華されている。

 

 丸太の様な枝を防ぐユート、天之河光輝ならば受け止めるのだろう攻撃だったけど、ユートは僅かに刃を併せると当たらない様に極小さな運動で逸らすだけ、攻撃の根元となる部分を斬り捨てて同じ攻撃が出来ない様にしていた。

 

 最小限の動きで最大限の効果を、言うは易しだが実際に行うのは難しいのが世の常であろう。

 

 古いベルカの騎士はそれが出来ていた。

 

 原典でシグナムが言っていた事――『敵に近付いて斬る』というのを、ヴァイス・グランセニックが『奥義』だと言っていたのはこの事である。

 

 古代ベルカの時代に跳ばされたユートは戦争で多対一を熟し、この技術を究極を越えた極限にまで磨き抜いてきたのだからこの程度は容易い。

 

「どっせい! ですぅ!」

 

 敵愾心(ヘイト)をユートに集め目を引いてから他の者が叩く、この巨大なトレントには有効な手段であるのが窺える。

 

「……緋槍百蓮華!」

 

「変身!」

 

《CHANGE!》

 

 ユエが数百を越える緋槍を撃ち放った瞬間に、香織が裏モードで変身をした。

 

 ハートスートのカテゴリーAは出来損ないとされたエヒトの使徒リューンを封印しているから、裏モードではリューンの姿そのものへと変化させてくれる。

 

 元より本来の機能かも知れないけど、通常ならカテゴリーAでは白を基調としたカリスの姿に、仮面ライダーとしてのリューンに変身してしまう

為に態々、裏モードと称する機能を付けて香織に渡してあった。

 

「カテゴリーKが有るんだしそっちでノイントに成れば良いものを……」

 

 姿形は変わらないけど完成品と不完全なモノ、当然ながら能力も機能もノイントが上。

 

「分っ解っ!」

 

 同じ攻撃でも消費や威力が全く違う。

 

 それでも香織の能力は高くなっていたからか、巨大トレントは分解によって消滅。

 

 巨大トレントが佇んでいた跡には魔石だけが遺されていたと云う。

 

 

.




 次回は夢の話からか……




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第81話:夢の世界を堪能します

 若干短いけど、初期の噺よりは長いです。





.

「あれ?」

 

 雫は何故か元の姿に戻っている上に何故だか、ユートから横抱きにされていた。

 

「へ? ゆ、優斗?」

 

「何だい? 僕の可愛い雫姫」

 

「はい? ひ、姫って……雫姫って……」

 

 何だかユートがおかしいと気付く雫だったが、横抱きは云わばお姫様抱っこという体勢。

 

 心地好くて温かくて顔を赤らめてしまう。

 

 確かにこんな理想を夢見た事はあったのだが、まさかこんな風に叶うとか思わない。

 

「雫姫様、ゆう君に抱っこされて羨ましいかな、かな」

 

「か、香織!?」

 

 知り合いというか親友に視られていた事に恥ずかしくて顔から火が出そう。

 

「……雫姫が恥ずかしそう」

 

「ユエさん!?」

 

 よく周りを見たら香織やユエだけではなくて、ティオやシアや鈴まで一緒に要るし何より全員が『雫姫』呼びに違和感を感じていないみたいだ。

 

(どうなってんの!?)

 

 雫は訳が解らなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「はれ? 何で私、ベッドの上で下着姿になっているのかな?」

 

 香織は自身の格好とベッドの上という状況から首を傾げるしかない。

 

「香織」

 

「あ、ゆう君……そっか! 今からシちゃうんだ。それで半裸でベッドの上なのかな?」

 

「白崎さん」

 

「ふぇ!?」

 

 何故かハジメが居た。

 

 しかもユートと同じくな格好からして今から、ハジメも御愉しみという事になる。

 

「え、でも……」

 

 確かユートの【閃姫】はユート以外と睦み合う事を赦されず、万が一にでもヤろうとしたならば下半身のJr.がピチュン! してしまう筈。

 

 実際に天之河光輝はそうなった。

 

「っていうか、言いますか! 私ってば男の子を二人相手にどうヤるの?」

 

 答えは上のお口と下のお口で前から後ろから、ズッコンバッコンと!?

 

 想像したら真っ赤になってしまう。

 

「さぁ、香織」

 

「白崎さん」

 

「ゆ、ゆう君……南雲君……」

 

 そしてめくるめく倒錯の世界へ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……ユート」

 

「綺麗だよ、我が妃ユエ」

 

 玉座に座るユートと膝に座るユエ。

 

 吸血鬼族の城内、ユートが王となりユエはその王妃という形で二人は愛し合う。

 

 頬に触れて顔を自分に向けさせると唇を重ね、事ある毎に愛を確かめていた。

 

 城内には仲間達が居て愉しい日々を過ごしていけたし、妹みたいな――背は向こうが高いけど――シアと百合百合しい行為をしながらユートに抱かれるのも嬉しい。

 

 姉みたいなティオの御胸に吸い付くのも良く、香織と雫のコンビと戯れても愉しかった。

 

 何なら御胸が大して変わらない鈴と一緒に抱かれても良いだろう。

 

「おや、とんでもない場面に来てしまった様だね私の可愛いアレーティア」

 

「……お、叔父様!? リンディード叔父様!」

 

 真っ赤ななるユエ。

 

 何故なら今はちょっとイチャイチャしているというレベルではなく、ドレスのスカートにより隠されているから直には見えていないだろうけど、ユートと玉座にて絶賛合体中だったりするから。

 

 敬愛するリンディード叔父様に真っ最中なのを視られてしまい、思わずという感じにお腹へ力を入れてしまったからかユートが欲望を吐き出す。

 

 それ故に更に恥ずかしい。

 

「まぁ、少し待っているから身綺麗にしてきてくれると私としては助かるね」

 

「……は、はい」

 

 消え入りそうな声で返事をしたユエはてとてと早足に歩いて浴場へ、小一時間くらいで中までも綺麗に洗い流してから戻ってきた。

 

「それで叔父様、御用件は?」

 

 一応、ユートが吸血鬼族の国の国王となってはいるものの、本来はユエ――アレーティアが女王に成るべきだったのを無理繰りでユートに譲位して自身は第一王妃の座を獲得している。

 

 なので立場的にユエは副王とも云う事であり、ユートと共に政務に勤しんでいた。

 

 だからこそ少しでも時間が空いたら所構わずにヤっている訳だが……

 

「それで、宰相との話し合いが必須かと」

 

「……ん、ティオを呼ぶ」

 

 この国の宰相はティオ・クラルス、クラルスの才媛たる彼女も王妃の一人――第六王妃として迎えており且つ宰相に据えた。

 

「次に騎士団の……」

 

「……騎士団長の雫と副団長のシアを呼ぶから少し待ってて叔父様」

 

 騎士団長には第二王妃の八重樫 雫、補佐役たる副団長には獣人族の英雄のシア・ハウリアを第四王妃に据えつつ置いている。

 

「それで予算に関して」

 

「……ん、香織の領分」

 

 経済産業省に経済産業大臣にして第三王妃である白崎香織。

 

「つきましては、魔法省から人を派遣したいと考えております」

 

「……宮廷魔術師のミレディに相談する」

 

 ミレディ・ライセンはユエすら越える魔法の才を見込まれ、第五王妃に迎えつつも魔法省のトッブ兼宮廷魔術師に。

 

「一時の清涼剤に~って、鈴の扱いよ!」

第七王妃であり宮廷道化師の谷本 鈴が扇を手に舞いを踊る。

 

「何と言うか、宮廷道化師は兎も角として重要な部署が陛下の王妃様方で埋まっているね」

 

 話し合いには第一王妃のユエを除く六人の名が普通に挙がっていた。

 

 また、国営レストラン【ウィステリア】を営む園部優花はユートの愛人でもあり、国家諜報省の責任者――部下に深淵卿――にもなっている。

 

 ユエの主導でこの国はユートに征服されていたりする為、リンディードは可愛いアレーティアが求めるならとアホ兄と義姉の追放に動いた。

 

 ユエはそんな叔父様に感謝しつつ、国の要職にも就いて貰ったのである。

 

 更には虎視眈々と王妃の座を狙う義娘ミュウとその母レミア、立場的に視るとレミアは側室という愛人より上で王妃より下の立ち位置を確保し、『あらあら、ウフフ』とユートを優しく癒していて以外と侮れない。

 

(……ん、幸せ。私は()()()()()じゃない)

 

 ユエは今の幸せを噛み締めていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ、母様!」

 

「シア」

 

 シアは自分に顔立ちが似た女性に話し掛ける、それに応えたモナ・ハウリア――即ちシアの母。

 

「今日は父様と母様、私とユートさんでWデートを愉しむんですぅ!」

 

 この日の為に毎日の根回しをしてきたシアは、兎にも角にも大変な毎日であったと云う。

 

 他の娘達に今日を遠慮して貰う為に仕事などを手伝ったし、暫くはユートの傍に侍る事も出来なかったから肉体的にも精神的にもキツかった。

 

 だけど遂にこの日を迎えたのだ。

 

 肉体労働しながらもユートに甘えられないというWパンチも、今日という日の為の試練だったと思えたからこそ頑張れたのである。

 

 ルンルン気分で恋人繋ぎにしている手。

 

 既に肢体を赦しているとはいえ、こうしていると初心な恋人っぽくてシアは嬉しかった。

 

 シアが大好きな父様――カム・ハウリアと母様――モナ・ハウリアと共に、愛しているユートとの逢瀬はちょっとした夢でもあったのだ。

 

「パパ~!」

 

「って、ミュウちゃん!?」

 

 何故かレミアの娘のミュウが凸してくる。

 

「ミュウちゃん、どうしたんですか? 今日は私がユートさんを独占する約束でしたよね!?」

 

 これはミュウもレミアから聴かされていた筈、レミアは今は亡き夫との間にミュウという四歳の娘が居るが、ミュウがユートに懐いていたのに加えてレミア本人がユートにトキメキクライシスだったらしくて、数年振りの恋に目覚めてしまったから……さぁ大変。

 

 大人の魅力と母性がジョグレス進化したかの様なレミアの攻勢に、ユートもちょっとたじたじとなってしまっていたのだから。

 

 そんなレミアから引き離す意味もあった。

 

 ミュウの事は妹みたいに思っているシアだが、いつかミュウにユートが奪われそうな気がして恐れてもいたし、美しいレミアの娘だからには将来の美貌は約束されたも同然な上に、きっとミュウがヤれる年齢――一二年くらい後でも三十代であるレミアと母娘でなんてプレイが可能。

 

 同じく兎人族な事もあり美貌の母モナ・ハウリアを持つシアだったけど、まさか不倫をさせるなんてのはユートの倫理的に不可能だ。

 

(父様を殺れば?)

 

 一瞬だけ不埒な考えを持つと、危機察知能力に長けた種族だからか? カムがビクッと肩を震わせて僅かにだが愛娘から距離を取る。

 

 まぁ、確かに不倫はNGなユートだったりするが未亡人には手を出すだろうから。

 

「良いじゃない」

 

「母様?」

 

「いつかシアがユート君の子を授かった時には、貴女も夫婦の間に子供を挟んで手を繋ぐの」

 

「ユ、ユートさんとの子供……」

 

 自分が子を成すという事に顔が熱くなり赤らめてしまう、それと同時に妄想をしているのは若い証しなのかも知れない。

 

「だからミュウちゃんを連れて行って予行演習も良いのではないかしら?」

 

「予行演習ですか?」

 

 シアは思う。

 

(良いかもしれませんね)

 

 ウサミミをキュンキュンさせながら。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ティオは落ち着いた様子で里を見回した。

 

「ヴェンリ、妾に御茶をくれぬかのぅ」

 

「はい、姫様」

 

 ヴェンリはティオの乳母、その絆は母と子にも近いものがある。

 

「皆はどうしておる?」

 

「御館様はミュウ様とまったり寛いでいらっしゃいますよ。他の皆様はそれぞれに得意な分野でのトレーニングや御勉強を」

 

「成程の。では妾も御茶を飲み終えたら主殿の所へと行ってみようか」

 

「はい、御館様も喜ばれましょう」

 

 言うまでも無く、ヴェンリが語る『御館様』とはユートの事を指していた。

 

「そういえば父上と母上は?」

 

「ミュウちゃんに爺バカをするハルガ様をオルナ様が追い回していますね」

 

「さ、左様か」

 

 ミュウは飽く迄もレミアの娘ではあるのだが、胸も大きくて包容力のあるティオに母親にも近い親近感を持ち、シアには実の姉にも似たシンパシーを感じているという。

 

 それ故にかティオがまだ子を成していないので代わりというのは失礼だが、ミュウを孫みたいにハルガ・クラルスは可愛がっていた。

 

 オルナ・クラルスはそんなハルガを押さえ付けるのに苦労をしているとか。

 

「ほんに、父上も懲りぬのう」

 

「そうで御座いますね」

 

 幸せを噛み締めながらティオはヴェンリの淹れてくれた御茶を飲んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 鈴はユートとヤっていた。

 

 嬌声を上げてひたすらに抱かれ、時には御奉仕とばかりにお口で……など、胸では活躍が出来ないから口の技を磨いている。

 

 こうしてユートとの性に溺れるのが幸せだったから、いつまでもヤっていたいくらいに幸せを感じていたから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「とまぁ、こんな感じだな」

 

「鈴が何だか可成り大雑把じゃないか?」

 

「知らんよ。大迷宮のリソースが間に合わなかったんじゃないか?」

 

「世知辛い理由だね、優雅兄」

 

 目の前のユートに似た青年、名前は緒方優雅というユートにとっては産まれて来れなかった兄、そういう認識な『もう一人の僕』である。

 

 まぁ、何処かの『もう一人の僕(闇遊戯)』と比べて表には余り出てこないけど。

 

 本来、優雅はユート――緒方優斗の魂の相克と成るべき存在として誕生した。

 

 アテナの黄金聖闘士の双子座が事実上の双子であったり、或いは何らかの形でもう一人の自分が形勢されていたりする……過去の双児宮で双子座のカインとアベルを見た鳳凰星座の一輝からして、『又も呪われた星座だと云うのか!?』と驚愕をしてしまう程だ。

 

 ユートの先代に当たる双子座のサガは事実上の双子であり、海皇ポセイドンの海闘士たる海龍のカノンとして相対をしてきたけど、それ以外にも

サガは二重人格としてもう一人のサガとも云うべき存在が居た。

 

 教皇たるシオンを殺害し射手座のアイオロスを反逆者に仕立て上げ、聖域を一三年間にも渡って支配してきた偽教皇こそが裏サガである。

 

 尤も、裏サガはとある存在により植え付けられた――云わば生来の双子のカノンとは違い後付けされた人格なのだが……

 

 優雅は前々世のユートと一卵性の双子として生を受ける筈だったけど、ユートは生きていたのに優雅は死産という有り様で母親の緒方容子は酷く嘆き哀しんだもの。

 

 では形勢されていた筈の魂はどうなったのか?

 その答えはユートに融合をした……だ。

 

 ユートはつまり生まれつき二人分の――延いては二回の人生を記憶を蝕まれる事無く生きた存在と同じだけの魂を持っていた。

 

 生有るモノは魂の昇華を行う。

 

 仮に最初の生がゾウリムシだったとして、その生を全うすれば次の生は更に進化した生命として生まれ変わるだろう。

 

 一番に大変なのが人間みたいな知的生命体というか霊長類というか、つまりはそういう存在にまで生まれた場合となる。

 

 仮に前の生が獅子だったとして、肉を喰らう為に草食獣を殺すのは罪足り得ないであろうけど、人間として生まれたからには同族を殺すのは疎か無闇に他の生き物を殺しても咎となり、魂の昇華の妨げになってしまうという事。

 

 故にこそ生きているだけでマイナスを喰らい、二回分の魂が二回の人生で獲られない。

 

 それこそ百回を生まれ直しても果たして足りるか否や、ユートは人間としての前世を未だに持たない最初の人生でそれを手に入れていた。

 

 とはいえ、ユートの魂は這い寄る混沌の一欠片であるが故に神性を帯びているけど。

 

 双子の魂は二通り、一つはそれぞれに魂が宿った場合で、二つ目は既に宿った魂が引き裂かれて双子の各々へと宿った場合。

 

 ユートと優雅は前者に当たる。

 

 つまりユートは確かに這い寄る混沌の一欠片であるが、一方の優雅の魂は紛れも無い人間の魂である上にとある人物の転生した存在でもあった。

 

 更に云えばその前世は余りにも罪深いが故に、転生による魂の昇華は殆んどされていない。

 

 優雅は意識を持ってから前世の記憶を持ち合わせなかったが、今は()()()()から前世の記憶を取り戻している。

 

「それで、どうする心算だ?」

 

「暫くは視て愉しませて貰うよ」

 

「それは構わんが、試練の夢に溺れてくれるな。昇華魔法を得られなくなるからな」

 

「勿の論だね」

 

 ユートは優雅にヒラヒラと手を振りながらその場を去るのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「兄さん、朝ですよ。ほら、起きて下さい」

 

 朝っぱらから可愛らしい声が朝日に目を焼く中で聴こえてくる。

 

 ユートは目も開かずに声の方へ腕を伸とばし、十字を組んでそれを引き寄せた。

 

「キャッ!?」

 

 首後ろに両腕を廻されてホールドされてしまったが故に、小さな……そして可成り可愛い声を上げた少女らしき子が胸元に収容される。

 

 ユートを『兄さん』と呼んだからには妹なのは確定、更にそんな呼び方をしてい妹であるのなら緒方白亜であろう。

 

「に、兄さん……」

 

「御早う、白亜」

 

「お、御早う御座います……兄さん」

 

 目を開くと顔を真っ赤にさせた白亜の顔がすぐ目の前に在る。

 

 薄いという程ではないが豊満とも云えないくらいの胸がユートの身体に押し付けられている為、羞恥心が働いているのは間違いないのであろうが同時に白亜は悦びをも感じていた。

 

 形の良い胸は押し潰されていて、ユートは妹の胸にそこはかとなく気持ち良さを覚える。

 

 とはいえ、今のユートの下半身のJr.がおっきをしているのはそれが理由では決して無い。

 

「兄さん、おっきしてる……」

 

「白亜の胸が押し付けられているのは無関係だからな?」

 

「あ、朝ですからね」

 

 何故かスリスリとズボンの上からであるとはいえ白亜の白魚みたいな指が、ユートの下半身に在るJr.をナデナデしてきていた。

 

 白亜は実妹であるが何故かユートに異性としての愛情を懐いていた……とはハルケギニア時代に聞いて知っているが、少なくとも前々世ではこんな痴態を行った事など無かった筈。

 

「白亜?」

 

「兄さん……」

 

 ハルケギニア時代には裸で寝ていたユートも、前々世では普通に寝間着を着て寝ていたからだろうか? 今現在のユートも寝間着を着ていたから良かったと思う。

 

「パンツが汚れてしまうんだが……」

 

「構いません、私が洗います」

 

「白亜、お前なぁ」

 

 結局は射精を促されてしまって、ユートの穿いていたパンツというかトランクスは白亜によって回収されていき……こっそり覗いたら濡れた部位に鼻を近付けてクンカクンカと嗅いでいた。

 

 それは妹が実兄に行うには普通ならドン引きな光景であったと云う。

 

 更に色々とやらかしていたのは視ない振りをして階段を降りた。

 

 この夢の設定上はユートは緒方優斗(一七)という感じで、五月が過ぎているから誕生日も終わった高校二年生らしくて、通うのはユートが前々世で通っていた公立高校の普通科である。

 

「御早う御座います優斗様」

 

 三つ指を付いて御辞儀しながら朝の挨拶をしてきたのは、御三どんをしていたのか和装ながらも大正情緒な服装の狼摩白夜。

 

「御早う、白夜」

 

 一つ歳下な白夜は高校一年生。

 

 だけど前々世で白夜が御三どんを宗家で行った事は終ぞ無く、然しながら【闘神都市】世界にて再会した白夜は【闘神の館】でしてくれていた。

 

「朝餉は御用意しております。朝稽古をしたなら戴きましょう」

 

「判った」

 

 古流剣術の道場である緒方家では朝稽古の為に朝早く起きる。

 

 ユートは宗家の【刀舞術】の稽古をしつつも、狼摩家の【鉄扇術】や八雲家の【双刀術】の稽古も余念無く行う。

 

 どうして態々、こんな三つもの技を磨いているのか? それはユートが【刀舞術】だけには限界を感じたから狼摩家の【鉄扇術】を白夜から教わったのが経緯。

 

 更に両方の武器を扱うべく二刀流を修めるべく八雲家の【双刀術】を、八雲家の長女の八雲白迦から習う事にした。

 

 何故か白夜も白迦も嬉しそうに教えてくれたのだが、後にユートへの好意からそうしたのだとは教えて貰っている。

 

 朝稽古を終えて朝餉の時間となったのだけど、両親に祖父母に白亜と御三どんをしていた白夜までは百歩譲って良しとするが……

 

「これは?」

 

 其処には分家の長女達がズラリ勢揃い。

 

 八雲白迦もそうだし他にも居た。

 

(まぁ、幸せな夢を演出してるんだろうけどな。分家の長女が全員集合とかねぇ……」

 

 この分ならある意味で高校も期待出来そうで、ニヤリと口角を吊り上げつつ朝餉を摂った。

 

 ユートは高校へ向かい、白亜は小学校へ。

 

 そう、恐るべき事にユートと白亜は五歳差だからユートが高校二年生の時分は白亜が小学六年生であり、見た目が高校生っぽかったからユートも勘違いをしていたのだ。

 

「あの見た目でランドセルを背負うとか、何だか微妙に犯罪チックな気がするよな」

 

 尚、分家の長女らは小さくても中学二年生だから余り違和感は無い。

 

「御早う、ユート君」

 

「マリー?」

 

 それは長い金髪女性でマルローネという名前、【マリーのアトリエ~ザールブルグの錬金術士~】の主人公であり、アカデミー始まって以来の落ち零れとして四年間の学業では卒業が叶わず、五年間もの留年をしてしまった未だに破られざる

記録保持者だった。

 

「あ、ユート君! 御早う」

 

「シアもか……御早う、二人共」

 

 マリーの隣に居たのはシア・ドナースターク、ドナースターク家という商家に産まれた娘さんで生まれながら身体が弱く、原典のゲームに於いてはマリーがエリキシル剤を造って治した。

 

(見た目は二〇歳時の二人だよな)

 

 とは云っても先の白亜の例もあったのだから、ちょっと油断が出来ないのも確か。

 

「あ、フレアさんの喫茶店にアイテムを卸さなきゃだった! じゃあね?」

 

「あ、待ってよマリー! もう、それじゃあね? 御勉強を頑張ってねユート君」

 

 駆けて行く二人。

 

「フレアの喫茶店? 確かに暖簾分けみたいな形でフレアは喫茶店の独立営業をしていたが……」

 

 ディオ・シェンクの一人娘のフレア・シェンク

は父親が【飛翔亭】という酒場を経営しており、ゲーム内では偶にフレアがカウンターに立っている様子が見られる。

 

 この夢世界では【飛翔亭・喫茶シェンク】として居酒屋の【飛翔亭】とは別に経営中らしくて、

美人店長としてフレアの店は中々の繁盛振りをしている様で、大学生で錬金術を専行して学んでいるマルローネの小遣い稼ぎに依頼を出していた。

 

 尚、飛翔亭の依頼は一種の契約制で依頼が欲しければ専属契約をする必要がある。

 

 ユートが夢世界の設定を視てみたら自身も確かに契約していた。

 

「学校帰りに寄るか」

 

 ユートが【ザールブルグの錬金術士シリーズ】な世界に行った際、フレアの家のシェンク家にて世話になったのもあるけど、某・元槍騎士には悪いが興味をたっぷりと惹いて喰っちゃった。

 

 その後も【リリーのアトリエ】や【エリーのアトリエ】は疎か、【ヴィオラートのアトリエ】や【ユーディーのアトリエ】、【黄昏シリーズ】や【不思議シリーズ】や【アーランドシリーズ】の【閃姫】達は当然として、他の【閃姫】達とまで出逢うのだが……

 

 【アスラクライン】、【AYAKASHI】、【神楽シリーズ】、【リリカルなのは】、【闘神都市】は云うに及ばずだ。

 

「やほー」

 

「あむ……か」

 

 長い亜麻色の髪の毛の少女、高校生ではあるが肉体的には幼さが残っている彼女は胸は当然ながら殆んど無い、そんな卯月あむは天才的な子役として芸能活動をしてきたが、基本的に常に演じる事を余儀無くされてきた為にか本当の自分を見て貰いたいという欲求を持っていた。

 

 ユートの傍では飾らない演じない自分で居られるからと、護衛依頼を受けて来た際に懐いてきたのも今はそれこそ懐かしいと云えるだろう。

 

 見た目に幼いあむも年齢がそぐわない訳ではないから、当然ながらユートとは肉体関係を持っているのだけど、あむ本人の希望から彼女が通っていた高校で行われた演劇対決に力を貸して欲しいと頼まれ、それを手伝った事により当時の2ーBの女子の何人かとも仲好くベッドインしていた。

 

 ユートが頼られた理由は演劇対決の理由となった男子――恐らく本来の主人公――が大失敗をして学校を追放され、まとめ役の少女――葵 未来だけではまとめ切れなくなった為。

 

 卯月あむとまとめ役の葵 未来もそうなのだが、咲守素子と鈴原 空と桃井葉子と秋穂もみじという【閃姫】となった娘は、本来の主人公のヒロインであったらしいとはユーキから聞いた。

 

 他にも何人かは【閃姫】になったけど、基本的にはヤっただけで関係が終わっている。

 

 2ーB担任の坂本加奈子まで【閃姫】になったのは吃驚な話だったが、微妙に焦りを感じていた処に流されたとはいえユートと肉体関係を持って、『もうこの人に付いていく』と決意したらしい。

 

 一頻り会話をした後は抑々にして学校が違うのに加え、あむは仕事で学校に行く予定が無いからと別れてしまった。

 

「あ、父様!」

 

「クオ……ン?」

 

 長い黒髪に独特な民俗衣装の美しい娘は文字通りにユートの娘、然しながら本来ならば別の男が父親となる筈だった少女――クオン。

 

「【閃姫】しか居ない筈じゃなかったか?」

 

 この夢世界には基本的に【閃姫】しか居ない、例外的に両親と祖父母は家に居たがそれに関しては夢世界の『幸福な夢』の為には、前々世に於ける両親と祖父母も必要とされたのだろう。

 

 この夢世界はそんな『幸福』に逃げ込み溺れるか否かを問われるのだと考えられる。

 

 ユートは単純にちょっと遊ぼうと思っているに過ぎず、決して溺れたりはしないから問題も無いのだけれど……

 

 この場には居ない優雅は思う。

 

(あの勇者(笑)君は駄目だろうな)

 

 天之河光輝は恐らく幼馴染みをユートに奪われたりせず、何ならユートの【閃姫】となっているユエ、シア、ティオを解放させた天之河光輝()()にとって都合の良い『幸福』な夢だろうから。

 

(ま、抜け出せないならせめてその幸せな夢を視ながら溺死しろや)

 

 助ける気など一切無い優雅であった。

 

 それは兎も角、ユートは近親相姦を推奨している訳ではないからクオンが愛娘とはいえ【閃姫】でもないのに居るのはどうなのか? とか考えていると、クオンは苦笑いをしながらその答えを自らが口にする。

 

(わたくし)はユズハ御母様とハクオロ父様の間に産まれた娘かな」

 

「うん?」

 

 【うたわれるもの】自体は識らなかったけど、ハルケギニア時代にユーキから放浪期を越えてから後に教わった。

 

 そしてユートは【うたわれるもの】の世界にも行っており、ヤマユラでハクオロを主とした者達とも出逢っていた。

 

 ヒロイン関連はハクオロと分けた感じとなり、本来のメインヒロインのエルルゥはハクオロへと向かい、アルルゥはハクオロを父と慕うのは変わらなかったけどユートと結ばれている。

 

 肝心なユズハはユートと。

 

 故にユートが関わった【うたわれるもの】では

【偽りの仮面】の時代、クオンはユートの娘として産まれて活動をしていた。

 

 ハクオロも封印こそされていたが原典程では無かったからクオンも普通に会う事が出来た為に、ユートとオボロだけでなくハクオロも『父様』と呼んで慕っていたのだ。

 

 尚、トゥスクル国の初代(オゥロ)はハクオロであり、彼を封印後の二代目がユート、そして国が安定してからユートが引退し三代目にオボロが就く。

 

 目の前のクオンは本来の世界線での彼女らしいけど、見た目には全く違いが判らないくらい同一人物にしか見えなかったと云う。

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 本当は夢世界は終わる予定でしたが、時間が厳しかったので切りました。

 だから少し短いいのです。





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第82話:優しい夢を越えて

 殆んど進みません。





 

.

「追い出されてしまった……」

 

 既にユートは夢から目覚めている。

 

 愉しんでいたのは良かったが、リューティリス・ハルツィナの意志っぽいナニかに話し掛けられて、何故かプンプンな感じだった彼女はユートを夢世界から追い出したのだ。

 

 まぁ、クオンに会ってから後も好き勝手にやっていたから辟易とされたのかも知れない。

 

「せめてフレアの喫茶店で珈琲くらいは飲みたかったんだけどな」

 

 光源が無い真っ暗闇の中だがユートは夜目が利くというか、ユートの魔眼は視る事に特化されている【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】故に普通に闇でも見えており、辺りを見回してこの場がトレントを斃して入った巨樹の祠にも似た、然しながら二回りは広そうな部屋になっているのが判った。

 

「ドーム状になっている。それにあれは琥珀? というか、僕が入っていたのと同じだし何より数が人数分だからな」

 

 仲間と+αが入っているのだろう。

 

 調べてみれば雫もティオも元の姿に戻っていたから一安心、流石にゴブリンな姿ではちょっと抱けないから仕方がない。

 

 当然ながら天之河光輝も元の姿だったのだが、其処ら辺はどうでも良い話だった。

 

 まるで死んだ様な眠りに就いてはいるけど氣の感知が出来たし、間違いなく生きている様だから取り敢えずは放って置くべきだろう。

 

「試練に打ち克てば起きるんだろう」

 

 ユートがそうだったのだから。

 

 とはいえ、未だにユート以外は目覚めていないから少し退屈を持て余していた。

 

 雫やユエやティオやシアや香織や鈴のあられもない姿を視れば目の保養になるけど、残念ながら彼女らの姿はハルツィナ大迷宮に入った時と特に変わらない格好。

 

 まぁ、それはそれで(そそ)るのだが……

 

「折角の空き時間なんだし、魔物の肉の錬金でもするか? 何だかんだと便利なアイテムだから」

 

 魔物の肉は毒みたいな物で、人間が食べたりすれば肉体が連鎖崩壊して死に至る。

 

 そしてユートは使わないが、ハジメと恵里へと渡していて二人のステータス値と技能に変化が有ったりするが、技能は兎も角としてステータス値は生肉を喰らうより上昇率が半減していた。

 

 早速とばかりにユートは錬金釜をストレージから取り出し、今までに魔物を斃しては手に入れてきた生肉をボチャンボチャンと投入していくと、ぐーるぐるぐーるぐると錬金棒にて釜の中を掻き

回し始める。

 

 ユートは【ソフィーのアトリエ~不思議の本の錬金術士~】の世界に墜ちてしまい、ちょっとしたミスでソフィーの家の中のあろう事かソフィーの眠るベッドの上に。

 

 勿論、衝撃で目覚めたソフィーは真っ赤になりながら大混乱したのは言うまでもあるまい。

 

 空飛ぶ喋る本なプラフタは――『ソフィーがいつの間にか大人に』と誤解していた。

 

 その後は様々な誤解を解いておきプラフタから

錬金術を習うと、ソフィーと共に錬金術士として錬金術の真髄を極めんとしてきたのである。

 

 錬金術は素材の特性を理解して、複数のそれを分解し抽出、統合して再構築をする技術。

 

 【不思議シリーズ】から出た後は【黄昏シリーズ】の世界へ、そして【アーランドシリーズ】へ行き更には【ザールブルグ】と【グラムナート】の世界へと行って錬金術をやり続けた。

 

 その技術は確かなもの。

 

「三色魔物肉団子……出っ来上っがり!」

 

 完成したのは三色団子だったけど、魔物肉を使って造った錬金アイテム。

 

 どうしてこうなるのかなど考えてはいけない、実際に喩えばアーランドの錬金術士のロロライナ――ロロナも錬金術で様々なパイを錬金するけど、明らかにパイ作りの過程を経てないパイ生地だが普通に作れているのだから。

 

 ザールブルグの方でもエルフィール――エリーが

チーズケーキを錬金する。

 

 つまりはそういう事だ。

 

「うん?」

 

 琥珀の一つが仄かな光を放ち、それが少しずつ収まっていくとドロリと融解して棺に吸収されたのか消え、其処には未だに目を覚ましていない雫が横たわっている。

 

「眠り姫を起こすのは王子様か騎士の口付けとかがポピュラー、ぶっちゃけ僕は王子様じゃないんだけど真皇だから問題無いか? ベルカの騎士でも一応はある訳だしね」

 

 ユートはそう言いながら横たわる雫の上半身を持ち上げ、ソッと顔を近付けると彼女のプルンとした柔らかそうな唇に自らの唇を重ねた。

 

「御早う、()()

 

「っ!?」

 

 目をゆっくりと開けた雫はユートの科白を聴いて吃驚仰天、真っ赤になりながら大混乱に陥ってしまったらしいけど暴れようにも確り押さえ付けられていたし、再び唇を重ねられた上に舌までも捩じ込まれて自分の舌を絡み取られては身動ぎをするのも話すのも無理。

 

 諦めて成すが侭でされるが侭にキスの感触だけを感じていた。

 

 天之河光輝辺りにヤられていたらぶん殴っても止めさせるが、今や好意を持つ相手であるユートからのキスなら受け容れない理由は無いから。

 

「一番乗りおめでとう」

 

「あ、ありがと。さっきのし、雫姫って?」

 

「呼ばれていたろ? 夢ん中で」

 

「うっ!」

 

 又候、頬を真っ赤にする雫。

 

「な、何で!?」

 

「夢ってのは無意識領域で繋がっているもんだ。こちとらは精神や脳に対して一家言を持つから、近場に居ればハックするくらいは出来るのさ」

 

「あう~っ! 忘れて!」

 

 穴が有ったら入りたい気分なのか、ポニーテールガードで顔を隠しながら叫んだのだと云う。

 

 一頻り羞恥心を煽られた後に正気へと戻った雫は釜を見て小首を傾げた。

 

「何か造っていたのかしら?」

 

「魔物肉の団子をね」

 

「魔物肉のって……確か南雲君と恵里に食べさせたとか言ってたわね」

 

「ステータス値が上がって技能も増えるからな。前回から間も空いたしそろそろ素材の魔物肉が多くなってきたんでね」

 

「ふーん」

 

 元々が魔物を合成された獣人や吸血鬼や竜人のシアとユエとティオは兎も角、雫と香織と鈴であれば恐らく魔物肉の団子を食べたら容姿に変化があるだろうとユートは予測している。

 

 ハジメと恵里の容姿がより良い方に変わった事を鑑みれば、より美しく……若しくは可愛らしくと顔が変わるのは勿論、胸が増量されて腰も括れてお尻もより柔らかな肉付きとなるだろう。

 

「団子は造り終えたから次だな」

 

「今度は何を?」

 

「カチカッチン鋼って識ってるか?」

 

「カチカッチン鋼? ドラゴンボールのカッチン鋼と関係があるの?」

 

「……まぁね」

 

 未だにこの世界では【ドラゴンボール超】なんて放映されておらず、雫が識るのは界王神のシンが悟飯の手にしたZソードの切れ味を確かめるべく用意したのが、宇宙一硬いとされるカッチン鋼だった事からカッチン鋼は周知されているけど、【ドラゴンボール超】が初出のカチカッチン鋼は雫も識り様が無かった。

 

 カチカッチン鋼をユートは取り出す。

 

「それがカチカッチン鋼?」

 

「そう。この程度の大きさでも相当に重たいんだけど、これとグラビ石を錬金する事で多少なりとも軽くしてみようかと思ってね」

 

 嘗てマルローネが騎士の鎧を軽くしようとしたのと似た感じだろう。

 

 ユートは早速だとばかりにカチカッチン鋼と、グラビ石に中和剤を錬金釜にぶち込んだ。

 

 ぐーるぐるぐーるぐる。

 

 カッチン鋼やカチカッチン鋼その物はユートが創成して造れてしまうが、未だに視た事の無い物を造り出すのは可成り難しい。

 

 遥か昔に青鍛鋼(ブルーメタル)を造ろうとして失敗の山を積み上げたくらいには……だ。

 

 因みに、ドラクエ世界で実際の青鍛鋼を視たら可成り組成が違っていて凹んだ覚えがある。

 

 青鍛鋼は地下世界アレフガルドで三種の神器的な扱いで、伝説の武具として【光の鎧】に使われている魔法金属の一種であり可成り硬度が高く、ファンタジー御用達とも云える流白銀(ミスリル)を遥かに越えているらしい。

 

 伝説の武具に使われる程に希少金属の筈だが、【ロトの鎧レプリカ】は兎も角としてアリアハンでは何故か地下牢の鉄格子に使われていた。

 

「ねぇ、優斗……それをやりながら話とかは出来るのかしら?」

 

「出来るぞ」

 

「ちょっと退屈だから話さない?」

 

「構わないが……」

 

 ユートとしてもぐーるぐると魔力を込めながら掻き混ぜているだけだし、退屈といえば退屈をさていたから話すのは寧ろ大歓迎である。

 

「優斗は光輝をどう思っていたの?」

 

「行き成り萎える話だな」

 

「御免なさい。でも一応は幼馴染みだしね、知っておきたかったのよ」

 

「……劣化草加雅人」

 

「は? 草加雅人って確か仮面ライダーカイザだったわよね?」

 

「そうだ」

 

「何で草加雅人? しかも劣化って……」

 

「天之河って奴は謂わば『俺の事を好きにならない人間は邪魔なんだよ』って感じの奴だからね」

 

「え、え~っと……そうかな?」

 

 返答に困る雫は、果たして自分の幼馴染みの彼はそんな感じだったかと考え込むけど、ちょっと上手く纏まらなくて更に困ってしまった。

 

 雫としては否定しておきたいのだが……

 

「ま、誰かしらは大抵が何らかの劣化品になるんだろうから気にするな」

 

「いや、気にするなって……」

 

 それは余り嬉しくない。

 

「それより天之河の話なんて雫と二人きりでする話題としては面白くないが?」

 

「そ、そうね」

 

 何故に態々、他の男の話を【閃姫】となった娘としなければならないのかと言われてしまって、少し頬を赤らめながらも別の話題を振った。

 

 雫との会話はそれなりに愉しい時間ではあったのだが、カチカッチン鋼とグラビ石の一体化には残念ながら失敗する。

 

「素材が無駄になったか」

 

「へぇ、優斗でも失敗するのね」

 

「そりゃ、こういうのはトライ&エラーの繰り返しだからな」

 

 抑々にして理論の構築に失敗していたら上手くいく筈も無いのだから。

 

 雫が起きてからそこそこの時間が経過している訳だが、未だに起きて来ない香織達を心配をしつつも腹を満たしたり性欲を満たしたり眠ったり、三大欲求を満たしながら待っていたら漸くといった感じに全員が順次、覚醒をして琥珀の棺から出て来る事に成功をしていた。

 

 尚、丁度悪いタイミングにて雫がユートのJr.をペロペロしていた時にユエが覚醒してしまって、凄まじいまでの羞恥心で雫が真っ赤になってしまった上に、『何故か』と云うのは野暮でしかないのだろうけどJr.の奪い合いになったのだと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さて、全員が起きたから行こうか」

 

 魔物も居ないから取り敢えず何発かずつヤっちゃった一堂は態々、風呂に入って着替えまでして身綺麗になってから再び出発――

 

「普通にスルーしないで! 光輝がまだ起きていないでしょうが!?」

 

 然し未だに起きない天之河光輝を置いていくのは雫により却下された。

 

「チッ、どうせ視たら不愉快な夢に浸っているんだろうから置いてけば良いだろうに」

 

「不愉快な……まぁ、光輝の事だから間違ってはいないんでしょうけどね」

 

 少なくともユートにとっては不愉快極まりない夢に違いない。

 

「恐らく御都合主義全開で僕を瞬殺、頼んでもないのに香織達を開放したとか喜んでるんだろう。何ならユエとシアとティオに、レミアやミュウやミレディもかな?」

 

「ブルブル、さぶいぼが出来ますぅ」

 

 天之河光輝に開放されて喜んでる自分を想像したのか、余りに寒い考えに震えながら悍ましそうな表情となるシア。

 

 他も……鈴まで似た表情だった。

 

「それに浸っているから目覚めない。やっぱり置いて行かないか?」

 

「そうしたい気持ちは解るけどね」

 

 正直に言えば雫も天之河光輝を見捨てたくなっているが、それでも幼馴染みとしての情が捨て切れていなかった。

 

「判った。後……そうだな、二時間くらい待っても起きないなら試練に失敗しようと叩き起こすって事にしようか」

 

「そうね」

 

 取り敢えず二時間は待つ事に。

 

「そ、そういえば!」

 

「間が保たないからって無理に会話をしなくても良いんだぞ?」

 

「聴いて!」

 

「判ったよ」

 

 別に話したくない訳ではない。

 

 尚、香織やユエ達は普通に聞き耳状態だったから会話には入って来なかった。

 

「エヒトって何で私達を召喚したのかしら?」

 

「雫、ボケたか?」

 

「何でよ!」

 

「エヒトが愉悦の為に起こした戦争、魔人族側が

神代魔法――変成魔法を氷雪洞窟で手に入れたから戦力バランスが崩れた。だから勇者(笑)召喚をして戦力調整をしたんじゃないか」

 

「判ってるわよ! そうじゃなくって、異世界の人間を召喚するよりこの世界の他の大陸から喚んだり出来なかったの? って事よ!」

 

 つまる話、雫が言いたいのは異世界召喚よりも同一世界からの召喚の方が手間は無かったのでは? という事らしい。

 

「それは事実だね。ウルトラマンだってテレポーテーションで同一世界間での移動はカラータイマーを鳴らすくらい大変だけど、マルチバース的な別宇宙には行く事すら出来なかった」

 

 ウルトラマンゼロが容易くやっている印象もあるにはあるが、それはウルトラマンノアの力を得ているから出来る様になったに過ぎない。

 

 ウルトラマンダイナは最終回のアレでやり方を体得したのだろう。

 

「地球の初期型みたいなパンゲア大陸とかじゃないんだから別の大陸もある筈。だけど恐らく其処に人間は存在していないだろうね」

 

「……は?」

 

 間の抜けた声を出す雫。

 

「ど、どういう事よ?」

 

「簡単だ。先ず、エヒトは別世界からの侵略者。トータスの本来の神は女神ウーア・アルトなのはもう知っているな?」

 

「え、ええ」

 

「女神ウーア・アルトは当時の勇者(真)と共に、侵略者のエヒトと激しく闘いを続けたけど敗北を喫して、自らの魂を勇者が使っていた聖剣に封じて終戦をした。その後の侵略に成功したエヒトは別次元に引き篭ったみたいだが、その前に自分の魂を宿す新たな肉体を造る為の実験をしていたらしいのも判っている」

 

「そうね」

 

 神域なる場所はエヒトルジュエの揺り篭みたいなものであり、真なる神ではない奴は肉体が無ければ魂を維持が出来ないから新しい肉体を造るのは急務だと云えた。

 

 ここら辺はユーキが白夜から聞いていた事を、情報交換した際に知らされたものだから原典によるもの、つまり原作者が意図的に変えない限りは誤りも無い情報である。

 

「その結果として生まれたのが今は亜人族と呼ばれているフェアベルゲン、それにレミアやミュウみたいな保護を受ける海人族だ。どうして他とは違うのか? 魔力を持たないという共通項が有るからだろうね。吸血族と龍人族と魔人族はエヒトルジュエの望みの通りに魔力を持っていたから、亜人族とは別格の扱いになっていたんだろう」

 

「そうね」

 

「だけど造り方は同じ。変成魔法により人間族へと魔物の因子を植え付けて変質させたんだろう。さて、処で話は変わるが……」

 

「――へ?」

 

 ユートが何処ぞの『あかいあくま』がぽんこつ魔術使いに対し、某かを教えるみたいな仕種をしながら行き成り話題を変えるなどと宣うから雫達は首を傾げてしまった。

 

「地球の人口がどのくらいか判るか?」

 

「確か七〇億を越えたらしいわね」

 

「そうだな。七〇億の絶唱だとか叫ぶくらいには知られている事だが、一昔前なら六〇億だったし更に前なら五〇億だった」

 

「そ、そうね……」

 

 尚、地球の総人口が凡そ五〇億人を越えたのは西暦一九八七年頃の事らしく、七〇億人を越えたのは西暦ニ〇一一年頃の事だとか。

 

「西暦一九五〇年頃は三〇億人にも達していなかったのが、僅かに半世紀か其処らで約四〇億人も地球人口は増えたって訳だが何故だろうな?」

 

「そりゃあ、平均寿命が伸びたのもそうだろうし戦争も世界大戦規模には起きてないわ。何よりも医療技術だって日進月歩で飛躍的に進歩をしているんだもの」

 

「その通りだね。実際、ハルケギニアでは治せなかったカトレアも地球の病院に連れて行ったら、割と普通に完治させる事が出来たしな」

 

「そ、そうなんだ」

 

 目をぱちくりさせる雫、香織と鈴も似た様な感じになっている。

 

「それで? 行き成り人口の話しとか意味がわからないわよ」

 

「うん」

 

「判んないよ」

 

 雫に呼応して香織と鈴も言う。

 

 因みに地球人口がどうのと言われてもピンとはこないユエとシア、意味は理解しているティオは取り敢えず黙って拝聴する事にしていた。

 

「つまり、地球人口は江戸時代とか戦国時代にまで遡ると一〇億人にも到達しないかも知れない。飢餓や戦争の所為で一般人も武士も死ぬのに寿命は酷く短かった。四十路でも老齢とされてた時代が有ったくらいだからね。だから四十路を越えて子を成したら子供は『恥掻きっ子』と呼ばれる」

 

「その話は知ってるけど、何で子供の方がそんな風に呼ばれるのかしら?」

 

「さてね? それは兎も角として、地球でさえも過去に遡ると人口が可成り少ない。ならトータスの数万年前ならどうかな?」

 

「それは……今でさえ技術の低さもあって命の軽い世界だから今の半分も居れば?」

 

「現在のトータスと呼ばれる世界、この大陸に於ける人間族の総人口は流石に知らないんだがな、取り敢えず竜人族が少々と吸血族が恐らく一人、亜人族と魔人族も人間族程には居ないんだろうけどそれなりには……かな? それでも昔は竜人族も吸血族も普通に繁殖が出来るだけの人数が居た。それだけの人間族が実験や造り上げるのに使われた筈だ。つまり相対的に人間族の人口は減っている訳だよな?」

 

「……あ!」

 

「気付いたな?」

 

「そういう事な訳ね」

 

 雫は溜息を吐きながら座り込む。

 

 ではその改造ベースの人間族は何処から調達をしたのか?

 

「種族毎に大陸から攫ったのかどうかは知らん、だけど間違いなくこの大陸以外から調達をしたと思われる。人間族に関しては始めからこの大陸に住んでいた原住民だろうがね」

 

「何て事を……」

 

 青褪めるのは雫や香織も鈴もそうではあるが、当事者となってる吸血族のユエ、亜人族のシア、竜人族のティオも同じく青褪めていた。

 

「……私達のルーツ」

 

「そんな、ですぅ」

 

「ぬぅ……」

 

 変成魔法と呼ばれる神代魔法は有機物の全てに干渉が可能とされる。

 

「腐っても神を名乗るだけあって生命の創造者でも気取るかよ……エヒトルジュエ!」

 

 所詮は偽神に過ぎないとはいえどやはり超越をした存在であるのに違いなく、変成魔法などという専用魔法を使っているとはいっても大量に生体改造をしてしまえるのだから面倒臭い。

 

(まぁ、変成魔法なぞ僕の【創成】の下位互換に過ぎないんだけど……な)

 

 ユートの【創成】は有機物・無機物に関係無く干渉が可能だし、何なら人間の肉体を丸ごと創る事だって出来てしまうし、伝説の鉱物をポンッと創り出す事も出来る力だから。

 

 その知識さえ有れば想像を創造の力に変換し、あらゆるモノを【創成】が可能。

 

 鉄も鋼も金も銀も銅も何なら青鍛鋼や流白銀や神鍛鋼や神金剛も、通常金属から魔法金属に神秘金属までも【創成】が出来る上に、合金とて知識に照らし合わせて構成が出来た。

 

 汎暗黒物質を変換し量子に粒子に原子に分子に物質へと換えていく。

 

「とはいえ、もう一つあるんだがな」

 

「もう一つ?」

 

「何処ぞのイカれた……まぁ、研究者や科学者ってのは大なり小なりイカれてるんだけどな」

 

 とんでもない暴論を宣う。

 

「世界支配をするには人間の数が多過ぎるから、ならば適切な数にまで減らせば良いってな」

 

「……ウェル博士?」

 

「直に聴いた訳じゃないから細部は知らないが、マリアが傍に居たから聴いていたそうだ」

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ?」

 

「ああ、現在は僕の冥闘士な天貴星グリフォンの

セレナの姉に当たるな」

 

「冥闘士って……どうなってんのよ貴方は」

 

「僕がカンピオーネなのは教えたろ。聖闘士として冥王ハーデスを斃した後に喰らった奴の神氣、カンピオーネに転生してから扱える様になったら

ハーデスの権能も使える様になった。その際に、僕は三巨頭と冥界門の守護者を真っ先に揃えた。天猛星ワイバーンの奏。天雄星ガルーダのアイリ、天貴星グリフォンのセレナ、更に天英星バルロンのカレンだな」

 

 真っ先にとはいってもセレナ・カデンツァヴナ・イヴと天羽 奏は大分後になってからであり、それより前に翠鈴という少女の影人とも云うべきラピスが天刃星パラドキサのラピスに成ったし、他にも【11Eyes】という原典から宝石翁が送ってきた者達や仔馬星座のケレリスという青銅聖闘士が冥闘士に成っていた。

 

「何でも英雄に憧れる自分だから見付けられたとか必勝法だとか、よく意味が解らない事をほざいていたらしいけどね。要するに宗教的にも政治的にも人間があちこちに分散していたら面倒だし、この大陸以外の者は改造するか或いは……」

 

「殲滅した?」

 

「イグザクトリー」

 

 瞑目しながら静かに言うユートに対して全員が暗い表情で俯いた。

 

「ま、今回は都合も良いさ」

 

「どういう事?」

 

「歴史的観点から見てあの土地は我々の物だとか莫迦を言う奴が出ない限りは、野生動物や天然の魔物以外に人っ子一人居ない広大な空地。それならば侵略には当たらないだろうから接収しても構わないだろう? どうせ数万年間も放置していた土地なんだからさ。しかも連中の技術や知識では無事に大陸間移動をする事も出来ない。飛行技術も無ければ大航海する技術も無く、縦しんばそれでも航海に出ても途中で難破するか沈没するか、或いは壊血病で倒れるか、然も無くば糧食や水の不足で仲違いをして共倒れるか。いずれにしてもトータスの人間に碌な結果は訪れないね」

 

 地球でもトータスレベルの頃の航海は命懸け、そういえば何かのライトノベルでも戦国時代では壊血病が横行していたり、脚病(かくびょう)すら難病としていて治せなかったり……寧ろ発病している事からしてというやつだったり、つまりはトータスに他大陸へ航る技術を構築するそれだけでも下手をしたら百年の計となる。

 

 仮に百年後に上手く航れる技術を手にしたとしても、ユートならば一年も有れば要所要所を港町にして要塞化まで可能だろうし、その気になれば量産型クストースにより護りをガチガチに固め、大空を舞う戦艦や母艦で威嚇も殲滅も思いの侭に出来てしまうであろう。

 

 魔法を使おうがどうしようが、トータスの者にはどうしようもないだけの絶対的な力を以て。

 

 神と称される存在とは即ち、超越生命体、高位精神知性体、異星人、超科学の持ち主などだ。

 

 エヒトルジュエは超越生命体に属する訳だが、現在は肉体を喪失した単なる亡霊に過ぎない。

 

 ユートは恐らく誰も居ない大陸を橋頭堡として彼方側から人間を喚び込み、このトータスという世界にフェアベルゲン以上の領国を造り上げて、この大陸以外を全て接収してしまう心算だ。

 

 勿論それは一種の侵略行為に違いはないのであろうが、数万年間も放置していた土地に今更ながら所有権を宣える訳も無いし、基本的に開拓した土地は開拓者のモノとなるべきであろう。

 

 物申した処でどうにもならないが……

 

「さてと雫、そろそろいい加減な時間じゃないのかな? 余り遅くなっても仕方がない訳だしね、僕としては充分に待った心算だけど……」

 

「そうね」

 

 会話で間を保たして天之河光輝が試練を終えるのを待ったが、やはり無理だったのかと失望するのも今更な気がした。

 

 上手く試練をクリアして自信を取り戻したら、ひょっとしたら昔みたいに戻って……も今と大して変わらない気もする。

 

 もう頭が痛くなった雫。

 

 ユートが聖剣マサムネを抜刀して琥珀を斬り、中からは天之河光輝が放り出された。

 

「あ、れ? 香織、雫? ユエ、シア、ティオ、ミュウ、レミア、ミレディ、鈴、恵里は? 俺の女達は何処に……?」

 

 想像はしていたが凄まじく図々しい。

 

(っていうか、コイツは今現在のミュウにまで手を出す気だったのかよ?)

 

 四歳児さえ性の対象に視ていた事に吃驚したのと同時に、レミアとミュウだけはコイツに決して近付けてはいけないと覚る。

 

 抑々レミアは戦力外だし、ミュウも進化無しで闘うのは可成り無理があるのだから。

 

「何を寝惚けた事をほざいてる? さっさと先に進むぞ!」

 

「痛っ! ……え? なっ!?」

 

 ユートに頭を蹴り飛ばされてから漸く我に返る天之河光輝。

 

「ま、待て!」

 

 そして躊躇わず歩き出したユート達に慌てて立ち上がると駆け出した。

 

 正直、遣るべき事も遣らないでヤる夢を視て帰って来れなかった幼馴染みに苛立ちが募る雫。

 

 ユートが雫達を抱いたのは遣るべき事を遣り終えていたから構わないが、これは流石に有り得ないだろうと更なる失望を感じてしまう。

 

 それは香織も鈴も同様らしい。

 

 どうやら全員が琥珀から出ると顕れる仕掛けらしい魔法陣が顕現、強い光が爆ぜて全員の視界を奪うと次のステージへと送った。

 

「樹海の中みたいだけど、どうやら最初みたいな

何処に向かうのかも見当が付かないタイプじゃなくて、真・オルクス大迷宮の密林エリアみたいなものっぽい場所の様だな」

 

「みたいね」

 

「そうだね」

 

「……ん」

 

 真のオルクス大迷宮を知る雫と香織とユエは、ユートの考えに同意をしてきた。

 

「殆んど同じ高さの木に最奥らしき場所に巨樹、彼処に転移魔法陣が有るんだろうな」

 

 取り敢えずは進むだけなら簡単そうではある、だけど間違いなく何かしら仕掛けが有る筈。

 

「ふむ、偽者は居ないか」

 

 二番煎じは無しらしい。

 

 未だに暗い天之河光輝を見遣るとユートはあからさまな溜息を吐く。

 

「おい、天之河」

 

「な、何だ?」

 

「遣る気が無いなら帰れよ!」

 

「や、遣る気なら有る!」

 

「だったらとっとと歩けよな! 大方、さっきの試練を失敗したのをごちゃごちゃ考えているんだろうが、何をどうしたって失敗は失敗なんだから見切りを付けろ!」

 

「わ、判っている!」

 

 ユートからの忠告に苛立ちながら叫んで答えた天之河光輝は、そんな心を誤魔化すかの様にグングンと歩みを強めていた。

 

 足音以外には虫の声の1つも聴こえない静寂に満ちた密林、風すら吹かないから草を踏み抜く音が耳障りなくらいに聴こえている。

 

「何とも嫌な静寂よのう」

 

「確かに、オルクス大迷宮の九〇層で待ち伏せをされた時みたいだよ」

 

「ああ、実際に魔物の気配すら無いからな」

 

 ティオの呟きにカテレアからの待ち伏せを喰らったトラウマか、鈴と天之河光輝は極度のストレスからか緊張感を増していた。

 

「うん? チィッ!」

 

 ユートが何かに気付いたのか天井部を見上げ、すぐに険しい表情となり舌打ちをする。

 

火精障壁(ファイヤーウォール)ッッ!」

 

 火の精霊を瞬時に集めて障壁を図上に展開をすると、何故かポツポツと雨が降り始めて障壁へと触れる度に蒸発をしていく。

 

「な、何なの!?」

 

 余りに突然で雫が驚愕した。

 

「こんな場所に雨が降る筈も無い。降るとしたら何らかのトラップで次の試練だ!」

 

 ユートの科白を聴いた面子は直ぐに異常事態だと気付いたらしく、火精障壁により蒸発をしていく突然の雨を睨むのであったと云う。

 

 

.




 他大陸の話は単なる想像です。




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第83話:それは二重の意味で悍ましかった

 運営とどっかの阿保が書く気を削いでくる……





 

.

「な、何なのよこの雨は!?」

 

「さてね、トラップなのは確定だが」

 

 火精障壁により完全に阻まれて蒸発をしている雨は、障壁の無い部分には普通に地面へと落ちて濡らしている。

 

 それをユートは掬って視た。

 

 ユートの【神秘の瞳】ならだいたいの組成などが視て取れる筈だから。

 

「純粋な水じゃなく粘液、しかも乳白色とはまた狙った感じだよな」

 

「ゆう君、何か判ったのかな?」

 

「取り敢えず、このトラップを仕掛けたリューティリス・ハルツィナは底意地が悪そうだ」

 

「へ?」

 

「香織、自分に……雫の方が判り易いか? そうだな雫の全身を乳白色の粘液が汚した姿を想像してみると良い。割と見覚えがあるだろう?」

 

 ポックポックポックポックチーン!

 

 古典的な思考で思い至ったらしい香織は顔を真っ赤に染めてしまう。

 

 実際にユートとベッドに行けば高確率で白濁とした粘りの強く熱い液体が、香織やシアや雫といった面々の肢体を汚しているのだから。

 

 あのヌメヌメッとした乳白色の粘液が女の子に掛かるのが絵面的に宜しくないのは理解した。

 

「序でに言えばどうやら成分の中に媚薬が含まれているみたいだな」

 

「びっ、媚薬ぅ!?」

 

 驚愕する雫はやはり顔が赤い。

 

「若し掛かっていたらきっとムラムラしていたんだろうな……天之河が」

 

「な、何で俺だけなんだ!?」

 

「雫達にはバッドステータスに対抗策を持たせてある。僕にバッドステータスはそもそも効かないとなれば、媚薬の効果を受けるのはさて? 誰だけなんだろうな?」

 

 【閃姫】契約をした時点でユートとほぼ同じだけの寿命と強力無比な耐性を獲ており、彼女らは不老長生を手に入れているしデバフ系のダメージも殆んど受けない、これは契約の謂わば祝福(のろい)みたいなものだと考えても良い。

 

 アイテムも貰っているが単なるアクセサリーに近く、役立つのは【異物排除】の効果による病気や花粉症や()()への抵抗手段だ。

 

「ぐっ! だったら俺にもそれを!」

 

「僕が力を与えるのは身内だけだ。天之河は単なるクラスメイトに過ぎない上に、お前はいったい何度敵対してきたと思っているんだよ?」

 

「それは……」

 

「身内以前に敵、そんな奴が僕の造るアイテムを貰えるとかマジに考えてんのか? 最早、頭ん中が沸いてるとしか思えんな」

 

「なっ!? し、失礼だろ!」

 

「礼を失するのがライフワークのお前にだけは言われたくないね」

 

「く、緒方ぁぁぁっ!」

 

 叫ぶ天之河光輝を相手にする価値も無いと考えると無視して進む、取り分け急いでいるとまでは云わないものの何があるか判らないのだから。

 

 それに天之河光輝が礼を失するというのも半ば本心であり、その実態は自分の嫌う――本人は頑として認めないが――相手に対するものである。

 

 流石にメルドなど目上や友人知人には普通だから至極判り難いが、ユートやハジメへの態度を視れば意味も理解が出来るからか雫と香織と鈴は確りと頷いていた。

 

「ふむ、火精障壁に降り注いだ乳白色の粘液の方は蒸発しているけど、それ以外の場所に落ちたのは普通に地面を濡らしているよな」

 

「待って、樹とかあちこちから似た様なモノが滲み出てきてるわよ!」

 

「スライムだな」

 

 樹々や地面などから乳白色のスライムが滲み出てきており、更にはそいつらがグワッと拡がる様に襲い掛かってきた。

 

「燃えろ」

 

 ユートの言葉に反応してスライムが行き成り燃え上がる。

 

 精霊術師は炎術師としての力だ。

 

「この世界の精霊はアクセスし難いけど時間さえ掛ければ集められるからな」

 

 世界には小さな……意思こそ持つが意志を持たない小精霊、更にははっきり意識をもっている精霊主という精霊達が存在している。

 

 契約者(コントラクター)とはそんな精霊より更に上位世界に在る高位次元知性体たる精霊王と契約をした者を云うのだが、ユートの場合は根源たる神の一柱である朱き騎士と懇意であるが故にか、精霊王より更に高位に位置をする精霊神との契約をしていた。

 

 ユートは周りを視て焼き尽くすしかないだろうと判断をしてその為の準備を行う。

 

「コール、サイバッスッタァァァー!」

 

 それは【ヒーロー戦記~プロジェクトオリュンポス~】的なパワードスーツのサイバスターで、

流石にシロとクロの意識は登載されていないけど武装はきちんと装備されている。

 

「サァァァァイフラァァァァッシュッ!」

 

 放たれたのは敵と味方を識別せる機能を持ったMAP兵器――サイフラッシュ。

 

 ユートは【魔装機神】が好きだからか、それを

モデルにした機体をよく造っている。

 

 【機神咆哮デモンベイン】の世界で魔装機神という機種で、【異世界はスマートフォンとともに】の世界ではフレームギアという機種でだし、【ナイツ&マジック】の世界では幻晶騎士という機種であったが……

 

 このパワードスーツっぽいのもそうだ。

 

 元々はマチルダ・オブ・サウスゴータが着込むゴーレムだったの物を更に拡大させ、様々な機体のパワードスーツっぽい物を造っていた。

 

 発想としては【魔獣創造】の保有者が創造する魔獣は強くとも、保有者本人が弱ければそれを突かれてしまうから魔獣を着込むというのと同じ、仮面ライダーへの変身はその答えの一つ。

 

 ユートはハルケギニア時代でのゴーレムから、その対策を練っていたに過ぎない。

 

 直ぐにサイバスターを解除したユートは新たな攻撃をするべく炎の精霊を集束、召喚をするべきは炎術の最高峰たる黄金(きん)ではなく、炎術の極みたる神炎でもない――それは炎の純粋なる結晶である三昧真火である。

 

 現世には原則として存在し得ない三昧真火を、ユートはその手の内へと召喚したのだ。

 

「百邪を討つ為、四神の力を今此処に! 龍虎河車、雀武周天! 召還、兜率八卦炉!」

 

 ユートは陰陽法を以て更に火力を引き上げると詠唱を詠む。

 

「乾! 兌! 離! 震! 巽! 坎! 艮! 坤! 精霊術が最高奥義、四神真火八卦陣!」

 

 顕現させた法陣は飽く迄も増幅の為だが対象となる敵を封じ込める力もあり、ユートはこの法陣を樹海全体に拡大して全てを対象とした。

 

 ユートの背中には三昧真火にて形作られた翼が生え、一千五百万度という太陽の中心核並の炎の塊となり浮かび上がると、法陣へと向けて翼から羽の如く焔が放たれる。

 

 炎の精霊神の力の真髄は完全なる破邪。

 

 自らの意志の力を以て燃やすべきモノとそうでないモノ、これを完全に分けて対象となる存在のみを焼き尽くす正しく破邪顕正の力。

 

「征ぃぃぃぃぃぃっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええっっ!」

 

 ユートが燃やすべきはこの空間に存在していて更にあちこちに隠れる乳白色のスライムであり、神炎すらをも凌駕する三昧真火は法陣により増幅されて全てのスライム焼き滅ぼした。

 

 それでいながら周囲の樹々にも【閃姫】にも、序でに+αな天之河光輝にも一切の焦げ痕すら付けないでいる超越技法。

 

 昔はこれをやるのに炎術師の大家たる神凪家から巻き上げ……もとい、取り戻した炎雷覇を界放させなければ難しかったが今なら素で可能だ。

 

 抑々にして炎雷覇は八神和麻の嫁たる翠鈴へと与えたから持っていない。

 

 レプリカ以外は。

 

「な、何なのよこれは……」

 

 流石に雫も絶句したいくらい驚く。

 

「今の技って確か真・龍虎王の?」

 

 ゲームに割と詳しくなった香織はそれが即ち、【第三次スーパーロボット大戦α】にて登場した真・龍虎王の技だと気付いた。

 

「ちょっとしたネタ技ではあるけど威力は見ての通り折紙付きだ」

 

 降りてきたユートが言う。

 

 天之河光輝は呆然自失となっていたがどうでも良いからシカト、はっきり云えば魔法能力がこの中で最も高い【閃姫】のユエですら言葉が出ないくらいに驚愕をしていた。

 

 ネタ技とは言うが、ユートは【第三次スーパーロボット大戦α】を経験をしているから当然ながら真・龍虎王の技も見知っており、視たなら再現をする事も可能な【模倣者(イミテイター)】として確りと威力も再現させている。

 

 勿論、ユートと真・龍虎王ではサイズが違うからそこら辺は変わってくるけど。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 天之河光輝は混乱していた。

 

(な、何なんだ今のは!? 魔法? 精霊術だとか何だとか……彼奴は――緒方は無能な錬成師じゃなかったのか? それなのに!)

 

 ユートの力を散々見ていながら尚もこんな事を考えている辺り最早、御都合解釈主義というよりは病気なのではなかろうか?

 

(緒方は卑怯な力を使って俺に掛かってきたんじゃないか! それが何も使わないであんな莫迦げた攻撃を放つだって? 天翔閃は疎か全力全開の神威ですら意味を持たない!?)

 

 未だに認めようとしない天之河光輝はギリッと奥歯を噛み締める。

 

(くそっ! 俺は……俺が……勇者なんだ!)

 

 嫉妬と憤怒と傲慢……七つの大罪の内の三つが、天之河光輝の精神を支配していたという。

 

 まぁ、序でに云えば女が欲しいと色欲を、称賛が欲しいと強欲を、更には思考を停めて怠惰まで支配していたから厄介な事この上無い。

 

 しかも本人に自覚無し。

 

 処置無しと雫も香織も幼馴染みを解消したくなるくらいであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さ、進むぞ」

 

 障害も排除された事だし先を促す。

 

 ユートに促されて雫達も歩を進め始めるけど、天之河光輝だけは何故か動こうとはしない。

 

「天之河、遣る気が無いなら置いていくからな。坂上も学校で言っていたろ? 『遣る気の無い奴にゃ何を言っても無駄だと思うがな』ってねぇ」

 

「っ! 遣る気なら充分に有る!」

 

「なら、とっとと歩けや愚図勇者(笑)!」

 

「わ、判っている!」

 

 天之河光輝はやけに不満そうな顔で叫ぶと漸く歩き出した。

 

「やれやれね」

 

「光輝君にも困ったものだよ」

 

「何でああなっちゃったんだろうね?」

 

 雫も香織も鈴も学校での天之河光輝と丸っきり違うからか、呆れ果ててしまっている様子がありありと見て取れる。

 

 それが聴こえてくるから更に天之河光輝の苛立ちが弥増す結果に。

 

 そんな天之河光輝の心情は知った事では無かったユートは先々と進み、渋々ながら置いて行かれては堪らないからと歩き始める天之河光輝。

 

 先の乳白色スライムなトラップ以降は特に何も妨害は無く、正に順調そのものでユート達と+αの歩みは進んでいく。

 

 因みにユートは興味本位で乳白色のスライムを

幾らか採取しており、折角だからこいつから分離した媚薬を誰かに使ってみようと可成り邪悪なる考えを持っていた。

 

 何より物さえ手にすれば媚薬も自分で増産など容易く出来る。

 

「着いたな」

 

 巨樹の許に辿り着くと前回同様に巨樹の幹に祠が現れたから入ると、思った通り入口が塞がって密室となったと思えば転移魔法陣が輝いて一行を何処かへ転移させた。

 

 視界を焼く凄まじいばかりの白光が消えると、其処は先程の巨樹の祠と変わらない場所。

 

「あれが出口みたいだ」

 

 唯一の違いは出口の存在。

 

 見回してみたが欠けた人員は無く――非常に残念ながら天之河光輝も居た――て、偽者が入れ替わっているという二番煎じも無かった。

 

「中々に壮観だねこれは」

 

「……フェアベルゲンみたい」

 

 ユートとユエが出口から出てからの感想を口にすると、全員が同じ意見だったのか暫くその広がる光景に見入っている。

 

 祠から続く幅が五mはありそうな巨大なる枝、それは外周を目で測れないくらいにでかい樹の枝の根元だという事、複雑な空中回廊を形成している巨大な枝の通路は目の錯覚を起こすトリックアートにも似ていた。

 

「見入っても仕方がないか。行こう」

 

 ふと上を見ると石壁が見えているのだからこの場所が巨大な地下なのだろう、更に世界にもこの果てしないレベルの巨木が幾つも有る筈がない事を鑑みれば此処は?

 

「大樹ウーア・アルト……か」

 

「ですぅ。此処は大樹ウーア・アルトの真下に当たる空間って事ですね」

 

「そうすると地上に見えていた大樹は?」

 

 ユートとシアの推測に香織が疑問を挟む。

 

「ふ~む、地下の幹から枝が生えているという事は即ち、根元は更にずっと地下の深くという事になるのぅ。ならば地上に見えていた部分は大樹の先端部分という事になりそうじゃが……」

 

「麻帆良の世界樹ってか、神木・蟠桃なんか及びもつかないよな」

 

 樹高が二七〇mではとても足りない。

 

「世界樹といえば天空世界のアレが似ているな、ゲームだとダンジョンとして可成り簡易化がされていたけど、実際の大きさはウーア・アルトとも比較が出来るくらいに巨樹だったからな」

 

 ドラクエⅤとⅥには特に出てなくてスポットも当たらなかったが、ドラクエⅣでは落ちた天空人であるルーシアと天空の剣がイベント上で存在している重要な場所で、地図の位置的に気球を手に入れないと行けない様に進入不能な岩で囲まれていたりする。

 

 そんなにでかいか? とはゲームの印象での話だろうが、よく考えればモンスター数匹と勇者のパーティ数人が如何無く戦闘を行える場所な訳だから可成りの巨樹なのが判るし、モンスターが住まうに足る広さというのだから相当だろう。

 

「天を衝くとは正にこの事か」

 

 大樹ウーア・アルトの巨大さに全員が度肝を抜かれており、無意識に頭上を仰いでみたらその先は天井の壁に阻まれていたものの、ユートが言う天を衝く大樹の姿を幻視するには充分に過ぎた。

 

「うん?」

 

「おや? 何の音でしょう?」

 

 はたと気付いたユートとシア。

 

「この……不快感しか湧かない音は……」

 

「ど、どうしたのよ二人して?」

 

 雫が不安そうな表情で訊いてきた。

 

 シアのウサミミがピクピクと動いているのは、何かの音を捉えたのだと理解が出来る。

 

「『台所の悪魔』らしき蟲が大量に居る」

 

『『『『『っ!?』』』』』

 

 その二つ名を聞いただけで身の毛が弥立つ程の嫌悪感に襲われ、香織はプツプツと鳥肌を立てるくらいになっていて自身の肢体を抱き締めた。

 

 香織の場合はハジメの為とは云わないまでも、弁当を手作りしているから『台所の悪魔』というのは不倶戴天の敵……否さ、女の子ならば大半が嫌うであろう蟲なのである。

 

 男だってこいつは嫌だ。

 

「見たいなら映像を出せるぞ、サーチャーを使えば一発だしな」

 

 ブンブン! 全員の意見が一致したらしくて、天之河光輝を含めて全員が一斉に首を横に振る。

 

 

「ならちゃっちゃと片付けるべきだろうけどな、どうやって殲滅をするかが些か問題だ」

 

「どうやってって何よ?」

 

「下手な攻撃をしたら死ななかったゴッキーが、それこそ千だか万だかの単位で飛び掛かって来そうだからな……雫はそれに賛成か?」

 

 ゾワッ! これまた全員が背筋に氷でも入れられたかの如く寒気を感じた。

 

「じょ、冗談じゃないわよ!」

 

 当然だけど嫌過ぎる。

 

「流石に何度もアレを使うのはなぁ」

 

 真・龍虎王の必殺技は割と消耗が激しいから、ユートとしては余り使いたく無い。

 

 例えばドラクエやFFやテイルズやウィザードリィなど、ゲームなんかの魔法は消費MPは数値のマイナスでしかないのだが、精霊術はパーセンテージ……つまりどれだけMPの量を誇ろうとも、何%の消費だから仮に一〇%の消費ならMPの量が一〇〇なら一〇の消費、一〇〇〇なら一〇〇の消費といった具合で一〇〇%から-○%といった感じに使える回数が変わらない。

 

 勿論、MPの消費が増えるからには威力もそれだけ上がるので悪い事ばかりでは無いが……

 

 真・龍虎王が最終奥義『四神真火八卦陣』だと約三〇%は消費してしまう。

 

 火精障壁は精々が三%と昔の消費税くらいで、維持時間が長くなるとまた三%を消費する。

 

 ユートのMP量がどれだけ膨大なものだろうと『四神真火八卦陣』は三発が限度という事だ。

 

 仮に大魔王バーンくらいのMP量であっても、システム的に使える回数が決まっている。

 

 何より既にサイフラッシュで消費していたから残りは一発でしかなく、それを使ってしまったら流石に後が無くなるからやりたくない。

 

 因みに何故か精霊に与えた分のMPは自然回復を待たねばならず、薬などでの急速回復というのは出来ない仕様になっていた。

 

 恐らくではあるけど異世界での小宇宙の封印と同じ理屈だと思われる。

 

(強過ぎる力を制限されるとかめんどい)

 

 ユートは聖剣マサムネを抜刀した。

 

(どうしたもんかね)

 

 ユートは抑々【根拠無しに護る星人(天之河光輝)】ではないし、頼るべき時には仲間を頼るタイプだ。

 

 だけど大前提として欲する能力を持っている事が必須であり、今回の『台所の悪魔』の異名を持つ数万を越えるGの対処に必須な能力持ちなどは居なかった。

 

(仕方がないからサイフラッシュで一掃でもするかな? あれならサイバスターの効果で消費MPも少しは減せるだろうし)

 

 サイフラッシュは範囲こそ広いが威力が乏しいから確実性には欠ける。

 

(ゲームでも一撃必殺じゃなく、満遍なくダメージを与える武装だからな)

 

 サイバスターの必殺武装はアカシックバスターとコスモノヴァ、一撃の威力は高いが広域範囲に攻撃をするタイプでは当然無い。

 

(『四神真火八卦陣』は範囲攻撃が出来るけど、必殺の威力を出せるから範囲が狭い。範囲を拡げたら結局は威力が犠牲になるからな)

 

 痛し痒しというやつだ。

 

「コール! サイバスター!」

 

 再びサイバスター化したユートはGが屯ろっている場へ……

 

「サァァァイ・フラァァァァッシュッ!」

 

 サイフラッシュを放った。

 

「何なんだよ……」

 

 天之河光輝はそれを見てその力に羨望と嫉妬を覚えている。

 

「あんな……ちから……」

 

「あれが光輝の否定した錬成師の力よ」

 

「し、雫?」

 

「優斗も南雲君も錬成師の力でこれだけの物を造り出せるわ。前に優斗が言っていたの」

 

「な、何をだよ?」

 

「知も大きな力になるって」

 

「っ!?」

 

「光輝が否定した図書館での読書、優斗も南雲君

も知を力に換えて錬成に活かしているのよ」

 

 しかもハジメの場合は完全に素の能力でのみの錬成でG3を錬成していた。

 

「べ、別に否定なんか……」

 

「していたでしょ? 南雲君が図書館で本を読んでいるのを否定して訓練に参加するべきだとか、休みの時に何をしても自由なのに光輝は訓練をするべきだと私に言ったわ。御都合解釈でそれすら忘れたのかしら?」

 

「っ!?」

 

 雫の瞳に温かみは無かった。

 

 それはまるで道端に吐かれた吐瀉物でも見るかの様な目、天之河光輝はそんな視線に貫かれてしまって居心地が悪い。

 

「あれもきっと優斗が造ったんでしょうね」

 

 サイバスター自体は雫も識っているが、それをユートが造った処は見た事が無かった。

 

 というより、大半の物を初めから持っていた様に感じるから若しかしたら……

 

(優斗は錬成魔法より以前から【創成】を扱えると言っていたから、私達の世界に来る前から普通に造っていたのかも知れないわね)

 

 という予測をしている。

 

 サイフラッシュにより斃せたのは表面的な所だけでしかなく、やはり後ろの方は前方のGが壁になって斃し切れてない。

 

 数千か数万か判らないけど数えるのも億劫な程のGが飛翔してきた。

 

「ひぃぃっ!?」

 

 香織が引き攣った顔で悲鳴を上げる。

 

「アァァァカシックバスタァァァーーッ!」

 

 聖剣マサムネを床に突き立て魔法陣を顕現させると、招喚が成される巨大な火の鳥をGへと向けて放ったものの斃せるのは直線上のモノだけ。

 

「……んーーっ! 雷龍ぅぅっ!」

 

 涙目になりながらユエは最上級の雷魔法と重力魔法をミックスした東洋龍っぽい形の雷龍を。

 

「ひゃぁぁぁっ! ぶっ飛べ! グラビティショックウェェェェブッッ!」

 

 シアが放つのはアイゼンⅡによるグラビティショックウェーブ。

 

「変身!」

 

《CHANGE!》

 

 白を基調とする仮面ライダーリューン。

 

「消えちゃえ!」

 

《TORNADO!》

 

 ブォッ! 突風が渦を巻いてGを大量に巻き込んで香織が吹き飛ばす。

 

「く、来るでないわぁぁぁぁっ!」

 

 ティオの口から放たれるブレスでGが焼き尽くされていった。

 

 多数との闘いには向かない雫、碌な力を持たない天之河光輝は天翔閃や神威も放てないから何も出来ない。

 

 更に雫は意識を失い掛けている。

 

「チィッ! やっぱり数が多過ぎてすぐに対処は難しいかよ!?」

 

 こんな場所では余りド派手な攻撃もヤバいだろうから、広野で六万もの魔物と闘ったみたいには中々いかないらしい。

 

「こ、此処は聖域なりてぇぇ……し、し……神敵を通さずぅぅぅ……聖絶ぅ!」

 

 まるで津波みたいなGが空間全体に広がりながら一糸乱れぬ動きで飛び回るのを、鈴は涙を浮かべつつ光の障壁を展開して突撃を阻む。

 

 やはり鈴にもGは悍ましいモノだった。

 

(もうこうなれば普通に呪文を放つしかないか)

 

 ユートは呪文を放つべく準備する。

 

「右手にギラグレイド、左手にイオグランデ」

 

 片手にイオとギラの最高呪文を保持したかと思えばそれを一つに融合(You Go)

 

「合体呪文……閃煌爆裂ギオラグライド!」

 

 名称は兎も角として呪文は完成。

 

 ブッ放すと大爆発がGを殲滅した。

 

「やっぱり生き残るか……」

 

 ゲームでイオ系は全体呪文だけど、だからといって現実に放てば爆発が広がりはしても全てを斃せる訳でも無い。

 

 文字通り肉壁となって後ろのGが護られている状態なのだ。

 

 威力があるから連弾など出来ない呪文であり、やはり痛し痒しなのはどうにもならないだろう。

 

 

「うう、何だかこのハルツィナ大迷宮に来てからこんなのばっかりですぅ」

 

「これまでの大迷宮以上に厄介極まりないの~。他の大迷宮攻略を前提にしておるだけあってか、若しやすれば難易度も格段上に設定されておるのかも知れぬ」

 

 シアもティオも女性であるからにはGの存在は忌避するべきモノである。

 

「れ、れれれ、冷静に分析なんてしてないで何とかし、しないとっ!」

 

「大丈夫よ香織、何の問題も無いわ。あれは只の黒胡麻だもの。うふふ、黒胡麻プリンとか黒胡麻フリカケとか結構私は好きなのよ。特に“黒胡麻フリカケ醤油風味”はとっても美味しいもの。御飯がとっても進むんだから……ら、ら、らら、らららららぁ……」

 

「し、雫ちゃん!? きゃぁぁっ! どどどど、どうしよう、雫ちゃんが既に壊れ掛けてるよ!」

 

 刃物での闘いは個対個が通常なのに個対群な上に悍ましいG相手、雫の瞳からハイライトが消えて言動が怪しくなっており、香織が絶望にも近い叫びを上げる中で、ユートが再び合体呪文を使おうと頭の中に呪文を構築し始めるが、そうするよりも前にGの動きに異変が起きた。

 

 鈴が展開した聖絶の障壁へと群がっていたGが一斉に引いたのである。

 

「何だ?」

 

 Gの集まりが空中で球体を作るとそれを中心として囲む様に円環を作り出す。

 

 Gが作るには巨大な円環の外周に更に円環が重ねられ、無数の縦列飛行をしているGが更に円環のあちこちに並び始めた。

 

 それは次第に幾何学模様を空中へと作り出していて、そんな光景を見ていたユートは表情を引き攣らせてしまう。

 

「ま、まさか……Gの奴らは魔法陣を形成してるのかよっ?」

 

 そういえば以前に闘った九番目(ノイント)は、自らの翼から放つ銀の羽を自在に操り並べ空中へと魔法陣を形成していたのを思い出す。

 

 あの数多ものGがしているのも原理的に同じ、拙い! と感じたユート達はそれを遣らせないと一斉に攻撃を放ったものの、その魔法陣と中央に存在している球体を守っているかの様にG共が立ちはだかった。

 

極限閃熱呪文(ギラグレイド)!」

 

 Gは蟲であるが故に熱に強い訳ではないから、ギラグレイドを拡散させても割と落とせるもののやはりと云うか、肉壁役となるGが防いでしまって思ったよりも殺せずにいる。

 

 香織が仮面ライダーリューンの姿をノイントの形態に換えて、固有魔法に当たる『分解』を使ってまで落としていくがやはり殲滅は難しい。

 

「だ、駄目……間に合わないよ!」

 

 そして遂には魔法陣が完成をしてしまったらしくて、空中に浮かんだ直径約一五m近い魔法陣が赤黒い強烈な光を放った。

 

 すると次の瞬間には弾けるとGで構成されていた中央の球体が不気味に蠢き形を変え始めると、全長が三m程にも成る巨大なGへと変化する。

 

 その姿は周囲の蟲型Gの様な楕円形ではなく、百足の様に胴長で尾には針が付きカサカサと動く脚も一〇存在していて、一番前側の脚には刃物の如く鋭利な指が付いていた。

 

 顔には黒一色の複眼が有って顎は鋭くて巨大であり、油ぎった背中には三対六枚の半透明の羽が付い羽ばたいている。

 

 ボス級の魔物と思われる存在感だ。

 

「ギ~チ、ギッチチチチチィッ!」

 

 不快な鳴き聲に雫が乙女――処女ではないが――としてあるまじき行為をしながら倒れた。

 

 そんな雫を視てふとユートは思い出す。

 

「そういえば昔にプレイをしたMMOーRPGに、人型をしている蟲人型の魔物が存在してたんだけどさ、そいつは設定上だけど股間辺りから触腕っぽいモノを伸ばして女のアソコをぶっ刺した上、子宮にまで潜り込ませて卵を産み付けるとか」

 

『『『『『ギャァァァァッ!』』』』』

 

 何処のエロゲかという酷い設定に男女を問わず悲鳴が上がる。

 

 尚、ゲーム自体は飽く迄も健全なRー12だったから裏設定に過ぎないと、()()()()()()()()()()()がケタケタと笑いながら言っていた。

 

 歪つで醜悪な人型のパロディとも云うべきGが先の蟲型Gと同じ赤黒い燐光を纏う。

 

「チィッ!」

 

 すると、周囲にゴキブリが集まり、更に魔法陣を形成し始めた。

 

「どうやら、支配格らしく他のGを自由に操れるらしい……厄介な!」

 

 先程のと似た魔法陣の中央に人型が顕れたのより少し小さい球体が幾つも形成される。

 

 大きさから人型G程ではないにせよ、小型のGよりは大きくて何らかの特殊能力持ちなGが出現するのは火を見るより明らか。

 

「クソッタレ! やらせるかよっ!」

 

「……んっ!」

 

 ユートがユエと共にGの魔法陣に対して攻撃を仕掛けようとした瞬間に突然、足元から凄まじいまでの魔力の奔流が発生する。

 

「なっ!?」

 

 足元へ視線を落とすユートだけど足場には何も無いのだが、ユートが【神秘の瞳】凝らしてよく視れば通路の更に下……謂わば通路の裏側にいつの間にやらGが集まり魔法陣を形成している光景が視て取れた。

 

「手品の一手か!」

 

 派手なモノに目を向けさせて仕掛けを発動させる手品の初歩、意外と頭が良いらしいGはまんまと魔法陣を発動させた訳だ。

 

 足場となる通路を透過して赤黒い魔力が迸り、

激しく爆発でもしたかの様な閃光が周囲一帯を包み込んでいた。

 

「無傷? 攻撃じゃないのか?」

 

 訝しい表情で隣の香織とユエを見る。

 

「?」

 

「……」

 

 二人を見ても傷一つ付いてないし、当人達にしても自分を見ているみたいだが異変が無くて小首を傾げていた。

 

 とても可愛らしい仕草だ。

 

「何なんだ? さっきのは……まさか!?」

 

 物理的なダメージを負わなかったというのは、即ち=で結ばれる答えは……

 

「緒方、愛している!」

 

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!?」

 

 精神攻撃!

 

 ユート達にデバフは効かない、オルクス大迷宮のヒュドラも黒頭が何らかの精神攻撃をしてきたみたいだが効かなかったし、この人型Gの魔法が精神に影響を与える魂魄魔法由来のモノであれば当然ながら効く筈も無い。

 

 ユート達には。

 

 唯一、バッドステータスを諸に受けるであろう天之河光輝は見事に喰らっており、言動を鑑みるに感情の反転である事が解る。

 

「あ、ある意味で恐ろしい」

 

 天之河光輝を蹴り抜いてぶっ飛ばしたユートは別の意味で戦慄するのだった。

 

 

.




 うん、ハルツィナ大迷宮が終わらなかった。



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第84話:我が手に世界の座標を!

 漸く最新話を書けました……





.

「ゆう君……今のって?」

 

「僕はBL好きに何にも言わないけど、僕自身がBLに染まる気は絶対に無い!」

 

 巫座戯た事を抜かした天之河光輝に制裁を加えたユートは、香織からの質問には答えず魂からの叫びを上げてしまう。

 

「恐らく感情の反転だな、今の魔法は」

 

「感情の反転?」

 

「天之河が行き成り『愛している!』とか悍ましい事を言って来たが、抑々にして奴は寧ろ僕の事は憎んですらいた筈だからな。憎悪が愛情に反転をしたって処だろうよ」

 

 ユートは前世が男でも今生が女性なら問題も無いと考えるが、今現在が男なのをそんな目で視るのは不可能にも程がある。

 

 義妹のユーキからして前世が男だ。

 

 まぁ、ユーキの場合は精神にちょっとばかりの問題を抱えていたのだが……

 

「取り敢えず天之河は気絶させた。奴が起きる前にGを殲滅させるぞ!」

 

『『『了解!』』』

 

 念の為にと睡眠呪文(ラリホーマ)まで掛けておくのは悍ましいからだ。

 

 ユーキみたいに前世が男ならまだ良かったが、今現在が男であるからには興味の対象外。

 

 せめてユートのライダーなアストルフォとか、男のモノ付きでも九割九分が女性なら問題も無いのだが、天之河光輝は肉体的にも性格的も受け付けないから只々受け付けなかった。

 

「来るぞ!」

 

 歪つで醜悪なヒトのパロディでしかない人型をしたGが、通常である蟲型のGを引き連れて此方の攻撃をするべく動き出す。

 

 【閃姫】達は既に変身をしていた香織を除き、それぞれのツールで仮面ライダーに変身する。

 

 勿論、ユートも。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 マゼンタカラーのバックルを持つネオディケイドライバーで変身をしたユートは、パンパンと手を叩き合わせてから腰に佩かれたライドブッカーをガンモードで抜き放つ。

 

《ATTACK RIDE BLAST!》

 

 分身する銃口から放たれるエネルギー弾がGを次から次へと駆逐していき、【閃姫】達も各々の仮面ライダーの力でGを討ち果たしていた。

 

 二百とか三百なんて目じゃないぜ! と云わんばかりに襲い来るG共と、それを指揮しているであろう人型のG。

 

 指揮官をしていても戦闘力が低い訳では決して無く、寧ろ個体としての力は普通に手下の蟲型のGよりも強いらしい。

 

 とはいえ、戦闘兵でしかない蟲型のGは殺るだけなら一撃必殺というやつだ。

 

 まぁ、アーマー越しにでも触りたくないからか剣士たる雫でさえも斬撃を飛ばす、中距離からの攻撃を主にしているのだけど。

 

 ユートもライドブッカーをガンモードにしている辺り御察し、出来れば触れたくないからソードモードではないのだ。

 

「……ん、死んで……五天龍!」

 

 ユエの超必殺が炸裂。

 

「態々、五天龍をやる程に嫌だったか。気持ちは解らないでも無いけどな」

 

 それは重力魔法を他の最上位魔法と融合させた五色の龍を象る魔法、雷と蒼炎と嵐と氷雪と石化の噴煙を纏う五体の龍が出現をしてユエを中心に大きく旋回、それぞれが特徴的な咆哮を轟かせて突進してきた数万匹のゴキブリを一瞬にして滅ぼしてしまうという、正しく魔法の名手として現代最高の魔法使い――【魔女王のユエ】。

 

「グラビティ・ショックウェェェェェェェェェェェェェェェェェェブッ! 乱射!」

 

 シアの場合はザビーの力を補助にアイゼンⅡを使う事が多く、今回の場合はグラビティ・ショックウェーブの乱射をして数を消し飛ばす。

 

 その姿は余りにも恐ろしい草食獣の亜人族とは思えぬ【破砕獣のシア】。

 

《TORNADO!》

 

「ブッ飛べぇぇぇぇっ!」

 

 香織は仮面ライダーリューンで竜巻の属性カードを発動、リューンアローを放つとエネルギーで出来た箭が竜巻と化して放たれた。

 

 視る者を魅了する美しさを持ちながら容赦無い攻撃性は【堕天妃の香織】の名が相応しい。

 

「はっ! せやぁぁぁっ!」

 

 仮面ライダーサソードとなり毒の剣閃を幾重にも飛ばす雫、仮面で表情は判らないがその実は既に涙目で余程苦手なのだろう。

 

「ライダースラッシュ!」

 

《RIDER SLASH!》

 

 尻尾を押し込み必殺技の威力で更なる広範囲に放つ雫は正に【剣閃媛の雫】か。

 

「来るでないわ!」

 

《ADVENT!》

 

『GURAAAAAAAA!』

 

 ティオはブラックドラグバイザーにアドベントカード――召喚のカードをベントする。

 

 けたたましい鳴き声を上げて空中から顕れたのは契約モンスターのドラグブラッカー、姿自体はドラグレッダーの色違いみたいなものでその異名は【暗黒龍】。

 

 ドラグブラッカーが蟲型のGへと黒いブレスを吐き出すと、その猛烈にして灼熱の業火によって目前に迫るGが焼き尽くされていく。

 

 龍騎系仮面ライダーはバリアジャケットに近いブランク体のアーマーを構築、契約モンスターの力を注ぎ込む事によって完成をする。

 

 武装の類いは契約をしているモンスターが持っており、アドベントカードをベントする事によって召喚が可能となっていた。

 

 勿論、先程ティオが使った召喚のカードを使えば契約モンスター自体を召喚が出来る。

 

 元々は原典で仮面ライダー龍騎の変身者である城戸真司のミラーシャドーが変身するライダー、だからユートは仮面ライダーリュウガのデッキを自身の影とも云える優雅に渡していた。

 

 ティオは竜化という固有魔法を一族で持っている竜人族の末裔、その姿とはドラグブラッカーが蛇みたいな体躯をした東洋龍型なのに対して彼女は西洋竜の姿をした黒竜。

 

 ティオをドラグブラッカーを契約モンスターとしている仮面ライダーリュウガにした理由だ。

 

 故に【黒竜姫】の異名が……

 

 因みに、この異名はハルツィナ樹海から大迷宮に入る前夜にハウリアの一族から頂戴したモノ、鈴みたいな新参には付いてないけど初めから居た香織と雫とユエとシア、そしてティオにはばっちり二つ名というか異名を名付けられていた。

 

 ユートもハウリアがいつの間にか厨二病を患っていたのに吃驚したものである。

 

 そして異名を伝えられた仲間達は四つん這いになって崩れ落ちたそうな。

 

 可哀想に……

 

 尚、ユートはアシュリアーナ真皇国を治めている【真皇】という異名を自らが名乗ったので付けられてはいないし、抑々にして大概が二つ名とか異名とかを名乗るから正直に言うと慣れている。

 

 仮面ライダータイガに変身をした鈴はちょっと困り気味、何故なら結界師の鈴が最も適性の高い魔法とは『聖絶』などの文字通り結界系魔法。

 

 Gを防ぐには良いが攻撃力には欠ける。

 

 火力の低さを補えるのが仮面ライダーだけど、タイガは近接攻撃が基本となっていた。

 

 龍騎やリュウガならストライクベントで中距離攻撃も出来るし、仮面ライダーゾルダは中遠距離攻撃の方が専門ときている。

 

 仮面ライダーナイトでもモンスターを召喚したら離れた位置から、攻撃力は無いに等しいのだけど叶うであろう。

 

 だから今現在の鈴がやっているのは聖絶による陣地の防衛で、仮面ライダータイガは見るからに重装甲だから防御力も高いのかも知れないけど、アックス型のデストバイザーやストライクベントのデストクローでGに近寄りたくは無い。

 

 人型にユートが攻撃をする。

 

《FINAL ATTACK RIDE……DE DE DE DECADE!》

 

 ライドブッカーのガンモードで必殺技をぶっ放すディメンジョンシュート、仮面ライダーディエンドの必殺技と同じ名前ではあるけど実際に当の門矢 士な仮面ライダーディケイドも何処かで使った事があるから問題も有るまい。

 

 確りと命中はしたけど蟲型のGが寄って集って防御をしたからか、大したダメージとはいかなかったらしく普通に人型のGは健在だ。

 

「チッ!」

 

 思わず舌打ちをする。

 

 更に寄って集って融合したら傷も修復されて、必殺技を受ける前にまで戻ってしまった。

 

「うわぁ、キリがありませんよ」

 

 シアがうんざりとした口調で言う。

 

「ふと思ったんだけど」

 

「何だ? 雫!」

 

「さっきのが愛憎を反転させる魔法という事は、効いていたら私は貴方を憎んでいたのよね?」

 

「雫が僕を愛してるなら……な」

 

「う、うん。だけどよ? という事はあのGについてはどうなるのかしら?」

 

「……きっと愛らしく映るんじゃないか?」

 

 少し考えて答えたユートの科白に雫のみならず全員がゾッとした。

 

 恐らくだが愛憎の反転は完全に一対一の割合となるだろう、つまり一〇〇の好意は一〇〇の憎悪へと完全に反転が成される。

 

 天之河光輝は一〇〇〇〇の憎悪を反転させられてああなったのであろう。

 

 本当に悍ましいとユートは思った。

 

「……くっ、最大限の五天龍を使っても中々上手くはいかない!」

 

 仮面ライダーサガなユエが愚痴る。

 

 五天龍は五属性の最上級魔法に重力魔法を合わせた合体魔法の類い、その威力とくれば()()()()ユエが扱える中では正しく最大限なのだ。

 

〔おい、優斗!〕

 

「優雅兄?」

 

〔俺を出しな〕

 

「と、言うと?」

 

〔ああいう手合いには仮面ライダーより相応しいのが居るだろ〕

 

「……優雅兄が態々言うって事はウルトラマン? まぁ、確かにその方が良さそうだね」

 

 ユートは頷くとディケイドへの変身を解除して聖句を唱え始めた。

 

 緒方優雅を自分の内から分離して顕現をさせる為の権能、それは再誕世界で殺して神氣を喰らった侭に捨て置いた両面宿儺之神の力である。

 

 飛騨の大鬼神とされるその神は朝廷には服さぬまつろわぬモノ、それの多くは地方豪族であったのではないかとされていた。

 

 そして両面宿儺之神は名前の通りに二つの顔を持ち、四本の腕と四本の脚を持つ土蜘蛛みたいな妖物と見られる存在ではあるのだが、この姿からユートは同じ顔をしている一卵性の双子だったのではないか? と考えている。

 

 二面四臂のまるでインド神話の神々みたいな姿は双子の揶揄だろうと。

 

 それが故にユートのこの権能は双子の兄に仮初めの肉体を与えるものとなっていた。

 

「判ってるだろうけど魔力で発動してるからね、制限時間は一〇分くらいだと思って欲しい」

 

「応よ!」

 

 全員が集中して見つめる中で、ユートと優雅はそれぞれがスパークレンスとエボルトラスターを握り締めている。

 

「希望の光よ我が許に集え、ティガァァッ!」

 

「絆……ネクサスッ!」

 

 光が溢れ出してユートをウルトラマンティガ、優雅をウルトラマンネクサスに変えていく。

 

 ぐんぐんアップな巨大化はしないが攻撃力確保を目的に三m程度には成った。

 

『征くぞ、優斗!』

 

『了解!』

 

 ウルトラマンティガとウルトラマンネクサス、この二体のウルトラマンは変身者が多数だという共通点を持つ。

 

『デヤァァッ!』

 

『ハァァッ!』

 

 ウルトラマンティガの変身者はマドカダイゴであるが、例えば息子のマドカツバサだったり或いはツバサが過去に跳ばされて出会ったアムイだったり、若しくはウルトラマンエックスの世界でのティガだったりと状況から増える。

 

 ウルトラマンネクサスは不完全なザ・ネクストの時の元自衛隊員な真木舜一を皮切りに姫矢 准、千樹 憐、西条 凪、孤門一輝とデュナミストが変わってきた。

 

 共通点は複数の変身者。

 

 ウルトラマンゼロも複数の変身者が存在してはいるが、ゼロの意識が強過ぎるからコンセプト的にちょっと向いていなかった。

 

 それは兎も角としてティガとネクサスは各々がスカイタイプとジュネッスレッドにチェンジし、光線の刃を素早く生成しては投げ付けて蟲型のGを殲滅していく。

 

 スカイタイプは迅さを旨とする。

 

 次から次へと消え逝く蟲型のGに【閃姫】達は正しく万歳三唱であったと云う。

 

『ハッ! ハァァッ!』

 

「あ、ティガがマルチタイプに?」

 

 腕を額の辺りでクロスさせクリスタルランプが光輝くと、ウルトラマンティガの色が銀色と紫色だったのが赤が混じるマルチタイプに変化。

 

『優雅兄!』

 

『応さ!』

 

 ティガは腰に腕を据えて胸元から伸ばすと横に腕を広げてエネルギーチャージ。

 

 一方のネクサスは左腕を下に伸ばして更に右腕を伸ばし、腰の辺りで斜めにクロスさせると徐々に腕を上げていき、最終的に斜め上に腕を広げるエネルギーチャージを行う。

 

『デヤァァッ!』

 

『シュワッ!』

 

 そして二人は左腕を下に右腕を上にL字に組んで必殺光線を放った。

 

『ゼペリオン光線!』

 

『オーバーレイ……シュトローム!』

 

 放たれた光線が蟲型のGを焼き滅ぼしていくがそれでも斃し切れない。

 

『ならば!』

 

『超闘士ウルトラマンに倣う!』

 

 二人はエネルギーを拳に収束。

 

『ゼペリオン……』

 

『オーバーレイ・シュトローム……』

 

 掌を突き出して収束させたエネルギーを瞬時に解放する。

 

『『W超光波ぁぁぁぁぁっ!』』

 

 リアル頭身となれば星の一個や二個は破壊するとも云われる業に昇華された。

 

「な、何あれ?」

 

 鈴の目が点になっている辺り彼女には識らない技だったらしい。

 

「私、識ってるよ。確か『ウルトラマン超闘士激伝』って少し古い漫画で超闘士ウルトラマンが使っていたのがスペシウム超光波。ゼペリオン光線だからゼペリオン超光波なんだよ。だって超闘士ウルトラマンタロウが使ったらストリウム超光波だったしね」

 

 オタクな知識をハジメと話を合わせたいが故に身に付けた香織に死角は無かった。

 

「あっという間に殲滅されたですぅ!」

 

 シアがウサミミをピコピコ動かして万歳しながら跳び上がる。

 

『思い……出した!』

 

『いや、何処のエンシェントドラゴンだよ?』

 

 W超光波で蟲型のGを殲滅した時に刺激を促された記憶があった。

 

『この蟲型のGとヒト型のGの姿はアレだよな、破滅魔虫ドビシ……だったかな?』

 

『そういう事だ』

 

 破滅魔虫ドビシ――【ウルトラマンガイア】に於ける最終三部作にて登場した根源的破滅招来体の寄越した虫みたいな怪獣。

 

 まぁ、根源的破滅招来体の本体みたいなのは出て来なかったし、その名前も結局は地球側で付けたというだけでしかないが……

 

 破滅魔虫ドビシはその姿自体は単なる虫っぽい怪獣だけど、寄り集まると巨大な怪獣の姿となってウルトラマンガイアとウルトラマンアグルへと襲い掛かって来た。

 

 つまりあの蟲型のGと似た感じな敵だった為、優雅は其処からウルトラマンの力を使う提案をして来たのであろう。

 

 使ったのはガイアとアグルではなくてティガとネクサスだけど、その力の使い方さえ誤らなければ別に問題も無かった。

 

『ま、破滅魔虫ドビシはそれこそ地球を覆い尽くす勢いできっと何千億の数が出たんだろうがよ。下手すりゃ何千兆もの数が……なぁ』

 

『数十万匹なんて、それに比べればまだまだ少ない方なのかね』

 

 実はどの程度のドビシが出たのかユートは識らなかったりする。

 

 そして動き出すヒト型のG。

 

『お前はもう終わりだぜ!』

 

 それは先のオーバーレイ・シュトロームとは異なる前動作、何処か抜刀を思わせるエネルギーチャージの後に腕を十字に組んだ。

 

『クロスレイ・シュトローム!』

 

 それはアンファンスでの必殺技ではあるけど、アンファンスの技はジュネッスでも使える。

 

 そしてウルトラマンの技は元から凄まじい為、クロスレイ・シュトロームでもまともに受けてしまえば、ヒト型のGが如何に防御力を高めていたにしても分子分解は免れなかったらしい。

 

 原典の【ウルトラマンネクサス】では必殺技足り得ず、牽制くらいにしか使えない事も屡々あった技ではあるけど。

 

『本来なら数十にも及ぶヒト型が現れる予定だったんだろうが、此方の強さが想定外で出す余裕も無かったみたいだな。んじゃ、戻るぜ』

 

 目的は達せられたからか優雅のネクサスは光の粒子を放ちながら消えていき、ユートもティガの変身を解除して雫やユエ達の方を振り向いた。

 

「進もうか」

 

「そうね、光輝を回収してからだけど」

 

「チッ」

 

「舌打ちする程!?」

 

 あの悍まし過ぎる彼奴の科白と表情は暗殺でもしてやりたくなる。

 

 正直、置いて行っても罪にはならないんじゃないかと割かし本気で思ってしまった程に。

 

「……ユート」

 

「どうした、ユエ?」

 

「……貴方のお陰で新しい魔法の目処が付いたから有り難う」

 

「うん、そうか? どういたしまして」

 

 ユエには悩み事があった。

 

 乱戦になった場合は自分の魔法は扱いが難しくなってきてしまい、下手にブッ放せば仲間を殺してしまいかねないからだ。

 

 どうにかしたかったのだけど現在の持ち魔法や知識では如何ともし難い。

 

 其処に来てユートの魔法? 焼きたいモノだけを焼く、破壊したいモノだけを選んで破壊をするあの力である。

 

「……ユート、私を神山のバーン大迷宮に連れて行って欲しい」

 

「魂魄魔法が要るのか?」

 

「……想定した魔法――『神罰之焔』ら重力魔法と炎属性最上級魔法の『蒼天』を一〇発分圧縮して焼き滅ぼすんだけど、魂魄魔法で焼くべき相手を選べるんじゃないかと思った」

 

「成程、確かに魂魄魔法たる『選定』を混ぜたらそれが出来るだろうね」

 

 ユートのサイフラッシュとかは魂魄魔法なんて使ってはいないが、ユエの考えの通りの魔法ならば確かに存在している。

 

 原典ではこのハルツィナ樹海の時点で恵里による裏切り、愛子先生による神山の爆破事故などが起きて想定とは違う形で神山のバーン大迷宮に有る『魂魄魔法』を手に入れており、本来であるならばこの時点で既にユエは『神罰之焔』を完成している筈……だった。

 

 ユートが入り込んだ弊害であろう。

 

「魂魄魔法が必要なら僕が与えられる」

 

 ユートが一枚のカードを取り出した。

 

「……それは、インストールカード?」

 

「そう。これは()()使()()()あらゆる技能や魔法をカードに封入し、他人がインストールをする事で扱う事が出来る様にする魔導具だ。広義で云えば【解放者】が大迷宮に設置をした神代魔法修得の魔法陣と似た様なモノだろう」

 

「……良いの?」

 

「【閃姫】なら構うまい」

 

 無関係な人間……況んや、天之河光輝みたいなのには絶対に使わせないであろうが身内の中で最上位と云える【閃姫】、彼女らに使わせない理由なんてこの世の何処にも有りはしない。

 

「……ん、ユート大好き。愛してる」

 

 閨で紡がれる淫靡な『愛してる』も股間が滾るから嬉しいが、こうして普通に感謝の気持ちと共に言われるのも悪くはない。

 

「ちょ! ユエさんと何で行き成りラブシーンをしちやってる訳?」

 

「何、ちょっとな」

 

 取り敢えずインストールカードに関しては後から渡すという事で落ち着く。

 

(まぁ、以前にハジメにも生成魔法を渡していたからな)

 

 生成魔法は自分自身とハジメにとって誂えたかの様な魔法だった。

 

 想像力を創造力に換えるタイプの力なんてのは割と鉄板だし、ユートの【創成】は汎暗黒物質を自在に組み換えて粒子から原子へ、原子から分子へと創り出す可成り高い力。

 

 放浪期に疑似転生で出逢ったレンの創造魔法も大概ではあったが……

 

 何しろ『おにぎりが食べたい』と望めばポンと出てくる不可思議現象、ユート自身もこれを見て今まで【錬成】で無機物しか扱えないと思い込んでいたが、実は有機物をも扱えるのではないかと思い至った契機にもなった。

 

 レンとのアレやコレやは良い想い出だ。

 

「お?」

 

 どうやら始まったらしく天井付近に有る大樹の一部が輝きを放ち、気持ち悪い音を響かせながら大きな枝が生えてきた。

 

 枝はユート達の居る広場にまで伸びてくると、まるで波が打つかの如く変化をして階段に。

 

「緒方……」

 

「何だ? 役立たず」

 

「ぐっ! だが試練は成功した」

 

「は? 莫迦かお前は」

 

「な、なにぃ!?」

 

 御気楽極楽な言葉には虫酸が走る。

 

「試練の悉くを失敗、最後の試練も莫迦みたいに引っ掛かって気絶していたお前が試練に成功したとか、本気でそんな事を思っているんなら御都合解釈が過ぎるというもんだ」

 

「失敗? 俺が……? テストでは九五点を下回った事が無い俺が失敗……した?」

 

 失敗が余程ショックだったのか学校のテストと同列に考えている様だ。

 

「この大迷宮のコンセプトは絆、なら絆の何たるかを理解してないお前がクリア出来るものかよ」

 

「ふ、巫座戯るな! 俺が絆を理解してない? そんな訳が無いだろうが!」

 

「なら周りを見てみるんだな」

 

「何だと!?」

 

 そして周囲を見回せば、ユエやシアやティオのトータス組は疎か雫や香織や鈴までも微妙な顔で天之河光輝を視ていた。

 

「し、雫? 香織……鈴まで……」

 

 これが天之河光輝の軌跡の成れの果て……結末というやつであったと云う。

 

「せっ……」

 

「お前が御得意の御都合解釈の完全体――『洗脳』と来るか? 本当に成長しないんだな天之河は」

 

「ぐっ!?」

 

 悔しそうな、そして憎々しいという表情がありありと浮かぶ天之河を見て逆に安堵する。

 

(今更、天之河に好かれたく無いしな)

 

 ユートは世間でいつの間にか云われているみたいな『好きの反対は嫌いではなく無関心』とか、()()()()を考えたりは一度足りとて無かったから今回の天之河の動きは理解もしていた。

 

 

 天之河の『愛してる』ムーブを視れば解るであろうが、結局は『愛情』の対義語は『憎悪』だという事なのだろう。

 

 若しも世間一般に今現在で云われている通りであるなら、ユートを憎んでいる天之河は無関心にならなければ可笑しいのだから。

 

 表裏一体のコインに例えれば表を『愛情』に、裏を『憎悪』に置き換えた場合の『無関心』とは中央――どちらでもなく、そしてそのどちらにも成れるという位置に存在している。

 

 表面を削れば中央はいずれ表に、裏面を削ればいずれは裏に成るのだから。

 

(本当に悍ましい感覚だったな)

 

 前世が男だったユーキやレンといった転生者、一部に男の象徴を持った大喬や鮎川優奈、更には後天的にそうなった元男の娘のアストルフォ。

 

 彼女? らを受け容れるのは簡単だったのに、天之河光輝が相手では出来そうにも無い。

 

 因みにアストルフォとは【カンピオーネ!】の世界で『神殺し』に転生し、【Fate/ZERO】時代に獲た聖杯の力が権能化したモノで七騎の英霊を召喚が可能となり、ちょっと試しにと召喚をして引き当てた最初のサーヴァントで、本来は男の娘と呼べる容姿で紛う事無く性別は本人の認識も込みで『男』だった筈なのに、象徴はポークビッツと化して肉体的には九〇%が女体化されていた。

 

 小さいながらも脹らみを持つ胸、筋肉が見えなくなり何処か全体的に丸みを帯びた肢体、小さくなって玉袋も喪われた男の象徴、ユートは大喬や鮎川優奈の裸をよく見知る身として完全な両性具有と成ったのだと理解をする。

 

 当人は最初こそ狼狽えたが、理性が蒸発している故にか割とすぐにに楽観的な捉え方をした。

 

 更に因みにだが、七騎が限界だった英霊の枠は平行世界での第五次聖杯戦争で聖杯を獲た事で、現在は最大で一四騎を喚べる様になっているのと第四次聖杯戦争から生き残ったセイバーも含めて保持可能数は一五騎だったりする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あれが到達点という訳か」

 

 憔悴し切った天之河光輝なんぞは放って置いてユートはゴールに目を遣る。

 

 

 枝の通路を登り切ると洞が出来ており、躊躇もしないで進むと光が溢れて転移陣が起動した。

 

 眩いばかりの光が収まって目を開いてみれば、広がっていたのは庭園と呼ぶに相応しい。

 

 まるで空中庭園で空が相当近く感じられるし、空気が可成り澄んでいてチョロチョロと流れている幾つもの水路、あちこちから伸びている比較的小さな樹々に小さな白亜の建物がある。

 

 その一番奥には円形の水路で囲まれた小島と、中央に一際大きな樹が聳え立ち、その樹の枝が絡みついている石版が存在していた。

 

 物怖じをしないティオが歩いて庭園の淵に行き眼下を覗き込む。

 

「ふむ、主殿……どうやら此処は大樹の天辺付近みたいじゃぞ?」

 

 そんな言葉に他の【閃姫】や天之河光輝までも庭園の端から下を見てみると、その眼下には広大な雲海と間違える程に濃霧の海が広がっていた。

 

「成程、大樹がでかいでかいとは思ったんだけど其処までとは……な。ひょっとしたら隠蔽の魔法でも掛けているのかも知れないな」

 

「……ん。闇系統にそういう魔法が在る」

 

「或いは精神に働き掛ける魂魄魔法、空間をずらして見えない様に細工した空間魔法の可能性も」

 

 ユエが闇系統の魔法にそういう認識阻害魔法が有ったのを思い出し、ユートは魂魄魔法によって魂魄に干渉し意識をさせないようにするか、若しくは空間魔法によるのかなどと考えた。

 

「やっぱり、此処がゴールで正しいみたいだね。水路が魔法陣を形成している」

 

 水路で囲まれる円状の小島に可愛いアーチを渡って降り立った途端、石版が光を放って水路には若草色の魔力が流れ込み蛍の如く燐光がゆらゆらと立ち昇る。

 

 その後は最早慣れた記憶を精査される感覚と、その直後に知識を無理矢理に刻み込まれる感覚。

 

 

「昇華魔法……」

 

 ユートが呟くと(おもむ)ろに目の前の石版へと絡み付いた樹がうねり始める。

 

「オスカーの時みたいなもんか?」

 

 燐光に照らされた樹が気色悪い動きをしながら形を変えていき、その幹のド真ん中に人の顔を作りググッとせり出てくると、肩から上だけの女性と判る容姿が出来上がった。

 

 まるで美しい木像の様な女性の声が響く。

 

『取り敢えずおめでとうと言わせて貰いますわ。よくぞ数々の大迷宮とこの私、リューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えましたわ。そんな貴方達に最大限の敬意を表し、酷く辛いだろう試練を仕掛けた事を深く御詫び致します』

 

「樹を媒体にした記録、オスカー・オルクスの様な映像の代わりか」

 

 予めミレディからの情報でハルツィナ共和国の女王だと聞かされていたが、正しく気品と威厳があるのだと感じる女性は樹の幹にて出来ているからかはっきりと判らないけど、長いストレートの髪を中分けにした可成りの美女に見えていた。

 

『ですがこれもまた必要な事だと他の大迷宮を乗り越えて来た貴方達ならば神々と我々との関係、過去の悲劇、そして今起きている何か……全て把握している筈ですわね? それ故に揺るがぬ絆と、揺らぎ得る心……というものを知って欲しかったのです。きっと此処にまで辿り着いた貴方達なら、心の強さというもの、その逆に弱さというものも理解したと思いますわ。それがこの先の未来で、貴方達の力になる事を切に願います』

 

「女王っぽい、ドMとは思えんくらいに」

 

 空気を読まないユートの科白を聴いてしまった全員がズッコケた。

 

 それでも話しは続く。

 

『貴方達がどんな目的の為に私の持つ神代魔法―― 【昇華魔法】を得ようとしたのかは判りません。どの様に使おうともそれは獲た貴方達の自由でしょう。ですがどうか力に溺れることだけは無く、そうなりそうな時は絆の標に縋りなさい』

 

 ユートは真面目に聴いていた。

 

 多分だが暫くの話をされた後に名を訊かれる、それこそユートにはいつもの通りに……だ。

 

『私の与えた神代の魔法【昇華】は、全てのモノの“力”を最低でも一段は進化させますわ。貴方達に与えた知識の通りに。けれどこの魔法の真価とはもっと別の処に在ります』

 

 実際にはミレディから聴いているからこの事は周知されている。

 

『昇華魔法というのは、文字通りに全ての“力”を昇華させます。それは神代魔法も例外ではなく、生成魔法、重力魔法、魂魄魔法、変成魔法、空間魔法、再生魔法……これらは理の根幹に作用をする強大なる力ですがその全てが一段の進化をして、更に組み合わさる事で神代魔法を超える魔法に至りますわ。即ちそれは神の御業とも言うべき魔法――『概念魔法』に』

 

 そしてミレディから聴いて知っている、彼女こそユートがずっと欲していた“力”を預かる守人の役割を果たしていた事を。

 

『概念魔法――その侭の意味です。あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。ですがこの魔法は全ての神代魔法を手に入れたとしても容易くには修得することが出来ません。何故なら概念魔法とは理論では決して無く、極限の意志によって生み出されるモノだからですわ』

 

 概念魔法を魔法陣による知識転写で伝えられない理由、『極限の意志』とか余りにもふわっとした曖昧模糊な説明でしかなかった事からも解る通りで体系化も出来ないから。

 

『私達、解放者のメンバーを以てしても七人掛りで何十年と掛けて、漸く三つの概念魔法を生み出す事しか出来なかったのですわ。尤も、私達にはそれで充分ではあったのだけれど。その内の一つを貴方達に託しましょう』

 

 リューティリス・ハルツィナが言った瞬間に、石版の中央がスライドされてその奥から懐中時計の様な物が出てくる。

 

 ユートが口角を吊り上げつつ何処か喜びの表情を浮かべ手に取った。

 

 魔導具――否、この世界の尺度で言い表すのならアーティファクトだろうが……表には半透明の蓋の中に同じ長さの針が一本中央に固定されており、その裏側にはリューティリス・ハルツィナの紋様が描かれている。

 

 その事からこれは攻略の証も兼ねているのかも知れないが、掌中のアーティファクトをユートはじっと視ていると木像なリューティリスが説明を再開してきた。

 

『その名を【導越の羅針盤】――私達がこれに込めた概念は『望んだ場所を指し示す』ですわ』

 

 いつになく昂るユートの心。

 

「『望んだ場所を指し示す』……か。ふふふ、あははははは……」

 

「ゆ、優斗?」

 

 其処に映る表情は正に狂喜、雫だけではなくて全員がドン引きしたくなる程に打ち奮えている。

 

『きっと何処にでも何にでも、望めばその場所へと導いてくれるでしょう。それが捜し人の所在であれ、隠された物の在処あっても或いは――仮令、別の世界であっても』

 

 リューティリスの語る『別の世界』、それは即ち神――エヒトルジュエのいる『神域』の事ではあろうが、この羅針盤は飽く迄も今居る世界から外れた世界をも指し示す為のアーティファクト。

 

 【解放者】達の目的は神の居る場所を探し出す為に、オスカー・オルクスが概念魔法を生成魔法で付与した素材を用いてこの『導越の羅針盤』を作成したのだろうが、場所を示して導いてくれるというファジーな概念であるからには()()()()()()()()()()()の標となるであろう。

 

 ミレディからこのアーティファクトの話を閨で聴いたユートは、余りの喜びと興奮を鎮める為に彼女を散々に抱いて暫く動けなくなるくらいには抱き潰してしまった程で、翌朝に遅いミレディを心配した香織が見た時にはまるでレ○プでもされたかの如く、色んな染みでドロドロになってしまったミレディが仰向けになり、ハイライトの無い瞳で呆然自失な状態となっている姿であった。

 

 この時ばかりは相手がユートだと知ってはいても悲鳴を上げたものである。

 

『貴方達が全ての神代魔法を手に入れて、其処に確かな意志が在るのならきっと何処にでも行けるでしょう。自由な意志の許、佳き未来を選択出来ますよう、貴方達の進むべき道に幸多からん事を心の底より祈っておりますわ」

 

 伝えるべきは最低限伝えたという事であろう、リューティリスはじっと前を向いて……

 

『時に、貴方の名前を教えて下さいませんか?』

 

 ユートからすればいつものヤツが来た。

 

 故に天之河光輝にだけは聴こえない様に風を操り遮断をしてある。

 

「ゼロワン」

 

『フフ、漸く逢えましたわねゼロワン様』

 

 突如としてまるでハイライトが無く人形の様だったリューティリスの瞳にハイライトが宿って、生き生きとした表情を浮かべたかと思うと木像が全身を形作り始めた。

 

「君は……」

 

『貴方の名前を聴いた時点で単なるメッセンジャーから私、リューティリス・ハルツィナとしての疑似意識を宿した方に切り替わりましたの』

 

「つまり双方向の遣り取りが可能……と?」

 

『ええ。私の本体は最早、肉体を喪ってしまいましたからどうにもなりませんが、オー君さんには無理を言いシステムを構築して頂いたのですわ。とはいえ、ウーア・アルトを触媒にする関係から実はバンちゃんさんにも変成魔法で御手伝いを頂きまして、私はリューティリス・ハルツィナが若し生きていたらこう動き、こう話したであろうという何でしたか? えみゅれーとをする疑似人格と呼ばれる存在なのですわ』

 

 語尾に『はーと』が付くくらいにはとっても良い笑顔で語ったものだったと云う。

 

 

.




 ハルツィナ樹海が終わらなかった……だと?

 本当なら次のエピソードの導入部を最後に入れる予定だったのですが……所謂、引きという。




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第85話:王都襲撃事件

 多分、Gみたいな奴が運営に報告でもしているんだろうけど、手間だからって運営は調べもしないで感想を消して回ってんのかね?





 

.

 ユートは目の前に在る木像――リューティリスとの会話を愉しんでいる。

 

 嘗てはオリジナルが女王の座に就いていただけあって、天之河光輝では決して纏えない気品を感じられたのもあるし、本来の性癖が出てないのも評価が高い要因の一つだ。

 

 ミレディから聞いたリューティリス・ハルツィナの性癖――それはぶたれて『ハァハァ』としちゃう真性の超ドM。

 

 実際のリューティリスはそうなのであろうが、少なくともリューティリスの木像に痛覚が無いからか、ドMな本性が出ているとは云えない状態でとても清楚な女性であった。

 

 恐らくミレディ達が見た彼女の第一印象というも清楚で優しげな女王様、だけどまさかのドMでそんな第一印象が脆くも崩れ去ったのだろう。

 

 とはいえ、ドMが出ないリューティリスは話すには理想的な存在である様だ。

 

 本来の世界線ならこの時代のティオが相当するのだが、この世界線での彼女はドM変態化をしていないからリューティリスのみがドMだと云う。

 

「さて、御名残も惜しまれますがそろそろ時間も押して参りましたわね。【導越の羅針盤】は攻略の証でもありますから大事にして下さいませね」

 

「ああ、必要としていたからな。手放す気は更々に無いさ」

 

「ふふ、では最後に此方を」

 

「黒と翠のプログライズキー。黒はオスカー・オルクスで翠がリューティリス・ハルツィナか」

 

「はい。それをどうするかは貴方の自由な意志の許に、どうか御好きになさって下さいませ」

 

「そうするさ」

 

《ZEROーONE DRIVER!》

 

 ユートはゼロワンドライバーを装着して二つのプログライズキー、先ずは目の前の少女の謂わばオリジナルのキーを読み込ませる。

 

《AUTHORIZE!》

 

 電王で云うセタッチで認証。

 

《PROGRIZE! LYTIRIS HARZINA!》

 

 名前が叫ばれるだけで端から見ていても何かが起きた風には見えないが、プログライズキーへと仕込まれているリューティリス・ハルツィナの魂

の半分と、ミレディを除く他の五人の【解放者】の魂の半分を更に五分の一に分けたモノが間違いなく手に入った。

 

 次のプログライズキーを使えば……だ。

 

《AUTHORIZE!》

 

 黒いプログライズキーを認証。

 

《PROGRIZE! OSCAR ORCUS!》

 

 装填してやる事でオスカー・オルクスの魂をも手に入れて、これで【解放者】の魂はヴァンドゥル・シュネー以外が一〇分の九を手に入れた事になるだろう。

 

 残る一〇分の一はシュネー雪原は氷雪洞窟内に在るであろう、ヴァンドゥル・シュネープログライズキーを手にすれば埋まる訳だ。

 

「我がオリジナルを宜しく御願いしますわ」

 

 笑顔で木像だったリューティリスが枝に戻り、辺りは静寂を取り戻すのであった。

 

 因みに、リューティリスとした会話はこの日の事がオリジナルに伝わるらしい。

 

 ユートが踵を返すと笑顔で出迎えてくれている【閃姫】達と、矢張りというか憎々しげに睨み付けて来ている天之河光輝が対照的だ。

 

「で、天之河は神代魔法を獲たのか?」

 

「ぐっ!」

 

 思った通り獲ていないらしく、悔しげな表情となってしまう。

 

「お、緒方は手に入れたんだな……」

 

「当然の如く」

 

 何の気負いも無く……

 

「くっ!」

 

 然も当たり前と云わんばかりなユートの態度が

気に障った様だ。

 

「ゆう君、鈴も神代魔法を手に入れたんだけど……全部を集めないとダメなんだよね?」

 

「ああ。ミレディの言い分やリューティリスとの会話を合わせるとな。神代魔法を七つ全部手に入れて漸く鍵を手にするんだろうな」

 

「そっか……」

 

 チラチラとユートの方を見てくる辺りからして自分も帰れるか不安なのだろう。

 

「早くシュネー雪原の氷雪洞窟で最後の神代魔法を獲て、帰ったら【ウィステリア】でパーティーと洒落込もうか」

 

「ちょ、それは優花の家に迷惑じゃない?」

 

 雫が慌てる。

 

「別に他の客とぶつかる時間帯にじゃないしな、お金を払うから金銭的な問題も無い。死者も居る中でパーティーは不謹慎か?」

 

「そ、それは……」

 

 半分以上はオルクス大迷宮でベヒモスに轢かれ潰されたか、赤熱化された頭に生きながら焼き殺されたかをしたのを考えると不謹慎でしかない。

 

「死者を悼むのか構わないが囚われても余り良くは無いんだがな」

 

 抑々にしてハジメに対して碌でも無い態度を取り続けていた連中、ユートは身内に砂糖菓子に蜜を掛けたくらいに甘いが、身内の敵にはその口に大量のドラゴンズ・ブレスを突っ込んでやっても罪悪感を懐かないくらいに辛口であるが故にか、死んだクラスメイトを悼む気持ちなんて懐き様が無い処か、寧ろ地獄門の番人をするカレン・オルテンシア――天英星バルロンのカレンに命じて全員を無間地獄へと叩き落としていた。

 

 ざまぁ……という不届きで不謹慎な精神で。

 

 因みに、ドラゴンズ・ブレスとはスコヴィル値が二四八万という英国にて開発された唐辛子で、食べると命に危機的な状況を強いるという毒薬にも等しい劇物である。

 

 手に入れても決して食べてはいけない……というより素手で触れてもヤバイ!

 

「鈴と雫と香織はどうだった?」

 

 主語は無いが何を訊きたいのかをすぐに理解した鈴達は口を開く。

 

「鈴は覚えたよ!」

 

「私もね」

 

「うん、私も覚えられた」

 

 地球組の【閃姫】はオッケー。

 

「ユエ、シア、ティオは?」

 

「……ん、大丈夫」

 

「私も同じくですぅ!」

 

「妾もじゃ」

 

 つまり、トータス組も大丈夫。

 

「覚えられなかったのは天之河だけって事になるみたいだな」

 

「ううっ!?」

 

 冷たいジト目にたじろぐ天之河光輝。

 

「あ、魔法陣が顕れました。きっとあれが恒例のショートカットですよ!」

 

 シアがウサミミをピョコピョコとさせながら指差して叫ぶ。

 

「よし、帰ろうか」

 

「ま、待て! 待ってくれ!」

 

「あ?」

 

 天之河光輝に呼び止められて不機嫌極まりない返事をするユートに、ちょっと話すのを躊躇ってしまうがそれでも意を決する。

 

「もう一度挑戦させて欲しいんだ!」

 

「僕らは行くから天之河は勝手にしたら良いだろう? 別にお前の行動を制肘したりしない」

 

「一人で攻略しろと言うのか!」

 

「僕らはクリアしたんだからもう用は無いしな。もう一度やりたいのはお前の勝手だが僕らを巻き込むなよ」

 

「くっ!」

 

 天之河としては今一度、大迷宮に挑んで今度こそはクリアをしたいと目論んだのだろうけれど、ユート達がそれに付き合う理由など一切合切無いのだと当然だが拒絶をされた。

 

 何日も掛かる大迷宮攻略、既にクリアをしたからには二周三周と周回する意味は無いのだから。

 

「し、雫!」

 

「嫌よ」

 

 敢えなく撃墜。

 

「か……」

 

「無理だよ」

 

 言わせても貰えない。

 

「鈴!」

 

「気持ち悪い」

 

 鈴は嫌悪感を丸出しで呟いた。

 

「序でに私達は頼らないで下さいね?」

 

 多分だが天之河光輝は言おうとしたのろうか、シアに事前に言われてから口篭ってしまう。

 

 はっきり言って好き勝手に呼び捨てされるのも不快でしかないのに、どうして天之河光輝というNot男は聞いて貰えると思ったのか?

 

「地味にGとの闘いはストレスが半端無かったからな、出来たらどっかの宿屋でゆっくりと癒されたいもんだ」

 

「……なら私達が癒して上げる」

 

「ですぅ!」

 

「じゃのぉ」

 

 トータス組がユートに擦り寄りながらニコニコと歩き始める。

 

「当然、私達もだよ! そうだよね、雫ちゃんに鈴ちゃん!」

 

「そ、そうね」

 

「うんうん!」

 

 香織を筆頭に地球組も後を追う。

 

「クソッ!」

 

 ガッと壁を叩いた天之河光輝は下唇を噛み締めながら歩を進めるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ショートカットの魔法陣から出た瞬間に鳴動がポケットから……

 

 絶対に繋いだ手を放さない決意の唄が着信音として鳴り響いて、唯一心当たりのあったユートはスマホを取り出して画面を見つめる。

 

 名前は『リリィ』とあった。

 

「もしもし終日(ひねもす)?」

 

 何処ぞの兎さんみたいに出てみると……

 

〔ユートさん! 助けて下さい!〕

 

 ジョーク混じりに話せる内容では決して無いという雰囲気でリリィが叫んだ。

 

「どうした、藪から棒に? スマホは攻略中だったから繋がらなかったのかな? 一応は神様印の神改造品なんだけど……」

 

 何だか天之河光輝が吃驚した顔で『リリィとも……』とか呟いているが無視。

 

 ユートのスマホは実はとある世界の世界神なる神物が神改造し、異世界であっても電波が届くというある意味で非常識な物となっていた。

 

 神殺しなんてユート本人が非常識を看板にして胸から掛けている存在だが、非常に温厚な世界神は自らの過ちで一人の青年が神雷で死に逝くのを防いで貰った恩から、願いを二つだけ叶えようと太っ腹な事を言ってくれたのである。

 

 ユーキと相談したらこの世界の詳細が判って、下手したらユートが助けた青年が救う筈の人物――ヒロイン――の大半が死ぬか、人生を踏み外すだけの負の経験値を背負う事になると聞いた。

 

 其処でユートは一つ目の願いでユートが助けた青年が願う筈だったスマホの改造と、彼が生き返って行く筈だった世界へ向かう権利を貰う。

 

 形だけ視れば『主人公の成り代わりモノ』というジャンルだろうか?

 

 ユートは下手したら死んだか人生を踏み外す様な事になる筈だった少女――約一名は六百歳越えてるけど――らを救い上げて、最終的にはその彼女らを【閃姫】の列へと加える事となる。

 

 また、人造人間的な彼女らも造り主と共に確りと戴いてしまったし、何ならヒロインではなかった女性達も何人か『戴きます』をしてしまって、本来の主人公だった彼よりアグレッシブに喰ったのはユート()()()と云えば()()()話であったと云う。

 

 リリィは悲痛な声音で話し始めた。

 

〔実は今現在、我が国の王都が襲撃を受けているのです!〕

 

「襲撃だと!?」

 

〔はい、しかも敵対をしているのは魔人族は疎か亜人族やヘルシャー帝国でもありません〕

 

 当面の敵である魔人族ではない……ともなると、普通なら亜人族かヘルシャー帝国辺りが下手人となるが、亜人族は既にユートがフェアベルゲンの意志統一を成しているから今は動かない筈だし、ヘルシャー帝国からしても魔国ガーランドは敵性国家だからハイリヒ王国を襲撃するのはマイナスにしかならない筈。

 

 特にハイリヒ王国は神山――聖教教会の御膝元なだけに、王国襲撃は聖教教会への敵対だと云っても過言ではあるまい。

 

「襲撃をした下手人は判っているのか?」

 

〔……〕

 

「どうした、リリィ?」

 

〔恵里なのです〕

 

「はぁ? 誰だって?」

 

〔恵里です。我が国が勇者召喚にて招いた〕

 

「中村? んな莫迦な……」

 

 確かに恵里が仄かな闇を精神に持っていたのは気付いていたが、ハジメとの交際を経て闇は光に紛れる様に覆い隠されていった。

 

 無くなった訳ではないが、意味も無くハジメを困らせたりはしないとユートは思っていただけに意外性が有り過ぎる。

 

 だからこそ首を傾げてしまった。

 

〔事実として恵里が目撃されていますし、何より我が国の騎士が……〕

 

「騎士がどうした?」

 

〔我が国の騎士の半分以上が事前に殺害されて、今や恵里の降霊術で操られていた有り様です!〕

 

「っ!? 降霊術だと?」

 

 確かに降霊術は突き詰めれば魂を縛して操る事を可能とした魔術だろうが、この世界には死後の世界たる冥界などは存在しないから精々が一〇分か其処らで魂は形を喪い消滅する。

 

 神代魔法の魂魄魔法と再生魔法を駆使すれば、失われた生命をも甦らせる事は確かに叶うだろうけど、魂が消滅をする前に魂魄魔法で確保しないと甦生は出来ない訳だ。

 

 尤も、ユートがこの世界の地球に顕れた時点でユートの支配下となった冥界が接続されていて、死者は魂を保護されて冥界へと自動的に運ばれる手筈となっている。

 

 だからといって恵里が降霊術で冥界から死者の魂を引っ張り出せるかと問われると、それは流石に難しいというか可成りの無茶だと云えた。

 

 何故なら死者の魂はサボり魔とはいえカレン・オルテンシアが一律管理をしていて、彼女の管理を抜いて冥界の魂へと勝手なアクセスは不可能。

 

 サボり魔でツンツンでクーデレではあるけど、幼い頃に瘴霊体質をどうにかしてくれたユートには感謝と確かな愛情を懐き、決して仕事には妥協をしないからこそユートはバルロンの冥衣を与えて冥界の地獄門を任せたのだから。

 

 だから若し降霊術で魂を縛り付けて操るなら、冥界に送られる前に確保しないとなるまい。

 

 つまりは死んだその場での処置が必要不可欠となるという事。

 

「判った。取り敢えず確認したい事を終えたらすぐにも戻る」

 

〔はい。今はマグナモンとメルドのお陰で小康状態ですからまだ保ちますわ〕

 

「そうだな」

 

〔騎士達は数分前まで普通にしていましたのに、次の瞬間にはまるで幽鬼みたいな表情で襲い掛かって来ましたわ。マグナモンが護ってくれなければ私も死んでいたでしょう〕

 

「この世界の降霊術ってそんな高性能じゃなかった気がするが……」

 

 精々がゾンビみたいなもの。

 

「今はマグナモンとメルドだけか?」

 

〔ヘリーナとニアも居ます〕

 

 新しい近衛騎士団長がどうなったかのかは知らないが、少なくとも現在はリリィ達と共に居るという訳でも無いらしい。

 

 尚、ニアはヘリーナと合わせてリリィの専属になったのだが、仕事? の中には彼女の性欲解消の役割も持たされていた。

 

 毎夜ではないが百合百合な関係で互いを慰め合う訳で、ユートに抱かれた三人だけで秘密の関係を持っているのである。

 

 人間など一蹴が出来る筈のマグナモンが一人で無双しないのか?

 

 抑々の話がマグナモンに与えた使命はリリィの守護であり、彼女の傍を離れたら殺されましたとかでは意味が無いからには護衛対象から離れるなど言語道断な愚策でしかなかった。

 

 因みにリリィから離れなかったら彼女の家族が殺されました――はアリである。

 

〔ユートさん、御待ちして居ります〕

 

 伝話機を切ったらしく声が途切れた。

 

 リリィ渡した伝話機はユートが造った魔導具の一種であり、電気ではなく魔力を使うから電話機とは呼ばない代物となっている。

 

 また、神改造されたユートのスマホとは違うから同一世界間でしか繋がらない。

 

 因みにハルケギニア時代はガラケーと同じ形をしており、スマホ型になったのは再転生をしてから後に新しく造った時となる。

 

「緒方、今の話は?」

 

「お前は黙っていろ、鬱陶しい!」

 

「なっ!? 鬱陶しいって何だ! 王都の危機に黙っているなんて出来るか! 恵里が犯人だなんて信じたく無いけど……」

 

「喧しいわっ!」

 

「ぐっ!?」

 

 大気をもビリビリと震わせる程の怒声に然し物KY天之河光輝も動きを止めた。

 

 ユートがスマホを操作するとコール音が響き、何度目かのコールで相手が出る。

 

〔もしもし?〕

 

「ハジメ、其処に中村は居るか?」

 

〔へ? まぁ、居るけど……〕

 

 何だか眠たそうな声色、伝話が通じたという事は恐らく大迷宮ではなく宿屋辺りだろうか?

 

「ちょっと写メしてくれるか?」

 

〔へ? だ、駄目だよ!〕

 

「どうしてだ?」

 

 ハジメには状態異常を防ぐアクセサリを渡してあるから、彼が操られている可能性は極めて低いから下手すると共犯……

 

〔だ、だって……恵里は今、裸で……〕

 

「理解した。中村が寝ているなら叩き起こしてでも伝話を代われ」

 

〔え、判ったよ〕

 

 伝話の向こうで『恵里、起きて』なんて聴こえて来るから、宿屋で同じ部屋を取ってイチャイチャしていたのであろう。

 

〔もしもし?〕

 

 不機嫌そうな声音で出た恵里。

 

「中村、今は何処に居る?」

 

〔はぁ? そんなのハジメ君に訊けば良かったじゃないか……ブルッグの街のマサカの宿だよ〕

 

「ブルッグのマサカの宿……な」

 

 ユートはブルッグの方角を向いて瞑目をすると何かを確かめている。

 

「成程、確かにハジメと中村が居るな」

 

 脳内でマップを呼び出してエリア毎に別れているから居場所を訊き、それに併せてブルッグ周辺のマップを選んでマサカの宿を調べた。

 

 其処には確かに二人が居る。

 

 このマップはユートの【閃姫】が青、友人枠であるなら緑、一般人は黄色、敵対者は赤で色分けが成されていて、緑が三人居るのを確認した。

 

 マサカの宿で緑が三人ならハジメと恵里で二人となり、もう一人は【閃姫】契約にまで至らないが抱いたソーナ・マサカの事になる。

 

 初めてを喰い散らかしたからソーナが望むなら【閃姫】契約をする予定だが、今はまだであるからソーナを表すマーカーが緑なのだ。

 

「了解した。今、ハイリヒ王国の王都で中村が暴れているとリリィ――リリアーナ姫から連絡があったんでな」

 

〔はい? ボクが王都を? ちょ、それはいったいどういう事さ?〕

 

「訊きたいのは此方だな。中村、ハジメと付き合う前に王都を襲う計画があったりしたか?」

 

〔そんな計画は無いよ!〕

 

 無かったらしい。

 

「なら中村の降霊術で死者を操る事は可能か? しかも生前と変わらない会話が出来る程に」

 

〔……魂縛というオリジナルの魔法なら〕

 

「だいたい解った。中村、ハジメとブルッグを出ない様にしていろ」

 

〔どういう事?〕

 

「アリバイを証明出来る様にしておきたいから、冒険者ギルドのキャサリンを頼れ」

 

〔アリバイ……解った。ハジメ君とすぐにも向かう事にするよ〕

 

「僕らは王都の混乱を収めて来るから。その後にアリバイを証明しないといけない。少なくとも、リリィの認識では中村が王都を襲撃しているらしいからな」

 

〔っ! 了解したよ〕

 

 伝話を切った恵里はすぐにも行動に移すであろうから、ユートもスマホを仕舞うと【閃姫】達の方へと向き直す。

 

 当然、天之河光輝はスルー。

 

「聞いていたな?」

 

「聞いたけど、何だか恵里が二人居るみたいな話になってなかった?」

 

 雫がピンポイントで言う。

 

「事実、二人居るんだろうな。ブルッグの街の宿でハジメとイチャイチャしていた中村と、王都を襲撃している中村が……な」

 

「エリリンが…………二人?」

 

 青褪めているのは恵里の親友たる鈴。

 

 普通なら……

 

「そんな莫迦な」

 

 天之河光輝みたいに一笑に付す。

 

 だけど鈴は……香織と雫も、平行世界の存在を既に認識していた。

 

 斯く云うユートがこの世界の人間ではなくて、平行世界から来た別時空の存在なのである。

 

「信じる必要は無い、お前には関係が無い話だからな。オプティマスプライム!」

 

 ユートが呼ぶとエンジンを噴かせた。

 

 自意識は持たないがAIである程度の自立稼働くらいは出来るトランスフォーマー、死んでいる状態だった星帝ユニクロンをユートが見付けた際に内部に散らかるトランスフォーマー達のデータから再現された存在で、人造トランスフォーマーと呼ぶのに相応しいと云える。

 

 その姿は、【トランスフォーマーギャラクシーフォース】でサイバトロンの総司令官をしていたギャラクシーコンボイを基にしていた。

 

 とは云っても、ビークルモードはオプションを装着して様々なモードにトランスフォームをする独自性も持たされている。

 

 【勇者王ガオガイガー】で云う処のギャレオンやガオファーみたいに、ユートがフュージョンをして意識を持つタイプだから簡易AIのみ装備をさせていたが、ガオファーなら造っているのだからオプティマスプライムに自意識を持たせてみるのも良いかと考えてもいた。

 

「フライトモードで王都に向かう。雫をリーダーに地球組、ティオをリーダーにトータス組で分かれて王都を襲う者――死霊化した騎士を斃せ」

 

『『『了解!』』』

 

 オプティマスプライムに乗り込まんとしているユートに……

 

「おい、俺は?」

 

 天之河光輝が自己主張をしてきた。

 

「知らん。邪魔さえしなけりゃ好きにしろ」

 

 ユートは投げ遣りに答えるだけ、天之河光輝は定位置みたいにトレーラー部分に乗り込むしかなかったと云う。

 

 タラタラと文句を言って置いて行かれてしまう可能性があったからだ。

 

 そしてユートなら普通に置いていく。

 

 恐らく天之河光輝は『仲間だ』『クラスメイト』だと言い募るだろうが、ユートからしたなら仲間なんかでは決して有り得ない上にクラスメイトなど学校の都合で分けられたに過ぎない。

 

 はっきり言うとユートからしたら天之河光輝のそれは、【DQダイの大冒険】に於ける妖魔師団長ザボエラが魔影団長ミストバーンに叫んでいた『ワシらは仲間じゃろう!』と同じだった。

 

 果たして、ザボエラから『仲間』とか言われて喜びを覚える者がどれだけ居るだろうか?

 

 血の繋がっている実の子供にさえ『役に立たない道具はゴミ』と言い切るザボエラ、そいつが言う『仲間』にどれだけの者が心響かせる?

 

 ユートが思う天之河光輝の『仲間』、それこそザボエラの寒々しい『仲間』と同質であった。

 

 妖魔司教勇者(笑)アマノカワとか呼んでやるのも一興かも知れない。

 

 それにユートの認識では天之河光輝は詐欺師、散々っぱら『守る守る』と言いながら実は誰一人守っていない事実があり、これはユートがよく識らない原典でも本編終了後の覚醒天之河光輝なら未だしも、本編中はこの世界線と大して変わらない様相であったと云う。

 

 実際に雫も恵里も守れてないから雫は天之河光輝に諦らめを、恵里は内在的なヤンデレ化をして最終的には惨劇を齎らした。

 

 クラスメイトを守ると言っていたが、ハジメが奈落に落とされた時には真っ先に諦めていた……訳ではあるが、これに関しては天之河光輝の中に於いてハジメはクラスに居ただけで仲間だとも思っていないから助ける義理も義務も無いと考えていたのかも知れない。

 

 その割りには再会時にクラスメイトとか仲間とかほざいていたのだが……都合の良い時だけは仲間という解釈なのだろう。

 

 流石は公式勇者(笑)で御都合解釈の塊! 其処に痺れないし憧れない。

 

 オプティマスプライムのフライトモードというかジェットモードで王都へ、フェアベルゲンには偶々帰って来ていたアルテナに伝言を頼んでおいて出発をする。

 

 一時間も掛からずに王都に着くだろうから闘いの準備は確りしておく。

 

 具体的には全員が仮面ライダーに変身をする為のツールを身に付けていた。

 

 相手は死んだ騎士に生前の意識を貼り付けただけの紛い物、脳内のエピソード記憶を元に生きている様に振る舞うだけの死体人形。

 

 ユート達なら変身するまでも無い相手だけど、中村恵里二号機をこの世界に喚んだ者が何を考えての行動か気になるし、場合によっては更に強力な敵が出てきてもおかしくは無い。

 

 それに速やかに制圧をしたいなら普段の力より強い力――仮面ライダーの力を使う方がより建設的だと云えるであろう。

 

 あっという間という程でも無いが、この世界の基準で云うなら正しくあっという間に王都に着いた訳だが……

 

「王都を守る結界が無くなっているな」

 

 古代に造られたであろう王都を丸々囲む結界を発生させる装置――アーティファクトが存在していた筈だが破壊されたらしい。

 

「まぁ、中村が平行世界の存在だったとしても、向こうと此方に違いが無ければ弱点なんかも判っていただろうからな」

 

 飛電ゼロワンドライバーを装着したユートが、形の可成り違うプログライズキーを手に呟く。

 

 とはいえ、ユートの場合だと確かめる意味でも変身せずに行かないとならないから飽く迄も持っているだけだ。

 

「さぁ、行こうか」

 

 頷く【閃姫】達。

 

 城の中庭に降り立つオプティマスプライムから出ると、ユートを除く全員が仮面ライダーに変身をするべく行動に移る。

 

《STAND BY!》

 

 雫の手の中に地上を走る紫色の機械式な蠍が飛び込んで来た。

 

「変身!」

 

 サソードゼクターをサソードヤイバーの柄部分にセットアップ。

 

《HENSHIN!》

 

 管が着いたマスクドフォームの鎧がサソードゼクターを中心に展開され、雫の姿が仮面ライダーサソード・マスクドフォームへ。

 

「変身!」

 

 リューンラウザーとも云うべきベルトのハートを象るバックル、中心のスリットがリーダーとなっていてハートスートのカテゴリーAをラウズ。

 

《CHANGE!》

 

 水のエフェクトと共にモーフィングによって、香織が仮面ライダーリューンに変わる。

 

 鈴は白地に虎の様なライダークレストが浮かぶカードデッキを持ち右腕を突き出す、すると虚空から顕れるVバックルと呼ばれるベルト。

 

「変身!」

 

 鈴がカードデッキをVバックルへと装填したら仮面ライダータイガに変身した。

 

 ユエの腰にベルトが出現して、サガークという人造モンスターが飛んできて手の中に収まる。

 

「……ん、変身!」

 

《HEN……SHIN……》

 

 キバットバットとは違いまるで電子音声みたいな声で応え、ユエの肉体を【運命の鎧】とされる鎧が纏われて仮面ライダーサガに。

 

 ジョウントを抜けて現れた金色の機械式な蜂――ザビーゼクター。

 

「変身ですぅ!」

 

《HENSHIN!》

 

 シアがライダーブレスにザビーゼクターを嵌め込むと、其処を起点にアーマーが展開されていき仮面ライダーザビー・マスクドフォームに成る。

 

 鈴のとは違う黒に龍の顔を模したライダークレストのカードデッキを突き出すと、ティオの着物に近い服装の上からVバックルが装着された。

 

「変身!」

 

 カードデッキをVバックルへと装填をしたら、ティオの姿が仮面ライダーリュウガに変わる。

 

 ミレディの場合は更に一手間違う。

 

《BULLET!》

 

 プログライズキーのライズスターターを押すと流れる電子音声、重力魔法の要領で無理矢理に開くとエイムズショットライザーにキーを装填……

 

《AUTHORIZE!》

 

 自動的に認証される。

 

《KAMEN RIDER  KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER……》

 

「変身!」

 

 電子音声が激しく自己主張を繰り返す中で徐ろに引き金を引いた。

 

《SHOT RIZE!》

 

 放たれたSRダンガーがUターンしてミレディに向かってくるのをパンチ!

 

 仮面ライダーバルカンの姿へと変わる。

 

《SHOOTING WOLF!》

 

 流石は令和の仮面ライダーというべきなのだろうか? 長い動作が必要だった。

 

《The elevation increases as the bullet is fired!》

 

 こうしてユート以外の変身が完了する。

 

「よし、先ずはリリィと合流をしようか」

 

 居場所は判っているからゾロゾロと行く事にはなるが、分散をしても仕方がないからと全員で向かう事になった。

 

 勿論、天之河光輝も。

 

「緒方、リリィは本当にこんな地下に居るのか? 間違っていたら事だぞ!」

 

「信じないならどっかに行け。お前が付いてくるのは勝手だが、此方の行動に干渉させる気なんて更々無いからな」

 

「ぐっ、判ったよ」

 

 どうせ自分が何を言おうがユートの行動を変える事は叶わないし、香織達が自分に付いて来ないのも流石に理解をしていたから口を閉じた。

 

 こんな非常時に天之河光輝はユートが失敗をすれば良いのに……と、非常識極まりない莫迦な事を暗い憎しみの炎を瞳に宿しながら考えてしまう。

 

 王族のみが知る秘密の隠れ道というのが在り、他にも明らかに部屋が有りそうな空間が壁により隠されていたり、ハイリヒ王国の王城にもそんな道や部屋が幾らか秘匿をされていた。

 

 ユートが進むのはそんな隠された通路の一角であり、本来なら知る筈が無いその通路を呆気なく見付けて進んでいる。

 

 スマホでリリィに王城の全体マップを送って、王族たる彼女自身から知らされた隠し通路の場所なだけに、ユートの進むルートの先には間違いなくリリィが居る筈だ。

 

「行き止まりじゃないか!」

 

 そのルートの最奥は確かに壁で阻まれてしまった行き止まりである。

 

「お前さ、頭が良いって設定は何処に溶けて消えたんだよ?」

 

「な、何だと!?」

 

「まるでガウリィみたいに脳味噌が綿菓子にでも変化したのかよ? ルートミスを誘発する為にも擬装くらいしてあるに決まってるだろ。況してや魔法の存在する世界なんだからな」

 

 ユートはそう言いながらもスマホでリリィへと連絡をすると、魔法による擬装が解除された上で壁が開いて扉が顕れた。

 

「こういう事さ」

 

「ぐっ!」

 

 悔しげに声を吐き出した天之河光輝、これでは単なる間抜けな道化師である。

 

 重たい音と共に開かれた扉の先にマグナモンが立っていた。

 

「なっ! 魔物だと!?」

 

 案の定というか、天之河光輝が聖剣(笑)を喪ったから途中で落ちていたのを拾った剣を構える。

 

「退け!」

 

「うわっ!?」

 

 邪魔だと謂わんばかりに天之河光輝を退かしたユートは、膝を付いて臣下の礼を取るマグナモンへと顔を向けた。

 

「御待ちして居りました我が主よ。リリアーナ姫が奥にて控えております」

 

「御苦労、マグナモン」

 

 マグナモンを労い先へと進む。

 

「メルド団長……じゃなかったな」

 

「姫様の近衛騎士だからな。それなりに久し振りとなるか?」

 

「前の時は会わなかったしね」

 

 メルドは快活で人当たりも良い信用も信頼も出来る数少ない騎士、だけどオルクス大迷宮で犯した失態の責任を取らされてクビになってしまったのをリリィが拾う形で近衛騎士にした。

 

 まぁ、代わりにリリィの近衛騎士だった女性が何故か騎士団長に抜擢されたけど。

 

「リリィ」

 

 案内された更に奥にリリィとそれによく似ている容姿の女性――ルルアリア王妃、そして眠っている少年はランデル王子。

 

「ユートさん……ユートさぁぁぁんっ!」

 

 優しい笑顔で優しく声を掛けられ、ユートの姿を見たリリィは涙ぐみながら胸へと飛び込んだ。

 

 何故かエリヒド王が居ないのを確認しながら、ユートはリリィを優しく抱き止めるのだった。

 

 

.




 内容から判る通り原作第六巻の噺になります。

 何しろウチでは恵里が改心してるから王都襲撃自体が本来起こりませんから、それをやる為にも大迷宮攻略を先に持っていきました。



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第86話:GEEDの証

 上手く書けなかった気が犇々と……





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 リリィのハグに応えるユート。

 

 それはまるで恋愛劇の一幕を観ているかの様で【閃姫】達が頬を朱に染め、ルルアリア王妃まで『あらあら』とやはり頬を染めていた。

 

 天之河光輝は舌打ちをしているが……

 

「エリヒド王が居ないみたいだが?」

 

「御父様は御隠れに……」

 

 王が隠れるは崩御――死んだ事への隠語だから、つまりエリヒド王は死亡したのだろう。

 

「そうか」

 

「淡白ですわね」

 

「リリィには血の繋がった父親かも知れんがな、僕からしたら無能が有能な勇者パーティを巻き込んで奈落に落ちた……とか抜かしたクソ野郎の一味でしかない。リリィには悪いがね」

 

「いえ、私もあれはイラッとしましたから問題はありませんわ」

 

 抑々にしてリリィはユートがオルクス大迷宮へ行く二週間くらい前から毎日、侍女たるヘリーナも共に濃厚な情を閨で交わしてた間柄なだけに、王女の立場も全て投げ捨てるくらいやりかねない程度には思慕の情が育っていたのだ。

 

 エリヒド王はユートが香織、雫、愛子先生と共に奈落に落ちた報せを聞いて、あろう事かユートが巻き込んだ――などと吹聴をしたらしい。

 

 特に作農師の愛子先生の死は可成り衝撃を以て受け止められ、()()()()()にせねば収まりが付かない程であったのだと云う。

 

 そのターゲットにされたのが死んだ――と思われていた――ユートで、数値がオール10でありふれた錬成師という事から貶め易かったとか。

 

 リリィは抵抗もしたけど聞き入れられない為、当時は可成り御機嫌斜めだったのは言うまでも無い事だし、ヘルシャー帝国の皇帝ガハルド・D・ヘルシャー来訪時に生きていた事が明かされて、大いに顔が潰れた訳だからリリィとしては父王を相手に愉悦! とばかりにドヤッていた。

 

 恋人の如く一幕から落ち着いたリリィは今回の恵里による王都襲撃事件に関しての話をする為、円卓型のテーブルと人数分の椅子をヘリーナ達に準備をさせる。

 

「御食事も用意致しますか?」

 

「否、簡単な食べ物なら有るからそっちを食べるんで問題無い」

 

 ユートが用意したのはオニギリと御茶のみという本当に簡単な食事。

 

「緒方……」

 

「どうした、天之河?」

 

「何で俺だけ御茶漬けが出されてるんだ?」

 

「疲れたろ?」

 

「はぁ?」

 

 どうやら天之河光輝はぶぶ漬けの意味を理解していないらしい、ユートはしれっと拒絶の意を示しながらも誤魔化していた。

 

「作戦としてはアンデッド騎士を破壊しながら、アナザー中村を見付けるとシンプルに往きたい」

 

「アナザー中村? やっぱりこの恵里が平行世界の住人だと思っているのね?」

 

 ユートのアナザー発言に仮面ライダーサソードな雫が察した科白を返す。

 

「他に無いだろう。ハジメの恋人な中村は間違いなくブルックの街に居る。ならば王都を襲撃したのは中村の筈も無いが、リリィが見たのが中村ならドッペルゲンガーか何かになる。一番考えられるのが平行存在だろうさ」

 

「でもどうして……どうやって?」

 

「中村アナザーを寄越したのは、這い寄る混沌――ナイアルラトホテップの化身のニャル子だろう。天之河にホッパーゼクターやアナザーウォッチを渡したりと暗躍してくれていたが、今回は中村を別の平行世界から喚び込んだんだろうな」

 

「どうして恵里だったのかしら?」

 

「ユーキ、僕の義妹が情報源から訊いてくれた。どうやら本来の世界線で中村が王都襲撃事件を起こしていたらしい」

 

「っ! つまり原典と同じにする為に?」

 

「此方側の中村はもう王都襲撃なんてやらかさないだろうからな」

 

 天之河光輝に見切りを付けたこの世界に於ける恵里は、天之河光輝を手に入れるべく魔人族とも手を結んだり神の使徒に唆されたりする事なんて決して無く、ならばやらかす中村恵里を別の世界から喚べば良いとかぶっ飛んだ思考である。

 

「さて、余りのんびりしても居られないからな。地球組とトータス組と僕の三組に分かれて奴らを迎撃、中村アナザーを見付けたら確保をするって事で構わないな?」

 

「了解よ」

 

「任せよ、主殿!」

 

 地球組は雫が、トータス組はティオがそれぞれにリーダーとして引っ張る。

 

 素晴らしきはそのチームワークというべきか、仮面ライダーに変身していた【閃姫】達はさっさと遣る事を遣りに出た。

 

「お、おい、緒方……俺は?」

 

「知らん。精々、中村アナザーに捕まって良い様にされなきゃ好きにしてろ!」

 

「なっ!?」

 

 鼻白む天之河光輝だけど仕方がないであろう、抑々にしてキラキラ鎧も聖剣(笑)すら喪ってしまった彼は、只の服に王都に着いた際に落ちていたのを拾っただけの騎士の剣という貧相な装備。

 

 はっきり言えば()()()役立たずだ。

 

 

 例えるならネクロゴンドの洞窟辺りで布の服を着て銅の剣を振り回す遊び人の図か?

 

 使えないにも程がある。

 

 ユートは取り敢えずは生身で動いていたけど、ちょっと確かめておきたい事があったからだ。

 

「中村アナザーは何処だろうな?」

 

 ユートはマップで中村恵里がブルックの街に居るのは確認済み、本来のマップよりレベルが下がった劣化品なだけに本物より性能が低いのだが、それでも認識内の存在は見逃さない自信はあるのだから問題も無かった。

 

 ユートの識る中村恵里がブルックに間違いなく居るのなら、王都で降霊術を弄んでいるリリィが曰く『恵里』はニャル子が連れて来た平行世界の中村恵里であろう。

 

「ニャル子のいつもの手管だ。自分が愉しいなら他はどうでも構わないとかな。それでも逢えて、自分の分身で蹂躙して悦びを覚えているんだから大概だよな……所詮は僕も内在的にはニャル子と同じで這い寄る混沌って事か」

 

 自嘲してしまうユート。

 

 ハルケギニアでの邪神戦役に於ける最終血戦でユーキが明かして、ニャル子が肯定をした最後の真実こそ()()()()()()()()()()()()()()()()()、即ち()()()()()()()()()であるという事だ。

 

 だからこそユートはディケイドの力を獲たのだから皮肉である。

 

 【這いよれ!ニャル子さん】の最終巻で招集をされた数多の這い寄る混沌、中にはあのナイアや矢野健太郎が描く邪神シリーズのケイン・ムラサメなどユートも識る這い寄る混沌が居たりするのだけど、その中でも異彩を放っていたのがつまり仮面ライダーディケイドだった。

 

 それが故にかユートが自分の中に息吐く神力を喚起した際、力の結晶はネオディケイドライバーという形に結実されたのである。

 

 正確には仮面ライダーディケイドが用いていた全てのツール、以前にも使ったネオディケイドコンプリートフォーム21の力もそれだし、単車であるマシンディケイダーやライドブッカーも同じ。

 

 ユートが自嘲したのは這い寄る混沌が仕掛けたモノを享受し悦びを得た事、試作型な白き戦艦と勇者王の巫女と赤き星の指導者のコピーが顕れた訳だが、全てを自分の良い様にしてしまったのだから普通はぶん殴られても仕方がない。

 

 試作型白き戦艦と赤き星の指導者のコピーの方は兎も角、勇者王の巫女は云わば勇者王の恋人という立場だったのだから。

 

 そして実はそれだけではない。

 

 勇者王関係の人間達があちこちの世界線から、次元漂流という形で流されてきた……何人も。

 

 しかもユートが全く識らない少女まで居たし、どうにもならないというのが感想だった。

 

 勇者王の巫女――卯津木 命と赤き星の指導者のコピー――パルス・アベルはどうやら同じ世界線から来た様だけど、スワン・ホワイト、パピヨン・ノワール、彩 火乃紀、阿嘉松紗孔羅、ルネ・カーディフ・獅子王、初野 華、アルエット・ポミエ、初野あやめ、仲居亜紀子、磯貝 桜、彼女らは御丁寧な事に全員が別の世界線から喚ばれている。

 

 ユートが座標の示唆をする【導越の羅針盤】を喜んだ理由、それは勇者王関連以外にも座標が判らなくて還してやれない者が割と居るから。

 

 理論的にはユートも座標探査系の概念を籠めた魔導具は造れる筈だが、どうしてもそれを造り出す事がユートには何故か出来なかったのと、その理由も実は理解をしていた。

 

 還してやりたい思いは有るが、還したくないという邪な思いも同時に有るからそれが邪魔をして発動が叶わなかったのだ。

 

 リューティリスによる説明にも有った通りで、概念魔法は究極の思念により発動をする。

 

 余りにもふわっとしてる説明ではあるものの、ユートはその意味を履き違えたりはしない。

 

 事実として概念の強度が必須なのである。

 

 前に行った世界でも【原始魔法】という概念を形に換える魔法が存在したが、やはり意志の力が最大限にモノを云う魔法であった。

 

 ユートの『還したい』という思念は本物であったし、間違いなくそれは彼女らにも伝わっていたから女性陣の誰もが文句の一つも言わなかったのだけど、逆に居た堪れない気分が噴出してくるのは仕方がない話だろう。

 

 だけれど、僅かにせよ『還したくない』という邪念が邪魔をしていて使えなかった。

 

 とはいえ、幸い? な事に実はちゃんと恋人が居たのは卯都木 命――獅子王 凱の恋人たる彼女と初野 華だけであったと云う。

 

 まぁ、予想は出来ていた。

 

 何故なら殆んどがユートの識る彼女らと年齢が一致していなかったから。

 

 だいたいが本来の年齢より数年分くらい下で、一番の年嵩な磯貝 桜も高校を卒業したばかりであるのだとか。

 

 磯貝 桜に恋人は居なかったけど、明らかに宇宙開発公団のトップの大河幸太郎に想いを寄せていたりするが、抑々にして宇宙開発公団に入る前なら確かに想いを寄せる前の筈。

 

 逆に本来ならTV本編で三歳なアルエットを除けば最年少な初野 華は、当時から天海 護へ想いを懐いていたからどうにもならないのであろう。

 

 初登場は八歳の彼女をこれ以上に幼くしてしまう意味は無いし、単純な好意という意味であれば五歳の頃であるだけに無意味だ!

 

 アルエットは本編に出ていないから論じるのも意味が無くFINAL関連の噺で五歳 、ユートは貴族として生きていたし何より莫迦貴族共が何を考えたのか、借金返済の生贄に出させた娘の最年少が八歳だったとはいえ()()()一二歳が最低限。

 

 五歳なんて流石に論外である。

 

 取り敢えず生命力――即ちHPが0の騎士が何人も屯ろしている中で、ユートは透明化呪文(レムオル)を使ってスルーをしながら中村アナザーを捜す。

 

 この呪文は普通の魔物相手には効果も無いが、こんな頭を持たない死霊モドキなら充分過ぎる。

 

 とはいえ、邪魔ではあるのだから少しの間引きはしておくのだが……

 

「騎士の半数が死霊騎士化しているな。しかも……はっ! ふっ!」

 

 ユートは目の前の死霊騎士を斃す。

 

「意外と気付くもんだ」

 

 いつもの様に気配を辺りに溶け込ませるというのをやって無かった所為か、元のレベルが高めな死霊騎士は気が付いて振り返ってきた。

 

 因みに気配を感じないのが死霊騎士なのだが、恵里が言っていた『縛魂』という魔法は生きていた頃の人格を再現するらしく、見た目から死霊とは思えないくらいに活きが良い為に万が一の誤爆を考慮し、HPのAR表示を有効化(アクティベート)させておいたから間違えて生きた騎士を斃したなんて御間抜けな事はやらかしていない。

 

(中村曰く、ハジメと恋仲にならなかったら確かに研究中の『縛魂』で括る心算だったらしいし、つまりは『縛魂』をモノにした未来の時間軸に於ける中村アナザーって訳か)

 

 正直、恵里は香織や雫みたいなTHE美少女という訳ではないが、愛敬のある顔立ちで可愛らしさはあるから天之河光輝には勿体無いくらいだ。

 

 だけど天之河光輝は興味を持っていない。

 

 何故なら彼奴の中にあるのは香織と雫のどちらを選ぶべきかの葛藤、しかも二人から好意を持たれて当然という傲慢な解釈によるもの。

 

 選ばれて当然、自分こそが選ぶべき人間であると天之河光輝は思っていたのだろう。

 

 だから恵里からの好意など見て見ぬ振り処か、ソレに気付く素振りすら無かった。

 

「おっと、見付けた」

 

 余り目立たない場所に陣取る中村アナザーを見付けたユート、取り敢えず見えない状態で近付いてロープで縛れば片付きそうだけど、中村アナザーがギョロッと此方を見て叫ぶ。

 

「其処に居るのは誰だい?」

 

 矢張り周囲の気配に溶け込む事は疎か氣殺すらしてないと流石に気付かれたらしい。

 

「久し振りだね()()

 

「はぁ? ()()()?」

 

「成程、だいたい判った」

 

 ユートが名前呼びしたのに眉根を寄せ、更には本来なら知り合いの筈なのに顔を知らない辺りからアナザーなのは確定。

 

 元より油断などしていないが、『縛魂』とやらが生きた騎士と同じ動きや思考が可能なだけでしかないなら余裕である。

 

「殺りなさい!」

 

 待機させていた一二人の死霊騎士を中村アナザーが嗾かけてきた。

 

「死ねぇぇっ!」

 

 騎士にあるまじき言動ではあるが、メルドみたいなタイプも居るからには殺意マシマシな騎士も居るのであろう。

 

 プログライズキーのライズスターターを押すと流れる電子音声。

 

《EVERY BODY JUMP!》

 

 オーソライザーにセット&タッチ。

 

《AUTHORIZE!》

 

 ライズスロットへプログライズキーを装填してやると、ライズアーキテクタと呼ばれる聖魔獣がユートの身を纏う。

 

「変身!」

 

《PROGRIZE!》

 

《LET’s RIZE! LE! LE! LET’s RIZE!》

 

 ライズリアクターが展開されると前面に展開された特殊レンズ、ライズエクイッパーにより着者へと実装させる機能が働き銀色の飛蝗――クラスターセルが大量に顕れてライダモデルという一つの形に変化。

 

《SECRET MATERIAL! HIDEN METAL!》

 

 再びクラスターセル化して一つの完成形である銀色を基調としたアンダースーツとアーマーへ、それは黄色い複眼を持つ仮面ライダーゼロワン……

 

《METAL CLUSTER HOPPER!》

 

 その高き名をメタルクラスタホッパー。

 

《IT‘s HIGH QUALITY!》

 

 原典では当初、アークの悪意により満たされて暴走をさせられる形態ではあったが、ユートの造ったこれにそんなモノは勿論ながら無い!

 

 迫り来る死霊騎士達を鎧袖一触。

 

「な、何なんだよ……お前はぁぁっ!」

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ! ……と言うか、仮面ライダーゼロワン――それが僕の名だ! の方が相応しいか」

 

 今は仮面ライダーゼロワンだし。

 

「くっ! 簡単に騎士を殺すなんて?」

 

「人聞きの悪い。死霊騎士なんて単なる死体だ、元から生きてないなら殺人ではなく破壊だろ」

 

 死体損壊に当たるだろうが死者をリスペクトし過ぎて、それで自らがダメージを負う羽目に陥るなど莫迦らしい話だ。

 

「仮面ライダーゼロワンに成っちゃいるけどな、僕は本質的にはいつだって【模倣者(イミテイター)】なんだよ。仮面ライダーディケイドであり仮面ライダーシンオウでもある。僕は破壊者でもあるのさ!」

 

「ディケイドは兎も角、シンオウ? 意味が解らないね全く!」

 

 時代的に視れば【仮面ライダー鎧武】が放映中だったのと、現在は【仮面ライダードライブ】を放映している関係からディケイドは識っていてもシンオウというよりは【仮面ライダージオウ】についてどの道識る筈も無い。

 

「御約束といくか。お前を止められるのは唯一人……僕だ!」

 

「巫座戯るなぁぁぁぁっ!」

 

 幾ら死霊騎士を放とうが怖くないのは当然といえる、何故ならハイリヒ王国の騎士で一番の強者はレベルも60を越えるメルド。

 

 そんなメルドでさえステータス値は300越えがやっとでしかなく、変身なんてしなくても素手ですらユートならば勝てる程度の実力。

 

 数は力で戦争は究極の一より多数の兵とも云うけれど、多勢に無勢に勝てるのが真の究極の一という他に無いくらいに無双をしていた。

 

 蟻が恐竜に挑むが如く。

 

 況してや既に死者でしかない死霊騎士に手加減は無用、遠慮も呵責も一切合切無くユートは敵対をする騎士の破壊をしていった。

 

「くそ、役立たずが!」

 

 プログライズホッパーブレードをアタッシュカリバーと柄の石突き同士で合体、縦横無尽に揮って闘えるからか【緒方逸真流】を修めたユートには可成り扱い易いが故に、所詮は雑魚に過ぎない死霊騎士など相手にもなりはしない。

 

「来なよ!」

 

「なにぃ!?」

 

 ニヤリと口角を吊り上げた中村アナザーが叫ぶと長い銀髪を風に揺らす、見た目にヴァルキリーっぽい女騎士が翼をはためかせて現れた。

 

「エヒトの使徒……か」

 

 失敗作らしいリューンに、成功例のノイント、いずれも顔立ちや背丈は判を捺したかの如く変化も無いが、若いナンバーズはそれなりには個性が育っていて違いが判る。

 

 故にノイントとはまた違うエヒトの使徒であると理解が出来るのが()()、そしてテンプレートな連中が()()()だというのも理解が出来ていた。

 

 後ろの三〇体は正しく量産型のザクなのだが、一番前の一人は明らかに個性を持つシャア専用のザクとかジョニー・ライデン専用のザクだ。

 

 リューンに比べると小さな振り幅でしかない、だけど間違いなく個性を持っている。

 

 まぁ、殺る事に違いはないが……

 

「い、幾ら強くてもコイツらには勝てないだろ。ハハハ……ザマァミロ!」

 

 どうやら使徒の能力が高い事は識っていても、ユートの能力を理解していないらしい。

 

「フッ」

 

「な、何が可笑しいんだよ!」

 

「イレギュラー。奴らの主の盤上の駒にはしておけない者、それが僕だとノイントは言っていた」

 

「ノイント?」

 

「奴らの名前は数の子だ。ソイツも後ろの連中も基本的に数字の名前だろうよ」

 

 何故かドイツ語っぽいんだけど。

 

「エーアストと申します」

 

「後ろの連中は?」

 

「特に名は持ちません」

 

「あ、そ……」

 

 まぁ、確かにドイツ語で名前を表現するのだとしてン十万と居たらそれこそとんでもないくらいに長い名前となる。

 

 人間にも長い名前は居るだろうけど、飽く迄もそれは幾つかのミドルネームとファーストネームとファミリーネームを組み合わせたものであり、ファーストネームだけで舌を噛みそうな長ったらしい名前というのはまず無いだろう。

 

 ゲームになら無くもないし何なら会っていたりもするが珍しいのは間違いはない、田中()()()()()()何てのは……

 

「僕はノイントを片付けたと言ったらどうだ? 其処のエーアストや名も無き量産型と同スペックである筈な……な」

 

「ま、まさか!?」

 

 余りにも自信満々に言われては中村アナザーも無視が出来ずエーアストを見遣る。

 

「イレギュラーの言葉は真実です」

 

「なっ!?」

 

 そして肯定をされてしまう。

 

「抑々にしてイレギュラーってのは南雲が呼ばれていた筈だろうに……」

 

 中村アナザーからしたら見も知らない誰かが、何故か知っている人間の称号で呼ばれているという感覚だった。

 

「だからって数が揃えば!」

 

 人間族の柔い騎士なんかとはモノからして違うのが真の神の使徒。

 

 嘗て使徒と同じ肉体に変じたからこそ解る強さならば、ちょっと強いだけの人間なんて紙切れとも変わらないのだ……と。

 

「ボクが間違ってないって今度こそ判らせてやるんだ! 光輝君にも……鈴にも!」

 

 中村アナザーが思い起こす記憶は神域での闘いで鈴に敗れ、天之河光輝への『縛魂』が解除されてしまって自爆をした時の事。

 

 ほんの僅かな間の精神同士の遣り取りで鈴とは本音で語り合ったが、未練が無くなった訳ではないからあの銀髪アホ毛の女の話に乗った。

 

 もう一度やり直す機会を得た中村アナザーは、天之河光輝だけでなく鈴も取り込む心算だ。

 

 邪魔さえ無ければ……

 

(その筈だったのに!)

 

 どうせ『縛魂』で括るのなら天之河光輝や鈴が別世界の存在でも構わない、あの女の話の通りならある地点まで遡れば同一の存在なのだから。

 

 なのに『奈落の化け物』と違うイレギュラーな存在に翻弄されている。

 

「エヒトの使徒……筋力に体力に俊敏に耐久に魔力に魔耐といった項目がオール12000という。勇者(笑)がフルスペックで限界突破・覇潰を以てしても一体すら斃せん」

 

「ええ、故に如何な武装をしようが貴方に勝ち目は無いのです!」

 

 エーアストの命令に従い背後の三〇体が一斉にユート――仮面ライダーゼロワンメタルクラスタホッパーへと襲い掛かる。

 

「無駄だ!」

 

 クラスターセルが放たれて量産型を襲う。

 

『『『『ギャァァアアアッ!?』』』』

 

「なっ!?」

 

 メタルクラスタホッパーの装甲を構成しているクラスターセル、それはゼロワンから自在に分離させて攻撃にも防御にも使える攻防一体の鎧。

 

 一度放てば獰猛なる銀の飛蝗が敵を喰い散らかすが如く、そして如何なる攻撃をも弾き返す程の盾にさえなるのである。

 

 しかも分解能力を持つ。

 

 そして仮面ライダーゼロワンメタルクラスタホッパーは中間フォーム、その敵は後半の強力なる者達を想定しているが故にちょっとスペックが高いだけの存在など凌駕していた。

 

 攻撃の名はクラスターテンペスト。

 

《ULTIMATE RIZE!》

 

 アタッシュカリバーと合体したプログライズホッパーブレードを、ゼロワンドライバーに読み込ませると電子音声が高らかと鳴る。

 

「消え失せろ!」

 

《ULTIMATE STRASH!》

 

 蒼い刃が禍々しい形の銀色の刃となるプログライズホッパーブレード、クラスターセルが纏わり着いているからでユートが思い切り振ると銀色の刃がエーアストに向かって飛翔……

 

「がっ、嗚呼嗚呼あっ!」

 

 自身の二振りの剣でそれを防ぐ。

 

「はぁぁぁぁっ! おりゃぁぁっ!」

 

 更に横薙ぎに一閃すると銀色の刃は弾け飛び、トドメの一撃が放たれてエーアストが爆発。

 

「嗚呼あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 流石に爆散こそしていないがズタボロな姿となって地に落ちる。

 

 ビクンビクンと痙攣しているから生きている様ではあるが最早、戦闘は疎かまともに動く事すら叶わぬ程の大ダメージを負っていた。

 

「や、役立たずがぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 矢張りというかあの『奈落の化け物』に敵わなかった程度だ、本物にせよパチもんにせよ本当に変身する仮面ライダーに敵わずとも仕方が無いのかも知れないが、せめてダメージの一つでも与えてから死ねば良いものを。

 

「こうなりゃ、数で圧せぇぇぇっ!」

 

 恵里にも指揮権が委譲されているのか量産型のエヒトの使徒が数百体、それが彼女の命令に従って一斉に動き出す……

 

『レッキングバースト!』

 

 前に、固まっていた処を強大なる熱線を受けて焼き尽くされてしまうのだった。

 

「ハァァァァッ!? 何よソレ?」

 

 最早、意味が解らない。

 

 その熱線の発生源には銀と赤に染まった巨人が空中へと浮かんでおり、熱線を放った際のポーズの侭にエヒトの使徒が居た場所を視ている。

 

「ウ、ウ、ウルトラマン!? 否、だけど目付きがキツいって云うか……ザラブ星人辺りが化けてるニセトラマン?」

 

「ニセトラマンが何で僕を助ける様な行動を取るんだよ?」

 

「む!」

 

「あれはウルトラマンジード、ウルトラマの父やウルトラマンキングが認めた歴としたウルトラマンの一人だよ」

 

「ジード? 聞いた事も無いね」

 

「ウルトラマンゼロと熾烈な闘いを繰り広げていたウルトラマンベリアルの遺伝子を使い、人工的に産み出された人造ウルトラマンで息子だとさ」

 

 ユートは闘いの終わりを感じてゼロワンドライバーを外し、仮面ライダーゼロワン・メタルクラスタホッパーから変身を解除した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時間は少し遡る。

 

 朝倉 陸――リクはペガッサ星人の子供のペガを影に容れて旅を続けていた。

 

「帰る術……見付からないね、リク」

 

「そうだな、ペガ」

 

 ユートに会ってからそれなりの時間、トータスを旅していたけどこれといった情報も無い。

 

「こうなるとやっぱり大迷宮か」

 

「けど、僕らには場所も判んないよ? とはいえオルクス大迷宮はホルアドの街に有ったけどさ」

 

「情報が不足してるよペガ。下手に入って出られなくなったら本末転倒だしね」

 

「だねぇ……」

 

 今は観光がてらハイリヒ王国の王都へ向かっている二人。

 

「ゼロが迎えに来てくれれば、それが一番良いんだけどね」

 

「そうだよね、リク。ホントにゼロはいったい、何処をほっつき歩いてるんだろう」

 

「ハハハ、さぁ?」

 

 結論としては矢張り大迷宮が鍵。

 

 ウルトラマンゼロが迎えに来てくれるのなら、リクの手間も省けて良いけどこの場合は大迷宮に入っていたら居ないと判断されかねない。

 

「あ、見てよリク!」

 

「あのワルキューレっぽい銀髪は!?」

 

 ウルトラマンティガに変身をしていたユートが闘った存在、ワラワラと判で捺した様な同じ顔が百や二百では利かない数が空を埋め尽くす。

 

「どうする、リク?」

 

「そんなの決まっている、ジーッとしててもドーにもならねぇ!」

 

 赤を主体にしたジードライザーを取り出すと、ウルトラマンが表示をされたウルトラカプセルのスイッチを押す。

 

You go(融合)!」

 

 次にウルトラマンベリアルのカプセル。

 

「I go!」

 

 二つのカプセルを黒いナックルにセットしたら読み込み開始。

 

「Here we go!」

 

 スキャンをする。

 

「決めるぜ、覚悟!」

 

 右手のジードライザーを胸元に。

 

「はぁぁぁぁぁ、はっ!」

 

 そしてトリガーを押し込む。

 

《FUSION RIZE!》

 

 ジードライザー中央に填まるシリンダー内にて赤と青で輝きを放つ、その内部で光る形状は遺伝子の形を取るかの如くであったと云う。

 

「ジィィィィィッドッ!」

 

《ULTRAMAN!》

 

《ULTRAMAN BELIALl!》

 

《ULTRAMAN GEED……PRIMITIVE!》

 

 ぐんぐんカットで巨大化していく赤と銀と黒に彩られたウルトラマンジード、その青く輝く鋭い瞳は遺伝元となっているウルトラマンベリアルを思わせるものであった。

 

 ウルトラマンジード・プリミティブ――それは、謂わばウルトラマンジードの基本形態である。

 

『あれだけ固まっていたら!』

 

 ジードが両腕を前でクロスして徐々に頭の上へと上げると、円を描く様に両腕を広げつつ身体を後ろへ弓形に反らす。

 

 すると青い瞳が過剰な輝きを放った。

 

 右足を引いて両腕を前方で左を横に右を縦にしてクロスさせる。

 

『レッキングバースト!』

 

 放たれた光波熱線――レッキングバーストにより数百も居たエヒトの使徒が、何しろ数十mという巨体から撃ち出されるが故にMAP兵器も斯くやな広範囲攻撃となり、全て巻き込まれてエヒトの使徒の悉くが焼き尽くされていき時間にすれば僅かな……ほんの一瞬にして焼滅させられた。

 

『はっ!』

 

 直後に何が起きているのかの確認をするべく、ウルトラマンジードは大空を舞う。

 

『あれは優斗なのか?』

 

 空の上からウルトラアイによりユートの姿を認めたウルトラマンジードは……

 

『シェアッ!』

 

 その場へと小型化をしながら翔んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ウルトラマンジードが翔んで来て合流を果たしたユート。

 

『久し振りだね、優斗』

 

「久しいね、ジード。というよりもリクって呼ぶべきかな?」

 

『あ、そうだよね』

 

 小型化してもエネルギー消費を考えたら朝倉 陸の姿に戻る方が良いと、光が輪の様に巡りながらウルトラマンモードから人間の姿に戻る。

 

 そんな一連の動きを見て面喰らう中村アナザーだったけど、死霊騎士は相手にならない程度でしかない上に虎の子のエヒトの使徒が殲滅されては敗北が必至で黙るしかない。

 

「さて、話の前に中村アナザー」

 

「な、何かな?」

 

「死霊騎士の呪縛を解け」

 

「わ、判ったよ」

 

 だからこそ大人しく従う。

 

「エヒトの使徒はジードがレッキングバーストで斃したので全てか?」

 

「少なくとも、ボクが指揮権を持っていたのは。エーアストが斃た場合にはボクに指揮権が委譲をされていたからね」

 

 エーアストは力を半減×六回で筋力12000も今や187.5と、そこら辺の騎士よりは高いものの鋼鉄製の鋼糸を断ち切る程の力は無い。

 

 それに【白龍皇の翼】による半減は力の全てに及ぶ為、俊敏や体力や耐久や魔力や魔耐といった能力値も同じだけ落ち込んでいた。

 

 序でに邪魔だから、そして後からエーアストをウマウマと『戴きます』をする為に、位相のずれた空間に隔離をしているから離脱も叶わない。

 

 それ以前に未だ意識を失っているだろうから、何も出来ない状態であろうが……

 

「それじゃ、中村アナザーは意識を刈られるのとこの隷属の首輪を自ら嵌めて僕に服従を誓うのとどちらを選ぶ? 首輪発動の文言は自分の名前を言い相手の名前と共に隷属する旨を誓えば良い」

 

「……因みに意識を刈られるってどんな感じなのか訊いても構わないかい?」

 

「ちょっと積尸気冥界波で黄泉比良坂に霊体を飛ばすだけだが?」

 

「し、死んでる! それは死んでるから! 着けるよ首輪を!」

 

 先程から常識を外れた事ばかりが起きていたからなのか積尸気冥界波についても信じたらしく、ユートから引ったくる様な形で隷属の首輪を奪うと自らの手でその細くて白い首に嵌めて……

 

「ボク――中村恵里は……えっと、そういえば君の名前は?」

 

「緒方優斗」

 

「緒方優斗に隷属を誓う」

 

 首輪発動の文言を口にした。

 

 その結果、首輪の効果が発動されて中村アナザーはユートに逆らう事を赦されなくなる。

 

 ()()()()()()心算でも二度目は矢張り御免だったのか、敗北を認めた中村アナザーはあっさりと従う事に決めるのだった。

 

 

.




 基本的にユートの視点ばかりなので、次回での序盤は仲間の視点を少し書く予定です。

 巨大なウルトラマンの光波熱線で普通サイズの敵を焼き払うってどうなんだろう?




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第87話:闇の獣VS光の天使

 存外と早く書き上がりました。





.

 捕まって虜の身となり、両手首に手錠を掛けられた中村アナザー改め恵里アナザー。

 

「良い趣味してるよね、君ってさ」

 

 犬が着けている様な首輪に警察官が使うのよりゴツい金属製の手錠、暗器対策にショーツやブラすら脱がさして薄いワイシャツに短いスカートという目の遣り場に困るエロティカルな格好をさせられた恵里アナザーは、ユートに流し目を送りながら嫌味の一つも口にする。

 

「女の子は小さな暗器くらい胎内に隠せるから、それを警戒するのはおかしくないだろう?」

 

 リクは真っ赤になっていた。

 

 何故なら暗器とやらを実際に隠していないかをユートが恵里アナザーの中を確認し、それを顔を逸らしたものの視てしまったからである。

 

「ま、処女じゃ流石に暗器は難しいな」

 

「フン」

 

 容れられない訳でも無いが下手したら破りかねないし、暗殺者じゃあるまいし其処までやろうとは恵里アナザーも考えてはいない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時間は遡る。

 

「それじゃ、こっから分かれましょう」

 

「うむ、妾達は右側を」

 

「私達、地球組は左側を行くわ」

 

 仮面ライダーリュウガの姿なティオと仮面ライダーサソードの姿な雫、二人がそれぞれリーダーシップを執って敵となる死霊騎士やエヒトの使徒を討つべく分かれて動く。

 

 雫は香織と鈴を伴ってから王都の左側を廻り、

ティオは反対側から右廻りでユエとシアの二人を連れて走っていた。

 

「さて、人手は幾ら有っても足りぬでな」

 

 左腕に装着されてるブラックドラグバイザーを開くと、ティオは仮面で隠れていて判らないけど不敵な笑顔を浮かべつつVバックルへと装填されたカードデッキから一枚を引く。

 

《ADVENT!》

 

 引かれたカードは黒い東洋龍に似た姿をしているドラゴン、その名をドラグブラッカーと云って主人公である仮面ライダー龍騎が契約をしている

ドラグレッダーの色違いみたいな存在。

 

 【ADVENT】は召喚カードで、空間を割るかの様にドラグブラッカーが現実空間に顕れた。

 

「ドラグブラッカーよ、我らが敵の死霊騎士共を疾く滅せよ!」

 

 命令に嘶くとドラグブラッカーはまるで嬉々として死霊騎士に黒い炎を吐き出す。

 

「ふっふっふ、歩が三つですぅ! 私も暴れちゃいますよ!」

 

 仮面ライダーザビー・マスクドフォームであるシアは、本来のザビーには装着されていない武器――アイゼンⅡを振り回して死霊騎士の一体一体を打ちのめしていた。

 

 仮面ライダーとはいえパワーという意味で云うと物足りないのがカブト系の仮面ライダーだが、装着変身者のシアは魔力を身体能力向上に極振りをしているみたいな状態で、化け物クラスのパワーを手に入れているに等しいのである。

 

「グラビティショックウェーブ!」

 

 おまけに【勇者王ガオガイガー】が由来であるゴルディオンハンマーの技術が、その世界由来のヒロイン達によって再構築された再製技術を組み込まれており、見た目にはヴォルケンリッターの突撃隊長的な『紅の鉄騎』にして『鉄槌の騎士』ヴィータのグラーフアイゼンながら、その気になれば黄金に輝きを放ちながらゴルディオンハンマーとして使う事すら可能。

 

 デバイス機能で魔力の釘を創り出し、ハンマーヘル&ハンマーヘブンまでも出来てしまう傍ら、光にしてしまう事だって出来る。

 

 『グラビティショックウェーブ』なんていうのはその片鱗でしかなかった。

 

 それ故にかシアはライダーフォームより寧ろ、パワーと防御が高めなマスクドフォームを愛用して使っている。

 

「数で来ても薙ぎ払うまでですぅ!」

 

 仮面で判らない素顔はドヤっていた。

 

「……ん、五天龍」

 

 仮面ライダーサガであるユエは一応の中・近接戦闘型武器のジャコーダーを持ってはいるけど、やはりその本領は膨大なる魔力を由来としている魔導士としての力。

 

 雷龍が雷鳴の咆哮を上げる。

 

 蒼龍が爆炎の咆哮を上げる。

 

 嵐龍が暴風の咆哮を上げる。

 

 石龍が土號の咆哮を上げる。

 

 氷龍が氷霧の咆哮を上げる。

 

 五属性の最上級と重力の同時行使複合型魔法、ミレディ・ライセンをして『あの才能がこの時代に居れば』と思わせる才能とセンスで産み出された魔法、それにユートとの【閃姫】契約によって使える様になった恒星が数個分ものエネルギーをMPに変換して無尽蔵に放てた。

 

 しかも恒星とは云っても太陽系の太陽程度では決して無く、それの少なくとも数倍には達するであろうエネルギー量を誇る。

 

 ユートには使えない【閃姫】だけに与えられる契約特典という訳だが、それは正しく魔法を使う者には垂涎ものの力であると云えるだろう。

 

 仮面ライダーサガに遠距離攻撃は余り無いし、ユエは【サガの鎧】に対してユートが与えている『魔力増力』の付与が成されているが故に、魔法攻撃に特化をしていると云っても過言ではない。

 

 更には変身機能を有していない量産型サガークを子機として、小さめ――中級魔法を使って敵を斃すなり牽制をするなり防御するなりしている。

 

 これはマザーサガークからサガーク軍団を発する機能を搭載していた際、この子サガークが魔法を使えたら面白いと気付いたユートが予め付けていた能力だったが、残念ながらユエは先の大迷宮を攻略するまでは扱えなかった。

 

 これはこの世界の技能に由来をしないスキルを取得していなかった為で、然しそれでもレベルが上昇をして能力値も上がっていってスキルの何たるかを理解するに及んだ今は使用が可能だ。

 

 複数同時思考――マルチタスク。

 

 【魔法少女リリカルなのは】に於いては使えて当然、使えなければ幾ら魔力値や精神値(MP)が高くても魔導師として大成はしない。

 

 子サガークはある程度であれば自律稼働をするけど、自由自在に動かしたいのならマルチタスクが必要不可欠なスキルだった。

 

 ユートもマルチタスクは使えるのだが、生憎とスキル覧に上がっている訳では無いからかいつものインストールカードで……とはいかなかったし、何よりユエが魔法使いとしての意地から自力での修得を望んでいたから任せてしまう。

 

 取り敢えずユエがマルチタスクを扱えないからといって困る事態は無かったし、魔法の同時使用はマルチタスク無しでも可能だったから。

 

 今のユエは子サガークを子機と見做している『征け、ファンネル!』が可能な状態。

 

 マザーサガークから大量の子サガークを使うだけなら以前からやれたが、今はこうしてきちんと機能を扱える様になって御満悦だった。

 

「ふむ、順調であるの」

 

 満足そうに頷くティオ、トータス組に死角無しであったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 雫と香織と鈴も死霊騎士を斃していた。

 

「やっぱり数が多いわね」

 

「王都に詰めていた騎士さんの約半数が恵里に殺されたみたいだから」

 

「エリリン……」

 

 憂う理由は若干異なる様だ。

 

「とはいっても平行世界の恵里みたいだけれど、この世界線の恵里だって同様だった可能性が〇じゃなかったみたいね」

 

「うん」

 

 此方側の恵里がハジメの恋人と成っている事を考えると香織は複雑な気分だ。

 

 ユートに触られていない部位や舐められていない部位など最早無いと言っても過言ではないし、性欲が旺盛なユートを口や菊門や子宮にて何度も受け止めた身としては、ハジメを好きなのだとは口に出せないくらいに汚れ果てていた。

 

 勿論、ユートに抱かれるのを今を以て嫌だとか汚ないとか思ってはいない。

 

 寧ろ抱かれるのを心待ちにしている程な為に、自分も変わったんだなと考えていたけどハジメの恋人とか思うと矢張り複雑、怪奇なるは人間の心という事なのかも知れなかった。

 

 カード型の仮面ライダーとしてリューンの力を利用している香織は、右腰のカードホルダーからプライムベスタと呼ばれるラウズカードを抜き取ると、リューンアローに装着されているバックルのスリットへとラウズする。

 

《TORNADO!》

 

 竜巻が生じて数人の死霊騎士が巻き上げられ、まるでバラバラ死体の体で落ちて来た。

 

「ヒィッ! カオリンがおっかない!」

 

「ええ!? 別にバラバラにする気は無かったんだよ? 本当だからね!」

 

 元よりアンデッドという不死の生物を相手にする力、柔い人間の肉体なんてバラバラになってしまうのも無理は無いのだろう。

 

 そういう意味で云えば過剰戦力であるのだが、エヒトの使徒とエンカウントをしたら逆転されてしまうからには仕方がない。

 

 雫達にしてみても流石にユートじゃあるまいし生身で奴らに抗えるとは思わなかった。

 

 だが逆説的に仮面ライダーの力でなら使徒共を叩き伏せる事も可能と考えている。

 

「はぁぁっ!」

 

 サソードヤイバーと八重樫流のコラボレーションが死霊騎士を屠っていった。

 

 シアとは違い機敏な動きを必須とするからにはライダーフォームで闘う雫。

 

「ライダースラッシュ!」

 

《RIDER SLASH!》

 

「せやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 雫は一回の必殺行動で一気に駆け抜けて数体の死霊騎士を斃すけど、矢張りというか斬れ過ぎてどの死霊騎士も鎧ごと真っ二つに。

 

《ADVENT!》

 

 鈴の仮面ライダータイガは余り複数向けでは無いけど、単純にデストワイルダーを召喚して手数を増やす事は出来た。

 

「征って、デストワイルダー!」

 

 咆哮を上げながら白虎を模したミラーモンスターのデストワイルダーが駆ける。

 

《STRIKE VENT!》

 

 斧の形をしたデストバイザーにカードをベントすると、デストワイルダーの両腕を模した手甲爪たるデストクローが装着された。

 

 ユートが与えたカードデッキと原典のカードデッキでは異なる点が有り、カードは本来だと一枚ずつ――王蛇は契約カードが三枚有ったみたいだけど――なのを全てが三枚と何処ぞのカードゲームみたいな枚数、鏡でも普通に変身は出来るが必須という訳ではないから空中に翳すだけで良いのと、本来なら存在しないカードも封入。

 

 例えばタイガだとシュートベントに意味は無いから入って無いなどは兎も角、スティールベントやコンファインベントなどは入っていた。

 

 因みに本来の仮面ライダータイガのカードは――【STRIKE VENT】【RETURN VENT】【ADVENT】【FREEZE VENT】【FINAL VENT】のみである。

 

 鈴自身は使い熟しているとは云えないからか、余り本編に無いカードは使いたがらないが……

 

 白虎型で初期設定では龍騎のライバル的な感じだった仮面ライダーの相棒だけに力強く、現在の鈴――仮面ライダータイガが装着しているのと同じ形の腕を振り回しては死霊騎士をなます斬りにしては口の中に死肉を入れていた。

 

「うわ、デストワイルダーが死霊騎士を食べちゃってるんだけど……」

 

「ミラーモンスターは元から人間を食べるけど、優斗はその設定を入れてないみたいに言ってなかったっけ?」

 

「確か龍騎系の仮面ライダーはブランクフォームをバリアジャケットや騎士甲冑みたく着込んで、契約したミラーモンスターの力を封入する形にしてあって、モンスターは契約者の魔力を少量だけ食べているみたいな感じだったよね」

 

 正確に云うと騎士甲冑の技術にてエネルギーの固形化で構築されたアンダースーツやアーマー、それにモンスターのエネルギーをプラスする形で性能を大きく向上、武器はストライクベントにより出せる仕組みとなっているし、アドベントによりミラーモンスターを召喚するなど龍騎系仮面ライダーが可能な事は一通りが出来て、ミラーモンスターを養うエネルギーは自身の魔力を少量で済むのも教えた通り。

 

 だけど別に魔物や人間を食わない訳ではなく、止めなければ敵であるなら食うだろう。

 

 事実として恵里は自分を襲おうとした騎士を、契約モンスターであるベノスネーカーに喰わせていたりする。

 

 まぁ、レ○プ魔死すべし慈悲は無い。

 

「御免なさい」

 

 香織は流石に罪悪感が咎めるのか謝りながらも容赦無くぶっとばす。

 

 リューンアローの威力は凄まじいばかりで敵の死霊騎士は貫通は疎か、当たった箇所が大きな穴となっているくらいだった。

 

 騎士の耐久など一般人が10~20程度だったとして、良くても精々50~70といった処でしかないだろう。

 

 攻撃を受ける事も織り込まねば上げ難い項目であれば仕方がない。

 

 そして仮面ライダータイガは見た目相応に力の値が可成り高く、デストクローを装着した状態であれば人間はまな板の上の鯛でしかないからか、スパスパと切り裂かれてしまっていた。

 

「うう、ゆう君に精神を強化して貰っていなかったら吐いてたろうな~」

 

 鈴にグロ耐性は余り無いが故に人間の肉体を切り刻む行為に愉快とはいかない。

 

 女の子は毎月毎月で血を見なければならないからか、男より血に強い傾向にあるのかも知れないけど矢張り限度というものがある。

 

 何処の世界に素人で輪切りや微塵切りに成った人間の遺体を視て、とても愉快痛快な気分になれる女の子が居るものか?

 

 まぁ、玄人のレベルで慣れたら問題も無くなるのだろうが……

 

「使徒……って奴は居ないわね」

 

「Gみたいにワラワラと出てくるイメージがあっただけに意外だよ」

 

 正確にはハルツィナ樹海のGがエヒトの使徒を模していただけだ。

 

「デストワイルダーも騎士ばかり斃しているし、若しかしたら居ないのかな?」

 

「優斗曰く、恵里はエヒトから使徒を借りていたらしいから此方でもそうしそうだけどね」

 

 鈴はある程度の契約による繋がりを持っているデストワイルダーから得た情報を伝えるのだが、恵里アナザーの向こう側でやらかした事を鑑みると同じ事をやりそうだと雫は考えていた。

 

「リューンやノイントみたいな使徒……か。私達は直接的に闘って無いから判らないけど強いんだよね……やっぱり」

 

「そうね、香織は実際に力を使っているんだから判るんじゃないの?」

 

「そうだね」

 

 数値だけを聞かされてもオール12000? それは凄いですね~としか思えないけど、香織は事実としてその力を使っていて身近に感じられるが故に実感をしていた。

 

「見て、あれ!」

 

 鈴が指差しながら叫んだので雫と香織がそんな指先を辿ると……

 

「嘘、使徒!?」

 

「数百は居るよ雫ちゃん!」

 

 夥しいまでの銀が空を覆っていた。

 

 だけど次の瞬間……

 

『レッキングバースト!』

 

 そんなお腹にまで響く声と共に光波熱線が放たれて使徒を呑み込んだ。

 

「あれ、ウルトラマン? ザラブ星人が化けてるニセトラマンっぽいけど……」

 

 鈴は赤と銀と僅かな黒に彩られた数十mにも及ぶ巨人を見上げて呟いた。

 

 兎に角、死霊騎士も動かなくなったから巨人が降り立った場所へ向かう三人だったが、空に更なる異変が起きて驚愕に目を見開く事になる。

 

「きょ、巨大な使徒?」

 

『ウオオオオオオオオオッ!』

 

 それはリューンやノイントによく似たというかその者な容姿で、サイズだけがウルトラマンとも変わらない巨体と化した使徒。

 

 異変は終わらない。

 

 今度は暗く黒く沈んだ闇の化身が巨大な姿を以て出現したのだ。

 

「血を思わせる赤い縁取りに闇を思わせる漆黒の肉体、あ、紅の瞳に赤いエナジーコアらしきY字――あれってまさか闇の巨人ダークザギ!?」

 

 それは『来訪者』と呼ばれる異星人の成れの果てが自らの破滅に追い落とした原因、光の巨人たるウルトラマンノアを模したウルティノイドザギと呼称される闇の巨人。

 

 『邪悪なる暗黒破壊神』や『邪悪なる冥王』など二つ名を持つ。

 

「――ゆ、優斗?」

 

「ええっ? 雫ちゃん!?」

 

「シズシズぅ?」

 

 ダークザギを見た雫が呟いた名前に香織と鈴は驚くより他に無い。

 

『デュアッ!』

 

 光の巨人を思わせる構えを執るダークザギは、空を舞う光を放つ使徒に闘いを挑む。

 

 それを端から視れば神に遣わされた光の使徒へ反逆心を持つ闇の化身が挑む様にも見えており、何も知り得ない民からすれば『光を正義』に捉えて『闇を悪』に見立てるであろう。

 

 嘗て顕れた【根源的破滅天使ゾグ】を正真正銘の天使だと勘違いした様に。

 

「うわ、荒々しい……」

 

「まるでケダモノだよ~」

 

 闘いを始めたウルティノイド・ザギらしき闇の巨人は荒々しく、ちょっと視ると男がか弱い女性を性的な乱暴でもしているかの如くで鈴はケダモノと称する程のものである。

 

『グガァァァァッ!』

 

『嗚呼ぁぁぁっ!』

 

 ウルティノイド・ザギの闘い、それは余りにも余りで正義にはとても見えなかったという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは恵里やリクと和気藹々とはいかないだろうが、取り敢えずだけど雰囲気が険悪にはならない程度に話しをしていた。

 

「つまり、エヒトに渡りを付けたのがニャル子。確かに彼奴ならやりそうだな」

 

 前の世界――原典により近い世界ではノイントが接触してきて向こうから話を持ってきた筈だが、流石にノイントは既に斃されて封印済みだったしエヒトが恵里に目を付ける場面も特に無くては、確かに向こうから接触をしてくる筈もない。

 

 誰かしら渡りを付けなければエヒトの持っている戦力を得られないだろう。

 

 彼奴は云ってみれば『ぬらりひょん』みたいな存在、いつの間にかぬらりくらりと傍に這い寄る光でも無く闇でも無く、だけどそのどちらでもある混沌たる者がナイアルラトホテップだ。

 

「今は繋がりは?」

 

「無いに等しい。エーアストと一部隊を借り受けただけだったしね」

 

 エーアスト以外は名前など無いに等しいだけのリューンと変わらぬ存在、名付けられていないのではなく長過ぎて誰も覚えていない――何とそれは当の本人ですらも。

 

「だとすれば事件そのものは終わりか」

 

「ボクはどうなるのかな?」

 

 恵里アナザーは隸属の首輪で逆らう事が出来なくなった為、仮令犯されても殺されても文句を言う事すら出来なくされている。

 

 流石にそれは無いかも知れないが投獄の果てに処刑は有り得そうだ。

 

「心配しなくても隸属の首輪で縛ったからには、僕は君の主として使役する立場だから死なせたり投獄させたりはしないさ」

 

「光輝君辺りが騒ぎそうだけどね」

 

「奴もハイリヒ王国で莫迦を仕出かしているし、そこら辺を突つけば黙るしか無くなるだろ」

 

「何をやらかしたのさ?」

 

「時間改変に王国の征服」

 

「ハァ!?」

 

 存外と碌でもない事を仕出かしていて驚愕するしかない恵里アナザー。

 

「本来なら断罪されるけど、勇者だからといった理由で放免されたんだよ」

 

「うわぁ……」

 

 勿論、これは教会の横槍である。

 

 勇者が未曾有の事件で捕縛されたとあっては、最前線での士気ががた落ちになるからと尤もらしい事を言っていたけど、要するに教会の延いてはエヒトの権威失墜を恐れての事だ。

 

 ユートとしてはハジメと仲好くなって闇が薄れた恵里を視て安堵していたら、恵里アナザーが現れて闇を齎らしてくれた様なものだからある意味で赦せない、だからこそ隸属の首輪――しかも可愛らしいチョーカー型ではなくまんま犬が着けていそうな首輪その物な代物で縛った。

 

「死なせたり投獄させたりはしないって、ボクを護ってくれるんだ?」

 

「天之河への皮肉か? 隸属の首輪を嵌めたからには中村アナザーは僕のモノ、それを害するならそれは僕への宣戦布告に他ならないからね」

 

「わお、モノ扱いされちゃった♪」

 

 リクとしては思う処が無いでもなかったけど、ユートと恵里アナザーの関係に首を突っ込むなら自分が恵里アナザーを引き取る覚悟が要るのだと理解しており、彼女も別にそれを嫌がっている訳でも無さそうだから沈黙を貫いた。

 

 愛が足りないから哀で補った可愛くて可哀想な少女――中村恵里を称する言葉に足るだろう。

 

 父親の愛を一身に受けて育ちながら母親からの哀に晒され、更には何処ぞから連れて来た母親の愛人による哀で親という意味を見失った。

 

 死にたくなった時に救われて天之河光輝に愛を求めたが、最終的な結果は哀しいまでの哀を以て『うそつき』な光輝君に見切りを付け自爆する。

 

 哀しいまでに愛を求めた少女――中村恵里。

 

「うん、判ったよ。貴方のモノになるから精々、ボクの事を愛して欲しいね。何番……何百番目かの愛人か愛奴かは知らないけど……さ」

 

 だから唯一の『特別』にも複数から居るであろう『大切』にも成れないと理解をしていた訳で、同時に少なくとも『大事』にはして貰えるのだと女の勘みたいなモノが理解させてくれた。

 

 少し前に自決したとはいえ又候、死にたくなんて無かったから『大事』にしてくれるならユートに愛を囁くのも、何なら股を開くのも苦にはならないであろうと考えているのだ。

 

 元より今回の事件は本当に上手くいかなかったのか、単に天秤が向こうへ僅かに傾いていたからなのかを知りたかっただけであり、『うそつき』な天之河光輝を其処まで本気で欲していた訳では無かったのだから。

 

「っ? エーアストに関して何か知っている事は無いか?」

 

「は? 何かと言われても……真の神の使徒だって事くらいだよ。何千年か前に地上で【解放者】ってのと闘ったくらいは言っていたけど」

 

 言われた意味が解らない。

 

「奴が目覚めた上に巨大化している」

 

「はい? 目覚めただけなら未だしも巨大化? 本気で意味が解んないよ!?」

 

 だが然し、まるでユートの言葉を工程するかの様に空間に亀裂がピシピシと軽快な音を立てながら入り、パリーンッ! と何処かの研究所を守るバリアみたいに砕け散って巨体なエーアストが姿を顕すのだった。

 

「フリーザ軍の服とかアーマーじゃあるまいし、何で服や鎧や武器まで巨大化してるんだ?」

 

「魔力で編んだからでしょ!」

 

「ああ、騎士甲冑やバリアジャケットみたいな。確かに判で捺したみたいな同一個体だからって、服や鎧や武器まで何百万と用意なんてしていられないからね」

 

 巨大化と共に戦闘力も上がった筈。

 

 サイヤ人くらいの倍率なら一〇倍で大した事も無いが、下手したら百倍とかも有り得そうなのはビリビリと伝わる怒気? からも伝わる。

 

「ウルトラマンだって巨大な姿を人間サイズにまでダウンサイジングしたら、精々が仮面ライダーくらいの戦闘力になるからな……」

 

 例えばミニ四駆なる玩具が在るが、あれだってフルサイズのレーシングカーとして造ったなら、普通にF1みたいな速度を出せるらしい。

 

「どうすんのさ?」

 

 喋り方がユーキっぽいのに思わず笑みを浮かべてしまうが、すぐに使徒エーアスト・ジャンボを睨むとエボルトラスターを手にする。

 

「ノアで一気に極める!」

 

『待て、ちょっと落ち着け優斗!』

 

 血迷うユートに優雅が声を掛けた。

 

『忘れたのか? 初めてティガに変身をした時のある意味で悲劇を!』

 

「そうだね、僕は闇が本領だ!」

 

 ニヤリと口角を吊り上げたユートが天高く掲げるエボルトラスター、それは光では無く闇を放ってユートの姿を包み込んだ。

 

 相手が光を掲げて神を僭称すると云うのなら、此方は闇で光を消し去る冥王と成ろう!

 

 ユートの背後に二枚の光の翼が広がっており、同時に闇化していくユートを呑み込んだ。

 

 本来ならウルトラマンノアになるユート専用の変身シークェンス、ウルトラマンネクサスの新なる姿を顕す為に光鷹翼でネクサスを進化させるというもので、ウルティノイド・ファウストを経てウルティノイド・メフィストへ、そしてその巨体はウルティノイド・ザギに姿を変えて降臨する。

 

 即ち――ダークザギ。

 

『セヤァァッ!』

 

 唯一、本来のダークザギと異なるのはその背中に存在しない筈の器官なノア――否、()()イージスであろうか?

 

 抑々、ダークザギとかウルティノイド・ザギとか呼んではいるが、この個体はウルトラマンノアとして造られた石像が闇化した存在。

 

 そうなると銀色の巨人が闇色の巨人に変化をしただけでしかなく、ダークザギというよりは寧ろダークノアと呼んで差し支えが無い。

 

 実際、本来の【ウルトラマンネクサス】に於いてダークザギとは西条 凪が闇落ちして変身をした姿であり、ラスボスはダークルシフェルであったという裏事情が有るからユートのノアがザギ化したとしても特に問題も無かったりする。

 

 闇に鮮血が滴るかの見た目は闇の巨人と呼ぶに相応しく、リクから視れば父親のウルトラマンべリアルを思い起こさずには居られない姿。

 

 エンペラ星人との闘いが終わり異常なまでに力へと執着、プラズマスパークに手を出そうとして失敗した後にレイブラッドの力を受けて闇化し、幾度もウルトラマンゼロと闘って闘って闘って……その最期には自らの遺伝子を受け継ぐ事になった朝倉 陸――ウルトラマンジードに敗れて消えた。

 

『デアアアッ!』

 

『ガァァァッ!?』

 

 鳩尾を殴り付けて浮かせたエーアストを両手を組んで下に打ち据える、まるで小規模ではあるが【ドラゴンボールZ~超武闘伝~】に於ける悟空のメテオスマッシュの如く。

 

 光の天使を襲う闇の暴漢の図はハイリヒ王国の民衆からすれば噴飯物、王都の民は誰しもが悲鳴を上げて絶望の表情を浮かべていた。

 

 ビリィッ! 魔力で編まれた服は防具にしても丈夫で上等な防御を誇るも、ウルトラマンの力を以てすれば破るなど容易く行える。

 

 割と御立派な乳房が露わとなったが羞恥心など無いエーアストは闘い続けた。

 

 ダークザギの闘い方はまるで野獣、餓えた獣が獲物を捕食しようとする前に弄ぶかの如く。

 

 ビリビリィィィッ!

 

 今度はスカートが破り取られた。

 

「何て情操教育に悪い闘い方を……」

 

 真っ赤になりながらリクが呟く。

 

 こうなるとペガに危険が及ばぬ様に影の奥深くに隠れさせたのはファインプレイか?

 

「って、パンツ穿いてない!?」

 

 白い装束に銀色の鎧兜姿なエーアストだけど、ヘソ出しルックでミニスカなワルキューレっぽい格好、然してミニスカの下は穿いてなかったとか何というエロティカル!

 

 よく視れば服も胸元で留めてこそいるがブラをしているとは思えないし、首回りと胸元に申し訳程度にアーマーが着けられていて、肩から二の腕は素肌を晒して肘から腕に掛けてアームを装着、腰から股や太股にはアーマーなどは無くて両腰にウェストアーマーが装着され、レッグアーマーがブーツの様に装着されている状態。

 

「い、否……きっとユートがミニスカートと一緒にパンツも剥ぎ取ったに違いない!」

 

 言い訳をしているがエーアストの股座をガン見してしまった為、初心な反応をしつつ下半身のJr.に血流が集まるのを感じていた。

 

 因みにユートも別段、エロティカルに走ろうとは考えていなかったからいい加減で斃さないと、本当に素っ裸に剥いてしまいそうだから取り敢えず一兆度の暗黒炎を纏う拳――ザギ・インフェルノを腹パンで打ち込み、成層圏にまでぶっ飛ばしてやって更にはスペシウム光線とは真逆の構えを執ると赤黒い光波熱線を放つ。

 

『ライトニング・ザギ!』

 

 放たれた光波熱線が真っ直ぐにエーアストへと向かうが、流石に喰らう気にはなれないのか翼をはためかせ『分解』の固有魔法を漬かって相殺をしようと企む。

 

 だが、巨大化で威力など上がっていたにも拘わらずウルトラマンノアVSダークザギによるぶつかり合い――ライトニング・ノアVSライトニング・ザギの時間にも及ばない一瞬の抵抗。

 

『嗚呼ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああっっ!?』

 

 殺しては勿体無いので爆発四散してしまわない程度に抑えてはあるが、だからといって意識を保てる筈も無くてエーアスト気絶して墜ちた。

 

「汝を封印する!」

 

 ユート――ウルトラマンザギはコモンブランクのラウズカードを投げ付けてエーアストを封印。

 

 カードにエーアストが吸い込まれるとザギの手の内へと戻り、それをキャッチしてウルトラアイで強化された視力にて視るとスートは○の中に+が描かれた様な模様――ワイルドマークにカテゴリーがQとされていて【ABSORB】の効果。

 

 剣系の仮面ライダーが中間フォームや最終フォームに強化する為のカードの一枚、【アブゾーブ・エーアスト】となってしまうのであった。

 

 

.




 作中、エーアストが穿いてない扱いをされますが原作ではきっと穿いています。

 カラーのノイントを視ると限り無く穿いてない感じがしますが……




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第88話:異世界転生者殺し(笑)

 ちょっと遅れました。

 タイトルの意味は御笑い草です。





.

 ユートの許に戻ってくる面々。

 

「小悪党リーダー?」

 

 何故かは知らないけどシアが小悪党リーダー――檜山大介の右足首を持ちながら歩いて来る。

 

 オルクス大迷宮でベヒモスが居る中で莫迦を仕出かして死んだ筈の檜山大介、それが何故か生存していたのだろうか?

 

「アレは中村アナザーが持ってきたのか?」

 

「いんや、あれはこの世界の檜山だ。抑々にしてボクの世界の檜山は魔物に喰われて欠片くらいしか残ってなかったさ」

 

 彼方のハジメは容赦が無い。

 

 ズタボロになっていた檜山大介を魔物の群へと投げ込んだのだから。

 

 まぁ、香織の殺害をした張本人であるからにはハジメの『大切』に手を掛けたからには、惨たらしく殺されても仕方がないだろう。

 

 トータスの生命はトイレットペーパーより薄くて軽い、そんな世界で他者を殺したなら自分自身が殺されても文句など言えた義理ではない。

 

「この世界の小悪党リーダー、まさかベヒモスにプレスされても生き残っていたとはな」

 

「そんな事になってたのか。取り敢えずホルアドで物乞いをしていたから引っ張って来た。賑やかしくらいにはなるかと思ったもんだからさ。向こうの檜山と同じで香織に執着していたし」

 

「香織に執着していたのは地球に居た頃からだ。莫迦だよな、抑々にしてハジメを好きな香織の前でハジメを虐めるとか。嫌って下さいと謂わんばかりだってのに」

 

「巫座戯ろよ! 香織は俺のモンだ! 誰にも、天之河にだって渡すものかよ!」

 

「あ、目覚めてたですぅ」

 

 ボイッと放り投げられて……

 

「プギャッ!?」

 

 地面にキスさせられた。

 

 檜山大介――ベヒモスにプレスをされたものの、近藤礼一達がクッションになってしぶとく生き残りはしたが左腕は動かなくなるわ、装備品は壊れてしまうわと不幸が続いた上に死んだと思われていたから置いて行かれたのだ。

 

 何しろ場所は第六五層である。

 

 こそこそと逃げ惑いながら運良く? 命からがらながらもホルアドの街にまで戻ってくるなり、恵里アナザーに捕縛されて曰く賑やかしに王都へ連れ去られたのだ。

 

 物乞いをしなければ食べる物さえ侭ならない、勇者一行の一人だと喚いても信じて貰えないくらいにボロボロ、だから一応は食事を奢って貰えたのはある意味でラッキーだった。

 

 そして王都では大半の騎士を恵里アナザーからのサポート付きながら殺害、彼女が『縛魂』を行う()()を集めて回ったのである。

 

「おい、中村ぁぁっ! 何捕まってんだよぉぉぉぉぉぉぉっ! 香織を俺のモンにするって約束だろうがぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

「失敗したんだからしょうがないじゃないか? 君も見果てぬ夢をいつまでも視ない方が良いよ」

 

「ふっざっけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 激昂する檜山大介にユートはトドメとも云える一言を放つ。

 

「それに香織の処女なら既に僕が戴き済みだし、何なら心まで虜にしてしまっかからな」

 

 シンと静まるのは檜山大介が目を見開きながら顔芸をしているから。

 

 幾つかの凄まじい顔芸を披露した後……

 

「お、お、俺の香織ぃぃぃぃっ!」

 

 檜山大介は絶叫したと云う。

 

「お前のモノじゃない、僕のモノだろ」

 

「ぎぃぃぃざまぁぁぁぁぁぁぁっ! よぐも! よぐも香織の処女をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! おがだぁぁぁぁぁぁっ! ぜっだいにごろじでやるぅぅぅぅぅっっ!」

 

 最早、呂律も滑舌も怪しい叫びが木霊している中でユートは何処吹く風で香織を『おいでおいで』しており、何と無く目的を覚りながらも頬を朱に染めながらてとてとと近付く。

 

「小悪党、お前じゃ一生は疎か何度生まれ変わって平行世界を巡ろうが出来ない事をしてやるよ」

 

 それは謂わばライザー・フェニックスムーヴであった。

 

 【ハイスクールD×D】世界のライザー・フェニックスという上級悪魔、彼は一誠に見せ付けるかの如く眷属悪魔のユーベルーナと濃厚なキスを仕出かしている。

 

 但し、ユートが関わった世界線ではやらかす前にユートの茶々でミラを嗾かけていた。

 

 余り関係は無いが、その後にライザー・フェニックスを破ったユートは兵士の三人としてミラとイル&ネル、僧侶の美南風を約束した通りに貰っている上に凍結させられたライザーを元に戻す為の対価に彼の妹にして僧侶のレイヴェル・フェニックスを貰っている。

 

 ミラに関しては一誠が面倒を見て、その後にはイッセーハーレムのメンバー【燚誠の赤龍帝】の兵士の一人に成った。

 

 この世界線の一誠には可哀想な話になったが、本来の世界線に於ける大半のハーレムメンバーがユートに付いた為、人数が可成り減った形で結成されてしまっていたりする。

 

 それは兎も角として、ライザームーヴによってある意味でズッキューン! な光景が繰り広げられており、【閃姫】の娘らは顔を赤くしていたり優しい目で見たりしているのだが、リクは初心な反応で顔を手で覆っているけど檜山大介は最早、顔芸が極まってしまい剣を手にしてユートの方へと駆け出した。

 

「おおおおおおおおがぁぁぁぁぁぁぁたぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっっ!」

 

 それは余りにも軽挙妄動としか云えない行動でしかなく、幾ら惚れていた女とのキスシーンを見せられたとはいえこれでは単なる攻撃行動に過ぎない為、端から視たならユートの正当防衛が成立してしまうものだ。

 

 振り下ろされた鋼製の剣だったが……

 

「緒方逸真流防御の型――幻甲」

 

 小さなナイフで檜山大介の刃と一瞬だけ併せてすぐに引く事で、運動エネルギーの全てをそらしてしまった為にユートには当たらず、位置的には僅かに逸れて地面に刃をめり込ませてしまう。

 

 僅かな力点作用の逸らしを防御に応用したというもので、本来は自身の武器を使って敵の武器を随時逸らしつつ攻撃して首を落とす技。

 

 【緒方逸真流】は宗家の刀舞術に首斬りの技が多数有るが、使われたのが戦国時代だったからというのが大きい。

 

「さぁ死ね、小悪党リーダー。二号と三号と四号が地獄で待っているぞ」

 

「ヒィィッ!?」

 

 先程までの既知外染みた言動とは打って変わって情けなく悲鳴を上げる。

 

「やめろ!」

 

 檜山大介を殺そうとした瞬間に上がった声は、全く以ていつもの通りで天之河光輝。

 

「またか」

 

 いい加減で止せば良いのに天之河光輝は何故か自信満々、いつもの事だと云えばその通りでしかないからもう面倒臭い。

 

「坂上?」

 

「わぁってる! 俺も止めてんだ!」

 

 もう泣きたいレベルの顔だ。

 

 少なくとも天之河光輝が持っていたニャル子に由来するアイテムは、ホッパーゼクターは取り上げてジオウアナザーウォッチとジオウⅡアナザーウォッチは破壊済み。

 

又候(またぞろ)、ニャル子から何かしら貰ったのかね? だとしたら今度は何かな?)

 

 怪人系なら破壊待った無しだが、ゼクターみたいな仮面ライダーに変身が出来るアイテムならば取り上げれば良い。

 

 勘違いされそうだが、ユートが天之河光輝を生かしている理由の一つはニャル子が彼にアイテムを与えているからだ。

 

 それが手に入れて活用可能な物なら奪えば良いのだし、怪人系――ガイアメモリやゾディアーツスイッチやアナザーウォッチなどなら破壊する。

 

(今回は当りか外れか)

 

 ニャル子が天之河光輝に与えるアイテムだけが生かす価値で態々、尤もらしい理由を付けてまで生かしているのだから五回に一回は大当り(SSR)を引きたいものだった。

 

 それはまるでガチャの如く。

 

「で、今回は何だ?」

 

「黙れ! 遂にお前の正体が判ったぞ! そして無力化をする方法もな!」

 

「へぇ、正体……ね」

 

 どうやら中々に面白くなりそうだとは思うが、天之河光輝に限って無いかと嘆息する。

 

「緒方の正体?」

 

「そうさ龍太郎! こいつはとんでもない悪党、それを隠して雫や香織や鈴、ユエやシアやティオをその毒牙に掛けたんだ!」

 

 取り敢えず地球組は兎も角、トータス組は呼び捨てで名前を呼ばれて薄ら寒い感覚でサブイボが出来る思いで震えた。

 

「それで、正体って何なんだ?」

 

「緒方は()()()だ!」

 

 何故か『転生者だ!』がエコーする。

 

「は? ああ?」

 

 坂上龍太郎は首を傾げた。

 

「俺は知った、緒方が転生者と呼ばれる存在であり転生者の真実といのを! 部屋に引き篭り現実逃避をするゲーム廃人、大した能力も持たず成果を上げるでもなく不満ばかりを懐く社畜、恋愛脳の癖に非モテだから二次元で自分を慰める憐れなゴミ野郎。奴の幸運は死んで神様からチートを貰えた事に集約される! 持てばいずれもこの世の理を覆す特殊で強力無比な能力であるチート! 緒方はそんなチート能力で楽に無双し他者を蹂躙して悦ぶ野郎なんだよ! 緒方はたった一つだけの幸運に与れただけで、一切の努力もしてなければ苦労も無い。チート能力でイキっているだけの陰キャ野郎なんだ!」

 

 随分な事を言うが、確かにそんな転生者も世にはゴロゴロしているであろう。

 

「きっと前世ではブクブクと肥えた蒲蛙みたいな見た目で、心だって醜い腐れ陰キャ野郎が神様から力だけ貰って『転生サイッコー!』とか叫んでいるに違いないんだ!」

 

「こ、光輝……お前……」

 

 坂上龍太郎の表情に浮かぶのは転生者ユートに対する嫌悪――などでは決して無くて、親友である天之河光輝に対する戸惑いみたいなもの。

 

 どちらかと云えば承認欲求がとっても旺盛たる天之河光輝こそ、ステータスプレートで能力確認をした際にイキっていたのだが……

 

 事実としてメルドに褒められた際に謙遜みたいな笑いを浮かべていたが、その中に僅かな愉悦と優越感が浮かんでいたのを見逃していない。

 

(まるで転生者の全てが悪の権化みたいな言い方をしているよな)

 

 これはユートも呆れるより他に無かったけど、未だに天之河光輝のターンは続く。

 

「俺を……勇者であるこの俺を蹂躙した力も所詮は神様から貰っただけのモノだったんだな!」

 

「……で?」

 

「それならば勇者の俺がお前を斃す――否、速やかに()()()()()ぞ!」

 

「ホント、気炎だけは立派に吐くな」

 

「俺が、俺こそが異世界転生者殺し(チートスレイヤー)だ!」

 

「御大層な名前だな……だが無意味だ!」

 

 何故か異世界転生者殺しだ! という科白が、エコーしていた気がするものの無意味と判断。

 

「まだしもゴブリンスレイヤーの方が役に立つだろうに」

 

「黙れっ!」

 

 天之河光輝は小さなバッグからバッグより大きな箱を取り出す、それは四角い箱で蓋が紐によって縛られている物だった。

 

 上の方で中央寄りに十字で蝶結び。

 

「あれってまるで()()()ね」

 

 雫が箱を見て呟いた。

 

「成程、だいたい解った」

 

 そしてユートは理解する――今回の天之河ガチャは外れか……と。

 

「これがお前みたいなチート野郎を無力化してくれる切札だ!」

 

「つまり逆玉手箱って訳だな」

 

「なっ!?」

 

 名前を言い当てられて動揺する。

 

 正しく、この箱は昔話の【浦島太郎】に出てくる乙姫が浦島太郎に渡した玉手箱に見えなくもなかった。

 

「逆玉手箱?」

 

 だけど【逆玉手箱】と逆が付くという事は別の代物なのは間違いない。

 

「浦島太郎が竜宮城から出る際に乙姫から渡された玉手箱、それは浦島太郎の時間その物が封印をされていたアイテムで開ければ浦島太郎の過ぎ去った時が戻る。だから浦島太郎は三〇〇年分もの時を放たれて老人化した。逆玉手箱はその真逆で内部には粒子化された【前世の実】が封入されていて、時粒子の先進波への干渉で粒子化された煙を浴びると若返るんだ。その濃度や浴びた時間によっては()()()()()()()()()

 

「な、何故それを!」

 

「はぁ? それは【幽☆遊☆白書】という漫画に登場した裏浦島が使っていたアイテムなんだし、識らない理由が無いと思うんだけどな?」

 

「っ!?」

 

 漫画に興味が無いから判らないらしい。

 

「相変わらずよく解らんアイテムを貰うが侭に使おうってか?」

 

「くっ! どちらにせよお前は終わりなんだ! こいつで醜くて弱い前世を晒せ!」

 

 開かれた裏玉手箱、中から粒子化された前世の実の成分が煙の様にモクモクと立ち上るとそれがユートの方へ流れていく。

 

「ふむ……」

 

 天之河光輝は知らないがユートはある程度ではあるものの、時粒子を操作する能力を持っているから実は影響を受けない様にするのは可能。

 

(だけどそれは面白くない。ニャル子もそれを判っているから渡したんだろうな)

 

 だけど折角だから浴びてやる。

 

 どうせ視ながらほくそ笑んでいるのであろう、ニャル子の思惑のその通りに踊ってやるさ。

 

 嗚呼、矢張り自分も結局は這い寄る混沌の性を多少なり持ち合わせているのかも知れないな!

 

 超々高濃度の粒子はユートを子供に戻しただけに飽き足らず、ユート・オガタ・ド・オルニエールだった頃にまで戻した更にその先――緒方優斗であったその時にまで巻き戻していた。

 

「見ろ! 香織、雫! これが奴の――緒方の醜い正体なんだ! どうせ引き篭ってゲームをしながら菓子をバク付いて、ブクブクに肥え太った姿をしたヒキニートで恋愛脳でキモオタな陰キャ野郎

なんだろうがぁぁぁっ!」

 

 気付いていない。

 

 如何なイケメンであろうと、今の天之河光輝は親友ですらドン引きするくらいに醜い事に。

 

「ニャル子が語ったであろう情報をその侭で叫ぶとか、自分の言葉で語ろうとはしないものなのかな天之河?」

 

 粒子――煙が晴れてきて現れたのは……

 

「別に変わらねーじゃねーか」

 

 呟く坂上龍太郎。

 

 服装こそ【緒方逸真流】制式胴着に日本刀を持った姿をしていたが、顔は先程までと一切合切が変わらないユートその者であったと云う。

 

「なっ、莫迦な!? 煙が……逆玉手箱の効果が効いてないのか!」

 

「否、勿論だが効いてるさ。確かに身体が重い。さっきまでと明らかに身体能力が落ちている証拠だろうね」

 

「っ!?」

 

 絶句する天之河光輝。

 

「【幽☆遊☆白書】で裏浦島が使った際は蔵馬を南野秀一から前世の妖狐に戻すのみだったけど、粒子濃度が凄かったからか前々世にまで戻されたって事だろうな」

 

 緒方優斗の頃の弱さを今更ながら実感をすると同時に、ハルケギニア時代に嘗ての実妹であった緒方白亜の出鱈目さを再認識した。

 

(よく考えたら白亜はハルケギニアの頃の僕とも打ち合えていたんだよな……前々世では五歳も年下ながら勝てなかった訳だよ)

 

 緒方優斗の頃は白亜と試合をした回数=敗北の回数で、初めての試合はユートが一七歳で白亜が一二歳の時だったのだからやってられない。

 

 実際、ユートは皆伝まではいけても印可状を戴くまでには届かなかったのに、白亜はそれを幼い頃には普通に獲てしまっていた。

 

 勿論、ハルケギニア時代にはもうユートの方が強かったから改めて実家――緒方家で印可状を戴く事に成功をしているのだが……

 

「とはいえ、今の僕はそうだな……トータスに於けるステータスプレートによる数値的にみるなら、筋力が2000で俊敏が2500とかか」

 

「めっちゃつえーし!?」

 

 勇者(笑)が最初のステータスでレベルを最大限にまで鍛えたより高い数値、それを知った坂上龍太郎は驚天動地にして吃驚仰天であろう。

 

「ば、莫迦な……」

 

「お前は幾つか勘違いをしている」

 

「か、勘違いだと!?」

 

「先ず、僕の転生前の実家は剣術の道場を経営していたから自動的に門下生扱い。ヒキニートになんて仮に僕が成りたくても成れんよ。それと僕の今生も前世も前々世も顔は全く変わらないから。菓子も別に嫌いじゃないが道場でカロリー消費が半端ないから太らんし、緒方家は初代の妻であった白の謎知識から赤筋や白筋の両方の特性を持つピンク筋に鍛える術を得ていたんでエネルギーは寝ていても消費されていたんだよな」

 

 つまりユートはちょっとやそっとじゃ太らなかったのである。

 

「それに社交性が無かった訳じゃ無し、陽キャとはいかないが陰キャじゃなかったのは間違いが無いと思うぞ。MMOーRPGのゲームはしていたが、パーティは基本的に女の子だったからな。あ! ネカマじゃないぞ?」

 

 MMOーRPG【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】という人気を博していたゲームで、実は開発者が橋本祐希――ユーキだったりするのだけどパーティは緒方家の分家筋に生まれた長女達で、長男とは真逆に宗家云々な身分に関係無くユートを好いていたのだから、少なくとも天之河光輝の言葉は単なる中傷にもならない。

 

 例えば白音なら『オト』と名付けていたし妹の白亜なら『ハク』だった。

 

 因みに緒方優斗は『ユート』である。

 

「煩い! 何であれ俺が勝つんだ!」

 

 手にしたのは鉄製の騎士剣、アザンチウムとは云わないからせめて鋼鉄の剣くらい見繕えなかったものか? と思うくらいショボい。

 

 ユートは腰に佩いている太刀を抜くまでも無い斬撃に対し、小さなナイフで攻撃を軽く逸らしてやると地面に誤爆してしまった。

 

「うぐっ!」

 

 それは【緒方逸真流】防御の型――幻甲。

 

「まさか小悪党リーダーと同じ失敗をやらかすとはね、お前って確か八重樫流剣道場で門下生をしていて剣道の試合でも優勝したみたいな話を聞いていたんだが……ガセか?」

 

「クソッ!」

 

 勿論、ガセではない。

 

 だけど頭に血が上っている天之河光輝の動きは余りにも単純、余りにも明解に過ぎるからユートの目――【神秘の瞳】が現在は使えなくなっているとしても読むに易い。

 

 次なる攻撃に移る天之河光輝ではあるものの、ベーシックスペックでさえ越えているから当たる訳も無く、雫が使う八重樫流剣術を使う訳でも無かったからか簡単にあしらわれる。

 

「何故だ! 転生者なんて神様から貰っただけのチートに胡座を掻いている屑なのに!」

 

「お前は一度で良いから鏡を見ろよ」

 

「巫座戯るな!」

 

「巫座戯ちゃいない。ニャル子から()()()()()のゼクターやアナザーウォッチや逆玉手箱を使う。お前が屑と呼ぶ転生者と何が違うよ?」

 

「これは俺の力だ!」

 

「やっぱ話にもならない……か」

 

 大概な御都合解釈主義は既に天之河光輝にとってはデフォルトらしい。

 

「雫、君が奴の所業を『悪気は無いから許して』とかやって注意すらしないからコレだ」

 

「御免なさい……だけど私は光輝の幼馴染みではあるにせよ、保護者でも何でも無いんだから責任を押し付けられても困るのよ!」

 

「それもそうか」

 

 矢張りフラストレーションが溜まるのだろう、雫は吐き捨てるかの如く叫んでいる。

 

 天之河光輝がどう思っているか兎も角として、雫は彼女でも恋人でも妻でも無く況してや母親では決して無く、彼の言動や行動にいちいち責任を追求されても厭でしかない。

 

 それでも幼馴染みだからとハジメにしていた様にフォローに回る辺り、『オカン』とか呼ばれてしまっても仕方がないのであろう。

 

 ユートは会話をしながらも視線を目まぐるしく動かしており、天之河光輝との()()()()()に興味は全く無さそうである。

 

 視線は天之河光輝の腕や腰にも往くのだけど、他にも彼方や此方と視線だけを動かしていた。

 

「クソ、クソ、クソがぁぁぁっ!」

 

 最早、イケメンの面影が無いくらいに顔芸をしている天之河光輝の姿はみっともなく映るけど、本来の予定ではこの役回りはユートが行う筈だったのだろう。

 

異世界転生者殺し(チートスレイヤー)を舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 空間に黒い孔が一瞬だけ開くと三つ――金銀銅――の輝きが競い合う様に天之河光輝に向かう。

 

 その左手首には銀色のブレスレットが装着されており、天之河光輝が左腕を天高く掲げると競争に勝利した金色の輝きが、このブレスレットへとカチリと確り填まり込んだ。

 

「変身!」

 

 叫ぶと自動的に九〇度の回転……

 

《HENSHIN!》

 

 電子音声が鳴り響いて手首を中心として黒色のアンダースーツに金色のアーマーが装着された。

 

「三つのカブティックゼクターか。何だよ、やれば出来るじゃないか天之河!」

 

 喜色満面なユートは天之河ガチャでSSRだと、正しく大喜びをしていたけど何処か辛そうな表情にも見える為、香織も雫もシアやユエやティオや鈴にリリアーナに至るまで少し心配そうだ。

 

 天之河光輝の変身した姿は仮面ライダーコーカサスで、原典の【仮面ライダーカブト】の劇場版でむさ――黒崎一ゴホン、黒崎一誠という筋肉質なナルシストが変身をしている。

 

 青薔薇で愛を囁く程に。

 

 仮面ライダーコーカサスと成った天之河光輝は左腰のハイパーゼクターを叩く。

 

《HYPER CLOCK UP!》

 

 それはハイパーゼクターを持たない者からしたならば絶望しかない科白。

 

 ガキィィィンッ! 甲高い金属と金属がぶつかり合った音が鳴り響いたかと思うと仮面ライダーコーカサスが唐竹割りにユートをゼクトクナイガンのソードモードで斬り付けているのを、何故かユートが佩いた大太刀をいつの間にか抜き放って

両手で万歳した状態で持つと防いでいた。

 

「ば、莫迦な!? そんな莫迦なっ!」

 

 ハイパークロックアップというクロックアップよりも疾い状態、時間流に乗るが故にどれだけの超高速でもダメージを受けたりしないこの技術、普通の人間ならば攻撃を受けるのは疎か視認する事すらも不可能な筈。

 

 ハイパークロックアップ中の仮面ライダーから視れば、通常空間に居るしかない人間は停まっているにも等しいのだから。

 

「【緒方逸真流】宗家刀舞術が正当奥義が一つ――『颯眞刀』と同じく正当奥義――『燦然勢界』を使ったのさ」

 

「っ!?」

 

「そして未熟未熟!」

 

 ガキン……それはユートの揮った大太刀が左腰のハイパーゼクターを弾き飛ばした音。

 

 行き成り通常空間に戻された仮面ライダーコーカサスが勢いを殺されて落ち、ユートは飛び去ろうとしていたハイパーゼクターと銀色と銅色をしたカブティックゼクターを掻っ浚う。

 

「天之河ガチャのSSR、戴きます!」

 

 カブティックゼクターとハイパーゼクターは、回収後にアイテムストレージに仕舞った。

 

「か、返せ!」

 

「返す訳が無いだろうに」

 

「くっ、どうやって防いだんだ!」

 

「戦闘中に教えるか、莫迦め」

 

 漸く()()されたのもあって清々しい。

 

 【緒方逸真流】には通常剣術――刀舞術の他に、とんでも業とも云える奥義が幾つか存在する。

 

 『颯眞刀』は技術的に視れば御神流の奥義である『神速』に近く、クロックアップにも似ている高速戦闘を可能とした奥義だ。

 

 余計な情報として色を削除、灰色となってしまった世界で更に脳の未使用域を用いて思考加速をすると、まるでタールの海を進むかの如く緩やかになった肉体を思考に併せて肉体のリミッターを解除すると共に加速領域に入る。

 

 この奥義を教えられるのは印可状を与えられている者に限られ、本来の使い手は緒方家次期宗主であった緒方白亜のみ。

 

 その修得方法は仮死状態と成り走馬灯の経験をする事と、死に至る際に肉体が燃え上がり消える寸前の蝋燭の如く爆発的なリミッター解除が成される経験をする事。

 

 それを肉体が、脳が、意識と無意識が覚え込んでこそ初めて修得条件が整う。

 

 更にはピンク筋肉を極限にまで鍛え上げている肉体も相俟って、御神流の『神速』よりも可成り疾い超高速の奥義と成っていた。

 

 それこそ時間流に干渉する程に。

 

 但し、肉体に掛かる負担は『神速』に比べても篦棒(べらぼう)に高いし、脳に掛かる負担も可成り凄まじい事になるから多用は禁物でもある。

 

 【緒方逸真流】宗家刀舞術が奥義の型――『燦然勢界』は修得条件自体が『颯眞刀』と同じくで、つまりはこの二つの奥義は同時に修得をしなければならなかった。

 

 この奥義の真髄は未来()()

 

 予知ではなく予測、即ち周辺の視界に納められた世界の情報を高速で取得していき、在るべき敵の動きや周囲の状況を約数十秒に亘って予測し、闘いに応用をして優位に立てる状態を模索する。

 

「慈悲深いからな業の名前だけは教えてやるよ。【緒方逸真流】宗家刀舞術・印可の真奥――『絢爛舞刀』という」

 

 奥義と奥義を同時に発動して行う真なる奥義、つまりは真奥となる業の名は『絢爛舞刀』。

 

 奥義の『颯眞刀』で加速した思考により超速で『燦然勢界』による周辺情報の取得、複数思考で同時に精査をしつつ視界に在る世界の未来を予測して肉体的限界のリミッターを限界を超克しての解除、これにより天之河光輝がこれからやらかす事を事前に既知のモノとして準備万端に整えた。

 

 彼奴の腕に鈍く輝く見覚えのあるブレスレット――ライダーブレスの存在、ホッパーゼクターをも越えるであろう超高速戦闘を行えるモノ。

 

 其処から導かれる答えはカブティックゼクターによる仮面ライダーコーカサスへの変身であり、初めから腰に装着されたハイパーゼクターという装備である。

 

 ユートが戦闘の最中に辛そうな表情をしていた理由、奥義の一つ一つが脳に多大な負担を強いるからには真奥は更なる負担となるからだ。

 

 激しくも鈍い頭痛が常に纒わり付き、肉体的な限界を超克するから全身で冷や汗を掻きながらも激痛に耐えていた。

 

 抑々にして【緒方逸真流】の舞い手が肉体を鍛えるのも、この真奥を数秒でも僅か一秒でも長く維持する為のものである。

 

 まぁ、『舞う』という言葉の通り激しく肉体を酷使するからというのも有るのだが……

 

「お前が未熟で助かった。これが若しも原典での黒崎一誠だったら流石にどうにもならなかっただろうからな」

 

 仮令、異世界転生者殺し(チートスレイヤー)を名乗ろうと転生者と同じで貰った力を享受するだけな天之河光輝は、殺し合いをする戦闘者としては矢張り未熟も未熟でしかなかった訳だ。

 

 故にこそ、ユートからしたなら小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の方が余程に手強いと感じたのだろう。

 

「か、返せ……それは……俺の……」

 

「ぶぅわぁかめ! 天之河ガチャのSSRの景品、誰が返すかっての!」

 

「天之河ガチャ?」

 

「そうさ、お前がニャル子からアイテムを得れば僕に突っ掛かって来る。其処から剥ぎ取る訳だが獲ているアイテムは完全にランダムだからガチャって訳だよ。今回は『逆玉手箱』とか外れだったと思えばカブティックゼクターにハイパーゼクターだから。まさかの大当たり(SSR)ってな?」

 

 

「あ、嗚呼……」

 

 其処に浮かぶのは絶望なのか? それは余りにも屈辱的な科白であったのだと云う。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 

 天之河光輝本人は真剣に本気で全力全開を以て闘ってきた心算が、まさかのアイテムガチャ扱いをされていたのだから慟哭が凄まじい。

 

大当たり(SSR)記念に今回は生かしておいてやるさ、疲れたろうからさっさと寝るんだな」

 

 その辛辣な科白から全員が気付く。

 

 ユートが天之河光輝を生かしていたのは甘さや優しさ、況してやクラスメイトや幼馴染み達への配慮なんかでは決して無かったのだ……と。

 

 そしてユートも気付いている。

 

 此処では無い何処かの時空間であのニャル子はこの様子を観ており、ユートの一挙手一投足にて背筋を奮わせ熱くなった子宮を慰めるべく右手を御股に伸ばしているのだという事を。

 

 今頃はアヘ顔を晒して盛大に潮でも吹いている事であろう。

 

 ズキリと頭に鈍痛を感じると同時に全身を引き裂く様な痛みを感じる。

 

「くっ!」

 

「ゆう君!」

 

 優秀な治療師(ヒーラー)の香織がいの一番に飛び出すが、ユートは右腕を真っ直ぐ香織の方へ掲げて掌で制す。

 

「もうすぐ逆玉手箱の効果が切れる」

 

「そ、そうなの?」

 

 坂上龍太郎が天之河光輝を連れて行ったのを見定めると……

 

「もう一つ勘違いをしている」

 

 ニヤリと口角を吊り上げて呟く。

 

 カシャリと音が響いて香織が音源を視てみるとマゼンタカラーのバックルを持つベルト。

 

「ネオディケイドライバー?」

 

「これは僕の魂に在った力を女神の二柱によって喚起され具現化した物だ。つまり肉体に依存していないから今世も前世も前々世も関係無く使えるんだからな」

 

 姿が同じだから判り難いにしても確かに雰囲気が変わり、どうやら話している内に肉体が本来の姿に戻ったらしい。

 

「そして更に今一つ」

 

 代表して雫が引き継ぐ様に言う。

 

「光輝、あんたはあの場に居なかったから知らないでしょうが、私達はとっくに優斗が転生者だってのを知らされていたのよ。別に知りたくもなかった残酷な事実と共にね」

 

 香織と雫と此処に居ない愛子先生に至っては、オルクス大迷宮で知らされているのだ。

 

 蚊帳の外だった天之河光輝に憐れみすら覚えながら、今回の事件の解決に向けて動かねばならないのを誰もが億劫に感じているのだった。

 

 

.




『やれば出来るじゃないか天之河!』

 デスマーチで魔族が大怪魚――クジラを召喚した時のサトゥーの科白から。



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第六章:超越者
第89話:ありふれた宣戦布告


 原作からずれた展開……


.

 倒れた天之河光輝を部屋に連れて行って寝かせた坂上龍太郎が戻って来て、その手に持っていた物を申し訳無さ気にユートへと手渡してくる。

 

「緒方これ、要るんだろ?」

 

「ああ、サンクス坂上」

 

 渡されたのは金色のパーツが付いたカブト虫と鈍色のブレスレット、つまりこれはコーカサスのカブティックゼクターとライダーブレス。

 

 ライダーブレスはユートが造った物でも作動に問題が無いから無くても構わない、だけど下手に持たせていて優先権がこのライダーブレスの方に有ったら問題しか無い。

 

 取り上げるに越した事もあるまいと、ユートは有り難く受け取っておく。

 

「正直、あの莫迦に持たせていても碌な事にならないのは証明済みだからな。それとも坂上が使ってみるか?」

 

「否、俺はこいつのが合ってるわ」

 

 坂上龍太郎はスクラッシュドライバーを出して苦笑いを浮かべる。

 

「それじゃ、話し合いをしようか。リリィ――否、ハイリヒ王国の第一王女リリアーナ・S・B・ハイリヒ殿下」

 

「! そうですわね」

 

 胸が痛いのかギュッとドレスの胸元を握り締めながら応えるリリィ。

 

 此処からは第一王女として公的に話し合いへと応じなければならない、何故ならエリヒド・S・B・ハイリヒ国王が崩御しているからだ。

 

 若し万が一にもエリヒドが婿養子的な存在で、本来の王統がルルアリア・S・B・ハイリヒ王妃に有るなら、彼女が中継ぎの女王として君臨をしてランデル・S・B・ハイリヒ王子が成人をし、王位に相応しくなるまで動くという事も正当化がされるのだが、建国王の血筋は飽く迄もエリヒドが継いでいるのでその血筋たるリリィが陣頭に立たねばならなかった。

 

 ランデルが成人か、或いはリリィもまだ幼いのなら既に王族であるルルアリアが立つ正当性も有ったろうけど、血筋――こればかりはどうしようもない事である。

 

 今までは王女であり、次期国王がランデル王子だからと甘えていられたのだが……

 

 まぁ、本来なら実質的な婚約者が居たりするので肉体関係を結んだとか、王女としては迂闊にして有り得ない事をやらかしているリリィだけど、それはユートから誘ってきたのに応じた形だから見逃して欲しかった。

 

 流石に其処をユートがつついてくる事は無いと思いたいリリィ。

 

 広い会議室に集まる面々。

 

 王族の三人は幼いランデル王子も含めて全員が集まり、リリィの傍らには直属の騎士メルド・ロギンスと引き続きマグナモンも直衛している。

 

 見た目からして魔物か亜人かといった感じではあるが、宰相や貴族やルルアリア王妃達も何も言わないのはリリィが侍る事を許していたからと、騒ぎの中で間違いなくリリィを護っていたからに他ならない。

 

「さて、改めて自己紹介をしておこう」

 

 まるでユートが話し合いの主役の如く足組みをしながら椅子に座る、その姿には何故か王者たる風格が滲み出し漂っていた。

 

 この場の貴族達は基本的に政治にまで口を出す宮廷雀、そして伯爵以上の上級貴族とされている連中なだけに地位の高さに胡座を掻く。

 

 ハルケギニア時代に於けるトリステイン王国に【プロジェクト・ニューウェーブ】前までなら、極々当たり前なレベルで存在していたアホ貴族と何ら変わらぬ連中なだけに、ユートのリリィに対する態度……というよりは()()()()()()()()()()に眉根を顰めていた。

 

 抑々がこういった手合いは『俺は偉い、御辞儀をしろ』とか素で言い放てるくらい――否、寧ろするのが当然だと胸を張っている。

 

「僕の普段から使う名前は緒方優斗、○○高等学園の二年生。だけど本当の本当に正式な場所での名乗りは――緒方・ユート・スプリングフィールド・ル・ビジュー・アシュリアーナ。アシュリアーナ真皇国の真皇だ」

 

 ユートが名乗るとたっぷりと一分くらい沈黙が続いたであろうか?

 

『『『『『『『『ハァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?』』』』』』』』

 

 一応だが聴かされていたリリィや【閃姫】達は兎も角、知らなかった他のクラスメイト達や宮廷貴族の雀共や騒ぎの後で来ていたイシュタル教皇や護衛の神殿騎士達が軒並み叫んだ。

 

「あの、しんおうというのは?」

 

 ルルアリア王妃が恐る恐る訊ねてくる。

 

「聞いた侭だが? 真なるってのと皇帝の皇と書いて真皇だ。古代ベルカの諸王が争った戦争時代にはまだ小さなアシュリアーナ公国だったけど、今や一〇〇にも及ぶ領国を持つ国。戦時中に真なる王として民衆が真王と呼んでいたからその侭、アシュリアーナ真王国と改号をしていたんだよ。そして面倒な戦争をバックレて無人世界っつっても解らないだろうが、それらを幾つか開拓してから領国と定めた頃にアシュリアーナ真皇国と改号をして僕も真皇と成った訳だ」

 

「バックレたとは?」

 

「逃げた」

 

「え?」

 

「終わらない戦争、そしてロスト・ロギアは疎か大量破壊兵器まで出して地上も空も汚し始めて、聖王を頭に据える聖王連合国も【聖王のゆりかご】を持ち出して、意味の無い殲滅戦争の様相を醸し出していたからな。だからといって僕は何処かの世界みたく別世界に助けを求めるとか恥知らずな真似はしたくなかったからな」

 

 その瞬間に気色ばむ貴族や神殿側。

 

「ほう、我らが恥知らずだと?」

 

 イシュタル教皇は怒りを抑えた顔ながら明らかに不機嫌な声音で訊いてきた。

 

「自分達の世界の戦争に他の世界の人間を巻き込む事は恥知らずだと思うがね」

 

「おい緒方、言い過ぎじゃないか?」

 

 永山パーティのリーダーたる永山重吾が少しばかり言い過ぎに思い嗜めてくる。

 

「言っておくが永山、この世界に於ける種族ってのは地球で云えば肌の色の違い程度だ。人間主義も云わば地球での白人主義みたいなものでしかないんだよ。つまりトータスは地球に見立てて言うと米国と日本で戦争が起き、日本が不利になったから助けてくれと勇者とかおだてて異世界の人間を喚び出したって話だぞ?」

 

『『『『なっ!?』』』』

 

 驚いたのは永山重吾だけでなく、パーティメンバーやイシュタル教皇もだ。

 

「これが異世界から顕れた魔族が世界征服に動いたから救いを求めて……ならまだ納得もしたけど、単に他国と長年の戦争で不利になったからと言って異世界人を喚ぶとか、莫迦じゃないのか?」

 

 確かにユートの言った通りなら戦争そのものが云わば自業自得、確かにいつか人間族は亡んだかも知れないが同じ世界の同じ大陸の人種差別的な戦争で勇者召喚は何かが違う。

 

 異世界からの侵略者が相手ならまだ勇者というのも納得は出来るが、単なる他国との戦争で何が勇者だと云うのであろうか?

 

 まぁ、魔人族の現在の魔王はアルヴヘイトだから侵略者エヒトルジュエの眷属だけど。

 

「何より、コイツらに僕らを還す意志なんざこれっぽっちも有りはしない」

 

「それはエヒトって神様が確約した訳じゃ無いって話か? だけど神様とこの人達の意志はまた別なんじゃないのか?」

 

「永山、人間族と魔人族が何年くらい戦争をしていると思う? 数百年――百年のスパンで続けているんだ。数の人間と質の魔人族って感じにだが、最近になって魔人族は魔物を操る術を得て数での不利を覆した。だから勇者召喚として五〇人にも満たない異世界人をエヒトが喚んだ。だけど僅か三〇人か其処らの人間、しかもメルド元騎士団長の五倍程度の能力が精々の勇者だ。さて、戦争へと参加して果たして何十年を闘えば魔人族を滅ぼして還して貰えるんだろうな?」

 

「な、何十……年……だと?」

 

 愕然となるのは永山重吾だけではなくて、彼のパーティに所属するメンバーも衝撃を受けた。

 

「僕が居たから彼方に連絡が出来て生きている、或いは死んでいる事の確認が向こうも取れている訳だが、日本の法律では七年間を行方不明になると戸籍上は死亡扱いになる。況んや、何十年間も行方不明になっていたらどうだろうな?」

 

「うっ!? うう……」

 

「仮に一年間、連絡不通の侭に行方不明だったとして親兄弟は寝る間も仕事すら惜しんで捜していたんじゃないか? 目の下を隈を浮かべて仕事も何度か休んで、最終的に七年間も音信不通だったら諦めて遺体の無い葬式をして、心の整理を付けて社会復帰をしなければならないんだ」

 

「それは……」

 

「そして仮に五〇年後にエヒトが地球に還してくれたとして、君らは六七歳で祖父母は今は生きていてもきっと亡くなっている。親が四十代ならば九十代の老人だろうよ」

 

「うっ!?」

 

「言い過ぎ? 本当に?」

 

「……」

 

 遂にはぐうの音も出なくなってしまった。

 

「人によっては早くに亡くなってしまっていてもおかしくない。八十代処か七十代でも死ぬ人間は居るんだからな」

 

 誰もが黙りこくる。

 

「況してや我が子を意味不明で理不尽な神隠しで喪った、そのストレスから早死にしたとしたならどうなんだろうな?」

 

「す、済まない……俺が浅慮だった」

 

「まぁ、天之河なら御都合解釈で『一年以内には勝てるから大丈夫、皆は()()無事に地球へ還して見せるさ!』……とか、キランと歯を光らせながら言い放つのが目に浮かぶな。そしてそれをお前らが無意味に信じて戦争に突入か?」

 

 それは実に悍ましい未来である。

 

「む、無意味に……」

 

「実際問題、お前らが戦争に賛成したのは莫迦――天之河に唆されたからだしな。実に滑稽な見世物ではあったよ? こちとら左腕を叩き斬ってまで危険度の高さをアピールしたのに、勝って当たり前で途中退場なんて考えもしなかったろうが? まぁ、実際には半数を越える死者が出たがな」

 

 イシュタル教皇ら教会勢が余り良い顔をしてはいないが、それは手駒たる勇者(笑)の勢力が闘いたいと思わないと困るからだ。

 

 だけど下手に茶々を入れては自分の首を絞めてしまうのも理解している。

 

 ちょっと前にイシュタル教皇は凄まじいまでのまるで魂を絞られるみたいな激痛に苦しんだが、その後の報告からウルの街で愛子先生の護衛に出していた神殿騎士の一人がユートを異端と弾劾をしたらしく、それがイシュタル教皇の契約に引っ掛かってしまったのだと気付いたから。

 

 全く恐るべき事だ。

 

「滑稽な……か。きっと私達もそう思われていたんでしょうね」

 

「うう、そうだよね」

 

「はうう……」

 

 雫と香織と鈴も他人事ではない。

 

「さて、クラスメイトに関してこれ以上は何も言わない。死にたければ勝手に死ねば良いからな、天之河と一緒に魔人族との戦争に行ってくれ」

 

 暗に自分は戦争に関わらないと言っているのに等しい科白、だけどユートが言う『真皇』という発言を信じるなら下手な事は言えない。

 

 天之河光輝なら言うのだろうが……

 

「アナザーな中村に関してだが、此方で預かるから教会は勿論だが王国にも渡さない」

 

「なっ! 彼女はハイリヒ王国に甚大な被害を齎らせたんですよ!?」

 

「だからどうした? クゼリー団長」

 

「どうしたって……」

 

 絶句するクゼリー・レイル騎士団長。

 

 彼女はメルド・ロギンスが騎士団長を降ろされた後、本来ならホセ・ランカイド副団長が繰り上がるのを拒否して副団長で在り続けるのを選び、更なる持ち上がりで騎士団長に就任している。

 

 至って普通の感性の持ち主だった。

 

 騎士とはいえ、筋肉質とかではない極々普通な美人さんだから困らせるのは本意ではないけど、恵里アナザーに関しては王国に預けるとか況してや教会に渡すなどする気は無い。

 

 それに本来の()()を明かしたからにはユートとしても手加減など有り得なかった。

 

「貴方は、いったいどれだけの騎士が死んだと思っているのですか!」

 

「指示を出して死霊化したのは中村アナザーだろうが、殺しの実行犯は小悪党のリーダーだったと聞いている。奴はくれてやるから煮るなり焼くなり好きにしろ」

 

 それなりに美少女な恵里アナザーは欲しいとも思うが、檜山大介に関しては単なる軽戦士でしかない上に努力もしない男など御呼びでは無い。

 

 ハジメの様なタイプなら友達にもなりたいが、小悪党グループは必要が全く無かった。

 

「ですが!」

 

「くどい! 抑々、中村アナザーに対して騎士が何を出来た? 斃したのも捕まえたのも僕だが、クゼリー・レイル団長は何をしていた?」

 

「そ、それは……」

 

 クゼリー・レイル騎士団長は団長になってからの日も浅くて、騎士としてもメルド・ロギンスやホセ・ランカイド副団長より若くて新米でこそないにせよ、実力は有れど精神的にはまだまだな処があったのは事実。

 

 元仲間の死霊騎士を斬れずにいた。

 

 これが単なる魔物や魔人族であれば獅子奮迅の活躍を魅せたかも知れない、だけど仲間を殺るには覚悟が足りなかったという訳である。

 

「それでも、どうしても中村アナザーを寄越せというなら本命から済ましてしまおうか」

 

 ユートの科白に王族も貴族も教会勢も意味が解らないのか首を傾げていた。

 

 そんな彼らに彼女らに不敵な笑みを浮かべながら睥睨をするユート、それを真正面から見つめるリリィは完全に堕ちた女の貌で頬を朱に染める。

 

 はっきり云えばユートから何かを要求されたら簡単に呑むであろう。

 

「僕が真皇だとは伝えたな?」

 

「それがどうしました?」

 

「仮にリリアーナ姫が行き成りヘルシャー帝国に召喚されて、奴隷も同然の扱いを受けた場合にはハイリヒ王国としてはどうする?」

 

「勿論、そうなれば戦争になります」

 

「そりゃ、そうだろうな。国の威信に懸けてでも戦争をするか……或いは(こうべ)を垂れて尻尾を振るか」

 

「何が言いたいのです?」

 

 ルルアリア王妃は現在のハイリヒ王国の代表としてユートの話を聞くが、先の問答から何と無くではあるが気付いてしまう。

 

 他の貴族や教会勢は気付かない。

 

「ならばこの真皇を勇者召喚などと称して拉致ったトータスの人間族、取り分けハイリヒ王国に対してアシュリアーナ真皇国が宣戦の布告をしても問題は無かろうなぁ!?」

 

 ニヤァと嗤うユートに背筋から流れる冷や汗、ルルアリア王妃は今更ながらそれを自覚した。

 

 ユートが右腕を軽く曲げた状態で拳を自分自身の目前に掲げ、右手の人差し指を伸ばした瞬間る空間に広がるのはモニタ。

 

 地球組は知っているから驚きも無かったけど、トータスの貴族やイシュタル教皇らは驚愕に目を見開くしかない。

 

〔アシュリアーナ真皇国が第一王妃リルベルト・ル・ビジュー・アシュリアーナです〕

 

 其処には若く美しい女性が映っていた。

 

「だ、第一王妃ですか?」

 

〔別に珍しくはないでしょう? 貴国がどうかは知りませんが我が国には三人の王妃が居ます〕

 

「側室ではないのですか?」

 

〔確かに側室も居ますね。ですけど我ら王妃達はその意味が多少ですが違います〕

 

「違う?」

 

〔抑々、王妃も側室も真皇の性欲を抑えるというのは共通しています。ですが基本的に通常の国に於ける後継者を成す事は求められてはいません。真皇ユートが子を成し難い体質なのもそうですが何より、不老であり殺されない限りは死滅しない真皇とその妃という関係から後継者が居なくとも問題はありません〕

 

「ふ、不老!?」

 

 最近では三四歳ともなれば御肌の曲がり角を気にする年頃なルルアリア王妃、不老とは女としては謂わば天啓にも近いパワーワードとなる。

 

 貴族達も年齢からしたらルルアリア王妃よりも上の者ばかり、小皺処か深く刻まれた年輪が気になる四十路や五十路ばかりの法衣貴族達。

 

 特に七十代であろうイシュタル教皇は鋭く目を光らせていたが、いずれにせよ男には恩恵に与れないから無意味だ!

 

〔私達、真皇ユートの王妃や側室は【閃姫】と称されます。そんな私達は不老で不滅に近いユートと歩むべく寿命が彼と共有化をされるのですよ。そしてユートに寿命は有りません〕

 

 ユートに老いの概念は無く、死にはしても魂が再び転生する形で復活をするから直に魂を滅されない限りは不滅、【閃姫】や萌衣奴はそれに合わせる形で不老に成っている。

 

 処女をユートに捧げてない【半閃姫】もそれは変わらない。

 

〔さて、四方山話しはこれくらいにしましょう。我らアシュリアーナ真皇国は真皇を拉致して戦争に送り込んだとして、貴国――ハイリヒ王国及びに聖教教会とヘルシャー帝国の人間族へ宣戦布告を致します。真皇ユートからもその旨は通達をされていますね?〕

 

 宣戦布告の理由としては真っ当であろう。

 

「ホッホッ。私は聖教教会の教皇を務めておりますイシュタル・ランゴバルトと申します」

 

〔そうですか。それで?〕

 

「宣戦布告とは言っても別の世界にいらっしゃるであれう王妃殿下が、果たしてこのトータスへとどうやって渡ると云うのですかな?」

 

〔ああ、成程。随分と余裕そうにしているのだと思ったらそんな事ですか。真皇ユートを起点にして既に此方ではそちらの世界の座標は掴んでいますから、後はアシュリアーナ機甲師団を向かわせるだけの簡単な御仕事ですよ〕

 

 イシュタル教皇が目を見開く。

 

「アシュリアーナ機甲師団ですかな?」

 

〔ええ、言っても理解が及ばないかも知れませんが時空管理局の次元航行艦に優るとも劣らない、そんな()()航行戦艦を師団クラスで保持していますからね〕

 

 次元の海を航る艦を時空管理局は保持するが、アシュリアーナ機甲師団が使うのは時空航行戦艦という、時空の壁を越えて次元の海を航る戦艦というカテゴリーとなる。

 

 つまり初めから平行世界を往く事を前提にして建造され、闘う事を前提に設計が成されている艦だから戦争も当然ながら視野に入っていた。

 

 時空管理局の艦は戦闘力が皆無とは云わないのだが、普段は外してさえいるアルカンシェルという主砲以外に大した武装は付いてない。

 

 ユートの機甲師団の戦艦は量産型にクリスマス級万能戦闘母艦――エア・クリスマスではない――を用い、旗艦には衛星型超弩級戦闘母艦といって惑星型超々弩級母艦・星帝ユニクロンのダウンジングサイズされた物を使っている。

 

 尚、弩級戦艦とは英国にて単一口径巨砲による武装と蒸気タービンによる高速で、大きな衝撃を齎らした【ドレッドノート】の事を指しており、弩級の『弩』はドレッドノートの『ド』の当て字でしかなく、現在では『大きい』という意味合いに使われる事が多い。

 

 因みに衛星型超弩級戦艦母艦はユニクロンではなく、サイバトロンの総司令官コンボイの姿へとトランスフォームをする。

 

 また、惑星モードで全長が四万kmのユニクロンに比べて衛星モードの此れは僅か? 四千kmでしかないからユニクロンよりは高速で宇宙やら次元の海を進むだろう。

 

 転移機能も装備しているし。

 

〔だから安心して待っていなさい。我らが真皇を拉致した報いは必ず受けて頂きますから〕

 

 リルベルトは空恐ろしい事を言う。

 

 召喚をしたのは『エヒト様』かも知れないし、ユートも自分の身分を明かしてはいなかったとはいえ、享受をしてやらかした事に違いは無いから『言い掛かり』とは言えたものではない。

 

「くっ、すぐに彼らを拘束しなさい!」

 

 異端云々以前に神敵と判断、イシュタル教皇はユートとその仲間を拘束する様に命じた。

 

「成程、先に僕らを拘束しようという訳だな? 宜しい……ならば戦争だ!」

 

 拘束するならするだけの力が要る。

 

「中村アナザー、使え」

 

 ユートが投げ渡したそれをキャッチ。

 

「使えるのかい、()()は?」

 

()は要らない」

 

「成程ね、ならば!」

 

 恵里アナザーはバッとそれを手にした腕を前へと突き出し……

 

「変身っ!」

 

 腰に装着されたVバックルーオルタナティブーのソケットへ装填しながら叫んだ。

 

 変身した姿は漆黒を基調としたアンダースーツにアーマー、幾らか金のラインがアクセントとして入ったオルタナティブ・ゼロ。

 

 コウロギ型ミラーモンスターのサイコローグと契約した仮面ライダーとは似て非なる存在(オルタナティブ)

 

「クスクス、オルタナティブ・ゼロとは皮肉が利いてるじゃないか」

 

《STRIKE VENT!》

 

 右腕に装着された鈍色のスラッシュバイザーに【ストライクベント】のカードをベントインし、中空からパッと顕れたスラッシュダガーを手にすると嗜いながら刃の部位を肩に乗せる。

 

 見た目は普通にオルタナティブ・ゼロだけど、身体のラインが何処か女性を思わせる姿だ。

 

 そして雫がサソード、香織がリューンに、鈴がタイガに、ユエがサガに、シアがザビーに、ティオがリュウガに、ミレディがバルカンに変身。

 

「ぼ、僕はどうしたら?」

 

「リクも人間サイズで変身しろ。殺せないならば殺す必要は無いから自分を護るんだ」

 

 ウルトラマンの手前だから殺戮はしない。

 

「わ、判った! ジーッとしてても、ドーにもならねーっ!」

 

 リクは腰のホルダからウルトラカプセルを取り出してスイッチを上げる。

 

 その絵柄はウルトラマンゼロ。

 

You go(融合)!」

 

 ウルトラマンゼロの叫びが聴こえた、そして次にウルトラの父のカプセル。

 

「I go!」

 

 スイッチを上げるとウルトラの父の叫び。

 

 カプセルを順次、黒いナックルにセットをしたらジードライザーで読み込みを開始する。

 

「Here we go!」

 

 スキャンされていくカプセル。

 

「守るぜ、希望!」

 

 右手に持つジードライザーを胸元に。

 

「はぁぁぁぁぁ、はっ!」

 

 トリガーを押し込む事で起動させた。

 

《FUSION RIZE!》

 

 勇者王ボイスが響き渡る。

 

 ジードライザー中央に填まるシリンダー内では赤と青の輝きがスパイラルしている、その内部で光る形状はまるで遺伝子の形状を表しているかの如くであった。

 

「ジーーィィィィィィィッドッッ!」

 

《ULTRAMAN ZERO!》

 

《ULTRA NO CHICHI!》

 

《ULTRAMAN GEED……MAGNIFICENT!》

 

 ウルトラマンジード・マグニフィセント……今回は人間サイズで変身だ。

 

 はっきり云うと教会の神殿騎士やハイリヒ王国の近衛騎士達、彼らが出来たのは仮面ライダーやウルトラマンに蹂躙される事だけ。

 

 だから決断する者も居る。

 

「ユートさん!」

 

「どうした、リリィ?」

 

「私は……ハイリヒ王国の第一王女リリアーナ・S・B・ハイリヒは個人的に投降致しますわ」

 

「了解、投降を認めよう」

 

 国として敗北を認めるのではなく個人としての投降、然しながらルルアリア王妃もランデル王子もイシュタル教皇もクゼリー・レイル騎士団長も驚愕して目を見開いてしまう。

 

「リリアーナ、どういう心算ですか?」

 

「あ、姉上!?」

 

「リリアーナ姫、異端にガハッ!? ぐ、神敵に屈するのですかな!?」

 

「姫様!」

 

 だけどリリィは涼しい顔だ。

 

「正直、勝てる見込みも無い戦をしても意味が有りませんし……この身を捧げた殿方と争うだなんて嫌ですもの」

 

 ポッと頬を染めて爆弾発言をする。

 

『『『『『ハァァァッ!?』』』』』

 

 まさか娘が、姉が、支配国の姫が、自国の姫が男と姦通してますとか驚くしかないだろう。

 

「リリアーナ! 貴女はヘルシャー帝国のバイアス・D・ヘルシャー皇太子殿下と実質的な婚約をしているのよ!?」

 

「正直に申しますと御母様、バイアス殿下に身を捧げるなんて悍ましいとしか思えませんわ」

 

 とんでもない暴言であり暴挙で、本来であれば王族の務めを果たさない事にユートは難色を示すであろうが、既にリリィはユートのモノであるからには文句などあろう筈が無い。

 

「ですので私は投降致します」

 

「という訳でリリィは戴いて行く!」

 

 両拳を打ち合わせると翠玉の如く輝きが迸り、ウルトラマンジードが大きく左右に広げるて虹色に輝く光子エネルギーがチャージされる。

 

 両目が発光して腕を逆L字型に構えると強力な光波熱線を照射した。

 

『ビッグバスタウェイ!』

 

 放たれた光波光線で壁に大穴が空いて、其処からユート達は離脱をしていく。

 

「く、逃げられたか!」

 

 悔しげなクゼリー・レイル騎士団長。

 

 しかもどさくさに紛れて永山パーティが居なくなり、リリィのメイドたるヘリーナとニアは疎かメルド・ロギンス元騎士団長まで居ない。

 

 誰も確保が叶わず力の差を見せ付けられただけの初戦、イシュタル教皇も含む誰もが苦々しい思いをさせられただけの(いくさ)だったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「良かったのか、坂上?」

 

「ああ、構わねぇよ。光輝の奴は俺が説得をしてみるしな」

 

「救えるとは思えんがね」

 

「最後まで足掻いても駄目なら兎も角としてよ、それまでは諦めたくはねーんだ」

 

「判ったよ、好きにしろ」

 

 気絶中の天之河光輝は相変わらずトレーラー内に押し込み、取り敢えずの仲間になる事を決めた坂上龍太郎という図となる。

 

 当たり前の様に要らない子でしかないからと、檜山大介の事は城の方に置いてきた。

 

「これから愛子先生が居る筈のウルの町に行ってお前らを保護して貰う」

 

「わ、判った」

 

 永山パーティとどさくさに連れてきた清水幸利は愛子先生に預ける心算だ。

 

「これで完全にともいかないがハイリヒ王国からクラスの連中を離せたな」

 

 いちいちハイリヒ王国の王都に戻るのもそろそろ面倒臭いし、生き残りの全員を愛子先生に預けてしまった方が一ヶ所に集中されていて良い。

 

「それで、ユートさん」

 

「どうした? リリィ」

 

「これからの方針としてはどうなさるのか考えていらっしゃいますか?」

 

「既に戦端は開かれた。ハイリヒ王国とは戦争をする事になるな」

 

「そうですか」

 

 矢張り投降はしたものの、故郷との戦争というのは嬉しくないらしい。

 

「どうせ戦争は避けられんよ」

 

「それは貴方を……アシュリアーナ真皇国といいましたか? その真皇を攫ったからですね」

 

「そうだ。幾ら真皇が実は最強戦力で、その気になればハイリヒ王国は疎かヘルシャー帝国やフェアベルゲンやガーランド魔国が合力しても亡ぼせる力を持とうと、国の威信ってやつを考えるなら国として戦争をしなければならない。仮令、連中が僕の身分を知らなかったにしても……だ」

 

「……はい」

 

「最良はそうなる前に僕が自発的に帰る事だが、何しろバカ之河が事ある毎に邪魔をしてくれたからな。すっかり遅くなってしまったよ」

 

「つまり、半分は光輝さんの所為ですか」

 

「そうなるな」

 

 自発的に帰れば彼女――リルベルト・ル・ビジュー・アシュリアーナも態々、平行世界間で戦争をしたりはしなかっただろうけど。

 

 尚、アシュリアーナの姓は此方側で普通に付いていた公国時代からのものである。

 

 別に古代ベルカで王族が国の名前を背負う事は余り無かったのだが……

 

 実際にクラウスがシュトゥラの姓を名乗ったりはしていないし。

 

「まさか連中も()()処か生き残り全員が居なくなるとは思わなかったろうな」

 

「世界さえ滅ぼせる無能……ですか」

 

「奴らが僕やハジメを無能認定していたんだし、それで文句を言われる筋合いじゃないな」

 

「南雲さん……でしたね。彼は何処に?」

 

「ライセン大迷宮はクリアしたみたいだからな。ブルックの町に中村と宿に泊まっている」

 

「本物の恵里ですか?」

 

 其処に恵里アナザーが膨れっ面で言う。

 

「ボクが偽者みたいな言い方はしないで欲しい。平行世界とはいえボクも中村恵里だよ」

 

「あ、済みません」

 

 流石に悪いと思ったのか謝る。

 

「そういえば中村アナザーという呼び方もちょっとアレだよな」

 

「此方のボクを中村って呼んでいるんならボクは恵里で良くない?」

 

「それが妥当か」

 

 或いは恵里が近くに居る間は偽名を使うか? といった処か。

 

 取り敢えず此方の世界の恵里はその侭で良いとして、表記上だと恵里アナザーは基本的に恵里"で往くのが決まった瞬間でもある。

 

「で、ボクの扱いはどうなるのさ?」

 

「萌衣奴」

 

「メイド?」

 

「言ったろ? 萌える衣を纏う奴隷」

 

「つまり役割は性奴隷みたいな?」

 

「基本的にやるのは僕の世話係。御早うから御休みまでな」

 

「料理とか苦手なんだけどな」

 

「嫌でも覚えて貰う。ヘリーナやニアに教えて貰うんだね」

 

「はぁ、判ったよ」

 

 流石に性行為だけが仕事ではない。

 

「それと、中村には仮面ライダー王蛇のデッキを渡しているから恵里にはオルタナティブのデッキを渡した訳だが、ある程度は使い熟せる様になって貰うからな」

 

「了解したよ」

 

 疑似ライダーと云えるオルタナティブ・ゼロの訓練も恵里"に追加された。

 

「あの、ユートさん」

 

「何だ?」

 

「戦争に勝つのは既定事項としまして、終わった後で御母様とランデルはどうなりますか!」

 

「普通なら旧体制のトップの血は絶やすべきだ。まぁ、とはいえリリィが生きているから血は残ってしまうけどな」

 

「絶やす……」

 

 青褪めるリリィ。

 

「どうにかなりませんか?」

 

「ルルアリア王妃にはそうだな、まだ三四歳と若いんだから情婦にでもなって貰えば良いだろう」

 

「じょ、情婦……」

 

 青褪めていたのが一転して紅くなった。

 

「母親だけあってリリィとはよく似ているしな。そうだな……先ずはリリィとの母娘丼をたっぷりと味わって、それからエリヒドに抱かれる前にまで年齢を遡らせて、リリィと同じくらいにしてから処女を戴かせて貰おうか」

 

「……え? そんな事まで出来るのですか?」

 

「可能だ。実際に五九歳だったプレシア・テスタロッサを結婚前までに若返らせたし、四葉真夜も三〇年くらい前の変な実験やら何やらで子を成せない身体にされる前にまで戻したしな」

 

 四葉真夜は一二歳くらいになったけど。

 

 どちらも処女にまで戻されてから改めて彼女らはその処女をユートに散らされた訳である。

 

 勿論、肉体が戻ったからといって精神的に視れば初めてな訳では無いのだが……

 

「ルルアリアは王家の血筋じゃないからそれでも良いけど、さてランデルはどうしたもんかね? 敵性国家の王太子というか餓鬼とはいえ王と言っても過言じゃないからな。例えば斬首くらいしないといけなくないか?」

 

「ざ、ざん……」

 

 気を失いたくなるワード。

 

「はぁ、去勢した上での蟄居で許そう」

 

「去勢? 蟄居?」

 

 どうやら謹慎は兎も角として、去勢や蟄居という概念はこのトータスには無かった模様。

 

「去勢は要するに男のモノを切り落とすんだよ。これで奴の遺伝子が拡散する事は無くなるから。それから蟄居ってのは一室に閉じ込める刑罰だ」

 

「そ、そうですか……」

 

 譲歩をされたのだからこれ以上は我侭であると理解してリリィは口を閉じた。

 

 去勢されれば男としては死んだも同然であり、蟄居させれば漢女化はしないであろう。

 

 何故だかリクを含む男共がJr.を庇っていたし、Jr.を切られては将来的に困るからかなのか辻 綾子が野村健太郎の前に然り気無く出て、彼のJr.を護ろうとかしてきていたりする。

 

「僕はどうしようか?」

 

「リク、ゼロはまだ来なさそうか?」

 

「うん、ちっとも音沙汰が無い」

 

「だったら特に戦争に参加する必要は無いから、ブルック辺りで冒険者を続けるのはどうだ?」

 

「良いの? 僕のジードの力を貸さなくて」

 

「要らん要らん。抑々、リルが衛星型超弩級戦闘母艦を持ってきた時点で無人機の戦力が数十万なり有るからな」

 

 手をパタパタ振りながら笑う。

 

 四千キロというユニクロンの一〇分の一程度の全長、当然ながら艦や機体が戦力として収用がされている上に戦闘力も居住性も抜群な艦。

 

 無人機はクストースやジンライなどを戦力化、他にもカリオンやアステリオンなどを量産化したのを配備、ゲシュペンストMkーⅡなども戦力として置いているから何も問題は無かったと云う。

 

 

.




 一方的理不尽に対して一方的理不尽を突き付けた形になります。




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第90話:ありふれた戦争

 休みのお陰で何とか書けました。





 

 閨の中での一時を済ませてから後の会話の最中にリリィは訊ねたい事を口に出す。

 

 金髪に碧眼というオーソドックスなお姫様といったスタイルのリリィは、これはこれで魅力的な女の子として映るからかユートは優しくした。

 

 父親を亡くして国を攻められて、更には母親が情婦に堕とされ、弟が大事な部位を切り落とされた上で生涯幽閉という家族が大変な事になるのが確定してしまい、リリィはユートに甘えに甘えまくる事で逃避をしたくなっても仕方がない。

 

 実際、先程まで愛を囁かれながら全身全霊にてユートに御奉仕をしていたのだ。

 

 お姫様が従順に御奉仕をするというシチュエーションだけでもそこそこに滾るけど、それなりの美少女だというのも下半身に血が集まるもの。

 

 結果、たっぷり可愛がった。

 

「あの、ユートさん」

 

「どうした? またランデルやルルアリアの事を物申す心算かな? だとしたら僕のJr.でその可愛らしい口を塞いでしまうぞ」

 

「真面目に話したいのですが……」

 

「言ってみ」

 

「はっきり申しまして、御母様やランデルに対する処遇にはもう何も言いませんわ。敵対するからには敗けた時のリスクも背負うものですものね。御母様はユートさんの肉奴隷、ランデルは一生を童貞で引き篭りになれ……というのも致仕方がないのでしょう。それに私が居ればハイリヒ王家の血が絶える訳でもありませんから」

 

「まぁ、僕とヤりまくって子を成さないと絶えるんだけどな」

 

 それを聞いて真っ赤になるリリィ。

 

 ユートは性欲旺盛でJr.は長くて太くて硬いという逞しさに滾り、肝心の精子は無限リロード可能で精液はどれだけ射精しようが尽きる事が無い、そしてエロゲ主人公も真っ青な凄まじい量を一発一発で出せる。

 

 反面、妊娠はし難いとかある意味で都合の良い体質をしているのだけど、いざ子を成したいとか考えても中々妊娠をしないのも困りものだ。

 

 これを越えて妊娠をする手段は二つ。

 

 一つはハルケギニアの時代にイザベラ・マルテス・ド・ガリア王太女を妊娠させた方法、只管に寝食も忘れて一ヶ月ばかりヤりまくるという事。

 

 今一つはユートとセ○クスをする前後で優雅の精子を受け容れる事である。

 

 簡単なのはユートと女と優雅で3Pをしてしまえば一〇〇%の確率で孕む――とはいえど、普通の感性では同じ顔が相手でもそれには抵抗を感じてしまうものだけど。

 

 最初に確かめた相手はエリカ・ブランデッリ、草薙護堂がやらかしてしまって彼女も共犯者故に同罪として、草薙護堂の遺伝子を拡散しない為に養子とするべくエリカがユートの子供を産む事になった為、さっさと孕ませるべくこの手段を取ったら一夜の行為であっさり妊娠した。

 

 因みにユートが3Pの相手である必要は無く、他の男女でも優雅が割って入れば孕む。

 

 その代償か優雅は絶対に子を成せない。

 

 どれだけヤろうが3P以外では妊娠しないし、遺伝子は飽く迄も優雅のモノではないのだ。

 

 故にリリィが選ぶのは前者で、只管にユートとヤりまくって妊娠をするしかなかった。

 

「あの二人じゃ無いなら何の話だ?」

 

「例えばクゼリーはどうなりますか?」

 

「僕が斃したら普通に肉奴隷化だろ」

 

「ですよねぇ」

 

 強姦は好まないユートも、闘いの果てに勝利をして相手が女性ならば無理矢理にヤる。

 

 蛮行ながら戦場の倣いでもあった。

 

 勿論、それは闘った相手のみの事で無辜の民を襲うのは許さないが……

 

「他の騎士達ですが」

 

「殺すなと?」

 

「出来ましたら。それに万が一にも全滅してしまったら統治にも差し障りますし」

 

「一度だけだ」

 

「……え?」

 

「一度だけ非殺傷設定で斃してやる。だけど次に戦場へと出てきたら二度目は無い」

 

「充分ですわ!」

 

 感極まったリリィはユートに抱き着き、それでも滾った事でまた抱かれて気絶させられた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 宣戦布告から数日後……

 

「な、何だあれは!?」

 

「莫迦な!」

 

「月が増えただと!?」

 

 空に浮かぶ新たな月にトータスの人間族も魔人族も驚愕する事になるが、フェアベルゲンの亜人族は予め聞いていたから驚きも薄かった。

 

 スターモードで全長四〇〇〇kmという巨大さを誇り、トランスフォームして全高九〇〇〇kmという巨人の姿を取る【星帝ユニクロン】の完全に一〇分の一スケールだ。

 

 衛星型超弩級万能戦闘母艦ダイコンボイ。

 

 名前の由来はダイナミック・ゼネラル・ガーディアン一号機の『ダイゼンガー』。

 

 トータスの人間では衛星軌道上に浮かんでいるダイコンボイには攻撃が叶わず、此方側は一方的に戦力をハイリヒ王国へと送り込める訳だ。

 

 宣戦布告をしたし戦争だとユートは言ったが、何の事は無い――これは高度な文明を持つユートと剣と魔法という、原始的な闘い方しか知り得ない存在に対する蹂躙劇にしかならない。

 

 イーグル、シャーク、パンサーの姿を模してる機体がバラバラと王都の近くの草原に降り立ち、忍者みたいな出で立ちの機体が更に降りてきた。

 

 【クストース】――ラテン語で『守護者』を意味する名称で、αナンバーズが付けたものであるから正式な彼らの名称ではない。

 

 イーグル型が『カナフ』。

 

 シャーク型が『ケレン』。

 

 パンサー型が『ザナヴ』。

 

 正確にはオリジナルではなき量産型(アフ)である為、草原にカナフが千、ケレンが千、ザナヴが千という総計で三千にも及ぶクストースが居る。

 

 忍者型は『ジンライ』といい、ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン三号機の設計図から造られたという曰く付きの機体。

 

 中忍なジンライは後に『雷鳳』に改造されているが、量産機たる下忍なジンライを幾つかユートが鹵獲して解析後に流用している。

 

 この場に居るのは対人用にダウンジングサイズされた約三mの機体だが……

 

 元々がクストースはユニクロンの護衛機という仕事をさせるが、ジンライは人型だからサイズを変えて様々な場所で戦闘以外に活躍していた。

 

 正しく見た目通りの忍者だ。

 

 とはいえ、勇者みたいな超AIによる意志までは持たない命令に従うだけの人形でもある。

 

 王国騎士達や神殿騎士は驚くしかない。

 

 てっきりあの数人の神敵が相手だと思ったら、自分達に匹敵する数の金属の塊なのだから。

 

 轟龍改に雷虎改という鋼機人やアステリオンにカリオンにゲシュペンストMkーⅡ、どれもが本来の巨体ではなく三m級にダウンジングサイズされている対人用AI制御の機体達。

 

 当然ながら勇者(笑)が『こんな闘い方なんて汚ないぞ、もっと正々堂々と闘え!』とか、ずれた事を言ってきたが『これが僕らの戦闘方法だ』と言って取り合わない。

 

 時空管理局がアシュリアーナ真皇国に対してのアクションをしない理由、それが管理局と無関係だから扱える質量兵器――正確には魔導兵器だが――を平然と使ってきて今までに何度も煮え湯を飲まされてきたが故。

 

 各領国に守護鋼人としてこれらや龍人機などが存在するし、各領国の衛星型超弩級万能戦闘母艦の前にその世界へ入る事すら出来なかった。

 

 ユートのアシュリアーナ真皇国は無人世界という未開拓世界を開拓したモノ、当然ながらそれは六〇〇年前の古代ベルカ時代から行ってきたから高々、二〇〇年未満の歴史しかない時空管理局がどうこう言う権利は何処にも無い。

 

 寧ろ、歴史を変えない為に時空管理局の設立を赦してやったのだから感謝して欲しいもあのだ。

 

 因みに本来の世界線ではルーテシア・アルピーノの流刑地となった第三四無人世界マウクラン、其処も普通に現在ではアシュリアーナ真皇国による領国とされている。

 

 防衛戦力に無人機を使うのは味方側の人死にをなるべく防ぐ為だが、兵士が不要な訳ではないから雇用問題などの解消も含めて採用していた。

 

 そして始まる戦争という名の蹂躙。

 

《ZEROーTWO DRIVER!》

 

 ヒデンリンカー02が伸長して装着。

 

「僕らも始めようか」

 

 カシャッとバックルのゼロツーリベレーターを展開させる。

 

《LET’s GIVE YOU POWER!》

 

 ユートが装着したのはいつものゼロワンドライバーではなくゼロツードライバー、使用するキーも新たなゼロツープログライズキーである。

 

《LET’s GIVE YOU POWER!》

 

 リリィばかりではなく、雫や香織や鈴やユエやシアやティオやミレディやヘリーナやニアといった面々、そして恵里アナザー改め恵里"ともたっぷり愛し合ったユートだったが、数日間をセ○クス漬けで爛れた日々を過ごしてきた訳ではなくて、ゼロツードライバーやゼロツープログライズキーを製作してもいたのだ。

 

《LET’s GIVE YOU POWER!》

 

 因みに初めてだった恵里"だけど【閃姫】枠ではなく萌衣奴な為、優しく初めてを散らせるなんて事は無くて媚薬を大事な部位に塗り込み、大の字で磔にしてから代わる代わる他の娘との交わりを見せ付け、自慰をどうやってもヤれないで濡らすばかりの状況で完全にデキ上がった状態で磔にした侭で初めてを貫くとか外道な事をしている。

 

《LET’s GIVE YOU POWER!》

 

 悪魔の所業ながら一番最初の激しい痛みの後は何度もイカされ、【閃姫】枠なら回数も加減するのに萌衣奴枠だったから二〇発はイカせたしイッた為にすっかり虜だった。

 

《LET’s GIVE YOU POWER!》

 

 平行世界とはいえ親友の鈴と百合行為をヤらされたし、しかも鈴は雫と香織のコンビの百合行為が羨ましかったのか恵里との百合行為は、正しくそっちの気があったんじゃないか? と思うくらいに情熱的に愛し合っていたりする。

 

《LET’s GIVE YOU POWER!》

 

 元の世界では殺し合った仲でもあるのだけど、まさか平行世界で愛し合うとは思うまい。

 

《AUTHORIZE》

 

 オーソライザーにセタッチ。

 

《ZEROーTWO JUMP!》

 

 ライズスターターを押してプログライズキーの展開をさせると、顕れた黄色と赤色の飛蝗型をしたライダモデルが地面を縦横無尽に飛び回る。

 

「変身っ!」

 

 ゼロツースロットへ装填。

 

《ZEROーTWO RIZE!》

 

 ライダモデルと一体化。

 

《Road to glory has to lead to growin'path to change one to two!》

 

 紅い腕。

 

《KAMEN RIDER ZEROーTWO!》

 

 首には紅いマフラーを模したクォンタムリーパーとゼロツーストリーマ。

 

《IT's NEVER OVER!》

 

 紅いゼロツーアンテナに、紅い複眼のゼロツーアイといった具合に紅が加わっている。

 

「仮面ライダーゼロツー、それが僕の名だ!」

 

 一応は最終フォームな仮面ライダーゼロツーに変身したユート。

 

 そして続く仲間達も変身を開始。

 

「変身っ!」

 

《HENSHIN!》

 

 雫が仮面ライダーサソードのマスクドフォームに姿を変える。

 

「キャストオフ!」

 

《CAST OFF……CHANGE SCORPION!》

 

 ガチャガチャとオーバーアーマーが開いて弾け飛ぶと、紫色を基調とした翠の複眼を持った剣士――仮面ライダーサソード・ライダーフォームに。

 

「ハイパーキャストオフ!」

 

《HYPER CAST OFF》

 

 それは蠍の形をしたハイパーゼクターであり、カブト虫を模した物はハイパーカブトとハイパーガタック用としていた。

 

《CHANGE HYPER SCORPION!》

 

 パーツが増設されたりしたが全体的にサソードの面影は充分残る、これが雫に渡したパワーアップツールの変身となる仮面ライダーハイパーサソードである。

 

「変身!」

 

 リューンバックルのスリットへラウズカード――【チェンジリューン】を読み込ませる香織。

 

《CHANGE!》

 

 カリスとは逆に白を基調とした仮面ライダーリューンに変身し、更なるラウズカードを取り出して本来はカリスに存在しないラウズアブゾーバにカードを装填。

 

《ABSORB QUEEN!》

 

 次にノイントを封じたラウズカードをリードしてやる。

 

《EVOLUTION KING!》

 

 銀色に金色のラインが入る翠の複眼を持っているワイルドカリスっぽい姿、それでいてブレイドみたいなクレストが全体に付いているその姿とは即ち仮面ライダーリューンキングフォーム。

 

「変身っ!」

 

 Vバックルにカードデッキを装填、仮面ライダータイガとなった鈴は更に【サバイブー疾風ー】を手にする。

 

《SURVIVE!》

 

 疾風と共に顕れたるは元の物が巨大化したみたいなデストバイザーツヴァイにセットをすると、全体的に暴風によって包まれていく仮面ライダータイガの姿が大きく変貌。

 

 仮面ライダータイガサバイブに。

 

 萌衣奴枠とはいえ恵里"も闘うべくカードデッキをVバックルに装填。

 

「変身!」

 

 速やかにオルタナティブ・ゼロに変わる。

 

「力を貸せ、蝙蝠モドキ!」

 

『良かろう……ガブリッ!』

 

 ベルトがユエの腰に装着され、新たに与えられたキバットバット二世――【闇のキバの鎧】だ。

 

「変身!」

 

 つまり、仮面ライダーダークキバ。

 

「変身っですぅ!」

 

《HENSHIN!》

 

 シアもザビーゼクターをライダーブレスへ嵌め込んで、仮面ライダーザビーマスクドフォームの姿に変身をする。

 

「今回は見せ場の一つなので普通にやるですぅ、キャストオフ!」

 

《CAST OFF……CHANGE WASP!》

 

 ザビーゼクターを一八〇度回転させる事によりオーバーアーマーが弾け飛んだ。

 

「ハイパーキャストオフ!」

 

《HYPER CAST OFF》

 

 左腰に装着した蜂型のハイパーゼクターの謂わばスイッチを入れる。

 

《CHANGE HYPER WASP!》

 

 増設されたアーマーに光の羽根を持つ強化された仮面ライダーハイパーザビーが、ブンブンッと右手に持ったアイゼンⅡを振り回していた。

 

「変身っ!」

 

 ティオもVバックルにカードデッキを装填して仮面ライダーリュウガに成る。

 

《SURVIVE!》

 

 【サバイブー烈火ー】のカードの効果を受けて、ブラックドラグバイザーが炎と共に新生。

 

 ブラックドラグバイザーツヴァイに変化をして炎を巻き上げながら、Vバックルに装備されているカードデッキも単なる黒から、黒曜石の輝きを放ちその姿は仮面ライダーリュウガサバイブへと進化をしていた。

 

 ミレディがライズスターターを押す。

 

《RAMPAGE BULLET!》

 

「暴れちゃうよ~」

 

 アサルトグリップをユートが使っていたから、ミレディにはアサルトウルフを経由せずに更なる進化形態のアイテム――ランペイジガトリングプログライズキーを渡してある。

 

《ALL RIZE!》

 

 装填されたプログライズキー。

 

《KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER……》

 

「変身!」

 

《FULL SHOT RIZE!》

 

 引き金を引いて放たれる一〇発のSRダンガーと内包されたライダモデル達。

 

《GATHERING ROUND!》

 

 放たれたSRダンガーが狼のライダモデルと共に戻ってきたのを正拳突き。

 

 ミレディの右腕が仮面ライダーのものに。

 

 更に一〇ものSRダンガーがミレディに襲い掛かるかの如くぶつかり、それらも仮面ライダーの形態へと変化をしていった。

 

 そして全てのライダモデルがミレディへと戻るとパーツとなり装着される。

 

《RAMPAGE GATLRING!》

 

 完成された仮面ライダーランペイジバルカン、それは鮮やかなる蒼を基調にする青い複眼を持つ左右非対称の姿。

 

《MAMMOTH CHEETAH HORNET TIGER POLARBEAR SCORPION SHARK KONG FALCON WOLF!》

 

 それは一〇の動物のデータから成るてんこ盛りなフォーム、まるで動物園の如く仮面ライダーの姿は【解放者】のリーダーに相応しい……かも?

 

「すげー」

 

 野村健太郎がパワーアップした仮面ライダーを見て固唾を呑んだ。

 

 何しろ何人か本編に登場しないパワーアップをしているし、ユートとミレディの仮面ライダーは見覚えの無いものである。

 

「くそ、あんな卑怯な力で蹂躙する! これだから転生者は!」

 

 そして未だにアホな事を言い続ける勇者(笑)には皆が辟易としていた。

 

「俺だって居るんだぞ! 変身っっ!」

 

 何だか叫びながらでかいモーションで変身している少年――遠藤浩介。

 

《DAREJA OREJA NINJA! SHINOoooooooooooBI KENZAN!》

 

「忍と書いて刃の心……仮面ライダーシノビ!」

 

 紫を基調とした忍装束を模したアーマーに身を包む、遠藤浩介が変身をした仮面ライダーシノビは只でさえも影が薄い彼の認識を疎外してしまう紫色のマフラーを首に巻くという。

 

 スペックはどう足掻いてもパワーアップ形態へと変身した仮面ライダーには敵わないのだろう、然しながら相手は常識の範囲で鍛えた王国騎士と神殿騎士なだけに充分過ぎた。

 

「浩介……居たのか……」

 

 失礼極まりない科白を宣う永山重吾。

 

「仮面ライダー及び機甲兵団、ハイリヒ王国軍及び聖教教会神殿騎士団へ攻撃を開始せよ!」

 

 命じるのは巨大な空中モニタにその美しい姿を映すリルベルト、前世ではシア・カーンとの間に三人の子供を産んだものの育てた訳ではないし、アシュリアーナ聖王国の聖王女として姉であったラルジェント・ル・ビジューに代わらねばならなかったのもある。

 

 ユートとの互いの前世に於ける契約に基づき、アシュリアーナ真皇国の真皇となったユートの妻として第一真皇妃として、その役割たる政務へと就きつつも趣味の午睡を愉しみながら今の人生を謳歌していた。

 

 その補佐は双子の姉としてアシュリアーナ公国の公女に産まれたラルジェントが就き、軍務関係もリルベルトが統括をしている状態である。

 

 リルベルトとしてはラルジェントもユートの妻――第四皇妃に推したが、本人が固辞をしていたから結局はリルベルトの補佐――宰相の位置に。

 

 リルベルトとラルジェントは魔導士(ラザレーム)

 

 言霊真言(ホツマ・マントラ)による自分の放つ言葉を現実に換える力を持つ存在だった。

 

 神力魔導――神の如く者達。

 

 そして聖王女リルベルト・ル・ビジューはその体内に真なる『秩序法典(オルド・コデックス)』を持ち、最強とも云える魔導士の頂点にすら立てる存在だった。

 

 あの魔導書は既に【焔皇】ギネィビア・ハフェ・シエルと共に宇宙へ還したから今は無いし、【紅の王】たるカイ・シンクの呪いで殺されない限りは老いない死なないという事も無くなった訳だが、ユートと再会をして【閃姫】契約をした為に再び同じ呪いな力を持ってしまうリルベルト、そして双子の共振で契約無しで不老となっているラルジェント。

 

 亜麻色の髪の毛のリルベルトと黒色の髪の毛のラルジェント、ユートとしてはどちらも美味しいとは思いながらも手を出したのはリルベルトのみであり、ラルジェントは何処か怯えた風に拒絶をしてきたから手は出していない。

 

 因みに二人がリアルに一四歳の頃だった為に、【影技】の頃に比べても幼く見える。

 

「退け、退くならば追わない……だけど飽く迄も前に出るならば――――覚悟を決めろ!」

 

 王国騎士は既にガタガタ。

 

「黙れ! 神敵を前に退く我らではないわ!」

 

 神殿騎士はヤル気満々の様である。

 

「そうか……なら、お前達を止められるのは唯一人――僕だ!」

 

「そういう場合は僕達だ! でしょ」

 

 二千を越える騎士とはいえ此方も数千を越え、何ならその気になれば万をも越える。

 

 クストースに吹き飛ばされる騎士達、ジンライに弾き飛ばされる騎士達、ゲシュペンストMkーⅡにぶっ飛ばされる騎士達、仮面ライダーに蹴り飛ばされる騎士達……と散々な目に遭っていた。

 

 その癖……

 

「折れたぁぁぁっ!?」

 

「効かねぇ!?」

 

「何なんだよこのゴーレムは!」

 

「チクショー! チクショーめが!」

 

 単なる鉄剣や鋼剣では刃も立たない。

 

 これがせめてアザンチウムコーティングでもあれば傷くらいは付けたろうに。

 

 カナフ・アフが、ケレン・アフが、ザナヴ・アフが騎士達に攻撃を加える。

 

『『『『ウギャァァァァッ!』』』』

 

 阿鼻叫喚の王国騎士と神殿騎士。

 

 遂には逃げ出す神殿騎士と飽く迄も命令に従い闘う王国騎士、果たしてどちらが正しいのかなど誰にも判らないが、いずれにせよ誇り無く埃に塗れた神殿騎士に命令に従えば騎士だと思っている王国騎士、ユートからしたらどっちもどっちという感想しか出ない。

 

「ハイパースラッシュ!」

 

《RIDER SLASH!》

 

 雫の――仮面ライダーハイパーサソードによる、必殺の一撃が複数人の騎士を斬る。

 

 ハイパークロックアップ付きだから人間の動きが緩慢処か停まって見えたし、雫の動きは元から勇者(笑)より俊敏が高かったから余計に迅い。

 

「おんどりゃぁぁぁああっですぅ!」

 

 近くでシアが仮面ライダーハイパーザビーの姿にていつもの通りアイゼンⅡを振り回しているが、ひょっとしたら彼女は仮面ライダーに成らなくても普通にやれるのでは? と思えた。

 

「ハイパークロックアップ!」

 

《HYPER CLOCK UP!》

 

 どうやらちゃんと使っているらしい。

 

「ハイパースティング!」

 

《RIDER STING!》

 

 まるで蝶が舞い蜂が刺すを地で往く動きを以て神殿騎士を一〇人ばかり、次から次へとザビーゼクターのゼクターニードルで刺していく。

 

 此方も活用しているみたいで良かった。

 

「……トドメ」

 

《ウェイクアップⅠだ!》

 

「……喰らえ!」

 

 遥かな上空へとジャンプして騎士を殴る必殺技――ダークネスヘルクラッシュが決まる。

 

「……ふっ!」

 

 別の騎士にジャコーダーを鞭とするジャコーダービュートで刺し貫き、皇帝の紋章が上空に浮かび上がるとジャンプして通り抜けて騎士を宙吊りにして魔皇力を注ぎ込む。

 

「……女王の判決を言い渡す……死ね!」

 

「ギャァァァァァァァァッ!?」

 

 まぁ、最初の一回は非殺傷だけど……死ぬ程に痛いから漏らしながら気絶した為、寧ろ殺してくれと懇願したくなりそうだ。

 

《FINAL VENT!》

 

《FINAL VENT!》

 

《FINAL VENT!》

 

 仮面ライダータイガサバイブ、仮面ライダーリュウガサバイブ、オルタナティブ・ゼロの三人が同時に【ファイナルベント】のカードをベント、ミラーモンスターのそれぞれがバイク形態へ変化をして走り、それに乗り込むと必殺の一撃として轢き逃げアタックを敢行する。

 

「「「ウガァァァァァァァッ!」」」

 

勿論、一人だけで済まさない。

 

 次々に轢いていく様は余りにも凄惨が過ぎて、モニタで視ていた永山パーティが目を背けた。

 

 オルタナティブ・ゼロのサイコローグが回転をしながら轢く、ブラックドラグランザーが火球を吐き出しながら轢く、デストワイルダーサバイブ(仮)が水晶で磔にしながら轢く。

 

 騎士からしたら魔物が訳の解らない変なナニかに変化しているのだから堪らない。

 

「皆、凄いな~。私も往くよ!」

 

 武器が仮面ライダーワイルドカリスと変わらないから、香織――仮面ライダーリューン・キングフォームに出来るのはワイルドのカードを使う事。

 

 ワイルドスラッシャーをリューンアローと合着させて【ワイルド】のカードをスラッシュ。

 

《WILD!》

 

 そして放たれるワイルドサイクロン。

 

『『『ウワァァァァァッ!』』』

 

 怪人でも何でも無い人間の騎士など一撃を放てば複数人が巻き込まれる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 バンッ! 立ち上がりながらテーブルを両手で叩く勇者(笑)。

 

「緒方だけなら未だしも、香織や雫や鈴や恵里まであんな卑劣な闘いをするなんて! 矢っ張り、緒方が彼女らを洗脳をしてるに違いないんだ! そうだろ? 綾子!」

 

 そんな勇者(笑)の科白を聴いて辻 綾子は不快そうに眉根を寄せ、それに伴い野村健太郎も不愉快だという表情となり勇者(笑)を睨む。

 

「訊きたいんだけど、どうして相手に合わせて上げる必要があるの?」

 

「な、何を言ってるんだ?」

 

「態々、相手に合わせて舐めプしろって? はっきり言って意味が判んないわよ!」

 

「まさか、君も洗脳を受けたのか? クソ、何て卑怯なんだ緒方は!」

 

 そんな勇者(笑)を見て辻 綾子も野村健太郎も、そして永山重吾も吉野真央も覚ってしまう。

 

((((こいつとは対話が出来ない))))

 

 何と無く判ってはいたし、何なら幼馴染み~ズは既に理解もしていた事ではあるのだろうけど、天之河光輝という男は会話はしても対話にはならない人間だ……と。

 

 会話と対話は似ている様で違う。

 

 会話は云わば言葉のキャッチボール、つまりは言葉を御互いが交わしていれば成立する。

 

 対話とは互いの言葉を互いが理解して交わし合うもので、天之河光輝のそれは会話ではあっても決して対話では無い。

 

 自分の言いたい事を宣い、自分の聴きたい事だけを聴こうとするのが天之河光輝であると理解してしまうと、何だかこいつの言葉の一つ一つが余りにも薄っぺらいものに聴こえた。

 

『俺が皆を守る!』

 

『皆で絶対に帰るんだ!』

 

 耳に心地好い言葉を顔と地球での目に見えている実績がカリスマとなり、永山重吾らもすっかりその気になってしまっていたのだが、これならばユートの言葉を確り聞くべきだったのだと今更ながら考えてしまう。

 

(緒方が転生者で、しかもこの世界に来た時には全く動揺していなかった気がする。つまり転移とか召喚とか初めてじゃ無いって事なんだろうな。要はド素人な天之河の言葉より緒方の言葉の方が余程重要だったって事だな。まぁ、緒方が転生者なんて最近になって知ったからどうしようも無い……って、そういや左腕を斬り落としてくっ付けていた辺りから察するべきだったか……)

 

 自分の阿保さ加減が嫌になる永山重吾。

 

(錬成師ってのも南雲があんなの造れたからには外れ天職と呼ぶには早計だしな)

 

 とはいえ、並の錬成師には其処までの能力など無いのはメルド・ロギンスの言葉から明らか。

 

 勿論だが匠とも云える錬金術師や錬成師なら、似た様な技くらい出来るであろう事は騎士甲冑などを視ればだいたい判る。

 

 その事を鑑みれば国王も教皇も貴族達も無能と蔑んでいた辺り見る目が無い、それは自分達とて同様だから敢えて文句など言わないけど。

 

 そうこうしている内に神殿騎士が潰走をして、王国騎士が項垂れながら降伏をしている。

 

 どうやら戦争という名の蹂躙は終わりを告げたらしくて、天之河光輝が不満そうな顔をしている以外は予定通りの終わり方だったと云う。

 

 

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 永山達は反省頻りでした。




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第91話:ありふれた戦後処理

 戦争? とは何だったのか?





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 戦争という名の蹂躙が終わりを告げる。

 

 その最後の一撃を決めたのは矢張りユートで、仮面ライダーゼロツーの必殺技を騎士団長であるクゼリー・レイルにぶつけて斃したのだ。

 

 蹴りに吹き飛ばされたクゼリーはいっそ哀れですらあるであろう。

 

 騎士団長を囚われた王国騎士達、そして参戦をしていた神殿騎士達は割と早々に逃げていた。

 

 ミレディ・ライセンが曰く……

 

『ミレディちゃんが現役の頃の聖光教会はもっと精強だったんだけどな~』

 

 それこそ神代魔法の使い手とガチれるくらい、抑々にして亜人族も当時は獣人族と呼ばれ力強い存在だった筈が、そんな事は無かったと謂わんばかりに弱体化が著しい。

 

 そしてクゼリー・レイル騎士団長は下手をしたら『くっころ』な状態で、リリィがユートと睦み合っているのを見せ付けられていた。

 

 素っ裸で大の字の磔状態だから胸も大事な部位も丸見え、せめてもの救い? は大事な部位には陰毛が多少ながら生えているくらいか。

 

 とはいえ、恥ずかしい液体がじんわりと溢れて太股を伝い床にポタポタと零していて顔が紅い――のは主たる王族のリリィがユートに対する御奉仕に余念が無いのが原因だろう。

 

 存外とむっつりなのか、リリィの御奉仕を視ては顔を紅く染めながらも目を逸らさない。

 

 結果、ユートの槍がリリィの鞘に納まるのも確り視てしまったクゼリーは息も荒く『姫様、スゴい……あんな……嘘……』と呟いていた。

 

 クゼリーは恐らく未経験なのだろう、寧ろ男のモノも視た事が無いからユートのJr.を視て驚愕したのだ。

 

 強壮たる【C】の神氣で呪われたユートのJr.の長さ太さ硬さに。

 

 そういう意味では一周りは歳が違うリリィに遅れを取ったとも云える。

 

 長めの金髪は真ん中よりやや左側で分けて真っ直ぐに降ろしており、怜悧な目元とキリッと引き締められた眉と確かな美女なクゼリー・レイル、敵としてユートに相対したからこんな扱いを受けているが、本来の世界線ではリリィの近衛騎士隊長の筈だったのがどうしてこうなった?

 

 二七歳にして未だに処女である。

 

 近衛騎士隊長という地位に在るからには簡単に男を作れる環境には無く、幼い頃や駆け出しだった頃は修業修業の毎日であったろう。

 

 それでも彼氏持ちは勿論、婚姻して寿引退した女性騎士だっているけどクゼリーはそんな暇が有るなら修業に当てた。

 

 故にリリィの近衛騎士隊長や現王国騎士団長を務められるだけの腕前なのだ。

 

 だからこそユートは侮らず舐めプもしないで、クゼリー・レイル騎士団長に対しては本気を以て仮面ライダーゼロツーの力を使って斃した。

 

 ユートは天之河光輝みたいなタイプには辛辣に塩対応をするが、メルドやクゼリーみたいなタイプにはそれ相応の配慮くらいはする。

 

 まぁ、戦争をして勝てばこうして捕虜にして辱しめるのはいつも通りだが……

 

 抑々にしてユートはエロゲ的な陵辱とか強姦に苦手意識を持っているが、敵対者に対しては逆に嗜虐的な意識で寧ろ陵辱をしている。

 

 古代ベルカ時代の戦争の最中も女性の兵士とか騎士や魔導師は可成りの数が居たものだったが、敵対した国の女騎士や女魔導師などぶっとばしたら戦利品扱いで御持ち帰りをしていた。

 

 但し、闘わない……闘えない民からの略奪などは厳に戒めており、自軍の者がやった場合は死を以て償わせているくらいだ。

 

 勿論、自軍の者が敵女性騎士や女性魔導師などを略取した場合は好きにヤらせる。

 

 リリカルな世界なだけに闘う女性は多いからか割と好き勝手が出来るそちらを狙う訳だったし、当時のアシュリアーナ真皇国軍は民からの略奪は一切しないで、敵をぶっ倒してから捕虜にしてしまい好きにヤっていた。

 

 モラルが低い? これは必要悪だ。

 

 だいたいにして敵に情けを掛ける理由も無く、最終的には殺すか犯すかの違いでしかない。

 

「御早う御座います、ユート」

 

「お、御早う……」

 

 亜麻色の髪の毛の美少女と黒髪の美少女が扉を開けて入って来た。

 

「あらあら、御愉しみの最中でしたか」

 

「……」

 

 リルベルト・ル・ビジュー・アシュリアーナとラルジェント・ル・ビジュー・アシュリアーナ、アシュリアーナ真皇国の第一皇妃とその双子の姉に当たる皇族である。

 

 性格はリルベルトの場合だと前世とそれ程には変わらないが、どうにもラルジェントは内向的な性格になってしまったらしい。

 

 仕方がない、リルベルトはユートとの契約から生まれて僅か数年で記憶を取り戻したのに対し、ラルジェントは一二年の歳月を経てしまったから記憶を持たない頃の人格が固定されていた。

 

 既に六百年を越えて生きるが、今も未通の身で妹の政務を手伝っているのが現状だ。

 

 何となれば寧ろ妹と義弟の性の交流に交じり、二人を気持ち良くしてもくれているけど何故だか不意に、こういう場面を視れば真っ赤になってしまうラルジェント。

 

 性には関心を持っていてユートとリルベルトの情事を手伝って、すぐには手も洗わず寝室で自慰に耽るのが楽しみの一つであり、二百年くらいはリルベルトのイク顔を思い出してヤっていたりするのだが、この四百年はリルベルトの立場に自分を置き換えてヤっている辺りユートに好意は懐いているらしい。

 

 とはいえ、ラルジェントの恋愛遍歴は実は無いに等しいからどうすれば良いのかいまいち判らないのである。

 

 実際に前世のラルジェントはリルベルトの前の聖王女、恋愛なんて出来る立場には普通に無かったのに加えて何と無く御気に入りは居たのだが、それはリルベルトの息子――つまりは甥だったからどうにもならない上に、割とすぐ十一使徒の一人エリアード・ジーンに囚われてリルベルトの息子も普通に大切な女と結婚してしまった。

 

 甥に助けられはしたけど命は喪ってしまって、ユートとの契約をしない侭に『紅の王』の呪いに括られていた関係から、リルベルトとユートによる契約に引っ張られて古代ベルカのとある王国の小さな公国に双子の姉妹として転生を果たした。

 

 一二歳まで本当に小さな少女の人格の侭。

 

「で、冒頭の科白からして交ざりに来たって訳じゃ無さそうだか?」

 

「ええ、これからのトータスでの計画の変更は有りませんね? という確認ですよ」

 

「無いな。取り敢えずリルとラルはこの大陸の隣――気候から南を攻めてみるか? その辺りからを調査してみてイケるなら入植させてくれ」

 

「判りました。それから例のアレも準備を進めれば良いですね?」

 

「ああ、頼む。ラルも頼んだ」

 

「ええ、勿論」

 

 リリィもクゼリーも何事か解らない会話が続いていて首を傾げていた。

 

「あの、ユートさん」

 

「どうした?」

 

「あの方はリルベルト真皇妃殿下ですよね?」

 

「そうだよ」

 

 ユートが目で促す。

 

「これは申し遅れましたわ、ハイリヒ王国の第一王女様ですね。私はアシュリアーナ真皇国の第一皇妃リルベルト・ル・ビジュー・アシュリアーナと申します」

 

「アシュリアーナ真皇国の宰相ラルジェント・ル・ビジュー・アシュリアーナですわ」

 

 流石は前世も今生も王族だった事もあり見事な礼を以て挨拶をした。

 

「あ、ハイリヒ王国の第一王女リリアーナ・S・B・ハイリヒですわ。此方で繋がれているのが、私の元近衛騎士にして現王国騎士団長たるクゼリー・レイル。私共々、恥ずかしい格好を晒しておりますがユートさんの所為ですから」

 

「それは解っています。私も一六歳の時分に戴かれましたもの」

 

 出逢いにして再会は一二歳の時、それから数えて四年後にリルベルトはユートに喰われた。

 

 勿論、同意の上である。

 

「それで、確認は済んだけど交ざるか?」

 

「これから動きたいのでまたの機会に」

 

 リルベルトはニコリと断った。

 

「ラルは?」

 

「処女の私が交ざる訳もありません」

 

「そりゃ、そうだね」

 

 ラルジェントの場合はリルベルトの契約に牽かれて不老長寿と化しただけ、せめて後四年くらい歳月を重ねたらその気にもなれたかも知れない、だけど一二歳まで普通に暮らして四年では矢張り足りなかったのだ。

 

 日本で成人年齢である二〇歳まで精神が育てば良かったが、不老化により精神の成熟前に成長が止まってしまったのである。

 

 結果、六百年間を一六歳の精神の侭に生きたから未だにユートに抱かれていない。

 

 それでも生きているからにはゆっくりと成熟に向かってはいるし、ラルジェントも覚悟を完了はしていない訳では無かった。

 

 とはいえ、前世に於ける甥との逢瀬を考えると中々に上手くはいかないもので……

 

 何しろラルジェントを誘った男が彼女の生きた年数から初めてだったらしいし、二千年の歳月を少なくとも在り続けた結果としたら確かにちょっとアレかも知れない。

 

 リルベルトとラルジェントが部屋を辞した後、リリィにクゼリーを嬲らせ、焦らしに焦らしてから自ら『欲しい』と言わせ『戴きます』をした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 クゼリーが堕ちたから次はルルアリア・S・B・ハイリヒ元王妃。

 

 単純に次代が王位に就いたなら身分は王族として遇されるが、彼女の場合はエリヒドの崩御だけでなく戦争時にリリィの投降により王太子と云えるランデルが担ぎ上げられ、戦争に敗北をした為にランデルも王子では無くなっているから彼女も太后の座には居られなくなった。

 

「ルルアリア、貴女には選べる道が二つあるな。一つは元王妃として潔く敗戦国の王族らしく火炙りになる事。斬首でも構わないがね」

 

「随分と残酷ですのね」

 

「普通だろ」

 

「娘の恋人なのでしょう? まさかバイアス殿との婚約を反故にするなんて思いもしませんでしたけど……」

 

「それが?」

 

「恋人の母親をそんな死刑に処するなんて……とは考えませんの?」

 

「僕は身内には甘いくらいに優しく接するけど、他人で敵対者には辛口が当たり前でね」

 

「……それでこうして私を椅子に座らせ後ろ手から拘束しているのですか」

 

 序でに足首は椅子の前肢に括っていた。

 

「でもまさか、火炙りと斬首を選べだなんて何と残酷な二択なのですか?」

 

「どんな二択だよ! 火炙りか斬首となり王族の最後の務めを果たすか、若しくはって二択だ」

 

「む、それで? もう一つは生き残れる選択という事ですか?」

 

「恥辱に耐えれば……ね」

 

「恥辱……」

 

 ルルアリアがナニを想像したのか丸判りな感じに頬を朱に染める。

 

 三三歳――数えで三四歳とはいえまだ若いと云えるからには性的に枯れてないし、最低でも一一年前には今は亡きエリヒド王とヤっているのだ。

 

 その根拠はランデルの一〇歳という今の年齢であり、仕込みから出産まで基本が十月十日と考えれば解り易い筈である。

 

 勿論、エリヒド王は珍しく側室を持たない王であるから性欲はルルアリアが解消するしかない、少なくとも三十路に入るまではエリヒド王本人の元気からヤっていたのではなかろうか?

 

 実際には判らないが、だからといってルルアリアに訊くのはセクハラっぽいからちょっとアレだしな……とか考えたが、今からセクハラをガッツリとヤる気満々なのに阿保かと自嘲をする。

 

 要するに聞きたくないだけだ。

 

 これから自分のモノにしようとしている女の、他の男との閨での睦み愛ってやつを。

 

(クックッ、度し難いな)

 

 【閃姫】達に対する独占欲は自覚もしてたが、まさか未だに自分のモノですらない女にまで懐くとは、正しく度し難いと自分自身を嘲る様に嗤ってしまうユート。

 

(まぁ、ルルアリアはリリィの母親だけあってか顔立ちは瓜二つとまではいかなくても似てるし、リリィが大人に成熟したらこうなるって見本みたいなもんだからな。リリィと同じ感覚に引っ張られたってのも在るんだろうけど……)

 

 ルルアリアは年齢的に女盛りで顔立ちも美しく何より、母親だからこそリリィと似ているのだからユートとしても未亡人となった今なら欲するだけの欲を懐きもする。

 

 地球には母娘丼などという爛れた言葉もエロ的な意味で存在するのだし。

 

「何と無くは理解しました。私はエリヒドに操を立てたいのですが……」

 

「死ねば転生するまでは立てられるぞ? どうせ転生したら普通は記憶を喪うから前世を覚えてなんていないだろうしな」

 

「死にたくはないですね。ランデルやリリアーナの成長も見たいですから……って、そういえば! ランデルはどうなるのですか?」

 

 リリィは早期に降伏した上にユートの女的扱いだから心配は要らないが、今回の戦争で祭り上げられていたランデルはどうなるのか?

 

「勿論、斬首」

 

「嗚呼!」

 

 気絶したくなるくらい衝撃を受けた。

 

「と言いたいが、リリィから頼み込まれたから命だけは助けてやらないでもない」

 

「……と、言いますと?」

 

「具体的にはランデルのポークビッツをちょん切って生涯を小さな邸に幽閉される」

 

「っ!?」

 

「序でにこの短剣で刺す」

 

 ユートが取り出した短剣に吃驚しながら……

 

「死んじゃいます!」

 

 猛抗議をしてきた。

 

「これは不能の短剣。刺しても痛くも痒くも無いけど遺伝子が死ぬ。早い話がちょん切ってしまわなくても二度と勃ち上がらなくなるし、赤ちゃんの素――エリヒドがルルアリアの胎内に出していた白い粘液とそれに含まれるモノが生成されなくなるから、刺されたら二度と子供を作れなくなってしまう素晴らしい短剣だ」

 

 射精をしても出るモノが出なくなる悪魔の如く魔導具、それでも快感を感じなくなる訳ではないからちょん切ってしまうのである。

 

 尚、遺伝子的に死ぬから複製品も造れない。

 

 子作りは疎か二度と性的快楽を与えない上での幽閉監禁、事務的に朝餉を喰らいトイレを済ましてボーッとしているだけの生活から夕餉を喰らい風呂を済ませて寝るだけの人生。

 

 愉しみも無く生きているだけの暮らしを百年近くやる羽目になったランデル、自害も呪によって阻害されるし自我崩壊も赦されない。

 

 命を奪わずとも遺伝子を駆逐する手法ではあるのだが……

 

「仮にランデルの子が成されずとも貴方がリリィを……となれば同じでは?」

 

「僕の子供は非常にデキ難い。リリィとの回数的に先ず孕まないだろうね。仮令、孕んだとしてもその子がハイリヒの王位を継ぐ事は無いしな」

 

「……そうですか。ではハイリヒ王国は誰が継ぐのですか? まさか無くす訳ではありませんよね」

 

「アインハルト・ストラトス」

 

「アインハルト・ストラトス?」

 

「嘗て、古代ベルカの時代に僕が闘ったシュトゥラの覇王――クラウス・G・S・イングヴァルトの子孫で、ハイディ・アインハルト()ストラトス()・イングヴァルトという少女に任せる」

 

 今更、アインハルトに覇王国の復興なんて夢は持っていないだろうけど、最近の彼女は色々と煮詰まっている感じがしているから試しに国を動かす立場になって貰うのもアリかと考えていた為、ハイリヒ王国の事はその試金石に丁度良かった。

 

 一応、覇王の子孫として恥ずかしく無い程度に帝王学を学ばせてはいたし、格闘仲間達を宰相や騎士として就かせればある程度は国を動かせるとは思うのもあり、ユートとしてはアインハルトにこの事を打診してみる心算である。

 

 とはいえ、まだ一七歳の身だからラルジェントを仮の宰相として就ける必要があるだろう。

 

 真皇国に宰相は他にも居るし、ラルジェントが育ててきた連中だから国の舵取りに問題も無い。

 

 それに軍事関係にヴィヴィオ……というよりは、その中に在る複製元であるオリヴィエ・ゼーゲブレヒトを就ける。

 

 原典とは違って【まつろわぬ神】として降臨をしたオリヴィエは、嘗てまだ幼いアインハルトが【まつろわぬクラウス】に憑かれた様に憑依し、ユートに敗れた後もヴィヴィオの中に残ってしまって緒方優雅みたいな感覚で出てこれた。

 

 皮肉にも双子座の星聖衣に相応しい二重人格に成ってしまったのだ。

 

 原典――【魔法少女リリカルなのはVivid】を識るなら判るだろうが、オリヴィエはシュトゥラで軍事関係の職に就いていたから問題無く動ける。

 

 因みにヴィヴィオには何とゲーマドライバーと主人公の宝生永夢が使う【マイティアクションX】のガシャットと【マイティブラザーズXX】のガシャットを与えていた。

 

 理由は中のオリヴィエにあり、ゲーマドライバーを使って【マイティブラザーズXX】ガシャットで仮面ライダーエグゼイド・マイティブラザーズXXに変身をしたら、オリヴィエがもう一人の自分として出てこれるからである。

 

 ユートはネオディケイドライバーでディケイドに変身すれば、普通に仮面ライダーエグゼイドに成れるから此方をヴィヴィオに譲った形だった。

 

 まぁ、ディケイドエグゼイドだけど。

 

「少女……ですか?」

 

「一七歳のな」

 

「国を動かすには足りないと思いますが」

 

「別に失敗しても構わん。経験を積ませて復興したシュトゥラ覇王領国の覇王に成るも良しだし、この侭で格闘技のプロに成るも良しだからね」

 

 単純に将来の道を増やす為の経験値稼ぎの為、ハイリヒ王国をテストケースにするだけ。

 

「あの、それで失敗をされるのは元王妃としては嬉しく無いんですけど……」

 

「どうせ亡びる筈だった国が生き延びるんだから喜べば?」

 

「失敗したら亡びます!」

 

「ラルジェント……六百年を宰相として生きてきた者を付けるから大丈夫だろ」

 

「ろく!?」

 

 軍事も政治・経済も充分なフォローをするから今は素人のアインハルトも、経験値を積んでいっていずれは舵取りを自ら行える筈だ。

 

「国に関しては解りました。では私のもう一つの恥辱に耐える処遇とは?」

 

「理解してるだろうに。新たなる権力者の情婦、性奴隷とか肉奴隷とも呼ばれるな」

 

「矢張りですか……」

 

 解ってはいても口に出すのと出さないのとでは随分と違うもの。

 

「通常は萌衣奴と呼ばれる性行為をする為に仕えるメイドにするんだが、元王妃様がメイドの真似事なんて出来ないだろうからな。性奴隷と呼ぶしか無いんだよね」

 

「メイド?」

 

「萌えると言っても判らんか。兎に角、男の目を愉しませる衣に身を包む奴隷だな」

 

 だから萌衣奴(メイド)

 

「ルルアリアの場合は本当に何も出来ないから、やれるのは精々が綺麗な衣服を身に纏って閨での行為に耽るくらいだろう」

 

「そ、それは……」

 

 ルルアリアは王妃であって政治家でも軍人でもないし、政治や経済を回したり軍務に就いたりなど一切が出来ず、王族ならば他の王家との折衝など出来そうな仕事も有ったのだろうけど今はもうそんな王族ですらない。

 

 それにルルアリア・S・B・ハイリヒとして、王妃の立場で行っていた事は優雅に御茶を飲んで御菓子を摘まむ、王候貴族子女としては極当たり前にしていた事をしていたに過ぎない。

 

 抑々にして、国王の妻たる王妃の一番の仕事は約一〇年前には完全に果たしている。

 

 即ち後継ぎを産むという仕事を……だ。

 

 一四年前はリリィが女の子だったから最悪では無かっただけで、完全に果たしたとは云い難かったかも知れないけど一〇年前にランデルを産んだ時点で仕事は完了である。

 

 それも全てが無駄に終わったが……

 

 なのでルルアリアに出来る事は結局、ベッドの上にてユートの前でスカートをたくし上げて股を開く事くらいしか無かった。

 

 子を成すでもなく只菅(ひたすら)にユートの性欲を受け止めるだけの捌け口として。

 

 役割も無いそれは惨めな生。

 

 死ぬよりマシでしかないと割り切らなければ、ルルアリアはいずれ壊れてしまうであろう。

 

 ユートに戦争をする切っ掛けを作った国となれば仕方がないのかも知れない、せめて恵里"の処遇に不満を言わなければ或いはこうはならなかったのだろうが。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは取り敢えずルルアリアに関しての話を終わらせ、今度はリリィを連れて行って母娘丼でも喰わせて貰おうと愉しみにしておく。

 

 今はまだヤっていない。

 

「アインハルト」

 

「兄様!」

 

 アインハルトはこの世界の地球に居てユートの仕事を引き継ぎ、暗殺家業みたいな事――殺してはいないけど――をヴィヴィオやほむらと行っていたのだが、戦争をするべくユートが動いたから一緒にやって来た。

 

 勿論、美晴の所には代わりが入っている。

 

「あの、何でしょうか?」

 

「ちょっと国を動かしてみないか?」

 

「………………は?」

 

 余りにも行き成り過ぎてかアインハルトは呆けてしまう。

 

「ハイリヒ王国はリリィ――リリアーナ王女が退いたし、ランデル元王子やルルアリア元王妃に国政を動かす資格が無い。つまり無政府状態になっているから誰かしらハイリヒ王国を動かさないといけないんだが、それをやってみないかと訊いているんだよ」

 

「わ、私が!?」

 

「そうだ、アインハルトが……だ」

 

「な、何故ですか!?」

 

「特に大した理由は無いが……感傷みたいなもんだと思ってくれ」

 

「か、感傷……ですか……」

 

「クラウスの国でオリヴィエが居て僕らが居て、リッドが居てクロが居る……そんな光景は最早見られないけど、だけどそれに近いものであるならば見られる……だろ?」

 

「私の国でヴィヴィオさんが居て兄様やほむらさんやシュテルさんが居て、ジークさんが居てクロが居る……ですか」

 

「どうだ?」

 

「兄様はそうした方が嬉しいですか?」

 

「どちらかと言えばね。でもやるやらないに関して強制はしないから好きに選ぶと良い」

 

「若しも私が断った場合はいったいどなたに頼むのでしょう?」

 

「その場合は暫くラルに丸投げをするか、或いは紫天ファミリーに頼むさ」

 

「ラルジェントさんに……」

 

 少し嫉妬がある。

 

 当時の覇王のクラウスは男性だったから気にはしなかったが、今のクラウスの記憶を受け継いでいたアインハルトは女の子。

 

 ユートが拓いたアシュリアーナ真皇国の宰相として辣腕を揮い、第一真皇妃リルベルトの補佐をしてユートは助けてきた実質的な第四真皇妃。

 

 勿論、本当に真皇妃だった訳ではないのだから閨に呼ばれたりはしていない。

 

 それに興味が無い訳でもなかった。

 

 シュトゥラ覇王国はとっくに亡びてしまって、ベルカの関係では最後の【ゆりかごの聖王】を讃えて【聖王女】オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを謂わば御神体とした聖王教会が発足した程度。

 

 聖王連合国が復興した訳でもない。

 

「今のアインハルトは出逢って間もない頃とか、君がやんちゃしていた一二歳の頃から随分と成長をした。一二歳の頃にリーチを伸ばす武装形態を執っていたけど今はその時の姿と被るな。立派にレディーとして育った訳だし覇王クラウスではない覇王アインハルトを見てみたい」

 

「う……」

 

 確かにやんちゃをしていた頃から使っていた、武装形態という大人モードはイメージ的にだいたい今くらいの姿であり最早、武装形態はバリアジャケットというか騎士甲冑の装着という意味しか持たない。

 

 それに身体が大人モードと同じになったからには黄金星聖衣も纏うのに支障は無くなっており、ユートの趣味とも云える仮面ライダーに変身する事にも慣れつつある。

 

 仮面ライダーファイズやカイザやデルタという古代ベルカ時代の騎士達、記憶に在ったアレにもアインハルトは少し憧憬を持っていた。

 

 そういう意味ではユートとヴィヴィオが扱った仮面ライダーエグゼイド・ダブルアクションゲーマー、これはこの二人やユーキみたいなタイプの人間でないと使い熟せないと聞く。

 

 ユートには優雅が、ユーキにはジョゼットが、そしてヴィヴィオにはオリヴィエという二つ以上の人格を持つが故に、マイティブラザーズXXガシャットを扱えるのだから。

 

 殊更に仮面ライダーエグゼイド・ダブルアクションゲーマーに成りたい訳では無かったのだが、自分の中にクラウスが残っていれば使えたのだろうか? と考えてしまう。

 

「あの、御願いを聞いて貰えるなら……頑張ってみようかと思います!」

 

「御願い?」

 

 いつもは白い肌なアインハルトの頬が真っ赤になっていた。

 

「私、一七歳です」

 

「そうだな」

 

「兄様が言った様に武装形態で使っていた姿に成りました」

 

「そうだな」

 

「……そろそろ兄様にお似合いな背丈です」

 

「そういう話か」

 

 益々以て紅くなってしまうアインハルトだが、ヴィヴィオはプクッと膨れっ面。

 

「アインハルトさん、抜け駆けです!」

 

「御免なさい、ヴィヴィオさん。でも兄様は私にクラウスの影を視ているからはっきり言わないとなあなあにされそうでしたから」

 

「それは……私もですね。ユート兄ちゃんは私の中のオリヴィエに遠慮がちですから」

 

「序でに言うとジークさんもですね。当代のエレミアだったヴィルフリッドとユートさんの子孫、しかも【閃姫】なのですから当然ながら彼女も今の時代に生きていますしね」

 

 アインハルトもまさかクラウスの時代に於ける『黒のエレミア』、ヴィルフリッド・エレミアと直に会う日が来るとは思わなかった。

 

「やれやれだ、他の連中もそうだったけど本当に君らは出逢いが無いんだよな」

 

 【特別】な関係に成れるだけの印象の強い出逢いが特に無く、寧ろそんな出逢いはユートが唯一みたいな感じだから困ったもの。

 

 それは【無印】の頃から共に居た高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて、アリサ・バニングス、月村すずかといった面々も同じ。

 

(【魔法少女リリカルなのは】に於けるヒロインの男との出逢い確率を舐めてたな。ユーノでさえヒロインを誰一人として堕とせなかった……って、本来の道筋でも友達レベルでしかなかったか)

 

 エイミィ・リミエッタと結婚をしたクロノを除けば、ユーノ・スクライアが同年代で唯一の男だった事を鑑みれば普通はなのはとそうなっていてもおかしくないが、何を血迷ったかユーノは遺跡発掘や無限書庫の司書長に邁進をしていた上に、なのははヴィヴィオの義母となってフェイトとのハウスシェアで同居――最早、同棲というか何と云うか……ヴィヴィオという娘にママ力の高いなのはと単身赴任をするフェイトの図である。

 

 完全に家族となっていた。

 

(実は描写されなかっただけで、溜まった性欲とかなのはとフェイトがベッドの上で普通にレズって解消してたりしてな?)

 

 凄く有り得そうな話に頭を抱える。

 

「あの、兄様?」

 

「判った、約束もあるから受け容れよう」

 

「ほ、本当に!?」

 

「嘘を言ってどうなるよ」

 

 アインハルトとはクラウスを挟んでの縁が確かにあったし、その縁がそれだけ絆として育まれたのならば是非も有るまい。

 

「あ、それはズルいですよ! ユート兄ちゃん、私は? ヴィヴィオも成りたいです!」

 

「好きにしろ」

 

 【リリカルなのは】で出逢った娘が全員、そうなる訳では無いけれど矢張り確率が高過ぎた。

 

「そういえば、コンボイに二千人くらい連れて来ましたが兄様の指示なんですよね?」

 

「ああ、間違いない」

 

「そんなにハイリヒ王国で使うのですか? 割合はファーマーが数百人は居ましたけど」

 

「ハイリヒ王国には作農師の天職持ちが居るし、必要とはされないだろうさ」

 

「では?」

 

「二千人はリルベルトを筆頭にした開拓団だよ。この大陸の南に在る大陸を開拓して領国を興す為の足掛かりにする」

 

「……それは侵略では?」

 

「大丈夫。この大陸以外に知的生命体は居ない」

 

「なっ!?」

 

 ユートはアインハルトとヴィヴィオに自分の考えを伝える。

 

「どういう事ですか?」

 

「この大陸の端の端、其処には既に滅びたとされる種族が少数ながら暮らしている。エヒトルジュエが彼らを見逃したというより寧ろ見付けられないのでは? と考えている」

 

「その根拠は?」

 

「ユエが居るだろ?」

 

「ダークキバの方ですよね」

 

「彼女はエヒトルジュエの依代――天職が神子なんだが、三百年間を封印されていたユエが見付けられていない。奴は神域で大陸を俯瞰しているみたいだが、どうやら死角も可成り在るみたいだよ。恐らく奴の眼はこの大陸の外にまでは及ばない」

 

「確かに言われてみればそう感じますが」

 

 ティオの一族である竜人族は五百年前に襲撃を受けて、両親も殺害された上に遺体を磔られ晒されたのだと云う。

 

 それ以来、クラルス主体のティオの一族の者は大陸の端に居を移したのだとか。

 

 その後は捨て置かれた感じだが、エヒトルジュエの眼が届かなかったのでは? と考えたのは、ユエの天職の在り方から何故か封印された彼女に手出ししていない事にある。

 

 手出ししていないのではなく見付けられなかったのが正しいと感じたのは、オルクス大迷宮にて見付けた()()()()()()()からだった。

 

 本来の手順を無視して開けたら見付けた訳で、明らかにユエ由来のアイテムだからいずれは話さなければなるまい。

 

 そのアイテムの情報から割り出したのだ。

 

「幾つか前に滞在した世界のとある頭のイカれた科学者が言っていた……らしい」

 

 ユートは右腕を天に掲げて人差し指を伸ばした形で呟く……それは『お婆ちゃんが言っていた』みたいな体で。

 

「有史以来、数多の英雄が人類支配を成し得なかったのは人の数がその手に余るからだ! だったら支配可能なまでに減らせば良い……と」

 

「減らせば良いって……」

 

「エヒトルジュエは正しくそれをしたのだろう、他の大陸の人間を攫って変成魔法により種族そのものを変質させた。勿論だが失敗して死なせた者も数多く居たんだろうがね。何万年も前だったから人類の人数自体もそう多くなかった筈だろう、だからこの大陸に一極集中させられた」

 

「それがこの大陸だったのは?」

 

「女神ウーア・アルト」

 

「女神ウーア・アルト?」

 

「彼女との決戦の地が大樹ウーア・アルトの在る恐らく中央大陸なんだろうが、験担ぎに近いのかも知れないな……この地を支配領域にしたんだ」

 

 他の大陸に支配の眼を伸ばせないならばっさりと切り捨てる、仮に生き残りの人間が居たにしても村を作る事が出来る程では無くて絶滅したのではないだろうか?

 

 何しろ数万年間、他の大陸から誰かしらが来た様な話がこの大陸には無かった。

 

 地球の大航海時代を鑑みても他の大陸を捜そうと船団を組織、接触をしてきていてもおかしくは無い筈なのに全く記述が見当たらない。

 

 本当に支配可能なまでに減らされてこの大陸にのみ知的生命体が住むのであろう。

 

「奴の眼が向かないなら丁度良い、僕らで開拓をして実効支配をすれば自動的にその地は僕らの物で構わないだろ? まさか、歴史的に見てこの地は我々のモノである……とか莫迦を言い出す輩も居ないだろうし」

 

「まぁ、自分のモノと主張するなら人員を配置しておけという話ですしね」

 

 他の大陸の開拓予定に加えてこの大陸に於いてハイリヒ王国だけではなく、亜人族達の住んでるフェアベルゲンもユートは手に入れたも同然だから確実に侵略をしているのかも知れない。

 

 だけど罪悪感など皆無。

 

 何故ならエヒトルジュエがやらかしたとはいえ召喚して、この地にユートを引き込んだのだから可能性として考えて当たり前であり当然の報いを受けたに過ぎないのだから。

 

 ユートは正義の味方ではない。

 

 当たり前の欲望を持つ人間である……故にこそ、安易に喚ぶべきではなかった。

 

 

.




 ユートは寧ろ正義を叩いていたりも。




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第92話:ありふれた世界征服

 ゴキブリと運営による運対(笑)が再び……





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 玉座にはアインハルトが座っている。

 

 何だか目も据わっている気はするが、やっぱり自分が玉座に座るのに違和感があるのだろう。

 

 宮廷魔術師枠と宰相枠にラルジェント・ル・ビジュー・アシュリアーナが、宮廷武官という立ち位置にジークリンデ・エレミアが、その部下的な戦闘指導官にハヌスという小柄で紫の長い髪の毛を揺らす左目の下に泣き黒子な美少女が、取り敢えず何故かアインハルトの隣に苦笑いを浮かべるヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトが座っていた。

 

「何故にヴィヴィオはアインハルトさんの伴侶みたいな場所に居るのでしょう?」

 

 一五歳相当なヴィヴィオも可成り大人モードに近い姿で魅力は有り、隣が男であるなら伴侶的な立ち位置も納得は出来るのだが……

 

 格好は長い金髪をストレートヘアに流してて、白いドレスでお姫様っぽい可憐な姿。

 

 一方のアインハルトは、碧銀色の長い髪の毛をポニーテールに結わい付けて嘗てクラウスの着ていた正装に近い服装、髪の毛がクラウスと同じ長さなら男装の麗人にも見えるけど胸の確かな脹らみが男装を否定していた。

 

 だけどまるで生まれ変わりの如く似た容貌から不思議な魅力に溢れ、傅く元々がハイリヒ王国の騎士やメイドや貴族はその圧倒的なまでの圧力に押し潰されそうになる程。

 

 正しく、フリーザ様に戦闘力を初宣告された者みたいになっていた。

 

 当然だろう、アインハルトは原典ではクラウスの想い出を持つ格闘家に過ぎなかっただろうが、この世界線の彼女は実戦経験を積んだ軍人にも等しい武人なのだから。

 

 格闘家と武人では同じ武を修めていても天地程の差を生じさせる。

 

 例えばの話だが、原典のアインハルトは『弱い王は屠るまで』と言っていたが果たして殺す事は出来ただろうか?

 

 恐らくは出来ない。

 

 幾らクラウスの記憶を持とうと殺す気概を持たない少女に過ぎず、ジークリンデ・エレミアみたいに壊す事を厭うみたいな感覚で決して敵に対してトドメは刺せないだろう。

 

 結果的に殺す可能性はあるにせよだ。

 

 格闘家は飽く迄もスポーツマン、武人は戦場(いくさば)で敵と闘い正真正銘に屠る者。

 

 問題は譜代の貴族や騎士。

 

 当然ながら行き成り王位に就いた新参を王と仰げる貴族は居ないし、騎士も自分が護るべき王族はハイリヒ王家の人間だと認識していた。

 

 はっきり言えば要らない子だ。

 

 ユートやハジメを無意味に無能と決め付けて、檜山大介の所為でユートを含む四人が奈落に落ちたのをユートが悪いと罵倒すらしていて、正しく()()()()の烙印を押されても仕方がない連中。

 

 騎士も大半が檜山大介に殺害された上に恵里"の『縛魂』に操られ、残っていたのは二線級の騎士か本当に強い騎士かのいずれかである。

 

 メルド・ロギンスは後者に当たる騎士であり、クゼリー・レイル騎士団長もそれだ。

 

 最初に発せられたのは脱・聖教教会。

 

 これには当然だが騎士も貴族も猛反発したが、エヒトルジュエとアルヴヘイトの事を話して尚も反発するなら正に要らない子、そんな貴族も騎士もアインハルトは排除をするだけだった。

 

 どうせハイリヒ譜代の貴族など殆んどが役立たずだし、権威争いにしか興味が無いのだから権威を剥奪して死罪とするのみ。

 

 これはユートの方針だからアインハルトは従う形で首切りをする。

 

 必要な人材はユートがアシュリアーナ真皇国から貸し出すし、何なら余っている貴族家に土地や役職を付けて送り出す心算だ。

 

 三男や四男には有り難い話だろう。

 

 アシュリアーナ真皇国の皇都はユニクロンで、内部には拡張された太陽系規模のインナースペースが存在し、地球型の惑星を幾つも内包しているから貴族自体は規模に対して少ないのだろうが、跡継ぎ以外の子供まで貴族の地位に在り続けさせるのは難しい。

 

 実力を示して騎士と成り、功績を以て貴族位を得る事は可能だから普通の世界に比べれば機会に恵まれているし、ユートが違う世界から持ち帰ったステータスを与える手段も在るから実は強いというだけの一般人や騎士はゴロゴロしている。

 

 レベル上限値無しのドラクエ風味スキル付き、()()だから完全にドラクエとはいかない。

 

 例えば職業はダーマ神殿に行きフォズ大神官に調べて貰うと就ける職業が判明するし、レベルが一定以上に到達をすれば転職をして違う職業にも就けるのだが、魔法やスキルというのを取得しておけば当然ながら転職後も扱えるというのは普通のダーマ神殿と変わらないけど、これには身体のレベルと職業レベルで分かれているといった具合に違いが有った。

 

 ドラクエⅢなら云わば身体レベルの変化が起きてしまい、遊び人がレベル二〇で賢者に転職をした場合は賢者のレベル一に成って一時的な弱体化を招いてしまう。

 

 まぁ、能力値が半分になるだけだから元のレベルまで数値が上がり難いが、レベル二〇から普通に上がっていく様になるので勇者以外のパーティの全員を転職なんて血迷わない限り問題は無い。

 

 ドラクエⅣとドラクエⅤに職業や転職は無くて、ドラクエⅥとドラクエⅦで復活した。

 

 フォズ大神官とはドラクエⅦの過去編に登場する少女の事である。

 

 このⅥ~Ⅶの職業は熟練度制で星の数が熟練度として目安となり、星を集め切ればマスターをしたと見なされて転職を勧める事になるのだ。

 

 尚、ドラクエⅧにはまた無くなってⅨ~Ⅹの方で復活を果たしてⅩⅠでは無くなった。

 

 職業次第でドラクエの呪文を契約可能となり、スキルはドラクエ以外からも存在する。

 

 飽く迄も()()なのだ。

 

 得られるスキルは様々だけど、活躍をしているとインストール・カードを買って自分のスキルを増やしたりも可能。

 

 勿論、カードはユートが造る。

 

 何故ならインストール・カードとはユートが扱える技能や魔法を術式化、それをカードという形に形成して造り上げたプログラムの実体化。

 

 これも実はある意味で念能力。

 

 念の修業もしないで、水見式で自分の系統も知らない時期に造り上げた念能力という訳だ。

 

 これを念能力だと指摘してきたのはマチという女性、彼女と闘う機会があって打ちのめした後で『戴きます』して念能力を【模倣の極致】により簒奪をして、インストール・カードに換えて返した時に指摘を受けたのである。

 

 また、寝た時にも指摘を受けた。

 

 ユートが相手に最高の快楽を与えるセ○クスのヤり方、これも操作系と強化系に属しているであろう念能力だ……と。

 

 まぁ、確かに(オーラ)を応用したヤり方。

 

 自身の氣を相手の氣と完全に同調させた上で、自分と相手の体内を同調した氣を随時廻らせる事により、肉体の全身をまるで性感帯の如く敏感にしてしまい更には互いが互いの快感を感じる事が出来てしまい、本来ならそれだとユートは死にかねないけど氣を廻らす事で心臓は強化されるからユーキみたいに死にはしないし、男と女の快感を御互いに感じ合うという究極の快楽は後の話だがあのエセルドレーダすら虜にした程。

 

 マチは女の絶頂でイク度にユートの射精による快感も強く感じて、連続の絶頂をしてしまう事にセ○クス依存性レベルに常習性を覚えてしまったものだから堪らない。

 

 しかもユートが絶頂で感じる射精の快感自体、氣を廻らす事で鋭敏化されている訳で……

 

 セ○クス自体は何度かシてるけどイキ狂うなんてのを初めて感じたのである。

 

 え、それはマチとヤった連中がヘタクソだっただけじゃないかって?

 

 知らんがな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ラルジェントは本来なら開拓組として双子の妹のリルベルトと共に行く予定が、アインハルトに宰相として付けるべく予定は変更された。

 

 とはいえ、リルベルトも開拓組を率いるくらいは軽く熟せるから特に問題も無かろう。

 

 【神異】の二つ名は伊達ではないというべきなのか、彼女は魔導士として基本的には遠距離型も出来るだろうが、本気を出したら普通に殴る蹴るの格闘や武器を扱う近接戦闘にシフトする。

 

 彼女のラストバトルがソレだった。

 

 美晴の方にはユーキが仕事に就く事でフォローをするとして、ジークが此方に回ってきたからかアインハルトも嬉しそう。

 

 宮廷治療師としてフレイが入るけど彼女は堕ちて以降、神への信心を喪ったからか治療系が可成り弱くなっている。

 

 執念でユートを世界に喚び込み、大切な人の生き残れる世界線を構築する代わりに堕ちて魔女と成り果てた自分の肢体も心も全て譲渡する契約、過去へと航りフレイの『大切な人』が魔王化したのを権能で戻し、様々な邪魔をクリアして新しい世界線を構築する序でに【閃姫】を増やしたし、【閃姫】に成れない存在は別の契約を結んだ。

 

 戦闘指導官ハヌスもフレイと同じ世界に生きた存在である。

 

 フレイの姿は堕ちる前に巻き戻してはいたが、矢張り信心を喪った所為で治療系の魔法に支障が出たのは仕方がない。

 

 【閃姫】契約が不可能だったのは人型の龍であるライアスとリリア、ティオみたいな人間が竜の因子で変質した者の末裔は問題も無く契約が出来たけど、彼の二人は龍そのものが人の姿をしている存在だからか契約は出来なかった。

 

 無限の龍神オーフィスやまつろわぬ神アテナも【閃姫】契約が出来なかった為、予想はしていたから速やかに別の契約に切り換えたのだ。

 

 まつろわぬ神たる原初の女神アテナは仮契約の方で、本来のセ○クスして行う真の契約ではなかったのだけど。

 

 そんな宮廷治療師のフレイがこの場に居るのには勿論だが理由が有る、磔にされたランデル・S・B・ハイリヒ元王子が泣き喚きながら叫んでいる辺りから御察しだろう。

 

「嫌だぁぁぁぁぁっ! 何で僕がこんな目に遭わなきゃならないんだよぉぉぉぉっ!」

 

 アインハルトが王位に就いてから数日後の事、王都は元よりホルアド、ウル、ブルックなど国の領土となる町や中立商業都市フューレンやアンカジ公国などハイリヒ王国とは別の勢力になる所にも通達が出され、ランデルへの戦争責任といった名目で刑が執行される事となった。

 

「これが最後だからたっぷりと視ておけ」

 

 その磔られたランデルの目ので美しい少女らが薄く布地の少ないヒラヒラの服をその身に纏い、まるでエロさを前面に押し出すみたいな形で汗に濡れながら舞いを舞っている。

 

 端から視れば何らかの怪しい儀式にしか思えない光景だが、少女らはまだ一二歳程度の幼さを残した者達で何処か気品が感じられた。

 

 一番幼くてランデルと同い年、一番の年嵩でもリリィの同い年というのだから察せられよう。

 

 汗に濡れているから小さくとも自己主張が見られる胸の脹らみの先の色が判るくらいであるし、幾ら幼いとはいえそんな歳の近い娘らの淫らなる格好に、永山重吾のパーティは元より戻ってきていた愛子先生の護衛の玉井淳史、ひょっとしたら自分も似た刑を受けていたと聞かされた上で見学させられた清水幸利、他にも生き残りを保証された貴族家の嫡男や次男などが前屈みに……

 

 野村健太郎のそんな姿を見てジト目になりつつ――『サイッテー』と呟く辻 綾子、男子の姿を見てやはり『男って!』と呟く吉野真央などクラスの生き残り男子は株を最安値に落としている。

 

 叫びながらも淫らで艶やかな歳の近い少女達の半裸にも近い姿での舞いに、ランデルのポークビッツも勝手に反応をしてムクリと勃ち上がった。

 

 下半身に何も着けないランデルの惨めなそれは見物人の前で隠されもしない、

 

 年齢が年齢だから仕方ないのかも知れないが、皮被りなポークビッツにクラスメイトの女子達は兎も角、見物客として列席させられた生き残りの貴族家の女子らは失笑を禁じ得なかった様だ。

 

 舞っている少女達もあからさまではないにしても失笑しており、自身らが知る――知ってしまう事になった男のモノと比べれば無いにも等しいのだとそう考えずには居られなかった。

 

 抑々にして彼女達は辛うじて生き残れた貴族家の少女達、だけど本当に辛うじてだったから彼らは何とか罰則を軽くして欲しい。

 

 新しい王たるアインハルトは御飾りでこそ無いにせよ、重要な決め事はユートやラルジェントに頼っていたのと、ラルジェントもユートを上として見ている節があった事から彼らは自分の娘か、若い当主なら妹を、どちらも居ない場合は近似の血筋の分家から養女を取って送り込んできた。

 

 ハルケギニア時代に似た事をされていて慣れているユートは受け取り、ある程度の配慮を約束してやって貴族家当主を帰した後で全員の初めてを『戴きます』してやる。

 

 最初の一発は痛みに泣かされたが、二発目からは寧ろ余りの気持ちの良い快楽に蕩けさせられて虜になってしまった。

 

 こんな羞恥心を煽るばかりの衣服で舞えるのも上手くやれば、彼女らは後から御褒美をたっぷりと貰えるからである。

 

 アインハルトが短剣を手に前へ出ると刺し殺すのだと勘違いをしたのか、永山重吾のパーティにせよ貴族家にせよ悲鳴を上げた。

 

 因みに、天之河光輝は坂上龍太郎により押さえ込まれて邪魔は出来ない。

 

 当然と云うべきか、天之河光輝はユートの行った所業に怒りを訴えてきたし……

 

『君達の事はこれから俺が守るよ。だから緒方とは縁を切るんだ』

 

 などと宣ってアインハルトやヴィヴィオからはドン引きされていた。

 

 理由は幾つかあるのだが、先ずを以て二人より遥かに弱い天之河光輝がどうやって守るというのかという根本的な問題。

 

 流石にユート程ではないものの、二人の此方でのステータス表記に直した場合の筋力は少なくともノイントと同等かそれ以上、つまりは逆立ちをしてもアインハルトとヴィヴィオに天之河光輝は勝てないのである。

 

 それ処かヴィヴィオの原典初期値でさえ天之河光輝は越えていない。

 

 一応、本当に一応なのだが聖剣をぶっぱすれば初見でなら勝てるかもしれないが、二度目は間違いなく通用しないだろうからそれで仕留められなければ天之河光輝は詰む。

 

 それにヴィヴィオは……アインハルトもそうなのだが、ユートからの修業を受けた結果として原典に比べて相当に強い。

 

 早い段階で赤筋と白筋の効果を併せ持つピンク筋へと鍛え上げ、それを更に鍛えてきたからには細身に見えて触れば判るくらいに筋肉が付いているにも拘わらず、女性特有のしなやかさを決して失っていないのである。

 

 抱き締めるとそれがよく判るものだった。

 

「良い具合におっ勃てたな」

 

 そう言うとユートはアインハルトの手に黒い刃の短剣を差し出した。

 

「判るな?」

 

「はい、兄様」

 

 アインハルトはハイリヒ王国を征服した覇王として、前国王の血筋たるランデル・S・B・ハイリヒに刑を執行せねばならない。

 

「ヒッ!」

 

 生々しい刃の光沢にランデルが息を呑む。

 

「い、嫌だ……助けて……」

 

「それは兄様に楯突く前に言うべき科白でした、ランデル元王子……いざ御覚悟を!」

 

 サクッ! 左の胸元にあっさり吸い込まれていく漆黒の刃。

 

「ヒギィィィィ……あれ? 痛くない」

 

 フニャリ……とランデルのポークビッツが軟らかくなって萎え逝く。

 

「【不能の短剣】だ。刺されると男女問わず胤や卵を作り出す機能が死ぬ。お前のポークビッツなJr.は二度と勃ち上がりはしないだろう」

 

「……は?」

 

「序でに快楽中枢も死ぬからどれだけ弄ろうとも快感を感じなくなるし、複製――クローニングすら不可能となってしまう強力な概念兵装だ」

 

「そ、そんな……ハイリヒ王家の血が!?」

 

「ルルアリアはハイリヒ王家じゃないし、姉であるリリィが子を成す予定は皆無だから血筋は絶たれたって訳さ」

 

 ひょっとしたら多少はハイリヒ王家の血も入っているかも知れないが、これから先でルルアリアが男に抱かれるとしたら相手はユートであるし、孕む事は決して無いと言っても過言ではない。

 

 仮に万が一にも孕んだとしてもハイリヒ王国に関わる立場には無いだろう、とはいえ蔑ろにしたり不幸にしたりもしないだろうけど。

 

 まぁ、その場合は姉が父親の女とか意味不明な状態になってしまう上に姉のリリィまでが孕んだら厄介な関係が構築される。

 

 それは兎も角、本来なら仮に生殖機能を喪って精子の射精が不可能になっていても快楽中枢? とも呼ぶべき神経が有るからには射精されないだけで性的な快楽は得られ、絶頂にも導かれるのが普通だった。

 

 だけど【不能の短剣】はこの辺の機能も殺してしまう為、幾ら擦ろうが刺激を与えようが快感など感じる事は無くなってしまい、絶頂でイクなんて事も有り得なくなってしまうのだ。

 

 女性も完全に不感となるから挿入されても入った感触は有るが、それでグラインドされたとしても特に快楽には転じない。

 

 一番感じる部位も触れられなら感覚は有るが、剥こうと擦ろうと快感は感じないだろう。

 

 快楽快感となる部分だけがスッパリと殺され、他の部分では末梢神経まで生きている。

 

 こうなると可成り恐ろしい兵器だった。

 

 果たして過去に何人、何十人の男の♂が殺されてしまったのであろうか? そしてこれから何人の男の♂が抹殺されてしまうのだろうか?

 

「さて、役勃たずのポークビッツはもう要らないだろう? 切り落としてしまおうか」

 

 ユートが鋏を手にチョッキンチョッキンと鳴らしながら指を動かす。

 

「あの、兄様……それも私が?」

 

 流石にアインハルトも男のモノを断つというのは喜ばしくなかった。

 

「まぁ、アインハルトがポークビッツとはいえど男のモノを見つめるのは嬉しくないか。マチ」

 

「はいよ」

 

 モサッとした紫の髪の毛をポニーテールに結わい付けた一二歳くらいの少女が現れる。

 

 マチ・コマチネといえば知る人ぞ知るだろう、ユートが昔に確保していた【HUNTER×HUNTER】に登場する幻影旅団、通称は【蜘蛛】の最初期からのメンバーという古株であり原典では二四歳くらいだった様だが、今のこの姿では何故か明らかに一二歳程度にしか見えない。

 

 名前は勿論だがマチ・コマチネでありユートが前世――ハルケギニア時代に於いての異世界放浪期に【HUNTER×HUNTER】の世界に行った訳だが、其処では当然の如く念能力を修得している。

 

 ユートの場合は原典の人間とは違って異能力を扱う事に慣れ親しみ、【魔法への親和性】という転生特典が可成りファジーに拡大解釈をされていたらしく、寧ろ【異能への親和性】とも云うべきモノで魔法だけでなく超能力や霊能力や闘氣法といった技能にも長け、それが原因で小宇宙すらも修得してしまえたという経緯を持つ。

 

 その延長線上でチャクラやオーラの扱いすらもあっさりと修得、【NARUTO】な世界では忍者になるのに有利であったし【HUNTER×HUNTER】な世界では念の修得が異常に早く、他の異能力を扱ってきた経験が強く活きていて六性図をガン無視して全属性適性持ちでの特質系と、チートオリ主万歳の阿保みたいな能力だった。

 

 それでユートが作った【発】が何かと云えば、それは【模倣の極致(コピー&スティール)】という相手の能力を簒奪か文字通り模倣するモノ。

 

 一聞してみれば何処ぞの【盗賊の極意(スキルハンター)】っぽい【発】だが、条件やあれやこれやと違うモノであるのは間違いない。

 

 視る聴く触らせるという過程は必要が無いし、相手が死のうがどうしようが一度獲た能力が喪われたりしない、更に念能力だけではなく魔法とか霊能力や超能力や闘氣や小宇宙といった能力系のモノなら全てが対象となる。

 

 発動のトリガーはユートが自らの手で逝かせる事にあり、死んだ相手の魂魄へと干渉→掌握して情報を走査して能力の簒奪or模倣を行う。

 

 模倣の場合は能力が一段階下がるから意味が無くないか? と思うが、実は殺さなくてもこれは使えるから必要ではあったのだ。

 

 その方法は性的にイカせる事。

 

 この方法は女性にしか使えない――というよりは使いたくない――けど、死なせなくても良い手段は確保しておきたかった。

 

 便利だし、とある能力が念能力だと気付いてからは簒奪一辺倒でも良くなったが、矢張り無いと有るとでは選択の幅が違ってくる。

 

 更にユートが使う無自覚な【発】を併せる事で可成り恐ろしいモノに。

 

 【修得する切札(インストール・カード)】。

 

 自身が扱える能力を数式化してプログラミングしたモノをカードに具現化、使った人間に焼き付けて問答無用で修得させてしまう能力だ。

 

 直接的にはユートの役に立つ能力ではないが、誰かに対して確実な修得が可能な正しく切札となる念能力――オリジナル世界の場合は『輝威(トゥインクル)』――という事になる。

 

 数式化して具現化と言うは易しだが、余りにも複雑で普通に他の者がやろうとしても喩えばメラで一日中付きっきりで作業して何十年と掛かり、対費用効果がまるで無いから断念するしかない。

 

 ユートはそれを転生特典と併せて僅か数十秒でやれてしまう為、それこそ『魔法剣士に成りたいから火炎呪文を一通り使いたいわ!』とか雫が言ってきたら『オッケー』と了承をして数分後には

雫がメラ、メラミ、メラゾーマ、メラガイアーの四つを使える様に成っている事だろう。

 

 とはいえ、それは理論上の話。

 

 実際にインストール・カードは当人の脳の謂わば空き領域に焼き付ける為、全身を燃えるくらいの熱を襲うから負担もでかいので一日に一枚を使うのが良い。

 

 因みに何故か女の子は性的に熱くなる。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

「で、この坊やのちっちゃいモノを切れ……と? そう言いたい訳?」

 

「頼めるか?」

 

「ま、嬢ちゃんには無理か」

 

 生々し過ぎて無理だろう。

 

「私はこんな(なり)だけどこれでも二十代までは生きていたし、盗みも殺しも相当にやらかしてきた……謂わば阿婆擦れってやつだからね」

 

 クスクスと笑うマチ。

 

「じゃ、やるよ」

 

 ピッと口先にて掴んだ念糸を投げ付けるとそれがランデルのポークビッツ、棒と袋を纏めて括り付けて引っ張った。

 

 プッ……

 

 音なんてしなかったのかも知れない程度の音、その瞬間に地に落ちたのはランデルのポークビッツなJr.であり、鋭利な刃物の如く切れ味故に痛みは感じなかったらしいが……

 

「アギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアッッ!?」

 

 数秒後には鮮血を噴き出し叫んだ。

 

「はい、完了。御代はいつも通りに振り込んで。あ、身体でもちゃんと払って貰うよ」

 

「判ってるよ」

 

 当たり前だがマチは無償では動かない。

 

 簡単な依頼でも円相場で数万円は取ってるし、難しい依頼なら数千万円は取られる。

 

 それにユートとの最初の逢瀬は闘いによるものだったが、その結果としてヤっちゃった訳だけど気に入られたらしい。

 

 少なくとも過去に自分とヤった男との経験など吹き飛ぶくらいには。

 

 尚、彼女とはリルベルトと同様の来世契約にて縁を繋いで再会をしている。

 

 流石にアーデルハイトと交わした再構成による契約は、彼女くらいなメリットが無いと交わすのも憚れるのだ。

 

「マチはあっちで美晴の手伝いを頼みたいんだ。報酬は向こうで支払ってくれる」

 

「了解したよ」

 

 美晴の仕事は政府要人などで腐れた人間の謂わば粛清――暗殺である。

 

 寧ろこれまでに任せていたほむらやシュテルに比べて適任、暗殺という手段や盗みという手段は嘗て幾らでもやってきたから。

 

 幻影旅団の一員として。

 

 そして勿論だが一般家庭に産まれた今生に於いて盗賊なんてしてないが、影と成りて悪を討つっぽい立ち位置で暗殺くらいはしている。

 

 依頼主は基本的にユートだし、暗殺ともなればそれこそ数千万円は支払われるから懐は暖かい。

 

「待つんだ!」

 

「は?」

 

「どうしてこんな酷い事を出来る!? ランデル王子は一〇歳の子供なんだぞ! 君もまだ小さいんだから緒方の命令なんて聞いちゃいけない!」

 

「……」

 

 マチはまるで路傍の石ころでも視るかの様な、そんな淡白な視線を言葉の主に向けた。

 

「ユート、誰? この勘違い君は」

 

「なっ!? 失礼だろう! 歳上に向かって何て口の聞き方をするんだ!」

 

 見た目が小さな少女に言われて怒鳴る。

 

「おい、坂上……」

 

「済まん、振り切られちまったんだ」

 

 やれやれと頭を掻きながら説明。

 

「それは勇者(笑)だ。エヒトルジュエに召喚されて沢山のスキルと初期値の高さにドヤっていながら今は足手纏い。まぁ、僕からしたら徹頭徹尾で足手纏いだったけどな」

 

「ああ、ユートの邪魔が趣味の勇者(笑)君」

 

「そうだ」

 

 これまた、当然だけどユートの状況は家族会で報告された内容をアシュリアーナ真皇国に報告わされている。

 

 マチはアシュリアーナ真皇国に所属をしている【閃姫】の一人、報告も普通に受けているのだから面白可笑しく天之河光輝=勇者(笑)についても聴かされていた。

 

 初めて出逢った時には非処女だったから契約が当時のユートでは叶わず、況してや幻影旅団を抜ける気も無かったし生きている内は団長から離れたいとも思わなかったマチは、団長の命を助けて貰う対価として色々とやらかしたのは扨置いて、【閃姫】契約は来世での再会で交わす事に。

 

 再会時はまだマチが一〇歳の時、ヴィヴィオ達の同級生として『ユート兄ちゃん』の話をされて気が付いたので紹介された。

 

 マチの望みは一二歳で契約をしてこの年齢にて固定、後は自由に前世までの肉体年齢にまで成長させるも戻すも可能とする事。

 

 暗殺がやり易くなるからだそうな。

 

 普段のマチは念糸縫合など医療関係に手を出しており、ユートの組織である【聖域】でも割かし重宝をされている。

 

 前世では幻影旅団と団長、今生ではアシュリアーナ真皇国とユートを家族としてみているマチ、一応だが両親も今は真皇国民だから問題も無い。

 

 少なくとも流星街に居た頃より遥かに恵まれていたと思われる。

 

「待て、無視をするな!」

 

「勘違い君、噛み付く相手は選びなよ」

 

「な、何だと!?」

 

「抑々、あんたはそこら辺の一般人に過ぎない。ユートとは身分からして違うのさ」

 

「同じクラスメイトなんだぞ!」

 

「異世界とはいえ王は王、それをクラスメイトとか言って同じ身分だと考えるとか勘違い君らしいとは思うけど……ねぇ」

 

 元より前世は盗賊なだけに自分より上は団長、クロロ・ルシルフルだけだったマチからしてみれば今現在はユートがその位置。

 

 転生してからは流石にクロロに執着も無いが、それはそれで想い出として残しているのもあって前世を多少なり引っ張り、ユートを幻影旅団の時のクロロの立ち位置と認識したのである。

 

 ピッと念糸を引く。

 

「がっ、ぐっ!?」

 

「余りオイタが過ぎると落とすよ?」

 

 何が? とは訊くまでも無い。

 

 見えない念糸に首を絞められて天之河光輝は掻き毟るが、どうにも出来ない侭で遂には意識を落とされてしまった。

 

「連れて行きなよ」

 

「うっ、判った」

 

 天之河光輝をまだ親友と思ってるからだろう、苦々しい表情で担ぎ上げつつも頷く。

 

 処刑は終わり、ランデルは生涯を小さな邸という名の牢獄に容れられてしまう。

 

 大した予算も組まれてないから餓えない程度の食事が朝晩と二回、そして小便に困るからとしてユートはランデルを【女体化】のインストール・カードで少女に変えた。

 

 この状態では尿道が壊されていないから便所に行くのに困らないが、数年後に孕まないのを良い事に邸の管理人により犯されてしまったとか。

 

 元は少年でもルルアリアの子でリリィの弟であるだけに、女体化をされたランデルはそれなりの

美少女として育っていたから。

 

 ユートには最早、どうでも良い報告だっただけに読んだ瞬間にはゴミ箱行きをした。

 

 ルルアリアはランデル処刑の夜には情婦としてユートに抱かれ、リリィとの母娘丼も確り喰われてしまうが快楽に病み付きとなったらしく数ヵ月も過ぎれば娘と同じ年齢にまで戻して貰った上で()()を捧げてしまう。

 

 メルド・ロギンスは再び騎士団長の座に就き、騎士団長だったクゼリー・レイルはユートの情婦兼騎士副団長となり、元の副団長は騎士団長補佐という立場に置かれる事となった。

 

 とはいえハイリヒ騎士団という枠組みの中での話であり、ユートが用意をしたジーク達が基本的に覇王アインハルトの近衛的な立場だ。

 

 ランデルの処刑から数日後にはリルベルトからの報告が上がり、矢張り他の大陸には人間らしき者達は存在していなかったとか。

 

 当然、本来は存在しない亜人など居る筈も無くて魔物か獣のみだったらしい

 

 計画の通りに港町を設置するべく動きながら、ファーマーが働ける環境を港町から離れた位置に村を作っておく。

 

 大事業として彼らは二千人から成る新大陸人となっていき、更に二千人ずつ移住をして大陸へと増えていったのだと云う。

 

 地球の美晴にはマチ・コマチネとヴィルフリッド・エレミアがコンビで手伝い、アインハルトとヴィヴィオが居なくなった分はコロナ・ティミルとリオ・ウェズリーが南雲家の手伝いに。

 

 そしてユート達は神代魔法とヴァンドゥル・シュネーの魂を求め、遂に魔人領に存在するであろう最後の大迷宮へ向かうのであった。

 

.




 教会に関しては次回。




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第93話:ありふれた念能力

 大迷宮には向かったけど途中で寄り道は必至な訳ですが、原典でも普通にあった出来事がアレンジされているだけですね。

 運営はマジ運対(笑)。





.

 さて、大迷宮への最後の攻略も間近となっているからにはやるべき事はやってしまわねば。

 

 聖教教会は神殿騎士や戦闘修道女といった者らを送り込み、ユートを亡き者とするべく暗躍などをしてくれていた。

 

 中にはユートや【閃姫(せんき)】を暗殺をしようと城のメイドに化け、飲物や食物に毒を仕込もうとしたりも平然としていたらしい。

 

 それもマチにより悉くが失敗に終わってたし、神殿騎士は男ばかりだけどメイドに化けて忍び込んだ修道女や戦闘を旨とする修道女は捕まえて、城の地下牢へと幽閉してしまい全員を犯した。

 

 敵対者には強姦も厭わないのだから。

 

 修道女と一口に言っても様々なタイプが居り、年齢に限定しても油断を狙ってか一二歳か其処らだったりするし、中には三十路くらいのベテランなメイドに化けるタイプも居る。

 

 戦闘を行うタイプは一五歳~二七歳くらいで、何故か醜女は居なかったからヤるのも愉しい。

 

 処女非処女に関しては流石に一〇代前半の娘は処女だったが、それ以降の年齢は上役に肢体を求められる事が度々あるらしく非処女ばかり。

 

 まぁ、痛みに泣き叫ばれないから【閃姫】にするでもないなら非処女もアリだ。

 

 それにしても清貧を尊べとまでは言わないが、立場を盾に肉体関係を強要とか腐れた教会。

 

 せめて和姦であるべきだと思う。

 

 実際にユートはアシュリアーナ真皇国の真皇(しんおう)としてメイドは何千何万と、六百年間で雇っている訳だけど処女かどうかのチェックも入るし、肉体関係を良しとするか否かも採用時に訊いていた。

 

 更には強制的にメイドとして雇う場合もあり、それはスラムで燻っていたり家出少女だったりと訳有りが連れて来られた形。

 

 原典と異なりシャンテもこういう経緯で拾われた後、聖王教会に見出だされてシャッハ・ヌエラに預けられ師弟みたいな形に収まった。

 

 僅か一日、魔法球を使っての一日が三〇日換算ではあるけど端から視ればそんな僅かな時間にて、暗殺者や戦闘修道女やメイドとして間諜をしていた修道女の全員を、ヘロヘロの腰砕けになるまで

ヤり抜いてしまったので別の意味も含めて脅威を懐かれてしまう。

 

 総勢で千人は居たのに……と。

 

 それは兎も角、修道女は一部を除いてユートに堕とされてしまって逆襲に使われた。

 

 その結果、イシュタル・ランゴバルトを捕らえたのは皮肉にも非嫡子ではあるが()()()……

 

 孫では無くて娘だとは、ユートとはまた違った意味だが下半身がとても元気な爺様である。

 

「さてと、イシュタル・ランゴバルト教皇さんには暗殺やら何やらと世話にもなった事だからな。確りと御返しをしないと真皇の名が廃る……というものだろう」

 

 その表情は笑顔だけど明らかに威圧。

 

 イシュタル・ランゴバルトもそれを感じたか、ゾクリと背筋に冷たいモノを感じていた。

 

 その理由の一つが念。

 

 軽く【練】を発するだけで念を識らない人間には脅威を感じずには居られない。

 

「わ、私を殺すのですかな?」

 

「簡単に死へ逃げられると思うなよ」

 

 ユートはイシュタル元教皇と幹部達を拘束し、神山に於ける教会本部から隔離していた。

 

「さぁ来い、ガタックゼクター! ハイパーゼクター! パーフェクトゼクター! そして三機のゼクター達!」

 

 天高く右腕を掲げたユートが虚空へ呼び掛けるとジョウントを通り、先ずはガタックゼクターがユートの手の内に納まる。

 

「変身!」

 

 ガタックゼクターをライダーベルトに装填をしながら叫ぶと……

 

《HENSHIN!》

 

 ベルトを中心にして装甲がユートの全身に拡がっていき、黒いインナーに青い装甲で赤い複眼を持った仮面ライダーガタック・マスクドフォームになった。

 

「キャストオフ!」

 

《CAST OFF CHANGE STAG BEETLE!》

 

 ガタックゼクターのゼクターホーンを反すと、マスクドアーマーが弾け飛んで中から現れたのはライダーフォームのガタック、横へと倒れていたガタックホーンが頭部に装着してユートは右手へと新たにハイパーゼクターを取る。

 

「ハイパーキャストオフ!」

 

 カブトムシの角に当たる部位のスイッチとなるゼクターホーンを押し込むと音声が響いた。

 

《HYPER CAST OFF!》

 

 ハイパーキャストオフにより、そのモチーフがクワガタである証となるガタックホーンが巨大化をして、胸部が内部にタキオンプレートを収納するガタックプロテクターに再構成、腕や脚のパーツも変化をして仮面ライダーガタックハイパーフォームとなる。

 

《CHANGE HYPER STAG BEETLE!》

 

 更に手にした剣――パーフェクトゼクターに集う三機のゼクター、即ちザビーゼクターとドレイクゼクターとサソードゼクター。

 

 前回のダークゼクターとは違ってシアに渡したザビーゼクター、雫に渡したサソードゼクター、そしてミナ・ハウリアへ渡したドレイクゼクターがパーフェクトゼクターに集った訳だ。

 

 再びゼクターホーンを押す。

 

《MAXIMUM RIDER POWER》

 

 そして青いスイッチから順番に黄色→水色→紫色と四つのスイッチを押していく。

 

《GATACK POWER》

 

《THEBEE POWER》

 

《DRAKE POWER》

 

《SASWORD POWER》

 

 四つの力が合わさり更なる音声が響く。

 

《ALL ZECTER COMBINED!》

 

 持ち手と刃の部位がガチャリと 90゜曲がり、パーフェクトゼクターは剣の形態から銃の形態へと変形をした。

 

「マキシマムハイパーサイクロンッ!」

 

 指に掛けた引き金を引きながら叫ぶ。

 

《MAXIMUM HYPER CYCLONE!》

 

 電子音声と共に銃口から渦を巻きながら放たれるエネルギーは虹色の輝きが美しく、凶悪な威力で少しずつ横薙ぎにされて神山を原子崩壊させながら突き進んでいった。

 

「し、神山が!? 我らの聖教教会の本部が! 莫迦な莫迦な莫迦な!?」

 

 目を見開きながら叫ぶイシュタル・ランゴバルト元教皇、そして絶望の表情で神山を見つめている同じ穴の狢的な枢機卿達。

 

 彼処には元教皇や枢機卿らの御宝やエヒトルジュエの絵画など、半生を費やして手にした物などが保管されていたのだから当然か。

 

 神の名の下に……と貯め込んでいた。

 

 否、エヒト様の御寵であると本気で思っていたのだから始末に負えまい。

 

 因みにあの気色悪い絵画は捨て置いているが、連中の財産はきちんと没収をしている。

 

「そういえば修道女の中にはイシュタルの娘が居たんだが、年齢的には枯れ果てた爺さんの割には随分と下半身が元気みたいじゃないか」

 

「な、何が言いたいのです?」

 

 プスーッ!

 

「っ!?」

 

 行き成り刺されて慌てるイシュタルだったが、何故か痛くも痒くも無いし血も出ない。

 

「不能の短剣、これで正真正銘で枯れ果てたって訳だよ。枢機卿のお前らも同じくな」

 

 全員を不能の短剣で刺して不能にした。

 

 最早、裸の女がお口で御奉仕してくれたとしても決して勃ち上がる事はあるまい。

 

 地位も財産も男の矜持すらも喪って死よりも辛い絶望が襲う。

 

「誰に喧嘩を売ったのかを理解したか?」

 

 間違いなく理解をしたけどそれは既に遅くて、イシュタルは急速に実年齢より老いたのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 聖教教会への制裁も終えたユートはリリィに加えてルルアリア、ヘリーナとニアの侍女コンビをも加えた5Pをたっぷりと愉しんでから旅路へ。

 

 ギャラクシーコンボイをモデルにしながらも、ビークルモードはG1な初代コンボイと似ているオプティマスプライムに乗り、リリィとヘリーナを連れてヘルシャー帝国へと向かう事になった。

 

 因みにギャラクシーコンボイは消防車であり、G1初代コンボイはトレーラーである。

 

「私が邪魔をしてしまったみたいで申し訳がありませんわ」

 

「構わんよ。もうお姫様じゃないとはいっても、矢張りケジメってのは必要だろうからね」

 

 天之河光輝の邪魔とは質が違う。

 

「そういえば、重吾さん達に言われていた話なのですが……」

 

「向こうから喚べるなら還せないのか? って話だろ。言った様に次元航行だけでなく時空の壁をも越えられるからには可能だ。でも連中だけで帰ってどうするよ? この世界を支配する愉悦神たるエヒトルジュエをどうにかしないと又候、誰かが召喚されるかも知れない。下手したら地球へと干渉されるかも知れない。だったらエヒトルジュエを滅ぼしてから帰るしか無い。だから僕は残るんだが、連中を帰したとしてどうやってマスゴミや政府からの干渉をどうにかするんだ? 下手に帰れば好奇の視線に晒され、政府からは過干渉をされ、マスゴミは面白可笑しくネタを記事に書くだけだろうよ。トータス以上に住み辛くなるのは火を見るより明らかなんだから我慢して貰うしかないんだよ」

 

「マスゴミが何かは判りませんが、確かに愉快な事にはなりそうにありませんね」

 

「前に住んでいた地で異世界からのゲートが神の力で開いた事がある」

 

「神とはユートさんの世界の?」

 

「うんにゃ、異世界の神で冥王ハーディという。それは兎も角として地球では色々と物議を醸し出したのは確かだね。マスゴミは勿論、日本政府や諸外国。何しろマスゴミからしたら新鮮なネタ、政府からしたら全くとは言わないが殆んど減ってない資源に新たなる開拓地(フロンティア)、欲していたし得られて当然と言わんばかりだったからな」

 

「浅ましいですわね」

 

「今回は自由に出入りが出来るゲートが確立された訳では無く、飽く迄も時空の向こう側だったから行き来が出来る訳じゃないが、日本政府は海外から独占を疑われてバッシングされるだろうし、そうなれば永山達に接触――くらいなら可愛いもので誘拐とかも有り得る」

 

「それは……また……」

 

 余りにも余りな地球という世界の情勢に対し、リリィは閉口するしか無かったのだと云う。

 

「言っておくが決して大袈裟に言っている訳じゃないからな? 外国とか云っても君らは同じ大陸内でヘルシャー帝国と魔国ガーランドとフェアベルゲンと後はハイリヒ王国と紐付けられているであろう中立商業都市フューレンやアンカジ公国、小さな世界でしか見ていないリリィでは理解もし難いんだろうけどね」

 

 勿論、それが悪いとは云わない。

 

 小さな村で一生を終える者だって居るのだし、それを考えればまだリリィは広い世界に居た。

 

「それでも帰りたければ帰してやると言ったら、流石に永山達も押し黙ったよ」

 

「彼らに跳ね避ける力はありませんか?」

 

「高が学生如きにある筈も無いな。はっきり言うが地球に戻れば力で何でも出来る訳じゃないんだから、下手に暴力でも振るえばマスゴミの格好の餌食だろうさ」

 

 地球では政府を相手に、マスゴミ共を相手に、それに……おかしな連中をも相手にしなければならなくなるだろうから。

 

(何しろ、美晴みたいな子の暗殺者が居るくらいだからな……とはいえ、美晴の方は混淆世界の子だとは思うんだがな)

 

 召喚されたとかではなく、この世界に習合された別の原典の存在であろうと思えた。

 

「ヘルシャー帝国まではすぐ……うん?」

 

「どうしました?」

 

「この気配は……パルか? それにミナにラナか。追われているみたいだな……」

 

「追われている?」

 

「行ってくる」

 

 ユートはオプティマスプライムから飛び降り、気配のある方向へとユートは駆けた。

 

 因みに他のメンバーも取り敢えずは飛び降りている。

 

 パル君――一〇歳やラナとミナは気配から明らかに変身はしていない。

 

(どうして変身してない?)

 

 変身は割とすぐに出来る筈だし、ならば変身をしないには理由でもあるのかも知れないと判断、ユートは魔力を脚に宿して加速をする。

 

「変身!」

 

 ユートは仮面ライダー一号が取る変身ポーズを取ると、自らの手にしたカードデッキを顕現したVバックルに装填。

 

 その姿は仮面ライダー龍騎。

 

「よっしゃ!」

 

 そして一枚のカードをデッキから引き抜くと、まるで炎が全身を包むかの如く竜巻くと左手にはドラグバイザーツヴァイ。

 

《SURVIVE!》

 

 ドラグバイザーツヴァイの龍の口となる部分に喰わせるかの様に閉じた。

 

 炎に包まれていたユート――龍騎は仮面ライダー龍騎サバイブに変化する。

 

「一気呵成に征く!」

 

《FINAL VENT!》

 

 ドラグレッダーが顕れてドラグランザーへと変わると、更にバイク形態に変形させたのに乗り込むとアクセル全開で走らせた。

 

「見付けた! パル、ミナ、ラナ! 一気に此方へと駆け抜けて来い!」

 

「あれはまさか!?」

 

 ミナ・ハウリアが気付いた様に声を発すると、ラナとパルの二人と頷き合って加速する。

 

 すぐに交差して三人が駆け抜けたのを確認した瞬間に、ユートはドラグランザーに命じて三人を追っている鎧兜――どうやら帝国兵らしい――連中に突撃をした。

 

「うわぁぁっ!」

 

「な、何なんだ!?」

 

「化け物だと!」

 

 ドラグランザーが火の玉を放って牽制というよりも、その火の玉をぶつけただけで死にそうだが兎にも角にも轢き逃げアタック――ドラゴンファイヤーストームで轢き斃した。

 

『『『『ウギャァァァァッ!』』』』

 

 勿論、そんな事をすれば対ミラーモンスターや対仮面ライダーの為の必殺技だけに、単なる人間が喰らったのだから粉々に粉砕されている。

 

 ブレーキを効かせて停まると龍騎となっているユートはドラグランザーから降り、此方を窺っているパルとミナとラナの方へと歩き出すと同時にカードデッキを外して変身解除。

 

「矢っ張り兄者!」

 

 パル君――一〇歳が嬉しそうに叫ぶ。

 

「総領、お久し振りです」

 

 片膝を地面に付いて頭を下げるラナ。

 

「ユ、ユート様……」

 

 ミナの頬が朱い。

 

 今のユートはフェアベルゲンを纏める総領で、位置的には長老が置かれる評議会より上。

 

 そして女王的な立ち位置となるアルテナ・ハイピストの夫的な立場、ミナとしては()()()()()既に意識をしていただけに堕ちていた。

 

「君らなら斃せたろうに、変身をするでなく逃げていたのは何でだ?」

 

「実はちょいとしくじりまして」

 

「しくじった?」

 

 パル君――一〇歳が悔しそうな表情となりギリッと奥歯を噛み締める。

 

「総領、フェアベルゲンが魔人族により襲われました。魔人族こそ撃退しましたが、すぐに人間族――ヘルシャー帝国の兵士が乗り込んで来まして、あろう事か樹海に火を放ったのです」

 

 パル君――一〇歳に代わりラナが説明。

 

「ほう? 魔人族も魔人族だが、ヘルシャー帝国も亡びたいみたいだな、ハイリヒ王国みたいに」

 

 国王のエリヒドは死亡、王太子ランデルは♂を喪って女に成った上に子を成す事も出来ないし、ルルアリアは王族ではあっても王家の血族ではなかったし、子を成す事は可能だがユートの虜であるリリアーナには期待が出来ない。

 

 事実上、ハイリヒ王国は滅亡状態だ。

 

 但し、幸いな事に民には何の害も無かったから王国滅亡は単純に頭がすげ替わったに過ぎない、寧ろ使途不明金分の税金が減ったから有り難いくらいだったのだと云う。

 

「それで現在は帝国兵を捕らえるべく作戦行動をしていまして、今回も変身は無しで帝国兵を捕まえる為に殺害も極力減らす予定でした」

 

「ああ、そりゃ悪い事をしたな」

 

 轢き逃げアタックで挽き肉にされた帝国兵を視ながら頭を掻くユートに、パル君――一〇歳やラナやミナも恐縮をしながら言う。

 

「いえいえ、兄者に助けられて文句なんて言いやせんや!」

 

「そうですよ総領!」

 

「ユート様に助けられて嬉しいです!」

 

 パル君――一〇歳は目がキラキラ、ラナとミナは頬が一様に紅くなっていた。

 

「それで、パル……」

 

「兄者、少々宜しいでしょう?」

 

「何だ?」

 

「俺の事はこれから『必滅のバルドフェルド』と御呼び下せぃ」

 

「……は?」

 

 ユートがバッと振り向くと……

 

「疾影のラナインフェリア!」

 

「そして私は空裂のミナステリア!」

 

 何故かドヤ顔で、ジョジョっぽい感じに香ばしいポーズを決めながらも名乗るのだった。

 

「パル君、ラナさん、ミナさん? ……ヒッ!? な、何ですかこの威圧感は!」

 

 プルプルと震えるシアにニコリとミナが笑顔、それは飛び切りの可愛らしい誰もが魅了されそうな満面の笑顔を向けてきて、シアはビクリと肩を震わせて一歩二歩と後退さってしまう。

 

「ね、念……だと?」

 

 ミナはいつの間にか念を修得していた。

 

 フッとミナの姿が消える。

 

「ミ、ミナさんが……っ!?」

 

 何故だかシアの背後を取っていた。

 

「羨ましい、シアが羨ましいわ」

 

「な、何を?」

 

「ユート様には充分に可愛がって貰っているのでしょう? そのおっきなオッパイを揉まれたり吸われたりして、その上で挟んだり扱いたりしているんでしょうね?」

 

「ひゃわっ!?」

 

 ミナがシアの胸を揉みながら訊いてくるけど、敏感なシアは先っぽを捻られて蕩けた顔に。

 

 そんな二人の姿にJr.が無い天之河光輝は兎も角として、坂上龍太郎はアダルトビデオなんか目じゃない余りのエロティカルな光景に前屈みとなってしまう。

 

 それを視た鈴が汚いモノでも視るかの如く視線を向けて一言。

 

「龍太郎君、サイッテー」

 

「ぐふっ!」

 

 原典afterと違って好意を懐いている訳では無い坂上龍太郎だったが、女の子からのその発言には精神的なダメージを負ってしまった。

 

 ユートがおっきさせれば紅くなってしまう鈴、他の男がおっきさせても愉しくないらしい。

 

「それで、必滅とか疾影とか空裂ってのはいったい何なんだ? それと名前の後に付けているのも意味が判らないんだが」

 

「取り敢えず名前からインパクトが欲しいなと、一族が総出で考えた次第でやさぁ」

 

「一族総出でか?」

 

「へい、兄者!」

 

 となると、どうやらハウリア一族の全員が今みたいな厨二病を患っているのであろう。

 

「パ、パル君……」

 

「必滅のバルドフェルドですぜ、姉御」

 

 どうやら譲れない願いの様だ。

 

 今もオッパイ揉み揉みされるシアに対し冷静に言うが、一〇歳の身でも矢張り少年には目に毒だったらしくシアの方を見ない。

 

 まだまだポークビッツだから目立たないだけでパル君――一〇歳の♂もおっき中なのだろう。

 

「ミナさん、いい加減で止めて下さい!」

 

 一本背負いで投げるも、ミナはクルクル一回転をしながら着地をしてしまった。

 

「シア、空裂のミナステリアよ」

 

「ウ、ウチの一族が変な感じに~」

 

 厨二病真っ盛りな一族に嘆くシア。

 

「いっそシアも名乗れば?」

 

「嫌ですぅ!」

 

 苦笑いのユートに諭されてブンブンと首を横に振りながら叫んだのだと云う。

 

 取り敢えず話を進める事に。

 

「成程な、帝国兵に亜人族が何人も攫われたか。それでカムを中心にハウリアが何人か態と捕らわれて敵情視察、他は攫われたフェアベルゲンの民の救出をする部隊とパル……トフェルド達みたいな帝国兵を誘き出す部隊に分かれた訳か」

 

 ジーッと視られたので呼び直す。

 

「へい、なので他の部隊から連絡が有ればだいたいの事が判りやす」

 

 どうやら大丈夫らしい。

 

「それなら変身しなかったのも判るが……帝国兵が動くからには皇帝の意を受けたんだろうな奴ら。潰すか、ヘルシャー帝国」

 

「手伝って頂けるんですか? 総領」

 

「どうせリリィをヘルシャー帝国まで連れていく予定だったんだ。攫われたフェアベルゲンの民を回収して送り届けたら向かうぞ……帝国に」

 

「「「はい!」」」

 

 キラッキラな瞳のパル君――一〇歳や、矢っ張り蕩けた表情でユートを見つめるラナとミナ。

 

 パル君――一〇歳とラナとミナを加えた一行は、再びオプティマスプライムに乗り込んでハウリアらしきを捜す事になる。

 

 尚、帝国兵の遺体はユートがメラゾーマにより焼き尽くして灰すら残らなかった。

 

 捜せば割とすぐにハウリアは見付かる、誰なのかまでは流石に判らなかったのだが数人が帝国兵と闘っているらしい。

 

 他にも何人もの亜人族が居る。

 

 森人族に狐人族に猫人族など様々な種族達で、意外なのは土人族――ドワーフの女の子はずんぐりむっくりではなく、身長が低く髪の毛が多いだけで割と普通に可愛らしかった。

 

 四方世界ではずんぐりむっくりだった事も手伝って、ユートは勝手にそちらを想像していただけに目を見開いてしまう。

 

「さて、行きますか」

 

 だけど行く中にミナとラナと序でにネア・ハウリア――外殺のネアシュタットルムは居ない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ユート様」

 

「どうした?」

 

「ネンって何ですか?」

 

「ああ、その話か」

 

 どうやら良過ぎるハウリアの耳は決して聴き逃したりしなかったらしい。

 

「いつからかは知らんけど皆には見えないモヤがミナ――ステリアの周りに見えるだろ?」

 

「はい」

 

「それは生けとし生ける存在ならば誰しも持ち合わせる生命エネルギー、即ちオーラと呼ばれているモノだ。精孔というのが開いていないと開花しないにしても、誰でも等しく使える様になるのは間違いない……それが念能力だ」

 

「オーラ……これがですか?」

 

「ああ、僕も念は扱えるからミナステリアの周囲に漂うオーラが見えた。どうやったかはしらないが【纏】は綺麗に出来ているね」

 

「テン?」

 

「オーラを垂れ流すのではなく身体の周囲に留め置き『纏う』技術。念能力の基礎中の基礎となる四大行と呼ばれる最初の一歩というやつだな」

 

「四大行という事は?」

 

「他に三つ。だけど最後のは応用編まで修得してからだな」

 

「それは何故ですか?」

 

「最後の【発】は必殺技みたいなものだからだ。自分の系統に合った必殺技を作るのだから基礎から応用まで全てを修得していた方が良い」

 

「成程……」

 

 最低限、【凝】と【隠】と【堅】は欲しいし、【周】や【流】や【円】なんかも疎かにはしたくない、【硬】も出来ないよりは出来た方が良いに決まっている。

 

 体質か性格上かで扱えない能力も在るらしいのだけど、取り敢えずミナには全てを教えておくのも良いだろう。

 

 亜人族だから魔法は使えないにせよ、念能力であれば扱えるのだろうから。

 

「オリジナルに比べて然程に危険も無い訳だし、ミナ――ステリアは僕の持つ力で彼処に行って貰おうか」

 

 名前を呼ぼうとすると見つめられる。

 

「彼処……ですか?」

 

「僕の念能力――【発】の一つだよ」

 

「っ!」

 

 ミナが驚くのと同時に【HUNTER×HUNTER】を識る全員も驚く。

 

「能力名は『強欲なる島(THE GREED ISLAND)』」

 

『『『グリードアイランド!?』』』

 

 英語でグリードとは七つの大罪である強欲の事を指しており、綴りも同じである為に恐らくそれをイメージして名付けられたのだと思われる。

 

 因みにGREEDはジン、レイザー、イータ、エレナ、ドゥーンの頭文字から、ISLANDも同じく頭文字だけど名前が公表されているのはLに相当するリストくらい、またドゥーンの本当の頭文字はWだけどジンに改名させられたらしい。

 

「【発】の一つって事は他にも有るのかよ!? ってか容量(メモリ)はどうなってんだ?」

 

 ちょっと興奮気味な野村健太郎。

 

「他にも在る。無制限ではないが……そうだな? カストロが10ギガだとしたら僕は10テラくらいは空き容量(メモリ)が在るんだと思えば良い」

 

「チートか? 矢っ張り転生チートなのかよ? 百倍じゃ済まねーじゃんか!」

 

 約千倍となるからそう思うのは仕方がないが、ユートみたいな記憶持ちは記憶無しの転生に比べて魂の拡大率が高い為、何をやるにしても他者より遥かに有利な立ち位置から始められるのだ。

 

 況してや今のユートは疑似転生を幾度と無く繰り返し、通常転生すら二度も行っているのだから念能力の容量(メモリ)も更に増えていた。

 

「他にはどんな能力が?」

 

 雫も気になるのか訊ねてくる。

 

「例えばそうだな、殺して逝かせるか性的にイカせた相手の魂を掌握して能力を模倣か簒奪する【模倣の極致(コピー&スティール)】、自身が扱える能力を他者に与えるカードを創る【修得する切札(インストール・カード)】、自分に女性、女性に自分の快楽を与えて更に増幅させ全身を性感帯にする【女神を縛る鎖(ヴィーナス・ラブミーチェーン)】とかかな?」

 

「せ、戦闘には使えないな……」

 

 【女神を縛る鎖】の部分で紅くなる野村健太郎を辻 綾子が冷めた目で見つめていた。

 

 付き合っている訳では無いのだが互いに意識をし合っている二人なだけに、エロティカルな事を野村健太郎が考えると嬉しくないらしい。

 

「闘う為の念能力は無いのか?」

 

「有るぞ」

 

「どんな?」

 

「【破壊神の降臨(ジェネシックドライブ)】」

 

「な、何かスゲー不吉な名前だな……」

 

 決して敵対側ではないのが救いか?

 

「僕は【模倣者】だ。だから独自性は余り無くて大概は模倣した闘い方になる。これだってちょっと面倒な制約が有るけど使ってしまえば使い易い能力なんだよな」

 

 使わない事が多いけど。

 

「【HUNTER×HUNTER】の世界では念能力を中心に使っていたから、ちゃんと【破壊神の降臨】も使っていたんだけどな……幻影旅団員とかヒソカやクロロやイルミを相手にしてね」

 

「選りに選ってそいつらかよ」

 

 基本が疑似転生なだけに鍛え直しをしなければならないし、どうあっても肉体能力は本体よりも劣ってしまうが故の選択である。

 

「制約って?」

 

「必ず最終融合(ファイナルフュージョン)というバンクを入れる」

 

「……は?」

 

「だから、念能力を使う為には必ず最終融合ってバンクを入れなきゃならんのだよ」

 

 要は変身バンクを入れないと使えない能力で、強力ではあるが非常に面倒臭い。

 

「しかも技名を叫ばんと技が出ない」

 

「うわぁ……」

 

 抑々がユートの認識がそれだから。

 

「話を戻すぞ。ミナ――ステリアにはグリードアイランドという念で創ったゲームをプレイして貰う事になる。魔法球内に構築された島を舞台にしてモンスターを狩り、指定カードと呼ばれるカードを百枚集めてコンプリートすればゲームクリア。ゲームクリアが無理だと考えたらゲーム内の魔法に途中でゲームから出るモノが在るから捜し出して使えば良い。【挫折の弓】というアイテムを使っても出られるし、港から出るというのも可能な様に再現されている」

 

 【挫折の弓】は入手難度がAでカード化限度枚数は11の割とレア度が高いアイテム、装備をしたら矢の本数――最大で10本――だけ【離脱(リーブ)】の魔法が使える物だ。

 

 ぶっちゃけ、【挫折の弓】を手にしているくらいなら普通に【離脱】を手に入れた方が良い。

 

 因みにユートの【強欲なる島(THE GREED ISLAND)】という念能力は、外の世界でユートが(バインダー)を扱えて更にはカードも使える。

 

 カードの殆んどが【創成】で創ったか具現化したかの代物、魔法カードはグリードアイランドでユートが実際に手にして使える状態にした上で、【修得する切札】により構築して造り出して修得をしてから魔法カードにした。

 

 尤も、魔法カードは基本的にゲーム内で使う事が前提に作られているから無意味だが……

 

 ユートが天之河光輝に対して呑気に構えていられるのも、本当に本気でやるのなら入手難度Bでカード化限度枚数22の【縁切り鋏】を使えば事が済むのだから。

 

 まぁ、グリードアイランドのアイテムなんてのはユートも先ずを以て使わないけど。

 

「本当に、どうしても脱出方法すら使えなかった場合だが……ブック!」

 

 ユートが本を出すと開いてカードを取り出し、それをミナへと手渡してやる。

 

「【離脱(リーブ)】?」

 

「これを使えば最悪で戻れる。但し、ゲーム内の【離脱】ではなく此方を使った場合はミナ――ステリアの念を封印する」

 

「っ! ど、どうしてですか!」

 

「ライバルすら居ないグリードアイランド内で、【離脱】すら手に入らないってなら念能力を使うセンスが無いからだよ」

 

「わ、判りました……」

 

 スペルカードはマサドラでカードを買いまくればいずれ手に入るのだが、それにはリアルラックか袋に三枚入りのカードを買いまくれる資金力が必要となってくるのだ。

 

 こうしてミナはグリードアイランドに入って、プレイヤー名:ミナステリアで登録をしてプレイをする事になったが、何故かラナがプレイヤー名:ラナインフェリアとネア・ハウリアがプイヤー名:ネアシュタットルムでプレイする事に。

 

 仕方がないから二人が最低限の念が扱える様に精孔を開き、必要な知識を伝えて【纏】と【絶】が使える様にして送り出す。

 

 原典では【発】をしろとあるが、グリードアイランドでは明らかに初心者用のモンスターなんかも居るし、実際には【纏】か【練】でも可能というか【発】は有り得ないだろう。

 

 例えばウボォーギンの場合は『超破壊拳(ビッグバンインパクト)』を使えと言うに等しい。

 

 どう考えても誤植なり勘違いなりだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユート達は攫われていた亜人族を救出するべくオプティマスプライムから飛び降り、縦横無尽の活躍で帝国兵共を蹴散らしてやると代表となって話し掛けて来た森人族の少女と話す。

 

 原典ではアルテナ・ハイピストだったのだが、此方での彼女は仮面ライダーバルキリーとなってオルクス大迷宮で動いており、代わり? となって捕まった森人族が居たらしい。

 

「初めましてじゃ、我が名はフリュー・ハイピストという」

 

「ハイピスト? アルフレリックやアルテナと同じファミリーネームだな」

 

「一応は親族じゃな。アルテナの叔母に当たると言えば判り易かろう」

 

「オバサン……」

 

「言っておくが、ワシは肉体的には一四歳くらいで成長が停まっておるからな?」

 

「! ユエと同じ? まさか、固有魔法の使い手なのか!?」

 

「バレバレじゃの。故にワシは独りで暮らしておったのじゃがな」

 

 原典には存在しない上に身内たる父親に当たる族長にして、長老たるアルフレリックやアルテナも知らない固有魔法の使い手のフリュー。

 

 知られない侭に一族から出奔する形で森に暮らしていたのを、行き成り魔人族は現れるは帝国兵に捕らわれるはというとんだ一日だったらしい。

 

「どうやら最近では魔法を扱うのに忌避感も和らいだらしいが、だからと言ってワシがそれを内密にしておったのじゃから父上も立場上は困ろう。故にワシを貰ってくれぬか?」

 

「アルテナが居るんだが……」

 

「伝え聞くにアルテナは女王に成る立場じゃし、ワシは甘いモノさえ食わせて貰えるなら御主を主と仰いでも構わぬよ」

 

 確かにフリューは見た目が可愛らしい。

 

 甘味好きみたいだが、隠れ住む森人族というのは手に入れるのも難儀したのであろう。

 

「父上に言われて偶にアルテナが運んで来てくれる甘味しか食えぬ日々、御主に付いて行けば甘味を心置き無く堪能出来そうじゃからな」

 

 居場所も心許なく、好きな甘味を食べるのも侭ならない日々に終止符を……という訳らしい。

 

「判った」

 

 最後の大迷宮前にヘルシャー帝国へ乗り込むという直前、フリュー・ハイピストという植物操作の固有魔法を持つ【閃姫】候補を手に入れた。

 

 

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 フリューはメーネと同じ原産のエルフです。




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第94話:ありふれた量産型

 最後の大迷宮とは何だったのか?





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 フリュー・ハイピストが仲間に加わったけど、まさか連れ歩く訳にもいかないしオルクス大迷宮で暮らして貰うべく連れて行く。

 

「甘味に関しては月奈に頼めば幾らでも出してくれるが、くれぐれもその身がブクブクに太らない様にしてくれよ?」

 

「任せておくのじゃよ主様。ワシとて今の体型を崩して主様の興味を失いとうは無いしな」

 

 月奈が苦笑いをしていた。

 

 彼女は本来であるなら救世主として此処とは別の世界線の地球から、トータスとは異なる異世界へと神様? 経由で向かう筈だったのがエヒトの召喚による影響で時空に乱れが生じたのか此方側の世界線に移動してしまったのである。

 

 帰れば救世主として結局は異世界送りになり、地球に還しては貰えなくなる訳だ。

 

 とはいえ、フリューに甘味を提供するチートなアイテムは救世主となる報酬で与えられた物で、それを甘受しながら救世主にはなりたくないとは流石に言い難いであろう。

 

 三三歳で男の影も無く本さえ読めれば幸せだった月奈ではあるが恋愛モノだって読むし、自分をソコに当て嵌めて考えるくらいならしていたから今の状況をある意味で愉しんでいた。

 

 初めてをユートに捧げてからは時折にやって来るのを楽しみにし、来たら飛び切り美味しい御飯で迎えて夜はアイリーンやアルテナと共に閨へと引き込まれて快楽に溺れている。

 

 自慰をしないから自分ですらも知り得なかった快楽の壺、快楽点(けらくてん)を突かれて大きな声で喘ぎながら涙を流して悦び啼いたのは恥ずかしかった。

 

「さて、フェアベルゲンに向かうか」

 

 パルやミナやラナから受けた説明では魔人族による真の大迷宮への侵攻、魔物を操り警備をしていたフェアベルゲンの戦士達も歯が立たない。

 

 それに関してはハウリアにより蹂躙されたので問題も無く終わるが、それでも亜人族の警備兵や熊人族など攻撃力のある者ら向かってはみても、大きなダメージを負ってしまっていた。

 

 ハウリアは仮面ライダー黒影トルーパーという量産型ライダーを、ミナに至っては仮面ライダードレイクを使っていたからダメージは皆無。

 

 だけど魔人族や連中が操る魔物を相手に分散をさせ過ぎてしまい、まさかの帝国による連続攻勢で体勢が整わない侭に樹海へ火を掛けられ女子供をむざむざと攫われてしまったのである。

 

「樹海に関しては香織、キングフォームに成って再生魔法で修復を頼むぞ」

 

「任せて、ゆう君!」

 

 原典では檜山大介に刺されて生命の灯火が消えてしまい、ハジメ達の尽力によりノイントの肉体に宿る事で復活パワーアップを果たしていたが、此方の世界線では香織は生きているし何より既にノイントの力は得ていた。

 

「その前にフェアベルゲンに移動するぞ。折角、開かれているんだからな」

 

 樹海を元に戻すのはその後だ。

 

 フェアベルゲンの唯一の町とも云える亜人族の本拠地に着くと、少女や幼年の子供達が親許へと泣きながら駆けて行き抱き着いている。

 

 矢張り心細かったのだろう。

 

「済まぬな、迷惑を掛けた様だ。私の家出をしたバカ娘まで救って貰って助かった」

 

 フリューが攫われたと聞いて気が気でなかったらしいアルフレリックは、あからさまに安堵をしたという表情でユートに話し掛けて来た。

 

「フェアベルゲンは既に我が国の一部だからな。ならばこの国の民は我が国民だし助けるのは義務であり、君らは助けて貰う権利を有しているんだから気にしなくて良いさ」

 

「フッ、それでもだよ」

 

「それとフリューだが……」

 

「あの子に気に入られたか?」

 

「よく判ったな」

 

「あの子がハウリアの族長の娘と同様に魔力を持つ事は薄々と気付いておったよ。あの子は頭が良いから普段から使わぬ様に気遣っておったがの。じゃが、矢張り魔力持ちである事実は変わらぬからかいつからか家出をしたのだよ」

 

「偶にアルテナがアルフレリックの差配で甘味を運んでいたらしいが」

 

「それくらいしかしてやれなんだ」

 

 親としては苦渋に満ちた顔をしてはいるけど、長老としては本来なら処刑なり追放なりしなくてはならなかったのだ。

 

「それなら貰って構わないな?」

 

「あの子を頼む」

 

「頼まれた」

 

 元よりエルフは好きな方である。

 

 高慢ちきだと流石にアレだけど、仲良くしたいと歩み寄るエルフには普通に好感を持つ。

 

 というよりも余程の人間嫌いでもない限りは、エルフからユートに嫌悪を感じたりはしないのでフリューの警戒心の無さ、あれも実はエルフであるが故なのかも知れないと思っていた。

 

 森人族は元が人間族で云わばニセモノだけど、魔法を得る事で単なるニセモノから本物に寄り近付いた結果かも知れない、恐らくユートの固有な能力? エルフに好かれ易いが発動している。

 

 事実としてニセモノとはいえど森人族の少女達に接待されているユート、前とは違い可成り近くなった気がするから不思議だ。

 

 アルテナが身を売るに近い真似をした訳だが、それがフェアベルゲンの女王となる事になったのもあるだろう、森人族の少女達はそれなりにでも好感度が上がっているらしい。

 

「香織、再生魔法を」

 

「了解だよ!」

 

 フェアベルゲンにさえ着いてしまったら最早、戦闘痕など気にする必要など一切無い。

 

「【絶象】!」

 

 再生魔法の一つ【絶象】、それは嘗てメイル・メルジーネが行使していたあらゆるモノを再生する神代の魔法だ。

 

 リューンモードな今の香織は更にキングの力でノイントモード――姿は同じ――になって、激しく増大した白菫に銀のキラキラが混じった魔力光の魔力による【絶象】が無数の波紋となり駆け巡っていき、魔人族と人間族の手による破壊によって傷付いた大地に染み渡る。

 

 正確にはこの【絶象】は治療系の魔法ではなくて時間魔法、過ぎ去りし刻の流れを逆転させる事により相対的に傷を無かった事にしていた。

 

 当然、時間が経過すればする程に莫大な魔力を消耗してしまうだろう。

 

 再生魔法とは時間に干渉する過去再生の魔法、故にユエ達の再生魔法を基にした再生の力は魔力さえ有れば首を落とされても元に戻ったし、細胞がどれだけ酷使されてもテロメアが再生されるから歳を取る事も無い。

 

 絶妙なのは何故か処女膜の再生だけはされず、ユエに刻んだ初めての証しは確り残っている。

 

 喰っちゃったあの日に初めユエもその可能性に気付いて青褪めていたけど、実際に確認作業をしてみれば再生している時間の筈が未だに再生しておらず、ユエの許可を得て再び挿入をしてみたがすんなりと入って痛がる事も無かった。

 

 当然ながらユエはホッとしていたのは間違いないし、同じ魔法を持つフリューも処女膜が再生されたりはしない筈。

 

 若し同じ名前なだけの別物だったらフリューのスキルを簒奪した上で、ユエから得た方の再生を【修得之切札】で改めて与えれば良い。

 

 ユートはユエの許可を得て、彼女の【再生】を簒奪した上で再びそれを返してある。

 

 つまりユートはユエの【再生の力】を手に入れており、自分が使える状態にしているから念能力の【修得之切札】で数式化して与えられる状態になっていた。

 

 彼女のあれは魔力さえ有れば首ちょんぱすらも恐くなく、【閃姫】に与えない理由が全く以て見付からないと言っても良い程。

 

 因みにだが、雫や香織からの評判は上々だったのだけど理由はスキンケアが要らないからとか。

 

 魔力を持っていれば肌が再生されていつでも今の瑞々しい御肌を保てるし、雫は四歳児の頃から木刀を振り続けて出来ていた剣ダコがすっかりと無くなって柔らかな肌に戻っていた。

 

 ユートとしては剣ダコは未熟の証明でもあるのだが、雫が頑張ってきた証拠でもあるから寧ろ誇れば良いとは思う、だけれど女の子としては角質がボコボコに硬化した手は恥ずかしいらしい。

 

 まぁ、すっかり柔らかくなった雫の手で自分のJr.を扱いて貰うと心地好いから、ユートとしてもこれは存外に悪くはないと考えている。

 

 それは兎も角として、香織の使った【絶象】が樹海を再生させたのでユートも胸を撫で下ろす。

 

 尚、魔力を消耗するけど香織は全く疲れを感じたりはしていない。

 

 何故なら【閃姫】には有り余る恒星が数個分ものエネルギータンクを使えるから、何なら今すぐに地球の自然環境を全て古代にまで戻したとしても香織は余裕でやれるだろう。

 

 地球環境の再生――ある意味でヤベェ。

 

 フリューは小さくて『のじゃ』と言ってのけるエルフであり、この三属性はユートも充分に満足が出来るだけの破壊力を持っていた。

 

 オルクス大迷宮に篭る事になる訳だし大迷宮に行く前に味わいたいと思う。

 

「トワには悪いがフェアベルゲンの護りを頼む。それと並行して連中を鍛えてくれ」

 

「了解した」

 

 放浪の軍師とされるトワは頷く。

 

「大丈夫なのかね?」

 

「トワは強いから問題は無いよ。それとヘルシャー帝国や魔人族が又候、フェアベルゲンに攻めて来るかも知れないから闘える者を鍛えておかないとならないし、装備も渡さないとな」

 

「ふむ、確かにな」

 

 装備品に関してはフェアベルゲン軍とでも云える彼らに何を渡すべきか?

 

(獣人系は素手で闘うタイプが普通だろうから、妖精系に細剣や戦斧辺りかね?)

 

 森人族に細剣はディードリッドのイメージが強いからだろうし、土人族に戦斧はやはりギムとかのイメージが強いのだろう。

 

 熊人族や狼人族や虎人族が爪や牙以外で闘う姿は余り想像が出来ない、勿論別の異世界では普通に使っているのだがトータスの獣人は肉体派っぽいからだ。

 

(量産型ライダーのライオトルーパーか若しくはライドプレイヤー。ライオトルーパーには最低限の武器は付けてるが、ライドプレイヤーは武器を持つなら別口で得る必要があるな)

 

 基本的にライドプレイヤーに武器は無く、未だにユートがよく識らない原典でも武器に関しては仮面ライダー側から奪っていた。

 

 ライオトルーパーには剣と銃が一体型の武器を標準装備させているし、武器の事に思考を割かなくて良いのは決して悪い事ではない。

 

(仮面ライダーメイジは彼ら亜人族にとっては、魔法使いなだけに相性が最悪だしな)

 

 基本的に彼らは魔力が無いから。

 

 フェアベルゲンが襲われたからには防衛強化は必須事項となっているのだし、獣人系や妖精系の【閃姫】辺りを援軍としてフェアベルゲンへ常駐させるのも考えるべきだろう。

 

 例えば()()()()()()()()で【閃姫】に()()()()()()()ディードリッドとか。

 

 いずれにせよ、フェアベルゲンの彼ら自身こそが強くなり自らを守らねば始まらない。

 

「という訳で、どれを使いたい?」

 

「どれをと言われてもな」

 

「俺達にはどれが何やらさっぱりだ」

 

 ユートの質問に対し、アルフレリックとジンは互いに顔を見合わせてから答えてきた。

 

「疑似ライダーとか量産型ライダーと呼ばれている存在に変身するツール、此方の世界風に呼べばアーティファクトだとも云えるな」

 

「疑似?」

 

「量産?」

 

 翼人族のマオと狐人族のルアがそれぞれの手にライオットドライバーとクロニクルガシャット、疑似なり量産なりのツールを弄びながらユートからの説明を聴いていた。

 

「量産型とか疑似と呼ばれるのはオリジナルからコストダウンや機能のオミットで簡易化もされ、扱い易さやメンテナンス性を向上させた上で性能の画一化もされた仮面ライダー、或いはオリジナルの仮面ライダーに似せてあるけど非なる存在を云うんだよ。ライオトルーパーやライドプレイヤーや黒影トルーパーや仮面ライダーメイジなど、数が揃えられているのが量産型の特徴と言うなら特徴だね。まぁ、ライドプレイヤーは疑似ライダーの方にもカウントされるけど」

 

 ライドプレイヤーは公式には仮面ライダーではなく疑似ライダー、仮面ライダーっぽく変身をしてパッと素人見では仮面ライダーと思えなくも無いという存在の一種だ。

 

 例えば――魔進チェイサー、ゴルドラとシルバラの兄弟、ブラッドスタークといった連中。

 

 尚、変身者が同じチェイスとはいえ仮面ライダーマッハと同じシステムで変身する仮面ライダーチェイサーは、その名前が示している通り正規の仮面ライダーである。

 

 また、『白い魔法使い』とクレジットされているあれも一部非公式な媒体で仮面ライダーワイズマンと呼ばれ、一応は正規の仮面ライダーという扱いになっていた。

 

「疑似ライダーの代名詞がこれだ」

 

「これは?」

 

 小さく薄く黒い中央に丸く金色で紋様を描いている箱状の物、それは【仮面ライダー龍騎】に出てくるオルタナティブのカードデッキ。

 

「実はこいつも量産していてね」

 

 量産型オルタナティブ。

 

「他にも量産型G3であるG3マイルド」

 

 一応、G3マイルドもG3の一種であるからには仮面ライダー扱いになる筈である。

 

「とはいえ、仮面ライダーG3マイルドは変身じゃなく()()だからな」

 

 あれを着込むのや置場には難儀するだろうし、五〇着も有ったらどうにもならない。

 

 普通に量子化すれば変身対応も可能ではあるのだけど、ユートはそこら辺を様式美に少し拘りがあるからか余りやりたがらなかったりする。

 

 量産型仮面ライダーG3マイルド。

 

 量産型オルタナティブ。

 

 ライオトルーパー。

 

 量産型仮面ライダーラルク。

 

 量産型仮面ライダーランス。

 

 量産型仮面ライダーグレイブ。

 

 量産型仮面ライダーバース。

 

 仮面ライダーメイジ。

 

 仮面ライダー黒影トルーパー。

 

 量産型仮面ライダーマッハ。

 

 仮面ライダーネクロム。

 

 ライドプレイヤー。

 

 実に沢山の量産型仮面ライダーら疑似ライダーのラインナップだが、勿論ながら幾つかは単純に量産してみた物で劇中に於いて量産されてはいないのも存在している。

 

 量産型仮面ライダーマッハは劇中で登場を果たした()()()()()()()の事なんかでは当然無くて、普通に簡易版の仮面ライダーマッハという感じに仕上がった物だ。

 

 尚、量産型グレイブやラルクやランスは見たまんま仮面ライダーグレイブ、ラルク、ランスの姿で数だけ揃えた物。

 

 カードも【CHANGE】と【MIGHTY】のみだし、ラウザーにしてもランスラウザーとラルクラウザーは設定通り、グレイブラウザーはカード収納の機能が無い正しく簡易版。

 

 一応はレンゲルバックルの機能を着けてるし、単純な能力はオリジナルと変わらない。

 

「選ぶなら全員が同じのにしたい」

 

「ふむ、確かに画一的でないと。てんでんバラバラでは困るからな」

 

 長老衆――アルフレリック、ジン、グゼ、マオ、ルア、ゼルの六人がああでもないこうでもないと話し合っていた。

 

「そういえば各種族の中でも闘いに肯定的なのを集めてフェアベルゲン騎士団を創設する手筈だった訳だけど、使うのはその騎士団の連中なんだから意見を聞かなくて良いのか?」

 

「そこら辺は長老衆に任せると言われてるわね、だから私達で選んで問題無いわよ」

 

 翼人族の長老マオが答える。

 

 どうやら騎士団の装備品に関しても長老衆が任されていたらしい、旧態然とした感じではあるが少数な彼らはそれで回っていた。

 

 騎士団は一応だが各種族毎に集まってみたが、やはり騎士団参加が少ない種族も居て纏まり切らなかったらしく、それぞれの騎士団での役割も踏まえてちゃんぽんにした様だ。

 

 猫人族、狼人族、土人族、森人族、翼人族、虎人族、狐人族、狸人族、兎人族、熊人族、猿人族など亜人とされる種族は様々に暮らしている。

 

 唯一、ハイリヒ王国に庇護を受けてた海人族だけはフェアベルゲンに居ないけど。

 

 そして彼らはその種族種族で固有に特技みたいなモノを持つ、翼で飛べる翼人族、隠密性の高い兎人族、力が強い熊人族といった具合に。

 

 だからこそ最初は同じ種族で役割を決めて分かれる算段だったのだが、騎士団に全員参加が強制されていないからハウリアなら未だしも、普通のホモサピ……ではなく兎人族の参戦は矢張り少なかったのである。

 

 他にも温厚なタイプは不参加だった。

 

 例えば熊人族だからと全員の血の気が多い訳では決して無く、女性の中には温厚なヒトも居たし男でも矢張り温厚なのは居る。

 

「武器に関しては矢張り我々で使い慣れたものが良かろうな」

 

「そうだな、そうすると素手の方か?」

 

 アルフレリックの科白にライドプレイヤー用のクロニクルガシャットを見つめながらゼルが呟く。

 

「けど初めから専用の武器が有るのは有り難いと思うんだけどな」

 

 ルアは腕力的には兎人族と其処まで変わらない狐人族であるからか、腕力至上主義的な熊人族や虎人族みたいな素手というのは許容が出来ない。

 

「そうね、私としても武器は有った方が良いわ。翼人族も腕力は高くないもの」

 

 翼人族の長としてマオが頷く。

 

 妖精型の亜人として腕力があるのは土人族で、森人族や翼人族は()()()()()()()よりはマシ程度でしかなかった。

 

 ユートが鍛え上げたハウリアにはどうしたって負けるのだけど。

 

「妖精型と獣人型では変えた方が良いのかね? 画一的な方が軍隊っぽいんだけどな」

 

 土人族以外は腕力が高くないし、戦闘力だって兎人族よりマシ程度だから武器は欲しいらしい。

 

「妖精型にはライオトルーパー、獣人型にライドプレイヤーにしておくか?」

 

「それで良いのかね?」

 

「話し合いの趣旨は武器を使いたいか使いたくないかの違い、ならもうこの二つで決めてしまった方が良いだろうからな。獣人型でも素手の戦闘力が高くないのはライオトルーパーでいけば良い」

 

「助かる」

 

 アルフレリックは頭を下げる。

 

 ユートはヘルシャー帝国にケジメを付けさせる心算な為、フェアベルゲン領国軍を確りと整えてやらなければならなかったから問題は無い。

 

 別に一種類しか渡さない事に拘りがあったのではなく、単純に装備品の画一化を考えていたのに過ぎなかったのだから。

 

 力の強い肉体派にはライドプレイヤーを渡し、力が大して強くない者がライオトルーパーという感じに纏まったので、実際にスマートバックルやクロニクルガシャットの人数分をアルフレリックへと渡しておく。

 

「ほう、これが……」

 

 コンテナ内からスマートバックルを取り出したアルフレリック、ジンもクロニクルガシャットを取り出して繁々と見つめていた。

 

「長老衆も万が一備えに持っておくと良いだろ、戦闘力が無いと人質とかにされかねないし」

 

「そうだな……」

 

 実際の闘いは若い衆に任せてしまうにしても、闘う為の手段を持たない理由にはならない。

 

 ジン・バントンも力自慢で鳴らしてはいるが、年齢的にはそろそろ長老の座は未だしも族長の座に関しては次代に譲りたいと考え、族長に据えたいと考えているのがバントン一族の中でもジンを除けば最強であろうレギン・バントンだった。

 

 こうしてフェアベルゲン武装化計画が成って、アシュリアーナ真皇国・フェアベルゲン領国としての真なる再生を果たす。

 

 その日は宴を開いた。

 

 折角だからとオルクス大迷宮に居た月奈達にも参加を促して騒ぐが、シアとしてはハウリア一族が未だに帝国と事を構えていてカムも参加している事で気が気でない様子。

 

 そんなシアの懐いた不安を吹き飛ばすかの様にユートは閨に引き込み、そうして何も考える事が出来ないくらいに熱く激しく滾らせて抱いた。

 

 それは強引グでマイウェイなくらいなもので、宛らレ○プにも似てカムや家族たるハウリアを想って嫌がるシアの唇を奪い、無理矢理に脱がせて肢体を貪るかの如くシアの快楽を引き出す。

 

 仕舞いにはシア自身が快楽に溺れてしまうといった有り様で、何故かティオが羨ましそうな表情を浮かべながら自分を慰めていた。

 

 それもあって結局はティオも抱く事に。

 

 まぁ、顔もスタイルもティオはシアに負けじ劣らずなのが自慰に耽っているのだし、これで反り勃たないならユートは男として認めないだろう。

 

 勃っても自分以外はヤらせないけどな!

 

 事も済んでティオは気を利かせてか? 一人で部屋を辞して今はシアと二人切り。

 

「少しはスッとしたか?」

 

「スッとしたというかすっ飛ばされましたよ? 頭の中が何度も真っ白になりましたから」

 

「だろうな、ティオを抱いてる間はアへ顔で股座をおっ広げながら白いモノを垂れ流してたし」

 

「は、恥ずかしいですぅ……」

 

 ヤっている間は兎も角として、終わって思い出してみれば黒歴史化したいくらいに恥ずかしい。

 

「ユートさん」

 

「どうした?」

 

「ミナさん、ラナさん、ネアちゃんが覚えた念っていうのを私も使えませんか?」

 

 真剣な顔でユートの御腹辺りに跨がり、両手を顔の横に付けながら覗き込む様に言うシア。

 

「どうしてそう考えた?」

 

「……私は魔力こそ有りますが魔法の才能は皆無と言えます」

 

「そうだな」

 

 神代魔法も覚えこそしたが、重力魔法であるのなら自分の体重を多少ながら増減させる程度でしかなく、空間魔法もちょっと財布の中を拡げれたくらいでしかない。

 

 再生魔法も擦り傷なら一分くらいで治る程度、昇華魔法も力が一%くらいなら上がったかな? という誤差の範囲内。

 

 自分の才能の無さに絶望したくなる。

 

(シアも身体強化に関しては可成り凄まじいんだけどな。念……ねぇ、覚えたとしたら強化系待ったなしで大して今と違わない結果になると思うんだけどな~)

 

 六相図で六つの系統が在る念能力。

 

 強化系、変化系、放出系、具現化系、操作系、特質系の基本的にそのどれか一つに属していて、両隣のどちらか寄りになるくらいだ。

 

 例えばゴン・フリークスは放出系寄りの強化系と判断されており、どちらかと云えば変化系より放出系の方が得意な強化系である。

 

 ユートの場合は大元は具現化系に属しており、特殊な生い立ちなどから後天的な特質系に変遷をしたものと思われ、全ての系統が一〇〇%の修得率を持った特質系として表れていた。

 

 【緋の眼】を開眼したクラピカとは似て非なるもので、ユートの方が上位互換になると考えられているけど理由としては態々、特殊な状態に成る必要が無くてオーラ消費も変わらないのと、修得をした念能力なら一〇〇%の精度で扱えるというクラピカと、修得率から全ての系統が一〇〇%なユートというのは矢張り別物。

 

 クラピカの修得率は具現化が一〇〇%の天辺、両隣――とはいえ片方は特質系だから実質もう一方のみ――の系統が八〇%、更にその隣が六〇%で、一番の対極に在る放出系が四〇%の精度の修得率となっている。

 

 尚、ゴンの場合は強化系の対極が特質系であり通常は誰でも〇%だから考慮する必要は無い。

 

 ユートの攻撃型念能力――【勇者王誕生(ガオガイガー)】なんてのは相互協力型でないと普通は成立しない筈なのだけど、ユートの場合は一人で莫大なるオーラ量と広大なる容量と全精度が一〇〇%の修得率によるごり押しで創られていた。

 

 因みにだが、どうやら具現化系は一二〇%ではないか……という意見を貰っている。

 

 抑々、ユートはハルケギニア式魔法【錬金】から始まってそれが【錬成】に進化、様々な鉱物やアイテム――鎧などを造っていたが故に具現化系が一番になるのは当然の帰結。

 

 一二〇%なのも不思議な話ではない。

 

 ユートは独創性こそ少し欠くが、創り手としては単純に闘うより高い適性を持っていたらしく、それが剣士――刀舞士として妹の緒方白亜に勝てなかった理由であろう。

 

 例えるなら遠い将来の転生後に異世界転移にて出逢う――【ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか】の世界のヘファイストス・ファミリア団長の椿・コルブランド、鍛冶師としては団長なだけあり一級品の腕前で自らが鍛え上げた武器の試し切りにダンジョンへ行って、遂にはLV.5の第一級冒険者となった。

 

 とはいえ飽く迄も鍛冶師である為にだろうか、純粋な剣士の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに同じLV.5の頃にも勝てなかったろう。

 

 得意分野の違いというやつである。

 

「結論から言うと不可能ではないが難しいと言わざるを得ない」

 

「な、何故ですか? あの三人に有って私に無いものがあるんですか!?」

 

「逆だ」

 

「逆……ですぅ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()が邪魔をしているんだよ」

 

 小首を傾げるシア。

 

「念は生命エネルギーたるオーラ、氣と呼ばれるモノと同じでシアの中に在る魔力とは衝突(コンフリクト)をしてしまうんだ」

 

「ま、魔力ですかぁ……」

 

 今まで悩まされたと同時に恩恵でもあったのが亜人族には本来だと無い筈の魔力、まさか念能力を修得するのに邪魔をされるとは思わなかった。

 

「【HUNTER×HUNTER】の世界では念は誰にでも修得可能と謳っているが、あの世界に魔力の持ち主は居なかったからこその謳い文句」

 

「不可能ではないとは?」

 

魔力(オド)氣力(オーラ)を使い分けられれば念能力を覚えられなくもないからね」

 

「でしたら!」

 

「それにどれだけ時間が掛かると?」

 

「うっ!」

 

「先ずは使い分け、それから念能力を扱う氣力を鍛え上げていかなければならない。あの三人であれば魔力を持たないんで初めからオーラを扱うのに時間を割ける。だけどシアは先ずを以て使い分けからである以上は余計な時間が掛かる」

 

「そうですか……」

 

 しょんぼりムードなシア、新たなる力の覚醒はちょっと無理だと理解をするしかないからだが、咸卦法を使えたら不可能ではなかったという訳で黙っておく。

 

 確かに念能力は可成り強力なものにも仕上がる可能性があるし、シアの目の付け所も悪くは無かったのだが氣力と魔力の衝突なんて現象はどうにもならなかった。

 

「あの、念能力にはどんなものが在りますか? ミナさんやラナさんやネアちゃんはどうなりますかね?」

 

「彼女達がどんな念能力を得るかは系統次第だ。どんな念能力……ねぇ」

 

 ユートはちょっと首を傾げた。

 

「そうだな、僕の知り合いの念能力者なんだが、能力名は【嘗ての栄光の象徴(カルティックディルドー)】という」

 

「どんな念能力ですか?」

 

「女の子の身で股間に男の象徴を生やす具現化系の能力、本人は操作系だから余り相性とかは良くなかったんだけどな」

 

「男の象徴?」

 

 シアが思わずユートの下半身に目を遣ったら、ユートのソレがまた反り勃っていて真っ赤になってしまう。

 

「戦闘には……」

 

「使える訳が無いだろうに」

 

「ですよねぇ?」

 

 要するに可愛らしい女の子が股間にティンティンを生やす為の意味不明な念能力。

 

 とはいえど()()には特殊な能力が付いていて、()()()()()()()()僅かながらオーラを奪って自分にプラス、最大オーラ量を微々たるものではあるが増やす事が出来た。

 

(男の娘だったのが女の子に転生して、あの能力を得てからだろうけど女誑しになったよな)

 

 女の子に成りながら女誑しにもなってしまったとか笑い話にもならないが、御零れに与れたりするから怒るのも違う。

 

 正しく嘗ての栄光――男の象徴を念能力で一時的に甦らせたという訳で、美少女を口説いて閨まで引き込み自身の美少女然とした顔も相俟って百合にしか見えないのだが、それなりのモノを具現化――前世でのモノを完全再現――させて反り勃たせているのだから絵面が凄い事に。

 

「僕の念能力ならそうだな……【破壊神の右拳(ブロークンマグナム)】、ジェネシックガオガイガーのブロークンマグナムを放出系の念能力として使う技だ」

 

「よく判らないですよ?」

 

「記憶映像だ」

 

 ユートは再生魔法で【破壊神の右拳】を使った際の映像を再生、其処にはグルグルと凄まじいまでの回転をするピンクの拳を打ち出すユートの姿があり、放たれた拳型のオーラが回転を弥増しながらも敵の腹に打ち込まれ――

 

「うわ~!」

 

 生きた人間の腹を貫いた。

 

 ジェネシックガオガイガーのブロークンマグナムは腕部ではなく、拳のみが回転して飛ばされる仕組みとなっていて貫通力も高い。

 

 因みに、【破壊神の左掌(プロテクトシェード)】という攻撃の反射も出来るバリアを展開する変化系能力も在る。

 

「確かバラバラ……じゃない、バラとかいう放火魔……じゃなく爆弾魔の一人だったか?」

 

 それなりには動ける男だったけど腹を突き破られては堪らず、ゲンスルーやサブが叫んでいる中で血反吐を撒き散らせながら吹き飛んでいた。

 

 ユートが使う攻撃型の念能力はガオガイガーに関係するものばかり、矢張り次元放浪をする前にハルケギニアで記憶を喪った卯津木 命やパルス・アベルと関係を持ったからだろうか?

 

 序でに云うと【スーパーロボット大戦α】と称される世界、通称――【α世界】での関わりに於いて時期的に【第二次スーパーロボット大戦α】や【第三次スーパーロボット大戦α】でガオガイガーやGGGと関わって詳しい情報が頭に入っていたのも、ユートがこんな念能力を創れてしまった要因となっている。

 

「さ、明日からヘルシャー帝国入りして忙しくなるから寝てしまえ」

 

「……はい、ですぅ」

 

 疲れもあってか割とすぐに寝息を立てるシア、そんな彼女の頬に口付けするとユートもゆっくり目を閉じて意識を落とすのだった。

 

 

.




 【HUNTER×HUNTER】のっぽい噺を書いていたら一ヶ月くらいが経過していました。

 尚、作中の名前の出てない念能力者というのはカルト君の事です。剃出伊宮狩斗とか意味不明な名前も頭に浮かんだけど現在では殺し屋ではないカルト・ゾルディック、普通の一家なゾルディック家長女ですがユートの識る世界の前世の記憶を何故か持った侭で生まれ変わりました。

 マチみたいな来世契約はしてません。




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第95話:ありふれた帝国城へ

 半端な所で区切る羽目に……





.

 大空を舞うオプティマスプライム。

 

 アタッチメントによりその内部ではなく外部、トレーラー部位の上部に屋上みたいな広場を設置しており、然しもの天之河光輝も其処に在る事を一応だけど許可されていた。

 

 フェアベルゲンでは碌に出られなかったけど、亜人族に量産型ライダーを与えた事は知っているからか、矢張りというべきかいちいち口を出してくるのが鬱陶しい。

 

「どうして亜人族に人間との戦争を促すマネをしたんだ! 答えろ、緒方!」

 

「坂上、こいつを叩き落として良いか?」

 

 無視する様に坂上龍太郎に問う。

 

「無視するな! 答えろ!」

 

「ギャーギャーギャーギャーと喧しい! お前は自分が何の為にトータスに喚ばれたのかすら忘れたのかよ!?」

 

「な、何だと!」

 

「戦争だ! 敵と闘い、敵を殺して、命も財産も全てを奪う盗賊にも似た国家事業の為に……だ! そしてそれを肯定して自ら参戦を申し出た天之河が戦争の忌避とか何の冗句だろうな?」

 

「なっ! 違う、俺は……」

 

《皆! 今ここでごねて、イシュタルさんに文句を言っても始まらない。彼にだってこればかりはどうしようもないんだぞ。俺は……俺は戦おうと思っている》

 

「っ!?」

 

 それは録音が成された天之河光輝の声であり、一般的に自分で聴く自身の声は別の声に聴こえる訳だが、流石に愚かではあっても莫迦ではないから自分が言った科白は覚えていたらしい。

 

「これを聴いても尚、自分には覚えが無いとでも宣う心算か? 証拠が在るからには天之河完治でさえお前の弁護は出来んよ。精々が状況判断を誤る状態での言葉だとしてどれだけ減刑するかだ」

 

「それは……」

 

「幾ら御都合解釈万歳原理主義者な天之河でも、まさか『こんな科白を言った覚えなんか無い』とかほざいたりはしないだろう? するなら今度はサーチャーの映像を出してやるぞ」

 

「っ! 隠し撮りとか犯罪だぞ!」

 

「法の執行者たる時空管理局が、本来は管理外な世界にサーチャーバラ撒いて映像を記録しているんだ。つまり法に抵触しないんだろうよ」

 

 注:します。

 

「時空管理局? 何だそれは? 意味が判らない事を言って煙に巻くのは止めろ!」

 

「無知とは罪か。ま、どうでも良いな」

 

「どうでも良いとは何だ! 緒方、俺とちゃんと会話をしろ!」

 

 普段からまともな対話能力に欠ける癖に笑わせてくれると嘲笑しつつ場を離れた。

 

 未だにギャーギャーと騒いでユエ達は迷惑そうに顔を顰めるが、香織と雫と鈴は余りにもいつも通りな行動に頭を抱えてしまう。

 

「リリィ」

 

「……ユートさん。昨夜は御楽しみでしたね」

 

 プクッと膨れっ面となるリリィは可愛らしく、原典ではハジメが随分と雑に扱っていたらしいと聞いており、原典のハジメはどうしてそんな煩雑な扱いをしたのか真面目に首を傾げたい。

 

「今、この場でイチャ付くか?」

 

「え? こんな誰もが見れる場所ではちょっと。光輝さんに見られたくありませんし……」

 

 あられもない姿はユートにだけ見せたいから、好きでも無い天之河光輝に見られたくないのだとリリィははっきり言った。

 

「僕もリリィの可愛らしい姿を選りにも選って、天之河なんぞに見せたくは無いな」

 

 赤面するリリィの唇に自らの唇を重ねる。

 

 その際には遮光して周りから見えない様にしてあったから、件の可愛らしいリリィの姿は天之河光輝は疎か誰にも見られていない。

 

 ヘリーナとニアが真っ赤になりながら視ているけど――メイドは壁です。

 

「はぁ……」

 

 赤い顔で溜息を吐くリリィはモゾモゾとドレスのスカート内部で内股になる。

 

(キスで少し濡れてしまいましたわ)

 

 肢体が先を期待して望んでいたのか、ユートのモノを受け容れ易くするべく本能が愛液を溢れさせた様だった。

 

「あの……」

 

「寝室行きが御要望かな?」

 

「ちがっ……いませんが、違います!」

 

 心情的には行きたいけど用件は別。

 

「えとですね、既にハイリヒ王国はユートさんのモノですし御門違いは判るのですが……」

 

「そうだな。統治者はアインハルトだけど」

 

「それでも尚、私が代表としてヘルシャー帝国へ赴くのは何故でしょうか?」

 

「ルルアリアは代表足り得ないし、ランデルだともう面影を残した別人だからな。前の王族としてリリィが行くのは仕方が無いだろう」

 

「それは……」

 

 ルルアリアは前ハイリヒ王国の王妃だったが、今やユートの性欲解消用の愛人でしかない状態な上に、ユートの念能力の強烈な快感で暫くは外に出せないくらいおバカになっている。

 

 暫く時を置けば元に戻りつつ自己嫌悪に陥るのだろうが、今はベッドで色々と垂れ流しながらもメイドに世話をされていた。

 

 ランデルはランデルで無理矢理に女体化された挙げ句に姉からレズられ、ユートのモノを捩じ込まれて童貞を喪う事無く処女を喪った衝撃が強かったらしく、現在は隔離邸で見張り番をさせられている忠誠厚い元騎士の肉便器と化している。

 

 とはいえ、快感を得られず孕まないランデルは既に目は死んで濁り切った状態であったからか、元騎士の汚ならしいモノを言われるが侭に扱いているのだとか。

 

 反応は無いけど孕む心配無くヤれるランデルは格好の性玩具(ダッ○ワイフ)だった。

 

 つまり動けるのはリリィのみ。

 

 リリィとしては家族――母親や元弟(いもうと)の惨状に思う処を持つ程にユートとの性的な心情的な繋がりは浅くなかったからか、こうして普通に話せる処かキスをされて悦んでいるのだから()()()()深い。

 

「ヘルシャー帝国はまだ政権交代を知らないし、度肝を抜くイベントにしつやる心算だ。リリィは僕に必要だから綺麗にしていれば良いよ」

 

「必要……はい」

 

 必要と言われたリリィは嬉しさから表情を綻ぼしてしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 魔力による念講座。

 

 ミナやラナやネア……実際に念に目覚めていたのはミナだけだが、この三人が念を得た事に矢張り全員が注視をしていたらしい。

 

 シアのみならず永山重吾パーティは勿論だが、ユエ達も興味が尽きないといった感じだった。

 

「だから、念はオーラという氣力に属するエネルギーを使っているから魔力とは衝突してしまう。君らが魔力に目覚めてしまう前ならまだ兎も角、今は魔力が邪魔をして扱い難くなっているんだ」

 

 使えない訳ではないのはユートを見れば判る、然しながら基本的にはどちらかしか扱えないなら慣れた魔力を使うべき、然もないと下手に氣力を揮えてしまうと寧ろ弱体化を余儀無くされる。

 

 それでは本末転倒でしかない。

 

 面倒だったし抑々、すぐに出来る訳でもないから『咸卦法』を使った咸卦の氣であれば念能力が凄まじいパフォーマンスで扱えるとは、絶対に言う心算なんか無かった。

 

 魔力覚醒者が氣力を同時に扱える術としては、単純なパワーアップとしても最高だけど。

 

 然し咸卦法が存在した【魔法先生ネギま!】な世界には念という概念や念能力なんて存在せず、【HUNTER×HUNTER】な世界には咸卦法が存在していないから本来ならば共存自体が有り得ない。

 

 正しくどちらも識る転生者だからこそ可能となったコラボレーション。

 

「なぁ、魔力と氣ならかん……ごふぁっ!?」

 

「野村君っっ!?」

 

 要らん事を宣いそうな野村建太郎に遠当てによる鳩尾(ダイレクト)アタック。

 

 吹っ飛ぶ野村建太郎に叫ぶ辻 綾子の図。

 

「ゲホッ、何なんだよ……って緒方?」

 

「野村、お前は何かこの場で言いたい事でも有ったのかな、かな?」

 

「……白崎っぽいぞ? いやだから、かん……」

 

 ギュルギュルギュルギュルギュル!

 

 ピンクの拳がグルグルと回転しているのが見えた野村建太郎は押し黙る。

 

「そ、その右手はいったい……」

 

「【破壊神の右拳(ブロークンマグナム)】、僕の念能力の一つだよ」

 

「ブ、ブロークンマグナム? 拳だけが回転してるって事はジェネシックガオガイガーの!?」

 

 同じガオガイガーのブロークンマグナムでも、初期とジェネシックでは威力が段違い。

 

 ガオガイガーはファントムリングで周囲を抉って貫通力に換えたが、ジェネシックはそんな物が無くてもソール11遊星主すら貫通させる。

 

 見た目の違いは腕を飛ばすロケットパンチ方式なのが初期ガオガイガー、ゲッターロボ號みたいなナックルボンバー方式がジェネシックだ。

 

 ユートの【破壊神の右拳】はジェネシックガオガイガーにファイナルフュージョンしなくても扱える様にと、放出系と操作系と強化系による複合型な念能力として構築をしてある。

 

 廻っているのはオーラで形作られた拳であり、当たり前だけどユートの拳が回転しているという訳では決して無い。

 

「貫通力は高いんだ」

 

「そ、そっか……」

 

「で、何か言いたいのかな、かな?」

 

「何も有りません、Sir!」

 

「宜しい、気絶していると良い」

 

「グフッ!」

 

 ユートは【破壊神の右拳】を解除して手刀により野村建太郎の意識を落とす。

 

「辻!」

 

「は、はい!?」

 

 一連の行動を視ていた辻 綾子はガタガタブルブルと震えていた。

 

「野村は御疲れの様子だから寝室まで連れて行ってやると良い」

 

「は、はい!」

 

「そんでその侭、野村を喰っちゃえ」

 

「喰いません!」

 

 羞恥心から真っ赤になった辻 綾子が声のあらん限りを尽くして叫んだのだと云う。

 

「なぁ、おい! 在るんじゃないのか? さっき野村が言い掛けた魔力とき……」

 

「【破壊神の右拳(ブロークンマグナム)】ッッ!」

 

「ブギャラッ!?」

 

 それは正にドパンッ! という擬音であろう、天之河光輝の腹が回転するピンクの拳に貫かれて口から血を吐きながら吹き飛んだ。

 

「ギャアアアッ! 光輝がぁぁぁぁっ!」

 

 余りにも余りな光景に坂上龍太郎がムンクの如く表情で叫ぶ。

 

「辻!」

 

「ヒィィッ! な、何?」

 

「序でに天之河の治療もしとけ」

 

「は、はいぃぃっ!」

 

 躊躇いも無く天之河光輝の腹を貫いた非情さにもう涙目である。

 

「永山」

 

「な、何だ?」

 

「『雉も鳴かずば撃たれまい』って言葉は知っているよな?」

 

「建太郎が心配だから降りてくる」

 

 永山重吾は賢明だった。

 

 念能力は誰でも扱えるが故に使う者は厳選するべきと、心源流では教えている訳だけどユートもそれには賛同をしている。

 

 況してや敵対心を持つ莫迦に教える訳も無い。

 

「えっと……ドパンはされないわよね?」

 

「しないしない」

 

 先程の天之河光輝の惨劇を見てから少し腰が引けてしまった雫。

 

「要するに咸卦法を使えると可成り良くなるっぽいなら、違うエネルギーとはいえ魔力でも似た事が出来たりするわよね?」

 

「ああ、魔力と氣力を合成昇華した咸卦の氣でなら高い精度の念を使えるだろうな。当然なんだけど魔力と氣力が衝突をするからには高度な技術を必要とする。シアに行き成りやれと言っても出来やしないだろう?」

 

 シアに問うと……

 

「確かに無理ですぅ」

 

 頷きながら潔く認めた。

 

「そしてこれは別の事実を示唆している」

 

「魔力でも念は使えるのね?」

 

 確信を込めた雫の言葉に頷くユート。

 

「誰もやろうとはしないから事例が無かったってだけで、その気になれば氣力だろうが魔力だろうが霊力だろうが念力だろうが『念』と呼ばれている技術は扱える」

 

 事実として何処ぞの正義の味方の成れの果ては魔力にて具現化系の力を使う。

 

 視たモノ――刀剣という属性に限られてくるけど情報の全てを読み取り、己れの内在的念空間(インナースペース)へと模倣して記録していく念能力――【無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)】として成立をさせていたではないか。

 

 魔術使い故に術師らしい詠唱をしてはいたが、それも()()なのだと考えればユートにも理解が及ぶ。

 

 ユートの念能力――【勇者王誕生(ガオガイガー)】や【勇者王新生(ガオファイガー)】や【破壊神の降臨(ジェネシックドライブ)】が必ずや合体バンクを行わなければならない様に。

 

「どちらにせよ、シアは強化系だろうから魔力でやろうと氣力でやろうと結果は変わらんだろう。その身の内に自らのエネルギーを弾けさせて大幅な強化を施す念能力とさえ云えるものだよ」

 

「私がしているのが既に念能力ですか……」

 

「現に幻影旅団のウボゥーギンの【超破壊拳(ビッグバンインパクト)】なんて正しく強化系の極致みたいな右ストレートパンチだからな」

 

「右ストレートパンチですぅ?」

 

「威力はクレーターを穿つレベルだから喰らえば只じゃ済まない、その癖に大した制約は無いみたいだし溜めも碌に必要としていないからな」

 

「それは……凄いんですねぇ」

 

「強化系の強味、それが必殺技とか特殊技なんかを態々創らなくても構わない処だからね。近付いて殴ればそれが即ち必殺技。ベルカの旧い騎士も近付いて斬れが普通だったしな」

 

 そういう意味では、ゴンが変化系で斬撃だったり放出系で砲撃を創ったのはどうか? 役には立っていたからきっと問題は無いのだろう。

 

「リリカルなのは……よね、ベルカの騎士って」

 

「そうだな、シグナム辺りがよく言っているから忘れたくても忘れられなくてね」

 

「シグナム……さん……ね」

 

 矢張り未だ自分の世界観やら何やらはトラウマだったらしく、雫だけではなく香織や鈴までもが微妙な表情を隠せずに居た。

 

「そういえばシグナム……さんって美女で胸が大きくてポニーテールよね」

 

「ジト目は好物じゃないんだがな」

 

 嘗て違う世界で地球からの転生者だった義弟は眼鏡とジト目と強気と赤面とツンデレが好きで、それを初めての彼女に全てを見付けてカミングアウトされたのは良い想い出ではあるのだけれど、ユート自身は別にジト目をされて興奮をしたりはしないのだ。

 

 ユートにも性癖は有るから彼を責めるのも違うと思って聞いてやったりもしたし、初めての彼女が出来た――とはいえ出逢って間もない関係だが――時に自分の()()()()()を教えていたから割かし盛り上がったのも確か。

 

 尚、ユートが自分で知り得る限りで持つ性癖は『ポニーテール』と『エルフ』と『ケモミミ』と『お姉さん』と『未亡人』、種族的な意味合いで地球に普通は存在しないけどポニーテール好きだから義妹のユーキを始めとして実妹だった白亜や前々世で婚約者だったらしい狼摩白夜、その他の緒方家分家筋で緒方優斗世代の長女達がポニーテールにしていたし、なのはやはやてやフェイトやすずかやアリサといった娘らも軒並みだったし、次世代なStrikeSの娘らとかVivid世代からも普通にポニーテールが普及をしている。

 

 まぁ、基本的に『お姉さん』はあの世界でだと誰も不可能な性癖だし、まさか性癖を満たす為に死に掛けた老人と結婚して『未亡人』になる訳にもいかないし、種族はどうやっても埋まる筈がないから髪型で好まれるならするべきだろうというのが彼女らの言い分だった。

 

 因みにこの時に紹介した彼女は狐耳を持ってる立派な『ケモミミ』と姉属性な『お姉さん』で、未婚だから『未亡人』に成り得ないし『エルフ』は獣人という種族的に不可能、二人切りの時には甘えモードで長い金髪をポニーテールに結わい付けていた辺り、どうやらユートがあの頃は未だに自らが知らなかった『ポニーテール』好きを理解していたらしい。

 

「おっぱいとかは好きじゃないの?」

 

「別に一誠じゃあるまいし拘りは無いな」

 

「いっせい?」

 

「兵藤一誠」

 

 大きくても小さくてもおっぱいはおっぱいと、『おっぱいに貴賤無し』と叫んだ少年である。

 

「ああ、【ハイスクールD×D】の主人公ね」

 

 ある意味で拘りが無いというよりユートと変わらないのだろう、ユートは大きければ大きいで、小さければ小さいで愉しめるから拘らない。

 

「ま、男のザッフィは論外だとしてヴィータは謂わばちっぱいだが、シグナムとシャマルは普通に巨乳クラス()()()からな」

 

()()()からな……って、まるで視た事があるみたいな言い方よね」

 

「あるからな」

 

「ああ……そ、そう……なんだ……」

 

 明け透けに言われて雫は呆然、香織と鈴は苦笑いを浮かべるしかない。

 

「やっぱ、私達みたいにヤったの?」

 

 ピクリと全員の耳がダンボの如く。

 

「プログラム体だから元より子供は作れない躰、永き悠久の刻を在り続けて今現在の主はやてが死を迎えれば終わる……筈だった」

 

「筈だった?」

 

「僕が【闇の書】の呪いから救ったからかな? はやては普通に僕に懐いちゃったからな」

 

「それが? 要するに八神はやてさんが優斗に抱かれましたって話よね? 私達と同じく【閃姫】ってのに成る契約をした」

 

「そうだが……忘れたか? 【閃姫】契約をしたら幾つか特典が付くのを」

 

「ステータス値アップや巨大なエネルギータンクの使用とかよね? 運が良ければ【輝威】っていう特殊な能力も得られる場合があると聞いたわ」

 

 正確に云うならばユートに抱かれて一段階目のアップデートを果たし、【閃姫】契約を果たす事で二段階目のアップデートが成されるという。

 

 【閃姫】化されるアップデートに伴いユートの中の専用――ユートにすら使えない――エネルギータンクで通称【渾沌核】から溢れるそれを扱い、自らが使うエネルギーに合わせて取り出せる様になるという訳だ。

 

 その量足るや巨大な恒星が数個分にも及ぶ上、使ったエネルギーは一晩もすればまた溜まる。

 

 それだけのエネルギーを扱えるだけの肉体へとアップデートをするのは即ち必須事項だった。

 

 種族から掛け離れる訳では無いから医療機関で見せてもおかしな部位は見付からないだけだし、アップデートに伴って寿命がユートに紐付けされるからつまり不老、死なない訳では決して無いけどユートの意志で復活も可能となる。

 

 また、特殊な【輝威(トゥインクル)】という能力が発現される場合も極稀にだけどあった。

 

 但し【閃姫】への正式なアップデートをするにはユートに処女膜を貫かれる儀式が必須であり、つまりは処女でないと完全な【閃姫】にする事はユートがどう思おうが不可能。

 

 まぁ、これに関しては裏技を発見しているから今後は相手との話し合いも必要となるだろうが、半端に【閃姫】とする【半閃姫】になる者は基本的に居なくなるであろう。

 

「【閃姫】の不老化と寿命の半永久化によって、はやては人間としての終わりを迎えるのはちょっと無理になってね。つまりプログラム体としては終われないヴォルケンズも在り続けてしまう」

 

「ああ、そうなるわよね……」

 

 雫は何を言いたいか理解したらしい。

 

「あれ? でもさ、ゆう君」

 

「どうした、香織?」

 

「確かヴォルケンリッターって壊れ掛けているとか話が無かった? 【StrikeS】の噺では主からのリカバリーが効かなくなりつつあるって言っていたよね? それでヴィータちゃんが『人間みたいに終われる』みたいに言ってなかった?」

 

「言っていたな。だけどそれは主はやてにもどうする事も出来ない根幹システムの欠落か何かで、それが補われたらリカバリー自体は効かなくなってもプログラムが根本的に壊れたりしない類いのものだったらどうだ?」

 

「……?」

 

 よく解らないらしく香織は小首を傾げた。

 

「プログラム体を構成する某か、恐らくコア辺りにバグが生じた為にはやてからのリカバリーを受け難くなっていた。元よりプログラムの書き換えを歴代の主共が長年に亘りやりまくってバグっていた【闇の書】だったのを、正しい姿を知らない侭で無理矢理に正常化させた【夜天の魔導書】、何処かに欠落が生じていても全くおかしくない。況してや更にその奥には【紫天の書】なんていうロストロギアを内包、それを覆う為に後付けされた『ナハト・ヴァール』を適当にぶっ壊した訳だからな」

 

 しかもユートの居た世界線では這い寄る混沌なニャル子が、再誕世界から掠め盗ったアプスなる地下水脈の闇を擬神化した神を同じ闇属性だからと融合してくれたから……さぁ大変。

 

 まぁ、適当に壊したとかヴォルケンリッターがキレて発狂してもおかしくないけど。

 

「兎に角、はやてが不老長生を得てしまったからにはヴォルケンリッターも終わりを迎えない訳だから、つまりは責任を取れと言い寄られたんだよあの三人――シグナムとヴィータとシャマルに」

 

「ザフィーラは?」

 

「我関せずと仔犬モードで寝てたな」

 

 とはいえ、ガチムキなザッフィに迫られたなら【破壊神の右拳】を喰らわせた自信があったし、何ならクルダ流交殺法『影門』最源流死殺技【神音(カノン)】にて原子分解レベルに消し飛ばすとか。

 

 ユートは他人が自分と無関係にBLをする分には寛容だが、自分自身がBLをヤる気には半分くらいはならないのだから。

 

 半分? というのは可愛い男の娘を女の子へと換えて喰うくらいはやらかしたし、付いていても九〇%が女の子な両性具有なら何人か喰ってしまっていた為にであるし、ユーキやカルトみたいに前世が男なTS転生な場合もあった。

 

 少なくともガチムキとはヤらない。

 

「抱くのは愉しかったから良いけどね」

 

 三人共が違ったバリエーション、クーデレを装ってデレデレになるナイスバディなポニーテールお姉さん、ほんわか雰囲気の下はシグナム程ではないが充分な肢体な女医さん的なポジション、ミニマムでツンデレ発言な矢張りデレデレ少女と更には主なはやても加わるのだから、美味しいとしか最早言い様が無かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ヘルシャー帝国の帝城……その大門が目前にまで見える位置にまで歩いてきた一行を帝国の門番をしている兵士が見付ける。

 

「停まれいっ! 此処は偉大なるガハラド・D・ヘルシャー陛下が居わす帝城なるぞ! 何者であるかを速やかに名乗れ!」

 

 当然ながら槍が斜め十字に組まれて阻まれてしまうし、矢張り当然だとしか思えない科白でその正体を問われてしまった。

 

 リリィがサッと一歩を踏み出すと兵士の二人は雰囲気や美貌に見惚れてしまう。

 

 綺羅綺羅しつつ厳かな雰囲気すらあるドレスを着熟す少女、明らかに単なる兵士に過ぎないだろう二人をぶっちぎる身分だろう事は判る。

 

「ハイリヒ王国のリリアーナ・S・B・ハイリヒと申します。事前に先触れは出してあった筈なのですが……」

 

「リリアーナ姫!?」

 

 それは高々、門番風情が話せる相手では決して無かったのだと云う。

 

.




 漸く帝国のハウリアの変が……




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第96話:ありふれた宴

 自サイトでHUNTER×HUNTERを書いていたらすっかり御無沙汰に……





 

.

 話は通っていたからであろうが大慌てな門番の一人が偉い人を呼んで来る。

 

 先触れでリリアーナの来訪が告げられており、それを門番に報せない筈もないのだから。

 

「これはリリアーナ姫様」

 

 大仰な手振りで出迎えたのはリリィの顔を知る帝国の宰相、ニコニコと笑顔を浮かべて来訪を喜んでいる様にも見えるが面倒と思っていそうだ。

 

 取り敢えずリリィとその他――ユート達――を城へと案内をする形になる。

 

 リリィの傍にはあからさまに忍ですと云わんばかりなのに、何処か派手な装いをした女の子が侍っていて警戒しながら共に歩いていた。

 

「ねぇ、優斗」

 

「どうした?」

 

「あの娘は誰な訳?」

 

「ツバメか? 君らと同じく【閃姫】だ」

 

「それは判っているわよ。閨に誘われて嬉しそうに付いていく以上、優斗とそういう仲なのは理解しているわ。だけどツバメって何処の誰なの? 私は彼女が出る漫画やアニメを識らないわ」

 

 雫の科白に香織や鈴達が頷く。

 

「トワ教官も私達は識らないかな」

 

 香織が思い出すのは教官として城内の騎士達を纏めていた褐色の肌を持つ長い黒髪の女性騎士、喋る機械っぽい獣みたいなのを肩に乗っけていて無表情だが寡黙という程でもなく会話が出来た。

 

「実は僕も識らない」

 

「「は?」」

 

「誤解の無い様に言うが、シリーズ的には識っているんだ。だけど彼女らが登場する作品その物は僕も既知じゃなくてね」

 

「どういう意味?」

 

「う~ん、例えばだがドラクエⅡは識っているけどドラクエⅧは識らないみたいな?」

 

「つまり未来で存在してる?」

 

「彼女らと出逢ったのは【ラングリッサー】という世界だ」

 

「ああ、随分と昔に出たゲームよね」

 

 一九九一年の四月に発売されたのが最初の噺、一九九六年生まれの雫達は産まれてさえいないし【ラングリッサーⅢ】が発売された年だったから当然ながらこれもよく識らない。

 

 一年毎に発売されて一九九九年に絵師や作風を変えた【ラングリッサーミレニアム】発売以降、ラングリッサーシリーズの新作が発売される事は無くなり、ユートの最初の世界ではユートの死後の翌年に【ラングリッサー リインカーネーション ー転生ー】がニンテンドー3DSで発売された。

 

 更に四年後のニ〇一九年に【ラングリッサーモバイル】が日本で稼働、その世界観のフォーマットは【ラングリッサーⅤ】から一五〇年経過後のエルサリア大陸の動乱となる。

 

 尚、ユーキは死んだ時期から【ラングリッサー リインカーネーションー転生ー】はプレイ済み。

 

「最初は可成り未来の世界だった。カオスも消えていたし、ルシリスも力を随分と喪失して最早消え掛けていたからな。人間も魔族も滅亡しつつあった上に何故かクリムゾニアまで居た」

 

「混沌と争乱の神カオスと法と秩序の神ルシリスが消える? 人間と魔族までって……」

 

 生まれる前に発売されたゲームなだけに情報がまるで足りない香織は、何とかある程度の情報を頭から引き出している様子。

 

「【ラングリッサーⅠ】で消滅しないみたいな事を言っていたが、世界の滅亡は神の滅びをも促したのかも知れないな。僕はあの世界へカオスにより招喚され、ルシリスの頼みで過去に――千年以上は前の【ラングリッサーⅢ】の時代にミニジェシカと共に跳んだ。僕はラーカス王国の浮遊城へ跳ばされて、ミニジェシカは過去の自分自身と融合をして離れ離れになったな」

 

 ジェシカは転生して間が無かったのか一二歳か其処らの年齢で、女神ルシリスも人間と変わらないサイズでしかなかった。

 

 とはいえ合法な少女、報酬代わりに抱かせて貰ったら何故かルシリスも身悶えていたり。

 

 どうやら感覚――但し性感のみ――が繋がっていて感じたらしい。

 

 融合したジェシカは未来を思い出すというよく解らない現象に戸惑うも、少しずつでも記憶が晴れていく中でユートに出逢って完全に融合した。

 

 数百年――【ラングリッサーⅢ】の時点ですらもそれだけ生きてきて、然しながらルシリスの分身で化身で代弁者たるジェシカの自覚からか恋愛は疎か、自身の女としての性を満足させる事もしなかったが故にニ千年を越えて初めてのセ○クスをしたからか、肉体的には処女でありながら経験をした記憶だけが鮮明に甦って遂々、頬を赤らめながらユートに抱き着いてしまったものである。

 

 見た目がニ〇代半ばで美女なだけに周りが騒いだのは当然の流れであろう。

 

 この刻からユートとジェシカの千と数百年にも及ぶ旅が始まった。

 

 【ラングリッサーⅢ】でパウルがボーゼル化しており、最初は確かにパウルの意識で動いていたのかも知れないがユートやディハルト達に一度は敗れ、数百年後の【ラングリッサーⅠ】で復活をした時には既にパウルの意識は喪われてボーゼルとしてのみの意識で動く。

 

 この時代はジークハルト王やルインの子孫であるレディンがラングリッサーを手に闘ったけど、ユートに鍛えられた彼は史実とは違ってギリギリまで頑張って踏ん張った為、クリスとの出逢いを逃してしまった。

 

 レディンの退路を確保に動いたユートがクリスと出逢い救ったので御察しである。

 

 ニ〇〇年後にはバルディア王国も喪われてしまって、レディンとクリスの同僚のシスターの子孫たる放浪の戦士エルウィンは旅をしていた。

 

 大人しくリアナ辺りと結ばれてりゃ良いものを何を血迷ったか、覇王ルートに突き進んで最後にはリアナとラーナの双子を擁したユートに討たれてしまう。

 

 生かしているからその後は子孫を残したのか、或いはリアナと離れてしまって独り身を貫いたのかはユートも知らない。

 

 カルザス帝国を出奔してイェレス大陸に向かったユートは、ランディウスの住まう村で暫く平和に暮らしていたが矢張り起きた洪水。

 

 詳しい時期が判らない以上はどうしようもなかった為、ランディウスが流された村の村長の家に『賢者の水晶』を守るべく居候してランディウスとレイチェルとリッキーの兄貴分に。

 

 闘いの最中に目覚めたラムダを保護して失踪をしていたウェルナー、シグマと共に動きつつ敵の首魁だったギザロフをランディウス達と討つ。

 

 何故かシリーズのヒロインの大半を納めてしまったユートは、今回も今回とてラムダというよりはマリアンデールを喰っちゃった訳で。

 

 ユートがやらかしたのは至極単純な事であり、要はヒロイン達と主人公より先に出逢いを済ませた上で必要な事をして助けるだけ、語るは易しだが行動をするには難い困難だと云える。

 

 ラムダを例に挙げれば自己覚醒前に彼女を覚醒させて、ギザロフの洗脳だか教育だかを解除してマリアンデールの記憶を僅かにだが思い出させた事を切っ掛けに懐かれた。

 

「じゃあ、優斗の隣に侍るのは?」

 

「嘗ての帝国の魔女ルクレチア」

 

「何処の帝国よ!?」

 

「何処だっけ?」

 

 雫からの質問にルクレチアへと訊ねる。

 

「グレスデン帝国ですわ陛下」

 

「そうそう、グレスデン帝国の国教クロニク教の教皇代理だったっけな」

 

 ユート自身はグレスデン帝国なんて行った事も無いが、ルクレチアやその他の者から聞いていたから判っているに過ぎない。

 

「教皇代理って……」

 

「気になさる事でもありませんわ。所詮は光輝の末裔に敗れた帝国の元御偉いさんでしかありませんもの」

 

 事も無げに言うルクレチアだったが、彼女により不幸になった人間も居るからには余り笑い所とは言えなかった。

 

「因みに可~成~り、猫を被っている」

 

「でしょうね」

 

「まぁ、酷いですわ陛下ったら」

 

 可愛い子ぶりっ子を演じるルクレチアに違和感を感じた雫は然もありなんてと頷いたものだが、今現在は同行していない恵里'に通じるナニかを感じ取れたのかも知れない。

 

「元々、ルクレチアが僕の方に接触をしてきたのは僕が持つ聖剣と魔剣の気配を敏感に感じ取ったからなんだよな」

 

「聖剣と魔剣?」

 

「聖剣ラングリッサーと魔剣アルハザードだよ。最初に出た【ラングリッサーⅤ】から約一五〇年が過ぎ去った時代、その時代に於ける光輝の末裔が失敗をしたのか世界は滅茶苦茶になっていた。その世界線に放置されていた聖剣と魔剣を回収していたからな」

 

 大元となったラングリッサーとアルハザードは青き星ペイリアを起動するキーとしてクリムゾの民が製造した〖真・破邪の剣〗、それに対抗するべく被支配下層のクリムゾランダーが真似て製造した〖破邪の剣〗がそれぞれカオスとルシリスの名の許に変化させた物。

 

 真・破邪の剣は魔剣アルハザードに。

 

 破邪の剣は聖剣ラングリッサーに。

 

 聖魔剣戦争終結時にどちらも砕け散ってしまっていたが、どうやら光輝の末裔もボーゼルも各々が再製作をしていたらしくてレイモンド子爵一一ジークハルト王の魂は存在しなかった。

 

 ラングリッサーにはユリアという少女の魂が、アルハザードにはゼルダという少女の魂封入をされており、二人の魂に接触をして何があったのかを詳しく聞いておく。

 

「ルクレチアの目的はグレスデン帝国の頃と変わらずラングリッサーとアルハザードを手に入れ、世界を破滅させて人造人間だけの世界を創るという事だったんだよな」

 

「人造人間? どういう事よそれ」

 

「ルクレチアはクロニク教の教皇が娘ルナタの血を用いて製造した人造人間だったんだ」

 

「なっ!?」

 

 故にルクレチアの姿はルナタと瓜二つであり、その気になればルナタの代わりを務める事すらも可能であったが、残念ながら皇帝オウトクラトにはお見通しであったらしく看板されている。

 

「あらあら、恥ずかしいので見つめないで下さいまし」

 

「あ、御免なさい」

 

 だけど雫達の目にはルクレチアが人造人間には見えず、どうしてもジーッと凝視をしてしまってそれをルクレチア本人に咎められる。

 

「他にもルクレチアと同じ場所から来た何人かと【閃姫】契約をしてある」

 

「ルクレチアさんが人造人間なら契約は出来ないんじゃないの?」

 

「そんな事は無い、ラズリだって契約は出来た。まぁ、ルクレチアの場合は生身の肉体を与えたんだけどな」

 

「ラズリ? って言うか生身の肉体を与えたってどういう意味?」

 

「さっきも言ったがルクレチアはルナタを基型とした人造人間、血液を使っているとはいえ矢張り人間とは異なる存在だ。しかもルシリス教からしたら禁忌の技術らしくてジェシカの目が厳しいのなんのって。仕方がないから僕がルクレチアの姿をした肉体を【創成】で創ってやってから意識を移したんだよ」

 

 ユートの【創成】、昔は有機物を創れないと考えていたけど放浪期に出逢ったレンという少女の力を視て、実は可能なんじゃないか? と考えられる様になったからか上手くやれた。

 

 実際、思い込みから出来なかっただけだと知ったユートはモノは試しに、本来なら虚無の担い手でないと使えない虚無魔法を使用してみたなら、普通に【世界扉(ワールド・ドア)】を開けてしまったものだから思わず唖然としたものである。

 

 ユートはあらゆる()()に高い親和性を持たされている、それこそが日乃森なのはから与えられた転生特典(ギフト)であったという

 

「肉体を創る……それって若しかしなくっても、クラスメイトを生き返せたりしない?」

 

「やろうと思えばね。やらんけど」

 

 ユートがその気になれば死んだクラスメイトを甦らせるのも確かに容易いのだけど、抑々にして『死者蘇生まっすぃーん』になる心算は全く以て無いのだからやる訳が無い。

 

「ま、一〇億円――一応はクラスメイト価格って事で一億円で請け負ってやらなくもないか」

 

「たっか!」

 

「別に一〇円程度でも構わんが、それってつまりは人間の命の価値が安値だって事になるな」

 

「そ、それは……」

 

「この世界の命はちり紙より軽くて脆い訳だが、それを肯定する行為が命の値段の値引きだろう」

 

「うっ!」

 

「そんな安い命なら態々生き返らせる意味なんて無いと思うけどね」

 

 余りにド正論で閉口をしてしまう雫。

 

「どうしましたか?」

 

「何でも無いよ、リリィ」

 

 歩きながら器用に話し合う二人にリリィが気付いて話し掛けて来たが、特に話す程の内容でもなかったからかユートは手をプラプラと振りながら何でも無いアピールをした。

 

「そうですか? そろそろ着きます、皆様も着替えて来て下さいね」

 

「あ、判ったわ」

 

「ドレスに着替えて来ます」

 

 雫と香織だけではない、勿論だが鈴やティオやユエにシアにミレディといった美少女【閃姫】達やオマケな辻 綾子と吉野真央もドレスアップし、ヘルシャー帝国が主催するパーティに出席をする事が決まっていた。

 

 当たり前だけど違う国に国家元首なり何なりが訪れれば表向きはどうあれ歓迎され、それなりに歓待されて宴の一つも開かれるもの。

 

 そしてこれも当たり前だが高い立場にあるであろう人物が、こうして訪れるならば先方へ先触れを出しておくものである。

 

 故にこそ、ヘルシャー帝国もこうして歓迎の宴の準備が出来たという訳だ。

 

 とはいえ、リリィ――リリアーナ・S・B・ハイリヒが国家元首に準ずる地位だったのはほんの少し前までの話であり、今の彼女はユートの寵愛を受ける事を至上とする只の女に過ぎない。

 

「ユエにせよ君らにせよ、白は止めようか」

 

「……ん? どうして?」

 

 皆が着てきたドレスは純白。

 

「侍女から説明を受けなかったか?」

 

「ああ、ちょっとした言い争いを香織とユエさんでやらかしちゃってね」

 

「聞いていなかったと?」

 

「そうなるわ」

 

 雫も余り聞いていなかったから皆と同じ純白のドレスで合わせたらしい。

 

「まぁ、ティオやシアに帝国のあれこれが判る筈もないし……ミレディに至っては一万年のレベルで外と交流が無かったからな。鈴は言わずもがなだろうから仕方がないか」

 

 頭を振りながら呆れているユートに全員が首を傾げてしまうが……

 

「白はヘルシャー帝国では子供服みたいなもんなんだよ。純白を無垢の象徴みたいに視るのは変わらんが、大人が純真無垢な筈が無いから子供だという証かな?」

 

 ユートの説明にガーン! と鈍器でぶん殴られたみたいな衝撃を受けた。

 

「……き、着替えて来る」

 

 全員がやらかしたという顔だけど、ユエなんてもう涙目になっている。

 

 一二歳頃に再生のスキルを得て成長が止まったユエは、三〇〇年が経とうと決して成長をした姿になれないトラウマがあったのだろうに、自分で子供服を選んだのが余程に堪えたらしい。

 

 言い争ったという香織でさえユエを気遣う程に意気消沈をしていた。

 

 因みに言い争いの理由自体は些細なものだったらしく教えてくれない侭である。

 

 パーティー会場に向かうリリィのエスコートの為に、彼女が宛てがわれた部屋に向かってみたら室内に口から泡を吹きながら涙を流しつつ己れの分身が有る筈の場所を押さえる男が倒れており、リリィの隣に立つツバメがフンス! と気合いを入れ両手にクナイを持って男を睨んでいた。

 

「ツバメ、どうした?」

 

「主、この汚い不埒者が行き成り室内に押し入りまして姫に触ろうとしたので切り落としました」

 

「そうか、でかした」

 

「ハッ!」

 

 誉められたからか嬉しそうなツバメ。

 

「いや、でかしたじゃないわよね!? リリィ、その人は誰なの?」

 

「ヘルシャー帝国の皇太子バイアス・D・ヘルシャー殿下ですわ」

 

「ぶふーっ! 超が付く御偉いさん!?」

 

 名前を聴いて雫が噴き出す。

 

 取り敢えず香織と鈴は常識人だったらしく驚きに目を見開くが、元女王だったり長の娘だったり現在進行形でお姫様だったり元貴族の娘だったりなトータス組は勿論、従うべき主でもないからとツバメや元教皇なルクレチアもスンとした表情、というより目つきは塵芥でも視るかの如く冷ややかで視線だけで殺せそうだった。

 

 まぁ、直にその現場を見ていたツバメからすれば切り落としたのは英断だと思っているのだし、すぐにもリリィのドレスの胸元が引き裂かれているのにルクレチアも気付いていたから、塵芥というか正しくGを視る乙女くらいには嫌悪感に満ちていたりする。

 

「ふん、浅ましい男ですね。自分のモノでもない女性に狼藉とは。コレが皇太子とはヘルシャー帝国とやらも長くはないかも知れません」

 

「ルクレチアは相変わらずの毒舌だな」

 

 とはいえ、知らなかったで済まされる問題ではない事をバイアス・D・ヘルシャーはやった。

 

 そんなレ○プ紛いというかそのものをやらかしたのだ、ツバメがバイアス・D・ヘルシャーのJr.を切り落としたのだとしても、況してや自分の女を狙った莫迦のJr.ならばユートは罪に問わない、寧ろヤったツバメの事を最大限の賛辞を以て賞賛すらしてしまう。

 

 ツバメも『フローレ様』と()()()()()好意を寄せるユートに誉められて御満悦。

 

「取り敢えずは行くかね」

 

「あ、あの!」

 

「どうした?」

 

 堪らず声を掛けてきた侍女A。

 

「バイアス殿下の事を如何したら宜しいのでしょうか? こんなの私では判断に困ります!」

 

 股間から血を流す男を指差して嘆く。

 

「優しく手当てしてやれば? 存外と気に入られて愛人くらいには成れるかもよ。尤も、大事なJr.が消えて無くなってるから皇太子の地位も流石に危ないかも知れんがね」

 

「絶対に嫌で御座います!」

 

 手当て=バイアス・D・ヘルシャーの股間へと手を伸ばす行為であるだけにか、侍女Aも侍女Bも侍女Cも侍女Dも嫌そうな表情となる。

 

「四人共が嫌な訳?」

 

「「「「嫌で御座います!」」」」

 

 綺麗にハモる程に嫌らしく涙目だ。

 

「皇太子妃や側妃は無理でも愛人だぞ?」

 

 それなりにだが贅沢な暮らしくらい出来そう、というかユートなら愛人処かそれこそ行きずりに一発ヤっただけの女でもそれなりの額を支払う。

 

 況んや、愛人や側妃なら贅沢三昧をさせてやるくらいはしている筈だし。

 

 事実として所謂、【ラングリッサー】勢にしてもユートが王や貴族に成らないにせよその時代に添った贅沢をさせていた。

 

 ある意味でユートは主人公達――ディハルト、レディン、エルウィン、ランディウス、シグマ、マシュー、アレス――からヒロイン達を略奪した形になるだけにエルウィンを除く主人公達に対するケアまでも確りと行っている。

 

 主に嫁さん捜しな方面で。

 

 エルウィンの場合は何を思ったか血迷ったか、覇王√をまっしぐらに突き進み始めたからリアナを奪ったのではなく、彼女とラーナは光輝の巫女としての使命の侭に闘う事を選択した時に請われてリアナ&ラーナに寄って立ったに過ぎないし、覇王討伐の報償に近い形で二人は自らを差し出して来ただけ。

 

 愛は無くて、二人は本来なら愛する筈だった男を喪って――エルウィンはリアナに頼まれて命を奪ってはいないが――しまい、哀を以てユートに侍るという選択をしたに過ぎない。

 

 エルウィンに付いていったヘインも居なくなってしまい、同じくエルウィン側に付いたロウガとソニアに関しては兄ではなく男として愛していたロウガの助命を、その美麗なる肢体を開いてまで請うたソニアが侍る事となった。

 

 また、小説版にしか登場していないシャロンとラミィも最終的にはユートの許に集う事となっているし、千数百年以上も前から常に傍に寄り添うジェシカ――何故かリーンカーネーション版――も当然の如く居た訳で……

 

 そしてナームとその母親や祖母などがそうであった様に、自らに流れる血脈に惹かれたのか? シェリーも矢張り同じく惹かれたらしい。

 

 恐らく滅亡した未来に続くA世界線では普通に進んだ――ジェシカの話ではエルウィンが覇王√なのは変わらなかったとか――のだろうけれど、果たして進むべき未来が滅亡してしまっているのとヒロイン達がユートに侍るB世界線、どちらが主人公達にとってマシな世界なのだろうか?

 

(そういえば、今となっては光輝(ひかり)の末裔ってのはまるで勇者(笑)の末裔っぽくて嫌な響きだな)

 

 漢字で書くとまるで彼らが天之河光輝の末裔みたいだ。

 

 どうでも良い事はもう考えるのも億劫だから、取り敢えずはバイアス・D・ヘルシャーの世話をやらせる者について考えるが、自分の【閃姫】には絶対にやらせたくはないからどうしたものかと思案をする。

 

 仕方がないなと兵士を呼び付け――『皇太子がリリアーナ姫に対して乱暴をしようとしたから、護衛が防衛? 行動に出たから連れ出してくれ』と割かし真実だけど自分でも信じられない話を伝えてやったら大慌てだった。

 

 リリィのドレスが引き裂かれて胸元がはだけていたから信じるしかないし、何よりも彼女が特に否定をするでもなく頷いているのが大きい。

 

 儚くも美しいお姫様がはだけて露わとなっている胸を羞恥心に塗れながら腕で隠しているのだ、流石に内緒だけど姫君とはいえ一四歳の小娘とは思えない程の艶を帯びたリリィに対して、兵士君は下半身のJr.がおっきしているのを自覚する。

 

 腰当ての前垂れが無ければ無様に勃起をして、小山の如く盛り上がる股間を晒し彼が大恥を掻いたのは間違い無い。

 

 それを思えばバイアス皇太子など怨みの対象にしかならないが、取り敢えずだが今夜のオカズにリリアーナ姫のあられもない姿を脳内に確かりと記憶して使う予定だ。

 

 不敬ではあるけど直に手を出す訳ではないから決して……

 

「バレないと思ったかな?」

 

「ヒィッ!」

 

 【閃姫】に対して横島――じゃなく邪な感情を懐きユートにバレない筈も無かった。

 

「さて、その記憶を消去されるのと()()()()()()()()()()()()()()姿()を一生涯、エロ方面に思考が寄っただけで脳裏に浮かぶ様にされるのとどちらを選ぶ? 選択をさせてやろう。因みに毎晩の夢にも出てくるぞ」

 

「消去で御願い致します……はい」

 

 若しも消去を拒めば女を抱く時にすらバイアス皇太子のあられもない姿とやらが浮かぶという、単に地獄と呼ぶのも生温い煉獄にでも放り込まれた気分になるであろう。

 

 記憶消去――【魔法先生ネギま!】では寧ろ、痴呆魔法とも言うべき魔法がそれに当たる。

 

 原典でもネギが言い切っていた。

 

『ちょっとパーになりますけど』

 

 恐らく本来は決しておバカさんでは無かった筈の明日菜が、バカレッドなる『麻帆良戦隊バカレンジャー』のバカリーダーに成り果てていたのも記憶消去魔法が原因だと思われる。

 

 故にユートはあれを痴呆魔法と呼んでいた訳だ。

 

 原理としては選択的な消去が難しいから近時からの記憶消去が主だが、明日菜というかアスナ姫の場合は百年にも及ぶ幽閉期間も含む消去となったから殆んどの記憶が喪われた筈。

 

 アスナ姫が神楽坂明日菜として麻帆良学園都市に来た際には、本人の中学生としての記憶から鑑みて哀れな捨て子か何かで高畑先生に拾われたかどうかした子供みたいなノリだったのだろう。

 

 正確にはアスナとしての人格も消滅していた訳では無かったものの、どうやら百年を越える人柱な状態の明日菜を保護していたからかその後は消えてしまった模様。

 

 或いは融合したのかも知れないが、ユートが居る世界線では抑々が人柱にも成っていないから、もう窺い知れないifの話でしかないのだが……

 

 尚、ユートが居た再誕世界の世界線はユートが一切関わらぬ【聖闘士星矢LC】で何の干渉もされていなかったA世界線を基型として、時間概念の神化した時空神のクロノスによる干渉が起きて滅亡した二〇世紀から牡羊座のアヴニールを送り込んだB世界線、その後もユートの関わりが無い侭に突き進み【聖闘士星矢LC】のEDから未来の二一世紀へと更に進んで更に百年後の三〇世紀

で超 鈴音の未来世界となる。

 

 それは更に明日菜を人柱とした世界たる謂わば【UQ HOLDER!】の世界線を生む超 鈴音が干渉をした世界に分岐させ、B-1世界線とB-2世界線が生じる結果となってしまうけどこれにユートが干渉を始めたC世界線の誕生で変わった。

 

 先ずは極々普通? に【魔法先生ネギま!】や【聖闘士星矢】に干渉して生きていたユートが、超 鈴音により誤って遥かな過去へと跳ばされたのは矢張り時空神クロノスの干渉によるもの。

 

 ユートは【聖闘士星矢LC】に何故かぶち込まれてしまい、その世界に干渉をして取り敢えずは魚座の黄金聖闘士アルバフィカの死に直面して、彼の遺体と黄金聖衣を聖域に運んだ後にアテナたるサーシャから仮の魚座に任命された。

 

 そして双子座の黄金聖闘士の二人による戦闘、ユートは二人が融合してから更に消滅をした後に双子座の黄金聖衣をアテナや本人達からは無断で借り受け、双子座の黄金聖闘士として最終局面での活動を開始している。

 

 アテナ――サーシャと天馬星座のテンマと冥王の器だったアローンの闘いに干渉、ハーデス封印に際して彼の神氣を喰らい総じて二柱目になったハーデスの神氣を得た。

 

 その後はユートのみが残されてしまったので、牡羊座のシオンと天秤座の童虎が生き残った聖域へと戻り、他にも未だに修業が終わらず見習いで聖闘士と認められていなかった牡牛座のアルデバランの弟子が合流して彼がアルデバランとなる。

 

 正式に聖闘士として生き残ったのは確かに二人――牡羊座のシオンと天秤座の童虎のみだけど、聖闘士見習いやユートみたいな正規の聖闘士では無い場合、一角獣星座の耶人みたいに聖域に戻らなかった者などがカウントされなかったらしい。

 

 その後に時刻神カイロスだった杳馬による襲撃までに、ユートの修業を受けたアルバフィカに救われた花売りの少女――アガシャが青銅聖闘士として百合星座をユートから授かった。

 

 本来は聖闘士に成らない筈の少女であるけど、最終的には魚座の黄金聖闘士と認められる。

 

 原典通りにカイロスが襲撃後、神聖衣にまでも進化した天馬星座の青銅聖衣は元となるテンマの魂を喪い、星矢が纏った最初の青銅聖衣に退化をして聖域に戻ってきた。

 

 これにより牡羊座の黄金聖闘士のアヴニールが存在しない世界線として、ユートが干渉を始めたC世界線の雛型が完成をする事になる。

 

 その雛型こそがユートの世界線に足を踏み入れた超 鈴音の未来に繋がった世界線、そしてユートが跳び越えた本来のC世界線に繋がっている筈の【聖闘士星矢ND】に干渉、漸くこれで星矢達に追い付いてやるべき事を終わらせたのだ。

 

 この際の闘いで都合、三度目になるハーデスの神氣喰らいを行っているからかユートが神殺しの魔王に成った時に権能は三種類を得ていた。

 

 完成したC世界線は最早【UQ HOLDER!】に繋がる事は無くなる、何故ならば始まりの魔法使いとも呼ばれた『ライフメイカー』はユートにより滅ぼされてしまったから。

 

 火星はユートが【閃姫】となったアーデルハイトと共にテラフォーミング、裏火星が消失する事も無くなったから超 鈴音の未来も喪われた。

 

 裏金星たる魔族の住まう世界たる魔界とも争いになったし、貴族と呼ばれる存在とも闘う羽目に陥ったけど木星の裏とも云える亜空間に存在する星帝ユニクロンを差し向けたら魔界は白旗を上げて降参の意を示し、その証明にと二人のザジを差し出してきた。

 

 この二人はパクティオーカード上の名前表記がどちらも『ZAZIE』とあり、原典でポヨ・レイニーディとされた姉の方もザジが本名らしい。

 

 因みにどちらもザジでは呼び難いから原典通りに姉は語尾の『ポヨ』から、ポヨ・レイニーディに改名をさせる事で呼び名を安定させた。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 兵士君のリリィに関する記憶を消去した後に、ユートはリリィのエスコートをして会場入り。

 

 本来の一四歳な小娘より艶やかで美しいリリィなだけに、周囲のお偉い貴族が若者から初老に至るまで呆然と彼女を見つめており、ガハルド・D・ヘルシャーですら見惚れるくらいだった。

 

「これはこれは、最後に会った勇者の御披露目以来の事だが随分と美しくなったものだな」

 

「ガハルド皇帝陛下、本日は宴にお招き戴き有り難う御座います」

 

「今宵はリリアーナ姫達を歓迎する宴なのだから存分に愉しまれるが良い」

 

 通り一遍の挨拶をしてるリリィは隣にツバメを侍らせ、ユートはルクレチアだけでなく先に会場入りしていた【ラングリッサー】勢や雫達やユエ達を傍にワインを嗜んでいる。

 

 見た目は相当な美少女ばかりで雫達は少しだけ見知っている顔ぶれ。

 

 クリス、リアナ、ティアリス、レイチェル、ラムダといったヒロイン達、加えてフロレンティアが理知的表情で御偉いさんの相手をしていたし、ジェシカも【ラングリッサーⅢ】モードとなって笑顔で貴族に応えている。

 

「随分と綺麗処を揃えてるじゃねーかよ」

 

 そんな美女美少女の見本市を侍らすユートに対してガハルド皇帝が、自分の隣に吊り目がちながらも金髪縦ロールな美少女を連れて、にこやかに笑顔を振り撒きながら可成り馴れ馴れしい態度で話し掛けて来るのであった。

 

 

.




 ラングリッサーは飽く迄も想定した噺ですね、ランモバとリーンカーネーションを足した感じに滅亡した一巡目から過去に行き、其処からは謂わばオリ主ムーブで干渉をしていく感じです。

 最終的にランモバに落ち着きます。

 以前に書いた自サイトのラングリッサーで確かエルウィン関係を載せた筈……



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第97話:ありふれた暗殺種族

 明けましておめでとう御座います。

 間違って昨日に投稿してしまった……





 

.

 ユートはその名前を呟く。

 

「ガハルド皇帝か」

 

 銀髪で正に野心家といったギラギラとした瞳を向けて来る初老の男、既に五〇歳を数えられる筈の彼はその実年齢に反して若々しく三〇代にも見える程であったという。

 

「若しやすると見覚えの無い女共はお前さんによる差し金かよ?」

 

「正解だ。一応は礼儀として紹介しておこうか。金髪の娘がリアナ、橙髪の娘がティアリス、亜麻色の娘がクリス、紫髪の娘がマリアンデールで、黒髪がフロレンティアだ。僕の隣に居るのがルクレチア、序でにリリィの隣に居るのがツバメだ。他は神の使徒として以前にも紹介はされているから構わないな」

 

「お、応……」

 

 一種の賑やかし的な意味で会場入りさせたのが【ラングリッサー】ヒロインズ、【ラングリッサー リーンカーネーションー転生ー】組から来たのがフロレンティアだったのはアレスのヒロインとなっていたのが幼馴染みの少女エルマ・ミンスターであり、流石に彼女を此方に引っ張っては来れなかったから。

 

 序でに云えば『フローレ様』が傍に居るともなればツバメのヤル気が上がる。

 

「羨ましいか?」

 

「ああ、羨ましいな。皇帝の俺でさえ中々お目に掛かれん程の美女美少女達だからな」

 

「やらんけどね」

 

「んだよ、そんなに居るんだったら俺にも一人くらい寄越せよな」

 

「はっ、冗談は顔だけにしとけ」

 

「お、俺の顔が冗談……だ……と?」

 

 地味にショックを受けるガハルド皇帝だけど、ユートがそれに関わる気など無かった。

 

 イチャイチャとしている様にしか見えない為、周りからの……特に男共からの視線が痛いけれど知った事では無い。

 

「そういや、皇帝が連れているのは?」

 

「今更かよ? おい、自己紹介をしろ」

 

「はい、判りましたわ御父様。初めてお目に掛かります神の使徒様。私はヘルシャー帝国第一皇女トレイシー・D・ヘルシャーと申しますわ」

 

 ニコリと微笑みながら自己紹介をしてきたのはこの国のお姫様らしい、確かに上流階級の御嬢様然とした美しい顔立ちに跪かれるのが当たり前の様な佇まいはそれっぽく、然しながらそのクルタ族の【緋の眼】も斯くやな宝石の如く綺麗な瞳からはギラギラとした獲物を狙う狩人の様なモノを感じてしまう。

 

 これが自分の御相手として王子なんかを狙った貴族令嬢の瞳なら判らなくもないけど、彼女の――トレイシー・D・ヘルシャーのそれは獲物は獲物でも男漁りなモノでは無く明らかに戦闘狂(バトルマニア)とか戦闘中毒者(バトルジャンキー)と呼ばれる存在の瞳。

 

 ぶっちゃけ、ヒソカ・モロウがゴン・フリークスやクロロ・ルシルフル……憚りながら自分自身たるユートを視てズキューンッ! と股間をおっ勃たせている時の瞳なのである。

 

 まぁ、ヒソカが相手なら正直キモイとしか云えないのだけど今回の相手は可成り美女なお姫様、だからこそユートもあんな目で視られていて我慢をする事が出来ていた。

 

 隣に侍るルクレチアはそんなトレイシー・D・ヘルシャーを面白そうに視ている。

 

「緒方優斗。一応だけど勇者(笑)と共に召喚された一人で天職は錬成師。それからアシュリアーナ真皇国の真皇だ」

 

「は? しんおう……ですか?」

 

「気にしなくて良いさ」

 

「は、はぁ……」

 

「どうせもう手遅れだからな」

 

 ニヤリと口角を吊り上げてボソリと呟いたのは余りにも不穏な科白。

 

 そう、手遅れである。

 

 何故なら既にアシュリアーナ真皇国は動き出してしまい、このトータスという世界に辿り着いているのだから。

 

 本当ならギリギリでラストダンジョンとなるであろう氷結洞窟を制覇して、彼方側へと還る為の概念魔法を得て大手を振って戻る予定だったが、天之河光輝が事ある毎に邪魔をしてくれていたから遅れに遅れてしまったのが実状。

 

 御陰様――皮肉――でユートの愛する【閃姫】達が痺れを切らしてしまい、あの衛星規模艦たる【衛星型超弩級万能戦闘母艦ダイコンボイ】にてやって来てしまったのである。

 

 トランスフォームすると名前の通りにでっかいコンボイに成り、内部空間は空間拡張を行っていて普通に居住可能惑星が数個も浮かんでいるくいにバカ広いから、それこそダイコンボイだけでも生活が成り立ってしまうくらいであり、云ってみれば無補給で数百億人の胃袋を満たしてやれるだけの食糧や水が有った。

 

 それだけに干上がらせるなんて戦法は無意味、寧ろ干上がるのはトータスの側となるだろうからユートを相手に焦土作戦とは、単に自分の素っ首を絞め付けるだけの自傷行為に他なら無い。

 

 尚、焦土作戦とは敵国に奪われるであろう自国の領土に利便性を残さない為に焼き尽くしてしまう作戦であり、仮に取り戻しても自分達まで使えなくなるデメリットが大きいものだ。

 

 しかもダイコンボイは自らが闘える上に内部にも戦力を持ち合わせる、少なくとも文明レベルが低いトータスでは全戦力を以て挑んでも勝ち筋が全く見えてこないくらいの歴然な差があった。

 

 というか、衛星軌道上に存在するダイコンボイに攻撃など出来る筈も無い。

 

 勝ちたいなら魎呼と魎皇鬼でも連れて来いとしか云えないだろう。

 

 流石にチョビ丸程に容易くは無いが……

 

「貴方は中々にお強いのだと御父様から聞いておりますわ。宜しければ一手の指南を御願いしたいと思っておりますの」

 

 取り敢えず気にしない事にしたらしい。

 

「指南? ガハルド皇帝?」

 

「ああ、アレだ。トレイシーは所謂、戦闘狂ってやつでな……」

 

「また厄介な人間を連れてきたな」

 

 大概の戦闘狂は他人の迷惑を省みず強い人間と闘いたがる為、余りにも面倒臭い相手だと認識をしているから肩を竦めてしまう。

 

(まぁ、どうせトレイシー皇女とは闘う事になるんだろうけどな)

 

 もうすぐカム――シアの父親と連絡が取れている頃だから、確かにもう少し経てば闘いが始まる事になるのでトレイシー皇女の願いは叶う筈だ。

 

 原典とは異なりハウリア一族が族長たるカム・ハウリアはヘルシャー帝国に捕らえられて無く、帝国の状況などを知る為に仲間達と共に帝都へと潜り込みスパイ活動をしている。

 

 その事はラナ達から聞いていたのでスマホを使って連絡を取っていた。

 

 ユートのスマホは違う世界の最高神の世界神から改造を受けた神器と化しており、その世界では最高峰な技術者が量産化して連絡を取れる便利なアイテムとして配ってある。

 

 その流れは原典と同じだけど、異なる点が有るとしたら原典の主人公は嫁さん九人を娶りこそしたもののそれ以外に所謂、愛人枠となる者を作る事は決してしなかったのに対してユートは好きに愛人枠を広げていた。

 

 勿論、世界最高峰の技術者が五千年の眠りから覚めた後は本人の奨めもあって愛人にしてるし、彼女が造った人造人間達も纏めて愛人にした。

 

 他にも狐っ娘や元掏摸の少女など愛人に出来るなら全員を娶ったし、何なら本来の主人公が普通に主人公をしている世界線から軸移動をしてきた本来の主人公の娘達まで年頃になれば『戴きます』をしている。

 

 彼女らを産んだ訳では無い母親と一緒に擬似的な母娘丼を戴いたものだった。

 

 それは兎も角、彼女が造ったスマホは今でも造られていてユートのストレージ内に幾らでも入っている為、その一つをカム・ハウリアにも渡しているからいずれは連絡が来る筈だ。

 

 それまではこのパーティーでも愉しめば良い、帝国の権威を示す為のパーティーなだけに美味い飯が出されているし、トレイシー・D・ヘルシャーを始めとしてそれなりに綺麗処が揃っている。

 

 まぁ、ユートが揃えた娘らには及ばんが……

 

 ツバメやルクレチアだけ視てもそうであるし、雫や香織やユエやシアやティオ達もそうだ。

 

 事実として多少のメイクアップくらいはしているにせよ、背丈や御胸がミニマムなルクレチアやユエやミレディや更には鈴でさえ帝国貴族の男共は見惚れてしまっていたし、女性陣もその美麗な顔立ちや肌の綺麗さに羨望を覚えていた程。

 

 御胸の残念さは扠置いて。

 

 ユートが賑やかしにパーティーへと連れてきたラングリッサー勢は言わずもがなであり、リアナはラングリッサーの巫女として村娘でしかなかった頃から美しさと気品が備わっていたし、侯爵家に生まれたティアリスは当時が一二歳で落ち着きが無かったから解り難いが、教養も確りしていて本来の世界線ではエルスリード王国の王妃だったのも納得が出来る。

 

 クリスは光の神に仕えてる巫女としての充分な教養はあったし、本来の世界線では闘いへと赴くレディンに付いていくだけの芯の強さも有った。

 

 レイチェルは我侭というか甘えん坊な部分も有ったが、時を経て落ち着きを持てる様になってからは理知的で美少女な雰囲気が出ている。

 

 そしてこのラムダに至ってはラムダモードでのクールビューティーさ、マリアンデールモードでの快活さ女性らしいたおやかさに加えて穏やかな笑みを浮かべる処にギャップがあって良かった。

 

 現在はマリアンデールとして微笑んでいるが、生理年齢的に近い――彼女の実年齢は数百歳を越えているがユートの【閃姫】である為に見た目が出逢った頃と変わらない――貴族の男共が紅くなっている。

 

 今現在の【ラングリッサー】系列の【閃姫】は惑星エルサリア――イェレス大陸出身も同じく――に住んで、アシュリアーナ真皇国エルサリア領国のお姫様的な立場だ。

 

 故に貴族らしい、お姫様らしい所作も教え込まれている。

 

 ユート個人は気にしないけど、こういう場所でパーティーをする事を考えると矢張り必須だし、王族出身のお姫様が居るんだから教えて貰えば良いだろうとも考えて、何人かがそれに立候補をしてくれたので頼む事にした。

 

 特にユーキが曰わく【イセスマ】の世界で得た【閃姫】達の中には生粋のお姫様も居たからか、優雅な王族パーティーにもそれなりに慣れていた事もあってよく教えてくれていたものである。

 

 ユートは割とよくある事態だったがこの世界の原典を識らなかった。

 

 結果、一番始めにやらかしたのが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事。

 

 その後に神界に連れて来られて世界神に礼を言われたのだが、ユーキからの連絡にてユートが助けた少年こそがその世界に於ける主人公であり、彼が主人公として舞台に上がるには先の神雷で死ななければならなかったとか。

 

 その結果として大半のヒロインとなる筈だった美少女達が不幸に見舞われるのだと云う。

 

 まさか助けた少年に『矢っ張り死んでくれ』とは言えないし、それで原典の通りに世界神が彼に特典をくれるのを期待も出来ないであろう。

 

 然しながら世界神はユートに御礼をしてくれるとの事、神殺しではあるが邪悪では無い性質故に誠には誠で返したいと言ってきた。

 

 ユーキと相談した上で主人公が行く予定だった世界に移動させて貰い、ユートが地球で買っていたスマホを主人公の物と同じ神器化して貰う。

 

 その後は本来の主人公が辿る筈だった道筋を進む事を余儀無くされたが、確かに美少女と呼ぶだけの娘らとの出逢いに恵まれていた。

 

 とはいえ、昔に自分の意志でやった事をまさか又候やらかす羽目になるとは実に業が深い。

 

 というのも、嘗てハルケギニア時代の放浪期に【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】の世界に行った際に非常に非情で非常識な実験を行ったのだ。

 

 第一巻の最初の噺でルーシェ・レンレンに掛けられた封印が、処女のキスにより開封されなかったらどうなっていたのか?

 

 その結果を視た後で時間を巻き戻してしまって本来の干渉に切り換えた。

 

 だけどその過程でティア・ノート・ヨーコを攫ったのだが、返してはいなかったからユートにより攫われたヨーコと過去に巻き戻って攫われる前の平行存在なヨーコが同時に居る形になる。

 

 だから攫った方のヨーコは返せず仕舞い。

 

 このヨーコはルーシェにはお姉さん気取りで、ダークシュナイダーは出逢ってすらいなかったのもあるが、今はユートに情も湧いたのか【閃姫】の一人に名を連ねていた。

 

 そしてこの世界――主人公を神雷から救ったらどうなっていたのか? を知らない内にやらかしてしまい、ユートとしてはどんな宿業かと頭を抱えてしまったのは間違い無い。

 

 あの時はしれっとダークシュナイダー側に居たのだけど、ユート的にはどんな面下げて味方ですって傍に居るのかと苦笑いをしたものだが……

 

 【イセスマ】の世界は一名を除いて軽度重度の違いは在れど、全員が基本的にピンチの連続だった為に超人が欲しいと嘆きたくなる事態。

 

 だからユートが助けるしかなかった。

 

 そんな訳で彼女らはブリュンヒルド領国に住んでいる矢張りお姫様待遇、因みに領国名の由来は本来の世界線やユートがそちらから名前を引っ張ってきた『ブリュンヒルド公国』から。

 

 とはいえど、【ありふれた職業で世界最強】の世界と直に関るのが【魔法少女リリカルなのは】の世界から判るが、【イセスマ】の世界はそれより前に関わった世界なだけに彼女らはユートの創った冥界のエリシオンに住んでいたのを、ユートがアシュリアーナ真皇国の建国をした後に彼女ら【閃姫】を喚んで開拓して領国扱いの元無人世界へ移住をさせたのだ。

 

 エリシオンは元々の冥王ハーデスのエリシオンをモデルに創造したから所謂、極楽浄土で常春な大地として存在しているからか住み易いものの、刺激の少ない世界だから退屈と感じてしまう部分も確かにあった。

 

 要は新たな刺激を求めて生きた世界へ……と、ちょっとしたバカンスみたいなもの。

 

 【閃姫】の義務はユートからの招喚には必ず応える事とセ○クスに必ず応える事の二点のみで、後は当たり前だけどユートが幾らでも【閃姫】を増やすのに対して、彼女らに浮気は許されないとか理不尽極まりない制約が有るくらい。

 

 とはいっても浮気した処でえちぃ行為に及べば相手の棒と玉々が砕け散るだけだが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「チッ、そっちのそれなりに背が高い女も駄目なのかよ?」

 

「雫? 駄目に決まっている。誰のモノだと思っているんだよ!」

 

「テメェの女ばかりか!? いったいどんだけ囲ってやがるんだ!」

 

「そっちの二人以外は全員だ」

 

 指差した方には辻 綾子と吉野真央。

 

「「ちょっ!」」

 

 二人が叫ぶが吉野真央は兎も角として、辻 綾子には気になる相手が居たから余計に慌てていた。

 

「うん? ()()……だと?」

 

 その科白に違和感を覚えたガハルド皇帝がふとリリィを見遣る。

 

「リリアーナ姫やその侍女を含めてか?」

 

 ツバメでは無くヘリーナとニアの事だ。

 

「そう、全員だよ」

 

「マジかよ? リリアーナ姫はウチのバイアスの婚約者だぞ?」

 

「飽く迄もそういう話が有るって程度だろ」

 

「それでも王族同士の話、実現の可能性の方が高い事だぜ」

 

 それは不測の事態で破棄される〇では無い可能性というやつでしかなく、寧ろ殆んど決まっていたも同然というのが常識の範疇となる。

 

「どうせバイアス君がリリィを抱くのは不可能になったんだ。婚約なんぞ解消で構わんだろ」

 

「抱くのは不可能? そりゃ、いったいどういうこったよ?」

 

 ガハルド皇帝が当然の疑問を持ったらしくて、可愛らしさの欠片も無い首を傾げてきた。

 

「僕の女は僕を受け容れた時点で、他の男からの一切の干渉を受けなくなる。それの意味は無理にでもヤろうとした場合は、そいつの男の象徴が『弾けろブリタニア!』な感じになる」

 

「……マジにかよ?」

 

「勿論」

 

 物騒な話であるが、背後では天之河光輝が顔を青褪めさせながら思わず既に弾けた股間をギュッと守る様に隠していた。

 

 傷自体はもう塞がって座り小便は可能になってはいるけど、性的な行為は生涯望めなくなってしまったのは矢張り堪えたらしい。

 

「因みに、リリィも僕以外とヤろうとしたら股間のイチモツが弾ける」

 

「既にヤってやがんのか」

 

「それと着替えの部屋でリリィをバイアス君が襲ったから、護衛に付けていたツバメが男の象徴を切り落としたのは言っておく」

 

「ウチの皇太子に何をしてくれてんだ!」

 

 バイアス皇太子に世継ぎは未だ無く、股間に付いているJr.を喪ったら最早世継ぎは望めない。

 

「結婚処か婚約話もあやふやなのに自分のモノだと断じての強姦未遂、護衛たるツバメが護る為に動いてもおかしくはないだろうに」

 

「そうかも知れんが……」

 

 ツバメは任務に忠実だっただけで、寧ろ相手が皇太子だからと躊躇う方が任務放棄に当たる為、ユートはツバメを褒めたい気分だった。

 

 勿論だけど普通なら国際問題待った無し案件でしかない、ユートのアシュリアーナ真皇国ならば踏み潰せるからこその暴挙であろう。

 

 ヘルシャー帝国はユートに舐めた態度を取った事に未だ気付いていないが、既に滅亡とまではいかないにせよ大打撃を受けるのは確定事項だ。

 

 戦闘狂とはいっても美しいと形容が出来るだけのトレイシーをねじ伏せ、どちらが格上なのかを格付けして蹂躙するのも悪くない。

 

 敵対者には容赦が無いから。

 

 勿論ながら無意味な敵対関係はNGだろうが、今回のヘルシャー帝国に対しては()()()だ。

 

 ユートはこれでも一国の皇、そんな存在を謂わば拉致した挙げ句の果てに前線送りになどしている訳で、確実に戦争案件としか云えないくらいに愚かな真似をしたのがトータスの人間族。

 

 知らなかったではとても済まされないこの失態は挽回などは不可能な事で許されたりもしない、少なくともユートの事を待つ【閃姫】達が許さないのは確定した現実であったと云う。

 

 【閃姫】達はユートと生命を共有している。

 

 主であるユートが存在する限りは【閃姫】達も消滅する事は無い、但し従である【閃姫】が死んでもユートがどうこうなったりはしない。

 

 それはハルケギニア時代に覇王将軍シェーラと使い魔契約をした時に『共生のルーン』が刻まれたのと酷似しており、アレも主となるユートが従であるシェーラの生命が『共生』されたがユートの滅びがシェーラの滅び、然しながらシェーラの滅びがユートの滅びに繋がらなかった。

 

 尚、この『共生のルーン』は従来のルーンとは異なりユートの魂に刻まれており、故に転生をした今でも変わらず二人を結び付け縛っている。

 

 これは従側の使い魔たるシェーラが精神生命体の魔族だったのが原因で、シェーラと同じ部位たる精神の奥深くなユートの魂へ作用したらしい。

 

 【スレイヤーズ】の世界の魔族とは精神生命体の類いで、通常の武器では傷一つ付けられないとされているのだから。

 

「それにバイアス皇太子が子を成せなくなったんなら、廃太子にして他の奴を新たに立太子させれば良いだけだろう?」

 

「そうだけどよ……」

 

 まるで悪びれてないユートに苦虫でも噛み潰した表情となるものの、正式な婚約すら成されていないリリィに襲い掛かったバイアス皇太子が悪いと言われれば間違い無く、文句を付ける筋合いが無いのも理解するが故に押し黙る。

 

 それは兎も角として【閃姫】には充分な時間がある事になるけど、その反面で新たなる女を作るから相対的には構って貰う時間は減る。

 

 仲間が増えるのを今更ながら嫌だとは言わないにしても、それはそれとしてその原因に対しては厳しい目で視ざるを得まい。

 

 実際ユートは【ありふれた職業で世界最強】の世界にて、何人もの女性と【閃姫】契約を交わしているので『そんな事は無い』と言えなかった。

 

 それにもう少し増えそうだ。

 

 何しろ【解放者】にはミレディ・ライセン以外にも、メイル・メルジーネとリューティリス・ハルツィナの二人が居る。

 

 ミレディから話を聞いて興味津々だった様で、生き返ったら好意を持たれてもおかしくない。

 

 事実、ハルツィナ樹海の大迷宮の奥深くで会ったリューティリス・ハルツィナの人格コピーは、間違い無くユートに対しての強い興味と好意を示していたのだ。

 

 人格コピーであるからには生きてリューティリス・ハルツィナが会話をした場合は『こうだったろう』と、謂わばシミュレートをしたにも等しい事だから本物も同じ反応をするはずだから。

 

(折角だからユミナやルー達も連れて来てやれば良かったか? まぁ、すぐに阿鼻叫喚な地獄絵図になるんだから寧ろ可哀相かも知れんな)

 

 実に王族率が高いあの世界の【閃姫】達なだけにパーティー慣れをしているし、庶民の出である【閃姫】達も結局はユートが一国の主に成ったから習う羽目になり、全員が普通にパーティードレスを着てダンスに興じる事も可能だった。

 

 そういった例は幾らでもある。

 

 普通なら無いだろうけどユートは幸い? にも永い寿命と若さが有る為、そして時空の壁を突破して次元の海を渡れるから出逢いがごまんと在るのが強味と云えた。

 

 例えばユートが割と珍しく? 男と愉しい時間――当たり前だが性的な意味では決して無い――を過ごした世界、ゲーム製作の下請け会社へ勤める彼に合わせて同じく仕事をアルバイトという形でやっていたが、そんな彼が異世界へと召喚されてしまったと認識をした途端にユートも召喚されてしまい、然しながら召喚された時間軸がはなれていたらしくて後から召喚された筈のユートの方が先に召喚先に来ていたとかハプニング付き。

 

 あの世界で【閃姫】契約を交わしている中にも庶民は居たが、お姫様や元貴族ながら神託の巫女と呼ばれている神職者なんかも居た。

 

 伯爵家だったり侯爵家の出だったからパーティーダンスも充分に熟せたものである。

 

(さて、それは兎も角……そろそろ連絡が着ても良い頃なんだが? カムはどうしてるのかね)

 

 ユートは【閃姫】達の事ばかりを考えている訳では勿論無くて、今回起きる……というか起こす『ハウリアの変』の代わりとなる事件も充分に考えていた。

 

 本来の世界線ではカム・ハウリアを中心とし、ハウリアのハウリアによるハウリアの為の闘いが引き起こされ、『ハウリアの変』と呼ぶのに相応しい帝国にとっての大厄災となる。

 

 この世界線ではユートが獣人や妖精種族による亜人族を率いて、更には連れて来た【閃姫】達も含めて帝国との戦争を行う手筈だ。

 

 これはフェアベルゲンが正式にアシュリアーナ真皇国のフェアベルゲン領国となる為の儀式で、血を流すのは長年に亘って亜人族を苦しめてきたヘルシャー帝国という訳だった。

 

 (そも)、ヘルシャー帝国は貴族平民に拘わらず彼ら亜人族を奴隷化してきた歴史がある。

 

 一応はハイリヒ王国ではそんなのを禁止していたものの、別に亜人族を差別していないという訳では決してなかった。

 

 第一にミュウの例を視れば判るが、その裏では普通に奴隷を扱っているのだから闇は深い。

 

(総領!)

 

(カムか、待ち詫びたぞ)

 

(申し訳ありません、城内の亜人奴隷はそれなりに居ましてな)

 

(チッ、矢っ張りかよ)

 

(総領から預かった魔導具のお陰で全員を帝都から離せました)

 

(なら、予定通りに)

 

(ハッ!)

 

 ユートが渡した特殊な通信装置により念話を送ってきたカム、基本的に亜人族には魔力は無いけど氣は生命力が由来となるから生けとし生ける者の全てに存在するし、何なら自然界にも普通に在るから利用をするのは比較的に簡単、カムに渡した通信装置はつまり氣を扱う代物だった。

 

 そして亜人奴隷を助けるのに使った魔導具は、名前の通り魔力を必要としているが魔石を謂わばエネルギー源としており、魔力が無いとされてる亜人族でも扱う事が可能な汎用魔導具である。

 

 カムに渡した魔導具とは『何処でもミラー』という、ドラえもんで云う処の『どこでもドア』みたいなアイテムだ。

 

 別に形はドア型でも何でも構わなかったけど、ユーキが曰わく【イセスマ】世界由来のゲートの魔法を篭めるなら、矢っ張り鏡型の方が良いとか主張されたから言われた通りに造った。

 

 後から本人というか主人公が主人公をしている世界線から、誤って来てしまった娘達を迎えに来た際に彼から聞いたら確かにミスミド獣王国に行く際にそういう鏡をエンチャントしたらしい。

 

 ユーキからの情報であるが故に信用も信頼もしているし、それに対して疑問なんて差し挟む余地など全く無いとすら考えているからだ。

 

 カムはそんなミラーを使って閉じ込められていた奴隷を牢屋から出してやり、ミラーの接続先たるフェアベルゲン領国の存在するハルツィナ樹海へと送っていった。

 

 解放にはちょっと時間を掛けたらしいのだが、全員を無事にハルツィナ樹海に送ったみたいだ。

 

 カムとの通話中にどうやら話は可成り進んだ様でいつの間にか、ガハルド皇帝がトレイシー皇女と壇上へ上がって演説を始めている。

 

 話が途切れたから必要な仕事を始めたといった処だろうけど、ユートからしたらこれはチャンスと呼ぶ以外に無いと云えた。

 

(カム)

 

(はい、総領)

 

(ガハルド皇帝が演説を始めた。演説の終わりが一番に盛り上がる瞬間になるだろう)

 

(成程……では、その時に事を起こします)

 

(そうしてくれ)

 

 ユートは暗い笑みを浮かべ通話を切る。

 

 既にユートの中ではだいたいの構想は出来上がっている為、取り敢えずこの場で亜人族との差を確りと把握させてやる心算だ。

 

 それから数分後にはガハルド皇帝の演説も漸くといった感じに終わりを迎えていた。

 

「パーティーはまだまだ始まったばかり! 今宵は皆が皆、大いに食べて大いに飲み大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ! さぁ、手にした杯を皆で掲げろ!」

 

 全員が杯をその手にした掲げるのを確認をするガハルド皇帝は、自身もワインが限界まで注がれた杯を掲げて一度口を閉ざす

 

 更に息を吸うと威厳と覇気に満ち満ちた声にて乾杯の音頭を取った。

 

 だがこの会場でユートとその【閃姫】達以外は知らない、この今にも溢れ出しそうな高揚感が高まりに高まった瞬間を狙う暗殺者が居る事実を。

 

「この宴によって我ら人間族の結束はより強固となった! 最早恐れるものなど何も無いのだ! 我々人間族に永劫なる繁栄よ在れっ!」

 

『『『『『『繁栄よ在れっ!』』』』』』

 

 バイアス皇太子のJr.が切り落とされた事実を知るが故にか、実は原典と乾杯の音頭の内容が若干ながら異なるものの会場は最高潮に達していた。

 

 そしてその盛り上がりの瞬間に狙い澄ましたかの如く全ての光が消え失せ、帝城内のパーティー会場は瞬く間に闇へと呑み込まれてしまう。

 

「な、何だこりゃぁぁっ!?」

 

「イヤァァァァッ! な、何も見えない!」

 

「どうなってんだどうなってんだどうなってんだどうなってんだ!?」

 

「だ、だ、誰か灯りを!」

 

「暗い暗い暗いぃぃぃぃぃっ!」

 

 帝国貴族の面々が大慌てで無様に叫んでいて、それには老若男女の別などまるで無かった。

 

「嫌ぁ、何でこんな……」

 

 中には幼い少女の声も響く。

 

 そういえばランデル元王子――現兵士の肉人形(おひめさま)と同い年くらいの皇女も居た気がするが、此方はトレイシー皇女と違って特に紹介された訳でも無かったから意識の外だった。

 

(もう何も恐くない……はド頭を喪うフラグってやつだよガハルド皇帝さん)

 

 【魔法少女リリカルなのは】が主体世界にて、ユートの【閃姫】となった一人のイエローチックな少女――巴 マミ、彼女は本来の世界線の中でもある意味で最後の世界線で『お菓子の魔女』により頭を喰われて死亡した。

 

 ネット界隈では『マミる』なんて言葉が作られるくらい衝撃的な場面、その前に巴 マミは後輩の友人という存在に浮かれて『もう何も恐くない』と心の中で叫んでいたが、これがフラグとなったのかは兎も角としてそれから僅かな時間でマミられたのは間違い無い。

 

 ユートの関わったあの世界は過去にも関わりを持ち、【魔法少女リリカルなのは】をベースに他の世界も本当に色々と混ざった混淆世界であり、確認が取れただけで【神楽シリーズ】とされているエロゲな世界観、【AYAKASHI】、【メイプルカラーズ】シリーズ、【とらいあんぐるハート】シリーズ、【Septem Carm まじかるカナン】、【ロスト・ユニバース】などが挙がる。

 

 高校生だったけどアイドルとして瀬川おんぷの護衛をした事もあり、仲間に四人+αの存在を匂わせていたから【おジャ魔女どれみ】シリーズも混じっているらしい。

 

 何故か一部を除いてエロゲばかりだったけど、【魔法少女リリカルなのは】の世界自体が抑々にして、【とらいあんぐるハート】を下敷きにした世界観なのだからおかしくも無いのか? などと少し達観した感想を懐いたものだった。

 

 尚、殆んどがユートの【閃姫】化していたりするけど流石にさやかだけは彼氏持ちである上に、さやかへの援護射撃として恋敵になる筈の緑っ娘を本人合意の許で喰ってやったりも。

 

 暗いパーティー会場が阿鼻叫喚の場として混沌としていても、ユートの目には普通に視えているから慌てる皇族や貴族共を口角を吊り上げながら面白おかしく見据えていた。

 

 そして現れるはカム・ハウリア率いるハウリアの軍勢、ハウリア一族はオルクス大迷宮の最奥部に設置した魔法球を使っての苦しい修業をして、ユートもミナからそれなりに戦闘力を増しているとは聞いている。

 

「ブギャッ!?」

 

 貴族男の首が宙を舞った。

 

 とはいえ兎人族には変わりないから筋力アップも限界は有るし、カムも見た目は可成り筋肉質になっていても恐らく坂上龍太郎程ではない。

 

 正直、魔力を扱えるシアは元よりオーラを扱える様になったミナ、ラナ、ネアの三人の方が余程強いといえるだろう。

 

 カムは氣力も魔力も念力も霊力も使えていない身としては最大限まで鍛えており、普通の戦闘でならばこの帝国の兵士を相手に数人ならば苦戦はしても斃せると思われる。

 

 ()()()()()の暗闇での暗殺。

 

 仮面ライダー黒影トルーパーに変身をしないのならば、気配遮断が得意な兎人族には最適解となる職業は何処ぞの『深淵卿』も斯くやな暗殺者であったと云う。

 

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 グダった噺に……

 今年も宜しく御願いします。



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第98話:ありふれた新たな戦争

 最近はちょっとへたれてきたな~。





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 ハウリア一族による襲撃にてパーティー会場の阿鼻叫喚は続いている。

 

「くっ、狼狽えるな! 今から魔法で光をつくって……ごばぁぁぁっ!?」

 

「何だ? どうしたっぐきゃっ!?」

 

「あぎっ!?」

 

 誰もが焦燥感に駆られる中でも多少なり冷静だった誰かが、周りに対して指示を出しながら魔法で光球を生み出し灯りを確保しようとするけど、そのすぐ後には悲鳴と共に倒れ込む音が響いたのと同時に、混乱をする貴族連中が次々と悲鳴を上げては斃れ逝った。

 

 そんな余りにも異常が過ぎる光景にパーティー会場は再び混乱に陥り、特に貴族令嬢達は完全にパニックッてしまい無闇矢鱈と走り出してしまっては転倒する音や衝突の音が聞こえる。

 

「ええい、狼狽えるな! テメェらはそれでも栄えある帝国貴族かぁぁぁっ!?」

 

 暗き大いなる闇の中に在ってガハルド皇帝による覇気に満ちた声が響き渡った。

 

 それは闇夜を暁天に染めんとするくらいの喝であり、暗き闇と怒号や悲鳴で恐慌に陥りかけていた帝国貴族達の精神を立て直させる事に成功。

 

 其処へ弓箭による攻撃が闇より来たる。

 

「チィッ! 暗闇から鬱陶しいわっ!」

 

 ガハルド皇帝へと向けて無数の箭が飛んでくるのだから面倒極まりない、しかも普通ではとても考え難い程短いのに凄まじいばかりの速度と威力を秘めた箭が四方八方から襲ってきた。

 

 その箭はとても絶妙なまでにタイミングをずらしてきて、それはそれは実に嫌らしい位置を狙って正しく正確無比に一切の間断も無く撃ち込まれくるので、戦に慣れているガハルド皇帝といえど防戦一方に追い込まれてしまい、貴族達が態勢を立て直す為の指示を出す余裕は何処にも無い。

 

 とはいえ、真っ暗闇の直中で僅かに聞こえてくる風切り音だけで箭の位置を掴み、決して戦闘用では無い儀礼剣だけでこれを捌いているのだから其処は流石というべきなのだろう。

 

「コンチクショーがぁぁぁっ!」

 

 ある意味で間違ってはいない怒声を上げているガハルド皇帝を中心とし、とっても甲高くて重々しい金属同士の衝突する音が鳴り響いていた。

 

 間断無く上がっている悲鳴と人が倒れる音が響く中で、ガハルドが喝を入れながらも襲撃を受けている事から幾分か冷静さを取り戻した者達が、火球の魔法によって会場内へと灯りを作り出す事に成功をしている。

 

「くそ、いったい何なんだ!」

 

 一切合切の事情を聞かされてない天之河光輝、それが故に聖剣ではない単なる鉄剣を揮いながら自分の身を守っていた。

 

 とはいってもみてもカム・ハウリアからしたら敵は基本的にガハルド皇帝と帝国貴族達であり、エヒトの勇者(笑)とかいう天之河光輝なんて愚図には何ら興味も用事も無い。

 

 なので流れ弾みたいなクナイらしき刃が飛んでくる程度でしかなく、狙っていた訳でも無いから特に直撃する物は一つも無かったけど流石に暗闇の中で刃が飛んでくるのはストレスだった様だ。

 

 ブンブンと当て所なく剣を振り回していて危ない事この上ない、近場に居た坂上龍太郎と貴族らしき男が嫌な表情でソッと離れていった。

 

 事情を全て知っているリアナ達や雫達、更にはリリィも特に慌てる事は無くて趨勢を見守る。

 

「あの坊やも大変そうね」

 

「クリスさん、そんな言い方だとオバサン臭いと思いますよ?」

 

「ガーンッ!」

 

 何ならクリスとリアナがそんな話をしていられるくらいには余裕だ。

 

 だけどガハルド皇帝や帝国貴族達はそれ処ではなくて、ふと気付けば視界の端に何やら黒い影の様な物が風切り音と共にな横切ってくる。

 

「くっ、何者だ……げびゅっ!?」

 

 横切る影に向かい咄嗟の判断で火球を放とうとした帝国貴族の男、だが然しその直後に背後から飛び出したのはガチガチな鎧姿で暗闇と変わらぬ色が保護色となっており、手にした黒塗りで目立たない小太刀を一閃するとスパンと一瞬にして首を刈り取っていた。

 

 首が飛んでドシャッと生々しい音と共に地面に落ち、それはゴロゴロと慣性の法則の侭に転がっていきやがて止まる。

 

 帝国貴族の男Aはマヌケな表情を晒しており、まさか自分の首が落ちているなど思いもしない。

 

 その首無しな身体の傍らには鎧武者とでも呼べる存在が居たけど、次の瞬間にはゴツい体躯を翻して闇の中に紛れて消えていた。

 

「よ、鎧の化け物だぁぁぁっ!」

 

「死にたくな~い、死にたくな~い!」

 

「だ、誰か助けて!」

 

 荒事には向かない貴族令嬢や文官達だったが、何と御令嬢は元より男である文官までが表立って言えない粗相をする者も居り、俄かに会場の床が濡れていたし少しアンモニア臭が漂う。

 

 仮面ライダー黒影トルーパーとなってたカムはウサミミで聴力は良いが、犬人族や狼人族みたいな鼻を持つ訳では無いのに臭いで仮面の向こう側の素顔を歪めた。

 

 原典ではウサミミから兎人族だと判っていたからか未だしもマシだったのか、軍人将校を生業とする貴族は闇を睨み挑む姿勢も崩さないにせよ、御令嬢は腰を抜かして派手な粗相をしてしまった者が多く、下半身の機能を喪ったランデル元王子と歳の変わらないアリエル皇女も矢っ張り粗相をしならがら、涙と鼻水でとてもではないが他人には見せられない顔で座り込んでいる。

 

 最早、モザイクにするか『見せられないよ』と看板でも立てるかしないといけない。

 

「仕方がないな……」

 

 暗闇でも闇目が利くユートにはバッチリと視えてしまっており、腰を抜かしてて後ろ手を付いた状態で純白のドレスのスカートが開いてしまい、ドロワーズが丸見えな形だから股間の湿り具合いや床の水溜まりも確りと視える。

 

「ほら」

 

「ふぇ!?」

 

 ユートは彼女を立たせるとゴシゴシと湯で濡らしたタオルで顔を拭いてやり……

 

「キャッ!?」

 

 ドロワーズをスルリと脱がして、もう一枚の濡れたタオルで股間を丁寧に拭いてやった。

 

「ん、や……」

 

 口を手で押さえながら声を殺しているのだが、拭かれて感じる部位に擦れるらしく涙目で嬌声を漏らす一〇歳児、この年齢であるからにはきっとこれが初めての快感であろう。

 

 綺麗になったのを確認するのにアリエル皇女の股間を一擦りする。

 

「ひあっ!?」

 

 乾いた様だから彼女のサイズに合うショーツをストレージから出して穿かせてやった。

 

 尚、何で一〇歳児が穿けそうなショーツを持っているのかと問われれば、ユートの創業した会社――財団法人【OGATA】とは謂わば赤ん坊の産着から死者の棺桶まで様々に手掛ける総合企業という面が在って、当然ながら下着から避妊具やショーツといった女の子に必須な商品も取り揃えているのと、ファンタジーな世界だとその手の物が手に入らない事も屡々あるからこうして自分のストレージにある程度の商品を仕舞い、必要に応じてこうして出しては与えているのである。

 

 ユートも抑々にして不妊症ではないけど妊娠させ難い為、基本的には妊娠を避ける為の避妊具など必要とはしていないけど、矢っ張り必要としている人間も一定数は居るから売る事もあった。

 

 特に娼館の娼婦みたいな男と寝るのが仕事だから下手に妊娠は出来ない為、ユートから避妊具を買い付けるケースがそれなりにある。

 

 ハルケギニア時代には必要悪的にユートが自ら建設した娼館が各国――トリステイン王国、アルビオン王国、ガリア王国、帝政ゲルマニア――に存在していたし、諜報機関としての側面も持たせていたから娼婦用にゴムやピルなどを与えた。

 

 似た様な意味合いの娼館が【イセスマ】の世界の裏世界にも存在していたし、其処の主に纏めて下着類や避妊具を渡していたりもする。

 

 後は某ロリ化した博士が造った興奮剤や精力剤とか媚薬の類い、割と素敵デザインな下着などが娼館では売れ筋として捌けていた。

 

 そんな訳で需要を満たすから女性用の下着類もサイズ別に各種を取り揃えているのだ。

 

 恥ずかしい処を見せた上にフォローまでされたからか、アリエル皇女は頬を真っ赤に染めながらユートの服の裾を掴んで放さない。

 

 ユートも帝国の人間とはいえ小さな少女だから流石に殺したり、トラウマを植え付けたりなんて真似をするのは躊躇われて何も言わないでいた。

 

 蹂躙は今尚も続いていて、パーティー会場には少なからず軍の将校もいるみたいだったけれど、前線から退いて贅沢の極みを尽くしてきた連中には量産型とはいえ、仮面ライダー黒影トルーパーと成ったハウリア一族は死神に等しいのか暗闇と彼らの存在に精神が耐えられず倒れていく

 

 所詮は傭兵国家といえどもぬるま湯に浸かった連中など、贅肉の付いた豚と変わらないという事なのか一人の例外も無く何も出来ない侭で最早、闘うでも逃げるですらも無く黒影トルーパーから手足の腱を切られてしまい、痛みにのた打ち回りながら倒れ伏す事となっていた。

 

 勿論、そんな情けない者達ばかりではないから軍事国家の矜持に懸けて抗う者もそれなりに居たのだが、ガハルドの儀礼剣みたいなのは持っていないにせよ持ち込んだ護身用の懐剣を手にして、ハウリア一族の襲撃を凌いだ貴族も居るので仲間の気配を頼りに集まり陣形を組む。

 

 それは見事な連携だったが、抗う者達には情け容赦無く死神の鎌が降り懸かり首を飛ばしていた。

 

 ガハルド皇帝の比較的近くにいた軍人将校達も直ぐに陣形を組んで彼の背後を守りる様になり、要注意範囲が一気に狭まったからもう射撃攻撃は効かないであろう。

 

 それによって迎撃に当面の余裕が出来たらしいガハルド皇帝は、放たれた幾十幾百もの数の箭を呪文詠唱の片手間に叩き落とす。

 

 物理ファイターかと思っていたが、無詠唱こそ出来ないものの凄まじい速度で詠唱され瞬く間に作り出された幾多もの火球、一瞬で会場に広がりプリミティブな煌きが闇を払い始めた。

 

 きっとガハルド皇帝達は反撃の狼煙として考えていたのだろうが、それは余りにも早計だったのだと直ぐに思い知らされる。

 

 全身鎧を纏う騎士みたいな姿をしたハウリア、その存在感は暗闇では特性を以て隠れていたのが明かりの下では、その鎧甲の姿はガハルド皇帝や将校達を驚愕の色で染め上げていった。

 

「な、何だ、此奴らは!?」

 

 驚愕をした侭に正体を確かめようと接近をしてきたガハルド皇帝の側近、彼だけではなく離れた位置にて灯りを確保している連中も同様。

 

 然しすぐに直感したガハルド皇帝が叫ぶ。

 

「そいつらに近付くんじゃねーっ!」

 

「「「っ!?」」」

 

 反射的に退こうとした側近達ではあったけど、カムが変身した黒影トルーパーはサブウェポンとしている短めの二振りの剣、双剣と呼ばれている両手で扱う武器を左右から振り抜いて攻撃。

 

「「「あじゃぱぁぁぁぁっ!!?」」」

 

 首が落ちて側近達は悲鳴を上げた。

 

「ありゃ確かテメェのカメンライダーとやらに似ているがよ、いったいどういう関係なのかを是非とも御聴かせ願いたいな」

 

 似ているとはいっても仮面ライダーWと仮面ライダー黒影トルーパー、変身ツールたるベルトの形状からして全くの別物ではあるが意匠は確かに似通ってはいるだろう。

 

 ハウリアの長たるカムには仮面ライダーのみならず、特殊な魔導具というかアーティファクトであるアクセサリーを渡してあるから仮に変身が出来なくても強化されて闘えた。

 

 機能はオリジナルには少し及ばないのだけど、『超強化付与』『魔族看破』『悪意看破』『苦痛耐性付与』『強者看破』というのが付与されている上に、『聖なる守り』『防汚』『破壊不可』『二重の護り』が付与をされていて、ある意味で云えばオリジナルを越えている。

 

 因みに『聖なる守り』は状態異常耐性の事で、『二重の護り』とは魔法と物理に対する防御力の向上を意味しており、『魔族看破』はあの世界で魔族と呼ばれる種族が何らかの憑依行為をしていたり変態しているのを看破する機能。

 

 とはいってもあの世界以外では魔族といえば【スレイヤーズ】世界くらいしか意味は無くて、だからこの機能は名前こそ【魔族看破】と称しているが実態は【正体看破】とも云うべきであり、何らかの存在が誰かに或いは何かに憑依をしているか、若しくは変態なり変身をしている誰かさんに関しての看破となる。

 

 【偽・特殊聖鎧核(ラカ・レプリカ)】――それがこの秘宝(アーティファクト)の銘であったと云う。

 

「関係ね、強いて言うなら義父と義息子の関係。彼の娘とは閨で格闘をする深い関係だからな」

 

 そう言った瞬間に真っ赤な顔になったウサミミ美少女(シア)を見て、ガハルド・D・ヘルシャー皇帝は仮面ライダーの正体に気付く。

 

「まさか、兎人族なのか!?」

 

 ガハルド皇帝からすれば――否、ヘルシャー帝国の大概の国民からすれば兎人族など愛玩動物よりは上等な性奴隷に過ぎない。

 

 まぁ、ハウリアの民族性か兎人族全体の民族性かは判らないのだけど、女性の肌の露出度が高い上に殆んどが巨乳で腰の括れやお尻の張りなどが素晴らしいが故に、性的な対象として兎人族女性程に見易い存在もそうは居ないから無理は無いのかも知れなかったが……

 

 個性として色々と小さな兎人族、或いはネア・ハウリアみたいなまだ小さな子供ならそれからは外れている。

 

 とはいえ、総じて顔が美しいのが兎人族なだけに小さくても構わない連中は山程に居た。

 

 事実として子供なネア・ハウリアも将来有望な容姿だし、シアは云うに及ばずミナやラナにしても死んだクラスメイトの女子相手ならは数段以上も優っていると云わざるを得まい。

 

 地球ではクラスメイトの女子は優花くらいにしか食指も動かなかったが、一応は雫や香織も普通を越えた美少女だと認識をしていたユートからして死んだ連中には見るべき部分は無かった。

 

 今なら鈴や恵里'であれば食指も動くし、何なら優花の親友達だったらそういう対象にも見れる。

 

 ヤるヤらないは別にして。

 

「つまりはテメェの差し金かよ!」

 

 ガハルド皇帝の叫びに反応して帝国の貴族共や軍人連中がユートを睨む。

 

「何を言い出すかと思えば埒も無い、まさかとは思うがお前らは兎人族……というか亜人族から襲われる謂われは無いとか思ってんのか?」

 

「ぬぅ!?」

 

「以前から亜人族を捕まえては性奴隷や労働奴隷にしておいて、遂には樹海に火まで着けて火災の隙に幾人もの兎人族を含む亜人族を捕らえておきながら、復讐されないなんて欠片にも思わなかったという訳だ?」

 

「チィッ!」

 

「それともアレか? ヘルシャー帝国では帝都に火を掛けて国民を攫って奴隷に落としても『構わない』と笑えるものなのか?」

 

 ガハルド皇帝は苦々しい表情となるが貴族らしきオッサンが叫んだ。

 

「巫山戯るな! 亜人族如きと我ら人間族を同列に語るなど……ぷぎゃら!?」

 

 だけどモブ貴族のオッサンが最後まで言い切るよりも前に、仮面ライダー黒影トルーパーであるカム・ハウリアが首を斬り落とした。

 

「巫山戯ているのは貴様らだ。抑々にして貴様らに我らが蹂躙される謂われこそ無い!」

 

「神に見放された種族が何を言うか!」

 

 成程、神の恩恵だとされる魔力を持たず魔法を扱えない亜人族だからこそ、『神に見放された』と世間から見做されているのは確かだろう。

 

「この世界には元より人間族しか居なかった」

 

「あ?」

 

「では亜人族や魔人族、果ては亡びたとされている吸血鬼族や竜人族は何処から来たんだろうな」

 

「他の大陸じゃねーのかよ?」

 

「違うな、間違っているぞガハルド皇帝」

 

「な、何だと?」

 

 思い切りダメ出しを喰らってしまう。

 

「僕はこう言った。『()()()()()()元より人間族しか居なかった』……とな」

 

「この世界には……だと?」

 

「他の大陸にも人間族しか存在しなかったろう、尤も今はそんな人間族すら居なかったがな」

 

「ハァ!?」

 

「調べたのさ。少なくとも南の大陸には魔獣や獣は存在していたけど、亜人族や魔人族は疎か人間族すら居なかったってね」

 

 ガハルド皇帝は目を見開いて驚愕を露わとし、貴族達も『莫迦な』と口々に呟いていた。

 

「他の大陸を調べただと? んな事がテメェに出来るってのかよ!?」

 

「出来るさ。地球では他の大陸に行くくらいなら家族旅行気分でやっているぞ?」

 

「んだとっっ!?」

 

 ユートは海外旅行なんて転生前に行った事は無かったけど、それはお金の問題では無くて単純に家族がそれなりに忙しかったからに過ぎない。

 

 海外旅行が割と普通なのは本当だ。

 

「確かにお前ら低文明な人間では他の大陸に渡るのは命懸けだろうが、僕ら高度な文明を持っている人間からすれば如何にも容易い」

 

 まるで煽るかの様な物言いと嘲笑う表情をしており、それはガハルド皇帝以下の貴族連中をして莫迦にされたと理解していた。

 

「貴様ぁぁぁっ!」

 

 首を落とされた貴族に代わるモブ貴族Bとでも云える小太りなオッサンが激昂するが、弱肉強食を標榜している割には随分と闘い難そうな体付きをしている。

 

「誰かを虚仮にするのは当たり前にやる癖して、自分がやられたら激昂をするとか本当にテンプレな貴族って感じだよな。お前らが碌に他の大陸に渡航する技術さえ持たない程度の文明なのは違いないだろうに」

 

 船足が遅い、食糧や水を保たせられない、それに壊血病という恐怖が在るだろう。

 

 現代では壊血病も克服している地球人ではあるのだが、当然ながら昔はそれが起こる原理を識らないが故に恐怖に怯えたものだった。

 

 科学的根拠を得られない彼らトータスの人間では決して克服は出来ないし、将来的には壊血病を克服を出来たとしてもユートの連れた軍勢には全く敵わないのだろうけど。

 

 それにしても亜人族が神に見放された種族として見下し奴隷化を平然として、住む場所に火を掛けるなど外道の極みをやらかしながら自分達がいざやられたらこの有り様には嗤える。

 

 造船技術が拙いのもあったけど、ミレディが曰わく『解放者』が暴れていた頃に比べても技術が退化しているらしい。

 

 恐らくはエヒトの仕業。

 

 獣人族が亜人族と名を変えたり、魔力持ちを殺すなんて意味不明な掟を制定したりといったのはエヒトルジュエ――延いてはその下僕のノイント達が干渉した結果だと思われる点が幾つか見受けられるが、造船技術が数千年規模で『解放者』の時代から時間が経っているにも拘わらず全く進歩していない理由もエヒトが干渉した結果であるとユートは見ていた。

 

 地球では日の本の国が鎖国をして僅か数百年で黒船来航なんて時代が訪れたのに、数千年が過ぎた処か下手したら一万年が過ぎたかも知れないであろう『解放者』の時代から現代で、造船技術は明らかに進歩が全く以て成されていないのだからおかしな話ではある。

 

 それが人間族の九割が信仰をするエヒトからの命令を、聖光教会改め聖教教会の指導に基づいて行ったのならば納得も出来た。

 

 エヒトを信仰しない亜人族でさえいつの間にか違和感無くおかしな掟で縛られていたのだから、エヒトが大好きな人間族なら然もありなんと頷くしか無かったと云う。

 

(神の木偶は()()()()()()()()洗脳も使えるみたいだからな)

 

 メルジーネ海底遺跡で観た映像では人間族の王が銀髪の女を連れていたが、それは明らかに神の木偶――ノイントやエーアストなどの誰かだ。

 

 基本的に同一規格、判を捺した様に身長体重やスリーサイズ処か顔まで同じな神の木偶共だっただけに、あの映像に映っていたのがノイントなのかエーアストなのか他の誰かなのか判らない。

 

「さて、話の続きだが……調べてみたが少なくとも南の大陸には人間族なんて居なかった。というより知的生命体そのものが存在していなかった」

 

「どういう事だ?」

 

「僕の予想では南だけじゃない、この大樹が在る大陸を仮に中央大陸とした場合で東西南北全ての大陸に魔物や鳥や獣以外は存在しないんだろう」

 

「ハァ?」

 

 危機的な状況ながらユートの科白は嘘か真かは判らないまでも、貴族共にはインパクトのある話だったらしくザワザワとし始める。

 

「恐らく数万年に亘り無人大陸だった筈だ」

 

「数万年だと!?」

 

 この世界の人間は基本的に日本で云う戦国時代くらいの文明しか無く、当然ながら外洋を往く事は先述した通り技術的にも神の木偶からの干渉的にも不可能だった。

 

 よって、この大陸の人間はこの大陸の中で全て完結をしているから、余所の大陸の事なぞ識らないし寧ろ識る必要性すらも無い。

 

 ミレディによると選択肢に他大陸へ命懸けで渡るというのも在ったらしいが……

 

「つまり、其処は……」

 

「正しく無限のフロンティア」

 

 誰かがゴクリと固唾を呑んだ。

 

「お前は其処を独り占めにしようってのか?」

 

『『『『『っ!?』』』』』

 

 ガハルド皇帝の恨みがましい言葉に貴族共が目を見開いてユートを睨む。

 

「独り占めになるのは確かだが結果論だろうに。お前らは大陸間移動が出来ないんだからな」

 

「くっ!」

 

 謂わば巨大な焼き立てのパイがドンとテーブルに載せられているのを知りながら、自分達は一切の御相伴に与れずユートが旨々と平らげるのだと判っていても手出しが全く出来ない状況。

 

「当然、僕がお前らを連れて行っやるなんて事は有り得ない。態々、パイを分けてやる意味なんて無いんだからな」

 

「チィッ! 緒方優斗、テメェは俺らに喧嘩でも売る心算かよ?」

 

「フッ、何を言い出すかと思ったら益体の無い事を……喧嘩? 吹っ掛けて来たのは寧ろお前ら、トータスの人間だろうに」

 

「な、なにぃ!?」

 

 驚愕するしかないガハルド皇帝。

 

「身勝手に召喚し、戦争に巻き込み、最前線送りにする為の訓練を無理矢理……ああ、『始まりの四人』が戦争参加を表明してからはノリノリだったから無理矢理は違うか」

 

 グサッ! 雫と香織のハートに鋭い箭か何かが突き刺さったらしく、二人はそれなりに豊かな胸を押さえながら蹲ってしまう。

 

 尚、勇者(笑)は何がおかしいのか理解もしていなかったけど口を坂上龍太郎に押さえられていては何も言えず、坂上龍太郎自身もクラスメイトが十数人という正に半数が死亡した事で今更ながら理解をしていた様だ。

 

 その後もカトレアなる魔人族に殺され掛かってしまったし、後から聞いた話によれば愛ちゃんも六万もの魔物を嗾けられてしまい護衛に付いて行ったクラスメイト共々に死ぬ処だった……と。

 

 日本の常識なんて通じない、生命の価値が驚く程に軽く、勇者(笑)――天之河光輝の『俺が皆を守ってみせる!』なんて科白に実行力が伴わないのだという事を初めて知った。

 

 脳筋だからと考える事を放棄していた甘えを今は後悔もしている。

 

 だからこそ、これ以上の犠牲は要らないのだとユートからの指令たる『天之河を抑えておけ』、これを間違い無く実行するのだけはやらなければならないと考えていた。

 

 『始まりの四人』は半数を越えて反省しているらしく、全く反省していないのは――寧ろ自分が悪いとさえ思っていないのは天之河光輝が唯一人のみとなっている。

 

「兎に角、此方は放り出されたら摘むっていうのを利用して好き放題してくれたんだ。喧嘩を売られているとしか思えんがね?」

 

「それをやったのは教会が主導だし、基本的にはハイリヒ王国がやってきた事じゃねーか」

 

「莫迦めが!」

 

「なっ!?」

 

「宗教が力を持つ以上は宗教がやらかした事ってのは、お前ら国を預かる連中も共謀をしたと見做されて当然だろうが! 何よりお前らがハイリヒ王国に訪れた時に協力を約束したよなぁ?」

 

「そ、それはそうだがよ……」

 

 ユートがハウリアらしき仮面ライダーを手札としているからか、流石に莫迦な貴族共とは違って行き成り激昂したりはしない分別はあったらしいガハルド皇帝。

 

 それにユートも仮面ライダーに成れるのを知っているからには、無意味に敵対心を煽る真似など一国の皇帝としては出来ない。

 

 兵数を頼めば抑えるのは可能と考えているが、その兵数がこの場に居ないからこそだろう。

 

 その認識も甘いのだが……

 

「それに何よりも、僕は元より亜人と呼ばれている存在に対して相手が排他的では無い限りだが、大凡悪意というものを持ってはいないんだよな。寧ろ相手次第だが好感すら懐いているくらいだ」

 

「な、んだと!?」

 

「森人族――エルフ、土人族――ドワーフ、翼人族――フェザリアン、そして多種多様な獣の特徴を持った獣人族。僕は他の世界でそういった種族と交友関係を深めているのさ。だからお前達とは異なる視線で亜人族を視ていたし、フェアベルゲンとも絆を深める事が出来た」

 

「き、絆だと!?」

 

「フェアベルゲンは長老衆による合議制を執っているが、現在は形だけだがその上に王――森人族の長老たるアルフレリック・ハイピトスの孫娘のアルテナ・ハイピトスを女王とし、僕の婚約者としているからな。実質的にフェアベルゲンというのはアシュリアーナ真皇国の領国となっている」

 

「アシュリアーナ真皇国!?」

 

 時々、ガハルド皇帝も聞く名前。

 

「判るか? お前達はアシュリアーナ真皇国・フェアベルゲン領国へと戦争を仕掛けた、つまりはとっくの昔に僕らアシュリアーナ真皇国はお前達ヘルシャー帝国を敵対するべき国家だと見做しているんだよ!」

 

 闘氣と共に放たれたのは明らかな敵意であり、流石は傭兵国の皇帝ガハルド・D・ヘルシャーとトレイシー・D・ヘルシャーなだけに、敵意へと敏感に反応し佩いていた武器を手に構えを執る。

 

 其処へ折り良くというか、ヘルシャー帝国の兵がパーティー会場に駆け込んで来た。

 

「た、大変です!」

 

「何事だ!?」

 

「帝都の周辺を亜人共が取り囲んでおります!」

 

「なっ!?」

 

 その報告にユートへと向き直ると、不敵な笑みを浮かべていてこれがユートの指示だと知った。

 

「アシュリアーナ真皇国はハルツィナ樹海に対する放火及び誘拐を、ヘルシャー帝国からの宣戦布告と判断して戦争を開始する!」

 

「莫迦なっ! テメェが此処を敵地のド真ん中と知った上で戦争だと!?」

 

「逆だ」

 

「逆?」

 

「此処に僕が居る、それは勝利の法則が決まった瞬間なんだよ!」

 

 ユートは全体的に銀色で、中央には小さな四角いモニターとそれを囲む黒い円形の縁取りを持った機器を手にして前方へと掲げた。

 

「ガジモン!」

 

《REARIZE!》

 

「応!」

 

 モニターから顕れたのはガジモンという成長期に位置するデジモン。

 

 【デジモンテイマーズ】の世界にて、アリス・マッコイが連れて来ていた成熟期デジモンであるドーベルモン、四聖獣たるスーツェーモン達からの指令で松田啓人らが究極進化に必要な力を与えるデジタル・グライドを伝えた後に分解されたのをサルベージ、とはいえ躰を構成するべき情報が足りなかったから成長期のデジモンのガジモンに退化したのだけど、取り敢えずは命だけは助けられた感じだ。

 

 そんなガジモンをパートナーデジモンにしていたのもあり、【魔獣創造】の禁手【聖魔獣創造】で創ったロイヤルナイツと含めてデジモンを使った用兵も構築をしている。

 

 因みにだが、【デジモンフロンティア】に於ける『十闘士』の『スピリッツ』も創造していて使う事もあった。

 

《MATRIX EVOLUTION!》

 

 電子音声と共にモニターへ表示される。

 

「マトリックスエボリーション!」

 

 デジタル・グライドの力で謂わばデジタライズされたユートが、パートナーのガジモンと融合化を果たす形で一つに成り究極へと至る道へ。

 

「ガジモン究極進化ぁぁぁっ!」

 

 ユートの意向から、テイマーズ系デジモンながら完全体は『超進化』、究極体は『究極進化』と口にするガジモン。

 

 成長期の姿から腕が、脚が、躰が分解されていき新たなる姿へと再構築をする。

 

 顔がガジモン→ドーベルモン→ケルベロモン・ジンロウモードと変化して……

 

「プルートモン!」

 

 漆黒の鎧に身を包む究極体の神人型デジモン――プルートモンに進化をしていた。

 

 ローマ神話体系の冥府神プルート、ギリシア神話体系では冥王ハーデスを指す神のデータにより構築されたデジモン故にか、冥王の力を持っているユートとは相性が余りにも良過ぎるデジモン。

 

 尚、『デジヴァイスバースト』を使う事によってガジモン→ドーベルモンX抗体→ケルベロモンX抗体→アヌビモンの進化ルートも持ち、融合進化ではない通常の進化による究極体にも成れた。

 

 ガジモン自身もガジモンX抗体に『Xー進化』が可能だったりする。

 

『冥界の裁きを今此処に!』

 

 彼らにとっては寝耳に水な不幸な事となるが、プルートモンの究極進化と同時にマグナモンを除くロイヤルナイツが帝都の周辺を囲む様に顕れ、まるでヘルシャー帝国を威嚇するかの如く睨んでいるのをガハルド皇帝は報せを受ける羽目になるのであった。

 

 

.




 判ると思いますが大樹が存在する大陸以外には人間が居ないのは独自設定です。

 プルートモンに関しては別の作品の何処かでは出そうとしましたが、デジモン主体の噺では無かったから中々に機会が有りませんでした。

 一応、【魔を滅する転生電】の一環で少し書いてもみたのですが、アリス・マッコイの扱いをどうするべきか決まらず流れたりしましたし。

 調べてみたら何故か死者扱いをされてるのと、ロブ・マッコイの持つ写真に写るアリスと実際にドーベルモンと現れたアリスの表情、その差違とかで物議を醸し出したらしいので……

 設定は小説内で書いた通りで、ドーベルモンをサルベージしてガジモンに退化したのを究極進化させたのがプルートモンです。



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第99話:ありふれたヘルシャー帝国の攻防戦

 本当はパパッと終わらせて氷雪洞窟に行かせる予定だったのに、要らんとまでは云わない設定をぶっ込み過ぎて長引いた……





.

DIGIMON ANALYZER

名前:プルートモン

属性:ウィルス種

世代:究極体

種族:神人型

暗黒の如く全身鎧に身を包んだ神人型デジモン。 冥府の神であるプルート――延いては冥界の王たるハーデスのデータから構築され、名前の通りでデジタルワールドの冥界に当たる領域を支配している。『悪は暴力や恐怖にて斃されろ』という、恐るべき思想を以てしてこの世を彷徨っており、咎人を見定めると闇より顕れるタイタン族の長。必殺技は『ハガードクラスター』と『ケイオスライツ』と『ヘルズゲート』だ!

 

 

「な、何だそりゃぁあっ!?」

 

 闇色に染まる鎧のプルートモンに究極進化したユートとガジモンを見たガハルド皇帝が叫ぶ。

 

 このプルートモンは冥界の神ハーデスに相当しているデジモンで、同じくギリシア神話体系――名前はローマ神話が出典だけど――のオリンポス一二神とも関わりがあった。

 

 ロイヤルナイツと同じく時間を掛けて少しずつが解禁されており、ユートの識らない天帝ゼウスに相当するユピテルモンなども存在する。

 

 ユートが識る中ではルナモンが究極体に進化をしたディアナモン、コロナモンが究極体に進化をしたアポロモンというアルテミスやアポロンに関するデータから構築されたデジモンが居た。

 

 驚くガハルド皇帝へ鷹揚に言う。

 

「さて、言っている場合かな?」

 

「んだと!?」

 

 再び別の兵士が駆け込んで来た。

 

「申し上げます! って、此処にも居た!」

 

「良いから話せ!」

 

「は、ハハッ! 帝国の周辺に亜人族が現れたのは聞いていると思いますが、更にまるで巨人みたいな怪物が一二体も現れました!」

 

「巨人みたい怪物?」

 

 報告を受けたガハルド皇帝が巨人みたいな怪物という事で、見るからに鎧を着込んだ巨人である処のプルートモンを見遣る。

 

「僕がフェアベルゲンに提供したデジモン戦力、その名も高き聖騎士……ロイヤルナイツだ」

 

 するとリリィがDー3を取り出してマグナモンをリアライズさせた。

 

《REARIZE!》

 

 DーアークにもDー3にも原典に於いてそういった機能は持たないが、ユートは便利な機能な一つとしてこれを実装させている。

 

 実際、ロイヤルナイツは小さくてもマグナモンの大人の男でも大きいと感じる背丈である上に、エグザモンはその巨体に定評がある竜帝の二つ名が相応しいくらいなのだから。

 

 勿論、オメガモンやアファモンやデュークモン達もそれなりの巨体であった。

 

「今まで御苦労様です、マグナモンも彼らに合流をして下さい」

 

「心得た」

 

 聖騎士に相応しい礼を尽くして黄金の鎧に身を包むマグナモンが外へと飛び出す。

 

 これまでにもゴールデンデジゾイドの護りを以て護衛任務をしてきたマグナモン、守護ならお手の物だが攻撃力もそれなりに高いのだ。

 

 他のロイヤルナイツは究極体だが、マグナモンに限るとアーマー体という本来は成熟期デジモンと変わらない程度、然し古代種成長期デジモンを進化させるデジメンタルの中に在っても幾つかの特別な物――奇跡のデジメンタル、運命のデジメンタル、未来のデジメンタルなどは成熟期は疎か完全体すら凌駕する能力を与えてくれる。

 

 例えばブイモンが奇跡のデジメンタルで進化をしたマグナモン、例えばテリアモンが運命のデジメンタルで進化をしたラピッドモン。

 

 通常のラピッドモンは完全体でしかないけど、運命のデジメンタルでアーマー進化をした黄金のラピッドモンは究極体クラス。

 

 少なくともマグナモンと共にであるのならば、不完全ながら仮にも究極体のケルビモンとも闘えるくらいには強力。

 

「ど、どういうこった?」

 

「マグナモンは私がユートさんから預かっていたデジモンですわ。メルドでは入れない場所に於いては最高の護衛でしたが、ロイヤルナイツとして働くならばユートさんにお返しをしないといけませんからね」

 

 デジモンは見た目から女性体や男性体な存在こそ居るけど、一応は性別が無いとされているのが【デジモンテイマーズ】のレナモンが言及をしている為、リリイもマグナモンが見るからに男性体なのを度外視していたし、マグナモン自身も特に彼女に思う処は無かったらしい。

 

 まぁ、レナモンはママ~ズに女性認定をされて戸惑っていたが……

 

「まさか、ハイリヒ王国は神殿や神や俺らを裏切る心算なのかよ?」

 

「裏切るも何も抑々、ガハルド皇帝陛下が思っているハイリヒ王国なんて既に在りませんわよ」

 

「……ハ?」

 

 意味が解らず間抜けな声を上げる。

 

「少し前に平行世界の恵里と言いますか恵里"? により王都が蹂躙され、御父様を始めとして何人もの貴族や騎士が殉職しました。その恵里"自身はユートさん達に倒されましたけど、すぐに彼女の処遇で争いになりまして……ユートさんの勢力たるアシュリアーナ真皇国と戦争に。結果としましては惨敗を喫して我がハイリヒ王国は滅亡致しましたわ。母のルルアリアはまだ若くて美しいのでユートさんの情婦として生き残り、弟のランデルはユートさんに刃向かった首魁として女の子にされた挙げ句に蟄居、今頃は可哀相に兵士達の慰みモノになりながら暮らしていますわ。私は早々に降伏しましたからユートさんの女としてこうして自由に生きてますが」

 

 それは余りにも余りな出来事。

 

「いやいや、ルルアリア王妃が情婦となったってのはまだ解るがよ……ランデル王子が女にされたってのは何なんだ!?」

 

 それは意味が不明過ぎた。

 

 ガハルド皇帝は戦好きで傍目には坂上龍太郎の如く脳筋だが、実際には皇帝を務めるには相応しいだけの頭も持ち合わせている。

 

 そんなガハルド皇帝をして意味不明な出来事がランデル王子の女体化だった。

 

「別にこの世界の人間にも出来るだろうに」

 

「出来て堪るか!」

 

 プルートモンなユートに対して思わず叫んでしまうガハルド皇帝だが、変成魔法を使えばそんなに難しい話ではないのをユートは理解している。

 

 変成魔法の真髄とは即ち『有機的な物質に対する干渉』であり、確かに既存の知識のみで語れば単純に獣を魔物化したり魔物を強化したり隷属化させたりと、嘗てヴァンドゥル・シュネーがやっていたりこの時代でもフリード・バクアーが行っていた事が主に成されていた。

 

 然しながらエヒトがやった事を思えばそれらは階段で云えば一歩を踏み出したばかりに過ぎず、謂わば次の階層に上がる処ですら無いというのが正に厳しい現実である。

 

 ユートの考えでは神代魔法や概念魔法というのは世界創造すら可能な、世界の――宇宙の理へと垣間触れる程の魔法であるといえた。

 

 使い方次第で魔力量次第で魔力強度次第だが、文字通り神様見習いな『日乃森なのは』さんから『魔法に対する親和性』を与えられたユートは、変成魔法を入手さえすれば特に問題にする事も無く使えるだろう。

 

 事実として他の神代魔法は扱えてる。

 

「まさか、んな事になってやがるなんざぁ聞いてねーぞ! どうなってやがる!?」

 

「伝達に冒険者ギルドではアーティファクトによる高速化はされていても、国との連携は取れていなかったのが致命的だったな!」

 

 冒険者ギルドの間ではフューレンとウルで遣り取りが成された様に、アーティファクトによって連絡を取り合えるとは聞いていたけど国同士によるホットラインは無いみたいだ。

 

 ()しんば在ったとしても連携が取れていなければ全く意味を成さない。

 

「さて、益体も無い話は終わりだ。アシュリアーナ真皇国・フェアベルゲン領国とヘルシャー帝国の戦争を始めよう」

 

 長々と話してはいたけど戦争は始まっているのだから今更の対話は無くて、対話をしたいのならガンダムダブルオークアンタに乗った刹那・F・セイエイでも連れて来いと言いたい。

 

 ガハルド皇帝は勿論、勇者(笑)にも不可能な話しだけどユートならば出来そうである。

 

「行かせる訳が!?」

 

 部下を動かさんとガハルド皇帝は口を開くが、行き成りプルートモンが腕を振り上げて壁へ攻撃を揮って破砕、まるでデジタル物質みたいに壁などがポリゴン片になるかの如く砕け散った。

 

「今、この場所で俺が必殺技を放てばお前らは終わるが……そうして欲しいなら言え。刹那の刻でヘルシャー帝国を亡ぼしてやろう」

 

 それはユートの声では無く、暴力を以て恐怖を悪に植え付けるプルートモンらしい科白であり、声的にはドーベルモンの高橋広樹氏を重低音にしたらこんな感じだろうか? 或いはベルゼブモンよりも声質を低くすればこうなりそうだ。

 

 何しろこのプルートモンは【デジモンテイマーズ】に於けるドーベルモン、デジタルグライド化した彼をサルベージしたものだから。

 

 ユートの声はどちらかと云えば女性声優が少年の声を出す感じに高めで、それを成人男性として低くした様なものだからタイプが大分異なる。

 

 当然ながらデジタルグライドのデータも一緒にサルベージされていたし、ユートの光鷹翼は電子と可成り親和性が高かったからすぐに究極進化をする事が可能となり、デュークモンやサクヤモンやセントガルゴモンやジャスティモンとも肩を並べて闘えたものだ。

 

 ヘルシャー帝国の城から余裕で悠々と離脱をしたユートや【閃姫】達、ヘルシャー帝国の騎士や兵士達が見上げる中でフェアベルゲンの亜人族との合流を簡単に果たす。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふぅ」

 

 光を放ってユートとガジモンに分離。

 

「御苦労さん、ガジモン」

 

「大した事はしていないさ」

 

「とはいえ、まだ働いて貰うけどな」

 

「判っている」

 

 黒い円の縁なDーアークを取り出したユートは、一枚のデジモンカードを引き抜く。

 

 見た目は確かにデジモンカードダスのカードに間違い無いが、その表面に描かれた絵柄は明らかに既知のモノでは無かった。

 

「カードスラッシュ! シャイニングエボリューション!」

 

《SHINING EVOLUTION!》

 

「ガジモン、ワープ進化っ!」

 

 額の赤い逆三角形のマークをクリスタルの様に立体的な形で描いたモノをバックに、クルモンが天へと祈りを捧げる姿はアニメにてデジモン達を一斉に究極体まで進化させたものと同じ。

 

 とはいってもやっているのは【デジモンアドベンチャー】のワープ進化、一瞬にしてガジモンがドーベルモン→ケルベロモンへと姿を換え……

 

「アヌビモン!」

 

 ギリシア神話体系の冥界の神アヌビスを基にして構築されたアヌビモンに究極進化した。

 

 

 

DIGIMON ANALYZER

名前:アヌビモン

属性:ワクチン種

世代:究極体

種族:神人型

ダークエリアの守護と監督をする為の神人型デジモン。戦闘で敗北したり寿命によって消滅をしたデジモンが最後に転送されるべきダークエリアを常に監視している。デジモンが悪しきデータであれば永遠の闇に閉じ込め、善きデータであるならデジタマへと還元するデジタルワールドの裁判官の役割を持っている。得意技は古代エジプトの秘法で描いた光線にて四角錐を描き相手を閉じこめる【ピラミッドパワー】、必殺技は地獄の魔獣を召喚する【アメミット】だ。

 

 

 

 これは別の可能性の進化形態。

 

 ユートとの融合進化をしないタイプであるが、これは何処ぞの喧嘩番長の如くユート自身の戦闘能力の高さを充てに、究極体クラスの力を複数使いたい場合の進化をする為のものである。

 

「アヌビモンは計画通り、ロードナイトモン達の方へ回ってくれ」

 

「了解だ!」

 

 ロイヤルナイツを使うという時点で策は練っていた為に動く。

 

 はっきり言ってしまえばヘルシャー帝国如きを相手に此処まで策を練る必要性は全く無いけど、そろそろアレらが介入をしてくる頃だろうと考えていたからこそ。

 

(来やがれよ、神の木偶が!)

 

 そう、リューンやノイントの同種。

 

 ハイリヒ王国を平らげ、聖教教会の本部である神山の本教会を消滅させた上にフェアベルゲンを取り込み、更にはヘルシャー帝国へと戦争を仕掛けたのだから嘸や御立腹であろう。

 

 或いは面白いと感じたか?

 

 いずれにせよ『イレギュラー』が好き勝手をしているのだし、矢張りそろそろ来るだろうと予想をしているからこその布陣。

 

「私達は亜人族の皆に合流よね?」

 

「ああ、雫達は森人族と合流を。ラングリッサー組のリアナ達は熊人族のジン達に合流しろ」

 

「判りました」

 

 ラングリッサーのヒロイン達、リアナとクリスとティアリスとレイチェルとフロレンティアにも今回は戦闘をして貰う。

 

「ツバメは悪いがマグナモンに代わってリリィの護衛を続けてくれ」

 

「判りました」

 

 マグナモンは神の木偶を相手にする為にも空けておかねばならない、そしてユートもフリーで居る為にプルートモンをガジモンに一度退化させてアヌビモンに進化をさせた。

 

「おい、緒方!」

 

「どうした、永山?」

 

「お、俺達はどうするんだ?」

 

「結界を張っておくから隠れてろ」

 

 永山重吾らを使う気は無いから戦力として全く数えてはいない。

 

「それで良いのかよ?」

 

「君らが勇者(笑)と同じくで殺伐とした戦争なんてやれるとは思ってない。雫みたいな覚悟を決めてるなら未だしもな」

 

 仮面ライダーの力を渡せば成程、非殺傷設定で確かに殺らなくても済むかも知れないであろう、然しながら傷付けるという事に変わりは無いからその痛ましい姿に耐えられるのか? という話。

 

「仮面ライダーの攻撃力は最低でも一tにも達するんだ。最強クラスのヘビー級ボクサーが何をも捨てて放つ一撃が一tだと云われているけどな、必殺技でも何でも無い一撃で一tを何気なく放てるってのは凄まじい。断言するけど坂上でも元々の力は生身では数百kgでさえ無いだろう」

 

「それは……」

 

 ヘビー級のプロボクサーと喧嘩をしたら間違い無く一撃で沈むし、必殺技クラスで殴られたなら当たり所次第では下手を打てば僅か一撃ですらも受ければ死んでもおかしくないのだ。

 

 今の坂上龍太郎はエヒトに与えられた天職へと紐付けされたステイタス、そのレベルが上がって筋力の数値がおかしなくらい上がっているから、普通に仮面ライダーW並には放てるかも知れないけど、それでも恐らくは何をも捨てて後先考えない一撃を放つのが精一杯。

 

 勿論、身体強化を施したり魔法の一撃を乗せたりすれば威力も上がるだろうが……

 

「非殺傷設定とはいっても死なせないだけでな、喰らえばダメージは普通に受けるんだ。寧ろ死なせないだけ残酷かもな?」

 

「ぐっ!?」

 

 確かに永山組には出来ない事である。

 

 一応、永山重吾は格闘――柔道に邁進をしていたから闘いそのものは可能ではあるのだろうが、魔物相手ならいざ知らず現代日本人としての常識があるから、無闇矢鱈と誰かを――ヒトを傷付けたい訳では無いのだから。

 

「あ、浩介はカム達と合流してくれ」

 

「判った」

 

 本来、遠藤浩介は永山組のパーティメンバーではあるのだろうが、仮面ライダーシノビとしての戦力を遊ばせる気は無かった。

 

(そういや、白夜からの情報から浩介の原典での彼女ってラナだったらしいが……)

 

 兎人族のラナ・ハウリア、それは天然隠れん坊な浩介を見付けられたら稀有な存在。

 

 それ故に浩介は彼女を欲しいと願ってラナが付けた滅茶苦茶な条件すらクリアし、晴れて恋人に成れたのだと教えて貰ったけど今現在のラナの想いは明らかにユートに向いていた。

 

(拙いな……)

 

 他者に認識をされないからには下手したら浩介が御独人様街道(まっしぐ)らに、その内に誰がしか見繕わないと……何て余計な御世話な事を考えてしまう。

 

 尚、ユートが識るのはラナ・ハウリアとの事に限られていたと云っておく。

 

 ラナ・ハウリアはあからさまにユートへと想いを懐いていたし、ミナ・ハウリアやネア・ハウリアと共に念能力の修得に動いたのもそれが理由。

 

 ユートの好み的には狐耳と尻尾だったりするのだけれど、ウサミミが別に嫌いという訳でも無かったからネアちゃん一〇歳は流石に未だ手出しをしないにせよ、何も無かったらラナ・ハウリアも喰っちゃったかも知れない。

 

 まぁ、浩介にも出逢いくらい有るだろうと高を括れないのは、矢っ張り天然隠れん坊なスキルの所為であろう。

 

「居ねーっっ!?」

 

「どうした坂上? って、天之河の事に決まっているかな。居ないってのはつまり天之河が帝城から離脱をしていなかったって話しか?」

 

「そ、そ、そうなんだよ! 自発的に離脱してなかったみてーでさ!」

 

「帝城に残ったならヘルシャー帝国の戦力として出て来るんだろう。それだったら遠慮無く殺せるからいっそ楽になるか」

 

「ま、待ってくれ」

 

「こうか?」

 

 ユートが刀舞を披露する。

 

「舞ってくれじゃねーよ!」

 

 刀舞が得意なユートからしたなら鉄板ネタなのに……解せぬ!

 

「俺が何としてでも光輝を止める! だから殺さないでくれ!」

 

「ふぅ、僕より先に遭遇して無力化が叶ったなら約束通り殺さんが……な」

 

「わ、判った。俺も参戦するぜ」

 

 親友ポジも大変である。

 

(ま、天之河ガチャで存在そのものを利用しているからな……)

 

 とはいっても、今回は恐らくガチャにならないだろうなとは考えていた。

 

 というのも実は王都の冒険者ギルドで何故だか職員をしているスールードに確認を取ったけど、這い寄る混沌たるニャル子が天之河に接触をした形跡は無かったらしいと聴いたからだ。

 

 因みにスールードとはユートが【永遠神剣】を主とする世界――分枝世界の一つ『煌玉の世界』でそうとは知らずに関わり、何なら喰っちゃった永遠神剣の担い手の一人である。

 

 まぁ、喰っちゃったとはいえ所詮は分体の一つに過ぎなかったのだが……

 

 スールードの永遠神剣たる『空隙』は位階で云うと第四位に当たったが、自身や永遠神剣の分体を創り出して分枝世界に送り込める時点で明らかに『永遠存在(エターナル)』だった。

 

 『永遠存在(エターナル)』とは即ち上位永遠神剣の担い手を指しており、そうなった時点で彼らに寿命の概念は無くなるのと、その存在がある意味で喪われてしまう。

 

 ユートも実はメカニズムを理解していないが、エターナル化した者が『渡り』を行うと彼らの在った記憶などが喪失、彼らが関わったという出来事も全てはその世界の違う誰かが行った事として事実が書き換わるのだ。

 

 例えば【幻想の世界(ファンタズマゴリア)】でユウトが行った戦争だったが、その勝利に一番貢献をしたのはユウトとアセリアの二人の筈なのに、その立役者がユートであると書き換わってしまっていた。

 

 永遠神剣第二位『聖賢』の担い手となったのが『聖賢者ユウト』、永遠神剣第三位『永遠』の担い手となったのが『永遠のアセリア』である。

 

 然しながらユウトもアセリアもエターナルとして『渡り』を行ったら、ユートが率いた二軍だけでなく一軍のスピリット達が熱い瞳で見つめてくる様になっていた。

 

 取り敢えず、一軍のスピリット達がアセリアさえ居なければユウトに抱かれたいと願っていたのだけは、エスペリア・G・ラスフォルトとオルファリル・R・ラスフォルトとウルカ・B・ラスフォルトらがすっぽんぽんでベッドに寝ていた辺りから判っていた事。

 

 勿論、シーツには赤黒い染み。

 

 本来、その想いを受けるべきはユートではなく高嶺悠人だったのだろうが、記憶の摺り合わせによって昂じた愛情だろうと問題無く喰う。

 

 それがユートクオリティ。

 

 それは兎も角、彼女が本当にエターナルなのかの確認は取っていないが、恐らく分体を送り込める辺り永遠神剣第二位の担い手である可能性が高いと見ていた。

 

 あの永遠神剣第二位『赦し』の担い手であった『赦しのイャガ』がやったみたいに。

 

 他に第二位永遠神剣の担い手というと矢っ張り『法皇テムオリン』だろう、ロウ・エターナルを率いる見た目は白髪の幼女っぽいけどその内面は老獪としか云えない。

 

 マナの搾取という似たり寄ったりな事をしている関係から、恐らくスールードとテムオリンの間には何らかの関係が有りそうだけれど、ユートはそこら辺を問い詰めたりもしていなかった。

 

 因みに、テムオリンとも肉体関係を持っている辺りユートも相当であろう。

 

 本当に因みにだが、ロウが在るならカオスも在る訳で……カオス・エターナルという陣営も存在して、其方を纏めるのが永遠神剣第一位『運命』の担い手たる『全ての運命を知る少年ローガス』となっている。

 

 テムオリンと肉体関係を持ってはいるものの、一応だがユートはカオスの側に味方をしていた。

 

 理由はカオス側エターナル『時詠のトキミ』からの勧誘からで、上位永遠神剣を三振りも所持をしている稀有なタイプであり、永遠神剣を集めるのが趣味なテムオリンとは違って所持しているだけの神剣所持者(ユーザー)ではなく(れっき)とした神剣所有者(ホルダー)

 

 勿論トキミも美味しく『戴きます』していて、恐らく肉体が大人になる前にエターナル化をしてしまい、年齢が実に千歳を超えながら幼さの残っている肢体を愉しませて貰っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ほんの少しだけ時を置いて遂には始まってしまうヘルシャー帝国との戦争。

 

 対するユートはフェアベルゲン領国の指揮をしており、今の処はヘルシャー帝国軍と直に闘ったりはしていなかった。

 

 雫達、仮面ライダーがフェアベルゲン領国軍の森人族や翼人族や土人族など妖精型亜人族と共に闘い、ラングリッサー組となるリアナ達が熊人族や虎人族や狼人族などの獣人型の亜人族と合流をして共闘をしていて押し込んでいる。

 

 そしてロイヤルナイツ達はその殆んどが数mの巨大な為、ロイヤルナイツ達だけで纏めて運用をしていて一番の活躍というか蹂躙っ振り。

 

「ファイナルエリシオン!」

 

 実際、デュークモンの盾――イージスから放たれた光線は一度に数百を焼き尽くしたし……

 

「ガルル……キャノンッ!」

 

 オメガモンがガルルモンの顔のキャノンを放って射線を動かせば、ディアボロモンでさえ何百と斃せてしまうからには可成り被害が増えた。

 

 それでもヘルシャー帝国軍も数だけはGも斯くやで存在するから、押されてはいても何とか戦線の維持をしているのが現状。

 

 とはいえ、ヘルシャー帝国軍人や騎士団からしたら恐るべき大魔王が一三体もフィールドを闊歩しているに相応しい。

 

 ラングリッサー組は魔法を駆使しているけど、威力が段違いでヘルシャー帝国軍の魔法使い達ではまるで相手にならないし、仮面ライダーとなった【閃姫】達やフェアベルゲン領国軍は魔法など物ともせず進軍をしている。

 

 フェアベルゲンでは魔法の使い手がまるで居ないというか、掟の名の下に魔力を持って産まれてきた者を処断した為に全く増えず、結果としては魔法に対抗が出来ずに樹海へと引き隠るしか無かった歴史を歩んでいた。

 

 ユートの考えの通りならエヒトの仕業に違いないけど、何とも莫迦な真似を仕出かしたものだと頭を抱えたくなるのはシアだけでなくフュリーが加わったからであろうか?

 

「然し、主の命とはいえいえ我らが手を下す程の相手では無いな」

 

「仕方があるまいよ、主に刃向かったこの世界の人間が悪いのだ。ならば散り際には派手に美しく死に花を咲かせる事こそがせめてもの彼らへの救いとなるであろうさ」

 

 デュナスモンの愚痴にロードナイトモンが軽口の様に返す。

 

 その様に創った心算では無いのだが、どうやらユートのイメージが基な為にか原典で仲が良かったりすると、此方でもそんな風な仲になる傾向が強いらしくてデュナスモンとロードナイトモン、そしてオメガモンとデュークモンは親友というか戦友みたいな纏まり方をしていた。

 

「それに我々の真の役割を鑑みればこうしてそれこそ派手にイレギュラーとして動くべきだ」

 

「おお、戻ったかマグナモン」

 

「美しき姫の護衛任務、御苦労だったな」

 

 合流したマグナモンが話し掛けて来たのに合わせて、デュナスモンとロードナイトモンが頷きながら返事をする。

 

「護りこそが我が本領、姫の元に居たのは苦労でも何でも無いさ」

 

「フッ、流石はマグナモン」

 

 特に嫌味でも何でもないロードナイトモンからの賞賛を素直に受け取るマグナモン。

 

 実際、軽口を叩くマグナモン、デュナスモン、ロードナイトモンの三体の口が悪いという訳では決して無く、他のロイヤルナイツも多かれ少なかれ同じ思いを懐いていた。

 

「ロイヤル……セイバァァァァーッ!」

 

 矢張りそんな心算で創造をした訳では無いが、騎士然としたデュークモンの表情が苦いのは戦争というか蹂躙、弱い者虐めでもしている気分となるからであろう。

 

「デュークモン、余り気負うな」

 

「アルフォースブイドラモン」

 

「必要な犠牲と割り切れとは言えん、然しそういう側面が有るのも理解しているのだろう?」

 

「ああ……」

 

「なれば、主の為にも呑み込め」

 

「解っているさ、このデュークモンは主の矛にして盾として闘うまでだ!」

 

「やれやれ」

 

 ぱっと見でデュークモンが放った必殺技で死なずに済んだ帝国兵や騎士は多い。

 

 態と手加減をして人死にを減らしているというのは明らかだったけど、生きているだけで再び立ち上がって来る余力は無さそうだ。

 

「こうして大人しくしていて欲しいものだ」

 

「スレイプモン、君もか」

 

「私もデュークモンと同様、主みたいに割り切って攻撃するのは躊躇われるのさ。この不忠を主に報告をするか? アルフォースブイドラモン」

 

「する必要も無い。我らが主は全て御存じの筈、それも含めて()()()()()という御命令さ」

 

 騎士として創造をしたからにはこういう任務では忠実にとはいかない、某・ウォルサム君辺りが間違った解釈含めて言っている騎士道大原則にも抵触しているだろうから。

 

 『好きに動け』なんて命令も極論をすれば即ち生殺与奪を彼らに任せたという事だ。

 

「それに基本的には究極体の集まりである我らを招集した真の狙い……」

 

「ああ、勿論だ。理解するからこそ私もデュークモンも唯々諾々と従うのだ」

 

「ならば、デュナスモンやロードナイトモンが殺り過ぎない様に我らも動こう、スレイプモン」

 

「応っ!」

 

 話し込んでいてあのやり過ぎる二体を放置するのは本末転倒、アルフォースブイドラモンは再びその青い巨大を大空へと飛翔させるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方のヘルシャー帝国の城内部では……

 

「チィッ、我がヘルシャー帝国の騎士や精兵共が何て体たらくだよ!」

 

 ガハルド皇帝が叫んでいた。

 

 巨大を誇るデジモンだけではなく、ラングリッサー組や勇者の元仲間に剰え一等劣る筈の亜人族にすらあしらわれる始末。

 

 デジモンは元より究極体は疎か完全体でさえも人間――マサルダイモンは人間枠では無い――には手に余るから解るが、傍目は可憐な美少女にしか見えないラングリッサー組や、ステイタスこそ高いにせよ実戦経験に乏しい勇者の元仲間達にああもあしらわれるとは思っても見なかった事態であり、しかもおかしな鎧甲に身を包んではいても長年に亘り蔑んできた亜人族までが自分達を凌駕していたのだから笑えない。

 

「これが緒方の卑劣な処ですよ陛下!」

 

 傍らにまるで皇帝の側近の如く態度で侍るのは勇者(笑)な天之河光輝、正直に云えばステイタス値が高いだけのこいつは邪魔でしかなかった。

 

 だからある程度の情報を毟ったら放逐一択でしかなく、その相手は専らガハルド皇帝が行わねばならないから面倒臭いのである。

 

 ユートが言っていた通りなら聖教教会本部など既に存在せず、支部は未だに残っているのだろうが権威は駄々落ちしたという事。

 

 事実として、ハイリヒ王国はリリィが裏切ったのはある意味で『裏切ったんじゃない、表返っただけだ!』的にユートに付いたのは美談化され、ランデルは命乞いして女体化した上で体を兵士に売って媚び諂い、ルルアリアはユートに肉体で以て命乞いをした恥知らずみたいに喧伝されたが、聖教教会も負けじと教皇と枢機卿らが挙って我らが『エヒト様』の為の殉教をせず、命惜しさに汚らしい泣き顔を晒して土下座しながらの命乞いをしたとして完全に地に堕ちた。

 

 つまり聖教教会が身分を保証した勇者(笑)など既に形骸化しているのである。

 

 元よりガハルド皇帝は人間族としては最低限の信仰を『エヒト様』に捧げてこそいたのだけど、ハイリヒ王国の王族に比べればその信仰心は正に『月と(スッポン)』であったと云う。

 

「卑怯?」

 

「はい、奴は転生者と呼ばれる陰キャ野郎です。生前は醜い姿をして女にもモテない腐れオナ男だった癖に、転生者として神様に強い力や悪くない容姿を貰ってイキっているんです!」

 

「いんきゃとは何だ?」

 

「え? えっと、陰キャは陰キャです!」

 

「いきるとは?」

 

「……イキるは……えっと……」

 

 全く説明にならない天之河光輝の言に盛大なる溜息を吐くガハルド皇帝。

 

「テメェでも理解してない言葉で罵詈雑言とか、ちったぁモノを考えて口に出せや勇者! せめて自分の言葉で言えよな!」

 

「ううっ!?」

 

 抑々にして天之河光輝はその手の言葉に余り詳しいとは云えない、件の言葉もニャル子さんから聴かされたモノを一応は罵詈雑言と判っているからその侭に使っているだけ。

 

 自身の言葉ではないからか誰の心かにも響かない言葉の羅列。

 

「兎に角、勇者も残ったなら連中と闘って来たらどうなんだ? それとも恐くて動けんか?」

 

「そんな訳がありません!」

 

 天之河光輝は煽られて出撃。

 

「情報的にも役立たずだったな」

 

 ガハルド皇帝は鼻を鳴らして呟いた。

 

「然し、どうしますか陛下?」

 

「どの程度の被害だ?」

 

「死者は驚く程に少ないです」

 

「少ないだと?」

 

「はい、最初は見逃されるのですよ」

 

「最初はとは?」

 

 甘ちゃんが殺すのを忌避しているのかとも思ったガハルド皇帝だが……

 

「戦線に復帰したら二度目は無いと警告をされているのです」

 

 どうも毛色が違う。

 

「事実、戦線復帰した者は命乞いを聞く耳も持たれず首を刎ね落とされました。因みに殺ったのは紫色の鎧を纏う騎士でして」

 

「……確か八重樫 雫って名前の美人がそんな鎧を着けて勇者と闘ったな」

 

 ハイリヒ王国での雫が天之河光輝と闘った際の姿――仮面ライダーサソードを思い出していた。

 

 ユートはハイリヒ王国の時と同じチャンスを与えてやる事にした、即ち一度だけはその命を奪わずに見逃してやるという正しく強者だからこそ出来てしまうちょっとした舐めプ行為。

 

 尤も、仲間にはそれを徹底させてもデジモン達には生殺与奪を好きにさせている。

 

 運次第で慈悲深いデュークモンやスレイプモンやアルフォースブイドラモンジエスモンに当たり助かるだろうが、慈悲の無いデュナスモンやロードナイトモンに当たったならば問答無用で殺されてしまうであろう。

 

「フン、こりゃ命の有る内に降伏も視野に入れてしまうべきか?」

 

「陛下……」

 

「然しですな!」

 

「だが、この戦力差では!」

 

 皇帝自らの降伏という宣言に戸惑いを隠せない王宮の幹部達、これが亜人族だけの話なら皇帝として徹底抗戦も辞さなかったろうが、相手の中には人間を遥かに越える体長を持って怪物騎士までもが居るのだ。

 

 今は兎も角として、これからは一般人に被害が出てからでは遅過ぎるというもの。

 

 だけどその決断も……

 

「降伏? それは困りますね」

 

 黒い修道服を纏う銀髪な修道女の登場で全てが遅かったのをすぐに覚るのであった。

 

 

.




 DIGIMON ANALYZERって久し振りに書いたな。

 スールードがエターナルは原典には特に言及を多分もされてない設定ですが、ひょっとしたらどっかの二次設定と混ざった混血的なキャラ付けになっているかも知れません。

 最早、ゲームを確認も出来ない状態で可成りを忘却の彼方ですから……



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第100話:ありふれた聖剣と魔剣

 取り敢えず書けたので投稿します。





 

.

「ヘルシャー帝国の皇帝に我らが主たるエヒト様の御言葉を伝えます」

 

「なっ!? どういう事だ!」

 

 彼女は確かヘルシャー帝国の聖教教会支部にて働く修道女だった筈、見目は美しいが冷たいとも云う鋭利な眼差しが気に入らなかった記憶があるのだが、性欲を余らせた男としてはこの眼差しを快楽に酔わせたいとも思っていたものである。

 

「私の名はドライツェーン。エヒト様により生み出された使徒」

 

 ヘルシャー帝国内に何体か存在するノイントと同じエヒトの使徒、即ち『真なる神の使徒』だと称するべき者達の一体であったと云う。

 

「ヘルシャー帝国に命じます、貴方達の全力を以てイレギュラーに当たりなさい」

 

 それは神代魔法の魂魄魔法たる『神言』程では無いにせよ、矢張り魂魄魔法の『魅了』を込めた言葉だった故にか……

 

「エヒト様の御命令の侭に」

 

 幹部達が虚ろな瞳で応えていた。

 

「エヒト様万歳」

 

「我らが忠義はエヒト様と共に!」

 

 まるで万歳三唱でエヒトを讃え始めた。

 

 生憎と精神力の強かったガハルド皇帝には効きが悪かったが、この場で効いていないのを下手にアピールしたらヤバいと感じて従うフリをする。

 

(チィッ、何がどうなってやがる!)

 

 それは或いはヘルシャー帝国崩壊の序曲だったのかも知れない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翼を持つ長い銀髪の女が現れた。

 

「ノイントのお仲間が漸く出て来たか」

 

 これは予測がされていた事、はっきりと云えばユートは悪目立ちが過ぎたのである。

 

 盤上の駒として召喚をした筈なのに好き勝手にゴンゴンと動き、更には不完全体な半端モノとはいえエヒトの使徒を斃してしまい、遂に完全なるエヒトの使徒たるノイントさえ斃すに至った。

 

 エヒトからしたら駒の分際で……としか思えなかったのだろう。

 

 それでも一年近くを放置したのは面白く掻き乱してくれるなら有りだと考えたからに他ならず、余りにも目に余るならこうして使徒を動かしてやりブチっと潰してやれば良いのだから……と。

 

 全ては盤上の出来事に過ぎなかった。

 

 だけど流石に神山やハイリヒ王国の事に関してはやり過ぎ、最早エヒトも堪忍袋の緒がブチリと良い具合にキレてしまったのであろう。

 

 何しろ自分の意を人間に伝えるべき聖域だった場所が崩されたのだから。

 

 とはいえ……それでも尚、エヒトには余裕が有るのか使徒たるワルキューレを送り込む。

 

「最前線に居るのは感情が面に出ているみたいだから、リューンみたいなナンバーズじゃない謂わば失敗作って奴らか」

 

 性能は完品の約半分程度、感情が強く出ていてとてもでは無いが使えない……と判断された為、リューン達は失敗作として廃棄されていた。

 

「数値的には?」

 

「そうだな、この世界のステイタス値にしてだいたい五〇〇〇~七〇〇〇か」

 

「私の数値は残念ながら計れませんが、貴方から視て私はどの程度でしょう? ユートさん」

 

「流石に判らんよ。()()が使うのは永遠神剣第四位【空隙】で、君自身は単なる分体というのを鑑みれば……平均値で普通に数万はイケるだろうとは思うけどね」

 

 スールード――鈴鳴モードでこの場に居るのは王都冒険者ギルドの受付嬢をしているのが退屈だったからだろうか?

 

「本体じゃないんだろうし、力は大した事も無いみたいに言うけど……明らかに彼奴等よりかは強いだろうさ」

 

「とはいえ態々、エヒトルジュエが出してきたのですから強化された個体も居る筈でしょう」

 

「ああ。ウルトラマンとか見せてしまったから、それなりに危機感は持っているだろうしな」

 

 ウルトラマンの能力や巨体を見て尚も木偶共を強化しないならば、エヒトルジュエとはどれだけ危機感の皆無な盆暗かという話しであった。

 

「とはいっても、僕にせよ優雅兄にせよリクにせよ変身はフルパフォーマンスじゃなかったけど」

 

 巨体といってみても実際にはフルスペックに当たる五〇m前後という程では無く、ウルトラマン・ザ・ネクストの最初のアンファンスくらい――約一〇m程度だ。

 

 当然ながら五分の一程度の大きさだったのだから身体能力や保有エネルギー量、そして一度に扱えるエネルギー値もそれ相応に小さくなる。

 

 例えばウルトラマンティガのフルスペックにてエネルギー量が一〇〇、一度に扱えるエネルギー値が最大で二〇だったとした場合は概算でしかないのだけど、あの時で云えばエネルギー量が二〇でエネルギー値は四でしか無かった。

 

 正しく五分の一でしかないのだ。

 

 尚、必殺技はエネルギー値の数倍になるのだろうからフルスペックの通常エネルギー値と変わらない程度の威力で、どうやってもあの大きさではフルスペックのウルトラマンに敵わないだろう。

 

 エヒトルジュエはそんな五分の一スペックを基に算出して強化したろうから、その気になったらフルスペックの変身で一蹴が可能だと思われる。

 

 まぁ、肉体的な数値にも依るだろうが……

 

 少なくともデジモン達は単純な身体の大きさだけでは勝負が決まらないのは、完全体のメガログラウモンと究極体のベルゼブモンの戦闘を見れば判る話しなので余り心配はしていない。

 

「鈴鳴はどうする?」

 

「あの程度の相手に出る程ではありませんから、そうですね……今の内に少し可愛がって頂きましょうか。折角、再会しましたのに忙しく動かれていて私はちょっと欲求不満ですよ?」

 

 普通に敵とでもヤるだけに鈴鳴――スールードとも『煌玉の世界』で抱いていたし、何なら違う世界でも出会ったら乳繰り合っていたので彼女も期待していたのに、ユートが忙しなく動いていたから結局は抱かれる事も無かったのが不満なのだと紅い頬で淫靡に笑いながら囁いてきた。

 

 こう見えて千年を越える年月を在り続けたのだとリーオライナが言っていたし、見た目は小柄な少女にしか思えない姿ながらその微笑みは熟練の娼婦も斯くや。

 

 分体とは謂わば【NARUTO】の影分身の超が付く程の上位互換、影分身が出来る事は全てが可能な上で耐久力は本体から分けられただけ有るし、記憶も戻らずともある程度ならば本体と共有化をされており、滅びても本体が新たに完全な同一の個体を創り出せるのだそうな。

 

 ユートの傍に居るのは初期の【煌玉の世界】で出逢った鈴鳴本人の意識体で、肉体的に視てみればあの世界で最低限でも一度は斃されているし、何度か出逢ってえちぃ事をするのもあったにせよ矢張り闘って滅ぼしている筈が、それでも鈴鳴は鈴鳴であるのだと笑みを浮かべている。

 

 肉体は滅びているからその度に新調していて、だから出逢う度に肉体的には初めての引っ掛かりが愉しめる訳で、忙殺されてさえいなかったなら新しい肉体の初めてを『戴きます』するのも彼女と会った際の楽しみの一つ。

 

「ま、圧縮時空間でなら数分間でも充分過ぎるくらいにヤれるからな」

 

 要するに簡易空間に『精神と時の部屋』みたいな時間を得られる機能を付加するだけだ。

 

 ユートもこれはハルケギニア時代の放浪期から出来ており、例えばマルローネの時代に錬金依頼を受ける際にはこの時空間を利用していた。

 

 それから約数分後には見る限りユートに変化など無いし、鈴鳴も衣服に乱れは無い様に見えているけど頬を上気させ息も少し荒くて、ホカホカと

身体から湯気が上がっている。

 

 ヤり終えたばかりでシャワーだけは浴びたという感じで、内部空間――ユートの持ってる念空間の一つ――に設置されたキングサイズのベッドの白いシーツには真新しい鮮血の跡、そして更にはアンモニア臭がする液体が染み込んでいる跡などが生々しく残されていた。

 

 因みにシーツは破棄して新しいのを【創成】で創り出し交換をしている。

 

「さて、余り変わりない戦況ですが……フフフ、【空隙】のスールード……参ります!」

 

 態々、第三位以上が名乗る様に自らの名を高らかに叫ぶと空へと舞った鈴鳴――スールード。

 

 リューンと同程度な使徒の失敗作では第四位の永遠神剣持ちに敵う筈も無く、名乗りすらしていない無名の失敗作使徒は敢えなく撃破された。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 戦闘はヘルシャー帝国との戦争から神の木偶――使徒との闘いにシフトしつつある。

 

 ヘルシャー帝国の騎士も雑兵も最早、闘える者は殆んどが居なくなっていたから。

 

「なのに頑張るおっさんだな? 確か五〇歳だか其処らだって聞いたんだけど……」

 

 狂った様に剣を振り回すガハルド皇帝。

 

「オラァァッ!」

 

 傭兵帝国の皇帝らしい強さを見せ付けるけど、矢張り量産型なライオトルーパー達ですらまともに斃せていない。

 

「経験に裏打ちされた実力、ステイタス値が高いだけの勇者(笑)じゃ敵わんだろう強さだね」

 

 年齢からステイタス値は落ちそうなものだが、それでも天之河光輝は勝てないであろう。

 

 元ハイリヒ王国の元斯近騎士メルド・ロギンス――最強の騎士を以てしても敵うまい男、それこそがガハルド・D・ヘルシャーなのだが……

 

「何だか必死過ぎて怖いな」

 

 何故か必死な様子が離れていても見て取れるのがちょっとおかしい。

 

「居やがったかぁぁぁっ!」

 

「お?」

 

 良い歳したおっさんが涙目で迫ってくる辺り、余り嬉しくない事態で引いてしまう。

 

「緒方ゆぅぅぅぅとぉぉぉぉぉぉおおっ!」

 

 涙目というか寧ろガチに泣いていた。

 

「いやいや、ドン引きなんだけど……」

 

 闘いすら放棄をして駆け寄るガハルド皇帝は、正直に云ってしまうと怖いというより不気味にしか見えない。

 

「コンチクショウが!  もっと判り易い場所に居やがれよな!」

 

「知らんがな。で、捜していたみたいだけど闘う心算なら一応は相手をしてやるぞ? とはいえ、こっちも忙しいからちゃっちゃと終わらせて貰うけどな。具体的にはスパッと首を刎ねて」

 

「コエーよ! 違う、闘いに来たんじゃねー! ヘルシャー帝国が修道女に乗っ取られちまって、どうにもならねーからお前を捜してたんだ!」

 

「修道女? そうか、エヒトの使徒がやらかしてくれたみたいだな」

 

「エヒト……様の使徒だぁ?」

 

「お前らが崇めるトータスの神エヒト、動けない自分の代わりを務めさせる為の戦闘用生き人形。今出てるのは失敗作な連中だが、完成品も矢っ張り来ているみたいだな」

 

「どういうこった?」

 

 意味が判らないガハルド皇帝。

 

「名前は? 名乗っていたか?」

 

「ドライツェーンとか言っていたが……」

 

「ふむ、一三番目か。それなりに若い数字を出して来たんだな。それとも偶々、ヘルシャー帝国に居たのがドライツェーンだったのかね?」

 

 とはいっても、此方も戦力をそれなりに出しているから名乗るのも難儀しそうな下の番号も恐らくは出してくる筈。

 

 何しろ量産型な連中は万単位で存在する。

 

 因みに八三番目ならドライウントアハツィヒという名前になりそうだが、これで十万飛んで二四とかになったら何と名乗るのだろうか?

 

「戦闘用とか言ったな?」

 

「ああ、奴らは地球で云う北欧の大神オーディンに遣える戦乙女ワルキューレを模した姿だしな。判で捺した様な同じ顔に同じ体躯に同じ能力値、だけど人間では勇者(笑)が限界突破・覇潰を使っても届かないくらいの能力だ。それが少なくとも千は下回らない、軽く万単位だろうね」

 

「そんなのが万単位かよ……」

 

 流石にガハルド皇帝も青褪める。

 

「一万二千」

 

「何だよ、その数字は?」

 

「奴らのステイタス値、全てが一万二千らしい。能力的には完全体のデジモンと同じくらいか」

 

 成熟期では話にもならないだろうと予測が出来るから、ユートは少なくともドーベルモンで出す意味を見出せない。

 

 ケルベロモン・ジンロウモードなら互角に闘えるだろうが、互角で相手が万単位では早々に力尽きてしまうのが目に見えている。

 

 仮に究極体でも【デジモンセイバーズ】に於ける例を見れば判る通り、幾百もの完全体デジモンたるナイトモンを相手にロゼモンとレイヴモンは殺られこそしなかったにせよ、疲労困憊で愚痴るしか無かったのだから矢張り数は力だ。

 

 そして失敗作で約半分程度の能力値しかない、そんなリューンの同類達も数百は居た。

 

「まさか、あんなに失敗作を創っていたとはね。エヒトルジュエは莫迦じゃなかろうか?」

 

「どうすんだよ!?」

 

「落ち着けよ、皇帝が狼狽えるなや」

 

「けどな……」

 

 ガハルド皇帝は勇者(笑)が仮にフルスペックでも勝てるだろうが、流石に失敗作ですら二〇倍を越えるであろう連中には一体ですら勝てない。

 

「何の為にデジモンを、ロイヤルナイツを喚んだと思っている。ロイヤルナイツは半数以上が飛べるから連中の相手もやり易い。飛べないのも居るけど半数以上が飛べれば充分だからな」

 

 能力値としては完全体の下位程度でしかないであろう神の木偶、恐らくはユーキから話に聞いていた強化体も出てきそうだが果たして究極体には何処まで迫れるのか?

 

(ウルトラマンの力を視ている筈だからひょっとしたら究極体クラスも居るかもな)

 

 原典ではハジメの力を凌駕させた個体は居たらしく、それはハジメ謹製のアイテムで超絶強化をされたシアが相手をしたのだと聞く。

 

 その能力値は実に数倍。

 

 とはいえ、その強化には確かユエの魔力が使われていたらしいから或いは強化体も居ないか?

 

(楽観視は良くないな。最悪を想定しておくのは闘いの基本だ)

 

 大樹の女神ウーア・アルトとの激戦から数えて数万年、エヒトルジュエもその間に魔力くらいは溜めていただろう。

 

 単純に強化したのがユエの身体を奪った後だから使われただけの可能性も捨て切れないのだし、これで『有り得ない』と考えるのは思考停止でしかない愚行だと思い直す。

 

 ユートの心配を余所にロイヤルナイツが失敗作を相手に無双をしていた。

 

「ドラゴンズ・ロア!」

 

「スパイラルマスカレード!」

 

「ビフロスト!」

 

「ファイナルエリシオン!」

 

「グレイソード! ガルルキャノン!」

 

「デジタライズ・オブ・ソウル!」

 

「シャイニングゴールドソーラーストーム!」

 

「エルンストウェル!」

 

「鉄拳制裁!」

 

「エンド・ワルツ!」

 

「轍剣成敗!」

 

「アヴァロンズゲート!」

 

「シャイニングVフォース!」

 

 神の木偶にすら成れなかった失敗作などちょっと必殺技を放てば消滅していく。

 

 そして通常の木偶は完全体デジモンの下位級でしかない為に矢張り相手にならない、原典で強化された強化体なエーアストも精々が完全体上位が良い処だと考えていた。

 

 Dーアークに浮かび上がるのは立体的に映し出されたホログラフに近く、ユートはそれを視ながら適宜判断を下していく形を取っている。

 

(矢っ張り問題はウルトラマンのデータをベースに強化した木偶だろうな)

 

 其処まで強化されたら流石に究極体クラスには成っているだろうから。

 

(それにエヒトルジュエも単なる超越種の亡霊とはいえ愚かであれ阿呆では無い。恐らくは今回のヘルシャー帝国への合力は此方のデータを取るのが目的だろうな)

 

 その考えは決して間違いではないとすぐに判断が出来る変化……

 

『オオオオオッ!』

 

 光に包まれた神の木偶の一体、ユートには判らないけどそれはドライツェーンという一三を意味する名を持つエヒトルジュエの使徒、肉体的には光を帯びて全身が白銀の如く輝きを放っていて、少なくともオメガモンと同程度の巨大化をしている辺りウルトラマンを彷彿とさせた。

 

 これもユートが識らない事だが、その見た目は【DARKNESS HEELS ーLiliー】のリリ・アーカイヴが巨大化した姿に近い。

 

「んだよ、ありゃ!?」

 

「漸く出てきたな」

 

 叫ぶガハルド皇帝に呟くユート。

 

「アルフォースブイドラモン」

 

〔ハッ! 我が主!〕

 

 何気に通信機能も実装し多機能なDーアークに話し掛けると、呼ばれたアルフォースブイドラモンがその言葉に応えて来た。

 

「巨大木偶の坊の奴から少し体液を採取して持って来てくれないかな?」

 

〔了解しました〕

 

 特に疑問を差し挟む事無く頷く。

 

 強化体が数体と銀巨人のドライツェーンとの闘いが始まって直ぐ、アルフォースブイドラモンは言われた通りに素速さを利用してVブレスレットから、アルフォースセイバーを出現させると神の木偶ドライツェーンに傷を付けてやった。

 

 人形とはいえ一応のカテゴリーは生物だからか普通に体液を採取が叶い、アルフォースブイドラモンはそれをユートに届けるべく飛翔をする。

 

「暫し頼むぞ」

 

「任せよ、アルフォースブイドラモン!」

 

 代表したのはアルファモン。

 

 そしてあっという間にアルフォースブイドラモンはユートの下へと現れた、元よりアルファモンみたいな特殊能力(アルファインフォース)みたいな例外を除けば純粋な動きでの速度は最も疾い。

 

「我が主よ、これに」

 

 アルフォースセイバーに付着したドライツェーンの体液を捧げる。

 

「んなもん、どうするんだよ?」

 

「体液には木偶の細胞が在るからな。それを基に奴を此方で創れる様になる」

 

「ハァッ!?」

 

 意味が理解出来ないガハルド皇帝。

 

「それは余禄だがな。本命はコレだ」

 

「そいつぁ、ステイタスプレートか!?」

 

「その通りだ」

 

 魔法陣に付着される体液、銀色の魔力光を放ちながらプレートに文字が浮かび上がる。

 

 

 

ドライツェーン

レベル:???

??歳 女

天職:使徒

 

 

筋力:240000

体力:240000

耐性:240000

敏捷:240000

魔力:240000

魔耐:240000

 

 

技能:分解 疑似限界突破 双大剣術 銀翼 銀羽 魔力操作[+武装化] 飛翔 魅了 魔法適性 巨神兵

 

 

 

「おお、ドライツェーンってのは確か皇帝とかを魅了しようとした……」

 

「げっ、彼奴かよ! って、何だこの巫山戯過ぎる数値はよぉ!?」

 

 先ずを以て桁違いに過ぎた。

 

「こりゃ、普通に究極体クラスだな」

 

 それも、ロイヤルナイツと充分過ぎるくらいのタメを張れる程度には強力な能力値だろう。

 

「この巨神兵がウルトラマンの能力の模倣って処かな? 魔力操作は魔物に出来て奴らに出来ない筈も無いし、武装化はセイバーがやってた魔力で装備品を纏う技能か」

 

 第四次聖杯戦争や第五次聖杯戦争にて召喚されたアルトリア・ペンドラゴン、クラスは剣の騎士である『セイバー』で魔力により鎧を纏った。

 

「分解は木偶共の固有魔法だろうな」

 

 リューンやノイントも使ってきた力なだけに、『真の神の使徒』が共通して持つ魔法。

 

「それと疑似限界突破? まぁ、限界突破と似て非なる技能だろうが……技能としての性能が同じなら更に三倍にもパワーアップが出来るのか?」

 

 ステイタス値からして既に究極体クラスなだけに三倍されたら流石に手に負えなくなるだろう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()――正真正銘の全力全開で闘えば話は別だが……

 

 ユートが常に余裕を持っているのはそんな力が有るからである。

 

 勿論、封印しているからには簡単に解ける様にはしていないけど、自らの仕掛けた封印なだけに極論すれば解こうと思えば解けてしまえた。

 

 ユートはドライツェーンの能力を確認してからすぐにアルフォースブイドラモンへ指示を出す。

 

「エヒトルジュエの使徒たるドライツェーンは特殊個体と認定する。アルフォースブイドラモンは今からロイヤルナイツに伝言を伝えてくれ」

 

「了解!」

 

「ロイヤルナイツはドライツェーン以外の強化個体を殲滅に向かえ……だ」

 

「ハッ!」

 

 指示を聞いたアルフォースブイドラモンは翼をはためかせ蒼空を舞った。

 

「只でさえ万単位の木偶共が来ているんだから、特殊な一体だけに(かかずら)ってなんていられるものかよ!」

 

 ユートは自らが動くべく準備をする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方、その頃……

 

「見付けたぞ光輝!」

 

「龍太郎! 丁度良かった、緒方が……」

 

「こんの、バッキャローがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 バキィィッ!

 

「らすぷーちん!?」

 

 話している真っ最中に頬をグーでぶん殴られた天之河光輝が上空へ吹き飛び……

 

 ドシャァァッ!

 

「グヘッ!」

 

 そして真っ逆様になりド(タマ)から落ちるという謂わば車田落ちをする。

 

「これ以上は面倒を掛けないでくれよ!」

 

 若しこの時の坂上龍太郎をクラスメイトが視ていたら、半ば泣きながら叫んでいるのが印象的だったかも知れない。

 

 坂上龍太郎は気絶した天之河光輝の首根っこを掴まえて歩き出す、こうしてユートと接敵する前に勇者(笑)の捕獲は成功するのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ラングリッサー組は新たにクラレットとルナとナームとシェリー、カルザス四天王――ルナは本来だとカルザスじゃないけど――が投入をされていて全員が飛兵だから神の木偶を相手に無双中。

 

 ルナとシェリーとクラレットは兎も角として、ナームはランス・カルザスと結ばれカルザス王国を建国しているが、人類と魔族とクリムゾニアが入り交じった最終戦争から一五〇年後に再び起きた闘いにて、時空の歪みを応用して英霊の召喚をする事で喚び出したナームを固着して【閃姫】としている。

 

 元々、ユートはこの時代に召喚されていたから光輝の末裔にしてラングリッサーの破片を内包していたアメルダが、聖剣ラングリッサーの記憶から喚起された英霊召喚を可能としていたのも一応だがジェシカから聞かされ知っていた為、ナームを召喚する事も不可能では無いと考えていた。

 

 知識としてランス・カルザスと結ばれたというのは識っていた召喚英霊のナームではあったが、記憶としてはカルザス王国建国の為の無体な頼みの代価に一夜を供にした翌朝まで、しかも肉体的には完全な真っ新(まっさら)で新品だったから【閃姫】にするには問題も無かったのである。

 

 シェリー曰わく『飛兵カルテット』を投入したのは、当然ながら神の木偶を相手にするのならば飛べた方が便利だったからだ。

 

 また、カルザス王家は『始原の光輝』から端を発する『光輝の末裔』の一族だから聖剣ラングリッサーを扱える。

 

「おりゃぁぁっ! 勇者シェリー参上!」

 

 ジークハルト王の宿った聖剣ラングリッサーは青き星ペイリアでの闘いにて砕け散ってしまったのだが、その破片の一部を回収して核とする事によりラングリッサー・レプリカを構築した。

 

 レプリカであるが故にオリジナル程では無い、然しながら『始原の光輝』か『光輝の末裔』にしか扱えず、他の武器よりは遥かに強く魔を滅する効果が高い武器として活用をされている。

 

 尚、『始原の光輝』というのははユートを含むディハルト、ティアリス、ルナ、ジェシカ、ルイン、ソフィアという聖剣ラングリッサー誕生の瞬間に居合わせた者達の事を指した『光輝の末裔』に合わせてユートが言っている名称。

 

 本来の世界にこの名称は存在しない。

 

「シェリー、突出し過ぎですよ!」

 

 暴走気味なシェリーをルナが諫める。

 

「まだまだぁぁっ! 久し振りに大暴れ出来るんだからぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 だけどコマンドが〔ガンガンいこうぜ〕に成っているシェリーは指示を聞かなかった。

 

「そうですか、聞きませんか……軍師であり且つ先祖でもある私の指示を?」

 

 ピクピクと額に青筋を浮かべながら笑顔で言い放つルナは切札を切る。

 

「では、ユートに叱って貰いましょう」

 

 するとシェリーは疎かナームとクラレットまでがビクッと肩を震わせた。

 

 カルザス王家の娘達――ナームも含む――は、何故かユートへの好感度がMAXとなっているが故にか、嫌われるのを極度に怖れるというおかしな癖が存在している。

 

 理由はよく判らない。

 

 話を聞いたユーキはルナには何らかの因子が有って、それがユートの某かと結び付いてそれにより好感度が上がっているのでは? と言う。

 

『いや、因子って何だよ?』

 

『知るもんか』

 

 随分と投げ遣りだった。

 

 まぁ、とある世界でエロゲプレイヤー主人公に聞いた話では『エロゲ主人公は理不尽なレベルで超展開が続く』とか。

 

『誰がエロゲ主人公やねん!』

 

 などとツッコミたいが、ヤっている事は明らかにエロゲ主人公だったからツッコめない。

 

 エロゲは好きじゃ無いのだが……

 

 ともあれ、バルディア王国時代でもナームは疎かその母親や祖母や曾祖母や高祖母など遡ったら普通に好かれたし、ルナから下り娘、孫、曾孫、玄孫など長じれば普通に懐かれた。

 

 子孫の中には最終的には兎も角、初めてを捧げた者もそれなりには居るのだから驚きだろう。

 

 そしてナームもそんな一人、ランスと結ばれる前の火遊び的に抱かれたのである。

 

 勿論シェリーやクラレットはランスの子孫であるし、ルナより以降に何度かユートの血は混じっているから一応はユートの子孫でもあるが普通にカルザスの血族だ。

 

 一巡目の彼の世界は基本的に原典と変わらない道筋だったのはジェシカから聞いており、ユートはゲームでプレイをしたルートを敢えて外れたりもして所謂『Astray』――正道を踏み外すという意味の英語――文字通りユートはラングリッサーの原典という名の正道を踏み外している。

 

 それがヒロイン略奪……の心算は無かったのだけど、結果的には【ラングリッサーⅢ】に於ける選択制のヒロイン処か【ラングリッサー】からはクリス、【ラングリッサーⅡ】からはリアナだけでは無くラーナやシェリーやシャロンやラミィなどにまでやらかしていた。

 

 尚、シャロンとラミィは小説版に登場している一種のオリキャラみたいな存在。

 

 【ラングリッサーⅣ】や【ラングリッサーⅤ】に関しても同じく。

 

 【ラングリッサーミレニアム】? それはいったい何でしょうか?

 

 兎にも角にも彼女達はユートに嫌われてしまうのを極端に恐れており、こうしてユートの名前を出して諫めると流石に〔ガンガンいこうぜ〕から〔命令させろ〕にコマンドが変更される。

 

「わ、判りました……ルナ様に遵います」

 

 可成り自由人なシェリーもユートの名前を出されると弱いので肩を落としていた。

 

「では……ナーム、シェリー、クラレット」

 

「「「ハイ!」」」

 

「クアッドアタックでエヒトルジュエの使徒を討ちますよ!」

 

「「「了解!」」」

 

 要はジェットストリームアタックやトライアングルアタックを四人掛かりでやる連携技。

 

 四人は手にしたラングリッサー・レプリカを槍へと変化させる。

 

 ユートが造ったラングリッサー・レプリカは、剣士や騎士などの剣を扱える者でないと使い熟せないオリジナルのラングリッサーとは異なって、使い手が誰でも最大限の力を発揮が叶う様に使う者が願う形に変化をする武器。

 

 その気になれば片手剣から弓や槍や槌、何なら武器としての手甲にすら変形をするであろう。

 

 そんな武器が造れるのか? ハルケギニア時代からユートは魔導具製作は特技だった事もあり、リリカルなデバイスを参考にして構築をした。

 

 通常の使徒にペガサスが飛翔、四人が続け様に槍化させたラングリッサー・レプリカで攻撃を喰らわせてやり、トドメとばかりにルナが使徒の核を貫くとグッタリと四肢を垂れ下げ果てる。

 

「レプリカとはいえラングリッサーの名を冠するだけあり、ユートが造った事も踏まえてその威力は矢張り流石ですね」

 

 ルナはラングリッサー・レプリカの力に満足気に頷くと、次の標的たる木偶共を見定めてナーム達と共に向かって行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「おい、緒方優斗!」

 

「何だ?」

 

「奴を……ドライツェーンってのを斃せる算段は本当に付いているのかよ?」

 

「当たり前だろう」

 

「なら良いけどな……」

 

 ユートはその手に漆黒をベースとした大剣を顕して構える。

 

「何だ? どっから出てきたんだ? ってーか、随分と物騒な見た目だな!」

 

「奴は神の木偶。故にエヒトルジュエは奴らに対して光の属性を帯びさせている」

 

「光の属性だと?」

 

「神が遣わす天よりの使者、オタク界隈でなくとも闇より光だろうからな」

 

「それで?」

 

「この剣の銘は『魔剣アルハザード』といって、嘗て闇の皇子ボーゼルが揮った暗黒の剣だ」

 

「つまり、闇の属性って事か?」

 

「そう、光に属するからには奴らに対し特効が付くから普通よりダメージが入る」

 

 【ファイアーエムブレム】を想像すれば解り易いかもだが、特効武器を持って攻撃すれば攻撃力が上昇するのである。

 

 これにより、神剣ファルシオンはメディウスに大ダメージを約束してくれた。

 

 このアルハザードは【ラングリッサーⅤ】から視て約一五〇年後、何故かラングリッサーと同じ場所へと捨て置かれていた物。

 

 ユートはこの二振りを拾っていた訳だが、一度は過去へと遡行して再び同じ時間軸の別世界線と成った時代に戻り理解する。

 

 あれはユリアが聖剣ラングリッサー、ゼルダが魔剣アルハザードと成ったのだ……と。

 

 一巡目では世界が滅びて聖剣も魔剣も使い手が居なくなったらしく、今や聖剣の魂ユリアと魔剣の魂ゼルダに邂逅した結果としてユートが真なる使い手となっている。

 

 どうやってかは……まぁ、いつもの手練手管を用いての事だと述べておこう。

 

「神の木偶、貴様らが【解放者】と闘った時代には無かった暗黒の魔剣アルハザードの味をたっぷりと味わえ!」

 

 ユートはドライツェーンを視ながら不敵に笑みを浮かべるのであった。

 

 

.




 ランモバやっているからリアルに情報が入ってくるけど、永遠神剣とかは情報が忘却しつつある記憶から殆んど引っ張ってきてます。

 聖なるかなはやろうと思えば出来ますが……




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第101話:ありふれた暴れん皇女

 やっとこさ書けました……





.

「さて、征こうか……ゼルダ!」

 

《うん、ゼルダいっちゃうよ~》

 

 アルハザードから声が響く。

 

 本来、聖剣ラングリッサーや魔剣アルハザードにお喋り機能なんかは基本的に無いのだけれど、剣と意思疎通をするに当たって直に喋ってくれた方が良いと考え、デルフリンガーの機能をベースに意志を表へと出せる様にしてあった。

 

 更に云えば、聖剣ラングリッサーに魂を捧げたユリアと魔剣アルハザードと成る可くして生み出されたゼルダは、本来ならそんな機能を持たないけど剣から人間の姿へと変わる能力も有る。

 

 まぁ、普段は惑星エルサリアにて人の姿の侭に暮らしている訳だが……

 

 二巡目の世界線でユートが見ていた限り魔剣の聖霊と化してアルハザードに換えられたゼルダ、彼女はランディウスの孫に当たるマシューと愛を育んでいた。

 

 天真爛漫ながら着実に恋愛関係を進めていたというのに、結局は闇の皇子ボーゼルの策略により赤き月クリムゾの王レインフォルスが持ち帰った魔剣アルハザードの代わり、闇の皇子ボーゼルは四つの血印を用いた魔法陣によりゼルダは新たな魔剣アルハザードとされてしまう。

 

 最終的にユリアが魂を捧げた新ラングリッサーと新アルハザードは、光輝の末裔側の手に渡ってボーゼルの野望は阻まれたと云って良い。

 

 尤も、その後はイェレス大陸でアルハザードが砕かれたりと大変だったが……

 

 問題は一巡目の魔剣アルハザード。

 

 ラングリッサーの聖霊ユリアは人類滅亡を悲しみこそしたが、それだけであって意志もはっきりしていてユートを新たな担い手に選んだ。

 

 アルハザードは生贄に過ぎないゼルダがどんな状態でも関係は無いが、一応の邂逅をしてみたらマシューの消滅に精神が壊れていた。

 

 なので、ユートは壊れたゼルダに自分を刷り込むかの如く快楽に漬けてやる。

 

 幸い? まだまだマシューとはお子様も同然で口付けすら無い清い関係だった為、初めての快楽を覚えさせたのはユートという事になった。

 

 何ならパスを繋いで聖剣ラングリッサー側からユリアを喚び込み、二人掛かりでゼルダを快楽にて蕩けさせてやる事も少なくない。

 

 ゼルダ本人は壊れた心でマシュー消滅の逃避みたいに快楽を受け容れ、その後に何やかんやあって精神が持ち直してからはマシューの事は大切な想い出として、ユリアと同じく魔剣アルハザードの担い手にユートを選んだ。

 

 魔剣アルハザードの真なる()()()、ボーゼルでさえも単なる使()()()でしか無かったのにユートは()()()として選ばれた。

 

 それは歴代の闇の皇子ボーゼルやクリムゾニアの王レインフォルスでさえ使い手の域を出なかったのを覆し、真実の担い手としてアルハザードを使い熟せる存在として確立されたという事。

 

 闇の皇子ボーゼルに成り果てるのではなくて、人として真にアルハザードの担い手と成った。

 

 青き月ペイリアの起動鍵ではなく武器として、ユートは魔剣アルハザードを――ゼルダの想いと共に揮うのである。

 

『イレギュラァァァァァァーッ!』

 

 随分と不安定らしい巨神兵と化したドライツェーンが咆哮を上げた。

 

『貴方は主の盤上に招かれてはいない! 速やかに排除します!』

 

「莫迦な事を」

 

『なにぃ!?』

 

 矢張り何処か感情的だ。

 

「エヒト自らが召喚したからには盤上に招かれていない処か自ら招いたんだ。それともお前らの主はそんな間違いを犯す愚者なのか?」

 

『っ!?』

 

「僕をイレギュラーとして盤上から排除したいのならそれも構わないが、それはお前自らエヒトの愚神っ振りを証明するも同然だろう。『我が主は間違えました』ってな」

 

『イレギュラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』

 

 ドライツェーンが怒りも露わに両手の剣を振り上げながら突撃をしてくる。

 

 一〇mの巨体から繰り出される一撃。

 

 ガキィィィッ!

 

 然しながらユートはドライツェーンによる大剣の一撃を魔剣アルハザードで受けたかと思えば、スッと力を抜いてその刃を明後日の方向へと逸らしてやった。

 

 凄まじい音と大地を震わせる震動を巻き起こしながら、ドライツェーンはその勢いの侭に地面へと激突してしまう。

 

「アルハザード、その威を示せ!」

 

《うん、ゼルダの肢体を存分に使って!》

 

 微妙にエロい事を宣うゼルダ。

 

 更にユートはその手にスパークレンスを握り締めると……

 

「漆黒なる闇の安寧よ我が元に集え、ティガダァァァァァァァァァァークッ!」

 

 叫びながら天高く掲げた。

 

 闇が迸るとユートの身体を取り巻き始めて闇の巨人ティガダークへと換える。

 

 因みに以前に変身したウルトラマンティガへの口上は『希望の光よ我が元に集え』だ。

 

『デュワッ!』

 

 右腕を掲げた状態でグングンアップで巨大化をする漆黒なる魔神ティガダーク、原典に於いても『闇の巨人』と称される恐るべき戦士であったらしいのは軽く劇中でも語られていた。

 

 ユートの場合は真の属性が闇だからか闇属性に忌避感というものは無く、更に云えば闇に付き物なリスクを受ける事なども特には無い。

 

『イレギュラー!』

 

 ドライツェーンがティガダークを見て叫ぶが、本人が気付いてないだけで原典からしたら()()として此奴も普通にイレギュラーだ。

 

 ユート――ティガダークの手には魔剣アルハザードが握られており、インナースペース的な場所ではユート自身も魔剣アルハザードを手にしている状態である。

 

 違いが有るとすればイメージが形を取れるからなのか、若しこれが本当に特撮だったら放送倫理に引っ掛かって放映不可な素っ裸のゼルダの姿。

 

 因みにだけど、これが聖剣ラングリッサーなら素っ裸のユリアが傍に居ただろうし、聖剣と魔剣の二刀流だったら嬉し恥ずかし素っ裸のユリアとゼルダにサンドイッチされていた訳だ。

 

 取り敢えずユートとしては聖剣ラングリッサーの聖霊が、先代のジークハルトでなくて良かったと其処だけは本っ当に感謝したい。

 

 イケメンとはいえ、素っ裸の髭面なオッサンと二人切りとか普通に拷問である。

 

『ドワッ!』

 

 揮われる魔剣アルハザードの武威に舌打ちをしながら避けるドライツェーンだがユートの使う技は【緒方逸真流】の刀舞術、舞いを完全に武術として融合したそれは彼女の大雑把な動きでは避け切るに能わず、幾つかの裂傷をその光の肉体へと刻まれる羽目に陥っていた。

 

『グッ!?』

 

 その属性が闇だったからかダメージが異常な程に大きくて呻いてしまう。

 

(矢っ張り、エヒトルジュエはオタクか何かだろうな……魔力を持たないエルフは有り得なかったんだろうし、ドワーフだって作品によっては有り得るけど魔力無しはな。獣人や翼人だって魔力無しとか有るには有るんだが……そんなエヒトルジュエだから神の使徒は天使――光属性だよな)

 

 【グローランサー】なら翼人――フェザリアンは魔法を扱わず科学力が高い、獣人といえば肉体的に優れているが魔力を持たない。

 

 そんな話も有る。

 

(ま、今はどうでも良いな)

 

 ティガダークは手にした魔剣アルハザードを以て光の巨体ドライツェーンに斬り付けに行くが、流石にこれ以上は喰らいたく無かったのか両手の大剣で防ぎに動く。

 

『させません!』

 

 更に光の羽を飛ばしてきた。

 

『見える! 当たらなければどうという事も無い! 何てな!』

 

 至近距離からのそれを容易く躱す。

 

『くっ!』

 

 口惜しげに唸るドライツェーンを余所に回転をして攻撃を回避、その侭突っ込む形でその肉体へ魔剣アルハザードの切っ先を当てる。

 

『ガッ!?』

 

 吹き飛ぶドライツェーン。

 

『終わりだ、ゼルダ!』

 

《オッケーだよ!》

 

『魔剣アルハザードよ、闇を糧に増力を!』

 

 前方へ魔剣アルハザードを投げるとプカプカと浮かんでいる。

 

 前へ倣えとばかりに両腕を前方に突き出すと、それを横へ広げる様に動かすティガダーク。

 

 闇の力が集束されていった。

 

『デヤァァッ!』

 

 指は伸ばして右腕を曲げた状態で左手の甲を肘に当ててL字状に形作る。

 

『ダークゼペリオン光線!』

 

 漆黒のエネルギーが放たれると魔剣アルハザードにぶち当たり、ダークゼペリオンを吸収すると循環させて更に増幅してドライツェーンへと向けて放つと……

 

『ウワァァァァァァァッ! イ、イレギュラァァァァァァァァァァァアアアアアッッ!』

 

 最早、立て直す隙すら与えられず膨大に過ぎる闇のエネルギーを浴びて、ドライツェーンは叫びながら消滅の憂き目に遭うのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 『デュワッ』と叫びながら大空へと飛び去ったティガダークを視ながら茫然自失となってしまうガハルド皇帝、そんな彼の心情は誰にも推し量れはしないだろうがズシンズシンという地響きを響かせて究極体――一体はアーマー体――デジモン達が降りてくる。

 

 飛べないタイプはエグザモンに運んで貰った上で飛び降りて来たらしい。

 

 ロイヤルナイツの一三体とアヌビモンで合計したら一四体ものデジモン達、どうやら神の木偶をさっさと殲滅していち早く戻って来た様だ。

 

 他の戦力も戻って来た。

 

 カルザスファミリー他ラングリッサーチーム、【ありふれ】世界の地球&トータスで構成されたユートの【閃姫】達、鈴鳴(スールード)、フェアベルゲン領国の妖精組と獣人組である。

 

 そしてそれなりに遅れて、天之河光輝を肩に担いでフラフラと戻って来た坂上龍太郎。

 

「わりぃ、遅れちまったみてーだな」

 

 謝る坂上龍太郎だったが、流石に幼な馴染みが意識を無くしていては気になったのか……

 

「光輝、どうしたのよ?」

 

 雫が訊ねた。

 

「ああ、いや……気にすんな」

 

「えぇ……?」

 

 目を逸らしながら言われて何と無くだが察してしまって呻くしかない。

 

 又候、天之河光輝がユート関連で某かを仕出かそうとしたのであろうと判ってしまったからこその察しで最早、雫は溜息を吐くのも億劫になってしまうくらいで天之河光輝を見遣る。

 

「ハァ……またなのね」

 

「本当に面倒だよね、光輝君ってさ」

 

 香織も処置無しとばかりに呆れていた。

 

「地球に居た頃からそうだったけど面倒臭いわ。優斗のモノになって光輝から離れたのは存外と良かったのかもね」

 

 余りの面倒臭さにどうやら雫も香織も、それ処か頷いている辺り鈴までもが天之河光輝を完全に見限ってしまったらしい。

 

「光輝の事なんていいわ、優斗は?」

 

「何か飛んでったぞ?」

 

 ガハルド皇帝の言葉に首を傾げる雫。

 

「飛んでったって、優斗はどう闘っていたの? 若しかしてウルトラマンに? あれで優斗ってば様式美に拘るから」

 

「ああ、ウルトラマンなら闘った後はシュワッチとか言って飛んでっちゃうよね」

 

 ある程度の知識が有るからか二人の理解は早かったし、鈴もどうやら解るらしく頷いているのを見てウルトラマンが飛んでいくのは常識みたいにガハルド皇帝は記憶した。

 

「で、『お~い』とか手を振りながら味方の方へ走ってくるのよね」

 

「お~い!」

 

「来たね」

 

 様式美極まるというべきか? ユートが叫びながら手を振りつつ駆けてくる。

 

 取り敢えず昭和なウルトラマン的様式美も守ったし、神の木偶も全滅させたから残りはヘルシャー帝国の今後という話しであろう。

 

「さて、敵対をしてくれたヘルシャー帝国についての話しだが……」

 

「お手柔らかに頼みてーがな」

 

 ヘルシャー帝国はユートの擁するアシュリアーナ真皇国と戦争をした、そして帝国側の方は騎士も兵士も殆んどが死んだか重傷を負ったかしてしまい、神の木偶が介入してきて済し崩し的ではあるが敗北したと認めるしか無い。

 

 一応、【閃姫】達はラングリッサーのチームも【ありふれ】のチームも死亡者数を増加させない様に非殺傷設定で倒していたし、気性の柔らかいロイヤルナイツであるマグナモン、アルフォースブイドラモン、デュークモン、オメガモン、ジエスモン、スレイプモン、アルファモンらは極力ながら死者を減らしていたが、ガンクゥモンは闘いに手加減はしないからある程度しか生き残れず、気性の比較的荒いタイプたるロードナイトモン、デュナスモン、エグザモン、クレニアムモン、ドゥフトモンはほぼ殺しに掛かっていた。

 

 流石に聖騎士だから逃げ出した者を執拗に追ったり、偶々でも生き残れた者へと無惨にトドメを刺したりとかはしてないけど。

 

 或いはアニメに出てきた彼らならやらかしたかもだが、ユートがイメージしたのは飽く迄も騎士の威厳を持った彼らである。

 

 尚、エグザモンに関しては気性が荒いというよりデカいから加減が利かなかった感じだ。

 

 神の木偶が現れてからは【閃姫】達に人間側の対処は任せ、ロイヤルナイツは神の木偶を相手に闘いを挑む形になっていった。

 

「なぁ、光輝は起こさないのか?」

 

「どうせ邪魔しかしないんだから放っておけば良いだろう。邪魔されたら要らない時間を使わされてしまうからね」

 

「そうか、そうだよな……」

 

 抑々にして天之河光輝の邪魔が戦争を起こした切っ掛け、それで又もや邪魔をしてくるであろう事が判っていて起こしたくは無い。

 

「少し待って頂けるかしら?」

 

「こうか?」

 

 行き成りやって来たトレイシー・D・ヘルシャーの言葉にユートがクルクル回転しながら舞う。

 

「誰が舞って頂きたいと言いましたか!」

 

「鉄板ネタだからな」

 

 矢張り刀舞士であるユートは舞うのであろう、鉄扇を取り出して華麗に舞い踊って魅せた。

 

「でーすーかーら! 舞って頂きたいのではなく待って頂きたいのですわ!」

 

 トレイシー・D・ヘルシャーが憤るのを見つめながら舞うユート、明らかに揶揄っているのが判るからか【閃姫】達は苦笑いである。

 

「冗談は扨置いて、それでトレイシー()()殿()()の用件は何かな?」

 

「くっ! 既に元呼ばわりですか!?」

 

「元……だろうに。最早ヘルシャー帝国は運営も侭ならないくらいに瓦解している。皇子にしても皇太子だったバイアスも死亡が確認されてるし、他の皇子や皇女やガハルド元皇帝の妻達も殆んどが確認の取れているだけで死亡しているからな」

 

「そうでしたわ! アリエルと母君のアマンドラ様はどうしましたか?」

 

「どう……とは?」

 

「基本的にヘルシャー帝国では親族の情など有り得ませんけど、末の妹であるアリエルに関しては慕ってくれていて可愛がっておりましたの」

 

 本当に心配をしているのか、少しアンニュイな表情で中空を見上げながら末妹を思う。

 

「それが八歳くらいで銀髪碧眼のお姫様を言っているなら、その母親らしき似た美女と一緒に保護をしているぞ」

 

 まぁ、銀髪は胤を蒔いた者が蒔いた者なだけにそれなりの数が居るのだけど。

 

「本当ですの!?」

 

「ああ、パーティー会場で粗相をやらかしてな、その後始末をした縁もまた袖擦り合う程度ではあるが奇縁だったからな。今は美幼女でも将来的には美少女に超進化して、更に美女に究極進化しそうだったから死なすにも勿体ないかとも思ったってのもあるけどね」

 

 ヘルシャー帝国の皇族にしては心根がマシという部類だったのもあった。

 

 尚、バイアス以外ではトレック君やハンドラー君がハウリアの犠牲として首チョンパをされていたし、ハンドラー君の直妹たるマイアラ元皇女は今頃だと奴隷にされていた亜人族な男にグッチョングッチョンな目に遭わされているだろう。

 

 多少は年齢が足らずとも、素っ裸にして亜人族の男達の中に放り込んで――『殺さなければ好きにしろ』と言い含めて放置した。

 

 血でグッチョングッチョンなのか、白い粘液でグッチョングッチョンなのかは知った事ではないから関知しない。

 

 孕むのは戴けないから避妊薬を予め飲ませてあるし、効能が切れる頃にもまだヤるなら飲ませろと言い含めてある。

 

 孕むのが駄目なのはハイリヒ王国の時と理由は同じ、皇族の胤を残さない為の処置だから皇妃でも他国や貴族家からの輿入れをしたタイプならばまだしも、皇族と判る――公爵など――家から嫁いだタイプは容赦しない。

 

 アマンドラは銀髪である事から後者の可能性も高いが、取り敢えずヘルシャー帝国から隔離してしまったから問題も無いだろう。

 

「つまり貴方の前であの子は粗相……お漏らしをしてしまったのですか?」

 

「相当に恥ずかしかったみたいだね。保護した先で布団に潜り込んでるよ」

 

「そりゃ、まだ幼いとはいえ女の子ですものね。殿方の前で粗相をしてしまえば恥ずかしくて顔を出せませんわ」

 

「そうだな……」

 

 何故か【閃姫】達がフッと明後日の方向を向いて更に何故だか頬が赤い。

 

「で、結局は何の用だ?」

 

「そ、そうでしたわ!」

 

 トレイシー元皇女はバッと背中に背負っていた長柄の鎌を取り出してユートに突き付け……

 

「決闘で決着を着けるのですわ!」

 

 高らかに宣言をした。

 

「あれ? あの鎌は……エグゼス?」

 

「知っているのか、雷電?」

 

「誰が雷電よ!? あの大鎌はエグゼスっていって私の仲間が使っていたアーティファクト」

 

 ユートからの質問? にツッコミを入れながらもミレディが答える。

 

「バッド……【解放者】の副リーダーのバッド・ヴァーチャーズが愛用していた武器なんだけど、どうしてアレがこんな所に堂々と有るんだろ? 確かアレってウル湖に沈められた筈。因みになんだけど、バッドはリューちゃんが好みのタイプだったらしいよ?」

 

 必要な情報と割かしどうでも良い情報の二つがミレディにより開示された。

 

「ウル湖ってウルの町の近くのあの湖か?」

 

「うん。私達が居た時代にはウルディア公国って国が在ったんだけど」

 

 今はウルの町というハイリヒ王国の領地。

 

「で、エグゼスってのは? 見るからに呪われていそうだが……ってか、あれ光魔の杖や理力の杖の同類の武器か?」

 

「その光魔の杖とか理力の杖ってのが何なのかは判んないけど……『魔喰大鎌エグゼス』、使用者の魔力を喰らって力と成す処か斬った相手からも魔力を喰らう大喰らいの鎌だよ」

 

「矢っ張り同類の武器だよな。さっき言った杖は使用者からのみだが魔法力を喰らって攻撃力へと変換する。まぁ、理力の杖は僅かばかりの魔法力を取り込んで僅かな切れ味を齎す程度なんだが、光魔の杖は湯水の如く喰らってオリハルコン……じゃあ判らんか。アザンチウムの塊をも両断する程の攻撃力を与えてくれる」

 

「それは……凄いね」

 

「とはいえ、それも大魔王の魔力量と魔力強度が在ってこそだったけどな」

 

「大魔王?」

 

「魔人族の王の魔王なんてレベルじゃないから、本人は魔界の神すら名乗ってた上に間違い無いって強さだからな。超越者にも近しい存在だよ」

 

 実力はそれこそ間違い無く超越者レベルではあるが、それでも()()()魔族の域ではあったのだから超越者とは呼ばれない。

 

 少なくともユートの常識の中では超越者ではないのだが、鬼眼王形態は魔族の枠組みから出ていて超越者と呼べる存在だったし、ダイの竜魔人に等しい形態も矢張り超越者であったろう。

 

 無論だが強い事は大前提となるものの力の夥多のみが超越者の定義ではない、何故なら力というのは完全な水物であり絶対性が無いからだ。

 

 DBなんて観ていたらよく解る筈、宇宙最強のフリーザなんて云われていながら超サイヤ人になった孫悟空に引っくり返され、そんな孫悟空でも人造人間に引っくり返されを繰り返していた。

 

 超越者の定義は強さと種族の枠組み――殻を破るという事にあり、それが叶ったのならばそれは神と呼んでも差し支えは無い事もある。

 

「それで?」

 

「え?」

 

「僕が決闘を受けるメリットは?」

 

「……ですから、貴方が帝国を好きにしたいなら私を降してからにと!」

 

 ユートは呆れるしかない。

 

 それはまるで……そう、勇者(笑)の天之河光輝と変わらない言動であったからだ。

 

「皇帝だったガハルドが未だに諦めず向かって来るなら決闘も考慮したろう。だが高々、一皇女如きが今更ながらそんな事を言ったからとどうだって言うんだろうな? もうアシュリアーナ真皇国とヘルシャー帝国の戦争は我が方の勝利で終結をしている。エヒトルジュエの使徒共の介入こそはあったが、皇帝はこうして大人しくなって皇太子やその一つ下の皇子も戦死。トレイシー元皇女も一応は第三位の継承権を持っていて二人が死んだからには成程、現在は公式に認められた皇太女でこそ無いが第一位の継承権を持つかもしれない、戦争の真っ只中なら決闘を受けて斃すのも視野に入れるだろうが、今となっては単なる捕虜にしかならないだろうよ」

 

「くっ!」

 

「それに……人質なんて心算も別に無いんだが、アリエル元皇女やアマンドラ元皇妃の扱いが悪くなるだけだぞ? お前が無意味に暴れ出したりしたら……な」

 

「そ、れは……」

 

 ヘルシャー帝国にて皇子や皇女の相互関係とは半ば敵対関係、然しながら自らも言っていた通り末妹のアリエルはまだ幼いからではあるのだろうが自分を慕っていて仲は寧ろ良好。

 

 将来的には関係が悪化した可能性もあったのだろうが、今は単に可愛い妹という認識でしかないから戸惑いを見せる。

 

「た、闘いたいですわ! 私は、貴方と、斬りつ斬られつ、突きつ突かれつ! 組んず解れつして互いの汗と血潮を懸けて交わりたいのですわ!」

 

 闘いの話をしている筈だけど微妙にエロい言動を取るトレイシー元皇女に、その言葉尻を聴いていた雫や香織や鈴が顔を赤らめていた。

 

「おい、元皇帝!」

 

「んだよ?」

 

「お前らはどういう教育をしてきた!?」

 

「ちげーよ」

 

「なにぃ!?」

 

 少し苦々しい表情のガハルド元皇帝。

 

「教育をしなかった結果がコレだ」

 

「威張って言う事か! 教育ってのは大事だよな矢っ張りさ!」

 

 頭を抱えてしまう案件だ。

 

「判った、闘ってやる」

 

「本当ですの!?」

 

「ああ、但し……本来なら元皇女としてアリエル共々に丁重な扱いをする予定だったが、我侭を通すからにはそれがされるとは思うなよ?」

 

 基本的に皇子は斬首なり何なり死罪を申し付ける処だが、リリィは兎も角としてルルアリア元王妃もユートの肉奴隷で済ませた辺りある意味で優しい結末と云えた。

 

 ランデル元王子も文字通り元王子とされたのはリリィからの懇願が有ったから、男としては生かしておけないからユートの【千貌(フェイスレス)】の能力の一つたる【女体化】を施して蟄居、今頃は兵士からの慰みモノではあるが精神崩壊でもしてアヘ顔を晒しながら笑っているのであろう……きっと。

 

 ユートはアヘ顔とかピースとか好みじゃ無いのだけど、需要が有るからそんなシチュエーションも存在している筈だから兵士諸君も愉しい一時を過ごしているのだと思われる。

 

「それじゃ、早速だが始めるか」

 

「ええ、ええ! 始めましょう! 愉しい愉しい殺し合いを! 魔喰大鎌エグゼェェェェスッ!」

 

 元とはいえ皇女にあるまじき言動をしてしまうトレイシーに残念臭を感じていた。

 

「其方がアーティファクトを使うなら此方も使わせて貰おうか」

 

「勿論、構いませんわよ! 私の天職は魔道師、アーティファクト使いですもの! 貴方は貴方の天職に合わせて御使い下さいな」

 

「僕は錬成師ではあるが、別に錬成で闘うなんて心算は無いんだよ」

 

「? それは……」

 

 手にしたのは何らかの機器、漆黒の闇みたいな色を基調として縦に長くなって上部に丸い金縁の中に小さな四角いモニターが付いており、全体的に黒いから判り難いが向かって右下側は黒い持ち手と成っている。

 

「あれはデジヴァイス? Dーアークじゃないみたいだけど……何だったかしら?」

 

「Dースキャナだよ雫ちゃん。商品的にはそうだね……『DースキャナVERSION2.0 ブラック&グレー』をカイゼルグレイモンやマグナガルルモンのタイプにした感じかな?」

 

 通常のは銀縁八角形だった。

 

 因みにブラック&レッドが主人公の神原拓也が持つタイプ、ホワイト&ブルーが源 輝二のタイプで、パープル&ピンクな織本 泉タイプ、ブルー&イエローが柴山純平タイプで、水色&グリーンが

氷見友樹のタイプ、先のブラック&グレーなのが木村輝一のタイプとなっている。

 

 形だけを視れば、木村輝一のDースキャナが云わばカイゼルグレイモンやマグナガルルモンに成れるタイプに進化した見た目、実際に木村輝一は『闇』のスピリットを使うから真の属性が『闇』なユートには相応しい。

 

 尤も、『闇』も使うけど矢張り主に使っているのは『炎』のスピリットだったりする。

 

「始めよう」

 

 ~♪ 重低音で音楽が響き始めた。

 

 曲名『The Last Element』という【デジモンフロンティア】での進化曲の一つ。

 

 ユートの左手にデジコードが球状に絡む。

 

「ハイパースピリットエボリューション!」

 

 主体となるのは『炎』のスピリット、『土』、『木』、『風』、『氷』の合計で五種類一〇個の

スピリットを使う。

 

「ハァァァァッ!」

 

 デジコードをスキャンして一〇個のスピリットと一体化、脚に、肩に、腕に、身体に、顔に装着されるが如く姿を変えていき全身を迸る炎に包まれながら進化をした。

 

「カイゼルグレイモン!」

 

 

DIGIMON ANALYZER

名前:カイゼルグレイモン

属性:ヴァリアブル種

世代:ハイブリッド体

種族:竜戦士型

炎のスピリットを基点に風と氷と土と木のスピリットの一〇個と一体化をした竜戦士型デジモン。

それ故に伝説の十闘士をも越える超越種であり、大地に流れる龍脈の力を体内に宿す。必殺技は龍の魂を封ずる『龍魂剣』から白炎化した矢を放つ『炎龍撃』と、大地に宿る八つの龍脈の力を解き放ち、自らが最後の龍となってその大剣にて敵を討つ『九頭龍陣』だ!

 

 

 

 【デジモンフロンティア】ではシナリオの都合上からか、ロイヤルナイツが相手とはいえ負けが込んでいたけど決して弱い訳では無い。

 

 少なくとも勇者(笑)達よりステイタス値に劣るだろうトータス人を相手に、こうやって披露をする様な力ではまるで無くて過剰な戦力である。

 

 尚、カイゼルグレイモンだった理由は『光』を基点として『雷』『闇』『鋼』『水』のスピリットと一体化するマグナガルルモンが嫌だとかでは勿論無くて、単純に『水』のヒュマーマンスピリットとビーストスピリットはミュウに貸し出されている上に、『光』のスピリットは【リリカルなのは】の主体世界に行く前にとある少女と共鳴、手持ちのデバイスがDースキャナ化して選ばれてしまった為に譲渡したから進化の仕様が無かった。

 

「ある意味でこのカイゼルグレイモンも超越種、故に油断などする事無く掛かって来るが良い!」

 

 それは紛う事無き事実である。

 

「嗚呼、良い! 良いですわ! それではイキましてよっっ!」

 

 ユートの荘厳とさえ云える声を聴いてブルリと恐怖感と武者震いに震え、それでありながら高揚感から震えたトレイシー元皇女は歓喜と愉悦に満ち満ちた表情で、手にした魔喰大鎌エグゼスを構えると一般人では先ずを以て目にも留まらぬ迅さで駆けるのであった。

 

 

.




 そして帝国編がまだ終わらない。




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第102話:ありふれた家族会

 ちょい遅くなってしまった……割に大した内容にはならなかったかな。





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 何故か大音量で流れる『The Last Element』をBGMに闘いが始まり、トレイシー元皇女が両手で確りと喰大鎌エグゼスを構えて遠慮無く攻撃を仕掛けて来る。

 

 戦闘の高揚感からだろうがBGMは特に気にならないらしい。

 

「ハァァァァッ! エグゼスゥゥゥッ!」

 

 ガインッ! 鈍くも甲高い音を響かせながら、弾かれてしまったトレイシー元皇女フラフラと下がりながら踏鞴を踏んだ。

 

「うっくっ! か、硬すぎますわ!」

 

「基本的にデジモンの装甲はクロンデジゾイドというデジタル物質。マグマナモンのゴールドデジゾイド程では無いがそれなりの強度だよ」

 

 一番柔いのがブルーデジゾイド、代わりに軽いので全身をブルーデジゾイドで固めているであろうアルフォースブイドラモン、彼は可成りの迅さを誇る正しくスピードファイターだ。

 

 逆にレッドデジゾイドは硬さに定評こそあるものの酷く重たい、カオスドラモンやスレイプモンなんてその全身を鎧っていながらよく動けるものだなと感心してしまう程。

 

 元はファンロン鉱と呼ばれる鉱物をクロンデジゾイトメタルに精製、更に生物データを配合して合金化するとクロンデジゾイドに変化をするのだけど、色付きのクロンデジゾイトメタルから色付きのクロンデジゾイドが精製されるらしい。

 

 ユートは【創成】により直接的に創り出せるから希少性は何だったのか? みたいな感じだ。

 

 尚、ファンロン鉱を持つ唯一のデジモンというのが読んで字の如くファンロンモンだった。

 

「龍魂剣!」

 

 カイゼルグレイモンの背中に佩かれた大剣が引き抜かれてその手に装備された。

 

「くうっ! エグゼスゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

「無駄だ無駄だ無駄なのだ!」

 

 魔喰大鎌エグゼスの斬撃を龍魂剣にて弾いてしまい、トレイシー元皇女の身体が一瞬の硬直化で動けなくなった処へ腹への蹴りを放つ。

 

「ガフッ!」

 

 瞬間、大量の息を吐いてしまった為に息苦しさから気絶こそしなかったけど頭の中が僅かに真っ白になり、トレイシー元皇女はその刹那には完全にカイゼルグレイモンの姿を見失っていた。

 

「炎龍撃!」

 

 剣先から放たれる白炎の矢をトレイシー元皇女が躱すのも防ぐのも不可能な、本当に僅かな隙を突いた一撃であるが故に……

 

「嗚呼っ!?」

 

 まともに喰らって家か何かの瓦礫にまで吹き飛ばされてしまい、背中からぶつかって勢いが完全に無くなるとドシャリと地面に叩き付けられた。

 

 ほんの僅かな攻防でトレイシー元皇女の敗北が確りと刻まれた形となる。

 

「この化け物め! 殿下、この勇者である俺が来たからに……」

 

 其処へ現れたのは我らが勇者(笑)。

 

「「邪魔」」

 

「だ!」

 

「ですわ!」

 

 そんな彼をカイゼルグレイモンと起き上がったトレイシー元皇女が勇者(笑)をぶちのめす。

 

「はれるや!?」

 

 ある意味で勇者な天之河光輝がおかしな声を上げながらぶっ飛ばされた。

 

「フーッ、フーッ!」

 

 エグゼスを杖代わりに立ち上がるが、矢張りというかガクリと膝を付く。

 

「無理はしない方が良い。先の炎龍撃は手加減こそしたけど可成りのダメージの筈だ。本来であればその腹は無くなっている」

 

「ぞ、存外と容赦ありませんわね……」

 

 女にとって腹はとても大事だ。

 

 男から胤を受け取り自らの胎内で育み産むという行為を行う大切な器官、剣で子宮を貫かれたりしたら大変では済まないダメージだろう。

 

 無くなったらそれこそ大事ではあるのだけど、そうなれば普通は死ぬから気にする意味は無い。

 

「ま、君が子を成せなくなっても困らないから。寧ろそうなればいちいち薬を飲ませずに済む」

 

「……私が御父様、ガハルド元皇帝の血族だからですわね?」

 

「そう。君の母君が皇帝の血族なら矢張り薬による妊娠抑制をさせる事になる。ルルアリア元王妃は血族ではないけど妊娠抑制剤を飲ませているんだけどね」

 

 聞いた話ではルルアリア元王妃は高位貴族家から嫁いで来たらしく、一応はハイリヒ王国の王族と血縁には無いのだそうな。

 

 とはいえ、ハイリヒ王国の初代様はシャルム・バーンだと云われている訳で、つまりそれが本当ならハイリヒ王国は数千年~一万年という歴史を持つ国だという事、即ち貴族家――しかも高位貴族なら王族の血が何厘か混じっていてもおかしくはないのである。

 

 何しろシャルム・バーンは【解放者】であったラウス・バーンの三男坊、オスカー・オルクスの云わば義妹と呼べるコリンを寄り添う相手に生きる事を選んだ少年。

 

 ミレディ・ライセンの処刑にも立ち会っていたのであろうから。

 

 随分と歴史の長い王国だったし、オスカー・オルクスの義妹の血筋を遺していたのをユートは終わらせた訳である。

 

 まぁ、シャルム君とコリンの血筋はリリィの中に残っているのだけれど……

 

「血を残せる皇族は既にアリエルと君だけだし、ガハルド元皇帝には不能の短剣でもブッ刺してやれば子を成せなくなるからそれで」

 

「雑だなオイ! ってか、不能の短剣っていうのは何なんだよ!? 可成り嫌な名前だが……」

 

「不能の短剣ってのはな、刺されると二度と男の象徴が勃たなくなる上に胤を造る機能そのものが欠落する。更にはどれだけシコろうが何も感じなくなってしまうって代物、つまりは命が有っても男としては完璧に死ぬ魔導具なんだよ」

 

「な、何つー恐ろしいモンを……」

 

 余りにも余りな話に戦慄を感じてしまったのはクラスメイト達と同様らしい。

 

「宦官を作るには向いてるだろ?」

 

「かも知れねーがなぁ」

 

 宦官とは後宮――王の妻達が住まう宮で働く男の事を指す官職、当然ながらそんな男が王のモノたる妻や側室を孕ますなどあってはならない為、この官職に就く男は玉も棒も取り去る事になる。

 

 この不能の短剣を用いれば手術無しで宦官へと変えてしまえるのだ。

 

 全く以て嬉しくも無いが……

 

 勃たない射精()せない正に役勃たずなモノになるが小便は普通に出るし、無くなるよりは見た目的にはマシではないだろうか?

 

 宦官は切ってしまい無いのだから。

 

 古い世でも医官など男が後宮に入る必要性は有ったし、どうしても宦官という役職は不可欠なものとして扱われた。

 

 必要性があって高給取りな反面、男のモノを取り払われたとして蔑視もされる複雑怪奇な役職。

 

 ユートが知る中では確か華琳――の父親も宦官だったと聞くから史実の曹操猛徳の方もそうであったのだろう。

 

 勉強は出来たけど歴史に詳しい訳では無かったからうろ覚えな知識だが、少なくともユートとの縁を結んだ曹操猛徳華琳というカテゴリーで云えば姫武将、彼女からじかに聞いた話なのでそれは間違い無い筈である。

 

「はぁ、私負けましたわ……」

 

 何故か有名な回文で敗北宣言。

 

「それじゃ、トレイシー元皇女も降参したんだから始めるか。その前に家族会を」

 

「家族会だぁ?」

 

「そう、彼ら……召喚組の家族との話し合いだ。当然ながら行き成り召喚拉致されたから半年に亘り彼らは大事な息子を娘を……中には弟を妹を兄を姉を、ずっと捜して捜して捜し続けた訳だよ」

 

「む、う……」

 

 勿論というのもどうかと思うが、例外は何処にでも存在しているもので清水幸利の両親は兎も角として、兄弟に関しては特に心配などしていなかったであろうとユートは考えている。

 

 信じているとかでは無く、疎ましい兄弟が居なくなって寧ろ清々したくらいに思っていそうだ。

 

 彼の兄弟はオタクな自分を疎んじていたというを清水幸利本人から聞いた。

 

 事実として兄弟姉妹が居るなら時間さえ許せば来ていた天之河光輝や浩介達の家族だったけど、清水幸利の家族は両親だけで兄弟は全く来ている様子が無かったのだ。

 

 それは清水家の問題だから取り敢えずいとして置いておく、ハジメの両親など仕事こそしていたけど無事を知るまで憔悴していたのだから連中の罪は余りにも重たい。

 

 一部例外を除いて子を思わない親は居ないし、愛情が深ければ深い程に不意に居なくなってしまえば哀しむのだから。

 

 ヘルシャー帝国は殆んど関わりが無かったとはいっても、『エヒト様』を崇め奉るトータス人であるからには結局は迎合をしていた。

 

「だからこそ彼の探偵の科白を借りて言おうか。『さぁ、お前達の罪を数えろ!』……とな」

 

 ポーズもバッチリWでキメる。

 

 決め科白――仮面ライダーで常態化したのは実は【仮面ライダーディケイド】からと遅めではあるのだが、一応はそれっぽい振りは平成第一期の頃からも散見はされていた。

 

 顕著だったのが【仮面ライダー電王】に於ける『俺、参上!』や『千の偽り万の嘘、お前僕に釣られてみる?』や『俺の強さにお前が泣いた、涙はそれで拭いとけ!』や『お前、倒すけど良いよね?  答えは聞いてない!』や『降臨、満を持して……』という各フォームで野上良太郎に憑依するイマジン達の決め科白。

 

 でも【仮面ライダーキバ】では特に有った訳でもないから常態化は次作に持ち越し。

 

 【仮面ライダーカブト】の天道語録もそういうモノの一種ではあるが……

 

「罪……な。聖教教会にでも言えよ……と言いたい処だが」

 

「奴らには既に数えさせたさ」

 

「……だろうな」

 

 それはもぅ、正しく強制的に。

 

「それにハイリヒ王国は先にも言った通りでね、粛清は既に終わってランデルも【女体化】という特殊能力を強制的に付けてやった。今頃はアヘアヘ言いながらニッコリと笑顔でダブルピースでも決めてるんだろうよ。一般兵士の見張り番には好きに使っても構わんと言い含めてあるからな」

 

「そう来たかよ……」

 

 尻を掘られるのも悍ましいが、女に成って貫かれるのも矢張り悍ましい事に変わらない。

 

 ユーキやレンみたいに転生で初めから女としての生を歩めば別だろうし、元より男としての意識がまだ希薄だったギャスパー・ヴラディが長々と【女体化】で少女と成り、ユートとの接触を少女の姿で歩んで徐々に女性側の意識に塗り代わり、少しずつ好感度を上げていったなら或いはとも云えようが、強制的な女性化で、しかも割と直ぐに男のモノで貫かれるのはとても厭な話だ。

 

 黒羽()()()()()みたいに……

 

 準備はあっさりと済んで此方はクラスメイトの生き残り、彼方側は家族会のメンバーが揃っての久方振りな対面となっていた。

 

 通信機器はリリカル謹製の代物なだけに前回と同じく、双方向での多対多による対面が可能となっているからまるでお互いが其処に居るかの如く臨場感に溢れている。

 

「いよいよ最後となる大迷宮攻略の前に時間とかもあるから通信をした訳だが……」

 

〔私達も気を遣って貰って嬉しいよ〕

 

 何だか代表的な立場となった南雲 愁、キョロキョロとしているのは息子を捜しているからか。

 

「あ、悪いんだがハジメは此処に居ない」

 

〔え、怪我でもしたのかな?〕

 

「違う違う。僕らは今、ヘルシャー帝国と嘗ては呼ばれた国に居るんだが……」

 

 嘗て呼ばれたと過去扱いにガハルド元皇帝は額をピクリと動かす。

 

「ハジメは現在、グリューエン大砂漠に移動をして大迷宮に挑んでいるんだ」

 

〔確か、神代魔法を獲得する場所が大迷宮だったと聞いているけど、神代魔法は優斗君が獲得をしているから必要は無いのでは?〕

 

「御尤も。だけどハジメも色々と感じる処があるみたいでね、自分自身で神代魔法を獲たいというのもあるんだろう。恋人との旅行みたいなものだから干渉が過ぎるのも……ね」

 

〔ああ、確か恵里ちゃんだったかな?〕

 

「そう。運命を越えた恋人だね」

 

 大袈裟にも聞こえるが、運命の通りに動いたのが恵里"である事を鑑みて彼女が辿った道程を考えると、確かに運命を覆してのカップリングと云えなくもなかった。

 

 本来なら裏切り行為を働いて檜山大介を手駒にハイリヒ王国へ多大な被害を与えつつ、魔人族→エヒトと鞍替えをした上で神域にて谷口 鈴と最後の決戦をして自爆の流れ。

 

 恵里"自身が中村恵里の行動に驚愕を禁じ得なかったくらいである。

 

 尚、現在の恵里"は【閃姫】契約を交わしているけど本当なら彼女は契約が出来ない、というのも恵里"は非処女――元の原典に極めて近い世界にて『縛魂』した天之河光輝と神域に構築した二人切りの世界でヤりまくっていたから。

 

 とは言ってみても所詮は僅か一ヶ月か其処らの話でしかなく、それなら簡単な事で恵里"の時間を一年くらい巻き戻せば記憶は兎も角として肉体的には処女に戻せる。

 

 このやり方に気付いてからは例えば未亡人とか元彼氏持ちなど、男との性経験を持った女性とも【閃姫】契約を出来ていて便利。

 

 天空世界【ドラゴンクエストⅣ】の時代にて、武器屋トルネコの妻であるネネと寝たユートだったけど、喪うのは惜しい美貌と商人としての能力だったから【半閃姫】として契約をしていたが、現在は存在年代分をトルネコと結婚をする前にまで巻き戻して【閃姫】契約を改めて行ったとか。

 

 では何故に恵里"を一年も戻したか?

 

『若い方が良いでしょ』

 

 などと意味不明な事を言って恵里"に強請られた結果、取り敢えずは一年分だけ余分に巻き戻したからであった。

 

 肉体的な特徴は変わってない、つまりちょっと哀れな事に約一年前から中村恵里の肉体はそれで完成品という事らしい。

 

 本人としては一年前はもう少し小さくて今でも成長の余地は有る……と思いたかったのだろう。

 

 ユートの女になって恵里"が感じたのは嫌悪感でしかない、何故ならば天之河光輝が駄目になったならユートへという、これでは男に縋り腰を振るしか能が無かった毒親(ははおや)と何ら変わらなかったからだ。

 

 それはそれとして、彼方側で天之河光輝に抱かれた時とユートに抱かれた時では圧倒的に後者が満足感も快楽度も上だったのだが、これは二人の下半身のモノの単純な大きさの違いというだけでは決して無く、『縛魂』でYes-man化して恵里"を全肯定をする天之河光輝は謂わば究極的なダッチハズでしかないからか、己自身の全てを以て感情をぶつけ精液を注ぎ込むユートの強い()に何時しか惹かれていたからだろう。

 

 それは兎も角……

 

 恵里"の迎えた最後の光景が謂わば運命という名の原典ならば、此方側の中村恵里は確かに相手も結末も運命すら変えてしまったのだと云えた。

 

〔待て!〕

 

「チッ」

 

 突然の出現というか元から居た金髪男が叫んできたが、鉄板ネタを出せない科白だったから舌打ちをしてしまう。

 

 見た目には厳つい金髪をオールバックにしている無精髭、今までに家族会で見当たらなかったのと明らかに欧米人っぽい顔立ちからアイリーン・ホルトンの兄たるジョージ・ホルトンであろうと当たりを付けた。

 

「アンタは? 家族会での知り合いに海外の人間なんて居なかったと思うがな」

 

〔俺はジョージ・ホルトンだ!〕

 

「そうか、僕は緒方優斗・スフリングフィールド・ル・ビジュー・アシュリアーナ」

 

〔長いな! しかも日本人とは思えない名前だがどういう事だ!?〕

 

「今の僕は一般人で日本国籍の緒方優斗で無く、アシュリアーナ真皇国の真皇たるユートとしての活動をしている最中でね。だからアシュリアーナ真皇国の真皇としての名前を名乗らせて貰った」

 

 古代ベルカでは名前に国名は入らないタイプ、実際に聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトにしても覇王クラウス・G・S・イングヴァルトにせよ、聖王連合国の宗主国を纏めるゼーゲブレヒト家やシュトウラ覇王国の覇王イングヴァルトとしての名で呼ばれても国名ではない。

 

 寧ろ古代ベルカでは王としての名前が普通に使われており、ヴィクトーリア・ダールグリュンの先祖――雷帝ダールグリュンも覇王イングヴァルトと同じ感覚で名を使われていた。

 

 まぁ、ヴィクトーリア曰わく雷帝ダールグリュンの血は僅かに引いているだけらしいが……

 

 尚、オリヴィエは『聖王』と呼ばれる事が多くオリヴィエもゼーゲブレヒトも『聖王』の名が出た【魔法少女リリカルなのはStrikeS】に於いて、『聖王』と呼ばれるのみで本名は一切合切登場してはいなかったりする。

 

〔シンオウとは何だ?〕

 

「古代ベルカ時代に於いてその覇を唱えんとした諸王――聖王、雷帝、竜王、炎王、覇王、天王、剣王、翼王、牙王、海帝といった連中の中に居た王の一人たる真王が諸王の戦争が混迷化してきて民を引き連れバックレた後、無人の世界を開拓していき幾つかの領国を創り上げてから名乗ったのが『真皇』。アシュリアーナ真皇国の皇だ」

 

 とはいえ、名が挙がった幾つかの王は違う時代の王だったから必ずしも闘ってはいない。

 

 例えばガレア王国の『炎王』イクスヴェリアは千年の眠りから目覚めたが、古代ベルカの戦争は六百年前に終わっていて、その頃の王がクラウスだったりオリヴィエだったりするのだ。

 

 また、彼女はその能力の性質から冥府の王――『冥王』とも呼ばれていた。

 

〔いや、ベルカって何処だよ!? ドイツの地域の何処かか?〕

 

「この世界には無いから識らん人間も多いよな。とは言っても識っている人間も居るんだけどね」

 

 目を輝かせる南雲 愁や南雲 菫。

 

「僕は地球人でこの世界では日本国籍を取得しているが、生まれた世界の地球では英国人の父親と魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の母親の間に産まれた英国籍だった」

 

〔……は? 地球人でって、何を当たり前な事を言ってるんだ? 魔法世界? 英国籍だと?〕

 

 意味が解らないジョージ・ホルトンは目を見開きながら混乱をしてしまう。

 

「僕が生まれた世界では『始まりの魔法使い』とか『造物主(ライフメイカー)』とか呼ばれる存在、ヨルダ・バオト・アルコーンが火星の大地を触媒に異相差次元へと世界を創造した。これを魔法世界と呼んでいる一種のヴァーチャル世界だ」

 

「? !?」

 

「VRゲームで云うPCとNPCが混在してて、実体を持ったPCがメガロ・メセンブリア連合国に多くが在籍、NPCな魔法世界由来の亜人達はだいたいがヘラス帝国に所属してるな」

 

 勿論、ヘラス帝国とは無関係な少数部族みたいな亜人達も普通に居た。

 

 栞=ルーナなどフェイト・ガールズだった娘達もそんな少数部族であり、メガロ・メセンブリアの亜人狩りやアーウェルンクス・(セクンドゥム)らによる救済(笑)で寄る辺を喪った者達である。

 

 まぁ、(セクンドゥム)の救済(笑)に(テルティウム)であるフェイト自身も居たんだが……

 

 因みにどうでも良いが、水のアーウェルンクス・(セクストゥム)は当時のユーキの肉体として、フェイトに頼んで持ち出して貰っていたから当然の帰結で現れなかった。

 

 1~6までで唯一の女性体だったから。

 

〔生まれた世界とか火星がどうとか、いったい何を言っている? VRゲームとは遂最近になって開発されたVRストレージマシンの事か?〕

 

 ヴァーチャル記憶システムマシン、顔に装着をする小さなゴーグル型のヘッドギアというVRならば御馴染みな形、ユートが造ったのはユーキが前々世で造ったのと同じ物だったし、ゲーム自体がユートの所持していた【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】を基にコピーした物に過ぎない。

 

「そう、複合企業の財団法人【OGATA】により開発されて発売したマシン」

 

〔【OGATA】……オガタ……緒方! まさか緒方優斗とは!? 財団法人【OGATA】のCEOの名前が確か……緒方優斗だった筈だ!〕

 

 そんなジョージ・ホルトンの叫びにも似ている科白に驚愕した家族会、更に天之河光輝やその他のクラスメイトの生き残り。

 

 というよりか最早、クラスメイトの残りなんて勇者(笑)組が天之河光輝と坂上龍太郎のみしか居ない上、後は永山組と『愛ちゃん護衛隊』で残りの半数以上が既に死亡している。

 

 CEO――最高経営責任者。

 

 米国の制度で本来の日本には無かった言葉だったりするが、現在は一応だが日本でも使われているからそれで意味は通っていた。

 

〔こ、高校生なのにCEO!?〕

 

 白崎智一氏が驚きの声を上げる。

 

「確かに僕は高校生として活動もしているけど、【OGATA】のCEOの他にも様々に活動をしているんだよ。アシュリアーナ真皇国の真皇もその一つだしな」

 

 アシュリアーナ真皇国がどんな規模かは未だに窺い知れないが、少なくとも僅か数年間で頭角を現してトップにまで躍り出る程の非常識極まりない組織の長、どう贔屓目に視ても女関係では全く以て信用がならないとは思うものの、金銭的には間違い無く自らの伴侶を苦労させないだろう。

 

 否、然しだからと言って……白崎智一は我が娘がユートの毒牙に掛かっている事に関して頭を悩ませていた。

 

〔優斗君〕

 

「何ですか?」

 

〔き、君はマイエンジェルと致しちゃっているんだよね?〕

 

「お、お父さんっ! 何訊いちゃってるのかな、かな? ぶっ飛ばしちゃうよ!」

 

 余りな質問に真っ赤になりながら叫ぶ香織だったが、白崎智一氏は取り敢えずスルーしてユートへの質問を続けた。

 

〔そんな君は王様だというけど、君の周りに女性は何人くらい居るのかね?〕

 

「え、さぁ?」

 

〔さ、さぁって……〕

 

「何しろ世界を巡る度に増えているから。しかも一つの世界で下手すると数十人とか平然と増やしているからね」

 

〔……〕

 

 最早、言葉も出ない。

 

「千人は越したんじゃないかな?」

 

〔っづぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!〕

 

 そうなりそうだなと、ユートも予め思ってはいたのだけど矢っ張りキレられたらしくて絶叫を上げながらガシガシと頭を掻き毟る。

 

 将来は禿げそうだ。

 

〔マイエンジェルを、マイエ~ンジェルをキズモノにしておきながら! 君という男は!〕

 

「男なればこそ!」

 

〔誇らしげに言うなぁぁぁぁっ!〕

 

 白崎智一氏はエキサイトするしかない。

 

〔くっ! その千人を越す? 彼女らと手を切るといった選択はあるのかね?〕

 

「あろう筈も無い」

 

 ユートの答えに青筋を立てるが……

 

「若しもそんな選択があるとしたら、切られるのは間違い無く私かな」

 

「なっ!?」

 

 香織の言葉に驚愕して絶句する。

 

「僕の歴史の中で数千年を数える相手だって居るんだ。ならばぽっと出の香織の方が切られて当然だと思うんだけどね……」

 

〔数千年?〕

 

「僕が平行異世界の地球から来た話はしたよね、だけど他にも色々と言っていない事が有ってさ。その内の一つが僕は一度死んで神様に転生をさせられた存在だって話だよ」

 

〔〔神様転生キタァァァァァアッ!〕〕

 

 白崎智一氏との会話の真っ最中に南雲夫妻からの絶叫が上がった。

 

〔まぁ、私達……夫婦は識っていたけど〕

 

「ああ、ユーキから聞いたんだ?」

 

 第一回家族会の開催時にユーキが南雲夫妻に対しては話している。

 

「その際、ハルケギニアという世界に転生をしてトリステイン王国の子爵位たる貴族の家に産まれた訳だよ。愁さんと菫さんはもう知らされていたみたいだけどね」

 

〔トリステイン王国? ハルケギニア?〕

 

〔一昔前の転生者の坩堝とも云えるラノベである【ゼロの使い魔】という作品、その舞台となっている大陸の名前だよ智一君!〕

 

〔ラノベ……ライトノベル、フィクションじゃないのかね!?〕

 

〔転生者の御用達とも云える【ゼロの使い魔】とは素晴らしい話じゃないか!〕

 

〔落ち着け、南雲 愁君! 抑々の話がフィクションの世界に転生とか有り得ないだろうに!〕

 

〔正確にはフィクションの世界観に極めて近しい世界への転生だよ!〕

 

 余りのテンションクライマックスといった感じで理知的なイメージから懸け離れてしまってて、白崎智一氏は元より家族会の仲間達は妻の南雲 菫を除いてドン引きしてしまっている。

 

「愁さん、皆が引いてる。詳しく聞きたいなら帰ってからであれば存分に語るから」

 

〔そ、そうかい?〕

 

 パァッと輝く笑顔はまるでハジメが生きていた事を知った時みたいで、南雲夫妻にとってみれば同じくらいに価値が有るのかも知れない。

 

〔ねぇねぇ、優斗君の事を題材にして漫画を書いても良いかしら?〕

 

「【ゼロの使い魔】の二次創作だったら問題にしかなりませんが、違う異世界といった設定によるオリジナルなら良いですよ。ああ、個人で楽しむのなら構いませんが……それとモデル料とは少し違いますが情報の代金は貰いますよ」

 

〔勿論よ! でも微に細に語って貰うわ〕

 

「了解」

 

 こうして南雲夫妻が落ち着いたので取り敢えず話を続けた。

 

「続きだ。僕はトリステイン王国の魔法学院にて二年生進級時に行われた『使い魔召喚の儀』で、【スレイヤーズ】の覇王将軍シェーラを召喚してしまってね」

 

〔〔え?〕〕

 

 意味を理解出来た南雲夫妻が吃驚する。

 

「僕を転生させて、現上司の日乃森なのはさんがどうやら干渉をして召喚される様に計らったみたいでね。理由は僕の魂に『共生』のルーンを刻む為に精神生命体たる魔族であるのが好都合だったらしく、しかも彼女は第二部で割と早く退場したからやり易いし、覇王将軍は高位魔族だから単純に強いってのもあるからね。『共生』のルーンが互いに刻まれて僕はシェーラと同じ寿命……つまり不老長寿に成ったんだ。それに魂に刻まれているから再転生後も変わらず彼女のマスターで不老長寿の侭って訳さ」

 

〔それは凄いけど……以前に我が家へヴィヴィオって名乗る明らかに【魔法少女リリカルなのは】の関係者っぽい娘が来たんだ〕

 

〔アインハルトちゃんや、何故か【魔法少女まどか☆マギカ】の暁美ほむらちゃんもね〕

 

「ふむ? ヴィヴィオとアインハルトとほむほむが南雲家にってのはユーキが手伝いにでも連れて行ったんだな」

 

 所謂、助手として。

 

〔君が言う上司な神様? 日乃森なのはさん……というのは?〕

 

「お察しの通り、【魔法少女リリカルなのは】に於ける主人公たる高町なのはの事だね」

 

〔何故に日乃森?〕

 

「僕を転生させた現上司の『なのはさん』というのは、別の世界で日乃森シオンという人物と婚姻関係を結んでいるからね。勿論だけど彼女の旧姓は高町だよ」

 

〔ほほぅ!〕

 

 矢張りというか興味津々らしい。

 

〔南雲君、そういう話は彼が戻ってから存分にしてくれないかね?〕

 

〔おっと、そうでしたな。それじゃ優斗君、報告をしてくれるかな?〕

 

「判りました。予め言うと家族会での報告は最後になる予定です」

 

〔最後? つまりは〕

 

「手に入れた神代魔法は六つ、残りは魔人族領に存在する変成魔法のみ。これさえ手に入れたなら後はエヒトルジュエとその眷属のアルヴヘイトを討てば良い。帰る前に連絡くらいはするけど報告をするのは今回限りだね」

 

 すると向こうで『おおっ!』と喜色満面などよめきが響いた。

 

〔ウチのアイリーンも帰ってくるのだな?〕

 

「勿論だ。彼女はエヒトルジュエの召喚と無関係では無いにせよ、召喚陣無しで召喚されているからステイタスが変わらないわ、言語理解すら使えないわと散々だったみたいだしトータスに間違っても残りたがらないだろうからね」

 

 それを聞いたジョージ・ホルトンは厳つい顔を穏やかに胸を撫で下ろす。

 

「現在、アシュリアーナ真皇国の真皇として僕は聖教教会とハイリヒ王国とヘルシャー帝国を陥落させ、亜人の国フェアベルゲンを我が国の領国として取り込んだ。残るは魔人族領のみ」

 

〔〔〔〔〔は?〕〕〕〕〕

 

 意味が解らないとばかりに彼方側の人間は呆けた様な間抜けた声を上げた。

 

〔優斗君がアシュリアーナ真皇国の真皇だというのは先程も聞いたが、それだと君がやらかしているのは謂わば世界征服というやつでは?〕

 

 押さえ付けられていた天之河光輝が激しく首を縦に振っている。

 

「世界制覇が僕の野望では決して無いんだけど、今回ばかりはやるしかなかったのさ」

 

〔そ、それは何故だい?〕

 

「愁さん、国の運営ってのはマフィアや893と何ら変わらない。つまり舐められたら終わりってやつなんだよ」

 

〔そうだね〕

 

 南雲 愁は理解が早い。

 

「さて、大前提として僕は百もの領国と本国を束ねる真皇だ。そんな真皇を拉致して戦争で最前線送りにした聖教教会とその手下のハイリヒ王国とヘルシャー帝国、ならばアシュリアーナ真皇国として果たしてどんな判断が成される?」

 

〔戦争一択だろうね……〕

 

「正解。事実として日本は大分、周辺諸国からは舐められているから可成りアレな話になってる。例えばIWC関連がそうだ」

 

〔国際捕鯨委員会……か〕

 

 元々は鯨の数の調整などを行う為に動きましょうという理念から設立がされた国際組織であり、決して頑なに捕鯨禁止を謳う組織では無かった筈だったのが、今や飽く迄も捕鯨禁止するべきだと謳う連中に牛耳られている。

 

 尚、この世界は未だだがユートの世界では普通に二〇一九年にIWCを脱退していたし、再転生をした地球でもこの問題は起こっていたけどとある理由からIWC自体が空中分解した。

 

〔そういえば最近、捕鯨反対国家――米国や豪州なんかで鯨被害が相継いでいたな〕

 

「きっと各国の海域で二百万頭くらいミンク鯨でも殖えたんだろうね」

 

〔〔〔〔〔〔っ!?〕〕〕〕〕〕

 

 クスクスと嘲笑うユートを見て確信してしまう一同、つまりは何かをユートがやらかしたのだというある意味で信用が出来るから。

 

 某国は『勝手に網に掛かった』とか言って鯨を平然と売るからやってないが、ユートは各国海域へと秘密裏にゲートを設置して約二百万頭にも及ぶミンク鯨を放っていた。

 

 結果、捕鯨反対を謳う国は鯨を殺せないという理由から要らない被害が出ているらしい。

 

〔我が米国にも!〕

 

「喜べよ米国人、鯨が絶滅危惧種だとかほざくから増やしてやったんだ。ざっと全国で二千万頭といった処だな。何なら米国には更に三百万頭ばかり増やしてやるぞ?」

 

〔なっ! 止せ、ヤメロ!〕

 

 ジョージ・ホルトンは叫んだ。

 

 きっちりと雌雄を分けて雄ばかりとか雌ばかりな偏りは無いし、早く間引かないといずれは更に数を殖やしてしまいかねない。

 

〔そんな数の鯨、どうしたんだい?〕

 

「勿論、殖やしたよ。真皇国の本拠地とも云える星帝ユニクロンの内部にインナースペースを形成して、太陽系くらいの広さを持たせて創造をした居住可能惑星の一つに海洋惑星が在ってね。其処には大陸なんて無いから海洋生物を殖やすに持って来いな環境。星その物も重力は地球と変わらないけど大きさは可成りあるから、それこそ微細なプランクトンから巨大な鯨まで様々に生きてる。それ即ち海洋生物の楽園とでも云えるくらいに」

 

 それは農業や酪農などを主目的に行う為に創造した惑星ユニウスセブンと同様のモノ、あっちはそれこそ様々な農業関連で食糧を増産している。

 

 食糧自体は食べる分を除けば全て時間停止空間の貯蔵庫に仕舞い込み、アシュリアーナ真皇国では食糧難は開拓始めから全く起きていない。

 

 何なら惑星トリコみたいなグルメの為の星なんてのも創造して【トリコ】の世界、彼処で獲られた素材を活かす形で一種の移植をしていた。

 

 例えば『ガララワニ』『BBコーン』『リーガルマンモス』『オゾン草』『虹色の実』『フグ鯨』『サンサングラミー』など動植物は元より、『モルス油』や『センチュリースープ』といった自然環境型グルメも再現をしている。

 

 それを思えば鯨が何千億頭くらい何でも無いと云えるであろうし、貯蔵庫の中には鯨の肉だって普通に貯えられているくらいだ。

 

 その気になればアシュリアーナ真皇国の国民が二四時間を食べる事に費やした上で、何百年という年月を過ごしても無くならないくらいの食糧が貯蔵されていた。

 

〔やれやれ、余り吃驚もしていられないにしても矢張り驚くしかないね。然し戦争……か、どうしてもやらねばならなかったのかい? 確かに君を拉致して最前線送りにしようとしたかもだけど、彼らにその事実を話していなかった……つまりは向こうも知らなかったんだろう?〕

 

「本来なら穏便に済ませる為に話さなかったんですけどね、残念ながら穏便に済ませる為の条件が満たされなくなりました」

 

〔……と言うと?〕

 

「簡単に言えば彼女らが僕の元に来る前に全て、七大迷宮を攻略まで済ませていれば良かったんですが、それが単純に僕の実力不足からくる遅れなら情状酌量の余地も見出せます。然し遅れたのは天之河光輝が度重なる邪魔をしたからなので」

 

 ユートの場合はゆっくりと進むなどをしたりもあったけど、それでも想定外の邪魔が無かったら一ヶ月は前に七大迷宮を攻略している。

 

 まぁ、天之河光輝の度重なる邪魔というのを初めから想定しなかった時点でアレなのだろうが、幾ら何でも『天之河の邪魔に備えて急行する』とか言える筈も無いし、ユート自身もそこまで仕事仕事で動きたかった訳でも無い。

 

 更にはトータスの人間――取り分け教会関係や王国に帝国関係、魔人族もそうだけどこれらを庇ってやる義理立てなんか無いのだから。

 

 時間にしても『出来たら面倒にならない程度』に考えていたに過ぎない、何故なら既存の支配体系を破壊して新たな支配体系の創造は面倒臭い。

 

〔最後に訊きたい〕

 

「はい?」

 

〔優斗君は帰って来る気は無いのかね?〕

 

「まさか」

 

 ユートはトータスの知的生命体がエヒトルジュエにより、この大樹ウーア・アルトの存在している大陸にしか存在していない事を暴露した上で、数万年を無人となっていた他の大陸の開拓と入植を行いつつ、ハイリヒ王国もヘルシャー帝国にも別口に王位を持たせて自分は普通に帰る心算である事を強調する。

 

「既にハイリヒ王国は古代ベルカ時代の覇王たるクラウス・G・S・イングヴァルドの末裔に任せているし、年若いからそれなりに経験を積んでいる者を補佐として宰相に付ける。ヘルシャー帝国もまた然りだね」

 

〔そうか〕

 

 今は南の大陸の開拓である程度の指揮を執っているラルジェント、彼女にはアインハルトの補佐に回って貰う予定であった。

 

 ラルジェントにはリルベルトと共にちょっとばかり重要な役割を負って貰うが、そんな役割とて彼女からしたら片手間に出来る程度の事。

 

(ヘルシャー帝国は夜姫に補佐を頼むか。帝位には誰を就けるかね?)

 

 自然と思い至ったのは自身の娘の顔。

 

(クオンにやらせてみるか)

 

 α世界線では違うが、あの世界のβ世界線に於けるユートの娘たるクオンや謂わば【うたわれるものー二人の白皇ー】が終了後に行った世界、其処で出逢った者達を含めてこの世界では亜人と呼ばれる連中に任せるのも皮肉が利いていよう。

 

 それに本来なら上に立つ筈だった者も知り合いには多く居たから。

 

 ユートは自然と口角を吊り上げながら南雲 愁達との会話を愉しむのであった。

 

 

.




 漸くヘルシャー帝国も終わり、シュネー雪原に向けて進められます。




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第103話:ありふれた白皇

 前回に書き損ねた部分を書く為の回です。





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 家族会も無事に終わって通信は切られ彼方側の姿が見えなくなると、堪らず坂上龍太郎の拘束を抜け出した天之河光輝がユートに怒鳴る。

 

「おい、緒方っっ!」

 

「黙れ!」

 

「っ!?」

 

 ちょっと『念』を篭めてやったら震えてしまい後退り、ちょっとした小石に躓いて後ろへひっくり返って頭を打った。

 

「げぶっ!」

 

 当たり所が悪かったのか気絶する。

 

「雑魚が、ちょっとした念能力にすら耐えられないとはな……」

 

「いや、それは無理でしょ。念を防げるのは念のみとか漫画でも言われてるし、念を知らない人間が下手に念を受けたら確か……『極寒の中で裸で居ながらそれに気付いてない』なんて感じになるんでしょ? ピエロが言ってたわよね?」

 

 苦笑いの雫が一応の庇い立てをしてみたけど、ユートはヤレヤレとばかりにリアクション。

 

「魔力でも防げん訳じゃない。抑々にして彼方側――【HUNTER×HUNTER】の世界では魔力自体が認知されていなかったから、念のみを指針として会話が成されているに過ぎないんだからな」

 

「あ、そうなんだ」

 

 流石に予想外という程では無かったらしく雫としては確認程度のものだった。

 

「それで、このヘルシャー帝国を支配するのは誰なんだよ?」

 

「そうだな、ちょっと待て」

 

 ユートはストレージから神様印のスマホを取り出して番号をプッシュ、ユートが量産をしている他のスマホとも電話が可能なのである。

 

「もしもし」

 

〔はい、もしもし〕

 

「トータスには来ているか?」

 

〔うん、(わたくし)達も皆で来てるかな〕

 

「じゃあ、βーαの方が来てくれるか?」

 

〔……了解かな〕

 

「すぐにな」

 

〔うん、すぐ行くよ……()()

 

 一瞬の間……

 

『『『『『父様ぁぁぁっ!?』』』』』

 

 そして絶叫が響き渡ったのだと云う。

 

「え? 私達みたいな【閃姫】じゃなくって娘さんなのかな!?」

 

「だ、誰との!?」

 

「ふわわ~」

 

 地球組が大混乱だが……

 

「……娘ときたか」

 

「どんな人でしょう?」

 

「ふむ、声は中々に可愛らしかったがの」

 

「ムフフ、愉しみだねぇ」

 

 トータス組はミレディも含めて然したる驚きは無かったらしい。

 

 声に出さなかっただけで矢張り娘という事で、優花もちょっと吃驚して出されたお菓子をポトリと落としているし、恵里"もニヤ~リと口角を吊り上げつつ汗を流していた。

 

 そして、矢張りというか永山組は唖然となって間抜けな表情を晒しているし、天之河光輝ですら愕然とした顔でユートを見つめている。

 

 待つ事約一〇分後、長い黒髪を優雅に靡かせる美少女然とした娘がこの場に現れた。

 

「来たよ父様、御久し振りかな」

 

 その頭には人間とは違う獣の如く耳とお尻には長くて白い尻尾がゆらゆら、つまりトータスに於いては亜人族――中でも獣人系とユートが定義をしているタイプの存在だ。

 

「あ、亜人だと!? ヘルシャー帝国を亜人族に任せようってのか?」

 

「確かに亜人(デコイ)だよ、トータス由来では無いがね。皮肉が利いているだろう? 亜人族を貶める事に定評があるヘルシャー帝国の新しいトップが亜人ってのは……さ」

 

「俺はもうトップを降ろされた身だから構わんと言えば構わんが……揉めるぞ?」

 

「ヘルシャー帝国では力尽くこそが正義なんだろう? ある意味で素晴らしいじゃないか」

 

 両腕を横に軽く肘を曲げて掌を上にするポーズで浮かべるアルカイックスマイル、ゾクリと背筋が凍り付くが如く感覚に囚われたガハルド・D・ヘルシャー元皇帝。

 

 更に金髪金眼にまるで女性の様な顔立ちとなるユートは、普段はフツメンを気取りながら今現在は男と解りながら見惚れる程の美貌で、今も皇帝だったならユートを口説いてもおかしくない程にその顔は見た目の細さも相俟って釘付けになる。

 

()に敵うと思うてか?」

 

「……無理だろうな」

 

 第一封印の解除はマスターテリオン化を促す、金髪金眼は彼の大導師の特徴であった。

 

 ガハルド元皇帝が背筋を凍らせる思いに囚われた原因とはユートの美貌だけでは決して無い、マスターテリオン化したユートの放つ覇氣とでも云えるナニかに怯えてしまったのだ。

 

「それで、父様? 私は何故呼ばれたのかな? 取る物も取り敢えず来たけど」

 

「余が呼んだのは其方(そなた)では無いが?」

 

『『『『『『ッ!?』』』』』』

 

 睨むユートにクオンは頭を掻きながら笑みを浮かべて、覇氣と共に放たれた科白にこの場に居たクオン以外の者は驚愕しつつ目を見開く。

 

「え、ヤダな~父様ってば」

 

「いつまでも韜晦するならば……」

 

「むぅ、判った! 判りましたよ! 確かに私は父様に呼ばれたクオンじゃありません」

 

 降参のポーズで苦笑い。

 

「どういう事よ?」

 

「先にも少し話したな? この世界は【ありふれた職業で世界最強】のβ世界線だと」

 

「え、ええ」

 

 勿論、雫も覚えている。

 

「それと同じでクオンが属した世界というのが、【うたわれるもの】と呼ばれていた」

 

「【うたわれるもの】……舞うんじゃなくて待って頂戴、あの作品なら私や香織もPSPでプレイしているけど『クオン』なんてヒトは登場していないわよ?」

 

 香織が肯定する様に頷く。

 

 ユートは瞑目しながらマスターテリオンモードを解除して話し始めた。

 

「それは恐らく【うたわれるもの PORTABLE】ってタイトルじゃないか?」

 

「え、そうだけど……」

 

「これは狼摩白夜――令和の世まで生きた僕の【閃姫】からの情報だが、【うたわれるもの】には続編が二〇一五年に発売されているそうだ」

 

「続編!?」

 

「【うたわれるものー偽りの仮面ー】というそうだが……次いで翌年に【うたわれるものー二人の白皇ー】が発売されたらしい」

 

「二年連続で?」

 

 雫だけでなく香織も驚く。

 

 鈴はどうやら【うたわれるもの】は識らなかったのか首を傾げており、矢張り識らない吉野真央や辻 綾子も同様に首を傾げるしかない。

 

 辻 綾子は野村健太郎に訊ねているが……

 

「形としては前後編という事だったんだろうが、クオンはこの【うたわれるものー偽りの仮面ー】と【うたわれるものー二人の白皇ー】でヒロインとして登場していたらしい」

 

「らしい?」

 

「僕も【うたわれるもの PORTABLE】は一応だけど既知でね、だけど何しろ死んだのが二〇一四年だったから続編に関しては僕も実は識らなかったんだよ。抑々、あの作品自体が悪友に無理矢理やらされたモンだったしな」

 

 ユートは転生前に悪友と呼ぶ友人が居たけど、何故か彼はエロゲーをプレイさせようとしてくるからか、ユートに懸想する白亜達からはたいそう嫌われていたのは言うまでもあるまい。

 

 プレイしたのを【うたわれるもの PORTABLE】と誤魔化したが、実際には【うたわれるもの】の最初に出たPC版こそユートがプレイた物だ。

 

 つまりはエロゲー。

 

「それは兎も角、【うたわれるもの PORTABLE】のエピローグの際に墓の前でオボロが抱いていた赤ん坊がクオンだ」

 

「っ!?」

 

「α世界線でオボロの妹のユズハはハクオロに頼んで『生きた証』を遺した。つまり遺伝子を――自分の子供を……だ」

 

「じゃあ、クオンさんは二人の子供なんだ」

 

「そうなるな。α世界線ではね」

 

「α世界線では?」

 

「α世界線は僕が一切干渉しない、言うなれば極めて原典に近しい世界線だ。そしてβ世界線というのは僕が干渉した世界線を意味している」

 

「それならβーαって何よ?」

 

「β世界線の中のα軸」

 

「意味が判んないわ!」

 

「僕が干渉した世界線の僕が知り得る軸世界で、つまりはユズハに子を産ませたのはハクオロではなく僕でありクオンは僕の実の娘、其処から一切の派生が無い軸世界という意味だね」

 

 どうにも意味不明で全員が頭を抱える。

 

「更に僕は【うたわれるものー二人の白皇ー】の後に白夜が曰わく、【うたわれるものーロストフラグー】と呼ばれる世界観に客人として喚ばれたんだ。そして同じく客人として喚ばれたのは僕が識りながら僕を識らない仲間達」

 

「優斗が識っていて優斗を識らない?」

 

「違う時間軸だったり世界線から来ていたんだ。最たる例では何十年も前のトゥスクルさんが若い姿で現れた時だな」

 

「トゥスクルさんってお婆ちゃんよね?」

 

「ああ、トゥスクルさんというより寧ろあの姿ならトゥスクルちゃんと呼べる。同時期に顕れたのがオンカミヤリュー族の姉で黒翼のカリーティと妹が白翼のクリュー、そしてエヴェンクルガ族のディコトマ。違う時間軸から来ていたから四人の言い分がおかしかったよ」

 

 トゥスクルちゃんはカリーティとクリューに対して『クソムシ』を連呼、然しながらそんな侮蔑を受ける謂われが無いと言うカリーティ。

 

 来る前の時間軸が違ったからこそ起きた違和感であったと云う。

 

「其処に居るクオンはα世界線のβ軸から来てて、それが故に僕の事は疎かハクの事さえ識らなかったからな。因みにハクというのは【うたわれるものー偽りの仮面ー】に於ける主人公だとさ。確かに中心人物だったからな」

 

「あれ? 【二人の白皇】は?」

 

「そっちもハクだけど、偽りの仮面を身に着けてヤマトの國の右近衛大将オシュトルを名乗っての話しだから」

 

「ヤマトの國?」

 

「地軸が随分と歪んでたけど、恐らくロシア辺りに帝が興した大国だよ。トゥスクルが日本列島だったから位置的に」

 

「そうなんだ……うん? トゥスクルって……そっか、トゥスクル國が統一して日本列島が全体的にトゥスクル國に成ったのね」

 

 オンカミヤムカイは変わらず自治区を認められていたりするし、小さな勢力も幾つかは存在していたけど日本列島その物がトゥスクル國というのも決して間違いではない。

 

 此処に来たクオンはハクオロとユズハの娘として生まれ、ハクと出逢う前の時間軸から召喚された彼女は事情を聞いてあっさりユートを『父様』と呼ぶ様になっていた。

 

 何しろ、α世界線でも実の父ハクオロと育ての父オボロの二人がいたのだし、『母様』や『姉様』なんてハクオロと関わっただけ存在する。

 

 今更、見覚えすら無い別世界線の『父様』が増えた処で何ら問題なんて無かった上に、リンネを名乗る同一存在が齎したβ世界線の記憶も獲てしまったらしく、オボロと違って何の血の繋がりを持たない『父様』に友愛でも親愛でも無い愛情を抱いてしまった。

 

 ユートと血縁では無くハクとも出逢わなかったクオン……成程、確かにそういう可能性が無かった訳ではないのであろう。

 

 本来は血縁のクオンを呼んだのに何故か所謂、【ロストフラグ】版のクオンが来たのだから確かに頭を抱えたくなる。

 

 尚、リンネはα世界線でγ軸のクオンであるのだとユートは認識をしていた。

 

 つまりα世界線α軸から分岐した存在。

 

 事実として客人として招かれたクオンとは違い『ハク』を識り、そして『ハク』を求めて時空の旅をしていたのがリンネだ。

 

 そんなリンネとの関係者がルゥナとミトであると名乗るフミルィルとアンジュ、α世界線の存在だから当然ながらユートの事を識らない。

 

 β世界線でのフミルィルとアンジュはユートを識っているし、何ならウルトリィとフミルィルはある意味で親子丼な『戴きます』をしている。

 

 本当の両親が普通に居て、ウルトリィとの血縁が皆無だったとしても矢張り母と娘なのだ。

 

 それは扠置き、世界線と軸世界をギリシア文字で表しているのは某ゲームの影響だったけれど、割と解り易い説明が可能だから特に拘りも無いからその侭に使っていた。

 

 リンネがγ軸とは云ったが、其処まで単純明快とという訳でも無いであろうからいざや説明をするとなると、少なくともその手の知識の無い人間に一から説明するのは大変だから。

 

 何故ならリンネは確かにベースはクオンなのだけど、実は『黒の皇』との融合が成された状態でもあるからだ。

 

 白皇と黒皇の闘いは空蝉と分身の二つに分かたれてから爾来、【うたわれるものー散りゆく者への子守歌ー】で融合して大封印により封じ込められるまで続いていた。

 

 『トゥスクルちゃん』も白皇側で参戦をしていた大戦、白皇は今現在というか『ハクオロ』の姿の侭で変わらなかったけど、実体を持たない黒皇は復活毎に肉体を獲なければならない。

 

 【うたわれるものー散りゆく者への子守歌ー】に於いてオンカミヤリュー族の哲学士たるディー、黒皇は彼の肉体を乗っ取る形によって顕在化を果たしていた。

 

 そしてどうやら黒皇側が勝利したとされている前大戦、あの時にはトゥスクルちゃんの姉である『エルルゥ』の肉体に憑依していたらしい。

 

 尚、『トゥスクルちゃん』の生まれ持って付けられた本名は『アルルゥ』である。

 

 この乗っ取りもウィツァルネミテアに云わせれば願いを叶えた結果でしかない。

 

 ディーは『全知』を求めた結果、黒皇に憑依されて彼が乗っ取れば即ちそれが『全知』となり、エルルゥの場合は恐らくだが生贄とされたものの『死にたくない』と考えて助けを求め、黒皇による憑依でその生命()()は助かった――死ななかったという事なのだろう。

 

「これでもクオンはトゥスクル國の皇女としての帝王学は学んでいた……筈だし、為政者としても充分にやっていけるだろう。しかも僕の世界でのクオンに負けたくないからと同じ修業までやっているからね、実力主義なヘルシャー帝国で力を示すなら幾らでも出来る」

 

 ニヤリと口角を吊り上げて言う。

 

「筈……っていうのは?」

 

「飽く迄も僕の娘のクオンの話で、ハクオロの娘であるα世界線のクオンまでは流石に知らん」

 

 無責任にも聞こえるが、抑々にしてユートが呼んだのは実の娘の――間違い無く帝王学を学ばせたクオンであるのに、ノコノコとやって来たのは血の繋がりを持たない方のクオンだった。

 

 流石に責任は持てない。

 

「だ、大丈夫だよ父様! 幾ら私でもトゥスクルの皇女で大神(オンカミ)ウィツァルネミテアの天子として、決して恥ずかしくない様に教育は受けてるかな」

 

 パタパタと両手を振りながら苦笑いを浮かべるクオン、頬を赤らめながら言う辺りひょっとしたら割と教育から逃げていたのかも。

 

 事実、α世界線のクオンは簡単な算術すら間違えていたくらいである。

 

「まぁ、アインハルトと同じく補佐は付けるから問題も無いだろう」

 

「補佐?」

 

「月嶋夜姫、冥王のパンドラをな」

 

「そんなヒト、ダイコンボイに乗ってたっけ? (わたくし)は知らないかな……」

 

「パンドラは基本的に冥界に住んでいるからな、此方から喚べば普通に来られるよ」

 

「あ、そうなんだね。それなら父様、私としてはネコネも補佐に呼びたいかな」

 

「構わんが……それならもういっその事だし他の連中も喚ぶか?」

 

「他って、私の時代に本来ならば集まっていた筈の娘達? 確かに折角なんだから皆でワイワイとやるのは愉しそうかな」

 

 はにかむクオンは本当に嬉しそうな表情となり綺麗な笑顔を浮かべ、ユートの出した意見に賛成の意を表明するのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アトゥィやノスリ達だけではなくエントゥアやクーヤやサクヤなど、あの世界由来となるであろう者達をクオンに付けてやったのだが、その人数が余りに多かったからか多分に呆れられた様だ。

 

 オプティマスプライムのフライトモードに乗り込んだユート達は、シュネー雪原は氷雪洞窟に向かうべく蒼空を堂々と往く。

 

 ヴァンドゥル・シュネーが自身の神代魔法を遺した場所、それは彼こそが嘗ての魔王の血族にして氷竜人族のハーフであるが故に魔人族領内であったから変成魔法は後回しにされていた。

 

 幾らユートでも人間族の仇敵たる魔人族領内へと最初期から向かう気にはなれず、近場から攻めて往くのを最良としたのは言うまでも無い。

 

 とはいえ、何の準備もしないで敵地も同然たる魔国ガーランドへ向かう心算も無かった。

 

 抑々にして現在のオプティマスプライム内には大迷宮攻略をしない面子も居り、この御邪魔虫とまでは云わない迄も役に立たない連中を何処ぞで降ろす必要性がある。

 

 それは語るまでも無い永山組、正直に云うなら永山組の中でも友人たる浩介は連れて行きたいとは思うが、護衛は必要だったから已むを得ないとばかりに諦めていた。

 

 まぁ、ウルの町に降ろして愛子先生やその護衛をする『愛ちゃん護衛隊』も居るので、実は大した危険も無いのだとは考えている。

 

 特に仮面ライダーシノビの浩介や仮面ライダーキバーラの優花が居る時点で、余程の強者でもなければ真っ正面から太刀打ちは出来ない。

 

 そして現時点で人間族に敵対者は居なくなり、初めから亜人族は敵対者では無かった。

 

 竜人族はクラルスを中心に隠遁、吸血鬼族など既にユエしか存在していない。

 

 とは言っても亜人族自体が大きく分けて二種、獣要素を用いた獣人型とそれ以外の妖精型。

 

 翼人族は鳥の要素の鳥獣と考えるべきだろう、然しながらユートはフェザリアンやハルケギニアの翼人から妖精型に分類している。

 

 つまり森人族と土人族と翼人族、序でに云うと海人族も妖精型としてカテゴライズしていた。

 

 決してTANNOKUN的な魚人では無い。

 

「愛ちゃん先生ってば殊の外、遠慮が無くなってきたわよね」

 

 ウルの町への道中とか言ってみてもそれ程には時間も掛からない為、ユートは【閃姫】達を引き連れて所謂『精神と時の部屋』的な魔導具である処のダイオラマ魔法球に引き篭もっていた。

 

 外での一日が内部時間で三〇日という単純計算で三〇倍に引き延ばされる代物、この中でならば沢山の【閃姫】をたっぷりと愛せる時間が取れるから重宝しており、しかも【閃姫】は肉体調律によりユートと同じ時間を若い侭で過ごせるから、使用に老いるからという理由で躊躇う必要性も無く存分に活用が可能。

 

 現在は優花が二人切りでベッドインしているのだが、既に事は済んでピロートークの真っ最中という訳である。

 

 話題に挙がったのは愛子先生。

 

 当初は正式な【閃姫】と成るのを躊躇っていたのだが、オルクス大迷宮で自身の初めてをユートに捧げてしまって以来、色々と悩みが尽きない侭で今日まで過ごして来たけれど【閃姫】が雪達磨式とまではいかないにせよ増えて、遂には優花の情事まで誤って視てしまったのを切っ掛けにブチギレてしまった。

 

 生徒だから、自分が年上だから、そんな理由で躊躇っていたら次々と追い抜く生徒が居る。

 

 悲しくて口惜しくて涙を流した。

 

 否、生徒ばかりか他にも見知らぬ少女や女性達が次から次へと正に矢継ぎ早で現れる。

 

『私だって優斗君を受け容れてるのに!』

 

 そんな考えが脳裏を過り愕然とした。

 

 何故ならばそれは教師としてあるまじき考えであり、嘗て自分を救ってくれた恩師を裏切ってしまったのでは? と思ったからだ。

 

 そんな愛子先生の気持ちを【閃姫】となっていた香織や雫や優花や鈴、地球組の者達は充分過ぎるくらいに理解をしていたりする。

 

 だからこそ愛子先生が選び易い選択肢を与えるべく話した。

 

 先ず仮に帰っても愛子先生に居場所は無いと、これは前にも話した事があったから可成り理解もしてくれる。

 

 人間とは高潔な者も居るには居るけど、大概の者は腐れた性根の持ち主ばかりであった。

 

 例えば『二大女神』と今の高校で云われている香織と雫、そんな香織に構われているハジメには学校中の男子から怨嗟の篭もった目を向けられ、別に恋愛対象にはならない筈の女子からも何故か睨まれていた始末。

 

 オタクである事がマイナスなのは間違い無い、ユートからしたら実はハジメこそが一番に現実を見据えて動いており、父親である南雲 愁の経営をするゲーム会社の職場でアルバイトをしていて、更には母親である南雲 菫の職場――少女漫画家の仕事にも従事をしていた。

 

 技術は親バカを抜いても充分だと判断されて、その気になればゲームクリエーターでも漫画家でも好きに成れたろうし、上手く売れれば間違い無くクラスメイトの中でも一番に稼げるだろう。

 

 世の中では学歴社会を標榜して何と無く高校を卒業し、何と無く大学を出て、何と無く会社へと就職するだけの人間の何と多い事か?

 

 それに比べれば随分とマシだった。

 

 それは兎も角、そんな人間が弱い立場の相手に対して弱味を見付けたらどうするかなど火を見るより明らか、別に愛子先生が某かをやらかした訳でも無いというのに『召喚』の責任を被せられ、下手をしたら懲戒解雇されてもおかしくない。

 

 それを伝えた時の絶望した表情は……悪いけどちょっと興奮してしまった。

 

 他にも矢張り一年か其処らで終わる筈が無いという戦争を、クラスメイトが甘く見ていた事に関しては意外でも何でも無い。

 

 抑々にして数の人間族に質の魔人族で数百年を膠着状態だった戦争に、ちょっと数値が高い程度の人間が僅か三〇人弱が増えたがらと一気に事が動く筈も無く、上手くいっても一〇年は掛かるであろう大事業となってしまうだろうし、下手を打てば数十年の時が流れても終わらない可能性だってあるだろう。

 

 それを聞いたクラスメイトは真っ青に青褪めていたのが実に嗤える。

 

 奴らはそれを何も考えていなかった。

 

 例えば『失踪宣告』を受けて七年間を生死不明の場合――普通失踪の他にも戦争や船舶の沈没や震災などで行方が判らず一年が過ぎた――には、家庭裁判所が生死不明者に対して法律上は死亡したものと見做す。

 

 仮にそんな法律が存在してなかったとしても、五〇年も戦争に明け暮れて漸く地球に帰還したのだとして、六七歳は既に一般的には大抵の会社で定年退職している年齢であり、然し国民年金などは受け取る資格すら有していないだろう。

 

 親だって八〇歳を越えて下手したら亡くなっていてもおかしくないし、つまりは五〇年も地球に居なかったら最早帰るよりトータスに残留する方がマシになるのだ。

 

 それ処か一生帰還が叶わない可能性も。

 

 ユートからしたら天之河光輝の煽りが有ったとはいえよくもまぁ、あれだけ派手に盛り上がれたものだと誉めてないけど感心はしていた。

 

 バカばっか……と。

 

「そう言えばさ」

 

「何だ?」

 

「奈々と妙子は抱かないの?」

 

 シンとなる寝室。

 

「何でそんな話に?」

 

「あの二人、それなりに優斗への好感度が高いと思ったからね」

 

 宮崎奈々と菅原妙子は優花の友達で、香織と雫……程では無いかも知れないけどその友人としての仲はとても良い。

 

 容姿は流石に香織や雫に劣るかも知れないが、それなりに可愛いから話すのも愉しかった。

 

「直に言われた訳じゃ無いんだけど、私が優斗と仲好くしてると羨ましそうな顔で見ているわ」

 

「それは逆じゃないか? 僕と仲好しな優花を羨んでるんじゃなくて、優花が僕と仲好くしているから僕を羨んでるとかな」

 

 だけど優花は微妙な表情になって明後日の方を向きながら言う。

 

「かも知れないけど、あの子達って前に部屋の外でイチャイチャしたり……キ、キスしたりしたのを見てたらしくってさ」

 

「ああ、偶にヤってるからな」

 

「その話題の時と同じ表情なのよ」

 

「……そうか」

 

 優花は首肯する。

 

「ま、その辺りは追々な」

 

 幾らユートでも【閃姫】の親友だからとて無闇矢鱈と手は出さないが、本当に二人がその気ならユートとしては別に構わなかった。

 

 パサリと優花の背中に掛けられていた毛布が落ちて肌が露わとなる。

 

「優花」

 

「どうしたのよ?」

 

「もっかいスるか?」

 

「……バカ」

 

 話をしていただけだったけど、毛布が落ちてしまい艶姿な優花を視ていたら分身が元気に勃ってしまったのだ。

 

 真っ赤になった優花だったけど疲労も割かし抜けていたし、もう二~三ラウンドくらいであれば付き合えると判断して自ら抱き付くと唇を重ね、翌日の料理当番に支障を来さない程度にユートのモノを胎内へと受け容れた。

 

 尚、優花が数ラウンドで完全にダウンをしてしまった後にユートは、シャワーを浴びて優花の匂いを消してからティオに逢いに行く。

 

 そしてティオをノックアウトして次へ向かうという繰り返し、僅か一日しか使えない暇な時間を三〇倍に引き延ばしてまでイチャイチャするのを坂上龍太郎は茫然自失で見送ったらしい。

 

 因みにだが、矢張り強引に付いて来る事を強硬をしてきた天之河光輝はトレーラーの一番後ろ、荷物すら容れていない部位に放り込んだ。

 

 一日くらい飲まず食わずでも死なないだろうと食料は疎か水すら渡さずに。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 其処は大雪が吹雪く大地に横たわる少女。

 

 褐色の肌という魔人族の特徴を持ちながら決して魔人族では無い、肌も魔人族に比べると褐色が薄い感じだったし肌の色以外に魔人族を表しそうな特徴も見られない。

 

「うっ……此処……は?」

 

 開かれた瞳は翡翠の様な色、センターから分けられた金髪は肩口に届く程度に長いセミロング。

 

「わた……し、生きてる……の……?」

 

 まだ意識が朦朧としているのか辿々しい口調で言葉を口にする少女、彼女の最後の記憶に於いてはどうやら死んでいた筈だったらしい。

 

「はーい、生きてますよ~」

 

「っ!?」

 

 女の子の声が響く、しかも耳朶を打つ声では決して無くて頭に……脳裏に響いてきた。

 

「だ、れ……?」

 

「たった独り切り貴女の存在がいつか世界の全てを変えるかも知れませんね、フフフ……其処に在るのモノは果たして貴女にとっては儚き希望? それとも……見果てぬ絶望でしょうか?」

 

「な……に、言って……」

 

 吹雪の中で鈴を転がす様な声が響くのは判る、然しながら少女には意味在る言葉の羅列には思えない、言語の違いから内容が理解出来ていない野では無く言っている意味が不明。

 

「魅せて下さいな、私に貴女の希望と絶望を! それが貴女を此処に連れ出した対価ですよ」

 

「ど、う……いう……」

 

 どうやら自分の今置かれた現状は彼の声の主によるものらしいが?

 

「クククッ、ウフフフ……ア~ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!」

 

 響き渡る

 

 少女の意識が再び途絶えようとしたその瞬間、まるで燃える様な三眼が吹雪の向こう側へと浮かんだ気がするのであった。

 

 

.

 




 この引きが必要でした。




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第104話:ありふれた要救助者

 唯一、あの七人以外に出せた零の人員。




.

 少女は目を覚ます。

 

 ゆっくりと瞼を開いて翡翠色の瞳が映しているのは、真っ白くて今までの人生にて見た事も無いくらいに綺麗な天井だった。

 

「知らない天井だわ……」

 

 御約束に則った訳では勿論だけど無いのであろうけど、見覚えの無い天井を見るとこんな感想が存外と自然に口を吐くのかも知れない。

 

 先程まで眠っていたからかセミロングな金髪が乱れており、女の子としてはちょっと有り得ない身嗜みの悪さに少し羞恥を覚える。

 

「私、生きてるの?」

 

 ギュッと腕を抱き締める様に絡めた。

 

 其処から感じられたのは温もりと確かな生命の鼓動、この二つが少女に今を生きている事を実感させてくれている。

 

「……あ」

 

 ポタポタと目元から水が零れ落ちた。

 

「うん、私は生きている」

 

 生きている事への実感と生命への感謝が涙を浮かべさせたのだろう。

 

「だけどこれは……ひょっとして誰かが助けてくれたのかしら?」

 

 今までに居た場所が大変な事になって大慌てで仲間や妹と離脱したは良いが、自分はクレパスに落ちてしまって『死ぬ』と自覚させられた。

 

「あれからどのくらい経ったかしら? 助けてくれたのなら敵……では無いと思うけど」

 

 何しろ起きた出来事が出来事なだけに警戒するのは当然である。

 

 シュンと音が響き音源を見遣ると……

 

「目を覚ましたみたいだな」

 

 長身で黒髪黒瞳の男性が何故か半裸で立っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それは数時間くらい前の事。

 

「これは……」

 

「どうしたの?」

 

「ああ、雫か。行き成りオプティマスプライムのレーダーに生体反応が表れてね」

 

「生体反応? って、行き成りとはどういう? 誰かしらが動いていた訳じゃ無いの?」

 

「本当に行き成りだ。まるで界穿――転移魔法でも使ったかの様にな」

 

 『界穿』は神代魔法の『空間魔法』の中に在る魔法の一つで空間転移の魔法、ミレディが曰わく使い手だったナイズ・グリューエンも割と多用をしていた魔法だったとか。

 

 正確にはゲートの魔法とでも云うべきモノで、光の膜を出現させて膜を通ると移動する。

 

 尚、ナイズ・グリューエン本人は『界穿』によるゲート無しでも自由に転移が可能らしい。

 

「厄介なのは『界穿』の場合だと何故か時空振動が起きない点だが……」

 

 まぁ、点と点で繋ぐタイプだからだろうと割かし適当に考えている。

 

「起きたのね?」

 

「ああ、オプティマスプライムに生体反応が顕れた場所のログを調べさせたら極々小さな時空振動が起きていた。しかもこれは通常転移じゃない」

 

「というと?」

 

「時間転移――タイムスリップやタイムリープと呼ばれる現象だった」

 

「なっ!?」

 

 その事実に雫が驚愕に目を見開いた。

 

「タイムリープは過去乃至未来の自分に精神を跳ばすという意味合いが強い、つまり自分が生きている時代までしか行き来が出来ないという制約が在る。僕の【閃姫】にはセーブポイントを作って

其処にタイムリープをするなんて、VRMMOーRPG御用達な死に戻り系能力者が居るんだよな」

 

 セーブポイントを作った自分に精神を戻すという能力者、『リセットOKな人生(リセット&リスタート)』と名付けられたその能力はある意味で可成り強力ではあるが……

 

「うん? それって何だか聞いた覚えがあるわ。確か『リセットOKな人生』って能力で能力者は……桜雨キリヱだったかしら?」

 

「【UQ HOLDER!】だったよね」

 

 雫の言葉に香織が頷きタイトルを言う。

 

「僕の再誕世界では主に【魔法先生ネギま!】と【聖闘士星矢】と【Fate/stay night】関係により構成されていてね、だから未来の続編は僕が識ろうが識るまいがその時になれば必ず訪れるんだ。とは言っても、この三作品共が既存の世界線から外れたのは最早言うまでも無いとは思うけど」

 

 全員が『だろうな』と思った。

 

 【UQ HOLDER!】も御多分には漏れずユートが【魔法先生ネギま!】の時代に動きまくった為、近衛刀太は抑々にして誕生すらしていなかったのに加え、例えば『祝 月詠』は京都で四肢を斬り落としたりしたから執心先が刹那からユートに変わっていたし、『水無瀬小夜子』が自殺をする理由が無くなったりなど影も形も無い。

 

 【Fate/stay night】なんて作品の根幹とも云える『第五次聖杯戦争』が起きなかった、何故ならば【Fate/ZERO】の時代にユートが聖杯を手に入れてしまったからだ。

 

 勿論、第三次聖杯戦争でアインツベルン家による不正は起きて聖杯の中身は穢れた泥と化してしまっていたが、ユートはあらゆる呪詛の無効化をしてしまえる体質を手に入れていたし、強壮たる

【C】の神氣を【C】が干からびるまで喰らい尽くして尚も平然と出来る太陰体質の許容量にて、ユートは泥の呪いを打ち消して大量の純化された根源にすら至る魔力を呑み込んでしまう。

 

 とはいえ、その侭では碌に使えぬ無駄魔力でしかなかったそれを神殺しの魔王――カンピオーネと成った事で権能として扱える様になった。

 

 お陰で都合、一四体ものサーヴァントの召喚が出来てしまったのだから悪くない結果だ。

 

 因みに召喚が可能なサーヴァントの数は元々は七体だったのが、平行世界で第五次聖杯戦争へと参加して新たな聖杯を獲た事で倍に増えた。

 

 今回、特に無関係な話だけどユートが召喚した訳ではないサーヴァントが二体居る。

 

 第四次聖杯戦争に於いて衛宮切嗣が召喚をしたセイバーと、第五次聖杯戦争がユートの召喚したサーヴァント七体と他のマスターの七体によって行われた際、聖杯が召喚したルーラーのクラスのサーヴァントがソレだった。

 

「いずれにせよ、この転移者は転移先を自らが決めて転移した訳じゃ無さそうだな」

 

「……どうしてそう思う?」

 

「HP――生命力が割と凄い速度で減っている。防寒具を身に着けて無いか、着けていても気絶をしていて余り意味を成していないかだろうね」

 

 ユエの質問にあっさり答えるが……

 

「た、大変じゃないですか!」

 

「ウム、のんびりはしておれんの」

 

 慌てたシアが叫んでティオも頷いた。

 

「まぁ、こんな所で死に瀕しているなら魔人族って訳でも無いだろうし……な」

 

 此処は魔人族領だから魔人族は寒い地域であると理解している筈、そんな莫迦な装備でシュネー雪原の近場に来たりはしないだろう。

 

(転移事故の可能性も確かに有るが、それにしても魔人族なら基本的に魔力が高いんだから魔法でも使えば暖は取れる筈だし、自分で転移したんなら再転移すれば済む。こんな状況に甘んじているのは自らは転移が出来ないか、或いは出来るにしても魔力量に不備があるのか……)

 

 瞬間転移呪文(ルーラ)は転移と謳ってはいても実態は高速飛翔による移動呪文、それが故にか大したMP消費も無くてシリーズを追う毎に少なくなり、遂には消費MP1とか訳の解らない状態にまでなっているくらいだが、空間転移であるならば一番簡単な同一世界間移動でもそれなりには消費もしていた。

 

 まぁ、水のゲート魔法を使っていたフェイト・アーウェルンクスみたいな大量のMP持ちだったりすると、お手軽気分で転移が出来てしまうのだから余りよく解らないかも知れないが……

 

「生命反応も大分弱っているから余り時間を掛けると死ぬな」

 

「は、早く助けなきゃ! あ、う……」

 

 香織は叫ぶけど自分に決定権が無いのを思い出して口を噤む。

 

 オルクス大迷宮での契約の一つに在るからだ、この手の決定権はユートが持っていて香織と雫に意見具申は出来ても決定権は無く、ユートの顔色を窺わねばならないのだという現実。

 

「心配しなくても助けるさ」

 

 ユートの言葉にあからさまに胸を撫で下ろしている香織と雫、他のメンバーも矢張り見捨てるのは寝覚めが悪いのかホッとしていた。

 

「坂上」

 

「うん? 呼ばれたってこたぁひょっとして俺に行けっていう話なのか?」

 

「違う、天之河を呼んで来てくれ」

 

「光輝を?」

 

「急げ、余り時間が無い!」

 

「わ、判ったよ!」

 

 急かされて坂上龍太郎は走って天之河光輝が居る筈のトレーラー部へと向かう。

 

 暫くして天之河光輝が来た。

 

「緒方、呼んでると龍太郎から聞いたけどいったい何の用だ?」

 

 長らくトレーラー部に押し込められていたからか御機嫌斜めだったが、ユートからしたらコイツの御機嫌なんてキッパリとどうでも良い。

 

「今、遭難者が見付かった」

 

「っ? 遭難者! なら早く助けないといけないだろうに!」

 

「そうだな、だから……行ってこい」

 

「……は?」

 

「お前が行ってこい、そう言った」

 

 間抜け面を晒す天之河光輝に再度言う。

 

「な、何で俺が!?」

 

「僕とハジメは除くクラスの仲間やトータスの人は守るんじゃなかったのか?」

 

「うっ!?」

 

「まぁ、クラスメイトの大半は守れもしないで死んだけどな?」

 

「くっ!」

 

「ああ、それとも死んだ連中は既にお前の中ではクラスメイトの仲間じゃないのか!」

 

「そ、そんな訳!」

 

「そして遭難者もトータスの守るべき人間では無いと? だから行きたく無いんだな」

 

「ち、違っ!」

 

 ユートの言葉の刃はザックザクと天之河光輝を切り裂いて往く。

 

 正しく心に念じる見えない刃。

 

「ほら、入口は開けたから早よ逝け」

 

「くっ!」

 

 ユートに促されて天之河光輝が開いた入口から下を見遣ると……

 

「うわっ!?」

 

 余りの光景に尻餅を突く。

 

 凄まじく吹雪くのは当然として、その下がまるで底無しの奈落とでも云うかの如くで真っ暗闇、オプティマスプライムの滞空をしているであろう場所が可成りの高さである事が窺えた。

 

「も、もうちょっと降ろしてくれ! こんな高さじゃ飛び降りられない!」

 

「莫迦を言うな、下手にこれより下に降ろしたら遭難者が雪崩に巻き込まれて助かるものも助からなくなるぞ? これでも雪崩を起こさないギリギリを攻めているんだからな」

 

「だ、だが……」

 

「さっさと飛び降りろ。そんなに心配しなくてもメルド元団長のステイタス値でも大した怪我も無く飛び降りれる高さだよ」

 

 天之河光輝は一度はユートのレベルドレインによりレベル1になってしまい、更にはハジメにも劣る初期値にまで数値が下がってしまっていた。

 

 それでもエヒトが与えたステイタスの特殊効果によって、可成りの早い段階でレベルが元に戻ったからステイタス値も以前程では無いが、それでもメルド元団長より三倍以上の高いステイタス値を誇っていたりする。

 

 とはいえ、天之河光輝はメルド元団長みたいな経験値に伴う()()は無くて、飽く迄もパワーレベリングされた促進栽培戦士でしかない。

 

 しかもスキルも既に『言語理解』以外はもう持ってはいなかった。

 

 まぁ、レベルが1では前線には出せないからとエヒトは天職に紐付けたステイタスに隠しスキルとして、恐らく必要経験値減少や獲得経験値増大というのを付けていたのであろう。

 

 何しろ少なくとも二〇年以上も騎士団長としてきっと魔人族とさえ闘ってきたメルド元団長が、レベルで70を越えていないのに温いお散歩的な接待ダンジョンで半年程度の闘いでレベル100に近付くなど本来なら有り得ないのだから。

 

 況んや、一年足らずで最高レベルに? そんな莫迦な事が有り得る筈も無い。

 

 尚、ハジメやユートの錬成師はレベルアップが余りに遅い事から隠しスキルなどは無かい様で、相変わらずエヒトは錬成師という天職が好きでは無い様子であったと云う。

 

 取り敢えず数値だけはメルド元団長より上で、上手く飛び降りれば多少の怪我で済む……というよりも、雪のクッションが利いているから恐らく怪我の一つもしないであろう。

 

 天之河光輝の運が非常に悪ければ骨折をしたりするかもだが……

 

「くっ、うう……」

 

 只管に寒いだけの冷風が吹き抜ける中に在って天之河光輝の額には、それでも冷や汗が留まる事を知らず流れ落ちている。

 

 大陸の最南東一帯を覆っている大雪原で西には『魔国ガーランド』、北には『ハルツィナ樹海』と囲まれている此処『シュネー雪原』は決して晴れる事無き曇天により、まるで常闇の如く闇黒なる世界を作り出していた。

 

 しかも普通に飛んでいるオプティマスプライムは約千mは上、つまり下の様子が全く以て判らない状態で千mをダイブしろと言われている。

 

 尚、原典では一応でも自棄糞ではあるものの飛び降りているのだが、その時は約六百mの絶壁で空力ブーツなる魔導具を装着していた上に風魔法も有るから落下速度を落とせたという、少なくとも今現在の天之河光輝の状況よりはマシだったのは先ずを以て間違い無い。

 

 しかもこのβ世界線の天之河光輝は、α世界線の天之河光輝より弱い上にスキルが無いから飛び降りるだけの果敢さは無かった。

 

 因みに云うとα世界線の天之河光輝はシュネー雪原の時点でフルスペックだった筈。

 

 つまり、レベル一〇〇で全能力が一五〇〇という人間族としては最高値のステイタスである上、技能も阿呆みたいな数を派生も含めて持っていたのだから単純な実力は有っただろう。

 

 限界突破も派生技能の『覇潰』をカトレア戦で修得をしていたし、短時間という制限こそ在ったにせよ全能力が五倍の七五〇〇になる。

 

 そしてこのβ世界線の天之河光輝は技能が無いから最大値で漸く一〇〇〇を越えた程度であり、彼方側みたいな自信など持てる筈が無いからだろうか? 矢張り跳べなかった。

 

「早く跳べ! もう生命反応が可成り微弱になっているんだぞ?」

 

「だ、だけど……」

 

 HPの減少幅はだいたい二〇秒に一Pといった程度だが、元より低くなっていたから減れば減る程に近付く死は一般の常人よりも早い。

 

「だったら手伝ってやろうか?」

 

「ばっ、止せ!」

 

 突き落とされると感じたのか入口から離れている場所まで逃げる。

 

 ピィィィィィィッ!

 

「な、何の音だ?」

 

 それは無情なる機械音。

 

「要救助者の生命反応が途絶えた」

 

『『『『『っ!?』』』』』』

 

 ユートの言葉に全員が息を呑んだ。

 

「途絶え……た?」

 

「阿呆にも解り易く言えば死んだ」

 

 それは誤魔化しも何も無いとてもはっきりとした言葉、この室内に居た全員に聞こえていたから全員――ミレティでさえも――が沈黙する。

 

 そんな死を司る神(タナトス)が呼びそうな静寂を破り裂いたのは矢張り我等が勇者(笑)。

 

「な、何故だ!」

 

「あ?」

 

「何故、見捨てたぁぁぁぁぁっ!」

 

 ユートは呆れた。

 

 そして雫でさえ勇者(笑)を蔑みの篭もった目で視ていて、香織は頭が痛そうな表情となりながらも何とか(かぶり)を振って誤魔化す。

 

「結果としてはそうなったけど、抑々にしてお前に行けと言っても聞かなかったからだろうに? さっさと行っていれば要救助者を助けられたんだからな。クラスメイトもトータスの人達も助けて見せるとか息巻いておきながらこの体たらくで、何処をどうしたら僕に文句を言うなんて選択肢になるのか是非とも聞きたいな。それとも要救助者はお前が助けるトータスの人達の範疇には入らなかったのか?」

 

「煩い! お前がたす……」

 

「アークエネミー!」

 

「あじゃぱぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ユートの魔力を篭めた拳が天之河光輝の鳩尾を突き破る勢いで貫くと、天井にぶつかって跳ね返り頭から床へと激突をしてしまう。

 

「元より期待はしてなかったから敢えて期待外れだの失望しただのとは言わんが、せめて自分自身の行動には責任を持って欲しかったというのは、果たして僕の贅沢な悩みなんだろうかな?」

 

 最早、蔑むのも面倒臭くなったユートは開かれっ放しの入口に足を掛けると……

 

「I Can Fly!!」

 

 などと叫びながら跳んだ。

 

 幸い? アークエネミーで気絶していなかった天之河光輝はそれを見て絶句する。

 

 全身を苛む寒さにも底が見えない落下にも全く怯まず跳べる胆力、実行してしまえる身体能力は天之河光輝にも理解が出来るくらいの高さ。

 

 天之河光輝は我知らず、ユートの居なくなった入口を睨み付けギリリッと奥歯を噛み締める。

 

 それを見つめる雫はやれやれと出来の悪い弟でも見る気分で(かぶり)を振った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「見付けた」

 

 始めから近場に滞空をしていただけあってか、簡単に死亡した元要救助者を見付け出す。

 

「褐色の肌は魔人族の種族特性らしいが、どうやら彼女は日焼けに近い肌だな。人間族なのは間違い無いと思うけど……」

 

 お姫様抱っこから荷物を肩に担ぐみたいな形に持って行き、少女の重みを感じながらオプティマスプライムの在る場所まで移動をしたユートは、バッとジャンプをしてから舞空術にて宙を舞うと殆んど間を置かず入口にまで戻った。

 

「優斗! 彼女が要救助者だった?」

 

「ああ、今は死亡していて寒さも相俟ってか死後硬直と冷たさを感じるよ」

 

 雫からの質問にユートが淀み無く答えると次は香織が訊ねてくる。

 

「それで、御遺体は埋葬を?」

 

「否、蘇生させる」

 

『『『『『『っ!?』』』』』』

 

 全員が驚愕した。

 

「蘇生だと! そんな事が出来るんならクラスメイトを生き返らせるべきだろう!」

 

 そして案定の天之河光輝節である。

 

「生き返らせたいなら『死んで間もない傷が殆んど無い遺体』と一人につき一〇億円を用意しろ」

 

「か、金を取る気か! しかも一〇億円とか莫迦みたいな大金を? 恥を知れ!」

 

「生き返らせたいなら『死んで間もない傷が殆んど無い遺体』が必要だと言ったにのも拘わらず、金の事にしか言及をしないとは相変わらず自分の都合が悪いと華麗にスルーをするんだな?」

 

「誤魔化すな!」

 

「誤魔化してんのはお前だろうが! 金云々の前に遺体を持って来いっつってんだよ糞之河!」

 

「なっ!?」

 

 飽く迄も『遺体を持って来い』と言われてしまうと反論も出来ない。

 

「ま、クラスメイトの遺体なんてオルクス大迷宮の六五階層でグチャグチャな挽き肉や焦げ過ぎた焼き肉状態、しかも腐れ果てて大迷宮の養分化したみたいだから持って来れないか」

 

「っ! 緒方ぁぁぁぁあああっ!」

 

 クラスメイトを貶したからか或いは自分が貶されたからか、恐らく後者だろうが叫びながら殴り掛かって来る天之河光輝。

 

「チッ、遺体が見えないのか不埒者が」

 

 それは後ろ回し蹴り……龍の尻尾を思わせるというその蹴りの名は龍尾脚、単純にとある小学校の校長先生が使っていたのを視たから覚えたってだけの話だが兎に角、顎に踵による蹴りを喰らった天之河光輝は堪らずダウンした。

 

「ゲハッ!」

 

「お前の意見なんか聞く気は無い」

 

 それが善き意見ならまだしも、単なる感情論から来る刹那的な意見と呼ぶのも烏滸がましい文句など、ユートとしては聞く価値を全く見出せないのだから当然だろう。

 

 思えば最初から天之河光輝はそうだ。

 

 ハジメに対する態度も結局は『気に入らない』という感情からである。

 

 例えば特に優しく声を掛ける香織、それが気に入らないから不要な文句を言っては溜飲を下げているのがバレバレ。

 

 意見なんてモノではなく、気に入らないという自身の感情の吐露にしか過ぎない。

 

 勿論だがユートだってそこら辺は変わりない、だけど自身の感情を排してでも他者の言葉くらいは聴くし、仮に天之河光輝が気に入らない人間でも()()()()()()()()()耳を傾ける。

 

 今回の件ならば死んだクラスメイトを生き返らせろ……だが、せめて対価の一〇億円は兎も角としてもクラスメイトの遺体を持って来るでも無く只々、生き返らせろと喚くだけの聴くに堪えない言葉の羅列に耳を傾けるなど時間の無駄だった。

 

「それでそれで! ゆう君はホントに死者蘇生とかが出来るの? ミレディさんが昔の【解放者】で生き返らせたのは聞いてるけどさ!」

 

 何だか不謹慎ながらワクワクが止まらない感じに訊いてきた鈴。

 

「そうか、ライセン大迷宮からの仲間やティオには話していたけど鈴にはちゃんと話していなかったよな。見せたのはライセン大迷宮組だけだし」

 

 ミレディ・ライセン復活劇はライセン大迷宮で行われたし、後に仲間入りをしたティオは話しだけは聴かされていても実際に見てはいない。

 

「だけどこの子の復活は見せられない」

 

「え、何で?」

 

「はっきり言うと正常な人間には視るに堪えない姿になるからだ」

 

『『『『『『視るに堪えない!?』』』』』』

 

 全員が首を傾げてしまうのも無理は無いけど、ユートとしてはちょっと見せられない姿だ。

 

「抑々にして優斗はどれだけ蘇生手段が有るのか訊いても良いかしら?」

 

「それは構わない」

 

 雫からの言葉に頷く。

 

「先ずは蘇生呪文。DQならザオラルやザオリクがそれだし、Wizardryならディやカドルトだな。FFだとレイズやなアレイズ、メガテンだとリカームやサマリカーム、テイルズだとレイズデッドだけどアレは死者蘇生が出来る訳じゃ無かった。スターオーシャンも同じ名前で効果も変わらん。他にもHP0で復活させる魔法は色々と存在している訳だが……いずれにしても遺体が存在していて魂と肉体の繋がりが残滓でも良いから残っていないと使えないし、余りに酷いダメージだと仮にゲームでは一〇〇%の成功率だろうと失敗する。Wizardry系だと失敗は灰化と消失だから更に厳しいと言わざるを得ない」

 

 それを聴いてシンと静まり返る。

 

 【Wizardry】とはファミコンすら開発されていなかった遥か昔、パソコン――というより当時だとホームコンピューターで出来たダンジョン探索型のRPGであり、プレイアブルキャラクターは

スタート時点で用意されたデフォルトキャラ以外だと全てプレイヤーが作成する必要があった。

 

 そして死の概念が割とシビアで蘇生に失敗をしたら灰化(アッシュ)、更に失敗してしまうと消失(ロスト)として完全に居なくなってしまうのだ。

 

 上位呪文のカドルトでさえも失敗するだけに、下位呪文のディは成功率が可成り低い。

 

「いずれにせよ、僕のゲーム系蘇生方法は特殊なルールに基づいて揮われるから使えない」

 

「あ、パーティ制ね?」

 

「そう。あの迷宮離脱呪文みたいなパーティによる制限が蘇生関係にも適用される」

 

 オルクス大迷宮に於いて、愛子先生とは違って香織と雫はパーティ加入が出来なかったが故に、迷宮離脱呪文(リレミト)の範疇外として共に離脱させる事が叶わなかった。

 

 それと同じで、回復系は使えるのに蘇生呪文は何故かパーティ非加入者に効果を及ばさない。

 

 しかも回復系にしてみてもランクが下がってしまうので、ホイミは殆んど役立たずに成り果ててベホイミやベホイムで各々ホイミとベホイミ級の回復率、ベホマでさえベホイム級でしかないからパーティ外の人間への回復は少し面倒臭かった。

 

 仮に蘇生呪文が使えても恐らくザオラルは役に立たないレベル、ザオリクでさえ果たしてゲームのザオラルと同じかどうかの自身が持てない。

 

 この制限は恐らくユートが強化され過ぎたから一種の意志が掛けたモノ、内容的にはユートによるゲーム知識や常識を基に構築されたのだろう。

 

 ゲームに於いてパーティ外の者に攻撃以外を行う機会は滅多に無いから。

 

 因みに攻撃呪文は普通――ユートの魔力強度に比例した――の威力である。

 

 こればかりは親和性も仕事をしない。

 

「他には僕がハーデスから神氣を奪って手に入れた権能、一二時間限りの生を与えるモノと冥衣を与えて冥闘士に作り替えて僕の部下的な扱いでの蘇生だな」

 

「一二時間限りって、死んだ黄金聖闘士に施されていたやつだよね?」

 

 それなりにサブカルチャーの知識を持っている香織が問うて来る。

 

「そうだよ。まぁ、OVAでは白銀聖闘士も居たんだけどね」

 

 権能はイメージによって変わる事もあるらしいからか、ユートの獲た都合三回分の冥王ハーデスの神氣から構築された権能は『冥衣を創造する』と『一二時間の蘇生』と『冥界の創造』だった。

 

 尚、『冥衣の創造』は一〇八の魔星っぽい名前ながら百八個を越えて創造可能で、単なる雑兵なスケルトンの冥衣ならそれこそ万を越える。

 

「そして後者の【天輪する一〇八の魔星】というの権能が在る。これで冥衣を創造して与える事による蘇生なんだけど、この場合だと僕の眷属としての蘇生なんだよな」

 

 つまり、今は御遺体な彼女にスケルトンの冥衣でも与えれば蘇生は叶う……但し、ユートの眷属として括られてしまうのは不可避となるが。

 

「何か問題が?」

 

「男であったり元より夫を持つ女性だったりなら特に問題はないんだが、未婚女性であった場合は僕の世界間移動に逆らえない。近場なら兎も角としても、遠距離となれば完全に移動をせざるを得なくなってしまう。どうも権能が構築された際に眷属となる未婚女性=主のモノみたいな要らない設定が組み込まれていたらしくてね、僕らしいと云えばらしいんだが……」

 

「ひょっとしてそうと判る事象が?」

 

「まぁね。男の冥闘士はケレリスとクライドだけだから何とも言えないが、結婚していて夫を持っている姫島朱璃はその世界に置いていけたけど、再誕世界で冥闘士にした娘らは僕の移動の際には自動的に冥界で待機状態だった」

 

 ケリーは置いて行けていたが、朱璃と同じくで喚ぼうと思えばいつでも喚べる状態だったのに、彼女ら――【11eyes】世界由来で冥衣を与えていた『天魔星アウラウネの栞』『天孤星ベヒーモスの雪子』『天罪星リュカオンの美鈴』『天哭星ハーピーの菊理』は間違い無く冥界に居た。

 

 他にも始めから冥界で仕事をしていたから判り難かったけれど『天英星バルロンのカレン』――カレン・オルテンシアや、元夫持ちながら立場的には未亡人な『天雄星ガルーダのアイリスフィール』――アイリスフィール・フォン・アインツベルンも普通に移動していたのだ。

 

 とは言っても、今挙げた中でアイリスフィール以外は一応だけど【閃姫】だったから判らないでも無かった。

 

 問題だったのは『地妖星パピヨンの響子』――須藤響子である。

 

 彼女は男に対する憎しみと恐怖心から【閃姫】契約に踏み切れずに居たのだが、【カンピオーネ!】世界に習合されていた【風の聖痕】世界の人間でありながら自動的に【ハイスクールD×D】世界に移動、更にユートの再誕世界にも移動をさせられていたのだ。

 

 響子と同じ世界出身である『天刃星パラドキサのラピス』――ラピス・ラズライトは、また別の理で動く存在だったから置いとく。

 

 尚、アイリスフィールは【閃姫】契約していなかっただけで関係は持っていたし、何なら娘であるイリヤスフィールとガッツリ丼していた。

 

 因みにだけど、再誕世界時点では未来に於ける『天猛星ワイバーンの奏』――天羽 奏や『天貴星グリフォンのセレナ』――セレナ・カデンツァヴナ・イヴが世界移動をしていたが、その世界にもユートが居たから移動出来たのか或いは移動だけなら可能なのか検証してはいない。

 

「だからもう一つの方法を使う」

 

「もう一つ……それがさっき言っていた見るに堪えないっていう?」

 

「男には絶対にやらないし、女性が相手でも気分が良いものじゃないから絵面的にも見せたくない類いの手法だ。だから部屋に戻って一人で行う」

 

「それは了解したわ」

 

 ユートが移動をしようとしたら今まで角度から見えなかったらしい遺体の顔が見えたらしくて、それを見たミレディが大きく目を見開いて驚愕をしながら叫んだ。

 

「嘘っ! スーちゃん!?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 そして冒頭の時間に戻る。

 

「スーシャ・リブ・ドゥミバルで間違っていないよな?」

 

「……何故、私の名前を?」

 

「警戒するのは判る、君の嘗ての境遇を鑑みれば当然だろうね。加えて僕は半裸で君はスッポンポンな真っ裸、相手が男となれば当然ながらソレを疑うだろう。結論から言えば最後まではヤってないけどキスをしながら裸で目合(わぐわ)ってはいる」

 

「っ!」

 

 それを聞いた途端に涙が零れるスーシャ。

 

 椅子に座り両手は太腿に拳で押し付けていて、顔を伏せてボロボロと溢れる涙が太腿を濡らす。

 

 些か古い考え方な所為か、好きな相手が居ようとも肉体的な接触をしたら他に嫁げ無いと考えてしまったのだろう、どちらにせよその御相手は既に墓の下ではあるのだが……

 

「一応、救命措置だとは言っておく」

 

「救命?」

 

 ユートは説明した、スーシャは助けに行く前は生きていたけど残念ながら救う前に死亡をしてしまい、蘇生をする為に先程にも言った手法を取ったのだという事を。

 

「素っ裸で抱き合うのは素肌での接触をしないと軽い抵抗で上手くいかないから、キスは口移しで生命エネルギーを補給する為だな。性行為にまで及ばなくても出来るから其処までヤらなかった。とは言え、ヤればもっと早く目覚めた筈だけど」

 

「そう、ですか……」

 

 この遣り方は端から視ると死体を抱き締めながらキスをするアブノーマルな行為に他ならない、謂わば屍姦をやらかしているのと何も違わないのだから当然の事。

 

 蘇生すれば温もりや柔らかさや息遣いが戻るから気持ち良くなるが、それまでは死後硬直でガチガチで血の巡りも無いし冷たいし息もしてない、流石にこれでは如何なる美少女でもユート的には勃たないのだ。

 

 スーシャがユートの股間をふと見遣ると其処には勃起した男のモノが……

 

「生き返れば普通にこうなるんだよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 未だに裸で健康的な褐色の肌を晒していたのを思い出し、更に男のアレまで視てしまった羞恥心からか思わず赤らめながら顔を背ける。

 

 じんわりとお腹の奥が熱くなって何故か股間から液体で湿り、そして全身が熱くなるのに時間が掛からなかった。

 

「それとこの方法で蘇生すると暫く種の保存的な欲求から性欲が増すから」

 

「っ!?」

 

 確かに、好きな男への顔向けが出来なくなったからとはいえ見知らぬ男、しかも蘇生の為とはいえ顔向けが出来なくなる理由を作った相手に対して『欲しい』と思える異常性。

 

「暫く経てば治まるから我慢してるしかないし、取り敢えず話を続けるぞ」

 

 生殺しな状態で話を聴かされるらしい。

 

「大前提としてこの世界は君が本来に生きていた時代から約数千~一万年の時が過ぎている」

 

「……は?」

 

「【解放者】は大迷宮に試練と神代魔法を遺して死んだ。リーダーのミレディ・ライセンだけは、エヒトとの契約に基づき公開処刑で火炙りとなって魂をゴーレムに移し、この一万年を越えた時間をたった独り切りで存在してきた。君の名前に関してはそのミレディから聞いたんだよ」

 

 クレバスに落ちそうになっていた自分、それを助けようとする妹のユンファと危ないと止めようとする大人達……

 

『スー姉ぇっ! 待ってて、今助けるから!』

 

『来ないで! ……あの人を、頼むわね』

 

 ユンファが巻き込まれない様に自ら手を放してクレバスへと消えた自分、其処からの記憶は途切れていてそれで死んだと思ったが、暫くは生きていてぼんやりと意識も残されていたのを思い出して同時に……

 

「赤い……燃える様な三つの眼?」

 

 完全に意識を失ってしまう前に見えた異様なる光景と、『希望と絶望』という謎の言葉を思い出して口にする。

 

「矢張り這い寄る混沌の仕業か」

 

 どうやら見知らぬ男はソレが何なのか理解をしている様子だった。

 

 

.




 次回はスーシャの願い事を叶えつつ氷雪洞窟に行けたら良いなぁ……




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ありふれIF――デジモンテイマー優斗

 本編がまだ書けてないから適当に書いていた噺をIF扱いで投稿、タイトル通りユートがテイマーに成った際の噺になります。







.

 アリス・マッコイ――ワイルド・バンチという集まりに参加してた一人、ロブ・マッコイの孫娘に当たる金髪碧眼でツインテールな美少女。

 

 成熟期でワクチン種なドーベルモンと共に現れた彼女、正式なパートナーでは無く単純な道案内として来たらしい事が会話から窺えた。

 

 今尚もデ・リーパーの脅威に晒されてしまっている地上、それを救いたいと願うテイマーズの想いも虚しく完全体にまでしか進化が出来ない。

 

 融合究極進化とはデジモンとテイマーの双方がデジタル存在でないと成立しない、そんな彼らへ四聖獣達はデ・リーパーの最も進化した部分との闘いを担うとして力を齎した。

 

 デジタル・グライド、簡単に云えばテイマーを一時的にデジタルワールドに居た時みたいな形にデシタライズする力、これをドーベルモンが体内に持たされて自らを分解する事で与えたのだ。

 

 自問自答し究極体へ融合進化するテイマーズ、デュークモンとセントガルゴモンとサクヤモンの三体の究極体がデ・リーパーと闘う。

 

 そして今まではパートナーを持たず、だからといってクロスローダー内のロイヤルナイツを使うでも無く、Dースキャナ内のスピリットを使うでも無く自身の肉体で闘って来たユートはこの千載一遇の機会を待っていた。

 

 Dースキャナを手にしたユートは……

 

「デジコードスキャン!」

 

 分解されたドーベルモンのデータをデジコード化してスキャンする。

 

 本来ならデジタマに戻るけどこの世界ではそれが無く、驚いているアリス・マッコイが視ている中でユートはデジコード内のドーベルモンのデータをサルベージし始めた。

 

 空中モニターを見ながら仮想キーボードを叩き続ける姿に、アリス・マッコイは祖父たるロブ・マッコイを思い出してしまう。

 

「お祖父ちゃん……」

 

 そんな呟きが耳に入るもサルベージを続けているユートは、デジモンの謂わば魂とも呼べるであろう電脳核を無事に再構築した。

 

 然しながらドーベルモンを構成していた根幹とも云えるデータは殆んどが散り散りに霧散して、少なくとも成熟期デジモンとしての再構築は断念をするしかない。

 

(……となると、成長期だな)

 

 流石に幼年期Ⅰや幼年期Ⅱではどうにもならないから、成長期を最低限に設定して再構築をする事を決めたユートはキーを叩き続けた。

 

(X抗体を与えて足りない分を補うか)

 

 無理矢理に補うから直ぐにはゼヴォリューションは不可能だろうが、時間が経ってX抗体が馴染めばその内に出来るであろう。

 

 モニターにはデジタマが映っている。

 

 デジ・エンテレケイアという進化を促す力――クルモンという見た目に幼年期のデジモンが存在するが、それこそ四聖獣のチンロンモンが願った結果としてデジノームがデジ・エンテレケイアにデジモンの躰と意識を与えてリアルワールドへと逃がしてしまった。

 

 彼が先のデジタルワールドで行った進化の光の放出、それによってデータが揃った為に人為的なデジ・エンテレケイアの力を再現が叶う……のはもっと先の話で現在はクルモンから得た光を使う。

 

 デジタマがパカッと割れてまるでスライムみたいなデジモン――ズルモンが誕生した。

 

「デジ・エンテレケイア照射」

 

 とは言ってもまだまだデータ不足だった上に、クルモンみたいな常に使える力でも無い。

 

 クルモンも別に意識して使っている訳では無いから常には使えないが……

 

 エンテレケイアとは即ち、可能性を実現して目的へと到った状態を指している。

 

 つまりデジ・エンテレケイアとはデジタル的に可能性を現実化する力を意味し、転じて進化の力として名付けられたモノであった。

 

(そういや彼奴らは『完全なる世界』と称して、コズモエンテレケイアとか名乗っていたな」

 

 コズモは小宇宙の事、エンテレケイアが可能性を現実化するという意味からユートは阿呆を視る目で『引き篭もり増産機』と口にしていた魔法。

 

 要するにたった独り切り、そいつの存在が世界の全てとなって眠り続ける大魔法だからだ。

 

 組織名と大魔法の名前が同じだから、盛大なる『引き篭もり隊』として呼んでやっていた。

 

 まぁ、最早それはどうでも良い。

 

 デジタマから孵ったズルモンなる幼年期Ⅰというデジモンから、パグモンという幼年期Ⅱとされるデジモンへと進化をする。

 

 そして更に進化してガジモンに。

 

「良し、成長期に進化をしたな」

 

 ガジモンはウィルス種だったりするのだけど、ワクチン種なドーベルモンに進化する。

 

 別に珍しい訳ではない。

 

 例えば松田啓人のパートナーであるウィルス種のギルモン、これだって実は黄色いデータ種というのが存在しているくらいだ。

 

 それに【デジモンアドベンチャー】の主人公な八神太一のパートナーであるアグモンにしても、ワクチン種のグレイモンという成熟期デジモンからウィルス種な、スカルグレイモン何ていう骨太なデジモンに暗黒進化をしていたくらい。

 

 あの物語としては誤った進化とされていたが、謂わば携帯ゲームのデジモンとしてはどんな進化も可能性として正当、決して間違った進化をしている訳では無いのである。

 

「さて、次は現界(リアライズ)させないとな」

 

 人間をデジタルワールドに送り込む際は本人が気付いてなかっただけで情報化――デジタライズが成されており、デジモンを人間界に現界させるには疑似蛋白質で構成された肉体を与える所謂、リアライズをしなければならない。

 

 尤も、今回はユートが設定した疑似デジタルワールドという小さな世界にデジタマを据え置き、其処で孵した訳だから大した処理も必要無く現界が出来る様になっている。

 

 既にデュークモン達はデ・リーパーとの戦闘を始めているから急がないといけない。

 

《REALIZ!》

 

 電子音声が響くとガジモンが顕れた。

 

「さっき振りだな、ドーベルモン……じゃなくて今は成長期でガジモンか」

 

「君は確かテイマー達の仲間」

 

「ああ、パートナーデジモンが居ないから僕自身はテイマーじゃないけどな」

 

 ユートは別の世界で手にした神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれているモノ、それを敵から強奪をして手に入れていてちょっとした力を得ていた。

 

 『魔獣創造(アナイアレイション・メイカー)』。

 

 魔獣を簡易的な生命体として創る神器であり、オリジナルの持ち主のレオナルド君は大した魔獣を創造出来ずに、対悪魔用魔獣とバカデカいだけの魔獣を創造するのが精一杯。

 

 然しユートは手にした途端に禁手に至った上、何処ぞのイケメン剣士の如く聖と魔を併せ持った存在――聖魔獣を創造が可能となる。

 

 『聖魔獣創造アナイアレイション・メイカー・ハイエンド・シフト』であった。

 

 ユートはこの力で最初に王宮聖騎士団を、即ちロイヤルナイツという聖騎士型デジモン達を創造してやったのだ。

 

 その合計は一三体。

 

 本来は『孤高の隠士』とされるアルファモンも含めて、ロイヤルナイツの始祖とされるインペリアルドラモンパラディンモードを除き聖騎士団による魔獣殲滅が行われた。

 

 尚、インペリアルドラモンパラディンモードは創造自体が不可能というか、どうやらエクスブイモンとスティングモンをジョグレス進化させて、更に究極進化でインペリアルドラモンにした上でオメガモンと突風進化(ブラストエヴォリューション)させる必要がある様だ。

 

 そんな面倒な事やってられるか!

 

 それに唯でさえロイヤルナイツ内に成長期へと退化したならブイモンに成るのが、マグナモンとアルフォースブイドラモンの二体も存在しているのに、インペリアルドラモンのジョグレス素材なエクスブイモンまで増えたらブイモンが三体にまでなってしまう。

 

 そう、彼らがデジモンであるからには退化も出来てしまうのだから。

 

 ブイモン――デジモン界のエリート。

 

 然も始祖を顕現させるのにアルフォースブイドラモンかマグナモンとオメガモン、二体を使って一体にするというのは果たしてどうだろうか?

 

 それなら初めから二体を使うべきだ。

 

 ともあれ、ユートは後にクロスローダーを造ってロイヤルナイツを含む何体か創造したデジモンを収納しており、必要とあれば出して戦力として使っていた訳である。

 

 この世界ではデュークモンを出すにはタカトのパートナーだから無理だし、何よりもテイマーズの成長を阻害するからユートは飽く迄も簡単な手伝いの範疇に留めていた。

 

 正式なパートナーが居るデジモンテイマーという訳でも無かったから。

 

 ユートがテイマーに成れそうなタイミングこそが今で、デジタル・グライドと化したドーベルモンをサルベージして説得をする心算だった。

 

 実際、ジュリ達もそんな感じにテイマーとなりDーアークを手にしている。

 

 ユートはDースキャナとクロスローダーのみで、今はまだDーアークを持っていないからこそ。

 

 右手を差し出すユートにガジモンは訝しい顔で首を傾げる。

 

「君を蘇らせた理由は一つ、僕のパートナーデジモンになって貰えないか?」

 

「俺が? 然し……」

 

 ガジモンとしてはどうせパートナーデジモンになるならアリスが良い、とは言っても蘇らせてくれたユートを無視も出来ない。

 

「ドーベルモン」

 

「アリス……」

 

 何と云うか、愛し合う恋人を引き裂いているみたいで気分はNTRだった。

 

「アリスでは闘えない。アリスの想いにガジモンの気持ちが重なれば割と直ぐドーベルモンに進化が出来るかも知れないけど、今現在で必要なのは成熟期じゃなく究極体なんだよ」

 

「俺と融合進化を?」

 

「否、今は無理だろうな。融合進化はテイマーとパートナーデジモンの絆が一番重視されるんだ。ガジモンと僕の間に絆なんて現状では一欠片すら無いからな。寧ろパートナー候補なアリスとの仲を裂こうとしていて絆なんて無理だろう?」

 

「まぁ、確かにな」

 

 これで絆が育まれたら吃驚である。

 

「だからちょっと即物的にいかないか?」

 

「即物的?」

 

「僕に叶えられる程度なら願いを一つ叶えよう、それで僕を少しでも信用が出来るなら僅かでも良いから絆を育む機会が欲しい」

 

「抑々、俺は直ぐに闘えるのか? 成熟期であるドーベルモンに戻った処でテイマー達が究極体で闘うデ・リーパーには敵わないぞ」

 

 ヒロカズは成熟期のガードロモンで闘えていたが、それは比較的に弱いデ・リーパーが相手だったのもあるだろう。

 

「其処は考えがあるんだよ」

 

「……そうか」

 

 ガジモンがアリスを見遣ると、無表情気味だった彼女に心配そうな表情が浮かんでいた。

 

「どの程度なら叶えられる?」

 

「某かが有るなら取り敢えず言ってみ? 無理なら無理と答えるから」

 

「判った。ならアリスに俺の代わりのパートナーを用意してやれないか?」

 

「ドーベルモン!?」

 

 ガジモンの言葉に驚き目を見開いて叫んでしまうアリス。

 

「可能だが……アリスは嫌みたいだぞ」

 

 ギュッと拳を作るアリスはガジモンを睨みながら涙を浮かべていた。

 

「済まない、アリス。だけど残念だが彼の言う通りで俺はアリスとでは闘えない。時間が有ったらゆっくり成熟期、完全体、究極体と進化を繰り返して、あのテイマー達みたいに成れたかも知れないけど……」

 

「それは……」

 

 別に闘う事を考える必要性も無いけどデ・リーパーが暴れる現在、闘えないというのは致命的な事であるが故にデジモンとしては無視出来ない。

 

「アリス、俺もデジモンなんだ」

 

 弱肉強食な世界を生きるデジモンであるからには闘えない、進化が出来ないという致命的な瑕を見過ごせないというのもある。

 

「だからだろう、強く進化したいという欲求は捨て切れない」

 

「ドーベルモンは強くなりたいの?」

 

「ああ、デジモンにとって強くなりたい大きくなりたいというのは本能でもある」

 

 アリスは敏い、だから我侭でガジモンを振り回すのを良しとはしなかった。

 

 ユートは幾つかのデータにガジモンを再生させた際に不要だったデータを混ぜ合わせ、更に別に用意したXー抗体を加えてやりリアライズする。

 

「卵?」

 

「デジタマだ。正真正銘、今産まれたばかりの。ガジモンというかドーベルモンのデータを加えてあるから、ある意味ではこのガジモンの兄弟的なデジモンって事になる」

 

「ドーベルモンの兄弟……」

 

「産まれるのがガジモンの幼年期のズルモンとは限らないし、ドーベルモンに進化するかどうかも判らないけどアリスが良ければ」

 

 渡されたデジタマをアリスは優しく抱き締め、ガジモンを見つめながら微笑みを浮かべた。

 

「有り難う、ドーベルモン。私はこの子を大事に育てるね?」

 

「此方こそ有り難うアリス。君のお陰で俺は神より賜った使命を果たせたんだ」

 

 キラリと二つの光が輝いて一つはユートの方、もう一つアリスの方に向かって移動する。

 

 二人が光を受け止めると……

 

「Dーアーク、有り難うガジモン」

 

 全体的に銀色で黒い円形の縁取りのDーアークがユートの手に、同じく銀色で白い円形の縁取りを持つDーアークがアリスの手の中に納まった。

 

 ユートのクロスローダーには究極体が何体も居るし、何ならDースキャナで自らがデジモンに進化する事も出来るけどユートはパートナーを求め、それにガジモンが……アリスの場合はデジタマが応えた証として顕れたのだろう。

 

「然し黒い縁取りに白い縁取りとか、まるで僕とアリスもパートナーみたいだな」

 

「え?」

 

 驚いたアリスは若干頬を染めていた。

 

「黒と白なら正反対ながら色合いとしての相性はだからこそ抜群だしね」

 

「う、うん……」

 

 突然の科白にアリスは赤くなる。

 

「さて、ではガジモンには進化をして貰わないといけないな。今もタカト達はデ・リーパーと闘っているんだし」

 

「ああ、頼んだぞ優斗!」

 

 ユートは赤い光を手の中に生み出す。

 

「デジ・エンテレケイア!?」

 

「コイツが最後の光だ。次はまたクルモンに頼んで採取しないといけない」

 

《EVOLUTION!》

 

「ウオオオオオオオッ! ガジモン、進化ぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!」

 

 Dーアークの四角いモニターにははっきり『EVOLUTION』の文字が過り、電子音声が鳴り響いてガジモンへと進化の力を持った闇色の光が放たれたと同時にガジモンが叫ぶ。

 

 まるで皮膚が剥がれ落ちるかの如くガジモンの躰が0と1に再構成されていき、闇色のワイヤーフレームに再び新たな皮膚が貼り付く様に姿を変化させ、その新たなる姿は黒と茶を基調とした色の毛色を持つ巨大な犬に。

 

「ドーベルモン!」

 

 それはデジタル・グライドに分解されてしまうまで取っていた姿だ。

 

「矢っ張りXー抗体にはまだ『Xー進化(ゼヴォリューション)』をしなかったか」

 

 ユートは分析をしながら渋い表情となるけど、アリスはドーベルモンを見れて満足そう。

 

「次に行くぞ」

 

「それは?」

 

「ブルーカード。スキャン型のデジタル機器に対して入力をしたらDーアークへと変化をさせる他、成熟期のデジモンを完全体に進化させる機能を持った特殊なカードだ」

 

 ユートがこれを持つのはシブミ――水野伍郎から貰った? からではあるが、通常はテイマー達がデジモンとの絆を一定以上に深めると完全体にしたい時には勝手にカードが変化をしてくれる。

 

 実際、水野伍郎はアークのリアライズの為にジェンのDーアークへブルーカードを通していたし、特殊なアルゴリズムを理解していたなら自分で造れたとしてもおかしくなかったから。

 

「良しドーベルモン! ()()()だ!」

 

「へ? え、ええっ!?」

 

 戸惑うドーベルモンを無視するかの如くさっさとカードをスキャンする溝へ通す。

 

「カードスラッシュ! マトリックスエヴォリューション!」

 

「ちょっ!」

 

《MATRIX EVOLUTION!》

 

 抗議をしたかったドーベルモンだけど既に賽は投げられ、何故か『EVO』がBGMとして鳴り響きながら進化が始まった。

 

「ドーベルモン……超……進化ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!」

 

 自棄糞気味に叫ぶドーベルモンの肉体に漆黒の鎧が装着されていく様は、グラウモンが進化をしてメガログラウモンに成っていく様だ。

 

 クルモンの姿が映る赤い三角錐が揺らめきながらドーベルモンと一体化。

 

 ドーベルモンの躰が一回り巨大化し、巨大な爪が装着された前脚と後ろ脚の甲が嵌まり込んで、尻尾も黒く硬質的な鎧が装着、両肩には顔を模した肩当てが装備されるけどまるで生きているかの如く牙を鳴らす。

 

 そしてドーベルモンの顔にも闇色の兜が装着されて『超進化』が完了、進化を終えて新たなる名を高らかに宣言した。

 

「ケルベロモン!」

 

「ふむ、矢っ張り完全体への進化では超進化と叫ぶのが正義だよな。然しケルベロモンか」

 

 どうやらガジモン→ドーベルモン→ケルベロモンのルートらしいし、ユートは彼の究極体の想像が容易に出来てしまって溜息を吐く。

 

「それで、此処からは?」

 

 当然ながら次が要るのだ。

 

 ユートは瞑目をすると前方に光り輝く二枚の翼を顕現させる。

 

「な、何だコレは? 間違い無く見えているにも拘わらず存在を認識が出来ない!?」

 

「これが秘策だ。成熟期への進化はデジ・エンテレケイアの光を、完全体への進化にはブルーカードを使うとして融合進化がまだ出来ないからには代替案が必要となる。その答えがこれ、光鷹翼」

 

「光鷹翼?」

 

「見えていながら……観測が出来ていながら認識は出来ないエネルギー、それは神の力を意味しているんだ」

 

「なら優斗は神?」

 

「それは違う。僕は飽く迄も人間に過ぎないさ。僕が光鷹翼を使えているのは昔に光鷹翼の持ち主と接触したからだ」

 

 ハルケギニア時代の時空間放浪の中でユートはとある地球の岡山県某市へと辿り着き、其処では蟹型で赤い髪の毛な白眉鷲羽と出逢っている。

 

 それと時を同じくして『三命の頂神』の一柱な津名魅とも出逢い、自らが持っている人工的なる魔眼――『知慧の瞳(ウィズダム・アイ)』により彼女らの身体を確りと観察させて貰った。

 

 お陰で『三命の頂神』の力をある程度ではあるけど知覚すら可能となり、更には柾木天地にも劣っている二枚だけだが光鷹翼を出せる様になる。

 

 知覚が不可能な力――【DB】ではビルス達みたいな破壊神等、【怪奇警察サイポリス】に於いては一二神将やメギド、そして【天地無用!】では『三命の頂神』を始めとする神々。

 

「それじゃ、やるぞ。究極進化だ!」

 

「だから何故に!?」

 

 矢張り止まらないユートは光鷹翼のエネルギーを手に宿し、Dーアークの先端へと叩き込むかの如くエネルギーを流した。

 

「デジソウルチャージ、オーバードライブッ! な~んちゃってな」

 

《ULTIMATE EVOLUTION!》

 

 融合進化ではない究極進化、進化の黒い光が溢れ出てケルベロモンを包んでいくが勿論の事ながらデジソウルではなく光鷹翼のエネルギー。

 

「もうどうにでもな~れ! ケルベロモン()()()()ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 ケルベロモンはユートの望み通り叫ぶ。

 

 【デジモンテイマーズ】なんかでは此方側が態々ダメージを受けて成長期にまで退化をして、改めて究極体へと進化をする感じだったのだけど今回は完全体からの究極進化である。

 

 立ち上がり二足歩行となったケルベロモンだったが、漆黒の鎧が剥がれ落ちたかと思うと新たな衣服が周囲から顕れると着込んでいった。

 

 顔立ちは犬っぽい侭に黄金の翼を羽搏かせて、全体的に皮膚は可成り薄めな藍色で黒い髪の毛がお尻にまで届く程に長く、進化が完了したと同時に躰を弓なりに伸ばしながら名乗る。

 

「アヌビモン!」

 

 ユートが思った通りのルートで進化をしてくれたアヌビモンに早速指示を出す。

 

「アヌビモン、デュークモン達の援護を!」

 

「了解だ!」

 

 飛び上がると直ぐ様にデュークモン達が闘っている戦場へと向かった。

 

「ふぅ、これで良し」

 

「あの、ドーベルモンは大丈夫なの?」

 

 闘いに向かうアヌビモンを心配そうに眺めていた辺り、彼女は間違い無くデジモンテイマーに向いている性格であろう。

 

「アリス、デジモンは進化したらその名前で呼んだ方が良いよ」

 

「そう……なの?」

 

「だから今はアヌビモンだね」

 

「そっか」

 

 デジタマを抱き締めながら頷く。

 

「この子はドーベルモンに成るの?」

 

「どうかな? ドーベルモンのデータを使ってはいてもガジモンを再構築するのには不要だったから削いだデータだ。それにデジタマに戻った時点でデジモンの誕生先が変わるのもよくあるから、極端な話が獣系デジモンだったけど生まれ変わったら昆虫系だったというのも有り得る」

 

「……残念」

 

 デジモンペンデュラムなどの携帯ゲームであれば普通にそうなる。

 

 最初に生まれたのがアグモンに進化したからといって、寿命後に新たなデジタマから生まれ直したデジモンがアグモンだとは限らないだろうし、何なら次は植物系デジモンかも知れなければ哺乳類系かも知れない、水棲デジモンの可能性だって捨て切れないのがこのゲームだった。

 

 とはいえ、【デジモンセイバーズ】に於いては暗黒進化したアグモンがデジタマに戻った後で、再び誕生したのは記憶を引き継いでいたとはいえ普通にアグモンだったから、案外とテイマーとのパートナーデジモンは固定されるのかもだが……

 

「む、苦戦はしていないが数が多いな」

 

 ユートはカードを取り出す。

 

「カードスラッシュ、高速プラグインH! ハイパーアクセル!」

 

 高速移動を可能とするカードにてアヌビモンが高速移動を開始、古代エジプトの秘法によって描く光線で『ピラミッドパワー』を使い、デ・リーパーを四角錐の中に次々と閉じ込める。

 

 デジモンが相手なら閉じ込めるだけだったが、デ・リーパーは言ってみればコンセントに繋がった状態、閉じ込められたら赤いコンセントとでも云うべき部位が強制断線して消滅していった。

 

「アメミット!」

 

 更に必殺技の『アメミット』で地獄の魔獣達を召喚、エージェントデ・リーパーを喰らい尽くす勢いで牙を突き立てている。

 

 デュークモン、セントガルゴモン、サクヤモンも急に現れたアヌビモンに驚きを隠せてはいない様子ではあるが、それでもデ・リーパーと闘っているならば味方と判断したらしい。

 

「バーストショット! ズーダダダダダダダダダダダダダッッ!」

 

「ファイナルエリシオンッッ!」

 

「飯綱っ!」

 

 次々とエージェントを屠る。

 

 これにアヌビモンが加わるからには特に苦戦を強いられたりはしないだろう。

 

 この後、デュークモンがデ・リーパーに取り込まれて偽加藤樹莉に会ったりしたのだけれども、原典とは異なりアリス・マッコイが消えてしまう事も無くて、ヒロカズやケンタやリョウとも合流を果たす事となる。

 

 残念ながらパートナーとなった時期が遅かったからか、デ・リーパー事件が終了してもユートとガジモンが融合進化をする事も叶わず、とある別の世界で漸くの融合究極進化を遂げるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……とまぁ、これが僕とガジモンがパートナーを組んだ詳細かな?」

 

「成程、ドーベルモンだったのは聞いていたけれどそういう経緯だった訳ね」

 

 ちょっとした御乱交の後で雫が訊きたがったのがユートと融合進化したプルートモンの成長期、ガジモンとの出逢いとパートナーを組んだ経緯であったが、他の【閃姫】も知りたがっていたから取り敢えず話してみた。

 

「処で、小学生とはいえ可愛い女の子が複数人程居たけど……」

 

「少なくとも小学生の間は手出ししていないぞ。僕自身も【子供化】の能力で小学生に成っていたから下手な事は出来ないしな」

 

「でも成長したら? ユートもよく言っているわよね、いつまでも子供は子供じゃないって」

 

「そりゃ、一〇年もすれば立派なレディーだから当然の言葉だと思うが? 小学四年生で一〇歳だったから数年も経てば高校生で君らと変わらない見た目になるからな」

 

「で、誰に手を出したの?」

 

「出したの前提か……判らんでも無いが」

 

 ユートはノーコメントを貫いたと云う。

 

 

.




 アリス・マッコイに関しては何だか色々と云われてますが、ウチでは取り敢えず普通に存在している啓人達と同じ年頃の少女としています。

 因みに、この噺は単独で書いていたモノに取って付けた雫との会話をラストに入れて無理矢理にありふれIFにしました。





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第105話:ありふれた妹の子孫

 何故か未だに大迷宮に行かないなぁ……





.

 スーシャ・リブ・ドゥミバル、現在に於いてはグリューエン砂漠と呼ばれる嘗ての赤の大砂漠、ドゥミバル領のリブ村に妹のユンファ・リブ・ドゥミバルと暮らしていた。

 

 赤龍大山という活火山の近くという程でも無いにせよ、それなりに近場となるリブ村は規模としてみれば町と呼ばれても良いくらい。

 

 尚、赤龍大山は現代ではグリューエン大火山と呼ばれている大迷宮の一つである。

 

 今も昔も活火山でありながら噴火していないのはナイズ・グリューエンが、大きな魔力鎮静効果を持つ静因石を要石にして仕掛けを施したから。

 

 因みにだが、この世界の砂漠の民は名前と共に住まう地を名乗る習慣があり、ナイズ・グリューエンの実際の名前は『ナイズ・グリューエン・カリエンテ』とされていて、カリエンテ領のグリューエン村が出身地となっている。

 

 スーシャの場合は『スーシャ・リブ・ドゥミバル』な訳で、ドゥミバル領のリブ村に住んでいたという訳だった。

 

 そんなスーシャは一万年は前のトータスから、何故かこの現代に迷い込んでしまっている。

 

 ベッドの上で布団を背中に羽織って褐色の肌の肢体を隠す様にしているスーシャは、今現在は何と素っ裸で下着ですらも身に着けていなかった。

 

 勿論、ユートとの事後とかでは決して無いけどある意味では似た様なものかも知れない。

 

 ユートが魂の入っていないスーシャの服を剥ぎ取って、自らも裸となり抱き締めながら唇を重ねるといった行為に及んでいたのだから。

 

 とはいえ、この時点では別に役得とかではないのも確かであろう。

 

 考えてもみるが良い、相手は死体で死後硬直によりガッチガチに固まって血流も無いし温もりも皆無、褐色肌とはいっても死体では青褪めていて折角の美少女が台無しであるし、何よりユートには死体で盛る屍姦趣味など断じて無かった。

 

 まぁ、それでもスーシャの魂が戻ってからなら柔らかさや温もりや息遣いも戻り、充分過ぎる程に役得と云えるだけの心地良さから股間のモノが勃ち上がっているけれど。

 

 兎に角、最後までヤられた訳では無いし何より救命行為だったと言われれば納得するしかない。

 

「私の事は知っているみたいですね。それで……貴方の名前は?」

 

「優斗」

 

 簡潔に名前だけを伝えた。

 

「ユートさん……」

 

 どうやら名前は覚えてくれたらしい。

 

「這い寄る混沌というのは?」

 

「便宜的に『神』と呼称される存在、性格的にはエヒトと大して変わらん。因みにエヒトは神じゃない、奴は神の真似事が出来るだけの()()()に過ぎないからな」

 

「到達……者……?」

 

「人という種族に於けるある種の到達点に至った存在が到達者。そして其処から更に飛び越えたら()()()と呼ばれる存在に至る」

 

 力の有無や多寡は無関係では無いけど必須という訳でもない、何故なら神でも無い到達者がこのトータスの女神ウーア・アルトを打倒している。

 

 非常に残念な事にエヒトはこの世界の女神なら

斃せる程度には力が在った。

 

「君の時代の【解放者】達、七人の神代魔法の使い手は誰も到達者にすら至れなかった。これに関してはミレディからも確認をしているから間違い無いし、抑々にして到達者に至ったなら最低限で寿命を越えられるからね」

 

「寿命を……」

 

 例えば神殺しの魔王たるカンピオーネも謂わば到達者の一種、神のエネルギーたる神氣を身に宿して本来ならば扱えない神氣を権能として操れる様に造り換えられた存在。

 

 例えば来世で出逢う予定の者達。

 

 そして世界の理から生まれてしまった超越者、即ち神の力に対する反作用体――美沙樹。

 

 問題が有るとすれば自らが至った訳では決して無く、三頂神が力を玩び過ぎたが故に存在を確立された悲劇であるという事。

 

 原典のα世界線では柾木天地が超越者と成ってどうにかしたみたいだが、ユートが居るβ世界線

に於いても彼が超越者と化すかは判らない訳で、何よりも柾木・美沙樹・樹雷は阿重霞と砂沙美の母親だけあり美女だから天地任せにするより自らの手に入れたい事もあり、ユートとしては上手く動きたいという思いが無いでもない。

 

 但し、確定した未来では無い様だ。

 

 また、マスターテリオンやアルと共に世界を駆けた方の大十字九郎も超越者である。

 

 とはいえ、戦闘力の多寡という問題もあるから実質的に到達者だ超越者だと云ってみても可成り曖昧模糊な感じであり、例えばDBに於ける地球の神様は到達者に位置するのだが、地上の者――異星人にだが負ける程度の戦闘力でしかない。

 

 地球の神様は元々が戦闘型では無いナメック人だった上に、地上の穢れに触れて蓄積されていた悪意を解き放った際に弱体化もしている。

 

 それに惑星の神とは就任時にその惑星の人類の戦闘力よりも優れていれば良いのかも知れない、事実として当時の地球に神様より強い人間は居なかった筈だから。

 

 この事例からも到達者や超越者が神を気取るのが実はアリだったりするのだ。

 

 取り敢えず仮面ライダーみたいなスペックには意味が無い様な例もあるし、余り厳密には気にする必要性が無いのも事実であろう。

 

 ユートもどちらかと云えば非戦闘型。

 

 何の冗談かって? ユートが最も得意としているのは基本的には想像力を創造力に換える力で、戦闘能力は云ってみればオマケ程度の代物でしか無かったりする。

 

 欠点は独創性に欠ける事。

 

 皆無では無いけど低いから、基本は模倣となるので自嘲気味に【模倣者(イミテイター)】と名乗っていた。

 

 これは最初に生まれ付いての事で、だからこそ

ユートは五歳も年下であった白亜に勝てない程度の腕前にしかならず、白亜に勝利出来たのは転生をしてハルケギニアに生まれて再会した後。

 

 まぁ、白亜が群を抜いて一際に腕が立つ謂わば天才美少女剣士だったのも理由だが……

 

「序でに言えば超越者に成り上がれば寿命自体が無くなる場合が殆んどだ。エヒトは寿命を超克する超越者には成り得ず、到達者として肉体を既に喪っているから神域に引き篭もっているらしい」

 

「そ、そうなんですね……」

 

「ミレディからの情報だぞ?」

 

「っ! 本当に生きてるんですか? 一万年もの年月を越えて?」

 

 スーシャは目を見開いて驚く。

 

「正確には処刑されたんだから死んでる訳だし、ゴーレムに魂を入れ換えていたからアストラル体が普通に残されていたんだ。だから情報(マトリクス)書き換え(リライト)も可能であったし、アストラル体に残る生前の肉体情報を取得してしまえば再構築も可能だったんだよ」

 

「まとり? りら?」

 

「判らないならそれは構わんよ」

 

 別に生きるに当たって必要な情報では無いし、取り敢えず自分風に言ってみただけ。

 

「それで、スーシャはどうする?」

 

「どうする……ですか?」

 

「助けて蘇生はしたものの、一万年も経っていては君からしたらこの時代は異世界にも等しい筈。見覚えのある地形くらいは有ってもとても未来の光景には見えない」

 

「そ、それは……」

 

 愛しい男性も愛しい妹も居ない、知り合いと言えるのはウザレディーなミレディくらいであり、生きていられる希望と何もかもを喪ってしまった絶望がスーシャの胸を締め付けていた。

 

 リブ村も無いし、ドゥミバル領ですら最早無い訳だから行く場所も存在していない。

 

(スーシャは美少女なんだからその気になったら男でも誑し込むとか、そんな悪女みたいな真似をしたら生きるだけであれば可能だろうが……)

 

 蘇生して血流も戻って、温かみや柔らかさを取り戻したスーシャは女の子としての肢体は明らかにミレディより上、香織ともタメを張れるだけの女性らしいラインを得つつある。

 

 享年が一四歳か其処らだったから二年もすれば更に成長をするだろう。

 

 ミレディが曰わく、妹のユンファも成人をしたら凄まじく化けてナッちゃんを誑し込んだとか。

 

「強くなりたいです」

 

「強く?」

 

「私は弱かった。ナイズ様を追える程の能力は何も無くて、最期の刻もユンファや仲間達の足手纏いにならない様に奈落の底へ落ちる以外に選択肢も無かったんです」

 

「成程」

 

 あの頃はそれでも【解放者】の一員として動いていけたが、今は完全な外様に等しいスーシャの出る幕などあろう筈が無かった。

 

「とはいえ、僕らの旅も終わりが近い。スーシャが今から頑張っても余り意味は無いんだけどな」

 

「それは……」

 

「だから大人しくオルクス大迷宮の最深部で待っていると良い」

 

「オルクス大迷宮? ひょっとしてオスカーさんの大迷宮ですか?」

 

 よく知る名前を聞いて顔を上げた。

 

「まぁね、大迷宮でも恐らく唯一だろう人間が住めるだけの空間が在るんだよ」

 

「唯一ですか?」

 

「既にシュネー雪原の氷雪洞窟以外は全て攻略をしたけど、どの大迷宮の最深部も人が住まう事を前提に造ってはいなかったよ。そんな中でも最初に攻略したオルクス大迷宮だけはラスボスが配置されている以外は人間が住める状態だった」

 

 畑や邸など整備をしなければならなかったが、それでも簡単な手入れくらいで住める。

 

「正直、その気になれば地上より快適に住めた。実際に僕も仲間と共に数ヶ月を暮らしたからね。オスカー・オルクスは自分の時間が長くない事を知った時、テーブルと椅子を用意して座った侭に往生したみたいでね。黒い外套の遺体が椅子には鎮座をしていたよ」

 

「……オスカーさんが」

 

「風化してなかったのは状態を留めるアーティファクトでも有ったんだろう。稀代の錬成師にしてあの時代で唯一の秘宝製作者(アーティファクト・メイカー)だったらしいからさ」

 

 あの時代で唯一の……この時代にはトータス人でこそ無いけどユートが居る。

 

 ユート本人は魔導具と称しているが、明らかに秘法(アーティファクト)級というアイテムをゴロゴロと製作していた。

 

「嘗てとは違って闘う必要性が無いんだからさ、スーシャはオルクス大迷宮でのんびりと待っていれば僕がエヒトを殺してやるさ」

 

「……そうなのかも知れません。だけどあの頃も私達姉妹は【解放者】として活動こそしていましたけど、サポートをしていただけで闘いに赴いていた訳ではありません。そしてあの件が起きて私は死ぬ……筈でした」

 

 力が無いのは不安という事だろう、スーシャは両手をニギニギしながら掌を見つめていた。

 

 そして妹や仲間を危険に晒さない為に自ら手を放してクレパスに落ちたのである。

 

(力の無さに絶望するでなく仲間や妹の為にその命を投げ打つ覚悟……か。ウルトラセブンもこんな気分だったのかも知れないな)

 

 仲間の命の為に自らの命綱を切って墜ちてしまった薩摩次郎青年、ウルトラセブンにより救われたとはいえその魂は高潔であったと云う。

 

 そんな薩摩次郎の躰と魂を写し取って姿を変えたウルトラセブンは、地球人のモロボシダンとして地球での活動を開始したのだ。

 

(とはいえ……)

 

 だからといって力を与えるかと云われればそれは否と答えるしかない。

 

 確かにミレディからすれば身内であるのだが、身内の身内が=ユートの身内では無い。

 

 力の拡散を防ぐべくユートが力をあたえるのは基本的に身内のみ、場合によっては次代で使えなくなる完全な専用化すらしていた。

 

 当然ながら仮面ライダーファイズなどみたいに敵に奪われても使えない。

 

 いずれにせよ、何処ぞの勇者(笑)様に比べてみればどちらも立派であるし、スーシャにしても勇者(笑)と比べるべくも無いであろう。

 

「一から鍛えたいなら人を紹介する事くらいなら出来るけど、一般人だったスーシャが結果を出せるのに数年は掛かるぞ?」

 

「それは……」

 

「僕が魔導具を造れる事は教えたから……それで一足飛びに闘いたいと?」

 

 ビクリと肩を震わせる。

 

「確かに魔導具の力を使えば素人でもそれなりに闘える。事実、今代の勇者(笑)だって聖鎧に身を包み聖剣を揮ってるだけで、実戦経験も無かったのにそこそこのレベルには闘えていたからな」

 

「今代の……勇者様?」

 

「様付けは要らんだろ。所詮はエヒトの駒風情で()()()()()だからな」

 

「エヒト……」

 

 忌々しいと思う表情がありありと見て取れる、スーシャからすれば愛しい人物を害するだけでしかなく最早、『神様』だなんて考えてはいないであろう。

 

 ユートには知る由も無い事だが、スーシャが見せるその表情は嘗てオスカーとミレディに対してスーシャが、『御二人は教会の方ですか?』と訊いた際にしてた表情とソックリであったと云う。

 

「エヒトに召喚されて、エヒトが与えた勇者という天職とそれに紐付けられたステイタス値や技能に加え、ハイリヒ王国の宝物庫に保管されていた聖剣と聖鎧を装備していたからな。僅か二週間か其処らの短い訓練でオルクス大迷宮の表層二〇階層をクリア出来る程度には力が有る」

 

「に、二週間!?」

 

 スーシャには表層の二〇階層がどの程度かは判らないが、僅か二週間で実戦経験が碌に無かった勇者(笑)が闘える様になったのは驚愕だった。

 

「まぁ、能力的に可成り優遇もされていたから。能力値が全て一〇〇、技能も能力値を三倍化する現界突破を始めとして幾つもが備わっていたし、技能一覧に表示はされてこそいなかったが間違い無く、『獲得経験値増加』や『必要経験値減少』みたいなのを極々一部除いて皆が持っていたんだと思っている」

 

「極々一部を除いてというのは?」

 

「錬成師には適用外だったみたいだ。他の連中が僅かな期間で順調に能力値を伸ばしている中で、錬成師だけは碌すっぽ数値が上がらなかったよ。技能も異世界で言語に困らない『言語理解』しか付いてなかったしね」

 

「うわぁ……」

 

 ユートの想像でしかないのだが、トータスでは天職持ちが居ない事も珍しくない中で全員が天職を持つ事、更に全員のレベルが1であった事などを考慮に入れて、召喚の魔法陣に【解放者】が使った神代魔法を修得させる魔法陣と似たモノを混ぜてあり、必ず召喚された者が何らかの天職を得る様にしていたのだろう。

 

 そして能力値は天職に紐付けされてトータスのステイタスが与えられた。

 

 全員のレベルが1だったのは正しくトータスに来てからステイタスを得たからだし、それが故に隠し技能みたいな形にて『獲得経験値増加』や『必要経験値減少』をひっそりと付加も可能で、逆に錬成師という天職に対して付けない事だって出来たのかも知れない。

 

 よく考えるが良い、ステイタスプレートを得て初めてレベルが生えてくるなら今までにそれを持たなかった筈の者、ユエやシアやティオのレベルが普通に高かったのはおかしいという事になる。

 

 隠し技能に関して云うならば、歴戦の勇士たるメルド・ロギンス元団長でさえもレベル七〇には到達せず、能力値だって三〇〇前後にしかならなかったらしいのに、僅か二週間程度の修業とも呼べぬ恐らく八重樫道場で行われていたチャンバラごっこで数値が倍の二〇〇になった。

 

 元の数値も有り得ない全能力値が一〇〇とか、明らかに作られたステイタスだと判る。

 

 そう、普通ならバラける筈。

 

 エヒトの使徒たるノイント達みたいな造られた存在であれば成程、全能力値が一二〇〇〇という異常とも取れるピン並びした数値も頷ける。

 

 だけど自然発生した人間が力も速さも耐久力も魔力も魔力耐性も全てが同じなど、そんな莫迦な話が有り得る筈が無いではないか?

 

 縦しんば偶然にもそんな人間が一人くらいは居たとしても、ならばハジメの能力値の全てが一〇というのに説明が付かない。

 

 偶然にも二人? 有り得ないだろう。

 

 以上の考察から、ユートはトータスでの能力値が召喚時に与えられたモノだと判断した。

 

 それは兎も角……

 

「鍛えなくても力を得る手段が無い訳でもないんだが、当然ながら重たい対価を必要とするから余り僕としては御勧めはしない。僕自身の感情から云うと勧めたい気はするんだけどね」

 

「……そういう話ですか」

 

 敏いが故に気付いたらしい、スーシャがいったいナニを求められているのかを。

 

「その方法なら強くなれますか?」

 

「成れる。何ならちょっとした訓練さえしてしまえばだいたいの敵を斃せるだろうね。とは言っても流石にエヒトを処するのは無理だろうけど」

 

「それは理解してます。単純に民意を操れるだけでも脅威でしたから」

 

 正しく恐るべき闘い方だったであろう。

 

 【解放者】は神殿関係者以外は手に掛けないと決めており、仲間が死んでいたのを検分した結果として決まりを守っていたのだと判った。

 

 これは【解放者】としての矜持。

 

「だけど良いのか? もう察しているだろうに、好きな男だって居たんだろ?」

 

「もう……居ません。それにきっとあの人(ナイズ様)は妹と少しでも幸福で居られたと信じています」

 

「確かにミレディから聞いた話ではユンファって娘が成人したら降参したらしいけどな」

 

 まるでスーシャが取り憑いたかの如く妖艶なる色気を振り撒き、ナイズがユンファに性的に喰われてしまった結果として【解放者】の七人の集まりに於ける最後の日には身重だったとか。

 

「あの、頼みたい事があるんですが……」

 

「構わんよ。契約する相手には須く某かの願いを叶えているからね」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「スーちゃん、どうだった?」

 

「可愛かったが?」

 

「誰が顔形の事を訊いたんだよ~。どうなったのか訊きたいの!」

 

「そうだな。褐色の肌はそれなりに好きだから、日焼けで服の下が白いのも悪くは無いんだけど、全身が褐色ってのは趣きからして違うよな」

 

「だ、か、ら! スーちゃんの容姿の話はしてないんだよ!」

 

 何だかハイテンションなミレディ。

 

「まぁ、揶揄うのはこれくらいにして。取り敢えず【閃姫】になる気はあるそうだ」

 

「ナッちゃんの事は?」

 

「特に話してないが、一応は好きな男が居る筈だって言ってみたけどな……妹と結ばれて幸せが少しでも訪れたのならそれで満足だそうだよ」

 

「そっか……話してないのは少しでもスーちゃんを手に入れる確率を上げる為かな?」

 

「無いとは言わないがね、どちらにしても彼女の願いを聞くには対価を支払って貰わないといけないからさ」

 

 こればかりは誰かが身代わりにとはいかない、故に当人が決断をする必要があったのである。

 

「それで、スーちゃんの御願い事って?」

 

「簡単に言えば人捜しさ」

 

「人捜し?」

 

あの二人(ナイズ様と妹)の子孫に会いたいってね」

 

「なっ!?」

 

 確かにナイズ・グリューエンはユンファと子を成しているが、既に数千年~一万年というバカげた時間が経過しているのだ。

 

「流石に血縁が途絶えたり、或いは拡がり過ぎて逆に見付からないんじゃないかな?」

 

 ミレディが言う。

 

 百年とか二百年でも血脈が途絶える事は侭あるのに、経過した時間はその百倍にも及ぶ訳だから疾うの昔に途絶えた可能性が高い。

 

 その逆に下手したら砂漠――アンカジ公国の者などは全てがナイズの子孫な可能性もあるけど、それはそれで最早ナイズやユンファと関係が無いと云えるであろう。

 

「捜すだけなら容易い。若し見付からないのならそれはそれで仕方がないと笑っていたよ」

 

 とても寂しそうに……ではあるが。

 

「容易いって言うけど、ユウ君はどうやって捜す心算なのさ?」

 

「ミレディは何を言ってる?」

 

「……へ?」

 

「捜し物にぴったりなアーティファクトが存在しているじゃないか」

 

「捜し物にぴったり……あ、それって若しかして『導越の羅針盤』!」

 

「そういう事だ」

 

 チャリンと掲げて見せる『導越の羅針盤』が、キラリと金属質で鈍い光を反射していた。

 

「どっち道いずれ使う必要はあったから丁度良いって話だ。ナイズ・グリューエン・カリエンテとユンファ・リブ・ドゥミバルの直系かそれに近しい直近の子孫の居場所を示せ!」

 

 そう言った瞬間、『導越の羅針盤』が反応を示したのでユートは迷わず躊躇い無く跳んだ。

 

 それが如何にも拙かった。

 

 ユートの『直近の子孫の居場所』という言葉に律儀に応えた『導越の羅針盤』君、ユートは掌のソレが指し示す場所へ瞬間移動をした訳だが……

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」

 

 その瞬間、視てはならないモノを直視してしまったユートを見た誰かさんが、チョロチョロという小さな音を響かせながら視せてはならない場所から温かく黄金に煌めく温水を垂れ流した挙げ句の果てに、この世の全ての絶望を目の当たりにしたかの如く絶叫が響き渡るのだった。

 

 そして、バチィィィンッ! という消魂(けたたま)しくて軽快なビンタが放たれるも……

 

「~~っっ!?」

 

 叩いた筈の人物の方が俯きながら叩いた右掌を抑えて蹲まってしまう。

 

「取り敢えず、出したモノを拭いて下着も穿いた方が良いぞ」

 

「っっっ!」

 

 真っ赤なその人物はササッと拭いて下着を穿き直してから出て行った。

 

「ちょっと可哀相な事をしたな」

 

 だけど確信もしている。

 

「あの子がナイズとユンファの子孫か。直近だから彼女の前に出たんだろうな」

 

 一番新しいから直近、恐らく彼女に子供……は王族でも少し早いか? 妹か弟でも居たのであればそっちに出たのだろうけど。

 

 金髪に翡翠色の瞳に褐色の肌は確かにスーシャを思わせる容姿だった。

 

「ああ、お前さんは何者かね? ウチの孫娘が泣きながら駆けて行ったのじゃが……」

 

 白髪に翡翠色の瞳を持つ浅黒い肌の七〇歳にも届こうかという老人が、困った表情をしながらも右手の人差し指で頬を掻きつつ立っている。

 

「初めまして、僕の名前は優斗。緒方・ユート・スプリングフィールド・ル・ビジュー・アシュリアーナ。アシュリアーナ真皇国の真皇だ」

 

「ほ?」

 

 まぁ、流石に意味が解らないだろう。

 

 取り敢えず老人から客間に通されたユートは、オンボロな小屋が砂漠に存在しているのを確認しており、つまり此処はグリューエン大砂漠の何処かであるという推測が成り立つ。

 

 老人に案内された室内。

 

 ガンッ! と凄まじい音を立てて中身が僅かながら零れる置き方でカップを置いたのは先程の、ユートに有り得ない痴態を見せて泣きながら走り去った女の子。

 

 まだ顔が赤いのは仕方が無いのだろう、大事な部位を視られた挙げ句にソコから聖水(笑)を精製しているのまで視られたのだから。

 

 若干、涙目で睨んで来る。

 

 カップの中身は紅茶らしいけどグツグツと煮え滾るかの如く温度で淹れられ、マナーもへったくれも無いものだったから兎に角飲んだ。

 

「だ、大丈夫かの?」

 

「味は普通だからね、僕に水や火や土や風によるダメージは無いから問題無し」

 

「そうかね」

 

 通常の温度な老人の紅茶は彼が飲み干してしまったので話をする。

 

「先ず、僕に彼女への痴漢行為をする意図は無かったと言っておく。それと視てしまったのは取り消せないが『済まなかった』と謝罪はする」

 

「くっ! 判りました、貴方の謝罪は受け容れますよ……ワザとでは無いのでしょうから」

 

 見た目には十代後半くらいの僅かに幼さを残す美少女、よくよく視れば成程と思えるくらいにはスーシャと容姿も似ている気がした。

 

「改めて自己紹介する。貴方達の奉じる神により召喚された異世界人、緒方・ユート・スプリングフィールド・ル・ビジュー・アシュリアーナで、アシュリアーナ真皇国の真皇という立場に在る」

 

「つまり『真皇』というのは異世界での王位ですかな? それならば儂が知らぬのも無理は無いのやも知れませぬな。儂の名前はシモン。シモン・リベラールと申します」

 

「私はシビル・リベラールよ」

 

 異世界のとはいえ皇族となれば無視を決め込む訳にもいかなかったか、祖父たるシモンが名乗った後に美少女――シビルも名乗る。

 

「それで、孫娘に無体を働きに来た訳では無いなら何用でこんな荒ら屋へ?」

 

 思い出したのか再び赤くなったシビルを取り敢えず放置して口を開いた。

 

「実は捜す人が居てね」

 

「捜し人ですかな?」

 

「そう、とは言っても捜し人自体は見付ているから後は連れ帰るだけだよ」

 

「ふむ? それは若しやシビルの前に行き成り顕れたのと関係がありますか?」

 

「当たり。捜し人は貴方達だ」

 

「「っ!?」」

 

 シビルは兎も角、シモンは予想していた通りの答えではあったらしい。

 

「儂は一〇年も前にちょっとした粗相から左遷をされましてな、今更ながら我が家に何やら教会が用事でもありましょうや?」

 

「教会? ああ、着ている服から予想はしていたけどシモン老は聖教教会の司祭か」

 

 それは真白の司祭服。

 

「教会は関係無いよ。ってか、教会は総本山である本教会を神山毎ぶっ飛ばしたから消滅しているんでね」

 

「「ハァァァァッ!?」」

 

 それはエヒトを奉じる聖職者からしたら余りにも衝撃的な話であったと云う。

 

 ユートからの説明では、真皇たるユートを勇者召喚という名の拉致を行った上に戦争に送り込む暴挙に出た人間族、それが故にアシュリアーナ真皇国との戦争になってハイリヒ王国とヘルシャー帝国は解体処分、聖教教会も本教会の置かれている神山その物を消滅させて教皇や枢機卿や数多の司教や司祭が捕らわれの身に、ハイリヒ王国でもランデル元王子は戦争の責任で本来なら斬首だったのだが、先に投降したリリアーナからの嘆願もあったから蟄居処分、ルルアリア元王妃は性奴隷的な扱いで捕らわれているのだとか。

 

 しかも教会関係者やランデル元王子は子を成せない処置まで施されたと聞いて、シモンは思わず自身の分身の身を案じてしまった。

 

 多分、宦官の如く処置と勘違いしたのだろうとユートは苦笑いを浮かべる。

 

 ヘルシャー帝国もフェアベルゲン領国と成った亜人族の国と、ユートの手持ちの戦力により皇族は皇太子バイアスを含めて殆んどが死亡。

 

 生き残りはガハルド元皇帝とトレイシー元皇女とアリエル元皇女とその母親くらい、元皇帝には引退をさせて一戦士という形で雇用をしており、トレイシーとアリエルはユートの奴隷的な立場ではあるがトレイシーは騎士、アリエルは行儀見習い的にメイドとなって働く事になる。

 

 アマンドラ元皇妃はやれる事も無かったから、取り敢えずルルアリア元王妃と似た立場だ。

 

 やれる事は無くともヤれる肉体は在るという、それ相応に美しいからこその皇妃なのだから。

 

 頭が痛くなるシモン。

 

「つまり、貴方は人間族の三大勢力を全て潰してしまわれた……と?」

 

「楽勝だったな」

 

 頭痛が痛いと叫びたくなる。

 

「魔人族とは未だに戦争中だというのに、これでは人間族に勝ち目は無くなるのですぞ?」

 

「心配は要らない。魔人族も今となっては邪魔だから潰してやるさ」

 

「然し、連中は不可思議な力を……」

 

「神代魔法の一つ『変成魔法』を敵将フリード・バカーとやらが獲得、魔物を魔人族の戦力と化したってのは知っているさ」

 

「し、神代魔法ですと!?」

 

 尚、フリード・バグアーである。

 

「此方も神代魔法は『変成魔法』が魔人族領だったから後回しにしていたけど、既に七つ中六つを獲得しているから戦力的に負けていない」

 

「「なっ!?」」

 

「そして現在は魔人族領へ赴き、『変成魔法』を手に入れるべく行動中。その最中に雪の中で拾った女の子がちょっとした曰く付きだったんだが、その娘がどうしても会いたいっていう人間が居るらしくてね」

 

「それが我々、リベラール家と関わりがあるという事ですかな?」

 

「そうなるね。正確には手掛かりとなる情報を元に行き先を示す神代のアーティファクトが在る。その導きの侭に『空間魔法』の転移にて跳んだら彼処に出てしまったんだ」

 

 即ち、シビルが御小水をしようとしていた中のトイレへと。

 

「僕もまさかの事態に驚いたさ」

 

「確りと視てましたけどね!」

 

「あの場合、視ない方が失礼だろう」

 

「んな訳、無いでしょ!」

 

 美少女が下半身を晒して突っ立って居るのだ、男なら目が晒された下半身に向かうものだ。

 

「寧ろ視ない輩を男とは認めん!」

 

「何でよぉぉぉぉおおおっ!?」

 

 ちょっとした戯れ言は置いといて……

 

「それで二人には……家族も居るなら一緒に来ても構わないけど今は魔人族領だからな。だから、取り敢えず二人に来て貰いたい」

 

「然し、我がリベラール家に連なる者が魔人族領に居たとは俄には信じられませぬな」

 

「ま、自由な意思に任せるさ」

 

「自由な意思?」

 

 迎えに来た割にはおかしな事を言うと思ったのと同時に、シモンはリベラール家に伝わる口伝を思い出さずには居られなかった。

 

「抗う者の子等よ。天を仰いで生きよ。神の意思が銀の翼となりて降臨する。神威が世界を駆け巡るだろう。縋る事無かれ、沈黙し頭を垂れ陰に身を寄せ未来を想え。いつの日か反逆の子が産声を上げる。耳を澄ませ、目を開き、心を決めよ。抗う者の子等よ。汝等の未来が、自由な意思の下に在らん事を……」

 

「それは?」

 

「最早、辿れぬ程に遥かな昔の御先祖様が遺したとされる口伝……というより予言に近いかのぅ。不思議な事に一度聞けば我々リベラール家の直系の者はこの言葉を絶対に忘れん」

 

 それは恐らくだが、何らかの魔法が作用している可能性も否定は出来ない。

 

「確かにすんなり頭に入ったけど」

 

 シビルも初めて聞いたらしく、本当に聞いたら忘れられない言葉として脳内に残った様だ。

 

「他に口伝みたいなのは?」

 

「口伝を伝授した直系に伝えるべき事があるの。忘れられないリベラール家には受け継ぐべき二つの名前が有るんじゃよ」

 

「セカンドネームみたいなもんか?」

 

 ユートの問いに頷く。

 

「うむ、折角じゃからシビルにも伝えておこう。

正式に名乗るなら儂はシモン・L・G・リベラールとなる」

 

「すると私はシビル・L・G・リベラールとなる訳ですか?」

 

「そうなるのぅ」

 

 そのイニシャルにユートは口を開く。

 

「リブ・グリューエン……か」

 

「「っ!?」」

 

 シビルは元より、まだ伝えていなかったのにとシモンが驚愕に目を見開いてしまう。

 

「僕の保護した娘の名前はスーシャ。スーシャ・リブ・ドゥミバル」

 

「リブ……じゃと!?」

 

「シモン老とシビル嬢の遥か彼方とも云えるだろう大昔の先祖の姉……という事になるのかね?」

 

 自身の家の隠された名前を持つといわれといる女性、それはユートの言葉を嘘と断じるには()()()()()()()程の衝撃であった。

 

 

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 次回、序盤はスーシャとシモン&シビルの逢瀬で後半からは大迷宮に行きたい。




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第106話:ありふれたシュネー雪原

 アニメ第三期……来ないかな~?





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 オプティマスプライムに転移で戻ったユートと『界穿』にてやって来た、シモン・L・G・リベラールとシビル・L・G・リベラールという祖父と孫娘の関係性の二人。

 

 信じ難い話を聴かされたこの二人は真実を確かめるべく付いて来た訳だが、ユートが元ハイリヒ王国の王女たるリリアーナの御印を持っていたのが一応の信用を勝ち得た理由。

 

 約一〇年前のランデル元王子が誕生する前後、未だ四歳に過ぎなかったリリアーナの話し相手をしていた事もあるシモン、御印と共に持たされた手紙も相俟って信じるより他無かったのだ。

 

 因みに、その一〇年前にシモンは砂漠へ左遷をされてしまったのだけれど、理由が亜人族を擁護する発言を見咎められてしまった為である。

 

 その所為で王女の話し相手としてシモンは不適格とされたらしい。

 

 今はもう王女では無いと聞いては居たのだが、それならそれで今一度会っておきたかった。

 

「おお、姫様!」

 

「シモン様、私はもうハイリヒ王国の姫ではありませんわ。ですから唯のリリアーナとして接して下さいませ」

 

「む、然しですな」

 

「ハイリヒ王国は滅亡しましたわ。愚弟と莫迦な貴族がユートさんに刃向かったが故に」

 

「ユート殿……ですか……」

 

 今は先祖の姉とやらを連れに行ったユートの事を思うシモン、そして大変な部位を視られてしまって『お嫁に行けない』と古めかしい事を考えているシビルも、矢張り違う意味合いではあるけどユートの事を思っていた。

 

 聞いた話ではこの空飛ぶ船オプティマスプライムには、ユートが見出した【閃姫】と呼ばれている謂わば恋人とか嫁さんとか称される存在が沢山居るらしく、しかもどうやらリリアーナ姫さえもそんな中の一人であるらしい。

 

 とはいえ、ユートが言った通りならその身分は真皇という皇帝とか国王と同義なれば、側室とかが両手両足の指では足りないくらいに居たとして何もおかしくはなかった。

 

 事実として、ハイリヒ王国のエリヒド元国王は隣にルルアリア王妃のみを立たせてはいたけど、ヘルシャー帝国のガハルド元皇帝はそれこそ数多くの側室や妾を侍らせていたとか。

 

 王侯貴族なら常にそれは存在するし、ユートも皇族ならばこれも普通なのであろうとシモンは考えるしかない――爆ぜろとは思うけどな!

 

(爆ぜろリア充、弾けろ下半身!)

 

 などと不穏な事を考えている辺り、シモン老は未だに下半身が現役なのかも知れない。

 

 まぁ、少なくとも()()()()にシビルの親を創ったのは間違いあるまいが……

 

 ユートがスーシャを正装に近い服を着せてやってから連れて来る。

 

「おお、貴女が?」

 

「スーシャ・リブ・ドゥミバル。貴方達の先祖になる筈のユンファ・リブ・ドゥミバルの姉に当たります」

 

「儂はシモン・リブ・グリューエン・リベラールと申す者」

 

「私はシビル・リブ・グリューエン・リベラールになります」

 

「リブ……グリューエン……ナイズ様とユンファの子孫……ウウッ!」

 

 感極まってか、スーシャは二人の名乗りを聞いて泣いてしまったのは無理もあるまい。

 

 その名乗りは頭文字ではなく普通に。

 

「やれやれ、既に対価は支払って貰っていたからちゃんと残ってくれていて良かったよ」

 

「ちょっ、この時代に子孫が居ない可能性があったっていうのに対価を先払いさせたの!?」

 

「居ない可能性に関しては予め伝えてあったよ。とはいえ彼女の望みの一つの為にも対価っていうか抱くのは必要だった」

 

「何でよ?」

 

「スーシャの望みは強くなる事。即物的に強くなるならライダーシステムを渡すのが手っ取り早いけど、知っての通り僕は通常だと身内以外にアレらを渡したりしない」

 

「そうね……」

 

 坂上龍太郎みたいな例外はあるにしても基本的には身内――男なら親友クラス、女なら【閃姫】か【準閃姫】クラスには成って貰いたい処だ。

 

 ハジメと浩介は親友クラスの仲だったからこそライダーの力――仮面ライダーアギトと仮面ライダーシノビの力を渡したのである。

 

 尚、【準閃姫】とは以前まで【半閃姫】と呼んでいたり【仮閃姫】と呼んでいた者を纏めた感じになっていて、ユートも半分だとか仮称というのもどうかと考えこの呼称に変えていた。

 

「身内にする為?」

 

「否、違う。雫達も知っての通りで僕に抱かれると処女・非処女に拘わらず身体能力が上がる……勿論だけど僕がそうしたいと望めばの話だがね」

 

「私達みたいに?」

 

「そうだよ」

 

 少なくとも【閃姫】契約をしているメンバーは身体能力の強化が成されている、とはいうものの強化率は【閃姫】契約をする前段階のそれであると実際に大した事は無かったりするけど。

 

「抑々の話が僕の抱いた相手が強化されるというのは副産物なんだよ」

 

「副産物?」

 

 鈴が小首を傾げる。

 

「僕はハルケギニアで使い魔召喚して覇王将軍だったシェーラを喚び出し、契約をした時点で寿命による死は無いと言っても過言じゃないんだよ。得られたルーンは『共生』、シェーラが精神生命体だった関係からルーンは僕の魂に刻まれてる。つまり転生しようがどうしようが僕は殺されない限りは死なない不老長寿、だけど抱いた相手には同じ時を生きて欲しいと願う。例令、それが僕の我侭に過ぎなくても……な」

 

「それで強くなるというのは?」

 

 鈴と同じく首を傾げるシア。

 

「寿命は延ばせるが、問題は単に延ばしてみても女の子達の肉体には限界が出る。それに延ばされた寿命に精神が保たなくなるだろう」

 

「……精神が?」

 

「ユエの場合は初めから精神と肉体が合致していたから問題無いし、元々が長寿のティオみたいな場合も問題が無いだろうが、本来の寿命を超過するというのは精神にクるんだ。恒常性――所謂、ホメオスタシスってやつだな」

 

「ホメオスタシス……ですぅ?」

 

「恒常性では解り難いか、謂わば変化しない事を意味している。転じて常態を保つ事だ。生命体で云えば『生体恒常性』、体外での変化に拘わらず血糖や体温や免疫などを一定へと保つ機能だね。その恒常性は生物が最大限の寿命を越えて生きる事を許さないのさ」

 

「成程、だから精神から強化しないといけないって話に繋がる訳ね」

 

 雫が理解を示す。

 

「僕が知る中でも延命調整をしたのは良いけど、一五〇歳を越える前に死にたいと夫に申し出たってのがある。肉体的には若くても精神的には老成してしまい耐えられなかったんだ」

 

「そういう事例もあるのね」

 

 尚、これはユートの来世での祖父たる遙照の事で相手は彼の母親たる船穂の妹の娘、遙照からしたら血縁上では従妹に当たるかすみの話だ。

 

 かすみの死後、寂寥感を感じていた遙照は久しく連絡をしていなかったアカデミーに居るであろう親友に連絡をしてみたら、何故かアイリ・マグマが居た上に自分を『お父様』と呼ぶ美少女までが居て色々と頭を抱える羽目に。

 

 その美少女こそアイリ・マグマが産んだ娘で、その名を『柾木水穂』であったと云う。

 

 それは兎も角……

 

「つまる話が延命調整をする為に肉体的や精神的に『調律』をするんだよ」

 

「それがユートに抱かれ、ユートが望んだ相手に与えられる強化の正体って訳かぁ」

 

 どうやら雫はこの話に納得したらしいし、他の【閃姫】達も『成程』と頷いているのだが……

 

「香織は納得してないの?」

 

「雫ちゃん……納得はしたんだけど、ゆう君に訊きたい事が出来たかな」

 

 と言いつつ香織がユートを見遣る。

 

「ふむ? この際だから答えるぞ」

 

「じゃあ……その強化っていうか『調律』っていうのは素材やエネルギー無しに出来るのかな?」

 

「ほう、中々に鋭い質問だ」

 

 ユートは感心しながら口を開いた。

 

「多分、香織には何となく答えは判っているんじゃないかな? 答えは君らの子宮に吐き出された僕の精液や精子だよ」

 

「矢っ張りか~っ!」

 

 触媒みたいなものだが……

 

 勿論だが【閃姫】契約に関してもユートが吐き出した精液や精子を触媒に『調律』をしており、

内部に含まれた膨大なるエネルギーを使っているのは間違い無い。

 

 何しろ溢れ出るくらい大量に相手の胎内に納まっているのだし、これを利用しない手は無いのだと謂わないばかりであったのだと云う。

 

「で、スーシャさんとはもうシたのよね」

 

「元々が好きな男が居たんだから気が変わったら

アレだしな」

 

 それ故にスーシャは自己嫌悪と快楽の板挟みとなっており、それに加えて僅か数発とはいえ性の営みによる疲労もあって眠っていた。

 

 初めての胎内への受け容れと初めての痛みと初めての絶頂、唇同士のキスすら初めてであったから殆んどの初めてをユートが奪った形となる。

 

 数千年だか一万年だかはカウントをしないとしても、約三年間に亘るスーシャのナイズに対する初恋は確かな終焉を迎えるのだった。

 

 とはいっても新しい恋に生きようと思える程にナイズへの想いは弱くなくて、だからこそ強引なユートを受け容れる事であの熱く燃える様な切なく甘酸っぱい初恋を終わらせたのである。

 

 勿論だけど葛藤は有ったのだ。

 

 ユートは数千年~一万年は経過している可能性が高いと言うけど、スーシャからしたらこれは僅か数日前の話だったのだから。

 

 そんな状態で他の男に股を開き咥え込むなど、まともな思考なら出来る事では無かった。

 

 ビッチな淫乱女であるならまだしも、スーシャはナイズ限定であれば幾らでも淫乱になれるであろうが、普通に見た目相応の性的倫理観――但しユンファとならナイズを分け分け出来たけど――を持ち合わせているのである。

 

 スーシャはユートが好きな訳では決して無く、当然だが愛情なんて全く以て感じてはいない。

 

 ヤっている時なんて目を閉じてナイズの顔だけを網膜に映し、心の中で『ナイズ様ナイズ様』とナイズに抱かれている妄想で乗り切っていた。

 

 とはいえ嫌ってもいなかったりする。

 

 可成り気を遣って貰っていたのは理解するし、最終的に破るまで止めるか否かを選択させようとしてくれて、アソコまでギンギンにしていたなら相当に辛くて早く挿入して欲望の侭にヤりたい筈なのに、飽く迄もスーシャの『自由な意思』というものを尊重しようとしてくれた。

 

 それとヤっている真っ最中、殆んど痛みを感じずに快感だけがスーシャの全身を駆け巡ったし、最初の一発目から絶頂で頭が真っ白になってしまって『ナイズ様』の事が掻き消えてしまう程。

 

 最終的にはまな板の上の魚の如く致されるだけ致され、ユートが五発を射精するまでにスーシャの絶頂回数は七回とユートより多かった。

 

 確かに多くの彼女を持つ事を聞いてはいたが、それが必ずしも性行為の巧みさに繋がる訳ではないからには、どれだけヤってきたのかちょっとだけ聞きたい様な聞きたくない様な複雑な気分。

 

 決定的だったのは最後に見た最中のユートの顔に心臓を高鳴らせてしまった事。

 

 本来、ある一定の愛情を持たないと【閃姫】契約は不可能だから、ユートはスーシャとの契約へと漕ぎ着けるのは矢張り無理と判断していたが、この一瞬の出来事にその一定値を振り切った為に【閃姫】契約が可能となっていた。

 

 ユートもまさか出来るとは思わなかったけど、可能ならやっておくべきだろうと契約する。

 

「パワーアップはしたのよね?」

 

「ああ、彼女はこの世界の人間だから月奈達みたいにステータスプレートがerrorにならなかったから見てみたが、レベルは10以下でステータス値も軒並み20以下で天職も無しだったんだけど、ステータス値は一気に勇者(笑)の本来のマックスより高くなったな」

 

「光輝のステータス値の本来のマックスって確か1500だったかしら」

 

「ああ。レベルが100になったからこれ以上は上がらんと思ったけどな、【閃姫】契約をしたらレベルが『?』で数値が数倍になった」

 

「それってもう仮面ライダーくらい強くなっていない?」

 

「どうも自覚が無いみたいだけど、雫や香織達だって【閃姫】契約をした時点でスーシャよりも強くなっているからな?」

 

 ハッとなるのは雫だけではなく香織や鈴も同じくガバッとと顔を上げ、無くさない様に仕舞っていたステータスプレートを見てみる。

 

「うわっ、ホントだよ」

 

 鈴のレベルは矢張り『?』と化してしまっていたし、ステータス値にしても軒並み10000を越えているのが判った。

 

「まぁ、兎人族の私ですら元々の数値を凌駕しちゃってましたからね」

 

 シアは魔力を中心に筋力なども大きく上がっていた為、実は生身でも相当な強さをえているけど仮面ライダーに成る事で更なるパワーを。

 

「……ん、元の数値が高い分は上がり幅が小さいけど、低い数値は目に見えて上がっていたから私も吃驚した」

 

 ユエも魔力を中心に上がるが、筋力などはシアとは違って其処までは上がっていないにしても、メルド・ロギンスよりは高まっていて闘えば普通に勝ててしまう。

 

「妾もじゃな。竜化せんでも竜化した時より高い数値じゃったわ」

 

 ティオは全体的にこれまでの竜化時点より強くなっており、当然ながら竜化したらそれを遥かに越えてパワーアップする。

 

「あ、三人はもう知っているのね」

 

 ミレディを除くトータス組のユエ、シア、ティオの三人は自分を把握をしていたらしいのだが、雫達はある一定以上になるとステータスプレートを見ていなかった様だ。

 

 尚、雫は速さを中心に、香織はユエやシアみたいに魔力を中心に、鈴は物理的や魔力的な耐久を中心に引き上げられている。

 

「それで、【閃姫】契約をしたんなら身内の扱いなのよね? 即戦力ともなる何を彼女に渡したのかしら?」

 

 バッと一斉にユートに顔を向けてくる辺りこれには全員が気になるらしい。

 

「グランヴェール」

 

「……はい?」

 

「だから、グランヴェール」

 

「四千年で悠久で黄河な?」

 

「ちょっと違う」

 

「違う?」

 

「ア・ゼルス版のグランヴェール、つまりそれは【真・魔装機神】の方だからね」

 

「成程……というより何でロボ?」

 

 てっきり仮面ライダーかと思ったら魔装機神という所謂、ロボットを全くの素人というより機械をまるで知らないファンタジー世界な人間に与えてどうするのか? という疑問。

 

 事実、ユエもシアもティオもミレディも首を傾げるしか無かったという。

 

「あ、何か勘違いしているな」

 

「勘違い?」

 

「言っとくが君らに渡したライダーシステムみたいなもんだからな?」

 

「へ?」

 

「流石にスーパーファミコンとなると判らんかも知れないけど、『ヒーロー戦記~プロジェクトオリュンポス~』ってゲームが在る。これに出てくるラスボスのアポロンが記憶喪失でギリアム・イェーガーが使うゲシュペンスト、これはスパロボの様なロボットじゃなくパワードスーツで着込むタイプだった。これと同じくな着込むゴーレムを前世のハルケギニアでも造ったけど、スーシャへと渡したのは魔装機神系のパワードスーツみたいなモノだな。砂漠出身だからか火属性に相性が良かったからグランヴェールだった訳だ」

 

「ああ、そういう……」

 

 ユートもよく『コール、サイッバッスッタァァァァァァーッッ!』とかギリアムみたいに喚んで装着している。

 

 砂漠なら地属性では? と考える場合もあるかも知れないが、寧ろ砂漠は地属性が火や風に比べると弱いというのは精霊学的な話。

 

「ユートは『ヒーロー戦記』ってプレイした事があるの?」

 

 スーパーファミコンであるのならどう考えても二〇年以上は前のゲームだった。

 

「リアルタイムには無理だよ。二〇一四年に僕は二五歳だったんだぞ? 発売されたのは僕が生まれた数年後、諸々の理由から一応は土地邸持ちな金持ちではあったけど、五歳にもならない子供にコンピューターゲームとか買い与える程に非常識な親では無かったからね」

 

「そりゃ、そうよね」

 

 まぁ、母親の緒方蓉子は双子の片割れを死産している関係からかベタ可愛がりしていて、強請れば息子可愛さに買ってくれたかも知れないが……

 

 因みに当時のユートのお金は親から小遣いを貰う以外だと、祖父の仕事を手伝う事でアルバイトみたいな感じに仕事料を貰っていた。

 

 小遣いが月に二千円、バイト料が一万円だから合計で月に一万二千円だったので買おうと思えば買えたが、当時のユートは身体を動かす方が好きでゲームはしていなかったから買っていない。

 

 とはいえ、だからこそ中学生になるまでに可成りの貯金額でそれなりのサブカルチャーを買えた訳であり、今現在のユートの原典知識に於ける礎となってもいる。

 

 余り持ってはいないエロゲーの知識は悪友から無理矢理に貸し出されたモノを、已むを得ないとプレイした結果として手に入れたものだ。

 

 無理矢理だが【とらいあんぐるハート】を貸し出されてプレイしたからこそ、ユートは後に放映された【魔法少女リリカルなのは】に興味を持って鑑賞したのだから無駄では無かったろう。

 

 そのプレイでアリサ・ローウェル強姦殺人事件を視て『騙された』と憤慨をしたものだったが、その手のシーンは他のナンバリングでも在ったのに行き成り【とらいあんぐるハート3】からプレイしたのが悪い。

 

 因みにだが、このアリサ・ローウェルは別世界から這い寄る混沌の仕業でガリア王国に転生し、実はジョゼットだったユーキと同じ場所に暮らしていた為、蛇遣座の白銀聖衣を与えられて聖騎士の一人として活動をし、原典では鶏の骨呼ばわりされていた教皇の護衛を任されていた。

 

 【魔法少女リリカルなのは】主体世界に於いて平行世界の自分――アリサ・バニングスと挨拶をしてアリサとすずかに驚かれてもいる。

 

「さてと、スーシャはまだ寝ているみたいだからミレディに頼むとしようか」

 

「まっかせて♪」

 

 横チェキしてウインクしながら頷くミレディ、ユートはそんな彼女に頷き返す。

 

「坂上、天之河を連れて来い。愚図るなら置いていくだけだ」

 

「わ、判った」

 

 本音を云えば連れて行きたく無かったのだが、置いていくと煩いだけだから仕方がない。

 

 それに……『探索の中で死ねば良い』のだと、()()()()()()()()()()()()黒い思考が有った。

 

 勿論、直に言ったりしないけど。

 

 数分後には坂上龍太郎が天之河光輝を連れて戻って来た為、ユートは扉というかハッチを再び開いて吹雪く外へと繋げる。

 

「これからシュネー雪原に降りる」

 

「ま、待て! それは飛び降りるって話なのか? だとしたらさっきと同じじゃないか!」

 

「行きたくないなら留守番でもしているんだね、僕は別に強制なんかする気は無いから。寧ろ来るなと言われない事に感謝して欲しいくらいだ」

 

「くっ!」

 

 それはまるで蟲でも視る目。

 

「心配しなくても今回は五〇〇m、さっきからしたら僅か半分の距離に過ぎん。何も成層圏からの飛び降りをしろと言っている訳じゃ無いんだぞ」

 

「五〇〇だと!?」

 

 確かに雪布団がクッションにはなるかも知れないが、五〇〇mという距離に目眩すら感じてしまう天之河光輝を無視してユートが腰にドライバーを巻き付ける。

 

《SEIKEN SWORDRIVER!》

 

 それは横並びに上から差し込む形のスロットが存在するバックル部、そしてまるでバックルこそが剣の鞘だとでも謂わんばかりに右側から赤い鍔の剣が差し込まれていた。

 

 更にユートは右手に見た目は赤いカセットみたいな某かを手にする

 

《BRAVE DRAGON!》

 

 そして開いた。

 

《KATSUTE SUBETE WO HOROBOSU HODO NO IDAI NA CHIKARA WO TENISHITA SHINJUU GA ITA!》

 

 まるで物語る本みたいなそれを閉じてベルトのバックル部、最右端のスロットへとカセット――ワンダーライドブックを装填。

 

「ハッ!」

 

 そして勢い良く剣を抜く。

 

《REKKA BATTOU!》

 

 電子音声が鳴り響きながらワンダーライドブックが開かれた。

 

「変身っ!」

 

 剣身が炎に包まれた剣を斜め十字に振りながら叫んだユート……

 

 《BRAVE DRAGON♪》

 

 詠う様に音声が鳴り響く。

 

《REKKA ISSATSU!》

 

 下半身が白く上半身が黒に赤い縁取りなアンダースーツに、右側にのみに赤い竜の頭を思わせるアーマーを装着した火炎を思わせる黄色い複眼を持った仮面の騎士が此処に爆誕した。

 

《YUUKI NO RYUU TO KAENKEN REKKA GA MAJIWARU TOKI SHINKU NO KEN GA AKU WO TSURANUKU!》

 

 剣舞を思わせる動き。

 

《KAENKEN REKKA!》

 

「仮面ライダーセイバー! ()()の結末は僕が決める!」

 

 そしてズバッと決まるポーズ。

 

「何だかその科白だけ聞いたら転生者っぽくなるわよね……」

 

「つーても、これが仮面ライダーセイバーの実際の決め科白らしいから仕方がないさね」

 

 雫の指摘に苦笑いするしかないユートはこれを造るに当たり、令和も生きた狼摩白夜から聞いた仮面ライダーセイバーの情報の中に決め科白に関するモノもあった。

 

「長い変身シークェンスだね」

 

「音声も長かった」

 

 香織と鈴も感想を口にする。

 

「それじゃ、僕は行くから。坂上、天之河がどうしても愚図るならぶん殴って気絶させておけ」

 

「わーったよ」

 

「りゅ、龍太郎!?」

 

 ユートの言葉にあっさり頷いた坂上龍太郎に対して裏切りを感じたらしい。

 

 全く以て自業自得である。

 

「はっ!」

 

 そして矢張りまるで躊躇いも見せずに出入口から飛び降りるユート、それを見た雫達も仮面ライダーに変身をして飛び降りた。

 

「何で躊躇いもしないんだ?」

 

「緒方が出来ると言った。そして皆が緒方を信じたってだけだろ」

 

「どうして……」

 

「どうしても何も、それだけ信用と信頼を築き上げて来たって事だろうぜ」

 

 口にこそしなかったが、『向こうでお前が得ていたもんだろう』と哀し気に思ったと云う。

 

 ユートが言っていた――『天之河はトータスに来るべきでは無かったな』……と。

 

 現状を視て坂上龍太郎はよく理解した。

 

「ほれ、行くぞ光輝」

 

「ぐっ、だが……」

 

「雫も香織も、それ処か鈴まで飛び降りたんだ。俺らが行けねーなんてどうよ?」

 

「わ、判った」

 

 それでも見捨てられない、坂上龍太郎にとって天之河光輝はユートにとってのハジメや浩介で、即ち親友という間柄なのだから。

 

 逡巡する天之河光輝は曲がり形にも勇者だとは思えない勇気の無さだった。

 

 何とか飛び降りた天之河光輝はズボッとギャグの如く自分の姿を跡に残して雪に埋まる。

 

「さむぅぅぅぅっ!?」

 

 普段着の侭だったから天之河光輝が寒さに震えながら叫んだ。

 

「おわぁぁぁああああっ!」

 

 序でに坂上龍太郎も。

 

「いやいや、坂上はクローズチャージに変身しろよな? 何で生身の侭で飛び降りたし。僕の造った物は基本的に耐熱性耐寒性なんかに優れているから寒さを抑えられる」

 

「そそそ、そうなのか? 変身!」

 

 すぐに仮面ライダークローズチャージへ変身をした坂上龍太郎は……

 

「お、マジで寒くねー!」

 

 感動をしていた。

 

「お、俺はどうすれば……」

 

「というか、シュネー()()()()()()に行く事は伝えていた筈だろう? 何で防寒具も準備しないで付いて来ているんだよ」

 

 名前からしてどう考えても刺す程の寒さなのは判りそうなもの、防寒具としてコートの一つも着てくるのが普通なのに普段着である。

 

 仮面ライダーセイバーなユートは寒さの対策がバッチリだし、他の【閃姫】達や坂上龍太郎だってユート謹製の仮面ライダーに変身が出来るから問題も無かったが、天之河光輝はそんな便利な物は持っていないのだからコートの一つくらい持参して然るべきであろう。

 

「お、緒方が用意をしたんじゃ……」

 

「何で僕がお前の為に何かするんだよ? 自分が無理矢理に付いて来ている自覚も無いのか」

 

「ぐっ!」

 

「兎に角、さっさと行くぞ。もう時間を気にする意味も無くなったが、とは言っても帰るのを早める為には早くクリアした方が良いからな」

 

 天之河光輝が寒がろうとユートには無関係でしかないから、道を見失いがちな吹雪の中に在って『導越の羅針盤』が指し示してる氷雪洞窟の方向を人差し指で差しながら言う。

 

「ま、待ってくれ!」

 

「はっ、ほっ!」

 

「違う! 舞ってくれじゃない! って言うか、いい加減そのネタはヤメロ!」

 

 ユートが剣舞を舞うと天之河光輝が青褪めた顔で怒鳴ってきた。

 

「俺は凍え死ぬ寸前なんだが、どうしろって云うんだって話なんだよ!」

 

「んなもん、防寒具も自前で用意しなかったのが悪いんだろうに。さっきも言ったけど雪原に来るのは通達していたってのに、何だって普段着だけで来てるんだよ天之河は」

 

「だ、誰もそんな準備をしていなかったじゃないか! だから俺も……」

 

「【閃姫】達は普通に仮面ライダーに変身すれば寒さを凌げるのを知っていたし、坂上は基本的に脳筋だから特に何も考えていなかっただけだ」

 

「うっ!」

 

「そういう意味では坂上もラッキーだったよな、お前の暴発を防ぐ名目でクローズチャージを得られたんだからな」

 

「ぐぐっ!」

 

 最早、ぐぅの音くらいしか出ない。

 

「ねぇ、ゆう君。光輝君に寒さを凌げるアイテムを渡せないかな?」

 

「香織……」

 

 砂漠でオアシスを見付けたみたいな顔で救われた気分になる天之河光輝。

 

「天之河、いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うぞ。香織だってお前に構ってばかりはいられないんだからな」

 

「っ!? な、何を!」

 

 行き成りユートから言われて吃る。

 

「それとも香織」

 

「何かな?」

 

「それとも単に香織自身が天之河に優しくしたいだけなのか? それなら香織の自由意思だから僕も敢えて止めたりはしないけど」

 

「え、そんなんじゃないよ。でも一応は光輝君も幼馴染みだから、流石に目の前で凍え死なれるのもちょっと……ね」

 

 余りにも余りな香織の言い分にあんぐりと口を開けて茫然自失で絶句した。

 

 この遣り取りは原典でハジメと天之河光輝の間で交わされた会話、そして香織は『私が南雲君と話したいから話してるだけだよ』と言っており、先程の天之河光輝に対する態度とは全く違う。

 

 まぁ、幼馴染みとは言っても強姦未遂犯でもある天之河光輝を許した訳ではない、飽く迄も幼馴染みとしての温情に過ぎないのだった。

 

 

.




 ありふれ坂エンドでも良いのかも……




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第107話:ありふれた凍結魔物

 残業ばかりで書く気力が……





 

.

 ユートは吹雪で地面が見えないので軽く積もった雪を炙って溶かし、そこら辺に転がっている石を左手で取ると右人差し指に魔力を篭めて何やらスラスラと動かし始める。

 

 全員が頭から『?』を出す勢いで見つめていると完成したのか、その石ころをその全員に見せ付ける様に左手を前に出す。

 

 勿論、それは先程拾った石ころに過ぎなかったのだが……[保温]と書かれていた。

 

「ゆ、ゆう君? これは何かな?」

 

 汗を流しながら苦笑いを浮かべる香織が絞り出す様に訊ねて来る。

 

「香織からの注文で造った天之河専用『保温』の魔導具だが?」

 

 つまりホッカイロよりずっとマシな温度を保つ魔導具、確かにこんな吹雪く様な場所であるならば必須とも云えるであろう。

 

「保温と書かれてるけど、これが錬成師のアーティファクトの造り方?」

 

「え? 通常の錬成師はアーティファクトなんて造れないぞ雫」

 

「そうなんだ……」

 

「錬成師に出来るのは鉱物の扱いや金属の変形といった事、魔導具やらアーティファクトを製作する為に必要なスキルは無い」

 

 だからこそ軽んじられた。

 

 それなりに存在しながらもやれてる事は精々が部品の製作と組み立て、アーティファクトにしてもメンテナンスが出来れば出世する程度。

 

 成程、『ありふれた職業』でしかないだけあるというしかないであろう。

 

「だからこそ錬成師とはフルバックですらない、その役割は詰まる話がバックヤードスタッフだというのに、それで前線に出そうとする勇者(笑)やハイリヒ王国の貴族や王族の無能さよ」

 

 その勇者(笑)本人と腰巾着な坂上龍太郎は居た堪れない気分だった。

 

 寧ろ錬成師を無能と断じただけに、これで尚もイキるのは流石に出来ない。

 

「因みに、僕は勿論だがハジメも魔導具の製作は可能だから通常のありふれた錬成師では無いな。とは言ってもそれを申告した処で無能な勇者(笑)は『闘うべきだろう』と前線に出しただろうし、無能な貴族や神官も変わらずだったろうがな」

 

 トータス側は居るなら居るだけ前線送りという駒扱いなだけだったのだろうが……

 

「兎に角、これがお望みの魔導具だ。五万円という格安で売ってやる」

 

「なっ! 仲間から金を取る気か!?」

 

「はぁ? 仲間って誰が? まさか今までに散々っぱら邪魔をしまくって攻撃をしてきた天之河、お前が……とは言わないよな? 若しもそうだとしたらとんだ恥知らず、厚顔無恥にも程がある」

 

「っ!?」

 

 ユートの本来のステイタスにパーティというのが在るけど、それは幾つかグループ分けを可能としていてユートを含む六人パーティ制、最大限では一二グループによる第一パーティ以外は五人制の六一人レイドして機能する。

 

 【閃姫】達は所謂、クランに所属する形に成っているからあぶれたりはしない。

 

 そしてパーティメンバーにのみユートが施せる魔法なども存在しており、天之河光輝はパーティメンバーとして第一パーティ~第一二パーティのどれにも登録をされていないのだ。

 

 迷宮脱出呪文(リレミト)が正にソレで、万が一にユートが氷雪洞窟でこの呪文を唱えた場合はまず間違い無く天之河光輝、それに可哀相だけど坂上龍太郎は置いてきぼりを喰らうであろう。

 

 因みに瞬間移動呪文(ルーラ)は一応だけど触れてさえいれば巻き込める……但し、ポップのやった初期のルーラみたいな感じに着地をさせられるけど。

 

 ユートはハイパーゼクターを取り出すとこれに虚無魔法の記録(リコード)を使う。

 

 全員の脳裏に浮かぶのはハイパーゼクターを使う仮面ライダーコーカサスに成る天之河光輝が、逆玉手箱の力で前々世の状態に弱体化させられているユートに刃を揮う姿。

 

「これは物に宿る記憶を喚起して見せる魔法だ、それで? これが仲間のする所業か?」

 

「うぐっ!」

 

 どれだけ御都合解釈しようが証拠映像の閲覧が出来ては否定も叶わない。

 

「今の、再生魔法?」

 

「否、今のは虚無魔法の一つの記録(リコード)だ」

 

「何で優斗が虚無魔法を? 実は虚無の担い手だったってオチ?」

 

「まさか。トリステインの虚無の担い手は唯一、ルイズだけだったよ。どっかに御落胤辺りが予備として存在したかも知れないが、少なくとも僕の知る範囲には居なかったし、僕自身が予備なんて話も勿論だけど無い。仮に予備だったとしても、ルイズが居る限り予備は予備に過ぎないしな」

 

「じゃ、どうして?」

 

 雫の疑問は尤もなもの。

 

「ハルケギニア大陸に仕込まれたシステム上に於ける担い手、そういう意味ではトリステイン王国にルイズ、アルビオン王国にテファ、ガリア王国にジョゼフ一世、ロマリア連合皇国にヴィットーリオ枢機卿の四人だった。同じ系統魔法に分類はされても小さな粒――原子を操る四系統魔法と、粒子を操る虚無魔法では謂わばOSが全く異なったコンピューター。だから虚無の担い手は四系統魔法を扱えない。だけどエミュレータでOSを再現してやれたらどうだ? 僕は四系統魔法を扱うから虚無魔法は扱えないが、OSをエミュレートしてやれば扱えてもおかしくは無かろう?」

 

「? よく判らないわ」

 

「僕は転生する際の特典の一つに『魔法に対する親和性』というのを貰った。実はこれが可成りのファジーでね、正確には『神秘に対する親和性』とも呼べる能力だったのさ」

 

「神秘に対する親和性……?」

 

「魔力」

 

 右人差し指の指先に魔力を宿す。

 

「霊力」

 

 次は中指の先に霊力を灯した。

 

「念力」

 

 薬指に念力を発する。

 

「氣力」

 

 小指に氣力を放つ。

 

「合成すれば小宇宙となる」

 

 四つの力を拳に握り締めるとそれは一つに集約されて小宇宙に変換された。

 

「突き詰め昇華すれば神氣となる」

 

 小宇宙の輝きが神氣の煌めきに昇華を成され、雫達には小宇宙の段階から最早感じる事すら不可能なエネルギー、突き詰めて昇華をするというのは即ち究極の小宇宙たるセブンセンシズに至り、極限の小宇宙のエイトセンシズにまで高めて更に第九感覚ナインセンシズに至る事。

 

 其処まで至れば弱い神が扱う程度の神氣くらいには成るだろう。

 

 そして大神クラスなら当たり前の神氣ともいえる第十感覚――テンセンシズ。

 

「本当にそれでも刹那の刻しか使えないんだから嫌になるな」

 

 輝きも煌めきも宿さない無色透明な力が刹那、ユートから溢れながら直ぐにも弾けて消えた。

 

 ナインセンシズなら数秒間は保つが、テンセンシズともなると正しく一秒と保たない刹那の刻。

 

 とは言っても、神々と呼ばれる存在でさえ実は神氣とは扱えない者も割と居るから使えているだけマシとも云える。

 

 神氣を使えない神って何ぞ? とも思えるが、神氣を扱える事が神の証明という訳では無いからそういう事も侭有った。

 

 単純に【聖闘士星矢】の神々が神氣を充分に扱えているだけであり、例えば【ドラゴンボール】に於ける『地球の神』は普通に闘氣までしか扱えないし、界王神ですらまともに神氣を使えていないのは作中の表現から判る。

 

 これが破壊神レベルになると神氣も扱える為、悟空達も氣を感じられていなかった。

 

 例えばユートが使う光鷹翼も神氣と同質の力、故に本来的に光鷹翼の力を持つ津名魅達『三命の頂神』も名前の通り神である。

 

 光鷹翼は一枚一枚に高密度のエネルギーが封入されており、楯に使うも良し、攻撃に使うも良しで使い易い上に武具と一体化させたり物質化させたりしてパワーアップも可能。

 

 柾木天地も物質化で闘衣と盾を創り出したし、天地剣を光鷹真剣に変換させていた。

 

 尚、ユートもデジモンの進化に光鷹翼を使っていたりするし、聖衣を神聖衣化させるのにも使っているから正当な使い方だ。

 

「こんな具合に神秘に類する力を扱い易くしてくれる特典でね、お陰で僕はもう一つの特典が進化した『叡智の瞳』を通して視た神秘を真似るのも割と容易いし、通常なら扱えない筈の力を扱えたりもするんだよ。とはいえ、虚無魔法に関しては『虚無の担い手以外は使えない』って思い込みから使えなかったんだ」

 

「ああ、そういう……」

 

 思いの力は強いとよく云われている事だけど、思い込みも強いと制限になってしまうもの。

 

「それを取っ払う出来事があったか虚無魔法をも扱える様になった」

 

「取っ払う出来事って?」

 

「ハルケギニア時代での時空間放浪時期に訪れたファンタジー的な世界の一つに転生者が居てね、その転生者が使う魔法は僕が使うのに近い魔法ながら有機物すら使えていた。僕の当時に使っていた【錬成】はハルケギニアの【錬金】が進化した魔法で、無機物にしか使えないと思い込んでいたんだけどな。事実として無機物にしか使えてなかったのに、意識改革してからは普通に有機物も出せたり出来る様になった。例えると無機物な塩は出せても有機物な砂糖は出せなかったのが出せる様になったんだよな」

 

 海水や岩塩から採れる塩は無機物で、砂糖黍や甜菜から採れる砂糖は有機物。

 

 当時、塩で困る事は無かったのだけど砂糖の様な甘味に困っていたのは言うまでも無い。

 

 単純に出せないという意味でだが……

 

「んで? 天之河はコレを買うのか?」

 

「そ、それは……っ!」

 

 天之河光輝としては買いたくないのだろうが、一人の人間としてはこの莫迦みたいな寒さに耐えられない為、已むを得なしに買うしか無いというのが正直な話であった。

 

 今も長話の最中にブルブルと震えていたのは寒気に晒されているが故で、この侭では寒さから風邪を引く処か凍死をしてしまいかねない。

 

 一応は長袖長ズボンであるものの、金属製の鎧は寒さを防ぐ防寒具になる訳では無いというか、寧ろ冷えてしまって凍死へのカウントダウンを早めてくれそうだ。

 

「クソッ、仕方がない!」

 

 この世界では使えない万札を五枚も出して口惜しげに渡してくる。

 

「まさか未だに地球の金を財布に入れていたとは思わなかったな」

 

 地球に戻り次第返す借金的な意味合いだったのにまさかの即金、香織や雫や優花らの財布の中身は既にトータスのお金だけだというのに。

 

「こんな石ころが五万円……」

 

 取り敢えず納得はしていないらしい。

 

 確かに素材は石ころ、二束三文の足しにする処か無価値な代物であるのだろうが、其処に付加価値が付いたからには間違い無く五万の価値を見出せる筈だ。

 

 例えば効果、例えば人件費、そして魔導具とは基本的に高価な物であるのだから……というより石ころが素材だから五万円で渡したのである。

 

 漸く全員の防寒が出来たので氷雪洞窟に向けて早速ながら出発した。

 

 仮面ライダーセイバーとしては完全な初期フォームとはいえ、ユートならワンダーライドブックは一冊差しで充分だからか火炎剣烈火を引き抜いた状態で無造作に歩く。

 

 『氷雪の峡谷』を進むと大迷宮の入口が存在するであろうと思われる方角に、三つに枝分かれをした巨大なる氷のトンネルが続いており、ユートが持つ『導越の羅針盤』は右側を指していた。

 

周りの氷壁と峡谷の上の積雪にて作られたトンネルは風の回廊の如く、奥からは業務用冷凍庫も斯くやな身を突き刺す様な極寒の風が吹き付ける。

 

 基本的に冷気は暖気と反対に下へ降りるから、地表に比べるとその気温は可成り低かった。

 

 それこそ唯々、凍らせておく事を目的としている食品会社の工場内に設置された冷凍室の中みたいに、-五〇℃とか生身で居たら凍ってもおかしくない大気は厚着すら無意味と体温を奪われて、情け容赦無く体力も削り取られていた筈だ。

 

 ユート謹製の仮面ライダーに変身していたからそれを防げているだけである。

 

 このトンネルの内部は整備などされていない、正しく天然の要害と化していて氷塊に氷柱で埋め尽くされていたり、道がまるで大蛇の躰の如くうねっていたり登らされたり降ろされたり。

 

「うん? 何か居ますよ」

 

 それに気付いたのは音に敏感なウサミミを持つシアで、そこそこに広い通路の右側に在る氷柱の隙間にどうやら某かが居るらしい。

 

「きゅうん」

 

「やぁん、可愛い!」

 

 隙間から姿を覗かせたのは仔兎、それを見て思わず頬を朱に染めて歓声を上げた雫……だけど、何しろ今は仮面ライダーサソードな姿だから可成りシュール。

 

 考えてみるが良い。

 

 蠍を模した紫色の怪人が如き姿をした存在が、可愛らしい声で『やぁん』とか少し乙女チックなリアクションをしながら叫ぶ、本来の中の人たる神代 剣を考えるとある意味では不気味だ。

 

 中身が雫だからこそギリギリ赦せる範囲内という事になるだろうか?

 

「中々にシュールな光景だよね、シズシズだって知らないと思わず身構えちゃうよ」

 

 苦笑いをするのは仮面ライダータイガに変身をした鈴だが、こんな可愛らしいトークをタイガがやっているのもシュールである。

 

 まぁ、ユートからしたら何度も見た光景だったから慣れてしまったが……

 

「そうだな」

 

 グチャッ!

 

『『『『『へ?』』』』』

 

 仮面ライダーセイバーの足が兎を踏み潰した様にしか見えない光景、これには余りにも余り過ぎるシュール処の話ではない。

 

「ギャァァッ! ゆう君がががががっ!?」

 

 鈴が頭を抱えて絶叫した。

 

 見た目には普通に可愛い兎さんを踏み潰したら端からは単なる外道、とはいえユートがそんな事を無意味にするとは天之河光輝を除いて誰も思っていないから、某か意味があるのは理解をしているのか『ギャーギャー』と喚く天之河光輝以外は余り責めては来ない。

 

 白銀の毛並みを持つ白銀の瞳の仔兎、その体毛から氷雪と同化して見失いそうになってしまう。

 

「そいつらは魔物だ。魔物の共通項な赤黒い瞳じゃないが、熱を奪う固有魔法を有しているぞ?」

 

『『『『『なっ!?』』』』』

 

「僕謹製の仮面ライダーに変身をしている者達は問題無いが、[保温]で周辺温度を保っているだけの天之河は普通に死ねるけど……良いのか?」

 

 聞いた途端にグチグチと愚痴っていた天之河光輝が絶叫を上げながら鉄の剣を振り回す。

 

 正に狂乱の天之河光輝。

 

 最終的に銀色兎を多く狩ったのは天之河光輝、矢張り死ぬのは相当に嫌だったらしい。

 

 これが本来の世界線ならば其処まで切羽詰まってはいなかったろうが、ユートを相手にしていたのと魔王なハジメを相手にしていたのでストレスの度合いが違ったのだろう。

 

 魔王なハジメは基本的に暴力による理不尽さで悉くを慣らしていったが、ユートの場合は精神的にも追い詰めたからストレスがより高まった。

 

「さて、銀色兎の毛皮や魔石は集めたからさっさと攻略に戻るぞ」

 

 大量に在った銀色兎の死骸から必要性の高そうな毛皮、そして魔物ならば体内に持つ魔石を解体して手に入れたユートのパーティ。

 

 一応、天之河光輝が一番斃したから多く配分をされるのだろうけど、抑々にして彼には錬成師の知り合いなんて居ないから使い様も無い。

 

 ユートやハジメに頼める訳も無く、ハイリヒ王国は解体されてユートの支配下だから錬金術師達にも頼めず、結局はルタを支払って貰っての買い取りという形になっていた。

 

 まさか、()()()()()()()()()()()()()錬成師の大切さに今更ながら気付かされる事になるとは思いもよらず、歯噛みをしながら金額相応のルタを受け取ってその場を離れる。

 

 そう、天之河光輝も心の中ではユートとハジメを『使えない天職』だとして口角を吊り上げていた一人。

 

 だからこそ原典では()()()()()()()()を平然と吐けたのだ。

 

 ユートもそれを聞かされていたからこそ余計にだろう、天之河光輝に対するATフィールドを張ってしまっていたのだから。

 

 天之河光輝は見ていた。

 

「これで完成っと」

 

 拍手と共にユートが毛皮を鞣し革にしてしまった手際を、そしてそれを白銀兎のコートへと変化させる錬成師としての能力を。

 

 否、錬成師としてなら有り得ない。

 

 生成魔法では毛皮みたいな有機物を操れない、それが可能なのは今から取りに行く変成魔法の方だったから。

 

 錬成師の魔法たる錬成も生成魔法の下位互換、つまりは毛皮を変化など出来たりしない。

 

「緒方……お前……いったい……」

 

 嘗て、稀代の錬成師オスカー・オルクスは自身を指してこう言った――『異常』だと。

 

 天之河光輝は本当に今更、ユートの力の異常性に気が付いて……心の奥底の無意識下で嫉妬を感じているのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 解体の際に判った事だったけど、あの銀色兎は顔がグバッと開いて何かを咀嚼する肉食兎だったらしく、ユートを除いた全員がコズミックホラー張りの恐怖心を味わっていたりする。

 

 その後も魔物としてビックフット擬きが現れたりしたが、特に問題も無く斃していたし仮面ライダーセイバーの試運転にも丁度良かった。

 

 必殺技すら要らない程度なのは判り切っていたから、ユートも安心して火炎剣烈火をブン回して魔物を斬り斃していたのだ。

 

「ミラーハウスみたいな場所だな」

 

 氷雪洞窟内に侵入して最初の一言。

 

 吹き荒ぶ冷たい風に乗って雪の結晶らしき物が同時に吹き付けてきた。

 

「下手に生身で彷徨いたら凍傷待った無しだな、ドライアイスでも飛ばしてんのかと思った」

 

 仮面ライダーセイバーだから全身が炎の塊みたいなモノ、幾らドライアイス級の雪結晶が吹き付けてもその都度に溶かす。

 

「外気に触れたら水なんて瞬く間に凍ってしまいそうよね」

 

「そうだね雫ちゃん」

 

 雫は仮面ライダーサソード、香織は仮面ライダーリューンとして護られていたから無事なだけ、それは他の【閃姫】達や坂上龍太郎も同様。

 

 そして保温されていたから天之河光輝も無事、意固地になっていたら直ぐにも勇者(笑)の氷像と化していたのであろう。

 

 まぁ、再生魔法と魂魄魔法で復活はしたかも知れないけど……

 

「問題は彼方此方にある氷壁内の魔人族と思しき死体……か」

 

 行き成り氷壁を破って襲い掛かって来る可能性が無いでもなかったし、未だに試練の間という訳では無いのがまた余りにもアレ過ぎた。

 

「ゴクゴク」

 

 普通は仮面ライダーな状態で飲食とか無理なのだけど、赤龍帝の鎧や白龍皇の鎧みたいにフェイスオープンが可能になっているから、こうやって水も飲みたい時に好きに飲める。

 

 とはいえ、この氷雪洞窟内では水など直ぐにも凍ってしまうから通常は飲めない。

 

 ユートの……というか【閃姫】達もだが周囲に結界が張られているから、水すら即凍る巫山戯た氷雪洞窟内でも水を飲めるのだ。

 

 取り敢えず氷壁内の魔人族らしき遺体がウザったい以外、特に問題らしい問題も起きない侭での道程が続くのだが導越の羅針盤が指しているからには道に間違いは無い筈。

 

 ユートは警戒をしつつも和気藹々とした会話を【閃姫】達と始めていた。

 

「ソードブレイカー? って、あれを優斗は持ってるの? 外観だけがソードブレイカーじゃなくヴォルフィードって意味で!」

 

「ああ。可成り昔に……【魔法少女リリカルなのは】でいう空白期の頃に古代遺失物の一種として発見されてね。【ロストユニバース】の原典設定の通り、ヴォルフィードと闇の遺失宇宙船である六隻の合計で七隻。とはいえ、時空管理局の高官が莫迦をやらかして闇の遺失宇宙船が先に甦ってしまったけどな」

 

「闇のって、デュグラディグドゥとかよねぇ? 確か生体殲滅艦……」

 

「まぁね、だから可成り管理世界の人間がシステム・ダークスターで殺されたよ。僕にはどうでも良いけどな」

 

 闇の遺失宇宙船は負の感情――主に『恐怖』や『憎悪』や『絶望』をエネルギー源としており、戦場だけでなく様々な場所で生命が亡びない限りは潤沢に獲られるから質が悪い。

 

「僕としてはヴォルフィードを獲られた訳だから収支的には悪くなかった。現在はソードブレイカーの艤装を施して立派にトラブルコントラクターが可能な艦船と成っているよ」

 

 現在のヴォルフィードはソードブレイカーという艦名にて、自由自在に動ける肉体を獲得しているキャナル・ヴォルフィードが運用している。

 

 初期原典風味では無くて、アニメ版に於いての服装や髪型で艦長たるユートが不在時での裁量権を与えられ、文字通りトラブルコントラクターを仕事にして自身の艤装用資金を稼いでいた。

 

 ユートが乗らないと基本的にサイ・システムは使用が不可能な為、通常兵装で闘うのが当然の流れとなる訳だけどサイ・ブラスターなら必要無い弾丸の補充にはそれなりの資金が必要。

 

 況してや、キャナルは何故か普段は余り使わない様な兵装を買っては喜んでいる。

 

 資金繰りは嘸や大変であろう。

 

 一応、仮マスターとして時間の都合が付いたら一緒に動く者が居るから精神力が全く得られない訳でも無い。

 

 尤も、苗字は兎も角として名前がこの世界での彼女と被るのは如何なものか……

 

 ユートはクスリと微笑を浮かべてその人物を見遣りつつ歩む。

 

(そういえば、あの時にテンマシンオウドライバーを使ったな……今回もアレを使う必要があるのかも知れない)

 

 オーマジオウドライバーの色違いとも云えるだろうテンマシンオウドライバー、即ちそれは彼の仮面ライダーオーマジオウとは正しく色違いである仮面ライダーテンマシンオウに成るツール。

 

 それはユートの異世界同位体が至る天魔真王へと至った事を意味していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「魔人族ばっかりだね」

 

「恐らく国を挙げて攻略をしたんだろうけどな、そりゃ結構な人数が犠牲になるだろう」

 

 和気藹々とした会話も途切れて再び氷壁の方に目を遣る機会が増えた為、改めて氷壁に埋まった死体らしきを視てみれば殆んどが魔人族。

 

 稀に違う種が混じる程度だ。

 

「これだけ挑んで尚、フリード・バカーとやらしか攻略は叶わなかったか? それとも他に居るのかも判らんが……」

 

 フリード・バグアーである。

 

「まぁ、それでもそれなりに魔人族は居るんだろうけどな」

 

 ユートに魔人族を滅ぼす理由は無いのだけど、逆説的に滅ぼさない理由も特に無かった。

 

 魔人族がどう出るかで滅ぼすか残すのか決めるというある意味で傲慢な考え方をしているけど、それはつまりフリード・バグアーの態度次第では一つの種族を消し去るという事。

 

「来た!」

 

「え?」

 

「警戒しろ! 何らかの敵だ!」

 

 火炎剣烈火を構えながら叫ぶ。

 

「確かに……全ての方向からです!」

 

「後ろからも!?」

 

 ライダーシステムで強化されたウサミミによりシアが叫び、その敵らしきが背後からも来ていると聞いて鈴が戦慄を覚えた。

 

「……後ろに魔物が今更居る筈が無いって事は、さっきから見えていた氷壁内の死体が動き出したのかもな?」

 

「ゾ、ゾンビ!?」

 

 香織がビクビクしている。

 

「大半が魔人族、少数の人間族と亜人族……か。恐らく人間族の場合は何十、何百年も前の冒険者だろうけどな。そういった連中を再利用する為の仕掛けが在るのか」

 

「ゆう君は冷静だね」

 

「ドラクエ系の世界では腐った死体なら幾らでも視てきたからな」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「所詮は数だけで意志も持たない死体がちょろちょろとしているだけだ。一気に片付けてさっさと攻略して行くぞ!」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

 自身を除く全員が肯定の意を示して声を合わせる中に在り、ユートのリーダーシップに憮然とした表情で鉄剣の抜剣をする天之河光輝。

 

 心の中では荒みながらも『本来は勇者たる俺の役割なのに!』と叫ぶ。

 

 ユートが言う通り数だけは多い動く死体だったけど、仮面ライダーのスペックはパワーアップをした形態でなくとも単純な数値だけならエヒトルジュエの木偶人形な使徒とも充分に闘える為に、苦戦らしい苦戦はしない。

 

 唯一、鉄の鎧に鉄剣というさもしい装備品しか持たない天之河光輝は苦戦していたが……

 

 特に本来は動かす仕掛けが別に存在しており、斃しても再生怪人の如く起き上がっていたのだがユートは火炎剣烈火で焼き尽くすから、再生怪人としては使えず消し炭が残るのみである。

 

 それでも完全に斃す術が無い【閃姫】達や坂上龍太郎が斃したのは起き上がるし、ユートとしては死体を動かしている仕掛けを捜すしかない。

 

「見付けた」

 

 とはいえど、魔力を出しているからにはユートの『神秘の瞳(ミスティック・アイ)』で見付けるのは如何にも容易くて、数百mは先に存在していたその仕掛けらしきモノを割とすぐに見つけ出してしまう。

 

 フロストゾンビだけでなく天井からは鷲にも似たフロストイーグルが大量に顕れ、赤黒く鈍い輝きを放つ魔石が在る氷壁を守ろうとしていた。

 

「チィッ、香織!」

 

「な、何かな?」

 

「木偶モードで奴らを分解しろ!」

 

「う、うん……木偶モードは可愛くないけど仕方がないよね。モードチェンジ!」

 

《CHANGE!》

 

 ハートスートのカテゴリーAは二枚が存在しており、一枚は仮面ライダーリューンに変身をする為のラウズカードで、もう一枚はエヒトルジュエの出来損ないな使徒たるリューンの姿に成る為のカードだ。

 

 どちらも[CHANGE]のカードではあるけど、描かれた絵柄は色違いの白いカリスの姿に変身するマンティスと、白銀のヴァルキリーにも似ている鎧姿のリューンで別々。

 

 因みに[EVOLUTION]のカードは原典でやっていた漆黒のヴァルキリー姿、本来は同じ姿で見た目が変わらないけど此方はノイントを封じ込めているカードだったりする。

 

 キングでの変身はワイルドカリスの方では無く一律でノイントの姿だ。

 

 リューンモードに成った香織はフロストゾンビを相手に分解を放つが、赤黒い何かが集まったかと思ったら元のフロストゾンビに戻っていた。

 

「な、何で!? ゆう君は斃したのに!」

 

「ああ、そういう事か」

 

「どういう事かな?」

 

「僕はどの仮面ライダーに成ろうとも本質的には仮面ライダーディケイド、世界の破壊者としてのルールブレイカーで焼き尽くせたんだろうさ」

 

「成程……」

 

 原典の門矢 士の仮面ライダーディケイドが普通にアンデッドや魔化魍をルール無用で滅ぼせたのと同じ様に、ユートもある程度はルールを無視して斃せない敵を斃せてしまう。

 

 フロストゾンビやフロストイーグルは次から次へと矢継ぎ早に顕れては襲い来て、更に魔石が埋まっていた氷壁まで変化を始めて巨亀に成った。

 

「フロストタートルって処か? 魔石を破壊するのが面倒臭くなったな」

 

 原典ではハジメは天之河光輝を中心にして雫、坂上龍太郎、鈴の四人にフロストタートル退治を任せていたけど、この世界線では雫と鈴がユートの【閃姫】で坂上龍太郎も仮面ライダークローズチャージとして立っており、一応は坂上龍太郎が手伝うかも知れないが天之河光輝はそうなったら単なる賑やかしにしかなるまい。

 

 なので、ユートが普通に相手をする。

 

「フロストイーグルやフロストゾンビは雫達に任せる! 僕はフロストタートルを討つ!」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

「ブンカイ!」

 

「ライダースラッシュ!」

 

《RIDER SLASH!》

 

《FINAL VENT!》

 

《FINAL VENT!》

 

「……王の判決を言い渡す、死刑!」

 

《ウェイクアップⅡだ!》

 

「ライダースティングですぅ!」

 

《RIDER STING!》

 

 【閃姫】達が必殺技でフロストな魔物共を叩き潰していく。

 

「ウオオオオオッ! 今の俺は負ける気がしねぇぇぇぇぇぇっ!」

 

《SCRAP BREAK!》

 

 坂上龍太郎も仮面ライダークローズチャージとして必殺技を放つ。

 

「さて、なら此方も仮面ライダーセイバーとして必殺技を放つとするかね」

 

 火炎剣烈火をソードライバーへと納刀をして、トリガー二回押しというアクションを行った。

 

《HISSATSU DOKUHA!》

 

 そして抜刀。

 

《REKKA BATTOU!》

 

 振り回しながらフロストタートルへ突っ込んで行く仮面ライダーセイバー。

 

《DRAGON! ISSATSU GIRI……FIRE!》

 

「火炎十字斬っっ!」

 

 斬り刻む斬り刻む斬り刻む!

 

 何がどう十字斬なのかよく判らないくらいには斬り刻んで、フロストタートルは徐々に削り燃やされて往くと……

 

「終わりだ!」

 

 遂には魔石すら破壊されるのだった。

 

 

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 取り敢えずちょっと持ち直したかも?




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第108話:ありふれた氷鏡面

 感想板は質問箱では無いのだけど……





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 フロストタートルを討ち取ったユート一行だったが、眼下に広がるのは大迷宮の中に存在している大迷路と洒落ながら洒落にならない光景。

 

「横幅がザッと見て四Km程度って処だろうか、なら縦横の幅が同じと考えれば縦幅も四Kmだと推定するしかないな」

 

「何て面倒臭そうな迷路かしら?」

 

 雫も額に右手を添え眺めつつ呟く。

 

(こういう時はあいつの全マップ探査が便利に思えるよな~)

 

 嘗ての仲間の便利機能を思うと溜息を吐きたくなるくらいに面倒な迷路だ。

 

(僕のオートマッピングだと一度は歩かないといけないからな)

 

 これはこれで便利ではあるが、矢張り歩きもしないでその気になれば敵と味方の判別から罠察知まで、色々と多彩な機能を持っていた彼のアレは本当に便利極まりない。

 

 彼が男でさえ無ければヤって貰うくらいしたかったし、仮に敵なら殺して奪ってやりたいくらいの能力だった。

 

 実際に彼女のスキルは一度引き剥がしてしまった上で、インストール・カード化して再び与える事でスキルのマイナスを打ち消したし。

 

「なぁ……態々、迷路を進まなくったって上から行きゃ良いんじゃねーか?」

 

 脳味噌にまでも筋肉がギッチリと詰まっている坂上龍太郎がナイスアイディアと云わんばかり、仮面ライダークローズチャージの力と自身の持つステイタスを駆使して飛び上がって氷壁の一部を足場に最上まで駆ける。

 

「あの御莫迦さんは……」

 

 余りにも頭の悪い行動に頭を抱えながら嘆息をするが、行ってしまったものは仕方がないと諦めて顛末を見届ける事にした。

 

「大丈夫かしら龍太郎?」

 

「まず大丈夫じゃないだろうな。バリアで弾かれる程度なら仮面ライダーの坂上は『痛々たたた』くらいで済むだろうが、境界線上に転移トラップが仕掛けられていたら『いしのなかにいる』的な事に成りかねない」

 

「「「「ぶふーっ!」」」」

 

 洒落にもならない事を言われて地球組が全員で噴き出してしまったが、いまいち理解が及ばなかったトータス組は首を傾げていた。

 

 その『いしのなかにいる』は【Wizardry】にて有名な言葉、転移トラップに留まらず味方が唱えた魔法による転移ですら失敗すればそうなる。

 

 そして漏れなく死亡するのだ。

 

「オルクス大迷宮の表層二〇階層にすら悪辣とも云える転移トラップが在った。なら【解放者】が本格的に造った真の大迷宮に転移トラップってのは考え過ぎだろうか?」

 

「龍太ろっ!?」

 

 上で手を振り声を上げようとしていたであろう坂上龍太郎がフッと消える。

 

「ぎゃぁぁっ! 龍太郎が? 龍太郎が消えてしまったぁぁぁっ!?」

 

「ふむ、転移トラップだな」

 

 スンとした表情――仮面ライダーセイバーの仮面で見えないけど――で呟くけど、天之河光輝と全くの正反対な感じだったがユートからしたなら予測の範疇でしかない。

 

「何処に行ったのかしら?」

 

「多分だが、そこら辺に戻ってくるだろう」

 

「え?」

 

 雫の疑問に答えた瞬間……

 

「龍太郎? か、仮面ライダークローズチャージの凍り漬け」

 

 六角柱の氷塊が転移してきて中に仮面ライダークローズチャージが顕れたのだ。

 

「美女……せめて黄金一二宮の時の氷河みたいな美男子なら絵にもなるだろうに、仮面ライダークローズチャージの中身は野獣と見紛うばかりの男だからな~」

 

 いったい誰得なのか?

 

「言ってる場合か!」

 

「生身ならすぐに窒息死しそうだったんだけど、僕の造った仮面ライダーは基本的に水中や宇宙でも活動が出来るからな。そんなに急がんでも動けない苦しさを味わうくらいだよ。それくらいなら莫迦をやらかした罰には丁度良いさ」

 

 何処ぞの『宇宙キタァァァッ!』な仮面ライダーは宇宙活動がデフォルト、実際に宇宙空間へと出て行動もしているくらいではあるのだけれど、ユートの仮面ライダーは暑さ寒さなどにも適応力を持っているし、宇宙空間や海中などでも活動だけなら出来る仕様となっていた。

 

「うん? ファイヤーウォール!」

 

 ユートが魔法で火炎壁を築き上げると天井から殺意マシマシな、如何にも貫き通し易そうな鋭い氷柱が生えてきて攻撃をしてくる。

 

「あ、防御しなけりゃあの氷柱は動かなかったのかも? となると、脱出された場合の追撃トラップだったんだな」

 

 何しろあの無数の氷柱は火炎壁を出した途端に射出されてきたのだから。

 

「ま、良いか」

 

 火炎剣烈火をソードライバーのバックル部分へと納刀、トリガーを引いて必殺技モードの発現をして『火炎十字斬』を文字通り縦斬り横斬りという十字に氷柱を斬り裂く。

 

 氷柱はあっという間に溶けて消えた。

 

 仮面ライダークローズチャージだっただけに、動けないストレス以外にダメージも無い。

 

 原典では『大変な変態』状態に陥った事を鑑みればマシな状態で、原典を識るであろうユーキや白夜が視ればそう考えるであろう。

 

「ふむ、氷壁は高さが約一〇mで厚さが約二m。壁を破壊しながら一直線に行っても構わないと言えば構わないが……」

 

 他の人間ならば未だしも、ディケイドとしての『概念的な破壊』がある程度でも可能なユートであれば、それも容易くは無いけどやれば出来そうな話だったりする。

 

「疲れるから止めとくか」

 

 本物の仮面ライダーディケイド――門矢 士だったらどうかは判らないが、少なくともユートであれば消耗をするから使いたいとも思わなかった。

 

 因みに、例のアレ……オーロラカーテンと呼ばれている転移ゲートも使えるけど、ユートがやると矢張り可成り消耗してしまう辺り紛い者でしかないのであろう。

 

 所詮は模倣に過ぎない……と。

 

 氷柱攻撃も止んだのでユート一行は先に進む、導越の羅針盤は無効化されないらしいから導かれるが侭に進めるのは楽だ。

 

「今度はオーガ、謂わばフロストオーガって処なんだろうけどな」

 

 仮面ライダーなら大した脅威にもならないし、何ならユートは生身でも脅威とはなるまい。

 

 生身で大魔王と相対する勇者は即ち大魔王にも等しい存在であると――勇者ダイやローレシアの王子たるアレンが云われた事でもある。

 

 特に勇者ダイは独自で竜魔人にも等しい力を手に入れたし、ローレシアの王子は他の二人とは異なり魔法の力を抜きに破壊神シドーを破壊した。

 

 尤も世界的には大々的に知らされていないのだけど、この闘いには勇者アレルの双子の弟の生まれ変わりとされる少年が合力していたが……

 

 勿論、ユートの事だ。

 

 勇者アレルの双子の弟として疑似転生をしてからは、取り敢えず勇者アレフが竜王を討つまではその立場を維持していたけど、更に百年間を待つのもアレだったから再び疑似転生をした。

 

 立場はジパングの貴族家――通常の侯爵くらいの身分に生まれ、王女アスカの婚約者として誕生をした日から決められていた訳だが、それを放り投げてギアガの大穴の木漏れ日みたいな穴を使いアレフガルドへ、そして勇者アロスの時代から育まれていた土地へと向かう。

 

 竜王を退治した勇者アレフがローラ姫を伴って訪れた新大陸、其処に建国されたローレシア王国と兄弟国家としてサマルトリア王国、始めから在ったムーンブルク王国に王女を嫁がせて三大ロト国家として栄えていた。

 

 ユートがムーンブルク王国を訪れた頃に丁度、破壊神の大神官ハーゴンの操るモンスター軍団が襲撃してきて、ユートはムーンブルクの王女であるセリアを救出して二人旅に出る。

 

 目的はローレシア王国とサマルトリア王国へと救援要請する為だったが、それなりに身形が良い同じ年頃――少し上くらいの少年に窮地を救われた深窓のお姫様が彼女な訳で、どうなったかなど最早それは語るまでも無い話しであろう。

 

 そして大神官ハーゴンと破壊神シドーを討ち、ユートは一応だけどムーンブルク王国へ。

 

 然しながら【キャラバンハート】と大筋が変わらなかったと云えば解る筈、ローレシア王国では王子アレンが行方知れず、サマルトリア王国ではロトの血筋と関係無い王家が立ち、ムーンブルク王国も荒廃をしていて亡びを迎えていた。

 

 恐らくだがローレシアの王子アレンは漫画版のアレ――【ドラゴンクエストモンスターズ+】に於けるロランと同じ様になったのだろう。

 

 残念ながらユートが知り合ったのはロランの方であり、サマルトリアの王子サトリとムーンブルクの王女ナナというユートの識る顔でありながら識らない名前の別世界線から来た同位体。

 

 まぁ、そこら辺は現状ではどうでも良い事だから捨て置くとして……

 

「フロストオーガ程度なら天之河でも殺れそうだしな、大迷宮攻略は寄生プレイじゃ話にならないから天之河が主だって闘うべきだろうね。坂上は天之河を手伝っても構わないけど飽く迄も天之河を主体に闘う様にしてくれ」

 

「判った」

 

「応よ!」

 

 流石に素直に頷いた天之河光輝と、特に蟠りの無い坂上龍太郎が武器――天之河光輝は鉄の剣、坂上龍太郎は普通に拳を構えての突進を行う。

 

 一応、それなりの業物らしいけど鉄製となると矢張りそれなりはそれなりでしかなく、仮面ライダークローズチャージの拳にも劣る程度だけど、それでもステイタス値は本来のMAXよりは低いにしても全能力が一〇〇〇を越えてた天之河光輝、御陰様で? ()()()()()は闘えているらしい。

 

 フロストオーガを殲滅後にそこそこの広さを持つ場所に出て、其処には氷で造られた荘厳で且つ美麗なる芸術性の高い扉が鎮座していた。

 

 その扉には複雑に絡み合う茨と薔薇と思われる花が意匠としてきめ細やかに彫られて、一般的な人間の頭くらいの位置に茨で囲われた円形が存在しており、内側には三つの丸い穴が空いているのが見受けられる。

 

「どっかで見た扉だな」

 

「そうだったかしら?」

 

「雫も見た筈だが?」

 

「……へ? 私も?」

 

 ユートの言葉に頭を抱えながら思い出そうとする雫だったが……

 

「うーん?」

 

 記憶判定にファンブルしたのか、どうやら思い出せなかったらしい。

 

「……あ! 確かにユエちゃんが封じられていたオルクス大迷宮の五〇階層の扉みたい!」

 

 そして香織が成功して思い出す。

 

「そう。こんな綺麗な意匠の模様は彫られちゃいなかったし、穴も二つだけだったけど彼処に在った扉がこれと似たモノだ」

 

「ま、まぁ? オスカー・オルクスさんもヴァンドゥル・シュネーさんも同じ【解放者】だったんだから仲良しで、扉のトラップも似た物を造ったんじゃないかしら?」

 

 思い出せなかった雫が明後日の方向を向きながら誤魔化す様に叫ぶ。

 

「否、ミレディから聞いた話だと二人は方向性に違いが有って仲違いしていたらしい」

 

 とはいえ、それはトムとジェリーみたいな関係で『仲良く喧嘩』をしていた感じだろう。

 

「そうなると、あの窪みに珠を嵌め込めば扉が開く仕組みな筈だが?」

 

「あの時は扉をサイクロプス二体で守護者をしていて、斃したら出てきた魔石で扉が開いたんだったわよね?」

 

 雫も思い出したらしいが、そんなガーディアンらしき魔物が居る様にも見えない。

 

「どうやら別の場所みたいだな」

 

「……ん、最短ルートで来た弊害。どうする? 捜しに行く?」

 

 ユエがちょっとやる気を見せる。

 

「休もう」

 

「……ん?」

 

「大迷宮を進みっ放しで疲れたからな」

 

 取り敢えずの休息を取ろうという話が出たので仮面ライダーの変身を解除した。

 

 それと同時にユートは結界を敷いて魔導炬燵を出してやり、更に誰にも見えない様に右手に持った機器を操作してやる。

 

 【閃姫】達だけでなく天之河光輝も疲れたという顔でグデーッとしており、矢張り強行軍というのは疲労困憊半端ないらしい。

 

「はぁ、癒されるわ」

 

「……ん、温かい」

 

「はう~、何だかダメウサギになっちゃいそうですぅ……」

 

「こんな寒い場所でオコタなんて、もう出たく無くなっちゃうかも~」

 

「鈴、何か眠っちゃいそう」

 

「ふぉぉぉ、気持ちが良いのぉ」

 

 【閃姫】達は寒い洞窟内での炬燵に表情が蕩けてしまい、玉無しな天之河光輝は扨置き坂上龍太郎も年頃の女の子達のだらしなく蕩ける姿を視て()()()してしまう。

 

「鈴、流石に寝るのはヤバいから止めておけよ。それとティオは駄竜にでもクラスチェンジをする心算か?」

 

 雫が、ユエが、シアが、香織が、鈴が、ティオが口々に言う幸せそうな科白に対してはユートが一言を申し渡した。

 

「だ、駄竜とな!?」

 

 原典と異なり変態化していないティオなだけに衝撃を隠せない、変態化していたら寧ろ今の言葉に『ハァハァ』しながら御股を湿らせていたのかもしれないけど。

 

 尤も、ユートならそんなティオを遠慮無しに喰ったのだろうから問題も無い。

 

 変態駄竜化していないからこそ誇り高き竜人族として遇しているし、何かと理由を付けてミュウの相手を頼んでセ○クスに至るのを避けていたのだけど、本人がそれでもと望むから今では普通に寝所でその豊満にして、人型ならパーフェクトたる体型のティオの肢体を愉しませて貰っていた。

 

 今はミュウも居ないから誰憚る事も無くなり、漸くティオは本懐を遂げたと謂わんばかりで抱いた後はニヨニヨとしていたが……

 

『それが本懐じゃ無いだろうに』

 

 というツッコミは野暮かと思ったユートは普通にティオの大事な部位へ、自らの肥大化した欲棒の塊を突っ込んでヤったものである。

 

 その度に今まで聞かなかったティオの可愛らしい啼き声を響かせ、ユートの股間は熱く猛ったから最大限の大きさでティオを更に啼かせたとか、ある意味では性のスパイラルにハマった感じだ。

 

「そう言えば結局は旅に出たから判んないんだけどさ、ハイリヒ王国とヘルシャー帝国は支配者が――王様が変わったじゃない?」

 

「そうだな。ハイリヒ王国はアインハルトが仲間と治めているし、ヘルシャー帝国はクオンが矢っ張り仲間と治めているからね」

 

「名前はどうなるのかしら?」

 

「国号か? 変えない可能性も有るんだけどな、在り来たりにするならハイリヒ王国がシュトウラでヘルシャー帝国がトゥスクルとかか?」

 

 アインハルトの先祖に当たるクラウス・G・S・イングヴァルトが治めていた国がシュトウラであり、クオンが皇女として暮らしていた国の名がα世界線にせよβ世界線にせよトゥスクル。

 

 α世界線で別の時空軸だとトゥスクルとヤマトにより戦争が起き、結果的にクオンがハクトルを殺してしまったらしくて、その軸のクオンの仲間とも云える者達の何人かが名前を変えつつ追っていたのをユートは識っていた。

 

 本来の軸だとクオンが結局、トゥスクルでどう動いたのかはよく識らない。

 

 ハクを想い慕っていたからにはハク以外と結ばれるのを良しとしなかったろうが、オボロは当時から未婚なのはβ世界線と同じだったらしいし。

 

 現在、ユートを慕って娘というより恋人に近い立ち位置でヘルシャー帝国を治めるクオンとは、α世界線のβ軸――ユートが関わらずハクとも出逢う前の存在である。

 

 そしてユートの介在によりα軸のクオンとγ軸のクオン――リンネは改めて融合を果たしており、そんなクオンにはユートが双子座の黄金星聖衣をヴィヴィオと同じく与えていた。

 

 ヴィヴィオにも先祖みたいな存在となるであろう『まつろわぬオリヴィエ』を内包しているし、ユートみたいな『もう一人の自分』を持つが故に双子座の聖衣は相応しい。

 

 『まつろわぬ神』とは言っても神話を基にして顕現した【カンピオーネ!】世界の様な存在では無く、本人の魂が昇華されて昇神を果たした本来のオリヴィエ・ゼーゲブレヒトである。

 

 星聖衣は本物の黄金聖衣みたいに唯一無二という訳では無いし、素材その物は同じ神鍛鋼とガマニオンと銀星砂の合金だけど色の感じが違う。

 

 黄金聖衣は重厚な正しく『黄金』と呼べるだけの輝きと太陽の煌めきを放つが、此方はどちらかと云えば鱗衣みたいな軽い金色の輝きだ。

 

 量産が利くから敢えて本物程の物にはしていないのだし、小宇宙でなくとも氣力や霊力や魔力や念力などでも扱えるお手軽感。

 

 だからこそある意味でアインハルトの補助役としてヴィヴィオ、ヘルシャー帝国ではクオン本人という同じ星聖衣の持ち主が揃っていた。

 

 因みに、ユートの双子座の黄金聖衣は再誕世界からアテナの許可の許に持ち出した本物である。

 

 幾つかの四方山話が終わった頃、天之河光輝が

ボソリと呟いていた。

 

「さて、充分に休めたし……そろそろ動こうか。そうだ……天之河」

 

「な、何だ?」

 

「僕は勇者を嫌っている訳じゃないぞ。僕自身が嘗てロトゼタシアの勇者をしていた事もあった訳だし、本来は存在しない勇者アレルの双子の弟だった事もあるからな。それに下らない勇者モドキは兎も角、本気で魔王を斃さんとして命懸けで闘った勇者も見知っている。とある世界では勇者の盟友と呼ばれた事もあるからな。お前は残念ながら()()()()()でしかない……というだけだ」

 

「ぐっ!」

 

 一応、ユートは勇者の称号そのものには隔意を持っている訳ではないと伝えておくのは、先程の呟きが聞こえていたからに他ならない。

 

『何で勇者を嫌うんだ?』

 

 ユートが嫌うのは勇者モドキ、勇者そのものに嫌悪感を持っている訳では無いのだから。

 

「お、戻ってきたな」

 

「何だ? あのメタリックな犬? は!」

 

 坂上龍太郎が驚く先には確かに漆黒な金属に鎧われてメタリックな……三つの顔を持った犬みたいな存在が居た。

 

「見付けて来たか?」

 

「ああ、この宝珠が件のキーだと思われる。確かにガーディアンも居たからな」

 

 ユートが訊ねるとそれに応える犬。

 

「優斗、あれは?」

 

「ケルベロモンX抗体。敵の魔物じゃないんだから剣を降ろせ天之河」

 

 雫の問いに答えつつ天之河光輝を窘めると渋々とだが剣を降ろした。

 

「良かったな、ケルベロモンX抗体はデジモンのクラスでは完全体だけどゼヴォリューションをしている分だけ可成り強い。成熟期にもまともに勝てない天之河じゃやられていたろうよ」

 

「くっ!」

 

 嘗て、ドーベルモンをサルベージした際に足りないプログラムにX抗体を足したけど、一番最初に進化した時にはまだ馴染んでいなかったのか、普通のドーベルモンとケルベロモンを経てからのアヌビモンへの究極進化を果たした訳なのだが、【デジモンセイバーズ】の世界でデジヴァイスicを手に入れて、デジソウルチャージによる進化が可能に成った時にガジモンからドーベルモンへと進化してすぐ『Xー進化』が起きた。

 

 爾来、デジヴァイスバーストを使って行われるデジソウルチャージによって進化させた場合は、ドーベルモンX抗体とケルベロモンX抗体に進化をした上で、アヌビモンへと究極進化させる形に落ち着いたと云える。

 

 Dーアークでの進化は、通常のドーベルモンからのケルベロモン・ジンロウモード→プルートモンへの究極進化となっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 再出発をするに当たって必要なキーアイテムとなる宝珠、ユートはケルベロモンX抗体を使って予め一個は手に入れてしまった訳だ。

 

 天之河光輝が難しい顔をして口を開く。

 

「な、なぁ」

 

「どうした? 天之河」

 

「それってズルじゃないか?」

 

「ズル? 何が?」

 

「だって、そうじゃないか! 自分は楽していた癖に魔物を使ってアイテムを取りに行かせるなんてズルとしか思えな……っっ!?」

 

 最後まで言い切る事が出来ず肩をビクリと一瞬だけ震わせて押し黙る。

 

「魔物……だと?」

 

「ヒッ!? ま、魔物だろう!」

 

「天之河、死にたいのか?」

 

 それは前にやったみたいな念による威圧では決して無く、それは謂わば純粋なる殺意の波動とでも云えるであろう殺気。

 

「な、何だよ?」

 

「デジモンテイマーにパートナーデジモンの事を悪く言う……それは問答無用でデジモンを嗾けられても文句が言えない所業だ」

 

 勿論、そんな倫理観が欠如した事をやらかす様なデジモンテイマーは居ないだろうが……

 

「僕は普段、他のテイマーみたいにガジモンを連れ歩いたりはしないが、これでもテイマーとしての誇りくらいは持っている心算だ。パートナーを単なる魔物呼ばわりされたら殺したくなるな」

 

「あ、が……っ!?」

 

 殺気と一括りにして言ってみれば実に穏やかな言い方、ユートの殺気は正しく他者を殺し兼ねない程のどす黒い殺意を圧縮して圧縮して圧縮したモノを幾つか集めて更に凝縮、それを目標へ向けて高密度で発射したのがそうだった。

 

 例えばこの相手となるのがヒソカ・モロウとかいう道化師っぽい男なら、下半身のソレをギンギンに勃起させて昂奮しながら奮えたろう。

 

 然しながら天之河光輝にそんな殺意を受け止める度量など有る筈も無く、カテーテル越しに尿意を止められずダバダバと盛大に漏らしてパンツを濡らしながら気絶してしまったのである。

 

「ふん、ちょっと大人気なかったか」

 

 白眼を剥いて仰向けに倒れた天之河光輝なんて最早、視ている価値も無いと謂わんばかりに目を一度閉じてDーアークを翳す。

 

「ガジモン、有り難う。助かったよ」

 

「応、いつでも呼んでくれ」

 

 ケルベロモンX抗体から退化をしたガジモンはデジタライズされDーアークに還って行く。

 

「普段から連れていたら間違い無く他の人間辺りに突き上げを喰らうからな」

 

 松田啓人もギルモンを連れ歩くのは憚るからとダンボールを被せていたし、ヌイグルミの振りが可能なテリアモンや隠形の術が使えるレナモンとは矢張り違う訳だ。

 

 尚、セイバーズではデジヴァイスicにパートナーを仕舞えるので問題は無いし、ある程度ながらデジモンが認知されている世界だから連れ歩くのも割と可能だったりする。

 

「確かに、デジモンと魔物の見分けなんて付かない人も多いでしょうし、私達の地球でのデジモンはアニメと漫画と携帯ゲームとカードゲームで、本物が顕れたりする【デジモンテイマーズ】とは矢っ張り違うものね」

 

 雫も溜息混じりだ。

 

 【デジモンテイマーズ】は基本的に【デジモンアドベンチャー】というアニメの放映をしつつ、デジモンカードゲームで子供達が遊ぶ現実世界に近いながら、デジタルワールドが存在してデジモンも実は存在していたという世界観。

 

 つまりデジモンというのは仮想存在としてのみ認知されていた世界、【デジモンアドベンチャー】や【デジモンフロンティア】や【デジモンセイバーズ】みたいに仮想存在としての認知が成されていなかった世界とは少し異なる。

 

 実際に、松田啓人も八神太一や本宮大輔という二人の主人公を識っていた。

 

 これについて本編では詳しい描写もされてはいなかったが、【デジモンクロスウォーズ】に於ける第三部のラスト辺りで彼が八神太一と本宮大輔を見て、同じ年齢の二人を見れて嬉しそうに言っていた事から判る。

 

 事実として本宮大輔が小学五年生でブイモンと出逢った頃、八神太一は普通に中学生として生活をしているのだから本来は三歳下。

 

「ほら、さっさと起きろ愚図勇者(笑)!」

 

「ぶごっ!?」

 

 頭を蹴り飛ばされて強制的に起こされてしまった天之河光輝は、頭をさすりながらユートの事を恨めしそうな目で睨んでくる。

 

「な、何をするんだ!」

 

「気絶中に魔物の中へ放り込まれなかっただけでも有り難く思え」

 

「なっ!?」

 

「魔物と戯れればデジモンとの違いも理解が出来るかも知れんしな」

 

 その前に死ぬだろうけど。

 

「そんな些細な事は置いといて、お前と坂上が組んで一個。雫達で一個の宝珠を手に入れようか」

 

「ハァ?」

 

「真っ当なやり方で手に入れたいならそうすれば良い。自分だけがやる分には僕も別に文句は言わないからな」

 

「なっ!」

 

「というか、僕だけで宝珠を手に入れた場合だと雫達の判定結果が悪くなりかねないからな」

 

 寄生プレイは魔法陣に弾かれるのだ。

 

「最低限、一緒にガーディアンと闘うくらいしないといけないかも知れない」

 

「確かにね、判ったわ優斗」

 

 雫は理解をしたし、香織やユエ達も確りと頷く辺り思惑は理解はしたらしい。

 

「な、何で俺は龍太郎だけなんだ!」

 

「少なくとも香織と一緒に出来ないのは理解しろや腐れ勇者(笑)」

 

「香織は幼馴染みだぞ!」

 

「その幼馴染みを相手に何をやらかそうとしたか覚えてもいないのか? 少なくとも一緒に行動をしたいとは露にも思わないだろうな」

 

「そんな事はある筈が無い! な? そうだろ、香織!」

 

 天之河光輝が振り返ると……

 

「え、普通に嫌かな」

 

 スンとした顔で天之河光輝を視ている香織からの無情なる答えが返ってきた。

 

「か、香織?」

 

 ユートの時は無理矢理では無かったし、酷いとはいえ一応だけど命か純潔かの選択肢も用意されていたからか心も許せた、だが然し天之河光輝の場合は欲望に満ちた眼で睨みながら押し倒して来たのである。

 

 嫌がろうがどうしようが無関係に、【閃姫】の特性が無ければ犯られていたであろう事は想像に難くは無い。

 

 最早、それすらデキないとは判っているが矢張り嫌なものは嫌だろう。

 

「し、雫!」

 

「私も嫌よ」

 

「鈴!」

 

「鈴もちょっと……」

 

 地球組は当然ながら全員が断る。

 

「ユエ、シア、ティオ!」

 

「……は? 呼び捨てにするな腐れ」

 

「巫山戯んのも大概にして貰えます? って言うか名前を呼ばないで下さい気持ちが悪い」

 

「エヒトルジュエの手下が妾の名を軽々しく呼ぶで無いわ戯けが!」

 

 そしてトータス組は辛辣に過ぎた。

 

 意気消沈して向かう天之河光輝と、慰めながら同じ方向へ進む坂上龍太郎。

 

 更に香織達はもう一方へ向かう。

 

 それから暫く経って全員が戻って来たのだが、勇者(笑)の装備している鉄剣が折れていた。

 

 半ばからポッキリと逝ってしまった鉄剣はもう修復自体が不可能である。

 

 然し、前に[保温]の魔導具を造って貰った際にも五万円を出す羽目になった。

 

 正直、剣を頼んだら多額の借金をしなければならなくなりそうだったし、()()()()()()()()()()()()()を突き付けられるのも業腹だ。

 

 そして態とらしく坂上龍太郎と折れた鉄剣に付いて話してみたが、ユートは特に関心も持たないで宝珠だけを受け取っている。

 

 蔑ろにされていると天之河光輝は憤慨するが、香織や雫からすればハジメを蔑ろにしていた事を鑑みて自業自得としか思えないし、ユエ達からしたら失点しか知らないから全く気にならない。

 

 それに天之河光輝が錬成師という天職を、南雲ハジメを下に見て無能だと考えていたのは歴史的な事実だ(原典でも語られている)と、ユートは既にユーキからも聞いていて既知の事だった。

 

「へぇ、ヴァンドゥル・シュネーは天職が芸術家だとは聞いていたけど素晴らしいな」

 

 三つの宝珠を嵌め込むと、美しい光沢を放ちながら正しく芸術としか思えない光景を魅せた。

 

 開かれた扉の先に広がるのはミラーハウス……その極致とも云える光景であろうか?

 

「氷で出来ているのは判るけど最早、完全な鏡にしか見えないわね」

 

「うん、普通にミラーハウスだよね」

 

 雫の感想に鈴が頷く。

 

 氷壁が向き合い合わせ鏡となり無限回廊を造り出しており、壁から冷気を放っていなかったならばそれが氷壁だと判らなかったくらい。

 

「氷鏡面って感じだな。無限に連なる合わせ鏡は世界線の境界を越えた謂わば平行世界にも通ずる……か。確かにこれは中々に興味深い」

 

「……吸い込まれそう」

 

 オーロラカーテンの彼方側の如く深淵な世界を見たユエが、右腕を伸ばしてその小さな掌を鏡面と化した氷壁への触れて呟く。

 

「大丈夫だよ、ユエを手放すなんて勿体ない事は僕がしないから」

 

「……ん、放さないで」

 

 因みにこんなラブシーンはユエのみならず他の【閃姫】達とも普通にヤっていて、流石に羞恥心から雫は成る可くやらかさない様にしてはいるのだが、良い雰囲気になるとお姫様思考に浸されてラブシーンを展開、そして終わったら我に返って恥ずかしそうにポニーテールガードをしていた。

 

「そう言えばユエさんだけ氷雪洞窟に潜る前に呼ばれたけど、結局は何だったのか教えてくれなかったわよね?」

 

 氷雪洞窟に潜る前、ユートはユエだけを呼び出して二人きりになっていたのだけど、表情が普段と変わらなかったから潜る前の景気付けとして、一発ヤったのかも知れないという予測は違っていたと考えている。

 

「ああ、ちょっと念の為にな」

 

「ふーん?」

 

 全く答えになっていない。

 

 そんな事をしていたら天之河光輝が行き成り立ち止まり、キョロキョロと目を見開きながら辺りを見回し始めている。

 

「どうしたのよ、光輝?」

 

「あ、ああ。雫、今何か聞こえなかったか? 人の声みたいな……こう囁く感じで」

 

「ちょ、止めてよ光輝君!」

 

 天之河光輝には囁き声でも聞こえてたらしく、ホラーが苦手な香織がそれに反応をした。

 

「そうか」

 

 ユートは一言だけを返す。

 

「ほ、本当なんだ! 信じてくれ緒方!」

 

「そんなウルトラマンAの北斗星司みたいな事を言わんでも疑っちゃいない」

 

 尚、北斗星司は基本的に信じて貰った試しなど無かったりする。

 

「それで、声は男だろうが……内容は?」

 

「え、確か『この侭でも良いのか』って」

 

 男だと断定する天之河光輝にユートは兎も角、他の面々は聞こえぬ声に困惑気味だ。

 

「こうか?」

 

 ユートがそれを再現。

 

「『この侭でも良いのか?』」

 

「そ、それだ! その声!」

 

 まるで犯人を見付けたと謂わんばかりに指差して荒声を上げるが、更に困惑をしているのは天之河光輝の幼馴染み~ズである。

 

 何故ならユートが再現をした科白、その声とは紛れも無い……天之河光輝の声そのものだったのだから。

 

 

.




 お陰で残業なんかもあってだけど書くのが遅くなった……




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第109話:ありふれた囁き声

 やっと書けましたが今回は書くに当たって混乱しきりだったりします。





.

「優斗が光輝の話を信じたのは意外だとは思ったけど、どういう事? 今の声は明らかに光輝の声だったんだけど……」

 

「俺の……声……?」

 

 雫の科白に天之河光輝が首を傾げる。

 

「どういう意味だ雫? 今の緒方の声が俺の声って……絶対に違うだろう」

 

「違わないわよ、今のは間違い無く光輝の声だったじゃない」

 

「そんな筈は無い! あれは絶対に俺の声じゃ無かった!」

 

 いまいち解らない天之河光輝が堪らず皆に対して叫ぶが……

 

《そんな筈は無い! あれは絶対に俺の声じゃ無かった!》

 

「……え?」

 

 此処で響いたのは、天之河光輝が先程にも聴いたユートの真似たものと違わぬ声。

 

「遂先程、録音をしたお前の声だ。幾ら御都合解釈大好きなお前であってもこれを事前に用意していたと主張する事は出来まい?」

 

「うっ!?」

 

「そしてその声は紛れもない僕が声真似をした時の声だったな? 時間だって押してはいなくても無限じゃないんだ、いちいち余計な手間を掛けさせて足を引っ張ってくれるなよ?」

 

「ぐぐっ!」

 

 口惜しそうな唸り声を響かせるが、ユートからしたらどうでも良い話でしかない。

 

「それにしてもだけど、録音なんてどうやってしたのよ優斗?」

 

「サーチャーから」

 

「ああ、【リリカルなのは】系の技術」

 

「この【ありふれた職業で世界最強】の世界に来る前は【魔法少女リリカルなのは】主体世界に住んでいたからな、地球では時空管理局とか異世界人がサーチャーをバラ撒く行為を禁じていたが、僕がやる分には全く禁止してはいない訳だから」

 

「それはまた……」

 

「だってそうだろ? メタ的には単純に回想的な意味合いで上映されたなのはの過去だったけど、まだなのはが魔法と出会う前の映像が普通に有ったんだぞ?」

 

「? そんなシーン有ったかしら?」

 

「『少し頭、冷やそうか』事件の後でシャーリーがフォワードの面々に観せたろ」

 

「ああ!」

 

 思い至った雫はポンと手を打つ。

 

 メタで云うなら単にシーンの流用なだけの話でしか無いが、現実となるとその意味は少し違ってきてちょっと怖い。

 

 管理外世界でありながら魔法を未だ知らない筈の少女、それの私生活がバッチリと撮影をされている様子は成程恐怖しかあるまいに。

 

 因みにだが、本来の世界線――【魔法少女リリカルなのはα世界線】で起きたあの事件だけど、ユートが混入された【魔法少女リリカルなのはβ世界線】では起きていないのである。

 

 というより、高町なのはが抑々にして時空管理局に入局していないのだから起きる筈も無い。

 

 なのはだけではなく、フェイト・テスタロッサ――プレシアが生存+改心コンボでハラオウン家に養子として入ってない――と八神はやても同じく管理局への入局をしなかった。

 

 フェイトが入局しないからアルフも使い魔として登録してないし、はやてが入局しなかったから守護騎士達が入局する事も当然ながら無い。

 

 彼女達は普通に地球で過ごしている。

 

 魔法を使うのが愉しいなのはだったからこそ、α世界線では地球を離れてミッドチルダへ移住をしつつ管理局に入局、そして例の撃墜事件を経てはいても役一〇年間を時空管理局員の武装隊として活躍をしていた訳だけど、魔法なら地球でも使えるβ世界線ではミッドチルダに行く理由自体が見付からず、聖域の地球連邦日本支部『正史編纂委員会リリカル版』に所属をした。

 

 尚、本部はギリシアのアテネ郊外にユートが造った聖域を充てている。

 

 ユートの再誕世界のギリシアと同じ座標に在る土地であり、この世界に聖闘士など存在しないから単なる広大な空き地でしかなかった場所を買い取って、ギリシア人の住まうロドリゴ村を設置した上で結界を張って創造をしたのだ。

 

 どうでも良いが、一般兵士には量産化をしている茶々丸と田中さんというガイノイドとアンドロイドを採用しており、特に田中さんは脱げビームで大活躍をしていたりする。

 

 量産型茶々丸は茶々号と呼ばれ、パーツ交換というか篠之乃 束がIS技術で量子化したパーツの換装により、それこそ近距離・中距離・遠距離を自由自在に熟してくれるし、陸海空宙とスパロボみたいな活躍すらしてくれていた。

 

 浪漫武装のドリルにより地中すら。

 

 【超技術(チャオ・テクノス)】が由来なだけに魔力や霊子などにも干渉する事が普通に出来る為、単なる軍事目的ではなく超常への対抗策だとアピールもしている。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

「そういえばさ……」

 

 ふと気付いた様に雫が訊いてきた。

 

「どうした?」

 

「さっきのケルベロモンX抗体ってDーアークでの進化じゃないのよね?」

 

「また唐突に」

 

「気になっていたから序でによ。もう少ししたら私達も囁きが聞こえるんでしょう?」

 

「そうだな」

 

 その通りだったから否定しない。

 

「で、どうした?」

 

「優斗って若しかしてデジヴァイスを全種類持っていたりするのかしら?」

 

「まさか。Dーアークで代用が出来てしまうから、初代デジヴァイスやちょっと拡張機能を得ただけのDー3は持ってない。僕が持っているのは最初に行った【デジモンテイマーズ】世界のDーアークと【デジモンフロンティア】に於けるDースキャナと【デジモンセイバーズ】のデジヴァイスバーストと【デジモンクロスウォーズ】のクロスローダーの四種類だけだよ」

 

 勿論だけどアプモン関連も持ってはいないし、何ならアプモンなどは知識すら無かった。

 

 そして【デジモンアドベンチャー:】に出てきたデジヴァイス:も持っていないし、【デジモンゴーストゲーム】のデジヴァイスーVーも当然ながら持ってはいない。

 

「主に使うのはDーアークだが、クロスローダーは空き領域がデカくて究極体をニ〇体以上も入れておけるし、謂わば小さなデジタルワールドみたいにもしているからな。ジョグレス進化や突風進化(ブラストエボリューション)はデジクロスでやれるしね」

 

 ロイヤルナイツのオメガモンはウォーグレイモンとメタルガルルモンの合体、即ちデジクロスによる合体と実は変わらないと考えて試してみたら普通に可能だったという話。

 

(まぁ、僕のクロスローダーは僕自身で造った訳だから特製ではあるんだよな)

 

 領域が広いのも自身でやったから、アニメ情報と実際に買った玩具のクロスローダーの情報のみでだったが、Dーアークその物や人類製のデジヴァイスバーストは既に持っていたから参考になったのは間違い無かった。

 

「Dーアークさえ有れば基本的に通常進化だけではなくて、アーマー進化やジョグレス進化なんかも普通にやれてしまう。実はデジソウルチャージもデジヴァイスバーストを使わんでもDーアークだけ有れば可能なんだが、【デジモンセイバーズ】の世界でDーアークを壊してね。代わりのデジヴァイスとして爺さんからデジヴァイスicを貰ってからはアヌビモンへの進化をデジヴァイスバースト、プルートモンへの進化にはDーアークを使うのが多くなったのは間違い無いね」

 

 爺さんというのはカメモンをパートナーとし、大門 大にデジヴァイスicを渡した人物で彼の名前は湯島 浩、見た目には普通の釣り好きな爺さんだけど実はDATSの所長である。

 

 因みにデジヴァイスicを開発したのは大門 大の父親たる大門 英だったり。

 

「まぁ、アヌビモンへの進化はDーアークで可能なんだけどプルートモンへの進化はデジヴァイスバーストで出来ないんだよな……」

 

 Dーアークにデジソウルを篭めれば進化の光を放ってガジモンをXー進化させてくれるのだけれど、デジヴァイスバーストではその機能が完全に想定外だったから融合進化が出来ないのだ。

 

 何しろDーアークはデジタルワールド謹製だったからか、デジソウルチャージをしたら勝手に機能を拡張してデジヴァイスバーストの存在意義自体を揺るがしてしまったくらい。

 

 デジヴァイスバーストに意志が在ったら間違い無く泣いたであろう。

 

「さて、さっきも言ったけど時間は押している訳じゃないにしろ無限でも無い。そろそろ動いた方が良いだろうな」

 

「あ、待ってゆう君……勿論だけど踊らなくっても良いからね?」

 

「判ってるよ、で?」

 

「光輝君の言葉をあっさり信じたから何か有ったのかなって」

 

 明らかに天之河光輝に隔意を持つユートが信じるに足るだろう理由、それがあったのではないのかと香織は考えたのである。

 

「ああ、それは簡単だ。天之河が騒ぎ始めてすぐ僕も囁きが聞こえてきたからな」

 

『『『『『っ!』』』』』

 

 天之河光輝も含めて驚愕した。

 

「そして僕はある事情から自分の声を俯瞰して聴く機会が多くてね、だからすぐに自分の声だってのが判ったんだよ。天之河の聴いた囁きが本人のものだと判った理由でもあるな」

 

 何せユートが分身すれば普通に聴ける声だし、何より優雅の声は基本的にユートと変わらない。

 

「それで主殿よ、その声の内容とは如何なるものであったかのう?」

 

「『本当は怖かったんだろう?』だ」

 

「それは……主殿に怖いものなど在るものか? 正直に言って妾には思い付かぬが」

 

 ティオから見たユートは完全無欠なのだろう、然しながら矢張り不完全な人間に違いないのだ。

 

「当然ながら在るさ。今回のコレだって間違い無く僕が怖いモノだからね」

 

「ふぅむ、それで? 妾達も受けるとなるならば試練よな? 対処方法などをミレディから聞いては……おらぬのだろうが、自分で考えてはおるのであろう?」

 

「そりゃな。内容が判った時点で攻略法は考え付いたよ」

 

『『『『早っ』』』』

 

 全員で驚く。

 

「造ったヴァンドゥルって人、涙目ね」

 

 雫が呆れながら言った。

 

「で、で? 攻略法って?」

 

 鈴が身を乗り出す。

 

「声の内容を受け容れろ、決して拒絶はするな。だけど取り込まれるのは悪手以前に論外だ」

 

 余りに漠然とした助言ではあるが……

 

「受け容れても取り込まれるな? 受け容れるのは構わないって事かしら? 拒絶したら駄目ってのも判らないわね」

 

「そうだな、似た様な事例があったんだよな~。隠している本心、自分でも自覚が無かった嗜好、それらを目の当たりにさせられた上に仲間にまで見られ、彼ら彼女らは一様に言うんだ――『お前(アンタ)なんか()じゃ無い!』ってな」

 

「? 何か識ってる気がするわ」

 

「あ、雫ちゃんも?」

 

 何となくだろうが、二人は今の科白に聞き覚えが有ったらしくちょっと唸り始める。

 

「『我は影、真なる我』って言葉と共に襲い掛かって来るな」

 

「「【ペルソナ4】だ!」」

 

 ペルソナとは仮面の事、自身の中の神の如くや悪魔の如く人格が存在しており、文字通りなそれを召喚させるのがペルソナだった。

 

 【女神異聞録ペルソナ】から始まり【ペルソナ2・罪】と【ペルソナ2・罰】を経て、色々と変わった【ペルソナ3】と【ペルソナ4】に至り、現状のナンバリングは【ペルソナ5】まで。

 

 【真・女神転生】の謂わば外伝。

 

「あ、て事はゆう君もペルソナを?」

 

「使えるけど……ペルソナ世界で必要なら兎も角として、そうでない世界で使う心算は無いから」

 

「えーっ! 何で~?」

 

 お気楽極楽に訊いてくる鈴。

 

「僕は悠達と同じくアルカナは【愚者(ワイルド)】だったから複数のペルソナを扱えるが、付け替えが自由な訳じゃ無くてガチャ式なんだよ」

 

「ガチャ式って……」

 

 ガチャガチャと呼ばれる玩具販売機が可成りの昔から存在するが、五〇円や一〇〇円のコインを入れてガチャガチャと回せばカプセルが出てくる仕組みであり、カプセルを開ければ中身の玩具が取り出せるという訳だ。

 

 天之河ガチャとユートが呼ぶのは天之河光輝と闘う事をコイン投入に見立て、天之河光輝が手に入れたアイテムなどが斃せば手に入る事からで、実際に闘ってみるまで何が出るか判らないというのもガチャ要素だったから。

 

 ソーシャルゲームは正しくガチャ要素が重要な部分があり、当たり外れというのが大きく出てくる要素でもあった。

 

 天之河ガチャも当たり外れが有るし。

 

 中身がろくでもない物は当然として、既に持っている重複物もガチャとしては外れとなる。

 

 ユートの場合は特にそんな事も起きなかったのだが、十連ガチャという一度で一〇回分を回して一一個の内容を獲られるのを更に一〇回を回すという百連で所謂、ピックアップが出ないといった大外れだって存在しているのだ。

 

 ユートのペルソナ召喚はそんなガチャ要素を持つ厄介極まりないモノ。

 

「僕の場合は喚び出した際に何が召喚されるのかがガチャ要素でね、自由には召喚が出来ない上に外れ確率が結構デカくて……しかも召喚されるのは『我は汝、汝は我』なだけにナイアルラトホテップだからな」

 

「ナイアルラトホテップ? クトゥルー神話に出てくる邪神の?」

 

「そうだ」

 

 正確にはペルソナだから『ニャルラトホテプ』と表記されるのだが、当たりだと門矢 士バージョンな仮面ライダーディケイドが召喚されるけど、外れだった場合に召喚されるのはニャルラトホテプ星人のニャル子さんだったりする。

 

 実力は充分過ぎるくらい有るのだが、ユートに纏わりつくだけで闘ってくれないペルソナなんて役には立たない。

 

 因みにディケイドの場合は変身後の姿で顕れ、『だいたい判った』と言いながらカメンライドをするなり何なり、普通に戦闘に加わってくれるからとても役に立っていた。

 

 大当たりは瑠韻、中当たりで優雅、小当たりが仮面ライダーディケイドと成っている。

 

 更にニャル子さんという外れペルソナ以外にも幾つか有るのだけど、強いのに使えない上に出目が大きくて割と出てくる。

 

 更に云えば天之河光輝は間違い無くアイテムをニャル子さんから獲ており、召喚なんてしようものなら騒ぎ立てるのは火を見るより明らか。

 

 だから『ペルソナの世界』云々以前に召喚する訳にはいかなかった。

 

「まぁ、ペルソナは置いとくとしてだ……君らも精神をガリガリ削られかねないから気を付けるに越した事は無い」

 

「そうね、気を付けるわ」

 

 それから暫く歩くと本格的な干渉が始まったらしくて囁き声が雫、香織、鈴、ユエ、シア、ティオ、坂上龍太郎にも聞こえ出す。

 

「『本当は期待していたのよね』……か」

 

「私は……『まだ求めてる癖に』だよ」

 

「鈴は『羨ましかったんだよね』だった」

 

「……『また繰り返すだけ』」

 

「『自分さえ居なければ』ですぅ」

 

「妾は『誰も受け容れない』であるのぅ」

 

「俺は……『もう止めたいよな』か」

 

 それが囁き声。

 

 それに付随する囁きも次から次へと響いてくるからか、少しずつではあるのだけど歩みが遅くなっている気がした。

 

(地球組の場合だと天之河以外は原典と異なっているみたいだが、ユエ達の闇は矢っ張り僕との触れ合いで薄まる程度では無かったみたいだな)

 

 一応、ユーキ経由で白夜からの原典情報として皆の心に在った闇は聞いている。

 

 多少の差違はこの際だから気にしないとして、当然ながらハジメの囁き声がユートに聞こえる筈も無かったし、恐らくは天之河光輝以外が普通にクリアする事は可能かも知れない。

 

 とはいえ、そうなると気にしないと思ってみても地球組の囁き声が違ったのは、矢張りちょっと気になってしまうけど。

 

「けど、私達は立ち止まれない」

 

 雫は決意の表情。

 

「そうだね、私達……三四人で帰る事はもう出来ないけど」

 

 香織もその表情は固い。

 

 三四人はエヒトルジュエに召喚されたユートを含むクラスメイトと畑山愛子、本来なら三三人の筈だったけどユートが含まれて一人増えた。

 

 畑山愛子――作農師。

 

 緒方優斗――錬成師。

 

 南雲ハジメ――錬成師。

 

 白崎香織――治癒師。

 

 八重樫 雫――剣士。

 

 谷口 鈴――結界師。

 

 園部優花――投術師。

 

 宮崎奈々――氷術師。

 

 菅原妙子――操鞭師。

 

 玉井淳史――曲刀師。

 

 坂上龍太郎――拳士。

 

 永山重吾――重格闘家。

 

 野村健太郎――土術師。

 

 遠藤浩介――暗殺者。

 

 辻 綾子――治癒師。

 

 吉野真央――付与術師。

 

 清水幸利――闇術師。

 

 中村恵里――降霊術師。

 

 天之河光輝――勇者(笑)。

 

 檜山大介――軽戦士。

 

 そして……

 

 相川 昇――戦斧師――故人。

 

 仁村明人――幻術師――故人。

 

 中野信治――炎術師――故人。

 

 斎藤良樹――風術師――故人。

 

 近藤礼一――槍術師――故人。

 

 鈴木優也――狙撃手――故人。

 

 荒川 直――盾術師――故人。

 

 森 翔太――発破師――故人。

 

 藤本萌依――魔法剣士――故人。

 

 相沢さくら――封縛師――故人。

 

 三浦利香――戦棍師――故人。

 

 横山加奈――拳士――故人。

 

 水島 栞――水術師――故人。

 

 星野琴音――雷術師――故人。

 

 これだけのクラスメイトが死んだ。

 

 生き残り二〇人に対して死者数は一四人とは、これを生き残りが多いと感じるか或いは死者数が多いと感じるか? いずれにしても彼ら彼女らの親にユートは死亡を告げている。

 

 きっと荒れただろう、ユートがユーキの肉体で仮面ライダーWと成って其処に居たから涙ながらに喰って掛かった親も実は居た。

 

 まぁ、檜山大介の親には自業自得のレッテルを貼った上で生贄の羊(スケープゴート)に成って貰ったが……

 

 檜山家の親のみならず、檜山大介とは仲の良かった三人の家族――中野家と近藤家と斎藤家も突き上げを喰らったのは言うまでもなく。

 

 特に相沢さくらの親はちょっとした会社の謂わば社長であり、彼女は社長令嬢だっただけに苛烈に四家を叩いたのだと後にユーキから聞いた。

 

「確かに……召喚された半数近くが逝ったから、とはいえ戦争に参戦すると決めたからには殺す事も殺される事も織り込み済みの筈だ」

 

「お、緒方! お前……」

 

「何だ? いの一番に参戦を表明した上に『守って見せる』なんて嘯きながら、半数近くを見殺しにして無様に生き延びた勇者(笑)様?」

 

「ぐっ!」

 

 流石にぐうの音しか出ない。

 

 此処で『そんな事実は無い』だとか言えば更に口撃を喰らうだけと理解はしていたから。

 

「休憩は終わりだ……行くぞ」

 

 立ち上がる【閃姫】達、正直に言うと天之河光輝はまだ疲労感が残っていたけど、言ったとしても置いてきぼりは確実だと鞭打つしかない。

 

 抑々にして香織達には甘いジュースを出しておきながら、自分には全く何も出そうとしないのだからムカつくのだ。

 

 自分は勇者で特別なのだから!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 散発的に襲い来るフロストオーガやトラップはどうしても集中力を削ぐ、先程の休憩でリフレッシュをしていたから未だしもマシな精神的状況ではあるが、それでも天之河光輝からしたら堪える道のりとなっているのは間違い無い。

 

 折れた鉄剣とはいっても一応、ハイリヒ王国の錬成師のトップに天翔閃の魔法陣を刻んで貰い、何とか天翔閃を放つ事で闘ってこそいる天之河光輝だったけど、元々の威力が聖剣や宝剣の類いより劣るものだったというのに、折れてしまったからか更に威力が落ちているのだから苛立つ。

 

 囁き声がエコーするかの如く響いた。

 

「おい、光輝! 少し落ち着け!」

 

「俺は焦ってなんか無い!」

 

 落ち着けと言われての応えからして焦りが滲み出ているのに気付かない。

 

「っ!? うわぁぁっ!」

 

「光輝、どうした?」

 

「て、敵だ!」

 

 行き成り絶叫を上げた天之河光輝に坂上龍太郎が呼び掛けると、氷壁から飛び退いた途端に臨戦態勢を取るので流石に先行くユートも振り向く。

 

 臨戦態勢で折れた鉄剣を構える天之河光輝に、氷壁へと映る鏡影も左右逆の構えを取っていた。

 

「どうしたよ? 鏡影が嗤いでもしたか? ありがち過ぎるトラップにいちいち反応をしていたらヴァンドゥル・シュネーがしてやったりと、それこそ嗤い飛ばして来るぞ」

 

「うっ!?」

 

 実はその通りだったから絶句する。

 

「精神的にクるから見間違えたか、或いは精神的に揺さぶる為にも実際に嗤ったかは判らないが、取り敢えず注意だけはしておくか」

 

 そして再び歩き出す。

 

 その後は特に鏡面に映った自分達が異なる行動を取る事は無く、ユート達はようやっとと言うべきか通路の先に巨大な空間を見つけ出す。

 

「ふむ、羅針盤を見る限り迷路の終着点に間違いは無さそうだな。円上の空間の奥に荘厳なる扉というのが如何にもソレっぽい」

 

 何段にも重なる階層、上には煌めく太陽、下には煮え滾る池、その狭間となる階層毎に喜怒哀楽を象徴する人や動物や自然が彫り込まれていた。

 

「華美ではないけどこれもまた素晴らしい芸術の作品、大きさから扉というよりは大門と呼べるのかも知れないな。彼は天職が芸術家だったんだから芸術作品が在ってもおかしくは無いんだけど、芸術家は作品に大抵は意味を持たせるもんだな。となると、この彫刻はこの先の試練を暗示しているのかもな」

 

「……だけど只で門を通れる筈は無い」

 

「ですねぇ、絶対に厭らしいトラップとか設置されてるんですよ」

 

「であるな」

 

 ユエもシアもティオも疑う余地しか無いのだと断言をしている。

 

「いずれにしても留まる理由は無いな」

 

 大きめな機器に白い龍が描かれたAのカードを装填し腰に据えると、赤色でカード型をしている帯――シャッフルラップが伸びてきて腰へと装着されると、ユートがターンアップハンドルと呼ばれる部位を叫びながら引く。

 

「変身!」

 

《TURN UP!》

 

 オリハルコンエレメントと呼ばれる光のゲートが回転しながら顕れ、ユートがそれを潜り抜けるとその姿が変わっていた。

 

《Vanishing Dragon Blance Breaker!!!》

 

 その声はバックルから出た電子音声と異なり、電子音声っぽくはあっても生声に近い。

 

「仮面ライダーブレイドじゃなく白龍皇の鎧? 何で他とは違ってこれは神器な訳?」

 

 雫が呆れる。

 

「ちょっとあってね」

 

 『白龍皇の鎧』の姿のユートは仮面ライダーアルビオンと名乗っていた。

 

「全員、臨戦態勢で向かうぞ」

 

 ユートの言葉に頷くと、変身が出来ない天之河光輝を除き全員が変身する。

 

 部屋の中央にまで歩を進めると天井からまるで太陽と見紛う輝きが照らしてきた。

 

「これは……太陽っぽい光に、ダイヤモンドダストってか?」

 

「ユートさん! 危ないですぅ!」

 

「予知か!」

 

 シアの天啓から攻撃を予見したユートは即座に全員をシールドで覆う。

 

 それは純白の光線だった。

 

「レーザー兵器? 数千年以上前の人間にしては随分と洒落ているな」

 

 ヴァンドゥル・シュネーは芸術家ではあるが、科学者でも錬金術師でも無い筈だ。

 

「オスカー・オルクス作かね? 大迷宮にそれぞれの特色を出しているとはいえ、矢っ張り都合し合ってたんだろうな。ミレディの大迷宮なんかはそれが顕著だったしね」

 

 凄まじい閃光がダイヤモンドダストの氷片や、周囲の氷壁にて乱反射されて降り注ぐ。

 

「『光と闇の舞』かよ?」

 

 しかも時間制限付きらしく、上空の雪煙が徐々に高度を下げてきて下手したら僅かな時間で視界が閉ざされる羽目に陥る。

 

「急ぐぞ! 視界が封じられるのは避けたいし、僕の次元断絶結界もいつまで続けられるか判らないからな」

 

「次元断絶?」

 

「やっている事が事なだけに精神力の消耗も激しいんだ。それに純粋な仮面ライダーとは違って、仮面ライダーアルビオンは体力と精神力を徐々にだが削るからな!」

 

 何とか残り百mくらいまでの距離に来たと思えば車くらいの氷塊が落ちてきた。

 

「チィッ!」

 

 透明度の高い氷塊内に赤黒い結晶が見えているから、あれが魔物の類いだというのは理解が出来るから舌打ちもしたくなる。

 

 トランスフォームというには違う感じだったのだけど、ビキビキと割れる様な音を鳴らしながら氷塊が形を変えるとそれは五mくらいのずんぐりとした巨体――フロストゴーレムだった。

 

「ハルバードにタワーシールドね。数は此方に合わせていると考えられるから、恐らくはグリューエン大火山と同じく個人で一体を撃破しろって話なんだろうな」

 

 まぁ、此方は仮面ライダー軍団だから基本的に大した労力も要らない……勇者(笑)を除く。

 

「とっとと撃破するぞ!」

 

『『『『了解!』』』』

 

 天之河光輝を除く全員が頷いた。

 

《KICK!》

 

《FIRE!》

 

《BURNING SMASH!》

 

 氷のゴーレムが相手とあってユートが使ったのはスペードスートのカテゴリー5の『キックローカス』と、ダイヤスートのカテゴリー6『ファイアフライ』の異色なコンボ。

 

 一応だけど劇中で使われた以外のコンボも出来る様に造られている。

 

「ウェェェェイッ!」

 

 そして敢えてブレイドみたいな掛け声を上げてフロストゴーレムを粉砕した。

 

 見遣れば他の面々も仮面ライダーの必殺技にて粉砕、それが出来ていないのは矢張り天之河光輝だけであったという。

 

「っ! アルビオン」

 

《了解だ》

 

《Reflect!》

 

 その刹那、謎の光による攻撃が天之河光輝を目掛けて飛んで行った。

 

「ぐわっ!?」

 

 吹き飛ぶ天之河光輝はすぐに起き上がったかと思えばユートに抗議。

 

「な、何をするんだ!」

 

「それは此方の科白だ。今のは反射能力を使ったに過ぎない、反射した先こそ今の光の出所な訳なんだがな? 今のは天翔閃だった筈だ」

 

「うっ!」

 

「良かったな? 弱体化した天翔閃で。フルパフォーマンスの天翔閃なら今の防具じゃ死んでいたかも知れん」

 

 その科白に青褪める天之河光輝。

 

 天翔閃も剣技なんかでは無く魔法に過ぎない、聖剣ウーア・アルトには普通に天翔閃や神威といった魔法陣が刻まれており、詠唱と共に魔力を流す事によって発動をしていた。

 

 まぁ、実際に数千年~一万年前のミレディ達の時代には聖光教会の連中が、天翔閃を使いまくっていたのだから間違い無い事実。

 

 とはいえ、この世界の人間は魔力操作が出来ないのが当たり前とされており、出来て当たり前なユートからしたら可成り歪にしか見えない。

 

 天翔閃や神威もユートなら無詠唱で幾らでも放てるだろうから。

 

「しっかし、弱体化云々以前に役立たずだよな。常に役に立っていない処か害悪でしかない足手纏いにも程がある」

 

「そ、そんなこたねーだろ」

 

「雑魚を相手に無双しても意味が無いんだしさ、それに判断力が低いのは判る筈だろう?」

 

「判断力が低い?」

 

 坂上龍太郎は首を傾げた。

 

「狭いダンジョンで天翔閃を使ってメルド・ロギンスから拳骨を喰らったな?」

 

「うっ!」

 

「勝てもしない小ボスのベヒモスに突っ掛かった……のは坂上も同じくだけどな」

 

「うぐっ!?」

 

 はっきり云えばあれは天翔閃なんて大技を使う程の強敵では無く、広さが充分なら未だしも狭苦しいダンジョンで使うべきでは当然ながら無い。

 

 ベヒモスの時も早々に天之河光輝達が撤退をしていれば、メルド・ロギンス達の騎士団も早期に撤退という選択が取れていた。

 

 判断力が低いと詰られても当然だ。

 

「然るに、今度は敵性体である魔人族を相手にして莫迦みたいに剣を振り回して仲間を危機に晒した挙げ句の果てに、最大最後の好機を前にして剣を止めるなど言語道断の論外だ!」

 

「いや、けど勇者だからこそ!」

 

「蛮勇と勇気は別物だ、寧ろ勇者ならば無理をせず撤退してこその勇気!」

 

「うっ、それに相手は女だったしよ」

 

「はぁ? 女だから何だ?」

 

「……え?」

 

「魔人族が女子供老人だからと手を抜いてくれるとでも思ってるのか? 寧ろ餓鬼でしかなかったり戦闘力が皆無な女性に平然と攻撃するんだぞ。それとも魔人族には成人男性の軍人しか居ないとでも思っていたのか?」

 

 事実としてウルの町に於ける先頭後、名前も知らない魔人族は愛子先生を狙っていたのである。

 

 まぁ、序でにユートも狙ったのが運の尽きというやつで反射して殺してやった。

 

「相手が女だろうが子供だろうが殺すのが戦争、お前らはいったい何の為に召喚されて何をするのを自ら頷いたのかを忘れたのか?」

 

「そ、それは……」

 

 闘う覚悟など無い侭に、教皇から聞かされていた情報を鵜呑みに魔人族と相対して無様を晒す、ユートからしたら勇気(笑)共の愚かさ此処に極まれりといった話でしかない。

 

「お、緒方なら女子供や老人を平然とした顔をして殺れるのかよ?」

 

「何を当たり前な事を」

 

「なっ!?」

 

「敵対者と確定したら、一秒前に談笑していたであろう者でも笑顔で首を刎てやるさ」

 

 信じらんないといった表情となる坂上龍太郎だったが、然もありなんとばかりにユエ達は普通に頷いている辺りが理解をしていた。

 

「実際、フリートホーフはユートさんが相手にした連中は全滅しましたし、ミュウちゃんを商品扱いした貴族や商人は誰であれ皆殺しましたもん」

 

 シアがうんうんと頷く。

 

「フ、フリートホーフ?」

 

「フューレン三大犯罪組織の一つですよ」

 

「っ!?」

 

 驚愕に目を見開いてしまうのも仕方が無い事なのだろう、現代日本でそんな事をすれば893が相手だろうがマフィア相手だろうが犯罪は犯罪。

 

「言っておくが政府公認で非合法暗殺組織なんてのが日本に在るからな?」

 

「ハ? 緒方流ジョークか?」

 

「んな訳が無い。ま、本来は言っちゃ駄目なんだけど……消されたくなかったら吹聴するなよ」

 

 ガクブルと頷くのは余りの凄みに坂上龍太郎が怖れ戦いたから、実は笑みとは仲良くする証だとは限らないのであった。

 

 まぁ、本来の【ありふれた職業で世界最強】の世界には無い組織ではあるが、実は似た組織であれば存在しているのでは? と睨んでいる。

 

 事実としてユートが調べた限りこの世界に於ける地球にも神秘は存在していたから。

 

 神秘が存在するなら再誕世界の関西呪術協会みたいな組織、【カンピオーネ!】世界の正史編纂委員会みたいな組織も存在する筈。

 

 ならば元から政府公認非合法暗殺組織みたいなモノも在ったかも知れず、今の美晴が所属している組織と競合か敵対している可能性もある。

 

「まだ斃せないか」

 

 真面目に頑張ってはいるのだろう、然し本来なら虎の子な天翔閃は威力が半減以下な上に使ったらユートに攻撃、跳ね返されて無意味なダメージを負うから近接戦闘しか出来ないのに刃が半ばから折れてリーチが更に短い。

 

「置いて行きたいが……全員がクリアしないと、恐らくは扉が開かないんだろうな」

 

 或いは天之河光輝が死ねば開く可能性も有るには有るが、流石にそんな面倒なギャンブルに出ようとは思っていないユートは縮地で動く。

 

「う? 何だ、緒方! 今忙しい!」

 

「良いから貸せ!」

 

 折れた鉄剣を取り上げると刃に沿って掌を翳し上に上げていった。

 

「なっ!?」

 

 それはユートの魔力光たる闇色のエネルギー刃であり、感知力が特段高い訳でもない天之河光輝をして凄まじい威力を感じる。

 

「良いか? コイツを維持する魔力は一分だけ、お前では一秒も維持が出来ん。一分以内にアレを破壊しなかった場合はお前を殺す」

 

「っ!」

 

「死にたくなければ全力を尽くせ」

 

 天之河光輝は頷くと唯一の正解、赤黒い結晶への一突きにてフロストゴーレムを砕くのだった。

 

 

.




 ありふれ第三期の発表と第13巻の発売、名前が出なかったクラスメイトも無事に発表されたので死亡者の名前も挙げてみました。




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第110話:ありふれた雫の試練

 仮に天之河光輝がユートとデザイアグランプリに出たら……無意味にユートを攻撃した挙げ句の果てに『仮面ライダー失格です』とツムリからの退場宣言を受けて、納得が出来ないと叫びながら日常に消えてしまった後にジャマトに襲われての死亡というコンボを受けると妄想した。

 尚、天之河光輝は仮面ライダーダパーン。




.

 ユートは口笛を吹きながら道を行く。

 

 内容は『One Vision』――【デジモンテイマーズ】に於ける究極進化用の挿入歌。

 

 天之河光輝がユートからの手助けを受ける事で漸くフロストゴーレムを斃し、開いたゲートを抜けたらたった独りきりといった状況。

 

 とはいえ、予想はしていたから怖れる必要性も無ければ焦る理由すら無い。

 

 この七つの大迷宮にはそれぞれにコンセプトが存在しており、試練はそのコンセプトに従って造られているというのをミレディから聞いた。

 

 この氷雪洞窟のコンセプトは恐らく自身の闇に打ち克つ事、本格的に闇と相対するなら余人など邪魔なだけでしかあるまい。

 

 因みに、原典では香織の試練に余人が思い切り干渉した結果として、ズタボロになった闇香織に香織が『えい!』とばかりにトドメを刺した。

 

「そろそろ出て来ないか? 優雅兄」

 

『何だよ、気付いていたのか』

 

「ゲートを抜ける際に優雅兄を中に感じなくなっていたからね」

 

 其処に居たのは白髪白目とユートの対極的な姿をした闇ユート、そしてその中身はユートの産まれて来なかった兄である緒方優雅。

 

『さて、何の為にかは解るよな?』

 

「勿論、エンドレスエイトの如く似たり寄ったりな事を囁かれたからね」

 

『あの糞アニメと一緒にされてもなぁ』

 

 【涼宮ハルヒの憂鬱】のアニメ第二期で試みられた回、ループモノというのは理解するのだけど八回も似た噺を延々と繰り返し観させられた視聴者は堪ったものではない。

 

『では答え合わせだ』

 

「そうだね」

 

『本当は怖かった……そうだろう?』

 

「ああ、だから香織や雫達にも早期に僕の素性やこの世界に対する僕の認識――つまり漫画や小説やアニメに描かれた世界だと伝えたんだ」

 

『フッ、だろうなぁ』

 

 それは一種のトラウマに近い。

 

「まったく、ジュリオには感謝するべきかどうかは微妙だよね」

 

『くっくっ、確かに』

 

 ジュリオ・チェザーレ――ユートが介入をしたβ世界線のハルケギニアにて、本来は教皇だったヴィットーリオ枢機卿の使い魔となった少年。

 

 ハルケギニア大陸に始祖ブリミルが降臨してから六〇〇〇年、始祖の御技を受け継ぐのはその血を伝える三王家と弟子筋が興した――トリステイン王国、アルビオン王国、ガリア王国、ロマリア皇国の中から四名。

 

 ジュリオ・チェザーレはそんなロマリアの神官であり、ヴィットーリオ枢機卿に召喚されて仕える使い魔でもあった訳だが、這い寄る混沌からの介入を受けていていざという時にユートの正体を明かす心算だったらしい。

 

 然しながら遅きに過ぎた。

 

 ユートという転生者が介入をするデメリット、それをメリットが越えてしまっていたから。

 

 少なくともあの場――ジュリオ・チェザーレによる糾弾の場となった其処に居合わせていた人間にとって、ユートは早急に排除せねばならない敵では無くなっていたのである。

 

 況してや、ルイズみたいなユートを義兄としてのみならず男としても愛していたのでは、当然の事ながら転生者だか何だかなんて関係無い。

 

 寧ろジュリオ・チェザーレみたいな新参者などに愛しい義兄を否定されたく無かった程。

 

 尚、ルイズは老衰で死ぬ直前にユートへの愛をはっきりと告白している。

 

 とはいえ、巧いタイミングでやられたら拙かったのも確かだったからこそ冷や汗を流したもの、故にユートにとってはジュリオ・チェザーレの行ったアレは間違い無くトラウマだった。

 

 潜在的な恐怖を感じたからこそ、ユートはある程度まで仲をふかめるかどうにかしたら転生者である事を話すし、場合によってはだが世界の深奥たる秘事すら話している。

 

 例えば、なのは達に【魔法少女リリカルなのは】に関する事を話した様に、或いは香織や雫達に【ありふれた職業で世界最強】に関する事を話した様に……だ。

 

『ふぅ、優斗があっさりと認めるから仕事が殆んど無かったな』

 

「最早、試練の内容は理解してる。僕も伊達や酔狂でン千年と生きてはいないさ」

 

『フッ、そりゃそうだ』

 

 老成をしている訳では無いが、こういう事態は何度も何度も何度も何度もしつこいくらい、諄いくらいに繰り返し遭ってきたのだ。

 

 文字通り経験値が高い。

 

『そうなると矢張り闘るしかないか』

 

 その手には赤い機器が握られており、もう片方の手に赤い龍が描かれたトランプに近いカード、スートは無しでカテゴリーはAの『CHANGE』と掛かれたプライムベスタ――スートが無いから寧ろワイルドベスタかも知れない。

 

『さぁ、あの時以来だが……』

 

 カテゴリーAを装填する優雅。

 

「そうだね、なら闘ろうか」

 

 ユートもアルビオンバックルを手に、スペードスートのカテゴリーAを装填。

 

「『変身っっ!」』

 

《Turn UP!》

 

《Open UP!》

 

 ユートがターンアップハンドルを引くとバックルがひっくり返り、ブレイドと同じ金色のエースの紋様が輝きオリハルコンエレメントを顕現し、それを潜り抜けると白い龍が人型となったアーマーに身を包んだ白龍皇の鎧姿に。

 

《Vanishing Dragon Balance Breaker!!!》

 

 そして優雅がミスリルゲートを開くとスピリチュアルエレメントが顕現し、それを潜り抜けると似てはいるが異なる赤い龍が人型となったアーマーを着込む赤龍帝の姿へと変わる。

 

《Welsh Dragon Balance Breaker!!!》

 

 ユートは嘗ての闘いにて昔の親戚筋――分家に当たる家の長男の転生者を討ち、その男が得ていた転生特典の一人たる『赤龍帝の籠手』を手に入れていた。

 

 ユートは主に『白龍皇の光翼』を使っていて、『赤龍帝の籠手』は主に優雅が使っている。

 

 使い方は見ての通りユートがブレイバックルを基に造ったアルビオンバックル、優雅がレンゲルバックルを基に造ったドライグバックルで変身をする事で姿を禁手化させたモノへ変えていた。

 

 元々、ユートのはブレイバックルその物だったのを現在はアルビオンバックルとして殆んど専用化させているが、【闘神都市】世界で造った際は【デート・ア・ライブ】世界の精霊達の力を扱える様にと構築をしていた物。

 

 その世界で出逢った弁財天のサラスワティから力を借りて『CHANGE』のカードを造り出して、フュージョンのカードに精霊の夜刀神十香、更に予定上のフュージョンだったのは五河琴里の力、そしてエボリューションにはアルビオンの力を当てていた。

 

 因みにだが、五河琴里の力に関しては夜刀神十香のと違って何の調整も施していなかった為に、琴里の精霊化した姿――『神威霊装・五番(エロヒム・ギボール)』の侭で変身をしてしまって、女装という視るからに変態チックな姿で猛大人と戦闘をする羽目に。

 

 まぁ、五河琴里でググればきっと意味も理解は出来るであろう。

 

 現在は基本形態が禁手化の姿、フュージョンの姿が覇龍、そしてエボリューションが……

 

 ユートと優雅が更にカードを左手首に装着された『ラウズアブゾーバー』へ装填。

 

《ABSORB QUEEN!》

 

《ABSORB QUEEN!》

 

 新たなカードをスラッシュ。

 

《EVLUTION KING!》

 

《EVLUTION KING!》

 

 ラウズアブゾーバーは仮面ライダーレンゲルが持たない装備だが、同じシステムとはいってみても此方は普通に左手首へと装備をしている。

 

《The Over Tker God Dragon! Exceed×Extreme! True!!!》

 

《The Over Tker God Dragon! Exceed×Extreme! True!!!》

 

 それは本来の神器の持ち主たるヴァーリ・ルシファーが目指した極致の一つの形で、超越者として神なる龍を顕現、極度に限界を越えた存在――白龍神皇と赤龍真帝の姿であったという。

 

「さぁ、始めようか優雅兄」

 

『嘗ての闘いの再現を……な!』

 

 既に顔まで鎧のパーツに身を包み表情はお互いに見えていないが、どちらも凶悪な笑みを浮かべているのは理解をしている。

 

 そして『ありふれた職業で世界最強』な異世界で白と赤の二色がぶつかり合った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 雫は取り敢えず歩いている。

 

「いつの間にやら独りきりだし、ゲートを通った瞬間に転移させられたみたいね」

 

 溜息を吐きたくなったが今は歩くしかないと、我が身を叱咤激励しつつ歩いていた。

 

「ま、いずれ試練に突き当たるでしょ」

 

 お気楽極楽という訳では無いが、深刻になったからといって今の状況が改善をするものでも無かったし、雫も中々にユートの思想に染まってきたのかも知れない。

 

 ある程度を進むと漸く気配が現れた。

 

 その腰にサソードヤイバーを佩いた白髪をポニーテールに結わい付ける美少女然とした彼女――正しく2Pカラーな八重樫 雫である。

 

「うわ、何て美少女!?」

 

『随分とまた図々しいというか、或いは不貞不貞しいわね? 正直、吃驚するんだけど?』

 

 確かに美少女は間違い無く、白髪ポニーテールに白磁の肌を持つ純白の服装は雫の物と形その物は変わらず、瞳はまるで魔物の魔石の如く赤黒く鈍い輝きを持っていた。

 

 そして彼女が佩いているサソードヤイバーも真っ白だ。

 

 互いにサソードヤイバーを抜刀して構えると、どちらとも無く無拍子で縮地を行う。

 

「聞いてはいたけど、矢っ張り貴女が私の試練。つまりら貴女を叩き伏せないと駄目な訳ね」

 

『そういう事よ!』

 

 けたたましい金属音を鳴り響かせながら互いに下がり、また再び縮地による速攻を行って手にしたサソードヤイバーで鍔迫り合った。

 

 変身の意味は無い。

 

 元々、仮面ライダーへの変身は人間の身に合わぬ怪物を相手にする為のものであり、相手は強いかも知れないが結局は雫本人と変わらない能力でしかなく、つまりは御互いに変身をしたとしても同じ仮面ライダーサソードなら何も変わらない。

 

 同じ身体能力に同じ装備品、使う技さえ同じとあらば勝敗を分けるのは違う部分――精神的な揺らぎとなろう。

 

『ふふ、どうやら愛しい人からの忠告は活きているみたいね?』

 

「それはどうも……」

 

『ならば、その研ぎ澄ませた刃にて貴女()を斬り裂いて見せなさいな! それが出来なければ貴女はこな夢に溺れて二度と愛しい彼に抱かれる事など無いと知りなさい!』

 

 予備動作の無い無拍子とまるで地を縮めたかの如く速度、しかもステイタスによる素速さの値も本来の勇者(笑)すら越える為、普通の人間の目には留める事すら難しい超越した戦闘速度の実現を容易く行っていた。

 

(縮地に縮地を重ねる重縮地も有るんだけれど、それは向こうも変わらない筈よね……)

 

 縮地は発動してから真っ直ぐ進む為の移動技、其処に更に縮地を重ねて超越速度を維持した状態での方向転換、更なる加速化をも現実のものとするのが重縮地である。

 

(やってみる……か)

 

 一瞬の瞑目……

 

『なっ!?』

 

 揺らぎと共に雫の姿が消えた。

 

『がっ!』

 

 それでも攻撃の刹那には速度が落ちてしまったからか、それを気取られてしまったらしく白雫は雫の攻撃を腕に掠らせる程度で躱す。

 

 雫は軽く舌打ちした。

 

「上手くいかなかったか」

 

 残念そうな表情を浮かべる辺り狙ってやったのは間違い無い。

 

『今のは……いったい……八重樫の技にあんなのは存在していない筈……』

 

「さて、何かしらね?」

 

 瞬間的に思考する。

 

(矢っ張りこの2Pカラーの私はゲートを抜けた際の情報を基にして造られてるのね。つまり今の私の技はコイツに解らない……何故なら元々の私が使う技じゃないから)

 

 今の技は一応だけど雫も基礎理論? みたいなのはユートから教わっていたもの。

 

 【緒方逸真流宗家刀舞術奥義――颯眞刀】という技で、基本的には緒方宗家の者で『印可』を得た人間でないと教えては貰えない。

 

 前々世でもユートは印可を得られなかった為、この技を教えて貰えなかったけど前世で召喚された白亜が、基本となる技術やら何やらを教えてくれたので完全なものとして修得をしていた。

 

 ユートは請われて雫に概要と修得に必須な事を教えていたが、不完全とはいえまさか使えたとは思いも寄らないであろう。

 

(使えて良かった……けど、脚のダメージが可成り酷いわね。矢っ張り不完全だったのは未だ上手く発動が出来ないからかしら?)

 

 またミスをすれば闘いが不可能になって敗北をするのは必至、今度こそ斃さないと動けなくなってしまうのは痛い。

 

(抑々、使う為の方法=走馬灯を視るって意味が判んないわよ!)

 

 【緒方逸真流宗家刀舞術奥義――颯眞刀】とは思考の超加速化、そしてその思考に併せた身体能力の引き上げによる超高速移動の奥義。

 

 その修得には思考加速化を行う土台作りとして走馬灯を視るというのがあり、あれは死に際して己れの過去を高速で想起するという思考加速化の土台としては最適と……初代にこれを教えた人物が曰っていたのである。

 

 まぁ、事実として【颯眞刀】は確かに修得が叶ったので初代もこれを正式に後世へと伝えた。

 

 尚、緒方家が全体的に行う筋力トレーニングも初代に【颯眞刀】の訓練法を伝えた人間が教えたもので所謂、ピンク筋の概念を数百年以上は前の戦国時代で普通に持っていたのである。

 

 名前は白とされているが、実は本当はもっと長い名前で呼び難いからシンプルに『白』となり、初代以降の宗家にせよ分家にせよ『白』の名前を入れるのが慣習となっていった。

 

 その理由は女の子に限って基本的には『白』の遺伝子がモロに出て、凄まじいまでの美少女として世に産まれてくるからだ。

 

 その所為というかお陰でというか、時の支配者から求められる事も多かった為に権力自体は持たなかったが、それでも様々な優遇措置を受ける事が出来ていたのである。

 

 奥義の名前が【颯眞刀】なのは走馬灯を視る事が訓練となっているからで、雫も実はその訓練法として走馬灯を視ていたから土台は出来ていた。

 

 とはいってもそれ以上の修業をしていた訳では無かったから、未だ未修得で今回も取り敢えずは発動しました……という感じか。

 

 使えるだけの筋力も足りてなかったから極度の疲労と筋断裂――筋肉痛が起きてしまった。

 

(八重樫流は確実に駄目でしょうね)

 

 少なくとも、既に修めている八重樫流は相手にとっては既知の技でしかあるまい。

 

『フッ、頑張るわね? 矢張り好きな男の興味を射止めたいからかしら?』

 

「何の話よ?」

 

(貴女)は前から……というか『緒方君』と呼んでいた頃からね、彼に好意を持っていたじゃない』

 

「なっ!?」

 

 ビクッと肩を震わせた雫の顔が紅い。

 

『香織の突撃もあって南雲君は周りから痛い目で睨まれていたにも拘わらず、彼はそんな南雲君に対して優しかったし檜山達から庇ってもいたわ。そんな彼に(貴女)は興味を抱いていたもの』

 

「くっ!」

 

 嘘では無いというのが見て取れる態度だけど、そんな態度を取らずともバレバレである。

 

『光輝は素敵な王子様には成ってくれなかった、だけど南雲君をああやって庇えている彼ならば或いは? と思ったのも確かよね』

 

 間違いではない、疎まれているハジメを周りから疎まれるのを怖れずに庇うユートは、雫にとってみれば光輝よりも王子様らしいと考えなかった訳では無かったから。

 

 単純な顔の作りは光輝程のイケメンでは無い、然しながら普通に整っているから寧ろユートの方が好ましいし、鍛え方も見れば細身ながら筋肉が凝縮されたみたいな……坂上龍太郎とは違う方向性でのしなやかな筋肉だった。

 

 後から聞いた話、ピンク筋という坂上龍太郎みたいな赤筋主体や天之河光輝みたいな白筋主体の中間みたいな筋肉を鍛え、見た目には確かに細くても実際には絞り込んだ筋肉の塊なのだとか。

 

『実際、奈落の底で彼に肢体を求められた時だって怒りながらもドキドキしていたわね』

 

「ち、違っ!」

 

『どちらかと言えば怒ったのは香織も対象だったから嫉妬よね? 香織は女の子として(貴女)から見ても素敵だもの、それで彼が香織を抱いたりしたら興味の大半が香織に行きかねないしね?』

 

「っ!」

 

『まぁ、悪いけどスタイル的にも愛ちゃん先生は相手にならないと思っていたわね』

 

「うっ!」

 

『でも、積極的にユエさんを抱く彼を見ていたらそれも揺るいだけど……』

 

 余りにも的確過ぎて耳を塞ぐ、ユートがマジなロリコンでは無いのは雫や香織やシアやティオを確りと抱いているから疑念は持っていないけど、それでもユエや愛子先生みたいなスタイルであっても勃つのだから……とはいってもユエくらいの美少女なら仕方無いというのもある。

 

 だけど闘う為のアイテムとはいえ、ユエにだけ贈り物をしたのも嫉妬心に駆られたものだ。

 

 形としては飽く迄も愛子先生と香織と雫というのは要救助者扱い、しかも足手纏いだから結界の中で待つ様に言われてそれでも付いて来た感じ、ユエの場合は助けたのは確かだったけど王国は既に滅亡してしまい、抑々にして叔父に裏切られる形で封印されていた為に頼れるのはユートだけ、だから全身全霊を以てユートの女に成る事を了承した上で抱かれたのだから立場からして違う。

 

 それは間違い無く恋人――愛人? セフレ? どんな立場であれ想い想われる関係としてユートがユエを抱いていた為、肢体の凹凸とかは余り気にしないのかも知れないと衝撃を受けた。

 

 『始まりの四人』なんて言われ、天之河光輝や坂上龍太郎と一緒くたにされていた雫とは違い、愛子先生は寧ろ戦争参加を止めたがっていた立場だし、よく考えれば愛子先生だけは自分や香織と異なる立ち位置だと気付いてしまう。

 

 焦りも有ったからだろう、当時は未だ自分の気持ちには気付いて無かったから『チョロイン化』したのだと思い込んだが、今ならば雫もはっきりと理解をしていた。

 

『特別な好意を持つ相手が居なかったから肢体を差し出した? 嘘ばっかり、(貴女)は優斗に興味津々で南雲君が虐められて彼が助ける度に話し掛けていたじゃない。積極的に会話がしたかったから』

 

「……それは」

 

 あの頃の雫は自分の気持ちには気付いていなかったし、肢体を求められては素直に喜べなかった理由の一つは香織と愛子先生も……だったから、つまり自分以外にも抱きたいなんて言われたから矢張り嫉妬心がバリバリだったのである。

 

 本当に気付いて無かっただけで。

 

 とはいっても、ユートは別世界で様々な美女や美少女を抱いていた筈で、雫の嫉妬心なんて単なる理不尽でしかないのも理解をしていた。

 

(ペルソナの世界にも行った事があるみたいだったし、矢っ張りペルソナ世界の女の子とも仲好くなって……)

 

 当然ながら仲好くなった最終形態は文字通りでのジョイント――ユートの凸ジョイントと相手の凹ジョイントの合体! である。

 

 紅くなる雫を視た白雫はジト目となって呆れた口調で呟く。

 

『まさか(貴女)、今……エッチぃ妄想をしたわよね? 大胆不敵というか何というか……』

 

 雫が妄想したのはキタローでは無くハム子(汐見琴音)の方の【ペルソナ3】の主人公と、岳羽ゆかりと桐条美鶴と山岸風花とオマケでアイギスが御乱交をしている場面であったと云う。

 

 セクサドールじゃあるまいし、アイギスがとかいうのは行き過ぎる妄想だと思うが……

 

 抑々にしてその為の器官が無い。

 

(そういえば、ベルベットルームにも美女とかが常駐していたわよね? 【ペルソナ3】でいうならば確か……エリザベスだったかしら?)

 

 何と、先程の妄想にエリザベス迄もが加わって更にエロティカルが加速した。

 

 因みにだが【ペルソナ4】ではマーガレットとマリー、【ペルソナ5】ではカロリーヌとジュスティーヌ――ジョグレス進化でラヴェンツァ化、【ペルソナ3P】のテオドアを含めてベルベットルームの住人であり、マリーを除くと造魔という種で姉妹弟といった関係にある。

 

『ちょっ、(貴女)ってば一応は戦闘中に何を濡らしてるのよ?』

 

 人数が人数だから交わるのがユートのみならず桐条美鶴×岳羽ゆかりに、アイギス×エリザベスを視ながら山岸風花を弄りつつハム子に挿入しているとか、いつも()()()()()()()()()()()妄想に加えたからか思わずショーツが湿っていた。

 

 尚、『虚ろの森のツンデレ詩人』は番長に首ったけだったのでユートとは大した繋がりも無い。

 

 そろそろだろうか? 雫は不自然にはならない程度に足でコンコンと地面を叩く。

 

(良し、痛みは無いわね)

 

 態々、恥ずかしい思いをしてまで白雫の科白を聴いていたのはダメージが大きい脚の痛みを和らげる為であり、その目論見は見事に当たっていたからニヤリと口角を吊り上げそうになった。

 

 雫が持つ魔導具には各種バフが掛かり、各種のデバフを防ぎ、HPとMPを少しずつとはいえども回復させる機能を盛り込み、ユートとの間では特に必要性も無いけど『異物排除』の機能が付けられている為、ウィルスは元より()()()()に至るまで排除してしまえる。

 

 前までは首輪という形で、しかもユートが魔力を励起させれば青爪邪核呪詛(アキューズド)の効果を持つ針が首を貫き通し、その対象の肉体を破壊されてしまい醜いヒキガエルへと再構成されてしまう。

 

 一瞬で手足の爪が真紅に染まって凄まじい痛みを与えながら死なせず、記憶や知性を保持した侭に一切の力を持たないヒキガエル化させられるのだから堪らない。

 

 今は首輪を外され指輪を貰っていて勿論だが、青爪邪核呪詛(アキューズド)なんて物騒な魔法も付いていなかった。

 

 指輪の徐々にHP回復効果――リジェネーションの力で、雫は肉体的に疲労したり傷付いたりしても時間を掛ければ治る。

 

 因みに、実際の使い所はユートとセ○クスする時の疲労の回復に努める時だったり、余り無いが万が一備えで避妊の効果も見込めるのが大きい。

 

 問題は果たして出来るのか?

 

(見取り稽古……今の今までの私が全く使った事が無い技を使う。見ていただけの技……優斗の使う剣技――否、刀舞術の【緒方逸真流】を!)

 

 雫は武道家である。

 

 武の道を歩む者であり、武術家――武を糧の術とする者では決して無いけど八重樫流の武道は元より八重樫流の武術を武道として和らげた技で、その根幹には武術の部位が端々に見え隠れした。

 

 彼女からすれば視るという行為で技術の模倣も可能、簡単では勿論無いけど今この時にやれなくて何の剣士か!?

 

「そろそろ再開しましょうか」

 

『あら、私との話が恥ずかしくて動きたくなったのかしら? なら付き合って上げるわよ』

 

 雫と白雫が互いに色の異なるサソードヤイバーを手にして構えを取る。

 

 そして縮地により駆けると鍔迫り合いに持ち込んで来る白雫、雫もそれへと応じる様に白雫が持つサソードヤイバーに刃を合わせた。

 

 顔がキスくらい出来そうな程に近付くと成程、白い髪の毛に白色人種も斯くやな肌は兎も角としても、顔形はまるっきり双子の如くまんまで鏡でも見ている気分となるくらい。

 

 吐く息が白いのも人間を思わせるだろうけど、これは大迷宮に魔力により編まれた人造の知性体――否、そう見えるだけの謂わばドールに過ぎないのであろう。

 

 云ってみればスパロボに登場するシャドウミラーの量産型Wよりマシな存在、自意識だって在る様で無いと云っても過言では無かった。

 

『どういう事?』

 

「何がかしら?」

 

『先程からふらふらと、八重樫流の動きを忘れたのかしら?』

 

「どうでしょう……ねっ!」

 

 ふらふらと……とはユートの刀舞術を模倣しているが故、正確にはふらふらしているのでは決して無く力を篭める場面と抜く場面を取捨選択し、適切に攻撃と回避を繰り出していくのが本来的な【緒方逸真流宗家刀舞術】の真髄。

 

 雫の場合は抑々にして今初めて使った刀舞術に自らが翻弄されてしまい、まともに斬り合う事が却って困難となっているのだ。

 

(くっ、舞いながら剣を揮うって意外と難しいんだけど? 優斗はよくあんな風に振れるわね)

 

 【緒方逸真流】を使う舞士は初めからこの動きが出来る様に肉体を作るし、幼い頃から基本的に舞術を行って来たのだから当然ではある。

 

 初代の妻たる『白』が伝えた肉体の鍛錬術により作られるピンク筋、その瞬発力と持続性を併せ持つ筋肉を元にして通常なら有り得ない運動量の舞いを踊りつつ、敵へと斬り付けていくその様は正しく舞術と呼ばれるだけの美麗さが有った。

 

 戦国時代の戦場(いくさば)にて文字通り『蝶の様に舞い、蜂の様に刺す』を地で往き、何処ぞのゲームが如く戦国無双をして勝利を導いてきたのだ。

 

 ユートも戦闘型では無いとはいえ幼い時分からやってきたからには、当然ながら今のテッテッポリでも踊るかの如く雫より遥か彼方マシである。

 

 緒方家は武家であった初代と謎の少女『白』の間に産まれた子供達により運営されているけど、初代の刀士の力と『白』の芸師の力が遺伝をして顕れる訳だが、大概は極端な出方はしないにしても戦闘型と技芸型に分かれていた。

 

 戦闘型は文字通りに戦闘へと特化していて強さも可成りのものとなり、技芸型は戦闘力はそこそこのレベルで芸術方面に才能を持つ。

 

 ナメック人に於ける『戦闘型』と『龍族』みたいなもので、ユートの前々世の妹の緒方白亜は謂わばバリバリの戦闘型であったが故に、その才能でユートを遥かに越えていたから道場主延いては宗主として祖父に指名された。

 

 祖父も戦闘型だったから解ってしまったのだ、ユートでは決して白亜には勝てない……と。

 

 何故ならユートは父親と同じく技芸型、つまり()()()()に才能を伸ばすべきだったからである。

 

 事実としてユートは前々世の時から『創る』や『造る』という方向に長けており、刀鍛冶師から教えを受ければ初っ端からそれなりの刀を鍛てていたし、絵を描かせれば矢張り初っ端からそれなりの物を描いていた。

 

 聖域での黄金一二宮の闘いの最中に聖衣修復に興味を懐いたのも、ユートの中には在るのであろう某かが琴線に触れたからであろう。

 

 唯一の欠点としてユートは嘗ての父親とは違い『独創性』に欠けていた事、皆無では無かったがそれでも評価を受ける程かと敢えて訊かれたならば首を傾げるしかない。

 

 故にユートの芸術は基本的に模倣、贋作なんてやらないしそんな事する必要性も無かったけど、若しやらかしていたらどんな腕の立つ鑑定士でも全く見分けが付かない贋作を造り上げた筈だ。

 

 得意なのは創作では無く既に形を持った何かを造る事、例えばガンプラを買って作品として出せば大抵は某かの賞を得ていた。

 

 本気で絵画を描けばそれこそ数千万を出してでも欲しがる好事家は幾らでも湧いてきていたし、ユートが鍛えた刀も二十歳になった頃にはそこら辺の本職を軽く飛び越えていて、矢張り好事家なら数千万は軽く出して手に入れている。

 

 だけど父親には敵わなかった、理由は独創性の足りなさによるものだとはっきりしていたから、それを補えないか試行錯誤をしていたなら或いはイケたかも知れないが、生憎とユートは刀舞術を――適性の無かった方を選んでしまった。

 

 この話を寝物語に、抱かれた後のピロートークで話された時には『何の冗談』かと思ったけど、顔が真剣そのもので決して茶化したりは出来ずに聴き入るしか出来なかったのである。

 

 ユートが曰わく、その戦闘力の高さは二度にも亘る記憶保持転生と幾百幾千回もの疑似転生で、魂の格が大幅に肥大化しているが故のある意味で転生の副産物であったという。

 

 その上で今生の転生先が彼のナギ・スプリングフィールドとアリカ・アナルキア・エンテオフュシアであり、この二人の遺伝子を完全に取り込んでいるから戦闘センスや魔力の大きさや特殊性が普通に出ていて、魂の格と相俟って戦闘能力を遥かに向上させるに至っていた。

 

 故にこその力だとはいえ、雫は『だからどうした!』と叫びたい。

 

(足りないモノを補ってきたのは優斗も同じよ、なら私に出来ないなんて絶対に言わない!)

 

 八重樫流の癖が足を引っ張る。

 

(【緒方逸真流】のみの動きでは今の私にとって八重樫流の動きが邪魔で阻害される。それならば其処を逆手に取るまでよ!)

 

『動きが変わった!?』

 

 雫がやったのは八重樫流の動きに【緒方逸真流】を混ぜるという事、先程までは純粋に【緒方逸真流】を使おうとして八重樫流に足を引っ張られていたが、逆転の発想で八重樫流で動きながら【緒方逸真流】を交え始めたのだ。

 

『くっ!』

 

 よく識る筈の動きに識らぬ行動が混じるだけ、それだけなのに白雫は全く付いていけない。

 

 それでいて白雫の動きは雫のよく識る八重樫流であり、つまりは動きが至極読み易いというメタを充分に張れる状況であった。

 

『まさか!? 有り得ない!』

 

 カッカと焦る白雫に反比例するかの様に雫の頭は冷え切り静かなもの、そして何故か思考加速をされている訳でも無いのに動きが緩慢に見える。

 

『えっ!?』

 

 次の瞬間には白雫のサソードヤイバーを持っていた手首と頭が落ちていた。

 

「【緒方逸真流刀舞術】――弐真刀」

 

 まるで現実味が無い表情で今までの余裕がかなぐり消えた白雫、人間では無いからか或いは切れ味が良くて未だに死んだと肉体が認識していないからか、今も彼女は頭だけで生きている。

 

(多分、これが【閃姫】契約をする時に言っていた特典の一つ……輝威(トゥインクル)ね)

 

 それは極稀に【閃姫】へと顕れる特殊能力の類いらしく、発現したという例は本当に稀であった為に保持者は余り居ないのだとか。

 

 名前は中二病臭いけどユートが決めているとも聞いたし、其処は別に拘りも無かったから雫としては問題無く決めて貰う心算だ。

 

 輝威を獲たらユートにも判るそうだから雫の勘違いかも知れないという懸念自体、ユートに自身を見せて鑑定をして貰えば済む話である。

 

『強いわね……(貴女)

 

 ちょっと不気味だけど白雫が諦念の表情を浮かべながら話し掛けて来た。

 

 

.




 ペルソナは3を起点に話していましたが、実際には書いた通り普通に【女神異聞録ペルソナ】や【ペルソナ2】を通った上で【ペルソナ3】や【ペルソナ4】や【ペルソナ5】と進みます。

 そして【ペルソナ3】はスパロボOGと同じく、版権版で男女の選択が有った場合は双子で登場みたいな理論で、舞台版での名前で汐見兄妹として存在しています。

 まぁ、兄妹にするからには有里 湊や結城 理にすると妹の名前が出て来ないし……








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第111話:ありふれた仮面

 ペルソナとかなのはとか、後はユートの方での原典の書き直しとかやってなら一ヶ月を越えた。

 本当はせめて一日に上げる予定が……





.

 雫は何とか勝てた、ダメージははっきり云って自傷に近いモノしか無かったけど、それは飽く迄もユートの刀舞術の模倣が上手くハマったからに過ぎなかったし、下手に黒歴史を暴かれていたら闘い処では無くなっていただろう。

 

「っ! 颯眞刀のダメージがまた……矢っ張り、ちょっとキツかったかぁ」

 

 余り気持ちが良いモノでもない自らの写し見にも近い生首を見遣りつつも呟く。

 

『試練の突破、おめでとう』

 

「有り難うと言っとくわ」

 

 先程までの厭らしい笑みでは無くて微笑みを浮かべる白雫、其処にあるのは嫌味でも何でも無い明らかな祝福に他なら無い。

 

『それにしても、即興で彼の技を使うとか随分と入れ込んでるわね?』

 

「わ、悪いかしら?」

 

『いいえ、良い事だと思うわ。(貴女)の写し見たる私としては羨ましいくらいよ』

 

 その笑みは確かに悪意は無さそうなのだけど、矢っ張り首だけというのは不気味である。

 

『そうね、(貴女)は頑張ったし……御褒美を上げても良いかしら』

 

「御褒美?」

 

『ええ。私がこうして(貴女)の記憶を基に顕在化しているのは魔力によるものよ』

 

「そうでしょうね」

 

『つまり、私を吸収したなら力を獲られるわ……多分だけどね』

 

「多分って……」

 

 恐らくは白雫も確証が無いか、下手をしたなら単なる罠という事も有り得る話だった。

 

『心配しなくても今更、試練をクリアしている(貴女)に罠なんて仕掛けたりしないわよ』

 

「……そう」

 

 確かに白雫の態度は最早、雫に対して全く悪意が無いのは理解もしているから信じられそうであったし、この大迷宮を造った人物が余程の腐れた性根でもない限りは大丈夫だろう。

 

 例えば某・ライセン大迷宮みたいな。

 

 因みにだけど、どうやらこの氷雪洞窟に於けるもう一人の自分の人格は意地悪な部分があって、模した人間のあれやこれやがプラスされて暴走をする場合もある様だ。

 

 故に、原典で天之河光輝の2Pカラーはあんなにド派手な暴発をしてくれた。

 

「本当に力を?」

 

『魔力を吸収するのだもの、間違い無くとまでは言い切れないけどイケるとは思うわ。とは言え、吸収されたら私の魔力は無味無臭みたいな感じになるし、獲るべき力を確りイメージしておかないと無駄に魔力が増えるだけになりかねないわね』

 

「どうすれば吸収出来るの?」

 

『私の首を身体に置いて、私の手を身体の上へと添えなさい。そうすれば後は此方でやるから』

 

 雫は言われた通りに白雫の生首を身体の上へと置きその右手を添える。

 

「何だかDBでピッコロがネイルと同化するみたいなポーズだわ」

 

『似た様なものよ』

 

 白雫が光を放って確かに雫へと魔力が流れつつあるのが見えた。

 

『イメージしなさい、(貴女)が欲しい力を!』

 

「イメージ……とは言われても」

 

 ギュンッ! という音を大きな響かせながら、白雫が雫の体内へと入り込む。

 

「んっ!?」

 

 それは一種の性的な興奮を以て行われたからだろうか、ふと雫の脳裏にフラッシュバックをした記憶の欠片……断片が過っていた。

 

「ああ、そういう事になる訳ね」

 

『我は汝、汝は我。我は汝の心の海より出でし者――トリトンの娘にしてアテナのもう一つの名、そしてアテナ御姉様に刃向かいし女神パラス也』

 

 雫の背後にまるで守護霊であるかの如く顕現化したのは、見た目には決して白雫には見えなかったけど間違い無く白雫としての意識を持つ存在として凛々しく浮かんでいる。

 

「確かに相応しいわ、もう一人の私。だけどね、パラスなのは良いのよ? 何だか【ペルソナ3】のアイギスが使う初期ペルソナのパラディオンっぽい名前なのも呑み込むわ。だけど金髪緋色の瞳に褐色の肌って、諸に【聖闘士星矢Ω】のパラスよね……それは!?」

 

 白雫の姿から少女姿の女神パラスに成っていた白雫、即ち八重樫 雫のペルソナとして顕現化をしたのが彼女だった訳だ。

 

『貴女、彼が聖闘士星矢を好きな事を知ったから香織には内緒で【聖闘士星矢Ω】を視聴していたからね。何と無くパラスを思い浮かべてしまったんじゃないのかしら?』

 

「って、普通に喋れるの!?」

 

『ペルソナは貴女が持つ別の一面が仮面となって顕れた存在、だからか多少の会話くらいなら出来るみたいなのよね。実際、ペルソナでは作品内の主人公達が使う初期ペルソナや後期ペルソナは喋っているじゃない』

 

 やっていた事は単なる自己紹介に過ぎないが、事実としてピアスの少年の青面金剛やタッちゃんのヴォルカヌスやマーヤのマイアやキタローのオルフェウスや番長のイザナギやジョーカーのアルセーヌなどが普通に自己紹介程度はしていたし、何なら【ペルソナ5】でのペルソナ達なら普通に自己紹介で喋ってきたくらいである。

 

「確かにそうだけど……ね」

 

『あ、今回は初回召喚サービスで召喚が出来たけど次回からは何らかの召喚器が必要よ』

 

「そうなの?」

 

 【ペルソナ3】ではキタローやハム子を始めとして、基本的にはストレイガを除く誰も召喚器を用いてのペルソナ召喚をしていた。

 

『必須では無いのは【女神異聞録ペルソナ】とか【ペルソナ2】からも判る通りなんだけれどね。単純にゲームでの設定が変わっただけってメタは要らないわよ?』

 

「判っているわよ……」

 

 それに雫はユートがペルソナ召喚をしたのを見た際のポーズ、右手を謂わば無敵ジャンケン的な形にした親指と人差し指を伸ばして、残り三本は握り状態にした指鉄砲な形にして頭の側面へ突き付けたアレは、間違い無く【ペルソナ3】に於ける召喚器をモチーフとしていたのは明らか。

 

 ユートが前々世で死んだのが西暦二〇一三年かそこらで、ならば【ペルソナ3】をプレイしていたのは恐らく間違い無いだろう。

 

 顔立ちが同じだった筈の白雫は金髪緋目で褐色の肌となり、唯一と云える未だ雫と似ているのが顔を構成する線とパーツというペルソナ版となったパラス。

 

『あ、そう言えばだけど』

 

「何よ?」

 

『何故かは判らないけどね、【契約】よって叫びたかった気がするわ』

 

「は? 何で?」

 

『だから判らないんだってば』

 

 何故か? それはパラス=白雫にも判らなかったりするのだが、名乗りの際には特殊BGM付きで『契約』をしたかったと思っていた。

 

「何だかそれって、頭が滅茶苦茶痛くなって顔から血が噴き出すんじゃないかしら?」

 

 脳裏に浮かぶのは苦しみながら頭を抱えながら絶叫し、貼り付いた仮面を無理矢理に引っ剥がして顔が血塗れとなる姿である。

 

 ユートに言えばきっと納得するだろう、何故ならばそれをする連中と関わって来たのだから。

 

 巨大なる心の歪みが城――パレスとなって悪意を育む悪党共、そんな連中の改心をさせる為に『オタカラ』を頂戴してきた少年少女やオッサンやAI達の闘いに干渉をしてきたのだから。

 

『ま、良いか』

 

 消えるパラス=白雫。

 

 召喚が解除されて白雫改めパラスが消えると、雫は溜息を一つ吐いて出口らしきを目指して歩み始めるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 同じ頃、自らが見定めた地へと降り立った鈴は現れた2Pカラーな自分と向き合う。

 

「うわ~、鈴にそっくり」

 

『そりゃ、鈴は貴女()だからね』

 

 本物な姿とは打って変わって妖艶な表情となりクスクスと嗤う様は、割と直情径行な鈴からしたらムカッとなるくらいの悪女っ振り。

 

 雫の2Pカラーが白雫なら、此方は正に黒鈴と揶揄しても良い程にブラックな態度である。

 

 しかも見た目の幼さは鈴と全く同じなだけに、表情の妖艶さとの二律背反が目を惹いた。

 

『フフ、自分を見る目では無いわねぇ』

 

 それは甘ったるくて男を籠絡する事しか考えていないあーぱー娘な貴族子女を思わせるからか、同性の鈴からしたらその声音は苛つくばかりであったし、それが鈴ちゃんフェイスから発せられているという事実に頭を抱えたくなる。

 

「な、何なんだよ~」

 

 気持ちが悪いとかの話ではない。

 

 それは最早、生理的に受け付けないのだと声高に叫びたくなるくらいに気色が悪かったから。

 

「ほ、本当に鈴の虚像なのかな?」

 

『あら、疑われるなんて心外ぃぃですよ? 鈴はどっからどうみても貴女()だよね? 我は汝、汝は我……我は汝の心の海より出でしモノってね』

 

「何処のペルソナだよ!?」

 

『寧ろ……我は影……真なる我かしら?』

 

「ペルソナってかシャドウだった件!」

 

 ニヤリと嗤う黒鈴は本物とは口調が異なっていて淫猥に聞こえたし、紅でも引いたかの如く唇が何処か卑猥な感じに見えるのが鈴っぽくない。

 

『ねぇ、()

 

「な、何?」

 

貴女()はどうして彼に大切なモノを捧げてまで、こうして旅に付いて来てしまったの?』

 

「そ、それは……」

 

 大切なモノ(処女)と言われて顔を赤らめる鈴だけど、既に試練が始まっている自覚はあった。

 

『ずっと気になっていた』

 

「ひあっ!?」

 

『嫌われ者な南雲君を明らかに庇っている姿勢を魅せる彼が、それでいて南雲君を虐める連中に対して何ら躊躇いも遠慮もしない彼が』

 

「うう……」

 

 何故か学校で南雲ハジメは嫌われ者だったが、その理由の一つは香織の彼への気安さ。

 

 香織は顔立ちが綺麗寄りながら可愛らしさが溢れており、更にこのトータスでもリアル治癒師になったけど彼方側でも精神的な癒し系な為か、学校でも『二大女神』の一人として本人の気性は兎も角として君臨をしている。

 

 そんな女神の気遣いを受け、微笑みを向けられていて剰え、遂には昼食に呼ばれて手作り料理を振る舞われそうになったのだ。

 

 まぁ、昼食は未遂に終わったが……

 

 元より、男は疎か女子からも絶大な人気を誇る――本人は気にもしてないけど――香織なだけにハジメの態度は許し難いといった感じらしい。

 

 というより、香織の事より以前からハジメは余り快く思われてはいなかった。

 

 その際たる要因がオタクな事。

 

 最近ではオタクも増えてきたからか市民権を獲るに至る場合もあるが、ハジメの通う学校に於いてはオタクが市民権を獲る事は無かったのだ。

 

 同じオタクの清水幸利も自らがオタクである事をひた隠しにする程に、というより二〇一四年の今現在はオタクの文化が其処まで市民権を獲てはいなかった土地も在ったのであろう。

 

 糅てて加えて、居眠りなどをしていて授業中の態度が宜しくなく謂わば不真面目にしか見えなかったのもある。

 

 何処ぞの『ハンニャ』や『モロキン』みたいな教員が相手であればある意味で英雄なのだろう、然しながら社会科になれば相手は愛子先生が担当の先生であり、ハジメはそんな彼女が授業の最中でも居眠りをかましていた。

 

 当たり前だが反感を買う。

 

 更にはハジメのクラスメイトとして天之河光輝が居たのも向かい風、彼は遅刻や居眠りの常習犯たるハジメを注意――という名の香織が構う事へのやっかみ――を繰り返しており、それでも一向に態度を改めないハジメにクラスメイトは何様の心算かと怒り心頭となる。

 

 結果として、ハジメに対するクラスメイト共の反応は清水幸利みたいなどうでも良い派は少数でしかなく、女子は天之河光輝に反発する野郎として目の敵にしてくるし、男連中は香織のハジメへの優しい対応に嫉妬をして目の敵にしてきた。

 

 味方寄りだったのは雫くらい、ある意味に於いては敵ながら精神的な味方だったのが香織を邪魔に感じる中村恵里――今は完全な味方である処か初めてを捧げられた――であり、本当の意味での味方は唯一と言えるユートだけだったと云う。

 

 だから気になったのだ。

 

 谷口 鈴の幼少期は表情に乏しい、世間を冷めた目で視る余りに可愛げの無い少女であった。

 

 理由は家庭環境、そう考えればトータスに来たクラスメイト連中で問題行動をした者は基本的に家庭環境が良くない。

 

 清水幸利は自業自得な面はあれど、兄弟間に於ける溝は確かな問題点だった訳だし。

 

 そういう意味では家庭環境の被害者と云えるのが天之河光輝、両親に愛されていなかった訳では無く単純にお祖父ちゃんっ子だった彼は、弁護士たる天之河完治の事を『正義を守る弁護士』として尊敬していた様だ。

 

 天之河完治も孫と話すのが愉しいと思ったのか様々な弁護の話をしてやるも、まだ早いと考えて『闇』に関しては全く話していなかった。

 

 いつか成長して天之河光輝が清濁併せ呑むだけの心の成長が成されたら……そう考えていたけど残念な事に急死してしまった為に、本来なら話さなければならない話が出来ず中途半端な正義マンが単純してしまう。

 

 鈴の場合は両親が仕事人間で、授業参観などの保護者が参加をする行事には欠席が多い正しく、朝から晩まで仕事仕事仕事といった鈴に弟か妹を作る時間さえ無いタイプ。

 

「変身っ!」

 

『変身』

 

 鈴が与えられたのは【仮面ライダー龍騎】から仮面ライダータイガのカードデッキ、本来ならば『竜虎相討つ』の言葉があるみたいな主人公たる龍騎のライバルになってもおかしくない仮面ライダーだったけど、結局は英雄に憧れる青年が最期の時に仮面ライダーとは無関係な形で『英雄』と呼ばれた噺。

 

 ゴツく蒼い縁取りで白いアーマーな仮面ライダータイガ、戦斧型のカードリーダーなデストバイザーを手に白虎型のミラーモンスターたるデストワイルダーと契約をしている。

 

 対する黒鈴は白いアンダースーツに蒼い縁取りは同じながら黒いアーマー、見た目は全く同じな仮面ライダータイガだけど色違いの2Pカラー。

 

 ホワイトタイガーに対してブラックタイガー、正に対極と云えるカラーリングだった。

 

 そしてデストバイザーとは別に鉄扇が装備されているが、これは生身でも鈴が使うユート謹製の武具で氷雪洞窟に入る前に渡された物。

 

 ユートの女――【閃姫】という証明の一つとなるのが武具と指輪乃至は首輪である。

 

 仮面ライダーの力は飽く迄も即興で使える力という位置付け、何よりも普通に男が相手であってもハジメや浩介や坂上龍太郎の例を挙げられる様に渡していた。

 

 武具も渡すと言えば渡すのだけど、基本的には指輪乃至は首輪とセットで今現在のユートは自身の【閃姫】に与えている。

 

 武具は攻撃用だけでなく守りの為、指輪は勿論ながら【閃姫】というか花嫁的な意味合いから、指輪か首輪を選ばせるけど首輪はユートのモノである事の象徴みたいな形。

 

 まぁ、首輪は契約という意味でも使っているし【閃姫】だけでなく萌衣奴(メイド)にも与えている。

 

 首輪は契約の証であり、広義ではペットに着ける自分のモノだと示す為のアイテム足り得る物、つまりそれを望んだ時点で鈴はユートのペットに成りたいと言ったも同然。

 

「征くよ!」

 

『こっちもね!』

 

 白虎と黒虎が同時に動く。

 

「はぁぁっ!」

 

『せやぁぁぁぁぁっ!』

 

 ガコンッ! と鈍くも軽快な金属同士がぶつかり合った音が鳴り響いた。

 

 白いデストバイザーと黒いデストバイザーによるぶつかり合い、ゴツいながら何故か身長は大して変わらないのは愛子先生と同様でコミカルでありながら、『戦わなければ生き残れない』みたいな雰囲気は変わらなかったからか? 何処となく二人は剣呑である。

 

《STRIKE VENT!》

 

《STRIKE VENT!》

 

 互いにVバックルからアドベントカードを抜き放って、デストバイザーへとベントするとデストワイルダーの両手の爪と同じ形状のデストクローが装着された。

 

『どうして彼に付いて往ったの?』

 

「っ!?」

 

 それは正に核心とも云う話題。

 

「……」

 

『口を噤めば良いと思ってる?』

 

 ガインッ! 急速にスピードアップされてしまいデストクローに引っ掻かれる。

 

(成程、拒絶すれば虚像がパワーアップをしてしまうんだね)

 

 取り込まれるのは論外ながら、決して拒絶をせずに受け止めろと言われた意味が知れた。

 

 ダメージに呻きながらも思考し、治癒師では無くとも治癒系は使えるから魔法で回復しながらも充分な距離を取る。

 

(カオリンみたいな回復量じゃないけど!)

 

 だけどそれは黒鈴も同じ事が出来るという事に他ならず、ならば斃す心算で挑む以上は必要不可欠なのが必殺技であろう。

 

 問題は同時に撃ち合った場合。

 

 本来なら有り得ない、デストワイルダー同士のぶつかり合いとなっての空撃ち。

 

 だけど不利なのは鈴。

 

(どうする? 『フリーズベント』のカードなら発動を停められるけど……)

 

 それは矢張り黒鈴も同様。

 

 同キャラ対戦は同じだけの習熟度なら互角になるから、後は運良く此方が優勢になれば勝てなくは無いかも知れないのだが、彼方は自らの強化が出来るらしいから既に互角では無い。

 

 何故なら既に彼女の問いに答え損ねて少しだけパワーアップをさせている。

 

貴女()が彼に付いて行きたがった理由、それは主に三つあるわね』

 

「っ!」

 

 仮面で判らないけど目を見開いた。

 

『一つは光輝君に嫌気が差していたいたからと、普段からの貴女()では考えられない思考ね』

 

 事なかれ主義に近い鈴は、他者とのいざこざにならない立ち位置で出しゃばりをしない。

 

 ちょっと離れた位置からニコニコしていると、それが故に天之河光輝の傍に居ても女子連中から罵倒をされないし、実はそれを利用して恵里"にせよこの世界の中村恵里は天之河光輝の傍という、美味しいポジションをゲットしていたのは鈴自身が恵里"から聞いていた。

 

 そんな事なかれな鈴をしても、今現在の天之河光輝は視ていて不安に駆られる上に不快。

 

 現状では天之河光輝も一緒ではあるのだけど、ユートの女――【閃姫】という立場だったから既に天之河光輝とは無関係、というより天之河光輝自身が元の天之河グループからハブられている。

 

 一応、親友枠な坂上龍太郎が未だ寄り添ってこそいるものの、中村恵里はハジメの彼女と成ってしまい、雫と香織と鈴はユートの【閃姫】に成っているから同性愛者でもなければ今の状況は決して愉しいものではあるまい。

 

『二つ目の理由……それは実際に言っていた通りヒーローの姿に成れて、力も強くなるというのに惹かれたから』

 

「そうだね」

 

 ちょっと男装をすればすわ少年か? とか間違われそうな体型ながら、仮にも女の子なのだからプリキュア辺りに興味を持てば良いのだろうが、本人曰わく『心の中に小さなオッサンを飼っている』らしいからか? ヒーローに成りたがった。

 

 その思いの通りに今は仮面ライダータイガの姿に成れているし、原典のタイガに出来る事ならば今の鈴=たる仮面ライダータイガにも可能。

 

『三つ目……これが大きいわよね? ()がこんな感じに出て来てるもの』

 

 黒鈴は仮面ライダータイガの姿でありながら、何処かしら艶やかなポーズを取り始めるのを視ていると、身体の線は女性っぽいから微妙に様になっていたのが鈴には口惜しい。

 

「言わなくても理解しているよ」

 

『! へぇ?』

 

「鈴が! お子ちゃま体型にも拘わらず! エロいから! だよね? 解ってるよ!』

 

 自棄糞気味に一語一語を区切って叫ぶ。

 

 鈴は御世辞にも女性らしい肢体だとは云えない体型であり、彼女の身長はクラスメイトの中でもワースト1を争う低さだったし、胸は絶壁とまではいかないまでもペッタンコ、腰の括れは寸胴鍋を思わせるレベルで、お尻もそれに沿った程度のモノでしかないのである。

 

 まぁ、それでも単純な胸のサイズはユエの絶壁に比べればマシなレベルで脹らみを持つのだが、然しながら流石は三百年モノの吸血姫とでも云うべきか、ユートをしてあの子供としか思えない筈の彼女のエロティカルにJr.が臍まで反り返るし、一度でもユエが本気でくればそれこそ穴という穴を以てユートを悦ばせていた。

 

 それでも最終的に固有魔法の『再生』ですらも上回るユートの責めに、ユエはノックダウンをさせられて気絶による眠りに就くのだが……

 

 鈴よりもお子ちゃまボディなユエのエロさには脱帽しかないであろう。

 

 それは兎も角、『心に小さなオッサンを飼う』鈴とはいっても女の子だから、男の子との恋愛に夢を視ない程に男性思考では無い。

 

 所謂、性同一性障害(Trance Gender)では無いからだ。

 

 鈴のそれは飽く迄も女の子同士に赦されただけの御触りを悪戯レベルで行う――やり過ぎれば当然ながら拳骨モノ――程度、決して本気で同性たる女の子に欲情を懐いている訳では無かった。

 

 尚、現在は障害というのは外されて性別違和――Gender Dysphoriaと改められている。

 

 前々からユートに興味を持っていたからというのが理由にせよ、欲したヒーローの力に光輝からの離脱が一度に可能なあの時こそが分岐点。

 

 無論、初めてを捧げるとなると矢張り怖いとは思ってしまったけど、何処かワクワクしていた上にドキドキと胸が高鳴ってもいた。

 

 初夜とも云うべきあの晩、流石はエロティカルとしてはNo.1とも云えるとはいえ見た目は鈴より幼いユエを抱くだけあり、あれよあれよと云う間に鈴は処女を貫かれ痛みに喘いでいたと思えば、いつの間にか絶頂にまで導かれてあっさり気絶をさせられてしまっている。

 

 一部始終を視ていた香織が曰わく、中々にスゴい光景だった上に終わった時の鈴はビクンビクンと肢体を痙攣させ、イヤらしい液体がイヤらしい部分から垂れ流されていたとか。

 

 惹かれてはいたけど其処までの想いでも無かった筈の鈴は、だけど初夜を越えてからユート無しには居られないくらいに惚れ込んでいた。

 

 一発ヤったくらいでチョロいと思うかもだが、精神的には一線を越えなかっただけで半ば好きになり掛けていたのだろう、肉体的な一線を越えたら精神的な一線もあっさり踏み越えていたのだ。

 

 しかもユートは『心の中に飼う小さなオッサン』を認めてくれるし、それならばと百合な行為も積極的にヤらせてくれるから余計好きになる。

 

 しかも今までは胸を揉んだら拳骨を貰っていたのに、『シズシズ』や『カオリン』がエロエロな事をしても寧ろ積極的になる辺り困惑すらした。

 

 ベッドの中だけでだが……

 

 これはユートに調教された結果、女の子同士でのエロエロ行為的なハードルが下がったからで、ある意味に於いて鈴にはまるで天国みたいな環境となっている。

 

「元から鈴はゆう君に興味はあったし惹かれてたんだ! そんで以て、ゆう君に抱かれて大好きになった! 悪い?」

 

『くっく、強化する処か強化が解除されていく。つまりは()の本心って訳だね』

 

 おかしそうに笑う黒鈴がカードをVバックルから引き抜き、まるでそれを見せびらかすかの如く表面を鈴の方へ向けてヒラヒラさせる。

 

「っ!?」

 

 直ぐ様、鈴もVバックルからアドベントカードを引き抜いた。

 

 互いにデストバイザーへとベントイン。

 

《FINAL VENT!》

 

《FINAL VENT!》

 

 同じ電子音声が鳴り響く。

 

 それはどの【龍騎系】ライダーにも共通項となる必殺技用のカードだ。

 

 白と黒のデストワイルダーがにょきっと顕れたかと思うと、同時に爪――デストクローを振り回しながらぶつかり合う。

 

 それは正しく野生の虎同士が自らの領域を懸けて争うが如く、爪がボディを切り付ける度に爆音を響かせて煙が上がった。

 

 それを脇目に鈴のタイガも闘う。

 

『ホントに吹っ切れている……』

 

「そりゃあ……ねっ!」

 

 黒鈴を吹き飛ばす鈴、デストワイルダーも黒いデストワイルダーをぶっ飛ばして黒鈴へ向かって再び駆け出した。

 

 ガンッ! ズザザザザッ! 爪を突き立てると仮面ライダータイガである鈴へ向け黒鈴の背中を地面に擦らせながらダッシュ。

 

 鈴は黒鈴をデストクローで貫き通した挙げ句、天高く腕を掲げて爪を更にめり込ませる。

 

 これこそが仮面ライダータイガの必殺技である『クリスタルブレイク』だ!

 

 尚、打ち倒して地面に擦れば仰向け俯せは問わない必殺技である。

 

『ガハッ!』

 

 力が獲られなくなった時点で最早、黒鈴に勝ちの目は無くなっていたのを他なら無い本人が一番よく理解をしていた。

 

 仰向けに倒れた仮面ライダーブラックタイガ、そのアーマーやアンダーが鏡の如く割れる。

 

『闘い方、知っていた……とはいえ……やるね。試練は合格……だよ……』

 

「そっか……」

 

『まさか……ね、()にこんな……本来なら記憶は知識としてのみ……の筈、なのに今は……異常に……彼に……会いたい……』

 

「彼……って、ゆう君?」

 

 鈴からの問い掛けに頷く黒鈴。

 

『この……ダンジョンの試練……は、虚像による……問い掛けに……答える事……偽れば偽る程に虚像は強くなる……』

 

「そう聞いてるよ」

 

『この場所に来た……時点での……試練受験者……記憶……を元に……魔力で構成された……虚像が産まれる……記憶は単なる知識、感情なんて本来は無い。有る様に見えるのは……そう演じているだけ……の筈だったのに……ね』

 

 性格には感情は再現されているが、それも単なる喜怒哀楽に関してのみで例えば鈴のユートへの想い、虚像である黒鈴も持ち合わせてはいるけど知識――他人の日記を読んでいる程度のものでしか無い為、黒鈴自身はユートに対しての好意なんて持っている訳では無い。

 

 どんな想いを持ち、これまでナニをしてきたかは理解もしているけどそれだけ。

 

 小さな見た目に幼いとさえ云える――失礼ながら畑山愛子先生と大して変わらない肢体な鈴が、それでも一生懸命に奉仕をしてユートが悦んだら嬉しかったとか、そういった気持ちも黒鈴は知識として識ってはいるのだが、だからといって黒鈴がユートにそうしたいと思う訳では無かった。

 

 本来ならば。

 

 原典で香織と黒香織が闘った際、ユエとシアに乱入された挙げ句の果てにズタボロにされてしまった訳だが、試練に不合格は困るからと香織は自らの手でトドメを刺した。

 

 だけど怒りを覚える訳では無く、香織の感情を再現した穏やかな表情で褒め称えただけ。

 

 人間なら怒りを悲しみを覚えるだろう。

 

「ゆう君に会いたい?」

 

『会って()がしてきた事をしたい。本来はこんな事を考えたりしないんだけどね』

 

 所詮は試練の為に急造された魔力疑似生命体に過ぎず、試練が終われば魔力供給を断たれて消え去るが定めの存在に過ぎない。

 

 当たり前だけどそんな直ぐに消えると判っている存在に感情を付与するなど、そんな莫迦な真似を【解放者】たるヴァンドゥル・シュネーがする筈も無かった。

 

 だけど有り得ない事が起きている。

 

『若しか……したら、試練の何かが……壊れたのかも知れない……』

 

「壊れた……破壊? 破壊者……世界の破壊者……己れディケイド? って、ゆう君!?」

 

 破壊者となれば本物では無いけど邪神の力を解り易い形に換えたディケイドの力を持つユート、つまりユートが何らかのアクションを起こしたのが切っ掛けで壊れた可能性がある?

 

 何と無くそう結論付けていた。

 

 そして実は間違っていない事を雫と合流していたユートは結論付けている。

 

「だとしたらゆう君の所為かぁ……」

 

 一応は【閃姫】なだけに責任を感じたらしく、どうしたものかと思案をする鈴。

 

「例えばさ、鈴に憑依したら一緒に来れたりしないかな?」

 

『……乗っ取るとか、思わないの?』

 

「そんな事したらゆう君に消されるよ?」

 

『かもしれないわね』

 

 黒鈴が手を伸ばす。

 

「うん?」

 

『本気でこんな魔力で創られた疑似生命体を引き取るんなら、この大迷宮のシステムから切り離さないと駄目なの……だから……【契約】……』

 

「わ、判った……契約するよ」

 

 恐る恐ると手を取った。

 

『我は汝、汝は我……』

 

 仮面ライダータイガのソリッドフェイスシールドみたいな仮面が鈴の顔に填まる。

 

「うう……あああああっ!」

 

 バリッと仮面を外すと……

 

『我は汝の心の海より出でし存在』

 

 その姿が大きく変わる、金髪に瑠璃色の瞳を持って白の裏打ちされた赤いフードを被っており、金色の林檎を詰めたバスケットを左腕に提げている白と赤で北欧の民族衣装風な服装、フードには赤くて大きめなリボンが着けられている。

 

「うん、鈴は君で君は鈴だ……イズン」

 

 此処に契約は完了せり、谷口 鈴はペルソナたる女神イズンを降魔させるのであった。

 

 

.




 本来、鈴は普通に試練クリアの筈が一ヶ月の間にペルソナ5や真・女神転生5を見ていたら思わずやってしまった……

 仮面をバリッからのイズンはその影響。

 尚、最初は体型的にデメテルを考えたんだけど豊穣の女神だから愛子先生かな? とか思ったのでイズンに変更。



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第112話:ありふれた香織の試練

 ふむ、Switch版のペルソナ3をプレイしていたから書く手が進まなかった……

 PS2は当然ながらキタローしか居なかったから今回はハム子。




.

 ドガァァンッ! という爆発音と共に雫が立つ近場が激しく揺れている。

 

「キャァァッ!? な、何よ今の!」

 

 突然の事と先の戦闘で負った脚への負担によるダメージが相俟って、地揺れに対しての応対が叶わず尻餅を突いてしまった雫は愚痴を零した。

 

「大迷宮は何処も可成り頑丈で、数千年が経っても平然と仕掛けが動く程度にはなっているのに、これだけ局所的に揺れるって事は相当な事だわ」

 

 そして雫にはその相当な事をやれる人間に付いてよく知っている。

 

「この先に優斗が居るのね!」

 

 痛む脚を引き摺りながら向かう先に、目ではとてもでは無いが追えない超々高速でぶつかり合う白と赤、雫の知識ではユートの神器である『白龍皇の光翼』と『赤龍帝の籠手』の禁手に当たるであろう『白龍皇の鎧』と『赤龍帝の鎧』。

 

 それが激しくぶつかり合って当たりに地揺れを引き起こす原因となっていた。

 

「片方は優斗、多分だけど白龍皇。だとすれば、もう片方の赤龍帝は優斗の虚像かしら?』

 

 だけど先程までの自分を鑑みれば果たしてアレが正解なのか、雫にはちょっと判断が出来なくて今は視ている事しか叶わない。

 

 氷雪洞窟に挑む前、ユート自身が言っていた筈の言葉――『取り込まれるのは論外として、決して拒絶をするな』というのは何だったのか? と思えるくらいに闘っている。

 

「思いっ切り拒絶してないかしら?」

 

 思わずジト目になるのは仕方が無いにしても、ユートは転生者な義弟君とは違ってジト目が好物では無いし、今の雫の視線にユートが悦びを感じたりする事は無いであろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方の白龍皇ユートと赤龍帝の優雅はぶつかり合いながら会話を始めていた。

 

『気付いているか? 優斗』

 

「まぁね、雫が入って来た様だ」

 

『だとしたら折角の機会だったがそろそろ潮時って事かも知れないな』

 

「そうなるね、中々に愉しい一時ではあったんだが仕方無いか」

 

 二人の闘いは飽く迄も遊びの範疇でしかなく、潮時だと感じればすぐにでも終われる程度だ。

 

 白と赤は再び大地に降りる。

 

「優斗!」

 

 近付く雫。

 

「こっちが優斗……よね」

 

 白龍皇の方を見て言う雫。

 

「よく判ったな」

 

『フッ、流石は優斗の【閃姫】ってか』

 

 二人が禁手化を解除すると同じ顔をした二人が姿を露わとし、流石に其処まで似た顔立ちであればこんがらがって混乱こそしたけど、それでも雫はどちらがユートかはっきりと理解していた。

 

「優斗の虚像……とも違う?」

 

『違わないさ。然しながら俺は優斗の中の優斗、緒方優雅の魂が人格を持った存在だ。言ってみれば我は汝、汝は我……我は汝の心の海より出でし存在ってやつだな』

 

「ペルソナ!?」

 

『そうだな、ペルソナ召喚で顕れる事もあるからペルソナと呼ばれてもおかしくは無い』

 

 事実として産まれる前に母親である緒方蓉子の胎内で死んだ優雅は、その魂が生きていたユートの中に吸収され融合を果たして一体化をした。

 

 そんな中でも人格を形成した優雅とは正しく、ユートの中の『もう一人の僕』的な存在。

 

 その気になればそれこそ、『もう一人の僕』と心の中で会話をする事だって可能である。

 

 ユートは雫が試練に関して拒絶をしたのか訊いてきたので答えた。

 

「つまり、滅多に無い機会だから試練に(かこつ)けて闘っていただけで試練は合格していた?」

 

「そういう事だよ」

 

「まったく、脅かさないでよね」

 

 心底安堵した表情で座り込む。

 

「うん? 脚が可成り疲労していないか? 何をやらかした」

 

「あ、これは……」

 

 スルリと靴を脱がされ、靴下を脱がされてしまった雫の生足が晒されてしまう。

 

 紅くなる雫の脚を持ち上げて診る。

 

「これ、初期の……まさか! 見様見真似で使ったな? 【緒方逸真流】の技を!」

 

「っ!」

 

 ビクリと雫の肩が震えたのを見てユートはその説に確信を持った。

 

「何て莫迦な真似を! あの技は初代の妻であった『白』が伝えた鍛練術を以て鍛えた緒方の舞士だからこそ出来るもんだ。それを何ら鍛えていない者が見た目だけ真似たら脚が砕けるぞ?」

 

「そ、そんなに言う程!?」

 

「言う程に……だ!」

 

 ユートの説明――それは特殊という程には無いにせよ、雫が幼い頃からやってきた八重樫流に於ける稽古が遊びに思える程度には凄まじい。

 

 聖闘士でも量産しているのか? とでも言いたくなるくらいであったと云う。

 

 その上で短時間に高強度の負荷を掛けて鍛える速筋繊維、逆に低強度の負荷を長時間掛けて鍛えられる遅筋繊維のどちらの特性をも持ち合わせた筋肉へと作り替えてきた。

 

 この筋肉が在ったればこそ、緒方家の人間達は初代を始めとして今現在に至るまで生き残りを図れたのだと云える。

 

 この筋肉を色で表せば速筋は白筋で遅筋が赤筋となり、二つの特性を併せ持つのは白と赤が混じり合ったピンク筋というやつだ。

 

 ユートの細身ながら触れれば間違い無く筋肉は確り付いている、これを現実化しているピンク筋を限界点まで鍛え上げる事が【緒方逸真流】。

 

 後はどれだけ鍛えるか、限界点は何処までなのかで強さに幅が出てくる訳だけど、転生を二度も経験した上に擬似転生を幾度と無く繰り返してきたユートは限界点の幅が大きい。

 

 ユートも普段は常人と超人の狭間で揺れ動くといった程度、魔力量や魔力強度も可成り抑えている上に肉体的にも重力制御で負荷を掛けており、ぱっと見では普通の人間と何ら変わらないというのに、限界点を越えた超越者にさえも名を連ねる事が出来る為に最早、嘗ての実家にて云われていた括りは余り意味を成さなかった。

 

 魔力容量と魔力強度の解放という封印解除での手始め、『マスターテリオンモード』と称しているそれだけで超越者級の能力に跳ね上がる。

 

 元よりマスターテリオンは超越者。

 

 ならば力だけは超越者と呼ばれるに相応しいと云われる程度には成りたかった。

 

 それは兎も角、一応だけど雫に与えた魔導具の効果で脚の治療も徐々にだけど行われている。

 

「ヒーリングが効いているから暫く置けば治るだろうが……ベホマ」

 

「あ、温かい」

 

 ユートの回復呪文はパーティメンバーであると認知されていれば十全に機能する為、物凄い回復速度で雫のズタズタな脚の組織やその他の肉体が回復されていった。

 

 それはぬるま湯に浸かったみたいな温かさを感じる優しい光、ゲーム内での回復呪文は一定量のHPを回復させる効果となっているのだけれど、実際には一定の時間を一定の速度で回復させる。

 

 呪文の名称で消費MPが変わり、それによって回復速度が変化、MPの量分の時間経過で停止をするという流れとなっていた。

 

 無論、これは通り一遍に習った事をやるだけならば……という但し書きが付く。

 

 極端な例を挙げれば大魔王バーンであろうか、彼ならば普通にベホマを使えば一瞬で致命的だろうダメージを癒やす、それはバーンにとってみれば守護鳥とも云えるフェニックスの如く。

 

「よし、治ったな」

 

「助かったわ、香織が居れば回復もして貰えたんでしょうけど」

 

「余り無茶をするな。どうしてこんな事になったかは想像も出来るけど……な」

 

「出来るんだ」

 

 これでも実際に何千年と生きてきて、基本的な武術は【緒方逸真流】だったから最早染み付いてしまった技術、雫のダメージを診ればどんな事をしたかくらい想像が出来るのだ。

 

「それより、雫」

 

「ん? 何?」

 

「いつの間にか【輝威(トゥインクル)】を身に付けているな」

 

「ホントに解るのね」

 

 ユートと【閃姫】契約をした者の何割かが修得をする……は語弊があるけど兎も角、身に付ける力が【輝威(トゥインクル)】とユートが称している異能。

 

 この能力は【閃姫】のみに発現、そして繋がりからユートはそれが発現すればどんな能力かは解らないが、発現をしたかどうかの有無くらいだけならば解ってしまう。

 

「名前は優斗が付けるのよね?」

 

「ん? まぁね。中二病驀らな名前になるとは思うけど悪く思うなよ」

 

「中二病……御願いするわ」

 

 苦笑いな雫は能力を話す。

 

「私が獲たのは多分だけど視た技術の修得力って感じかしら? 実際に視た技術に限って私に覚える素養が有れば修得が出来るわ。私が優斗の使う【刀舞術】を曲がりなりにも使えた理由よ」

 

「成程……僕の魔眼たる【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】の限定的な能力って感じか。言い方は悪いけど劣化版」

 

 元々、ユートは転生特典として日乃森なのはから『魔法に対する親和性』と『流れを視る目』を与えられていたが、ハルケギニア時代に早くにも修得した『探知(ディテクト・マジック)』というコモン・マジックを寝ている時以外は常に使っていたら、瞳に魔法が付与されたのか『鑑定』を使うのと同じ精度な情報を得られる様に成っていた。

 

 ユートはこれを、【叡智の瞳(ウィズダム・アイ)】と呼んで長年に亘り今を以ても重宝をしたのである。

 

 この魔眼の特性の一つに、『視たものを剣術だとか魔法だとか芸術だとかに拘わらず脳内保存して修得が可能』というのが有り、それを鑑みれば確かに雫の【輝威】はユートの魔眼の劣化版。

 

 尚、ユートの魔眼は【カンピオーネ!】世界で知恵の女神メティスを殺し、その権能を宿した際に進化を果たしており【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】に名前を変えた。

 

 ユートは少し考えると……

 

「『鏡面修験』って処かな?」

 

 中二病な名称を宣った。

 

「えっと、それにルビを振ると?」

 

「『鏡面修験(ミラーフォース)』」

 

「何処の遊戯王よ!?」

 

 何処かで既に付けた気もする名前だったけど、まるで鏡面の如く映る姿を模倣した上で修練をして修得する、それは日本古来より山岳信仰に於ける山篭もりで悟りを拓く修験者の如く修業をして他者の動きを覚え込ませる。

 

 それが故の名前。

 

 中二病っ振りが凄まじ過ぎて雫が思わず頭を抱えてしまった。

 

「僕に名付けのセンスを期待するな。少なくとも他の【輝威】発現者も似たり寄ったりな名前だ」

 

「そうなんだ……って、そういえば他の発現者ってどんな人達なのよ?」

 

「最初に発現者を見たのはハルケギニア時代で、ティファニアに使い魔召喚された綾瀬夕映だな。能力はテイルズ系の魔術や晶術と呼ばれる術を使える、名前は『照威琉主(テイルズ)』」

 

「まんまじゃない!?」

 

「寧ろ頭の悪い族的な感じに」

 

 ユートが面白がっているのを見て雫は溜息を吐くしか無かったと云う。

 

「ま、基本的には漢字で四文字をフォーマットにしているんだよ。ルビを振るだけで可成り痛々しい事に成っているけど」

 

「……そうみたいね」

 

「因みに最初に見たのは夕映だったんだけどな、本当の意味で最初に発現をさせたのはソフィー・ノイエンミュラーだ」

 

「ソフィー・ノイエンミュラーっていったら……【ソフィーのアトリエー不思議の本の錬金術士】の主人公よね」

 

「その通り」

 

 アトリエシリーズとされるガストが製作している錬金術士を主人公とするゲーム、そんな中でも【不思議】シリーズ三部作――ユートは関わってこそいるけど識らないが後に新しく四作目が出ている――の最初の噺の主人公がソフィー・ノイエンミュラーである。

 

 奇しくもこの地こそはユートが錬金術を覚えた世界であり、ソフィー・ノイエンミュラーの師匠に当たるプラフタがユートにとっても錬金術士としての師匠となった。

 

 尚、【不思議】シリーズは全作品を識らないから可成り博打要素が強かった感がある。

 

 原典を識らず、この世界や【イセスマ】世界みたいに原典情報も獲られないのは痛い。

 

「それより、ちょっと見ない間に魔力が増えたみたいだが? しかも倍くらい」

 

「よく判ったわね」

 

「忘れてるかも知れんが、僕の目は一応だけれど神様仕立ての代物で『魔力などの流れを視る目』ってやつだぞ? 魔力の増加はすぐに判る」

 

「ああ、それはそうよね」

 

 ハルケギニアのコモン・マジックの『探知』を目を閉じている時以外は使い続けた結果が魔眼化を促し、叡智の女神メティスの権能で更に進化を促されてはいても大元が大元だ。

 

「で、何があった?」

 

 雫は取り敢えず白雫を取り込んで一種の同化を果たした事を説明した。

 

「成程、雫が一人分増えたみたいなものだろう。とは言ってもそれだけか?」

 

「……我は汝、汝は我的な?」

 

「虚像はシャドウに近いからか。シャドウとは即ちペルソナと表裏一体だからな……って言っても此処はペルソナ世界じゃないのに?」

 

 此処が嘗ての【真・女神転生】世界がシフトをした【ペルソナ】の世界なら、確かにシャドウを降してペルソナに変換も有り得るだろう。

 

 然し此処は【ありふれた職業で世界最強】という世界、一応だけど別の世界観も幾つか取り込んだ軽い混淆世界ではあるらしいものの、ペルソナやメガテンとは関わりが無かったのは確認済み。

 

「だとしたら、虚像(シャドウ)を取り込んで力へ換えた際にペルソナを意識してイメージに取り込んだか」

 

 ユートは正解を導き出した。

 

「それで、方式は? 一九九六年や一九九九年の【女神異聞録ペルソナ】や【ペルソナ2[罪]】や【ペルソナ2[罰]】という方式では無いと思うから……【ペルソナ3】と【ペルソナ4】と恐らくは【ペルソナ5】と思しき、そのどれにしても方式が異なるからね」

 

「召喚器を求められたから多分だけど三作目ね。形としてはシャドウを認める【ペルソナ4】だったんだけど」

 

 因みに、西暦二〇一六年の九月に発売されてる【ペルソナ5】はこの世界では未だ開発中。

 

「ま、良いさ」

 

 ユートは徐ろに柏手を打つとエネルギーの循環をカドケウスの螺旋で増幅、ウロボロスの円環にて無限に高めて【創成】の術式を発動させる。

 

 そして顕れるのは見た目が拳銃、放たれるのは常に空砲でしかないから殺傷力は無いに等しい、然れども嘗ての世界ではそれを額に押し当てて撃つ行為すら侭ならなかった者も居た。

 

 空砲でも放たれるのは、何も出ないのでは緊張感が足りないという配慮からだろう。

 

 抑々のコンセプトは擬似的な死を体験する事による緊張感、それによってペルソナの召喚を行うという事に在るのだから。

 

「相変わらず意味不明よね……それ。【鋼の錬金術師】でもやってはいるけどさ」

 

「あっちは柏手を打つ円環(ウロボロス)だけだろ。こっちはエネルギーの増幅にカドケウス――螺旋を加えているからな」

 

 ユートは召喚器を渡しながら言う。

 

 エネルギーを円環させるのが彼らの錬金術に於ける真髄だが、ユートの場合は螺旋を構築する事で使えるエネルギー総量を増やしていた。

 

 勿論、総量が増えるなら消費MPが増えたのと同じだから消耗も大きくなってしまうだろうが、ユートのエネルギー総量は始めから高かった上にカンピオーネと成って数百倍にも増えている。

 

 飽く迄も喩え話だが、一般的な然れども優秀な魔術師のMPが一〇〇だとしたらユートの場合はその数倍――仮に五〇〇くらい、カンピオーネに成ってこれが更に数百倍にまで増えているから、その値を五百倍としたらだいたい二五〇〇〇〇程になっている事だろう。

 

 本当にこの数値では無いというか実際に測れればもっと上かもな話で、可成りざっくりとした喩えに過ぎない訳だが……

 

 だからこんな事をしても全く無理も無く術式を行使する事が出来ていた。

 

「ま、良いわ。来て、ペルソナ!」

 

 BANG!

 

 空砲だから痛いとは感じないけど放たれたモノが在るから、雫の頭に軽い衝撃がぶつかってきてそれが仮の死を体現する。

 

『我は汝、汝は我……我は汝の心の海より出でし存在』

 

 褐色の肌に血の如く緋い瞳を持つ金髪の少女、即ち白雫が変化した存在であるペルソナ。

 

「パラス? ペルソナなのに聖闘士星矢なのか。然し……顔の作り自体は雫なんだから寧ろパラスのコスプレをした雫?」

 

「ぐぅっ!」

 

 ユートの何気ないコスプレ発言に対して雫は激しく衝撃を受けた。

 

『初めましてね』

 

「そうだな」

 

 雫本人は知っている訳だしパラスとも既知ではあるものの、目の前のペルソナなパラスは飽く迄も雫の虚像――謂わば世界が異なるから本当は違っても本質的にはシャドウが姿を変えたモノ。

 

 だからこそ初めましてだ。

 

『正直、雫が羨ましかったから彼女の力に成るのに託けて一体化したんだけど、まさかペルソナとして独自の人格を持つとは思わなかったわ』

 

「嬉しそうだな」

 

『ええ、貴方に接触が出来るもの』

 

 ペルソナは霊的な存在ではあるが物理的に触れたりも当然ながら可能、そうでなければ闘いの中で直接的な攻撃も叶わないだろうし、シャドウも人間に触れられるのだからおかしくは無い。

 

 パラスな格好の雫――そう云える姿の一二歳くらいの少女が、緋色の瞳に性欲を滾らせながらも異性たるユートの頬へと触れてきた。

 

 そして徐ろに唇をユートの唇に重ねる。

 

『残念だけどエッチな事をする時間は無いから、取り敢えずはこれだけで我慢するわね』

 

 雫の虚像として、然しながら本来の仕様を間違い無く逸脱してしまった心を持つ白雫、ペルソナと成ったのは偶然ではあるものの悦びに満ち溢れてキスをしていた。

 

「成程、我は汝で汝は我か」

 

 辱めを受けたかの如く雫は真っ赤になってしまうが、パラスな白雫は満足感に充たされながらも再び唇を重ねて舌を絡ませる。

 

 クチュリクチュリと水音を響かせながら二人のキスは数十秒を経過、唇が離れると淫靡な唾液の橋がユートと白雫の間に架かっていた。

 

『またね?』

 

 ヤりたい事を取り敢えずヤれたからかにこやかにペルソナ召喚時間を超過し消える。

 

『まるで嵐だったが、取り敢えずヤりたいなら俺はもう消えるぜ』

 

「ああ、優雅兄もご苦労さん」

 

『まったくだぜ』

 

 優雅も試練は終わっていたから役目も終了と謂わんばかりに消えた。

 

「これで試練は終わり。それじゃ、雫」

 

「な、何?」

 

 パラスな格好とはいえ、自分と同じ顔をした者がユートとキスをしていたのを目の当たりにし、雫は先の試練でもエロティカルな妄想により発情していた事もあり、ペタリと女の子座りとなってへたり込んでユートを上目遣いに潤んだ瞳で見つめる形になっているのに気付いていない。

 

 今の雫は正しく男を誘う牝という様相な上に、発情によるフェロモンも漂わせていてユートでなく別の――坂上龍太郎でも天之河光輝でも、何ならイシュタル・ランゴバルトという老害でも構わないが、きっと雫へとレ○プに走ってしまうであろうエロエロな状態である。

 

 しかもユートはポニーテールが好きなだけに、今の雫を抱かないという選択肢は選べない。

 

 何処ぞのテロリストから『アースガルズと闘ってみないか』と訊かれ、首を横に振る選択肢を選べなかった本来の白龍皇みたいに。

 

 況してや、現在のユートはパラスなコスプレをした白雫とのキスで盛り上がっている。

 

 気分も下半身のJr.も……だ。

 

「展開」

 

 瞬時に世界が切り替わった。

 

「え、何?」

 

「『メメントス』と呼ばれる大衆無意識が生み出した『大衆のパレス』に近い。『メメントス』はパソコンで云えばネットワークに繋がった状態、そして此処はスタンドアロンで僕個人の無意識下に置かれた『パレス』みたいなモノだ」

 

「パレス? メメントス?」

 

「『メメントス』はゲーム風に云うとローグダンジョン、【ペルソナ3】の影時間に顕れる巨塔たる『タルタロス』みたいに内部構造に変動が起きるダンジョンだね」

 

 他にも色々と有るが、取り敢えずはこのくらいの説明でだいたい解るであろう。

 

「そうだな……固有結界みたいなもんと言ったなら理解も出来るか?」

 

「は? 固有結界って型月の魔術師的に奥義みたいなアレ? 『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)』の様な……」

 

「その通り。しかもこの空間には僕が【創成】で創った物が宝物庫のスペースに仕舞ってある」

 

「マジモノな無限の剣製じゃないの!」

 

 これのお陰でユートは一度でも創った物ならば簡単にコピペしてしまえた。

 

「さて、雫。もう一度ペルソナを召喚してくれないか?」

 

「え? 構わないけど」

 

 先程、ユートから受け取った召喚器を顳顬へと宛てがって引き金を引く。

 

 BANG! それにより再び顕れる褐色肌に金髪と緋色の瞳な美少女――パラス。

 

『あれ? 何でまた喚ばれたの?』

 

 しかも独立して動けていた。

 

「この僕の領域(テリトリー)内なら時間を気にせず動ける筈だ」

 

『あ、ホントだ』

 

 通常、【ペルソナ】世界の彼らのペルソナだと癖の強い姿だったから欲情など懐かないのだが、『愚者』の主人公達のペルソナはチェンジにより『メガテン』の悪魔と変わらない姿、つまり普通にペルソナが美女美少女な姿で召喚されている。

 

 序盤でもアルプやリリムやピクシーなどが正に盛り沢山、それに比べて主人公を含むパーティの初期ペルソナはと云えば……

 

「これで何の問題も無いな」

 

 にこりと笑みを浮かべるユートに雫もパラスも少し引き攣ってしまったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 同じ頃の白崎香織は……

 

「此処は?」

 

 何処とも知れぬ空間に出ていた。

 

「貴女が試練を与える虚像(シャドウ)だね?」

 

『そうだよ、(香織)

 

 目の前に居たそれはブラックな香織。

 

 黒香織が胸を強調するかの如く腕組みの仕方をして立ち塞がっている。

 

『好きな男が居ながら他の男に股を開いた淫乱な(香織)……勝負だよ!』

 

「だ、誰が淫乱かな!?」

 

 果てしない風聞被害に叫ぶ香織。

 

『だったら(貴女)は南雲君の事はもう好きじゃないのかな? かな?』

 

 揶揄う様な口調。

 

「そ、それは……」

 

 そんな筈は無い。

 

 出逢いは一方的でしかなく、抑々にして相手たるハジメは存在を認識すらしていなかった訳で、何なら高校生に成ってからの余計な干渉に対して『異世界にでも召喚されないかな?』と、今現在の状況を鑑みれば不謹慎極まりない事を考えていたくらいに想いは伝わってなかった。

 

 暴力での解決なら天之河光輝や坂上龍太郎でも容易く出来る、だけどハジメはお婆さんとその孫に絡んでいた不良を相手に全力全開手加減無しでDOGEZAをしたのである。

 

 不良はドン引きしていたのだが、それを見ていた香織は自分自身が動けなかった事もあってか、ある意味で勇気のある行動に感動をしてハジメという存在を胸に刻んだ。

 

 この頃は未だに懐いた想いに気付いていなかったくらいに自身への鈍感さはあるものの、それは南雲ハジメという少年に対して人生で初めて灯された恋心という名の燠火であったと云う。

 

 それが愛情という烈火へ変わる前に檜山大輔によるあんな事が起きてしまい、文字通り肉体へと楔を打ち込まれ貫かれてしまったのを切っ掛けにとはいえ、燠火はユートに対する想いへと飛び火をしてしまったのだ。

 

 そしてユート側の燠火は事ある毎にユートとの肌の重ね合いで燃え広がり、然しながらハジメに点いた燠火も未だに燻り消えてはいない。

 

 レ○プされたならいざ知らず、一応は生命の危機を救われた上での合意の元に抱かれていた為、今は肌を重ねるのに嫌悪感は疎か否やとする事も無いし、穴という穴を貫かれた今では抵抗感すら無くなってユートの精を胚へ受け容れるのも良しとしているくらいには好意を持っている。

 

 ハジメへの初恋という燠火が消えていないだけであり、元より気付いていなかった想いだったからこそ根強く残っていた。

 

 そう……肢体はユートの味を覚え、ハジメはと云えば既に恋人を得ている中で最早何を況んや、諦める以前の問題だというのは香織自身が理解をしている事なのだから。

 

「今更……だよ……」

 

『ふぅん?』

 

「今更、蒸し返して欲しくは無いかな!」

 

 香織の腰にハートを模したバックルが付いているベルトが顕れ、彼女の右手には女性の絵柄が描かれたハートスートのカテゴリーAのカード。

 

 同じく黒香織の腰に香織とは色違いのバックルのベルト、そして矢張り女性の絵柄が描かれているハートスートのカテゴリーA。

 

「変身!」

 

『変身!』

 

《CHANGE!》

 

《CHANGE!》

 

 ユートが造ったカリスバックルのレプリカ品、カリスラウザーが装着されたベルトで、バックルはカリスアローに装着してブレイドのブレイラウザーなどと同じ機能を持たせられる。

 

 正確にはカリスでは無いからカリスバックルでは無く、エヒトルジュエが造り出した神の使徒の謂わば失敗作――リューンの名前からリューンバックルとでも云うべきかも知れないが、これにはジョーカードライバーの名前が在った。

 

 実際カリスバックルとは本来がジョーカーラウザーであり、その名前はハートスートのカテゴリーAたるマンティスアンデッドのものだ。

 

 このドライバーには二つの姿を選ぶ機能が付いており、勿論ながら本来のカリスバックルには存在していない機能である。

 

 一つは仮面ライダーカリスの色違い、並べれば贋者か或いは2Pカラーとして映るであろう。

 

 もう一つの姿が神の使徒の失敗作リューンの姿と成ったモノ、但し今の香織の姿は鎧の色が白では無くて漆黒――闇の色をしていた。

 

 その真逆に黒香織は白銀に煌めいている本来の神の使徒の鎧、顔立ちが香織だとはいえ鎧の色が色なだけにヘルシャー帝国に現れた連中を思い出してしまう。

 

 互いに扱うのはアローでは無く二振りの大剣、それは戦乙女にも似た神の使徒の姿故に二人は空を舞いながら大剣をぶつけ合う。

 

 甲高い金属同士のぶつかり合う剣戟音と擦れ合う鍔迫り合いの音が眩しい、戦闘レベルも経験値も変わらない同キャラ対戦であるからには他の某が要素が加わって初めて決着となる。

 

 それは戦運。

 

 それこそ闘いの勝敗の天秤がどちらに傾いて、勝利の女神の口付けと敗北の死神の首狩り鎌を獲るのか変わり、僅かな天秤の差を何処に見出すのかによりそれは逐一変化していく。

 

「ハッ!」

 

『甘いわね!』

 

 どちらかと云えば軽量級の雰囲気があるというのが仮面ライダーカリス、使う属性が風だったからそんなイメージなのかも知れないのだけれど、実際にワイルドフォームも重量級とは呼べない様なタイプの戦闘方法。

 

 そしてリューンというか、エヒトルジュエが擁する使徒も攻撃力こそ莫迦みたいに高いものの、矢張り軽量級の所謂一つのドレスアーマーだったから相性は良い。

 

 まぁ、それだけに本体の耐久性が一二〇〇〇と阿呆みたいに硬いエヒトルジュエの使徒であるのなら兎も角、ベースが人間に過ぎない香織とそのコピー体な黒香織が下手にダメージを喰らうのは推奨されてはいなかった。

 

 勿論ながら仮面ライダーリューンには違いないので、ちょっとやそっとの攻撃に晒されたからといって死にはしないのだろうが、それでも攻撃は受けない方向性で闘うスタイルで往く。

 

 大剣で受けるか躱すかの二者択一が基本戦術となり、ダメージを受けながら敵に攻撃を加えていくタンクな闘い方には向いていない。

 

(おかしい……少しだけ、ホントに少しだけなんだけど私の方が劣っている?)

 

 僅かに鎧や身体に掠る剣戟、それは香織のみならず黒香織も受けてはいるものの何故だか判らないが、その頻度やダメージの規模が本当に僅かながら香織の方が大きい気がした。

 

 今は僅かな差だとしてもいずれそれが致命的な差に成りかねない、戦闘で完全な互角という事はその僅かな差こそが宜しくないからだ。

 

 現に今でも差が広がりつつある。

 

 香織は流れる様な自然体で腰のカードホルダからカードを抜き取り……

 

《CHOP!》

 

《TORNADO!》

 

 カードをラウザーにリードした。

 

《SPINING WAVE!》

 

 カテゴリー3の素手系とカテゴリー6の属性を組み合わせたコンボ、仮面ライダーカリスも普通に使っていたモノではあるけど、香織の使い方は素手で打つというものでは決して無い。

 

『くっ!?』

 

 スピニング・ウェイブによる剣閃の加速により、黒香織は胸部装甲でダメージこそ小さいにしても痛手を受ける。

 

 それは今までに試した事さえ無い使い方だったからか、黒香織はその突如として行われた行為に驚愕を禁じ得なかった。

 

「矢っ張りね」

 

『何が矢っ張りなのかしら?』

 

「貴女は確かに私の虚像だけど、飽く迄も此処に来るまでの私を写したモノでしかないんだね」

 

『へぇ?』

 

 何処か感心する響き。

 

「つまり、私自身がこの場で成長するなり何なりすれば貴女も対応が難しくなるんだよ」

 

 間違っていない。

 

 この氷雪洞窟で最大の試練は自らの虚像により目の当たりにする自分の負の感情を見つめ直し、それを乗り越えていくのが謂わば真骨頂とも云えるクリア方法であり、この試練の場に転移をさせる際に神代魔法を授ける魔法陣に在る機能の一つ――試練を正しく乗り越えたかを精査するアレの応用でコピーした虚像を生み出す。

 

 虚像が生まれてからはリンクしていないから、後は虚像が相手に語り掛けて自分を否定させる事により強化を図る、試練を受ける者が乗り越えたら寧ろ弱体化するシステムだった。

 

『成程、強化がされなくなったからどうしたのかと思ったら……いつの間にか気にしなくなっていたのね』

 

「貴女の指摘は正しい。私は今でも南雲君への想いを捨て切れて無いから。ゆう君に抱かれながら南雲君だったらって思う事が決して無かった訳じゃないし、それでいながらゆう君に貫かれる度に気持ち良くなって乱れてる自覚もあるから」

 

 とはいえ、それは人間――生命体に付随している機能だから仕方が無いだろう。

 

 性行為で気持ち良くなるのは云ってみれば即ち子孫を残す為に、生命体に性交をしたいと思わせる為の機能的なものなのだから。

 

 まぁ、それが人間社会では犯罪となる行為にも繋がるのはどうしようもない。

 

 好意が有るか無いかで快感を感じるか否かを選べる筈も無いのである。

 

『……これ以上の強化は望めない処か寧ろ弱体化しそうだし、試練は合かっ!?』

 

 溜息を吐きながら虚像な黒香織が変身を解除しようと話し掛けると……

 

「っしゃ、うらぁぁぁっ! ですぅ!」

 

 青み掛かった白髪にウサミミを揺らす美少女なシア・ハウリアと、ミニマムながら色気が溢れる見た目は子供で年齢は婆様な吸血姫ユエが争いながら辺りを破壊しつつ入ってきて、その近場に居た黒香織は会話中に巻き込まれると吹き飛ばされてしまうのであった。

 

 

.




 ちょっとタイトルに偽りが有るか……実際には三分の一程度しか香織の試練は無かったし。

 ペルソナ好きが高じて地球組の【閃姫】に与えてみたけど香織は何が好いものか?

 尚、ペルソナの知識が無い上に実は試練が原作と変わらないトータス組はペルソナ無しですし、ユエに惚れる切っ掛けが無かったから試練こそ違った感じだけど、坂上龍太郎は原作と変わらないやり口でクリアするから無しです。




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第113話:ありふれた戦乙女の顕現化

 さて、やっと書けました……




.

 寝室はまるでラブホテルを体現したかの如くな煌びやかさとケバケバしさ、そして仄かに薫ってくる淫靡さに満たされた空間であった。

 

 雫がユートと結ばれたのはトータスの地だった訳だし、何なら灯りこそ在っても其処は何も無い奈落の底たるダンジョンの中でが初めての時。

 

 もう少し雰囲気が有って色恋に浮かれた気分で大好きな男の子に優しく抱かれたい……何て事を夢想していた乙女な雫としてはちょっとだけだが残念に思えて成らないが、それでもせめてもの救いは性交の相手が気になる男の子――と呼ぶには見た目は兎も角として実存在時間は永いのだけれど――だった事であろう。

 

 それでもあんな奈落でさえ無ければ存外と悪く無い、条件付きで無理繰りに――『抱かれた』というより『犯された』みたいな感覚はあれども、別に服を無理矢理に引き裂かれて泣き叫びながら嫌悪感溢れる挿入に破瓜の血を流した訳で無く、まるでお姫様の如く優しく触れられて高鳴る心臓の音を聴かれないか心配したくらいで、紅い頬を見られたくなくてそっぽを向きながら喘ぎ声を抑えるべく手で口元を押さえ、初めて感じる快感に流されて遂には快楽を貪る嬌声を上げて羞恥心にユートを見上げれば、本人がフツメンを自称するには顔立ちがドキリとする程に整っていた上に、初心な雫の唇を触れるだけのキスで心を満たしてくれた。

 

 形だけは『犯された』雫、実質的に『抱かれた』のだから満足感を充分過ぎるくらいに得て、酒など飲んだ事も無かったけどこれが酔い痴れた酩酊感かと思うくらいに茫然自失となる一夜。

 

 まぁ、この時の事後な雫を何らかの形で文章に起こしのならば正しく、一八禁待った無しな表現となるのは先ず間違いが無いであろう。

 

 それは兎も角として、雫としては普通の部屋で抱かれたかったのであって別に、ラブホテルみたいな部屋でヤりたい訳では決して無かったからか『コレじゃない』感がたっぷりだ。

 

 しかも見た目こそ金髪緋目で褐色の肌ながら、顔の作り自体は雫本人と双子の如くな美少女――手前味噌――が共に寝転がっている。

 

 所謂、3Pというやつだった。

 

 然も然も、その雫にそっくりさんは肉体的には『初めての性体験』だったから、白色で乱れているシーツには点々と赤黒い染みが浮いている。

 

 本来ならそんな時間は取れない筈であったが、この意識と無意識の狭間となるメメントスみたいな空間は、ユートの働き掛け次第で時間すら割と自由に操作が可能と成っているらしく、DBで云えば『精神と時の部屋』と似た事も可能ときた。

 

 つまり、この部屋で一年間を過ごしても外では一日でしかないを地で往くのだ。

 

 況んや、僅か数日なんて外では一時間にも満たない時しか刻んではいない筈。

 

(一年を三六五日としたらつまり三六五倍の時間が流れている訳よね)

 

 普通なら内部で五〇年過ごしても外部では僅か五〇日、二ヶ月にも充たない時間で半生を喪うなど有り得ない事なのだろうけど、雫は【閃姫】であるが故に彼女の肉体年齢は一七歳から一切変わらない侭である。

 

 それでいてそれ以外の生理現象は普通に行われるのだから不可思議。

 

 髪の毛や爪は普通に伸びるし、卵巣から子宮へと卵子も排出されているから妊娠もするし、血を流せば自然治癒能力で傷だって塞がるのだ。

 

 とはいえ、ユートとの性交に於ける妊娠確率は実に一%を切るのだが……

 

 ボーッとしている雫だったけど、それを覚ます様な出来事が起きてしまっては目を開く。

 

父様(ととさま)!」

 

 それは雫も見覚えがある顔。

 

「ク、クオンさん!?」

 

「あ、失礼をしたかな? だけど(わたくし)はクオンであってクオンではありませんのでお間違え無く」

 

 素っ裸であった雫は第三者の登場に慌てて自らの肢体を毛布で隠すが、それを見たクオン? は頭を下げながらも雫の間違いを正した。

 

「クオンさんじゃない? そういえば確かに……クオンさんにしては顔立ちが大人びているわね」

 

 服装もクオンとは可成り異なる。

 

「平行世界のクオンさん? だけどクオンさんであってクオンさんでは無いって……」

 

 トータスに来たらしきクオンにはα世界線でのクオンとβ世界線に於けるクオンが居るらしく、形としてはハクオロのみが関わった世界線がαとされて、ユートも関わった世界線がβと呼ばれているらしいのは聞いていた。

 

 その差違としては、ヒロインとの関わりに大きな波紋を投げ掛けて拡げたのはユートが干渉をした別の原典世界と変わらない訳だけど、次回作のヒロインを産む筈だったヒロイン――ユズハと結ばれたのがハクオロかユートかの違いは矢っ張り大きく、見た目こそ双子みたいに違いが無かったクオンは然しながらDNAは半分が異なる。

 

 というのも【うたわれるもの】の世界に於ける亜人(デコイ)、女の子の場合は基本的に母親の特徴を受け継ぐのだからユズハが母親であるからには、父親がユートとハクオロのどちらにしてもクオンの見た目が変わらなかったからだ。

 

 名前もユズハが付けたから同じだった。

 

「なら名前は? クオンさん……とは名乗っていないのよね」

 

「はい、私は……」

 

「ユカウラ!」

 

「……ですよ」

 

 名乗る前にユートが呼んだ。

 

 クオン? 改めユカウラと呼ばれた女性はチロッと赤い舌を出しウインク、何歳くらいのクオンなのかは雫にも定かでは無かったけど可愛らしい容貌なだけやけに似合う。

 

「取り敢えず、父様」

 

「応、それで首尾は?」

 

「勿論、完遂しました。不安定な神様だったとしてもこのくらいは容易いかな」

 

 ニコリと笑みを浮かべたユカウラはまるで誉めてと云わんばかりに尻尾を振っていた。

 

 比喩では無く物理的に。

 

「よっしゃ!」

 

 ニヤリと笑うユートが溢れんばかりの親愛を込めて頭を撫でてやると、頬を瞬く間に染め上げたユカウラがトロンとした表情となる。

 

 後に聞いた話によると、このユカウラは間違い無くハクオロとユズハの娘である処のクオンで、つまりは大別してみればα世界線での彼女だと云うのだが、【うたわれるもの~偽りの仮面~】を経ていない=主人公たるハクとも出逢う事も無くヤマト國にて過ごし、ヤマト國の滅亡を目の当たりにして内なるウィツァルネミテアを覚醒させ、ハクが消えて呑まれた原典世界でのクオンとは違いその力を自らのモノと取り込んだ。

 

 呑み込まれたのでは無く取り込む。

 

 どうして内なるウィツァルネミテアを覚醒させたか? に関しては至極尤もな理由から。

 

 横線や縦軸が違っていても基本的に差違が無かった……つまり、ヤマト國には『白楼閣』と呼ばているとても大きな旅籠屋が存在していた訳で、この旅籠屋の女将と女子衆の一人はクオンにとって云わば義母、幼い頃の彼女を慈しみ育んでくれた何人かの母親達と同じ立場なカルラとトウカの二人であったからである。

 

 巻き込まれた二人は元より確かな腕前の剣豪、簡単に殺やられたりはしないにしても多勢に無勢では時間の問題でしか無く、クオンの『御母様達を助けたい』一心は内なるウィツァルネミテアを呼び起こしてしまった。

 

 それを完璧に取り込んだクオンは超越者としての神化を成し遂げ、最終的に今現在の姿が固定をされて自らを『子守唄(ユカウラ)』と名乗る。

 

 ()()()より早い神化であったと云う。

 

(どういう意味かしら? まぁ、第三者に関しては今更だから良いんだけどね)

 

 ユートとユカウラの会話の内容は理解が全く以て及ばないが最早、事第三者という意味合いでは雫も達観をしてしまっているものだった。

 

 何故なら、このメメントスっぽい空間の中には人間? らしき存在が普通に居たから。

 

 耳には金属らしき当て物をした見た目には確かに人間、然し彼女達は自らを『代理人形(プロクシード)』であると呼称をしていた。

 

「おや、ユカウラ様」

 

 ユートの湯浴みを手伝っていたのだろうけど、仄かに湿り気を帯びている白い湯着を身に着けた女性――ナトリイトリが現れてユカウラを見ると頭を下げて名前を呼んだ。

 

 普段はユートの秘書官の一人として働いているそうだが、飽く迄も代理人形としてこの場を仕切る立場であるのだとされている。

 

 どう見てもユートを気にしている風だったが、後の何人かと共にこの空間ではユートの世話役として動き、その気になれば呼称の通り()()()()として性の御相手もしているらしい。

 

 雫からしたら『え、デキるの?』と言いたかったけど、基本的にはDBの人造人間18号みたいなもので肉体としては人間と変わらないとか。

 

「マグネ、ユカウラ様に御茶を」

 

「は~い、御姉様!」

 

 マグネと呼ばれた少女はマグネシグネ、ナトリイトリを『御姉様』と呼んだ彼女は右手を挙げて応えると御茶を淹れるべく別室へ。

 

 雫も何度か気をヤってしまったのを介助して貰っており、ちょっとヤり過ぎだとお小言を言っている姿をボーッと視ていたものだ。

 

 尚、二人――とはいっても代理人形は他にも居るけど――は恥ずかしがる風でも無く裸のユートを拭いたり、湯浴みでも背中は疎か前すら洗ってしまえていたけど慣れてしまったかららしい。

 

 出逢った頃は普通に羞恥心を露わにしていたらしいし、何ならユートとの仲などはナトリイトリもマグネシグネも決して良好では無かったとか。

 

 それがいつの頃からかユートと仲良くなっていたし、今ならそれこそ雫の体液で濡れたJr.を普通に布で拭き拭きしてくれるだろう――『まったくしょうがないな~』とか言いながら。

 

 実際にやっていたし。

 

「さて、一息も吐けた事だし……父様から受けていた依頼も終わったから私は次に往くね」

 

「そうしてくれ」

 

「何なら……私ともどうかな?」

 

「早よ往け!」

 

「フフ、は~い」

 

 (しな)を作って頬を朱に染めつつ流し目で見つめてきながら誘って来るユカウラ、彼女はユートの事を『父様』と呼んではいるが実際の父親は当然の事ながらハクオロで、つまり抱くのに困る訳では決して無い相手ではあるのだ。

 

 とはいえ、ユカウラに頼んだ仕事は別に一つという訳では無いのだから遊んで貰うのは困る。

 

 フッと姿が消えるユカウラ。

 

「神様だから瞬間移動とか出来るの?」

 

「うん? 転移なんて別に神でなくても出来るだろうに。難しい部類ではあるけど魔法でも普通に可能な訳だしな」

 

 ユートが居た世界線でもハクが最終的に不安定な神様に成っているし、それに同調をするかの様にハクオロと共に封印されていた黒の王がクオンと一体化をしており、あの二人も普通に転移をしているのだから今更感が凄い。

 

 尚、このトータスの地にそのクオンも来ている事から判る通り、ユカウラと化している訳では無かったし、名前も真名であるクオンの侭で人間の姿を維持して過ごしている。

 

 そしてそれはハクも同じ事。

 

 娘のクオンには神の仕事を割り振っていなかったのだが、元より恋人は居てもファザコンなのは変わらなかったからやる気はあった。

 

「魔法で?」

 

「今までだって魔法陣で転移をしたじゃないか、雫の一番古い記憶では地球からトータスへの召喚による転移、次にオルクス大迷宮でのベヒモスが顕れる階層への転移トラップ」

 

「うわ、全く思い出したくもない忌避感たっぷりな記憶ばかりが脳裏に浮かぶわね」

 

 突然の魔法陣展開からのトータスへ転移させられた記憶、そして莫迦がまんまとトラップに掛かって巻き込まれてベヒモスの居る階層に転移した記憶、それに関連してその莫迦の下らない感情の侭に魔法を香織が撃たれて奈落へと落ちた記憶、更に更に関連したのがユートに初めてを捧げたという嬉しくて哀しくて恥ずかしい記憶だ。

 

 とはいえ、その記憶でお腹の奥がジュンとクる辺りからして大概に雫も業が深い。

 

 パラスなコスプレをした白雫もそんな雫の持つ記憶を共有しており、そして今は雫のペルソナであるが故に繋がったパスからジュンとキてしまったらしく、金髪を態々長くしてポニーテールへと結わい付けた状態でユートに科垂れ掛かる。

 

『雫がえちぃ記憶で気分を盛り上げるから、私もまたシたくなっちゃったわ』

 

 頬を朱に染めて瞳を潤ませた褐色肌のポニテという、ユートからしたら可成り大好物な姿をしているパラスな白雫にJr.が勃ち上がった。

 

「ちょっ、また!?」

 

 漸く落ち着かせた筈の聴かん棒を見せ付けらせて雫も大慌てだ。

 

 結局は雫、白雫、ナトリイトリ、マグネシグネに加えて偶々来ていたネオンセノンも一緒に巻き込んでの大乱交となるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 茫然自失となる香織。

 

 遥か遠く彼方には生身で大喧嘩に勤しむ二人、シアが巨大な金鎚を揮ってユエを追い回している姿が見えており、すぐ傍にはビクンビクンと大きく痙攣をしながら地面に倒れ伏している黒香織。

 

 リューンモード――神の使徒の状態だったから判り難いけど、折角の変身も解除されてしまってあの二人から受けた衝撃は相当だったらしくて、へちゃ顔となりちょっとばかり女の子としてみるとはしたない格好である。

 

 大の字状態で両腕を上に曲げて、M字開脚っぽい形で俯せとなっていると云えば解るか?

 

 兎に角、同じ顔をした彼女の姿に若干ながらも頬を朱に染めつつ状態を確かめてみた。

 

 シア達に関しては取り敢えず後だ。

 

(そういえば、私もゆう君とのアレでこんな感じに倒れた事もあったよね……)

 

 恥ずかしい部位から恥ずかしい液体を垂れ流しながら……だから、香織の時の方がより恥ずかしい姿に映っていたとは思われる。

 

 近付くとよく判るくらいにボロボロ。

 

「だ、大丈夫!?」

 

『これが大丈夫に見えるなら眼科に行く事を御勧めするしかないかな』

 

「だよね……」

 

 香織も目が悪い訳では無いから、黒香織が受けたのが致命的なダメージなのは見て取れていたのと同時に、これを受けたのが自分だった可能性を考えると沸々とした怒りが湧いてきた。

 

 自分達を無視して――否、眼中にすら無い侭に未だ巫山戯た喧嘩を続けているシアとユエに対しては最早、殺意の波動に目覚めて精神が反転した『香織オルタ』に成りかねない勢いである。

 

 流石に本当には成らないけど。

 

『ハッ! 私のパワーが上がる? 駄目だよ(香織)、それだと試練が!』

 

「ねぇ?」

 

 目が据わった香織に睨まれて口を噤む。

 

『な、何かな?』

 

「この侭、虚像である貴女が消えた場合だと私の試練はどうなるのかな、かな?」

 

 怖っ!

 

 余程、腹に据え兼ねているらしい。

 

『えっと……』

 

「即刻……こ・た・え・て!」

 

『ヒッ!?』

 

 ホラー映画も斯くやな顔芸に恐怖しかなくて、黒香織は立場も忘れて息を呑んだだけ……仄かに股間への湿り気を感じたけど。

 

 これではどちらが黒香織か判らない。

 

『ご、ゴメンナサイ……判らない』

 

「はぁ? ワカラナイ? ワカラナイって何? 何のかな、かなぁ!?」

 

 更に闇に沈んで病みまくる香織。

 

『私は飽く迄も虚像として対象者の記憶を精査して大迷宮に魔力で造られた疑似生命、この試練のルールは始めからインストールをされていたから理解してはいるけど、試練対象者が討ち斃すのを前提にしてるから試練が終わればどちらが勝つにしても私は消える定め。そして合否の判定をするのは奥に在る魔法陣であって私じゃないから!』

 

「……」

 

 沈黙がまた怖い。

 

『私は合格をしたと思っていたから討たれる心算だったし、実際にそれで普通に合格だった……筈なんだけどね? まさか乱入されてぶちのめされるとは思わなかったし……』

 

「成程、つまり貴女はユエさんやシアさんに討たれた形になってるから試練が合格か判断が出来ないって言うんだね?」

 

 コクコクと頷く黒香織。

 

「そっかぁ、なら仕方が無いかな、かな」

 

 それは先程までのホラーでしかなかった顔芸とは打って変わった満面の、『二大女神』などと持て囃された白崎香織の美しいまでな正しくそれは『女神の微笑』と呼んでも決して差し支えない程の微笑みであったという。

 

 それは同性すら惑わせる小悪魔チックなモノでは無いからか、黒香織ですら一瞬……刹那の刻とはいえ見惚れる程に美しい――

 

 サクッ!

 

『――へ?』

 

 そんな『女神の微笑』の侭で、香織は黒香織の心臓をサクッ! と貫いたのである。

 

 何の躊躇いも無く、罪の呵責に苛まれるでも無くて、それが必要だったから必要な行為をした迄だと何処ぞのヴァンデモンみたいな言い分で。

 

 そんな香織をきっと人々は『壊れている』と、そんなものはヒトの在り方では無いと否定し拒絶をするだろう、だけど香織はそれでも一向に構わないと考えている節がある。

 

 何故なら既に香織は壊れていたから。

 

 別にあからさまに精神を病んでいたりする訳では決して無く、取り敢えずこれは恐らくではあるのだが……母親からのというか、きっと()()()()()綿々と脈々と受け継がれた性質であろう。

 

(香織)? 何で……』

 

「この侭じゃ、試練に不合格になっちゃうから。これで合格が出来たら良いんだけど」

 

『フフ、(したた)かになったわね(香織)

 

「ならずには居られなかっただけだよ。ゆう君に抱かれて南雲君に想いを告げない侭に女の子から女にされて、その上で南雲君が恵里ちゃんといつの間にかお付き合いをしてるし。強かにならないと何も手に入れられない、欲しいものがこの指をすり抜けちゃうんだよ……水でも掴む様にね」

 

 お付き合いという名の『御突き愛』を行き成りやらかしていたのは知らないが、幸せそうな顔でハジメを見つめる恵里を見てはせめて『好きでした』と過去形で告るくらいの事も躊躇われた。

 

『貴女が彼を好きになったのは本当みたいだね、私のパワーアップが解けて寧ろ弱体化をしてる。だから頑張った(香織)に御褒美を上げるわ』

 

「御褒美?」

 

『知っての通り私は魔力で紡がれた疑似生命体、故に試練が終われば魔力供給を断たれて消える定めにあるわ。だから霧散する前に私の魔力を貴女に上げる。そうすれば都合、今の倍は魔力を得られる筈だよ。この時に明確な力のイメージを想起すれば新たな力すら手に入る……かも』

 

「いや、かもって……断言しようよ」

 

『私だって初めての試み……あれ? 何だか判らないけど二回くらい同じ事がされてる』

 

「……へ?」

 

 それは少し前に終わらせた雫と鈴による記録が残されていたからだ。

 

『うん、大丈夫っぽいね。私の身体に触れる感じで手を置いてみて。ピッコロとネイルみたいに』

 

「えっと、こうかな?」

 

 恐る恐ると手を触れると黒香織が光を増していき香織側に光が流れる。

 

『良ければ力を得たらあの二人にお仕置きをして欲しいな』

 

「うん、虚像さんの仇は取るよ!」

 

 それを言ったらトドメを刺したのは他なら無い香織本人である訳で、何処のヘルミッショネルズかという話であろうが黒香織はツッコミを入れる元気も既に無かった。

 

 光が完全に香織に流れきると確かに魔力が可成り増えており、それこそネイルと同化を果たしたピッコロの気持ちが痛いくらいに解る。

 

 今ならフリーザにすら勝てる! 筈も無いが、そのくらいには気が大きく膨らんでいた。

 

 精神的にも物理的にも。

 

 そして香織の変化はそれだけでは無く、ヒラヒラとカードみたいなモノが降ってきてそれを握り潰すと蒼白い炎の如く、そして先程消えたばかりの黒香織らしき存在が半透明で顕れる。

 

『我は汝、汝は我……我は汝の心の海より出でし存在。死者を誘う戦乙女レナス也』

 

「ペ、ペルソナ!?」

 

 自分自身と向き合える強い心が力へと変わる、香織はもう一人の自分……困難に立ち向かう為の人格の鎧、ペルソナ“レナス”を手に入れた。

 

 顔立ちは香織の侭で銀髪に青目な美少女で鎧甲はエヒトルジュエの使徒とも異なる物、その姿は名乗りの通り【ヴァルキリープロファイル】へと登場した主人公のレナス・ヴァルキュリア。

 

 だけど明らかに黄色人種な肌色、北欧の人間にはちょっと見えないのは香織の顔だから。

 

 レナスと名乗りはしたけど見た目は香織によるコスプレであるが、妙に似合うのは原典からしてヴァルキリーみたいな装いをしたエヒトルジュエの使徒ノイントの肉体を使っていたからであろうか? 此方側でもリューンの姿に成れるし。

 

 尚、この世界線でのノイントは討伐済みな上で既に香織のラウズカードにハートスートのカテゴリーKとして封印されており、必要に応じて香織がワイルドフォーム的な姿にパワーアップするべく使用をしている。

 

 正確にはラウズアブゾーバを使い、カテゴリーQと一緒に使うキングフォームに当たるのだが、一応はワイルドフォームと呼ぶ事もあればキングフォームと呼ぶ事もあり、一種の表記揺れみたいな感じに名称が一定していなかった。

 

「さて……と」

 

 ニコニコと微笑む香織は男が見れば蕩けるかの如く、そして連中の下半身の一部がバッキバキに元気一杯と成りそうなくらい美しいというのに、実際に目の当たりにした場合は元気一杯に成る処か役立たずに萎みそうな恐怖心を与えてくる。

 

 現にゾクリと背筋に氷水でもぶち込まれたかの様な寒気を、ユエとシアの二人が行き成り感じたらしくてガバッと香織の方を見遣って来た。

 

 最早、仮面ライダーリューンにも使徒モードにも変身をしていない香織のその姿は、軽くて丈夫で各種耐性こそ与えられていても普通の高校生といった感じの制服姿。

 

 ペルソナシリーズでは珍しくも無い姿だとはいえど、それに対する恐怖心など皆無だった筈なのに今は香織が途轍もなく怖いと感じた。

 

「か、香織……さん?」

 

「……ん? 何だか怒ってる?」

 

「二人共、正座……しようか」

 

 有無を言わさぬ迫力。

 

 ビリビリと空気が震動でもしたかの如く緊張感に支配され、ユエは兎も角としてもシアは実際に正座をしたくなるくらいの怖ろしさ。

 

 怖れというより寧ろ畏れだろうか? まるで、そう……神とでも相対したかの様に。

 

「……正座? どうして?」

 

「理由……言わなきゃ判んないかな、かな」

 

 ゾワリ……これは駄目だ、下手な口答えをしては生命に関わるやつだとシアは兎人族の危機察知能力により悟った。

 

「フフ、素直な子は好きだよ」

 

「は、はは、はい!」

 

 涙目になりながら正座したシアは、香織と決して目を合わせようとしない。

 

「……くっ!」

 

「くっ! じゃないんだよ……ねぇ、ユエさんにシアさん? どうして喧嘩を?」

 

 何だか口惜しげにしているユエに一睨みして、二人が喧嘩をしていた事を指摘した。

 

 尚、原典ではシアやティオにはさん付けだった香織もハジメの『特別』を自称し、更にハジメも普通にそう呼ぶユエを対等な恋敵(ライバル)として呼び捨てで名前を呼んでいるが、此方側では共にユートの【閃姫】として対等ではあるがどちらも『特別』では無く、彼方側のハジメ基準で『大切』な存在として可愛がられている関係上からユエをさん付けにして呼んでいる。

 

「それが……ユエさんが『……若し私に何かあったらユートを御願いしたい』なんて言い出して来まして、理由を訊いても『……それだけは絶対に言えない』と答えてくれませんから」

 

「……」

 

 シアが喧嘩の理由を言うとプイッと明後日の方へユエが顔を背けた。

 

 つまり、シアの話には何ら間違いは無いと本人が認めた様なものである。

 

「理由は?」

 

「……言えない」

 

「人の試練を邪魔しておいて、それはあんまりなんじゃないかな、かな?」

 

 ピクピクと引き攣った笑み。

 

「……カオリにも言えない、これは約束だから。ユートとの約束……だから」

 

「ゆう君との……ね。だからって私の試練を邪魔して良い訳じゃ無いよ?」

 

「……何の話?」

 

 ブワッと香織の髪の毛が逆立つ。

 

 傍に居たシアはもう漏らして気絶したいくらいの恐怖に押し潰され掛けていた。

 

「初めてですよ……この私を此処まで虚仮にした御莫迦さん達は……」

 

 怒りの余り某宇宙の帝王みたいな科白を知らず知らずに呟く香織、魔力がグングンと高まる上に香織はユエと同じく魔力特化で【閃姫】強化が成されており、今や虚像を取り込んだ影響から既に本来の倍以上の魔力を手にしている。

 

 元々の魔力はユエが上だった筈が、彼女の場合は元が高かった影響から上げ幅は小さかったのに糅てて加えて、試練は普通に終わらせていたから香織みたいに魔力を増やせてはいない。

 

 その所為もあって今の香織はユエと同格くらいに魔力を研鑽しており、しかも肉体的な能力については上回ってしまっている。

 

 総合的に二人は互角にまで成っているのを既にユエも気付いていたが、流石に今の香織にとっての切札に関しては全く気付いていない。

 

 生身で殆んど互角な二人は決して恋敵なんかでは無く、多少の差違こそあるもののシアと変わらぬ友情を育んでいるだけに、今回の蔑ろにされた感はちょっとムカッときたのは間違いなかった。

 

 恋敵に成らないのはどちらも『大切』であり、『特別』を争う関係では無かったのも要因であるのだろうが、矢張り力が同格で身分的にも最早変わらない存在だったからだ。

 

 嘗ては王女――というより女王の座に就いていたユエからすれば、同格の友達というのはあの頃なら欲する事すら出来はしなかった事。

 

 シアは妹分、ティオは姉貴分、ミュウは本人的に母親は一人でも娘枠、レミアは何だろう?

 

 雫と鈴と他にも優花など同格の友達は確かに居るけど、香織はユエにとってある意味に於いては双子の姉妹にも似た感情に近い友人。

 

 ユエにとって初めてを捧げた男はユートで間違い無いが、更に初めての竿()()()として肢体を求め合ったのが実は香織だったからだ。

 

 正確には女性同士によるLesbianな関係を初めて持ったという事。

 

 竿姉妹自体は雫や鈴や優花やリリアーナやシアやティオなんかも同様、香織より後に自体を求め合ったのも同様ではあるのだろうが、矢張り初めての相手というのは『特別』なのかも知れない。

 

 ユート的に雫では無かったのは何と無くにしか過ぎないし、ユエも友達として認めようとしないツンデレを発揮するだろうが、二人は磁石でいうならN極とN極で反発し合いながらも偶に反対側をどちらかが差し出してくっ付く感じだ。

 

 時々、どちらも互いに反対側を差し出してしまってS極とS極で反発するのは御愛嬌。

 

 だからこそ、一方的な片思いだとは考えたくは無いのに蔑ろにされてしまったと感じて香織が、ユエに対しての寂しさを胸に募らせてしまったのも仕方が無いであろう。

 

 一方でユエも普段は反発気味なツンデレを貫くのに、矢張り香織を気安い友人枠として捉えているからこそ言えない事もあった。

 

 それが氷雪洞窟に入る前にユートから与えられた特殊な任務、命懸けで下手をしたならユートがユエを『大切』に想って無いと捉えられても仕方が無いソレ、下手に知られて香織やシアがユートに不信感を持ってしまっては事だったし、何よりユートの『例令、信用に足る相手でも秘密は知る人間が少ない方が良い』という言葉も確かだと、嘗て女王アレーティアとして王宮に暮らしながら戦場にて、歩く砲台としてバケモノ呼ばわりされていたユエは理解をしていたのである。

 

(……私はユートを信じるだけだから)

 

 仮に、本当に仮に裏切られたら? それこそがユエの試練の根幹に在った。

 

 その時が来たら使う事に成るであろう魔法を既に与えられ、それを扱う為のスキルもユエは手にしているから後は時が来るのを待つばかり。

 

(大丈夫、だって叔父様への不信感を払拭してくれたのもユート。それにユートはロリコンじゃないけどごーほーロリは大好物だって聴いた)

 

 誰から聴いたかは兎も角、三百年モノな吸血姫たるユエは見た目は子供でも実年齢は三百歳越えであり、しかも再生のスキルにより肌は当時の侭という至高の逸品。

 

 ユートの【閃姫】にはそれより上な当時にすると六百年モノな吸血姫が居るらしいし、【閃姫】でこそ無いけど千年モノな神様? みたいな存在とも肉体を交えたらしい。

 

 しかもどちらも見た目は幼い部類ともなれば、矢張りユートがごーほーロリ好きなのは間違い無いと断言が出来たし、ならば自分を手放すなんて有り得ないと高を括れはしないけど自信はある。

 

 それに再生スキルを持つユエは、他の誰よりもユートを悦ばせる事が出来ると積極的だ。

 

 それでも間に合わず気絶するけど。

 

 だからこそ、だからこそユートをユエは決して裏切る心算が更々無かった。

 

 ユートが『やれ』と言うなら仮に無辜の民への虐殺だって平然と殺るし、『やるな』と言うのであれば例えば友人にも秘密を漏らさない。

 

「そっか、口を割る気は無いんだね。だったら、虚像さんの怒りを受けて貰うよ!」

 

「……っ!」

 

「半透明なカード? 前にユートさんから貰ったタロットカードみたいな……」

 

 クルクル回るカードはナンバーⅩⅦの【星】を示しており、それを香織が握り潰すと蒼白い炎の様に燃え盛り……

 

「来て、ペルソナ!」

 

 香織が叫ぶと背後に顕れた戦乙女。

 

『そのみに刻め、神技! ニーベルン・ヴァレスティ!』

 

 仮面ライダーカリスの2Pカラーっぽく弓矢による攻撃、螺旋を描く矢による連続攻撃をしたかと思うと跳ね上がるユエとシアに下斜めから二本と真下から一本のエネルギーの槍がぶっ刺され、飛び上がったレナスが光の翼を広げて槍を顕現化すると、不死鳥の如くオーラを纏うソレを二人へと投げ付けた。

 

「「ギャァァァァァッ!」」

 

 普通なら死ぬかも知れない攻撃ではあるけど、非殺傷設定をヴィヴィオ達から学んだ香織は痛みだけで、決して()()()()大技――まるでそいつは星光破壊を喰らった敵みたいだと云う。

 

「仇は討ったよ、虚像さん!」

 

『トドメを刺したのは(香織)だけどね』

 

 それは至極尤もなツッコミだった。

 

 

.




 ユカウラだったのは後付けですが、どっち道で神の領域に在るモノが出て来ていました。

 仮にユカウラじゃなければ【カンピオーネ!】のアテナ、【デスマーチ】のパリオンかテニオン辺りが出て来ただけですね。

 代理人形の三人……と言ってもネオンセノンは名前だけだったけど、これは今は月を跨いだので既に違いますが【ロスト・フラグ】でピックアップされていた関係から出しましたが、此方も単純に秘書官の誰かになっただけでしょうね。

 月嶋夜姫か或いはオーリス・ゲイズか……




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第114話:ありふれた天之河光輝の大暴走

 特に無いかな……ペルソナを幾つか挟んで原作を読み返してモチベーションの維持を。

 サブタイトルからして判り易いですね。







.

 香織がペルソナを手にして試練にも合格して、更には試練を台無しにしてくれそうだったユエとシアを折檻していた頃、雫と彼女のペルソナである白雫=パラスとナトリイトリとマグネシグネとネオンセノンを抱き潰していたユート。

 

 嘗ては強壮たる【C】に捕らわれてエロ同人誌みたいな事をされて――男が触手プレイで嬲られるとか誰得やねん――しまい、その時に散々っぱら精気を呑まされた影響から男の一物は逸物へと究極進化、基本的に日本人男性の平均値でしかなかったソレは倍の長さと、その長さに見合うだけの太さを兼ね備えた上に無制限に胤を構築が出来てしまう無限リロード、そのリロードに見合うだけの精力をも獲得してしまったのである。

 

 とはいえ、誰彼構わず犯したいみたいな欲望の増加というのは特に無い。

 

 ヤる時はヤるにしても、元々が強姦みたいなのは好きで無かったからというのも有るだろうが、普段から『ヤりたいヤらせろ』なんてギラついた目で視たりもしてないのだ。

 

 尤も、ヤる時にヤる以上はその時――蓐に上がれば容赦無く快楽に耽る訳である。

 

 全員を抱いた後で眠りに就いていたけど数時間程度で起きたユートは所謂、朝勃起な状態となった我がJr.を視つつ周囲で真っ裸な姿で適当に寝ている雫やパラスや秘書官なナトリイトリらを見回して欠伸をした。

 

「まったく、この躯体に成ってそれなりに時も経ちましたが……私も貴方との情事には未だに慣れませんね」

 

 明後日の方を向いていたら声が響く。

 

 フラフラとする頭を抱えながら白い肌の肉体を起こしたのはナトリイトリ、彼の地でボロボロに成り果てながらも教団(カラザ)に仕えていた代理人形で、ユートとの出逢いから暫くの時間が経過した頃に秘書官として教団から買い上げ、新しい肉体を与えてこういう関係を築く様にもなっていった。

 

 抑々、代理人形は結局の処が意志を持って動ける高級ダッチワイフでしかない、当然だけど造られた目的は宇宙に出たりなどした際などに人間では出来ない作業をやらせる事だけど、然しながら性の解消もまた必要不可欠として機能自体は持たされている。

 

 継ぎ接ぎされていたナトリイトリはそこら辺の機能が不全状態だったが……

 

 マグネシグネは機能がきちんと使えていたが、人間そのものが居なくなってしまっては使う者も居る訳が無く、亜人達は代理人形を性の対象にはしない者が多かったらしい。

 

 訊いてみたらそんな経験は無いそうな。

 

 ナトリイトリとのある種の交換で快楽を得ていた事はあるそうだけど、それも大概は愛する? 御姉様との交換で興奮していたみたいだ。

 

 今現在のナトリイトリ、マグネシグネ、ネオンセノン、その他の代理人形達はユートの力を以てしてエボリュダーに近い存在と成っている。

 

 生身の肉体でありながら電子機器も自在に扱える能力、子供を作る能力も獲得されていたけれど彼女らにそういった意志は無かった。

 

「うーん、ユート君も起きたんだ」

 

 マグネシグネも起き上がるなり未だに素っ裸な姿のユートの下半身を見て……

 

「ユート君も勃きてるんだね」

 

 ちょっと下品なジョークを言った。

 

「何なら鎮めてくれて良いぞ?」

 

「良いよ!」

 

 下品に返すと右腕をパーな掌で真っ直ぐ挙げながら笑顔で了承すると、ユートの下半身へと顔を徐々に口を開けつつ近付けて行く。

 

 その後は暫く耽っていたら続々と皆が起きて来だして、マグネシグネの口内に白く濃いドロリとした粘液を放ったユートはシャワーを浴びるべくバスルームへ、それに対して粘液をゴクリと飲み込んだマグネシグネも付いて来て仕事と云わんばかりに背中を流してくれた。

 

 見た目に幼いけど可愛らしい容貌、代理人形なだけあって亜人達より永く在り続けた彼女だが、最初の出逢いでの険悪さなど今や無かったとばかりに尽くしてくれている。

 

 最早、マグネシグネの御姉様――ナトリイトリとも変わらない扱いをされていた。

 

 尚、彼女らの姉妹観念は見た目重視という訳では無くて製造番号である。

 

 ネオンセノンが一〇、ナトリイトリが一一、マグネシグネが一二と成っていたそうな。

 

「ユート君、そろそろ出るよね?」

 

「まぁ、いつまでも引き篭もっては居られないからな。氷雪洞窟内で溜まっていた分は雫やマグネ達で解消した訳だしね」

 

 流石にユートも天之河光輝や坂上龍太郎が居る中でイチャイチャは出来ないし、『本当に邪魔な連中だな』くらいにしか思っていない。

 

 あの二人が居なければ道中でイチャイチャと愉しい道すがらだったろうに。

 

 取り敢えず解消したし、内部で数日間など外部では一日すら経っていないとはいえ休み過ぎるのも問題、下手に闘いは離れてしまうと勘を取り戻すのに倍以上の時間が掛かるのだから。

 

 背中を流す傍らでペタペタと触ってみたりするマグネシグネ、更には小さな御胸を背中へと押し付けてきてグニグニと擦り付けて来る。

 

 首筋にキスをしてきたり下半身のブツへ手を伸ばしてきて、それを扱いてきたりとバスルームでの情交と変わらぬ事をする。

 

 温かい肢体に更なる硬化がされるJr.。

 

 結局、頬を染めて瞳を潤ませながら求めて来たので御風呂でガッツリと三発ばかり射精()した。

 

 マグネシグネの臭いを漂わせていたのか、それに気付いたナトリイトリやネオンセノンに求められたし、更に雫とパラスともヤって又しても風呂で汗や色々な液体で汚れた身体を洗い流す。

 

 結局だがまた一日を無駄に過ごした。

 

 その上で更に無為な時間……ともユートとしては言えないが、ラングリッサーとアルハザードに在る魂――ユリアとゼルダとも睦み合う。

 

 普段は眠っているけど最近になって使ったから起きており、目の前でえちぃ行為をされてしまっては自分の“女”を刺激されたらしい。

 

 ユートが光の女神ルシリスと混沌の神カオスから召喚を受けたのは滅びた世界、エルサリア大陸にもイェレス大陸にもガルパイス大陸にも人間は疎か魔族すら最早存在しなかった。

 

 そんな無人世界に二振りの剣だけが残されていたけど、それは砕け散って死んだ武器として使い物にはならない代物。

 

 ユートはそれを修復して使っている。

 

 その二振り――ラングリッサーとアルハザードには魂が封入されていて、それが新ラングリッサーと新アルハザードという形で戦争の中に在って再構築された二振りの謂わば生贄。

 

 ユリアもゼルダも魂にダメージを受けたからか記憶が可成り曖昧で、人格は元々のものを取り戻したけど過去のエピソード記憶は殆んど無い。

 

 故に簡単に堕ちた。

 

 然もゼルダは大元が子供っぽい人格だったのだろう、記憶の欠落に伴って見た目が少し幼く成ってしまったのも相俟って可成り甘えん坊であり、しかも知識は教えれば普通に吸収してしまえるからか、何処からともなく得てきたえちぃ知識を元にエロティカルな甘え方を覚えたのである。

 

 それに対抗したのがラングリッサーの魂であるユリア、知識だけは有ったので二人は競い合うかの様にエロティカルな奉仕をしてくれた。

 

 二人の記憶も【ラングリッサーⅤ】から過ごすこと約一五〇年後、エルサリア大陸最大の国家だったカルザス帝国も消えて新たな帝国や連邦なども興ってそれなりに経ってから。

 

 初代のラングリッサーが誕生してから千数百年以上が過ぎてしまった頃である。

 

「さて、香織や鈴が心配だし行くわよ」

 

 当たり前ではあるのだけど、あの空間を管理する代理人形ズは一緒に出て来てはいなかったし、ペルソナである白雫=パラスは雫の無意識下へと戻っている為、今現在は雫とユートの二人切りで洞窟内を動く事になっている。

 

 雫が心配したのは香織と鈴だけではあるけど、一応だがユエやシアやティオの事も心配してる。

 

 天之河光輝と坂上龍太郎?

 

 知らんがな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 香織がユエとシアと合流後、更に鈴も動いているとティオが合流していて此方と合流しており、そんな五人がユート達に合流をしていて残す処は天之河光輝と坂上龍太郎のみ。

 

「ふむ、鈴と香織と雫が新たな力でペルソナを手にしたとな? 妾達は特に何も無いのにのぅ」

 

「……ん、依怙贔屓」

 

「私達はどうして何も無かったんでしょうか? 某かの条件が足りなかったんですかね」

 

 ティオの言葉に頷くのはユエ、シアは条件不足なのかと首を傾げている。

 

「僕が地球の人間だったから……だろうとは思うんだけどね」

 

「……どういう事?」

 

「話に聞いた限りこれは【解放者】も意図しないバグ、言ってみればシステム的な不具合が出てしまった結果だね」

 

「バグ……のぉ」

 

 ユートの記憶再現が恐らく上手くいかずに……というより、優雅が寧ろ積極的に乗っ取ったという可能性もあるのだが、ユートは模倣しただけとはいえ“世界の破壊者”たるディケイドだからか、要するにシステムを破壊したのであろう。

 

 だからといってそれを話した処で理解が及ぶとも思えないし、理解させるのに時間が掛かるのは勘弁して欲しい処だった。

 

 勘違いをしてはいけないのが、それは彼女の頭が悪いとかでは無いという事であり、単に世界的に知識の及ばない領域にあるという事。

 

 例えばユエならばこの世界の魔法に関する知識ならば、ユートでさえも及ばないくらい非常に高いレベルにて保有をしている。

 

 要するに畑違いという話だ。

 

 ユエが本当にその気になって修めれば機械関係だって明るく成れる……かも知れない訳であり、ユートだって魔法はハルケギニア時代に子供の頃から――愉しく――習ったからこそ魔法に可成り明るくなった。

 

 以前は機械関係にそれ程には明るく無かったのだが、次元放浪中に平行世界の地球や異世界でな生活から必要だと感じた為に、それに関して一番の知識持ちであったユーキを先生として余生を過ごしていたからこそ、今では機械関係と魔法関係をミックスレイドした技術で魔導具を造れる。

 

 勿論だけど【テイルズ・オブ・ファンタジア】や【テイルズ・オブ・シンフォニア】世界に於ける魔科学などという、世界に悪影響を及ぼしていた技術などとは全く別系統のモノだ。

 

 尚、この二つは同一世界で四千年くらい時間が離れていたから、ユートは暫く生きてそれからは何千年も寝て過ごしていた。

 

 まぁ、そうは云っても【ドラゴンクエストⅥ】の世界から【ドラゴンクエストⅣ】に移行をする際には、それこそ下手をしたら一万年と二千年くらいは寝ていたのだが……

 

 特別製の“仮死の法”を用いての眠り故に肉体的な衰えも無く――但しレベルは二五くらいにまで下がる――て、レベルアップさえすれば良いだけの云ってみれば簡単な御仕事。

 

 筋肉が衰える訳では無いから動き回るにせよ、食事をするにせよ、それこそ起こしに来たミネアとえちぃ行為に耽るにせよ自由自在。

 

 因みに、そのミネアは矢張り特殊な転生術により転生をした【ドラゴンクエストⅥ】時代に於ける妻だった女性、とある亡びた国の王城近くにて死んだ彼女の遺体と共に眠りに就いた。

 

 勿論、起きた時に彼女の遺体は塵すら遺さずに無くなっていたのである。

 

 扨置き、適材適所というやつだ。

 

 実際、先程の『バグ』という言葉もティオには聴き慣れない筈のものだったけど、ある程度には噛み砕いてきちんと理解をしているらしいし。

 

「さて、話していたらどうも着いたみたいだな。天之河の氣がゆるゆると流れて来てる」

 

「本当?」

 

「ああ、残念ながら? 天之河だけみたいだが。坂上は未だ試練中なのかもな」

 

「そう……」

 

 一応は未だ友達と感じているのかも知れない、香織は例の強姦未遂事件移行はゴミムシでも視るかの如く、話さない訳では無かったけど必ず誰かと一緒でないと傍には寄らないが、雫は取り敢えず無視を決め込む訳でも無く話し掛けられたなら返すくらいはしていた。

 

 暫く進むと確かに色違いな天之河光輝と剣を握って対峙しているが、何やら話し掛けられていて此方側には気付いていないらしい。

 

『ほら、見ろよアレをさ』

 

 ネットリとした声質ながら間違い無く天之河光輝の声で言うと、それに対してあろう事か敵を目の前にしながら振り返って此方を見る。

 

 眼の玉が飛び出るくらいに見開いてワナワナと身体を震わせ、汗を掻きながらゴクリと固唾を呑むとカラン……剣を取り落とした。

 

 果たしてそんな天之河光輝の眼に映る光景は何だったのか?

 

 それは美女美少女を傍らに侍る憎らしいまでの男が、試練の最中にイチャイチャとしながら入ってきたと云う正しくKYな行為。

 

 しかもそれぞれがタイプは違えど勇者(じぶん)にこそ相応しい筈の女性陣だ。

 

 ガキンッ! それは本当に刹那の事。

 

「光輝!?」

 

「な、何をしてるの光輝君!」

 

 驚愕する雫と香織、声にこそ出していなかったけど鈴も目を見開いていた。

 

「何の真似だ? 敵はあっちに居るお前の2Pカラーだろうに」

 

 天之河光輝がユートに対して攻撃を仕掛けて来たのである。

 

「う、煩い煩い煩い!」

 

「お前がうるさいを三回言っても可愛げの欠片も無いんだけど……な!」

 

 ガインッ! 軽快な音を鳴り響かせて天之河光輝を後ろへ弾き飛ばす。

 

 アレは彼女のボイスだからこそ許されるのであって、こんな野郎が叫んでも誰得でしかないのだから嬉しくも何とも無い。

 

 ユートは手にした妙法村正を某上様の如く峰に返す事もしないで構える。

 

「優斗、光輝を斬る心算ね」

 

「とうとう光輝君の最期なんだ」

 

 幼馴染み~ズの淡泊さ加減は天之河光輝によるやらかしが原因で、既に内心では見限ってしまっているのがよく判ってしまう。

 

 事勿れ主義な鈴でさえ、香織に対してのやらかしは流石に無いとして目を背けていた。

 

 況んや、ユエとシアとティオからしたならば全く以てどうでも良い他人に過ぎない。

 

 一触即発の空気ながらユートは完品な妙法村正を持ち、対する天之河光輝が持っているのは半ばからポッキリと逝った鉄の剣だ。

 

 唯でさえ天之河光輝の使う流派は八重樫流剣術であり、使う獲物は刀である方が望ましいというのに普通の叩き斬るタイプの両刃で、しかも折れた剣では最早どうにも成らなかった。

 

(あの莫迦は確実に取り込まれているな。きちんと言った筈なんだが。論外……だとね)

 

 流石に自分の剣とユートの太刀のあからさまな違いに気付いたらしい。

 

「くっ、緒方……卑怯だぞ!」

 

「好き勝手に突っかかって来ておいて卑怯も辣韮もあるものかよ!」

 

 ユートからの攻撃に対して天之河光輝が出来るのは防戦のみ、折れた剣ではリーチが違い過ぎるから攻撃に転じる事が難しかった。

 

 これでも一撃で終わりにならない様にと可成り気を遣ってやっているのだし、それで卑怯だ何だのと罵倒をされる謂われなど有りはしない。

 

「況して、闘いに際しては何をしようが卑怯だとかそんな科白は無い。仮に人質を取ろうと罠に掛けようと勝ちは勝ちだからな」

 

「なっ!?」

 

 天之河光輝は目を見開いて驚きを露わにしながらバックステップ。

 

「何を言ってるんだ!?」

 

「だが、心せよ」

 

「……は?」

 

「僕は基本的にそんな絡め手は使わないんだが、相手が使ってくるなら遠慮は要らないよな?」

 

 ニヤリと口角を吊り上げた表情はいつものとは全く異なる邪悪そのもの、今ならばユートが彼の邪神の一欠片だと云われて納得してしまう。

 

 そして雫達は唐突に理解した。

 

 目には目を歯には歯を……という言葉が存在している訳だが、正しくユートは誠意には誠意を返して悪意には悪意を以て返礼と成すのだ……と。

 

 ユートが決して天之河光輝との仲を深めなかった理由が其処に在る。

 

 確かに天之河光輝は人当たりは良かったであろうし、基本的には大抵の人間に対して平等に優しく接していたであろう。

 

 然しながら例えばハジメに対して、一応は取り繕ってはいたけど端々に見え隠れする侮り蔑み、天之河光輝は香織が目を掛けていた南雲ハジメを無意識下では疎んじていたのだ。

 

 そしてハジメと余り話していないにしても決して他者みたいな蔑みをしないユート、それが気に入らないのだろうが、天之河光輝からは矢張りというか無意識の蔑みが見えていて寧ろ笑えた。

 

 だからこそユートは天之河光輝との仲を深める事が決して無かったのである。

 

 誰だって蔑み侮る人間を好きにはなれないし、そんな人間をユートは逆に蔑み侮っているだろうから、天之河光輝も或いはそれを敏感に感じ取って負のスパイラルが形成されたのかも知れない。

 

 唯一、天之河光輝に福音だったのはユートからの感情が嫌悪(マイナス)に近いものであり、その感情が決して虚無(フラット)などでは無かったという事であろうか?

 

 とはいえ好意(プラス)では無いのだからどちらにせよ悪いものだが……

 

 あの四人の残り三人に関してだと坂上龍太郎が虚無に近い嫌悪、香織が僅かに嫌悪、雫は好意といった感じに成っていた。

 

 現在では坂上龍太郎は虚無に近い好意、香織が好意、雫が揺るぎない好意と天之河光輝のみ嫌悪を懐き続けている状態だ。

 

 甲高くも重厚にして然れど軽快さえが拭えない金属音を辺りに響かせながら二人の剣戟が続いているが、リーチの短い折れた鉄剣での攻撃なんてユートは簡単に往なせてしまう。

 

 況してや天之河光輝は格下。

 

 人間として……というのは抑々にしてユートも大概にアレだから扨置くとして、剣士という意味合いに於いては間違い無く天之河光輝の方が格下でしかなかった。

 

 闘う者としても芸術家としても中途半端でしか無かった前々世、だけど二度に亘る真なる転生と幾度と無く繰り返した疑似転生により戦闘者としても完成されつつある。

 

 否、刀舞士という意味では既に完成されていて今は他の闘い方を取り入れる事で、無限に立ち替わる戦闘スタイルを吟味している処だろうか?

 

 封印や封神で【DB】世界の莫迦げた身体能力は持たないし、身勝手の極意とか我儘の極意とかは身に付けていないにしても、戦闘技術などに関しては当然ながら持ち合わせている。

 

 あの世界にも疑似転生で向かったから身に付けた能力の殆んどが封印処理され、獲られた技術に関してはだいたいが今も使える状態なのだ。

 

 抑々、あの世界に於ける強さは肉体的な強さも然る事ながら、氣の量と氣の強度こそがモノを言う世界観となっている。

 

 フリーザの強さも肉体が頑強でアホみたいな氣の量と莫迦みたいな氣の強度にと、三拍子揃っていたからこその最大戦闘力が一億二千万だった。

 

 尚、ユートが調べてみた結果だが界王が作った界王拳が酷いダメージを負うのは、氣の量が変わらないのに無理矢理に氣の強度を上げるから。

 

 あれ、実は氣の量が増えている様に見えるけど大して増えてないのが、強度任せに迸っているだけであったと云う。

 

 強度だけが突出して増えるから三倍四倍にしただけであれだけのダメージ、実力を上げて氣の量が増えれば成程確かにダメージは受け難くなるかも知れない、然しDBではこれでもかと強敵難敵と出会うから二〇倍なんてアホみたいな倍率にまで孫 悟空は上げてしまった。

 

 然るに超化は氣の量も同時に上がるからこそ、変身する度に大きなダメージを受けたりしない。

 

 ユートは超化を視る機会があったからS細胞が云々は扨置き、氣の量や肉体的な強さは神殺しによる恩恵で可成り高かった事もあり、超化や超神化も出来る様に成っていた。

 

 尚、ユートはサイヤ人では無いからウルトラマンに倣って超サイヤ人の状態を超闘士と呼んで、超サイヤ人ゴッドや超サイヤ人ゴッド超サイヤ人を超闘神と呼んでいる。

 

 更に述べると超闘神とはユートの上司に当たる日乃森なのはの旦那、日乃森シオンが人間モードから神人モードへ移行した場合の呼び名であり、全くの別物だったりするけど特に問題も無いからと使っていた。

 

 ともあれ、ユートの刀舞術には天之河光輝の武器が完全であったとしても敵わない。

 

「クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! 何故だ! 何故、香織も雫も……鈴でさえも俺から離れていくっ!? お前が洗脳でもしていないとこんな事は有り得ないだろうが! 余りにもおかしくて理不尽過ぎる!」

 

 折れた鉄剣を出鱈目に振り回しながら女々しい事を御丁寧に叫ぶ。

 

「駄々っ子かよ」

 

 然し、そんな魂の絶叫をしている天之河光輝をスンと冷めた瞳で見つめているのは当の話題に挙がっていた雫、それに困った奴だと謂わんばかりに頭を抱えている香織、苦笑いを浮かべるしかない鈴……という感じに三者三様。

 

「まだ言ってるのね」

 

「まさか、私が光輝君に何か想いを抱いているなんて勘違いをしていたなんて」

 

「って言うか、鈴は序でかよ!?」

 

 口が悪くなるけど別に鈴も天之河光輝に想われたい訳では決して無く、寧ろ序ででも口の端に出たのが少し嫌だったらしい。

 

 少し前の鈴なら可も無く不可も無くな態度での表情に一貫していただろうが、ユートの女として【閃姫】に成ってからは無闇矢鱈と自分の名前を出して欲しくは無かったりする。

 

 況してや雫は元からユートに一定以上の好意を持っていたからか、天之河光輝の我侭一杯な科白には苦々しい思いしか抱けなかった。

 

 今更なのだ、雫の天之河光輝への好意なんてのは出会った一ヶ月以内に吹き飛んでいる。

 

「洗脳洗脳また洗脳、洗脳洗脳。本当に光輝……アンタって洗脳が大好きよね」

 

「なっ!? まるで俺が洗脳するのが好きみたいに言うなよ雫!」

 

 言い方が言い方だったからか、天之河光輝こそが洗脳好きに聞こえてしまっていた。

 

「ま、一応だが洗脳系の能力も有るには有るんだけどな」

 

「くっ、矢張り! お前が雫達……」

 

「こんな具合に」

 

 天之河光輝が言い切る前に瞑目しながら右人差し指を伸ばし、某かを頭脳へ向けて放ったら額を突き抜けると脳へと直撃する。

 

「幻朧魔皇拳」

 

 【聖闘士星矢エピソードG】などスピンオフ系作品では教皇専用の技みたいに云われるのだが、はっきり言ってしまうとユートは双子座のサガや双子座のカノンや双子座のアベルや双子座のアスプロスが使っている処しか知らない。

 

 普通に全員が双子座の聖闘士である。

 

 何処ら辺が教皇の技なのかと首を傾げたくなってしまうのも仕方が無かった。

 

 そしてユートも再誕世界では黄金一二宮の一角たる双児宮を預かる双子座の黄金聖闘士として、嘗ての双子座であるサガやカノンやアスプロスやデフテロスなどが使った技を、双子座の黄金聖闘士の嗜みとして扱う事が出来ている。

 

 勿論、幻朧魔皇拳も……だ。

 

「ぐ、ああっ!?」

 

「それが僕の使える洗脳系能力の幻朧魔皇拳だ。自らが味わった気分はどうなんだろうな?」

 

 大抵の人間は、幻朧魔皇拳を受けると脳へ直接的な衝撃を喰らうから苦悶の表情を浮かべるし、激痛でも有るのか苦痛の悲鳴を上げている。

 

 時間が経てば獅子座のアイオリアみたいに安定するのだろうが、明らかに『洗脳されています』と云わんばかりに目が曇っていたのが印象的で、言動も教皇――サガの言いなりとなっていた。

 

 つまりは洗脳されたか否かはだいたい目を視れば判るものなのだ。

 

「命じる、自身の首をその両手で全力全開手加減抜きで絞め付けろ」

 

「う、うう……ウガァァァッ!」

 

 最初こそ僅かに抵抗をしていたらしいのだが、すぐに抵抗らしい抵抗が無くなって天之河光輝の両手が掛かり、正しく手加減など有り得ないくらいの勢いで絞め付け始める。

 

「雫、香織」

 

「な、何?」

 

「何かな、ゆう君……」

 

「理解してるんだろう? 坂上は今現在だと居ないから奴を止める人間も居ない。つまり約束の通り僕は天之河を……殺す」

 

 据わった目で言われるとちょっと怖い。

 

「えっと、そうだね……余り強い言葉を使うと弱く見えちゃうよ? 藍染様も言ってるかな」

 

「見えれば良いさ、それで敵対者が侮ってくれれば其れは万々歳ってやつだろう」

 

 藍染惣右介による日番谷冬獅朗の『殺す』発言への返しを識る香織の科白に、ユートが返答をした言葉は寧ろバッチコイとか言わんばかりのものであり、仮に同じ科白を藍染惣右介から言われても返しは同じであったろう。

 

「あがががが……」

 

 一度はレベルドレインでレベルが1に下がり、もう一度上げても上限が下がって本来の数値には届かなかったとはいえ、筋力値が一〇〇〇は有るのだから絞める握力も謂わば莫迦力のクラス。

 

 この侭では窒息死は免れないというか、握力が強過ぎてボキッと逝ってしまいそうだった。

 

 だけれど、天之河光輝との交流が全く無かったトータス組の【閃姫】達は元より、香織や雫や鈴でさえ『まぁ、仕方が無いかな』という空気。

 

 何度も何度も口を酸っぱくして言い続けていた事だ、『これ以上の邪魔をするならば殺す』のだという事は。

 

 それでも一応の救済策としては、坂上龍太郎が対処をすれば殺さないとも伝えてあった。

 

 つまり、今の天之河光輝が生きていられているのは坂上龍太郎のお陰とも取れる訳なのだけど、そんな彼も未だに試練の最中なのかは窺い知れないが今は居ない。

 

 地球組からして天之河光輝を助ける意志が有る者は最早存在していなかった。

 

 唯一人を除いては。

 

《SCRAP BREAK!》

 

「ドォォォォラァァァァァッ!」

 

 龍のオーラを帯びた右腕で天之河光輝の土手っ腹を殴り飛ばし、更には吹き飛んだのを目掛けて飛び蹴りを喰らわせる仮面ライダークローズチャージな坂上龍太郎。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁああああっ!」

 

 追い討ちを喰らった天之河光輝の吹き飛ぶ事、吹き飛ぶ事……壁へ罅を入れる勢いで叩き付けてしまっていた。

 

「間に合った……間に合ったよな?」

 

 変身を解除した坂上龍太郎はユートの両腕を掴みながら揺すり、頻りに『間に合った』のであると主張をしてくる。

 

「ハァ、間に合った……ね。既に終わらせる心算ではあったんだから間に合っていないと言いたいんだが、仕方が無いか」

 

 溜息を吐きながらも、天之河光輝にとってみれば得難い真友とも云うべき男に敬意を表する。

 

「処でさ、間に合った事にしてやるのは吝かでも無いんだけどな……あれ」

 

「……へ?」

 

「ドラゴンボールじゃないんだから人間があんな風に岩壁へ罅を入れる勢いでぶつかったらさぁ、どう考えてみても致命傷を受けるんじゃと思ってしまうのは間違いか?」

 

「ギャァァァッ! こぉぉきぃぃぃっ! 死ぬなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 まさか、殺さない様に嘆願をしに来た自分自身が死なせ掛けるとは思いもよらず。

 

「こぉぉきぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 揺さぶりながら叫ぶ坂上龍太郎は、それが故に死の淵から真っ逆様に転落しそうだとは気付かず涙を流しながら揺さぶったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 騒動は落ち着きを取り戻した。

 

「オェェェッ!」

 

「うぐぐっ!」

 

 唇を重ねてしまって嘔吐している男が二人居る事を除けば。

 

 勿論だが、別に天之河光輝と坂上龍太郎がゲイに走ったとかでは決して無く、壁にぶつかって死に掛けた天之河光輝に飲み薬な回復薬を零さない様に飲ませる為の人工呼吸みたいな口移し。

 

 ユートとしては別に天之河光輝が死んでも構わなかったし、悲しむなんて事は天地がひっくり返っても有り得なかったのだけれど、坂上龍太郎の男気を無視するのも違う気がして薬を渡した。

 

 但し、振り掛けても効果が無い飲み薬だったから口移しを敢行するしかない代物を。

 

 嫌がらせ以外の何物でも無い。

 

 

「さて、天之河の試練は失敗だとして」

 

「ま、待て! どうしてそうなる?」

 

「如何なる理由が有ろうと虚像に呑まれた瞬間に失格判定に決まってるだろ。この試練は虚像からのあらゆる誘惑や罵詈雑言に耐えるのが骨子だ。呑まれるなんて論外だと最初に教えていたにも拘わらずコレだもんな」

 

「くっ!?」

 

 幻朧魔皇拳を放った際に天之河光輝の内部へと巣くった虚像はズタズタ、相手を強化させずに自らの手で斃すのはもう無理なのだ。

 

 まぁ、強化は構わないけど元が同じ能力なのだから強化させると斃すのが難しくなる。

 

「で、坂上」

 

「俺か?」

 

「試練は己が虚像を討ち破る事だ。それを成してこの場に現れたのか?」

 

「あ、ああ。何だかごちゃごちゃと言ってきていた俺そっくりな奴な。面倒臭かったからちゃちゃっと斃してきたけど?」

 

 坂上龍太郎の言う事には、何だか色々と言って来たのは確かだったけどウザかったし面倒だったからと、仮面ライダークローズチャージに変身をしてさっさと必殺技をかましたらしい。

 

 何だか『ちょっと待てぇぇっ!』と叫んでいたらしいが丸っと無視したとか。

 

(いと哀れ)

 

 そんな訳だから坂上龍太郎はペルソナを得る事が無かった様だ。

 

 元より、雫と香織と鈴がペルソナを得られたのは虚像との会話により、僅かながら感情の芽生えがあったからこそだったから。

 

 会話をしなかった坂上龍太郎の虚像がペルソナ化は成程、しないであろう。

 

 勿論だけど天之河光輝の虚像がペルソナに成るなど間違っても有り得ない、何しろ幻朧魔皇拳を放つと同時にズタズタに引き裂いたのだから。

 

 寧ろ、鳳凰幻魔拳の間違いでは? と言われてもおかしくない。

 

 虚像を引き裂いたから不要な幻朧魔皇拳は解除してやっている。

 

 解除には誰かの死をトリガーに……とは飽く迄も術者以外が解除する場合にあり、術者が意図的に解除する事も普通に出来るのだ。

 

 本来は不要だからやらないだけで。

 

「それじゃ、行こうか……最後の神代魔法を頂戴しに……そして……概念魔法を得る為に」

 

 最早、天之河光輝の言葉など聴いている心算も無かったユートは遂に、“有機的な物質に干渉する”変成魔法を得る為にヴァンドゥル・シュネーが用意した場所へと向かうのだった。

 

 

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 変成魔法取得の噺から次章です。




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最終章:超血戦
第115話:ありふれた概念魔法


 GWを利用して早めに書けました。





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 やって来たのは魔法陣が存在している部屋なのだが、芸術家肌なヴァンドゥル・シュネーらしいというべきか? ユートから視ると可成り素晴らしいものである。

 

 否、女性陣には大好評らしい。

 

 転移の魔法陣から出た先に在ったのは広い空間であり、太い円柱形の氷柱によって支えられている四角形の空間となっていて、その全てが氷雪洞窟の名に決して恥じぬ氷製だった。

 

 此までに見てきた氷鏡とは違って反射率の高い氷では無くて、それは向こうさえ見通せる程に透き通った純水で出来ているかの如く氷壁。

 

「地面に水とはね」

 

「寒いは寒いけど、それでも肌を突き刺すみたいな寒さじゃないのよね。寧ろ涼しい感じ」

 

 雫が試しに触れた水も冷たいけど凍らない程度の水温なのであろう。

 

「観る者を魅了して止まない氷の芸術品って処なんだろうな、本当に素晴らしく美しい作品群だから幾らでも観ていられそうだな」

 

 元々が戦闘型より芸術家肌であったユートであるだけに、ヴァンドゥル・シュネーが製作者であろうこの場所を彩る作品に感嘆の溜息を吐いた.

 

 抑々、知らなかったとはいえ実は婚約者だった狼摩白夜の姿絵を描いたりフィギュアを製作してみたり、何なら他人からフィギュアの製作代行の依頼を受けて造ったりもしていたユートだけに、ある程度以上の芸術品への造詣も深いので眼鏡を掛けていない事からも、ヴァンドゥル・シュネーとは良い話が出来そうである……とはミレディが言っていた科白だ。

 

 それでいて錬成師の能力も持っているのだからオスカー・オルクスとも話が出来る。

 

 出来たらで良いが、あの二人が甦ったなら緩衝材として動いて欲しいくらいだとか。

 

 ユートは今は亡き【解放者】の六人を甦らせる事が可能であり、その為の下準備として魂を封入するデバイス代わりにオスカーのポケットに忍ばせたのがあのプログライズキー、あれに彼らの魂を封入して消失を防ぐ事でそれこそ一万年と二千年だって越えられる。

 

 事実としてユートが『ゼロワン』の名前を名乗ると、特殊なプログラムが作動して何らかの形でプログライズキーを渡してきた。

 

 そしてプログライズキーの内部には渡してきた本人の魂が半分と、他の【解放者】仲間のモノが五分の一ずつ封入されている。

 

 つまりプログライズキーが一つだけでは決して復活はさせられない、残り全てを集める事により初めて【解放者】を文字通り解放が叶うのだ。

 

 今までに集めたプログライズキーの数は五つ、今回の氷雪洞窟でヴァンドゥル・シュネーを主とするプログライズキーが、ユートの手に入る予定なのだから遂に彼らを復活させられる。

 

 中には癖こそ強いものの、ミレディとタイプの違う美女も居るから話をするのが愉しみだ。

 

 尤も、海人族のメイル・メルジーネは過去との邂逅で会っていたりするが……

 

「さて、あれだな」

 

 歩いてきた橋も可愛い彫刻を施した氷製であったし、飛び石状の足場に点在している小島に氷の花々が咲き乱れた庭園みたいな場所。

 

 その先に薄い蒼色で透明度が〇の氷で造られた宮殿が存在しており、この宮殿の前には踏んでも運とも寸とも云わない精緻な魔法陣が在る。

 

 巨大な両開き式の扉には雪の結晶を模していると思しき紋章が、左右の扉に一枚絵の如く彫り込まれており、その紋章はオルクス大迷宮の深奥にて見付けた本に載っていたヴァンドゥル・シュネーのシンボルだった。

 

「すんなり開いたな。まぁ、不倫しまくりとかが最近になって入ったんだから当然か」

 

「不倫しまくり?」

 

 首を傾げる坂上龍太郎。

 

「フリード・バクアーでしょ」

 

「ああ、そうだったな」

 

 余り覚える気が無さそうだが、一応曲がり形にも覚えて貰っている天之河光輝はマシな方か。

 

 そういえば以前にも同じ名前の男の名前を忘れまくっていた筈である。

 

「ふーん、これはオスカーの住居をド派手にした感じかもな? オスカー・オルクスは機能美を、ヴァンドゥル・シュネーは芸術美をそれぞれ追求するタイプだったんだろうな」

 

 ドラゴンレーダーの如く羅針盤を使いながら進んでいく一行、宮殿内部で一階の正面通路の奥へと進むと重厚な扉が鎮座していた。

 

「着いたみたいだな」

 

 扉を開けると目標の魔法陣が描かれているのが遠目からも判る。

 

「天之河以外は魔法陣に」

 

「な、何で俺以外なんだ!?」

 

「お前が失格なのは判り切っているからに決まっているだろう。まさか数々の失敗と虚像に取り込まれる大失態を繰り返して神代魔法が得られるなんて、そんな莫迦でも思わない幻想に取り憑かれてはいないよな?」

 

「くっ! やってみなきゃ判らないだろうが!」

 

 天之河光輝がいの一番に魔法陣へと入るのだが瞬時に絶望的な表情を浮かべた。

 

「だろうな」

 

 肩を竦めてユートが入り、それを見ていた一行も順番に魔法陣へと入っていく。

 

 大迷宮での行動を精査された上で攻略を認められた者の頭に直接、神代魔法の術式が刻み込まれていくのはいつもながら慣れない一行。

 

 ユートを始めとして天之河光輝を除く全員が、神代魔法の一つ“変成魔法”を手に入れた。

 

 天之河光輝を除く……これは重要且つ当然というべき事象であろう。

 

 坂上龍太郎と鈴も無事に手に入れたらしくて、ホッとした表情で胸を撫で下ろしている。

 

「何故だ、何故なんだ……」

 

 そして未だに絶望的な表情でぶつくさと囀っているのが天之河光輝、ユートからしたら自業自得でしかないので憐れむ気持ちすら持たない。

 

「……ぎぃぃぃっ!? あ、嗚呼っ!」

 

「あ、くぅぅぅっ!」

 

「イヤァァァァァァァッ!?」

 

 変成魔法を取得して直ぐ、ユエと雫と香織の三人が苦悶の表情を浮かべながらもがき苦しむ。

 

 その姿は【ペルソナ5】に於けるペルソナ覚醒の様にも見えるが、勿論だけどこの事象はそんなものでは決して無かった。

 

「……」

 

 ユートはそんな三人を眺めながらギリリリッと奥歯を噛み締めている。

 

「雫? 香織? それにユエさん?」

 

 天之河光輝がオロオロしていたが、触って撫でようとでもしたのかパシンッと手を叩かれた……選りにも選って穏健な雫にだ。

 

「し、雫?」

 

「さ、わらないで……くれる?」

 

 脂汗を流しながら言う雫の瞳は据わっていて、明らかに不機嫌全開といった体である。

 

 既にユートの女である事を自覚し納得して寧ろ悦びを以て接している雫からしたら、天之河光輝の行動を許容するなんて一〇〇%有り得ない。

 

 元々、香織にとってのハジメと同じレベルでの好意が雫にはユートに対して有ったのを、半ば無理矢理に近かったとはいえセ○クスをしたのだから外面的には怒りを覚えながら、内心では可成りドキドキと胸を高鳴らせていたくらいだ。

 

 実は香織と愛子先生と三人で一番に蕩けたのは雫であり、ユエとの百合な行為もユートに命じられるが侭に受け容れたのも実に早かった。

 

 抑々にして怒りを感じたのも自分だけでなく、香織や愛子先生まで標的だったから嫉妬心からに過ぎなかったりするが、何度か抱かれて思った事は――『香織と愛ちゃん先生には悪いけど助かったかも』という、独りきりでは決して耐えられないであろうユートの精力である。

 

 尚、ユエは固有魔法の再生で肉体的にも精神的にも回復が可能ではあるのだけれど、雫達より遅いだけで普通に気絶させられてしまっていた。

 

「ふむ、主殿はどうやらその様子であると三人の異変に心当たりが?」

 

「正確には三人じゃない、四人……だ」

 

「四人とな? 否、そうか! つまりは痛みの大小は在れど主殿も異変の真っ只中なのじゃな」

 

「正解だ、ティオ」

 

 現在、ユートも頭痛の真っ最中で奥歯を噛み締める事で耐えていた……逆に云えばそのくらいでも耐えられる程度の痛みという事。

 

「そうなると原因は神代魔法じゃろうな。主殿とユエ達に共通しておって、妾達とは違う点が有るとすればそれしか考えられまいて。何より神代魔法たる変成魔法を得て直ぐの異変じゃしのぅ」

 

「それも正解。流石はティオ、さすティオだね」

 

「さすティオって何じゃ?」

 

「ああ、前に行った世界で近親相姦してもおかしくないくらい兄を好きな妹が居てな。その子が偶に『流石は御兄様です』とか……殆んど言ってない筈なんだが、何故かそのフレーズが頭にこびり付いていてね。『さすオニ』って感じだった」

 

「ほう、別の世界とは……妾も是非聴いてみたい話ではあるな」

 

 そんな彼女の気持ちをユートは勿論ながら余り理解はしてやれないが、実はユートは既に違うとはいえ精神的に実妹な子を孕ませている。

 

 緒方白亜。

 

 緒方宗家の次期宗主であり、ユートからしたら同じ両親から生まれた完全なる実妹。

 

 畑違いや種違いでは決して無い。

 

 つまり浮気や不倫によって産まれた挙げ句の果てに、何年間も別々に暮らしていたとか有りがちな実の兄妹による近親恋愛とかでは無かった。

 

 ユート自身はどうして其処まで? と思っていたのだが、白亜からしたら『愛する兄さん』だったからユートが死んだ時はそりゃ酷かったのだと後に前世の祖父から聴いている。

 

 はっきり云うと彼女には孕ませた精神的な実妹の白亜の影を視た。

 

 とはいえ、転生をしたからには血の繋がりは無くなって……はいなかったけど最早、四親等処の話では無いくらいに離れた血縁でしかない。

 

 実の話、ユートの転生先の先祖が緒方家の人間が妙法村正と共にハルケギニアへ召喚された人物であり、二百年は前のとはいっても一応ながら血の繋がりは有ったのである。

 

 尤も、新たに再誕世界へ転生してからは血の繋がりも全く無くなってしまったが……

 

 肉体の血の繋がりより濃いしは絆の繋がり、【ペルソナ】世界にてコミュニティーやコープから学んだ事柄、つまりはそういう事だった。

 

 それは扨置き、話が横に逸れたので取り敢えずは元に軌道修正をする。

 

「僕達に起きているのは追加情報の書き込みだ。七つ全ての神代魔法を得ていた場合、どの大迷宮の魔法陣でも起きる様にされていたんだろうね。その追加情報とは七つの神代魔法の奥義と真奥、そしていよいよ概念魔法に関しての情報だ」

 

「概念魔法……か。これで帰れるんだ」

 

 鈴は途中参加だったからどうやっても得られない概念魔法、とはいってみてもユートを始めとして合計で四人もが得られるなら問題も無い。

 

「うん? 帰るだけならいつでも帰れたぞ」

 

「ふぇ?」

 

「抑々にしてどうやって僕の衛星型母艦(ダイコンボイ)が来れたんだよ? 僕を基点に座標が判ったからに他ならない。とはいえ、下手に帰ると日本政府に捕縛されたりマスゴミに囲まれたり、下手な受け答えをしたら吊し上げも待った無しだったから帰していないってだけだ。誰かに話した気はするけどな」

 

「そうだったんだ」

 

 どうやら理解が及んで無かったらしい。

 

 尚、天之河光輝はこの会話に全く以て介入をしていないけど、それは変成魔法を()()()()()()()()手に入れたのに自分は無理だったという事に、無様を感じて凄まじい精神的衝撃を受けてしまって未だに茫然自失としているから。

 

 親友だとか言ってはいても結局、天之河光輝は坂上龍太郎を自分の下に視ていたのである。

 

 無意識に……だろうけど。

 

 然もないと『帰れた筈』なんてワードを聴いた瞬間に又候、間違い無くギャーギャーと喚き散らしてきた事は請け合いだった。

 

 天之河光輝……頭は良い()()の癖に直情的に過ぎて活かされない男? まぁ、汚○ン○○がお亡くなりになっているから多少はね。

 

 ユートの言った事は間違いでは無い、何故なら正規なα世界線では実際に政府やマスゴミにより行われた事だからだ。

 

 α世界線のハジメは魔王様だからどうとでも出来たというだけでしかない。

 

 尚、ユートも方向性が似たり寄ったりというか神殺しの魔王(カンピオーネ)なのは変わらない為、矢張り政府もマスゴミもどうとでも出来てしまうだろう。

 

 というより、ユートは既に政府高官は疎か“いと高きなる方々”にすら顔が利く。

 

 下手に藪を突いては来まい。

 

 どうやって? とか訊かれたら『若さってのは振り向かない事なんだ』と答えよう。

 

 莫迦な高官とかが来たら? とか訊かれたら、その時は『惑星規模の超々大型な人型機動兵器で地球を殴ったらどうなるかな?』と答えて上げるが世の情けかも知れない。

 

 全高が九万kmにも及ぶユニクロンにて地球をぶん殴る、日本に直撃をしたら間違い無く日本沈没では済まない被害が予想される。

 

 少なくとも隣の大陸辺りは沈没するだろうし、少し離れた大陸も沈没はしなくても全体的に海水による水浸し、きっと地球人全員が全く意図しない海水浴をする羽目に陥った上で何億人規模での死者行方不明者が出る筈だ。

 

 そうなれば勿論だけど大量殺戮者に成ってしまうのだろうが、ユートの視点から視たらこの世界の地球人が喧嘩を売ってきたから買った程度。

 

 それに実際にそんな非道をした事も無い、出来る事とやる事はまた別なのだから。

 

 但し、本気で喧嘩を売られたら戦争となっての大量殺戮は必至だろうけど。

 

「あれ? じゃあ何で神代魔法をコンプリートしちゃったの?」

 

「ゲーマーのサガというか、集め始めたら最後まで蒐集をしておきたくなるんだよ。それに神代魔法は僕の使える能力の下位互換だけど、それでも自転車の補助輪程度には使えるからな」

 

「自転車の補助輪って……」

 

 余りの酷評に頬が引き攣る。

 

「さて、折角だから概念魔法をきちんと仕上げておきたいな。既に頭ん中には使い方から何まで、全部入っているんだし使わないと損だろ」

 

「新しい玩具を与えられたら子供みたいよね? そういう処を見せられると普通に私達と何ら変わらないって思えるわね」

 

 痛みから脱して失っていた意識も取り戻した雫が苦笑いをしている。

 

「変成魔法の極意を見せようか?」

 

「極意? って、優斗も身に付けたばかりの魔法を行き成り極意って……」

 

「言ったろ? 神代魔法は僕の使える能力からしたら下位互換に過ぎない、良くて自転車の補助輪程度の扱いなんだって……さ」

 

「言っていたけど……」

 

「その意味を確認させてやるよ」

 

 ユートが取り出したのは【DQダイの大冒険】に登場する“魔法の筒”と呼ばれる魔導具であり、『イルイル』で生物を筒に容れて『デルパ』により筒から出せる代物。

 

「デルパ!」

 

 ボンッという音を響かせながら煙が上がって、その煙が落ち着くと其処に顕れたのは見た目には完全にロボット、人型をした何かが鎧を纏って剣を佩いている感じの存在だった。

 

「お呼びにより参上致しました陛下」

 

 騎士の如くユートに礼を尽くす。

 

「これからちょっとした実験を行う、その間は無防備になるだろうから守備を頼みたい」

 

「御意の侭に」

 

 如くというより騎士だった。

 

「えっと、騎士ガンダム?」

 

「む? 陛下の新しい奥方ですか? 如何にも、私の名前はガンダム。騎士ガンダムです」

 

「新しい奥方って……まぁ、そうなるのかしら。何で騎士ガンダム? 変成魔法の極意はどうなったのよ?」

 

「変成魔法? 基本的に私達ガンダム族は剣士の一族、魔法の使い手も居ない訳ではありませんが私には使えません」

 

「あ、いや……優斗がね?」

 

「ああ、そういう意味でしたか」

 

 納得する騎士ガンダム。

 

 尚、法術師ニューガンダムなどの魔法使い系なガンダムも存在しているのは確かだ。

 

「ねぇ、変成魔法の極意は何処に往ったのよ? どう見ても騎士ガンダムって生き物じゃないわ」

 

「雫は何を言ってるんだ? 魔法の筒に入るのは生命体だけだぞ」

 

「……へ?」

 

「この騎士ガンダムは勿論だけどスダ・ドアカワールドで産まれた本物じゃない。だけど間違い無く変成魔法と似た能力で生み出した生命体だ」

 

「マジに?」

 

「マジだ。金属生命体ってのならトランスフォーマーを解体してノウハウはあったし、ユーキ……僕のハルケギニアでの義妹で【閃姫】でもあるんだが、彼女が再転生した世界で一種の珪素系生物(シリコニアン)を解体した事もあるからな」

 

 クスクスと黒い嗤いをするユートに雫だけでなくて、他の【閃姫】や坂上龍太郎や天之河光輝や更には騎士ガンダムまでゾクリと怖気を感じた。

 

 ユーキが天宮祐希――産まれた先が姓を持たない一族だったが、外での名乗り用に使われている姓が天宮だった――として再転生をした世界というのは、“人類に敵対的な地球外起源種”と呼称される存在がワラワラと溢れ返る場所。

 

 彼女の要請で九州に上陸して京都までもを蹂躙しようとしていた存在から、僅か数名の女の子を護る為に見た目には【機動戦士ガンダムSEED DSTINY】のストライクフリーダムガンダムだが、一応は戦術機として呼ばれるその機体に乗って先ずは大活躍をした。

 

 因みに、ユーキ本人は違う場所でインフィニットジャスティスガンダムにて動いていたらしいのだが、はぐらかされて実際に何をやらかしていたのかは聴かされていない。

 

 英語な名前だけど日本の戦術機として頭の悪い暴走族みたいな当て字で書かれるが、性能としては戦術機という意味で視れば異次元の性能を誇る機体であり、ユートが普段使う機体に比べてみると二段か三段は下回る性能と成っている。

 

 詳細は兎も角、原典で云うと“桜花作戦”に当たる甲一号作戦――喀什ハイヴ攻略で重頭脳級から得た知識を基にシリコニアンの本星を特定化し、其処で()()()()()()()()生命体とは認められない存在を捕獲、解体をしてその生命の秘密を詳らかにしてやったのだ。

 

 そう、奴らが造った作業用重機たる地球人類の呼称でBETAから視た地球人が生命体と認識されないなら、地球人類から視たBETAを送り出していた連中も又生命体では有り得ないという暴論で。

 

「騎士ガンダムはバーサル騎士ガンダムに成れるから割と強いぞ」

 

「エヒトルジュエの使徒と比べたら?」

 

「一対一限定で空さえ飛べれば騎士ガンダムの姿でも勝てるし、バーサル騎士ガンダムの姿ならば言わずもがなというべきだろうね」

 

「空……ね」

 

「因みにウチの騎士ガンダム達は飛べる」

 

「察したわ」

 

 人間族に比べて頑強なるMS族、しかもそれがガンダム族ともなれば戦闘力は一段も二段も上、エヒトルジュエの使徒も単純にステータス値は高いけど、騎士ガンダムなら飛べさえすれば敗ける事など先ずあるまい。

 

「そういえば陛下って?」

 

「うん? 新しい奥方様は御存知ではいらっしゃらなかったのですか?」

 

「知ってるぞ、僕が真皇と名乗るアシュリアーナ真皇国の国主なのは」

 

「あ、そういう意味ね……って言う事は彼も国に取り込まれてるの?」

 

 ユートの答えに納得した雫が問う。

 

「キングガンダムⅡ世が治めるスダ・ドアカ領国ラクロア領都の騎士だからな」

 

 別にⅠ世が存在する訳では無く、単純にキングガンダムⅡ世として創造をしただけである。

 

 というより、ユートはキングガンダムⅠ世自体をキングガンダムⅡ世の、【SDガンダム外伝 騎士ガンダム物語】の円卓の騎士に於ける噺でしか識らない。

 

「じゃ、頼んだぞ」

 

「心得ました」

 

 ユートは部屋の壁の一部が溶けて、水滴みたいな形に氷っぽい青みが掛かった透明感溢れた石のペンダント、この内部にヴァンドゥル・シュネーの紋章が刻み込まれている物が現れたので所謂、攻略の証だろうからと回収をして部屋を出た。

 

 一人になったユートは座禅を組むと瞑目して、概念魔法の知識を頭に思い浮かべる。

 

 概念魔法とは“極限の意志”が必須となる……とされており、余りにもフワッとしたモノでしかないから却って難しく考えてしまうだろう。

 

 だけどユートは抑々にして【創成】という技能を持ち、極限の意志というならば必要に駆られてよく使っていたから理解も早い。

 

 護衛に置いたあの騎士ガンダムとて、その肉体と魂魄を創造するのに可成り集中していた。

 

 極限の意志……ならばやってやる!

 

(抑々の話が、概念の生成は普通にやっていた。だからこれは何て事も無い作業に過ぎん)

 

 選択をしたのは生命体の創造。

 

 だけど問題が在った、それはあのプログライズキーには六人分の魂が宿っている筈なのだけど、冥王として改めて調べてみたら何故か人数が多い気がしたのだ。

 

「っと、その前にやるべきをやるか」

 

《ZEROーONE DRIVER!》

 

 シュルルッと大きなバックルを持つベルトを腰に巻いたユートは、ポチッとなと謂わんばかりにプログライズキーのスターターを押してやる。

 

《VANDUR SCHNEE!》

 

 それをオーソライザーに翳す。

 

《AUTHORIZE!》

 

 変身をする訳でも無いから無言でプログライズキーをドライバーに装填。

 

《PROGRIZE! VANDUR SCHNEE!》

 

 これで全てのプログライズキーから魂を保存する事に成功、そして矢張りと云うべきか魂魄の数が明らかに八人分は存在していた。

 

 ミレディを除いて【解放者】は六人の筈なのに魂魄は八人、つまり本来の人数より二人分が多く入っていた事になる。

 

「恐らくは【解放者】と近しい人間」

 

 概念の創製に付与するべきアイテム、概念魔法を創ったらそれを扱う道具に付与するのは魔導具を造る上で当然の事。

 

 ユートは八人の魂にアクセスし、そのアストラル・マトリックスを読み解いていった。

 

「オスカー・オルクス」

 

 最初に読み解いたのは稀代の錬成師オスカー・オルクス、ユートは創り上げたばかりの概念魔法を付与した魔導具に情報を記録する。

 

「リューティリス・ハルツィナ」

 

 森人族にして稀代のドMなリューティリス・ハルツィナ、被虐性を発揮しなければ清楚な美女だというのに正に残念美人。

 

「ヴァンドゥル・シュネー」

 

 稀代の芸術家にして魔人族と氷竜人のハーフ、単なる魔人族では無く魔王に連なる血筋。

 

「ナイズ・グリューエン」

 

 一種の苦労人、稀代のロリ野郎的な可成り若い奥さんを貰ってしまって仲間に弄られたとか……スーシャの妹だったから寧ろ出逢った当時は普通に幼い。

 

「ラウス・バーン」

 

 本来は聖光教会という今現在の聖教教会の前身に所属していた【解放者】の宿敵、彼の魂魄魔法が勇者(笑)の持つ限界突破のオリジンであるが、弄られた意味で稀代のスキンヘッド。

 

「メイル・メルジーネ」

 

 ミュウと同じ海人族で稀代のドS、愛する妹の為に可成りはっちゃけたらしいのはミュウを妹にするとか言い出した辺り窺い知れた。

 

「ユンファ・リブ・ドゥミバル」

 

 多かった魂の一つはスーシャ・リブ・ドゥミバルの実の妹であり、見事にナイズ・グリューエンの妻と成った女の子であったという。

 

「ディーネ・デヴォルト」

 

 海人族と人間族のハーフらしいからメイル・メルジーネの関係者か? としか思えないが、姓の違いは種違いという事なのかも知れない。

 

 畑――母親が海人族なのだろう。

 

 概念魔法を篭める為の道具は小さな水晶体で、その篭めた概念は“情報こそは力故に(お前の全てを識る)”といったものである。

 

 読み解きて記録した魂の情報を八人分、残るは魂の器となるべき肉体の創造。

 

「流石に時間が要る。ミレディの時も実際に可成りの時間を圧縮していたしな」

 

 ミレディ一人の時とは違って八人ともなれば、矢張り落ち着いて作業が出来る状況であるのが望ましいし、ポッドが在った方が出来上がった肉体を放って置くよりも良い。

 

 立ち上がったユートが元の魔法陣が存在している部屋に戻ると……

 

「あ、優斗」

 

「うう……」

 

「はう」

 

「……ん」

 

「ですぅ」

 

「フム」

 

 どうにも雫、香織、鈴、ユエ、シア、ティオという【閃姫】達の様子がおかしかった。

 

「で、どうしたんだ?」

 

 よく見れば坂上龍太郎や天之河光輝でさえ少しばかり様子がおかしく、何とも云えない表情となってユートの方を見てきている。

 

「実は……ね、貴方が一人になってから暫くして急に私達が居たこの部屋で映像が流れたの」

 

「映像? 何のだ? ヴァンドゥル・シュネーが遺していた何かだったのか?」

 

「ううん、多分だけど違うわ。その映像ってね、優斗の半生……半生? 兎に角だけど貴方が生きてきた人生そのものを圧縮して流された感じだったのよ」

 

「ハァ? 否、若しかして!」

 

「何か心当たりがあるの?」

 

 反応から察したらしい雫。

 

「さっき、概念魔法を使った際に極限の意志ってのを極めてみた訳だが、恐らくはそれが外部へと漏れて僕の記憶を映像化したんだろう」

 

 そしてα世界線でも同じ事が起きたのであろうとユートは察した。

 

(恐らくだけど、彼方側の南雲ハジメも似た感じで記憶を流出させたんだろうな。それがどっから何処までかは知らんけどね)

 

 単純に答えを言えば奈落に落ちてからの凄絶なる記憶であるが、ユートの場合は造る概念魔法の形が異なったから源流だとも云える記憶として、その殆んど一から百までが流出をしていたのだ。

 

「ね、結局さ、神代魔法って何なのかな? シズシズやカオリンやユエさんから訊いてはみたけどいまいち解り難いんだよ」

 

 雫は理解が足りない、香織とユエは説明が出来ないタイプ、確かに訊いても理解は出来まい。

 

「先程、手に入れた変成魔法は有機物に干渉をする魔法だ。人間を始めとする生物を構成する物質の殆んどが有機物だな」

 

「有機物」

 

「魔物を従えたり、野生生物を魔物化したりするのはその一端に過ぎない。更には元となる生命に魔物の特徴を切り貼りする事で特殊なキメラを造り出す事も可能だ。例えば人間にウサギの魔物の特徴を組み込んで兎人族、人間に蜥蜴類か純粋な竜の特徴を組み込んで竜人族とかな」

 

「そ、それは……」

 

「前にも言った様にエヒトルジュエはこうやって亜人族や魔人族や竜人族や吸血鬼族を造った」

 

 そうやって人間を改造したのだ。

 

 その人間の出所は別の大陸、何万年も前だから技術も碌に無い原人レベルだったが故にか病気や怪我などの治療も出来ず、出産も我が子を死なせる事がどれだけ多かった事かと考えれば、今現在の地球を識る者からすれば驚く程に人類は少なかった筈である。

 

 よって、今のトータスの別大陸には人間なんて一人も居なくなっていた。

 

「その気になればユエの背丈を伸ばして胸を増量して腰を引き締めて、大人な女性の姿に変態させる事だって可能だな」

 

 それこそ、そういう魔導具を造って『ピピルマピピルマプリリンパ』とか『時の記憶に想いを篭めて』など口走ればあら不思議、大人の女性へと華麗に変身をしてしまうであろう。

 

「そういう意味ではティオの竜化という種族特有の魔法は変成魔法が源流なんだろうね」

 

「ほう、妾達の竜化の源流とな」

 

 ティオが何だか感心していた。

 

「実際、アニメや特撮なんかで人間の姿から魔物みたいな姿に成るなんていうのも変成魔法で再現が出来るだろうな」

 

 これに関しては香織と雫と鈴がピキーンと反応を示している。

 

「オルクス大迷宮で得た生成魔法は変成魔法と逆に無機物へと干渉する魔法だね」

 

「今度は無機物なんだ」

 

「単純な使い方としては鉱物に魔法を付与するという感じだけど、実際には水や塩など無機物であれば何にでも干渉が出来る。そうだな、例えばだけど短剣を伸ばして長剣に換えたりみたいな使い方も出来るんじゃないかな。正しく僕やハジメが使う錬成魔法の源流って訳だよ」

 

 他にも再生魔法は時間に干渉する魔法であり、空間魔法は境界に干渉する魔法、魂魄魔法であれば生物の持つ非物質に干渉する魔法、重力魔法は星のエネルギーに干渉する魔法、そして昇華魔法が情報に干渉をする魔法とされていた。

 

「大きくて根源へと干渉する、それが神代魔法と呼ばれる七つの魔法という事だね」

 

 説明を受けた鈴だけで無く、同じく概念魔法を使える筈の香織と雫とユエも未だ理解が追い付かなかった様で、まるで学校の授業でも聞くみたいに確りと頭に入れていく。

 

 どれも現代の魔法ではどうにも成らないくらいには凄まじく、生成魔法だけ見ても恐らく現代の魔法を使う人間が百人規模で居ても敵うまい。

 

 事実としてオスカー・オルクスは聖光教会から放たれた刺客を、千切っては投げ千切っては投げ無傷でぶちのめしていたとミレディから聴いた。

 

「さて、取り敢えずもう急ぐ理由も無いんだから少し休もうか」

 

「休むの?」

 

 雫が首を傾げる。

 

「神代魔法はコンプリートしたし、僕は概念魔法も修得した。それにさっきも話した通りティオの竜化は変成魔法の劣化派生品、ならば本物の変成魔法で強化も叶うだろうからね」

 

「成程の、確かに少し時間は欲しい」

 

 それにユートや雫みたいにあの空間で休みつつイチャイチャと精神的なリフレッシュをしていたなら兎も角、あの時にまだ合流をしていなかったメンバーは疲労も抜けてはいない。

 

 という訳で、宮殿内に存在する生活空間の中で一部屋を天之河光輝と坂上龍太郎に与えてやり、ユートと【閃姫】メンバーは別の部屋でたっぷりと心身――肉体的には疲れるけど――をリフレッシュするべく例の空間に入る。

 

 騎士ガンダムは部屋の前に陣取り、間違っても天之河光輝が部屋に突入しない様に見張った。

 

「此処が僕のパレスみたいな空間だ」

 

「フォォォッ! こんな場所を物質と精神の狭間に持ってたなんて!?」

 

 秘密基地みたいで鈴が盛り上がる。

 

「あれ、割と早く来たね」

 

「マグネ、早速で悪いんだけど御飯と風呂と床の準備を頼めるか?」

 

「はーい」

 

 マグネシグネはナトリイトリやネオンセノンを伴い、それぞれで食事や風呂炊きや寝所の準備に勤しみ始めた。

 

「それじゃ、各々で御飯が出来るまで修練でもしておこうか」

 

 ユートの言葉に頷く【閃姫】達。

 

 そして外では一日が経過するだけの時間を例の個人的なパレスっぽい空間で過ごし、つまり内部では実に一年間が経過をしているのだが……

 

「そろそろ行こうか」

 

 修業を熟しつつユートに抱かれ、百合も堪能をして大きく強化もされた【閃姫】メンバー。

 

 というか、代理人形たるナトリイトリ、マグネシグネ、ネオンセノンだけで無く【うたわれるもの】な世界から連れてきた何人か、勿論ではあるが【閃姫】メンバーも含め大乱交をしている。

 

 実際、平行世界を応用すれば同じ人間なのに違う存在というのはありふれており、それこそ縦軸が違う若いA存在と老いたA存在が同じ時間へと顕れる事すらあった。

 

 あの世界では“織代”により引かれた“客人”が顕れたり、別の理由――ユカウラが避難させたなど――で顕れたりするから本当にある事だ。

 

 例えばヤマト國でキウルと出逢ったシノノン、彼方側でキウルと逢う前にユートと出逢ってしまったシノノン、それは果たして同じ感情を本当に抱くものであろうか?

 

 同じヒトであるからには同じ感情を持つかも知れないが、その感情を同じ相手に……とは限らないのだからその時点で破綻している。

 

 兄を亡くして健康に成り彼方側へと渡って数年を経たユズハ、そうなる前に兄と共に彼方側へと渡ったユズハ……考え方も大きく変わったもの。

 

 そんな訳で、此処に居る【うたわれるもの】の世界から来た者の中には、元はヘルシャー帝国にして現トゥスクル皇國に居る者と見た目には同じヒトが居たりもする。

 

 それに【うたわれるもの】の世界の亜人というのは、普通の人間と比べて遥かに強靭なる肉体を持って生まれてくるから、修業を手伝って貰うという意味でも充分過ぎる程に役立つ。

 

 特に戦闘中毒(バトルジャンキー)なアトゥイとかは目を爛々(らんらん)に輝かせながら、雫達との打ち合いを臨んでいるのだからWINーWINと云えるかも知れない。

 

 こうして遣るべき事とヤりたい事をすっかりとスッキリと済ませ、氷雪洞窟から外へと離脱をするべく宮殿前の魔法陣へと向かうのだった。

 

 

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 氷雪洞窟クリア前に新章なのはクリア後は原典と同じく展開が割と怒涛化する為です。



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第116話:ありふれた新戦力

 時間が掛かったな~。





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 ショートカット、それは基本的にどの大迷宮にも存在していたものではあるが、実は色々と癖が強いものばかりだったのも確か。

 

 尚、ミレディ本人から聴いたライセン大迷宮のショートカットは何とまるで水洗トイレの如く流すモノだったとか。

 

 だけど最早、問題点はそんな大迷宮のショートカットの造りになど有りはしない。

 

 氷竜に乗って優雅な脱出をしたユート一行ではあったのだが、その先に一行を待ち構えていたの総大将フリード・バグアーと今一人の魔人族の男とエヒトルジュエの使徒が約五百体もの群。

 

 恵里"から聴いていた情報によると氷雪洞窟から出るなり、フリード・バグアーとエヒトルジュエの使徒が居るのは織り込み済み。

 

 問題なのはα世界線では恵里"その人こそ待ち構えていた人員だったけど、このβ世界線に於いての中村恵里はハジメの恋人となり大迷宮巡りに付き合っており、当然の話しながらこの場に現れたりする筈も無かったという事。

 

 その代役があの魔人族の男だろうか?

 

「プリン・バクバクか!」

 

「誰が甘味を食べる人だ!」

 

 プリンなんてこのトータスには存在しない筈なのに、何らかの電波でも受け取ってしまったのかフリード・バグアーはツッコミを入れた。

 

「私の名はフリード・バグアー! ガーランドの軍事を偉大なる魔王様より預かりし者!」

 

 取り敢えず変な覚え方をされていたのが衝撃的だったのか、フリード・バグアーは確りと自分の名前を名乗って来る。

 

「で、決着でも着けに来たのか?」

 

「逸るなイレギュラー!」

 

(イレギュラーねぇ)

 

 本来ならこの称号はハジメが受けていたモノ、然しながらそのハジメは現在まで各大迷宮巡りを恋人と共にしており、エヒトルジュエの使徒とは疎か魔人族とすら碌すっぽ闘っていないから特に目の敵にはされていない。

 

 寧ろノイントを斃しているユートこそが連中からしたら逸脱者、とはいっても目の前に現れたからには何らかの勝算が有っての事か?

 

 フリード・バグアーともう一人の魔人族も堂々とした態度で立っていた。

 

 ユートが逸脱者とか呼ばれたが、中二病真っ盛りでも無いのにユートの本来のステータスには、正しく中二病でしか有り得ないくらいには痛々しい称号がデカデカと書かれている。

 

 “千の希貌と無の絶貌の反英雄”、再誕世界へと転生したばかりの頃には未だ“千貌”という能力に則した称号だったのが、それはいつの頃からだったろうか? 【うたわれるもの】か【ファイアーエムブレム】か判らないが、何時しかその称号が今現在のものへと変化を遂げていた。

 

 そして自らを人間としておきながら感覚的には第十感覚――テンセンシズに刹那の刻のみ覚醒、第九感覚――ナインセンシズにも同時に目覚めていたユートは、人種的には到達者と超越者を同時に取得していたから実は神を名乗ってもおかしくないし、何なら【ドラゴンボール】な世界に於いて絶望の未来のサイヤ人ハーフ――トランクスが超サイヤ人に変身したのを“智慧の瞳”で視た事で超化も可能となり、同時に赤い髪の毛や青い髪の毛の超神化すら可能に成っている。

 

 後付け……もとい、新設定としてはサイヤ人のS細胞が超化には必須となっているが、ユートのソレが似て非なるモノなのは間違い無い。

 

 津名魅と出逢って光鷹翼を取得したのもそうだったが、視ただけである程度の再現という能力は何も視ない侭だと使えないハズレなスキルみたいだったのに、視てしまえばそれが何かにもよるが大概にチートだと云えるであろう。

 

 何処ぞの追放系覚醒ラノベ辺りに疑似転生をしてもやっていけそうだ。

 

 云えば、ユートが封印を解除したなら最終的に人種としては超越闘神にまで変化をする訳だし、逸脱者(イレギュラー)? 何を甘い事をという話だった。

 

 この世界や元の世界――と言っても【ありふれた職業で世界最強】の地球を意味しているけど、に於ける神の定義は判らないがユートの認識では恒星間航行技術を持った異星人や異次元生命体や未来人ですら時代によっては神扱いとなる訳で、他に自然に対する畏怖や【天地無用! 魎皇鬼】に登場する津名魅みたいな存在も然る事ながら、似た様な高位次元知性体という存在も神として数えられている。

 

 そして低位ではあるものの“到達者”も神として数えても良い為、ユートからしたら偽神でしかないエヒトルジュエも実は一応ながら神を名乗ってもおかしいものではない。

 

 尚、ユートを転生させた日乃森なのはも到達者というレベルでしか無かったが、現在は超越者としてのレベルにまで至っているのだとか。

 

 それでも転生神の真似事が出来たのは夫である日乃森シオンの加護からである。

 

「で、ブリブリ・バカマルダシだったっけか? 逸るなとか何とか……」

 

「誰がブリブリだ!」

 

 未だに覚える気が無いらしいが、流石に話が進まないから雫が声を掛けてきた。

 

「優斗、話が全く進まないわ。御願いだから名前をさっさと覚えてくれないかしら?」

 

「判ったよ……フライド……」

 

「フリード・バグアーだ!」

 

「フリード・バグアーね」

 

 漸く覚えたのか間違い無く返す。

 

 とはいえ、話の腰を折りまくられたからであろうがフリード・バグアーは額に青筋を浮かべて、隣の魔人族からしたらいつ上司が爆発してしまうか気が気でない。

 

「うん? そういえば彼奴が確かそんな名前だったかな……フリード……センズリ?」

 

「何でよ!?」

 

 乙女……では無いけど年頃な女の子の前で言うには不適切な科白に雫が叫んだ。

 

 正しくはフリード・セルゼンである。

 

「で、結局は何だったか?」

 

「くっ、貴様に我らが魔国ガーランドの王である魔王陛下が御会いになると云う。栄誉在る事と心得て大人しく付いて来るが良い」

 

「は? 嫌に決まってるだろう。何だって態々、アウェイに行く必要があるんだよ」

 

「ふん、そんな事を言って良いのか? コイツを見てみるが良い」

 

 パチンと指を鳴らすと空間に映像が映し出されており、その向こう側には海人族が魔人族により捕らえられているのが判る。

 

 その中には幼い海人族の子供が何人も居るし、母親に抱かれて恐怖を押し殺している様だ。

 

 そして矢張りというか、レミアとミュウ母娘の二人もそんな海人族の内部に居た。

 

「エリセンか」

 

「そうだ。イレギュラー、貴様があの魚女と共に在った事の調べは付いているぞ!」

 

 ドヤ顔で言ってくるフリード・バグアーに対してユートはスンと冷めた表情、いつの間にか目覚めていた寧ろ無関係極まりない天之河光輝の方が

喧しいくらいである。

 

「魔人族、人質とは汚いぞ!」

 

 ギャアギャアと騒ぎ立てる天之河光輝を煩わしく感じつつ、ユートはフリード・バグアーの方を見遣ると溜息を一つ吐いて口を開いた。

 

「それで?」

 

「それで……とは?」

 

「エリセンの状況は判ったがね、ハイリヒ王国やヘルシャー帝国はどうしたんだ?」

 

「チッ!」

 

 軽く舌打ちして目を逸らす。

 

「大方、手も足も出せずに撤退か?」

 

「くっ!」

 

 正解だったらしく、フリード・バグアーは悔しさがハッキリと表情から滲み出ていた。

 

「そりゃ、単なる海人族や人間族が相手でしかないエリセンの町と、現在は魔導武術を学んでいるアインハルトやヴィヴィオが治めるハイリヒ王国とクオン達が治めるヘルシャー帝国、どうあっても難易度はエリセンをベリーイージーだとすれば此方はベリーハードだろうからな」

 

 とはいえ、神域に在る存在が万が一にも居たらそれだけでもルナティックとなる。

 

 魔人族のどれくらい強いかはユートにも判らないけど、ちょっと強い程度が百人くらい来た処でアインハルトの一人、クオンの一人が居るだけで相手にも成らないであろう。

 

 仮に魔人族がエヒトルジュエの使徒を借りていたとしても、クオン達は元から超越者のレベルともある程度は闘り合える力量を保持していたし、アインハルトやヴィヴィオもそれなりに強いのだけれど、ハイリヒ王国にはラルジェント・ル・ビジューという歴とした超越者が居る。

 

 魔導士――ラザレームと呼ばれる到達者から見てもレベルを越えた超越者、その実力は確かなるもので油断無くやれば修練闘士も容易く屠ったりも出来た筈だ。

 

 逆に油断したら格下の魔導士にも斃されてしまうのだが……

 

 それだけに、エヒトルジュエの使徒など何するものぞと言わんばかりであろう。

 

「フッ、戦闘狂なアトゥイなら目をキラキラと輝かせながら槍を揮ったんだろうな」

 

 彼女達の武器は神金剛(アダマンタイト)製。

 

 それも魔導金属としてのアダマンタイトでは無くて、神秘金属の【聖闘士星矢エピソードG 】に登場したギガース共が纏う金剛衣(アダマース)の素材と成っている代物である。

 

 敵対した際に大量に獲られる機会が有ったから採れるだけ採ったのだ。

 

 その上で神威をも持ったウィツァルネミテアの化身とも闘える身体能力は、普通にエヒトルジュエの使徒連中を大幅に越えていた。

 

 単純な身体能力だけでなら平均的な意味合いで仮面ライダーをも上回るが、当然ながら最強とか呼ばれそうなのには敵わないであろうし、飽く迄も単純な身体能力のみだから必ずしも勝てるなどとは口が裂けても云えない。

 

 本来だと【うたわれるもの】メンバーは飛べない事が問題だったけれど、ユートが持つスキルや魔法やアビリティを使える様にする念能力が存在している為に、基本的には全員が舞空術を扱える様に成っているから既に問題では無かった。

 

 当然ながら魔人族など何するものぞ……とばかりに蹴散らしたのは想像するに難くあるまい。

 

 特にアトゥイみたいな戦闘中毒者(バトルジャンキー)は正しく瞳をキラッキラに輝かせていた訳で、元ヘルシャー帝国にして現トゥスクル皇國へと向かった連中には御愁傷様としか云えなかった。

 

ユートは敵対して来た者は始末して良しと言ってあるし、心優しいクオンでさえもユートからの言葉とあれば修羅と化している可能性もあるから全滅は必至か?

 

 空を飛べるから仮にエヒトルジュエの使徒共が居たとしても、特段の問題も無く殲滅をする事が出来る程度には強いのだから。

 

 それに本来の歴史の流れでは決して得られなかった娘達も、織代の存在している空間に客人として落っこちた際に縁を結べたので彼女達も居る。

 

 エルルゥが顕著な例だろう。

 

 ユートの識るエルルゥはハクオロとの契約に縛られていたが、それは当のハクオロ自身が破棄をしているのに後年の【二人の白皇】にて愛し合う二人みたいな雰囲気を醸し出していた。

 

 ユートが出逢ったのは抑々がハクオロと契約をした後だった為、エルルゥの心は彼にのみ注がれていたからチャンスすら無い。

 

 まぁ、その分という訳でも無いけどユズハの時には可成り美味しい思いをさせて貰ったが……

 

 それにエルルゥへと掛かり切りだった事から、本来ならばハクオロへと靡く筈の娘達とも仲好くなれたし、そういった意味では別に文句なんて無いから寧ろあの二人には仲好くして欲しかった。

 

 そして所謂、【うたわれるもの~ロスト・フラグ~】での閉じた次元に存在する世界――位置的にはトゥスクルの元最南端辺り――で様々な異相世界に於いて、契約に縛られないエルルゥが召喚されたので仲を深めてみたものだ。

 

 それは扠置き、ユートがフリード・バグアーへと言いたい事は又別に有る。

 

「さて、お前が言いたい事は理解したが選択肢を間違ったな」

 

「な、なにぃ!?」

 

「恐らくは仲間を人質に城へ御招待って処だったんだろうが、結局はミュウとレミアですらエリセンから連れ出せなかった。それと勇者(笑)と違って別に卑怯だ卑劣だと罵倒する気も無いんだよ。戦争なんだから打てる手は打たないとな? とはいえ許す心算は無いし、不愉快なのも間違いは無いんだ。だからこういうのはどうだ?」

 

 指パッチンをすると別の空間モニターが顕れ、其処には中々に大きな――ハイリヒ王国やヘルシャー帝国なら王都や帝都くらいの街並みが広がっており、それを見た瞬間にフリード・バグアーともう一人の魔人族の男は驚愕に目を見開く。

 

「わ、我らが魔王国の魔都……だと!?」

 

「フリード様」

 

 それは魔国ガーランドの魔都だった。

 

「空間魔法で映し出した場所が何処なのかは理解が出来たな? 次は魔都の遥か上空だ」

 

「「っ!?」」

 

 モニターがグングンと上昇していく。

 

「な、何だあれは……」

 

 見た事が無い金属の塊。

 

「ミサイルかしら?」

 

 雫はその金属の形状からミサイルだと判断したらしいが、果たしてユートはそんな彼女の言葉に対して鷹揚に頷いてやる。

 

「あれの名前は“フレイヤ”という」

 

「は? はぁぁぁ!?」

 

 フレイヤ――豊穣や美の女神として北欧神話に出て来る名前だったが、ミサイルの形状をしているフレイヤとなると話が大分違っていた。

 

「フ、フレイヤって【コードギアス~反逆のルルーシュR2~】に登場するトンデモ兵器よね?」

 

「まぁね。前に【コードギアス】の世界へ行った際造らせた。ニーナ・アインシュタイン本人に」

 

「どうやってよ? 確か可成り日本人に対しては嫌悪感に近い感情を持っていた筈よ」

 

「ユフィを使った」

 

「はい?」

 

 詳しくは省くが、ユーフェミア・リ・ブリタニアに憧憬を持つニーナ・アインシュタイン故に、彼女の侍女に近い立場にして更に研究のパトロンをさせ信頼を得る。

 

 徐々に接触率を増やしていく。

 

 最初はドレスの着替えを手伝うという、メイド辺りに任せる仕事をやらせドキマギさせてやり、共に入浴をしたり添い寝させたりとニーナの好感度を徐々に上げ、最終的に百合的な意味合いにて一線を越えさせてやった。

 

 一ヶ月くらい百合な関係を堪能させてから登場したのがユート、動揺するニーナ・アインシュタインにいつもの関係をユートの目の前で行って、没頭して周りが気にならなくなり絶頂に導かれる瞬間に挿入、脳内物質がドバドバと噴出していて初めての痛みを緩和された上に、挿入されたのと同時に絶頂したと勘違いをした彼女は見事にハマり込んでしまったのである。

 

 こうして研究も完成した上にユーフェミア経緯ではあるものの、【閃姫】としての契約も交わせたから良しとしていた。

 

 その成果物がこのフレイヤ。

 

 正式名称は“Field Limitary Effective Implosion Armament”と云い、サクラダイトを使った核兵器ながら放射能を残さない『究極のクリーン兵器』などと呼ばれるが、その影響範囲は一〇〇Kmで空間内を抉り消し飛ばしてしまう爆弾。

 

 尤もリミッターの設定で効果の範囲や起爆をする時間も調整可能だが……

 

 頬を染めながら必滅の爆発物な設計図を渡す、ニーナ・アインシュタインはちょっとしたサイコパスであろう。

 

 説明を受けて青褪める魔人族。

 

 魔人族領で人が住む領域は非常に狭い範囲だ、何故なら人の領域以外は極寒の大地だから住むに厳し過ぎる為、小さな村々は無くも無かったけど大概が魔都こそが魔人族の住処であり、言い換えればフレイヤが放たれれば間違い無く魔人族は亡びの一途を辿る事は必定だったから。

 

 個人の武勇だ魔法による殲滅だ……など可愛らしいもの、『こんなものは最早戦争では無い!』と叫びたくなるくらいに悍ましい。

 

 ファンタジーな世界では科学の発展が成されていない場合も多々有り、故に遥か昔の地球みたいな武士や騎士による個人の武勇が尊ばれる訳で、そんな世界で数世代先の技術で造られた科学物を使ってみたり、流石に其処までは云わないにしても例えばその世界の戦争では使われていなかった罠などをふんだんに使う戦略、個人の武勇を尊ぶならソレは確かに悍ましいの一言だと云えた。

 

 或る意味で空気を読まない正にKY of KYな行為であり、個人の武勇や知勇が如何に戦場に於ける戦略や戦術に寄与しないかを知らしめる。

 

「お前らファンタジーには理解が凡そ及ばない、そんなサイエンスの極致の一つが正に核兵器だ。まぁ、とはいえどファンタジーの極致たる魔法に関しては未だに地球人には理解が及ばないけどな。それは置いといて、お前らはつまる話が僕の怒りを買いながら何一つとして成し得なかったんだ。解るか? せめて魔都に僕の『大切』な存在を連れて来れていたら違ったが、現実としてお前らは失敗をかましている」

 

「よ、止せ……」

 

 ユートが本気でやるのを感じたフリード・バグアーは、汗を流しながらそれを止めるべく口を開いたのだが……

 

「フレイヤ……発射っ!」

 

 取り合いもしないで指パッチン、その瞬間にはミサイルであるフレイヤの尻から火が噴き出して魔都へ向けて放たれた。

 

「ヤメロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオッッ!」

 

 そして絶叫するも虚しく魔都の方角から爆光が輝いたかと思うと轟音が鳴り響き、衝撃とは何かが違う感覚が身体に感じられ……収まる。

 

 それは即ち、魔都に居た幾多の生命が……戦闘員ですらない魔人族に至るまで全て死に絶えたという事であり、本来のフリード・バグアーの役割が潰えた事をも意味していた。

 

 魔王はフリード・バグアーに命じていたのだ、イレギュラーを我が魔城へ連れて来い……と。

 

「お、オオオオオッッ 嗚呼ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 涙を流しながら声に成らぬ声で悲鳴にも近い、そんな悲哀の絶叫を上げるフリード・バグアーと今一人の魔人族。

 

「お、緒方……お前、何て事を! お前は一つの種族を滅ぼしたんだぞ!?」

 

 ユートの首根っこを掴まえながら激昂をしている天之河光輝に対し、ユートはいっそ冷たい瞳で白けたという表情となって見つめている。

 

「な、何だその目は……」

 

「お前はエヒトルジュエに召喚された理由をもう忘れたのか?」

 

「な、なにぃ!?」

 

「魔人族の殲滅、それが理由だとイシュタルの爺は言っていただろう。そしてお前はそれを了承していたよな?」

 

「な、ちがっ!」

 

「違わない。僕は戦争の意味を解いたけどお前は聞く耳を持たなかった。それが現実だ。それともまさか……お前の中ではこれも無かった事になっているのか?」

 

 クスリと嘲笑するユートに天之河光輝は押し黙るしか無かったと云う。

 

「……せ……」

 

 そんな下らない会話をしていると、フリード・バグアーが何やら呟き始めた。

 

「……ろせ……」

 

 口パクで何と無く言いたい事は判る。

 

「魚女共を殺せぇぇぇぇっ!」

 

 それは遂に完全な言葉となって空間魔法によりエリセンへと伝わったらしく、魔人族の男連中やエヒトルジュエの使徒が動き出した。

 

「愚かな、抑々にして僕が何の対策もせず放置をしているとでも思ったか? やれ、ミュウ!」

 

 再びパチンと指を弾く。

 

『はーい、なの!』

 

 ミュウは別に手を縛られていた訳では無い為、腰のベルト帯に挿した機器を手に持った。

 

 すると何故か自動的に音楽が響く。

 

「あれ? これは“The last element”?」

 

 それは【デジモンフロンティア】の云ってみれば後期挿入歌であり、『ハイパースピリットエボリューション』や『エンシェントスピリットエボリューション』の際に流れる歌だ。

 

 ミュウなら初期挿入歌の筈だが?

 

 ミュウの小さな肢体を流れ出る水が噴き出し、左手へと集まってまるで光るバーコードみたいな形状――デジコードと成る。

 

 ユートが“炎のスピリット”のヒューマンとビースト、この二つを十全に使う時に起こり得る炎のデジコードと属性が違うけど同質のモノ。

 

 ミュウはユートが知らぬ間にいつの間にか変化していたディースキャナを使い、水のデジコードをスキャンしていきながら叫んだ。

 

『エンシェントスピリット……エボリュゥゥゥゥーショォォォォォン!』

 

 ミュウはきっと何の為に戦うのか、天之河光輝とは違って迷いなんて最早無いのであろう。

 

 そう――『ミュウにしか出来ないなら理由なんて要らないの!』と声を大にして叫ぶ。

 

 二つの水が一つに重なりスピリットを信じる、選んだのは誰でも無くてミュウ自身だから。

 

 ユートという力を持った人間に導かれる侭では決して無く、ミュウが自分で切り抜いて来たからこそスピリットは応えたのだろう。

 

 ヒューマンとビーストのスピリット、野生を縛る理性は不要で理性を蔑ろにする野生も不要。

 

 二つが混在してどちらをもリスペクトしてこその真なる力、最古の水棲型デジモンの究極なる姿をミュウは宿したのである。

 

『エンシェントマーメイモン、なの!』

 

 武装したマーメイモンといった処か。

 

「まさかのエンシェントマーメイモン」

 

 上半身は今のミュウでは決して持ち得ないであろう巨乳と引き締まる腰の括れ、下半身は正しくマーメイドを思わせる魚の形状をしているけど、陸地に立つのに問題は特に無さそうだった。

 

『グレイト・メイルストローム、なの!』

 

 巨大な渦巻きが巻き起こり、魔人族の男連中の全てを水中へと呑み込んで始末をする。

 

『『『『『『『ウギャァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアっ!』』』』』』』

 

 断末魔を遺して逝った魔人族。

 

 一瞬、ミュウ――エンシェントマーメイモンの表情が曇るものの……

 

『クリスタルビロー! なの!』

 

 結晶化させた水をマシンガンの如く撃ち出し、エヒトルジュエの使徒を貫いていく。

 

 然しものエヒトルジュエの使徒も究極体による必殺技には敵わず墜ちてしまった。

 

 ほんの僅かな時間、はっきり言ってしまうなら秒殺されたと云って過言ではあるまい。

 

 素のミュウでさえも捕まえられなかった数人の魔人族と一人の使徒、そんな程度の戦力で究極体デジモンをどうにか出来る筈も無いのだ。

 

 とはいえ、ミュウ自身もユートの元で修業を少しだけだがしていたからこそ、原典のミュウなら母親のレミア共々捕まっていた事だろう。

 

「莫迦な……何だこれは? 何なのだコレは! 貴様は一体何なのだイレギュラー!?」

 

 単なる多重転生者です……とか言っても通じないと思うから勿論言わない。

 

「イレギュラーだろ? 自分でさっきから言っている事じゃないか」

 

「くっ!」

 

「魔人族の滅亡の日か」

 

「己れ、イレギュラー! このっ、化物共が! よくも同朋を、我らが神を!」

 

「フッ、底が知れたな」

 

「何だと!」

 

「やれ天才だ化物だと他者を讃える乃至は蔑む、それは相手に決して敵わぬと言ってるに等しい」

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 最早、勘弁は成らぬとばかりにフリード・バグアーは吼えると左腕を天高く掲げると、ブーンとばかりにヘッド部が金色の機器が顕れるとガチャリ……機器へと合着をする。

 

「ミハイル、貴様もやれ! 恋人の仇を討つのであろう!?」

 

「ハッ!」

 

 ミハイルと呼ばれた魔人族も矢張り腕を掲げると銀色ヘッドの機器が合着した。

 

「「変身!」」

 

《HENSHIN!》

 

《HENSHIN!》

 

 機器は腕に着いていたのはライダーブレスで、合着したのはフリード・バグアーのがコーカサスのカブティックゼクター、ミハイルのがヘラクスのカブティックゼクターだと理解する。

 

《CHANGE BEETLE!》

 

《CHANGE BEETLE!》

 

 フリード・バグアーが金色のアーマーを持った仮面ライダーコーカサス、ミハイルが銀色のアーマーの仮面ライダーヘラクスに変身をした。

 

「成程、確かカトレアも仮面ライダーケタロスに変身をしていたし、誰かしら後二人は仮面ライダーに成れるとは思っていたがお前らだったか」

 

 ユートがカトレアの名前を出すとミハイル――仮面ライダーヘラクスが叫ぶ。

 

「貴様らがカトレアの名を呼ぶな!」

 

「ああ、お前が彼女の恋人か。カトレアが地獄で待っているぞ? 早く逝ってやれ」

 

「貴様はぁぁぁぁっ!」

 

 殴り掛かろうとするヘラクスをバッと右腕を前に出して制すると……

 

「慌てるなよ、お前はカトレアの仇を討ちたいのだろう? その仇はソイツ……勇者(笑)だぞ」

 

 真実を言い放つ。

 

「何だと!?」

 

「緒方!?」

 

 ヘラクスは天之河光輝を睨んで、天之河光輝は慌てながらユートを見遣った。

 

「生身の彼女にお前のと似た仮面ライダーキックホッパーで必殺技の蹴りを放ってね、それはもう見事に身体は誰だったかは疎か種族も性別すらも判らない程グッチャグチャなミンチに成ったさ」

 

「……殺す!」

 

 見えないけど、仮面の向こうでは血走った目で天之河光輝を睨んでいるのが判る。

 

 そして今や仮面ライダーに成れない上に装備品が劣化に劣化を重ねた謂わば初級装備、それに糅てて加えて鉄の剣は半ばからポッキリと逝ってしまって使い物には成らないときた。

 

 つまり人間種族としては最高峰の能力値――但し本来の勇者より数百は少ない――なだけでしか無く、スキルも“言語理解”のみでハジメより悪い状態で装備も布の服に折れた鉄剣という、この場で誰よりも弱いのが天之河光輝だったと云う。

 

「心配すんな光輝!」

 

「龍太郎!」

 

 唯一、仮面ライダークローズチャージに変身をした坂上龍太郎の存在が天之河光輝を助ける。

 

「俺が相手だぜ!」

 

「フン、貴様もカメンライダーとやらか」

 

 問題は公式チートなクロックアップを持っているカブト系ライダー相手に、パワー一辺倒となる坂上龍太郎が何処まで対抗し得るのか……だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「見よ、イレギュラー! 我らが神より遣わされた使徒達の威容を!」

 

「お、三倍くらいに増えたな。ひょっとして国への侵攻を諦めて此方に転移してきたか?」

 

 五百だったのが概算で千五百くらいに膨れ上がったヴァルキリースタイルな使徒達。

 

 腰まで伸ばした長い銀髪にアイスブルーの瞳、肌の色は抜ける様に白くて顔立ちも充分に過ぎるくらい整い、ヴァルキリースタイルなだけあってドレスアーマーはエロティカル、肩と臍と太股は狙ったかの如く丸出しで胸は巨乳とは云えないが形の良い美乳である。

 

 同じ姿が千五百人という、判で捺したかの様な双子三つ子……六つ子ですら常識と謂わんばかりの千五百つ子、しかも表情が無いまるっ切り人形の如くでは美女であれど不気味ですらあった。

 

 まぁ、二~三人くらいは捕縛をして一人は一種の実験体扱いで彼女らの機構を確りと調べ上げて茶々号や代理人形の駆体のアップデートに活用、残りはオ○ペットとして侍らせるか若しくはミュウやレミアの護衛に使うくらいで良いだろう。

 

「数が自慢か? 此方も数なら増やせるし、何より質を上げる事も出来るんだが……な」

 

「何だと?」

 

「試してみるか?」

 

 ユートはアイテムストレージの“大切な物”というゲームなら、重要性が高くて『これを売るなんてとんでもない』とか『これを捨てるなんてとんでもない』的な代物の置き場。

 

 取り出したるは指輪、その台座には赤と青の石が填め込まれていてコントラストが美しい。

 

 その指輪を指に装着して、フリード・バグアーみたいに左腕を高らかに天に掲げながらも叫ぶ。

 

繋和(つな)げよ、絆炎の紋章士(ファイアーエムブレム)――リュール!」

 

 指輪から赤と青のコントラストで光が放たれ、輝きと共に赤と青の長い髪の毛と赤と青の虹彩異色を持つ女性が降り立つ。

 

「絆炎の紋章士、神竜王リュール!」

 

 高らかに名を名乗る女性はリュールで、嘗てユートが【ファイアーエムブレム】の世界を巡った際に出逢い、縁を結び絆を育んだ一人として契約を交わしていた。

 

 【ファイアーエムブレム】に関する情報は雫も香織も鈴も有るが、ユートが喚び出した女性に関しては全く以て情報が無いので首を傾げる。

 

「闘いですね、ユート。ではコレを」

 

 幾つかの指輪を預かったユート。

 

「そっちに返すぞ」

 

 ユートは先程の指輪をリュールに。

 

「はい!」

 

 その指輪はリュールが義母の神竜王ルミエルから贈られた物、それが紋章士の指輪としての媒介と成っていたから普段はユートに預けていた。

 

 そして有事の際には返還されるのだ。

 

 ユートが先程リュールから渡された指輪も矢張り紋章士の指輪、その数はリュールの指輪を含めると全部で一三個が存在する。

 

星炎(かがや)け、始まりの紋章士マルス!」

 

 空色の輝きと共に顕現化――

 

『僕の名はマルス、紋章士マルスだ』

 

 それは【ファイアーエムブレム~暗黒竜と光の剣】の主人公たるマルス。

 

 紋章士の最初の顕現には竜族が行う必要があるので、竜族であるリュールと嘗て竜因子を持っていたユートが先ずは起動をさせねばならない。

 

 尚、神竜であれば詠唱は要らないらしく神竜王ルミエルは念じるだけで顕現化している。

 

守護(まも)れ、響きの紋章士セリカ!」

 

 ユートが預かった指輪の一つ、それは【ファイアーエムブレムECHOES~もう一人の英雄王~】のヒロイン枠のセリカ。

 

 顕現化したセリカは優雅に立つ。

 

『紋章士セリカ。久し振りねユート』

 

 紋章士は本当の彼ら彼女らでは無いにしても、ユートが関わったそれぞれの記憶を保持しているからか、普通に知り合いとして接している訳だが紋章士の源流となる中に【閃姫】も居る。

 

 その為、その気になれば紋章士の指輪を填めて紋章士を顕現化した源流の人物も可能だった。

 

 

.




 セリカはヒロイン枠であってヒロインでは無かったりします……少なくともユートが関わっている世界戦では。



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第117話:ありふれた究極進化

 思ったより筆が進んだ……





.

 ――何だこれは?

 

 それがフリード・バグアーの偽らざる思考で、余りの出来事にフリード成らぬフリーズした。

 

 行き成り人間が増えたかと思えば更に二人も増える、召喚でもやったのか? 神ならぬ身で? それに増えた二人はまるでその実体が無いみたいな半透明な姿だ。

 

 フリード・バグアーが化物と称したユートは、数など問題では無いと言い放っている。

 

 しかも増えたのは神の使徒、フリード・バグアーにとっては魔王にして神たるアルヴの主神たるエヒトが遣わした存在、当然の事ながら仮に勇者が最高レベルで身体向上スキルを使ったとしても敵わない程だった。

 

 召喚なんて出来るのだとしても、神の使徒という高位存在に敵うと本気で思っているのか?

 

 フリード・バグアーは硬直化、ミハイルは現在だと仮面ライダークローズチャージと戦闘中、エヒトルジュエの使徒は纏め役フュンフは静観を決め込んでいる。

 

 ユートとリュールは紋章士達の更なる顕現化を次々と行っていった。

 

継承(つた)えよ、聖戦の紋章士(エムブレム)シグルド!」

 

 リュールが叫ぶ。

 

 顕れたのは武装した白馬に乗り、その右手には聖剣ティルフィングを持つ【ファイアーエムブレム~聖剣の系譜~】第一部の主人公シグルド。

 

 ユートが直に会った事が無い主人公である為、他の紋章士がユートの記憶を持ち合わせる中では唯一の初顔合わせだった者。

 

 次はユートだ。

 

吹翠(ふきわた)れ、烈火の紋章士リン!」

 

 翠の髪の毛をポニーテールに結わい付けている大弓を手にした女性、【ファイアーエムブレム~烈火の剣~】の主人公の一人で本名はリンディスという。

 

 此処ではユートが軍師の役所で、マークという軍師はリンの居る場所に現れてはいない。

 

解放(ときはな)て、系譜の紋章士リーフ!」

 

 リュールが顕現化させたのは茶髪を短く刈った白に金の縁取りな鎧を纏う青年リーフ、彼は【ファイアーエムブレム~トラキア776~】という先の【聖戦の系譜】のスピンオフ作品の主人公。

 

 どうでも良いが、ユートの介入で本来は死んでいた筈の父親は闘えない身体にこそなっていたけど生き残り、母親はその代価に持って行かれてしまったけど後者に関しては知らない侭である。

 

 ユートが叫ぶ。

 

晴碧(はれわた)れ、聖魔の紋章士エイリーク!」

 

 赤い服なか白いショートスカート姿に青く長い髪の毛の少女エイリーク、【ファイアーエムブレム~聖魔の光石~】の兄妹による主人公の妹。

 

焔向(たちむか)え、封印の紋章士ロイ!」

 

 赤毛に青いバンダナを額に巻いた青い鎧を纏う青年ロイ、【ファイアーエムブレム~封印の剣~】というリンディスの時代より二〇年後を舞台とする戦争に参戦した主人公。

 

 リンディスの盟友エリウッドの息子だ。

 

癒救(いや)せ、暁の紋章士ミカヤ!」

 

 次にユートが顕現化させたのは【ファイアーエムブレム~暁の女神~】の主人公(笑)なミカヤ、実は少女然とした見た目に反して割と年齢が高かったりする。

 

 負の女神ユンヌの神使だけど本人はその事実を知らない上に、ベグニオン帝国の皇帝たるサナキがその時点での神使という事になっていた。

 

勇闘(たたか)え、蒼炎の紋章士アイク!」

 

 リュールが顕現化したのは【ファイアーエムブレム~蒼炎の軌跡~】の主人公アイク。

 

 【暁の女神】の三年前を描く物語で彼の職業は傭兵、グレイル傭兵団の一員であり団長グレイルの息子という立場で、妹のミストと共に幼い頃から傭兵として暮らしていた。

 

 尚、中々に劇的な出逢いをしたクリミア王国の王女エリンシアが居るけど、何故だか一人で――或いは男と――旅に出てしまう。

 

「あ、私の指輪はこれだけですね。ちょっとバランスが良くないですけど……」

 

 もう一度云うが、ユートがエレオス大陸に関わった際に出て来た紋章士の指輪から顕現化される紋章士は、基本的にユートが介入した世界の記憶を保有しているからシグルド以外は顔見知りで、当然ながら女性紋章士とは中々の絆が育まれていたりする為、自然とリュールは女性の宿る指輪をユートへと渡していた。

 

「じゃあ、一気に行くぞ」

 

 ユートは残りの指輪を顕現化させる。

 

燃起(もえあ)がれ、覚醒の紋章士ルキナ!」

 

 マルス達より暗めな青髪であり左の瞳に聖痕を持ち、その手には中途半端な覚醒で裏剣と成ったファルシオンを持つ少女ルキナ。

 

 その血筋は王族、更に二千年を遡ればアカネイア大陸の宗主と成ったマルスにまで至る。

 

 父親のクロムは『最も信頼していた仲間』による裏切りで死亡、結果として邪竜ギムレーが復活して絶望により満たされた世界と成ってしまった事を受け、過去へ遡ったルキナはクロムの傍に居たユートを疑っていた――が、冤罪だった。

 

 ルキナの居た絶望の未来はユートが干渉していない世界線、そのズレから本来はクロムの隣には別の人物が居た筈だったが……

 

竜穿(ほえ)ろ、選択の紋章士カムイ!」

 

 白い髪の毛白い服、黄金に煌めく大剣を持った少女カムイ、【ファイアーエムブレムif】に於ける主人公だったけど、この立ち位置にユートが居たから本来なら登場すらしない。

 

 ユートが仲間と透魔王国へ行った時に竜形態で暴走していた、きょうだいも仲間も全てを喪って違う世界線で暴れるだけ暴れていたのを宥めた。

 

 透魔竜ハイドラの良心とミコトという共通の親を持った双子にも近い。

 

 一応、透魔竜は神様扱いだから兄妹で睦み合っても問題は無い――神話で兄妹や姉弟でヤるのはよく有る事――と言い聞かせてムニャムニャ。

 

 尚、今のユートはその時の肉体では無いのだから血縁は消滅している。

 

教導(おし)えよ、風花の紋章士()()()!」

 

 本来の“導き手の指輪”の紋章士はベレトの筈だったが、何故だかユートが干渉したエレオス大陸の場合はユートと縁を繋いだベレスだった。

 

 【ファイアーエムブレム~風花雪月~】の主人公であり、『灰色の悪魔』なんて二つ名で呼ばれているが自ら名乗った事は無い。

 

 祖神ソティスを内に宿していた。

 

 本人が紋章士化したリュールを含めると一三人の紋章士が勢揃い、ユートが紋章士の指輪を起動が出来るのは神竜王ルミエルの力を得ていた為で、つまり本来なら呪文が無くても祈りにより起動をする事が出来るけど、呪文が有った方が外連味が利いているからと使っている。

 

 ユートは性交に及ぶ際には互いのエナジーを混ぜ合わせ、互いの体内を循環させるといった手法をナコト写本なる魔導書の精霊エセルドレーダを性的に満足させるべく修練を積み、それを修得する事に成功しているから基本的にコレを使う。

 

 千年――出逢ったのはリュール覚醒の数百年前――という永い時間は嘗てと違い、彼女とどんな会話をしようか? 何処に行こうか? そしたら何をしようか? としたい事を考えているだけでも幸せではあったものの、矢張り動かぬ目を開かぬ喋らぬ愛娘に寂しさを感じる事は多少なりとも有った訳で、そんな折りに愛娘とも邪竜ソンブルとも違う竜の気配を持ったユートに娘とは異なる愛しさを感じ、リュールの目覚めを待つ無聊の慰めにユートを招いたルミエルは、何時しか閨にまで誘って肉の交わりに興じていた。

 

 この時にもユートは例の技術でルミエルの頭があっぱらぱーに成りかねない快感を与えたけど、彼女の体内で循環されたエナジーがユートへ還った際に、神竜王の謂わば竜氣がユートの体内へと蓄積されていったのである。

 

 百年もすればすっかりルミエルの竜氣が定着化をしており、ユートは彼女がその指に填めていた“聖騎士の指輪”からシグルドを顕現化させる事が出来る様に成っていた。

 

 勿論、ユートのは神竜の竜氣だから祈りだけで顕現化をして見せたし、シグルドとの会話も普通に成立させる事が出来ていたものだ。

 

 つまりユートがリュールに合わせて呪文を口ずさむのは――『趣味に御座います』という話。

 

「雫!」

 

「……え?」

 

 投げ渡された指輪、いつの間にか傍に翠の長い髪の毛をポニーテールに結わい付けた女性が。

 

「それは“草原の公女の指輪”だ。リンとエムブレムエンゲージしろ!」

 

「えっと、判った」

 

 何と無く薬指に指輪を填めて……

 

「エムブレムエンゲージ!」

 

 恐らくこれだと思う合図を叫んだ。

 

 髪が翠色に成ってコスチュームも変わった雫、リンは弓矢を手にした紋章士だけど本来であればマーニ・カティという片刃の剣を使う。

 

 なので使えるだろうし、何より弓使いが居ないから仕方が無い。

 

「香織は“暁の巫女の指輪”!」

 

「うん!」

 

 香織の傍に浮くのはミカヤ。

 

「鈴は“賢王の指輪”で良いか」

 

「適当!?」

 

 憤慨するけど鈴っぽい指輪が無いし、絆レベル的に誰もがアウト。

 

「ユエは“慈愛の王女の指輪”だ!」

 

「……ん!」

 

 セリカが傍に立つ。

 

「シアは“蒼炎の勇者の指輪”!」

 

「了解ですぅ!」

 

 筋骨隆々なアイクが傍に。

 

「ティオは“導き手の指輪”!」

 

「心得た!」

 

 ティオの傍には()()()が。

 

「リュールは“英雄王の指輪”(マルス)だな」

 

「そうですね」

 

 初期装備という事からリュールはこの指輪を使う機会が多い。

 

「で、僕は“未来を選びし者の指輪”。カムイ、頼んだぞ」

 

『はい、兄様』

 

 本物では無いけどユートの知るカムイの記憶を持つが故に、共に在れる事が嬉しいのかは可愛らしくはにかむ。

 

「判っちゃいたが余るな……ロイ、アソコで闘う水色の鎧に力を貸してやってくれ」

 

『判ったよ』

 

 頷くロイ。

 

「坂上! 仮面ライダーの耳なら聞こえていただろう! “若き獅子の指輪”だ、使え!」

 

「くっ、判った!」

 

 投げ渡された指輪を仮面ライダークローズチャージや坂上龍太郎が受け取る。

 

 残るは、“聖王女の指輪”(ルキナ)“碧き風空の指輪”(エイリーク&エフラム)“聖騎士の指輪”(シグルド)であった。

 

 取り敢えず戦力扱いの者達に紋章士の指輪を渡したユート、余りはしたけどそれならそれで特に問題がある訳でも無いからだ。

 

「お、おい緒方! 俺には?」

 

「あ? 何で特に闘う訳でも無いお前に渡す必要があるんだよ……天之河」

 

「な、何だと!?」

 

「実際、仮面ライダーヘラクスとの闘いも坂上に任せてるだけじゃないか」

 

「それは! 戦力的に……」

 

「ああ、無能だからか」

 

「ッ!」

 

 痛烈な一言にギリリッと奥歯を噛む。

 

 この『無能』という言葉は南雲ハジメにこそ与えられていたレッテル否や、全く同じステータスであったユートもその様に視られていた。

 

 その筈だったのに……

 

 天之河光輝も生来の才能やちょっとした努力でレベルは一〇〇、ステータスの数値の上に於いても一〇〇〇を越えたのだけど、スキルは喪われた状態で碌な武器も防具も無いから大した戦力にもならないし仮面ライダー相手には闘えない。

 

 聞いた話ではエヒトルジュエの使徒は元々持っていたステータスのカンスト値ですら遠く及ばないらしいし、スキルの“限界突破”やその奥義に当たる“限界突破・覇潰”を使ってさえ一人を斃すことすらも覚束無いのだとか。

 

 そして仮面ライダーは多少の戦力不足感はあるにせよ、それでもエヒトルジュエの使徒と充分に過ぎるくらいは闘える。

 

 況してや中間フォームですらエヒトルジュエの使徒を、スペック上だけならば越えてしまうであろう仮面ライダーだって存在していた。

 

 中間フォームに当たるフォームが存在してない仮面ライダーとて、初期フォームからスペックで劣っても可成り強かったりするし、最終フォームは中間フォーム有りと比べても決して見劣りする訳では無いのだ。

 

 そんな仮面ライダーヘラクスに生身の状態では天之河光輝に勝機など無い。

 

 しかもカブト系ライダーの全てに備わった機能である“クロックアップ”だ、天之河光輝も実際に仮面ライダーコーカサスで使った事が有るけど、その余りの能力は同じか同系統の能力を持たないと普通は対抗仕切れない。

 

 例えば仮面ライダーディケイドが仮面ライダーザビーやガタック相手に、仮面ライダーファイズアクセルフォームで加速領域に突入した様に。

 

 尤も、ユートは最弱な状態な前々世の姿の上に生身で仮面ライダーコーカサスのハイパークロックアップに抗し得た。

 

 嘗ては使えもしなかった奥義の中の奥義である最奥を以て、仮面ライダーコーカサスのハイパークロックアップに対抗して見せたのだ。

 

 何しろ【緒方逸真流宗家刀舞術】の奥義である【颯眞刀】は一度死の境地にて巡る回想を自覚的に視ないと修得が出来ない。

 

 そして原理を理解していないと使い様も無く、ユートも緒方優斗であった頃は使えなかった。

 

 今は死の境地に至った上に転生をして魂の格も上がった為に、技の真髄を理解していて肉体的にも魂の格により頑丈だから使用が可能。

 

 魂の格――これが高いのと低いのでは肉体に及ぼす影響も誤差の範囲ながら違ってくる。

 

 ゲーム脳的に云うと、限界レベルの上昇と必要経験値の減少(小)によりレベルの上がり方が早まる上に、更にはレベル上限値が上がるから誰より早く誰より強く成れる訳だ。

 

 更に初期能力値にボーナス(小)により、誰よりも最初の能力が高めと成るから基本的に神童とか天才と呼ばれる。

 

 そう、何処ぞの勇者(笑)君みたいに。

 

 まぁ……とは言っても能力と人格は別物だし、人格はこれまでに積み重ねてきた人生により形成されるから、勇者(笑)の肉体がどれだけ優秀であろうとも褒められた人格で無いのも仕方が無い。

 

 ユートだってそう、記憶を持つとはいえ永い永い人生を積み重ねた結果として、出逢った人間の影響を受けて歪みを持ったのも致し方無しだ。

 

 故に、本来のヒロインとは違う相手を謀により宛がいヒロイン自身を自ら『戴きます』なんて、ちょっとどうだろう? といった真似も割りかしやらかしてきていた。

 

 それでも基礎人格が緒方優斗だったから歪みも小さくて済んだのである。

 

「坂上の一〇の力を一〇〇にするなら有効だが、お前の〇.一の力を一にした処で戦力は全く変わらんだろうよ」

 

「なっ!? 緒方、お前は仲間に何て言い草をするんだっ!」

 

「お前、ほんっとうに図々しいな」

 

「な、なにぃ!?」

 

「普段から毛先の程にすら思っていない癖して、調子の良い時だけ仲間カテゴリーとか巫山戯るのも大概にしろよ?」

 

「っ!?」

 

 天之河光輝は地球に居た頃からユートの事を、ハジメとは違うベクトルで厭っていた。

 

 当然ながらそれを敏感に感じ取っていたからこそユートは天之河光輝から距離を置いていたし、ハジメとの仲こそ本人の意向から明かさなかったけれど、逆に雫とは仲が良いといった具合にまるで見せ付けるレベルで深めたもの。

 

「況してや、トータスに来てからのお前は何回敵対をして来たよ? それともそれすら御都合主義の塊なお前は忘れ去ったってぇのか?」

 

「ぐぅ……」

 

 最早、ぐぅの音しか出ない。

 

「エムブレム・エンゲージ!」

 

 ユートはカムイの宿る指輪とエンゲージして、更にライダーベルトを腰に装着するとジョウントの向こうから蒼いクワガタが飛んで来たかと思ったら、更にもう一つのカブト虫に近いがカブトゼクターとも違う機器がジョウントより飛来。

 

 ユートは二つを手に取って片方を左腰に合着させて、もう一方のガタックゼクターを右手に持ってベルトのバックルへ。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 仮面ライダーガタック・マスクドフォームへと変身して……

 

「キャストオフ!」

 

《CAST OF!》

 

 ゼクターホーンを反対側に折った。

 

 ガチャガチャとオーバーアーマーが解除されていき次の瞬間には一気に弾け飛ぶ。

 

《CHANGE STAG BEETLE!》

 

 仮面ライダーガタック・ライダーフォームと呼ばれる、パワーこそマスクドフォームに劣っているもののバランスという意味で向上されてるし、何よりもタキオン粒子を用いたクロックアップが可能と成った。

 

 更に腰のカブト虫――ハイパーゼクターのホーンを押してやる。

 

「ハイパーキャストオフ!」

 

《HYPER CAST OF!》

 

 角が大型化して更に装甲が増えた。

 

《CHANGE HYPER STAG BEETLE!》

 

 仮面ライダーガタック・ハイパーフォームと成ったからには、ユートもフリード・バグアーとは仮面ライダーの上で互角となる。

 

 それに倣って雫達も変身、エンゲージもしたから戦闘力も普段より数段上に成った訳だ。

 

「奴には僕が征く! 君らはエヒトルジュエの使徒へ向かってくれ」

 

「了解よ!」

 

 ユートはフリード・バグアーへ、そして雫達はエヒトルジュエの使徒へとそれぞれが向かう為、流石に惚けていられないとフリード・バグアーも動き始めた。

 

「チィッ、イレギュラー!」

 

「待ってくれるとはな」

 

 皮肉たっぷりに言う。

 

「ハイパークロックアップ!」

 

《HYPER CLOCK UP!》

 

 スラップスイッチをフリード・バグアーが押すと大量のタキオン粒子が充足され、クロックアップより更に疾い速度により加速領域へと入った。

 

 より正確には違うが……

 

「ハイパークロックアップ!」

 

 ユートは仮面の向こうでニヤリと笑いながら、同じく左腰へと合着しているハイパーゼクターのスラップスイッチを押した。

 

《HYPER CLOCK UP!》

 

 同じ領域、それ故に意味は無い。

 

 クロックアップ同士ならばそれは同じ速度領域だから普通に動くのと変わらず、素での速度の違いという誤差だけが残る形であろう。

 

「くっ、イレギュラー! 貴様もハイパークロックアップだと?」

 

「そうだ。元より仮面ライダーコーカサスは変形をせずともハイパークロックアップが可能な様に初めからヒヒイロノカネは強化された状態だが、残念ながらカブトとガタックの場合だと後付けの強化ツールだからな、ヒヒイロノオオカネによる強化をしないと耐えられない。だけどハイパー化したからには決してコーカサスに負けはしないのさ!」

 

「己れ!」

 

「ディケイド?」

 

「何がだ!?」

 

 意味不明だと叫ぶフリード・バグアー。

 

 今のは飽く迄も名詞として言ったからフリード・バグアーにも『ディケイド』と聞こえたが、若しもそうで無かった場合は翻訳されて一般的には『一〇年間』と聞こえていた筈だ。

 

「イレギュラァァァァーッッ!」

 

 ゼクトクナイガンで闘う仮面ライダーコーカサスなフリード・バグアー、対するユートが手しているのはゼクトクナイガンやガタックカリバーでは無く夜刀神(やとのかみ)だったりする。

 

 折角のカムイとエンゲージ、ならばカムイが持っている武器を扱っておくのもアリだ。

 

 とはいえ、これはユート自身が【ファイアーエムブレムif】の世界から持ち出した“救世の神刀”その物だったが……

 

「貴様が幾ら強かろうが、あれを見ろ!」

 

「また増えたか。どうやらエヒトルジュエは無制限に使徒を増やせるみたいだな」

 

 空が三で敵が七みたいに空を埋め尽くす勢いでエヒトルジュエの使徒が増える。

 

「だが、数がお前らの強味なら此方は質で覆してやろう」

 

「何だと!?」

 

 ユートがそう言った瞬間に光輝く魔法陣の幾つかが浮かび上がっていた。

 

「汝ら、我が【閃姫】に名を連ねし存在。『光である者、然れど闇に惹かれる者、大天使と共に在る輝く者よ』。『札の女王、在りし日の歌姫、金剛界に至る存在と共に立つ者よ』。『喪いし者、取り戻した者、我が相棒の双子と共に在る者よ』。『頼れる者、闇を胸に秘めし者、薔薇の女王と共に在る者よ』。『外つ国より帰る者、強さと優しさを併せ持つ者、風と寄り添いし者よ』。『黄昏の将、闇に蹂躙されし者、自らを偶像と成さしめた者よ』。我が言之葉に応えて来よ!」

 

 輝く魔法陣から更なる強い光が放たれ回転しながら浮かび上がる。

 

「汝が名は……八神ヒカリ! 牧野留姫! アリス・マッコイ! 藤枝淑乃! 織本 泉! 天野ネネ!」

 

 ユートにより呼ばれた名前に応じて招喚された美少女達、年齢的には大体で一六歳~一八歳くらいなので成人年齢では無い。

 

 彼女達の隣には一人を除いてパートナーとなる存在を連れているが、これこそが彼女達の力の象徴とも云えるパートナーデジモンだった。

 

 デジモンのヒロインは相手が曖昧な事が多いから、ユートは割と自由に動いては仲好くしてきたから各世界で主格ヒロインが御相手となっている。

 

 アリスは違うけど。

 

「状況は理解しているな?」

 

「ええ、何か変な姿をしてるけど優斗なのは判る心算よ。要はあの判で捺したみたいなのをぶっ飛ばせば良いんでしょ?」

 

「頑張る!」

 

 留姫とアリスは同じ世界から来た為、手にしたデジヴァイスも形が同じ。

 

「行くよ、テイルモン!」

 

「判った、ヒカリ!」

 

 八神ヒカリが持つのはDー3と呼ばれるデジヴァイスで、初代のデジヴァイスが新たな闘いに際して変化――“進化”をさせられた物だ。

 

「ララモン!」

 

「往けるわ、淑乃!」

 

 藤枝淑乃が手にしているのはデジヴァイスバーストといい、元々のデジヴァイスicでは機能不足という事もあって闘いの中で進化した。

 

「私はパートナーが居ないし、スピリットも向こうのデジタルワールドでデジモン化しちゃっているんだけど?」

 

 織本 泉が手にするディースキャナ、その本来はデジタルワールドの最高位天使のデジモンにより携帯電話を進化させた物、今の彼女が持っているのはユート謹製で渡していた記念品に近い。

 

「問題無い、行け!」

 

 ユートの持つディースキャナから光が二つ飛び出して泉の前に浮かぶ。

 

「これは?」

 

 それは即ち、泉にとってみれば見覚えしかない風のスピリットである。

 

「僕が神器(セイクリッド・ギア)――“聖魔獣創造アナイアレイション・メイカー・ハイエンド・シフト”で創造(つく)ったエンシェントデジモンを二つに割って創ったスピリット、そのスピリットを使えば進化が出来る!」

 

Ho capito(了解よ)!」

 

 サムズアップで応える泉。

 

「行くよ、メルヴァモン、スパロウモン」

 

「任せろ、ネネ」

 

「頑張るよ!」

 

 菫色のクロスローダーを手に、メルヴァモンとスパロウモンという二体をパートナーに持った、【デジモンクロスウォーズ】なる世界でのちょっと特殊なパートナーシップだ。

 

 そしてバックミュージックに“One Vision”が流れ出し、留姫とアリスがディーアークを右手に持って動き出した。

 

《MATRIX EVOLUTION!》

 

《MATRIX EVOLUTION!》

 

 ディーアークのモニターに文字が流れながら、電子音声が辺りへと響き渡ると同時に……

 

「「マトリックスエボリューション!」」

 

 留姫とアリスが叫びながらディーアークをその胸へと押し込む。

 

「レナモン究極進化!」

 

「ルガモン究極進化!」

 

 ユートが頑なにガジモンへと『超進化』だとか『究極進化』だとか、普通に言わせまくっていた結果として留姫がレナモンを期待の瞳で見る様になり、本人は些か恥ずかしそうにしていたのだけど『留姫が望むなら』と今に至る。

 

 尚、ルガモンは初めからユートの影響を受けていたアリスのパートナーデジモンだったからか、普通に完全体には『超進化』と叫ぶし、究極体に成る際には『究極進化』と叫んでいた。

 

 データのオーバーリライトによってレナモンとルガモンの姿が大幅に変化、顔もレナモン→キュウビモン→タオモンときてサクヤモンに、ルガモンも同じくルガモン→ルガルモン→ソルガルモン→フェンリルガモンへと変化していく。

 

「サクヤモン!」

 

「フェンリルガモン!」

 

 サクヤモンは今更語るまでも無いくらい判る、アリスのパートナーデジモンはユートがガジモンをパートナーにした際、遺されたデータだけでは足りなかったから掻き厚めたモノやXー抗体などで構成されており、ユートのガジモンがXー抗体型のデジモンへとゼヴォリューションが可能な様に、アリスのルガモンは初めからXー抗体型として誕生をする事になった。

 

 それはアルファモンの成長期たるドルモンや、オウリュウモンの成長期たるリュウダモンと同様のタイプという事、集めた中には魔狼のデータも混じっていたからか北欧の神であるロキの子たるフェンリルの姿に近い。

 

 ヒカリのDー3から光が溢れ出してそれが降り注ぐ形にてテイルモンを包む。

 

 BGMは“brave heart”だ。

 

「テイルモン超進化ぁぁっ!」

 

 どう見ても白い猫な姿をしたテイルモンだが、ニョキニョキと手足が伸びて胸なんかヒカリよりもグラマーで、顔を隠した人の様な姿――八枚の白翼を持つ大天使と呼ぶに相応しいモノへ進化。

 

「エンジェウーモン!」

 

 そして更なる進化が始まる。

 

「エンジェウーモン究極進化ぁぁぁっ!」

 

 それは翠色の鎧に身を包んだ女性天使の中では最高峰に位置するデジモン。

 

「オファニモン!」

 

 それを見た泉が苦笑い。

 

 何故なら織本 泉がデジタルワールドに向かったのは、彼女の世界でデジタルワールドを見守っていた三大天使の一角なオファニモンにあるから。

 

 次は淑乃の番だ。

 

「デジソウルチャージ、オーバードライブ!」

 

 BGMが“Believer”に切り替わった。

 

 左手に持ったデジヴァイスバースト、右手にはデジソウルを発生させてそれをデジヴァイスへと叩き込む、そんなデジヴァイスのモニターには“ULTIMATE EVOLUTION”と表示がされている。

 

「ララモン究極進化っ!」

 

 ララモンの姿が解かれて謂わば0と1といった原初の姿へと還り、デジソウルというエネルギーによりオーバーリライトされたララモンの姿が大きく変化をしていった。

 

 赤い薔薇の如く妖精型のデジモン。

 

「ロゼモン!」

 

 それを見た八神ヒカリは太刀川ミミのパートナーデジモンのパルモンを思い出す、何故なら進化の系譜がパルモンとララモンは同じだから。

 

 パルモンの究極体もロゼモンだ。

 

 目を閉じた泉がディースキャナを持った手に、ギュッと力を篭めると疾風が巻き上がる。

 

 左手へと集まる風はデジコードを形成、それにディースキャナを以て読み込ませた。

 

 BGMも“The Last Element”に。

 

「エンシェントスピリット……エボリュゥゥゥゥーションッ!」

 

 風のヒューマンスピリットとビーストスピリットの全てが目覚める。

 

「ウワァァァァァッ!」

 

 これでも当時のデジタルワールドでの旅で常に風のスピリットと共に在り、フェアリモンやシューツモンと成って闘い続けてきたのだ。

 

 ディースキャナも無事に進化を遂げて拓也達が使っていたのと同じに。

 

 人と獣……全ての風のスピリットが泉に対して装着されて往く、その脚に、その腕に、その身体に、そしてその顔にと。

 

「エンシェントイリスモン!」

 

 風の属性の古代鳥人型デジモン、その能力は後に鳥人型や妖精型のデジモンへと継がれた。

 

「メルヴァモン!」

 

「応!」

 

「スパロウモン!」

 

「うん!」

 

 ネネが名前を呼ぶとそれに応える。

 

「デジクロス!」

 

「「デジクロス!」」

 

 BGMが“WE ARE クロスハート!”に変わってメルヴァモンとスパロウモンが合体、とはいえどそれはジョグレス進化とは全く異なるもの。

 

 実際、メルヴァモンは究極体でスパロウモンが成長期だからジョグレスは先ず出来ない。

 

 通常、ジョグレス進化は同位階のデジモンによる合身で次の位階へと進化をする行為。

 

 例えば、エクスブイモンとスティングモンという成熟期同士がジョグレス進化でパイルドラモンなる完全体に成る訳だ。

 

 デジクロスは単純な合体行為な為、能力値は上がるけど基本的に次の位階には成らない。

 

 まぁ、シャウトモンみたいに複数の……しかも究極体まで含んだりしたら別だろうけど。

 

 シャウトモンX7とか。

 

「ジェットメルヴァモン!」

 

 まぁ、メルヴァモンの背中にスパロウモンがくっ付いただけな外見ではある。

 

 とは言っても新戦力はその全てが究極体だし、一体だけでも可成りの戦力アップに繋がるというのに、これだけの戦力が揃えば如何なエヒトルジュエの使徒が多くても問題はあるまい。

 

 事実として、単体でもそれなりに強い上に多いエヒトルジュエの使徒が次々と消し飛ぶ。

 

「フォービドゥンテンプテーション!」

 

 今もララモンが究極進化したロゼモンが一体の使徒を消し飛ばした。

 

「ハートブレイクショット!」

 

 ジェットメルヴァモンの必殺技で貫通力が高いから一体をぶち抜けば、その後ろや更に後ろに居たエヒトルジュエの使徒が一気に墜ちる。

 

「エデンズジャベリン!」

 

 手にした黄金の槍を投げるオファニモン、矢張り貫通して複数体の使徒を墜とした。

 

「飯綱!」

 

 サクヤモンによる四匹の管狐を使った一斉打、管狐は火属性と雷属性と風属性と水属性といった各々に属性が有り、エヒトルジュエの使徒を次々と屠っていく。

 

「フローズヴィトニル!」

 

 フェンリルガモンが魔炎による分身を召喚して闘う、この分身は云ってみればオリジナル体であるフェンリルガモンと同様に技を放てる。

 

「ラグナロクハウリング!」

 

 蒼い炎がフェンリルガモンの遠吠えと共に爆発燃焼、数が居るからこそ多数のエヒトルジュエの使徒が焼き尽くされていった。

 

 しかも魔炎の分身も同じ技を放つ。

 

「レインボーシンフォニー!」

 

 エンシェントイリスモンが、七色に輝いている融解レーザーを放って使徒を灼いていく。

 

「莫迦な……」

 

 余りの出来事に又もや呆然となるフリード・バグアー、最初に見た形態に比べるとその脅威度は何百倍にも膨れ上がっていた。

 

 しかも戦闘中に招喚したのだ。

 

 エヒトルジュエでさえ、それなりの儀式を踏んで初めて召喚が可能となる処を。

 

「儀式なら疾っくの疾うにしていたさ」

 

「な、なにぃ!?」

 

 抑々にして【閃姫】契約そのものが儀式という形を簡略化したもの、本来のそれは“初夜に処女を捧げる婚姻式”であるから手順もそれなりに踏んで行われるものだが、ユートは特殊な性交のヤり方であるからか単に抱いただけで成立している。

 

 己れの精気を相手の精気と混合させて肉体的な繋がりを通して循環させる、その性交のヤり方が一種の儀式に通じていて魔法陣の上でヤるだけで儀式が完了する上に、“【準閃姫】”――嘗てでは【半閃姫】や【仮閃姫】と呼んでいたのを纏めたものだけど、【閃姫】契約自体が本来なら成立しない者との契約も一応だが可能としていた。

 

 そう、本来は“初夜に処女を捧げる婚姻式”な訳だから非処女は対象外になる筈だったのだけど、【半閃姫】と呼ばれていたのは詰まる話が非処女を半ば強引に【閃姫】に近い状態にしたもので、早い話が本来は非対象だった者まで契約が可能となるという既知外な出来事。

 

 それが判ったのがハルケギニア時代での事で、コルベール先生を寿命で亡くして出戻ったユーキを数年後、【閃姫】契約は出来ないが彼女と思い出作りの一環で抱いた際に【閃姫】契約が出来たのである。

 

 但し、本来の【閃姫】契約で得られる特典の殆んどを得られなかったが……

 

「くっ、何故だ! 貴様にとってトータスは異世界に過ぎぬだろうに!」

 

「その通りだ。トータスは単なる異世界、従ってお前ら魔人族とトータスの人間族が争おうとも、或いは人間族が滅亡しようとも関係は無いな」

 

「なら何故、貴様は我らと闘う!?」

 

「お前らが襲って来たからだろう。というか勝手に恨んで勝手に襲撃してきて今更泣き言かよ?」

 

「己れ、イレギュラァァァーッッ!」

 

《MAXIMUM RIDER POWER!》

 

 怒り狂ったフリード・バグアーがハイパーゼクターのゼクターホーンを押す。

 

「ウォォォォォォォッ!」

 

 仮面ライダーコーカサスによるハイパーライダーキックが放たれた。

 

「お前の間違いは仮面ライダーなんて慣れない力を使った事、お前は選択を誤ったのさ……全てに於いて……ね」

 

《MAXIMUM RIDER POWER!》

 

 同じくゼクターホーンを押す。

 

《ONE TWO THREE!》

 

 更には、ガタックゼクターのフルスロットルを三回押してタキオンのチャージ。

 

「ハイパーキック!」

 

 ゼクターホーンを本来の位置に戻した直ぐ後、再び倒して必殺技の大勢に入る。

 

《RIDER KICK!》

 

 ぶつかり合うハイパーガタックとコーカサスのハイパーライダーキック。

 

「済まない……ウラノス……グハァァァァァァァァァァアアアアッッ!」

 

 それを制したのは仮面ライダーハイパーガタックであったと云う。

 

 爆発四散した仮面ライダーコーカサスにして、魔人族の軍事のトップたるフリード・バグアー。

 

「キャァァァッ!」

 

 だけど感慨に浸るよりも先にシアが可愛らしく悲鳴を上げたので見遣ると……

 

「クックックッ、これが新たな我が肉体か。成程な……悪くないではないか」

 

 ユエが何処か陶然とした表情で自らを慰めるかのポーズで浮いていた。

 

 

.




 ネネの場合はキリハが居たけど書いていた場合はトワイライト所属だったから多少はね。

 フリード・バグアーは原作カブトでの初ハイパー化回のガタック並で雑に死んだ気が……





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第118話:ありふれた根源的破滅呪文

 存外と書けました。




.

 ユエは普段から結構なエロティカル吸血姫で、絶壁寸胴な体型でありながらそのロリータ一直線に似合わぬ妖艶な表情、ユートが初めての相手で最初こそ痛みに表情を顰めたものの直ぐに処女膜以外は治癒してしまい、快楽に身を委ねながらも何処から得た知識かは不明だが凄まじく巧い舌遣いにより、ユートの舌を蹂躙して性欲を忽ち掻き立ててしまったくらいだ。

 

 これで御姉様体型だったらユートをして理性がプッツンしてしまい、ユエに首ったけに成ってしまっていたかも知れない。

 

 今ならもう慣れたから平気だが……

 

 例えるなら暗夜王国時代のカミラ姉の包容力が無駄に溢れ出し、姉なのに寧ろ母性に満ち満ちたナイスな肢体にユエのエロティカルが加わってしまった状態、正直に云うとカミラ姉は肢体こそは確かに母性に満ちていたのだが、それでも初めての……年齢云々は置いといて少女のそれとえちぃの方は変わらなかった為、初めてを『戴きます』した際にも基本的には始終とまではいかなかったにせよ、殆んどユートがリードをしてまるっ切り年下の如くであった。

 

 ユエは逆に肢体こそロリコン御用達レベルでの幼さながら、エロティカルに関してはプロの高級娼婦とでも云うくらいに素晴らしい。

 

 正に“エロリカル・プリンセス”だ。

 

 だからこそ、真なる幼女愛好家でも無い限りはカミラ姉とユエのジョグレス進化はヤバいと理解が及ぶであろう。

 

 そんなユエだけど、今は陶然とした表情で何と云うか自身を視姦して官能的な思考に耽る自慰の真っ最中、というか真っ盛りとでも云える感じが犇々と伝わってきている。

 

 そう、若し今のユエが一人切りで居たのならば右手の指を股間に這わせていても決して不思議ではない、そう思わせるのが今のユートから視えているユエの状態だった。

 

「で、そろそろ話は出来そうか?」

 

「ふむ、イレギュラーか。どうやらフリードは斃された様だな。アルヴヘイトもあっさり死んでしまうし、全く不甲斐ないと言うしかあるまい」

 

「そりゃ、随分と残念無念また来週な話だな……エヒトルジュエ」

 

「ほう、何処で我の真名を知った?」

 

 本気で感心したらしい。

 

「真名とか言うと中二病みたいだよな」

 

 或いは何処ぞの古代中華舞台なエロゲーか? ユート自身はそのゲームをプレイした事なんて全く無いが、実はユートの居たハルケギニア大陸が存在する世界にはその世界が存在し、メインでは無いママ的ヒロインに拾われて彼女を中心にして動いた結果、一応の三国構想は成ったものの変に三国の美女美少女に好かれて無意味な争いが勃発した為、一部のヒロインだけを連れ出して龍状列島へと避難をした。

 

 因みにママ的ヒロインも置いて行ったからか、とある世界では遂に捕まってしまう。

 

 しかも記憶持ち転生で魂の格が大きく上がっていて、その世界で云う処の上級何とかより基礎の能力が高かったのである。

 

 更にはママとしての記憶、そしてユートと致した記憶が有る上に処女という破格の存在。

 

 尚、未成年ながら肢体は熟した果実だったというのがどういう意味かは理解出来る筈。

 

 扠置き、ユートはユエがエヒトルジュエにより憑依されているのは理解をしていた。

 

 要するに【聖闘士星矢】に於ける冥界の王たるハーデスが過去の聖戦ではアローンを、現代での最終聖戦ではアンドロメダの聖闘士の瞬を自らの依代としたのに等しい。

 

 三百年前の吸血種の王国がユエの力で栄えていた時代の事になるが、彼女の叔父に当たる人物が『これからは私が王になる』と宣言してきた。

 

 そのとある秘密にも関わる出来事。

 

「僕には僕の情報源が有るのさ」

 

「ふむ、イレギュラーらしいと云うべきかな? であるならば『跪き頭を垂れよ』」

 

 その科白には魔力が篭もっていた。

 

「あ、嗚呼……っ!?」

 

「ぐっ!」

 

「な、何なの?」

 

 シアが悲鳴を、ティオも苦しげに、雫までもが片膝を付いて脂汗を流している。

 

 それ以外も似たり寄ったりな反応。

 

「ふん、“神言擬き”か」

 

 ユートがつまらなそうに呟く。

 

「貴様、イレギュラー! 何故、我が神言に従って跪かぬ!?」

 

「何で僕がお前みたいな神擬きの神言擬き程度で跪かんといかんのだ?」

 

「擬き……だと!」

 

「ああ、一応は到達者だから神を名乗るだけの力は有るんだったか?」

 

 ヘラヘラと嘲笑って見せるユートに陶然としていた表情が怒りに染まる。

 

「貴様!」

 

 ユートが識らない原典では始終がエヒトルジュエの手の内、ハジメもユエの肉体を奪われた上に魂がどうなったかも知れず焦燥感ばかり増した。

 

 それが故にエヒトルジュエは悠々とハジメ達を出し抜けたのだ。

 

 然し種も仕掛けも解った手品など、そんなものには観るべき所など有りはしない。

 

「お前が使う神言擬き、それは言葉に魔力を乗せて命令を相手に叩き込み従わせるという代物だ。違うんだよ、真なる神言はそんなチャチィもんなんかじゃ決して無いのさ」

 

「ならば何だと云うのだ!」

 

「見せる……否、聴かせてやろう」

 

「なにぃ!?」

 

 ユートが口を開く。

 

「『墜ちるが良い』」

 

「っ!? がっ、あっ!」

 

 傲然と言い放ったユートの言之葉がエヒトルジュエ――ユエの肉体へと作用したのか、行き成り浮遊をしていたユエは重力が何十倍にでも成ったかの如く墜落をした。

 

「ぐっ、何が起きた?」

 

 無様に地を這うエヒトルジュエは起き上がらんとするが……

 

「『大地を舐めろ』」

 

 再び傲然と言い放たれてズンッと平伏されて、ペロペロと赤い舌で本当に地面を舐める。

 

 本気で意味が解らないと表情が語っていたし、口の中が舌に付着した砂でジャリジャリしていて気持ちが悪く顰めるしか無く、神としては屈辱感で一杯になっていたのは先ず間違い無い。

 

「これが本物の神言だ」

 

「ば、莫迦な……人、間風情が……神言……だ、と? 巫山戯るのも大概にせ……よ!」

 

「神言とは神威を以て人間に神の言葉で意を叩き込むモノ、魔力で無理矢理に命じる必要性は無いからこうしてお前は跪き地面を舐めた」

 

「ぐぐっ!」

 

 それにしても……と、ユートはそんなユエINエヒトルジュエが地面を舐める姿を観ながら思う。

 

(ユエは僕のJr.を舐めてる時だって何処か気品を醸し出していたのに、今のユエの姿からは全く以てそれを感じないもんだな。中身が違えば矢張り別物って事かね? 氏より育ちとは云うけれど、エヒトルジュエの底が知れるな)

 

 ユエの場合は男に縋るにせよ、媚びるにせよ、ある種の気品というものを感じさせてくれていたのに対して、エヒトルジュエが同じ顔で地面を舐める姿は無様を通り越したナニかであった。

 

(さて、どうやら時間は上手く稼げたな)

 

 ユートがふと、とある場所を見遣りつつも再び起き上がるユエ=エヒトルジュエに視線を戻す。

 

「どうやら不思議でならないみたいだな」

 

「な、何だと?」

 

「ユエの肉体を奪われた僕が平然とお前と会話をしている事に……だ」

 

「っ!」

 

 目を見開くエヒトルジュエ。

 

「天職が神子。その意味を正しく理解していたのなら、ユエをお前の見える場所へと連れ出したらいずれこうなる事は予測が出来ていた」

 

「な、なにぃ!?」

 

「平然としているのは、僕にとってのユエという存在が“大切”では無いからか? そんな訳はある筈が無いな。僕は女の子に対して決して誠実だとは云えない、世界を一つ巡れば最低限で一人は必ず自分の女にして来た実績があるからな」

 

 周囲の【閃姫】達――雫達は疎か留姫や淑乃やネネやアリスやヒカリや泉といったデジモン関連の【閃姫】達も含めて、めっちゃ頷いているのが矢張り少なからずそう思われていた証左だろう。

 

 事実、【デジモンテイマーズ】の世界に於いては行き成りデジモンクイーンな留姫に挑んで、カードバトルで普通に勝って関心を買った。

 

 其処から少しずつカードバトルでその仲を詰めていき、留姫が啓人や健良らと出逢う前からちょっとしたデートくらいは出来る様になる。

 

 勿論、見た目が小学生なユートと普通に小学生でしかない留姫だから、大した事が出来る訳でも無かったけど……更に云えば留姫にデートだという意識も無かったけど、それでも『お父さん』の事で多少のあれやこれやがあった留姫からしたら進歩だと云えよう。

 

 因みに、アリスはデ・リーパー事変での全てが終息してルガモン――の幼年期のフサモンがデジタマから産まれる辺り傍に付いていたし、何ならバウモン→ルガモンと進化をさせるサポートにも手を貸していた。

 

 留姫は面白く無さそうではあったのだけれど、産まれたばかりのデジモンの進化を目の当たりに出来たのは愉しいと思ったらしく、またアリスとはちょっとした淑女同盟を結んでいたらしい。

 

 それは兎も角……

 

「だけどその反面、一人一人の女の子を大切にするくらいの誠実さは見せている心算だ。トータスに来て出逢ったユエもシアもティオもリリアーナもミュウは未だちょっと違うが、レミアもスーシャもミレディもヘリーナもニアもアルテナもミナもラナもフリューもメーネもネア――は流石に違うな……序でに地球人だけど水森月奈もアイリーン・ホルトンも“大切”だからな」

 

 一人や二人なんて話では無いし、何なら原典のハジメが可愛く見える程度には大勢だった。

 

「クラスメイトも入れたらそりゃもう」

 

 しかも更に増えるとか。

 

 というより、雫達の名前が挙がらなかったからちょっと心配していたのか胸を撫で下ろす。

 

「だからこそ相手を信頼もする。ユエには氷雪洞窟へと入る前に相談をしていたのさ」

 

「どういう事……なっ!?」

 

 エヒトルジュエが驚愕したのは行き成り魔力を自分の意志とは無関係に両手へ集め出した為で、更にはそれを魔法として術式の構築をし始めているという事に関してだ。

 

 何故か口が開かれる。

 

「み、ぎ……手に……自己犠牲自爆呪文(メガンテ)……」

 

 ユエの口から力在る言葉が紡がれた。

 

「ひだ……り……手に魔力暴発呪文(マダンテ)……」

 

 エヒトルジュエとしては何とか口を噤みたいが到底無理。

 

「ユエの不死身の秘密とは魔力が在る限り肉体を半永久的に再生するスキルにある。再生魔法とは時間操作の魔法だから心臓を貫こうが、首を刎ね飛ばそうが、脳を潰そうが、肉体を消し飛ばそうが関係無く再生する。故にメガンテにより生命力を爆発力に変換、マダンテにより魔力を暴発させて〇にする。これを合体呪文として使えばユエの肉体も生命力〇に魔力〇で再生は出来なくなる」

 

 その意味を聴かされて始めてその脅威に恐怖して目を見開くエヒトルジュエ。

 

「“根源的破滅呪文(ギガンテ)”ッッ!」

 

 そして最後の言葉が紡がれると同時に、収束された全生命力と全魔法力が大爆縮をして斃すべき敵も居ない自爆をし、それによってユエの肉体は粉微塵に跡形も無く消し飛ぶのであった。

 

 爆縮であったから威力は外へと向かわずにいたものの、ビリビリと空気をというか空間をも震わせる程の破壊力により全員が吹き飛びそう。

 

 爆発では無く爆縮、威力は拡散させるのでは無くて収束させるというのがポイント、これを若し【DQダイの大冒険】でアバンがハドラーに対して使っていた場合、ハドラーは確実に木っ端微塵でアバンも“カールの守り”も虚しく消し飛んだであろうし、ハドラーの中の“黒のコア”も爆縮によって爆発を抑え込まれた筈だ。

 

 何故か?

 

 これは生命力と魔法力、氣力と魔力の融合爆縮という相反するエネルギーの相転位現象を応用した呪文だったから、即ち咸卦の氣へと融合昇華をさせての超エネルギーというやつである。

 

 当然、ユエの華奢な肉体など塵の一欠片ですら遺される筈もなかった。

 

「えっと、優斗? ユエさんはいったいどうなったのかしら?」

 

 漫画なら大粒の汗をタラリと流しながらといえる雰囲気で、仮面ライダーサソードの変身を解除した雫が真っ先に訊ねて来る。

 

「見ての通り、木っ端微塵のミジンコちゃんになったけど?」

 

「こ、言葉の意味は理解するけど現実を理解したくないわね……」

 

 少なくとも、“大切”だと言った舌の根も乾かぬ内に吹っ飛ばすとかユートをそんな非情で非常識な人間だとは思いたくは無い。

 

 ガシャンッ!

 

「な、何? 今の音と衝撃は!」

 

 空から甲高い硝子でも割れたかの様な音が鳴り響いて、後から小さな衝撃が雫達の身体へと伝わってきたのだ。

 

「フッ。エヒトルジュエめ、神域に戻れなくて焦っているな?」

 

「……え?」

 

「奴は到達者。人間の到れる限界点にまで到達をした者、だけど限界点を越えた超越者には至れなかったが故に魂は人間と変わらず、専用の安定所たる神界でないと奴は一〇分もすれば魂が安定を失って消滅の憂き目に遭う」

 

「そ、そうなの?」

 

 雫の確認に頷くユート。

 

「例外は地球人とトータス人、これは僕の創造した冥界に送られる。冥界は魂の安定を司るから、当然ながら数千年だろうと保たれる。まぁ、罪を犯せば地獄に堕ちるから殆んどの人間は地獄行きなんだけどな」

 

 罪を犯さない人間は存在しないと云っても過言では無い、だからこそ罪の分を相殺が出来るモノを持たないと極楽浄土へ行くのは不可能。

 

 とはいえ、冥王ハーデスが依代とする程の人間でもないと極楽浄土へ行けないなら、普通の人間は絶対に行けない場所という事になるだろう。

 

「それって、鈴達は天国に行けないって事じゃないのかな?」

 

「うーん、地獄にはちょっと逝きたくないねぇ。血の池地獄とか針山地獄とかでしょ?」

 

 変身解除した鈴と香織も近付いてきた。

 

「エヒトルジュエの使徒も全滅したか」

 

「エーアストと名乗る個体は逃がしてしもうたがのう、主殿よ」

 

「ティオか」

 

 仮面ライダーリュウガがカードデッキをVバックルから外すと、パリンと軽快な音を鳴り響かせながらライダーの姿が割れてティオの姿に。

 

「それで、いったい何がどうなったんでしょう。ユエさんは? エヒトは?」

 

 仮面ライダーザビーがシアに戻る。

 

 シアはユエの真友と呼んでも差し支えが無い、ユートは信じるけどユエを粉微塵に吹っ飛ばしたのもユートとあっては、どうしても黒い炎が感情へと引火をして燃え盛りそうで怖い。

 

 ユートへの信頼と同時に愛情が反転しそうで、それを抑える為に血が流れるくらいに拳を握り締めて、唇も噛み締めてその黒い炎が燃えない様に明鏡止水を心掛けていた。

 

 況してや笑っている、これではシアならずとも疑念は尽きない。

 

 尚、一番にグダグダと言ってきそうな人間はと云えば仮面ライダー同士の闘いに吹き飛ばされ、無様に地面に転がって気絶をしている。

 

 坂上龍太郎はフリード・バグアーを斃されて惚けている仮面ライダーヘラクス、ミハイルという名前の魔人族を引っ張って戻って来ていた。

 

「有り体に云えば僕は神子――エヒトルジュエが自らの依代と定めたユエを囮に奴をまんまとお引き寄せた。その上で依代となったユエの肉体を破壊して()()()()()()()、奴の魂が消滅する様に仕向けたんだ」

 

『『『『『ハァァッ!?』』』』』

 

 聴いていた全員がハモる。

 

「今頃、奴は帰るに帰れなくて泣きべそでも掻いているかもな?」

 

「神域を乗っ取るとな? そんな真似をいったいどの様にして行ったのかのぅ?」

 

 ニヤリとするユートにティオが訊ねた。

 

「神を名乗れる存在。それは色々と居るんだが、惑星間航行を可能とする異星人が遥かな昔に降り立ったなら、現地の人類はそれを神の降臨だとは思わないか?」

 

「確かに……」

 

 頷く雫。

 

「例えば未来人。僕も関わった世界線が在ったりするけど、現代人が事故で江戸時代の初期くらいにタイムスリップした場合ですら、信心深い人間ならちょっとペットボトルの筏で水に浮いて見せただけで神の御使い様扱いされる」

 

「ああ、ありそうかな」

 

 香織も頷いた。

 

「だけどそれは所詮、異星の人間や未来の人間という人種カテゴリーに過ぎない。必要なのは人種の限界に到達した存在や、人種の限界を超越した存在って事になる。そして初めから人種カテゴリーでは無い超越存在。エヒトルジュエはこの中でも最低限の到達者にカテゴライズされる。因みにウルトラマンは超越者に該当する」

 

 ウルトラマンは超人的な存在ではあっても決して神では無い、有名な話ではあるけどその気になれば神を名乗れるだけの能力は持つ。

 

「それはどの様な例が居るかの?」

 

「うーん、超越存在とは高位次元生命体も指す。だから津名魅や訪希深や羽鷲の“三命の頂神”ってのが該当するんだけど、それを言ってもティオではちょっと解らないだろうからな」

 

「うむ、さっぱりじゃな」

 

 ユートは少し考えて……

 

「哈っ!」

 

 三枚の光鷹翼を展開する。

 

「こ、光鷹翼?」

 

 鈴が反応した辺り、どうやら【天地無用! 魎皇鬼】については識っているらしい。

 

「これは!? 有り得ぬ、此処に確かに見えておるというに……存在が確認出来ぬとは!」

 

「流石は竜なだけあってティオには解るもんなんだな。“三命の頂神”というのはこの光鷹翼のエネルギーを普通に持っている超越存在だ」

 

 亜竜とは違う高位竜を合成されたのが竜人族だったのか、ティオの竜眼には光鷹翼のそれが理解も出来た様である。

 

「じゃが、それを主殿が使えるなら主殿自身も既に超越者じゃったか? そういった存在なのではあるまいかの?」

 

「嘗て、僕は“三命の頂神”の一柱たる津名魅に会った事があるからね。僕の目は後天的ではあるが一種の魔眼、視ればエネルギーの流れや本質を見定めるなどが可能なんだ。津名魅は高位次元生命体だから視ただけでもその異常性が解るからね。そして魔眼の性質上、視たモノを模倣も出来るという事から光鷹翼もギリギリで模倣が出来た」

 

「ふむ、妾からすればそんな主殿も異常じゃとは思うがのぅ」

 

 デジモンヒロイン組には既知の情報だった為、進化を解除して一応は聴いているけど疑問を差し挟む事も無くて、専ら【ありふれた職業で世界最強】世界の【閃姫】が訊いてくる。

 

「そしてエヒトルジュエの神域を乗っ取ったのはリルベルト・ル・ビジューやラルジェント・ル・ビジュー、ユカウラやケトシィやシュクレやゴコウといった【うたわれるもの】世界の超越者達、パリオンやテニオンら【デスマーチから始まる異世界狂想曲】世界の超越存在、他にも僕が関わった世界で僕と仲の良い超越者や超越存在達を使ってハッキング、システムの根幹から書き換えてやったからな」

 

 以前にリルベルト・ル・ビジューに頼んでいた事がコレだ、即ちエヒトルジュエの神域に対してのハッキングによる乗っ取り計画。

 

「奴は魂の安定化を出来ない到達者でしかない、従って神域から出た状態で魂を剥き出しにしていたら消滅を余儀無くされる。あの世とか冥界とか呼ばれる死後の世が在る世界なら自動的に安定化もされるが……ね」

 

 それでも悪霊化したりと必ずしも安定をするとも限らないが、それでも冥界が存在しているのであればそれだけでも大きく違う。

 

 ユートの冥界が安定を設定してたのは地球人とトータス人のみ、然るにエヒトルジュエはどちらでも無い異世界人で、アルヴヘイトもカテゴリー的にはエヒトルジュエが居た世界の存在、だからこそ肉体が消し飛んだであろうアルヴヘイトなど疾うに消滅している筈だ。

 

「さて、ユエの真友たるシアがずっと気になっている事だが……少なくとも作戦については詳しくユエに伝えてある。勿論、“根源的破滅呪文”たるギガンテの詳細と使った場合にユエの肉体が魔力〇で吹き飛ぶ事、そうなれば決して“自動再生”の固有魔法も発動しない事。そしてその程度の理屈は聡明なユエの叔父のディンリードが気付かない筈も無く態々、真のオルクス大迷宮の第五〇層まで降りずとも殺すのは容易かった事、故にこそ彼が行った封印には『王位に就く』なんて俗な理由では有り得ない事……などをね」

 

「……へ?」

 

 行き成りユエの叔父がどうのと話が飛んでしまって、シアだけでは無く他の【閃姫】達も意味を図りかねて目をパチクリさせる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートにちょっと呼び出されたユエ、若しかしたらムラッときてヤりたくなったのかな? とか思ったけど、よく考えれば取り敢えずヤりたいなら他の【閃姫】も呼ぶだろうと考えを改めた。

 

「……ん、来たけど何?」

 

「ユエに頼みたい事が有ってね」

 

「……判った」

 

 いそいそとショーツを下ろす。

 

「何故にパンツを脱ぐ?」

 

「……シたくなったんじゃないの?」

 

「そういう頼みじゃ無いわ!」

 

 普段が普段だけに仕方が無いとはいえ、本当に酷い誤解もあったものだった。

 

「正直に言うとこの頼みは断ってくれても構わない類いだ。寧ろ断られても良いくらいには考えていると思って欲しい」

 

「……ユートが苦悶の表情は珍しい。よっぽどの事だと思う」

 

「単刀直入に言う」

 

「……ん」

 

 ユートは一拍置いて……

 

「死んで欲しい」

 

 言うべき事を告げた。

 

「……ん、解った」

 

「って、おい! 何であっさり答える?」

 

「……ユートは私の生命が欲しい、なら上げる。私はユートのモノ、ユートが望むなら貞操だろうと生命だろうと幾らでも捧げられる」

 

 ユエのユートに対する想いが重い。

 

 一応、ユートもα世界線でのユエ、主人公として奈落落ちしたハジメにとっての“特別”だったらしいが、それを聴いていたからこの反応も多少なり想像は出来ていた。

 

「……仮令、ユートが私にそこら辺の道を行く男に股を開けと言っても……言っても……聞く」

 

 流石にスッゴく嫌そうな表情で言う。

 

「んな命令、する訳が無いだろう。っていうか、した処でそれに釣られた男共の股間が『弾けろブリタニア!』になるだけだしな」

 

「……?」

 

 まぁ、今の喩えでは解るまい。

 

 簡単に云えば香織をレ○プしようとして股間のJr.が文字通り弾けて消えた天之河光輝みたいに、【閃姫】の一人であるユエに不届きな真似をやらかした場合、その男のJr.もドパン! と別の意味で逝ってしまう事であろう。

 

「本当はこんな願いをしたい訳じゃ無いんだが、エヒトルジュエを間違い無く討つ為には奴の引き篭もる領域から、強引にでも引きずり出さないと話にならないんだ。その為にも奴にとって美味しい餌となるのが奴の選んだ新しい肉体、それこそがユエの身体って訳だよ」

 

「……その話は以前にも聞いた」

 

「恐らく奴は僕らが最後の神代魔法を手に入れて絶頂に居るのを、一気に叩き落とす為に氷雪洞窟をクリア後に君へと憑依をするだろう」

 

「……悍ましい」

 

「だろうな」

 

 男の魂が自分の中に……とか、気色悪くて悍ましい話でしか無い。

 

「手順としては……奴は魔人族や自分の使徒共を使って攻撃って訳じゃ無いけど挑発してくる筈。だから魔人族には今回で亡びて貰うだろう」

 

「……ん? 何だか話が飛んだ気が? エヒトが挑発してくるから魔人族には亡びて貰う? 意味が通らない」

 

「確かに。事情を識らなけりゃ全く意味不明で、文法が余りにもおかしいよな。魔人族が挑発でやるのが人質だ。α世界線の事は話したな?」

 

「……ん、私達じゃない私達の人生」

 

 ユエの場合、縋る先がユートでは無くハジメになるのが一番大きな変化だ。

 

「恵里"から確認を取ったけど、魔人族は氷雪洞窟クリア後にハジメを魔人族の魔都に在る城へ招待しようとした。だけど当然ながら奈落の魔王と化したハジメが素直に従う筈も無い。そこで連中は城に捕まえたミュウやレミア達が居る事を空間魔法で見せる。恐らくはβ世界線である此方でも同じ事はするだろうが、間違い無く魔国ガーランドに連れ去れはしない」

 

「……どうして確信が出来るの?」

 

「ハイリヒ王国は現在、アインハルトやヴィヴィオが治めるシュトゥラ王国。ヘルシャー帝国にしてもクオンを始めとする使徒共より強い連中が治めるトゥスクル國、エヒトルジュエの使徒を動員しても連れ去るなんて不可能さ。エリセンにしてもミュウにはディースキャナと【水】のヒューマンとビーストスヒリットを与えてあるから、連れ去るってのは無理だろうね」

 

「……成程」

 

 膠着状態にはなるかも知れないが……

 

「それでも人質としては使える筈だと見せてくる可能性は高い、それを以て僕は魔国ガーランドの魔都へ亡ぼせるだけの爆発を与える。それからは戦闘になるだろうが、その最中にエヒトルジュエがユエの肉体を奪う。これもα世界線で実際にやっていたらしいからな」

 

「……本当に悍ましい」

 

「そうだな。それが判るからこそ、此方では打てる手も有るってもんだ。いつも言っているだろ、『情報は力也』『未知こそ最大の敵』ってさ」

 

「……ん」

 

 エヒトルジュエが何をしてくるかを、反則的な手法や特殊な情報源から得ていたからこそ打てる対エヒトルジュエ用の戦法。

 

「ユエには僕の念能力の【修得する切札】で幾つか覚えて貰う」

 

「……何を?」

 

「一つは自己犠牲自爆呪文――メガンテ」

 

「……ん、成程」

 

「次に魔力暴発呪文――マダンテ」

 

 その意味を理解して目を見開く。

 

「そして合体呪文」

 

「……合体?」

 

「一応、この世界の魔法で複合魔法の雷龍だとか五天龍だとか使えてるけど、別世界の呪文の合体はそれで又感覚が違うからね。メガンテとマダンテの合体、これによって完成するのは自分も敵も破滅をさせる“根源的破滅呪文(ギガンテ)”だ」

 

「……ギガンテ」

 

 本当は某漫画家が描いたガンダムとイデオンの共演――ギガンテスでも良かったけど、メガの次はギガで構わないかと考え直した。

 

「これをユエが自分の意志で使う必要性は無い。暗示を掛けるから条件が整えばユエの肉体が勝手に使ってくれる」

 

「……了解」

 

 その条件とは即ち体内に霊的な異物が入り込む事と、逆にユエ本人の魂がそれをトリガーにして体内から抜け出した事。

 

「……私はどうなる?」

 

「冥界に魂が昇天するけど心配は無いさ。天英星バルロンのカレンには既に言い含めてあるから、彼女からユエに必要なモノを受け取って戻って来ればそれで良い」

 

「……ん」

 

 この世界では地球にもトータスにも冥界という概念が存在しない為、ユートがハーデスの神氣により得た冥界を創造する権能で創った冥界が現在は存在するから、ユエの魂も肉体から抜け出たら速やかに昇天してしまうだろう。

 

 冥界には魂の安定化をさせる機能が在る以上、設定された魂が消滅する事も無いのだから。

 

 そしてユートがそう設定しているのは地球人とトータス人であり、それ以外の出身である魂には全く適用をされないのである。

 

 つまりエヒトルジュエとアルヴヘイト。

 

「僕がユエを見捨てる事は決して無い」

 

「……ん、判ってる」

 

 二人は互いの愛を確かめ合うかの様に長い長い口付けをディープに交わすのだった。

 

 勿論、ディープキスを交わして盛り上がっていた情動を鎮める為に、お外でユエを後ろから……更に盛り上がったのは言うまでも無いであろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「以上が氷雪洞窟に入る前にユエと交わしていた言葉の全てだ」

 

「つまり、ユエさんは肉体を失ってあの世に逝ったけど死ぬ訳じゃ……無い?」

 

「そうなるな。あっちでカレンから新しい肉体を受け取ったら戻って来るよ、シア」

 

「主殿、カレンとは?」

 

「【閃姫】の一人でカレン・オルテンシアっていうのがフルネーム。僕が冥界の王という意味合いでは僕の冥闘士って立場でもあるね」

 

 みんな大好き麻婆神父の娘でもある。

 

 基本的に死にかけたり死んだりした人間……とも限らないが、そんな彼ら彼女らに冥衣を与えて冥闘士にしていた、即ち姫島朱璃やクライド・ハラオウンみたいに……だ。

 

 勿論、冥闘士であるからには冥王のユートには絶対服従がデフォルトとなるが……

 

 また、冥衣は原典に存在しない物や星も独自に製作が可能となっており、例えば【風の聖痕】のラピスに与えたのは天刃星コーカサスの冥衣となるが、原典にそんな星も冥衣のモデルも実際には存在してはいなかった。

 

 カレン・オルテンシアも死にかけていたのを拾われて、後に天英星バルロンの冥衣を与える事で第一獄・裁きの館の守護をする冥闘士と成って、日夜? 死者の裁きを執行している。

 

 尚、クラスメイトも一年くらい前にこの館へと来ているけれど、基本的に連中はユートに対しての態度が悪かったから地獄のちょっと大変な位置へと堕としていた。

 

 まぁ、聖闘士がどれだけ地上の愛と正義を護る為に闘おうが、冥王ハーデスに逆らってるからには確実にコキュートス送りなのと変わらない。

 

「更に言えば肉体的にも魔力的にも自爆前の力を凌駕しつつ、エヒトルジュエの依代には成らない細工もしてあるから仮に早めにユエが戻ってきたとして、再びユエを依代に……なんて真似は絶対に不可能だ」

 

 全てはエヒトルジュエを追い詰める為、ユートはユエに頼みたくもない自爆を頼んでまで策謀を巡らせたのだ。

 

「奴を放ったらかしにしていたら又候、地球にまで干渉をして来かねないからな」

 

「確かにね」

 

「それは嫌かな」

 

 雫も香織も心底嫌そうなな表情だし、鈴にしても冗談では無いと云わんばかり。

 

「ユエ、済まなかった。本当に有り難う。こんな科白くらいしか出せないけどな」

 

「……ん、問題無い」

 

「って、ユエさん!?」

 

 御満悦な表情のユエがいつの間にかユートの後ろに立っており、気配にはそれなりに敏感に成っていた雫でさえ気付けなかったのを、ユートだけはいち早く気付いて話し掛けていた。

 

「……ユートの役に立てたなら嬉しい。それに、ディン叔父様の事も」

 

 この場では詳しくさなかった事、それはディンリードというユエの叔父に関しての話が確かに有ったけど、ディンリードがどういう意図でユエに裏切りを働いたのか、それを理路整然と感情的になり易かったユエに確りと伝えたのだ。

 

 ユエも理解したからこそ余計にユートを信頼したし、深い愛情をユートへと向ける結果となってあんな行為にも及んだ訳である。

 

 まぁ、青○も珍しくは無いが……

 

「そろそろエヒトルジュエも消えたか」

 

 神域からエヒトルジュエが追放され約一〇分が経過しており、超越者では無い彼の偽神の剥き出しにされた魂が安定を失う頃合い。

 

 消滅すれば日本へ帰るのに何ら障害は無くなるのだから、当然だけど日本から来た雫達からしたらエヒトルジュエ消滅は嬉しい事。

 

 ズシュッ!

 

 その時、嫌な音を響かせながらユートの背後から左胸へと鮮血の真紅に塗れる銀色の刃が突き抜けていた。

 

 

.




 このラストとユエの自爆は初めから決まっていた既定路線となります。



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第119話:ありふれた融合化

 元々、最初に想定していただけあって筆のノリが良いみたいです。




.

「こぉぉぉきぃぃぃぃぃっっ!」

 

 ユートの左胸を刺した犯人――天之河光輝へと怒鳴り散らすのはそれを(つぶさ)に視ていた雫。

 

「安心しなよ雫、緒方さえ居なくなってしまえばお前への……雫や香織や龍太郎や鈴、それだけじゃ無くユエやシアやティオだって洗脳から解放されるに違いないからさ」

 

 何処から見付けて来たのか御立派そうな剣は、先程までの折れた鉄剣とは全くの別物だ。

 

「アンタは! まだそんな戯れ言を!」

 

「我の懸念するイレギュラーさえ居なくなれば! これで全てが上手くいくであろう」

 

「は? 光輝……?」

 

「何を言ってるのかな、光輝君?」

 

「何だかエヒトルジュエみたいな……」

 

 口調が行き成り変わってニヤリと口角を吊り上げた天之河光輝、一人称も安定しないしユートをイレギュラー呼ばわりする辺りがエヒトルジュエっぽくて気色悪い。

 

「くふっ、クフフ……死ぬが良い緒方ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっ!」

 

 グリグリと刃を更に食い込ませてくる。

 

「ふふっ、笑いたいのは寧ろ此方だ……エヒトルジュエ」

 

 全員がハッとなって天之河光輝を見遣るとニタァッと嗤っていた。

 

「気付いたか、イレギュラー」

 

「気付かいでか、お前が勇者召喚なんてやらかしたのには二重の意味があった。一つはイシュタルの狒々爺がくっちゃべっていたモノだ。魔人族が神代魔法に手を届かせて天秤が傾いたのを正すのが目的の戦力増加の為」

 

「その通りだ」

 

「そして今一つ、それは器の予備の確保」

 

 ピクリと頬を引き攣らせた。

 

「お前が本来の肉体を喪失してからどれだけ世紀を跨いだ? 百世紀でも足りないくらいの時間が経っているのは間違い無いだろうな」

 

 一世紀は一〇〇年、百世紀は一〇〇〇〇年で、下手をしたら千世紀は跨いだのかも知れないのがエヒトルジュエ、それだけの刻を待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って……待ち続けて、漸く器に足る存在が誕生したのが三〇〇年前。

 

 吸血種族のアヴァタール王国に誕生した未だに赤ん坊の砌りにでも尚、可愛らしく将来的には国を傾けるレベルに美しく育つだろうと産声を上げたその子に与えられた名はアレーティア。

 

 アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタールであったと云う。

 

 エヒトルジュエが恥も外聞もかなぐり捨ててまで歓喜したであろう事は想像に難くなく、それが故に器たるアレーティアをディンリードが隠してしまった事に憤怒を以て亡ぼした。

 

 そんな日から約三〇〇年が過ぎて、神代魔法を魔人族の英雄と成ったフリード・バクアーが手にして、数の人間族と質の魔人族だった戦争の天秤に魔人族に魔物のテイムや強化による数が揃った事で傾いてしまう。

 

 一方的な蹂躙も愉しいとは思う反面、それでは面白味に欠けるという思いから異世界召喚という珍事を行う事に決めた。

 

 この世界の人間族を単に強化しても愉しい事には成らない、ならば折角だから異世界人をトータスへ召喚して力を与えてみようと考える。

 

 召喚の魔法陣にはトータス人に素で与えているステイタスを、当人の資質に併せた天職へと紐付けられた能力値とスキルを書き込んだ。

 

 上位世界の人間だから強い――これならトータスの原始人や異世界人も納得し易かろうと。

 

 そして召喚候補となるであろうは勇者と呼ばれる天職、嘗ては【解放者】の側に付いていた勇者ではあったものの、あの時は初代勇者がエヒトルジュエ側に存在していた事もあって混沌とした。

 

 そして気付いたのだが、どうやら勇者なる者は自分の器にある程度は成れるかも知れない。

 

 だからこそ勇者足り得る天之河光輝を中心として魔法陣は作用したのである。

 

 エヒトルジュエの考えた通り、勇者の天職を持った人間にはその証明とも云える技能が生える、即ち魂魄魔法の奥義――限界突破。

 

 使えば三倍の能力値向上が見込めるが、時間的な制限が掛かる程に肉体を酷使する魂魄魔法の使い手にして、エヒトルジュエを裏切った【解放者】ラウス・バーンが行使していた奥義であり、更に五倍の能力値に向上させる限界突破・覇潰をもいずれは扱える肉体。

 

 所詮は予備に過ぎないが無聊を慰める一助には成り得るやも知れぬ……と、愉悦の表情を浮かべながら召喚をした。

 

 其処にまさか、真の神を殺せる存在が……正しく逸脱者(イレギュラー)たる存在が居るなど思いも寄らず。

 

 緒方優斗は本来ならこの世界に存在しない筈の人間? だったが、異なる世界の異なる理を以て動く邪神の悪戯で顕れた。

 

 冥界の王ハーデスを原典に於いて真に討ったのは戦女神アテナ、然しながらペガサスの神聖闘士に進化をした星矢がアテナ――城戸沙織を護って心臓に冥王の剣を突き立てられ、紫龍と氷河と瞬と一輝までもが沙織を護るべく動いたその瞬間、ユートも守りの玉から出て星矢の心臓に突き立てられていた剣を抜いて、ハーデス自身を一刀両断の真っ二つにして殺したのである。

 

 噴き出すハーデスの神血(イーコール)に濡れ、その漂っている神氣を吸収したユートは後に神殺しのペガサスとか呼ばれる星矢より、真に神を殺した存在として或る意味に於いて悪名が高まっていった。

 

 更に【ハイスクールD×D】世界で消滅し掛けた際に、真の上司に【カンピオーネ!】世界へと連れて行かれて本当の意味で“神殺しの魔王”へと進化をしてしまう。

 

 ユートがハーデス・セカンド染みているのは、ハーデスの剣を手にしてその力を確実に模倣可能と成り、ハーデスの神血をふんだんに浴びたのと神氣を存分に吸収したのと、更に過去へと跳んで【聖闘士星矢LC】と【聖闘士星矢ND】の世界でハーデスの神氣を喰らった事で、他の神々に比べても冥王ハーデスの割合が大きいから。

 

 冥界の創造に冥衣の自由創造、ハーデスの冥衣を創り、更に神衣にまで進化させる程、一二時間の死者甦生などオマケにも等しい。

 

 まぁ、黄金聖衣を基にした冥衣の創造くらいはハーデス本人もやっているが……

 

 昔に比べれば阿呆みたいに強く成ったユートを召喚した事は、本来なら単なる弱卒に過ぎなかった南雲ハジメ以上のイレギュラー足り得た。

 

「さて、そろそろ説明は終わりだ」

 

 パキンと剣が砕け散る。

 

「なっ!?」

 

「何を驚く? アザンチウム製みたいだったが、所詮は僕から視たら素材だけは良いナマクラに過ぎないし、原子という根源を破壊するなんて僕からしたら初歩の初歩だ」

 

 アザンチウムはトータスで最も硬い金属だからハジメもGー3Xのボディに使っているくらいで、よもやそんな金属を軽く撫でるだけで破壊するとは思わなかったのであろう。

 

「剣もそうだが緒方、どうしていつまで経っても死なない? 心臓を刺されているのに!」

 

「そんな程度の疑問か」

 

「そんな程度……だと!?」

 

「人間ってのは心臓を刺されたからと即死する訳じゃない。勿論、ショック死すればその限りじゃ無いだろうがな。確かに僕の心臓は刺された事で今は停止状態にあるけどな、ならば心臓の代わりを魔力でバイパスを繋ぎ、脈動させれば良いだけの話だ。その間に心臓を修復すれは済む。まさか天之河、それにエヒトルジュエ……心臓を潰した程度で僕が死ぬとでも思ったか?」

 

 思っていたから驚愕している訳だ。

 

 そして自分の状態も正しく把握をされている事に対しても驚愕を禁じ得ない。

 

「その表情、まさか気付かれないとでも思っていたのか? 一人称が我で僕をイレギュラー呼ばわりしながら天之河の性格も残っている。天之河がエヒトルジュエを受け容れて……魂が半融合状態に在るのが今のお前だ!」

 

「チッ!」

 

 盛大に舌打ちする天之河光輝=エヒトルジュエへとユートは告げる。

 

「大方、天之河に甘言でも囁いたんだろうな? 『力が欲しいか』……とかね」

 

「その通りだ! 我と勇者は一つと成ったのだ。雫、香織、鈴、それにユエもシアもティオも皆、我が幸福に導いてやれる!」

 

 それを聴いて一様に思ったのは……

 

『気持ち悪い』

 

 の一言であったと云う。

 

「ふん、どうせ天之河は戻れん。天之河光輝という個人にも……そして元の世界にもな」

 

 ユートがパチンッと――某・召喚師が曰わく出来る男はスマートに事を進める――指を弾いたら空間モニターが顕れて、その向こう側には家族会の者達が一堂に会しているのが見えた。

 

「父さん、母さん、美月?」

 

 天之河光輝=エヒトルジュエが目を見開いているのは、取り分けてモニターの直ぐ傍に居たのが天之河聖治と天之河美耶と天之河美月……間違い無く天之河光輝の家族だったからである。

 

『光輝、アンタ……』

 

 天之河美耶はまるで信じられない某かを視たと言わんばかり、そのタレ目っぽい目元には息子を見る目ではとても無い程に戦意に溢れていた。

 

『お兄ちゃん』

 

 黒髪を雫みたいにポニーテールに結わい付けた美少女――天之河美月は怯えた目で兄を見る。

 

『光輝……』

 

 精悍な顔付きの父親も我が子を信じたくないと頭を振って二度見してきた。

 

 様子から全てを観ていたのが判る、最初の方から天之河光輝がユートを刺すまでの全部を。

 

「誤魔化しも忖度も無い、言ってみれば現行犯みたいなもんだからな。お前が幾ら違うだの誰某の所為だの言い訳をしても全てが無意味だろうさ」

 

「あ、嗚呼……」

 

 天之河光輝の部分の思考が暴走する。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

 

 堪らず駆け出して戦場からの撤退をしてしまった事により、取り敢えずこの場での戦闘は終了したと考えても良かろう。

 

 モニターをふと見遣れば、我が子……或いは兄の愚行を見せ付けられた三人が絶望の表情となって茫然自失、後から『こうだった』と聴かされたくらいなら叱るなり何なりで済ませられたのやも知れないが、現行犯で視てしまったらこうなってしまっても無理は無い。

 

 ユートは最早、天之河光輝に一切合切の赦しも与えてやる心算など有りはしないから、肉体的にも精神的にも追い詰めて人生を終わらせる気だ。

 

「さてと、こういった仕儀と相成ってしまった訳だが……これはどうしたものだろうな?」

 

 どうするもこうするも無い、これはあからさまな人類に対する叛逆行為に他なら無いのだから、高校生だの責任能力の欠如だの未成年だの裁判では弁護士がよく回る舌で言い訳を繰り出すけど、どうにもならないというのが家族会に於ける反応の悪さが物語る。

 

 敏腕弁護士の天之河完治でさえ果たしてどれだけ減刑を勝ち取れるか? 何しろ現行犯で殺人未遂をやらかしたからには、単なる容疑者なんかより遥かに真っ黒なホシとなるだろう。

 

 求刑が罷り通っても仕方が無い。

 

 当然ながらユートはこうなる事を意図的に引き出すべく態々、今回の出来事を家族会へとリアルタイムで観せていたのだ。

 

 意気消沈する天之河家の面々。

 

「既に全ての神代魔法は入手する事に成功した、後はトータスの狂った神であるエヒトルジュエを討伐し、本来の女神ウーア・アルトへと戻す事を考えているんだが……エヒトルジュエを受け容れてしまった天之河光輝は半ば魂が融合している。従って仮に積尸気冥界波でどちらかの魂に干渉をして抜き出しても、どちら共が抜き出されてしまう結果になるだけだろう。これは魂魄魔法という神代魔法を用いても変わらない。オレンジジュースとアップルジュース、混ぜてミックスジュースにするのは容易いけど元のジュースには戻すに難いのと同じだね」

 

「それって詰まり?」

 

「エヒトルジュエの死は=天之河光輝の死だな。そして死ねば強引に地球人の天之河光輝と別世界の人間たるエヒトルジュエ、この二つが引き裂かれて天之河光輝は冥界へ逝く事になるだろうし、エヒトルジュエは魂が消滅してしまうだろうな」

 

 強い魂ならば転生の目も有るかも知れないが、基本的に転生したら記憶は無くなるのだからそれは最早単なる別人でしか無かった。

 

 記憶在っての自己同一性である。

 

「そうなった後に甦生するとかは?」

 

「雫、それは何の為に……だ?」

 

「う……」

 

「僕の能力は僕が僕の為に使う、誰かの満足感を満たす為には決して使わん。天之河光輝を甦らせたとして、奴が僕のいったい何に寄与をしてくれるんだ? 何も無い処か寧ろこれからも僕の邪魔する事しかしないだろうしね」

 

「そうよね」

 

 雫にもそれは判る。

 

「それに引き裂かれるって事は可成り欠けが出るって事、そうなると魂を修復しないと転生だって侭ならないから奴が転生するのも千年規模で先の話になるだろうな」

 

「ゆう君にとって光輝君は癌でしかないんだね、取り除く事しか考えていないみたいだよ」

 

 香織からすれば幼馴染みで友人……だったが、レ○プをされ掛かってもう友人とは呼べないのかも知れないけど、それでも中身は優しい白崎香織に間違い無くて天之河光輝の心配はしていた。

 

「次が最終決戦になるだろうな。人間族や亜人族や竜人族には、エヒトルジュエの正体を徹底して暴いて信仰心を削り取る」

 

「信仰心を……とな?」

 

「ティオ、奴が到達者でしかないのに神を名乗るだけの力を有しているのは、地上の信仰心を力に換える秘儀が存在しているからだ」

 

「何と!?」

 

「逆に言えば信仰心が無ければ力に換えるも何も無い、術式を捜して破壊しても構わないと言えば構わないんだけど、壊すよりはウーア・アルトが

再利用をしたら良いからな」

 

「捜せるのかのう?」

 

「“導越の羅針盤”で容易く見付ける事が出来る。とはいっても今はやらないけどな」

 

 確かに【解放者】が錬成士オスカー・オルクスの作品、如何なるモノをも捜し出す概念の付与をした彼のアーティファクトならば可能であろう。

 

「処でウーア・アルト……さん? 様? 余り喋ったりしないし動くのも余りしませんよね?」

 

 シアの疑問は御尤も。

 

「聖剣に自らを封じていた後遺症ってやつだね、何しろ自律機能は疎か喋る機能すら無い物質へと魂を括っていたんだ。使わない機能は退化してしまうのが常だからな、エヒトルジュエに敗れてしまって何とか命を繋ぐ唯一の手段が聖剣への封印だったんだろう。喋る剣も自律行動する剣も僕は識っているけど、ウーア・アルトもそんなモノを創っている余裕は無かったんだな」

 

 人間だって何ヶ月も眠り続けていたら筋肉が衰える、光無き地下の水を泳ぐ魚の目は退化してしまって見えなくなっているものだ。

 

 況してや数万年とか聖剣の内部で基本的に眠り続けていたウーア・アルト、一応は肉体を創って魂を定着化してやったけどまともになるには長い時間が掛かってしまうのも仕方が無い。

 

 その為の超越存在や超越者達でもある。

 

 ウーア・アルトの精神を調律するには人間ではどうにも出来ない、であるならば神や神に準じるだけの存在に任せてしまうべきだった。

 

「この侭、此方側の方針を話したい処だけど先ずは……仮面ライダーヘラクス、カトレアの恋人でミハイルとか言ったな? いい加減で変身を解除しろ、しないなら戦闘継続って事で問答無用に殺してやるが?」

 

 仮面ライダークローズチャージとの戦闘も流石に続けておらず、フリード・バグアーという上司も魔人族の同朋も故郷も何もかもを喪ってしまったミハイルは、ユートに言われてカブティックゼクターをライダーブレスから外す。

 

 変身が解除され生身に戻ったミハイル。

 

「ゼクターとブレスを此方に渡せ。まさかとは思うが、上司が死んで魔王が死んで魔人族が滅亡のレベルで消えて、未だに勝てる気で居る訳じゃあ無いよな?」

 

 ミハイルは言われた通りに渡す。

 

「私をどうする心算だ?」

 

「最初に言ったろ? 地獄でカトレアが待っているから疾く逝かせてやると」

 

「ならばさっさと殺すが良い」

 

「そうだな。取り敢えず言っておく、地獄というのは死後の世界で生前に犯した罪の分を苦しめる為の場所だが、カトレアには罪過を課してはいなくて一軒家を地獄の隅っこに与えてある」

 

「っ!? どういう事だ?」

 

 意味が判らないというミハイル。

 

「僕も人間なんでね、感傷の一つや二つくらいは有るもんなのさ」

 

「まさか、カトレアに惚れたとでも?」

 

「うん? まぁ、美女だとは思うけど別にそんな感情は抱いていないよ。彼女の死に際での潔さは見事だった、本当なら成る可く綺麗な殺し方をして恋人に返してやる心算だったんだが、勇者(笑)が横槍を入れてグチャグチャな肉片にしてくれたからな」

 

「勇者……エヒト様と一体化した彼奴が」

 

 魔王アルヴがエヒトルジュエの眷属神アルヴヘイトだというのは、フリード・バグアーだけでは無くミハイルにも知らされていたらしい。

 

「それと、僕は幾度も人生を繰り返して来たけど最初に結婚した妻の名前がカトレアだったんだ。だからこれは……本当にたんなる感傷なのさ」

 

「そうか……」

 

「あっちで好きなだけ暮らしたら転生すると良いだろう。次の人生でもカトレアと恋人に成れる縁くらいは繋いでやるから……さ」

 

 記憶を喪い姿も変わるだろう、ひょっとしたら男女が入れ替わる可能性すらあるのだろうけど、それでもカトレアとミハイルは直ぐ近くに生まれ直し、そして再びの人生を恋人として赤い糸にでも導かれるのだろう。

 

「フッ、人間に感謝する事になるとはな」

 

「地獄に於いてカトレアとの幸せな生活を……汝の魂に幸いあれ! 積尸気冥界波っ!」

 

 言葉の通りミハイルには痛みも何も無い死を与えてやる、積尸気冥界波による魂魄の剥離と冥界への謂わば魂葬である。

 

 魂を喪ったミハイルの肉体はグラリとその場へと倒れ伏してしまった。

 

 この直ぐ後、積尸気冥界波で黄泉比良坂に送られたミハイルの魂は死界の穴へと墜ちて地獄門を抜けるとアケローン川を渡り、第一獄の裁きの館へと辿り着き、天英星バルロンのカレンが気を利かせてカトレアを迎えに寄越していて割かし早々に再会する事が出来たのだと云う。

 

「これで魔人族は絶滅したか?」

 

《絶滅タイムだ!》

 

「二世は黙れ」

 

 ユエが一時的にエヒトルジュエに乗っ取られたから、キバットバット二世も離れてしまっていたのが戻って来た様だ。

 

『兄貴』

 

「ユーキか、久し振りだな」

 

『そだねぇ。取り敢えず神域に魔人族が居ると思うんだけど……どうする?』

 

「そうなのか?」

 

『うん、リルに確認を取ったら?」

 

「後で確認しよう」

 

 青い髪の毛をポニーテールにした美少女であるユーキ、その肉体はハルケギニアの大貴族であるオルレアン大公夫妻の双子の妹ジョゼットだ。

 

 それ故に見た目はシャルロット・エレーヌ・オルレアン――タバサと瓜二つである。

 

 基本的にユーキはユートの義妹として動くが、【準閃姫】でもあるから夜の性活もしていた。

 

「さてと、天之河光輝は殺処分確定として……他に何か訊きたい事は?」

 

『殺処分……』

 

『確定……』

 

 両親は矢張り不服らしい。

 

『ユエという人の肉体を作り直したという事は、ひょっとしたら君は死者の甦生が?』

 

 震えながら言うのは立派な服を来たナイスミドルなオッサン、ユートも一応ではあるけど見覚えのある人物だった。

 

「確か相沢の親父さんだったか?」

 

『う、うむ』

 

 相沢さくらというα世界線ではモブでしかない少女で、β世界線でも檜山大介の愚行でベヒモスの特攻を受け雑に轢死させられた上、遺体も放った侭で腐り果てたか迷宮に吸収されたかは定かでは無いが、詰まりは何も遺さずに死んでしまったそれなりに美少女な社長令嬢。

 

 彼はそんな相沢さくらの父親である。

 

 尚、どうでも良いけどα世界線でもβ世界線でも地球に居た頃はハジメを良く思わない一人だったけれど、α世界線では全てが終わってから魔王化したハジメに惹かれてハジメの両親を家の力により支援し、外堀を埋められないかとか考えているらしいのだが、それはそれとして何故か優花に対して心から尊敬の眼差しを向けていた。

 

 まぁ、α世界線では魔王化したハジメを以前とは違う目で見る者がモブの中に増えているから、相沢さくらもそんな中の一人という事でしかないのであろう。

 

 鉄砲玉とかメイドとかペットに成りたい何てのよりは幾分かマシである。

 

「……確かに死んだ人間の魂さえ確保が叶えば、肉体を創って魂を再定着化させて生き返す事自体は可能だが、僕は『甦生まっすぃーん』に成る気は更々無いんでね。対象が僕にとって有益か否かによって決めているんだ」

 

『有益か否か……』

 

 相沢さくらの父親は檜山大介の父親に対して、苛烈な私刑を行った一人でもあった。

 

「本人がとても有能で僕の為に能力を使う覚悟が有るとか、若しくはその生き返らせたい人間の為に一〇億円を支払うとかだろうね」

 

『そんな大金を容易く動かすのは……』

 

 会社の社長とはいえ自由自在にお金を動かせるという訳では無いのだから、況してやそれが自分の為に会社のお金を使い込むなど有り得ない。

 

 確かに彼は金持ちかも知れないが、それは至極単純に自由に使えるお金を貯め込んでいたに過ぎないし、そのお金も別に小遣いにして使っている訳では決して無い。

 

 相沢さくらの高校での学費や将来的に見るなら大学の学費、家のローンや食費や光熱費や様々に消費されていくのがお金なのだから。

 

『むぅ……緒方優斗君、貴方に取りさくらは可愛いと思いませんか?』

 

「は? まぁ、それなりには美少女だと思っちゃいるけど? 飛び抜けて美少女なユエや学校内で“二大女神”とか呼ばれている香織や雫、シアやティオやミレディみたいなのに比べなければな」

 

『おうっふ!』

 

 美少女と呼べるだけの容姿、だけど今現在に居る【閃姫】とは比べるべくも無かったと云う。

 

『ゴホン、ウチのさくらを貴方の……何と云いましたか? せんきというのに出来ませんか?』

 

「成程、お金は難しいし相沢の能力が有益かと云われればこれも難しい。ならば相沢の“女”という部分を強調したいって訳か」

 

『相沢家としても緒方家と縁を結べるのは嬉しいというのは有りますが、それより何より可愛い娘が生き返るなら……』

 

 その顔は正に娘を愛する父の顔、白崎智一みたいな親バカもまた父親なのだろうが……

 

「然し問題が有る」

 

『も、問題とは!?』

 

「僕は相沢に余り好かれていない」

 

『なっ!?』

 

 これは意外や意外な話。

 

「相沢はハジメに対して余り良くない感情を持っていてね、だけど僕はハジメとは友人だから勘ってやつなのか? どうにも避けられていた」

 

『ハジメとは確か南雲氏の?』

 

 相沢氏が南雲 愁と南雲 菫を見遣ると、矢張りというべきか狼狽えている。

 

『ハ、ハジメは虐めにでも遭ってるのか?』

 

「その通りだよ、愁さん」

 

『っ! ハジメからは何も聞いてない』

 

 言う筈も無い。

 

「親に心配をさせたくないから、家では精一杯に元気で居ただけだよ。僕としてはどうにかしたかったけど他ならない、ハジメ本人が学校での関わりを避けていたからね」

 

『ど、どうして!?』

 

「僕まで標的になるから。寧ろ標的になって僕が連中を打ちのめすのを避けたかったんだろうね。休みの日には普通に遊んでるんだから問題なんて無いのに……な」

 

『くっ、ハジメらしいというか』

 

『そうね、アナタ』

 

 南雲 愁の言葉に同意する南雲 菫。

 

「そういう訳だから、相沢が僕の女に成るってのは本人の意志を無視しないと無理じゃない?」

 

『くっ、何たる事か』

 

 ガックリと膝を付く。

 

 ユートは序でだと云わんばかりに他の娘持ちな親へと向けて口を開いた。

 

「因みに、僕は今生きている娘ら以外から相沢と似た感情を持たれている。これは男子連中も実は変わらないと思って欲しい」

 

 死亡したクラスメイトの親達は愕然。

 

「尚、理由は相沢と変わらん」

 

『『『『『何故だぁぁっ!』』』』』

 

 それだけハジメがクラスの中でも浮いていたという話だし、その原因は香織と小悪党一号を始めとする小悪党四人衆と天之河光輝に有ると言っても過言ではあるまい。

 

 南雲 愁と南雲 菫も叫びたい衝動に駆られてしまうが無理も無い、我が子が自分達の知らない間に学校で虐めを受けていたのだから。

 

 休みの日、ユートと遊ぶそんな日だけは安らぎを感じられるというのがハジメの談。

 

 彼女でも作れば? とも言ってみたのだけど、今の高校に通う前の中学生時代からハジメは余り積極的では無く、『趣味の合間に人生を』なんて何処ぞの自衛官が言っていた事を言い放つ始末。

 

 実際、アニメに漫画にラノベにゲームに特撮にと趣味へと全振りしているのも事実。

 

 高校に入ってから突撃傾向にあった香織に対しては辟易としていて、正くらいユートとの休みの一日こそがハジメの楽しみだと言われてしまう。

 

 趣味が同じだからだろう。

 

 いずれにしても、ユートもハジメは同じ趣味を互いに満喫する事が出来る友人――同士。

 

 気安い間柄なのも当然だった。

 

「取り敢えず僕が名前呼びしないって意味を考えれば良い、然して親しくも無い人間を名前で呼ぶ程に僕も気安い心算は無い」

 

 飽く迄も地球の現代日本である事を前提にしてという限定条件は付く、何故ならばトータスみたいなファンタジー世界だと抑々にして姓を持たない人間が普通に居る。

 

 設定上、姓が判らない人間だって居るのだから呼び様が無いとかの事情も出るだろう。

 

 だからそこら辺はファジーだ。

 

「それで、生き返る云々以外では?」

 

『最終決戦はいつになるのかい?』

 

「愁さん、良い質問だけど天之河エヒトが何処に行ったか次第だから判らない。近日中なのは間違い無いと思うけどね」

 

 南雲 愁の質問は核心を突く。

 

「恐らくだけどね、エヒトルジュエの意識的には使徒の増産と強化に時間を割くと思う」

 

『使徒とはあの同じ顔をした?』

 

「そう。数はアレで補っているから減った分というのは全体の雀の涙だろうが、それでも数千体が溶けたんだから増産はしたいだろう。それに既存の使徒では勝てないから強化を必至だろうね」

 

 しつこい様だがエヒトルジュエの使徒は数値的に見て、全能力値が一二〇〇〇というトータスの全体でも可成り大きなモノ。

 

 本来の天之河光輝が最高レベルへと到達しても全能力値が一五〇〇と、三倍な限界突破や五倍な限界突破・覇潰ですら追い付かない。

 

 それがワラワラとまるで一体を見たら三〇体と云わんばかり。

 

 実際に【解放者】達がエヒトルジュエの使徒をどう視ていたか、ハルツィナ樹海で使徒に見立てていた大量のGを見れば解る通りだろう。

 

『何十万と出て来たら?』

 

「此方側もまだまだ戦力増加の当ては有るから、それに例えば淑乃のロゼモンは究極体から更なるパワーアップのバーストモードが在る。つまりは戦力は今現在見せているモノだけじゃ無いのさ」

 

 ジオウ系の能力としては仮面ライダーの召喚、更に余り使用しない紋章変遷(クレスト・チェンジ)も存在する。

 

 ライダーズクレストを使っての召喚だったが、仮面ライダーとはまた違う紋章を使って別の存在の召喚、それによる人数の増加は出来る上に割と仮面ライダー級に強い。

 

『それとこれは別に答えなくても構わないけど、優斗君は心臓を潰されても死なないと豪語していたよね? 例えば首を刎ねられた場合は?』

 

「それに関しては紋章士ルキナに話して貰うのが良いかもね」

 

『うっ!』

 

 聖王女の指輪から顕現化していたルキナに話を振ると、言葉に詰まった挙げ句の果てに顔を真っ赤に紅潮させながら両手で顔を覆い(うずくま)る。

 

 あれは正しくルキナにとっては黒歴史でしかなかったし、そんな彼女の記憶を持った紋章士であるからにはこうなってしまうのも無理は無い。

 

『嘗ての私は御父様を殺害した裏切者を捜す事に躍起に成っていました』

 

 ぽつぽつと語られるユートが干渉をした世界線の【ファイアーエムブレム 覚醒】での出来事、父親であるクロム、叔母であるリズ、忠臣であるフレデリク、クロム本人は元より叔母や忠臣は違うだろうと判断をしていた。

 

 他にもセレナの母親のティアモ、クロムの妻=自分の母親たるスミアも違う、そんな風に一人一人を精査して行き着いたのが軍師の存在。

 

 実は軍師に関しては姿は疎か名前も性別てすら不明、だけど明らかにユートが父親の軍師として動いていた事もあってクロムを殺した容疑者へと決め付けてしまう。

 

 二人切りに成るシチュエーションがあった為、ユートにその話をしてユートこそがファウダーを討った後、未来でクロムを殺害した犯人であるとまるで『じっちゃんの名に懸けて』とか言い出しそうに指差して来た。

 

『そう思うなら斬れば良い』

 

 そんな風に言われて頭に血が上ったルキナは、手にしたファルシオンで首を刎ねたのである。

 

 沢山の女性と浮き世を流すのを視ながら好意を懐いていたルキナは、刎ねた生首を拾い上げると慟哭というレベルで泣きながら抱き締めた。

 

『ちっぱいでもそれなりには気持ちが良いけど、身体が無いからちょっと不便だよな』

 

『キャァァァッ! 生首が喋ったぁぁぁっ!? お化けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

 普通に頭しか存在しない筈のユートが喋り始めて吃驚仰天したのは当然だろう。

 

『誰がお化けか! この僕がちょっと首を刎ねたくらいで死ぬものかよ』

 

 当たり前だけど、『そんな莫迦な』とルキナは

茫然自失となってしまったのだと云う。

 

 その後、首を倒れた身体の元の位置に持って行くと普通に繋げて見せられた。

 

 その後に押し倒されたルキナは抵抗らしい抵抗もせずにその夜はユートと合体してしまい、更にピロートークでユート下手人説が有り得ない事を説明されて黒歴史認定となる。

 

 先ずを以てルキナ達の“絶望の未来”にユートは一切の干渉をしておらず、ユートの位置に居たのは性別こそ判らないけどルフレという存在だと。

 

 そしてこの世界線ではルフレの位置にユートが居て、肝心要のルフレ本人は未だに出逢ってすらいなかったのだ。

 

『まぁ、あれだよ。若しも僕がルフレみたいなら僕の中にギムレーが存在する事になるんだけど、無理だろうな色々と……優雅兄に瑠韻、ドライグにアルビオンと居る中に勝手に入り込んだりしたらフルボッコ確定だしね』

 

 だけどその呟きは聞こえて無かった。

 

 世界線が違うという意味、そして父親が判らないとはいえ母娘丼を平らげるユート、そして自分も姉妹丼をされてしまった事への羞恥心。

 

 ヒーロー大好きな妹のシンシアも自分より早くにそうなっており、果たして彼が裏切者だったとしたらシンシアは立ち直れるか? といった懸念もあったけど、そんな心配は無くなって安堵をした訳で……それより何より自分が彼への攻撃行動に出たという報復みたいなものだったし、ルキナ自身からしても謝罪の意味もあって受け容れた。

 

 尚、クロムとスミアはユートの干渉した世界線でも普通に結ばれた為に、ルキナとシンシアという姉妹だけは確実に“絶望の未来”に向かう世界線と両親が変わらないものとなる。

 

 余りにも恥ずかしい黒歴史を伝えたルキナは、指輪の中に引っ込んでしまい暫くは引き篭もりそうな雰囲気、南雲 愁も訊いたのは矢張りアレだったかと思ったらしくてそっぽを向く。

 

 そして居た堪れない雰囲気の侭に、緊急開催された家族会は終了をしたのだった。

 

 

.




 ありふれを改めて読んで幾つか同じ言葉が有ったりします、例えば――到達者。これは意味合いが当然ながら違ってきますけど、だからと言ってかけ離れてもいないんですよね。

 神代魔法の神髄を個人で扱える者がありふれでの意味、人としての限界点に到達をした者というまんまの意味が此方です。

 それは兎も角、ありふれた職業で世界最強での天之河光輝の末路は幾つか候補がありましたが、アンケートにて決定したのが香織をレ○プ未遂とエヒトルジュエとの融合化です。

 問題が一つ、天之河光輝のエヒトルジュエとの融合化は勇者が実はユエの予備的存在……という独自設定によるものでしたが、何故か読んだ人は皆が公式設定みたいに言っています。

 読み直してもそんな記述が見つからず、正直に言うと首を傾げてしまう事態だったんですよね、前々からの……

 読み飛ばしてしまったか忘れたかのか?




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第120話:ありふれた【解放者】の復活

 ちょっとタイトル詐欺かも……





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「さて、それじゃ……リュール」

 

「はい」

 

 傍で自身の剣であるリベラシオンを納刀しながらユートに返事をする。

 

「“紋章士の指輪”を回収したらリュールは付いて来てくれ」

 

「判りました」

 

 リュールは右手を豊満な胸元へと当てながら頷くと、【閃姫】達や坂上龍太郎に渡した紋章士の指輪を回収するべく動き出す。

 

 実体を持たない本来の紋章士とは異なる点が、本人そのものが既存の指輪を媒介に紋章士化したというもので、リュールは妹に望んで死んだ肉体を異形兵に変えて貰った上で紋章士の再顕現化をしたまでは良かったけど、力を使い過ぎたらしくエネルギー切れで消滅しそうになった。

 

 それを一二の紋章士の指輪の意志が一丸となり彼女を紋章士化、現世へと留める為に唯一無二の奇跡の力を使ったのである。

 

 尚、この時にユートはマロンを甦らせる為に離れていたので傍には居なかった。

 

 当然ながら本来の流れでは紋章士もソンブルとの闘い以降は顕現化不可能となって、リュールは退位をしたルミエルから神竜王の座を引き継いで――α世界線でルミエルは死亡しているけど――神竜王としてリトスの地に立つ。

 

 紋章士は本人では無く力と記憶が指輪に宿った一種の残留思念だが、リュールは当の本人だったから肉体を持っている違いが有った。

 

 因みに、残留思念の記憶はユートが干渉をしたβ世界線が主流だったので、マルスからは義兄さん呼ばわりされ、カムイからも兄様とか呼ばれ、明らかにユートを識る言動をしている。

 

 だからこそ、関わりが砂漠でエスリンの死亡を留めた事から始まる【ファイアーエムブレム~聖戦の系譜~】の父親世代、聖騎士の指輪に宿ったシグルド以外は普通に知り合いばかりだった。

 

「で、私達はどうするのよ?」

 

「どう……とは?」

 

「仲間集め? それとも修業?」

 

「仲間集めって雫、トータスに仲間に出来そうなのが他に居ると思うのか? 修業にしたってもう今更感しか無いだろうに」

 

「それは……まぁね」

 

 出来るならこんな莫迦みたいな争いに巻き込みたく無いのが朝倉リク、ウルトラマンジードである彼は可成りの力に成ってくれるのだろうけど、何しろ最終決戦はエヒトルジュエと融合化をした天之河光輝が相手、世界線が違うとは云ってみても本来ならば同じ地球人には違いない。

 

「因みに、嘗て【解放者】に対してエヒトルジュエがやった手法は対策済みだ」

 

「大規模な洗脳ね。光輝は洗脳洗脳って優斗を責めていたけど、自分がヤるなんて何たる皮肉な話かしら? しかも失敗だなんてね」

 

 これは前に天之河光輝のアナザージオウⅡによる時間改変が、特に対策をしている訳では無かったハイリヒ王国の王都やヘルシャー帝国以外には効果を及ぼさなかったのと同じ事。

 

 今は現シュトウラ覇王国と現トゥスクル白皇國として再稼働している為、当然の如くでその手の対策は済ませているから天之河エヒトがそれを使っても失敗する未来しか無い。

 

「ユート、紋章士の指輪を回収しましたよ。後は貴方が着けている“未来を選びし者の指輪”で全てになります」

 

「そうだな」

 

 ユートが指輪を外すとカムイが少し名残惜しい表情になりながら消える。

 

 このカムイはユートが干渉した世界線に墜ちて来たγ世界線――どう考えてもバッドエンドを迎えたのであろう、きょうだいも仲間も志しなども全てを喪ってしまって自暴自棄に陥り、竜化して襲い来る透魔兵を暴走する侭に殺し尽くし蹴散らしていた存在、ユートにより精神的に救われてからは誰よりも近い兄様として、そして()()として傍らに居たいと思ってしまっていた。

 

 実際、流石にカムイもすぐには体を許したりはしなかったけど、風呂では共に入って背中を流したり、閨ではマッサージをして全身を揉み解してくれたりして肉体的な接触過多、初心なサクラやエリーゼやヒノカは余りに明け透けで真っ赤になってしまっていたし、カミラでさえ頬を染めながら微笑ましそうな表情で視ていたものである。

 

 そんなカムイの記憶の全てを持つからにはこれは仕方が無いと云えよう。

 

 というより、ユートが顕現化をさせた紋章士の全員が本体とも云える存在がユートとの性的関係を構築しており、矢張りというかリンもミカヤもセリカもルキナもベレスもエイリークもカムイと同じ表情で消えていた。

 

 セリカも? と思うかも知れないが、実の処はユートが介入した結果としてアムルは事が起きる二年前、つまり【ファイアーエムブレム~新・暗黒竜と光の剣~】が始まる前にアルムとエフィが婚姻を結ぶ様に策謀を巡らせたのだ。

 

 別にヒロインなセリカをアルムから略奪するのが目的では無く、遥かなる未来のヴァルム帝国が皇帝ヴァルハルトが消える事まで無いにしても、せめて少しでも弱体化が出来ないかと神竜ミラの血を持つソフィア王国の王族の血を入れない為。

 

 【ファイアーエムブレム外伝】では無く世界的には【ファイアーエムブレムECHOES~もう一人の英雄王~】であり、リゲル王族には神竜ドーマの聖痕が浮かび、ソフィア王族には神竜ミラからの聖痕が浮かぶ神竜の血を与えられた証を持つ。

 

 と、考えたユートはミラの血族であるセリカがアルムと結ばれて本来の力を持つヴァルハルトに成らぬ様、何ら力を持たないがヤンデレなレベルでアルムへの愛情を持つエフィを宛がった。

 

 尚、アルムがルカに付いて行ってグレイやクリフやロビンを連れてラムの村を出た頃、エフィは妊娠四ヶ月でそれなりにお腹が張っていたので、当然ながら彼女は旅に出る事も無く終わる。

 

 セリカがラムの村に訪れた時、アルムの子供だとお腹を見せられて可成りの衝撃を受けていたのだが、取り敢えず結婚をしていたエフィを祝福してラムの村を出たセリカは、近場に巣くう盗賊を八つ当たり気味に幾つか滅ぼしてラムの村が襲われない様にしておいたのだった。

 

 その所行は正しく聖女であろう。

 

「そういや、修業とか言っていたけど基本的には僕はそういうの反対なんだ」

 

「何でよ?」

 

「普段から真面目に修業してりゃ良いものをさ、差し迫ったから『修業よ!』とか言って修業し始めるんだよ。莫迦じゃないか? って思うね」

 

「何で女の子っぽい口調?」

 

 男のユートが行き成り女の子みたいな口調にて『修業よ!』とか言い出し、雫は不気味に感じたりはしなかったけど不自然さは感じたらしい。

 

「以前に行った世界でね、やれバトルだ何だってなるとそんな事を宣う部活の部長が居たんだよ。こっちが散々っぱら修業を提案しても乗らなかった癖に……ね」

 

「な、成程……」

 

 部活の部長が修業って何だ? とは思ったが、そういうモノだったんだと無理に納得した。

 

 因みに、それは言わずもがなで【ハイスクールD×D】世界に於ける美しき上級悪魔リアス・グレモリーを指す。

 

 ユートが干渉したβ世界線でユートが修業を促した時には今は不要と宣いながらも、ライザー・フェニックスのチームとレーティング・ゲームが決まった途端に、手の平を返して修業回を始めるとか言い出し始めたのだ。

 

 此方から提案した際には無視しておきながら、自分の都合でユートを巻き込んでの修業をしたがるとか流石にムカッとするのは元より、恒常的な修業を稽古のレベルでやるのでは無く強い相手と闘うからと、短期的なレベルアップを目論んでの修業だというのだから呆れる他に無い。

 

 例えば【ドラゴンボール】でも強敵が出るとなれば短期的に強くなる修業はするが、孫悟空にしろベジータにしろ基本的に恒常的な稽古を欠かしている訳では無いから問題にしてなかった。

 

 学生なのだから勉学が本分、だから修業修業と修業漬け生活を送れという訳では決して無くて、朝と夕方に軽い稽古をしておくくらいは行うべきだと言っている。

 

 それを怠りながら、ライザー・フェニックスと闘う際には修業をしようとか、闘いを舐め切っているとしか思えない態度であろう。

 

「あの、リュールさん」

 

「あ、えっと……確かシズクでしたね」

 

「え、ええ」

 

「どうしました?」

 

 小首を傾げるリュール。

 

「あ、行き成り名前を呼び捨てって余り慣れてはいなくって」

 

 天之河光輝は普通にやりかねないが、あれでもさん付けくらいは呼んでいたりするのだ。

 

「そうでしたか、済みません。私は仲間達を呼び捨てにするのが割と普通でしたから」

 

「あ、嫌な訳じゃ無いわ。文化の違いとかも有るでしょうし」

 

 尚、彼女はだいたい『神竜様』と呼ばれていたのだけど、ゲーム的には名前は変えられる仕様だからボイスが付けられないので、通称として用いられているのが『神竜』という判り易い名前。

 

 【ファイアーエムブレム~風花雪月~】に於けるベレトとベレスも、生徒からは『せんせい』という呼び方が成されていた。

 

 面白いのはエーデルガルトの『(せんせい)』、テキストとボイスでの呼び方の違いだろう。

 

「それで、何でしょう?」

 

「リュールさんは貴女の世界での優斗を当然だけど知ってるのよね?」

 

「そうですね。私が目覚めた時に“竜の守り役”であったクランとフランと一緒に居ましたから」

 

「目覚めた時?」

 

「はい。邪竜ソンブルとの闘いで重傷を負った私は千年間を眠りに就いていました。ソンブル復活が成った頃に私も丁度目覚めたのです」

 

 クランとフランは第一三代目の“竜の守り役”、邪竜ソンブルとの一大決戦以降は眠り続けていたリュールの部屋を綺麗にしたり、ソラネルを巡回したりと一応仕事は多岐に亘って有った。

 

「僕はリュールが眠りに就いて数百年後に転移をしたからね、取り敢えず神竜王ルミエルの無聊を慰めるくらいしかやれる事も無かったんだ」

 

 神竜と神祖竜で種族こそ異なったけど、同じ竜という同士だった事もあって数年間を共に暮らし、彼女の仕事を手伝ったりしていれば互いに情も湧いてくる上、男と女で性別も違うとなれば闘うしか無かった邪竜ソンブルとは違い、愛し合う事も出来る存在としてルミエルも惹かれる事に。

 

 邪竜の御子たるリュールを我が子としていたとはいえ、女として終わった心算は更々無かったのかルミエルからも少しずつ接触が増えたもの。

 

 最終的にヤる事は一つしか無かった。

 

「最後の決戦が終わって、母さんから神竜王の座を継承する前夜は四人で……凄かったです」

 

 あの日の――いざや神竜王の玉座を継承する前日での、義母や妹とも交わる四人での乱交を思い出しポッと頬を朱に染める。

 

「うん? 四人?」

 

「あ、私と母さんと妹のヴェイルですよ」

 

「妹? 確かリュールさんは邪竜ソンブルの実子だった筈、妹って事は優斗が現れた数百年の内に産まれた神竜王ルミエルさんの娘さんって事? 幾ら何でも実の娘と優斗がスるかしら?」

 

 ルミエルはリュールの前に子供が居ないので、養子という形のリュールが長子に当たる事になるから、妹が居たとしたらルミエルがユートとの間に産んだ娘という事ではないか? というのが雫の言い分だった。

 

「いえ、ヴェイルもソンブルの娘ですね。つまりは()()()()邪竜の御子ですよ」

 

「へ?」

 

「私は千年間に母さんから神竜の氣を与えられ、邪竜の体内に神竜の力を蓄えています。赤い髪と赤い瞳が私の邪竜の証、青い髪と青い瞳が私の中の神竜の証なんです。でもヴェイルは元々が敵として動いていたソンブルの手先でした。何やかんや有って和解したんだと思って下さい」

 

「そういう事か~」

 

 リュールが紋章士の指輪で絆を結べるのは謂わばルミエルの力を得ていたから、邪竜の侭だったら支配する形で紋章士は力こそ引き出されていても口すら利けない人形同然。

 

 究極体から戻ったパートナーを連れてる瑠姫とアリスとヒカリと淑乃、究極体から戻る概念自体が無いメルヴァモンはクロスアウトしてスパロウモンと別々に、パートナーが居ない泉も進化を解除して元の姿に戻っている。

 

「優斗、私達はどうするの?」

 

「瑠姫達も僕らの拠点に来てくれ。位置的に見てトゥスクル白皇國を拠点にするから」

 

「判った」

 

 淑乃は契約前と変わらない姿だが、瑠姫にせよアリスにせよヒカリにせよ泉にせよ小学生だった彼女達は見た目が高校生、淑乃の次に年上として活動していたネネも高校生くらいで若干ながらもアニメより成長している姿。

 

 つまり雫達と変わらない。

 

 それでいて、明らかにユートと共に長い時間を過ごした感が凄まじい雰囲気を醸し出す。

 

 それはリュールも同じくだ。

 

 しかもユートは他にも戦力の当てが有るのだと言い切っていたし、天之河エヒトがどれだけ戦力を補充してくるのかが分かれ目。

 

「恐らくだけど天之河エヒトは使徒の方も可成りの強化をしてくるだろう、正確には計れないけどそうだな……ストライクガンダムとフリーダムガンダムくらいの性能差は出てくるかもな。既存の使徒を改造するのか、或いは新造した使徒を強化バージョンで造るのかは知らないけどな」

 

「ひょっとしたら、ストライクガンダムとストライクフリーダムガンダムくらい差があったり?」

 

「いやいや、それは流石に性能差が酷いな」

 

 ガンダムを識らないらしいデジモン組やトータス組やリュールは首を傾げる。

 

「デジモン的には成長期と完全体くらいの差かも知れないなって話だよ」

 

「な、成程……つまりはお兄ちゃんのアグモンとメタルグレイモンくらい違いが有るのね」

 

 ヒカリが頷きながら言う。

 

「私達だとアグニモンとアルダモン?」

 

「ウチだとギルモンとメガログラウモンよね」

 

「私達の場合はアグモンとライズグレイモンになるかしら?」

 

「ウチは……ちょっと判らないわね。デジモンを世代では見て来なかったから」

 

 それぞれ、泉と瑠姫と淑乃とネネが自分達での

場合――だけど自分のパートナーでは無い――を口々に話す。

 

「ネネだとシャウトモンとシャウトモンX4くらいじゃないか?」

 

「あ、そのくらいなんだ」

 

 世代で云うとメルヴァモンは究極体であるから、スパロウモンと比べると差が付きすぎた。

 

 まぁ、あの世界は単純な世代だけではちょっと計り知れないのだが……

 

 何しろ【デジモンアドベンチャー02】に於けるラスボスが、可成り雑な感じで真っ二つにされてしまうくらいには弱体化をさせられていたし。

 

 まぁ、あれは採算度外視なガンダムを量産化したジムに落とし込んだみたいなものか?

 

「そんな事よりユート」

 

「どうした? アリス」

 

 世代の話は瑠姫がしたから参加して来て無かったアリスが、ソッとユートの腕に当時から比べて大きくなった胸の間に沈み込ませつつ科垂れ掛かって碧い瞳を潤ませ、頬を紅潮ながら背丈の差も有って自然と上目遣いで口を開く。

 

「折角、喚ばれたのだから……ね?」

 

 するとリュールも反対側に回ってアリスと同じ事をしてきた。

 

「そうですよ、私も今宵は」

 

 こんな態度で接して来たのだから言いたい事は理解するのだが、未だにモニターは地球と繋がっているから苦笑いな面々も居たけど、白崎智一氏みたいに娘との関係を認めたくないとすら思っている場合は、娘をキズモノにしておきながら……とか憤っている。

 

「勿論だ。ダイオラマ魔法球で全員を須く可愛がってやるさ」

 

「流石ね、優斗は」

 

「本当に……」

 

「其処で全員と言い切る辺り優斗ね」

 

 ユートの発言に朱くなりながらも呆れているのはヒカリと泉と淑乃、特に口を開いていないけど矢張り紅潮しているのが瑠姫とネネ。

 

 とはいっても瑠姫はプイッとそっぽを向いて、ネネはチラチラと期待感の篭もる目を向けるという違いがあり、呆れながら同じく期待感の篭もった目をヒカリ達も向けていた。

 

 【閃姫】に成ると若い侭で肉体的に変わらないのだが、実は精神的にも成長自体はするにしても老成しないから割とこういう場合も若さ全開。

 

 喚ばれた【閃姫】には御褒美です……的なのがコレだから或る意味で安上がりではあるけれど、並の男では同じ御褒美を同じ人数だけヤった場合は確実に枯れ果ててしまう。

 

 そういう意味では強壮たる【C】に性的に襲われてしまい、魂まで穢されて呪いに掛かってしまったのも福音に近いかも知れない。

 

 肉体的な変質で結果、無限で大量に射精が出来てしまう状態と女性への性的な興味の増大化と、覇道瑠璃との性交渉での致命的な失敗のトラウマを寧ろプラス化させてしまった。

 

「ねぇ、ゆう君」

 

「どうした香織?」

 

 普通にハーレム状態なユートに話し掛けるのは父親の気も知らない香織。

 

「それは私達も参加するのかな?」

 

「無理強いはしないが、本来は【閃姫】っていうのは基本的に僕がヤりたい時に相手する義務みたいなのも有る。まぁ、義務感で開かれても愉しい訳じゃ無いんだけどね」

 

「あ、嫌な訳じゃ無いんだけど……その、ね? 雫ちゃんや鈴ちゃん、それにユエさんやシアさんやティオさん、ミレディさんも良いとしてね……其方の人達とも百合な関係を築くのかなって」

 

 言いながら顔を赤くしたのも当然であろうか、要するにユートが例えば鈴と合身GOをしている時には、香織は雫と女同士での合体をして痴態を魅せている訳だが、それを見知らぬ相手ともヤらなければならないのは少しキツい気がする。

 

「すぐにヤれとは言わんよ。人数が居るんだから慣れてる者同士でヤれば良いんだ」

 

「そっか、うん」

 

 はにかむ香織。

 

『ちょっ、マイ・エンジェル!?』

 

 反面、白崎智一氏は真っ青。

 

(寧ろ、優斗に抱かれた香織って堕天使って感じにならないかしら?)

 

 雫は益体も無い事を考えていた。

 

「そんな事より」

 

『そんな事っっ!?』

 

 流されたから憤慨しているらしい。

 

「折角、全てのプログライズキーが揃ったんだ。ミレディを呼んで彼らを復活させる!」

 

『『『『っ!』』』』

 

 事情をよく知るメンバーが目を見開く。

 

 オプティマスプライムが降りてきて、呼ばれたミレディ・ライセンが外へと出て来ると造られたテーブルに置かれたプログライズキーを見遣り、何処か感動をした表情で瞳を潤ませていた。

 

「ナっちゃん、ラーちゃん、メイル姉、リューちゃん、ヴァンちゃん」

 

 そして黒いプログライズキーを見る。

 

「オー、ちゃん……」

 

 もう、昔みたいに『オー君』と呼ぶ訳にはいかないだろうと呼び方を変えた。

 

 そんな資格は無いから……と。

 

「それじゃ、プログライズキーに記録されているデータ。そして内部に内包されている魂の復元とアストラルマトリックスから読み込んだデータを使い、遺伝子から姿形まで全てが生前と変わらない肉体の再現を始めようか」

 

 ユートはゼロワンドライバーをストレージ内から取り出して腰に合着、黒いプログライズキーを手に取るとライズスターターを押した。

 

《OSCAR ORCUS!》

 

 それをオーソライザーへ翳す。

 

《AUTHORIZE!》

 

 オスカー・オルクスプログライズキーをライズスロットへと装填。

 

《PROGRIZE! OSCAR ORCUS!》

 

 此処までは前に試した時と同じ工程。

 

「さて、始めようか」

 

 バンッ! とプログライズキーをライズスロットの奥へ叩き込む。

 

《OSCAR ORCUS REVIVAL OPERATION!》

 

 電子音声が鳴り響いてオスカー・オルクスの姿が半透明な形で出現、それと同時に保存されていたと思しき魂魄が顕れて浮かび上がった。

 

 その数は八個。

 

「矢っ張りか、前に読み込んだ時と変わらない八人分の魂だな」

 

 大きめな魂が一個と小さな魂が七個、当然の事ながら生き返っているミレディ・ライセンを除けば【解放者】の神代魔法の使い手は六人、つまり魂の数が明らかに二人分は多い事になる。

 

「本当にディーちゃんとユンちゃんが?」

 

 元々、このリバイバル・オペレーション計画を聞かされて無かったミレディも吃驚していた。

 

「一際、大きいのが半分にされたオスカー・オルクスの魂だろう。小さいの五つが半分を更に五分割した神代魔法使いの魂、そして二つ有る少しだけ大きめのがディーネというメイル・メルジーネの妹と、ユンファというスーシャの妹の魂だな」

 

 記載された情報からだいたいの姿がユートの脳に記録されていく。

 

「とはいえ、所詮は六分の一の情報か。前に読み込んで判っちゃいたけどな」

 

 全く足りていない情報と魂の量、これを補足するには残り五つのプログライズキーは必須な為、黒いオスカー・オルクスプログライズキーを外すとポイッとミレディに投げ渡す。

 

「ふぇ? 何?」

 

「もう中身の無い物だが、一応は仲間の魂を封入していた器だからな。持っとけ」

 

「あ、うん……」

 

 前回は情報の前精査、今回は内部の魂の解放にまでも至っている。

 

「それじゃ、次々と往こうか」

 

《LYUTILIS HALTINA!》

 

 ユートはリューティリス・ハルツィナプログライズキーを手に取り、それのライズスターターを押してオーソライズしてライズスロットへという手順で読み込み、随時に情報と封入されていた魂の解放をしていった。

 

 六人分のプログライズキーを開封、魂も完全に八人分が解放されている。

 

 氷雪洞窟内で仮初めにやった時とは全く違い、完全に開封された魂を同じ色同士で融合。

 

 八つの魂が浮かぶ。

 

 この八人の魂はトータスの人間、故にユートの冥界による安定化の保護を受けていられた。

 

(みんな)……」

 

 ミレディは感極まったらしく涙ぐんで八人の魂を見つめているが、視覚化されて見えているだけでアストラルサイドに属するからマテリアルサイドの肉体では触れられない。

 

 だけどもう一度会える、もう一度話せるというのは数千だか一万二千年だかを孤独に過ごしてきたミレディだけに、そしてゴーレムから新生された肉体を得てユートの女に成り、寂しさを埋められたとはいっても嘗ての仲間と新たな仲間は矢張り別物で、時折だけどユートの腕を枕に胸元にて涙を零しながら【解放者】の仲間達の名前を呟いていたのを知っている。

 

 急遽、ダイコンボイに一旦戻らせておいた上でオプティマスプライムに積んで来た八人の魂肉体を再生、保存をする為の医療用ポッドを運び出してユートの前にデンッと屹立させて置き、ユートがこのポッドにデータ化させた八人の肉体の遺伝情報を入力していく。

 

 ミレディの時みたいに一人だけであるならば、機械に頼る必要性も無かったけど八人分は流石に分割思考(マルチタスク)で作業しても手に余る。

 

 人間の魂や肉体はそれだけ複雑なのだ。

 

 真の冥王ハーデスならば片手間にやれそうではあるが、どっこいハーデス・セカンド的な存在とはいってもユートは元々が普通の人間に過ぎず、其処までダイナミックな事が出来る様には未だに成ってはいなかった。

 

「補助は要るか」

 

 バサッと服を脱いだユート、それを何事! かと見詰める女性陣だったけど何も全裸に成っている訳では無く、ズボンは穿いている上半身だけでの謂わば半裸の状態。

 

「これは……ユート兄ちゃんの本気モードが見れるかも知れないよ!」

 

 いつの間にかヴィヴィオが居た。

 

 まぁ、オプティマスプライムをダイコンボイへと導いてポッドを積んだのはヴィヴィオであり、アインハルトもそれを手伝っていたのだから当然の権利と云わんばかり。

 

「本気モードというと、その昔に“闇の書の闇”が異世界から連れて来られた神アプスだった事から使用した経緯が有り、そしてヴィヴィオさんの中に存在する彼女が目覚めた時にも使った筈」

 

 碧銀の髪の毛をポニーテールへと結わい付けている女性――アインハルト、正式名称はハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト……が頷きつつも戦慄をしていた。

 

 覇王国はどうした? とか訊きたくなるけど、それに関しては優秀な宰相が何人か居るので少しくらいは平気だし、何よりも最終決戦が始まれば結局は彼女達も戦場に出るから問題は無い。

 

「えっと、二人して言う本気モードって何かな? 其処まで戦慄する程?」

 

 香織が訊くも……

 

「見ていれば判るかと」

 

 神妙にアインハルトが答える。

 

「我は冥王。死の世界たる冥界を治める者也。浄土より来たれ我が冥衣よ!」

 

 それは時空間をも越えてユートの冥界の永劫な楽土――エリシオンより飛来した、冥界の深奥より出土する冥界の鉱石の如く美しいまでの闇色に染まる人を模したモノ。

 

 冥界の王ハーデスを象る鎧である。

 

 海皇ポセイドンの鱗衣、戦神アテナの聖衣など神々が纏うそれは神の闘士の最高位が身に纏ったそれより、神々しい威容に美しい輝きを放つ神器と呼ぶに相応しい代物。

 

 それは冥王ハーデスが纏う冥衣も同様であり、その美しさは冥界三巨頭やハーデスの側近となる双子神の冥衣より上だった。

 

 権能“冥王の箱庭の掟(ヘル&ヘブン)”の派生権能にして、ユートを正しく冥王ハーデス・セカンドたらしめているのがコレである。

 

 成程、人の生死を司る存在としての能力増加には確かに不可欠かも知れない。

 

 カシャーンッ! 軽快な音を辺りに響かせながらも両の脚、両の腕、腰、胸、両の肩、そして頭――には装着されず脇に持つヘッドパーツ。

 

「では、始めるとしよう」

 

 元々が黒髪なだけに厳かなる雰囲気を醸し出していると普通にハーデス。

 

「ユート兄ちゃんの本気モードは全部で三種類、一つ目がマスターテリオンモードで金髪金瞳になる大導師な姿」

 

「二つ目が超闘神モード。超サイヤ人ブルーというのと同じく逆立った青い髪の毛に成ります」

 

 簡単な説明は今の状況以外のもの。

 

「超サイヤ人ブルーって何?」

 

 首を傾げるのは鈴……だけで無く【DBGT】までを識る香織と雫も同じく。

 

 超サイヤ4という赤い毛むくじゃらで筋肉質な身体、赤い隈取りにサイヤ人特有な黒髪がボッサボサに伸び散らかした姿は判るのだが、青い逆立つ髪の毛というシンプルに超サイヤ人の色違いなだけというのは識らない現象。

 

 超サイヤ人ゴッド超サイヤとか云う訳の解らない名前を、青い氣を放つ青髪に青瞳という事からシンプルに超サイヤ人ブルーになった。

 

「ゆう君はいつからサイヤ人に? 【ファイアーエムブレム】の世界では竜人のハーフだったらしいから、【DB】の世界ではサイヤ人に成っていたってオチだったりして?」

 

「あ、その世界ではユート兄ちゃんは元の身体で行ったから地球人の侭ですよ」

 

超地球人(スーパーちきゅうじん)?」

 

「だとアレだから超サイヤ人と同じのを超闘士、超サイヤ人ブルーを超闘神って呼んでますね」

 

 実は超サイヤ人を模倣しようとした時点で何故か青い逆立つ髪の毛に成り、周りは凄まじい氣を放っているにも関わらず『氣を感じられない』と戦慄をしていたのである。

 

 時に、それはメカフリーザとコルド大王による地球への侵攻時の噺であり、超サイヤ人が二人で

孫悟空とトランクスのみだった頃だった。

 

「そしてアレが第三の冥王モード。ギリシアにてオリンポスの三大神の一柱、冥王ハーデスの権能を遺憾なく発揮した姿……ですね」

 

 ヴィヴィオが〆る。

 

「優斗が冥王の能力を持つのは聞いていたわね、詳しくは流石に知らないんだけど……ハーデスの冥衣なんて使うんだ」

 

 ポッドに向かうユートを見ながら雫は呟くが、いつもと違う雰囲気に中てられていた。

 

「雫ちゃん、惚れ直してるかな?」

 

「なっ! か、香織?」

 

「気付いてたよ、雫ちゃんがゆう君にはちょっと特別な想いを持ってるって」

 

「うっ!?」

 

 思わず紅潮した雫はポニーテールガードにより顔を隠してしまう。

 

「南雲君と香織の事も有ったから、光輝の手前でそういう感情を出した事は無かったんだけどね、まさか香織にバレていたなんて思わなかったわ」

 

 羞恥心に穴が有ったら入りたい気分になる雫、其処へ足音が聞こえたので振り向くと……

 

「貴女も優斗の毒牙にヤられた口?」

 

 瑠姫とアリスとヒカリとネネと淑乃の謂わば、デジモン組と呼べる()()()()――そう、お姉さん達がリュールと共に歩いてきていた。

 

 見た目は雫や香織と変わらない高校生っぽい、鈴? 見た目が中学生なので論外。

 

 だけど原典な世界ではルガモンがデジタマだったにも拘わらず、今や究極体のフェンリルガモンだと考えればどれくらい生きてきたか計り知れないであろう。

 

 少なくとも三回分は生きていた筈。

 

「えっと、確か牧野瑠姫さん」

 

「そ、貴女達なら私達がどんな存在で小学生の時にどんな事をしていたかは判るわよね?」

 

「あ、はい……」

 

 原典を識る……というやつだ。

 

「懐かしいわね」

 

「懐かしい?」

 

「優斗が樹莉の為にレオモンを復活させたのよ、ダークエリアっていうデジモンにとってのあの世にアヌビモンを突っ込ませて、死んだレオモンのデジコアが眠る場所から引っ張って来てね、足りない分はベルゼブモンがロードしていたデータを逆流させて、成長期のレオルモンに再生したわ」

 

 その後は記憶が有るから経験値的に問題の無かったレオルモンは、樹莉との絆も充分だった事で割と早く成熟期のレオモンに進化可能に。

 

 その後はローダーレオモンを経てバンチョーレオモンへと究極進化した。

 

「あの時と似た光景だわ」

 

「へぇ」

 

 懐かしそうなのは確かだけど瑠姫の瞳に有る光は恋慕のモノであり、確かに牧野瑠姫が【閃姫】なのだと解る一幕であったと云う。

 

 ポッド内に真っ裸な男性や女性が形作らていくのがよく見えるが、ポッドには真っ裸なのを配慮したのか布が掛けてある。

 

 だから見えているのは顔と足元くらい。

 

 冥王ハーデスの冥衣を纏ってからのユートが揮う力の速度は目に見えて上がり、遂にはポッドに完全な人間の形と成って現れている。

 

 オスカー・オルクス、ラウス・バーン、メイル・メルジーネ、ナイズ・グリューエン、ヴァンドゥル・シュネー、リューティリス・ハルツィナの六人に+ユンファとディーネの二人。

 

 完成した肉体に融合して完全と成った魂を各々に封入、肉体と魂の完全な同化が成されると全員が次々と目を開ける。

 

 ミレディ・ライセンを含む神代魔法の使い手たる【解放者】の七人+α、この現代のトータスの地に復活し大集結をするのであった。

 

 

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 あんまり進んでないな。

 尚、無事に器に関する記述は見つかりました。情報を戴きましてありがとうございます。



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第121話:ありふれた戦闘後の話し合い

 前の更新からもうすぐ四ヶ月か……




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「う、此処は?」

 

「御約束な科白は良いから服を着ろ。メイル・メルジーネやリューティリス・ハルツィナであれば見ていて目の保養に成るけど、男の裸体やJr.何てのは見ていたくは無いからな」

 

 ポッドから出された黒髪の青年――但し嘗ての【解放者】として動いていたより若々しい――が眩しそうに右手を額に添え、よく有りがちな科白を宣ってくれたけど裸体である。

 

 他にも矢張り若く設定されたヴァンドゥル・シュネーやナイズ・グリューエン、メイル・メルジーネやリューティリス・ハルツィナ、そして何よりも【解放者】の神代魔法の使い手の中で最後に合流したラウス・バーン、彼は一番歳を喰っていたし妻帯者でそれなりの年齢の子供だって居た。

 

 そんな彼も二十歳の半ばくらいにまで若返っており、剃っていた髪の毛も確りと……決して後退をする事も無いレベルで生え揃っている。

 

 ラウス・バーンの頭の毛は、禿げていた訳では決して無くて剃っていたのだ!

 

 オスカー・オルクスも一六歳くらいに若返っていて、それが故にJr.が寝起きの充血によりピンッと勃ち上がっていた。

 

 それはナイズ・グリューエンやヴァンドゥル・シュネーやラウス・バーンも同じく。

 

 また、メイル・メルジーネとリューティリス・ハルツィナの裸体は、そんな男共の勃起したJr.を視てしまったお口直し的に目の保養となってはいるが、ナイズ・グリューエンの妻であったユンファ・()()()()()()も居る事だし、流石に裸体を晒し続けさせるのもアレだから全員の服を渡す。

 

 服はミレディの記憶から調べて各々がその昔に着ていたのを、今現在の背丈に合わせてユートが【創成】を使い即興で創った物だ。

 

 流石にオスカー・オルクス謹製アーティファクトまでは創れなかったが、これもきちんと内容を理解して記憶さえすれば再現が可能と成る。

 

 未だよく回らない頭で取り敢えず裸で居るのはアレだったから、全員が昔に着ていて勝手知ったるとばかりにもぞもぞと下着を穿いて服を着た。

 

「改めて、随分久し振りだな【解放者】の者達。声で或いは察したかも知れないが嘗てオスカー・オルクス、ナイズ・グリューエン、メイル・メルジーネ、ミレディ・ライセンの四人だけだった頃に不可思議な出逢いをした、僕がゼロワンだ」

 

「そうか、あの時は全身を鎧と兜と仮面で顔なんか判らなかったけど……君がゼロワンか」

 

 未だにボーッとした頭を無理矢理にでも叩き起こそうと頭を叩き、ジッとユートの顔を見遣りながら笑顔を浮かべるオスカー・オルクス。

 

「とはいえ、ゼロワンというのはあの仮面の姿。仮面ライダーゼロワンってだけでね、当然ながら本来の姿の名前では無い。本当の名前はユート、緒方優斗・スプリングフィールド・ル・ビジュー・アシュリアーナという」

 

「な、長い名前だね? ひょっとしなくても君は貴族か何か……かい?」

 

「アシュリアーナ真皇国の現真皇だから貴族の上の皇族というべきだろうね。まぁ、オスカーが気にする必要は無い」

 

 緒方優斗と日本人の名前、スプリングフィールドという英国人にして魔法世界人としての姓に、婚姻関係を結んだ元アシュリアーナ公国の公女たるリルベルト・ル・ビジューの名前と、真皇と成った時点で真皇国の名前を姓に追加した結果だ。

 

「そうなんだね。それとあっちで此方を視ているのはミレディ……なのかな?」

 

「ああ、恥ずかしがってるんだろ。久し振りに会う仲間に……さ」

 

 何しろ、一万年と二千年前……では無いけど、少なく見積もっても数千年前に大迷宮へと篭もる為に離別の挨拶を交わし、二度とは会えないものだと思ったら実はアーティファクトで魂を封印して永らえ、こうして肉体を持って復活されたのだから嬉しさの反面で恥ずかしい。

 

 笑顔で来い来いと右手を振るオスカー・オルクスに対して、ミレディは怖ず怖ずとしながらではあるが近くまで寄ってくる。

 

「ミレディ、久し振りだね」

 

「う、うん。久し振りオー()()()

 

「そうだね、僕は……オーちゃんだ」

 

 苦笑いをするオスカー・オルクス、自分が甦るより前にゴーレムの駆体から生身の肉体に復帰をしたミレディ、彼女がどの様に生きたのかユートとどんな関係を結んだのか理解していたから。

 

「久し振りねミレディちゃん」

 

「本当に久し振りだ、ミレディ」

 

 生前では長い付き合いなメイル・メルジーネ、そしてナイズ・グリューエンが共に話し掛けて来る……けど、ナイズ・グリューエンの腕を組んでユンファが一緒に居た。

 

 ユンファはナイズの妻だった訳だから構わない光景の筈だが、彼女も若返っているから傍目に視ると確実にアウトなモノに映る。

 

「メル姉にナっちゃんにユンちゃん、本当に久し振りだね。ラーちゃんは禿げが治って何よりだしヴァンちゃんは変わらずマフラーなんだ」

 

「私は禿げていた訳では無い!」

 

「俺のマフラーは何処ぞの鬼畜眼鏡とは全く違って芸術性を秘めているからな」

 

 ラウス・バーンとヴァンドゥル・シュネーも、久し振りな【解放者】の首領にして仲間でもあるミレディと、懐かしさとウザさを綯い交ぜにした挨拶を交わして来た。

 

「君がオスカーの言っていたゼロワン、ユートとか云ったか? 私の魂魄魔法をどうやら受け継いでくれたらしいな」

 

「それを言うなら俺の変成魔法もだ」

 

「それ処か私の再生魔法、ナイズ君の空間魔法、オスカー君の生成魔法、リューティリスちゃんの昇華魔法、ミレディちゃんの重力魔法の全てを得ているわよね? そして神髄に至り概念魔法すら扱える筈だわ」

 

 ディーネと共にやって来たメイル・メルジーネも驚愕しながら言う。

 

「つまり僕達の目論見通りだ」

 

 オスカー・オルクスはクイッと眼鏡を押し上げながら話に加わって来た。

 

「君達、神代魔法の使い手は初めから神代魔法の一つを扱える。だけどそれだけに、君達は各々の神代魔法に特化されてしまっている為に、魔法陣を用いて他の神代魔法を覚えるという事が出来なかったんだろう?」

 

「その通りさ。概念魔法を発動するのなら一人に神代魔法を集中しないと難しい。だけど僕達では仲間の神代魔法を覚えられなかった」

 

 究極の……否、正しく極限の想いを篭めなければ概念魔法は発動しない、それだけに一人が集中するのと七人の雑音付きとでは成功率が段違い。

 

「僕も神代魔法云々以前から概念の付与は出来ていたんだ。神代魔法と概念魔法は今までの能力を上向かせるには充分な力足り得る」

 

「前から似た事が出来ていたのか!」

 

「まぁね、オスカーは知っているだろう? 僕が君以上に錬成に長けていたのを」

 

「あ、ああ」

 

「僕の力は【創成】、謂わば全ての神代魔法を併せた様な能力なんだよ」

 

「なっ!?」

 

 ユートの【創成】は元々がハルケギニア魔法の一つ“錬金”であり、それが“錬成”という魔法へと進化をしていたモノではあるが、更にメティスの神氣を取り込んでカンピオーネの権能として進化したモノだ。

 

 つまり純粋な意味では土系統魔法に過ぎなかったから無機物への干渉をする魔法だったのだが、これが“錬成”に進化した際に実は有機物にも干渉をする事が可能となっていた。

 

 これに関しては時空間放浪期に疑似転生をした世界で出逢った転生者、元男ながら胸が無駄に大きい少女としてTS転生をしたレンの魔法を視ていて気が付いたのである。

 

 この時点で無機物と有機物という全ての物質への干渉が出来る魔法だった訳だけど、メティスから神氣を得た際に虚無魔法の力をも取り込んでいた【創成】は、あの魔法が出来る根源的な部分を確りと受け継いでいた。

 

 元々、ハルケギニアの虚無魔法は時空間にすらアクセスを可能としており、記憶を司る脳にまで力を及ぼし、原子よりも更に極小なる粒子にまでも干渉が可能なモノである。

 

 その力を十全に受け継いだ【創成】は文字通りトータスの七大神代魔法、これらの能力の殆んどを持っていたと云っても過言ではない。

 

 無いのは重力魔法――星のエネルギーに干渉をする魔法くらいか。

 

 だけどトータスに来て重力魔法を【創成】へと組み込めた為、今やそれすらも持ち合わせる力へと変貌を遂げてしまっている。

 

 ユートの【創成】は文字通り創り成す力として完成に近付いていた。

 

「オスカーの生成魔法、メイル・メルジーネの再生魔法、ミレディの重力魔法、ヴァンドゥル・シュネーの変成魔法、ラウス・バーンの魂魄魔法、ナイズ・グリューエンの空間魔法、リューティリス・ハルツィナの昇華魔法。この七つを以て概念魔法は間違い無く僕の【創成】に組み込まれた」

 

 元は単なる土系統魔法の“錬金”が進化をして、更に女神の神氣をも取り込んで飛躍的な進化を促され、こうして魔法の能力を新たに組み込む事で更なる超越化が成されていく。

 

「死者すら甦生する訳だよ」

 

 肩を竦めるオスカー。

 

「あ、ユンファ」

 

「はい?」

 

「君はスーシャ・リブ・ドゥミバルを知ってるよな? 君の姉な訳だし」

 

「え、はい……」

 

 表情が暗いのはクレパスに落ち逝く姉の姿を思い出したからかも知れない。

 

「生きてるぞ」

 

「……は?」

 

「実はクレパスに落ちた後、エヒトルジュエとは異なる邪神によってこの時代に送られていてね。何でアイツがスーシャを送り込んだのかと思ったんだが、どうやらユンファがこの時代に甦生するのが判っていたかららしいな。這い寄る混沌らしい厭らしさだよ全く」

 

「え……ス、スー姉が?」

 

 あの決定的な日、ユンファの目の前で『……あの人を、頼むわね』と言いながら手を放して消えた姉のスーシャ、彼女が生きてこの時代に居ると聞いて涙を浮かべるユンファ。

 

 全てを無くした。

 

 全てを亡くした。

 

 あの敗けるだけの一大決戦、エヒトルジュエの真名すら識る事が出来なかった敗北者達……それこそがミレディ・ライセン率いる【開放者】。

 

 ミレディが自らの魂をゴーレムに移してまでも在り続け、孤独にライセン大迷宮にて過ごす事を余儀無くされても未来に繋ぐ。

 

 だからユンファは決めた。

 

 スーシャの代わりは出来なくてもナイズとの間に子を成し、その子を未来へと繋ぐのだと一つの教えを【開放者】の力を借りて伝えていく。

 

 そしてナイズ達と共に魂の眠りを。

 

 それこそスーシャの代わりに見る為に、平和となった世界をこの目でナイズと共に見る為に魂を六つに分割されようと、我が子を孫を曾孫を玄孫を未来に繋げて死出の旅路に就いたのだ。

 

「ユンファ……ナイズ様……」

 

 スーシャはオプティマスプライムに乗っていたのだから当然、この地にも来ていて二人の復活も行われる事を聞かされていた。

 

 ユンファの甦生もナイズの復活も嬉しくはあるのだが、矢張り自分の決めた事だとは云ってみても寂しいという思いは有る。

 

 愛する……()()()ナイズ・グリューエンを待てば良いものを、それを良しとはせずユートに身を捧げてまで力を得たスーシャ。

 

 まるで裏切るにも等しい、【開放者】のリーダーたるミレディによるエヒトルジュエとの取引――七大迷宮創造計画、その中でミレディを除いた六人は別の計画を立てていた。

 

 プロジェクト・ゼロワン。

 

 嘗て、未だ【開放者】のメンバーが四人だけだった頃に起きた不可思議な邂逅、ゼロワンと名乗る仮面に全身をタイツと鎧に身を包んだ男、更に姿を変えて闘う幼女にしてゼロワンの養女でもあるミュウ、他にも赤や青や緑の全身鎧を纏って闘う戦士達とのあの出逢い。

 

 あの時にゼロワンがオスカーの服のポケットに忍ばせたアーティファクトと手紙、視るからによく解らないカセット状のアーティファクトではあったもの、ミレディと離れてから時間もそれなりに有ったからオスカーは手紙に書かれた説明書を読みながら解析をした。

 

 アーティファクトの名は“プログライズキー”とされており、本来の扱い方はゼロワンと同じ様に鎧を纏って戦士と成るという物。

 

 事実として、仮面ライダーゼロワンもそうしてプログライズキーを用いた変身をしていた。

 

 然しながらユートがオスカーに対して贈っていたプログライズキーはブランク、しかも本来のとは仕様そのものが異なる代物らしい。

 

『やぁ、オスカー・オルクス。僕はゼロワンだ。先ずは何を書くべきか迷ったけど取り敢えずは、ミレディは僕が美味しく戴いた……と告げよう』

 

 手紙の出だしにオスカーは手紙を握り潰した挙げ句、ゲシゲシと踏みにじってオルクス研究所としていた室内で怪獣の如く叫んでいた。

 

 ミレディ並にウザいから。

 

 然し手紙は殆んどダメージなど無かったかの如く皺すら付かぬ有り様、間違い無く再生魔法を掛けられてダメージを無かった事にしている。

 

 無駄に高性能な手紙だったと云う。

 

『まぁ、事実は事実として煽りは冗談の類いだ。僕は君や【開放者】と争う心算は無いというよりは仲良くしたい』

 

 つまり、美味しく戴いたのは確かだけど決してオスカー達と争いたい訳では無いのだとか。

 

『本来は君らの記憶は曖昧化されてしまっているだろうが、ある時を境に今回の邂逅を思い出す様に細工をさせて貰っていた。今、この手紙を読んでいるなら全てが終わってしまった後だろうな。だけどだからこその提案も出来るというものだ、取引の性質からミレディはどうにも出来ないにしても、君らの死後にまでエヒトも干渉はしてこないだろう。故に提案だ、このプログライズキーには魂を蒐集して安定化を成す仕掛けがしてある。つまりこのプログライズキーに君らが死んだ後に魂を蒐集させる事で、仮に一万年が過ぎ去ろうとも保存をする事が可能という事だ。既に此方側ではナイズ・グリューエンとメイル・メルジーネの大迷宮でそれに連なる物も手に入れていたから、それは言ってみれば渡さないとならなかった物って事になる。既に完成品を見ているからには君が成功させるのは間違い無い、だけど決して油断なんてしないで欲しい。完成しなかった場合は僕と会った世界と繋がらない世界線と成り得るから。とはいえ、造るか否かは自分達で決めるべきだ。自由なる意思の下に……ね。その時代での稀代の錬成師オスカー・オルクス殿へ、我が時代に於ける究極の錬成師にして至高の創成師ユートより』

 

 『うぜえ!』と、本当に火へ焼べてやったけど燃える事など全く無かった手紙。

 

 究極だの至高だのは冗談でも何でも無い単なる事実として綴ったらしい。

 

 こうして発足したプロジェクト・ゼロワンに、オスカーを含む六人の【開放者】だけでは無くてメイル・メルジーネの妹のディーネ、ナイズ・グリューエンの妻であるユンファが名乗りを挙げ、この八人の魂を分割して蒐集させる機能を付けてやり、オスカーは緑の坑道を改造した迷宮の更なる下方、奈落すら大迷宮として整備をして合計で二百階層にも及ぶダンジョンと成った後の世に於いて“オルクス大迷宮”と名を残す大迷宮の奥底、その一室で最期の時を悟り椅子の上に座して静かに息を引き取った。

 

 享年はオスカー本人も数えていなかったから、もう既に思い出す事すらも出来なくなっている。

 

 百歳まで生きたのか、或いは七十代くらいまでしか生きられなかったのか? そのいずれにしても今やオスカーには関係の無い話であろう。

 

「ユートと云ったか」

 

 長いマフラー男――ヴァンドゥル・シュネーが話し掛けて来た。

 

「ヴァンドゥル・シュネーか」

 

「今は魔人族との戦争中だと云うが、それはどうなっているのかを訊きたい」

 

 それは切実な表情。

 

「ああ、確かヴァンドゥル・シュネーは魔人族と氷竜人のハーフで当時の魔王の弟だったよな」

 

「そうだが……当時のか……」

 

 意味を覚ったのだろう、ヴァンドゥル・シュネーは更に表情を固くする。

 

「全員を呼ぶと良い。いちいち一人一人に現代の嘗てを語るのは面倒だからね」

 

「判った」

 

 ガヤガヤとやって来たのは甦生された者達ばかりでは無く、戦闘も終わった事で暇そうな連中までが一緒になって付いて来ていた。

 

「さて、ヴァンドゥル・シュネーからの求めにより一万年は昔の頃と現代での差違などを説明しておこうと思う。先ずは言い出しっぺなヴァンドゥル・シュネーが気になる魔人族についてだけど、遂先頃に殆どの魔人族が死に絶えた」

 

「……ハ?」

 

 意味が解らない……というかだ、百歩譲をって滅亡したのならば未だ理解も出来ていたのだが、今何と言った? 遂先頃? 甦生されるほんの少し前に亡ぼした……と?

 

「どういう事だ?」

 

「先ず、魔人族の国である魔国ガーランドと人間族の国々は戦争中だった。エヒトによる操作での事なのは【解放者】になら言うまでも無いな?」

 

 全員が固唾を呑みながら頷く。

 

 何しろ、大迷宮内の試練は正しくエヒトからの操作を受け付けない様にと遺したのだから。

 

「神山に存在した聖教教会本山。それは嘗ての時にラウス・バーンが所属していて、バーン大迷宮の置かれた場所――聖光教会の在った場所だが、エヒトにより僕らは勇者と共に召喚されたんだ。そして古国たるハイリヒ王国に預けられた」

 

「ハイリヒ王国?」

 

「その源流はオスカー・オルクスの妹分を妻にしたラウス・バーンの三男が興した王国だ。シャルム・バーンとコリンの……ね。だから勇者の為の聖剣が死蔵されていた」

 

「っ!?」

 

 勇者として旅に出てコリンが付いて行く形だったし、いずれはそうなるのだろうと考えてはいたけれど確かな歴史らしい。

 

「ま、王太子に成る予定だった糞餓鬼は今や館に蟄居させられていて、子も成せない肉体で女に変わって兵士の慰み者に成ってるんだけどな」

 

 あんぐりと口を開けるオスカー・オルクスと、矢張り開いた口が塞がらないラウス・バーン。

 

 不能の短剣で不能にされた上で女体化させられているから妊娠はしない、故に何十人の男共から代わる代わる犯されてもハイリヒ王国の胤は残されたりしない。

 

 まぁ、今は畑だけどな!

 

 今はもう頭も気が触れたらしくて快感に酔い痴れているのだとか。

 

 一応、女性体だと快感は有るから。

 

(報告だと最早、自分から尻を振って快感を求めるヤリ○ンと化しているらしいからなぁ)

 

 ガバガバでも無償でヤれるから館の警備員とは可成り人気な職場らしいのだ。

 

「一応、元王女は居るけど子を成す意志も無いから血は絶えるな」

 

 リリィはユートとの逢瀬は重ねても子を成す気は更々無かった。

 

 王族の子供、ハイリヒ王国の血族を残してはならないと王女であるが故に理解をしているから。

 

「現在のハイリヒ王国は既に瓦解しているんだ。まぁ、一応はリリィ……リリアーナ・B・C・ハイリヒは血族なのかね? つーても、一万年は開いているから血筋がどうのは今更か?」

 

「そうだな……」

 

 ラウス・バーンとしても我が子の子孫か否かに拘りは無いらしい。

 

 血筋と言えばユートが思い出したかの様に見遣るのは、リブ・グリューエンのミドルネームを持った爺様と少女の二人。

 

「ナイズ」

 

「どうした?」

 

「彼処に居る二人なんだが」

 

「ふむ?」

 

「名前は爺様がシモン・L・G・リベラールで、少女の方がシビル・L・G・リベラールという。そしてミドルネームのL・Gはリブ・グリューエンって意味だ」

 

「っ!?」

 

 ナイズ・グリューエンは、バッバッとユートを見て二人の方を見遣ると驚愕に満ちた顔になる。

 

「あ、あの二人が自分とユンファの子孫だと云うのか!?」

 

「ああ。恐らくは魂魄魔法の応用なんだろうが、一度でも聴けばスッと頭に入ってきて二度と忘れない口伝と、そしてL・Gというミドルネームが君との関わりを裏付けている」

 

「確かにラウスの魂魄魔法を借りて自分の子供達に口伝を遺したが、そうか……何千年と辿る事も出来ない程に時間が過ぎて尚も残っていたか」

 

 年齢が一〇歳以上離れた幼妻だったユンファ、それは日本の今で言う肉食系女子宛らのギラギラした瞳で狙って来て、その成長が著しい肢体にてナイズを誘惑して美味しく『戴きます』をしてしまい、その後も尻に敷いてまるでスーシャが取り憑いたかの如くだったらしい。

 

 運命の刻、ユンファのお腹にはナイズとの間にデキた子供が宿っていた。

 

 今現在のユンファは今のスーシャと変わらない姿をしているが、それでも魂に刻まれた情報からクラスメイトの男子が視たら、思わず前屈みになりそうな美貌と妖艶さを身に付けている。

 

 しかも肉体が新生しているという事は、これで新品な処女であるというのだから堪らなかった。

 

 スーシャの時間感覚からしたら一年も経っていないのに、妹のユンファが凄まじく大人になっていて驚くしかあるまい。

 

 ナイズ・グリューエン、ユンファ、スーシャ、そしてナイズとユンファの子孫であるシモン翁とシビル嬢、この五人は仲良く家族の会話を愉しもうと集まってにこやかな雰囲気となる。

 

 取り敢えず家族といえば一万年と二千年前から別れてる種違いの姉妹、メイルとディーネの二人も折角の再会だからと会話をしていた。

 

 家族が既に亡くなったヴァンドゥル・シュネーとラウス・バーン、ぼっちなリューティリス・ハルツィナはオスカー・オルクスと共にミレディの所で話をしている。

 

 ユートは【解放者】達の会話に特には加わらず逃亡したエヒトルジュエ、そして勇者(笑)の次の動きに付いての話を仲間や家族会としていた。

 

「次が最終決戦にするのは変わらない。先に言った通り天之河はエヒトルジュエと魂が融合しているからには殺処分するしか無いな」

 

「そうなりますか……」

 

 最早、意気消沈という感じになる天之河聖治はやるせない気持ちで一杯なのだろう。

 

 息子の殺処分、謂わば死刑判決を受けた様なものだったから気分は犯罪者の身内。

 

 父親としての内心ではユートを人殺しと罵倒をしたいかもだが、天之河光輝は余りにもやらかしが過ぎているのを彼も理解していた。

 

 何なら天之河光輝こそが大罪人。

 

 少なくとも異世界トータスでは勇者として喚ばれながら、既に大陸でも類を見ない程の俗悪なる超大罪人としての指名手配が成されている。

 

 また、原典ではヒトの心の安らぎという名目でエヒトルジュエとは真の神とは別の邪神として、神としてのエヒト――エヒクリベレイは象徴として残していたらしいけど、この世界の女神ウーア・アルトが復活をするのならば偽神如きは名前すらも不要。

 

 全てが終わったならシモン翁を教皇に据えて、大樹の女神ウーア・アルトを信仰する宗教として聖教教会の再構成をする予定、大樹教会(予定)というのが仮の名前として付けてある。

 

 シビル嬢は祖父を冷遇した聖教教会に矢張りというべきか、思う処があったらしくて神官としての制服は着ていても苦々しくエヒトに批判的だった事もあり、そんな予定を聴かされてちょっと喜んでいたから受け容れた様だ。

 

 天之河美月は既に切り換えているのだろうか、特に悲壮感を漂わせるでも無く雫を視ている。

 

 義妹の一人なだけに実兄より『御姉様』である雫が優先、雫が兄と結婚をすれば誰より先んじて本当の義妹に成れるから推奨はしていたけれど、大罪人と成った天之河光輝には最早何ら期待などしておらず、寧ろユーキから聴かされていた計画に頬を赤らめて夜な夜な御股を濡らしていた。

 

 雫と同じ【閃姫】に成ればユートの閨へと呼ばれた際、雫と身体を重ねる機会を与えられるのだと云うそれは、天之河光輝が雫と結婚しても決して与えられない至福の刻を得られるのだから。

 

 南雲 愁と南雲 霞は息子が未だに合流していないのを心配していたが、ハジメは自身の力で大迷宮をクリアする為に恋人と共に動いている。

 

 恋人の恵里も天之河光輝と違って自分を確りと見てくれるハジメへと傾倒しており、ともすればヤンデレ化してもおかしくないレベルでべったりとしているのは、今や大嫌いな母親と変わらないのだと気付いてしまっていた。

 

 まさか、この年齢になって母親を理解してしまうなんて……と自嘲したらしい。

 

 ユートはα世界線に極めて近しい世界線から来た恵里"を抱いているから、肉体的には全く同じな此方側の彼女の感度が良さそうな場所――性感帯も理解をしている為、ハジメにはこっそりとその箇所を伝えておいたから余計に拘泥している。

 

 しかも二人はユートが造った魔物肉製な食品を食べていた為、肉体の魔改造がちょっとずつ進んでいたのに全く気付かない侭で、いつの間にやら貧弱なオタクボディが細マッチョと化してたり、貧乳寸胴だったのが巨乳まではいかなくても盛り上がりを魅せ、更に腰回りも引き締まって括れを確りと自覚が出来て美乳でナイスバディ化。

 

 序でに実は僅かながら双方共に美形化しているからか、偶に帰って来ると元ハイリヒ王国の騎士は恵里へ思わず吸い寄せられ、同じくメイド達はハジメへと吸い寄せられていた。

 

 ユートが連れて来た連中は勿論ながらそういう事も無かったが……

 

 更に粗とはいかないが、それでも平均より下回っていた()()()()()()()が倍の長さや太さを誇る様になり、夜の性活では恵里を大いに悦ばせ啼かせる事が出来る様に成っていたりする。

 

 そんなハジメ&恵里のコンビは空間魔法を手に入れた為、それにより開かれる再生魔法への道を知らされていたからエリセンへと向かっていた。

 

 速度的に最終決戦には間に合わないだろうし、途中でも強制的な帰還をさせる予定である。

 

 嫌なら嫌で構わないが、最終決戦はエヒトルジュエ次第になるから少なくとも一ヶ月くらい猶予が有るにせよ、本来の主人公無しで闘いをするという事に成るであろう。

 

「あ、ユートさん」

 

「アインハルトか、どうした?」

 

「ランデル元王子ですが」

 

「ふむ?」

 

「完全に壊れました」

 

「そうか……意外と保ったな」

 

 最早、ランデル・B・C・ハイリヒ元王子には生きているだけの……心臓が動いているだけでしかない生き人形状態だとか。

 

 食事も流動食を流し込んで食わせる事も難しくなり、今はミッドチルダで使われている医療道具を用いての点滴で生かしているらしい。

 

「トドメを刺しますか?」

 

「……」

 

 一見、冷酷なアインハルトの科白でもトドメが温情である事もあり、戦場に生きてきた先祖であるクラウスの記憶を持っていた身からすれば温情を掛けたといった処だし、アインハルトが現在のシュトウラ覇王国の覇王であるからには元王太子であるランデルの首級を直に取る、これは一種の政権交代に於ける儀式にも近い事だった。

 

 勿論、殺りたい訳では無い。

 

「それをするならトゥスクル白皇国の白皇であるクオンにもさせないと……だからな」

 

 元ヘルシャー帝国も、今やクオンが治めているトゥスクル白皇国と国号が変遷しているのだし、シュトウラ覇王国で元王太子を殺るのだとすれば同じくトゥスクル白皇国も、ヘルシャー帝国に於ける元皇帝――皇太子以下継承権を持った皇子は軒並み全滅した――ガハルドを殺らないと体裁を保てないのだ。

 

 尚、二人の皇女は女性であるのと皇位継承権を放棄しているので問題は特に無かった。

 

「全てが終わったらランデルは死亡したものとして処置をする。身柄は一般人として記憶も何もかもを嘘で塗り固めた状態で生かすさ」

 

「判りました」

 

 アインハルトはちょっとだけ胸を撫で下ろしながら頷く。

 

「ユート」

 

「今度はリュールか」

 

「? 何です?」

 

「いや、用事は?」

 

「はい、逃げたエヒトルジュエの次の動きに付いてとか色々と話し合いたいとシズク達が」

 

「判った、アインハルトも」

 

「はい」

 

 闘いは正に終盤であったと云う。

 

 

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 長らく放ってたからゴチャゴチャ感が半端ない噺になってしまった。




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第122話:ありふれた力を求める【解放者】

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「さて、御集まりの皆々様とでも挨拶をしておくべきかな? 謂わば最後の会議を始めようか」

 

 この場に居るのはそれぞれの代表となる者達であり、無闇矢鱈と人数を増やすのは『三人寄れば文殊の知恵』では無くて、寧ろ『船頭多くして船山に登る』とか『三人居れば姦しい』くらいに話し合いが進まないだろうから。

 

「会議の総代を務めるのは僕、緒方優斗となる。【解放者】に関しては神代魔法の担い手の七人が全員参加として貰った。クラスメイト代表となるのは役者不足ながら永山となる」

 

「役者不足って……」

 

「本当なら浩介の方が良かったんだが、彼奴だと僕は兎も角として他の連中が見付けられんから」

 

「確かにな」

 

 一応、親友という立場ながら永山重吾も浩介を普通に見失う。

 

 ユートの目が特殊だからこそ見失わないだけ、それを持たない友人達は見失うしかない。

 

「【閃姫】組からは雫、家族会からは愁さんが、デジモン組からは淑乃&ララモンが、トゥスクル白皇国からはクオンが、シュトウラ覇王国からはアインハルトが参加をしている。それとクラスメイトとは別口で愛子先生と護衛の優花、トータスからは暫定聖教教会教皇のシモン翁、亜人組からアルフレリック・ハイピスト、元ハイリヒ王国からリリアーナ・C・B・ハイリヒ、元ヘルシャー帝国からガハルド・D・ヘルシャー、神域強奪組からリルベルト・ル・ビジュー」

 

 結構な人数ではあるがこれでも厳選をしている方だし、リュールみたいに参加をしていない者も居るから本当に最低限なのだ。

 

「惜しむらくはハジメと中村が既にメルジーネ海底遺跡に入っていたから、連絡こそ出来たけれど帰っては来れなかったって事だね」

 

 ユートはスマホを弄びながら溜息を吐いて遠い目で空を見上げる。

 

「スマホって、繋がるの?」

 

 オブザーバーである恵里"が小首を傾げながらも訊ねてきた。

 

「こいつは神――エヒトルジュエ如きとは神格が奴を一としたら一万くらいの差が有る存在が僕の手持ちのスマホを改良したモンでね」

 

「随分と差が有るね」

 

「寧ろ一千万、否や一億でも良いくらいの格差じゃないかな? 能力的にも性格的にも……ね」

 

「其処まで!?」

 

「高が神を自称する到達者が、ちょっと信仰を力に換える儀式魔術で強くなった程度だからな~。世界を見守る神とじゃ格差が有って当然だろう」

 

 ユートは神殺し、カンピオーネに転生をする前から既に何柱かの神を殺害していた。

 

 神にも格差が存在しているし、ユートが殺害をした神も上は大神クラスから下は人間が到達者と成り変じた神化クラスまで、力に関してはそれこそ千差万別だから一口に云えるものではない。

 

 況してや、殺しこそ出来なかったがハルケギニア時代で最後の大戦――邪神戦役とでも呼ぶ戦争にて、邪神たる這い寄る混沌ナイアルラトホテップを相手に大立ち回りをしているのだ。

 

 相手はニャル子さんだけどな!

 

「前にどんな世界とも知れん地球で神氣を含んだ雷が落ちてきてな、それが高校生くらいの少年にぶち当たりそうになったんだよ。僕がやったのは少年を助ける行為だったんだけどね、それが実はヤバい行為だって判ったのは神が礼を言いたいと神界に僕を喚んだ時だった」

 

「その少年が悪魔みたいな存在で、斃そうとしていたのを邪魔してしまったみたいな話かい?」

 

「だったら礼は言われんだろ」

 

「それもそうか」

 

 オスカーが苦笑いをする。

 

「まぁ、詳しくは割愛する。何がヤバいかって、少年は本来の流れでは死んで神に肉体を再生されて異世界に送られる筈でね、そんな少年が関わって何人もの少女達が生命を救われる予定だった。つまり僕がやったのは少年の生命を救う代わりに救われた筈の少女達を地獄に叩き落としたって、正しく救い様の無い結末を齎す結果になったよ。イレギュラーである存在が良くない部分に及んだ悪例とでも言おうか」

 

「悪例……ね。君がイレギュラーというのは? エヒトの使徒……木偶人形が以前に僕らをそんな風に称していたけれど」

 

「オスカーに対する連中の認識とはまた異なる。僕は正真正銘のイレギュラー、この世界にはというかトータスと地球も含めてだが本来は存在しない筈の人間だからね」

 

「地球とは君らが居た世界だね? トータスとはこの大陸を指している。本来は存在しない?」

 

「正真正銘、存在しないんだ。エヒトルジュエでさえ別の次元世界からの来訪者という意味合いでは存在が認知される。だけど僕はそれすらも有り得ないんだよ」

 

「エヒトルジュエとはエヒトの事なのだとして、そんな彼奴ですら認知されても君はそれすら有り得ない?」

 

「思った事は無いか? 娯楽小説を読んでいて、物語の世界に入り込んで自分が無敵の力を手にして無双するという妄想を」

 

「無くは無いが……まさか!? 君は僕らを本の中のキャラクターとでも思っているのか? 君が言った様な事を君自身が体験していて!」

 

 目を見開くオスカー、一部は正しいから流石は想像力を創造力へと換えるだけあるか。

 

「それこそまさか……だよ、そんな性根の人間で【閃姫】が増えるもんか。それと正確に云うなら物語の世界に等しい別世界だからね、確かに何の干渉も受けなければ物語と変わらない人生を歩むだけだろうが、それでも選択肢によって幾つもの分岐点を君らは歩んできて現在が有る」

 

 アドベンチャーゲームで会話の中の選択肢にて物語が分岐をする様に。

 

「そうなのか……」

 

「仮にイレギュラーの僕が居なければミレディはゴーレムの侭、恐らくは最終決戦でハジメ辺りがエヒトルジュエを滅した後に命懸けで神域の始末でもしたんじゃないかな?」

 

「ぐ、具体的だね」

 

 ユーキを通じて知った実際の【ありふれた職業で世界最強】にて、ミレディ・ライセンが取ったという行動そのものをぼかして言ったからだ。

 

「それに君のアーティファクトが在り君が甦生をしてくれたからこそ、僕達【解放者】が甦っている訳だから僕達も死んだ侭だったろう」

 

 これには【解放者】の皆が頷く。

 

「まぁ、話は逸れたが……一先ずの問題は君らがどうしたいかだ」

 

「どうしたいかとは?」

 

「ナイズ、君らは木偶人形(エヒトの使徒)共とも当然ながら刃を交わしているよな?」

 

「勿論だ」

 

「アレを相手にどれだけ闘える?」

 

「む、最初の戦闘では自分とオスカーとミレディで命辛々での辛勝だったと云えるだろうな」

 

 エーアストとのあの闘いは正しく死に掛けてしまった、傷だらけの満身創痍になりながらそれでも何とか退けたのである。

 

 それでも斃せた訳では無い。

 

「アレが数十……下手したら数百万単位で出て来る可能性が高い」

 

 【解放者】の全員が嫌そうな表情となるのは仕方が無いのだろう、何しろアレには手を焼かされた記憶ばかりなのだから。

 

「君らの基礎能力は高いとはいっても人間の域を出ない、オスカーがアーティファクトを造るにしてもエヒトルジュエが再び現れるであろう一ヶ月以内に、【解放者】の全員がアレを一掃出来る程の装備品なんて無理だろうからね」

 

「確かに時間が足りないな」

 

 自分の能力を鑑みてオスカー・オルクスは頷かざるを得ない。

 

「僕に提案が出来るのは三つ。一つは完全に裏方に回る事」

 

「三つとは……裏方に回るのはちょっと受け容れられないな。それから甦った意味が無いからね」

 

「そうだろうな」

 

 彼らが甦生を望んだ最大限の理由は当然ながらエヒトルジュエとの決着、嘗ては守るべき存在を謂わば洗脳により盾に取られて断念をした決着を着けたかったからに他ならない。

 

 別に自らの手で……とまでは考えていないが、それでも間接的では無く直接的に闘いたかった。

 

「二つ目はドーピングアイテムによるステイタスの急上昇を狙う」

 

「というと?」

 

「多分、オスカー達のステイタスは高いのだろうけど……それでも人間の範疇だと思われる」

 

「そりゃ、僕らは人間だからね」

 

 人間……というか“ヒト種族”の範疇内であり、竜人族だって竜化しなければその範疇を出ない。

 

 ティオだって魔力や魔耐は高いけど木偶人形の約三分の一程度、シアに至っては四分の一くらいに納まっているのだから。

 

「例えば魔物の肉を食えばステイタスが上昇する上に、その魔物が持つスキルを手に入れる事だって出来る。但し、神水を飲んで尚も壊れて治ってを繰り返して死んだ方がマシな痛みを覚える」

 

 ユートが錬金術で力を抽出した魔物肉の団子なら痛みも最低限だが、それを話す心算は無かったから取り敢えずの事実のみを話す。

 

 いずれにせよ、ステイタスは上昇させるのだから食わせる事に変わりは無い。

 

 永山重吾達に食わせていないのは仲間では無いから別段、生きるも死ぬもどうだって構わないという話でしか無かった。

 

「或いはこれ」

 

 取り出したのは種だか木の実だか。

 

「これは?」

 

「僅かだがステイタス値の上昇が見込める物で、力の種、素早さの種、守りの種、幸運の種、賢さの種、魔力の種、器用さの種、信仰の種、美し草、命の木の実、不思議な木の実。これらを食べると例えば力の種なら力の値が1~3程度だけど上げる事が出来る」

 

「木偶人形に追い付くのにいったい何千個食べさせる心算なんだい!?」

 

 一度に最大限にあがっても3、魔物肉みたいなリスクは無いけれど上がり幅が余りにも低くて、命の木の実で6、不思議な木の実で5ともなれば全てを高水準にするには何万と必要だ。

 

 どちらにしても時間が掛かるのは、食べるという行為からどうしても満腹になったら吐き出すしか無くなる為で、無論だが消化しないと能力上昇には繋がらない為に無意味となるから。

 

 これが一番の懸念だが、食べ過ぎれば肥ってしまうというのが女性には受け容れられない事。

 

 実は意外だが腹持ちが良い種や木の実は非常食にも成り得ると、ユートは特殊な環境を整えて量産にも成功をしているから、オスカー達に何万個と注ぎ込んでも惜しいとは思っていない。

 

 とはいえ、腹持ちが良い理由がステイタス値を上げる程に内包された栄養素というものであり、一度に食べ過ぎたら肥えるのは当たり前だったから肢体のラインが出る服装なメイル・メルジーネなんかは特に受け容れられなかったろう。

 

 多少ならメイル・メルジーネくらいメリハリのある肢体も崩れないだろうけど、それを言ったら好感度がだだ下がりになるだであろう上に烈火の如く怒り狂うのは目に見えていて、ユートが指摘する事などは絶対に有り得ない事である。

 

 後は普通に数を食べ難い。

 

 試しに豆撒きに使う大豆を大量に口へ入れてみると解り易いが、口の中が乾くは喉には詰まるはと如何にも量を食べるには不向きだ。

 

 それなりに硬いし。

 

 結局、アレらは偶に敵がドロップしたり宝箱から入手したのを食べて、僅かなステイタス値上昇を望む程度に扱うのが良いものだった。

 

 保存は利くのだし慌てて食べないといけない物でも無いのだから。

 

「で、三つ目が僕の造ったアイテムで取り敢えず能力を爆上げする」

 

「アイテム? ひょっとして君が生成魔法により魔法を篭めて錬成したアーティファクトかい?」

 

「違う。僕がこの世界に来る前から造って所持をしていた魔導具――この世界で云うアーティファクトって事になる」

 

「この世界に来る前……つまり君は神代魔法無しでもアーティファクトを作製出来るのか」

 

「抑々にして、君らの前でやっていたゼロワンこそがその魔導具だぞ?」

 

「成程ね」

 

 あれは単なる全身タイツに鎧甲な姿では無かったのかと、オスカーは何気に失礼極まりない事を考えながら笑顔で頷く。

 

「因みにだが、ミレディは既にゼロワン系の物を持っているぞ」

 

「な、何だってぇぇっ!?」

 

 バッ! とミレディの方へと力強く振り向いたオスカーに見せ付ける様に腰のバックルを外し、手に持って蒼と黒なエイムズ・ショットライザーとして見せびらかし、更に左手には蒼が基調となるランペイジガトリングプログライズキーをプラプラさせるウザ娘が一人。

 

 ニンマリしていて憎たらしい。

 

「仮面ライダーランペイジバルカン。僕が変身をしていた仮面ライダーゼロワン・シャイニングアサルトホッパーと同じ系統の仮面ライダーだな」

 

「同じ系統とは?」

 

「仮面ライダーは種類が豊富でね、二〇種類を越えて存在している。しかも一種類に付き一人というのも在るけど大概は数人~十数人という人数が居るんだよ。例えば仮面ライダーアギト系統なら仮面ライダーギルス、仮面ライダーG3及びG3XとG3マイルド、仮面ライダーアナザーアギトに加えて仮面ライダーG4何てのも居る」

 

「それは確かに多いな」

 

 失敗作であり、劇中には名前さえ出て来てはいないけどG1とG2も存在するし、更にジオラマ的な物で再現された世界で仮面ライダーミラージュアギトというのも存在した。

 

「仮面ライダー龍騎系なら一四人、疑似ライダーのオルタナティブとオルタナティブ・ゼロを含めたら一六人だからな」

 

 勿論、仮面ライダーアビスというディケイドで新登場したのも含めている。

 

「あ、それなら僕はあのカラフルなのに成ってみたいな」

 

「カラフル?」

 

「ほら、赤や青や緑や黒や金や紫の」

 

「ああ……」

 

 雫や鈴といったメンバーが居たら頷いたであろうが、カオスの歪みにより邂逅をしたユート達と【解放者】達は共闘をする事になった訳だけど、この際に【重甲ビーファイター】と【ビーファイターカブト】に登場をしたインセクトアーマーやネオインセクトアーマーを纏っていたのだ。

 

 勿論、聖魔獣だが……

 

 ビーコマンダー、コマンドボイサー、インセクトコマンダーといった仮面ライダーのベルトとは違うデバイスでの変身、力の源はインセクトという言葉が有る通り昆虫である。

 

 その為が敵からは文字通り『虫けら』と呼ばれる事が多かったけど、【重甲ビーファイター】ではブラックビートが敵として登場をしていたし、【ビーファイターカブト】でもビークラッシャー四鎧将が登場していた。

 

「あれはメタルヒーローシリーズで仮面ライダーって訳じゃ無いが、とは言っても識らないんだから見分けが付かなくても無理は無いか」

 

 日本人であれば大概の子供は見分けが付きそうな仮面ライダーとメタルヒーローは、然しながら異世界人であるオスカー達には恐らく同じものに見えているのだろう。

 

「ほら」

 

「! ユート、君は宝物庫を指に填めていないのに空間から出し入れが出来るのかい!?」

 

「ん? ああ、アイテムストレージって魔法を持っているからね」

 

 正確には亜空間ポケットと呼ばれるお天気精霊達が使う技術を、上司である日乃森なのはさんから特典の補足として与えられたモノを再現して、再編成をして別口の魔法という形に落とし込んだものだった。

 

「このコマンドボイサーで『超重甲』をすれば、各種のビーファイターへと変われる。インプットカードで成れるビーファイターが違うんだけど、オスカーは何色のビーファイターに?」

 

「ああ……黒かな」

 

「だと思ったよ」

 

 オスカー・オルクス、黒色がとっても似合っているイケメンさんであったと云う。

 

「そうなるとビーファイタークワガーか」

 

 【ビーファイターカブト】では追加戦士というには微妙だけど、インセクトコマンダーを使って超重甲をするメダルの戦士が四人、故に初期からの三人とで七人のビーファイターが居た。

 

(半端に【重甲ビーファイター】から出すよりも良いかな?)

 

 女性戦士も丁度良く二人分、メイル・メルジーネとリューティリス・ハルツィナをビーファイターテントウとビーファイターアゲハにすれば悪くない構成だろう。

 

 ミレディは仮面ライダーランペイジバルカンに成るのだから。

 

「このインプットカードがビーファイタークワガーの……黒いのに『超重甲』するカードだ」

 

「ちょうじゅうこう?」

 

「要するに姿を変える『変身』だな」

 

「ヴァンが竜化するみたいなアレじゃないよな、あのカラフルな鎧姿に成る事を『ちょうじゅうこう』と呼ぶ訳か」

 

「あ、変身の時は叫ぶのが様式美だから」

 

「叫ぶのかい?」

 

「叫ぶのだよ」

 

 こればかりは古今東西の殆んど全てのヒーローやヒロインが行う様式美。

 

 スーパー戦隊、メタルヒーロー、仮面ライダーに加えてプリキュアやセーラームーンやおジャ魔女どれみなど、コスチュームの変化や鎧の装着を変身てして叫んでいる。

 

 ユートは腰にマゼンタカラーのバックルを持つベルトを顕現化、本来の物はバックルを腰に据えてベルト部分が伸長する事で合着をするのだが、ユートのコレは本人の内部に在る無貌の神の力を表面化させた為、仮面ライダークウガのアークルや仮面ライダーアギトのオルタリングみたいな形で腰に顕れるのだ。

 

 サイドに顕現化したカードホルダー兼武器であるライドブッカーを開き、内部に収納をされているライダーカードの一枚を抜き取る。

 

 サイドハンドルを両側に開き……

 

「変身っ!」

 

 ディケイドの絵柄が描かれたライダーカードを装填して再び閉める。

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 ライダークレストが顕れてユートの姿が変化、左右非対称なマゼンタのアーマーを纏う仮面ライダーディケイドに成った。

 

「これが様式美ってやつだ」

 

 パンパンと両手を拍手みたいに叩きつつ説明を続けている。

 

「こういう決まった仕草をして『超重甲』と叫べば鎧姿に成る。僕のこの姿は仮面ライダーディケイドって名前になるね」

 

「ふむ……」

 

 オスカーは渡されたコマンドボイサーを見つめつつも、仮面ライダーディケイドへと変身をしたユートの方もチラチラと見て来た。

 

 どうやらアーティファクトメイカーとして興味深く映ったらしい。

 

「どうすれば良い?」

 

「待ってな」

 

 ユートは変身を解除して別のコマンドボイサーを取り出した。

 

「此処のスロットにインプットカードを装填してから~の――超重甲!」

 

 前に両腕を突き出しながら叫ぶ。

 

 カシャッと角の部位が起き上がってネオインセクトアーマーというか、聖魔獣ビーファイターカブトがユートの肉体を覆っていった。

 

「これがビーファイターカブト」

 

 金色でカブト虫を模した人型、擬人化したみたいな鎧姿に変化をしたユートを視てたオスカーが頷くと……

 

「ちょうじゅうこう!」

 

 インプットカードを装填して真似る。

 

 黒い鎧て頭の両側に角を持つクワガタ虫を擬人化した姿、オスカー・オルクスはビーファイタークワガーの姿へと変わっていった。

 

「これがビーファイターか。凄まじいねこれは、何と言うか力強く速くて硬い。正しく甲虫系統の昆虫みたいな鎧だよ」

 

 拳の内で叩いたらカンカンと甲高い音を響かせるアーマー、揮う速度や当たるパワーやアーマーの硬さを軽く計っているのであろう。

 

「ふーん、オスカーが言うなら相当じゃないの。だったら私も使わせて貰おうかしら」

 

 ウインクしながらメイル・メルジーネが言い、それに追従をしてくる残りの【解放者】達。

 

「メイル・メルジーネはビーファイターテントウで良いな? それに伴ってリューティリス・ハルツィナはビーファイターアゲハのインセクトコマンダーとインプットカード」

 

「あら、形が違いますのね」

 

 細かい部分はコマンドボイサー同士も違うが、コマンドボイサーとインセクトコマンダーは可成り差違が有った。

 

「名前が違うからには効果は同じでも形は変えているものさ。とは言っても、ガワさえ変えてしまえばどちらも同規格なんだけどな」

 

 実際、()()()コマンドボイサーはきっと同規格なインセクトコマンダーとコンパッチ式だろう。

 

「つまりやり方は同じですのね?」

 

「う~ん、それは物によりけりだけどな。少なくともコマンドボイサーとインセクトコマンダーだとやり方は同じだよ」

 

 リューティリス・ハルツィナは頷くと、手にしたインセクトコマンダーへとインプットカードを装填してやる。

 

「ちょうじゅうこう!」

 

 それは白が基調たるネオインセクトアーマー、つまりビーファイターアゲハのモノであった。

 

「まぁ、これが……」

 

「ビーファイターアゲハだね」

 

 こうなるとビーファイターテントウはメイル・メルジーネが受け取る形。

 

「誰がどれに成るかは好みで決めてくれれば良いとして、一応は原典で女性戦士だったテントウとアゲハだけはメイル・メルジーネとリューティリス・ハルツィナで使って欲しい」

 

「そうね、私は構わないわ」

 

(わたくし)も構いませんわ」

 

 メイル・メルジーネもリューティリス・ハルツィナも異論は無かった。

 

「それと私の事はメイルで良いわよ。オスカー君やミレディちゃんは普通に呼んでるんでしょ?」

 

「それならば、私も是非ともリューと気軽に御呼び下さいませ」

 

 どうやらフルネームで呼ばれるのは違和感が有ったらしく、メイル・メルジーネもリューティリス・ハルツィナも呼び方の変更を求めてくる。

 

「判った。メイルとリューだね」

 

 それに応じるユート。

 

「それなら自分も名前で頼む」

 

「俺もヴァンで構わない」

 

「私もラウスと気軽に呼んで欲しい」

 

 それに呼応するかの様に、ナイズ・グリューエンとヴァンドゥル・シュネーとラウス・バーンの三人が口を開いた。

 

「了解した。ナイズ、ヴァン、ラウス。最後の闘いのみだが宜しく頼む」

 

「勿論だ」

 

「俺達もエヒトには無念さを抱えるしか無かったからな」

 

「自身の力を奴との闘いに使えるならば望外の喜びだろう」

 

 数千年か一万年かは定かでは無いが、魂の侭に彼らの無念は募っていたのかも知れない。

 

 特にエヒトに聖光教会騎士団長ラウス・バーンとして動いていた彼は或る意味で教会を裏切ったけど、別の見方をしたならば彼こそが聖光教会から裏切られたのである。

 

 ラウスの妻も子もエヒトに運命を翻弄された、そしてそれは何も彼の家族に限った話では無い。

 

 【解放者】の家族もそうだし、ミレディの場合は父親がアレだったから家族では無かったけど、それでも家庭教師として現れた彼女は正に翻弄をされた人間だったろう。

 

 折角の得られた機会を逃す程に【解放者】達も愚鈍では無かったのである。

 

「さて、これで【解放者】の戦力は残りの時間でオスカーがアーティファクトをどれだけ製作出来るかになってくるな」

 

「其処は全力を傾けるさ」

 

 素材さえ有ればアーティファクトメイカーとして稀代のオスカーだけに、あらゆる知識を総動員して想像力を創造力に換えて創り出す筈だ。

 

 実際、嘗てのオスカーは自作のアーティファクトをふんだんに使って闘ってきた。

 

 恐らくはユートが直接的には識らない、そして恵里"が嫌と云う程に思い知らされているであろう『化け物』――α世界線の南雲ハジメも同じく。

 

 尤も、彼の場合は魔物肉を食らいまくっていたから能力値だけなら木偶人形をも上回っていた。

 

 オスカーは身体能力としては一般人に毛が生えた程度、一般人よりは上であっても超越と呼ぶには可成り難がある。

 

 強いのは間違い無いが……

 

「問題は人数ですわ」

 

「人数?」

 

「はい。私の試練を突破なされたならあの子達とも相対された筈です」

 

「ああ、あの大量のGか」

 

「恐らくはその意図する処も既に御理解を頂けているものでしょう」

 

 戦争に於いて数は力。

 

「木偶人形共の数が凄まじいのと、連中の能力の再現をしていたのなら判っているさ」

 

 大量のGと人型に固まったG群、これがエヒトルジュエの使徒の数の多さを物語ると同時に厄介な能力を示唆する、それはハルツィナ大樹海でのGとの接敵から予測が出来ていた事。

 

「この数にどう対応するのですか?」

 

「数には質で対応するけど、人数に関して多少なら増やす当てが無いでもないんだよな」

 

 ユートの頭に浮かぶのはとある世界で知り合った数十人にも及ぶ少女達、一人一人が能力的には仮面ライダーにも匹敵する戦闘力を有していて、普通の人間ならば即死してもおかしくない筈であろう、鉄筋コンクリートなビルが砕けるくらいの勢いでぶつかりながら『痛た』で済む辺り強い。

 

 問題は素で飛べる者が強化形態持ち以外で少ない事だが、それはユートが渡す“変身アイテム”に飛べる機能を足せば何も問題は無かった。

 

 問題が有るとしたら……

 

(アストラルコピーを解凍して実体を与えるからには、その後の面倒も見ていく覚悟を決めないといけないんだよな)

 

 覚悟が必要だった事だろう。

 

 これは、アストラルコピーの提供をしてくれた彼女達との約束――盟約でもあるし、アストラルコピー体も全てを承知しているものだった。

 

 抑々がアストラルコピーを取る前に交わしている盟約、ならばアストラルコピー体が盟約の内容を知らない筈も無い。

 

 アストラルコピーの侭に封印を施している分には特にリスクも無いが、解凍をして実体を与えた時点で普通の人間と変わらなくなる。

 

 つまり衣食住が必須となるのだ。

 

 まぁ、ユートにもメリットは多大に有るのだからリスクばかりでは無い。

 

 何しろ彼女達――正確には一名ばかり少年も混ざっていたりするけど――は誰もが美少女だし、本来の彼女達は好きな相手が居たりもしたのだけれど、アストラルコピー体の彼女達は知識としては自覚が有れど感情としては有していなかった。

 

 つまり、アストラルコピー体には誰某が好きなオリジナルの知識は存在するものの、当人は別にその誰某とやらが好きだという感情は持っていないのである。

 

 寧ろユートは気付いていないが、精神の内にて封印していたからかユートの経験や感情を僅かながら受け取り、微睡みの中の夢として皆で共に在る感覚が強いからか好意を持たれていた。

 

 そんな彼女達の使う力を発露する為の謂わば、変身アイテムは既に作製済みだから後は解凍をして実体を与えるだけ、それ自体には大した時間も掛からずに一日足らずで終われる。

 

 何故なら彼女達の実体も既に用意している為、解凍したら直ぐにでもアストラルコピーを封入してしまえるからだ。

 

「それに態々、ダイコンボイで来てくれた者達にも活躍の場を与えないとな。クオン」

 

父様(ととさま)、何かな?」

 

「トゥスクル白皇国に従事させている連中も闘いたくてうずうずしてないか?」

 

「してるよ、特にアトゥイとか」

 

 クオンが苦笑いを浮かべて名前を挙げたのは、α世界線でも充分に戦闘狂な処を見せ付けてくれた少女であり、それでいてシャッホロ國の姫という立場なのだから家臣は胃が痛かろう。

 

 トゥスクル白皇国には元より戦闘力の高い者達――亜人が主体なだけに、クオンが召集を掛ければちょっとした戦闘集団の出来上がりだ。

 

 ユートは【うたわれるものー散りゆく者への子守唄ー】、【うたわれるものー偽りの仮面ー】、【うたわれるものー二人の白皇ー】、【うたわれるものーロスト・フラグー】から可成りの人数を連れていた。

 

 その中には戦闘巧者も多い。

 

「他にも戦争の為に来たからにはダイコンボイにどれだけ乗せて来た?」

 

「響さん達が来てます、それ以外も……」

 

 【戦姫絶唱シンフォギア】出典となる立花 響と愉快な仲間達、それなりの人数が【閃姫】としてユートと契約を交わしている。

 

 そうなった……なれた理由はあれが【ソードアート・オンライン】という世界と混肴世界だったからで、マリア・カデンツヴァ・イヴを除いた後のSONGメンバーがSAOというVRゲームに閉じ込められ、ユートとの関わり合いを持ったのが切っ掛けでゲーム内でとはいえ肢体を重ねる事になり、それが現実世界でも続いていったというのが契約に結び付いた。

 

 響を堕とせば小日向未来がくっ付いて来るし、他にも調か切歌を堕とせば堕ちてない方がくっ付いてくるなど、中々に百合百合しい関係性だったから割と簡単……では無いけど普通に手中へ納める事が叶ったもの。

 

「とは言っても響達なら山をもぶち抜くのだって可能だろうし、翼なら山をも斬り開いてしまえるだろうから充分過ぎる戦力な訳だよ」

 

 【戦姫絶唱シンフォギア】系統の者達であれば多少の人数差は如何様にも埋まる。

 

 事実として敵であるノイズやアルカノイズなどの存在、数百とも取れる数々を斃し尽くしてきたのだから問題もあるまい。

 

 響、翼、クリス、未来、切歌、調、マリアといったシンフォギアのチームだけでは決して無く、敵だった錬金術師達も仲間に加えていたのだから可成り戦力向上が見込めていた。

 

(それでも前回を下回る数では無いだろうしな、矢っ張りやるしかないか……クレストチェンジ)

 

 それこそは件の彼女達を喚び出す為のキーであったのだと云う。

 

 

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第123話:ありふれた最後の会議

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「なぁ、緒方……」

 

「どうしたよ? 永山」

 

 神妙な表情な永山重吾、とはいえ実の処は言いたい事も何と無くだが理解はしている。

 

「矢っ張り俺らが帰るのは?」

 

「前々から言っている通り無理だ」

 

「それは……」

 

「理由だって説明したよな?」

 

「ああ」

 

 何度か説明もしていた通り、永山重吾を含めたクラスメイトの帰還は認められない。

 

「帰すだけなら簡単だろう。既にダイコンボイが此方に来ているからには彼方側との道筋も確立が出来ているからな。だけど帰ったら帰ったで幾つもの問題が有るんだ。一番はクラスメイトの内の半数が死亡している事、そしてそれに伴う批判は免れないという現実的な理由」

 

「ぐっ!」

 

「帰れる道筋が出来たから帰りたいって気持ちは解らんでもないが、抑々にしてお前らはハイリヒ王国が健在な時に『戦争やろうぜ!』って天之河の言葉に嬉々として賛成していたじゃないか」

 

「それはっ!」

 

「僕は一応、危険性を唱えたけどな」

 

 態々、自分の腕を斬り落として流血を見せ付けてまで危険性を教えた心算ではあったのだけど、所詮は関係性の薄い連中なだけにいまいち伝わらなかった模様。

 

「兎に角、僕が帰るのは論外。そして永山達だけが帰った場合に起こり得る出来事は想像が付く。マスゴミによる『知る権利』を掲げた悪意しか見出せない取材攻勢、政府関係による悪意しか見出せない事情聴取、警察関係による悪意しか見出せない同じく事情聴取、学校関係なら悪意しか見出せない隔離政策、そして死んだ子を持つ連中からしたら生きているだけで憎悪の対象になるな」

 

 それこそ悪意しか見出せない事を宣うけれど、実際に起こるのはユーキの経由で識っていた。

 

 最後のは響の名前を聴いたから思い付いたというべきで、立花 響も原典の開始から二年前に起きたノイズ事件で生き残った事で誹謗中傷の的にされたし、立花 暁も娘が生き延びた事を喜んでいたのに取引先の会社の社長の娘は死んだという事、それによるあれやこれやで絶望して家を出てしまった顛末がある。

 

「永山達は地球に帰ったとして、それに立ち向かう事が出来るのか?」

 

「うっ!?」

 

 これも前に訊かれた事だ。

 

「お、緒方なら出来るのかよ?」

 

「勿論だ」

 

 永山重吾からの質問に言い放つ。

 

「最終的に御偉いさんさえ黙らせれば全てが終わるからな」

 

 その意味は凶悪である。

 

 御偉いさん――例えば聖域なら教皇を黙らせると言っているに等しく、現在の【ありふれた職業で世界最強】世界に於ける日本という国に限定をすれば、様々な組織の上層部は知らず知らずの内にユートによる掌握をされていたからだ。

 

「まほネットを知っているか?」

 

「ああ、アレだろ? 数年前に忽然と現れてから最初は【ネギま!】のパクリサイトみたいに云われてたが、評判が徐々に良くなっていったっていう情報兼商業サイトだよな。特に商業サイトとしては“密林”と少し被るけど、その商品は自社製で何だか有り得ない商品が並んでいるって聴くな」

 

 【魔法先生ネギま!】や【UQ HOLDER!】が連載されたこの世界、“まほネット”は作中にて普通に存在しているからパクリサイトとか云われても仕方が無い話。

 

「言っとくがきちんと筋は通しているんだから、別にパクリサイトとか云われる筋合いは無いぞ」

 

「……って、情報が上がって来ていたから噂の方も下火になったんだよな」

 

 名前は別に売名では無くて、再誕世界で普通に存在していたサイトの名前を使っていただけ。

 

 それでも名前の使用でお金を獲ているからには使用料を支払い、更には年間収益から僅かながら気持ち程度に支払いを行っているけど、彼方側がその事を大々的に公表したのだ。

 

 尚、()()()()()に億単位だった。

 

 というか、原典的な漫画に出てくる魔導具――マジックアイテムが高値とはいえ売られている、この事実だけで実は彼方側も万歳三唱で迎えている上に、漫画の売り上げが何故か又候増えていて億万長者を地で往く勢い。

 

 更に魔法も見せて上げたら喜ばれた。

 

 ユートは好みでは無いから余り使わないけど【魔法先生ネギま!】系統の魔法も使える為に、例の始動キーを使った魔法を普通に唱えて使用をする事も出来るからだ。

 

「あのネットで売られている品々は紛れもない、本物の効果を持った魔導具の類いなんだ。つまりは“魔女の若返り薬”や“魔女の痩せ薬”なども本当に効果が有る。“長老の毛生え薬”もな」

 

「マジモンかよ!? うん? っても、それって確か【HUNTER×HUNTER】のグリードアイランドで手に入るアイテムだろ?」

 

「僕の念能力にはグリードアイランド由来の物、つまり指定カードを模倣したアイテムも有るからそれも売っている。とはいえ、下手に飲むと死ぬから数錠をそれなりの値段で……だけどな」

 

 例えば“魔女の若返り薬”は記憶や知識はその侭にして、肉体的な年齢のみを若返らせてくれる薬ではあるけれど、年齢以上の数を飲んだら死んでしまうから注意が必要となる。

 

 若返りや毛生えは権力者にとって魅力的だし、それが得られなくなるなど一度でも得てしまったら地獄でしかない。

 

 それに大抵の人間は老いたら一部が元気を失うけど、“長老の精力増強薬”はそんなとある一部の元気を取り戻せるから密かに大人気だ。

 

 因みに、注意事項を守らず死んだり指に毛が生えたりしても一切苦情は受け付けない。

 

 薬は用法を誤れば毒と同じ。

 

 況してや、あれらは量を飲む意味が無いのだから勝手な用法で身勝手にくたばって、それの責任とか言う以前に自分の責任を取れと言いたい。

 

 それでとやかく言うなら商品が二度と買えなくなるというのも告知してある為、或る意味に於いては相互警戒態勢で客同士が見張り合っていた。

 

「うん? って事はアレか? 如何なる怪我も病も癒やす“大天使の息吹”も在るのかよ?」

 

「そりゃ、在るさ」

 

 生きてさえいれば瀕死の重傷だろうと不治の病だろうと癒やす効果のカードが“大天使の息吹”、使うと一人に付き一度だけ大天使が顕れて一息で癒やしてくれるのである。

 

 カードを実際に使って初めて行使をしたという事になる為、使ったカードは当然ながら消滅してしまった上に飽く迄も効果はカードの内容から外れない、従ってオリジナルの“大天使の息吹”に出来ない事は必然的にコピれられたカードにも出来ないという事

 

 尚、ユートは指定ポケットカードは最後となるNo.100を除く99枚のコンプリートをしている。

 

 惜しむらくは矢張り“大天使の息吹”の効果で、他にも手にしていたら疫ネタにしか成りそうにも無い危険物的なカード、これは流石に売ったりも出来やしない。

 

 G・Iのカードでユートが売却をしているのはリスクが無い、或いはリスクは有るけど守るべきルールを守れば問題無い物のみだ。

 

 また、カードにはカード化限度枚数が決まっている事からユートがファイルから抜き出せるのは限度枚数まで、つまり“大天使の息吹”は三枚までしか抜き出す事が出来ない。

 

 故にこそ、使わない+転売の対策にカード化してから約七六時間で消滅する様に調整してある。

 

 まぁ、抑々にして“大天使の息吹”を欲するのはだいたいが三種類で、先ずは本当に必要としていて借金を負ってでも大枚を叩いて買いたい人間、次に転売を目論んで買いたい人間、最後にいざという時に取っておきたい人間であろう。

 

 ユートが売るのは基本的に最初の人間だけで、カードの効果を説明する説明板にも三日間で消滅と記載しておいた。

 

 カードの効果そのものには干渉が出来ない――イコールでそれが制約な訳だが、カードの消滅する期間くらいはユートが決めて左右が叶う。

 

 念能力の強力さに反して軽い制約なのかも知れないが、ユートの本転生は二回で仮転生は幾度と無く行われての念能力修得、魂の格はそれだけに向上していた上に緒方優雅の魂魄を吸収していた関係上、初めから高い格を持っていた事が念能力の制約と誓約を軽くしていて、容量(メモリ)も膨大なものと成っていたからこそであったと云う。

 

 だからこそ、某・W使い拳士みたいな容量が足りなかったなんてマヌケな話に決して成らない。

 

 一生涯に一度だけの大天使が起こす奇跡とでも云える効果、直近という訳では無かったりするのだが【ソードアート・オンライン】の世界にて、何故かSAOに囚われてしまった双子の姉妹の内の姉の方が、両親や双子の妹と一緒に罹患していたHIV感染症――後天性免疫不全症候群の進行が酷かった為、メディカルポッドでの治療も妹とは違って間に合わないと判断し、ユートは彼女へと件の“大天使の息吹”を使った。

 

 本当に治った――正確には根治したのか疑惑に満ちた瞳であったから、この病の人間とは決してヤれない事をヤって証明して見せた処、真っ赤な顔をしながらその場に座り込んでしまったけど。

 

 この病は空気感染は絶対にしないけど、細菌が唾液に含まれて感染をするからユートが自ら唇を重ねる、それは彼女の病が根治しているのを間違い無く理解した本人だからこそ出来たのだから。

 

 尚、座り込んだのはVRゲーム内ではちょっとした事で可能だったから何度かしていたキスを、現実世界でした事でどうやらヴァーチャルでは獲られない快感に腰砕けになったらしい。

 

「だったら緒方、俺達がた……」

 

「足手纏いは要らん」

 

「っ!?」

 

 永山重吾に最後まで言わせるまでも無く切って捨てるユート、その瞳は何処までも底が見えない光さえ吸い込むブラックホールが如くの漆黒。

 

「お前らは能力的に大した事も無いだろうが? 僕に言わせればお前らこそ錬成師な僕やハジメをも越える無能だよ。実際、ハジメは単なる鎧に過ぎないとはいえ仮面ライダーG3を造り上げて、その武装すらもきちんと造った。アギトの力となる因子を与えていたから今は仮面ライダーアギトに成れるが、お前らとオルクス大迷宮の表層を降りていた際は仮面ライダーG3の姿で攻略をしていただろう」

 

 本来の仮面ライダーG3は機械の鎧で、ハジメが造ったのは見た目だけはそれっぽく造り上げたアンダースーツとアーマー、だけど武器に関しては機械式では無く魔導式で構築をされた物だけど本物に限り無く近い代物と成っていた。

 

 流石、α世界線であれだけのアーティファクトを造った南雲ハジメと同一存在。

 

 取り敢えず、無能と謗られた能力でこれだけの物を造った偉業をユートは満足そうに見た。

 

 或いはユートと同等の能力を持ち合わせていたのならば、ハジメはきっとユートと同じ高み処か易々とは往かずとも天元突破すら叶うだろうと。

 

 そして今現在のハジメは、魔物肉に含まれていたモノを錬金術で分解→抽出→合成にて混ぜ込んで肉団子を恵里と共に食していた為、既に失敗作使徒であるリューン並のステイタス値だ。

 

 原典たるα世界線の南雲ハジメに比べれば低い数値ではあるものの、此方側のハジメは代わりに仮面ライダーアギトに変身する能力が在る。

 

 当然、芦河ショウイチが変身するアギトと同じで原典と変わらない姿。

 

 グランドフォームを基本に、フレイムフォームとストームフォームにタイプチェンジを可能としており、トリニティフォームにも成れる上で更にバーニングフォームからのシャイニングフォームと最強形態にも成れる。

 

 序でに中村恵里には王蛇デッキを渡しており、仮面ライダー王蛇へと変身する事が可能。

 

 ハジメは浩介と同じく友人枠、恵里はハジメの恋人として準身内枠の形で仮面ライダーに変身するアイテムを渡していた。

 

 また、ユーキを通じて狼摩白夜から得た知識から最強になってサヴァイブ«無限»のカードも渡してあり、仮面ライダー王蛇サヴァイブ«無限»へと強化変身も出来る。

 

 最初に渡したのはサヴァイブ«疾風»だったが、どうやら或る意味で公式がビジュアルまで用意をしたらしくて、そのイメージ画像も得ていたからユートの想像の通りに変化をしてくれた。

 

 オーディンデッキはミッドチルダに在る為に、サヴァイブ«無限»は新たに創ったモノだ。

 

 本来は一点物なのだろうけど、これは飽く迄もユートが創った物だからその気になれば増やす事も可能、そうして創った物は基本的に身内枠のみに与えられている。

 

 まぁ、マルチユニバースで鑑みればその世界に一枚しか無いサヴァイブ«無限»も、数多在る世界を合算したらそれこそ無限-1もの数になる筈。

 

 単純に【龍騎の世界】だけでもそれくらいの数になるのだから。

 

 尚、新たにサヴァイブ«烈火»を仮面ライダーリュウガに成るティオに、サヴァイブ«疾風»を矢張り仮面ライダータイガと成る鈴に与えていた。

 

「だ、だが!」

 

「はっきり言うがお前らは所詮、()()()()()をしていたに過ぎない。確かに()()()()()()()()()()()()()()()()()でこの世界の人間に比べて数値は高めかも知れん。レベルが八〇にも届いて力だけならこの世界に並ぶ者は居まい。元ハイリヒ王国騎士団長メルド・ロギンスより高い数値だろうな。だが、そんな彼とタイマンを張った場合に敗けるのは間違い無く永山……お前だ!」

 

「っ!? 接待……バトル……?」

 

「実際にお前らは七五階層くらいまで騎士団からの手厚い庇護の下、色々な説明を受けながら時には騎士団からの手助けをされながら闘って来た筈だよな? 成程、表層部分の小ボスのベヒモスはレイドバトルで何とか斃せたかも知れんな。だけど最終決戦では一匹を複数人でボコるのは不可能、というより奴ら木偶人形は最低限で失敗作使徒の七〇〇〇以上という数値。これに数値で対抗をするなら本来の勇者(笑)のレベルが一〇〇に成った上で、限界突破の最終派生技能たる“覇潰”を使って漸く互角に成るんだぞ?」

 

 限界突破は全数値を三倍に、限界突破«覇潰»で五倍に成るから、勇者(笑)が全数値を一五〇〇にしたレベル一〇〇を五倍にした七五〇〇で互角、しかも木偶人形だけあって一応はスキルや魔法はノイントやエーアストらと同じモノを使える。

 

 感情豊かで数値が低いからこそ失敗作使徒というだけであった。

 

 とはいえ、だからこそノイントよりもリューンは愉しめたのだが……

 

「お前らのステイタスはエヒトルジュエから貰ったに過ぎない、故に錬成師を除いたらトータスの人間よりは確実に上へ行ける。だけど木偶人形の一体にすら勇者(笑)が万全でも勝てないだろう。ウルトラマン程度の限界突破«覇潰»の時間では、全数値が一二〇〇〇の木偶人形の一体にも敵わないのは火を見るより明らかだからな。エヒトルジュエはお前らが敵対する事も当然ながら考慮に入れていたろう、だから勇者(笑)がフルパフォーマンスで闘っても勝てない程度の数値に落とし込んでいたんだろうさ。況んや、そのオマケに過ぎないお前らが敵う道理も無いだろうよ」

 

 勇者(笑)である天之河光輝のオマケ、それこそがクラスメイトの立ち位置に過ぎなかった。

 

 ユートの予測でしかないのだけれども、召喚の魔法陣は喚び出す以外にも喚ばれた人間の性質に合わせた天職を与え、それに紐付いたステイタスの初期数値とスキルや魔法を与える役割を担っていたのだと思われる。

 

 その最低限に与えられるのが言語理解であり、天職とそれに紐付いたスキルだった訳だ。

 

 ハジメの様に錬成師という天職に錬成と言語理解のみ、数値はオール一〇という端から見たなら確かに無能としか思えなかったし、勇者(笑)が僅かな間に二〇〇は数値を上げていた中でハジメは端数でしかない上昇量、エヒトルジュエは何処までも錬成師が大嫌いだったらしい。

 

「限界突破は勇者(笑)専用みたいな形で天之河のステイタスにのみ在ったけど、あれは魂魄魔法に紐付くスキルだから欲しいなら魂魄魔法を得るというのが手っ取り早い。尤も、魂魄魔法を得る為のバーン大迷宮は神山に在ったからな。僕が神山を消し飛ばしたんで、再生も叶わず消滅してしまった可能性が高い」

 

 ある程度であれば大迷宮は再生する。

 

 恐らくは全体的に再生魔法が仕掛けられているのだろう、一万年と二〇〇〇年くらいが経過をしていても大迷宮が機能不全を起こしていない理由であると云えた。

 

 更に迷宮攻略で破壊されても暫く時間を置けばあら不思議、元の状態に戻っている上に魔物だって再湧出(リポップ)をしているのだ。

 

「とはいえ……」

 

 ユートが振り向いて視たのは【解放者】に入ったばかりの頃より若いラウス・バーン、彼こそはバーン大迷宮の作り手にして魂魄魔法を持っている神代魔法の継承者。

 

「ラウス、君の魔法が元ネタとなったスキルこそが限界突破なんだが?」

 

「ふむ。そういえば山が崩れ落ちていたからな。確かに大迷宮は既に使い物にはなるまいよ」

 

 限界突破が欲しいならラウス・バーンに頼むのも手ではある。

 

「そして悪いが試練を突破していない者に魔法を与える心算も無い」

 

 当然だろう、抑々が大迷宮に試練を付随していたのは継承するのが有資格者である事を望んだからであり、その資格は大迷宮を攻略すれば自ずと見定められる様に成っていた。

 

 だからこそ今更、ラウスも試練無き継承なんて真似をする必要性も無かったし、何よりユートが普通に継承しているなら最早試練も要らない。

 

「まぁ、限界突破は短期決戦の為のスキルだし。数分間しか使えない«覇潰»なんて、長時間戦闘には全く向かないしな。然もスキルが切れたら体力をブワッと奪うとかね」

 

 だから奥の手として使われる。

 

 経戦能力皆無のこのスキルで何万処か何十万もの敵を相手には出来ない。

 

「だったらお前のアーティファクトを!」

 

「ライダーシステムの事か? バーッカ言ってんじゃねーよ! 前々から言っている通りアレに関しては基本的に身内のみに渡す。鈴は【閃姫】で浩介は友人枠だっつーてるだろうが! お前らはクラスメイトという名の赤の他人に過ぎない! 【解放者】はミレディという身内の身内として、ライダーシステムならぬビーファイターシステムを渡したんだ!」

 

 ユートはクラスメイトの事が一部を除いて好きでは無かった、天之河や小悪党四人衆程に嫌っていた訳では無かったが、好悪の二元論で分けるのならば〇……極めて悪感情寄りのフラットだ。

 

 ハジメや浩介や【閃姫】達みたいに生きていて欲しいとは思わないが、かといって天之河光輝や小悪党四人衆みたいに死ねば良いとも思わない。

 

 若しもだが、仮に天之河光輝や小悪党四人衆が金銀財宝を対価に助けを求めたとしても助けようとは思わないだろう、だけど永山重吾達がそうした場合は助ける事を検討してやっても良かった。

 

 その程度の関係性しか永山重吾達とは築いていないし、だから浩介が一人と永山重吾達の数人が同時に生命の危機に瀕していた場合で、その上でいずれかしか助けられないとしたら浩介一人だけ取るのだろう。

 

 とはいえ、浩介は曲がり形にも永山重吾達とは友人――親友だと言い換えても良い関係だから、そうなった場合は間違い無く浩介が気に病んでしまう事に成るのだろうけれど。

 

「まぁ、兎に角だ。僕は君らに何ら期待はしていなかった。これからも特に思う事は無いし、黙って隠れていたらどうだ?」

 

「な、何でだよ……帰れもしないし、だからといって闘えるでも無し。それじゃ、俺らっていったい何なんだ!?」

 

「ネームドモブ?」

 

「がはっ!」

 

 モブキャラだけど名前とかの細かい設定が付いている存在、時折だが出番を貰えて一回限りとかでは無いけど結局は賑やかし程度。

 

 ネームドのレベルで濃いながら名前が出て来なかった原典の女騎士、義妹化して雫に擦り寄って任務を蔑ろにする彼女とどちらが良いだろう?

 

 因みに、この世界では雫へのていていな信仰を持って義妹化をするよりも前に、天之河光輝へと擦り寄って性的に喰われた為か恐らく義妹化はしないだろうけど、その心には不快にして深い傷が残っていそうである。

 

「どちらにせよ、お前らは事此処に及んでは役になぞ立たん。大人しくしていれば時が来た時に帰してやるから」

 

「わ、判った……」

 

 最早、言葉を尽くす事も出来なくなってしまった永山重吾は俯いて椅子に座り込んでしまった。

 

 

 其処に永山重吾のテーブルに紅茶を置いてくれたのが、何処からどう視てもメイド服という服装だけどハイリヒ王国やヘルシャー帝国の物とは全く別のデザイン、長い黒髪を纏め上げた瑠璃色の瞳を持つ笑顔が目映いメイド少女。

 

 少なくともシエスタは別の場所にて配膳をしているから別人、そのメイドとしての腕前? は正しく玄人然としていた。

 

 憔悴した永山重吾が紅茶を飲んでみると美味いと感じるくらいだ。

 

「御茶請けもどうぞ」

 

 無言で御茶請けを口にすると、飲んだ紅茶に合う味に目を見開いて咀嚼をしつつメイド少女を見遣ると、何故だか木偶人形――エヒトルジュエの使徒とは輝きが異なった聖銀の魔力が揺蕩う。

 

 それは永山重吾の重くなった心をある程度ではあるが軽くした。

 

 その笑顔に思わず惚れそうになる永山重吾ではあるが、この場に居る少女=ユートの【閃姫】であると考えたらしく想いを封じ込める。

 

 実際に間違ってはいない。

 

 ユートのハルケギニア時代、最終血戦も終わって本来の――前世の世界へと戻った際に事故死をしそうになっていた少女、その身を助ける対価として貰い受けた時からユートの【閃姫】。

 

 自分だけではない、飛行機の墜落事故であるが故に乗客の全てを救って欲しいと頼まれたのだ。

 

 代わりに自分がユートのモノとなる事を了承した為に、その強い意志を気に入った事で飛行機の墜落を和らげて乗客の全てを救う。

 

 但し、少女に関してはどうやら選択肢が存在していたのでそれを告げてみたら、少女は寂しそうな笑顔を浮かべて転生する事を選んだ。

 

 転生後、貴族の御落胤として生まれていながら前世からの望みを叶えるべく平民としてメイドになり、とある貧乏伯爵の御令嬢の家でメイドとして働く事となった少女は紆余曲折、その世界での寿命を終えた後にユートの下へと戻ってきた。

 

 とはいえ、ユートの【閃姫】に成っていたから少なくとも本来の世界線で仮令、結婚をしていたのだとしてもβ世界線となる此方側では男の影は形すら無かった……とは云わないけど、可哀相に少女に恋い焦がれた男は普通に振られている。

 

 因みに、転生者は他にも居たからその人物達には早々に転生をして貰った。

 

 【閃姫】だから寿命とは飽く迄も【閃姫】では無かった場合の転生体の寿命、大人に成りながらも若々しさを保った侭で御嬢様に仕え続けたが、不思議ではあっても周囲は納得していたらしい。

 

 白銀の祝福を受けた聖なる乙女であるが故に、そんな不思議な事もあるのであろう……として。

 

 まぁ、知られたのは大分後になってからの事ではあった上に、聖銀の魔力も彼女はメイド魔法にして便利なモノ扱いに過ぎなかったけれど。

 

 尚、黒髪はメイド魔法で染めたモノで本来なら瞳も黒にしていたけど、御嬢様が亡くなってしまって本来の旦那様(ユート)の下へ帰った際に瞳の色は瑠璃色の侭を欲した為に変えていない。

 

 そうであるから永山重吾は賢明であったと云えるであろう。

 

「優斗!」

 

 取り敢えず報告も済んだから会議を終了しようとしたら、【デジモンセイバーズ】に於けるメインの人物の一人にして【閃姫】の淑乃がユートへと話し掛けて来た。

 

「どうした淑乃?」

 

「今回の最終決戦ではガジモンをどっちに進化させるのかしら?」

 

「アヌビモン」

 

「つまり、数を増やす方向ね」

 

 ユートのパートナーデジモンはガジモンというありふれた存在、然しながら元はスーツェーモンという朱雀の姿を象る究極体にして神にも等しいデジモン達――四神から現実世界に送られてきた成熟期のドーベルモンだった。

 

 その躰を分解してテイマーズの究極進化を助けるデジタルグライドと化し、本来であるのならば消滅と共に任務を遂行する筈だったのだけれど、実際にα世界線では消滅しているのに彼は消滅をする事無く現存をしている。

 

 勿論、ユートが助けたから。

 

 データ量が不充分だったからドーベルモンとしてでは無く、成長期であるガジモンとしての姿で救われたので今もユートのパートナーデジモンとしては成長期の姿をしていた。

 

 更にユートが光鷹翼の力を用いて行う擬似的な“デジソウルチャージ・オーバードライブ”で、

飽く迄も擬似的ではあるが究極体アヌビモンへと進化をさせて最後の決戦に臨む。

 

 それと違うが、後に【デジモンセイバーズ】の

世界へと転移してから専用のデジヴァイスicを得ていたけど、人間が製作したからか完全体である処のケルベルモンには成れたのに、究極体へ至る“デジソウルチャージ・オーバードライブ”をしたらぶっ壊れてしまった。

 

 大門 大達のデジソウルより遥かに強力無比だったからか、彼らの形が残る破損とは違って粉々になったデジヴァイスicは破棄するより他に無く、已むを得ずそれまで使わずにいたディーアークを用いての進化をさせる事になる。

 

 だけど既に信頼も勝ち得ていたからガジモンは融合進化が可能に、究極体であるプルートモンに究極進化をする事が出来る様に成っていたのだ。

 

 元よりデジモンは進化系統が複数存在しているから、例えばユートの識らない【デジモンアドベンチャー:】のアグモンとガブモンみたいな形、アグモンの究極進化がウォーグレイモンだけでは無くブリッツグレイモン、ガブモンがメタルガルルモンでは無いクーレスガルルモンに成ったみたいに二つの進化ルートを持つに至る。

 

 それにより進化の形にも少し変化が齎されて、ガジモン→ドーベルモンX→ケルベルモンX→アヌビモンというルート、ガジモン→ドーベルモン→ケルベルモン・ジンロウモード→プルートモンが正しい進化ルートに組み込まれていた。

 

 また、アヌビモンはXー進化では無くバーストモードを得る。

 

 当たり前だけどアヌビモンは【デジモンセイバーズ】のパートナーデジモンでは無いのだから、本来であればバーストモードなど存在しなかったのだが、ユートがディーアークでもデジソウルで進化させる手段を構築したから“デジソウルバースト”も可能と成ったのだ。

 

 まぁ、ユートが自ら闘う場合の究極進化というのがアヌビモンなのだと考えれば良かろう。

 

「じゃあ、いつも通りにアヌビモンのフォローは私達が任される形で良い訳よね?」

 

「ああ、頼んだ」

 

 これもいつも通りという、別のデジタルワールドへ行った際にはフォローを頼んでいたから。

 

 ユートは会議を終えて、ハジメと恵里を呼び戻すべく動き始める。

 

 流石にラストバトルであるからにはあの二人を野放しにするには惜しい、仮面ライダーアギトと仮面ライダー王蛇は存分に活躍して貰うから。

 

 

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第124話:ありふれた最終調整

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「やぁ、久しいな」

 

〔うん、そうだね優斗〕

 

 何度か電話を掛けてみたけど中々繋がらずにいたから、更に少し時間を置いて何度か目となるであろうコールでやっと出たのは南雲ハジメ。

 

「それで? メルジーネ海底遺跡はクリアする事が出来たのか?」

 

〔うん、何とか僕も恵里もね〕

 

「それは目出度い。処でまだ最後まで攻略が出来てないだろうけど最終決戦が始まる」

 

〔! 判った、帰るよ〕

 

「済まんな、アギトと王蛇を遊ばせておく程には余裕がある訳じゃ無いんだ」

 

 新たに永山重吾達を仮面ライダーにしたいとは思わない反面、人数を確保するなら既に力を与えているハジメと恵里は招集しておきたい。

 

 身内では無い連中に背中を預ける気は無いし、永山重吾達の場合は後で返還を渋られても面倒臭いからである。

 

 尚、アギトの因子は回収が難しい――ジオウのブランクウォッチを使えば可能だ――けれども、恵里に関しても王蛇デッキを返して貰うといった気は更々無かった。

 

 恵里"という全く同じ顔と肢体の少女を好きに抱いた事もあり、平行世界の同一性体に過ぎないとはいえハジメの恋人でもあるのなら、間違い無く『中村恵里は身内である』と言い切れたから。

 

 軽くユートが飲んでいるのは純正なドワーフが飲む様な火酒、アルコールは広義で毒と変わらないからビールとかでは全く酔えない、ドワーフの火酒くらいにアルコール度数が高ければ一瞬だけでも酩酊感を得られるのだ。

 

 先の電話でハジメは明後日に帰ってくると言っていたが、恐らくは今夜と明日は宿屋でたっぷりと互いの仲を確かめるのだろう。

 

 ユートはグレイテストシンオウライドウォッチを弄びつつも、酒の入ったカップを口に付けると中身を一気に煽った。

 

 喉を焼く刺激と鼻を突く香りと共に刹那の酩酊が襲うものの、すぐに酔いは解毒作用により消えてしまうから量を飲まないとならない。

 

「一応、コイツに組み込んだからグレイテストシンオウに成れば使えるけど……な」

 

 グレイテストシンオウは仮面ライダージオウの色違いたる仮面ライダーシンオウ、それだからこそ仮面ライダーグランドジオウの色違いとなるであろう仮面ライダーグレイテストシンオウなんて仏壇フォームも踏襲されていた。

 

 グランドジオウが身体に刻印されたライダーレリーフに触れると、そのレリーフに描かれている平成仮面ライダーが顕現化をして闘ってくれる。

 

 やっている事は仮面ライダーディエンドに近いかも知れないが、グランドジオウの場合は自分の意志に添って武器を召喚する事も可能。

 

 そしてクレストチェンジ――この場合は刻まれたレリーフを別のモノに変更をする事によって、仮面ライダーとはまた別の存在を召喚する機能を持たせていた。

 

 例えば『スーパー戦隊』を。

 

 尤も、ユートが召喚するのはその姿や能力こそ仮面ライダーやスーパー戦隊かも知れないけど、中身は本物では決して無くて原典の存在とは同じ思考回路を持っているだけでAIに近い。

 

 その場に居れば或いはそう思考する……かも知れないといったやつだ。

 

 例えば、仮面ライダーカイザを召喚した場合なら――『俺を好きにならない奴は邪魔なんだよ』とか叫びながら闘いそう。

 

 それは兎も角として、永山重吾達とは全く違って信頼関係を構築しているハジメとその恋人である恵里が戻るのは大きくて、仮面ライダーアギトシャイニングフォームや仮面ライダー王蛇サバイブは戦力として大活躍してくれる筈。

 

 恵里"と恵里――二人の中村恵里による仮面ライダー王蛇とオルタナティブ・ゼロの快進撃とか。

 

 というか、何なら主旨が違えばハジメと恵里にダブルドライバーを貸して仮面ライダーWにしても良かった。

 

 ユートは妄想の中の中村恵里と恵里"を脳内から振り払うと、既に通達をしていたから部屋に一人で待機をしていた本物の恵里"を見遣る。

 

「やぁやぁ、ボクを犯しに来たね」

 

「抱きに来たんだよ」

 

「ヤる事に違いないさ」

 

「そりゃそうだがね、字面が余りにも余りだろ。合意無しのは確かに犯すって言葉が相応しいが、一応ながら僕と恵里"は合意の上なんだからさ」

 

 肩を竦める恵里"にユートは苦笑いを浮かべながら訂正を入れる。

 

「一応って付いてる辺り自覚をしているんじゃあないか」

 

「まぁ、毎度泣かせてるし」

 

「くっ!」

 

 それは泣くだろう、毎度毎度の時間戻しにより肉体を処女に戻しては膜をブチブチッと引き裂いてくれる訳で、こいつが中々地味に痛いのだからギャン泣きでは無くて啼いている感じになった。

 

 痛みはそれなりに感じるし、肉体の刻を巻き戻すから痛みに慣れてもまた新鮮な痛みを次に提供をされる為、痛みに耐えながら涙を零してしまうのはどうにも止められない。

 

 彼方側の天之河光輝とは神域の方でヤりまくっていたが、初めてを貫かれた時は確かに感じていた痛みだったのに、ユートのJr.が天之河光輝のJr.に比べて二倍以上のモノだったので彼奴に恵里"のオリジナル魔法――“縛魂”で縛って操られていた状態で恥ずかしがるでも無く晒されたから長さも太さも硬さも別物だと理解はしていた。

 

 とはいえ、ユートは“強壮たる【C】”によって文字通り犯された事で、Jr.を無理矢理に肥大化させられて精気を吸われながらも口からお腹へと、菊門から直腸へ精気を流し込まれる無限ループでヤられ続けた結果、一種の呪詛による肥大化したJr.をその侭にされた上で幾らでも射精が出来てしまう肉体にされてしまったのが原因。

 

 単なる人間とは作りからして最早異なっている訳だし、その少し前に覇道瑠璃を相手に太腿にて擦れて誤射したり、五回目にはもう息も絶え絶えで何とか少量を射精してたユートは既に居ない。

 

 孕み難くなる事と引き換えに、何千発を射精しようとも全くJr.も勢いも衰えないからだ。

 

 何処ぞの無限の龍神と比べて何ともはやイヤな無限ではあるのだが、そのお陰で出逢う女性という女性を満足させるだけのスタミナとテクニックを身に付けるに至っていた。

 

 どうでも良い話だけど無限の龍神オーフィスは出逢う前、アザゼルの言から鑑みて爺様の姿をしていたらしくて姿形に頓着が無くて、ある程度は好きに換えられるみたいだったのと精神性は姿に引かれるっぽい為、女性としてのメンタルを持たせた侭で今の姿を換えない様に頼んだら了承を貰えたので、彼女は出逢った時と変わらぬ姿の謂わば合法ロリな黒髪少女である。

 

 そしてオーフィスは龍神――即ち龍という属性と共に神性を持つから、実はダイコンボイに乗って連れて来られた神の一柱で神域に居た。

 

 オーフィスは【ハイスクールD×D】の世界には既に住んでおらず、ユートがあの世界から離れるのに合わせて共に出ている。

 

 故にこうしてオーフィスに用事がある場合は連れ出しているし、大きな用事などが無かったにしても折角の女性体なのだから契約こそ出来ないけど【閃姫】と同じ扱いをしていて、オーフィスもそれに不満や違和感を感じていない。

 

 寧ろ嬉しそうにしていた。

 

 【閃姫】契約が出来ないのは彼女が神性を持つ曲がり形にも神だから、リルベルト・ル・ビジューも神域にまで到達してはいるけど本来は人間であるが故に【閃姫】契約も出来たけど、オーフィスみたいな生まれついての神性持ちとは契約自体が出来なかったりする。

 

 だから例えば“まつろわぬアテナ”も【閃姫】では無いし、本当なら好きにしていても構わないのに彼女はユートと共に在る事を望んだ。

 

 オーフィスもそれと同様、彼女は静寂を得る為に“禍の団”なる胡乱な組織に手を――力を貸してその団の御飾りなトップに居た。

 

 まぁ、取り敢えずオーフィスの説得にて調略を試みたら上手くいったのでラッキーだったろう。

 

 英雄派とか旧魔王派とか“禍の団”の連中からしたら偉い迷惑な話だが、抑々にして連中こそ団とは無関係な者からしたら大迷惑な存在だ。

 

 現在、エヒトルジュエの神域はユートの手の者的な神クラスによる支配を受けている状態。

 

 その中にリルベルトやラルジェントやオーフィスやまつろわぬアテナなど、これまでにユートとの(よしみ)を繋いできた存在が多数居る訳である。

 

 エヒトルジュエが神域に戻れない様に云ってみれば神域ジャック、愚かにもユエを狙って降りてきた処を地上で相手する傍らにリルベルト達を送り込んでいた。

 

 だからこそ帰れなかったのだ。

 

(あの侭、消えてくれりゃ万々歳だったんだけど予測をしていた通りに天之河と融合したからな)

 

 此方側からしたら正しく万歳三唱。

 

 別に天之河光輝を殺したい程に憎悪を持ち合わせてはいないけど、こうなってしまえば死なせてやるのが世の情けとばかりに殺すだけだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 約一ヶ月の時間は訓練をしながら、夜は何人かの【閃姫】達を閨に呼んでは褥を共にしていた。

 

 中には神域ジャックをさせていた者も喚び出して抱いている。

 

 パリオンみたいな見た目は小学生な女神も居るのだが、神であるからには存在が数万年以上を在り続けるなんてのもザラだ。

 

 本来ならマシロと名乗る事になるハクオロから権能を簒奪したハクと共に在る筈だった女神達、違う世界線に於いても女神と化した彼女達は喚び出されては抱かれている。

 

 普段はエリシオンにて任された仕事を熟しては帰るを繰り返していて、余り構われていないからここぞとばかりに甘えに来ていた。

 

 ニライカ(アトゥイ)なんて闘いを挑んでは敗けてを繰り返しつつ、敗けた後で思い切り甘える感じになっているのが定番化している。

 

 また、β世界線ではユートの干渉から抑々にしてハクの死やマシロ化も無かった為、ハクは普通にユートの娘であるクオンとトゥスクルへと渡った事も手伝い、ヤマト國に帝が亡き後はその地位を継いだアンジュと共に動いていた。

 

 色々と厳しい事も言われたけど、『御父上』や『御母上』を救ってくれた相手なだけに帝として頑張る気概を見せたアンジュ、そして八柱将として立ったハクの仲間達がそれを支える。

 

 尚、帝の死は戦後にユートがタタリを浄解したのを見て安堵をした結果として急激に老け込み、半年くらいの療養期間は在ったけど概ねは寿命による大往生であったと云う。

 

 その後はホノカを譲渡されたり、それによってアンジュが妬いたりとアレな事にはなったけど、ヤマト國を治めるのは普通以上に出来ていた。

 

 元よりトゥスクルの二代目の皇を熟していただけに、右近衛大将や左近衛大将や八柱将を指揮して速やかにヤマト國を安定させたのである。

 

 トゥスクルの四代目となるクオン皇の右に立つ者としてハクは充分に役割を果たした。

 

 まぁ、ユートがタタリを浄解する事が出来たからにはα世界線みたいにマシロ化は不要だったという事もあり、本当であればハクオロがウィツアルネミテアの空蝉を辞める事も出来なかったが、ユートとしても十数年間もウィツアルネミテアの神子の如く働いていたエルルゥを解放するべく、ユートがハクオロの中のウィツアルネミテアの力を神殺し――カンピオーネとして簒奪。

 

 これによってユートは白の皇だけでなく黒の皇の力も入手する。

 

 というか、黒の皇がフラフラしていては都合が悪いから取り込んだというのが正しいのだろう。

 

 何しろアレがフラフラした結果としてトゥスクルの姉のエルルゥ、そしてオンカミヤリューであるディーを『願いを叶える』形で乗っ取った。

 

 正確にはユートが正しく知るのはディーのみであり、トゥスクル婆様の姉たるエルルゥに関しては彼女から聴いた話や結末などから推測したものでしかないが、恐らくだけれども大まかには間違い無さそうだとは考えている。

 

 エルルゥは生贄として森に送られたのを良しとしていたが、ヒトであるからには迫り来る死には可成り怯えたのであろう。

 

 どれだけ気丈に振る舞おうとも独りきりとなって頭が冷静に成れば、もう直ぐ死ぬという恐怖に駆られるのも致し方ない感情であったし、相手はあの巨大な虎的な存在だったから間違い無く生きながら喰われる未来しか見えない。

 

 たったの一撃でマミられたならまだ幸せな死に方であると云えるのが悲惨さ凄惨さを物語る。

 

 万が一にも脚を喰われ、腕を喰われ、肚を喰われといった具合に少しずつ痛みを与えられながら死ねなかったら、最期のトドメに頭を喰われるなり心臓を喰われるなり、若しくは出血多量で死ぬなりするまで痛みと苦しみで絶望感だけが支配をする地獄(ディネボクシリ)に陥っただろう。

 

 若しもそういった半ば地獄の中で、頭の内にて『生きたいか?』と御都合にも程がある言葉が響いてきたらどうだろう? きっと掟だ恥だ外聞だなどかなぐり捨てて縋り付いた可能性が高い。

 

 黒の皇はきっと救ったのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()……と。

 

 ディーの時と同じ……というのは時系列的には前後が逆だが、ユートがエルルゥの話を正しく聴いたのはアクタと共に、教団の調停者をしていた時に出逢った若き日のトゥスクルちゃんから。

 

 だから実際にはディーという名の黒の皇から聴いた話から判断した。

 

 それは扨置き、ハクオロから仮面の譲渡をさせてから取り込む事で或る意味、α世界線に於けるマシロと同じ立ち位置と成ったユートは神化をした彼女達――ユカウラとルゥナとケトシィとシュクレとゴコウとミトとニライカとコトゥア&ツァタリ――を抱き込んでいる。

 

 殆んどユートの干渉したβ世界線に居た娘達だったが、ユカウラのみ違う時空に居た世界線から引っ張って来た形に成っていた。

 

 何故ならユカウラとは即ちクオン、そして彼女はユートの血縁だからどれだけ想いがあっても、β世界線のクオンのそれは飽く迄も父娘としての想いに過ぎなかったのも有るけど、クオン自身がハクと結ばれてしまっているので神眷――違いは有るけど【閃姫】に近い存在として機能している――みたいには成れなかったのだ。

 

 また、名前に関しては元の自分達が他に存在をしているから真名隠しに使っていた偽名へ完全に変更している。

 

「なぁなぁ、旦那様~」

 

 ニライカが胸を擦り付けながら甘えてくるのを受け止めると……

 

「折角、こうして逢うとるんやし皆で愛し合いたいぇ。ネコ……ケトやんかてそう思うやろ?」

 

 顔だけケトシィに向けて言う。

 

「何ですか、ケトやんって? まぁ、確かに私達も仕事をしましたから相手して欲しいです」

 

 ケトシィが呆れながら肯定する。

 

 どうやらミトやルゥナは疎かシュクレでさえもニライカに賛同していた。

 

「ま、構わんがね」

 

 寧ろドンと来いといった感じか?

 

 どうせ半月は暇とは云わないけど闘いも起こらないだろうし、“導越の羅針盤”を使ってまで捜そうだなんて考えてもいないユートは時間が空けば彼女達とイチャイチャしていた。

 

 エヒトルジュエがどう考えるかは知らないが、少なくとも天之河光輝は突撃思考な莫迦者だ。

 

 きっと莫迦みたいに真正面から来るに決まっているし、それを迎撃した方が或る意味では楽なのだから態々捜しに行くなんて手間は掛けない。

 

 実際、ベヒモス相手に突撃したし。

 

「ただいま」

 

「御帰り」

 

 残り一週間くらいになってからハジメと恵里がエリセンから戻って来た。

 

「大分、成長したみたいだな」

 

「そうかな? でも、だとしたらきっと魔物肉を食べていたからだよ」

 

 既にハジメと恵里の二人は魔物肉を原物の侭で食せる為、錬金術により魔物肉を加工した食品は現在では使っていない。

 

 見た目には大きな変化が無いけれど、ハジメは細マッチョとも云える筋肉質な肉体と成ったし、恵里は身長が少し伸びて髪の毛も整える程度にしか切ってないから長髪、更にハジメは股間のJr.が荒ぶる貴公子と成っており、恵里は鈴が顎カックンしたくなるくらい女性らしい肉付きに。

 

 ハジメは白髪に成ったり片目や片腕を喪ったりしなかっただけで、肉体的には原典の南雲ハジメと変わらない体つきとステイタスを手に入れた。

 

「魂魄魔法は優斗から貰っていたから残り二つでコンプリートだったんだけどね」

 

「とはいえ、使い所を見失ってもな」

 

「まぁね」

 

 地球に帰ってからも神代魔法を使う事はあるにせよ、エヒトルジュエとの決戦以上の使い所なんてそんなに在るものでも無いだろう。

 

 つまり、エヒトルジュエ戦に出遅れるというのは本末転倒である。

 

「それに僕もそろそろ堪忍袋の緒が切れちゃう。天之河君をボッコボコにしたくなる程度にはね」

 

 笑顔だけど目が笑ってない。

 

 エヒトルジュエに対する苛々と天之河光輝から受けた数々、優しいハジメでもプッツンしてしまうくらいにはやらかしていた。

 

「あの時はああしないとどうにもならなかった、だけど今のハジメには力が在るからな」

 

「そうだね」

 

 ハジメは優しい、それは間違いでは無いけど、例えば香織が見たという土下座事件は優しさから成るのは、飽く迄も力が無いなら無いなりに婆さんとその孫を庇った部分、暴力は肉体的に無理だから土下座して道化を演じたに過ぎなかった。

 

 事実として流石に原典ハジメはちょっとばかりはっちゃけていたが、力を以てやれるなら当然だけど力で黙らせるくらいはやる。

 

 ユートからしたら力に拘泥し過ぎなければそれで構わない。

 

「ウチのダッシュと違って恵里は随分と綺麗に成ったもんだな?」

 

「これでもたっぷりとハジメ君からの愛を受け取ってるからね」

 

「恵里……」

 

 ウィンクしながら右手でピースを作る恵里に、()()()()()()意味合いを深読みしてハジメは赤くなってしまう。

 

 単純に魔物肉の効果なのは似たり寄ったりであるハジメも理解するが……

 

(あ、ハジメめ……硬くしてるな)

 

 魔物肉の効果? で性欲も旺盛みたいで両親はきっと早く孫を抱けそうだ。

 

「それで、昇華魔法と変成魔法は決戦後に取りに行くのか? それとも生成魔法や魂魄魔法みたいに渡そうか?」

 

「うーん、出来たら早く帰りたいんだよね。僕としては恵里を早く父さん母さんに紹介したいし、何より家に住まわせる予定だからさ」

 

「そうか、そういえば恵里は父親を事故で亡くしていたんだったな」

 

 母親に関しては話題に上げない。

 

「うん、だから帰ったら恵里には僕の家で暮らして貰うよ。その……さ、僕が生活の基盤を作れるまでは養女にって話を考えてるんだ」

 

 さっきとは違う照れ笑いで赤くなってしまったハジメ、どうやら地球に戻ったならそういう話に持っていく予定の様だ。

 

「良いんじゃないか? 養子縁組みは解消も出来るから兄妹に成っても婚姻に支障は無いしな」

 

「今、どっちを下に見たのかな?」

 

 上目遣いに訊いてくる恵里。

 

「僕の君へのイメージはダッシュの方なんだよ、そう言えば聡明な君なら解るんじゃないか?」

 

「まったく解り過ぎるくらいにね」

 

 今の恵里は恵里"と比べて大人っぽい姿をしているが、直に抱いた恵里"の寸胴でひんぬーでミニマムなボディがユートの脳裏を過る。

 

 沢山の女性と関係を持てるだけに余裕が有るからだろう、ユートは女性の趣味には可成りの広がりを持つから恵里"も充分に好みに入った。

 

「こないだ渡したサバイブ«無限»は使い熟せているかな?」

 

「うん、多分だけど«疾風»より使い易かったね。ボクとしては«無限»で助かるって処かな」

 

「それは良かった」

 

 サバイブのカードは徒らに三枚が在る訳では決して無く、それぞれのサバイブにはきちんとした役割が与えられている。

 

 というか、ユートは解り易い形でサバイブに対する役割を持たせたと言った方が正しい。

 

 実際はどうなのか実は識らないからだったが、取り敢えずサバイブ«烈火»は出力の上昇が主に成されて、サバイブ«疾風»は疾さに重きを置いて、サバイブ«無限»は全体的な強化指数が高めだ。

 

 鈴にはサバイブ«疾風»を与えたけど、実際には見た目からしてパワータイプなデストワイルダーに実は余り向いてないが、リュウガであるティオにサバイブ«烈火»を渡したから消去法である。

 

「そう言えば訊いてみたかった事が有るんだけど構わないかい?」

 

「構わないが」

 

「ほら、ダッシュ? α世界線のボクの扱いに付いてだよ」

 

「【閃姫】では無く萌衣奴。漢字で書いた場合は()える()装に身を包む()隷ちゃんって処だね」

 

「奴隷……かぁ……」

 

 矢張り現代日本に生きていては奴隷というのに否定的らしく、ちょっと視線が上向いて頬をコリコリと人差し指で掻いている。

 

「敵対者だった者への措置だからね。他にも何人か萌衣奴は居る。【ハイスクールD×D】は識ってるか?」

 

「ああ、うん。ボクもハジメ君程には詳しくないけど識ってるよ」

 

「最初の辺りに堕天使の四人組が出て来る筈なんだけど、その中で小生意気で全員の中でもちっちゃい金髪が居ただろう?」

 

「えっと……」

 

 流石に判らないらしく……

 

「確かミッテルトだったよね」

 

 代わりにハジメが答えた。

 

「その通り、彼女も御多分に漏れず敵対してきたからな。ドーナシークは殺したし、カラワーナはユーキの身体に使った。レイナーレは一誠が庇ったんでミッテルトだけ萌衣奴にしたのさね。他にも【ドラゴンボールZ】の劇場版に出て来たヘラー一族のザンギャもだな」

 

「え? 確かそいつって可成り強くなかった? 少なくともヘラー一族の頭目のボージャックってセルくらいの強さの筈、それならザンギャも流石にフリーザくらいには強くなかった?」

 

「最早、強さのインフレが凄まじくてボス級との差がよく判らなくなってるな」

 

 初期――ラディッツで一五〇〇程度でしかなかった戦闘力はナッパで四〇〇〇、ベジータになるも一八〇〇〇で大猿化すればフルパフォーマンスでの話だが一八〇〇〇〇にも成る。

 

 そしてフリーザの側近で三〇〇〇〇を越えて、ギニュー特戦隊はグルドを除けば五〇〇〇〇をも越えて、ギニューに至っては遂に一〇万の大台に載った……かと思えば抑々にしてフリーザ曰わく『私の戦闘力は五三万です』発言、明らかに側近より強かったナメック星人のネイルの四万以上なんて目じゃないくらいだった。

 

 それが更に倍の百万以上は確実とか、エクレア頭に成ったなら五〇〇万くらいはあるのだとか、最終形態は一億二千万だとか意味不明なレベルでインフレした戦闘力。

 

 それ以降、人造人間に氣は無いという理由の下に基本的に戦闘力なんて出てこなくなった訳で、ザンギャの詳しい戦闘力はユート的には不明だったけど、はっきり言えば特に強いと感じるレベルでは無かった。

 

 この辺になると考察なんかではボス級の部下がン百億なんて云われたりするし、考えるだけ無駄と思った方が正解であろう。

 

 尚、ザンギャの戦闘力は推定でセルJr.と同じかちょっと上程度だとユートは判断をしているし、セルJr.自体はフリーザ程に強いものだろうか?

 

 ボージャックがセルと同程度なら部下の実力はそんなものだ。

 

 どちらにせよ、氣の力だけでも通常モードによる戦闘であっても未来の人造人間17号と18号を軽くあしらえるユートは、ちょっと小宇宙を使ったり超化をすればパーフェクトセルやボージャックでも斃せるだけの戦闘力、ザンギャを斃せないという事は当然ながら有り得なかった。

 

 因みに、普段のユートは封印やら何やらによりそんなバカげた戦闘力は発揮しない。

 

 戦闘力と一口に言っているが、それは肉体的な強さに内在するエネルギーを加える事で肥大化が可能なもの、フリーザがナメック星編までで最強の強さだったのは本人の肉体的な強さが地球人やサイヤ人に比べて強大だったのと、氣の質と純度と量が他者より遥かに優良だったからだ。

 

 ユートが調べて判った事だけど、医学的な境地から見て地球人と余り変わらないヒューマノイドは矢張り、肉体的な強さも地球人とどっこい程度のものでしかなかった。

 

 天津飯の先祖――三つ目族なる異星人も肉体的には地球人よりちょっと丈夫なヒューマノイドだったのだろう。

 

「うーん、萌衣奴……ねぇ。優斗君、君からして別世界のボクはどんな味わいだったんだい?」

 

「味わいって……」

 

「ほら、流石にボクを味わって貰う訳にはいかないからさ」

 

「まぁ、色々と君よりミニマムではあったけど悪くは無かったな」

 

 ユートは寸胴やひんぬーでも愉しめるタイプであるし、だからといってボッキュッボンが苦手という事も無く愉しめる。

 

 初めてでは無いとは言ってみても相手は所詮、魔法で意識を縛られていた天之河光輝だ。

 

 寝ている天之河光輝の下半身のJr.だけ元気に勃ち上がらせて所謂、騎乗位という体位で自分の鞘たる胎内に納めていたに過ぎなかったのもあり、本当の意味で抱かれたというのをユート相手に初めて実感したらしい。

 

 一応、出し入れしていれば刺激を得てそれなりに快感を感じていたというが、ユートからのソレは感度が比喩抜きで百倍は凄かったと息も絶え絶えに呟きながら最初の褥での艶事を終えた。

 

 確かにユートはちょっと特殊なヤり方だから、抱かれた女性の実に一〇〇%が満足を越えてしまって気絶し、処女では無い……未亡人とか嘗ては恋人が居たとかの女性は亡き夫や離別や死別などで別れた恋人と比べて、充分に過ぎるくらいには満足していたのも間違いでは無い。

 

「ま、ボクはハジメ君が居るから君とヤったりはしないんだけどさ」

 

「寧ろ迫られても困るわ!」

 

 ハジメとの友情が罅割れかねないから、抑々にして友人の恋人をNTRする趣味など無いのだ。

 

 原典的には盛大にNTR(寝取)っているのだろうけれど、β世界線では恋人処か知り合いにすら成っていないから問題は全く以て無かった。

 

 ユートは香織が正ヒロインかと一時期は思っていたが、どうも学校での遣り取りからして残念なヒロインっぽいと感じていたのを補足したのが正にヒロインなアレーティア――ユエ。

 

 それを見て『あ、やらかした』と思ってしまったのは当然の帰結。

 

 とはいえ、出逢いは一期一会のもの。

 

 ユートが干渉したβ世界線でハジメは彼女とは出逢わなかった、それが結果としてそうなったというだけでしかないし、抑々がハジメとしてみてもユエという傾国レベルの美少女――ロリBBAと出逢っていればまだしも、本来なら出逢っていた筈だったとか云われても困っただろう。

 

 何より今は恋人も居る。

 

 現代日本人としての常識を当たり前に学んで、良識を普通に持ったハジメは恋人が居る今となってはユエを可愛いとは思っても、決して欲しいなどとは思ったりしない。

 

 たった独りきりで奈落に落ちて、腕を喪ってしまい、飢餓感や孤独感やクラスメイト共の裏切りに対する失望感や絶望感で気がどうにかなってしまい、常識も良識も粉微塵に打ち砕かれてしまったα世界線の南雲ハジメならば、美女美少女を侍らせていても別に『それがどうした』と謂わんばかりに問題無く振る舞えていたかもだが……

 

 何しろ彼方側では万が一にも……否、兆が一にま彼はクラスメイトが救いに来るだなんて思いはしなかったろう。

 

 実力不足云々以前に、間違い無く天之河光輝は南雲ハジメを見捨てて居なかった様に振る舞うと理解していたのだろうから。

 

 ユートが天之河光輝の中に見たのは例えるならば草加雅人、ああいうのは勿論だけどユートの中にも他の人間の中にも確かに有るのだろうけど、天之河光輝は一際に煌めくくらい『俺の事を好きに成らない人間は邪魔なんだよ』を地で往く。

 

 口に出さないし、まるで糖衣錠の如く耳心地の良い言葉で覆うから表面しか見ないクラスメイト共には解り難いが、付き合いが長い人間はそれがはっきりと理解出来てしまう。

 

 雫と香織が天之河光輝に恋慕を抱かなかったのはそれが理由、坂上龍太郎みたいな考えるのを止める処か頭を使わないタイプや、初めの刷り込みを病んだレベルで引き摺った恵里"であるならば、アレに付き合って逝けるのかも知れないけど。

 

 事実、恵里"は逝った。

 

 まぁ、ユートに付き合える【閃姫】達もそこら辺は大概である訳だ。

 

 嘗て、何処かの世界で誰かが言った。

 

『……お前は……某だ……皆と出会う事の無かった某だ……』

 

 まぁ、だからといって時さえ違えば友として語り合えたとは流石に微塵にも思わないが……

 

「最終決戦……か。矢っ張り天之河君と闘うって事に成るんだね」

 

「今は奴がエヒトルジュエだからな。正確に言えば融合している状態で、分離が不可能であるからには殺処分が妥当なだけだ」

 

 融合と言う度に何だか知り合ったウルトラマンであるジード――朝倉 陸を思い出す。

 

(ウルトラマンゼロはもう迎えに来たのかね? まさかとは思うけど未だにトータスに居る?」

 

 次元を越える力をウルトラマンノアから得ているウルトラマンゼロ、ジードがトータスに居るのは誤って落としてしまったからだ。

 

 居たとしてもウルトラマンジードを巻き込もうとは思ってないが、間違い無く木偶人形共の中にはウルトラマンに対抗する巨大な痴女が存在している筈だから、ユートは優雅を両面宿那の権能で喚び出してウルトラマンネクサスと成って闘って貰う心算でいる。

 

 まぁ、明確にユートがティガで優雅がネクサスと決まってないのでティガでも良いのだけど。

 

(とはいえ、リクにも頼んで態と本来の能力より遥かに小さな力で変身したからな)

 

 身長は約五分の一程度、能力に至っては更に小さな一〇分の一程度でしか見せていない。

 

 それを知らない天之河光輝=エヒトルジュエは最大限に見積もっても届かない、そんな痴女を造るのが精一杯でしかないと見込んでいる。

 

「えっとさ、恵里は天之河君と闘うのって大丈夫なのかな? その……一応は彼の事が好きだったんだよね?」

 

「そうだけど、ボクとしてはもう良いかなって。ハジメ君と恋人に成っちゃったら今まで光輝君に執着してたのが嘘みたいに無くなったからさ」

 

 そりゃ確かに、肉体的な交わりまでしているのだから顔が良い御勉強とスポーツが出来る程度の男に、今の精神的な余裕さえ持てる様に成っている恵里が執着する理由も無いだろう。

 

 地球の……日本という国の学校という狭い敷地内でなら大人気な天之河光輝だが、若しトータスに召喚されず社会人に成っていたなら……普通に挫折をしていた可能性もあった。

 

 トータスに来てからよく解る硝子の天才(笑)、特に努力をしなくても今までは熟せたから躓けばあっという間に崩れ落ちる。

 

 最初は良いだろう、実際に召喚をされた当初は普通にキラキラ勇者(笑)様だったから。

 

 だけど思っていた通り初の魔人族戦でコケた、相手が女性のカトレアだったのもあるだろう。

 

 それに失敗例(恵里")を見てしまっては同じ失敗なんてしたくない、それが中村恵里を中村恵里足らしめる思考が導き出した答えだ。

 

「闘いはいつくらいかな?」

 

「少なくとも一週間はあるな。伸びる事はあっても縮まる事は有り得ない」

 

 ハジメの質問に答えるユート。

 

 戦力不足だったから退いたエヒトルジュエが、決戦する時期を短くはしないと考えている。

 

 それから程無く、大空を埋め尽くすくらいの勢いで濁った白銀が照らし出されるのであった。

 

 

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第125話:ありふれたニチアサ

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 ハジメと恵里との会合をしてから約一〇日という時が過ぎ去った昼頃、昼食も済んで中休みをしている真っ最中に報告が上がって来た。

 

 空が濁った銀色に染まった……と。

 

 恐らくは空を埋め尽くす勢いで大量の木偶人形が浮いているのだろうが、だいたいの予想から遅れる事三日後に最後の決戦が始まる。

 

 外に出ると天之河光輝が悠然と黄金の光に包まれて浮いていた。

 

 銀色の中に金色が一つという意味に於いても浮いた存在、此方を見下ろしながら笑みさえ浮かべる天之河光輝は嘗てのキラキラ鎧を身に纏って、赤地に裏打ちされた白いマントを羽織っている。

 

「一応、神と僭称するだけあって生成魔法で造ったって処か? キラキラ鎧が素晴らしく似合っていないな天之河」

 

「ふん、緒方……か」

 

 以前に輪を掛けて随分と上からで蔑む視線を向けてくる天之河光輝、はっきり云って以前の方がそれを隠せていた分だけマシだったろう。

 

「見よ、これぞ我が最強の軍勢よ!」

 

 バッ! マントを翻しながら右腕を横に伸ばして木偶人形を見せびらかす。

 

「画一的で出来の悪いガレキでも見ている感じで気分が良くないな」

 

「瓦礫?」

 

 言葉にすれば同じだが然しながら物は全く別、天之河光輝が言うのは言わずもがなだがユートの言う物はガレージキット、有り体に云えばレジンキャストを用いて作る手作り模型。

 

 尚、前々世ではユートも芸術系に造詣が深いのを利用してガレキの代行依頼を受けて稼いだ。

 

 無論、欲しくても自分では上手く作れないからと諦めていた人間から、プラモデルの製作代行も行っていてそれなりに名を上げていた。

 

 何で三流大学に行って三流会社に勤めていたのかというレベル、プロモデラーにでも成るか或いは父親みたいに画家を主流にした芸術家として食っていけそうなものを。

 

 結局、刀舞士として生きられなかったユートは生き方を色々と間違えてしまっていたのだろう。

 

(それにしても、二〇万くらいはいくかと思っていたらまさかの桁が二つは違うとはね。どれだけ頑張って数を揃えたのやら……)

 

 ユートは殺したエーアストの肉体を研究してきて理解したが、木偶人形共は変成魔法で有機物を集積化して形作ってあり、それをテンプレートでコピペをして割と簡単に造れてしまう。

 

 某・ビリビリちゃんの二万人にも及ぶクローンもボタン一つでポンと造られていて、ちょっとした御手頃価格に十数万円で増やせるらしいけど、木偶人形共もそんな感じに増殖させるみたいだ。

 

 とはいえ、増やすにも時間も魔力もそれなりに掛かるから果たしてどれだけかと考えていたが、天之河光輝というかエヒトルジュエというべきかは最早知らないしどうでも良いけど、本当に頑張り気合いを入れて作業をしたのかも知れない。

 

 情熱の掛け処を間違っているけど。

 

「取り敢えず数を減らすか。混戦になるとやれなくなるから開幕ぶっぱで消し飛ばす!」

 

「どうするのよ? 私達で究極体に進化させれば行けそうだけど」

 

 瑠姫が訊ねてくる。

 

「究極体はエネルギーの消耗も激しいな。だから行き成りぶっ放すのは継戦という意味では余り宜しくない。僕が力を使う」

 

「力を?」

 

 ユートは頷くと天を見据えた。

 

「リル! ()()()()を始める。全員から許可を得たい!」

 

〔了解しました〕

 

 程無くして再び念話が響く。

 

〔私とラルを起点として神域に詰めていた神級の者で許可を出しました。今からならば小一時間は間違い無く小宇宙を扱えましょう〕

 

「了解した!」

 

 リルベルトとラルジェント、この二人は姉妹であり【SHADOW SKILL】の世界にて聖王国アシュリアーナの聖王女、姉のラルジェントが裏切者のエリアードに封ぜられてからは妹のリルベルトが聖王女の任に就いていた。

 

 聖王女なんて云うがラルジェントは兎も角としてリルベルトは三児の母で、二千年前の聖王国が建国を成された日よりもずっと前から生きていて、仲間だった“紅の王”カイ・シンクを封印してから仲間の一人のシア・カーンとの間にヴァイとヴァジュラとガウの三人の子を儲けている。

 

 尚、ヴァイは“刀傷”の(あざな)を持った第五七代目の修練闘士にして真修練闘士、第六〇代目としての就任をした“黒き咆哮”ガウ・バンとは最後に闘って果てたのだとされている英雄。

 

 “神異”リルベルトと“光輪”ラルジェント姉妹を起点として約三〇秒間の封印解放、更に神級による許可を得る事によって三〇秒毎の封印解放維持が成されていく。

 

 神級は最低限で到達者、その上がリルベルトやラルジェントやユカウラなど超越者、その上になるのが日乃森なのはみたいな従属神で、その上が下級神→中級神→上級神→最上級神となる。

 

 この上は創造神級なので考えるだけ無意味でしかなく、ユートが連れてきたのも下級神までだから――正確にはそういう括りがされていなかった世界からも来ている――考える必要が無い。

 

 神級が自身の神域にて許可を出す事が異世界でユートが小宇宙を使う条件、起点は二神で三〇秒と短いけど三神目からはそれ毎に三〇秒。

 

 小一時間は使えるならどれだけの神級が神域に詰めているか判るというもの。

 

「今こそ飛翔(かけ)よ我が小宇宙(コスモ)ッ!」

 

 漆黒の小宇宙が黄金に煌めき太陽の如く輝きを燦然と放つ。

 

「此処に来て僕の身を鎧え我が聖衣よ!」

 

 ユートの右腕の手首に装着されてる銀の腕輪には闇翠と白銀と黄金の聖石が填め込まれており、この聖石は聖衣石と呼び称される謂わば聖衣箱の代わり、現代日本であれを背負って運ぶのは少し難しいからと造られた物だ。

 

 闇翠の聖衣石には麒麟星座の青銅聖衣が納められており、白銀の聖衣石には一時期は手放していた杯座の白銀聖衣が、そして今現在に燦然と輝いている黄金の聖衣石には再誕世界からアテナからの許可の元に持ち出した双子座の黄金聖衣が。

 

 夜中の如く空が真っ暗に成ったかと思ったら、ユートの頭上に双子座の星が並んで顕現化される黄金のオブジェの姿が、即ち双子座の黄金聖衣が威風堂々とその場に顕れたのである。

 

 カシャーンッ! と軽快な音と共に二面四臂の脚を持たない双子座が分解され、それぞれが肉体を鎧うパーツと成って脚、腰、胸、腕、肩と装着がされていき、頭のパーツが装着されて水色の裏打ちが成された純白のマントを羽織った。

 

 戦神アテナが黄金聖闘士双子座の優斗として闘ってきた戦装束。

 

「ふん、我よりキンキラキンな鎧を纏ってどうするというのだ?」

 

 何も知らないというのは或る意味で幸福なのかも知れないが、ユートは常々から言っているのを憶えていないのか? 『知識は力也』や『未知こそは真なる敵』という言葉を。

 

 何故にこうも無警戒なのか。

 

「戦神アテナの聖なる神血よ、我が双子座の黄金聖衣に大いなる加護を此処に与えん事を(こいねが)う!」

 

 ユートの戦神アテナに対する願祈は力と成り、予め双子座の黄金聖衣に与えられていた血液が青い紋様を浮かび上がらせ、基本的な形状を変えずにそれでも大幅な変化を齎していた。

 

 普段は丸みを帯びている部分が尖鋭化されて、背部には左に二枚の天使の翼、右には二枚の悪魔の如く翼が双子の光と闇を表す様である。

 

双子座(ジェミニ)神聖衣(ゴッドクロス)!」

 

 仮にオブジェ形態に成れば光と闇の双子が互いに向き合う様な形となるだろう。

 

「さぁ、銀河の星々が盛大にけ散る様をその目に焼き付けるが良い……」

 

 掌を上向かせて前に腕を伸ばすと小宇宙をその手の内に圧縮凝縮とばかりに収束、更に両の腕を天高く掲げて十字に組むと掌の中でギュウギュウに凝縮をされた小宇宙に点火する。

 

 まるでトータス全体が宇宙空間にでも成ったかの如く彩りを変化させ、生命体が住めない様な星が彼方此方に浮かんでいるのはトータス人によく解らない光景に見えていた。

 

「よ、夜空ですかぁ?」

 

 シアが辺りを怖々と見回す。

 

 とはいえ、大地に根差す脚の感覚を鑑みれば明らかに宇宙空間では無い。

 

「喰らえ、銀河爆砕(ギャラクシアン・エクスプロージョン)ッッ!」

 

 ユートが両腕を振り下ろしながら叫ぶと木偶人形共の中央に威力が集約化、その威力は一気呵成に弾け飛んで轟音と共に周囲を消し去っていた。

 

「ば、莫迦な……」

 

 エヒトルジュエは何処かで自らがイレギュラーとするユートを『所詮は人間』と見下していた、それが故に一億にも上る数を用意すれば容易く折れると考えていたのに、蓋を開けてみれば開幕ぶっぱで数百万もの使徒が一瞬で消滅する事態に。

 

「続いて異界次元(アナザーディメンション)!」

 

 それは地球では魔の三角地帯だとか大西洋にて呼ばれそうな、謂わば異次元空間への入口を生み出して対象を亜空間へと追放する秘技。

 

「まるでホーリーエンジェモンみたい」

 

 ヒカリが呟いて思い出すのは嘗て八人の“選ばれし子供”だった一人、高石タケルがパートナーとしたデジモンのパタモンが超進化したホーリーエンジェモンの必殺技ヘブンズゲート。

 

 これでまた数十万もの木偶人形が亜空間ゲートから異次元へと消された。

 

 因みに、この異界次元という技は確かに敵対者を亜空間へと追放する技ではあるが、その気になれば一時的な追放で済ませて留め置く事も可能。

 

 何しろこの技を応用すればテレポーテーションの上位互換として移動技にも成る。

 

 しかも本来はアテナの加護で行き来が不可能な場所にまで……だ。

 

 そんな技によって傷一つ付けず数十万にも及ぶ木偶人形を確保、後は事態が終息したら実験体兼性欲処理人形として扱う心算でいた。

 

 僅か一分足らずで数百万と更に数十万を片付けたユートだが、未だにそんなものは誤差に過ぎないと謂わんばかりの数が蒼空を埋め尽くす。

 

[ULTIMATE EVOLUTION]

 

「続けて行くぞ、デジソウルチャージッ! オーバードライブ!」

 

 ユートは幾つかデジヴァイスを持つ。

 

 最初に手に入れたのはディーアーク、【デジモンテイマーズ】の世界にてドーベルモンを復活させた際に得た物、次がデジヴァイスicで【デジモンセイバーズ】の世界にて壊れていたディーアークの代わりに使っていた。

 

 そのデジヴァイスicが進化したのが今持っているデジヴァイスバースト、バースト進化すらをも可能とするこれはデジソウルのオーバードライブも受け止めるデジヴァイス。

 

「ガジモン、究極進化っ!」

 

 0と1のデジタルな姿が新たな情報(マトリックス)の暴力にて上書き(リライト)されていく。

 

「アヌビモン!」

 

 それはエジプトの旧き冥界の神アヌビスを模した究極体のデジモン。

 

[BURST EVOLUTION]

 

 バースト進化の文字が浮かんだ。

 

「チャージ! デジソウルバースト!」

 

 更にデジヴァイスバーストを横にして手を翳すユート、モニターには[BURST EVOLTUTION]と表示されて闇の太陽にまるで眠るが如く取り込まれてしまうアヌビモン……

 

「アヌビモンバーストモード!」

 

 それはバーストモードという【デジモンセイバーズ】に於ける究極体を越えた究極体、真の力を――限界を越えて全力を出すデジモンの寿命に余り宜しく無さそうな力である。

 

[ULTIMATE EVOLUTION]

 

 淑乃の持つデジヴァイスバーストに音声も無く

究極体進化の文字が浮かぶ。

 

「こっちも往くよ、ララモン! デジソウルチャージ! オーバードライブ!」

 

「ララモン、究極進化!」

 

 今度は植物型であるララモンが淑乃のデジソウルに反応して進化、進化時の科白はユートからの影響を強く受けていた。

 

「ロゼモン!」

 

 植物型の究極体は幾つか在るけど、その中でも薔薇を象るロゼモンへと変わったララモン。

 

[BURST EVOLUTION]

 

「チャージ! デジソウルバースト!」

 

 【デジモンセイバーズ】の世界出身なだけに、今さっきのユートと同じ手順で進化をさせた。

 

「ロゼモンバーストモード!」

 

 頭の花びらがロトスモンみたいな純白に成ったバーストモードに成る。

 

「んじゃ、私も!」

 

 ディースキャナを掲げる泉、そのモニターには[風]に似た紋様が浮かび上がっていた。

 

 泉の全身を突風が吹き荒び竜巻と成って囲い、それは風のデジコードとして変化を遂げている。

 

「エンシェントスピリット……エボリューショォォォォォンッッ!」

 

 風のヒューマンスピリットとビーストスピリットを同時に、然もダブルスピリットエボリューションとは違って一部だけでなく全てを用いた。

 

「ハ、ァァァァァァッ!」

 

 それは以前にミュウが水のスピリットで行ったのと同じ進化である。

 

「エンシェントイリスモン!」

 

 【デジモンフロンティア】世界に於ける原初の究極体、十闘士の一体で風の属性を持つデジモンとして風のスピリットを遺す。

 

 鳥人型や妖精型の祖。

 

「テイルモン!」

 

「往くよ、ヒカリ!」

 

 ヒカリのデジヴァイスのモニターに光の紋章が光り輝いて、進化の煌めきがモニターから溢れ出すとテイルモンを包んだ。

 

「テイルモン、超進化ぁぁっ!」

 

 猫獣人っぽい姿から白を基調とした衣服に身を包む大天使の姿に成った。

 

「エンジェウーモン……究極進化っ!」

 

 間髪入れず更なる進化を。

 

「オファニモン!」

 

 翠の鎧姿となった究極体オファニモン、実際にはピンクの龍であるホーリードラモンにも進化が出来るが、今回は敵がそれっぽい外見だったからか座天使型デジモンのオファニモンに。

 

「レナモン!」

 

「ルガモン!」

 

 【デジモンテイマーズ】の世界出身たる瑠姫とアリス、二人はディーアークを胸に一時的ながらデジタライズされる事でパートナーと融合をしてより高みに進化をする

 

《MATRIX EVOLUTION!》

 

《MATRIX EVOLUTION!》

 

 響き渡る電子音声。

 

「「マトリックスエボリューション!」」

 

 二人はデジタライズされた上でパートナーと重なる様に融合していく。

 

「レナモン、究極進化!」

 

「ルガモン、究極進化!」

 

 本来、この形の究極進化は人型に成るのだけどルガモンはプリミティブに獣型だ。

 

「サクヤモン!」

 

「フェンリルガモン!」

 

 人に近しいサクヤモンと獣に近しいフェンリルガモンが並び立っていた。

 

 菫色のクロスローダーを構えるネネ。

 

「メルヴァモン!」

 

「はぁぁっ!」

 

 ネネに応えるメルヴァモンは、本来であるのならばオリンポス一二神に属するミネルヴァモンが成長した姿だが、出身世界が【デジモンクロスウォーズ】だったから究極体の神人型の意味合いも薄かったと云える。

 

「スパロウモン!」

 

 スパロウモンは成長期で、ジョグレス進化なら不可能な世代が上のデジモンとの合体。

 

「応っ!」

 

 ネネからの呼び掛けに応えるのはパートナーと成っている二体、出身世界でもこの組み合わせにてデジクロスはしていた。

 

「デジクロス!」

 

「「デジクロスッッ!」

 

 ネネな言葉を鸚鵡返しに唱和してスパロウモンの躯体がパーツ別に分解が成され、メルヴァモンへと鎧う様に装着が次々と成されていく。

 

「ジェットメルヴァモン!」

 

 ジェットメルヴァモンは不敵に笑みを浮かべながら名乗った。

 

 更にユートもクロスローダーを構える。

 

「来い、ロイヤルナイツ!」

 

《REALIZE!》

 

 クロスローダー内へと待機をしていた聖騎士型デジモンが一三体。

 

「アルファモン!」

 

「マグナモン!」

 

「アルフォースブイドラモン!」

 

「デュナスモン!」

 

「ロードナイトモン!」

 

「デュークモン!」

 

「ジエスモン!」

 

「ガンクゥモン!」

 

「エグザモン!」

 

「ドゥフトモン!」

 

「クレニアムモン!」

 

「スレイプモン!」

 

「オメガモン!」

 

 ユートが“聖魔獣創造アナイアレイション・メイカー・ハイエンドシフト”により創造した聖魔獣、最初の一三体こそがロイヤルナイツだった。

 

 因みに次に創ったのは十闘士であるが、此方は飽く迄もヒューマンとビーストのスピリットを造る為のモノで、人格は設定されていない……どちらかと言えば獣に近いモノでしかないであろう。

 

「数を増やす当て……ね」

 

 本来であれば聖闘士の時は聖闘士としての力、テイマーならテイマーとしてのみの力で闘う。

 

 まぁ、或る意味で舐めプだ。

 

 態と苦労をする為の舐めプでは無く、ちょっとした拘りに過ぎないからこういう場合には解禁をしてしまうけど。

 

 カシャーンッ! ユートは双子座の神聖衣を身体からパージをすると、その手にはジクウドライバーとライドウォッチが握られている。

 

 勿論、使える者は各々が握っていた。

 

『『『『『変身っ!』』』』

 

『『『ちょうじゅうこう!』』』

 

 【閃姫】と坂上龍太郎による仮面ライダー達、そして【解放者】によるビーヒァイター達。

 

 因みに、坂上龍太郎は最終決戦という事もあって仮面ライダークローズマグマに変身をした。

 

《ZIKUーDRIVER!》

 

 ユートもジクウドライバーを装着。

 

《SHINーO!》

 

 それはシンオウライドウォッチ、ジオウライドウォッチの亜種だ。

 

 ウェイクベゼルを九〇度回転、ライドオンスターターを押したら電子音声が鳴り響く。

 

 左手にはグレイテストシンオウライドウォッチが有り、グレイテストスターターを押してやると矢張り電子音声が響いた。

 

《GREATEST SHINーO!》

 

 ガシャリとグローリスモールが展開。

 

 右側にシンオウライドウォッチ、左側にグレイテストシンオウライドウォッチを装填してやるとベルトからアークルとオルタリングの起動音が鳴り響く。

 

《ADVENT COMPLETE TURN UP》

 

 チリーンと音叉の音。

 

《CHANGE BEETLE SWORD FORM  WKAE UP KAMEN RIDE CYCLONE/JOKER TAKA TORA BATTA THREE TWO ONE SYABADUBI TOUCH HENSHIN SOIYA DRIVE KAIGAN LEVEL UP BEST MATCH!》

 

 各仮面ライダーの代表的な音。

 

「変身っ!」

 

 ジクウドライバーのライドオンリューザーを押して、ジクウサーキュラーを回転させてやる事で両端のスロットへとセットされたライドウォッチのデータを同心円状に展開ロード、ジクウマトリクスへと伝達をさせる。

 

《RIDER TIME!》

 

《GREATEST TIME!》

 

 装填をされた両ライドウォッチが鳴り響いて、以前と同じく何故だか唄い出すベルト。

 

《KUUGA AGITΩ RYUKI FAIZ BLADE♪》

 

《HIBIKI KABUTO DENーO KIVA DECADE♪》

 

《DOUBLE OOO FOURZE♪》

 

《WIZARD GAIM DRIVE♪》

 

《GHOST EXーAID BUILD♪》

 

《IWAE!》

 

 そしてほむほむの声で祝われた。

 

《KAMEN RIDER GREATEST SHINーO!》

 

 仮面ライダーグランドジオウの色違いな姿で、2Pカラーと呼ぶに相応しい仮面ライダーグレイテストシンオウ、ライダーレリーフが銀色で周囲が金色にアンダースーツは白色をしてクラッシャーなどが黒い、グランドジオウとは正しく配色が逆転をしているのである。

 

 仮面ライダーグレイテストシンオウに変身をしたユートは、一気に全てのライダーレリーフへと年号順にタッチをしていった。

 

《KUUGA!》《AGITΩ!》《RYUKI!》《FAIZ!》《BLADE!》《HIBIKI!》《KABUTO!》《DENーO!》《KIVA!》《DECADE!》《DOUBLE!》《OOO!》《FOURZE!》《WIZARD!》《GAIM!》《DRIVE!》《GHOST!》《EXーAID!》《BUILD!》

 

 必殺技を放つ仮面ライダーを一時的に召喚するなんてのも可能だが、普通に召喚をして共に闘うという事も出来る辺りやれる事は多い。

 

 オリジナルはどうかユートもよく知らないが、此方で喚び出すのは飽く迄もAIと変わらないから思考は同じだけど、矢っ張りちょっと違うのか若干ながら弱いかも知れなかった。

 

 とはいえ、グランドジオウと同じ様に初期から強化や最終形態と思い通りに召喚が出来るので、今回は全員を最終形態として召喚をしてやる。

 

 赤色の年号から顕れたるは各仮面ライダー達の最強フォーム。

 

 尚、ハジメの仮面ライダーアギトも居る訳だからWアギトシャイニングフォームと成っていた。

 

「まだまだ!」

 

 ユートは仮面ライダー達を喚び出した後にまだ召喚の手を止めていない。

 

「クレストチェンジ!」

 

 正確にはレリーフだが、ユートが叫ぶと仮面ライダーのレリーフが違うものへと変化していた。

 

 そのレリーフは三人が最低限の人数で、何だかおかしな人数が描かれたものも在る。

 

《HIMITSU SENTAI ⅤRANGER!》

 

 タッチし電子音声が鳴り響いて、年号が顕れると其処から五人のカラフルなスーツ姿が。

 

「アカレンジャー!」

 

「アオレンジャー!」

 

「キレンジャー!」

 

「モモレンジャー」

 

「ミドレンジャー!」

 

 五人は名乗り上げつつポージング。

 

「五人揃って……」

 

 アカレンジャーの科白と共に……

 

『ゴレンジャー!』

 

 戦隊の名前を名乗った。

 

 全員、エヒトルジュエさえ茫然自失となりながら見守っている中で再びレリーフにタッチ。

 

《J.A.K.Q DENGEKI TAI!》

 

 矢張り五人のカラフルスーツ。

 

「スペードA!」

 

「ダイヤJ!」

 

「ハートQ!」

 

「クローバーK!」

 

「ビィィィッグ1!」

 

 何故か派手に飛び上がって名乗るのは中途から出た白い行動隊長。

 

『我らジャッカー電撃隊!』

 

 ポージングしながら名乗るのはスーパー戦隊の華とでも呼べる儀式。

 

《BATTLE FEVER J!》

 

 それは五ヶ国の名前を持った戦隊。

 

「バトルジャパン!」

 

「バトルフランス!」

 

「バトルコサック!」

 

「バトルケニア!」

 

「ミスアメリカ!」

 

 ダンスを取り入れた名乗りや戦闘。

 

『バトルフィーバー!』

 

「次!」

 

《DENSHI SENTAI DENJIMAN!》

 

 新たなレリーフにタッチをすると或る意味では完成形に達した最初の戦隊が顕れる。

 

「デンジレッド!」

 

「デンジブルー!」

 

「デンジイエロー!」

 

「デンジグリーン!」

 

「デンジピンク!」

 

 名乗った後は……

 

「見よ! 電子戦隊……」

 

『デンジマン!』

 

 矢張り集まって戦隊名を名乗る。

 

《TAIYO SENTAI SUN VULCAN!》

 

「「「とあぁぁぁっ!」」」

 

 今度は赤と青と黄のスーツを纏う三人が飛び上がって一回転。

 

「バルイーグル!」

 

「バルシャーク!」

 

「バルパンサー!」

 

 バルシャークは名乗りのポーズがちょっとばかり大変そうなイメージがあるが、慣れているかの様にバッと片足でポーズを決めていた。

 

「輝け! 太陽戦隊……」

 

『サンバルカン!』

 

 始終、三人だけの戦隊である。

 

《DAI SENTAI GOGGLE Ⅴ!》

 

「「「「「とおおおっ!」」」」」

 

 五人がクルクル回って着地。

 

「ゴーグルレッド!」

 

「ゴーグルブラック!」

 

「ゴーグルブルー!」

 

「ゴーグルイエロー!」

 

「ゴーグルピンク!」

 

 額の宝石とレリーフは既には喪われ滅び去った文明を象徴としている。

 

「戦え! 大……戦隊!」

 

『ゴーグルファイブ!』

 

 ゴーグルレッドに続いて五人で唱和。

 

「ねぇ、これを後何回やるの?」

 

「僕が知るのは【爆上(ばくあげ)戦隊ブンブンジャー】までで四八作。だから残りは四二戦隊だな」

 

「ええ……」

 

 雫はげんなりしてしまう。

 

《KAGAKU SENTAI DAINAMAN!》

 

「とおおおっ!」

 

 五人が空中で前転をしたらドカァァンッ! と行き成り爆発して着地。

 

「ダイナレッド!」

 

「ダイナブラック!」

 

「ダイナブルー!」

 

「ダイナイエロー!」

 

「ダイナピンク!」

 

 名乗る毎に赤黒青黄桃の爆発。

 

「爆発! 科学戦隊……」

 

『ダイナマン!』

 

 そしてまた背後で何故か彼らの色でとりどりな爆発が起きた。

 

《CHO DENSHI VAIOMAN!》

 

「レッドワン!」

 

「グリーンツー!」

 

「ブルースリー!」

 

「イエローフォー!」

 

「ピンクファイブ!」

 

 尚、イエローフォーの人格AIは二代目である矢吹ジュンのものと成っている。

 

「ワン!」

 

「ツー!」

 

「スリー!」

 

「フォー!」

 

「ファイブ!」

 

 改めて数字で叫ぶ五人。

 

「超電子!」

 

『バイオマン!』

 

 また戦隊レリーフをタッチ。

 

《DENGEKI SENTAI CHANGEMAN!》

 

「チェンジドラゴン!」

 

「チェンジグリフォン!」

 

「チェンジペガサス!」

 

「チェンジマーメイド!」

 

「チェンジフェニックス!」

 

 幻獣モチーフの戦隊、邪悪のゴズマと闘い続けて勝利をした。

 

「電撃戦隊!」

 

『チェンジマン!」

 

 次のレリーフにタッチする。

 

《CYO SHINSEI FLASHMAN!》

 

「レッドフラッシュ!」

 

「グリーンフラッシュ!」

 

「ブルーフラッシュ!」

 

「イエローフラッシュ!」

 

「ピンクフラッシュ!」

 

 元々は地球から攫われた子供達が救い出され、戦士となるべく修練の毎日を送っていた。

 

「超新星!」

 

『フラッシュマン!』

 

 随時、全四八の戦隊が名乗り上げる。

 

「爆上戦隊!」

 

『ブンブンジャー!』

 

 斯くして漸く全戦隊が名乗り終わった。

 

 変身と名乗りでの攻撃は御法度とはいえ割かし長い名乗りを延々と見せられ、エヒトルジュエもげんなりとした表情になってしまっている。

 

「じゃ、次だな」

 

『『『『『待てぇぇぇっ!』』』』』

 

 既にデジモンの進化を終えた瑠姫達、雫や鈴達の【閃姫】、更にはエヒトルジュエ=天之河光輝までもが同時に叫んでいた。

 

「何だよ?」

 

「次って何? もう仮面ライダーもスーパー戦隊も喚んだじゃないよ!? まさか昭和ライダーやメタルヒーローまで喚ぶ気なの?」

 

 代表して雫が訊ねてくる。

 

「ニチアサは仮面ライダーとスーパー戦隊だけじゃないだろうに」

 

「ニチアサ……仮面ライダーとスーパー戦隊? まさかプリキュアも!」

 

 ユートがニヤリと口角を吊り上げた。

 

「クレストチェンジ!」

 

 戦隊レリーフが新たにプリキュアレリーフに変わったのを見て、雫は絶望がゴールだと謂わんばかりにうな垂れてしまう。

 

《FUTARI HA PRECURA MAX HEART!》

 

 初代プリキュア、当然ながら無印の方では無くて続編から。

 

 2005という赤い数字は【ふたりはプリキュア Max Heart】が放映開始をした年を表す。

 

「あれ? 変身してないわね」

 

「仮面ライダーやスーパー戦隊は飽く迄も思考的にはオリジナルを基にしたAI。だけど彼女達の場合はアストラルコピーに実体を与えた存在だ。故に彼らと違って召喚解除で消えたりはしない、だから彼女達を喚んだからには衣食住を確り与えるのが契約なんだよ」

 

「誰と?」

 

「プリキュアオールスターに決まってる」

 

 喚べるプリキュアのオリジンと同じだけ契約を交わしている。

 

「うん! ほのか、ひかり、こうして喚ばれたからには契約を果たすよ」

 

「ええ、なぎさ」

 

「判っています!」

 

「「デュアルオーロラウェイブ!」」

 

「ルミナス! シャイニングストリィィィィィィームッ!」

 

 なぎさとほのかと互いに呼ぶ橙色の短髪少女と長い黒髪少女は、ハートフルコミューンにハート型のカードを通して手を握り合い叫ぶ。

 

 尚、妖精であるミップルとメップルの顔が付いているけどこれは単なる飾りに過ぎない。

 

 同じく金髪な美少女がタッチコミューンというアイテムを開き、名前の通り手で妖精ポルンの顔をタッチしてから叫んだ。

 

 因みに、ハートフルコミューンでのミップル&メップルと同じくポルンは飾りである。

 

 どちらもユートが彼女達の専用に用意をしていた変身アイテムであり、妖精達まで用意はしていなかったからこんな形に成っていた。

 

 三人の変身が完了。

 

「光の使者キュアブラック!」

 

「光の使者キュアホワイト!」

 

「「二人はプリキュア!」」

 

「闇の力の下僕達よ!」

 

 キュアホワイトが叫び……

 

「とっととお家に帰りなさい!」

 

 キュアブラックが締める。

 

「輝く生命(いのち)、シャイニールミナス! 光の心と光の意志! 全てを一つにする為に!」

 

 【ふたりはプリキュア MaxHeart】の主人公であるキュアブラックこと美墨なぎさ、キュアホワイトこと雪城ほのか、そして新戦力として現れたシャイニールミナスこと九条ひかり。

 

 そのアストラルコピー体から生み出されたのがこの三人、思考回路は当然ながらオリジンである本当のなぎさとほのかとひかりのものであるし、プリキュアへの変身はユートが“神秘の瞳”によって確りと視た上で造り上げた。

 

 他のプリキュアにも云える事だけれど、本人達も自分がアストラルコピーに過ぎないのは理解をしており、記憶上の知識として存在しているであろうオリジンのエピソード記憶は形骸化しているモノだと解っている。

 

「まぁ、どっちかって云うと真属性が闇な僕が喚んだ君らの方が闇の力の下僕で、一応であれ神を僭称する連中の方が光なんだけどな」

 

「うっさい! まったく、名乗りに茶々を入れるとかぶっちゃけ有り得ないっしょ!」

 

「ブラック、落ち着いて!」

 

 叫ぶキュアブラックを苦笑いを浮かべながらも宥めるキュアホワイト、シャイニールミナスも同じ様に苦笑いを浮かべていた。

 

 こうして喚び出されたプリキュア達。

 

「これで手数は大分増えた訳だな。それじゃ締めにいく。さぁ、エヒトル之河ジュエ! 金色の御許へ還るが良い!」

 

 そう、ユートとその仲間達による最終で最後の超血戦は始まったばかりであったという!

 

 

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