人外に愛されすぎる者 (ドゥナシオン)
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暗く救いのない話。
苦手な方はバックをお勧めします。


あんたさえ生まれなければ  それは申し訳ない

 

よろしくね、今日から僕が君のお父さんだ  何日続くのやら

 

気味の悪い子、笑わないなんて  可笑しくもないのに笑えない

 

○○ちゃんはお母さんが好きですか?  この世のだれよりも○○○○○

 

でも‥妹は好きだった。

 

 

暗い景色に入れ代わり立ち代わり自分に話しかけてくる。

 

自分を生んだことを後悔して憎んでくる母親・シングルマザーの母の恋人・そして児童相談所の職員まで。

 

随分と懐かしい夢を見ている、とうの昔に置いてきた自分の記憶。

-この世界-に生まれる前の自分の記憶だ。

 

自分がアルキードに生まれる前の。

 

物心ついたときから自分は母に酷く嫌われていた。

自分が出来たことで恋人が逃げたと言っていたのでそのせいだろう。

 

打ち据えられて罵られ、食事は良くて一日に一度あればいい生活だった。

 

食べられないことよりも辛いことがあった。

母は懲りずに男と付き合ってまた子が出来た。

そのせいでまた逃げられて、堕すお金もないと嘆いた末に生まれたのが妹だ。

たった一週間だけの妹でも、自分には十分愛おしさが感じられた。

 

育児放棄をした母は、自分に赤子を押し付けて出ていった。

何かを飲ませないと死んでしまうと幼児の自分にも分かったので盗もうとした。

普段の汚い身なりを精一杯整えて、一度だけ母の気まぐれで連れらて行ってもらったお店とやらに行ってみた。

 

赤ん坊は何を飲むのか分からないので赤ん坊を連れた大人に聞いてみた。

その人はお人好しで、売り場まで連れて行ってくれた。

「お母さんに場所を教えてあげてね。」

 

どうやら自分は母と妹と来た親子だと勘違いをしたようで好都合だ。

ミルク缶とやらがいるのか。

 

持って自分なりに走ったが、大人たちに捕まった。

いたずらが過ぎると笑っていた大人に腹が立ち、思い切り蹴飛ばし噛みついた。

 

笑うな、妹が腹を空かせて待っているんだ!そこを退け!!

 

怒鳴ってからが自分の世界が一変した。

 

警察とやらから人が来てアレコレ聞いてきた。

自分一人ならば母に迷惑がかかるようなこんな間抜けはしないのだが、如何せん妹がかかってはそうもいかない。

ない頭で考えても、赤ん坊を自分で面倒を見るのには無理しかない。

 

仕方がないので自分達の事をすべて話した。

結果、母から引き離されて施設とやらに妹と一緒に入れられた。

妹はへその緒が取れた三日後にいなくなった。

腹が立って暴れた自分に職員とやらが説明をしてくれた。

 

妹は新しい家族に引き取られたのだと。

「飯は食える所か?」

「きちんとした家族よ、満腹するまで食べられます。」

「蹴ったりぶったりする奴は?」

「大丈夫。」

 

それならいい、あいつが自分のようにお腹がすくことも、寒さに震えることも痛くもなんともないならばそれでいい。

それでも気になることはまだある。

「あいつを飽きて捨てないか?」

母に出来た恋人とやらや、母のようにまた捨てに来ないだろうか?

その時は自分が必ず拾いに行こう。

そして今度は二人きりで暮らすんだ。

 

自分の言動にあきれ果てたのか、親切そうに見えた大人たちは自分によそよそしくなった。

 

後から考えれば、なんと扱いずらく可愛げの欠片もない子供だったのか。

その施設は周りの物に比べて比較的里親が来るところだったようだが、自分はいつも残された。

後から入ってきた子たちを見送るように。

 

「少しは笑ったら?」

「おかしくもないのにか?」

「そういうところが駄目なのよ!」

 

自分は引き取られないことを気にしていないのに、周りの大人たちはいつもそのことをカリカリとしていたな。

たまに泣きそうな顔をして言ってきたのは何故なのか今でも分からない。

 

ノルマがどうとか私の事を不憫だと言っていたが自分の知ったことではない。

妹は元気にしているだろうか、自分の思考の大半はそれだけで占められていたのだから。

 

だから何も思わなかった、母に腹を刺された時には。

 

「ふふ、もうね、こうするしかあなたを手に入れる方法がないの。」

自分の下校時間を見計らってきた母は何も言わずに刺してきて、倒れた自分に笑いながら話しかけてきた。

 

ああ、母は寂しかったのか。

ぶたれ蹴られが、時々自分は母を慰めていた。

恋人とやらがしていたように、酔い潰れて布団で眠っていた母に子守唄を歌ってやった。

最低な母だが疲れているのだから慰め位ってあってもだろう。

 

歌を聞くともぞもぞ動き、自分の頭よりも小さい私の膝に頭を乗せて、甘えた可愛い声で自分を捨てないでという母の甘えを聞くのは好きだった。

慰めた翌日は機嫌が良かったのも。

 

自分と妹が離れた後母を慰めてあげられなかったのが心に引っかかっていた。

本当はただ寂しがり屋で甘えん坊の母が自分を刺した包丁で自身の首をた切ったのを見てとても安心をした。

これで母はもう寂しがることはないのだ。

 

それならば、自分が生きている理由もなくなった。

妹はどこか別の場所ですくすくと育っているという、母も寂しがることはもうない。

 

今死んでも惜しくはない

 

気分良く死ねると目を閉じたのだが・・・なにがあったのか、起こったのか。

次に目を覚ましたら赤子になっていた。

 

知らない天井が見えたので周りを確認しようとしたのだが動かずに、手を見れば自分の物とは思えないボンレスハムのような手だったのには驚いた。

まるで妹のような・・・まさか赤子の手か?

 

三日は呆然として過ごした。

赤ん坊の本能に身を任せ、母乳や排泄は自動的に動かして頭だけが違う生き物だった。

 

死んでまたやり直しか?面倒くさい。

三日かけた割に出た答えは平々凡々な答えだが仕方がない。

それが本心だったのだから。

 

だが簡単には死んでおさらばというわけにもいかないようだ、何故ならば

「-ルイ―シャ王女殿下-はお目覚めですか?」

 

どこぞの国の王女になってしまったのだから。なんともしちめんどうな。

赤ん坊に生まれて今日で半年、まだ前の人生を夢に見るか。



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この世界で生きていく


めんどい、この世界の私って詰んでるだろ。

 

三歳の頃に妹が生まれて確信をした。

母は妹を生んで死んでしまい、父は取り縋って泣いていた。

 

「ルイ―シャよ、其方の妹のソアラだ。今日より我ら親子三人だ。」

 

ソアラ、この国の名前はアルキード。

不味いな、アルキードのソアラ王女なんてこの世界の死神確約の名前だろう。

どうやら私の生まれたこの世界はダイの大冒険のようだ。

生前の自分の唯一のお気に入りの漫画。

 

あの本は大好きだった。

同じ境遇の男の子が主人公で、様々な出会いを得て遂には世界を助けた分かりやすい主人公。

困難が起こると真正面から粉砕する時と、逃げてしまう時と揺れ動く人間味のある性格が好ましかった。

其の度に仲間に助けられながら互いに成長をしあい、最後にはラスボスから-人間に疎まれたらどうするのか―と問われたときのあの言葉。

 

お前を倒して俺はこの地上を去る

 

完全なる滅私奉公精神だ。

 

守りたい者達に好かれたいから戦うのではない、守りたいから守るのだと一貫したあの確立した正義感がたまらなく好きなのだが・・・この国に居たら私は確実に死ぬだろう。

この今はフニャフニャとした可愛い妹が原因で。

 

・・・・止めるか、未来知っているからこの国救う方向で。

 

幸いにして自分がどうやら次代の王になるらしい。

阿呆な父王のおかげにて。

 

「父様、再婚はされないのですか?」

 

母の国葬をしてから十日後に聞いてみた。

いくら最愛の妻がなくなっているとはいえ、王としての責務があるだろうからこのタイミングならば聞いても失礼にはならんだろ。

 

「せぬぞ、お前という後継ぎがいるのだから必要はなかろう。」

「・・・・私は女ですよ?」

「何を言う、アルキードに女王がいたことはないが他国にはままあることだ。」

前例がなくとも大丈夫、心配するなと笑って頭をわしゃわしゃにされた。

豪快な父親だ。

娘の結われた頭をぐしゃぐしゃするんだから。

 

どうやら私が調べ物をしていたのはとっくにお見通しか。

齢三つの私がこの国の書物を読み漁っているのは有名だからな。

 

「見て見て!王女様はもう書物を!」

「なんと、王女様は神童だ!」

「この国の将来は安泰ですはね。」

 

周りが騒いでいたが、自分だってびっくりだ。

何故ならどの書物を読んでも日本語で書かれているからだ。

それこそ学者たちが解読中の古文書もだが、流石にそれは読めないことにしておいた。

ただでさえ騒がしいのにもっと上がれるのは流石に面倒だ。

その過程でアルキード王家の系譜も網羅しておいた。

この国は二百年以上の歴史があるが、女王は一度としてない。

 

そのことを父様は大丈夫だと、膝に私を乗せながらニコニコと話してくる。

ここ執務室なのにいいのか?

どうやらソアラが将来伴侶となったバランにあそこまで入れ込んだのは父様に似たのか。

父様が再婚しない理由はただ一つ、母様を愛しているからだ。亡くなった今でも。

愛情過多気味か、親子だな~。

 

幸いソアラ王女と私のソアラとは物凄い違いがある。

私という存在だ。

ソアラ王女は跡取り娘で、とてもではないが見知らぬ旅の戦士とは結ばれることは皆無だ。

バランが竜の騎士であってもだ。

神よりの使いの世界を守る騎士だろうが、この国は相当保守的なので周りは反対するのが目に見えている。

なにせ私が出した徴税方法の献策にぎゃんぎゃん噛みついてきた老害が多い事。

 

五歳のころ、国に日照りが続いて作物の収入ががた減りで宰相達も連日の会議を組んでいた。

無いものを徴税することはできない、ではどこから徴収をするか。

農村部ではなく、街はまだ体力がある。

ならば一時的に街の徴税を上げるかと官僚たちからの意見に私が真っ向から反対をした。

農村部のツケを都市部のみに負わせれば、いつか不満のタネになると。

 

街の者達とて情報は入ってくる。

自分達の生活にかかわることならば尚の事集めるだろう。

いきなり税が上がれば何故かと調べる者達が出てくるのは自明の理だ。

そして必ずいう者が出てくるだろう、農村のツケを自分達が合うのかという馬鹿どもが。

 

街に住んでる者達の中には勘違いをする者がいる。

街に住んでいるものは同じ国民であっても、農村部の者達よりも上なのだと無駄に偉ぶるのがいる。

まぁそういうのは貴族の方が多いのだが今はそこではない。

少数の不満が国のごたごたになる可能性があるのが問題だ。

 

なにせこの国は貴族・神官達に甘すぎる。

国に尽くすべき、模範となるべき貴族達の税金が安すぎる。

頭くるな、元庶民からすればふざけるなと言いたい。

 

夜会に来るたびにとっかえひっかえしている絢爛豪華な衣装、無駄にきらきらさせている宝石に税金掛けろ。

 

その発案を宰相に相談した。

六十のご老人で、白髪の綺麗なもの柔らかな私の師だ。

知識が五歳児にはあり得ない私に嫌な顔をしないで様々な事を教えてくれる。

十五で死んだ私が徴税にくちばしを挟めたのはそのおかげだ。

妹と父様を死なせないためにも知識は欲しい、物凄く。

寝食惜しんで勉学励んだ結果、五歳とはいえ国策に物言える王女様の誕生だ。

 

奢侈税

 

それが私が発案をして、きちんと宰相が国策にしてくれた法案の名前だ。

当然貴族連中から反発があり、父様も難色を示していたが宰相の言い分に粉砕をされた。

 

国の危機に範たる貴族が率先をしなくてどうするか。

 

一朝事があれば軍を率いて事に当たり、国を守るのが大前提だからこそ貴族も王室も成り立っているのを忘れてはならないと。

その担保を崩して国民ばかりに苦労を強いるのはいつか国を滅ぼすのだと。

 

こっそりと会議を覗き見をしていた私は笑いをこらえるのに必死だった程に痛快だったな。

 

ステルス掛けたから姿は見えずでも、声がしたら流石にばれるだろう。

重要会議の盗み見は、王女の自分でもアウトだ。

きちんと王太子殿下の称号をもらえるまでは、こうして盗み見をして勉強だ。

 

そうして少しずつは力を蓄えて行くことになった。




主人公の能力の始まり書きたい。


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能力の始まり


夜、真夜中と言ってもいい時間。

大人はまだ仕事をしていてもおかしくはない時間、そう-普通の大人-ならば。

 

一人の侍女が主に夜食を持って執務室を訪れる。

仕事に空腹は敵だという、この執務室の主の意向通りに指定された時間によって。

ワゴンの上にはさしたる量は乗っていない。

二つの白パンと、トウモロコシのポタージュのみといういささか質素なものだが、これも所望した主の意向。

 

自分の夜食にかける金があったら、もっとましなことに使え。

 

庶民の普通の夕食よりも良い物であることには間違いない。

それ以上の気遣いは無用だと、普通ならばなんと心優しく高潔な主だと誇れるのだが。

 

この部屋の主に食事を運ぶのは何よりも恐ろしい。それもこんな時間帯にだ。

城に入ってまだ二月しかいない侍女は、先輩の侍女に半ば押し付けられてこの役目を背負わされた。

いわば貧乏くじだ。

 

ぐずぐずしていれば、何らかのお咎めが来るかもしれない。

意を決してノックをすれば、入室許可の声が内より聞こえた。

 

入った部屋の中は赤い絨毯が敷きつめられ、執務用の机とその上に置いてある膨大な書類を、蝋燭では説明がつかない明かりが照らし出している。

 

この光景だけでも恐ろしくなる。

ろうそくの明かりは一定の明るさではあるが、そもそもこの部屋にはその蝋燭自体がないではないか!

 

「入口に置いて、下がっていい。」

「・・あ‥中に・・」

「聞こえなかったか、二度同じことを言わせるな。」

「っ!かしこまりました、失礼を致しますルイ―シャ王女殿下。」

「ご苦労。」

 

退室をして扉を閉じて初めて詰めていた息を吐きだす。

あの部屋の異常な明かりといい、-六歳-とは思えない冷え冷えとした声といい、あれはまるで・・まるで・・

 

 

 

 

行ったな、また新顔に夜食当番を押し付けたな古株どもめ。

 

「あ~あ~主様がまだほんの少し可愛げがあったころは、我さきと争って持ってきてくれたお夜食が、今や罰ゲーム並みの扱いとは嘆かわし~。」

「同情をするふりして人をからかうなカーバンクル。」

こいつ見た目可愛いモフモフ系のくせして中身と口は辛辣でブラックユーモア詰め込んだ、不思議のアリスに出てくるようなチャシャ猫みたいなやつだよ。

 

今だって私に同情するふりしてこの状況をからかってくる。

 

「それでも夜食を持ってきてくれるだけましだろ。」

「そうですね~、仮にも主様は次代の王様だ。

命令違反で首が飛ぶのは誰だっていやでしょう?」

つまるところ、わが身可愛さで怖さを押し殺してるわけだ。

 

「・・まったく・・今日はお前じゃなくて-リオ-にするぞ。

「え~!リオは昨日主様と寝たじゃないですか~。」

こんなに愛らしい自分を差し置いて、いつまでもちびのガリガリの青白いリオと寝るだなんて主様趣味悪すぎ。

 

「あいつはお前のように口悪くないぞ。」

「当たり前しょう?僕は主様が-お友達になってほしい-っていうから迷宮から出てわざわざ来ているのに対して、あいつは主様が拾ったやつでしょう?」

 

命の恩人を無下にする神獣モンスターなぞ存在しないだろう。

カーバンクルは本気で心外だという顔をしているが、どこまで本心なのやら。

まぁ、確かにカーバンクルとリオは違う。

 

片やホルキス大陸の最南端のアルゴ岬の真下から入る難易度Sクラスの迷宮のラスボス張っていたカーバンクルと、迷宮の覇権争いで負けて落ち延びていたところをアルキード領内で保護したリオとでは格が違うか。

 

いや・・そもそもそんな神獣モンスターと普通に居る私がおかしいのか。

もう一つ言えば、あの侍女が怯えるほどの明かりがともされているこの部屋自体もおかしいか。

この部屋の明かりは光の精霊たちが瞬い明かりをともしてくれている。

しかも頼んだわけでもないのに自主的に。

 

「お前達、そんなに明かりつけてくれなくていいんだぞ?蝋燭がある。」

「あんな無粋な光もどきと一緒にしないでもらいたい。」

「我らは好き好んで其方といるのだ気にするな。」

「主様~、こいつら好きでやってるんだから放っておきなよ。」

 

・・・・私の周りにはこんなのばかりだ、生まれた時から。

 

 

 

生まれて三日は何事かと呆然としたが、四日目には落ち着きを取り戻して周りの観察にいそしんだ。

驚いていたところで状況は好転しない、生きているなら頭を動かせ。

 

その決意をあざ笑うような奴が来た。

 

「へぇ~~!こんなおちびさんか、今回の実験人形は。」

 

のちに出会うカーバンクルをルイ―シャはチェシャ猫と評するが、この時訪れたモノをルイ―シャはいかれ帽子屋だと直感が告げた。

優しいようでいて、赤の女王の一言があればだれの首でも刎ねて、お可哀そうにと残虐に笑うろくでもない屑だと。

 

「そうそう、僕はそんな感じだよ~。今回のお人形さんはなかなか賢いね。」

 

何も言っていないのに思考を読まれた!

仮定しよう、ここはそういうことが可能な魔法の類がある世界だと。

そう考えれば、能力を使える奴が使っても何ら不思議ではない。

人間だとて、得手不得手がある、それに魔法の類が付随しただけの話だ。

 

「賢い分可愛げがない、-前回の奴-はなんでどうしても面白かったのに。」

 

どうやらこのいけ好かない奴の出鼻をくじけたようだ、ざまみろ。

 

「・・・ほんと、可愛くない。」

なら殺すか?

こいつに出来ることといえばそんな事くらいだ。

生きながら皮をはごうにも、いたぶろうにも、この体ではあっという間に死んでしまう。

死んで終わりが関の山。

 

「・・・・君前世では相当ろくでもない人生送ってきたでしょう。」

幸福な奴らの反応と全く違うのですぐ分かる。

 

「まあいいや、僕の役目は君をいたぶることじゃない。それは-僕の役目-じゃない。」

こいつの他にも屑いること発覚。

 

「ほんとうに可愛くないな、パンパカパーン―――――。」

何だいきなり。

 

「おめでとう、君はこの世界に転生を果たしました。」

そんなのもう知ってる。

「それに際して転生特典を付与しま~す。」

 

1つ、君が聞く言葉は種族問わずに-日本語-に聞こえます。

1つ、君が目にする文章は全て-日本語-に見えます。

1つ、君には特別能力が付与されます。

 

上二つは自分が慣れ親しんだ日本語なのはありがたいと思った、その時には。

まさか人間以外のモンスターだの、精霊だの、魔族だのの言葉が分かるとは思わなかった!

加えて言うならば超ハイレベルの古文書も日本語に自動ほんにゃくこんにゃくになるだなんて!

ドラ●もん並みのチートだろ!!と後年叫び出したかったが、ドッコイその上いくチートが待ってたよ。

 

全部の魔法は使えません。

 

つまり今普及している魔法は使えない、その代わりに古代呪文上げちゃいますってなんだそれ?

使ったら完全に周りから浮くじゃないか!しかも死滅級の魔法しか渡さないっていじめだろ!

能力中身聞いた私の心はその時死んだ。

 

【全移動】

 一度行った場所に、思い浮かべるだけで瞬時に移動する

 契約した相手も同じ能力を有することが出来る

 結界無効

 

【全回復】

 任意の相手、もしくは自分に対しての全回復が一日に五回出来る

 ・体力・魔力・状態異常全般に対応

 

【身体能力強化】

 一定時間、強化したい身体能力を向上、任意でできる

 複数の箇所の身体能力向上を同時に上げることが可能

 身体の伸び縮みも可能であり、契約した相手の身体にも可能である

 

【無限収納】

 空間に収納が可能

 無機物のアイテムから有機物まで可能

 

【式神】

 任意の物を想像した物体に変化をさせて手足・耳目の如く使うことが可能

 使用者の力量次第で意思を持ち、命令を遂行することが可能であり、通信可能

 

【炎神・氷神の加護】

 炎神の加護・マグマクラスの炎系の使用が可能

 氷神の加護・絶対零度の氷系攻撃が可能

 武器への付与及び身体への付与可能

 

【能力創造】

 自身の望みの能力を一つだけ作れる

 ただし神を殺す・死者を無制限に蘇らせる・他者の精神及び心を乗っ取ることは不可

 

・・・ないはこれ

 

ナイフや剣で戦っている人に対して、ミサイルぶちこむようなもんでしょ!

特に最後のあれ何⁉バグチートもいいとこだ!!

あんなの使うかボケ!!頭沸いてんのか馬鹿が!

 

「君は使うよ、いつか使う日が来る。」

 

ぶっ壊れチートを使うか阿呆といった私に、そいつは少しだけ可哀そうな奴にかけるような声で言ってから突然消えた。

どんなやつかわからない、だってそいつは体中に黒い靄で覆われていたから。

不審人物で屑で、ほかにも屑がいる世界かここは。

つくづく自分は運が悪いと思う。

 

あんな能力使うか!はい、使いました。

 

言語能力一発目、精霊可愛いから早速ご挨拶。

本読みたいからこれも速攻で。

城の中庭にある煌めく庭石を収納。

そんな可愛らしいことで済まされたのは三歳までだ。

ソアラ生まれて自分の世界が死神世界確定してからぶっ壊れチートを磨くことにしたよこん畜生!

あの屑野郎の予言当たっちまったよ。

そもそもここがどんな世界かあの屑知っているのだろうか。知っているんだろうな、そういう口ぶりだった。

 

仕方がないので三歳の半年後に城を出た。

出たといっても家出じゃない。身体能力強化を半年で習得をして、全回復と全移動は頭に置見浮かべるだけでいいと実験済み。

外に出て自分に使えそうな人材、アイテム探しに出て行った。

 

身体能力強化のおかげでダッシュで町の外に出た。

街中で幼児一人は怪しまれるだろう。

え?城門どうしたかって?

身体能力強化で足の力上げて塀を乗り越えて出ただけだ。

 

「ここは、なかなか豊かな森だな。」

街を少しれば平原はなく、すぐ側が森だった。

小鳥のさえずりの多さが森の豊かな証。

これだけの鳥を養えているのだから。

 

あまり奥には行かないでおこう、モンスターに出会ったら不味い-今-はまだ。

 

台所から失敬してきたパンを食べてミルクを飲んでそのまま全移動で城の自室に戻った。

これで明日はあの森からスタートできる。

 

こうして少しずつ範囲を短時間で広げつつ、午前は王太子殿下になるべくための勉学をして、-散歩-の後の昼寝後に騎士団長の訓練を受ける。

 

今は平和でも、王足らんとするものは己のみを守り抜かなければならない。

いつ戦場の最前線に立つことになってもいいように。

 

この世界は子供といえど、立場が付いたものには甘くないか。

だがそれでいい、知識・強さを私に寄越せ!!

 

貪欲なる王女殿下の二つ名は直ぐに城内で有名になった。

学者たちに、騎士団長に喰らいつくように習うルイ―シャには似合いの二つ名だ。

 

子供らしからぬ

 

そう囁き始められてもこの頃で、精霊たちの一件もすぐに知れ渡り、モンスター達をどこからか拾ってきては手元に置いて飼い慣らすルイ―シャは畏怖よりも恐れの対象になっていったのは当然であった。

全てが人間の範疇を逸脱しているのだから。

 

 

恐れは同年代の子にも伝わり、いつしか自分に友と呼べる者がいなくなった。

拾ったモンスター達は自分を敬ってくれるが、対等な話は出来ない。

ペットにそれを求めるのは酷だ。

 

知識あるモンスターはいないかと、大神官たち秘蔵の古文書盗み見ては遠征をした。

この頃にはガルーダ拾って縮めて飼って、出掛ける時にもそこそこの大きさにしているのでばれずに大陸中の迷宮に突撃制覇をしては話し相手をゲットした。

 

誠心誠意頼めば伝わるもんだ、報酬付きだけど。

どうも私の血は、彼らの力を引き上げるらしい。

血くらいで強くなってくれれば万々歳だ、そのうち魔王が攻めてくるんだから味方の強化は必須だ。

 

その程度の認識でルイ―シャは血を与えたが、与えられたモンスター達には計算違いが起こった。

神獣モンスター達としては、最上級クラスの迷宮を制覇したルイ―シャに面白みを感じて退屈しのぎだと考え、いつか飽きればこの子供から離れるだろうと軽い気持ちで話し相手になってやったが、血を飲んだ瞬間からルイ―シャに溺れたのだ。

 

惑溺といってもいい。

 

その血は極上の甘露であり、身の内から湧き出る力は己が思考を蕩けさせる様な酩酊を覚えさせる。

何よりもルイ―シャの痴態が自分達を溺れさせた。

ルイ―シャは血を飲まれるとき強い快楽をその身に感じ、理性が抗おうとも心と体が負けて屈服をする。

 

幼児の体なぞどうでもいい。あの誇り高く力強いルイ―シャの瞳がぐしゃぐしゃに歪み無様が。何よりもあの香しい香りが、自分達をルイ―シャに縛り付けた。

 

最早ルイ―シャなしではいられない程に。

 

 

 

そうしてモンスター達が増え精霊たちもルイ―シャに好意を振りまいていくのと比例するように大抵の人間はルイ―シャに恐れをなして去っていった。

 

驚くべきは全ての人間が去っていったわけではないことだ。




主人公の人間関係書きたい


迷宮設定や、主人公の能力は筆者オリジナルです。


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人間関係も大切


真夜中の執務室は静かだ。

音がするのは自分の呼吸音と動かしている羽ペンの音のみ。

 

自分からすればこんなに使いづらい筆記用具はないのだが、ペン先を-今ー試作品で作らせているのでもうしばらくの辛抱か。

 

羽ペンは直ぐに先端が摩耗して消耗しやすい。

だったら金属製のペンを作ってしまおうというのが元ネタだ。

この世界にいる鳥類はほぼほぼモンスターが主なので、筆記用具代金として考えれば安くはない。

まぁ他の贅沢品と比べれば微々たるものであり官僚たちの仕事道具類に含まれているので、程ほどの装飾品が付いていても奢侈税の対処から完全に外れてはいる。

だからといって、不便性がなくなるわけでもないので万年筆もどきの金属ペン先を鍛冶屋にを依頼した。

羽ペンの先の構造と同じものを作って、ゆくゆくは大量生産できるようにしろと。

 

文句山ほど出たな~、普段は剣だ・槍だ・盾防具一式から斧類・打撃系武器だの豪快なものが主な職場にいきなり繊細なもの作れとぶっこまれたら普通そうなるな。

いわば西洋ドレス作ってる店に、ある日突然着物作れと図面だけ渡されて偉そう言われたようなもんだろう。

しかし他に金属類をうまく加工できる伝手は私にとっては城のお抱え鍛冶屋しかないから仕方がない。

 

一週間前の鍛冶屋の親方の激怒っぷりがまた浮かんできたよ。

「王女だか何だか知らねえが!俺たちはこの国守る武器作ってんだ!子供のお遊びは他でしろ!!」

よくもまあ一国の王女相手にあそこまで啖呵切ったもんだと感心こそすれ腹は立たなかったな。

こいつ自分の雇い主が誰なのか忘れているのか?武器一つで国が守れるなんて何を甘い寝言言ってるんだか、はっはっは。

内心で苦笑しか生まれなかったぞ。

 

あの後を思い出そうとしたらノック音がした。

入室許可を出して招き入れて入ってきたのは

「お姉しゃま、まだ寝ないのですか?」

可愛い、可愛い私も妹ソアラではないか。

 

眠いせいかもう六歳だというのに私の事をお姉しゃま呼ばわりとは・・萌えるではないか!

なんだその愛らしい蕩ける声は!怪しからんぞその眠い目をこすっている天使な仕種わ!!

「ソアラ、ここに来なさい。」

「はい、お姉しゃま。」

不届き者がソアラに近づかないように、用心の為に膝に乗せておこう。

深夜の王城は、モンスターよりも危険な馬鹿人間がいるからな。

 

「主様の過保護が始まったぞ~。」

「本当は妹様を溺愛したいだけなのに。」

「なんだかんだと理由つけてバカみたい。」

 

「・・五月蠅いぞお前達!特にカーバンクル!!馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」

「お姉しゃま?」

・・いかん、妹の前ではクールであらねば。

いつか来る未来で、原作のように国民を捨てる自分勝手な娘にしないように厳しくと。。

「お疲れなら、ソアラが肩もみします。」するのは明日からにしよう。

いかん、なぜ自分の妹はこんなに天使なんだ。

妹ももう六歳で、宮廷でも私の評判は知っているはずだ。

 

冷たい心しか持たない人外のバケモノ

 

騎士団相手に圧勝をして、政治の世界でも不備をした相手をとことん追い詰めるルイ―シャに付いたあだ名。

 

本来ならば口にしただけで王室不敬罪で捕まっても文句が言えない程の酷いものだが、

「私に言った程度で捕まえていたら働き手がいなくなって城全体が機能しなくなる。」

それ程までの人数がルイ―シャに恐れを抱いき、嫌悪をしているという事だが当人はどこ吹く風で己の道を邁進している。

 

「お姉しゃま~、ペン先なるものどうして作るのですか?羽ペン可愛いですよ。」

「確かに見た目の良さは羽ペンだろうな。」

「なら・・」

「しかし羽ペンは-どこも使っている-ものだ。

金属ペンが完成して大量に作れるようになったらいずれ商品化をさせる。」

「えっと~アルキード国内でですか?」

「そうだ、手始めはこの国の官僚達と大商人に無料配布をするところから始める。」

 

徹底的に自分が使って、最良のものが出来たら使い心地のアンケートと銘打って、使いやすさをアピールする。

彼らが使い勝手を知った頃に、王室ご用達の銘を打って城内に店舗を出させて売りに出す。

日本人の自分が使って良いものはきっと売れる。

何せメイドインジャパンの物は海外でも折り紙付きであり、そんなものをホイホイと使っていた私の感覚を信じよう。

 

とにかくこの国を富ませたい。

何をするにも金が要る。それこそ私に啖呵切った鍛冶屋の親父が作るものにだっていくらの材料費がかかっていると思っているんだか。

初期武器の銅の剣。鉄の剣だってタダで作れるわけではない。

鋼の剣ならばなおさらだが、将来見越して魔王ハドラー編前には全兵士には無理でも将官クラス・騎士クラスの兵達全員に支給するための資金がいる。

その為にも他国にはない物を作らないといけない。

 

「分かるかソアラ、国を運営するにはお金がいる。」

「はい、その為に・・お姉しゃまがんば・・」

眠ったか、まだ六歳にしかならない妹には難しい話だとは思うが

「戸口の前で盗み聞きをしないでいただけますか陛下。」

「・・父様じゃぞ・・」

「・・・・・・・お入りくださいませぬか父様?」

「うむ!」

・・一国の王が雑な扱い受けてるのに笑って入ってくるっていいのか?

わが父はマゾなのだろうかと少し切なくなる。

 

 

 

はてさて自分の-娘達-はなんと立派な子に成長をしているのだろう。

ルイ―シャは明日にでも王位を譲ってもいい位の天才児であり、ソアラもルイ―シャと比べては可哀そうだがそれでも姉の助けになりたいと懸命に努力をしている天使じゃぞ!

ルイ―シャにもう王の位譲るかとぽそりと呟いたら、聞きつけた宰相にえらい叱られた。

こやつもルイ―シャを折るくいう者の一人かと思えば

 

「あんなに可愛い子供にわざわざ苦労掛けるだなんて何考えてるんだこの馬鹿王!」

 

こやつ一国の王に向かって平然と暴言浴びせ攻撃しおって。

ルイ―シャはこの宰相を見誤っている。あれはこ奴を好々爺の心優しきものだとか思っているのだろうが、若いころのこいつのあだ名知ったら驚くじゃろう。

 

毒宰相

 

もう毒吐きとか毒舌とかをかっ飛ばしたそのものずばりの付いた名だ。

 

不備をすれば即刻解雇、規定外の休暇嘆願をしてきたものは冠婚葬祭以外は職務怠慢理由に給料半年減給。

敵対してきた者は一族郎党地獄の底まで追い回す執念深さで捕まれば首謀者は全て吐くまで拷問三昧の後に処刑をし、女子供は問答無用で娼館に売り飛ばし、男は死ぬまでか恩赦があるまで強制労働。

 

やるからには徹底的に口癖で、一度だけ政敵潰しをした結果付いた恐ろしい名だ。

宰相なる前に政敵からの政治的攻撃の冤罪を仕掛けてきた相手がいたので叩き潰したことがある。

家格はともに公爵家であり派閥力も拮抗していたのが、それを機にあれよあれよと凋落をして一つの名家は滅びさり、派閥も盟主を失い空中分解したところを狙いすませたように出てくる出てくる不正・脱税・汚職・不当人身売買から密輸の証拠の数々。

 

それ等を自分に提出してきたのは言わずと知れた現宰相。

国の膿のすべてではないにしろその功績をもって宰相に付けたのだが、実は政敵が冤罪を吹っかけてきた辺りからあいつの策略だと言われても自分は驚かない。

あいつならば自滅するような馬鹿が宰相に付くなんてありえないだろう位は言うだろう。

真実は最早あいつの胸の中にしかないが、その毒宰相ルイ―シャをいたく気に入ったのは幸運だ。

 

ルイ―シャは知らないだろう。精霊たちとましてモンスターとも言葉が交わせると周囲が知った時、ルイ―シャ自身に傷がつかないように-言葉の能力を精霊たちから授かった-とでっち上げ、ルイ―シャにいらぬ火の粉が降りかからないようにしてくれたのが毒宰相なのだと。

国民にはそのように発布をし、城内の者どもには

 

「ルイ―シャ様にはお守りする価値がある。」

 

アルキード始まって以来の天才児を王にするの国益のためだとか言ってたが、可愛いお気に入りの孫娘を助けたかっただけの爺だろうお前。

 

確かにルイ―シャには-次代の王-として守るだけの価値はある。

奢侈税をはじめとして、農業に革命を起こし・税金革命を起こし・今は貿易の事も視野に入れようとこんな夜中まで頑張っているのだから。

 

 

 

なんだ、父様はなにをにやにやしているんだ?

「・・・夕食に何かおかしなものを食しませんでしたか父様。」

「ほう、わしの事が心配ならば明日から夕餉を一緒に摂らぬか。」

う!そう言われると何も言えなくなる・・

近頃忙しくて夕飯ほっぽらしたせだ。

「明日は必ず参ります父様。」

ソアラを抱き上げて父のもとに行って返事をすれば、優しい手つきで頭をわしゃわしゃされた。

 

 

 

 

「主様きちんと大事にされてやんの。」

「面白くなさそうですねカーバンクル様。」

「うっさいよ。」

 

ソアラが来た辺りからカーバンクルは部屋の陰に隠れた。

自分はルイ―シャのようにソアラを可愛いと思ったことは一度としてなく、無遠慮に触れてこようとしたので二度と顔も見たくない。

自分に触れていいのはルイ―シャだけだ。

 

精霊たちはそんなカーバンクルに困った笑みを向けつつ、ルイ―シャに優しい笑みを向ける。

この城の大半の者達がルイ―シャの事を理解せず、しようともせずに忌み嫌っているのを知っているだけに、愛している家族からきちんと愛を返されている光景は素晴らしいものだ。

早く力だけがある神獣モンスター様にも大人になっていただき、そのことを理解してもらいたいものだ。




国の中枢関係書けたので、もっと広範囲を書いてみたい。


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滅んだ国というのは設定を好きにできて便利


「私に自前の親衛隊を?」

夕食の席でなにを重大ごとをぶち上げてるんだこの父様は。

 

昨日の約束通り今日は父様とソアラと一緒に夕飯を堪能しているところにいきなりさらりと

「ひと月でお前自身の親衛隊を創設しなさい。」

まるで明日お使い言ってきてほしいとかな気軽に何の前触れもなく行ってきやがった。

 

半年後の王太子即位の儀が始まる前に子飼いを作っておけというご命令か。

確かあの人の良い宰相以外は騎士団長を始めとして主要大臣たちは皆王太子時代の父様の親衛隊だったと教わったけど、

「急ですね、親衛隊創設は王太子即位後に少しずつ決めるのが慣例だと記憶していますが。」

王族とは言えたかだが九歳の子供が、国の中枢になるものを見込んで共に切磋琢磨する人材を把握しつくしているわけないだろ。

 

王太子になれば、父王について重要会議・書類仕事を共にするわけでそこからどの仕事にはどのような人材が必要かを自ら学び、其の上で親衛隊のメンバー選出をしていくはずなんだが。

いきなりひと月でできるか、残された資料の過去最短記録でも一年かかってるだろう。

阿呆を言わないでほしいと思いながらコンソメスープ飲んでたら父様の言葉で吹く羽目になった。

「お前はもう独自の貴族指定の集団を持っているじゃろう。」

 

父様の言葉を聞いたとたんに驚いて飲みそこなって吹き出してしまったではないか!

てか何で知ってる⁉

 

「お前達の父様はこの国の王様なのじゃぞ。」

この城内での出来事なぞすべて把握しているとどや顔で言う王様ってどうなんだ。

 

「お姉様しっかり!」

「いや・・すまないソアラ、もう大丈夫だから席に戻りなさい。」

可愛い妹に背中をさすってもらってようやく落ち着いたが、まさか自分の周辺交友関係全部把握されていたとは恐れ入る。

「報告をしたのは-彼ら-ですか?」

ちらりと天上を見ながら言ってやれば、動揺した気配が伝わってきたのは未熟だな。

アルキード国の影達。

あれらを使えるの父様か現宰相のみの諜報員たちだ。自分は心の中で御庭番と呼んでいる。

常時他国に諜報員を放ち、その国に住まわせる草もおり、時として王以外の王族たちを警護または監視をしているのだから御庭番だろう。

その存在も、本来ならば王太子になってから知らされるはずなんだろうな。だって自分聞いたことないし。

知れた理由はこの国に住み着いている精霊たち情報だから、自分が知っているのを明かしたのは少し不味ったか?

 

「ルイ―シャは本当に聡いの~。」

 

・・一国の機密情報に触れたのが自分の子供とはいえ、叱らなくていいのか父様。

 

 

 

 

「おい、誰か頭領にお伝えしろ、我らの存在はルイ―シャ様には最早知られているのだと。」

「末恐ろしき御子だ、本当に九歳の子供なのか?」

「あ~あ、王ってばデレデレになって頭撫でてるけど機密情報漏れ心配しなくていいのか?」

「妹君はルイ―シャ様が言っている事分かってないけど、姉君が褒められてるとお喜びだな。本当に仲のいいご家族だ。」

「お守りのし甲斐のあるお方たちだ。」

 

最後の一言事にその場にいる影達全員が力強く頷く。

城内の見る目の無いバカ者どもはルイ―シャ様の上辺のみを見て悪し様に言っているが、

国を陰日向なく守ってきている自分達からすればこれほど心強い方はいない。

このお方がこのままたゆまずに王足らんとするならば、きっと歴代の中でも最良の女王陛下の誕生だ。

その姉君をに追いつかんとする妹姫もまた然り。

彼女は姉姫ほどの才覚がなくとも、姉姫にないものがある。

それは人を温かくして癒していく力。

ルイ―シャ姫が月のような方ならば、ソアラ姫は太陽のようなお方。

力・才覚あるものはルイ―シャ姫についていけるが、人間そんなに有能な者達ばかりではない。

才覚なきものをルイ―シャ姫に叱られ落ち込んでいるところをソアラ姫に慰められて救われ、更に共に頑張ろうという言葉に奮起をして勉学・剣術・魔法に励んでいる。

 

ルイ―シャ姫が生まれながらの王ならば、ソアラ姫は王佐の才を持つお方。

もしかしたらルイ―シャ姫がアルキード国初の女王となるのに際し、ソアラ姫は初の姫宰相と御成りになるかもしれないと影達は今から心を逸らせていたりする。

 

だからこそ、後年彼らはルイ―シャ以上に-入り婿-に対して辛辣になるのだがそれはまたのちのお話。

 

 

 

さて、ぶっちゃけどうしよう。

「私の親衛隊にならないか、ハルバルト。」

少々ぽっちゃりとした栗色の髪を短髪にした一つ年上のハルバルトに直球勝負だ。

「それって冗談じゃなくて本気なのルイ―シャ?」

一国の王女相手にクッキー頬張りながらため口きいての返答もどうなんだ?

実家の男爵家がこの場に居たら卒倒してるだろうな。

ハルバルト、デリング男爵家の次期当主なのだが騎士団員を代々輩出しているのだがどうしてかこいつは魔法に特化しているあり得ないやつ。

 

齢四歳の頃には火炎呪文・氷系呪文・爆裂呪文・風圧呪文の初級を全て契約をしている。

契約だけならば誰も驚かない、才が身の内にあるのならば契約呪文が自動的に感知をして訳してくれるのだが、この目の前のぽっちゃり君は契約したその場で魔法を発動したという。それも完璧な制御をして。

魔法のコスパもすごかったよとは、ハルバルトの事を教えてくれた精霊達からの言だった。

そんなに凄いのに、こいつは家族から爪弾きにされている。剣士としての才がないというくらいのくだらない理由でだ。

勿体ないので拾いに行ったら、中身くそ生意気なお子様だった。

 

「バケモノ姫がなんの用?」ドストライクな超失礼な奴。それ誰かに聞かれたら即刻打ち首の上家名断絶もんだぞ。

なにか耳障りの言い文句を用意してきたのが馬鹿馬鹿しくなった。

「お前の事をきちんと使ってやるからありがたく思えバケモノ神童。」

自分がバケモノ姫と呼ばれているなら、こいつはバケモノ神童呼ばわりされているのは知っている。

何故ならこいつは七歳で三呪文を全てコンプリートして新呪文を作った奴だからだ。

氷系呪文ヒャダインを極めた後こいつは氷系呪文を研究し始めて、半月で完成をさせた。

出来た呪文がえぐい事えぐい事。敵にの体の一部に切り傷を作って接近をしてヒャドを流し込む。

 

コスパが少ない呪文であっても、体内に入れば血管・神経・筋組織破壊が出来るだろうとさらりと説明をしていた七歳児という者が、バケモノ神童と呼ばれたのだから納得だ。

しかもそれを実践で成功させているのが発案をした当人だけなのも理由の一つだろう。

今この世界は剣士・戦士が前衛で魔法使いは後方支援の概念が凝り固まって、-ポップ-

-マトリフ-といった者達はいない。

勇者のような万能な者達も残念ながら現アルキード国にはいない。

だったら剣士が傷をつけたところに魔法使いが接近してヒャド放てばという案も上手くいっていない。

今この世界の敵と言えばモンスターだけだが、手負いになったモンスターに零距離程の近くに寄る身体能力と胆力がある魔法使いがいない。

騎士団の中にも剣術と魔法を使えるものもいるが、傷をつけた後に素早く魔法を編成して放つのが出来ない。

ハルバルト以外は。

 

「剣振るっている間に魔法を編んでおけばいいじゃないか。」天才児様の一言は凡人の大半に喧嘩売ったとなったわけだ。

考案をした四日後にキラーエイプサルの群れが森に大量発生したと報告を受けた王が、即座に軍を派遣うことを決定した。

時期が時期でちょうど収穫のころで森のすぐ側がこの国の穀倉地帯だからだ。

絶対に死守もんだろ。

式神で報告から一連の流れを見ていると、いかに父様が有能かつ最良の王なのかが分かってしびれた。

でもそこじゃない、この騒動で目をつけたのは。

七歳のハルバルトが軍に従軍をして発案した新術で五体の敵を屠ったほうだ。

しかも無力化をさせたものを入れれば全部で九体。五十近くいた中での九体とは本気で畏れ入って青田買いに行って以来、こいつと私の関係は腐れ縁だ。

 

こいつは将来魔法団団長にする予定だ。

コスパを低くする安定の制御をいずれ言語化させて教科書にするつもりだ。

こいつ感覚で魔法使っている奴だから相当時間かかるだろうけど、やる価値はある。

うちの騎士団はリンガイアやカール騎士団までのレベルはない。

ならば魔法団を強化して連携プレーの強化をすればいい話だ。

サクサク親衛隊決めをしよう。




主人公の周りの人間もしっかりとバケモノ。


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さっくりと決まる親衛隊


秋の陽気に誘われて王女の特権、城のプライベートな中庭でお茶会開いている。

なんて可愛らしい物でもないんだが、お茶会開いているのは本当だ。

珍しく王子服ではなくきちんとドレスも着ている。

 

「珍しいなルイ―シャがドレス着てるとか、今日か明日には槍かイオラの雨でも降んのか?」

「私だって好きで着ているんじゃなぞ、ハルバルト。

困った顔しないでくれるかエミリオ。ただでさえお前の方がきれいな顔しているんだから私が真相のご令嬢を泣かせているみたいではないか。

だからといってにやつくのもなしだぞマクシミリアン。この脳筋野郎が。

・・・なんでメモをしているのだアルベルト」

 

親衛隊を正式に打診するのだから正装位しないとな。

 

本日の私の装いは少しだけ胸元が空いた七分袖のドレス。

上は薄いオレンジ色で下に行くほど橙色色になっているグラデーションになっており、胸元と袖口とすその部分に白いレースがついているこれぞお姫様スタイルだ。

 

私の容姿は母様に似たソアラと違い、完全に父様の方。

柔らかいクリーム色の髪もオレンジ色の瞳も受け継いで嫌いではないのだが、水色gの大人の色が似あうソアラが羨ましくなるのはいささか大人げないだろうか?

近頃夜会でもっと私に王女らしい装いをさせてはという輩が父様に言っているが、完全無視してくれている父様に感謝だ。

こんな格好ではろくに戦えんだろう。

 

だからドレス姿の私なんて珍妙な物だろうがこいつら失礼すぎだろう。

 

親衛隊に選んだのはこの四人。

 

ハルバルト・デミングは男爵家の長男で将来は魔法団団長を見据えて。

 

マクシミリアン・ギルガルドは伯爵家で階級的には中の中だが、私の御代では彼が騎士団長に押すつもりだ。

この中では十一歳と一番の年長者で、騎士団見習のグループを早々に掌握をしている-ロカ-タイプ。

 

要は口が悪くて不器用な脳筋野郎だが、弱い者達には辛抱強く教え導けるほど面倒見の良い奴で、副官に処世術の出来る奴を置けばいいだけの話だ。

さらりとした銀髪を長く伸ばした伊達男のようでいて、口を開けば残念騎士でしかないので黙っていてほしい。

悪い奴ではないのだがとにかく脳筋でデリカシーがないのが欠点だ。

それでも戦い以外の配慮も細かくできる良い奴なんだよこれがまた。

 

アルベルト・モレノはこの中で唯一の平民。

ただし特待生として王立学校通っているのを聞いて見に行ったら、こいつ将来教育学大臣作って放り込むかと一目惚れ。

普通平民が貴族と同じ学校に通っているだけでもいじめられそうなのに、何八歳児が教室一つ借り切って三つ上位の貴族の子女相手に講義しちゃってるの?もう訳分らん。

 

こっそりとお忍びで行ったからそのまま学生のふりして聞いてたら物凄く分かり易い。

教育は国の根幹にかかわる重大なものだ。こいつならこの国に教育の革命を共に起こせそうなので有無言わさずに拉致った。

当然人権無視だと言われそうなものだが、この世界での王家の権力最高なので乱用をして口説き落としたらあっさりと許してくれた神様みたいなやつなのだが・・私の事を観察するとかおかしなこと言い始めて今もメモ書きをしている些か残念な奴だった。

黒髪・黒瞳がソアラに似ているので強くやめろと言えない自分が恨めしい。

 

さて、この中で一番の問題児はエミリオだったりする。

エミリオ・グランドは侯爵家の庶子で後継ぎだ。

正式名にはエミリオ・クロスピエール・フォン・グランド

五歳のころまで母方の家に住んでいたのだが、グランド家の当主が不慮の事故で亡くなったのを機に侯爵家に引き取られたとか。

先代の当主と今は代理で家を切り盛りしている奥方お間に子はなく断絶かと思われていたのだが、以外にも奥方が先代の忘れ形見がいるのを把握しており、エミリオが十五になるまで当主代理を務めるので家名を存続させてほしいと嘆願をしてきたのだという。

エミリオの母君は先代付きの侍女で手籠め同然でされて、なんと奥方の取り計らいで生家に逃がしたそうで、エミリオもそこは感謝しているのだろうが、歪んだ子供に育ってしまった。

 

アルベルトと同じく華奢で水色の髪に同じ色の瞳を潤ませていると天使のような奴だが、

こいつの役どころは決まっている。

私だけの密偵。

影がいるから不要に思えるだろうが、影はアルキード国所属。

そうではなく公的から私的なことにまで使える奴が欲しい。

侯爵家の跡取りにそれは無理だって?

大丈夫だ、今奥方に交渉をしている。

庶子出身ではエミリオが悪し様に言われるだけではなく、侯爵家の名も地に落ちよう。

幸いにして先代の妹君は子沢山で、今男児の四人目が生まれたので養子を組めるように手配をしたと。

この話を奥方に持っていく前にきちんと父様と宰相に話しとおしたので怖いものなしだ。

エミリオを将来使いたいと言ったら二人ともがぜん張り切ってくれたのだ大丈夫。

 

・・このエミリオがどう歪んでるかって?

数日前の事件の事後処理の仕方決定的だったな。

 

 

どの城にも当然のように牢屋はある。

王族を閉じ込める当の牢屋から、凶悪犯をぶち込む地下牢だ。

私もよく来る場所だ。ここに何度足を運んだことか。

今は一つの部屋しか使われていない、そして賑やかだ。

鞭が何かを打っている音がするが、うめき声ですぐに人間相手だと分かるよな。

 

「えっと・・ここまで打てば・・もういいよね・・」

その声はこんな地下牢とは一生縁がないだろうという可憐な子供の声。

声のする部屋に入って目に飛び込んでくるのは、華奢な子供には長すぎる鞭を手にした異常な光景だ。

その目の前に両手を鎖で縛られていて少し宙づりなっているぼろ雑巾男は気にしないが。

なにせ私と父様の命狙った馬鹿だから。

誰の命かを吐かせるためにエミリオに拷問をさせているのだが、

 

「手ぬるいな。」

鞭で表面の薄皮をはぎ取るだけで、さしたるダメージはないだろうと指摘してやれば、鞭で打っていたエミリオが泣きそうな顔をこちらに向けてきた。

 

「ル・・ルイ―シャ様・・彼はもう十分罰を受けました!!」

「それを決めるのは私だ、使えないものは必要ないぞ。」

 

私の言葉に怯えたエミリオが暗殺者をかばうので罰として持っていた鞭を取り上げてエミリオの体に一鞭当てる。

 

「な・・にをしている!」

 

鞭はあやまたずエミリオの服を引き裂き白く華奢な胸に赤い筋が付く。それに憤ったのはエミリオ本人ではなく、こいつに拷問されていた暗殺者の方だった。

「あ!大丈夫だよ!!君は十分罰を受けたら・・だから・・・」

「だからこいつを許せと?」

成程、エミリオは手加減をしていたのを暗殺者のくせして恩義に感じたわけだが、

「ふざけるなよ?」

私としては笑えないのでエミリオの腹を思い切り蹴り上げ、蹲ったところを顎を蹴り上げる。

無様に転がったところを更に踏もうとしたが、止められた。

「手が無くなるぞ?」

鎖を引きちぎった暗殺者がエミリオに覆い被さって。

「・・俺を雇ったのはお前の従兄弟だ!アルシャービン家!!もう満足だろう!」

そうか、未だに王位狙う馬鹿は従兄弟殿か。

青っ白い爬虫類なあの男も似たような父親も見るのには飽きていたし、消しても損は無い。

「で、お前はどうする?そこの役立たず殺して逃げるか?」

「貴様のような化け物風情が!このお方を貶すな!!」

「駄目だよ!!ル、ルイーシャ様!か、この人・・」

「ふん、そんな小物には興味がない。おまえが責任を持ってどうにかしろ。ただしまた私の目に止まるようなことがあればお前共々処分する。覚悟しておけ。」

「あ、ありがとうございます!!」

 

エミリオからの感謝を受けながら地上へと戻ったか、馬鹿馬鹿しい茶番だ。

そもそもあの暗殺者の拷問はエミリオから申し出た事だ。

あいつは人を惑わす悪魔だぞ。

人を甚振ることも、痛めつけられる事も両方好きな変態だ。

大方心優しい少年が、暗殺者を命がけで庇ったとかそんなところだろう。

あの暗殺者はまんまとエミリオに騙されたわけだ。

今頃は仲良くなって、洗脳している所だろうが興味はない。

従兄弟殿にはこの世界からご退場頂こう。

 

そんな事があったのが三日前で、気配探せばあの暗殺者と同じ気配がする。

きちんと躾けて番犬にしたか。

情報合戦から汚れ仕事担当は決まり、将来的にはキルバーン担当もしてもらおう。

あいつもエミリオ同様頭の切れる変態野郎だったから、エミリオにはぜひ頑張ってもらって三文死神には早々にご退場願おう。

 

これで私の親衛隊選抜終了だ。

春になったら王太子か、めんどくさい。




国内固めたので原作に絡んでいきたい。


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王太子は隣国に喧嘩売ります


春の穏やかな日に、私の王太子の即位式が執り行われた。

この国は春はそうそう雨はなく、命芽吹くこの季節に慶事が行われるのが通例だ。

城下町はお祭り騒ぎ。アルキード国の初の王女の王太子殿下が誕生するのだから、珍しいものが好きな国民にとってはかっこうの話題のネタか。

この世界娯楽が少ないんだよ、もっと楽しい事増やすか。

 

とは言え、私の事で国民に活気が出るのは良いことだ。

バルコニーに立つべく支度をしている部屋にまで熱気が伝わってくるのが何より嬉しい。

私はこの国が好きだ、ちょくちょくソアラを連れてお忍びをしているほどに。

無論影の護衛がついているのは知っている。だって予め父様にお忍びすること伝えないといけないだろう。

将来国を背負うのならば国民自身を知らねばなりませんとか言ったらちょろりと父様は許可してくれたし、された私が不安になった。この父様少し人が良すぎやしないか?だからあの戦闘バカみたいな不審な輩をホイホイと城内に招き入れたのだろうかと何となく分かってしまった気がする。

これはあれか、私が守ればいいだけの話か。二人にはそのままいい人のままでいてほしい、ならば私が・・だって口の周りを頬張ったクッキーのカスでいっぱいにした可愛い天使には無理だろう。

「お姉様~これ美味しいですよ!シャクシャクしていて中にはちみつたっぷりのクッキーなんて初めて食べました!!」

「お!嬉しいこと言ってくれるねお嬢ちゃん、これおまけだ持ってきな。」

「ありがとうございます、作ってる方も素敵です!」

うん、素敵なのはお前の方だよ私の天使。

今や屋台の親父さんと私の思いは一緒のはずだ、こんなに可愛い天使の為ならば何でもしてやる!私と目が合った親父さんが私に向かってソアラに気が付かれないように私に向かって親指を突き立てていい笑顔を向けてくれ、私も珍しく笑顔で返した。

分かっているじゃないか親父さん!

以来そのクッキー屋は私たち姉妹の贔屓だが、城下には様々な店があって市場はいつも賑やかだ。

この国を守りたい、ソアラが、父様が笑っているように。

 

そしてこの日を迎えたか。

「これより我が第一王女・ルイ―シャ・アルメデスを我が後継ぎとすべく、今日この日に王太子立体の儀を執り行う!」

玉座を設置したバルコニーの一角から堂々とした演説を行う父様の姿を見ていると胸が震える思いがする。

威風堂々として王のあるべき姿が目の前にある。この父様の姿を目に焼き付けよう、そしてこの幸せの邪魔になるものを打ち砕く力をつけねば。

私も演説を打つか。

粛々と式は進み父様の手によって私の頭に王太子用のコロナを頭に戴いた。

重いな、きっとこの国への責任が重く感じさせるのか。

 

さて、仕事の時間だ。

コロナを頭に乗せた私がバルコニー出ると大歓声の嵐だ。父様よくこの群衆に向かって・・柄にもなく緊張していると、精霊たちに鼻摘ままれた!

「・・はにを!」

「な~に固くしてるんですか~柄でもない。」

「いつもの偉そうな態度はどこに行ってしまったのですか。貴女はいつも通り偉そう言っていればいいんですよ。」

「そうそう、しおらしくしようだなんてメラやイオラやヒャドの雨が降るから止めてよね~。」

・・・随分好き勝手言ってくれる。こいつらこそ暴虐の限りを尽くす悪鬼だろ。

だが意図は直ぐに分かる。いつも通りの態度で足の緊張をほぐそうと、へたっぴなりに頑張っていてくれているのが。

目の前の時計塔の一番上の窓からちらちらとホイミスライムやいたずらモグラ・キャットフライなどの小モンスター達がいて、屋根の上にガルーダがとまっている。

人間に紛れるのは無理だから来てはいけないといった私の友人たちもいるならば、下手な姿が見せられるか!

 

 

いや~驚いた、まさか度々クッキー買いに来た子がこの国の第一王女様で次代の王様だなんてな。子供にしては大人びている子に見えたが、あの子いんやあの王女様なら立派な王様になってくれる気がする。

俺達街の者達にきちんと挨拶をしてくれる心優しいお方なんだ。おんや、演説か?立派な王になる宣言でもってえ~~~!そこまで言っちまっていいのか!!不味くねえか王女様!

 

 

「皆の者!私が今アルキード王グローリ陛下より次代の王として指名を受けたルイ―シャ・アルメデスである。

今日は私の立体の即位の儀の為に集まってくれて感謝をする。

私はこのアルキード国を愛している。市場から、街角から笑いが絶えることがないこの城下町が、この国の台所を支えてくれる逞しい商人たちが行きかう港町が、毎日美味なるものを作り続けてくれる農村部一つ一つを私は愛おしく思う!

私はこの場にて誓う!その愛おしい者達が飢えることのないアルキード国を作ることを。

こんな小娘に何ができると思うだろうが、天候に恵まれず凶作に見舞われた年であっても

誰一人餓死するものが出ない豊かな国づくりを私は描いている!

それは私一人ではなせるはずもなく、貴族・神官・国民皆の力を貸してほしい。

私と共に!誰一人飢えることなく貧しさに泣かなくてもいい国づくりを手伝ってほしい。

一人の力は限られていても、この素晴らしいアルキード国が一丸となれば可能であると私は信じている!」

 

 

その演説は様々に衝撃を与えた。

貴族・神官達は日頃から忌むべきことしているバケモノ王女が何をきれいごとを言っているのだと苦々しく思う。そこまでの大壮言語を並べ立てて国民の支持を得たいのか。

貴族・神官は苦々しく思い、国民たちは夢物語をいう王太子に困惑をするがまだ続きがあった。

 

「この国には手つかずの荒野がある。そこは土地が痩せすぎていてモンスターも住んでいない。湖から水を引き、土地の滋養を上げる研究もすでに済んでいる。あとはあの地を耕し穀倉地帯を増やしていき大規模な農場も隣接させていく。森にもリンゴ・オレンジなど果実の結ぶ木を植樹を行う。

魚の生態もあらかた研究は終わっているので養殖、つまり人間の手で魚を育てて食料の安定化を図っていく!だからといって漁師たちの仕事を奪うつもりはない。沿岸でしか取れない高級魚もいるだろう。そして貝の養殖を試してほしい。これは後日必ず説明をする。

食料の安定化の道筋を作り、経済は港町を発展させて貿易の強化を図っていく。

この国自体に売るものは今はないが、交易拠点にしてしまえばいい。

カールの物品をリンガイアに届けるには陸路より海路の方がずっといい。

速度があり頑丈な船を早急に作り、他国に売りつつ巨大な船がきちんと寄港できる深度の深い港の再開発。

 

その二つには人手がいる、つまりは雇用が生まれるという事だ。

今まで王家は財を貯めていた。万が一この国に不幸が訪れた時に民達を救うために。

だが一度として不幸は訪れるずに財はたまっていく一方なのでこの際使って国を富ませてしまおうと父王と宰相と大臣たち一同でこの日の為に練り上げた秘策だ。

ルイ―シャが国民たちのハートを鷲掴みする為に大人一同が頑張ったのだ!

案の定神童が王太子になったのだと国民たちは熱狂をもってルイ―シャの即位の儀は成功をした。

 

 

 

 

「私も・・お姉様の晴れ姿見たかった。」

なんで自分は肝心なところで風邪なんて引いてしまったのだろう。父様と一緒にお祝いをしたかったのに。

「ソアラ様・・その・・姉姫様とは・・」

・・侍女たちは直ぐに姉様の事を悪く言おうとする。モンスター達や精霊達と仲良くできるお姉様の凄さが分からないんだなんて可哀そうに。

部屋の扉が叩かれて、返事しないうちに開いて入ってきたのはお姉様!

雪のように真っ白な王太子の衣装に重厚で赤いマントを羽織って、頭上には素敵なコロナが載っている。

「ソアラ、今日から私は王太子だ。公的な場では殿下と呼ぶように。他の者は呼ぶまで下がれ。」

 

威厳あるお姉様の言葉でみんな出て行った。

「ふぅ~疲れるものだな、肩が凝る。」

皆行ったらいつものお姉様だ。悪いと思ってもお姉様の可愛さに笑いが止まらない。

「ソアラ、ゆっくりと風邪を治せ。ソアラが気になって指揮を放り出そうかと思ったぞ。」

「それはまずいのではありませんかお姉様?」

「だからしなかっただろう、頑張った私に褒美をくれないか姫君。」

ふえ!お姉様・・そのお顔は反則です!

お姉様のお顔は父様に似て凛々しくて、そこらの男の人よりもかっこいいのです!

そんな顔を目の前に近づかれたら・・チュ

ふぁ!お姉様の頬に口付けしちゃった!

「儂にも是非してくれソアラよ!!」

「姉妹のイチャコラ時間を邪魔するとは!!」」

「親子のイチャコラ時間にすればよいじゃろう!」

「貴方加減しないからソアラが潰れるは!」

「なんじゃと!くっ!儂一人を除け者にしてくれるな〜〜!!」

 

 

一国の王があのざまでいいのか?あのバルコニーでの王はどこ行った?

まったく、だから私が面倒ごとを潰しにきたわけなのだが。

王太子としての最初の仕事は各国への顔見せ兼ねた親善大使などの可愛いものではまったくなく、隣国ベンガーナにソアラ王女への婚約願いの親書の返事。

誰が可愛い私の天使渡すか馬鹿が。




次回クルドマッカ王とファイツ


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初対面でも待ったなし


春が来て人事が刷新される頃に王城に上げられた侍女は、今まさに困惑をしている。

なんで自分のような新入りの、それも見習い期間も終えていないような嘴黄色のひよっこ侍女が王太子殿下付きになったんだろう!しかも今の状況は馬車で二人きり。それも王家の紋章が付いた王族使用で周りは大勢の騎士たちの護衛付きだ!

「・・・あの・・殿下・・」

「・・なんだ?」

「何かお飲み物は召し上がりませんか?」

「・・・・ポットのレモン水を少し。」

あう!要らないけれど私が頑張って話しかけたの気を使わてしまったのが丸分かりすぎます殿下!ずっと書類読んでばかりいるから気分転換にって思ったら主に気を使わせるなんて!!

泣きたい、なんで私みたいなのが栄えある王太子殿下付きの侍女してしかもベンガーナへの特使任務に同行しているのよ!私に恥をかけという何かの罰ゲーム⁉誰か教えてよ――!

 

 

気の毒にな、新人に対してまたもや押し付けか。

去年入った侍女達ももう一端の狸か、私に怯えるようになるの早すぎや過ぎないか?根性の無いことだ。

確かアルビナだったか?どこかの男爵家の縁続きの娘で今年から侍女奉公に出て来たばかりの娘を、あの古株侍女長が私付きの侍女にと差し出してきたのには気の毒に思うぞ。

年は確か十八か、茶色の髪だが三つ編みが良く似合う清楚な顔立ちに少しオレンジがかった茶色の瞳が可愛いな。まぁソアラには勝てないが悪い子ではなさそうだ。

私付きになっても怯えるどころか困惑をしていたな。

私に会って挨拶後、侍女長の説明を聞いた後の反応には大笑いしてしまった。

 

「なんで自分のような鈍くさ娘がか・・」

おっと思わず思い出してぽろっと口から出してしまった。

思い出すと笑えるが、向いから物がぶつかる音がしたので書類から顔をあげてみれば顔を真っ赤にしたアルビナが目を潤ませてる。

 

「・・・・殿下!後生ですからお忘れください!!」

 

嫌忘れたら勿体ないだろう。私の爆笑姿を目撃したので唖然茫然とした侍女長の顔も込みで覚えているんだぞ?普段すかして父様から賜った権力のくせに自分が偉くなった気でいるあの馬鹿は言われた内容に驚いて大絶叫をしながら自分の事をそう評したアルビナに驚いて崩れた顔を晒していた、脳内保管ものだな。アルビナには悪いが諦めてもらおう。

しかしこの娘は側にいても飽きが来ない。何かしらやらかしては私の疲れを吹っ飛ばしてくれている貴重な娘だ。逃がす気ないぞ。

今回だって同行させる予定になかったのを私が無理やりねじ込んだ。

この特使のそもそもの発端を思い出すと私が暴走しそうだから小動物を持っていく。

そう言ったら一発で通ったんよ、諦めろ。関係者各位がベンガーナ潰す勢いで激怒していたからな~、私の報告を聞いて。

 

 

 

「何故私が突然婚約をしなければならないのですか父上!しかも相手は乳臭いガキでしょう!!」

「・・落ち着けセイン。父とは言え、国王陛下に無礼だぞ。

しかもなんだその口の悪さは。第二とは言え一国の王子の言葉かそれが?」

「兄上は黙っててくれ!アルキード国なんてうちの格下もいいところだ!俺が乳臭いガ・・王女と婚約をして誰が特すんだよ⁉相手のアルキード国だけだろう!」

この国はギルドメイン大陸の中央部に位置し大国だ。

来たのテランは言うに及ばず、軍事・経済両面においてカール、リンガイアの上を行っている。

 

この大陸のは主要道路以外は険しい山々が立ち並び、どこか他の国へ行こうとするならば必ずベンガーナの関所を通るルートしかない。

仮に無理をしてけもの道に行こうとすればモンスターか盗賊餌食は必定で、ベンガーナは関所代だけでかなりの稼ぎをしている。

無論その関所代には旅人や商人たちの安全を保障する代金でもあるので軍備の方にかなり力を入れている。安全だと信用されているからこその関所代だとはきちんと理解している。どこかで最新の武装やアイテムが開発していないかを常にチェックをし、自国での研究開発にも余念がない。

お金を稼ぎ、その為に軍備に力を入れればいつの間にか大国の誕生である。

周辺諸国との政略結婚考える必要性が全くないほどの。

アルキード国に何のうま味がある!というのが第二王子セインの表向きな抗議であり、本音は十歳も下の幼女婚約者にしても嬉しくもなく邪魔にしかならないの本音だ。

政治・経済は全て次期国王のアリストに丸投げして自分は得意の武で兄を支える気でいる。

 

自分も兄も見目がいい。父クルドマッカ似ず王后のアリョーシャに似ており、金のさらりとした髪を互いに伸ばしているとよく双子と勘違いをされるほど背格好も似ており、区別できるのは兄が紫の瞳で自分が青の瞳だというところだ。

そのくらいに似ている自分達兄弟はもてる。

兄はもの柔らかい態度とその思慮深さが、自分は騎士としての力が理由で女に事欠かない。

そんな自分が乳臭いガキを貰うだなんて冗談じゃない!

 

「あっちから打診してきたのか?」さもしいのは貴族連中だけじゃな国もか?

自分の立場上権力欲しさに寵愛を欲しがる頭の軽い女どもを相手にしているんだ、なめるんじゃねえ。

「いや、儂の指示で決定をした。」

「はぁ!親父が!!」

今まで自分達兄弟の遣り取りを玉座で黙っていた父親がいきなりな事を言ってくるから驚いて素を出しちまったぞ。

 

「深い考えがあるのだ、この事は大臣達と協議済みだ。反対は受けん。」

「・・・マジかよ、そしたら・・」

「私も異存はありませんよセイン。」

「僕もないぞ弟よ。」

「・・・知らなかったの俺だけかよ・・嵌めやがった。」

玉座の間にての第二王子の発言とは思えない程の酷さだが、十七にして騎士になれない荒くれ者達を束ねているセインは全く気にせず頭をガリガリとかき、家族しかいない気安さからクルドマッカもとくには注意をする気はない。

「了解、乳臭いお子様婚約者様が出来ても俺は普段通りでいいんだな?」

「そこはお前の裁量に任せる。」

「父上が欲しているのは港の利権ですか?」

アリストは目を細めて王として何故アルキード国に手を回そうとするのかを考えた末の答えをぶつけてみる。

あの国のうま味といえばアルゴ岬周辺の港町くらいしか考えつかない。

「いや、あの国には別の物がある。」

「・・新しい特産品でも作りましたか?」

武においてはカール・リンガイアに及ばず、知においてはテラン・パプニカに及ばず、海産物とてもロモス・お~ザムのような目を引くものがない平凡な国に何が出来たというのだ?

「・・いずれ分かる。いや、分からないままの方が良いのやも知らぬな。」

 

 

以上が我が国スパイの影達がもぎ取ってきた情報のすべてであり、クルドマッカがの謎の言葉を言ってお開きになりましたチャンチャン、お疲れさまでした~そして死ね!!

「父様、あの国王一家暗殺してきていいですか?」証拠絶対残さないから。

「それはこの国も困るから駄目じゃぞ。」隣国のごたごたは自国に飛び火する元だから駄目じゃぞ。

「あの第二王子の玉は?」命駄目なら玉無しにするか。

「これお二人とも、それはいけませぬぞ。」

「「はいごめんなさい。」」宰相様に怒られたちゃった。

 

マイ天使のソアラを嫁に寄越せっていうからどんな理由だと影達が探ってきた結果報告聞いたら、マジで暗殺したくなったよ。

私の友達の神獣モンスター達使ったら正面からでも勝てるけど、それしたら周辺諸国と大魔王の目に留まるのが目に浮かぶので却下だ。

あいつ確か地上を常々見ていた的な発言してたから今も悪魔の目玉とかうろつかせてるんだろうな、きっも!覗き変態野郎の目に留まってたまるか。

それがなくてもそんな規格外の軍事攻撃した日には、勝っても負けてもギルドメイン大陸の残りの三国もアルキード国を危険視して攻撃してきそうだよ、集団リンチ合いそうだよガチで。

人間は弱いからな、自分達にとって未知なもの理解しようとするよりも恐怖の対象にして排除する傾向の方が強い。

神獣モンスター出したら総すかんの目しかないな、うん。

でもキツイ仕置きはしてやりたい、あの麗しのソアラを乳臭いガキ呼ばわりした第二王子、肯定したようにサクサク話をすすめた国王夫妻と跡取り息子入れた全員を。

「父様、相手の狙いは何となく察しがついています。」

 

ソアラに婚約打診が来たその日に速攻で現在のベンガーナの弱み探しに奔走をした。

誰が可愛い妹やるか馬鹿が!それも第一王子ではなくて第二王子と来たところが更に許さん!

なんで二番手野郎に大事なソアラやらねばならんのだ!

この国の売りは情報量の豊富さだ。

建国当初から影達は設立されており情報は大事に分類をされて羊皮紙の巻物で保管をされており、影達は何処にどのような情報があるのか把握している。

主が言えば即座に過去の情報を取り出せるように。

その情報の確かさから隣国の王家の内情など筒抜けだ、武人気取っていてもセインの底の浅さは露呈している。

騎士気取りの女好きの馬鹿ガキに妹の髪の一本もやるつもりはない。

何の脈絡もなくいきなり婚約してくれという新書を受けて速攻で私達は動いた。

この国の最近できたうま味というベンガーナ王のさした言葉から考えるに、私が王太子として国民に演説をした内需拡大案しかないのはすぐに結論づけられた。だってそれしか新しい事がないからだ・・言って悲しくなるが仕方ない。

一つの方はベンガーナに海はなく違うな。

もう一つのあれは漁業と違ってすぐに成果が出るものだから、欲しがる理由が知りたくてベンガーナのここ数年の-農産出来高-を調べさせたらビンゴだ!

 

 

「これは一体どういうつもりだ!!」どうやら推察は当たってベンガーナの欲しい物の核心をつけたらしい。

父様に書いていただいた親書を見て読み進めたクルドマッカ王の顔が茹蛸のように赤くなっている。

「どういうつもりも何も読んでいただいた通りの内容でございますベンガーナ王よ。」そのまんまの意味しかないんだよ馬鹿王が、偉そう言っていると殺して速攻でこの国乗っ取るぞ!!




ベンガーナのような中央国のうま味はこれだと思う


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サクサクと婚約却下で


特使には宰相クラスが来ると考えていたが、まさか王太子になりたての子供を寄越すとは。

しかし態度は気に入った、子供ながらも一国の王に対する挨拶の仕方・特使としての口上の述べ方は堂に入って大したものだ。

何よりも臆することがない。

このベンガーナ城の謁見室は特別に広く設計をされている。他の部屋の二階分の高さがあり、豪奢なシャンデリア・鏡のように磨きを掛けられた床・白亜の木をふんだんに使って作られた真っ白な壁は、この経済大国ベンガーナの粋を集めて作られた特別な部屋だ。

自国民には己の国の豊かさを実感してもらい、他国の使者にはこの国の力を見せつけ威圧をする為に設計させたというのに、このルイ―シャという子供は全く怯んだ様子がない。

部屋に入っても周りを一瞥する事無くひたすらに自分を見続けていた。

この部屋ではなくベンガーナ王である儂を見定めようとするかのように。

無論特使なのだから無遠慮にじろじろと見てくるだけではないが、視線の感じからして間違いはなかろう。その証拠に隣に座っている王后は早くも眉根を寄せて不快感をあらわにしている。

 

普段から自分が相手を値踏みしていると反対にされた時には敏感に察知するのだろうが、王の后たるものいついかなる時の冷静であり、表情を露にしてはいかんな。

それでは相手の思うつぼ、そう思っていたが!親書を渡され侍従長から受け取った時に自分も絶叫したぞ!なんだこの無礼極まる内容は!

「これは一体どういうつもりだ!!」

儂が怒鳴れば大概のものは青褪め即座に謝罪の意を表すはずが!

「どういうつもりも何も読んでいただいた通りの内容でございますよベンガーナ王。」

小憎らしいほど落ち着いたあの態度はなんだ!

 

 

いい年をしたおっさんが顔を赤らめて怒りに耐えているという図はなかなかシュールなものだな。うちの馬鹿官僚共に是非見習わせたい、なにせあいつらは私に対して顔を真っ赤にしながらわめいてくる無能ものばかりだからだ。

その点流石に一国のそれも大国を治めている人物は違うといったところだと言いたいが、新書見ただけで私でも分かる表情作ったらアウトだろう。

こっちの策が当たりましたと公言するようなもんだろうにいいのかそれで?

他国の王なのになんで私が心配してやらんばならんのだ?慇懃無礼のこの国の王を。

 

ベンガーナの王城に着いた時にはびっくりしたよ。アルキード以上の栄えた城下町よりも、絢爛豪華な王城よりも、アルキード国の特使にして正式な次期国王である王太子を出迎えたのがなんと下っ端だったのには流石の騎士団員たちもキレかけた。

ベンガーナが自国馬鹿にして侮っているのを隠す気もないんだから切れるのも無理はない。分からんでもないがとりあえずと立場上騎士団員を止めないわけにもいかない。責任者は自分だ、随員をすら御しきれない無様なアルキード国の王太子なんて不名誉御免だ。何よりアルキード国は話もできない野蛮な国だなんてレッテル貼られて三等国家なんてつけられた日には私がガチギレるな。

誰が止めようが知ったこっちゃない。

 

神獣モンスターの大進撃してやる。

 

キングスペーディオの疾風迅雷と皇帝ウィンディオの苛烈な暴風で全エリア攻撃で前線吹っ飛ばして、JESTERで全体デイン攻撃のギガクロスブレイク落として弱ったところをバルボロスの戦慄の咆哮で止めだ。

敵からの攻撃なんて出さす暇もなく圧勝だな。仮に敵の騎士団・兵士たちが全滅しても後方の魔法部隊が無事攻撃してきても幻獣カーバンクルのルビーの光で呪文全部跳ね返す。

魔道アイテムも着々と研究をして、将来はマホカンタ―属性に倍返し属性つけられないかを開発して八割出来ている。

戦場で試したやろうかな。魔王・大魔王だけが敵じゃない。はっきり言えば、私の身内に手を出す奴は全員敵だ。人間だろうが非人間だろうが知ったことではない。

 

「それでは案内をしろ。」

そんな事を夢想しながらも騎士団全員宥めつつ、案内係に非はないと大人の対応した私は褒められていいと思うぞ。

きちんと右手を胸に当てて王とその伴侶殿に言祝ぎの入った挨拶して、特使の件の口上きちんと述べてやったぞ。

玉座の階段下の左側に立っているのが私と同じ王太子やってるアリストで、右側に立って私の事をじろじろと見ているのがセインか。馬鹿っぽい顔だ、あれで伊達男名乗っているんだから笑える。

おっと新書寄越せと侍従みたいなやつが偉そうに言っていきた。しかも渡す際に金のトレーに乗せなさいとか、完全に見下した物言いしやがったよ。

この爺ぽっくり逝かせちゃ駄目だろか?駄目だろうな。

そんなむかつきはベンガーナ王の怒りマックス茹蛸顔見たから許してやろう。

あの新書の中身は婚約を受ける際の条件だ。

 

ぶっちゃけベンガーナからは何ももらうつもりはないし要求をするつもりもない。

結納金もいらない、結婚式に掛る諸経費は自国の第二王女ソアラだけではなくベンガーナ国第二王子のセイン王子に掛るものもアルキード国が一部負担をする。

嫁いだ後もソアラにかかる日常経費はもちろんの事、お小遣いも年間ではなく月決めで渡していく。

必要な日常の服から式典・夜会用のドレスも都度アルキード国が用意をする。

面倒はかけない分そちらの面倒もかけてくるな。

経済的にも軍事的にも頼るつもりは一切ないのでこちらからの物質的援助・知的財産援助を一切期待しないのであればソアラと婚約を認めてやる。以上

 

的な内容をソアラファンの文官達が死に物狂いな形相で、如何に美辞麗句に飾り付けつつも意図を確実に伝える文章をひねり出した新書だ。

もっと分かり易く言えばそっちには何にも期待してねぇ、嫁がせてもソアラの面倒は全てこっちで見てやるから国ぐるみでのお付き合いするつもりないがそれでもいいなら婚約なら許可してやるぜだ。

つまりソアラ出汁にしてアルキード国から何かを引き出そうとしても無駄だぜ。

しかも婚約は認めても結婚許可を出していないところがみそだ。婚約しても破棄する条項も確か盛り込まれていたはずだな。

こんな内容を可能にしたのはアルキード国から自国の第二王女をベンガーナに売り込んだわけではなく、ベンガーナ国側からの申し出だから言いたい放題できたわけだ。

そっちから言ってきたから検討して協議した結果に文句あんなら話をご破算にするだけだ。

 

幸いうちは小規模国家だから他国の輸入に頼っての生活ではなく、衣食住全て自国で賄えているからできる曲芸だ。

ご破算後に腹を立てたベンガーナが経済制裁しようにも売り買いしているものは全くなく、仮にアルキード国の商人たちが単独でベンガーナとの商人と商売をしているのをふいにされても売り先はカール・ロモス・パプニカと複数のルートを持っているから大丈夫。

他国と交易していないで自国で完結させているから独自色があると言えば聞こえはいいが発展性が全くなく古臭いともいえる。ただ今回に関してはそちらの方が功を奏している。

仮に親書の内容でソアラを嫁にと言われても痛くもかゆくもなく有言実行できる。

うちって本当に庶民を少し豪華にしたような王家だから、毎年国家予算で組んでもらっている王室予算が余ってる。

国庫に返そうとしても組まれた予算が滅茶苦茶になって仕事が増えると言われて二百余年。最初の設定と変えるつもりないと言われているのでたまる一方なので大丈夫。

だからベンガーナは仕返ししようにも経済的には出来ることはなく、とち狂って武力行使してきたら万々歳でさっき考えでいた進撃の神獣モンスター作戦して返りうちにしてやる。

婚約を申し込んでおいて、望んだものが手に入らずご破算になったからといって他国を攻める馬鹿な国はベンガーナであって正義はアルキード国にありだ。

これで国際的な非難も回避しつつ堂々と打ち破れるから是非とち狂ってくれないか。

 

あ~あ、父王の暴走を止めに行った王太子殿も新書渡されて読んでるうちに似たような茹蛸になってくれたなナイスだ!さあとち狂って暴走するがいい!

 

 

父が親書をお読みになりいきなり怒鳴り出したのには驚いた。

父はこれまでどのような局面であっても感情を覗かせることなく淡々とした態度で相手を圧倒し、自分はその姿を見て育ち幼き頃から憧れを抱いてきた。

いつも威風堂々とした父のような王になるのだと。

その父が同じ王太子とは言え子供を相手にするのだと言われた時には胸中に嵐が吹くのを感じた。

たかだがアルキード国のような小国が、大国である我が国と縁続きが出来るという僥倖に際して十歳の子供を寄越すとは。

王をとまでは言わないが宰相かそれに比肩できる身分と経験豊かな官僚をつけて、こちらが指名してやった第二王女自身が婚約と婚礼のを述べに来るのが筋である。

なのになんだこの内容は!こちらからの申し出をまるで迷惑だが話だけは聞いてやるという物言いは!!我が国を蔑ろにするつもりか二等国の分際で!

しかも涼し気にこちらの様子を見ているルイ―シャ王太子は一体何を考えている。

父の威圧を受けているかかわらず涼し気にしているなどあいつには神経というものがないのか!




ドラクエなのに冒険・修行ではなく政治の話しかない。

出てきた神獣モンスターの詳細を知りたい方ははお調べくださいますよう
名前は間違っていないので検索は可能・・多分?


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サクッと進む


ダイの大冒険で一番好きなキャラクターは誰か?

それはダイだと良く聞くが、私が好きなのは大ネズミのチウ君。

まだあっても、もしかしたら生まれていないかもしれないものに君付けするほどゾッコン好きだ。

 

だって考えてみろ、ポップがアバンの使徒で勇気あるもの扱いだが、魔法の才ありやればできる子で周りからなんやかんやとバックアップ貰ってるけど、チウ君は多少は老師から武の手ほどきもらってもほぼ単身で頑張って、あのハドラー親衛隊のヒムを感服させる度量と仲間を死ぬ気で庇う勇気の持ち主なんだぞ。

 

では嫌いなキャラは?

バーンではなく、ザボエラでも無い。

 

バーンは何かしらの信念あったし、ザボエラも出世欲と名誉欲が強いかまってちゃんで、ある意味自分に忠実で分かりやすい奴だ。

 

嫌いなのがバランがトップ。

 

何が人間の醜い本性知らなければ守ってやらなかったのにだ。

 

大きなお世話だ。

どの種族にも馬鹿や阿呆、死んでもいい奴は存在する。

裏返せば魔族・モンスターにも良い奴はいる。

それも知らん馬鹿が、神様気取りとは笑ってやる。

 

そしてそんな馬鹿が将来ソアラに近づくのかと思うと今から殺しに行きたくなるのは我慢だ。

 

奴がいないとヴェルザー誰が倒せるんだになるから我慢しよう。

城に来たら教育してやればよし。

 

そんなバランに並んで嫌いなのがもう一人。

 

「いやぁ〜、姫様共々助かりましたよ。ありがとうございました。」

 

ヘラヘラ笑いながら、自国の姫君フローラ共々助けられました〜とか抜かしている目の前の男、アバン・デ・ジュニアール3世。

 

ベンガーナとソアラとの婚約はサクッと破談。

その代わりに向こうの欲しい農業向上の資料はタダでくれてやった。

あそこは近年農産物高落ちて、先日私が皇太子宣言に言った中の灌漑工事や堆肥の改良やらに反応したのは見抜いたので、貸し作るのと二度とソアラにちょっかいかけないようにする為にも渡してやった。

あれを有効活用出来るかどうかは向こう次第で後は知らない。

 

その交渉の後、休む暇なく皇太子仕事その二だ。

 

カール王の就任二十周年記念に出る事。

正直気が進まん。

あそこには嫌いな奴が、そう心の中でぼやいてたら着いて早々に早速遭遇。

 

城の中の挨拶回り終わって趣味の森散策してたら会っちゃったよ。

 

フローラ姫を植物モンスターから助けるために眼鏡外して一匹斬ってたけど甘いんだよ。

横から来た二匹目に反応するのが精一杯で剣を構えたけど弾き飛ばされてやんの。

目の前で死なれても目覚め悪い。アバンの真似は嫌だから横一線ではなく、縦一直線で斬ってはい終わり。

 

「貴様それでも騎士か?弱いにも程がある。」

 

自分の強さは平和な世には不要で、力隠してます?

 

「貴様程度の軟弱者が、誰かを守れると思わん事だな。

私はアルキード国の王太子だが、ひ弱い王族よりも弱いお前は話にもならん。せいぜい死ぬ気で鍛錬するんだな。」

 

言いたい事だけ言ってその場離れて後は知らん。

あの程度で慢心している雑魚が後一、二年後には勇者するなんて笑い話だ。

ハドラー大戦後も勝った慢心で自己鍛錬さぼる輩の事なんか好きになるはずもない。

高尚な考えも自分が強ければこそだろ。

 

この時点でのカールにはなんとフローラに兄がいた。

 

カール王太子のルキウスと挨拶交わして文通仲間になる約束取り付けて、次の日の祝典に出てさっさかアルキードに帰った。

 

アバンが変わったかどうか?

マイ天使ソアラ待たすほどのこととは思えんので知らんな。

 

 

 

「おいアバン!おめぇそんなに無茶したらよ・・」

「なんですかロカ、常日頃から私に鍛錬するように言っているのは貴方でしょう。」

「そりゃ・・そうだけどよ。」

 

アバンのプライドはズタズタに引き裂かれていた。

平和な世には自分の強さは不要?こんな弱い自分の力なぞ隠す必要もないではないか!

 

フローラを助けたあの日に自分も助けられた。

それも兵や騎士、冒険者でなく一国の王太子に!

戦う者でない、ましてや年下の少女に助けられるほど自分は弱いのだと思い知らされた。

自分の世界の、いかに狭きことかを叩き込まれた気分だ。

 

その日を境にアバンは努力を人に隠すことなく修練に邁進を始めた。

 

運動音痴、学者家系と馬鹿にしていた者たちの顔を青ざめさせるほどに。

 

彼女に追いつきたい!

 

蔑みの瞳で見られたが、次会うときには強くなったと言われたい。

 

ルイーシャは期せずしてアバンの魔改造化に成功したのであったが当人は露知らず、立て続けの王太子仕事のご褒美に休みを貰い妹と小モンスター達と遊ぶ平和を満喫するのだった。




サクサクッと第一勇者の登場

明けましておめでとうございます。

今年もゆっくり頑張ります


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アバンの次はこの人・・人か?


平和だな〜、空は青いし風は気持ちいい。

後数年したら魔王が攻めてくるとはとても思えん。

 

「王太子!仕事しやがれ!」

 

せっかくまったりしてたら脳筋馬鹿のミハイル来たよ。

 

「生憎と書類は終わって謁見はまだ陛下の仕事だ。

故にお前が言ったのは的外れだ阿呆。」

「口悪すぎねぇ?」

「王太子にそんな口きいても笑ってる私に感謝しろ馬鹿が。

出かけてくる。」

「・・また影武者すんのか?」

一国の王太子がホイホイ外出んなよ。

「大抵のモンスターなぞに私がどうこうできると?」

「へいへい、いってらっしゃい王太子様。」

ルイーシャをどうこう出来るモンスターなんて、神話クラスのモンスターでなけりゃ出来るかよ。

 

それをよく知るルイーシャ親衛隊の一人ミハイルはルイーシャが式神で作った影武者を護衛する振りしてルイーシャの自室に送り届ける。

影武者作ったルイーシャは全部の始末をミハイルに押し付けてお目当の場所まで全移動していってしまったのだ。

 

コッソリとお忍びの旅は楽しい。

権力なんぞ鬱陶しいものと無縁な場所で好き放題できる。

だからって遊んでんじゃないぞ、きちんと将来のことを考えて動いてんだぞ。

 

ミハイル達親衛隊に私の能力全て話した後、結構な頻度であちこち行くようになった。

在野に埋もれている卵探し、どっかにアバン越える逸材おらんかな。

優秀なやつ見つけて・・確か青田買いっていうのを始めたらトップバッターに偉い人発掘したよ。

 

「遊びに来たぞ〜獣王〜。」

 

ロモスは魔の森の住人クロコダイン。

きっかけはやっぱり趣味の森散策きっかけで、王太子になりました挨拶をロモスのシナナ王にした後散策してたら以外と奥まで来てしまった。

日中なのに日がささない魔の森は野生モンスターの宝庫だが、キマイラとか暴れざるとか可愛くない。

キャタピラやモグラ出せ、あいつらは可愛くて好きだぞ。

心の中で文句言いながら伸してたら、キマイラの野郎咆哮で親分に助け求めてクロコダインが登場。

 

クロコダインとしてはいきなりの助けを求める声に戸惑った。

ここ数十年、森の奥まで人間が踏み入ることはなく、なんとなしに人間達と暗黙の了解が出来ていた。

 

人間は森を荒らさず、モンスターも無闇に人間の村に近づかない。

そんなことをしなくともモンスター達は森の中で生活できるからだ。

草食モンスターは森の木のみを、肉食モンスターはその草食モンスター達を食べればいいだけ。

弱肉強食の掟の頂点に立つクロコダインもそうして森の中で生活してきたが、とうとう人間が荒らしに来たのかとは思えなかった。

それにしては数も気配も感じないからだ。

 

行ってみれば人の子供が暴れざるにいきなり襲ってくるなと説教されていた。

オレンジ色の髪の毛を振り乱す様が少々怖いが、モンスター達を殺す気はなさそうだ。

 

「あ〜、そいつらには俺から言っておくから許してやってくれないか?

俺は獣王クロコダイン。そいつらの・・まぁ頭だ。」

 

は?クロコダイン!

おやまぁ本物だ。ダイ達に目玉潰されていない獣王に出会うとは、面白い出会いしたものだ。

 

「私はルイーシャという。このモンスター達はもう説教したから解放するところだ。

腹減ってなさそうなのに襲ってきたのに腹が立ったから伸しただけだよ。」

大方小さな玩具来たから遊ぶ、猫感覚だろ。

 

「・・奇妙なやつだな。」

「何か私はおかしなこと言ったか?」

「あぁ、まるでそいつらが食べるために襲ってきたなら怒らないと言ってあるようだぞ。」

「確かにそうなら怒らず気絶させておわりだな。」

生き物は食ってはじめて生きてける、それが自然の摂理で正しい。

私だって毎日何かしら食べてるが、命弄ぶ馬鹿は嫌いだ。

 

「一度目は説教で済ませても二度目はないぞ。」

警告有りなんだから優しいだろ。

そう言ったらクロコダインに大笑いされたのは解せん。

 

「変わった奴だ。」

「そうか?」

 

以来獣王と誼みを交えることになり、私が二、三日おきにふらりとクロコダインの元を訪れる。

訪ねられるクロコダインも満更ではない様子でルイーシャを出迎え、一帯のモンスター達もルイーシャに懐き始めて一緒のお出迎えをしている。

きちんと酒と肴は持って、モンスター達にも生肉振る舞って真っ昼間から飲んで過ごす。

 

言ったらなんだか完全息抜きだ。

何を話す訳でもないが、モンスター達と触れ合いながら食べる飯は旨い。

クロコダインもポツポツと武芸の話し、モンスター達のよさを話しながら穏やかな時間を楽しんでくれてるようだ。

こいつが将来大魔王配下になってロモス襲ったら私の手で殺してやる。

 

だから敵に奔ってくるなよ?

お前の事本気で気に入ってんだから。




少しずつ原作登場人物出したいこう。


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鼻っ柱は叩き折る


カールの騎士団はその日壊滅の憂き目にあった。

全員が足腰たたず、地にひれ伏すという屈辱を味わい地べたに這いずりながら歯噛みする羽目になった。

 

「勝ってくれよアバン!」

「俺たちの仇とってくれロカ!!」

 

ハドラー大戦が始まったかというとそうではない。カール騎士団を壊滅させたのはアルキード国騎士団、それも幼年の騎士団員という年若い者達で編成をされている者達という、ようは若輩と侮った相手に屈辱を味合わされたのだ。

しかもそれを率いているのも幼年騎士団と一つ上でしかない騎士。

だがただの騎士ではない。ルイ―シャの親衛隊の一人のマクシミリアン・ギルガルト。

 

強すぎる

 

周りが倒れていく中で善戦をしているアバンとロカの背中には冷や汗がびっしりとかかれている。

相手は皆自分達と同い年程の十五・六の者達ばかり。

 

「ちっくしょう・・アバン、なんか作戦あっか?」

「申し訳ありませんがロカ、今のところ持ちこたえるしか方法が見いだせません。」

 

これが模擬戦であって助かった。

国同士の本気の戦をしていればもっと上位の者達がおり、出てこられればカール騎士団どころか国そのものが本気で落とされる。

 

魔法師団を出したとしても、向こうには魔法の天才児・麒麟児の名をほしいままにしているハルバルド・デニングの指導の下に精鋭化をしているという魔法騎士団という訳の分からない部門が控えている。

ここ半年で名が聞こえてくるアルキード国の魔法騎士団。

 

魔法使いと剣士は分けられているものであり、両方使うと言っても距離によって接近戦ならば剣を、距離が取れれば魔法を使うスタイルだが魔法騎士団は違うという。

 

ここ数か月で増えたモンスター討伐に彼らが出てきて見せたスタイルは今までの戦いのスタイルの常識を覆した。

 

剣で斬りつけ傷口に攻撃魔法をそのまま打ち込むように体内に流し込む。

それはメラ・ヒャド・ギラと初級魔法であるが、その分コスパが低く早撃ちが可能であり、なにより傷口から流し込まれれば体内はひとたまりもなく大概のモンスター達はそれで一撃で仕留められる。

 

噂では洞窟で大量発生をしたヘルビーストを中心としたサイおとこ・タップデビル・スライムナイトの群れをその騎士団がたったの半日で殲滅をしたという話まである。

 

貴女は一体何を目指しているのですか

 

アバンは王族観覧席で自国の王と王太子の横で座っているルイ―シャを見上げる。

 

本物ではないとはいえ実践の場である闘技場でわずかとはいえ視線をそらせることは命取りになる。

 

「アバン!ボケっとするな、気合入れろよ!!」

 

案の定相棒のロカに叱責をくらったが、それでもアバンはルイ―シャを見ずにはいられなかった。

今平和なこの世界で何故これほどまでの武を擁しているのかが分からずに。

 

アルキード国の経済力はたかが知れている。

鎖国的といわれるほど今まで他国と貿易をせずに来たことで経済の発展は全くしていないからだ。

テランの方がまだ経済力があり、平和な世の今そういった意味合いで一番の国力を持っているのは何処かといわれれば交易で国を大きくしつつあるベンガーナであると言える。

 

だが戦の世ならば?間違いなくアルキードだ。

 

あの国には今、騎士団・魔法騎士団の他にきちんと魔法師団もあるからだ。

ハルバルドの指導は魔法師団にもいきわたっており、その上王太子の肝いりで魔法使いも格闘のイロハを叩きこまれているという。

パーティーばらけた時に、魔法使いだけではやられるという状況は情けない。

 

一人でも身を守れるようにしろというお達しが出て早一年。

地獄ともいわれる猛特訓の中、魔法師団を目指している魔法使いの卵たちも先輩を横目に、自分達も師団に入ったらやらされるのは目に見えているので自主的に鍛えている。

 

王太子に就任をして早一年半。ルイ―シャの目論見通り、アルキード国の武力は魔改造化が着々と進んでいる。

 

そして順調にいった結果、増えてきているモンスター達の討伐にとても役立っている。

だがルイ―シャの憂慮は増すばかり。

 

モンスター達の討伐がているという事はあれか、そろそろ小物魔王ハドラーが魔界から地上に這い出てきたわけか?

出て来て早々に軍団を結成して組織化できるわけがない。

 

原作みたくカールにフローラ姫攫うまでには時間がかかるはずだ。

それまではなるたけ自分の気配を押さえて、魔王軍を結成してから大々的に自分の邪気を振りまいて地上のモンスター達を従えようとするはずだ。

とち狂ったモンスター達は隠しきれなくて漏れ出たハドラーの邪悪思念が空気中に散って運悪く当たったという推測ではあるが、迷惑なことに変わりはない。

 

と、いう事はだ。あの男は今頃魔界でヴェルザー軍団を相手にしているわけで、魔界でドンパチしている頃か。

 

ヴェルザー封印した後に怒った側近と相打ちになってくれればソアラやらんで済むんだがな~。

 

原作ファンが知れば間違いなく殺意を持たれ、ダイが生まれなければバーン対策どうすんだ、次の竜の騎士を聖母竜マザーは産めないんだぞというあらゆる突っ込みを受けそうな事を気だるげに考えながら些か礼儀に掛ける頬杖を突きながら模擬戦を見るともなしに見ている。

 

あの男相変わらず弱いな。

 

王太子になった半月後にアバンに会って、お前は弱いとはっきりと言ってやったから奮起して強くなっていると思ってこの模擬戦を組んでもらったんだが当てが外れた。

ハドラーが本格的に動く前に自分の国の-結界-作りに勤しむか。

 

この国の破邪の洞窟にはもう何度も足を運んでいる。

無論違法じゃなくてカール王太子のルキウスに許可はとった。

 

二十五階のミナカトール・百階層の破邪を増幅させる破邪の秘宝はもう確認済み。

ぜ~んぶ同行させたハルバルドに覚えさせて、中の見取り図も作ってやったからカールが有効活用するかどうかはあとは知らん。

知らんがこの様子だとアバンには適用されていないようだ。

あそこは行って戦うだけで爆発的にレベル上がるがその様子が見られないという事はそういう事だ。

使うように進言してやるかな?面倒だがハドラー大戦後の為だし。

 

ついでにシルバーデビル気に行ったからお持ち帰りしてしつけて今ではソアラの護衛させている。

何の拍子で城にとち狂ったモンスターが侵入をしてきて偶々ソアラの目の前に現れたらと思うとぞっとする。

シルバーデビルは見た目とっても、とっっても凶悪だけどソアラの前では借りてきた猫ありワンころ化しているから辛うじて城の奴らに受け入れられている。

実力は用心棒として申し分なく、いざとなればソアラを空中に逃がせるという利点があって、今地べたに這いつくばろうとしているアバンよりも百倍使える。

 

破邪の研究もこの数か月で飛躍的に上がってアルキード国の全井戸の底に破邪の秘呪法の文様を刻んで地下水流で大地に破邪法を染み渡らせていけばいいだけだと進言も上がってきたし、これ終わったら親善パーティーお断りしてとっとと国に帰って実行する進言の会議の準備でもするか。

 

あ、アバンの奴袋叩きにあってロカと一緒に伸されたか。

うちの奴らには戦いの最中決闘だ一対一だなんて馬鹿馬鹿しい、勝つためにはなんでもしろ、複数でボコるのは基本中の基本だと教えるようにしたからな~。

 

親善模擬戦は、アルキード国の蹂躙によって幕を閉じた。

 

アバンとロカはこの数か月の特訓で強くなったと自負をしていただけに、一方的な殲滅の憂き目にプライドは悉く崩されたのであった。

 

 

 

 

その日の夕刻、カール騎士団は揃って破邪の洞窟での特訓申請嘆願書を手にして王太子の部屋に特攻をかけたとかなんとか。




現在 ルイ―シャ・16歳
   ソアラ・13歳
   アバン・ロカ・16歳

ハドラー大戦は準備期間もいれて三年の予定


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交友関係は大事に


「お~いクロコダイン、そっちの子たちは大丈夫か?」

「・・・・ルイ―シャよ、モンスターの俺が言うのもそのなんなんだがな・・もう少しい女性らしい言葉遣いは出来ないか?」

「何いまさら言ってるの?そんな事よりも森の子たちは大丈夫なのか?」

 

会ってもう一年以上たってるのにクロコダインが今更言葉遣いチェックしてきた。訳分らん。

そんな事よりもこの森の子たちがまかり間違ってネイル村だのロモス王国だのに行った日にはモンスター達の討伐が始まる。

 

それだけは阻止もんだがこの森には結界張れる環境がないのが痛い。

アルキード国の様に地下水脈作戦と使うことが出来ない。ここはもう獣王クロコダインの支配力がハドラーの邪気を上回ることを信じるしかない。

 

そんなわけでクロコダインも魔改造化した。

 

強くなればそれだけ王としての資質が上がって支配力が強くなる。痺れるブレスの威力は元の五倍に跳ね上げて、ヒント与えて獣王痛恨撃も原作中盤の獣王激烈掌を一緒に編み出して会得済み。

 

これで将来ハドラーではなくバーンの下に奔った時はどうするかって?

そんなの簡単、私が首切り落とす。今のクロコダインにも勝ってるし。

 

「ほらどうしたんですか?貴方獣王でしょう。」

 

二日に一遍全移動でロモスの魔の森にきてはこうしてクロコダインを鍛えてる。

これでハドラーが勧誘に来ても追い払えれるだろうなくらいに考えて。

 

「そういえば魔族の男が来て地上制覇に手を貸せとか言ってきたぞ。」

 

まじかい!もう来てたんかい!!

 

その魔族の男の特徴を詳しく聞いたところ、黒いローブを頭から被っていたが水色の肌にくすんだ金髪、なにより少々小物感で濁っていたがダークルビーの双眸が印象的だったって、間違いなくハドラーだ。

 

「地上制覇の話に興味でも持ったのか?」

 

肉適当に焼いて昼飯にしながら世間話するみたいにルイ―シャは探りを入れる。

このクロコダインにそんな馬鹿げた欲がないのは百も承知で。

 

「馬鹿らしいの一言で帰ってもらったぞ。」

「ずいぶんなバッサリ切りで、相手納得して帰って行ったのか?」

「まぁ少しばかり腕に物を言わせる羽目になったがな。」

「・・・相手は生きてここ出て行ったんだろうな?」

「当たり前だろう、俺が-弱い者-を殺す輩に見えているのかお前には。」

「いいや、悪かった。」

 

現在のハドラーは今のクロコダインからすれば弱いのか・・もしかしなくともハドラーの件ってクロコダインがその時に殺してたら終わってたのか?

そうなったらなったで面倒だ。

主にバルトスが育てるはずだったヒュンケルやら勇者として覚醒するはずのアバンやら後にロカとレイラの子として生まれるマァムやら、勇者にあこがれて家出する予定のポップやらが全部おじゃんになる。

 

主要メンバーもさることながら、サイドではマトリフとか老師とかがアバンと出会わずお互い赤の他人のままだと具合が悪く、マトリフにはメドローアは・・・最悪ハルバルドに開発させるからいいとしてもバーン大戦時にこっち陣営に絡んできてほしいから是非アバンと会って仲間になって後々私と縁を結んでほしい。

 

魔法なくともあの鬼謀の頭脳は何かと役に立つはずだ、使わせてもらおう。

 

それを抜きにしても-勇者アバン-には誕生してもらわないと本気で困る。

人間には分かり易い希望が必要だ。

世界を救ったという実績のあるアバンにはバーン大戦の旗印になってもらう。その下でアルキード国が動いて・・・・・癪だがあの戦い馬鹿に戦ってもらう。

 

本当に嫌だ、あの神様気取りの男を当てにしなければならない状況だなんて。

会って偉そう言った瞬間に神獣モンスター達と一緒にぶっ飛ばして調教しよう。

ソアラをやるかどうかはそこからだ。

あの男を強化していけば上手くいけば-ダイ-は必要なく、ソアラが本気で愛していると言って来たら普通に入り婿にしても良いし、間違ってもソアラの子を戦いに出すなんてへまはしない。

 

世界全体強くすればいいだけだ。

 

そんなわけでサクッとリンガイア王に会いに来た。

ここ最近海のモンスター達に悩まされているオーザム王もご一緒に。

 

自分で言ってなんだがちょっと待て、なんで他国の、それも交流もほぼない二か国のお悩み相談私が受けるんだ?

言っちゃなんだがアルキード国はこの二か国とは新書の遣り取りしたのが私の王太子のお祝い一通でそのあとは何もなかったはずだ。

なのに私をご指名してきて父様も困惑してたぞ。

 

「そのなルイ―シャや、この二か国に行って何かしたかの?」

「王太子殿下、本当の事を言ってくだされなければ私どもも対処できませぬぞ。」

 

私がリンガイアとオーザムに何かしたのか父様と宰相の二人がかりで困り顔をしながら話しを聞きだそうと説得しようと頑張ってくれたが残念。私本当にこの二か国にはかかわってない。

 

片や魔王軍が出来そうな、もしかしたらもう建設中の鬼岩城があるかもしれないギルドメイン山脈のあるリンガイアなんて近づきたくもない。

もう一つの方だって死の大地近いのに冗談じゃない。

あそこは私が生まれる十年前に突如として瘴気が覆う死の大地になった。

という事はもうバーンがあの中に鎮座ましてる訳で行きたくもない。

 

「なんでそう言っても信じてくれないんだろうか不思議だよ。」

「主様・・日頃の行いの反省を是非してください。そうすれば分かります。」

 

酷いぞモーモン、見た目とっても可愛いのにいう事が辛辣で倍のダメージくったぞ!

 

見た目ホルスタイン牛のぶちが可愛いのに口の悪さがカーバンクル並みに辛辣なのは可愛い奴は中身可愛くないのだろうか?

 

モフモフしてて寝心地とってもいいし、今も私の腕からチウチウと血を飲みながらうっとりとしているのが可愛いのに勿体ない。

 

「主様の血は極上で~すよ~。」

「はいはい、寝ましょうね。」

 

結局二か国からの私に来てほしい書状の中身がよく分からんのでこちらから何事かの使者をたてて返書貰ってきたところなんだか納得いった。

 

近頃モンスター討伐をしている魔法騎士団のトップは私名義だ。

二国も海のモンスターに悩まされているのでアドバイスが欲しいとか。

 

成程納得。

 

「受けるかルイ―シャ。」

「隣国に恩売ってきますので行ってきます。」

 

正義だなんだでなくメリット考えて両王との会談に行くことにした。

リンガイア王だけならばともかく、オーザム王がいたのには少しばかり驚いた。

物騒になったご時世に王が海渡ってきたんだから驚くなという方がどうかしている。

船旅途中で件の海モンスター達に襲われていたらどうすんだ?ガメゴンロードとかすごいの出てこなくともマーマンやシーサーペント・オオガニとか色々いるだろうに。

 

まぁ王自らが自国守るのに動いてますをアピールした方が国全体の士気が上がるっちゃ上がるし、モンスター達の活動もまだ激化していないからやれた曲芸か。

 

 

そんな私の読みが甘かった

 

「大変です!海より多数のモンスター達が押し寄せてきました!!」

 

数は多くそれも動きがどう見ても統率をされており、上陸してきた先頭にトドマンがいるってまじかい。




さて誰が来た


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14

トドマンの正体は


「ルイーシャよ!あれは流石に駄目だぞ!!

元いたところに捨ててきなさい!」

「お言葉ですが王よ、あれを捨てたら世間に被害が出ます。」

「ならば殺処分、いや、処刑に!」

「あれは役に立ちそうなので勿体ないです。」

 

「ハルバルド!何故王太子をお止めせなんだ!!」

「お言葉ですが宰相閣下、それは無理なのはあなた様もよくご存知でしょう。」

「それでも、主人が間違った時にお止めするのが我らの務めぞ!」

「しかしあれは役に立ちそうですよ。」

 

リンガイアから帰ってきたら私とハルバルドは別室でそれぞれ怒られてる。

私は父様に、ハルバルドは宰相に。

 

リンガイアの戦は意外と早く終わってさっさか帰ってきた。

 

相手結構強かったが魔法騎士団とハルバルドを保険に連れて行ったのが当たってよかったよ。

海の海産物、もとい海のモンスターは大半は水中からの触手やら氷の息吹やら闘気弾の遠距離支援で、トドマンの道を塞ぐ障害物破壊目的。

 

 

「人間どもよ!我等海のモンスター達の恐ろしさを知れ!!」

 

吠えあげてるあいつボラホーンだ。

でかいから目立って一発で分かるわ。

 

『何か彼者達から恨まれる覚えわ?」

 

クラーゴンとか十体引き連れまで陸地に殴り込みかけてくるってどう考えても尋常じゃないだろ。

それだけの恨み買ったのか?

 

「「無い!!」」

 

 

リンガイア王もオーザム王もこの件に関しては本当に覚えがない。

何故海のモンスター達が来襲してきたのかは自分たちこそが聞きたいくらいだ。

 

あっそ

 

まぁ理由なんでもいいけどどうしようかな?

 

この時期ならそろそろ各国の主要都市に大魔王印の悪魔の目玉うろついてそうだし、そんな中で目立ちたく無い。

ハルバルド以下魔法騎士団をこき使おう。

 

「だから甲冑さっさと寄越せ。」

「だぁー!!もう!何をどうすりゃそうなる!?頭沸いてんのかよ王太子様!」

「あのトドマン欲しい。」

「はぁ!?」

「なんとしても捕獲したい。逃がすのも殺すのも駄目で生け捕るためにフルボッコにするから周りのモンスター達はお前らでどうにかしろ。」

「お前は黙って守られてろ!王太子だろうがよ!!」

 

リンガイアも決して無能ではなく騎士団、魔法師団が撃って出ているが、相手はいかんせんボラホーン。

あの戦い馬鹿男の配下するだけあって人間じゃてんで手に負えてない。

メラゾーマを防ぐ凍てつく息とか反則だろ。

 

「お前勝てるのか?」

「・・・」

「それが答えだ。分かったらさっさと甲冑着せろ阿呆が。」

 

聞いてやったらハルバルドの奴黙っちゃったよ。そこは虚勢でも勝てると言ってこそ男だろ?

 

「・・作戦は?」

「現場での指揮系統トップ権は両王からもぎ取った。お前達好き勝手してこい。」

 

ハルバルドはなまじな指示は邪魔だろ。

 

「イエス、マイロード。」

 

渋々言って漸く出陣か。

甲冑着てれば目玉ならバレんだろう。

さてと、ボラホーン捕獲に行ってくるか。

 

 

 

 

 

 

 




捕獲作戦ゴー


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戦いの回


「ありったけの気力・体力・精神力ぶつけていけ!あとはいつも通りだ!!

陸に上がってきた()()()どもを根こそぎ収穫するぞ!」

 

正直海にはクラーゴンの十体とか、陸にガメゴン五体と何の虐めだよとハルバルトだって泣きたい。

それを率いているのが尋常じゃない凍てつく息で騎士団たちを氷漬けにしているトドマンとかってあり得ねぇ。

あれ見たうちのおひぃ様はトドマンだとか言ってたが、様子見ているとトドマンの上位グレートオーラスではないかと推察が付く。

どこで手に入れたんだが鋼鉄の錨とかぶん回しているしやばいことこの上ない奴を生け捕るとかってほんとにあのおひぃ様の頭のねじはぶっ飛んでやがる。

 

きっと生まれる時に王妃様のお腹の中に、常識というネジは全部置いてきたな違いない。

 

「逃げるってありかな〜。」

「団長殿、冗談でも表で言わないでください。士気が駄々下がりしますよ。」

 

頭を掻きながら怠惰に言い放つハルバルドのぼやきを副団長のミシュランが咎めたてる。

無論ぼやきが本気でないと分かっているが、それでも部下達の前でのケジメは大事だ。

 

「へいへい、わ~ったよ。ミシュランちゃんばお利口ですね。」

「また、ちゃん呼ばわりですか。」

「いいじゃんか。減るもんじゃなし。」

 

ミシュランの髪は柔らかい金の色をして伸ばしており、顔立ちも優男よりも女の子に近いのでハルバルドはからかってちゃん呼ばわりしていたが、いつしか普通に呼ぶようになっている。

 

それほど身近になり有能な副団長がいるんだ。なんとかなんだろう。

 

「イカもカメもカニも取り放題してやるから、さっさと勝ってこいよおひぃ様。」

 

魔法騎士団は通常スリーマンセルで動く。

一人が回復系、一人が防御・攻撃上げ系と攻撃呪文担当でもう一人が剣と攻撃魔法を併せ持った攻撃メイン。

 

今回はラリホー系が出来るものをメインに押し出し、攻撃メインをスカラで防御上げをして盾役にし、ラリホーを確実に敵に決まるようにする作戦でいく。

クラーゴン甘い息だので味方全員グースカは困る、船揺らしで海近くの民家が壊れれば自分達の評価が下がるもの御免だ。

 

ガメゴンもマホカンタを張られたら厄介だ。自分達の強みを潰されないうちにとハルバルドはクラーゴンはリンガイアの騎士達をぶつけて足止めをし、さっさとガメゴン攻略を進めて眠ったところに目玉に剣を刺し貫き、ハルバルド自らの渾身のメラゾーマを流し込み頭を潰した。

硬いだのなんだの言っても、所詮は魔族のように心臓二つある者はいない常識内の生物で脳みそ無くなれば死ぬ。

 

ガメゴンは集団で動いて攪乱をさせて上手くいったが、クラーゴンはマジで勘弁してほしい!

何なのあの巨体!本体海にいるくせに触手だけで騎士団ひねりつぶしてなまじな魔法なんて通用しやがらねえでやんの!

イカだから十本足で、そこから繰り出されるばくれつけんを避けるので精いっぱいでラリホーが効く有効範囲に入れさせてもらえねえ。

 

「美味しく食ってやるから往生しろや!ミシュラン、周辺の騎士団に触手対策させて、火炎系・閃光系・爆裂系得意な奴らにありったけの魔法力でクラーゴンの目玉潰す様に指示出してこい!」

その間なら自分が持たせる!

 

ハルバルドの伝令が伝わるには少々時間がかかり、指示内容通りの展開をするにはさらに時間がかかる。

それでも周辺に被害が出ないようにクラーゴンを引き付けておく自信がハルバルトにはある。

トベルーラでクラーゴンの真上の超上空に付き、魔法力をいったん切って自身を落下させる。

通常ならば加速度でブラックアウトするだろうがそこはバケモノ神童。

闘気を薄く身にまとわせてシールドを付けた状態での落下に、体は衝撃を受けずに浮遊感だけが感じられる。

これもルイ―シャのお達しで、魔法騎士団全員が薄闘気纏と呼ばれているものをマスターしている。

 

確かに衝撃は来ないが物凄い落下速度はルーラの比ではなく、常人ならば恐怖で矢張り失神している。

だが何度も言うが彼はバケモノ神童、そんな常識はお空の彼方に飛んで行って久しい。

 

「ヒャッハー!潰れろ!!」

 

怖れはなく落下を加速させるためにつま先から落ちた状態をぎりぎりまで維持し、クラーゴンの頭まで後百メートルというところで蹴りの態勢に入り、そのまま勢いを殺すことなくクラーゴンの頭に強烈なキックをかました。

そこまではまだ辛うじて常識の範囲と言えようが、二っとハルバルドの口角が吊り上がった。

 

「メラゾーマ!!たっぷりと喰らいやがれ!」

 

なんと足からのメラゾーマ。そんな常識外の魔法攻撃法は矢張りバケモノ神童ハルバルト・デニングにしか出来ない。

 

「手で出せるなら足からも出せんだろう。」

手にも足にも指と平があんだから同じだろう、獣なんて四本足でも不自由してねぇしとか分かるんだか分らんような理屈で使い続けている。

彼もルイ―シャの事は言えない。常識のネジなぞはなからない立派に人外のものだ。

 

途轍もない衝撃で頭に穴をあけられ、そこからメラゾーマを喰らったクラーゴンも無事では済まなかったが、一体ずつがボス並の強さを誇るクラ-ゴンは体を傾がせながらも頭上に突き刺さった人間を触手出ひねり殺そうとしたが、そんな行動はお見通しのハルバルドは意地の悪い笑みをまた浮かべてクラーゴンの攻撃を闘気の塊で弾き、五メートル先のクライアンに当てた。

陸を攻撃しようと構えていたクラーゴンは突然の触手攻撃に戸惑い、直ぐに怒りに変わり当てたクラーゴンにばくれつけんをお見舞いし、それが周囲にも当たりなんと同士討ちの状態となった。

 

ハルバルトの指示通りの展開をしたリンガイア・オーザムの騎士団と、ミシュラン率いる魔法騎士団が目にしたのはお互いに潰しあい、死骸となって海に漂っていくクラーゴンの姿だった。

 

「いんや悪りい。指示の意味なくなったわ。」

 

同士討ちの高みの見物と洒落こもうぜと言い始めるハルバルドの呑気な声は、海上海中で死闘を繰り広げているクラーゴン同士の激突音でかき消された。

 

残ったクラーゴンは団長がやるだろう。こちらは陸に残っているかもしれないマリンスライムやバケガニナドを徹底的に駆除する。

王太子はよくモンスターを連れて来ては飼っているが、あれは人を襲ったことのない者達ありなので許可をされている。

今回のように明確に攻めて来たものは殲滅しろと言われている。

いや、王太子の命がなくともそうする。

人に刃向かったモンスター達に、生き残る場を与えてやる程人間はお人好しではない。

 

「さて、おひぃ様の方はどうなったかね~。」

 

クラーゴンの数が数体になった時、弱ったところを見計らって目玉に手を突っ込み爆裂上級呪文をぶち込み返り血をしこたま浴びながらも暢気にキセルを取り出し、倒したクラーゴンの上に座り込みふかし始めたハルバルドの姿は異様で、リンガイア・オーザムの味方の騎士から畏怖の目で見られ始めたがどこ吹く風で、ルイ―シャの帰りをのんびりと待つことにした。

どうせ勝つのはおひぃ様だ。




いったん終了


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決着


自分は今信じられない光景を目の当たりにしている。

 

自国リンガイアは南には険しき峰を持つギルドメイン山脈があり、北には厳しき海北海があり、どちらもごくまれにだがレアモンスターの襲撃があり常にそれに備えるにつれ今の騎士国家という誇りがる。

 

だがそれは今日を持って終わるのだと思っていた。報告を受けた時クラーゴン十体に、如何に栄えあるリンガイアの騎士とても勝てる術などないのだと。

一体ならば問題はなく、その半分であっても魔法団と共に殲滅を覚悟すれば国と王を守り抜く自信もあったが、十体ともなれば絶望しかなかった。

それでも部下達を引き連れ、海より上がってくる尖兵のモンスター達を屠りながら住民の避難を優先させた。

 

「荷物など持たずに逃げよ!王城を目指せ!!」

 

突然の襲来に住民たちは逃げ惑い、当然反撃の武器など持たない為にやすやすとバケガニのはさみの餌食になり、信じられないことにヘルバイパーまでもがいて住民たちに襲い掛かり喰らっている。

仲間のカニたちを器用に避けつつ、逃げる者を猛毒の霧で殺して喰らう有様はまさに地獄絵図であり、助けようとする者も逃げようとする者も一色たにに薙ぎ払い絞め落とし、倒れ伏した者をバケガニ・ガニラスたちがぼりぼりと骨まで喰らう音を立てて食べては悲鳴が上がり、阿鼻叫喚と化す。

 

貪り喰らう事に夢中になり、血に酔い涎と血肉を垂らすさまは悪鬼でありモンスターとは思えない悍ましさに屈強な騎士達も身震いをして戦意を落とすのは無理からぬことなのかもしれない。

彼等は今生まれて初めて見たのだ。人間がただの-餌-としてモンスター達の餌食になる様を。

 

「あっひゃっひゃっひゃっひゃ~!」

 

神経が持たなくなったものが狂った哄笑をしながらヘルバイパーに突っ込み、尻尾の一振りで殺され食われて行く様を呆然となって見ている事しかできなかった。

 

ああ、自分達は弱い者だったのだ

 

今までは真に強き敵に会わず来ただけで、単に運が良かったに過ぎない。自分達は今日死ぬのだ。

バケガニやガニラスのどの弱い敵を倒せたとしても、ヘルバイパーを数で包んで押し殺したとしても、クラーゴン十体はどうしようもないではないか。

 

諦めがついたとき、それでも残酷な運命は戦意も精神もボロボロに崩れかけた者達に一撃の鉄槌をくらわすかのように、更なる暴力の化身を送りつけてきた。

 

海から這い上がったそれは、人間を蔑みの目で見つつ無言で凍てつく息を吐き、氷りし者を鋼鉄の錨で粉々に砕き一片の死骸さえ残しはしなかった。

 

「脆いものだ、所詮人間とはこんなものか。」

 

気だるげに、酷く詰まらなさそうに人語を話すトドマンにバウンスは一目見ただけで鳥肌が立つのを抑えられず恐怖が心に溢れ、剣を取り落としへたり込んでしまった。

 

目の前に死神が現れたが如く

 

バウンスはリンガイアの騎士の中で抜きんでており、若干十八にして騎士の部隊長にまで上り詰めた才ある者。

だからこそ分かってしまった。このトドマンはもしかしたら上位種のグレートオーラスであり、今いる部下を含めた全員が束でかかっても勝てはしないのだと。

 

「ふん、諦めが早いのは良い事だ。今楽にしてやる。」

 

トドマン最大級の凍てつく息を吐くための動作をしたその時に割って入った声があった。

 

「ふん、諦めが早いとは無様なものだな。邪魔だ退け。」

 

それは凛とした戦場を清めていく勇壮な声音ではなく、騎士団たちの醜態に対して明らかに侮蔑している怒りにまみれた声だった。

 

戦う者が自国民を守ることを早々に諦め戦意喪失をして醜態を晒しているとは愚かなことだ。

数がいようがゴミと変わらん、戦場の障害物にしかならないゴミ屑はさっさと失せろ!

 

「あ―――っ!!」

 

現れたのは全身の甲冑をまとった小柄な戦士一人であったが、血まみれの地獄絵図に怯む様子は微塵もなく、抜剣の一振りで辺りに蠢くカニ達を横一閃に闘気で薙ぎ払い驚き怒り狂うヘルバイパーに一瞬で辿り着き唐竹一文字切りで真っ二つにせしめた。

 

小柄な戦士の斬る速度があまりにも早く、斬られても暫くはヘルバイパーは全く気が付かず、戦士に反撃をしようとしたが突如視界が縦に割れたことを訝しみながらどしゃりと何かが崩れ落ちた水音を聞きながら絶命をした。

 

この程度造作もない。

 

「次はお前だトドマン。降伏するなら無傷で捕らえてやるぞ。」

 

小柄な戦士事ルイ―シャは、支給品の剣であっても使いこなして瞬く間に辺り一帯のめぼしい戦力を叩き潰しながら一路トドマンの上陸地点を目指してきた。

 

ボラホーンは即戦力だ。戦い馬鹿男に唾つけられる前になんとしてでも欲しい。

 

人語を解し、話せるところからしてレアモンスターだ。

捕らえてモンスターと人との仲介役から戦での戦力として幅広い価値がボラホーンにはある。

無論原作を読む限りでは獣王クロコダインに軍配が上がったのは百も承知だが、今から自分が徹底的に扱いて鍛えてやればいい。

大人しくつかまれ。

 

何処までも自国と家族を守ることしか頭にないルイ―シャは欲望に忠実であり、悲惨な現場と化したリンガイアの者達の思いなぞどうでもよく平気で踏みにじる。

降伏勧告をしたのがその証。

トドマンが万が一にも降伏をしたのならばその身を保障されることに他ならず、守るべき者たちを蹂躙したものを許せない騎士達の怒りを招いたのだがどこ吹く風であり、邪魔だからどっか行けとまで平然と口にする。

 

若いバウンスもアバンと同様で弱いな。

 

猛将とうたわれるのは当分先のようだと失望したルイ―シャは、なんとバウンスをリンガイアの騎士諸共に海に蹴り落した。

気配で海中の主だったモンスターは上陸をしたようで、そこそこまだいるモンスター達からは敵意を感じられず偶然に居合わせた者達のようだ。

ならば海に蹴落としても問題はなかろう。

 

「お前・・本当に人間か?」

 

同族に対する非道を、さしものトドマン・ボラホーンからも呆れられた。

自分も人間を殺すことに何ら躊躇いはないが、同族を無闇に手に掛けたことはなく、まして弱き者たちなど放っておくほどだが、この人間はどういうつもりだ?

 

「ふん、戦意の喪失した騎士など一般人よりも質が悪い。あいつらは自力で逃げ惑ってくれるが、今海に落とした連中のような輩は動かないお荷物以下だ。邪魔なものを固唾蹴るのは当然だろう。」

「ほう、同族を相手にそこまで言うのか?」

「はん!たかだか同じ種族に生まれたからといって守り抜いてやると言う気は私にはない。

私は私の守りたい者しか守らん。その為にもお前のような奴が欲しい。

どうせ気が付いているのだろう?私とお前の実力差を。」

 

甲冑で顔は見えず性別さえ分からないが、だがにたりと笑っている事くらいは察しが付く。

こんなバケモノにあったのは生まれて初めてだ。

北海では気ままに生き、戦う相手に事欠かずに常に己を磨いてきた。

 

お前のような奴が、人間どもに何の遠慮をする

 

数日前に自分に会いに来た魔族の男が熱心に人間征服を共にしないかと持ち掛け、仲間のモンスター達の活動をもっとのびのびとさせてやってはどうかと言ってきた。

確かにこの数十年で人間どもの船とやらの往来が激しくなり、自分達の住処を荒らすまでになってきたのは事実だ。

 

「良かろう。」

 

魔族の男に与する気はないが、物言いと度胸は気に入り、置き土産の鋼鉄の錨を持って乗り込んできたのだが、まさかこんなバケモノに会おうとは。

 

剣の一閃から悟ってはいたが、改めて目の前まで来られるとその実力がいやでも分かる。

だがしかし!自分にだとて誇りがある。

 

「ほう、分かっていてもなお向かってくるか。その気概やよし。」

 

自分の高める闘気すらバケモノにとっては面白き玩具であるように益々笑っているようだ。

その収まりかえった態度を粉々にしてくれる!

 

「甘いな、まだまだ弱い一撃だ。」ズシュ

 

何だと!まさか・・渾身の一撃を軽々と受け止めるとわ・・

 

ボラホーンは全身の筋力を全て右腕に集中をし、その巨体から繰り出す怪力を遺憾なく発揮をした。

 

小さき戦士と自分の体格差は歴然としており、縦から繰り出すスピードを上乗せまでしたというのにだ!

 

それを平然と受け止めて、利き腕でない左手の手刀で俺の腹を鎧ごと貫くか・・

 

「はは・・正真正銘の・・バケモノめ・・」

捨て台詞を放ちながら倒れるとは情けない。

 




ボラーホーン戦完勝


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17

捕らえた後


「さっきから言っているだろう、私のものになれ。」

 

どこぞの悪役よろしくルイーシャは捕らえてボロボロのボラーホーンの説得をしている。

 

「罪だのなんだなの面倒ごとは全部自分がするから、お前は良い子ではいと言えば良いだけなんだぞ。」

 

手当てした腹部を優しい手つきで蕩けるような笑みを溢すルイーシャの妖艶さにボラホーンぞくりとし、思わず頷きかけたがやめにした。

自分に付き従うモンスターは存外多い。自分だけ助けられるのは、ましてや人間などに助けられるのは矜恃が許さない。

人への思いと武人としての思いが、ルイーシャの申し出を断らせている。

 

「成る程、お前の仲間の為か。」

 

申し出を突っぱねても諦める様子は微塵もないルイーシャに、さっさと自分を諦めさせようと本心からの断りを入れたのだが。

 

「ならそいつらも暮らせる住処があればいいのだな。」

何かおかしな返しをされたか?

 

「造作もない事だ。北海の海底神殿に知り合いがいる。そこはリンガイアの最北端の崖っ淵の洞窟から繋がっていて侵入禁止の柵があって、冒険者も立ち入り禁止だ。」

「・・何故だ?」

「なに、神殿にグラコスがいるせいだ。」

「・・なに?」

「グラコスだよ、お前は知らないのか?」

「グラコスだと!!」

「・・なんだうるさいやつだな。騒がなアホウ。」

 

ボラホーンは本気で驚いた。

グラコスといえば五メートルはあろうかという半魚人で海魔神と恐れられ、その能力は自分と似たようなブレスを使うが、氷の息の威力の方が桁違いに高い。

なぜ知っているかといえば、一度遭遇して命からがら逃げたことがあるからだ!

二度と会いたくないと思っていた悪夢のような者と知り合いだというルイーシャに、驚くなという方が無理だろう。

 

「どうやって知り合った?」

「立ち入り禁止の柵無視して進んだら会ったぞ。」

 

いくなと言われれば余計行きたくなる。

寝てるところを起こされたと怒ったあいつと戦った。身体能力強化で足を強化してマッハの速さにして突っ込んで、そのまま炎神の加護を両手に発動して腕も強化して腹部を気絶するまで連打。

 

海魔神と呼ばれるあいつも気絶するまでやられている訳はなく、向こうも両手でこちらを殴ろうとしたが全部闘気の鎧でガード。

 

全身を闘気で纏い、その闘気も上乗せしての連打に五十あたりで気絶したな。

 

この娘の様な姿をした者は正真正銘の化け物だった。

 

「分かった、お前に従おう。」

 

どう逆立ちしても自分では勝てない。

それに、海魔神のいる海底神殿に手を出す人間はおらんだろう。

その周辺と海底神殿に住まわせてもらおう。

 

ボラホーンは完全に心を折られてルイーシャの軍門に降り、ボラホーンの件で、二度とは人間に逆らわせないのを条件に、リンガイアとオーザム両王からの許しを経てボラホーンを伴い帰国して早々に騒ぎとなったのだった。

 

 

 

「げはげはげはげは〜、お前もルイーシャに敗れたか!

なに、あれは実力人外・口の悪さは天下一品だがお前達を悪いようにはせんぞ。

かまわんから好きなだけいろ。」

 

海底神殿に辿り着いたボラホーンとボラホーンに率いて来た者達が見たのは、やたらと友好的な海魔神であった。

彼もまた、ルイーシャの人外の化け物っぷりを遺憾なく発揮され伸された一人であったはが、神級モンスター同様にルイーシャを愛でている一人と化していたのだった。




ボラホーン編終了


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18

動き出すかどうか


綺麗なドレスを纏った貴族の奥方様と子女達が夫や父、あるいは恋人や婚約者にエスコートされながら続々とアルキード城内のダンスホールに入場をする。

煌めくシャンデリアの下には豪奢で色とりどりの食事が用意をされ、楽団の美しい音色が入場てくる者たちを優しく出迎える。

 

誰もが明るい顔をしている。この国は今賢王の下で最盛期を迎えている。

騎士団・魔法団の他に魔法騎士団なる物を設立した事によりモンスターによる脅威は全く感じられず、他国で頻発しているモンスターによる騒動もその内自然と落ち着くだろう。

ならばいつも通りの暮らしを送っていればいいのだ。

 

「つまるところ平和ボケか。」

 

笑いさざめき浮かれる人々を二階のバルコニーの手すりに頬杖をついているルイ―シャは、冷めた様子で見下ろし毒を放つ。

 

暢気なものだ。水面下では魔王ハドラーが動こうとしている為にモンスター達が邪気の被害を被って暴れてしまい、その内に本格的な軍団を組織して魔王の名乗りを上げて攻めてこよう。

更に頭の痛い話はハドラーよりも水面下で動いているであろう大魔王の存在だ。

今頃はハドラーの動きを見ながら、地上の戦力を測ろうと悪魔の目玉で観察中か。

ハドラーが勝てばハドラーを殺すか飼い殺しにしてそのままそっくりと地上を手に入れて魔の六芒星を使って地上を滅ぼすか、負けた時には地上の戦力と活躍した者達がピックアップ出来て地上振興の準備が進めやすい。

要するに魔界の神にとってはハドラーなぞは地上を試すための試金石。勝っても負けても己が懐が全く痛まない便利な小石だ。

水面に投げた波紋の行方を見届けていればいいだけの効率のいい、実に合理主義的で敵ながら見事な軍略だ。

 

「ここにいたのですかお姉様。」

 

つらつらと考え事をしていたら可愛い妹が迎えに来てくれた。

藤紫のドレスがなんとも愛らしい。袖口や裾の端に白いレースが取り付けられているのも、黒髪に黒い瞳のソアラによく似合っている。

「可愛いお姫様、私めに最初に踊っていただける栄誉をお与えください。」

「まぁ!お姉様ったら私をからかって・・知りません。」

「本当にきれいだぞソアラ、私と踊ると言ってくれ。」

 

三つ下の妹はまだまだ自分よりも背は低く、頭二つ分の差がある。

だが背はまだ低いが私よりも女性らしい体に発達はしている。

私は一般的な女性よりも長身なせいか、胸の発育は薄く聞こえよく言えばスレンダーで、肩も丸みはなくごつごつとしている。

要するに男に近い体形だ。王太子の服は全部動きやすい軍服仕様にしているから別段気にしないが。

たいしてソアラは顔の全パーツは愛らしい美少女仕様で、頬も肩も胸も何もかもがふっくらとしており、人類代表で女性とは何かと問われればそれはソアラの事だと言えるほど柔らかくて美しい。そして男どもから見れば美味しそうだろう。

 

ソアラは箱入り娘で育ててきたせいか、純粋無垢で中身は原作のダイを慎ましい女の子にしたような存在だ。

疑う事を知らず、出会った者達に愛情を注ぐ女神さまに育ってしまったのだよ!

不味い!こんな慈愛のお姫様見た日には、あの戦いで心荒んでいるであろう馬鹿男が見たら独占しようとしてお持ち帰りしようとするのが目に浮かぶ!!

ソアラもソアラで相手の境遇を知った日には同情をして献身的に癒してあげようとする場面しか浮かばない。

 

危機感がない訳ではない。

ソアラも第二王女とは言え王族の責務の事はきちんと教育を受けている。

だがしかしだ!跡取り娘であった原作であれだけの事をやらかした-ソアラ-を見ていると不安になる。

あっちのソアラは間違いなく今私がいる立ち位置に居て、帝王学学んでいたはずなのにやらかしたのだ。

はっきりと言えば-王太子・ソアラ-を私は軽蔑しかしていない。

博愛は結構なことだ、誰にでも平等たろうとする心構えも素晴らしいが、結局は己の中の個人・バランに対する愛に狂い、自分を育ててくれた者達に背を向けた愚か者だ。

ああなってしまっては大変困る。

 

「いいかソアラ、私達王族は国に養ってもらっている身だ。」

「国・・アルキード国にですか?」

「そうだ、着るもの食べるもの住む場所もキレイな衣装も宝石も全部彼らが稼いだお金を少しづつ貰い、国を守り富ませる事に使う中で私達にも使わせてもらっている。」

 

五歳の頃から英才教育というものをソアラに始めた。

税金はおいおい教わるだろうから難しい事は省いて自分達王家の立ち位置と役割を。

養ってもらっているの半面彼らの代表として他の国と付き合い、アルキード国を富ませていき有事の際には真っ先に騎士団と共に戦うのだと。

「戦いはすべて私がする。お前は愛で国民を支えろ。どのような者であっても同様に、住まう者は種族が違おうとも同じアルキード国民として愛しぬけ。」

人間であれモンスターであれ魔族・半魔・精霊であっても愛し抜けと教えてきた。

この国に不利益をもたらすものはすべて私が消し去る。国民であろうとも獅子身中の虫なぞは踏みつぶす。

その反対の愛で国民を守るようにと。

 

自分の為ではなく、子を思う母のような慈しみの心をソアラに育てさせて今のところは成功をしているようだ。

先日ソアラ付きの護衛モンスターのシルバーデビルを騎士団に入りたての貴族の子息共が囲んで言葉でなぶりものにしていたのを凛とした態度で諫めたそうだ。

シルバーデビルの容姿のままではやはり場内が落ち着かないと言うので、お忍びで行ったベンガーナデパートで丁度変身の腕輪をオークションで売っていたので競り落してシルに付けてやった。

夜は私が選んだ騎士達がソアラを護衛をするから休むようにと小屋を与えているのでそこでは腕輪は外していいと言っている。

シルも他の奴の例に漏れず、時折私の血を与えて強化している。いざという時ソアラを守り切れるために。

だがこいつは他の奴とは違う。私の血をいつも申し訳なさそうな顔をして飲んでいる。

大好きなソアラの姉の血を貰うのが申し訳ないと言っていた。

シルは自分に益をもたらす私よりも、モンスターの中でもひときわ厳つい自分の本当の姿を知っていても常に優しくしてくれるソアラに対して心から忠誠を誓っている。

だからこそいい、そんなシルだからこそソアラの専属護衛を任せている。

近頃は人間の言葉をまねようと必死に努力をし、片言ながら話せるという努力の結果を叩きだした。

 

「お姉様、シルが、ソアラ様って・・」

 

余程嬉しかったのか、シルが名を呼んでくれたと嬉し泣きをしながら執務中の私の部屋に突撃を掛けて来た。

以来ソアラは何処に行くにもシル・シルと呼んで寵愛一方ならないようだ。

それは第二王女の護衛騎士の席が空かないことを意味しており、騎士団のひよっこどもは面白くないと言葉の暴力で潰そうとしたところをソアラに見つかったのだとか。ざま見ろだ、使えない馬鹿いらない。騒ぎを起こしら者達は即刻頸解雇。慈悲深くやり直しだののしち面倒くさい事はしない、騎士になりたい奴は引く手数多いる。

それに量より質が欲しい、量ならば他の国にしてもらう。

 

餌に食いついている獲物を仕留めるのが狩りの基本だ。

 

そう、ルイ―シャにとっては魔王ハドラーもその軍団も獲物でしかない。

本命はその上、大魔王バーンなのだから、あれを相手に手こずるなどと言う無様な事はしていられない。

アバンが強くならないようならこちらは軍団を強化しておくか。百獣軍団の戦力を。

 

ルイ―シャだけが全容を把握している人外だけで構成をしている百獣軍団は、普段はアルゴ岬の南端の場所にあるルイ―シャ直轄領に住んでいる。

 

ガーゴイル・プテラノドン等の飛行モンスター軍はアイスコンドルとヒクイドリが両隊長をしており、地上軍もデビルホーンやリリパットの群れ、フレイムドックなどのバリエーション豊富になっている。

いざとなったら撃って出てアバンの援護位してやるか。




そろそろ動かそう。


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19

いきなり本編重要人物出してみました

(そうしないと進まないポンコツなのです)


パプニカ南部の地下に地底魔城しっかりと根をつかせるべくハドラーは今日も孤軍奮闘している。

 

遡れば魔界にて偶然地上とつながった穴を死ぬ気で通り抜けて早五年。

死臭と硫黄の悪臭に満ちていた魔界と違い、その穴からは生まれて数百年嗅いだことのない空気が流れていたために、その穴が地上につながっているのが分かったが、

我ながら死にかける大博打をよく打てたものだと我ながら今でも感心している。

 

魔界でもそれなりの勢力と城を持ち、敵の屋敷や倒した敵の所有物の本や古文書を片っ端から分捕って捕虜にした賢人達に読ませて独学で知識を死に物狂いで身に着けた。

力だけでは生き残ることは出来てもそれ以上にはなれない。誰にも踏みにじられず侵されず、自分を貫いて生きていくための知識とそれなりの勢力を蓄えたが、それら全てを投げ打って地上に行きたいと渇望をし、見果てぬ夢に手を伸ばす。

 

百年前に読んだ地上の記述、澄んだ空気に澄んだ水、青い空に豊富な食べ物そしてすべての生き物を分け隔てなく照らす太陽に焦がれて必死に文献を漁り地上に行ける手立てとそれに伴う危険を調べ上げ、ある日空間のひずみの報告を受けた俺は、予てよりの手筈通り、使用人や配下に今までの給金を渡して単身地上に乗り込む。

幾人かは俺について来ようとしたが、俺くらいでなければ死んでしまうと説いて諦めさせて正解だった。

 

俺だとて穴を通ったダメージ死掛け半月はまともに動けなかったが悔いは感じず心が初めて満たされた思いを味わった。

出た先は木とやらが沢山ある森の中、チッチッチと鳴き声が軽やかに聞こえ、倒れ伏している俺の顔を生臭くない爽やかな風が撫でていき・・そしてそう、温かい太陽とやらの光が俺の弱った体の全身を温めてくれたのだから。

 

地上に来れた、ならば次はこの地上を全て俺の物にしよう。

誰にも邪魔をされない俺だけのものにしたい。

 

その為によさそうな拠点の候補場所は直ぐに見つかった。

パプニカとやらの南部に自然とある地下ダンジョン。広さも深さも申し分なく、天然の迷宮でほんの少し手を加えるだけで事足り、何よりも先住しているモンスターがわんさかいるので軍隊作りの核はもうできているときたもんだ。

マミーやゾンビが主だが、あちこちの迷宮・人外魔境から部下を募っていけば、早々に地上征服に乗り出せそうだ。

 

どうやら地上の人間どもは長い間地上のモンスター以外に遭遇したことはなく、ここ数百年人間同士で争う以外の事はなく魔界からの敵など予想していないようで平和ボケとやらになっているようで何よりだ。

 

このまま地上の強きモンスターを各地で味方にしてじわじわと人間どもの勢力圏を犯して弱り切ったところで大々的に俺様が名を挙げて一斉攻撃をしようとしたのだがうまくいかんのは何故だ!

 

各地にある天然ダンジョンを前線基地に整え、ある程度の軍としての纏まりが出来て後は力強い味方を得ようとしたが、片や獣王乗るリザードマンには断られるどころかのされて追い払われ、もう一方のトドマンには色よい返事を貰えたがその後は音信不通とはどういうことだ!

 

・・・仕方がない、今の戦力ならば平和ボケした人間には十分だろうと各国の戦力分析で導き出した俺様の頭脳を信じてそろそろ本格的な侵攻と、各国の王達に俺の名前入りの降伏勧告を鑑通信で出すとするかと思った矢先だった・・・あのとんでもない奴が俺様の下にやってきたのは!!




リハビリに短めとなりましたが、ポツッポツと書いてきますのでよろしくお願いします。


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20

ポツッポツと読んでいただき、お気に入りと評価を付けていただけてとても嬉しいです( ´艸`)


いや参ったな、パプニカの国王に挨拶がてら地底魔上の偵察に来たら銀髪の・・少年よりも幼い幼児を地底魔上の入り口からかなり離れた付近で拾ってしまったよ。

 

銀髪のたてがみに、それも目の色が紫の地底魔場近くにいてもおかしくない子と言えば唯一人しかいないよな・・本当に参ったな。

 

親善大使は表向きの用事で、裏ではこっそりハドラーの勢力偵察に意気込んでパプニカくんだりまで来てみれば早速厄介ごとに巻き込まれるとはついていない。

 

え?厄介ごといやなら大人しく親善だけやっておけ?

それでは大戦まで碌な情報えられずにいいように進められて被害甚大になったら困るだろう。

若いうちの苦労は買ってでもするもんだと昔の人達も言っているから問題ない。

 

パプニカ王宮には式神を私にして影武者で置いてきているからそちらは問題ない。

今日は護衛の騎士達は私とは普段交流の少ない者達ぞろいにしたからばれる心配はないし、供の侍女もそんなメンバーにしたから影武者と気づかれず、今頃はパプニカ王と王妃に囲まれて昼食会の辺りをのんびりとやっている頃だろう。

 

問題なのはこの幼児・・・ヒュンケルであってるよな。

森の中をふめふめ泣きながら彷徨っているところを偶然保護したのは良いんだがさてどうしたものか。

 

1-連れ帰って育てて今から正義の味方にする。

2-放っておいてこのまま地底魔上の偵察にGO

3-・・・不本意だが親の名前連呼しながら正面突破。

 

・・・・熟考の末矢張り3だな。

 

私だとてこのくらいの年にいきなり親元から話されて滅茶苦茶腹を立ててぐれていた。

自分がされて嫌な事はすべきではない。

2に関しては論外だ。こんな子を放っておくなど心情的に無理だ。

3なら手っ取り早く、中に入る大義名分を得て堂々といける上に親元に返せるという一石二鳥、ハドラーの反応から中身分析も見れて三鳥か・・・厄介ごとではなく美味しい案件だなこれは。

とはいえ泣き止ませて名前聞かないと色々と画策している計画が破綻してしまう。

保護して10分近く抱き上げてあやしているが一向に泣き止まないとは軟弱な。

 

「いい加減に泣き止め少年、名前と親の名前言えるか?」

「うっひ・・・さまよう鎧ってしゃべれるの?」

 

そうだった。

今はお忍びで目玉に見つかってもいいようにリンガイアで身に着けた甲冑を着込んでいる姿だった。

どおりで変顔で泣き止まそうとしても駄目なわけだ。甲冑で見えなくでは意味なかろう。

 

とか思っているルイ―シャは考えているだろうがここで残念なお知らせが一つある。

ルイ―シャが真剣に泣き止まそうと真剣な顔で変顔をして見せられても、面白要素は零でゴーゴンヘッド並みの不気味さと威圧しかなく、更なるバクなきとなっただろうが知らぬは何とやらであろう。

 

 

とにもかくにも穏やかに根気強く、生来のひねた性格の中にある子供保護の精神を発揮にして粘り強く聞いた結果名前と保護者名は収穫できたので、これで大手を振って地底魔上に行けるとルンルン気分でヒュンケルを抱っこしたまま進もうとしたが、ヒュンケルが暴れ出した。

 

じたばたともがき、帰りたくないと駄々をこねる。

「何故帰りたくない、バルトスとやらに叱られたのか?」

「違う!父さんは大好きだ!!」

「好きなら帰るぞ。」

「嫌だ!!!帰りたくない。」

 

どうにも埒が明かない、何度聞いてもバルトスは好きだが帰りたくないと言っては逃げようとする理由が分からん・・・家出したい年頃でもあるまいに。

 

「・・・だから・・」

「ん?」

「俺が人間だから!父さんの邪魔になるって!!だから俺は帰っちゃ駄目なんだ!!!」

・・・・・どこの屑だ?こんな子供にど屑なことを言ったやつは。

 

 

「報告!!侵入してきたさまよう鎧の勢いは止まらずにとうとう四階層まで入り込まれました。」

「報告!!侵入者は依然バルトス様のご子息殿を抱えたままモンスター達を足蹴にしながらも罠をかわしてこちらに向かってきます!!

六階層のハドラー様の間につくまであと20分とかからないかと!!!」

 

一体何事だ!

敵・・それも大軍勢が攻めてきたのならばいざ知らず、ふざけた口上を述べていきなり地底魔上に押し入ってきたさまようう鎧にここまで俺様の居城を踏み荒らすなぞ許さん!!

 

「これからこの城に押し入る!!邪魔する者は容赦せんから怪我したくない奴は黙って通せ!!」

 

こんな時魔法を駆使して侵入者を撃退させられるだろう配下の鬼面道士ブラスは魔王軍強化特訓のために人が寄り付かんデルムリン島に行かせて強化特訓中でおらず、頼りになるガンガディアは人間どもの軍勢の偵察に出したばかりで数日は戻らん!!

キギロのフィールドはそもそも森などなので論外か。

バルトスを出したいところだが拾って育てているとかいう小僧が侵入者の手にいるとあっては手加減しそうで役に立たん・・・頭痛くなってくる。

 

かくなる上は俺様の手で自ら・・

 

バッカン!!

 

「あ~くたびれた、ようやくここの主らしきものを発見。お前がこの城の主か?」

 

・・・ちょっと待て!侵入者がここに辿りつく迄にはまだ時間があったはずだぞ!!

報告受けて五分しか経っていないのになぜもうここにいる。

 

ハドラーが鼻水を滴らせそうな勢いで驚くが、ルイ―シャが早く辿りつけた理由を知ったらそれでは済まないだろう。

いちいち階段を下りるのが面倒になったルイ―シャは、モンスター達の眼前で結果を破壊して下に降りると言う強硬手段に打って出た。

それも左手でヒュンケルを抱えたままなので右手に強化術を付与しての片腕一本でやってのけたので目撃したモンスター達はドン引いて追跡を諦めて遠い目になった。

 

やばい奴にはかかわりたくない

 

結果時間短縮と追撃なしのコンボで魔王の度肝を抜く挨拶タイムと相成った。

 

いきなり扉蹴り飛ばして他人様の部屋に押し入って不遜な物言いをしてくるするさまよう鎧なぞいたっけか?

 

現実逃避したくなったハドラーは泣いてもいい

 

 




地底魔上は今作中では六階層にしました。
ネットや漫画でも詳しい内部構造が作者では見つけられずに間違ってた時はご容赦ください。


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21

少しずつ読んでくださりありがとうございます。


「この地球儀凄いな!ホルキア・ライリンバー・ギルドメインにマルノーラ大陸がしっかりと描かれているではないか。

しかも今や死の大地となった大陸もカール沿岸の諸島に・・デルムリン島まで!!」

「こっちは天球儀か!よもや数百年前に星の運航を全て模型にしたと言ったアルゴーレ博士の紛失された遺産か⁉」

「キラーマシーンの製造法?魔法と魔道の違いにどのような運用の差があるのかの論文・・・ここは知識の宝庫か何か主よ!!」

 

何だこやつは!さまよう鎧の分際で人語を話すは、人様の部屋にずかずか入ってきたと思ったらバルトスの養い子を抱えたまま物色してはいちいち悲鳴のような感想を述べるは・・・しかも感想内容がとっても的確だわ何なのだ?

しかし、この部屋の価値が本当に分かっているようだなこやつは。

 

「おい」

「あ!これは魔道具を分解したのか?中身を確かめた形跡があって再構築しているところ?自前で魔道具作りたいのか?」

「む・・・単なる手すさびだ。お前はこの部屋見たさに地底魔城に侵入してきたのか?」

そうだと言って来たら相当な馬鹿だろうこやつは。

 

あ、しまった。この部屋の中身の凄さに当初の目的を丸っと忘れていたな。

 

ルイ―シャの悪癖。凄いものや興味をそそられたものが目の前にあれば、余程の事でない限りそちらに気を取られて当初の目的を丸っと忘れて没頭してしまう。

流石に命の遣り取りに類する事や、愛天使・ソアラに関することは決して忘れないが後は大体ハドラーに指摘され手は赤っ恥を掻いている。

 

今も腕の中にいる最重要案件のヒュンケルを見ては落ち込む。

この人いきなり何叫んでるんだろう、変な人だとヒュンケルの心の声が目に現れていて、まじまじと見られているのがかなりきつい。

 

「こほん。」

 

ここは気を取り直して優雅にやり直して今の醜態帳消しにしよう!

気取った咳をしておいて、この腹黒王太子の心の中身は割と小心者の屑っぽさがある。

まるでどこぞの三流魔王と瓜二つな思考なのかもしれない。

 

「私はこの城の門番をしていると言うバルトスとやらの息子を森で拾った。

泣いても帰りたくないとしつこかったので理由聞いてみたらいたく感心したので送りに来たんだよ。

ヒュンケル、もう一度帰りたくない理由を自分で言ってみろ。」

 

矢張りバルトスの養い子のヒュンケルか。

三年前にあいつを禁術で作って、その半年後に赤子を拾って名前に悩んでいたのを俺様が命名してやったんだっけか・・・人間のガキに興味が無いから今まで放っておいたが、見目はそこそこで利発そうだな。

大方自分と周りのモンスター達との差異に嫌悪感でも覚えたか?

 

今の今まで自分が名付けた子どもをまじまじと見た事のないハドラーはヒュンケルの見目と理知を感じる瞳を見て家出理由をそう推察をした。

利発な子供は何処にでもいる。この地底魔上にも鏡くらいはあるのでミイラ男にゾンビやくさったしたいが主な地底魔上軍団と自分を比べてはまぁ嫌になっても仕方がない気もしないではない。

親にいたっては骸骨だしな。

 

男手で、もといその骸骨の手で必死に育てられてきたヒュンケルは、そんなハドラーの超絶失礼な推察をガンガンに蹴散らした。

 

「僕みたいな弱い人間がいたら!魔王様のお邪魔になるからです!!」

え?

「父さんは魔王様の門を守る大切な役目があって!!弱い僕は足手まといになるか、侵入してきた敵の人質に使われてしまうかもしれません。」

はい?

「父さんの周りの人たち(?)は優しいから今までそんな事を言われたことないけど・・新しく来た人達(?)が教えてくれました。僕は弱い人間と言う生き物で、ここにいるだけで父さんと魔王様のお邪魔になる存在だって。

僕は父さんが大好きです!立派な騎士様です。そんな父さんがお守りする魔王様はきっともっと立派なお方です!そんな人達の邪魔になるくらいなら僕はこの場所から・・・」

「もうよい!!」

 

ヒュンケルは己の内にある不安や悩みを切々と語った。

慰めてほしいのではない、まして止めてほしいのでもない。分かってほしいから、いかに自分が、人間がここにいてはいけないかをこの場にいる者達に。

分かってこのさまよう鎧と共にどこか遠くに行くように言ってほしいから。

その為の告白は大音声で途切れた、途切れてしまった。

この目の前の人も分かってくれないのだろうか?自分のこの思いを、いかに父を愛し、お仕えしているまだ見たことはないが父が常々語ってくれる魔王様のお邪魔になりたくないことを。

 

「お前はこの城に住む資格がある者だ。他の者の戯言に耳を傾ける必要などないぞヒュンケル。」

「・・・何言っているんですか!僕は!」

「俺の地底魔城に住む資格を決めるのはこの俺様自身だ。

名乗っていなかったなヒュンケルよ。

俺様が貴様の父バルトスが仕えている魔王ハドラーだ。」

 

ヒュンケルの切なる理由は確かにハドラーの心の奥底までに届いた。

父ばかりかまだ見た事もない自分の邪魔になりたくない、なんと健気で崇高な心なのだとハドラーの心を震わせるほどに。

配下も周りも己の道具か精々役に立つ大切な道具かしか考えてこなかった打算だらけの男が、この役にも立たないはずの人間の子供に手を差し伸べる程の美しく清らかな精神であった。

この子供を手放したくないと瞬時に思う程の。

 

 

おやおや、この男自分から名乗ったよ。

 

ルイ―シャとしてはこの展開は少々思っていたのと違い少なからず面食らっている。

 

てっきりこ今のヒュンケルの一大告白も、子供の戯言と片づけ五月蠅がってバルトス呼んで終わりにするかと思いきや真摯に受け止めている。

知識では力だけがある風格・心の在りようが三流と大魔導士マトリフに揶揄されていた小物だとばかりだと思っていたが、実際はなかなかどうして。

この部屋にある大量の知識・インテリの数々、何気なく置かれている机や家具もどっしりとしていながらもどこか風雅さを感じさせる様は王城内の自室と遜色のなさ。

実際に生きて話す魔王ハドラーとはもしかしなくとも凄い大人物なのだろうか?

そもそもそうでなくては生来のカリスマ性だけで魔王は張れず、大軍団であと一歩のところまで人類を追い詰める大戦を引き起こせるはずもないか。

実戦経験・豊富な知識に今もさらに知識を吸収して己の物にしようとする貪欲さがあったればこその魔王な訳か・・・・クロコダインは何処見てハドラーを小物と評価したんだか。

そっちは今度聞くとして今はヒュンケルどうするかだったな。

 

「この子供を罵った輩をぶちのめしたくてここまで来たんだが、それは任せてよさそうだな。」

「む、ヒュンケルを返してもらうぞ。」

「返す返さないではなく、それはヒュンケルが決めることだ。

ヒュンケル、目の前にいる子の魔族の男がお前の父が仕えていると言う魔王の様だぞ。その魔王自らがここに住んでいいと言っているがどうする?」

「僕、ここに・・」

「いろ!俺がいていいと言っているんだぞ。」

「邪魔には・・」

「ふん!貴様くらい守れないほど俺は弱いと言いたいのか!」

「そんな!違います!」

「ならばお前が邪魔になる理由はない。精々今この瞬間に俺の貴重な時間を使って無駄にしているのが邪魔なくらいだ。俺様の邪魔をしたくないと言うのならばさっさとバルトスに謝っておとなしくこの城にいろ。

分かったかヒュンケル。」

 

魔王ハドラーまさかのツンデレ

 

今も昔もツンデレは最強のようだ。

悲壮な顔をしていたヒュンケルん顔が上気して、ハドラーに熱い視線送りながら無言でコクコク首を縦に振って頷いちゃってるよ。

これってハドラー倒した奴は父バルトスの仇と敬愛した魔王様の仇も漏れなく付随するのか?

 

不味い、何かやらかした気がする。妙なフラグでも立ててしまったか?

まぁいい、そうなったらなったでアバン達鍛えて(ボコボコにのしながらの強化)をすればいいだけの話だ。

ヒュンケルの下にもちょくちょく来て、大戦中の外の様子教えてどっちが勝っても恨む道理はないこと植え付けて復讐の鬼になる道はつぶしていか。

 

「おいさまよう鎧もどき。」

「なんだ、子供の前だからと言ってすっとぼけるのか?お前くらいなら私の正体などとっくにお見通しだろうに。」

「ふん、野暮な奴だ。せっかく言わんでおいてやっているのだからありがたくさまよう鎧もどきでいたらどうだ?

それともそんなお遊びもできない野暮天か?」

「言ってくれるな、良いだろう。

それでそのさまよえる鎧もどきに何の用だ?」

「ヒュンケルを保護してくれた礼に何かくれてやる。」

「ほう、良いのか?」

「俺様に二言はない、この部屋の物をいたく感心していたからな。好きなものを一つやるから選べ。」

 

こいつ何処までも上から目線でツンデレなのな。

しかし気前がものすごくよすぎやしないか?だったら・・・

 

「あ~それともう一つ。俺様の配下にならんか?

好待遇の幹部に迎えてこの部屋にあるものすべてを好きにして良いぞ。」はい⁉

 




人外(魔王様込み)にも愛されそうな主人公


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22

変にもてても嬉しくない主人公は複雑な気分です


「お礼の品はいらん!時折この城にもといヒュンケルの所に来ても追いださなければそれでいい!ではさらばだ!!」

 

捨て台詞を吐きながらハドラーにヒュンケル押し付けて全移動してさっさとおさらばした。

道にも人生にも迷子になった子供を送り届けただけで、いきなり敵のトップに勧誘されるなどと誰が予想できる?できるわけないわ。

その場で襤褸出しても面白くないので全移動で撤退だ。

対処できなくて戸惑って逃げたのではない、戦略的撤退だ。もう一度言うが逃げたわけではないからな!ハドラーの懐の広さを見せつけられて、訳の分からん敗北感を味わったからでは決してないからな!!

 

誰に言うとでもなしにアルキードの自室の屋根裏部屋に籠ったルイ―シャは布団を被ってふて寝した。

今頃はパプニカ王宮にいるはずの自分がどうやってかわばれんだろうが、影武者仕立てて何やらさぼっているのをばれるのは色々と問題になって面倒なことになるので隠れてふて寝する。

 

一方の地底魔城出はヒュンケルが憂い顔になっていた。

ルイ―シャから押し付けれる様に渡され、魔王様にだっこされたままで父バルトスの下に向かっている道中で。

 

「どうしたヒュンケル、まだここにいられんと戯言を言うつもりか?」

「違います魔王様。その、あのさまよえる鎧さんが魔王様の配下になったら嬉しかったのですが・・」

「ふむ、お前もそう思うか?」

「はい、あの鎧さんは良い人です。それに力が強くてこの城の床を二回も叩き壊して魔王様のお城に行かれた強い方です!」

「そうか、勧誘し損ねて惜しいことをしたものだ。お前に通信魔道具を持たせておく。あの鎧が来たらすぐさま俺に知らせろ。使い方は・・」

「ヒュンケル!え?ハドラー様⁉」

 

地底魔城のどこかにいるバルトスを探しながら和気あいあいとしていた二人の下に、ヒュンケルが謎の鎧に人質に取られながらハドラー様の居室迄押し入られたときたバルトスは血相(?)を変えて闘技場で訓練していた配下たちをほっぽり出して爆走して駆けつけてみれば、すでに全て終わった後でしかも今まで会った事すらないわがことまおうさまがきゃっきゃうふふの抱っこ状態で歩いている方が更に衝撃的なのだが。

 

「父さん!」

慌てふためきながら走っていく父を見てヒュンケルの心はさらに罪悪感に満ち溢れる。

あのまま自分がいなくなっていたら父さんはもっと心配してしまったのではないか、もしかしたら魔王様のお仕事を捨てて自分を探そうとしてしまったのではないだろうか。

申し訳なさと、ここにいてはいけないのではないのかと一時でも疑ってしまった自分の弱い心を恥じ入りながらも、矢張り大好きな父の下に泣きながら駆け寄りむしゃぶりつく。

 

弱い人間がいてはいけない。

そんな事を言われないように自分が強くなればいいんだ。

 

早速ヒュンケルは強くなりたいと父に頼み込んだが却下された。

 

「ヒュンケルや、儂はお前を戦いに出したいとは思わんよ。なに、お前が大きくなるころにはハドラー様の統治されている世になっている。

お前にはその時ハドラー様を統治面で補佐できる知識を身に着けてほしい。」

 

現実の戦いは、吟遊詩人たちが語るような綺麗さなど存在はしない。

 

斬り殺し斬り殺され、焼き尽くし蹂躙をし時には逃げ惑う敵すらも降伏を許さずに殲滅をする事もままある。

そんな惨い事をするのは自分達だけで十分だ。

 

「そうだな、ヒュンケルは利発そうだ。戦士は間に合っている、お前は知識で俺様を支えよ。」

 

ハドラーもバルトスの言外の考えを的確に読み取りヒュンケルに文の道を勧める。

ほんのわずか前の自分ならば、弱い小僧に何が出来るのかと捨て置いただろうが今は違う。

弱い子供を自分が育てればいい、誰にも負けぬ知識を身に付けさせ自分を補佐させるように育成すればよいだけだ。

幸い知識は魔界で貯めこんだ蔵書をマジックリングに収納をして指に身に着け穴を通っても、何一つ損なわれる事無く地上に持ってこれた。

 

「武で父バルトスが、知でヒュンケルお前が俺様を支えられる男になれ。」

 

騎士としては望まれずともこの日よりヒュンケルは時間があるときはハドラーに、

無い時はブラスとまではいかなくともそこそこの鬼面道士の家庭教師が付いた。

 

「まずは文字の読み書きを覚えろ、人間語・魔族語両方だ。」

「はい!」

「すべて難なく読み書きできるようになったら神族の古文書も読めるようにするぞ。」

「分かりました!頑張ります。」

 

ハドラーのスパルタともいえる英才教育にヒュンケルは耐えて勉学に励み、その様子をバルトスはハンカチで目頭を押さえながら陰ながら見守るのであった。

 

 

ふて寝に飽きたし日が高いうちにクロコダインの下に行ってハドラーの事をもう一度聞きに行った。

どうにもクロコダインの言っていた小物の情報とハドラーの情報が一致しない。

見た目やだみ声情報はあっていたんだが。

 

「ふむ・・・確かに俺がしつこいとぶちのめしたが、今思えばあまり手ごたえはなかった気がする。」

 

仲間になれと再三再四言われて、断るの面倒になって右腕を思い切り振り上げてぶちのめした割には衝撃は軽く感じられた。

その後相手はそれで諦めたのか直ぐにキメラの翼で立ち去ったのでさして気にも留めなかったがルイ―シャに改めて聞かれて思い出した。

 

「なるほど、相手は実力をほとんど隠したまま貴方に接触してきたわけか。」

「そうなるな、そうすると俺が弱いと感じたのもわざとか?」

「事を起こすまで仲間になるかどうか分からない相手に実力を読まれたくなかったんだろうな。もしかしたら敵対する可能性もあるわけだから。」

「なるほど、真の実力を見てみたかったな。どんな勝負になるのか知りたいものだ。」

「相も変わらず戦い好きだな貴方は。もし負けたらどうするのだ?貴方を慕って集っている魔の森の全モンスターが怒って暴れ出されても困る。最悪私がすべて退治せねばならんぞ。」

「俺が死んでも、モンスター達がそうなったとしてもその時はその時だ。いちいち細かい事を考えていては楽しくなかろう?」

「勝手なものだな。」

 

この、これぞ明日をも知らん武人魂抑えてくれんかね。

今このライリンバー大陸はモンスターと人間との間が魔の森を挟んで境界線が上手い事作動していて絶妙なバランスで共存というか棲み分けられている。

子供の出生率はそこそだが、大きく育つまでに事故死だ病死だと大きくなるまでに六人のうち三人しか育たない。

育ったとしても冒険者になって身の丈に合わない探索で命を落とし、疫病が流行って死ぬこともあるので爆発的に人口が増えることがないので森の開墾だ・開拓だのが圧倒的に少ないので何とはなしに人間の領地と魔物の住む地の暗黙の了解が感じられる。

田舎に行けば行くほど古老たちが幼子に近づいてはいけない洞穴や森の存在を言い聞かせているのがその証拠だ。

今後もぜひこのバランスを崩したくないので私は未来知識の薬を開発する気は毛頭ない。誰かが発見をして作るのは邪魔はしないが、率先して作らない。

外からの知識ではなく、この世界の誰かが作り、それで世界のバランスが崩れてモンスター達と本格的な生存競争に発展してもそれはそれで仕方がないと割り切る事にしている。

たとえそれで人間が敗北してもアルキードさえ無事ならばそれでいい。

つまるところ私がもっとも大切なのはアルキードで、さらに言えばソアラが父王なのは今も変わらん。

 

だからと言ってそれは私が死んだ数百年後にしてくれ。それまでには大魔王バーン迄倒しておくから、バランス崩されてバーン大戦を面倒な事にしないもらいたいものだ。




そろそろハドラー大戦起こさせるべきか


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23

大戦前のこそこそ話


「なぁアバン。近頃さ、なんかやばくね?」

「ロカ、貴方の長所は物事の本質をズバリと言えることですが、流石に色々と省かれすぎて何を言われているのか分かりませんよ。」

 

夕暮れ時のカール王国の兵舎の一室にて少しくたびれ果てたロカがテーブルにだらしなく体を伸ばして目の前に座っているこれまたおなじくらいにくたびれているアバンに愚痴ろうとしていた。

 

「だってさ、モンスターの凶暴化は留まることを知らずに、昨日まで大人しかったスライム達も襲ってくんだぞ?間抜けな面して昼寝してたやつら迄・・」

 

ロカは言い募りながら段々と声を落とし、遂には突っ伏して黙り込んでしまった。

ここ半月はそんな感じの襲撃で騎士団も魔法師団も休めずに連日の討伐隊で大わらわしている。

だがロカは好きでモンスター達を倒しているわけではない。

この男は見た目こそ厳つくぶっきらぼうでデリカシーに少々欠けているところがあるがその辺の者よりも繊細な心を持っている。

 

ロカの言う通り日に日にモンスター達の襲撃の頻度が増している。

それこそ大人しく、天気のいい日は街道の横で涎を垂らして昼寝をしていて、中には餌付けで村の子供と仲良くなってしまったスライム達が目をいからせ制止の為の怒声や威嚇にもひるむことなく襲い掛かって来る。

 

「あの子たちを殺さないで!」

 

討伐の為に守りに行った村の子供の言葉がロカの耳から離れず苦悩し、それでも村を守るために襲撃に加わっていたスライム達を倒したが心は晴れずにもやもやが溜まっていっているのをアバンも本当は分かっている。

 

一体この異常事態を引き起こしている原因はなんであるのか。

 

アバンだとて座して今世界各地で起きている異常事態を静観しているわけではない。原因を突き止め、自身で解決できないか、それが無理でも沈められる手立てがないかを寝食の時間を半分削って調べている。

王立図書館の文献や、それに匹敵する学者の家・知識の宝庫と呼ばれているジュニアール家に代々受け継がれている古文書を漁ってみたが、群れの異常繁殖・毒草やそれに類するものを口にしての集団錯乱などの記述以外で、モンスター達の凶暴化についての事例は見つけられなかった。

 

世界各地で起きている事に当てはめようとしても無理があり、独力では限界であることをアバンは察しているが、如何せん王国を守りながら原因を見つけるなど土台無理な話である。

 

きっと今起きている事はそんな片手間で突き止められる程生易しいものではない

 

そんな予感に、アバンは一人震える夜を幾日過ごしたかもう覚えていない。

 

近頃はどの街も村も、それこそ王城内でも寄ると触るとモンスター達の襲撃話で暗い影が落とされている。

 

「山奥からドラゴンの鳴き声が聞こえたとか。」

「普通の木だと思って切ろうとした木こりが、実は人面樹で食われかけたとか・・」

「魚たちも逃げてしまったのか漁に行っても穫れんよ。」

 

溜め息と遣る瀬無さが国を蔓延し始める。

これこそがハドラーの狙いである。

 

地上は今まで人間たちによる争いしかなく、魔王が現れればその強大な邪気によってほぼすべてのモンスター達が凶暴化をして魔王の手下になり人間達に牙を剥く。

残念ながら魔界からの侵攻は五百年前が最後となり、その時の事を詳細に記した文献は全て散逸してしまい、歌物語の勇者と魔王の戦いもひたすら勇者を美化した楽しいお話と成り果て、短命な人間の記憶は全て風化してしまい、アバンにも調べる手立てがなかった。いや、無い状態になってしまっていた。

 

魔王ハドラーは強運に見舞われている。

モンスター達の凶暴化から足が付き、魔王を探し出して討伐しようとされる恐れがこの時代では全くないからだ。

宣戦布告と同時に各地のモンスター達を一斉に襲わせれば各国は恐怖で大混乱になり勝つのはたやすいかもしれない!

 

・・・いや、慢心はよくないな。

あの奇妙なさまよう鎧もどきは魔王の存在を知ってしまっている。

だがその割には人間達が自分を知った様子はなく、偵察のために目の前の王城・パプニカの城に潜ませたズバット達の報告では、襲撃に対処しても原因は分かっておらずに根本的な対策が取れずに連日答えの出ない会議をしていると言う。

 

あのみょうちきりんな鎧もどきの中身は人間のはずなのだが。

それに気がかりな事はまだある。

各地で順調にモンスター達が凶暴化しているように見えるが-とある三国-で凶暴化が一切見られないと方向が上がってきている。

一体なぜなのだ!!

 

「一体なぜなんだろうね~ミスト。」

「・・・・・」

「地上に出て来て孤軍奮闘で頑張っている健気な魔王君の邪気が及んでいない国が三つもあるじゃないか。」

 

死の大地の奥深くにて、死神キルバーンは親友の無口参謀ミストバーンにお茶を淹れてもらいながら優雅に足を組んで、今の地上の状況を目の前に立っている親友と自分の左肩にちょこんと座っているピロロに話していた。

 

「どこの国の事を言っているのキル?」

「いいかいピロロ、今上は大騒ぎになっているけれど残念ながら全部じゃない。

一つはロモス王国。まぁここは何となく分かるね。あそこにはバーン様とミストが目を付けている天下の獣王君の縄張りだから、彼の強さが健気魔王君の邪気をはねつけているみたいだからね。

彼を仲間にするのは説得するのに骨がいるそうだねミスト~。」

「・・・・」

「キル、後の二つは?」

「ん?あ~それがね、アルキード王国とテラン王国なんだよ。」

「そこにも強いモンスターがいて縄張りで守られているの?」

「いやそれがね、たしかにアルキード王国には神獣モンスターがいるんだけど、あれは性格が気紛れで配下達がどうなろうとも知ったこっちゃないを地で行っている奴だったはずなんだよ・・・・前にバーン様の命で仲間にしようと勧誘しに行ったとき確かそんな感じで周りに無関心で断ってきて、縄張り質にとろうとしたけど守る気ないから好きにしろってやる気零な奴だったよ。」

「ふ~ん?ならどうして混乱がないの?」

「そこなんだよね、テランに至っては聖母竜マザードラゴン信仰と竜の騎士の為の神殿があるんだけれどモンスターが凶暴化しないような浄化作用があるはずないんだよ。」

 

使い魔のピロロに解説をしながら時折紅茶を飲んでまた話し出すが、話せば話すほどロモス以外の二か国の謎が深まるばかり。

アルキード王国も、まして今この時期に国民に武装解除をさせたテランにも凶暴化と襲撃の混乱は一切訪れずに、精々他国では大変だ、自分達も備えなければいけないと感じている程度で日常生活に影響が見られない。

 

「この事をバーン様はどう見てるんだろうねミスト。」

「・・・・今はまだ様子を見られている・・」

「そう、まぁそうだろうね。これから起こる大戦は-僕たちが起こす大戦-じゃない。高みの見物で魔王君の活躍を見て今の地上の戦力を測るだけだもんね。」

 

バーンたちからすれば魔王ハドラーと言う男は実に都合のいい男であった。

 

実力はそこそこあるようで大戦を起こせば間違いなく世界中を巻き込み大混乱を引き起こせるだろう。

生物とは大混乱の中にあっても命の危機を感じれば真価を十全に発揮して対処する。自分達が生き残るために。

それは人間とても例外ではなく、バーンからすれば天から降ってきた・・いや、そもそも地上に行きたがっていたハドラーの目の前に地上に出られる亜空間の穴を人為的に開けたのは死神キルバーンの仕業であった。

地上に憧れ支配欲が強く実力の高いものとしてバーンの目に留まり、弱い者であれば本当に死んでしまう過酷な亜空間の穴をキルバーンが設定して開けて試験をし、見事ハドラーは合格をした。

 

だからと言ってハドラーには何の手助けもしていない。

今ハドラーが築きあげている勢力は間違いなくハドラーだけの力でなしえている。

もし大戦が起こりハドラーが勝利した場合は、ハドラーがすべての邪魔な勢力を一掃して人間達を無力化した後にハドラーを殺して地上界を一掃して魔界を浮上させる。

ハドラーが敗れれば助けて部下にする腹積もりだ。

 

その為にハドラー同様に地上を監視しているが、アルキード王国とテラン王国の謎が全く解けないでいる。

戦には情報は何よりも必要不可欠。

 

「なんとしてでもあの二国の謎を解きたいものだよ。」

 

キルバーンは長話で冷めてしまった紅茶を美味しくなさそうに一気に流し込み、獲物を狩る冷たい瞳で言い放つ。地上界全てが大混乱していないのは自分にとっては詰まらない。阿鼻叫喚の地獄絵図が見られると思ったのに何かが邪魔をしている。

邪魔ものは全て死神の大鎌で摘み取るべきだ。それが人であれ事象であれ。

 

 

「そろそろ大戦始まるか・・・テラン助けてるけど大丈夫かな?」

 

ハドラー・バーン達を悩ませている二か国の黒幕ことルイ―シャは現状このままでいいのかほんの少しだけ考え込む。

 

テランの王様大好きだ。落ち着いた老紳士で、理想にも共感できるところが多々ある。一般人が武器持つのは好ましくないだろう、喧嘩したければ素手で殴りあえ武器持つな。

その代わり民達は王国の兵士が守ると本気で考えている熱いハートに惚れてしまってこっそり破邪結界をテランに細工して施して上手くいってしまったんだなこれが~。アルキード王国は強いからいいけどテラン下手に目を付けられて攻められたら壊滅の憂き目にあうのは嫌だな。

 

「国王陛下~。」

「・・・」

「ん?陛下。」

「・・・お父様じゃぞルイ―シャ。」

「・・・・仕事なので陛下、お隣のテランに緊急事態になったらうちから援軍出して国境無条件で通してもらえる条約結んでほしい。」

「は?藪から棒に何を言っとるのだ?」

「あそこ今武器が(国民達は)ほぼ持っていないようで碌な武装してないらしいので・・」

「なんと!あい分かった!!儂に任せておけルイ―シャ。隣国は助け合ってこそじゃ!おーい宰相!」

 

うん、世の中素敵な父様を持った奴が勝つんだな。

たったの二日でテランと助け合い条約結べちゃったよ。

これでテランも大丈夫。




様々なところの裏話
ようやく大魔王ファミリー出せました( ´艸`)


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24

フラグたても前説明も何もなく突然で説得力に欠けると思いますが、原作でかなりな重要人を三人出します。


大戦始まるカウントダウンが始まってはいたが、まさかさっさと始まるとは思わなかった。しかもこんな形で始まるだなんて。

 

-人間どもに告げる

我が名は魔王ハドラー、魔界より来た魔王なり。

我はこの大地全てを我が物とせんと人間すべてに宣戦布告を発する。

全ての王侯貴族我が前に屈さぬ限り進軍をやめる事はない。

無駄に命を落とさずに速やかに降伏する事を願おう。

進軍は明日の正午より始める、もし降伏するのであれば城の物見の塔の最上階に白旗を掲げよ。

蹂躙する事無く略奪せぬことを魔王ハドラーの名の下に誓う。

それでも抵抗するとあらば一切の容赦はしない-

 

 

 

・・・・なんだこの男前で正々堂々とした宣戦布告文は。あいつ絶対に小物魔王じゃないだろう。

 

「ルイ―シャ様、敵を褒めてどうなさいますか。。」

「しかし宰相、これ見ているだけで相手の為人がにじみ出ているだろう・・・うちで官僚してくんないかな?」

もしくわ私の婿殿になって共同統治してくれたら物凄く嬉しいぞ・・・とは心の内に秘めておくのが大人な対応だな、うん。

 

「・・・ルイ―シャや、流石にこれは拾って来たら駄目だぞ?」

ぎっく

「ははは・・・流石に魔王は・・・ははは・・・」

 

父様鋭すぎる!

 

うちはこの通りほのぼの崩していないが他国は右往左往してんだろうな~。

 

今朝がた魔族より血の鏡通信来たと言っとき慌ててたけど、内容を私がさっくりと翻訳すれば大臣達一同も落ち着いたもんだ。

 

まぁ、うちは来るなら来いで固まっているからな~。

 

「ルイ―シャ王太子殿下、モンスター軍に不調は?」

「ん?みんな私の支配下に入っているから凶暴化の兆しは変わらず零だ。

とは言え油断なく行こう。飛行系モンスターを物見砦に配置して、いつ敵が来ても五十キロ当たりで分かるようにしておく。」

 

あいつらは鳥目だとかないから助かる。大戦終わるまで昼夜問わずでこの作戦は続行させて、自国は守り切れる。

いざとなれば国民全員を城下町に避難させて、カーバンクルの広範囲バリアで包んで守って敵を迎撃すればいい。田畑荒れても命あってこその物種だ、その為の蓄えも十二分にしてある。

大規模農業に沿岸まで行かなくとも魚が穫れるようにしておいた、海はボラホーンを部隊長にして沿岸警備させて、いざとなればグラスゴー・・・出したら災害クラスの被害出そうだからハドラー大戦ではやめておこう。

 

「装備類の類で不安な点は?」

「武具の装備から回復薬までおよそ一通り揃っていますな。アンデット系は我が国に来る公算は低いので聖水も足りるかと・・」

「昼間はそうでも夜間の急襲時に来ないとも限らん。質よりも物理的な数で押してくるかもしれないから今ストックされているものは大事に使え。」

「聖水の類の量を増やさずに?」

「今他国もその事で大わらわだろうからな。アルキードは幸いというかなんというか・・・モンスターの凶暴化がない分他国よりも楽をさせてもらっておる。

その分を物資を他国に回すことで助け合おうと思うのじゃがどうかなお前達。」

「は!国王陛下の言う通りかと。」

「我等には神の加護があると言っても過言ではない程恵まれていいるのは事実。なれば国王の御心のままに。」

 

サクサクと父様が対策会議を進めてくれている。この辺は本当に頼もしいな。

 

 

「と言う訳で明日から大戦が始まるぞクロコダイン。」

「・・・それを俺に言っていいのかルイ―シャ。」

「どうせ戦になればすぐ分かる事だ。お前は今以上にロモスの迷いの森のモンスター達に対する影響力を増しておいてくれ。大戦終わるまで森から一歩も出すなよ、でないと容赦なく斬るぞ。」

 

機密事項のへったくれもなく、ルイ―シャは自国の対策会議は大丈夫だと見てさっさとクロコダインの下に全移動で飛び、ハドラー大戦の開始を告げる。

ざっと見積もってこれから二年。その間迷いの森を掌握しておけとクロコダインに発破をかけるために。

 

「さて、私は他にも伝えに行くところがあるからこれで帰る。」

「忙しいのだな。」

「なに、他の国に比べればうちは楽している方だ。いざ来ても勝つ公算もついている。」

「まったく、お前の下に行く軍にこそ同情したくなる俺は間違っているだろうか?」

「ふん、確かに貧乏くじ引いたようなものだ。誰一人返さんよ。ではな。」

 

伝える事を伝えると、ルイ―シャはさっさと次のお知らせ相手の下に全移動で飛ぶ。

 

「お~い、ザボ爺いるか~?」

 

リンガイアの人どころか飛行モンスターも来ることは無い一年中雪に閉ざされた人外魔境な山の洞窟に躊躇いもなく入り、中の住人に一声かける。

 

ボラホーン退治の後に、もっと面白いモンスターいないだろうかと一人で徹底的に探索して見つけた洞窟に住んでいたのは魔族の老人であった。

 

「喧しいの~、大声出さんでも聞こえておるわ。」

 

ルイ―シャの呼び声に奥から出てきたのはルイ―シャの半分ほどの小柄で華奢な老人、ザボエラであった。

 

「ザボ爺、さっさとうちに来い。明日から魔界から来た魔王が大戦始めるって言ってたからドンパチ始まる前に。」

「ふっむ、確かハドラーとか言ったの。儂の半分しか生きていない若者じゃったかな。」

「ザボ爺の耳は本当にいいな。うちに来れば神獣モンスターの生態から国上げてのバックアップ付きで魔道・魔法・薬品の類の研究を戦火に怯える事無く平和にしたい放題できる。」

「それはここでも可能じゃろう。」

「三食出すし、功績に応じてお金出して凄いものはザボ爺の名前で発表して名声も思いのまま手に入るぞ。」

「んむ?それは・・・欲しいの~。」

「だろう、そうしろ。」

 

ザボ爺見つけた時はこいつ斬っておくかと速攻処分しようとしたけど今生きて私に勧誘されている。

 

生かすメリットはじき出したら意外と高かったからだ。

この人の知識喉から手が出るほど欲しい。うちにはモンスター軍があるから蘇生装置アルキードで開発してくれたら万々歳で、その他にも腹黒い知略戦出来るし外交の陰のドンになれそうだし、取り込むメリットは多々ある。

 

え?大魔王の勧誘受けてそうで原作の屑ダニ生かすのかって?

 

そんなことは知らんな~。話聞いてみれば独自で魔界を行き来できる空間安定装置作って往復して、魔界では手に入る事はまずない貴重な薬草収集して魔界で一旗揚げる-予定-らしい。

という事はまだ魔界では名前が広まっていないのかと突いてみれば、激怒して程なく広まると言っていた。

 

マジかい、まだ大魔王のお手つきでないのかと速攻で勧誘して今日まで至る。

これ以上は四の五の言わさず誘拐するか。

 

時折父親の身を案じるザムザが来て面識もある。

リラックスさせるお茶飲ませて愚痴聞いて、大魔王の陰が無い事は裏取った。

しかも名声欲・自己承認欲求に囚われる一歩手前らしく、まだあの屑ダニにまでは墜ちていないが先々が不安だとも嘆いていた。

 

承認欲求なら人界でも受け取れる、お金も払うからうちに就職するように言ったらザムザに-こいつなに言っているんだ-とあり得ないもの見る目で見られたけど、粘って粘って交渉したら、父が行くと言えば自分もと言質はとってある。

 

今まで非道な研究してきたらしいが私の知った事ではない。アルキードに来たらさせないが、ある程度の治験はさせられる。

処刑前の重犯罪者、これから始まる大戦でとらえたモンスター等数には事欠かん。

 

「分かった、その話受けよう。愚息付きだが本当に良いのか?」

「なに、うちには第二王女にモンスターの護衛つけたり、軍団もあるからな。とはいえ大戦終わるまで日の目を見せてはやれんぞ。その代わり功績上げた時に-ザボエラ-の名前で広めるから励んでくれ。」

「そうか・・・儂の名が・・キッヒッヒ、これはチャンスじゃわい。」

「まぁ・・・ある意味そうだな。」

 

ザボ爺ちゃんの奴、悪い顔して笑ってるよ。

大方ハドラーを踏み台にして自分は善良な魔族の名声高めて人々の尊敬の念を一身に浴びる対策でも練ってるか。

 

ハドラーが猛威を振るい、その回復をザボエラがする図式。大戦時は正体明かせなくとも、終わって復興の最中希望の光を探す中で実はと明かせば、傷ついた人達は縋りつき、良き隣人として受け入れそうだ。

その後どう自分が人間社会に受け入れられるかの算段までしてるんだろう。鋭敏な頭脳で相談役でも狙うかね?

 

「そしたら今からここを引き払う、この-鞄-に全部入れてくれ。」

 

鞄に無限収納の機能つけているから引っ越し業者は不要だ。

 

「便利なもんじゃのうそれは。」

「流石これは上げられないぞ、魔界の装置どうする?」

「愚息を今呼び出している。それが済んだら徹底的に破壊する。」

「・・・・いいのかそれって?」

確か半生掛けて作ったものだって言っていた物なのに。

 

「ふん、人間も魔族も中身変わりはせん。疑り深い奴はどこにでもおる。」

「成る程、魔界の大実力者のひも付きだと疑われない為に背水の陣引くんだ。」

「まぁの・・・儂も今回の大戦引き起こした若者の気持ちは分かるんじゃよ。日の恵みなき土地で終生を過ごす・・・・それはごめんじゃよ。」

「ふ~ん・・・なら奥方とも初対面できるのか。」

「は?なぜじゃ?」

「いやだって、ザムザ来るなら奥方も。」

「ふむ、言っていなかったの。あれはザムザを生んだ後に儂の研究資料を全て盗み出して売り払いおった。」

「マジ!」

「うむ、その為に儂自らの手で葬り去った・・・・あれ以来二度と他者を信じまいと思っておったんじゃがの、お前さんの珍妙さには少しくらいなら信じてやってもよいと思ってな。」

「それなら安心しろ。そちらが裏切らん限り私は裏切らん。やるだけ面倒だ。」

「そうじゃろうな、おぬしの様な強者はそんな事せずとも目的は果たせよう。愚息共々世話になる。」

「こちらこそよろしく頼むぞザボ爺。」

まぁ万が一もうバーンのお手つきであった場合は息子共々問答無用だがな。

 

 

「今日から同じ勧誘仲間だ、ここでの生活の仕方教えてやって欲しい。頼んだぞロン。」

「お前な!俺は鍛冶屋で案内係じゃないんだぞ!!」

「良いだろう、少しくらい同郷のご老人敬って教えてやっても。大戦終わるまでお互い日陰者の身なんだから仲良くしてくれ。」

「・・・お前は本当にろくでもない奴だ。」

「知ってる、それよりも合金出来そうか?」

「自分のろくでなし認めてすぐに仕事の話って本当にお前は・・あと一歩だ。」

「ルイ―シャ、この者は?」

「ああ、ザボ爺この人はロン・ベルクだ。」

「ロン!!あの魔界の名工と名高い・・・」

「よしてくれ爺さん、自分の欲しい武器一つ作り上げられない鈍ら鍛冶屋だよ俺は。」

「鈍ら・・・」

 

ああ、ザボ爺嫉妬の目をロンに向けちゃったよ。名声欲しい儘にしている人物の謙虚さって欲しい者からすれば鼻につくわな。

 

うちの良質な鉱山に誰か忍び込んでいると報告を受けてハルバルトの奴が出向いて死闘の末に周りのサポートで崩して最後はラリホーマをハルバルト入れた五人の術者でかけて漸く捕えたってこいつどんだけバケモンなのって思ったわ。

 

剣も鍛冶も一級品で、魔族だからと追い出すのは勿体ないので頭を再三再四下げて、欲しい材料に不自由させない、なんならハルバルトや騎士団と毎日模擬戦しても良い、殺してしまっても構わん迄つけたら受けてくれた。

 

「俺が居たい時まで居てやる。」

 

ようは飽きたら出ていく宣言してきたがこちらも構わん。

惜しいであってもどうしてもではないから好きにしろと言って城の離れに工房作ってやってもう一年近くだ。

 

合金依頼は済み始めて二月目に出した。多少性能劣っても、鋼の剣を全下級兵士に持たすべく、本格的な鋼の剣よりも鉄の分量多めにして大量生産できんだろうかと打診したらしばらくは断られた。そんな鈍ら作れるかと。

 

銅の剣よりも下級兵士に持たせて生存率上げさせてやりたいと頼み込んで受け入れてくれてそろそろ半年たつ。目途はついたようだ。

混ぜ過ぎず、折れずらく、使用者の事をきちんと考えてくれる人が鈍らな者か。

ザボ爺も発明者として重なる部分あるだろうから大いに研究に励みあってくれ。

 

こっちは明日から大戦で忙しくなる。




鋼の剣調べたところ、あるものに混ぜ物をするか、反対に不純物取り除くかの製法が出て来たので、ここでは混ぜる方で出しました。

ザボエラ親子とロン・ベルクは早々にルイ―シャ陣営に入ってもらいました。
順次様々の者達にも入っていただきます。


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25

・・・・割と主人公が外道な事しますがご容赦を。


大戦が始まった。

 

そう聞けば大抵は悲惨な世になっていると想像されるだろう。

村々は容赦なく襲われ人間達は情け容赦なく蹂躙され皆殺しにあい、逃げた者達が心の疲弊から自暴自棄になり逃げた先で騒ぎを起こし、まさに終末の様相を呈した地獄絵図の幕開けだと・・・・予想したともこの私も。

 

物凄くその予想は外れたがな!

 

何なのだあの男前すぎる魔王ハドラーは!!

襲撃前に村に降伏するか逃げるかの選択を与えてから丸一日待って攻撃するってどんだけ紳士的戦争するつもりだあいつは!!

なに?小物感満載な原作ハドラー行ったの?なに?あいつ統治した方が物凄く良い国作れるんじゃないか?

何でこんな事になった!おかげでカール襲撃あっても城に行って王女様攫うイベント発生しないからもれなくアバンが勇者として目覚めて旅立つイベントも発生しないじゃないか!!

ハドラーの馬鹿者が!!!これじゃあ人類の希望誕生計画が始まる前から水泡に帰すわ!!!!!

 

 

「ぶえっくしょん!!」

「ハドラー様!お風邪ですか?直ぐにお休みを・・」

「良いヒュンケル、ただのくしゃみだ。それよりもお前が立案した人間達への事前通告のおかげで順調に侵略が進んでいるぞ。」

「それは良かったです。無駄に人を殺してしまったら一致団結して手強くなりますが、家財道具も持って逃げられるとあればそこまで恨みつらみもなく上がらずに-仕方ない事だ-と諦めだけで終わってくれるでしょう。」

「ふん、人間とは不思議な者だな。己の居場所を追い立てられれば魔界の者達はそれっだけで抵抗するぞ?」

「生きていれば、この地のどこかで生きていけるので命が掛かっていなければそうしたものかと思いますよ人間とは。」

「そんなものか、暢気な者だな人間とは・・・とはいえ王侯貴族共はそうもいかんようだがな。あ奴らはその国が存在しなければ生きていけんからな。」

「・・・・僕はそこらへんが分かりません。この地上は大抵の所であれば田畑を作れて生きていけるのに。」

「そうか、あ奴らにはそんな発想はない。それをすれば落ちぶれたみっともない者となりそれくらいならばいっその事相手諸共死んでやるくらいの句だらんプライドで出来ているからな。」

「生きていればこそ・・・・とか思えないのでしょうか?ハドラー様は降れば王侯貴族の当主達でも殺さないと言ったのに。」

「自分達がそうしないからこそ相手の言っている事が嘘に聞こえるのだろうな。

まぁ、魔界においても俺がしようとすることをやる輩は誰もおらんだろうから分からなくもないがな。」

「ではどうしてあの降伏宣言を?」

「そうして降伏してくれた方が楽だし、飼い殺しにする算段もできていた。

人間の統治の席には傀儡王でも立て裏で操り、行政だのなんだの面倒事は全て押し付けるつもりだったのだがな・・・儘ならんものだ。」

 

ルイ―シャが怒鳴るほどの男前の作戦を立案をしたのは齢たった六歳のヒュンケルであった。

彼は人間である事を卑下するのではなく、人間であるがゆえに同族の心理を徹底的に学びつくす為に一年を人間社会に溶け込んでつぶさに学び、どこまですれば人間は怒り狂い恨みつらみを持つのか、持たずに諦めの境地で止まるのかをデストロールとは思えない慧眼・洞察力を持つガンガディアと共に共同研究をして今に至る。

 

人間の怒り悲しみや悲しみを引き出すために家畜を襲い、時には人間を襲いもし

様々な面を多角的に徹底的に調査した。

 

その指揮を執ったのがヒュンケルであり、武力では他の者達がいるなら、自分は人間である特性を伸ばそうと天才謀略者の誕生であった。

 

おかげでハドラーは労せず無人の村を拠点化し、田畑も無傷で手に入り食料調達もできた。

今は国の中枢から一番離れた端から狙っている。一日ではきゅ遠洋性が届かず、仮に伝書鳩や狼煙、珍しくキメラの翼を持って備えている村があっても、救援の軍は間に合わず罠を張っての待ち伏せ警戒をして出すことはまずないと踏んで。

 

人間の心理を突いた事はヒュンケルは考え、具体的かつ緻密に練った作戦をハドラーが立てていき、それは非常にうまく行っている。

 

仮にハドラーが直接襲いに行かずとも、地上のモンスター達はほぼすべてが共謀し勝手に暴れてくれているので軍もそちらに手を焼き端っこの村まで手が回らないのが現状だ。

 

忌々しい事はすべてうまく行っているわけではない。

一度だけパプニカ城迄襲撃しようとしていつも通りに宣戦布告を発して攻め上ったことがあった。

ガーゴイルやドラキー等飛行モンスターがパプニカ上空を埋め尽くし、空と陸両方から行かせたが、あと一歩と城下町に入れる平原迄パプニカ軍を蹂躙していたところに大軍団が突如として湧き出て進行中の軍団の横っ腹を疲れ壊滅させられた!!

 

半月前のパプニカは、まさに王都存亡の危機に陥った。

宣戦布告と付随された降伏勧告をパプニカ王は受け入れず、国に配備している三分の二の軍団を終結させ、敵が来るであろう邦楽の五十キロ先で展開をさせて待ち構えた。

首都が落ちればこの国は獲られるのが分かっているのでほぼ総力戦で挑んだが、空中からの攻撃支援と地上からの攻撃の二段構えの攻撃に次第に騎士・魔法使い。賢者達も押され、敗走を余儀なくされ追撃が迫り、誰もが死を覚悟したその時

 

 

「うぉおおおおおおおおおお!!!!」

「蹴散らせ!!!」

「一平残らず余さず殺し尽くせとの総大将様のお達しだ!!!!!」

 

平原の横手の森より大歓声とともに大量のイオやメラ系の爆裂・火炎呪文が敵の中央に炸裂し分断させ、前後に分かれた前後と間に騎士団の大軍勢が軍馬を駆って襲い掛かり地上のモンスター達を瞬く間に蹂躙していった。

 

何が起こったか、それは敵・味方双方が思う程の大群が一体どこから・・・否!どうやって出現をしたの!!

確かに平原にはパプニカ軍以外の気配はなく、仮に気配を殺していたとしても偵察隊が気が付かぬはずはなかったのに!

 

以降はドラーは首都攻めは一旦置いておき、手に入れた村々の統治と田畑の育成をさえないせいに力を入れている。

 

程良きところで止めて、国が軍を出して奪還すべきかどうか判断に苦しむギリギリのところで止め置いて。

 

「少し・・・・戦は長引くかもしれんな。」

 

コツコツとしているのだからそれも仕方がないが、地上全てを欲するのならばその位の展望をもってするべきだと自分は学んだ。

何せこの地上には、あのさまよう鎧もどきの様なとんでもない実力を有したものがいるのだから、このくらいの用心はしてしかるべきだろう。

 

 

 

「ふえくっしょん!!」

「わ、どうしたお姫さん、鬼の霍乱か?」

「・・・・五月蠅いぞマクシミリアン。それより今の所切羽詰まった救援要請来てないから修練に励んで来い。」

「あのパプニカ一件以来大規模展開して来ないか・・・・やりすぎたか?」

「構わん、一撃必殺の構えで潰せと命じたのは私だ。」

 

半月前のパプニカ平原での決戦を潰したのはアルキードの騎士団と魔法騎士団双方の仕業であった。

鏡通信があってすぐ、パプニカ王は無傷かつ魔法騎士団を有しているアルキードに助けを求め、アルキード王はそれを受け入れた・・・・ルイ―シャはいまいち乗り気ではなかったが。

 

ここで一国が落ちれば魔界からの敵の恐ろしさが人間社会に骨の髄まで沁みとおり、ハドラーが敗れ撃退されても原作の様な平和ボケにはならんだろうと算段を付け、どうしようか天秤に掛けそうになったその前に愛天使・ソアラがつぶらな瞳で姉姫に言葉を掛けた。

 

「お姉様ならあっという間に悪い者達を倒してくれますね。」

 

もう完全に援軍を送り、パプニカをルイ―シャが救う図を心に描いたソアラのつぶらな瞳で発せられた言葉にルイ―シャは何も考えず、自分に任せておけばその通りだと安請け合いをし、マクシミリアンに命を下して平原決戦に割り込ませた。

 

騎士団・魔法軍団の出現はある意味チート的なアイテムのおかげであった。

 

「モンスター達を入れる筒に人間を入れられるようにしたぞ。」

 

魔界の大発明者・ザボエラが息子ザムザとアルキードの魔法天才児ハルバルトと共同開発をして大戦二か月目で開発した本当にチートアイテムを完成させた賜物であった。

 

「あの爺様はすげえお人だ!俺弟子にしてもらうんだ!!!」

 

自分以上の魔法・マグの天才に出会って感激したハルバルトはザボエラに惚れ込み弟子志願をし、下にも置かない扱いをしてくれるハルバルトをザボエラも目に掛け日夜様々に実験をして生まれたのが新筒であった。

 

銃犯罪者たちで実験を重ね百人近くで出し入れしても死ななくなり、二百人当たりで体の欠損もなくなり更に他国の処刑犯罪者も引き取り三百人で完璧になり認可が下りて先の決戦で使用した。

元々ザボエラが持って来た大量の筒を改良したもので五百人規模の大軍はマクシミリアン一人がパプニカの森に待機し身を潜め、敵が少しばらける辺りで五十ずつデルパを唱え作戦成功を収めた。

 

それ以降大規模な展開はなく各国とも被害はあれで危機的状況にはなっておらずどこの国からも勇者らしき人物が立ち上がる気配がない。

 

 

不味いなこれは、仕方ない。

 

 

 

 

業を煮やしたルイ―シャは、ある日カール王太子を死なないが当分戦に出られない手足をマヒさせる毒を飲ませ王女フローラを攫いハドラーに罪を擦り付ける暴挙に打って出た。

 

毒は一年経てば自然消えるザボエラ印で、フローラも安全は保障する。

 

全ては怒りに満ちたアバンに勇者として旅立させる為に




うちの主人公目的の為ならば同族意識は皆無です・・・・


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