近未来アウトサイダー妄想小説 (黒村白夜)
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エピローグ
お久しぶりです。黒村です。
近未来アウトサイダーのイベントも近くなってきたので盛り上げる(先に出しておかないと辛いものがあるという理由もあり)ために、こんな妄想小説を書きました。
先に申し上げておきますと、今回の作品はあくまで黒村の妄想であり、価値観を押し付けるようなものではありません。
人には人の近未来アウトサイダーについての妄想があり、黒村自身近未来アウトサイダーが世界観的に響いてしまいこんな妄想小説を書き上げてしまったほどです(就活中にも関わらず!)
なので、「へ~この人こんな妄想していたのか」程度の軽い気持ちで見てくだされば嬉しいです。(内容は軽くはありませんが)
また今回の話は、近未来アウトサイダーの世界観についての話であり、読むのが面倒くさいという方は、あとがきにて三行でまとめましたので、それを読んでくださればと思います。
では、少しの間、お付き合い下さいませ。
(この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体など、現実のものとは関係ありません)
2XXX年、世界の各国は第三次世界大戦を引き起こし、人類滅亡への着実な第一歩へと踏み出した。
戦争の原因は多く存在した。
人口の爆発的な増加、それに伴って引き起こる資源不足や食糧不足、同時に起こる国内での反乱や紛争などなどである。
それでも、本来ならば他の国々と協力して複雑化した問題を解決できたはずだった。
事実、大戦が引き起こるまではそのようにしていた。過去に大規模な戦争が起きたことで学んだ反省を胸に、理性を以て世界平和の道から踏み外してしまわないように、各国が協力し合っていた。
しかし、たった一つ。
たった一つの国が暗黙の了解のように各国に行き渡っていた“掟”を破壊した。
最初は、自国の利益を得るために、ありとあらゆる物に対して大幅な関税をかけた。
次に、国民の職を奪う他の国からの移住者に対して国外追放を命令した。時には軍隊を仕掛けた。
次に、無駄な出費であるとして海外の紛争地域に派遣していた軍を撤退させた。
“我々は自国の利益を優先しているだけだ。それのどこが悪い”
その国の目的は、どこまでいっても“自国の利益“だった。
他の国への協力などへったくれもない、只々自国の利益のみを優先するのみ。他の国など知ったことかと言わんばかりの強欲。
その愚直なまでの強欲さは、次第に他の国に負担としてのしかかり、ウイルスのように徐々に、着実に蝕んでいった。
そんな日々が続いたある日。別のある国が独立を始めた。自国の利益を優先するために。
その次にはまた別の国が、その次にはまた別の国が、という風に世界の各国が次々と独立を始めていく。
平和のために纏まっていたはずの国々は、いつしか各々が自国の利益を優先するようになった。
各国が自国の利益を得るために行動し始めた結果、起きたのは国同士の争いだった。
当然だった。全ては自国の利益の為に、貴重な資源を自分のものとする為に、他の国など邪魔でしかないのだから。
互いが過去の平和への協定など忘れてしまって、奪い合い、占領し合い、争い合い、殺し合い続ける。どちらかが先に倒れるまで、延々と。
血で血を洗う醜い争いが世界中で巻き起こり、行き着いた先は国そのものの消滅だった。
自国の利益を得る為に。その為だけに戦闘機を送り、ミサイルを投下し、軍隊を派遣し、そして強大な殲滅力を誇る兵器までも使用してしまう。自国の利益を脅かす外敵を滅ぼすために使用した武器は、自らの国すらも滅ぼしてしまう諸刃の剣であった。
通常ならば世界の抑止力として使用されずに終わるべきもの。
それを放ってしまったがゆえに、人は誤った道からさらに誤ってしまった。もう戻れぬ一方通行の道へと。
そうしてできたのが、全てが砂にまみれた世界。
緑あふれた自然など何処を探しても存在しない、死んだ地球。
人のエゴが究極まで突き進んだ、なれの果ての終着点。
だが、そんな世界になろうとも、人は生きた。国家が死んで、土地が死んで、自然が死んで、星が死んでも、人は生き抜いた。
これは、そんな地獄を生き抜いた人間たちの、更なる争いの物語。
三行で分かる世界観
・国同士が争いを始めた!!
・人類絶滅!?
・ちょっと生きていた!!でもまだ争うよ!!
以上。
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第一話
ここから本編です。
少しの間、お付き合い下さいませ。
『そこ』はかつて、大都会と呼ばれる某国の主要都市だったらしい。
二日前までお世話になった世話好きの老人曰く、「ビルという高い建造物が何十棟も立ち並び、自動車が一日に何百台と駆け抜ける、国家にとって重要な場所の一つ」であったとか。また、大勢の人が行き交い、多くの店が並び、夜でも電気が辺りを照らし続ける、騒がしい場所でもあったらしい。さらに、そのような場所が国家ごとに一つではなく幾つも存在したという。
どこか嬉しそうに話す老人の実体験を聞いたとき、冷え切った気持ちとは裏腹に、心のどこかで「今もあるのだろうか」と期待していた自分がいた。
長い間旅をし続けてきたからこそ分かる、「ありえない」事実を、まだ受け入れていなかった自分がいたのか、どうかまだこの世界から希望は失われていないと、満ちているのは絶望だけではないと、そういう風に思い込んでいた自分がいたのか、はたまた、幼いころに見た古き書物に描かれた『エデン』なる世界が存在すると空想していたのだろうか。なんにせよ、少しだけ心浮いていたのは疑いもない事実だった。
実際に『そこ』へ向かう途中の足取りも今までとは少し違い、軽やかなものだった。
自身の装備品は、全身を特殊ボディーアーマとガスマスクで装着し、サバイバルナイフ、クライミングロープ数メートル分、簡易調理用具セット、折り畳み式のテント、武装の為の小銃や拳銃と弾薬セット、数日分の保存食などなどだ。それらを詰めたリュックサックを背負うので、総重量はかなりのものとなるのだが、『そこ』へ向かっているときは、ほんのわずかな誤差のようなものだが、背中の荷物が軽く感じた。
向かっている二日間には、様々な困難があった。
強烈な砂嵐に見舞われ、地盤沈下による流砂に巻き込まれかけ、挙句の果てに複数人の盗賊にも遭遇してしまった。
砂嵐には足を止められ、やり過ごすのに十時間も待たされた。
流砂は咄嗟に投げたロープが功をなし、近くの岩に引っかかったおかげで命拾いした。
盗賊たちは何とか立ち回り、気絶させることができた。食料は少しだけ貰っておいた。
短い期間ながらも色々な面倒ごとがあったが、『そこ』へ行くという目的を確認する度に、憂鬱な気分は少し軽減された気がした。
そして二日後『そこ』に辿り着き、当然のごとく、願いにも似た淡い期待は裏切られた。
確かに高い建物は何十棟もあった。だが、その全てはどこかが崩れ落ちているか、または風化しているかどちらかで、一つとしてまともに機能している建造物は存在しなかった。
確かに自動車はあった。ボロボロになってもう動きそうにない、ただの鉄の塊となったガラクタが、どこもかしこに転がっていた。
看板が落ちていた。『空猫珈琲店へようこそ』と書かれた看板は無残にも倒され、穏やかな空気が流れていたと思われる店内は、薄暗く埃っぽく、なにより冷たかった。
人の痕跡があった。すっかり粉々になってしまって、優しく触れてもさっと崩れる骨の数々とボロボロになった服の切れ端が、僅かながら見つかった。もうこの都市群には誰もいなかった。
前文明のラジオ受信機が見つかった。埃まみれ砂まみれで、いくら叩いても使えそうになかった。そもそも、もうこの世界にはラジオ局がないのだから、存在の意味がなかった。
『海理音高校』という高校を見つけた。窓は当然割れており、バレー部が使っていたと思われるネットやボールは、無慈悲に破れ、破裂していた。
劇場があった。砂まみれとなった舞台では、もう誰も演じることはなく、スポットライトが当たることもなく、ただただ劇場の空虚感を見せつけられるだけだった。
無音だった。聞こえるのは風の音くらいで、まるでこの世界にたったひとり残されたような寂しさを覚えるほどの静寂だった。
かつてあったであろう都市は、老人が思い描いた昔の風景は、もうここにはない。
高さを競うように建てられた建造物も、その間を縫うように走る自動車も、生き急ぐように歩く人々も、都市の一部となって賑わいを見せる店も、昼間のように周囲を明るくする電気も、何もかも。
都市文明を象徴するありとあらゆる存在は、ひとつ残らず幻想となった。
無情にも現実に広がるのは、わずかに残った前文明のなれの果てと砂のみ。
そんな歴史の残滓がちりばめられた都市群を一望して、ため息をつく。
期待した自分が馬鹿だった。ただそれだけだと、落ち込んだ気分を取り直して、都市群だった砂まみれの場所を再度探索する。
「ここにはいるだろうか⋯⋯、彼女は」
そういって、少女──ダスクはゆっくり歩み始める。
死んだ都市群に、希望のない世界に、潰されないように。
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第二話
第二話です。
コロコロ視点が移動しますがご容赦ください。
当の昔に廃墟となった家の中をかき分け、玄関だった場所へ走る。
だが目の前には視界を覆うほどの大きな瓦礫が立ちふさがっていた。おそらくは近くのアパートか何かの建物、その一部が崩落して落ちてきたのだろう。抜けれそうな隙間などはどこにもなかった。
通常ならば来た道を引き返すのが当然だ。人一人には瓦礫を持ち上げる程の膂力はないのだから。
だが今走る少女にはそんな余裕も時間もない。後ろに下がるという選択肢はないに等しいし、そもそも下がるということは捕まると同義であるからだ。
(ならば道は一つ。目の前の瓦礫を斬り抜けるしかない)
瞬時に自分が生きる活路を判断した少女は、腰に携えた刀を抜き、迷いなく瓦礫へと切りつける。
鉄を編んだような不思議な刀は目の前の障害物を難なく切り崩し、同時に少女は前方に転がることでその場所を抜けきることができた。
だが立ち止まっている暇はないと、すぐに立ち上がり、玄関だった場所の前から走り去る。
何秒かして、石くずの山となった所から出てきたのは三人。
三人ともそれぞれ剣や小銃などの武器を所持しているが、全員共通して赤黒いボロボロのマントで全身を覆うように羽織っている。
「ったく!! 逃げ足のはえーやつだな!! おい挟み撃ちにするぞ!! おまえらはそっち、俺はこっちからだ!!」
「了解」
「わかりやしたっ!」
リーダー格のようである男が声を荒げて他の二人へと指示をだす。部下である二人も即座に対応し別経路へと走っていく。
それを遠くからながらも僅かに聞こえた、逃げる少女はやってられないと言わんばかりにポツリと独り言をもらす。
「三人相手にするのは大変だな⋯⋯。さて、どうしようか⋯⋯」
とりあえずは道の多い都市群に向かうべきか、と判断して進路を決めていくのだった。
──────────────────────────────
ダスクは、廃墟となり、機能しなくなった都市群を改めて見渡す。
壊れた建物は数え切れなく、そのままの状態で残っている建物を探す方が難しい。また、運よく残っていた建物も触れてしまえば、たちまち崩れ落ちていきそうなほどに脆くなっていた。
近くにあった、恐らくは囲いの一部であっただろう木材の残骸を手に取る。少し握ると、残骸は乾いた音を立てて崩れていった。
枯れてしまった街路樹に触れてみると、触った部分からボロボロと木片が散った。少し強く押してみると、根元からあっけなく倒れてしまった。
これらは全て前時代の遺物であり、人間の負の遺産でもある。
世界中で巻き起こった第三次世界大戦。
人類は九割以上が死滅し、動植物はほとんどが絶滅し、海や大気は汚染され、近代文明は衰退する暇もなくあっけなく終わった。
人類が築き上げてきた文明の星は三年ほどで、砂の星へと様変わりした。
とはいえ、全てが砂となったわけではない。動きはしないが機械の一部は残り、倒れかけではあるが建物も一部は残っていたりする。そこを拠点として過ごす人達も数多くいる。
だが、今回訪れた都市群においては今までの経験からは外れているようで、何処を探しても何度探しても人らしき姿は見当たらなかった。
ダスクは不思議に思ったが、まあそういうこともあるだろうとあっさり片付け、ここに目的の彼女はいないと判断し、早々に身支度を済ませて立ち去ろうとした。
しかし⋯⋯⋯
―ドオオオオオオオオン!!!
「!」
突如聞こえた建造物の崩落音。それだけならば壊れかけの建物が自身の重さ耐えきれずに自然と崩れただけ、と安易に片付けただろう。実際、そのようなことは今まで通ってきた都市群で何回かあった。
しかし、激しく崩落する音の中で、わずかに聞こえる破裂音のようなものがあった。この音は奇しくも最近聞いた覚えがあったために、すぐに分かったのだ。
これは銃声であると。
「誰かいる⋯⋯?」
もしかしたら彼女かもしれない。そう思うとすぐさま体は動いた。
もしかしたら戦闘に巻き込まれているかもしれない。ならばなおのこと向かわずにはいれなかった。
戦闘では邪魔になるリュックサックをその場に投げ捨て、自身が持てうる限りの装備を重くならない程度に準備し、いまだ銃声が聞こえる方へ全速力で走る。
「彼女⋯⋯だといいな」
今まで旅をしてきた事が報われることを祈りながら、ダスクは音のする方へと向かっていった。
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第三話
都市群に入ってまず思ったのが、「失敗した」という反省だった。
都市群は確かに複雑な脇道が多数存在し、様々な路を適度に切り替えながら走り抜ければ敵も見失う可能性も高まるだろう。
だがそれは以前の、崩壊する前の都市群ならば、という条件が前提だ。今とでは状況が違う。
現在いるこの都市群は何日か前にとある帝国の侵略を受け、既に廃墟となった都市群である。所々に既に崩壊した建物や真新しい破壊の跡があるのがその証拠だ。そのため、この都市群は特に崩壊が酷い。
そのような場所において、建物の脆い部分にグレネードランチャーや手榴弾の爆発を当てたり、相手の邪魔をするために柱を切りつけて障害物にするなどしてしまえばどうなるか。答えは簡単だ。容易く倒壊するに決まっている。
倒壊する建物の振動や激突を皮切りに、周りの建物も崩壊を始めていく。おかげで少女は埃まみれになりながら、降ってくる瓦礫を避けたり、切ったりなどして、死のスレスレをなぞるような道を抜けねばならなかった。
「あぶな!!今真横にかすめた?!」
また、今の都市群において人は存在しない。戦争前であれば、人がごった返して様々な喧騒があちこちから降ってくるであろう都市も、今では本当に誰もいない、無音の廃都市だ。
本来の都会の姿であるならば、大勢の人や喧騒に紛れて逃げることも可能であっただろう。しかし、それは現在では通用しない。それどころか声を上げただけで、微弱な電磁波をレーダーが感知するように居場所がばれてしまう。
「――っち、こっちか!!めんどくせーやつだ!!さっさと俺らに捕まれ!!」
「誰が捕まるものかっ!!というか三対一とか卑怯だと思うのだけど?!」
「それだけ頭が見込んでいるってことだ!!それに今の世界で卑怯なんていってられっか!!」
追手に居場所がばれてしまい、すぐさまその場から走り去る。
すると先ほどいた場所付近に手榴弾が投げ込まれ、爆発する。居座っていたら間違いなく爆破に巻き込まれ、良くて重傷、悪くて死亡していただろう。捕まえると相手は言っていたが、その実殺す気マンマンである。頭の指示はどこへいったのか、と少女は疑問に思ったが、今そんなことを考えている余裕はなかった。
「捕縛対象、発見」
「いやしたよ、リーダー!!」
「っ!!まだ追ってくるの?!」
爆音を聞きつけて追手の二人が左右から迫ってきた。
後方からはリーダー格の男、左右からはその部下が向かってくる。
故に少女は目の前の瓦礫の山を駆け上がるしかなかった。
踏み外せば捕まるのみ。かといってゆっくり足場を見ながら登れば、それはそれで捕まってしまう。先ほどの様子からしたら手榴弾を投げ込まれる可能性だってある。うかうかしていると死ぬかもしれない。
速く、しかし正確に瓦礫の山を駆け上がっていく。途中、道を塞ぐ大きな瓦礫を切って下から迫ってくる追手の三人への邪魔をする。これで少しでも時間を稼ぎ、あわよくば当たって戦闘不能にするのが狙いだ。
「くそっ!!あの女こっちを殺す気か!?」
「いやリーダーも大概っすよ⋯⋯、手榴弾バンバン投げて⋯⋯」
「とにかく生きて頭の前まで連れて行けばいいんだよ!!さっきと同じように回り込むぞ!!」
「了解」
「わかりやしたよ⋯⋯⋯。はあ、今回の任務が終わったら一杯やりたいっすよ⋯⋯⋯」
「ぐだぐだ言う暇あったらいくぞ!!」
そう言って三人はまた二人と一人ずつに分かれて行動する。
再び散開する三人組の声を、瓦礫の山の裏側からしっかりと聞いていた少女は、ため息をもらす。
「はあ⋯⋯脱落者なしか⋯⋯。まいったなあ⋯⋯⋯⋯!あいつらしつこすぎる⋯⋯!」
叫ぶと追っ手達に聞こえてしまうので、彼らが向かった方向とは反対の道へと移動しながらも静かに不満をもらす少女。
状況はかなり悪かった。
三対一という数的に不利な状況。
こちらは近接武器しかないのに対し、相手は遠距離武器を使用する。
常に味方同士の位置を把握しながら追い込んでくる、連携の取れた追っ手達。
唯一活路があるとすれば、一人で行動するリーダー格の男を仕留めることだが、その彼は手榴弾などの爆発系の武器を多用することで、近接戦に持ち込ませないようにするため、かなり厄介である。
「どうすればいい⋯⋯?基地のところまで逃げる⋯⋯?ああ、でもあいつらを巻き込めないし、そもそもここからは視界が開けた場所を通る必要があるから、向かう途中で背後からやられる可能性が高い⋯⋯」
いくら考えても最良と呼べるような考えは浮かばなかった。状況は詰みに近いものだった。
だが、それでも少女には諦めるという選択肢はない。
基地で待つ仲間の為にも、そしてそこで今も自分を心配して帰りを待っている彼女の為にも、ここで死ぬわけにはいかなかった。
「何とかするしかない⋯⋯⋯か。いっそのこと覚悟を決めていこうかな!!」
弱気になっていた気持ちに喝を入れ、踏み出す足に力を込め、追手達がいるであろう方向へ向かおうとした瞬間だった。
「―――あの⋯⋯⋯―――いいですか?」
「!!!」
背後から声がした。それに口で反応する前にまず体が動いた。
前方に傾いた身体を横へと転がし、素早く近くの建物の蔭へと隠れる。そして一連の動作とともに刀を抜き、いつでも戦闘ができる状態へと切り替えた。
「――誰⋯⋯⋯⋯?」
声をかけた時点で例の三人組の追っ手でないことは明白だ。ならば誰だと考える。
盗人でないことは確かだろう。後ろから不意を突いて襲えばそれだけ成功率は高まる。そもそも声をかけることが今の世界においてまずおかしい。
ならば、と考える少女だが、その思考よりも先に声をかけてきた、恐らくは女性と思われる人物が発言した。
「あの⋯⋯、私に敵対する意思はありません。少し聞きたいことがあってですね⋯⋯」
「聞きたいこと⋯⋯?今ちょっと立て込んでいるから無理なんだけど⋯⋯」
「立て込んでいる?それは―――」
「見つけたぞ!!くらいやがれ!!」
「やばっ!!ほら逃げるよ!!」
「え、ちょ――」
少女は物陰から飛び出し、声をかけてきた女性の手を引きながら走る。相手は戸惑いながらもついてきたが、それではやや遅いのでもう少しスピードを上げる。そして数秒後、
――ドオオオン!!!
「ちっ!!また逃げられたか!!まあいい。じっくり追い詰めて捕えてやるよ!!」
引っ張られた女性は爆破された後ろを振り返り、意外にも冷静な声で納得する。
「⋯⋯なるほど、先ほどから聞こえる爆発音は彼の仕業でしたか⋯⋯。あれが理由ですか?」
「そういうこと!!それにあいつだけじゃなくて他にも——」
「こっちにいますぜ!!リーダー!!」
「発見」
「「!!」」
前方に銃を構えた二人組。
このままでは蜂の巣にされてしまうと少女達は瞬時に理解し、慌てて近くにあった建物の内部へと飛び込む。
その瞬間、少女達がいた地点に数多の銃弾が撃ち込まれ、砂ぼこりが立つ。間違いなくその場で立ち竦んでいれば、一瞬でも判断が遅れていれば、体中穴だらけになっていただろう。
「このままだと追撃を受ける!!上へと上がるよ!!」
「賛成です。行きましょう!」
追われ続ける少女とそれに巻き込まれた女性。二人はお互いが誰かも知らないまま、行動を共にするのだった。
―――――――――――――――――
「逃げられやしたね」
「不覚」
「いやそうでもないぞ」
「リーダー!!それは一体⋯⋯?」
二人に合流したリーダー格の男が、悪いことを思いついたかのような笑みを浮かべ、少女たちが逃げた建物を指さす。
「ほら見てみろよ、あいつが逃げ込んだこの建物。出入口はここ一つしかない。外へ飛び降りようにも周りには近い建物がほとんどない。要するにあいつはまさしく袋に飛び込んだ鼠ってとこだな。後はこっちが噛みつかれないようにゆっくり追い詰めればいい」
「なるほど、そうっすね。あ、そういやあの女以外にも人がいやしたけど、そいつはどうすればいいっすか?」
「どうもこうも、俺たちの目標はあの女―バスターブレイドの確保だ。他は気にするな。見つけ次第撃ち殺しても構わんだろ」
「了解」
「わかりやした」
「じゃあいくぞ!」
そうして三人組は建物へと入っていく。頭から下された命令を忠実に遂行するために、彼らは慎重に歩みを進めていくのだった。
「あ、リーダー。建物内で爆発系の武器は禁止っすよ。俺たちまで巻き込まれたら本末転倒っすから」
「それくらいわかってる!!ほらいくぞ!!」
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第四話
第四話です。
事前に活動報告のところでも言いましたが、活動報告にてこれからの近未来アウトサイダー妄想小説のざっとした流れを説明する予定です。
流れはこの第五話が終わってからの流れとしています。
「ふう⋯⋯、少しの間は落ち着けるかな⋯⋯。ごめんね、巻き込んじゃって⋯⋯」
部屋に誰もいないのを確認しながら、彼女―――バスターブレイドは巻き込んでしまった女性に謝罪する。
咄嗟とはいえ、あのままでは危なかったとはいえ、こちら側の事情に巻き込んだのは自分だ。口振りでは軽く言っているが、内心では深く反省していた。
その謝罪に対して女性は首を振り、返答する。
「いえ⋯⋯むしろあの場所にいたままだったら、爆発に巻き込まれていましたから。助かりました」
「⋯⋯! ⋯⋯そ、そう。ありがと。そういってくれて嬉しいよ」
返ってきたのは巻き込んだことへの罵倒ではなく、助けたことへの感謝だった。予想外の返答に驚いたが、なんとか顔に出さずに返事をする。
「⋯⋯で、あなたはどうするの?」
「どうする、とは?」
「さっきの連中は私を追っている。つまり、あなたは連中に見つかっても大丈夫ってこと。というか私といたらあなたの状況が悪くなる。逃げるなら今のうちだよ」
つまるところ、追われているのは自分だけなのだ。
一緒に付いてきてしまった女性と自分は何ら関係のない、ただの他人同士で、完全な被害者。
一緒にいればいるほど追っ手からはこちら側の味方だと思われ、女性の立場が悪化するのは自明の理である。
だからこそ今ここで自分とは別れるべきだと、バスターブレイドはそう告げた。
だが、
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯そうでしょうか? あの追っ手たちはかなり遠慮がなかったように見えました。仮に私があの人達の目の前にでても躊躇いなく撃ち殺すでしょう」
「⋯⋯⋯⋯そう、だね。あいつら、人相手に手榴弾平気で使うやつらだし⋯⋯。はあ⋯⋯⋯⋯」
結局のところ、巻き込んでしまったところから間違っていたのだろう。バスターブレイドは深くため息をついた。
(どうすれば良い? 逃げるにしても周囲には隣接した建物なんてないから階段を降りるしかない。でもそれだと鉢合わせする可能性があまりにも大きい。戦うにしてもあの連携は厄介だ。どうすれば⋯⋯?)
「あの⋯⋯⋯⋯私も協力しましょうか?」
「――――えっ?」
バスターブレイドにとってその提案は正直嬉しいものだった。
三人の追っ手を相手するには一人では足りない。
だが二人ならばあるいは何とかなるかもしれない。
だが、それでは目の前の女性を危険に晒してしまう。自分自身の都合でだ。
「いい、の?」
「ええ。むしろここで協力しなければ共倒れでしょう。それに、あなたには聞きたいことがあるので⋯⋯」
自分をしっかりと見つめる女性。バスターブレイドは、その女性の目の奥に”何としても生き残る”という強い覚悟を感じた。
なら自分はそれに応えなくてはならない。巻き込んだ責任として。
「⋯⋯⋯そう。⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯分かった。でも作戦はあるの?」
「あります。ですが、それにはあなたの協力も必要です。協力、してくれますか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯分かった、あなたの覚悟に、その作戦に賭けてみよう!私も良い案があるわけじゃないからね、へへ⋯⋯」
「ふふ⋯⋯」
頭をかきながら笑顔を見せるバスターブレイドを見て、女性もつられて微笑む。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったですね。私はダスク。あなたは?」
「私はブレイド。バスターブレイドっていう人もいるけど、長いからブレイドでいいよ」
「分かりました。ブレイド、一緒にこのピンチを乗り越えましょう」
「ええ!」
ダスクが差し出した手に、バスターブレイドは応じ、力強く握手をする。
お互いに目的を果たすため、二人は共同戦線を張るのだった。
「それでどうするの?」
「色々と必要なものがありますが、それは私が持っているものでどうにかなります。それよりも重要なのは⋯⋯⋯」
「重要なのは⋯⋯⋯?」
「時間と位置、です」
―――――――――――――――――――――――――
「クリア」
「⋯⋯いないっすね」
「ああ。だが着実に追い込んでいる。あとは上の階と屋上の二階だけだ。だからといって油断はするなよ⋯⋯」
「了解」
「分かりましたっす」
三人は互いが互いをカバーできるよう、常に背中を預けながら周囲を警戒する。
長い間三人で過ごし、帝国の軍に身を預けてもなお三人で行動していたからこそ成せるチームワークである。
「うん?あれは⋯⋯⋯⋯なんっすか?リーダー」
追っ手の一人が視界に捉えたのは、窓の外にある一本のロープ。
見た限りそれなりに太く頑丈そうなロープであり、人一人がぶら下がっても大丈夫なものだった。
「恐らくロープで降りるつもりなんだろうが⋯⋯⋯⋯考えているようでバカだな。降りるまでに見つかったら撃ち落されるだろうが⋯⋯」
「でもどうするっすか?撃って落とすのはいいっすけどバスターブレイドは落下死しますよ?」
「もし俺たちの知っているバスターブレイドなら、落ちたところで死なないだろうよ。肩か足を狙えば済む話だ。もう一人の女はそのまま撃ち殺せ。別に確保対象ではないからな」
「了解っす。じゃあ背後頼みますっすね」
「承知」
ロープは揺れ始める。追っ手の一人はそれに銃を構えて狙いを定める。
他の二人は彼を背にしながら周囲の警戒をする。ロープは囮で、不意をつくために階段から可能性があるからだ。
三人に緊張が走る。
やがてロープが大きく揺れ、人影のようなものが見えた、その瞬間、
―ドオオン!!!
「なっ?!」
「!!」
「はあっ!?」
突然崩れた天井に狙いを定めていた一人は、何とか反応し窓の方向に前転。難を逃れた。
しかし、彼は落ちた天井に気を取られ、忘れていた。ロープの存在、そしてもうすぐそこから降りてくる相手を。
―ガシャ―――ン!!
一部破損した窓ガラスから飛び込んできたのは、ゴーグルをつけた名称不明の人物。
その人物は何かを投げる素振りをしたと同時に、飛び込んだ勢いで目の前にいた追っ手の一人を蹴り飛ばし、さらに倒れた相手に、追加で持っていた棒状のもので側頭部を殴る。
追っ手の一人は声を上げる暇もなく、倒された。
一方の二人も落ちてきた天井に反応し、回避をする。
「あぶねえ!」
すぐさま体制を立て直し、瓦礫となった天井の方向を見る。
その方向から瓦礫を飛び越え、何かが飛んできた。
それが地面に着地した瞬間、辺りに目映い閃光が溢れる。
「くそ!」
「!!」
二人は咄嗟に目を覆う。バスターブレイドは近接武器を使う相手である為、必要ないとゴーグルをつけていなかったからである。
そして、それがそのまま命取りとなった。
眩い閃光が溢れる中、ワンテンポ遅れて上の階から落ちてきたバスターブレイドは、素早く二人を制圧する。
視界が潰された二人にはなすすべもなく、倒されていった。
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