魔導変移リリカルプラネット【更新停止】 (共沈)
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TIPS(ネタバレ注意。※最新話基準)
Timeline TIPS(ネタバレ注意)


最新話基準なのでネタバレ厳禁の方はパスしてください。
原作同と書かれた部分は原作比較としての目安、もしくは原作と変わっていない部分です。当SSにおいてあまり書かない、関わりのない部分も同様に書いてます。


■新暦80年代後半

ロストロギアの集合励起により次元世界群壊滅

高町なのは(30↑)死亡

ジェック・L・高町(現段階では無名)誕生

 

時間転移により過去へ

 

■新暦54年(西暦1994年:新暦に+1940)

クライド・ハラオウン救助。

クライドに依頼。

 

■新暦56年(西暦1996年)

高町なのは、八神はやて、ユーノ・スクライア誕生(原作同)

クロノ・ハラオウン訓練校入校

 

■新暦57年(西暦1997年)

地球にて魔導研究開始。

 

■新暦58年(西暦1998年)

ヒュードラ事件

プレシア・テスタロッサ(33歳:映画版、小説より推定)

 

ギンガ誕生(原作同)

 

■新暦59年(西暦1999年)

高町士郎入院(原作同)

高町なのは(4)の恐怖!ドッペルゲンガー事件

ジョニー・スリカエッティの高町士郎に対する魔導臨床試験

 

ティアナ誕生(原作同)

 

■新暦60年(西暦2000年)

チンク誕生(原作同)

スバル誕生(原作同)

 

■新暦61年(西暦2001年)

クアットロ誕生(原作同)

 

■新暦62年(西暦2002年)

クロノ時空管理局執務官資格取得(原作同)

漂流難民(?)としてジェックが保護される

ジェックvsクロノ

ジェックとクライド対談

 

地球

年末:国連により魔導技術、通称マギテクスの発表

 

■新暦63年(西暦2003年)

アルフ、フェイトの使い魔になる

バルディッシュ製作開始

セイン・ディエチ誕生(原作同)

 

高町なのは、魔力量の高さに注目され一躍時の人に

空撮動画のアップロード者と知られ有名になる

御神流の訓練開始

海鳴大学で魔法開発に貢献、高い実力を発揮する

アリサ・バニングス・月村すずか、友人に(原作同)

 

■新暦64年(西暦2004年)

スバル・ギンガを保護(原作同4歳、6歳)

 

■新暦65年(西暦2005年)

地球

4月第三週ユーノ落下、ジュエルシードをばらまく。

月曜日→なのはとの邂逅

火曜日→大学へ

週末→巨大樹災害

第4週

ユーノ、首相と出会う

週末→月村家騒動

5月

GW→温泉

5月某日→デュアリス戦決着

 




ヒュードラ事件について原作26年前では?とご質問があったので記入しておきます。もともと一期は設定齟齬が多いので私はあまり信用してません。またココに書いてあることはなのはWiki時系列考察からの抜粋ですのであちらを見ればより詳しく見れます。

まず一期サウンドステージ02にて、プレシアの年齢40歳。
小説版ではアリシアが生まれたのは28歳の時なので12年ほど前。
小説版で5歳の時にアリシアがリニスを拾ったらしいので5歳までは生存。
この時点で33歳、アリシア5歳。原作とのブランク7年。
ここで事件により死んだとすれば、フェイトが9歳相当になるには生まれてから4年ほどの時間が必要になる。よって事件からプロジェクトFを完遂するまで3年しか残っていない。
映画版ではヒュードラ事件がいつ起こったのか明言されておらず、また「研究に数年かかった」との発言から2~9年の間。十数年研究しているならそう言うハズ。最短2年でも残った1年は裁判があったとか、色々あったことにすればとりあえず辻褄は合う。

本当に26年前だったら、プレシアは14歳でアリシアを生んだことになる。おい、どこのロリコンだ。出てきなさい。

ちなみにこの26年前、プレシアはミッド技術局第三局長に就任しているらしい。この設定と勘違いしていたのだろうか?コレについては不明である。


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Character TIPS(ネタバレ注意)

こちらはキャラクターTIPSです。未読の方はネタバレにご注意ください。
※第一部終了時点までである程度名前の出てきた人物を載せています。
※記入しているのは変更点がメインです。原作同様の部分はWikiなどを御覧ください。
※誰か書き忘れてるかもしれない……!!

※最新話更新時に後ろの方に回します。


■ジェック・L・タカマチ

出典:オリジナル

原作開始時:13歳?

職業:無職

レアスキル:縁操作

概要:

 未来の高町なのはによって生み出された魔導生命。目的は未来の破滅を防ぐ傍ら、なのはの人生をそのままに保護するというものだった。しかしジュエルシードの歪み、ロストロギアを消滅させるという目的とジュエルシードと出会った己の流れを保護するという矛盾などから性格が生まれ彼は自由を得た。それにより彼は過去改変を始める。

 当人の性格は誰とでも仲良く出来るが、離れるときは非常にアッサリとレアスキル寄りな性格をしている。そのためかコロコロと性格(表現)が変わることがある。

 彼の能力は通常の魔法の常理の外にある。縁という見えない概念を用いてそれを結ぶ縁結び、切る縁切り、他人の縁を使って時間を渡ることなどが行える。この能力制御に魔力をほとんど割いているので彼自身は魔力がないように見える。己が認知したもの以外は操作が出来ないため背後からの奇襲等には普通に弱い。また生命に対する直接的な能力行使は難しくわずかにしか影響がない。

 とある理由から他者との接触に消極的であり、ごく一部のキーパーソンのみと関わっている。コレに関しては高町なのはも例外ではなく、彼女の中での思い出程度としての繋がりを持っている程度。

 

■ランドル・バルクレア

出典:オリジナル

原作開始時:40~

職業:管理局第4訓練校教官

概要:

 本作ではクロノの恩師の一人。ちなみにサウンドステージにいたなのはとフェイトを打倒した校長先生とはまた別人である。子供の将来を憂い活動していたエリートだったのだが、干されてしまいエリートコースから外れ教官となる。管理局改革の後は子供の就職を抑えるために奮闘している。

 

■クライド・ハラオウン

出典:A's

原作開始時:34歳

職業:時空管理局本局総督・顧問官

概要:

 原作の11年前の「闇の書事件」により、次元航行艦オスティアごとアルカンシェルで死ぬはずだったが、ジェックによって間一髪助けられる。彼の願いもあり、また自分にも思うところがあったのか管理局改革を決意。局内の過激派を一掃しつつ各管理世界の政治家を味方につけた。

 

■クロノ・ハラオウン

出典:一期

原作開始時:14歳

職業:管理局本局執務官

概要:

 管理局執務官。原作との相違点は親が生きているかいないか、の違いでしか無いがクライドからの熱心な教えにより「管理局の正義」を語ることはほとんどない。子どもとして正しく常識的な倫理を取り入れている。

 

■リンディ・ハラオウン

出典:原作

原作開始時:30代前半

職業:アースラ提督

概要:

 管理局次元航行艦提督。ただしクライドが前任であったために原作よりも少しばかり就任が遅れている。それまでは副提督の任についていた。原作との相違点は特に無し。ただし夫の生存から少しばかり明るい表情ではあるようだ。

 

■エイミィ・リミエッタ

出典:原作

原作開始時:16歳

職業:アースラ通信主任兼執務官補佐

概要:

 原作相違点は特に無し。

 

■ジョニー・スリカエッティ

出典:Strikers

原作開始時:?歳

職業:研究者

概要:

 地球在住の研究者。魔法を発明した第一人者であるが、その姿を見た者は引きこもり故あまりいないらしい。知的ではあるがいつも高笑いをあげている。世の中が楽しくて仕方がない様子だ。その正体は最高評議会の子飼いの開発者ジェイル・スカリエッティだったのだが、本人はそれを問われてもすっとぼけている。現在は魔法の他にも医療関係や様々な技術に関与しており、過去の士郎を治したり高町なのはに渡したプロトデバイスを作ったりとジェックとともに歴史に対するアプローチを行なっている。管理局クーデター後はその姿を公に晒し始めており、独特な風貌が彼の注目度を上げているらしい。

 原作との相違点において恐らく最も変わった人物である。

 

■高町なのは

出典:原作

原作開始時:9歳

職業:小学3年生

レアスキル:収束

概要:

 巷で有名な魔法少女。幼児期にリリカル!してしまったせいで未だにリリカルなのはと呼ばれ続けている。ちょっとした黒歴史らしい。4歳頃にジェックによりデバイスを与えられた事、士郎が早期に目を覚ましたことなどが影響し、基本の明るい性格はそのままに変化が起きている。まず魔法が一般に普及した点から「奇跡」ではなく「技術・手段」として捉えていること。そのため原作のように魔法しか自分のいる場所はない、などとは思わずに他にやれるべきことは全力で色々試すようにしている。そのため将来の夢は多すぎて決められないのだとか。

 また保持していた魔力を制御できなかったために運動能力に障害が出ていた点も、魔法を使うことによって克服された。これにより御神流を学ぶことを決め、非常に運動能力が高い子どもとなった。魔法の腕自体も5年扱い続けていただけあってプロ級である。

 PCや様々な機器の扱いに長けていることから空撮動画などをアップロードしたところ様々な場所から反響が有り、撮影家・高町なのはとしても有名である。これにより大企業の娘であるアリサやすずかを置いて、個人資産ではぶっちぎりのトップに君臨している。

 

技・魔法

ディバインセイバー

アクセルシューター

ディバインバスター

ディバインバスター・フルバースト

レストリクトロック

プロテクション系

スターライトブレイカー

ブレイクライザー

 

御神流・斬・徹・貫

虎乱 射抜 神速?

 

■高町桃子

出典:原作

原作開始時:年齢不詳

職業:主婦・パティシエ

概要:

 原作との相違点は特に無し。ただしなのはへの関わり方に関しては考えを改めており、士郎のケガで冷静さを欠いた自分を悔いている。最近はユーノがお気に入りらしい。

 

■高町士郎

出典:原作

原作開始時:年齢不詳

職業:翠屋マスター

概要:

 ケガをして生死の境をさまようも、ジョニーによって早々に治療される。同時になのはに関して叱責を受けたため彼女に対して積極的に関わるようにしており、個々の判断を尊重する高町家でありながらまずはそのための下地作りを行うことにした。それによりなのはに御神流を伝授する。

 

■高町恭也

出典:原作

原作開始時:19歳

職業:大学1年生

概要:

 原作との相違点は多くない。現在はなのはの兄弟子、または師範代として生活はゆるゆるだが、修行はスパルタな特訓を化している。また月村忍開発によるデバイスを所持しており、暗器をいっぱいに詰め込んでいるそうだ。

 

■高町美由希

出典:原作

原作開始時:17歳

職業:風芽丘学園2年

概要:

 原作との相違点はほとんど無し。特にピックアップされることもない不遇少女。ストーリーの性質上仕方ない点もあるが、彼女がモブを抜け出せないのは最早覆せない定めなのだろうか。ユーノを猫可愛がりしている。

 

■ユーノ・スクライア

出典:原作

原作開始時:9歳

職業:遺跡発掘家

概要:

 地球にたどり着くまでの変更は特に無し。魔法が無いとされる地球で自分の力のみでジュエルシードを集めようとしていたが、なのはによって知らされた地球の現状に驚き、また大人の説得により他者との協調を覚え、自分の責任として全てを抱え込むようなことはなくなっている。管理局に対する不審感を抱きつつ、また仕事も積極的に行える状態でないことから高町家に居候するようになる。まるで本当の両親のように振舞ってくれる高町夫妻には非常に好感的。

 

■月村すずか

出典:原作

原作開始時:9歳

職業:小学3年生

概要:

 だいたい魔法のせいで魔改造発明家となり、なのはのサポーターを主にしている。元々「夜の一族」であることに忌避感を抱いていたが、管理世界とつながったことにより世界観が広がり、様々な種族がいる中で自分の特異点は希薄になったようだ。そも自身が持つ力も魔法に比べれば大したことではないということからあまり気にもしなくなった。手を出してないのに勝手に解決していた一例である。

 

■月村忍

出典:原作

原作開始時:19歳

職業:大学1年生、月村重工開発主任

概要:

 やっていることはすずかのパワーアップ版であり、魔法技術の多様性と利便性から月村の技術の差が埋められた事もあってか一般に公開出来る部分までは積極的に魔法と絡めて関与している。試合の準備など魔法関係の業務に深く携わっており、日本における魔導シェアの先駆けともなっている。

 

■アリサ・バニングス

出典:原作

原作開始時:9歳

職業:小学3年生・BI社名誉アドバイザー

概要:

 なのはの持つ魔法に関わるようになってから、彼女の新しい発想によりバニングス・インダストリアルにおいて様々な新商品が開発された。元々距離感をはかりかねていた親との繋ぎのために利用した、という裏面もあるが現在はその才覚を認識されたことやなのはとの繋がりから存分にその実力を発揮している。

 

■フェイト・テスタロッサ

出典:原作

原作開始時:9歳

職業:→小学3年生

レアスキル:電気変換

概要:

 変わらずクローンとして生まれるも、姉に望まれた一個人としてその生にあまり悩みを抱いていない。優しい姉の元に育ったので悲壮感もなく、また天然成分が大爆発している。ただ生まれて数年しか経っていないためにアイデンティティの獲得には悩んでいるらしく色々と模索している最中である。たとえ原作の悩みが排除されたといっても彼女には彼女の悩みがあるようだ。

 使用魔法は原作映画版ごちゃまぜだが、現段階では扱いづらい、もしくは未習得らしくいくつかの機能制限がバルディッシュに施されている。加えて空を駆けるバイクと化すストライクパッケージをインストールしている。感化されて将来様々な免許を取得するのは余談。

 

■アリシア・テスタロッサ

出典:原作

原作開始時:13歳

職業:→中学1年生

概要:

 本来死ぬはずだった運命を意図的に外された少女。明朗快活な性格をしているが重度のシスコンも患っている。リンカーコアが無いために技術職に手をつけており、プレシア並の天才ぶりを発揮している。

 

■プレシア・テスタロッサ

出典:原作

原作開始時:40歳

職業:無職

レアスキル:電気変換

概要:

 年齢は小説版準拠。28年前にアリシアを失ったというアニメ版の発言は、開発局に就任した時の設定と混濁したものと思われる。事故以前の優しいママさん、と言えるような性格はしておらず少し原作寄り。社会に対する不信感がまず第一に来るためか深謀遠慮であり、メリハリつけた発言が多いと彼女と一緒に仕事をした人たちの談。ただし娘たちには甘い親バカ。

 

■佐伯重蔵

出典:オリジナル

原作開始時:48歳

職業:刑事

概要:

 年配のベテラン刑事。元々士郎と付き合いがあり、魔法関係の事件におよそ公式では初めて関わった人物。魔法が発表された当初家の周りがうるさくなった高町家周辺への対策をとっていた。今回のジュエルシード事件においては初期捜索に携わり、自己の責任に沈むユーノをお説教するなど一般人としては役回りの多かった人物。

 

■新庄甚吾

出典:オリジナル(ただしA's)

原作開始時:20代前半

職業:巡査

概要:

 その正体はリーゼロッテだったのだー!!(なんだってー!

 変身魔法によってとっていた男の姿。勿論声は檜山。魔力を帯びた格闘を得意としている。二枚目を演じていたため評価の低い人物であったが、署内ではそこそこ人気があったらしい。ジュエルシード事件後は退職しリーゼアリアと合流している。

 

■三本陸夫

出典:オリジナル

原作開始時:34歳

職業:自衛隊三尉

概要:

 デバイス・ホワイトバードの搭乗者。過去にあちこち世界を回っていたため現地妻が何人かいる。飄々とした性格で常に余裕がありフランク。自衛隊に就任する前まではとある極秘任務に関わる非正規部隊にいたらしく、魔法を扱った大規模な掃討作戦を実行しているらしい。

 

■国枝裕二

出典:オリジナル

原作開始時:20代後半

職業:自衛隊三尉

レアスキル:無し

概要:

 デバイス・ホワイトバードの搭乗者。丸坊主の生真面目な男。三本に対して口が悪いが、それは尊敬の裏返しであり彼の技量自体には一目置いている。それ故あのゆるい性格が許せないらしい。二人がタッグを組むと阿吽の呼吸かと思えるほどのコンビネーションを発揮する。

 

■コフィー・アタタン

出典:オリジナル

原作開始時:56歳

職業:第7代国連事務総長

概要:

 元ネタは2005年当時の国連事務総長。本作においては明るくジョークが好きな性格。第一部では重要どころで出てきたが出番は少ない。ただし二部では……。

 

■ギル・グレアム

出典:A's

原作開始時:?歳

職業:時空管理局顧問官

概要:

 原作と違いクライドが生きているためさほど負い目に駆られた行動を取っていない。闇の書を彼らが発見する前に事前知識からクライド関係者が八神はやてに接触しているため、念の為にリーゼアリアを派遣している。クライドの理解者であり、管理局の現状に窮する彼を見て協力することを決意した。それによりリーゼロッテを日本に派遣させている。

 

■レジアス・ゲイズ

出典:Sts

原作開始時:44歳

職業:首都防衛長官

概要:

 地上本部の大御所。現段階ではまだ名前しか出てないが管理局が瓦解している様をある意味最も喜んでいる人。実はこっそりクライドに協力して地上にいる不正局員を一斉逮捕している。現段階ではまだ最高評議会が声をかけていない。原作ではおそらくアインヘリアル構想を考えた時に手が伸びたのだと思われるが詳細は不明のためオリ設定になる。

 

■ロス・ドッグ

出典:Sts?

原作開始時:40歳

職業:首都航空隊三等陸佐

概要:

 原作ではティーダの死を侮辱した上官として出ている人。名前役職性格モロモロはオリ設定。武官を妬み昇進出来ないことを悩む卑屈な男。周囲からは現場知らずと言われ距離を取られている。ジュエルシードの噂を聞きつけ傭兵集団を雇って出奔したが殺されそうになったうえに、助けられてもあえなく逮捕されてしまうジェックに振り回された人。

 

■デュアリス

出典:オリジナル

原作開始時:27歳

職業:傭兵集団ダークアイズリーダー

概要:

 狡猾で野心溢れるヤクザな男。手に入る者は何でも手に入れるが、基本的に自分にとって役に立つものか、己が強くなるもの以外にはあまり興味が無い。魔力量は多少多い程度で、その他は技術でカバーできるほどの実力者。元局員であったために使用魔法はミッド式ではあるが、何故か斧型のデバイスで近接戦を行う。2度に渡るジュエルシードの強化を施したが、過剰な魔力量に耐え切れず暴走、SLBで撃墜された。

 

■三雲連次

出典:オリジナル

原作開始時:53歳

職業:日本首相

概要:

 がっしりとしたガタイに、部分的に白髪になったメッシュ状の頭髪。身長は190cmを超える大男。ともすれば力で政治を支えてるようにしか見えないほどの豪胆さを持つ。いわく士郎とは友誼を結んだ仲だとか、メル友だとか。しかしてその中身は非常に狡猾であり、国益のためには割りと手段を選ばない。特におとなりの国のギャング集団が度々日本にちょっかいをかけてくるため、こういったカリスマあふれるリーダーが必要不可欠となって選ばれたとか。表向きは人当たりが良く正々堂々を穿く武士然とした人間でもある。違和感があるくらい肉体と精神が乖離しており、とにかく見た目通りの人間ではない。

 

■紫葉楓

出典:オリジナル

原作開始時:24歳

職業:文部科学省魔法開発局魔法推進課課長

概要:

 アメリカで行われたマギテクス若年層開発者育成プロジェクトによって講義を受けた若き天才。習得した技術ノウハウとそれによる発展性は他の追随を許さないほど。マギテクス発表後引き抜かれる形で入局したが、実際はあらかじめ選ばれたて派遣された人員だった模様。本人の魔力ランクはAA、戦闘能力は無いが複雑なスクリプトの魔法を行使するのが得意。主に幻術系や束縛系、反射型プロテクション等。開発者らしいこざっぱりした性格で、ムダな事を嫌う。女性でありながら化粧もあまりすることがなく、ショートボブ系の男気あふれる姉御肌。

 



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Material TIPS(ネタバレ注意)

※こちらのTIPSは専門用語、オリ設定、独自解釈設定を記述しています。
 原作の設定には基本的に忠実に行います。
 原作に表現されていないことは独自解釈します。
 当SSオリジナル設定は原作世界観をベースに行います。
 最新話までの内容を記述していますので未読の方はネタバレ注意。
 話の流れで不要になったことまで書いてあります。
 また、それらがフラグになることは多分ありません。
 書いて欲しい設定、質問があれば記述します。
 当SS世界観の地球でこんなのあったらいいなと思う設定募集中。
 そのまま日常回に投入するかもしれません。


■地球

 西暦2002年に魔法が公表されて以来、空前の大ブームとなる。しかしデバイスという超高性能演算装置の値段が高く、スポーツでの導入はまだまだ敷居が高い。軍や警察ではテーザーガンの延長上として、非殺傷での制圧目的で使われている。一般用としてバニングス・インダストリーから防犯デバイスなるものが発売されているが、そちらは極限までスペックを削りきっているので、安価で用途がほぼ限定されている。

 地球の特徴として魔法を今まで使われていなかったためか、魔力素(マナ)の濃度が非常に高く、後に圧縮精製された高効率魔力炉の生産地として有名になる。魔法を使う人種が少なかったため、刺激を与える活性化、遺伝によるリンカーコアの増大は無く殆どが魔力量F(ほぼ無しと同義)である。しかし地球特有の濃度によって影響された突然変異種が多く、リンカーコアを持っている人間は大体がA以上という管理世界から見れば驚愕の結果を出している。また、ユーノはこの高濃度魔力素が肌にあわず、非常に取り込みづらかった模様。

 

リンカーコア分布(推定)

~S:0.5% A~AAA:9.5% B:1%以下 C:1%以下 D:1%以下 E:1%以下 F:86%以上

 

 

■魔力炉

 地球の高濃度魔力素を圧縮精製して作った魔力を生み出す装置。人体のリンカーコア構造を模倣して作られている。特徴はリンカーコアと同様に外気(魔力素)を取り込み、魔力へと変質させることだが、圧縮魔力素がごく少量でカートリッジと同等の起爆剤として用いられることで多大な魔力運用を可能としている。勿論使用した魔力は地球へと返り魔力素へと還元されるので、とてもエコでクリーンなエンジンである。圧縮魔力素も足りなくなった場合は自動充填できるようになっているので、事実上の半永久機関と化している。ただし、出力は魔力炉のサイズに比例しているため、小型魔力炉(300*300mm)で魔力ランク自体はB程度となっている。サイズ次第ではあるが、電気に変換することによって家庭用の小型発電装置程度には使える。戦艦に搭載する規模のものとなると、とても人間では出せない出力のものが使用出来るらしい。

別名MGドライヴとは言わない、きっと言わない。トラ○ザムもしない。

 

 

■マギテクス利用規約に関する条約

 マギテクス発表の際に国連によって定められた条約の一つ。主に利用の際のルールが記されている。「マギテクス技術は地球の平和利用に準ずる」という基本ルールを旨にしている。以下は使用の際に許可が必要、もしくは禁止されている魔法の一覧である。

 

・サーチャーの不正利用

警察権限、もしくはそれに準ずる許可が必要

・召喚魔法の行使

違法な生物、もしくは想定されうる地球外生物の召喚の禁止

・幻術・変身魔法の行使

なりすまし等防止

・結界による捕縛行為、位相ズレの不正利用

領域内への捕縛による意図的な妨害、または位相ズレを利用した不法侵入等の禁止

・個人による転移魔法

緊急時以外の使用は認めない。また許可証があるものは特定のポイントへの転移のみ許可する。

・使い魔契約の行使

生命倫理に基づき、これを延命措置と取るか蘇生ととるかで議論が紛糾しているため現在は禁止されている。

※獣姦などが起こるのでは?というよりも人間形態は果たして動物と扱うべきか人間と扱うべきかでも議論が真っ二つに割れている。

 

 

■海鳴大学

 魔導都市と化した海鳴市において、時代の流れを即座に嗅ぎ取り文系から方針転換を果たした大学。マギテクスをエサに合格倍率が東大を超えるという記録を樹立した。これ以降、受験戦争に取り残されるなと魔導学科の導入が各地で活発になっていく。現在はランクの高い大学や理系の学校ならそこそこの数が開設されている。授業は選択制で、設立した魔導学科にはいつも人が入る盛況ぶり。しかし本命となる部活動はかなりふるいにかけられたらしく、放課後まで活動しているのはわずか30から40人ほどである。これは機材とするデバイスの値段が高いため、予算的な問題で導入が遅れているせいらしい。また、講師となるべき人間も多くが研究職からの引き抜きか月村重工の専門家によって補われており、手が回らないという理由もある。

 

 

■デバイス

 高性能演算装置。ストレージデバイスですら現存のPCのスペックを上回る処理能力を発揮できる。加えて量子変換による収納・展開能力もあり、高価なPC代替機や大量の資材のポケットのような使い方をされている。高度な技術によって生産がされているため、コアの生成を現在行なっているのは月村重工とバニングス・インダストリーズ、その他いくつかの会社が国内では主となっている。一般用に販売されているものは全てに非殺傷非破壊の設定でロックされており、例えインテリジェントデバイスであろうと解除できない(上位権限でそのように指示されているため)

。リンカーコアを使用するタイプと、小型魔力炉を搭載した2タイプがあり、前者は需要の希少さから値段は相応に高くなっている。地球には才能人が多いため、企業からのスカウトという形でこれらを手にするものが多い。後者は魔力炉のせいで肥大化しており、だれでも扱え(前者と比べ)安価になっている。

 ちなみにデバイスの現在の平均相場(円)は以下のとおり(多分このくらい?)

 

 防犯デバイス(充電式:最下位グレード):10,000~

 ストレージデバイス(超小型魔力炉:機能制限型)200,000~

 ストレージデバイス(魔力炉:キャノン変形型:常時ボックスタイプと外部装備型ロッドデバイスの選択式):500,000~

 インテリジェントデバイス(魔力炉:上記同様):1,000,000~

 ストレージデバイス(リンカーコア型:ロッド、カードタイプ):2,000,000~

 インテリジェントデバイス(リンカーコア型:上記同様):5,000,000~10,000,000

 PC機能型インテリジェントデバイス(魔力使用無):3,000,000~

 

 

■魔力銃

 別名、導力銃。エーテルガン等とも呼ばれている。その名の通り魔力弾を発射する銃であり、分類上は飛距離が圧倒的に伸びたテーザーガンとなる。有効射程距離はやや短く、30m以内。これは距離に比例して魔力弾が拡散して威力がなくなるから、とのことらしい。マガジン式とバッテリー式の2種類があり、好きな方を選べる。マガジン式の場合は通常の弾薬と同じく薬莢を使用するが、デバイスで使用するカートリッジのように圧縮した魔力ではないので厳密には違う扱いとなる。製造元は構造上流用しやすいため、ほとんどが現存する実銃製造企業が作っている。ただし、規定上どのばあいでも殺傷性能があってはいけないため、カラーリングは白、非殺傷、非破壊設定が備えられている。国内では規制は厳しいものの、許可が出れば所持して良い。

 

 

■航空法

 デバイスのみでしか空を飛べない人間は適用される。つまりなのはやユーノのようになくても空が飛べる人間にはあんまり意味が無い。現在は魔導黎明期、個人で空をとぶ絶対数が少ないために法整備が整っていないらしい。特にデバイス持ちに対する法律に関しては後々整備される様子。

 

 

 

■キャパディテクター

 元々はリンカーコア検査のために用いられる機械で医療用なのだが、スリカエッティのお茶目心で何故か索敵モード等ステキな仕様が盛り込まれている。裏モードらしく一般は知らないとか。魔力反応に頼らず、容量のみで判別するためにジュエルシードもサクサク見つけることができるらしい。とは言ってもそこまで索敵範囲は広くない。画面表示やスクリーン投影機能もあり、投影した場合はサーモグラフィーのように表示される。ジュエルシードは真っ白に映るとか。

 

 

 

■各企業の動き。

 デバイスコアをCPU代わりにしたパソコンの製造を各メーカーが考えているらしい。某社とかりんごとか。ストレージデバイスコアを用いたものならそれなりに安く出来るらしく現在開発中である。インテリジェントデバイスコアだとそれだけでぶっ飛ぶ値段になる。また、何やら玩具メーカー等も動き出しているらしく、リアル変身セットとか、魔力をペイント弾に変換したエアガン、ガスガンの代わりの新モデルだとか、魔力扇風機だとかなんだかよくわからないものまで作っている。とりあえずムーブメントなんでなんでも作ってみるとか。きっと後年になって、なんでこんなもの作ったんだとカオスを見るに違いない。ノリとしては昭和の勢いとかなんとか。

 

 メインとなるデバイス単体は足が速かったバニングス・インダストリーズと月村重工が飛び抜けている。もしくはジョニー・スリカエッティが住むアメリカ系企業が主か。分類するなら日本は平和な製品を、アメリカでは武器転用がメインで作られている。ちなみにバニングス、月村の二社はスポーツ利用や防犯、独自研究がメインだとのこと。

 

 ここで台頭してきた企業はハードウェア系の会社ではなくむしろソフトウェア、プログラミングを主とする会社であり、空間投影ディスプレイや様々な魔法を開発して脚光を浴びた。が、国連のとある条約による制限によって、魔法のジャンルによっては悔し涙を流した者も多かったとか。ハード関係は技術的に高度過ぎる部分があるらしく、発展途上国では自国生産がうまくいっていないらしい。

 

 

 

■魔力通信

 念話とは別にデバイス等を用いた通信方式。魔力素を通信媒体とするために電波強度で言えば現存の携帯を圧倒する性能らしく、圏外が殆ど無い。とはいえオリジナルは次元を超えて通信できるのだから仕方ない。そのせいで各携帯会社が存続の危機を迎えているらしく、これらでどうにかして利権を手に入れようと躍起になっている。とはいえ電波?利用に中継局を利用しないのだからいったいどうやって搾取できるのかという疑問の声が上がっている。

 

 

 

■魔力素

 発生要因は不明。恒星活動の一種なのか、とりあえず星には生まれる模様。そのため魔力素を使われていない星の魔力は溜まってしまい濃くなり、人体に取り込みづらい(出身地の魔力に慣れていたら問題ない)。そのためユーノは地球の使われていない魔力素を吸収して回復しようとしても、うまくいかなかった。

 

 

 

■時空管理局

 本局を次元空間の狭間に置いている。これは各世界が共同管理している組織のため、どこかに根を下ろされると都合が悪いことからこのようになっている(局員が第一管理世界出身者で占めているため、体面はともかく中身は第一管理世界シンパが多い)。その代わり、各世界には地上本部という出張所がおいてある。地球との違いは三権を一括してまとめているせいで、命令系統が複雑化したことによる初動の遅さ、警察や消防などの専門性の無さが問題となっている(軍事教育の一環として覚えるためどうしても時間の問題で手が届かない範囲がある)。また、魔法に偏重しているため、消防車等の各種装備もあまり多くないらしい。空港火災の際ははやてが氷結魔法を用いていたが、氷結変換が貴重な管理世界で一体どうやって大規模な消火活動を行なっているのか気になるところである。そもそも魔法を使わない人間による通常の犯罪も魔導師が対処に当たるため、リンカーコアの無い人間は現場での活動範囲が著しく狭い。魔法を使わない相手なら同様に使えない人間を当てればいいものを、それらに該当する多くの人材は文官へと回されているため魔導師にとっては非常に過酷な職場になっている。管理局の最大の課題は「適材適所」を実行できていないところにあるのだろう。

 

 

 

■なんかでっかい木

 天を貫けニョッキニョキ!少年少女の愛のパワーで樹木の檻の完成だ!あの年で監禁趣味とか、少年の未来は明るい。リア充爆発しろ!

ジェックのこんなはずではなかったシリーズ第一弾。高町なのはの人生帳に刻まれたイベントの一つ。魔王様からの強制力でできる限りこのイベントを行わざるを経なかったが、魔力反応が外部の撒き餌としてはちょうど良かったので歴史通りに事を起こすことにした。しかし確実に起こすことを考えて少年少女達の縁をしっかりガッチリ強くしたせいであんな事態になるとは当人も思っていなかったらしい。つまり木が絆の力で超絶パワーアップを果たしてしまった。それ何て少年誌。発動の瞬間はケガと無縁にしていたが、結界に取り込まれてからは解除した。

 

 

■DBFB

 ディバインバスターフルバースト。小説版からの引用ではあるが、表現が正しいかは定かで無い。砲撃が一直線に伸びるが、その外周にモコモコ炸裂部分が出来上がる。気分はまるでブドウのようだとか侵食された生命だとか。チャージの時間を考えればSLBよりも運用しやすい。見切った!とか言いながら紙一重で回避すると痛い目を見る。

 

 

■魔法

 魔力を用いて魔力フィールドを構成し、そのフィールド内の確率を歪めることで特定の現象を生み出す量子力学の一種。前述の理由と相当な多様性を見せるためマギテクスと称し、量子力学とは別物の扱いとしている。魔力の結合によって作られ、安定したフィールドは一種の量子的なエミュレーションが可能であり、「0」と「1」(2進数)、つまりオフとオン、魔法という現象があるかないかという不確定な状態を作り出し、魔法がある状態を観測させることで擬似的に何らかの現象が起こるとされている。

 

例えば、炎熱変換を用いて炎を生み出す場合だが、魔力フィールドに「炎が燃えている」と今の「何もない」状態の2種類を切り替えることでガスも可燃物も用いずに炎を生み出すことが出来る。ただしこの状態ではただ燃えているエミュレーションをしているだけであって、各々が生み出したものを制御しなければならない。この制御はマルチタスクによって行われる。

 

そのプロセスは以下のとおり、

 

魔力素→変換→魔力(色により演算特性が変わる)→現実干渉のためのフィールド形成→プログラム実行(インテリなら魔力同調ができていないとミス・ストレージなら汎用処理のため確実性ありで実行)→量子的な干渉により魔力フィールド上に魔法形成(魔力弾スフィア、通信ウィンドウ、天候変化)→ここで術者本人が変数代入による手動制御(空中での座標変更、儀式魔法による微妙な数値調整)→発動

 

となる。魔力についての説明は後述する。

プロセスで例えると飛行魔法はこのように分解できる。

魔力→フィールド形成→飛行プログラム実行→魔力フィールド内の重力や加速度等が変わり調整可能になる→ここに変数として、加速度や進行座標を手動制御で入力することにより、移動が可能となる。

 

飛行魔法が難しいとされているのはイメージ、つまりこれらの数値代入がリアルタイムで行わなければならないために直感的でありながら数学的であるという対極的なものを含んでいるからだ。それがいわゆる才能、として扱われている。ぶっちゃければとりあえず浮くだけなら誰でも出来るようだ。

 

そして現象、状態維持の規模が大きければ大きいほど魔力を消費する。

ヴィータの魔法には鉄球生成等があるが、これをAMFにくぐらせるとどうなるか?それは魔力によってエミュレートし、擬似的に鉄球を作り出しているだけなので、量子的なフィールドを持っている魔力の結合が阻害されることによって無効化する。つまり鉄球も消えるということになる。

 

また量子格納はこの確率をいじることで必要なデータをデータ化して収納している。(壊れたら壊れたまま収納するので、魔力によって一時的なパッチ修正は出来るものの、重度であればオーバーホールが必要とされる。)

 

ちなみに非破壊、非殺傷設定はプログラムの中に仕込まれており、これを適用することで魔力フィールドでエミュレートしたものが物質にあたったとしても「壊れるという状態」を観測出来ないようにしている。つまり壊れる確率0%となるということだろう。それでもバリアジャケットが破けたりスタンダメージがあるのは、位相違いの魔力がぶつかり合うことで結合阻害と相殺が起こっているのが理由となる。

 

 

■魔力

 魔力フィールドを作り出すために必要なエネルギー。これは個人個人によって位相や特性、演算帯域が違うために魔力光に変化が生じる。演算帯域というのは、例えば量子コンピュータがひとつの結果を出すまでに無数の計算式(ただしビット数限界値は存在する)を同時に実行する。これはつまり、結果は同じでもそれぞれ過程が違うということになる。そして魔力の資質によって演算帯域が制限されるため、同じ結果でも個人で過程が違ったり、特定の魔法を行使できないとされている。

 

これを例にとると、ユーノは魔力光は緑で攻撃魔法に適正が無いとされている。その代わり防御や結界関係に優れている。で、この過程が制限されるということは、結界を作るにしても、同様の演算式を魔力光の違うなのはには利用できないということになる。もしなのはが結界を作り出す場合は、違う演算式を打ち立てるか、もしくは単純に出来ないということになるだろう。同様にユーノとアルフが作り出す結界も、結果は同じだが過程は違うということである。

 

 この証明として、炎熱変換等のレアスキルのなかでは尤もポピュラーなものは、魔力光に依っている特性であることが多い。赤なら炎、黄なら雷、水色なら氷というような。(フェイトは金と表現されるが、厳密に金は固有色名であり表現としては適切でないので省く)他には緑なら治癒や補助系、というようにそれぞれに振り分けがあるのだろう。魔力光が可視光の範囲で特性が変わる場合、ザフィーラの白や虹色のヴィヴィオにといった例外もあるが、一応説明がつく。レアスキル持ちはエネルギー変換し、それを近辺で発動しても身に纏ったとしても、基本的にノーダメージである。つまり魔力は位相によって抵抗力を持つと仮定できる。色光を纏めあげ白にしたザフィーラは防御特化であり、聖王の鎧という魔法無効化に近い能力を持つヴィヴィオは虹が常にゆらめいている。これは位相が揺れ続けることで各魔法に対して尤も有効な魔力光が保護しているのではないか?という内容である。ザフィーラは白色光として纏めることで単純に個々の抵抗力を僅かずつ持っているため防御力が高いと推測できる。

 

 ただこの内容であると、全く同じ位相、つまり同じ魔力光を持つ者同士だと魔法合戦であれば全く決着が付かない事になる。が、世界全部回ってみても早々同じ色があるとは思えないのでここでは考えないことにする。

 

 さて、この魔力光であるが恐らくインテリジェントデバイスはこの魔力光が使用者と合致しないとまともに魔法が発動できないものと思われる。恐らくはインテリジェントデバイスにも魔力特性毎の演算帯域に違いが有るため、ユーノでは使えなかった(レイジングハートに選ばれなかった)理由になるという説だ。初期のサイトにもさほど汎用性が高く無い、や魔法によってはミスする、と書いてあるためおおよそ外れていないものと思われる。そのためなのはは回復魔法に適正があまりないはずであり、レイジングハートでこれを行おうとするとミスるか大した効果が出ないはずだ。

 

 例外として、ストレージは汎用性特化のためこの魔力光に関係なく魔法を実行できる。ただし応用が効かない事や新しく魔法を即興で使う事ができないとされている。クロノが適性もなくデュランダルで氷系の魔法を使えたのはそれが理由だろう。

 

 




原作の部分もある程度納得できるように落とし込めた、はず。ちょっと自信はないですけどこうやってアニメの不明点を解消していければ。


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Prolouge
Prologue of the end(改訂済)


初めまして。オリ主(転生でない)逆行モノです。未来にいるのは僅かな時間だけですが。

方針:裏方演劇補助。設定穴埋め補完計画。しあわせ家族計画。暴走する無限の欲求。
(H25.01.31)大規模加筆修正。
(H25.10.31) 懲りずにごっそり大改訂。事件内容改訂。+4000字。


 黒い雨が頬を打っている。

 始まりは突然……否、自分たちが気づくのに遅れただけだ。それは過去から引きずられた小さな罅で、溜まりに溜まった歪みが大きな亀裂を伴って決壊した。ただそれだけの話。そして、取り返しのつかなくなったお話。

 

 原因は単純明快、ロストロギアの暴走という管理局からすれば珍しくもなんともない事例だった。対応できるなら回収して、出来ないのなら危険度に応じた対応を行う。その場合他世界を巻き込む可能性があるのならば現地惑星においての破壊行為すらもやむ無し。いつもどおりに行えばいい。

 

 それが管理局員がしでかしたことで、ミッドチルダで引き起こされたことでなければ。

 

 事の起こりは現在新暦8X年より昔、75年まで遡る。そう、当時ジェイル・スカリエッティと呼ばれる次元犯罪者を逮捕した前代未聞の事件が解決した頃からだ。当時の管理局は最高評議会と呼ばれる上位決定機関と陸のトップ、レジアス・ゲイズの逝去、また彼らの犯罪組織との癒着と内通によりひどく揺れていた。世界の守護者たる管理局が犯罪を手引きしていたという事実は、管理局内外全てに衝撃を齎した。信頼を失った一部局員は自ずと管理局を去り、外野――特に反管理局体制派――は執拗に管理局を責め立てた。まさに失墜という他無い。ロストロギアの性質などから情報の極度の隠蔽体質をとっていたためか、屋台骨がぐらついたことでボロボロとメッキが剥がれていく様は見てて気持ちのいいものではなかった。

 

 それらをどうにかしようとして図った手段は、今回の事件に貢献した機動六課を「奇跡の部隊」と祭り上げることで矛先を逸らしまだ管理局も捨てたものではないと信頼の低下を防ぐことだった。何時の世も英雄と呼ばれる存在は誇らしく、輝かしい。特に広報課はそれらの面々を押せ押せで民衆の前に立たせるのが大の得意で、マスメディアに踊らされた彼らは見事に視線をずらされた。誰だって暗い部分は目をそらしたいのだ。管理局がそんなにひどい組織ではないと。その後も広報は信頼度を上昇させるために時の英雄である高町なのは達エースにスポットを当てたノンフィクション映画を展開していく。実際にこれらは大当たりし、それらを囮にしている間に管理局は見事に清浄化を図ったように見られた。

 

 ここまでは特におかしくはない。組織を保守したい面々にとっては当然の帰結であり、そしてその中には再犯予防も当然含まれる。つまり、対AMF措置を取ることである。AMFやISと呼ばれる技術により、魔法に決定的な信頼感を抱けなくなった以上、それらの技術を取り込む事は急務だった。ジェイル・スカリエッティが生み出したものを解析し、恩赦を提示することで戦闘機人達にも協力を仰ぎ、AEC武装、もしくはアーマーダインといった非魔導装備を拡充させていった。ソレは後に徐々に小型化、継戦能力の強化により魔導師でない人間にも扱えるようになる。

 

 これによって巻き起こったのが「魔導師不要論」という極論だった。魔導を持たぬ人間が力を持てるように成り、圧倒的であった魔導師対非魔導師の戦力バランスが拮抗するようになったのだ。力を持てるようになると傲慢になるのは人間の業だ。これらの装備によって確かに陸は安定し、奇しくもレジアス・ゲイズの宿願を叶える形になっていたのは皮肉である。しかしだからと言ってそのような論調になるのは当然今まで働いてきた魔導師たちにとっては侮辱と取られ、憤慨冷めやらぬものだった。魔導師達はこぞって魔法の安全性を説き、彼らの持つ武装の危険性を矢面に上げ罵った。

 

 高町なのは達はこの状況において中立、いや両立派であった。どちらにも良いところはあるし、それらの武装を使った身としては必要であることも理解している。実際現場に出ていた人間としては両立派の方が多かったという意見もある。しかし魔導師派を声高に叫び強硬、後押ししていたのが旧来から存在する管理局の高官であり、今回の事件の元凶となった者達、英雄派と呼ばれる派閥であった。

 

 管理局を長く蝕む問題として、魔力至上主義、もしくは魔法至上主義と呼ばれるものがある。コレの原点は最高評議会の3人が過去の次元間戦争末期において圧倒的能力を発揮して戦争を集結させたというものだ。人一人が出せる限界を超えたマンパワーによるワンマンアーミー、そして当時環境破壊により空気汚染等がひどいなか、化学的に物質に依存しないエネルギー媒体である魔力はクリーンで安全という性質の良さから魔法はある種神聖視された。その実体は転移等を利用した戦艦内への奇襲といったゲリラ戦法であったのだが、歴史は勝者が作るものであり百数十年以上前のことなので捏造により詳しくは知られていない。ともあれそれにより脚光を浴びた魔導師は当時より以前から技術的には存在していたものの、他の大規模破壊兵器や終末戦争の様相を呈していた中ではさして目立った存在でなかったはずだった。元より「人間にしては」という言葉が付帯する以上、魔法というのは核やミサイルと比べると圧倒的にローパワーであるのが通常で、役割としてはアサルトライフルやロケットランチャーなどを所持する歩兵程度でしかない。普通であれば紙くずのように吹き飛ばされるのが当たり前の存在だ。

 

 それらを覆したのは彼らが立てた作戦や、3人の才能に寄るところが大きい。この勝利に託けて、また過去への戒めとして大量破壊兵器やロストロギア、質量兵器の不当所持を禁止にした。この裏には再び魔導師に対抗するための力を保持させないという目論見もあったという。

 

 これらがいくらかの誤解を生み、魔導師は質量兵器より強い奇跡の存在と呼ばれ、魔導師の英雄という先導者がいたためか、魔導師という存在はある種の特権階級として扱われた。そして魔導師として働くことは名誉であり、力あるものが無きものを守るのは義務、というような高度な技術を保持するような時代でありながらまるで貴族のような階級制度的思想が生まれるようになった。これが魔力至上主義の起こりである。

 

 とはいえ所詮力に寄る思想。そのあり方は時が過ぎるごとに徐々にその形を変えていった。庇護は抑圧に、名誉に応じた報酬は強欲な者達の私腹を肥やすだけの悪銭と変わる。魔法が使えることを特権と思い込みまず給与等に圧倒的差が出始めた。さらに非魔導師が抵抗するための手段を奪い、生み出させないように様々な誘導で思考停止をもたらす。魔法こそが正義、それ以外は悪。タブー視された技術に誰も手を付けることがなくなった。こうして技術的、武力的優位となりそれらを囲い込み、誰も魔導師に対して抵抗できないようにした。

 

 この中で英雄派と呼ばれる人物たちはさらに過激だった。高官で老齢ともなれば、考えが凝り固まり新たなものが生み出せずに保身に走る。いわゆる老害である。いつまでも昔は良かったと嘆き、ソレにすがり、現代でも当たり前のようにそれを強要するようになる。さて、保身となれば部下の失態、撃墜などが起き続ければ責任は上官の自身が取らねばならないだろう。また組織に貢献するために成果も上げなければならない。しかし老齢になればなるほど思考が鈍り続け細々とした成果しか出ないか、もしくは崖から転がり落ちていくだけだ。そうすると大体の人間が過激な発想を用いるようになる。

 

 元々人類全体で見て少ない魔力持ち、ロストロギアや犯罪といった脅威に対抗するためには世界は広すぎて、人の手では明らかにカバー出来る許容を超えていた。当然次から次へと被害が出て殉職者も絶えず、魔導師は減り続ける。

 

 ならば必要なのは何か?と考えて老害達は考えた。「英雄」だ!英雄が必要なのだ!今の時代には英雄がいないから人類は弱いのだ!

 圧倒的な魔力を持った人間さえいればどうにか出来る。取らぬ狸の皮算用、当て水量によって生まれた計画は人工的に魔導師を生み出す計画だった。後にプロジェクトF、戦闘機人と呼ばれる計画。これらによって自分たちの言うことを聞き、高い魔力を持った者を生み出し戦力として使おうというものだった。最早彼らには倫理観など投げ捨てるもの程度の扱いだったようだ。

 

 結果的にこれらの計画は成功した。フェイトという人工魔導師が活躍し、生み出せることを確信した彼らはさらにそれらを確かなものとした。あちらこちらで何度も実験が行われ、無垢な少年少女たちが生み出されては捨てられるといった悲劇はフェイトの心を際限なく傷めつけた。

 

 が、これらの考えはジェイル・スカリエッティの叛逆によって衰退へと辿ることとなる。元より生命倫理の問題からタブー視されていたこと、バックとしてついていた最高評議会やレジアスがいなくなったことにより金銭供与が途絶え計画そのものが泡沫と消えた。そして事件を教訓とすることで外付けの武装に頼る風潮も生まれた。有り体に言って、彼ら英雄派は最早瀬戸際だった。

 

 たとえ己の犯した行為がバレずとも、席に座ったままでいられようとも彼らの心中は穏やかでない。欲が生まれれば次から次へと良い物が欲しくなっていく。彼らはもう、止まれなかった。

 

 新しい手段でどうにかできなくなった彼らは有り物で補うしかない。ならば頼るのは、残っていたのはロストロギアただひとつのみ。

 数多あるロストロギアをどうにか集め、それにより派閥の人員を強化するという、もはや危険性など目もくれない馬鹿げた計画だった。残っていた伝手、コネ、人脈を使いこっそりと、誰にもバレないように様々な名目でロストロギアをかき集めた。計画自体は突拍子もなかったが、蜂起そのものは成功した。広域に広がり過ぎた管理局という組織は全体を通した内部事情がわかりづらい性質がある。特に次元世界をあちこち跨いでいるのだからそれはしかたのないことであり、そして彼らにとって格好のスキであった。

 

 もちろん、それを指を加えて見ている管理局ではない。

 内部に不穏な気配を感じた八神はやては過去ロストロギアに携わり続けた経験から再び特務六課を結成。捜査に出るもその動きが判明するには遅すぎ、しかもロストロギアが集約していたのはなんとミッドチルダ市内という、まさに目と鼻の先、獅子身中の虫であった。

 

 止めようとする頃には実験は既に発動段階に至っていた。外部から破壊工作を幾度と無く仕掛けるも、数多くのロストロギアの相乗効果により効果不明ではあるが堅牢な防御を敷かれたプロテクトを貫くことは出来ず、

 

――最終的に、暴走して全てを巻き込んだ。

 

 

 

 この時、ロストロギアに関わっていた老害達は誰もが衝撃を受けていた。

 

「そんなバカな、理論上は完璧だったはずだ!奴らだって出来ると言っていたんだぞ!」

 

 そう叫ばざるを経ないほど彼らは事態に困窮していた。いくつものロストロギアによる複合作用を生み出しながらも、それでも安全マージンを取り――果たしてそれら危険物を扱う時点でマージンがどうもこうもないのだが――出来る事を確信していた。だがそれは予想外の方向からもたらされた邪魔によって一気にバランスを崩した。

 

 超微小次元震。

 本来なら刹那に掻き消えるような小さなものでしかないのだが、ほんの少し開いた次元の隙間が計画を奈落に追いやった。何故そんなものが起きたのか、これは奇しくも同時刻、地球で行われていたとある実験によるものだった。欧州のとある研究機関、そこではマイクロブラックホール実験等を行っており、幾多の成功と十数年の月日を経て彼らはとうとう次元に穴を開けるまでに至った。目指す先はおそらく、ワープに関する事象の観測といったところだろう。結論として、この実験は成功しナノ秒単位ではあるが開けることが出来た。だが次元に穴を開けることで何が起きるかまでは、理解できていなかったのであろう。大規模なエネルギーの奔流が実験施設を破壊した。

 

 もともと、地球とミッドチルダの関係は遠いようで近い。次元漂流者達は大体の確率で相互に行き来してしまうし、特にイギリスと日本は「妖精のイタズラ」、あるいは「神かくし」という言葉があるほどに漂流者が頻発していた(ただし次元世界側の人間はこっそりと回収されている)。この二国は特に次元境界面が不安定でつながりやすく、かつ惑星の形状や言語系に至るまで比較的近似値を示すことが多い。そもそも次元世界というのは「次元」の名の通り3次元4次元のくくりではなく、3次元上に広がるいくつもの宇宙の事を指している。仮説としてさながらビッグバンによって特定方向に広がりを見せた宇宙は実は複数あり、3次元上に宇宙の風船が詰め物のようになっているのではないか?という話だそうだ。距離的に見れば非常に遠いのだが、その宇宙の隙間、あるいは3次元そのものを渡る次元航行艦にとっては宇宙の端に行くより3次元空間を基準に重ねあわせた同座標の別宇宙(次元世界)にわたったほうがはるかに生命体が住む惑星を見つけるのが簡単らしい。ビッグバンという同一起源を持つ次元世界群は、宇宙の構造が脳内のニューロン構造と似ているように惑星の位置も比較的ズレが無いものになるとのことである。次元世界を同一宇宙のものでなく、また並行世界とも呼ばないのはこういう理由があるとのことだ。

 

 話がそれたが、座標的には比較的近い地球で次元震が起きてしまったため、はたまたどんな偶然か、あるいは故意かミッドチルダとつながってしまったようだ。そして引き寄せられたようにロストロギア付近で穴が空き、過剰に反応したそれらが暴走。局員たちは一瞬にして消し炭となり、わずかなラグの後、施設に突入しようとしていた特務六課もその煽りを受けて全滅した。

 

…………

……

 

 

 ――街は火の海に染まり、空高く貫くビルはバベルのように崩れ落ちた。破壊の衝撃で人類の英知は何もかもが粉々に成り、人々は灰になった。そして止めようとした特務六課も、遠距離に位置し奇跡的に生き残った高町なのはを残して皆欠片も残らなかった。

 

 その高町なのはとて最早満身創痍の有様だ。肺は焼け、裂傷が身を刻み、支えるべき骨はバッキリと折れていた。何本も、何本も。

 どれだけレイジングハートが叫ぼうともそれに答える余力すら無い。何をするまでもなく失われた全てに対し、彼女が考えられるのはどうしてこなってしまったんだろうという無念しか思いつかなかった。まるで無力感に苛まれていた過去の自分のようだ。魔法という全能感に浸り、人々の役に立てるという役割<ロール>を手に入れた時、彼女は奇跡を起こせると、なんでも出来ると思った。不屈という諦めない心さえ持てばどんな状況だって覆してみせる。それだけの実力が彼女にはあった。だが事態はそんな彼女を余所に勝手に進み、もはやマンパワーではどうしようもできない領域にまで踏み込んでいた。

 

 ポツリ、と倒れ伏すなのはの頬を雨が打った。もうもうと立ち上る煙が、雲を刺激して局地的な雨を降らせたのだ。しかしそれでも、あたりを蝕む火の手は止まない。あまりに強すぎる火力が次から次へと可燃物を巻き込み、ただの水だけでは収まりきれない状態にまでなっていた。恵みの雨ではない。これは人の灰によって生まれた涙、だからこれは死の雨だ。再び何も生み出すことのない絶望のカーテンコール。私たちの戦いは、もうこれでおしまい。守るべきものがなにもないのであれば、自分が存在していことに意味なんて無い。

 

 雨の重さで、近場の瓦礫が音を立てて崩れた。興味はない、でもそれに潰れてしまえばどれだけ早く楽になれただろう。そんなふうに考える。カラカラコロコロ、削れたコンクリとともに何かがなのはの前に転がってきた。

 

 

 

 

 一体これは何の冗談だろう。運命か、あるいは神の采配か。自分の元に導かれるようにして転がり込んできたのは二つのロストロギアだった。

 

ジュエルシード、自分を魔法の世界に導く変化を齎した石。

レリック、養子となった娘と大きな事件に関わった魔力結晶。

 

まるで何かをしろと自分に訴えかけているよう。サービス(依怙贔屓)でゴザいますお客様。少なくとも神は賽を投げられました、あなたはどうします?なんて。

 

やること、なんてあっただろうか。ぼーっとした頭ではろくに考えることも出来ない。盛大な魔力災害が起きて被害を受けたのはここだけではないだろう。見渡すほどに燃えさかる世界、そう世界だ。それだけ巻き込んで無事な知人がいるとは思えない。ここで再び自らがたちあがったとして、一体何ができるのか。起き上がっても再び絶望を感じるだけでは?ひび割れたレイジングハートが『master……!ma――』と何度も呼びかけているが、まるで聞こえていないように耳を素通りした。

 

一人でいることの限界を感じた気がした。

「世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだ」とよく親友の義兄が口癖のように言っていたのを覚えている。今の状況がまさしくそう。どん詰まり、私の人生は確かにここで終わりだろう。

 

だが足掻くかどうかは別の話だ。

手に取れる手段がまだ目の前にある。たとえそれが禁忌に値するとしても、納得が出来ないならすがるしかない。

今なら、わかる気がする。きっとプレシアもこんな気持ちだったのだろう。ただ失いたくなかっただけなのだ。曲がりなりにも科学者であったがゆえに、そして他を知らないがゆえに彼女は狭窄的ではあるが生体クローンなどという技術に頼ってしまったのだ。そして、この私も同様に所詮は現場で戦うだけの脳筋職であるがゆえに物事を知らない。一体何をどうすればこの事態を解決、あるいは無かったことに出来るのかなんてわかりはしない。

 

「う、あ……あ、ああぁぁぁあああ!」

 

 それでも、とかろうじて動く腕を伸ばしてロストロギアを手にとった。なのはの残りの命の脈動を預かるように、明滅する光の量が増えていく。

 

――私は願う。

 

こんな世界になってしまわないようななんらかの手段を。

 

――わたしは望む。

 

誰かが泣かなくてもいい世界を。

 

――それでも自分は、ここで死ぬ事を選ぶ。

 

 例え過去へ戻ることができたとしても、私はそれを選ばないだろう。なぜならそれは過去で起こる様々な出来事をこれから経験するいつかの自分に対する冒涜だと思うから。

 

――だから、これから生まれる何かに託そう。

 

 友人達を蘇生させようなどとは考えない。少なくともプレシアの時にそんなこと出来はしないというのはよくわかっている。だからその手段は選択肢にすら入らない。

 

――ただせめて、これによって世界が、歴史が変わるとしても己の思い出が変わらないでほしい。

 

 そう願いながら私は、力尽きる最後の瞬間に顕現した何かを見て、

 

「……お願いね」

 

 とだけつぶやいて永遠に意識を失ったのだった。

 

 

 

 

「悪いけど、それは承諾しかねるな」

 

 魔導生命として生み出された裸の少年、あるいは少女に見える姿の子供はいきなり主目的を反故にするようなことをのたまった。高町なのはに出来ないことを行う、という目的で奇跡的にもマトモに生まれることが出来てしまった少年は、故に高町なのはと全く違う思考ロジックを持って生まれてしまった。良く言えば彼女は全力全開、起きた物事に体当りするような思考であるが、少年は起きる前に潰してしまうような思考を持っている。当てはめるならば、前者は直感思考で場当たり的、後者は論理思考で計画的ということ。互いの意図がかち合ってしまうのは必至とも言える。そもそも世界の歴史が変わるという大仰なものにぶち当たってしまった場合、大きな波にさらわれるようなものであり何も変わらないでいるには不可能だ。ましてや少年が考えている計画は恐ろしく遠大で世界のありようそのものをひっくり返すようなものである。高町なのはの主観から見てある程度同じ出来事は起こるのであろうが、そもそもの基盤から違うのであれば変わらずにはいられない。不可抗力というやつだ。

 

 つまり、彼女の願いは端から破綻している。

 

 とはいえ、少年は目的を持って生み出されてしまった以上行動せざるを経ない。

 高町なのはの知識もあるからか、生誕して早速働きに出されるのはいささか不本意に感じられる、というのはわかる。だが知識として知っていても感情の発生プロセスをまだ得ていない少年は特に大した感慨を持たない。であるならば、建てた計画通りに物事をすすめるのみである。幸いにして、彼が賜ったレアスキルは常軌を、時間を超える事が能力の一部として扱うことが出来る。しかし一度過去へと遡れば以降は軸からズレないように時間移動をすることはないだろう。

 

 少年は己の体を確認した。小さな手に神経を這わせるために握ってみたり、足元の灰をこすってみたり、胸の内を確認すれば炉心としてのレリック、レアスキルの状態維持のためにジュエルシードが格納されている。だがそれだけの魔力容量を持ってしても、彼自身から発さられる魔力はごく僅かなものだ。おそらく能力制御のためにほとんどを割いてしまっているのだろう。コレではレアスキル以外の通常の魔法は使うことすら出来まい。しかし特に問題はないだろうと彼は認識した。

 

 肌に当たる雨はやまない。冷たい肌を打つ感触が億劫になりそろそろ移動しようかと考える。何よりも二次災害に巻き込まれるのは避けたい。そして能力を使用しようとして、おやと何かに気づき視線を下に向けた。

 

『Please wait……』

「これは、レイジングハート。まだ壊れてないようだね」

 

 足元には赤い宝石が転がっていた。それの機能はまだ生きており、主を失った今でも懸命に稼働を続けている。

 

『Please take me too』

「本気?確かに君の主は逝ってしまったけど、ともに逝く事もできるはずだ」

『I also want to look at the results of the master hope』

「……まぁいいけど、当然僕には君を扱うことは出来ない。過去には君が知っているように君がいる。再び高町なのはの首にすがることはできないと思う」

『Does not matter』

「そう。なら残ってるデータとか使えそうだし、ついてきてもらおうかな」

 

 これで少しだけ計画が楽になる、といい拾い物をした彼は表情だけ取り繕ったようなほほ笑みを浮かべた。拾い上げて適当に手の中に持ち、己のレアスキルを発動させる。目標は過去、高町なのはが生まれるはるか前。その時代からこれまでにおける世界の歪みの根っこを引き抜くのだ。目標設定、魔力炉心安定、力場固定、転送フィールドを外界と隔離。繋がるはずのない今と昔を限定的にひと繋ぎにする。彼の目には過去が見える。最初の目標は、今にも死に瀕すとある少年の父親のもと。その妻である女性を中継点にして実行した。

 

 はじめから何もなかったように、少年は消えた。彼は過去に戻ったが、少なくともこの時間を主観としている人々にとっては変わらず流れる現在のままであることに変わりはないだろう。辛い先へ進むことを放棄してしまったが、せめて願わくば生存者達の、あるいはこの災害に関わりのない人々がこれから訪れる過酷な時代を懸命に生きてくれることを、レイジングハートは願わずにいられなかった。

 

 

――I'll see you again sometime in the distant future.

もう一度いつか、遠くない将来に会いましょう。

 




文章が臭い


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Prologue -Entrance-_1(再編予定以下連番全て)

新暦62年

 

 第4陸士訓練校、ミッドチルダ北部に位置する数多の局員を生み出してきた伝統ある学校。ベルカ自治領にも比較的近く、聖王教会もあるためか輩出する人材が比較的近接戦闘に強い局員が多い。かくいう僕、クロノ・ハラオウンもここを母校とする卒業生であり、近接に強いとまでは言わないが万能に戦える基礎を築いた場所だ。そして、アコースという親友を作ることのできた思い出のある地でもある。

 

 さて、執務官ともなって今更この場所に来たのには当然ながらワケがある。自慢ではないが史上最年少で執務官となったこの身には管理局という場所は針の筵だ。なぜならこの身分に対する嫉妬ややっかみ溢れる悪意モリモリな囲いは悪い噂を醸成するには実に都合のいい場所で。端的な話部下が出来ないのである。実績多数信頼ゼロ、何よりも少年であるという理由だけで古参の連中には燻しがられてしまう。かといって直接の上司である父を頼って部下を作れば、今度は親の七光りだコネだとネタにあげられそうなものは何でもかんでも取り上げられる。

 

――ええい、一体僕が何をした!

 

 他人の不幸は蜜の味とは何処の誰が言ったか、ささやかな娯楽程度ならまだ目の瞑りようがあるが、わざわざ声高に叫ばれるのは非常に迷惑だ。それも管理局員たるものが足の引っ張り合いで不幸を望むなど非効率的にもほどがある。

 

 そんなわけで部下を得ることが出来ない自分は訓練校に、未だ特定の派閥に属していないまっさらな有望な人物を探してここまできたというわけだ。最もそんな棚からミッド餅みたいな期待をしているわけではないが、管理局の権力争いにつかれた自分にちょっとした褒美くらいあってもいいはずだった。

 

「よく来たねクロノくん。いや、今は執務官殿だったかな?」

「クロノで結構ですよ、ランドル教官。お久しぶりです」

 

 ロビーで声をかけたのはランドル・バルクレア教官だ。クロノの当時の恩師にして、戦術方針を決めてくれた人生の先輩である。クロノは在校時からいまいち突出した部分のない生徒だった。可もなく不可もなく、いわゆる器用貧乏である。魔力量に関しては平均を上回ってはいたものの、高出力の魔法を使う才能が無かったためになかば宝の持ち腐れと化していた。伸びない自身に怒り荒んでいたところを、声をかけてくれたのが彼である。教官は手数が多いことも才の一つだと教えてくれた。なんでもある程度こなせるというのは、それだけ多くの戦術を取れるということであり、対応策に苦慮することのない万能の仕手と化した。

 

「あれから僕も随分と成長しました。教官のお陰です」

「あぁ、うん、成長ね。うん、成長してるね」

「……何処を見て言ってるんですか?」

「いやいや、背が全然伸びてないとか思ってないよウン?」

「ま、まだ成長期が来てないだけです!」

「そうかね?確か入校当初から変わってない気がするが?」

「五歳の頃から!?」

 

 生徒のいじりも忘れない愉快な先生だった。対象となった相手は哀れだが、今でも変わっておらず場を和ませる。元々戦術に強いためそういった場の雰囲気の支配もお手のものなのだろう。途中から知人である猫姉妹に訓練をつけてもらっていたため、手引きしてもらった時間はわずかでしかないが尊敬できる相手だ。

 

 

 

 

「最近はどうかね?何かあったかい?」

 

 廊下を歩きつつ、何気ない会話に興じる。訓練校での忙しさに張り付いてるような状態の教官には話題がなく、ネタに飢えていた。

 

「家族旅行、とでも言えばいいのでしょうか。第97管理外世界の日本の、古都キョートに行きました」

「ああ、確かグレアム提督の」

「よく覚えておいででしたね。魔法文化のない、マイナーな世界でしたのに」

「前に彼が飲みの席で言っていたのを覚えていた、それだけだよ。で、どうだった?」

「ああ、酷い有様でした……」

「む、何がだ?」

 

 クロノは顔をそっと横に逸らし、何かを悟りきったような顔でこう言った。

 

「母が……、日本文化に完全にのめり込んでしまって」

 

 彼の胸中は諦めのそれだった。京都の、それも古き時代の木造建築を見て、歴史を知った母リンディ・ハラオウンはおおいにカルチャー・ショックを受けていた。洋式建築や近代化によってビル群に囲まれた現代において、完全に日本の一角は異世界だったのだ。

 

「ふむ、それだけなら普通なのでは?」

「家の中を文化品だらけにして……」

「それだけならまだかわいいものだろう?どこぞのアイドルに信奉を捧げるよりはましだと思うがね」

 

 女性というものは何かにはまってしまうと神を信奉するかのごとくのめり込む。自身の信じたものが全てとばかりに肯定し、他者のどんな意見も、もとい都合のいい意見以外は耳に入れようともしなくなる。最も、そういった女性ばかりが全てでないことはランドルもわかっている。

 

「お茶に砂糖をいれて飲ませようとするんです……」

「……ええっと、それは普通ではないのか?紅茶にもいれる人はいるだろう?」

「いえ、日本のものは茶葉が生なんで基本的に苦いんです。それに砂糖をいれるからとんでもないえぐさが……」

「それはなんというか……ご愁傷様だな」

「憎しみで人が殺せたら……」

「親殺しは大罪だぞクロノ君」

 

 甘ったるい気分になんてなりゃしない。

 

「そういえば第97管理外世界といえば、次元漂流者が無駄に多いという話は耳にしたことがあるな」

「そうなんですか?」

「どういう因果関係があるのかはわからない。特にその、日本人というのが多いのは知っている。たしか、彼らはカミカクシというんだったか」

「多いということは、彼らは決まってミッドチルダに?」

「あちら側で何人行方不明になってるか知らないだろうが、ね。他所の世界に落ちたとはあまり聞かないな。逆にグレアム氏のように、稀にこちら側から飛んで行くものもいるらしいが」

 

 それは前者に比べれば珍しい部類だ、とも付け加えた。

まるで世界同士が何かの縁でもあるかのような、不気味な気分だ。

 

「漂流して来た人たちは、どうしてるんです?」

「大半が魔力持ちだから局勤め。それ以外は食堂を経営していたりするよ」

「って、帰してないんですか!?」

 

クロノは単純に驚いた。

本来次元漂流者を保護した場合は、本人の希望も考慮するが、大体の場合は元いた世界に帰す事になっている。しかし教官の言い方では、まるで勤務を強制しているようにしか聞こえない。

 

「その通りだよクロノ君。 局は保護と生活保証を盾に局員になる事を強いているんだ。相手が無知なのをいいことにね。ていのいい詐欺か、不平等条約のどちらかだ」

 

「それだけ局員が不足しいているということだよ。どこも人材確保に躍起になっているから、やり口が過剰になっても誰も気にはしないんだ。綺麗もの好きの君には堪える話かもしれんな」

「清濁併せ呑む、くらいの覚悟はできているつもりです。しかし、管理局員が率先して法を破るのは……」

「強権を維持している管理局が、自身にゆるくないとは誰が言える?我々には、監査を行える別機関が存在していないんだ。お目こぼしくらいしてくれるだろうと、誰もが思っている。管理局の正義のために、な」

「それで」

「ん?」

「それで教官は、訓練校に?」

「……驚いた。よく気づくもんだねそんなこと」

「ただの推理です。幾多の戦術も持ち、天才の教官が訓練校などでくすぶっているわけないでしょうから」

「……買いかぶりすぎだよ。天才であったなら、もっと管理局というものを変えられたはずだ。それがこうして島流し。局の横暴は過剰になり、体制は完全に腐敗した」

 

 組織が腐敗するのは当然の話だ。それが管理局という集権組織であればなおさらである。絶対権力を持ち、自浄作用を起こすべき機関もなく、対外的な監視組織すら無い。上級将校は権力によって横暴を働き、下はそれを止める手段もない。むしろ、管理局という組織が出来て100年に近い期間維持し続けられたのが奇跡なのだ。

 

管理局は「憧れ」によって支えられているとも言われている。

 

 これは魔法という単一個人の絶対能力を英雄視し、またそれが「正義」だという一般の同一見解によるものだ。魔法が使えさえすれば管理局に拾ってもらえ、才能があれば簡単にのし上がることができる。それは例え難民やストリートチルドレンだったとしても、豊かな生活が保証されることになるのだ。今までの生活に自身が苦慮していた事実も、未だ生活がまともに出来てない人々のことを幻や夢と断じて遠ざけて。

 

「はっきり言うぞ、クロノ君」

 

彼は重いクチを開いてこう言った。

 

「このままだと局は近いうち。そうだな、10年前後で必ず破綻する」

 

事実上の死刑宣告だった。

 

「…………」

「いつか、なにがしかの形で手を入れないと持たぬかもしれないな。我々は」

 

おそらくそれが、クーデターのような形になったとしても。と小さくつぶやいた声は誰にも聞こえなかった。

 

 

 

 

 

「しかし、毎度思う事だが君のような若者が戦場に出るというのは見てて歯がゆいものだ」

「相変わらずの幼年期の就業反対派なんですね。僕ほどじゃないですけど、これくらいの年の局員って結構いますが」

 

 今更のことじゃないか?と疑問を投げかける。対して教官はやれやれと首を振った。

 

「大人でいる時間は50年近くあるのに、子供でいられる時間はせいぜい20年未満だ。……子供なら、遊ぶべきだと思うよ。でないと人生が勿体無い」

「しかし、人材が足りないのは確かです。それに生活基盤の無い子供のための逃げ道にもなるじゃないですか。だからこそ教官は小さい子達を一生懸命育てているんでしょう?」

「……生き残れるようにするために育てているだけさ。子供が散っていく姿を見るほどむなしいことはない。君は該当しない子だったが」

「……すいません」

「責めているわけじゃないさ。だが、管理しきれないほどの管理世界を広げ、人材不足を生み出し、子供にしわ寄せする管理局のあり方を見逃せるほど利口でないだけさ」

「……いつか、改善してみせます。教官の理想を現実にするために」

「ああ、頼んだよ。今の私では所詮脱落兵だからね。口をだすこともできん」

 

 

 管理局の名の下に集う世界。それらは魔法があるから、という理由で毎年数を増やしていた。それは魔法技術と管理世界数に物を言わせた穏やかな戦争、もとい脅迫であり。政治体系を簒奪して管理局に一本化していた。名目上は「魔法による戦争行為の抑止」であるが、いつの間にか目的が摩り替わり一極支配となっていた。

 

 そのため次から次へと管理世界は増えるのだが、ソレに比例して局員が増える、という事はなく。増え続ける現状に耐え切れなくなって悲鳴を上げているのが今の管理局だ。当然だろう、世界一個増やしただけで惑星一個分の面積が増えるのだ。

 

 そして、それを埋めるべく本局、もとい空の連中は次から次へとミッド地上部隊からの引き抜きを高給と上位階級への昇格でおこなっている。結果、守るべきはずの第一管理世界は戦力ダウンと防御が手薄となる。これは地上本部のレジアス・ゲイズがブチ切れるのも無理は無い話だ。

 

 加えて、局員となればそこそこの給金をもらえるが、そうでない場合はどのような仕事でも大体が薄給となる。これは魔法勢力が肥大化したことにより「魔法至上主義」という思想を生み出してしまったためだ。まるで高度な魔法が使えることこそが高位の人間である証明、といわんばかりに。そのためかミッドチルダには非常に難民、もしくは捨て子が多い。そのせいか管理局がスカウトを前提に運営している孤児院もある。これらの生活保障がない人間はほぼ必然的に管理局に局員として働きに出ざるを得なくなり、就業の低年齢化を招くのだ。管理局側からすれば体の良い局員確保先となっているが、戦争があるわけでもないのにこのような状態を危惧する人々は少なくなかった。とんだ悪循環である。

 

 特にどこから飛んでくるのか、度々次元漂流者と呼ばれる神かくしにあったような人々もおり、局員に保護されなければ難民、もしくは死。保護された場合はその恩義もあるだろうが、生活保障をちらつかせて大体の場合は局員と化してしまう。

 

 ランドル教官も「魔法が全て」という歪みに危険意識を持つ一人だ。しかし局員であった全盛期にそれを声高に叫んだため、爪弾きにあい干されてしまったのだ。エリートコースから外れてしまった彼は局内で居場所を失い、せめて子供が死なないようにと訓練校で教師を務めることにしたのだった。

 

「旅行の話だったのに、きな臭い話にしてしまったな。しかし、学校に自ら志望してくるものは管理局を憧れでしか見ていなかったり、英雄視する者ばかりだ。そういう意味ではクロノ君には助けられているよ」

「同情します教官。僕も父への憧れで入ったクチですが、事件に関わって、物事を調べていくたびに管理局の黒い部分が見え隠れしていましたからわかります」

「だから、執務官になったのかね……?」

「ええ、そんなところです」

 

 かくいうクロノも相当の現実主義者だ。局員として取れる行動をできる限り取っていても、理想を建前に見たくないことから目をそらす、という事は決してしていない。マジメゆえに直面する事実を真っ向から受け止めたり子供の頭の硬い部分はまだ残っているが、相応に優秀だからこそ今の立場にある。

 

――パァン!!

 

「……ん?おお、いたいた。あそこだよクロノくん……って、んん?」

 

 窓の外、グラウンドに向かってスッと指をさす教官。向かう先には――

 

「……人の、……山!?」

 

 積み重なった訓練生達で死屍累々となっていた。

 



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Prologue -Entrance-_2

 次元世界を単身であっさり飛んでくること朝めし前。

消費魔力量は0と非常識なまでにリーズナブル、もといプライスレス。必要なのは処理を実行する無表情。特に大した苦労もなく管理世界、ミッドチルダに姿を表した。

そんな吾輩はネコ……ではなく魔力構成体である。

名前は4年くらい前に決めたらしい。時間を飛び飛びしているので主観時間ではソレくらいという話だ。

 

ジェック・L・高町。

 

ジュエル+レリックで生まれた構成体なのでジェック、実に単純な話だ。

未来において死に際の高町なのはによって生まれたこの身は、彼女の望みをただただ叶えるだけの願望機である。

 

 彼女の願い、それは未来の絶望を回避するという救済だ。

 

 根本の原因は破壊され尽くした後に生まれたジェックにもわかっている。

当然だろう、彼は彼女の望みを受けて生まれたのだ。それを知らないはずがない。その行動方針は極めてシンプル、未来を崩壊させたであろう危険性の高いロストロギアの破壊だ。破壊させた原因が無ければ物事は起こらない。当たり前の話。

 

 しかしここでひとつ、問題が出てくる。

 

 それをやってしまうと、優先目標となるのは未来において存在箇所がわかっているロストロギアだ。

 

 つまり、ジュエルシード。

 

 ユーノが掘り出したということはつまり、掘り出した先の記録等も当然有る。それはレイジングハートにも記録されており間違いはない。

 

 しかし、それを破壊すると過去のなのはは魔法に関わることが出来ない。そうなれば今まで関わってきた人物や事件、何もかもが無かった事になる。高町なのはは無意識にそれを良しとしなかった。破壊の願いに失いたくないという願い。相反する両方の願いは絡み合い、反発し合い、しかし歪んだ願いを叶えてしまう願望機はその歪みを受け入れて一人の少年を生み出した。

 

 それがジェック、「縁を操る」というレアスキルを持った少年である。

 

 人同士、もしくは何かのつながりを自在に操るというものだ。具体的に言えば誰かと誰かの縁を繋げる「縁結び」、縁を切って対象と出会う可能性を断絶する「縁切り」、そして縁を手繰り時間や場所を移動する「巡り」。要するに彼は誰かと会ったり会わなかったり、ぶっちゃけるとフラグを立てる能力に特化しているのである。彼が使えるスキルはその3つ。否、その3つのみ。

 

 元来、巡り合わせというまるで奇跡や運命のように扱われる概念を自己の力のみで操ることは不可能だ。それは時間を逆行したとしても同じような状態にならないと言われるように、過去に飛んだ自身の存在そのものがパラドックスになる場合もある。それを強引に捻じ曲げるというのだから、ソレに使う出力もバカにならない。

 

 だからか、彼はそのレアスキル以外を行使できないのだ。

 

 魔力反応はEと極小。魔導師になるには全く足りない。

つまり彼自身には敵を害するための攻撃手段がないことにほかならない。最も、それを差し置いて強力すぎるのがこのレアスキルであるのだからこれはデメリットにすらならない。

 

 道具は使いよう、というようにレアスキルの使い方を工夫すればいいだけだ。

例えば、世界そのものと対象の縁を切って何処とも知らぬ、虚数空間に追放したりとか。

危険な場所への縁を結んであげてそこに運命のごとく突っ込ませる、とか。

 

 どちらにしろ自身が手を下すより悲惨なことになるのは間違いない。

 

 話を戻して、彼がそういう能力になってしまったのは前述の通りなのはが求めてしまったためだ。もとよりジェックは自我の構成などが無意識であるが高町なのはによって行われている。つまり彼の存在意義と行動方針は「高町なのは」の縁と記憶を優先して処理しなければならない。

 

そのため、彼は高町なのはがユーノと、管理世界という存在を知りフェイト、そしてリンディやクロノと出会うためにはジュエルシードという存在は必須なのだ。破壊、もとい絶縁が最優先であるのにこれを破壊できないという矛盾。重要なファクターとなってしまう存在は一時的にそれをスルーしなければならないという彼に課せられたルール。

 

だがしかし、そもそもからして歪んでいるジュエルシードから生まれた彼も一筋縄ではいかなかった。

 

「高町なのは」がロストロギアの絶縁以外は元通りの記憶のまま、を望んだのに対して、彼「ジェック」は「高町なのはが知った疑念や後悔、不幸」をも絶縁することを望んだのだ。

 

 なんというか、言ってみれば相手の願いを叶えてあげたいツンデレ少年みたいに見えて非常にちっちゃいのだが。それもまた「高町なのは」と「ジュエルシード」のせいでだいたい片付いてしまう。高町なのはの性格は「不屈」という文字に表されるように我慢や耐えることを前提にしている。しかしジェックは高町なのはを元にジュエルシードで歪んで構築されたものだ。そのために性格は反転し、「耐えるような状態になる前にどうにかしてしまう」性格になっている。

 

 故に彼は、何かが起こる事を知っているならばそれが起こらぬように行動する。

 

 例えば、アリシア・テスタロッサの救済とか。

これはまたどういう奇跡なのか、運が良かったのか悪かったのか、偶然にも構築された彼の性格はそれなりにいい方向に向かうこととなった。

 

 この力によって色々とフラグをばらまいている気もしないでもないが、それも必要によって行なっているものであって、無秩序に行なっていることではない。しかしその力を行使する彼は紛れもなく「縁結びの神様」であった。高町なのはもとんでもないモノを生み出してしまったものである。

 

 

 

 

 長々と話してしまったが、ジェックは数日前、縁をたどってミッドチルダ郊外の森の中に転移してきた。時間は転移後約10分と経っておらぬ。おらぬのだが……

 

 

 何故かロシアの荒ぐ……ゲフンゲフン、ランドル・バルクレアというオッサンに担がれてしまっていた。まぁ顔はいかつい熊のようにおっかないとだけ追加しておこう。そんな彼に表現は正しくないが、誘拐されてしまっていた。

 

 なにせジェックの見た目は9歳(笑)である。生まれた時から幼年であり、時間転移をくり返しているために身体から年齢を判断するしか無い。

彼からしてみれば素性のわからぬ少年が時空漂流でウッカリ転移してきてしまったようにしか見えず。発見されてからはあれよあれよというまに管理局管轄の訓練校で保護されてしまうことになってしまった。どう見ても魔力量は微妙なのだが、心優しい中年はそれを是としていた。

 

 もしかして彼、訓練校を孤児院か何かと勘違いしているのではなかろうか。

 

 そんな疑問で首をもたげつつも、彼の良心を無碍にするのもいかがなものかと思い、とりあえずそのまま誘拐されるがままにした。

 

 

 

 

 さらわれて数日。グラウンドで訓練していたら多数の訓練生にメンチ切られた。中には可愛いからお人形になってくださいとか鼻血だしてる女子もいる。どういうことだおい。メンチ切り筆頭である眉根を寄せた少年はこう言ってきた。

 

「何で魔力ランクEのやつがこんなとこで訓練してんだよ」

 

 時代に毒された典型的な魔力至上主義者だった。相対する少年の魔力量はA+。成長期ともなれば相応の実力をつけて部隊をひとつくらいは任せられるようになるだろう。生まれながらにしてエリートというやつである。かくいう自分はランクE。「ほぼ無い」と同義であった。そりゃぁそんなのが訓練してたら唾吐きたくなるのは仕方ない。これも時代だ、文官にでもなってろと言われるのが普通だろう。

 

 が、しかし一緒くたに教官までばかにするのはどうであろうか。やれ管理局の面汚しだの、魔法に自信がないから手数に頼った弱者だの。これでは訓練を課す教官が報われないではないか。そういう彼は果たしてランドル教官に勝利したことがあるのだろうか。

 

「なら、君らがご立派に高説垂れてる魔力が何の役にも立たないことを教えてあげようか」

 

 そう言って、懐から取り出した対閃光ゴーグルをかけ、手に持った筒状の何かのピンを抜き、彼らの目の前の地面に放り投げてさっと耳を抑えて後ろを向く。

 

 

 瞬間、塞いでても響く爆音が運動場の一角を揺らした。

 

 

 

 M84スタングレネード、地球においてはWikiにも載ってる有名な非殺傷手榴弾だ。爆発時の閃光と爆音によって相手の一時的な失明や目眩、難聴、耳鳴りを誘うものである。アメリカに行った際にちょろまかして来たものだが、これが存外管理世界では役に立つ。なにせバリアジャケットというものは対魔法、対物理という点に置いて優れているが音や閃光に対する防御は全くといっていいほどしていない。一応透過魔力壁みたいなものはバリアジャケットとともに展開されているが、身体に比べればノーガードと言っていいほどで特にこういう搦手はよく効く。ぶっちゃけ頭部保護は人体の弱点として必須だと思われるのだが。せめてヘルメットとゴーグル、それからヘッドセットくらいはほしいものだ。

 

 案の定、こちらをいじめようと画策していた少年Aは真正面にいたためかものの見事に目をひん剥いて気絶した。情けない事この上ない。集団にいた、ジェックの可愛さに鼻血を吹いていた少女たちは完全に巻き込まれ損なわけだが、すまんな。恨むならそこの少年を恨むがいい。彼が坊やだから悪いのだ。別にレアスキルで片付けることも出来るのだが、それでは何の意味もないのでこうすることにしたのだ。「縁切り」したら行方不明どころか世界そのものからすっ飛ばされるのでろくに使えやしない。

 

 ニタニタしていた少年たちをついでとばかりに一発ずつ拳を入れて戦闘不能にしながら、数珠つなぎに結び円が出来たら段々に重ねていく。見た目はまるでウェディングケーキのようで、キモい顔した少年たちの連なった姿は全くムードにそぐわない。ちょっとしたイタズラだが、しかし良い感じに重なったな、コレ。組体操でもまともに見れるとは思えない。写真をとっておこう。とばかりにまたしてもどこからか取り出したカメラでパシャパシャと撮影する。いつの間にかスタングレネードの残骸は消えていた。

 

 そうしていると「そこで何をやっているんだ!?」と怒号が飛んで慌てた人が飛んできていた。

 



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Prologue -Entrance-_3

「そこで何をやっているんだ!?」

 

 声をかけ、慌てて集団に駆け寄る。随分と大きな音がしたと思ったら、多数の人間が倒れ、もとい無残な塔を築いていた。皆一様にひどい顔をして気絶しているが、これといって怪我をしている人はいない。それに安堵して恐らく犯人である、小さな少年を見る。年の頃は10歳いっているのかそうでないのか、茶髪の目がくりくりとした可愛げのある……可愛げのある性別不明の子供だ。何処をどう見ても女の子にしか見えないが、そうだとすると気絶した人間を組み重ねるなどという非道をするようには見えず……。

 

「何って、魔力防御の効かない攻撃方法を体に叩き込んだだけですよ。こういう状況はザラにあるのでは?」

 

 確かに無いとは言えない。局で定められている質量兵器禁止の法律とは、実際のところ魔法以外の攻撃を禁止するといったものだ。でなければ、飛行による突進すらも自重を利用した質量兵器とみなされてもおかしくない。

実際かなりアバウトな法律なのでそれを厳密に守る者は少なくく。逆に犯罪者なら尚更、質量兵器を持っている場合も少なくない。スタングレネードも質量を用いたものでは無いが、分類では同じものに区別され、法を犯すことに全力の犯罪者は割と使ってくるのだ。

しかしここにいるのは魔法に希望を持ったまっさらな訓練兵。それが力を持った才あるものなら絶対たる魔法への傾倒に変わる。そうなると、スタングレネードで簡単にくたばってしまうのは当然だった。

 

しかしそれが良いのか悪いのかで言えば、悪いのだろう 。ここは訓練校であり、多数の生徒を昏倒させるのは常識に寄って考えればやりすぎだ。一応ながらも守られる立場にあるのだからできる限りの配慮はしなくてはいけない。

だが少年は気にした風もなく、佇んでいる。

 

「っぐ……は、し、執務官殿!?お願いです!質量兵器なんか使う、あの舐めた魔力の低いガキをどうにかしてください!ハハハ!残念だったなガキ!執務官殿にかかればてめえなんぞ!」

 

どうやら先ほどの原因である、魔力が高い少年は起きたようだ。しかし今だ動けないのか、クロノに気づいて何事かわめいている。

 

 

――虎の皮を借る狐か、こいつは。味方した気はないんだがな、僕は。ついでにいえば、エリートに鼻をかける奴は好きじゃないんだが。

 

 そうクロノは考えながらも、しかし場の体裁くらいは整えなければならないだろう。彼の言っている事はさらっと無視し、面倒な時にぶち当たってしまったものだとわからないようにため息をついた。今回の目的である部下探し、それのNG項目でチェックするならば彼はほぼ全てにおいて✕が入るだろう。

 

 だが、対する少年は別だ。

 この年でありながら質量兵器の怖さを知っている。名称のとおりならば単純に高速で飛んでくる石ころだけでも質量兵器になってしまうが、この中には先のスタングレネードにBC兵器等も含まれる。当然ながらバリアジャケットには閃光を妨害する機能はない。一応の酸素供給機能もついてはいるが、それらのエネルギー変換を魔力に頼っているために長時間ガスの中に晒されれば当然ながら死につながる。密閉の脱出不可能な空間ならなおさらだろう。

 

 次元犯罪者はそれらをお構いなしに使ってくるのだ。元々法を犯しているのだから態々守る理由はない。そのためクロノもさんざん煮え湯を飲まされたことがあるのだ。それを考えれば既にその知識を身に着けている少年は実に有用だ。どこでそれを知ったのかを考えなければ、だ。

 

 加えて先程から何の反応もなく物体が出たり消えたりを繰り返している。どういう原理かはわからないが、多分あれが彼のレアスキルなのだろう。魔力が低い事を考慮してもメリットのほうが大きい可能性がある。

 

 

 しかし、それでも彼は子供だ。

 

 今さっき、ランドル教官から聞かされたばかりの話だ。連れて行くのは気が引ける。だが罰が無いのも組織としては問題だ。体裁はどうであれ管理局は軍みたいなものなのだから、違反には相応の罰が必要である。そこで彼は少年の力を見るのを同時にするために一つ提案をした。

 

「言っていることは正しいが、問題外だ。気絶させたら訓練にならないだろう」

「俺は気にしていない。知らないことは罪だからな。彼らが後々重傷を負う可能性を考えれば安いものだと思うが」

「……それでも節度というものがある。よって、本来なら反省文の提出か掃除の罰で終了。だが、今回は僕との模擬戦一回で済ませることとしよう」

「随分と横暴なのだな。局員というものは」

「否定はしないけどね。今回は残念ながら君が招いたことだ。ついでに僕がたまたまここにいたことも、運が悪かったと思っておけばいい」

「そんな縁はご遠慮したいのだが……」

 

「おいゴラァ!てめえ執務官様がお優しい判断を下してくれてるんだ!従うのが当然だろうが、ええおい――ぐはっ!?」

 

 やかましいとばかりにスティンガーレイを一発、額に当てられてエリート少年()は撃沈した。いい加減クロノも鬱陶しかったのだろう。

 

「……人のことを言えないのでは?」

「戦いに集中できなかったら無意味だろう」

 

 さらっと言い訳を述べる当たり、彼も結構黒い。さすがはマックロクロノくんだ。中身もそれなりらしい。せめて未来では宗教組織との癒着なんてしてくれなければよかったのに。

 

「まぁ、いいか。ならこちらも一つ条件を。負けなかったらでいいが、クライド・ハラオウンと面会の機会を取り付けて欲しい」

「なぜだ?」

 

 唐突に出された条件に、心のなかで首を傾げる。クロノはいまだ名前を語っていない。だというのに確認もおろそかに条件が飛んでクライドとの面会ときた。つまり彼は漂流してから数日と経っていないというのにこちらの情報をある程度知っているということになる。コレはいくらなんでもおかしい。一応どういった人物かは、ある程度はランドル教官から提出させた書類でわかっている。

 

ジェック・L・高町、次元漂流者。

思慮深いが突飛な行動を繰り返すこと。

管理世界の常識をわきまえていること。

何らかのレアスキルを所持していること。

魔力が低く攻撃魔法すらろくに使わないこと。

 

 簡単に記されたメモにはその様なことが書かれていた。将来は有望株だとも書かれていたので少しの間とはいえ細かく見ていたのだろう。特に彼はその才覚の無さから攻撃によって勝つことは無いが、対処が上手く負けることも無いと訓練で判断したらしい。

 

 口調は丁寧で寡黙。必要なことだけを淡々と話す。

先の行動と山積みにされた少年少女達を見るにやや倫理観は足りない気がするが、面会させたところでクライドに危害を加えることは恐らく無いのだろう。であるなら、元々部下を作るために来たのだ。面会させること自体はやぶさかではない。

 

「ちょっとした知り合いでね。顔写真でも見せればオーケーを出すはずだよ」

「……いいだろう。許可が出たらな」

 

 それに、負けなければイイ話だ。あちらが勝つにしろ引き分けるにしろ、現役の執務官に抵抗できるのであれば十分な戦力になる。あっさり負けるならその程度だったということ。どちらにしろクロノにデメリットは無い。

 

「ああ、それとハンデはいるか?まだ訓練生なんだからあってもいいぞ」

「なら、2つほど。陸戦主体だから空戦と転移の禁止。試合時間は5分でお願いしたい」

「……その程度でいいのか?」

「十分だ」

「……わかった。それでいこう」

 

 相手側の能力値を考えてオーケーを出す。魔力ランクEだ。どのみちできることには限りが出る。

 

「それじゃあ、私が審判を務めさせてもらおう」

「お願いします、ランドル教官」

 

一足遅れてやってきた教官に判断を任せて、お互いが配置につく。

向かい合わせで立った時、ピリリと感じる威圧感が肌をつついた。どうやらクロノはハンデありにしても全力で戦うらしく、――訓練相応の適当な手加減を発揮してくれるだろう。ソレは恐らくジェックが軽くトラウマになる程度の力量に押さえてくれるに違いない。それはジェックが一般程度の思考回路をしているならば、だが。

 

 そしてお互いに構えて合図を待つ。

 

「――はじめ!」

 

 開始の合図とともにクロノはわずかに距離を取り、詠唱を始めている。対するジェックはぷらぷらと手をゆらしたまま開始位置に佇んだままだ。

 

「スティンガーレイ!」

 

 ターゲットにあわせてS2Uを振りかざす。起動した魔法の光弾が三発、加速して槍状に伸びたそれが一直線にジェックに向かう。敢えて声を出すことで彼に対策を取ることを促したが、ソレに対しジェックはシールドを張るわけでもなく避けるわけでもなく、やはり佇んだまま直撃、したかのように思えた。

 

「――――!」

 

 しかし光弾は術者の意に反し、ジェックの目の前にきた途端にネジ曲がったように彼を中心とした円周軌道を取ってあさっての方向に飛んでいった。

 

 あからさまな異常。サークルプロテクション、もしくはオーバルプロテクションでも張っているなら、御しきれない光弾が壁を這うように移動していくのも、無理はあるがならないこともない。しかし彼は魔法を使った様子もない。何よりEランク、殆ど無い魔力でそんなもの強度のあるものを張ったら一分と立たずに尽きることは明確だ。つまりあれも、レアスキルによる自動防御のようなものなのだろう。その正体が全くつかめない。

 

 クロノは言いようのない不安を感じて冷や汗を流す。

 

 あれが斥力や重力といった類のレアスキルならまだいい。十分に科学の範疇だ。魔法の範疇にさえ入っていればとりあえずの理解は出来る。しかしクロノの友人のようにオカルトじみた理解の及ばないレアスキルだった場合は正直手に負えない。何より彼が道具をほいほいと出し入れしていた事の説明が付けられない。

 

 ならば試し、とばかりに誘導性能を持ったスティンガースナイプも複数発放つ。しかし結果は同じ。彼の手前1mほどで不自然な方向にすっ飛んでいく。ある弾は直角に曲がり、ある弾は弾かれたように消滅し、またある弾は制御を失って堕ちていく。やはりどれも効果がない。

 

 相手が動いてないのをいいことについでとブレイズキャノンも打ち込んでみる。彼の身長を優に超える半径を持った砲撃。コレに包まれれば逃げ場もなく気絶するはず。そう思い込んで打ち込んで見るものの――

 

 攻撃は初めから的からそれており、やはり無傷。勿論外すつもりで撃った気はないし、ジェックも動いていなかった。

 

 遠距離では手がない。これではまるで挑戦者と王者があべこべだ。片方は必死に攻撃しているのに、対する方は無敵とばかりに優雅にくつろいでいる。とうとう椅子を出して紅茶を飲みだした。

 

(遠距離では決定打を与える事は出来ないか……しかし、むかつくな)

 

 多くの戦術を持ったクロノ。ならば取るべき手段はまだいくつもある。まずはセオリーとばかりに、遠距離がダメなら近距離で攻撃を打ち込む。おそらくは振動エネルギーによって対象を粉砕するブレイクインパルスならば回避をせざるをえまいだろう。勿論手加減つきだ、そんなものを人間に全力で当てたら死人が出る。

 

 そしていざ、という時に一歩足を踏み出そうとした時、ジェックは思い出したように立ち上がり――、

 

「ああ、そこ。落ちるぞ」

 

 瞬間、一歩地面に叩きつけたら

 

――ズボっと、半径5mの大穴が地面に空いた。

 

「なにぃぃぃぃ!?」

 

 ウワァァとドップラー効果を出して堕ちていくクロノ。飛行魔法を封じているのだから停滞は厳禁だ。地面に付く前に浮遊はするだろうからケガは無いと思うが。その底は深く、ゆうに20mはある。

 一体いつの間にそんな穴を開けたのやら。離れてみていたランドル教官も目を丸くしていた。何より先ほどクロノが足で踏んだ時には穴なぞ開かなかったのだ。それも場所はグラウンド。こんなところに大穴が開いているなど誰も思わない。しかもジェックは無慈悲にも

 

「はいはい閉まっちゃいましょうね」

 

と、指パッチンをしたら穴が開いていたはずの地面は、何事も無かったかのように元に戻った。

 

「さて、それじゃあ後は5分経つのを待つだけだな」

 

そう言って再びクラシックチェアに腰を戻して座り込んだ。その間、クロノは出てくることはなく、結局試合は引き分けというしょうもない結果で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「一体あれはどういうことだ……」

 

 試合終了後に近距離転移で穴、もとい洞窟から出て、土埃をかぶったままムッスーとした顔で質問するクロノ。心中は出されたハンデにしてやられたと感じている。しかし手段がなかったわけではない。威力の高い砲撃を使えば、それこそ20mの穴を撃ちぬいて作ることくらいはワケはない。しかしここは訓練校。そんな穴を開けてしまったら埋めようがないし、何より脱出の際に崩落の危険性がある。さすがに模擬戦といえど、後々迷惑がかかるやり方は好みではなかった。

 

 だが解せないのは一瞬で消えてしまい、そして戻ってきた土だ。あれほどの質量を一体何処にしまったのか。道具を出し入れできるスキルにしては範囲も規模も桁が違うにも程がある。ヘタしたら自分もろともどこかにすっ飛ばされてしまうのではないか、という妙な不安が膨れ上がった。

 

「内容はわからないが、随分と強力なレアスキルのようだな。管理局には登録しないのか?」

「自身の切り札を登録するバカがどこにいるんです?」

「……そうか。いや、局員としてはやっておいてほしいところなんだが」

 

 仕方ないか、とクロノは思い話を変えることにした。あれほど謎めいたレアスキルだ。他者に悪用される可能性も考えれば伏せておいたほうがいいのかもしれない。

 

「模擬戦の内容はあれだったとはいえ、五分しのいだのは事実だ。一応父には連絡をとっておく。だけど、許可が出なかったら面会はなしだからな」

「オーケー、問題ない」

 

 確信があるのかさらっと流すジェック。余裕の態度がまたカチンと来るが表には出さない。しかし見た目は可愛い顔しているが、中身は妙な性格をしているに違いないとクロノは思った。

 

「それでは教官、お騒がせしました」

「アレだけでよかったのかい?他にも訓練生はいたがね。ま、私としてはあまりひょいひょい子供を危険な場所押し出すのは感心しないからありがたいことだが」

「問題ありません。何より、集団で取り巻いて一人の少年をいじめるような人間が、果たして管理局員を努められるかは微妙だと思いますが」

「やれやれ、痛いところだね」

「僕が言うのもなんですが、やはり思想的にはリベラルであってほしいです。ああいった類は強権を持ったところで、きっと自爆するでしょうから」

 

 魔法こそ全て、と考えるような魔法至上主義はどこかで大体痛い目を見る。力で民衆を抑えようとするなら反発があるのが当たり前だ。先に語ったように質量兵器による奇襲奇策に翻弄されやすいのもある。

 

「では、タカマチ訓練生。許可が取れたら都合のいい日を連絡する。それまで待っていてくれ」

「ジェックでいい。訓練生になった記憶はないし、ここでは住を借りているだけですから」

「……そうか。ならジャック、また」

「ジェックです」

「む、済まない。言い難くてね。では」

 

 謝罪もほどほどに帰り道につくクロノ。その振り返る瞬間にちょっとだけ口元が緩んでいたのをジェックは目ざとく見ていた。

 

「やれやれ、あいつわざと言い間違えましたね」

「ハハハ、まぁ奴も悔しかったんだろうさ。試合結果はイマイチだが、逃げることや生存性には確実に特化していたからな君は」

「そういうあなたは、どっちが勝つと思ってたんです?」

「んん。さて、帰ってメシを作らないとな」

「露骨に話をそらすなオイ。あと、あなたの家はここだ教官」

「世知辛いね。仕事がお友達と化してる今は実家が懐かしいよ。……で、あれで良かったのかい?」

「ああ」

 

 今回の一件、これはジェックが仕込んだものだ。ある意味クロノがここに来たのは偶然であるが、ジェックの情報をある程度流したのは彼自身の判断だ。それに教官が乗ったに過ぎない。さすがにわずか数日では、大した隙も出さないジェックを判断するのは難しい。まるで大人のような子供を目にしているようだ。

 

 そしてどうしてこんなことをしたのか。それはクロノの父、クライド・ハラオウンに穏便に接触する機会を得るためである。彼は「縁結び」という技を使える関係上、高町なのはの記憶にあり、かつ縁が繋がっている誰かが接触していればそれをたどって転移でクライドの元に辿り着ける。

 

 しかしそんなことをすれば目立つばかりか管理局員にお縄になる可能性が高く、面倒になるのでしなかっただけだ。転移反応くらいさすがにお膝元だからチェックくらいはしているだろう。レアスキルによる転移が純粋に反応を示すかは疑問だが。

 

 ついでに言えば今回の模擬戦ではそのほとんどが「縁切り」を利用していた。自身に対する攻撃の縁を切ることで方向を逸らし、地面と世界の縁を一時的に切り離すことで大穴を開けた。その際に土が何処に行ったのかはぶっちゃけ彼にもわからない。もしかしたら収納箇所が虚数空間あたりだったりするのかもしれないが確認は出来ない。そういう感じで、彼は対象と対象の何がしかの繋がりが概念的に確認できてさえしまえばぶった切ることが出来るのである。

 

つまりコヤツ、縁を確認させなければいいのだから奇襲にはめっぽう弱い。

 

 遠距離からスナイパーライフルでバッスンと撃ちぬかれてしまえばそれまでだ。概念的能力に寄って立つ彼はその魔力の制御をそちらに回しきっているために物理的には脆いのだ。ぶっちゃけ内蔵するジュエルシードとレリックの無駄遣いである。特に高町なのはの記憶にない縁は自身でつけるか確認を取らねばならず、相応に不便な点も多かった。

 

 加えて攻撃手段も持ち得ない。千日手に持ち込むか、相手を世界そのものから縁切りしてすっ飛ばすか、転移で逃げ切るかしないと彼は生き残る手段がないのだ。故に彼は目立たないように行動してきた。ソレは後々語る苦労の一つになるのだろう。そして今更悪目立ちする理由も勿論ない。今回の件は随分とケチがついたが、まぁどれが危機管理が出来るかといえばこちらなので安い買い物だったと思うしか無い。

 

「それで、君はどうするんだ?管理局に入るのかね?」

「いえ、今回の目的は面会だけですから。表に出て面倒になるより裏でアレコレ行うほうが楽でしょう。そうすれば、おそらくはあなたの望みうる世界に辿り着ける可能性が産まれる」

「それは……なるほど。確かに、君なら何かをしでかすかもしれんな。その時を待っていようか」

 

 このランドル教官には子供の労働に関する部分など、思う将来性に一致する部分もあったのか自身が計画する一部を話している。だからこそクロノに対する情報の横流しに協力を入れてもらえたのだ。そしてこれは、これからクライド・ハラオウンに話すことでもある。

 

「さて、それでは食事にしましょうか。きっとPXのおばさまがフライパンをお玉で打ち鳴らしてますよ」

「アレは随分と響くからねえ。食事の合図には持って来いだよ。見れば段々凹んでる気がするが」

「……おばさまの腕力が末恐ろしいな」

 

 会話内容は随分とのほほんとしたもので、未だ平和を甘受できていた。そう、今はまだ。

 




ごひ、閣下……教えてくれ……!どうしてそんな短文でしっかり説得力ある言葉を吐けるんだ……!
次回はちょっと修正多めになりそうなので水~金の間。


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Lyrical Planet
Prologue -Signs of Change-


管理局設定は推測や他作品の二次もある程度参考にしております。

そういえばクライドさんのCVは中田譲治さんでしたね。

※名前をつけた時間を微修正。


時空管理局本局

 

 宇宙と書いて海と呼ばれるこの場所は次元空間に本拠地を置く、エリートたちの仕事場だ。主な仕事は各管理世界の監視に次元犯罪の阻止、ロストロギアの探索、回収、封印などである。各地を回るために次元航行艦なども配備しているのが特徴だ。管理する世界は広範囲に渡るため、いつも人が足らないブラック企業丸出しの正義の味方。

 

 そんな仕事場を二人、場にそぐわない雰囲気の少年たちが歩いていた。周りからは微笑ましい視線と、なんでこんなところに小さいこどもが、という訝しげの視線が半々で注目されている。まぁソレも仕方ないというもの。なにせ、

 

 片方があまりにはっちゃけて暴れているのだから。

 

「ハッハー!クロノくん!ここが本局というやつかい!廊下が眩しいんですけど!ていうか外に見える景色は次元空間かな!?マーブル模様が目に痛いぜ、ウェェ」

「ちょっとは静かにしろジェック!恥ずかしいだろうが!」

「そんな事気にしてたら生きていけないぞ!羞恥心というのは置き去りにしないと新たな一歩を踏むことはできないんだぜ!裸コートとかな」

「それはただの変態だろ!そうじゃなくて慎みを持てと言ってるんだ!」

「淑女のようにですね。しかしこの身は見た目はともかく……男なのだよ」

「一般常識だバカ!ていうか君の本性はそんなだったのか!?」

 

 やいのやいのと騒がしく、転移してやってきたそばからとにかく騒がしいジェックに振り回されるクロノ。その光景は子供らしく、しかし周囲からは呆れの目で見られた。片方が局員としての制服を着ているだけあって、二人して騒いでるさまは社会見学で来ている子供より質が悪い。お前は職場を何だと思っているんだと睨まれ、まるで新人のように振舞っているようで窮屈なクロノだった。

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、茶をくれないか」

「どうぞ、あなた」

「ありがとう……ズズ、っぶ!!」

 

 本局の一室、将校が使う執務室に二人の夫婦がいた。片方はリンディ・ハラオウン。次元航行艦アースラの副艦長でありクロノの母親。もう片方はクライド・ハラオウン。アースラ艦長にして提督のクロノの父親である。彼らは本局期待の星にして、息ぴったりの熟年夫婦だ。その八面六臂の活躍はあちらこちらで噂され、またギル・グレアムの弟子であったクライドは次期本局のトップとなることが期待されている。現在本局には提督位、一佐以上の権限を持った将官がいないため暫定的にギル・グレアムがトップとなっている。期待のベテラン、クライドは何故かかたくなにそれを拒み未だ次席に甘んじている。

 

「リンディ……君またお茶に砂糖いれただろう?しかも大量に」

「あら、おいしいわよコレ?」

「抹茶ならまだわからないでもない……だがコレは玄米茶だ!普通は入れない!」

 

 そんな人間が、執務も置き去りにコントを繰り広げていた。お茶に砂糖をいれるという暴挙を成し遂げたのはリンディ。悪魔の飲料とも呼べるものを平然とすすっている。彼女は数年前に旅行に行った第97管理外世界、日本の大ファン、もといフリークになっておりお茶を趣味とするようになった。が、しかしてその実態は勘違い日本といわんばかりの様相を呈しており、アメリカ人以上のぶっ飛んだ楽しみ方をしている。対してクライドは普通に日本に理解を示しているのだが、どうして二人にこれほど差がついてしまったのかは謎だ。最近はリンディの自室には和傘や盆栽が溢れ、とうとうこの執務室にまでも侵食しようとしている。報告に来てぎょっとする部下たちは、見なかったことにしようと彼女の奇行を黙認していた。せめて誰か注意してくれる人物がいてくれたら良かったのだが、そんなマイナーな田舎世界を知っている人物はそうそうおらずこの有様である。

 

「おいしいのに……」

「それは君だけだ。……今日来るお客さんにそれを振る舞うんじゃないぞ?下手をすれば卒倒しかねん」

「あら失礼ね。まるで毒物みたいじゃない。砂糖1杯でかんべんしてあげるわ」

「普通コーヒーだろうとなんだろうと、勝手に砂糖を入れるほうが失礼だと思うがね」

 

 そんなコントを繰り広げていると、ポーンとチャイムが響く。どうやらクロノが客人をつれてきたようで、クライドは「どうぞ」と返答して中に入れた。

 

「あら……クロノ。随分と可愛い子をつれてきちゃって。もしかして光源氏でも目指しているの?」

「誰のことか知らないけど、言いたいことはわかった母さん。そんなわけあるか!大体彼は男だ!」

「クロノ……お母さん悲しいわ。そんな可愛い子が男の子なわけないじゃない!」

「僕の見る目を疑ってどうするんだよ!事実だ!」

「まさか……脱がしたの?」

「発想が飛躍し過ぎだよ!」

「……落ち着け、ふたりとも」

 

 勝手にヒートアップしていく親子に待ったを入れる。ジェックが入ってきた時にリンディは何かに気づいたようだったが、「静かに」と人差し指で合図を送られる。ごまかすためにシモネタに走るのはいささか年をとりすぎ……ゲフンゲフン。

 

「はっはっは、面白い人たちだ」

「君も随分だね。このやりとりを見て落ち着いてる君の気がしれないよ」

「そこはまぁ、慣れです。騒がしいのといつも一緒にいるので」

「ふむ、そうか」

 

 こういったやり取りには慣れているとばかりに手で振って答える。しかしどこかジェックの表情には穏やかそうな、慈しむような感情が見て取れた。

 

「それじゃあちょっとした面接をするとしよう。二人は他の部屋を使って仕事を続けてくれ」

「わかったわあなた」

「しかし父さん、危険ではないですか?」

「レポートは見た。大した攻撃手段を持っていないようだし、気にすることでもないだろう」

「しかし」

「ほら、さっさと書類持って行くわよクロノ」

「う、うわ。ちょっと待っ、引っ張らないで下さい母さん!」

 

 いきなりクライドを指名してきた、つい最近漂流してきたばかりのものしりな少年。クロノがジェックに抱いているイメージはそのようなものだ。人柄は悪くないが、食ったような戦闘スタイルに頭の回りの良さから少しばかり不信感を抱いている。だがそんなものは関係ないとばかりにリンディはすたこらさっさとクロノを連れ去っていった。

 

「なにせ、一度救ってもらった命だからな。だというのに刈り取ったら生かされる意味が無い。そうだろう?久しいね少年」

「覚えてもらって光栄です。改めて自己紹介をします。ジェック・L・高町です」

「クライド・ハラオウンだ。しかし君、八年前は名前が無いと言っていなかったか?」

「付けたのは4年くらい前かな。いい加減呼称出来ないと面倒だと言われてね、これでもそれなりにひねったほうです」

「そうか。……それにしてもあまり成長していないように見えるのは気のせいか?今ならクロノより年上くらいの大きさになっていてもいいと思ったが」

「時間が飛び飛びだからね。それは仕方ないさ」

「……どういうことだ?」

「すぐにわかることです」

「……そういえば、さっきの態度はブラフなのか?」

「見てましたか、人が悪いですね。油断させておいたほうが目立たなくていいでしょう」

「別の意味で目立っていたけどね」

 

 ほぼ初対面、だというのに彼らは互いがまるで友人のような気軽さで話している。クライドの表情にも喜びが見えた。クライドは監視カメラでクロノ達の様子を見ていたらしい。ジェックの行動自体は目立つが、小さな子供がいることで下手に他の管理局員に危険視されないようにしていた。年齢がこれだけ低いのに管理局にいる、ということはそれ相応の魔力量か実力を示していることになる。自ずと注目されるわけだ。なら社会見学にかまける子供を装った方が無難だろう。

 

「しかし、君と別れるときに「再び会うのはクロノが執務官になった頃だ」なんて言うから、何を言ってるんだと思ったが。まさか本当にクロノが執務官になって、君が現れるとは思わなかったな」

「8年も前。不思議に思うのも当たり前ですね」

 

 そうだね、とクライドは過去を回想する。あれほどの危地に陥ってしまったのだ。クロノが親を失わないために、手伝うために局員を志望してもおかしくない。

 

「八年前……闇の書事件のあの時、艦の制御を乗っ取られて私は死を覚悟していた」

「それは、目の前にアルカンシェルが撃ち込まれてきたら誰だってそうでしょう」

「そういう意味じゃないのだがな。何にしてもアレは本当にギリギリだった」

 

 立ち上がり、命の恩人となったジェックに頭を下げる。

 

「改めて礼を言おう。本当に、助かった。ありがとう、この生命は無駄にはしない」

「自己犠牲で済ませてもつながりを持った人間は皆ダメージを受ける。せいぜい、寿命まであがくといいでしょう。それに、恩返し分はこちらからの依頼でチャラにしたと思いましたが?」

「まだお釣りが残っているさ」

「そうですか、なら期待するとしましょう」

 

 肩をすくめる二人。しかし、

 

「ああ、でも一つ恨み節くらいは返させてもらおう」

「む?」

「君が言ったいくつかの世界で、特に第97管理外世界とかに旅行して政治の勉強でもして来いという依頼。これのせいでリンディが日本好きになってしまったではないか!どうしてくれる!」

 

 返ってきたのは怒涛のツッコミだった。

 

「知らないですよ。あれは元から遅かれ早かれそうなる運命です。実際そうなっていた。お茶に砂糖を入れるんでしょう?」

「……また随分、気になる発言があったが、まぁいい。さっきなんかは玄米茶に砂糖を入れられた」

「…………随分ひどくなった気がしますね」

 

 先から何かを臭わせるような話し方をするジェック。クライドから見ればまるで全てを見透かされているような気味の悪さを感じていた。

 

「それで、勉強はしてきたんでしょう。どうでした?何か掴めましたか?」

「ああ、最初は訝しげに思ったものだが、調べていくうちにはっきりと分かったよ。

――管理局が狂っていることがね」

 

 時空管理局。

 その存在はさほど古くなく、新暦開始あたりから確認されている。

 時空管理局は通称「管理局」、または「局」とも呼ばれ、軍隊・警察・裁判所の機能を統合した強大な組織だ。同時に法の施行も行われ、実質的な次元世界の支配者となっている。また階級も軍隊式を則り、事実彼らは強硬手段も辞さない法的機関だ。

 

 組織の原型は150年前、多数の次元世界のスポンサーを得て誕生した。その目的は次元航路の安定化とロストロギアの探索、回収、封印だ。前者は当時、質量兵器と大量のロストロギアを用いた次元世界間の終末戦争の最終局面にあった。この時それらを抑えるためのアンチテーゼとして魔導師を用いたかの組織が誕生した。それが時空航空管理局、我々で言うところの郵便局と同義の扱いの部署である。結局のところ、戦争の結果はロストロギアの次元震による多くの世界を巻き込んでの崩壊。人員が足りなくなり、帰るべき世界がなくなり、疲弊しきった世界群には戦う余力が残されていなかった。そのうえ各世界間を渡るための重要な航路は不安定になり、次元乱流等の発生が確認されるようになる。

 

 魔導師を多く失いつつも、なんとか体面を保っていた組織は航路の安定化を実行する。と言うよりも、次元航行技術をまともに持ち合わせている彼らしか出来る人間がいなかったというだけだ。行わなければ世界間の流通がストップしてしまい、経済崩壊を招いてしまうためだ。そんなとき、後の最高評議会になる三人が獅子奮闘してなんとか状況を立て直したのだが、やはり失った魔導師の数は多く彼らはブラック企業以上の多忙さの中にいた。それでも老齢になるまで働き続けて、組織の行き先を見守るために脳みそだけになったその挺身は実に立派な心がけである。自分たちが組織を作り上げた矜持故か、後年権力にしがみつき、管理局を私物化していたのは救いのない話である。

 

 それはさておき、航路復興に取り組みだしたもののさらなる問題が出てきた。それは世界を超えて飛び散ったロストロギアである。ロストロギア一つでも大体大事になるのに、もしもそれを集めるなどする存在が現れたらどうなるか。次元世界は再び危機に陥る。

 

 しかしやっぱり動ける人材はこの組織しかおらず、他の国家が回収すると戦力にするだの戦争の火種になるだの文句を言われかねないので、中立である組織が動くしかなった。

 

 おそらくこの時が新暦一年、組織名称を時空管理局と変更した時だ。彼らは「次元世界の平和と秩序のために」をスローガンに身を粉にして頑張り、管理局法を制定した。業務が一個増えたので、やはり魔導師の分散は避けられず一人あたりの仕事量は増大。相変わらず魔導師は足りないまま。ハードワークは更に激しさを増すことになる。この時の苦難を乗り切ったのが伝説の三提督と呼ばれるレオーネ、ラルゴ、ミゼッツの三人だ。なるほど、確かに英雄だ。ブラック組織の中で生き残っていたのだから。ちなみにこの時、戦力なるならと少年たちを雇い入れるようになる。ぶっ壊れた労働基準法の始まりだ。まさに猫の手も借りたい状態。

 

 この時の状態を簡単に説明すると、管理世界群は管理局にお金を支払うことで、世界の安定、航路維持などを任せていた。地球で例えるなら国連、管理世界軍が各国といったところか。それらがスポンサーとして支えることで、引換に平和のために奮闘してもらう。だから彼らの言うことは守りましょう、ということで管理局法が出来上がった。これは国際条約に当てはめることが出来る。ただし今までの説明は随分と大雑把で、かつ資料がそれほど多く無いので正しく該当しているかどうかはわからない。システム的には同じといったところだろう。

 

 ソレを見て、また管理局の行動理念に憧れて管理局に入局する魔導師はたしかに多くなった。しかし、内訳のほとんどが戦争を乗り切り無事だったミッドチルダ人。彼らは彼らで自国を守るための軍隊を持っていたのだが、行動理念に惹かれてミッドチルダ人が集まり、ミッドチルダ軍は弱体化した。これでは地元に抑止力がおらず、ミッドチルダの治安は悪化する。ミッドチルダは戦勝国並みに多くの人が残り、現在は経済中心地なのだ。なら軍を併合すれば地元にもいれるし問題解決じゃね?、となり、管理局にそのままスライドすることに。こうして前身であった時空航行管理局からの部隊が海、管理局に姿を変えたミッドチルダ軍が陸と呼ばれるようになる。

 

 勿論、軍部だけ切り離してスライドさせることは出来なかった政府は、ミッドチルダそのものの弱体化を防ぐために行政府も一緒にスライドしてきた。そうしてミッドチルダは管理世界の永世中立世界であり最上位、第一管理世界となる。これが管理局が警察も軍も裁判所もまとめたような組織、と表現する事になる始まりだ。

 

 さて、業務の方も年がたつごとに徐々に落ち着きを取り戻す。それでもブラックであるのは何ら変わりない。しかしその時、ある程度余裕が出てくるようになり強権を保持した管理局の腐敗は始まった。

 

 管理局の理念は相変わらず変わっていない。変わったのは局員のほうで「秩序と平和を守る」という「正義」を誤認、ねじ曲げたことにある。自分たちが正義なのだから言うことを聞くことは当たり前、私物だとしても、ちょっとでも危険性があると思ったら問答無用で回収されるロストロギア。こういった考えが古くから存在する過激派の局員や、保護観察処分で資格を得た元犯罪魔導師から生まれた。これらはごく一部であったが、声高に叫ばれたせいで上位意識というのは一般の局員にもある程度刷り込まれている。仕事仕事で余計なことに手を出せなかった政府は空いた時間を汚職や不正に使い、自分たちの利権と手柄を手に入れるために違法な研究などへの資金の横流しも行うようになった。もしくは管理局の強化のために手段を選ばなくなった、とも言うだろう。その最たる者が最高評議会であり、ジェイル・スカリエッティが生まれた一因がここにあった。

 

 クライド・ハラオウンが気づいたのは、集権されたことによる管理局の歪みである。ジェックの言に従って日本で地球の政治関係について調べていた時、ふと局の成り立ちに気づき、管理局の歴史を調べていたら案の定、ということだった。監視者がおらず、好き勝手が出来る状況で、コレ以上ほったらかしにしていたら管理局は立ち返る事ができなくなるかもしれない。いずれは暴走という形で管理局は終りを迎えるだろう。ならば、早々に芽は摘んでおかねばならない。

 

「正解。実に良い意見です」

「君はあの頃から、管理局という組織に危惧を感じていたのだろうね。だからこそ私にあのような依頼をしたのだろう。休暇と称して渡航許可を取るのは骨が折れた」

「最悪の気分になれたでしょう?」

「ああ、知らなければ、こうして組織の堕落に憂うこともなかったさ。しかし、改善をしようにも多くの局員が阻む。そのほとんどが高級将校ばかりだ」

 

 クライド・ハラオウン、という人物は根がマジメだ。だからこそ内部の改善に手を出しこそしたものの、多くの局員が徒党を組んでストップをかけた。ため息を吐くクライドの口の中は苦味でいっぱいだろう。

 

「それで、依頼した君が今更現れてどうしろと?クーデターでもしろというのか?」

「正当な権利の行使をお願いしたいだけです。それに、管理局に崩壊されても闇に紛れる有象無象にチャンスを与えるだけでメリットがありません。あなたには改革の頭目となって舵を切ってもらうつもりではありますけど。今がチャンスなんです。争いもほとんどなくなり、凶悪な犯罪者がいない今が」

「まさか、邪魔は多いというのにどうやって?上は鉄壁だぞ。お互いの傷を舐めあっている仲間なのだからな」

「問題があるのは現場に関係ない上層部がほとんど。下の人間はある程度手綱を握っていればなんとかなるでしょう」

「しかし」

「管理局にヘドロみたいな膿が溜まっていたのは、なんとなくわかったのでしょう?とは言っても、そうそうに踏ん切りがつくわけがないのが人間です。これをお釣り等で行うには到底足りない。そこで、こんなものを用意させてもらいました。レイジングハート」

『Alright,Mr』

 

 クライドの目の前にいくつものテキストパネルが投影される。その資料の頭をさっと見てクライドは驚愕した。それは汚職や献金、研究費と偽った税金の横流し、人権を無視した違法な研究などといった様々な不正が名前付きで記されていた。

 

「これは、……一体どうやってここまで」

「それは序の口です。ささっとページをスクロールしてみてください」

 

「何……いや、これは……ちょっと待て。ばかな、おかしいだろ!?」

 

 それは年度ごとにいくつもの不正や事件が書かれている。しかし今年の新暦62年、そして今日の日付までならいいものの、63、64、65年……飛んで80年後半までの不正がズラリと並んでいたのだ。

 

「何故、未来の報告書などというものがある!?」

 

 驚愕。

 そこにはJS事件や闇の書事件、管理局が襲撃されるスカリエッティ事件の詳細が書かれてあった。

 

「そうです。そこからどのような推論が成り立つか、言ってみてください」

「……君が、未来から来たということか。さっきからわざとらしく変な話し方をしていたのもそれか」

「そのとおり」

 

 ジェックはニヤリ、と口元に笑みを浮かべて頷く。

 クライドは息を呑み、次から次へと読み流していく。しかしそんな事を書かれているからといってそう簡単に信用できるだろうか。しかしそれらの報告書はまるであったことのように詳細に書かれている。

 

「バカな、こんな冗談を信じれるわけが」

「これら不正資料を作った局のコンピュータの性能はご存知でしょう。ごまかしようがない。加えて、ほとんどの不正資料は無限書庫からサルベージしたもの。調べてみれば全く同じ物が出てくるはずですよ。特に65年度までなら何の変化もなしに見つかるはずです。ソレ以後はスクライア一族の少年が管理するようになったから、あからさまに資料を投げに来る奴はいなくなりましたが。これも渡しておきます、無限書庫で使える検索魔法です。有効に使ってください」

 

 レイジングハートに促して検索魔法もコピーさせる。これらの資料はジェックが現れても関わっていない部分はそのほとんどが同じ文面のまま見つかるはずである。それはまぎれもない証拠になるだろう。

 

「そして、未来を変えるきっかけの筆頭は、あなただクライド・ハラオウン」

「君が来なければ、私が死んでいた未来。つまり、この報告書通りになった、と?」

 

 クライドは自身が死亡した後の、リンディやクロノの人生の軌跡、グレアムの復讐の末路をトンと指で示した。

 

「驚いた?」

「頭が真っ白だよ。そうか、確か君はあの時どこから転移してきたのかわからないんだったな。リンディも一瞬だけ目の前に現れたと思ったら消えて、いつの間にか私をかかえていたと言うし」

 

 未来から直接彼のもとにジェックは飛んできた、と暗に語る。ジェックは高町なのはの記憶にある縁をたどり、現在から8年前のリンディの元へ転移、その後彼女とクライドの縁を利用して即座にクライドの元に転移して救出を敢行した。おそらくはあのタイミングでなければクライドは制御のために救助すらも断っただろう。クライドの乗る艦は侵蝕され、アルカンシェルの発射体制に入っていたためだ。結果、奇跡の脱出劇が生まれた。

 

「このままの将来、放っておけばジェイル・スカリエッティがぶちきれて逆恨み同然に管理局を襲撃する。これに関しては、俺は悪だとは思っていません。体制に反発するのは当然の権利だし、実際管理局は完全に腐り果てていた。その意味では彼のとった行動は正しい。内容が間違っていましたけど。視野狭窄にでもなっていたか、レジアス・ゲイズを殺しても、頭を失ったら有象無象が散らばるだけで意味がないことはわかっていただろうに復讐と対象の研究だけに意識を傾けた」

 

 当時のジェイル・スカリエッティはAMFを持ち出すことで魔導師が全てでないことを示した。以降は局員でも使えるものが出来ていたし、80年代前半にはラプターという自律行動型ユニットといったものも登場している。完全に体制が変わらなかった故か魔力のない人間が使えるものは一向に存在しなかったが。

 

「結局、膿出しにはある程度成功したものの管理局の体制そのものは変わらなかった。その結果、自己の闘争力を向上させるために集めに集めたロストロギアが互いに励起しあい暴走。ミッドチルダ含めたいくつもの次元世界が崩壊した」

 

 管理局はロストロギアを回収し監視と研究を行なっていたが、それは暗黒の過去を掘り起こすことと同義である。それらは何度も大戦争と世界崩壊に利用され、故に封印されたものだ。危険性を軽視して一箇所に集めれば地獄を見る可能性がぐんぐん高まっていく。ガソリン等と同様、危険物は一箇所に配置しない、無闇矢鱈に触れないのが鉄則だ。だというのに管理局はそれを怠り、組織の戦力強化に用いようとしたのである。ジュエルシードが横流しされていることからもそれは明らかだった。

 

「俺はそれに後悔という感情を持ってしまった未来の「高町なのは」によって作られた人工生命だ。俺の存在意義はロストロギアの破壊を行うことにある」

 

 ジェックの目的、これが彼の存在理由の核である。本来の能力ではただただ破壊というレアスキルになるはずだったが、何の因果か、高町なのはの「今までたどってきたものを失いたくない」という無意識下の願いで縁を操るレアスキルになってしまった。そのため彼が行うのはレアスキルの「縁切り」によるロストロギアの世界からの放逐である。

 

「最も、作るために願われたロストロギアがジュエルシードだったのが問題でね。行動順位にある程度の歪みが出てくれたおかげで、多少は自由行動が出来る。だから俺としては、行動基準こそ「高町なのは」に縛られているが、できるだけ彼女が後悔しない、選択肢を多く持った世界を作るつもりだ。俺の存在意義はソレ以外に意味はなく、そしてこれはちょっとした反乱だ」

 

 でなければ、俺は高町なのはのためにひたすらレールに沿った、沿わさせるために作られた機械に成り果てていただろうなと付ける。高町なのはの基準から外れることが出来ない彼のやることは半ば、子供の抵抗みたいなものだろう。しかし、最低限縁を結べばいいだけの話なのでソレ以外は割と自由だ。何より自分ではしようもない部分は他人に動いてもらえばいい。そうすれば意にそぐわないものが勝手に生まれて外れていく。

 

 当のジェックも自分が何かおかしいのはわかっている。反抗のはずなのにやっていることは、なのはが想定していた状態より良い未来をつくり上げること。自分が目的のために生み出されたことに対して恨みを抱いていたりするなら、こういうふうにはならないだろう。それもこれも、多分にジュエルシードなんかに願ってしまったなのはのせい、ということか。

 

「まぁ、そのために管理局という存在は邪魔、とは言わないが変わってもらうくらいはしてもらいたいのです。でなければ、高町なのはは無意味に抑圧され、期待に応えるだけの人形に成り果てる。それだけは、したくない。せっかく作られたんだ。せいぜいあがいてやりたいようにさせてもらうべきでしょう?」

 

 高町なのはの本質は我慢することだ。痛みに耐え、寂しさを隠し、誰かに必要とされるまでじっと待つ。これは彼女が4歳の頃に築いてしまった処世術だ。だから彼女はNOと言わない。言えない性格になってしまった。だから彼女は無茶を命がけでやるし、一度は空から墜ちている。それから後も任務を拒否したり休暇を取るといったことが殆ど無かった。そのうえ部下の育成方針も体調管理面はあまり見ておらず、とにかく鍛えあげるだけという脳筋じみた行動には、彼女を元にしたジェックですらも呆れている。

 

「……悲しいな」

「ああ、悲しい。しかしどうにもなりません。俺にも彼女にも、主体性というものがまるで存在しない。特に俺のはタダのバグだ。せっかく生まれたから何もかも放って自分の人生を生きようにも、彼女の意志が俺を突き動かす。どのみち何もしなかったらまた数十年後、世界は破滅だ」

 

 クライドは彼を生み出したという高町なのはを恨んだ。利用されるためだけに生み出されてしまった彼は、我々には希望を与えようとも彼自身には絶望しかもたらさない。ジュエルシードの歪みに寄ってわずかにもたらされた自我で性格を維持しているに過ぎないのだ。

 

「……いいだろう。プランはあるのか?」

「乗り気になりました?」

「いい加減、こちらも状況に憂いていてね。やるなら危険性があるプランを練りなおして、いくらでも挑戦しよう。君の最優先条件は高町なのはという女性の築いてきた人生、主に出会いに関する縁の出来る限りの維持、その次にロストロギアの破壊。管理局はオマケといったところか。しかし、管理局の体制を変えることが出来ればロストロギアによる崩壊そのものは防ぐことが出来る。そして、民衆が食い物にされている状況を、わかってて見過ごせるほど私も利口ではない。話してみろジェック・L・高町。あるいはその願いが、世界を大きく変革させるかもしれん」

 

「わかった。では計画を説明する。まず――」

 

 

 

 

 

 あらかたの説明を終えたジェックは一息つき、クライドは納得したとうなずいている。その内容こそ相応にぶっ飛んだ部分もあるが、そういったものでなければ改革はならないだろう。とりあえず当初の目的は3年後のいくつかの事件までだ。綺麗に作業が分担されているので自身が背負う部分はそう多くない。あとは何人かの協力者がいれば問題無いだろう。

 

「なるほど、それならたしかに現実的だろう。そして、君のレアスキルの全容も知った。それさえあれば具体的な道のりはあらかじめ作っておけるということだな」

「そうです」

「わかった。なら私は管理局のスポンサーとなっている富豪や企業を当たっていこう。説得は大人が行うのがいい」

「そして俺は縁を結びつける裏方の調整。救われない子に偽善の手を。ああ、局内でもできる限り味方をつけておいてください。それと、闇の書に関しても大体はなんとかなるだろうから放っておいてもらいたい」

「グレアム提督に伝えておくよ。他に引きこむのは誰がいいだろうか」

「レジアス・ゲイズ当たりはオススメです。今地球はそれなりに面白いことになっている。ソレを見ればきっと食いついてくるはずだ」

 

 ざっと協力者に当たりをつけていく。幸いなことにトップにいるおおよその人物は良識ある者が多い。これは数少ない幸運だ。

 

「了解だ。それでは、互いの未来の為に。幸運を」

「幸運を。必ず巡りあわせてやります」

 

「ああ、そうだ」

 

 帰り際、クライドはふと思いついたように尋ねた。

 

「結局、ジェック・L・高町のLはどういう意味なんだ?」

 

 ソレに対してジェックは笑いとも悲しみとも取れる複雑な表情を浮かべて振り返る。

 

「――ライン、ですよ。好きに生きることを望めない、呪いのような縁です」

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経ち、部屋にはクロノが戻ってきていた。リンディはそのまま帰宅し家事をしているらしい。

 

「父さん、彼はどうしたのですか?」

「帰ったよ。ああ、面接は不合格だ。内容は、そうだな「態度に難あり」とでもしとけばいい」

「随分と適当ですね。……彼も、何か目的があってここに来たのでしょう?」

「わかるかい?」

「やや投げやりでしたが、目に強い光を宿しているのはわかりました。だから、これから父さんが何をするのかで見させてもらいます」

「はは、そうか。なら、そのうち手伝ってもらうかもしれないな。その時はよろしく頼むよ、クロノ」

「はい、提督」

「父さんでいいさ」

 

 きっと大人数を巻き込む騒動になるだろうと考えながら、クライドはお茶をすする。勿論自分で入れなおしたものだ。

 

「さて、と。一つ連絡を入れておかないとな。…………ああ、ご無沙汰していますグレアムさん。ええ、ええ、少しお話したいことがあるのでこちらに寄ってもらえませんか?ええ、お願いします。では」

 

 事態は進む。ゆっくりと、しかし確実に。様々な人々の思惑を乗せ、今茶番は盛大に開催の幕をあげようとしていた。

 




次回から原作……原作?。

短編で「神様転生」について茶々を入れながら冗談を交わす「神様が転生前の部屋で皮肉りまくるしょうもない話」を公開しました。作品一覧からどうぞ。一話完結です。


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(10/22)小型魔導戦闘機「メビウス」→デバイス型魔導戦闘機「ホワイトバード」
大学主導で行われているスポーツ→行われる予定のスポーツ


 学校は希望に満ちた入学生達を迎え、新社会人は迫り来る荒波に飲まれようとしている季節。

 

 春、しかしそのラッシュも落ち着きを見せ始め桜も散り始めた頃。

 

 ここ、海鳴市は異様な活気に満ちている。

 

 3年前、国連から衝撃の発表があった。

 魔導技術、簡潔に言えば魔力媒体を用いた科学技術である。この技術は通常のエネルギーと違い、空気中の魔力素を使い魔力を精製、それを動力源と用いたとしても空気中に発散してふたたび魔力素へと帰る、というクリーンで完全なループ構造を持ったエネルギー体を利用したものである。

 

 この発表は眉唾ものであったものの、世界が湧いた。なにせ魔力素は空気中にいくらでも含まれるのだ。将来のエネルギーの枯渇による奪い合いを懸念していた各国は即時の導入を宣言。あちこちで巻き起こる魔導センセーションによって世界を新たな一歩、革新へと導いたのである。

 

 また、このエネルギーの特徴は人体にも存在し、リンカーコアという内燃機関を持った人間がデバイスという、処理能力に長けた機械を用いることで個人が魔法を使える事が判明。これには日本の、特にオタクと呼ばれる人種が盛り上がった。ジャパニメーションで有名な魔法少女、それがリアルで実現できるとなるのだからそれはもう二次元から飛び出したファンタジーで。変身と同等のバリアジャケット、攻撃に用いられる魔力砲、プロテクションに転移、と資料が開示されてからはリアル魔法少女ktkrと凄まじいレスの勢いで某掲示板が落ちるほどのものだったという。

 

 俺達にも使えるの!?と期待して、しかしリンカーコアの有無は生まれた時から決められており、それが自身は持たないと知った人たちの絶望感は半端無かったが。地球では高魔力を保持するか、もしくは持っていないか、1か0の極端な分別がほとんどという土地柄であったので仕方のないことだ。

 

 とはいえ、技術というものは誰もが使えてこそ。デバイスには魔力タンク――高位のリンカーコアには及ばない程度――が接続され、トリガーやボイスコントロール等を用いることで人を選ぶ事はなくなった。かといって一般がそうそう攻撃魔法を使用されても困るのでそちら向けに発売されているのは主に防犯用のものとなる。

 

 それらは主に国連による発表前から研究をしていた日本の海鳴大学、アメリカの軍部の研究施設で開発された。前者は平和利用目的、後者は主に軍事目的でのベクトルという違いはあるが。

 

 とはいえ日本の、それも何故海鳴で開発が行われたのか、と言われれば巨万の富を持つ資産家がいたためだ。各国に支社を持つバニングス・インダストリー、そして各種先進技術を持ち大手企業を束ねる月村家。この二大資産家による魔法存在のリークにより早々の技術獲得により、日本は秘密裏に研究を行なっていたのだ。故にこの都市はこう呼ばれる。

 

 魔導都市海鳴。

 

 日本の一都市にして、技術力が突出した不思議土地。海あり山あり温泉あり、なんでもござれという神にでも愛されたか?と思えるほど恵まれた場所。そんな場所で魔導技術が研究される、もはやこれは開発チートだ!と叫ばれんばかりの国内では最も足並みが揃わない突出した有名な市だ。一部ではミステリーとしても扱われたり宇宙人がいるのでは?とも噂される。その僻地っぷりは条例等にも現れており、魔法でなんかあったら捜査権限拡大しとくから、そっちで責任とってノウハウ貯めてね?という投げやり模様。

 

 公式名称マギテクスと呼ばれる魔導技術は後にスポーツとしても台頭するのではとみなされており、その分野でも研究が盛んなのか海鳴大学で音頭を取っている。そのためか攻撃魔法の使えるデバイスが使いたいとばかりに入学希望者が殺到。大学は一時の混乱に陥り、その盛況具合は東大をも凌ぐと大騒ぎになった。

 

 兎にも角にも人外魔境となりかけてる海鳴ではあるが、3年もすればそれなりに魔法も普及して落ち着きを取り戻していた。そして物語の主役であるのは、そんな場所に住む小学三年生。

 

 私立聖祥大学付属小学校。一部ではブルジョアとも呼ばれるエスカレーター式の学校だ。入学金こそ高いものの、学力の高さは異例とも思えるレベルだ。具体的にはデバイス持てば高速演算を脳内でこなしてしまう少女がいる程度の。

 

 高町なのは、理系チートとも揶揄される小動物のような少女。その周りを囲むアリサ・バニングスと月村すずかの3人は揃って屋上のベンチで昼食を取っていた。名前だけ見ればその集まりは誰もが驚くことだろう。しかし今現在、彼女たちが悩んでいるのは将来の夢という、実に子供らしい題材だ。

 

「それで、なのははどうするの?」

「うーん、航空写真家ってのも面白そうなんだけど、やっぱり今やってるマギテクシングも外せないかなぁ。面白いんだ、アレ」

 

 なのはは地球で初めて外部でデバイスを持った人間として有名だ。それもこれも、地方都市の一角で度々空を飛んで魔法少女っぷりを発揮しているのが原因だった。どのような事情でか、公式発表がなされた3年前よりも更に2年前、4才の頃からデバイスを持っていたらしく研究者から譲り受けた特殊な人間として認知されている。最も、そのデバイスにプリインストールされていた魔法は飛行にプロテクション、治癒魔法の3つだけで、以降も新しいものを入れることが出来ないものであったが。デバイスは公式発表前でそもそも名前が無かったのか、ネームレスと呼ばれる防犯デバイスの先駆けともなったものだ。

 

 アリサの問いに答えたなのはの趣味(?)は機械オタである。そのためかマニアと呼べるほどの知識を持ち、型番を聞くだけであれこれ語るさまはちょっと引くレベルだ。中でもカメラが一番の趣味らしく、手持ちの一眼レフであちこち空を飛びながら撮影するのだという。加えてネット上にアップされたそれらの写真、動画は新たなアングルで撮られた新次元の作品と名を馳せており、時々オファーも来るほどらしい。ただ当人はお茶の間で有名になることが恥ずかしいのか避けたいのか、カメラに関しては趣味と割りきっており取材などを受けることは少ない。魔法のとあるインタビューで既に世界中で有名になりかけているので遅い話ではあるが。

 

 そして現在は大学主導で行われる予定スポーツ、仮名マギテクシングの調整にも参加し、その才を発揮している。魔法のインストール制限を解除されたデバイスを持たせればあれやこれやと魔法を開発してしまうので、大学でも非常に重宝されていた。

 

「すずかちゃんは何がしたいんだっけ?」

「私はやっぱりなのはちゃんのデバイスを作ることかな。とびっきりの高級機を作ってあげるよ!」

「にゃはは、お手柔らかにね……」

 

 月村すずかは各工業団体を束ねる月村家のご令嬢だ。故に魔導技術だけでなく通常の機械関係にも強いらしく、本人も高い開発力を持つ。最近では友だちの趣味を応援したいのかインテリジェントデバイスの作成に励んでおり、目下勉強中とのことだ。周囲には知らされていないが、彼女の家が持つ秘伝のAI技術はその他追随を許さないものであり、ロボットまで作り出す技術力を備えている。そんなものでデバイスまで創りだされたら、果たしてどうなるのか想像もつかない。

 

「じゃぁ最後はアリサちゃんだね」

「ふふん、聞いて驚きなさい!私は皆が幸せになれる魔法を扱うのよ!」

「あれ?それじゃ今とあんまり変わらないんじゃ?」

「……ぬぐ。そ、それはまだ足がかりよ足がかり!防犯用デバイスをプロデュースしただけじゃ成功したとは言えないわ!」

 

 アリサ・バニングスもバニングス家のご令嬢である。そのせいかちょくちょく誘拐されそうな事件が発生しており、身の危険度はかなり高い。その観点からデバイスは渡りに船、とばかりに防犯デバイスの開発を会社に提言。親馬鹿である父がそれを承認。そして作り上げられたのが少量の魔力タンクを保持した防犯デバイスだ。

 

 防犯デバイスはいくつかのクラスにわかれており、最もクラスが低いものでもプロテクション、GPS、ブザーなどを装備している。中クラスでオートトリガーによる簡易シューター、高クラスで大容量魔力タンクとバリアジャケット展開機能が追加される。

 

 これらのデバイスは基本がオートになっており、リンカーコアを所持しない人間でも魔法を発動できるようになっている。デバイスはその真新しさと「トラックに突っ込まれても安全」との広告により爆発的人気を誇り、提言したアリサはバニングス・インダストリーの名誉アドバイザーとして席をもらっていた。ちなみにアリサのデバイスは親馬鹿により短距離転移機能まで付いていたりする。

 

「あ、それと魔導技術の開発者にも会ってみたいわね。えーっとなんて言ったっけそいつ?」

「あ、私もー」

「ジョニー・スリカエッティだね」

「随分とふざけた名前よね、おちょくってるのかしら。なのはは一度会ったことあるんだっけ?」

「にゃ?えーっと、多分?」

「はっきりしないわねえ。ま、写真も公開されてないんじゃ仕方ないか」

 

 ジョニー・スリカエッティ。一般には魔導技術開発者と知られているが、その容貌は噂レベルでしか流れていない。なんでも随分と偏屈な科学者と噂されており、アメリカの軍の研究所にこもりっきりらしい。とんでもない出不精で、しかも当然ながら研究所内は写真撮影禁止。そのため顔を見たものはわずかに限られており、他の研究者に突撃したものの解ったのは紫がかった髪に金色の目という、冗談のような人物像だけだった。名前の何がふざけているのかは二通りの意味で見ての通りである。主に英語と日本語で。

 ちなみになぜか日本人の、それも車椅子に乗った少女が研究所を出入りしており、その少女にも突撃インタビューをしたところ、

 

「ああ、おもろい人やで?たまに気が狂ったように笑うけどなぁ」

 

と関西弁で返された。むしろその少女が誰だと聞きたいが当然のようにはぐらかされている。日本語で答えたところにもツッコミを入れるべきだろうか。

 

 要するにまとめると、不思議な容姿をした変人ということである。科学者のありきたりなイメージとはそういうものなのだろうか。大勢が何となしに自分の想像に当てはめることとなった。

 

「あ、そーだ。見て見てコレ!じゃーん、マギテックマガジンの最新号!」

「ちょ、なのは!?それあと二週間は待たないといけないものじゃない!?どうして持ってるのよ!」

「ふふふ、なんとインタビューを受けてから懇意にしてくれてる編集部の人にもらったのでしたー!」

「わぁ〜、表紙が新型のインテリジェントデバイスのムスタングだよそれ。実戦でも使えるタイプだって聞いたことある!」

「っく、私もコネがあれば……!今度取材でも受けようかしら。それよりもなのは!早くページを開きなさい!ハリーハリー!」

「わかったからアリサちゃんゆすらないで~!?」

 

 最新の雑誌が気になります、と前後に揺すられる。そんな彼女たちは乙女である。……乙女のはずである。

 

「あ、これもうすぐロールアウトだったっけ」

「これって何よ……あら、確かデバイス型魔導戦闘機ホワイトバードだったかしら」

「戦闘機って言うより強化装備っぽい見た目だよねコレ?大部分のパーツを量子変換で格納できる変形型のデバイスって書いてあるね。もしかしてこれすずかちゃんのところで研究してたアレ?」

「そうそう。小型魔力炉を搭載したリンカーコアの無い人でも魔法が使えるセレクトトリガータイプだよ。祈祷型じゃないから魔力を引っ張られることもないの」

「もともと祈祷型なんてのがいきなり出てきたのがおかしいのよ。欠点だらけじゃない、あれ。魔法発動におけるタイムラグが少ないのはいいけど、リンカーコア持ちの少数しか使えないのなら全く意味ないわ」

「うーん、確かに私みたいに魔力が高いと自由意志で空が飛べたりするから、ありがたいといえばありがたいけど」

 

 デバイスが魔法を発動させるための祈祷型トリガーは、考えるだけでイメージした魔法が使える便利さがある。その代わり、魔力を個人のリンカーコアから引っ張るために汎用性がなく、また制御も曖昧でプログラムが整理されていないため、同じ魔法を他人に渡しても扱いやすさに難がある。このあたりは特性という片づけ方をされていた。セレクトトリガータイプは現代の銃のようにトリガーを外側に配置し、魔力を魔力炉や外部から供給するタイプのものだ。思考に左右されず、常に一定の能力を発揮する安定性がある。デメリットは祈祷型と違い反射的に魔法が使えないので、タイムラグが出るといったところだろう。

 

「どちらかと言うと代用できるモノを持った人間が使うサポートツールみたいな印象だったもんね。これからは多少扱いが楽になると思うよ」

「でもコレを見てると、なんか昔見たロボットアニメを思い出すわ。飛行形態に変身する奴」

「ぶっちゃけるとまんまそれだね。お姉ちゃんが張り切っちゃってて」

「えー!?そうだったの!?」

「誰もがイメージしやすくて、夢があるとか言ってたから。でも実際翼があるとメリットが多いの。上昇気流を使えば魔力消費は少なくできるし、魔力機動になればAMBACも取れるからイイトコどりみたいな感じだね」

「にゃー、確かに空中変形は夢なの」

「論点がずれてるわよなのは。っま、なのはから聞いた通り飛行魔法は重力制御でモリモリ魔力を削られるから、確かに巡航状態なら利便性が高いわね、航行距離も伸びるし。何より環境に優しくて使うのが魔力素だけっていうのが優れてるわ」

 

パラリパラリとページをめくりながらアレコレと難しい会話をする小学生3人。周囲で見ているちょっと背伸びして彼女たちとおしゃべりしたい少年たちは、あまりの高度さについていけず膝をつくのであった。

 

 

 

 

 

 高町なのはには夢がある。

 しかし将来なりたいものは何か、と聞かれると答えづらい。それは今現在やっていることがあまりにも多く指針を定められていないためだ。それらを整理するためにも1つずつあげていこう。

 

 まずは空撮。

 「ネームレス」という(登録上)防犯用デバイスを所持してからは、それを利用してちょくちょく空を飛んでいた。ついでに家電製品、特にカメラ好きな彼女は一眼レフを持ちだして空撮を敢行。出来の良さから沢山の人にも見てもらいたいと動画サイトにアップロードした。するとどうだ。人が空を飛ぶという独特な機動で撮影された映像、CGでしか表現できなかった森の中を高速で駆け抜ける映像、空と地面を交互に見ながらクルクルと回る映像と中々にセンスあふれる動画が出回った。結果、噂が噂を呼び、あっという間に世界でも人気のコンテンツとなってしまったのだ。勿論、その撮影に時々写る撮影者の高町なのはの可愛さも秘訣のワンポイントだ。

 

 付随して魔導テスター。

 現在海鳴大学では様々な魔法の開発を行なっている。通常は時間をかけてプログラミングしていくのだが、インスピレーションと感覚だけで組んでしまうなのはの存在は貴重だった。特に魔力検査で高い能力がひっかかり、人材を確保したかった大学としてはなおのこと。その速度と正確さは一体何処の人間演算機なのかと思われる程になのはは数字に強い。

 メインで開発されているのはシューターなどの攻撃系だ。近いうちにマギテクスはスポーツ導入を予定しているのでソレに合わせての徴用だろう。彼女がいればプログラマー100人力である。

 

 家庭では料理だ。

 喫茶店の翠屋を経営し、かつパティシエでもある高町桃子のスキルはそこらの主婦と一線を角している。ならば当然、学ばなければ損というものだろう。時々なのはが作るケーキは美味しい美味いと甘味好きの美由希に消費されている。もっぱら自分が作ってしまうと珍味を生み出してしまう故のストレス発散なのだろう。苦笑するしか無い妹である。

 

 そして資本づくりと御神流も学んでいた。

 世界的にも、魔導界隈でもあまりに名が売れてしまったなのはは自身の身を自分で守らなければならない程には周囲の危険性が上がっていた。そのため一年生になる頃から高町士郎がやるか?と問うたところ、是と返事が返ってきた。当初こそ走るのにも数十歩でバテるという有様だったが、現在は4km以上を平然と走れる体力を付けた。彼女の最も特筆すべき部分は魔力などの高いステータスではなく、その成長力の高さなのかもしれない。最近特に伸びが凄まじい。

 

 そんなわけで、挙げ連ねるだけでも4つはあった。勿論これだけアレコレと手を出しているのにもわけがあり、それはなのはが大切にしている過去の思い出「恐怖のドッペルゲンガー」が影響している結果なのだが、またおいおい話す機会があるだろうから置いておく。

 兎にも角にも、彼女の現在は順風満帆といった様子だ。未来の時間軸における「高町なのは」は、我慢という抑圧された中で「魔法」という真新しさと、自分が頼られる事のみに目を向けていたためにそのほとんどを管理局に束縛されることになった。それを考えれば随分と今のなのはは楽しんでいるといえる。果たして今と未来軸のなのは、そのどちらかが幸福だったのかというのは個人の主観で決まるものなので答えようがない。

 

 それでも、笑顔でいられる今は少なくとも悪いことではないのだろう。

 

「なのはー、帰るわよー!」

「なのはちゃーん」

「あ、まって~。アリサちゃん、すずかちゃん!」

 



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(10/22)魔法が使える動物に対する不信感について修正→ユーノ発見時


 授業も終えた帰り際。

 3人が通りがかった公園は喧騒に包まれていた。何事かと野次馬してみれば、大勢の警察官が忙しそうに立ち回っている。

 

「あのー、どうしたんですか?」

「あぁ、天才少女たちか。お前らんとこは物騒なことはなかったか?」

 

 何かを調べていた中年の刑事がなのはたちに話しかけてきた。彼の名は佐伯重蔵、特例区となった海鳴市に派遣されてきた刑事である。魔法、という最先端を即座に導入したこの街は今まで起こらなかった危険性をはらんでいる。それはデバイスによる犯罪といったものから、魔力事故等の故意でない物まで多岐に推測されており、それらのノウハウを学んだ人間が必要だった。

 

 いや、どちらかといえばこれからノウハウを学ぶ側だろうか。事件の対処法は未だこれといった事件の起こっていない海鳴では経験しづらい。安全マージンのとり幅やデバイス利用規則などについて、詳細に決めてあった分これといったトラブルが起こりづらいのだ。海鳴は現状特殊な事件の裁量を警察に任せる条例が出ている。不謹慎ではあるが案件がある程度揃っているに越したことはない。つまり、この街は魔導の最先端にして生贄なのだ。

 

 そして彼は、三人の少女たちのことを知っている。二人はこの街の大企業のご令嬢、もう片方、つまりなのはは「魔導」という面において非常に有名な少女だ。警察組織として知らないほうがおかしい。ついでにいえばなのはは何年か前のマスコミ騒ぎの際にお世話になり、かつ彼自身は高町士郎の知り合いである。もともとボディーガード業等を営んでいた士郎はそれなりに顔が広かった。

 

「は?いきなり何よ?」

「うちは全力魔導警備装置を導入したので虫一匹通しませんよ」

「ああ、うん。何もなかったならそれでいい。もう遅いからとっとと帰りな」

 

 それはどう考えても過剰防衛だろ?と佐伯刑事はあきれる。今や月村家の自衛能力はもはや空爆機を用意しないといけない程度には要塞化されている。地上から攻めたのであればあたり一面がところかまわず砲撃にさらされること請け合いだ。もちろん非殺傷設定で。加えて地下には魔窟と化したグレートツキムラヴィレッジが存在し、姉妹の趣味を反映しまくった開発を行なっている。本当にココは日本なのだろうか。

 

「え?え?結局なんなの?」

「こんな物々しくて気にならないわけないでしょ!自分の身にも関わることかもしれないんだから教えなさい!」

「面倒な嬢ちゃん達だなぁ……。ま、立場的に仕方ないか。ほら、あれ見ろ」

 

 わけがわからない、とばかりに疑問符を浮かべるなのは。それに追随してアリサも責め立てる。とはいえこの街で最も狙われる可能性が高いのはこの少女たちだ。その態度には呆れつつも佐伯刑事は指をさした。

 

 

――無残な姿になった廃墟。

 

 そんなイメージが思い浮かんでしまう、バラバラに崩壊した係留所。台風でも来たのかと思わんばかりにそこら中に破片が散らばっており、綺麗な池もゴミだらけの様相を呈している。商売道具であるボート類もあちこちが欠けており、管理者が営業できなくなるレベルで被害が出ていた。

 

「うわ、すごい壊れっぷりね。昨日はストームでもあったかしら」

「アヒルさんの首もグロッキーだね……」

「すずかちゃん、あれ白鳥……」

「ひでぇ有様だろ?勿論突風も何も昨日は起こっちゃいねぇからな。変な話だってことで大騒ぎよ」

 

 こうなると該当するのは人為的なもの、器物損壊などではないだろうかと推測する。しかし人間がやるにはとんでもない力が必要だろう。随分と太い木々も折れているようだ、もしソレが出来るとしたら一体どんな人間なのか。

 

「佐伯刑事の言うとおりコレが人のやったことだってんなら、私がぶっ飛ばしてやるわ!」

「正義感にあふれるのは結構だが、困るのはコッチなんでやめてくれないか」

「そうだよアリサちゃん。例えこんな破壊が出来る人がいたとして、どうやって退治するの?」

「それは、そうね……。その時はアレを使うわ」

「ま、まさかアリサちゃん、アレをやるの!?」

「あ?アレってなんだ?」

「ふふ、それはね――」

 

 アリサの後ろからゴゴゴゴゴと謎の音が聞こえる。

 

「アリサプロテクションアタックよ!!」

 

 ラッパのファンファーレも聞こえた。どっちかというとすかしたプピーという音の気がするが。

 

「……高町嬢、お前アレを教えたのか」

「っにゃ!?なのはのせいじゃないです!」

 

 ――アリサプロテクションアタック。それは文化の真髄を極めた某太子も使ったという、その名の通り球状のラウンドプロテクションを展開して特攻するという荒業である。過去、あまりに多い記者のインタビューに混乱したなのはが、それを使って逃げ出したというちょっぴり恥ずかしい出来事があった。勿論佐伯刑事の過去案件にも載っており、随分と手を焼かせた記憶がある。

 

 実際、魔力を込めれば込めるだけ硬度が増すプロテクションは当たれば地味に痛い。それに走りや飛行などで速度を加えればちょっとした人間砲弾である。それ故なのはの真似をしてアリサが使っても……それほどおかしくはない話かもしれない。もしくは幼少期には一度はやってしまう中二病的な何か。

 

 謎の正義感を発揮して騒いでいるアリサを尻目に、なのはは周囲をもう一度観察した。そういえば、アリサの魔法という言葉でふと思い出したことがある。

 

(今日夢で見たイメージと近いんじゃないかな、ココ)

 

 なんとなく不思議な既視感がある。今日朝見た夢の内容は、見たこともない若草色の民族衣装を着た少年が何かの化物と戦っていたような光景だった。その彼は魔法を使っていたような気がする。英雄願望を持ち合わせていないなのはにとって、あのようなファンタジックな夢を見たのはどうにも不思議でならないため首をひねっていたが、どうも偶然の一致とは思えない。

 

「ねぇ、佐伯さん。もしかしてコレ、魔法でやったんじゃないかな?」

「え、魔法?……それっぽいわね」

「確かに魔法ならこれくらいの破壊力はあるかも」

 

 そろっとアドバイスを入れると同級生二人が肯定する。こう見えて3人は界隈きっての専門家である。地味に発言力は高い。

 

「……嬢ちゃんの言うとおり、その線でも捜査中だ。だけど鑑識の奴らもまだまだ分からんことが多くてな。実際ソレが正しいのかどうか計測も上手くいってねえ。それに、嬢ちゃんは知ってるだろ?魔法が使われたってんならデバイスが使われてるってことだ。現状攻撃魔法が使えるデバイスは、警察か大学にしか無い。当然管理が行き届いているし、紛失したという報告も受けていない。なら、これは誰がやったってことになる」

 

 現在攻撃魔法が使えるデバイスはほとんどが管理下に置かれている。例えば剣道部やパイアスロンなら竹刀やガスガンを個人で持ち歩くことも出来るが、デバイスは過剰な攻撃力を持っている。そのため特定条件下のみでしか使えない等のロックをかけることで他と同様、後は良識に任せるという手段を取る予定にはなっているが。ちなみに管理下のデバイスは全て非破壊・非殺傷のロックがかかっており、このようなことが出来るのは不法なデバイスのみだ。作成知識があるのはせいぜいが月村かバニングスくらいしかない。

 

「うーん、誰かっていうのはわからないですけど、計測のお手伝いくらいなら出来るかもしれません」

「何?」

 

 なのはは話した瞬間にさっと周囲の環境をスキャンするパラメータを表示する。その行使にはデバイスが使われている様子がなく、周囲を唖然とさせた。

 

「おい、嬢ちゃん。これはどうやってやった?デバイスは使ってないよな?」

「祈祷型トリガーのデバイスを使ってれば、ある程度の演算は自分で出来るようになりますよ?さすがに攻撃魔法になると簡単なシューターくらいしか撃てないですけど」

「初めて知ったわ……」

「私も、研究班で出来たことある人見たこと無いよ、なのはちゃん」

「え?え?私だけ?」

「とりあえず、高町嬢が天才だということはわかった。犯人は高町嬢か」

「えー!?さっきシューターくらいしか撃てないって言ったじゃないですかぁ!それに、これくらいのパラメータスキャンくらいだったら処理が低いからデバイス無くてもできます!」

 

 周りが呆れたようなため息を付いた。

 

「天才は人の心知らず、か」

「それが出来るのはなのはだけよ」

「頑張ってねなのはちゃん」

 

 何を頑張るのだろう。これからお前の頭はおかしいと言われる人生にか。

 

「えぇー!?皆ひどいよぅ!」

「それに、嬢ちゃんのシューターはあたっただけで人がボウリングのピンみたいに飛んでいくらしいじゃねえか。大学関係者がいる奴は皆『バリアジャケットが無ければ即死だった』って聞いたみたいだぜ?事実だけなら疑われてもおかしくはない」

 

 敢えて言うが勿論常時非殺傷非破壊設定である。地球製のデバイスは一部を除いてほとんどがロックを掛けられている。なのでこれはただの戯言なのだが。

 

「うぐっ、否定できません。それでもにゃのははやってにゃい」

「なのはちゃん、噛んでる噛んでる」

「なのはを逮捕したらただじゃ置かないわよ!」

 

 憤慨するアリサに対し、しねぇしねぇとぷらぷら手を振って佐伯刑事は答える。いい加減相手をするのが面倒になってきたらしい。

 

「それで、結果はどうだったんだ高町嬢」

「うう……ある程度魔力素を魔力に変換した跡があります……。あと、だいぶ拡散しちゃってるけど破壊部分にも魔力の残滓があるみたいです」

「……なるほどな。教えてくれてありがとよ。遅くなるから、そろそろ帰んな」

 

『はーい』

 

 後は警察の仕事なので、おとなしく帰ることとなった。

 

 

 

 

 

「…………あれ?」

「どうしたの?」

「なのは?」

 

 何かに気づいたのか、ふとなのはは足を止めた。しかし周りを見回してもコレといって何かがあるわけではない。しかし彼女の頭には確かに思念通話のようなものがかすれているが届いていたのだ。

 

「なんか森の奥から思念通話が聞こえる気がするんだけど、皆は聞こえる?」

「んーん?聞こえないけど?私もそれなりには魔法に敏感になったほうだと思ってるけど」

「ていうか、それなんか怖いわね。……お化けとか?」

「にゃ!?それはイヤです!でも、なんだかそんな感じじゃないんだよね。助けてって言ってるし、ちょっと行ってみる!」

「あ、走らないでよなのはちゃーん!」

「こら、私はあんた達みたいに体力ないのよー!?」

 

 森の中もなんのその、スイスイと木々を避けてなのはは奥に走っていく。それに追従するのはすずか、遅れて文句を言いながら走ってくるアリサの順だ。目的の場所に到着したのか、急ブレーキを踏んだなのはとすずかは地面を見ている。アリサはばてているのか呼吸を繰り返している。

 

「も……もう、あんた達、そんな本気で走ったら……追いつけないじゃない。はっ……はっ」

「あ、ごめんねアリサちゃん」

「もういいわ。それで、結局何だったの?」

「えーっと、多分この子だと思うんだけど」

 

 なのはがしゃがみこんでいる足元には一つの動物の影、フェレットが傷ついて倒れていた。かなり消耗しているらしく軽く痙攣を起こしている。なのはは即座に防犯用デバイス「ネームレス」取り出し治癒魔法で治療に当たる。治療による魔力光がきらめき、徐々にフェレットの怪我が治っていった。完治した様子に安心したなのはは治療を終了して再びネームレスを収納する。一連の行動の間にアリサは執事の鮫島を呼んでおり、的確な対応を取っていた。

 

 それなら迎えが来るまでもうしばらく時間があるだろう。倒れているフェレットが気がついたのか、こちらを見上げていた。怪我をしていたにもかかわらず、大して警戒心を抱いていないようだ。もしかしたら何処かのペットなのかな?となのはは考えるが思念通話が出来るペットなぞ聞いたこともなく。しかしよく見ると不思議な違和感が目についた。

 

(むぅ~?全身に魔力が張り付いてる感じするんだけど、おかしいなぁ。本当にただの動物なのかな、この子)

 

 魔力がある動物は現在地球上で確認されていない。マギテクスが公表されて3年、そんな僅かな期間で果たして魔力を持った動物が都合よく現れるのだろうか。加えて魔法を使い、言語を操り、人間に話しかけてくる。ソレは本当に動物なのか?

 

『よか……った。管理……局の……』

 

 安心したのか、再び気絶、もとい睡眠に入るフェレット。その間際に聞こえた念話でこの動物は何やら不思議なことをつぶやいていた。とりあえず念話を送ってきた相手はこの子で確定した。

 

「ねー、アリサちゃーん。管理局ってなにー?」

「…………は?どうしてそんな事を今聞くわけ?」

「なんか、この子からの念話で管理局がどうのって聞こえたから?」

「私に聞いてもわかんないわよ。管理局なんて、行政とか入国とかしか思い浮かばないし。何で動物がそんなこと言うの?」

「あれ?さりげなく信じてない?」

「今まで魔法が無かった地球で魔法が使えるフェレットがいたら驚きが世紀末よ」

「大丈夫、ノエルとファリンなら使えるからフェレットだって」

「にゃー!?スルーしないでよー!」

 

 さりげなくカオスが形成されていた。

 

「あ、鮫島?もう着いたの?早いわね。うん、それじゃあすぐそっちに行くから。なのはー、さっさとその子連れて行くわよー?」

「あ、はーい」

「行き先は動物病院だね」

 

 アリサは携帯でやりとりしながら鮫島の仕事の速さを褒める。鮫島の車に乗り込んだ三人は一路、動物病院へと足を急いだ。

 

 

 

 

 

「ん、コレでよし。というか、あんまり手をいれる部分が無いわねぇ」

 

 動物病院にてフェレットは簡易の治療を受けた。しかし既に治癒魔法で治療した現在、目立った怪我はなく、わずかに見える痕が開かないよう包帯を巻いておくだけである。

 

「怪我をしていたという割には随分綺麗になってるわね。治癒魔法って便利ねえ。でもこれだとどんな怪我してたのかわからないなぁ。ああ、治したことを責めてるわけじゃないのよ?」

 

 一見汚れているようにしか見えないから貧血かどうかなどの判断がしかねる可能性がある。と、軽く応急処置における注意を院長は促しておく。覚えておけば問題ないのだろう。それに三人は元気よく肯定した。

 

 しばらくしてフェレットが目を覚ました。気がついたら場所が変わっていたのか、周囲をキョロキョロと見回している。そしてなのはに視線を合わせたその動物は衝撃的な一言を放った。

 

 

 

 

「あ、あの管理局の方ですよね!助けに来てくれたんですか!?」

 

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

「え、あれ?皆さんどうしたんですか?」

 

「「「「しゃ」」」」

 

「……しゃ?」

 

 

 

 

「「「「しゃべったぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!?!?」」」」

 

「えぇぇ!?」

 

 

 海鳴市のとある動物病院から響いた絶叫。それは近所迷惑もかくやとおもわれるような、とんでもない大音量だったらしい。

 



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dreadnought_1

時が止まる。

 

 しかし表現に対して、周囲の閑静を無視してカチコチと秒針が音を刻み続けるのが聞こえる。

 

「…………………………」

 

 人と獣、互いが互いに動けぬコチラは動物病院、夕方のサイトオブインパクト。

 

「…………………………」

 

 人の方は動物が人語を喋るという芸を見せたことに対しあまりの衝撃を受け、

 

「…………………………」

 

 片や獣の方は目的の人物だと思って話しかけたのにあまりにも初な反応をされた上、その大声にびっくりして固まっている。ついでにそのまま顔が固まるというあらたな動物芸を見せているのは余談だ。

 

 ――果たして一番最初に復活するのは誰か!!

 

 

「ってそんなわけあるかぁあぁぁぁぁあああ!?」

 

 

 アリサだった。

 

 

 

 

「おかしいでしょ!おかしいでしょ!?なんで動物が喋っるっのっよぉ!!」

「にゃぁぁぁ!揺らさないでアリサちゃ~ん!?」

 

 ブンブンガンガングラングラン、あまりの振動になのはの頭が転げ落ちそうなくらい揺れている。振り回すはシェイカーアリサ。只今絶賛混乱中である。

 

「これは、なんというか、ねえ?」

「あはは、……私もどう反応していいのかわかりません」

 

 院長とすずかの二人は比較的落ち着いているように見えて、心には嫌な汗が流れ落ちている。反応に困るとはこのことだ。

 

「えーっと、その……」

 

 ドッキーン。4人の動きが再びフェレットの発言によって止まる。フェレットにとってはただ話しかけているだけなのに、何故コレほど驚かれなければいけないのだろうかと首を傾げる。

 

「……えぇ!えぇ!もういいわ!なんだってしゃべってみなさい!」

「諦めるのが早いねアリサちゃん」

「覚悟を決めたって言いなさいよすずか!」

「ゆ、揺れるの……頭が……」

 

 

 

 

「そ、その、あなた達は現地協力の嘱託魔導師では無いのですか?」

「…………なにそれ?」

「え、でも魔法使ってましたよね?」

「使ったけど、それが?」

「じゃ、じゃあ時空管理局という言葉に聞き覚えは……」

「そんなSFな組織名なんて聞いたことないわよ」

 

 バッサリと切り伏せるアリサ。

 それを聞いてなんてこったぁ!と頭を抱えるフェレット。これまた見たこと無いシュールな光景。

 

「……何してるの?えーと……」

「あ、ユーノ・スクライアっていいます。治癒魔法、使ってくれてありがとうございました」

「うん、じゃあユーノ君だね。私は高町なのはだよ、よろしくね。それで、どうしたの?なにか困ったことあるの?」

 

 互いに自己紹介を交わしつつ、なのははユーノが何か重大なミスを犯したらしいことに気づいて探りを入れる。

 

「いえ……その、ちょっとした失敗をしてしまったと思って」

「失敗って何のこと?」

「コッチの話なので気にしないでいただければ……」

「そんな頭かかえて落ち込むようなことを気にするなって言われても無理ね。何かあるならチャキチャキ話しなさい。さっきの嘱託だとか、管理局だとかも気になるしね」

「……う、はい。その……」

 

 ユーノは今の失敗について簡単に説明をすることにした。彼が言うには管理局によって管理されてない世界、管理外世界である惑星の現地住民、または技術流出を避けるための不用意な接触や行動を避けなければならないらしい。

 

「現地住民との不用意な接触?」

「どういうこと?」

「昔のアメリカ大陸のインディアン的な扱いなのかな?」

「それって随分失礼な話ね。何様よこのフェレット」

 

 フェレットが悪いのではない。これは魔法を上位と取る管理世界が定めたことで、管理外世界にとって新たな技術が争いの火種にならないようにするための措置だ。

 

「えーっと、それについては次元世界に付いて知って貰う必要があります。まず次元世界というのは隔たれた次元にある惑星、世界を含む上位構造の事です。その中でも人が住んでいて、魔法が使える世界は時空管理局という組織のもと、共同運営しています」

 

 言うなればそこは魔法技術を主体として、もしくは使えていた事が前提の世界が寄り合って生活をしている連合のようなものとまとめる。 

 

「それで、僕達管理世界の人間は管理外世界の人間とうかつに接触してはいけないという規定があるんです。魔法という存在を知られてはいけないので」

「そんな事言っても、私たちは普通に魔法を使ってるわよ」

「まぁ、そうは言っても公式では3年前からだからね。まだ黎明期と言ってもいいくらいだよ」

「へぇ、そうだったんですか。それでまだ管理世界に入ってないんですね」

 

 余談だが魔法が使えるようになったら管理世界入りという話はない。しかし、ここは管理外世界とあるように管理局に人が住んでいる星として認識されている。ならば管理局の巡回ルートに入っているはずだ。なのに、魔法反応に3年も気づくこと無くスルーされているというのは一体どういうことだろうか。ユーノは返答を返しつつ心のなかで首をひねった。

 

「というか、今すごく聞き捨てならないことを聞いた気がするだけど」

「何がですか、先生?」

「僕達管理世界の人間って言ってたでしょ?動物じゃないの君」

「え」

 

 院長は先の一言に違和感を感じて、指摘を入れた。

 

「もしかして……」

「え、あ、えっと、実はコレ、変身魔法で……本当は人間なんです」

「なんですってぇぇぇ!?」

「あぁ、またアリサちゃんの琴線にふれちゃった」

「さっきから衝撃の連続だからしょうがないわね。大人の私も驚いてるもの」

「何で動物さんの姿なの?」

「魔力がなかったんで、回復のために節約状態にしてたんです。でもこの星、魔力素の取り込みが悪くて……。それで動物の姿をとってたんですけど、その、先に言っておくべきでしたか?」

「ううん、多分どっちにしろアリサちゃんが爆発してるから気にしなくていいの」

「い、いいのかなぁ……」

 

 完全にオーバーフローしてバーニングしてるアリサを放置し、会話を続けることにするなのは。しばらくアリサが戻ってこないと確信しているのだろう。えらく豪胆である。

 

「それにしても、めくるめくスーパーマジカルワールドというか。すごいね変身魔法?質量はどこへ行ったのかな。その小さなカラダに詰まってるの?」

 

 すずかはユーノの首根っこをひょいと摘んで持ち上げてみるが、特にコレといって重たいことはなかった。どうやらその技術力に興味があるらしい。

 

「つまんでみても普通にフェレットの重さだね。……解体してもいい?」

「僕デバイスか何かですか!?」

「すずかちゃんも壊れてるの……」

「えー、だってデバイスと同じで自身を量子変換してるんだったら随分思い切ったことしてるなぁって。ある意味命がけじゃないかなソレ、気にならない?」

 

 魔法一つで分解されたらたまらない。ユーノは焦りながら適当な言い訳で取り繕うことにした。

 

「気にされても困るんですが……。一応スクライアの秘伝ってことになってるので」

「むぅ、そっかぁ。残念だなぁ」

「私は病院がスプラッターにされなくて助かるのだけど」

「病院だから大丈夫ですよね先生」

「そういう問題じゃないわよ!?」

 

 ややマッド化しつつあるすずかの問題発言に院長までツッコミを入れる始末。研究方面においては暴走しだすと全く手に負えない、それが月村すずかである。

 

「あ~~~~ぁ、もうぅぅ!」

「あ、帰ってきたのアリサちゃん」

「どこにも行ってないわよ!それにしても何よ地球が管理外世界とか!思いっきり見下してるじゃない!管理局って何様!?」

「どうどう、落ち着いてアリサちゃん」

「っふー!!って私は馬!?」

 

 やたらと愛国心、もとい地球愛が強いアリサには上位に位置しているように見える管理局が悪に見えるらしい。ここで彼女らが知る話ではないが、管理局に合併されてしまうと地球の国別で法律などが別れていても全部一緒くたに変更されるか、もしくは国際条約以上の強制力が働いてしまう可能性はある。質量兵器を取り上げられるなどしたら現状のパワーバランスは一気に崩壊するだろう。最悪植民地化もあるかもしれない。そういう意味ではアリサの見方は合っていた。

 

「はぁはぁ……それで、嘱託魔導師って何のことなのかしら。もう少し詳しく説明してくれない?」

「えっと、そうですね……」

 

 管理局には就職せずとも、嘱託魔導師という資格がある。その資格を持っていると、いくつかの権限が与えられ、異世界での行動の縛りが緩くなるのだ。加えて、希望すれば管理外世界への在住も可能になる。その代わり現地で何かあった場合は、捜査協力員として協力する義務が発生するというものだ。その対象は広く魔法犯罪からロストロギアにまで及ぶという。

 

「つまり、そのロストロギアとやら魔法犯罪やらを監視するために現地協力員として嘱託魔導師がいる場合がある。で、なのはがそうだと思って話しかけてみたらおもいっきり勘違いでした、と」

「もしかして、無差別の広域念話を使ってたのってそれが理由?」

「そういうことです。あの、一応聞きますけど皆さん魔導師なんですよね?」

「そういえばさっきから魔導師って言ってたわね。別に地球ではそんな区分無いけど、何でそう思ったの?」

「え、デバイスを持ってるじゃないですか。だったら魔導師だと思うんですけど」

 

 管理世界内ではデバイス持ちと魔導師がイコールである。リンカーコアを持っていないと使えないのだから当然だ。

 

「地球では誰でもデバイスさえあれば魔法は使えるんだよ、ユーノ君」

「そうなんですか!?それはすごいですね。リンカーコアもなしにどうやって?」

「あ、そのへんは同じなんだ。んと、私のネームレスみたいなのだったらリンカーコアから魔力を使うけど、すずかちゃんやアリサちゃんが持ってるような防犯用デバイスにはあらかじめ魔力が封入されてるの。今はお家で充填出来たりするんだよ?」

「使える魔法が限定されてたり、ほとんどオート発動のみのものに限られてるけどね」

「僕達の世界とは結構違うんですね。でも、あれ?魔法が出来てたった3年なのにもうデバイスがあるんですか?しかもそこまで洗練されてるものが……それに使ってもらった治癒魔法の術式がミッド式に似ていたような気もするし……一体どうなって……」

 

 ユーノは魔法関係の歴史的観点から、地球の魔法技術の急速の発展に不自然さを感じたらしい。 根っこが同じでも発展の仕方は、同じ道を辿るか別ベクトルに行くかどちらかだ。しかし地球は前者のように見えて、その実状はほとんど管理世界と変わらない。本来ならばまずは魔力の研究から、それらを利用するためにプログラミングが使えること、人体にリンカーコアが存在すること等を初めとして、知るべきものは多岐にわたる。発表から3年、おそらくそれ以前から研究されていたとしてもここまで発展するのは異例の速度だといってもいい。ユーノからすれば、地球の魔法の歴史にはミッシングリンクが存在しているように思えてならなかった。

 

「何か考えだしたわね?」

「とりあえず軽く話をまとめましょ?要約すると、管理局が管理してる次元世界があって、ユーノはそこから来た宇宙人。ユーノ達にとって地球は管理外世界と呼ばれてて、ある意味未開の地扱い。そして彼にとって魔導師というのはリンカーコアを持った人間しかなれないある意味特別な存在ってことね」

「地球でも統計はとったけど、リンカーコアを持っている人は地球人口の3%もいなかったもんね。他の世界でもそうなのかな」

「うーん、多分そうみたい?というか、私達地味に地球人初の宇宙人との邂逅なの?」

「ボルテージ振り切ってそんな程度じゃ感動しないけど……。それより、一番大事な「この子が何故地球に来た」かを聞いていないじゃない」

「あ、そういえばそうだったね」

「えっと、ユーノ君?考えてるところ悪いんだけど、何で地球に来たのかな?」

「…………え、ああすいません。その、ちょっとしたトラブルがあって」

 

 ユーノは次元航行艦でロストロギア、ジュエルシードを運んでいた。ロストロギアはひどいものでは次元世界すら破壊する力を持ち、管理局において監視、回収を行う失伝したオーパーツだという。スクライア一族は遺跡を探索する仕事を生業としていて、それらを発掘し管理局に護衛を依頼して持っていく予定だったという。しかしその護衛をするはずの管理局は来ず、現地の滞在期間を過ぎてしまったために自分で持っていかざるをえないことになった。ところがその道中、なんらかのトラブルが起きハッチが空きジュエルシードを紛失、それを回収しないとと自分も飛び出して地球に来たらしい。ジュエルシードは細い位置はわかっていないが、全21個あるそれはほとんどが海鳴市に落ちたらしいということだった。

 

「何気に海鳴の危機じゃないの、これ?私はもう驚かないわよ」

「なんだか、王道の映画みたいな感じがするね。大規模のトラブルとか」

「ご、ごめんなさい……」

「うーん、ユーノ君が悪いわけじゃないと思うんだけど」

「何にしても、私達には荷が重い話になりそうね。警察に相談したほうがいいと思うわ。……こんな眉唾ものの話を聞いてくれるかどうか問題だけど」

「どっちみち街が危険なんだから働かざるを得ないわよ。さっさと連絡しましょ」

「あ、そういえば公園の係留所壊れてたのってユーノ君が関係してるの?」

 

 連絡ついでに一応今日の破壊現場についても聞いてみる。知っておけば捜査もはかどるし悪くはない。

 

「池みたいなところですか?多分そうだと思います。ロストロギアにとりつかれた生物が暴れまわったので」

「じゃ、ソレ込みではなしとくわね。ちょっと待ってなさい」

「あ、佐伯さんに直接連絡したほうが話が通りやすいと思うの」

「わかったわ」

 

 次から次へと明かされる事実に聞き入ってしまい、すでに時刻は子供が帰るにはまずい時間になっていた。あたりはすでに暗くなっており、鮫島が待機しているのが唯一の安心できる要素だろう。

 

「電話してきたわよ。それにしても、随分時間が経っちゃったわね」

「あら、もう閉院の時間だったのね」

「あ、ごめんなさい。長くいてしまって」

 

 病院の院長は完全に巻き込まれ損だった。あまりの出来事につい一緒になって聞いていたが、果たしてこれは聞かせていいことだったのかわからず、すずかは「あ、まずいかも?」と冷や汗をかいた。ぶっちゃけユーノの話は国家機密レベルだったのかもしれない、と考え自分たちも同様だと思ったが、もはや後の祭りだった。

 

「いいの、気にしないで。ちょっとおもしろかったから」

「面白かったで済ませるって、随分と豪胆なんですね先生」

「人生は面白おかしくよ。多分今日のは人生ベスト1ね……!?」

 

 話もおおかた終わり、全員が落ち着いたところで地面揺れるほどの爆音が聞こえた。間を置かずに外で待機していたはずの鮫島が駆け込んでくる。

 

「お嬢様方!大変です!早くこちらへ!」

「え!え!?何々何なの!?」

「魔力反応!?まずいです、皆さん逃げ……」

 

 ユーノの叫び声も間に合わないまま、破壊音を奏でながら壁面のブロックを蹴散らしながら黒い異形が侵入した。

 




一話以降が悩みどころでなかなか話がすすまんとです。


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dreadnought_2

ストックチャージ記念パピコ


「お嬢様、ご無事ですか!?」

「な、なによあれ!?あれがそうなの!?」

「そうです!あれがジュエルシードによって変化した魔法生物です。何を媒介にしたのかわかりませんが……気をつけて!」

 

 警告のために急いで部屋に入った執事の鮫島と合流する。危険を感知したのか、アリサとすずかのデバイスはオートでプロテクションを発動しており、ソレに包まれた全員もケガはない。怪物は襲いかかったエモノが無事であったのを見て警戒心を顕にして唸り声を上げている。

 

 全員の肩がすくむ。いや、一人だけ冷静に回りをキョロキョロと見回しているのがいた。

 

「院長さん!何か長い棒みたいなのありますか!」

「えっと、そこにモップがあるけど」

「あれ、借ります!」

「ちょっと、何をする気なの!?」

 

 プロテクションから飛び出して走る高町なのはを、横合いから怪物の触手が刺すように襲いかかる。しかしそれを軽くスウェーしながらかわしつつ、怪物との間に挟まる机をカバー材に前に戻す反動をそのままに前転。目標であったモップまでたどり着いた。そのまま手にとったモップを取り外して柄だけ残して長刀サイズにし、再び飛んできた触手に対し反撃する。この時ユーノは驚いた。

 

 それは高町なのはという小さな少女が両手で棒を目にも留まらぬ速度で逆袈裟に振り上げ、プロテクションでもやぶられかねないそれを何の苦もなく弾き飛ばしたからだ。

 

 高町なのはが修練している剣術の御神流、詳しくは永全不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀術は驚異的な加速と特殊な動作によりスピードによる破壊を得意とする剣術である。体力づくりに2年かけ、家族のスパルタ訓練によって、いかな未熟ななのはといえど基本技である「斬」と他いくつかの技くらいは習得している。引きつけるように切り、乗じて鋭さを増すこの剣技は極めれば鋼鉄すらも切り飛ばす。シンプルにして最強。故に彼女が振りきった棒ですら武器となる。

 

 加えて、なのはは全身に魔力による単純なフィジカルブースト(身体強化)をかけているのでその勢いと行動力は圧倒的に増す。元々高町なのはが運動音痴であったのはココに原因があった。無駄に保持した魔力を発散できなかった彼女は、溜まりに溜まった魔力が動作のたびに吹きだし、身体バランスをおかしくしてこけたりしていたのだ。魔法を始めてから魔力操作を覚えた彼女はすでにそれをカバーし、運動音痴であった彼女はもういない。おそらくはもう2、3本同時に飛んできても余裕で跳ね返せるだろう。今ここにいるのは少女の高町なのはではなく、剣士の高町なのはなのだ。

 

 怪物の警戒心は更に高まる。アレをどうやって潰せばいいのか、思考を巡らせる。しかしなのははそんなことはお構いなしとばかりに速攻を仕掛けた。

 

「っせぇぇいいい!」

 

 近づいて、肩口から再び振りぬいた棒は怪物の頭蓋を直撃する。悲鳴を上げながらふらつくも、彼女の攻撃はまだ終わらない。返す刀でぐるりとカラダを回転させ、棒を一気に怪物に向けて突いた。その勢いは凄まじく、怪物は開けた穴を轟音を上げながら再び通って外に飛び出していた。デバイスを特に使っていないのにコレだ。ユーノは唖然として口を大きく開いたままだった。

 

「んー、やっぱりこんなんじゃその場凌ぎにしかならないや。どうしよう」

 

 しかしそれに耐え切れなかったのか、スチールで出来た棒はぐんにゃりと曲がっている。なのはの身体能力についていくことは出来なかった。

 

「あれは攻撃魔法でないと確かなダメージを与えることができません!それに封印もしないといけませんし!何か手段はないんですか!?」

「あー、ダメよユーノ。私達のデバイスには攻撃魔法は入ってないわ」

「どうして!?」

「言ったでしょ。防犯用よ、自身を守るための機能しか持ってないわ」

 

 彼女たちが持っている防犯デバイスは精々がプロテクションとバリアジャケット生成、短距離転移しかはいっていない。加えてストレージも新たな魔法の書き込みを防ぐために容量の削減を行なっているため、単一個人で行える攻撃魔法行使はほぼ不可能。特注である彼女たちのデバイスにはオートシューターもついているが、自身と対象の距離が恐ろしく近くないと発動しない。加えてただのシューターでは威力不足だ。取る選択肢としては正しくない。

 

「だったらこれを、あなたなら使えるかもしれません!」

「…………これは!?」

「インテリジェントデバイスです!詠唱によるマスター登録が必要となりますが、攻撃力の高い魔法が使えるはずです!」

「ちょ、ちょっと!詠唱が必要ってそんな時間かけてられる暇なんて無いよ!?」

 

 これだけ人数がいるのだ。守りながら戦うには少し厳しい。

 

「なら、私が時間を稼ぎましょう」

「ちょ、鮫島!?そんな事言って大丈夫なの!?」

「お任せ下さいお嬢様。この鮫島、こんなこともあろうかとコレを用意してきております」

 

 手に取り出したのは拳銃のガバメントモデルを彷彿とさせる形状の魔力拳銃だった。それのカラーは実銃と間違えられないように白色に塗られている。非破壊非殺傷設定のみのこの拳銃なら、一定の資格者ならば所持することが可能なのだ。弾数は7発ほどしか入らないが、圧縮された魔法弾は実に痛い。リンカーコアが無い人間ならば抵抗値が小さいので死ぬことはなくても気絶するくらいは余裕だ。

 

「一体あんた何を想定してたのよ!?まぁ役に立つからいいけど、大丈夫なのね!?」

「勿論ですお嬢様、全身全霊をかけて生き残って見せますとも!」

「わかったわ、必ずよ!お願い!」

「アイマム!」

 

 豹のような勢いで颯爽と飛び出していく執事。バニングス家の万能執事。果たして彼は執事の枠中に入るのだろうか。わずかに間をおいて瓦礫が飛び散るような戦闘音が聞こえ出した。きっちりと彼は囮を果たしている。

 

「なのはちゃん、今のうちに!」

「わかってる!」

「管理権限、新規使用者設定機能、フルオープン!繰り返して、風は空に、星は天に」

「風は空に、星は天に」

『不屈の心はこの胸に、この手に魔法を!』

 

「レイジングハート!セーットアップ!」

 

 桃色の光があふれ出す。コレは後に伝説を作り上げる高町なのはの第一歩。

 

「うひゃぁ!?」

「きゃぁー!まぶしい!」

「ちょっとぉ!部屋の中で何やってんのよぉー!」

 

ペッカーと単色の光あふれる物々しいピンク。狭い場所で契約したら当然こうなる、眩しい。

 

 

 

 

 

 

 ガバメントから撃ち出された魔弾が空気を裂いて飛んでいく。カートリッジには雷管も無く、実弾もなく、トリガーを引いた後の反動が来ない魔力拳銃はまさしくオモチャと呼ぶにふさわしい。白く光沢が塗り施されたカラーリングが銃本来の凶悪で無骨なイメージを薄め、また完全な殺傷性能の排除が出来ている。しかし撃ちだした後のスライドが前後に動き、カシュッと音を立てて魔力カートリッジを排出する様は従来の拳銃そのままだ。

 

 撃ちだした魔弾は怪物の目らしき部分に当たり身悶える。軟体生物のような姿をしていて、明確な急所が無さそうなこの敵には実にわかりやすい狙い目だった。カシュ、とスライドする音が響き、2発目、3発目も同様に目に飛んでいく。例え殺傷性能がなくても、このサイレンサー無しで実現した静音性は素晴らしい。これだけ撃ってるのに近所の住民は出てこないのだから。

 

 実はユーノが結界を作っておいたからだが。でなければ轟音が鳴った病院前には既に大勢の見学者ができてるはずだ。

 

 そんなこととは露知らず、鮫島は的確な射撃と挑発により、見事に囮をなしていた。執事らしからぬ動きによって、知性の乏しい怪物は確実にその場に縛り付ける。その仕事はエクセレント!と叫びたくなるほどの出来栄え。

 

 故に、高町なのはの契約は無事完了する。

 

 あふれだすビビッドピンクの、目にどぎつい閃光が室内から漏れる。自身の主がきちんと目を閉じているか不安だが、とりあえずの任は果たすことが出来た。

 

 その光の中から高町なのはが、柄の短い杖を持って飛び出す。さぁ、選手は交代だ。これからは牽制ではなく、蹂躙である。

 

 

 

 

 上半身は肌に張り付くようにぴっしりとしまり、下半身はスカートとショートパンツが組み合わさった、重装甲でありながら動きやすいバリアジャケットを着こむ。見た目は小学校の制服そのままに、動きやすさをある程度重視したのだろう。

 

 飛び出した勢いをそのままに、先の光景を再現する。今度は飛行魔法による加速付きだ。加えて自身の手にあるレイジングハート――能力に最適化されたそれ――を、半身に構え振りぬく。レイジングハートの先、それは魔力が収束された剣となっていた。レイジングハート自体は変形によりやや短くなっており、両手で握れる程度の長さの柄となっている。

 

レイジングハートソードモード

 

 世界が一度時間を巻き戻し、変化した彼女の行動で新たに増えた高町なのはの戦闘方法だ。御神流が起因となっているが、現在のなのは自身が刀一本を扱うのが精々のためにレイジングハートの変化も一本のみ。

 

 それを振りぬいた部分がごっそりと削れる。怪物は痛みに悶え、しかし果敢にも反撃をするが空を舞う白い天使にはかすりもしない。空と地を行き来し、繰り返すこと四度。獣のカラダは縦横に切り崩され地面に骸を晒そうとしている。

 

 そのまま上空に遷移して地面に向く。距離をとったためか、いつの間にかレイジングハートも形状を変化させており、砲撃を行うための杖となっていた。

 

「いくよ!レイジングハート!」

『All right,master.seeling mode』

 

 伸びた杖のサイドに出てきたトリガーに指を回し、先端を直線上にいる怪物に向ける。そこから飛び出すのはノータイムの砲撃魔法。

 

「ショート…」

『Buster!』

 

 僅かな貯めとは反比例して高い威力を持つ砲撃で怪物を貫く。直撃したそれは逃げる間もなく、ピンク色の光に完全に埋もれた。魔力で構成されたカラダが分解されて散り散りになり、構成された事によって出来たわずかな意志が薄れていく。そうして、わずかな間で完全に怪物は消滅した。

 

 カツン、と3個のジュエルシードが力を失って地面に落ちる。それらは封印されたことによって青い輝きを失った。それをレイジングハートが一旦格納。とりあえず一連の事件は終わりを見て、地面に降りたなのははふぅ、と安堵の息を漏らす。

 

「って何やってくれんのよなのははぁ!」

「あいたぁ!?」

 

 ベッチーンっと背中に張り手を喰らい悶絶する。とはいえバリアジャケットなのだからそこまで痛みはないが、ソレを見越して思い切り振りぬくアリサもアリサだった。全く容赦がない。

 

「え、え!?何、何なの!?」

「全く、めちゃくちゃ眩しかったじゃない!目が痛いわ!ユーノもユーノよ!あんなに光るんだったら初めから言いなさいよ!」

「あ、あれはなのはの魔力量が多すぎたせいで、僕もああなるとは知らなかったんですよ!」

「もう名前呼びか!このぉ、振り回してやるぅ!」

「ああああぁぁぁぁあぁぁぁっ!?」

「ストップストーップ!しっぽがちぎれるよアリサちゃん、落ち着いて-!」

 

 安全を確保したが、少女たちは混乱した様子から立ち直っていなかった。ややテンションがおかしい。ブンブンと遠心力によって伸びきったユーノはすずかに抱えられている。クルクルと目を回す姿は愛らしいが、正直今日一連の出来事は不憫と言う他無い。ここは「やったぜイェーイ」とばかりに喜ぶところではないのか。せっかく綺麗に終わらせたはずなのにと、なのははため息をこぼした。

 

「あ、そうだ鮫島!ケガはない?」

「このとおりですお嬢様。あいにく車の方はあの有様ですが」

「っげ、凹んでるわね。あれ保険下りるの?」

「私の病院も穴ぼこだらけになってるわねえ。どうあつかわれるのかしら」

 

 結界を解き、周囲の状況を確認した一部は事後の相談をしていた。魔法生物による災害などという、眉唾ものの事件により潰された車と、半壊した病院。これがまだ脱走した動物なら訴える先が有るものの、果たして保険会社はキチンと対応してくれるのであろうか不安がよぎる。

 

 

 

 

「こりゃぁ、ひでえもんだな」

「なのはちゃんが戦ってくれなければ私達死んでたかも」

 

 やや時間をおいて、佐伯刑事がやってきた。ある程度の情報を伝えていたが、その真偽に眉を曲げていたものの、アレコレ壊れた現場を見て、更にレイジングハートの記録映像も見たことにより正しく理解した。時刻はすでに遅かったが、現場を保留して全員は一旦警察署の方で話をすることにした。

 

「高町の野郎も呼んで話し合いだなこりゃ。魔法生物なんてトンデモ、海鳴で使える奴全員かき集めないと面倒この上ない」

 

 落ちてきたジュエルシード、海鳴における戦いはまだはじまったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばユーノって人間だったのよね。動物病院につれてきてよかったのかしら」

「それ、すごい今更だと思うのアリサちゃん」

 




戦闘シーン()に頭からダバダバ醤油を流す。目の前が真っ黒だよばーにぃ。


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intermission

今わかりました。このSSの戦闘はスパイスではなく、ゴマだったのですね。そんなわけで説明会。


「それで、ああいうことになったって事か」

 

 夜過ぎの海鳴警察署、そこの一部屋を借りた手狭な会議所で少年少女、大人に加えて老人まであらゆる年齢をラインナップしたかのような人たちが揃っている。

 

 佐伯刑事は眉間をもみながらうつむいた。何よりも先に呆れのほうが来てしまったらしい。それはそうだろう、謎の器物損壊に始まり、唐突な宇宙人(?)の来訪、ジュエルシード、ロストロギア、海鳴危機一髪。一連の流れを追っていた少女たちにはロマンあふれる物語性を発揮しているが、唐突に情報が押し寄せたコチラとしては二の句を継ぐことが出来ない。

 

 それはこの場に呼び寄せられた高町士郎も同様だった。なのはの帰りがやたらと遅いと思えばいつの間にか事件に巻き込まれているのだ。御神流の手ほどきをしている以上、無闇に心配することはないとはいえ親であり、心穏やかでいられるはずがない。巻き込んだ張本人であるユーノですらも偶発的な事故みたいなものなのだ。大人だからこそ冷静であるが、恨むべき対象がドコにもないのは意外とつらいものである。

 

 当のユーノは未だ署に残っていた人間に魔力を供給してもらい、人の姿に戻っていた。その姿は淡い光沢の髪が映える美少年といったところか。つい先程まで、小型魔力炉から自動生成される魔力を受け取るときにケーブルにつながっている姿は、なんというかフェレットのオモチャのようで滑稽だったが。

 

「それじゃあ坊主、もう一回確認するぞ」

「はい」

「まずは今回の件について、お前さんは管理局傘下の管理世界とやらの出身で、世界……惑星を回りながら遺跡の発掘などを行なっていた」

「そうです。主な目的は先史文明の解明とロストロギアの回収、調査になります」

 

 ユーノはスクライア一族で、発掘責任者をこの若さで任じられている。またそのスクライア一族は管理局を母体とした一組織みたいなもので、ロストロギアの移譲先をそちらに指定していた。

 

「で、そのロストロギアは次元震という次元災害を引き起こす可能性がある。下手な代物だと世界一つが崩壊する、と。この世界一つってのがよくわからんな。国を指してるのか惑星そのものを指しているのか、定義が曖昧すぎる」

「うーん、次元世界は自然保護区等もあって、人の住める場所が割と限定されているんです。戦争の後遺症もありますから、人も密集しています。そんな場所で国一つなくなったら、人がいなくなるので世界が一つ、という表現でもおおよそ間違いではありません。ですが、ある意味ブラックホール的な崩壊を起こす場合もあるので惑星単位でも間違いないんです」

 

 事実、管理局体制が出来上がるまでは国と国、星と星が入り乱れる次元世界間での混沌とした戦争が繰り広げられていた。例えクリーンで環境を汚さない魔法、といいつつも破壊設定がついた魔法の威力は尋常ではなく、約70年近い時がたった今でも植生や動物が回復していない土地が多い。そのため管理世界群の人口はそこまで多くなく、また住む場所も限定的なためコミュニティとしての範囲が非常に狭く「世界」の定義も曖昧だった。そのため「ロストロギアで世界がヤバイ!」と言ってもその幅は上から下までかなり差がある。

 

「無茶苦茶だなおい。で、ジュエルシードはロストロギアに該当して、全部で21個海鳴に落ちた、と。具体的な被害の規模はわかるか?」

「それは少し……そうですね、願いを叶えるという特性があるらしいんですが、具体的なことはわかりません。ただ、今回のようにジュエルシードを刺激して何かに変化や、動物に取り憑いた場合はそこまで大げさな被害が出ることはないと思います。最も、暴走した場合はその限りではないと思いますが」

「暴走する原因は?」

「魔力が集中する原因を作ったり、励起しているのに放置していたりするとまずいというのが定説です」

「つまり密閉空間に垂れたガソリンみたいなもんってことだな」

 

 魔力に反応するといった点では、ガソリンと違いどこにあっても危ないが。

 

「で、何でそれを落とすようなことになったんだ」

「わかりません。突然揺れたと思ったら、ドアが空いて荷物が飛び出していったんです。それで、ジュエルシードを落としてしまった僕に責任があるから」

「わざわざ地球にやってきて探し、ケガをしていたと」

「はい……、その、ごめんなさい」

 

 ユーノは悔しげな顔をしながらうつむいて謝った。

 

「あん?」

「その、現地の人にご迷惑をかけてしまって。僕さえきちんと管理できていれば、こんなことには」

 

 ソレを聞いて佐伯刑事はハァーと大げさにため息をつく。

 

「いいか、坊主。お前は仕事をして、その過程で事故にあった。これ自体には責任は存在しねぇ。管理責任の甘さがどうのっていうのを問うのは坊主にじゃねえ。その、管理局とかいうやつらだ」

「……どういうことですか?」

 

 言っている意味がわからないとばかりに首を傾げた。

 

「コレも確認しておこう。まず一つ目、管理局はロストロギアを危険視し、それらを回収する義務を持っている。そうだな?」

「そ、そうです」

「そのうえで、坊主は護送依頼を出している。当然だな、危険視しているほどのものだったら対処能力のある自分たちでどうにかするのが筋だ。ところがその護送依頼をしたにもかかわらず管理局とやらは数日経っても来なかった」

「はい、それで滞在期間が過ぎてしまって」

「自分で運ぶ羽目になったと。まぁこれもどうしようもないことだ。そしてこれは、その義務を管理局は放棄したと判断できる。民間の保護、危険物の管理、全てだ。だったら誰が悪いか、という話になったら当然悪いのは管理局だろ」

 

 それは責任転嫁ではないのだろうか、とユーノは慌てて否定を入れる。

 

「そ、それは管理局が人材不足だから手を回せなかっただけじゃ」

「そんなのは理由にならん。魔導師っていうのがRPGでいういわゆる魔法使い的な職業が成立しているのはわかる。だが、リンカーコアが無いとまともに働けねえってのが論外だ。坊主の供述によると、そこは三権を持った警察みたいなとこって話だな。しかし、やってることは軍みたいなものだ。軍だっつんなら兵隊は全員標準以上に使えるようにしねえと話になんねえ。才能いかんでステータスがきまっちまうような不安定な兵士はいらねえんだよ。だから地球ではこうして魔力拳銃みたいなのだって作られてるし、管理局とやらを擁護する理由にはならん」

 

 足りないならソレ以外から何かを持ってくる。これは地球に住む人なら何気なく実行していることだ。とどのつまり、彼が言いたいことは「兵士の量産性」についてだ。そこが何かを為すための組織だというのなら、すべての人員が一定以上の技量、つまり汎用性がなければならない。能力に差があれば運用にも育成にも手間が掛かるし、何より一個人ごとを見ていられる時間はない。管理局もおそらくはそれを実行しているのだろうが、そこに遺伝的、もしくは体質的な魔力という要素が入る。リンカーコアは定義づけられた魔力容量のランクで差が放物曲線並にひどい。DやCならまだそこまでではないが、Bから、特にA+以上になってくると覆せない差が産まれる。そんな不確定要素を集団に入れられるか。答えはノー。

 

 しかし管理局が求める人材はこういった魔力が高いワンマンアーミーだ。人材不足がどうのこうの言ってるのは結局自分たちのワガママであり、自業自得だ。そんな組織に期待するほうが馬鹿げていると言っていい。ならば外部魔力機器を開発したほうがより有意義というものだ。

 

「…………」

「坊主の立場はわからんでもない。その若年で発掘責任者なんていう重役についてんだ。何かあったら首をきらにゃあいかん立場にあるんだから、そりゃ責任重大だろうよ。だがな、おめえさんは抱えなくてもいい部分まで抱えちまってる。そのロストロギアとやらが海鳴に入った以上、それに対処するのは俺達の仕事だ。自分の街の安全は自分たちの手で守る。常識だぜ」

 

 次元世界は魔力さえアレば社会に貢献できる。そういった風潮もあり、魔法に主体を置いた講義により頭脳面では大きく地球と差がついている。つまり、一定レベルまで来ると独り立ちできるのだ。これは管理局の英雄を期待する性質のせいもある。次元世界の人間は総じて早熟だ。若すぎて背負いきれない社会的責任のプレッシャーがある。頭脳面ではそれでいいとしても、精神的に未熟な人間は多いのだ。だからこそユーノも自分の責任として個人で回収をしようとしたのだろう。

 

「それに、まだジュエルシードを落とした原因が、事故なのか事件なのかわかってねえ」

 

 断定は出来ない、と佐伯刑事はつぶやく。

 

「え?」

「そのロストロギアってのは使い方によっちゃぁ相当力になるもんなんだろ?だったら発掘してる噂を聞きつけて襲ってきた、なんていう奴がいたっておかしくはない。罪を問うんだったらそいつらが出てきた後でもかまわねえだろ」

 

 管理局がいないと知られれば、なおさら手を出さない人間がいないわけがない。強奪は十分に考えられる話だ。

 

「と、いうわけだ。俺達が自衛の意味でも手を出す理由はいくらでもあるし、なんでもてめぇがやる必要はねえ。俺達が協力する」

「……ありがとう、ございます」

「良かったねユーノ君。それに私も手伝うよ!」

「うん、……なのはも……ありがとうっ」

 

 ユーノは涙をこぼした。自分の責任をこうしてカバーしてくれる人がいることに。それも見も知らぬ異世界人をだ。一人孤独で、責任に駆られるユーノの精神はもういっぱいいっぱいだったのだ。だからこそ嬉しくて、涙が止まらない。隣にいたなのはが優しく背中を撫でていた。

 

 

 

 

「それはそれでいいとして、どうやって探すのよそれ」

 

 ある程度場が落ち着いたと見て、アリサは話を切り出した。ジュエルシードは粒状の宝石だ。そんなものを市内から見つけ出す。そんな手間隙をかけるのは砂漠から何かを探すにも等しいとでも考えたのだろう。

 

「……魔力反応があればいいんですけど、ジュエルシードが発動しないとわからないんです」

 

 涙を止めたユーノは解決案、というよりもどのみち行き当たりばったりになると話した。発動する前に止めることができればやんごとないと言えるのだが、どうも21個全てにおいて世界の危機だ!と言わなければならないようである。

 

「後手後手になるってか。……ああ、そういや身体測定とかに使うアレあったろ。あれ持って来い」

「ああ、あれですか。了解っす」

 

 佐伯は近くにいた巡査に、あるものを持ってくるよう指示した。巡査はそれで通じるのかさっさと行動に移る。

 

「あれ?」

「魔力容量を検査する機械だ。嬢ちゃんたちも使った覚えあるだろ。あれの小型のやつがうちにはいくつか転がってる」

「何でそんなものが?」

「海鳴は魔導都市だからな。魔導犯罪がいずれ起こる可能性を見越して署にも色々な資材や設備があるんだ。ある程度の幅のある権限もあるし、結構特殊なんだよこの街は」

「私達の会社が幅を利かせてるからしょうがないとはいえ、犯罪が起こると言い切られるとやるせないね」

「お茶の間を騒がす面倒な話になりそうだわ」

 

 年がたつにつれて増える可能性のある魔導犯罪に、テレビ局あたりが「魔法の危険性」と銘打ってさんざん批判してきそうなイメージが浮かぶ。釣られて声高に魔法反対と叫ぶ民衆、出てこられたら非常にめんどくさい。事前準備はばっちりとしておくべきだろう。

 

「持ってきたっすよ」

「おう、おつかれ新人」

「もう3年になるのに未だに新人なんすか……恥ずかしいのできちんと名前で呼んでくださいよ」

「名前を略したらそうなるんだから仕方ねぇだろ。いいじゃねえかわかりやすくて」

「そんなわけないっす!?」

 

 気の合う仲なのか、漫才を交わしながらキャリーで持ってきた機材を机においていく。その形は前面に小さなパラボラアンテナが計測器だ。

 

「全部で4台か、あまり多くねえな。高町嬢が言ってた封印魔法が使えそうな魔導師は何人だ」

「自分含めて3人ですね。ちょっと心もとないです」

「なのはとユーノも含めて5人ね。学校行ってる間はどうしようもないけど」

「ま、それでちょうどいい数だな。高町嬢は放課後手伝いたいなら来るといい。で、さっきから黙ってるが高町、お前はなんか意見あるか?」

 

 黙して語らず、といった士郎に不思議がって佐伯は声をかけた。年長者の意見も期待していたのかもしれない。しかし、魔法事となってくると士郎が関われる範囲は非常に狭くなる。魔法生物とかしたジュエルシードを叩きのめすことが出来たとしても、彼に封印は出来ない。何より翠屋のマスターでもある彼が動けるわけがないと初めから理解していたのか、自分の出る幕では無いだろうと話に混ざっていなかった。

 

「いや、なのはがやりたいなら構わない。うちの方針は自主性を重んじるからね。それで、答えは決まってると思うがどうするなのは?」

「勿論やります!」

「と、いうことだ」

 

 片目でウィンクしたイケメンスタイルで「どうだうちの娘は」と自慢している。親ばかはどうでもいいと佐伯は華麗にスルー。

 

「わかった。前にも言ったが、探すときは空飛んでも構わねえが私有地とかには入るんじゃねえぞ?」

「はーい、了解です」

 

 なのはは小さい頃からあっちこっち空を飛んでいた。もとより空飛ぶ個人など、どうやって航空法で縛れというのか。今ではそこそこ飛行魔法が使える人材が出つつあるが、勝手にヒュンヒュン飛んでるのはなのはだけであり、その一人だけに法を作るのもなんだといった状態である。例えるならバイクや車に乗れるがヘルメットやシートベルトをしなくても良かった時代みたいなものだ。魔法も未だ黎明期なのである。法律も出来ればそのうち制限がかかるだろう。魔法少女的知識がベースとなっている日本は結構寛容だった。となると、あとは常識的観念にまかせるしかないので注意にとどまる程度となるだけだった。

 

「よし。それじゃ新人。俺達は捜査本部をここに立てて手が空いてる奴集めろ。それからありったけの魔導装備かきあつめとけ」

「了解。メインは魔力拳銃と、……魔導砲も持ちだしていいっすか?」

「非破壊非殺傷なら構わん。下手すりゃ手が足りなくなるだろうからな」

「わかりました。準備しときます」

 

 話も一段落して、ユーノは気になっていたことを質問した。

 

「あの、ところで気になったんですけど。地球には魔導師がいないんですよね?」

「ん、ああ。俗称でリンカーコア持ちを魔法使いだの呼ぶ時はあるがな。高町嬢は魔法少女リリカルなのはって呼ばれてるっけか」

「誰が呼び始めたんだろうアレ……おとなになったら恥ずかしい気がする」

「なのはがテレビでわかりやすいようになんか呪文唱えて下さいとか言われたせいじゃない?」

「ま、間違いなく黒歴史……!」

 

 主に小さい少女に恋してしまう某掲示板の人たちだろう。なのはの存在を知った時には二次元から飛び出した聖女とまで言われていた……らしい。加えて魔法少女的なノリを強要されて行ったソレが組み合わさって「魔法少女リリカルなのは」が爆誕したのである。事が終わって冷静に考えてみれば、実に恥ずかしい行為だったと言わざるをえなく、なのははやたらと落ち込んだ。頑張れ高町なのは、君の未来は真っ暗だ。18歳を超えたあたりから。

 

「話がそれてるよ皆」

「……とりあえず、職業そのものじゃねえってことだ。別にリンカーコアがなくてもエーテルサーキット(小型魔力炉)や魔力拳銃があるからな。誰もが使える汎用性あるもんにそんな名称はつかねえよ。……ま、競技化してプロ選手にでもなるような事があればそう呼ばれるかもしれんがな」

「便利なんですね。僕は防御魔法ばかりに特性が傾いてるので、攻撃魔法が簡単に使えるのには憧れます」

「使えるっても当然許可がいるがな。ああ、そうだ高町嬢」

「なんですか?」

「そのインテリジェントデバイス、攻撃魔法入ってるなら許可とらねえと使えんぞ」

「にゃ!?そ、そういうのは刑事さんがどうにかしてくれないかなーって」

「異世界製をどうやって登録しろっつーんだ。とりあえずやっといてはやるからそれまでは動くなよ」

「うぐ……お手伝いがいきなりつまずいたの」

「気持ちは嬉しいから、無茶なことはしないでねなのは」

「うん、わかってるよユーノ君」

 

 笑顔で頷き合う二人。なんだかすでに以心伝心といったように見える。

 

「なんだろう、そこはかとなく不愉快だわ」

「私もインテリジェントデバイス作りたかったのにレイジングハートに席とられちゃったからなあ。どうしようかな?」

 

 仲が良かったのにイキナリかっさらわれた気になって目がとんがるアリサ。この年頃の少女は複雑だ。すずかもすずかでインテリジェントデバイスを作ると息巻いてただけに、レイジングハートが現れたことは割とショックが大きいらしい。彼女なら何かあたらしい発明を生み出しそうだが。

 

「それと、坊主はこれからしばらくは署で預かることになる。他所の知識を存分に使ってもらわなくちゃならねえ。居心地はあまりよくねえだろうが、我慢してくれや」

「それぐらいは平気です。野宿だって多かったですから」

 

 ベッドがあるだけマシと言ったユーノは妙なところでポジティブだった。

 

「それじゃあ今日は解散だ。さっさと帰ってさっさと寝ちまいな。あ、ちなみにユーノ」

「はい、なんでしょう」

 

 

「変身魔法は犯罪だから以後使うんじゃねえぞ」

 

 

「なん……ですって?」

「え、そうなの?初めて知ったよ?」

「そういえば、使い方もわからないのに禁止されている魔法っていくつかあったよね」

「それってどうなの?」

 

 ユーノの変身魔法は狭いところに入ったりと便利なのだが、覗きや縄抜けなど、ちょっとした犯罪に使えそうな、というかそれしか用途が無いよね地球では。といった感じで禁止されている。ユーノではないが、別の人間に変身して成り済ます、という事もできるので扱いが非常にデリケートなのだ。

 

「ご飯食べてないからお腹すいたね」

「そうね、鮫島。まだ食事は大丈夫かしら?」

「勿論ご用意させて頂きますお嬢様。すずか様も送らせて頂きます。なのは様方はどうなさいますか?」

「俺はもう少し佐伯と話をしてから帰るよ。なのはだけ送ってくれないか?」

「かしこまりました」

「お願いしまーす。それじゃユーノ君、また明日ね」

「うん、また明日。今日はありがとう」

「にゃはは、気にしないで。頑張るのはこれからだよ!」

「うん!」

 

 

 

 

 

「しかし、事実は小説より奇なりってか。どう思う高町」

「魔導対策を取ってるこの街に、大事件になりかねないものがやってきた。偶然にしては出来過ぎてるとは思うかな」

 

 署内の自販機を前に二人、佐伯刑事と高町士郎の大人組が缶コーヒー片手に話しあっている。内容は勘でなんとなく来た、程度のものだが。

 

「そうだな。公式発表から3年、その間にこの街は大きく変わった。急進的すぎるとも言っていい。魔導二大企業に、様々な魔法を研究している大学、海鳴の警察には魔導に関してある程度の拡大された権利を行使することができる。上から許可を取らず自己の判断に委ねる部分があるんだ。ある意味放逐されてるように見えるがな。まるで、この事件を迎え入れるために街を作り替えたようにしか見えない」

「被害妄想だと思いたいね。でなければ、コレを裏で仕組んでる人間がいることになる。でも、悪いことだとは思わないよ俺は」

「何故だ?」

 

 佐伯刑事が問い返す。それに士郎は自信ありげに答えた。

 

「魔導技術がこうして表に出なければ、なのはとユーノだけがジュエルシードの探索に出る可能性があったからさ。彼の言うとおり管理外の人間には魔法が秘匿されて、誰にも協力を求めることが出来ず、たまたま出会ったなのはだけがそれを出来る。物語としてはアリかもしれないが、俺は今ホッとしているよ。こうして関与できるんだからね」

「……それもそうか」

「それに多分、急進的というわけでもないと思う。現に5年前には、たまたま来ていたらしいジョニー・スリカエッティが俺のケガを治していったんだ。元からこうなることは、決まってたんだろう」

「そういやお前は魔力発見者の事を知っているんだったな」

 

 5年前、当時なのはが4歳だった頃、唐突に病室に彼は現れた。その時恭也は随分と警戒心あらわにしていたが、スリカエッティなる人物は臨床試験だと称して士郎をさっくり治した後いつの間にか消えていたらしい。

 

「ああ、俺は見たことがないけど家族がね。紫の髪に金の目をした自信家みたいな顔立ちだったらしい。その時なのはは自分のドッペルゲンガーを見てデバイスをもらったとか、よくわからない事を言ってたけど」

「……なんだそりゃ。嬢ちゃんもたまには不思議な事言うんだな」

「普通、オバケや脳障害みたいな存在からデバイスを貰うなんておかしな話だけどね。かといって現実的に見ても、桃子にも俺にも隠し子なんていないし」

 

 その言からは妻への信頼が伺える。

 佐伯刑事は、少し間を開けてポツリとギャグのようなことを呟いた。

 

「……案外、ジョニー・スリカエッティも魔法をもたらした宇宙人だったりしてな」

「ははは、だとしたら面白いな!大スキャンダルじゃないか!」

 

 笑われ、恥ずかしいことを言ったとばかりにコーヒーを煽る。そのコーヒーは甘いはずなのに、やけに苦い気がした。

 




ところでリリプラはジャンルで言ったらどういうのに該当するんでしょう……


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Uminari University_1

修正:マギテクス捜査本部→ジュエルシード捜査本部
この文章内での上層への連絡を取ることを決定。

海鳴大学以外の大学状況を追加。:志願倍率~以降の文章
ジュエルシードの取り扱いの判断を若干修正:忍に対する佐伯のセリフを変更


 とんだ騒ぎがあった翌朝。高町なのはの一日は軽い走り込みから始まる。朝が弱いなのはは姉、美由希に起こされ、寝ぼけたままの頭で海鳴の住宅街を走っていた。今やなのはにとってそこを周回するのは、始めた当初に比べて体力がついたため圧倒的に楽になっていた。

 

 しかし、それはなのはの主観的な話。

 

 実際走っている距離は4km、一介の小学生が軽いと言いながら走る距離にしては明らかに長い。その光景を眺める散歩に来ている人たちは「やりすぎでは?」と心配するが、このあとの素振りに模擬戦の方が実はハードなのだ。それと比較すれば、彼女にとっては十分軽いと言える。

 

 高町一家は人間最強だの、化物一家だのと揶揄される。

 

 御神流は魔法も使わない、純粋な人間本来の肉体・能力のみを用いた実力派の剣術である。要人警護などを主な仕事とし、銃弾を斬りさばいたり、高速で動きまわったりとまるで超人のような動きを可能とする。現在では廃業しているが、現役当時の高町士郎は名を馳せるほどの屈指の剣士だったそうだ。その息子である恭也も同様に強者である。

 

 そして、それは例に漏れず高町なのはにも見事に適用されている。

 

 加えて彼女は魔法という特殊な力も持っており、それらの運用も兼ねて少々御神流をアレンジして覚えている。特に先日に見せた魔力収束剣、密度を高めることによって物理的な行使も兼ねたあの魔法は高町なのはが大学における研究で編み出したメイン武器の一つである。なのは自身の特性では遠距離射撃がメインになるのだが、近づかれたらどうにもならないことを考慮して生み出されたのだ。とりあえずは距離を取るためのアクセルフィンなども備えているが、それでも、そう、それでも高町一家にかかると無意味と化す。

 

 一度、魔法のみで士郎や恭也とやりあったことがあるのだが、アレはなのはにとってトラウマになりかねない出来事だった。空に飛び上がろうとすれば飛針が頭をかすめ飛行を中断させられ、それでも飛ぼうとすれば鋼糸に絡め取られる。それを中断して砲撃を撃てば直射砲は軽々避けられ誘導弾は切り払われる。近づかれて距離を取ろうと思ったら、相手の動きが急に早くなったように見え、いつの間にか距離を潰されている。そしてバリアジャケットは徹で衝撃を貫通させられてノックダウン。

 

 まだまだ御神流弟子レベルでしかないなのはは、そのあまりの強さに戦慄した。ちょっとは自信のあった魔法も高町父兄にかかればこのとおり。化物クラスを垣間見た瞬間である。そしていずれは自分もこんなふうになって、周りを呆れさせるようになるのだろうか、と考えるとちょっとだけ落ち込む。色々チャレンジとばかりに御神流にも手を出してみたが、自分の将来像を考えるといささか不安になる少女だった。

 

 それをカバーするために料理や女の子らしい事も精一杯頑張っているのだが、それが後に、全てにおける完璧超人を形成してしまう事を高町なのははまだ知らなかった。

 

 

 帰ってきて息を整えたら、休む間もなく剣術の練習だ。まずは基本技である斬の素振り。目標はドラム缶を木刀で切ることらしい。一体この流派は何を相手に戦っているのだろうか。疑問に思いつつもそこには触れない。

 

 次は姉を相手取った模擬戦。常時魔力によるフィジカルブーストがかかっているなのはは、まだまだ未熟である美由希とある程度拮抗できている。なのはが天賦のパワー派なら、美由希は今までの努力による技術派である。美由希は最近はなのはのパワーを流すように受けており、技術的な成長が著しい。御神流の訓練のなのはの参戦は、互いに良い影響を与えているようだ。最も、なのははレンジが足りないために負け越しているのだが。

 

 それが終わればシャワーと朝食、そして小学校へと行くのがいつもの流れだ。今日からはそこにレイジングハートも加わった。高町なのはに合わせて最適化されたレイジングハートは、まだ初期段階であるために構成がほとんどまっさらである。そのため、術式をあまり必要としないソードモードや、祈祷型トリガーによって感性で組まれた封印砲はあるものの、ソレ以外をいくつも入力しなければならない。特に大学でなのはが生み出した魔法は数多く、それを夕方までにやりきっておかないと十全に力を発揮できない。故になのははマルチタスクを全力で行使し、授業態度はそこそこにレイジングハートにかかりっきりであった。ちなみに地球においてマルチタスクはマギテクスを習う上での必修項目となっており、魔法を使わない人間にもそれなりの有用性があるために覚えたい人間は覚えているといった状況だ。アリサやすずかも覚えており、この三人の頭の良さは更に拍車がかかってると言ってもいい。だから二人はこう思う。

 

(なのはのやつ、さぼってるわね)

(なのはちゃん、さぼってるね)

 

 一見普通に勉強しているように見えるなのはだが、仲良し二人には何を考えているのかバレバレだった。

 

 

 

 

 一方、ユーノは早々設立されたマギテクス捜査本部において自分が知りうる限りの事を話していた。内容は主に佐伯刑事に語った部分とかぶっているが、加えて管理世界について、管理世界の常識や社会構成、問題点に次元漂流者、異世界の魔法等話題に尽きない。小説みたいな話に皆半信半疑であったが、全員が真面目にそれを聞いており、特に気になったのは今回の件を押し付けるような形になってしまった管理局の体制についてだった。

 

 ロストロギアや魔法災害があればあちらこちらへと出張する管理局。それは管理外世界にも及んでいることに、自分たちの星で現在起こっていることへの対処はどうなるか、といった話だ。

 

 本来なら、管理外世界の人間にバラさないようにコッソリ転移で侵入し、結界を展開しつつ事態を解決していくのだが、長期に渡ると戸籍等をどうにかして取り、社会に溶けこむのだそうだ。異人がいつの間にか紛れ込んでいるという、そういった映画をよく扱っている地球にとっては今やそれが現実になった、もしくはなっていたらしいことを初めて知る。相手が善良であれなんであれ、そういった異物的な感覚は慣れるものではない。

 

 現在の地球は管理外世界においては例外で、マギテクス、もとい魔導技術を新興した特殊な世界だ。管理外世界に対して秘匿を重ねる組織がそれを知ったらどう動くか、彼らには考えもつかない。

 

 とりあえずここまで聞いて、ジュエルシードを集めることは元より、それが原因で事が大きくなる可能性を案じた警察は上層へと連絡を取ることに決定。なのはが戦闘時に記録した映像も添付しての報告となるが、ただの石ころが起こす奇跡と、宇宙人の与太話を果たしてどれほどの危険度として認識されるか、それによっては動員される規模も日数も変わってくるだろう。ボディーガードをしていた関係上、個人的に高官と付き合いのある士郎も連絡を入れてくれるらしい。それにより早く人員が整うことを願うばかりである。

 

 とはいえ、今はどうしようもないことだ。専念すべきはジュエルシードへの対策、海鳴を魔境に陥れないことである。

 

 

 

 

 

「おまたせユーノ君!ケガは大丈夫?」

「うん、問題なく動けるよ。そっちこそ疲れてないかい?」

「任せて!体力には自信があるんだよ!」

 

 昨日の話題もそこそこに昼食をとり、つつがなく午後の授業も終わらせて放課後。なのはは警察署に寄りユーノと合流した。

 

「あ、そうだ佐伯さん!大学の方に休む連絡もしたいので寄ってもいいですか?」

「構わねえ。そこはまだ捜索してない範囲だから、ついでにやっちまおう」

「ええ、了解です」

 

 佐伯刑事に合わせ、二人は車に乗り込んだ。使い古されたパトカーはやや男臭い。ユーノは特に何も思わず、なのはは入った瞬間にんぐっと鼻を詰まらせる。対照的な二人に苦笑しながら佐伯刑事は車を発進させた。

 

「そういえば、進展はどんな感じですか?」

「もう3つほど見つけたよ。魔力容量を見る機械、キャパディテクターだっけ。思った以上に便利だったよアレ」

「へぇ~」

 

 本来、魔力容量を見るための機械は管理局では大型の設備に頼る。いわゆる人間ドックみたいなものだ。次元航行艦にも似たようなものはあるが、それとて出力された魔力を検知する程度のスペックでしかない。ところがこのキャパディテクター、これは魔力の高い部分を数値化と同時に、サーモグラフィーのように色分けによる可視化、アクティブソナーのような周辺探知機能などが備わっている。何故そんなものが身体検査ように、と思うのだが、元々は何か別の運用法があったそれをそのまま流用したのだろう。底面を見るとMade in America、そして何故か誇るように開発者ジョニー・スリカエッティの名があった。

 

 ともあれ、それのおかげで捜査は初日といえど滞り無く進んでいる。最初は危険性を考え、人の密集地帯、特にデパート、レジャー施設など周辺をメインに捜索を始めた。人の思念に感応する、デバイスの祈祷型トリガーみたいなものがジュエルシードには備わっている。つまり、あまりにも人の雑念が多いと何が起こるかわからないから、ということだ。幸いにして発動したのは回収した3つのうち1つ、神社で犬が凶暴化したものだけであり、近辺にいた新人巡査とユーノの手により制圧、回収された。

 

 ちなみにこの新人巡査、名を新庄甚吾と言い、勤務3年にもなりながら、名前を省略して新人と呼ばれる不憫な方である。普段は佐伯刑事とペアを組み、魔力容量はAとそこそこ、地方から出てきてスカウトされた若手のホープだ。これからの時代の変容についていくためのスタートランナーと言える。

 

 そんな彼が獲得した1つと、ほかはプールに落ちていたものと公立の小学校に落ちていたものだ。前者はなぜか、プールで不貞を働いた変態もセットで逮捕されていたのだがどういうことなのだろうか。とりあえず現在数はなのはのも含めて合計6個、極めていい滑り出しだと言える。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで車内で子供らしい会話と魔法やユーノ自身の事など、雑談と捜索の話をごちゃ混ぜにしていたら、

 

「おら、ついたぞ。さっさと降りな」

 

の佐伯刑事の一言でようやく車が止まっていたことを悟り、なのはは顔を真赤にしていた。どうやら話に夢中になりすぎたらしい。ユーノは苦笑して頭をかいていた。

 

 

 魔導都市の中枢、国立海鳴大学。

 

 

 なのはたちの小学校とは離れた位置に存在し、元からなのか最近作ったのか、土地を生かした広大なグラウンドや設備を持った県外にもその名を轟かせる大学である。大学付属病院もあり、その近辺は学園都市のような成り立ちをしている。比較的文系に重きを置いた学校だったはずなのだが、3年前のマギテクス発表と同時に豊富な財力を生かして理系重視へと鞍替えしたようだ。現在では魔導の最先端といっても過言ではない程度には優秀な研究者と学生を揃えている。それもこれも、鞍替えした当初から攻撃魔法、バリアジャケットが使える普遍的なストレージデバイスを導入していたらしく、それが早々に体験できるとわかってか、誘蛾灯のように釣られた人々が集まってきたらしい。かなり科学的、実用的とはいえ漫画の世界が現実に降り立ったのだから。そのため定員割れも多く久しい大学連中を余所に、海鳴大学は受験者を大量に集め、その志願倍率50倍という、東大もビックリの数値を叩きだした。あまりの多さに魔力容量まで試験対象に入っていた、とはまことしやかに囁かれる噂だ。現在では基礎研究や魔導学科の開設も各校で焦るように始まり、そこそこに分散が始まっている。時代のニーズに取り残されては後は廃れるのみだ。

 

 なのはの立ち位置はそこのアドバイザー兼魔法開発員だ。発表前から先行してデバイスを持っていたこと、高い魔力容量を持っていたこと、時折空を飛んでいるのを見かけたことから大学の目に止まり、この立場に収まったのである。その後はすごいことすごいこと、特性こそあり砲撃に偏っていたものの、多くの魔法を生み出し、事実彼女は周囲に実力を認められていた。戦闘機動も大人にヒケをとらないどころか圧倒的で、もしも大学に入学するならばフリーパスでいいよともぶっちゃけられている。その場合は聖祥大学と取り合いになるだろう。最近では魔法を、もといマギテクスを利用した大会なるものを開催するための企画が動いており、ソレに関するルール制定やステータス、点数表示の魔法等の開発も行なっていた。

 

 後者を横切りグラウンドへ入ろうとすれば、

 

「あ、なのはちゃーん!防御フィールドのプログラミング出来たからデバッグしてくれないかなー!?」

「ごめんなさい蘭さん、今忙しいからまた今度ねー!」

 

調整のあてに声をかけられたり、

 

「イィヤッホゥゥゥ!高町さん付き合って下さい!」

「わかった!後でおうちに行くね!」

 

ロリコンに告白されたり、

 

「……!?本当に、本当にかい!?」

「お兄ちゃんがね!」

「まさかの死刑宣告!?」

「てめぇ俺らの神聖なるなのは様に告るとは何事だぁぁ!!ロリコンは死ねぇ!」

「ひでぶっ!」

 

それを軽くあしらえば他の人の鉄拳制裁にあったり。

 

 ああカオス。着いて間もなくあちこちから声がかかる。初めこそなのはもこのテンションに四苦八苦していたが、付き合いが長いと次第に慣れてしまっていた。今ではあっさり流せる程度には鍛えられている。ユーノは異様な雰囲気に呑まれて固まっていた。

 

「忍さ~ん、こんにちはー!」

「あら、なのはちゃん。久しぶり、何日ぶりかしら」

「にゃはは、そんなに経ってないですよぅ」

「それくらい待ちどおしかったってことよ」

 

 月村忍、月村すずかの姉であり、月村重工の重役である。現在は大学における外部研究員としての立ち位置を持っており、機械いじりの趣味がこうじて開発、設計指導などを行なっている。なのはとあわせてこの二人は海鳴二大巨塔と呼ばれており、ソフトのなのは、ハードの忍と愛称が付けられている。まるで仮面○イダーか何かのようだ。

 

 彼女は容姿とボン・キュッ・ボンな体型が非常に魅力的な女性であり、おしとやかな性格も相成って大学連中に人気が高い。だが敢えて言おう!彼女は彼氏持ちである!彼氏持ちである!恭也持ちである!その甘さと過激なラブ臭から口から砂糖を吐く人多数。彼氏持ちと知って絶望する人茶飯事。加えて彼女に関わるなら一度は見たことある恭也のバケモノじみた無双っぷり。もはや伺う隙もないパーフェクトカップルだった。誰もかかわろうとしやしない。やったら海鳴の街は地獄に変わるだろう。

 

 そんな悲歌慷慨はともかく、残念ながらなのはは伝えなければいけないことがあった。それは警察の、もといユーノの手伝いをするためにしばらく大学に来るのを止めないといけないことだった。未だ小学生であるなのははそう遅い時間まで活動することは許されておらず、限られた時間しか活動することが出来ない。だというのにまで大学に行っていてはとてもではないが時間が足りないのだ。

 

「と、いうわけなんです。それでしばらくは来れないと思います」

「そっか、そうだよね。すずかから話聞いてたけど、結構面倒な事になってるわね」

 

 おおよその内容をすずかから聞いていた忍はあっさりと承諾した。後に、その内容を聞いた時の姉の様相が「お姉ちゃん目コワッ!」と言いたくなるくらいギラギラしてたらしい事をすずかから聞いた時苦笑するしかなかった。妹がマッドなら例外なく姉もマッドなのだった。これが後にあんなことを引き起こすとは誰も……いや、余計なフラグを立てるのはやめよう。ほんとうに何かしそうで怖い。

 

「それと、君がユーノ君と、佐伯さんですね。はじめまして、お話は伺っております」

「あ、はじめまして。ユーノ・スクライアです」

「海鳴署の刑事だ。今回の事件を担当することになる」

 

 互いに挨拶を交わし、忍は佐伯からは仕事だといわんばかりの淡々とした印象を、ユーノからはかわいげのある小動物な印象を受けた。フェレットだったし大体間違ってない。

 

「ところで、そのジュエルシードでしたっけ。もしよろしければ後学のためにも研究させて欲しいのですが」

「回収が完了したらその所有権は今のところは坊主にある。検査しねえとなんとも言えんし、上がどう判断するのかもまだわからんからな。難しいだろうが、研究したいのなら上と交渉してくれ。とは言っても、相手は相当な危険物らしいからな。正直に言えば然るべき場所で管理するか、破棄、もしくは破壊してほしいところだ」

「あら、それは残念」

「管理世界にいる適切な対応が取れる研究者がいれば、僕も安心して預けることができるんですけどね。さすがにそういう人に知り合いはいないですし」

「うーん、降って湧いてくれるような事があればいいんだけどね」

 

 後のジュエルシードの扱いに噛もうとする忍。一応ロストロギアといえども、安全マージンが取れるのであれば問答無用で封印、というわけではない。そのため「1個でいいから!」「いや、そういうわけには……」「じゃぁ自分で拾ったらいいの?」「そりゃもっとダメだろ」と喧々囂々の議論が交わされる。この話し合いは結論がつかなかったが、ユーノがつかれるまで行われてしまう事となった。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、ユーノ君」

「……ん、どうしたのなのは?」

 

 クイクイ、とユーノの袖をひっぱるなのはは視線をやや遠くに投げていた。何かあったのか、と思えばいつの間にやらキャパディテクターを抱えていじり倒しており、画面に表示された数値を眺めている。

 

「もしかして、この反応ってそうじゃない?」

「高魔力反応……、いろんな反応に紛れてわかりづらいけど、確かにジュエルシードみたいだね。えっとここから……200m先?」

「え、ちょっと待って。そっちは確か訓練してる人たちが」

 

 そう言った瞬間、ズボァッと巻き上がった粉塵と共に立ち上る光と悲鳴が聞こえた。

 

「え、えぇ~!?またこんなオチなの~!?」

 



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Uminari University_2

「来週にはBorderlands2が出るそうですが」
「予約しているさ、勿論、360版をね?」
「……何故です?」
「持ちにくいからだよ、PS3のコントローラ。あれでFPSとか正気の沙汰じゃない。トリガーもスティックも滑るし。360コンの持ちやすさに慣れてしまったせいで一回攣ったこともある」
「そ、そうですか」
「まぁ既存のファンは箱版かPC版がデフォだけどね。1は逸ってアジア版を買い、後から日本版を買ってしまったくらいだ。今回は我慢したほうだよ。DLCの問題で何かあっても嫌だし」
「ちなみに、マウサーの方からFPSをコントローラでやるとは何事か、と抗議の電話が来ておりますが」
「どっちもいいところと悪いところがあると思うけどね。ちなみに私は両刀だよ。SkyrimやマイクラはPC版でやってるからね。FPSとなると今のスペックで満足できないからやらないってのもあるけどさ」
「はぁ……ところでなんで前書きでこんな事言ってるんですか?」

「楽しみすぎて他に書くことがないからだよ」


 舞い散る礫、うず高く積もる煙。きのこ雲のように広がるソレはさながらアニメのよう。どことなくシュールではあるが、それに巻き込まれてる大学生たちがいるので洒落になっていない。しかしそんな彼らは当然何が起こったのか理解しておらず、その場に停滞したまま目を白黒させている。そして煙が、ゆっくりと表面を引き剥がすように晴れ、そこから現れたのは。

 

「……、ハリネズミ?」

「棘に穴が空いてるハリネズミなんて、聞いたことがないわよ?」

 

 見た目は丸い体からあちこちに向かって伸びる針、いや砲塔と呼ぶべきなのだろうか。戦艦の主砲みたいな形をした細かい突起物が、全身にビッシリと生えている。煙の中からそんな存在が現れた。

 

「ッ!おい、てめぇら!サッサと離れねぇか!」

 

 直感でその形状を理解したのか、佐伯刑事から怒号が飛ぶ。大人の気迫にビビった学生たちは一瞬体をすくめるも、飛んでいるものも地上にいる者も一目散にかけ出した。ソレを気にもせず、まるで準備が整ったとばかりにノッソリと魔法生物は動き出す。そして、背面に備えられた幾多の針、もとい砲塔を周囲に向けてガチャガチャと動かしだして、

 

「――!!」

 

 視界いっぱいに魔法の弾幕を広げ始めた。

 雨あられと打ち荒らされるそれは某シューティングの最難関モードとよく似ている。とてつもない弾速で穿たれる小粒の乱打と、直射砲クラスの魔法を時折混ぜながらの緩急ついた砲撃の嵐だ。それが半球状に散らかるのでその場で訓練していた学生たちも巻き添えを食らう。何も知らない上に唐突に巻き起こった事故みたいなものだから仕方ない。

 

「うぉぉ!?危な!」

「ちょっと、何よコレ!普通じゃ……ない!?」

 

 しかし、彼らはバリアジャケットに被弾をしながらも危険と察知したのか、プロテクションを展開してそれぞれ逃げ回っている。学生とはいえそれなりの勘の良さに、佐伯はホッとする。

 

 同様にユーノも行動を開始していた。だが、弾幕にさらされ自身を守りながらでは上手く行かなかったのか、結界を展開するも中にいた大勢を逃がすことまでは出来なかった。

 

「…っ、ごめん。さすがにこの状況じゃ!」

「し、仕方ないよ!でも参ったかも。動けない……!」

 

 ズガガガガと太鼓のような打撃音を奏でる、プロテクションを張り続けるユーノとなのはの後ろには半ば無防備に近い佐伯刑事と忍がいた。彼らもそれぞれにデバイスがあるため防御自体は可能だが、リンカーコアが無い二人のデバイスは容量式だ。攻勢に出てプロテクションを張ったところで、あっという間に突破されるのが目に見えていた。

 

「……足手まといになってるわね」

「全くだ。魔力炉付きでも取ってきておくべきだったか」

 

 お互い初めて相対する出来事かつ暴力にさらされているというのに、二人は冷静だ。しかし残念ながら彼らには打開すべき手段がない。

 

 なのはとユーノはプロテクションを拡大して重ねあって防御を続けていた。二人の防御は堅牢で、お互いのどちらかが割れてもカバー出来るようにと力を尽くしている。二人のプロテクションが全く割れない、他の学生たちは割られる者も出てきており、逃げるようにそこらを飛び跳ねているというのに。その状態がしばらく続いたことに魔法生物は業を煮やしたのか、わずかに方針が変わる。

 

 砲撃の殆どをなのはたちの砲に向け始めた。

 

 げ、と呻く間にプロテクションに響く連打の音は、ハンドガンのそれから一気にガトリングへと変わる。

 もはや間断なく叩きつけられるそれにリズムなど無く、ただひたすらに音が流れ続けるのみ。ビシリと異音を立てるプロテクション、割れたユーノの代わりになのはのを前面に押上げ、その間に再びユーノがプロテクションを展開する。

 

「ちょっとちょっとぉー!?何で全部コッチに来るのぉー!?」

「さ、さすがにこれはっ……!」

 

 次から次へと割れるプロテクションを交互に展開するも、ローテーションが徐々に間に合わなくなっていく。このままではいずれ、突破される。その時だった。

 

「そ、そうだ!皆!待ちに待った実戦経験よ!今のうちにやっちゃいなさい!」

「こ、こら!何を考えている!」

 

 佐伯はまずい、と考えて止めに入る。相手の攻撃には非殺傷などという生易しい配慮はされていない。危険性があからさまに高い、何も知らない学生たちをいきなりそのようなものに投入して大丈夫なのか。彼らは高町なのはほど純粋な戦闘では手練ではない。しかし彼らにはそんなことは一切関係がなかった。

 

「おっしゃぁ!男一番、柿崎いっきまぁぁす!!」

「なのはちゃんに何すんのよぉぉ!」

「者共出陣じゃぁぁ!今こそ反撃のときぃぃ!」

 

 攻撃が逸れ、自由になった彼らは男女の区別関係なく、ハイテンションで武器を取る。地上にいる者は魔力炉付きのランチャーで、片や上空を飛んでいるものは杖をそれぞれに構えた。その数総勢30名、いずれもが高倍率の試験を勝ち抜き、かつ魔力量が高いか、運動神経、もしくは先天的にプログラミングが優れた選り抜きのエリートたちである。この嵐の中、少なくともバリアジャケットのおかげもあるが、彼らはケガ一つ負っていなかった。非殺傷設定なんて無いも同然の攻撃の中、普通との違いによる違和感は感じていただろうによくやっている。プロテクションが割られることを理解した彼らは、空戦が出来るものは距離をとり弾幕の隙間を広げて避けに徹し、運動神経のいいものは魔力ブーストにより地面を駆けまわっていたのだ。その動きはスポーツ用に調整されてこそいるもののかなりのスタイリッシュさをアピールしているように見える。プログラミングが得意なものは高効率高処理の外壁用プロテクションを用いて重複設置し、遠くに逃げ出していた。

 

 そして、それらが一斉に反撃に移る。

 

 「!?」

 

 魔法生物は仰天する。今まで自分から飛んでいた魔法と方向が逆転し、それぞれからの砲撃が一点に集中した。まるで迫り来る壁のように押し迫る砲撃に逃げ場はない。砲撃のためにほとんど動きを止めていた魔法生物はそれらをモロに直撃し、押しつぶされる。プレス機で全方位からぺっちゃんこにされた魔法生物は力の拡散方向が唯一地面しか無く、そのやわらかなクッションでさえ網目状のひびを入れて凹まされた。見事に潰された魔法生物は呼吸が止まりそうな衝撃で、完全に行動を止める。

 

 攻撃が、やんだ。

 

「なのは!」

「了解!今までもらったぶんのお返し!とっておきのいくんだから!」

 

 ガチャリとトリガーの出現したレイジングハートを魔法生物に向けて突き出す。その杖の先端には砲口は無い。しかしまるでそれを幻視させるような威圧感を持った、おどろおどろしいと感じ取れるほどの魔力が収束されていく。チャージの時間はゆうにショートバスターを超えていた。

 

「ディバイィィン!バスタァー!」

 

 他の学生たちとは比較にならない直径の砲撃が放たれた。非破壊であるはずなのに土をも削る勢いで駆け抜けていく直射砲。あまりの速度に魔法生物は直撃を受けた一瞬で拡散し、フィルムのコマをすっ飛ばしたかのようにその場から掻き消えた。そこに残るのはジュエルシード、ただひとつのみ。魔法生物はその外殻をただの一発で剥ぎ取られてしまったのだった。

 

『Seeling!』

 

 レイジングハートの掛け声に応じて、ジュエルシードが封印される。青い輝きを失った宝石はカツン、と地面に落ちた。実にあっけないことではあるが、これにて事件は終了。しかし反比例してその疲労度は高かった。なのははかいた額の汗を手の甲でぬぐい、へにゃぁ~と溜息だが鳴き声だかよくわからない声を上げて地面に腰を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 今回の件は守るべき者がいた戦いだった。それ故プレッシャーは前回の倍以上。本来戦闘力過多の彼女は単独で実力を発揮するので、あまりこういった事には遭遇したことがない。むしろ遭遇するほうが稀だ。単体戦は山ごもりなどで散々家族に狙われるというスパルタを経験したことはあるが。ユーノもユーノで大分魔力を使ったのか、その場にへたれこんでいる。

 

 これは実戦だった。先と違い多くの人が巻き込まれる実戦。そんな中で、ただのスポーツと認識している大学生の人たちはよくやってくれた、となのはは思う。それを知っているのと無いのでは動きに大きな差が出る。ここにいる人たちは、魔法が破壊も殺傷も出来る事を知らない人たちだ。もしも誰かが傷つくのを見れば恐怖で動けなくなるかもしれない、そんな邪推がふと頭を過ぎるがしかし……、

 

「柿崎ぃぃぃ!?」

「柿崎が落ちたぞ!」

「このひとでなしぃ!」

「誰だ柿崎を落としたのは!」

「だから言ったんだ……!あれほど射線上に出るなと」

「お前かぁぁ!IFFはどうしたぁ!」

 

「…………」

 

 全力で頑張ってつかの間のシリアスを得たはずの時間は、あっという間に壊されていた。脅威にさらされたはずの大学生たちは全く意に介してないかのごとく元気いっぱいで、やいのやいのとまるで空気というものを読んでいない。なのはは呆れとも蔑みともとれそうな目で、そんな彼らの騒動を眺めていた。何にせよけが人もおらず元気でいいが、良くも悪くも変態しかいない。あれで大学で選抜されたエリートだというのだから笑える話だ。

 

「おつかれ、なのはちゃん、ユーノ君。それと、ありがとね」

「助かった、ふたりとも。それと、またしても嬢ちゃん達に任せっきりにしちまった。すまねえな」

「あ、大丈夫です!ケガもしてないですから!」

「あはは、自分の事ですから。気にしないでください」

 

 大人二人から声がかかり、ぱっと笑いながら受け答える。その間になのははジュエルシードを回収にいっており、格納したレイジングハートがほのかに光を発していた。

 

「ほら、ユーノ君?」

「え?」

 

 なのはは笑顔ですっと右手を前に上げる。その仕草から察したのか、「ああ」と彼も納得し右手を上げ、

 

 パシっとハイタッチを交わした。両名による共同作業、+大勢もあったが無事に終わった瞬間だった。なのははユーノが現地人に迷惑をかけることを特に気にしていた様子を知っている。だからこの行為は彼女なりの励ましなのだろう。ロストロギアだろうがなんだろうが、皆が力を合わせればなんとでもなる。そう思わせるように。実際今回けが人もいなかった。巻き込まれた生徒たちはあの調子で特に気にもしていない様子だ。

 

「そういやぁ、今回はなんでジュエルシードはあんな変化を起こしたんだ?」

「……多分ですけど、魔法を訓練していた人たちの思考をリードしてしまったんだと思います。もっと上手く魔法が使えたら、とか、そういうのを」

 

 詳しいことはわかりませんけど、と付け加えながらユーノは推察する。その結果があのハリネズミによる弾幕ということだ、と。

 

「……動物とかならいいが、人の思考が絡むとやっかい、ってことか。魔法を使える奴には特に注意喚起がいるだろう。月村嬢、妹御から話を聞いてるならやっといてくれるか?」

「ソレはかまいませんが、ジュエルシードなんてファンタジーじみた物騒なものがあるなんて知ると、多分企業連も彼らも、ボランティアだとか言って勝手に動き出しますよ?」

 

 何と言ってもフリーダムな人たちですから。そう笑いながら言う月村忍もきっと同じ穴の狢なのだろう。それを聞いて佐伯刑事も口元をひくひくさせた。彼としては是非おとなしくしていてほしい所存である。しかし、現に高町なのはというボランティアの人員がいる上に、現状警察だけでは手が足りないのも止める事に待ったをかけた。ここにあるストレージデバイスも相応に高性能な処理能力を持った一品である。それらに探索魔法をインストールして街を飛ばせれば更に効率良くなるに違いない。下手に動かれて街を危機に晒すより、警察管理のもと行わせたほうがいいだろう。そう判断した佐伯刑事は仕方ねぇ、と心底嫌そうにではあるが条件付きで許諾をすることにした。勿論ユーノが管理世界の人間、等といった危険な情報は伏せておく。

 

『ところで』

「へ?」「にゃ?」

『なのはちゃんの横にいる不届き者の少年は誰だぁぁ!?』

『ていうかかわぃぃー!!』

「えええ!?」

 

 前者は男性陣の警戒、後者は女性陣の好意の視線がユーノに突き刺さる。騒ぎになったためにスルーされていたが、街の人気者であるなのはに寄り添う少年というのは話題の的だ。それが気にならない人がいるはずもなく、一瞬で飛んできた(比喩表現でない)集団に当然のようにユーノはもみくちゃにされてしまった。

 

「ちょ、な、なのは、助け……」

「さらばなのユーノ君。……私も、通った道なんだ」

「そ、そんな。うわぁあぁぁ!」

 

 和気藹々喧々囂々。いろんな感情入り交じるカオスから助けを求める少年を、なのはは珍しくバッサリと切り捨てた。ソレは過去、大学にて紹介された時に緊張から縮こまったうさぎのような表現を全身で現してしまった経験が由来である。あれらのバイタリティがムダに高い人物たちには、いろいろな意味で敵わない。それを思い出してしまったなのはの顔は苦笑いに遠い目と普段見られない珍しい顔になっていたそうだ。

 

 

 

 

 

 ゴウンゴウン、と空気を吸気するプロペラの音と排出する換気扇の音が入り混じる。ここは華やかな街の裏側、ビル群の隙間に存在する路地裏である。その光が入りづらい薄暗さと多少の汚れは、人の視界から逃れ密会をするには絶好のスポットだ。ただ最近ではド定番過ぎて、白昼堂々ファミレスで行うといった表現もあるが誰もが想像するという点では今だ現役。そんな場所にただ一人、携帯電話片手に何かをしゃべっているスーツ姿の男がいた。しかしその男は、いわゆる人受けのいい青年のはずなのに、口から出る声は男性とは思えないほどに甲高い。

 

「……と、いうわけで。警察の協力も得たようだし、それなりに順調に進んでいるよ。ジュエルシードも集まっているし、今のところ問題はないかにゃ?」

『なら良かった。例の彼らも、今は地球に向かっていることだし。とりあえず脚本に変更は無さそうですね』

「小細工だらけの三文芝居だけどねぇ?」

『…………』

「にゃは!ごめんごめん!そういや書いたの君だったねぇ。まぁ許してよ、こっちも3年以上前から、地球から出られなかったんだし。そのくらいの文句ぐらいぶーたれてもいいじゃん?」

『その件に関しては申し開きも出来ないですね。とりあえずこっちでは長期出張と休暇を混ぜて申請してあるらしいんで、特に問題はないですが』

「それはどうもぅ♪んっで、次の芝居の仕込みは終わってるんだっけ?」

『ええ、あなたもそちらの都合で動いてもらって構いませんよ。……ああ、そうだ。芝居の後に一つだけ噂を流しておいて欲しいのですが』

 

 電話の相手はその「噂」の内容を説明する。しかし内容の意味がよくわからない、と男は首を傾げた。

 

「ちなみにそれやる意味って、あるの?」

『脚本そのものには、あまり。まぁ与太話とか、ちょっとした遊びと思ってくれれば」

「ふぅん、まぁいいけど?その程度だったら特に時間も取られないし。あ、それよりもねぇ、この前高町パパにえらいガン見されたんだけど何でだと思う?」

『……大方、足運びや重心のブレなさとかその辺から不審に思われたんじゃないですか?素人なんでわかりませんけど、メッキが剥がれないようにしてくださいよ?』

「にゃっはっはー、メッキが剥がれたらセクハラで訴えてやるから大丈夫だよー!さてさて、そろそろお仕事の方に戻りますかねぇ。んっ、ん……あーあー、よし、声も元通りッス」

 

 軽く魔法を発動させ、ちょちょいと調整すると女性のような声はあっさりと張りの効いた男性の声に変わった。熱血系の必殺技でも叫ばせればちょっとしたカリスマを得ることのできそうな、しかし喋り方はどこか三流めいた口調で、先程までの艶めかしい声とは完全に反転していた。

 

『相変わらず不思議な魔法ですね、それ。今度教えて下さいよ』

「ああ、いいけど、何に使うんスか?」

『クライドさんの声でさんざんクロノをいじって、愉悦だ。とか言ってみるのはどうです?』

「ぶふっ。……くくっ、イイっすねそれ。じゃぁ、帰った時にでもまた」

『ええ、それでは』

 

 ツーツー、と電話が切れた音が鳴る。それを聞き届けるまでもなく、スルリと携帯をポケットにしまう。

 

「よし、それじゃあ仕事の続きといきますか。ていうか、全然休暇じゃ無い気がするんだけど……あぁ、ユーノ君も男の姿じゃなでられないッスねぇ。早く終わらないかなぁ」

 

 そう言いながら路地裏から出てきた男の顔は、どこか楽しげだった。これから大変なことが起こる。しかし自分はそのショーを見る、観客のような気持ちでいるのだろう。監視役である彼にとって、この事は完全に他人ごとだった。それでも彼は組織や上司から命令があれば、その渦中へと飛び込んでいくだろう。今の彼は警察なのだから。

 

 だがそれでも、譲るべきスポットはしっかり譲る。自分が張るべきは主役ではなく、添え物のように彼女たちを補佐することにあるのだから。新庄甚吾、勤務3年目の巡査。その正体は管理局からやってきた監視役。ギル・グレアムの使い魔、リーゼロッテである。

 




動きのない戦闘シーンが盛り上がらないぃぃ!どうしても一撃必殺蹂躙シーンになりがち。そしてここからのフラグ管理が大変だ……


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World tree_1

副題リリプラ1話、前回の大学での話を修正しました。内容は警察の動きと微修正。前者はこの回でちょろっと説明してます。

※後でマテリアルTIPSを更新、順序を変えて後ろに回します。こちらは新しい話題が出るたびに頻繁に修正が入る予定です。最新話基準にしますので未読の方はネタバレにご注意を。


 ユーノの一日のローテーションは、とにかく調べることに終始する。まず朝起きたら、持ち合わせがないため佐伯刑事に連れられ食事を買う。コンビニではおにぎりやお菓子やらを見て食文化を学ぶ。それが終れば仕事始め。夜勤の人から引継をしながら、朝礼、会議を済ませて捜索に移行。間で昼食を取り、夕方まで捜索、そしてなのはと合流して数時間ほど探して署に戻る。その後は署員の人々と話をしながら、地球の様々なことを教えてもらう。勿論それには魔法の法体制や普及率といった突っ込んだ話も含まれる。逆に管理世界についてもより詳しく聞かれ、差し障りのない部分を教えていた。その後は資料室から許可が出た本などを読み、寝るまでを過ごす。余談ではあるが、管理世界の人間は世界ごとで言語が違うことが多く、多言語に対応するため魔法が使える人は翻訳魔法を、そうでない人はコミュニケーターを持っている。そのためユーノとの会話が始めから成立していたのだ。それを使えば日本語の本であろうと、網膜に投影される文章が自動でミッド語に変換される。実に便利だ。以上、ここまでが平日の一日の流れである。

 

 だがその流れに待ったを入れる日がある。ハードワークに悩む日本人全てが望む息抜きの一時、人それを休日と呼ぶ。

 その例に漏れず、ユーノも休日と相成った。当人としては間断なく探しまわりたいところであろうが、休息は健全かつ効率的な作業をする上では必要な処置である。平日が元々オーバーワーク気味であったために、佐伯刑事からは無理をするなとストップを掛けられた。

 

 そんなわけで捜索から数日。警察協力の下行われる探索はそこそこに効率的で、既に合計8個のジュエルシードが集まっている。その中にはいくつか、原生生物に取り憑いて暴れた魔法生物もいたようだ。しかし前回のように人間の意志を反映させていない魔法生物はそれほど強くなく、例え筋力過多になろうとも獣らしい攻撃しかしてこない。つまりは空を飛んで乱射すれば相手からは攻撃できず完全にハメれるわけで。ビルの隙間に潜られてもコチラ側にはキャパディテクターがあるので意味を成さない。と、いうのがユーノがこれまでの経緯を聞いた内容だった。

 

 現在は休日ナニソレな署員と、実戦経験が出来るかも?といった理由からボランティアで大学生がついて来ている。海鳴大学のネジのイカれた彼らだ、勿論しっかり監視込み。巷では空を飛んでいるのが魔法少女じゃない!と憤慨している方々がいたとか。空を飛んでいる女子大学生は少女扱いされず涙を流した。

 

 既になのはが遭遇したものも含めてジュエルシードが変化した数は4回。だが不思議な事に、それだけあったにもかかわらずけが人が出たことは一度もない。現在は市街地を中心として探しているため人の行き来は多い。だというのにけが人すら出ないのはどういうことか。モノがモノだけに不可解にすぎる。勿論被害が出てないことは僥倖であるが、頭の中にある漠然とした不安を取り除くことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 暇が出来たユーノは、資料室で許可が出た本を読み漁っている。地球の魔法に関する情報、日本の歴史、サブカルチャーに戦争関係、常識本からビジネス、果ては何故かあった料理本まで様々だ。遺跡発掘調査を仕事とするユーノにとって、情報は何よりの武器である。物事の流れというのは、全体を一つの根として分岐している。そのためジャンルが違っていても、どこかにつながりがある限り、それは物事を理解するためのヒントになる。日本で言えば精神性は食文化に強く現れている。精進料理などがソレに当たるだろう。

 

「…………」

 

 あちこちから出してきた本はうず高く積まれ、座禅の型をとるユーノの周りで塔を形成している。更にその周囲をいくつかの本が宙を舞い、ペラペラとページをめくり続けている神秘的な光景が広がっていた。これがユーノが得意とする、独自で編み出した読書用の魔法。マルチタスクをふんだんに用いたこの魔法は、複数の本を同時に速読することが可能だ。デバイス無しでも魔法を組み立てる事が出来る非常に繊細なユーノの本領。

 

 それにより読了した本は多く、まだ朝も早いというのに一般的な日本人並と言える程度には補完出来ていた。これならば外に出しても立派にお使いをこなせるだろう、とは佐伯刑事の談である。本人がソレを聞いたら怒るだろうが。

 

 汲み取った知識のひとつの推察をユーノは続ける。「魔法」、管理世界では当たり前のように利用され、地球では新興技術「マギテクス」と呼ばれるそれを。魔法は魔力素と呼ばれるエネルギーを魔力に変換し、いくつかの現象を起こす技術だ。それらはどれも科学技術の延長でありながら超常的であり、かつプログラミングで制御できるという異質なものである。

 

 ユーノにとって地球は、質量兵器全盛のカルチャーショックもいいところの前世紀だ。管理世界の歴史の流れからすれば、魔法が発明されたばかりの時代は数百年以上前に遡る。彼からすればタイムスリップをしたような錯覚に陥るようなものだ。単純に見れば世紀の瞬間に立ち会えたような高揚とした気分に浸れるだろう。しかし、発掘家、そして歴史学者でもあるユーノにとって、地球の状態はいささか不自然だった。

 

 まずそのようなエネルギーが見つかった場合、基礎研究から始まり、少しずつ何に使えるかを見定めていく。しかし、発祥からたった三年で魔法を、そしてデバイスを作り出せるか、と言われればNOとユーノは答える。あまりに早すぎるからだ。果たして誰が、魔力に対してプログラミングという機械的なアクセス方法で、現象を行使出来るようになると気づけたのだろうか。代替エネルギーとしての利用はともかく、そこに行き着くまでには十数年はくだらない時間が必要になる。それはまがいなりにも魔法が高度な科学であるからだ。つまり、地球の開発速度は異常どころではなく、さながらミッシングリンクを発生させたような様相を呈している。

 

「これは……、管理世界の誰かが開発に関わっている?」

 

 その疑問が、確信に変わったのはとある条約を読んだ時だ。

 

 マギテクス利用規約に関する条約

 

 国連において発表と同時に結ばれた、しかししっかりと報道されておらずあまり大衆には知らされていない、大発表の裏に隠れた法がある。ここには簡潔に述べれば「マギテクス技術は地球の平和利用に準ずる」、といった類の条項がつらつらと述べられているが、一部許可が必要、もしくは禁止されている魔法が列挙されていた。それは以下、

 

・サーチャーの不正利用

・召喚魔法の行使

・幻術魔法の行使

・結界による捕縛行為

・個人による転移魔法

・変身魔法の行使

・使い魔契約の行使

 

と書かれていた。

 

「やっぱり変だ、この世界」

 

 単純な出力で利用できる砲撃はわかりやすい。下手な制御を必要としないからだ。加えてビームとなればSFをこよなく好む人なら、できるとわかれば誰だって開発しそうなものである。その理論から行けば「魔法」というジャンルに含まれる時点で、好奇心旺盛な地球人はあれこれ開発しそうな気はするが。特に日本人あたり。

 

 邪念を払い、冷静に考え直す。研究そのものは3年より更に前からでも、果たしてこれほどのジャンルを確立させて、その危険性のノウハウを蓄積できるのか。間違いなく無理だ、知識を有する誰かが関わっていなければ。

 

 ジョニー・スリカエッティ。

 

 アメリカ国籍の世紀の大発明家である。しかしその有名具合とは反比例して、顔を見た人物は少ないと言われる謎の人物。極度のひきこもりだとか、コミュ障だと揶揄されはするが、まず間違いなく怪しい人物筆頭候補である。もしもこれほどの魔法を一手に開発できるのだとすれば、この人物は管理世界においても名を馳せていた人物ではないかとユーノは推測する。

 

 しかしそのような名前に覚えはない。

 

 元より科学方面の知識に疎いユーノは、自身の記憶が頼りになるとは思えなかったため案の定といったところか。だが開発系の人物だと思い当たるのには、理由があった。例えば管理局員の場合は、戦闘用に必要に応じて魔法を取得するが、畑違いのために自身で開発するほどの人間は早々いない。更には魔法は得手不得手もあるので、これほど多岐にわたる魔法を開発できる人間は戦闘員なぞやっていないだろうことが一つ。同様に、これほどの手段と才能を持っているなら間違い無く英雄レベルの尊敬を浴びているような存在だ。加えて、局員であるなら不用意に魔法バレをしない。なのでこれはありえない。

 

 残りは管理世界にいられないような犯罪者くらいだろうか。しかしわざわざ管理外世界に逃げるような人間なら自分から目立つようなことはしないだろう。まがいなりにも管理外として番号を打たれた地球である。管理局の巡回コースには入っているだろうから、そんな愚挙を犯せば確実に居場所が割れる。

 

 となると、あとは魔法関係に有能であるのは開発者くらいしかいないだろう。それも相当野心家の。魔法技術を管理外世界に流出させるのは管理局法によって禁止されている。それは発展途上の世界にとってオーバーテクノロジーであるため、順当な発展を促せないことにある。管理局の歴史的観点に倣わせられる事は、地球側からすればおこがましいとでも言われそうだ。しかし、大きすぎる力は災いを呼ぶと言うように、自分たちの前の世代がロストロギアを手に戦争を繰り広げていた歴史はけしようのない事実であり、教訓であった。ここで開発者を野心家と結論づけたのは、そんな事は知らぬとばかりに魔法を使い名を馳せようとしたのではないかと結論づけたためである。命知らず、この言葉がよく似合う。

 

「それでも、ここまで見つからないというのは不自然だ」

 

 3年という長い期間、地球の現状が噂にすら上がらない。多数の世界があり足りない人手で巡回しているにしても、数回くらいは通っていてもいいだろう。魔法反応があれば反応が小さくとも、量が多ければ気づけるはずだ。次元航行艦の検知能力は並ではない。管理外世界が魔法を使えるようになった、という事例は滅多に無かったはずで、知れば大騒ぎどころではないだろう。

 

 誰かが情報を止めている。

 

 筆頭は管理局。件のジョニー・スリカエッティと共謀しているという、魔法秘匿の前提条件を翻した荒唐無稽な理由ならばおかしくはない。ただ、それによって管理局が得られるメリットがわからない。何より管理局は「正義」を標榜する組織であるため、他世界を巻き込んだ行為は批判の的にしかならないはずである。

 

 そして、それだけの情報封鎖などをしているということは常時監視に近い状態になるのは間違い無いだろう。本当にそうだった場合、「目的」からそれるような事が起こった時に対処しなければならないのは管理局自身だ。

 

 だとしたら、何故ロストロギアを落とした自身を助けにこないのか。

 

――もしかしたら、このような事態も予想済みで放置されている?

 

 いやいや、それこそ荒唐無稽が過ぎるだろうとユーノは考えを切って捨てた。発掘家という気質柄、最悪の事態をいくつも想定しておくことに慣れているユーノはどんどん泥濘に嵌りそうになる。しかし、管理局のあり方の矛盾が出てきたあたりでさすがに考えすぎかと思ったのか、コレ以上考えるのをやめた。もしもそこまでの事態ならば、既にユーノの状況は詰んでいるのと変わらない。

 

 どのような対応をしていたかが分かるのは、ロストロギアが次元震を発生させるなどのトラブルを管理局が感知した時。もしくは自分の乗っていた航行艦の救難信号を管理局が受信して、地球にやってきたときのいずれかだ。もしも巡回している局員が黙っているだけならば、他の局員によってお縄になるだろうし、管理局全体の悪巧みであればきっと自分では関わりようのない、地球側組織との空の上の出来事が繰り広げられる事となる。遅いか早いかの違いではあるが、ある意味自身は管理局に知らせるきっかけを作ってしまったと言ってもいい。

 

 そういえば、海鳴署は組織の上位である県警や警視庁に応援要請を求めていた。先日の大学の事件での脅威度を再認識したのか、とりあえず県警の管区機動隊は出てきてきたものの、ソレ以外は議論が真っ二つに割れているらしい。

 

 理由は2つ。正直に報告したユーノが宇宙人でジュエルシードがどうとかいう、フィクションのようなデタラメ話を信じていないこと。そして科学的見地から見てただの宝石がそんな不可解な現象を発生させるかバカバカしい。というのが否定派の言い分らしい。報告には証拠映像もつけて提出しているのだが、映画じゃないの?と頑なに認めない人物がいるとか。正直問題はそこではなく市民の安全なのだが、こういった論点が摩り替わってしまう人がいるのもまた人間である。信用ならない部分があるのは管理局とて警察とて変わらない。それこそ未だ目に見えて大きな被害が出ていないことも大きい。そこまで人員がいるのか?と。

 

 後は個人的に政府の役人と繋がりのある高町士郎の連絡に期待するしか無い。もしも仮に、それが上手く行って要請が受け取られた場合どうなるか。まずは自衛隊の出動、ジュエルシードを災害と取るか否かで判断が分かれるがありうることだ。次に政府としての対応。宇宙人の存在が明らかになり、強大な組織である管理局への交渉、または対抗手段を整えなければならない。その場合はユーノと、ジュエルシードの確保が鍵になる。もしもそうなった場合、日本政府だけでの交渉にとどまらず、国連も出てくるだろう。相手は星の群衆、ただの一島国の政府だけが抱える問題にするには許容を超えている。

 

 話が広がれば広がるほど、事とユーノの存在価値も比例して大きくなる。一つの街に落ちただけの石ころが宇宙を股にかける大スペクタクルになるのだ。ならば管理局が反応しようが地球が反応しようが、ほとんど取るべき道は決まってしまったといっていい。恐らく自分はその橋渡しを務める事になるだろう。未来の責任は重大だ。

 

「例えそうだとしても、今はジュエルシードを集める事しか出来ない……よね」

 

 できるだけ現地の人々に被害を与えないように。ただそれだけを決意しながら、彼は読んでいた多数の本を一斉に閉じた。かなり長い推測のようだったが、時間はまだ朝。なのはから電話がかかってきたのは、ちょっとした脳の疲労をため息に込めて吐き出した、そんな時である。

 




あいも変わらず説明会で申し訳ないです。次回から頑張ります。


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World tree_2

ボーダーランズさんが悪いんや……。奴さんの吸引力はマジヤバイ。何がヤバイかって?北斗の拳ばりの無法地帯でヒャッハープレイが推奨されてる事だよ……。俺たちが荒野のウェスタンだ!(?)


 なのはにサッカーの誘いを受け、場所を知らないからと迎えに来てもらい、一緒に河川敷までやってきた。そこには川と並行にサッカーグラウンドが敷設されており、試合を今かと待つ2つのチームがいた。士郎が監督する翠屋JFCと相手チームの桜台JFCだ。

 

「やっと来たわね、ふたりとも」

「おまたせー、アリサちゃん。すずかちゃん」

 

 アリサは仁王立ちで二人を出迎え、すずかは手を小振りで挨拶を交わす。仲良し3人組の姿を見たユーノは、今まで友達というのがいなかったからか、新鮮な気持ちを感じた。

 

「ユーノ君も、久しぶり。4日ぶりくらいかな?」

「私達も手伝えてたら、そんなに間が空くことはなかったでしょうに」

「久し振りだね。それと気にしなくていいよ?手伝ってくれる人は一杯いるから」

 

 こう見えて二人も塾に企業との関わりやらで忙しく、なのはほどの戦闘能力を持たないことを理由に手伝えなかった事を気にはしていた。しかしなのはとユーノ両方に大きなケガはしていないのを見て、ほっと安堵の息をつく。ユーノとしては巻き込んだ側として、友人グループの一人であるなのはを頼っているのは申し訳ない気持ちが強かったが、彼女たちからすれば既にユーノもそのグループの一人として心配されていた。しかし本人はまだ気づいている様子はない。

 

 来た頃には準備運動も終わっていたのか、丁度、備え付けのベンチに並んで座った時に試合が開始される。小学生ながらの激しさの伴う競り合いと、未熟ながらも巧みに動こうとする少年たちにユーノは惹かれていた。似たようなスポーツは管理世界にあっても、魔法競技や格闘技のほうがメジャーだったため、本格的に見るのは初めてだ。

 

「そういえば、なのはは参加しないの?」

「にゃ?」

 

 ふと思いついたことをユーノは問う。確かなのはは運動能力が高く、むしろ一般の小学生とは隔絶したレベルにいたはず。この中に混じればそれこそスタープレイヤーになれるのでは?とふと思った。

 

「そうね、確かになのはなら必殺のタイガーシュートを打てるわね」

「必殺の……」

「……タイガーシュート」

 

 想像してみる。全力でフィジカルブーストをかけたなのはがフィールドを駆け、ボールを蹴り飛ばす様を。ゴッ、とボールにあるまじき音。哀れ、ゴールキーパーはつかみとることすらできずにふっとばされる。まさに必殺。試合に勝てないなら敵を減らせばいいじゃない、マリー○ントワネット。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 4人揃って絶句する。一体どんな鬼畜だろうそれは。

 

「……やらないでね、なのはちゃん?」

「やらないよ!?どうしてやること前提なの!?」

「信じてるから、やっちゃだめよなのは?」

「まさかの念押し!?」

 

 友人二人の裏切りにあい、ハッとしてなのはは隣の、言い出しっぺのユーノの顔を覗く。この状況、彼ならきっとカバーしてくれるに違いない、と期待の目を向けて。

 

「……ごめん、僕が悪かった」

「どうして被虐心全開なの!?」

 

 何故かうなだれていた。とうとう全員からフォローが無いために、頬をふくらませてムームー言い出したなのはを全員でなだめる。そんな事をやっている間に試合は点をとり、とられ、1-1の膠着状態となっていた。一喜一憂の歓声と、熱気のこもった応援が飛びかうがしかし、フィールドは慎重さから静の緊張感に満ちている。

 

「ねぇ、ユーノ君、楽しい?」

 

 横にいるユーノに、なのははそっと聞いた。彼女は心配だった。ロストロギアという重責に押しつぶされそうだった彼を。多数の協力を得てある程度の解消は出来たようだが、何を考えていたのか今はむしろひどくなっているようで。だから今日は無理矢理にでも引っ張り出すことを考えていた。

 

「うん、楽しいよなのは」

「えへへ、そっか」

 

 その結果、彼は今をそれなりに楽しんでいる。なのははホッと温かい笑みを浮かべて再び試合へと目を移した。

 

「ほら、ユーノ君もしっかり声出そ?応援応援!」

「あぁ!がんばれー!」

 

 応援のかいもあってか、試合終了直前にシュートが決まり2-1で翠屋JFCが勝利した。観衆は湧き立ち、士郎は少年たちを褒めに回る。なのはたちもうれしさからハイタッチを交わし合った。

 

 試合終了後、士郎たちは翠屋で打ち上げをするらしい。これから試合の開放感に浮かれて楽しい時間を過ごすことになるのだろう。それはなのは達も同様だ。そう、今はまだ……少年のバッグに入った青い宝石をその目に映すまでは。

 

 

 

 

 

 喫茶翠屋、海鳴では超がつくほど有名な店だ。パティシエであるなのはの母、高町桃子が作るシュークリームは絶品とのことらしい。やってきた少年たちであふれていたため本日は貸切に近い状態であり、なのは達もテラスでの食事となった。

 

 四人の話は、日々の生活からしょうもない雑談まで様々だ。特に少女たち3人の姦しさにはユーノもタジタジになるしか無く、飛び込むことに二の足を踏んでいる。そこに各々がフォローを入れつつ、ユーノが相槌を打つ形で会話が成立していた。話の熱気は徐々にエスカレートしていき、日常からは特に話題がなくなったのか、特殊な方面である魔法へとシフトしていく。ここでメインパーソナリティがユーノへと切り替わった。具体的には地球で知られていないこと。例えばレアスキル認定についてや、各々の魔法の特性について。管理世界の魔法は地球のように集団が使えることを目標にしたものではなく、個人の長所を伸ばすことを前提とした考えであり、その方面についての研究が盛んだ。その辺りはどちらかというと旧態然としたファンタジーの魔法使いの解釈であり、リンカーコアが有ることを選ばれたものと捉える人もいるんだとか。ユーノも長所のみを伸ばすことは例に漏れず、自身の特性である防御やバインドに特化しており、攻撃魔法は完全に捨てている。そして他にも、今日使用した読書魔法の話をし始めた時のことだ。

 

 すずかの目の輝きが一段と増した。

 

「そ、それもう少し詳しく!」

 

 すずかは自他共に認める読書好きである。もっぱら読むジャンルは問わず、あれもこれもと手を付けている様は姉をして呆れられているほどだ。それだけ無駄に手を広げているのだから、読みたい本がいくつもある。しかし体はひとつしか無く、累積された本の山が待ち構えているような状態だった。そのためユーノが提示した魔法はすずかにとって寝耳に水であり、それを教えてもらおうと普段とはあるまじき熱意をまとっている。引き気味ではあったが教えることにやぶさかでないユーノは、それを了承した。この時の自分を思い出して、顔を真っ赤にするすずかがいたのは少し後の話。

 

 

 

 

 

 びっくりして、やや乾いた笑みを浮かべていたなのははふと、周りを見回した。気がつけばサッカー少年たちは士郎の激励を受けて帰りの途につこうとしている。

 

(いつの間にこんなに時間が経ったんだろ?)

 

 楽しい時間は早く過ぎるもの、ぼんやりとそう思った中で、なのはは()()()もう一度見回さないと、と思ってしまい、そしてソレを見てしまって、椅子が飛ぶのもお構いなしにガタッ!と立ち上がった。

 

「………………え?」

 

 驚愕。今まさに帰ろうとしていたサッカー少年の一人が、

 

――青い宝石を手の中で転がしていた。

 

 彼はそれをすっとポケットに入れると、これまた何故か急くように走っていった。なのはは呆然としてしまう。少年がジュエルシードらしきものを持っていたことに対してではない。

 

 自分が、これほど近くにあって気づけなかったことにだ。

 

 つい先日、なのははレイジングハートと共にキャパディテクターのプログラムを解析して、それを常時発動しておくように設定しておいた。日常の中でもしジュエルシードがあった場合に、と保険をかけたのだ。これはレイジングハートが外部スキャンが出来るハードウェアを組み込んでいたからこその方法である。魔力容量から計測値を出すそれは、微弱な魔力であろうともサーモグラフィーのように正確に映し出す。ジュエルシードはそれこそ真っ白になるくらい激しい映り込みを示すはずだ。だというのに、ソレがない。

 

「レイジングハート……」

『What happened, Master?』

「観測機能、ちゃんと働いてるよね?」

『No problem』

 

 じゃぁ、アレは何?ただの宝石?いや、そんなはずはない。何度も同じ物を見た自分が見間違えるはずがない。そして普通の少年が、そんな宝石を持っていることがありえるだろうか?もしかしてああいうのを買えるほど財力がある?いやいや、拾ったしかありえない。

 

(だったら、魔力反応が無いあれは何なの!?)

 

 ブワッと吹き出した汗が、肌を悪寒とともに伝う。猛烈に嫌な予感がする。御神流の特訓でつかみとった危険感知能力がガンガンと警鐘を鳴らしている。空似で済ませることなど出来ない。「魔力反応がない」ジュエルシード、それだけでなにかとてつもない事が起ころうとして、いや、既に起こっている!

 

「……どうしたの、なのは?」

「椅子まで倒しちゃって、らしくないわね。何かあったの?」

「なのはちゃん?」

 

 三者三様の質問をされるが、既に温度差ができてしまったなのはは全く聞いていない。見つめるのは一点、少年が消えた交差点の先だ。

 

「――…………ォ!飛ぶよ!ユーノ君!」

「え!?ちょ、何が、うわぁぁ!?」

 

 かすれて出なかった宣言をもう一度大声で張り上げ、ユーノの手を掴んで上空へと舞い上がる。いきなりの展開に驚いて、しかしなんとか飛行魔法を発動させたユーノはなのはの引っ張りにつられてすっ飛んでいく。あまりのスピードにその場には残されて唖然とした二人と、飛んだ影響でふわりと浮かび上がったままの砂埃の残滓があった。

 

 

 

 

 

「それで、何があったの?」

 

 近辺の一番高いビルを越す高さの上空を、二人はバリアジャケットを纏って飛んでいた。なのはは交差点の先に消えたサッカー少年を探して、せわしなく瞳を動かしている。しかしどれだけ彼は距離をとったのか、その影すら踏ませない。一体何をそんなに逸ることがあったのだろうか。理解できない少年の心情に、なのはの焦りは更に募る。

 

 即座には見つからないと判断して、わずかに速度を落としてユーノに先の違和感について説明した。それを聞いたユーノも驚いたのか、目を白黒させている。ジュエルシードは励起しない限りただの宝石でしかないため、反応自体がないことは不思議ではない。しかし、キャパディテクターの精度は正確でそれについてはユーノも信頼を置いていた。だというのに、10m圏内にあって気づかないというのはいささか異常だった。たとえジュエルシードが移動していたとしても、街の中は念入りに警察と協力して捜索していたはずである。それでいて他の誰も気づいていないという事実に、戦慄を感じえなかった。

 

「……どうしよう」

「とりあえず、手分けして探そう。その彼はこの方向に進んで行ったんだよね」

 

 ユーノが指す方向には再び大きな交差点がある。直線上に少年の姿が無い以上、どこかで曲がっているはずだと当たりをつける。

 

「ゴールキーパーの子、か。うん、覚えてる。なのはは左、僕は右を探す。もしもジュエルシードが反応したら即座に広域結界を使うけど、それまでになんとか見つけ出そう」

「そうだね、早くしないと……」

 

 人間の願いに反応してしまった場合、極めてまずいことになるのは先日自分たちが体験したばかりだ。前回はグラウンドで、ソレも目の前だったから良かったものの、もしも街の中で起こってしまった場合どれほどの被害になるかわからない。二人は互いに反対方向に、0から一気にトップスピードまでギアをあげて移動を始める。その間にユーノは事の次第を、佐伯に電話しながら伝え、彼らも大慌てで飛行が出来る警察に招集をかけ始めた。

 

 一方その頃なのはは、

 

「きゃぁぁぁ!何、何なの!?」

 

 いきなり下から現れたカラスの集団に進行を妨害されていた。どうやらカラスもちょうどビルの隙間から飛び立った瞬間だったらしく、猛スピードで突っ込んだなのはと激突してしまったようだ。落ちていった数羽を回収しながら慌てて簡単な治癒魔法をかけるも、お怒りになったその他数羽がなのはを突こうと群がる。急いで探してるというのに、なんたる不運か。

 

――それはまるでジュエルシードの発動を邪魔させないかのようで。

 

 カラスの猛追を受けながら逃げ切ったなのはは、焦燥感からふとそんな事を思ってしまった。全力を尽くしているときにそんな事を思いたくはない。それでは発動した時の言い訳を考えているみたいではないか。しかし、発動までのタイムリミットは刻々と短くなっている。そんな予感さえしている。

 

 そこまで考えて、なのはの足が止まる。見下ろす地上に、少年の姿と、もう一人。あれは確か、マネージャーの少女ではなかっただろうか。

 

 まだ発動していない、と安堵したのもつかの間。少年は少女に、ジュエルシードをプレゼントしようとしていた。

 

「ま、待って!それを渡しちゃ……」

 

 だが、もう遅い。

 

 なのはの視界は、全体を覆うほどの巨大な光に包まれた。




だいたいあいつのせい。


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World tree_3

11/8誤字修正、傭兵団の名前が抜けてた部分を修正。


「発動した!?」

 

 進んできた方向とは反対側、丁度なのはがいる方からビリビリと強い感情を伴った魔力波が肌に当たる。予想以上に強力な発動を直感で理解したユーノは、間髪入れず街を一つ覆うほどの広域結界を展開した。

 

 しかし、彼は一つミスをした。結界は自身を中心に展開する。そのため反対側のジュエルシードを覆い切るまで、相応の時間を要してしまうのだ。もちろんそれは結果論に過ぎず、別れて捜索する事自体は間違った判断ではなかった。しかし、結界が展開しきるまでに出る被害。それを考えることに、ユーノはうすら寒い感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

「なに、これ」

 

 閃光弾ばりのまばゆさから覚め、なのはの視界は回復する。しかし、覆っていた手をのけたその目に映ったのは、いつもの光景ではない。視界いっぱいに広がる樹皮。あまりに巨大、あまりに長大。離れて見てやっとわかるスケールの木。ジュエルシードは、世界樹と呼ばれるクラスの不思議百景と化していた。重量で地面は陥没し、伸びた根はビルに穴を開けて蹂躙する。その範囲は街一つをまるまる飲み込んでおり、被害規模は様として知れない。周りを見回せば、事前の打ち合わせ通り結界が展開されている。広がり切るまでのラグで果たしてどれほど被害が生じたのだろう、今のなのはに外の事はわからなかった。

 

「どうして、こんな……」

 

 油断も、慢心もしていなかった。しかし過信はあったのかもしれない。ジュエルシードはすべからく反応するもので、近所にあれば当たり前のように見つけられるものだと。そして、あるはずのない場所にジュエルシードを見てあり得ないと思ったことで体が硬直した。その一瞬で少年は走り去った。結果がコレ。見逃した手痛い代価はなのはの心に直撃した。

 

 だが、どこにでも例外や予想外というものは存在する。危機管理において様々な予測を立てておくのは普通ではあるが、出自不明正体不明のジュエルシードに対してなら大人ですら酷と言うものだ。街中にあって誰もが見つけられなかったソレを、一体誰がなのはを責めることが出来るだろうか。

 

『大丈夫、なのは?』

「……ユーノ君?……あはは、ちょっと、きついかな」

『……ここからでも木は見えてる。すぐにつくから、待ってて』

「うん」

 

 プツリという切断の感覚を味わって、再び視線は木へと戻る。何も問わないユーノの心遣いが今はありがたい。とにかくこれをどうにかしなければ。結界に閉じ込めたために時間こそあるものの、ジュエルシードを持っていた二人の安否も気になる。それに、なのははさっさと外に出て現場を確かめたかった。もしもけが人がいるなら、自分もその救助の手伝いに参加したいのだ。こうなってしまった、せめてもの贖罪として。

 

「いやぁ、参ったっすね」

「きゃあ!?」

 

 いきなり後ろから現れた人影。普段なら気づくはずの他人の気配がちっとも感じられなくて驚く。思ったより自分は憔悴しているらしい、それを感じながらなのはは後ろに振り向いた。

 

「え、えーと。……新人さん?」

「ひどいっすねぇ、自分ちゃんと名前ありますよ?新庄甚吾っす」

「ご、ごめんなさい」

 

 名前をちゃんと覚えていなかったことにしゅんとする。今は何を言っても落ち込みそうな雰囲気だ。反して新庄は警察らしく落ち着いた穏やかな雰囲気であったが、中身のリーゼロッテは心中で怪訝な感情をあらわにしていた。

 

(いやぁ、まさかここまでとは思ってなかったにゃぁ。もしかしてジェック君こうなるって知ってたのかな?だとしたらちょーっとばかり後でお話聞かせて貰わないといけないんだけど)

 

 諸々の事情から彼の計画に賛同したギル・グレアムの使い魔である彼女たちにも、その内容は行き渡っている。そのためどういうふうにするかは聞いていたが、どうなるかまでは聞いておらず、ここまで大きな被害になるとは予想していなかったらしい。尤も、相手がロストロギアで有ることを考えればむしろ予想の範疇であり、これだけ人が密集している中で被害が出ないほうがおかしいのだ。

 

(とは言っても、殴って終わるのかなぁ?脳筋だからあまりこういうことわからないんだよねぇ。助けてアリア~!)

「その、どうしてここに?」

「……ん?」

 

 そこそこな体格の男が女性の内心で唸って遊んでいると、タイミング良く新庄がいたことが不思議だったのか訪ねてくる。

 

「ああ、そろそろ街中の捜索も切り上げたいっすからね。こまめに探してたところっす」

「そうですか……」

(本当は、初めからここで待機してろって言われたからいただけなんだけどねぇ)

 

 今回の騒動の原因は、ジェックが能力で少年少女とジュエルシードの縁を固く結びつけたことにあった。それによりジュエルシードの発動はほぼ決定事項となる。なのはが一瞬不自然なくらい呆然としたり、カラスに邪魔されたりした理由はこれにあった。このレアスキルは結果を作り出すために、過程に障害となる行為が行われる可能性があれば他の要因が邪魔をする。それは思考であったり、トラブルであったりと様々だが、ある意味このレアスキルは運命干渉に近い。元より他人との縁さえあれば時間遡行までやってのけてしまう能力だ。制御範囲が漠然としているだけあって、応用や詳細設定はかなり細かく効くようになっている。今回もその一端と言うわけだ。

 

(ここまで大げさになるとは思ってなかったけど。ジェックめ、あとでとっちめてやる)

 

 そのせいで、なのはの心にちょっとした影を落としたことを見て取ったロッテ。さすがにこのままというのは後味が悪い、とカバーを入れることにする。

 

「まぁ、大丈夫っスよ。結界は即座に広がったようだし、被害を受けたのはこの中の見た目ほどじゃない。それに、外で一緒にいた大学生とか、警察のすごい人とかが救援活動を手伝っていることだろうからね。とりあえず今は、目の前のことに集中しようか」

「……わかりました。そうします!」

 

 何らかの決意をしたのか、巨大樹を前に半身をレイジングハートを構えるなのは。その瞳には光が満ちている。

 

(……立ち直りが早い。目的を絞ることで覚悟を促した、か。とてもじゃないね、この子本当に小学生かにゃぁ?)

 

「なのはぁー!」

「ユーノ君!」

 

 そこにユーノも合流して結界内の人間は揃う。しかし、既に新庄がいたことに彼も疑問をいだき、なのはと同じ回答をもらった。

 

「近くにいたなら、すぐに結界をかけれたのでは?」

「あいにく苦手で覚えてなくって。ユーノ君の結界ってちょっと特殊じゃないっすか。自分用のコンバートがまだ間に合ってないんすよ」

「そうですか、なら仕方ないですね」

 

 不思議な事に、デバイスを持ちながらも新庄は拳一つで事をやってのける武力派だ。そのため結界や複雑な構成の魔法が苦手、という設定をしている。中身の正体を気にさせないのであれば強固なモノを張れるのだが。ではユーノから教えてもらったら?と思うかもしれないが、魔法の発動処理は個人個人で特性が違うので、相性が悪ければそのまま発動しないのだ。これはなのはも同様である。

 

「それで、ユーノ君。前のようにジュエルシードを狙えばいいのかな」

「それがわかれば、だけどね」

 

 この木のでかさでは、豆粒を探しだすのと同じレベルだ。そのうえ先と同じように魔力反応が無ければ意味が……そう思ったところでユーノは首を傾げた。

 

(そういえば、あの時は常識をなぞって話をしたけど。……魔力感知出来ないならジュエルシードの発動だって同じ事では?)

 

 さっきは確か、発動を感知したのだから自分は結界を発動したんだよな?と考える。つまり今は、

 

「ディテクターで見ると、木の中心部あたりっすね」

「ええ!?反応出てるんですか!……レイジングハート壊れてたり?」

「遺跡から発掘したものだから、案外ポンコツなのかもしれないね」

 

 自分も管理者登録できなかったくらいだし、そう思いながらユーノも新庄もレイジングハートを見やる。

 

『Please don't say rude things』

 

 失礼なと言い、続けて私、怒ってますとばかりにペカペカと明滅する。ここまで感情表現を顕に出来るデバイスを珍しいと思いながらも、ユーノは「ごめん」と謝罪を入れた。更に、今はレイジングハートも反応をキャッチできているらしい。先ほどの不思議現象はあの時限定だったということか。

 

「はは……まぁわかったなら、後は撃てばいいってことだよね!」

「ジュエルシードを持っていた子には当てないようにね」

「勿論!」

 

 気合は十分エンジン全開。リンカーコアをフルに回転させるイメージで魔力を収束させていく。

 穿つは幹の中心、ジュエルシード。魔力の高なりを声に乗せて魔法を紡ぐ。

 

「ディバインバスター!」

 

 叫びとともに桃色の閃光が疾走る。その一撃は木へとつなぐ直線を一瞬でつなぎ、相手へと強烈なダメージを叩きつける。が、しかし、

 

「……え?」

「そんな」

 

 自慢の技は幹の表面を多少削るだけに終わった。比喩的な表現をするまでもなく、とにかく硬い。魔力で編まれたそれは木ではなく、木のように見える何かということなのだろう。

 

「あっちゃぁ。やっこさん、えらく硬いっすね。しかも……」

 

 枝が蠢き……、

 

「とてもお怒りのようで!!」

「――っ!」

 

 3人めがけて数本、木製の槍が飛来する。元からあった縮尺をまるで無視するように伸びるソレは、煙が後を引く追尾ミサイルだ。とにかく、避ける。ディバインバスターとは劣るが、高速でこちらをめがけて飛ぶ精度は高く、余裕を持って避けたなのはですら冷や汗をかく。ユーノにいたっては慌てたように大きく距離を取っている。新庄は軽くステップをとるだけで、枝を横目に躱し、体を中心に回転を生み殴りかかった。フックの形で魔力を纏わせたパンチは、伸びて細くなった枝を容易く抉り、折る。どうやら枝はそこまで硬くないらしい。

 

 しかし、折らなかった枝の方、ユーノとなのはを襲ったそれらは変化を開始した。太い部分から大量に枝分かれを始め、先とは反対に空間を埋めるように鋭い針が伸びる。

 

――今度はスナイパーライフルじゃなくてショットガン!?

 

 即座になのははレイジングハートをソードモードへと変形させ、魔力刃を振り上げる。バラバラに切り刻み、空いた上空に引っ張り上げられるように上昇して再び距離をとった。ユーノも攻撃を受けないように全周をプロテクションで固めながら退避を開始する。元より反撃手段を持ち合わせていないユーノには苦しい展開だろう。

 

「これじゃぁ、ジリ貧だね」

「何か手は無いっすか?ユーノ君」

 

 問いに、ん、とユーノは思考する。その間もシュルシュルと枝が伸びてきているので、露払いはガチンコ体質の二人が引き受ける。

 

「……そうですね、ジュエルシードまで幹を削り取る。

――それか、ディバインバスターを超える威力の砲撃を撃つか、どちらかですね」

 

 どうです?とユーノは新庄に語りかける。枝をなぎ払いつつも、彼はお手上げとニコリと笑う。

 

「カンナがけはかんべんして欲しいっすね」

 

 あの枝だらけの中に突撃するのはリスクが伴う事も付け加える。

 

「じゃあ、なのはは?」

「……えっと、出来るかも」

「さっきのがマックスじゃないの!?」

 

 わずかに間をおいた回答に、何故さっきやらなかったのかと問いかける。なのはは「うっ」と言葉を詰まらせ、

 

「今までそんな長い事貯めるような事が無かったから……」

 

 と言った。その答えにユーノは空中にいるのに器用にずっこける。一端の剣士の精神を持つなのはは、全力でもどこか余裕をもたせている。つまり知らず知らずセーブしていたようだ。加えて、チャージを長く取らないのは彼女の戦闘スタイルにも関係している。近接高速戦を挑む以上、チャージにかまけて足が止まるのは愚の骨頂だ。そのため模擬戦などではチャージの時間はわずかに、手数を優先させていた。ところが、それでいてもディバインバスターが当たってしまえば相手は倒れてしまうのである。それは今までのジュエルシードも同じであり、大技の必要性を感じなかった。管理世界での魔導師のセオリーは大技を用いる場合、バインドで相手を固定させてからのコンボになる。しかし今ココにいるなのはは、バインドを見たことがないし、ユーノも見せたことがなかった。

 

「まぁ、そういう失敗もあるっすよ。子供だし、判断が甘い時があるのは仕方ない仕方ない。後悔するよりも反省して次に繋ぐっす。ほら、今からでもなんとかなるっすよ?」

「そういうこと、だね。僕と新庄さんは守りに徹するから、後は頼むよ」

「うん!今度の今度こそ、本当の全力です!」

 

 気合を入れて再びチャージに入る。それに危機感を覚えたのか、再び伸びて襲い掛かる枝の群衆。しかしそこを通す理由は二人にはない。

 

「邪魔を、するな!」

 

 自身をプロテクションで守りながらも、ユーノはチェーンバインドを展開して枝をからめ捕る。抵抗して枝も更に伸びようとするが、魔力で編まれた鎖がギチギチと軋むもちぎれることはない。

 

「ついでにそらよっと!」

 

 即席の相方は華麗な空中機動で枝を翻弄しつつ、殺人パンチをがむしゃらにふるいながら折さばいていく。彼が高速で駆け抜けた後は無残にも焦げたような跡が残る枝の断面のみ。ついでとばかりにユーノが捕縛した枝も崩していき、手があくように連携を図る。意外なことにこの二人、チームワークの相性がいいようだ。

 

 一方、なのはの方は普段の限界点を超えてチャージを続けている。足元に広がる魔法陣はその処理の量に、更に直径を拡大させていた。しかしなのは自身も驚いている。チャージの容量に、底が見えないのだ。やったことがなかったために気づかなかったが、もしこれを最大限までタメたらどうなるか。現段階でもかなり余力を残しているというのに。

 

 そして枝が伸び縮み、繰り返すこと都度3回。一撃必殺の砲となる魔法のチャージが、完了する。

 

「ユーノ君、射線上から退避っす!」

「了解!」

 

 バチリ、と跳ねるように両者が反対側に逃げる。目下の敵を二人に定めていた枝は彼らの動きに迷い、若干進行が止まった。

 

「ディバインバスター・フル、バァースト!!」

 

 その瞬間、先の直射砲以上の巨大な半径を持って閃光が突き進む。それはさながら超巨大なプレス機の様に迫る面であり、逃げ場を失った枝は接触するたびにメキメキと軋み、瞬間チリとなって消滅を開始した。更に枝を伸ばして抵抗しようとするも、そんなものは無駄とばかりに物ともせず進む。そして、巨大樹の表面に達した時、

 

 直射砲の魔力が()()()()()()した。

 

「「「…………は?」」」

 

 ドガガガガ、と連続で爆音をかき鳴らしながら、幹を猛烈な勢いでゴリゴリ削っていく砲撃。もちろん撃ったのはただの直射砲であり、何も爆弾を複数個投げ込んだわけではない。だというのになのはの魔法は性質を変化させ、一切の容赦なく木にダメージを与えた。砲撃が拡散したのち、残ったのはいくつものくぼみを残しながら、幹の中央を丸くくりぬかれた無残な姿。

 

「……収束させすぎた魔力が圧縮に耐え切れずに炸裂した?……非殺傷でも食らいたくないな、あれ」

「……人間兵器っすねもはや」

「は、はは。撃った私もビックリなの……芸術?」

『Exploded, is magic power.master』

 

 レイジングハートに無慈悲なツッコミをされて、ガックリと項垂れる。どうやら冗談ではすませられないらしく、自分の持つ妙な特性に「何なのぉこれ」と天を仰いだ。その間にも巨大樹は頂点から枯れるように崩れ去り、最後には二人の子供と封印されたジュエルシードだけが残ることとなった。

 

 

 

 

 結界が解かれた後に見た中心部の光景は、凄惨たるものだった。ビルのそこかしこに穴があき、道路は掘り返されたように盛り上がり、車は引っくり返る。最早これは、自然災害の光景と大差がなかった。しかし被害があったのはほとんどその中心部周りだけで、結界自体は間に合ったのかそれ以上の拡大は防げていた。落ち込む間もなく、早々になのはも救助活動に加わる事となった。

 

 後から聞いた話だが、この事件があった直後に自衛隊が急きょ派遣されたらしい。警察のほうではずいぶんともたついていたようだが、政府判断だけは異常に早かったことに、話を聞かされていたユーノは首をかしげていた。だがそれでも人手が多いことは良いことであり、作業はつつがなく進んだ。だが、不思議なことはまだ続く。

 

「けが人がいない!?」

 

 新庄の報告に、なのはとユーノは驚きの声を上げた。あれだけの破壊の末に、被害者0とはミラクル以外の何物でもない。いないことを喜ぶより、常識のほうが先に根を上げる。確かに、自分たちが崩壊したビルを探索した時も崩れている部分はあれど、それに当たったとか、下敷きになったという人は一切いなかった。それどころか、幸運にも目の前でがれきが崩れ間一髪で避けることができた人、枝が突っ込んできたにもかかわらず、幸運にも目の前で不自然に曲がり逸れていったのを見た人、車が引っくり返ったが、幸運にも一時停車して外に出ていた人。

 

「しかも、中心部に残っていた人物は食事に出ていたとかで、そんなに多くなかったそうっす。ビジネス街だから、休憩時に人数が減るのはわかるっすけど、これはちょっと異常っすね」

 

 一体どれほどの幸運があったのだというのだろう。まるで超常的な何かが関与したとしか思えない災害だった。

 

 思えば、今日はずっと変なことばかりだった。

 傍にいるのに全く反応しないジュエルシード。一回見まわしたはずなのに、まるでタイミングが悪かったからもう一回!とばかりに再び振り向いたなのは。そして偶然にも視界に入れたジュエルシード。少年はとんでもない速度で走りだし、間をおいたのに空を飛んでも見つからず、挙句の果てにはカラスに邪魔される。結界を使えるユーノは捜索に分断され被害が出て、なのに被害者は誰一人としていない。

 

 まったくもって、意味がわからないとしか言いようがない。

 

 そんなちょっとしたパニックに陥っているうえで、新庄はこう続けた。

 

「そういえば、こんな報告も入ってたっす。巨大樹による破壊があった頃、ビルの路地裏あたりを駆け抜けるなのはちゃんに似た少年を見たとか。なのはちゃんなら丁度結界の中だから、見間違いだと思うんすけどねえ」

「そ、それはどこで!?」

 

 情報に異様な食い付きを示すなのは。その表情には驚きと、どこか焦りのようなものも浮かんでいる。

 

「確かあっちのほう、ってあら?行っちゃったっす……」

 

 新庄が指をさした方向に、なのはは旋風のようにすっ飛んで行った。遠くを眺める新庄、それを後ろから訝しげに見つめるユーノの視線に、終ぞ彼は気づかなかった。

 

 

 

 

――あの子はどこにいるのだろう。

 過去、4歳の時に会ったあの子。まるで私が少し大きくなったような姿で現れて、デバイスを貸してくれた子。

 

――どうしてもお礼を言いたくて。

 でも気がついた時には、まるで夢だったかのようにあの子は消えていて。探してもちっとも見つからなかった。

 

――あの子との繋がりは手の中に残ったただひとつのデバイス。

 名前がわからなくて、きちんと返せた時に名前を聞こうと思って仕方なくネームレスと呼んだ。

 

――あの時会ったお医者さんは何かを知っているようで。

 でも病院で聞いたらそんな人はいないって言われた。数年後に魔法を発明したあの人と同じ名前ということを知った。正体を隠してのお忍びだったのかもしれない。だけど、私には彼に会う術も伝手もなかった。

 

――結局、私に似た私に会うことは5年経っても出来なかった。

 今頃慌てるのは何様かと思うかもしれないが、出来れば会ってお礼をしたい。ただ、それだけなのに。

 

 

 

 

 複雑に入り組んだ路地裏になのはは入っていった。そこで生命探知までかけて探したが、それらしき人はおらず何も見つからなかった。

 結果に落ち込みはしない。それは見つからなかった昔と変わらないから。むしろ、少しだけも影がつかめただけでも僥倖というものだろう。あの子は湖の街にいるのだ。

 手の中にある、一つのデバイスを見つめる。それはレイジングハートを手に入れてから使わなくなった、しかし大切な宝物。自分とよく似た子から授かった、「何も出来ない」自分の背中を押してくれたあの子との縁。

 

 「ネームレス」、その繋がりだけがあの子との間に残った僅かな希望。

 

「きっと、見つけ出してみせる」

 

 一体どんな偶然か、巨大樹が生える場にあの子はいたらしい。なのはは何故か、しかし直感的にあの子がジュエルシードの件に関わっていると感じた。自分には出せない、何かとミステリアスな雰囲気を漂わせていた子だ。それくらいはあっても、いや、そうならば再び会う運命のようで。

 

――ちょっとだけ、嬉しいかなと感じた。

 

 少しだけ深呼吸、色々な事をすっぽかしてユーノも置いてきてしまった自分に反省。どれだけかかっても見つけよう、それだけを心に彼女は踵を返すことにした。

 

「……あれ?なんで新庄さんは少年なんて言ったんだろう?」

 

 

 

 

 とある次元航路を進む一つの次元航行艦。ペンキやスプレーで塗りたくったようなパンクなデザインはあまりに奇抜で、しかし無形のそれは乗員の性格を表しているのだろう、見事なまでに無秩序である。そんなファンキーな艦に一人、全く場にそぐわないスーツを着た堅物の中年が椅子に座ったまま、苛立たしげに革靴でタップを繰り返している。それを喧しいと怒鳴る者はいない。むしろ周囲の方が騒がしすぎて、彼の立てる音はちょっと音の小さいドラムのようでしかない。むしろ苛立っているのは本人であり、しかしそれを注意しようにも臆病な性格の彼の立場は低かった。

 

 次元傭兵集団「ダークアイズ」

 

 痛々しい名前に正しく従う、次元世界の傭兵ギルドの一つ。その体は犯罪者集団と言ってもよく、活動内容の大半が違法の危険な集団だ。そんな彼らの所有する船に、何故男はいるのか?それは彼がギルドの雇い主であるからであり、依頼した捜索物を確実に自身の手に入れるためだ。

 

 それが落ちた場所は、地球。名前はジュエルシード、人の願いを叶えると噂のロストロギアだ。

 

 地球に近づくにつれ、どうやら大きな魔力反応があったらしく、彼に荒野のギャングみたいな男から話しかけられる。

 

「おぉい!どうやら見つかったみてぇだぜ!てめぇの言ったとおりなら願いを叶えるとかいうロストロギアが21個あるんだったなぁ!そいつを山分けで依頼しようなんざ気前がいいじゃねえか!ギャハハハハ!」

「あ、あぁそうだ。私は一つあればいいからな。それさえあれば他は君たちに譲るよ」

 

 多少キョドりながら中年男性は答えた。多分にビビり要素が含まれているが、それを彼らが気にすることはない。

 

「しかもあの星の人間は魔法を覚えてねえ!管理局だって早々こねえような僻地だ!殺したい放題やれるってわけだ!」

「バッカ女だろ女!攫って犯してポポイのポイだ!原始人だってオ○ホの代わりにはなるだろうよ!」

 

 ゲラゲラと平気で危険なことを抜かす集団に、彼は更に肩を縮こませる。本来なら彼はこの集団を取り締まる側なのだが、力のない非力な腕、そしてリンカーコアのない自分には難しいことだった。そもそも自分から不正なルートを用いて依頼をしたのだ。バレてしまえば自身も立派な犯罪者。同じ穴の狢というやつだ。しかし力があったからといって、恐らく彼はそれをしないだろう。何故なら彼は自身の出世にはなんでも使うような野心家なのだから。

 

「落ち着けお前ら。騒ぐのは後からでも出来るだろう。さっさとポイントを割り出せ」

 

 深く低い声が彼らの行為をたしなめる。無秩序でありながらしかし、彼らは集団でありリーダーが存在する。それを聞いた男たちは一瞬にしてモニタへと視線を戻した。一喝で彼らを従えた男、ガラナは魔導師とは思えないようなはち切れんばかりの筋肉質の男だ。魔力はそこまで高くないものの、腕っ節一本で彼らをまとめあげる実力は相当なものである。一体何故そのような男が悪党などをやっているのか、それは彼だけが知っていることだ。

 

 ガラナは依頼主を一瞥し、フンと鼻息を鳴らしながら視線を戻す。先からずっとキョドっている姿は気に食わないが、しかし依頼そのものには自身に帰ってくる利益が高いと感じてそれを受諾した。金も出て拾い物は高い能力を持つロストロギアだ。これがあればこの集団は更に敵無しになれるだろう。

 

 地球まではまだ少し時間がかかる。あと――、一週間。それが絶望を告げるまでのタイムリミットだった。

 




 在宅でのんびり仕事が出来るはずなのに二徹とか、どうなんでしょうね。おかげで忙殺されてたので週二更新はできませんでした。文章も荒っぽいかもで申し訳ない。
 にじファンでの内容はココまで。しかし改訂でゴッソリ内容変わっててほとんどタイトル以外が変化してる当SSに「移転してきました」をつけるべきだったのかは今でも謎。むしろそろそろ取っていいんじゃないかな、時間も大分経つことだし。今更あるないでどうこう言うこと無いでしょう。……というかにじファンでこの作品を目にした人はほとんどいないはず……っ!(泣
 次回はやっと待望の金髪しょ……とはいかないんだなぁこれが!(泣
内容は閑話的なものになります。「なんで木がこんな強いんじゃオラァ!出てこんかジェックゥゥゥ!」、「衝撃!ドッペルゲンガー事件!」、「ユーノ君首相と会う!」の三本です。


一家に一台CLAPTRAPが欲しい。ウザ可愛い。エェェーンドオープゥゥン!


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Gossip_1

説明しましょう!(開き直り)


「バックホームにゃう」

 

 夜半過ぎ、精神的に疲れた体を引きずって新庄甚吾、もといリーゼロッテはマンションの一室へと帰還した。使い魔としての矜持か、体力的には問題なかったもののあの後の処理や引継ぎでかなりの時間を食われた。なにせ佐伯刑事が経験経験と丸投げするので休む間も無かったのだ。玄関を閉めた頃には既に変身魔法は解いており、女性の、素体となったネコじみたしなやかな肢体をソファに投げ出す。ギル・グレアム名義で購入した3LDKには女性らしい趣味のものであふれている。ファッション雑誌に化粧品、ぬいぐるみにネコの日用品、正直新庄の部屋とするなら到底他人に見せられない部屋模様。勿論今まで正体を知っている知人以外を部屋に上げたことはない。その時は仮の住居としてわかりやすいくらいのボロアパートを利用することにしている。

 

 話を戻す。今回の件は実にハードだった。管理世界前時代の重火器あふれる血みどろの抗争を抑えることと比べれば簡単だが、子供のフォローや成長、地球の経過を見守るのはクロノを育てたとはいえ、あまり自分に合っているとは言えない。皆好き勝手に動き過ぎなのだ。月村一家は何を開発してるのかわからない魔窟を形成しているし、監視対象の高町なのはは魔法を使ってドコかに飛んでいくし(それが空撮だと知ったのは随分後のこと)、管理局のグレアム派は改革のために裏でゴソゴソしているし、その使い魔のリーゼロッテはそのあおりでかなり割を食っていた。ぶっちゃけ、闇の書の監視の方がまだ楽だったのではないかと思う。そっちはリーゼアリアが担当しているし、特に変装する理由もないので闇の書の主本人の目の前に姿を晒して呑気に過ごしているらしい。双子というのにこの格差は一体ドコで生まれたのだろうか、今度姉をとっちめてやろうと心に決める。

 

「まぁ、その筆頭はジェックなんだけどねえ」

 

 根本的な原因は高町なのはによく似た少年、ジェックがあれやこれやと裏でそそのかしたせいだ。未来知識として提示された犯罪者のブラックリストや以後闇の書がどうなるかの経緯、これから起こる事件についての対応等を協議する際、クライドはグレアム達に彼が未来から来たことを話さざるを得なかった。それだけの情報を納得させるもっともな言い訳を彼は思いつかなかったのだが、彼らを信頼していたために初めから明かすことに決めていたらしい。クライドが生きている事に始まり細かな部分で明かされた情報の差異を感じ取っているが、知っている故の面倒臭さは折り紙つき。いちいちタイムラインの確認なんてやってられるか、と匙を投げそうになる。

 

 しかしクライドが死ななかったことは、グレアムにとっての最悪を回避できたことだ。もしも死んでいたらグレアムは視野狭窄に陥り、闇の書を封印するために躍起になる。そうなれば魔力でつながった使い魔の二匹も彼の恨みの感情に引きづられて、手段を選ばなくなるだろう。それは管理局員としては義に反することだ。そしてグレアムが深い恨みを抱かないことによって、ジェックの提案を受け入れる下地も整えられたことになる。それは彼が闇の書をどうにかできるという計画があったからこそだが、何もかもが手のひらの上のようでリーゼロッテはあまり面白みを感じていない。

 

「うーん、なんかむかついてきたぁ。これは間違いなくイタ電コールにゃ」

 

 管理世界謹製の携帯を操作してジェックを呼び出す。2コールもしないうちに彼は電話に出た。

 

『もしもし、ハンサムジェックだ』

「……本気で言ってるのなら質が悪いにゃ。どっちかというと君はカワイイ系に分類されるにゃ、元が元だけに」

『いや、ごめん。で、何?』

 

 しょうもない冗談を放ちながら電話にでるジェック。他人に影響されやすいのか、最近はこういったギャグがはやりのようだ。ミステリアス、というより謎めいて怪しい感じの三流少年ではあるが、一本筋が通っていないのかコロコロと性格が変わっているように見える。尤も周りに奇人変人が多い彼のことだ。そのくらいは誤差の範囲なのだろう。

 

「うんにゃぁ、今回の事件がちょーっとばかり面倒くさくてねぇ?少しばかり文句言おうかと思ってぇ」

『ああ、その件か。まさかあんなに木が強くなるとは思わなかったよ』

「え?」

『……え?』

 

 お互いの情報に齟齬があるのか、共に疑問で返す。

 

「いやいや、ちょっと待ちにゃよ。それって実はあの木は本当は大したコトなかったって言ってるようなもんじゃない?」

『まったくもってそのとおりだけど、あれ?クライド教えてないの?』

「……ちなみに元は?」

『触手一本たりとも伸ばさず高町なのはに粉微塵にされてたけど』

「おいぃ!?どうしてこうにゃったのん!?」

 

 むしろ彼の言う、前の歴史と同じだったらどんなに楽だったかと嘆くが後の祭りだ。

 

「きっとあれね!バタフライ効果とかそういう奴!」

『いや、そういうのじゃないんだけど。今回は多分こっちのせいかな』

「……どういうことぉ?要らない苦労を背負わされた私としてはさっさと白状してもらいたい気分なんだけど?」

 

 それで溜飲が下がるかと言われれば微妙だが、とりあえず納得出来るだけの材料があればヘタに疑問を抱き続けるよりはマシだろうとリーゼロッテは回答を促す。

 

『今回このイベントは撒き餌として使ったのだけど、実際はなのはにとっても重要な出来事の一つだったんだ』

 

 巨大樹の発生、これは前回の高町なのはにとっては「ジュエルシードを集めるのは自分だけ」という覚悟を促す出来事だった。そのためジェックの記録、つまり高町なのはの記憶にこの出来事は強く刻み込まれている。元々ジェックは時間を巻き戻り、崩壊の原因となったロストロギアを破壊し、記憶通りに高町なのはの人生を辿らせ監視させるという役割の元作られた。ジュエルシードの特性によってその行動基準から逸脱できているものの、大きな出来事には逆らい辛く結果としてほぼ同等の出来事を起こすように強制される。今でこそ飄々とした性格をしているが、その本質は機械的な魔導生命体なのだ。今回の場合は利用用途があったためそのまま起こしたが、例えば次の出来事として「フェイトちゃんと初めて出会った」という記録がある。もしもこれを意図的に外すようにした場合、彼自身どのようなバグが起きてしまうかは想像もつかなかった。

 

『で、だ。この出来事は必要不可欠だったために、原因となる少年少女の縁を深く結びつけてしまってね』

 

 今回の手順はこうだ。まず該当のジュエルシードを探知と「縁がない」状態にし、索敵不可能にする。これにより魔力反応は感じられず、目視以外では確認が取れない。そして少年とジュエルシードの縁を結び必ず彼が見つけるようにする。前回の歴史の記録を仮に「運命」と例えるなら、この2点を結ぶのは簡単だった。記憶にあるとおりに行えばいいのだから。あとはお昼のタイミングで高町なのはが見つけられるように「偶然」という「必然」を縁の干渉によってつなげ、世界樹を発生させる。のだが、ここで問題が起きた。

 

『今の高町なのはだと、追いつかれる可能性がそれなりにあったからね。少年少女の縁をかなり強固に結んでしまったんだ』

 

 その結果が、ジュエルシードに呆然とするなのはの不可解な停止と、少年のダッシュ、ユーノの分離とカラスによる妨害、そして見つけづらさを加えたアレである。尤も、彼がしたのは縁結びだけであって、それまでの過程はぶっちゃけランダムで何が起こるかわからない。とにかく巨大樹が発生するようになる、という結果さえ発生するなら後は「偶然」という力技でだいたい片付いてしまう。彼の最大の能力は「絶縁」することによって世界から物を弾き飛ばすことでなく、むしろ縁結びによって生まれる運命干渉にあるのかもしれない。

 

『そんなわけで、強く願われたジュエルシードは前と違って世界樹を超強化してしまったのでした。めでたしめでたし』

「全然めでたくないわよぅ……」

『いや、めでたいでしょ。あの二人、しっかり結婚まで行き着くと思うよ?』

「って、そっち!?」

 

 ハッピーウェディング。頼めばブーケの飛ぶ先から、取ろうとしてバランスを崩したら意中の男性にしっかり支えられるところまでアフターサービスは万全です。

 

「そういうことじゃにゃくて、……いや、もういいにゃ。何もかもめんどくさい」

『こっちは何が言いたかったのかさっぱりだったんだけど。ああ、撒き餌のほうはしっかり機能してたから』

「これからもっと忙しくなると、はぁ」

 

 むしろ本番はこれから。今までは部隊を整えるまでの前哨戦だったに過ぎない。遠くのジェックと近くのリーゼロッテ、その二人がかりで監視しサポートするが、不確定要素の介入には気をつけなければならない。しかし、ジェックの運命干渉によってある程度の未来は絞れるためにその辺りは心配していない。彼女の懸念は戦闘になった場合の事のほう。攻撃力に優れた高町なのはや防御のユーノがいるとはいえ、彼女ら以外は平均クラスの管理局員にすら戦闘能力が届いていない。日和った日本人では本当の兵士が相手ともなると、きっとプレッシャーの質の違いから体がすくむ。彼らを守らねばならない懸念が、頭をよぎる。しかしやるときはやらねばならないので、リーゼロッテは面倒になって考えるのをやめた。

 

「結局、噂を流したらなのはちゃんすっ飛んでいったんだけど、彼女にとって何の意味があったの?」

『……急に話が変わるね』

「ネコは気まぐれなのだよぅ少年。男ならそれくらい流して付き合いなさい」

『やれやれ、君はもう少し猫耳メイドを見習えばいいよ』

「……?私に秋葉原に行けと?」

『いや、うん、まぁいいか。で、続きだが……よく聞けよ』

「……ええ」

 

 どこか重々しい雰囲気に、緊張が喉を伝う。ジェックとなのはの関係は知っている。生み出された者と生んだ者。ジェックにとって彼女は母とも言える存在だ。しかしそれは今存在する高町なのはではない。ならば何故彼は彼女に関わろうとするのか。なのはの反応から彼女はジェックと会ったことがあるのだろう、それもかなり昔に。そして今、噂などという回りくどい方法で自身の存在を認知させる。

 

 そこまで考えたリーゼロッテに、天啓を得る。

 

「そうにゃ!思い出補正によるフラグ立てで彼女ゲッ」

『無いから』

 

 間髪入れず否定する。もしもそうなら彼はマザコンという不名誉な称号をいただくハメになる。ソレはゴメンだろう。

 

『まじめに聞く気がないなら話さないよ?』

「ああんっ、ごめんごめん!ちゃんと聞くよぅ!」

 

 やれやれ、とため息を付いて何かを一考したのか、少し間を開けて話しだす。

 

『俺が歴史を変えるために未来から来たのは、君たちも知ってのとおりだ。元々はロストロギアを破壊するだけなんだが、彼女の願いは皆が幸せでありますように、という思いから来ている。残念ながらそこに彼女自身の幸福は勘定に入っていなくて、ちょっと不憫に思ってね。関わることにしたんだ、それがエゴだとしてもね』

 

 なのはの行動理由を話す前に2つ、言っておくべきことがあると彼は話す。

 

『まずひとつはロッテも知っている管理局改革。高町なのはの献身的な、いや病的なまでのその性格は今の管理局にとって都合のいい駒だ。そして魔力至上主義の元、一人で高い殲滅力を持つことは英雄と称えられる事とイコールとなる。それによって他を必要としない孤独な兵と化すことで、多くの仕事に振り回され相対的にケガを負うリスクは増す。前の歴史では実際死にかけるほどの大怪我を、今から2年後ぐらいに負っている。まだ幼い少女を酷使する管理局は異常だ。明らかに一人が抱えられる仕事の量を超えている』

「み、耳が痛いなぁ……」

『改革はそのためのリスクを減らすためだ。それももし、高町なのはが管理局へ行く事を望んだ時のためのね。勿論改革のメリットはそれだけじゃないけど』

「普通そこは、行かせない!くらいの気概は持つべきじゃない?」

『いくら歴史を変えるとはいえ、彼女の人生は彼女自身が決めることだよ。今の彼女なら入局は防げても、関わらないとは断言できない。いい意味でも悪い意味でも、俺のレアスキルの存在もあるからね』

 

 ジェックは未来の知識によって、障害を取り除く方針こそあるものの、なのはにとっての幸福については彼女自身が考えるものだとしている。例えば過度の干渉によって彼女の将来を決めたとして、それを束縛と捉えられてしまえば果たして幸福だといえるだろうか?前の歴史でも高町なのはは割りと散々な目にあっているが、彼女自身がそれを試練として乗り越えたことで、経験として彼女の糧になっている。

 

 それは、鳥かごの中に閉じ込めるより幸福ではないか?

 

 実際、彼女は死ぬその寸前まで絶えず笑顔で暮らしていた。自身の生き方に誇りを感じ、人々を助けることに意義を持ち、多くの感謝の念に包まれていた。【幸福だった】と感じるのは今ではなく過去の統計という思い出であり、例えその道が苦難に溢れていても最終的に決めるのは自分でしか無い。ならば、どのような道のりを歩いたとしても彼女が幸福だったかどうかを決める事はジェックには出来ない。

 

 だから与えるのは不幸の原因を潰すというキッカケだけ。それは未来知識を用いてこれから関わる人々に対する基本方針である。干渉による束縛はエゴであり、高町なのはの記憶から知っている限りの人々の人生を背負いきるには手が足りず、また重すぎる。誰かの死亡原因を取り除いたとして、その後再び同じような事態にまみえてもジェックは干渉しない。歴史を変えることで不幸になる者もいる。その責任を追うこともまた傲慢というものだ。

 

 それは神ならざる力を有してしまったジェックなりのケジメの付け方。自らの足で歩かなければ人にあらず。他人の人生は客観で定められるものではない。わずかな手を差し伸べるのもまたジェックのエゴであり、魔導生命として生まれた人でない自身の生き方だ。

 

『続けよう。二つ目は彼女自身の性格を変えること。で、それを5年前に実行し、恐らくはある程度成功した。彼女はかなり、悪い意味で前向きだったからね。そこを是正するために必要だった。恐らくはその時の思い出が深く印象に残ってるのだろうね。彼女の手元にはデバイスを預けたままだし、会って返したいとか、お礼を言いたいくらいは考えてるんじゃないかな』

「ふーん。私としてはその内容を聞きたいのだけど」

『長くなるぞ?』

「いいよー。ちゃちゃっと話ちゃいなよ」

『……わかった。ならまずは前の高町なのはについて話そうか』

 

 そう言い、彼ははるか昔を謳うように語りだす。小さな少女が紡いだ、不屈の闘志に満ちたお伽話を。その裏にはびこる、心の闇の話。




 そんなわけで、ジェックの立ち位置の説明でした。縁結びである程度運命を操作出来る事、これってある意味RPGでいえばボス級のキャラです。過度の干渉はいずれ気づいたものが反感を生むような存在。そのため基本方針は書いた通り。

 それでもなのはに関わってある程度性格も変えるほど(本質はそのまま)彼が関わるのは、またエゴであり説明は次回。


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Gossip_2(再編予定)

おまたせしました。
仕事で先週埋まりきってましたorz

ではなのはさん解剖回、どうぞ。

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13/07/18
アンチがすぎるということで再編予定にします。


 高町なのははどういう人物だったのか、客観的に見ることにしよう。容姿端麗、魔力は局内でも上から数えれば早い程の量を誇る。また才能自体も高く、管理局の空戦士官としてエースを張る逸材である。性格は温良優順で他者に対して差別なく接し、管理局内外問わず人気があり彼女に救われたという市民も多く、ごく一部からは天使様と崇拝されているほどらしい。これらの圧倒的人気の裏には管理局に対する不満を取り除く広告塔としての役割もあり、彼女一人がいるだけで場が落ち着くほどの天性のカリスマも持っている。

 

 一方、犯罪者や戦闘において相対した相手は侮蔑や屈辱を一緒くたにしてこう呼ぶ。

 

「管理局の白い悪魔」、敵対する者には一切の容赦も手加減もなく、無慈悲なまでに大口径バスターですっ飛ばされる事からこの名がついた。

また別に、魔王、バスタードランカーなど数多くの呼び名があるが、犯罪者連中からは管理局の犬とも呼ばれる。それは彼女がわかりやすいぐらい「勧善懲悪」のスタイルをとっているからだ。

 

 一見して味方にやさしいようにも聞こえるが、接した部下等から話を聞くと実はそうでもない。その厳しさは味方にも顕現し、訓練時にはとにかく実戦と鬼のようなバスターの嵐をかいくぐる無茶を課せられる。しかしそれをくぐり抜けた兵士たちは「あれを喰らうくらいなら犯罪者のしょぼいシューターのほうがまだマシ」と非常に優れた兵士に成長する。ぶっちゃけ敵より怖いのだ、アレは。皆平等に刻まれるトラウマである。

 

 そんな一分の隙もなく、あたかも管理世界に救世主のように降臨した女性。局の激務にも耐え、数々の難事件を力技で解決し、市民に平和をもたらす。人々は彼女を現代の新たな「英雄」と称した。三提督に継ぐ次代の伝説、と。

 

 しかし彼女は戦いもない、日和った日本国民の一人だった。そんな彼女が何故地球とは全く縁もゆかりもない管理局に入局したのか。ソレには彼女が幼少期に築いた性格が根底にあった。

 

 

 高町家は随分と特殊な家系である。その実態は平和な日本にふさわしくない、暗殺剣の「永全不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀術」を伝える御神の家系だからだ。一部では裏流派の「不破」ではないか?とも言われるが、テロで一族のほとんどが滅んでしまった今、それを言うのは些細な事である。そのような流派が現代において必要か、しかし彼らは実際にボディーガード等を営んでいた。まるで人を超えたような動きをし、高速剣術で敵を圧倒、振るう剣は銃弾をも切り裂き、特殊な技術で木刀でドラム缶すら切ってしまうという奇跡を成す。実は現代の日本には正式な職業として「忍者」があり、特殊なボディーガード等はこのジャンルに位置する。高町家の長、高町士郎もここに属している。

 

 次に高町家の家族構成を見てみよう。まず父の士郎、そして母の桃子だが、士郎は再婚者でありその息子の恭也に桃子との血の繋がりはない。加えて妹である美由希はテロで亡くなった士郎の兄弟の娘、つまり恭也の従姉妹であり、両者との血のつながりを持っているのはなのは一人だ。非常に可愛げのあるなのはは家族に愛され育つも、四歳の時にある悲劇が襲う。

 

 高町士郎の危篤。

 

 ボディーガード業を営む彼の周りには常に危険がはらむ。いくら能力が高い士郎と言えどもどうしようもないこともあり、彼はテロに巻き込まれ瀕死の重傷を負った。治療するために日本に運び込まれた時には虫の息であり、峠を超えられるかどうかは非常に低い確率であったという。しかし悪運というのは連続して重なるものであり、高町家も例外ではなかった。この時桃子はパティシエとして喫茶翠屋を展開しており、その営業がようやく軌道に乗るかどうかという、大事な時期だった。そのため手が離せずロクに見舞いも出来ない日々が続き、父の世話は美由希に任せるしかなかった。恭也は父親のケガにショックを受け、もっと強くならないといけないという脅迫概念から特訓を強行、ほとんど家にいない状態となった。

 

 ならば、なのはは?

 

 まだ4歳である少女に対して、桃子が下したのはひどく残酷な現実だった。

 

「我慢していい子にしててね?」

 

 一見すればふつうのコトかもしれないが、桃子の場合は違う。彼女は子育ては初めてであり、小さい子への対応の仕方を知らなかった。周りにいた子供は既に高い精神性を身につけた恭也と美由希であり、士郎のケガから五里霧中にとらわれていた桃子は彼らと同じ対応をするように、となのはに迫ったのである。せめてもう少しマシな精神であれば、保育園に預けるなり知り合いに面倒を見てもらうくらいは出来たであろうに。加えて言うならば、高町家は自分で決めたことは貫かせるという放任主義であったこともそれに拍車をかけていた。

 

 そして、健気にもそれにうなずいてしまったなのはは長い孤独の日々を送ることになる。皆が帰ってくるまで、ただただ我慢の日々をこなす。不幸にも彼女はソレができてしまった。そして、寂しさからなのはは桃子の言を曲解する。

 

 何かを手伝いたくても、小さくて出来ない自分。手伝わせてもらえないのは「自分が何もできないからだ」。

 

 故に、なのはは孤独を耐え切った事で「不屈」と、自分には何一つ出来る事がない「卑屈」を得た。前者はただいい子で在り続けることで表層化し、後者はそのガワの影にひっそりと沈んだ。これが高町なのはという存在を形作った原点である。

 

 結局彼女のいい子で在り続けるという芝居はその後も続き、文句ひとつ言わない素直な子であり続けた。彼女の内側の闇は払拭されないまま、5年の時がすぎる。

 

 そして9歳の時、彼女の淀みは溢れる。

 

 ユーノ・スクライアよりもたらされた魔法の力。何も出来なかった自分にもたらされたそれに、、彼女は救いと奇跡を見た。

空が飛べ、ジュエルシードを回収すること。どれをとっても地球上では自分にしか出来ないことで、汚点を消すことが出来、誰かを救える行為に「いい子」の自分は感銘を覚える。

 

いい子で我慢し続けたから魔法はやってきた。

これからはいい子であるために我慢をしなくてもいい。

 

 それらの思いは彼女なりの正義を示すスタイルを構築するきっかけとなった。

 

 結果が「言うこと聞かなきゃ倒してでも聞かせる」という、正義を押し付けるための武力行使になってしまったのは実に短絡的ではあったが。

 まぁ元々が根っこの優しい少女なので、悪意もなくその行為がひどいものだと弾劾されることはなかった。むしろ全力で少女が、子供が戦う姿を見て綺麗だと、その思想に共感してしまう人間が大量に出てくることで高町なのはの隠れた狂気は更に加速する。

 

 闇の書事件が終わってからは、小学生という身分でありながら管理局員として奮闘した。高い魔導師ランクと打ち立てた功績から広告塔として奉られ、難度の高いミッションを次から次へとこなす多忙の日々を送るようになる。

 

 そして二年後、雪降るとある惑星で瀕死の重傷を負った。

 

 度重なる疲労が油断を招いたのだ。そもそも嘱託である彼女が何故そこまで深く他所の事件に関わっていたのか。任務を断ることだって出来ただろう。はやてのように管理局に束縛される理由もなく、フェイトのように正式に属しているわけでもない。友達がやっていたから、というのもあるだろうがそんなものは重要ではない。

 

 高町なのはは、恐れていたのだ。

 

 魔法を使わない自分を。魔法が無ければ彼女は再び「何も出来ない子」に戻ってしまう。それだけはゴメンだった。使ってもらうことで、頼られることで、願われることで、彼女は自分の居場所を確保するのに必死だったから。

 

 何故自分はそこまで必死だったのか?ケガをして考える時間ができても答えは出ない。幼少時に受けた深く根付いたトラウマに、気付きたくなかったのだから答えなんて出るわけがない。それを認識した瞬間、きっと彼女はショックを受けて壊れてしまう。今までの自分の行動がただの自己中心的な欲求の副産物でしかなかったなんて。故の自己防衛本能、「私は空を飛びたかった」と違うことに目をそらした。

 

 それからは再び歩けるように、魔法を使えるようになるために地獄のようなリハビリに耐えた。そして管理局員として、エースとして返り咲いたことは前史における美談である。しかし本当に空を飛びたいだけだったのなら、それこそ技術職に転向してもよかっただろう。わざわざ戦闘局員になる必要性は全くない。再びの何故。

 

 それもまたいい子である事に終始するのだが、いい子の定義はこの数年の中で「何も出来ない子でいないこと」から「役に立つエースである自分」に置き換わっていた。そこから外れてしまうことはあってはならないことだった。以降高町なのはは獅子奮迅の活躍を見せる。

 

 その様はまるで語り継がれる英雄譚のように美談に溢れていた。

 

 ある程度してからは上からの指示もあり、後進の育成を始める。彼女の採った訓練方法は、多人数相手をひたすら実戦に慣らさせるスパルタ式、いわゆる軍隊のトレーニング形式だ。考える暇もなくとにかく自分の撃つ射撃魔法をひたすら避けさせて反撃させる。反撃の際にはどのように攻略させるか、ある程度の抜け道を残して手加減し、糸口をつかませる。リタイアこそ少なからず出るものの、彼女の教導によって少なからず自信を付ける局員も非常に多かった。それは現場に出てからの判明することだが、どれもこれも教官の射撃魔法よりかはヌルいと感じて簡単に対応できるのだという。恐るべきは射撃の鬼か、訓練を付けてもらったことを自慢にしても、もう一度あれを受けたいという人間はほとんどいなかったのは余談である。

 

 そして、その実績を買われて……というよりむしろ身内の寄り合いで固められてしまった機動六課に転属。そこでの彼女の仕事は同様に後進の育成、ただし今までと同様に全員を一律に引き上げるものではなく、それぞれが違う技能を持った少数精鋭のストライカーズを育成することだった。ここで彼女は、ミスを犯す。

 

 訓練中の部下の撃墜。

 

 理由は「私の言うことを聞かないため」というなかなか理不尽なものだ。トレーニングメニューに沿っていないのは確かに問題だ。しかしなのはが行なっていた訓練は今までと変わらない多人数用の訓練。そこにあるのはただただ彼女の意志に従うことで、受ける側の意志は介在しない。高町なのははモニター上のスペックのみばかりを重視し、以前と同じ事を繰り返す。しかしソレこそが間違い。

 

 少数精鋭であるならば、それぞれに育成の方針を明かし、将来の見通しを立てた上で個人個人と話し合うマンツーマンの訓練が出来たはずなのだ。ソレを怠ったのはどう考えても高町なのはだろう。「出来る自分」を演じていた彼女は他者の事をまるで考えていなかった。

 

 そして最悪なことに、ここで今までの美談が役に立ってしまう。

 シャリオ・フィニーノが持ちだした、一体いつ記録したのかもわからない「高町なのはヒストリー」。そのビデオから伝えられたものを要約すれば、

 

なのはちゃんは頑張ってたんだから言うこと聞きなさいよ!

 

 という、同情にすがる実に無茶苦茶な内容である。

他の隊長陣営もこれに同意しているのだからいかに身内人事が危険かを如実に表している。そして何故か、また何故かティアナも感銘を受けてしまい自分が悪かったという結論に落ちた。恐るべき高町教。

 

 

 ぶっちゃけこれ、誰も救われてないのでは?

 

 そう思わざるをえないくらい論点をすり替えられ、いつの間にか反省した高町なのはによってこの顛末は幕を閉じるのだが、本当にどうしてこうなった、と言いたい。

 

 そしてしばらくして、今度はヴィヴィオの救出となり彼女は再び自分の身を顧みず杖を振るう。その結果は魔力の数%の減少、という中々に痛い結果に終わった。

 

 とりあえずここまでで高町なのはについての結論を述べよう。彼女自身も気づいていなかったが、彼女はとかく自分の居場所を確保するために必死の自己中心的な人物だった。それが元来の優しい性格と魔法が相乗して良い感じにブレンドされ、他者を魔法で救うという綺麗な正義に意義を持ち、貫き通した。トラウマによる強迫観念と、「魔法しか出来ない」視野狭窄に陥っており、「いい子」であるためには自身の保身は全く顧みない女性の行動は正しく英雄のような姿であったと思う。

 

 そして他者を救うために、死にいく瀬戸際にジュエルシードに願った。自分は「いい子」なのだから、それを願うのは当然で。逆に自身だけが時間をさかのぼり救われようなどとは考えなかった。

 

 語ればなかなかに壮絶な人生を描いているが、それでも彼女は幸せだったのではないか、と思う。義理とはいえ娘も出来、苦労があっても魔法を撃てれば自分の望んだ世界に行けるような生き方をしていたのだ。他人から見れば普遍的な幸福ではなく、随分ととんがった形ではあるが、幸福を決めるのはそれを経験している本人の咀嚼次第。決して客観的に見て「なのはは不幸だった」などと、決められるわけがない。

 

 

「ああ、なんてばかばかしい」

 

 

 ところがこの嫌味たっぷりで言う男、ジェックはそれでもその幸福を否と断じた。彼女の記憶を持つ彼だけは、人生を否定する権利がある。

魔法と世界に振り回されて地球を飛び出した少女の行方は、戦いの禍根。そしてそれしか選ぶ選択肢の無かった彼女の不幸。「高町なのは」を創りだしてしまった原点、それはまず間違いなく不幸な出来事だったと彼は言う。人は自らの責任で選んでその道を進む。ならば流されるままに選びようのない人生を過ごした人間は、人間足り得たのだろうか。人間でない自分だからこそ、その人生に疑問を抱く。

 

 

――ならば変えよう。

 

 

 出来るように、選べるように。変えるべきは原点と、周囲の環境そのもの。それは彼女が生まれるよりも前からの、長期的な計画となる。その過程で今までに彼女が会ったことがない人物や、彼女が関わった人物達の不幸もすくっていこう。それらはは少女の道筋を整える際のちょっとした棚ボタ……いや路傍の……でもなく、彼女からの頼まれ事だから。彼女の新たな幸せを掴み取るために、周りの不幸を見せないように埋めていこう。

 

――過去へと渡り、再びいくらかの年月が過ぎた、2000年のとある日。最初の転移から6年後頃。彼は原点を変えるために動いた。

 




彼女の善は自己欲求を叶える上での手段だった。ただそれに本人は気づいてなかったけど。というお話でした。

それがひょっこり顔を見せるのはStrikersの時でしょう。ティアナ撃墜しかり、病院でヴィヴィオを歩いてここまで来い!してみたり。なのはさんの行動は基本的に「私がこうしたからお前も同じようにしろ」みたいな印象が結構強かったと思って解釈してみました。一向に改善がみられないなのはさんェ……。見事に高町家の悪いところを引き継いでます。


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Gossip_3

 多少文章を簡略化してみた(つもり)が、どうでしょう?かなり内容的には長引きましたが……。


 もうすぐ夜が来る。4歳のなのはにとってそれは家族が帰ってくる待ち遠しい時間でもあり、自らの心をそのまま顕在させるかのような寂寂の時間でもある。高町士郎、父が重傷を負い海鳴病院に運び込まれてから1週間。未だ目覚めぬ父に忙しなく働く母、世話のために家を空ける姉にドコへ行っているのかも知らぬ兄。大黒柱の危篤は家族を引き裂き、漏れずなのはもひとりきり。

 

 しかしそんな時間になっても彼女は寂しさを埋めるために家に帰るのではなく、ただ一人放置されている現状を憂いて公園のブランコを漕いでいた。ギィギィとだけ響く音は静寂を壊す異音、昼は活気ある公園も今やそれぞれが帰途についてからは閑散としている。かといって、昼からずっとそこにいるものの、なのはが誰かと遊ぶということはなかった。「我慢すること」が今自分に課せられた最大限に出来る手伝いで、他の皆も何かを我慢して行動しているのだから、自分だけが平気な顔をして遊ぶことは出来ない。いつの間にかそれは「一人で我慢すること」に内容が変わっており、必然彼女は一人のまま。最初の頃は誘われる事こそあったものの、今では誰も手を取ることはない。彼らは雰囲気のまるで違うなのはを異物のように扱い、完全に無視していた。

 

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 幼いなのはにはわからず、親の言うことが何よりの理不尽であることもやっぱりわからない。自分は他に何も出来ないから今こうしてここにいる。小さいながらも何かを手伝いたい。そんな思いを抱いていても、叶うことはない。いい子でいるためには言う事を聞いていなきゃいけないのだ。ならばソレ以外の行動を取ろうとする自分は間違いなく悪い子である。なのはの思考はかなり両極端だった。

 

 俯いた瞳から溜まりに溜まった涙が溢れる。しかしそれを家族に見せてはいけない。ゴシゴシと裾でそれを拭ってブランコから降りると、不意に後ろからジャリという音が聞こえた。

 

 背筋がピーンと直立する。

 

 自分以外に誰もいなかったはずの公園に、誰かの足音がする。それも入り口とは全く関係ない方向から。唐突な出来事になのはは心を恐怖で震わせる。夜に、誰も居ない場所で、何かが突拍子もなく現れる。彼女の脳裏にひとつのフレーズがうかんだ。そう、オバケだ。

人は自身の知らない超常に根源的恐怖を抱く。知らないことが多い、つまり怖いことだらけの幼いなのはにとって初めて邂逅するとんでもない珍事。叫んで逃げられたらいい。しかし手が震え、足はすくみ、体を動かすことが出来ない。

 

 だが興味もある。見たこともないものを見てみたい好奇心と、オバケではないと自身を安心させるための確信を得るための行為。なのはは勇気を振り絞って…………後ろを見た!!

 

 

「やぁ」

「くぁswでfrgtyふじkぉp;@!?!?」

 

 ニッコリと笑う心からの笑顔。それは自分と全く同じ顔をしたドッペルゲンガーの姿で、

 

 

 間もなくなのはは気絶した。

 

 

 

 

「えーっと、大丈夫?」

「……は、はい。ありがとうございます」

 

 少しして立ち直った後、なのはは自分に似た誰かの手によって介抱されていた。起きた瞬間こそ再び驚いたものだが、よくよく見れば背丈や表情が結構違う。ただ、その姿はまるで未来の大きくなった自分を見ているようで、なのはの予想ではだいたい8から9歳くらいではないだろうかという考えだった。さらに言えば触れることも出来、わずかな外灯の光源から照らされる足元には確かな影があり、ホっとなのはが安堵の息をはいたのはほんの少し前。

 

「いや、自分によく似た子を見つけてね。声をかけようとして近づいたんだけど、ごめんね驚かして」

「き、気にしないでください。大丈夫ですから……」

 

 ほんとうによく出来た子だ。そんな感想を抱いたのかウンウンと頷く。そんな自分似の誰かさんの姿を見て、なのはは名前を聞いていないことを思い出す。

 

「私、高町なのはです!その、お名前はなんて呼べばいいんですか?」

 

 そんな妙な言い方をしてしまったのは、対する相手が自分似だったからだろう。相手も高町なのはではないか?と思ってしまった。

 

「うん、ドッペルゲンガーさんでいいんじゃないかな」

「え、えぇ?そんなのでいいんですか?」

「構わないよ」

「じゃ、じゃぁその……ゲンガーさんで」

 

 あまり納得いかないのか難しい顔をしている。どうやら彼女には名前に何かこだわることがあるようだ。しかしとりあえずそれはおいておく。

 

「その、あの、なんであなたはこんな時間にこんなところにいるんですか?」

「それ、そっくりそのまま返しても?」

「う……」

 

 答えに窮する。確かに今の時間に自分のような子供がいるのはおかしかった。

 

「まぁ、何か理由があるんだろうけどね。君ぐらいの年頃ならそう、プチ家出ってところかな」

 

 子供が行う家出と称する別の何か。大概が近所の公園に出かける程度のかわいらしいものである。

 

「ちちちち、違います!家出じゃありません!」

「じゃぁ、なんで?」

「それは……」

 

 自分の行動を省みて恥ずかしくなったのか、勢いのまま否定する。しかし否定してしまった以上、何らかの理由を自分から言わなければいけないような気がして、はぐらかすことが出来なかった。何よりまるで自分の生き写しのような人に会ったという偶然に運命を感じ、ほんの少し、今の自分を打開してくれる気がして話をしたくなっていた。この人なら打ち明けてもいいのではないか、と。

 

「その、私の話……聞いてくれますか?」

「いいよ。言ってみな?」

 

 

 

 

 彼女の語ったことは既にジェック、もといゲンガーが知っていることだった。何も出来ないことに無力さを感じ、辛さに耐えながら送る日々。なのはは幼いながらも聡明で割り切りが早い。そのため親の言ったことはそのままそのとおりなんだろうと受け入れてしまっていた。

 

「なるほど。それでこうして黄昏れてるわけだ」

 

 納得したよ、と大げさにウムウムと振りを入れながら返事をするゲンガー。しかしそれだけではないのだろう、なのはは彼の次の言葉を待っていた。

 

「バカだろ、君」

「ば、ばかぁ!?」

 

 生まれてこの方言われたことのない言葉に仰天する。周りは自分を褒める(甘やかしているとも言う)人ばかりだったから新鮮だった。しかし早々味わいたいものでなく、なのはは「バ、バカって言った方がバカなの!」と返すのがやっとだ。そんな事も気にせずゲンガーは話を続ける。

 

「他人の言ったことを鵜呑みにしてどうする。確かに君はまだ小さい、出来る事には限りがあるだろう。が、やらずに出来ないのとやってダメだったのとは話が違う。君が今とっている行動はただの【諦め】だ」

「で、でもお母さんはいい子で我慢しててねって!私はいい子でいなくちゃっ……」

 

「その言葉のドコに何もするな、という言葉があるんだ?そして、何かに挑戦することが悪い子ということになるのか?失敗することもあるだろう、迷惑をかけるかもしれない。だけど、君が挑戦することに対してお母さんとやらはそれを叱るのか?」

 

「そ、そんなことないもん!」

 

 言って、やっと自分の考えが曲解していることに気づくなのは。だがその挑戦による失敗は桃子が後処理をすることになる。それが迷惑をかけることになるという事をわかっているなのははどうしても次の一歩が踏み切れない。

 

「なら、まずは確実に出来る事から始めるべきだろう。幸い君は頭がいいようだから、始めさえすればなんでもできるようになるはずだ。そこで、」

 

 ちょっとしたサポートをしてあげよう。

 

 そう言って、彼が掲げたカード上の何か。その中央に位置するビーズのような宝石が光を発した。

 

「わぁっ……!」

 

 瞬間、公園の空はいくつもの小さな光球によって幻想的な光景を生み出した。

それはまるで花火のようだが少し違う。何時まで経っても消えずにプカプカと浮いているそれはゆらめき、時には鋭角に飛び交い、たまにお互いが衝突して弾け綺麗な粒子を散らせる。なのははそれを妖精みたいだと感じた。

 

「魔法と言う。恐らくは君が出来るであろうことの内の一つだ」

「綺麗綺麗!……でも、コレで何が出来るの?」

 

 えらい現実的思考だな、とゲンガーはガクリと肩を落とした。なのはの求めているものはお手伝いできる何かであって今の空間を作り出すことではない。

 

「まぁ、出来る事がこれだけというわけじゃない。だがこのデバイスを使えば運動がしやすくなったり、空を飛べたり、……君のお父さんのケガを治すことだって出来る」

「ほ、本当!?」

 

 父のケガを治して退院さえさせれば、とりあえずの現状を脱することが出来る。姉も手が空くだろうし兄も落ち着く、何より父親が家にいてくれるだろう。ぱっと打算を働かせたなのはは強く魔法を求めた。

 

「そ、それを教えて下さい!」

「それはさっきすると言ったろ?だけどまずは言っておかなければならないことがある。まず魔法は、君だけが唯一できる事ではないこと。時間はかかるが、いずれ世界中の皆が手にすることが出来る力だ。魔法そのものは手段、いや技術でしか無い」

「……?よくわかりません」

「いずれわかるようになる時がくる。……いや、わからないならそのままでもいいか」

 

 前史における高町なのはは魔法に奇跡を求めた。それは一介の技術でしか無いそれを神聖視していたとも言っていい。この場にいるなのはがそのような方向性に進むのかどうかはわからないが、忠告しておくに越したことはない。時間が経てば才能なんざ無くても魔法が使えるようになるのだから、その時理解してもらえればいいのだが。

 

「次に、これは何かをするための補助、手がかりでしかない。今君は魔法、というものを見つけたわけだがソレ以外にでも出来る事は色々あるはずだ。それを見つけるといい」

「わ、わかりました」

 

(ま、このくらい言っておけばいいか)

 

 入念に未来へのフラグを潰していくゲンガー。後はこの少女が作る人生の行き先は彼女だけのものだ。ある程度の方向性を修正できたことに満足し、ただし、と前置きをする。

 

「教えるのはもう遅いから、明日にしよう。明日の昼からここで待っているから、ご飯を食べたら来るといい」

「あ、はい!明日は夜に皆でお見舞いに行くから、きっと驚くかも!」

 

 ちょうどいいとばかりになのはは相槌を打つ。ここでゴネられるのも良策ではないのですんなりと受け入れたことにゲンガーも安堵した。

 

「それじゃぁ、今日はもう帰りな」

「はい、また明日!ゲンガーさん!」

 

 そう言うと、ふわりとゲンガーが闇に溶けて消えた。残るは静けさのみ。ソレを見たなのはは恐怖よりもポカンとしていた。

 

「……アレも魔法?」

 

 何にせよ、ゲンガーが自分の知らない何かをやっていることだけは明確だろう。とりあえずそう納得し、なのはは足早に帰路についた。なのはが寝静まった後に帰ってきた桃子は、久しぶりに娘の笑顔を見たという。

 

 

 

 

 

「と、こんな感じだ」

「ここをこうして、こう?」

「そう、そんな感じ」

 

 再び公園で出会った二人は、場所を人に見られないように森の中に移して練習を開始した。まずは基本的な魔力の操り方から魔力弾の形成、その後は飛行によるイメージングの強化、最終段階として思考制御プログラミング、つまり祈祷型による治癒魔法の練習となる。感性、理屈バランスよく高い能力を持つなのははあっさりとこれらの行程をこなした。治癒魔法は適正の問題でやや手こずっていたが、予めゲンガーが渡したデバイスに入っていた魔法がなのはに適していたためにそう時間もかかっていない。今は腕の折れかけたカマキリの治癒をすることでその成果を確かめていた。

 

 カマキリの腕は見事に治り、ゲンガーから太鼓判を押される。コレなら大丈夫だろう、そう自信をつけたなのはは満面の笑顔だ。

 

「とは言っても、まだまだ一人だけでやらせるには難しいだろう。病院に付き添いの人がいるから、その人の指示に従うといい」

「どんな人ですか?」

「紫の髪に金色の目の男だ。いつもスーツに白衣を着てニヤニヤ笑ってるから、わかりやすいと思う」

「……なんていうか、変な人?」

 

 言ってやるなよ、と思いながらも口には出さない。彼が変なのは今に始まったことじゃないからだ。

 

「あ、そろそろ行かなきゃ。ゲンガーさん、色々ありがとうございました!」

「ああ、がんばっておいで」

 

 言いながら微笑む顔はどこか無機質なものながら、わずかに感情をのぞかせる。それは少し寂しげに見えたのか、なのはは聞いた。

 

「また、会えますか?」

「会えるさ。だから行くんだ、君の未来が良くなることを願っているよ」

「……?はい!」

 

 ゲンガーの言うことはたまによくわからない。しかしわからないながらもなのはの事を思って言ってくれているのは明白なので、深く問うことはしなかった。タタタ、とデバイスを持って入り口に公園に向かって走る。しかし言い忘れたことがあったのか、クルリと彼女は振り返り、

 

「今度は!ちゃんと!名前を呼んでねー!!」

 

 そう言い残して笑顔で走り去っていった。

 

 

「やれやれ、参ったね」

 

 気づかれていたか、とぼやく。ジェックにとって高町なのはとは自分を創りだした人物のことで、今目の前にいた少女ではない。もしも少女のことを「なのは」と呼んでしまったら、創りだした高町なのはとの縁が切れてしまいそうで、そしてその際に何が起こってしまうかわからない不定の恐怖を感じていた。それはちょっとした予感のようなものかもしれない。今の少女は高町なのはの名を持った別の誰か、そう解釈することで彼は落ち着きを得る。

 

 何より、これからもう会うことはないだろう。

自分たちが企てた計画での役割は、その大半が裏方役だ。わざわざ自分が台頭するようなことではない。この時代の人間が主役を演じる舞台だ。あとは出来上がった劇を楽しく傍観するのみである。

 

 思考に浸りかけていたその時、ピピッと発信音がして目の前にウィンドウが開いた。通信か、そう思うよりも前に怒鳴り声が響いた。

 

『ジェックー!!いつまでそっちにいるのー?早く帰ってきてゲームしようよー!』

「やかましいぞおてんば姫。リニスと遊んでればいいじゃないか」

『リニスもうお年頃だからあんまり動かないんだもーん!』

 

 それはお年頃の意味が違うのではなかろうか、と思うが突っ込んだところで流されるだけなので言うことはない。

 

「わかったわかった。もうすぐ帰るから、じっとしてろよ?」

『早く帰ってこないと母さんが分解実験するって』

「どうしてそこで帰りたく無くなることを言うんだお前は」

 

 催促の材料になるかドアホとだけ残して通信を切る。転移してしまえば一瞬で着くのだから長々と話す理由がない。最後に、最後に少しだけ少女が去っていった方向を見て、ジェックは地球を去っていった。

 

 その後、デバイスを返そうと思ったなのはがいくら探そうとも、彼の姿を見つけることは出来なかった。

 

 

 

 

 海鳴大学付属病院。

 人工的な気質が強いながらも、広めに取られたオープンスペースは入院患者の憩いの場として自然が多く残されている。有名なデザイナーが担当したのか?と思ってしまうほど内装も小奇麗であり、またシステム的だ。さほど大きくない海鳴市としては十分なくらいに先進的な病院である。

 

 少しばかり面会には遅い時間、ロビーに高町家の姿があった。しかし美由希は看病のため既に病室にいるため、ここにいるのは彼女を除いた3人のみ。その内恭也はどこか渋い顔をして目を伏せており、なのはは落ち着きなくキョロキョロと視線を彷徨わせていた。

 

「なのは、どうしたの?」

「え、えっと……人を探しているの」

 

 はて、知り合いでもいただろうか?と桃子は考えるが心当たりはない。

 

「どんな人?お名前は知ってる?」

「えっと、名前は知らないけど紫色の髪に金色の目をした人なの」

 

 聞いて目を丸くする。恭也も同様だった。いったいそりゃぁどんな人だ、と。近い将来似たような髪色の人間に恭也は会うことになるが、加えて金眼の、ぶっちゃけそんな奇人が人類学的にいるとは思いたくない。しかし残念かな、桃子の視界にはソレらしき人物がコチラに向かって歩いてきているのが見えた。

 

「ええっと、もしかしてあの人?」

「あ、うん、多分そうなの」

 

 マジかよと思いながらも、恭也は対面するように家族の前に立つ。直感からか、男が不穏な気配を持つことに気づいたらしい。父親がケガをしたこともあって彼はその手の気配に敏感になっており、ピリピリとした気を放つ。それに感づいてるのかいないのか、近づいてきた男は興味深そうに彼を見つめた。

 

「何だ、お前は」

「なかなかに失礼な物言いだね君は」

「何だと聞いている!」

「……ちょっと恭也」

 

 桃子が裏から彼を抑えようとするが、別にいい、と男は手のひらを向ける。

 

「あえて言うなら、開発者兼、研究者兼、医者ってところかな。ドクター、と呼んでくれたまえ」

「ふざけているのか!」

 

 まさか、と答える男、ドクターの顔は傲慢不遜と言った感じでまともに恭也と取り合わない。それが腹立たしいのか更に恭也は顔を歪める。

 

「なんなら、ジョニー。そう、ジョニー・スリカエッティでもいい。それが私の名だ」

「言葉遊びなど!偽名だと言っているようなものだろ!」

「そうとも言うね」

「貴様……!」

 

 ギリリ、と歯軋りの音が聞こえた。いったい何がそこまで気に入らないのか、桃子には分からないが少なくとも初対面の人にすることではない。恭也を諌めようと再度声をかけようとした時、ドクターはひょいと顔を桃子の隣にいた少女、なのはに向ける。

 

「君が、高町なのは君かね?」

「そ、そうな……です。あなたが、ゲンガーさんの言ってた人ですか?」

「ゲンガー……?ああ、なるほどそういうことか。彼から預っているものがあるだろう?」

「はい!これなの!」

「なのはには手を出させないぞ!」

「よろしい、ソレじゃあ行こうか」

 

 デバイスを見たドクターは、場違いにしか思えない恭也の叫びは完全に無視して歩き出す。エレベーターを使い、廊下を歩き、向かった先は当初自分たちが向かうはずだった士郎の病室だ。

 

「……何をするつもりだ」

「やれやれ、いい加減落ち着いてくれないかな。状況を理解できずに動けない愚直な人間はつまらないよ。やることはシンプルだ。君たちの父親を治す。それだけのことだ」

「何!?……再手術の話は聞いてないぞ」

「そんな事をする気はないさ。ものの数分で終わる程度の、この世界にとっての革新的な新技術を行使するだけさ」

 

 そんなものがあるものか、と変わらず睨む恭也。その後ろで新技術の正体を知っているなのははというと、口元が波線になるくらいに笑みをこらえてるのだが。ほぼ確実と言っていいレベルで父親の治療が出来るのだから無理もない。むしろ知っている側とすれば恭也の姿は滑稽といえる。

 

「邪魔するよ」

「はい、……って、え?誰ですか?」

 

 結局、止めることも出来ずにドクターの侵入を許してしまった。本人は医者だと言っているし、なのはとなんらかの関係もあるらしい事を匂わせていたために手を出せなかった。突然の謎の人物に美由希も目を白黒させている。

 

「なのは君は患者を挟んで反対側に立ちたまえ。ああ、そこのメガネの君は椅子を譲って端に避けていたまえ」

「はーい」

「え、え?え!?」

 

 どんどん事態は進行していく。何故かなのはも従っているし、恭也は苛立たしげな顔をしているし、桃子は何かを期待している素振りを見せている。美由希にはわけがわからなかった。

 

「作業内容は理解しているね?」

「はい!ガッとやってパッと治すなの!」

「……まぁいい。君は外傷の治癒。その間に私は彼に魔力を流して生命力を活性化させる。後は彼次第だ」

 

 量子展開により、ドクターの手に黒地に赤いラインが描かれたグローブが装着される。皮の硬さを確かめるように数回、ぎゅっぎゅと握り、士郎に指先を向ける。すると細く輝く糸が伸びて士郎につながり、なのは以外にはわからないなんらかの行為が為される。対するなのはも手のひらにセットしたデバイスを士郎に向けてかざす。瞬間それを中心に魔法陣が展開され、士郎のケガを癒し始める。大きな部分は包帯が巻かれていてわからないが、細かい生傷などはみるみるうちに消えていった。それを見るだけの3人は不思議そうに、しかし奇跡のような光景に涙を流しそうになっていた。

 

 そして活力を与えられた体は徐々に確かな温かみを取り戻していき、血色が随分とよくなりだしたその時。

 

「う……ぐっ、ここは……?」

「「父さん!」」

「あなた!」

 

 士郎がうっすらと、目を開けた。

 

 

 

 

「これで治療は終了した。あと出来れば今ココで見たことは、そうだな、2年程は秘密にしてもらいたい。その代わり治療費はいらない、臨床試験みたいなものだからね。……まぁ、あらかじめ確立された技術なのだから失敗はないが」

「本当に……本当にありがとう、ございます」

 

 最後の言葉が聞き取れなかったが、桃子は涙を流しながら礼をする。目覚めるかどうかはほとんど運次第とまで言われる重傷だったのだ。こんなに嬉しいことはないだろう。恭也たちも士郎の手をとって生きていることの喜びを確かめ合っていた。しかしそこに、

 

「ふぐっ、ふぇ、……ふぇぇえっぇ~~~」

「ああっ、どうしたのなのは?」

 

 瞬く間に涙でぐちゃぐちゃになるなのはの顔。そこには今までの生活が戻ってくる安心感や今までの悲しみ、不安をすべて吐き出してごちゃまぜになっていた。今まで耐えてきたものがついに溢れだしたのだろう。全く涙が止まる様子がない。桃子が優しく抱き寄せてあやすが、今まで一人でいたために優しさに触れた瞬間更に涙があふれる。完全に逆効果だった。結局、なのはが泣きつかれて寝入ってしまうまでドクターは壁に体を預けることになった。

 

 

「……すぅ……すぅ」

 

「やっと落ち着いたかな?話には聞いていたが、君たちはもう少し育児というものを考えた方がいい。私も子育てが得意という程ではないが、その私から見ても少し目に余る。特にこの時期の子供を一人にさせるのは育児放棄ともとられかねない愚行らしいからね。幸いなのは君はそれなりに理解力があるようだし、しっかり話し合いをするべきだろう」

 

 ズケズケと他人の家庭事情に踏み込むドクター。その語らいには全く躊躇というものがない。心当たりが山ほどある高町一家の内側には棘がビシビシと刺さる。彼らは反対意見を全く言うことが出来なかった。

 

「さっきのは、一体何をやったんだ?」

 

 口にしたのは、恭也。切り替えが早い。

 

「ふむ、あえて言うなら、魔法というやつだよ。尤も、コレ以外に表す言葉がないというのが現状だがね。魔力素と呼ばれるひとつのエネルギーから複数のバリエーションの現象が起こせるためにそう呼ばれるのだが……まぁそこはいいだろう。今までの科学の延長線上にあるものだと思ってくれていい。今行ったのは治癒魔法で、プログラムさえインストールされたデバイスを用いれば誰でも使用できるものだ。ただし、今はリンカーコアという魔力生成器官を持っていないと不可能だが」

「……ソレをなのはが持っていると?」

「とびっきり大きいものをね。ある種の才能と言ってもいい。まぁ、リンカーコア自体は生命力と綿密な結びつきをしているものだから、誰でも持っているもので他の人にも無いわけではないがね」

 

 説明するドクターは随分と饒舌だった。多分、誰かに何かを教えたくてたまらない人なのだろう。そう考えると恭也の眉間の皺も大分とれてきた。何より大きな借りを彼には作ってしまったのだからいつまでも同じ態度ではいられない。

 

「それはわかりました。ですが、何故発表もされてないような技術を使ってわざわざ助けてくれたんですか?そちらにはメリットがないはずですが」

 

 続いて発言したのは今までの内容を聞いて吟味していた士郎。ここからは大人の会話だ。

 

「メリットならある。まずは治癒魔法が人体に効果があることがデータとしてとれたこと。それと、私もとある人物から大恩という借金のようなものをしていてね。それを返すための一環だとでも思ってくれたまえ」

「……その人物とは?」

「国家機密さ」

 

 ニヤリと笑う顔は必要以上に胡散臭かった。なんというか、悪人じみてて到底信じられないくらいに。

 

「それじゃあ私は行く!掴んだ命を大切にな!ククク、ハァーッハッハッハッハ!」

 

 白衣をバサリと翻して立ち去っていく。笑い声を連れた後ろ姿はまるで三流のフィクション映画のようだった。ドアが閉じても、まだ笑い声が続いている。一体いつまであの人は笑い続けるのだろうか。とにかくなんだかよくわからないが変な人だった。

 

 ドクターが去り、再び部屋に静寂が戻ってくる。だがシン、という音が返ってきそうな場に耐えきれなくなったのか、桃子が後悔を口にした。

 

「私たちは、一体何をしていたのかしらね……」

 

 冷静に考えられるようになってみれば、わずか4歳の子供を自分たちの都合とはいえ放っておいたことにひどい罪悪感を覚える。今でこそこうして泣いて意思表示をしてくれたが、もし長期化していればこの子は心の内側に溜め込んだままにしていたかもしれない。それくらい強い娘だった。しかし抱えた感情と耐える理性は別物だと、今更ながら思い知る。

 

「俺もそうだ。自分のことばかりで、父さんがこうなった事にショックを受けて、ただ強くなることばかり考えていた。俺が家族を守らないとって、……けど、何より守らなければいけないのは心のほうなんだ。なのはは、そんな普通の子なんだよな」

「私も、せめてそばにおいてあげればよかった……」

 

 兄妹二人も抱えるものは同じだった。二人は御神の一族であるためその精神性は逸脱している。なのはも無意識にそういうものだと見ていたのかもしれない。

 

 3人の言葉を聞いて士郎は反芻する。まだベッドから起き上がることの出来ない身だが、ドクターの治療によって思考するくらいは問題ないようになっていた。長く閉じていた目を開いて、彼は決断した。

 

「ボディーガードをやめよう」

 

「「父さん!?」」

「あなた……」

 

 彼なりの贖罪なのかもしれない。家族をバラバラにする引き金を引き、今の状態を作ってしまったのは間違い無く自分だ。コレ以上家族に同じような思いをさせたくはなかった。

 

「ちょうどいい機会だったのかもしれない。退院したら、しばらくはなのはと一緒にいてあげよう。……それからは、また考えるさ」

「ふふ、翠屋のマスターさんなんてどうかしら?美味しいコーヒーを淹れるの」

「ああ、いいかもしれないな」

 

 寝ているなのはを見て、彼は大事なものを確認する。今までは剣士として力を振るい続けてきた。しかし、これからはそうでないのかもしれない。今はもう御神ではない。そんな事には関係がない家族がいて、当たり前の、普通の生活を送っている。その中で自分のような存在は必要ないのだ。当たり前のように誰かの心を守って、寄り添える。そんな存在に、彼はなりたいと願った。

 

 

 以降、高町家の様子は瞬く間に変わったという。退院した士郎と桃子のもとで、魔法を駆使しながら様々なことに挑戦を始めるなのは。その顔は実に輝いていたらしい。間違えたことをすれば怒られ、正しいことならほめられる。失敗は諭され新たな挑戦への糧とする。ともすればなんてこと無い、普通の幸せを持った家庭。そんな事ですら今までの高町家では難しかっただろう。恭也も美由希も、なのはをよく見るようになった。

 

 その後、世界的な魔法の発表により怪我を治療してくれたドクターが中心の人物だったと知ることとなった。何故あの時治療してくれたのか、未だわからない。しかしその恩を忘れることはない。そして、なのはが遭遇したというドッペルゲンガー(?)から渡されたデバイス。今も彼女は大切に持っている。いつか必ず返して、お礼を言うために。

 

 

 

 

「ってことが昔あったの」

「それで、なのはは慌てて突っ走っちゃったわけだ」

「うう、ごめんなさい。置いてけぼりににしちゃって」

 

 ジュエルシードによって街が損壊してしばらく、なのはは自宅でユーノに謝罪ついでに過去のあらましを語った。突っ込みどころがいくつかあるものの、彼らのやったことは基本的に善性のものなのであまり深く掘り下げる事が出来なかった。そんなユーノが何故ここにいるのかというと、例によって警察の忙しさがマッハなのでさすがにそこまで手が回らず、高町家に預けることとなったためだ。下手をすれば警察署より安全な家というのもどうかと思うが、世間一般の認識はそういうものらしい。一緒に晩御飯を食べていた時など、美由希は

 

「弟がほしかったのよねー!」

 

と猫可愛がりする気満々である。可愛いものには容赦がないメガネ、フェレットのままココに来てしまったらどうなったことか。それは恐ろしくて考えたくない。士郎は士郎で「なのはを嫁にどうだい?」と言って両頬を膨れたなのはにビッターンされてたり、言う度恭也は目を光らせながら刀の鍔をカッチャカッチャ鳴らしてるし、そんな事をものともせず桃子は朗らかに笑ってるしで実にカオスである。

 

(あれ、おかしいな。普通の家族なんだよね?うん、普通、普通ってなんだっけ……)

 

 ゲシュタルト崩壊起こしそう。またユーノは謎の悩みを抱えることとなった。

 

 そんな平和な光景だが、同時にユーノは不穏な裏側も感じ取っていた。今日の新庄巡査の発言、聞いただけではただの報告にしか聞こえない。しかし、現地にいた人からの報告だとしたら、

 

なぜなのは似の「少年」と言ったのか。

 

 普通、ちょっと見ただけで少年と判別できるものなのだろうか。一般的な見解を述べるなら、なのはのような美少女に似ているのならばそのままなのは似の少女、もしくは誰かと表現するはず。しかし彼はその事に疑問を抱かず断定している。加えて当人が結界の中にいたため、そんな報告が何の意味も持たないことはわかっているはずだ。

 

 だとしたら彼は、意図的にその情報を流したことになる。それも恐らくは又聞きの二次情報ではなく、一次情報、もしくは彼が何かをするためのブラフだったのかもしれない。しかししばらく観察してみたが、それといった行動を特に起こすことはなく、ひたすら仕事に振り回されてた用に見える。「少年」と言ったのはなのはが該当する人物と会ったことを知っていたか、もしくはその本人と知り合いか。そうならばスリカエッティと繋がりのあるドッペルゲンガー、関係性は不明だが繋がりのある新庄。いずれにしても何がしかの勢力の中にいる可能性が高い。

 

 少しして気づいたが、彼の戦い方はどこかおかしかった。これといった戦いのない平和な日本で、かつ勤務3年という浅さであの卓越した体捌きは異常と言わざるをえない。既に対ロストロギアを経験しているかのような。加えて魔法ノウハウの少ない地球でなのははともかく、新庄の魔力流動も同様に達人級。的確に必要量を維持し、見極めも的確。そしてデバイスを持っているのに使っていない。怪しさ大爆発だ。

 

 自分たちの知らない裏側で何かが動いている。今後はいっそう注意しておく必要があるだろう。異邦の地での激動、ユーノは何か大きな流れのようなものに囚われた気がしてならなかった。

 

 




次回は地球側の動きを絡めた首相とユーノの会談。これが終わればようやく巨大ネコ、もとい金髪少女の話に入ります。

よっしゃ、Civ5やろう。Halo4も終わってないしボダランはまだまだこれからだ!……時間がほしいなぁ。


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Gossip_4

どういう内容にしようか、考えてたら風邪引いてダウン。おまたせしました。何はともあれやっと次に進めます。状況確認メインで内容的に進展無いので流し読み程度にどうぞ。


 目の前にごっつい人がいる。

まるで獅子の鬣でもつけたかのような髪と髭。身長は190cmを越えガタイはアメフトをやっていたかのような精強ぶり。着てるスーツがピッチピチに張っている。そして鋭い眼光の威圧感ときたら。対面するだけでも空恐ろしいものがある。

 

――ユーノの目の前の人、三雲連次。日本の首相である。

 

 

 はじまりは何だったか、そう、確か高町家におじゃまして夕飯をいただいていた時のことだ。ピロリンと機械音がなり、携帯を一瞥した高町士郎がこう言った。

 

「ユーノ君、首相から招待が来てるんだけど行けるかい?」

「…………へ!?」

 

 驚くのも無理は無い。何せ一般家庭の男性からいきなり首相とのアポイントメントがとれているのである。咀嚼していた食べ物を吹き出しそうになるのを抑えられたでも上出来だ。何故いきなり、と聞いたら彼曰く、

 

「ああ!彼とはメル友だからね!」

 

 である。士郎の交友関係の幅広さにガチで頭を抱えそうになった。とにかく意味がわからない。

 まぁそれはそれとして、招待そのものを予想していたユーノとしては来るべき時が来たのか、と別の意味で諦観していたのだがこれが思いの外早かった。何をするのかされるのか、しっかりと考えておかねばならないだろう。ユーノは会合までに首相について情報を集めることにした。

 

 

 そんなこんなで、海鳴市にある高級ホテル。そのVIPルームにて会合が行われることとなった。周りには格式高い調度品が数多く並べられており、一般人としては少々落ち着かない綺羅びやかな雰囲気だ。座っているソファは非常に柔らかく沈み込みそうになる心地であるが、目の前に首相と、もう一人知らない誰かが座っているので緊張でリラックスすることは出来ない。

 

「初めまして、三雲連次だ。日本の首相をやっている。そして彼女が――」

「文部科学省魔法開発局魔法推進課課長の紫葉楓です。会えて光栄です、ユーノ君」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 互いに挨拶を交わし、握手を交わす。

 一人増えていた女性、紫葉楓はともかく。首相についてユーノが知った内容は目立つものが2つ。

 まずひとつに、日本人離れしたこの外見と違い、中身の方は随分と知的らしい。IT関係にムダに詳しく、士郎とメル友と呼び合うあたりそれなりに精通していると見ていい。こと最先端に関しては一歩遅れを取る(権益を貪っている間に置いて行かれる)日本にしては、魔法の推進が速かったのはひとえに彼のおかげであるという。国連においてある意味オープンソース的な立ち位置を示したマギテクスは技術拡大に余計な邪魔を挟むこと無く行われた。その影響もあり、老人共がマゴマゴしている間にいつの間にか予算の振り分けを済ませ、アメリカにつぐ魔導国家2位の座を確保している。その手際は予め用意されてあったかのごとく早業だったらしい。周りが文句を言おうにも、彼の外面に脅されては及び腰になるのだとかなんとか。

 その外面も、内外に対する牽制として有効に使っている。国内では意見をまとめるためのカリスマとして、国外に対しては特にマフィア等に対して。ここ十数年から数年、日本は中国系マフィアに悩まされており、その関係で御神の家系も相応の被害を受けた。彼らのような人物が必要となり、また危険視され標的にされるほど、事態は切迫していたのだ。そのため「強い日本」を表すために、彼を起用したらしい。

 

 と、ここまでがユーノが知った内容を簡潔にしたものだ。ソレ以外でも相応の結果を示しているため、珍しく日本首相としては席に座る期間が長い人物である。

 

 そんな挨拶を交わす傍らで、慰め程度のBGMとしてニュースが大型テレビに映し出されていた。内容は海鳴で起こった事件についてである。

 

『――と、そういうわけで。あの災害は魔法だったのではないか?というのがもっぱらの噂ですが、どうなんでしょう田中教授』

『不明、と言っておきます。魔法による魔力の物質化は研究されていますが、あれほど大きなものは非現実的だと捉えています』

 

 結論から言えば、あの災害の原因は秘匿されている。今まで地球に無かったロストロギアという常軌を逸した物質による反応。それを落とした宇宙人。これらの情報が露呈してしまえばあっという間に世間は大騒ぎになってしまう。それが拍車をかけてしまったのか、世間ではあれが魔法であったかすらどうかわからないまま議論が進んでいる。「あれは魔法ではないか?」というシンプルな疑問に始まり、今ではファンタジーとして万能性がある「空想魔法派」と、科学論理的に見てあの現象は起こり得ないとする科学者や理系が集った「論理魔法派」の対立で真っ二つになっているという。前者は特に「わからないものはとりあえず魔法のせいにしておけ」といった都合のいい押し付けと、魔法脅威論を声高に掲げる団体の温床になりかけている。

 

 とはいえ、あの災害を直接見たものは少ない。ビデオにも残っていないため破壊の跡でしか判断できず、結論が出ずに同じニュースが延々とループしている。いずれは芸能関係で薄まっていくのが丸わかりだった。

 

「対応が遅くなってすまなかったね。情報が上がってくるまでにどうやら問題があったようだ。やれやれ、高町君からのメールが無ければどうなっていたことか……」

「大丈夫……だったとはいえませんが、海鳴の皆さんが頑張ってくれました。おかげで被害はかなり抑えられたと思います」

 

 ユーノが落っこちてから一週間と少し。ジュエルシードは9個目の巨大樹に加え更に一つ、臨海公園で確保している。なんでも逃げまわる樹木で確保するのが大変だったとか。その際に海底に6個の反応もあったらしく、現在魔法の使える人員と海上自衛隊と共にサルベージをしている真っ最中である。なのはも何かがあった際の予備人員として空中で待機中だ。合計して16、そろそろ街の中での反応乏しく今後の捜査は人のいない部分がメインとなる。

 

 そう考えれば大凡の人的被害が起こる可能性は無くなった事になる。もしも自分だけで探していればどれだけかかっていたか、それを考えると異例のスピードだ。感謝してもしきれない、とユーノは考える。

 

「ありがたい。ではこれからの方針を話そうか。紫葉君、アレを」

「はい、少々お待ちを」

 

 そう言って彼女がテーブルの上に置いたのは、銀色に輝くアタッシュケース。中にはいくつかの小物と書類が入っている。

 

「さて、ユーノ君の今後の対応だ。秘密裏ではあるが、国は君を国賓として扱おうと考えている。事故によるものではあるが、今後地球に関わっていく中管理世界との交流も考えられる。その際君の処遇で問題を起こしたくはない。このあたりはいいね?」

「え、えぇ」

 

 おっかなびっくり返事をする。ただの漂流者がいきなり国賓扱いでは無理もない。

 

「ソレに伴い、このホテルを一室借りてある。それから記入してもらう関連書類に、しばらく生活するための現金、クレジットカードだ。ある程度は好きに使ってもらって構わない。ボディガードも2名ほどつけよう」

「……」

 

 さらにドン。倍率アップでいたせり尽くせり。日本からすれば、ユーノという存在はぜひ確保しておきたい人材であるため無理もない。多分に政治的事情を含んでいるが、ここで彼に対するイメージを良くしておけば後々役に立つことは間違い無いだろうという判断だ。

 

「今更ではあるが、ジュエルシード捜索の出来る限りのサポートを正式に保証しよう。いいかね?」

「は、はい。お願いします」

 

 投げかけるようなサポートの応酬はテレビの通販をみているような気分にさせられる。契約書類の文面を見れば、必要経費は管理世界との交流開始時に請求予定とさらっと書いてあった。何気に払う気が無いというか、強気な対応である。これが後々どのように影響するかわからないが、責任追及等に関しては特に躊躇する気がないようだ。契約内容を確認したユーノはサインを書いて書類を返す。

 

「では、次は私がお話させてもらってもよろしいでしょうか?」

「ああ、存分に聞きたい事を聞くが良い」

「……えっと、あなたは?」

 

 ユーノの問いに、そういえばそうでしたね。と役職の内容を話していない事を紫葉は思い出した。キリっとしているショートボブの女性は若く、張りのあるスーツがよく似合っている。

 紫葉楓、24歳。アメリカで行われたマギテクス若年層開発者育成プロジェクトによって講義を受けた若き天才。マギテクス発表後引き抜かれる形で就職したそうだ。本人の魔力ランクはAA、戦闘能力は無いが複雑なスクリプトの魔法を行使するのが得意らしい。というのが本人談だ。

 

「うちの課の仕事は名の通り、マギテクスの発展にあります。開発のための予算組から研究方針の調整、イベント関係まで様々です。聞いた話によると、ユーノ君は防御関係の魔法が得意だとか」

「あまり大したたものではありませんが」

「ご謙遜を。デバイスもなしに高度な演算を出来る人間なんてそうは……、あぁなのはちゃんは出来ましたっけ。まあとにかく、我が国としてはあなたが使うような魔法の需要が急務となっているのです」

 

 日本は攻撃関係の魔法開発は方針上推奨していない。エネルギー制御の関係上シンプルな扱いであるそれらはまず最初に学ぶ魔法なのだが、過剰な攻撃力を持つ事は非殺傷が常識(情報統制によって設定が解除出来る事を知らない人が大半である。とはいえデバイス側でほとんどがロックされている)とはいえ、国民性から好まれる事ではない。せいぜいがスポーツ目的に威力制限したものだ。開発のための隠れ蓑として利用されている感は否めないが。

 

 話を戻し、日本が現在最も必要としているのは魔法というものが身近に利用出来るものであり、人を選ばないということ。現在は防犯デバイスなどがあり一定の成果は出つつあるが個人向けであり、大型の、特に車そのものを防御する類は存在しない。要人向けにも必須と言えるものだ。そう言った意味では、理路整然とした組み立てを行え、かつデバイスなしで発動出来るユーノの開発力は魅力的だった。

 

「もし開発協力や技術提供のためにジュエルシード回収後も残っていただけるなら、日本国籍のご用意もあります。すぐとは言いませんが、少し考えていただけないでしょうか」

「……!」

 

 この問いに対し、ユーノは返事をしようとして一瞬戸惑った。スクライア一族として初めてリーダーを任され、発掘の任を受け持ったこと。これは彼にとってこれからの家業における第一歩を踏み出すものだった。今でこそトラブルで地球にいるが、帰ることが出来れば再び発掘の日々を送れるに違いない。

 しかし、それを迷ってしまうくらいには地球で得たものが多すぎた。大人たちから諭された精神性や、なのは含む同年代の友達、彼女から教わった協調性。そしてジュエルシードの捜索に関わってくれた人々に対する恩。大勢が様々な形で協力してくれて、それを無碍にして帰還する程ユーノは恩知らずではない。自分にも何かが出来る、それは実に魅力的な内容だった。だから彼は、こう返す。

 

「……一回帰って、無事を伝えたら。それからの事を考えたいと思います。ですが、必ず戻ってこようと思います」

「結構です。後の返事に期待していますよ」

 

 一見どうとでもとれる返事であるが、ユーノから真摯さが見て取れたのか楓は満足そうに頷いた。

 

「さて、これで一応の仕事の話は終わりだ。何か聞きたいことはあるかい?」

 

 来た。ユーノはコレを待っていた。普通は訪れない、ただの一般人では突っ込めることのできない領域を聞く機会。地球の不自然なまでの魔法の急成長、国連の動きからその元凶、聞きたいことは山ほどある。自己の欲求を散らせるためというのが多分にあるが、聞いておけば後々管理局と対する際に役に立つ可能性は大きい。ユーノは紫葉を一瞥すると、その視線に気づいたのか首相が告げた。

 

「紫葉君は退出してくれ。ちょっとここからは問題発言がバンバン飛び出してしまいそうだ」

「ソレは困りましたね。スキャンダルにならないように気をつけてください」

「ハハハ、留意しとくよ」

 

 それだけ言って、紫葉もあっさりと退出。どうやら分別のしっかり出来る女性らしい。

 

「さて、今ここにいるのは私達だけだが、まず何から聞きたいかね?いや、おおよそ当たりをつけようか。ジョニー・スリカエッティが地球人ではないかどうか?そうだろう?」

「は!?……ええと、あの、ちょっと何言ってるのかわからないんですけど」

 

 聞きたいことがあちらから飛び出してきたせいで、逆に戸惑ってしまった。むしろそれを理解した上で地球が魔法を研究しているのならば、かなり多くの問題に答えが付いてしまうことになる。首相は管理世界というものがほんとうにあるのか?という疑問を提示せずに話を進めていた。それを思い返した事により少し落ち着きを得る。

 

「……失礼しました。では順番に聞いていきます。ジョニーは地球人でなく……管理世界人だと知ってるんですね?」

「勿論、あのような突拍子もない技術が、何の土台も無しで飛び出してくるわけがないだろう?むしろ私は、あれらの技術をデバイスや様々な機器と共に見せられた時に納得したね。彼は明らかに地球の人間でないと。まぁ、見てくれから確信していた部分はあるがね。紫の髪に金の目、そんな人間、この星にはおらんさ」

 

 ぶっちゃけ管理世界でもいないです、そんな珍しい人。そう言いたいのを我慢して次の質問をする。

 

「では、その彼から色々と話を聞いているはずです。管理世界のことも、管理局のことも。……魔法は、管理局法では文化、技術的に未成熟である管理外世界でその技術を開示するのを禁じられています。それに関するリスクも……これほどの大事に、管理局がどのように対応するか……あなた方も考えなかったわけではないでしょう!?」

 

 つい口調が荒くなってしまった。この件は恐らく、ジョニーを管理局が逮捕したとて解決することが出来ない問題である。既に魔法というものが地球全体で認知された以上、それを排除するのは到底不可能な問題だ。この場合、地球がどういう道筋を歩むことになるのだろうか。管理局側として問題がないのは、管理世界群の管轄に入ることだろう。彼らから見れば管理外から管理内へとランクアップする程度の認識だ。しかし地球側にとってはどうか?地球内で構成された組織やシステムの頭上に、いきなり管理局法が湧いてくる。そうなると出てくる大きな問題は、質量兵器の排除だろう。国防力が根こそぎ排除されるということは、治安の悪化が避けられなくなるということだ。勿論政府は盛大に反発するに違いない。

 反発した場合や、管理外からの昇格を果たさず管理世界側が極論を採った場合も勿論まずいことになる。反抗の意思アリとみなされ、報復行動を取られる可能性も無いわけではないのだ。その場合は管理世界側の世論が問題視するだろうが、管理局という存在はあちらにとって正義の代名詞である。ならば、根拠のないでっち上げにより問題提起されてしまえば国民は信じてしまうかもしれない。管理世界入りが「魔法が使える技術力を持った世界」である以上、これらは避けられない問題である。

 

「無論、それは知っているよ。しかしだねユーノ君?知っているから、知ってしまったからこそ対応しなければいけない問題もあるということだよ。管理世界側だけがこちらを知り、いつでも監視出来る状況。何をされるかもわからないあちら側の一方的なアドバンテージに、我々が恐怖しないと思うかね?」

「それは……」

「考えてみるといい。我々が魔法の存在を知らず、君が今回のジュエルシードの件に一人で立ち向かうことになった場合。対処が間に合わず、無闇に被害が拡大し、多くの人命を失う可能性があった事態を。人的被害、物損に対してどのように補填したらいいのか。わけがわからない私たちは、きっと右往左往するのだろうね。そして管理局と名乗る謎の組織が不法入国し、勝手に事を片付けて置いてけぼりにされるのさ。この件は最初から、ひとつの市で起こった怪奇現象では済ませられないことなんだよ」

 

 内容に絶句する。確かにそのとおりだ。たとえ高町なのはという鬼札を得たとしても、魔法の秘匿の中で揺れる二足のわらじを履いた小学生。もしも彼女と自分だけであったのなら、ソレ以上は考えたくない事柄になる。

 

「わかったかね?我々に魔法は必須だったのだよ。聞けば、ジョニーはこの地球の技術ランクをBだと言っていた。つまり君たちの世界がAとするならば、地球はもうあと一歩で踏み入っていたことになる。事前情報が無ければ、我々はただ蹂躙されるしか無い。今回の件は知るのが早かったか遅かったか、それだけだ。早かったことそのものはかなり僥倖であったがね」

「それは僕も、そう思います」

 

 そうだろう?と首相はにこやかな笑みを浮かべた。

 

「それに、何も管理世界に対する策を持っていないわけではない。それほどのリスクを知っていてなにもしないというのはあり得ないからな。君が心配することではないさ。コレ以上は機密だから言えないがね」

「そ、そうですか……」

 

 軽く言い切る彼の様子は油断しているわけでないようだ。きっと何かしら、それこそジョニーという人物が関わるだけに秘策でも持っているのかもしれない。

 

 さて、結局のところひとつの質問で聞きたいことは大体聞けてしまった。内容自体は魔法とジョニーに端を発するものなので、そこさえ理解できればあとは芋づる式に結論が出てしまうことばかりである。後は他愛無い質問と雑談を広げて時間いっぱいまで話し、お茶を濁す事となった。そして帰り際、ユーノは最後に一つだけ質問をすることにする。

 

「その、海鳴署にいる新庄甚吾という人物について知っていますか?」

 

 どういう意図の質問か、首相はゆっくりと考えてこう言った。

 

「あぁ、よく知っているよ。彼は我々の味方だからね」

「そう、ですか。わかりました、今日はありがとうございました」

「何、こちらこそ。また会える日を願っているよ」

 

 パタリ、と境界を分けるドアの音が響いた。

 

 

 

 

「良かったのですか?」

「何がだね?」

「新庄甚吾について、正確に教えなくて?です」

 

 念のため、護衛の意味も含め紫葉楓はサーチャーを一機見えない位置に配していた。つまり今までの会話は丸わかりだったということである。彼女は引き抜きと言っていたが、実は各国共同の国際プロジェクトであり、今後の事態に対処するためのプロフェッショナルを育成するためにあらかじめ国から派遣されていた人間である。そのプロジェクトの講師はジョニー本人が行なっていた。つまり、紫葉楓は何もかもを周知の上で知らないふりをしていただけ。その彼女が他人の素性を言わなくていいのか、という姿は首相の目には少しだけ滑稽に映った。

 

「何のことか私にはわからんな」

「ご冗談を。我々の味方、とは言いましたが、彼の味方とは一言も言ってませんでしょう?」

「気づいていたのかね」

「気づかないと思いですか?」

 

 強面でニヤニヤする首相に、無いわーと大げさにアクションを返す紫葉。彼女はまさしく彼の懐刀であり、舐めきった態度であろうと首相は寛容だった。

 

 新庄甚吾=リーゼロッテ。付随する情報は彼女が仮想敵とされる「管理局」の人間であること。ただし彼女が正しく組織に利になる行動をとっているかと言えば全く別であり、現在その情報事態にあまり意味は無い。強いて言うなら彼女は己が利益のために動いているだけであり、その行動が地球の得になっているだけという話だ。やたら「我々」と連呼していたのはそういうことである。

 

「だからまぁ、別にわざわざ言う話ではないでしょ。それこそ知れば逆に彼との不和を招くかもしれないじゃない?彼が知ったところで、今更どうこうなる事でもないからねえ。落ちてきた彼を利用するのは悪いとは思っているが、今回の件は我々にとっても試金石だからね。迂闊に行動されるよりは適度に安心させておいたほうがいいでしょ」

「……そうかもしれませんね。ところで、私は重大なミスを犯していました」

「む?一体何を……?」

 

 

「ユーノ君のあまりのかわいさに抱きしめ忘れてました」

 

 今、間違いなく場が凍ったと首相は感じた。

 

「ええ、とっても可愛かったんです。クリームのような髪に綺麗な瞳、まるでお人形のようでした……!まさか私がそれに魅入られて抱き締めることすら出来なかったとは……、実に、実に嘆かわしい事実!首相!ぜひ、是非彼は確保セねばならない人材です!主に私のために!」

 

「敢えて言うけど、ミスを犯すのは間違い無くそっちだねぇ」

 

 紫葉楓24歳、独身。見た目の怜悧さに秘められた犯罪臭漂うギャップ持ちである。ユーノが日本に残った暁には確実に標的になること違いない。呆れる首相、三雲連次には実にどうでもいい話だった。

 




祝デモンベイン×スパロボ。実はこのSSのタイトルはデモンベイン風というどうでもいいぶっちゃけ。タイトルだけ見てデモベ×なのはクロスか!?(スワッと思った人はいないはず……いないよね?さぁ、次回は念願の金髪だ!

余談:このモブ達の次の登場予定はあるのか無いのか。


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Tea party in tukimura

すまんが今回はネタだらけだ。反省も後悔もしていない。

12/18 ジェットエンジン部の表現修正、カバー等

※リニスの表現を間違えてたので後々修正します。尻尾も耳も出してませんでした。申し訳ございません。→修正しました。

部分修正:
H25.02.15
国枝&三本をPMCから自衛隊員へ変更



――夢を、夢を見ていました。

――長くて近く、短くて遠い、時の彼方に埋もれた悲しい夢を。

 

何故そんなふうに感じたのか、ワタシニハワカラナイ。

 

空を裂き森を駆け、天を白桃の光線が疾走る。

対するは、金。回避機動を取りながら靡く髪が光り、高速で駆け巡る閃光はジグザクにラインを描き私に迫る。

それに抗おうとして私は剣を振るおうとする。しかし反して私の体は硬まったまま。

動けないからだが、こんなにももどかしい。眼前に迫りつつある脅威は今にも、突っ込んでこようとしているというのに。

そこまで考えて、私の脳からはそもそも近接武器等を持っていないことを告げられる。

 

そして気づく。

 

これは、私じゃない。

普通なら浮かぶはずのいくつもの回避パターンが浮かばない。

愚直なまでに射撃する魔法にはフェイントの欠片も入っていない。

プロテクションも、身体操術も、何もかもが稚拙……!

 

考えている間に、私は金色の鎌に叩き落される。真紅に塗られた悲しい瞳だけを心に焼き付けたまま。

 

「――……!だい……うぶ――!」

 

遠くから声が聞こえる。私はソレに反応して倒れたまま顔をその方向に向けた。

あれは、お兄ちゃんだ。心配そうに、こわばった顔で、今の私では追いつけないほどの速度で駆け寄ってくる。

そして傷ついた私を抱えて、お兄ちゃんは叫んだ。

 

 

「大丈夫か!!かなみぃぃー!!!」

 

 

 

 

 

「かなみって誰なのお兄ちゃぁぁーーん!?……あれ?」

 

 起きたばかりの視力の戻らない目にビシビシと太陽光が入る。

 叫んで体を起こしたなのはのいた場所は、ベッドの上。今見ていたのは紛うことなき夢、夢オチである。

しかしなんという夢を見たのだろうか。まさか自分の名前を間違えられるというショッキンドリーム。これが普通の少女であるならふてくされて3日は口を利かないレベルだ。そういえば昨日は夜遅くまでアニメを見ていたことを思い出す。もしかしたらそれが影響したのかもしれない。どこからかリュウホーゥ!カァーズマァー!と幻聴が聞こえそうだがそんなことはない。ないったら無い。

 

『おい、どうしたなのは?開けるぞ』

「あ、はーい」

 

 渾身のツッコミを聞いていたのか、恭也がドアを開けてあたりを見回す。ゴキブリでも見たと思ったのだろうか、確認し終えると特に叫ぶようなものはない、と考えて首をひねった。

 

「……何叫んでたんだ?」

「え、えーと。なんでもないです……にゃはは。あ、そうだお兄ちゃん」

「何だ?」

 

 ふと疑問に思って、なのはは兄に問うた。

 

「かなみって誰?」

「いや、知らんぞ?誰だソレは」

「だ、だよねぇ……」

 

 もしこの質問を月村忍の前でしてみたらどうなるだろうか。多分「へー、ちょっと屋上まで(以下略」となること必定。ただの質問が浮気の問答にレベルアップしてしまうのは間違いない。

 

「ところでなのは。今何時か、わかってて言ってるのか?」

「え、何時ってそれは6時じゃ……あれ?」

 

 普段は優しいはずの兄の笑顔が、ドコか恐ろしい。そして携帯を見て固まる。今の時間は――!

 

「そう、10時だ。まさか訓練をすっぽかして爆睡しているとは俺も思わなかったよ」

 

 やばい、となのはの顔が青ざめる。確か今日は午前中は近所の神社まで階段を駆け上り、そこから模擬戦をする予定だったはず。つまり敬愛する兄と姉をほったらかしにしていたことになるのだ。普段はシスコンではないか、と思われるほどなのはを猫可愛がりする恭也だが、事修練に関しては生真面目で鬼のようなトレーニングをなのはに課すこと日常茶飯事。とはいえそれも護身のためと思えば、そんな行動も偏に彼の愛ゆえに、である。

 

「さぼった罰だ。月村邸まで走ってこい。全力でだ」

 

 

 

「お、お兄ちゃんの鬼ぃぃぃーーーー!!」

 

 高町家の朝は今日も騒がしい。そのせいで、先程見た夢の違和感も霧の中へと消えてしまっていたなのはだった。

 

 

 

 

 

 月村家は海鳴に拠点を置く富豪の1つである。ブルジョアを正しく表した広大な土地を持ち、中心に座する邸宅までの距離は庭と称する土地も含めるとかなり長い。そのため市街地からはそれなりに離れた距離にあり、近隣のバス停からもそこそこの時間、歩かなければたどり着かない場所にある。

 

 今日はその月村邸で、ちょっとした慰労会をしようと話が持ち上がった。ジュエルシード捜索が開始されたから既に二週間。海からの引き上げも無事に終わり、これから市外や外縁部が捜索のメインに移り変わることで一定の安全を確保出来たためである。そのため日夜駆り出されるユーノと、戦力の充実により予備人員となったなのはを労おうと少女たちからの提案である。

 

「それで、なんでなのはは初っ端からへばってるのよ」

「……ぜっ……はぁ、はぅ。アリサちゃんもお兄ちゃんの特訓を受ければわかると思うの」

「そういう事を聞きたいんじゃないんだけど、全力でお断りするわ」

「あはは、災難だったねなのはちゃん」

 

 月村邸の門前に到着したアリサ、それと迎えに来たすずかは揃ってなのはに声をかけた。結局、ペース無視の走りこみは実行されることになった。最初は兄の乗るバスを追いかけ、その後は走る兄(手加減)に追われる鬼ごっことなった。送迎されるアリサの乗る車を全力で横切っていったなのはを見て、彼女は「あぁ、またか」と呟いたらしい。追う兄は実に涼しい顔をしていたが、この二人でなければ少しばかり犯罪臭ただよう光景である。高町家の誰かが走っているのはもはや海鳴名物といっても過言ではなかった。

 

「ま、それはいいとして。私たち自身が言うのも何だけど、この光景はちょっとハマり過ぎじゃない?」

「そうだねぇ、深淵のお嬢さ、じゃなくて貴族の息子……みたいな?」

 

「あ、あはは……。ってすずか、さりげにすごい間違いしてない?」

 

 ブルジョア娘二人が見たもの、それは今しがた到着したユーノのことである。さらりとすごいことを言うすずかにツッコミをいれるものの、その判断はあながち間違いではない。

 

 彼の後ろには、屈強なボディーガード二人組とリムジンが当たり前のように侍っていたからである!

 

「僕も正直、ここまで大事になるとは思ってなかったんだけどね……」

 

 ユーノが語るのは、先日交わした契約内容についてだ。確かにボディーガードをつけるとは言われたが、まさかそこらの警備員レベルではなく軍人レベルが来るとは思ってもいなかったのである。何せ背後のその二人、三本陸夫と国枝裕二は日本の誇る自衛隊の隊員なのだ。恭也も二人を見て感心しながら目を細めていた。彼らは主にデバイスやMW(マギテクスウェポン)のテストをメインに活動しており、そこを引っ張られるようにして今回の任についたとユーノは聞いていた。

 

 その結果がコレであり、さながら御曹司のような見た目になってしまったのは無理もない事だった。あの契約の翌日、僕は他のことに気を取られすぎて想像力が欠如していたんだと放心したままなのはに語っていたという。

 

「ま、そんなわけでよろしく皆様方!三本陸夫34歳、妻三人に子が一人……!あ、逆ね逆」

「こんなクソウゼー先輩は刑事罰でしょっぴいときます。国枝裕二、敢えて言いますが独身です」

 

 二人の態度は他が呆気にとられるくらいフランクだ。ソレは彼らの経験からくるものだ。三本陸夫はそれなりに年になるが、肩まで届くロンゲと鋭い切れ目がどこか若々しさを保っている。いわゆるイケメンというやつだ。そして彼の言ったことは真実であり、若いころに海外のあちらこちらで現地妻を作っている女泣かせの人間である。ただ彼女たちとの関係は良好らしく、そこは彼の軽くも丁寧な性格が幸いしているといっていい。国枝裕二はその後輩、ほぼ丸坊主で普段から険しい顔をしているが、大体が三本に振り回されるせいであり、嫉妬から来ているものもある。とはいえ既に二人は長い付き合いであり、一見ズケズケした関係に見えてもタッグを組んでいるあたり仲はいい。それこそ戦闘ともなれば阿吽の呼吸を発揮するだろう。闘牛親子、それが彼らに付けられた二つ名である。

 

「よろしくお願いします。ノエル、二人を別室に案内してあげて?」

「かしこまりました。忍お嬢様」

「お、いいんすか?悪いね」

 

 忍がメイドのノエルに彼らの案内を任せ、その後を追う形で全員が邸内へと入っていった。

 

 

 

 月村邸は猫屋敷である。すずかの飼う猫達はのびのびと室内を闊歩していた。その光景を見て、

 

(フェレットでなくてよかった!!!)

 

と、ため息をついていた。どこか悲壮感漂う未来を幻視してしまったのかもしれない。なのはは普段から動物とのふれあいが無いのか、黙々とオヤツを噛むデブ猫を膝に抱えている。

 

「それにしてもユーノ君までブルジョアだと、一般人は私だけになっちゃったね」

「ど・の・く・ち・が!そんな事を言うのかしらぁ~?個人資産はアンタが一番多いでしょうが!」

「ぐぇ!アリサちゃんギブギブギブぅ!」

 

 4人はほとんどテラスと大差ない部屋で、テーブルを囲んで紅茶を飲んでいた。話が盛り上がる中で、なのはは唐突に当たり前のようなことを言ったのだが、それはアリサにヘッドロックでツッコミを入れられる。何せなのはは例の空撮動画をアップして以降、オファーによりいくつも製品を出している。それらはワールドワイドにヒットを生み出し、今や小学生とは思えないほどの金持ちとなっていた。彼女の動画が売れたのは斬新さとマギテクス利用の先駆けもあるが、何より彼女の撮影センスが映えていたからだろう。戦闘機並みのアクロバット飛行を低地で繰り返しても、視聴者が酔わないよう丁寧に撮影されているのである。木々の間をするすると抜け、ターンを描いて一気に太陽光あふれる空へと飛び出す。もはやこの一連のシーンは彼女の代名詞となっていた。

 

 余談ではあるが、なのはの自室クローゼットの中には大量の撮影機材が置いてあったりする。収入にモノを言わせて買ったのだが、女の子らしくないカオスな光景が閉じ込められているようで怖いものがあった。

 

「うぅ、ひどい目にあいました」

「自業自得よ」

「ちなみに僕の場合はブルジョア(笑)だと思うんだけど……」

「卑下しすぎじゃないかな?たしかに物珍しさはあるかもしれないけど、ユーノ君頑張ってるし」

 

 

 互いが互いに感想を言い合いながら、話題はコロコロ移り変わり話が盛り上がっていく。前回会ってからの一週間で、話したい事が色々溜まっていたのかアレコレ飛び出していた。その途中、ある程度落ち着いた間を狙ってかどうか知らないが、目を爛々と輝かせた忍が入ってきた。何かを取りに行っていたのか、後ろをついてきた恭也はどこか渋い顔をしている。

 

「さぁ、私は恭也と部屋でイチャイ……ゲフン。の前に、マギテクス発表会を行いたいと思います!」

 

 どこからかワーと歓声が聞こえる。合いの手を入れたのはノエルとファリン、さすが従者の鑑である。子供たちはイキナリのサプライズに何が起こるのかとワクワクと戸惑いが半分ずつ。

 

「勿論すずかのも持ってきたわよ」

「それ作りかけなんだけどなぁ……」

 

 姉は暴走しているようだ。こうして大勢にお披露目出来る機会を単純に待ちわびていたのだろう。

 

「それじゃぁ恭也はこれをつけてね?」

「これは……指輪か?」

「左手の薬指につけてもいいのよ?」

「いや、それは……その。……そういうのは、俺から渡したいんだ、がっ!?」

「きゃー!!やだ恭也ったら!!」

 

 バッシンバッシンと顔を赤らめながら背中を叩く忍。訂正、姉は大暴走しているようです。なのはは両親並みに広がる超絶桃色空間に拍手喝采である。ここでまともなのは唖然としているその他三人だけ。むせながらも、とりあえず指輪は人差し指に付けることにした。

 

「それで、これからどうすれば?」

「その指輪の上に反対の手のひらをすっと、差しこむようにかざしてみて?」

「……こうか?」

 

 何か嫌な予感がするな、と感じながらも言われた動作を行う。瞬間、指輪から電子ボイスが流れ、

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン』

「おい、やめ……」

 

 止める間もなく、恭也は光りに包まれて衣装が変わる。元々着ていたシャツに被せるように黒い外套が出現し、彼の姿は暗殺者、もしくは旅人のような姿に変化を遂げた。周りの目線が痛い。首から錆びた音がするような動きで、恭也はニコニコと笑う忍に向き直る。

 

「……で、これはなんだ?」

「変身ヒーローってかっこいいと思わない?」

 

「今直ぐ普通の機能にしてくれ……」

 

 えー、と文句を言いながらも、渋々忍は機能設定をオフにする。どうやらオプションだったらしく、搭載したのは茶目っ気によるものだそうだ。

 

「で、結局これはなんなんだ?」

「フフ、なんと量子格納庫!カバンみたいなものね。コートは一応魔力コーティングがしてあって、その内側に恭也の武器を収納できるようにしてあるわ。個別に取り出すことも可能よ?ストレージデバイスの亜種みたいなものね」

 

 ようするに、魔法機能無しの容量特化型デバイスらしい。ほう、と感心したのか恭也は何度かオンオフを繰り返す。今度は音声は鳴らなかった。なのはを追い回す際に持っていた刀や飛針、鋼糸も一緒に格納しておく。

 

「……いいわね、変身ヒーロー。子供に受けると思わない?」

「間違いなく採算が取れないと思うなぁ」

 

 アリサはあれでオモチャが作れないか考えていた。すずかはそれをやんわりとたしなめる。少なくともデバイスコアだけでおもちゃではない値段になることは確定だ。

 

「じゃぁ次はすずかの番ね。あなたの才能、存分に自慢しちゃいなさい」

「は、恥ずかしいけど。うん、じゃぁこれを、なのはちゃん」

 

「にゃ?私?」

 

 ノエルたちが持ってきた、荷台に積まれた何かに寄ったすずかに呼ばれて近くに移動する。

 

「じゃぁバリアジャケットを展開してもらえるかな」

「はーい。ぱっと、これでいい?」

「うん、じゃぁちょっと動かないでね」

 

 変わらず重装甲気味のバリアジャケットを展開し、指示に従う。すずかはソレを見て荷台からいくつかのパーツを取り出すと、アタッチメントをバリアジャケットに付け足してからそれらを装着していく。

 

 肩と腰後部に二基ずつ取り付けられたそれは、一つずつに両翼が備えられた飛ぶための機械。ウィングバインダーの存在する純白のフレームの中央には円柱形の何かがあり、カバーパーツに覆われた部分を興味本位で開けた場所に見えたものは、

 

「ってこれ、え?ノズル?……見た目スラスターとタービン、ってまさか!?」

「ピンポーン。マギテクス式ジェットエンジンでーす」

 

 その回答に、月村家以外の全員がこんどこそ衝撃を受けた。一体何を作ってるんだこの小学生は、と視線が集まる。いまのなのはの見た目は、背面にロケットを搭載したロボットのような状態になっていた。肩部にとりつけられたものは腰部に比べサイズは2/3と小さいが、すずかは一つの回答を生み出していた。

 

「空戦って基本的に、戦闘機の真似事だよね?いくら慣性や重力制御を魔法で行なっているとしても、急激なターンを行うにはやっぱり限界が出てきちゃうの。で、それを解消させるために作ってたのが、コレ」

 

 確かに、となのはは思う。一応アクセルフィンという高速移動魔法は習得しているが、アレはほぼ直線限定であり、急制動をかけてしまうために使った直後のディレイが長く、連続使用には不向きであった。ソレに比べてこの装備は、魔法に直接関係なく使えるために、ダイレクトに方向転換が出来る。しかもそれぞれが可動式で思念制御できるため、その場での高速旋回も可能となる。つまりこれ、ゲームで言うなればいわゆるクイックブースターというやつだ。

 

「今は圧縮魔力を内蔵したバレットを使ってて、一回使ったらリジェクトされるようになってるの。それぞれに5個入ってるから、使い切ったらおしまい。……本当なら、動力を常時供給できる魔力炉を載せたかったんだけど。四機分ともなるとさすがに個人で抱えるには大きくなりすぎるから今はまだ。もっと小型化出来たら一基ずつに搭載しようと思ってて、その改良型を別に製作中です。……どうかな?」

 

 本当はデバイスごと作りたかったんだけど、レイジングハートにとられちゃったから。そう語るすずかは熱意をそのまま外部装備のみに注力したのだ。

 

「うん、ありがとうすずかちゃん!大会に向けてがんばるからね!」

 

 新たな翼を手に入れたなのは。彼女の顔は友達の期待に答えようと力に満ちていた。

 

 

「……一体、この世界のドコが技術ランクBなんだろう」

 

 こっそりと、管理局の判断基準に頭を悩ませる少年がいたのは秘密である。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ改めて私は恭也と部屋でイ「あぁ!?」……何事?」

 

 これからさぁプライベートの時間、そう言おうとしたところでなのはが驚いたような声を上げた。同時にユーノも外を向いて同じ顔をしている。

 

「ジュエルシード反応!?こんなところに!?街の探索は終わったんじゃ……」

「レイジングハート!」

『It was out of a detection range(探知範囲外でした)』

「え!?まだいじけてるの!?」

 

 またあらぬ疑いをかけられては困ると自己保身に走るレイジングハート。実際のところ、容量検知では範囲が狭いのでそのままそのとおりなのだが。

 

「なんであれ、さっさと行ったほうがいいだろう。何が影響を受けたのかわからんからな」

 

 恭也が音頭を取って、なのはを落ち着かせる。ここにいた一同は固まって動いたほうが安全だろうということで、全員移動することとなった。

 

 

 

 

 深い深い森の奥、月村家の抱える土地はジュエルシードの反応地点に行くまでもかなり移動させられたが、それでも数分は掛かる程度に広い。初めは走っていたメンツも、途中でアリサが力尽きかけたためになのはが抱えて空を飛んでいる。

 

「そういえばここ私有地だったわね。そりゃ警察も入らないわけよ、盲点だったわ」

 

 しかも面積が広く外からでは検知に引っかからない位置にあったようで、誰にも非はない。

 

「……到着!……え?」

 

 駆け抜けた足を休め、彼女らはジュエルシードが発動した場所を少し遠目に視認する。しかし、そこにいたのは危害を与える何かではなく、

 

「……でかにゃんこ?」

 

アリサの問いに答えるようにニャーと鳴いた、木々の高さをも超える巨大な子猫の姿だった。

 

 

「間抜けとはこのことよね」

 

 少し離れた場所を歩く巨大ネコ、もとい化け猫。鳴き声をあげる光景は平和で脱力してしまう。自分たちは危険をなくすために全力でここまでやってきたのに、という肩透かし。まぁ、何も無いなら無いでいいのだ。しかしそれゆえに疑問が残る。

 

「なんでああなってるの?」

「……多分だけど、大きくなりたいとか願ったんじゃないかな?成長が拡大になってるあたり、ジュエルシードらしい誤認だとは思うけど」

「願いがシンプルなほど叶いやすいってことなのかしら?ところで歩く度にズシンズシンいってるけど、体重も重くなってるのかしら?子猫の骨密度であの重さを耐えられるのかしらね恭也?」

「俺に聞かれてもな」

 

 だが内容はやっぱり適当なままだったりする。完全に気が抜けてしまったらしい。強いて言えば気をつけないといけないのは、ジュエルシードの抽出方法だろう。さすがにネコを攻撃してしまうのは気が引ける。そのネコは実にマイペースに、更に少し離れた後、開けた場所でゴロリと寝転がっている。

 

「ところで、うちの庭に落ちたジュエルシードなんだから私のものにならないかしら」

「まだ言ってるんですか!?諦めてください……」

「とてつもないジャイアニズムに全ユーノ君が泣いてるよ、お姉ちゃん」

「じょ、冗談よ冗談。オホホ」

 

 絶対冗談じゃない、主の痴態(科学的暴走癖)を知っているメイド二人はこっそりと断定した。

 

「……うーん。……あれ?」

「どうしたのなのは?」

 

 ネコの足元を見ていたなのはは、不意に映った影に気がついた。

 

「あそこ、ほら人がいない?1、2、……4人かな?」

「言われてみればそんな気もするわね」

「確かにいるな。気配がある」

 

 恭也も同意したということは間違い無いだろう。彼は警戒心を強め、忍はうちの庭で何してんのかしらと不穏な空気をまとう。ちょっと怖い大人組に威圧されてなのは以外の3人はザザッと後ろに引いた。

 

「コッソリ近づいてみよう。俺は木の上から。ほかは下からゆっくりと、だ」

「空飛んだらダメ?」

「隠れる場所がないだろ?やめておけ」

 

 恭也が忍者のようにフッと消えたのを合図に、なのは、ユーノを先頭に非武器所持者が後ろをついて近づいていく。ある程度近づいたあたりで、件の4人は何やら騒がしく、不穏な空気をまとっていた。一人は金髪の、なのはよりも年上の女性。成長期に入ったのか子供と大人の中間のスタイルの綺麗な少女、もう一人がそっくりの、恐らく妹のような存在。そして残りは、犬耳とメイドだろうか?何故コスプレをしているのかはわからない。加えて前者は露出気味のナイスバディと、後者は装いこそ高級感溢れる衣装にロシア帽か聖職者の帽子のようなものをかぶっているが、ノエルやファリンと似た雰囲気を感じている。ご丁寧に犬耳にはパタパタと動く尻尾までついていた。

 

 

「なぁフェイト、少し落ち着きなって。何も必ずやらなきゃいけないってわけじゃないんだからさぁ」

「ううん、私は、私がやらなくちゃいけないんだ」

「頑固だね。リニスはどう思う?」

「……フェイトお嬢様も初めてのことですから、お好きにしてみればいいかと」

 

 帽子の女性はリニス、小さい金髪は、フェイトというらしい。ネコをじっと見つめる赤目に、今朝見た夢を脳裏に思い出させた気がして、

 

「ダメだよフェイト、それだけはやっちゃだめだ!」

「答えはノーだよアルフ!私は今、我慢をやめる!」

 

 足に力をぐっと貯め、彼女はネコに向かって駆け出そうとする。それがなのはにはとてつもないデジャヴを生み出し、攻撃をしようとしているように見えて、

 

「や、やめ……」

 

「子猫のモフモフに向かって……ダァーイブ!!」

「フェ、フェイトー!!」

 

 飛び上がる金の少女。両手を広げたその様は、翼を広げた天使のように見えたとかなんとか。

 

「てぇーーーー!?」

 

 あんまりなギャグ時空に、盛大に足を取られてずっこけてしまっていた。「この泥棒猫がぁー!!」とアルフの残響が、虚しく響き、その他全員も本日何度目のか呆れを感じていたのだった。

 




最近よく「期待通り」を「期待どうり」みたいな間違いをするのを見かける。通例、通常という単語があるように、ひっくり返せば常の通り、例の通り、のように「とおり」となるはずなのだが、最近の国語は大丈夫なのかとふと思った。自分の国語力も大したことはないですが。


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Tea party in tukimura_2

遅くなってスマンな、心に矢を受けてしまってな。そう、クリスマスなんてなかったんだよ。だから俺は23日から年賀絵に着手していた。今も書いてる途中さ。

別に振られたとか、そういうのじゃない。単に仕事が引きこもり気味だから出会いがないだけさ。

そんなわけでユーノ振り回し回です。いつも彼が余計な事を言葉の端々から気づくのでプロット修正しまくりです。


「姉さん姉さん!モフモフだよモフモフ!」

 

 少女、フェイトが爛々と赤い瞳を輝かせて喜ぶ。巨大化したネコにうずもれ、ほとんど姿が見えなくなったフェイトは半ば泳ぐようにしてその感触を楽しんでいた。

 

「とっても可愛いわよフェイト!姉さん写真をバシバシ撮ってあげるからね!」

 

 カシャカシャと鳴るシャッター音。フラッシュはネコを驚かせるわけにはいかないので炊いていない。

 左右に動き回る姉らしき人物の足元では、耳としっぽの垂れたアルフという女性が地面にのの字を描いている。

 

「くぅ……!フェイトを猫に取られるなんて……!あたしだって体大きくてモフモフなのに……!あれか、毛質がいけないのか!?」

「アルフの毛はどっちかというと硬めです。子猫の毛にはとても……」

 

 そして諌めるどころか更にダメージを与える猫メイド。アルフの心はぼろぼろだった。

 この光景、一見すれば家族の、非常に和む団欒風景にしか見えない。しかしジュエルシードモンスター(?)となった猫と戯れているのは危機感と良い感じに混ざり合ってとてもカオス。放っておけばいつまでも続きかねないこの日常を、とりあえずは安全だろうと見定めた忍が危機感をわずかに薄め、待ったを淹れることにした。

 

「で、結局何なのあなた達?」

 

 

 

 

 

「申し遅れました。私は使い魔のリニス、こちらは主代理の」

「アリシア・テスタロッサ。よろしくね?」

 

 こちらに気づき、内二人が挨拶を交わした。メイドの方は気にかかる単語があったが、高級感溢れる装いはともすれば聖職者のような装いではあるが、その姿勢は正しくメイドであるようだ。金髪セミロングの少女は中学生ぐらいの年頃になりそうなのか体が女らしくなりつつある最中のようで、しかし表情に見える快活さは幼心を未だ含んでいるよう。白地のキャミソールに薄手のベスト、更にホットパンツと動きやすい格好をしている。

 

「……月村忍よ。それで、どうしてこの森にいたのかしら?一応ココは月村家の私有地、庭なのだけれど」

 

 ムダにフレンドリーな相手に対して気が抜けかけるが、得体の知れない相手なので再び強気に出るのだが。

 

「庭!?ここが!?」

 

 驚きで悲しみから復帰したのか、犬耳尻尾の女性がやってくる。こちらも随分とあけっぴろげな格好をしており、短めの黒マントをつけた胸元の開いた衣装に下着の見えかかっているズボン、指ぬきグローブと地球ではあり得ない格好。加えて額には宝石のようなものがついており、彼女が正しく人間で無いことを示している。

 

「いやぁ、ジュエルシードの反応をたどって降りてきたのはいいけど、まさか庭だったなんてねぇ。こんな広い庭、ウチでも持ってないよ」

「アルフ、まずは挨拶を」

「っと、悪いね。アルフだ、フェイトの使い魔をしてるよ」

 

 片手を上げて軽く挨拶。どうもあちら側のマイペースにイニシアチブを握られている気がして、忍は心のなかで顔をしかめた。

 

「なるほど、使い魔ですか」

「知っているの、ユーノ君?」

 

 ここで知識人、ユーノが声に出した。彼が知っているということはつまり、彼女たちは管理世界の人間という関係性がリンクするということだ。

 

「簡単に言えば、魔導師の使役する魔法生命体です。動物の死亡直後、またはその前の段階で契約を結ぶ事で作成できます。特徴としては、主の魔力キャパの一部を占有し続けること、人と同じ程度の知恵を持てるということ、かな」

「加えて、管理世界ではある程度の人権は保証されていると言えばおわかりで?」

「……ええ、よくわかったわ」

 

 動物だからってナメんじゃないぞコラと言われているようだ。リニスは言ってることはおだやかだが、内容が端的なため威圧しているようにしか聞こえない。

 

「まぁまぁ、これでお互いのことがわかったんだからいーじゃん?」

「アルフ、こちらは他人の敷地に踏み入っているのだから警戒されるのは当然です」

 

 それをアルフが中和するように話しかける。この使い魔組は正反対の性格のようだが、凸凹コンビといえるような仲の良さにあるのだろう。

 

「うん、満足した」

「あ、フェイトぉ~♪ほら、フェイトもあいつらに挨拶しな?」

「え、あ!ごめんなさい!フェイト・テスタロッサです!」

 

 猫から降りてきたフェイトに機嫌を良くしたアルフが催促し、フェイトはかなり自分勝手に行動していたのを今更ながら悟りペコペコしている。アリシアと違って赤い瞳を有しており、長い金髪は黒いリボンでツインテールにまとめられている。着ている服はゴシックドレス気味のワンピースと少女らしい可愛さを持っていた。

 

 

「まあ、名前を名乗られたからには返さないといけないわね。月村忍よ」

 

 先陣を切った忍に続き、それぞれ挨拶を交わす。順番に紹介をし、

 

「た、高町なのはです!よろしくお願いします」

「じーっ……」

「え……?何?」

 

 なのはの番になったとき、フェイトが目を細めながら彼女を見ていた。擬音まで口に出しちゃってアラヤダカワイイとつぶやいていた姉の言葉は幻聴だと思いたい。

 

「ああ、なるほどね。確かに」

 

 何に納得したのかわからないが、無言のフェイトにアリシアは同意した。

 

「うん、すごく似てる。ジェ「ていっ!」――あいたっ」

 

 言うやいなや頭を小突かれ攫うような勢いで移動させられるフェイト。少し離れた位置でアリシアは慌てて注意をする。

 

「こら、フェイト。彼の名前は出しちゃダメって言われてたでしょ?」

「あ、うん。そうだった、ごめんね姉さん」

 

 アリシアいわくフェイトはウッカリ天然娘だそうだ。そのため姉としては彼女の言動に注意しておかなければといつもヒヤヒヤしている。

 

 

「??結局、なんだったんですか?」

「や、ごめんごめん。フェイトがうっかり大人なこっ恥ずかしいアレに似てるとか言い出しそうだったもんで、悪いけど止めさせてもらったよ。ちなみに何だったか、……聞きたい?」

「いぇ!なんでもないです!」

 

 一体何と比較されたんですか私!?と顔を真っ赤にするなのは。

 

「さぁフェイト!今こそあなたの野望を達成するときよ!ここにいるのはあなたと同い年の少年少女たち!勇気を出して言ってみなさい!」

「は、はい!姉さん!」

 

 先の会話を完全に無視して自分たちのペースで物事をすすめる少女たち。同年代と知った地球組はいったい何を言うのかと少しドキドキしている。もちろんさっきのような頓珍漢なセリフを期待してではない。

 

「わ、私と……友だちになってください!」

 

 下げられた頭、伸ばされた手。フェイトには友達がいない。今まで自分の家からほとんど出たことのなかったフェイトには、それを言うだけでも相応の勇気がいる。人生とは挑戦の連続だ、とは誰が言ったのだろうか。少なくともフェイトの人生はまだまだ始まったばかり、彼女にとっては何もかもが新鮮で、未知のことばかりだ。それを知る由はまだ周囲の彼女たちには無い。そのはずだが、何かを感じ取ったなのはが即座に彼女手を取りギュッと握った。

 

「名前を教えあったら、友達だよ!フェイトちゃん!」

「……わかった。よろしく、なのは!」

 

 ここに、彼女たちの生涯に渡る長い縁がつながった。この光景が偶然のものか故意のものか、知る人によっては審議を醸すものがあるが今を生きる人間にとっては何ら関係のないことだ。「友達をつくる」、そんな当たり前の、しかし美しい光景に、知る人達の反応はといえば、

 

「うぅ……よかったねぇ、よかったねぇフェイト」

「はい。苦節二年、ようやくといったところですか」

 

 何やら涙を流してやたらと感動していた。使い魔としてはその感動も一入ということなのだろうか。

 

「……あれ?よく考えたら私も友達いなくね?」

 

 ついでに約7年間もの間ひきこもり気味な生活をしていた姉12歳も、唐突なボッチ判明に危機感を抱いていたのは完璧に余談だった。

 

 

 

 

「やれやれ、これじゃ警戒しすぎてた私達がバカみたいじゃない。ねぇユーノ君?」

「えぇ、まぁ。まさかピクニック気分で地球に降りてきてたというのもびっくりですけど」

 

 心温まる美しい光景に、純粋に物事を見れなくなっていた二人は「イイハナシダナー」と半ば放心状態だった。彼女たちがわざわざやってきてまでやったことは、まさかの友達作りであったのだから。いったい今日は何度呆れればいいのか。いつもの3人娘はフェイトを囲んで和気藹々としているし、内心はタイガー戦車がやってきたかと思ったらやわらか戦車だったみたいな微妙な空気。一体ドコにこの感情を落とし込めばいいのか、疑心暗鬼に走る二人は完全に持て余していた。

 

「で、結局本題は何だったのかしら?」

 

 もうどうにでもなれといった気分で、忍は隣で何故か膝をついてorzしていたアリシアに問いかける。いい加減逸れた道から戻らないと延々とこの光景が続きそうだった。

 

「ああ、えーと。そこの子は管理世界出身よね?なら話はわかるわね?私たちは亡命しに来たのよ!」

「いえ、なんのことだかさっぱりです」

「話の腰を折らないでくれるかな!?」

 

 そこは神妙な顔つきで「ぼう……めい!?」とでも言っておきなさいよーと文句を口にするアリシア。この少女はその場のテンションだけで生きているのだろうか、そんな疑問が浮かぶ。

 

「ゴホン。まぁ、あっちでちょっと問題があってね。私は死んだことになってるし、フェイトにいたっては生まれたことにすらなってないの。あ、別に私達が何かしたわけじゃないのよ?ただちょーっとばかり母さんに罪をなすりつけたいけ好かない奴らに、法的に復讐をしなくちゃいけないんだけど、それには私達がいたらちょっと問題なの。母さんは「娘を失った被害者」として告訴しなくちゃいけなくてね」

「結構重大な問題じゃないのソレ。でも、それがジュエルシード反応を追ってきた理由には何の関係があるのかしら?」

「…………ジュエルシードの捜索手伝いでもしたら亡命認めてもらえるかなーって」

 

「そんな雑把に物事を決められるのは管理世界くらいだよ……」

 

 舌を出しながらてへへと笑うアリシア、かなりいきあたりばったりな理由だった。

 

「へぇ、……そう。ところであなた達、マギテクスに関して相応の知識は持ってるかしら?」

「マギ……?ああ、この世界の魔法のこと?それだったら、私とリニスはあっちの世界でデバイスマイスターって言われるくらいの技術は持ってるよ?もぐりだけど、何で?」

 

「よし、採用よ」

 

「「へ?」」

 

 どういう判断を下したのか、ユーノとアリシアは疑問の声をあげる。

 

「運がいいわねあなた達。ここは月村で、月村は魔法の先進開発企業を持ってるのよ。そこで技術協力してくれるなら、国籍の一つや二つ、いくらでもなんとかしてあげるわ」

「ほんと!?いや、それならかなりありがたいわ!」

「ちょちょちょちょちょっと!?待ってください、そんな簡単でいいんですか!?」

 

 有無を言わさぬ決定にユーノが待ったをかける。

 

「あら、何?疑問でもあるのかしら?」

「忍さんの判断はまぁ、百歩譲っていいとして。僕には彼女たちの行動に看過できない部分があります」

「それは?」

 

「何故、ジュエルシードについて知っていたかです」

 

 ジュエルシードはつい最近発掘されたロストロギアであり、その存在を知っているのは報告を受けた管理局のみのはずである。尤も彼らはそれを知ってか知らずか動いていないのだが。それを一般人(?)であるはずの彼女らが知っており、かつ管理局より先行して動いているというのは不自然なことだ。

 

「単純なことよ。告訴する以上、私たちは勝たねばならない。とすれば、管理局内に味方してくれる伝手を作っててもおかしくないでしょう?」

「いえ、だとすれば尚更おかしいです。管理局はジュエルシードを放っていることになる」

 

 ここで再び、ユーノが懸念していた矛盾が噴出する。ロストロギアを放ってまでしなければいけないこととは何なのか。

 

「君は物事を両極端に考え過ぎだよ。いい?管理局は正義じゃない」

「!」

 

 その懸念はあったが、管理世界の人間に言われると改めて動揺する。

 

「まずひとつ、管理局というのは魔法という技術体系を持ってソレを制することで、他者を蹂躙する利権組織よ」

 

 管理局において腑に落ちない点があった。それは「魔法を知った管理外世界がどう対応されるか」という無意識のほころび。正義を体現するはずの管理局が他世界を滅ぼすという、強引なアプローチをしかねないと考えてしまった自分。それはつまり、管理局がそうしかねない、というイメージが自分の中で先行しているからだ。無意識にでもそう思っているということは、そう思わせるだけの何かを管理局が持っていたということだ。中立だったはずの組織はいつの間にか管理世界の鍋の蓋に変わっていたということか。利権組織と言われてユーノの心にストンと落ちるものがあった。例えば、レアスキル等は誰がどんなものを持っているかを申告する必要性がある。質量兵器を排除し、地球のような導力銃を持たせないことで能力のない人間の抵抗力を削ぐ。リンカーコアを持つものにエリート意識を持たせ、手厚く保護することで管理局へ従属させる。何もかもが管理局に有利になる内容である。

 

「ふたつ、組織である以上そこには派閥が存在する。大きいのは、利権を重視する保守派と対する改革派。母さんに協力してくれているのは後者よ。加えて第97管理外世界に科学者を送り込んだのも、地球の現状を隠し通しているのも、改革派のやったことよ。頭のよさそうなユーノ君なら、これだけでわかるかな?」

 

 与えられた情報にギュンとユーノの頭がフル回転する。彼女の言ったことと自分の推察を合わせるとつまり、

 

「地球を利用してるってことか!?ジュエルシードを落とした僕のことまで計算に巻き込んで!」

 

 直結した知識にユーノが憤慨する。改革派はつまり、魔法を知った地球を、ジュエルシードが落ちることで何らかの形でその状態がバレることを含めて、保守派に対する試金石にしようとしているというのだ。恐らくはこういうことだろう。ジュエルシードをキッカケとして、地球が魔法が使えることがバレる。そうすれば保守派はそれに対応するために行動し、地球は従えないと反抗する。すると保守派は地球を攻撃できる大義名分を得ることができるが、改革派は同時に保守派に対する倫理に基づいた抑止を入れられる。しかしそれは自分たちの組織の内紛に他所の世界を巻き込む、それこそ悪ではないのかとユーノは憤っているのだ。

 

「ドコの誰が言ったか覚えてないけど、――悪があるとすれば、それは人の心だ。――だったかな?いい言葉だよね。君の言っていることは正論だし、改革派の行動は確かに内輪もめは関係ないところでやってくれと言いたくなるだろうね。だけど、プリズムが角度によって色を変えるように、悪という価値観も見る人によって変わる。改革派からすれば、自分たちのやっていることは間違い無く正義で、保守派は悪。その逆もまた然り。でもねユーノ君?その改革派に、地球は協力しているんだよって言ったらどう思う?」

「……なんだって?」

 

 巻き込まれることを許容している。首相の三雲連次も「知っていてやっている」と言った。それはつまり、地球にとっても保守派は邪魔だということだろう。そんな彼らが、味方だと言った人物がいる。それはつまり、

 

「新庄甚吾、彼は管理局員ということか!」

 

「どう思う?って聞いてそっちに飛び火するのはどうなの?まぁ今回の構図がわかってスッキリしたとは思うけど」

 

 とどのつまり、アリシアはただの亡命希望の一般人どころか、地球の現状をすべて知ってまで来ているズブズブの関係者だったというわけだ。しかしユーノはごちゃごちゃした感情に、自分の答えを出せないまま。

 

「つまり、これって必要悪ってことでしょ。新庄さんが何者か、は置いとくとして、改革派とやらに地球側が同意を示しているなら、既に話は終わってるってこと。それで?結局のとこあなた達は私達に迷惑をかけるのかしら?」

「私たちは迷惑をかけないわ。それと、長期的に見ればあなた達の立ち位置は将来きっと他世界に対して有利になるわね」

 

 煮え切らないユーノに変わり、声をかけたのは隣で聞いていた忍だった。彼女の問いはきっぱりとした分別がされており、迷惑をかけるかそうでないかというアッサリしたものだった。

 

「そう……、ならこうしましょう。とりあえず戸籍は用意してあげるわ。あなた達が向こうの世界で死人で、同意があるとはいえ拉致とか言われても大変だしね。年齢的に見れば日本ではまだ義務教育期間だから、学校に行ってもらいながら外部アドバイザーとしてこっそり家の地下で支援してもらいましょ。後はほとぼりが冷めたら考えればいいわ。それまでは家に泊まりなさい」

「オッケー!恩に着るわ」

 

 危害が加えられる可能性があってもなおかつ地球がこのような行動に出るということは、何らかの高い勝率を持っているということだろう。おそらくはとてつもないジョーカーでも引いたか与えられたか。妥当なのはジョニー・スリカエッティあたりか。いや、もしくは人ではなくジュエルシードという物騒な「災害」のはずなのに一切出ない重傷者という不思議な光景こそが、ジョーカーかもしれない。そう忍は直感から感じ取った。人に害が出ないなら、躊躇う理由もなく改革派とやらに地球側も協力できるだろう。

 

「ちょ~~っと待ったぁぁあ!」

 

 乱入するのはいつの間にやら姦し娘組から離れてこっちに来ていたアリサ・バニングス。彼女はズビッと指を忍にさせて言い放った。

 

「話の内容はさっぱりだけど、月村だけが独占するのは許せないわね!うちも噛むわよ、その話!」

「あら、うちとパイを分け合おうっていうの?後から出てきて言うわね」

「経済成長に競争は必要だって言ってるのよ!」

 

 さすがに騒がしかったらしく、この話はアリサの耳にも届いていたようだ。もしこの話を持ち帰れば彼女にとっても有益だろう。もちろん忍は分ける気がありさらには相互協力体制も踏む算段だったが、思いの外小学生らしからぬ高度な物言いに、少しばかり言い争いに興じていた。

 

 

 

 

「さて、話がまとまったところで」

「……うん?まとまったの?」

「まとまったのよ」

 

 フェイトのコテンと首を傾げるリアクションに悶えるアリシア。今日も妹愛は爆発中である。

 

「……ユーノ君、元気?」

「ははは、なんというか。やっぱり雲の上の出来事に振り回されてるような気がしてきたよ。僕は何にもできないんだ」

「え、ええっと、その。そ、そうだ!封印、封印が出来るよ!結局猫ちゃんにダメージを与えないようにする方法を聞いていないんだけど」

「……ああ、砲撃じゃなくて直接封印を選べばいいんじゃないかな。それもレイジングハートに願えばやってくれるさ。ハハ、アハハ」

「し、しっかりしてぇーユーノ君!」

「へぶっ!?」

 

 壊れたときは斜め45度からのチョップ振り下ろし、コレに限る。優しく背中をさすってケアしてたはずのなのはの渾身の一撃はユーノの意志を取り戻すには十分だった。手痛いダメージも同様にもらったが、自業自得だろう。

 

「あれ?えーと、何してたんだっけ。そうだ、封印だよね封印。さっさとやっちゃおう」

「そうだよユーノ君!頑張って!」

 

 

「いいのかしら、あれで?」

「いいんじゃないかなぁ?」

 

 傍から見れば、リストラした夫を気合で立ち直らせる妻といったところだろうか?微笑ましいような、どこか物哀しいような。アリサとすずかの二人は一瞬だけ彼らの将来を幻視したような気がした。対峙する猫はまた少し離れた場所で気ままに転がっている。乱立する木に体をこすりつけるのが気持ちいいのか、少し眠たげだ。

 

「……あん?ちょっと待ちなよ。なんか……クサイ臭いが近づいてくるんだけど、ソレもたくさん」

「臭い?」

 

 アルフは狼が素体の使い魔だ。彼女のそのよく効く鼻が、この場に現れた異臭を嗅ぎとる。全員が疑問に思っている中で、木々の中から慌てるようにして恭也が飛び出してきた。

 

「お前たちっ、守りを固めろ!!」

 

 果たして反応できたのは一体何人いただろうか。この瞬間、空気を劈く号音とともに、幾重もの魔力弾が彼らの居た場所に、容赦なく降り注いだ。




今年もお疲れ様でした。多分次回は年明けです。当SSはランキング最高8位(確認した時点で)、お気に入り登録数600越え、平均6.68点と想像以上に得難い評価をいただきました。ほぼ処女作に近いのでネタが受ければ中堅以下くらいかと考えてましたが、思ったより楽しんでいただけで光栄です。遅々として進まないSSではありますが、定期更新を来年も続けていきたいので頑張ります。


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Leeeeeeeeeet's Partyyyyyyy!!_1

あけましておめでとうございます、今年も当SSをよろしくお願いします。年賀絵を描きましたので以下からどうぞ。

https://twitter.com/kyout_n/status/286178489533599744

ってこれで見れるのかな?
(´・ω・`)一話で書ききれるかと思ったが無理だったよ。弱い相手に対する蹂躙って普通に強いもの同士の戦闘より書くのが単調化してしまい難しい……。

それと前話の修正分はまた後日です。

部分修正:
H25.02.15
傭兵集団のバリアジャケットにおける信頼性を若干低下


――数日前 管理局首都航空隊

 

 禿げかけた頭を隠すように手で抑えながら、深いという面を隠さず通路を歩く男がいた。

 通りすがりの下士官は彼を見て、しかし敬礼は適当にそそくさと立ち去っていく。ソレも仕方ない、この男、ロス・ドッグ三等陸佐は所内の腫れ物として有名だからである。付いたあだ名は現場知らずの「蛙」だ。それを知ってか知らずか本人は気にした様子もなく通り過ぎる。今彼が気にすべきことは頭……ではなく、これからの未来についてだ。

 

 ロス・ドッグは文官であり、つまりリンカーコアが無いと判断された局員である。管理局の一般常識として、現場に出られる者、リンカーコアがある人間はそれが大きければ大きいほど昇進が早い。魔法が多く使え、威力の高い魔法が使えることはそのまま点数として加算される。有能な人間ほど危険地に派遣され、功績を持って帰る。勿論その分、給与も弾まれている。緊急手当に危険手当、保険に、その他もろもろ。ついでに設備利用費に装備の申請、金のかかることが何もかもが優遇される。それ故才能があれば子供でも使う、という管理局の方針から上層部は学校にも行っていないような脳筋だらけという極端な魔力至上主義が出来上がっていったのだが、とりあえず閑話休題。

 

 まぁソレを考えれば、文官で三等陸佐まで駆け上がれたのはすごいことだと思うだろう。が、彼は既に限界を感じていた。この階級まで上がってきた段階で既に入局25年、年老い後は定年を待つばかりの苦境に立たされている。Sランクの魔力持ちなら駆け足4年でたどり着く階級だ。そして、彼の知っている中でコレ以上の階級になった文官は、ほとんど存在しない。三等陸佐がほぼ上限、このまま何年も同じ階級にとどまる人間を何人も見てきたからだ。ついでに言えば彼の所内での心証も低い。事務仕事ばかりに明け暮れていたせいで現場を知らず、判断命令処理全てにおいて二歩遅い。だというのにしゃしゃり出ようとしてくるから局員にも嫌われ、命令を聞かない下士官に対して憤り本人もひねくれる。完全な悪循環。

 

 だが、それでも悪い意味で向上心の高いロスは出世欲も人一倍である。そんな彼だからこそ、どうにか上に駆け上がれないかと悩み、こうして顔を歪めているのだが、

 

「ああ、知ってる?第97管理外世界にロストロギアが落ちたらしいよ」

「へぇ?でも一概にどんなものか、わからないわねそれじゃ」

 

 曲がり角から、そんな会話が聞こえた。何故かふと気になってしまい、彼は角からコッソリと会話の主を覗く。そこにいたのは二人、茶髪の少年とメガネをかけた美人の女性局員の二人。傍から見れば少年が話題をキッカケに、背伸びしたナンパを敢行しようとしているようで少し微笑ましい。しかしロスが注目したのはそこでなく、そこから続く話の内容だ。

 

「ああ、ジュエルシードっていうんだ。なんでも21個あって、願いを叶えてくれるらしい」

「ソレって、なんでも?」

「そう、なんでも」

「素敵ね。なら私は最高級のネックレスでも願おうかしら」

 

 すました顔の女性に「俗物が……」との視線を向けながら、彼は思う。願いを叶えるロストロギア、それが一回につき消費されるものだと考えても、21個は破格過ぎる量だ。それが第97管理外世界に、落ちた。それをイメージした瞬間、彼の欲望がむくむくと湧き上がるのを感じる。しかし自分は唯の陸の局員。華の海のエリートが時期に回収してしまうだろうことを悔やんだ。しかし、彼らの話はそんなことに関係なく続いている。

 

「でもあなた、なんでそんな事知ってるの?」

「ロストロギア運搬の依頼申請だったんだけどね、なんとこの依頼。他のロストロギア発見報告の山に埋もれてスルーされたのか、受理されていないんだよ。それが気になってさ、色々調べたってわけ。海の奴らはそのごたごたでほとんど出払ってるし、チェックしてる奴は未だにいなかった」

「深堀したってわけね。ふふ、職務怠慢じゃないのそれ?報告はしたの?」

「知らないよ。俺は陸だぜ?いちいち海のエリート様にかまってられないよ」

「あら、イケナイ子ね」

 

 それを聞いて、ロスは即座に踵を返した。向かう先は自分の執務室。PCと向かい合い申請内容を上から順にたどっていく。そうすると、確かにあった。ユーノ・スクライア、かの有名な発掘一族であるスクライアからの依頼だ。申請日から既に何日も経過しているにも関わらず、言っていた通りの状態になっている。その上も同様にロストロギア関係の依頼で山積みになっていた。この申請直後に来ていた大量の依頼はほとんどすべてがわずかな時間差で並んでいる。作為的、ともとれる報告だったが目先のことばかりに向いている彼は気づかない。

 

 そして彼はその申請が解決したことにし、そのデータを隠蔽した。即座に有給休暇を取り、執務室を後にしてかけ出した。

 彼は気づかない。その噂を流していた少年が管理局員でないことも、話していた相手から注意して聞きとればわずかな機械音が出ていたことも。

 

 

「……あれ?」

「どうした、ティーダ」

「いや、今ドッグ三等陸佐が走ってどこかに行っていたような」

 

 それを聞いた相手の局員がなんだそんなことか、と一言入れた後大げさにため息をついて頭をふる。

 

「いいんだよ、蛙の事なんざ気にしなくったって。どうせいてもいなくても変わりゃしねえんだ。それよりもほら、さっさとメシにいこうぜ」

「あ、ああ……」

 

 今は一介の局員であるティーダ、彼もまだ、そしてこれからも知ることはない。このロスの一連の行動が、自分自身の閉ざされた運命の戸口を大きく開けることを。

 

 

 

 

 

魔導変移リリカルプラネット:急転直下

 

Sub title : Leeeeeeeeeet's Partyyyyyyy!!

 

 

 

 

「皆っ、大丈夫!?」

「ええ、なんとか……!」

「もぅ!何よ、何が起こったの!?」

 

 自身の周囲をゴゥっと巻き上げられた粉塵が渦巻く。恭也の声に即座に反応し、既にバリアジャケットとレイジングハートを展開していたなのはは、ワイドエリアプロテクションを張ることで事なきを得た。他の全員も個別にプロテクションを展開していたが、最終的には彼女の防御がすべてを覆っていたのだ。しかし、守ることができたのはこの場にいた人間のみ、すなわち――

 

「子猫は!?」

 

 距離が離れていた子猫を守ることは出来なかったのだ。なのはの顔に脂のような汗が張り付く。レイジングハートの先でわずかな砲撃魔法を爆発させ、風を生む。猫のいた直線上に向けて、周囲を覆っていた煙幕が晴れて一気に道が開けた。しかしその先にいたのは、

 

 

「悪いが、こいつは頂いた」

 

 

 ジュエルシードを抜き取られ、既に元の大きさに戻っていた子猫を踏みにじるグレー調のバリアジャケットの傷ついた顔の男と、その後ろに控える一党、計20人もの団体だった。

 

 

 

 

 

 次元航行艦を所持する盗賊は多い。運送業で利用されるほど一般的であるため、中型艦程度なら買うのもさほど苦労しない。もっとも彼らは盗賊であり、当然のごとくそれは盗品である。こういった違法魔導師は特定できないものも含めれば数多く、管理局は対応に苦慮しているそうだ。

 

 その中でも彼らは、ダークアイズは傭兵集団というくくりである。基本的に依頼を受け、条件を達成するためなら、もしくはその過程であれば何をしても構わないというスタイルだ。普通に盗賊でないのは、トップであるデュアリスという男とその子分達との認識に齟齬があるからである。

デュアリスは魔導師ランクAAの元管理局員だ。それが傭兵という身にやつしているのは、単純に彼らの標榜する正義と相性が悪かったことにある。

 

 ただ、強くなる。

 

 それだけを思い、ただ戦い、戦った相手を完膚なきまでに潰し、それ故彼が検挙したはずの犯人はそのすべてが重傷か、もしくは死体と化した。管理局の倫理からすれば明らかにやりすぎであり、非殺傷を解除する彼の行動は当然問題視されることになる。そのため彼は処罰が自分に届く前に姿を眩ました。

 

 そして殺しても構わない危険な依頼、いわゆる裏稼業を生業とした。世界を渡り歩きながらデバイスを強化し、技術を盗み、依頼主にとって目障りであるならそのものの善悪に問わず組織を潰し歩いた。子分たちはその中で運良く生き残り、彼の暴力性に惹かれて追従した者たちである。

 

 彼らに共通点があるとすれば、それはどちらも貪欲だということだろう。デュアリスは強くあるために他者を潰し、その残飯を漁るように群がって好き勝手をする子分、ハイエナだった。そのため子分たち自身はさほど高い実力があるわけではない。だが彼にすがり強さにあやかることで自分たちを大きく見せる卑しい男達だ。

 

 しかしその互いの関係が空虚というわけではなく、子分たちが手にする金銭や物資は彼らの運営費となりデュアリスもその恩恵に授かることになる。歪ではあるが、彼らは共存関係にあり互いが互いを頼っている状態に自然となったのだ。

 

 そして暴力の限りを尽くしていた時、とある依頼が入る。管理局員からのロストロギアを確保という、あからさまな罠だと思えるようなそれ。しかし話を伺えば、確保したロストロギアは一個以外はすべて自分のものにしていいということだし、何より依頼した当人も相応に強欲であった。ならば彼らが断る理由はなく、強くなるために、奪うために、魔法文明の無いとされる第97管理外世界に降り立つこととなった。

 

 

 

 

 

「おいおい、いい女がいるじゃねえか。見ろよジョッシュ、ボンキュッボンだぜボンキュッボン!」

「グヘ、おいはそれよりあそこのガキどもがいい……」

「っげ、お前ロリコンかよ!?いいかぁ〜、近づくなよ?変態がうつっちまうからなぁ!!」

「無機物フェチに言われたくねぇよこのダラずが!」

 

 少女たちに下卑た視線が突き刺さる。しかし彼女たちは泣くでもなく怯えるでもなく、猫を害された怒りから燃え上がるような睨みを返した。戦う心構えのできていないアリサやすずかのような一般人も、わずかな足摺だけをして耐えた。彼女たちは立場上、誘拐など特殊な状況に陥り、こういった視線にさらされた経験がある。もちろん慣れているわけではない。だがここには、頼りになる友がいる。戦う力がある。守るための手段がある。なればこそ、彼女たちは引き下がらない、下がってはいけない。

 

 それを眺めていた男たちは、その態度に嘲笑から怒りに変化した。自分たちを恐れるのは当然であり、彼らの力は絶対だからだ。次に彼らはメンチ切りをし数々の罵声を浴びせる。

 

「すましたツラしてんじゃねぇぞごらぁ!!」

「舐めた真似してどうなるかわかってんだろうなぁ!!」

「俺たち管理世界に名を轟かすダークアイズを知らねえとは言わせねえぞ!!」

 

 バカバカしいまでに、三下。こんなでは蹴散らされる未来が目に見えている。ていうかダークアイズって何、中二病?中二病レベル1なの?というか管理世界なら知るわけないでしょこのバカども!!以上、アリサが抱いた感想である。しかしその煮えたぎるツッコミはおいておき、彼らには言っておかなければならないことがある。

 

「それをどうするつもり、あなた達?危ないものと知っていてやってるのでしょうね?」

 

「知らぬ」

 

 てっきり三下が答えるのかと思ったが、答えたのはボスと思われる角刈りの、顔に多くの傷がついた無骨の男。彼の言動はシンプルではあるが、なんらかの凄みがある。だが、と彼は前置きを置き、

 

「強くなるために、ただ奪うのみ」

 

 重い空気を纏った告白は続き、

 

「魔導師がいたのは、いい意味で誤算だった。潰す楽しみが増えるというものだ」

 

 言い切り、彼はニヤリとあくどい笑みを浮かべる。

 

「そお、なら……うっとうしいからとっとと倒れなさい!」

「月村の敷地に入って、ただで出られると思わないことね!」

「子猫を、許せない!」

「続きなさい、アルフ!」

「舐めてんじゃないよあんた等!」

「僕が猫を助けます!」

 

 アリサの喉を掻っ切る動作に続き、次々と彼女たちは口火を切り突撃を開始した。彼女たちの怒りもまた、すでに頂点に達していた。

 

 

 

 

 瞬く間に森は戦場と化した。あっちこっちで魔力弾による土煙が上がり、敵の非破壊を解除した魔法により木々はなぎ倒されて行く。しかし、その騒々足たる中で、戦闘ができるはずのフェイトは展開したデバイスを立て、静かに佇んでいた。

 

「どったのフェイト?いかないの?」

 

 身体中のあっちこっちから、何に使うのかわからないメカニカルアームを展開装備したアリシアが問いかける。しかしフェイトはどこか茫洋としたままで独り言のようにつぶやく。

 

「私たち、ピクニックにきたんだよ」

「うん、そうだね……?」

 

 それ、本題からそれてない?と思うが、フェイトの独白は続く。

 

「久しぶりに庭園から出て、お日様の光を浴びて、おっきな猫と遊んで、それから、たくさんのお友達ができて」

『OK,Boss』

 

 いやいやいや、何がOKなのか。フェイトのインテリジェントデバイスであるバルディッシュの電子音声に続き、ガキンガキンと撃鉄を打ち続ける音が二つ。おいおい、それはカートリッジじゃあないのか。指示も無く何を勝手に装填しているのだ。

 

「絶対に、許さない……!」

「はい、退避ー」

 

 もうダメだ、今の一言と前の文章が全くかみ合ってない。ぼうっとしていたわけでなく、フェイトは静かにキレていた。それも相当に。彼女の繰り出す一撃に備え、アリシアは静かにきれているフェイトのそばからこっそりと逃げ出した。

 

「轟け!!」

『Plasma Smasher』

 

 金髪の少女が振り上げる金の魔力を圧縮した腕。本日午後、局地的な雷が日本の一都市で発生したという。

 

 

 

 

 

「……フェイトちゃん!……なんて威力」

 

 拡散する雷が魔力の誘導に従い、敵だけを穿つために瞬動する。なのはをブラインドにして両端から飛び出した雷は、空にいた数人の敵魔導師を撃ち抜いた。いくら非殺傷とはいえ、レアスキルによって変換された擬似雷の痛みは壮絶にし難く、耐性のないバリアジャケットではそのダメージもしかりだ。それをなんとか耐えようと踏ん張るが、追加とばかりに桜色の一閃が切り抜ける。

 

――ディバインセイバー

 

 なのはが得意とする収束剣、ナノスライサーと呼べるほどに薄く伸ばされた魔法だ。これは通常の固体化された魔力刃と違い、収束の名のとおり常時流動する魔力を制御されている。細かく振動する魔力は例えるならビームサーベル、固体化されたものはヒートホークぐらいの違いが出るのだ。

 

 つまり、恐ろしいほどの威力の剣を通り過ぎ様に振り抜かれた魔導師たちはすべて、地上へと落下することになる。

 

「そんな、あいつらが落ちるなんて!」

「化け物かなにかかよ!?」

 

 地上では動揺が広がる。それを見やったなのはは、切り捨てた悪を振り落とすようにレイジングハートを一振りするとわずかに首をあげ上を見上げる。ただ一人、金の輝きを受けずに逃げ切っていた男がいたのだ。少女たちがまだ名前も知らぬ男、デュアリスだ。

 

「やってくれる……。強いのだな、貴様ら」

「……あなたとは、語る口を持ちません」

「良い。なればただ、戦うのみだ」

 

 その言葉を最後に、ふたりは構えを取る。なのはは半身を前に出してレイジングハートの切っ先を相手に向け、デュアリスは斧型のデバイスを後ろ手に降り下ろせる体制で。自身の正義のために、片や自身の欲のために。互いが相入れることはない。

 

 

 

 

 

「そら、甘いんだよ!」

「逃しません!」

 

 一方、地上。一定の才能がいる空戦魔導師はごく少数で、その他のほとんどが陸戦魔導師だ。この傭兵集団も例に漏れず8割がたが陸戦魔導師だ。とはいえ所詮はデュアリスにつきまとう有象無象でしかなく、空戦魔導師たちはフェイトの怒りの雷撃によって完全に沈黙してしまった。それにより、相手を蹂躙できると踏んでいたはずの傭兵たちは、大威力の魔法に対する驚きで混乱を余儀無くされる。何故こんな奴らが、未開地にいるのだ、と。

 

「な、なんだこいつらぁ!?」

「やめろやめろやめろやめろ!くるなぁぁぁぁあっ!」

 

 なればこそ、蹂躙するのはこちら側になり立場は完全に逆転する。統率が取れずあちらこちらに逃げ回り、散逸的に攻撃を繰り返す。しかしその程度の豆粒では、アルフとリニスを止められはしない。

 

「クソ、オラァ!」

「甘いよ!これでもくらいな!」

「ッ、プロテクションでーーぐべっ!」

 

 敵のシューターを紙一重で躱し、空を移動する速度と体の捻転を力にして拳を思い切り相手の腹部にぶち込む。勿論男はプロテクションで防御にかかるが、そんなお粗末なものに意味はないとばかりにガラスに似た破砕音を立てて砕け散った。予定通りに突き進んだ拳は相手のバリアジャケットにめり込み、ミリミリと骨をきしませながら吹き飛んで行く。

 

 バリアブレイク、アルフが得意技としている妙技。その名の通りプロテクションに対するカウンターであり、インファイターには必須に近い技能でもある。

 

 あまりの威力に吹き飛んだ男を見ながら、アルフはフッと息を吐き伸ばした拳の残心を解く。傍らではリニスが、フェイトと同様、雷に変化する魔法を持って蹴散らしていた。樹木が多いここでは、それらがアースがわりになって威力が減衰しがちだ。しかしそれもリニスにとってハンデとなるものではなく、使い魔とされた素体であった山猫の特性を持って俊敏に駆け回り、敵の至近距離で火花を散らしていた。

 

 遠近両対応した使い魔のコンビ、共に高ランク魔導師の力を受けた上級の二人、ただの人間には全く引けを取らなかった。

 

 

「へっへっへ……いやいや、いるじゃねえか。魔法が使えねえやつもよぉ」

「男ってのは残念だが、まずはてめえからやってやることにするぜぇ!」

 

 情けなく自信が砕ける一方、こうして復調している者たちもいた。逃げ惑っていたはずの彼らはいたぶる対象を見つけることで、わずかな尊厳を取り戻し協調を始める。魔法が使えないということはバリアジャケットも張れず、遠距離攻撃もできないということだ。リンカーコア持ちというのは、極端にいえば選民思想に引っかかった人間であり自尊心が高い。それに彼らが高ぶらない訳がなく、未開地であることを思い出したのか余計に活気づく。そこに一人、つれた魚のように男が迷い込んだ。4人がかりで囲い込み、集団の有利を持って襲いかかる。その姿は平凡な杖のデバイスを持っていても、野盗にしか見えない。このまま男は砲撃で体をチリにされるだろう。

 

 しかし相手が悪い。彼らが相対したのは、この地球上で最も強い「人間」の一角高町恭也。あと30人雑魚を持ってきたとしても足りはしない。

 

「ここに手を出すとはな。覚悟しろ、お前らが行くのは地獄でも生ぬるい」

「ほざけっ!」

 

 叫び、全員同時に小さな砲撃を放つ。十時にクロスするように打たれた。それをよけられるはずが無く、周りは木々に囲まれている。彼らの中に当たるという確信が生まれる。しかしその程度、覆してこその

 

「ふっ!!」

「なああ!?」

 

 目にも留まらぬ高速斬撃。いつの間にか握られていた二刀の小太刀が振るわれわずかに音がした刹那、砲撃がかき消えた。わずかな風だけが振るったと思われる名残を纏う。

 

「なっ、あ、馬鹿な!?魔法が消えただと!?」

 

 驚くのも無理は無い。なんと恭也は魔法を切ることで完全に魔力を拡散させたのだ。げに恐ろしきは御神流、さすが木刀で斬鉄をこなせる剣術か。生半可などあり得ない。

 

「この程度、なのはの砲撃に比べたら止まって見える。そして、お前達程度には奥義を使うまでも無い」

 

 瞬歩、まるでワープでもしたかのように魔導師の目の前に恭也が現れる。彼がいたはずの場所には深く踏み抜いた一歩の陥没のち。驚きで固まった間をつき、恭也は小太刀をはなした手のひらを彼の胸に向けて軽く、トンと打ち放った。

 

 掌底、物理攻撃の多くをシャットアウトするバリアジャケットにはなんら意味の無い行為。早さに驚きこそしたものの、攻撃を受けていない三人はそれをあざ笑う。

 

「う、おげぇ………!」

 

 だが、受けた方はそれどころでなく、ガクガクと体を揺らし泡を吹いて倒れた。そして再度、残った三人は動揺する。

 

 御神流の基本として伝えられる技、"徹"。対象に衝撃をダイレクトに徹す事でダメージを与える技だ。人体に使えば内部破壊を起こし、武器に対してならば破壊、もしくは強い痺れを引き起こす。そして、この技相手にはバリアジャケットなど無いも同然。それをスルーして内部に与えられたダメージは魔導師に気絶を齎した。

 

 この技は剣でも使用する事は可能だ。しかし恭也が剣を用いて行った場合、魔導師はバリアジャケットごと切り裂かれて血の海に沈む事になるだろう。これは敵に対する手加減ではなく、少女達が血を見ないで済むようにした彼なりの配慮である。

 

 しかし、その配慮は残った魔導師たちには奇怪に映った。彼らにとってバリアジャケットは物理に対しては高い信頼があるのだ。それが破れる事すらなく倒されるなど、理解出来ないし、あってはならない。

 

 自然体で立ち、静かにこちらを見やる恭也に、彼らは心底恐怖した。

 

 

 

 

 

「よし、これで大丈夫だ」

「よかったぁ……!」

 

 牽制をかましに行ったなのはに続き、ユーノは転がるように子猫を回収して即座にもといた場所に舞い戻った。今ここにいるのはユーノに加え、ノエル、ファリン、月村姉妹にアリサ、アリシアの六人。ユーノは攻撃手段を持っていないため、彼女たちの防衛と子猫の治療を優先した。何より攻撃力過剰な数人が迎撃に出ているのだ。むしろ自分がいたら逆に邪魔になるだろう。そんなやるせない感情を食いしばって抑え込み、彼は彼に出来る事を冷静に選択した。そして、治癒魔法によって怪我をなんとか回復させた子猫は今、すずかに優しく抱きかかえられている。

 

「ありがとう、ユーノ君。このこの命を守ってくれて」

「いえ、助かって何よりです忍さん」

「あれ?うちのフェイトは?」

「森の中の敵を追い回してるよ」

 

 見れば、逃げ惑う敵をサーチアンドデストロイとばかりに金色の閃光が森の中をジグザグに駆け回っていた。魔導師たちがあちこちに散開しているせいで非効率な移動をしいられているが、一つ、また一つと彼らの悪意を蹴散らしている。

 

「カッとなっちゃったけど、結局彼らは何者なの?管理世界関係なのはわかったけど」

「多分、盗賊か何かだと思います。それにしてもこんな場所にまで来るなんて……情報が漏れていた?管理局は一体何をしているんでしょうか……?」

「一応言っておくけど、私達じゃないからね?(多分、ジェックが釣ったんだろうけど、まさかこんなものが釣れたなんて当人も思って無いでしょうね。ま、これで地球側は管理局の管理のずさんさという情報と、警戒に値するだけの名目を手にいれられる。未だ管理世界を信じていない各国の官僚もいるらしいし、いい冷や水かな)」

 

 何もかも手のひらの上では無いなぁ、と嘆息するアリシアだが、この状態は逆に好機であった。訪れた出来事のインパクトが強ければ強いほど、比例して政治家たちの警戒心も高まるというもの。ちなみにこの事はフェイトには教えていなかったため、子猫が怪我する様を見させてしまったのはちょっと悪い事したかなぁ?と罪悪感が募る。

 

「げりゃあー!隙ありイィィ!」

「うるさいよ!」

「げぶぁ!」

 

 いつの間に後ろに回り込んでいたのか、森の奥から突っ込んできた敵にメカニカルアームで殴り飛ばす。当然ただの殴りでは敵のバリアジャケットを抜くことは出来ず、吹き飛ぶだけにとどまった。

 

「ゲゲゲ、その程度でやられる俺様じゃねえ!ヒヒ、ついてるぜ……こっちにゃ戦えるやつがいねぇなぁ!?」

「では、私がお相手しましょう」

 

 すっとメイドの女性、ノエルが彼女たちの前に一歩立ちはだかる。ユーノはそれを危険と見て前に出ようとするが、任せてくださいという彼女の自身に満ちた表情から非戦闘者達の防御をより硬くすることにした。

 

「うひょー!マジかよ、やっぱりついてやがる。さぁって、どうしてやろうかなぁ」

 

 指先をワキワキさせながら近づく男。歪んだ顔面の気持ち悪さにアリサは吐き気を催しそうになる。だがノエルは意に介さず、左手を添えた右手をまっすぐに相手へと向けた。それも、グーで。

 

「へへ、一体そりゃぁ、何の真似だ?」

「こうするんですよ」

 

――彼女は唱えた、”ロケットパンチ”と。

 

「ぐぁ!?」

「嘘、マジ!?」

 

 ロボットの定番、ロケットパンチ。腕から切り離されて加速、空を飛び相手に力の限り物理ダメージを浴びせる必殺技。つまり、ノエルはロボットだったということだ。厳密には自動人形と呼ばれる彼女たちは、現代では他企業でも持っていない月村家独自の超技術によって作られている。ソレに驚いたのはアリシアだ。管理世界にはいくつもロボット兵のようなものを作った歴史があるが、どれもが大成せず、技術体系が出来上がらずにいる。だというのにこんな片隅の星に高度なAIが搭載されたソレを見るとは、アリシアもさすがに思ってなかったらしい。

 

「さすが魔力バレット型。炸薬に比べて実にエコですお嬢様、ついでに敵にダメージも通っています」

「勿論、忍さん渾身の力作だもの。思いっきりやりなさい」

 

 元々ノエルには炸薬による爆発推進によるロケットパンチが搭載されていたのだが、マギテクス発表以来改造を重ね、その体は対魔導師用にも対応できるようになっていた。そのため腕部の炸薬カートリッジは排除され、魔力バレットにより推進力とパンチにコーティングをする仕様となったのである。パンチを当てられた男は見事なエビ反りを表現し、そのまま地面に倒れ落ちていた。だが、まだ敵は半数近くいる。

 

「おりゃぁぁぁ!すっきありぃぃぃ!」

「な!?まだ空戦魔導師がいたのか!?だけど!」

 

 空を飛んできたのは、最初から飛んでおらず森に潜んでいた空戦魔導師。デバイスを持って突っ込んでくる男に、ユーノはチェーンバインドを発動させる。先端の輪に、両側からガッチリと掴まれた男はその罠を解除しようと必死に振り回すが、ユーノの堅牢な魔法が早々解けるわけがない。

 

「っち、クソ。とれねえ!」

「今です!三本さん、国枝さん!」

「……あぁ?何が――グォ!?」

 

 ギュゴッと唸りを上げる遠距離からの砲撃。魔導師の背後、認知の外からいきなり飛んできた魔力光が炸裂する。魔導師はそれに耐えようとするが、バインドによって無防備だったために直撃によろめいた。グラリと体が傾きそれる。だがこれだけでは終わらない。遠くから徐々に聞こえてくる音、タービンが出す独特の高速回転音だ。彼はそれを確認しようと精一杯の力を込めてなんとか後ろを向いた。

 

そこにいたのは、鳥。

 

 いや、徐々に大きくなるソレは距離と比べて明らかにサイズがおかしい。でかすぎるのだ。日差しで黒いシルエットがどんどん近くなっていき、ようやく魔導師はそれを認識することが出来た。

 

「ば、ばかな!?戦闘機だと!?」

 

 先端から鋭角に伸びたノーズ、そして揚力を生むためのウィング、後部には赤い魔力光を放出しながら唸りを上げるジェットブースター、ドコからどう見ても紛れもない戦闘機だが、そのサイズはソレというには少しばかり小さい。そして魔導師は更に驚く。その機体が変形を開始したのだ。翼は背部へと折りたたまれ、ジェットブースターは内蔵された魔力炉ごとそのままバックパックへとその姿を変える。あちらこちらの装甲が量子格納され、なんとその中からは人が現れた。それも底部に付いていた魔力砲にバイクのように跨り、それと一体化された操縦用のスティックを持っている。変形が終わると中にいた男、国枝裕二はそのスティックをずらし、そのまま逆手に大型のライフルとして装備した。

 

 その機体の名はホワイトバード。魔力炉を内蔵した小型魔導戦闘機であり、必要時には変形によって人型になることの出来る万能機である。

 

「おらっっっっせぇい!」

 

 国枝は変形しながらも、魔導師に近づいてきた時の勢いのまま突撃を敢行した。逃げ場のない魔導師にライフルから伸びた魔力刃が落下速度を加え衝突、バリアジャケットでも緩和しきれずに魔導師は即座に気絶する。

 

「やった!」

『よーぅ、これで良かったかいユーノ君?』

「ありがとうございます、三本さん。国枝さんも」

「やー、マジで危なかった。あんな勢いでツッコむもんじゃないわ。鳥ちゃんがおしゃかになっちまう。もう二度とやらねぇ」

 

 狙撃をしたのは国枝の相方、三本だ。彼らはユーノが傭兵集団を見た時に、こっそりと念話で連絡を入れていたのだ。彼らはその職務上ホワイトバードのテスターも兼任しており、彼らの実力について教えられていたユーノは即座に戦力に組み込んだのである。結果、イイトコ取りのヒーローのようなノリで出てくるはめになったのはご愛嬌だ。

 

 空中に浮遊する国枝は探知魔法のデータを含めたいくつかのディスプレイを眼前に投影したまま、あちこちを探る。既にいくらか倒されているとはいえ、まだ半数以下ほどは残っているはずだ。もうすぐやってくるだろう三本も合流して、これからは少女たちを守りつつの殲滅戦となる。敵魔導師達が全滅するのは既に時間の問題だった。

 




地球側が化物過ぎてバランスが取れない……!次回はなのは対デュアリスの続きからです。


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Leeeeeeeeeet's Partyyyyyyy!!_2

(;´Д`)戦闘シーンェ。頑張ったけどコレが今の限界です。レベルアップまでもうしばらくお待ち下さい。主に経験値がタリナイ。

※2話前のアリシア達に対する忍の最終判断を微妙に変えました。

H25.01.10最後の管理局会話部分大修正を行いました。ご迷惑おかけします。この部分はほぼ読みなおしになりますのでご注意ください。


「おらぁ!」

「はっ!」

 

 森を飛び上空へと敵を追いすがり、地上から100mほどの高さをなのはとデュアリスが激突する。腕にあらん限りの力をため全力でハンドアクス型のデバイスを振り下ろすデュアリスに対し、なのははディバインセイバーでいなし、捌く。だが、相手はただ力が強いだけではなく、虚も混じり、斧だけでなく蹴りも拳も躊躇なく使うために、なのはは劣勢を強いられていた。互いに近接戦を得意としているが、男の方には長い戦いによる経験則というアドバンテージがある。元管理局員ではあるが、彼の戦い方は実に生き汚く、そして実践的だ。大半のミッド系魔導師は近接戦が出来ないのが常識である。それはそもそもデバイスが杖であり魔法に特化しているだけでなく、杖術といった技を知らないためだろう。だからデュアリスは、近接用にデバイスをカスタマイズすることで魔法の発動そのものを阻止しながら戦う。そうすれば後は彼の独壇場だった。

 

 しかし対するなのはも御神流を身につけつつある近接戦の優。常日頃から親兄弟に鍛えられているだけあって、早々簡単に落ちはしない。それは逆にデュアリスを喜ばせる結果となっただけであったが。しかしそのデュアリスも、ディバインセイバーの底力に攻めあぐねている。あれはただの魔力刃ではない。自身の魔力刃とそれがかち合った時、まるでチェーンソーのようにゴリゴリ削られていくのだ。なのはのディバインセイバーは高密度に収束させた魔力を流動させている。つまり彼女の剣は触れる者皆傷つける恐ろしい技となっている。魔法としては実にシンプルなのだが、これは「収束」という彼女のレアスキルじみた能力があってようやくできるものなのだ。そのなのはでも常時展開させるのはちょうど小太刀ほど、大体60cm以下が限界である。一般の魔導師ではおそらくナイフサイズにするのも難しいかもしれない。

 

「っち、面倒な剣をもってやがる……」

「…………」

「だが、やりがいがあるってもんだ!楽しいだろう、少女よ!」

「そんなわけ、あるはずないでしょ!」

 

 アクセルフィンに似た高速移動魔法で突っ込んでくるデュアリス。彼から逃げるように、アタッチメントにつけられた各部のスラスターが稼働して勢い良く横向きに魔力を放つ。ガコン、という音と共にカバーが開き、薬莢が排出される。肩が外れそうになる横Gを魔法と自身を回転させることで制御しながら即座に切り返し、背後に回り込んで剣を振り下ろす。が、それをわずかなステップで回避されたのを見て取るとアクセルフィンを用いて一気に距離を取った。

 

「アクセルシューター!行って!」

 

 生み出した魔力スフィアは8。前史においてはフェイトとの戦時に生み出された、ディバインシューターを既に通り越しているこの魔法は兄妹ゲンカ(模擬戦)による賜物である。奇しくも恭也が高速戦闘のスタイルをとっているために、それを抑えるために創りだしたのだ。ディバインセイバーの収束制御によりその弾数は低めだが、実戦さながらに鍛えあげられたこの魔法はその威力もさることながら、相手をからめ捕ることに特化している。加えて今はレイジングハートもその制御に手を貸しているため、より複雑で高度な命令が可能だ。

 

 生み出した半数は命令に従い、一直線にデュアリスめがめて突っ込んでいく。残り半分は慣性を無視したような軌道を取りながらジグザクに、不規則に空を翔けた。複雑な軌道の魔力弾を視界に収めながら、直線軌道をとる魔力弾をデバイスと、手に展開したプロテクションで受け流す。1発、二発、それだけで脅威度を読み取ったこの男は、あろうことか残りの魔力弾めがけて突進する。アクセルシューターの本命は視界外から来る不規則軌道の魔力弾、その内二発。ソレ以外は威力を抑えた囮だ。更に二段構え、直撃しなくとも制御された魔力弾が視線を奪い、自らが収束剣を持って切り裂く。そのはずだった。

 

「おぉぉぉおぉおおお!!!」

 

 しかし、デュアリスはその戦術を容赦なく破壊する。彼は威力の弱いものとそうでないものをアッサリ見抜く。

 威力の高い魔力弾を砲撃によって相殺し、波状に揺れるプロテクションを展開しながら、ただ愚直に突っ込む。まるで獣のような咆哮。それにはプレッシャーと感じるだけの殺気が乗り、なのはを一歩退けるには十分な気迫だった。そのまま彼女の足が止まる。

 

「……っ!」

 

 それにより、わずかに判断が遅れたなのはにデュアリスの刃が横振りに叩きつけられる。代わりにソレを受け止めたのは、反射的にレイジングハートが紡いだプロテクション。しかしそれはとっさの展開のためもろく物理的な勢いも重なり、ガラスのような甲高い音を立ててひび割れた。その間際、気を取り直したなのはは再び回避。だが完全に間に合わなかったのか、なのはの頬にわずかな切り傷が残った。

 

(……この人、強いっ)

 

 魔力が高いのではなく、ただ、上手い。管理局に魔力ランクだけでなく魔導師ランクがあるように、あの世界では総合力も共に判断される。デュアリスは戦闘面でなら間違い無く、上位に立てる逸材であった。長きにわたる獣のような戦いから、直感にも似た経験則による戦略を編み出す男。

 

 なのははそっと、熱気を帯びた頬を撫でる。彼女の中に今あるものは、殺気全開の魔法を受けたことによるわずかな恐怖。今まで大学で模擬戦をしている時も、ジュエルシードを集めている時も、家族で訓練している時ですらも感じたことのない、ただ相手を潰すためだけの殺意。それはつまり、魔法にかかっている制限を解除していることにほかならない。そしてその個人が持つにはあり余り過ぎる威力は、自分自身が一番良く知っている。相手は容赦なくソレを叩きつけてくる。安心安全とうたわれるはずの、魔法。その秩序が崩壊した先にあるものは、純然たる凶器だ。

 

「……逃げたな?」

 

 ビクリ、と肩が震える。男の睨みが心を揺さぶる。

 

「所詮、強くとも女子供か。お前は戦士ではない……そして、獣でもない。ただ力があるだけの奴が、戦場に出てくるなっ!!」

「ぐぅぅっ!?」

『master!』

 

 再びの突貫。繰り返されるプロテクション。それは自身の心を守るカラのように見えた。わずかな恐怖がジワジワと体に広がっていく。高町なのはは、才能がある。魔法がある。剣技がある。だが、それだけだ。どれだけ一介の小学生を超越した能力を持っていても。

 

 精神は同じ年の子供よりもわずかに高いだけの、普通の少女だった。

 

 魔法を用いた模擬戦ではケガをしない。家族は手加減こそしないものの、情を持って当たってくれる。だから、自らの命を掴まれそうになる感覚は初めてだった。ジュエルシードの暴走とて、今までは自身の持ち得る高度な技能がそれを感じさせなかった。故に体の動きを鈍らせる。一撃において必要な踏み込みを、出すことが出来ない。

 

「ぐっ、あぁ!バスターぁぁぁ!!」

「――ぬぅ!」

 

 闇雲に打ち込む砲撃。そこにはなんの術もない、ただ振り払うだけの子供じみた行為。仕切り直し、なのはには一拍の猶予が必要とした。

 

「――はっ、はぁ」

 

 ほんの僅かの間に、めまぐるしく入れ替わった戦い。時間にすればさほど長くないものの、生命の危機という極限に立たされた状況はひどく体力を消耗させた。

 

――変われるなら、変わりたい。

 

 そんな思いが頭によぎり、戦いの精神を揺るがす。仲間がいる、頼れるということは、自分の重荷を誰かに背負ってもらえるということだ。一人ではない、しかし他の集団にも対応しなければならないために今は一人。

 

――怖い。

 

 だが、それではダメだと、心の底から叫ぶ声がある。今日見た夢が、心に蘇る。あの夢で見た自分は、とても弱かった。弱くて、傷だらけで、だけど、一生懸命だった。全力全開、本当の勇気。きっとそれは、今の自分が持ち得ていないものだ。果たして自分は、ジュエルシード集めにどれだけ本気だったのか。ただ出来るからやっていただけだろうか。いくらユーノのためとはいえ、心にほんの僅かにでも余裕を持っていなかっただろうか。

 

 まだ戦っている友人たちを見る。あそこには、守らなければならない大切な人達がいる。自分が敗れれば、この男はジュエルシードを求めて彼女たちも襲うだろう。それは、それだけは、やられてはならない。そして何よりも、

 

――ここで怯む自分が、一番許せない。

 

「――すぅ、はぁ。…………ああああああああぁぁぁ!!!!」

「――――……ほう」

 

 深呼吸一つ、とどめた気迫を一気に吐き出す。恐怖に怯えて誰かを頼るのは、ただの他人任せだ。信頼なんかではない。ここで必要なのは、勇気、そして覚悟。レイジングハートという名のデバイスを持っているのだ。ここで怯んでしまえば名前負けしてしまう。なのはの目に再び強い意志が宿る。デバイスの赤い宝石も一際強く輝いた。

 

「あなたには、負けません」

 

 再びニヤリと、デュアリスが笑う。

 

「いいだろう。来い」

 

 

 

 

 

 再び両者は激突する。桜色と赤褐色の閃光、両者ともに近接戦闘がメインだけあり加速を味方にしたぶつかり合いは派手に魔力を散らす。なのはは自身の魔力を全面に出したゴリ押し。時折スラスターとアクセルフィンの併用による瞬間加速も用いながら。デュアリスはヒットアンドアウェイを繰り返しながら、加速に必要なだけの距離を稼ぐ。そしてすきあらば空いた片手で掴みかかろうとする。たとえバリアジャケットがあろうとも、魔力をまとったもの同士なら素手だろうと有効打になりうる。掴まれて関節技に持ち込まれれば、それこそジャケットは無意味となるだろう。そして伸びるその手を、なのはは未熟ながらも徹をまとった拳で弾き返す。衝撃により腕が後ろに伸びたデュアリスは、再び大きく距離をとった。そこへ砲撃スタイルをとるなのはがディバインバスターを間をおきつつ連射。なのはの天賦の才とも呼べる的確な偏差射撃に、デュアリスは苦悶の声を漏らしつつも角度をつけたプロテクションで受け流す。長い間、ほとんどこの拮抗状態が続いた。

 

 魔導師同士の戦いは、実力差がない場合終始魔力の削り合いとなる。特に高い魔力持ちの場合はバリアジャケットを剥がし切るまでにダメージを与え続けなければほとんど気絶もしない。手練であるデュアリスはそれを知っているがゆえに、魔力刃をメインとし魔力の消費に非常に気を使っていた。なのはは馬鹿魔力とも呼べるものでなんとか押し返しているため、技術的優位に立っている男となんとか競る事が出来ている。だが、

 

「っは、っは、っはぁ」

 

 体力に関してはまだ男のほうが上だった。魔力が残ろうとも、消耗が早いなのはではいずれこうなるであろうことが、デュアリスにはわかっていた。汗が滝のように落ち、呼吸が乱れ始めている。

 

「……よくやった、と言いたいところだが。悪いがジュエルシードについて吐いてもらわねばな」

 

 決着は付いた、と言いたいのだろう。デュアリスは少しばかり残念そうな顔を浮かべながら、無情にもなのはに向けて手を掲げた。

 

「……っぐ!バインド!?」

 

 疲労で判断が鈍っているところを、的確に動きを止められる。空戦でトラップとして仕掛けるバインドにかけるのは容易ではないが、こうして動きが止まってしまえばアッサリと捕まえられる。四肢を、特に収束剣を警戒されたのか、腕は二重に拘束されてしまった。どれだけ力をかけようともビクともしないバインドに、なのはの焦りが浮かぶ。

 

「さて、ジュエルシードはどこにある。答えてもらおうか」

「…………っく。誰が、言うと思ってるの」

 

 魔導師であるなら集めているだろうと、あたりをつけてかデュアリスが問うた。当然、なのはが答えるわけがない。

 

「……見込みはあったのだがな。ならば、死ね」

 

 首元めがけて振りおろされる斧に抵抗することも出来ず、なのはの首は真っ二つに

 

「させません!」

「っち、邪魔立てするか!!」

 

――ならなかった。ガキン、と一鳴り。刃渡りが自分の身長並にある大きな鎌の魔力刃によって、その一撃は防がれた。なのはの目の前に現れたのは、黒いマントを纏ったフェイト・テスタロッサだった。奇しくも出会い、今日友人となったばかりの少女。その彼女が、我が身を顧みずに自分を守りに来たのだ。

 

「――フェイト、ちゃん?」

 

「初めて出来た友達を、殺させはしません」

「……下の奴らはどうした」

「全員、気絶させました。あなたにもう勝ち目はありません。投降するならそうしてください」

 

 ッチ、と軽く舌打ち。目の前には油断なくバルディッシュを構えたフェイト、そして地上からは手の空いた使い魔や魔導師が間もなく飛んでくるだろう。圧倒的不利に陥るのは時間の問題だ。

 

「悪いが、捕まるわけにはいかんな」

「なっ!?」

 

 高い音と共に赤褐色の魔力が広がった。それはただの魔力爆発だが、効果はフラッシュバンじみており、フェイトは視界を奪われる。霞む目を開きなんとかデュアリスのいた場所に斬りかかるが、男は既に距離を離し転移魔法を発動させていた。

 

「ま、待ちなさい!」

 

 気づきブリッツラッシュによって超加速、男の目の前まで出てバルディッシュを大きく振りかぶるも、ほんのわずかな差で男は転移を完了させてしまった。こうなってしまってはドコに行ったか、現状では判断することが不可能だ。

 

「そうだ、なのは!」

 

 男が消えたことで、同時になのはの拘束も解けた。だがまるで自分の体を支えきれないように、フラリと揺れて落下しそうになる。

 

「だ、大丈夫!?」

「フェ、フェイトちゃん。うん、……なんとか」

 

 再び加速してなのはをキャッチしたフェイト。焦りから慌てて問いかけるがケガらしいケガをしておらず、単純に疲れから来たものだと判断できたことで安堵の表情を浮かべた。

 

「今度は、絶対に負けない。あの人にも、自分に……も」

 

 自分の大切な人を、街を、守るために。巨大樹の時に誓った決意を更に大きく、更に強く願って、なのはは腕の中で気を失うのだった。

 

 

 

 

 

「ぐぁ!?きききき、貴様、何をする!?」

 

 次元の狭間に隠れた次元航行艦内、金属のツヤが光る壁面に不規則な反射をする部分が出来上がる。ロス・ドッグがデュアリスによって、容赦なく壁にぶん投げられたのだ。彼の顔は怒気に満ちていながら無表情という、不気味な様相を見せている。

 

「やれやれ、たしか……そう、お前は魔導師があの世界にいないといったな?管理外だと。だというのに、転移先にはアレだけの魔導師がいて、かつ俺の子分たちは全滅した。この損害を、どうやって支払う気だ?」

「ししししし知るか!?そんなの貴様の責任だろう!依頼を受けた以上は出来ると見込んだからではないのか!?」

「…………フンっ!」

「グファ!?う……うぅ」

 

 うずくまるロス・ドッグは更に蹴りを加えられ悶絶する。今のデュアリスはこう思っているのだ、はめられたと。欲はどうあれ、この男は管理局員だ。その男が手柄のために嘘の情報を教えたのだと誤解されてもある意味仕方ない。デュアリスにとっては、望外だった強い相手との巡り合いに満足しているが、子分たちがいなくなったというのは想像以上に彼にとって痛手だ。傭兵としての経営や航行艦の管理を子分たちに任せていた以上、デュアリスには手の余る問題である。互いが互いに利用していたのだ。信頼関係は無くとも、相互利益を生み出す存在として。

 

「まぁいい。この損害はお前を殺すことで支払うとしよう」

「ヒ、ヒィィィ!?」

 

 なのはの時と同じように斧を振るう。今度は邪魔するものはおらず、間違いなく首と胴体が分離するだろう。そう思って振ったのだが……、

 

「――消えた?発動の兆候すら見せずに転移しただと?」

 

 なんと、亡霊か何かのようにロス・ドッグは一瞬にしてこの場からいなくなったのである。サーチをかけても次元航行艦内には自分以外の生体反応はない。さすがに悪事の巣窟に潜りこむだけあって、切り札の一つや二つは用意していたのだろう。実に不可解な現象ではあるが、消えてしまった以上どうすることも出来ない。所詮はタダのザコと割り切った。

 

「まぁいい。こうなってしまった以上、後はせいぜい戦いを楽しむとするか」

 

 美味そうな奴が大量にいることだしな。そう考える彼の手のひらには青く輝くジュエルシードがあった。

 

 

 

 

 その晩、地球の政界は各国上から下まで大荒れであった。彼らには秘匿義務を課せられた上で管理世界の存在を認知させられていたが、その実在は半信半疑であった。G5のごく一部の者たちはこっそりとジョニーの手引きによって転移したことでそれを確かめたが、さすがに議員や代表全員を連れて行くわけには行かず、そういった者達の大半はSF映画の見過ぎだ、とうとう妄想に頼らねば国力の維持もできなくなったか。とヤジを飛ばしまくったものである。

 

 ところがどっこい。今日という日はジュエルシード求めて大量に不法入国者が突然空中に現れ、製品登録為されていない上に殺傷制限も解除出来るデバイスなんぞ持っていたからもう大変。逮捕した彼らは揃って管理世界から来たと証言し、秘匿情報が外部からもたらされることでようやく信じたらしく、半信半疑だった政治家達も、渋々ながらも管理世界への対応を考える派閥に同調を始めたようだ。さすがにユーノだけでは信頼されてなかったらしく、連続でこのような事態が起こることでようやく重い腰を上げたといえる。またこの情報に関しては本日同様に転移してきたアリシア達からの証言もあり、その情報は揺るぎない確かなものとなった。

 

 彼らが問題視するのは、転移による少人数でのテロ行為だ。もしもそれを起こされてしまえば、無意味に多くの命が奪われかねない事を危惧していた。また、アリシアからの情報により管理外世界などにデータ改竄によって不法入国する例もあり、この行為は正義を標榜する管理局員も割りと普通に行うことらしいことがわかった。これもまた、頭の痛い問題である。今後はあぶり出しも必要となるだろう。その割には、何故か管理世界側に地球の情報が伝わっていないという不可解さが残ってしまっていたが。

 

 コレに際して国連は、もしもの緊急時にジョニーから渡されていた切り札、プランAを発動することを常任理事国が全会一致で承認。彼らは管理局と対峙する可能性を視野にいれているようだ。管理局が仮想敵としたことで、一時的にではあるが地球はまとまりを見せるようになった。協調をとるには全員に共通した外敵を作ればいいとは言うが、そんなことであっさりとまとまってしまうあたり人間の性というのは不思議なものである。

 

 そして国内では、戦力の必要性を大として航空自衛隊からもホワイトバード部隊が派遣されることとなった。もしデュアリスが再びジュエルシードを求めるのであれば、海鳴市は戦場になる可能性があり、両方の捜索を可及的速やかに行うこととなった。市内の学校関係は凶悪犯罪者の出現により臨時休校となっている。

 

 ちなみにアリシア達の扱いであるが、彼女たちは日本で匿うとして一時的に戸籍が与えられることとなった。コレに関しては管理局と交渉によっては彼女たちをそのまま国民として扱うこととなるが、元々管理世界にも戸籍が残っていない上に死人扱いまでされていると言う以上、彼女らの証言をうのみにするわけではないが、管理局が文句を言ってきても恐らくは問題無いと見ている。ちなみに日本国外からの誘致の声も多数出ているが、フェイトの「初めての友達」がいるから、という理由で一蹴されてしまった。多くの問題を抱えながらもマギテクスにおいて相当のアドバンテージを確保した日本はこれからネチネチと文句を言われるのだろう。

 

 

 

 

 そして、動き出したのは彼らだけではなかった。

 

 

「アルカンシェルまで搭載するって、ちょっとやりすぎじゃないの?」

「仕方ないでしょう。最高評議会からの命令では覆す事はできません」

 

 そう愚痴をこぼしたのは、次元航行艦アースラの艦長席に座るリンディ・ハラオウン提督。返答するのはその息子、執務官のクロノ・ハラオウンだ。本来この席は彼女の夫であるクライドのものであったが、昇進に従って離れることとなり副官であったリンディが繰り上げられる事となった。そのクライドは現在、近々行われる就任式のために多忙を極めている。

 

「いやぁ、にしても評議会代理とかいう……えーっと名前なんでしたっけ?」

「ヴォーク・コングマン代理だ。エイミィ」

「そう、その代理だけど。えらそうにしてちょっとカチンとくるよねぇ?」

 

 私、怒ってますとばかりに通信主任兼執務官補佐であるエイミィ・リミエッタは声をあげた。クロノの補佐官探しは結局良い人材が見つからず、頼りとなったのは馴染みの同期生である。とはいえ情報面では圧倒的な才能を見せ、現状アースラのナンバー3に収まっている。その彼女が憤慨しているのは、コングマン代理の無茶苦茶とも思える上位命令である。

 

 つい数時間前、ある管理局員の報告によってロス・ドッグ三等陸佐が緊急逮捕された。彼は先程まで第97管理外世界近郊にいたはずで、だというのにいつの間にか本局内に転移していたらしく、それを現場にいた局員が不審に思い取り調べを行った。そしてわかったその内容はデータの隠蔽やロストロギアの強奪に関与した疑いであるが、ここから驚愕の事実が伝わった。なんとロストロギアが落ちたと言われる第97管理外世界で、魔法の存在が周知されていたからである。本人は憔悴していたが、提出されたデータに間違いはなくあちこちで魔力反応が起きていたのが確認された。何故今まで誰も気づかなった!?巡回している艦は何をしていた!?等と紛糾したが、その実態もまたとんでもないものであった。

 監視対象から第97管理外世界の除外、その申請が通っておりココ数年地球を監視していたものはいなかったということらしい。理由は地球の歴史を鑑みてロストロギアなどの危険性が無く、魔法開発も行われていないため、だそうだ。また地球にいるはずの常駐局員も全員引き払っており、わずかに地球産の物品を輸入していたはずの店舗もそれを取りやめていたとのことだ。まるで一斉に波が引いたような感覚に強い違和感を覚えた最高評議会は、地球が何らかの企みを持っているのではないかと疑い海の本局に派遣命令を出す、が。

 

「残念ながら、他の艦は全部出払って対応できるのがうちにしかいないって事なのよね」

「本当ねぇ、不思議ねー?」

「……エイミィも母さ、いや艦長も棒読みが過ぎますよ」

 

 このとおり、あちこちで一斉に反応を見せたらしいロストロギアがあるとの情報が入っており、ほとんどの航行艦が出払っていた。海の格納庫は文字通りもぬけの殻である。最高評議会としては大勢で詰め寄って管理局入りか、企みがあるなら潰そうと考えていたようだが、ソレが不可能となったことによってアルカンシェルを搭載しての出撃指示が出たのだ。無茶苦茶なのはその発射権限を評議会代理が持つということだ。一体いつの間に最高評議会はこんな過激派になってしまったのだろうか。当然リンディは上申したのだが、聞かぬ存ぜぬとばかりに相手にしてもらえなかった。

 そしてその最高評議会代理がこの1時間後に乗船して同行するというのが、エイミィはお冠らしい。当然、その他のクルーも同じ思いを持っている。最高評議会とその関係者はハラオウンと対抗する派閥を作っている。権力としてはあちらの方が上なので、余計な事をしそうなこちらが目障りらしく発射権限をもぎ取られたのだ。それは判断能力が無いと言われるようで沽券に関わることである。

 

「人手が足りないからどうしても私達に行かせなければならなかったけど、好きにさせるには癪に障る。まぁ仕方ないといえば仕方ないわね」

 

 ハラオウン一派は管理局内のパワーバランスを大きく占めている。まずクライドは局としての構成を大きく変えようとしており、現状細かい事案への対応が杜撰な事や、大きな事柄でも対応が遅れがちな事を懸念しているため、権力をいくつかに分割した新たな組織体系を目指していた。管理局はトップダウン型の指示系統であるためにどうしても判断が遅いのである。それも組織が肥大化してしまった今、上に問うのも時間が掛かりがちだ。またコレに伴いリンカーコアや才能に頼らない武装やデバイスの開発を推進しており、文官や、特に人材不足に泣ける地上部隊からの支持が多い。簡素なものでも開発に成功すれば戦力が拡充できるので期待されているようだ。

 

 逆に、魔力、魔法至上主義である最高評議会一派は自分たちが腕っ節一つでのし上がってきたために、エリート思想丸出しで弱者が武器を持つのを嫌うものが多い。つまりは組織でありながら、能力を個人の才能に求める派閥と解釈できる。魔法武装がリンカーコアの有無に関わらず持てるようになってしまうと、リンカーコア持ちを集めてきた管理局の土台が揺らぐ事などが理由にある。また一極にまとめた管理局の権力分散も気に入らないようだ。この中には過激派も存在し、リンカーコアの改造手術や違法な事に手を染めているものも多い。ジェックから受け取った、いわゆるブラックリストにはそのような局内で隠れてコソコソやっている者についても記載されている。最高評議会派閥のすべてがブラックというわけではないが、該当するものは一掃する予定だ。ただし、クライドが生存することで局内の歩みが変わることにより、前史と同じ行動をとっているとは限らないので綿密な調査の上で証拠をつきつける形となるだろう。ちなみに管理局改革を企てたハラオウン一派は最高評議会の正体を知っていて放置している。ジェックの話から今回の改革の贄とするために生かしているのだ。彼らも己と管理局の正義の為に色々試行錯誤しているようだが、既に長い時間の経過の中で傲慢に、もしくは耄碌しているのかやることが軒並み人道の見地から外れた事ばかりである。部下の過激な研究なども隠蔽を行ったりとやってることはグレーどころか、やはり真っ黒だ。

 

 そして、今回同乗するコングマンはその過激派に位置しており、多くの事件解決に奮闘したものの脳筋であったがために、行政に関わリ始めるほどの階級になった段階でダメ男になった人間である。解決方法も手荒であり、執行能力にリンカーコアは絶対不可欠という考えから人体実験でもすればいいと思うような男だ。最高評議会が誰かをアースラに同乗させる段階で正直誰が乗ってくるのか焦ったものだが、彼ならやり方次第では簡単に墓穴を掘ってくれるだろう、と考えリンディはホッとした。とはいえその研究事態はやはり評議会によって隠蔽されており、本人は真面目に局員として仕事をしているように見える。ブラックリストが無ければわからなかっただろう事だ。

 

 ハラオウン一派が行う改革は、ある意味犠牲を伴うクーデターのようなものだ。他者の多くの人生を狂わす事になる。場合によっては悪とも取られる行為だろう。しかし、自分たちは未来の為に血路を開かねばならない。大きな膿出しを行い、痴態を衆目に晒すことによって管理局の是非を問うのだ。地道な改革は権力構造上大きな妨げにあうため、まとめて様々な事案を解決するにはこの方法しか無かった。リンディはこれから陥れる男にわずかな罪悪感を抱くが、それを覚悟によって握りつぶした。

 

「ふふ、まぁ。何でも好きにできると思ったら大間違いよ。私たちの大逆襲はこれからだわ」

「露骨な打ち切りフラグを立てないでください艦長!?」

 

 軽い口調で誤魔化すリンディ。そんなこんなで今日、管理局から彼らも出発することとなる。そして、最高評議会は知らない。この艦こそが管理局改革の鍵にして、彼らを貶める最大のトラップだということに。

 




というわけで前史なのはさんとの違いを出しました。様々な趣味を持ち、普通の(?)家庭の普通の少女として成長したために、前史なのはほど精神的に強くありません。原作は追い詰められている性でああなってたので正しく勇敢とは言えない性格でしたが。この回、ツメツメにしたせいで何か書き忘れがないか非常に不安である。

次回、温泉編。しばしの癒し。

補填:バリアジャケットは剛性、衝撃カットは見事なものですが、あくまでも衣服ですので関節技などは普通に効くと思ってます。あとは魔力パンチ等も魔力させあればとりあえず有効打。デュアリスの戦い方はそういったバリアジャケットの構造的欠点を付く形での攻撃で素手で掴みかかろうとする事が多い奴です。……セクハラ?


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What is healing?

温泉回……?

それとTIPS更新しました。今回は魔法と魔力の関係について穿っております。
またこれによりいくつかの回が部分修正、加筆を喰らう予定です。前話も管理局部分は修正していますので読み直しとなります。申し訳ないです。このSSは全体の完成度を重視しており、なんかおかしいと思ったら徹底的に修正をかけていきます。その度にご苦労をかけてしまうことになりますがご容赦ください。

恐らく次回修正点は魔法やユーノの結界魔法が他には使えなかった理由、リリプラ1話部分の細かい説明などが対象になる予定です。補足が多いのでこのへんはゆっくりやりますので報告は更新ごとに行います。

では本編どうぞ。


 子供たちが待ちに待ったゴールデンウィークがやってきた。海鳴市では凶悪な犯罪者が現れたせいで暗雲漂う休日の始まりとなったが、子供たちは臨時休校によって長くなった休みに単純に喜んでいる。その最中、高町、バニングス、月村、テスタロッサ四家と+ユーノとその仲間たちは、かねてより予定していた温泉へと行くことになった。実際ジュエルシード関係で狙われたこともあり出かけても大丈夫かと心配されたのだが、むしろ集団でいたほうが安全であろうということと、なのはが少し傷心気味のためにここで気分転換を図ろうということで出かける算段となった。ココしばらく、傭兵なる男の出現報告は得ておらず無闇に人を襲うことはないだろうという判断をしている。温泉も市の内縁部に存在するためジュエルシード捜索に適しており、火急の際には頼れるために警察組織も調査という名目で随行することとなった。かくして本日、海鳴温泉は予想以上の来客により大きく儲けると同時に例にない忙しさに見舞われたという。

 

 

 

 

 

 ところで本日、某掲示板にこんな内容のスレが立っていた。

 

『魔法少女に出会ったと思ったら』

 

『あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!海鳴温泉で高町なのはに出会ってラッキー!と思ってたら、その後ろに金髪少女が三人と和風美少女が一人、更にメイドが二人に神官系美人が一人、そしてなぜか犬耳尻尾のコスプレをしたグラマラスな姉ちゃんがいるのを見た。な、何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何を見たのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。あれはどう見てもオモチャじゃねえ、本物の耳と尻尾だった……幻覚とか催眠術とか、そんなチャチなもんじゃぁ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……』

『なのは様と言えゲス野郎』

『なのは様prpr』

『金髪幼女についてkwsk』

『少女だっつってんだろーがこのダラズが!』

 

『まぁ、あまりにもびっくりしたんでな。コスプレ姉ちゃんが一人の時にその耳はどうしたんですか?精巧な作りですね、って声かけたんだ』

『おっwまwwwwww』

『勇気あるなオイ、ていうかそっちか』

『 (`・ω・´)ゞ無謀な>>1に敬礼!』

 

『そしたらさ、「あん?別に付け耳じゃないさ。私は狼の使い魔だからね。耳と尻尾が生えてるのは当たり前さ」だと。胸元は丸見えだし、腹は出てるしホットパンツだし、額になぜか宝石ついてるしでスゲー姉ちゃんだった。よくわかんなかったけど似合ってて綺麗ですねっつったらスゲー尻尾揺れてた』

『つかい……ま?』

『おいおい、いくら魔法時代到来したからってそれはねーだろ』

『画像も貼らずにスレ立てとな?』

『おいマロが来たじゃねーか!証拠うpはよ!』

 

『仕方ねーな。ホイ、写メだ』

『あるのかよwwwwってすげー美人wwww』

『あぁ本物っぽいな。獣人系ケモナー大歓喜モノじゃね?…うっ、ふう』

『はぇーよバカwww』

 

『なんかえらい気前よく撮らせてくれてな。そのうえ「気になるなら耳、触ってみるかい?」って言われたので触らせてもらった』

『なん……だと?』

『>>1は死罪確定だな』

 

『あの感触はガチだった。毛並み?は髪質と全く同じだったし、偽物では再現できない柔らかい肉質だった。外れそうにもないし普通に繋がってるっぽい。「どーよ?うちのフェイトが整えてくれてるんだよ?」って自慢してた。うちも犬飼ってるけど、それとほとんど同じ感じ』

『誰よソレ?』

『大企業の子息組をのぞけば、金髪二人か神官系美人のどちらかかな?画像無いからわかんねーけど、一人はバニングスの令嬢で、和風美少女が月村の令嬢だと考えるのが妥当だろ』

『もしかして→ストーカー』

『いや、意外と有名な話だぜ?海鳴の仲良しセレブリティって言えばヘタな芸能人より有名だからな』

『魔法関連事業で注目の企業だしね。俺も就職してぇ』

『頭が良くないと無理じゃね?マギテクスって一応分類上は量子力学なんだろ?』

『ところで使い魔についてはどうなったんだ?』

 

『そういえば思い出したけど、マギテクス条約に使い魔がどうのって条文があったような』

『mjd?使い魔ってどういうもんなの?』

『一般的な魔法でいえば、動物の死骸とかコウモリから作るアレだよな?』

『ていうか、条文とかそんな細かいこと読んでる奴ニュースキャスターでもいねえよ』

 

『あまりにもセンセーショナルすぎる発表にwktkして読み漁ったんだよ。ちなみに俺はリンカーコア無かった』

『無い奴が大半じゃなかったか?俺はあったけどな!』

『UZEEEEEE』

『だから話そらすなって。要はフィクションと同じようならネクロマンサーみたいなもんなんだろ?今オレも条文読んできたけど、倫理的にどうかって書いてあるから間違いないんだろうぜ』

『瀕死でもいいらしいし、延命ととるかどうかとかで揉めてるらしいな。現状では違法扱いらしいが』

『あれ?じゃぁその使い魔の女性?はガチで動物だった存在で、魔法によって生きてて、違法な魔法使ったっ存在てこと?まずくね?』

『まぁ先駆者なのは様の知り合いなら法が施行される前から存在したとしてもおかしくないな。たとえ今違法だからって殺すって発想に至るのもどうだろうかと思うが』

『リリカル☆だからなんでもアリなんだろ☆』

『あれはさすがにやらせっぽかったけど、赤みがかった顔が可愛かったので永久保存版です。あのまま成長して欲しい』

『で、結局そのグラマラス使い魔さんはどうしてるんだ?』

 

『神官系美女に殴られて連れ去られた』

『ちょwwwおまww』

『何故ww』

 

『「耳と尻尾出してこんなところで何油売ってるんですか!隠しときなさいと言ったでしょう!」とか言われてゲンコツの後に首根っこ掴まれてドナドナ……』

『オカンすぎワロタww』

『やっぱ耳尻尾はタブーなのか』

 

『んじゃぁ俺も温泉入ってくるわ。なのは様の美肌眺めてくる』

『へ、変態だー!?』

『おまわりさんコイツです!』

『通報!通報ゥゥ!!』

 

 

 散々火種を投下し、煽るだけ煽って携帯電話を折りたたんだ。いやはや、彼らをいじるとちょっとしたことで騒ぎ出すので面白い。

 

「ま、俺女なんだけどねぇ……」

 

 特に何か言われる謂れは無いってことで。耳いじらせてもらったのも性的なものでなくて、ただの興味によるものでしかない。しかしもしあれが、使い魔が公的なものになるのだとしたら、バリアジャケット含めこれからのコミケは楽しくなるだろう。そんな期待のこもった気持ちのまま、彼女は温泉へと足を向けた。

 

 これにより使い魔の存在が徐々に認知され、近い未来に、動物愛護団体やらなにやら巻き込んで使い魔論争なるものが勃発した。これを延命措置とみて騒ぐ奴らに使い魔本人たちは「私達が生きたいと思って、合意したんだから別にいいんじゃないかい?」と返し、死者を起こすのは冒涜だと言えば「それは違います。素体を依代に私達は新生したのです。魂があるとするならば、それは今まで生きていた個体とは別の存在でしょう。しかし私達は今こうして生きて、主のために行動出来る喜びを噛み締めている」と語った。もとより主従契約は互いの合意が条件であるため、離反する事は可能である事や、そもそも使い魔を維持出来るのはごくわずかな魔導師のみである事から、徐々に彼らの機運は減退していった。

 

 

 

「へぇ、これが和室ですか」

 

 温泉宿の一室に、ユーノはいたく感動していた。畳独特の落ち着く匂いや文化や風習に基づいて作られた数々の調度品や部屋の作り。管理世界には決して無いだろうオーガニックな温かみを持つ家屋というのはそれだけで珍しいものである。出来るならばこの光景を写真にして保存しておきたいところであるが、残念なことにデバイスは持っておらず、携帯電話は画質が低い旧式のためなくなく諦めることとなった。

 

「凄いっスよね。風情があるというか、わびさびというか」

 

 どこか外国人みたいに適当に言葉を並べているのは、一緒についてきた警察官ペアの一人、新庄その人。今回はやたらと大所帯となったせいで何人かで適当に部屋が割り振られており、同室の佐伯は見回り、護衛の三本は早々に温泉へと駆け込んでいた。それでいいのだろうか護衛任務。ちなみに隣室は高町士郎、恭也、国枝の三人だ。女性側は子供組と大人組に分かれている。ちなみにこの夜に酒精に駆られた大人たちから逃げるように子供組に駆け込んだユーノが、女子の尋常でないパワーにもみくちゃにされどっちにしろ地獄だったと語る姿があったという。

 

「ええ、そのナゼか風情をよく知らない、日本人であるはずのあなたに、ぜひ聞きたいことがあるのですが、ねえ?」

「んなっ!?これは?」

 

ジャラジャラと音がして、四方から鎖の顎が伸びた。チェーンバインド、ゆーのが得意とする拘束魔法により新庄はあっけなく手足を吊るされる。

 

「さあ、キリキリ吐いてもらいましょうか。一体なにを企んでるんですか、あなた達は?」

「し、し、」

「し?」

「――仕方ないにゃあ」

 

「…………は?」

 

尋問するユーノの耳に、何故か猫っぽい女性の声が響いた。

 

 

 

 

 

「こちら一班、状況を報告しろ」

『山間部より二班、先行調査隊の報告通りよーけ反応しちょる』

「玉田ぁ、報告は正確にしろ」

『わかっちょる。大國空曹の観測じゃと、距離は1500mと1800mの二つらしい。……ところで、サツの奴らはちゃんと山間部の封鎖はできちょるんかいのぅ?』

「どういうことだ?」

『一般人がおるっちゅうことじゃ。数は一人、多分川釣りじゃろうな』

「白鳩で降りたら騒ぎになるな。さっさと行ってひっ掴んで来い」

『言われんでもやりようるよ~』

 

 会話を無線で繰り広げているのは、魔法災害危険物対策処理班として編成された、自衛隊の新設部隊だ。どこか余裕を持ちながらも、キビキビと行動する様は見ていて安心感がある。ただし捜索班の男は魔導資格を所持している新入りであり、指示を出すベテランはおおいにやきもきさせられていたのだが。

 ここ数日でなのはが用いた封印砲の解析も出来、どうにかこうにか他人が使えるレベルまで落とし込んだ。これにより魔法についてはまだまだにわかとはいえ、専門的な大人へと捜査を委ねることが出来たのである。結界についてはユーノの独自構成による部分が大きいため、未だに解析が進んでいない。流れ弾などは非常に留意せねばなるまいこととして安全をとっている。これにより、なのはは完全に予備役となった。子供ばかりに任せるのは気が引けるし、国防を司る彼らの経験値にもならないのは困るのだ。

 

 だからといってなのはが何もしないわけではない。先駆者としての知識や制御能力は多いに役立つし、先日の凶悪犯との戦闘経験もある。悔しいことに、空戦に関してはなのはのほうが空自より一歩先を行っているのだ。加えて、士郎の娘というネームバリューもある。名字が変わっても御神の名は健在であり、なのはにもある種の期待は抱かれている。それが現在のなのはの立場をおおいに引き上げていた。

 

 それにより時と場合によって、彼女はフリーランスとして行動する許可を得ることができた。

 

 勿論、自衛隊も負けてはいられない。小さな少女に負荷をかけないために、彼らも日進月歩で技術を磨いているのだ。

 

 

 

 

 さて、そんななのはの様子はと言うと……、

 

「では、これからなのはを鍛え直す会を始める」

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 何も考えないで走り続けろ!的な体育会系スパルタトレーニングの始まりを告げられていた。兄である恭也は妙にストイックなところがあり、やや士郎に比べて厳し目である。まあ落ち着け、と長女と二人して止める姿が非常に涙ぐましい。

 冷や汗ダラダラのなのはには天使のように見えた。

 

「なのは、別に恭也は怒っているわけじゃないぞ?」

「え、そう……なの?」

 

 思い当たるのは当然、先日の恐怖を感じた一件であり、自身を情けなく思ったあの戦闘。しかし恭也は怒っていないという。これはどういうことだろうか?

 

「恐怖を感じるというのは、生き物としてのセンサーがきちんと働いてる証拠だ。誰だってそう思うことはある。俺だってある」

「お父さん、も?」

「ああ、今の俺は家族を残して逝ってしまう事の方が、自分が死ぬとおもう事よりも何より怖い。だからこうして、翠屋のマスターをやっている。御神としては、逃げかもしれない。だけど、俺は後悔してないし、それに恥じないでいいように、家族を守れるように剣を置いている。まあ、恭也はとりあえず考えなくなるまで走って直感で答えを出せとでも思っているんだろうがな」

 

 恐怖を感じなければ攻撃を避けることも出来ない、避けるのは気合と決断だ。そう恭也も付け加える。

 

「父さん……」

「恭ちゃんは頭でっかちだしねぇ、あいた!?」

「余計な一言だ……、それは」

「ははは、そっか……」

 

 別におかしなことではなかったのだ。誰もが皆、自分の守りたいもののために戦って、勇気をふりしぼっている。そう考えれば少し楽になった。

 

「それに、辞めたければ辞めたっていい。御神流を教えているのはもともと、護身のためだったからな。たくさん人もいるからな」

「え、でも、出来る人間がやらないのはダメじゃないの?」

「よくそれは義務だっていうけど、やらずに捨てる権利だって、人は持ってるんだよ、なのは。最後に必要なのは、それを後悔しないかどうか。ただそれだけ」

 

 美由希もまた、彼女らしい正論を語る。

 

「……お姉ちゃん。……うん、そうだよね。大事なこと忘れてたかも。私は、ユーノ君のために手伝ってあげたい。だから、全力全開で頑張ります!」

「よし、なら全力で走るぞ」

「け、結局やる事は変わらないんだ。にゃはは……ところで、

 

――フェイトちゃんはそこでなにしてるの?」

 

「ん?…………見学?」

 

 ぽりぽりカリカリ、岩の上にちょこんと座りながら何故かうま○棒をかじっているフェイトがいた。バックに黄色いネズミの姿が見える気がする。

 

「もぐ、……ごくり。うん、父親との付き合いって、こういうのなんだなぁと思って」

「え、と。フェイトちゃんはお父さんはいないの?」

 

 もしかしてまずいことかな?と思いつつも、フェイトの態度に卑しい感情は見られないため普通に聞いた。するととんでもない答えが返ってきたのだ。

 

「うん。だって私、姉さんのクローンだし……?」

 

 全員が硬直した。

 

「…………えええええ!?いや、え!?父親がいないかって話からどうしてそうなるの!?ていうかクローン!?」

「取り乱しすぎだ、なのは」

 

 混乱から全く立ち直れないなのは。どうもフェイトという少女はなんの気も無しに爆弾を投下してくるような、すっ飛んだボケ資質を持っているらしい。まるでそんな事は大した問題ではないとばかりに彼女は言った。食べ終わったうま○棒の袋を細く折り、くるっと回して固結び。そのままポケットに入れる。

 

「ちなみに、どうして君が生まれたのかは聞いてもいい事なのかな?」

 

 クローンを有無にはそれ相応の理由がある。これがもしまずい理由だったら?そう考えて士郎は彼女の言を待つ。

 

「うん、母さんは事情があってあまり時の庭園からでないから、誰とも付き合いがなかったんだって。そんな時に、姉さんが妹が欲しいって約束したよね!って言ったから、色々悩んだ末にクローンという手段を取ったって」

 

 実にしょうもなかった。

 

 悩んだ末がクローンって、クローンって!その母親も常軌を逸しているようにしか思えないが、フェイトはそれをただの結果としか受け取ってないように見える。戦闘用といった物騒な表現をされないで士郎はホッとした。

 

「君は、それでいいのか?」

 

 世間的に見れば、彼女はアリシアのコピーという付箋を貼られる事になる。クローンだからとなんやかんや言われたり、問題となる事態が起こるかもしれない。しかし、

 

「うん、だって私は私だから。パソコンでだって同じ名前のコピーは出来ないように、私は完全に姉さんと同一じゃない。生まれた場所も、環境も、瞳の色も、利き腕も、魔力資質も、何もかもが違う。だから私は、母さんの二人目の娘で、姉さんの妹で、フェイト・テスタロッサという一人の人間なんだ」

 

 たとえ同一でも、育つ環境が違えば形成される人間性は変わる。そうすればもはやそれは別人だ。フェイトはそう言っており、それを誇りとすら思っている。驚いた事にこの少女、この年にして既に確たる自我を形成しているのだ。ならば外野がごちゃごちゃと何か言う意味があるだろうか?

 

なのはも、「うん、フェイトちゃんはフェイトちゃんだね」と、わかりやすい納得を示した事でこの話は終了した。

 

「ところで、私も一緒に走ってもいいかな?」

「いいけど、どうして?」

「なのはの剣、すごくカッコ良かったから師匠がいるのかと思って。私のデバイス、バルディッシュは変形していろんな武器になるから、剣も知りたいんだ。鎌はリニスが教えてくれたけど、それ以外は知らないから」

 

 フェイトは戦うのが大好きな武闘派魔法少女である。ならば自分が興味を持ったものは手に入れるのが道理だ。

 

「そうなんだ、じゃあ一緒にやろ!フェイトちゃん!」

「うん!」

 

 二人は走りだした。この長い長い山道を。

 

――その後、恭也達に追い立てられて仲良くうつ伏せで倒れていたのをおかみさんに目撃されていた。

 

 

 

「いいお湯だったね。アリサちゃん」

「そうね、なのはも一緒に来ればよかったのに。訓練訓練って、どこにいるのかしら」

 

 二人は温まった体を動かし、のれんを潜る。しかしそこでふと思って、立ち止まった。

 

「…………なんか、大事なこと忘れてない?」

「そうね、私もそう思うわ。まるで過程をすっ飛ばして結果だけが残ったような」

 

 恐らく彼女たちはこう思っているのだろう。

 

――肝心のお風呂シーンはどこへ行った!?

 

 そう、気づいてみれば既に自分たちは上がっていたのだ。本来ならココで少女たちの触れ合いやらリニスや忍のボンキュッボンを肴にあれやこれや語られ、将来性豊かな期待値を秘めた少女たちとか言われて締めくくる、そんなはずだったのだ。

 

 だが、ここは既に廊下。ふと見ればアルフとアリシアでの卓球超高速ラッシュが始まってしまっている。目にも留まらぬ猛スピードでピンポン球のラインが刻まれる様は果たして人間か。――うん、見なかったことにしよう。

 

「世の中の男性諸君が困るかもね」

「どうせロリコンか何かじゃないの?」

 

 言いたい放題だった。そしてそのまま、彼女たちは食事をとるための大部屋へ行って皆を待つことに決めた。

 

 

 

 

「――なるほど、そういうことですか」

「理解してくれて何よりだねぇ。撫でていぃ?」

「ダメです。そのまま正座しててください」

 

 ニャーン!と鳴き声を上げるのは新庄、もとい姿を現したリーゼロッテだ。そりゃ大の男がそんな鳴き声をあげてたら気持ち悪いとかそういうレベルではない。なんで姿が元に戻っているかというと、魔力結合を無効化する効果をバインドに付加させていたためだ。ヒビが入るように正体が露見してしまったリーゼロッテは、細くなった腕でスルリとバインドから抜けてしまったものの、襲う気も無いのでこうして正座している模様である。しかし管理局の猫姉妹といえば、顧問官であるギル・グレアムの使い魔だ。まさかこんな場所に、名前の売れている彼女がいるとは思わず相当衝撃を受けた。

 

 そして、ここまで聞いた話でユーノはようやく管理局が何をしようとしているのか知った。簡単にいえば揚げ足取りで違法局員を吊し上げにし、ソレに連なる人物も芋づる式に引っ張り上げようという、綱紀粛正と派閥争いだったのだ。しかも、釣り上げようとしているのが管理局の大物であったため、小規模の事件ではもみ消されて終わってしまうだろうことが予見できていたらしい。司法権を握っている管理局内では高官を裁くのは非常に難しい事柄であった。そのため言い逃れできないレベルの大事件を起こし、一斉逮捕をするという方針を立てた。これにより、絶対権力に近いものを誇っていた管理局に不信感を抱かせ、各管理世界に現在の管理局の在り方に決議を求めるというものである。そのためにはシナリオの舞台となる(魔法発展途上とした)管理外世界である地球の存在が不可欠だったのである。尤も何故地球なんだ?と言われてしまえば、ジェックのせいだったりとお前が地球にジュエルシード落とすからや、と色々言えないような理由があったためにごまかしていたが。

 

 かくして不確定要素(と思われている)ユーノすらも巻き込んで、世紀の大事件へと発展しようとしている。国連は承認済みなので問題ないとのこと。ただ最近はやたらと管理世界人やロストロギアと呼ばれる研究資料にちょうどいい物が日本にばかり落ちてくるのは各国気に入らないらしい。この事実はおとなりの国々が特に不満らしく、さんざん文句を言っているのだが政府の方では首相の一喝で鳴りを潜めた。「だったらてめえらちょっとミスしたら地震以上のクラスの災害が発生する代物をアドバイザーも無しに扱えるっていうのか?あぁ?」みたいなことを言ったのだろう。日本以外のアジア圏と、ロシアの方は未だにジョニーが提供した技術資料に苦戦しており、量産の目処は立っていない。デバイスそのものは輸入すればなんとかなるが、それも戦争を引き起こしかねない国々には非常に慎重な扱いになっている。とはいえ軍事用以外で手に入れると大体の場合が非殺傷非破壊のロックがかかっているが。

 

 ちなみにジョニーが提供した基礎技術は、魔法を使用するために必要な量子力学に基づいた資料と、デバイスの精製法、魔法のプログラミングやデータベース(何が出来るかは書いてあるがソースは中抜されている)なのだが、当然これらを扱うためには生産に必要な基盤を作らねばならない。発展途上国各国ではこの時点で躓いており、安定した基盤を獲得できたのは日本やアメリカ、ヨーロッパの一部など実はまだそこまで多くない。ではジョニーが作ったモノを寄越せと言えばいいのでは?と言うかも知れないが、それは国の発展阻害をしてしまうので不可、中国や韓国はそれに関わる研究者の拉致も考えたが、魔法が使えるというのは個人戦力としては破格であり、正直工作員程度の装備では手も足も出ないことが立証されている。つまりやったけどフルボッコにあったということだ。ソレをわかっているがゆえにわざわざ管理世界からやってきたユーノ、フェイト、アリシア等は正直ハリアー持ってきても勝てないんじゃね?という恐怖感から行うことが出来ないということらしい。ジョニー擁するアメリカとて何でもかんでも彼に要請出来ないためにここは国際研究で三人引っ張り出せない?と画策しているとか。

 

 ただ、それでも国連内部で一致して管理局に対抗しようとしているのは、ジョニーのもたらしたある切り札と局内での抗争によって自滅する予定であること。そして将来性の旨味を期待しているが故である。協力させられるということはこちらに当然メリットが必要であり、それが例えば宇宙開発などに必要なものであれば火星の資源採掘なども出来るかもしれない。資本主義経済を根幹とする地球としては、わざわざ他世界に出なくともまずは近辺で必要な物資を揃えられる。勿論交易も将来性の一つとして見ている。

 

 余談ではあるが、刻一刻と騒がしくなる海鳴市というものがあるため、徐々に世間もなんかおかしいと勘付いてはいるらしい。とは言っても何がどうなっているのか、まではよくわからず。リークされる情報などを待つばかりである。

 

 

 さて、話を戻すがここまで聞いてユーノはやはり自分の手の出せることではないことを知った。日進月歩しいかに足掻くか考えていたが、この件は案の定お手上げだった。よしんば管理世界に帰れたとしても、政争で内部グチャグチャな管理局では何が起こるか正直分からない。スクライア一族も管理局の許可を得て発掘を行なっている立場なので――無許可でやっていれば管理局に預けているとしても盗掘まがいになる――しばらく仕事にならないかもしれない。

 

 そう考え、ユーノは自身の進退をどのようにするか決めた。

 

 

 

 

「ところで、どうしてなのは達はそこまで真っ黒に?」

 

 ユーノの目の前には、何故か煤で汚れているように見えるなのはとフェイトの姿があった。既にリーゼロッテは新庄へと姿を変えて現場へと行っているのでここにはいない。そろそろ食事時かなと考えて部屋を出た時、二人と鉢合わせたのだ。

 

「何でって、まぁ……」

「深い事情があるというかないというか……」

 

 聞けば大人二人組に追い立てられ、起き上がればフェイトが魔法で勝負だと言い出し、自衛隊監視の元現場と離れた場所で小規模の魔法戦を実行。大技こそ使わないものの、小技となれば剣技の引き出しが多いなのはに勝ち星が上がり、そのたびにフェイトがもう一回と突っかかるので二人して魔力が2/3以下になるまでやっちまったZEという事らしい。この時なのははフェイトが重度のバトルジャンキーと知ってしまい、性格は見た目によらないんだねとしみじみ思ったとか。

 

「はぁ……とりあえずもうすぐ食事だと思うから、早めに温泉に行ったほうがいいと思うよ?」

「う、うん。そうだね、行こうかフェイトちゃん」

「良し、5分で上がろう」

「ソレは無理だよ!?」

 

 ワイワイ言いながら温泉へと向かう二人。それを見つつユーノは、やっぱり男女と女子同士の仲ってのは違うなぁとしみじみ思うのだった。

 

 

 

 

「状況どうなった?」

『えらい目におうてしまいました』

 

 再び自衛隊。彼らがたどり着いた頃にはジュエルシードが魚に反応したらしく、川幅を超えて巨大化したらしい。ピチ、ではなくビッチビッチ、でもなくドタンバタンと跳ねまわる魚にはほとほと手を焼いた。飛び跳ねるごとに軽い振動が起きてしまい、足場がおぼつかなかった。そこでフラッシュバンを用いて魚の眼を潰した後、近辺のジュエルシードに反応しないように89式小銃でめった打ちにし、死にかけたところを封印砲で封印したということらしい。勿論もう一つのジュエルシードも封印済みである。

 

『それにしても、肝心のホシが出て来ちょらんですね』

「様子見、とでもいうことか?確かサーチャー、とやらの反応はあったそうだな?」

『ええ、先ほど吉永空曹が撃ち落としました。何を観察していたのかはわかっちょらんですけど』

「……大方、ジュエルシードの使い方でも模索していたのではないか?それよりも、サーチャーでジュエルシードの保存場所がバレるとまずい。輸送にはしっかり気を使えよ」

『了解です、通信終了』

 

 結局、肝心の犯人は出て来なかった。転移で消えたという話だが、もしもコレが聞いたとおり次元航行艦なのだとすれば手の出しようがない。文字通り穴蔵決め込んでいるということになる。アリシアからも転移先を捉えるためにはその時の反応と機材が必要であり、残念なことにその機材を彼女たちは持っていなかった。つまり出たとこ勝負であり、ジュエルシードを求めているのなら出てこざるをえないと警戒していたのだが、結局確保しきるまで男が姿を現すことはなかった。

 

 だがジュエルシードの使い方を模索しているのだとすれば、それを地球で使うなど考えていればこれは嵐の前の静けさに思える。ホシが目をつけた高町なのはや一定の戦える人物がいる以上、その性格から考えていずれは出てくるだろうと考えているからだ。その時はジュエルシードを使うことも辞さないだろう。早急にその対策を考えねばならない。自衛隊は大忙しだった。

 




もはやモブだらけ。


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Battlefield of the sea_1+α

本編よりgdgdの外伝の方が長くなってしまった。外伝は魔法に対する超独自解釈なのでこのSSにおけるスパイス程度に思って頂ければ。

H25.01.31プロローグを大幅加筆修正しました。タイミング悪く読んでない方がいらっしゃったらそこだけバックお願いします。こんな調子でちょくちょく修正を入れる可能性があるので謝っておきます。ごめんなさい!

H25.02.15
大幅修正。
ジャケットの防御力について→大体マグナム弾レベルに対応できるか出来ないかくらいの防御力。
上記に合わせ魔導師の現在の兵装に対するアドバンテージ変更。高速性能とプロテクションを用いることで相当の優位性を誇る、とした。
PMC二人組を自衛隊派遣者に変更。
戦闘状況を追記。初手に偵察ヘリをけしかけたが撃墜。アパッチ投入段階考察時に結界を張られ魔法関係者のみしか入れない状態に。


「……!転移反応来ました!ホシです!」

「何人いる?」

「一人のようですね。取り調べで聞いた人数は確かなようです」

「一応念のためだ。新しく反応ねえか気をつけとけ」

「了解!」

 

 温泉から数日。ジュエルシードも残り一個という段階になって、緊急の報告がもたらされた。重要指名手配犯、デュアリス。彼が転移魔法を使い再び地球の空に足を踏み入れたのだ。アリシアからの情報提供により転移時の観測は可能となったため即座に対応に入る。彼が現れた理由、それは残り一個が怪鳥となって空を飛び回っていたのを見つけたからだろう。その怪鳥は尽く居場所を変え反応に引っかからなかったのだが、飛行ルートを絞り網を張る事でようやく追従することがかなったのである。追う側はホワイトバード4機、通称白鳩隊と呼ばれる空自から派遣された腕利き達だ。その二組が、海上に向けて逃げる怪鳥を捉える。自衛隊は追う側、片やデュアリスは挟み込む形で待ち構えている。まるで天下を取る王のごとく仁王立ちしている。

 

「……しかしありゃぁ、アパッチあたりで落とせんのかねえ?」

「無理言わんでくださいよ。アレだけ的が小さいと早々当たりません。機動性は空戦魔導師の方が圧倒的に上です」

 

 管理世界では次元航行艦のような大型艦が存在し、その死角、または内部に転移して潰すのがセオリーとされる。そうなればサイズの小さい魔導師を狙うことは殆どできないからだ。しかし魔導師の長所は何も魔法にかまけた奇襲戦法ばかりではない。魔力次第ではあるが魔導師が着用するバリアジャケットは衝撃軽減能力を持つことが出来、その硬度はマグナム弾レベル以上の銃弾でないとダメージを与えるのは難しい。まさに脅威の防御力、といったところか。しかしおかしくはないであろうか?着用しているのは、服、布。繊維質ものであり硬度と表現するには無縁の存在だ。純粋に硬度と呼ぶのならば、鋼板を仕込むかアーマーと呼ぶようなものになるだろう。では何故バリアジャケットで銃弾が防げるか?

 

 その正体は魔法にある。

 

 いや、それは当然だろと思うかもしれないが内容はそんな単純なものではない。魔法のシステムは、魔力によって作られたフィールドにプログラムを入力することで成立する。魔力フィールドは量子的に不確定な状態であり、「何もない」はずであったフィールド内に「現象」を強制観測することで火種もなく炎が出たり、通常温度がいきなり絶対零度になったりするのである。つまり存在確率0%であったはずの「何か」を無理やり100%にして出現させるという、可能性の変転を行うことが魔法なのだ。これは非破壊非殺傷設定も同様であり、衝突した魔力フィールド内でエミュレートされた現象が物体を破壊する確率を0%にしていることで成せる設定である。しかしそれをしていても魔力は相手の魔力を削る事になる。それがリンカーコア無いし体に響き、スタンダメージとして現れるのだ。

 

 話を戻して、バリアジャケットは先の非破壊を逆説的に見ればいい。破壊させないように確率をいじれるなら、バリアジャケットを破壊できないようにしたらいいじゃない、と。それにより限界こそあるものの、動きやすい布地に相当な防御力をもたせることが出来た。衝撃等をカットされるのだから、衣服ではあるが傷つきもしないという摩訶不思議な現象を見ることになる。まさに魔法であり、その基本だ。

 

 加えて、更に高い防御力を持ったプロテクションを状況に合わせて展開すればいいのだから、その鉄壁ぶりは破格と言っていい。空戦魔導師は更に高速で移動を続けるのだから、そんじょそこらの兵器では太刀打ちできなくなる。

 

 

 これがあることで、百数十年前頃まで続いて戦乱期の管理世界では大いに力を振るった。質量兵器は環境破壊につながるだけでなく、そもそも魔導師相手だとほとんど意味をなさなくなったのだ。結果、今の魔導師優遇の時代が出来上がったというわけだ。

 

 ではどうすればダメージを与えられるのか?通常の方法であれば、プロテクションも張れないほどの距離や間を突いて大口径銃で攻撃、つまりガンカタ。魔法無しで言えば関節技などがあげられる。ミッド系魔導師等はそもそも近づかれて組み付かれる、という事を想定していないのでそれに対する防護機能はほとんど設定していない場合が多い。そもそもサブミッションは衝撃でも何でもない。折り曲げれない方向に腕をかためればそりゃ痛いし折れる。もしくは御神流”徹”のように内部に衝撃を持ってくる、という手段があるが、コレはある意味規格外の人たちが使う技なので割愛させてもらう。

 

 最後に、尤もセオリーであるのが魔法をぶつけることだ。人それぞれに魔力が有り、それには魔力光がある。これには個人個人で特性等が違うといった理由から色が変わるのだが、それはつまり波長を持っており、違うベクトルの波長をぶつけると安定した状態が崩れるのだ。例えばそれは逆波長の音波を当てることで音を打ち消す、ノイズキャンセリングのようなものと同様だ(魔力波長が光と同等と考えただけでも3軸以上あるために完全に同位する魔力は無いと思われるが、この辺りはまだ研究中らしい。ちなみに魔力炉の魔力光は無色であるが、外部機器や魔法種によってその色を適したものに変えるようである)。だからバリアジャケットは魔力で構成されているのだから、魔力を着弾させることで削ることができる。たとえ使う魔法が炎だろうが雷だろうが、それぞれに効果はあるものの最終的に魔導師同士の戦いはこれに帰結する。

 

 自衛隊が持ちうる各種通常の装備は対魔導師戦となれば使いものにならなくなるものが多い。魔力炉を搭載していない兵装は防御力に明らかに不足しており、さらにヘリなどであっても速度で引けをとらない空戦魔導師相手には無粋。30mmガトリング等は当たれば効くだろうが、着弾するまでに魔法で長距離避難されるのは予測できる。

 

 しかも現在は夜ということもあり、なんらかの活動をしていれば魔力光や損音が非常に目立つ。加えて犯罪者一人に対し大型の兵器を持ち出すのは、相手がどうあれ世間から見れば風聞の悪いものとみなされるだろう。後々の世間体を気にしなければいけないのは厄介なことだ。何より現在、この作戦は秘密裏に行われているものなのだからばれるなり発表なりした際の事は考慮に入れなければならない。初手で近隣にいた偵察ヘリをけしかけてみたもののあっさり撃墜され、アパッチを投入すべきかと考察したところで結界を敷かれてしまった。これではリンカーコア持ち、もしくは魔力コーティングが行えるホワイトバード以外いない。

 

「そうか……状況は?」

「現在、ジュエルシードによって変化した怪鳥を魔力砲撃しつつ、陽動をかけながら海上へと誘導しています。その後は鉢合わせする容疑者に牽制をかけつつ封印、合流後に全員で容疑者を包囲する予定です」

「分けるとしたら、エレメントになるかな?……ちなみにそれで、足りると思う?」

「……難しいでしょうね。戦闘ログは確認しましたが、アレの空戦能力に対処するには我々はまだ未熟、と言わざるを得ません。いくら戦闘機乗りの熟練とはいっても、飛行魔法による不可解な機動を取る空戦魔導師には手間取るでしょう。町の安全確保もありますし、配備数もまだ多くはありませんから」

 

 そう言う自衛隊員の表情に苦渋が見える。ホワイトバードは未だ開発されてからさほど時間が経っておらず、月村重工等開発企業もPMCにまでもテストを依頼している状態だ。新造の兵器というのはどんな致命的欠陥を抱えているかわからず、コンバットプルーフ、つまり実戦証明済みでないと配備には非常に慎重になる。仮にも使用者の人命が関わることになるのだから、どんな欠陥であろうと逃す訳にはいかない。そういう意味ではホワイトバードは数機程度であるが、異例の速さで納入されたと見てもいいだろう。勿論テスト段階で正式なものではない。最近巷で噂のオスプレイとて、初飛行は1989年と言われているのだからさほど新しいものでもないのだ。

 

「誠に遺憾ながら、彼女たちに支援してもらわざるを得ないでしょう」

「そう、……先方は?」

「既に待機してもらっています。彼女らが加わると、空戦魔導師が5人、PMC所属の白鳩が二機の計7名の追加になりますね」

「ん、ならなんとかなりそうだね。彼女たちを二班にわけて、彼らの指揮下に加えてくれ。配置は任せても?」

「は、問題ありません。必ずや敵を落として見せます」

 

 即座に踵を返して隊員はなのは達に連絡を入れる。彼女たちは海鳴公園の外にある、仮設置された待機所にいた。連絡を受けて立ち上がるのは戦場に入る前の熟練の戦士のような瞳を宿した、それに似合わぬ少年少女たちと護衛の自衛隊派遣二人組。なのは、ユーノ、フェイト、アルフ、リニス、三本と国枝の7人だ。

 

「やーっと来たね。俺はどっちを狙い撃てばいいんだ?」

「話聞いてたでしょ?ウゼー先輩は俺とユーノと一緒にヒカリモノ大好きな鳥さんの相手です」

「ウゼー先輩ってそれ……名称になってない?ねえ?俺の名前三本なんだけど?」

 

 自衛隊の二人は場慣れしているのか、リラックスして会話をこなしている。対してなのはは気合十分、いつでも飛び立ちそうな雰囲気だ。

 

「なのはは、もう大丈夫?頼んだ僕が言うのもなんだけど、引いたっていいんだよ?」

「うん、大丈夫。それに、今引いちゃうときっと、いろんな人に顔向けできないよ?きちんとやりきるってことだけは誓ったんだもん」

「そっか、……うん。ならそっちは任せるよ。お互いケガしないようにね?」

「にゃはは!勿論!」

 

 パシっとハイタッチを交わす。それを少しだけ羨ましそうに眺めるフェイトがいる。

 

「フェーイト!私達もやるかい?」

「あ、うん。なんかいいよね、こういうの」

「向かう先は紛れもない戦地なのですが……。終わった後に再び交わすためにやっておくのも悪くはありませんか……」

 

 テスタロッサ組もそれに追従した。彼女たちとて高い戦闘能力を誇っているが、実戦という意味ではさほど回数をこなしているわけではない。しかし緊張はあったものの、あまり意識していないのかフェイト達は穏やかにちゃんと帰ってこようと約束を交わす。指令所ではアリシアも状況確認をしながら待ってくれているのだ。

 

「……よし!それじゃあ行こう、皆!」

 

『『ええ!!』』

 

 少女の一喝で、全員は駆けるように空へと飛び出した。向かうはただ我武者羅に強さを求める、凶悪な男のもとへと。

 

 

 

 

------外伝「うららか(?)な授業風景」------

 

「3・2・1!」

 

ドカーン!!!

 

「何故何ッ、マギテクス!」

「うわぁ……」

 

「…………」

 

 一同ドン引き。

 昼休みも終わり、イマイチ授業モードに切り替え切れない気分のままの生徒たちが午後の授業をうけるために各自教室に入る。しかしその一角、そこで待っていたのはシエスタ貪るうららかな日差し、などではなくやけにテンションが高揚してキャラも崩壊した月村忍と、顔に青線引いたユーノの二人だった。ここは海鳴大学、魔導学に力を入れる先進的な学校の一つである。

 

 授業も始まっていないのにやりきったどや顔をして腕を天に振り上げている忍、彼女は今日たまたま学科の先生が休みだったらしく、ついでに自分の大学でも授業が入ってないので駆けつけた。その途中でユーノも見つけ、どうせマスコットキャラがいるなら何かやってみたいと考えた結果がコレである。かつての彼女を知るものなら、おしとやかだったあの人が何故こんな事にと悲しみ嘆くほどの珍事だ。

 

「えーっと、カンペカンペ…………この外伝で用いる設定はこのSS独自のものであり、公式とは一切関係もなく、リアルで実証可能かと言われても無理としか答えられませんのでご了承ください。ついでに日時も不明です!アッチコッチでコレを基準に設定見直しで改稿することもあるのでお気をつけください!」

「ちょっと待って、ソレ誰宛の解説なの!?……いや解説なんですか!?」

「まぁまぁ、それはおいといていいじゃない」

 

 そして意味のわからないことを口走る忍。少なくともこの授業にきた生徒にむけたものではないだろう。

 

「さぁ、それじゃ授業を始めるわね。えーと、前回は魔力素の性質までやっているみたいだから、今回は魔力と魔法の関係、それからデバイスについての授業をしましょうか。あなた達はまず真っ先に魔法を扱えるように実技やプログラムの方から入ってきたけど、しばらくは基礎概要をやっていくってのは聞いてるわよね?うん、なら始めましょう。サポートはユーノ君よ、よろしくね?」

「え、はぁ、まぁ……いいですけど。なんかどうもこのギャグ時空から抜け出せる気がしませんし」

 

 ユーノはとっくにさじを投げていた。この教室には結界でも張っているのだろうか。

 

「まぁまぁ。授業自体は割と真面目よ、……多分」

「そこはかとなく不安です」

 

 夢も希望も無いのだろう。

 

「オホン。さて、それじゃあまずマギテクス、魔導学がどういうものかを改めて説明しましょうか。マギテクスは有り体に言えば量子力学の一種よ。シュレーディンガーや不確定性原理が有名かしら?魔法はその確定されていない位置や状態を強制的に観測することで、特定の現象を引き起こすことを言うわ。ただし、魔法は魔力を用いて、ソレひとつで出来る事が多く、万能性に富んでいることから一つのジャンルとして分けて考えられているわ」

「その、具体的にどういう?」

 

 一年生には少しむずかしい話題だったか。そも量子力学をまともにやってないのでは無理があるといったところだろう。忍は頷いて説明を再開する。

 

「そうね、じゃぁ君。ちょっと手を挙げてみて?」

「……?はい」

 

 生徒Aは左手を上げた。

 

「うん、君は今左手を上げた。でももしかしたら、右手を上げたかもしれないし、両手を上げたかもしれない。案外、反抗して上げなかったりするかもしれないわね。今あなたには無限の選択肢が存在していたわ。そして私はその確率分布を測定することは出来ないし、最終的にどうするのかもわからない。これが不確定性原理、でいいのかしら」

「まぁ、適当な説明とするなら妥当かと」

「ならよし。そして、魔法はその「手を上げた」という状態を強制的に観測することで現象として表してるの。つまり、手を挙げる確率100%、というやつね。ここにあなたがどのようにして手を上げたか、というのは含まれないわ。過程をすっ飛ばして結果だけが残る。ソレが魔法よ」

 

 どこかで聞いた話だ。

 

「ま、それだけだとわからないわよね。魔法で現すなら……」

 

 わずかに忍の身体が発光した後、手のひらに小さな炎が生まれた。

 

「今私は炎を出したわ。でもここには可燃物もなければ、自然発火物だって無い。魔法によって「火が燃えている」という純然たる結果のみを引き出したの」

「……ていうか、リンカーコアあったんですね」

「ほんの僅かに、だけどね。バッテリーでもなければ普遍的なものは維持できないわ」

 

 そう言って彼女は火を消す。もみ消すような動作はそのまま魔力を霧散させた。先の話を炎に当てはめれば、燃える過程がガス爆発だろうがガソリンだろうが、ただの木材に雷があたったせいだろうがなんでもいいということになる。

 

「この結果を引き出すために必要なのが、魔力と魔法に使うプログラム。魔力を使用し、結合させた一定の空間は魔力フィールドを形成するわ。このフィールドは量子的に不確定の状態になって、何があるのかわからない状態になるの。ここにプログラムを実行することで、擬似的に現象を引き起こすことが出来るってことね。さっきのは「何もない」状態と「火が燃えている」状態を重ねあわせて、すり替えた事で突然火が出たように見えたってわけ」

 

 ある程度理解を示したのか、生徒たちはノートに書き込んでいく。だが一人の青年が疑問の声を上げた。

 

「えーっとその、なんでプログラムで炎が出るんです?」

 

 彼の言いたいことは要領を得ないが、なんとなく忍には理解できた。つまりこういうことだ。

 

「君が言いたいのは、そのプログラムは一体何に働きかけてるかってことでいい?」

「はい。その、結果を持ってくるのはわかりましたけど、どうしてプログラムでそんなことができるのかわからなくって」

 

 その疑問は尤も。プログラムというのはデジタル上のものであり、決して現実に何らかの現象を及ぼすものではない。プログラムなんぞで現実を書き換えられる等と、思いたくはないのだろう。

 

「まぁ、そうね。PCで例えるなら、OSというベースがあって、その上で対応するプログラミング言語を用いてEXEを走らせることで、ゲームだったり、ソフトだったり動くわね。じゃぁこのOSが、現実の世界そのものと置き換えたらどう?」

 

 現実世界にも一定の法則は存在する。それは例えば物理法則だったり自然法則だったり色々ある。PC上でのプログラミングとて予め作られた一定法則上で必要な物をワードによって引き出しているだけであり、要は魔法に使われているプログラムはその特定の現実法則に介入しているものなので同じ、ということ。

 

「マンガやアニメ風に解説するなら、世界そのもの、根源的な何かに魔力を用いてアクセスすることで、その一部分だけを引き出して書き換えるようなものかな。だから魔力が霧散したりすれば、それは状態を維持できなくなって破綻するわ。魔法にかかれば現実も、デジタルと実はそこまで大差がないの」

 

 続けて彼女は言う。

 

「魔力は粒子でもありながら、現実を歪める演算素子としての役割も持っているわ。この素子の結合量が増すことによって演算能力が上昇して、事象に介入するだけの範囲やエネルギー量が比例して上がる事になる。っと、まぁここは後で魔力の説明の時にしましょう。これによって座標を書き換えることで転移が出来たり、空間投影スクリーン等が作れちゃうってわけ。あとは物体をデータ化することで存在を出し入れできる量子格納とか。纏めると、現実に干渉して確率を操作するのが魔法の真髄ってことね」

「結構人知を超えた例外は多いですけどね」

 

 ユーノが言うには、その介入するためのプログラムを誰が見つけたかは不明らしい。もう管理世界でも何百年以上、ヘタすればソレよりも更に前から確立されていたのだという。先人的な立場にたったのは恐らく、何らかのレアスキル持ちだと推測されるが当然定かではない。だがこのプログラミング言語であるが、実はコレはひとつの言語に限らず現実干渉さえ出来るならどんな言葉でもよかったりするらしい。管理世界ではいわゆるミッド式魔法とベルカ式魔法という二つが確立されているが、これは言語の違いによるものであって結果を同じにするなら別にどちらを使っても本来は大差ないのだ。単純にどちらに向き不向きがあるか、というのと近接向きかそうでないかという特性の違いがある程度。地球で言うならJavaだろうがC言語だろうが、どっち使っても同じ結果が出るならどっちでもいいじゃん?使いやすい方選べよ、とまぁ、そういうことである。ただこの世界に干渉するための言語だけあって、一度損失すると復元が非常に難しい。そのため古代ベルカ式等は命令系統の言語等を失伝しまった状態にある。発祥元というか、先天的にその言語を確立した人物でも持ってこないことにはどうにもならんということだ。

 

 ちなみに地球のものはジョニー謹製であるため、ミッド式のアレンジ、いわゆる(英訳版)となっている。まるでネクロノミコンの機械翻訳版とかラテン語版みたいだ。ちなみにこれはミッド語と英語が奇跡的に近かったものであり、本来翻訳はそううまくは行かない。

 

「それじゃあ魔力について説明する前に、近い話題なのでレアスキルについて説明するわね。これは魔法を知る前から先天的に知っている魔法のプログラムの事を言うわ。最もポピュラーなのは、炎熱変換や雷変換といったいわゆる魔力をエネルギーと置換するものね。さっき私がやったのは、そのプログラムを解析して汎用性をつけたもの。後天的だからレアスキルではないわ。地球でもその存在はパイロキネシスとか、ESPといった形で知られてはいたの。でも魔法として確立するための方法をきちんと持ち合わせていなかったから、出来たとしてもごくわずかだったり、安定させることが出来なかったと最近わかったわ。いくら魔法を知ってても、半ば直感的に持ち合わせたものだから言語化するのもなかなか難しいものでもあるからってことね。」

 

 付け加えればこの地球にはHGS患者とか陰陽道だとか、解析して言語化すれば魔法のいち分野として加えられそうなモノがいくつもあるが、その辺はおいておく。

 

「解析しづらいだけあって、レアスキルは非常に特殊なものが多い、らしいのだけどあまり私も見たことないからどんなものがあるかは知らない。あ、そういえばユーノ君もそれっぽいもの持ってたわね。変身魔法だったかしら?」

「あれはまぁ、ぶっちゃけ分類できるかと言われれば微妙なんですけど」

 

 一応スクライア秘伝と言われている。が、ユーノ自身がスクライア一族に育てられたと言っているが、それが養子を指すのか両親不在の血縁を指すのかはわからない。レアスキルは血縁で遺伝する場合が多いのでもしそうであるならユーノは養子ではないということになるのだが。ともかくその魔法自体他に使える人物がいないのなら十分にレアスキルに値する魔法といっても良いだろう。実際魔力が霧散すれば状態は元へと戻る、はずがユーノは魔力消費を抑えるためとして自身の存在を動物へと置換したまま維持できてしまっているのだ。この辺りが例外や摩訶不思議といわれる所以であろう。

 

「そんなわけで、レアスキル自体は幅は広いけど色々あるってことね。いい?……うん、それじゃあ次。さっきは炎を出したけど、あのままだとただ出しただけで使い道が無いわ。あれを攻撃魔法にするためには速度や射出方向、威力等の幾つもの数値を代入しなければならない。魔法によって生み出した現象そのものは世界が演算をしてくれる。でもココを決めるのは私達自身、そのためにあなた達にはマルチタスクを必修とさせてもらったわ。個人差はあると思うけど、これが出来るか出来ないかで大型の魔法や儀式魔法といったものが使えるかどうか分かれてくるから、しっかり増やしてね?」

 

 魔法によって生み出した現象はベクトルや数値が入力されていないため、自身でそれを補わなければならない。そのため魔法には変数を入力するための抜けが予め用意されており、入力でどのように動くかが決まる。しかしこの入力部分は複雑な魔法ほど多く、簡単な物で誘導弾を発射するスフィアに始まり、広範囲攻撃が可能となる儀式魔法等が最も多くなる。この時プログラムにディレイがかかるため、長いものであれば処理を優先させるために空間に魔法陣として取り置く。発動待機状態やリアルタイムで入力するための措置と言っていい。空戦魔導師が才能が必須と呼ばれる所以はここにもある。常に飛行魔法を使用していないといけないため、リソースの多くがそこに消費されがちになっているからだ。コレに加えて戦闘魔法を使っていくのだからその負担は計り知れない。大型魔法を使うと足が止まるのも飛行に維持するだけのリソースを確保できないからだろう。ちなみにマルチタスクは努力次第で増やすことは可能であるし、それが出来る分だけ魔導師としての質が上がる。つまり非常に機敏だったり、多くの誘導弾を操ったり出来るといったものだ。

 

「そんなわけで、魔法のプロセスはこうなるわ。

魔力素→魔力に変換

魔力を使用して魔法を発動する(現象を確立させる)

変数入力を行う

実行することで入力された行動を行う

 

……という感じね。フィジカルブーストにしたって、筋力そのものが強くなっているのではなくて脚力の反発係数を上げてたり、ちょっと視点を変えないといけないわ。本人の体力そのものも上がるわけじゃないから、マギテクススポーツで活躍したい人はしっかり運動しておくことね」

 

 ホワイトボードにキュッキュとペンで纏められたものを全員が書き写す。手が落ち着いたのを見て忍は話を続ける。

 

「それじゃあ次は魔力ね。魔力はさっきも話したとおり、魔法をエミュレートするための演算素子としての役割を果たす粒子よ。魔力は結合によってその演算能力や、魔法を展開するために必要な空間を広くすることが出来るわ。コレが拡散すると魔法が維持できずに消失してしまうわ。現実を歪めるに足る量が不足するってことね。だからマギテクススポーツや魔導師同士の戦いとなると、この魔力を削る事が勝利に不可欠となる。バリアジャケットも魔力で構成を維持しているのだから、削れば削るほどこちらが有利になるわ。ま、その辺は魔法抜きの戦いにしたって似たようなものだけどね」

「だからバリアジャケットのみでの特攻ってのは結構危ないんです。防御力を重視したプロテクションは重要なので、しっかり覚えておいてください。バリアジャケットは構成が維持できなくなった場合、パージすることで他の部位の損傷を抑えることができます。この時防御力は減りますが、バリアジャケットに割くだけの演算帯域は余分が出ますから、大体の場合攻撃能力が高くなりますね。削ったからと言って安心しないほうがいいでしょう」

 

 あっちこっちに話が飛び火しまくっているが、ソレに構わず学生たちは吸収していく。やはり真新しい技術というのはどんな話でもヨダレが出るものなのだろう。

 

「魔力で重要な部分は、特性や質といった部分が魔力光で現れることね。リンカーコアを持っている人間は基本的にこの色で才覚を判断できるわ。例えば赤や黄、青は先天的にエネルギー変換系のレアスキルを持っている場合が多いわね。緑は補助、白は防御力や硬度に優れているっていうのが定説よ。これはデバイスなども例外じゃなくて、外的要因からその色を変化させる場合があるわ」

「あとは同質の魔力同士の戦闘は魔力が融和してしまうので完全に無効化されますね。ただし魔力が光に当てはめただけでも色相、彩度、明度の3軸があるので被ることは非常に稀です。コレ以外の要因もあると思いますが魔力自体はよくわかってない部分も多いので、そのような事態になることは無いでしょう」

「魔法は結果だけを演算して過程はすっ飛ばすって言ったけど、魔力特性によって同じ結果にたどり着くまでの過程のプログラムは違いが出るわ。例えば私がユーノ君が開発したオリジナルの魔法を使おうとしてもロクに反応すらしないでしょうね」

 

 結果のみ同じで過程は違う。それは個人個人で魔法が発動するまでのプロセス、つまり法則が違うということである。火を出すのにガスを用いるか油を用いるか。ユーノが攻撃魔法を使えないのもここにある。とはいえストレージデバイスを持てば話は違うのだろうが。

 

「だいたいこんなトコロかしら?最後はデバイスについて。デバイスはストレージとインテリジェントの2種類。皆が手にするのはストレージか、もしくは魔力炉かバッテリーを内蔵したMGウェポンが主になるかな?ここではMGウェポンはストレージと似たようなものだから省くわね。2種類の違いは簡単にいえば……そう、車のATかMTの違いね」

 

 その二種には明確に違いがある。まずインテリジェントは即席の魔法構築ができるが、ストレージは不可。逆にストレージは各種魔法を確実に発動できるが、インテリジェントは失敗することがあるという。インテリジェントが何故失敗するか、それは使用者本人の特性とデバイスの特性、つまり両者の魔力特性が合致しないとプログラムを組んだ所で処理方法の違いによりミスが出るらしい。インテリジェントは基本的に使用者の魔力を検査してから合致するよう作られる。よくAIとの相性を取り沙汰されるデバイスであるが、むしろこちらのほうが重要なのだ。でないと作った所で無駄になる。ただの金食い虫だ。

 

 かといってストレージはストレージで問題がある。どんな特性を持っていようと誰でも発動できる利便性があるが、特性に関わらない汎用性のある魔法を机上で開発しなければならない。誘導系魔法もマニュアル操作というよりかはコマンドトリガー型であり、細かい操作は効かない。量産品には量産品なりの苦労がある。手に入れた後は個人的にカスタムしていく必要があるだろう。

 

 そしてこれに魔力炉を取り付けたタイプがMGウェポンになる。こちらは更に使用出来る魔法が少なくなり、直射砲等エネルギーをそのまま用いるものがメインとなる。あまり複雑なものを使えないが、リンカーコア無しで使えるのが強い点だ。加えて魔力炉型であれば出力限界はあるものの魔力自体はほぼ無制限である。

 

「……となるわ。インテリジェントを持てるのは個人開発の打診を受けたものだけ、よほどの才能があるか、なんらかの研究でなければそうそう持つ機会はないでしょうね。ただAI技術そのものは有用だから、お喋りをするくらいは出来るかも」

 

 そんなわけで、なのはがレイジングハートを使えたのはとんでもない偶然の一致による部分が大きいのである。ユーノに反応しなかったのは単純に合致していなかっただけであり、レイジングハートが彼を嫌っていたとかそういう理由ではなかった。

 

 

 

 

 キリが良い所でチャイムが鳴り、授業が終了した。生徒たちは各々の次の目的のためにまばらに教室を出て行った。中には残って質問したりもしていたが、まぁ余談である。ソレを見た忍達は満足気に頷き、お互い目的の人に合うために翠屋へと洒落こむことにした。

 

 

外伝・了

 



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Battlefield of the sea_2

 もうちっと書こうと思いましたが、筆が遅いのでカット。代わりにプロローグを加筆修正してます。あんな調子でちょこちょこ変えていきますんで申し訳ないですが再読お願いします。下手くそな描写のせいで改善話前後で齟齬が発生するかもしれませんが、そのあたりも同様に徐々に行なっていきます。(内容そのものはほとんど変わってません。おもに描写と心情部分の盛込メインで行なってます。プロローグは狂気度マシマシです。)

以後の変更予定
→ユーノの護衛二人を自衛隊員に。ソレに伴いプロフィール文等を修正。

追記
作品紹介文変更
キャラプロフ予定
時系列表掲載予定


 ターゲットに向かって幾重もの光線が飛び交う。マッハを超えショックコーンを生み出しながら飛び、ホワイトバード四機は魔力砲を連射する。ソレに驚いた鳥、ジュエルシードの怪鳥は即座に旋回をして横に逸れる。通り過ぎたビームはその後ろ、直線上に重なっていたデュアリスにも襲いかかるが、間隔の空いていたそれらはわずかに体をそらすだけで悠々と避けられた。空曹達は予定通りだ、とほくそ笑みエレメント、二機ずつに別れて追撃を開始した。この中で厳しいのは怪鳥に向かったほう、デュアリスも宝石を狙っているためにこちら側に攻撃を仕掛けてくる可能性がある。注意は十二分にしても足りないだろう。

 

「ほう、おもしれぇ。かかってきな」

 

 だが彼はその場に停滞する。どうやら管理世界に無い戦闘技術に興味を持ったらしい。強くなることに執心している彼らしいといえる。

少なくともこれは好機だ。安全に怪鳥を狩ることが出来るなら時間とともに自分たちの有利が確定する。同時になめやがって、と舌をうつのも忘れない。

 

 あっという間に至近まで先行した一機は大型のライフルよろしく、ガンガンガンと魔力弾を単連射した。今度は誘導込みで、相手を撃墜するためだけの攻撃を放つ。しかしそれが直撃することはない。わずかな上昇で魔力弾の位置が変わったのを見て、察知し即座に急加速で翔けた。誘導弾といえどオートであればわずかな慣性がかかる。魔力弾が曲がるだけに要した時間を使って距離をとったデュアリスは、対抗するように大型の魔力砲を用いてまとめて薙ぎ払った。衝突する粒子が弾け相殺する。

 

 その間わずかに数秒。大型魔力砲にしては存外な発動速度に空曹の一人は訝しみコクピット内で眉をしかめた。映像ログを見た限りでは近距離戦がほとんどだったが、射撃戦が苦手と踏んでいたわけではない。それにしても、それにしても早すぎるのだ。

 

 だが考えてる間もない。急激にピッチを上げ上方にブレイク、逃げた相手に追従する。

 しかしその前、量子格納されていたミサイルポッドを展開して二発、敵に向かって発射する。そのミサイルの後ろからはわずかに輝く魔力の光。

 

「魔力弾頭だと!?ありえん!!」

 

 魔法戦だと思っていたら、まさかの質量兵器でした。なんてのは予想の範疇。しかしそれにまさか魔力が篭っているとは誰が思おうか。そんなものは管理世界ではめったにお目にかかれない品だ。しかしおにぎりの具材を何でもかんでも掛けあわせてしまう日本人を、なめないで貰いたい。とりあえずくっつけられる物は何でもくっつけてしまうのだ。

 

 どれだけ魔力が密封されているのか知らないが、あれを喰らうのはマズイ。そう直感がささやいたデュアリスは小規模の魔力弾をばらまくように連射した。高速で突っ込んできたミサイルが破裂する、と同時に魔力爆発が起きる。

 

――はずだった。

 

「ダミー!?」

 

 中に入っていたのは魔力ではなく、ただのスモーク弾。代わりに大量の煙幕が空中に形成され、デュアリスにダメージこそ無かったものの視界は完全に塞がれた。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

 その中に、煙を引き裂くように飛び込んでくる影。夜の闇に紛れ後方で上空へと遷移していた、もう一機のホワイトバード、そのパイロット。

 加速を味方につけた男は空中でそのまま変形し、片手に抱えた魔力砲の砲身に魔力刃を生み出し突貫していたのだ。これぞ連携プレイの妙。驚きに驚きを重ねたデュアリスの腹部に、魔力刃が突き刺さ

 

「ぬぅぅ!?」

 

――らない。

 

 デュアリスは特攻された勢いをそのまま移されたように、体をくの字にしたまますっ飛んでいった。弾き飛びこそしたものの、肝心のバリアジャケットを貫けていない。あれだけの速度と質量を伴った特攻。抜けないはずはないと短期で決めるために組んだコンビネーションだったはずなのに。第二打を控えて上昇していた別の自衛隊員も、その様子を見て瞬時に変形して急停止。彼と同線上の軌道から離れる。

 

「――く、はは!残念だったな!今の俺の防御力なら、その程度の攻撃では傷なぞつかんぞ!」

 

 デュアリスは纏っていた莫大な魔力でその刺突を緩めた瞬間、同様に小規模かつ高密度のプロテクションを展開していた。彼のたかぶる戦意が口調を荒ぶらせる。

 

 何かがおかしい。

 

 さしもの彼とてそこまでの能力はない、というのが彼に対する見解で一致している。足りない魔力を(とは言っても多い方であるが)技術でカバーするタイプ、小手先に優れた魔導師だと。

 

「ぬぅらぁ!これでも喰らえ!!」

「ぐ、避けろ高嶺!」

「うぉ!?くそ、なんだよこいつ!」

 

 斧型のデバイスを振っただけで大規模の魔力波が炸裂する。降り始めから終わりまで、扇状に広がった魔力の波はまるで丸鋸。薄く非常に避けやすい攻撃であったが、そこにコメられた魔力を肌で感じとり、戦慄した。桁違い、しかし彼の行動はどこか大きな力を手に入れて昂ぶっている破綻者によく似ている。そこにはログで見た彼の戦い方の面影がない。

 

 そして、魔力光が薄暗い紫のように変化していた。つまりそれは、

 

「こいつ!ジュエルシードを使って底上げしてやがるのか!?」

「嘘だ!あれはそんな簡単に願いを叶えられるようなものではなかったはず!」

 

 対面する男は喜びを隠せないような顔で笑う。

 

「ああ、そうだ。ジュエルシードってのは単純な願いであれば割りと叶うのさ。猫のように、川の魚のようにな。それこそデバイスに組み込めば確実な動力として使えるのさ」

 

 つまり、わかるだろ?そう言う男の目は理解者を欲している。

 そう、単純に「魔力が欲しい」と願えばいい。元より無尽蔵に魔力を生み出すロストロギアだ。間接的に別のものを生み出すより、直接使ったほうが手っ取り早く確実なのは当たり前。それを彼は現れた当初から、そして川でサーチャーで見ていた時からそれを理解しきっていた。実に彼なりの、シンプルな思考。自分がただ強くあり、他者を潰すために必要な物を歪曲せずに望んだ。それだけの話。だがそれこそが単一のジュエルシードの正しい使い方でもあったのだ。

 

 作戦通り行けると思っていたはずだった。しかし一転、現在は危機敵状況にある。彼が最後のジュエルシードを求めに行かないのも、ただの気まぐれにすぎないのだ。反撃により見合わぬリスクをかせられることに、彼らの足が硬直する。

 

 だが、デュアリスに対する第二撃は彼らとは違う方向からやってきた。

 

「来たか!」

 

 圧倒的速度を兼ね備えた桜色の閃光、それが五連。この闇夜で姿も見えない中を、的確に撃ち抜こうとする魔力砲が空を裂いた。回避しようとも、男の進行方向に必ず着弾するそれらは確実に防御を強いる。スターバレル・ショートバスター、機動性と手数を優先したなのはの新技だ。威力こそディバインバスターに劣るものの、足を止めずに使える有用なバースト射撃だ。本来ならコレひとつで並の魔導師なら軽く落ちるレベルであろうそれはしかし、今のデュアリスには防御一つで弾かれる。だがソレでも構わない。

 

「フェイトちゃん!」

「任せて」

 

 答えわずかな足踏みで空を叩いた瞬間、フェイトはデュアリスの後ろにいた。ロード音を繰り返し、リボルバー式のカートリッジシステムが回転、膨大な魔力を練り上げる。驚いて振り返る間もなく、フェイトは巨大化したハーケンを振り下ろした。

 

「っちぃ!」

「っ!――……浅いっ」

 

 しかしそれを横に飛び出すように回避。肥大化した魔力はバリアジャケットこそ裂いたものの、内側にまできちんと浸透していない。好機はこれで潰えたように思えた。

 

「こっちを向きな!!」

 

 間髪入れず入るアルフの右フック。視線がそれた瞬間に近づいていた一撃は男の鼻を潰そうとする。

 

「うぇ!?なんだいこのねばっちぃ魔力は!」

 

 ジュエルシードによって変質しているソレは何故か妙な弾性を持っていて、威力が吸収された。やはりこちらもわずかなダメージしか通らない。

 

「お前ら……好き勝手やりやがって!」

「まだ終わってませんよ」

「!」

 

 周囲には数多くの帯電したスフィア、その数20。

 

「ですが、これで終わりにさせて頂きます。フォトンランサー・ファランクスシフト!」

 

 アルフが下がった瞬間を計り、リニスはスフィアに発射を命じた。全天を覆うように魔力弾が一斉に吐き出される。マシンガンのごとく吹き荒れ計560発が4秒間、デュアリスに叩きつけられていく。リニスの容赦の無い攻撃は連鎖的に爆発を生み男は煙の中に消えていった。その初めて見るような大規模魔法に、自衛隊員達は度肝を抜かれている。

 

「は、はは……。こいつぁすげえ」

「子供や女を頼るのはアレだったが、これを魅せつけられるとな」

「まだ油断しないでください。敵、健在です」

 

 その一撃は軽くデュアリスを捻り潰したように見える。しかし彼はまだ落ちていない。魔法が行使できている程度には戦闘能力を保持しているということだ。

 

「ぬぉらぁぁぁ!」

 

 煙の中から殺気の伴った叫び声とともに強大な魔力波が発せられる。とっさに全員避けようとするものの、運悪く自衛隊員の一人が被弾した。

 

「っく!バーニアが大破した!」

「下がれ!そのままでは役に立たん!」

 

 落ちかけていたホワイトバードが自動的に安全プログラムを発動し、陸地に戻っていく。エレメントを組んでいた隊員はあんな偶然のようなもので、と歯噛みした。

 

「さぁて、どうするかな……」

 

 戦力はある。しかしこの即席のチームでは確実な連携は求められない。何しろ半分は子供、そして皆女だ。いくら近接が出来る人間が多いとはいえ、矢面に立たせたくないのは人間の男として当たり前の心情。ならば

 

「私が突貫する!君たちは援護を!」

「「はい!」」

 

 自らが率先して立つ。その事に誰も異議は唱えない。展開した魔力刃を持って、再び敵と相見える。煙が晴れ、姿を見せたデュアリスは全身が煤けていた。バリアジャケットもボロボロになっているが、構造を崩すまでには至っていない。プロテクションでしのいだがわずかに貫かれたのだろう。いくら魔力が多かろうとも、やりようはあるということだ。再び銃剣のように突きに来るのを見て取ったデュアリスは斧を持って反撃する。大型の魔力砲を用いた魔力刃は非常に大きいため、側面を拳で逸らす事によって回避が可能となる。それを実践して隊員の顔面に斧で切り裂こうとするが、展開されたプロテクションに防がれた。その間を使い、それた魔力刃で逆袈裟に切り込む。

 

 避けて距離を取れば、今度は四方から様々な色の魔力砲が降り注いだ。形成される弾幕にまとわりつかれ、すこしずつ逃げ道を無くしていく。強くなったはずの力は集団の前に意味をなくし、デュアリスは防戦一方となった。

 

「らぁぁ!」

 

 バリアブレイクを纏ったアルフの一撃が迫る。叩きつけられたプロテクションがガゴンと衝突音を立てる。それはアルフの切り札であり、シンプルでありながら抜ききれば多大なダメージを与えられる。しかし、デュアリスがニヤリと笑い返す。直感的にマズイ!と判断するが、既に遅い。

 

 プロテクション自体が盛大に爆発をした。

 

「ぐぁ!?」

「アルフっ!!」

 

 ガラスが吹き飛ばされるように魔力が飛び散り、アルフに直撃する。焼かれるような痛みと共に苦しげな声が漏れた。非殺傷の乗っていない魔法はそれだけで致命的になりうるのだ。そして、それを行ったデュアリスも爆発の余波を受けてか背面に吹っ飛んでいく。だが、それは妙だとなのはは感じ取り、気づいた。

 

「ユーノ君!避けてぇえ!」

 

 




戦闘シーン中って、どうやって長台詞喋らせたらいいんでしょう。話す前にやっちまえ!的なノリが先行するのでどうしても叫び声ばかりになってしまいます(汗


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Battlefield of the sea_3

夢で見た。
「ふふーん、ISはいっくん以外の男には乗れな」
「そんな無理は勇気でこじ開ける!!」
「ISヒュージョン、承認!」
「了解、ISヒュージョンプログラムドラーイブ!」
「よっしゃぁ!」

ガガガッガガガッガオ(ry
→勇気✕→ハッキング○

とか思ってたらガオガイガーFateクロスがランキングにアルでござる。
誰かやらないかなーガオガイガーFINAL×IS(チラッチラッ


大量修正かましました。
H25.02.15
前々回_1を参照、主に変わっているのは結界が張られていること。初手でヘリけしかけたけどムリゲーだったこと。PMCから自衛隊派遣になったこと。ジャケットの防御力の圧倒的性能低下。

ミスってどこか齟齬が出たり、潰し忘れがあるかもしれませんので、もしありましたら容赦なく報告お願いします。

またTea party in tukimuraにおける二人組紹介部分を若干変更。自衛隊派遣になったこととプロフに微修正がかかった程度で基本変化なし。

Let's Paaaa以下略で、傭兵たちのジャケットに対する信頼性の若干の低下

次回修正予定(未定
手を付けることが出来たらプロローグ2,3部分と初版部分、それから魔法システム(考察)に基づいたユーノの結界の受け渡し不可についての修正

時系列TIPS(多分明日投降予定

ところでキャラクターTIPSは要りますか?


「…………え!?」

 

 弾けるように舞う煤の霧から飛び出してきた一つの塊。それを人だと気づくまでに数秒、なんとか怪鳥からジュエルシードを確保したわずかな油断を生んだ時だった。封印をしようと足を止め、自衛隊の全員が疲労困憊していたその隙を突いて少しずつ近づいていたデュアリスが跳ねる。魔力があっても所詮数の前では無意味、いや。防御ができているのだから半ば千日手になりかけていたところを打開するために、彼は策に出たのだ。

 

 すなわち、さらなるジュエルシードの確保。

 

 一個でも十分だと思っていたはずが、思いの外戦える数の多い地球勢に対して彼は苛立ちを覚えた。それは油断していた自分にもそうであるし、出来る他者に対してもそう。

 

 ならばこの状況を即座に打開できるものと言ったら何か?

 

 彼は初めから大量のジュエルシードの確保は諦めていた。サーチャーへの対処は実施済みであるし、デバイスに格納されていたらそれこそわからない。この場にデバイスは一体何個あるというのだろうか。

 

 だとすれば、最後に残るのは確保する瞬間以外あり得ない。自分がJSモンスターに対処出来ないのならば他者にやらせればいい。彼は初めから予備の策を用意していた。

 

 しかし、コレばかりは頼りたくなかったのも事実である。

 

 ジュエルシード一個でも、自分では制御するのに手一杯なのだ。ここで2個目ともなれば一体どんな副作用が出るかわからない。自己の強化を目的とした魔力の使用では、外部で複数を制御するよりしがたく、器が耐え切れない。

 

 だが彼はその懸念をとうとう放棄した。自分より強いものが、たとえ数に頼っていようともいるのが我慢ならない。

 

「そいつを、よこせぇぇ!」

「ぐぁ……!」

 

 加速と魔力を利用した蹴りに、ユーノの上腕がギリギリと悲鳴を上げる。なんとかジャケットの強度をあげて防ぐが、当然の反作用によりユーノは勢いにのって墜落した。

 

 そして、手放されるジュエルシード。

 

「しまった……!」

「あの野郎!」

 

 果たしてそれは誰の嘆きだったか。それすらもわからないくらいに、全員に焦燥の念が浮かぶ。最後のジュエルシードは彼の手の内にわたってしまった。

 

「ユーノ君!」

「高町さん、急いで行ってあげてくれ!」

「はい!」

 

 心配するなのはをさり気なく敵から引き離すように、隊員が声をかける。アクセルフィンを全開にして堕ちるユーノに追いすがる。他の面々は彼女に追撃が来ないよう、何をするかわからないデュアリスに対してさらなる警戒を見せる。

 

「ふ、ふは。ふはははは!!手に入れてやった!2つ目だ、2つ目だぞ!どうだ、これが貴様らが俺を追い詰めた結果だぁ!!俺はこの力を使って貴様らを滅ぼしてやる!精々後悔するのだなぁあぁあ!!」

「そんなふざけたことを!」

「今更そんなものがきくかぁぁ!」

 

 リニスが放った魔法に対し、彼は斧を振っただけで答えた。消し飛ばされる魔法。もはや膨大と化した魔力にはその程度の軽い攻撃など効きはしないというように。滾るように、湯気のように纏った魔力が蒸気する。

 

「は、はは!すばらしク、カカ!俺がコノ世で一番強……ギャハ!最強な……グギャガ」

「な、なんだいなんだい!?様子がおかしいよ!?」

 

 変色して青くなった魔力が意識と知性を犯す。乱れた彼の顔には焦点の合っていない目と口から垂れるよだれ。とうとう彼は強いことにこだわりすぎてしまったあまり、人であることを捨ててしまった。

 

「制御が出来てないんだ……。もう、戦えたとしてもただの獣だ」

 

 フェイトが青くなった顔でそう言った。その間にもベキゴキと不快な音を立てながら、魔力が外殻を形成していく。それは果たしてバリアジャケットの代わりなのか。黒ずんだ外皮に角を幾つもの場所から生やし、爪は伸び、目は血走る。口元を覆う外皮はまるで長い牙のようなものが生えた。まさに異形、まさに怪物。男を贄とした悪夢はココに顕現し、吠えた。

 

「Gyaaaaaaaaaaaahhh!!」

 

 叫びにより空気が、いや次元が揺らぐ。魔力が暴走に暴走を重ね、怪物は次元震までをも引き起こそうとしていた。もはや一刻の猶予もない。残った全員は一斉に攻勢に出た。

 

 

 

 

「おぉ、やってるやってる。予定通り次元震も起きてるね」

『Is there a No problem?(問題はないのですか?)』

「大丈夫大丈夫。もしも何か有ったら手は出すから。安心してよ」

 

 戦闘区域より更に上空。ほぼ結界の端に位置する場所で、数多の魔力光を眼下に眺める少年がいた。同時に会話しているのは赤い宝石、現在この時間にはあるはずのない、未来のレイジングハートである。ならばその少年は、ジェック・L・高町以外にあり得ない。最初で最後のタイムワープ以来、それをしなくなった彼はそのまま成長し、大体中学生後半ぐらいとなっている。顔立ちはそのままなのはのよう……ではなく、男らしさを持ちどちらかといえば恭也に近い顔立ちに変わろうとしている途中だった。しかし何故魔導生命たるジェックが成長しているのか、コレに関しては本人もわかっておらず首を傾げている。シグナムやヴィータ達、彼女たちのような存在であればプログラムによるエミュレートのようなものなので成長しないのもわかるが。まぁ彼はロストロギアによる奇跡によって生まれてしまったので、何事にも例外はあるのだろう。アリシアと成長タイミングが合致しているのはご愛嬌、といったところか。

 

 結界内にいるにも関わらず、彼ご自慢のレアスキルであちこちと無縁の状態になっているため発見されることはほぼあり得ない。そんな彼の視界に映る光景は、先の戦いよりも更に激しさを増している。狙いの定まっていない野生の暴力のような魔弾がアチコチに飛び、それに四苦八苦しながら避ける隊員と、高速で駆け抜けてそもそも当たらないフェイト。アルフは魔弾を殴って逸らしているが、その強度に不安を感じこちらも回避軌道を取り、リニスはプロテクションに角度をつけながら最小動作で回避。各々に反撃をしてはいるが、大威力の魔法を発動させられるほどの時間を得ることが出来ていない。バインドで貼付けにしても魔弾は飛ぶし、僅かな間を置けば強制的に割られている。しかしコチラ側は徐々に疲労と、被弾しつつある人間が出ていた。どちらが優勢かは明白である。

 

「しかしここまで苦戦するとは……なかなかやるもんだねあの怪物も。ちなみにレイジングハートから見てどう思う?」

『She is weak(彼女は弱いですね)』

「え、誰が?なのはのこと?」

 

 そう、と肯定された。確かに未来の彼女と比べたらそうかもしれないが、恐らくレイジングハートは同時期の頃のなのはと比べているのであろう。御神の剣術も学び体力も付き、魔法を学び始めたのは3年より前。工夫は随所に見られるが、これで弱いとはどういうことなのだろうか。恐らくは多分、彼女の最大の特性を生かせていないことにあるのだろう。

 

 「高町なのは」といえば砲撃魔導師である。これが前史における一般的な見解だ。それは彼女が収束砲撃を得意とし、移動砲台として戦艦もびっくりな超威力の砲撃を行うことにある。距離をとってさえいればチャージが出来るために圧倒的なアドバンテージを誇り、堅牢な防御を持って発射までの時間を稼ぐ様はまさに要塞と言わんばかり。一撃必殺を信条とした魔法の使い手であった。

 

 しかし現在のなのははどうであろう。自身の特性に気づいているものの、剣術を学んだことにより機動性を重視し火力の高い砲撃は捨てている。代わりに収束剣が一撃必殺となってはいるが、全体で見れば近距離中火力といった有様でフェイトとキャラかぶり。様々なものを取りこぼさず生きてきた弊害であった。なるほど、それは弱いかもしれない。とはいっても将来性はかなり未知数であるが、現状を打破出来ないのでは意味がなく。その事にレイジングハートは憤慨しているようだ。

 

「うん、それはどうしようもない。っと、通信だ……はいはいもしもし」

『やっほ、ジェック。今ドコ?戦場?』

「当たりだよ、無縁だらけにしてるのに何でわかったんだ?」

『うーん、……女の勘?』

「オーケーそれは止めようがないな。で、用事は?」

 

 相手は陸地で待機しているはずのアリシアだった。どうやら他者の目が他所を向いている隙を見てかけてきたらしい。

 

『んー……特に無いと言えば無いんだけど、計画の方は順調?』

「おおまかな部分は予定通りだ。あとはこれを管理局が探知してくれればいい。そろそろサーチャーが降りてきてる頃だろう」

『そ。じゃぁ任せる。……せめて、怪我人が出ないように祈りたいわ。地球は半ば私たちの巻き添えを食らったようなものであるし』

「仕方ない、とはいえないが。高町なのはを中心とした騒動はどのみち起こるんだ。今の管理局にとって地球は必要な存在だよ。損得で見れば間違い無く地球も得をすることだから、被害だけ見て情に走るのは良くないな」

『……ジェックってどこか機械的よね。まぁ、あまり裏ボスみたいな行動するのは慎みなさい。見てるこっちもハラハラするし』

 

 心配そうな声で彼女はつぶやいた。アリシアにとってジェックは幼い時からの恩人であり友人である。そんな人間が悪巧みしている姿はあまり座りが良くないらしい。

 

「肝に銘じとくよ」

『なら、代わりに一つ善行を積んでおきなさい。窮地を助けるのはヒーローの役目でしょ?それじゃね』

 

 プツンとウィンドウが途切れる。仕方ない、といった様相でジェックはため息をひとつ。ならばここで積める善行とは一体何であろう。現状自身の存在がバレるのはご法度だ。レアスキルによるバックカバーこそしているものの、ソレ以外となれば……。

 

 そんな思考をしているときに、何やらチカチカ光るレイジングハートの姿があった。

 

「……ちょっと待て。お前は一体何をしているんだ」

『A good deed(善行です)』

「いやいや、具体的にどういう事なのか聞きたいんだが?」

『I've added a certain magic. To Raging Heart of there(とある魔法を書き加えました。あちらのレイジングハートに)』

「おいぃぃぃ!?今存在がバレるような事はしないようにしてるのにどうしてそういうことするかな!?」

『In the current situation is appropriate behavior(現状では適切な行動です)』

 

 こ、この野郎!なんてことしやがる!という文句も華麗にスルーするバカ宝石。マスターである人物をとにかく「勝たせる」ためであれば自らもマスターすらも顧みず危険を犯すのがこのデバイスだ。基本、この宝石に撤退の二文字は無いということをつくづく思い知らされる。こうなったら、もはや成り行きを見守るしかないだろう。再びジェックは大きなため息を吐き。

 

「……紅茶でも飲むか」

『Most are you too rude(あなたも大概失礼ですね)』

 

 水筒からタパタパ紅茶をつぎ観戦に徹することにした。

 

 

 

 

「……ゲホッゲホッ」

「大丈夫、ユーノ君?骨折れてない?」

 

 海へと落下したユーノを追って、なのはは彼を支えた。水から引き上げたもののその姿は当然びっしょり濡れている。軽く触診した後、ネームレスを取り出して簡易ではあるが治癒魔法を発動させた。レイジングハートでは自身の魔力特性で発動できないのでその代用である。

 

「ヒビは入ってるかも……。ごめんね、私じゃこれくらいしか出来ないから……」

「ううん、ありがとうなのは。……とりあえず一旦回復出来れば自分で何とか出来るから」

 

 未熟であろうとも全力で出来るだけの手段をとるしかない。そんな二人の上空で飛び交う魔力弾は、まるで流れ星のように様々な表情を見せている。ここが戦場でなくて、魔力弾にも殺意や害意が載っていなければそれはそれは美しい光景なのだが。遠い昔に自分に似た少年が見せた魔力弾の光景とは似ても似つかない。そんな思慕に駆られた時、奇妙な合成音声を上げ始める何かがいた。

 

『$%$’&W"%"%%&'((3#$#!?』

「ちょ!?どうしたのレイジングハート!?」

「え、何?まさか壊れたの?」

 

 お前はHDDのアクセスランプか、と思うほど点滅しまくるレイジングハート。今まで見せたこともないほどに光りまくるだけあってその光景はなんとも不気味なものがある。唖然としたまま黙って見ていると、ようやっと落ち着いたのか点滅を抑えていつもどおりのレイジングハートが答えた。

 

『is not a problem. However, there are no abnormalities in operation(問題ありません。いえ、ありますが動作に異常はありません)』

「結局、何がどうなってたの?」

『It is a hacking forced from the top. Someone is unknown, was written the magic of two types(上位からの強制ハッキングです。何者かは不明ですが、 2種類の魔法を書き込まれました)』

「……よくわかんないけど、それは現状を打破できるものなの?」

『This is the best means(最良の手段です)』

「……わかった。じゃぁ、それ使ってみよう!」

「いやいやいやちょっと待って!?そんな出自不明な魔法を使うって、大丈夫なの!?」

 

 危険性を考えてユーノが待ったを入れる。今のこのタイミングで、どうにか出来る魔法が託されるなんてあまりにも都合が良すぎる。それこそ罠ではないかと疑ってしまうぐらいに。しかしなのはは微笑みながらそれを否定した。

 

「ううん、きっとだいじょうぶ。この魔法、軽く精査してみたけどものすごく洗練されてるの。そう、多分コレは」

 

――知らない誰かが、全力で駆け抜けた証なんだ。

 

 そう感じる。だから、大丈夫。漠然とした理由だけど、まるで「私」に誂えたように構築されているプログラムにある意味尊敬を感じてしまったのだ。まるで魔法そのものに念が篭っているように。

 

「そっか……。じゃぁ、もしもの時は止めるから。気をつけて」

「うん、任せて」

 

 自信に満ちた声で頷く。次いでなのははフェイトに念話を入れた。

 

(フェイトちゃん、あの人の足止め、できる?)

(……何か、手があるの?)

(うん、秘策だと思う)

(わかった。じゃぁ全員でバインドを掛けるから、その間にお願い。それでも数秒しか持たないかもしれないけど)

(それだけあれば、とりあえずはなんとか。最初に発動させた魔法の後に、念のため重ねがけを)

 

 それだけを言って、増えた魔法の内一つを待機させる。情報が伝わり、瞬く間に上空の全員が動きを変えた。バインドを覚えていない隊員は射撃で行動を制限し、トラップ地帯へ誘導する。フェイト達はその場に大量のライトニングバインドを行使した。そして獲物を追うようにして突っ込んできたデュアリスを捕縛。幾多のバインドが彼を絡みとりその場に拘束させる。ギチギチと張り詰める魔力の輪が、今にも壊れそうな音を鳴らしている。

 

「、なのは!」

 

 男の真下に陣取るなのはに呼びかける。唯一のチャンスを漏らさないように手を伸ばし、即座に待機させていた魔法を発動させた。

 

「――レストリクトロック」

 

 声に応じ、ガチリと男の手足にハマる枷。それは集束させた魔力により相手の動きを封じる上位魔法。通常のバインドとは比較にならないほど硬く、何者も逃しはしない。あれだけ多くのバインドをかけているにもかかわらず、そのたった一つの魔法の方が強度は圧倒的に高い。その証拠に男は完全に封殺されていた。アレほどのバインドをいつの間に。そうフェイトは思いつつも、慌てて更にバインドを上書きする。

 

 そして、次なる魔法。

 

 なのはの周囲に変化が起こる。展開した魔法陣を中心に、まるでゴウと幻聴が聞こえた気がした。周囲に拡散した余剰分の魔力が明滅し、次から次へと彼女に集まっていく。

 

 その姿は、まさしく台風。

 

 なのはという目を中心に、時間を巻き戻すように高まり続ける魔力。それは決して一個人が成せる筈のない奇跡のよう。その姿に、フェイトは身震いすら覚えた。

 

 答えるように、海が揺れる。その波動が持つ脅威に結界が慄いた。直感的に察したのか、デュアリスにも焦りが浮かぶ。いかに知性がなくなったといえども、彼の直感が激しく訴えるのだ。アレはあたってはいけないものだ。ニゲロ、ただニゲロと!!

 

 しかし、なのはの心は反して非常に穏やかだった。

 

「……ふしぎだね、レイジングハート。不思議なくらい、私によく馴染む」

 

 体を駆け巡る大量の魔力がギチギチと体を軋ませる。しかし非常に洗練されたその流れは、己を極致へと高めても自己を崩壊させることはあり得ない。処理されるプログラムも滞り無く、儀式魔法以上の威力を想像できるのにソレ以上の速さで読み込まれる。

 

 カチャリ、とレイジングハートの先端を上空に向ける。狙いは月を背負う怪物と化した狂人。

 

――その魔法は、星を穿つという究極の傲慢を持った一筋の流星。

 

 ドクン、と魔力が鼓動を鳴らした。

 

 それは歓喜。この世に生まれ出て大命をなすための、復活の旋律。杖の先端で形を成し始めた魔力の球体が、更に鼓動を鳴らしながら巨大化していく。全てを蹴散らす孤独の砲の光景が、なのはに一瞬感情のうねりを巡らせる。

 

「――、」

 

 そこにあったのは、寂しさと悲しみ。ただ一人でこれほどの魔法を使わざるを得なかった誰かの慟哭。不意に、懐かしさを感じた気がした。その感情を持ったのはいつだったろう、まだ更に幼い時の、……父親がケガをしたときだったか。その理念には共感が持てる。きっと、この人も原点は同じだったのだろう。しかし今はソレを持ち得ない、「私」には無い思い。ならばこれは、この人だけが持ち得るものなのだろう。思いが駆け抜けるだけ駆け抜けて、サラリと心から消えた。

 

 カッ、と目を開く。

 

 極大サイズにまでなった卵は、今にも生まれたそうに喚いている。ドクン、ドクン、ハヤクハヤク。

 

「レイジングハート、充填率は」

『170%』

 

 うん、なら大丈夫だね。

 せり出したグリップを握りしめ、トリガーに指をかける。後はそっと引いてアレを撃ち落とすだけ。「行こう」と、なのははつぶやく。果たしてそれは誰に対する語りかけであったのだろうか。本人ですらわからない。

 

 

「スターライト、ブレイカー!!」

 

 

 

 

 

「なんて、威力だ」

 

 まるで天を貫く御柱のような佇まいを見せた極太の咆哮は、ターゲットの男を巻き込みわずかな時間で消失した。

 なのはが魔法を唱えた瞬間、ゴボリとバケツから水があふれだすように魔力が飛び出した。果たしてその魔力は一体ドコまで飛び上がってしまったのか、全く判断ができない。周囲一帯からかき集められるだけ集めた魔力は、男のプロテクションに当たり、一瞬あちこちにはじけ飛んだ。しかしそんなのは些細なことと言わんばかりに、プロテクションをまるでチョコレートか何かのように溶かしてしまう。あっという間に光に埋もれた男の外皮は削れ、剥げ、徐々にその形を失っていた。バリアジャケットも失った男は気絶して落下。慌てて回収、捕縛を行う。ジュエルシードが2個とも無事だったのがある意味奇跡に思えるやられ具合だ。なんて恐ろしい、あんなのは食らってなくとも金輪際お断りします。と両手を前にして後退るレベルです。

 

 ついでに結界も破壊されていたが、今回はそれが功を奏しヘリがやって来ることが出来た。さすがに抱えて移動するのは困難なので、デュアリスを収容して帰路につく。

 

 あれが本当の魔法戦、か。自衛隊員達はそこに時代の移り変わりを感じた。弾薬も貴金属も消費しない、環境を汚すこともない新たなスタンダード。現状でも各種兵装は効くために全てが全て役立たずになることはないだろう。が、ここには激しさこそあったが、しかしあれほどであっても誰も死んでいないことに安堵を覚えた。これが世界にとって吉と出るか凶と出るかはまだ彼らにはわからない。

 

 しかし今回は、無事に終われたことをただ祈ろうではないか。

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、それと報告が」

「聞こう」

 

 今回の指揮を任された男が傾聴する。

 

「ジュエルシードはこれで全部集まりました。それらはユーノ・スクライア、アリシア・テスタロッサ両管理世界人による監修の中で分かる範囲で研究が行われるようです。また高町なのはによる魔法の弁解も必要でしょう。容疑者のデュアリスが乗っていたと思われる次元航行艦は、こちらもアリシア・テスタロッサ指示の元デバイスから転移先を絞って回収するようです。ああ、それと」

「他にまだ何か?」

 

 大凡予想していたとおりの報告に頷き、次の報告を促す。

 

「帰りがけにサーチャーを発見したので破壊したそうです。どこのものかまでは不明ですが」

「……噂の管理局のお出ましかな?やれやれ、まだ事は終わりそうにないね」

 

 自衛隊、彼らの夜明けは未だ遠い。

 




いやはや、ようやくここまで来ました。
しかし流れがスマートでないので、本来やる予定だった過去ネタバレ編は全部A's編に回すことにします。ご了承ください。とりあえずは一旦地球のイザコザをささっと片づけます。


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Roundabout_1

(´・ω・`)セリフ回しが厳しい。そして地味に忙しい。
やっとここまで来ました、管理局振り回し編。

H25.4.3大幅修正しますた。展開こそ大差ないですが既読の方は読み直しした方がいいでしょう。


 地球、その月軌道上に今まであるはずのないものが存在していた。

 次元航行艦L級艦船8番艦アースラ。球形の面の多くで形成された艦橋は見る人が見ればUFOだと言うかもしれない。地球からすればまごうことなき未確認飛行物体なのは間違いないだろう。先端に向かって伸びる2本の突起が無ければ誰も戦艦だとは思うまい。

 

 静寂な宇宙の中を地球を見守るようにゆっくりとたたずむ巨大物。しかしその中では猿のように喚く一人の男がいた。

 

「だから言っておるだろう!さっさと奴らには管理世界入させるべきだと!ソレが何故わからぬ!!」

 

 普段の搭乗員、いわゆるアースラチームとは違う外様の男ヴォーク・コングマンだ。

 改めて彼を紹介しよう。ヴォークは現在戦線から外れた老人で、最も忙しい管理局の中間期に才能を買われて入局した少年兵出身の人間である。戦闘そのものは強かったために当時の管理局の屋台骨を支えていたと当人は言っている。しかしその実態は浅学から来る非常識さが目立つ人間であり、老成した後も脳筋バカ一代と言われる程他人に迷惑をかけている。そのため「使える無能」と揶揄されており、命令に従っていれば使い道があるものの自身に判断させると途端に醜態を顕にする、そんな男だ。その傾向は0か1の極端思考で直情傾向、愚蒙なまでの猪突猛進ぶりを発揮される。実に鬱陶しいくらいに。

 

 そんな彼が何故評議会代理などという名誉な職についているのか。本来なら彼は単純に違法な研究所への橋渡し、つまり癒着や横領の隠れ蓑でありただの囮であっただけのはず。それはジェックがハラオウンに渡したブラックリストにも載っているとおりだ。この理由は極秘裏にではあるがとある人物が関わっていたらしい事にある。

 

 曰く、何年か前に最高評議会の肝入が死んだせいであらゆる技術開発が止まったという噂。

 

 眉唾でありだからどうしたという話であるが、ハラオウン一家はこの事実を詳しく知っている。

 ジェイル・スカリエッティの死。生体技術の第一人者であり、過去にプロジェクトFという論文を流したことから話題になった人物。とはいえソレ以降はコレといった発表はなく、姿を見たことがある人もいないので実在も怪しいとされていた。しかし彼は管理局の技術のいくらかを担っていたという。

 

 その男の死因は実験の失敗で生まれた爆発による焼死。どういう失敗をしたのか笑えるくらいに盛大に爆発したらしく、男がいたとされる研究所は欠片も物的証拠が残らないほど木端微塵になっていたと調査した人物は記録している。その割にはわざと残されたように被害を受けていない部分に「死ぬときは科学者らしく爆発オチで」という文章が刻まれており、果たしてこれがジョークの域だったのかどうかで意見が割れる。域内だったらそれはそれで頭のイッてる科学者としか思えないが。

 

 とはいえ、彼が本当にいたかどうかはわからない。なにせジェイル・スカリエッティという男は戸籍も無く素性の分からない人物だったために、足取りも裏もとりようがなかった。捜査はそこで中断されており、ただの爆発事故として処理されている。今ではその詳細が伏せられていることから、調査に関わった者は何らかの裏があったと見ている。そのせいか憶測が憶測を呼び、彼はプロジェクトFで生まれ管理局に籠の鳥として開発を強いられていたんだ!だの、自身が死ぬことで何かを訴えようとした、プロジェクトFを流したのは彼の救援の叫びだった、などなど何故か好意的な推理をされていた。なにげに当たっている部分があるのが恐ろしい。

 

 スカリエッティがこれといった犯罪を行なっていないのが大きかったのだろう。前史ではあれだけやらかした男とハラオウン一家は未来を知っているために認知しているが、そうでなければ結構境遇としてはかわいそうな人だった。それがこの反応を呼んだようだ。

 

 それにより損害を受けたのは最高評議会だ。彼らが長い間その高い地位を維持していられたのは、偏に彼の技術提供によるものが大きい。たとえ過去の功績があったとしても今ではソレを知るものはおらず、評議会が本人そのものということも隠しているため当然誰かわからない。ならば絶えずエサを与え続けなければバックボーンとして信頼されないのは道理だろう。所詮は表に出てこれない口だけの人間だ。スカリエッティという開発者を失ったことで、彼らの手元に残ったのはせいぜいがプロジェクトFや戦闘機人関係の技術のみ。今から再び「無限の欲望」というアルハザードで拾い上げた遺伝子から生み出したとしても、記憶が無いのでは相応の開発力をつけるには十数年の月日がかかる。その間に失墜の憂き目に遭うのは目に見えた。加えて最近は資金源のパイプをハラオウン子飼いの執務官や捜査官達によって尽く潰されていた。ジェックによって齎されたブラックリストの成果である。

 

 ならば現状の強化を図ることで体裁を整えるしかない。兎にも角にも焦っていた最高評議会はヴォーク・コングマンに目をつけた。彼なら自分たちの言う通りに指示をこなすだろうという打算によって。もはやこの時点で最高評議会はただの老害と化していた。何せ管理局幹部のレオーネ達すら「もはや人も世界も動かせない」と見下していたくらいだ。管理局のためと言いながらも独善的な思想を持って突っ走る道化。彼らとヴォークの奇跡のコラボレーションによってSL超特急が見事に完成した。後はただ突っ走るのみ、行く先はきっと崖か何かだ。

 

 そんなわけで、抜擢されたヴォーク・コングマンはひどく増長していた。アルカンシェルの発射権限が与えられていることも大きいだろう。「第97管理外世界を従属させること、言う事を聞かないならつぶせ」と命令されている。これで従属なりさせれば、もしくは反旗を翻そうとした地球を潰せば自分には高い地位が約束されているも同然だった。そしてたかだか魔法が生まれたばかりの発展途上世界など赤子の手をひねるように簡単だと楽観視すらしていた。

 

 しかし事態はサーチャーを地球に放ったことで傾く。

 

 既にデバイスを用い非常に発達したように見える魔法を使い、ニアSランクと思えるほどの砲撃を打ち、全てのジュエルシードを集め、挙句の果てに次元航行艦まで回収された。

 

 これにより彼の脳内の危機感は増大。加えてサーチャーまで破壊されたとくれば管理外世界の奴らは管理局に対して牙を剥いている!!等と思っても……彼ならば仕方ない。奴らは簒奪した力を用いて攻めてくるのだと声高に叫んだ。

 

「バカな事を言わないでください。私たちの代わりにジュエルシードを集めてくれたことは感謝こそすれど、疑ってかかるのは不義にあたるでしょう」

「ッハ!これだからハラオウンは軟弱者なのだ!いいか、所詮未だ質量兵器に頼る奴らなど野蛮に違いないのだ!私が戦ってきた質量兵器持ちは皆野蛮だったぞ!ならば叩くか植民地化させて抵抗力を削ぐしか無いだろう!」

 

 いや、その理屈はおかしい。

 

 クルー全員の思考が一致する。地球で例えるなら暴力的な人間が暴力を振るうゲームをしたのではなく、ゲームをしているから暴力的な人間になったと言っているようなものだ。銃があるから野蛮なのではない。逆説的に考えれば答えが翻ってしまうのでは成立しないではないか。

 

 その後も喧々囂々の言い争いがリンディとの間で飛び交うものの、暖簾に腕押しというより彼は岩か何かのようで意見がテコでも動かない。さすがの温和なリンディさんも血管が切れそうである。隣で扱いに苦しむクロノも内心ため息をついていた。

 

 とはいえ、コングマンには手段が少ない。彼の望みどおり抵抗せずに植民地化出来れば良しだが、そうでない場合は自身が地球に降りて暴れるか、アルカンシェルを発射するかの二通りのみ。だが自身は既に老体の身であり、堕落して横に増した体ではとてもではないが暴れることは出来ない。アースラ搭乗員はリンディ・ハラオウンの配下なので管轄の違いにより彼に動かせるわけもなく。結局残るはアルカンシェルのみというわけだ。

 

「いいか、もしこれから何かあったとしても貴様は口答えをす」

「あ、艦長」

「何、エイミィ?」

 

 ヴォークの長々しい話をぶった切ってエイミィが動きがあったことを伝えようとする。嬉々としてリンディもソレに飛びついた。

 

「おい!人の話を」

「通信が入っています。場所は……え、地球からです!!」

「なんですって!?つないで!」

「貴様ら話を聞かんか!」

 

 遮られたヴォークは怒り心頭だ。しかしそんなことはお構いなしにエイミィは通信を繋ぐ。笑顔の黒人らしき中年の男がスクリーンに映った。

 

『やぁ、こんにちは諸君。それともこんばんわかな?地球を眺めながら騒ぐのは少々マナーがなっていないのではないかな?』

「あら?まるで見られていたようなことを言うのですね」

『おや、ほんとうに騒いでたのかい?出来ればその内容は地球侵略などであってほしくはないものだね』

 

 いきなりテンプレートのような宇宙人の当てはめ方をされたことにクルーは苦笑した。一人を除いてそんな事する気は毛頭ない。その様子を一瞥すると黒人の男性は姿勢を正して一礼した。

 

『第7代国連事務総長、コフィー・アタタンだ。よろしく頼むよ、来訪者の諸君』

 

-------------------------

「……ヴォーク・コングマンだ。評議会代理を務めている」

「初めましてミスター。次元航行艦アースラ、提督のリンディ・ハラオウンです」

 

 先手を取られた。そう考えてしかめっ面を隠さないコングマン。これではまず相手の言い分から聞かねばならない。一体どうやって探知することが出来たのか、それほどに技術力が上がっているのか疑問は尽きない。

 

『ふむ、我々は公式には……宇宙人と呼ぶのは失礼だな。どう呼べばいいかな?』

「そうですね、私たちは次元の壁を超えて『世界』を渡って来ました。そして私達の所属する時空管理局は、それら複数の世界に存在する惑星によって構成された組織です。ですので、あなた方からすれば次元世界人、もしくは管理世界人と呼ぶのがわかりやすいでしょう」

 

 返答はリンディが行った。殊交渉事に関することはコングマンが、説明はリンディがすることになっている。それもこれも面倒事を嫌ったコングマンが投げたためだ。彼からすれば今から隷属させる相手と仲良くする気がないからかもしれない。

 

『なるほど、では管理世界人と呼ばせてもらいましょう。ところで、我々は公式には管理世界人との交流は初めてでしてな。宜しければ友好の印に地球に降りてみませんかな?』

「それはいいかんが」

 

「いや、悪いがあまり時間もなければ不用意に混乱させることもあるまい。このまま話を続けさせてもらおう」

 

 こいつ、切りやがった。コングマンは地球の現状の技術レベルが不透明なために、降りることによって生じる危険性を重視したといったところだろう。クルーはため息を吐きそうになる。せっかく穏便に事が済みそうだというのに何てことをといった心境か、と。そう考えるのが普通だが、実はクルー総員その内心は反対。むしろ予定通りだった。

 

『ソレは残念です。またの機会にいたしましょう。しかし、地球に近づいた要件は聞かせてほしいところですな』

「あなた達第97管理外世界は不当な手段で魔法を取得したと聞いている。加えて管理世界人のユーノ・スクライア、並びにロストロギアとそれを回収しにきた人間を拘束しているらしいではないか。現に彼らは今もコチラに帰ってきていない。さらにそのロストロギアを使って次元震まで起こす始末。これは我々の存在を知ったうえで、管理世界を攻めるための口実を作っているのではないか?」

 

 とんでもない言いがかりである。

 

『ふむ、どうやらお互いの認識に齟齬が発生しているようですな』

「事実だろう。現に次元航行艦までかすめとっているではないか!」

『これは異なことを。でしたらこちらのデータを見ていただきたい』

 

「地球からユーノ・スクライアとジュエルシードの所在。加えて調査報告等の資料が届きました。展開します」

 

 エイミィの操作で開示されたデータはこれまでの経緯を説明したものだ。当然ながらユーノの扱いは非常に慎重であり、むしろ好待遇であること。ジュエルシードは現地の警察組織、また政府によって厳重に保管されていること。回収に来た人間は盗賊であり、拘束していることは地球側に一切の非はなく、次元震が起こったのもその手の者によるもので意図的に行ったものではないことなどが記載されている。

 

 もちろんユーノの希望があれば彼は管理局に引き渡すつもりであり、ジュエルシードなどというトンデモ危険物を地球に置いているわけにもいかないので返還の予定はある。実際はその裏でリニス・アリシア両名によって完全にデータ取りが済んでしまっているので地球側にとっても問題はない。また次元航行艦ももともと盗品であったことは判明しているので、調査の終了次第変換する旨を伝えた。

 

「っく、だが貴様らは暫定的にだが次元世界を渡る術を得たことに変わるまい」

『それで攻める、というのはいささか早計ではないかな?むしろ我々は次元を渡るよりも前にしなければならないことが多い。第一に周辺惑星の調査、加えて出来るなら資源採掘をしなければならない。これは10カ年計画になる予定であり、とてもではないが他国を攻める時間もなければ利益もないのですよ。個人的に言えば、あなた方と貿易を行うことでより経済活動を活発にしたいところです』

 

 戦争より経済、そして資源確保が一番大事と唱える。ここまで言っているのに不穏な気配を隠さないコングマンを見て、相手はタカ派か、と勘付いたコフィー・アタタンの言葉もわずかに鋭くなる。

 

「フン、なればこそ。なおのことあなた達は管理世界入りをすべきだな。その義務がある」

『フム。その条件は一体?』

「……ハラオウン提督」

「はい。まず管理世界入りとは……」

 

 管理世界入りするための条件を述べる。管理世界に番号を連ねるには、魔法が使えかつ次元航行技術を得ること。地球は次元航行艦を入手したことで暫定的にその条件を達成したこととなっている。研究次第でいずれその技術は取得されることは明らかだ。

 これにより制定されるのはまず法の最上位に管理局法を置くこと。さらに三権は管理局に集約され、市民の安全は管理局員が担うことになる。だがこれには地球側にデメリットが大きい。まず管理世界と違い国の枠があり、地球内でもまとまりがない。彼らは戦争によって疲弊し人類が少なくなることで国同士が消極的融合を果たしたが、こちらはそうではない。そうなった場合「地区」扱いとなるだろうが、未だ足並み揃わぬ国があるのに国枠を外してしまっては大変なことになる。また管理局員が安全を担うということは、現在各国が持つ軍、刑事組織が解体されるということだ。防衛力をそがれるわ職にあぶれるわいいこと無し。ついでに質量兵器が禁止されるので、それらを持つことも出来ないのでは犯罪への対処が難しくなるだろう。主だったものはこれくらいだが、まだまだ地球にとって不利な条件があるのは目に見えていた。

 

『なるほど、しかし地球の現状を鑑みてもそれは非常に難しい』

「こちらは義務であると言っている。拒否権はない」

『管理世界に属してない以上、地球はあなた方からすれば治外法権も同然だ。従う義務があるはずがない』

 

 互いが互いに強硬姿勢をとる以上、平行線のまま話は進まない。それに焦れたコングマンはとうとう切り札を出すことにした。

 

「……なるほど、貴様らはそう言うのだな。ならば最終手段を使うしかあるまい」

『……脅しでもするのかね?』

「いいや交渉だ。私には半径百数十kmを根絶やしにする魔導砲の発射権限が与えられている。この宇宙からでもゆうに地表に着弾する、それがどうなるか想像できないわけではあるまい」

 

 ククク、と喉奥から笑うコングマン。そのニヤケ面は悪意に満ちている。

 

『それを撃つ、というリスクと責任を君は考えたことがあるのかね?』

「何、貴様らの世界が滅びるなら問題ない。我々管理局に歯向かうおろかな世界を打ち倒すことで私は称賛を得るだろう」

 

 わずかに目を細めたアタタンは怯まない。

 

『我々はそのような脅しには決して屈しない。あなたにそのような無謀とも取れる勇気があるとは思えないがな。もう少し、よく考えて発言し給え』

「待て、ドコへ行く!?」

 

 カメラ前の席を立とうとしたアタタンをコングマンは止める。が、彼は再び席に戻るような事はせず発言する。

 

『あなたの考えがもう少しまともになった時に話をきこう。それまでは私が席につくほどの意味があるとは思えない。では失礼する』

 

 

――プチン、と映像は途切れた。

 

「…………!!!」

 

 リンディはコングマンを横目でチラッと見る。その顔はバカにされたとでも思っているのか、真っ赤に膨れている。

 

「あんの未開人めがっ!!調子に乗りおって!!」

「(あなたにも問題があると思うのだけど)……とりあえず少し時間を置いたらどうです?気が変わるかもしれないでしょう?」

 

 嫌味は言わずリンディは嗜めるようにコングマンの気を散らす。床をガンガン踏み鳴らす老人というのは見ていていい気分ではない。

 

「……フン!まぁいい……いずれどちらが上かわかるだろう」

 

 言うだけ言って彼はブリッジから去っていった。果たしてあの気の短い御仁がいつまで持つか、楽しみではある。

 

「ホント、面倒な人ね……」

「現在の評議会派は似たり寄ったりの人間ばかりです。イスにあぐらをかいて怠慢ばかりではああなっても仕方ないでしょう」

 

 未来においてレジアス・ゲイズをつかいはじめたのが何となく分かる。恐らくはソレ以外に選択肢がなかったのだ。いくら本局の人間がエリート揃いだからと言っても戦場上がりが多く、軍人気質ではあるが頭の中がお花畑の人間が多い。それもこれも長い間同じイスに座り続けているからだろう。停滞していれば腐るのは人間も組織も同じ事。かと言って今回の件は地上部隊の人間は使うことが出来ず、優秀な人間はハラオウン派寄りになっている。手元に残るのが有象無象の野心しか無い人間ばかりともなれば、せめて言う事を聞く人間を使うのが精々というものだ。

 

 

 

 

 結論から言えば、コングマンの我慢は一日程度しか持たなかった。

 再三あちらからの返答は無いか、と聞いては同様の回答に苛立ちをつのらせ、自身の要求を変えることもない。所詮は未開人と侮っているのか柔軟な対応をすることもなく、昨日の同時刻に彼は決断することとなった。

 

「アルカンシェルを発射する」

「もう少し待ってみるべきでは?」

「通告も無しに発射するなんて、局員のやることではありません!」

「ええぃ黙れ!お前たちには口をだす権利など無い!ましてや頑なに態度を変えない奴らにこそ問題がある!」

 

 クロノとリンディの忠告も無視してアルカンシェルの火器管制装置を立ち上げる。後は宙に浮いたソレに持ち込んだキーを差し込むだけで発射が可能だ。

 

「充填率はどうなっている!」

「に、20%ほどです」

「いつでも完全に撃てるようにしておけと言っただろう馬鹿者が!」

 

 エイミィに怒鳴りつつ、彼は最早待てないとばかりにキーを差し込む。脅迫として適当な地点に撃ったとしても、二次災害による被害は決して少なくはない。要は相手が屈せばいいのである。

 

 ガチリ、とコングマンはキーを回した。

 

 これで引き返すことは出来ない。間も無くアルカンシェルは地表を砕くことになるだろう。

 

「管理局の永久の栄光のために!!」

 

 周囲を飲み込む光を発しながら、渦を巻く魔弾が宇宙を翔ける。

 

 そして、地球は破壊の光に飲み込まれた。

 

 

 

「ふ、ふふ、ふふふ!やったか!?」

 

 見ろ。これが天罰だ。生意気にも管理局に、私に逆らったがためにこのような顛末になってしまったのだ。ああ、なんと悲しい。なんと愚かしい。だが私たちは管理局を狙う不届き者を蹴散らしたのだ。ソレを以ってさらなる躍進を私達はするだろう。

 

「ふ、ふふ…………なんだ?」

 

 

 だがしかし残念かな。相手がせめて地球でなければ、いや。

 

『ク、ククク、ハハハ。アーハッハッハッハッハ!!!』

 

 

 ジョニー・スリカエッティ、もとい

 

「ば、ばかな!貴様は死んだはず!」

 

 彼でなければ救いがあっただろうに。

 

「……ジェ、ジェイル・スカリエッティ!?!?」

 

 画面に映る高笑いする科学者。紫の髪、黄金の眼。彼こそが過去から蘇った天才科学者。その彼に無理という言葉があるだろうか。いや、あるはずがない。再び映る青い地球。その地表には一切の傷はなく。

 

 

 

――代わりに、虹色に輝くシャボンのような膜が地球全土を覆っていた。

 



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Roundabout_2

|д゚)ソーっとソーっと……。

   !
Σ( ゚д゚)ハッ!
いえ、すいません。一ヶ月ぶりですね。
あえて言うなら色々合ったんです。仕事とか雑事とか、前編大幅修正でやる気がげんなりしてたとか、政治力無くて最新話もろくすっぽ書けなかったりとか、他に書きたいものが頭に浮かんで邪魔してたりとか、ネクロモーフ踏んづけてたりとか絵を描いてたりとか。

割りと突貫気味で/(^o^)\モハヤナニカケバイイ!状態になってたので、半ばダイジェストっぽくなってる部分があります。やはり政治力がマイナス振り切ってる私にはこのあたりは難しい……!スイマセーン、末期戦ものとか架空戦記書いてる人、助けてクダサーイ(泣)リリプラの内容で管理局政争ドタバタ編あたりの。私が死んでも第二第三の私が政治力があるとは限らない……っ!

多分にツッコミどころがあるやもしれないですがとりあえずこれで通します。まぁ何かありましたらいつものごとく感想欄の方へお書き下さいまし。

それと前話の内容的には大差ないですが、中身はだいぶ修正しましたので既読の方はもう一度お読みください。面倒な方はスルーしても構いません。主な修正点は迂闊すぎるコフィーにオバカなコングマンあたりです。

後念の為にタグにアンチヘイトと僅かな00要素を入れとくことにします。むしろこれ入れとけよみたいなタグ有ったら募集です。ぶっちゃけ自分で自分の作品にタグ付けるのって結構恥ずかしいんで……。何で他人がいじれる仕様にならないんだろう。

というわけで(どういうわけで)愚痴りまくって濁しまくりですが本編どうぞ。


 コングマンの目には信じられないものが映っている。虹色の光に守られて無傷の地球。そして死んだと言われていた最高評議会の鬼子。

 

 その名はジェイル・スカリエッティ。

 生い立ちは嘘か真か、アルハザードとされる科学者。またの名を「無限の欲望」。

 

「き、貴様は死んだはずでは!?」

『さて、それは誰のことを言っているのかな?ちなみに私の名はジョニィィィ・スリカエッティだ。よろしく頼むよ。』

「ば、バカを言え!評議会派のこの私が貴様を知らんわけないだろう!」

 

 あまりの動揺にさりげなくドツボにハマるコングマン。スカリエッティと評議会の関連性を疑うに十分な一言を放ってしまっている。スカリエッティ自身は特に犯罪等を起こしたことも無ければ目立ったこともしていない。精々がプロジェクトFate(食肉量産向けに提出したモノ)の原案になるクローン技術でしか無く、ガジェットで暴れることもなければ戦闘機人を使った暗躍もほとんどしていない。しかし彼の成りの推測から生命に関わる何かを研究していたのは推測されており、それが評議会とつながっていたとなると、無粋なことを考える人間も少なくないのである。

 

『地球にはこういう言葉があってね、世界には同じ顔をした人間が3人はいるそうだ。宇宙広しといえど、……いやむしろその規模なら10人や100人くらい似た顔がいてもおかしくはないだろう?』

「名前もそっくりな奴がいるかボケ!!!」

『ちなみに私はアメリカ人だ。ホラ見てみたまえ、パスポートにもしっかりと記載されている』

 

 コングマンをおちょくり回すスカリエッティの顔は実に生き生きとしている。長年拘束された恨みは積もり積もっているだろうが、この計画を立てたのはスカリエッティなのだ。彼の技術があってこそ成立したとも言える。

 

「っく、管理外世界に魔法を教えたのは貴様のせいか!コレは何だ!?」

『人聞きが悪いな。私は開発しただけさ、こう見えて天才でね。そして……待っていたよ!これを説明する機会を!』

 

 両腕を振り上げバサァっと翻る白衣。ノリノリである。

 

『このバリアはField of King Seong、略してFoKSと呼ぶ。』

「聖王……!?まさかこれは古代ベルカの!?」

『何のことを言っているかわからないが、説明を続けよう。これは地球と月自体が放出している魔力素を用いた広域魔法でね。虹色に揺らめいているのは魔力の位相が常に特定できないからだ。が、しかしこれは固定された魔力をぶつける事で部分的に同波長の魔力に変化する。それがどういうことかわかるかね?』

 

 完全に同一の波長を持った魔力同士では完全抵抗力を持つために互いにダメージが通らない。つまり原理で言えばレアスキルによって変換された雷で使用者が感電しないのと同じということだ。ヴィヴィオが使用したという聖王の鎧。それを未来の知識によって知った彼は、数年かけて魔導機械によって完全再現してしまったのである。とはいえそれを利用するには宇宙に衛星同様に幾多もの機材を浮かべた状態で地球と月両方からの遠隔受信した魔力を必要とする。魔力効率でいえばあまりにひどい代物だが、究極的な防御力を持ってアルカンシェルも効かないともなればそれ相応の抑止力にはなる。扱いとしては半ば一発屋みたいなものだが。加えて指向性AMFまで発動させているので、魔力減衰による貫通力の低下もバッチリだ。余談ではあるが衛星3点を用いたフィールドであれば部分展開も可能だ。

 

『つまり地球はいかなる攻撃にも屈しないということだ!ハーハッハッハッハ!』

 

「ふざけるな!なら穴が開くまで何度でも撃ってやる!……グッ!?」

 

 そう言い、再びキーを差し込もうとしたところをガシっと腕を掴まれた。いや、これはバインド!?気づけばいつの間にかクロノはS2Uを展開しており、彼の魔法によってコングマンは四肢を抑えられていた。

 

「な、何をしている貴様!?自分のやっていることがわからないのか!」

「それはあなたですヴォーク・コングマン。無抵抗の世界に対してのコレ以上の暴挙は道徳的に見逃せません」

 

 加えて、と言いながらクロノは投影ディスプレイを目の前に表示させる。

 

「あなたには逮捕状が出ています。おとなしくしてもらいますよ」

「い、いつの間に!?くそ、こ、んな、もの……!」

「残念ながら、バインドに魔法行使の抑制をかけています。そう簡単には解けません。……特に、老いて魔法行使を怠るようになったあなたでは」

 

 パニックに陥ったかのように叫ぶコングマンを、クロノは連行していった。これで彼の局員生命も終わりだろう。

 

「エイミィ、今までの艦内映像記録しているわよね」

「モッチロンです!隅から隅までバッチリですよ!」

「フフ、なら必要な編集を行なってクライドに送っておいて。就任式には間に合うようにお願いね」

「了解しました艦長!」

 

 指示だけ出し、リンディは再びスクリーンに向いた。

 

「おまたせしましたジョニーさん。退屈してないかしら?」

『いや?中々面白いものを見させてもらったよ。たまには道化になるのも悪くないね』

「そうですか。宜しければ、もう一度ミスター・アタタンを及びしてもらってよろしいかしら?」

『ああ、構わないよ。彼にはなんと?』

 

「ええ、改めて交渉しましょうと伝えてもらえるかしら?」

 

 そうしてしばらくしたのち、アースラは地球へと降り立つこととなる。地球人からすれば初の公的な宇宙人来訪、そしてSF映画で見たような宇宙船に、お茶の間の話題をあっという間にかっさらっていった。ちなみにテレビを見ていたユーノはびっくりして思いっきりむせていた。霧状に吹いたお茶がかかったなのはにとっていい迷惑であったのは余談だ。

 

 

 

 

 時空管理局本局。本日はここで晴れやかな就任式が行われることとなった。対象者はクライド・ハラオウン、彼はほぼ最高位である顧問官へと着任する。階級は元帥だ。その他にも何人かの局員が執務官長などへ就任することとなっている。ここ最近多くの事件を的確に解決していったためだろう、周囲からは神の采配と呼ばれるほどである。その裏にはジェックによってもたらせたブラックリストがある。クライドが生き残ったという歴史の改ざんによって若干の人間がその行動を変化させた事があるものの、それでも目星という点で役に立ったことは間違いない。

 

 現在、その式典には手の開いているものが多数参加している。少し前にロストロギアの反応が多数あったと言われていたが、結局のところあれはダミーかなんらかの誤作動だったらしい。何も起こらずして幸いだったが、肩透かしを食らってしまった局員たちはそのまま一斉に手があいてしまった。監視網のチェックなどでコマンドポストの人間は大慌てしているのだが。この式典の映像は地上部隊の人間も閲覧しており、局内全域の注目の的となっている。魔法の使えない局員でも要員として使えるようにするクライドの是正方針は斬新であり、かつ人員不足が解決の兆しを見せているのだからおのずと一般局員は期待する。

 

『この度、管理局顧問官に就任したクライド・ハラオウンだ』

 

 挨拶から始まり、彼の理念や未来に向けて行われる改革についての内容が語られる。現状の力ある魔導師を英雄視し頼るやり方ではなく、装備や機材によって力不足を補い集団としての戦力向上を図るといったものだ。勿論強力な魔導師が排除されるわけではなく、装備に頼らなくても強いならそのまま戦力として期待できるし、装備を使えばさらに万全の体制が整うだろう。管理局の魔導師の実態はブラック企業スレスレどころかほぼアウトなので、労力が分散されることで個々の損耗も抑えられる。それにより子供が働かなくても良い世界を作るのだと語った。

 

 この方針には地上部隊のレジアス・ゲイズも諸手を上げて賛成しており、本局嫌いと呼ばれていたはずの人間がその骨子を支えることで体制を確かなものとしていた。それにより地上の人間にも比較的好意的に受け取られている。

 

『早速だがここにいる全員、いや局員全てに指示を出したいと思う』

 

 話もあらかた終わり、なごやかな雰囲気だったはずのクライドからまるで冷気のような鋭さが生み出される。その場にいたものは彼が持つ長者としての威圧感に押されわずかにざわつくも、彼らの局員としての経験が即座に黙らせた。

 

『まずはこれを見てほしい。先ほど送られてきた映像データだ』

 

 そこには管理局員としてはショッキングな映像が流されていた。評議会代理ともあろう人間が、魔法を開発したという管理外世界に対して脅迫、果ては無抵抗の地球にアルカンシェルを撃つという暴挙を行った一部始終の映像だった。何とか地球は無事だったものの、これほど高い地位にいる人間が管理局の正義にそぐわない行動をとった事に局員たちの感情が揺らぐ。クライドによれば彼はいくつもの汚職を働いているような人間でありながら、そのような地位についておりかつ最高評議会に容認されているという。それにさらに衝撃を受けた。

 

『果たしてこのような行いが、我々の正義に基づくものであるだろうか!』

 

 彼の慟哭に、追従するように局員たちからも声が上がる。その声は徐々に大きくなっていき、行いを否定するシュプレヒコールとなっていった。

 

『ありがとう!今君たちの端末にあるデータを送った。そこに記載されている者達は全て局員でありながら彼のように私たちの正義を汚す人間たちだ!君たちに願うのはただひとつ!この不正を行った者たちを逮捕して管理局を健全なあるべき姿へと戻すことだ!』

 

 その声に反応し、多くの人間が立ち上がる。中には知人が入っていた事に動揺する人間もいたが、彼らも周囲に流されるように近場にいた局員たちを拘束しだした。またこのブラックリストに載っていた人間はハラオウン派の人間によって監視されており、逃げ出そうとしたもの、そもそも式典に不参加だった者も含めて多くの汚職者が逮捕されることとなる。

 

 そして、これに乗じて最高評議会の面々も処罰されることとなった。クライドの調査によって明かされた、最初の三人という事実には多くの政治家が衝撃を受けた。また彼らの脳髄を保存している場所に数人で赴き会話もしたのだが、さすがに百数十年以上も生きているだけあって我が強く他人の話をきこうともしなかった。口に出せば文句ばかり言い、最早時代に適合できない老害となってしまったのだと悟ることとなった。これによりクライド達は彼らを管理局の最初期を支えてくれた事に感謝をしつつも、これからは私達が変えていくと言って特定の人物たちのみで最高評議会の三名を密葬した。

 

 こうして、局内最大の珍事は幕を開け、あっさりと降ろした。しかし時間に反して異様に際立ったこの重大事件は世間に大きな波紋を生み、現在の管理局の在り方を変えることとなる。これをキッカケに運営費用を負担していた各世界は、管理局の強権を危惧し後に管理局の解体、そして新たな組織への移行を促すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ユーノ君となのはさんね?助けが間に合わなくてごめんなさいね」

「いえ、皆さんの協力で何とか成りましたので。正直色々裏切られた感じはありますけど」

「にゃはは……えーっと、特に私は言うことはないかな?」

 

 話しながら徐々に落ち込むユーノと、さすがに責めるのはと躊躇するなのは。そう、ここはアースラ、リンディの私室である勘違い和室である。粗方の地球側との話し合いが終わった後、事件関係者に会いたいというリンディの要求からこの度の面会がかなった。現在この場にいるのはリンディ、クロノの管理局組。ユーノ、なのはに搭乗を希望したすずかに忍、そしてアリサ。加えてフェイト、アリシア、リニス、アルフも同様に搭乗している。ちなみに後者はジェックつながりでほぼグルであったために、今更死んだだの死んでないだの無戸籍だの問うことはない。暗黙のなんとかというやつだろうが、きっとリンディならその後になんとかするに違いない。

 

「管理局も少しゴタゴタしていてね。スクライアはリーゼロッテから既に話を聞いたらしいな。今回のことで君は知らずトリガーとなってしまったのは確かだが、既に地球側との利害が一致していた以上行動を起こさないでいることは出来なかった。だが、君がそれらによって起こった出来事に対して罪を背負う必要はない。そこは僕達の領分だ」

 

 ユーノとて、この計画がジェックが齎したものであるといった事や、裏事情に関しては聞かされていない。偶然巻き込まれた形と彼には教えているが、その実意図的に利用されたことまではリーゼロッテは言う気がなかった。それは未来を知る事が出来た人間のみが背負う裁くことの出来ない罪、というやつだろう。歴史の流れを変えることで紆余曲折あったが、彼の命がむやみに散ることが無くて良かったと感じるのは知る人全員の認識だ。

 

「え?え??一体何の話?」

 

 なのは他数名には何のことかわからないために蚊帳の外となっていた。それを補足するようにリンディが言う。

 

「怪我の功名だったけど、地球と仲良く出来て良かったってことよなのはさん」

「そ、そうなんですか!」

 

 さらっと話を逸らした事に違和感を感じたのか不審げに彼女らを見る忍であったが、結局何についてかわからずそれは胸のうちに沈んだ。

 

「それじゃぁ、これからの事なんだけど……」

 

 リンディはいくつかの提案をした。

 まずなのはや協力してくれた人々に対する恩賞の授与。これには次元世界からの密入国者の確保や危険手当も含まれるので非常に高額な支払いが予定されている。

 次に技術開示。国連を通して行うので忍達にはそちらに申請するようにお願いした。コレに際し技術交流として何人かのデバイス技師や次元航行艦技術者が派遣される。またリンカーコアのない人間も魔法が扱えるようになる各種装備を生み出した月村重工やその他の企業といくつかの提携もするらしい。

 ジュエルシードについてはわずかな数を地球で研究用に管理者を据えて残し、それ以外は回収される。この後秘密裏にジェックによって破棄される。ジュエルシードをこの世から絶縁することによって完全消滅を行うのだ。

 他にもいくつか地球と結んだ契約がある。アルカンシェルで攻撃したという事実そのものは消えないために賠償は大きいものとなった。ただしこれは次元世界の連合と地球を巻き込んだ壮大な政争であり、茶番だらけのマッチポンプでもあったために協力する対価は初めから用意されていた。今頃管理局は上層部の大スキャンダルに発展しているはずだ。こんな七面倒臭い事に協力した各世界の政治家がいたのは、自分たちの手を煩わせず金だけ用意していればいいこと、さらにその後の経済的発展を見込んでのことである。地球の発想力を巻き込んだ魔導装備はいわゆる兵器特需のようなものを生み出す。これをスカリエッティによって齎せた魔導技術で作らせ、逆輸入することで今度は管理世界側の開発力を使ってデバイスに頼らない新たな装備を売り出すのだ。特に戦闘機系統に関しての技術をほとんど無くしている管理世界にとってホワイトバードはまさに黒船となるであろう。白いけど。

 ちなみにこれに関して某地上部隊のレジアス氏は案件が通りやすくなって小躍りしていたそうな。

 

 そして、

 

「ユーノ君、あなたはこれからどうします?いいえ、どうしたいですか?」

「…………」

 

 彼は無言で少しの間目を閉じる。どのみち報告のためには一旦帰らなければならないが、ソレ以降は恐らく相当の時間が空くことになる。管理局がゴタゴタしていればその傘下でロストロギアを回収しているユーノ達はしばらく仕事が無い。さらに今後の方針としてむやみにロストロギアを集めないことにするらしい。これはジェックが齎した未来での壊滅を根拠としたもののため、何故そうするのかという説得にまだ時間がかかるようだが。一箇所に集中させることに懸念を抱く人間がいるのも確かとのことだ。それらを考慮し、ユーノはしっかりとした視線をリンディに向けた。

 

「僕は、しばらく地球に残ります。やりたい事ややり残したことがまだたくさんありますから。それに、」

 

――視線をずらした先にはなのは達同年代の姿がある。

 

「友だちも、出来ましたから」

 

 そう言うユーノの顔は少し恥ずかしそうだが、非常に明るかった。

 

「ホント!?それじゃあそれじゃあ、……えーっと!」

「嬉しいのはわかるけど、落ち着きなさいよなのは。またしばらくよろしくねユーノ」

「まだ読んでない本とかあったよね。それから図書館にも行ってないし、皆で行こうね」

 

 3人組はこの事件が終わった後、ユーノが帰ってしまうのではないかと危惧していたが、杞憂に終わったことでホッとしていた。彼らの付き合いはこれからだ。

 

「テスタロッサの皆さんもどのみち、一旦帰らなければならないわね。出国手続きと、それから出来れば出生手続きにアリシアさんの戸籍の復旧もしないと……」

「母さんのほうはもう問題ないの?」

「少なくとも、弱みにつけてあなた達をどうこうしようとする可能性のある人間はあらかた掃除されたわね。管理局の裏で手を引いていた局員も今頃は逮捕されているでしょうし、少なくとも早々に片付くはずよ」

「ソレなら良かった。あ、そうそう!うちのフェイトは〈妹〉ですから!間違っても変なこと言わないでね!」

「ええ、勿論承知しているわ」

 

 フェイト達の問題も片付いた。以後彼女たちは管理世界から正式に地球へ移住する。その中には技術者派遣として裁判を終えたプレシアの姿も混じっており、魔導運用ノウハウの一任者として地球に関与していくこととなる。

 

 こうして、各々に始まりの違う大きな流れによって出来た戦いは終わった。日本で監視役を務めていたリーゼロッテも警察を退職。すいませんが田舎に帰らせて頂きます、と割とありきたりな理由で佐伯刑事を困らせたりしていた。勘の鋭い刑事のことだから何かを察していただろうが、結局ソレを問うことはなかった。

 

 

 

 

 

――そして、一連のドタバタも収束し3ヶ月の月日が経った。

 

 




というわけで次回編が一期分ラスト。以降は間話挟んで二期という名の過去編が始まります。スカさんが協力している理由、アリシアが何故生きている、など置き去りにした未回答フラグを順次潰していく予定。

ところでForceで魔力炉使った電力生産に対する批判的なモノがありましたが、一体何を批判しているのかさっぱりわからない。環境被害とか出てましたっけ……、というかクリーンエネルギーじゃないんですか魔力?原子炉じゃあるまいし……。まぁベジタリアンみたいに何かにつけてデモ起こす人はいますし、あまり考えないほうがいいのかもしれない……。

あとForce的に核融合もやってないご様子?


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Dawn of magic_1

おまたせしてしまったので今回は2話同時更新の1/2。

最近「残酷な描写」タグが「残念な描写」に見えて仕方ない。俺は幻術を受けてしまっている!!

h24.4.28 メガフロート説明部分修正


 季節は夏、場所は国際競技場。8月半ばの最も暑くスポーツの激しくなる時期。その頂点を目指す若者たちの園に今年、ある爆弾がぶちこまれた。

 

 マギテクススポーツ

 

 いわゆる魔力、魔法を用いた新機軸のスポーツである。デバイスさえあれば形態を特定の形に依存しないこのスポーツは、現運動部にとって眉唾だった。新しいものへの興味と、用意されるデバイスさえあれば己の鍛えた肉体をそのままシフトできるのである。おかげで高校で魔導部なんてものが早々に立ち上がった場所では他部からの流入が凄まじかったという。その勢いはアメリカの開拓移民か!?とも思ってしまうほどだ。

 すわ、ここでリンカーコアが無ければ出来ないのでは?と思う方もいるだろう。しかし魔導はこれからの技術発展において礎を担う役割を持つため、誰でも扱えるよう補助が成されている。

 

 具体的にはランク制度を用いた能力の均一化、つまるところ規格分けである。

 

 おおまかにCからB、A、Sと順序を上げていき、ソレに従ってルールの開放が行われる。マギテクスは他のスポーツと違い精密機械であるデバイスを扱うことになるため、このランク分けはいわゆるフォーミュラに近いものを採用している。要約すれば魔力炉出力やリンカーコアリミットの設定、デバイスの調整などがそれにあたる。

 

 順に説明していこう。基準となるルールとしていくつかの魔法が使用を禁止される。細かい部分は色々あるが、主にバインド、転移(ただし召喚は規定を満たしたものは許可)、加えて魔力を伴わない攻撃や刃物などの危険物を用いた攻撃は禁止となる。勝敗の判定はライフポイントを設定し、与えたダメージ判定を処理することで減少し全滅、もしくは時間切れによる残量判定によって決める。

 Cランクは上記に加え個別リンカーコアの使用不可。レギュレーションに従いデバイスはMGデバイス(小型魔力炉[MGドライヴ]より魔力を貯蔵できるバッテリーのみ)を用いること。また空戦も不可であり、Cランクは導入部分の役割を持っている。使用出来るMGデバイスは国際規格に準じた3種類。直射型と簡易誘導型のシューターが撃てるアサルトライフル型MGW-001CR。バスターが放てるキャノン型MGW-002OR。魔力刃を形成し、フィジカルブーストを与えられるソード型MGW-001IR。各ポジションによって役割を振るようになっており、機動力でいえばソード>ライフル>キャノン、射程はその逆。

 

 初心者、もしくはリンカーコアの無い人間向けであるCランクに用意されたルールはチームマッチ(TM)による4v4が主となる。一個小隊同士での戦いを想定しているルール設定はアメリカの意向が大きく反映されており、自然と軍人としての基礎をこの年代から仕込めるのではという目論見から来ている。また余談ではあるがこの大会以降サバゲーに対する印象も比較的緩和されている。魔力ペイント弾を発射できるモデルガンが出てからはそちらも人気種目となったそうだ。

 

 Bランクでは個人戦(複数人数による)であるフリーフォーオール(FFA)に陸戦と空戦の2タイプのTM。デバイスは市販品のモノで基準値以内のカスタマイズは容認される。また直接MGドライヴをバリアジャケットにセットすることが可能。MGドライヴ自体の魔力量は実質無制限であるが、小型ゆえの出力制限があるため実質リンカーコア所持者と比べると不利であるのは否めない。ただしリンカーコア所持者も主に試合会場の安全性の面で一定ランク以上の出力を持った魔法の使用は禁じられる。Cはフリーフィールドであるのに対してBはVRPES(仮想現実物理演習システム)を用いた擬似ブロックを大量に出現させる。これは実際に感触があり破壊も可能な魔力で作られた物質で、1試合毎に数パターンのランダム配置から選択される。フィールド次第で戦略をどのように構築するかが鍵だろう。Bランクは扱いとしてはミドルシップやアマチュアといったところだろうか。年齢幅を大きくとっているのは魔法の才能が年齢差に寄るものではないという、決定的な証拠を叩きつけてしまった少女がいるためである(それでも制御能力の欠如の可能性という点から、自由参加可能であるアマチュアランクでは小学生が出る事は出来ないのだが)。

 

 Aランクからの扱いはプロとなり、チーム、または個人に対してスポンサーが付くようになる。デバイスではインテリジェントデバイスなどの非常に高価な品も登場しだすのはここからだろう。加えて年齢制限も完全に解除される。試合会場は魔法の上限がさらに解除されるため、現在アメリカ企業「ナンバーズ」が建造中のメガフロートを使用する。こちらには魔法開発区画も併設するらしく、地球における魔法の一大拠点となるようだ。また次元世界との貿易は一旦こちらのハブを経由することになる。ちなみに先日ジョニー・スリカエッティが「ナンバーズ」所属であることが明らかになり、公に顔を見せる機会も増えてきたという。手を広げた大仰な笑いは健在であり、そのキャラの濃さを世間に知らしめているようだ。何故今となって?という思いは各々あるだろうが、それは主に地球人にはわからない理由である。

 

 Sランクはもはや機械も人間も問題児扱いになる。フィールドは広域結界を用いた海上で行われ、魔法制限は禁止事項を用いたモノ以外は出力も完全解除。ライフ制などもなく、戦闘不能になったら終了というもはやボクシングがごとき闘争の世界だ。安全性さえ確保できるなら「お前それ最早デバイスじゃないだろ」と呼べるような兵器的なものすら用いることも出来る。撮影は複数のサーチャーを用いた多点撮影で競技場やお茶の間に放送される。競技場のものは特別に立体投影される選手たちの姿が見ることができるそうだ。

 

 

 さて、話は戻りこの国際競技場では初となるマギテクススポーツのエキシビジョンマッチが開催された。 ドン、ドンと高らかな空砲の音が真夏の空の下、つめ寄せる大勢の客をスタジアムが飲み込んでいく。果たして日本国内で、これほど競技場に人が集まることが最近はあっただろうかという盛況ぶりだ。その場には国籍など全く関係が無いほど多種多様な人であふれている。

 

 今回このエキシビジョンマッチでは試合会場となるメガフロートが未完成であるAランクを除き、C、B、そしてSランクの試合が行われる。エキシビジョンであるため選手の殆どは海鳴大学、東京大学の生徒がメインとなっているが、来年度からは時期に参加者が増えることになるだろう。試合は2日に分けて行われ、既に一日目であるC、Bランクは終了している。どちらも初々しさがあったものの、非常に白熱した戦いだったようだ。中でも優勝チームには魔力ブレードのみで魔力弾をバッサバッサと切り開きながら突っ込んでいく青年がいたらしい。魔法による強化アシストがあろうと無かろうとそもそも人外の動きだった、と評価されているとか。観客の外人はアイエエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?とノリノリである。

 

 そんなこんなで二日目を迎えた大会は、誰もが期待するとある2名によるSランク戦である。その注目度は並ではなく、両者の特殊性所以からきたものが多分を占めている。まずは日本人が熱狂する我らが魔法少女、高町なのは。魔法が公式に開示される前から扱っている、現在の地球で最も魔法に優れたうちの一人。その実力は自衛隊も認める折り紙つきである。

 

 そして、対する相手はなんと、――フェイト・テスタロッサ!隔たれた次元世界の彼方から、地球へ技術供与のためにやってきた公式では地球初の移民団体の一員である。まさか空想上の宇宙人が、実際はここまで普通の人間でそれが美少女であるなどと誰が思っただろうか。当たり前のように大勢が諸手を上げて歓迎していたのは記憶に新しい。次元世界人は地球とくらべ魔法技術に非常に先進的であるという情報から、ならばぜひその戦い方を見せてもらおうじゃないか!というくだりによって今回のカードが決定した次第である。今回の試合は特にインパクト等も求められる点もあり、加えて同年齢ならちょうどいいという思惑もあったということで。

 

 

『それでは本日会場より実況を担当しますは私、松本修造がお送りしまっす!世界初となるだけあって誠に光栄です!そしてゲストはなんと!次元世界からいらっしゃられたプレシア・テスタロッサさんにお越しいただいております!そして彼女は試合に参加するフェイトちゃんの母上であるということで!本日の意気込みなどは!』

『うちのフェイトが勝つわ』

『はい!気合も十分ですね!……ところで不躾な質問なんですが、お聞きした情報によると今年で40歳になられるとか……本当ですか?』

『あら、一体何歳に見えるかしら?』

『20代にしか見えないですね……次元世界の方々はみんなあなたのようにキレイなのですか?』

『ふふ、ありがとう。とはいえ次元世界広しだから千差万別というものよ?ただリンカーコア所持者の容姿が整いやすいというのは科学的根拠から基づいても言われていることではあるわね』

『そ、そうなのですか?(嫁さん探しは次元世界にいこうかなぁ……)』

 

 等と試合が始まるまでの両者の雑談が続く。特にプレシア女史は持ち前の美人さに加え博学であり、移民団体の指揮をとっている。居住地はたっての希望から日本を選び、翠屋近隣のマンションに娘ともども転居してきた。また現在は自身が所持する時の庭園の施設を一部貸し出しており、一時的な国際交流研究所の役割を果たしている。ちなみにここで見た傀儡兵が日本人に大きなインスピレーションを与え、またしても日本人のトンデモ発明品が生まれてしまうのは余談である。何時の時代もこの国の研究者は脳内がアニメで出来ているのかもしれない。

 

 

「ああ、良かった間に合った!隣いいですか士郎さん?」

「おお、ユーノ君か。どうぞ、もうすぐ始まるところだ」

 

 一方、少し離れたゲストルームに慌てたユーノが到着した。日本に移住してからはその手際の良さから魔法の技術指導や開発に関わるようになっている。とはいえ彼も年齢で言えば小学生であるため、現在は聖祥大付属小学校に通う傍らで行なっているため二足のわらじと化していた。子供故あまり忙しくさせることはないが、それでも休日に時間を取られることは多い。本人はいたって気にしていない様子だが、日本人的な感覚からすれば逆にドンドン詰めようとするユーノは見ていて恐ろしい。今後は彼をしっかり制御できるようになり、技術的に下地が整った時点で彼を開放するのが目下の課題となっている。ちなみに現在の居住地は先の事件の流れからあっさりと高町宅におじゃますることとなった。

 

「あ、ユーノ君。ポップコーンあるけどいる?それとジュースも」

「ありがとうございます美由希さん」

「ケーキもあるわよ?」

「え、えぇと。ありがたいですがそれはちょっと」

「……うちの家族のユーノへの溺愛っぷりが加速しているな」

 

 スクライアという大勢の家族の中にいても、ユーノ自身に親がいた記憶はない。ソレを知った高町家の女性二人がやたら構うようになった。弟や息子のような扱いで、いや実際に高町家の人間ならば一緒に住んでいるだけでも私たちは家族だ!と言い出すだろう。恭也は苦笑しつつも、自分も同じ穴の狢のように弟分として彼を扱っているのだから。

 

「よーっし!しっかり応援するわよ!フレーフレー!ナ・ノ・ハ!」

「がんばってーフェイトちゃーん!」

 

 アリサとすずかは映像機器に映った空中に浮かぶ二人を力の限り応援している。スタートの合図まであとわずかだ。

 

「いやぁ、しかし魔法がこんなふうに娯楽方面メインで発展するとは思いもよらなかったね」

「その上各国総出ですから発達も早いですしね。素があったとはいえ地球人の技術力も素晴らしいものがあります」

 

 つい先ごろまでの管理局ではロストロギアのような災害はあったものの、競争相手がいなかったために基礎技術力の上昇は非常にゆっくりとしたものだった。何よりほとんど数百年前からシステムとしては完成されていたようなものだったので、誰も手を加えることがなかったらしい。次元世界ではデバイスはPCのように扱われ、細々としたパーツは売りに出すも「デバイス」としての枠を外れるものはほとんどなかったのだ。それと比較すればこの吸収力は異常というものだろう。

 

「あれ、そういえばアリシアはどこいったんだい?」

「あの娘でしたら、制御ルームで録画の準備をしてますよ」

「たはは、妹好きはさすが抜け目がないね」

 

『さぁ両選手、スタートポジションにつきました!間もなく試合が開始されます!』

 

 実況者のアナウンスが流れる。今、少女たちの非常に「健全」な何の柵もない戦いが火蓋を切ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 バタバタと海上の潮風を受けたマントが靡く。結界に覆われた海の上空で、フェイトはただ静かに瞑目していた。生まれてから数年、フェイトには家族はあれど友達はいなかった。母親に寄り添う父の姿はなく、自分が生まれる理由もない。プレシアは過去の事件において容疑者扱いとされ、執行猶予付きの監視アリに近い状態に置かれていた。それでも時の庭園を購入し引きこもれたのは、彼女が人間不信を患ったために孤独を演じていたためだ。そのためフェイトは外に出る機会は死亡判定を受けた姉共々恵まれず、こうして地球という逃亡場所に至るまで友人が出来る事はなかった。

 

 初めて出来た友人たちは笑顔あふれる純粋な少女たちで、しかし彼女たちはそれぞれが何か大事なものを背負って生きていた。自立している、と言ってもいい。とにかく生まれてから学ぶことが多かったフェイトは、姉や母に付き従う雛鳥のような状態だった。クローンである自分はアリシアの最低限の知識を与えられたものの、自分という確固たるものを1から創りあげなければならなかった。

 

 果たして私は、彼女たちのように背負うものが見つかるだろうか。

 

 そう考えまずは趣味から入ることにした。魔導師として戦うこと。空を飛びリニスやアルフと輪舞曲を踊り、加速によるGを感じる事は一種の高揚感を産んだ。しかし同時に、母から姉が受け継ぐはずだった大事なものを取ってしまったかのような罪悪感も生まれた。アリシアにはなく、フェイトにはある母と同じといえる魔導師としてのスペック。今までの飛ぶ度に自分を見る姉の目に、羨望が潜んでいるような気がした。しかし

 

『そんな事気にしてたの?……あのね、私はフェイトが生まれてきてくれて、楽しそうにしてくれていたら、それだけで私も嬉しくなれるんだよ?出来ないはずの妹がいる。ジェックのおかげで本当は死んでいたはずのあなたの姉がいる……ってこれはなんのことかわからないか。それがどれだけ幸せなことか』

 

 そう言って、この程度は些細な違いでしかないじゃない。とアリシアはフェイトを抱き締める。13歳になり女性らしい体つきになり始めた姉の体はとても柔らかい。

 

『それにほら!フェイトだって私みたいにデバイスいじったりできないじゃん!だからこれは私の自慢!この腕でフェイトのサポートをしてあげるの!そしたら私たちはお互いを支えあう連理比翼の鳥!……ってこれはちょっと違うか』

 

 タハハ、と笑う向こうから「おーい、私達も数に入れなよ!」とアルフもヤジを飛ばす。

 

『オッケーオッケ!……ね、だからフェイトも思い切って自分の自慢にしちゃいなさい。そうしたらいつかきっとわかるから――』

 

 

(姉さん……姉さんの作ってくれたデバイスで、私は頑張ります)

 

 手の中にはバルディッシュが握られている。カートリッジシステムを当初から搭載していたそれは未来技術を駆使して作られた10年以上は先の最先端を行くデバイスだ。加えて背部、マントの両端にも工夫が加えられておりいまやバリアジャケットは相応にメカメカしくなっている。着込んでいるのはさながら軍服のようなインパルスフォーム。

 

 ステータスチェックを終え、目を開けた先にいるのは同様に浮かぶ高町なのは。黒い自分とは対照的に白と青が映えるバリアジャケットを装備している。この二ヶ月はエキシビジョンマッチに向けて、お互いに手の内を明かさないように特訓もカスタマイズもそれぞれ別々に行なっていた。それ故どのような改良が施されたのか、あれほどごつかった肩と腰部のスラスターは非常に薄く、スリムになっている。青いプレートと白のサイドフレーム、そして中央で膨らみ先端に向けて伸びた突起の形状はまるで葉のよう。しかしあれは紛うことなき羽である。腰部もそれを小型にしたものを搭載しており、以前との違いはそれら全てが背中から伸びたアームによって支えられているということだ。以前は限定的な可動範囲の関節でしかなかったが、最新の改良でほぼ全方位に対応させたのだろう。その加速力や旋回力は上昇しているに違いない。さらに顕著な違いは、レイジングハートがフレームごとまるっと変わっていることだ。果たして一体何をしてくるのか、今から楽しみでならない。

 

 お互いを見つめ合いながら笑顔で、しかしその内側には戦意が滾っている。今までも何度か模擬戦をしているが、それは狭いフィールドを用いた限定的なものだったためにお互いが全力を出すということはなかった。ソレが今、ここで本当の雌雄を決しようとしている。

 

『フェイトちゃん、大丈夫?』

『……なのは?うん、問題ないよ。体調も万全だから、いつでも戦える』

 

 念話でのなのはの問には、少しばかり深刻な表情をしていたフェイトの顔を案ずる声があった。

 

『そっか、だったらいいんだ。ほら、この試合テレビでも放映されるからもしかしたら緊張してるんじゃないかなって』

『そういえばそうだったね。でもそんなの気にしないし、それにきっと気にしていられない』

『にゃはは、そうだね。こうやって全力で戦える機会ってめったにないもんね。だったら大事にしないと勿体無いよね』

『うん、勿論手は抜かない』

『わかってるよ!こっちもそのつもり!』

 

 お互いに宣戦しあったことで、気構えがよりしっかりとしたものになる。コンディションとしてコレ以上いいものはないだろう。

 

 

――試合開始までのカウントダウンが始まった。3、

 

ガチャリと音を立てながら互いに武器を構える。

 

2、

 

肺から残った酸素を吐き出す。

 

1、

 

即座に飛び出せるように体を緩ませる。

 

――0!!

 

獣のように体を伸ばし衝撃波をまき散らしながら、一瞬で彼我の距離は消し飛んだ!

 




TIPS

[MGドライヴ]
新型の小型魔力炉。取り込んだ魔力素を魔力に変換、その魔力を格子状のドーナツにして回転させることで動的な魔力素を生み出しそれを同様に取り込むループ機能を持つ。ドライヴが励起状態になっていると常に魔力を生産し続けるために、一定以上の貯蔵量を超えるとコーンスラスターから外部に吐出される。限定機能として貯蔵された魔力を大量に使う「トランザム」機能が存在する。機能としては持続力のあるカートリッジシステムと似たようなものだが、貯蔵した魔力を使うことにより格子形成が不安定となり、暫くの間魔力生産量が激減する。

[マギテクススポーツ]
 魔法戦を主とし、以降様々なジャンルで流行る事となる競技種目。管理世界から取り入れたストライクアーツに似た格闘戦や、エアライドと呼ばれる空中レースなどが有名(になる予定)。

[株式会社ナンバーズ]
 アメリカに本社を置く魔法開発企業。新興でありながらその技術力と資本力に度肝を抜かれる。社長ウーノ、秘書ドゥーエ、営業トーレ、事務・経理クァットロ、開発主任チンク、広報セイン、現場担当ディエチ。

[ニンジャ]
 言わずと知れたタカマチのお兄さん。何故か土壇場で忍に出るように言われた。何?観客席にいなかった?まぁ責任者だからね。(うっかり書き忘れていたとは言えない。

[松本修造]
 後に管理世界熱血リポートで面白い人として一躍有名になる。もっと熱くなry

[プレシア・テスタロッサ]
 子煩悩ママ。とあるサポートのおかげでこれといって病気にもならずに元気に過ごしている。


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Dawn of magic_2

同時更新その2/2、前話を見ていない人は前からどうぞ。

映画版Asの魔法の補正が地味にやばい。ザッフィー強くね?伸びるとは知ってたけどフェイトのザンバー伸びすぎじゃね?なのはチートにしてもチートにした気がしない。バニシングシフトって……!あと書いててマジでとらは3が欲しくなりました。説得力がたらんー。


 ゴパッ!などという音ではまるで物足りない空気を押しつぶす音を上げながら、少女二人が衝突した。飛び際に一閃、アサルトフォームのバルディッシュを上段から叩き割るように打ち下ろす。対するなのはは桜色の咆哮をスラスターからまき散らしながら、それに対処すべくレイジングハートのフォームを変える。

 

「――――!?」

 

 バチリと押し合った魔力刃がはじけ飛ぶ。しかしフェイトに僅かな動揺が浮かんだ。いつも見ているはずの収束剣、ディバインセイバーが

 

――もう1本増えていたとしたら。

 

 御神流は2本の小太刀を持って行うものであり、いずれはなのはもこのようになるのは当然だった。斧を防がれたX字に交差した刃から急遽武器を弾く。「どう!?」と自慢げな表情を浮かべるなのはの顔に、「やってくれた!」と無言で返す。だが驚くばかりではない。引いたバルディッシュの勢いそのままにバチリと半回転、そのままハーケンフォームにチェンジしてステップをフムようにギュルリと加速をかけてさらに半回転。鎌状の伸びた魔力刃がなのはの首を狙う。斬るための武器と違い鎌は横から突きが飛んでくる。そのため非常に避けづらく、これを避けるには前に倒れこむか後ろに引くかくらいしか選択肢が存在しない。ただし後ろには突きが来るし、刃のない柄の間合いに入ったとしてもわずかにうでを引けば首を刈り取る事になる。

 

 なのはが選択したのは前、さらなるインファイト。しかし定形通りにフェイトもわずかに手首を曲げて、ギロチンのように手首を引き落とす。だが残念かな、ここは地上ではなく空中。避ける範囲に限界など無く、前かがみに倒れこんだなのははそのまま地面に頭が向くように回転。背面を水平に鎌が過ぎていく。そのままぐるりと大勢を戻すなのは、しかしその足裏に

 

(シューター!?)

 

 かかと落としの如く加速づいた魔力スフィアが蹴り足に合わせてフェイトに反撃。必死で避けたそれが顔筋をかすめ、間を置かずにフェイトはソニックムーヴで距離をとった。完全に仕切り直し。今の流れを上手く切り抜けられたことに異様な熱が体をゾワゾワと伝わった。再び今すぐに飛び出したい衝動にかられる。だが戦いはまだこれから、こんなに楽しいことを終わらせたくない。フェイトは再び呼吸を整えることでクールになった。

 

 

 

『………………っす、』

 

『すごい!すごすぎる!私こんなの初めて見ました!解説のテスタロッサさん、あれは!』

『まぁ落ち着きなさい。ちょっと切り結んだだけじゃない』

 

――ワァァッ!!

 

 わずかな沈黙からボリュームバーをひねりきったようにマックスになった会場の歓声。今の一連の流れをに高揚し、しかし内容をどれだけ理解できているか。それほどのアクロバティックさを秘めていながら、しかりリアルに行われているマンガのような空戦に囚われた観客は気づかない。時間にしてものの数秒のやり取りでしかないがだからこそ。気づいたのは観客の中にいる魔導師となった者や、生粋の格闘者、そして研究者くらいのものだろう。

 

「派手だな。父さんはどう思う?」

「ああ、もう少しコンパクトに行えばダメージを与えることが出来たかもな。まだまだ甘い」

「…………あんたら割りと容赦無いね」

「余計なことは言っちゃダメですよアルフ。あの人達人外なんですから常識は通用しません」

「リニスも大概なこと言ってる気がするけど?」

 

 ソレも仕方ない。高度さえ取られなければこの二人は平然と魔導師に勝てる人外なのだ。

 

 

 

(少し様子を見る必要がある)

 

 二本になった収束剣を両手に、大きく開いた構えを取るなのは。一見スキだらけに見えるが、彼女の振りは0から一気に最高速まで到達するためにあれでも十分に余裕がある。ならばあの剣とかち合ってしまった際にどの程度で押し切ることができるか試してみる必要があるだろう。ならば、

 

「ハーケンセイバー!!」

 

 高速回転する魔力刃を打ち出し間を僅かにおいて自身も突貫。上空を旋回しながらなのはの後ろに回り込む。その両方のタイミングはほぼ同時。

 

「甘いよフェイトちゃん!」

『Protection』

 

 レイジングハートが自動的にプロテクションをハーケンセイバーに向けて張り、なのはは後ろに回ったフェイトを迎撃する。再び繰り返すように収束剣に叩きつけられるアサルトフォームの魔力刃。そこにカートリッジを装填する音が二発鳴り、魔力刃はさらに密度を上げた。

 

「きゃぁ!?」

 

 フェイトの目論見通り、収束剣に削りきられる前に徹した刃がなのはにダメージを与える。しかしそれだけでは終わらせない。

 

「エクスプロード!」

 

 離れ際にプロテクションによって防がれていたハーケンセイバーを起爆し、炸裂させる。立ち込める煙を見て成功したことに歓喜する。よし、これなら通ると。

 

「――射抜」

「ッ!?ぐはっ……」

 

 ほんの僅かな油断、そこを突くように煙の中から桜色の細い魔力が伸びてきた。さながら閃光、晴れた煙の向こうには片腕を伸ばしたなのはの姿がある。そう、フェイトが切り抜いたのは反撃で叩きつけられた一本だけ。もう一本はまだ猶予を残していた。御神流が奥義の一つ、射抜。それは御神流でも最長の射程を誇る超高速の突き技。これが魔法を使うなのはがアレンジすれば、収束するまで存在しない刃は鞘があるのと変わらない状態であり、つまり振りぬき際に瞬間的に魔力を集めそれを打ち出したのだ。実際のところ、チャージする魔力量を考えなければスターライトブレイカーの発動時間はディバインバスターより速い。なのはの持つレアスキルである収束により、自分から魔力を引き出すより散在する魔力をかき集めたほうが効率的なのだ。しかし試合はほぼ始まったばかりであり、魔力が散っているはずがない。それを不可解に思ったフェイトは、とある一点に気がついた。

 

 なのはが装着している各部のスラスター、それが常時桜色の魔力を吐き出していることを。つまるところ、この新たなスラスターは今までのようなカートリッジ型ではなく、MGドライヴのような永続的に魔力を吐き出す炉を搭載しているに等しいと推測できる。ようは試合開始直後から既に布石として魔力をばらまいていたわけだ。ということは、実質回避能力に制限がなくなったと同時に最悪の顛末が浮上する。

 

 ――早期決戦をかけないと、莫大な魔力を集めたスターライトブレイカーが飛んでくる。

 

 それはまずい。なのはの二刀による激しい近接攻撃に対してアサルトフォームとディフェンサーを片手に展開して切り抜けながら、なのはの攻撃の切れ目を待つ。連撃が途切れた瞬間を見計らってディフェンサーを解除、サンダーアームを展開。

 

「いたっ!?」

 

 いかなバリアジャケットといえども雷撃による痛みは通る。電撃を帯びた殴りによって怯んだなのはを置き去りにフェイトは再び大きく距離をとりバルディッシュをグレイヴフォームに。さらにバルディッシュに付属するようにアウトフレーム:ストライクパッケージを量子展開し、出現した二本の持ち手を掴み、パッケージに足をかける。

 

 バルディッシュ・ライディングフォーム。

 

 バルディッシュのサイズに見合わないほどの大きさのパッケージに乗り込んだ姿はまるでライダー。これによりバルディッシュはエアバイクと化すのである!加えて正面には凸型のディフェンサーを展開、マントの両端に付いていた補助アームを左右に伸ばしこれらからは長大な魔力刃を形成する。何も改良を施したのはなのはだけではない。フェイトとバルディッシュとてさらなる進歩を遂げていたのだ。

 

 ストライクパッケージから吐き出される魔力ブーストによってフェイトの機動力は圧倒的になる。なのはに向かって突貫しながら、同時にプラズマバレットをまき散らし相手をけん制する。さすがのなのはもこれには驚くが、動揺を抑えつつマシンガンのような弾幕をスラスターを吹かしながらかわし、ショートバスターを連射した。だが直射砲程度では!と言わんばかりにバレルロールを用いながら突撃、かすめたバスターはディフェンサーによって防がれ展開された翼のような魔力刃がなのはを切り裂いた。あまりの速度にプロテクションの展開も間に合わない。

 

 まさに攻防一体の技といえよう。正面から当たればピアッシングランサーの餌食になる。慣性をものともしない鋭角な機動でターンをしたフェイトは再突撃を開始した。

 

 

『おーっと、これはすごい!テスタロッサ選手、怒涛の連撃で高町選手を圧倒しているぅぅぅう!』

『なのはちゃんも少しずつ対応してきているわね。クイックブーストの反応がよくなりつつあるわ』

『ターンに多少のインターバルがあるからでしょうか、プロテクション展開も間に合い出しました!しかし未だ不利なのは高町選手、どうやって挽回していくのか気になるところぉ!』

 

「ふふ、どうすずかちゃん!私の発明品は!」

「あ、アリシアさん。戻ってきたんですね。録画大丈夫でした?」

「もちもち。まぁテレビ局との兼ね合いもあったからちょちょっといじってきたけど概ね問題なかったよ。……で、どうなの?スルーしないで教えてほしいなぁ」

「うーん、確かにすごいですけど私の発明品のほうが上です!」

「フェイトのがすごいよ!」

「アンタ達何の争いしてるのよ」

 

 アリシアとすずかの謎の争いにアリサがツッコミを入れる。見るべきは技術ではなく技量だと思うのだが、二人共技術者なだけあってどこかピントがずれている。そもそもがお互いの長所を取り入れる形で開発を進めていたので比べるようなものではない。フェイトが高速機動であるならなのははその場での旋回力を重視している。特になのはの場合は円軌道を取ることで瞬間瞬間の剣撃を強化するためのもので、実際ほとんどその場から動いていない。フェイトの速度についていけないということもあるのだろう、彼女が離れた場合は二本のグリップを繋げて素直に射撃に移行しているようだ。

 

 完全に勢いに乗ったフェイトはジリジリとなのはのバリアジャケットを削っている。なんとかスラスターを吹かしギリギリでかわしつつも、バスターをチャージする時間も与えられなければ反撃の手立ても思いつかない。

 

(どうしよう……!とにかく動きを止めないとやりようがない!)

 

 自身に出来る事を脳裏に描きながら、どれで対応できるかを考える。だが今出来る魔法には無く、ならば土壇場であるが新たに生み出すしか無い。

 

 しかしそこでひとつの天啓が降りる。何も使える技術は魔法だけじゃない。

 

「レイジングハート、ぶっつけ本番だけどいけそう!?」

『Depends on your image,master(あなたのイメージ次第ですマスター)』

 

 よし、と気合を入れてレイジングハートを背部マウントに格納。両手を広げてフェイトを待つ。使用する技術はいつも使っている暗器の一つ。イメージするのは小さな時に見た恩人の緻密な手捌き。それらを融合させることで高町なのはの魔法は新たなステージに立つ。十本の指先には桜色の魔力を貯めこんだ。視線の先にはターンを終えて再び突撃するフェイトの姿がある。交差するまで僅か2秒!

 

 一秒経過する間にスラスターを吹かしフェイトの頭上を通り過ぎるように位置取りをする。そのまま視線を海に向けて反転し広げた腕を振りかぶる。

 

「――うわっ!?いったい何!?」

 

 零秒、不安定にギシギシと揺れるパッケージにトラブルが生じたか!そう思って後ろを見ると己の補助アームやパッケージに絡みつく魔力糸。なのはが指先から伸ばしたそれらをたぐるようにして暴風の中をフェイトにしがみついている。それはスカリエッティが士郎を治す際に用いた魔力糸と太さは違うもののそっくりだった。加えて御神流では鋼糸を扱うのでおそらくはそれを魔法にアレンジしたのだろう。ともすればちぎれる、ないしは引っ掛けた瞬間の勢いに負けて大事故でも起こしそうなところをなのはは己の絶技でもって制御したのである。

 

 捕まえた!と挑発的な笑顔のなのはの脇下からガチャコンという音が聞こえ、補助アームによってスライドしたレイジングハートが伸びる。まさか、とフェイトは顔を真っ青にした。

 

「いっけぇー!」

「いや、ちょっとまっ」

 

 鼓膜に響く爆破音。ド至近距離で放たれたディバインバスターは二人もろとも盛大に巻き込んだのだった。

 

 

 

「フェイトーー!?」

「無茶苦茶しますねあの子……」

 

 ガガーンと衝撃的な効果音が頭のなかで鳴り響くアルフ。もとより戦闘不能が勝利条件であるゆえ魔力切れか気絶するかはどのみち有ることだが、心配なことに変わりない。ディフェンサーを常時前面に展開しているライディングフォームの性質故、背後からの攻撃に対する防御はまず間違い無く遅れている。

 

『道連れまがいのだいばくはつ!二人は無事なのかぁー!?』

『一応厚めのバリアジャケットを着るようにはさせていたから、耐えれているとは思うのだけど』

 

 プレシアも大丈夫とはわかっていても不安はよぎる。実はバリアジャケットを厚めにしたのは衆目にレオタードまがいのバリアジャケットを晒すことを防ぐためだったのだが、意図に反して、というより元々の役目をその衣装は果たしていた。事実、両者がバリアジャケットをズタボロにしつつもその爆煙から飛び出して再び何もなかったかのように戦闘を始めたのだから。

 

 その後は先までの蹂躙とは打って変わり、フェイトを追い射撃を実行するなのはとのドッグファイトと化していた。ストライクパッケージを破損させたバルディッシュは元の形状に戻ってしまったため減速、とうとうその速度域に慣れたなのはが今度は己の才覚を持ってフェイトを追い込んでいく。雨あられと飛んでくるバスターや誘導されるシューターをよけながら、フェイトもカウンター気味にサンダーレイジを叩き込んでいく。互いが互いに微量な削り合いの、しかし拮抗する試合。およそ3分にも及ぶ拮抗は、なのはによって崩された。

 

「――これは!」

「かかったねフェイトちゃん!」

 

 全天に覆われたプロテクション。その内部に二人はいた。大量のプロテクションで囲むそれは正しく檻。なのはが射撃によってフェイトを追い込んでいたのは、隠蔽していたここに追い込むためだ。おおよそ半径が5m程度しかないであろうその空間はフェイトの高速機動を完全に封じたのだ。片やなのははそのプロテクションに足をつけて立っている。

 

 ズダン!という不自然なまでに高い足踏みの音とともに、再び分割されたレイジングハートの収束剣がフェイトを切り裂こうとする。間一髪で体を振って躱すが、通り過ぎたなのはは壁面を蹴って再び突撃。その通り際に、彼女の口から虎乱、という声が聞こえた。すなわち彼女は再び御神流を以って戦い始めたということ。武術で最も重要なのは足腰の動きであり、それは空中戦においては決して得られるものではない。そのためなのはは閉所たる檻を作り、自らはそれを自由自在に行き来する足場とすることで圧倒的アドバンテージを生み出したのである!常とは違うなのはの地上戦特有の足腰のバネを用いた加速にフェイトは毒づいた。ディフェンサーを展開しつつバルディッシュを振りぬくも、不慣れなフェイトには厳しいものがあるのか一方的に攻撃を受ける。その上防御の隙間をするりと潜りこむように攻撃が通される!奥義も使えるようになったなのはは当然基本技である斬・徹・貫の3つを使える。その内の貫は見切りによって相手の防御と防御の隙間を貫くいわゆるフェイント技であり、直線機動をメインとする不慣れなフェイトを追い立てる。そしてとうとう焦れてしまったフェイトは、

 

「――ッ!ジャケットパージ!!」

 

 己のバリアジャケットたる上着を破棄、爆破させて目眩ましにし、ソニックフォームとなったフェイトはバルディッシュでシールドを切り裂いて脱出。それによって出来た時間を使いフェイトは詠唱を開始する。

 

「囲まれてる!?」

 

 プロテクションを解いたなのはを待っていたのは周囲に大量に浮かぶスフィアだった。つまり罠にかけようとしたのは自分だけではなかったということ。ストライクパッケージで外周も回りながら、フェイトは隠蔽したスフィアを設置し続けていたのである。奇しくも同じ場所に設置してしまったせいでなのはのほうが先に発動することとなったが、再び形成は逆転する。

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト!!」

 

 なのはを中心に外周が38基の金色のスフィアで埋め尽くされる。それらから放たれるのは秒間7発を4秒、合計1064発のマシンガンじみた必殺の攻撃。カートリッジによって強化されたそれらを防ぐのはいかななのはといえどほぼ不可能。

 

 巻き起こるは魔力弾の嵐。どこにも逃げ場のない密集させた包囲殲滅。

 

――これで終い。

 

 アレだけの量を躱すすべはない。誰もがそう思った、それはなのはですら例外ではない。巻き起こる煙は今までの比ではなく、膨らむ度に激しい魔力流によって散らかされていく。勝った、陸や限定されたフィールド内ではスペック、特訓量ともになのはに劣り勝てない自分が――!完全フリーな空戦で!高揚感から頬を赤らめゾワゾワと快感が体を昇っていく。ゆっくりと晴れていく煙。もしもなのはが気絶してしまっているのであれば、落ちても安全ではあるが手をとろう。そう思って、

 

――煙の中には誰もいない。

 

 

「――――――――え?」

 

 血の気が引いた。なのはが落ちる姿をフェイトは見ていない。自分が気づかないうちに落ちた?という思いとまさか、まさかとは思うが回避された?という思考が混濁して完全に思考が止まった。観客も司会も、勝利を確信した握りこぶしを作ったプレシアとアリシアも、両者をただ純粋に応援していたアリサとすずか、桃子も、客観的に状況分析をしていたリニスやアルフ、ユーノですら例外ではない。

 

「…………まさか、使ったのか?」

「どうやら、その片鱗だけは見せたようだね」

 

 例外、それは恭也と士郎の高町家の二人組。美由希も動揺していたが、彼女は「うそぉ……?」という一言から何が起こったかはわかっているらしい。

 

「ちょっとちょっと、なんだってのさ!なのはは一体どこへ行ったんだい!?」

 

 何事かを知っているらしい二人に、アルフは即座に我に返り聞いた。すると士郎は投影されたディスプレイを見ながら人差し指を上へ向ける。

 

「使った……、いやこの場合は入った、とでも言うべきかな?御神流の極致にね」

 

 何かに気づいたようにサーチャーが上を向いた。その先には、バリアジャケットのほとんどを引剥がされながらも、荒く息を吐くなのはの無事な姿があった。

 

 

 

 

「あ、危なかった~……いったい何が、いたっ…!」

 

 なのはですらいったい何が起こったのか、全く見当が付かなかった。あの魔力弾の豪雨にさらされた瞬間、視界に映るもの全てが色褪せスローになり、直感的に動いたからだがその隙間を縫うようにスルスルと魔力弾を避けていった。そのスピードは身体を魔力ブーストしていたとはいえ、反射的な動きといえど明らかに人間では出せない速度だった。これがたとえアクセルフィンだったとしたら、おおよそ直線的な加速をするだけで詰んでいただろう。しかしそうでないのは、魔力弾に合わせて体を捻り伸ばし、たたみ、まるで複雑に入り組んだジャングルジムをゆっくりと登るような感覚で避けたからだ。

 

 神速。

 

 御神の奥義の歩法であり、これを使えるものは御神の剣士として一流として扱われる。一般的にはゾーンやピークエクスペリエンスと呼ばれるもので、知覚力が増し視界はシロクロ、見えるもの全てがスローになるというもの。御神流においてはこの感覚に合わせて通常時間と同様の体の動きをしてしまうために傍から見れば気味の悪い速度と滑らかさで動いているようにみえる。当然身体にかかる負担が非常に大きく、そう何度も使えるようなものではない。そのうえ歩法というだけあり元来は陸地で行うものでありながら、なのはは偶然にも空中でソレを発動させた。それだけでも賞賛に値するもの。

 

 結果として生き残ったものの、体を痛めたなのはは既にその場から動けるほどの余力を残していない。それは大魔法を放ったフェイトとして大差がなかった。最早小技で競い合う時間は過ぎてしまっている。ならば後は最後の、全力全開の大技を狙うしか無い!

 

「いくよフェイトちゃん!これが最後の技くらべ!!」

 

 レイジングハートを天に構える。自身が、フェイトが散らかした魔力をかき集めて巨大な球体を作り極限まで貯めこむ。その姿はまるで生まれ出んとする赤子が宿る母体のように、魔力の波動がドクンドクンと発動の時を待っている。そして、フェイトも合わせるようにバルディッシュを構える。その姿は広大な魔力刃を形成した大剣、今まで見たことのない新たな形態、ザンバーフォームに変形した。刀身に紫電を纏い空中に飛散する。

 

「全力全開!スターライトォ――」

「雷光一閃!プラズマザンバー――」

 

『ブレイカー!!!』

 

 超射程の魔力砲と超巨大な魔力刃が激突する。荒れる濁流を耐えるように切り裂く刃の側面を分割された魔力が飛び散っていく。ここに至って、不利なのはフェイトの方だった。次から次へと供給される相手側の魔力にカートリッジを足しても抜くことが出来ない。このままではジリ貧だと感じたフェイトは無茶を承知で賭けに出た。刀身を短くし密度を上げ、正面から対抗せずに下側に抜ける。一度発射されてしまえばその場から動くことは出来まい、ならば残りの力を振り絞って近づき叩き斬ればいい。なんとかSLBから抜け出たがしかし、本日何度目かわからない驚愕の行動をなのはは採った。

 

「――なっ……」

 

 ズォォ、と重いものを持ち上げるような音。自分が抜け出たSLBがその射線を上へと起こしていく。頂点で止められたそれはレイジングハートを柄としてフルスイングでもするかのように両手持ちに構える。それは、まるで自分の技みたいじゃないかと思う間もなく、

 

「ブレイクッ・ライザーァァ!!」

 

 気を失う間際、見えたのは自分に叩きつけられる桜色の壁だけだった。

 

 

 そうしてこの日、なのはは勝利と同時に「海を割った女」と呼ばれるようになる。ついでに結界もサーチャーもまとめてぶった斬る凄まじさに人々は「魔砲少女」とたたえたらしい。とにもかくにも派手に、そして大盛況に終わった大会は無事世界中で行われる競技として組み込まれ、マギテクススポーツとして様々なジャンルが流行ることになる。

 

 

 

 

――アメリカ某所

 

 とある敷地内の一角に建てられた施設で、テレビを前に座り込む3人の姿があった。見ている番組は日本で行われたエキシビジョンマッチの最終戦である。その中の一人である白衣の男はコーヒーを啜りながらこう言った。

 

「フフ、フェイト君がやられたか」

 

 その問いに小さな少女はこう返した。

 

「せやけど彼女は我ら四天王の中でも最弱……。彼女がやられようとも第二第三の刺客が……」

 

 それを聞いて一人、ピンク色の髪をした女性がガタリと席をたった。

 

「ん?シグナムどうしたん?」

「少し、外に出てきます」

「ほか、何しに行くか知らへんけど気ぃつけてなぁ」

 

「ええ、わかっています主。ちょっと高町なのはを斬ってくるだけですので」

 

 それだけ言い残した彼女は静かにドアを開け出て行った。悠然と、まるでその後姿はボクシングの挑戦者のように……。

 

「ってそうやないやろ!?シグナム何言うとるん!?ちょっ、待ちぃシグナァァァム!!勝手に国を出たらあかぁぁん!」

 

 慌てて後を追い車椅子を走らせ小さな少女も飛び出していった。廊下からは『刺客と言っていたではないですか!なら私がそれを努め彼女を試しま……』『あんたそれ戦いたいだけやろ!?迷惑かけたらあか……』と喧々囂々の言い争いが暴走した女性と繰り広げられている。部屋の中に残ったのは一人、白衣の男はこらえきれない笑いで肺を揺らす。

 

「くく、クックック。いや、今日も平和なことだ」

 

 こうして、ジュエルシードを巡り管理局のいざこざに巻き込まれ、大変な目にあった海鳴での物語は一旦幕を閉じる。そして舞台はココ、アメリカへと移るのであった。

 

 

第一部・Lyrical Planet  完

 

Next/A's is no longer needed

 




おい、おい。誰だライザーを予想したのは。黙って手をあげるんだ。

悪乗りしすぎたかもしれないが、こうする以外近接なのはのSLBが強くなる方法が思い浮かばんかった。うーむ、イデオン。

はい、時間かかって申し訳なかったですがやっと1部終了しました。いやー長かった。満足行く文面にできたかと言うと全然そんなことはないですが。SS処女作としては順当に行けたと思っとります。

以後の予定は今回の話の中で出て来なかったなのはの新型スラスター、もといレイジングライザー(仮)の話題などを小話で取り上げたりしてみようかなと思ってます。それをまとめて他3部くらいを1話で済ませようかな、と。

ソレが終わればA'sという名の過去編に突入します。いわゆるフラグ回収回。過去編→流れで現代まで綴ってその後夜天組がどうなっているか、という感じで。書き出しは現代での回想、みたいな感じにします。あ、後でキャラTIPS纏めますね。



さて、よくある逆行、転生SSとは違う角度から突っ込んでみたSS、いかがでしたでしょうか。文面に性格が現れるというか、ややディスり気味な面がポロポロ出てしまうせいで果たしてこれでよかったのか、という部分があっちゃこっちゃにありますので((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルしながら感想見てました。

あとは出来るだけ整合性とれるように魔法独自解釈してみたりね。
前に説明したことを簡潔に言うと、型月のFateみたいな魔術が魔導の原型で、それを機械化効率化したものがリリカルな魔法だと思っとります。アレもそれぞれ詠唱違っても似たようなことできるし、個人の性質依存な部分って結構ありますし。なんとなーくで納得共感出来たらいいなぁと思ってます。さすがに多々ある技術を魔法と魔力一本では説明できないほど様々な技術が関わってるとは思ってるのでそこまで万能じゃあないでしょうけど。

話し戻して、こういう妙なSSを作ってしまったのはStsドラマCDで海鳴にてスバルのトンデモ発言が原因だったりする。お前さんちょっと地球なめすぎじゃないかオイ!?、というような。発端は怒りから生まれたのだ。

で、地球チート、地球魔導化しようぜイソノ!と謎の脳内電波を受信したので書き始めて見ることに。しかしチートにするにしても二次元転生とかは読むのは好きだが書くのは好みではないので、なんとかリリカル世界内でどうにか出来る手管を持ってこようということで逆行、という感じになりました。

だが逆行チートするにしても、リリカル世界は思った以上にチートキャラが多い。火力バカにしても知力バカにしても、どこかに適役は必ずいるのでオリキャラいれても薄まるだけじゃない?となり裏方役へ。果たしてジェックについて語ってる部分はこのSS内で何割あるのだろうか。

 あとはスカさんだったらきっとなんでもやってくれる!ついでだから救済しようぜ!となりこのような形へ。Stsまで全編通すと違うタイトルになりそうなんだが、魔導変移リリカルプラネットというタイトルはその段階での名残そのままを持ってきている。とはいえコレ以外にわかりやすいタイトルというのも思いつかなかったが。略せるし「リリプラ」って。

 そういうわけで裏話を除けば第一部でとりあえずの完結は見れたことに。A's編は蛇足感が強くなりそうだから出来るだけスカさん重点のギャグ押しにしたい。一部の辛かったところはボケツッコミを確り出来るキャラがいなかったところだよな……。

TIPS

[御神流]
 何やら色々使い出した。3ヶ月での成長力は異常……いやなのはなら不可能ではない……か?Stsではまさしくチートなのはになるだろう。

[新型スラスター]
 次回ネタバレ。中にあるものが入っている。

[バルディッシュ]
 名前はそのままだが中身はジェック由来により立派にアサルト。フェイト自身も家族の愛によるサポートでファランクスシフトを詠唱なしでいけるようになっている。とはいえスフィアをばらまく必要はある。

[ライディングフォーム]
 デュェ!!ではない。ただし見た目は先端に突起物を添えた事故前提のバイクである。翼となる補助アームを展開することで彼女は鳥になった。

[すずか]
 魔改造より楽しいことはない。

[鋼糸]
 魔法でやってのけるなのはさん。4歳からデバイスを扱っていたのは伊達ではない。子供の吸収力は早いのだ。

[ブレイクライザー]
 振り回せSLB。結界を切り海を割り、ついでに魔導師に叩きつけろ。別にトランザムは必要ない。

[アメリカ三人組]
 魔導師としての強さも、知識も、国籍も、全く関連性のない3人が集まった自称四天王(ネタ)。ボケを本気にしたシグシグの暴走が始まる。ニゲロタカマチ。彼女の標的は君だ。


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Gossip_5

▼△▼△▼△Attention▼△▼△▼△

この回は主に私の自己満足による偏見と超解釈によってできています。意味がわからないよ!と言う方は飛ばしていただいても構いません。

あとがきも随分キチってます。ツッコミどころも多いですけどスルーするか一緒に考察してみる気概が有る方は一言お願いします。いや、ほんと何書いてんだろね。

二話仕立てですので後編はフェイトのお話になっております。こちらは癒し成分です。

ローカルデータをすっ飛ばしたせいで一回文章が全部飛びました。evernote使用してたのでなんとかクラウド鯖から引っ張ってくることが出来ましたが、もしかしたらどこかミスってるかもしれません。脱字誤字ありましたら報告お願いします。


(;・∀・)ありがたい話ですがしかし、TIPS更新しただけで50件登録増えたとかいったい何があった……。



「おじゃましまーす」

「いらっしゃいなのはちゃん。こちらにどうぞ!」

 

 ある月の週末、なのはは月村家へ再びおじゃましていた。ジュエルシード事件解決も久しく既に2ヶ月経過している。大会までもうしばらく、といったあたりで大学やそれに連なる企業も行事のすり合わせや設営の準備にと大忙しであった。そのため事件後に数週ほど回って帰ってきたユーノやテスタロッサ一家も忙しなく働いており、勿論なのはも例外ではない。しかし何やら用事がある、との一言でなのははすずかによって連れだされていた。

 

「それじゃあ、いこうか」

「行くって、いつものテラスじゃないの?」

 

 月村家へ来たときは大抵の場合行動がパターン化している。メイドと猫に囲まれて優雅に紅茶を飲み、雑談を交わしてネタ切れしたら別室でゲーム。これが普段の行動なのだが、友人であるアリサはおらず今日はノエル達メイドの迎えもなかった。それだけで何か違うことをしようとしていることが察せられる。不思議がった時には考える間もなく、すずかが返答した。

 

「ううん、これから行くのは……そう、地下20階の秘密の部屋」

「…………ふぇ?」

 

 チーン、というサインの後に目前でゆっくりと広がる扉。二つに別れたその向こうには、とても地下とは思えぬ広大な容積を持つ機械的な部屋が存在する。

 

「ようこそ!月村グレートヴィレッジへ!!」

 

「ふ、ふぇぇぇぇ!?」

 

――月村グレートヴィレッジ。

 

 案内された場所はマッド化した姉妹たちの魔導最高峰の遊び場なのだ!

 

 

 

 いつの間にやら邸宅内に見たことのないエレベーターがあると思ったら乗せられて、ボタンを押したら尋常でない降下距離を経てアナログな到着音を鳴らしたその先は、

 

 摩訶不思議な銀色に輝く壁面の部屋の、もとい機械の森でした。

 

 驚愕で固まるなのはは何を言ったらいいのかわからなかった。とにかくわかるのは現在隣でニコニコ笑っている友人にとって、もはやこの光景は日常の一部と化すほどに慣れてしまった部屋であるということだけである。乱立するように様々な機器や工具が並び、そこら中に散在する素材たち。姉妹二人、メイド合わせて4人で使うにはあまりにも広すぎる部屋は一体何を行う場所なのか。いや、彼女があのスラスターを開発して持ちだした時から気がつくべきだったのだ。そんなものを作る場所はある程度邸内の構造を知っているなのはには思い当たらない。外部で制作した可能性もあるが、スラスターはお手製であるうえにすずか自身はあまり家から離れることはない。

 

 いや、だからといって気づけというのは無理があるけども。

 

 立ち直る間もなくあわあわ言いながら、先導するすずかについていく。天井は高く飛べば問題無いだろうが、地上でならば確実に迷子になる自信がある。そんな銀の森は常時何かが稼働しているのか、無機物でありながら生命のような胎動を感じさせる。まるで平静を望む地上の邸宅は正反対だ。だというのに居心地がいいのかすずかは鼻歌を口ずさみながらスイスイと移動しているし、自分はそれについていくことしか出来ない以上質問を挟む余地は無かった。

 

 そんなこんなで、少し開けた場所に到着する。そこには個人用の作業スペースがあり、中央の作業台は様々な機械が繋がれていて無骨なものものしさがある。何故か側面にマキシマム☆ベンチと英語で銘打たれているが、多分気にしたら負けだろう。なのはは見なかったことにした。ただの工具が武器になるのはゴメンである。

 

「さぁ、ついたよなのはちゃん」

「うん、それはわかるけど。ここで何するの?」

 

 ごく当たり前の質問にすずかはジャジャーンと言いながらスイッチを押した。プシューっと空気の抜ける音がして開いた厳重そうな大型ケースから、まるで羽を模したのではないかと思われる機械が出現する。

 

「どう!?これが新しいスラスター、レイジングライザーだよ!」

「わぁっ!すごいすごい、なんかかっこいいっていうか綺麗だね!……ところでわざわざここから出したのは?」

「様式美って大事だと思わない?」

 

 その返事にレイジングハートが『肯定です』と答えた。どうやら彼女も何か感じるものがあったらしく高揚している。

 

「でも、実はまだこれだけじゃ動かないんだよね」

「え、どういうこと?」

 

 再びすずかは、その場に最初からいたらしいノエルからアタッシュケースを受け取るとパスワードを入力して解錠。ごついケースの中にはいくらでも数を入れられそうなほどの小さく透明な一粒の宝石。ソレを見たなのはは驚きの声を上げた。

 

「そ、それってもしかして!?」

「と、思うよね。でも違うモノ」

 

 一息分間を開けて彼女は言う。

 

「まだ名も無き種。なのはちゃんにはこれに魔力を注いでもらいます!」

 

 そういってすずかは慎重に宝石を目の前に掲げた。透明の宝石は見た目ジュエルシードそのままの形で鈍い光を放っていた。

 

 

「その前に、なのはちゃんにはこれの説明をしないとね」

 

 そう言うすずかの目も輝いている。ああ、きっとこれは説明しだしたら止まらなくなる科学者特有の病気だ。時折姉の忍もこんな目をしていたのだ。そう察するとなのはは黙って聞く体制を整えた。この手合いを相手するには余計な質問をせずイエスかノーで答えるのが一番楽な道だ。質問をすればするほどにドツボにはまり長くなっていく。さすがにそれはたまらない。

 

「まず、なのはちゃんは魔力素がどういうものか知ってるかな?」

「えっと、大気中に存在する魔力のもとになるエネルギー……だったかな?」

 

 コクリ、とすずかは肯定した。なのはは時折大学に遊びに来ているが専門分野に入り込むほど勉強をしたわけではない。彼女は扱う者であって基本的な部分まで知っていればそれで正解なのだ。

 

「でも、実は月にだって魔力素があるんだよ?ソレも膨大に」

「……え?それっておかしくないかな?」

 

 大気を媒体にしたエネルギーならば、月にあるのは矛盾する。実際宇宙には魔力素が殆ど無いと言われている。

 

「加えて、魔力精製するためのドライヴは部品消耗を考えなければ半永久的に動作する。つまりこれは実質魔力素も無限に近いことを示している。それがどれだけおかしいことかわかるかな?」

「んっと、ガソリンも石炭も電力も使えばなくなるのが普通、だよね。そう言われてみれば確かにおかしいかな」

 

 エネルギーは資源を用いて生み出すためにその総量が決まっている。化石燃料などはよくあとX年しか持たない、などと言われていて地球はエネルギー危機に直面しようとしていたが、それを真っ向から解決したのが魔力だった。

 

「元から非実体である魔力素は、資源枯渇という要素を持たないの。ううん、厳密には枯渇しないほどの総量があるとでも言えばいいのかな。でも、そしたら魔力素は一体どこから来ているのか気にならない?」

 

 それはまぁ、となのはは曖昧に頷いた。確かに宇宙には無く、しかし月と地球にはある。原因なくして過程無し、ともすれば魔力素は世界を司るルールの一つなのかもしれないが、この語りから見るにすずかには見当が付いているのだろう。とりあえず話の続きを促すためになのははひとつだけ質問を入れることにする。

 

「でも、そういう話なら管理世界の人たちが既に解き明かしてるんじゃない?」

 

 地球で扱う魔法は所詮管理世界のアレンジでしかない。次元航行技術や様々なものが足りない地球より、魔法に特化した管理世界にならその資料があっておかしくはない。

 

「まぁそう思うよね。でもアリシアさんに聞いたけど、どうもそのへんのデータって無くなってるらしいよ?」

「どういうこと?」

 

 アリシアから聞いたところによると、過去に次元世界群で起こった大規模な戦争のせいでいくつもの技術や資料が失伝しているという事らしい。大きいものはロストロギアに始まり、細かいものは魔力素の実体から古代ベルカ式のプログラム言語までありとあらゆるものが穴抜けになってしまったようだ。それでも基幹技術そのものは使えてしまってるわけだからそのまま使っていたらしく、研究を怠っていたせいで魔力素について聞いたときはアリシアですら「あれ?そういえばなんでだっけ?」と言っていた始末。発生原因不明のまま魔力素は「あるからある」のだと、科学者的にはありえない解釈のまま放置されていた。

 

「でも、これはある意味仕方がないみたい。魔法を科学で扱い始めてもう何百年経ったかもわからないせいで、元々魔法がどのように発達してきたかという記録も無くなってるみたいだし」

「はい、すずかちゃん!」

「なんでしょうなのはちゃん!」

 

「…………意味がさっぱりわからないの」

 

 だよねぇ、とすずかは苦笑した。

 

「まず、想像上の魔法って地球ではどのようなものだったかな?」

「えーっと、魔法陣や杖を使ったり、様々な材料を使って錬金したり?」

「なんか色々混じってる気がするけど……じゃぁその想像上のそれが実際にあったとしたら?」

「へ……?あったの?……地球に!?」

 

 多分ね、とだけ返答する。

 

「元々、次元世界の魔法も最初はオカルトの類だったと思うの。そのうちその有用性が認められて、誰でも使えるように機械を用いて翻訳されたのが現在の魔導技術なんじゃないかな。地球では魔女狩りとかあった頃に、その使い方もろとも駆逐されたのかもしれないね」

 

 だからこそ純粋な魔法使いと違って魔力の使用用途が限定化されているのだ、とすずかは語った。いかな魔導師といえども、生み出された魔力の使用法は放出や凝固などエネルギーに形をもたらす単純なものばかりであり、転移、エネルギー変換、その他もろもろの解析不可能なレアスキルなどは科学寄りでなくむしろオカルト寄りなのだという。ミッド式はベースとなってその他の言語をある程度エミュレーションできるほど汎用性に優れた言語であるが、翻訳するということは言語化出来ないような神秘を使用するのは不可能ということになる。だからこそ原初の魔法、個人にのみ立脚したオリジナルの魔法は再現することが不可能なのだ。精々が同一部分は現実の事象を歪める、という固定されたルールくらいのものだろう。

 

 逆に地球は唐突に始まった魔法技術から、改めて過去に起こった不可解な事象や超能力を解釈するために魔法に当てはめていっているらしい。

 

「へぇー、でもそれって何か今からする話に関係あるの?さっぱり繋がりが読めないの」

「そうだね。若干話がオカルト寄りになるかなぁと、前振り程度に思って。そのほうが受け入れやすいから」

 

 それじゃあ本題に行くね、と再び語り始める。背後にはノエルが準備したホワイトボードがガラガラ音を立てて到着した。

 

「で、どこから魔力素が生まれているかって話なんだけど……」

 

 キュッキュッキューとホワイトボードに書き込まれる線。その形状は実にシンプル。

 

「……四角?」

 

 そう、四角である。すずかが描いたのは――正確ではないが――正四角形、正方形である。今までの話もわけがわからなかったのに何故に図形から魔力素が生まれるのか。

 

「細かく言えば、正多角形ならなんでもいいの。私たちの宇宙は元素や原子、電子といった小さな粒によって構成されている。それらのいくつもの繋がりが、こうして図形を必ず作り上げる。だから物質があるところには必ず魔力素がある。一つ一つの図形の生成量は微小だけど、沢山あればほとんど無限っていうのはなんとなくわかるよね」

「うーん、それはそうだけど」

 

 突拍子もない魔力素の正体に首をひねる。つまるところ、魔力素というものは物質がある場所には必ずあるもので、有限ではあるが枯渇はしないというものらしい。

 

「魔法陣とかにも、必ず四角や五角形等を書き込むよね。それは古来より図形に力があるってことの証明になってるの。もっと言えば、実は魔力素って東洋で言う『気』なんだよね」

「えぇー!?なんでそこにつながるの!?」

 

 なのはは話飛びすぎなのー!?と驚く。漫画的解釈をするなら魔力と気は別種のエネルギー、水と油みたいなものとしているものが多い。だからこそ日本人の感覚では超常的であることは同じでもそれらは決して相容れないものになっている。

 

「人間だって、無数の粒で構成されてるでしょ?だから人間も気を、魔力素を発することが出来るんだよ?勿論マンガみたいに突拍子もない事は出来ないけど、内気功で体調を調整したり、運動能力をかさ増ししたりするくらいはある程度可能なんだ」

「どうやってすずかちゃんはそれがわかったの?」

「解明したのは私じゃないよ?だれかは知らないんだけど、地球にはまだ残っていた神秘に対する土壌を魔法と繋げたオカルト学者がいたっていうことらしいけど。それはいいとして、これを見てくれるかな」

「んー?……わっ、かわいいー!」

 

 差し出されたのは2枚の写真。片方は笑顔を浮かべる赤ちゃんの写真、そしてもう一方はどこで撮影されたのか知らないが一見普通の暗い森だ。

 

「でもこの2枚は何の関係があるの?」

「ん、まずは赤ちゃんのほう。頭の上あたりに丸い泡みたいなのが写ってない?」

「あ、ほんとだ。そういわれてみれば森の写真にも一杯丸いのが写ってるね。……ホコリ?」

 

 クスクスと笑うすずか。どうやら違うらしい。写真には半透明の球状でそのどれもが真円を描いている何かが写っている。

 

「たまゆらって呼ばれる心霊現象でね、何故かデジタルカメラで撮影したら写り込むの。ホコリでないのは必ず真円を描くことと、また何故かフラッシュを焚いた写真には滅多に写らないってこと」

 

 そう言いもう一枚写真を出すすずか。そこに写っていたのは先程の森だが少し明るく、球体は存在しない。どうやらフラッシュを焚いたものらしいのは話の流れから想像がつく。

 

「そもそも気っていうのは、言葉の中では『殺気』や『怒気』、『気合』、あるいは『思念』と呼び変えてもいいけど。古来よりその概念は言語化して残っているのに誰も扱えてないのが不思議ではあったの。実際にそれらを扱えてる人はごく少数。いわゆる霊能力者とか、かな」

 

 実際海鳴には本物の霊能力者とかいるらしい。テレビの中の出来事じゃないんだ、となのはは驚いてばかりである。

 

「で、件の科学者は魔法の基礎理論を元に技術を遡って検討したら、そこにいきついたって話らしいんだけど……。魔力素はリンカーコアで魔力に抽出することで事象変化の特性に特化するんだけど、それの元になったのは魔力素の感情や思考が乗るっていう超常的な特性があったからこそらしいの。で、『気』も魔力素同様に感情が乗るっていうのがわかって、調べてみれば全く同一のものだったとか」

 

 例えば誰かに見られている感覚を持ったり、相手の強い感情に威圧される経験は無いだろうか?これらは自身が持つ気に感情が乗り、大気中の気を伝って相手に届くのだ。つまり気なども波動等の科学的要素を持っているということだ。『気配』なんていうのもそうだろう。誰かがいる感覚を視認もしていないのになんとなしに分かるのはこれらは大体気による相手の感情の発露が伝わってくるためである。ただ現代地球人は進化適応の過程で霊的感覚をほとんど失ったために、飛び抜けた才覚を持っている人は非常に少ない。

 

「へぇ~、じゃぁこの写真に写る量の違いは?」

 

 なのはが指差す2枚の写真はたまゆら、赤ちゃんの笑顔による喜の感情によって発生した気の量と感情が全く乗らない森から発生した気の圧倒的量に違いがあった。

 

「うん、それは動の気と静の気の違いかな。魔力素は形から生まれるって言ったでしょ?ソレはつまり、静止している状態が最も好ましいってこと。赤ちゃんの方は感情をトリガーにした簡易精製だから瞬間的な量はあるけど質がそれほどでもなくって、森は長いこと人が踏み込まない場所で撮影された、形を固定した場所。だから森の方は崩れない形がゆっくりだけど、質のいい気を貯めこんだから写真に一杯うつってるって感じかな?」 

 

 いわゆる空気が違う、というやつらしい。森の中は草木の匂いのほかにどこか『濃い』感覚があると同時に清浄化された雰囲気がある。それは気が良質であるがために、わずかに残った人間の感覚が反応できているということだ。例えばわかり易い例で言えばパワースポットと呼ばれる場所がある。その場所は成長を止めた神木があったり、何か理想的な図形を描いた自然物、もしくは人工物が存在する場所だ。それらは静止し続けるがために良質な気を生み出している。それらの気は邪気払いなどに効果があり、人間の感情が乗った動の気を排除して心気を整える。「病は気から」などとも言うがそれは真実であり、病気の際には体のどこかに悪質な気が貯まる。これを自力で排除出来る場合、熱を下げたり痛みを和らげることが出来る。これが内気功の正体だ。余談だが胃痛や腹痛もこれによって緩和することが出来、『痛いの痛いのとんでけー』というセリフの根っこは邪気払いに通じている。また、この良質な気を人間が出せるとするならば、感情を消し集中した状態、いわゆる『明鏡止水』や『無我の境地』と呼ばれるレベルに達している状態と考えられる。

 

 反対に動の気は瞬間的な生成量に優れているため運動能力の強化などに使われる。これを意図してできる者もやはり滅多にいない。これはよく「火事場の馬鹿力」と呼ばれるものに相当する。時たま人間がありえない身体能力を発揮してしまうのは、限界を超えた感情の発露が動の気を大量に生み出すためだ。これは量の大小はあれど誰でもあることであり、怒りなどによって普段とはありえない腕力を発揮してしまったりするのは覚えがあるはずである。知らず知らずのうちに使っている場合があるので、案外士郎や恭也は意図せず使っている可能性はあるそうだ。注意すべきは瞬発力向上のみであるので、マンガのように『練』やら『気を開放』しっぱなしの状態を維持することはほぼ不可能。そうそうご都合通りにはいかない力である。

 

 さて、ここまで話してわかったことだろうが図形が、物質が気を、もとい魔力素を生み出すということは月もそれを生み出しているということである。人がほとんど足を踏み入れることが出来ない月、形状の静止した場所では非常に良質な魔力素が作られていること。かつて前史におけるスカリエッティが利用しようとした月の魔力の正体だ。

 

「で、実はここまで説明しておいて必要なのはちょっとだけなんだけど」

「え、えぇ~……」

「まぁまぁ、下地が無いとわかりにくい話だから」

 

 そう言って次にすずかが出したのはダイヤモンド。一体どこから持ってきたのか10カラット以上はある気がする。さすが豪邸ならばこのくらいいくらでもあるのだろうか。子供が持つようなものではない気がするが。

 

「魔力素生成は物質の持つ図形が安定した状態であるのが最も望ましい。だからダイヤモンド等の宝石は魔力素を作ったり魔力を貯めこんだりするのに適しているの。宝石魔術、っていうのが架空でもあるようにね。身近な例だと、ちょっと前までのサッカーボールとかいいかな。あれって五角形と六角形の組み合わせだから、構造が安定したフラーレンとほぼ同質で魔力素の生成量と質がほかと比べて桁違いなの。寝る時に枕元に転がしておいたりすると清浄化やリラックス効果をもたらすんだよ!」

「そ、それはすごいね……」

 

 科学にオカルトさらに遊具までごっちゃになって語られる事実に、一体どこまでが正しいことなのかなのはにはまったく判断がつかない。結局濁すしか無いのだがハイテンションなすずかは気づかない。

 

 ちなみに元素や魔力は不確定性原理によってその物理量にばらつきを持たす事が出来ないため、自ずと正多角形の結合が出来上がる。魔力素を生み出すには最高の形をとれるということであり、これを長期的に維持できる安定した構造を持ったモノ、つまりダイヤやフラーレンなどは供給量に非常に優れていると見ることが出来る。

 

「そして!それにあやかって純魔力を78高次フラーレン構造を取って魔力結合を積み重ねてクラスター化させて色々やった結果!この魔力結晶が出来たってわけ!!」

「うん、どこから突っ込んでいいかわかんないよすずかちゃん」

 

 そもそもどうやってそれを成したのか、純魔力精製とかどうしたのとか、何で結晶化してるのとかさっぱりわからないことだらけである。ふとすずかの背後を見るとこの巨大な部屋の一部を埋めるやたらでっかい装置があるのに気がついてしまった。よし、スルーしよう。きっとあれは開けてはならないパンドラの箱なのだ。

 

「これもジュエルシードを研究したのとアリシアさんのおかげかな。私達がなにしてるのかは秘密にしてたけど。で、本題に戻るけど、このジュエルシードみたいな宝石はまだ励起させてないから、なのはちゃんの魔力を使って動かしてあげる必要があるの。それによって爆発的に動の気に近い魔力素を生成して魔力に変換し続けるようになる。MGドライヴとは違って構造が安定化してるから、内部にほぼいくらでも貯蔵できるのがメリットかな」

「もしかしてこれ一杯作れば世界中のエネルギーがまかなえるんじゃ……」

「やだなぁ、そんなことしたらこれをいっぱい載せた金色の何かみたいなのが出てくるかもしれないよ?」

「金色って何!?」

「私も終末戦争フラグは立てたくないし。あとは作ってもフェイトちゃんの分が出来たら終わり。………………それにすごいお金かかったし」

「え、今なんて?」

「ううん、なんでも♪」

 

 ニッコリ笑顔のすずかちゃんが邪悪すぎる件について。私の親友は果てしなく遠い何かになってしまいました。おおよそ自分もチートであることを他所になのはは汗びっしょりである。

 

「さ、早く魔力を込めてみて」

「う、うん」

 

 そっと指先を宝石に添えて魔力を流す。すると宝石はみるみるうちになのはの魔力光と同じ桜色に染まった。

 

「はい、完成。さすがに出力はジュエルシードの20%もないと思うけど、個人で使うには十分かな。あとはこれをバックパックにはめ込んでっと」

 

 空いていた穴にかちりとはめ込んで導通検査を行う。スラスターが無事に魔力を噴出し始めたのに満足して回路をカットした。

 

「あ、そういえば宝石に名前つけてなかったよね。なんてつけようか……そうだ!イデ」

「ままま、待ってー!!それは言っちゃダメって私の中の何かが告げているの!」

「何かって何!?」

 

 主にクロノにフラグが立ったりするアレであろうか。名前一つ決めるのにもキャーキャー言い合って、結局最終的には「レイジングシード」に決まった。無難、実に無難である。それからは疲れるまで遊んでなのはは帰路についた。

 

 そうして以後、レイジングライザーはなのはの羽の象徴であり、戦いのサポートとして力強く羽ばたくことになる。4枚羽からなるそのスラスターを見て、なのはをこう呼ぶ人もいた。まるで、天使のようだと。

 

 

 

 

 フェイト・テスタロッサは考える。

 私がなのはに負けた理由とはなんだろう、と。少なくとも家族が作ってくれた相棒バルディッシュはみんなが自慢する最高傑作である。ならばバルディッシュに非はないはずだ。戦略はどうだっただろう?数多の形態をとれるだけあってその手段、バリエーションは非常に豊富である。適宜切替を行えば相手をトリックプレーに引きこむことだって不可能ではない。だが、実はそれは欠点だったのではなかろうか?斧、鎌、大剣、様々な武器あれど自分がそれぞれ特訓に費やした量は平均的である。武器が変われば動きが変わる。それぞれにリソースを割けば手段は豊富でもここぞという特化した技を持てないのは当然だ。実際なのはが使っていた技はさほど多くない。自身の能力をベースにした組立を行うことで、最も得意な技がそのまま必殺技と化している。ようは一点特化と多芸多才、どちらが強いかと言われれば言葉のみで捉えるには難しいことだが、わずか数年程度の特訓で扱う量ではないことだけはわかった。ここはまず間違いなく改善点だろう。加えてまだ封印されたフォームまであるらしい。果たしてどの程度ものに出来るか、相応の時間がかかるに違いない。

 

 だが、一番の違いは魔法を扱う基盤となる技術力、もとい身体能力の差だろう。魔法というのは結局のところ武器であり道具でしか無い。もしも魔法を扱わない素手での戦いになったら、確実になのはに負けるイメージが有る。それほど彼女の身体能力は隔絶していると言っていい。ミッドチルダの流儀に従うなら、魔法で攻撃されない距離から撃ちまくって落とすアメリカナイズな戦術構想をするのが一般的だ。それ故クロスレンジに非常に弱く、格闘戦ともなれば総崩れになるだろう。いかに非破壊非殺傷とて、共倒れ覚悟のフレンドリーファイアをするような人間はいやしない。

 

 ならば、私はこれを手に入れねばならない。なのはに勝つために、私が強くあるために。自分に自信が持てる何かを手にするためには泥にまみれても敵にすがってでも請うべきだろう。そう!全ては高揚するたたか……いや家族のために!

 

―――だから、私はっ!!!

 

「私に御神流を、教えてください!!!」

 

 恥を忍んででも虎穴に飛び込むのだ!!

 

 

 

 

 ゴチンという音が響いたと思ったら、何故か床には金髪を垂らして土下座する少女。気のせいか三つ指もついて色々と日本文化をごっちゃにした感がある。そんな翠屋の午後、お客さんがいればまず間違いなくとんでもない誤解を抱いてしまう場面である。たまたま現在は空いていたから良かったが……。

 

 そして、士郎の目の前で土下座していた少女は頭を打った衝撃で「……痛い」と呻きながらプルプル震えていた。なんだろう、この子鹿並の少女は。なのはとはまた違ったベクトルのかわいさがある。

 

 加えて、その少女を連れてきたなのはも背後で口を開けて固まっていた。まさかこれほど突拍子もない行動に出るとは思わなかったのだろう。つい持っていた皿を落としそうになった自身も同様である。桃子ですら固まっているのだ……店内の空気は完全に死んでいる。ああ、ならば仕方ない、ここは家長として、翠屋のマスターとして復元に努めねばならないだろう。でなければ私の威厳に関わる。勇気を持って彼女に接することにした。

 

「えーっと、フェイトちゃん……とりあえず、席に座ったらどうだい?」

「……はっ!うん、そうそう!シュークリームでも食べながらね!ね!フェイトちゃん!」

 

「あ、はい……」

 

 ようやっとあげた額にはじんわりと鈍い赤。ついでに目元が潤んでいる。その姿がどう見てもハムスターかうさぎにしか見えない。声につられてなのはもフォローに入った。最近は各方面で暴走する人が増えたのか、地味になのはの対応力が上がっている。主に開発関係の人間の技術力が向上したせいだが、最近は聖祥に転入したユーノ君も日本の歴史に触れて軽く暴走している気配がある。どうしてああも日本の文化というものは外国人の琴線に触れてしまうのだろうか。

 

(おっと、そんなことより注文を取らなくては……)

 

「じゃぁフェイトちゃん、飲み物は何がいいかな?」

「あ、それじゃあ……ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノで」

「っえ!?」

「え!なにか違った!?」

 

 凄まじい呪文で注文をされたが、残念ながら翠屋でそれは扱っていない。あまりのシュールさに美由希が腹を抱えて笑っている。

 

「フェイトちゃん、何でそんな注文の仕方を……?」

「えっと、その、姉さんが格式ある喫茶店ではコーヒーを注文する時はこう言えばすごいのが出てくるって……」

「騙されてるよソレ!?しかもチェーン店のネタだよ!」

 

 美由希は笑いすぎて床に伏していた。ああ、もうあれは仕事にならないと目配せして桃子に連れて行かせる。あと一発でも爆弾が放り込まれればきっと死んでしまう。笑死、幸せそうだが非常に不名誉な死になるなこれは。フェイトはフェイトで何処かにいる姉に向かって叫んでいた。カオスだ。

 

「……とりあえず、アイスカプチーノでいいかい?」

「はい……お願いします」

 

 真っ赤になっているフェイトを背景に茶器の擦れる音が響く。ソレ以外に何も音が無い静かな状態が、これから起こる嵐を士郎に予感させた。否、既に賽は投げられてしまっている。あとはそれを自身がどう咀嚼するかだろう。

 

 御神流を学びたい。

 

 なるほど、強くなるためにコレ以上に確かな手段はない。技の一つ一つが秘剣とも呼べるそれはすべての基本が精密な体動作に準じている。恐らく彼女は以前の試合で技量不足と捉えたのだろう。それは外野で見ていた士郎も同様の意見である。が、しかし御神流の剣技は門外不出である。暗殺剣を用いなければならない時代から既に変わったのだから別にいいのではないかとも思うが、時代が変わったからこそ伝えてはならないこともある。何より、御神流は剣術であって剣道ではない。すべての技が相手の生命を切り落とす一撃必殺に近いために、今の世では認められることがないからだ。

 

 同時に、困ったことに魔導師の戦いに魔法以外の明確なルールが存在しない。魔法を使えていればほとんど何をしてもいいという有様。実際、先日のデモンストレーションにおいて剣道部員が何人か駆り出されていたようだが、それでも恭也には敵わなかった。粛々と凝り固まった剣筋の隙を突くように動き、剣劇を演じること無く潰していくという無双ぶり。正道を持ってして今の彼に敵うのは最早高校時代の旧友くらいのものではないだろうか。

 

 士郎は淹れたてのカプチーノとシュークリームを音も立てずにフェイトの眼の前に置いていく。そして対面に面接官のように座り込んだ。

 

「何故、御神流を学びたいんだい?」

「はい、それは――」

 

 結論から言えば、フェイトの考えは士郎の予想とほぼ一致した。加えてなのはと一緒に特訓したいという思いもにじみ出ているが、まぁ無理もないだろう。人生初めての友達なのだから、色々と共有していきたいというのは間違いではない。体力づくりの一貫としてランニングは時々一緒にやっていたが……。

 

「一応言っておくが、あれは秘伝でね。血族以外には伝えないようにしているんだ」

「そんな……」

 

 当然、士郎は断りを入れる。本来ならなのはにすら教える気はなかった剣技だ。だが周囲の状況に迫られてというのもあったが、士郎自身は家族間のコミュニケーションのために教えた面もある。そのため絶対に駄目だとは強く言えない。

 

「で、でもユーノには教えてるって」

「うぐっ!?」

 

 しかし、士郎はここでひとつのミスをしていた。

 そう、高町家の居候と化し、そのまま扱いが家族同然となったユーノには御神流を教えていたのである。両親がおらず、部族での家族愛があっても親の愛を知らないユーノの事情を知った士郎たちは彼を完全に高町家の一員とみなしたのだ。魔法においては守るためのものしか手段が無いことへのユーノなりの努力なのだろう。出来る事はどんどん取り入れていく、それは彼の知識欲の現れでもあり、今までのふがいない自分との決別でもあった。それ故士郎はユーノの修練を許可したのである。

 

 彼の論理からすればユーノはまごうことなき例外。そして一つ認めてしまえばなし崩しになるのは当たり前。その程度には士郎は甘かった。

 彼の悩む姿を見て、なのははもうひと押しかな?と考える。なのは自身がフェイトに教えるという事も出来たのだが、この辺りの区別にメリハリがついているなのははあえてそれをしなかった。感情からすれば一緒に訓練したいのは顔に現れているが、彼女は現在も黙ったまま。

 

「お願いします!」

「……む、しかし……」

 

 渋る士郎。このままでは話は進むまい。が、この窮地を救ったのは意外な人物だった。

 

「いいんじゃないかしら、あなた」

「っな、桃子!?」

 

 戻ってきた桃子である。妻のまさかの裏切りに動揺する。

 

「直接教えなくても、どうにかする手段くらいあなたなら思いつくでしょう?」

「それはそうかもしれないが……」

「それに、プレシアさんからも娘をよろしくって言われてるし」

「……既に外堀は埋められていたか」

 

 奥様たちによる連合は強力だった。さすがにここまで言われてしまえば士郎とて引くことは出来ない。男の沽券に関わる部分を的確に突かれていた。

 

「やれやれ、仕方ない。直接教えることはできないが、模擬戦の中で盗んでみるといい。幸い、君にはそれくらいの才覚があるはずだ。それでいいかい?」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

「あぁ!ただし俺は厳しいからな!ビシビシ行くぞ!」

「望むところです!」

 

 ここに熱血師弟が生まれた。もくもくと事をこなすなのはと違った新感覚。やはりこの少女二人は互いに違う部分を持ったいい友情を築いていると実感した士郎。

 

「やったねフェイトちゃん!」

「ありがとうなのは!一緒に頑張るよ!」

 

 以降高町家の朝の訓練に加わるフェイト。そこには元気に木刀を振る3人の少年少女たちの姿があった。彼らは互いに切磋琢磨していずれはいい腕を持った剣士として成長するだろう。ちなみに余談であるが、フェイトとなのはの二人をさして「トゥーソード・ガールズ」とユニットみたいに呼ばれるようになるのはちょっとした後の未来の話である。

 




魔力素=気
超☆解☆釈
そもそも非実体半永久エネルギーならオカルト解釈しかありえないのでは?ということでこうしてみました。このTIPSが一体何の役に立つの?と言われれば多分無いとは思うけども。ちなみに気やたまゆらといった部分はやや実体験込みです……と言うと非常にうさんくさくなりますが、調べれば出てくるとは思います。数値で実証できないから科学的考察に入れないんだけど、何故かこの図形から気って部分にちょっとした知り合いの数学学者がハマってるんですよねえ。その内気功学とか設立されんかな。たまゆらとかも簡単に写りますよ。人のあまり入らない草原や、生命溢れる畑などでフラッシュ炊かずにシャッター切ってみましょう。白い玉がいくつか写り込むはずです。まぁなんでそんなのがデジカメに写るのかは自分にもさっぱりなんですけど。色々ごっちゃにして関連付けて見ましたけど、実際それらが本当にそうであるかは全く確証がないので話半分程度に流してください。まじめに考えた自分が言うのもあれですが。

ちなみに私はオカルトは非科学的だから存在しない!などというのはお門違いだと思ってます。証明できないだけで未知のものなんて世の中にたくさんあるのに、ただオカルトってだけで排斥するのは逆に科学者としてどうなの?と。むしろ科学者ならオカルトを科学の領域に落としこんでみせろ!と応援したいくらいです。

以下特性まとめ

粒子結合や化合等によって生まれる格子から生じるエネルギー。
状態の変化と停止によって性質が異なる。
動=感情等による爆発力を利用したもの。生産量高、質低。
静=物体が長い間停止することによって発生する。生産量低、質高。
感情による制御=思念操作がわずかであるが可能。
この特性のみを抽出、精製し、思念操作によって現実を歪めて現象を起こす魔力にする。

さて、何故このような解釈をしたかというと、そもそもデバイスが無い時代の魔法はどうやって使っていたのか?と考えていた時。つまり魔導師ではFateのような魔術師だった頃の時代があったのではないか?という想定で行いました。あれには人間には理解不能な神秘が存在します。つまり、どうやっても科学的解釈で当てはめることが出来ない場合はオカルト解釈に当てはめるしかないのではないか、という考えです。リンカーコアは非実体だし、コアに使った魔法が記録されるとか、まぁその辺のヒントっぽいものは転がってたのでやってみたんですが。実際原作内でもロストロギアや旧来のプログラム、レアスキルなど、現代では解析不可能なものが山盛りてんこもりであり、もしかしたらデバイスで行える魔法はかなり幅が狭い(解析しきれない)のではないかと。

具体的に分類するなら、なんとか解析できたために再現できるオカルト寄りの魔法、全くわからないオカルト魔法、解析できた科学寄りの魔法の三種類。とりあえず二分するなら

科学寄り
放出、攻撃、防御など

オカルト寄り
転移、召喚、変身、使い魔、レアスキル

とまぁこんな感じだろうか。純粋に魔力をエネルギーとして使うものと現実干渉するものとの違い、と考えれば。

あとはあれです。テイルズオブファンタジアとかFateExtraとかでもありましたけど、魔力枯渇ってホントにすんの?って疑問がありました。非実体エネルギーであるのだから、これはむしろ運動エネルギーとかのように総量は決まっている類のものではないか。エネルギー保存則とかあったりするんでは?と。その観点から、というには随分ツッコミどころ満載な結論に成りましたけど。

まぁなんでここまでやるかというと、改めてユーノの変身魔法に疑問を抱いてしまったためでその解釈に必要な仮定をするためです。体は変わって明らかに変身魔法を使い続けているように見えるのに、ユーノ自身は消耗せず、それを魔力回復に当てている?これはどういうこっちゃい、と気になりまして考察してみたのです。

以下原作から読み取れたこと。
・変身すると回復が早い。
・というよりむしろ、肉体が常時魔力を消費しているために消耗の少ない動物形態になった。(恒常的なフィジカルブーストがかかっている?)
・動物と人間状態で魔法使用には違いがない。(肉体サイズとリンカーコアサイズ、出力は比例しない)
・変身魔法はスクライアの秘技である。(公式で確実にそうだったかは自信がないが)
・ユーノはデバイスなしで複雑な魔法行使が可能である。
・リンカーコアには魔法が記録される。つまり実際は誰にでもデバイス無しでも複雑な魔法が使える事が立証されている。

必要なところはこんなところだろうか。

ここまででまとめてみる。
リンカーコアは肉体に依存しないならば一体どこにあるのか?シャマルさんにぶち抜かれた時は胸から出ていたが、非実体であることを考えるならあれは「魂」に格納されている、と見てもいいのではないだろうか。つまり魔法行使そのものは肉体ではなく魂で行なっている。そのせいでカートリッジ等を大量に用いると魂がダメージを受け、直結している肉体に影響が出るのではないだろうか。

そして、ユーノはユーノという人格、思考能力はそのままに動物になっている。脳等が小さくなっているというのに、彼の思考力や魔法行使、つまりマルチタスクの減少は見られない。ということは、ユーノは魂に起点を置いて肉体を取り替えているのではないか?肉体から乖離した魂は次元的に上位的存在であり、起点をそちらに置いているのであれば彼の能力や人格は肉体に依存しなくていいことになる。そうすればマルチタスクも脳依存ではなく魂依存、そのため物理的な上限から開放されて多くの思考分割の部屋が作れる、と解釈してみる。イメージ的にはCPUとメモリが合体した感じだろうか?こうすればユーノはデバイス無しでも複雑な魔法が使えることがうなずける。使い魔も人口魂?を入れていてデバイスなしで魔法が使えるわけだし。

攻撃魔法がてんで使えないのもFate的に言えば起源に囚われているせいで一点特化している、と見るべきか。魔力の性質もあるのだろうけど。

しかし変身魔法が秘技であるあたり、スクライア一族全員が使えたわけでもないのだろう。むしろ使えるのはごく少数で、それこそユーノみたく魂と肉体をしっかり分けて考えられるからこそ解読できたと私は思いたい。

ということでユーノの変身魔法は突き抜けたオカルト魔法なのだと推測する。多分魔法無効化バインドで縛っても人間に戻らないと思うんだわユーノ君。リーゼ姉妹のは薄皮貼りつけただけ、むしろあれはオプティックハイドに近いものじゃないかなあ。

そういえばマルチタスクの数ですけど、ズェピアやシオン・エルトナムクラスだったりするのかなユーノ君。そうだとしたら彼、違った意味でチートなんだけども……。あ、こう考えてくるとデバイスコアとかむしろ錬金術寄りな気がしないでもない。世の中に魔術師がいて、彼らの魔術を再現する方法を錬金術師が確立してしまった!そして彼らはアルハザードへと至る未来へと踏み出すのだった……。

うん、すまん。言ってることがわけわかんないね。

はい、気を取り直して次回からは新章です。プロットはまだ練ってないけどね!!
まぁキッチリねり終わったら書き始めるんでソレまでお待ちください。ではまた。



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Gossip_6

この回から(出来れば)5話連続投稿開始します。キリがいいかは不明ですが。

前回の考察から特に意味もなくユーノ君強化フラグ立てました。まぁ周りについていけないと可哀想ですし。
すいませんが二部は次回からになります。

※StSのアリサは何故髪型が残念シャマルさんになったのか。色も変わってるし……。私的にはどう考えても閃の奇跡に出ているアリサ・ラインフォルトが成長例としては一番近い気がするです。

あのアリサちゃんのほっぺめっちゃプニプニしてぇ……。


「――はい、56番から87番までのチェックは終わってます。安全性も確認されましたし、次の作業に移ってください」

「ユーノくん、こっちの制御術式なんだけど」

「ああ、そこは……」

 

 海鳴大学の一角に置かれた研究室で、少年ユーノを中心に人々が入れ替わり立ち変わり動いている。現在この教室はユーノと教授たちによる魔導研究所海鳴支部として使われている。管理世界から戻ってきてやっと地に足が着くようになった頃、日本政府の要請に彼は応えていた。今では高町家に居候しながら聖祥大付属小学校に通いつつ行うという忙しくも充実した日々を送っていた。

 

 思い返せば転入時には大パニックとなったものだ。管理世界出身の人間が二人。それも輝く金色の髪を持った少女とクリーム色の穏やかな色を持った可愛げのある少年の同時転入であったのだから。揃って美形であるためかそれはもう上から下までいろいろな意味で叫び声が止まらない。正直、可愛いと言いながら追いかけてくる上級生組にはほとほと参った次第である。ちなみにこの時アリシアも中等学部に転入しているのだが、男女別だというのに噂を聞きつけた少年たちの一目惚れによる告白が止まらなかった。比較的早熟で女性らしい体格になりつつあるアリシアは紛れもない美人であったのだから。恐らくフェイトも将来は同じ道を通るだろうと笑っていた。

 

「ユーノ君、こんなプログラム作ってみたんだけどどう?」

「どれです?……えーっと、多点ボーンに思考制御を用いて動かす触手ですか、って何作ってるんですか!?まじめに作ってください!」

「君には男のロマンがわからないのか!?……いやいや真面目も真面目超真面目だよ。これで彼女と……じゃなくてそう、がれき撤去とかに使えそうじゃない?」

「今変なセリフが聞こえたような……まぁいいです。作ったら一応レポート出してくださいね」

「おっけーおっけー」

 

 彼らの研究は主に民間で使える魔法であり、使用用途は多岐に渡る。ついこの間はバイクを製造している企業が話を聞きに来たし、植生の再生やそもそも魔法で行うべきでもないような事まで質問が飛んでくる。まぁソレも仕方ないことで、いくら発表から三年経ったとはいえ発展途上な上にノウハウが確立していないため具体的に何が出来るのかということが把握できていない。魔法という言葉もおおいに拍車をかけているのだろう。何でも出来ると勘違いしている人だっていないことはないのだ。ユーノはそれらの範囲や施行する際の難度等をこんこんと説明する役割も持っている。一応給料も出ているので割にあわないことは無いが、コレが中々に大変だ。

 

 とはいえ研究室にいるメンバーは比較的常識人が揃っている。民間利用で即座に行き着くのはまずパソコンや携帯電話といった電子機器の代用、高性能品としての扱いだ。そのため彼らが行うのはその延長上、例えばアプリケーション等をウィンドウ内ではなく現実に持ってきて制作するような内容のものが多い。ある人は投影された粘土をこねるようにして物体を作る3Dモデリングソフト等を作っていた。最早ディスプレイなどというものが不要となった事を利用して様々なジャンルに挑戦している。これから未来において出るはずであったスマートフォンやスマートグラスの存在が完全に危ぶまれるかもしれないが、今そんなことがわかるはずもない。

 

「お久しぶりです、ユーノ君。抱きしめてもいいですか」

「唐突に何を言ってるんですか紫葉さん……」

 

 どうやら今日は定期の査察日だったようで、文部科学省から紫葉楓がやってきていた。研究が開始されてから度々やって来るようになったが、どうもその度に彼女のネジが外れているような気がするとユーノは感じている。主に自分に対して迸る愛が溢れすぎているようだ。その表情は常にクールであるが大体発言が一致していない。それでも仕事だけは確り真面目にこなしていくのでなんとも言えないのだが。

 

「すいません、少し焦りました。もう少し段階を踏んでからにしましょう」

「いえ、そういうことではなくて……。ていうか怖いので鼻血を止めてください」

「おっと、コレは失礼」

 

 さっと整えた彼女は再び真面目な表情に戻り現在の進展状況の確認や資材の発注、不備などあれこれ点検していく。魔法も用いてチェックする様は実にスムーズで、つい最近研修を受けたのが嘘だと思えるほど手際が良い。ものの10分もあればすべての作業が終了していた。

 

「さて、本日の私の仕事はコレで終わりましたが、実はユーノ君宛にお届け物があるのです」

「お届け物ですか?」

 

 渡された物品の梱包を解くと、翠色に輝く宝石、否デバイスが姿を見せた。

 

「貴方用のデバイスです。基本はストレージで仕様はパソコンに近いものにしていますので、どちらかといえば連絡用といった感じが強いですね。新製品のテストも兼ねていますので、気兼ねなく使ってください」

「ああ、ありがとうございます。これなら外で仕事をしても問題ないですね」

「そうですね。……しかし、気になるのですが、あなたほど優秀な魔導師が何故デバイスを持っていないのですか?」

 

 魔導師はデバイスを使って魔法を行使する。これは楓が教わった常識であり、無い場合は行使できる魔法に制限がかかる。だというのにユーノにはソレがなく、提示された使用魔法には明らかに大魔法クラスのバインドまであったりするのだ。そのうえ発動速度もデバイスを持った一般魔導師より明らかに早い。これははたしてどういうことなのだろうか。

 

「まぁ、確かに不思議ですよね。でもこれを見てもらえれば納得できると思います。今からこのデバイスで変身魔法を使いますから、よく見ててください」

 

 そう言ってユーノはプログラムを走らせる。しかし即座にエラー音が返ってきて魔法の発動が中断された。

 

「……エラー数23、言語化不可能数45……、ってどういうこと?」

「簡単です。僕が使う魔法の一部は、基本的にデバイスで行使不可能なんです」

 

 ユーノの使うフェレットへの変身魔法はスクライアの秘奥、と呼ばれているが、それは実は使える人間がほとんどいなかったからだ。何せ解読しようにもデバイスが言語化できず読み込んでくれない。だからユーノはアナログな手法で手を付けた。デバイスに頼らない自己演算、それを聞いた時楓は卒倒しかけた。機械に頼らなければマルチタスクへの負荷が高く、高度な魔法は発動できないというのにこの少年はそんな事知ったこっちゃないと言わんばかりに行なっている。これは明らかな異常だ。

 

「っと、こんなかんじでデバイスを使わないならフェレットに変身できるんですが、結局持っている意味があまり無いので今まで使わなかったんです」

 

 そこには手のひらサイズになったフェレットユーノがいた。これまた可愛い、と思うがそれよりも原因究明が先にきている楓はとんでもないことに気づいてしまった。

 

「…………ちょっと待ってユーノ君。あなたその状態で普通に魔法使えるの?」

「?ええ、使えますけど」

「威力、質は変わりなく?」

「ええ」

 

 わずかばかり目をつぶって考えをまとめた楓は再びユーノに質問を繰り返す。

 

「じゃぁ聞くけど、マルチタスク数が変わってるとか、そういうのはないの?」

「数えたことはないですけど、多分無いですね」

 

「変身って体ごと存在を変えてるのでしょう?私の推測ではかなり魔力が必要だと思うのだけれど?」

「いえ、むしろ単純魔力砲やプロテクションなんかよりも必要量は少ないです」

 

「変身している間状態維持のためにどのくらいの魔力が必要なの?」

「全くいりません。むしろ僕はこの状態を魔力回復のために用いようとしたくらいですから」

 

 それだけ聞いて、楓は頭痛を起こしそうになった。楓が研修で学んできたのは純粋物理学と同レベルで扱われる魔法でしか無く、ここまで自然現象に反した魔法というのは聞いたことがない。つまり、健全たる(?)オカルトの領域に有る魔法だということだろう。だから機械翻訳が不可能なのだ。例えばとある書籍では「ネクロノミコン機械語版」といったものがあるが、これも同様にオリジナルから翻訳しきれない部分は魔法が発動できないとされている。

 

「これは、しっかり研究する必要が有るわね……」

 

 

 

 

「と、いうわけで特殊な能力を持つ方々に集まってもらいました」

「は、はぁ……どうかお手柔らかに」

 

 またある別の日、ユーノは多くの人に囲まれていた。楓によると、この人達は地球上で霊能力者や退魔師、超能力者、HGS患者と一体どこからかき集めてきたのか様々なバリエーションに富んでいる。基本的に彼らは魔法というものが公になるまで日の当たる場所にいなかったのだが、魔法が発表されて以来魔法という概念を遡って研究していたら様々な特殊能力者にぶち当たったらしい。結果彼らはある程度表舞台に姿を表わすことになり、現在は各々が使う能力や術といったものと魔法の関連性の調査に従事しているそうだ。

 

 というか、どうもこの海鳴という土地は奇人変人が集まりやすく能力者たちの坩堝みたいな状態になっていてあっという間に集まったとか。案外海鳴に研究拠点を置いたのは正解、というより運命的な物を楓は感じていた。

 

「しかし、彼らは地球の分類で言えばオカルト系なのでしょう?科学と真っ向から対立している気がするのですが」

 

 情報論理に従う魔法と違って、地球に元からあった能力や術は割と理屈が通用しないものが多い。しかしそういった分野でしかユーノの魔法を解読できないと、何故か楓は確信していた。

 

「それこそ心配ないわ。むしろだからこそ、あなたの魔法の解読不可能部分に理解を示せるのは彼らこそが適任なの」

 

 現実を舞台に演算し特定の現象を発生させる魔法。それは名前の通り、機械的でありながらやっていることはオカルトそのものだ。だが、翻訳出来る部分が理屈的な科学寄りになってしまったのだとすれば、翻訳できない部分はまさにオカルトのままととることが出来る部分、つまりは専門家の領分になる。

 

「まさか私も技術革新を起こした魔法を、このような手法で解決しようとは思っていなかったわ」

 

 それはオカルトとひっつけて魔法を解釈したとある論文があったせいだ。完全に科学に浸ってしまった管理世界より、まだ足を突っ込んだだけの地球にはそれを関連付けられるだけの余地があったらしい。だからそんな与太話にもならないような論文が出てきたのだろう。あるいは、その論文を提示した人間は何かを知っていたのかもしれない。もしかしたら、原初の魔法がそのオカルト部分にあったのではないかと。

 

「とにかく、時間もないので始めましょうか。ではユーノ君、衆人環視の中ですみませんが魔法を何度か使ってみてください。それから同時にいくつまで魔法が並行して発動できるか、あとは脳波もとりましょう。それから……」

「なんだか嫌な予感しかしない……」

 

…………

 

……

 

 

 

「……え~、では私としても非常に驚きですが、結論をまとめたいと思います」

 

 パチパチパチパチと拍手がかかる。動作と対照的に楓や集団の表情は疲れから来ているのか、非常に渋い。

 

「結論、ユーノ君はもはや人の領域から半歩はみ出しています」

「最初からからひどい言い様ですね」

「すいません、とはいえ他にどう形容していいものかわからなかったもので」

 

 あれこれと計測され、レポートにはユーノの魔法使用における詳細が細かく書き込まれている。楓も同様の検査を出来る範囲で行なって比べてみたが、魔力値以外では比べようがないほどユーノのスペックが高いことが判明してしまった。

 

「まず、ユーノ君は魔法使用の際に脳をほとんど使っていません。魔法使用における脳波がまるで検出されず、これはフェレット形態でも同様でした。フェレットの状態でも思考能力、魔力量、生成量、使用量は共に変化なし。現代医学でも匙を投げるレベルでしょうね……。また変身時において、ユーノ君とフェレットの同一性、つまり霊視による魂等の差異を計りましたが、これは全く同じでフェレットだろうと人間だろうと魂の総量は変わってないとのことです」

 

 ユーノの変身魔法は実は存在置換で、厳密には変身ではなく変更なのだと推測された。ユーノをユーノたらしめているのはその見かけの存在ではなく、魂そのものが本体だと解釈できる。つまり、ユーノにとって肉体というのはただの外装に過ぎないという結果なのだ。果たしてこの魔法は一体どういう原理からなっているのか。多世界解釈でフェレットとしてのユーノと人間としてのユーノを取り替えているのか、それともユーノの肉体を情報体として見立てて分解再構築しているのか。恐らくソレはデバイスが解読できない術式に記されているのだろう。

 

「これによりユーノ君の本体は魂に依存している可能性があることがわかりました。これは肉体に依存しきっている通常の人間よりも進化した存在だと捉えることができるかもしれません。非実体であるリンカーコアに魔法が記録されることと共通して考えると、魂とリンカーコアは同種、もしくは内包しているのかもしれませんね。だからこそリンカーコアに障害が出てしまった場合、それとリンクした肉体に障害が出てもおかしくないということでしょうか……。ということは、カートリッジの負担などは肉体よりもむしろ魂にかかっていると……」

 

 あれこれ推論を述べながらしかし、楓はまだある、とばかりにセリフを繋ぐ。

 

「失礼。あとは同時に使用出来る魔法の数は下手をすれば最大5つを超えるのではないか、という予測が立てられました。出力量的に難しい部分はあるようですが……。正直なところ、魂そのものを利用したマルチタスクですとそのタスク数もスペックも完全に見当がつきません。通常脳で会得したマルチタスクで比較するとタスク数は10を超えている可能性があります。確かにこれではデバイスがいらないというのも納得です」

「そ、そうなんですか?あまり自分でそういうことは意識したことがなかったんですけど」

「おそらくは、さほど負荷がかかるほどの処理を行ったことがなかったからでは?限界まで魔法行使をしたことあります?」

「そういえばないですね……」

 

 秘められた自分の底力にユーノ自身が驚いているのだからわからないものだ。ただ、前史においてはアースラの転移ポートを開けるためにアースラそのものにハッキングして使用者権限をもぎ取っている。あまりに自然にやっていたが、デバイスも無しに生身でやってのけるのは普通は不可能。秘めている力量は恐ろしいものに違いない。魔力に依存しない部分で、ユーノは間違いなく魔導師として天才なのだろう。

 

「とりあえず、データはとれたのでよしとします。デバイスは倉庫にするなり、攻撃魔法を入れておくなりお好きに使ってください。おそらくこの研究は、10年がかりでも足りないかもしれません」

 

 結局わかったのは、ユーノはなんだかよくわからないが超人的な能力を持っている。という事実だけだった。

 

「ああでも、そのマルチタスク。ちょっとおもしろいことに使えるかもしれませんよ?」

「え?」

 

 

 

 

「えぇぇ~!?なんでなんで、どうして当たらないのユーノ君!」

 

 後日、高町家道場にて。

 鍛錬にて対面するなのはの驚きは天を貫きそうな具合に動転している。自身が振るった全ての斬撃を、ユーノがわずかな動作のみで避けきってしまったからだ。揮い、払い、逆袈裟、突き、何をしてもそのどれをも太刀筋スレスレで読みきった。今までは木刀が、言っては悪いがボカボカ当たっていたユーノとは別人のようだ。

 

「あ、あはは。なんとかなった」

「へぇ、驚いたな。これは後の先を覚えるのを優先した方がいいかもしれない」

「後の先?」

 

 なのはの疑問に答えるように士郎はうなずいた。

 

「なのはも知ってるだろう?相手の剣の動きを見てから、一瞬先に相手に打撃を与えることさ。ユーノ君にはどうしてか、完全になのはの太刀筋が見えるようになっているようだね。どうやったんだい?」

「ええと、上手くは説明しづらいんですが、自分の持ってるマルチタスクを出来る限り使ってなのはのモーションパターンを計算していたんです」

「なるほど、つまり動体視力が上がったわけじゃないんだね。分割された思考が、それぞれになのはの次の行動を予測していたというわけか。加えてそれだけ分割しているのだから思考速度も早くて当然。なるほど、ユーノらしいな」

 

 子供の成長を見て納得したのか、士郎はひどくごきげんだ。彼の将来の見立てではユーノはカウンター型の剣士になるであろう像が浮かび上がりつつある。そして興が乗ったのか、子供二人に爆弾を投げることにした。

 

「つまり、それだけなのはのことをよく見ていたというわけだな!」

「うぇ!?そそそ、そんなことは!」

「そ、そうだよお父さん!恥ずかしいこと言わないで!」

「ハッハッハ!照れるな照れるな!いやー、将来が楽しみだ本当に!」

 

 なのはにぽかぽか叩かれながら追われる父親。それを黙って見ていたユーノはそういうわけじゃないのに、と思いつつ顔が真っ赤になったまま動けなかった。

 

「あの、恭也さん」

「……なんだ、フェイト」

「二人が何かおかしいけど、どういうこと?」

「…………うん、君にはまだ早いのかもな」

「??」

 

 よくわからないと首をひねるフェイト。彼女がこの感情を理解するのはしばらく先のことなのかもしれない。

 




――振り下ろし90%
――切り払いで連撃87%
――左へ回避推奨
――なのはかわいい

――4番カット

どう見てもエルトナム。


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A's is no longer needed
remembrance


第二部、はじまるよ!?


――西暦2005年8月某日 エキシビジョンマッチ終了後

 

「ようニック、うちの娘の調子はどうだい?」

「調子も何も、元気に魔力を吹かしてるぜ!今にも飛んでいっちまいそうなくらいだ!」

「へィ、そりゃ最高だな!一体どんなオシャレしてめかしこんでるんだ!?」

「まずはエンジンを魔力炉型に変えたな!ケツがくさかったお嬢ちゃんも今やミントの香りさ!航続距離だってバッチリ伸びてるはずだぜ!

 次にM61A1 20mmバルカン砲の給弾装置に魔法のアクセサリーをプレゼントしてやった!」

「そうするとどうなるんだ!?」

「わからねぇのかい?つまりだな、魔力を糧にして無限に弾丸を精製出来るってことだよ!しかも弾種変更も自由自在だ!」

「……ワォ。とうとうプログラマー班の奴ら……やりきったんだな!ソレって確かゴスロリ嬢ちゃんが使ってた魔法だろ?」

「その通り!……だがな、ゴテゴテにめかしこんだお嬢ちゃんはちょっとだけクレイジーな性格になっちまったんだ」

「あぁ?いったい何が問題なんだ?それだけ美人にしたてあげたんだ。多少の問題くらい目をつぶるぜ?」

「ああ、よく聞け……実はな……。

 

 ――着飾り過ぎてうごけねえんだ!!」

 

「アホかてめぇは!?」

 

 アメリカ合衆国ネバダ州南部に位置する場所にあるとある軍施設、グレーム・レイク空軍基地と呼ばれる場所でノリノリで会話する二人。彼らは現在航空機魔導化計画の一つとしてF-16の改良を行なっていた。彼らの目指す目標点は無限の航続力に、無限弾装、そして慣性制御や重力制御も加えた新たな機動力の確保と研究する題材は山のように有る。それらがようやく形になりつつあるために大喜びしていたのだが、現在の魔力炉ではまだまだ魔力生成量が非効率であるため合致するサイズのものでは少しばかり足りない事態に陥っているらしい。そんな彼らを余所に、実はこっそりと月村家がとんでもないダウンサイジングを計り成功したのだが彼らはそれを知らない。それが幸か不幸かわからないが、まだまだ新たに生まれた鳥が空を舞うには難しいといったところだろう。

 

「おー、いてぇ……ところでケイン。お前さんメシまだだろ?これから一緒にどうだい?」

「お、いいねぇ。最近はちび狸のおかげでメニューに照り焼きバーガーとかが入ってたな。アレ食おうぜ」

「相変わらずお前さんはバーガーが好きだな。ちっとは他の物を食おうって気にもならねえのか?」

「勿論食ってるぜ。ポテトをな」

「そりゃただのセットメニューだろ!?」

 

 荒野と山々に囲まれたこの基地は天然の要塞であり、また後方であるこの場所を攻めるような輩はいない。そんな場所だから彼らの纏う空気は非常に和やかだ。最も今の時代はどこも大した差は無いが、昼時もあって相当に彼らは緩んでいる。

 

 しかし、まさにそんな油断を突くかのように基地は混沌に陥ることになる!

 

Woooooo~ Woooooo~

 

 突然けたたましく鳴り出す警報。耳をつんざく高音は明らかな異常事態を告げている。ソレを聞いて数瞬、ゆるんだ考えを振り払うようにして彼らは、彼らの周りの人員も警戒態勢に入った。いったい何が起きたのだ、と。

 

『屋外に出ている総員に警告します!Code:8810発生!繰り返します、Code:8810発生!屋外のスタッフはバリアジャケット換装後、直ちに魔力銃を装備し襲撃に備えてください!なおこれは模擬戦です!繰り返します、模擬戦です!スタッフは非破壊非殺傷設定であることを確認してください!』

 

 ざわざわと慌てふためいていたスタッフたちはそれを聞いて、ビタッとその動きを止めた。彼らの思いはひとつ。そう、

 

――またあいつか、という諦念である。

 

「ファック!メシを食わせろよあの狸!またいらん事しやがって!」

「そうは言ってもよぉ、もはや恒例行事になっちまってるんだから仕方ねぇだろ。やれやれ、今日の付き人は誰なのやら。オッパイマムだけは御免被りたいね……マムがいるといっつも戦闘が長くなるんだ」

 

 これは基地にとある人物が来るようになり始めてからのいつ起こるか、いやいつ起こすかわからないイベント。そう、つまり極めて真面目で苛烈な

 

「お遊び」である。

 

 その遊びはいずれ来る可能性のある魔導テロ対策の一環でも有り、スタッフの息抜きでもあるのだが。仕掛ける側の周到なタイミングは彼らのいらだちを加速させられることによって冷静でないところを狙い打たれ、ケガこそしないものの阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのである。問題は仕掛ける側のメンツなのだが、とある一人は決まっているがペアを組んで攻めてくるもう一人が常に変わる。そのため即座に判断して対策を練らねばならず、この警報が鳴ってしまえば彼らの油断なんてものはゴミ箱に早々にポイしなければならない。

 

――ガガガガガガガガッ!

 

 さぁ聞こえてきたぞあの音が!コンクリート上を疾走するタイヤの叫び声が!それを吐き出すのは魔改造された「車椅子」の猛々しい回転音によるものである!車椅子とは思えないほどの速度で駆け抜けるソレはまるでジェットエンジンでも積んだかのような勢いで突進する!後方に吐き出すMGドライブの魔力流の残滓が彼女の通った道筋をキラキラと輝かせる!それはまさしく流星、彗星と呼ぶにふさわしい姿だった。走ることに特化しいかつく尖った黒い装甲を張り巡らせた車椅子を操るのは赤いスリットラインの入ったバイザーをつけた茶髪の少女。彼女が巧みに操る二本のスティックは戦闘機用の予備部品からちゃっかりぱくったフライトスティックに換装されている。それらから命令される各種武装、GAU-17 M134 ミニガンにも似た魔導ガトリングが目でもついているかのようにクリクリとあたりを見回し標的を探る。最早その姿は車椅子ではない!小さな戦車だ!

 

 その後ろを追従するのは同様にありえない速度で疾走する犬、いや狼!額の宝石、足に纏う装甲、特徴的な青の毛と白いたてがみをなびかせ、大型の獣が唸りを上げる。その姿にスタッフたちは気を引き締めつつも、少しだけ安堵した。

 

――ああ、よかった。今日はオッパイマムじゃない!

 

 あの人が出てくると大体大変なことになるのだ。地は砕けうっかり戦闘機を真っ二つにし、有り余る戦闘力で道行く道を遮る者たちごとバッタバッタと切り倒していく。そうなると最早彼らには手に負えない。幕が下りるのは9割9分の確率でコチラが全滅した時なのだ。だがあの狼、常識あるイログロのイケメンの彼ならばまだ手はある!彼はあえて弱点を露呈させ、上級者として正しく手加減をしてくれるのである。そうなればなんとかこちらにも勝ちの目を持たせてくれるのだ。

 

 ならば、今こそ戦おうではないか。我らの憩いの時のために!未だ腹に収まらぬ昼飯のために!

 

「総員、とつげきぃぃぃ!!!」

「今日の私は黒い王子様やでぇぇぇ!!!」

 

 そして中央で一人と一匹、その他大勢が激突した。飛び交う魔力弾、ドリフトする車椅子、地面から突き出る白い針にわんこの鳴き声。その場に残るのは実力ある襲撃者か、果たして運のいいスタッフか。その結果を知るものはこの場におらず、ただただ倒れ伏す真っ白に枯れた男たちの屍ばかりが残ったという。

 

 

 

 

 

「いやぁ~、今日もようやったわぁ。アリア~、私の成績どんなやった?」

「18人撃破ねぇ~。皆巧みに動くようになってきたから上等じゃないかしら?」

「そかそか。まぁ前よりかは減っとるけど、楽しいからそれでええわ」

 

 呑気に会話するのは先の襲撃者、八神はやてに審判を務めていたリーゼアリアである。彼女らはとある事情から度々この基地を訪れており、その度に少女は無茶をやらかす。彼女たちがこの基地へ訪れる理由は、用事のある人物がだいたいこの基地に引きこもっているせいだ。その人物は最近は割と外に出る機会は増えているが、管理世界と関わりを持つようになってからは逆に彼女たちの正体は秘匿しなければならない状態になっていた。

 

 闇の書の主とその守護騎士達。それが彼女たちが管理局に対し秘匿しなければならない正体である。

 闇の書とは古代ベルカに端を発するロストロギアである。本来は旅をする機能と復元機能を備えたデータ収集型のただの巨大ストレージデバイスであったのだが、過去に複数人の主達の手によって改造を施された末に暴走するようになってしまった。魔法の蒐集は他者のリンカーコアごと奪い取るようになり、強欲な主に隷属する形で守護騎士達が魔導師を襲う。そして闇の書が666ページを埋めて完成すると惑星を巻き込むほどの暴走を引き起こして転移するという、被害者を大量に生み出すはた迷惑な代物に成り下がっていた。その上外部からの操作による停止や改変は不可能となっており、無理に行おうとすると持ち主を巻き込んで転移する。要するに、災害に対処する管理局では全く手が出せない一過性の悪夢みたいなものだということだ。

 

 話は変わるが、ここグレーム・レイク基地にはある噂が存在する。ミステリーものが好きな、そうでないものも大体の人間が知っているまことしやかな噂。

 

 それはここに宇宙人、もしくは宇宙船が存在するというものだ。

 

 エリア51。当基地がある地区名だが、恐らく一般的な知識ではオカルトの代名詞として扱われている名前だ。実際ひどくバカバカしい話ではあるが、当地は無断侵入者は射殺される、撮影禁止といった看板があり、秘密裏な研究などもここで行われているのだからある意味では仕方ないことかもしれない。

 

 が、その裏付けをするまでもなく、つい先日衝撃的なニュースが地球全土を駆け巡った。

 

 国連により発表された管理世界の存在と次元航行艦アースラの地球来訪である。

 これにより明らかに人類と同種の宇宙人の存在が公式に確認され、いくつかの平和条約を結ぶまでに至った。それによりエリア51の宇宙人グレイという妄想上の存在は彼方へとかき消され、円盤型の宇宙船も無いという確かな結論が出されることになった。

 

 ところがどっこい、実際のところはホンマモンの宇宙人が数年前から基地内を闊歩していたのだが。

 

「ところで、君は何でここで料理をしているのかな?」

「ええやんスカさん。美少女の作ったおいしいもん食べたいやろ?」

 

 何かが焼ける効果音を背景に、一人の男が声をかけた。白衣に紫がかった髪、そして金の瞳を持つ地球の魔導開拓者。我らがジョニー・スリカエッティ。いや、あえてここでは元の名前、ジェイル・スカリエッティと呼ばせてもらおう。彼、ジェイルは諸般の事情からここで引きこもって魔法開発に従事していた。ジェイルは数年前、日本へと降り立った際八神家へアクションをかけていた。それは彼が教えられた前史に基づく行動であり、自身の興味とある契約に基づいた歴史の変化を生み出すためである。

 

 これにより闇の書は歴代で最も早く、しかも起動前のものを確保することが出来た。それにより八神家はジェイルの活動拠点であるアメリカに引越しせざるを得なくなり、現在ではラスベガスのウィンチェスター郊外に居を構えている。リーゼアリアがここにいるのは地球の魔導改革の一環であり、ギル・グレアムからの命令による監視任務となっている。守護騎士達に対し少しばかり壁はあるものの、温和なはやてに対しては垣根を超えて非常にフレンドリーに接している。前史においてはグレアムの心境が影響してか使い魔故に復讐心にとらわれていたが、今回はさほどひどいものではなかったためにこうして同行することができていた。

 

 以上が彼らの現在までの簡単な馴れ初めである。詳しくはもうしばらく後に語ることにしよう。ソレを詳しく語るにはさらに前の時期より語らねばなるからだ。本日はやて達がここに来ているのもそのためであり、時折訪れる友人ジェックとスカリエッティ達の変遷を聞くためであった。これらについて一番気にかけているのはむしろ守護騎士達のほうであり、彼女らからすれば管理局との接触はひどく危険を誘う要因の一つであるためだ。早期に闇の書を確保できた理由、ソレを知っててあえてジェイル達が魔法を公開し地球を危険に晒したこと、付き従うリーゼアリア等。一つ問題が起これば争いは免れないか細い糸の上に立っているようなもので気にならないわけがないのだ。そのため落ち着かないザフィーラはテレビを前に何故かシャドーを繰り返している。はやてに関してはほとんど興味本位であるため危機感らしいものは大して感じていないようである。

 

「あ、スカさんヤカンとって」

「もしもし、おたくのはやてがあなたの言付を破ってこちらに勝手に来ているのだが――」

「ちょいまちぃ、それはオカンや。……って何で電話しとるん!?」

「君がアポ無しで来るからだろう?帰ったら後でしっかり叱られるといい」

「ぐぉぉ、なんてことぉぉ……」

 

 彼女は情報と引き換えに帰宅後の怒号を手にしました、まる。

 

「それより、その目玉焼き焦げてるのだがいいのかい?」

「っは!しもたぁ……スカさんが話しかけるからやでぇ……」

「それは偏見というものだろう」

 

 飄々としたジェイルを尻目に、出来上がった目玉焼きを皿に移す。その出来栄えはあまりいいとは言えない。

 

「……なんや、今私何か大切な特技とか尊厳とか、そういうんを失った気がするで」

「失ったというより、元々手にしていないのではないかな?前史における君はこの年齢で非常に料理が得意だったと聞いているが」

「まぁたわけのわからんこと言うて混乱させようとしてもダメやで。……それもジェック君が関わりあることなん?」

「だいたい彼のせいと言えばいいかな?」

「おk把握したわ」

 

 とりあえずよくわからないまま納得する。今の自分が料理があまり得意でないのは彼のせいらしい。さもありなん、得るものもあれば失うものもあるということか。うん、さっぱりわからんけど、と適当にうなずいて再びアリア指導のもと料理を始める。

 

「やれやれ、母さんから時たま教えてもろうとるけど、いつになったらプロ級になれるんやろなぁ」

「努力とテクニックと愛情があればなんとかなるものよ。私が作ったの食べてみる?」

「アリアが作っとるのはねこまんまやないかい!人が食べるもんちゃうで!」

「失礼ね、他のもちゃんと作ってるわよぅ」

 

 やいのやいのと会話しながら時間はすぎる。ソレを見てジェイルは嘆息しつつも現状を変えることはしない。おおよそ自分も強欲であることを理解しつつ、この平和の多幸感に満足しているからだろう。思えば随分と自分もぬるくなったものだと感じながら彼は再び研究資料に目を向けた。

 

「ただいま戻りました主」

「食いもん買ってきたぜはやてー」

「おやつもありますよ~」

 

 そうしていると、バタンと扉が開いて再びの来客の音を告げる。今までここにいなかった守護騎士達の面々。シグナム、ヴィータ、そしてシャマルの女性陣3人だ。

 

「お、ありがとなぁ皆。……ん?ヴィータ、その後ろに隠してるもんなんや?」

「んげっ!な……なんでもない!気にしなくていいぞ!」

「んなわけないやろ!そんな大きいモン隠しきれると思うて……あーっ!?まぁたそんなバケツサイズのアイス買うて!いくらアメリカやからって限度があるやろ!?その量に慣れてしもたら日本で高級アイスなんて食えへんで!」

「フンッフンッフンッフッ!」

「げ、それは困る!」

 

 とかく小さな少女、ヴィータはアイスに目がない。うっかりスーパーで目にしてしまったアメリカンサイズのアイスを買ってきてしまっていた。味はともかくサイズはとにかくデカイ。いずれ日本に帰るつもりでいるが、量に慣れてしまったら日本のアイスでは物足りなくなるだろう。

 

「まぁまぁ、皆で食べればいいじゃないですか。これだけ人数がいればきっと食べ切れますよ」

「しゃあないなぁ。今回だけやで?」

「フッハッフンハッ!」

「わか……ってうっせぇよザフィーラ!何やってんだ!?」

「ム、すまん。ボクシングを見ててつい、な」

「こら!こっち向き!」

 

 人数が増えてさらに騒がしくなる一室。こういう雰囲気を生み出せるようになったのはつい最近の話だ。はやての足は前史と変わらず、しかし進行は遅いものの不自由になっていくのは変わりない。それまではジェイルによって治る、とは明言されていたものの、ある時期を待たなければならない点から本当に治るのかと疑っていたこともある。その時までこの部屋は正しく医務室のような状態だった。医者と患者、保護者が対面して向かい合うそれだけの寂しい部屋。時折部屋にナンバーズの誰かがいることもあったが、彼女らのコミュニティ能力を考えれば想像するまでもなく察することが出来る。つまり、間が持たない。この中で一番はやてと仲が良かったのが世話焼きのチンクだけであり、他の面々は早々に仕事に逃げた。クァットロに至っては会う前から逃げ出している。最近はマシになりつつあるが、彼女の教育はジェイルの中で上位に位置していた。

 

「あ、はやてちゃん。私も料理手伝いますね!」

「おいやめろ!はやてははやての母さんみてーにギガウマに作れるようになるんだから同じレベルに巻き込むんじゃねえ!」

「ムカッ!私だってちゃんと作れますぅー!」

「フォーク持っておいかけてくんじゃねえよ!」

「お、エルンガーがおるで」

「……主、エルンガーとは一体……」

 

 紆余曲折しまくったが準備が終わり全員がようやく席についた。テーブルには色とりどりの料理が並んでいる。ヴィータは最早喰い気が優先してこちらを向いておらず、シャマルはニコニコはやての世話係。せいぜい聞く体制を整えているのは若干ピリピリしているシグナムと、黙しているザフィーラくらいか。内容を知っているリーゼアリアは蚊帳の外。はやてはまぁ、時折事情を匂わせる発言を繰り返していたためか聞き耳立てつつも随分とリラックスしている。それでいいのかベルカ一同。

 

「さて、それでは話してもらおうかスカリエッティ博士。何故あなたが早期に闇の書を確保出来たのか。私たちの出現タイミングをつかめたのか、……そして、私達ですら覚えていない闇の書の正体を知っているのか」

 

 シグナムの発言を皮切りに他のメンツも視線を揃える。一応気になることは気になるか、とスカリエッティは微笑みを崩さない。

 

「そういえば、ジェック君はどうしたん?最近姿見せへんけど」

「主、その人物はどのような?」

「うーん、適当で放浪者で……変人かな?あとはちょっとだけテレビに映っとった高町なのはちゃんと似とるわ」

「……その者は、我らにとって障害となりえますか?」

 

 守護騎士としては当たり前の疑問に返したのはジェイルのほうだ。

 

「それについてはありえないね。むしろ、君たちの保護に尽力を尽くしているくらいさ」

「それは我らの力を悪用したいからなのでは?」

「彼自身が君たち以上の力を持っているから、必要がないね」

 

 シグナムはムッとした表情を作るが、何かを察したのか肝心な部分を切り返した。

 

「つまり、そのジェックという者が核なのだな?むしろ、あなたもその協力者でしかないということか」

「――ハッハッハ!」

 

 核心を突いた言葉にジェイルは笑う。いやはや素晴らしい。たかだか今の会話程度のヒントでそこまで考えつくとは、思いの外ヴォルケンリッターのリーダーというのは聡明ということか。

 

「クク、その通りさ。私自身も彼に救われた……いや違うな。この場合は天運を得たというべきか。もっとも、感謝はしてるからこそこうしてここにいるのだがね。はやてへの答えだが、ここしばらくは忙しかったし、最近はロストロギア狩りにでも出かけているのだろう。私自身も少々、彼に頼み事をしているのでね。ああ、彼が帰ってくれば施術を始めることが出来るな」

「ちゅぅことは、まだ中におる子も解放できてようやくまた自分の足で立てるようになるってことやな!」

「ああ、そのとおりさ」

「よっしゃー!燃えてきたでー!」

 

 やる気に満ち溢れるはやて。笑顔が心から溢れ出ている。

 

「で、結局どうしてこういう状態になってるんだ?話すんだったらさっさと聞かせてくれよ」

 

 焦れたヴィータが催促しだした。うむ、とジェイルは返事をして両肘をテーブルに置いた。その姿を見てはやてはイ○リ指令っぽいなとつぶやいている。

 

「いいだろう、あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか、まぁいい、私にとっ」

「いいから早く言えー!!」

 

 もはやグダグダだった。だが、彼を語るにはこれくらい適当であるほうがいいだろう。彼が行った事自体はさして大したものではないのだから。

 




というわけで語り出しです。


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Future drag

Vividのジークリンデ・エレミアが強すぎる……!
衝撃吸収、魔力防御があるバリアジャケットに対してサブミッションを使用するのは前にも言ったと思いますが、タイマンでの魔導師潰しはまさしく理想形ですね。

今回はジェイル過去編。ちょこちょこ地の文にウーノ視点が混ざっているので呼び名がジェイルだったりドクターだったりしてます。申し訳ない。


新暦54年ー西暦1994年

 

 ジェイル・スカリエッティは無感動を持て余している。

 

 「無限の欲望」ジェイル・スカリエッティ。後に広域次元犯罪者として名を広める事になる科学者である。彼の生まれは実在するかどうかわからないとされるアルハザードに端を発するものであり、そして当時生きていたオリジナルとはまた違う人物だ。

 

 クローン。彼は最高評議会によって生み出された新たな個体であり、オリジナルの知識は継いでいない。彼を生み出した理由はその叡智にこそあったはずであり、しかしそれは成されなかった。アルハザードにおいて生き延びるために若い体を培養して取り替えることは、衣替えをする程度に簡単であり当たり前のシステムだった。だがこのシステムはクローンが生まれると同時に、取り替える本人が「死んだ」状態で初めて成立する。

 

 人間が、自分が「死んだ」という認識を持てるかどうかによってクローンの自意識は決定する。オリジナルか、それとも新しいクローンの意識か。それは非常にシビアなタイミングで行われる。人に宿る魂は情報、記憶を持ったエネルギーであり、死亡時にそれは昇華される。だが、同じ構成の体があれば不思議な事に、自意識はクローン体に魂、情報エネルギーごと転移するのだ。これによりアルハザードでは完璧な肉体の取り換えに成功する。では、そのタイミングが違えるとどうなるか。

 

 クローンを転移より先に目覚めさせてしまうと、その時点でクローンは自身が生まれたという情報を記憶する。そうなってしまえば最早知識を持っただけの別の個体として新生するのだ。それはクローンが新たな魂を形成してしまうことにほかならない。それ故新生クローンが生まれてしまった場合、「知識」と「自己」の乖離に苦しむことになる。それはクローン特有の現象であり、また客観的に他者がお前は「オリジナル」だ!と押し付けて本当を知ってしまった場合はより顕著になる。経験が、魂が新たに生まれたのだから、当然以後の行動もオリジナルとは変わってしまう。それはクローンが新たに学んだ人生、経験であり、その影響で微細な動作や利き手、リンカーコアなどにオリジナルと差異が出てしまうのは当たり前のことだ。

 

 

 そして、そのシステムを最高評議会は知らなかった。

 オリジナルはなんらかの事情で存在せず、記憶のバックアップも成されていない状態でDNAから再生させたとしても、当人とおなじになるわけがない。勿論アルハザードの叡智を完全に解析しきれなかった最高評議会の手落ちでもある。結果、ジェイルは何も持たない新生児として誕生した。苦し紛れに最低限の知識こそ刷り込まれたものの、即席で役に立たないのであれば閉じ込めて延々と開発のみに従事させるほかなかった。それは紛れもない彼の生まれながらの不幸だった。

 

 そうして生まれた彼は生命操作技術の完遂と、そのための空間づくりという夢へ動き始める。それが最高評議会に刷り込まれたものだと薄々わかっていたものの、彼にはそれ以外にすることがなかった。

 

「…………やれやれ、いい加減老害どもに付き合うのにも飽きてきたね……」

 

 開発資料をデスクに散らばらせながら彼は愚痴る。それも仕方ない、一体何年ココに閉じ込められて開発を続けていただろう。スカリエッティが認識できる世界は拠点を置いた人里離れた洞窟しかなく、ひどく狭い。そして彼が手に入れられる情報は客観的でしか無く、感動を抱くには遠いただの記録でしか無い。美しい光景も、本当に美味しい食事も、己の身で何も体験したことのない彼は徐々に精神をすり減らし無気力になっていく。それはいかに興味を持った物を調べ開発を続けようとも、限られた世界でしか生きられない彼の気が狂うに十分だった。そして開発はほんのわずかな慰め程度にしかならない。ああ、もうたくさんだ!作れと言われたから作り続けてきたがそれが何になる!本当に自分が欲するものもわからず!自分が生まれた意味すら知らず!成果は全て老害に搾り取られどうあがいても己のものには成り得ない!

 

 最早瞳は胡乱げに揺れ、ガリガリと引っ掻いた頭皮は血に濡れ髪はボサボサになった。もう心は限界だった。

 

「ああ、そうだ。だったら壊してやればいい。こんなくだらない世界なんて……!」

 

 そして彼は静かに狂い、その頭脳を持って予定を練ろうとして、

 

 

「それ、少し待ってくれない?」

 

 

「――――――っ」

 

 自分しかいなかったはずの室内にいた誰かに声をかけられた。急激に膨らみかけてはじけようとしていた熱がゆっくりとしぼんでいく。驚くよりもまず彼は期待した。予定外のイレギュラー、奇跡、なんでもいい。現状を変えられるなら、彼は藁にも縋りたい気持ちだった。

 

 ゆっくりと背後を向く。そこには子供がいた。茶髪でくりっとした目をした可愛げのある、性別不詳の誰か。それが伽藍堂の視線でジェイルを射抜いている。およそ見た目は5歳くらいか、しかしその予測に違えて、先の言はしっかりと理性的な響きを持っていた。

 

 いつ入ってきたのだろう。扉は開いていない、アラートもなっていない。警備を任せていたウーノもこちらに来る様子はない。全くもって謎、そんな人物がただの子供であろうはずがない。

 

 だから聞く。

 

「君は、なんだ」

 

「なんだ、とは失敬だな。だが的を射ている質問でもある。答えるならば、そうだね……ただの現象、もしくは神といったところかな?」

 

 ずいぶん大きく出たものだ。鈴のように高い声色で話す子供の――喋り方からすれば男の子だろう――彼の口調は抑揚がなくその審議を見定めることが出来ない。現象、それは物理的霊的なんらかの要因によって起こりうるシステムに属するものであり、神、彼はシステム自身ということか。

 

「なるほど、人間の形を採った神か。となると、おおよそこの部屋にもシステムを濫用した反則でも使って忍び込んだということかね?」

 

 口元だけでにこりと少年は笑う。実に胡散臭い。対人経験が絶望的に少ないジェイルですらわかる、あんな貼りつけただけの笑顔なんて見たことがない。

 

「そうだね。ところで、僕も質問があるんだけどいいかな?」

「構わないさ。君との会話は中々に楽しくなりそうだからね」

 

 相対する者にも大胆不敵。しかしジェイルは決して油断しない。彼の一言一句が己の人生すら左右する可能性があるのだから。

 

「なら、あなたの欲しい物をいくつか聞いてくよ」

 

 そんなもの、どうせ全てイエスで答えるに決まっている。何せ自分は「無限の欲望」なのだから。

 

「金は?」

「欲しい」

 

「名声は?」

「欲しい」

 

「自由は?」

「欲しい」

 

「平和は?」

「欲しい」

 

「友人は?」

「欲しい」

 

「家族は?」

「欲しい」

 

「穏やかな生活は?」

「欲し……ふむ?」

 

 スタンダードな欲求から徐々に変化していく質問に、ジェイルは不思議な感覚を覚えた。たしかソレはいつか手に入らないと知って、いや違う。そもそもそんなものがあると知らなかったから望んですらいなかったものではないか?

 

「無限の欲望って、随分と大胆な二つ名だよね。いや、元は開発コードだったっけ。でもそんなのはごく普通の、当たり前の事だよね」

「……何が言いたい」

 

 聞けば帰れなくなってしまう予感を覚えた。今までのジェイル・スカリエッティを構築してきたアイデンティティをガラガラと崩しかねない危険な未来。一寸先は闇、だがその一歩を踏まずして何がジェイル・スカリエッティか。

 

 

「そもそもね。欲、なんてのは死ぬ時まで皆当たり前のように持っていることだ。それは負の感情だろうと、そこに「したい」という願望が有るならほら、生きている限り無限なのと何が違う?死にたいと思うのも、生きたいと思うのも、なにか大切な物を守りたいと思うことも、奪いたいと思うことも全て欲だ。人は常に何かを欲していて、欲そのものには何の貴賎もない。そうは思わない?」

 

 

「――――――――」

 

 衝撃的すぎて、言葉が出なかった。誰もが持っている普遍的な感情。己の際限なきソレが特別なものだと思っていたのが間違いだと、彼は言った。つまり、自分は、そこら中にいる凡人たちと何一つ変わらないただの人間であると思い知らされてしまったのだ。彼の言ったとおり、「無限の欲望」はコード名であり正しく己を指す記号ではない。籠の中の鳥である己が手に入れられるものが制限されていたから情報に過敏になっていただけで、いつかコード名でそのまま揶揄されるようになったからそれが自分自身だと思い込んでしまっていただけだ。

 

「……ちなみにだが聞かせてくれたまえ。2つの欲求がかち合ってどちらかしか得られぬ場合、それは我慢をしているということではないのかね?」

「わかっていないね。そもそも天秤にかけてしまう時点で、あなたは「最善策を用いたい」と欲を出しているじゃない。もしくは「どちらかを犠牲にしてでも成したい」事があるかな?欲求というのは二極論で語れるものではないでしょう?それこそメリットデメリットを判断の材料に用いている時点で、あなたは既に凡人だよ」

 

「…………ククク」

「うん?」

「ッハハハハハ!アッハハハハハハ!そうか!そうだったか!私は凡人か!なるほど、理解はしたよ!」

 

 腹の底からの笑いを生み、しかしジェイルはその激情を怒りという形で少年にたたきつけた。

 

「だが、納得は行かない!!何故私のことをそこまで知っているのか!私ですら知らない私の事を理解していたのか!そして……!

 

――どうして私を説き伏せた君自身の言葉にそこまで説得力がない!?」

 

 まるでタブーを初めて触れられたみたいに、ジェイルはぶちキレた。己を暴かれるという行為は誰だって逆鱗に触れること。

 

――お前に言われたくはない。

 

 彼が抱いたのは至極当たり前の感情だった。

 それもそうだろう、いきなり現れた少年は人の心にズケズケと侵入し、あまつさえその本人の説得は理路整然としていたもののおそらくは彼の経験則そのものではなかった。まるで機械が淡々と音声を垂れ流しにしているようなイメージしか抱けない。少年は変わらず無表情で、説得するならもう少し言葉に力がにじみ出る事くらいジェイルは知っている。ただネタがあるから述べてみただけ。それを勝手に理解してしまったジェイルの一人相撲のなんという悲しいことか。二人で会話しているというのに何も感動を得られない。ジェイルの初めての行動はとてもさみしいものになった。

 

 そして、それだけの事をしでかす理由が一体少年のどこに有るというのか。おおよそ、自身と接触しなければならないような目的があるのだろう。だとしたらそれは打算で、謎で、ジェイルは裏付けを、解明をせずにはいられない。彼の行動の発端、ルーツを知る必要がある。でなければ、説得されてしまった自分は……!そこまで考えて、熱くなりすぎた感情は言葉を発するのすら止めてしまった。

 

「…………まぁ、それは仕方ないね。何せ、こちとら生まれたばかりだ」

「何?」

 

 5歳台のナリをして生まれたばかり、それは辻褄が合わない。普通ならば。

 しかしここには培養槽があって、その手の研究を己がしていることからあっさりと彼は回答を得る。つまりこの少年は、人工的に生まれたのだと。とすれば少年は自分の技術を使って他所で作られた研究体か何かだろうか。そうであれば最高評議会の手にかかっている可能性が高い。それはひどく落胆する事実だ。

 

「生まれたのはいつだ?」

「およそ新暦86年ごろ、かな?」

「…………何?」

 

 おかしなことを聞いた。現在は新暦54年、およそ32年も先のことだ。それはつまり

 

「君は未来から来たということか。それを証明できるのか?」

「そうだね、こんなのはどうだろう」

 

 そう言って提示されたのはいくつかの資料。これからの管理世界における為替の動向や社会情勢等のある程度は予測が現在からでも立てられるもの、ナンバーズの娘たちの詳細なデータと未来での運命、そしてジェイル自身が行った数々の悪行、最高評議会の死、己を生み出した高町なのはというキーになる人物や夜天の書、論文を出そうとしたプロジェクトFに関することまで様々にあった。

 それら全てを流し読む勢いで、しかし穴が開きそうなほど強い視線でジェイルはそれらの情報を吸収していく。ジェイルはこのデータが未来のものであるという確信があった。少なくとも自身のことや娘のことは具体的な部分で合っている。未来でのこととはいえ最高評議会の面々が死んだことは驚きとともに、自分の計画の実行力を自画自賛した。

 

 だが何より驚いたのは、罪を犯した事で逮捕された自身の顔がどこか満たされたものだったことだ。

 牢獄に入れられ研究もできず、無人世界故にほとんど人がいない。こんなところに閉じ込められるのはおおよそ知性の感じられない者達ばかりで、話し相手もいない彼にとってはどう考えても苦痛でしか無いはずだった。それでありながら、彼はドゥーエが死んでしまったことにわずかな後悔を抱きつつも、家族全員のある程度の安全が保証されたことに満足していた。そう、満足。決してスカリエッティが得られるはずのない感情を未来で持っていることに、今の彼は憧憬を抱いていた。

 そして、前回の彼には無かった即効性のある人物が、階が見えている。これはまたとないチャンスであることを彼は知った。

 

 確かな背景を知ったことによりジェイルは徐々に冷静さを取り戻していった。そして同様に、彼がどこにも所属していないことに再び希望を見出した。

 

「ふむ、少し長話になりそうだね。そちらに座りたまえ、今飲み物を用意させる。ウーノ、紅茶を持ってきてくれ。二人分だ、頼むよ。いや?客人のだよ。私たちの将来を決めるかもしれない人間だ、丁重に扱ってくれたまえ。……待たせたね、始めようか」

 

 そうして彼らは、ようやく話し合いの席に着くことになった。

 

 

 ウーノの初見での感想は、「誰だこいつは」という邪推まみれのものだった。紅茶を二人分、と言われ自分とドクターの和やかな、そしてレアなティータイムが始まるのかと思えば片方のカップに口をつけるのは年端もいかない少女(?)である。目がくりくりして可愛らしくてとても憎たらしい。こんな素晴らしいボディをドクターにもらったというのに、まさか彼がロリコン趣味だとは決して思いたくはない。加えて、自分の監視網をかいくぐってあっさりとドクターの前にいるのも気に入らない。嫉妬まみれのウーノがまずしたことは、素性の知らぬ子供を問い詰めることだった。

 

「何者ですか、あなたは」

「そういえば、まだ名前を持ってないね」

「…………は?」

 

 そして早速躓いた。彼女のプレッシャーはまるで意に介さないというか気づいてすらおらず、少女は名前すら持ってないというマイペースぶりを発揮している。

 

「そういえば君は、転移後ハラオウン氏を救出した後ですぐにココに来たのだったね。奇跡の脱出劇として大騒ぎされていたよ」

「ハラオウン……、闇の書の件ですか」

「そう、アレに関わっていたのはそこにいる彼だよ」

 

 なるほど、話からすると彼は転移に関するなんらかのレアスキルを持っていると……うん、彼?

 

「ウーノも勘違いしていたか。あんなナリでも男の子だそうだ。まぁ元にした人物が人物なのだから仕方ないようだが」

 

 むしろそれは今年一番のサプライズではないだろうか。こんな可愛い子が男の子なわけが……!いや、見た目がああだからといってドクターに危害を加えない可能性が無いわけではない。一体何を話すのか知らないが、しばらくここで聞かせてもらうことにしようと隅で立っていることにした。

 

「へぇ、これは美味しいな。紅茶ってこんな味なのか」

「そういうことは君も知らないようだな。ウーノは家事が万能だからね、この程度は造作も無い」

 

 そこは家事より実務能力の方を褒めてほしい、とウーノは微妙な顔をしている。

 

「知識としてはあってもね。……そういう意味では、あなたと大差がないか」

「クク、お互い知らないことが多いもの同士、仲良くしようじゃないか」

 

 そして驚きで再び表情が変わる。まさかドクターの口から仲良く、などという言葉が出ようとは。一体どんな心境の変化があったのか、今までのいきさつを知らないウーノにはわからない。だがジェイルも、今は少年に心惹かれているが先までのやり取りはしっかりと内面にまで響いていた。少しずつ、ではあるが彼も何かがかわろうとしているらしい。

 

 

「まずは確認からさせてもらうとしよう。君は新暦86年頃、時代の英雄と称される魔導師高町なのはの執念によってレリックとジュエルシードを用いて生み出された。現在はそれらを核にレアスキルの状態維持に務めているため基本的に魔力は無いに等しい」

「そう、そして滅亡する管理世界から時間を遡ってこの時代にやってきた」

 

 時の魔法は現在全く手がかりがなく、管理局においては「不可能」とまで言われ研究されていない魔法の一つだ。この少年はソレを使えるという。だがおどろくべき点はそこではなく、その魔法ですらシングルアクションで行えるレアスキルの範疇にすぎないということである。

 

「君のレアスキルは「縁」を操作する能力、か。時間を渡ったのは他者が結び合う縁を渡ってきた結果によるものということか。転移とセットということだね?ちなみに縁、いや運命と言い換えてもいいか。時間を渡る場合未だ出会ってない者同士の縁というのもあるのだろう?その場合はどうなるんだい?」

「縁があるというのはなかなかやっかいでね。これがある程度どのような行動をとっても収束するようになっていて、会うべき人間はどうしても会うんだ。僕の能力は基本的に結果が先に来るから、渡っているのはどちらかというと因果の流れみたいなものだね。もっとも、これから人為的に介入を行なっていけば弱い縁程度ならあっさりと切れてしまう。だから僕の転移は未来に向かうほど状況に左右されやすいんだ。といっても、自分自身が世界とつないだ縁を使えばある程度は自由に行き来ができるけどね」

「なるほど、ミクロの部分では応用が効きづらいということだね。

 ……そうだ、思いついたよ。君の名前だ。ジュエルシードとレリックでジェック。そして君を生み出した縁を込めてライン・高町。そう、ジェック・L・高町なんていうのはどうだい?」

 

 へぇ、と少年の顔がわずかに動いた。そこには感心が浮かんでいる。

 

「驚いた。娘たちに番号で名前をつけるあなたにそんなセンスがあったなんて」

「何、これでもそれなりの愛着はあるからいいのさ。で、どうだ?気に入っていただけたかな?」

「ああ、いいね。ソレで行こう。今日から僕はジェックだ」

 

 こうして予想もしない人物から命名されることによって彼はようやく確かな存在として地に足をつけた。言うなれば今までの彼はこの世界と大した繋がりのない、ふけば消える程度の存在であった。それは後にも先にも、個と個を認識するためのタグとして名前をつけるという行為は非常に重要なファクターとなるだろう。

 

「ちなみに他にどんなことができる?」

「さっきも言ったとおり、この能力にはまず結果が先に決定される場合が多い。例えば「僕と銃弾は縁がない」としておけば、どのような過程を得たとしても銃弾が当たることはなくなる、といった具合かな。意図的に避けるにしても、偶然しゃがんで当たらなかったとしても、必ずそういう風になるように収束する。これによって誰かと会いやすくなるような「縁結び」やさっき言ったとおりの「絶縁」などが可能、かな」

 

 聞けば聞くほどとんでもない能力だ。だがその汎用性故に結果をピンポイントで持ってくることができるが、ソレ以外には意味が無いという弱点も存在している。銃弾に縁がない、とすれば殴りに行くことだって魔法を使って当てることも可能だ。そこに付け入る隙がある。だが、例えばの話だが「個人」が「世界」と縁を切られてしまった場合は果たしてどうなってしまうのだろう?と不意にウーノは考えてしまった。もしもソレが出来るのであれば、邪魔な相手を尽く消し尽くす事が出来てしまうのではないか。もしもドクターが彼の不興を買ってしまったら、一巻の終わりだ。シングルアクションで発動できる以上、その場にいる全員に対抗策がない。それはとてつもない恐怖だ。

 

「……といっても、人間は自分の意志で行き先を決めるものだからね。強固な意志に基づいてるものなら効きづらいと思う。まだ試したことはないけど」

「なるほど。それで、それを用いて君は何をしたい。いや、何をするようになっているのかな?」

「何故言い直す?」

「君はまだ、高町なのはの願いを基盤にしたプロットに従って動いているだけだ。言うなればまだ生命でなく、魔導プログラムでしかない。そんな君が自発的な願いを持っているとは思えないね」

 

 自我というものが一体何に由来するものなのか。それはまだ人生経験が少ないジェックにはわからない。なるほど、とだけ納得した時再びジェイルは話しだす。

 

「それでだ、私と契約をかわさないか?」

「契約?」

「そう、契約だ。私としても、君の目的のために使役されるだけというのはゴメンだ。最高評議会の老害どもと頭をすげ替えただけでしかない。だから私がしたい事に君が手を貸し、君がしたい事を私が手伝う。それならば対等だ」

 

 特に考える様子もなく、ジェックはその要求に賛成する。

 

「わかった。要求は何?」

「そうだな、まずは最高評議会の監視を逸らし脱出を図ること。あとはそうだな、さっき君が私に質問したものをくれるならそれでいい」

 

 ジェイルにしては随分と低い要求のように見える。しかし彼の自由というのは言葉以上に重要な響きだ。おそらくは、それだけを得られたなら後は彼自身の手によって勝手に邁進していくだろう、という確信がジェックにはあった。

 

「そう、じゃぁこちらの要求は……ちょっと煩雑だ。まずは高町なのはが魔法に傾倒しすぎない環境を地球に作りたい。そのために地球に魔法というものがあることを公表したい」

「ならまずはアポイントメントをとるべきかな。ならば――」

 

 そうしてジェイルとジェックの作戦はジェイルの立案能力によってポンポンと決まっていった。第一目標は高町なのはが魔法に縛られない選択肢を自由に持てるようにすること。そして管理局のむやみなスカウトを止めるための組織体制を作り上げるための改革を促すか、高町なのはが管理局入りする場合でも不当に扱われないようにすること。これらは全て高町なのはを理由にしたものであるが、それを為すための大規模な変革による地球と管理世界の亀裂を生まないようにするためという理由もある。決定的にこじれる可能性があるならば地球が揚げ足取りが出来る状況にしてしまえば、善良精神の塊をうたう組織であれば反論は不可能になるだろうという目論見だ。

 

そして決まった内容は以下、

・ジェイルの脱出は準備を考慮し1年後を目標とする。

・その後、地球でコネを作り自身の身の保証を確約してもらうため国連総長に接触する。

・各国上層部に秘密裏に管理世界というものがあるのを教え、魔法を教える条件として足踏みを揃えさせる。

・戦争理由を抑えるための草案の提供、平和利用へ向けたアプローチ。

・聖王の鎧を解析し、衛星型起動装置を静止軌道上に撒いておく。

・ジュエルシード事件は形を変え起こす。

・闇の書を確保し安全な解体を行う。

 

管理局側

・クライド・ハラオウンを筆頭に管理局を纏めてもらう。

・英雄思想的な体制を見直し、文官も戦えるように装備を拡充する。

・未来情報を元にブラックリストを作成し、最高評議会派を更迭する。

・上記を一挙に行い、管理局の暗部を世間に晒すことで局の信頼性を下げ各世界の政府が介入出来る余地を作る。

・それによる局の再構築を目指す。

・最高評議会はジェイルの希望によりどのような形であれ三途の川をわたってもらおう。

 

ジェックの行動

・高町なのはに関わった人物の知る限りでの不幸の排除。

・当初通りの目的であるロストロギアの追放による未来での安全確保。

 

 このような具合であった。

 

「契約成立だねジェック。これからよろしく頼むよ」

「こちらこそ。僕達の目指す未来の為に」

 

 それからは時が来るまでお互いはやるべきことに走った。ジェイルは己の自由のために、ジェックは未来の安全と高町なのはのために。その傍らで長い付き合いになるのだろうとため息を吐くウーノの姿もあったが、彼女は彼女でドクターにべったりなので彼が嬉しそうにしているのであればただそれでいい。そう思いながら手伝いを行うのであった。




条件付けはアバウトですがだいたいこんなかんじで、という初期案。まぁネタとしては1st部分でやりきったので別に書いても書かなくても皆さんお分かりいただけるのでしょうけど。局再構築に関してはまたいずれ書きます。


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cofy

Alan wakeやってたせいで文章が凄まじくおかしなことになっている。1$セールは悪魔の香り。

現在ちまちまなのはのイラストを書いているが、下半身をショートパンツにするかどうかで悩んでいる。地球の良識ある皆さんの前でパンチラはご法度なのだ。


新暦55年 西暦1995年

 

 コフィー・アタタンは昼下がりのダウンタウンを一人でさっそうと歩いていた。その姿を常識人が見れば驚愕し、有識者が見れば卒倒するかガードマンをつけろと騒ぎ立てるだろう。国連事務総長になって間もない彼だが、そんなことは知ったことではなく必要性も感じない。何故ならこの街はコフィーのふるさとであり、庭であり、町民の全てが彼の家族だからだ。

 

 彼は生まれた時から異常だった。いや、真理を見ていたという方が正しいか。彼が生まれて間もない当時の街はひどく荒れていた。発展する街と激動の時代、そして戦争が彼らの余裕を完全にそぎ落としていたからだ。みるみるうちに人々は暴力的になっていった。その中でコフィーは子供ながらに治安維持に奮闘していた。人々が争っている姿を見るのはとても悲しかった。「暴れないでください」と声高に叫ぶのは楽だが、表層的なものでしかない安易な行動を彼は取らなかった。

 

 ここが彼の素晴らしい所で、才覚を発揮しカリスマの片鱗が見え始めた頃である。彼は一軒一軒を回り丁寧に意見を聞き、人々の心に何が影を生んでいるのか、徹底的に根っこを確認しまくっていた。ソレが終わると流通や食料関係、家庭問題とあれこれ手をだし、時間こそかかったものの少なくとも彼の街とその周囲はある程度の平穏を保つことが出来た。以来彼は町のご意見番として大人を差し置いて中心的な人物となった。彼はまごうことなく、誰にも慕われる天才だったのだ。

 

 そんな彼だからこの街で知らない人間は誰もいない。通る人々に陽気に挨拶され、日々の生活を誰もが話し、地元のローカルな話題はおおよそ浚っていた。最近の話では滅多に見ない美人がこのあたりを観光しているらしいことを知った。土地勘のない人間がこの辺りをウロウロしているのは珍しい話だ。

 

 

 一時間ほど街を練り歩き露店で食べ物を買い、空が茜色に染まる頃には我が家へと返ってきた。最近は米国の方に住んでいるためにあまり利用していないが、ハウスキーパーのおかげで庭先はキレイに片付いている。門前のポストを覗けば一通の手紙があった。それはコフィーの友人であるサンタナからのものだった。久しい友人からの頼りに嬉しくなって、彼はこの時感じた違和感を後回しにして封を切った。手紙には彼のたどたどしい文字でこう書かれている。

 

『やぁ親愛なるコフィー。○月✕日の21:00に僕が魔法を見せてあげるよ。楽しみに待っていてくれ』

 

 懐かしい彼の陽気さや唐突さを思い出しながら、✕日は確か明後日だったなと考えた時、自分の滞在予定を思い出した。滞在予定は一週間、そして2日前からここにいるので時間的にはギリギリだ。そもそも、彼は私がいつココに来るか知っていただろうか?しばらく連絡していなかったからスケジュールを知っているはずがないのだが。そう思ったものの、コフィーはまぁ彼だから仕方ないかと納得した。コフィーを振り回し続けてきた男はいつだって彼の予定を鑑みたことはなかったのだ。

 

 しかし魔法、ね。もしかして彼は手品でも習得したのだろうか?案外一人で人体切断ショーなんてやってのけるかもしれない。彼はコフィーを驚かすことが目的だろうが、単純に驚くだけでは芸がないのでこちらも何かしらの気構えを持っておいたほうがいいだろう。そう考えて歓待の準備をしながら、コフィーは当日を待った。

 

 

「……あと5分か。それにしても来る気配がないな。何かあったのか?」

 

 夜に静まる部屋の中で、コフィーは一人その時間をリビングで待っていた。しかし外から車の音が全くしない。サンタナは非常に律儀な男で、予定の10分前には来るような日本人みたいなやつだ。この年齢にもなってどうこう言うわけではないが、事故でも起こしたのではないかと不安が鎌首をもたげる。そうして不安と来ない苛立ちに両ばさみにされながら、とうとう時間が来てしまったその時。

 

「な、なんだ!?」

 

 唐突に部屋の中央が光った。光を発する何かは不可解にも空中にわずかに浮いてゆっくりと回転している。円陣、いや魔法陣だ。それはまるでコフィーが信仰するスピリチュアルな何かにも黒魔術的な何かにも見えた。どんどん強くなる光が一定に達した時、それは何事もなかったかのように消え代わりに小太りの男が立っていた。コフィーの友人サンタナ、まさか彼があんな現れ方をするとは思わなかった。少なくともリビングに隠れるような場所はない。加えて人の気配も全くなかった。一体彼はどんな手品を用いたというのか、コフィーは強く興味を惹かれた。

 

「やぁサンタナ!久しぶりじゃないか。今のはどうやったんだ?」

「ああコフィー、どうだいすごいだろう?いいかよく聞けよ、ありゃ手品じゃねえ。本物の魔法さ!」

 

 ここでコフィーがしばらく感じていた違和感が確信に変わった。まるでもやが晴れたような気分で彼は指を突きつけた。

 

「……君、サンタナじゃないな?誰だね?」

「おい?何を言ってやがる?俺がサンタナ以外の何者に見えるっていうんだ?」

 

 確かにそうだ。言っている自分もおかしいが、だが同時にサンタナの行動もおかしいのだ。

 

「サンタナという男はな、まず友人に出会ったら男女問わずキスをぶちかますんだ。彼なりの親愛表現としてな。最後にあったあたりはヨダレまでセットだったよ。最悪な気分だった」

「…………」

 

 サンタナらしき人物は黙って聞いている。不思議にも彼は微動だにせずこちらの言い分を聞いていた。

 

「そしてもう一つ。郵便はね、14時を過ぎたら来ないんだ。この辺りを配るトーマスは生真面目なうえにせっかちでな。ミスをしない上に配り終わったら早々に帰宅するんだ。だからあの時間に手紙があるなんてことはないんだよ」

「……それじゃあ、俺は誰だって言うんだ?」

 

 まぁまず間違い無く知人ではないだろう。

 

「知らん。だがな……

 

 男のくせに内股で歩くアホがどこにおる!!!」

 

 彼の怒声にサンタナの空気が凍った。見開かれた目は驚きに「そういえば」と今頃思い出したような感情が含まれている。指をさしたままコフィーはサンタナの動きを注視した。

 

「………………」

「………………フフ。確かにそうね」

 

 サンタナの姿をした者から飛び出した声はまさしく想像した通りの女性の声だった。さすがに事実を突きつけたものの、ここまであっさり声が変わるのは驚きに尽きる。今度はコフィーが目を見開いてしまった。

 

「まさか、こんなにあっさりバレるとは思わなかったわ。やっぱり初めて男に変身するのは粗があったわね」

「――っな!?」

 

 まるで早着替え、いや瞬きをしたら違うものにでも変わってしまったというくらいにサンタナの姿はあっさりと掻き消えた。代わりにその場に立っているのはくすんだ金髪の女性。しかも何故かぴっちりとした青いボディスーツをまとっている。

 

「…………変態かね?」

「やっと出てきた言葉がそれってどういうことかしら?一応理由があるのだけど、……それよりも通報の一つくらいすると思っていたのだけど、意外に冷静ね?」

 

 その言葉にコフィーはフ、と苦笑を漏らし穏やかに答えた。

 

「何、殺意や敵意には敏感でね。戦中戦後は暴力的な人間に溢れていたし、その程度判断するのはわけもないよ」

 

 自信に満ちた返答にそう、とだけ女性は答えた。ちなみに彼女はいくつかの粗をあえて残していた。普段彼女が行なっている隠密工作と違い、完全に偽装する必要がなかった。むしろ気づいてもらったうえで、魔法というものの存在を知らせ、正体を現すという手段を持って僅かに警戒心を削ぐ事も目的の一つだからだ。

 

「しかし、それが魔法というやつか。まさかサンタナが女性に変身するとは思わなかったよ」

「…………」

「冗談だ」

 

 疲れたようにソファに座り込むコフィー。内心はめんどくさいものが飛び込んできたとでも考えているのだろう。少しばかり諦観があらわれている。女性の方は勝手気ままに対面のソファーに座っていた。

 

「それで、君の名前はなんだね?良ければ教えてくれないか」

「ドゥーエよ。よろしくね、国連事務総長さん?」

「まだ名に恥じない活躍はできていない新人だ。肩書きは結構だよ」

「ではコフィーで。ふふ、いい響きね」

 

 年寄りを褒めても何も出ないがな、と苦笑して彼は話を進める。

 

「君は一体何の用があって私のもとに来たのかね?」

「魔法について、そして地球の平和のためかしら」

「随分と大きく出たものだ」

 

 もっとも、その調和を取るために私のような存在が有るからコンタクトを取ってくるのは正しい。しかし直接というのはいささかマナー違反な気がしないでもないなと彼は思った。だか不謹慎ながらも、どのようなびっくり箱か楽しみにしている一面も彼にはあった。

 

「それなんだけど、私は仲介人で本当に交渉したい人は別にいるのだけど、呼んでも構わないかしら?」

「……もうこの際だ。出涸らしになるまで尽くしてもらおうか」

「ふふ、遠慮の無い方ね」

 

 再び部屋に光が閃き、転移の扉が開いた。再び現れたのは男で見た目は整っていないが、金の瞳には強い力を宿しているように見えた。

 

「こんばんわ。サプライズはどうだったかな?」

「年寄りの心臓には良くないな。君は、科学者かね?それとも医者か?」

「どちらでもあるけど、強いて言えば科学者よりだね。ジェイル・スカリエッティだ、よろしく」

 

 互いに握手を交わして対面に再び座り合う。交渉を持ちかけたジェイルに緊張感は見当たらない。

 

「性急だが本題に入ってもらおうか」

「それもそうだね。私がしたいのは地球にとって革命的な新技術である魔法の普及、そして地球にはびこる宇宙人の退治だ」

「なんとも映画のような話だな?しかし、新技術ということはそれは科学なのか?」

 

 コフィーという男は米国でマサチューセッツ工科大学で科学修士をとれるほどの秀才だ。政治以外でも優秀なこの男には生半可な嘘やエセ科学は通用しない。下手な論文でも見せれば即座に切って捨てられるだろう。

 

「新エネルギーを用いたものだが、一応量子力学の応用といったところかな。これを見てもらえば分かる」

 

 そう言って彼が軽く手をかざすとコフィーの目の前に投影型のスクリーンが現れた。最早それは液晶の解像度の比では無いほど鮮明に写っており、書籍よりキレイなのではないかと思えてしまうほど。

 

「タッチパネル式だから触ることも可能だよ。読んでみるといい」

 

 恐る恐る触ったそれには今までに見たこともないような画期的な技術のオンパレードだった。魔力素を元にした半永久に扱えるエネルギー。魔力によって現象を書き換える魔法理論、それを扱うための演算能力を持ったデバイス、各個人における証明不可能だったESP能力などの実証など様々な分野に渡っていた。デタラメにしては出来過ぎて、しかしわからない部分も多かったがそれは間違いなく真実足るものだと彼は実感出来た。

 

 何よりも魔法の優秀なところは、術式次第で広く汎用性が得られる点だ。それこそ医学、情報処理、軍事、民間、ありとあらゆる分野に対応できる。言い換えるならば現実世界をパソコンに置き換えたようなものだろう。ありとあらゆるソフトウェアを現実で実行するようなものだ。

 

「これは……すさまじいな。明らかに現在の科学力から隔絶している。果たして何世代先になるか……。しかし、これは君の成果だろう?何故発表せずに私のところに持ち込んだんだ?」

「簡単だ。下手に一国のみに独占されると戦争が起こる可能性もあるからね。そもそもこれは別の世界で何百年も前から使われていたもので、私自身が考えだしたわけじゃない。」

 

 それをあたかも自分が発明したかのようにするというのは少しおこがましいじゃないか、とジェイルは言った。

 

「別の……世界?じゃぁ、まさか君は本当に宇宙人だとでも言うのか?」

「そう。数多の魔法技術を持った世界の集まり、管理局によって統治される管理世界からやってきた正真正銘の宇宙人さ」

 

 腕を組んで真実を告げるジェイル。ブレずにこちらを見つめ続ける瞳にはやはり嘘は見られない。ましてやここまで空想のような技術を見せられてしまっては、これからどんな話が出てきたとしても眉唾で済ますには不可能だろう。

 

「ハハハ、まさか本当に異星人との邂逅とはな。しかし、そのうえで君の目的が宇宙人の退治というのはどういう皮肉だ?まるで既に地球が食い物にされているようじゃないか」

「実際そのとおりなんだよ、困ったことにね。実例を上げるなら、彼らはこうした転移技術や魔法による変身などを用いてあちこちで活動している。主に活動しているのは貴金属や武器の密輸業者かな。私達が住む管理世界は過去に起こった末期戦争の教訓から質量兵器、つまり魔法以外の武装を禁止していてね。才能ある人間に寄る魔法至上主義を掲げているのだが、当然コレに反発する輩というのは多い。そして反魔導テロリスト達に武器需要が生まれ、都合のいい事に管理外世界と呼ばれるこの地球にはそれらの武器がある。ならばやることは一つだろう」

 

 そのせいで質量兵器を用いるテロリスト達が持つ武器の多くは地球製だった。彼らはその科学力を用いて各種偽装を行い地球に溶け込んでいるという。それはつまり、管理局と犯罪者の争いが直接関係なかったはずの地球を舞台に勝手に繰り広げられる可能性、もしくは既にあった可能性があるということ。地球側から見れば人様の庭で何勝手な事してやがる!といったところだろうか?

 

 もしも魔法という技術的優位を用いて、軍事施設等から窃盗などを行われたらタダでは済まない。コフィーは寒気を覚える気分だった。

 

「……武器はおいておくとして、貴金属はどういうことだ?こうして惑星間を移動できる技術を持っているなら、それこそ多種多様な星から資源を採取することくらいできるだろうに」

「人が移動できるような無人世界の多くは現地の動物保護だの自然保護だので渡航が制限されていてね。他惑星の開発は殆どできないんだ。次元世界そのものは高度な文明の上に成り立っているが、歴史的な関係でそれだけ暗部も多い。次元世界を監視している管理局からすれば、監視する場所を増やされるのは困るのだろう」

 

 ほうっておけば犯罪者たちの拠点を立てられる可能性がある、そういう建前もあり管理局は渡航に規制を強いている。だからこそ人間がいる管理外世界は目立ちにくく、隠れ蓑にしやすいのだろう。何より自ら採掘をするよりは楽だという面もある。

 

「なるほど。確かに地球内の資源を持ち出されるのは困るな。我々はまだ太陽系、いや月ですらまともに行き来することができん。そんな中で勝手なアドバンテージを得られるのは不愉快だな。……いや、それを覆すには我々が魔法を覚えることが必要ということか」

 

 ご明察だご老人。ジェイルは満足そうに頷く。

 

「しかし待て。君がソレを防ぐことに何のメリットがある?どうも君の言い分からは本音が見えない」

 

 交渉というからには彼にも何らかの益が無ければならない。密航者や密輸組織を抑える、コレは資源の持ち逃げを防ぐという地球側の利益であり、彼への対価は何もない。魔法の普及そのものも宗教ではあるまいし、彼自身が名誉を得ることに拒否感を持っている。ならば彼の本当の目的はどこにあるのだろうか?

 

「ああ、そういえばそうだったね。私自身の目的はさっき言った管理局の支配から抜け出すことだ」

「どういうことだ?管理局というのは政治、もしくは治安組織か何かではないのか?」

 

 煙に巻いているわけではないようだが、どうにもつじつまが合わなかった。

 

「それを話すには、まず管理局の成り立ちから話す必要があるな。少し長くなるが構わないかね?」

 

 コフィーが頷くと、ジェイルは神妙に語りはじめた。

 

「簡単に言うと、時空管理局は官僚政治による治安組織だ。その成り立ちは古く100年以上前、当時は戦争まっただ中でその組織の前身にいた3人の魔導師達を中心とした活躍により終結した。戦争を集結させ各世界の仲介を果たしたのが時空管理局だ。以来彼らはその組織を頂点において管理されるようになった世界を管理世界群と呼んでいて、治安維持とロストロギアの確保、魔法保護等をやってきたわけだ。この時そのあまりの活躍ぶりに高ランク魔導師がいさえすれば戦況をひっくり返せる、そういう認識を持ったためにまるで地球の中世のような英雄思想が生まれていてね。魔力が高いだけでもてはやされるように成り、当然のごとくその者達はエリートコースを歩んでいく。結果出来上がってしまったのが魔力至上主義と呼ばれる能力格差による分別だ。

 この2つは時代が立つにつれ偏執的になっていった。何故なら、管理世界はその名の通り惑星の集まりなので活動範囲はあまりに広く、そしてリンカーコアを持つ人間はソレに対応できるだけの数を用意できなかった。だが彼らは外装という形で魔導師不足を補おうとはしなかった。戦争を行ったことを恥とし、武器を持つことを良しとしなかったのさ」

 

 ざっと説明したスカリエッティは彼が情報を整理し切るまでしばらく待った。

 

「デバイスは武器ではないのかね?」

「あれはウェポンではなくツールなのさ。君たち風に言えばパソコンを手に持って殴っているとでも思えばいい。そして魔法を使う人間は当然ながら生命なので武器ではない、とね」

「とんだ詭弁だな」

「まったくだね。……魔導師という形に拘るあまり、治安維持という本質を忘れてしまった彼らは徐々に禁忌に手を染めていく。それがなにか分かるかね?」

 

 兵装を認めない世界で、武勇だけが治安を維持する。しかしそのためには確実に人手が足りない。ならばどうするか、そう考えた時コフィーは背筋に悪寒が走った。

 

「……まさか、人体実験か」

「その通り。もっともその結果は上手くいかなかった。リンカーコアに手を出した挙句、出来なかったら過去の叡智にすがろうと技術的な聖地と呼ばれるアルハザードにあったDNAからクローンを生み出した。……それが私、ジェイル・スカリエッティだ」

「……なんとも、独善的なことだな。虫酸が走る」

「そう思ってくれるだけでもありがたい。生み出された私は以来、籠の鳥として何十年も研究に従事させられた。DNAから再生させただけでは、所詮知識は得られるものではないというのにね。その内嫌気が差してきた私は、こうして強引に脱出を図ってきたというわけだ」

「……足はついてないだろうな?」

「そのようなヘマはしないさ。少なくとも後10年近くは見つからない予定でいるからね」

 

 コフィーは得た情報を咀嚼して自分の推測を述べる。

 

「話をまとめると、君は技術を土産に亡命してきたということか。それも地球にとって重大な情報まで持ってな……ただし面倒事のおまけつきか」

 

 技術獲得と管理局バレはまるでセットのように両立している。しかも質が悪いのはそのどちらにもメリットが有るという点。少なくとも管理局は行き過ぎた治安維持組織ではあるが明確に敵対してはいない。そちらに対する伝手と、手綱さえ得ることが出来ればむしろ有用であろう。どうしのぐかは問題になるだろうが。

 

「この技術を得ようともそうでないとしても、近いうちに地球は管理世界が関わらざるをえないような事件が起こるだろうけどね」

「それは予言か?」

「データを基に割り出した真実というやつさ。もし失敗してしまえば地球に半径数十kmを消滅させる魔導砲を撃たれてこの星は滅ぶだろうね。彼らは自らの正義のためには手段を問わないのはままあることさ。その上でどうするかはあなた次第だけどね」

 

 そのうえジェイルはこの先必ず関わらざるをえない状況が発生すると明言した。ソレが何についてかは今は分からないが、技術水準が明らかに上である相手に対して疑念を覚えるのは野暮だといえる。何せこちらにはそれを確かめる手段がない。ただし、少なくともジェイルは友好的であり、己の保身をかけて交渉に来ている。ならば一考する程度の価値はあるということだ。

 

「やれやれ、君も意地が悪いな。もはや選び用のない二択、脅迫に近いな。しかしこれだけの可能性を見せられて手を出さないでいられると、本気で思うのかね?」

「クックク、そうだね。それこそが人間の性だと思うよ私は」

 

 お互いにガッチリと握手を交わして、正式にコフィーとジェイルは協力関係となった。

 

 この後、国連事務総長の名の下に極秘の魔導プロジェクトが推進される。常任理事国といくつかの先進国を交えた話し合いは各国衝撃と戸惑いに翻弄されるも、コフィーの手管によって上手く纏められた。ジェイルはその名をジョニー・スリカエッティと改め、魔法を信じないなどという外交官に魔法を見せて説得したり、こっそり管理世界に一緒に転移してみたり、基礎理論の公開や先進外科医療の発達推進等様々な事業に関わっていった。

 

 なお、この裏でジェックはレアスキルを用いて「管理世界」と「地球」の縁を切り離す事で移動手段を交渉後に無効化した。「移動できなくなる」という結果を設定した結果、転送ポートが壊れたり転送しようとする意志が減じたり、そもそも意識に上がらないなど様々な要因によって移動が出来なくなる事態を引き起こした。管理局側はクライドの元これに同調するように地球に近い航路をこっそりと監視経路から外し報告を偽装。いつの間にか誰もが地球を気にすることも無くなった。もちろんこれによって地球にいた密輸組織は天然の牢屋に隔離されたことになる。これに乗じて地球に閉じ込められた不法入国していた管理世界人達は、試作の魔導武装した地球人たちによって捕縛。後顧の憂いは完全に断ち切ることが出来た。

 

 ジェイルは管理世界の裏側――主に管理局の、というのは皮肉――である程度有名だったために、ジョニー・スリカエッティと名乗ることにした。当人は名前に愛着があるのかどうかわからないが、多分にお茶目も含んでいるのは間違いない。何より魔法開発者として地球で有名になることに、自己の技術でない部分が関わっているのが乗り気でなかったらしく、言い訳として別名を用意したという面もある。もっとも本人はその後各種の医療技術やクローニング、IPSにとあれやこれや新規開発して名乗りを上げることになるのでその程度の不快感は時とともにあっという間に埋もれて有名になってしまうわけだが。

 

 そんなこんなでジェイルはそれから5年後、魔法による極秘医療実験のために日本の大地に立った。

 




初ドゥーエさん。そしてリアルで当時の国連事務総長の経歴が使いやすすぎた。次回八神家。


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Yagami_1

(´・ω・`)関西弁わからん。なんかこうしたほうがええよーとか言う人おったら一言お願いします。

※あまりにも八神家両親にバックグラウンドが無いためかなりご都合主義な臭いがプンプンします。とはいえ4歳の子供がいて海鳴の行楽地的な印象が強いため地価が高い(推定)住宅街に一戸建てを持ち、妻もあり、となると父親の仕事って結構いいとこだったんじゃないか、という考えで書いてます。多分職種を違ったもので書いても似たような結果にするのでご了承ください。

話の流れは割と前回と似てます。


西暦2000年

 

「はい?転勤?」

「そ、転勤。どっちかっていうと年間契約での引き抜きみたいな形らしいけどね」

 

 唐突な社員への転勤命令。上司からそれを受け取った八神迅雷の心境は衝撃と不安で埋まった。終身雇用が当たり前であるこのご時世、いくら次の勤務先があるといえども心配するのも無理は無い。ついでに言えば最近はマイホームを買ったばかりでローンも残っている。4歳になる娘のためにもどことしれない場所へ行くという考えは持てなかった。

 

 八神迅雷。大阪出身のプログラマーでとある大企業の日本支部でソフト開発に携わっている。本社は海外企業で日本らしいブラックな体制ではなく、比較して明らかに好待遇な福利厚生に惹かれて入社した。勤務地は海鳴という行楽地として優れた高級街で、地価は高いが非常に暮らしやすい。結婚してから安定を求めた彼には好都合な場所だった。だからこそせっかく手に入れた場所をやすやす手放すわけにはいかないのだ。

 

「せやけど引き抜きって……。俺はここを離れる気はあらへん!会社にだって恩はあるし、ここは居心地がええですもん」

 

 迅雷はストレートに要求した。何よりも自分という技術者を手放すような真似を上司がするとは思えなかったからだ。だというのに、上司の顔は非常に穏やかで、しかし離れることを喜んでいるような印象でないのが不思議だった。

 

「ああ、それは大丈夫だよ。なんでも特殊なプロジェクトらしくってね、それさえ終わればここに戻ってこれる。私にはよくわからないが、そこで教えてもらう新技術を使ってまたうちに貢献してくれたらいいという話だよ。どうも、君だけでなくあちこちにスカウトをかけていてね。社単一の利益のためでなく、世界全体での大掛かりなものになるらしい」

 

 教えてくれた内容は実に不明瞭極まりなかった。何をするのかもよくわからないプロジェクト。しかも新技術を使って開発をしろ?それこそセミナーを短期で開いてSDKを頒布すればいいだけの話ではないのか?加えてプログラムごときで新技術を語るだなんて、新しい言語だとしても大法螺にすぎる気がする。そのうえ何故俺なんだ?そういったいくつもの疑問が浮かび消えていく。

 

「ちなみに、勤務地はどこです?」

 

 問われた上司はさらに笑みを深めてこう言った。

 

「アメリカだよ」

 

「…………アメリカ!?」

 

 聞いた瞬間、頭のなかが空っぽになった。隣の県とか国内とか、そんなちゃちなもんじゃ断じてなかった。俺はこの時、とんでもなく恐ろしい運命の禍根に飛び込んでいく自分を幻視した気がした。

 

 

 

 

 

「――ということで、なんやよくわからへん内に転勤指示が出とって、アメリカで、プログラミングなんやって!」

「意味はよくわからないけど、栄転ってことじゃないの?」

 

 新築同然の我が家に帰宅後、軽食を取りながら妻の凪紗に報告した。特に危機感を覚えないのか考えていないだけか、彼女は素直に喜んでいる。もしかしなくてもおかしいのは俺だけなのだろうか、と不安になりそうだ。

 

「そのうえ開発担当の方が今日ウチに説明に来るらしい。……なんでこないな一般人にそこまで手厚いサポートをするんかようわからんなぁ」

「それこそ聞いた上で判断すればいいんじゃない?疑心暗鬼してドツボにハマるのはあなたのクセよ?」

「いや、うん、わかっとるけど」

 

 居た堪れなくなって視線をテレビの方に向けた。そこには4歳になる可愛い娘のはやてがいる。関西弁や趣味がどうも似通っておりというより真似たのだろうが、やけにコアだったりオタク趣味な部分がかいま見え始めている。ほら、今だって

 

(ていうか、なんで「俺の屍を○えてゆけ」とかコアなゲームやってるんやあの子は。それも4歳で……あ、風雷の間のボス倒した……ってはやくね?もしかして頭いいんか?)

 

 うぉっしゃー!とバンザイして喜んでる姿はやっぱり歳相応に見えなかった。そばには○がれいじりとかシャド○タワーまで転がっている。まぁかなり耳年増なところもあるし、情報に機敏なのかもしれない。あれ?そうしたらやっぱりうちの娘って天才なんじゃね?明るいところや家事出来そうなところとかは凪紗を継いでるみたいだし。

 

 ちなみに迅雷の知らないことではあったが、最近はパソコンも余裕で扱えるようになっており隙を見てはネットサーフィンしているらしい。色んな意味で末恐ろしい子供である。

 

 過度なまでの娘自慢を脳内で繰り広げて頷いてる姿を見て凪紗がクスクスと笑みをこぼす。気づいてまた顔を背けた。そんなことを繰り返しているとピンポーンとベルが鳴った。どうやら待ち人、もとい不穏の鐘を鳴らす厄介者が来たらしいと迅雷は身を固くした。

 

「あ、お客さんやな!私が出るで!」

 

 ゲームも置き去りにスポーンと飛び出していったはやて。呆れるほどに行動力がある。それとも4歳ぐらいの頃の自分もこんなふうにあれこれ興味を持って動いていたか?と思った時にふと気づく。

 

 よくよく考えたら、アメリカから来た人間をまともに幼女が応対できるのだろうか。

 

「いやいやいや!待て、ストップやはやて!」

 

 普通に外国人だったりしたら初遭遇の相手は異星人レベルの衝撃をうけることになる。それをはやてがどう受け止めるかはわからないが、いきなりの接触は良い影響があるとは思えない。何より先方に失礼だろう。

 

 しかし時既に遅く、走りだした時にはガチャリと重いドアの開く音がした。あぁやってしまった。あの子は自分と違ってなんてせっかちなのだろうか、ほら、開けた先には金髪のガタイのいいオッサンがいるんやろ?ソレに驚いてはやては目を見開いている。そう想像して、しかし自分が見た者はその想像を余裕で超えていた。

 

 背の高さはともかく、まずは紫がかってはいるが決して整髪料では出せない自然で落ち着いた色の髪。スーツはともかく何故かその上に白衣を着ている。何より彼の存在を雄弁に語っているのはあの鋭い目。興味を持ったものを射抜く金色の視線はおおよそテレビでも見たことがない。

 

 一言で言えば奇抜。

 

 しかしそれが彼の当たり前で、日常で、自然体なのだと感じた。それほどまでに似合っている。男に対してそのように思うのはどうかと思うが、そのぐらい格好の良い人間だった。

 

「……なんやそれお兄さん。厨二病でも羅患しとるん?」

「おぃぃぃぃ!?」

 

 なんでそんな言葉知ってるのこの子は!?そして初対面の人にいきなり躊躇なく言ってしまうくそ度胸!ボケにもツッコミにも全力の娘には漫才の才能も有るに違いない!状況を放置して迅雷はこう思った。もう親ばかでもいいじゃないと。

 

「――ハハハハハ!なかなか愉快な子供だ。ふむ、君が八神迅雷か?」

「は、はい……あぁ、いえすいません!うちの娘がとんだご無礼を!」

「いやいや、気にしなくていい。物怖じせずに発言できるのは立派な才能だからね」

 

 それは美点であって欠点ではない。そう思う奴は物事を正しく認識できない奴なのだと彼は言った。恐ろしいまでの懐の深さ、感嘆に値する。

 

「私はジョニー・スリカエッティだ。よろしく未来の同士よ」

 

 

 

 

「えっと、それでその、どうして俺なんや……なんでしょうか。取り立てて大した才能があるとは思えないんですが」

「普通に喋ってもらって結構だよ。ふむ、確かに多くいる人の中で君である必要はさほど多くはないかもしれない。だが論理的に内容を理解し、かつプログラミング以外の分野で必要な才能があったのさ」

「プログラミング、以外の才能?」

 

 ますます意味がわからない。対面に座るジョニーの手元には書類らしいものもなく、プログラミング以外の才能であるならますます自分でなくてもいいだろうと疑い始める。

 

 そして彼の口からとんでもない一言が飛び出した。

 

「そう、君には――魔法少女になってもらう!!!」

「意味がわからんわ!?」

 

 ババーン!と効果音でも立てるかの勢いで振り上げた手のひらが迅雷に向けられた。冗談にしても程がある。会社の話をしにきたのではなかったのか。

 

「いや、すまない少し言ってみたかった。厳密には魔導師になってもらう、だ」

「どっちも大して変わらへん!ふざけるんなら帰ってください!」

 

 迅雷は自分の将来がかかった大真面目な話だというのに、一体この人は何をしに来たのか。もしもその才能とやらが魔導師になることだというのなら、アニメの見過ぎにもほどがある。ジョニーという人物は極度のアニメフリークではないかと疑った。

 

「嘘、家の父さん童貞?」

「なんでそうなるん!?」

 

 加えてはやてまで意味不明なことを言い出す始末。一体どうしてそういう結論が導かれるのか。本気で将来を危ぶんだ。

 

「はーやーてーちゃーん?あなた自分が何言ってるのかわかってるのかしら~?」

「…………わからへん!ぜんっぜんわからへん!」

 

 首振りブンブンブン。しかし顔がにやけている。ああ、あの顔はまず間違いなく意味を知って言っている。やはり娘の将来は心配だ。

 

「嘘ついてる子はお仕置きしなきゃねぇー。ほら、あっち行きましょうか」

 

 案の定お説教が確定して凪紗に連れて行かれた。あの調子ではいずれネット禁止の罰を食らうかもしれない。

 

「いやぁぁぁ!……お父さんが教えてくれたんや!全部お父さんや―!!」

「え゛!?」

 

 ビカビカ光る凪紗のお目目がこっちを向いた。まるでガンダムに睨まれているドラッツェな気分。一年戦争後のジオン残党はガンダムヘッドを見ただけで恐慌状態に陥ったらしいがまさに似たような状況だ。というかはやてはボケの限度をまだまだ弁えてない様子で周りに被害を出しまくっている気がした。

 

「……あなた?」

「ちゃう!絶対ちゃうぞ!そないな事教えるわけあらへんやろ!」

 

 そして誤解も甚だしく、間違いなく冤罪である。遺憾の意を表明したい。

 

「はぁ、全く。お説教追加ね」

「あぁぁぁ堪忍やぁぁぁ…………」

 

 ドナドナされるはやて、強く生きろ。しかしあれほど怒りにまみれた空気が完全に霧散してしまった。屋内の空気はジョニーの苦笑も相まってだいぶ穏やかになったように思える。もしかしたらはやてはこれを狙ったのだろうか? 

 

「随分面白い子だね彼女は」

「いぇ……騒がせてしまって申し訳ない」

「気にしなくていいさ。まぁ、真面目な話の続きと行こうかな」

 

 聞いたところ福利厚生は恐ろしいほど充実していた。まず日本に戻ってきた際元の職務に戻れる事、自宅のローンも全部受け持ち、ラスベガスでも豪邸とは言わないが一家族が住んでも部屋が余るくらいの家屋を提供する準備が有るとのことだ。仕事の内容に秘匿義務があるらしく、給料もそれに応じてかなりの額。徹底的に好待遇。少し違うかもしれないがぐうの音も出ないといったところだろうか。

 

「職務内容に戻るが、これはもう少ししたら国連で大々的に発表される新技術でね。量子力学を元に、新たなエネルギー源を用いて様々な事が出来るものだ。ただその応用範囲が広すぎるため、便宜上「魔法」と呼ぶことが決まっている。つまりはれっきとした科学技術なのさ」

「は、はぁ、さいですか」

 

 言いたいことはわかるが内容はさっぱりだ。だが日本人的感性からこれだけは突っ込める。

 

「その、もしかして新しいエネルギーって魔力って言ったりするんです?」

「おや、そのとおりだよ。もしかして知ってたかい?」

 

(まじかー!?いやいやそんなこと知らんわ!ていうかありえんやろ!?)

 

 科学なのに魔法とはこれ以下に。ツッコミどころ満載すぎてその名称を考えた奴も決定した奴も頭のネジはずれとるんちゃうか?と迅雷は滝のような汗を流す。国連は おかしく なってしまった!!そう考えても無理なかった。

 

「それじゃあデモンストレーションといこう」

 

 そう言って彼が見せてくれたのは光の乱舞と言える魔力弾やショートジャンプ、重量を軽くするフローターフィールドに飛行魔法。そのどれもがアニメや書物の中で夢見て、しかし不可能だからこそ夢だと言われていたものが確かに現実に飛び出していた。もはや魔法を妄言と憚ることは出来なかった。いつの間にか戻ってきていたはやてに至っては目を輝かせてすごいすごいと連呼していたくらいだ。浮き出ていたたんこぶが気にはなったが、そんな痛みを忘れるほどのめり込んでいる。

 

 魔法はデバイスを介して現象を起こすというものらしい。OS上でしか実行できなかったソフトウェアが現実に飛び出すということ、それは現実がOSと変わらなくなるのと同じ意味だ。だから迅雷は魔法そのものより、むしろその端末であるデバイスに興味が惹かれたのは開発者として当たり前だった。現行の最新型のスパコンを置き去りにした処理能力を備え、魔力さえあれば他に動力を必要としない最小媒体。容量さえあれば量子変換で様々なものを収納できるなど出来る事は無闇矢鱈と広いといった感じだろうか。インテリジェントデバイスというものに至っては独自にAIが搭載されており、マスターの望んだ魔法を自動的に組み立ててくれる機能を備えている。

 

 まさに万能。だからこそ、ジョニーは迅雷が必要なのだと語った。

 

「見ての通りインテリジェントデバイスを使えば魔法そのものを組むのは簡単だ。だがこれはマスターの魔力波長に合わせているものだから他人がそのまま使おうとしても普通は出来ない。そのうえ思考という非常に煩雑で曖昧な命令で出来ているために、術式は暗号化しているし復号化してもスパゲティコードだったりダミーの記述が多かったりと出来そのものはそれなりにひどい。だからこそ、魔力を扱うリンカーコアを要し、プログラミングという術式改変に最も適した技術者の存在が必要だった」

「それが俺いうことですか……。というか、魔力があるなんていつ調べたんです?」

「この前健康診断があったと思うが、このへんの医療関係は既に抑えててね。こっそりリンカーコアの有無も調べさせてもらっていた。ランクでいえばB+といったところかな。可もなく不可もない程度の魔力持ちの人物は傾向的に最適化や工夫をこらす場合が多いからね」

(プライバシーはどこいったんや……)

 

 聞けば魔力持ちというのは結構貴重らしい。一体その傾向とやらがどこから出てきたのか気にはなったが、それを計り知ることは情報が足りず出来なかった。いずれは使用出来る人間が限定されないよう魔力を精製する機材を作る予定では有るらしいが、現状は要求を満たしたものが出来上がっていないとかでどうしてもリンカーコア持ちの人間が必要ということだった。

 

 確かに、これをPC代わりに用いれるとしたら現状のグラフィカルユーザーインターフェースは必要なくなる。思考制御とタッチ操作の組み合わせを利用し、直接的で圧倒的な速度の作業ができるようになるだろう。外部機器が必要なくなれば例えばペンタブレットのような外付けデバイスを買う必要はなくなるわけだ。まさしくデバイス一つでオールインワンが実現できる。

 

 そしてその開発を受ける理由が迅雷には有る。ジョニーは迅雷に新世代PCに対応したソフトウェアを開発する先達になれと言っているのだ。

 そこまでようやく理解したことで、迅雷の心は震えた。考えが反対にぐるりと回り、現金な話ではあるが新しいものに彼は挑戦してみたくなった。後の事も完全に保証されているのだからむしろやらない理由はないと言ってもいい。後は、

 

「凪紗。俺はこの仕事を受けてみたい。せやから、俺はアメリカに行くことになるけどお前はどうする?」

 

 妻がどうしたいか、だ。しかし彼女は一切の迷いなくこう言った。

 

「もちろんついていきます。あなたは私がいないとすぐ弛むんだから。ね、はやてもアメリカ行ってみたいよね?」

「せやなぁ、ラスベガスで豪遊すんのもええやろ」

「こら、子供が何言ってるの」

「あいたっ」

 

 まったくこの子ときたら、と呆れる凪紗。一も二もなく賛成してくれたのにはとても嬉しかった。やはり妻に反対されたら心苦しいものが有る。全員の賛成を得て迅雷は将来を、新たに開拓される荒野を見つめる気分になれた。そこには無限の可能性があるとばかりに。

 

 だがそんな思いも虚しく罅を入れる存在を知ってしまったのは、ジョニーの何気ない質問だった。

 




(´・ω・`)そして残念ながら一旦ココで分割。書ききれんやった。


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Yagami_2

(`・ω・´)ゞ地球を守る任から帰ってきました。エアレイダー楽しいです。


「ああ、了承してくれて何よりだ。ところで少し聞きたいのだが、そこにある本が気になるのだが」

「え?」

 

 彼が指さした先、棚に置かれていた鎖に封じられた本。どこか尊厳さと禍々しさを両立させたような不思議な一品。

 

「ああ、あれですか。あれはいつ頃か知らへんけど、いつの間にかウチにあったんですわ。多分はやてが生まれた後くらいやったと思いますけど」

 

 明らかに出自が不明のものだが、どうしてか捨てる気になれなかった。現在は部屋の一角を飾るアンティークと化している。それだけしか意味のない読むことすら出来ない本を、迅雷が訝しげにするくらいにジョニーが険しい眼差しで見つめていた。果たしてあれがなんだというのだろうか?

 

「失礼、少し調べさせてもらっていいかい?」

「構わへんけど……」

 

 言う前から既に腰が浮いとるし、と突っ込む迅雷。その彼は手のひらに魔法陣を展開させて本に向けてかざす。時間に比例して徐々にジョニーの顔は驚きと狂喜に満ちていった。

 

「ククク、水臭いな八神さん。もうデバイスを持ってるじゃないか?」

「は?えっと、つまりそれがデバイスいうことですか?」

 

 今の今まで知らなかった技術のもとが家にあるなど一体どういう冗談だ。迅雷はジョニーの言っていることが再び冗談ではないかと、またしても疑心暗鬼になりかけた。見た目はただの本だしどこをどうとったらデバイスと思えるのかさっぱりわからない。

 

「そう思うのも無理は無いだろうね。しかし、このような数世代以上先の技術のものを今の技術力で作れると思うかい?」

 

 そう言って彼は先程利用したデバイスをかざしてこちらに問いかけた。一考する、確かに不可能だ。2000年の現在、古いコンピューターが2000年問題などで騒いでいたのは少し昔のこと。CPUの発展速度、集積回路上のトランジスタ数は18ヶ月ごとに倍になると云われるムーアの法則は外れておらず、現在それ以上の高速化は成されていない。

 

 となるとデバイスの存在はその法則から外れた「ありえない存在」となる。しかし現実に存在するのは今目にしたとおり。であるなら、あれは一体どこから出てきたものなのか。現実味のない妄想が迅雷の脳裏をよぎった。

 

「……まさかオーパーツとか言わへんやろな?」

「近いと言えば近いかな。まぁ君にはこれから色々関わってもらうのだから知っておいてもらったほうがいいか」

 

 迅雷は深い闇に足を突っ込みかけている気がした。ここに落ちたらもうもどれない、そんな嫌な予感だ。

 

「具体的に言えば、デバイスは地球外で作られたものでね。ごくたまにではあるが、地球にこういったものが落ちてくることが有る。私はそれを解析し、実用化したのさ」

 

 まさかの地球外生命による創造説だった。最早ワールドワイドを超えスペースワイドになった話の規模の大きさに迅雷はどう突っ込んでいいかわからない。

 

「たまに聞いたことはないかい?妖精のいたずら、日本では神かくしが一般的か。極希にではあるが、次元のゆらぎに巻き込まれて行方不明になる人がいるらしくてね。そういった人々は運が良ければ大体がこのようなデバイスが作られた惑星にワープするそうだ。逆も然りで、コチラ側に迷い込んでくる人間や道具もある。と、大本のデバイスによって解析できたのさ」

 

 地球は何故か次元のゆらぎが大きく、特に日本とイギリスあたりで魔力を持っている人間はフラッと次元世界に迷いこんだり、逆に知らない人間が飛び出してくるケースがある。次元世界側の人間は回収すればいいだけだが、地球側の人間は保護を受けたことと魔法という管理外世界の人間には教えられない技術を嫌でも知ることによって秘匿義務が課せられて帰れなくなる人が多い。大抵の場合は恩義に加えて生活環境の良さから帰らなくなる人も多かった。ちなみに後に管理世界の存在を知られて以降この漂流者の問題は顕著になる。管理局から見れば当たり前のように行う他世界からのスカウトだが、地球からすれば勝手に国民を利用されていると取っても仕方のないことだった。閑話休題。

 

「オーパーツというのも間違いでなくてね。ものによっては数百年たっても稼働しているデバイスやマジックアイテムがある。そういったものをロストロギアというのだそうだ。解析したデバイスにそのようなデータベースがあってね、これは「闇の書」と言うらしい」

「随分けったいな名前やな……」

 

 あからさまなくらい悪役にふさわしい名前だった。ジョニーは続けてそれについての特徴を述べる。

 

「この書の特徴はいくつかあるが、特筆すべきは破壊される度に新しい主を選んで転生して最終的に暴走するという点だ」

「ただの危険物やないか!?」

 

 そんなものが当たり前のように家に鎮座していることに今更ながらに恐怖を覚える。一旦イメージが翻ればただの本は怪しい瘴気を放つ何かにしか見えなくなった。

 

「せやかて新しい主て。つまり家族の誰かがそれの主なったいうことかい。……誰や」

「リンクしているのは、そこのはやて嬢のようだね」

「へ、私?」

 

 観客だったはずの自分が唐突に舞台を上げられたような気がしてはやては目を瞬いた。

 

「君はどうもとてつもない魔力を持っているようだ。ソレが原因か波長があったのかは知らないが、何かが原因で君が選ばれたのだろう」

「なんやアニメで選ばれた魔法少女みたいやな」

「ただし文頭に悲劇の、と付くがね」

 

 ジョニーは語る。この魔導書は通常のデバイスと違い機械というよりも情報体に近いらしく、主と半ば融合を果たしているらしい。そのため魔力を定期的に蒐集しないと自身が侵食されていくのだ、と。ソレを聞いた迅雷はどうにかして剥がせないかと聞く。親からすればそんな危ないものを娘にもたせている訳にはいかない。母の凪紗は既に顔が真っ青で口元を懸命に抑えている。しかしすがるべき希望はなく、得られたのは外部からシステムに手を加えようとするとはやてを巻き込んで転生するという迂闊なことが出来ない情報のみだった。どうにかするには己自身でなんとかするしか無い。

 

「蒐集を行わなければ、いずれ君はリンカーコアを侵食されて体の何処かに障害が発生するだろう」

「蒐集てなんやの?」

「他人のリンカーコアを奪うことさ。とても痛いことだよ。もしも君が健常で居たければ、他人を犠牲にして生きていくしか無い。その覚悟はあるかな?」

「そないな覚悟あるわけないやん」

 

 それもそうだとジョニーは頷く。4歳の少女にいきなりそのようなことを聞いた所でまともな返事が帰ってくるわけがないと思ったからだ。

 

 しかしはやてはその上を行く。

 

「誰かを傷つけたり悲しませたりするくらいやったら、それは全部私が引き受けたる!だからそんな覚悟なんて初めからいらへん!」

 

 堂々と手を掲げてはやては宣言した。それは彼女の中の当たり前の思いやりの感情だった。ジョニーは少女の輝きに瞠目し、わずかに足を後退させる。驚いた、まさか4歳の少女がこれほど苛烈な心を秘めていることに。何よりもそんなものを持っていなかった自分自身に。これだから人間は面白い、とジョニーは笑った。他人の生き様はどれだけ見ても飽くことがない。それは正しく己の欲求を満たすものだった。

 

「改めて聞くけど、今言ったことは本当なんやなジョニーさん」

「ああ、そうだとも。嘘はついていないよ」

「……はやてはそれでええんか?痛いかもしれへん、苦しいかもしれへん。泣きたくなることも有るやろ……それでも」

「うん、それでもや。それに、なんやあの本のこと知ったらとても悲しそうな顔が見えた気がしたんや。せやったら、どうにかしてあげたい思うんがヒロインの役目やろ」

「アホ……ソレはどっちかというとヒーローの役目や」

 

 本当にこの子は、と迅雷は目尻に涙を浮かべながら俯いた。さしもの4歳児にしては成長が早すぎる気がしないでもないが、持ち前の優しさは天性のものなのだろう。実はそのベースを作ったのは彼が持っていた様々なマンガやゲームの主人公像なのだが、彼がソレを知る由もない。

 

「まぁ、研究次第では直す手段も無いことはないさ。いつアメリカから帰国できるようになるかはわからないけどね」

「!ほんまか!?」

 

 ジョニーには過去資料という裏打ちされた自信がある。ましてや己は次元世界でも類を見ない天才という自負。これだけ揃って直せないのであれば科学者を名乗る資格は無いと思っているほどだ。加えて闇の書の主である本人が協力状態にあるなら、外部からの干渉による転移の懸念は払拭されたと言ってもいい。もとより今までの主が非協力的であった事、管理局が目の敵にしていたことが「干渉は無意味」という結論を出していた。ならば現状における危機はかなり緩くなったと判断できる。さらに400頁以上の魔力さえあれば管制人格起動による真の主承認が行え「闇の書の意志」に対するクラックも可能になる。前史においては時間的余裕も無くましてや魔導に対する基礎知識もなく、守護騎士達が敵対姿勢を取ったことで事態が複雑化していた。直すための時間が取れず、アースラもほとんど戦闘による決着を想定していたためにデバイスマイスターや研究科などの専門的な人員を配備していたこともまた問題があった。数々の不幸により結果的にリィンフォースは失われてしまった。

 

 しかし今回は違う。

 

 ジェックによる介入とジョニーという最大のジョーカーを持って余裕を持って事に取り組めるのだ。前回のような間違いが起きるはずが無い。

 

「悪いことばかりではないしね。その本には守護騎士と呼ばれるプログラム人格が含まれていて、時間が経てばいずれ出現する。つまり君の家族が増えるということだ。その中には犬もいる」

「お、おぉ!ペットもおるんやな!ええなぁ、ペットを飼うのも私の夢なんや」

 

 本人が聞けば犬じゃなくて!とかペットじゃなくて!と散々文句が飛んできそうである。

 

「ただし魔法は尻から出るようになるが」

「なん……やと……?」

 

 などとしょうもない冗談を交わている傍らで、迅雷は己の出来る事を模索する。とんでもない幸運と不幸が同時に舞い込んできたが、きっとそれも人生を彩る試練の一つだろうと前向きに考えることにした。ジョニーははやてに課せられた障害を必ず排除すると誓ってくれたのだ。ならば彼はきっと実行してくれるだろう。自身の満ちた彼の顔を見ればそうだと思えてくる。未来は決して暗雲ではないのだ。

 

「よっしゃ!気合入れて世界へ羽ばたくんや!!」

 

 しばらくして彼らはアメリカへと飛び立った。そこに待つのは今までになく誰も経験したこと無い大きな未知である。しかしそのことになんら心配はなく。あっさりと現地に対応してしまった八神はやてがカジノ近辺の子供用ゲームセンター荒らしと呼ばれてしまうようになってしまったのはそう遠くない時期だった。

 

 

 

 

 

「――という、話だったのさ」

「……えぇ話やなぁー」

「うぅ、ぐす!ちくしょう、こんな感動的な話は久しぶりに聞いたぞ!」

「ああ、ヴィータ鼻水ふき。ほらちーん!」

 

 ズビィィィと鼻をかむ爆音が鳴った。その横でジェイルの話を聞いていた他のメンツはそこまで感動するようなことかとハテナマークを大量に浮かべている。基地内で食事をしながら聞いた話はおおまかに未来での滅亡から始まり過去へさかのぼり、数々の事件や出来事のフラグを片っ端から潰し、または産んできたというものだった。ヴィータは一体どのへんに感涙してるのかはわからなかったが、はやては幼少期の自分の発言に感動し「さすが私や」と言ってるあたり歪みない。

 

 さらにレイジングハートから受け取っている記録には前史における彼女らの映像も見せてもらっており、彼とジェックの行動に守護騎士達に対する裏のないものという印象をしっかりと刻み込んだ。

 

 ソレを見たはやては現在両親がいる幸運を噛み締めた。日本から立つことで事故がおき自分だけが置き去りにされるというフラグを潰していたため、現在の彼女はそのままの家族でいられたのだから。ソレと同時に、両親をなくしても懸命に生きてきた前史の自分に深い感銘を受けた。当たり前のように家族がいる自分ではきっと、前史の自分ほど強い心を持っていると思えなかったからだ。家族の健在という幸運が最も感じられるのは自分ではなく、きっと前史の自分であろう、と考えるほどには。

 

 しかし反対に、その当たり前を甘受できる幸運を前史の自分が感じられるわけもなく、結局のところは己の主観に寄るものなので正負の判断は付けられない。どっちの自分が幸運か不幸かなど比べるべくもないという話だ。今の自分はあるものを受け入れ生きていくしか無く、前史の自分が手に入れたもの、もしくは手に入れられなかったものを比較するのは詮無い。

 

「なるほど、事情は理解した。少なくとも主に害が無いというのであれば我々に異論はない。主のこと、そして闇の書……いや、夜天の書ともどもよろしく頼む」

「是非もない。そもそもそのための私だからね」

「スカさん男前やなー。結婚してあげてもええんやで?」

「子供に興味はないな」

「自分はぎょーさん娘囲っとるくせによう言うわ」

「よし、そこになおりたまえ。成敗してくれる」

 

 ワイヤーを取り出すジェイル。逃げるはやて。彼らの穏やかな日常は大体こんな掛け合いなのでもはや誰も気にしていない。そんな中、静かにドアを開けてしばらく見なかった男が帰ってきた。見知らぬ顔に守護騎士達がにわかに警戒する。

 

「ただいま、ええと……どういう状況?」

「おお、じぇっくんや!久しいなぁ、何ヶ月ぶりやろ?」

「何その呼び方。斬新すぎてどう反応していいか困るよ」

「ジェック君て言いづらいやん、いまさらやけど。ジェックククンみたいになるで、ヴィータなんてカミカミや」

「そもそもヴィータが君付けで呼ぶとかありえないんだけど」

 

 その反応に「おお、ほんまに知っとるんや」と返すはやて。今まで忙しくしていただけあってジェックと守護騎士達は初対面だ。だから普通この反応はありえないのだが、それが彼が未来から来た証左となった。

 

「あぁん?あんだてめぇ、何者だ」

 

 見ず知らずの人間に当然のように威嚇するヴィータ。しかしその顔は涙と鼻水で濡れていたせいか全く威厳がない。

 

「こら、そないな言い方したらダメや。……ていうかじぇっくん、だいぶ顔つき変わっとらん?こう、オカマがニューハーフになったくらい変化しとるで」

「どういう表現の仕方だよそれ」

 

 そう不名誉な表現をされるジェックの顔つきはたしかに変わっていた。なのはとほぼ瓜二つだった顔つきから中性的なではあるが男らしいものになりはじめていた。年齢にすれば大体アリシアと同時期くらいの年齢になるだろう。身長も日本で少しだけなのはに影を踏ませた時より伸びていた。

 

「うん?でもよう考えれば魔導生命体って成長せえへんのやなかった?」

「もしかして僕らの来歴を聞いたの?」

「せや。つい今さっきな。あ、でもスカさんメインの話でじぇっくんがその間何しとったかについてはまだ聞いとらんかったわ」

「その辺りは君自身に話してもらったほうがいいと思ってね。私は遠慮させてもらった」

 

 はやてに追随してジェイルも肯定した。彼も自分が知らないジェックの話があればポロッと出てくると思っているのだろう。

 

「で、なんで成長しとるん?」

「成長期だからじゃない?」

「全く答えになっとらん!そもそも5歳くらいの見た目で生まれたんやったら過去に来た時から数えでも16歳くらいになっとってもおかしゅうないやん。そこんとこどうなっとるん?」

「さぁ、なんでだろうね?」

 

 穏やかな顔で適当に流すジェック。元よりミステリアス……ではなく胡散臭い印象があるジェックがこういうごまかし方をする時は本当に知らないか知ってて故意にごまかしているかどちらかだ。とはいえこうなってしまうと一貫して彼の態度は変わらないのではやても面倒になって追求を諦めた。

 

「ま、ええか。せやったらスカさんが語ってないとこ話してくれへん?」

「それはいいけど、その前にお土産があるんだ。確か、シグナムが相性が良かったと思う」

「……私が何か?」

「ああ、その前にはじめましてだった。ジェックだ、色々思う所あるだろうけどよろしく」

「名は知っていると思うが、シグナムだ。主の件、感謝する」

 

 それで、私への土産とは……と言おうとして扉の影からチラチラとコチラを見やる小さな影が目についた。大きさは約30cm台の肌の露出が目立つ小悪魔的衣装の少女だ。ソレを見てシグナムはほう、と唸る。それは今や見ることも珍しい古代ベルカの融合騎であった。

 

「な、なぁジェック!あたしのロード、それも古代ベルカに通じる奴がなってくれる人がいるってホントだろうな!?嘘だったらただじゃおかねーぞ!」

「嘘じゃないって、何回聞いたんだそれ。君なら見れば分かるでしょ?」

 

 ソロリと出てきた妖精の姿にはやてが「うは、かわええ」と漏らすもドがつくほど緊張している融合騎には全く聞こえていない。しかし複数の人がいる中で彼女は迷わずシグナムのもとに歩み寄っていく。

 

「……あんた、名前は」

「闇の……いや、夜天の守護騎士烈火の将、シグナムだ」

「わりぃけど、あたしの本当の名前は覚えてねえ。今は、気に入らねぇけどアギトって呼ばれてる」

 

 何かを思い出すようにアギトは語り出した。

 

「しばらく前に、胸糞わりぃ研究者どもに捕まって実験されて、かなり色々な事を忘れちまった。それでもまだ覚えてることがある……多分だけど、私はシグナムと数百年前に一緒にいたことが有るような気がする」

「……すまんな。覚えがない」

 

 少なくともシグナムの記憶の中に彼女の情報はなかった。ただでさえ不都合な記憶は闇の書に濾し取られてしまうのだからしかたのないことかもしれない。しかし己を頼ろうとしている少女のことを覚えていないシグナムは自身に対して激しい憤りを感じていた。

 

「いい、あたしだって確かなことはわからないんだ。それにもしかしたらシグナムのオリジナルだったのかもしれないしさ」

 

 シグナムとアギトの短くとも思慮の深い会話を聞きながら、その横でジェックはポツリと呟いた。

 

「融合騎といいデバイスといい、何故昔のことのほうを覚えていて名前を忘れるかね」

「あの子たちにとって、名前っていうのは自己のパーソナリティを維持するために最も必要な要素なの。主に名前をもらって、その意に従って自己を形成するから、名前がわからなくなるということは今までに形成した個を失うことになる。それは何もかもがあやふやになることと同じ」

「あなたは、シャマルだったか」

「ええ。湖の騎士シャマルです。知っているとは思うけれどよろしくね。こっちはザフィーラ」

「盾の守護獣だ」

 

 立ち位置が違っていたとはいえ似通った状況のアギトにシャマルは強く同情していた。それだけデバイスにとって名前というものは大切なモノだということを、ジェック達の過去話を聞いてようやく思い出すことができたから。

 

「我々も、夜天の書の管制人格の名前を覚えていない。人に聞いて初めてそのことを思い出すとは……守護騎士として情けない思いだ」

「そうだな。たとえほんの少しでも、あんな風にシグナムのことを覚えていてくれてたってのは、私達にとってはすげぇ幸運なんだろうよ」

 

 ザフィーラの悔恨にヴィータも追従する。どんどん全体がダウナーになりかけていたところに、はやてが待ったをかけた。

 

「せやったら、管制人格さんにもあたらしゅう名前つけてあげたらええやん」

「名前……」

「そや。ちゃんと書を直して、もう一度正しい道を歩むために。管制人格さんの名前を皆で考えたげよ?」

「……それは主の仕事です。主が名前をつけてあげれば、きっと喜んでくれると思います」

「む、さよか」

 

 名前についての方針が決まる一方、アギト達の話も決着を見ようとしていた。アギトが僅かに覚えていることを、シグナムに話し覚えているか聞く。やはりオリジナルではないためにほとんど覚えていないシグナムであったが、それでも元にした人格だけあってかすかな残り香のような記憶があったらしい。それにうれしさを感じたアギトはこれからどうするかを決めた。

 

「うん、あたしはシグナムについていくことにする。これからあんたの為すことを、そばで見ていたいんだ」

「私はオリジナルではない。それでもいいのか?」

「どっちにしたって、シグナムはシグナムだろ?なら変わんねぇよ。これからよろしくな、シグナム!」

 

 ニカっと笑って手を差し出したアギトに、シグナムも右手を出した。その手は握手というにはあまりにも不釣り合いな差のある大きさであったが、指先を持った彼女との絆は確かに今繋がり、戻ってきたのだとシグナムは感じていた。

 

「ところで聞きたいのだが、随分と都合のいいタイミングで融合騎をつれてきたのだね?」

「ある程度めぼしの付く場所は監視していたからね。捕まったのはそれなりに前だけど、シグナムが書から出て縁が生まれるまで待っていたんだ」

 

 ジェイルの質問にジェックは淡々と答えた。管理局の最高評議会管轄の違法研究所をいくつも潰したとはいえ、それ以外の研究所や取り逃しもそれなりに多く存在している。アギトはそういった研究所に捕獲されていた。早々にジェックが助ける、もしくは捕まる前に会えなかったのには理由がある。前史と違い既に時間が相当に経過し、大きく歴史が変わってしまったこの世界での縁はかなり複雑に変化している。今までは両歴史に同一に存在する――過去の――縁を頼りにしていたのだが、その流れを変えてしまったことにより彼の知る縁というのはほとんどが破綻し白紙になっていた。ジェイルが地球に移動したことでゼストがアギトを見つける縁が消え、ソレに連なるシグナムと出会う縁も消える。シグナムの方も地球での生活様式が変わっていた。加えて書から出てきていない事もあって互いの縁を結ぶことも難しい。

 

 なので自力でアギトを発見し、シグナムの登場を待ってはやてとジェックの縁を経由するようにした。あとは自分とアギトの縁、シグナムとはやての縁とをつなげば「互いがいずれ会う」という未来の布石を創りだせる。そうすればアギトの救出も楽になるという目算も出来、彼女を救出する際に「古代ベルカの人間と会わせる」と約束した条件も即座に果たせるというわけだ。

 

 古代ベルカの人間は己の誇りに従う人間が多いために、約束や契約を非常に大事にしている。傍から見ればさっさと助けてあげれば良かったのにとは思わないでもないが、捕まったアギトに不信感を抱かれないようにするには最もこれがベストな形だったと言えた。

 

「さて、ある程度話がまとまった所で改めてジェックの話をきこーか。スカさんが話しとらん中でどないなことをしとったんか、めっちゃ気になるし」

「オーケーだ。それじゃああれは今から36ま」

「二度ネタ禁止!!」

 

 




アギトは名前を忘れたが早期に助けだされたために過去の記憶をある程度ではあるがぼんやりと持っている、という設定に成りました。アニメにおいてはシグナムとの関連性については触れずにユニゾンした際の演出のみ、という扱いでした。
 こちらではオリジナルのシグナムと関係があった、というものとして書いてます。

・八神迅雷
 パパ。名前は疾風迅雷繋がりで決定。プログラマー。OS大手のソフトウェア開発等を行なっている。時代を先行して魔法技術を習得してもらうためにジェイルがスカウトした。魔力も持っており関わりを持つには実に都合のいい存在だったといえる。

・八神凪紗
 ママ。おっとりだが厳しさと甘さの境界線をキッチリと決めているため締める時は締めゆるむときはとにかく弛むとメリハリがある。

・八神はやて
 名前の由来は父母ともに風の意味を含む単語があり、同じのにしようというノリで決まった。原作と違い料理を始める時期が遅いためいまだギガウマ料理を作れる域には達していない。なのでヴィータが言うギガウマは母親の事を指す。決してメシマズ嫁ではない。

 ラスベガスに在住し暇があれば基地におじゃまし関西人の血を騒がせて暴走する。ソレに巻き込まれる基地隊員はたまったものではないが、それなりに楽しんでいる模様。また戦術指揮や戦闘機関連の知識も遊び程度に教わっている。

 原作だと家族の長、という感じのはやてであったが甘えることの出来る両親が健在であるため守護騎士との関係性は見た目の年齢順に従っている。つまりヴィータは妹、それ以外は兄と姉。もちろんそれに戸惑う守護騎士達であったがいずれ慣れるであろうと思われる。……思いたい。

・守護騎士達
 これといって大した変化はない。元々性質的に変わりにくい人たちでもある。ただしリーゼアリアとの関係はそこそこ良好。管理局員ということで警戒していたが、現在の地球の状態やはやての立ち位置等を懇切丁寧に説明し歩み寄っていったため摩擦は発生していない。

・リーゼアリア
 クライドが計画を建てた際、闇の書の有りかも知り、対処も既に予定されているということから監視目的で地球にやってきた。地球と管理世界は切り離されていたので一応ジェックの手引きによるものである。ロッテはハズレくじを引かされたために日本で活動していた。


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Time of re act<?>

|ω・;)ソーっと、ソーっと通りますよっと。

皆様お久しぶりです。お待たせしました最新話です。もっぱら書くばかりとはいかずだいぶ間が開いてしまいましたが、13000字の大ボリュームでお届けしますので平にご容赦を……。あいも変わらずの穴抜け設定はコジマ方式で埋めまくってますので割とデタラメかもしれません。

ついでに第一話を改訂しました。より読みやすく、内容を精微に書くようにしましたので+4000字の9000字となっております。他のところは今もまだ手を付けれてない体たらくですが、気長に待っていただけるならありがたいです。


――新暦57年

 

 プレシア・テスタロッサは一児の、しかも片親であるというのに娘を構うことも出来ずに仕事に忙殺されていた。理由はアレクトロ社で開発中の新型魔導炉ヒュードラ、その実験が来年第二四半期あたりに行われるためである。設計主任であるプレシアは本来、ミッド技術局第三局長という肩書を14歳で採った経歴を持つ生え抜きの天才だった。そんな彼女がアレクトロ社に勤めているのは、社の強引なスカウトと同局に勤める夫とのイザコザがあったせいで居たたまれない状態になってしまったことが起因している。

 

 結局のところプレシアは夫との離婚を成立させ転勤をしたのだが、逃げた先の新たな居所も中々にハードな試練が待ち受けていた。アレクトロ社は次元航行エネルギー用途として新型魔導炉を次世代次元航行艦のコンペディションに立候補する予定だったのだが、なんとその前設計主任が仕事を投げ出してしまったせいで間に合うかどうかの瀬戸際に立ってしまったのだ。その尻拭いを任されてしまったプレシアは転勤早々業界にありがちな嫌な予感を覚えた。コンペディションまで時間があるとはいえ、起動実験までは1年しかない。新型魔導炉なぞ、果たして誰が1年で設計開発できようか?仕方なしに前任の開発を引き継いだが、ぶっちゃけその出来は良いとはいいがたい。加えてアレクトロ社はこれにすべてを賭けなければならないほど社の状況は悪い。かといって新規設計でモノが作ることが出来ず、有り合わせでどうにかするしかなく……つまり予算が無いくらい切羽詰まるほど、経営陣は困窮だった。

 

 他人の作ったものをいじるほど面倒なことはない。プログラムなどはその最たる例で、他人が綴った文章は同じ言語でも文法次第では恐ろしく難解なものになる。それは設計においても変わりなく、欠陥を虱潰しにしていく作業は困難を極めた。さじを投げなかったプレシアはある意味立派だったが、元いた場所から逃げ出したことから後に引けないというのもあったのだろう。意地でもやり通すしかなかった。何よりも、これが終わりさえすればしばらくは働かずに娘といられる時間が過ごせると信じて。そして働き始めてしばらく経った頃。

 

 

「今日はいつ帰れるの?」

「そうね、ちょっと遅くなるかもしれないけど我慢できる?」

「うん、がんばる」

「ごめんね、出来るだけ早く帰るから……」

 

 寂しそうな表情を浮かべるアリシアに罪の意識を感じながらも、プレシアはドアを閉めた。極まり続ける忙しさは止むことを知らず、いつになってもまともに帰れない。自分の選択がアリシアに押し付ける格好になってしまいこうして一人でいさせるのは忍びない。あるいは前の職場での夫とのイザコザをどうにか我慢出来ていれば……そう思うも過ぎてしまったことはどうしようもない。

 

 いいわけではないが、こういう決断が出来てしまったのはミッドチルダの風潮もある。魔力さえあれば管理局で若い頃からでも働ける環境は、その他の仕事も追従するように従業可能な年齢を引き下げている。親もそれに合わせる形で子供に教育を施しているため、小さい頃から彼ら彼女らは精神面はともかく、非常に聞き分けが良く理解力のある性格に成長する。アリシアも例に漏れず、駄々をこねるような事はほとんどなかった。

 

 丘の上の一軒家から職場へと向かう坂を下る。ここを下り大通りに出ればバスがあり、ソレに乗ってそのまま職場へと行き着くことが出来る。ここ、アンクレス地方はクラナガンから離れた田舎で、実験区画もあることからほとんど人が住んでいない。自宅こそ一軒家だが、ほかは大半が職員専用の寮だったりする。このあたりには学校や保育所も近所にないため、子供の一人すらいなかった。もしも誰かがいればアリシアの寂しさを和らげる事も出来たのだろうが。

 

 

 そんなことを思いながら歩いていたせいだろうか。不意に目に入った遠くの公園に、柵に寄りかかる子供の姿を幻視した気がした。

 

 

 

 

 

「ねぇアリシア?あなた下の公園って行ったことあるかしら」

「え?ううん、ないよ?ママが外に出ないでって言ってるから、私約束守ってるもん」

「う、そう、そうよね。ごめんなさい」

 

 まるで自分が責められているようだ。確かに責められるような思いばかりさせているからあながち間違いではないが。ついでにリニスも同意するようにニャーと鳴いた。

 ここ数日、必ず出勤時には子供を目にしていた気がする。というのも、やはり遠くて確認しづらかったのと急がなければならなかったために、いつも十分な判断が下せないでいた。あるいはもしかしたら何かモノが置かれているだけかもしれないが、夕方になれば必ずいないのでおそらくは子供であっていると思える程度。

 

「それなら……そこに子供がいるのを見たことがあるかしら?」

「うーん、時々お外見てるけどそれもないよ?……あ!もしかして連れてってくれるの!?」

 

 そういえば、明日はなんとか取れた休みだったか。

 

「そうね、いい機会だしお弁当でも持って行ってみましょうか」

「わーいやったぁ!」

 

 久しぶりにアリシアの笑顔を見た気がした。ついでに子供がいるか確認できればいい。もしかしたらあの子供が外にいるのは朝のあの時間帯だけかもしれないし、出来るだけ早めに出てみよう。あすの楽しみを糧に、今日はいい気分で寝れた気がした。

 

 

 

 

「わ、おっきい。ママ!滑り台がある!それからブランコも!」

「はいはい、落ち着きなさい。そんなはしゃいでると後がもたないわよ」

 

 やってきた二人と一匹は思いの外大きな公園に驚いた。人がいるわけでもないのにこの凝りようはどうかと思う。ひと通りの遊具があり、滑り台はまさかのローラー滑り台、噴水も有り景観はそれなり、店舗は無いがカフェテラスもある。何故か普段見ることのない奥側にはプール施設まであった。一体誰が何の目的でここまでやったのか。税金対策か何かでやってるのだとしたら少しだけ滑稽だと思う。ただ遊ぶ側にとっては問題ないので存分に使わせてもらうこととしよう。

 

「見てママ!子供がいる!」

「ふふ、ほんとね。声かけてみる?」

「うん!」

 

 見間違いではなく、やはり子供がいた。綺麗な茶髪をした子供がいつもと同じように柵によりかかって遠くを見ている。柵を超えた先は芝の生えた坂になっており、遠景は大自然を思わせる広大な森。あの子はいつもあそこから何を見ているのだろうか。ぱたぱたぱたーっと小走りに近づいてアリシアが話しかけるのを眺める。あまり近い年の子どもと話す機会が無いからかやたら身振り手振りでワタワタしている姿が初々しい。対する子供の方は突然現れた少女に少しだけ驚いたものの、比較的落ち着いて聞いているようにみえる。しばらくするとアリシアが飛び上がり、満面の笑顔で子供の手を引いて戻ってくる。とりあえず写真を撮っておいた。

 

「ママー!仲良しになれた―!」

 

 それは今からではなかろうか、と思うがもちろん野暮なので突っ込まない。可愛いは正義なのだ。

 近づいてくる子供の容姿を見る。背丈はアリシアと大差なく、綺麗な茶髪のショートカットが日光で綺麗なエンゼルリングを描いている。ぱっちりと開いた目も非常に幼児らしいものを見せているが、その瞳はどこか空虚な気がした。

 

「ジェック・L・高町です。こんにちは」

「アリシアだよー!」

 

 ソレは知ってる。もう片方の子供は随分とハッキリとしたしゃべり方をしていた。楽しげでもなく、恥ずかしさにどもるわけでもなく、まるで大人のような挨拶をする。しかし、その名前を聞いて気になった事がある。それは……、

 

「…………女の子?」

「一応、男です」

 

 

 

 

 性的ギャップの激しい少年との邂逅は、非常にスムーズに幕を開けた。子供らしい遊び盛りな精神を取り戻したアリシアはジェックを引き連り回す。ジェックは従ってついていくが、文句の一つも言わないあたりよく出来た子供に思える。それを追いながらプレシアも写真を撮る。かすれた心に染み渡るような癒し空間が、久しぶりに心を潤した気がした。

 

「そういえば、あなたはどこに住んでるの?この辺りに子供がいる職員って聞いたこと無いのだけれど」

「親はいません。一人で暮らせるので気にはしてませんが」

 

 持参した弁当をつつきながらプレシアは事情を聞き、同情こそしたが特に驚きはしなかった。ミッドチルダは昔から孤児が多い。魔導師でなければよほどの高給にありつけないことと、各世界間の貿易拠点であるものの自世界での産出物は少なく、そのせいで何より物価が高い。後は過去からの負債や傷が積み重なってしまったままというのも原因の一つ、これらによって捨てられる事になる子供も少なくない。

 この少年が一体どのような原因があって、孤児となってしまったのか。結局彼はその一切を語ろうとしなかった。あまりに彼が当たり前のように平然としていたからだ。あるいはそれすらも知らないまま生きてこれたのだろうか。寂しいともプレシア達の親子関係を見ても何の感情も湧かない様はあまりにも滑稽だった。

 ミッドチルダは先の理由もあって比較的養子縁組は行い易い。だからジェックにもしよければ、とプレシアは言いかけたがよくよく考えれば現状の自分とアリシアの状態からそれは難しく思えた。一人の子供すらまともに構ってあげられない親に果たして認可されるのか。十分な環境を与えられてるとは言いづらい。一人で今の有り様なのに加えてもう一人というのはプレシアの手には重すぎる。それでもアリシアのため、少しばかり利己的な感情を混ぜながらもプレシアは手を差し伸べた。

 

「もしよければ、時間のあいてる時でいいからアリシアと遊んであげてくれないかしら。私も働きに出ててこの子のこと、構ってあげられないから。もしあなたが来てくれるなら少しは安心できるわ。あなたも、友達がいたほうが嬉しいでしょう?」

「まぁ、別に構いません」

「やったママ!友達ができたよ!」

「ええ、そうね。明日から楽しみね」

「うん!一年中遊ぶよ!」

「…………もしかして早まったのか?」

 

 だし巻き卵をつつくアリシアのテンションは最早マックスである。一度交わされてしまった約束に慈悲はなかった。今まで貯めこまれていたアリシアの感情に巻き込まれたジェックはご愁傷さまである。

 

 

 

 

 それからというもの、たまに数日ジェックが来なくなる時はあったものの大体はアリシアの遊びに付き合っていた。たまの休みの日は二人と、加えてリニスも混ぜて何かをしている姿を見ることが出来るようになった。あれ以来アリシアの顔はほがらかで、むしろジェックが来なければ頬を膨らませるような反応を見せている。親のプレシアには見せないリアクションだった。ジェックはジェックで非常に淡白な反応であるが、アリシアのいうことは唯々諾々といった感じで聞いている。どちらかというとジェックが合わせてあげているといった風に見えるが。

 

 ともあれ、日々の生活の重しが少し取れたことには変わりない。彼がいるおかげで多少外に出しても大丈夫になったし、気力も充実して仕事がはかどるようになった。生活が万全とは言いがたいが、少なくともいい方向には向かっている。しかし、そう思っていたのは自分だけだったかもしれないと思うほど、事態は急転直下しはじめた。

 

「テスタロッサ君、例の駆動炉実験。10日後に行うことになったよ」

「待ってください!ソレは来月では!?新型なんですよ、暴走事故が起きる可能性もあ――」

「決定事項だ。本社から増員もある。時間は追って伝える」

 

 早すぎる本社の行動に頭を痛める。彼らにとって必要なのは他社より先ん出た成功報告なのだろう。早ければ早いほどプレゼンを行い周知させることが可能になり、結果を出す確率が増すとでも思っているらしい。とはいえそんなものは焼け石に水だ。科学者にとって大事なのはまず安全性、トラブルで宇宙に放流されてしまう可能性を考えれば次元航行艦用途ならなおのこと。見栄を張りたいと考えてるならご苦労なことだが、それを扱う人間のことも考えてほしいものだ。

 

「10日後って!?ありえないでしょ!」

「今更増員されたって、中身がわかってない奴が増えても邪魔な置物になるだけじゃない!?」

 

 当然、報告した部下たちも喧々囂々といった始末だ。誰だって怒るし余計なトラブルは避けたいと思うのが真理である。そんな憤りも、結局社畜である自分たちは時間までにどうにか仕上げるしか無い。元よりプライベートの時間を削って仕事に当てているのに、更に増える残業は身も心もボロボロにした。

 

 それでもとりあえずの完成には至った。だが試運転もしていないのにぶっつけの本番はどう考えても危険極まりない。設計そのものは間違えてない自信があるが、手順一つ違えば恐ろしい事態になるのは確実だ。だというのに

 

「安全確認はうちで行います。これが成功しなきゃ、本社の信用問題になるんだから」

 

 と増員派遣された本社の人間が割って入り、仕事を奪い盗った。

 所詮本社務めを鼻にかけてるだけのエリートもどきが偉そうに……!お前たちは管轄違いだろうが!?と思わざるをえないほど不穏な空気が社内に広がる。そもそも彼らがきちんと成績を出せているなら、自分たちがここまで切羽詰まらなくても良かったはずなのに!

 しかしそうは思っても、上の決定は逆らえず従うしか無い。ココに至って主任であるはずの自分は爪弾きにされてしまい……。

 

 そして、プレシアは運命の日を迎えた。

 

 

 

 

「っぐぅ…?い、一体何が……」

 

 魔導炉実験当日。本社社員の手によって起動されたそれは出力が高まるにつれてその不穏さを増していった。止めるまもなく一気に臨界を見せ、視界が白く染まったように感じたのだ。気がづけば、自分は床に倒れ伏していた。完全遮断結界によって十全な防護をしていたにもかかわらず、至近距離であったためか気絶していたらしい。他の社員も同様だった。

 

 全員を起こして外に出る。駆動炉に何が起こった確認しようとしたが、その前に明らかな異常が目に見えた。

 人が倒れている。廊下を普通に歩いていただけの人間がこけたように、書類を、あるいは飲み物をまき散らすようにして誰もが変わらず同じ状態だった。ここは安全圏だったはず……。そう思いつつ倒れた人間を起こそうとして、プレシアは引きつった悲鳴を上げた。

 

 死んでいる、死んでいるのだ。倒れている人は誰も彼も。しかしビルや周囲の物は何一つ壊れてすらおらず、いっそその普通さが逆に恐怖を引き立てた。今までは確かに人が生き、皆が仕事に奔走し活気のある場所であったのに。今では自分たち以外には音を立てる者がおらず、あまりにシンとしている。誰かが頭を抱えて叫んだ。誰かは震えで腰を抜かした。最早生存者にも常人はいなかった。生き残った人は皆混乱し目がうつろになっている。「嘘だ嘘だ……」と本社社員が吐露した。自分だって同じ気持ちである。ふと嫌な予感がして、これ以上この光景を見たくないとばかりに社を飛び出した。

 

 だが、外の世界も中と全く変わっていなかった。鳥のさえずりも聞こえないほどの静けさで、「ああ、これがゴーストタウンというやつか」と思ってしまいそうなくらいに当たり前の世界は様変わりしていた。後ろから「待って……」という声も振り解くように駆け出し、社用車に飛び込んでアクセルを踏み切る。漠然とした嫌な予感が拭えないまま、大急ぎで家に辿り着いた。見たくなんて無かった。駆け抜けた道路にもいくらかの人間の倒れる死体があった。煙を吹き上げるバスも倒れていた。だとしたら同じように、もしかしたら家の中も……!それだけは嫌だ!!せめてアリシアだけでも無事に……!!

 

 そう思って玄関を開けて飛び込む。そしてリビングに走り見た光景は……、

 

「あ、ああっ……うあああああぁぁあぁ!?」

 

 決して見たくなかった、アリシアの死体()()があった。

 

 

 

 

 あの日のことはもう語りたくないと思うほど瞬く間に過ぎた。

 結局あの後、わかったことは高濃度魔力素によるショック致死だという事だけだ。本来定格であるはずの魔力素は、そのものの濃度を強制的に上げることで魔力に変換した際の出力を大幅に上げる。使用魔力素を増やすのではなく減らす方向で考えたものだ。魔力素や魔力の密度調整をすることで魔力素そのものを生み出すことはできていたが、兎にも角にも方向性の問題か、あるいはそれほどの大魔力を必要とされていたか魔力素濃度を上げる手段を用いることにしたらしい。

 

 この魔力素であるが、本来なら肉体の活力となる程度の影響を人体に及ぼすのだが、薬もすぎれば毒となるの言葉のように魔力素も肉体に過剰な負荷をかけるようになる。これには当然微細な魔力も含まれており、その濃度を上げた状態で体に取り込むとまるで魔力スタンのような事が起きる。ただしその威力は数十倍にも上る。それこそリンカーコアを、プレシアクラスのものを持っていれば抵抗力を発揮して無事でいられるかもしれないが、低い者、ましてやない人間がどうなるかは見ての通りである。アリシアもE相当のリンカーコアしか持っておらず、もはや無いも同然だったそれは抵抗できるわけがなく体に取り込み死んでしまった。アリシアの遺体は何の手出しもされずプレシアの元にあった。あまりに遺体が多すぎてすべてを検死するわけにもいかなかったからだ。だがあまりのショックにか、既に枯れた心の彼女には葬儀すら上げる気が起きなかった。

 

 更に少しして、恨みがこみ上げたプレシアはアレクトロ社を告訴しようとしたが、裁判で勝ち目が無かった。他者が操作を行った証拠が捏造されていたのである。カメラ等は当然で、その他履歴に至るまで改ざんされていた。下手をすればこちらが罪に問われてしまう。結局事を荒立てるより賠償を行い、通常の被害者という形で押し込まれることを余儀なくされてしまった。途方に暮れたプレシアはさながら隠遁するように田舎へと消えていった。

 

 

 

 

 またしばらく時間が立ち、プレシアは人気のない海岸沿いをフラフラと歩いていた。その姿は痩せ細り、まるで枯れ木のようである。一体これからどうすればいい?途方に暮れる彼女の目には全く光が宿っていない。もう娘の声が懐かしい、そう思っている自分があまりに悔しくて考えることすらやめてしまった。

 

「――マー……」

 

 ああ、娘の、アリシアの声が聞こえた気がする。それだけで少しうれしくなった。まだ自分の心には娘が残っている。そんな気がしたから……。幻聴だとしても構わない。確かに聞こえたのはあの娘の鈴のような声だった。

 

「ママー……」

 

 ほら、また聞こえた。今度はちょっとだけ大きくなった。一緒に過ごし楽しかった頃の思い出が再び色がつくように思い出せるようになった。

 

「ちょっとママぁ!?なんで無視するのー!?」

 

 

 

 ――あれ?何かがおかしい。どうしてここまではっきりあの子の声が聞こえるのだろうか。繰り返される自分への呼び声は少しずつ大きくなっていって、何故か徐々に怒りと悲しみを帯びていった。もしかしてこれは殺した主原因である自分を道連れにするために天からアリシアがやってきたのだろうか。まぁ、別にそれでもいいか、と顔を上げてみた。あわよくばまた娘の活きた顔が見られると思って――。

 

「うぅ……うぁーん!!ママがお返事しなぃぃぃぃ~~!!!」

「えっ!?ア、アリシアッ!?」

 

 自分の少し手前で、何故かアリシアが泣き声をあげていた。遠くから走ってきたのか、彼女の背後にはいくつもの足跡がついている。

 

 プレシア は 混 乱 し た !

 

 アリシアは死んだのではなかったのか、仮に生き返ったとしても何故遺体を保管している家と逆側から走ってくるのか。というかなんでいきなり目の前で泣かれてるのか。

 

「うぁぁぁん」

「あ、ご、ごめんね!?ごめんねアリシア!」

 

 何が何だかよくわからないままに謝りながら力いっぱい抱きしめた。そして悟った。この子は確かに自分の娘のアリシアだと、生きた子供の暖かさが自分に伝わってくる。幻でも蘇ったとかでもなく、確かにここに彼女はいた。だとしたら、あの遺体は一体何だったのだろう。もしかしてあっちのほうが幻だったのだろうか。そう考えるほどに目の前のアリシアは現実感を伴いすぎている。

 

「びぇぇぇ」

「あ、あぁ、もう大丈夫、大丈夫だから!」

 

 そして子供というのは安心感を持てば持つほど更に泣き喚くものである。どんどんエスカレートしていくアリシアの鳴き声は、彼女が疲れきるまで続き、それを慰めようとするプレシアは疲労困憊するのだった。

 

 

 

「――……ぐず」

「ね、ねぇアリシア。今までどうしてたの?」

「ぐすっ、ずびー」

 

 顔が水分まみれになっているアリシアは答えようとするも全く答えになってない。プレシアとしても、さすがに死んでたんじゃなかったの?などとは聞けないためにこう聞いてはみたものの、全く埒が明かず。だめだこれは、と思ってるところにもう一人分足音が聞こえてくる。

 

「こんにちはプレシアさん。お久しぶりです」

「あなたは……ジェック?」

 

 そこにあったのは、おそらく同様に死んだはずのジェックがリニスを抱えている姿だった。

 

 

 

 

「あなた達、今までどこにいたの?」

 

 近所にある適当なテラスの一角を借り、適当に座る。プレシアの膝の上には泣きつかれて鼻提灯を浮かべて眠るアリシア、その対面にはリニスを頭の上に乗せたジェック。色々と聞きたくてうずうずしていたプレシアは席に着くなり即座に質問をふっかけた。

 

「軽く他世界に旅行に。知り合いもいたから、ちょっと子供だけで外に出てみようってことで1ヶ月ほど」

 

 娘が死んでいたと思っていた彼女のもっともな疑問に、悪びれもなく彼は答えた。ちなみに彼らが訪ねていたのは地球であり、自由気ままにスカリエッティのところや日本を飛び回っていたらしい。一体どうやってママっ子のアリシアを説き伏せてそれだけ長いこと旅行出来たのかしれないが、随分と気楽なことだ。

 

 とにかく生きていた。間違いなくこの子は本物のアリシアで、当時気付かなかったがリニスの姿もある。おそらく今自分は一生分の安堵の溜息を吐き切ったのではないか、とプレシアは思う。しかしそれならば当然の疑問が浮かび上がる。自身が確認したアリシアの遺体は果たして何だったのか?ここに本人がいる以上あの遺体は偽物だ。サーチャーで確認したところ、今も確かに保存液の中に浮いている。遺体が起き上がってきた、わけではない。だが自分ではあの遺体が偽物だという判別が全くつかなかった。不意に、思いたくなかった嫌な懸念がプレシアを襲った。

 

「……どうして、何も言わずに旅行になんか行ったのかしら」

「必要だったからだよ」

「……何が」

 

「あなたが、アリシアが死んだと認識する事とあの事件そのものがさ」

 

 聞いた瞬間、頭に血が昇ったプレシアはアリシアを抱きしめながら片手でバン!とテーブルを叩いた。眉間にしわが寄り、顔には怒りが顕となっている。

 

「どう……して!どうしてそんなことをしたのよ!?遺体なんて無かったら、あの時あんな思いなんかせずにすんだのに!!」

 

 心の慟哭をそのまま口に出し叫ぶ。対面のジェックはそれを表情一つ変化させず受け止める。相変わらずこの少年には心の機微というものが辞書に存在しないらしい。まるで機械か何かのように淡々として、どう見ても子供の見た目なのに恐ろしいという感情を抱かずにいられない。

 

「それについては、すまないとしか言い様がない。完全にこちらの事情だ」

「事情って、……じゃああのアリシアの遺体は」

「とある博士お手製の義体。極めて精密に作ってあるが、生命ではない。放っておけばいずれ自壊するように仕込まれている」

 

 あれが義体、あれが義体ですって?どう見たって本物にしか見えないのに。だとしたら遺体を作り上げた博士とやらは正真正銘のキ○ガイだ。幼女の体を完璧に仕立てあげる、どう考えても変態としか思えない。

 そして今までの情報をつなぎ合わせると、ある動きが明確になる。わざわざ義体まで用意してあの事件の日に置いてアリシアを連れて行った。つまり彼は事件が起きる事を予め知っていた事になる。いや、いささか憶測が飛びすぎにしても試験日であることを知っていたのは間違いないだろう。加えて彼の裏側にいる博士とやらの存在。そして、そこまでして生きているアリシアが必要だった事情……。

 

「――!あなた、アリシアをどうする気!?」

 

 大事な娘をぎゅっと抱きしめて腰を浮かせる。もしも彼が何かをするならば、自身の全力を持ってここから逃げ出さなければならない。あるいは、この1ヶ月で既に何かされているのかもしれないがそれは考えたくはなかった。

 

「ちょっと待て、大きな勘違いをしている。必要だったのは事件が起きたという認識のみで、アリシアが生きているのはむしろおまけだ。もちろん彼女には何もしていない」

「おまけ……?おまけですって!?人の娘をなんだと思ってるの!?」

 

 とりあえず勝手に解釈したプレシアを再び席に座らせたものの、更に激昂した。当たり前だが、この少年はどうしても自分を怒らせたいのだろうかと思わずにいられない。ちなみにジェックはジェックでどんどんボルテージが上がるプレシアにどう対処すればいいのか困惑していた。ぶっちゃけて言えば、人付き合いがほとんどない彼は基本的にコミュ障なので相手の感情を察するのが非常に不得手なのだ。それが表面に出ることはないために余計に事態を悪化させている気がするが。

 

「とりあえず、僕の出自からまずは話すよ。信じるかどうかは勝手だけど」

 

 ジェックの事情、いわゆる「作戦」そのものとプレシア達の関わりは薄いものの、高町なのはの「知っていた未来」を鑑みるにフェイトという存在は最低限必要だ。ものの見事にボッキリと誕生フラグを折ってしまったわけだが、自身の()()()()()()()の増減も考慮するなら重視すべき事柄である。

 

 だがその情報を伝えたところで今更生命倫理うんぬんにこだわられて誕生しなくなるのも困る。まずはフェイトという存在に触れないよう、必要なことだけを話すことにした。

 

 

 

 

「つまり……あなたは未来から来た魔導生命体で、未来を変えるために過去へ遡って色々とやっているってこと?言うに事欠いてそんな戯言、信じると思ってるの?」

 

 もちろんジェックの口から飛び出した虚言――と思われている――は、話の流れとしてはより泥沼になるだけだった。謝罪か何かを述べるのではなく、未来から来たとかどこのSFゴシップとか何をバカな、と一笑に付すところだ。何より科学者的観点からプレシアは直接の時間軸移動を不可能と断じていた。

 

 ただし、レイジングハートの記録を見るまでは。杖状に変形させた際に明らかになった、現行技術より正しく進んでいると思われる部品の数々。ごまかすことが難しいAI自身が勝手に記録していた各種未来情報。そして、アリシアを復活させようとして明らかに錯乱している自分の姿(ただしフェイトの存在はぼかしたもの)。

 

「…………っ」

 

 プレシアは考えこむように手で顔を覆った。今の映像は、いずれ来る未来の自分というIFだ。こうしてアリシアが生きている現状、そうなるわけがないという確信があるが、逆にそうでなければ自分がこうならないと断言できない。何よりこの情報を元にアリシアが生かされた事は、つじつま自体はあっている。ではそれ起こさないようにした原因はなにか?

 

 現在ジェックが行っている作戦。それは地球を魔改造して管理局の揚げ足を取り、局内の膿を一斉に排除しようという試みである。彼が魔導生命体である以上、生み出した主の目的に沿うように行動するのは当然。そして、その作戦においてプレシアに地球へ突撃されるのは予定外の結末を生みそうで困るということなのだそうだ。だからそれをされないようにアリシアを生かすことにした。なるほど、損得だけを見て考慮すればプレシアの行動は障害になりうるものだろう。

 

 だからこそ、彼女はジェックを許せなかった。こうして長い付き合いがあるというのに、自身の損得だけを秤に乗せ助けたという事実が。魔導生命は主の感情に左右される影響が大きいが、それでも心はあるはずだ。それを感じられないのは彼がそれを獲得するに至るまでの経験が積まれていないか、あるいはそもそもそういう機能が無いのか。今まで表情に出ることが少なかったのも納得はできた。できたが、プレシアは彼とアリシアが遊んでいた一年がまるで芝居だったと言われ虚仮にされたようにしか考えられなかったのだ。

 

「…………ジェック、立ちなさい」

「……?ああ」

 

 何故、と思ったがとりあえず言われたままに立ち上がる。その正面にアリシアをイスに座らせたプレシアが立ち――

 

「ふん!!」

「スマッシュ!?」

 

 大きく弧を描く強烈な張り手、ビンタがかまされた!!ご丁寧にバチバチ唸る電撃ブースト付きだ!ビンタされたという事実を認識できないまま、ジェックの顔は横に吹き飛ばされる。ズッパァン!と景気のいい音が鳴った。

 

「もう一発!!」

「ぐぁ!?」

 

 まさかの二発目、裏手ビンタが襲い掛かる。横に飛んだ顔は吹き飛ばされもとの位置に戻る。

 

「止めの一撃!!」

「ごはぁぁっ!?」

 

 最後はキッチリ脳天への一撃で締める。頭が陥没するかのような一撃を食らったジェックは打たれた勢いそのまま地面とキスした。実にいい気味だ、とスッとした気分をプレシアは鼻で表す。

 

「いまのは私を騙した分、アリシアを裏切った分、そしてあなたが何も言わなかった分」

「ぐっ……」

 

 砂だらけになった顔を上げる。そこには偉大な「母親」としての姿があった。

 

「正直なところ、未来から来たとかあなたの事情とかは……割とどうでもいいわ。だけど、私達と家族ぐるみの付き合いをしてきたのを取り入られるためとか、芝居だったとは思うのは許せない」

「…………」

 

 プレシアはゆっくり丁寧に、彼に語りかける。

 

「あなたはそんな裏切られた相手の事もわからないような子供。だから感謝なさい、親である私が親のいないあなたを叱ってあげるわ」

 

 たとえ未来から来ようとも、魔導生命として知識を植え付けられていようとも、その本質はまだ無垢な子供のままだ。だからこそ、プレシアは叫喚したい心を制御して拳を振るう。正直なところ、彼がまだ語ってないことは多いだろう。だが彼がそれを話せるように、こちらを信頼し芝居と見ないようにするのは必要だとプレシアは直感した。何より、彼は数少ないアリシアの友達なのだ。自分の感情だけで手を取り合う二人を裂くのはアリシアに悪い――一方的なものではあったが――。ひいてはアリシアのため、しいてはアリシアのためである。

 

「……だから、これで手打ちにしてあげるからまた遊びにいらっしゃい。その時はケーキでも作って歓迎してあげる」

「…………ははっ」

 

 なぜかはわからない。何故かわからないが、衝動的にジェックは笑いがこみ上げた。もしかしたら、気づかない部分で彼もアリシア達との付き合いを大事に思っていたのかもしれない。彼の中に何か、形容できない温かいものが生まれた瞬間だった。

 

「……何よ、あなた笑えるんじゃない」

「いや、僕もびっくりした。主と違って自分は機械的だとずっと思ってた。そうだね、でも……悪くない」

 

 すっと立ち上がって軽く服を叩く。パラパラと砂を落として身綺麗にしたジェックはきちんとプレシアの目を見るように顔を上げ、一礼した。

 

「……ごめんなさい。そう、こういう時はこうすべきだったはずだ。使ったことがない言葉だけど、これが正しいということはわかる」

「一言余計よ。でも許してあげるわ。後はアリシアとの付き合いで埋めて、その思いやりを育みなさい」

 

 ああ、ありがとう。それだけ言って、彼は何処かへ去っていった。連絡先は聞いてないが、いずれまた自分たちの元へちゃんと訪れるだろう。その日はそう遠くないはずだ。ならば自分は出迎えがいつでも出来る体制を整えておくべきだろう。莫大な賠償金を元に、義体を匿うために買った「時の庭園」へとアリシアを再び抱え足を向ける。古びているものを二束三文で手に入れたものなので、庭はかなり荒れている。まずは土を掘り起こし、芝生や花を植えていくべきだろう。これからやることは多い。

 

 帰ってしばらくして気づいたことだが、義体は保存液につけていたのにも関わらずいつの間にか消えていた。あれが偽物だったとはいえ、かけていた感情は狂っていても本物だったために多少の哀愁をプレシアは感じていた。その構造がどうなっていたのかはわからないが、ふとあの娘も生きたかったのではないかという想像に駆られる。魔導生命という生き物としてよくわからない存在もいるのだ。出来るならば生かしてあげたかったという思いは、何故かしこりのようにプレシアの胸の奥に残り続けていた。

 




一体何回

ジェック は 説明 した!

という文章を載せればいいのだろうか。なんかあと2回くらいやりかねん気がする。

ちょっとずつ色々フラグ立てていきます。あと当初のジェックは目的のためなら鬼畜、というよりあまり人を理解してないといった感じ。


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Child birth

(;・ω・`)ほんとおくれてすまんかった。いつの間にか10点を二人も入れてくれている人がいて私タジタジである。こうして投稿するのもちょっとドキドキしている。


 新暦60年某日、とある片田舎。

 

 人気の少ない小さな村のそのまた端。ろくに人が近寄らない場所に城と見紛うほどの豪邸がある。森のなかにひっそりと佇むそれはしかし、その奇妙さから強い神秘性を保持している。村の子供達はそれをお化け屋敷と呼び好奇心を高めているが、親から止められてしまい確認することができずにいる。実際のところ、その屋敷「時の庭園」を住処にしている一人の子供と彼らは友人関係にあるのだが、それについては気づかれていないようだ。

 

――「時の庭園」とは大型魔力炉を有する次元航行が可能なロストロギアである。そのまま家という外観を持ち、次元航行艦同等に機能を仕上げた製作者は果たして一体どんな奇抜な人物だったのか。今やそれを知るものはいない。住居部分だけでも数十に渡る部屋、広い庭には色とりどりの花々が咲き乱れ丁寧に手入れされている。地下深くに及ぶ研究棟は家主とその娘の珍妙な研究物に溢れかえり、立派なカオスを生み出している。とはいえそれも一角だけであり、使える空き部屋はまだまだ多い。

 

 さて、言わずともわかるであろうがここに住んでいるのはたった二人の住人。プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサの両名である。わざわざ二人がこのような辺境に隠れるように住んでいる理由。それは2年前のとある事件で公式には死亡したことになっているアリシアにある。娘が死んだことを理由に含め賠償金を受け取ってしまったプレシアは、人目のある場所に住んでアリシアを見られることによる疑惑を覚えられるわけにはいかなかった。よって、学校に通わせアリシアに多くの友人を作らせて挙げられないことに苦いものを感じつつも、このような手段を取らざるを得なかったわけで。

 

 そんな状態でも「時の庭園」を購入したのは偏に良い暮らしをさせてあげようという彼女なりの親心――もといやりすぎなため親バカと呼んでも差し支えない――である。2年前、ジェックがいつつも親としての愛情をしっかりと注げていないと感じたプレシアはほとんどの時間を彼女のそばにいることを選んだ。学校が無い代わりに自分で勉強を教え、さながら専業主婦のように過ごし、生活費は賠償金と多くの論文を自宅で書くことで賄った。そのため今や彼女の持つ特許料は恐ろしい量になっており、もはや何もしなくても勝手に金が入ってくるという一生困らない勝ち組と化していた。

 

 一方、アリシアは大好きな母と穏やかに暮らせることを事情がわからないながらに喜んでいた。家から出る際には多少の変装を施さなければならないのはしゃくであるが、わずかながらも村民の友人ができた事はジェック以来の快挙だと認識している。そのジェックはあれ以来めったに姿を現さないのでそれについては大いに怒りをためているところであるが。何にせよ親子二人は平穏な毎日を過ごしている。そのはずだった。

 

 

「ねぇママー!私の妹はいつ生まれるのー?」

「ふふ、そうね妹は…………妹!?」

 

 朝食をいつもどおりに用意し、娘との何気ない会話にこれまたいつもどおり受け答えようとした結果は痛恨の一撃を食らった気分で始まった。妹、そう妹である。一ヶ月の別離を得て、当たり前のように二人で過ごせるようになってからこれ以上のものはいらないと思っていたプレシアにとって、その一言で様々な思いがよぎった。

 

 まずひとつ、いつか娘は妹が欲しいと言っていた。すっかり平穏が染み付いたプレシアはその事をすっかり忘れていた。

 

「その、近所のお友達じゃ足りないのかしら?」

「えー、違うよ―。妹と友達じゃ全然違う!どれくらい違うかって言うとーっ、これくらい!」

 

 ズバッと上に切った右手の上を左手が薙ぐように通り過ぎる。なるほどわからん。じゃなくて、おそらく娘はグラフに表すように、あるいはベクトルそのものが違うと表現したかったのだろう。この場合横切ったのが妹ということか。それが意味するところはさっぱりであるが。アリシアは親の教えによる理系の頭を直感で熟す稀有な思考を持っている。良い言い方をすれば天才的、といったところか。まさしくプレシアの娘である。

 

 そのに、プレシアはアリシアの願いことは全面的に叶えるようにしている。だとすればその手段をどうとるか。普通であれば再婚して子供を作る、というものだがそれがプレシアにはできない。公的に死亡しているアリシアの存在が露見してしまうのはまずく、どう付き合っても後ろめたい思惑を隠すことはできない。受け取った賠償金は「アリシアが死亡した事」含むいくつかの事柄によって成立している。つまり生きていることが発覚すればあちらは訴訟も辞さないだろう。なので逆に彼女はアレクトロ社の記録改ざんをジェックと伝手のある人間に探してもらい、それを基に訴訟することでうやむやにしてしまおうという計画である。

 

 そのさん、娘がいなくなった悲しみで一時的に狂いかけ倫理的なネジが数本外れていたプレシアは手段を選ばなくなっている。再婚できないことが問題なのではなく、すでに彼女の中ではどうやって「妹」を生み出すかがポイントとなってしまっていた。

 

 そして彼女は閃く。――産めないなら作ればいいじゃない。私の研究で。

 

 一体どこのマリーさんか。ここで養子を取らずに科学的発想に至るあたり、プレシアらしいといえばらしいのだが。他にも手段があるだろうと思わずを要られない。アリシアは友人とは違うというなれば、まず大事なのは血のつながりだろう。遺伝的に妹であり、容姿も似た特徴を持っていれば問題ないはずだ。そして、保存液に残っていたアリシアの義体の遺伝子データ。あれはジェックいわく確かに義体であったらしいのだが、完全な人形などではなくきちんと遺伝子データを基に作り出したものらしい。わずかながら保存液にあったものをバックアップしておいた。加えてアリシアの健康診断などは自分で行っているので当時のデータはそのまま残してある。あの義体を作り上げた科学者は一言言って殴りたいほど憎たらしいが、逆に義体でありながらあれほどの生々しさを持っていた名前の無い彼女に、プレシアはある種情すら抱いていた。ただの遺体役として生み出されてしまった肉塊でありながら、科学的にそうだとは一切思えなかったのである。

 

「よし、わかったわ!ママに任せなさい!!」

 

 この時プレシアは決意した。生まれてすらいなかったアリシアと同じ容姿を持ったあの娘を、当時の年齢から産みなおす計画を。余談であるが、後に精子バンクなどに頼る気は無かったのかと聞くと「愛してすらいない誰のものともわからない男の子種を体に入れるなんて虫唾が走る」とのことであった。プレシアは意外と高潔らしい。

 

 

 

 

「とは言ったものの……どうすればいいのかしらね」

 

 言ってしまった以上どうにかしなければならないが、計画はさっそく暗礁に乗り上げた。機械工学にはめっぽう強いのだが、生命学となるとかじっただけのプレシアではそも発想からして困難であった。ならばまずは他人の論文からどうにかすれば、と思い検索。すると「プロジェクトF」の論文に辿り着いた。確かにこれならば義体とほぼ同等の器が作れる。だがこれはあくまで食用であって、地球で少し未来にて発見されるiPS細胞的なクローン手法に近い手段をとったものであった。おかげで管理世界の一部では高級な食用肉が養殖されている。だがこの手法では果たして人間的な「魂」とでも呼べるものを作れるかどうかまでは懐疑的であった。あの義体を見ていれば尚更その疑惑は重くなっていく。そして連絡をとってみようと思うにも、既にこの著者は死亡しているらしい。これを出した当時、何か著者に不幸が起こったらしいがその真相は闇の中である。

 

 まぁ、これを元手に研究してみるのもいいだろう。おそらく自分であれば2年とかからずに完成させる自信がある。最も、それは寝食を抜いた上での話であり、アリシアの願いを叶えるため早急にと考えても、健康的な生活をし「母」であることを自分に課しているプレシアには不可能だった。アリシアの悲しい顔は見たくない。かと言って妹がすぐに出来ないとも言いづらい。どちらもアリシアのためでありながら完全な板挟み状態にあっていた。

 

 

 

 

――ジリリリリ

 

 そんな事を考えてしばらくたったある日、非常に古臭いアンティークな装飾がほどこされた電話のベルが鳴った。金属の甲高いアナログ音がプレシアを思考の海から引き上げる。その音を少し聞いて、やっとプレシアはああ、電話ねと気づいた。こんな辺鄙なところに住んでいる人間に電話をかけてくる者は珍しい。近隣の村人にも教えていないほどだ。どうせ間違い電話だろう、そう思いつつ受話器を取る。

 

「はい、もしも――」

『やぁ、私ジョニーさん。今地球にいるの』

 

――チーン

 

「ママぁー?何だったの今の電話?」

「なんでもないわアリシア。間違い電話よ」

 

 意味がわからない電話を躊躇なく切った。というかドコよ地球って。少なくとも聞いたことのない場所からかかって……

 

「ねぇアリシア。地球って何かわかる?」

「わかるよ!ジェックと前に行ったところだもん!話したよね、日本の京都ってところ行ったって。ゲームメーカーのメッカなんだよ!」

「そういえばそうだったわね(この子そんなところまで行ってなにしてるのかしら……)」

 

 確かに随分前にアリシアが話していたことを思い出した。そう、地球。確かジェックの心のふるさとだとかなんとか言っていた。普段は管理番号で呼ぶためにそういった惑星呼称はてんで覚えていなかった。しかしそれならばなおのこと、そんなところから電話がかかってきたことに疑問を覚える。次元世界を隔てた通信はいかな量子通信といえども基本は不可能である。なにせそれぞれの宇宙が隔絶しているのだからつなぎようがない。もしもつなげようと思えば両世界と次元空間内に通信設備、中継ポートを設置する必要があり、非常にコストがかかるためビデオレターなどが推奨されている。

 

 かけてきた本人が嘘を言っている可能性もあるが、惑星名を言ったことや娘との縁を考えるとあれをただの間違い電話として処理したのはもしかして間違いだったのでは?と今更疑問がよぎる。

 

「困ったわね、どうしようかしら。もしかしたらアリシア宛だったのか――」

 

――ジリリリリン!

 

 再び鳴る電話。何故か先よりも強く鳴っているような気がする。まるで即座に切った自分を責めているようで微妙に受話器を取りづらい。だが女は度胸、もしも何か言われたら受話器を落としてしまったとか言ってスルーしてしまえばいいのだ。どこか違う方向に気合を入れながらむんずと受話器を掴み、再び耳に当てる。

 

「……もしもし」

『やぁ、私ジョニーさん。今あなたの住んでいる森の郊外にいるの』

 

――チーン!!

 

「ママー?なんなのその電話」

「なんでもないわ、ただのキチガイ電話よ」

「一文字だけ変わった!?」

 

 間違いない、あれはただの嫌がらせである。一体何の目的でかけてきているのか知らないが、プレシアは無言で杖型デバイスを手にした。一瞬で地球からここまできたとか、色々突っ込みどころはあるが気にしたら多分負けなのだろう。

 

――ジリリリリリン!!

 

 そしてやっぱり鳴る電話。二度ある事は三度ある、と言わんばかりに電話機も話し相手に負けじと自己主張を繰り返す。どうせ放置してたらこのまま鳴り続けるのだろう。甲高い金属音にイライラさせられるのはゴメンである。今度絶対電話を買い換えよう、絶対にだ。決意して彼女は同じ動作を繰り返す。

 

「ちょっと、いい加減にしなさい。一体何を考えて――」

『やぁ、私ジョニーさん。今ーー』

 

 

「君の後ろにいるのだがね」

 

 

「サンダーボルトスクリュー」

「あばばばばばば!?」

「ママそれ違う技!!SAY☆BYE!!」

 

 勢いのあまり全く違う技名を唱えてしまったサンダーレイジが唸りを上げて、背後に現れた不審者に襲い掛かった。それを見たアリシアはなぜか鶴のようなポーズをとっているが、それも違うと言っておこう。やったかしら、とプレシアは魔法を打ち込んで立ち上る煙を見る。だが期待にはそぐわずザシャリ、と音を鳴らしゆらりと一人の男が姿を表した。見た目はスーツの上にボロボロの白衣を着て、いかにもダメージを受けましたみたいな状態になっているが、その中身の肉体はピンピンしている。あれほど苛烈な攻撃を食らって何故彼は平気なのか、プレシアは眉をひそめる。

 

「……ケホ、さすがにゴッドハンドスマッシュまでされてたら即死だったよ」

「そう、物理には弱いの。どんな方法で防いだか知らないけれど、欠点はあるようね」

「なんでそれで話が通じてるのか私は知りたい!」

 

 アリシア驚愕。時に天才同士の会話は主語も過程もぶっちぎるという、典型的な例であった。理解力が足りなければ解読するのも難しいであろう。そしてようやく現れた人物にアリシアは気づく。それは以前、幼い時(今でも幼いが)に地球で出会った謎の博士、ジョニー・スリカエッティということに。

 

「あ、スリカエ博士。こんにちは!」

「やぁアリシア、ごきげんいかがかな。今日はおみやげを持ってきたよ、芋長の芋ようかんだ。これを食べておっきくなるといい」

「それ巨大化じゃないですかやだー」

「ちょっと、あなた何勝手に人の娘に話しかけてるかしら?」

「ハハハ、痛いじゃないか」

 

 ガッチリと背後から掴まれた肩には女性とは思えない握力が加わっている。このままではジョニーの肩はスッポ抜けるだろう、天才科学者はひ弱であるという欠点は彼にしてもぬぐえない。いずれこのままではメキメキと……

 

「なんなのこのカオス」

「あ、ジェック」

 

 そこに転移で現る救世主ジェック。ジョニーと一緒に来ようと思っていたのだが、ネタがあるからといって先に行かせただけでこの有り様。少しだけ後悔してしまった。

 

「てぃっ!」

「ガハッ!……何をするアリシア、背後は弱いと言っているだろう」

 

 思考にとらわれていたところに背後からクロスチョップを見舞われぶっ倒れる。ジェックのレアスキルは他者やものにかける場合一度視認しないと働かない。つまり他者からの攻撃が縁のない状態にするには視界に収めなければならず、アリシアの突撃を食らってしまった。自分自身が攻撃そのものに縁がないとすることもできるが、今その状態とは無縁だろうということでかかっていない。

 ジェックを倒したアリシアはその上にまたがったままふんぞり返って叫んだ。

 

「何ってなにかな!遊びに来てって言ってたのにいつまでたっても来ないし!私寂しかったんだからね!」

「い、忙しかったんだよ」

「そういう人はだいたい暇を持て余してるんですー!」

 

 横暴すぎる、とジェックはつぶやく。実際彼は今まで地球関係のことであれこれしていたり、未だ発見されていないロストロギアを先立って見つけ絶縁することで世界そのものから隔離するなどの危険物処理を行っていた。なので決して忙しくないわけではないのだが、実際に空いている時も来なかったので自業自得である。

 加えてアリシアにとってほぼ初めてに近い友人であり、その友人が自分の存在も忘れたかのような振る舞いは事情を知らないとはいえ、いや知らないゆえに怒りが絶頂に達していた。

 

「貴公の首は神棚に飾るのがお似合いだー!!」

「いたっ、ストップ、ストップ!お願いだから頭を叩くのをやめてくれ!」

 

 半泣きで叩きまくるあたり子供らしいが、それを受けているジェックはたまったものではない。

 

「わかった、わかったから。今度一つだけなんでも言うこと聞くからやめてくれ!」

「むー、約束だからね!でも今は使ってあげない!何かとてつもなく大事なことが出来た時に使っちゃう」

「なんだか恐ろしいお願いをされそうで怖いよ」

「ふふーん、私を放っておいた罰なんだから。ところで……」

 

 すっとアリシアが指差す。

 

「アレは放っておいていいの?」

 

 その先には何度も雷を受けて真っ黒焦げになりながら笑っているジョニーの姿があった。

 

 

 

 

「やれやれ、ひどい目にあった」

「自業自得よ。よく初対面の人間にあそこまでふざけた行動をとれるわね」

「ヒューマンコミュニケーションのコツは尻込みしないことだと覚えているのでね」

「あなたは土足で踏み荒らす類じゃなくて?」

 

 しばらくして落ち着いてから、ひとつのテーブルを囲って腰を下ろした4人。それぞれに出された紅茶を好みの味に調整しながら話しだす。アリシアは溜まりに溜まったジェックへのネタを。ジェックはそれを最近見え始めた感情を顔に出しながら楽しげに聞き、大人二人は言葉のボクシングを交わしている。

 ちなみにその大人であるジョニーはあれだけの大被害を被りながらも、そして未だ真っ黒になったままながら一切ダメージを受けていなかった。

 

「その技術の秘密、気になるわね。AMFではないのかしら。少し気になったので魔法を連発してみたのだけど」

「さらりと君はすごいことをするね。まぁそのときは私もするが」

 

 AMFは知っての通りアンチマジックフィールドの略であり、逆位相の魔力波長によって魔法を無効化する防御フィールドのことである。この魔法が大々的に有名になるのは未来の話だが、この時代でも知っているものは知っている。ただ防御に使う技術と魔力消費が全く割に合わないことからほとんど使い手がいなかった。ジョニーの反応から少なくとも、魔法は通っている。そのためAMFでは無いことはわかっているが、それ以外に検討がつかないプレシアはとりあえず口にした。

 

「ふふ、よくぞ聞いてくれた。これは最近私が開発した傑作でね。攻撃を受けた瞬間に量子的に二人の私が存在し、無傷の自分を観測することによってダメージを無効化するのさ」

「何よそれ。ほとんど無敵じゃない」

 

「ところがそうでもない……実はただの欠陥品でね。なんとこれ、ギャグ時空が発生していないと機能しないのさ」

 

 意味不明とばかりに「は?」と呆けるプレシア。それもそうであろう、科学者がギャグ時空などという意味のわからん理論をぶちまけているのだ。困惑して当然である。

 

「ほら、マンガでもあるだろう?攻撃を受けてもピンピンしているアレさ。その瞬間は大体の場合必ずギャグ、いわばコメディ的な状況が発生している場合が多い。これも同じでね、意図的にギャグ時空を発生させて……というよりギャグ時空を発生させないと無傷な自分を引っ張り出せないのさ。そして、ギャグと認識してもらい他者に観測させることによってようやく自身の状態が確定する。ダメージを食らったビジュアルそのものは残るがね。とはいえ、痛いものは痛い。物理に弱いというのはそういうことさ」

「ふぅん、そういうこと。ならあなたは永遠に無敵なのね」

「おや、もしかして私は存在そのものがギャグ的と認知されてしまったのかい?……くっくっく、面白いね。ちなみに君はどう思うアリシア君」

「え…………いいと思います!」

「君今話聞いてなかったろ」

 

 不意に振られた話に適当に返す。もちろん今の彼女はジェックへ話をするのに夢中で全く聞いていなかった。

 

「ところで、あなたはうちのアリシアと……それとジェックとどういう関係なのかしら」

「彼とはとある同盟関係。そしてアリシア君とは……少しだけ髪の毛を分けてもらったなk―ー

 

「ふんっ!」

 

――ぐぇ!」

 

 容赦なく顔面をブローで撃ちぬかれたジョニーは悶絶した!

 

「よくも騙してくれたわね……そう、あの『子』を生み出したのはあなただったのね」

「くく、あれはただの人形だよ、中身は木偶もいいところさ。もしかして情でも感じたのかい?」

「私を騙しきれるのが人形なわけないでしょうに……。たしかにそれもあるわ。でも」

「……でも?」

「アリシアとそっくりに作ったってことはアリシアの裸を見たことと同じよ。少なくともあなたが変態ということは確定したわね」

「待ちたまえ、それは何か違う。少し落ち着いて紅茶でも……ぐぉ!?」

 

 さらに殴り続けるプレシアに一抹の狂気を感じてしまうジョニー。彼の存在自体がギャグだと認められてしまったためにダメージこそ無いが、ダメージを受けないのなら永遠に殴り続けてもいいわよね、とばかりにドコスカボコられている。グヘ、グハッ!とうめき声が上がっているが誰も気にしない。ちょっとこのプレシア、あの事件以来殊更アリシアに関することは敏感であり、ちょっとでも何かがあるとキレるようになってしまった。まさに過保護なモンペの誕生である。とはいうもののジョニーのやったこともやったことなので全くかばう点が無いが。

 

「……全く。ジェック、あなたもなんて奴と付き合ってるのよ。こんなのと縁持つだなんて、どうかしてるわ」

「と言われても。必要な人材だから仕方ないね。それに彼はあなたにとっても有用だと思うけど」

「そうね。今更ながら気づいたけど、あれほどの技術を持った人間なんて一人しかいないわ。そうでしょう、ジェイル・スカリエッティ」

 

 なんでそれを知っている、と思いつつプレシアの目の向けた先にいる人物こそ、今現在彼女が必要な技術を持っているジョニー……改めジェイル・スカリエッティだった。巷では消えた大天才と知られており、プロジェクトFという題名で出された論文は食用動物の完璧なクローン、または食肉の部分培養として他者の追随を許さないものだ。噂の通り彼の行方は名前だけを残し誰にも知られていなかったが、死んだという事実(ただし偽装)は管理局の裏側にしか知られていないためその事実と直結しない知識のプレシアは彼のことに簡単に気づけた。

 

「くっくっく、バレてしまっては仕方ない。そうとも、私が変なおじさんだ」

「そのとおりだと思うけれど。ふたりとも何か異論はあるかしら?」

「ないよー」「ないね」

「昔から怒鳴られたり頭ごなしに命令をされることはあったが、こういう扱いは初めてだよ」

 

 顔を見た目だけボコボコに腫らしながらショックを受けるスカリエッティ。しかしきっと彼は内心喜んでいるだろう。新しいことは彼にとって興味の対象である。とはいえ字面から見ればただの変態にしか見えない。

 

「まぁ、何にしてもどうせだから技術提供なりなんなり、協力してもらうわ。もちろん、文句はないわよね?あんなことをしでかした罪は重いわよ?」

「くく、構わないとも。しかし何故そこまであれにこだわるのか、理由を聞かせてもらっても?」

 

 質問にプレシアは軽く目を閉じる。浮かんだ表情はわずかに後悔している、というもののよう。

 

「……簡単なことよ。私があの『子』を少しでも、アリシアと同一と見てあの『子』を見てあげてなかったこと。たとえ姿形がそっくりだった作り物とはいえ、あの『子』が血を分けた子供であることは変わりないわ」

「それで産みなおそうというのかい?」

「科学者なりの傲慢だし、私のわがままとただの感傷であることは理解しているわ。それでも、よ。あなたはそれを笑うかしら、生命の天才さん?」

「笑うも何も私もまだ学んでいる途中さ。なに、力の限りを尽くさせてもらおう」

 

 立ち上がり握手を交わし合う二人。こうして時代の科学者が手を取り合った。これによってある一人の少女は非常にスムーズに生まれることだろう。元の歴史とは違う、良き母と姉を持った家族となるために。

 

「……なんだかよくわからないけど、まとまってよかったね!」

「そうだね。とはいえこれからが心配だけど。ジェイルがだいたいなにかやらかすんだし……」

「そういえばジェックは初めてあった時から全然背が伸びないね!」

「……君も大概空気がよめないね」

 

ーー

 

ーーーー

 

ーーーーーー

 

 それから、一年の時が流れる。老衰しリニスが死んだことに泣きに泣いたアリシアを慰めるために使い魔にしたり、時々訪ねてくるジェイルがそのたびに変な騒動を起こして一悶着あったり、なんだかんだあったがプレシアも特に病気になどかかることもなく……無事に一人の少女が誕生した。

 

 ベースとなったのは五歳当時のアリシアの遺伝子であるが、赤い瞳と多大な魔力を持ち、知識の基礎転写のみにとどめた少女はどこかポワポワした天然な娘であった。しかしきっとアリシアならこう言うだろう。違うからいいの!と。それでも幼いころの自分そっくりな姿はまるで双子になったみたい、と喜んでいたが。

 

 そして初めて彼女を見たアリシアはこう告げた。

 

 

 

――こんにちはフェイト!私があなたのお姉さんだよ!

 

 

 

 

 

 

「って感じのことがあった」

「えぇ話やなぁ……えぇ話、……えぇ話なんか?ていうか自分のこと全然話とらんやん自分!」

「はやてー、なんかデジャヴを感じるぞー」

 

 おい!とツッコミを入れる似非関西人、もとい八神はやて。視点は戻って現代、アメリカの基地にてジェックの話を聞く大家族に移る。実際彼が話したことといえばテスタロッサ家族のことと、それ以外は終始ロストロギア集めに奔走していたことくらいで大した情報が無かった。ヴィータは他に言うことはないのか、と呆れていた。

 

 聞いている間に食事も終わり、しかしそれだけ長い時間使ったにもかかわらずこれだけとは。あいも変わらず秘密主義やなと、はやては嘆く。というより彼の本質が口下手なのに起因しているものあるのだろう。重要な部分しか抜き出して話さないからこういうことになる。良くも悪くも彼は事務的なのだ。

 

「ふむ、貴様のやっていたことはわかった。その活動の積み重ねが今の我々の状況を生み出しているのだろう。平和な世界において、既に闇の書、いや夜天の書を直すための方策まで整えられている。本来ならリンカーコアを抜き出しお尋ね者にでもされかねない、されているかもしれない我らを、助けようというのだからな。騎士として言うのは筋違いかもしれないが、これを幸せと言わずなんというのだろうな……。

 しかし私が言うのもなんだが、貴様は今それで幸せを感じているか?」

 

 同じ魔導生命体であるシグナムが問う。いわば魔導生命体とはひとつの目的に向かって動くよう作られたプログラムだ。人であるからこそ同じように考え、感じることもできるが、その奥底にある命令に従順であることだけは変えられない。ジェックはさて、どうだろうね。とだけ答えた。

 生まれてからそれなりに時間はたったが、未だ彼は少年であり、知識もあるが確かな答えは出せていなかった。生みの親である高町なのはのゴチャゴチャした思いから生まれた彼は、ある意味命令を無視しており魔導生命体としては欠陥品そのものであるが、またある意味では多様に考える『人間』でもある。

 だからこそ、この命令を完遂したとしてもそのようにただしく幸せを感じれるかどうかは疑問であった。そればかりはなってみないとわからない。

 

「まぁ、それはあとの楽しみにしておこうじゃないか。それより、もう数日したら君たちにはちょっとしたサプライズがある」

「お、なんやスカさん。生半可なもんやったら私はおどろかへんよ?」

 

 とは言いながらどこか期待に満ちた目のはやて。大体彼のやることはトラブルも多いが、それゆえに面白いことも多いのだ。乗じてはやてが悪乗りすることで更にカオス度が増し、騎士たちが慌てて取り押さえるかアリアに叩き潰されるかどちらかで殆どの場合終わりを見るのだが。案の定、それを聞いたアリアはげんなりとした雰囲気でため息を吐いていた。

 

「ふふ、それはだね――……

 

 

 

 

 

 

 時はマギテクススポーツのエキシビジョンが始まる、更に前。7月終盤あたりまで遡る。場所は日本、海鳴市にある高町邸。

夏の陽気に照らされながら、大会に備えフェイトに負けじと特訓し流した汗が輝くなのはの姿があった。っふ、っふと呼吸を整えながら振り続ける木刀は次第に早くなり、ぶわわっと高周波のような音を立てながら徐々に見えなくなる。お前本当に小学生か!とツッコミを入れたいが、そこはくさっても戦闘一家高町に生まれてしまったためなんの違和感もない。町中を暴走するかのごとく走る姿も、曲芸じみた剣技ももはや周囲の人々にとっては馴染みのものである。実際剣技はかなり恐ろしい腕前に昇華しているのだが、使う少女がかわいらしいこともあってあまり恐怖感を抱いている人はいない。

 

 剣を幾度か振り切ったあと、ふはっと彼女は深呼吸した。どうやら集中力に重点するために無呼吸で振るっていたらしい。その後、ゆっくりと呼吸を整えながら「今日の訓練おーわり!」と道場を後にする。もちろん掃除も忘れなく。

 今日は家族全員が出払っていたため、訓練は軽く済ませる程度にしておいた。恭也や美由希はそれぞれの用事で、ユーノは大会の調整、両親は翠屋とそれぞれに都合があった。まるで昔のような状態だが、今のなのはに全く寂しさはない。あの時以来、皆それぞれなのはとともに様々な絆を築いてきた。それを信じられるからこそ、こうして帰りを待つことができるのである。なのはの心はいまや陽だまりのようにおだやかだった。

 

 汗を流しリビングに戻ったところで、タイミングを図ったかのように電話が鳴った。まだ電話口にも出てないのに「はーい!」と言いながら受話器を取る。耳にしたのは知らない男の声だ。

 

『こんにちは。その声はなのはちゃんだね?』

「え、えと、どなたでしょうか?」

『おっと、すまない。私は三雲連次だ、よくお父さんの世話になっている、ね』

「三雲……え!もしかして首相さんですか!?」

 

 電話の相手はハッハッハ、そのとおりとのんきに笑っている。対するなのははガッチガチに緊張した。いくら父と知り合いとはいえ、そんな雲の上のような人と会話する機会が、それも普通の電話であるとは思いもよらなかった。ちなみに見る人にとってはなのは自身もそうだということは気づいていない。

 

「そ、そそそそそれでどうしたんでしょうか?お、お父さんは今仕事中ですけど」

『はは、そんなに畏まらなくても構わんよ。何、私が君と少し話したかっただけだ』

「……私と、ですか?」

 

 うむ、と三雲は肯定する。

 

『士郎くんには既に伝えてあるのだが、やはりこれは君に直接伝えるのが筋だと思って電話させてもらったのだよ』

「な、なんでしょう?」

 

 ちょっとだけ彼が何を言い出すのかドキドキして待つ。首相がたった一人の少女に放つ言葉。それは何かきっと重いものを持つのかもしれないと。

 

『大会が終わった後の8月終盤なのだが、

 

 

――アメリカに、行かないかい?』

 

「…………ふぇ?」

 

『というか、もう確定してるんだけどねアメリカ行き。まぁそういうことなので、準備しておいてくれ。詳しくは士郎くんにお願いしてるからねぇ。ではまた!』

 

 ボーゼンとしている間にプツンと切られる電話に、なのはは何も返すことが出来なかった。

 

「え、えぇぇぇぇぇ!?」

 

 どうなってるのー!?と大慌てする。しかし、当然ながらそこに答えをくれるものは誰もいなかった。

 

 

 ――行き先は映画の聖地、ハリウッド。

 

 

 

 

 

※入りきらなかった小ネタ※

 

「ところで、プロジェクトFのFって何の略かしら?」

「…………フェイトさ」

「フェイト、ね。次女の名前はそれでいこうかしら」

「ずいぶん安直だね。さすがの私もびっくりだよ」

「そうかしら?ある意味運命的だと思うのだけれど」

(どうするか……皮肉を込めてファットマンだとつけていたことは言わないほうがいいのだろうね)

 

 

 

「ふむ、つまるところこれは私とプレシア君二人の共同作業ということか。

 ……プレシア君、――私と子作りしないか痛い!」

「いっぺん死ねばいいと思うわ」

 




※ギャグ時空による無効化=ドリルミルキィファント(ry

※実は61年あたりに使い魔精製禁止の法律ができてるらしいのでリニスは本作ではわりとギリギリ、もしくはアウトである。

 どんな時でもギャグ化してくれるスカさん万能説。リハビリに近い形で文章を綴ったのでなんだかドマイナーなネタばっかり仕込んでしまったが後悔はしない。夜中のテンションで書いたのでどこか文章のつながり(主にキャラ同士の会話中における疑問やら気づいたことやら)がスッポ抜けてる可能性があるのでなんか変かな、と思った方はご連絡を。

あとやっぱり時間なくて改訂部分は後回しでまずは先行します。次回がいつになるかわからないのが申し訳ない。いい加減はよStSいけやと思ってる方もいるでしょうからまきまきではいきますけど。

次回は最後のお楽しみを一旦置いて現在の管理局の状態をやるかもしれません。


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Council for future

久々更新。やはり政治は苦手だ。どうもキレイ事ばかり言ってる気がして。

イノセント2巻読みました。色々と設定なぁなぁにしてますがなのはシリーズ的にあれはかなり良好な状態だと思います。なのはが御神流使えるってあたり、もうこれ2次でやる必要あるのかな?;とも思ったり。あの描写は射抜ですよね?


 新暦65年(2005年)6月某日――

 

 地球では魔導ブームのさらなる加速に向けた大会の準備に入ろうとしていた頃。同時に時空管理局も多忙の極みにあった。つい先ごろに起きた局内での激動、後にハラオウン革命と呼ばれるそれは好悪様々な事態をもたらしている。まず前者は局内主派閥の違法局員を一斉逮捕にこぎつけたこと。これにより横行していた汚職はピタリと止み、スッキリとした健全な空気を局内にもたらした。またクライドが主導する非魔導師の活用推進も高圧的な一部の魔力主義者たちがいなくなったことで前進を始めていた。

 

 では悪い方は、と言われると判断に難しい問題がいくつかある。わかりやすいものであれば逮捕できなかった元局員が何人かいること。念入りに裏を渡り、自分に銃口が向けられていると感づいたものは早々に高飛びしてしまっている。また逮捕しようとしたあの瞬間に隙を付いて逃げてしまったものもいる。実に勘のいいことだ。これは主に暗部の工作員と、実力のある若い連中による暴走によるもので実働的な人間が多い。監獄につっこまれているのが老骨ばかりなのがいい証拠だ。

 そしてそれらの影響による欠員は当然人員配備にも問題が出ている。カバーしなければならない範囲が増え、一人あたりの作業量が前にも増してさらにブラック企業のような有り様を出してしまっている。しかしこれは再生の前の破壊であり、これからに対するクライドの働きに期待がかかっているため大事にはなっていない。それだけ信頼が厚いと見れるが、もしもこれを失敗してしまえば暴動もやむなしだろう。

 

 下位局員に関しては仕事量の増加程度で済んでいるが、最も忙しいのは上位に設置された今後のための対策会議だろう。例年ならば意見陳述会を年に1、2度開けばいいが、今回ばかりはそうもいかない。

 

 なぜなら、管理局そのものが解体の憂き目にあっているからである。

 

 確かにハラオウン革命は成功した。これからの管理局はより良い方向に進めるであろう、と誰もが思う。しかし市井の人間にとっては、局内でのそれほど多くの不祥事が顕になったことにより、局に対する信頼が地に落ちてしまった大事件であるのだ。それが原因で各地でデモが起こり、局内の責任問題に発展する。しかし誰が責任を取るのか、となれば指の向けどころが全くないことに皆が気づく。そもそも現在の最高責任者のクライドはこの革命によって局内を一掃した功績者であり、前任のギル・グレアムは既に前線から引いている。悪意の温床を築き上げた悪人どもは皆檻の中。それ以外のほとんどは汚職があったことすら知りもしない者達。さて、じゃぁ誰に対してこの鬱憤を晴らせばいいのか?

 

 答えが出るまでには幾分かかかったが、その矛先は「管理局」そのものと資本を提供する「第一世界ミッドチルダ」に向けられた。

 

 そもそも管理局の成り立ちは、元最高評議会の3人を柱とした時空航路の運営をしていた一公共団体による躍進によるものだった。次元の海は各世界が存在する「宇宙」を内包する3次元空間の上位に存在するものであり、宇宙を構築する元である。そのため内包された宇宙からロストロギア等で干渉されると、壊れることはなくともたわみが生じてしまう。これが航路に障害を生み、あるいは世界崩壊の一因を生み出してしまうのだ。

 では次元干渉なんのそのなロストロギア同士で戦争しまくるとどうなるか?もちろん世界の破滅レベルどころでは無い大津波が起こってしまうだろう。航路の安定化作業に関わる人間からすればそれはもう恐々とするような事態であり、管理局の前身からすれば何もせずにはいられないような状態だった。その結果、人々の安全を守るためについでに世界も守ってしまったのが、最高評議会なのである。こうしてみれば神話クラスの超英雄なのだが、あのように手段を選ばぬ人間?になってしまうとは老いとは恐ろしいものである。

 

 話は戻して、この公共団体を運営していたのは現状からわかる通りミッドチルダの政治組織である。政治的にミッドチルダはこの公共団体によって必然的に戦勝国とされ、疲弊した各世界をどうするかという問題に迫られた。しかし疲弊しているのはミッドチルダとて大差なく、結局は妥協に妥協を重ねて緩やかな植民地化を行うことになった。その舵取りとして件の3人とその組織が選ばれ、管理規模と解釈の拡大によって単なる公共団体は航路+次元世界の統合と管理番号の付加、ついでにミッドの政治組織を組み込むことに。これがいわゆる管理局の発祥というらしい。当時はぶっちゃけこの政治組織よりも公共団体のほうが資金を持っていたがゆえの決断だったのだが、それは多大なる出費と人口の変動による税金の増加により立場が逆転。だがその頃には議会と呼ぶべきものは完全に組み込まれて分けて考えることが不可能になっていた。そして現在は後から組み込まれた次元世界を含め復興した世界は数多くあり、それらが手を組むと確実にミッドチルダを追い込めるレベルになっている。これを好機として手の早い次元世界は市民と一緒になってミッドチルダを糾弾。管理局は政治機能を剥奪されることになる。ついでとばかりに司法機能も疑惑によって制限され、現状では現場での簡易権限しか残されていない。

 

 実はこれほどスピーディに事が進んでいるのはやはり、裏にクライドの活動があったことが原因だろう。あらかじめこのように非難されることを予想していたクライドは各世界を巡回している時に協力的な著名人、政治家に何かあった時は頼むと暗に告げていたからだ。脱出不可能な次元航行艦から奇跡の脱出を遂げたクライドはある種英雄的な立ち位置として見られ、非常に多くの人々から会わせてくれと要望が殺到。その中からこの人は、とクライドは協力的な人間を見つけ出し、声をかけておいた。それにピンと来た協力者はこうして精力的に活動しているということである。

 

 そのためこんな状況でも未だに上に誰かを置くことなく、クライドは管理局という組織の頂点に座していた。いずれ監査組織やなんらかの仕組みが出来るであろうが、制限された中であってもクライドにとって再編という今の時期は確実に好機だった。様々な権限を剥奪されたとしても管理局という組織は既に無くてはならない市民の防衛組織なのである。解体されこそ、再編が行われるのは当然の成り行きであり。その方針を明確に固めて計画を打ち立てておけば、邪魔されるどころか追い風が吹く勢いで事が達せられるだろう。

 

「――と、いうのが管理局の今の状態だ。我々は以後、組織名を改め「時空防衛管理局」とし、治安維持と航路の安定化、防衛等に特化しそれに基づいた施策を行っていく。おそらくこれからは各世界において現地民による刑事組織が作られていくようにはなるだろうが、我々はそれらを統括、指導していく立場になるだろうな。それ以外ではあまり今までと大差はないが、何か意見はあるか」

 

 そう言うクライドを見る者達の表情は様々。多くは好意的であり、しかし中にはしかめっ面を崩さないものもいる。この構図はもともとクライド派閥の者と、そうでなかった者の生き残りであり後者は純粋に魔力至上、あるいは英雄的思考に傾倒しているだけで犯罪に加担していなかった者達だ。今まで最大派閥だっただけにいきなりこのような状況に陥ったことに恨みを抱かないものはいない。が少なくとも、現状維持が管理局にとって良くないものだとわかっていた者達は今と比較して悩みを浮かべていた。その中で男が一人手を挙げて意見を述べる。

 

「私からはひとつ。少年少女たちの就労年齢に制限をかけてほしい。現在文化的にも子供を技能、あるいは才能によって独立出来る場合一人の大人として扱っているが、彼らが就労し数年立って士官位になった時の学力の低さが問題として取りざたされている。極端ではあるがそれによって起こる権力の振りかざしや横暴が目立つようだ。個人的な意見として言わせてもらえれば、通常の教育課程を混ぜて就労は訓練校卒業後の15歳を基準にして欲しいところです」

 

 発言したのはランドル・バルクレア。かつて訓練校で教官を行っていたクロノの恩師の一人である。局内での左遷にあい訓練校に飛ばされていた彼は、今回の人事異動によってクライドの部下として返り咲いていた。そして彼は戦力不足を理由にした子供のスカウトを止めようと活動している。彼が上げる理由としてはこれ以外にも子供のからだが出来ていないうちから戦場あるいは現場に出すのはいずれ無理をして支障をきたす等様々に子供を心配している様子があった。偏に彼は子供思いなのだ。

 

「わかった。今度の議題に上げておこう。……しかし、そうなると私の息子も年齢的には問題だな。親としては子供らしく暮らしてほしいところだが、長期航行の間にいつの間にか入って卒業してしまっているのだから困ったものだよ」

「はは、申し訳ない。教官をしている以上、育てるしかやることがありませんからな。彼は実に優秀で模範的な生徒でした」

 

 ちょっとした冗談に議会の輪から笑いが広がる。しかしその中で、一つのシミのように違う表情を見せていた老将がプルプルと震えながらテーブルを叩き、とうとう雄叫びをあげた。

 

「ええい!いい加減にせんか!あれだけの局員を更迭してまたさらにこれから魔導師たる人員を減らすだと!?貴様らどうかしているのではないか!?」

 

 空気を読まない声が、穏やかなムードに待ったをかける。叫んだ彼は敵対派閥において叩き上げによって上り詰めた三佐であり、有力な魔導師として現場指揮に当たり続けている老人である。そのせいもあって年季の割に未だに階級は低いのだが、故にあれこれと暗躍していた高官達とはあまり関わらなかったようで派閥の高官としては逮捕されなかった稀有な人物である。もちろん本人の善性もあるのだろうが、彼自身は実力でのし上がってきただけにやはりまずは力あってこそという思想はあちら寄りであった。

 

 発言により彼を睨むような空気が醸成されようとするなか、気にもせず老将は爆発する。

 

「ハラオウン顧問官……確か貴官の政策は文官が装備によって治安維持に加われるようにすることだったな……。だがこうして汚職に加担していたとはいえ多くの魔導師が逮捕され、それまでやってしまっては確実に文官は我らを舐めた態度で見るようになってしまうではないか?自分たちも力を振るえるようになったとな。それは魔導師の威信と尊厳を貶める行為ではないのか!?」

 

 実のところ、彼は不安だったのだ。この数十年を魔導師達によって築き上げた現実が、確実に母体数の多い文官に侵されることが。現在既にいくつかの兵装の研究は完成しており、せいぜい陸戦Dランク程度までならなんとかなるようになっている。今は試験部隊と称する地域の治安維持組織によってテストが行われており、たとえ魔法を使われたとしても軽犯罪程度であれば取り押さえは可能だ。本来ならもう少し早く配備が進むはずだったのだが、各デバイス開発企業は多くの技術を魔法による行使に頼っていたため技術力がイマイチ低かった。どちらかといえば彼ら企業は武器ではなくハードウェア企業なので魔法を用いない飛行技術やFCSなど武器もろもろに関する開発は非常に難航していた。これらは大半が魔導師の才能で補っていたことや武器に対する過去からの忌避感が原因であろう。

 

 が、ここに最近地球から売込みを掛けられた装備がいくつかある。特にホワイトバード関連、小型魔力炉であるMGドライヴなどは技術競争を促すには良い材料だとも言える。そしてその裏でクライドは別の展望もしていた。後に未来においてヴァンディン・コーポレーションが復活させるとジェックに予言されているエクリプス技術。いわゆるEC兵装の封じ込めである。この企業は武装開発に重点をおいている現代では珍しい企業であり、これらの地球産技術を見れば簡単に手を出すに違いない。それによって営業利益が見込めるならばわざわざECなどという危険なものに手を出さない、あるいはそのキャパシティを奪えるのではないかと考えていた。件の首謀者であるハーディス・ヴァンディンは未来において専務取締役でこそあるものの、現在はキレ者という印象こそあるもののまだ少年の面影が抜け切れていない人物という調査結果がある。彼がどのような経緯によってEC技術に手を出したのかは不明だが、そも企業とは利益を見いだせないのであればわざわざ危険に手を出す理由もない。出したとしても、現時点からAEC、もしくは物理兵装への転用も考えた兵装を研究しておけば対処もなんとかなるはずだ。一応かの企業に対してはマークをし続けているので、なんらかの不透明な資金運用があれば強硬査察に入ってもいいだろう。

 

 マルチタスクでそのような思考もしながら、クライドは剣呑な雰囲気になりそうな議会に待ったを入れて発言した。

 

「それについては特に問題無いと考えてます。仮に転向した士官が一斉に蜂起したとしたも、強力な魔導師の優位性を崩すには相応の戦略と力が必要になるでしょう。――しかし三佐、もうそのような考えを持つのはおやめになりませんか」

「何ぃ?」

「確かにこの数十年、世界を維持、管理してきたのは我ら管理局の有力な魔導師達であることは変わりないでしょう。しかしそれは、長い戦争による兵器への忌避感もありますが、安定をなしうるだけの装備が充実していなかったのが問題でした。結局我々はおのれの肉体に頼る他無く、それこそがステータスであるように錯覚しつづけていたのです。お聞きしますが三佐、あなたは過去、一日に何回緊急出動をしたことがありますか?」

 

「……7回だ。それがどうした」

 

――7回、とあちこちからざわめきが漏れる。

 

 彼が若く全盛期であった当時、レジアス・ゲイズ達が語っている通り最も忙しく暗黒期であったことから御多分にもれず彼も度重なる出動に悩まされていた。人員不足も原因の一つであるが、何より問題だったのは金回りの悪さから治安が良くならず、あちこちにスラムや犯罪拠点が出来てしまっていた事だろう。おかげで一人あたりの出動回数はブラックを通り越す程になっていた。今では改善しつつあるが、それでも国家予算が極端に管理局に傾いていたせいで廃墟などはあちこちにある。

 

「おそらくはその中であなたが出動しなくても、見合ったレベルの人員がいれば解決できた件はいくつかあったでしょう。現在でも魔導師一人あたりの負担は非常に多く、年間での魔導師の死傷者や退職者は一向に減りません。しかし魔導師自体の総数は非魔導師と比べると明らかに少ない。かつてそれ故に我々は多くの特権を認められていたわけですが、その結果が今回のような数多くの汚職につながってしまったのだが、……話がそれました。つまり、このままでは将来的に見て魔導師頼みの方針ではダメだということです。先のバルクレア二佐の発言通り、大人の足りない部分を子供でカバーしてしまっている現状はまず確実に破綻します」

「ぬぅ……だが、本来守られるべき魔導師でない人間を現場に出すなど……」

「それは、世界を守りたいという覚悟を持って入局してきた非魔導師である局員達の意志を蔑ろにするということですか?」

 

 ――。老将は言葉が出せなくなった。その思いは自身が才能に寄って入局したとはいえ原初に抱いていたものだったから。

 

「彼らの、たとえ力がなくとも治安維持に関わりたいという願いを無視するわけにはいきません。確かに、管理局の高い給金が目当ての人間もいるでしょう。入局者のほとんどがミッド世界の人間である以上、高い税率から逃れることは出来ないでしょう。そして彼らの血税の殆どは、今まで管理局の維持にあてがわれてきました。ミッドにはそれほどに余裕がなく、廃墟になった街は復興せず、そのままスラムと化してしまうケースも少なくなかった。それはそのまま犯罪の温床になり、危険な日々に市民が怯えていたのはあなたも知ってのとおりです」

 

 有力な魔導師は危険故に非常に給金が多い。だがそれらは市民からの搾取によって生まれたものであり、しかも忙しさにかまけて貯めこむばかりで一切の還元を行っていなかった。経済は金をはき出し回さなければ生活を豊かに出来はしない。無論そんな義理はないが、そんな現状を生み出してしまったのは何もしてこなかった自分ではないか、と老将を苛む。

 

「世間では度々高ランク魔導師による犯罪が起こっている。管理局に入局さえすればその能力を活かし生活を保証されるとわかっているのに、だ。それがどういうことかわかりますか三佐?

 彼らの多くは、そのスラムで育ったからです。人は生活環境、宗教、あるいは価値観や異質な教育などにより「常識的」な人間の思考から離れていきます。結果ああも簡単に犯罪者を醸成してしまう。そうすることしか知らない、出来ないという人間もいるでしょう。

 それらを覆すには、今回のような抜本的な改革がどうしても必要だった。どれだけの醜態を晒そうとも膿を排し、金銭の流れを正常化させ、局、または世界の幸福度の均一化を図らねば、これから先のっぴきならない状態になりかねなかった。

 時代は……変わったのだ三佐。ただ力で抑えつけるだけで無く、多くの人々の手で犯罪を抑止する時代にな。何、だからといって我々魔導師の仕事が無くなるわけではない。給与こそ下がるかもしれんが、どのみち高ランク魔導師に対して我々が駆り出されるのは変わらんからな。多少楽になったと思えばいい」

 

 クライドはニッと子供のような笑顔を見せた。それは上層部を糾弾した時の顔ではなく、ただただ世界の幸福を考える心優しい男の顔であった。あっけにとられた三佐はすっかり気が抜けてしまい、やれやれという疲れた顔でボリボリと後頭部をかく。

 

「……では、貴官の体制に問題があったらどうする気だ?」

「その時は、アナタが私を弾劾すればいい。もっとも、そうならないように努力はするつもりだがね」

「ふん、……いいか、わしは貴官を認めん。だが世界がより安定するというならば手を貸さん訳にはいかん。ゆめゆめその志を忘れんことだな」

 

 それだけ言ってドッカリとイスに座り込む三佐。その時、他の局員は全員が同じ思いを抱いたという。

 

((デレたな……))

 

 もちろんそれは口に出さず、少しばかりにやけた顔のまま会議は滞り無く次の議題へと移っていった。その中へは地球に対する補償なども含まれている。まずは技術交流をはじめとしたものや、次元航行艦アースラを一時的な地球での大使館として機能させること。地球人の異世界調査のための無人惑星の土地の一時的賃貸、次元漂流してしまった難民の帰還に関する問題など様々にあったという。それらはこれからの次元世界のありかたを大きく変えるだろうという思いを多くの人間に思わせた一幕であった。

 




書いては直し書いては直し、話したいことは色々あるがやるたびに逸れるので書き直し。やっと必要な分だけ入れてあちこちオミットして出来たのがこれ。なんとも微妙な気分である。

次こそは……次こそはアメリケン!


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Movie Fes!

ま、まままま待たせたな(震え声
た、ただいまー。帰ってきましたよー? だ、大丈夫かな。大遅刻だけど。
Diablo3のレジェンダリー堀が面白すぎてな……ついのめり込んでしまった。あれは艦これと同じく麻薬だ……実は艦これやったことないんだけど。

せぇーの、ユニバァース!!(ごまかし


「おらぁ!さっさと金持ってこい! このガキがどうなってもいいのか!?」

 

 天井に向けた銃口がけたたましい音を鳴り響かせると同時に周囲の人々が一斉に悲鳴を上げた。原因たる本人はその銃口を非道にもアームロックしたままの銀髪の少女に向けた。それを見た座り込んだ人々はまるで自分が向けられているかのようにすぼんだ声が漏れる。

 

 8月下旬、アメリカ。そろそろこの国では学校も始まろうかという時期にそれは起きた。とある大手銀行への数人の集団による人質をとった悪質な強盗事件。その日銀行にたまたまいただけの哀れな少女を盾とし、強盗犯達は怒声で銀行員を脅す。怯えながらも言われたとおり行動する銀行員は悔しげに歯噛みするが、人質がいる以上こちらから強く出ることは出来ない。とはいえさすがの大手であるからして通報システムがしっかりとした現代、モノの数分で外は警察だらけになっている。無責任ではあるが、銀行員は外側の人間によって少女が助けだされるだろうという予測を希望として行動を続けた。

 

 しかしそんな願いは予想外の方向から齎された。

 

 しゃがみこむ人々とは別に、店内にいた女性が遠巻きから、堂々とヒールを鳴らしながら犯人に向かって歩いてきたのだ。カツカツと小気味よく鳴り響く音はまるで覇者の凱旋であるかのように大きく響く。客はその様相に唖然とし、強盗犯の一部はわずかに後退しながら銃口を女性に向ける。最後にひときわ大きな靴音を鳴らしその場で仁王立ちする女性。見た目はワイシャツにパンツルックと普遍的であるが、紫の髪と全てを見通すような金色の瞳は人智を超えた異形にも見える。だからだろうか、彼女の一挙一動に全ての人の目が惹かれてしまう。そしてその次に彼女がとった行動は、

 

「おい、よそ見をしていると危ないぞ」

 

 危ないのはお前だ、その時その場にいた全員が思った。態度と発言のギャップに虚を突かれてしまったが、実際彼女も普通の人間と変わらないのだろうと当たり前のことを思い出す。客は再び怯えを見せはじめ、強盗犯は余裕を取り戻した。その時、コツンと何かがアームロックしていた強盗犯の顎先にあたり、瞬間――

 

 ズゴンッ!!! という爆発音とともに、男は重力を無視するかのように後ろへのけぞった顔に引っ張られるように浮き上がった。男はまるで首から上がもげるかのような衝撃を感じていた。地上へと落ちる引き伸ばされた時間の中で、彼はその原因を突き止めようとした時、今度は腹部に強烈な痛みを感じ3m後方へ吹き飛ばされる。見えたのは、人質にしていたはずの、身体的ハンデを背負っていると思っていた「眼帯をつけた」銀髪少女が見事なまでの後ろ回し蹴りを披露していたこと。地面に数度バウンドをするようにたたきつけられ、彼の意志は虚しく閉ざされることとなった。その時、彼はか細く「嘘、だろ……」とつぶやいた言葉は誰にも聞こえなかった。

 

 この光景に、周りで見ていた人間たちからすれば更に一つの事実が加えられる。強盗犯が吹き飛ばされた時、件の銀髪少女は空いていた片手をすっと伸ばし、閉じた拳の先の人差し指、そこについた指輪をコツンと顎先にぶつけただけだった事だ。まるで発勁かと思うようなそれだが、続いて繰り出された見事な回し蹴りに東洋の格闘術に詳しい一部の客は疑問を持たず「グレイツ……!」と感極まった声を上げたという。まぁそんなことはどうでもいいとして実際のところ、それをなした正体は指輪の形をした魔導具である。ショートワード、あるいは指輪の先をぶつけることによって魔力を媒介に衝撃波を放つナンバーズ社製の防犯用新グッズ予定「撃退ちゃん(仮)」。名前は上級社員達による壮絶な闘いで目下のところ決まっていない。しかしいつのまにやらこっそり商標登録されかかっていたあたり仮名を誰がつけたかはお察しである。

 

 それをやらかした少女、チンク。ナンバーズ社の開発担当にして社内マスコット「年を取らないエターナルロリ」の異名を持つ彼女がふぅっとため息を付く。その姿は安堵によったものだと考えた客を虜にし、またロリコンを増やしてしまった。実際は少女自身が強く、わざわざそんなものを使わなくてもできることをやらなければならない面倒臭さから来たものだがそれを知る由はない。

 

 そして、全員がそれに注目している間に事は終わっていた。なんと仁王立ちしていた女性の足元に、点在していた犯人たちが全て積み倒されていたのだ。当人、いや果たしてそれをなしたのが異形たる彼女がどうかはわからないが、「だからよそ見をするなと言っただろうに」と呆れている姿を見て、理解は出来ずとも半ば確信していた。その女性、トーレはよそ見されているのをいいことにIS「ライドインパルス」を発動させ高速機動によって強盗犯を潰しきった。超高速による腹部へのワンパンはまさに一撃必殺で、しかも強盗犯達の体の芯を固定軸とし、拳をわずかに振り下ろす角度で攻撃したために下手に吹き飛ぶこともなかったため周囲が荒れることもない見事な配慮でそれを成した。

 

 当然チンクは「おい……」と呆れた面持ちで睨みつけるが、トーレはドコ吹く風でまるで相手にしていない。そうこうする間に警察隊が突入し、強盗犯達はあっさりとお縄になった。彼女らを知る警察は賞賛したが、そんなことはどうでもいいとばかりに手をひらひら振りさっさと帰ろうとするトーレ。が「あ」と思い出したように客達に視線を向け、

 

「殺さずに強盗犯を鎮圧できるナンバーズ社の防犯グッズをよろしく!」

 

と拳をあげて自社アピールをし、颯爽と立ち去っていった。当初、なんのことだったかわからなかった客達は首を傾げたが、新発売された指輪を見て合点がいった人々は我先にと買い求め、ナンバーズ社始まって以来の民間への大ヒットとなったという。

 

 

「やれやれ、入金しにきただけだというのに面倒な目にあったな」

「面倒な目にあったのはむしろトーレにやられた強盗犯達だと思うのだが……」

「面倒な目だよ。元来犯罪者のようなものであった私達が、所変わればまるでヒーローのような扱いだ。どうにもむず痒くてな」

「それにしては、随分とうまく立ちまわっているように思えるが?」

「これくらいはドクターに作られた者にとっては当たり前に出来る芸当だ。……いや、亡命後に完成した後期型のお前たちはそうでもないか。上の二人の姉と比べれば私もさほど犯罪には関わってはいないが……強いて言えば、そうだな」

「?」

「私も少し、ドクターが興味をもった世界を見たいと思っただけだ」

「――。なら、過去に恥じぬ今の自分を身に付ければな。……そういえば、今日ドクターはUSHのイベントに参加する予定だったな。サプライズがどうとか言っていたが……」

「ドクターの場合は何をしてもサプライズのような気がするが……」

「……違いないな。巻き込まれるのも面倒だし、今日は社に引きこもっていよう」

「チンクは忠誠心が足らん。大体――」

 

 やいのやいのと騒ぎながら高層ビルに囲まれたアメリカの街道を歩く二人。色々あったが、今日もとりあえずは平和な一日を満喫しているナンバーズの一幕であった。

 

 

 

 

 

 同日、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス市、ハリウッド。この地区を斜めにぶった切るようにして渡るフリーウェイに面した場所、ユニバーススタジオハリウッド。開業1915年という古き映画スタジオは、1964年以降テーマパークとして利用されつつも未だにスタジオとして使われている場所である。そこに高町家御一行とその他大勢の姿があった。日本から離れたそんな場所で一体彼らは何をしているのか?それはただの旅行?いや、仮にも一国の首相からわざわざ連れてこられるような扱いでさすがにそれはないだろう。つまりこれは日本アメリカ両国で、そしてユニバースから熱烈に要望されて立ち上がった本日限定のイベントなのだ。そしてこのイベントのまごうことなき主役は、未だ少女の域を脱していない高町なのはその人である。空を飛びアクロバティックに映像を撮りかつてない光景を届ける、今や時の人である高町なのは。そしてそれを現場で学びつつカメラを持って追従する、新たにユニバースがスカウトした空適性を持った新人魔導師2名、計3名による実況生中継。

 

「それにしても暑いわね……、加えて人も沢山いるから余計に。今更だけど、なのはが世界中で人気っていうのもよくわかる光景ね」

「そうだねぇ。でも日本の夏よりはまだマシだと思うよ? 湿気がないから汗が乾くし」

 

 なのはについてきた友人その1、アリサ・バニングス。関係者ということで準備中のスタジオ裏、その影から覗き込んだ表側は騒ぎ立てる人間の密度にややげんなりしている。イベントであるからして観客が多いのは当然であり、しかし比例して上昇する熱気を迎合できずちょっとした場違い感を味わっている。それもそうだろう、ファンの心理と友人の心情、立場が違うのだから盛り上がる理由こそわかっても同意はできない。その違いは見る人からすればある種の特権であろう。

 

 そして友人その2、月村すずか。何を考えているのかわからないような、しかし心からの笑顔をニコニコと向ける姿はどこか母親を連想させる。さしずめ愚痴るアリサを、あるいはなのはの門出を祝うような。前までは自分の趣味に没頭しつつも、どこか儚げな読書少女であるというイメージが抜けない彼女であったが、最近は心の余裕も持つようになった。それは多分、次元世界という存在を知り世界の広さを知った事によるものだという推測をアリサはしていたが、その心は本人のみ知るものである。

 

「アリサちゃんもなのはちゃんみたいに、ジャケット着ればいいんじゃないかな?そうすれば涼しいし、新型渡されたんでしょ?」

「嫌よ。だってあれ、見た目がおもいっきり派手な格闘魔法少女みたいだもの。さすがに衆人環視の中で着る気にはなれないわ」

「そうかなぁ?今この場所なら全然違和感ないと思うんだけど」

「私が恥ずかしいのよ!ほんと何考えて作ったのかしらうちのスタッフは。そういうすずかもどうして着ないのよ?」

「アリサちゃんが着たら私も着るよ?」

「うぐっ、その言い方はずるいわ」

「折角のイベントなんだし、楽しまなければ損だと思わない?」

「せやでせやで、こういう時はその場のノリに任せといたら大抵なんとかなるもんやで」

「うぅ、わかったわ。……って、今のセリフ誰よ」

 

 ちくわ大明神のごとくスルっと入ってきた声に驚き振り返る。そこにいたのは空中に浮かぶ車イス(?)に座った同年代の少女だ。その背後には金髪の柔和な笑みを浮かべた女性がハンドルを握っていた。

 

「誰かしらあなた、ここは関係者以外立ち入り禁止なんだけど」

 

 日本人関係者は自分たちだけだと思っていたところにいた日本人に訝しみ、事情はありそうだと思ったが少しキツイ物言いをしてみる。対する少女は鼻歌を歌うかのように軽やかに、一枚のカードを取り出した。

 

「ほい、スタッフカードや。八神はやて言うんよ、よろしゅうな!」

 

 アリサはそれをしげしげと見つめた。色々自分たちも大概だが、こうして同年代の他人が普通はありえない位置にいるというのにはやはり驚く。後ろの金髪女性は八神シャマルというそうだ。今日は家族揃ってここで働いている、という名目で実質はただのゲストのような扱いらしい。

 

「ごめんなさいね、疑って。でもすごいのね、その年でこんなところで働けるなんて」

「ええってええって。そないに気にせんでもようあることや。ていうか、それはお互い様やろ?あ、アリサちゃんとすずかちゃんって呼ぶけどええ? ――うん、ありがとな。二人も結構有名さかい、よう知っとるよ?バニングス社に月村重工ていえば魔導具最大手やん。ちなみに私はリノ校で研究員やっとるから、引けはとらんと思うで?」

「え、ネバダ州の大学? 私達より全然すごいじゃない!」

「そうだね。もしかして魔力研究でもしてるのかな? あそこはエネルギー学で有名なんだよね?」

 

 アドバイザーとして仕事をしつつも、なんとなく社のお飾り的立ち位置にいると思い込んでいるアリサにとってドヤ顔で言うはやての立場、実力で勝ち取ったのであろうそれは眩しく見えた。だがそれに僻みを感じるアリサではなく、自身の鼓舞に利用する。

 

「せや。魔力学に魔導、魔導工学とプログラミングやな。適性で言えば私は広域殲滅特化やから、こないだのエキシビジョンみたいな戦い方は出来へんのやけどね。ま、今は諸事情で魔法が使えんからどっちみち無理やけど……」

 

 ポンポン、と自分の膝をたたく姿に二人は足が不自由なのを悟る。

 

「ああ、そないな顔せんでも大丈夫やで。いずれ治るもんやってわかっとるさかい、それに私も海鳴出身やからこの足治したら日本に帰る予定にしとるんよ。そん時にはきちんと歩いとる姿お見せするけん、向こうで期待して待っといてな」

「そうなんだ。それじゃぁ、その時は皆で遊びましょ。なのはやフェイト、ユーノ達も混ぜてね!」

「フフ、楽しみにしてるね。私には洋書のオススメを教えてくれたら嬉しいかな」

 

 本人が落ち込んだ様子もなく気にするな、と言ってるのだから必要以上の同情はいらないだろうと即座に切り替えた。

 

「うん、約束や!」

 

 日本に帰ってからの友達をゲットしたはやて。一応前史において知った人物、ということもあるがやはり生で相対するのは感動の度合いが違うのだろう。とはいえ二人も同じ人物とはいえ立場などは相当違っている。改めて知り得た情報に惑わされずに二人を見ていこう、と決めたはやてであった。

 

 

「その節は、どうもありがとうございます。おかげさまで主人ともども幸せに暮らせています」

「私からも改めて礼をさせて頂きます。あの時の御恩は一生忘れません」

 

 少し離れた場所で高町夫妻は挨拶を交わしていた。その相手はジョニー・スリカエッティ。かつて高町士郎の重傷を新興技術である魔法によってほぼ完璧に治療した人間だ。退院時に改めて礼をしようとしたのだが当人は既に病院に存在せず、加えて彼が姿をテレビ越しに見せるようになってからは「あ、あの時の!」とばかりに驚いて食事を喉につまらせかけた。なのでようやく礼を言える機会を得たことで彼ら夫妻は深々と頭を下げていた。その後ろで恭也と美由希も二人のじゃまをしないようにしながら一礼する。

 

「何、気にする必要はない。自分の利益になる状況と、あなた方の行動が噛み合っただけのことさ」

「ふふ、科学者らしい言い方ですけど、それなら私達は勝手に感謝するだけです。また日本にいらした時は翠屋にお寄りください。精一杯サービス致しますから」

「……そうか、なるほどそれも人か。わかった、確かにアメリカの菓子は甘党にしか受けないような極彩色のものばかりだからな。娘たちも飽き飽きしていたところだ。いずれ寄らせてもらうとしよう」

 

 

「……ところで、どうして僕たちはここにいるんだろうな?」

「あれ、クロノ君忘れちゃった?せっかくのご招待を無碍にするわけにもいかないでしょ?」

「そういう意味じゃない。アメリカに利益のない招待なんてしないってことさ。新しく国交を開いたんだから理由はいくらでもあるんだろうけど……」

「相変わらずクロノくんは真面目だねぇ。休日みたいなものなんだからゆっくりすればいいのに」

「そういうわけにいくか。制服を着てこの場にいる以上立派な公務だ。気を抜くなよ、エイミィ」

「はーい」

 

 遠くのゲスト席からスタッフ一同を眺める影。それは移動型の大使館として赴任したアースラ乗員のリンディ、クロノ、エイミィの3名だ。彼らはアメリカとの会談の後この場所に招かれ、イベントの開催を待っている。そのアメリカ側は現在は日本との会談に当っている事だろう。

 

「そうねぇ……まずひとつは地球国家のどこよりも次元世界の仲介である私達を取り込みたいというところかしら。2つ目は裏の目的として魔法を正しく扱えていることをアピールしていることね。一応各国首脳陣はこの魔法の出自が次元世界に基づいていると知っているから、私達から見て発展途上である魔法の安全性に危惧を抱かせないように注意を払ってるのよ。後は、兵器以外の利用法として娯楽にも用いてるのを見せておきたいのじゃないかしら」

「あぁ、そういえば艦長日本びいきですもんねぇ。それなら他国が焦っても仕方ないのかな?」

「それは仕方ないことよエイミィ。中型航行艦を日本が鹵獲したことや、落ちてしまったジュエルシードの責任問題や事後処理で深い付き合いにならざるを得なかったもの。……まあ、日本の雰囲気も緑茶も好きなことは否定しませんけど」

 

 以前こっそり旅行に行って以来、リンディはかなりの日本フリークとなっている。加えてジェックの鎖国じみたレアスキルの発現により、こっそり輸入されていた食料品なども完全に打ち止めされていたリンディは飢えていた。……とまぁ、都合のいいことにこの仕事にありついたことで艦内から転移できるにもかかわらず日本近海にいるのである。

 

「何よりそれが一番の問題でもある。少なくとも航行艦については技術解析を済ませているだろうし、ジュエルシードについて何か知っていてもおかしくないと思うのは普通だろう。これから地球は宇宙の調査と宙域開拓を進める上で、それらの技術情報は大きなアドバンテージになるんだ。日本が現状秘匿している以上、こちら側から引き出そうとするのは道理だ」

「今日の会談はその案件について匂わせていたものね。予測ではあるけど、日本との会談ではそれら技術と引き換えに常任理事国入りを支援しようという目論見があるらしいわ。初期目標である月、あるいは火星において国土争いになるのは避けられない。アメリカは日本に国連の……いえ、アメリカの一員として共同で当たらせることで抑えにしたい。日本はそもそも土地的優位を持たないために、できるだけ早めに確保しておきたい。どちらも主張があるだけに、どう譲歩していくかが鍵となってるということね」

「そういうことですか……。でも支援はするけど確実に入れるとは言ってないあたり、アメリカもあくどいですねぇ。そのうえ常任理事国入りが必ずしも日本の有利になるわけではない、というのもまた……」

「それもまた交渉というものさ。ついでに僕らは困ったことに、そのダシにされかかっている。こちらの賠償もあるから仕方ないが……出来るだけ上手いこと立ち回らないと損しかしないからな。エイミィもよく覚えておくといい」

「うへぇ……なんだか怖いなぁ。あ、私飲み物もらってきまーす」

 

 考えるのを放棄したエイミィはすたこらさっさと席から逃げ出した。オペレーターらしく俯瞰的な状況を読み面倒な事態を避けたようだ。確かに彼女が考えることではないが、生真面目なクロノは溜息を付くしか無い。

 

「あら、逃げられたわねクロノ君。逃げた女を捕まえるのは大変よ?」

「一体何の話を……まぁいいです。まだ時間もあるようですし、少し僕も周ってきます。個人的に高町恭也の能力には興味がありますし、面白い話が聞けそうだ」

 

 そう言うとクロノもゲスト席から舞台裏を通って去っていった。一人残されたリンディは再び思考の海に沈む。さて、現状地球において国連として次元世界との付き合いは一貫しているものの、地球内各国それぞれの足並みは揃っているとは言わず互いの足を踏み合っているようにみえる。先進国のみで見れば、ロシア、アメリカ、日本、EUはある程度宇宙開発競争に目を向けているので穏やかである。アジアの一部地域は技術発展に遅れを取り始めているため旧来の体制と大して変わっていない。これは地球で土地資源争いをするのではなく、外部に目を向けた国とそうでないものの差だろう。国連としての方針がまとまっているのは極端な言い方をすれば、距離的に次元的に離れすぎているためそもそも争うことが無駄だからだ。次元世界側としても地球近郊の惑星には大して興味が無い様子。と、なれば各国の初期目標は月、あるいは火星となる。果たしてこれが将来において自分たちとどのように関わりを持ってくるのか。リンディは更にその予測を進めていくのであった。

 

 

 舞台裏を歩き続けるクロノは不意に睨みつけるような視線を感じた。が、このような場所で自分でそんな目を向ける人間は非常にごくわずか。発信源を見つけたクロノの行動は、しかしあっさりとそれをスルーして再び歩き始めた。なぜなら彼らの顔はデータ上で既に知り、父からは手を出さなくても良いと言われた案件だからである。

 

(もし父さんが死んでいたら、躍起になっていたかもな。だがこの場ではお互い、ただの他人ということにしておいたほうが望ましい。ジェックも解決策はあると言っていたしな)

 

 去っていく背中を見ていたのは、睨んでいたヴィータと、守護獣形態のザフィーラの二人。彼女は管理局制服を着ているクロノを見て、今までの経緯から警戒の姿勢をとっていた。

 

「よしておけ。余計なことをして気づかれる必要はない」

「でもよぉ」

「どうやらあちらも、わかっていて見逃しているようだ。記録の通り、彼らと敵対すると決まっているわけでもないからな」

「……そうだけど、その情報を出したのはジェックのやつだろ?あたしはあいつを信用してねぇ。やってることは確かに未来の破滅を救う救世に見える……けど、あいつの行動には芯がねぇ。オリジナルのいない魔導プログラムだからかは知んねーが将来の展望が自分にねぇやつが、未来を語れるわけがねぇ。そんなやつを信用できるか?」

「ほぼ自動的に行動しているが故の意志薄弱に見える、ということか。しかしそれは以前の……主はやて以前の我らとどう違いがあるのだろうな?」

「……」

 

 ヴィータの持った感情は自己嫌悪と同義だった。ジェックの行動は未来のなのはの願いによって――ただしバグった末の――自動的に行われているようにしか見えなかった。確かに受け答え、人間と同じように行動こそしているものの、ドコか無機質さを感じさせる少年は機械的。未来に至る根幹を潰していけばいい、という考えのみで地球がこのようになっているのはただの結果でしか無い。道具としてしか見ない主に従いつつも誇りを支えにして今まで騎士を全うしていた自分達。一方は自由に見えても芯がなく、命令に束縛されている彼。果たしてそれは魔導生命体としてどちらが幸せなのだろうか。だが今の自分達には、救いの未来がある可能性が残っている。安全確実に、そしてより最良の未来を引き出すためにスカリエッティが(好奇心込で)尽力している。私達には希望がある――だったら、彼も

 

「――救うんだったら、救われなくちゃむくわれねぇだろ……」

 

 ポツリと呟いたヴィータの言葉。これを聞いたザフィーラはふ、と笑みをこぼした。

 

「……なんだよ」

「いや、ヴィータは信じたいから疑っているんだな、と思ってな」

「……は?」

「相手を信じるには、それに相応するだけの情報がいる。そしてそれを手に入れるためには、相手を傷つけてでも踏み込む勇気がいる。その勇気を示そうとしているお前をのらりくらりと躱す奴が気に入らない。簡単にいえば、お前は奴を心配しているということだ」

 

 ザフィーラの解答を聞いたヴィータの顔は、今まで気づいていなかったことに気づいてしまった恥ずかしさでゆっくりと真っ赤に染まった。

 

「ううう、うるせーよ! なんだよ、たまに饒舌になったと思ったらそんなこと言いやがって! 恥ずかしいの禁止!」

「ふ、人それを『友情』と言う」

「お前絶対何かのアニメに影響されただろ!? またはやてのロボットアニメコレクションに手を出したな!?」

「そう言うヴィータこそ、ゴンドラに心動かされているのではないか?熱いロボットものはいいぞ?」

「……面白いじゃんアレ。たまにはお前も……いややめよう、この論争は不毛すぎる。ていうかザフィーラ、なんでこんなところにいるんだよ?さっきは人型で機材運びしてなかったか?」

「…………何、主はやてを見守るためにここにいるだけで他意はない。決して人型だと無茶な重量の荷運びをさせられそうになるというわけでは――」

「さぼってるだけじゃねーか!! てかシグナムもドコ行ったんだよ!」

 

 ピッコーン☆とジョニー製ピコピコハンマーで会心のツッコミを入れるヴィータ。しかし彼女は気づかない。ザフィーラですら滝の汗を流しながら匙を投げる「何か」を運ばせようとしていた人物が誰だったのか。そして明らかに必要でない大きさの資材の正体とは。この場にいないシグナムの行方は? 誰もが気づくことすら無く不穏な影は迫りつつあった。

 

 

「それではMs.高町には先ほどのリハーサル通り、ここから飛び立ちロスエンジェルス川沿いに大きく周回しつつ、グリフィスパーク上空を旋回して戻ってきてください。その途中で低空飛行や森の中の低速移動、アクロバティックな動作パターンを混ぜて撮影を行います。アドリブは自由に入れてもらって結構です。何か質問は?」

「いえ、大丈夫です! 任せて下さい!」

「グッド、良い返事だMs.高町。さっきまでとは大違いだな」

「にゃはは、それは言わないでください」

 

 舞台のメインとなる人間が集まる場所でなのはは恥ずかしがりながら頬をかく。総理に突拍子もなく告げられた旅行の知らせからしばらくして実際にアメリカに行き、あれよあれよと言う間に作り上げられたステージはまさしく自分のためだけのそれだった。アイドルもびっくりの己の処遇とひと目の多さにつくことにわたわたと焦るなのはであったが、リハーサルを終える頃にはようやく元通りの自分を取り戻していた。やっぱり、空はいいものだと彼女は思う。そこには何の縛りもなく、遠慮もいらず、ただただ自由だけがある場所。

 

 そして今回は特別仕様ということで、なんと開発途中のカメラ(将来的にREDONEと呼ばれるそれ)を使えるということに、なのはのテンションは天井を突き破った。本来このカメラの登場は2008年後半から2009年頃に販売されるもので、当時までハリウッドで主流であった35mmフィルムカメラのシェアを完全に奪う革命的なデジタルカメラである。だが魔導革命によりその他の技術水準も上がったために、開発が圧倒的に早まったものの一つだ。今までのデジタルカメラといえばせいぜいがHD画質が限界であったが、これはなんと4Kもの解像度を誇り35mmフィルムカメラとほぼ同等の高画質を実現するに至っている。未だにアナログテレビが主流の時代でこの機種は完全にオーバーテクノロジーであった(2013年時には6Kほどらしい)革命児を触れるのだからなのはが興奮するのも無理は無いだろう。ついでに35mmまで触らさせてもらったなのはにとって、ここははたして宇宙か天国か。自分にかけられた期待や重圧なんぞ蹴飛ばしてなんのそのとばかりにむちゃくちゃに張り切っている。「うわ、うわぁ~~」と目をキラキラさせながら。それを見たユーノはもしかして歴史を語る自分はこんな感じだろうか、とちょっと引いた目で眺めていたのは余談である。

 

 もちろん、撮影はデバイスを使ったほうがより高画質であることは間違いない。しかし世間一般のほとんどはテレビも、録画機材もあまり対応していない。魔導の技術が飛び急ぎすぎて他が追従しきれていないのだ。今や様々な魔導製品が発売されつつあるとはいえども、ジャンルの違う機器との互換性というのはまだまだ十分な域にはない。そのためなのははこのカメラをバックパックに接続して撮影を行うのだ。レイジングハートには悪いが、何より撮影の実感を味わえるという点は大きい。

 

 撮影した映像はスタジオ上の巨大投影型スクリーンに表示されるようになっている。追従する魔導カメラマン2名も加えた3つの視点からによる生中継だ。このスクリーン提供はジョニー含めちゃっかりプレシアも混じっており、家族総出で設営の手伝いを行っている。舞台の幕開けもあと少しを残すところとなった。今、アメリカいや世界において最大のショーが始まろうとしている。

 




序破急の序、脅威の11000字。小さくまとめられなくてすまんな、恨んでくれても構わん。多分全部合わせて30000字超えるから。

さて、実名企業はなしでの方向で勿論ハリウッドなんたらももじってるわけですが、ユニバー○ルスタ○オハリウッドなんてほとんど直球なネーミングのどこを変えたらいいかわっかんねー、と結局……ね?。国を飛び越えて宇宙へ、どうしてこうなったし。ハリー・オードもびっくり。

以下トリビア。
ナンバーズな人たち→
相変わらず平和のようで平和でない一般的な(?)生活を謳歌している。ただ最近経理ばっかりでつまんなぁーい。とか宣っている誰かがいるとかいないとか。

八神はやて→
イノセント設定を改変流用。ちなみに筆者は具体的な試験の難度は知らないのでメリケン大学ランキングでそれなりに高いとこで辻褄の合いそうな、所在地に近そうな場所を採用。

ジョニー製ピコハン→
ピコッと音がなる。相手は気絶する(プリン
ほんとなんでシャルティエが使えるのか謎である。リオンのセリフも気合が入っている。

ヴィータ→
ツンデレ感染中。

ザフィーラ→
はやて秘蔵のロボットアニメコレクションにはまる。時々何かうなずいているシグナムが隣にいるらしい。

管理局員一同→
クロノくんが年齢制限により現場に出動しづらくなった事もありそのまま大使館扱いに。地球各国に振り回されないように舵取りを続けるがどこにいても胃が痛みそうな役回りは変わってない様子。逆にリンディは大好きなお茶(危険物)でほっこり。ちなみに海外に行けば砂糖入りおーい○茶とか売ってある模様。やはり苦いものを楽しむというのは難しいのだろうか。


次回更新は寝て待て(明日来ることはまず無い。



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Surprise attack!

お久し……って何回俺はこれ言えばいいんだ。五飛教えてくれ。仕事もあるけど消火したいゲームが山積みなんだ。

 さて、本編は英語で書くとボロが出て大変な事になりそうなので日本語訳でお送りします。但しデバイスについては演出重視とイメージ損なわないように英語のままで(ただし今回ヒトコトも喋ってない。ベルカ式はどうすっかな……。


『Hey!レディ&ガイズ! 元気にしてたかい!? 俺はもちろんお通じもいいくらい最高の気分さ! なんてったって今日はゲストにあの日本から、フライングサムライガールがやってきてくれたんだからな! 喜ぶ準備は出来たかてめぇら、ミス・ナノハタカマチの登場だぁ~ッ!!』

 

 ドパッ! という炸裂音を伴って空砲が鳴り、間を置かずに数回連続する。豪快な音に続き複数の火柱も立ち上り、舞台の上はやりすぎたヘビメタライブのような様相を表す。その中央の階段上から、堂々と手を振りながら高町なのはが現れた。だがスキップをするかのようにトントンと跳ねて階段を降りる姿が未だ子供らしさを保っており、キュートだ……! と危ない男たちが倒れる姿が続出する。この時、アメリカ人は初めて萌えの原初を覚えた気がした。男だけでなく女も、子供も、そして老人も、全てを魅了する天使を見たように感じたのは間違いないであろう。

 

『皆ぁー、こんにちはー! 日本からやってきた高町なのはでーす! 今日はここに来てくれたあなた達のためだけにステキな空の映像を届けちゃうよ―!』

『YeaAAAAh!!!』

 

 少女の挨拶を皮切りに当初のざわめきは一斉に轟音へと変化した。今ここに、日本を代表するスターのデビュー舞台の幕があがる。

 

 

 

 

 このイベント、エアライブの注目どころはいくつかある。まずは巡航による上空からの街並みの撮影、高町なのはによるアクロバット飛行、同様にグリフィスパークの木々を駆け抜けるように飛行するトリックなど。特に普段カメラを持っているため映ることが少ないなのは自身が飛んでいる映像は貴重なものとなる。情報通は事前のリークに従い、フライパスされる予定のマウント・シナイ記念公園にカメラ片手に朝早くから陣取っていた。勿論リハの映像も記録済み。また会場では巨大スクリーンに加え、酔い対策のための球体映像装置、スフィアスクリーンも用意されている。これはフライトする3人の中心座標を捉えて対象を立体的に映し出す装置であり、こちらは通常のカメラを介さずにサーチャーを用いた直接中継となっている。そのため三人の位置取りが非常にわかりやすく見ることが出来た。

 

 会場から飛び立ったなのはは、レイジングライザーの青いスラスターカバーを開口させ桜色の魔力光をなびかせながら飛んでいた。ノズルが奏で続けるフィィ……という高音が心地よさを与えてくれる。カメラはバックパックから伸びるサブアームに接続されており、なのはの思考制御に合わせて首をキョロキョロとあちこちに振っている。くるりと体を仰向けに半回転させると、そこには二人の若い魔導師がいる。金髪のニヒルな笑顔が似合う男性と栗毛のパーマがかかった背の高い女性、どちらも付き合いを持って短いものだが、彼らの持つ憧れと尊敬の念がなのはへの追従と確かなチームワークを組み上げるのに役に立った。二人と、そしてカメラに向かって手を振ると、彼らも笑顔で返し会場側からも中継される音声が熱気を伝えてくる。ちょこちょこと上空からの説明を加えるとまた様々な反応が飛び交う。そんな中、なのははマルチタスクで違うことも同時に考えていた。

 

(忙しくてもうひとりの私についてのこと聞けなかったなぁ……。あの人なら何か知ってると思うんだけど……)

 

 あの人とは勿論ジョニー・スリカエッティのことである。かつてドッペルゲンガーと勘違いしたもう一人の自分――案外本当にそうなのかもしれないが――から渡されたデバイスを持って病院に行った時、待ち構えているかのように彼はいた。当時は気にしていなかったが、今考えれば二人に何らかのつながりがあったことはまるわかりだろう。聞けば何かわかったのだろうが、イベントのメインキャストとなっているなのはは時間が確保できず、結局それを聞くに至らなかった。もうひとりの自分はなのは自身しか見てないこともあり、その存在は周りからも懐疑的であるため両親に聞いてもらうというのも違う気がする。ので、自分で聞きたかったという事もまた遠回りの要因になっていた。世の中なかなかうまく行かないものである。

 

(よし、後でちゃんと聞こうっと!それに、まずはこっちを楽しまないとね!)

 

 今考えても詮無いとなのはは思考を中止し空中でスピンを入れ、頭を地面に向けてフリーフォールを始める。魔力保護をカットしたため轟々と空気を切り裂く音を耳が捉え、激しくなる。感覚だけで危険域に入る前に再びスラスターに魔力光を灯し急ターン、細かくフィンを動かし大きなGを受けながら上昇、元の位置に戻る。これだけでもワッと大きな歓声が届いた。その姿は見る人によってはツバメのようだ、と表現するほどの美しさを持っている。目の前で見た新米魔導師カメラマンの二人は、未だ自分達には不可能な華麗な動きに見惚れていた。彼らの高度も追い越し、さらに上昇し太陽の光を浴びるなのははツバメどころか、天使以上の感動を生み出しているのかもしれない。

 

 

 カメラはなのはを追って低空から、丸々とした太陽を映した。その時、不思議なことになのはが背負った太陽にポツリ、と黒い点が浮かび上がったのだ。そのまま黒点のようだと感想を持ったが、普通それが肉眼で見えることはありえないだろう。その上何故かそれはムクムクと大きくなっていくではないか。いや、徐々に拡大されていくそれは黒点などでは決して無い。肥大するそれに遅れて耳を裂くような甲高い風切音を伴っている。つまりそれは隕石のような落下物、いや――!

 

「ミス・なのは!後ろ!」

 

 金髪の男性が慌てて叫んだのとほぼ同時、レイジングハートも警告を告げる。背筋をつきぬけるような寒気を感じたなのはは、反射的に分割したレイジングハートの柄を使いディバインセイバーを振るった。瞬間、ガチっと噛みあうような鋭い音の後、ビームと本物の刃が拮抗し合いジジジ、とショート寸前の電気のような音をひびかせる。それすなわち、奇襲――

 

「ふ、殺気を放てばさすがに気づくか。期待通り、やるものだな」

「あなたは――!?」

 

 互いに押し切るように剣を振るって弾き、距離を取る。太陽を背にした者の影に目が慣れ、やっとその姿を確認できるようになり強襲者の姿は女性、と判断できるようになる。風になびくポニーテール状の髪型とともに、全体の配色が紫寄りの薄いピンクで統一されたスタイルのいい女性。しかしただの女性ではないであろう切れるように鋭い目は強い威圧感を伴っており、何より手に持つ武器が、否デバイスが尋常ではない。それは女性の身長の半分くらいはありそうな寸長の実直剣。ひどく鋭利なそれは、間違いなく血を浴びているであろうという直感がなのはを襲う。こんなモノは父士郎の刀以外では見たことがない。初めて対峙する家族以外の剣士になのはの手はわずかに震えた。

 しかし同時に違和感、そういった人物たちがおそらく持つであろう闇を映すような表情が、彼女にはない。どこかすっきりと晴れきった、そのまま真後ろの太陽と同化してしまいそうなほどの熱意を宿している。果たしてこの人物は本当に殺しを行ってきた人間なのか?と疑念がよぎる。そうして勘ぐっていると、なのはの背後、低空から再び声が上がった。

 

「って、ミス・シグナムじゃない!? いきなり何斬りかかってるの!」

「……え、知り合い?」

 

 目が丸くなる、とはこのことだろうか。どうやら女性は栗毛のカメラマンの方と知り合いらしい。暗殺者かと思ったらご近所のお隣さんでした☆レベルの肩透かしを食らった気分になのははなった。

 

「えぇ、そうよ。彼女が私達に飛行指導を行ってくれたのだけれど……あなたいつも主がどーのこーのってミス・はやてに侍ってるじゃない。なんで今日はこんなところに一人でいるのよ?」

「何、地球でも有数の魔法剣の使い手がここにいるのだ。ならば、騎士としては寄って斬……腕試しをしたくなってもおかしくはあるまい」

「なんだか今聞き捨てならない事を言ったような気がするの……」

「それにしたって本番中にやる必要無いでしょ!? それくらい後でだって出来るでしょうに!」

 

 たしかにそうだ、とばかりにシグナムが頷くが

 

「と、いってもだな。プロデューサー直々にOKを貰ったのだからやるしかあるまい。いわゆるサプライズ、というものだそうだ」

「やけにアドリブの時間が多いっていうのはそういうこと……?」

(えーっと、実況の方は……)

 

『おーっとこれは驚きだ! ミスの動きに触発された謎のサムライが突然乱入してきたぞー! 果たして少女はこれをどう躱すのか! あるいは打ち倒すことが出来るのか!』

 

(えぇー……ノリノリで実況しちゃってるの……)

 

 通信をつないだスタジオは一切の動揺を見せること無くハイテンションで実況を続けていた。ということはシグナムという女性の言うとおり、予定通りということだったのだろう。つくづく演者泣かせのプロデューサーだ、と心のなかで愚痴る。というか、彼らにかかればなんでもかんでも侍なの?……だからといって文句を言ってどうにかなるものでもないか、とさっと切り替えて目の前の騎士に向き直る。

 

「いきなり斬りかかっておいて今更だが、私と一手手合わせ願おう。自然を壊したくない故本気ではないが、全力を所望する」

「あはは、まぁそのくらいは別に。……というか、あのくらい躱せないと今度どんなハードトレーニングが課せられるかわかったものじゃ……」

「む?何か言ったか?」

「い、いぇなんでも!」

 

 互いに切っ先を向けあい鍔を鳴らす。決して油断できる相手ではない、剣士としての気迫からしておそらくこちらが挑戦者。果断に飛び込む覚悟を持って望まねばならない。

 

「永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術、剣士見習い高町なのは!」

「守護騎士ヴォルケンリッターが烈火の将、シグナム」

「いざ」

「推して参る!!」

 

 

 

 

 正面衝突を起こすようにぶつかり合う二人の剣士に、スタジオ中が湧く。スクリーンに映し出される本格的な殺劇に観客たちは大盛り上がりだ。シグナムのほうはその長剣を活かし、苛烈にそれを振りぬく。しかし単純な大振りなどでは無くその一刀々々にメリハリがあり、鋭い切り返しに少女は攻めあぐねる。かと思えばなのはのほうもその小柄さと技術を使って騎士の剣技を受け流しつつ、細かく相手の隙を突こうとしていた。とはいえその場にいない観客たちにはわからないだろう。彼女たちが呼吸を忘れたかのように目の前の相手に集中しあっていることを。一手どこか悪手を打てばそれが致命傷になりかねないことを。

 

 そしてそれが彼女たち以外にわかるのは、仕合、あるいは死合を経験した者達のみだろう。

 

「ドコに行ったかと思ったら、シグナムのやつあんな楽しそうにしやがって」

「おちゃめさんやなぁシグナムは。なんかやらかすのはスカさんやろうとは思っとったけど」

 

 ちょっとだけ羨ましそうなヴィータを横に、はやては手前の席のジョニーを見つめる。だが彼は画面を見ながら何か興味深そうに微笑みを浮かべているだけだ。その状態こそが彼のポーカーフェイスであるため、無表情以上に読みにくいのは確かだし案外特に何も考えてないのかもしれないが、何にせよ全く信用されていない。

 

「それなりに拮抗してるじゃん。あたしとユニゾンすれば楽に勝てるだろーに」

 

 クルリクルリ、立ち代わり入れ替わり攻撃しあう彼女らを見ながらヴィータの肩で寝そべっているアギトもぼやく。二人の心境をわかるにはまだ剣士というものに理解が足りてないらしい。

 

「アギトがユニゾンしたらパークが焼け野原になってまうで。それやと私と変わらん広域殲滅型や、そやのうて、シグナムは自身の実力だけで勝負したいんやろ」

「実際に戦争をしてたあたし達からすりゃぬりー空気だけどさ。あんなふうに命のやりとり無しに純粋に武勇を競えるってのは嬉しい事だからな。見ろ、その証拠に高町にゃの……なのはも砲撃を使用しねーで剣士として戦ってるだろ」

「ふぅん、そういうことか」

「それにしてもにゃのって、ぷふ」

「う、うるせー。あいつの名前言いにくいんだよ」

 

 恥ずかしげにそらした顔を見ながらクスリとはやてが笑う。釣られてシャマルも笑い、ザフィーラはニヒルな笑みで返す。咳払いで気を取り直して視線を戻したヴィータの目には、五分の状況を優勢に引き込んだシグナムが映っていた。

 

 

「ふっ!」

「せいっ!」

 

 ぶつかり合う二人の姿を撮影するカメラマン二人は、自分達にとって埒外の高速戦闘に理解が出来ないまま息を呑んでいた。必死に撮影しようとするも唐突にブレる、消える、現れるの3拍子でカメラがまるで追いつく気がしない。それでもプロとしての矜持を持つ以上出来ないなどとは言えない。己が腕と勘を頼りに食らい付こうとする。見え―ー。

 

「ワオ!あぶねえ!」

「気合で避けろ!当たっても知らんぞ!」

「広いんだからわざわざ横切る必要はないだろ!?」

 

 剣戟に速度を上乗せするために横切るシグナムの理不尽な言葉が飛ぶ。風圧だけで飛ばされそうになるのを堪えカメラをグンッと振る。その先では二刀を十字に構えたなのはがシグナムの上段斬りを防いでいた。この勝負、振りまく魔力を回収し密度を上げるディバインセイバーがある以上時間をかければかけるほど有利になるのはなのはのように思える。しかしシグナムは短期決着を目論見、徐々にカートリッジを使い始めているため瞬間的な威力では完全に上回っていた。物理剣でない以上、セイバーはそのたびにはじけ飛び再構成を繰り返している。

 

「ふ、やるようだな。しかしそのような魔力剣では物理剣は貫けまい。設定が仇となったな」

「ご丁寧にどうも!でもまだ負けたわけじゃない!」

「たしかにな。とはいえ、剣士ではなく魔導師としての全力でなければ今は私と同等には戦えまい。悪いが、ここで終わらせてもらおう。時間に制限がある今では難しいが、いずれ全力で戦いたいものだな!レヴァンティン!」

 

 自らなのはの剣撃を受けて弾き飛んだシグナムが命令し、レヴァンティンがカートリッジをロードし排出。ガチャコンと音がしたと同時、常と違う何かを感じ取ったなのはは焦るように空を駆けた。しかしそれは、シグナムにとって好機であり、なのはにとって蟻地獄に絡め取られるような悪手であった。

 

 なのはが剣の間合いに入るよりも明らかに早くにシグナムが剣を振るった。遠心力に従いその刀身はペキペキと離れ内部に組み込まれていたワイヤーが露出を始め、細かくブレードが分かれ始める。瞬く間にレヴァンティンは伸びに伸び、魔法の力も借りたそれは元のものよりも明らかにブレードが増えていた。

 

「じゃ、蛇腹剣!?」

 

 動揺した時にはもう遅い。伸びきった刀身が完全に自分達を囲っておりがんじがらめで逃げ場がない。これは完全に初見殺しではないか――!振り回される刀身はシグナムの意志を反映し、読んで字のごとく蛇のようになのはに絡みつき襲う。少しずつ退路を狭められながらもセイバーで反撃するが、圧倒的な物量の前になのはの剣はその勢いを殺されていった。そして――

 

「ふ、一本だ。今回は私の勝ちだな」

「うぅ、負けちゃった……」

 

 ギリギリの回避を続けていたが、背後を鞭のように打たれることでとうとうなのはに有効打が入ってしまった。それを確認したシグナムは剣を元に戻し、冷静であるが家族には分かる程度に満足気な顔をしていた。

 

 しかしこれはなのはがメインのショーであり、見る人からすれば「大人気無ェ……!」と怒涛のツッコミが入るところである。見ればカメラマン達は「この後の進行どうすんだよ……普通に続けられねぇ」とあきらめの境地に入っており空気が完全に死んでいる。だがシグナム、悲しいかなそれに気づかない。逆にスタジオの方はハイレベルな戦闘に絶叫と感動の嵐で司会ともども盛り上がっており、熱意を糧に先の戦闘プレビューを流しながら説明に勤しんでいる。そんな時、

 

『おーっほっほっほっほ!!』

 

と甲高い声と共に地中から、ドラム缶型の巨大ロボットが湧いて出た。

 




ちな現在積んでいるのはアサクリ4にバトルブロックシアター、ゴートシミュにスクリブルノーツ、Magic2015にスペースエンジニア、トライアルFusion、Banished、ダークソ2……アホのようにSteamで買いすぎたなうん。クリアしたのはスプセルだけ……。


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That daughter is the target after all

 それは正しく寸胴であった。上からスリーサイズを述べれば全て同じと答えられるほどに。その円柱は銀の光沢が輝かんばかりに眩しく強い(確信。なぜなら胴の太ましさと反する細い腕には漢のロマン、ドリルがついているからだ。しかしそのドリル、全く土がついていない。地面から出てきたにも関わらず細い足元に広がるそれは一切の穴も、倒木も見られずドリルのくせに環境保護という涙ぐましい配慮を持っているようだ。すごいぞドリルやったぞドリル! でも付いてる意味あるのそのドリル!? まぁグリフィスパークを破壊してしまったらそれはもう非難轟々だろうから、ありがたいことに変わりはない。ついでとばかりにご丁寧に異相結界まで張って破壊対策は万全である。それはつまり、これから暴れてしまっても構わんのだろう? とばかりの予防線をも張っているということなのだろうが。

 

 さてそのロボット、もはや形がどこぞのキ○ガイ博士の乗り物だったり某国民的パンアニメの敵キャラが乗るようなアレのようだったり、非情に形容しやすいナリをしているが。とてつもなくアメリカらしくないジャパナイズされたシンプルなロボットの乱入に、もはやなのはのアドリブ精神はポイントゼロであった。だってあれこれ続きすぎてどれにツッコミを入れればいいかわからないから。シグナムとの剣舞はまぁ、いい。それはいいとしてもアドリブにノリノリな司会だったり元の進行が形すら無いまま構わず進んでいたり、そして誰もそれを気にしていないあたりここには、きっと常人がいない。比較して良心回路を持ち合わせているのは多分同行しているカメラマンの二人くらいだろう。引っ掻き回されたこの芝居を一体どう終わらせればいいのか。その答えは誰も教えてくれない……かと思えた。

 

「ほう、なるほど。ライバルとの戦いの後に巨大な悪役との対決か、筋としては悪くない」

「(いつの間にかライバルにされてる……)あ、そっか。これアメコミヒーローのノリなんだね」

 

 ウムウムとうなずくシグナムを見てようやく納得するなのは。会場のほうを確認しても(結界構築していても回線は維持している様子)そのテンションは落ちるどころか高まる一方である。筋肉むきむきヒーローと魔法少女ではかなりの差がある気がするが。

 

「だとすれば高町、貴様に求められている役割はわかるか?」

「えっと、スーパーマンのごとく華麗に回避して一撃で終了、でいいのかな?」

「そのとおりだ。中で操縦している人間は気にしなくて構わん、思い切り破壊しろ」

「え、いや、それって大丈夫なの?」

「あの高笑いからして、私の予想が正しければ乗っているのは知人だ。奴なら何度ぶちこまれても問題はない、人格的に」

「それってどんな人!? 人格的に問題あるってことだよねそれ!?」

「こんなところに乱入してくるやつだ。倒されても文句は言えんだろう」

「(それってきっとブーメラン……)はぁ、でも確かにどうにかしないとショーも終わらないもんね。先に謝っておくね! ごめんなさい!」

 

 その時ゲスト席にいるフェイト・テスタロッサは思った。嫌な予感しかしない……と。そっと両手を合わせて拝む姿は同情の意を込めたとても理解のある姿だったという。

 

 

 

 

「おーほっほっほっほ! とうとうこの私、クアットロの時代がやってきたわ!」

「えぇー。オチ担当の未来しか見えないよクア姉~……」

 

 動くキテレツドラム缶の中、そのコクピットに乗っているのは二人の少女だ。片方は投影モニタに映るキーボードを忙しなく叩くメガネ少女、クアットロ。もう片方はバイクのようなコクピットに載せられているセインという少女。

 

 セインは調整ポッドからつい最近出てきた一人であり、その中でも一番年長の人間。彼女の弟妹達も時期を早めて出てきており、しかし戦闘に使う目的でないために皆かなり幼く中にはほとんど赤子のような子もいる。そんな子たちの育て役だったり社では活気の良さを活かして広報をしていたりとかなりアクティブに動く子だ。そんな子ではあるがやはりまだ子供、テンションの上下が激しく無理やりロボに連れ込まれただけありご立腹。

 

「何を言ってるのセインちゃん! ここでアースガジェット26号~あ、あの白鳥は湖を飛び出して堕ちた~があの憎い魔法少女を倒す活躍をして箔を付けるの!」

「嫌な予感しかしないよ何その名前!? ……ていうか高町さんに何の恨みがあるのさ」

「それは無論! あのちびっ子はドクターに目をつけてもらって輝かしいばかりの功績を得ているというのに……私といえば毎日毎日帳簿とにらめっこして計算計算計算計算計算計算計算計算菓子計算計算計算菓子計算計算のつっまらない日々! そりゃ腹立って立ちますわ!」

「ちゃんと休憩入れてるからいいじゃん~? ていうかただの妬みと逆恨みだよそれ」

「知ったことではありません~。あそこにいるのはただ私の糧となるためだけの踏み台にすぎないわぁ。だとしたら踏んであげるのが淑女のマナーってものでしょ?」

 

 クァットロは社の経理として才気を放っている。のだが、初期に作られただけあってスカリエッティ因子が残っているのか真面目に働くという行為に苛立ちを覚えているようだ。結果我慢の限界を超えて爆発しこのような行為に至ったらしい。何分我欲が強いだけになのはが一人勝ちしているような現状が気に食わないとか。

 

「そんなことに私を巻き込まないでよ~。確かに地中からドッキリをやるのにディープダイバーが必要だったのはわかるけどさー」

「さぁ行くわよアースガジェット以下略! 尽く蹴散らしなさい!」

「ダメだこの姉聞いてない……。ところで一ついいかなクア姉」

「何かしらセインちゃん」

「このロボット超ださい」

「ぐはっ!? ……いいからさっさと動かしなさい!」

「はーい」

 

 セインのISによって地中を泳いできたドラム缶が、彼女の手によってぐぃんと動きはいポーズ。某国民的パンアニメの悪役のごとくコロンビアを決め、颯爽と足を踏み出した。最初の配慮は何だったのかという勢いで木を踏み荒らしながら進んでくるが、結界があるので問題はない。唸るエンジンが世界を揺らし、雄叫び上げるドリルの刃が空中にいる少女達を狙う。

 

「わわ、当たらないとは思うけどさすがにドリルは怖いかな」

「む? 奴は私も狙うのか。とすると、これは主人公を助けるために玉砕するライバルフラグでも立っているのか? わざと負けるのは柄ではないのだが」

「普通に行動不能に追い込めばいいんじゃないかな……って撃ってきた!」

 

 ぶん回したドリルが避けられると見るや、頭部からニョキニョキ飛び出した十ものガトリングタレットが魔力弾をはき出し始めた。空一面が魔導師では展開できないほどの大量の魔力弾に溢れ狙いも適当に無造作に飛び交う。ように見えて、内数機のタレットは逃げ道を塞ぐように展開しているのか避けながらにして二人は追い込まれていく。これほどまでに緻密な手口はクァットロの仕業だな、とシグナムは確信を持つ。そこに、デッドスペースに誘い込まれ再びドリルパンチが打ち込まれる。シグナムはレヴァンティンによってそれを弾き火花を散らしながら、なのはは持ち前の防御力でプロテクションを張ったままドリルにあたり、自ら弾き飛ばされて距離を取る。

 

「ととっ、危なかったぁ。……そろそろ魔力も撒けたし、今度はこっちの番!」

 

 

 

 

「やれる! やれてるわよぉ私! あの小娘を地に叩き落として名声を手にするのよぉ!」

「いやぁ、それはどうかと思うなぁ」

 

 コクピットで騒ぐクァットロを尻目に、ハンドルを握りながらセインは冷静に観察を続ける。確かに反撃を受けてないこちらの状況は有利にも見えるが、実際には有効打を一打も与えられていないのが分かる通り当初から何も変わっていない。むしろこちらが情けをかけられているとセインは思った。何せ高町なのはが本気でスターライトブレイカーを撃ちこめば、動きの鈍いロボでは直撃を免れたとしても避けきれない。解析したところその魔法の爆発半径は核爆発の数倍に匹敵するらしい。仮にこれを、完全にアウトレンジから放たれたらこんなマヌケなロボでは対応するすべがないだろう。つまり今は戦えてるのではなく、あちらの戦術的不利にも関わらずあえて近距離で戦ってもらっているのだ。これでどうやったら勝てるというのだろう。クァットロは自分に酔っているのかその頭脳を持っているにも関わらず気づいていない。まさしく慢心。負けは秒読みだった。セインは逃げる準備を始めた。

 

 そして時は動く。

 

 飛び乱れる弾幕と容赦なくぶん回されるドリル。格ゲー初心者のガチャプレイ並みに法則性のないめんどくさい動きを繰り出すロボに四苦八苦しながらバスターで外装を削り落とす。しかしその時、変化が起こった。ロボはまるで足をつってしまったようにビタリと止まってしまったのだ。

 

「な、ちょっと何を止まってるのセインちゃぁん!?」

「わ、私のせいじゃないって!なんか急にぎちぎちって!はっ!」

 

 セインの脳裏にあることが唐突に思い出される。それは今から少し前、ロボットのパーツのコンテナを運ばせていたザフィーラが最後の荷物を前にバックレたのだ。とはいえ彼からすれば中身のわからないものを延々とパシ――運ばされ続けていたのだからそうなっても仕方ない。ついでにセインも嫌々作業に従事していたので彼を責めることはせず、とりあえず動くからこれでいっかぁと放棄していた。勿論クァットロは力作業なんて面倒だわぁとやるわけもなく。

 

「わ、わた――じゃなくてザッフィーのせい! だいたいザッフィーのせい!」

「な、なんですってぇあのクソ犬! ってきゃあ!?」

「わわわわわっ……!」

 

 盛大に責任を押し付けるだけ押し付けているところにGがかかり、まるで落ちるような衝撃を受けた。動きを止めた事をチャンスと見たなのはがズンバラリと足の根っこをセイバーでぶった切ったのだ。いくら内部が魔法的な安全性を保たれているとはいえ、衝撃は衝撃。怯んでいるところドリルを、続けてバスターの斉射でタレットを潰されたロボは、哀れ本物のだるま、もといドラム缶と化してしまった。

 

 そして上空から向けられる杖先。銃口にも似たそれは拡散した魔力を集め桜色が急激に肥大する。そう、あれが、アレが来る! 向けられた人間は皆恐怖せずにはいられないあの大魔法が!

 

「な、ななっ」

「おぉっと、ガジェットの底部が地面に接してる! これはチャンス! ばいばいクァ姉オタッシャデー!」

「あ!? ちょ、何逃げてるのセインちゃぁん!? ま、まちなさ……ひぃ!?」

 

 ISディープダイバーを発動させて何もかもを水のようにドボンと潜る。その早業に為す術も無く見送ってしまったクァットロは、再び視線をディスプレイに向けて顔をひきつらせた。見事に画面が桜色に染まっている。

 

「こ、こんな終わり方い――」

 

 爆発音を、聞いた気がした。哀れクァットロ、以降散り際の捨て台詞を吐き切ることも出来ず彼女の意識は闇に堕ちた。

 

 

 

 

 こうして、アドリブだらけのお祭は熱気を帯びたまま無事(?)終了した。スタジオは商魂たくましく映像を即売で売り飛ばし、大利益を得たという。ちなみにそれには特典としてリハーサル時に撮影した映像も添付されていた。リハとはいえとりあえず見せられる内容であったので、なのは的に十分と言えずとも見せるはずだったものが見せられた事にホッとしている。

 

 それから数日は、熱気と狂乱から醒めた子どもたちの時間であった。新しく出来た友人、八神はやてなりのアメリカでの遊び方を教わり、お気に入りの店をまわり、会話を楽しんだ。なのはに盾にされたフェイトがシグナムにロックオンされ彼女もライバル認定されたり。すずか、忍とシャマルのあらあらうふふな会話が繰り広げられたり。アリサとヴィータが謎の取っ組み合いを始めアギトが野次を入れたり。アリシアはナンバーズ社を単独で見学していたり。ホテルではなくはやて宅に泊まりもした。優しい母と剽軽な父は、大家族に慣れているだけあってその大人数相手でも気軽に相手をしていた。

 

 ちなみに男勢は終始一貫してのんびりしていた様子だった。時折顔中に引っかき傷やら手のひらの跡があったザフィーラは恭也と何やら視線を交差させていたようだが、その心中は彼らだけが知っている。どうせ「こいつ、やるな――!」的な思考なんだろうけども。

 

 しかしその場に、なのはが求めたジョニーの姿は無かった。撮影後にもスタジオに居らず、やはり彼は忙しいのかなかなか会う機会に恵まれなかった。しかしそれをはやてを通して間接的に聞くことは無かった。何か知っていないか、と聞くくらいは出来たかもしれないが、それでもなのはは当時関わった本人に聞くのが筋だろうと頑なに話題に上げることはなかった。

 

 そうして、しばしの別れの時が来た。

 

「やぁ、よう遊んだなぁ。やっぱ日本流のボケが通じるのはおもろいわ」

「そう言って散々私をダシにして……ほんとツッコミが耐えなかったわ」

「アリサちゃんがいきのええ反応するからやん。フェイトちゃんのど天然スルーにはたじたじやったけどな。まるで氷の上を滑っとる気分やったで」

「……え? 何かおかしかったかな?」

「ふふ、フェイトちゃんはそのままでいてね?」

「え……え?」

 

 何が何だかわからないと目を点にするフェイトを見ながら、はやて達は噛み締めたような笑いを浮かべた。その笑いは空港の雑踏に消されるほど小さいものであったが、色とりどりの小さな花の咲くような光景であった。

 

「……あの、スリカエッティさん」

「ジョニーで構わないよ。あの時のことを聞きたいのだろう?」

「はい、ジョニーさん」

 

 そして、なのははとうとう果たすべき目的を、その人物と話をすることが出来た。空港への見送りにはジョニーも来ていたのだ。期待と緊張で胸が弾けるような思いで、なのはは聞いた。一体あの子は誰だったのか、それとも何だったのか。だがそれよりも何よりも、会って感謝を告げたかった。私はあの時、あなたのおかげで大事なモノを得られたよ、と。

 

「そうだね、確かに気になるだろう。とはいえ、今は言えることは少ないんだ」

「……どういうことですか?」

 

 訝しげにジョニーを見る目を細めるなのは。それはそうだろう、ここまで機会を待ったのだ。これで骨折り損は許せるわけがない。ジョニーは間違いなく知っているのだと、直感が告げているのだ。

 

「教えるのは簡単だ。彼が君の言っているようなドッペルゲンガー等ではなくちゃんと実在していること。春には確かに日本にもいた。だが、それだけだ。彼が君に会わないのはそれなりの理由がある」

「教えられない理由も同じなんですか?」

「そう、これは私の推測だが……少なくとも今は君と繋げる訳にはいかない。済まないが、あと2年はまってほしい」

 

 2年、長すぎる時間だ。手がかりを前にこれではあまりにも辛すぎる。何故それほど、何故2年なのか、なのはの脳はどうしてという思考でぐるぐると渦巻いたまま視線を下げた。ただお礼を言いたいだけなのに、ここまできて遠回りをしなければならないのだろう。なのはも聞き分けのない子供ではない、相手も譲歩しているからわがままも言いづらい。しかし魔法という理を扱うだけの頭脳を持つ彼女はそれを駆使して自力で解決策を求めようとした。しかし、どうしてもピースが足りないのだ。会わないに足る理由が。もしかして私が、あの場で「彼」と会ってしまった出来事が彼にとって何か不都合なものであったのかもしれないとネガティブな推測で埋めてしまいそうになるほどに。そこにポンと、肩を叩く存在がいた。

 

「別に、あいつがなのはちゃんを嫌ってるわけじゃないよ」

「……アリシア、さん?」

 

 声をかけたのはアリシア・テスタロッサだった。思えば彼女も、もしくはフェイトも何かを知っているような素振りを見せていた。なのはを通して誰かを見る目、それを不思議に思った事はある。だが地球にいた彼と、次元世界から来た彼女達は直接的につながることがなかった。

 

「あいつはある意味理屈の権化だからね。会えないって言うなら、多分梃子でも動かないというか、意見を変えないと思うよ?むしろ、春に姿を見れただけでもあなたとの繋がりの強さを示してるようなものだよ。必要なときは、いつかきっと会える。だから、さ、待ってあげてくれないかな?」

「…………」

「まぁ、待った時間分会った時に思いっきり利子つけて返せばいいんじゃないかな?殴るなり斬るなり撃つなり」

「……それはどうかと思うんだけど」

 

 それはお礼参りではなかろうか。ちょっと言葉尻に付け足しただけでえらく意味が変わってしまうような言い草に、あるいは呆れからかクスっと笑いがこぼれた。

 

「……わかりました。それじゃあ2年後、また必ず聞きにきますから! 約束です!」

「ああ、約束だ。破った時は撃たれても構わないよ」

「なんでそんなに二人共私に撃たせようとするのー!?」

 

 ククク、と笑う二人。遊ばれていると感じたなのははぷーと頬を膨らませてフェイト達の元へずかずかと移動していった。それを見届けて二人は真顔で話し始める。

 

「……で、実際のところどうなの? あいつの様子は。私のところにも1年くらい来てないんだけど」

「そろそろ限界だね。ジュエルシードの一件以降、彼女との外見の乖離が著しい。成長が早まっていると言っていいかな。もう君と背丈が大差ないほどにね」

「そう、それじゃあ……」

「ああ、闇の書については作業段階を繰り上げる事になるだろう。12月を待っていることは恐らく無理だ。――そして、そこが決定打になる」

 

 やれやれ、難しいことだ。とジョニーは唸った。ジェックが抱えているある問題、それは彼を含め3人共が知る――しかし何が起こるかは推測でしか無くジョニーをもってしても解決できない難題であった。

 

「『高町なのは』と離れれば離れるほど運命は強硬になり、高町なのはと繋がりを失えば存在が揺らぐ、か。全く、面倒な仕様だね彼も」

「だからこそ海鳴市で1回だけ姿を見せた、ってことね。ほとんど知る限りの歴史と相似したあの状況で。……字面だけ取れば合ってるけど、『今』はもう材料は同じだけの混ぜ方の違うスープみたいなものだし、あまり効果は無かったのかな」

「だろうね。……おっと、もしかしたら既に他にも影響は出ているのかもしれないな」

「え?……なるほど、そっちはまかせるね。私はもう行くから」

「ああ、またいずれ」

 

 ジョニーはとある方向を見てカツカツと歩き出す。その方向は先ほどなのはが向かっていった方向だった。

 

 

 

 

 なのは達が飛行機へ向かうゲートを潜ろうとし始めていた頃、はやては彼女達に手を振りながらもとてつもない居心地の悪さを感じていた。それはジェックの数々の行いを知っているからだ。およそ未来から過去への遡行というのは、考えてみなくともとんでもない大事だとわかる。未来への筋、いわゆる運命と呼ばれるべきものを本人の承諾も無く捻じ曲げる。それは果たしてあってもいいことなのだろうか? 未来の高町なのはからすれば、大事だったはずのものが知らぬ間に変わっていくことになって、そして今のなのはは得られたはずのものが得られなくなる。かつて己は、前史において亡くなるはずだった両親の命を救ってもらった経緯がある。だが生きている以上、死んだかどうかなんて今となってはわからない。勿論死なずに越したことはない。無いが、仮に両親が死んだ後生きている自分は、きっと何か大切なモノを手に入れながら未来へと進んでいったはずだ。それは自分にとっても必要なものだったのではないか?じゃぁ救うとは何だ。経験が、試練が、喪失が、乗り越えた先に何かがあるのなら、救済は偽善ですら無い、独善ではないか。そもそも一つ一つの出来事に善悪だの存在するのか?物事がプラスだったかマイナスだったかなんて、そんなものその時になってみなければわからな――そもそも自分の歴史が変えられているという重大ごとをなのはに伝えないということは、ジョニーに黙っていろと言われていたが本当にそれでいいのか?タイムパラドックスは?歴史が変わったらいわゆる未来のなのはの存在は?

 

 とりとめのない、そして理解の追いつかない思考が脳裏を駆け抜け、ただただ伝えなければならないという脅迫的な罪悪感に襲われ、はやては待ってと大声を上げそうになりながら手を伸ばし――

 

「そこまでだ。考えすぎてはいけない」

 

 それを遮るように掴まれた感触にハッとなり、はやての意識は浮上した。今、私は何をしようとして……わけがわからない熱に促された行動はジョニーの手に止められていた。気がつけばなのは達は既に声をかけるには遠いほどの距離を離れている。

 

「スカさん……」

「運命に惹きこまれたね、はやて。今君はジェックの事を口に出そうとして、自分から滅びの入り口へ踏みだそうとしていたよ」

「惹きこまれたって、よう意味が……」

「気づけ無いのも無理は無い。あれは回避不能なサブリミナルみたいなものでね。意志を、歴史を、理解していないと無意識に誘導させられる」

「そうなったら、どうなるん?」

「推測だが、君の場合は闇の書による暴走に繋がりやすくなる、かな。それも何らかの理由を持ってして海鳴市で起こす可能性が高いだろう。そうなってしまっては、私の計画も水の泡だ。そうならないだけの措置はとっているがね。私が彼のことを頑なに高町なのはに伝えないでいるのは、そのためでもある」

「んなっ、なんでそうなるん……これはジェックがやったことなん?」

「そうでもあるし、そうでもないとも言える」

 

 ジェックの事を伝えるだけで何故そこへつながるのか、関係性が思い浮かばない。しかし運命という単語で彼を連想した少女は少なくとも原因にだけは気づいた。そのはずなのだが、ジョニーは言葉を濁している。

 

「故意やないいうこと?闇の書も魔力を貯めなそないな自体にはならへんやろ」

「そう、起こりうる可能性を知っていて意識的に反する行動をとれているなら、さほど問題ではない。だが、闇の書の修正を行うに至ってジェックが何らかの要因で参加できなくなる可能性はある。リスクマネジメントは行っているから彼がいなくてもなんとかなるが……それでも成功率が高いに越したことはない。……はやて、修正作業は9月に行うことにする」

「……そうせざるを得ない事態が起こってるちゅうことやな」

 

 何か、目に見えない重たい空気が漂っている。何も知らないのんきな乗客達の行き交う狭間で中洲のようにポッカリと空いた場所に立ちそれを知覚するはやて達は、自分達が彼らとはどこか違う場所にいるような気がしてならなかった。

 




そういうわけで、はやてちゃんSANチェックです(ヒィァー
さてさてジェックの抱える問題とは果たして何か。闇の書解決編を通してそろそろネタバレが出来る。やったね作者!明確な伏線って難しいですわ。




アースガジェット(以下略
スペック
全長:15m
重量:乙女の秘密☆
兵装:
5連大型MGドライブ
なんだか大きい漢のドリル
10連頭部タレット
特殊能力:巨大化には強化が付き物よ♡
シスターズが持つIS能力を拡大してガジェットに付与する性質。その演算にはクァットロ自身が必要不可欠。今回はディープダイバーを拡大して大型のガジェットを地中潜行するために運用された。本来のディープダイバーは2,3人程度までが限度。本編読んでアレ? ッて思った人は正解。仮にこれがチンクのランブルデトネイターであった場合、ロボそのものが自爆できるほど能力が拡大解釈されるが、シナジー的には全く意味が無い。実はなにげにすごい技術なのだがやられてしまった以上天丼は無粋、とかで以後全く作られていない。


クァットロのガジェットシリーズ:
 ナンバリングこそされてるものの番号が飛んだり英字だったりでイマイチ順序がはっきりしない。彼女が作るもの、計画するものはTRPGで常にファンブルするかのごとく致命的にダサい形状、名称を賜ってしまう。その割にはスカリエッティ因子を色濃く受け継いだせいで(現在は教育により多少道徳的に修正されたが)、作るものは大体高機能を持っている。但しどれだけ高機能かつ運用するだけの頭脳を持っていようと自身が戦闘者ではない分戦術眼はナンバーズ内でも圧倒的に劣っている。つまり宝の持ち腐れ。ちなみに毎回巨大ロボを作ってるわけではなく、普段は小型のものが多い。今回は奮発して今まで作ったガジェットの総開発費を上回る資金を持って開発された。一体どれだけつぎ込んだのか、誰にも気付かれずにこっそりやりきってるあたりさすが経理担当である。結末はショーの後は真っ黒になってガタガタ震えながら他のナンバーズ一家に怒鳴られている姿があったらしいが。


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