普通の学校生活ってなんだっけ? (しぃ君)
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panic1「Q.スカイダイビングは課外授業に入りますか? A.はい、入ります!」
あっ、ヒロインは別でちゃんと居ます。
僕の名前は
いきなり自己紹介から入るのは申し訳ないけど、どうか許してほしい。
僕は高校一年生でこの春、高校に入学したばかりの新入生だ。
今は暦では四月の一五日、高校が始まって二週間弱。
なのに……今現在僕は航空機に乗り高度三五〇〇mの空に居る。
取りあえず、諸々の事情を説明するために一旦時を二時間ほど遡ろう。
──────────
お昼休み、それは学生にとってひと時の安らぎの時間だ。
友達とお喋りしたり、ゲームをしたり、寝たり。
過ごし方は人それぞれで千差万別。
僕はそんな時間に学校に登校してきた。
……誤解はして欲しくないが、僕は決して不良な訳ではない。
今日は朝から体調が悪かったため、お昼からの登校になったのだ。
学校にも事前に連絡していたし、友人にも一報は入れてある。
クラスのみんなに「重役出勤か~」「大丈夫~」などの言葉を貰いながら、僕は自分の席に向かった。
「よっ、調子はどうだ。英人」
「朝よりは大分いいよ、勇人」
今声を掛けてきたのは
顔面偏差値は余裕のカンスト勢で、所謂イケメン。
気さくなお調子者で、クラスでも中心人物なのだ。
中学からの付き合いで、今も仲良くさせてもらっている。
僕の家族とも良好な関係を築いている。
身長も一七五㎝もあり、立っていると少し見上げなければいけないのが最近の辛い所だ。
「そう言えば、今日の午後は課外学習だとよ」
「えっ!? そんなの聞いてないよ……またおばあちゃんか……」
言い忘れていたが、僕が通う学校の名前は「私立信濃川高等学校」、場所は東京の品濃区。
さっきの言葉で分かった人が居るかもしれないが、理事長は僕の祖母だ。
祖母は僕の育て親であり、唯一の家族。
名前は信濃川
両親は僕が生まれて間もなく、僕を置いて蒸発。
借金が原因らしいが、それを見かねた祖母は僕を引き取り育ててくれた。
だが、祖母は天才でやることなすことが奇想天外。
しかも、そんな事を突発的にやるためいつも生徒や先生が被害を被っている。
結局、終わった後は校長先生やら他の先生に散々説教を喰らっているが反省の色は見えない。
今回の課外学習もそんな、突発的な行動の一つに過ぎない。
幼い頃から、そんな祖母が起こす厄介事に巻き込まれる人生を送って来たのだ。
今更、何が来ても早々驚かない自信がある。
「で? 課外学習は具体的に何をするの?」
「何でも、スカイダイビングをするらしいぞ。いや~夏さんは相変わらずぶっ飛んでるな~」
勇人が軽そうに言う中、僕は頭を抱えた。
……ごめん、前言撤回だ。
流石にそれは予想してなかったし、本当に唐突過ぎる。
「確か、一週間前は登山じゃなかった?」
「だな、でも今回に限っては遭難の心配はなさそうだな……命の保証は分からんが」
おい、親友。
今の言葉は聞き捨てならないぞ、そんなこと言うと本当に命の危険がありそうで怖いじゃないか!
一応、先程言った登山の件説明すると。
一週間前の四月八日、早朝からバスに乗せられて移動。
向かった先は、東京都青梅市にある御岳山。
標高九二九mの山で子供でも登れることで知られている。
山頂まではケーブルカーの御岳山駅から周遊コースで約二時間半の道のり。
一見簡単そうに見えるだろうが、僕たちは違った。
三学年全員で行ったことにより、人数は二〇〇人オーバー。
一年が三クラス、二年が三クラス、三年が三クラスで一クラス当たり大体三十人弱。
三学年併せて約二七〇人である。
祖母も移動のし辛さは分かっていたのか、クラスごとに分かれて登山をすることになった。
問題はここからだ、僕たちのクラスは担任が丁度休んでいたこともあり祖母が先陣を切って山を登ることになったのだが……
如何せん、奇想天外すぎる祖母は獣道を僕たちに進ませ最後には遭難。
危うく、警察沙汰に発展するところだったが、僕が知恵を凝らして何とか状況を打破。
警察沙汰は免れた。
まぁ、やったことなんて運動神経の良いクラスメイトを木に登らせて周りを探らせた程度の物だったのだが。
あの時はみんながパニックになってて、そんな単純なことさえ思いつくのは僕ぐらいしか居なかった。
僕がなんで冷静になれていたのかは……察して欲しい。
簡単に言うと、殆どが祖母の所為だ。
「ああ、言い忘れてたけど。課外学習に行くのは一クラスだけらしい。予算的な問題だろうけど」
「だろうね、僕の家はそんなにお金持ちって訳じゃないし……」
苦笑いが漏れる、何だろう凄く嫌な予感がする。
きっと大丈夫だ、ピンポイントでこのクラスが当たる確率は九分の一。
まさか、そんなことが起こるなんて──
『聞こえてるかい~? 理事長の夏だよ。今回の課外学習に選ばれたのは何と……一年B組! 五限目が始まる時間になったら校庭に出ているように!』
「やっぱりか~、ドンマイだったな英人」
勇人の言葉はもう聞こえない……
そして、次の瞬間僕の叫び声が学校に響き渡った。
「あんのクソババア──‼‼」
クソババアは言い過ぎたと思ってます。
ホントだよ?
──────────
これが二時間前の出来事だ。
今現在は航空機の中で隣に居る祖母と勇人と会話しながら、ダイブの時を待っている。
隣に居る祖母の容姿は少し可笑しい。
髪は銀髪で爪にはネイルアートが施されているし、目にも紅く見えるカラコンが入っているのだ。
肌は齢六〇歳だと感じさせない程潤っていて、それに加えて体つきもアイドル顔負け。
僕も一度祖母に聞いた事があるが、その美の秘訣は教えて貰えなかった。
「英君英君! 楽しみだね」
「うん、まぁ、それなりにね」
「夏さん、良かったすね」
「うんうん、態々役所に申請を通した甲斐があるよ」
本当に、これだから天才は恐ろしい。
祖母は基本的に大抵のことは何でもこなし、交友関係も広い為今回のような無茶が可能なのだ。
て言うか、航空機を持っていてそれを運転できる友人が居る時点で普通ではないことが明らかである。
ああ、何でこの学校に入学してしまったのだろう。
普通を求めるのだったら、そこら辺にある公立高校に入学すればよかったのに。
僕は祖母に負担を掛けたくないあまり、この学校に入学した。
祖母のお陰でほぼ無償で入学出来た、ちゃんと入試は受けて合格したよ。
そして、そろそろダイブの時が来た。
「そろそろ飛ぶよ~、私が出てから一〇分以内に出ないと危ない区域に行っちゃうからよろしく」
「ハァっ!? なんで今それを言うんだよ、もっと早く言ってよ」
「サプライズ精神が昂っちゃって♪」
ダメだ、この人。
早く何とかしないと……
その後は、祖母が降りたのに続きみんな降りて行った。
運が良い事に、今回も怪我をしたものは居なかったようで一安心。
降りてから十分もしない内に先生軍団が来て、祖母が連れていかれたのは……当然である。
──────────
前回のスカイダイビング事件から、また一週間。
四月も二二日、今日は朝からちゃんと登校していためクラスメイトに朝の挨拶を済ませて席に着く。
そして、朝のSHRギリギリになってようやく勇人はた来た。
「どうしたの? なんかあった?」
「んんや、なんもないよ。ただ……今日も何か起きるんじゃないかって不安で眠れなかっただけだ……」
ごめんよ勇人、そんな不安を持たせてしまって。
身内として謝罪するよ、解決は出来ないけど。
「俺以外にも、居るぞ。何だかみんな月曜と言う日に、トラウマを植え付けられている気がする」
「あんなことがあればしょうがないよ、勇人はまだ少しいい方だろ?」
「お前ほどじゃないけどな」
そりゃそうだ。
僕は物心ついた時には既に、祖母の厄介事に巻き込まれてきたんだから。
SHRが終わり、みんなが一時間目の準備を始めようとした瞬間。
放送のベルが鳴り、聞き慣れた声がスピーカーから流される。
『あーあー、全校生徒諸君おはよう。今日から新しいイベントを始める! 題してドキドキクラスシャッフルだ!』
クラスシャッフル?
クラス替えのことか、それだったったら良い。
ようやく慣れてきた所だが、もっと酷いことにならないなら大丈夫だ。
クラス替えで事件が起きるなんて、有り得ない筈だ。
……有り得ないよね?
『既にクラス替えの紙は廊下に張り出しているから、それを見て移動するように。お話は以上、解散!』
その声を最後に、放送は終わりみんなが動き始める。
「勇人、僕たちも移動しよう。今回のイベントはあんまり面倒くさいことになることはなさそうだし」
「おう、同じクラスだったらいいな!」
そう言って、お互いのクラスを見つけるために一度別れて貼りだされている紙を見る。
A組にB組にC組にD組か──
「え、D組……。いや!? 可笑しいでしょ! うちの学校は全学年三クラスしか──」
その言葉の続きは、紙に書かれていた名前を見て驚いた僕が言えるはずなかった。
信濃川英人に浅野勇人、僕と親友の名前がそこにあったのだ。
それ以外にも八名、見知った名前がある。
まだ、四月も終わってないのに全校生徒に名前を知られている者達。
一癖や二癖もあるような、個性的な人ばかり。
完全に僕や勇人が浮いている。
……ああ、最悪だ。
僕はただ、普通の学校生活が送りたいだけなのに。
次回もお楽しみに!
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panic2「Q.自己紹介って難しくない? A.大丈夫!難しいと思ってるのはあなた一人じゃないから」
一年生の教室がある階には、一つだけ空き部屋がある。
その教室は教材の置かれている物置みたいになっていた。
でも、今僕の目の前にある物置だったであろう教室は……先程まで居た教室と大差ない普通の教室になっている。
何だか、ここまでくると祖母の行動力に感心するしかない。
出来るなら、良い年なのでそろそろ控えて欲しいんだけど?
「なぁ、この教室で間違えないんだよな?」
「ああ、その筈だよ。だって1-Dって書いてあるし」
勇人に返事を返しながら、恐る恐るドアを開ける。
そこに居たのは、既に学校でも有名人な八人の生徒。
……僕、ここでやってけるのかな……
──────────
一時間目のチャイムが鳴るのと同時に、教室のドアが勢いよく開けられる。
そして、聞き慣れた声が僕の耳に響いた。
おいおい、そんなことありか。
「ハーイ! 皆さんおはようございます、このクラスの担任の信濃川夏で~す」
「いやいや、可笑しいでしょそれは! 大体、おばあちゃんは理事長でしょうが」
僕は周りのことを忘れてついついツッコンでしまう。
不味い、みんなに変な目で見られる。
だが、クラスのみんなは僕のツッコミはスル―して祖母の話を待つ。
「はいはい、英君のことは気にしないで授業を始めるよ。一様、初対面の人も多いから自己紹介からよろしくね。まずは勇人っちから」
「うっス」
クラスの座席的には、僕が一番前で勇人がその後ろ。
勇人は僕にサムズアップしながら、黒板の方に向かって行った。
手早く自分の名前を黒板に書き、自己紹介を始めていく。
「浅野勇人って言います。そこに居る英人とは親友で、理事長の夏さんとも知合いです。誕生日は八月八日。趣味はギターを弾くこと。特技もギターかな、これからよろしくお願いします」
みんなは拍手を返す。
ある種の型を使っての自己紹介だった。
火の打ち所の無い完璧な自己紹介だろう。
そして次は、
「柿沢ちゃん、お願い~」
「お任せあれ!」
柿沢と呼ばれた女子が、勇人と入れ替わりで黒板の方に行く。
白い髪はサイドテールにしており、蒼色の瞳と黒いフレームの眼鏡が似合う女の子。
顔面偏差値六〇は固いだろう、身長は一四〇程で胸は……貧にゅ(ry
名前を書いて、話を始める。
「
簡潔に済ませているが、彼女についてはもっと語るべきことがある。
柿沢百合、一五歳にして大手物流企業であるリリィ・ロジスティクスの社長。
父親も貿易会社を営んでおり、その会社も大手も良いところだ。
その父から一四歳の時に小さい会社を跡継ぎの為に任されたが、彼女の商才は最上級であり。
一年弱で大企業にまで上り詰めた、敏腕社長なのだ。
ねぇ、僕もう帰っていいかな?
「次は佐藤ちゃんだよ~」
「は、はい」
祖母に佐藤と呼ばれた女子も前に出る。
黒髪ショートで黒目の少女。
至ってどこにでもいる普通の女子高生、それが彼女の特徴だ。
顔面偏差値五五と言った感じで、スタイルも中の中。
「
彼女を例えると、普通の中の普通。
けれど、普通過ぎるが故にこのクラスに呼ばれたであろう、一番の被害者。
ごめんよ佐藤さん、帰ったら出来る限り僕も祖母に言っておくから。
何とかこのクラスでも強く生きて欲しい。
「まきで行こう、次は神明君だよ」
「拙者ですな、わかったでごさる」
次は神明と呼ばれた男子が黒板に向かう。
容姿は僕とあまり変わらない感じで違いは眼鏡くらい、しかし彼からは物凄い陰の気を感じる。
「拙者の名は
彼は所謂オタク。
だが、そんじょそこらのオタクとは一味違う。
来季アニメの予想から、グッズ販売の予測。
その悉くを的中させていることから、ネットやクラスではオタク王とも呼ばれているらしい。
何とも個性が濃い人物だ。
あれ、そう言えば神明君の前に僕の自己紹介なんじゃ……
まさか、祖母は僕の自己紹介を最後に持ってこようとしてるんじゃあるまいな!
どうしよう、最後とか少し緊張するんだが。
ハァ、諦めようその時はその時だ。
「ネクストタイムイズ、ミス成山!」
「はい」
神明君の次は成山さん。
綺麗な黒髪はショートボブに、瑠璃色の瞳が特徴的。
身長は一五〇後半あたり、言っちゃ悪いが貧にゅ(ry
顔面偏差値は勇人と同じ余裕のカンストであり。
美少女を自称しても良いほどだ。
「
声も鈴の音のような優しさがあり、この高校に入ってから告白された回数は十回以上。
けど、未だに交際まで至った人は居ないとのこと。
あれが俗に言う高嶺の花だ。
……嘘か真実か分からないが、何でも猫被りらしく本当は腹黒いとかなんとか。
ぶっちゃけ、僕からしたら聖女のように慈悲深い人に見える。
「春凪く~ん、よろしくぅ!」
「あいよ」
少し低い声の後に一番後ろから、百八〇はあるだろう大柄な男子が前に来る。
佐藤さんや神明君、成山さんは名前を書かなかったが春凪君は丁寧に名前を書いていく。
少ししたら書き終わり、自己紹介を始める。
「
春凪君はこの学校の番長。
僅か一週間足らずで、この学校のトップになった男。
顔は強面だが決してブサイクなわけじゃないし、髪も染めたりはしていない。
何でも、小学生の時から大人にもケンカで勝っていたらしく、先程の自己紹介は間違っていない。
だが、彼は任侠があり。
番長になったのもここら辺一体のヤンキーを取り締まる為だそうだ。
そのお陰か人望は厚く、少し素行が悪い所も多めに見られている。
勇人と同じでクラスの中心に居るタイプの人間。
「まっちー、自己紹介お願い」
まっちー、町博君のことだろう。
中性的な顔立ちで、焦げ茶色の髪と赤褐色の瞳が特徴。
身長は一六〇程で、その中性的な顔立ちの所為で女子に見間違えられることもしばしば。
顔面偏差値は六二か三あたりだ。
「
町博君は、基本的に無口で知られている。
授業中の会話や意見もメールで済ませてしまうほどだ。
彼は大手のIT企業からスカウトを受けているが、殆どと拒否。
作ったソースコードはネットで有料配布しており、天才プログラマーの名前を欲しいがままにしている。
実際は、本当に趣味でやっているだけで、彼にとって収入は副産物に過ぎないらしい。
「陸ちゃん、カモ~ン」
「はい」
凛とした声が、教室に響いた。
祖母が陸ちゃんと言ったのは陸原さん。
成山さんと似た綺麗な黒髪に青墨色の瞳。
髪は短く、その短い髪をさらに纏めてポニーテールにしている。
身長は僕と同じくらいで一六五か六位、身体つきも出るとこが出ていて美女と言う言葉が相応しいだろう。
顔面偏差値は、言わずもがなカンストしている。
黒板に書かれた字も、大変綺麗だ。
「
少し男口調にもにたものがあるが、仕方ない。
彼女は侍ガール、由緒正しき陸原流剣術の師範代。
三歳の頃から竹刀を握り始め、五歳の時にやった練習稽古の時に当時師範代だった父親に白星をあげた。
そこからは、練習でも試合でも負けなし。
天才少女として、幼い頃からメディアで報道される程の逸材。
もう一度言うが、僕帰っていいか?
「我が弟子ルエル! 前に来なさい!」
「ハーイ、夏先生」
跳ねるような明るい声を出しながら前に出るのはリーバさん。
金髪碧眼の巨乳美少女。
昔からよくアニメで聞く単語を、自分で言うことになるとは思わなかったが……
リーバさんはまさしくそれだ。
人懐っこい笑みが印象に残る。
髪はツインテールで、腰あたりまでありキューティクル凄まじい。
多分女子でも男子でも触りたくなるほどの、綺麗さだ。
顔面偏差値? カンスト勢に決まってるじゃん!
何なんだよこのクラス‼‼
普通なのって僕や佐藤さんだけじゃん。
「ルエル・リーバです。誕生日は六月三日。趣味はピアノで特技もピアノ。これから一年よろしく~!」
えらいテンションが高いな、しかも日本語ペラペラ。
まぁ、それもそうだろう。
彼女は元々日本に住んでいて、祖母にピアノを教えて貰っていた。
今では、世界中の色々な楽団がスカウトをしに来てるようだが全部断っている。
なに? このクラスの人たちはそういうの断るの好きなの?
理由としては、師匠である祖母が居る日本を離れたくないというもの。
祖母よ、あなたは一体何者なんだ?
孫である僕でさえ、全くもって祖母の過去を知らない。
十五年間一緒に居るが、謎が多すぎる。
僕がこんなことを考えていると、祖母が僕の名前を呼んだ。
「英君、君の番だよ。さぁ、張り切って自己紹介していこう!」
「あ、うん」
僕は席を立って前に出る。
少し緊張するが、今更この程度でウジウジしていられない。
黒板にスラスラと名前を書き、前を向く。
みんなが見ているが、一度深呼吸をして言葉を紡ぐ。
「信濃川英人。理事長である夏の孫です。誕生日は十一月十七日。趣味も特技もこれと言って特にありません。これから一年間よろしくお願いします」
良かった、何とか言えた。
噛まずに言えたことに安堵し、小さく息を吐く。
みんなが拍手をする中席に戻り、僕が席についてそう経たない内に授業の終わりを知らせるベルが鳴った。
「ありゃりゃ、一時間目はこれで終わりだね。二時間目は体育だからね~」
「おばあちゃん、でも体育着持ってない人もいるんじゃ……」
「ああ、大丈夫! これ、用意してあるから」
祖母がそうやってみんなに渡していったのは……迷彩服。
「何故迷彩服?」
誰だか分からないが、僕の言いたいことを代弁してくれてありがとう。
何故か高鳴る心臓の鼓動を抑えて、祖母の言葉を待つ。
「だって、二時間目にやるのはサバゲ―だからね♪」
……今日三度目だが、悪いけど僕帰っていいか?
こうして、D組としての僕たちの有り得ない学園生活が幕をあげた。
因みに席順は男子列、英人・勇人・明夫・新人・神谷
女子列、美海・ルエル・朝日・百合・蓮の順です。
次回もお楽しみに!
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panic3「Q.サバゲーは体育に入るんですか? A.入るわけないだろ!」
サバイバルゲーム、略してサバゲ―。
だが、今回やるのはBB弾を使ったものではなくペイント弾を使ってやるらしい。
ペイント弾は圧搾空気の力で発射される塗料入りの弾で、BB弾を使うより比較的安全なため採用された。
敵味方に分かれてお互いを撃ち合い、弾に当たったら失格となるのが基本的なルールとなる。
しかし、これまた特殊なルールがある。
「今回のサバゲーはナイフも使用可能。今、みんなが着てる迷彩服には衝撃観測用の特殊な装置が入っている。それで判定をするわけだ」
「夏先生、何処にそんなの入ってるの?」
リーバさんの疑問は僕も思った。
僕たちが着ている迷彩服は着ていても特に違和感らしいものはないし、何処にそんなものが入ってるのか気になる。
その質問を聞いた祖母は、子供のような笑顔で意気揚々に答えていく。
「それはね、服の数ヵ所にチップがあって、衝撃を受けたらそれを私が今持ってるこのパソコンに送るんだよ」
えっへん!とでも言いたげな表情でパソコンを見せてくる祖母に若干イラつきながらも、話を進めるためにもう一つの疑問を口にする。
「……で?それは分かったけど、何処でやるの?ここの校庭は広いけど遮蔽物がいっぱいあるわけじゃないでしょ」
「大丈夫、安心して!」
そう力強く言う祖母だが、流石にこれはどうにも出来ないだろう。
校庭の広さはそこそこ、マラソンに使われるトラックは約一キロ。
敷地がやけにデカいのが、この学校の特徴である。
なにやらポケットからリモコンを取り出したと思ったら、祖母はいきなりこう言った。
「みんな~揺れるから注意してね~」
緩い声とは裏腹に、祖母は容赦なくボタンを押した。
その次の瞬間、地面が浮き始めたのだ。
目の前に広がる光景に絶句するクラスメイト達……そりゃそうだよな。
浮いた校庭の地面は、数メートル浮いたところでひっくり返る。
……大きいオセロかな?
ひっくり返って出てきた光景は……ジャングル。
アマゾンのジャングルとそう大差ない光景が広がっていた。
こういうことにどんだけ金掛けてるんだよ!
「場所も用意できたし、ルールを簡単に説明するよ~。取りあえず武器から、女子に渡すのはアサルトライフルとナイフで、男子に渡すのはハンドガンとナイフね。銃の攻撃は三発当たったら退場で、ナイフの場合は力にもよるけど二回くらいかな?……あっ!そうだそうだ、陸ちゃんにはナイフの代わりにこれあげる」
銃の種類は良く分からないが、男子が圧倒的に不利と言うことが何となく理解できた。
しかも、陸原さんにはゴム製の刀擬き渡してるし。
因みにナイフもゴム製である。
「おばあちゃん、この銃弾は何発入れられるの?」
「ええ~っと、十発かな。女の子たちの銃は三十発までだった気がする……。今回はフラッグを取りに行く、陣取り合戦がメイン。勝敗は、チーム全員が退場するか、旗を取れば勝ち。それじゃあチームは決めてあるから分かれて~」
さらっと大事な事言ったな!
……でも、旗取で良かったかも。
実際に、陸原さんと戦うとなると勝率は相当低い。
僕が居るチームは、春凪君・町博君・成山さん・リーバさん。
対する相手チームは、勇人・神明君・佐藤さん・陸原さん・柿沢さん。
パワーバランスは取れてる……?
だけど、こうなった以上は負ける気はない。
僕は負けず嫌いな所もあるので、今回は勝ちに行きたいと思う!
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祖母が言うには、この銃は電動銃で
交換用のマガジンは二個、女子も二個。
無くなったら、補給のために一度エリア外に居る祖母の所に向かうシステム。
今は、作戦会議の時間で作戦立案中。
みんなはサバゲーをやるのは初めてのため、中々良い作戦は出てこない。
よしっ!
ここは僕が作戦を出していこう。
さっきからしっかり作戦は練っていた、みんなが何か作戦を出したらそれに+αで少し加える程度にしようと思ったが……
流石にそう上手くは行かないみたいだ。
「僕に作戦があるんだけどいいかな?まぁ、作戦と言えるものでもないけど」
「イイよイイよ!そういうのジャンジャン言ってかないと」
リーバさんはノリがいいので、こういう時はしっかりノッてくれる。
そういう所に惹かれる人も居るんだろうな……違う違う。
作戦を話さないと。
「作戦はこうだ。まず、旗を取りに攻めるのは僕と春凪君で、他のみんなは守りに徹して欲しい」
「なるほど……その心は?」
「僕の読みだと、あちらで旗を守るのは陸原さんと神明君だ。理由としては、まず陸原さんが居る限り防衛で負けることはない。仮に負けたとしても、相当消耗するはず。後はそこを神明君が狙う。それに、神明君は運動が得意そうに見えない、僕の見た感じだと」
「そうかもしれませんね。ですが、私たちだけで攻撃に来る人たちを抑えられるのでしょうか?」
成山さんの言う通り、この作戦には運任せな部分が一つある。
それは……
「……成山さんの意見はもっともだよね……でも、僕を信じて欲しい。勇人たちは必ず正面から来ないで、迂回して後ろから来る」
『どうしてそう言い切れる?』
町博君も、メモ帳を使って僕に質問を投げかける。
その質問には、こう返すしかない。
「勘……かな。三年も友達やってれば、その人の行動パターン位大体は読めるようになるよ」
そう、勘だ。
今回の作戦は勘と運で、勝ちを目指す。
この作戦を笑う人もいるだろうが、僕はこの作戦が一番だと信じる。
違うな、僕は自分の作戦ではなく勇人を信じているのだ。
「その作戦に乗った」
「私も私も~!」
「私も賛成です」
『僕も構わない』
「ありがとね、みんな……。それでさ、相談なんだけど陸原さんは僕に任せてくれない?」
僕の発言にみんなが凍り付く。
動揺するよね、僕だってこんなこと言われたら動揺するもん。
みんなが凍り付く中、春凪君が最初に口を開いた。
「漢だな英人、俺のことは春凪じゃなくて神谷で良い」
「了解!」
僕は神谷君と拳を交わす。
さぁて、勝たせてもらうよ、陸原さん!
-----------
十分以上歩いただろうか、そろそろ敵の陣地に入る頃あいだ。
一緒に来ていた神谷君とも、ここからは別行動。
神谷君には少しだけ遠回りしてもらい、陸原さんを避ける形で行く。
何で陸原さんの話が今出てくるかって?
そりゃあ勿論、十メートル程先に既にスタンバイしてるからさ。
多分、あのもう少し後ろに旗があるはず。
予想だけど、もし迂回して敵が来たら神明君が即座に発砲。
その音を聞いた陸原さんが即座に駆け付けて、敵を一網打尽にするためなのかも。
本当の所は良く分からないけど……
僕は、徐々に距離を詰めていく。
よく見ると、陸原さんは眼を瞑っていた。
けど、僕の気配は分かったようでゆっくりと眼を開ける。
「驚いたな、春凪が来ると思っていたのだがな……。これも作戦の内か?」
「そんな所かな?それより銃は?」
陸原さんは渡された筈のアサルトライフルを持っておらず、ゴム刀だけ。
舐められている……訳ではなさそうだ。
彼女にとっては、それが礼儀にも似たものなのだろう。
「要らん、これが一本あれば十分だ。しかし、異種格闘技戦?と言うのは久しぶりでな、腕が鳴る」
「異種格闘技戦ね……、俺もこれ一本でいいよ」
僕は持ってきたハンドガンを数メートル後ろに投げ飛ばす。
木に当たったのか少し音が響いたが、どうと言う問題ではない。
陸原さんが少し顔を顰めた。
あれ、僕何かしたか?
「僕なんかしちゃった?」
「銃は使わないのか?」
「銃?ああ、使わないよ。だって、陸原さんにこんなの意味ないもん」
どうせ、避けられるのがオチ。
何せ、陸原流剣術は速さに重きを置いた剣術。
連続攻撃が売りの流派。
速いだけではなく重さもあり、流派を極めたものなら十秒間に五回の連続した斬撃を行える。
正直言って、ナイフ一本でどうにかなる相手じゃない。
それでも、諦めるのはまっぴらだ。
最初から勝つ気で行く‼
「では……行くぞ‼」
陸原さんが言葉を発した瞬間、攻撃は始まった。
構えたと思ったら既に刀は振り下ろされていて、反射神経だよりに受け流す。
攻撃は止まらず、すぐに二回目の斬撃が来る。
切り上げる攻撃は躱して間合いを取るが、そんな行為は意味を為さない。
取った間合いも何のその、瞬時に詰め寄り横薙ぎに一閃。
ナイフで受け止めるが衝撃は押し殺し切れず、後ろに転がってしまう。
「まさか、まだ三連撃とは言え私の攻撃を防ぐとは」
「褒められてるって解釈で良い?」
「良いぞ、お前のような奴だったら本気で言っても問題ないだろう」
おいおい、冗談がキツイぞ!
今ので全力じゃないのかよ、こっちは死ぬ気で防いだのに……
「少し質問だけど。力のレベルを十段階で表すとさっきまでは何くらい?」
「三か四と言った所だが、それがどうかしたか?」
「――、大丈夫。気にしないでくれ」
神谷君、出来れば早くしてくれ。
そうしないと、僕が死ぬ‼‼
会話が終わったと認識したのか、陸原さんが構える。
僕もナイフの切っ先を陸原さんに向けて、次の攻撃を待つ。
一秒、二秒、三秒、四秒、一向に攻めてこない。
可笑しい、速攻で攻めてくると思ったのに……
こんな僕の考えは、瞬く間に消し去られた。
何故なら、目の前に居た筈の陸原さんが消えていたのだから。
「何処に……」
「ここだ‼」
消えたと思ったら、また現れた。
ご丁寧に真正面から。
だが、僕の身体は一歩後ろに下がっていた。
……なにが起きたのか、全くわからなかったのだ。
でも、その疑問の答えを僕は身を持って体感する。
僕の前髪が数本、宙に散った。
また、次の瞬間には何故かナイフを両手で持って構える。
今度は先程と同じく横に薙ぐ斬撃で弾き飛ばされた。
さっきとは比べ物にならない強さ。
何がどうなったか分からない。
反射神経に全集中力を注いでいなかったら、今頃自分の腹の骨は確実に折れていただろう。
弾き飛ばされた体は数メートル後方の木に当たり倒れる。
衝撃観測装置は祖母が弄ったのか、こういう衝撃では意味がないらしい。
僕の身体にゴム刀で一撃お見舞いしないと、退場扱いにはされないようだ。
まぁ、もう勝負は決まったんだけど。
「悪いがここまでのようだな。信濃川……いや、英人お前はよくやった。ここで、潔く負けろ!」
陸原さんが勝ちを確信したような顔をする。
待ってたんだ、君がその顔をするのを!
僕は戦う前に投げ捨てた銃を拾う。
あそこからしっかりと布石は打っておいた。
ここに追い込ませるために、必死に攻撃を受け続けたのだ。
僕がニヤリと笑った顔を陸原さんが視認した時には、もう遅い。
既に、僕の左手は銃を拾い銃口を陸原さんに向けている。
「僕の勝ちだよ‼」
フルオートにしていたので、十発の弾が数秒の差で全弾発射されていく。
陸原さんはもう構えに入っていた為、避けることが出来ない。
銃弾の殆どが陸原さんに当たり、辺りを劈くような祖母の声が響いてくる。
「陸ちゃん退場~!もう戦闘行為はしちゃダメだよ~」
相変わらずの緩い声と同時に、僕も緊張の糸が切れて腕を降ろす。
さっきから寝転がってはいたが、あれも作戦の為。
ようやくゆっくりできる。
「……最初から全部読んでいたのか?」
「そうかもね?ぶっちゃけると、これが通じるのは初見の相手だけだからね。次はないよ」
僕は疲れた体を起こして、陸原さんに向き合う。
彼女の顔は清々しいもので、今回の勝負に悔いが無いように見えた。
「結構アウトに近い感じだったと思うけど、そこら辺はいいの?」
「ああ、こうやって誰かに負けるのは久しぶりだからな。……一つ聞きたいのだが、英人は武術の心得があるのか?動きはそういう感じはしなかったが」
「武術?ないない、やってないよ。強いて言えば、おばあちゃんに護身術を習ったぐらいかな」
「そうか。お前は自分のことをどう思う?……私は武術の心得のない者に勝つのに、今まで一分も掛からなかった。だが、今回は逆にお前に一分で負けた」
「自分のことをどう思うか?」
そんなの決まっている。
僕は普通――と言いたい所だが、異常なことなんてとっくの昔に気付いてるのだ。
ただ、普通になりたいだけ。
それだけだ。
「普通になって普通の学校生活が送りたい、そんな夢を持ってる異常な高校生かな?」
「異常か……あながち間違ってないな」
「出来るなら否定して欲しかったな~」
実際の所、しょうがないっちゃしょうがない。
この後は、神谷君が無事に旗を取り僕たちのチームが勝利した。
だけど、僕は流石に見学。
人数が合わなくなったことから陸原さんも見学に。
結局、その次の試合は長引いて引き分けに終わった。
三時間目からはまともな授業が行われて、僕も疲れた頭でノートを取り授業を聞いた。
こんなのが毎日続くかと思うと、心が折れそうになる。
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翌日、いつも通りの時間に登校をしていると佐藤さんに出会った。
小走りをして、近付き声を掛ける。
「おはよう佐藤さん、朝早いんだね」
「そ、そんなことないですよ。こちらこそおはようございます」
佐藤さんに歩調を合わせて、昨日のことを喋りながら通学路を歩く。
だが、佐藤さんは何か違うことを考えているようだった。
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朝の通学路で信濃川さんに会った私は、不意に昨日の帰りに話していたことを思い出す。
最初は話しかけやすい男子は誰かって話だったのに、何故か途中から信濃川さんの話になっていたのだ。
「英人は普通ではない」
最初は蓮ちゃんがそんなことを言いだした。
あっ、蓮ちゃっていうのは、仲を深めるために名前呼びにしようとルエルちゃんに言われたから。
少し恥ずかしかったが、すぐに慣れるだろう。
そうじゃなかった!
なんで蓮ちゃんは、信濃川さんは普通じゃないって言ったのか。
今は、そっちの方が優先!
「蓮ちゃん?いきなりどうしたの」
「あ~、蓮の言う通りかも」
「蓮さんの言う通りかもしれませんね」
「んん~、私は朝日っちと同じ意見だよ。蓮っち」
ルエルちゃんと美海ちゃんは何か知ってるみたいだけど、私や百合ちゃんは何も知らないからよく分からない。
それでも、私からしたら信濃川さんは普通だと思うんだけど……
みんなの方がもっと濃い気がする。
「で、でも、私からしたらみんなの方が普通じゃない気がするよ……」
「私もかな~、英人っちは面白そうだけど普通じゃないって言い方は違くない?」
「……二人とも、私はあのサバイバルゲームの時誰に倒されたと思う?」
ああ、体育の時間か。
最初の試合で蓮ちゃんは退場した。
私が思っているのは、春凪さんと信濃川さんの二人に負けたと思っていたんだけど……もしかして違うのかな?
「春凪さんと信濃川さんに負けたんじゃ――」
「嘘、まさか……」
「そのまさか、私は英人一人に負けた」
正直、私は蓮ちゃんの言葉が信じられなかった。
そして、今。
私は、信濃川さんと一緒に居る。
これはチャンス。
今聞いてしまえばスッキリする。
けれども、私にそんな勇気はなく。
いつの間にか学校に着き、校舎の中に入っていた。
勇気が出ない自分を恨んだが、仕方ない。
この際、諦めて自分の目で確かめよう。
そうだ、そっちの方がずっといい!
そんな事を考えていたら、前を歩いていた信濃川さんが止まって、私はぶつかってしまう。
「ど、どうしたんですか?信濃川さん」
「……これ見て」
信濃川さんが指を指す先は、D組の教室の中。
そこには――
「スゴロク……?」
「ザッツライト!よく分かったね佐藤さん」
床にスゴロクのマスのようなものがある、異様な空間でした。
マスは大きくて人が二、三人入っても大丈夫そうです。
私が困惑してる中、他のD組の生徒も登校してきたらしく教室の前で私や信濃川さんのように立ち止まります。
みなさんも私と同じように、困惑してる人が大半な様子。
「今日は一日スゴロクやるよ!覚悟してね♪」
理事長先生の言葉に、我慢が効かなくなった信濃川さんが大きく息を吸い込んで叫びました。
「普通に授業してくれよーー‼‼」
……私たちの学校生活は、不思議なことや可笑しいことに満ちています。
これから、どうなるのでしょうか?
次回もお楽しみに!
誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!
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