やはり、花の少女は悩みを抱えている (クログロ)
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こうして、彼女は意を決して一歩目を踏み出す
これより、彼らの間違った青春が始まる
処女作となります。
百合作品キャラのノーマルカップリング化が
予想されます。
苦手な方はご注意ください。
亀更新、機能無理解、ご容赦ください。
感想、誤字脱字報告、お待ちしております。
──青春とは嘘であり、悪である。
青春を謳歌せし者達にとって、
嘘も、 秘密も、罪咎も、失敗さえも、
全て青春のスパイスとなる。
仮に失敗することが青春の証であるのなら、
友達作りに失敗した人間もまた、
青春のど真ん中にいないとおかしいではないか。
しかし、彼らはそれを認めないだろう。
全ては彼らのご都合主義でしかない。
結論を言おう。
青春を楽しむ愚か者ども
砕け散れ。 ──
先日、俺は『高校生活を振り返って』というテーマの作文で、見事テーマ通りの内容を書き上げた。
結果、生活指導担当・平塚先生の指示により、奉仕部という、氷の女王こと雪ノ下雪乃が治める部活に強制入部させられた。
だが、平塚先生には舐め腐った作文と評されたが、俺は一切、間違ったことは言っていないと自負していた。俺は悪くない。社会が、延いては学校という魔(リア充)の巣窟が悪い。
しかし、だ。
多くの者がそうな様に。
かつての俺がそうだった様に。
友という、かけがえのないものと信じ、求める者は常にいる。
あるいは、この作文を書いたことで、俺と、『彼女』が関わる因果じみたモノが生まれたのかもしれない。
これから始まる物語は、人と関わることを諦めた俺と、諦めずに手を伸ばし続けた『彼女』のお話。
こうして、彼女は意を決して一歩目を踏み出す
その日の放課後、奉仕部部室にて。
教室後方に纏めて置かれた椅子を一つ引っ張り出し、すっかり定位置となった扉から少し離れた位置で読書に勤しんでいた。
強制入部させられて三日。それまで、ホームルームが終わる・即直帰を心掛けていたはずのこの俺が、早くも部活動に勤しむことが習慣化していた。
両親譲りか、俺の社畜適性は思いの外高いらしい。その事実が、部室に向かう足をさらに重くする。こんなの絶対おかしいよぉ!
と言ってもこの三日間、依頼人は来ていない。部長様の方針上、特別呼び掛けたりしているわけではないので、そもそも奉仕部を知っている人間もいない。それはつまり、仕事が来ないことを意味する。それはそれで諸手を挙げたいほど喜ばしいが、一つ懸念もある。
俺と雪ノ下の間では、ある勝負が存在する。『どちらがより人に奉仕できるか。勝った方は負けた方にどんな言うことも聞かせられる』というもの。
これはアレじゃないの? 依頼者が来ないためノーゲーム、ってこともあり得るのではないだろうか。
悪くない。いつまでも部活動から解放されないのは残念だが、仕事が無いのは良いことだ。
もちろん、
「邪魔するぞ」
そういう時にこそ、新たな問題は出てくるわけで。
横柄とも感じる言葉とともに、この状況を俺を放り込んだ張本人、平塚先生がやってきた。
「平塚先生、ノックを」
「堅いこと言うな。それよりもだ。
二人とも喜べ。暇を持て余しているだろう君達に朗報だ」
はい来ました。
もう面倒事が来たと勘の働く俺、マジ野生。
平塚先生はそこで少し溜め、
「依頼人だぞ」
と言い放った。
うん、ですよね、としか感じない。
平塚先生は「入れ」と外にいるであろう依頼者を呼び込んだ。
「し、失礼します」
おずおず、といった調子で入ってくる女生徒。その少女を見て、すでに枯れたはずの桜の花びらを幻視した。
思わず、息を呑む。
「平塚先生に案内して頂きました」
春の妖精。
そんな、陳腐極まる表現が、頭に過る。
「二年A組、白羽蘇芳と申します」
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またも、平塚静は新たな風を送り込む
心掛けております。
俺ガイルはアニメ、原作、ゲームコンプ。
FLOWERSは秋までクリアしています。
少女、白羽は、整った綺麗な動作でお辞儀した。
肩から後ろに流していた黒髪が、一房流れ落ちるのを眺める。
「部長の雪ノ下雪乃です。どうぞ、そちらに掛けて、白羽さん」
「は、はい」
促されるまま、雪ノ下の斜め向かいの椅子に座る白羽。未だ緊張は解けておらず、膝の上で合わせている手が震えているのが見て取れた。ちなみに平塚先生は、頑張れ、と白羽に一言告げ、俺の隣で足を組んで座っている。
白羽蘇芳。
その少女を俺は知っていた。
普通科二年A組に在籍し図書委員を務める少女。
これだけなら各クラスに一人は必ずいる存在だが、何より目を惹くのはその容姿だ。
俺がこの奉仕部に初めて連れて来られた際、雪ノ下の(一見)美しい佇まいに(遺憾ながら)目を奪われたが、白羽はまた別種の美しさがある。腰まである濡れ羽色の髪。物憂げな瞳。たおやかな動作。触れたら壊れてしまいそうな儚さと、背筋が痺れるような強烈な存在感という、相反する二側面の調和が彼女にはあった。
事実、図書室で本を読みながら受付にいる彼女から目を離せなくなる人間が、俺を含め多々いたように思う。誰かが白羽を指して『図書室の妖精』なんて口にしていたのを聞いたことがある。
何故俺が図書室にいたかって? 教室に居場所が無いからだよ言わせんな恥ずかしい。
それにしても、絵になる、とはこういうことか。雪ノ下と白羽。系統は違うが、容姿は黒髪ロングで孤高の美少女と似通っているこの二人が向かい合って座っている様は、まさしく高名な一枚の絵画のようで近寄り難いものがある。
そんな風に見とれていると、
「私達に貴方の気持ちの悪い劣情を向けないでもらえるかしら。自己紹介くらいしたらどうなの?」
冷ややかな視線とともに、雪ノ下に睨まれた。
キモい・気持ち悪いより、『の』を付けることで、精神的ダメージがデカいように感じるのは俺だけですか。
「いや向けてないし。つか『私達』って。相変わらず自意識高過ぎだろ。自信過剰も良いとこだ」
「本当の事だもの。わざわざ卑下する必要もないでしょう」
「謙虚って言葉を知らないのかよ」
「貴方でいう自傷癖のこと?」
「絶対違うし、そんな悲しい癖持ってねーよ」
ふふん、と微笑みながらさも当然のことのように言ってのける雪ノ下。実際、初見時に見とれてしまった以上、これ以上突っ込むと薮蛇になりかねない。
「……二年F組、比企谷八幡だ」
俺が名乗ると、それまで俺、雪ノ下、助けを求めるように平塚先生をきょろきょろ見ていた白羽が、目を丸くして視点を止めた。
「比企谷、さん…………。貴方が…………?」
その視線には、何らかの感情が込められていたが、どんな感情かまでは量れない。
面識は、無いはずだ。ぼっちは人と話す機会がほぼ無いため思い出すのに苦労しなくて良い。
「あー…………、俺の名前が何か?」
「あ、い、いえ! その…………」
白羽が慌ててふるふると手と首を振り、再び助けを求めるように平塚先生を見た。どうも彼女からはシンパシーを感じる。先程から話し始めにどもる辺り、コミュニケーション能力に難ありと見た。ソースは俺。知らない人に話しかけられると九割どもる。残りの一割は「ふぇぁい」とか変な声が出る。
平塚先生はそんな彼女の様子に一息つき、
「彼女に、君の書いた例のレポートを見せたからな。それで君の名を知っているのだよ」
と、言ってのけた。
いやちょっと待て。プライバシー何処いった。
そんな思いを乗せてうろん気な目を先生に向ける。
「い、いえ! 平塚先生は悪くありません! 平塚先生の机の上に置かれていたレポートを、私が勝手に読んでしまって…………」
「いいや、君の悩みを聞いた時、君に見せようと考えていたものだ。気にする必要はない、別に構わないさ」
「それ、平塚先生が言うのおかしくないですか?」
いや、まあ良いけどね? 少し気恥ずかしいが、何も間違ったことは書いていない、はずだ。知り合いでもない赤の他人にあのレポートを読まれるとか…………。うん、ちょっと今すぐ自室の布団に潜って「あー!」と叫びたいくらいで。
「ひ、比企谷さん、本当に、ごめんなさい…………」
「いやまあ、別にいい。あと、さん付けじゃなくて良いぞ、同級生だろ」
「は、はい。比企谷、くん」
「お、おう」
顔を真っ赤にして、上目遣いでこちらを見る白羽。
おかしい。普段なら上目遣い系女子など、今までの経験上確実に裏があるため即時警戒するところだ。それなのに何故か今回、俺の中の危険信号を知らせるアラームが一向に鳴らない。プロのボッチは同じ過ちを繰り返さないが、彼女からは何の悪意も感じないのだ。マジで何かの妖精なんじゃないの?
「平塚先生。例のレポート、とは、彼がここに入部することになった時のものですか?」
「そうだ。そういえば雪ノ下には見せていなかったな。君も読むかね? なかなかに頭が痛くなるぞ」
おい、だからプライバシーおい。
「お断りします。どんな精神汚染があるかわかりませんので」
「ねえ、もっと俺を傷つけないお断りできなかった? 無意味に人を傷つけるの止めてくんない?」
「ひ、と…………?」
「そこから疑問かよ」
俺のジトッとした視線を受け、こてん、と首を傾げる雪ノ下。可愛いけど腹立つわぁ。
もういいとばかりに俺がため息をつくと、満足したのか「さて」と雪ノ下が白羽に向き直る。
「では白羽さん、そろそろどういった依頼か聞かせてもらえるかしら?」
「…………、えっ?」
雪ノ下に問われた白羽は、しかし意外そうにきょとんと首を傾げた。
「えっ、ではないわ。ここは奉仕部。貴女が抱える悩みを解決するため、その手助けをするためにあるの。何か依頼があってここにきたのでしょう?」
改めてこの部活の説明をする雪ノ下。
というか、めっちゃ親切な説明だな。俺の時は「貴方の人格を矯正してあげる。感謝なさい」とか言われたのに。あまりにも聞きなれない高圧的な言い方で、帰ってから風呂場の鏡の前で真似してみたわ。なかなかのクオリティだったと自負している。
「え、えっと、あの…………」
それはともかく、改めて説明を受けた白羽は、何の事かわからないというように目をパチパチとしばたかせている。
「もしかして、何も聞いてないのか?」
「は、はい。平塚先生には、ただ付いてくるように言われてここに来たので……。その、ここに来た時にも依頼人と言われ、正直、何のことかもよく…………」
何それデジャブ。
俺の時も何の説明もなく連れて来られて、強制入部の強制奉仕を命じられた。
どういうことか、と視線に込め平塚先生を見ると、
「なに、君の時と同じだよ」
何を当たり前のことを、とばかりに肩を竦め、
「雪ノ下、追加の依頼だ。白羽蘇芳の孤独を解決してほしい」
平然と言い放った。
……いや、依頼人アンタかよ。
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Alstroemeria
区別がつくように、
タイトルも俺ガイル方式ではありません。
が、FLOWERS方式の童話タイトルにはできず。
むつかしね。
──本当に、ただ偶然目に留まっただけだった。
『高校生活を振り返って』というテーマのレポート。
私のクラスでも課題となり、個人的にどの科目の課題よりも頭を悩まされた。うんと悩み、最終的に去年図書委員として活動したことを捻り出して書き上げたことは記憶に新しい。
それを、文章の何処かから感じ取ったのだろう。作文を返却される際、担当の平塚先生からお昼休みに呼び出しを受けた。
これまで学業に関してそれなりの成績だった私にとって、人生初めての教員からの呼び出しだった。その上、平塚先生は現国の担当ではあるが、生活指導も兼任されている。心当たりは無いが、どんなマズいことをしてしまったのかと、内心戦々恐々としながらそれに応じた。
実際は、何か悩みがあるのではないか、と心配されただけだった。以前から孤立していた私を気に掛けてくれていたらしい。自身の小心から怯えていたのが申し訳ないくらい、とても親身な先生だった。
心当たりは、ある。
というか、それが短いながらも、私の歩んできた人生最大最長の悩みであった。
友人が、できないのだ。
始めは皆話しかけてくれる。だけど、引っ込み思案で内気な性格が災いする。
次第に、私の周りから人はいなくなった。
それだけでなく、あまりにも周りに迷惑をかけるから、申し訳なくなり、ついには自宅学習に…………。
このままではいけないと一念発起し、進学校である総武高校に入学したのが一年前。
でも、状況は変わらなかった。
新しい学校。新しい級友。新しい環境。
であろうとも、何より私の中身が変わっていないのだ。改善などあるはずもない。
拒絶されるかと思うと、話しかけるのが怖い。
いずれ失望されるかと思うと、話しかけられるのが怖い。
そうして色のない高校生活一年目を、泥のように過ごした。
そんなことを、訥々と平塚先生に話した。
彼女は「そうか」と口にし、何かを数秒思案した。
そして、顔上げると、
「すまない、昼食がまだだろう。放課後にまた来てくれるか」
とだけ言った。平塚先生の視線の先を追うと、壁掛け時計はお昼休みを丁度半分を過ぎていることを表していた。
私は、はい、とだけ答え職員室を後にする。
先生が相手とは言え、自分の恥部を晒してしまった。次第に後悔と恥ずかしさが襲ってきた私は、その日は気も漫ろに午後の授業を受けることになった。
そして、放課後。
言われた通り、また職員室に訪れた。
気は、かなり重い。友人ができないことが悩みなんて、まるで小等部の子どものようだ。
気の重さを吐き出すように、小さな溜め息を一つ吐き、意を決して職員室の扉を開けた。
失礼します、と一度頭を下げ、昼間呼び出された平塚先生の席に向かう。
しかし、そこに平塚先生の姿は無かった。
(留守? 早く来すぎたのかしら?)
二年生に上がっても、相変わらずクラスに居場所の無い私は、帰りのホームルームが終わるとすぐに教室を出る。確か平塚先生はクラスを受け持ってはいなかったはずだから、ホームルームが長引いているわけではない。ここにいないということは小用で少し外しているだけだろう。
緊張する職員室内で待つより外で待っていようと、考えを巡らせた私の視界に、
『青春とは嘘であり、悪である』
本当に、ただ偶然目に留まっただけだった。
その書き出しに書痴としての性分故か、つい目を奪われてしまった。同じ課題に取り組んだ同級生のものだと頭では判りながらも、つい続きが気になり、読み進めてしまった。
読み進めるにつれ、息を呑んだ。
自分が欲して止まない、友情。私にとってそれは尊い輝きそのものだ。
でも、この人にとっては違う。
本当の友情なんて存在しない。
彼らの感じているそれはまがい物でしかない。
そんな主張が、臆面もなく書き綴られていた。
自分の憧れているものを否定された憤りや悲しみは、不思議と湧いてこなかった。
ただ、気になった。
これを書いた人は、どんな人なのだろうか。
少なくとも表面的には私と同じ、一人でいることの多い人だろう。それも、おそらく昔から。
これまでの学校生活で、周りの仲良くしているクラスメイト達をただ見ていた時、何を思い、何を感じ、何を考え、過ごしてきたのだろうか。
(氏名、比企谷、八幡…………)
私は、平塚先生が戻ってくるまでの間。
顔も見たことのない、その“彼”に思いを馳せた。
そんな“彼”と出会うまで、あと数分──。
Alstroemeria
アルストロメリア
花言葉:未来への憧れ
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こうして、彼女は意を決して一歩目を踏み出す
気付きました。本来今回のタイトルとなります。
と言いますか、今回のタイトルが章タイトルと
なりますが、やり方不明でした。
そして自己解決しました。
ご迷惑おかけして申し訳ありません。
本編よろしくお願いします
「ああ、でも勘違いするなよ? 比企谷みたいに彼女は腐っていない。ちゃんと改善する意思がある」
ちょっと?
開幕そうそう俺批判やめてもらえません?
「あの、平塚先生! その話は………!」
「なんだ? 職員室で言っていただろう?」
「確かに友人が欲しいとは言いましたが、そんないきなり………!」
そして狼狽える白羽。悲壮感すら漂っている。
反応を見るに、信頼して平塚先生にだけ話していた悩みを突然暴露された形になるのだろうか。
いや、デリカシー皆無かこの人。そんなだから結婚できな
「おい比企谷、何を考えている?」
「な、何でしゅか? 俺は今、世界平和にちゅいて考えていましぇたよ?」
恐っ、こっわ、超恐いマジ恐い。
何が恐いって、眼力と、俺の方へ踏み込もうと椅子から浮かしかけている腰と、捻り込むように脇に構えた拳がすこぶる恐い。
「そうか、心優しい生徒を持って教師冥利に尽きるよ」
先生はニッコリ笑顔で構えを解き、座りなおす。
九死に一生を得た。俺はそれを体感した。
緊張と恐怖で一気に吹き出た汗を拭う俺を他所に、平塚先生が、さて、と話を戻す
「なに白羽、恥ずかしがることはない。この二人は君と同じタイプではないが、同じ環境にいる。きっと力になってくれるとも」
力になってくれる、ねぇ。
友人が欲しい。
彼女は確かにそう言った。
それに対して俺が思うことはただ一つ。
──餅は、餅屋へどうぞ。
平塚先生に目をやる。
どう考えても連れてくる先を間違えている。
俺も雪ノ下もぼっち側の人間で、ここは一種のサナトリウムと化している。
端的に言えば、それがわかれば苦労していないのだ。
「いや無理でしょう。他人とか必要ないですし」
「そうね。他人も貴方を必要としていないものね」
「はっ! あまり俺を舐めるなよ? メチャクチャ必要とされてるっつーの。中学の頃、同じクラスの奴から掃除当番代わってくれって頼まれたりな。だが俺は奴らを必要としていないから、自分の当番の日もちゃんと自分で掃除してる!」
「いいように使われてるだけじゃない………」
なんせ俺の当番の日、頼んできた奴即行部活行ったからな。これで俺も帰ると何故か俺が掃除サボったことになるんだぜ? で、翌日のホームルームの時間にでも吊し上げられる。ソースは小学生時代の俺。野球部の城山マジ許さん。
「そういうお前はどうなんだよ」
「そうね、まずどこからが友達と呼べるのか、定義してもらっても──」
「ね?」
雪ノ下が友達いない奴の常套句を言いかけているが、スルーして平塚先生に向き直る。雪ノ下が不満げに睨んでくるが、ひとまず置いておく。超恐いけど。
「俺の時は精神面の矯正ってことで、まあ納得はできませんが理解できるとして。白羽の場合、友達作りたいとは思ってるんでしょう? 正直、方法なんてわかりませんよ。三人寄っても知恵は浮かばないと思いますよ」
「では、それ以上で寄るしかないな」
「は?」
平塚先生が席を立ち、前へ出る。
「白羽、奉仕部に入りたまえ」
「えっ!?」
と、平塚先生は事も無げに言う。
そして白羽はアワアワしてる。可愛いな。ちょっと癒しに感じてきた。
てかいや何言ってんのこの人。
「ここは奉仕部。悩みを抱えた生徒が来る場所だ。自身が基準の進路等の悩みは私達教師が解決すべきものだ。勉学において、教え、導くのが私の仕事だからな」
だが、とそこで区切る。
「ここに相談に来る生徒は、きっと他の誰かとの関わりによって悩み抱えている。友人か、家族か、恋人か。人との繋がり方は色々あるだろう。それを聞いて、手助けすることで、人との関わり方を知っていくといいさ」
人との関わり方を知っていく──。
それは無意味だ、と反射的に否定したくなった。
俺は知っている。たとえ求めたとしても、繋がることを拒絶されることで傷つくことになると。アイツ等にとって、すでに確立されているグループ以外は異物で、勇気を出して話しかけても徒労に終わることを、俺は知っている。
「まだ諦めない方がいい。見限らない方がいい。以前ダメだったからと言って、今回もダメだとは限らないんだ」
その言葉が出なかったのは、平塚先生の目が、話しかけていたはずの白羽ではなく、俺、次いで雪ノ下にも向いていたから。君達にも言っているんだよ、と、そう言われている気がした。
つい、俺は首ごと目をそらす。見ると雪ノ下は首を逸らしてこそないが、考え込むように目線は下がっていた。
それを受け入れることは、正直できそうにない。
俺はこれまでの人生で、散々他人に期待し、思い違いをし、失敗してきている。その間違いを二度としないよう、自分を戒めることで、この高校生活は至って平穏に過ごせていると言っていい。今さら奉仕活動を命じられたくらいで、この価値観を変えることはできない。
雪ノ下もこれまでは出る杭よろしく、優秀過ぎる故に周りからやっかみを受けてきたそうだ。それで自分以外の周りを、世界ごと変えると豪語するのはどうかと思うが。本当に思うが。
「まあそれも結局、本人の意思次第だが」
と、平塚先生は改めて視線を白羽に向ける。
「で、でも私は図書委員に………」
「あれは当番制だろう。君の当番の日は?」
「か、火曜日か木曜日です。週によって変わります」
「なら、それ以外の日に部活動に励むといい。そもそも委員と部活、両方に所属している生徒はたくさんいるしな」
どうするね、と白羽に問い、口を閉ざす。
おそらく、平塚先生ができるのはここまでなのだろう。最後の、いや、最初の一歩目は自分で踏み出さなければならないと、そう言われている。
白羽の、まるで寒さを堪えるように胸元で握り締めていた右手が、さらにぎゅっと握り込まれる。
意を決したように。
「私は、その、昔から友達ができたことが無いんです。このままじゃいけないと思って、高校生になって図書委員に立候補したんですが、変わらなくて………」
白羽蘇芳に会ってまだ三十分も経っていない。
それでも、揺れる瞳から、震える唇から、握り締め過ぎて白くなった拳から、伝わってくる。
「でも、私は、変わりたい、です」
その言葉を口にするのに、かなり勇気を必要としていることを。
比企谷八幡は、変わらないことを良しとした。
雪ノ下雪乃は、周りを変えると決心した。
それを選んだと今は胸を張って言えるが、俺と雪ノ下はその選択をすることで、自身が変わることを一度諦めている。
「だから」
彼女はどうなるだろうか。
「私を、奉仕部に入れて下さい………!」
その言葉を素直に口にできる白羽に、
俺は言葉にできない何かを感じていた。
突発性ざっくりキャラ紹介
比企谷 八幡 (ひきがや はちまん)
腐った魚のような濁った目とアホ毛が
チャームポイントの、いわゆる「ぼっち」。
あらゆる物事を斜めに見る「高二病」発症中。
甘党。趣味は読書とアニメなどサブカルチャー。
苦手なものは数学、トマト、虫。
白羽 蘇芳 (しらはね すおう)
無口で臆病な小心者。
しかしあまりの美人さんに話しかけられず、
周りからはクールと思われている。
料理が得意。趣味は読書と映画鑑賞。
虫が苦手。
……やっぱ似てるなこの子ら。
つい二次創作ってしまったじゃないか。
その内まとめるやも?です。
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やはり、比企谷八幡は格好つかない
白羽の決意表明を聞き、雪ノ下は言葉少なくだがそれを受け入れた。それにより、白羽の奉仕部入部が決まった。
あれから下校時刻が迫っていたこともあり、今日は解散。白羽は入部届けを提出するため、平塚先生と一緒に職員室に向かっていった。
そして現在。
俺は帰りの道中、前から気になっていた小説の新刊を買いに本屋に立ち寄っていた。
まだ三日ほどだが、奉仕部にいる間、基本暇なんだよな。雪ノ下もずっと本読んでるし。まあ俺も積ん読解消したり、読み返したい本を普段から持ち歩いているから今のところ退屈はしていない。
それにしても、積んでる本があろうと、つい新しい本に手が伸びてしまうのは何故だろうか。
いや、積んでる本を忘れるわけじゃないんだよ。ただ、まだ手に入れていない本の方が面白そうに見えてつい買ってしまうだけなんだ。隣の芝生は青いというし、上昇思考の強い俺は本能的により良いものをつい探してしまうのだろう。マジ俺世界を導く存在! 人の上に立つ男! でも俺働く気ないからこの才覚は一生陽の目を見ることはないな、うん。
そんな誰に対してかわからない言い訳を、目当ての新刊を手に取りながら適当につらつら思い浮かべる。分類的にはライトノベルだが、ハードカバータイプである。ごつい。ライトとは。
ふと考える。俺は小説はじっくり読む派だが、それでも今後もあの部室で読むには一冊じゃ心許ない。何度も来るのもめんどいし。
俺は他にも琴線に触れるのはないかと小説コーナーから物色していると、
「──くそっ」
(──っ?)
突然、隣から吐き捨てるような悪態が聞こえた。
とっさに「ひぃすみません」とつい謝りそうになる。普段人に話しかけられても自分相手にじゃないと瞬時にわかるのに、悪態や嘲笑とかだと自分へ言われているように感じるのはぼっちあるあるだと思う。え、違う?
チラリとそちらを見ると、そこには車椅子に座った同い年くらいの少女が、憎々し気に本棚の上の方を見ていた。
服装は膝下まである大きめのシンプルな黒いワンピースと清楚っぽいが、お嬢様感はあまり感じない。やんちゃな少年っぽい少女といった感じだ。ショートの髪型と猫のような目つきがそれを強調させている。
と、こちらの視線に気づいたのか、その少女と目が合った。
見つめ合うこと数瞬。
「……これですか?」
気まずさを感じる前にと、少女の視線の先にあった本を取って差し出す。俺はなんなく取れたが、車椅子利用者だと辛い高さだ。
その本は背表紙でなく、面を客に見えるように展示されていた。主人公が難病にかかったヒロインに振り回される話。少し前に映画にもなり、今でも人気作としてコーナー化されているらしい。俺も読んだが、結構面白かった。
「あ? ああ、ありがとう、ゴザイマス」
すごく言い慣れていない感じでお礼を言われる。
不意をついた行動だったのか、きょとんとした表情で本を受け取る少女。先ほどの憎々し気な目つきと相まって、その表情はどこか幼く見えた。
「いえ、じゃあ」
片手を上げ、言葉少なく少女から離れる。振り返ることなく。
オーケー、超クール。今俺超カッコいい……!
俺は比企谷八幡。ぼっちなのと目と性格を除けば基本ハイスペックの男!
俺はそのまま本屋から去ろうとして、
「お客様! 少しお待ち頂けますか?」
「ひゃい!?」
唐突に店員に呼び止められた。
そして気づく。
──やべぇ会計忘れてた。
後ろを見る勇気はなかった。
◇
店員に「盗む気は全くなく忘れてただけなんですホントなんですごめんなさい!」と謝り倒し、何とか事なきを得た。
アホなこと考えててうっかり前科者とか笑えない。いや、未成年な上初犯だから注意だけで済むだろうけど、そこはそれ、気持ち的に。
その後に改めて本を物色する気にもなれず、会計だけ済ますと早々に店を出ることにした。
「…………マジかー」
しかし、こういう時に不運は重なる。
時間を取られているうちに、外ではそこそこの雨が降っていた。雨脚はそれほど強くはなく走れなくもないが、家まで降られ続けるのを考えると辛い、何とも嫌な雨量だった。
今朝見た天気予報では晴れのち曇り。傘なんかは持ってきていなかった。
軒下の隅まで移動し、スマホを取り出す。改めて天気を調べてみる。暇潰し機能付き目覚まし時計と化している俺のスマホだが、こういう時にサクッと調べものができるのはありがたい。
調べてみると、未だこの地区の午後の天気は曇り。通り雨らしい。
この分なら、そこらの喫茶店でコーヒーでもチビチビ飲んでればすぐに止むだろう。幸い二軒隣にある。
そう結論づけ、すぐ傍の喫茶店に向かおうとした。
「やあそこのお兄さん。わたしとちょっとお茶でもどうだい?」
不意に、横から声をかけられた。
あまりにベタなナンパの常套句に、反射的にそちらを見る。いや性別逆じゃね?
俺のいる軒下隅の反対側には、先ほどの車椅子の少女が猫のような笑みを浮かべ、こちらを見ていた。
「さっきはどうも、おかげで助かったよ」
少女はそう言うと、缶を二つ差し出してきた。
一つは紅茶。もう一つは……マッ缶、だと!?
千葉県民のソウルドリンクをチョイスする辺り、コイツ、できる!?
少女のパーフェクトチョイスに俺が戦いているのを訝しんでいると感じたのか、
「お礼。心配しなくても毒なんて入っちゃいないよ。それとも両方苦手だったかな?」
「いや良いチョイスだ。千葉県民ソウルドリンクを選ぶとは」
反射的に答え、マッ缶を受け取る。マッ缶を否定することはできない。千葉県民として当然である。
少女は「ソウルドリンク?」と首を傾げるが、まあいいかと聞き流した。
「そこの自販機で適当に買った物だけど、見ての通り、足が“コレ”でね。下の方にあったコレくらいしか買えなかったんだ。悪いね」
「…………」
少女は笑いながら、ワンピースから伸びる細い足を撫でた。
冗談のつもり、なのだろうか。何と答えるべきか咄嗟に出てこない。
こちらが言葉に詰まっていると、くつくつ、と笑う少女。
「それに、面白いものも見せてもらった。まるでコメディ映画のワンシーンだ。見ていて愉快だったよ。ありがとう。……くくっ」
「…………は、はぁ」
……俺の道化師っぷりは、どうも一部始終見られていたらしい。
そりゃまあ広くもない店内だ。入口近くでゴタゴタしていたら、見られていても不思議じゃない。
不思議じゃないが、……いい性格してんなコイツ。
「それに、親切にしてもらったからね。借りは早めに返すに限る」
「……借りなんて大袈裟な」
「わたしの気分の問題だよ」
一方的な物言いだが、気持ちはわかる。
その時、キィ、と音と共に、目の前に車が停まった。
見ると運転席から少し年上くらいの女性が降りてきて、車椅子の少女に目を向けていた。
「……お迎えだ。お先に」
「あ、はい」
少女は、ポン、っと紅茶の方の缶をこちらに放る。
左手はマッ缶で塞がってたが、緩く放られたおかげで危なげなく右手でキャッチできた。
「そっちは見せ物代」
キィ、と、今度は車椅子から音を鳴らせ、少女は軒下から出る。本当に通り雨だったようで、気づけば雨はほとんど降っていなかった。
少女は車から降りてきた女性と二・三言葉を交わし、介助されながら車に乗り込んで行く。女性は一度こちらを見て、一つお辞儀をし運転席へと戻っていった。
エンジンはかけたままだったようで、少女を乗せた車は時間をかけず動き出す。少女が窓越しにヒラヒラと手を振っているのが見えたので、軽く頭を下げて返事とした。
ふぅ、と一つ溜め息をつく。
今日は慣れないことが多くて気疲れした。
さっさと帰って録画しているプリキュア見よう。
びちゃびちゃに濡れているであろうサドルに思いを馳せ、また一つ溜め息をついた。
※誤字修正。
不死蓬莱様、
ありがとうございます。
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Freesia
つまり私は無力なり。
……申し訳ありません。
「ホームルームは以上。日直、号令を」
「起立、礼」
クラス委員長の声に、椅子を引きずる音が幾重にも重なる。
奉仕部に入部した翌日。
全ての授業、ホームルームが終わり、放課後へと移り変わる。私自身、授業を受けることに特別苦手意識があるわけではないが、それでも少しの解放感がじわりと胸を満たした。
手早く、しかし周りから見て焦っているようには見えない程度の速度で荷物をまとめ、教室を出る。
そう。
今の私にはもう一つ、高揚感の素があるのだ。
(今日から、部活……!)
人生初の部活動に、私の心は弾んでいた。
部活。今まで触れてきた映画や小説の中に登場する学校が舞台の物語において、それはまさに青春の代名詞。登場人物たる彼らが光り輝くのは、同好の志が集まり学内にありながらも一種の治外法権と化す部活動という環境があるからに他ならない。
もちろん不安がないわけではない。
上手く話ができるだろうか。
何気ない一言で二人を傷つけてしまわないだろうか。
そもそも、あの二人は内心私の入部は否定的なのでは!?
そんなネガティブな考えが昨晩から止まらない。今も、気を抜けば内向的な自分の囁きが脳裏を掠め、足を止めそうになる。
それでも、
(私は、踏み出すと、決めた)
昨晩からすでに数えるのも億劫になるほど唱えた言葉を繰り返す。いつもいつも周りの目を気にして、下手な考えを繰り返し、結局一歩も進めずにいた自分。そんな自分を変える機会を、環境を、平塚先生は与えてくれた。感謝してもしきれない。
その想いに応えるためにも、弱気な自分に負けるわけにはいかない。
(『なりたい自分になる資格がないなんて、君に思わせる権利は誰にもない』)
映画「恋のからさわぎ」の名言を胸に、私はまた一歩、部室へと足を進めたのである。
足が止まった。
「やあ白羽。これから部活動かね?」
自身を一念発起させ、気炎よ上がれとばかりに進めていた足を止められてしまった。
目の前には、やあ、と気さくに右手を上げた平塚先生。その隣には一人の見知らぬ女生徒がいた。何やら立ち話をしていたところに私が通りかかったらしい。
(お話中だったのならわざわざ声をかけてくれなくても良かったのに……)
こちらの精神状態など知る由もないと重々承知しているが、昨日背中を押してくれた恩師に水を挿されてしまった。
私のやる気が先ほどまでの高揚感の反動からか消沈してしまう。
「……何か、ご用でしょうか、平塚先生」
「あ、ああ。確かに用はあるんだが……いやどうした? 随分落ち込んでいるようだが」
「いいえ、何でもありません……」
貴女が原因です、なんて、とても言えない私である。
そうか、と平塚先生は訝しげながらも頷く。
「なに、用というのはだな──」
先生は半歩横にズレると、後ろの少女を示した。
「彼女のことだよ」
「ど、どうも」
先ほどから私に負けず劣らず所在なさげにしていた女生徒が、怖々といった風に私に会釈した。私も慌てて会釈を返す。
思索に耽る。
平塚先生は『用』と言った。今の私の立場からすると、人を紹介されるに足る理由は自然絞られる。
「あの平塚先生、彼女は奉仕部の?」
「話が早いな。ああ、依頼人だ」
平塚先生はうむと腕を組み頷く。そして女生徒にチラリと目を向け、
「由比ヶ浜。彼女が今話した部活の部員だ」
「白羽さん、だよね。はじめまして。あたし由比ヶ浜結衣。F組です!」
えへ、と幼さを残す笑顔とともに自己紹介する由比ヶ浜さんに、
「こ、こちらこそ、はじめまして! 二年A組白羽蘇芳です! よろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
慌てて返す私に、彼女はにっこりと向日葵のような笑顔を向けた。
こんな風に笑顔で話しかけられたのは久しぶりのことだった。いつも一人でいる私は悪目立ちしているのか、クラスの人達は何処か遠慮というか、悪く言えば腫れ物に触る感じで話しかけられる。
(それにしても……)
改めて由比ヶ浜さんを見る。
ふわりとウェーブのかかった桃色寄りの茶髪をお団子にしてまとめている。指定の制服を着くずしていて気の強い今どきの女子高生といった感じではあるけど、素直さがにじみ出る表情と童顔のためか威圧感は感じず、柔らかな印象を持った。
(可愛らしい人……)
一言で表すなら天真爛漫。私の憧れを一まとめにしたような少女だった。
(私とは何もかもが違うわ)
髪色一つ取っても、私のカラスを思わせる陰気な黒髪とは比べるべくもない。彼女からは、そういった女の子らしさが溢れていた。
「それで、その、依頼というのはどういった件でしょうか?」
彼女の眩しさに目が眩み、初対面であるのも相まって、つい取り次ぎの平塚先生に話を促した。
「ああ、それは ──」
「クッキーを作って、渡したい人がいるの」
私は、平塚先生から由比ヶ浜さんを部室まで案内するように任され、こちらです、と短く告げると奉仕部の部室へと向かった。
その間、何か話さないと、と思いつつも言葉にならず、望まずも粛々と辿り着いてしまった。少し泣きそうになった。
そして、一通り自己紹介を済ませた後に由比ヶ浜さんは依頼内容を切り出した。
その際、比企谷くんと由比ヶ浜さんが軽い口論になってしまった。どうも由比ヶ浜さんが彼のことを「ヒッキー」と呼んだことに不満を覚えたらしい。あだ名なんて、友人ができない私からすると憧れの一つなのだけれど……。比企谷くんが少し羨ましくなった。
そんな比企谷くんは、彼が気になり依頼を切り出せずにいた由比ヶ浜さんの視線に雪ノ下さんが気付き、飲み物を買いに出る、という体で席を外している。顎で廊下の方を指した雪ノ下さんに従う彼を見て、少し物悲しい気持ちになった。
今は雪ノ下さんと二人、彼女の依頼内容を聞いている。
「でもあたし、料理とか全然でさ……。正直作り方とかもわかんないし、なんか相談できたらなーって」
たどたどしくも、悩みをしっかりと打ち明ける由比ヶ浜さん。
「ホントはね、最初は料理部の友達に相談しようと思ったの。でも、なんか友達とはそういうマジっぽい雰囲気のは相談しにくくてさ。どうしよーって悩んでたら平塚先生が『じゃあ良いところがあるぞ』って…………」
雪ノ下さんは、そう、とこぼし、
「大体わかりました。貴女の依頼、お受けします」
「ほんと!?」
「ええ。幸い私は料理は得意な方だし、家庭科室の使用許可さえ貰えれば、作り方も実践で教えてあげられるでしょう」
「すごっ! ありがとう!」
「ちなみに白羽さん、あなたは?」
「は、はい、できます!」
唐突に話を振られ、しどろもどろになってしまった。
そうだ、私もこの部活の一員なのだ。映画や小説をただ眺める傍観者のようにここにいてはいけない。
依頼者の付添人ではなく、解決するために動かなくては。
「そう。なら私が実際に作って見せて、白羽さんには由比ヶ浜さんの監督をお願いしようかしら。私も手が離せなくなることもあるでしょうし」
「は、はい……!」
むんっ、と改めて気合いを入れる。
が、はたと気づく。
「あの、比企谷くんは……?」
「……ああ、そういえばいたわね」
(比企谷くん……)
どうやら本気で忘れていたらしい雪ノ下さん。
「どうしようかしら。特にやる事がないわね。まったく。いても迷惑なのに、この場にいなくても頭を悩ませるだなんて」
「あ、あはは」
相変わらず散々な扱いの比企谷くんに、思わず苦笑いを浮かべる由比ヶ浜さん。私は自分のいないところで非難される比企谷くんを他人事とは思えず、戦々恐々としてしまう。
と、由比ヶ浜さんは何かを思い付いたらしく、
「あ、味見! 味見役は!?」
「味見役?」
「そう! ほら、男子の感想も欲しいなーって」
「い、いいですね!」
降って沸いたアイデアに私も飛びつく。
たしかに、甘いものが苦手な男性はそこそこいるらしい。渡す相手次第ではあるだろうけど、ある程度の目安にはなるかもしれない。
それに由比ヶ浜さんの器用さ如何によっては、いくらかの試行錯誤が必要になる。その度に完食するのは皆辛いだろう。その、女子的に……。
「そうね。では比企谷くんには勿体ないけれど味見役を。女の子との接点が希薄な彼なら泣いて喜んで協力してくれるでしょう」
「あ、あははは。そういえばヒッキー遅いね」
そういえば、と由比ヶ浜さんにつられる形で時計に目をやったその時、
「「きゃあぁぁぁぁぁあああー!!」」
突如、二つの悲鳴がつんざいた。
Freesia
フリージア
花言葉:あどけなさ・無邪気
〈引用〉映画「恋のからさわぎ」より
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