私が……私たちが!インフィニット・ストラトスだ! (にゅいん)
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1話『ISとなったエクシア』

 おれの名前は【葛城 レンカ】。一応女の子だ。かの有名な『異世界トラック』に轢き殺されて、強気なヒロインたちが織りなす物語【インフィニット・ストラトス】の世界に、大好きな“ガンダムエクシア”という【転生特典】を神様に与えてもらって転生してきたんだ。

 確かにガンダムは……特に【機動戦士ガンダム00】は大好きで、目の前にエクシアがあったのはとても嬉しかったんだけど……たしかに転生特典ももらったけど……。真っ白な空間で神様と話した訳でもなくて、不思議な声を聞いた訳でもなくて……気がついたらおれの容姿は随分変わっていたし、不思議な力が湧いてくるのも感じた。そして目の前にあるのは完全な状態のガンダムエクシアじゃなくて、随分と小さくなった、それこそパワードスーツみたいなサイズのエクシアだし、なんならボロボロの状態で、知る人には“ガンダムエクシア・リペア”なんて呼ばれる状態のそれだったんだ。

 

 さて、それでだけど、おれは今ある人の元で働いてる。生きる天災、最強の頭脳。そんな感じの人……そう──“篠ノ之 束”さんだ。そしてその人からの任務で今、小さな紛争地域にいる。束さんの独善というか、なんというか。それに付き合わされてって言うのと、エクシアのテストを兼ねて。

 

「……やっぱりソレスタル・ビーイングって凄かったんだな。」

 

 ……武力による紛争根絶。随分大胆で、なおかつ自信たっぷりだったんだってわかる。精神は肉体に引っ張られてて、おれにそんな経験は無いはずなのに、何かに乗って戦うことに慣れているような感じがする。最初の一射だけは躊躇ったけど、それ以降は……もう。仕方がないことなんだと諦めている節があったな。

 GNソードは折れてるし、ツインアイのうち一つはティエレンの低性能カメラの状態でも、それでも並の兵器なんてあっさり打ち砕くエクシアリペア。

 

「……任務を完了させた。帰投する。」

 

 そんなこんなで、おれが束さんからの任務でやってきていた中東。そこで起きていたこの地の紛争を“兵器の全ての撃破”って言う“ガンダム00の1stシーズン”みたいなことをして終わらせた。その後の紛争地のことなんて、おれは知らない。……知る必要もないって束さんも言っていたのだから、そうするしかない。おれは、助けられた身分なんだから。

 まぁでも悲観もしてない。この人はISを作った人なんだ。元はガンダムだって言っても、エクシアも今はISの一つだ。ぶっ壊れかけてるエクシア・リペアでもまともな第三世代ISよりも強力だとは束さんの話だけど、流石にGNソード・ライフルモード頼りだから、結構くたびれる。それで、今は兎にも角にも装甲が必要だって事で、Eカーボン……特にエクシアやその他ガンダムに使われてる高品質なEカーボンの製作に取り掛かっていた。

 

「おっかえりー!どうかなレンちゃん、怪我とか無いかな?」

 

 おれの身体に軽く触れながら、自分で送り出したくせに心配そうにおれを見ている束さん。なんだかちぐはぐだ。

 

「うん、特に怪我とかはないよ、束さん。」

 

 エクシアが介入することで発生するGN粒子の散布。それによる紛争地域における大規模な電波妨害と通信障害のおかげで、おれとエクシアは何度となく紛争介入を行ってきたけど、この束さんの拠点をバラさずに済んでる。バレたら一発で世界各国の刺客がやってくるんだってさ。束さんを捕まえに。まぁ、エクシアリペアに装備されてるマントに光学迷彩仕様も、良い効果を発揮しているのも、発見されずにいる理由なのかもな。

 

「よーし、おぅけー!それより、とりあえず良い報告だよ!やっとそのエクシアに使われてる装甲、Eカーボンの製造に成功したよ。まさかカーボンナノチューブの20倍のひっぱり強度を持つそれを装甲にするなんて……とんでもない技術だね、その“ガンダム00”って世界は。」

 

 おれは残念ながら転生前の世界でも頭は良くなかったし、それを引き継いでる“今のおれ”も当然頭は良くない。ただ、刹那と同じ能力で転生してきたし、たぶん勉強したらすぐに覚えられると思う。まぁでも、しばらくはその自分と刹那としてのおれギャップに戸惑うことも多いかも。

 それで、おれは物事を隠すのが苦手だし、この人に協力して貰わないと、ガンダムの個人的な運用なんて、各国から狙われるに決まってるだろ?捕まったら、おれ自身もどうなるかなんて保証できない。だから、おれは別の世界からやってきて、乗ってるエクシアも、アニメに出てくる機動兵器がISになったもの……そう包み隠さず説明した。自分の作った覚えのないIS、そしてコア。自分にすら作るのが難しいGNドライヴという技術……それを見た束さんはすぐに信じてくれた。おれの迷い込んだ先が束さんのところでよかった。たぶん、おれが迷い込むかのうせいがあった場所の中で最高の場所だと思う。

 結果、束さんはエクシアの装甲を解析して、アタシがこの世界にやってきた一ヶ月ぐらい……まぁ、それが今なんだけど、なんとかEカーボンの製造に成功したらしい。

 

「まさか重力下内では分子配列が変化してしまうとは思ってなかったよ……重力下ではそのエクシアほどの強度を持つEカーボンは製造できなかった。わざわざ私のこの秘密基地に擬似的な無重力装置を製造して、その中での作業になるとは思わなかったね……でも、どうにか間に合って良かった。」

 

「……間に合って──って、前に言ってた『織斑 一夏』とかいう子の?」

 

 おれは基本的にこの世界のことを知らない、という体裁で過ごしてる。まぁもし知ってるなんて言ったら、それこそ根掘り葉掘り聞かれちゃうもんな。でもおれはISに関しては、所謂ニワカだ。原作“インフィニット・ストラトス”を見たり読んだりしたのも、生前のことで、更には数年前のことだ。主要キャラを知ってるぐらいのもので、大まかな物語は知ってるけど、細かいところは体験してるうちに思い出してくる感じだと思う。こんなこともあったな、なんて。で、あんまり期待させちゃうのもアレだからさ、あんまり言わないようにしてるんだ。

 

「そーそ。それと、私の妹『篠ノ之 箒』ちゃん。その二人を守ってあげて欲しいの。エクシアとキミならそれができるって判断できた。ここ一ヶ月の戦争行為への介入、そして両国兵器の殲滅……。正直キミの腕は“白騎士”以上だと思ってるよ。」

 

「……。え、と。その白騎士って言うのが分からない、ですけど。」

 

 白騎士……が何かは分からなかった。なにせ知らないもの……。だけど、とりあえずおれが【IS学園】に入学するのは確定みたいだ。束さんの目的としても、そのほうがきっと色々都合がいいみたいだからさ。

 

 それからさらに一ヶ月が過ぎた。その頃にもGNドライブの実験、GN粒子のサンプルなんかを取りながら、エクシアリペアをエクシアとエクシアリペアⅡの間ぐらいまでに修繕された。ただ、部分装甲愛としてだけど。

 ……例えば露出していたケーブルは追加装甲で覆い隠されたし、元々GNビームサーベルラックがあったところは追加スラスターに。まぁ、GNビームサーベルの基部と発振部が今のところは製造できないからね。まぁこのあたりはリペアⅡっぽい。だけどGNソードは“粒子熱変換伝導素材”……つまりあの緑色の部分だね。アレの製造ができないから通常のGNソードのままだったり、私の希望でGNロングブレイドとGNショートブレイドを装備させてもらってるから、そのあたりはエクシアっぽい感じかな。そこまで修繕できたエクシアを待機状態……。どんな形になるかと思ったら、刹那がダブルオーライザーやエクシアリペアⅡ内に持っていたあの白い花と、それを保管していたケース……それにそっくりな意匠のネックレスだった。少し……嬉しかった。

 

 

────────

 

 

「久しぶりだね、ちーちゃん。」

 

「……束。お前今まで一体何を……」

 

「……ごめんね、言えない。だけど、いっくんとちーちゃんと、箒ちゃんを大切に思ってることだけはホント。信じて欲しい……だから、この子を連れてきた。」

 

 おれは束さんと一緒に、入学式があと一ヶ月のところまで迫るIS学園に訪れた。目の前には見たことのある女性【織斑 千冬】さんが居て、高いカリスマ性を感じた。……いや、本当に生前のおれの一個上?どんだけ大人びてんだよ……おれの世界じゃ世の24歳なんてまだまだ子供だぞ。たぶん。おれだけだったかもしれないけど……。

 

「この子は間違いなくちーちゃん以上の実力を持ってる。第四世代……ううん。それ以上の性能のISと一緒に、ちーちゃんに託すよ。レンちゃん、どうかみんなを守ってあげてね。」

 

 小さな手でおれの手を握る束さん、その時だけは、束さんが可愛らしい女の子に見えた。おれよりも一個年上だけど。

 

「わかってるよ。束さん。……おれに任せて。全部まるっと守ってみせる。おれと、このガンダムで。」

 

 あたしは束さんを安心させるためにニコリと微笑んで見せた。すると束さんは微笑んで頷いてくれた。

 

「束が気を許すほどの子なのか……なんなんだこの子は。」

 

「私の隠れ家に迷い込んできた子。進化した人類……いつか人が宇宙へ旅立つ鍵になる子。人と人をつなぐ絆、言葉の壁も、世界の壁も越えていく、最強の翼。刹那・F・レンカだよ。あ、学校では刹那レンカって名乗ってね!「Fって何?」って聞かれちゃうと思うし。レンちゃんと離れるのはちょっと少し寂しいけど……それじゃあ私は行くね?」

 

「わかった。束さんも元気で。……おれも、少し寂しいよ。」

 

「待て束!」

 

「やだ。お説教なんて聞きたくないもんねー。バイバイ!!」

 

 まるで忍術のように掻き消えた束さん。本当に規格外の人ね。その場に、あたしと千冬さんは取り残され、千冬さんはあたしを見ていた。

 

「……そんなに見つめても、おれの正体は明かせないぞ?おれはこの学園を守るために束さんに連れてこられただけだしな。でも、来た以上はしっかり勉強もするし、イベントにも取り組むから安心してくれよ」

 

「……もとよりそのつもりだ。お前に聞いたとて、束が大きな情報を持たせていないことぐらい察しがつく。あと、お前は私より年下で、しかもこれからは私の生徒になるんだ。礼儀礼節は弁えるように。」

 

「はい、織斑先生。」

 

 そのままおれはまだ入学前の誰もいない一年生の寮の部屋に住み込んで、エクシアの最終調整と、千冬さんに手渡された、分厚すぎる……それこそ広辞苑かって疑うぐらいの厚さを誇る冊子の丸暗記(命令)や、先生たちとの交流なんかをしながら、一ヶ月をIS学園で過ごした。入学式では狙ったように束さんの妹、篠ノ之箒と織斑一夏の二人と同じクラスになった。まぁ、おれがこの子たちを守る関係でその方が都合がいい……それにしても、みんな揃って輝いてて眩しい。おれなんて中身23歳の大人なんだよな。勘弁して欲しいよ……今更学校の勉強なんて追いつけるかな。

 それはともかく、おれは今千冬さんと行動を共にしていた。秘密裏にエクシアを見せるためだ。

 

「……ガンダム!!」

 

 そう叫んでアリーナ内で待機状態のエクシア、つまりネックレスを掲げると、それは光り輝いてその場に部分装甲のIS、エクシアが現れる。結局装甲になるEカーボンの製造自体はできたものの、全身を覆うほどの量は製造できず、不足部分を補う程度に使われていて、この世界に転生してくる以前に見たことがある“ガンダムエクシアの擬人化の絵”みたいな姿だ。おれが“ソレ”になるのはちょっと恥ずかしいけど、この世界ではそれが普通なんだよな、はぁ。

 完全に装甲で覆われているのは、膝部GNコンデンサーから先の脚部と肘部GNコンデンサーから先の腕部。頭部は例のガンダムの象徴の二本角に、頭部GNコンデンサー部だけのサークレットみたいな感じで、胴部はクラビカルアンテナや胸部のGNコンデンサーなどは存在するけど、腹部はエクシアのカラーリングに合わせてデザインされたインナーの赤がガンダムらしさを出している。あとは肩部があり、腰部にはGNロング/ショートブレイドを装備してあって……と、エクシアらしいパーツがちらほらと──みたいな感じだ。

 

「……これが、エクシアか。」

 

「はい、おれのガンダム。未来を切り開く力です。」

 

 おれはそう言ってエクシアを纏う。すると、背部のGNドライヴの炉が回転を始め、隙間から白みかがった緑色の粒子が飛び始める。

本来なら“ガンダム”に搭載されてるGNドライヴは半永久的に稼働するものだけれど、ISになったエクシアおよびGNドライヴには色々と仕様変更があったみたいで、GNドライブは車のエンジンみたいに起動と停止ができる。GNソード・ライフルモードとか腕部の小型GNバルカンでは圧縮粒子のビームを発射できるのは変わらない。頭部ツインカメラアイも変わらず発光している。そしてGN粒子は相変わらず既存兵器の通信やレーダーを遮断する効果がある。なにより、運動エネルギーにも熱エネルギーにもなる関係で、半永久的にシールドエネルギーが回復し続けると言う化け物のような性能になっている。

 

「……この粒子は……?とても暖かいな……。」

 

「背部コーン状のエンジン、GNドライヴで重粒子を崩壊させることで生成される粒子……GN粒子です。熱エネルギーと運動エネルギーを持ち、GNドライヴだけで機体姿勢制御と加速が可能です。圧縮させることによるバリアの生成やビームの発射ができて、粒子そのものにもレーダーや通信の妨害機能があり、粒子由来の通信技術がないと通信は不可能になります。」

 

「……便利だが、不便だな。」

 

「そうですね。一応IS適正は束さん調べでは“S”だやわで、訓練機でも問題なく運用できますし、あともう一機ほどISが持たされてますから、そっちも見てみますか?」

 

「……ふむ。いや、いまはいい、どうにせよ、その言い方ならそのエクシアよりは低性能なものなんだろう?そのことは実際にISを動かすカリキュラムに入る頃に考える。刹那は先にクラスに戻っていろ。私も後で行く。」

 

「了解です。ではまた後で。」

 

 おれはなーにもワクワクしない学園生活を始めることになってしまった。っていうか、千冬さん24歳で一つ上だ。ほぼ同期みたいなものだし、この人も苦労しそうだしフォローしてあげないとな……束さんも、そういう意味合いでおれをこの学園に寄越したんだろうからさ。




人物紹介


『刹那・F・レンカ』
年齢16歳
身長154cm
体重43kg
イメージ声優 沢城みゆき
一人称 “おれ”
機動戦士ガンダム00の主人公である【刹那・F・セイエイ】のイノベイターとしての能力、操縦技術、女体化した容姿を転生特典としてISの世界に転生してしまった成人女性。
見た目は少年刹那女体化と言った具合だが、内面は大人の女性と男性が入り混じったようなさっぱりとした性格で、刹那・F・セイエイと同様にかなりの演技派で、時と場合によっては大きく口調や雰囲気を変える。自分は自分だと思っているが、刹那・F・セイエイに性格が影響された部分が多いようだ。


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2話『主人公たちの出会い』

「全員揃ってますねー。それじゃあSHR(ショートホームルーム)はじめますよー」

 

 黒板の前で微笑むのは山田真耶先生。黒板にも書いてある。おれよりも低い身長と大人の雰囲気を出したかったのか、どこか似合っていないしサイズも合っていない服を着ている。メガネすら大きめのサイズで、もうなんだかかわいそうな雰囲気だ。ま……実はこの人も大概凄い人らしいけど。さて、どーも、刹那・F・レンカです。千冬さんに先にクラスに戻らされて教室にやってきたんだけど、やっぱり教室に入ったのはおれが最後だった。注目されるのはちょっと嫌だったなぁ。

 

「私は山田真耶と言います。皆さん、一年間よろしくお願いしますね。」

 

「久しぶりだね、真耶先生。これからよろしく。」

 

「あ、久しぶりですねレンカさん!お元気でしたか?」

 

「なんとかね。それにしても、ISの整備に参考書も覚え込んで大変だったよ。」

 

「それはもう、お疲れ様でした。レンカさんが居ると先生も安心です。それじゃあ出席番号順で自己紹介をお願いします。」

 

 たしか、原作では女の子全員一夏のこと意識して真耶ちゃんの話なんてこれっぽっちも聞いてなくて可哀想なことになってたはずだし、それがわかってたからあの日から一ヶ月の間に真耶ちゃんには会っておいたというのも、一つの理由だ。

 まぁそんなこんなで自己紹介が始まってからすぐに例のやつの番が回ってきた。

 

「織斑くん?あのー、織斑くんー?」

 

 はぁ、ここは元と変わらないなぁ。助け舟出してやるか。と、私は消しゴムを手に取ってポイッと織斑の頭にぶつけた。

 

「あてっ、……消しゴム?」

 

 織斑くんは飛んできた方から逆算しておれの方を向いたから、前を指差した。

 

「あ。……えっと、織斑一夏です。────以上です」

 

 数名の女子がずっこけたりとまぁ騒がしいわね。まぁ、これじゃアタシの助け舟も意味ないかな。それじゃあカウントダウン。さん、にー、いち!

 

『バァン!』

 

 おれの心の中のカウントダウンが終わると同時に千冬さんが織斑の頭を出席簿で叩く。叩くと言うと優しく聞こえるかもしれないけど、廊下まで響いてるんじゃないかと疑うぐらい強烈な一撃だったぞ。すげーいたそうだ。

 

「いっ──!」

 

 それを「痛い」の一言で済ませられる織斑は、まぁかなり頑丈なんだなって思った。おれは絶対喰らいたくない。

 

「馬鹿者!お前は満足に自己紹介も出来んのか!!」

 

「ち、千冬ね──」

 

 一回目は簡素すぎる自己紹介の所為。二回目は先生を姉と呼んだことで、ばぁん!が二回目だ。あんまり要領が良くないんだろうな、織斑って。

 

「ここでは織斑先生と呼ばんか!」

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田先生、クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな。」

 

 うーん、聴きなれた優しい声。この一ヶ月、千冬さんはおれに優しくしてくれたし、髪の色とかも同じだから本当のお姉さんみたいに思ったな。おれも織斑みたいに千冬姉、なんて呼んだりしたらどうなるんだろうか?なんて考える。

 まぁそんなことを考えているとクラスの女子が黄色い声を上げる。あまりの声量に耳を塞ぐ。いや、まぁ分かるけど、煩すぎるよ。

 

 千冬さんはISが世界に台頭してきてから行われた初のISの世界大会『モンド・グロッソ』での初代優勝者で、その称号である『ブリュンヒルデ』と呼ばれている。過去に二回このモンド・グロッソは行なわれたけど、二度目のモンド・グロッソは、とある事件が原因で千冬さんが決勝戦を棄権。相手の選手も千冬に勝たないブリュンヒルデの称号に意味はないと、ソレを手放しているので、現在でも千冬さんがブリュンヒルデと言ってもおかしくはない。そしてそんな生きる伝説を目の前にすれば興奮してしまう気持ちも分かる。……だけどこれは一応授業中だ。中学生の時に授業中騒ぐなって教わっただろうに、理性の無い人間は猿と変わらないわね。うるさいところも含めて。

 

「毎年毎年よくもまぁこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。」

 

「……感心しないでください。」

 

 額を片手で覆う様にして呆れる千冬さんに対して私がそう言うと、千冬さんは優しく私の頭を撫でる。

 

「はぁ、私にとっておまえが私の心の癒しだよ、レンカ。」

 

 あれからの一ヶ月、おれは千冬さんに束さんとどういう生活を送っていたのかとか、いろんなことを話していくうちに、おれにも興味を持ってくれて、色々と話す機会があって仲良くなれたと思ってる。だから千冬さんはおれに激甘だ。まぁ、怒られることしないからな。

 

「先生、授業中です……。あと、自己紹介も途中です……。」

 

「む、そうだな、すまない。では自己紹介を続けろ。」

 

 そうして自己紹介が進む。私のすぐ前にいる人が自己紹介を始めた。

 

「篠ノ之箒です。剣道をしています、よろしくお願いします。」

 

 あら、箒は意外とシンプルに片づけたな。“一夏の幼馴染です”ぐらいの事は言うと思ったんだけど……まぁいいか。おれはその辺りのことはあまり興味ないから。

 

(わたくし)はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ。私のようなエリートと同じクラスになれてことを誇りに思いなさいな!」

 

 はぃ、原作通りのキャラだな。そりゃ敵の一人二人作るよ。原作に則るなら一夏との出会いで勝手に変わると思うけれど、おれって言うイレギュラーの所為でどうなるかも分からないし……、その辺りのこともしっかり考えてかないとな。さってと、おれの番だな。

 

「どうも、おれは“刹那 レンカ”趣味は機械いじりと読書です。自身の専用機も持ち合わせています。機械関係やISなんかの修理関係でお困りでしたらいつでも声をかけてください。よろしくお願いします。」

 

 まぁ、無難にできたかな?変に目立たず、でも空気になりすぎず。それぐらいの活躍で私は充分かな。

 

「こいつも数少ない専用機待ちだ。国家代表候補生及び国家代表ではないが、自作の特別なISを持っていて、国から所持する許可証も出ている。当然ながらかなりの実力者で、既に戦線に出て活躍したこともある。彼女の言う通り、相談事があれば彼女を頼るのも手だろう。」

 

 む、そういう余計なことは言わないで欲しいんだけど!……まぁいいか、言っちゃったし、時期にバレる事だしな。というか、エクシア、おれが自分で作ったって事にしたのか?束さんとその辺のこと話したのかな……おれ自分でエクシア整備できるかな……。まぁ、Eカーボンがこの世界じゃかなり異質だし、傷一つつかないだろうけど……うん、まぁ……いいか。そのあたりのことは千冬さんが何とかうまく片付けてくれるよな。

 

 そんなこんなで自己紹介や一時間目のIS基礎理論授業が終わる。まぁこの辺りは言われてなかった転生特典のうちの一つなんだろうなぁって思う。別に授業なんか受けなくたって大体の事は把握してた。何ならエクシアの修理にはおれも付き合ってたから、普通の人以上にはISの深いところまで知識を仕入れることができてたみたいだ。

 

「あー……」

 

 ふと学園一の知名度を持つって言っても過言じゃないある種の時の人である世界で唯一ISに乗れる男性(織斑一夏)を横目で見てみると、顔を上に向けて疲れ果てたような表情をしていた。まぁそれもそうだろうね。

 っていうのも、普通の高校卒業資格と同時にIS操縦者資格も取得するとなると学園のコマのギリギリまで使う必要があって、学園内の設備とか施設紹介のオリエンテーションなんかは存在しなかった。地図を見て覚えろとの事だ。……まぁかなりの無茶だ。──うん、一ヵ月住み込んでてよかったって思った瞬間だったよ。

 

(にしても、珍しいのはわかるけど一年生の教室に二年生と三年生が押し掛けるのはどうかと思うけどなぁ。)

 

 それも仕方ないんだけどな。ISを本格的に動かして学べる学校はこのIS学園しか存在しない。それで、IS乗りにさせたい親御さんが中学校の段階でISの事前学習を行っているところに娘を行かせるこども多いって聞いた。そんで、ISが女にしか乗れないんだから当たり前だけどそのすべてが女子校だ。つまり、男子に免疫のないお嬢様ばっかりってこと。これじゃあさすがに織斑が不憫だよ。仕方ないな、守るっていうのは、そういうのも含まれてるってことにしとくよ、束さん。

 

「一時間目はどうだった?織斑。」

 

「え、あ。君は刹那レンカ……だったっけ?」

 

 緊張した面持ちで私に返事をする織斑くん。まぁ悔しいけど男前だと思う。もしIS学園に入ってきたのがブサイクで千冬さんに何の関わりもない本当の意味での『世界で唯一の男性IS搭乗者』ならここまで注目されることは無かったと思うが、彼は違う。容姿に優れていて、伝説のIS乗りである千冬さんの弟と言う、とんでもない肩書きを背負っている。これでもかと言うぐらいの主人公補正だ。……わかるけど、こうしてそう言う世界から選ばれたような人を見ると、生きる世界が違うんだと感じるが……世界から選ばれたのはアタシも同じだ。

 

「うん。刹那でもレンカでも、好きに呼んでくれて構わないぞ。」

 

「ありがとうな、刹那さん。なんか、男みたいな話し方してるからちょっと緊張ほぐれたよ。」

 

 さて、こうして織斑に話しかけると……寄ってくる人影。おれのもう一人の護衛対象だよな。

 

「すまない、一夏に用があるのだが。」

 

 ほら、な?

 

「……箒?」

 

「廊下で良いか?」

 

「ちょ、待ってくれよ!今刹那さんと話して──」

 

「あぁ、おれのことは構わないよ。その様子じゃ知らない仲じゃないんだろ?野暮な真似はしたくないからさ。馬に蹴られて死にたくないし、ごゆっくりー。」

 

 そう言って箒にウィンクすると、篠ノ之さんはカァァッと顔を赤くした。仕方ないのでおれは教室の隅に居る真耶ちゃんに話しかけに行った。

 

「相変わらずあがり症だな、真耶先生。」

 

「あ、レンカちゃん……。うぅ、お腹痛いよぉ……」

 

「大丈夫だよ、おれも出来る限りサポートするから。」

 

「すまないなレンカ、世話をかける。」

 

 そこに千冬さんも現れて、相変わらずおれの頭を撫でる。少し恥ずかしいけれど暖かくて心地良い、しかし……

 

「この様子じゃ頭を抱える気持ちはわかるつもりです。千冬さんも大変ですね。」

 

「うむ……毎年こうでな、今回はアイツもいる関係で去年より厄介だ。やはり、レンカのように達観した生徒というのは稀な存在なんだろうな。それで、どうだ?この調子でクラス代表もやってみないか?」

 

 授業中じゃなければ千冬さん呼びも怒られないのかな……どうなんだろう。っとと、話の途中だった。えっと……おれがクラス代表?それはちょっと……嫌かなぁ。

 

「ほかのクラスの代表全員ボコボコにするわけにもいきませんし、辞退します。」

 

 そう苦笑いを浮かべて言うと、千冬さんも少しだけ苦笑いを浮かべて、真耶ちゃんも微笑んだ。

 

「そうですね、何事もバランスが大事ですから。レンカさんちょっとヤバいぐらい強いですし……あ、そう言えばエクシアはどうですか?最終調整が何とか間に合ったと聞きましたけど。」

 

 そうだ。エクシアは元々ガンダムっていう18メートルもある人型機動兵器だったもので、転生特典としてISサイズになったものを私が貰い受けていた訳だけど、この世界ではあんな風に全身を覆い隠すIS(全身装甲)はそう多くない。

 それこそ悪目立ちしたくなかったこともあるけど、それ以上に、破損した装甲が多かったから、そのまま装甲を分解して部分装甲のISに仕様を変更したんだ。だけど、その時にやっぱり、全部繋がってる“全身装甲”より、パーツごとに離れてる“部分装甲”のほうがGNドライヴからGNコンデンサーへのGN粒子供給回路が繋がりづらかったり……とまぁいろいろ苦労した。束さんであってもGN粒子という未知の物質の回路を組むのは至難の技だったってことなんだろうね。まぁ、それもそうだよな。遥か遠い先の未来、で、しかも並行世界の技術。本来なら存在し得ないもの。それを、見本があったとは言っても作り出すことができる束さんのほうがどうかしてるよ。

 話が逸れたけど、それでもまぁなんとか実戦に耐えきれるだけのものが完成したから良かった。

 あとは、破損して取り外した装甲のEカーボンを加工してGNソードの復元とGNロング/ショートブレイドの生産が完了して、そこで一つ問題がある。

 

「一応実戦はもう可能なのですが、現状まだ初期化を済ませただけで最適化が終わってなくて……。部分装甲になったエクシアにはまだ数えるぐらいしか乗れてないんです。」

 

「そうですか……でも仕方ないですよね、参考書も覚えなくてはなりませんでしたし。」

 

「でも、これから乗る機会もあるでしょうから。」

 

 そう言って私は自分の胸元にぶら下がったネックレスを握りしめる。

マリナ・イスマイールと刹那・F・セイエイを繋いでいる、あの白い花を模したネックレスがアタシの……いや、彼が託してくれたと思う……そのエクシアの待機状態。なんだか感慨深い。

そう思っているとチャイムが鳴る。

 

「あら、チャイムだ。またね、真耶さん、千冬さん」

 

「ああ。……──まったくあの愚弟が。」

 

 また織斑くんが頭を叩かれながら授業に参加していた。飽きないな……って言っても、なんだかんだで楽しんでるアタシがいる。それにしてもまあちょっと男の子居てくれたって良いなーとか思う。男女関係の絡んだ面白ハプニングが起きるのが学校生活なんだし、そう言ったゴシップに花を咲かせるのも、楽しみの一つだろ?それがまぁ、この学校で起きようものなら、それは全部織斑絡みだから可哀想に思う。

 

 

────────

 

 

 さて、二時間目が始まって本格的にISの基礎知識を頭に詰め込んでいく授業が始まったわけだけど──

 

「…………」

 

 偶然隣になった織斑がずっとおれのほうを不思議というか、感心というか、そういう雰囲気の目で見てくる。おれも詳しく覚えてるわけじゃないけど“おれが必死になって覚えたあの参考書”を、織斑は捨てちゃったかなんだかで授業が一切わからないんだったかな?

 

「どうかしたか?織斑。」

 

 コソっと聞いてあげると、果てしない困り顔で織斑くんが言う。

 

「ぜんっぜん分かんないんだ……刹那さんは分かる?」

 

「ふふっ、おれはISを自作したんだぞ?これぐらい頭に入ってないと作れるわけないよ。」

 

「あ……そう言えば千冬姉がそんなことを言って──」

 

そして再び出席簿の鋭い一撃が織斑くんと……

 

「「いだぁ!!」」

 

私の頭にも降り注ぐのだった。うん、さすがに千冬さんの前でおしゃべりはよくなかったよ……。



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3話『知ったこと。』

 状況はともかくとして、授業は進む。おれも千冬さんに叩かれてしまって、おれにはもう織斑を助ける手立ては無い。ごめんな、なんて思ってると、その授業の間にバッシバシと織斑は叩かれまくっていた。物理的に。

 

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

「古い電話帳と間違えて捨てました。」

 

ウソでしょ?どうやったら古い電話帳──えぇ……?

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者!」

 

 あ、またシバかれてる……。あ、シバくって関西弁で叩くって意味なんだよ。叩くって表現より過激だよな。だからこの言い回しの方がより「らしい」かなって思う。っていうか、わざわざ必読って書くって事は、年に一人二人は織斑くんみたいに捨てたりサボったりする人がいるって事だよな……。

 

「後で再発行してやるから、一週間以内に覚えろ。いいな?」

 

「えっ、い、一週間であの厚さはちょっと……」

 

「やれと言っている。」

 

 ……ま、捨てた織斑が悪い。おれには悪いけど助けられない。暗記の手助けってなんだよ。

 

「はい、やります」

 

 その言葉と共に織斑が何故かおれの方を見る。いや、それに関しては手伝えないからな?おれアレもう一回読むのとか嫌だし。

 

「……なぜ刹那の方を見ている。手伝わせたりせんぞ。刹那、お前も手伝おうなどとは思うなよ?」

 

「思いませんよ。一ヶ月間、とても大変だったんですから。」

 

「ならいい。貴様らも聞け。お前たちは先ほど私や織斑をみて随分とはしゃいでいたようだが、此処は遊び場じゃないんだぞ。ISは既存の兵器を遥かに超える機動力と攻撃力を持つれっきとした兵器だ。深く知らずに扱えば、人命にも関わる事故が必ず起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ、そして守れ。」

 

 望もうと、望むまいと、その環境に巻き込まれたなら、守らなきゃいけないものは守らなきゃいけない。……規律や規則っていうのは、大体はそういう教訓や痛い目を見て作られているんだ。

 

 この学園に通い始めたばかりのみんなは知らないかもしれない。だけど、おれは知ってる。原作を読んだからとかじゃない。……束さんからの任務を受けて、世界各地でエクシアを飛ばしながら、世界を見てきた。紛争や戦争……女尊男卑が進む世界。

 大昔の日本では軍人を慰めるために慰安婦って制度があったらしい。男性のために女性は尽くしていた。だけど、ISが世界に台頭した今、それこそ過去の男尊女卑の真逆の世界が構築され始めていた。容姿の優れた男性は女性の性的欲求の捌け口となり、容姿もクソもない男性はすれ違った見知らぬ女性にパシられる姿も珍しくない。……もちろん男尊女卑の世界に戻そうって言うんじゃない。だけど……極端なのは生物のバランスとしておかしい。

 

「ちょっと、よろしいかしら。」

 

 女性管理団体とか言う将来それによって起きる弊害も分からない女共は、女性の当然の権利として男性を好きに扱おうなどという発言までする始末だ。だけどおれは思う。ISに乗れもしない女共が偉いわけじゃない。ISに乗れるおれたちが偉いって言う訳じゃないけど、おれ達以上に権利のない女性が喚く時代だ。……おれがガンダムマイスターに選ばれた理由。それはきっと……『この歪みを断ち切る』タメだと思う。確かに、いつかは織斑が成すべき事なのかもしれない。でも、だからってこの現状を知る私が黙っている理由にはならない。

 

「聞いてます?お返事は?」

 

「あ、ああ、聞いてるけど、用件は?」

 

 考え事の最中に目の前で喚かれれば自然と不機嫌にもなる。その言葉の向く先がおれじゃなくてもな。

 

「まあ!なんですのその返事は!私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度という物があるんではないかしら。」

 

 ……みてくれは可愛いんだけどなこの子。だけど、思い出してみたらこの学園内部でも特に女性管理団体らしい思考に囚われている子だ。正直相手にはしたくない。見る分には良くても、実際に相手にするには嫌だと思うパターンは多い。

 

「悪いな、俺、君のこと知らないし。」

 

 織斑はこの金髪縦ロールの女の子、イギリスの代表候補生『セシリア・オルコット』に対してそう言い放つ。こんな口調で言うのもアレだけど、おれも女だし、原作を読んでる時だってこの子はあんまり好きじゃなかったことを思い出した。かと言って嫌いというわけでも無かったけど……。彼女がそうなった事情を知ってる人が居たら、同情の余地はあると思うけど。まぁ、あの辺りは人の感じ方だとは思う。

 

「わたくしを知らない……?」

 

「イギリスの代表候補生、セシリア・オルコット……だろ?これに関してまぁ、流石に織斑の勉強不足だと言わざるを得ないけど、情状酌量の余地有り、とおれは思うな。セシリア。あんたにも事情があるように、織斑にも事情がある。」

 

「……刹那・F・レンカさん?急に割り込んでこられて何の用でしょうか。」

 

「困ってる織斑への助け舟だよ。……で、そう言うアンタが彼に何の用かは知らないけど、初対面の人に対して随分な上から目線で人様に話しくれてるじゃん?かなり失礼な人なんだなって思って。本当に上の立場に立つべき偉い人たちは、相手の立場が何であっても礼儀礼節を持って接するよ?」

 

「……だから、なんだと言うのです。」

 

 じり、と音を立ててセシリアは一歩下がりながらも、強気な態度を崩そうとはしなかった。まぁ、一歩下がっちゃった時点でアンタの負けなのは確定だ。

 

「べつに何ってことはないぞ。おれもきみに興味はないし。でも、思い当たる節があるから、今きみは一歩下がったんじゃないの?」

 

「そ、れは……。」

 

「……はぁ、いいから自分の席に戻ったほうがいい。論理的でも客観的でもない決め付けと、自分の感情だけでしか話せない、男の子を人とも思わないような人との口論で負けるつもりはない。」

 

「くっ……覚えていなさい、刹那さん……!」

 

「忘れておくよ。下らないことを覚えておくほどおれも暇じゃ無いからな。」

 

 口論とも言えないような口論の後、セシリアはその場を立ち去り、自分の席で悔しそうにしていた。……ほんと噛ませ犬だな。はぁ……。っていうか、元々あの子なんの目的で一夏に話しかけてたのか本当に分からないんだよな。アレかな。「首を垂れて懇願するなら勉強を教えて差し上げてもよろしくてよ。このセシリア・オルコットが」ってところかな。残念ながら束さんと生活していたおれに比べれば甘いけどな。

 

「ありがとう、刹那さん。助かったよ」

 

 っとと、放置は良くない良くない。別にお礼を言われるほどのことじゃないけど、返事ぐらいは返さないとな。

 

「レンカでいい。おれもそろそろ織斑って呼ぶのめんどくさくなってたしさ。一夏で良いか?」

 

「もちろん!よろしくな、レンカ。」

 

「うん、よろしく一夏。まぁでも、参考書を覚えるのは手伝ってあげられないけどな。」

 

「えぇ、それは助けてくれよ……。」

 

「どうやって?覚えるのは一夏の仕事だろ?おれにはどうにもできないよ。」

 

 そんなこんなで3時間目突入。

 

「この時間では、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。対抗戦の代表とは言ったが、それだけでは無いぞ。生徒会の開く会議や委員会への出席……まぁ、クラスの委員長のようなものだ。さて、刹那。この対抗戦を行う理由は分かるか?」

 

 おぉう?!急におれに振らないでくれよ、びっくりするじゃん……。このぐらいの質問なら良いけどさ。

 

「はい。シンプルに言えば競争です。ただの訓練、ただの勉強、と言うだけではISを知識や技術の習得への意欲が見込めません。ですので、クラス毎に代表を定め、対抗心を育てるとともに、責任感を持って励ませることで、で向上心を高め、維持させることを目的としている……と、推測します。」

 

「正解だ。今の時点でクラス間の差は無いに等しいが、今後はわからん、貴様らの努力次第という訳だ。代表は決まれば一年間変更は無い。よく考えて決めることだ。他薦自薦を問わない。」

 

「……はい!」

 

 千冬さんの言葉に一夏が手を上げた。もしかして立候補か?でも一夏ってドがつく素人のハズ……大丈夫かな。

 

「織斑、自薦か?」

 

「違うって!……俺は刹那レンカさんがいいと思います。」

 

「……ほう、良いだろう。」

 

「一夏……」

 

 その後、多数の女子生徒が話を聞いていたのか聞いていないのか知らないけど、一夏に投票する。そして

 

「納得いきませんわ!!」

 

 セシリアが机を強く叩きつけながら立ち上がり、声を荒げた。それもそうだろう。ほとんどの生徒が、セシリアの存在を無視して一夏と、一夏が推薦したのが気になったのか、おれを推薦した。まぁ、華って意味でなら、一夏が代表をするのはかなり効果的だけどさ?それよりもまずはセシリアを止めないとな。

 

「ま、そう来ると思ってたよ。……口だけで聞いてくれる程物分かりが良さそうでもないからな、アンタ。」

 

「なんですって……!」

 

「はいはい授業中なんだから静かにな。……織斑先生、アリーナ使用の許可をお願いできませんか?……どの道この国家代表候補生さんは、自分の実力が一番だと思ってるらしいので。せっかくです。白黒つけさせていただきますよ。」

 

 反論にもならないだろうけど、セシリアが何かを言おうとするのを遮って、おれも手を上げ、千冬さんにそう言った。

 

「良いだろう。オルコット、この二人がクラス代表になるのがそんなに嫌ならばその実力でねじ伏せてみろ、分かったな?クラス代表決定戦は一週間後とする。それまで準備しておくように!」

 

「……いいでしょう。勝負にならない、一般人とエリートの差を見せてあげますわ。」

 

「……一般人でも、努力すればエリートを超えていくってところ、見せてやるよ。ね、一夏。」

 

「おう!なんだか良くわかんないけど、売られた喧嘩は買うぜ!」

 

 と、言うわけでおれと一夏とセシリアはクラス代表決定戦に挑むことになった。とりあえず総当たり戦で、全勝した人がクラス代表を決定する権利を持つ形だ。これでおれが全勝しても、おれ自身が代表になる事はない。おれにとっても勝つ意味のある戦いだ。

 

 授業も完全に終わり、私は一夏目当てで喧しくなっている教室の中で端末を開き、エクシアの改修状況のチェックを行っていた。一夏のおかげで教室でIS関係の情報整理をしていても誰からも気にされないのは都合がいい……んだけど、なんでこの野次馬たちはそんな離れたところにいるの……。まぁいいや、そんなことより──

 

(全身装甲から部分装甲へと改修した関係でどうにか完全になくなっていた左腕は補修できたけど、元々関節用に作られた装甲じゃないから、少しだけ反応が鈍くなってる。現状まともに仕える武装はGNソードとGNソード/ライフルモード、そして長短のGNブレイド、と、ソレだけか……。このままじゃいろいろ問題は山積みだよぅ。どうにか最適化できればISが自動修復、自己進化で完全な形に戻ってくれるんだろうけど……。)

 

「あ、織斑くん、刹那さん。まだ教室に居たんですね。よかった……」

 

 考え事をしているときに話しかけてきたのは真耶ちゃんだった。私は真耶ちゃんの方を向いて、一夏は教科書から顔を上げた。

 

「あ、はい」

 

「お疲れさまです、どうしたの真耶ちゃん。」

 

「お二人の寮の部屋が決まったんです。ですが……ここで話すと大変でしょうから、付いて来てもらえますか?」

 

 おれと一夏は顔を見合わせて頷いた。野次馬もそれについて来ようとするので、さすがにそれはおかしいでしょ、と思って振り向く。

 

「さすがに人の部屋までついてくるのは感心しないぞ。一夏はたしかに注目されてるかもしれないけど、彼だって一人の人間なんだし、プライバシーぐらい尊重してあげてよ。今日一日で一夏も疲れてるんだよ?」

 

 そういうと、仕方ないと言った様子で野次馬の女子たちが散る。いや、仕方ないとかじゃなくて、なんでそんな常識が欠如してるんだ……すごいな、いろいろ。

 

「……なんか、レンカには世話になりっぱなしだな。ほんと助かるよ。」

 

「気にしなくていーよ。ここに来てる子たちは事前授業でISの基礎知識が習えるような学校に通ってたお嬢様ばっかりだからなぁ。常識とかモラルとかは残念だけど通用しないし、こういうのは常識が備わってるヤツがどうにかするしかないんだよ。先生も一夏に付きっ切りって訳にもいかないからな。」

 

 そう私が言うと、真耶ちゃんが歩くスピードを緩めることなく、前を見たまま話し始める。

 

「はい。その件で織斑先生と私で他の先生方に相談したんですけど、お二人はこのまま同じ寮の部屋で生活してもらう事になったんです。」

 

「あれ、でも俺の部屋決まったなかったですよね。一週間は自宅から通学だって聞いてたんですけど……」

 

あぁ、そういえばそんな風になってたんだったっけ。

 

「はい。レンカさんもかなり特殊な入学でしたので一人部屋の予定だったんですけど、レンカさんが信用に足る生徒だと認識されたのが幸いしまして、どうにか織斑くんも寮で生活できることになったんですよ。」

 

 なるほど、そう言うことか。元々は部屋はあいてなかったんだ。だけど私っていうイレギュラーを寮の部屋に入れるために無理やり部屋替えをして、結果としておれのペアが不在、その隙間に一夏を放り込むことにした、と。まぁ、それが一番安全だな。

 千冬さんとしてもおれを近くに置くのが安全だって思ったのかもしれないし。もし学校を一歩でも出れば『唯一の男性IS適合者』としての情報や細胞なんかを狙われたら、それこそ問題だしね。千冬さんだって二度とあんな目には遭いたくないはずだし。第二回モンド・クロッゾのときみたいにはね。

 

「で、でもそれじゃあレンカが落ち着かなくないですか?そこまでしてもらうなんて悪いですよ……」

 

「それに関してはふたりでちゃんとルールを設ければいい話だよ。気にしないで。」

 

「……ほんと、ありがとうな。レンカ。」

 

「気にしすぎだよ。」

 

 と、会話がひと段落着き「荷物は織斑先生がすでにレンカちゃんの部屋に手配してくれています。お二人が着く頃にはもう最低限のものはそろっていると思いますよ?」と真耶ちゃんが言ってくれて、なるほど、と理解した。と、言うことで一夏が割り当てられた部屋は、もともと一ヶ月前からおれが住んでた部屋であるN-001号室に。

 

「……周囲に人影ナシ。一夏が先に入って。」

 

「……おう。」

 

一夏が先に部屋に入り、そのあとにおれもササっと部屋に入った。

 

「ふぅ……ようやく一息だな。」

 

「本当だよ……マジで大変だった。同じクラスにレンカが居て本当に良かったよ。なんか困ったことがあったら、俺で良ければ手伝うから何でも言ってくれよ!」

 

「大丈夫だよ、たぶん大体のことは私一人でどうにかなるからさ。さてさて、それじゃあルールでも決めようか。って言っても、お風呂とトイレに入るときは必ずノックすること、っていうぐらいかな。」

 

 実力も知識も全て私の方が上だし、イノベイターとして覚醒してる関係で、一般人以上に力はある。だから、これから一夏がどうなるかは分からないけど、きっと力を借りることはない。これまでも……これからも。

 

「え?」

 

「結局のところ、お互いに気をつければ良いだけだからな。それでも一夏が私の裸を事故で見てしまったり、おれが逆にみてしまうこともあるかもだけど、まぁ仕方ないよ。人って完全な生き物じゃないんだから、たまに事故ぐらい起きるしさ、見られたって減るものじゃないんだし。ね?気楽に行こうよ、一夏。」

 

私はそう言って荷ほどきを始めるのだった。

 

「……あぁ、おう。そうだな。」(……なんっつーか、レンカは凄いよな。大人だし、色々割り切ってるし。だけど……男としてみられてないって……ことだよな。)

 

 



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4話『刹那・F・セイエイ』

 一夏のことはよく知ってる。ここに来てからも、保護対象ではあるけど、そんなつもりは無かったのによく話すし、部屋も同じになった。まぁ、いわゆる超鈍感系モテモテハーレム主人公だ。でも、それも普通だとは思わなくもない。普通はあんな大多数の女子から好意を寄せられては疑いたくもなる。総合的にみて、一夏はいい男だと思う。バカだけど。そればっかりじゃ無い。

 

 目の前でちょっと残念そうな微笑みを見せる一夏。今日一日でおれは一夏のことを随分と助けてしまった。淡く好意を抱かれても不思議じゃないとは感じるし、きっとそうなんだろう。自惚れだと思われるかもだけど、私はイノベイターだからね。確証はなくとも、なんとなく人の気持ちや本音の部分はよく分かる。

 

(でも、ごめんね。気持ち悪いかもだけど、私は刹那・F・セイエイが好きなんだよ。創作物のキャラにガチで恋する気持ち悪い、元は気持ち悪いオタクなんだよ。)

 

 ……そう。ここに転生してくるまで、おれはその辺のオタ女子となんら変わらないヤツだった。コミュ障で根暗で当然あの人生の中で彼氏なんて居た試しは無いし、男性向け、女性向け問わずにアニメやラノベを買い漁る日々だった。23歳になる誕生日の日、友達と出かけた帰りに事故に遭うまでは。

 おれが手に入れたのは、劇場版ガンダム00での変異性異星金属体、ELSの侵攻の際の刹那と同じだけの能力。そして、それを転用したIS操縦技術。そりゃ、並のIS搭乗者なんて一般人と変わらないよね。

 

「食事は一年生用食堂が開いてるよ。午後六時から七時までだけど、授業が終わるのは五時にならないぐらいの時間だし、十分間に合うと思う。」

 

「おう……。」

 

「お風呂は好きなタイミングで使ってね。私は大浴場の方を使うからさ。あ、当然一夏は使えないよ?生徒の総数は割と多いし、全員女子だからね。」

 

「分かってる。使えないのはちょっと残念だけどな。」

 

「仕方ないよ。まぁ、いつか使えるようになる日も来るだろ。さてと、私はちょっとエクシア……あぁ、私の専用機なんだけど、それの整備に行ってくるから。」

 

「ん、分かった。」

 

 そうして私は部屋を出てアリーナ付近に備えられている出撃デッキへと足を伸ばしたのだった。

 

「ん、誰だこんな時間に──って、お前さんか。」

 

 誰も居ないかなーなんて思ってたんだけど、業務終了時間になっても訓練機の整備をしていたイアンさんが居た。

 この人は、イアン・ヴァスティさん。この学校にISの整備士として赴任しているおじさんで、知ってると思うけど、本来は“00”の世界の人のハズなんだけど……。まぁ、おれとしては、クラスのみんなよりもずいぶん話しやすい相手だ。

 

「こんばんは、イアンさん。イアンさんも業務は終わってるでしょ?」

 

「ワシはホレ、ISであれ兵器であれ、電化製品であれ、ともかくそういうのに触れるのが趣味だからな。仕事が終われば後は趣味の時間よ。」

 

 そう言ってイアンさんは学園の備品でもある、訓練機のラファール・リヴァイブの整備をしながら話す。

 

「……そっか、でも、あんまり遅くなっちゃダメですよ?ただでさえ男性への目は厳しいんですから。」

 

「こんな話をすると若者には嫌われるかも知れんが、昔の日本はこんな国では無かった。……特に、この10年で日本は大きく変わってしもうた。……っと、いかんいかん。お前さんは何しにきたんだ?」

 

「……ちょっと、一人になりたくて。」

 

「そうか、お主らは多感な時期じゃ、ゆっくり考え、悩み、答えを出すといい。ではの、気を付けて部屋に戻るんだぞ。」

 

「はいっ、ありがとうございます、イアンさん。」

 

 イアンさんが工具箱や端末を持ってデッキから出るのを確認してから、私はショルダーバックから携帯灰皿とタバコ、ライターを取り出す。あ、もちろんこの世界でのおれの年齢でこんなことしちゃダメだよ?良い子のみんなは真似しないでね。

 

「……。」

 

 残念だけど、元居た世界では23歳だったしお酒もタバコも良かったけど……いや。まぁ成人する前から嗜んでたけどね?……この世界のおれは残念ながらまだ高校一年生だし。こうやって匂いの紛れそうなところで一人になるしか方法がない。千冬さんはもう知ってるけど。

そんなことを、登っていく紫の細い煙を見ながら考えながら思い返していると、ひょいっと口にくわえていた日のついたタバコを取り上げられかけて、それを回避する。

 

「……千冬さん」

 

「いい反応だな。それで、こんなところで何をしてるんだレンカ。」

 

 千冬さんが私をレンカって呼ぶ時は、仕事モードじゃない時だから、きっと教師としてここに来たんじゃないんだな、と感じる。

 

「……ストレスの発散ですね。」

 

「……そうだろうな。」

 

そう言っていつものスーツを脱いだカッターシャツ姿の千冬さんは私の隣に座った。裾もスカートの外に出しているし、完全にオフモードだ。

 

「一本もらえるか?」

 

「良いですよ。」

 

 私は箱から一本だけタバコをはみ出させて箱を差し出す。

 

「すまないな。」

 

 そう言って千冬さんは受け取った一本のタバコを咥え、こちらに顔を近づけてくるので、私が咥えているタバコの火をその火のついていないタバコの先端に押しつけてあげると、千冬さんは少しだけ強く吸って火をつけた。

 

「……。お前と話していると、やはりレンカの中身は高校生では無いんだな、と思わされる。……ふぅ。」

 

 そう話しながら煙を吐き出す千冬さんはとても絵になっていた。クールな女性とタバコ、もしくはウイスキーなどの酒は非常によく映えるなと思う。前世のおれでも、そうは行かない。

 

「そんなことありませんよ。高校生の傲慢な態度が許せなかったおれも、大人げない子供で……それに、おれの本来の年齢であってもまだ千冬さんのほうが年上ですから。」

 

「これは私の勝手な評価だ。お前がどう思おうが、私の評価は覆らん。」

 

「……千冬さんらしいですね。」

 

 互いにテンポ遅めに、タバコの煙を吐き出しながら会話を紡いでいく。

 

「……お前は、どうしたい?元の世界に帰りたいか?」

 

「いえ。もうあの世界は大丈夫ですよ。みんな、分かり合うことができましたから、戦争が起きるのも、ずっとずっと先のことだと思いますし。……地球を守るためにとてつもなく不利な状況下で戦い、限りなく結束したんですから。」

 

 私がやったことじゃ無いけど、それでも、あの世界はもう大丈夫。刹那たちがいるんだから。

 

「……そうか。……確かに言っていたな、歪みを断ち切る──未来を切り開くと。お前は、それを成し遂げることができたんだな。」

 

「……はい!」

 

私は、きっと笑顔だったと思う。

 

 

────────

 

 

 ……しばらくしてレンカが部屋に戻ると、疲れていたのか一夏は随分と深い眠りについていた。

 

「……。疲れてたんだね。」

 

 レンカは努力をする男は嫌いでは無い。はたから見ればただ運命に踊らされてIS学園に入学しただけの珍しい男、という認識でしか無いかもしれないが、一夏はこの女尊男卑社会に一石を投じる可能性のある存在だ。クラスでは一夏の容姿が良い事や、千冬の血縁者であることも加味して随分と注目を浴びていたが、すべての人間が一夏を良く思っているわけではない。そんな視線の中を一日くぐり抜けたのだ。努力、と言ってもいいだろう。

 

「お疲れ様。」

 

 制服を脱いでハンガーにかけ、荷物の中からロング丈のパーカーを引っ張り出して下着の上に着る。レンカの転生する以前からの寝巻き姿だ。

そのレンカが優しく一夏の頭を撫でた。

 

(一夏は現在の女尊男卑社会っていう歪みを断ち切ってくれるかもしれない男の子だ。ただ、今はまだ未熟だし、おれがしっかりしないと。本来の世界みたいに仲間に恵まれるかどうかもわからない。あの世界はフィクションだけど、いまおれがいるこの世界は……現実だ。そう簡単に行くとは思えない。)

 

「……守るから。」

 

 しかし、レンカのように考える生徒が居ない訳ではない。レンカはその歪みを断ち切る可能性を良いものだと考えているが、誰しもがそう思っている訳ではない。

 IS学園は女性の花園だ。女性権利団体のような思想に染まっている生徒も、少なからず存在するだろうことは想像に難くないし、一夏はそう言った思想の女性からは『敵意』という形で注目を浴びるだろう。そんな存在から一夏を守るために──この世界を覆す可能性を消させない。そのために自分はこの世界に転生したんだと、レンカは考えていた。

 

「……ぅ、ん、母さん……?」

 

「なーに寝ぼけてるんだ、一夏。」

 

「あ、レンカ……。ごめん、なんか、すごく優しい暖かさだったから……。」

 

「ふふっ、こんな大きな子、要らないかなー。」

 

「……分かってるよ。」

 

 フイッとレンカから顔を背けて頬を染める一夏。段々と目の前に居る、黒く長い癖毛を持った、凛々しく強く、子どもっぽいのにどこか大人の雰囲気を持つ少女に惚れていくのを、一夏は自覚していた。

 

「ごめんね、起こして。」

 

「いいって、そんなの。それより心配してたんだぞ、なかなか帰ってこなかったし。」

 

「ごめんごめん、もう寝ようか?明日も朝早いしな。」

 

 そうしてレンカも自分のベッドに入り込み、寝息を立てる。一夏もレンカという、惹かれた女性がいる事を意識しつつも、疲れている体の睡眠欲に勝てるはずもなく、安らかな寝息を立てるのだった。

 

 

────────

 

 

「……ん、う、ここは……?」

 

「……ここはガンダムの中だ。」

 

 真っ白な世界の中で、レンカは一人立ち尽くしていた。そこに声をかけたのはレンカもよく知る声だった。

 

「ッ?!あ、あなたは……!!」

 

振り返ればそこにいるのは、自分が恋焦がれてやまない存在、自分にこの力を与えたであろう、存在。本来のガンダムエクシアのガンダムマイスター……

 

「 俺は刹那。刹那・F・セイエイ。ガンダムだ。そして、歪みを断ち切り、世界を正そうとするお前もまた、ガンダムだ。どういうことか分からないが、お前は今俺と同じ力を持っている。イノベイターとして変革し、世界に変革を促すガンダムマイスターとして、世界に立っている。この世界もまた、歪んでいる。」

 

「……そう、ですね。」

 

「言葉を正す必要はない。お前もガンダムだ、俺はお前受け入れる。……この世界に、俺は介入する術を持たない。だからお前に託すこの世界に変革を。正しい世界へと導いてくれ。来たるべき対話の為に。」

 

「来たるべき……対話……。この世界にもELSが?!」

 

「それは分からない。だが、俺たちとは違う何かが、その世界にも訪れる。GNドライヴ、トランザム、イノベイター……。イオリア・シュヘンベルグは来たるべき対話のために作り出されたものだ。その世界にガンダムが居るならば、来たるべき対話もまた訪れる。だが、忘れるな。俺はお前を信じている。」

 

「刹那……」

 

「次にエクシアを起動するとき、お前は変革する。そこには、俺と、お前と……ガンダムが居るのだから。」

 

そう言ったとき、急速に刹那の姿が遠ざかっていく。

 

「?!ま、待ってよ刹那!私は、私は貴方が!!」

 

「……気持ちは伝わっている。俺もお前もイノベイターであり、ガンダムだ。いつか必ず会える。葛城レンカ。」

 

その言葉を最後に、レンカは目覚める。

 

 

────────

 

 

「待って!!刹那!!」

 

「うわぁ!!びっくりした!ど、どうしたんだよレンカ。そんなに飛び起きて……しかも、刹那って……レンカの名前だろ?」

 

飛び起きたレンカに声をかけたのは一夏だった。

 

「……あ、うん。ごめん……会いたかった人に、私にこの名前を授けてくれた人に夢の中で出会えたから。離れたくなかったんだけど……」

 

「名前を授けてくれた……人?」

 

一夏の疑問にレンカは答えることなく、深いため息をつきながらも制服を手に持って浴室へと向かった。

 

「……起きちゃったものは仕方ない……また会える保証もないけど……。あの人はおれを信じてくれてる、私ならこの世界を変えられるって、託してくれたんだ。それじゃあ着替えてくるよ。」

 

夢の中で刹那が放った言葉は、レンカの決意に火をつけていた。熱く、激しい炎のように、その決意は燃え上がろうとしていた。

 

「……?名前を授けるって一体……。レンカは、何を隠してるんだ……?」

 

 そんなこんなで、学園生活二日目が始まるのだが、特筆することは何もない。入学して一週間程度では一夏や他の専用機を持たない生徒はアリーナの使用許可は下りない。時折一夏がエクシアを身に纏うことはあったが、一夏ではGNドライヴの超高性能をうまく御しきることができず、かなりの性能に振り回される事になっていた。

 結果としてその一週間はISに乗り込み、その負荷に耐えるために体力トレーニングを行い、射撃などしたことの無い一夏に再び剣術を教えるために箒が力を貸し、基礎知識はレンカが叩き込み、あっという間に時間が過ぎ去っていき……そして、今日。クラス代表決定戦が行われることとなったのだ。

 レンカ、一夏、セシリア、箒らが所属する一組の生徒たちは既にアリーナの観戦席に移動しており、レンカたちの出撃を待っていた。逆にその四名は出撃デッキにて戦闘開始のタイミングを待っていた。

 

「逃げなかった度胸だけは褒めて差し上げますわ。刹那さん、織斑さん。」

 

「言っただろ、売られた喧嘩は買うって。ISにはあんまり乗れなかったけど、レンカも箒も力を貸してくれたんだ。負けるわけにはいかない。」

 

 二人の視線がぶつかり火花を散らすが、レンカは静かに一人それを気にすることはなかった。ただレンカが乗り込むのを待っているエクシアに触れて目を閉じ、集中力を高めていた。箒もそのレンカの側にいた。

だが、そうとも知らないセシリアはレンカを挑発するように近づいて声をかけてしまった。

 

「あらあら、緊張して私の事を見ることも出来ませんの?」

 

その言葉を発した瞬間、まだ乗り込んでもいないエクシアがひとりでに動き、完全とは言えないまでも、しっかりと修復されて剣の形に戻っているGNソードがセシリアに向く。

 

「ひっ!?な、なぜ乗り込んでもいないISが……!」

 

「……いいんだよエクシア。大丈夫。」

 

そんなエクシアを宥めるように、レンカは優しくエクシアの装甲を撫でる。

 

「……セシリアさん、私は一人じゃ無いんだよ。私とエクシアは二人で一つの……ガンダムだ。あまり嘗めないでよね。」

 

「ふ、ふん!強い言葉を言ったところで、所詮貴方のISは近接型。私のブルー・ティアーズには敵いませんわ!」

 

 セシリアはそう言ってISに乗り込み出撃の時を待っていた。そのタイミングで千冬が言葉を発する。

 

「まずは織斑とオルコットの戦いだ。気を引き締めて行け。レンカは戦いの状況は見ないように。」

 

 千冬の言葉にそれぞれが返事をする。ガンダムの伝説が始まろうとしていた。そして、それは千冬も望んでいた事だった。自分と、自分の親友のせいで出来上がってしまったこの世界の大きな歪みを正せる、圧倒的な力を持つ存在が居ると言う証明をしたかった。ガンダムには最早、レンカと刹那の使命だけではなく、千冬の願いも乗せていた。

 

「織斑とオルコットは出撃だ!」

 

「分かりましたわ、セシリア・オルコット。ブルー・ティアーズ、行きますわよ!」

 

そう言ってセシリアはデッキから飛び立って出撃して行った。

 

「済まないが、初期化と最適化は間に合いそうも無い、どれだけの時間がかかるかも分からん。実戦で行ってもらうことになるが……。」

 

「任せてよ千冬姉。これでもレンカと箒にみっちりしごかれたんだ。うまくやってみるさ!」

 

 一夏の為に開発された専用機、白式。今まで千冬が乗ってきたIS、暮桜に似たISであり、単一能力を有する三世代型ISである。その白式を纏い、一夏は飛び立つ。

 

「……なぁレンカ。一夏は勝てるだろうか。」

 

「無理だというのは簡単だが、相手は慢心していようと、仮にも国家代表候補生だ。だが、奴は努力していた。信じるしか無い。」

 

 どこか本家本元の刹那・F・セイエイのような口調になったレンカは、ただ戦いの行く末を見守ることも出来ず、自分が戦場に出向く時を待つ。結果として言えば、一夏は敗北した。しかし、1どころか0からのスタートだった一夏は意外にもセシリアを追い詰めていたのだ。そこでセシリアは慢心を無くす。次に戦う相手、レンカは専用機を持ち、曲がりなりにも千冬に認められるほどの実力を有しているのだから。



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5話『エクシア・リペアⅡ』

一夏とセシリアの試合が終わり、セシリアには一時間の休息が与えられていた。その間、一夏と箒はレンカの傍にいた。

 

「すまない、レンカ。確かに私とお前で一夏を特訓したのだし、私が言うのもおかしな話だとは分かっているのだが、それでも頼みたい。一夏の仇を取ってほしい。」

 

 最初にレンカと出会った頃の箒はレンカを毛嫌いしていた。自分のように素直になれない、という事もなく、どこまでも自分に正直に生きていけるレンカの姿がどこまでもまぶしく、うらやましかったから。

しかし、一夏を特訓すると言う名目で箒は一夏とレンカと共に居る時間を増やし、嫌いだとはもう二度と言えないだろうほどの信頼を寄せるまでになった。それはまた後々語ることになるだろう。つまり、本来ならこんな事を頼むような性格はしていなかった、と言うことになる。

 

「んー。それは嫌かな。」

 

しかし、必死の思いで頼み込んだ箒の願いを、レンカは聞き入れることは無かった。

 

「な、なんだと?」

 

胸倉を掴むほどの勢いで迫る箒の手をレンカは軽く打ち払い、言う。

 

「……憎しみや仇討ちをしたくなる気持ちは、おれも人間だし、分かる。だけど、それは新しい争いの火種になる。仕掛けてきたのは向こうからだとか、仲間や家族が殺されたからとか。確かにそれらしい理由かもしれない。だけど、それじゃ何も解決しない。おれは、この戦いで私と一夏の気持ちを伝える。そのために、行くんだよ。」

 

「……それは綺麗ごとだ、お前だって人を憎むことだってあるだろう!」

 

「そうだね、それでも、世界を変えるのは憎しみの刃じゃないから。一夏、箒。行ってくるよ。」

 

「ま、待て!」

 

「箒!!俺の事は良いんだよ!……頑張れよ、レンカ。応援してるから。」

 

「任せて。」

 

 一夏がそう送り出すその言葉を聞きながら、レンカは部分装甲になってしまい、まだ最適化の済んでいないエクシアに乗り込んだ。

 

「エクシア。刹那・F・レンカ……未来を切り開く!」

 

その言葉と共にピットゲートが解放され、シールドエネルギー供給用ケーブルが接続解除される。その瞬間にエクシアの背部に取り付けられた太陽炉内部が回転を始め、淡く優しげに輝く緑色の粒子がISの保管庫に舞い、エクシアはアリーナへと飛び立っていった。

 

「……来ましたわね、刹那さん。」

 

「オルコットさん。戦う前に聞いてほしいことがあるんだ。」

 

「なんでしょう。ハンデを設けてほしいとでも仰るつもりですか?」

 

「もう、そうやってすぐに人の事挑発しないほうがいい。今からセシリアはおれと戦う訳だけど、おれの力はおれだけのものじゃないんだ。名前も、力も、能力も……全てを授けてくれた人。刹那・F・セイエイという男の人が、くれたもの。だから、もし私が君に勝つことが出来たなら、今の君の中にある、男性は情けない生き物だって考えを、変えてほしい。急に変えていくのは無理だと思うけど──」

 

 レンカがまとまらない言葉のまま伝えようとしている最中、それを遮るようにセシリアは言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫ですわよ。刹那さん。先ほどまで戦っていた織斑さん。彼は思った以上ですわね。確かにまだまだ実力は足りていませんけれど、はるかに格上であるはずの私を驚かせるほどには強かった。淀みないその瞳に強さが宿っているのもみました。ですから、安心なさいな。」

 

 レンカが伝えようと思っていたことは、一夏が自力で伝えていたことをレンカは知る。それを聞いたレンカは優しく微笑む。

 

「そっか……一夏は強くなってたんだね。なら、安心かな。」

 

「それでも、貴方がそれほどに大切に思う方の力、気になりますわ。織斑先生と戦い、あの方に楽しいと言わせるほどの実力なのでしょう?」

 

「買い被り過ぎだけど、そうだね。本人の言葉を否定するほど、私もひねくれてない。全力で戦おうか、セシリア!」

 

「ええ、行きますわよ!レンカ!」

 

 セシリアは自身よりも巨大な狙撃銃であるスターライトMK-3を構え、レンカも右手に装備された実体剣・ビームライフルとシールドを組み合わせた、刀身を折りたたむことができる複合兵装……GNソードをライフルモードの状態で構える。

 先に攻撃に出たのはセシリアだった。セシリアが搭乗するISはブルー・ティアーズ。遠距離特化仕様のISでありながらも機動性も確保されており、更には彼女自身の狙撃能力も高く、非常に高性能だ。スターライトMK-3から吐き出された高出力ビームがエクシアに迫る。

 

「食らいなさい!」

 

 しかし、そのビームは当たることは無い。エクシアは最小限の動きだけでそれを回避、そのままライフル向けて、一射。その射撃を回避するコースを予測し、そこに向けての三連射。合計で四連射だ。

 ライフルモードの射程は他のISの射撃武装に比べても射程は短く、出力も低いが、だからと言って当たっていいわけでも無い。

 

「ッ!?──くっ!」

 

 まさか回避した先にビームが飛来するなどとは思っていなかったセシリアは少ないながらもダメージを受けるが、それで立ち止まっているセシリアではなく、セシリアも負けじとエクシアに向かって撃ち続ける。適当?とんでもない。その一射一射はすさまじい精度を誇っている。ただ……

 

(なぜ……!なぜ当たりませんの!?)

 

 レンカには当たるどころか掠りもしないのだ。残念なことに、彼女とレンカの間にある実力差というのはあまりにも大きかった。とはいえ、何度でも言うがセシリアの射撃は正確だ。それゆえに近接型の機体であるエクシアは決定打を与えることができなかった。

 

(正確な射撃……弾幕も濃いから無暗には近づけないな。どうするかなぁ。はぁ、仕方ない……)

 

 レンカは意を決したようにGNソードの接続を解除、そのまま地面に投げ捨てた。

 

「な、なにを……!」

 

 セシリアが訊ねるが早いか、レンカは腰部に装備されているGNロング&ショートブレイドを二本とも抜く。

 

「手早く決める!!」

 

「させませんわよ!!」

 

 セシリアはさらに動き回りながらも連射の速度を速め、エクシアを接近させまいとするが、レンカは驚きの行動に出た。

 

「ハッ!!」

 

 凄まじい電撃音と発光。レンカは長短の実体剣を正確に振るい、スターライトMK-3から放たれるレーザーをすべて斬り飛ばしていた。

 

「な、なんですって!!」

 

 その光景を見て居たのは何もセシリアだけではない。アリーナには多くの一組の生徒が訪れていし、出撃デッキ付近では一夏と箒もその戦いを見守っている。

 

「すげぇ、レンカ……」

 

「ああ。まさか……あれほどの技量を持っているとは思っていなかった。」

 

「……でぇぇぇええあ!!」

 

 移動する先のレーザーを消すことができるなら、接近も容易くなるのは道理であり、レンカはその刃がセシリアに届くところまでたどり着く。その切先はブルー・ティアーズが持つスターライトMK-3を切り裂き、爆発をおこす。

 

「きゃああっ!!くうぅっ!い、インターセプター!!」

 

とっさの判断でセシリアは近距離戦闘用のショートブレードであるインターセプターを取り出し、エクシアから振るわれた剣をなんとか防ぐ。

 

「く、うっ!!離れなさいな!!」

 

 そうセシリアが叫び、ブルー・ティアーズの腰部からミサイルが発射される。

 

「……!」

 

 レンカは瞬時に鍔迫り合いの状態を解き、後方に下がって追尾してくるミサイルを切り落とした。

 

「確かに貴女は恐ろしいほどに強いですわ。ですけど、これならどうでしょうか!!」

 

そう言って両肩部のビットベースからどこかガンダムサバーニャを思い出しそうなライフルビット、名称『ブルー・ティアーズ』が四つと腰部から二つのミサイルビットが射出され、全方位からの弾幕攻撃が開始される。

 

(来た……!おれに力を貸してくれ、エクシア……刹那!)

 

 レンカはさらに高速で正確に剣を振るい、直径200mしかないアリーナ内を所狭しと飛び回りながらレーザーもミサイルも切り捨てていく。

 

「くそっ、アリーナが狭すぎる……!」

 

 搭乗者の死亡を防ぐために、ISには絶対防御というシールドエネルギーを大きく削る欠点があるものの、すべての攻撃を受け取ると言う機能がある。当然この世界においてはエクシアもISであるためそれが働き、なおかつ太陽炉によってシールドエネルギーは無限に作り出される関係で、多少の被弾は問題がないのだが。レンカは現在の「エクシアがダメージを受けることによってふたたび破損する」のを恐れていた。

 篠ノ之束の協力を受けつつ、レンカなりにエクシアを修復したつもりではあるものの、元々片腕と片方のメインカメラの欠損、GNソード、右膝部など、多くの箇所が破損した状態でやってきていたため、自動修復機能があるISだが、残念ながらエクシアにそれが働くことは無かった。故に完全な修復には至らなかった急増のエクシアでは、一撃の被弾も許されない状況下にあった。

 

(!!し、しまった!!)

 

 絶え間なく迫り来るレーザーとミサイルを回避、ないしは切り伏せたレンカだったが、そんなとてつもない集中力が長時間続くはずもない。さらに、一夏との戦いの時のようにセシリアは慢心しているわけでも無く、全力でレンカに攻撃を仕掛けている。長く続いた防戦により、レンカは一瞬の隙を突かれた。

 

「やりました!!直撃ですわ!!」

 

 迫るミサイルを回避することも切り飛ばすこともできなかったレンカはその直撃を受け、大きな爆発がエクシアを包んだ。

 

「レンカーーーっ!!」

 

「レンカ!!」

 

 一夏と箒はレンカを名を叫ぶが、当然ながらレンカからの返答はない。と、その時だった。爆発の黒煙の中から、未だに緑色の粒子が溢れ続けている。しかも、その粒子の量が急激に増え始めていた。

 

『──最適化が終了。一時移行を完了した──』

 

 その音声は若い男の声で、アリーナ内にやけに大きく響いた気がした。その時だった、ブゥン!と重い風を裂く音と共に黒煙が振り払われ、そこには先ほどまであったエクシアとレンカの姿は無く

 

「……」

 

 全身を青と白を基調にしたトリコロールの部分装甲に覆われた、新たなISが存在していた。先ほどまでのエクシアと見た目に大きな差はないが、急造品と言った様子のエクシアが、今は新品同様に輝いていた。どこか継ぎ接ぎだった様子もなく、その腕には再びGNソードが接続されており、刀身が『粒子熱変換伝導素材』──つまり、GN粒子と同じ色をした透き通るクリスタル状のものに変化した“GNソード改”へと変貌を遂げ、先ほどまで握っていたGNロング/ショートブレイドは消え、それらが装着されていた腰部のラックには束では再現しきれなかったGNビームサーベルがあった。

 

「その、姿は……?」

 

「ようやく最適化が終わったよ。まったく。」

 

「な、なんですって!?織斑さんもそうでしたが、貴方までフィッティングが終わっていなかったと言うのですか?!」

 

「まぁね……ここからがおれの全力。ごめんな、セシリア。」

 

「な、なにを──」

 

「『TRANS-AM(トランザム)』始動!!」

 

 レンカの叫びに呼応して、エクシアは……いや、エクシアリペアⅡは、トランザムシステムを起動する。太陽炉本体及び機体各所に組み込まれている、蓄積されたGN粒子を高濃度圧縮し、それを粒子として全面開放することで、機体装甲及びGNコンデンサーから放出される粒子の色が赤く変化し、一定時間そのスペックを3倍に引き上げる。また発動中は発光が強く、残像が生まれるほどの高速機動が可能となる。

 

「な、なんですのその姿は……!」

 

「後で答えるよ。いまは、終わらせる!!」

 

 ヒュオン!と高い音が響き、エクシアの姿がかき消える。その場に一瞬だけエクシアの残像が残っていたが、その動きを誰も捉えることはできなかった。

 

「え──」

 

 その困惑の声は果たして誰のものだったのか、一夏か、箒か、セシリアか、はたまた全員が発したのかもしれない。刀身を新たにしたGNソードによって一閃されたブルー・ティアーズは絶対防御を発動せざるを余儀なくされ、シールドエネルギーは一瞬にして消滅した。

 

『試合終了。勝者、刹那レンカ。』

 

 そのアナウンスが響くと同時にエクシアのTRANS-AMも終了し、エクシアはゆっくりとアリーナの大地に降り立ったのだった。セシリアを優しく抱いて……

 




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6話『ガンダムマイスター』

 それから、本格的にISを用いた実習の授業も盛り込まれるようになって行った。あぁ、結論で言うならクラス代表は一夏になったよ。セシリアもおれの気持ちを理解してくれた。良き理解者ってやつかな。

 

 今の女尊男卑の世界を覆す、歪みを断ち切る剣になるだろう存在。いまはまだ淡い輝きだとしても、きっと世界を照らす光になってくれるって思ってる。とまぁそれはさておき、今おれと一夏が一緒に暮らしている部屋に数名やってくる手筈になっている。

 

 まず新顔さんから紹介しよう。『布仏本音』さんだよ。通称のほほんさん。間延びした口調と袖を余らせるように改造された制服が印象的な女の子で、見たところかなり着痩せするタイプみたいだ。

 

「おじゃまするよー、せっつー、おりむー。」

 

「こんにちは、のほほんさん。」

 

「やあ、わざわざ来てもらって。ありがとうね。」

 

 人が集まるという事で、おれのベッドに一夏と私が腰掛けてて、本音もおれの隣に腰掛けた。

 

「お邪魔しますわね。」

 

「邪魔するぞ、一夏、レンカ。」

 

 次にやってきたのはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットと一夏のファースト幼なじみ、篠ノ之箒だ。

 

「いらっしゃい二人とも。」

 

 一応生徒はこれで全員だ。あとは……

 

「む、もう集まっているようだな。」

 

そう、我らが一組の担任教師、織斑千冬さんだね。

 

「すみません、お呼び立てして。」

 

「なに、構わないさ。それで、レンカから話があると聞いているが、なんの話だ?」

 

「はい。集まってもらってすぐで申し訳ないんですけど、アリーナの方に出ても大丈夫ですか?」

 

「む。良いだろう。」

 

今日は休日ということもあり、生徒の姿はまばらで、アリーナの使用申請もあまり来ていないらしくて、ちょうど良いのでそこで話をすることにした。

 

「エクシア。」

 

 待機状態のエクシアを起動する。おれのすぐ後ろにISと同じ大きさまで縮小されたエクシアリペアⅡがあらわれる。やっぱり部分装甲のままみたいだ。全身装甲が良かったんだけど、こればかりはね。

 

「……エクシアか。」

 

「千冬さんは知ってることも多いですけど、改めておれの話をしたいって思って、みんなには来てもらったんだ。──おれは西暦2314年から来た、未来の人間なんだ。」

 

「に、2314年??」

 

 一夏はおれが突拍子もないことを言い出したからびっくりしたように呟いていた。ま、普通じゃないもんね。分かるけど、みんなと接していく上で絶対に話しておきたい内容ではある。レンカとしてではなく、ガンダムと、刹那としてのおれを。

 

「うん。このエクシアも元々はガンダム……。18メートル級の人型機動兵器、モビルスーツって呼ばれるものだったんだ。この世界にやってきたときに、どういうわけかエクシアはISになってたんだけどね。ただ、この世界はたぶん2314年になっても、おれたちのいた世界のようにはならないと思う。ま、それはともかく。おれはこことは異なる世界で、なおかつ未来からやってきたんだ。」

 

「別世界の、未来から……ですか。とても信じられませんわ。」

 

 セシリアは訝しげな様子だけど、私は構わず話を進める。

 

「……でも、このエクシア、みんなにはIS以上に分からないことも多いでしょ?それを、みんなにはおれが分かっている範囲で説明しておきたいんだよ。」

 

 おれがそう言うと、みんなは口を噤んだ。

 

「まず、エクシアに搭載されている最大の稼働エネルギー。GN粒子がある。あの緑色の光の事ね?それは機体背部に搭載されている半永久機関、GNドライヴ。太陽炉とも言うんだけど、それから生み出されてるんだ。それをエネルギーとして動いていたのがモビルスーツ時代だね。今はシールドエネルギーに変換してるみたいだけど。」

 

「シールドエネルギーに変換だと?!半永久機関から生み出され続けるシールドエネルギー……実質無敵と言っても良いんじゃないのかそれは。」

 

 箒はそう言う。確かにそうかもしれないけれど、そこまでのものじゃない。高性能だし、確かにこの世界に現存するISから考えればオーパーツもいいところだけどな。

 

「ただ、太陽炉は普段粒子製造量にリミットをかけてあるから、一定時間内に生み出せる粒子量は決まってるからね。」

 

「む、それではあの赤い輝きはなんだったんだ?私たちでは姿すら捉えられなかったが?」

 

 箒の続けての質問には感心する。そう。太陽炉だけではとてもじゃないけどガンダムは運用できない。

 

「それはこことか、アレとかを見てほしい。」

 

 粒子と同じ色をしているクリスタルのように透き通ったパーツがある。

 

「戦闘に於いても、粒子を多く使う場合とほとんど使わない場合があるよね、その余った粒子を一定量貯蔵しておくことと、胸部中央、両脚部、両碗部側面等、各部位に最適な圧縮率に調整して備える役割を持つGNコンデンサーが基本設計として存在するの。」

 

「分かった、ではあの赤い光……レンカは『TRANS-AM』と言っていたな、アレはそのGNコンデンサーに貯蔵されている、そのGN粒子とやらを多く使って起動するシステムというわけか。」

 

 おれの説明から、TRANS-AMの機能を予測して当ててくる。さすが千冬さんだね。すごいよ、ほんと。

 

「さすが千冬さん。その通りです。」

 

「しかし、先ほどから殆どの装置や武装にGN、とついているが、そのGNと言うのは何なのだ?」

 

Gundam Nucleus(ガンダムの中核)と言う意味です。意識を伝達する新たな原初粒子である『GN粒子』と、その粒子を製造する半永久機関『GNドライヴ』……この基礎理論を構築したのが、私たちの世界の天才科学者、イオリア・シュヘンベルグでした。』

 

「ふむ。ガンダムの中核、か。で、そのガンダムというのは?」

 

 千冬さんはガンダムがただのモビルスーツの呼び名だ、とは感じなかったみたいだ。うん、そうだ。00の世界において、ガンダムはソレスタル・ビーイングが運用するモビルスーツの総称なんて意味じゃない。

 

「おれは『世界平和』だと思っています。さっきも言いましたが、GN粒子は意識を伝達します。誤解なく、距離も壁も全てを取り払って人と人とが分かり合える可能性なんです。世界の歪みを断ち切り、未来を切り開く力……それが、ガンダムです。イオリアは『宇宙進出した場合に外宇宙で異種の生物に遭遇するだろう。それ迄には人類がある程度は意志統一している必要がある』と、そう言っていました。」

 

「……そうだな。元々ISも宇宙進出のために作り出されたパワードスーツだった。そのために必要なのは、こう言ったものなのかもしれないな。束が聞けば喜んだだろう。束が最も求めたものは、こう言ったものなのかもしれないな。」

 

 千冬さんは寂しげに、そして悲しげにそう呟きながら、エクシアの姿を見つめていた。

 

「……ガンダムには、いろんな人の優しい願いが込められてるんだな。なんか、そんなふうに感じるよ、俺。」

 

 一夏もエクシアを見つめながらそう呟いていた。

 

「一夏、おれはこのガンダムで世界を変えるよ。男とか女とか、そんなのが関係ない世界に。いつかISが争いのためじゃなくて、本当に宇宙進出のために使われ始めたときに人と人が争ってたら、この世界が本当に異種の存在と出会ったとき、また争いになってしまう。そんなこと……誰も求めてないよ。今必要なのは世界に変革をもたらす可能性、ISが女性にしか扱えない、そこから生まれた女尊男卑の世界と、そうしてしまった束さんの後悔を切り開く可能性が、きっと君なんだ。」

 

「……俺に、出来るかな。」

 

 一夏は不安げに俯いた。世界を変え、変革を齎す。確かにスケールの大きな話だし、実現できるかどうかもわからない。不安になる気持ちはわかる。

 

「大丈夫だよ、セシリアや箒もきっと手伝ってくれるよ。ね?」

 

「もちろんですわ。」

 

「ああ、当然だぞ一夏。私とて今の話を聞いて他人事では居られない。私もお前がこの世界を変えるという意志があるのなら、協力する。」

 

「な?当然おれも手伝うよ。そのためのガンダムなんだから。」

 

「みんな……分かった。俺にできるかは分からないけど、色々やってみるよ!まずは……」

 

 特訓だ、という結論に落ち着いた。

 

「……よし、それでは私は執務に戻るぞ、レンカはどうするんだ?」

 

「おれは、まだ学園のことしか知りませんし、外を散策しようかと思ってます。」

 

「そうか」

 

「はい。それじゃあね、みんな。また明日!」

 

 そう言っておれは部屋に私服を取りに戻る。その私服っていうのも、ガンダム00の1stシーズンの刹那が来ていたものにかなり近い。なんだか私物のほとんどが刹那っぽいんだよね……好きだから良いけど。ま、そんなこんなでお外に出てきていた。

 

「……それにしても、ISっていう超テクノロジーがあるにしては、街の方は普通というかなんというか……。」

 

「せ、刹那?!」

 

街を練り歩き始めて1時間ほど経過した頃、どこか聞き覚えのある声で呼ばれた気がして振り向くと、そこには……。

 

「……お、女の子……?あ、あぁわりいわりぃ、なんか、俺の知ってる人と似てる気がしてなぁ。男と間違うなんて失礼だよな」

 

「ニール・ディランディ…?」

 

「っ!俺を、知ってるのか?」

 

 ガンダム00の1stシーズンの終盤にて死亡してしまったガンダムマイスター、射撃の名手……ロックオン・ストラトスの姿がそこにはあった。な、なんでこんなところに!?

 

「……あ、う。ここじゃ話し辛いなぁ……とりあえず、なんか困ってるみたいだな。移動しようか?」

 

「ああ。悪いけど頼む。まさか俺を知ってくれてる人が居るとは思ってなかったぜ。はは、前世の行いがよかったかな?」

 

 そうニールが言った時、ニールのお腹から大きな虫の鳴き声がした。まともに何もありつかなかったのかもしれない。女尊男卑の世界だ、ニールの養子でも苦労は絶えなかったのかもしれない

 

「ロックオン、ひとまずはご飯でも食べようか?」

 

「悪いな……」

 

 

────────

 

 

「……刹那の格好した女の子で、俺のことを知ってる……か、なんだかエラい混み合った事情がありそうだな、こりゃ。」

 

「そういうことになるのかな、一応。」

 

「詳しく、話してもらえるか。」

 

 おれは自己紹介と共にニールにこの世界に来たときのことを話した。刹那の力を受け継いだこととか、いまこの世界に普及してる力に変化したガンダムに乗ってることとか。

 

「……男より女が偉い世界で、俺たちの世界で言うモビルスーツには女しか乗れなくて、乗れもしない女たちが男を顎で使って、か。歪んでるな、確かに。で、そのなんだ?IS?ってのは宇宙進出のために開発されたんだろ?……今は戦いの道具でもいつかは……結局はイオリアの計画に行き着くわけか。」

 

「うん、そうなる……かな。」

 

 おれとニールはカラオケボックスの個室で歌も歌わず、ニールはご飯を食べながら、おれの話を聞いていた。

 

「……それにしても、刹那の力と、刹那に似た女の体を持ってて?でも中身は別人の女の子で……元々俺たちが居た世界が漫画の世界だったって?……訳わかんねーな……。」

 

 いきなり別世界に飛ばされて、しかもそこにガンダムはなくて、男の人には生きづらい世界で、自分を知ってる人がいないと思ったら今度は自分をアニメや創作の世界のキャラクターとして認知してる人物と出会って……ニールは苦労人だね……。お、おれが悪い訳じゃないし!!

 

「ごめんな、色々無茶苦茶言って……。」

 

「あぁ、別に構わねえよ。サーシェスの野郎との戦いで死んだはずの俺が、今こうして別世界でも生きてるんだ。効き目も生きてるし、それに俺のことを知ってる奴にも奇跡的に会えたわけだしな、幸運も幸運。しかも、刹那に似てるってのはちょっと複雑だけど、出会った子が随分美人だしな。」

 

「へっ?び、びじ……そ、そんなことないだろ?!!」

 

「あっはははっ、そんな焦らなくてもいいだろ?……それにしても、ガンダムか。──今度は武力介入でどうにかなるって訳でもない……どうするのが正しいんだろうな。」

 

ニールは箸を止めて考え込んだ。

 

「……おれは今IS学園ってところにいるんだ。」

 

「あぁ、なんかチラッと聞いたぜ。なんでも、さっき言ってたISは女にしか動かせないのに、動かせる男が出てきたってな。」

 

 そこまで知ってるんだな……もしかしたらニールにも動かせるかもしれない……。けど、もう……

 

「なーに考えてんだレンカ。」

 

「ニールも、争いに立ち向かわなきゃいけないのかなって……。」

 

「さーてね。どうだかな。だけど、俺がレンカみたいにデュナメスのISに乗ることがあったんなら、俺は絶対お前さんの力になるぜ。お前はしっかり刹那の気持ちを汲み取ってやってくれてる。それだけで味方する理由になるからな。」

 

 ……あ、ヤバい。今まで刹那以外の男の子に恋なんてして来なかった私だけど、こ、これは……。ダメダメ!今真面目な話してるんだから!

 

「……ありがとう。だけど、これからどうするつもり?」

 

 そのタイミングで私の携帯端末に連絡が入る。非通知……?もしかして……

 

「あぁ、構わないぜ、出てくれて。」

 

「うん。……はい、刹那・F・レンカですけど。」

 

「やぁ!レンちゃん!ちょっとぶりー!」

 

……この声は……!

 

「束さん!」

 

「いやぁ、午前中に学園のアリーナ内のカメラとマイクで盗聴してたんだけど、かなり興味深い話を聞くことができたからね!……それに、レンちゃんの本当の意味での仲間が、近くにいるんじゃない?」

 

「!!!そ、それは、」

 

「大丈夫さ!ぞんざいに扱ったりはしないよ。エクシアのおかげで私もかなりいま創作意欲が刺激されててね、何か作りたい気分なんだよ。」

 

 波乱の幕開けのような気がした。



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7話『剣と銃と救世主』

 通信越しの声は随分と楽しそうだ。

 この人は自分の関係者……所謂『線の内側』にあたる人物にしか心を開かない性格だけど、迷い込んだおれとエクシアに興味を持ってくれて、線の内側に入れてくれた、そして、エクシアを直してくれた恩人だ。

 兎にも角にもニールと私の二人で話をしたいし、スピーカー通信に切り替えてる。

 

「さて、と。俺たちのことはもう知ってるみたいだが、アンタは誰なんだ?名前とか、聞いてないだろ?」

 

「あー!そういえばそうだったね、自己紹介なんて普段しないもんだから、つい。私は天才、篠ノ之束さんだよ!親しみを込めて束さんって呼んでね!」

 

「ふぅぃ、やっと名乗ってくれたか……俺はロックオン・ストラトス。ただ、この世界じゃレンカみたいにガンダムマイスターでもないからな、ニール・ディランディって名乗っておくことにするぜ。」

 

「ニールね、じゃあニーくんだね!うんうん、我ながらいいセンスだ!」

 

((どこがなんだよ))

 

 二人して心の声が被った瞬間だった。

 

「しつれーな!!まぁそれはいいけど、そうだなぁ、適当なタイミングで学園に行くよ!そうだね、ニーくんは学園の用務員さんにでもなる?束さんのコネがあれば余裕だよ!そのうち二人に会いに行きたいし!」

 

 心をさらっと読まないで欲しいんだけど……。まぁいいや。それはともかく、用務員さんかぁ。それじゃああんまり会う時間もないなぁ。それに……

 

「……なんか、やだなぁ。」

 

「へ?なんでだよレンカ。流石に俺もレンカと同じ年頃の女の子に手を出そうなんて考えてないぜ?」

 

「あっ、そうじゃなくて、ニールかっこいいからさ、女の子にモテちゃうんだろうなって思って。」

 

「……お、おお?」

 

「ニーくん。ちょっと今とてもレンちゃんを抱きしめたい気持ちでいっぱいなんだけど、どうかな。ニーくん的に今のときめいたらしなかった?」

 

「……いや、この場で言うのはマズイんじゃねーかな、色々。」

 

 なんの話してるんだろ?聞いてなかったけど……まぁいいや。

 

「でも束さん。」

 

わたしが話を戻そうとして束さんに声をかけると同時、私たちの居るカラオケの部屋の扉が開き、そこから垂れ目がちでグラマーな、ウサミミをつけた女性が現れる。そう……

 

「なんだい?」

 

「へ?」「あ?」

 

 急な来客に私とニールは開いたドアとそこに立っている女性を見て立ち尽くしていた。

 

「やっ!会いに来たよ!」

 

 そう言うや否や、束さんはおれに突っ込んできて思い切り抱きしめてくる。大きな胸の中に思いっきり顔が沈み込んで苦しい。……それにしても、この人の前にはプライバシーもなにもあったもんじゃないなーって思いました。

 

 

────────

 

 

とりあえず三人になった部屋、で座り直し、ソフトドリンクを飲みながら話すことになった。

 

「なあレンカ。この人は?」

 

 ニールは、どうやらこの世界に来たばっかりで、この世界のことをほとんど知らないらしかった。ただ、日常的に垂れ流されている情報や、捨てられた新聞や雑誌等から入手できる情報についてはしっかり把握して来たみたいで、正直すごく話がしやすかった。元マイスターってだけあって、その辺りはしっかりしてるなって思った。なんで上から目線なんだおれ……。

 

「あぁ、この人は篠ノ之束さん。えーっと、ISにはコアっていうのがあって、すっごい簡単に言うとそれがないとISは動かないんだよ。エクシアを除いて、そのISのコアを全部この人一人で作ったんだよ。だから現存するISはエクシアを含めて468機なんだよ。束さんが新しい機体を作っていない限りは……だけど。」

 

「いやぁ、異世界から来たのに博識だね!束さん花丸あげちゃうよ!そう、私こそISの産みの親なのさ!それで、ニーくんはここに来たばっかりなんだっけ?」

 

「あ、あぁ、宇宙に居たはずなんだが、気がつきゃ随分風変わりなところだと思ったんだ。レンカに会えなきゃ今頃どうなってたか……。」

 

「ふむふむ。君もレンちゃんが言ってた『ガンダムマイスター』ってやつだったの?」

 

「ああ。俺たちは世界の戦争に対して、絶対的な力で武力介入を行って戦争根絶を掲げていた私設武装組織、ソレスタル・ビーイングのメンバーだ。その中でもガンダムっつー、まぁこの世界で言うところのISみたいなもんに乗って、実際に戦闘行為に介入する奴らをマイスターって呼ぶんだわ。レンカも俺もそうだ。」

 

 ニール……。私は、本当はただの無関係な人なのに、仲間だって言ってくれるんだね……。なんか、嬉しいよ。

 

「……じゃあ、君にもガンダムがあれば、レンちゃんみたいに、この世界を変えたいって思う?」

 

 軽い口調はそのままだけど、束さんは真剣な様子だった。ニールも言葉を選ぶかのようにゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

 

「……そうだな、ああ。その通りだ。俺たちはそのために組織されたんだ。それに、レンカの言う通りだ。この世界は歪んでる。確かにISを動かせるのは女の子ばっかりなのかもな。だけど、だから全世界全ての女が偉いって訳でもないだろ。驚いたぜ。通り掛かっただけで殴られたり、パシリにされてる男を見たときは。……言いたいことも言えないんじゃ、いつか人間が滅んじまうと思ったんだ。」

 

「……分かった。それじゃあニーくんはしばらく私と一緒に来てもらって良いかな?」

 

「え?あぁ、そりゃ構わねえけど…?」

 

 わかった、ニール専用のISを作るんだな、この人。しかも、この後はきっと。

 

「レンちゃんは、私ほどじゃないけどお利口さんだから分かるよね?」

 

「……分かってます。」

 

 そう言って私は手荷物からエクシアの情報が入ったメモリーを取り出し、束さんに手渡す。最適化が完了したエクシアのデータは、前までのエクシアのデータよりもかなり役に立つハズ。

 

「……私にその、イオリアっていう別世界の天才が組み上げたとんでもない代物……GNドライヴを作り出せるのか分からないけど、勝負といこうじゃないか!あ、このお部屋の代金は私が立て替えておいてあげるよ!それじゃあ行こうか、ニーくん!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!……なぁレンカ。次にいつ会えるか分からんが、この人の言葉がマジなんだったら、いつか会える。レンカのピンチには間に合わせてみせる。」

 

「ん、待ってるよ。ロックオン。」

 

「おうよ!」

 

 そう言って束さんとニールは立ち去って行った。私も少ししてから再び街を散策に出るのだった。しばらくショーウィンドウに飾られている服やアクセサリーなんかを見たり、可哀想な目に遭っている男の人を助けたりしているうちに、夕暮れになっていた。

 

「ふぅ、歩き疲れちゃった……。そろそろ帰ろうかな──ん?」

 

 歩いていると、目の前に緑色の光が後ろからひらりと舞い降りてくる。

 

「これは……GN粒子?まさか……!」

 

 ばっと後ろに振り返って上空を見ると、トリコロールカラーのガンダム……ISが浮いていた。それを見た私はすぐさま千冬さんの端末に連絡を入れた。

 

「千冬さん!IS展開許可を!!」

 

『な、何を言っている!?どうした!!』

 

 千冬さんからすれば分からない事だらけなのは承知の上だけど、とにかく今は……!!

 

「……かつて私の世界の歪みだったガンダムが、ISが居るんです!!ここで私は、こいつを倒さないといけないかもしれません!!」

 

 乗ってるのがラッセさんならいい!だけど、もし乗ってるのがアイツなら……!

 

『わかった、責任は私が取る。必ず街に被害を出さずに事を治めろ!』

 

 GN粒子はレーダーの錯乱と通信妨害の効果がある、だから堂々とこんなところでガンダムを……!!

 

「任務了解!!ガンダムエクシア、刹那・F・レンカ。目標を駆逐する!!」

 

 瞬時にエクシアを出現させて胸部が大きく開いてそこに乗り込んだ。太陽炉のリミットを解除して、私は突如出現した0ガンダムと同じ高さまで上がる。

 

「……お前は、リボンズ・アルマークなのか!!」

 

「ガンダムエクシア……、刹那・F・セイエイか……?随分と声が女性らしいが……。」

 

 間違いない……何度だって聞いたんだ、こいつの声を!こいつは……リボンズ・アルマークだ!!

 

「詳しく説明する義理など無い!私はお前を倒す!今、ここでぇっ!!」

 

 おれはエクシアリペアⅡのGNソード改を展開し、構える。

 

「君の血の気の多さは変わらないな。俺は君たちマイスターとやり合うつもりはない。……俺も君たちとの戦いで気づいたこともある。それに、俺は見ていたんだ。変異性異星金属体……ELSとの戦いと君の対話を。あれこそがイオリアの言っていた『来るべき対話』だというのに気づかないほど、俺も落ちぶれてはいない。」

 

 見ていた……あの戦いを……?もしかして……!

 

「……君は、もしかして……。おれと同じなのか……?」

 

「俺がキミと同じ……?まさか……君も“そう”なのか?」

 

 おれはそこの言葉を聞いてGNソード改を構えるのをやめた。もしかしたら“おれと同じ境遇”にいる人なのかもしれない。

 

「……俺と君も対話が必要なようだな。人気のないところで降りるとしようか。」

 

 おれとリボンズはその場を離れ、人気のない山中で互いのガンダムを下ろした。

 

「なるほど、声からも分かったが、やはり女性だったのか。」

 

 その姿はまさにリボンズ・アルマークのそれだったけれど、どちらかと言えば、リボンズの元となった人物である『エターナル・アラン・レイ』を、ほんの少し若くしたような容姿にも見える。でも……

 

「君は、リボンズに瓜二つだな。」

 

 どうにしろ、おれにはリボンズ・アルマークであるようにしか見えなかった。

 

「……やっと仲間が見つかったか。俺はエターナル・アラン・レイって名乗ることにしてる。多分、キミは俺と同じで、別世界からマイスターたちの能力と容姿を引き継いでやってきた。違うか?」

 

 その予測はその通りだった。そして、それを俺と同じと言った。だったら彼は……。

 

「その通りだよ。私は刹那・F・セイエイとは別人。だけど、その能力と容姿を引き継いでこの世界にやってきた。おれは元の性別の女の子ってところも引き継いできたから、刹那・F・レンカって名乗ってる。」

 

「そうか……だったら、なおさら俺たちは協力しなくちゃいけない。違うか?」

 

 その提案に妙なところはない。最初こそリボンズを意識していたのかもしれないけど、今はあのリボンズを見ているときのような感じはしない。きっと別人だって言うのも本当だと思う。

 

「……そうだね。それで、君はこの世界について知ってる?」

 

「たしか、インフィニット・ストラトス、って世界だったか。まぁ、作品名と主人公やヒロインたちの名前ぐらいなら分かる。レンカは?」

 

「おれは一応履修済みだけど、割と昔のことで、チラホラと忘れてるかな。」

 

「なるほど、わかった。とりあえず、俺を匿えそうなところに連れて行ってもらえないか?なにぶんこの辺の地理には疎くてな。あと、俺のことはアランと呼んでくれ。」

 

「分かったよ、アラン。ちょっと学園に連絡するよ。」

 

 おれは再び千冬さんに連絡をする。すぐさまつながり、怒声が聞こえてきた。心配そうな声だ。

 

『レンカか!どうなった!怪我はないだろうな!』

 

「うわっとと……えっと、はい、大丈夫です。」

 

 そう答えると、安堵したようなため息が聞こえてきた。

 

『そうか……それで、宿敵だったか?どうなった。』

 

「人違い、というか、宿敵だったのは相手のガンダムだけで、中は別人だったんです。とにかく、その辺りのことも本人と合わせて話したいんで、いったん学園に受け入れてもらえますか?」

 

『了解した。話は通しておこう。無事に帰還してこい。』

 

そうして通信が切れる。

 

「行こうアラン。」

 

「ああ。」

 

 そうしておれは再びISを装着した。

 

「少し寒いかもしれないけど、おれが君を抱きかかえて移動することになる。国から確認が取れてないISを動かさせるわけにはいかないからな。」

 

「……ふむ、仕方がない。」

 

 アランの許可も得たところで、おれはアランを抱きかかえて学園へと飛び立ったのだった。



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8話『二人目の男性操縦者』

大変長らくお待たせして、誠に申し訳ありません。主がメンタルクソザコなため、更新を無期限停止しておりました……。


 おれはエクシアを身に纏い、リボンズを抱きかかえる形でIS学園を目指していた。

 

「……複雑だよ。ISを装着しているとは言え、女の子に抱かれてしまうなんてね。」

 

 リボンズは深くため息をつきながら、独り言を呟くようにそう言った。いや、そりゃおれも男の人を抱っこする日が来るとは考えてなかったんだけどな、でも、日本で確認されていないISが飛んでたらそれこそ問題だからな。仕方ないんだ。

 

「……ごめん。」

 

「分かっているさ。謝るほどのことではないよ。しかし、お互い中身が違うとは言ってもこうして刹那とリボンズが協力し合う事になるなんて、随分だと思わないかい?」

 

「それはおれも考えたよ。だけど、こうしておれとアランで二人目だ。それに、実は本家本元のロックオンにも出会ったんだよ。しかも、ニール・ディランディ。たぶん、この世界は大きく変革すると思う。それが正しいのかどうかなんて、おれにも分からないよ。」

 

「な、なんだって……?ますます状況が分からないな……俺たちのような、外と内が違う転生者が来るのではなく、本家本元の人間がたどり着くこともあると言うのか……?」

 

「ニールは自分が死んだって事を自覚してたんだ。だから、ここには死んだ人間が……集まるようになってるのかもしれない。」

 

「それは、大きな歪みになるかもしれない。俺は君と同じ立場だ、世界の歪みを正さねばならない。だが、アレハンドロ・コーナーのような男が来る可能性だって否定できないよ。」

 

「……その可能性もあると思う。だから力を貸して欲しいんだ。リボンズ。」

 

「リボンズ……そうか、君はあくまで仇敵である存在の力を借りると言うんだね。……いいだろう。君がそれを望むのならば、“僕”はそうであろう。」

 

「……えっ、あ……うん。」

 

 そ、そう捉えちゃうのか……つい口をついてリボンズって呼んじゃっただけなんだけど……まぁ、悪い奴じゃなさそうだしな。大丈夫……だよな?

 ともかく、おれはリボンズを連れてIS学園に帰投した。まだ春先で薄着のリボンズは少し寒そうだったが、それはまぁ、諦めて欲しい。

 

「……よく戻ったな、レンカ。それで、彼が……?」

 

「はい、彼です。」

 

「僕はリボンズ──リボンズ・アルマーク。彼女の宿敵と見た目がほとんど同じだったので、少々混乱させてしまった。すまなかったね。」

 

「おれはもう構わないよ。頼りにしてる。」

 

「リボンズ、か。男性のようだが、お前もガンダムに乗っているのか?」

 

「勿論だよ。彼女──レンカのものより旧式ではあるけどね。」

 

 その旧式で刹那の乗るエクシアと相対した本物のリボンズ。結果は刹那が生き残りはしたものの、期待は相打ちで、二つのGNドライヴが失われた。それはリボンズ自身が高い操縦技術を持っていたは誰の目にも明らかになり、もしリボンズがおれと同じように本家本元のリボンズと同じだけの能力を持っているんなら……もしリボンズが敵対してきたとき、おれは……勝てるのかな、彼に。

 

「……ここに来てガンダムが二機目ということか、まったく、誰にどんな説明をすればいいのか……。」

 

「……リボンズも一旦束さんと会っておいた方がいいんじゃないかな?」

 

「ふむ、その“束さん”とやらが誰なのかは僕には分かりかねるけれど、君の発言から察するに、ニール・ディランディもその束さんという人物の所に居るのだろうね。」

 

 う、流石に頭良いな……。おれもそれぐらい察しがよければ良いんだけど……

 

「リボンズも、だと?まさか、ガンダムがさらにもう一機あるとでも言うんじゃないだろうな、レンカ。」

 

「そうじゃないんだけど……なんというか、その……おれと同じガンダムマイスターの人とは出会ったよ。」

 

「……はぁ、で、そいつはいま束と一緒に居る、ということか。」

 

「……はい。」

 

「まったく、この世界はこれからどうなるというんだ……。流石の私も頭が痛くなるぞ……。それで、リボンズ。お前はどうするつもりだ?」

 

 千冬さんはひどくストレスに苛まれたような顔でリボンズに問いかけた。

 

「そうだね。僕の目的はレンカと同じだよ。話を聞くに、この世界の歪みはとてつもなく大きい。僕もこの状態は看過出来ないからね、彼女と共に行動したいと考えているよ。」

 

「そうか……分かった。それでは編入手続きを取る。レンカは先に部屋に戻っていろ。リボンズのことは追って連絡する。」

 

「……わかりました。それじゃあまたな、リボンズ。」

 

「ああ。またねレンカ。これからよろしく頼むよ。」

 

 千冬さんはリボンズを連れて立ち去って行った。おれもエクシアを待機状態に戻して着替えを済ませ、自分の部屋へと戻った。多くのことが起きすぎて、ちょっと疲れちゃったな。

 

「……ただいまー。」

 

 部屋に戻り、そんなフツーの挨拶。それにフツーの挨拶が返ってくる。“おかえり”この学園で聞く、もう一人の男の子の声。

 

「千冬姉から聞いたけどなんか大変だったらしいな。エクシアを動かすことになったって……」

 

「あー、うん。まぁね。ただ、おれの勘違いだったから戦いにはならなかったけど……そうだな、性格はたぶん合わないと思うけど、もう一人の男の人がウチのクラスに来ると思うよ。」

 

 そう言うと、一夏は興奮した様子で“ほんとか?!”と嬉しそうにしていた。

 

「まぁ、部屋割は変わらないと思う。もしかしたら、この部屋にもう一つベッドが運び込まれるかもしれないけどね。この部屋、聞いたところじゃ普通の部屋より広めに作ってあるらしいから。」

 

「え、それって、レンカ的には不安じゃないか?男二人に女の子一人だぞ?」

 

「うん?あー、でもおれ一夏より強いし、たぶん次に来るヤツよりも強いから平気だぞ。」

 

「え?」

 

「……ガンダムマイスター、だからな。」

 

 おれはそう言って自分の鞄の中から下着とかバスタオル、石鹸やシャンプーなどなど、風呂の準備を手に持った。

 

「それじゃあ、おれはお風呂入ってくるね。」

 

「ん、あぁ、行ってらっしゃい。」

 

 一夏を一瞥して部屋を出ると、箒とばったり出会った。

 

「む、レンカか。レンカも今から風呂なのか?」

 

「あ、箒。そうだよ?箒も?」

 

「ああ、一緒に行かないか?」

 

「もちろん。」

 

 最初は箒と仲良くなることなんて予想だにもしてなかったけど、おれが一夏に一切男性として見ていない事を話せば、それはもう良い友達として接してくれている。まぁ、どちらかと言うとIS関連の弟子みたいな感じ。おれが刹那の能力を持ってる以上、おれの戦術のほとんどは格闘戦だからな。射撃も平々凡々で済ませるつもりはなかったから、かなり腕はある方だけど、やっぱり格闘戦が性に合っている。

 

「……すごいな。私もかなり鍛えているつもりだったんだが、レンカには及ばない。」

 

 箒とおれは隣同士に座って髪や体を洗いながら話していた。

 

「ん?あぁ、そりゃおれは戦争も経験してるからさ。」

 

 この体になってすぐ気がついたのは想像以上に筋肉があるという事。男性を女体化させたと言っても、刹那はガンダムマイスターで、モビルスーツパイロットなんて筋力がないとできないし、それの女体化なんて総じて筋肉だらけの色気のない女の子の出来上がりだ。まぁ、おれは前世でもなんでも刹那以外の男には興味なかったからなぁ。いや、現に目にするとロックオンもリボンズもめっちゃ美形で見惚れてしまいそうになったけど……やっぱり刹那だよ。夢で見た、かなりリアルな刹那は本当にたまらなかった……。

 

「……戦争。」

 

「そーれーよーり、おれは箒のコレが羨ましいよ。」

 

 おれはそう言いながらむんずと箒の胸部装甲を掴む。

 

「んひゃうっ!な、何をするレンカ!!?」

 

「……おれだって無い訳じゃないけど、セシリアも箒も、一体何を食べてどんな生活をしたらこんな胸になるのさ。」

 

 前世でも女性の友達……オタクばかりだけどね?うん。こんなに大きな胸を持った人はほとんどいなかった。セシリアは外国人だからわかるけど、箒って日本人だよね。どうなってるんだろう。

 

「たっ、戦いには邪魔なんだぞ!むしろ、レンカぐらいのバランスが一番羨ましいんだ!」

 

 やいのやいの言いながら、さっさと泡を洗い流してしまい、二人で湯船に浸かり、再び話をしてから大浴場を後にした。そこで出会ったのは千冬さんに連れられているリボンズだった。

 

「あ、リボンズ。」

 

「やぁレンカ。先ほどぶりだね。」

 

「……お、男……?お、織斑先生、彼は……?」

 

 初めてリボンズを見る箒はかなり困惑しており、その正体を千冬さんに訊ねていた。

 

「あぁ、彼はレンカの知り合いでな、彼もまたガンダムマイスターの一人なのだそうだ。GNドライヴを搭載したISを所持している。当然ながら搭乗も可能だ。」

 

「な、い、一夏だけでは無かったのか……」

 

 驚く箒だけど、おれとしてはこれからさらに増えそうだなぁ、と思っている。じきに女体化ティエリアとアレルヤも来たりして……そうなったらもうガンダム祭りだな。実質ガンダムになってしまう機動戦士ガンダムISだ……。

 

「……ふむ。そういえば、本来ISは男性には操縦できないもののようだね。とはいえ、どんな世界にもイレギュラーや予定外というものは存在する。そもそも、女性であってもレンカ自身がかなりイレギュラーな例だ。今更だろう?」

 

 しかし、すっごいリボンズ。めっちゃリボンズ……。演技めちゃくちゃうまいなこの人。おれ、さすがに刹那みたいになれって言われても無理だぞ。

 

「そ、そうだが……。」

 

「さて、それはともかく、自己紹介しておこう。僕はリボンズ・アルマーク。レンカと同じ世界からやってきたガンダムマイスターだ。織斑先生がマイスターの言葉を使っている以上、それなりに話は聞いているんだろう?」

 

 しかも、かなり頭がいい気がする。口調のせいか?

 

「あ、あぁ、聞いている……わ、私は篠ノ之箒だ。もう一人の男性操縦者、織斑一夏の幼なじみでもある……。」

 

「織斑一夏……そうか、織斑先生の関係者だね。弟かな?」

 

「そうだ。残念ながら優秀とはかけ離れたヤツだが、リボンズも面倒を見てやってくれ。同じ男ならば心も開くだろう。」

 

「ふふ、善処するよ。そういえばだけれど、レンカ。僕はキミと同室らしいよ。キミと同室の子は、そこの篠ノ之さんと同じ部屋になるそうだ。」

 

 あぁ、じゃあ一夏は結局箒と同じ部屋なんだね。うーん、箒に木刀で殴られたりしないかが心配だけど、おれが心配したって仕方ないね。

 

「そっか、了解。それで、いつから?」

 

「明日の放課後からだそうだよ。クラスもキミと同じの予定でね。何かとその方が情報交換がしやすいだろう?」

 

「……そうだね。」

 

「それじゃあそう言うことで。今日のところは先生方の宿直室に泊まらせてもらうことになっているから、あしたからよろしく頼むよ。」

 

「何回よろしくするのさ、リボンズ。」

 

「ふふ、それもそうだ。しかし、状況の変わる時というのは私でそう言うものだよ。レンカ。」

 

 そして翌日の朝のホームルームにて、リボンズは千冬さんに連れられてやってきた。

 

「今日から同じクラスでやっていく仲間が増えることになった。レンカと知り合いらしくてな、彼も男性の操縦者になる。よろしくしてやってくれ。」

 

「僕はリボンズ。リボンズ・アルマーク。ISは所持しているけれど、あまりソレに詳しくは無くてね。迷惑をかけるかもしれないけれど、よろしく頼むよ。特に、レンカにね。」

 

「……わざわざ名指ししなくたってわかってるよ。リボンズ。GNドライヴのことなんて他に誰に相談するのさ。」

 

 前途多難だ。リボンズも本当に美形だから女の子たちが目をキラッキラさせててもう……はぁ。どうなるんだろうな、これから。



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9話「刹那・F・レンカとして」

 これが、篠ノ之博士の隠れ家、ねぇ。完全に無人島だが、こりゃあとんでもないセキュリティだ。なるほど、普通じゃ見つけられないのもわかる。それに、ちょいちょいGN粒子が飛んでるな。たぶん既存のレーダーが通らない効果や通信妨害の効果をうまく使ってるんだろうな。んで、GN粒子由来の通信方法を確立して、レンカとは連絡を取れるようにしてるってところか。

 

「さてと、ニーくん。」

 

「おう。」

 

「……これから、きっとレンちゃんは戦いに巻き込まれていく。流石の天才束さんでもこんな風になるとは思ってなかった。想定外が過ぎるからね。並行世界の未来からやってきた少年少女は、その世界に有った最高峰の兵器とともにやってきた。そして、私が歪めてしまったこの世界を正すと言ってくれてる。……私がやらないといけないんだけどね。キミも、レンちゃんと一緒にそうしたいと思う?」

 

「当たり前だろ?元の世界で、俺は死んだはずだった……何の因果か、俺に関係のあるヤツがこの世界で生きてる。この世界でも何かをやろうとしてる。そんじゃま、それを手伝わねえ理由は無いよな。一度失くした命だ。命賭けるには上等だ。」

 

「……そう。レンちゃんは慕われてるね。じゃあ、キミの望む力を、私が全力で作ってみせるよ。」

 

「頼むぜ。……俺は、俺を信じてくれる奴を守る。その敵を……狙い撃つぜ。待ってろよ、レンカ。」

 

 

────────

 

 

 放課後、リボンズが女子に囲まれる前に先手を打った。

 

「リボンズ、急いで!囲まれたいのかっ!」

 

「囲まれる……?いや、わかった。急ぐとしよう。」

 

 リボンズはイノベイド、おれはイノベイターだ。身体能力は並みの人間のソレとは比較にならない。よって、おれはリボンズの手を引いて走り出し、リボンズの足が追いついたことを確認してからその手を離す。すぐにリボンズはそれに順応しておれの後を追いかけてきた。

 

「どこに行くつもりだい、刹那・F・レンカ。」

 

「部屋だよ。兎にも角にも、あの女子たちに目をつけられちゃ話もできない。」

 

「……ふむ。後で説明して欲しいところだね。」

 

 数分の全力疾走。流石に疲れたおれとリボンズは肩で息をしていた。だけど、部屋にたどり着いた以上はもう安心。これなら部屋に急に突入してくるような非常識娘が居なければ二人で話ができる。

 

「ふぅ……さて、レンカ。話とはなんだい?」

 

「リボンズはこの世界のこと、何も知らないよね。女尊男卑が進んでることと、ISが女性にしか動かせないことぐらいしか。」

 

「そうだね。大凡その認識で間違いはないよ。それがあの女子たちから逃げることと、どのような関連があるんだい?」

 

 私は一呼吸おいて話し始めた。

 

「まず、ISは専門知識と最新技術の塊なんだよ。ガンダムほどではないけど……それはともかく、この学校に来ている女の子たちはみんな中学生の頃からISの事前授業を受けてるんだけど、そういう学部を置いてるのは大体女子校で、しかもお金持ちのお嬢様が通うような学校で……」

 

「あぁ、所謂“世間知らず”な訳だ。蝶よ花よと育てられてきた無能な女性たちが跋扈し、男性である僕や織斑一夏の迷惑を省みない行動が多々見受けられる、といったところかな。」

 

 ある程度のところまで情報が手に入れば、リボンズは自ず答えを出してくれる。1から10まで説明する必要がないから、正直に言えば話すのが圧倒的に楽でいい。リボンズも脳量子波を使えるから無意識下で繋がってるのかもしれないけど、とりあえずとても楽だ。

 

「そういうこと。千冬さんもそんな状態にかなり疲れてるみたいだし、どうにか協力してあげたいじゃん?」

 

「そうだね。世の16歳と比べれば、彼女たちは些か子供っぽいように思える。僕たちが大人かと問われれば……それもまた疑問だけれど。」

 

「だから、とにかくリボンズもIS関連の知識を身につけないと。だから、とにかく勉強。」

 

「……ふむ、この歳になってまさか勉強することになるとは思わなかったけどね。」

 

 そんな話をしながら、おれは新しいルームメイト、リボンズと一緒に勉強をしていた。そんな時、ふと自身のガンダムの話になる。

 

「さっきISには一次移行と二次移行があるって言ったじゃん?それでだけど、リボンズの0ガンダムって今どの段階なの?」

 

「僕の0ガンダムは残念ながら、まだ一次移行にも至っていないね。キミに出会ったあの日が、僕がこの世界にやってきた日でね。」

 

 あの日が初めて……?じゃあ、日本政府やIS学園が気づかなかったのはGN粒子の所為なのもあるけど、あの場に現れたばかりだったからって事……??

 

「気がつけばあんなところに居たものだから、内心かなり驚いたけれど、キミの姿を見たときは面白かったよ。まさかこの目で女体化した刹那・F・セイエイを見ることになるとは思わなかったのだから。口調も彼のものではないしね。」

 

「……いや、リボンズ?おれ女じゃん。女体化した刹那って今キミ言ったよな?っていうか、中身はおれ自身なんだから……」

 

「果たして本当にそうかな。僕は内心、かなりリボンズという存在に記憶が引っ張られているように感じるよ。……キミは今、生前の両親の顔は思い出せるのかい?」

 

 そんなの当然だろう、そう言いかけて、おれは生前のことを何も思い出せなくなっているのに気がついた。父さんの顔、母さんの顔。居たはずの友達の顔。友達が居たことも、両親が居たことも覚えてるのに、顔がわからない。思い出せない。この世界について少し知っている、そして、死んだからここにきた。そんな基本的なことしかわからない。

 

「……やはりね。僕は真っ先に生前の世界のことを思い出そうとした。しかし、それはできそうになくてね。……これから、キミはより刹那らしくなっていく。僕はきっとリボンズらしくなっていく。正直、今の僕はキミと敵対する理由は無いけれど、今後どうなるかは……僕にもわからないけど……この世界の歪みを正すという共通の目的があり、イオリアの計画もこの世界には無い以上、きっと敵対することはないよ。」

 

「……そっか、でもね、リボンズ。それでもおれは……ふふっ。ううん。違うね。私は女の子だよ。どんなに彼に染まっても、私は私を捨てない。女の子であることも、ガンダムマイスターであることも、消させない。全部全部抱えて、私は生きてくよ。」

 

「……キミは本当に強いよ。これはリボンズとしての言葉ではなくて、そうだね、前世の俺自身が思ったことだ。たしかに、刹那・F・セイエイも強かった。だけど、それとは別に、レンカ……キミも強い。俺は……この変化を受け入れてしまっている。リボンズになるとこを厭わないと考えてしまっている。……だけど、キミならこの世界を正せる。……リボンズ・アルマークが最後に刹那と和解したように、俺最終的に人々を恨み憎むようになったとしても、キミはきっと俺を救おうとするんだろうな。」

 

「……うん、当然だよ、リボンズ。私はすべての人を救うために、今ここに立ってるんだから。」

 

 そんな話をしていれば、部屋のベルが鳴らされる。誰だ?

 

「ん?誰?」

 

「私です、セシリア・オルコットですわ。」

 

「セシリアか、どーぞ。」

 

「……?し、失礼いたしますわ。」

 

 

────────

 

 

 セシリアはレンカの言葉に応じて部屋に入る。そこにいたのは今日編入してきたばかりの青年、リボンズ・アルマークと刹那レンカが教材を広げて勉強をしている様子だった。

 

「どうしたの?セシリア。」

 

 ニコニコと微笑みながら、エアコンの送風によって長い癖毛を揺らすレンカ。セシリアから見ても彼女の容姿は非常に整っており、可愛らしいと認めざるを得ないものだったが、笑顔を浮かべる彼女の表情はどこか憑物が落ちたように見えるもので、

 

「……ふふ、レンカさん、随分と印象が変わりましたわね。」

 

「そうかな?」

 

 リボンズの言葉によって、自分が本当は何者なのか、なにをしたいのか、なにを為すべきなのか、レンカはそれを見出していた。自分がしたいこと、為すべきこと。それは、この歪みを断ち切り、未来を切り開くこと。前世の自分もこの世界の本来の行末など、レンカにも、ニールにも、リボンズにも、もはや関係なかった。ただ、この世界の歪みを正す。歪みを生む根源を、断ち切る。その覚悟をその心に宿し始めていた。だが、それ以上に自分が自分らしくあることの大事さも悟ったのだ。

 

「なんだか、より可愛らしくなったように思いますわ。以前のどこか鋭い剣のような印象よりはよほど良いですわ。」

 

「……ふぅ、キミはそんなことを言いに来たのかい?セシリア・オルコット。僕たちは勉強で忙しいんだけれどね。」

 

「あ、申し訳ありません。用なのですけれど、レンカさんに模擬戦に付き合って頂きたくて参ったのですわ。」

 

「なるほど、そういうことらしいけど、どうする?レンカ。」

 

「もちろん受けて立つよ。けど、怪我は大丈夫?」

 

「ええ。ほとんど一瞬で片付けられてしまいましたから」

 

 セシリアは負けたというのに清々しい笑顔でレンカに言い放つ。自分の天狗になった鼻っ柱をヘシ折り、実力を見せつけられたと同時にその剣に宿る思いを、本能的に感じ取ったのかもしれない。

 

「……ごめんね。それで、リボンズはどうする?

 

「もちろん見学させてもらうよ。キミの実力を見せてもらうためにもね。」

 

 レンカ、リボンズ、セシリアの三名はアリーナ使用許可を取り、各々の専用機、エクシア、0ガンダム、ブルー・ティアーズを纏ってアリーナに立っていた。

 

「リボンズさんのISは全身装甲ですのね。」

 

「ああ。レンカのISも本来はこう言った形のもののはずだが、おそらく手を加え、装甲を解除したのだろうね。」

 

「いや、最初こそ手を加えて部分装甲にしたけど、私のエクシアは一次移行後も部分装甲のままだよ。全身装甲に戻ってくれれば良かったんだけど……みんな部分装甲だしいいかなーって。」

 

「ふふ、刹那が見れば羨ましがるだろうね。今のキミはキミ自身がエクシアのようだからね。」

 

「ふふっ、そうかもね。……さぁ!時間も限られてるし、さっさと始めちゃうおうかな。リボンズ、GNビームガン貸して。」

 

「?それは構わないが、エクシアのGNソードにはライフルモードもあっただろう?」

 

「そうだけどね、よっとと。」

 

 レンカはGNソードを外してアリーナの地面に置き、リボンズの0ガンダムからGNビームガンを受け取った。

 

「セシリアは射撃戦特化だからね。ロックオンが居てくれれば彼女の特訓にもなったかもしれないけど、私じゃこれが精一杯だから。」

 

「なるほど、ではお手並み拝見といこう。」

 

 リボンズはアリーナの端まで下がり、0ガンダムの姿のまま腕を組んで二人の姿を見ていた。

 

「……行きますわ。わたくしは貴方に勝ちたいのです。貴方の真の力を引き出せるよう、精一杯努めさせていただきますわ!」

 

「TRANS-AMは使わないでおくけど、私も本気で行くからね。……後悔、しないでよ!!」

 

 セシリアはブルー・ティアーズを、レンカはリボンズから借り受けたGNビームガンを構え、空高く舞い上がって行くのだった。



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