東方剣舞 (kuroto xanadu)
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四季黒刀

CV:松岡禎丞(ソードアートオンライン キリト)

種族:人間

オーラ:気力・魔力・霊力

属性:闇・雷

スキル:千里眼→覇王の眼、破壊王の鎧、超反射、集中、威圧

バトルテーマ曲:Sword&Soul(ソードアートオンライン)

必殺技等:

サムライモード

ザナドゥモード

カオスブレイカー

気力解放

霊力解放

四季流剣術 零の段 無月

四季流剣術 壱の段 一騎当千

四季流剣術 弐の段 一閃

四季流剣術 参の段 霧桜

四季流剣術 四の段 龍刃竜巻剣

エナジードレイン

四季流体術 大和魂→大和魂 改

ゾーン

オーバーリミット

ガードブレイク

覇王の盾

カオスブラスター

電光石火

パーソナルフィールド ザナドゥ

 

魂魄妖夢

CV:花澤香菜(とらぶる 結城美柑)

種族:人間

オーラ:気力

属性:光

必殺技等:

妄執剣 修羅の血

妄執剣 修羅の血弐式

気力解放

閃光斬撃波→閃光斬撃波 改→真 閃光斬撃波

旋風剣

断名剣 冥想斬

空観剣 六根清浄斬→空観剣 六根清浄斬 改

ゾーン

パーソナルフィールド ソメイヨシノ

桜花剣 夜桜

桜花剣 爆炎桜

転生斬 円心流転斬

 

四季映姫

CV:伊藤静(ハヤテのごとく 桂ヒナギク)

種族:人間

オーラ:気力・霊力

属性:闇

必殺技等:

気力解放

シャドーインパクト

ロイヤルナイトモード

四季流剣術 壱の段 一騎当千

四季流剣術 弐の段 一閃

影姫モード

 

博麗霊夢

CV:佐藤利奈(とある科学の超電磁砲 御坂美琴)

種族:人間

オーラ:霊力

属性:?

必殺技等:

霊力解放

夢想封印

夢想天生

 

霧雨魔理沙

CV:高垣彩陽(戦姫絶唱シンフォギア 雪音クリス)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:光

バトルテーマ曲:TRUST HEART(戦姫絶唱シンフォギアGX)

必殺技等:

魔力解放

マスタースパーク

ファイナルマスタースパーク

ファイナルマスタースパークムーンライト

マスタースパーク スプラッシュ

 

チルノ

CV:悠木碧(戦姫絶唱シンフォギア 立花響)

種族:妖精

オーラ:霊力

属性:氷

バトルテーマ曲:限界突破G-beat(戦姫絶唱シンフォギアGX)

必殺技等:

アイスニードル→アイスニードル 改

アイスシールド→アイスシールド 改

ソードフリーザー

霊力解放

グレートクラッシャー

トルネードグレートクラッシャー

極大霊術 絶対零度

ドライジェット

ゾーン

氷精一閃

氷精連斬

 

大妖精

CV:井口裕香(戦姫絶唱シンフォギア 小日向未来)

種族:妖精

オーラ:魔力・霊力

属性:光

 

河城にとり

CV:沢城みゆき(ソードアートオンラインⅡ シノン)

種族:人間

オーラ:?

属性:?

バトルテーマ曲:SOLITARY BULLET(ソードアートオンラインⅡ)

 

小野塚小町

CV:上坂すみれ(中二病でも恋がしたい 凸守早苗)

種族:人間

オーラ:?

属性:?

 

八雲紫

CV:山口由里子(ONE PIECE ニコ・ロビン)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:闇

 

八雲藍

CV:世戸さおり(ストライクウィッチーズ 坂本美緒)

種族:人間

オーラ:?

属性:?

 

西行寺幽々子

CV:能登 麻美子(CLANNAD 一ノ瀬ことみ)

種族:人間

オーラ:なし

 

 

アリス・マーガトロイド

CV:水樹奈々(戦姫絶唱シンフォギア 風鳴翼)

種族:人間

オーラ:なし

 

上白沢慧音

CV:日高のり子(タッチ 浅倉南)

種族:半妖

オーラ:?

属性:?

 

稗田阿求

CV:小倉唯(ロウきゅーぶ 袴田ひなた)

種族:人間

オーラ:なし

スキル:完全記憶能力

 

星熊勇儀

CV:小清水亜美(ストライクウィッチーズ シャーロット・E・イェーガー)

種族:鬼

オーラ:気力

属性:?

 

射命丸文

CV:大久保瑠美(プリティーリズム ディアマイフューチャー 上葉みあ)

種族:烏天狗

オーラ:気力

属性:風

 

二宮総一郎

CV:井上和彦(NARUTO はたけカカシ)

種族:人間

オーラ:?

属性:?

 

犬走椛

CV:野田順(BLEACH 有沢たつき)

種族:獣人族

オーラ:気力

属性:土

スキル:千里眼

必殺技等:

狼牙

気力解放

 

ミスティア・ローレライ

CV:岡村 明美(ONE PIECE ナミ)

種族:獣人族

オーラ:なし



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キャラ設定2

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比那名居天子

CV:川澄 綾子(Fate/stay night セイバー)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:火

魔力解放

烈火

極大魔法 天壌業火

天の火柱

炎神イフリートモード

 

東風谷早苗

CV:平野 綾(FAIRY TAIL ルーシィ・ハートフィリア)

種族:人間

オーラ:霊力

 

十六夜咲夜

堀江 由衣(DOG DAYS ミルヒオーレ・F・ビスコッティ)

種族:人間

オーラ:魔力

必殺技等

サウザンドナイフ

 

フランドール・スカーレット

CV:日高 里菜(とある魔術の禁書目録 ラストオーダー)

種族:吸血鬼

オーラ:魔力

属性:火

必殺技等:

魔力解放

ゾーン

インフェルノブレイカー

フォーオブアカインド

 

レミリア・スカーレット

CV:釘宮理恵(灼眼のシャナ シャナ)

種族:吸血鬼

オーラ:魔力

属性:雷

スキル:未来王の眼

必殺技等:

魔力解放

スピア・ザ・グングニル

パーソナルフィールド スカーレット

ライトニングアクセル

ライジングスピア

 

藤原妹紅

CV:高山 みなみ(戦姫絶唱シンフォギア 天羽奏)

種族:人間

オーラ:霊力

属性:火

バトルテーマ曲:メインテーマ FAIRY TAIL

必殺技等:

ブレイズキャノン

霊装 バーニングフェニックス→バーニングフェニックス 改モード

鳳凰の鉄拳

鳳凰の鉤爪

鳳凰の煌炎

鳳凰の咆哮

法王の炎肘

滅悪奥義 紅蓮鳳凰拳

 

七瀬愛美

CV:内田 真礼(ご注文はうさぎですか シャロ)

種族:人間

オーラ:魔力

スキル:魅了、魔女の手

必殺技等:

ストライクバスター

 

鈴仙・優曇華院・イナバ

CV:喜多村 英梨(ガールズ&パンツァー ダージリン)

種族:獣人族

オーラ:魔力

必殺技等:

爆裂弾

 

蓬莱山輝夜

CV:井上 麻里奈(インフィニットストラトス ラウラ・ボーデヴィッヒ)

種族:人間

オーラ:霊力

スキル:1000兆分の1の速度の世界

 

海道修

CV:喜安 浩平(テニスの王子様 海堂薫)

種族:人間

オーラ:気力

 

雪村氷牙

CV:石田 彰(機動戦士ガンダムSEED アスラン・ザラ)

種族:人間

オーラ:魔力

 

丸山千歳

CV:豊崎 愛生(けいおん 平沢唯)

種族:人間

オーラ:魔力

 

レティ・ホワイトロック

CV:三森 すずこ(探偵オペラミルキィホームズ シャーロック・シェリンフォード)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:氷

必殺技等:

スノーマン

エターナルブリザード

氷の鎧

アイスニードル

アイスグランド

 

五位堂光

CV:浅川 悠(Fate/stay night ライダー)

種族:人間

オーラ:気力

スキル:デーモン

必殺技等:

気力解放

デストラクションスラッシュ

オーガトマホーク

 

白金真冬=白雪真冬

CV:戸松 遥(ソードアートオンライン アスナ)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:氷

必殺技等:

雪月花

大雪原

吹雪

白雪姫モード

アブソリュートゼロ

 

越山流星

CV:宮野 真守(ウルトラマンゼロ)

種族:人間

オーラ:気力

属性:光

必殺技等:

シューティングスターアタック

 

六道仁

CV:柿原 徹也(FAIRY TAIL ナツ・ドラグニル)

種族:人間

オーラ:気力

スキル:野生

必殺技等:

ソウルナックル

リボルバーナックル

 

青葉泉

CV:大浦 冬華(遊戯王 ブラックマジシャンガール)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:水

 

北山圭

CV:勝 杏里(ダンボール戦機 仙道ダイキ)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:土

必殺技等:

ロックブラスト

ロックバズーカ

 

九条花蓮

CV:中原 麻衣(FAIRY TAIL ジュビア・ロクサー)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:風

必殺技等:

癒しの風

風壁

突風

竜巻

かまいたち

風爆

 

早乙女弓

CV:小野 涼子(FAIRY TAIL ミラジェーン・ストラウス)

種族:人間

オーラ:霊力

 

二宮優

CV:木村 良平(黒子のバスケ 黄瀬涼太)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:光

必殺技等:

ディメンションレーザー

イージスの盾

ハンドレッドディメンションレーザー

ハンドレッドディメンションレーザーW

ソニックレーザー

エンペラーモード

スターゲイザー

ソニックムーブ

 

風間翼

CV:阿部 敦(とある魔術の禁書目録 上条当麻)

種族:人間

オーラ:気力

属性:風

 

岩徹剛

CV:郷里 大輔(ドラゴンボール ミスター・サタン)

種族:人間

オーラ:気力

属性:光・土

必殺技等:

波動砲(一式~百式)

 

黒岩俊介

CV:堀川 りょう(名探偵コナン 服部平次)

種族:人間

オーラ:気力

 

知念

CV:山寺 宏一(ソードアートオンライン 茅場晶彦)

種族:人間

オーラ:霊力

 

大門金次

CV:杉本 ゆう(テニスの王子様 遠山金太郎)

種族:人間

オーラ:気力

スキル:スパイダー、野生

必殺技等:

通天閣大車輪落とし

 

四季大和

CV:諏訪部 順一(黒子のバスケ 青峰大輝)

種族:人間

オーラ:気力

必殺技等:

ソウルナックル

 

四季桜

CV:田中 理恵(機動戦士ガンダムSEED ラクス・クライン)

種族:人間

オーラ:霊力

 

一ノ瀬太陽

CV:石森 達幸(ONE PIECE センゴク)

種族:人間

 

洩矢諏訪子

CV:田村 ゆかり(魔法少女リリカルなのは 高町なのは)

種族:人間

オーラ:霊力

属性:水

 

八坂神奈子

CV:津田 匠子(FAIRY TAIL ポリシューカ)

種族:人間

オーラ:霊力



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キャラ設定3

モブは省きます
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風見幽香

CV:井上 喜久子(CLANNAD 古河早苗)

種族:人間

オーラ:霊力

属性:土

必殺技等:

霊力解放

火花

ローズニードル

モードチェンジ ダークネス

ラフレシア

 

霊烏路空=お空

CV:新井 里美(とある科学の超電磁砲 白井黒子)

種族:獣人族

オーラ:霊力

属性:闇

必殺技等:

霊力解放

カオスブラスター

 

古明地さとり

CV:南條 愛乃(戦姫絶唱シンフォギアG 月読調)

種族:人間

オーラ:霊力

必殺技等:

霊力解放

 

古明地こいし

CV:日笠 陽子(戦姫絶唱シンフォギアG マリア・カデンツァヴナ・イヴ)

種族:人間

オーラ:霊力

必殺技等:

霊力解放

 

封獣ぬえ

CV:大谷 育江(ポケットモンスター ピカチュウ)

種族:竜人族

オーラ:霊力

属性:闇

必殺技等:

霊力解放

覇王眷竜アンノウン・ドラゴンモード

ファントムブレス

ファントムウイングソード

 

ルーミア

CV:伊藤 かな恵(ソードアートオンライン ユイ)

種族:人間

オーラ:霊力

属性;闇

 

クロト・ザナドゥ

CV:小野 賢章(遊戯王ARC-V ズァーク)

種族:人間

オーラ:気力・魔力・霊力

属性光・闇

スキル:覇王の眼、威圧

必殺技等:

四季黒刀と同文

 

ドクターワース

CV:子安 武人(ソードアートオンライン 須郷伸之)

種族:?

オーラ:?

属性:?

 

博麗聖夢

CV:佐藤 莉奈(とある科学の超電磁砲 御坂美琴)

種族:人間

オーラ:霊力

オーラ:光

 

アルファ

CV:小田井 涼平(機動戦士ガンダムSEED オルガ・サブナック)

種族:?

オーラ:気力

 

オメガ

CV:優希 比呂(機動戦士ガンダムSEED クロト・ブエル)

種族:?

オーラ:気力

 

プロトン

CV:西川 貴教(機動戦士ガンダムSEED ミゲル・アイマン)

種族:人間

オーラ:気力

 

シン・ルゥ

CV:井口 祐一(FAIRY TAIL マックス・アローゼ)

種族:人間

オーラ:気力

 

ガンジー・コウ

CV:掛川 裕彦(ONE PIECE ジュラキュール・ミホーク)

種族:人間

オーラ:気力

属性:光

必殺技等:

閃光拳

閃光掌

千手観音モード

 

イ・サン

CV:野沢 雅子(ドラゴンボール 孫悟空)

種族:人間

オーラ:気力

属性:光

必殺技等:

竜巻旋風

真 波動砲

斉天大聖孫悟空モード

 

チャン・スウ

CV:置鮎 龍太郎(機動戦士ガンダムSEED アンドリュー・バルトフェルド)

種族:人間

オーラ:気力

 

ペ・ギョン

CV:景浦 大輔(FAIRY TAIL ワカバ・ミネ)

種族:人間

オーラ:気力

属性:水

必殺技等:

水牢

水鉛

水風船

 

グ・ヨン

CV:川鍋 雅樹(FAIRY TAIL マカオ・コンボルト)

種族:人間

オーラ:気力

属性:風

 

ユンスク

CV:小野 健一(ONE PIECE ドルトン)

種族:人間

オーラ:気力

属性:風

必殺技等:

風刃

暴風刃→暴風刃 改

呂布モード

 

ユセフ

CV:遠藤 大輔(FAIRY TAIL 兎兎丸)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:火

 

エメルソン

CV:下山 吉光(FAIRY TAIL アルザック・コネル)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:水・土

 

フランク

CV:白鳥 哲(FAIRY TAIL ザンクロウ)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:土・火

必殺技等:

フレイムランス

 

イヴォ

CV:寺島 拓篤(魔法科高校の劣等生 西城レオンハルト)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:水・土

 

ムハンマド

CV:稲田 徹(FAIRY TAIL ゼロ)

種族:人間

オーラ:魔力

属性:土



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大和外伝
前編


OP FAIRY TAIL 明日を鳴らせ

この物語は四季黒刀の物語でも魂魄妖夢の物語でもない。
四季黒刀の父 四季大和がまだ10歳の頃の物語である。


 2180年 四季家本邸庭園。

半袖シャツに短パンとラフな服装をしている四季大和(当時10歳)は庭園である人物と組手を交わしていた。

その人物とは…八雲紫(当時20歳)だった。

この頃の紫はまだ神光学園を設立しておらず四季家と友好関係を築く為にこうして交渉の傍ら大和の相手をしている。

 

大和が連続で拳を繰り出すも紫はそれを手のひらで受け流す。

大和にとっては修行だが紫にとっては遊び程度にしかならない。

大和は余裕な表情で攻撃を躱し続ける紫にムキになってさらに連続攻撃を仕掛ける。

紫はその連続攻撃さえも余裕で躱している。

 

「避けてばっかいるんじゃねえ!」

 

苛ついた大和が吠える。

 

「なら少しは当ててみれば?」

 

紫は澄ました顔で挑発する。

 

「この!」

 

挑発を真に受けた大和は右手の拳に意識を集中させた。

大和の拳が光り出す。

 

「!」

 

紫はその現象にほんの僅かだが驚く。

 

「(決まった!)」

 

大和は勝利を確信する。

大和の拳がそのまま紫の顎に直撃するかと思えたその瞬間、紫の口元が一瞬緩んだ。

紫は右手に持つ扇子を水平に振って大和の拳を弾くと左手で大和の手首を握って放り投げた。

 

「ぐ、うわあ!」

 

大和は声を上げて庭園の木の幹に飛ばされる。

 

「いって!」

 

木の幹に後頭部を直撃して声を上げて、その場で10秒程地面を転がって悶絶する。

 

「アハハ!惜しかったね~。」

 

紫はそれを見て高笑いする。

 

「くそ~今のは完全にいけたと思ったのに!」

 

痛みから復活した大和は頭を押さえながら悔しがる。

紫は扇子をバッと広げて口元を隠す。

 

「この八雲家当主八雲紫に勝とうなんて10年早いわよ。」

 

「へっ…おばさんのくせに…。」

 

大和が首を横に向けて憎まれ口を叩いた。

その瞬間、紫の雰囲気が変わった。

今更自分が失言してしまったことに気づいた大和は前を向けなかった。

 

「へえ~いつの間にそんな口が利けるようになったのね…大和。」

 

紫は目が笑っていない笑顔で不機嫌MAXの口調だった。

紫の背後で今にも炎が舞い上がっていそうな程、紫は怒っていた。

 

「いや…冗談…」

 

大和はすぐさま紫に向き直って弁解しようとした。

 

「問答無用!」

 

頭頂部に紫のゲンコツを喰らう結果となってしまった。

 

「お姉さんと呼びなさい!」

 

「分かったよ…紫。」

 

頭を両手で押さえている大和は謝った。

 

「はあ…もういいわ。」

 

紫はため息を吐いて扇子をしまった。

 

「それよりいつの間にあんな技覚えたの?」

 

気を取り直した紫に大和は頭を右手で押さえながら立ち上がる。

 

「ああ…あれ…名付けて…『ソウルナックル』だ!」

 

大和は自慢げに言い放った。

 

「うわあ…ネーミングセンスひどいわね。」

 

紫はジト目で素直な意見を返す。

 

「何だよ!当たればすげえんだぞ!」

 

大和は反論する。

 

「当たれば…ね~。」

 

紫が白けた目で呆れた言葉を返したその時。

紫の背後に音もなく1人の老人執事が現れた。

だが紫はその気配に気づいていた。

執事は高年齢を感じさせないお辞儀をする。

 

「八雲様、会議のお時間でございます。」

 

「(さすが四季家の執事ね。)分かりました。すぐに行くと伝えて下さい。」

 

紫は当主として威厳を含めた口調で伝えた。

 

「かしこまりました。」

 

執事がもう一度お辞儀をすると次の瞬間、その場から姿を消した。

紫は大和の方へ振り返る。

 

「それじゃ私は当主達と話してくるわ。…大和、あなたはまずシャワーを浴びた方がいいわよ。」

 

散々動き回ったり投げ飛ばされたりしたせいで泥だらけになってしまった大和を見る。

 

「なっ!」

 

大和は恥ずかしさから顔を赤くする。

その年相応に可愛らしい反応を見た紫は微笑むとその場から去った。

 

紫の姿が見えなくなってから大和は地面に拳を叩きつける。

 

「(ちくしょう…こんなんじゃダメだ。俺は強くならなくちゃいけないんだ。)」

 

大和は自分を鼓舞した。

 

 

 

シャワーを浴びて着替えた大和が縁側を歩いているとある和室で3人組の少女が1人の少女を囲んでいる光景を目にする。

3人組の少女の服には『鎌』の家紋が入っていた。

 

「(あれは確か…三門家の…。)」

 

家紋を見た大和が心の中で呟いていると会話が耳に入ってきた。

 

「あんたさ…『四』のくせにちょっと生意気なんじゃない?」

 

3人組の真ん中に立つ少女が言い出した。

 

何故三門家の人間が四季家の敷地内にいるのかというと今日が半年に1回行われるナンバーズの定例会議だからでその跡取りや次席の子供達も来ているからだ。

今回の会議の場は四季家である。

ナンバーズの中には数字がそのまま序列を表していると思っている人間も少なくない。

今の三門家の少女の発言がまさにそれを象徴していると言ってもいい。

 

「私は…別に…そのようなことは…」

 

囲まれている少女が口を開く。

 

「何?声が小さすぎて聞こえないんですけど!」

 

右側の少女が言い返す。

 

「ちょっと教育が必要なんじゃない?」

 

さらに左側の少女が高圧的な口調で追い詰める。

 

「そうね。こいつにはっきり教えてやらないとね。上の人間に舐めた態度を取るとどうなるかっていうのかを!」

 

真ん中の少女が言い放った。

 

大和は苛ついていた。

3人組の少女に…そして何も抵抗しない少女にも。

大勢で虐めるのは『心』が弱いからだ。

心がよわいから誰かを傷つけて自分を保とうとする。

そして虐められるのは『力』が弱いからだ。

力が弱い人間は心が弱い人間に付け込まれる。

大和は弱い人間が嫌いだ。

だから弱い人間を見ていると腹が立ってくる。

 

「おい。」

 

大和は3人組の少女の後ろから威圧的な口調で声をかけた。

 

「何よ!今いいところ…っ!」

 

真ん中の少女が振り返った瞬間、体がすくむ。

左右の2人も同様の反応をしている。

大和は3人組の少女に向けて紫との組手の時と同じくらいの闘気を放った。

10歳とは思えない程の気迫に押された3人組の少女は大和をまさか四季家の人間とは思わなかったのだろう。

 

「お、覚えてなさいよ!」

 

真ん中の少女が大和の横を駆け抜けていき、あとの2人もそれに続いていく。

 

大和は3人組の少女が去った方向に一瞬視線を向けたがすぐに目の前で座っている少女に視線を戻した。

その少女の髪は長くエメラルドのように綺麗な緑色で歳は大和より2つ下で肌は西洋人を思わせるほど白く身に着けている和装には『桜』の家紋が入っている。

何よりもその2つの瞳は鮮やかな緑色で一切の濁りが無い。

同年代の男子であるならこのような可憐な少女に一度は惚れてしまうであろう。

しかし大和はその少女を見下していた。

 

「(()()の人間か…。)」

 

この頃の四季家は宗家と分家が存在する。

 

「お前、宗家の四季桜だな?」

 

大和が訊くがその少女は何故か大和を見上げたまま動かない。

それもやたらキラキラした目で。

 

「おい。」

 

大和が声をかけると少女はハッと我に返って立ち上がる。

 

「はい。は、初めまして…四季桜です。」

 

桜がやや小さめの声で自己紹介する。

大和は呆れた目で桜を見る。

 

「(こんな奴が…宗家の人間か…。)分家の四季大和だ。」

 

大和も自己紹介した。

 

ちなみに彼らが初対面なのは宗家と分家では居住区が異なるからである。

大和は四季家の跡取りである桜のことを名前だけだが知っていた。

 

「大和………大和君とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

「は?」

 

大和が呆けた声を出す。

それもそのはず。

宗家の人間が分家の人間に礼儀を尽くすなど本来あってはならないことだ。

だが大和は分家と名乗っているものの基本的に宗家と分家の関係に興味が無かった。

大和にとって興味があるのはただ強くなる。

それだけだった。

つまり面倒くさくなったわけだ。

 

「勝手にしろ。」

 

突き放すような言い方。

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

しかし桜はかなりぞんざいに扱われたにも関わらず笑顔で返してきた。

 

「(何なんだ…こいつは…。)」

 

大和は困惑していた。

 

 

 

 同刻。

ナンバーズの当主会議では引き締まった筋肉の巨体で顎に髭を生やした四季家現当主四季玄士郎(当時30歳)と八雲紫やその他の当主が勢揃いしていた。

そして、今回の議題は…

 

「我々ナンバーズで同盟を組んで軍と共に列強国に戦争で勝利しようではないか!」

 

玄士郎が口を開いた。

 

四季玄士郎はナンバーズの中でも特に過激派の人間である。

玄士郎自身に実力がある分それを世界に向けて証明したがっているのだ。

 

「我が帝国はこれまでアメリカ、イギリス、ロシアと肩を並べる国と呼ばれてきた。

だがそれでは帝国は高みに上り詰めることを忘れ堕落する一方だ!

今こそこの停滞した世界においてはっきりさせておかなければならない!

頂点に立つ国はこの新大日本帝国だと!」

 

玄士郎は高らかに宣言した。

 

「玄士郎さん、あなたの考え方は中身の無い子供のような考え方です。それでは何も手に入れることは出来ません。」

 

七瀬家の当主の女性が冷静に反論した。

 

「ふん!腰抜けで臆病者の七瀬が!」

 

玄士郎は鼻を鳴らして罵った。

 

「わざわざ呼び出して何を言い出すかと思えばそんなくだらないことを言うとはね。私は下りさせていただきます。」

 

この場で最も若い当主である紫が席を立って部屋を出て襖を閉める。

 

「(小娘が。)」

 

玄士郎は心の中で罵った。

 

沈黙を破ったのは黒いスーツを来た三門家の当主だった。

その当主は40代の男性だった。

 

「面白い。私は賛成だ。」

 

玄士郎の主張に賛同した。

 

「三門!」

 

七瀬家の当主がテーブルをバンと叩く。

三門家の当主はその言動に動じない。

 

「前からロシアの魔法技術には興味があった。これを機にその技術を吸収させたいのだよ。ただし私は戦闘出来ないから資金援助を中心とさせてもらうよ。」

 

そう口にして玄士郎に視線を移した。

玄士郎は笑みを浮かべる。

 

「十分だ。勝利した暁には三門家にロシアの処置を任せよう。」

 

「しかし勝算はあるのかね?アメリカは問題ないとしてロシアの魔法師は手強いしイギリスの騎士団は1人で1000人分の戦力と言われているくらいだ。」

 

三門家の当主は不安材料を口にする。

玄士郎は不敵な笑みを浮かべる。

 

「問題ない。ちょうど明日、四季家で例の儀式をやるところだ。それが終われば我が娘である四季桜は強大な戦力となる。」

 

その言葉に40代とは思えない程若い着物の女性の九条家の当主が声を荒げる。

 

「まさか継承の儀式をするおつもりですか!」

 

「ああ。明日より四季家当主は四季桜となる!」

 

玄士郎は腕を組みながら宣言する。

継承の儀式が何なのかナンバーズの当主は全員知っている。

 

「あの子はまだ8歳です!早過ぎます!」

 

九条家の当主が反論する。

 

「他人の娘がどうなろうとお前の知ったことではないだろう?」

 

「人道的問題があると言っているのです!」

 

「あれは俺の娘だ!俺がどう扱おうと俺の勝手だ!」

 

九条家と四季家の当主同士の言い合いはどんどんヒートアップしていくばかりだった。

結局、九条家の当主はそのまま帰ってしまい他の当主は継承の儀式を終えてから判断するということで会議は終わった。

ちなみに紫は実のところ玄士郎の考えに興味が失せていた。

むしろここに来た目的は弟分の大和に会いに来たようなものだ。

 

紫がそんなことを考えてため息をつきながら縁側を歩いていた。

 

「何ため息吐いてんだよ?」

 

すると背後から声をかけられた。

振り返るとそこには何故か不機嫌な顔をした大和がいた。

 

「あんたこそ何でそんな不機嫌なのよ?」

 

紫は聞き返した。

大和は顔を背ける。

 

「…面倒な奴に会った。」

 

「面倒な奴?」

 

紫が首を傾げて少しだけ考えるとパッと思い出したように口を開いた。

 

「桜のことね~。まさかあんたが女の子に興味を持つ日が来るとはね~。」

 

紫は大和をからかう。

 

「そんなんじゃねえよ!」

 

大和はムキになって否定すると紫の横を駆け抜けて去った。

 

 

 

明日には継承の儀式を控えている。

九条家を除く当主達とその子供達は四季家で一泊することとなった。

 

大和は瓦屋根の上で仰向けになって夜空を眺めていた。

 

四季大和は分家である為元々この家の住人ではない。

今回、この家に来たのも大和の意思ではなく四季家の命令によるものだった。

 

大和が夜空を眺めていると屋根の上に上がる為のはしごから誰かが上がってくる音が聞こえた。

上半身を起こしてはしごの方をジッと凝視していると上がってきたのはなんと四季桜だった。

大和は桜のことは苦手だが、本当なら自分のいる場所に来られるのは嫌なのだが、ここは桜の住む家であり余所者の自分が桜の行動にいちいち口を出すわけにはいかない。

10歳の大和にもそれくらいのことは弁えていた。

 

だから大和はこの場を離れようしたその時。

桜が近づいてきた。

 

「あの…一緒に星を見ませんか?」

 

声のボリュームは控えめだがかなり積極的な行動に出てきた。

大和は再び寝転がる。

 

「…勝手にしろ。」

 

桜は大和の素っ気ない返答に嫌な顔1つせずむしろ嬉しそうな笑顔で大和の隣に寝転がった。

 

何故か桜から話しかけてくる気配が無かったので大和は会ってからずっと気になっていたことを訊き出す。

 

「俺が恐くないのか?」

 

桜の顔は見ず夜空を見上げたままだ。

 

「え、どうして?」

 

桜は寝転がったまま大和に顔を向けて不思議そうに聞き返した。

大和は思わず桜の顔を見て目を丸くして驚く。

桜は大和の顔を見て微笑む。

 

「だって大和君は優しいじゃないですか。」

 

桜の予想外の誉め言葉に大和は返す言葉が無かった。

大和は無言で反対側を向く。

桜はそんな大和の新鮮な反応を見れて嬉しいのか笑顔で大和を見つめていた。

 

大和と桜はいわば義理の兄妹のようなもの。

桜はこの時、大和に対する恋心に気づいていなかった。

 

そして、大和はこの時から桜のことをただの『弱者』という認識から変わっていた。

 

 

 

 翌朝。

目を覚ますとそこは大和が寝ていた部屋ではなくどこかの物置の中だった。

起き上がろうとした瞬間、両腕に違和感を感じた。

腕は後ろに回されていて手首には霊符が貼り付けられていて自由に動かすことが出来ない。

 

「くそ!何だよこれ!」

 

必死に霊符を引き剥がそうとするが全く効果が無い。

ここで大声を出して助けを呼ぶという行為を大和はしない。

誰かに頼ることは弱さだと思っているからである。

その時。

 

「目を覚ましたようだな。」

 

物置の外から声が聞こえた。

その声の主は大和にとって憎むべき人物だった。

 

「クソ親父…。」

 

大和は歯ぎしりしながら言葉を絞り出す。

そう。

声の主は四季家現当主の四季玄士郎だった。

 

「ふん。貴様のような出来損ないに父親呼ばわりなどされたくないわ!」

 

玄士郎は威圧感のある口調で言い放った。

 

「黙れ!分家を裏切って宗家に入った奴が偉そうにしてんじゃねえ!俺は母さんを見捨てたあんたを絶対に許さねえ!」

 

大和が声を荒げる。

その言葉には紛れもない憎しみが込められていた。

 

「母さんが病死した時もあんたは葬式にも出なかった!あんたは宗家の弟が死んだタイミングを見計らって弟の妻と再婚して宗家に入りやがった卑怯者だ!

 

玄士郎が大和が最後に言い放った言葉を聞いたその瞬間、抑えられていた感情を爆発させた。

 

「黙れ!俺が宗家に入ったのは俺こそが当主に相応しいからだ!分家の貴様に口出しする権利などない!貴様の母親と縁を切ったのはあのおんながもはや俺にとって利用価値が無くなったからだ!」

 

玄士郎の自己中心的な言葉は大和の憎しみをさらに煽るものだった。

 

「この…外道が!」

 

大和は物置の扉を蹴る。

 

「無駄だ!貴様は儀式が終わるまでここから出ることはできない!」

 

玄士郎はあがく大和を見下す口調で言い放った。

その言葉で大和は聞き逃せない単語を耳にした。

 

「儀式?」

 

大和は疑問を口にする。

大和は四季家本邸に来てはいたが継承の儀式については何1つ聞かされていない。

 

「そうか。貴様にはまだ話していなかったな。本来なら分家の貴様に話すことではないが特別に教えてやろう。」

 

玄士郎は得意気に喋り出した。

 

 

 

玄士郎から聞かされた儀式の全容は大和の想像を遥かに超えるものだった。

 

「ふざけるな!そんなことを8歳の娘にやらせるなんてどうかしてるぞ!」

 

大和は怒りを露わにした。

 

「力は必要なのだ!そしてあの()()()を代々引き継げるのは女のみ!たとえ子供だろうが利用する!時には目的の為ならどんな冷酷な決断も下す!それがナンバーズの在り方だ!」

 

玄士郎が厳しい口調で言い返してきた。

 

「狂ってる…。」

 

「貴様をここに閉じ込めたのは儀式の邪魔をさせない為だ。儀式は正午に行う。それが終わったらここから出してやる。それまでここで大人しくしていろ。」

 

玄士郎はそう言い残してその場を去った。

大和は扉に額を擦り付ける。

 

「ちくしょう…俺は………弱い。」

 

そう言葉が零れて悔し涙を流した。

 

 

 

 同刻。

ナンバーズの当主達とは別の思惑が働いていた。

昨日、大和に苦汁を舐めさせられた三門家3人娘は復讐をするべく大和を探していたのだが代わりに縁側を着物姿で歩いている桜を見つけた。

三門家の長女がニヤリと何か企んだ表情をする。

 

「ちょうどいいや…あいつにもう一度教育してあげようよ。」

 

「「賛成。」」

 

次女と三女も同じように不敵な笑みを浮かべて声を揃えた。

 

 

 

「ねえ。」

 

桜が後ろから声をかけられた。

振り返ると声をかけてきたのは三門家の長女だった。

両側には次女と三女もついている。

 

「はい。何でしょうか?」

 

桜はキョトンとして首を傾げて聞き返した。

 

「私達と一緒にカルタやらない?」

 

三門家の長女はニッコリと笑って遊びに誘ってきた。

 

「はい!」

 

桜は笑顔で返事した。

三門家の長女はほんの一瞬だけ不敵な笑みを浮かべたがすぐに普通の笑顔に戻った。

「じゃあこっちに来てよ。いい場所を見つけたんだ。」

 

そう言って先導し始めた。

 

「あの…そちらは…」

 

屋敷の構造を全て把握している桜が止めようとした時、次女と三女が桜の斜め後ろに立つ。

 

「まあまあ。」

 

「細かいことはきにしない。」

 

桜の背中を押して進む。

桜は強く反対することも出来ず三門家の娘達に言われるがまま進んで行く。

 

その先がどんな場所か知りながら。

 

 

 

大和が悔し涙を流し終えたその時。

外に人の気配を感じた。

その足音は聞き覚えのあるものだった。

 

「紫…紫なのか!」

 

大和は外に向かって大声を出す。

 

「大体事情は把握しているわ。大和、あなたに話しておきたいことがあるの。」

 

「何言ってんだ!今はそんな場合じゃねえだろ!なあ、紫なら俺をここから出せるだろ?」

 

「それは無理よ。この扉…いえこの物置そのものに対して結界が展開されている。さらにこの結界を破るには内と外両方からの干渉が必要になる。私の魔法だけではこの結界を破ることは出来ない。あなたの『ソウルナックル』と私の魔法で力を合わせれば可能かもしれないけど…」

 

紫はそこで言葉を切る。

大和は拘束されている両腕を見下ろす。

 

「今は使えねえ…手首に何かの札みてえのがくっついて全然剥がれねえんだ。」

 

「恐らくその霊術は術者以外解くことは出来ないわ。」

 

紫は簡潔に説明してから何かを決心したように息を吸う。

 

「…大和。あなたはナンバーズを抜けるべきよ。もうこっちの世界に関わるべきじゃない。普通の小学生になるべきだわ。」

 

予想外のことを言い出した。

 

「はあ?何言ってんだよ…桜はどうすんだよ?」

 

大和は驚いてそう聞き返すしかなかった。

 

「忘れなさい。桜のことも…ナンバーズのことも。」

 

紫は大和にそう告げた。

その後、扉に背中を預けて寄りかかる。

 

「ねえ大和。あなたずっと最強になりたいって言ってたわよね?」

 

「ああ。」

 

大和も紫と同じように寄りかかる。

 

「最強になってどうするの?」

 

「それは…」

 

「何の為に強くなるの?」

 

「それはもちろん俺…」

 

『俺自身の為に』と答えようとした大和よりも早く紫が最後に質問する。

 

「誰の為に強くなるの?」

 

その問いに大和は答えを返せなかった。

 

「誰の…為に?」

 

口に出してもやはり答えは出なかった。

先程まで『俺自身の為に』と答えようとした自分を否定する自分がいることを自覚していた。

 

「今の問いに答えを出せないようならあなたは檻から出ることは出来ないし桜を助けることなんて出来ないわ。」

 

紫は扉から離れてその場を去った。

 

 

 

桜が三門家の娘達に連れられてやってきたのは他の部屋より一回り大きい部屋の襖の前だった。

三門家の長女が襖を開けると次女と三女が桜の背中を思いっ切り押して部屋の中へ入れた。

桜はいきなり押されたことにより倒れ込む。

 

「ねえ私知っているんだ~ここって例の継承の儀式をやる場所なんでしょ。」

 

三門家の長女が間延びした口調で言った。

 

「何で…こんなことを…」

 

桜が体を震わせながら訊き出した。

 

「何でってそんなの決まってんじゃん♪」

 

三門家の長女はニッコリと笑うと次の瞬間、悪女じみた狂笑に変貌した。

 

ここであんたに死んでもらう為だよ!

 

三門家の長女がそう言い放った。

後ろに立つ2人も高笑いしている。

 

桜は恐怖を感じた。

目の前の少女達ではない。

彼女達だって初めは純粋な女の子だったはずだ。

なら彼女達をここまで変えてしまったものは一体何なのか。

その得体の知れないものに恐怖を感じたのだ。

 

「それじゃ私達は外からあんたが血まみれになって死にゆく様を見てて上げるよ!せいぜいあがいてよね!アハハハハハハ!

 

三門家の長女が高笑いして部屋から出ようとしたその時。

彼女達にとって予想外の事態が起きた。

部屋のろうそくが一斉に灯り出して薄暗かった部屋の中の視界が広がった。

部屋の奥には高さ4mの祭壇があった。

祭壇には四季家の家紋が刻まれている。

さらに異変はこれだけではなかった。

 

「何これ!部屋から出られない!」

 

次女が声を上げた。

襖は開いたままだが薄紫色の結界が張られていて誰も部屋から出ることが出来なくなった。

桜は祭壇に視線を移す。

 

「まさか…目覚めてしまった…の。」

 

その時、いきなり頬に強烈な痛みを感じた。

桜の体が床に倒れる。

顔を上げるとそこには怒りで顔を歪ませている三門家の長女の顔があった。

 

「あんた…一体何したのよ!」

 

三門家の長女は声を荒げる。

桜は座り込んだままその顔を見上げる。

 

「私は…何もしていません。」

 

「嘘よ!あんたがやったに決まってる!」

 

三門家の長女は聞く耳を持たない。

 

「そうよ!早く私達をここから出しなさいよ!」

 

「ほら早くしなさいよ!」

 

次女と三女も口を出してくる。

 

「『四』のくせに『三』に逆らうなんてやっぱり教育が必要のようね!」

 

三門家の長女は目を血走らせるとポケットからカッターナイフを取り出す。

 

「「お姉様⁉」」

 

さすがに2人の妹も口を出さずにいられなかった。

 

「いいから黙ってなさい!今からこいつに教えてあげるのよ。『四』は『三』より下。下の者が上の物に逆らうことは絶対に許されないってことをね!」

 

三門家の長女がカッターナイフを振り下ろそうとする。

桜は目を瞑る。

 

その時、部屋の奥の祭壇からとてつもないオーラが放たれた。

突風が吹いたと錯覚させるほどの。

それはオーラ知覚が低い三門家でも感じられる程だった。

 

三門家の長女は本能的な恐怖からその場を動くことが出来なくなってしまった。

右手のカッターナイフが彼女の手から床に滑り落ちた。

そして、まるでそれが合図であるかのように祭壇から黒い影が浮き出て徐々にそれは祭壇と同じくらいの大きさとなり女性の形となっていく。

顔、髪、腕、胴体は影により形成されていく。

下半身だけが黒いカーテンのようにユラユラと揺れている。

その姿はまるでホラー的な恐怖を象徴すると同時にRPGのラスボスのような威圧感を彷彿とさせる。

 

影の女から放たれたオーラの波動が屋敷全体に広がっていくのだった。




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後編

影の女のオーラの波動に玄士郎はいち早く気づいた。

 

「どういうことだ…儀式はまだのはず…。」

 

呟いた直後、儀式の間へ走って行く。

 

玄士郎は儀式の間から最も離れていたようで到着した時には既に他の当主が集まっていてどうにか結界を破ろうと尽力していたが全く効果は得られなかった。

 

「父様!お願いです!助けて下さい!」

 

結界の中にいる三門家の次女が結界にすがりつき泣きながら父親である三門家の当主に頼み込んでいた。

 

「待っていろ。必ず助けてやる。」

 

三門家の当主は表向きはそう口にしていた。

 

「(チッ、余計なことを。)」

 

しかし心の中で舌打ちしていた。

七瀬家の当主が紫に近づいて囁く。

 

「あなたの魔法なら一時的にでも結界に穴を空けられるでしょ?」

 

「できるけど彼の注意を引かないと止められてしまうわ。」

 

紫の指す彼とは四季玄士郎のことである。

 

「ナンバーズの当主の力でも破れない結界とは…一体あれは何者ですか?」

 

一ノ瀬家の当主が玄士郎に問う。

 

「あれは四季の始祖『四季影姫(えいき)』だ。四季の継承の儀式ではあれの影を正当な継承者が受けることによって影の力を得ることが出来る。」

 

「何故そんなものがこんな場所にいるのですか?」

 

一ノ瀬家の当主はさらに問う。

玄士郎を問い詰めるつもりではなくただの興味本位で。

 

「四季影姫は普段は封印状態にしてあり継承の儀式の時だけ封印が解かれる。今回は何故か勝手に封印が解かれてしまったようですがね。」

 

「そんなことより今は子供達を救出する方が先だろ。」

 

二宮家の当主が玄士郎に声をかける。

 

「いやちょうどいい!少し予定を早めることになるがこれより継承の儀式を始めるとしよう!さあ、桜!その影の一撃を受けるのだ!」

 

玄士郎が継承の儀式の開始を宣言した。

 

「危険だ。命を落とすぞ。」

 

六道家の当主が反対する。

 

「ふん。死んだら運が無かったというだけの話だ。事実これまでの当主は全員継承の儀式を終えて生きている。それにこれは四季家の問題だ。他家が口出しすることではない。」

 

玄士郎が他の当主を黙らせた。

 

ちなみに現在、玄士郎が当主になっているのは彼の妻、玄士郎の弟の元妻が既に他界しているからである。

 

「でも!」

 

七瀬家の当主が声を上げたその時。

 

「大丈夫です。」

 

結界の中から声が聞こえた。

その声の主は桜だった。

 

「桜…。」

 

紫が悲しそうに呟く。

 

半覚醒状態だった『影姫』が完全に覚醒状態となって刃のように変形した影を、放心状態となっている三門家の長女へと伸ばす。

三門家の長女の意識が現実に引き戻され目の前から襲ってくる影の刃に恐怖する。

 

刃が三門家の長女に直撃するかと思えたその時。

刃と彼女の間に桜が割り込み両手を前にかざして人差し指と親指をくっつけて三角形を作り出す。

その三角形の穴から桜の花びらが出てきて桜の前に直径2mの円形の花びらの盾を造形する。

花びらの盾が影の刃を見事弾いた。

花びらは消えることなく桜の周囲で舞い続けている。

 

「大丈夫ですか?」

 

桜は前を向いたまま背後で腰を抜かしている三門家の長女に声をかける。

 

「何でよ…何で…あんたが私を守るのよ…。」

 

三門家の長女は信じられないという顔をしていた。

 

「誰かを守ることに理由が必要ですか?」

 

桜は少しだけ三門家の長女に振り向くと真顔でさもそれが当然と言いたげな口調で答えた。

 

「何よ…それ…おかしいよ…あんたどうかしてるわ!」

 

三門家の長女は首を横に振って声を張り上げた。

桜はそれに応える余裕もなくただ一言。

 

「ごめんなさい。今は集中したいので。」

 

既に前に向き直って防御態勢を取り続けた。

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

そして、ついに『影姫』が人とは思えない怪物のような雄叫びを上げた。

影の刃が2つ増えて今度は三門家の次女と三女の元へと迫る。

2人は恐怖でお互いを抱き合う。

桜は手の三角形を崩して右手を横に広げた。

花びらがそれに呼応して次女と三女の前に花びらの盾を総計する。

影の刃がまた花びらの盾に弾かれる。

今度はしつこく弾かれた後の刃が何度も高速で花びらの盾に連続攻撃を仕掛けてくる。

桜は顔をしかめる。

さらに桜の前方から影の刃が迫っていた。

桜は左手を前にかざして自身の前にも花びらの盾を造形する。

花びらの盾は影の刃を弾いたが刃の重さが桜の体に伝わってくる。

桜の頬に汗が流れ始める。

 

「(このままじゃ…。)」

 

桜の心に焦りが出始める。

 

 

 

 

「何故攻撃を受けない?継承を拒むというのか…あいつは。」

 

玄士郎が桜が守りに入っているのを目にして毒づき始める。

 

「頼みがあります。」

 

紫は後ろの方で他の当主に気づかれないように七瀬家の当主に声をかける。

 

「言って。」

 

七瀬家の当主は短く答えた。

紫は七瀬家の当主の耳元で何かを囁いた。

 

七瀬家の当主は声を上げないように驚く。

 

「本当にそれでこの状況を打開できるの?」

 

紫は真っ直ぐな目で頷いた。

 

「分かった。」

 

七瀬家の当主はその場を去った。

 

 

 

いまだに拘束状態の大和も『影姫』のオーラを感じていた。

ちなみに四季家の敷地内では認識結界が展開されている為、この異変を外部から認識することは出来ない。

つまり町の人々はこの異変を知ることなく普通に暮らしている。

 

大和はなんとか手首を拘束している霊符を引き剥がそうとするが全く剥がれる気配がない。

 

「くそ!」

 

大和は舌打ちする。

 

「そこにいるのね?四季大和君。」

 

外から声が聞こえた。

 

「誰だ?」

 

「私は七瀬家当主、七瀬初美(はつみ)。あなたをここから出すことに助力するように八雲紫に頼まれたの。」

 

「どうして俺を?」

 

「紫が言ってたわ!あなたなら…いえ、あなただけが四季桜を救える可能性だって!」

 

「そうか…紫が…信じてくれているんだ。」

 

大和は両腕にこれまで以上の力を込める。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 最強になってどうするの?

 

 

 

 桜を守りたい…

 

 

 

大和の脳裏に桜の笑顔が思い浮かぶ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 何の為に強くなるの?

 

 

 

 桜の為に…

 

 

 

桜と夜空を見上げた記憶が鮮明に蘇る。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 誰の為に強くなるの?

 

 

 

 桜の為に!

 

 

 

大和の全身から強いオーラが溢れ出す。

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 

雄叫びと共に両腕を思いっきり左右に広げたその瞬間、霊符の術式がガラスが割れるような鮮やかな音を立てて破壊された。

霊符はビリビリに破けてヒラヒラと床に落ちていく。

 

「時間がねえ!一気にいく!」

 

右手の拳にオーラを集束する。

大和の右手の拳が青白い光を帯びていく。

 

「カウント3でいくわよ!」

 

初美も召喚術式でロッドを瞬時に取り出した。

ロッドを前に突き出して砲撃魔法を僅か1秒でチャージした。

 

「3…2…1…シュート!」

 

初美が合図と共に赤い光の砲撃魔法を放った。

 

「ソウルナックル!」

 

大和も同時に扉に拳を叩きつけた。

両側から強い衝撃を受けた扉の結界は破壊されて扉は粉々に砕け散った。

現象はそれだけにとどまらなかった。

ぶつかり合ったオーラの余波が大和にではなく初美の方へ飛んできた。

オーラの余波を左肩に受けた初美は痛みで肩を右手で押さえる。

物置から脱出した大和が肩を押さえる初美を見る。

 

「あんた、それ…」

 

「行きなさい!桜を救って!」

 

初美の言葉に大和は頷いてハイジャンプで儀式の間へ向かった。

 

「まさかナンバーズの当主を上回るオーラを持っているなんてね…。さて私もそろそろ行かないとね。」

 

初美は独り言をつぶやいた後、歩いて儀式の間へ戻って行く。

 

 

 

一方、『影姫』の攻撃を凌いでいる桜にも限界が近づいていた。

桜は攻撃用の術が使えない。

使えるのおは桜の花びらを用いた防御霊術や支援霊術、治癒霊術のみである。

 

今や影の刃の数は100本を超えている。

四方八方から影の刃が襲いかかってきた。

桜は両手を祈るように合わせる。

花びらが三門家の次女と三女を桜の元へ運び出し花びらが4人の少女と包囲するように円形の壁を造形する。

しかしこれは桜にとって多大な負荷をかける。

100本以上の刃を全て防がなければならない。

防御すればするほど彼女の霊力は消耗していく。

無論、防御力も落ちる。

現に花びらの壁の隙間から影の刃が桜の着物を少しずつ切り裂いていく。

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

『影姫』が奇声を上げて影の刃を増やす。

ついにその総数は1000本に達した。

 

「おお!あれが『千本桜』か!」

 

玄士郎がそれを見て感動する。

 

「これだ!この力を手に入れれば帝国は無敵だ!桜!今こそその力を吸収するのだ!」

 

玄士郎が高揚した声を上げたその時。

 

「させるかよ!」

 

後ろから声が聞こえた。

玄士郎や他の当主が振り返るとその視線の先には芝生裸足で駆けてこちらに迫って来る大和の姿があった。

 

「貴様~!分家の分際で邪魔をするな!」

 

玄士郎は怒りの声と共に霊力弾を大和に向けて放った。

大和はハイジャンプで上に跳んで避けた。

さらにそのまま儀式の間へ突っ込もうとする。

紫は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ったく待たせ過ぎよ。」

 

結界に向けて手をかざすと結界の一部に人1人入れるくらいの穴が空いた。

大和はそこから飛び込んで儀式の間へ侵入を果たした。

穴はすぐに閉じていく。

 

「ソウルナックル!」

 

大和は桜の周囲の影の刃を拳1つで吹き飛ばした。

桜はとうとう限界を迎えたのか倒れて周囲の花びらが床に落ちていく。

大和は桜の前に立った。

 

「助けに来たぜ…桜。」

 

大和は右手を差し出した。

 

「大和…君。」

 

桜は大和を見上げて名を呼び、手を伸ばす。

大和は桜の手を取って立ち上がらせる。

 

「大和でいいよ。」

 

「うん…大和。」

 

桜は優しく微笑んだ。

 

大和が桜の背後で気を失っている三門家の3人娘に視線を向ける。

 

「そいつらを守ってたのか?」

 

「うん…ほっとけなくて。」

 

「そうか。」

 

大和が応えたその瞬間、背後から影の刃が襲ってきた。

 

「避けて!」

 

戻ってきた初美が叫ぶ。

 

大和は4人の少女を1人で抱えると壁際まで距離を取った。

4人の少女を下ろすと桜に背を向け、『影姫』の方へ向く。

 

「それじゃ今度は俺が守る番だな!」

 

大和は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「八雲!七瀬!貴様ら裏切ったな!」

 

玄士郎は怒りを2人に向ける。

 

「裏切るも何も最初から味方になったつもりはないわ!」

 

「私達は桜を救う為に協力したまでのことよ!」

 

紫と初美はそう言い返した。

 

「貴様ら、こんなことをしてただで済むと思うなよ。七瀬と八雲など四季の前では無力だと教えてやる!」

 

玄士郎が脅迫をかける。

 

「それは俺が相手でもか?」

 

二宮家の当主が紫と初美の元へ歩いて玄士郎の前に立ち塞がる。

 

「ぐっ。」

 

玄士郎が声を出す。

二宮の力は玄士郎も知っている。

 

「二宮が敵となるなら私は下りさせてもらおうかな。」

 

「三門⁉何を…」

 

玄士郎が驚く。

 

「私は中立を取らせてもらおう。」

 

一ノ瀬家の当主は儀式の間へ視線を向けたまま言った。

 

「チッ、五位堂!六道!お前はどうなんだ?」

 

「玄士郎。もう終わりだ。」

 

「なっ!」

 

六道家の当主の宣告に玄士郎が驚く。

 

「君の計画はどうやら1人の少年によって打ち砕かれる。今ここでね。」

 

五位堂家の当主が断言した。

 

「揃いも揃って…。」

 

玄士郎が苛つく。

二宮家の当主が口を開く。

 

「九条に頼まれてね。もちろん俺の意思でもあるけれど四季玄士郎。あなたの言動は極めて幼稚だ。何より人にとって真に何が大切なのか。それを理解しているのは君よりあの子達だ。」

 

「大切なものだと?そんなもの力に決まっているだろ!」

 

玄士郎は言い切る。

 

違う!人を信じる心だ!

 

二宮家の当主は厳しい口調で言い放った。

 

 

 

 

「ちょっと待ってろよ。今俺があいつに一発ぶち込んでやるからよ!」

 

大和は『影姫』へ駆けだした。

 

「大和!」

 

桜が叫ぶ。

それでも大和は止まらない

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

『影姫』が吠えて髪の毛の部分も刃に変えて攻撃を仕掛ける。

大和はダッシュしたまま紙一重で避けた。

足にオーラを溜めて自己加速術式をかけている。

ジグザグに動いて『影姫』に接近していく。

『影姫』は影の刃で大和を前後左右から襲う。

大和はハイジャンプで躱すと右手の拳にオーラを集束させた。

拳に青白い光が帯びる。

『映姫』は影の刃を一点に集束させて巨大な影の槍を大和に放った。

 

「ソウル…ナックル!」

 

大和は槍に臆すことなく拳を槍の先端に叩きつけた。

影の槍が先端から砕け散っていく。

大和はそのまま『影姫』の右肩を殴りつけた。

『影姫』の右肩から下の腕が吹き飛んで消滅する。

 

「バカな…あの出来損ないが四季の始祖にダメージを与えただと…。」

 

玄士郎が目を丸くして驚いた。

 

「あなたが知らなかっただけですよ。あの子がどれだけ成長したかを…子供の成長を見ることは親の義務です。それさえ出来ないあなたは父親失格です!」

 

紫が言い放つ。

 

「(小娘が分かったような口を…。)」

 

玄士郎は歯ぎしりして心の中で呟く。

 

 

 

大和が『影姫』にダメージを与えたのも束の間。

別の方向から影の刃が空中の大和に迫ってきた。

 

「ソウルナックル!」

 

大和は咄嗟の反応で殴るが、体勢が不十分だった為、押し負けて吹っ飛ばされてしまう。

さらに追い打ちとばかりに無数の影の刃が前方から襲いかかってきた。

 

「(やべえ!)」

 

大和はもうダメかと思った。

その時、大和に襲いかかる影の刃が花びらの盾によって弾かれた。

大和が空中から下を見下ろすと手のひらで三角形を作って大和に向けている桜の姿があった。

大和は桜の前に着地する。

 

「桜、どうして?」

 

「私も戦う!」

 

桜は真剣な目で返した。

 

「ダメだ…俺は決めたんだ!桜を守るって!」

 

大和は首を横に振った。

 

「バカ!」

 

すると桜が声を張り上げた。

大和は目を丸くして驚いた。

桜はこれまで見たことないほど真剣な顔だ。

 

「私を守ってくれることは嬉しい…でもそれじゃだれが大和を守るの?」

 

桜の言葉を聞いた大和は心に衝撃を受けた。

 

「(そうか…人っていうのは助けるだけじゃない…助け合うことが出来る。俺は1人で最強になるんじゃない…俺と桜…2人で最強にならなくちゃいけなかったんだ。)」

 

桜が大和に右手を差し出す。

 

「いこう!2人で!」

 

大和は桜の右手を左手で握った。

 

「ああ!」

 

2人は並び立ち手を握り合ったまま目の前の相手を見据えた。

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

「何だか…悲しそう。」

 

『影姫』の声を聞いた桜が呟く。

 

「ああ…俺も拳をぶつけた時なんかこうあいつの気持ちが伝わってきた…望んでもいないのに化け物にされて封印されて儀式で使い回されて…そうだよな…こんなこと…もうたくさんだよな…辛い…よな。」

 

大和は哀しげな目をする。

桜が握る手を強めた。

 

「桜?」

 

「私達でちゃんと天国へ送ってあげよう。」

 

桜は眩しい言葉をかける。

大和は桜の言葉に元気づけられた。

 

「ああ。もう楽にしてあげよう!」

 

その時、大和と桜が握り合う手と大和の右手の拳が青白く光り出した。

 

 

 

「あの子達、まさかあの領域に踏み込んだっていうの?」

 

初美が驚いた。

 

「『シンクロ』。互いの絆が極限に達した時に起きる現象…。」

 

一ノ瀬の表情の変化は薄いがその言葉から驚いているの分かる。

 

 

 

 伝わってくる…大和の強い想いが…

 

 

 

 分かる…桜の優しい心が…

 

 

 

大和と桜は互いの心を理解し合っていた。

 

『影姫』の右肩と右腕が再生していく。

 

「大和…。」

 

桜が名を呼ぶ。

大和はそれだけで桜が何を考えているのか理解した。

 

「あの祭壇の家紋…あれを壊せば彼女を救うことが出来る。」

 

『影姫』が口を開けるとそこから黒い霊力弾を放ってきた。

大和は一瞬だけ桜から左手を離して桜を抱えてハイジャンプで霊力弾を避けると空中で桜の右手を左手で握り直した。

『影姫』は髪、両腕、影の刃を全て一点に集束していく。

大和は桜の顔を見る。

 

「桜…お前の想い、全部俺に捧げてくれ。」

 

「うん。」

 

桜は頷くと握っている大和の左手に想いを精一杯込めた。

すると大和の右手の拳に纏う青白い光のオーラがどんどん巨大化していく。

 

1m。

 

「こんなもんか!お前の想いは!」

 

「いいえ!」

 

2m。

 

「俺を守りたいという想いは!」

 

「いいえ!」

 

3m。

 

俺はお前が大好きだ!お前は違うのか!

 

はい!私も大好きです!大和が大好き!

 

4m…5m…10m。

 

大和の拳に纏うオーラの大きさがついに10mに達した。

 

「凄い…。」

 

それを見た紫はそれしか言葉が出なかった。

 

『影姫』は集束させた影を巨大な槍へと変形させた。

その大きさは大和の拳に纏うオーラの大きさに劣らない。

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

これが最後だ。

そう言わんばかりに『影姫』が影の槍を大和達に突き放った。

大和と桜はその槍に対して真正面から突っ込む。

 

「これが俺と桜の絆のソウルナックルだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

大和はオーラの拳を影の槍に叩きつける。

ぶつかり合ったことで激しい衝撃波が放たれる。

 

大和が苦しそうな顔をする。

桜は大和の左手をさらに強く握った。

すると、オーラの拳に桜の花びらが渦巻いていく。

 

「桜⁉」

 

「私も戦う。そう約束したから。」

 

「桜…ありがとう。」

 

大和は桜の言葉をしっかりと受け止めた。

 

「これが…俺と!」

 

「私の!」

 

オーラの拳の輝きがさらに強くなる。

 

「「桜花大和魂!」」

 

オーラの拳が影の槍の先端を砕き、さらに突き進んでついに影の槍を完全粉砕するとそのまま祭壇の家紋に向けて直進する。

 

「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」

 

そして、オーラの拳は祭壇の家紋を完全に破壊した。

 

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

『影姫』の体が白い光に包まれて消える直前、大和と桜はある声を聞いた。

 

 

 

 …アリ…ガ…トウ…

 

 

 

それは四季影姫の感謝の言葉だった。

大和と桜が床に着地すると儀式の間を囲っていた結界がスーッと消えていく。

同時に大和と桜の手の光も消えていく。

 

「桜…。」

 

大和はその名を呼ぶ。

 

「はい?」

 

桜が振り向く。

 

「俺決めたよ…俺は…」

 

続きを言葉にしようとしたその時。

 

「ふざけるな!」

 

怒号が響いた。

大和と桜が振り向くと玄士郎が鬼の形相でこちらに近づいてきていた。

 

「貴様~分家の分際でよくも儀式の邪魔をしてくれたな!今ここで俺が始末してやる!」

 

玄士郎の動き出しが予想以上に速かったせいか他の当主が出遅れてしまった。

桜が大和の前に出て玄士郎を止めようとした時、大和が桜の手を握って止めた。

 

「大和?」

 

桜が首を傾げると大和は無言で首を横に振る。

玄士郎が自己加速術式を発動して大和に殴りかかろうとする。

大和は動かない。

 

その時。

大和と玄士郎の間に突如、水の竜巻が発生した。

玄士郎は水の竜巻に押し戻される。

水の竜巻がバッと弾けて姿を現したのはなんと洩矢諏訪子(当時30歳)だった。

 

「『蝦蟇王』…洩矢諏訪子…。」

 

紫がその名を口にする。

玄士郎が床に手をつきながら立ち上がる。

 

「何故『蝦蟇王』がこんなところにいるのですか?」

 

かろうじて冷静さを保った口調で訊く。

 

「何故って私がここに来る理由なんて天皇陛下の命令以外ありえないでしょ。」

 

諏訪子は顔には出さないが冷酷に告げた。

 

「天皇陛下の命令?」

 

玄士郎が訝しげな目をする。

 

「先に内容を説明しておこう。天皇陛下の権限により四季家現当主四季玄士郎は本日より当主権を剥奪、ナンバーズからも強制除名処分とする。」

 

「なっ!」

 

諏訪子の宣告に玄士郎は目を見開いて驚いた。

 

「それと三門家はしばらく活動を自粛するようにとのこと。以上だ。」

 

諏訪子は感情のこもっていない声で続けた。

 

「以後、気を付けます。」

 

三門家の当主はこういう局面でしたたかであり頭を下げて素直に謝罪した。

だが当然、玄士郎は納得できるわけもなかった。

 

「何故だ!三門家も同罪のはずだ!何故俺だけが除名処分となる?」

 

声を荒げて抗議した。

 

「三門家は次期当主に対する不十分な監督。四季玄士郎の方は軍に対する干渉、そしてこの儀式が最も原因となるものだ。」

 

諏訪子はただ冷酷に現実を突きつける。

だがそこで何か思いついたような仕草をすると冷たいを浮かべながらこう言い出してきた。

 

「そうですね。ならこうしましょう。あなたが私に一撃与えることが出来れば今回の件は不問としましょう。陛下からも現場の判断は任されていますし。」

 

玄士郎は願ってもないチャンスに笑みを浮かべる。

 

「分かりました。」

 

「さあ、いつでもどうぞ。」

 

諏訪子は手を後ろで組んで棒立ちになった。

玄士郎はさっきの倍のスピードの自己加速術式を発動して諏訪子に迫り殴りかかった。

 

性格に難はあるが玄士郎も当主としての実力は持ち合わせている。

この攻撃は決して躱せるはずのないスピードだった。

だが諏訪子は体を横に揺らして躱した。

それが当然であるかのように。

がら空きになった玄士郎の腹に軽く掌底を打ち込んだ。

たったそれだけで玄士郎は後方へ吹っ飛ばされた。

 

「私の勝ちですね。」

 

諏訪子は勝敗を告げた。

 

「こんな…バカなことが…。」

 

玄士郎は信じられないという表情をしている。

 

「さて、お迎えが到着したようですよ。」

 

諏訪子が口にしたその時。

玄士郎の目の前に突如、白い扉が出現した。

それが開くと真っ白な無地の仮面をつけた一団が出てきた。

全員、腰には剣が納刀してある。

ナンバーズでその一団を知らない者はいない。

 

「天皇守護隊…。」

 

玄士郎がその名を口にする。

 

「四季玄士郎。これより連行する。」

 

真ん中に立つ団長が告げる。

声からして男性ということが分かる。

 

「連行?」

 

玄士郎は立ち上がって聞き返す。

 

「知る必要のないことだ。」

 

団長が口にしたその直後、玄士郎の体がぐらつき気を失った。

団長が何をしたのかそれを視認できた者は諏訪子と団員以外いなかった。

 

玄士郎を連行した後ですっかり白けてしまった場で諏訪子は大和に歩み寄る。

 

「君は私が来ることを分かっていたようだが何故分かったんだい?」

 

「う~ん…なんとなくかな?」

 

大和が考えて出た答えがそれだった。

 

「アハハハハ!いいね!君、実に面白いよ!」

 

先程まで感情を見せなかった諏訪子が陽気に笑い出した。

大和は、何がそんなに面白いんだ、という表情をしていた。

諏訪子は笑いがおさまると大和に訊く。

 

「それで?君…いや君達はこれからどうするんだい?四季家はもう当主がいない状況になってしまったけど?」

 

「私が…」

 

桜が前に出ようとしたその時。

 

「俺が当主になります!」

 

大和が宣言した。

これには他の当主も驚いた。

 

「まだ全然ガキだし未熟者かもしれないけど俺、当主になります!」

 

黒刀は自分の想いを言い切った。

 

「当主になるっていうのは言うほど簡単じゃないよ。」

 

諏訪子は目を細めて釘を刺す。

 

「確かに俺1人じゃ無理かもしれません。でも俺には桜がいる!」

 

大和は桜の手を握った。

 

「大和。」

 

「2人ならどんな壁だって越えられる!そして変えてみせる…この国を!」

 

大和はそう言い放った。

これにはさすがの諏訪子も驚いた。

 

「やっぱり君は面白い子だ。楽しみだよ。君がこの国をどう変えていくか。」

 

諏訪子はそれだけ言うと次の瞬間、その場から消えてしまった。

 

大和が桜の顔を見る。

桜が大和の顔を見る。

 

そして、2人は同時に笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2186年 四季大和 帝国軍に入隊。

 

 2190年 四季大和 四季桜 結婚。

 

 2192年 四季桜 四季映姫を出産。

 

 2200年 四季大和 30歳にして帝国軍総帥に昇格。

 

 同年9月 四季黒刀を養子として迎え入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして2210年…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜さん、これは?」

 

桜の花屋で働く幽香が写真立てに入っている写真を見て訊く。

 

「あ、これ懐かしいわね。」

 

同じように写真を覗き込む桜が口にする。

それから写真を顔を離した桜が微笑む。

 

「これはね。私の大切な思い出よ。」

 

 

 

写真の中では一ノ瀬、二宮、三門、五位堂、六道、七瀬、八雲の当主達とその真ん中で笑顔でピースをしている大和と桜の姿が映っていた。




ED 家族になろうよ

ご感想お待ちしております。


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入学編
二人の剣士


OP1 学戦都市アスタリスク「Brand new World」
ED1 遊戯王5Ds「START」



 2209年夏

会場中に歓声が広がる中、その黒い刀を持ち闘っている男がいた。

魂魄妖夢はその男は憧れた。

 

 2210年4月5日。

ここは幻想町。奈良県にある町である。

この国にはある大規模な高校生の大会がある。

その名も『剣舞祭』。

全国の高校から代表となる選手が出場して行われる武器ありの大会である。

大会は個人戦と団体戦の2つある。

 昨年の剣舞祭である男子高校生が1年生であるにも関わらず個人戦で優勝した。

 その人に憧れた魂魄妖夢という女子高生がこの春、

その人と同じ『神光学園』に入学することとなった。

 

 「行ってきます!」

元気の良い声で家を飛び出したのは、

銀髪ボブカットの女の子、魂魄妖夢。

 

その時…

 

「待ちなさい、妖夢。」

そう呼び止めたのは水色の服を着た

桃色の髪の女性、

西行寺幽々子だった。妖夢の保護者である。

 

「なんですか?幽々子様。」

妖夢が訊ねる。

 

「忘れ物はない?学校の場所は分かる?

お弁当も持っていかなきゃ!」

「落ち着いて下さい。学校は地元ですし、それに

今日は入学式だけですので午前中で帰ってきますから。」

 

幽々子の慌てた声に妖夢が冷静に答えると、幽々子は安心

したように息をつく。

 

「それにお弁当が必要なのは幽々子様の方ではないですか?」

妖夢がからかうように言うと

「あ~ひどい~!それじゃ私が食いしん坊みたいじゃない!」

幽々子が頬を膨らませて怒る。

「あはは、それじゃ行ってきます。」

妖夢は逃げるように登校した。

 

 妖夢がこれから通う神光学園には英雄がいる。

一昨年までは優勝者がいなかったこの学園に昨年初めて

優勝者が出た。

だが、一つ疑問がある。

そんなに強い人がいるのに、どうして団体戦は優勝できなったのだろう。

妖夢が歩きながらそんなことを考えていると、

 

~危ない!

 

誰かの叫び声が聞こえたのでその方向に

顔を向けると

なんと箒に乗った少女が飛んできて、

その箒の柄の先が迫ってきていた。

避けようとしたが、時すでに遅し、

もう逃げられない距離まで迫っていた。

 

「(まずい。轢かれる。)」

 

思わず目を瞑る。

だがいつまで経っても自分には届かない。

恐る恐る目を開けると箒は妖夢の眼前で止まっていた。

 直後、箒の後ろから頭に赤いリボンの黒髪少女が

 

「はぁ~ギリギリセーフ。」

 

その少女はこちらを向き、

 

「あなた、大丈夫?」と心配してくる。

 

「あっはい、大丈夫です。」

 

すると今度は箒に乗っていた黒い帽子の金髪少女が宙に浮く箒から降りて

 

「あ~その、ごめんな。ちょっと飛ばしたら止まんなくてさ。」

 

「魔理沙!あなたねぇ、なに?その謝る気0の謝罪!」

 

「ちゃんと謝っているじゃないか。ならどうすればいいんだぜ?」

 

「そうね。とりあえず土下座ね」

「なんで!」

「当たり前じゃない。ついでに私にもね。」

「だからなんで!」

「日頃の分よ。」

「私、何もしてないだろ!」

「本、盗まれたんだけど。」

「盗んでないぜ!一生借りてくだけだぜ。」

「泥棒の言い分じゃない!」

 

息をつかせぬ2人の言い合いを見ていた妖夢。

 

「あの~。」

 

気弱な態度で声をかける。

 

「「んっ?」」

 

「私はこの通り無傷ですので、お気になさらないで下さい。それより、お二人は1年生なのですか?」

 

妖夢は神光学園の制服の胸のリボンを見て聞く。

神光学園の女子の制服は胸のリボンの色によって学年が分けられている。

1年は青、2年は赤、3年は青。

ちなみに男子は黒いブレザーでネクタイの色で分けられている。

 

「そうよ。ということはあなたも?」

 

赤いリボンの少女が妖夢に聞き返す。

 

「はい。魂魄妖夢です。よろしくお願いします。」

 

「博麗霊夢よ。こちらこそよろしく。」

 

「霧雨魔理沙だぜ!よろしくな!」

 

「霊夢さんに魔理沙さんですね。」

 

「呼び捨てでいいわよ。同じ学年なんだし。」

 

「そうだぜ。気楽にいこうぜ。」

 

「すみません。今まで同い年の友達がいなかったので接し方が分からなくて。」

 

「寂しい青春送ってるわね、あなた。」

 

霊夢がなんとも言えない表情をする。

それに対し、魔理沙が

 

「なら、今から私達と友達になろうぜ!」

 

そう眩しい笑顔で口にした瞬間、桜の花びらが舞った。

 

妖夢も笑顔でこう返した。

 

「はい!是非!」

 

 それから、3人は登校を再開する。

なお、魔理沙は箒を肩に担いで徒歩である。

 

 妖夢は先程から気になっていたことを霊夢に聞く。

 

「そういえば霊夢はどうやって魔理沙の箒の加速を止めたのですか?」

 

「ああ、あれ。単に箒の柄の根の部分を掴んだだけだけど。それがどうかした?」

 

「…ええと、かなりのスピードが出ていたとおもうんですけど。」

 

霊夢の真顔の返答に妖夢が苦笑い。

 

「こいつ、こう見えて結構力あるんだぜ。」

 

魔理沙が霊夢を親指で指さす。

 

「そうなんですか?」

 

「ちょっと魔理沙!それじゃ私が馬鹿力の女みたいじゃない!」

 

「(なんかデジャブ感。)」

 

霊夢の怒りに妖夢は今朝の幽々子とのやりとりを思い出して苦笑い。

 

「だいだいあの神光学園に通っている人で常人の方が少ないんじゃない?」

 

「ああ、それは言えてるぜ。」

 

「でしょ?噂では百人斬りをするやつだっているんだから。それに比べたら私なんて可愛いものよ!」

 

「いや、それ。ただの噂だろ?」

 

「あっ!見えましたよ!神光学園!」

 

霊夢と魔理沙の論争を遮って、妖夢が指さした先には広大な敷地の中心にそびえ立つ巨大な校舎。

 

それこそが神光学園の校舎である。

 

「ん、なんだあれ?」

 

「何が?」

 

「ほら、あれ。」

 

妖夢と霊夢が魔理沙の指差した先を見る。

すると、そこには百人くらいが倒れた人の山が出来ていた。

それを見た3人は顔を見合わせてこう叫んだ。

 

「噂、本当だったーーーーーーーーーーーーー!」

 

その後、すぐに口を開いたのは霊夢だった。

 

「えっと、私も実は半信半疑だったんだけど、まさか本当に百人斬りするやつがいるとは思わなかったわ。」

 

「いや、まだそうと決まったわけじゃないだろ。

ほら、組体操のピラミッドをやって失敗しただけかもしれないだろ?」

 

魔理沙は驚きのあまり思わず疑問形になってしまう。

 

「こんな正門の近くでですか?」

 

妖夢が苦笑い。

 

「改めてとんでもない学校に入学してしまったわね。」

 

霊夢はため息をついた。

 

「とりあえず行きましょ。初日から遅刻なんて洒落にならないからね。」

 

「そうだな。」

 

「ですね。」

 

3人は案内板に従って入学式の会場である第一体育館に向かった。

 

 

中庭。

 

「また喧嘩?」

 

「別に。あいつらがかかってきたから相手をしてやっただけだ。」

 

「ふ~ん。まぁなんでも良いけど会長には迷惑かけないようにしてよね。…黒刀(くろと)。」

 

 

 第一体育館。

 

「わぁ、広いですねこの体育館。

2000人くらいは入りそうです。」

 

妖夢が感心した声を出す。

 

「でもここにいる1年生は100人くらいだぜ。」

 

「たしか1学年100人だから全校生徒は300人でしょうね。」

 

「300人!?案外少ないんだな…。」

 

「それだけ狭き門ってことでしょ。」

 

 そんなことを話しているうちに、入学式の始まりの挨拶が始まった。

司会役の生徒が「学園長の挨拶。」と進行する。

 

ステージの上に現れたのは金髪ロングで紫色の瞳をし、紫色のフリルドレスと白い手袋を着けた妙齢の女性だった。

 

「あの人が…学園長。」

 

「何か不思議な雰囲気を持っている人ね。」

 

「ああ、只者じゃないって感じだ。」

 

妖夢・霊夢・魔理沙がそれぞれ感想を漏らす。

 

周囲から

「結構美人じゃね?」

「ああ、やべぇ。」と話し声が聞こえてくる。

 

妙齢の女性は礼をした後、

 

「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。

学園長の八雲紫です。

ご存知の通り、我が校は強さを第一とした高校です。ここにいる皆さんはその場所に入ることが出来た優秀な生徒であり、大変喜ばしく思っております。」

 

紫はそこで柔らかな笑みを浮かべた後、続ける。

 

「この学園には校内ランキングというシステムが存在します。これは皆さんがこの学園で何番目に強いのかということを証明します。ランキングは基本1対1の決闘により決められます。自身より上位の生徒に勝利することが出来ればお互いの順位が入れ替わります。ちなみに敗者は2日間の決闘禁止となります。」

 

そこで紫は一度息を整えてから

 

「そして、6月上旬の時点で上位5名が剣舞祭への出場権を得ます。ですので皆さん、頑張って下さい。

以上です。」

 

紫が挨拶を終えてステージから下りる。

 

「剣舞祭…。」

 

妖夢が静かに呟く。

 

「では続いて四季生徒会長から一言お願いします。」

司会が式を進める。

 

呼ばれてステージに現れたのは緑色の髪のショートヘアーで、青い瞳をした身長145㎝の女生徒だった。

制服のリボンの色は緑、3年生である。

 

生徒会長は一礼してから

 

「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。

生徒会長の四季映姫です。

私から皆さんに言いたいことは1つ。

この学園の生徒である以上、自らの力に驕ることなく、日々の努力の積み重ねを信じて高みを目指して下さい。以上です。」

 

映姫はそれだけ言ってステージから下りてしまう。

 

「なんかあっさりだな。」

 

「そうですね。」

 

魔理沙が囁き、妖夢が返す。

 

 司会が

「では最後に校内ランキング1位の四季黒刀さん。

一言お願いします。」と呼ぶ。

 

しかし、少し待っても現れない。

 

「四季黒刀…会えるんだ。あの人に。」

 

妖夢が呟く。

 

「妖夢?どうしたんだ?」

 

魔理沙が妖夢の顔を覗きこむ。

 

「えっ?ううん、何でもないよ!」

 

妖夢は慌てて手をふってごまかす。

 

「そうか。」

 

魔理沙は追及せず、引き下がる。

 

「おいおい、まだかよ!」

「早くしてくれよ!」

周囲が騒がしくなってくる。

 

「どうします会長?」

 

映姫にそう聞くのは赤髪ツインテールの生徒会副会長、小野塚小町。

 

映姫はというと怒りを抑えきれないのか右手の拳を握りしめてプルプルと震わせていた。

 

「仕方ありません。私が引きずってでも連れてきます。」

 

映姫がそう口にした瞬間、凄まじい音ともに体育館の入り口の扉が吹き飛び、1人の男子生徒が悲鳴を上げて、ステージの後ろの壁に激突した。

壁に激突した生徒は西洋のプレートアーマーを着ていて、呻き声を上げるとステージの床に落ちて気絶した。

気絶した生徒の一瞬、光に包まれると次の瞬間には制服に戻っていた。

 

一同が入り口に視線を集中させるとそこに立っていたのは黒髪に黒い瞳で整った顔立ちをしていて、身長185㎝で筋肉質の体をした制服姿の男。制服のネクタイの色は赤。

右腰には刀が納められた黒い鞘が据えられている。

 

「ったく、入学式の日にまで決闘仕掛けてくんなって言ってんのに。」

 

その男は面倒臭そうにそう口にした。

 

そんな中。

「えっと、四季黒刀さん。すみません。新入生に一言お願いします。」

司会役の生徒がおどおどしながら促す。

 

「ここでいいか?」

 

「あ、はい。」

 

黒刀と呼ばれた男は新入生を見渡した後、

 

「あ~、俺が四季黒刀だ。…そうだな。

お前らに言うことといったら…」

 

とここでためる。

新入生は息をのみ、次の言葉を緊張しながら待つ。

 

「俺はここにいる誰にも負けるつもりはない。

それと剣舞祭に出ようとしている奴がいるならこれだけは言っておく。勝つ気もねえ半端な覚悟を持っていない奴だけ俺と同じ場所に上がってこい。」

 

黒刀は新入生に対してそう宣言した。

それは新入生への挑発でもあり宣戦布告だった。

 

皆が呆気にとられる中、妖夢だけは違った。

妖夢は黒刀に対して闘志を宿した目を向けていた。

 

黒刀もそれに気づいたのか視線を返す。

 

二人の剣士の視線が交じり合う。

 

こうして、神光学園入学式は終了した。



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決闘

第2話です。
今さらですが各話の前書きにOP、後書きにEDを書きます。
理由はYouTubeなどからそのアニメに興味を持っていただけたらというささやかな願望です。
よろしくお願いします。

OP1 学戦都市アスタリスク「Brand new world」


 入学式が終了し、黒刀は帰ろうと廊下を歩いていた。

その時。

 

「黒刀!」

 

映姫が怒りを露にしながら弟である黒刀を呼び止めた。

 

「あ、姫姉。おつかれ。」

 

「おつかれじゃありません!なんですか!あれは!ふざけないでください!」

 

「まあまあ、会長落ち着いて下さい。」

 

映姫の隣にいる小町がなだめる。

 

「これが落ち着いていられますか!」

 

「…姫姉、俺は冗談や遊びであんなことを言ったわけじゃない。」

 

「なら一体どんな理由があるというのですか?」

 

映姫がジト目で問う。

 

「今年の剣舞祭の団体戦で優勝するためだ。…去年みたいなのはもう御免だからな。」

 

それを聞いた映姫は黙ってしまう。

 

「俺が今、他のメンバーに求めているのは実力じゃない。闘争心だ。」

 

「実力がなきゃしょうがないだろ。」

 

小町が黒刀の言葉を否定する。

 

「そんなものは一月あれば全国レベルに鍛えられる。闘う意志のない者は100%の力を発揮することなど到底無理だ。」

 

「それであの宣言ですか?」

 

映姫がそこでようやく黒刀の言いたいことを理解し始める。

 

「ああ、本当に上を目指す気があるなら『最強』相手に挑まないはずがない。」

 

「まさか、1年相手に決闘を?」

 

「挑む奴がいたらな。」

 

「まだ早いです。勝負にならないに決まっているでしょ。」

 

映姫が黒刀に詰め寄る。

 

「だろうな。だが勝敗に興味はない。目的は1年の中でメンバー候補を探すことだから。別に驚くことじゃないだろ俺も去年出たんだから。」

 

「いや、次元が違うだろ。」

 

小町が呆れた声を出す。

 

「生徒会は校則で剣舞祭に出場できないし、今の2年と3年は期待できない。去年があれだからな。」

 

黒刀の言葉を聞いて映姫は一度目を閉じた後、口を開いた。

 

「なるほど、黒刀の考えは理解しました。ですが以後はもう少し慎重に行動して下さい。」

 

「りょうか~い。」

 

黒刀は間の抜けた口調で返事する。

 

「まったく。」

 

映姫は腰に手を当ててため息をつく。

 

「(相変わらず仲が良い姉弟だな。見てて微笑ましい光景だ。)

 

「行きますよ小町。」

 

「はい。」

 

映姫は踵を返して生徒会室に向かい、小町がそれについていく。

 

と、そこで

 

「あっ小町先輩、昨日カフェで食べたパフェ美味しかったですよ。ご馳走さまでした。」

 

そう言って去っていった。

 

黒刀が去った後、映姫が立ち止まる。

 

「…小町。」

 

「はい、何ですか?」

 

「昨日は校内パトロールの日だったはずですが、どうして私の弟がパフェをご馳走になっているのですか?」

 

「いや、それは…その…そう!パトロールが終わった後に行ったんですよ!弟君にも偶然会って。」

 

小町は冷や汗たっぷりだった。

 

「…そうですか。」

 

「(はあ~セーフ。)」

 

小町は心の中で安心する。

 

しかし次の瞬間、映姫は満面の笑顔を浮かべ、

 

「ちなみに黒刀は昨日私と一緒に下校したんですよ。」

 

「えっ?」

 

「ふふ、小町さぼりましたね。それでは行きましょうか。」

 

「えっ、行くってどこへ?」

 

「決まっているじゃないですか。生徒会室でじっくりたっぷりお説教です。」

 

「あの会長、笑顔が怖いですし、あと引っ張らないで欲しいんですけど…。」

 

「問答無用です。」

 

映姫はその小さな体格からは信じられない程の力で小町を引きずり始めた。

 

「えっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

廊下に小町の悲鳴が響きわたるのだった。

 

 

 1年A組教室。

 

「ねえ、さっきの四季黒刀って人のことどう思う?」

 

唐突に霊夢がそんなことを聞いてきた。

 

ちなみに今はまだ担任の教師が来ておらず、妖夢の席の周りに霊夢と魔理沙が集まっている。

 

「どうってタイプかってことか?」

 

「ちっがうわよ!さっき何であんなことを言ったんだろうって話。」

 

「さあ、相当自信家だったんだろ?」

 

「…妖夢はどう思う?」

 

「…えっなに?」

 

「聞いてなかったの?」

 

「すみません。」

 

「四季黒刀の事について話していたの。」

 

「もしかして前に会ったことあるのか!?」

 

魔理沙が身を乗り出す。

 

「ないです!ないですよ!ただ…その私、去年の剣舞祭の個人戦の予選を観に行ったことがあるんです。1回戦だけですけど。その時にあの人の試合を観てその~…」

 

「憧れた?」

 

霊夢は頬杖をつきながら妖夢に聞いた。

 

「はい…。」

 

そう答える妖夢の顔は恥ずかしさで真っ赤になった。

 

「なるほど納得だぜ。」

 

 その時。

教室の電動ドアがウィーンと音を立てて開いた。

教室に入ってきたのは頭に六面体と三角錘の間に板を挟んだような形の青い帽子をかぶった上下青い服を着た青のメッシュが入った銀髪ロングの女性だった。

 

「はい、皆さん着席して下さい。」

 

「じゃ後でね。」

 

「またな。」

 

霊夢と魔理沙はそう言って自分の席に戻っていく。

 

「はじめまして。1年A組の担任の上白沢慧音です。

よろしくお願いします。」

 

『よろしくお願いします!』

 

「ではまず皆さんに自己紹介してもらいましょう。

出席番号1番から。」

 

 そして、順番が魔理沙にまわってきた。

 

「私は霧雨魔理沙!私の目標は世界最高の魔法師になることだぜ!」

 

魔理沙がそう名乗ったその時。

最後列の大柄な男が

 

「ハッハッハ!てめえみたいな奴がそんなものになれるわけねえだろうが!マジウケるわ!」

 

「なんだと!」

 

「魔理沙、ダメだよ!」

 

妖夢が慌てて魔理沙を止める。

 

さらに大柄な男の隣の席に座っている細身で小柄な男も止めようとする。

 

「おい、やめた方がいいって…。」

 

「なんだ?びびってんのか。」

 

「いや別にそういうわけじゃ…。」

 

「あなた達、入学早々気が高まるのは分かるけど今は自己紹介の時間よ。」

 

一触即発の空気に慧音が止めに入った。

魔理沙は渋々席に座る。

 

「では次。」

 

言われて妖夢が立ち上がる。

 

「はい!魂魄妖夢です!剣士です!よろしくお願いします!」

 

妖夢が元気よく自己紹介すると、またさっきの大柄な男が

 

「ハッ、そんな柔な体で剣が振れんのかよ!」

 

「大平《おおたいら》君、いい加減にしなさい。」

 

「待ってくださいよ先生。俺も剣士だ。

これだけは言わせてもらうぜ。おいお前、一体そんな体で何を目指そうっていうんだ?」

 

妖夢は大平の方をしっかり見ると、

 

「私は…四季黒刀を超える剣士になります!」

 

「…ハッハッハ!こいつは傑作だ!お前それ本気で言ってんのか!無理に決まってんだろ!馬鹿じゃねえの!」

 

「てめえ!ふざけるのもいい加減にしろよ!」

 

大平の発言に魔理沙が激怒した。

 

しかし、妖夢は起こることなく

 

「いいんです魔理沙。先生続けて下さい。」

 

と、静かに着席した。

 

「では次。」

 

「はい。」

 

立ち上がったのは緑色の髪のサイドテールで背中に鳥のような一対の羽を生やした小柄で可愛らしい女の子だった。

 

「大妖精です。よろしくお願いします。」

 

大妖精はお辞儀をして自己紹介する。

すると、周りの男子生徒が

「あの子、可愛くね。」

「お前、飯誘えよ。」

「いや、お前がいけよ。」

と肩をど突き合っている。

それを聞いた魔理沙が

 

「男って単純だな。」

 

「はい、次。」

 

呼ばれた生徒は…爆睡していた。

その生徒は水色の髪のセミショートで、氷の翼を生やした小柄な女の子だった。

 

「ぐ~zzz」

 

「起きてください。」

 

慧音は注意するがまだ爆睡中。

 

すると慧音は

 

「ふふふ。」

 

不気味な笑い声を出した。

 

「チルノちゃん、起きて!先生怒ってるよ早く!」

 

「むにゃ~あと5ふ~ん。」

 

「大妖精さん、ちょっとそこどいていた方がいいですよ。」

 

「えっ?」

 

大妖精が驚いて教壇の方へ向いたその瞬間、顔の横を何かが通りすぎていった。

そしてチルノの頭に直撃し2m程吹っ飛んだ。

 

「いっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

チルノは女の子とは思えない悲鳴を上げた。

彼女の頭に直撃したのは慧音が指先から放たれた魔法弾だった。

あまりの痛さに転がり回りながら悶絶する。

 

「次からは居眠りしないようにね。」

 

「あ~いったぁ~!分かりました。」

 

「よろしい。では改めて自己紹介して下さい。

チルノさん。」

 

チルノの謝罪に慧音は受け止め進める。

チルノは立ち上がり腰に両手に当てると

 

「あたいはチルノ!天才で最強だ!よく覚えとけ!」

 

 

10秒程の沈黙があり、クラスのほとんどの者が

「ぷっ!」

「あっはっは!」

「まじかよ!」

「ウケる~!」

「ばっかじゃねえの!」

と、チルノを笑うが、

チルノはそれに対し、気を落とすわけでも恥ずかしがるわけでも怒るわけでもない。

 

「ふっふっふ!」

 

なぜか堂々としている。

 

「こういうのを知ってるよ!弱い犬ほどよく吠えるって奴だね!」

 

そう言って胸を張った。

それを聞いた先程彼女を馬鹿にした者達は

『はあ!?』

「吠えてんのはお前だろ!」

「そうだ!寝ぼけてんのか!」

 

チルノはその罵倒を聞いても

 

「やれやれ格の違いに気づかない連中はほんと不憫でしょうがないね!」

 

笑い飛ばした。

そこで大平が席から立ち上がると

 

「じゃあここで証明してやろうか?決闘でよ!」

 

と前に出ようとしたその時。

 

「今は認められません。大平君。」

 

慧音が止めに入った。

 

「ちっ!」

 

大平は舌打ちして席に座り直す。

やがて霊夢の順番が来た。

 

「博麗霊夢よ。よろしく。」

 

霊夢は自己紹介を簡潔に済ませて座り直した。

そして全員の自己紹介が終了したところでチャイムがなるさ。

 

「では今日はこれまでですね。」

 

慧音はそう言って教室から退室した。

すると魔理沙がチルノと大妖精のところへ歩いていき

 

「なあお前、一体何者なんだ?」

 

とチルノに問いかけた。

 

「…誰?」

 

「霧雨魔理沙だ。さっき自己紹介しただろ。」

 

「その…チルノちゃんは寝てたから。」

 

苦笑いする大妖精。

チルノは勢いよく立ち上がる。

 

「まあいいや。あたいの凄さが知りたいんだったな。

あたいはな」

 

「入試の実技トップなんだよ。」

 

「大ちゃん、何で先言っちゃうの。」

 

「ごめんね。自慢したくてつい。」

 

「そういう大ちゃんだって座学トップじゃん。」

 

「いや…そんな…私なんて大したことないよ…。」

 

「謙虚だな~。」

 

そんな話の中、妖夢は寝ている霊夢を起こそうとしていた。

 

「霊夢、起きて下さい。もう放課後ですよ。」

 

「zzz」

 

「はあ…。」

 

「妖夢、私が起こすぜ。」

 

魔理沙はそう言うと霊夢の耳元に顔を近づけてこう囁いた。

 

「…あ~お賽銭箱の中に一億円が~。」

 

「何ですって!」

 

霊夢がバッと起き上がる。

 

「あれ?金は?私の一億はどこ?」

 

「おはよう霊夢。」

 

「魔理沙?ここ学校?」

 

「そうだぜ。」

 

「ま~り~さ~騙したわね!」

 

「起きない方が悪いんだぜ。妖夢が起こそうとしたのに起きないし。」

 

「そうなの?ごめんね妖夢。」

 

「いえ。」

 

「(私の時と態度が違うじゃねえか!)」

 

「よし帰りましょう。」

 

「切り替えはやっ!」

 

魔理沙がそうツッコんだ時。

 

「あの…私達もついていっていいですか?」

 

大妖精がお願いをしてきた。

 

「ええ、構いませんよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「あたいもついていってやるよ!」

 

「お前は何で上から目線なんだよ!」

 

「あたいが最強だからさ!」

 

「…こいつバカだ。」

 

魔理沙はついにツッコミを放棄した。

 

 そうして教室を出ていく5人を追って大平が教室を出ていこうとすると、細身の小柄な、小金という名の男が

「おい大平、何するつもりだよ?」と呼び止めた。

 

「決まってんだろ。あいつらに痛い目にあってもらうんだよ。」

 

「えっマジ?」

 

「ああ。俺は弱い奴が大嫌いなんだよ。特にあの大妖精とかいう女、ああいうのが1番ムカつくんだよ。行くぞ。」

 

「おい待てよ!」

 

2人は教室を出ていく。

 

 

 昇降口。

「あ~!あたい忘れてた!」

 

チルノがいきなり大声を上げた。

 

「「「「何を?」」」」

 

4人は声を揃えて疑問を口にする。

 

「あの黒刀って奴に決闘を挑むんだった。」

 

「えっ今日ですか?」

 

「お前いくらなんでもそれは…」

 

「それじゃ、あたいあいつ探してくる!」

 

チルノは妖夢と魔理沙の言葉を聞かず猛ダッシュで走り去っていってしまった。

 

「じゃあ、私達は帰るけど?」

 

「ごめんなさい。私はチルノちゃんを追いかけます。」

 

霊夢の言葉に大妖精は一緒に帰ることをお願いした身であるので申し訳なさそうな顔をした。

 

「そうか。それじゃ。」

 

「バイバイ~。」

 

「また明日。」

 

魔理沙、霊夢、妖夢がそれぞれ別れの挨拶をした。

 

「はい。また明日。」

 

大妖精もそう返して駆けて行った。

 

3人も正門の方に向き直って歩き出したその時。

ドンッとぶつかる音が後ろから聞こえた。

 

「きゃっ!」

 

声が聞こえ振りかえると大妖精が誰かとぶつかり尻餅をついていた。

 

「おい、いてぇじゃねえか!」

 

大平だった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

大妖精が慌てて立ち上がり頭を下げて謝る。

 

「あ!?謝って済むと思ってんのか!」

 

「今、あいつからぶつかったよな。」

「ああ。」

周りにいる野次馬がひそひそと話す。

 

「あぁ?何か文句あんのか!」

 

大平は野次馬に向かって大声で吠え、さらに続ける。

 

「俺はな、お前みたいに弱い奴がこの学園にいるのがムカついてしょうがねえんだよ!」

 

「わ…わたしは…」

 

「さっさとこの学園から消えちまえよ!」

 

大平はそう言い放った直後、大妖精の頬を叩いた。

 

「うっ!」

 

大妖精はそのまま後ろに飛ばされ倒れた。

 

「大妖精!」

 

「大妖精大丈夫か?」

 

「怪我はない?」

 

妖夢、魔理沙、霊夢が大妖精に駆け寄る。

妖夢はひとまず大妖精の無事を確認すると

 

「霊夢、魔理沙。大妖精をお願いします。」

 

「「えっ」」

 

「よ…うむさん?」

 

妖夢は大平の前に顔をうつむかせながら立つ。

 

「大平さん、ぶつかったのは大妖精のせいかもしれません。それでもちゃんと謝りました。叩くことはなかったはずです。謝ってください。」

 

「はぁ?何で俺が謝んなきゃいけねぇんだよ!

むしろそいつに謝って欲しいぜ!

弱くてごめんなさいってな!」

 

「野郎!」

 

大平の自分勝手な発言に魔理沙は堪忍袋の緒が切れて、飛び出そうとする。

 

しかし、

 

「そうですか。」

 

「妖夢?」

 

魔理沙は妖夢の様子が変わっていることに戸惑う。

 

妖夢は顔を上げて

 

「なら大平さん、私と決闘して下さい。」

 

「あ?」

 

「私が勝ったら大妖精に謝って下さい。」

 

「俺が勝ったら?」

 

「私がこの学園を去ります。」

 

妖夢の言葉を聞いた大平は少し固まった後

 

「はっ、ハッハッハ!」

 

嘲笑した。

 

「お前が?俺に?勝てると思ってんのか?」

 

「はい。」

 

「笑わせんじゃねえ!」

 

「逃げるならご自由に。」

 

その言葉に大平はカチンときた。

 

「いいぜ!受けてやる!」

 

2人は10m程離れる。

妖夢は右手で空間ウインドウを開いた。

 

現代では携帯端末の設定により指1つで空間ウインドウを開くことができるほど技術が発達しているのだ。

 妖夢は決闘申請のウインドウを開き、大平に申請を送信した。

この学園では決闘する際、相手の校内ランキングが表示される。

新1年生の初期ランキングは入試成績により決まる。

大平が見た妖夢のランキングは…294位だった。

全校生徒300人。この学園の生徒会は5人おり、それらはランキングに載らない。

つまり妖夢は…

 

「はあ?ビリ2かよ!よくその程度で決闘を挑んできたもんだな!」

 

大平は申請ウインドウに了承ボタンを押す。

すると、2人の周りに直径20mで立方体の半透明な結界が現れた。これが『デュエルフィールド』である。

このフィールド内では出血は発生せず、頭部や心臓などへの致命傷は全て精神ダメージに還元され気絶などする。

さらに2人の体が光に包まれる。

光が晴れるとそこに立っていたのは白シャツに青緑色のベストを着て緑色の短めのスカートを履いた妖夢と全身鉄の鎧で鉄の大剣を持った大平だった。

2人のこの装備こそ『デュエルジャケット』である。

 

「俺のランキングは200位。1年のランキングは入学時196位から数えられる。つまり俺は1年の中で5番目に強い!

お前とは格が」

 

「御託はいいですからさっさと始めましょう。」

 

自慢気に喋る大平の言葉を妖夢は遮った。

 

「チッ、すぐにその生意気な口もきけなくしてやるよ!」

 

風の音だけが響き、そして…

 

《3…2…1…0。デュエルスタート》

 

試合開始の合図となる機械音声が鳴り響く。

 

「ふっ!」

 

先に動いたのは妖夢だった。

地面を蹴り、一瞬で大平の懐に入り左腰の鞘から

妖夢の愛剣『楼観剣』を抜き、斜め下から斬り上げた。

 

いけぇ妖夢!

 

魔理沙のかけ声が響く。

 

「(いける!)」

 

だが…

 

キーンと音が響く。

妖夢の剣擊は大平の大剣によっていとも簡単にガードされてしまった。

 

「ハッ!勝ったと思ったか!」

 

「くっ!」

 

妖夢は距離を取るため離れる。

 

「ならば!」

 

妖夢はスピードを上げて、大平の周りを駆け回る。

 

「たしかにそれなりに速いことは認めてやる。

だがな!」

 

妖夢が大平の背後から斬りかかる。

だがまたもや大平にガードされてしまった。

 

「お前の剣筋は分かりやすいんだよ!」

 

大平はそのまま腕力で弾く。

 

「きゃあ!」

 

妖夢は吹っ飛ばされてしまう。

 

「今度はこっちからいくぜ!」

 

大平が攻め始める。

 

「(回避?だめだ。間に合わない。ここはガードだ!)」

 

妖夢は防御態勢を取る。

 

「そんな細い刀じゃ無理だな!ふん!」

 

大平は大剣を横に水平斬り。

それを刀で受ける妖夢。

 

「(重い!)」

 

妖夢の体勢が崩される。

 

「ハッハッハ!オラオラオラ!」

 

大平は大剣を上下左右に振り、猛攻を繰り返す。

 

「(くっ、このままじゃ…)」

 

妖夢はなんとかガードしている。

 

「おらぁ!」

 

大平は大剣を振り上げた。

 

「ぐあっ!」

 

妖夢の体は上に吹っ飛ばされた後、地面に転げ落ちる。

 

「がはっ!」

 

「妖夢さん!」

 

大妖精が悲痛の叫びを上げる。

妖夢の体はうつ伏せのまま起き上がらない。

 

「妖夢さん、もうやめて下さい!私のために傷つくなんてそんな妖夢さん、見たくないです!」

 

大妖精が涙を流しながら必死に叫ぶ。

 

「ほら、お友達もああ言ってるぜ。さっさとギプアップしな。そしたらもっと怪我せずに済むぜ。」

 

大平が勝利を確信した表情でそう言った。

その時。

『楼観剣』を握る妖夢の右手の指がピクッと動く。

 

「くっ。」

 

そして、だんだんと妖夢の体が起き上がる。

 

「こいつ、まだ…。」

 

大平が驚いた表情をする。

 

「はあはあ…大妖精。」

 

「妖夢さん…。」

 

「私は確かに今あなたのために闘っています。ですがそれだけが闘う理由ではありません。」

 

「えっ?」

 

「私は私の誇りのために闘っているのですよ。」

 

妖夢は大妖精に微笑んでそう口にした。

そして、再び大平の方へ向く。

 

「どうだ?ギプアップする気になったか?」

 

「まさか?まだ礼も返していませんし。」

 

妖夢は不敵な笑みを浮かべる。

 

「礼?」

 

「ええ、あなたのおかげで大切なことを思い出させていただきました。」

 

「ハッ!走馬灯でも見たか?」

 

「いきますよ!」

 

「ふん!今度こそ潰してやるよ!」

 

2人は同時に地面を蹴り、距離を詰める。

妖夢は目を閉じた。

 

「妖夢何やってんだ!あぶねえ!」

 

魔理沙が叫ぶが妖夢には聞こえない。

 

「(いつか黒刀さんがインタビューで言っていた。)」

 

『もしあなたの前に絶対に斬れない相手が現れたらどうしますか?』

『斬れるとか斬れないとかそんなことは考えませんし関係ありません。俺の頭にあるのは…』

 

「(そう。頭にあるのは…)」

 

『目の前にあるものを』

 

「(目の前にあるものを)」

 

「終わりだぁ!」

 

大平が大剣で突きを放つ。

そこで妖夢は姿勢を低くして回避する。

 

「「斬る!」」

 

妖夢は『楼観剣』を振り上げ、大平の大剣の刃を斬った。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

妖夢が雄叫びを上げたその瞬間、

信じられない程の何かが体の底から溢れ出す。

 

「くっ、何だこの力は!?」

 

大平は信じられないという表情をする。

 

ピキピキッ。

 

「はっ、俺の大剣にひびが!」

 

「はあっ!」

 

妖夢が『楼観剣』を振り抜く。

パキンッ音を立てて、大平の大剣の刃が折れ、ほぼ柄だけの状態となってしまった。

 

「俺の大剣が!」

 

「…あなたは私の友達を傷つけた。」

 

「はっ!いや…待て!もういい俺の負けでいい!

だから…」

 

妖夢の『楼観剣』の刀身に強い力が集束する。

 

「ひっ!もういやだ!ギブアッ」

 

「妄執剣 修羅の血!」

 

妖夢が猛スピードで大平を斬り抜いた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

大平の体は上に吹っ飛び、やがて地面に落ちて仰向けに倒れた。

 

「私がいくら馬鹿にされようと構わない。

 

だが友達を傷つける奴は絶対に許さない!




ED1 遊戯王5Ds「START」


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最強の剣士

第3話。

OP1 学戦都市アスタリスク「Brand new world」


 妖夢が決闘を行っていた同じ頃、

チルノは、駐車場でバイクに端末を弄りながら座っている黒刀を見つけた。

 

「はあはあ…やっと…見つけた!」

 

チルノは息を切らしていた。

黒刀は端末を弄りながら

 

「俺に何か用か?」

 

「あんたを倒す!」

 

チルノの言葉を聞いた黒刀はニヤリと笑った。

だが、その時。

「待てよ!」

誰かが割り込んでいた。

 

「誰?」

 

チルノは首を傾げる。

 

「青のネクタイ…3年か。」

 

「そうだ。」

 

3年の男子生徒はそう答えた。

 

「なるほど…朝の仇討ちか?」

 

「下級生にやられて黙っていられるか!」

 

「…はあ。」

 

黒刀はため息をついた。

 

「雑魚に構ってる時間はないんだがな。」

 

「何だと!」

 

「理解力が低いね。俺はそっちの1年の方に興味があるんだ。」

 

「てめぇ、なめるのも大概にしろよ!」

 

そこで黒刀は何か思いついた顔をする。

 

「そうだ!お前ら2人で勝った方とやろう。」

 

「なっ!」

 

3年の男子生徒は驚きの声を上げる。

 

「1年、名前は?」

 

「チルノ!天才で最強だ!」

 

チルノは黒刀の問いにそう答えた。

 

「よしチルノ、お前は30秒以内に勝て。」

 

「分かった!」

 

黒刀とチルノの言葉に3年の男子生徒は激怒した。

 

「はあ!?お前らふざけてんのか!俺がこんな奴に負けるわけねぇ」

 

「チルノ、それが俺と闘う条件だ。」

 

「聞けよ!」

 

チルノが3年の男子生徒の方へ向く。

 

「じゃあ、とっとと終わらせよう!」

 

ピキッ。

 

「調子に乗んなよ…1年!」

 

3年の男子生徒はチルノに決闘申請のウインドウを送信した。

チルノは申請ウインドウに了承ボタンを押した。

3年の男子生徒にデュエルジャケットが装着される。

チルノのデュエルジャケットは

白シャツの上に青のワンピースだった。

 

《3…2…1…0。デュエルスタート》

 

カキンッ。

 

《勝者 チルノ》

 

3年の男子生徒は開始直後、一瞬で凍り漬けにされてしまった。

 

「0.4秒。まあ合格だな。おい、氷解いてやれ。」

 

黒刀の指示にチルノは右手を横に払い氷を解いた。

チルノはもはや3年の男子生徒には一切の興味を見せず

 

「さあ、次はあんたの番だ!」

 

「ああ、やろう。そこ、どいてくれないか?」

 

「あ…ああ。(なんだ今年の1年化け物じゃないか。)」

 

3年の男子生徒は混乱しながら去っていく。

 

黒刀とチルノはお互いの目を見合った後、

チルノが黒刀に決闘申請のウインドウを送信し、

黒刀がそれに了承ボタンを押す。

デュエルフィールドが展開される。

チルノに再びデュエルジャケットが装着されたが、

黒刀の服装には何も変化がなく制服のまま。

 

「何でデュエルジャケットにならないんだ?」

 

「これは端末でデュエルジャケットの設定をオフにしているんだ。」

 

「それ、あたいにもできるのか?」

 

「いや、これは校内ランキング1位だけにしかできない。」

 

「ふ~ん。」

 

「まあ、詳しいことは教師に聞け。」

 

「分かった。…それじゃ!」

 

「ああ。」

 

2人は同時に構える。

 

《3…2…1…0。デュエルスタート》

 

先に動いたのはチルノだった。

 

「(よし。まずは動きを止める!)」

 

チルノが一歩踏み出したその時、動きが停止した。

 

「!?」

 

「遅い。」

 

黒刀はいつの間にかチルノの目の前に立ち、

チルノの額に右手の人差し指、中指、薬指の3本を添えていた。

 

「(う、動けない!)」

 

それでもチルノは前へ進もうとする。

 

「ふぎぎぎぎ!この~!」

 

「これが実力の差だ。」

 

「くそ~!」

 

そこで黒刀は中指だけをスッと曲げた。

 

「な、まさか!」

 

「フッ。」

 

黒刀は少し笑う。

 

「…強くなれよ。」

 

「えっ?」

 

チルノは黒刀が何を言ったのか聞き取れなかった。

そして次の瞬間、黒刀はチルノの額にバチンとデコピンをした。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

チルノは遠くへ吹っ飛ばされてしまった。

 

「さて。」

 

黒刀は携帯端末を取り出し、電話をかけた。

 

「あ、姫姉。俺、これから夕飯の買い出しに行くから先に帰ってるね。」

 

《ええ。分かったわ。》

 

《会長、弟君?》

 

《ええ、そうよ。》

 

《ちょっと代わっていいですか?》

 

《いいけど…》

 

映姫は小町に端末を渡した。

 

《弟君、今日の夕飯なに?》

 

「すき焼きだけど。」

 

《あたいも食べに言っていいかい?》

 

「別にいいですけど。」

 

《よっしゃ!今から私も買い出しに付き合うね!》

 

《待ちなさい小町。あなたはまだ仕事が残っているでしょう。》

 

《え~そんなの明日にして早くすき焼き食べましょうよ!》

 

《こ~ま~ち~!》

 

《ちょ、冗談ですって!》

 

《許しません!》

 

《会長待って!誰かたすけて~》

 

ピッと黒刀は静かに通話を切った。

 

「さて、買い出しに行くか!」

 

黒刀はバイクにエンジンをかける。

ちなみにこのバイクは従来のバイクとは違い、

反重力システムを搭載したことにより地面から数十㎝浮いた状態で走行するが出来、速度も従来のバイクより格段に速い。それが『アンチグラビティバイク』。

 

 

 昇降口前。

《勝者 魂魄妖夢》

勝敗を告げる機械音声が鳴り響く。

 

「はあはあ…勝った…。」

 

「妖夢さ~ん!」

 

大妖精が妖夢に飛びついて抱きつく。

急なことで2人とも地面に倒れてしまう。

 

「うわ!大妖精、ちょっと…苦しいよ~。」

 

「あ、ごめんなさい!嬉しくて!」

 

大妖精は顔を赤くして抱擁を解きながらも、妖夢と手は握り合ったままその場に座る。

 

「勝ったよ…大妖精。」

 

「はい!」

 

「それで…もし良かったら…私のことを呼び捨てで呼んでぐれませんか?」

 

「はい…妖夢!」

 

大妖精が笑顔でそう呼んだ時。

 

「あの~2人の世界に浸るのもいいんだけど…」

 

「いつまで手を握り合っているんだぜ?」

 

「「えっ…はっ!」」

 

妖夢と大妖精は恥ずかしくなって同時に離す。

 

 その時。

ヒューンと何かが飛んできてドーンと音を立てて目の前に落ちてきた。

 

「なに!?」

 

土煙が晴れると、落ちてきたのは…。

 

「チルノちゃん!?」

 

「何で空から?」

 

《勝者 四季黒刀》

 

『!』

 

その場の全員が驚いた。

 

「チルノちゃん大丈夫!?」

 

大妖精が慌てて駆け寄る。

 

「くそ~覚えてろ~。」

 

チルノは目を回しながら言っている。

 

「妖夢、こっちに来て!」

 

「あ、うん。」

 

大妖精に呼ばれたので妖夢が駆け寄る。

 

「2人の傷を治します。」

 

「そんなことが出来るんですか?」

 

「はい…まずは妖夢から。」

 

大妖精が妖夢に向けて、手をかざすと緑色の光が発してみるみる妖夢の傷を治していく。

 

「治癒魔法…それもかなり高度な。」

 

「次はチルノちゃんだね。」

 

チルノには額にコブが1つできていた。

だが大妖精はそのコブを跡形もなく消した。

 

「す、すごいよ!大妖精!」

 

「えっ、そうかな~!」

 

妖夢の誉め言葉に大妖精は照れる。

そんなやり取りをしていると気絶していた大平が目を覚まし起き上がる。

妖夢が気づき構える。

大平は妖夢を睨みつける。

 

「俺が…この俺が!こんな奴に負けるわけがねぇ!俺はまだ終わって」

 

その時、ブーンと大平の後ろからバイクが大平の頭上を飛び越えた。

大平はそれがまるで自分がバカにされたと思い、

 

「てめぇ、待ちやがれ!」

 

バイクが1回転して止まる。

そして、降りた後ヘルメットを取る。

 

「何だ?急いでいるんだが。」

 

黒刀だった。

 

『!』

 

その場の全員が驚く。

 

「1位だか何だか知らねぇが俺をバカにしたような態度を取るんじゃねえ!」

 

大平が黒刀に向かって吠える。

 

「はあ…そんなくだらないことか。」

 

「く、くだらねぇだと!」

 

「ああ、実にくだらない。」

 

「ふざけんな!俺を誰だと」

 

プルルッ。

 

「あ、電話だ。」

 

「聞けよ!」

 

黒刀は無視して電話に出た。

 

「こ、こんな奴が1位?」

 

大平は怒りのあまり拳を握りしめる。

 

「うん、うん分かった。」

 

黒刀は通話を切った。

 

「お前に悪いニュースだ。」

 

「何だ?」

 

「お前に退学処分を言い渡す。」

 

「な、何だと!そんなことがあってたまるか!」

 

「これは学校側の決定だ。そんじゃ学校から支給された端末は没収な。」

 

黒刀は大平の方へ歩み寄る。

 

ふざけんじゃねぇ!てめぇを倒してから学校に文句を言わせてもらう!

 

大平は黒刀に斬りかかる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

だが。

 

「!?何だ?意識が遠のいて…い…く」

 

そのまま大平は黒刀に届く前に前のめりに倒れてしまった。

 

「お前じゃ無理だ。」

 

黒刀は大平のポケットから端末を抜き取り、冷たくそう吐き捨てた。

大平が突っ込んでいったと思ったらいきなり倒れ出したことに野次馬が騒ぐ。

 

「ほらほらどきなさい。生徒会だ。」

 

そこへ生徒会が野次馬をどけながら到着した。

 

「1年の大平の連行と端末の回収に参りました。」

 

「ほら。全くこっちは夕飯の準備があるってのに。」

 

「はは、副会長が楽しみにしてましたよ。」

 

「それは腕が鳴るな。…あ、やばっスーパーのタイムセールに間に合わなくなる!それじゃ俺はもう行くから!」

 

黒刀はヘルメットをかぶりバイクを走らせた。

 

「あっ。(声かけ忘れた…)」

 

妖夢は少し落ち込んだ後、大平を連行しようとしている生徒会に近づき、

 

「あの、なぜ彼が?」

 

「決闘以外での不当な暴力行為に対する処分です。」

 

「そうですか…ありがとうございました。」

 

妖夢が頭を下げると、生徒会は大平を連行してその場を去っていく。すると霊夢が妖夢の傍に寄って、

 

「どうしたの妖夢?」

 

「いえ、もしかして私に決闘で負けたから退学になったのかと思いまして。」

 

「何そのサバイバル?」

 

霊夢はジト目でツッコむ。

 

「チルノちゃん、ほら起きて!」

 

大妖精がチルノを揺さぶって起こす。

 

「ん、ああ、朝か?」

 

「もう夕方だよ!」

 

「そういえばもう夕方なのか~。」

 

魔理沙がそう口にした瞬間。

 

ぐ~。

 

「魔理沙。」

 

「あ、あはは!そういえばお昼も食べてなかったぜ!」

 

「そういえば私もです。」

 

「じゃ帰りましょ。」

 

「はい!」

 

5人は正門を抜けて下校していく。

 

 

 商店街。

 

「あぁ、まだ頭がフラフラする。」

 

「チルノちゃん、肩貸そうか?」

 

「大丈夫~。」

 

「…それにしても何で大平の野郎はいきなり倒れたんだ?」

 

魔理沙が大平の名を口にした瞬間、大妖精の肩がビクッと震えた。

 

「あ、ごめん。嫌なことを思い出させて。」

 

「いえ。もう大丈夫ですから。」

 

「…何のこと?」

 

チルノが首を傾げる。

 

「いや…まあ…その…ちょっとね。大妖精が大平って奴に暴力を受けたのよ。」

 

「なに!あたいがぶっ飛ばしてやる!」

 

「大丈夫だよ。妖夢が敵を討ってくれたから。」

 

「そうなのか?ありがとうな妖夢!結構強いんだな!」

 

「いえ、そんな。」

 

妖夢は首を左右に振って謙遜する。

 

「そういえばチルノちゃん、四季先輩と決闘して負けたんだよね。」

 

大妖精が思い出したように口にした。

 

「あたい負けてないし!」

 

チルノの強がりに霊夢はため息をついて、

 

「はぁ~、端末見せて。」

 

「うん?別にいいぞ。」

 

霊夢がチルノから端末を受け取り端末を操作して、

ある画面をチルノに見せる。

 

「ほら、これ。」

 

「ん?何だこれ?」

 

「決闘の記録。あんた負けてるわよ。」

 

「な、なんじゃこりゃ~!」

 

「いや知らないんかい!」

 

思わず魔理沙がツッコむ。

 

「くそ~もう1回決闘だ!」

 

「でも明後日まで決闘出来ないぞ。」

 

「どこだ!どこにいる!」

 

「聞けよ!」

 

「いた!」

 

チルノが指をさした。

 

「え、いやそんなまさか。」

 

魔理沙がチルノが指をさした方向を向くと黒刀が袋を持ってスーパーから出てきた。

 

「ってマジでいた~!」

 

「追うぞ!」

 

だが黒刀はバイクに乗って走り去ってしまった。

 

「いや、速すぎるだろ!」

 

魔理沙が叫ぶ。

5人はダッシュで追いかけるが相手はアンチグラビティバイク。到底追い付けない。

 

 

「くそ~どこ行った?」

 

「いや、それよりここどこだよ?」

 

「どこってそりゃ……どこだここ?」

 

「知らないで追いかけたのかよ!」

 

「いや~追うのに夢中で。」

 

5人がいるのはどこかの住宅街のようだ。

 

「どうします?誰か空から見てみます?」

 

「それがいいわね。」

 

霊夢が大妖精の提案に納得していると、

 

「あ、黒刀いた!」

 

「おいおい、そんな偶然が2回も続くわけが…ってまたいた~!」

 

視線の先を見ると、黒刀が綺麗なアパートのバイク置き場にバイクを停めて、アパートの部屋の中に入って行った。

 

「アパート?」

 

「四季家っていえば超大金持ちだろ?

それが何でこんなところに…没落?」

 

アパートの表札には『白黒荘』と記されていた。

 

「あなたたち、何をしているの?」

 

ギクッ。

 

 

 黒刀が夕飯の支度をしていると玄関のドアが開いた。

 

「ただいま~!」

 

「姫姉、おかえり~!」

 

「黒刀、あなたにお客さんですよ。」

 

「お客さん?まあ、いいよ。上がらせて。」

 

「そうですか。いいですよ。どうぞ上がって下さい。」

 

映姫は玄関前で待っている妖夢達に声をかける。

 

「「「「「おじゃましま~す!」」」」」

 

5人は元気の良い声で部屋に上がっていく。

中は1K。

畳敷きの和室1つにキッチン、トイレ、バスルームがあるシンプルな作りだった。

そして、黒刀はキッチンですき焼き鍋を作っていた。

そこでチルノは黒刀のエプロンを見て、

 

「パ、パンダ?」

 

「可愛い!」

 

大妖精は少しテンションが上がっている。

 

「そうか?まあ座れ。」

 

和室にはちゃぶ台が1つ置いてあった。

皆はちゃぶ台を囲む形となって座る。

 

「それじゃ、いただきます。」

 

『いただきます!』

 

すきやきの具材は白菜、ネギ、豆腐、ちくわぶ、牛肉だった。

 

「シイタケが入ってない!」

 

魔理沙がクレームを入れた。

 

「俺はきのこが嫌いだ。」

 

「子供か!」

 

黒刀の答えにチルノがツッコむ。

 

「文句を言うなら…」

 

「食べるなと?」

 

「一口食ってみろ。」

 

「そっちか。」

 

霊夢がずっこける。

 

「じゃあ、まあ一口だけなら。」

 

魔理沙が牛肉を取って口にいれる。

 

「う、うまい!」

 

「な。」

 

「ずるいわよ魔理沙!いきなりメインの牛肉を食べるなんて!」

 

「おい霊夢!お前も食ってみろ!マジうまいぞ!」

 

「聞いてないし…。」

 

霊夢も箸をつけ一口。

 

「ほんと、美味しいわ!」

 

「さすが黒刀特製の味付けですね。」

 

「ありがとう。」

 

黒刀と映姫が微笑み合う。

 

 その時。

 

「あ~やっと終わった~!」

 

小町が玄関から入ってきた。

 

「やあ、小町先輩。」

 

黒刀が出迎える。

 

「この匂いは…すき焼き!この~お肉はわたさ~ん!」

 

小町は映姫の隣に座る。

 

「お、1年じゃん!」

 

「こんにちは!」

 

「まあまあ、挨拶は後で今はすき焼きだ!」

 

「「「「「………。」」」」」

 

妖夢達は固まってしまう。

 

「ほら呆けてるとどんどんなくなるぞ。」

 

黒刀が笑う。

 

「負けるか~!」

 

そんな感じで食べ進めていると、魔理沙が口を開いた。

 

「なあ黒刀。」

 

「ちょっと魔理沙、先輩よ。」

 

「気にしないで良い。で何だ?」

 

「どうやってあの大平を気絶させたんだ?」

 

「それは」

 

「手刀です。」

 

妖夢が口を挟んだ。

 

「手刀?」

 

「はい。」

 

「どういうことだ?そんなものは見えなかったぞ。」

 

「私も視認は出来ませんでした。」

 

「ではなぜそう思った?」

 

黒刀が妖夢に問う。

 

「は、はい!実は彼が運ばれる時に首筋を見たら何かで打たれた痕のようなものができていたので。

つまりあの場の全員の動体視力を越えるスピードで手刀を打ったのではないかと。」

 

妖夢は憧れの黒刀を前に緊張しながらも答えた。

 

「ほう。(かなりバレないようにやったつもりだったがまさか気づくとはな。)…お前、名前は?」

 

「はい!魂魄妖夢です!」

 

「妖夢か。」

 

「はうっ!」

 

妖夢はいきなり下の名前で呼ばれて赤面してしまう。

小町がジト目で、

 

「お前、いつも初対面の女子相手にいきなり下の名前で呼ぶのはまずいだろ。」

 

「え、何か問題あるのか?」

 

「はあ、もういいや…。」

 

小町の言葉に黒刀は首を傾げていた。

映姫は頭を抱え呆れていた。

 

「私からも質問があります。」

 

妖夢が黒刀に声をかける。

 

「何だ?」

 

「黒刀…先輩はとても強いです。それが何で団体戦の1回戦で負けてしまったのですか?」

 

「いや、それは…」

 

小町が制止しようとする。

 

「いいよ小町先輩。…お前はその1回戦を見たのか?」

 

「いいえ。」

 

「なるほどな。」

 

黒刀は空間ウインドウを操作してある映像を妖夢達に見せた。

 

「何ですかこれは?」

 

「例の試合の記録だ。」

 

妖夢の問いに黒刀は答えた。

小町が心配そうな目で黒刀を見て、

 

「いいのか黒刀?お前にとっては思い出したくないことだろう。」

 

「もう大丈夫だ。」

 

「あ、いました黒刀先輩!…大将ですよ。」

 

妖夢が映像に表示されているメンバーリストを見て口にした。

 

「だが大将にしたことが失敗だった。」

 

「え?」

 

黒刀の呟きに妖夢が呆けた声を出す。

そして画面に映ったのは神光学園代表の先鋒、次鋒、中堅の3人が次々とボロ負けされていく映像だった。

 

「何ですか…これ?」

 

妖夢は愕然としていた。

 

「分かっただろ?これじゃ大将まで回ってこない。」

 

「相手は1年と2年だけね。」

 

霊夢は気づいたことを口にした。

 

「ああ、でこっちは俺以外3年だった。

だがあっちには1人だけ1年で桁が違う奴がいた。

中堅の奴を見てみろ。」

 

言われて妖夢達が視線を戻すと、

白髪で短髪、瞳の色は赤、上半身は白の明るい服、

下半身は裾に赤白の飾りのついた黒いスカート、

頭には山伏風の帽子で、犬耳と尻尾が生えていて、

剣と紅葉が描かれていた盾を装備した女の子が映った。

 

「中堅ってこの犬耳の人?」

 

「そいつの名前は犬走椛。『千里眼』のスキルを持つ剣士だ。」

 

「スキルって確か超能力みたいなものですよね。」

 

「ああ、スキルは生まれ持つ先天性か鍛練によって得た後天性の2種類がある。椛の『千里眼』は少々厄介でな。こっちの中堅はなすすべもなく敗北した。」

 

黒刀はお茶を1杯飲んだ後、湯飲みをちゃぶ台に置く。

 

「妖夢、お前の決闘を見た。」

 

「え、ありがとうございます…。」

 

妖夢の頬が少し赤くなる。

 

「そうだな。竹刀でいいなら少し相手をしてやろう。」

 

「いや、そんな私が先輩の相手をするなんて畏れ多いです!」

 

「だめか?」

 

「あの…その…はい。」

 

「じゃあ庭でやろうか。それならいいよね?姫姉。」

 

「ええ、近所迷惑にならない程度なら。」

 

「了解。」

 

黒刀と妖夢は2階から階段で降りてそのまま庭に行く。

 

「緊張する~。」

 

「あんたが緊張してどうするのよ。」

 

「妖夢にとっては憧れの人との対決ですしね。」

 

観戦する魔理沙、霊夢、大妖精がそれぞれ口を開く。

黒刀は妖夢に2本の内の1本を投げ渡す。

 

「ほら、姫姉のだけど。」

 

「ありがとうございます。」

 

妖夢は竹刀の柄を見て気づく。

 

「(血の痕がある…きっとものすごい数、姉弟で打ち合ってきたんだろうな。)」

 

「勝負は1本勝負だ。」

 

「はい!」

 

周りの音が静かになる。

2人は竹刀を構える。

最初に飛び出したのは黒刀の方だった。

 

「(速い!)」

 

妖夢は一気に距離を詰められる。

 

「(打ち合ったって筋力的に不利だ…ここは回避してカウンターだ!)」

 

妖夢は半歩引いて竹刀を回避して、黒刀の左脇にカウンターを仕掛けようとする。しかし、黒刀は空振りをした竹刀で全身を一回転させて回転斬りを放った。

 

「なっ!」

 

妖夢は回転斬りを竹刀で受けた。

 

「(想像していたより遥かに重い!)」

 

吹っ飛ばされた妖夢に黒刀はさらに踏み込む。

 

「(受け身に回ってたら負ける…こっちも攻める!)」

 

妖夢も地面を踏み込んだ。

黒刀はニヤリと笑い、右足を45度の角度で踏み込んだ瞬間、彼の姿から妖夢の目の前から消えた。

直後、妖夢の背後からとてつもないほど大きな気配がした。

 

「はっ!」

 

妖夢は咄嗟に振り向きガードした。

 

「お前の長所と短所は同じだ。」

 

「くっ!」

 

「それはその純粋な目と心だ。」

 

黒刀は鋭い剣捌きで妖夢の竹刀を弾き飛ばした。

決着はついた。

黒刀は妖夢に背を向けて歩き出した。

 

たとえそれが私の弱さでも()()()()()()()()()()()この剣はあなたを超えると誓った剣だから!

 

「…楽しみにしている。」

 

妖夢の言葉を聞いた黒刀はそう言い残して立ち去った。

 

 

 黒刀と妖夢の一本勝負が終わった後、

妖夢達はそれぞれ解散していった。

 

 

 チルノ&大妖精サイド。

「すごかったね。チルノちゃん。」

 

「ま、まあまあだね!…あいつはあたいが倒す!」

 

「うん。頑張ってチルノちゃん♪」

 

 

 霊夢&魔理沙サイド。

「強かったな…初めてだよ!

チャンピオンの剣術を間近で見るなんて!」

 

「そうね…妖夢も落ち込んでないといいけど…

あんな負け方しちゃうんだもの。」

 

「大丈夫だ!妖夢はそんな柔じゃないぜ!」

 

「でも、よくよく考えたら私達って今日会ったばかりなのよね…。」

 

 

 妖夢サイド。

妖夢はさっきの黒刀との勝負を思い出していた。

 

『お前の長所と短所は同じだ。』

『それはその純粋な目と心だ。』

『楽しみにしている。』

 

妖夢は右手をグッと握った。

 

「勝ちたい…超えたい…あの人を超える!

そのためにはもっと修行しなきゃ!」

 

自宅の玄関を開けてリビングへ入り電気をつけると、

幽々子がうつむいたまま座っていた。

 

「うわ!幽々子様何してるんですか?電気もつけないで。」

 

「…ごはん。」

 

「はい?」

 

「昼になっても帰ってこない…夕方になっても帰ってこない…お腹減った…。」

 

「えっと…。(しまった~!すっかり忘れてた!)」

 

「妖夢は私が空腹でも構わないんだ?」

 

「すみません!今すぐ作ります!」

 

妖夢は急いでキッチンに向かう。

すると、幽々子は笑顔に戻った。

 

「そう!じゃあ10食分お願いね!」

 

「計算おかしくないですか!」

 

「…お腹」

 

「あ~分かりました!作ります!作りますから機嫌直して下さい!」

 

「ふふふ、やっと妖夢のごはんが食べられるわ♪

もしまたやられたら食べ放題の店でも行こうかしら♪」

 

「それはやめておいた方が。」

 

「あら、なぜ?」

 

「犠牲者が出るからです。」

 

「それは恐いわね~。」

 

「(恐いのはあなたの胃袋ですよ!)」

 

 

 4月5日午前5時。

「ん、ん~~~~!」

 

映姫が大きく伸びをして起床する。

 

「黒刀、起きなさい。朝ですよ。」

 

映姫は隣で寝ている黒刀の肩を少し揺すって起こす。

 

「ん、おはよう姫姉~。」

 

「おはよう黒刀。」

 

2人は布団を畳み、それから制服ではなくジャージに着替えた。

 

「行きますよ。」

 

「ああ。」

 

2人はアパートの階段を降りて、それから日課であるランニングを始めた。

 

「やっぱり町内一周じゃ楽すぎるかな?」

 

「いえ、これくらいがちょうどいいですよ。」

 

2人は息1つ切らさず走っている。

そして、幻想町を一周してアパートに戻ってきた。

そのまま部屋に戻るのかと思いきや、庭に行き竹刀を持って素振りを始めた。

 

数分後。

 

「9998…9999…10000。」

 

2人はほぼ同時に素振りを終えた。

 

「それじゃ朝食にしますか。」

 

「楽しみだな。姫姉の飯。」

 

「朝だから大したものは作れませんよ。」

 

「だがうまい!」

 

「もう!」

 

2人は笑い合いながら部屋に戻る。

 

四季家の朝食は白飯、味噌汁、卵焼き、魚の塩焼き、牛乳とまさに日本の朝食といったものだった。

 

「やっぱりうまい!」

 

「いつも同じですよ。」

 

「いつもうまい!」

 

「私は黒刀の味付けの方が好きですけど…。」

 

「それは俺が姫姉の好きな味を知っているからだよ。

で逆もまたしかりってね!」

 

「なるほど。」

 

 

 しばらくして2人は手を合わせて、

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

映姫は脱衣所で制服に着替えて、黒刀は和室で制服に着替えた。

それから2人は「「いってきます!」」と言って部屋を出た。

登校は黒刀がバイクに乗って後ろに映姫が乗るという感じになっていた。

2人ともヘルメットをかぶる。

黒刀はバイクのエンジンをかけた。

 

 

 学園の駐車場に着いた。

 

「私は生徒会室に行きます。黒刀はどうするの?」

 

「俺は図書塔に行ってくるの。」

 

「じゃあ、また。」

 

「うん、また。」

 

黒刀と映姫はここで別れた。

校舎から離れた場所には図書塔があり、何十万冊という数の本がある。

黒刀が図書塔の扉を開けると、その受付には

紫色のセミロングの髪をした、中学生並みに、小柄な女性、稗田(ひえだの)阿求が座っていた。

 

「早いわね、こんな朝から。」

 

「お互い様だろ。あっきゅん。」

 

なお、阿求は図書委員の3年生だが、同じ図書委員の黒刀は愛称で呼んでいるし、阿求もそれを許している。

 

「仕事ないわよ。」

 

「いいよ。本、読んでる。」

 

「何の本?」

 

「反重力運動理論。」

 

「好きね、それ。あれは…」

 

「3階だろ。覚えてる。」

 

「たいした記憶力ね。」

 

「(完全記憶能力を持ってるあんたほどじゃねえよ。)」

 

 

 黒刀は3階から『反重力運動の理論』とタイトルがついた本を取って読む。

そうしている内に時間が過ぎていき、図書塔の鐘が鳴る。

 

「時間だな。」

 

「じゃあ、私は戸締まりをしてから行きます。」

 

「(もはや、主だな。)」

 

 

 

 午前8時。

 

「ふわぁ…全然眠れなかった…。」

 

妖夢は欠伸を抑えきれずにいた。

 

「おっす、妖夢!」

 

「おはよう。」

 

「霊夢、魔理沙おはよう…ふわぁ…。」

 

「眠そうだな。」

 

「昨日の先輩との勝負を思い出していたら興奮して眠れなかったんです。」

 

「はは、小学生かよ。」

 

 

 

 午前8時30分。1年A組教室。

 

「今日は能力測定があります。詳しい内容は第3体育館で担当の先生が説明してくれます。皆さんは運動着に着替えて行ってください。」

 

慧音がそれだけ報告して、教室を出ていくと女子達は更衣室に移動していく。

 

 女子更衣室。

「能力測定って何をやるんでしょう?」

 

妖夢が着替えながらつぶやく。

 

「そりゃドンってなってバーンとなってドカーンってなるやつだよ!」

 

「全然わからん。ドカーンって何だよ。爆発すんのか?」

 

チルノの適当な発言に魔理沙がツッコむ。

 

「上級生たちもやるらしいですよ。」

 

大妖精も着替えながら口にする。

 

「ってことは黒刀先輩もやるのよね。」

 

霊夢の一言に5人はその光景を想像する。

 

「「「「「(マジで爆発させそう…。)」」」」」

 

「いやいや、いくらなんでもそんなことあるわけが…」

 

「でも昨日の実力を見ただけでも十分納得できちゃうのよね。」

 

「確かに。」

 

「能力ならあたいが最強ね!」

 

「私も負けないぜ!」

 

「なら勝負だ!」

 

「望むところだ!」

 

「こいつら元気ね…。」

 

チルノと魔理沙の張り合いに霊夢は呆れていた。

 

 

 

 第3体育館。

 

「担当の先生ってどんな人なんでしょう?」

 

「普通の学校なら保健室の先生とかかな?」

 

「そうね。」

 

「だけど…」

 

「「「「「(この学校が普通なわけがない。)」」」」」

 

妖夢達がそんなことを話し合っていると、

第3体育館に現れたのは金髪ロングで、身長は高め、上は体操服、下はロングスカートで、下駄を履いていて、頭に赤い一本角を生やした男勝りな女性教師…

星熊勇儀だった。

 

「あたしの名前は星熊勇儀だ!教科は体育!それじゃ能力測定について説明するぞ!」

 

「(え、もう?)」

 

その時、1人のクラスメイト男子が、

 

「ちょっと待てよ!」

 

「何だ?」

 

勇儀は不機嫌さを隠さない。

 

「お前、酒臭いぞ!本当に教師なのか!」

 

周りからも、そうだそうだ、と野次が飛ぶ。

 

「そうだな…そんなに文句があるならあたしに勝てるようになってから言ってもらおうか。」

 

勇儀はそう挑発する。

 

「やってやろうじゃねえか!」

 

その男子がSDを取り出す。

 

SD。

Sword Deviceを略してSD。

長さ10cmのグリップ状のデバイスで、スイッチを押すと起動してライトグリーンのビームブレードが出るものである。

汎用型と特化型に分類され、

汎用型は30cm~50cmの刀身の剣。

特化型は斧、槍など様々である。

 

SDを起動した男子は勇儀に突っ込む。

 

 

 第2体育館。

黒刀がストレッチをしていると、

 

「あやや、黒刀さんが授業に出ているなんて珍しいですね!」

 

「…俺を不良扱いするのはやめてくれないか…文。」

 

黒刀がそう呼ぶ女子生徒の名は射命丸文。

黒髪セミロングで、瞳の色は赤、身長160cm、

赤い山伏風の帽子を被っている神光学園2年新聞部部長である。

新聞部といっても昔のような新聞紙ではなく、現在の主流は校内ネット掲載のニュースサイトで登校している。

 

「あやや、これは失礼♪」

 

文は悪気もなくそう返す。

 

「サボってるわけじゃなくてちゃんとその権利があるんだからな。」

 

黒刀がそう答えた時、

 

「校内ランキング1位と2年の座学トップ、定期試験の結果はいつも満点だから…でしょ?」

 

現れたのは金髪、青い瞳、やや高めの身長、頭にヘアバンドのように赤いリボンをつけた少女。

名前はアリス・マーガトロイド。

その正体は日本で有名なアイドルであり、黒刀の小学6年生からの幼なじみでもある。

 

「ああ、知っていることをわざわざ教わる必要はない。」

 

「そういうところ、ほんと阿求先輩に似てるよね。」

 

「完全記憶能力者と一緒にするなよ。」

 

「そういえば1年も今頃、受けている頃よね…例のあれ。」

 

「星熊先生の洗礼か…。」

 

「黒刀さんは去年、星熊先生と互角に闘ってましたね。」

 

「今年もいるんじゃないか1人くらい。」

 

「「(いないいない!)」」

 

 

 

 第3体育館。

勇儀の前には倒された男子がいた。

 

「そん…な…バカな…。

(ありえねえ…この先公…俺の剣を指1本で止めやがった。)」

 

「(やはり…黒刀のような奴はいないか…。)」

 

先の一瞬で勇儀は彼の剣を指1本で止め、カウンターの手刀で倒した。

 

「そんじゃ、改めて能力測定について説明するぞ!

お前もよく聞いておくんだな。」

 

勇儀は倒れた男子に向けても言葉をかける。

 

「くっ。」

 

「能力測定っていうのはオーラの性質を測定することだ。」

 

「オーラって何ですか?」

 

1人の生徒が質問する。

 

「オーラっていうのは人間の体内に流れるエネルギーのことだ。それには性質があり気力、魔力、霊力の3つに分類される。性質は人それぞれであり、オーラは全ての人間が持っているものだがただ普通の生活を送ってあれば発現することはない。また発現したとしても扱いきれなければ意味がない。今の3年だってまともに扱いきれないものもいる。」

 

「じゃあ1年でもオーラを上手く扱うことができれば勝てるっていうことですか?」

 

「少なくとも勝率は上がるだろうな。」

 

それを聞いた1年達は喜びを隠しきれずにいる。

 

「そのためには今から測定する。まずは自分自身の力を知ることが最初の授業だ。じゃあクラス毎に出席番号順に並べ。」

 

 30分後。

魔理沙の順番が来る。

測定器はコンソールみたいなもので中心の円に手をかざすと測定される仕組みだ。

 

「イメージは自分の内側の力を出すことだ。」

 

「はい!」

 

魔理沙が測定器に手をかざすと、勇儀と魔理沙だけ見えるようにモニターで結果が出た。

 

《霧雨魔理沙 魔力》

 

「お前は魔法師だったな。まあ、予想通りといえるな。」

 

「魔力…。」

 

魔理沙は右手をグッと握って下がっていく。

 

「次、魂魄妖夢!」

 

「はい!」

 

妖夢も測定器に右手をかざす。

 

《魂魄妖夢 気力》

 

「気力。剣士や格闘家に多いタイプのオーラだ。」

 

「剣士…ってことは先輩…黒刀先輩も気力を持っているってことですか?」

 

「ん…まあな。」

 

「やっぱりそうなんですね!」

 

妖夢は目を輝かせると元気よく下がっていった。

 

「次、大妖精!」

 

「は、はい!」

 

大妖精が測定器に手をかざす。

 

《大妖精 魔力 霊力》

 

「妖精は精霊の一種だから霊力を持っているが、お前は魔力もあるようだな。」

 

「2つのオーラを持っているということですか?」

 

「ああ。2つのオーラを持っていることをツインフォースという。珍しい方ではあるな。」

 

「そうですか…ありがとうございました。」

 

大妖精はそう言ってお辞儀をしてから下がっていく。

 

「次、チルノ!」

 

「あたいの番きた!」

 

チルノは手をかざすというより測定器に右手を叩きつけた。

 

《チルノ 霊力》

 

「お前も妖精だったな。」

 

「最強の妖精だ!」

 

「はいはい…てか測定器を叩きつけるな。壊れるから。」

 

「分かった!…よっしゃこれで黒刀を倒す!」

 

「(気が早ぇよ。)」 

 

勇儀の心配もよそにチルノはスキップして下がっていく。

 

「次、博麗霊夢!」

 

「はい。」

 

霊夢は冷静な様子で測定器に手をかざす。

 

《博麗霊夢 霊力》

 

「お前は神社の巫女をしているそうだな…そうか…それで…。」

 

「もう下がってもいいですか?」

 

「あ…ああ。」

 

霊夢は静かに下がっていく。

 

「(あの感じ…既に自分がオーラを発現していることに気づいている…いや、それどころかかなりの高いレベルに達している…やはりあの博麗の巫女か。)」

 

勇儀はそこまで考えて首を振って仕事に戻った。

 

その時。

 

バーンと強い衝撃音と地響きが鳴り響いた。

 

「え、何ですか今のは?」

 

「この体育館からじゃない…第2体育館の方から響いてきたわ。」

 

「行ってみよう!」

 

妖夢達は急いで第2体育館に走っていく。

 

 

 

 第2体育館。

 

「く~ろ~と!お前、今わざとオーラを強く込めただろ!」

 

第2体育館でそう叫ぶのは、

青髪ツーサイドアップ、白のブラウスに肩の部分にポケットが付いている水色の上着、青色のスカート、頭に緑色のキャスケットをかぶり、背中に大きいリュックを背負った、小学生並の身長の2年A組の担任、

河城にとりである。

 

「え~俺は軽くやったんだけどな~。軽く。」

 

「どこが軽くだ!見ろ!測定器が木っ端微塵じゃねえか!」

 

にとりが指をさした先にはパーツがバラバラに散った測定器があった。

 

「あ~私、知らないわよ。」

 

アリスはそっぽを向いている。

 

 

「やっぱり先輩はすごい!」

 

その現状を見た妖夢は目を輝かせていた。

 

「だいたいお前はいつも…」

 

「「!」」

 

黒刀とにとりはその時、何かに気がついたのか動きが止まった。

 

「おい…黒刀。」

 

「ああ、分かってる。出来れば振り向きたくない。」

 

にとりが黒刀の背後を見ると映姫が冷たい笑顔で立っていた。

 

「ふふふ、一体この騒ぎはなんですか…黒刀?」

 

「ひ、姫姉…。」

 

「お説教。10時間コースと5時間フルコースどちらがいいですか?」

 

「えっとお説教なしというのは?」

 

「…ふふ♪」

 

映姫は黒刀の頭をアイアンクローで掴んで連行する。

 

「え、うそ今から?」

 

「残念ながら今日は別件です。学園長があなたとにとり先生をお呼びです。能力測定の続きは八意先生が引き継ぎます。」

 

八意という名を聞いた2年の男子の顔が一瞬で青ざめていくのだった。




ED1 遊戯王5Ds「START」


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天使

通算UA100突破ありがとうございます!

第4話です。

OP1 学戦都市アスタリスク「Brand new world」

今回は短めです。


 午前10時。学園長室。

電動ドアが開くと、黒刀が、

 

「なんだよ…BB…」

 

バンッ。

 

「あぶなっ!いきなり魔法弾を撃つなよ!」

 

「ちっ。」

 

魔法弾を避けた黒刀に、紫は舌打ちした。

 

「学園長、部屋がめちゃくちゃになったら掃除をするのは私なんですが。」

 

と、紫を注意するのは金髪ボブで黒いスーツを着た、

神光学園の教頭、八雲藍である。

藍は紫の娘でもある。

「黒刀、にとり。仕事よ…軍から。至急、神戸基地に出頭するようにとのことよ。」

 

「神戸か…バイクで行くか?」

 

「バカか。お前は外部の人間に正体をバレちゃいけねぇんだからな。」

 

「私の空間魔法で送ってあげるわ。」

 

「まじか、サンキューBB…学園長。」

 

黒刀は途中で言い直した。

 

「よろしい。」

 

紫が右手をかざすと、黒刀とにとりの足元に幾何学模様の魔方陣が展開された。

2人は神戸基地へ転送された。

 

 

 

 神戸基地。

黒刀とにとりはとある戦艦の前に落とされた。

 

「送り方、荒っ!」

 

「いって~!」

 

「ほら。」

 

尻餅をついているにとりに黒刀が手を差し出す。

にとりはその手を取って立ち上がる。

 

「とりあえずブリッジに行こう。」

 

2人は目の前の巨大な戦艦へ歩き出す。

戦艦の名は『イーグル』。

反重力飛行システムを運用した全長400mの高速空中機動戦艦である。

 

 

 

 イーグルブリッジ。

「だいぶ久しぶりだな。」

 

「浸っている暇はないぞ黒刀。」

 

にとりが通信ボタンを押すとモニターウインドウが展開される。

 

《久しぶりだな。》

 

「「お久しぶりです二宮大将。」」

 

そう呼ばれたのは男前な40代の男性、二宮総一郎陸軍大将。

 

《私を大将と呼ぶ必要はないのではないかね。

四季黒刀空軍大将。それと河城にとり空軍技術中将》

 

そう、彼らの正体は空軍の大将と技術中将なのである。

 

「それより今回の任務の説明を。」

 

《ああ、今回の作戦空域はインド洋上空だ。マップデータを送る。》

 

イーグルのブリッジにデータウインドウが表示される。

 

「敵は?」

 

《ソマリア軍だ。》

 

「あの紛争中の国ですか。」

 

《東南アジアのスリランカ軍との合流を図っている。

今回の任務は合流阻止のためソマリア軍艦隊の殲滅だ。》

 

「空域の戦闘許可は?」

 

《問題ない。モルディブという国家が中間地点にあり、そこから許可が出ている。では健闘を祈る。》

 

通信が切られる。

 

「それじゃ、出動といきますか。」

 

「2人しかいないけどな。」

 

「お前のマニュアル操作だけで十分だ。」

 

「いや、単純に寂しいだろ。」

 

「そうか?」

 

黒刀が首を傾げる。

 

「はぁ、もういい。…システムオールグリーン!

『イーグル』発進!」

 

反重力システムが起動し機体が浮き上がる。

そして、スラスターを噴射して飛び立つ。

 

 

 

 30分後。

「そろそろ、作戦空域だ。」

 

「じゃ、準備してくる。」

 

黒刀は首をコキコキと鳴らしながらブリッジを退室した。

 

 

 

 格納庫。

黒刀が格納庫に入ると、そこには

刀身、鍔、柄まで全て真っ白な美しい刀が立て掛けてあり、

その横には全長2mのロボットのような機体。

機体の色は白、腰には2本のレール砲、ホルスターには2丁の銃のデバイス、背中にはスラスターと翼の形をしたバックバーニア、胸には丸い宝石のような赤のコアパーツがある。

『ブレイドアーマー』。

現在、日本のみが所有する最新鋭の兵器である。

 黒刀は白い刀を左手で握る。

 

「セットアップ!」

 

黒刀が発したボイスコマンドに『ブレイドアーマー』が転移して黒刀の全身に装着される。

黒刀がカタパルトに乗るとハッチが開く。

 

《出撃準備完了!いつでもいいぞ!》

 

「四季黒刀、出る!」

 

カタパルトに乗った黒刀が勢いよく発進する。

翼から黒いオーラが出て空を舞う。

 

《敵影捕捉。空母2隻と戦艦10隻、どちらも空中戦艦。》

 

「なら、まずは空から墜とす。」

 

 

 

 ソマリア空母ブリッジ。

「艦長、敵影捕捉!空中戦艦1隻と1機です!」

 

「モニターに映せ。」

 

モニターウインドウに映ったのは『イーグル』と

『ブレイドアーマー』を見た艦長以外のクルーは、

 

「ハハハ、たった1隻と1機で俺たちとやり合うつもりかよ!」

 

と、笑い飛ばしていた。

だが、艦長の反応は違った。

 

「まさか!あれは『鷲』と『天使』!まずい!

コンディションレッド発令!」

 

『え?』

 

全員が驚いた。クルーの1人が、

 

「艦長、敵はたかが1隻と…」

 

あれは『鷲』と『天使』だ!

 

「そ、それってあの南部連合艦隊を全滅させたっていう…。」

 

そうだ!いいか、まともに闘おうとするな!我々の最優先目標は合流だ!この空域を離脱する!

 

「コンディションレッド発令!パイロットは搭乗機にて待機してください!」

 

 

 

 黒刀は白い刀を機体の鞘に納めて、右手で右腰のホルスターから銃のデバイスを抜くと、トリガーを引いた。

銃口から赤黒いビームが放たれる。

そのビームは艦長が乗る空母の機体のスラスターに直撃する。

 

「くっ、被害は?」

 

「反重力システムダウン!」

 

「海上運転に切り替えろ!…仕方ない…航空部隊全機発進!」

 

空母からどんどん戦闘機が発進する。

 

「出てきたな。」

 

黒刀がつぶやく。

 

《油断は禁物だよ。》

 

「分かってる。」

 

 

 

 戦闘機の隊員の通信。

《あの野郎、俺達を舐めやがって!隊長、俺が先行します!》

 

若い隊員が飛び出す。

 

《待て!フォーメーションを崩すな!》

 

《あいつさえ潰せばいいんでしょ!うぉぉぉ沈め~!》

 

しかし、黒刀はそれを、

 

「遅い。」

 

一言ともに白い刀で戦闘機の機体を真っ二つに斬った。

それを見た仲間が、

 

《貴様、よくも~!》

 

と、機関銃を連射するも全てスレスレで回避されてしまい高速で反撃を受け機体を斬られる。

 

《うああ、少佐~!》

 

《くっ!》

 

部下の断末魔に隊長である少佐は歯噛みする。

さらに、黒刀は速度を上げる。

 

《へ?ぐああああ!》

 

気づかぬ内にまた1人撃墜される。

黒刀は目にも止まらぬ速さで敵を斬っていく。

敵の少佐は次々と聞こえる部下の悲鳴に恐怖で頭を抱えた。

 

「なんで…こんな…こんな目に…。」

 

その時、機体のフロントガラスに黒刀が乗ってきた。

 

「ひっ!」

 

黒刀は白い刀を縦に振り、パイロットごと機体を斬った。

 

 

 

 空母ブリッジ。

「第1部隊、第2部隊シグナルロストしました!」

 

「そんな…まだ1分しか経っていないんだぞ…そんなバカなことが…。くそ!撤退だ!態勢を立て直す!」

 

「そんな!ここまで来たのに!」

 

全滅よりマシだ!

 

「…全艦に通達!撤退せよ!」

 

「おい!」

 

別のクルーが通信したクルーに声を張り上げる。

 

俺はいやだ!故郷には妻と子供がいるんだ!こんなところで死にたくない!

 

通信したクルーが叫ぶ。

そんな時、別のクルーが

 

「艦長!撤退できません!」

 

「なぜだ!」

 

「後方に巨大なうずしおが発生しています!」

 

「まさか…これを見越して?」

 

「…終わりだ…。」

 

黒刀が艦隊に向かって飛んでくる。

 

「くっ、対空砲撃て~!」

 

12隻からの対空砲を黒刀は突撃しながら回避していく。

 

「なにっ!」

 

艦長が驚愕する。

さらに、黒刀は戦艦を1隻を水平斬りで真っ二つに斬る。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

戦艦のクルーが断末魔を上げた直後、戦艦は爆散する。

 

「(面倒だな。)」

 

黒刀はそこで上昇する。

そして、銃のデバイスを構えると、銃口の先端に黒いオーラが集束していく。

それを見た艦長が「あれを撃たせるな!」と叫ぶ。

対空砲が放たれるが黒刀まで距離が足りない。

 

「散れ。」

 

短い一言ともにトリガーを引くと銃口から巨大な赤黒いビームが放たれる。

敵の表情が恐怖に染まり、次の瞬間全てが散った。

後に残ったのは海面に空いた大きな穴だけだった。

 

「任務完了。」

 

 

 

 神戸基地に帰ってくると、黒刀は『ブレイドアーマー』を解除し、ブリッジに戻ってくる。

 

「よし、帰るか。」

 

「報告書。」

 

「任せる。」

 

黒刀は目を逸らした。

 

「おい。…お前、この前も私に丸投げだっただろうが!」

 

「じゃあ、俺が送っておこうか?にとり中将は戦闘中サボってましたって。」

 

「サボってねえよ!」

 

「だってほとんど何もなってなくね?」

 

「やってるよ!」

 

「何を?」

 

「…データを。」

 

「仕方ないだろ。あの『ブレイドアーマー』はまだプロトタイプなんだから戦闘データはとっておきたいんだよ!」

 

「あ~はいはい参った。俺が悪かった。報告書も手伝うよ。」

 

「投げやりだなお前!」

 

この喧騒は『イーグル』の外で警備している神戸基地の隊員達にも聞こえていた。

 

「いつもああ何ですかあの2人?」

 

「そうかお前はこの基地に入ったばかりだったな。あの2人が来た時はだいたいあんな感じだよ。」

 

ベテラン隊員が新入隊員の疑問に答える。

 

「よくあれで一緒の部隊でいられますね?」

 

「ああ見えていいコンビなんだよ。まあ、『ブレイドアーマー』関係については揉めまくるがな。」

 

2人はそんな会話する中、黒刀とにとりの喧騒は響いているのだった。




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破壊王

第5話。
OP1 学戦都市アスタリスク「Brand new world」

黒刀とチルノ再戦!


 午後1時。神光学園1年A組教室。

 

「昼だ~!」

 

「うるさい。」

 

チルノが大声を上げ、霊夢が不機嫌さを露わにする。

 

「なんだと!」

 

「まあまあ、皆さんはお昼はどうするんですか?」

 

大妖精の質問に皆は、

 

「私は学食だ。」

 

「あたいも!」

 

魔理沙とチルノに対し、妖夢達は

 

「「「私は弁当。」」」

 

「お前ら、そんな女子力を…。」

 

魔理沙はショックを受けた。

 

「これくらい普通よ。ていうか料理作れて女子力なら黒刀先輩はどうなのよ?」

 

「あれは主婦だな。」

 

「違いますよ。主夫です。」

 

「あの~早くしないとお昼が…。」

 

「そうだ!じゃあGO!」

 

「あたいもGO!」

 

チルノと魔理沙はダッシュで食堂に向かう。

 

「あの2人、思考回路が一緒なんじゃないかしら。」

 

「あ、あはは…。」

 

霊夢の言葉に妖夢は苦笑いだった。

 

 

 

 食堂。

昼食を食べながら魔理沙が校内ニュースサイトを空間ウインドウで閲覧していると1つの記事を見つけた。

 

「なになに…昨日1年生の魂魄妖夢が同じ1年生を完膚無きまでに叩きのめした…ってなにこれ?」

 

「完膚無きって…。」

 

「とんだゴシップ記事ね。」

 

「あ、でも退学になった相手の名前は伏せてありますよ。そこらへんのセーフティーラインは見極めてありますよ。」

 

「あ、もう1つ記事ありますよ。」

 

「どれどれ…1年生のチルノは100位の3年生を瞬殺したが、その後校内ランキング1位の四季黒刀に何も出来ず敗北。」

 

「う、嘘だ!」

 

チルノは否定する。

 

「いや負けたのは事実だし。あとうるさい。」

 

霊夢が冷静にツッコむ。

 

そこへ、

 

「よう!」

 

勇儀が現れた。

 

「あ、星熊先生。聞きたいことがあるんですけども。」

 

「何だ?」

 

「噂で聞いたんですけども星熊先生は黒刀先輩と闘ったことがあるんですよね?」

 

「…あいつが初めてだったよ。この学園であたしに両手を使わせたのは。」

 

「「「「「え…え~!」」」」」

 

「星熊先生、お願いがあります!私にオーラの使い方を教えて下さい!」

 

「おいおい、そんなに焦らなくてもその内、授業で学ぶから大丈夫だろ?」

 

「それじゃダメなんです…それじゃ私はいつまで経っても黒刀先輩に追い付けない。」

 

「アッハッハ!これは驚いた。まさかこの学園にそんな生徒が現れるとは…いいだろう。特別授業つけてやる。ただし、あたしは厳しいぞ。」

 

妖夢の言葉に勇儀は笑った。

 

「はい!」

 

「それじゃ放課後、第3体育館に来い!」

 

「はい!」

 

その後、昼食を食べ終わりチャイムが鳴る。

 

 

 

 午後1時30分。1年A組教室。

5時限目、慧音は授業を行っていた。

 

「この学園のランキング戦には決闘以外にもう1つあります。それが『乱戦』です。乱戦は毎週金曜日に行われるもので、校内サイトで参加を申し込みます。放課後の午後4時から行われるもので5位以上は強制参加です。決闘との違いは1対1、多対1、多対多という様々な状況が存在することです。目の前の相手だけでなく周りも警戒しなければならないことです。」

 

「負けた場合はどうなるんですか?」

 

「決闘と同様、2日間の決闘禁止です。」

 

「制限時間はどれくらいあるんですか?」

 

「30分です。6時限目の終了時刻は3時30分なので準備時間は30分ということになります。この乱戦の利点は相手が多数存在するため、ランキングを上げるチャンスが増えること。逆に欠点は1人で多数を相手にした場合のリスクです。」

 

「(そこに駆け引きが生まれる。)」

 

魔理沙はそう考え、

 

「(1人の場合、囲まれたら詰み。だけど他の誰かと組んだとしても裏切られるリスクも出てくる。)」

 

霊夢も説明を受けながら頭の中でシミュレーションしている。

 

「(ワクワク!ワクワク!ここであたいが大活躍して一気に最強への一本道だ!)」

 

対して、チルノは乱戦を待ちきれずにいた。

 

 

 

 午後3時30分。

 

「じゃあ私、勇儀先生のところに行ってくるね。」

 

「おう、いってらっしゃい!」

 

放課後になり、妖夢は勇儀が待つ第3体育館へ向かうために教室を出て、魔理沙はそれを見送った。

すると、チルノも立ち上がった。

 

「あたいも特訓する!明日は黒刀と決闘できるんだ!今のうちに強くなっておかないと!」

 

「チルノちゃん、待って!」

 

チルノは意気揚々と教室を飛び出し、大妖精はそれを追いかける。

霊夢も席を立ち帰ろうとする。

 

「じゃあ、私も帰って…」

 

「私も行くぜ。」

 

魔理沙が霊夢の肩を掴む。

 

「何で?」

 

霊夢は眉をひそめる。

 

「特訓付き合えよ。」

 

「…はあ。しょうがないわね…軽くよ。」

 

「おうよ!」

 

面倒くさそうに応える霊夢に魔理沙は笑顔で応えた。

 

 

 

 第3体育館。

 

「いいか?はっきり言ってお前のオーラは少ない。だが、オーラで大切なのは使い方だ。」

 

第3体育館で勇儀は目の前の妖夢に指導を行っていた。

 

「使い方?」

 

妖夢が首を傾げる。

 

「そうだ。黒刀のようにバカでかいオーラを持っている奴は攻撃力、防御力、スピードに利用する。」

 

「少ない人は?」

 

「技術で補う。」

 

「例えば剣技とかですか?」

 

妖夢は勇儀の説明を自分のスタイルに当てはめて考えた。

 

「それもある。お前は攻撃力と防御力は並以下だが、スピードはそれなりにある。そこにオーラを利用した技を足せば立派な武器になる。」

 

「なるほど。…そういえば黒刀先輩が言っていました。私の長所と短所は純粋な目と心だと。」

 

「ん~それだけだと分からないな。よし!妖夢、あたしに全力で攻撃してこい!」

 

「は、はい!」

 

妖夢は慌てながらも、『楼観剣』を抜くと全速力で勇儀に斬りかかる。

しかし、勇儀に剣先を持たれてあっさりと攻撃を流されてしまった。

 

「(こんなにあっさりと!)」

 

勇儀は顎に手を添えて考えた後、

 

「なるほど…お前の短所は攻撃の単調さ、長所が一心不乱に磨き続けた剣技ということか。」

 

「(たった一撃で見透かされた…。)」

 

「まずはオーラを視覚化できるようにならないとな。」

 

「オーラを視覚化?」

 

「オーラを発現させた者にはオーラが目に見えるようになる。…どうだ?今のお前にあたしのオーラが見えるかい?」

 

「いいえ。全く見えません。」

 

「だろうな。オーラを発現させる方法は大きく分けて2つ。鍛錬で時間をかけてゆっくりと発現させるかオーラを発現している者から起こしてもらうかだ。お前はどっちがいい?」

 

「今すぐお願いします!」

 

「即答だな。よし、目を閉じて全身の力を抜け。」

 

「はい!」

 

妖夢は勇儀の言われた通りにする。

すると、額に勇儀の人差し指の感触がした。

 

「もういいぞ。」

 

妖夢が目を開けると、目の前に見えたのは自身と勇儀の全身から出る透明ではない無色のオーラだった。

 

「これが…オーラ…。」

 

「そうだ。それじゃ特別授業続けるぞ!」

 

「はい!」

 

それから時間ギリギリまで勇儀の指導が続いた。

 

 

 

 神光学園裏庭。

 

「ふふふ、ついに出来た!これで黒刀に勝つ!」

 

「チルノちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫!」

 

大妖精の心配にチルノは親指をグッと立てた。

 

 

 

 博麗神社。

 

「ねえ、まだやるの?」

 

「当たり前だろ!ほら次いくぜ!」

 

霊夢は止めようとしたが魔理沙は特訓を続行した。

 

 

 

 4月7日。午後3時30分。

6時限目終了のチャイムが鳴った直後、黒刀の教室にチルノが入ってきた。

 

黒刀~!決闘だ~!

 

「いいだろう。ついてこい。」

 

黒刀は席から立ち上がると、チルノを第2体育館に連れて行った。

 

 

 

 第2体育館。

ギャラリー達も面白がって2階の観客席に続々と座っていた。

体育館内部は常に保護結界が展開されているので決闘には利用されることがあるのである。

黒刀とチルノは10m距離を空けた状態で向かい合っていた。

 

「今回は俺もデュエルジャケットを装備しよう。」

 

チルノが送った決闘申請のウインドウに承諾した後、まずチルノに『デュエルジャケット』が装着され、次に黒刀の体が光に包まれて、それが晴れると、そこにいたのは黒のレザー、黒のコート、黒のグリーブを装備した黒刀だった。

その姿にチルノは一瞬、息を呑んだ。

 

「これが…黒刀のデュエルジャケット…。」

 

「そうだ。」

 

チルノは構える。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始の合図となる機械音声が鳴り響く。

最初に動いたのは黒刀だった。

 

「(また3本指⁉)」

 

チルノは黒刀の指が届く前に氷の壁を展開した。

黒刀はその氷の壁を貫き砕いた。

 

「(指の力だけで⁉)」

 

チルノは黒刀の力に驚愕していた。

 

「(前より術のスピードが上がっている。威力の分を速度に変えたか。)」

 

黒刀もチルノの成長に内心、喜んでいた。

 

 

 

 妖夢達は観客席で黒刀とチルノの試合を観戦していた。

 

「すごいですね…指の力だけで氷の壁を壊すなんて。普通、突き指しますよ?」

 

「大丈夫そうだぞ。」

 

「化け物ね。」

 

妖夢、魔理沙、霊夢はそれぞれ感想を口にした。

 

 

 

 「いい加減抜けよ、その刀!」

 

チルノは黒刀の右腰の鞘に納めてある刀を見て言った。

 

「…そうだな。出し惜しみももう十分だろう。」

 

黒刀は鞘から刀を抜いた。

その刀は直刀で、刀身は黒く60㎝程、鍔はない。

黒刀は刀をだらりと下げている。

チルノは無防備な状態を見逃さなかった。

 

「アイスニードル!」

 

チルノは空気中の水分を凝結させて多数の氷の棘を作り出し、黒刀に放つ。

黒刀はいまだ動かない。

氷の棘が黒刀に炸裂し、煙が舞う。

 

「どうだ!」

 

チルノはそう言い放つ。

煙が晴れていく。

だが、黒刀にダメージは1つもなかった。

 

「嘘だろ…なら今度は1つで確かめてやる!」

 

チルノは氷の棘を1本だけ放つ。

黒刀はまだ動かない。

そして、氷の棘が黒刀に届く寸前で氷の棘は砕け散った。

 

 

 

「どういうことだ?」

 

観客席にいる魔理沙が目の前で起きた現象に理解できずにいる。

その時。

 

「あれが『破壊王の鎧』だよ。」

 

「あ、あなたは?」

 

大妖精が声をかけてきた人物の名を問う。

 

「魔法工学科の河城にとりだ。」

 

にとりは名を名乗る。

横には慧音もいる。

 

「それで一体何なんですか?その『破壊王の鎧』って?」

 

霊夢がにとりに質問する。

にとりは妖夢の隣が空いていたのでその席に座り、その隣に慧音が座る。

慧音が口を開く。

 

「その前にまずはこの世界で『王』と呼ばれる者達について話しましょう。

『王』といっても国家の王という意味ではなく、天皇陛下によって選ばれた者を指します。

『破壊王』四季黒刀、『機械王』河城にとり、『蝦蟇王』洩矢諏訪子、『未来王』レミリア・スカーレット。以上の4人が『王』と呼ばれる者達です。」

 

「黒刀先輩だけじゃなく河城先生もですか!」

 

「すごいもんだろ!」

 

にとりは胸を張る。

慧音が説明を続ける。

 

「『王』にはそれぞれ強力なスキルがあります。その中でも黒刀が持っている『破壊王の鎧』はオーラを全身に膜のように纏って、遠距離攻撃はほとんど無効化されます。」

 

「え、それって…。」

 

妖夢がその先を口にしようとする。

 

「そう。あいつに遠距離攻撃は効かない。遠距離であれを破るには一定以上の威力を持ったものではならない。」

 

それを聞いた大妖精はフィールドにいるチルノに向き直った。

 

「そんな…チルノちゃん。」

 

 

 

「(分かってるよ…もう効かないっていうのは…だったら!)…ソードフリーザー!」

 

チルノは氷の剣を作り出し、それを握る。

 

「いくぞ~!」

 

チルノは黒刀に向かって真正面から突撃する。

黒刀は下げていた刀を構える。

チルノはニヤリと笑みを浮かべて、高速で黒刀の背後に回り込んだ。

 

「(取った!)」

 

チルノは氷の剣を振り下ろした。

が、黒刀はその剣を後ろを向いた状態のまま刀で受け止めた。

 

「(なんで!)」

 

チルノは黒刀が後ろを向いたまま止めたこと、さらにチルノの攻撃に間に合ったことに驚いた。

 

 

 

「あれが黒刀のスキル『千里眼』と『超反射』。黒刀の『千里眼』は半径1㎞360度の視界を拡大できる。『超反射』は目に見えた動きに対して即座に反応できる。つまりあいつに死角はない。」

 

にとりの言葉に妖夢達は驚愕し、息を呑んだ。

 

「(『破壊王の鎧』、『千里眼』、『超反射』。これが全国1位になった人の実力。)」

 

妖夢はフィールドにいる黒刀を見ながら心の中でつぶやいた。

 

 

 

「(距離を取ってもダメ…接近戦も通らない。どうすれば…。)」

 

チルノは慌てて距離を取り過ぎないように後退する。

それを見た黒刀が、

 

「まさか俺のスキルがこれだけだと思っているのか?」

 

「(これ以上があるっていうのか?)」

 

チルノは警戒心を強めた。

 

「それじゃ見せてやるよ!」

 

次の瞬間、黒刀が刀を振ると黒い斬撃が放たれる。

チルノは氷の翼を広げて飛翔して回避する。

その直後、もう一度黒い斬撃がチルノに放たれる。

 

「(さっきより速い!)」

 

チルノはなんとか横に飛んで回避する。

そこへまた黒い斬撃が放たれる。

 

「(また速くなってる!避けられない!受けるしかない!)」

 

チルノは氷の剣で黒い斬撃を受ける。

だが、黒い斬撃は予想以上に重く、軽く吹っ飛ばされる。

しかも、黒い斬撃がまた放たれてきている。

 

「くっ!」

 

チルノは氷の剣で受けるしかなかった。

 

「(威力が上がってる⁉)」

 

チルノは吹っ飛ばされ壁に激突する。

 

「ぐあっ!」

 

チルノは痛みで声を上げる。

 

「気づいたか?威力と速度が上がっていることに。」

 

「…攻撃ごとにパワーとスピードが上がるスキルか…。」

 

「少し違うな。」

 

「上がっているのはオーラだ。そして、攻撃ごとに上がるのではなく軸足が一定箇所に止まっていればいるほどオーラが上がる。」

 

「なんだと?」

 

「気づいていないのか?最初の攻撃以降、俺の位置が変わっていないことに。」

 

その言葉にチルノは思い出していた。

 

「(そうだ。あいつはあの3本指の攻撃の後から右足を一歩も動かしていない。)」

 

「これが俺のスキルの1つ『集中』だ。」

 

 

 

「あの人には『破壊王の鎧』があるんですよね?それに『集中』が加わったらどうなるんですか?」

 

大妖精の問いににとりが答える。

 

「『破壊王の鎧』の強度が増していく。長期戦になればなるほどあいつは強くなる。」

 

「化け物っていうレベルじゃないわ。」

 

霊夢が思ったことをつぶやいた。

 

 

 

「(つまりこうしている間もあいつは強くなり続ける。なら一か八か!)」

 

チルノは再び上に飛翔して、氷の棘を作り出す。

 

「アイスニードル!」

 

「チルノちゃん、それはもう!」

 

チルノの無謀な攻撃に大妖精が叫ぶ。

 

「(分かってる!これは布石だ!)」

 

氷の棘を黒刀は『破壊王の鎧』で完全防御。

 

「(今だ!)」

 

チルノは氷の剣を握って突っ込む。

 

「なるほど…お前の成長は良く分かった。ならば俺も見せよう。全てを打ち砕く破壊の一撃を。」

 

黒刀は右足を半歩引いて重心を下げて刀の柄を両手で握って上段に構える。

刀にオーラが集束していき、無色のオーラが黒く染まる。

チルノは攻撃に間に合わないと判断して急停止する。

 

「アイスシールド!」

 

チルノは両手を前に出して大きな氷の盾を展開する。

次の瞬間、黒刀は刀を振り下ろした。

 

カオスブレイカー~!

 

黒刀の刀から巨大な黒い光線のような斬撃が放たれる。

 

「止める!」

 

「無駄だ。」

 

『カオスブレイカー』が氷の盾に当たった瞬間、その盾は何の抵抗もなく砕け散った。

 

「『カオスブレイカー』は防御術式を…破壊する。」

 

そして『カオスブレイカー』はチルノに直撃し、やがて床に落ちて気を失った。

 

《勝者 四季黒刀》

 

勝敗を告げる機械音声が鳴り響く。

 

 

 

「チルノちゃん!」

 

大妖精が1階に降りてチルノの元へ駆けよる。

チルノは僅かだが目を覚ましていた。

 

「大ちゃん…へへ…負けちゃったよ。」

 

「待っててすぐに治癒魔法をかけるから。」

 

大妖精は治癒魔法をチルノにかける。

黒刀はチルノを背に立ち去ろうとする。

すると、大妖精がチルノを抱き上げたまま、

 

「待ってください!全力で闘ったチルノちゃんに何も声をかけないつもりですか!」

 

黒刀を非難した。

黒刀はなお背を向けたまま。

 

「悪いが俺はそんな優しい奴じゃない。俺の闘いに慈悲も情けもない。」

 

それだけ言って黒刀は第2体育館を去った。

 

「まさか、あんなひどい人だったなんて…。」

 

大妖精は黒刀を軽蔑した。

 

 

 

一部始終見ていたにとりは、

 

「(黒刀はお前はまたそういう選択をするんだな。)」

 

黒刀を心配する気持ちを抱いていた。

対して妖夢は先程の決闘について考えていた。

 

「(『カオスブレイカー』…抗うもの全てを真正面から玉砕していく技。防御はできない…つまり迎撃と回避のみ…だけど『集中』で威力の上がった『カオスブレイカー』とまともにぶつかるなんてできないし、回避しようにも範囲が広すぎる。)」

 

妖夢は改めて黒刀の実力に畏怖を覚えるのだった。




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学園代表編
乱戦


第6話。

OP1 学戦都市アスタリスク「Brand new world」


 4月7日。午後5時。白黒荘庭。

黒刀は木刀で素振りをしていた。

 

「こっちにいたのね。」

 

帰宅した映姫が声をかける。

 

「姫姉、おかえり。」

 

黒刀は素振りを終えて、言葉を返す。

 

「ただいま。夕飯作るの手伝って。」

 

「分かった。」

 

 

 

 夕飯の食事中に映姫が、

 

「黒刀、今日チルノという1年生と決闘したらしいわね?」

 

「したよ。」

 

「スキルを4つも使って。」

 

「うん。」

 

「少しは手加減してあげなさい。」

 

「大丈夫だよ。あいつ、前より強くなってたから。」

 

「まさか解放を使ったりしては…」

 

「してないしてない!」

 

「…ならいいですが。」

 

「ほらご飯冷めちゃうよ。」

 

「そうですね。」

 

2人は食事を再開した。

 

 

 

 4月9日。午後3時30分。

6時限目終了後、妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精は端末から『乱戦』に参加申請した。

 

「何で私まで…。」

 

霊夢は文句を愚痴っていた。

霊夢の参加申請は魔理沙が霊夢の端末を使って勝手に申請してしまったようだ。

 

「机の上に置きっぱなしで寝ているのが悪いんだぜ。それにこういうのは楽しまなきゃな!」

 

「あの黒刀先輩が出るっていうのに何を楽しめっていうのよ…。」

 

霊夢は分かりやすく落ち込む。

 

「霊夢、頑張りましょう!」

 

「やる気満々ね。」

 

妖夢の応援に霊夢はそう応えた。

 

「あたいもリベンジするし!ほら言うじゃない!2度あることは3度あるって!」

 

「チルノちゃん、それを言うなら3度目の正直じゃないかな。」

 

「不安だ…。」

 

チルノと大妖精の漫才に霊夢は空を仰いだ。

 

 

 

 2年A組教室。午後3時45分。

 

「あやや、黒刀さん今日は既にデュエルジャケットを装着しているじゃないですか。少し気が早くないですか?」

 

文が黒刀を激写しながら言った。

 

「気合い入ってんだ。あと撮るな。ぶっ壊すぞ。」

 

「あやや、こわいこわい!」

 

黒刀と文が言い合っていると、にとりが黒刀に近づいてきた。

 

「おい、黒刀。」

 

「何ですか?」

 

「ちょっとしゃがめ。」

 

黒刀は言われた通りにする。

にとりは黒刀に顔を近づける。

 

「お前、絶対に物を壊すなよ。」

 

「壊さないって。」

 

黒刀はそう答えて離れていった。

 

「不安だ…。」

 

にとりはそうつぶやいた。

 

そして、4時のチャイムとともに『乱戦』が開始された。

 

 

 

 1年A組教室。

 

「じゃあ、私は別行動させてもらうね。」

 

妖夢がそう口にした。

 

「一緒に行かないのか?」

 

「うん。試したいことがあるから。」

 

魔理沙の問いに妖夢はうなずいて答える。

ちなみに魔理沙のデュエルジャケットは黒いドレスに白いエプロンに黒い三角帽とまさに魔法使いといった装備だ、

 

「じゃ、私も。」

 

霊夢もひらひらと手を振って去っていく。

霊夢のデュエルジャケットは赤い巫女服だ。

魔理沙はチルノと大妖精に視線を移した。

大妖精のデュエルジャケットは白シャツに青いワンピースで首に黄色のリボンが結んである。

 

「あたいはついていってあげる!」

 

「私もです。」

 

「よかった~!」

 

魔理沙は安心した。

 

「おい、グラウンドの真ん中に誰かいるぞ!」

 

廊下の方かた声が聞こえてきた、

魔理沙が廊下の窓から覗く。

 

「あれは…黒刀?」

 

 

 

 黒刀はグラウンドの真ん中で棒立ちしていた。

 

「退屈だな~。」

 

黒刀は首をコキコキと鳴らしていた。

それを見た1年男子が

「よし!今のうちに奇襲をかけようぜ!」

と、声を出した。

 

「バカだな~。この前の決闘を見てなかったのか?黒刀に奇襲なんて意味ないって。」

 

魔理沙は独り言をつぶやいた。

 

 

 

 校舎屋上。

屋上には1年生でチームを組んだ男子達がいた。

「ちゃんと狙えよ。」

「分かってる。」

リーダー格の男子がライフルのデバイスを構えた男子にささやいた。

「よし捉えた!」

ライフルのデバイスを構えた男子はトリガーを引いた。

銃口から魔力が込められた魔法弾が放たれる。

だが、その弾は黒刀の『破壊王の鎧』によって無効化され消滅した。

「なっ!」

「くそ!だったら数で押すぞ!全員一斉発射!」

リーダー格の男子の号令によって魔法弾が一斉に放たれる。

だが、黒刀は無傷だった。

 

「ふわあ、眠い。」

 

「そんな…。」

メンバーの中の1人が腰を抜かした。

「だ、だったら大人数で接近戦だ!」

『お~!』

20人くらいの男子がSDを起動して突撃していく。

それに対して黒刀は軽く斬撃を放った。

『ぐわあああああ!』

 

「ハハハハハハハ!」

 

黒刀は笑いながら連続で斬撃を放っていく。

それを廊下の窓から見ていた魔理沙はひきつった顔をした。

 

「悪魔だ。」

 

「楽しそう!ねえ、まだ行っちゃダメなの?」

 

対してチルノは目を輝かせていた。

 

「ダメだ。ここで待ってろ。その内、獲物が来るから。」

 

「は~い!」

 

すると、

「ダメだ!校舎に撤退だ!お前ら早く!」

黒刀の攻撃に恐れをなした1年生の男子達が校舎の中に避難してきた。

しかし、

「あ。」

廊下で魔理沙が待ち伏せしていた。

 

「ほら来た!」

 

魔理沙がそう言ってポケットから取り出したのは八角形の小さな火炉、

ミニ八卦炉だ。

 

「マスタースパーク!」

 

魔理沙はミニ八卦炉に魔力をチャージし、撃ち放つ。

すると黄色の極太の光線が発射される。

これが魔理沙の最も得意とする砲撃魔法である。

『うあああああああああああああああああああああああああああああ!』

その一撃で校舎に避難してきた者達を一掃した。

 

「どんなもんだい!」

 

「すごいです!素晴らしい魔法でした!」

 

胸を張る魔理沙に大妖精はベタ褒め。

 

「だろ!弾幕はパワーだぜ!」

 

「ぐぬぬ…あたいも負けない!」

 

チルノは悔しそうにしながら拳を上に突き出す。

 

 

 

 霊夢は学園の敷地内の森を歩き回っていた。

 

「今の音…魔理沙がマスパでも撃ったのかしら?さて…。」

 

霊夢は誰かが追ってきていることを察知して走り出した。

追跡者も慌てて走り出す。

霊夢が曲がると、それを曲がった追跡者だがその時、木の幹に札のようなものが貼ってあり、それに気が付いた時にはもう遅かった。

札が半径1mに及ぶ爆発を起こした。

「ぐわあああああ!」

追跡者は痛みで地面を転げまわる。

 

「それは爆符って言って霊符の一種よ。」

 

「貴様…。」

 

「楽しかったかしら?ストーキングは。」

 

「くそ~!」

 

「夢想封印。」

 

結界を発動し追跡者を包囲。色とりどりの霊力を込めた弾幕が追跡者に四方八方から飛んでくる。

追跡者は前のめりに倒れて気を失った。

 

 

 

 その頃、妖夢は黒刀を目視しながら目測で距離を取っていた。

「よし、ここまで離れれば大丈夫。」

その距離、1㎞1m。

黒刀の『千里眼』のギリギリ範囲外。

 

「勇儀先生に教えてもらった…足にオーラをためて…一気に解き放つ!」

 

妖夢は右足に気力をためて、一気に放出するとものすごい速度で黒刀に迫っていった。

それに気づいた黒刀。

 

「(問題ない。『超反射』で対処できる。)」

 

刀を抜いて待っていると、妖夢が、

 

「(今だ!)」

 

妖夢の姿が黒刀の目の前から消えた。

 

「足のオーラを放出して跳ぶオーラの基本技、『ハイジャンプ』か。」

 

黒刀は上に視線を移す。

 

「はあっ!」

 

妖夢は空中から『楼観剣』を振り下ろして斬りかかる。

黒刀も同じタイミングで刀を振る。

2つの刃がぶつかり合うことにより、その衝撃波が周囲に広がる。

 

「やはりパワー不足か…1人じゃ勝てないぞ?」

 

黒刀の言葉に妖夢は笑みを浮かべた。

 

「誰が1人って言いましたか?先輩!」

 

「何?」

 

その時、黒刀の懐に入り込んできたのは箒に跨って突撃してきた魔理沙だった。

 

「(ちっ、砂煙が邪魔で視認できなかったか!)」

 

「くらえ!ゼロ距離マスタースパーク!」

 

「(狙いは右わき腹…なら右手で…)」

 

「させるか~!」

 

黒刀が右手を使って対処しようとしたその瞬間、魔理沙と一緒に箒に乗っていたチルノが箒からジャンプして黒刀の右肩にしがみつき黒刀の右腕を凍らせた。

 

「(この至近距離なら『破壊王の鎧』もぶち抜けるだろ!)」

 

「(まずい!)」

 

次の瞬間、『マスタースパーク』が黒刀の右わき腹に直撃し、黒刀の体が吹っ飛ばされる。

チルノは直前で手を離した。

 

「手ごたえありだぜ!」

 

「ついに…先輩を…あの四季黒刀を…」

 

()()()()()()()()()

 

声が響く。

砂煙の中から徐々に姿を現していく。

 

「今ので立っているのかよ…。」

 

魔理沙が驚愕した顔をする。

 

「危なかったよ。脇腹にオーラを集中して防御していなければ最悪負けていた。」

 

「最悪?」

 

「もろに食らっていたとしても闘えるが影響が大きすぎたということだ。それに久しぶりだ。」

 

「何が?」

 

「攻撃で俺を動かした奴だ。お前らは俺の『集中』を破ったし、他のスキルも攻略した。」

 

「次はあなたを倒します!」

 

妖夢は自信に満ちた笑みで言い放つ。

 

「そう言うと思ったよ。だから俺も1つステージを上げよう。」

 

黒刀がそう口にした瞬間、身に纏うオーラが一気に跳ね上がった。

 

「何だ…何をする気なんだ?」

 

「気力解放。」

 

黒刀から光の柱が噴き上げた。

 

「あれは…妖夢が前にやった時がやったやつに似てる。」

 

「私が?」

 

「覚えてないのか?」

 

「うん…。」

 

魔理沙の問いに妖夢はうなずく。

 

「仕方ないさ。妖夢、お前はあの時、無意識でこれをやっていたんだからな。」

 

「何なんだよそれ!」

 

チルノが声を上げる。

 

「これはオーラの解放状態だ。」

 

「「「解放状態?」」」

 

妖夢達が首を傾げたその時。

 

「はあ…はあ…みんな…回復に来ました。」

 

大妖精が走ってきた。

 

「大ちゃん、解放状態って何?」

 

チルノの問いに大妖精は呼吸を整える。

 

「人間はオーラを通常80%までしか出せません。しかし、オーラの解放はそれを90%まで引き上げることができる。」

 

大妖精の答えに黒刀は、

 

「さすが1年座学トップだな。」

 

「あなたに褒められても嬉しくありません!私はまだあなたを許していません!それを忘れないでください!」

 

大妖精は敵意をむき出しにした目で黒刀にそう言い放った。

 

「ああ、分かっている。なら俺に勝つことだな。」

 

「言われなくれも…『ヒーリングサークル』!」

 

大妖精の詠唱と共に地面に魔法陣が展開され妖夢、魔理沙、チルノのオーラが回復する。

 

「オーラを回復させるとは今年の1年はなかなかのもんだな。」

 

「勝つのは私たちです!」

 

黒刀は首をコキコキと鳴らした後、次の瞬間、妖夢達の視界から消えた。

 

「「「「なっ!」」」」

 

そして、気づいた時には4人とも斬られていた。

 

「(速すぎる!)」

 

妖夢は解放状態の速度に戦慄する。

魔理沙は地面に手をつき体勢を立て直すと、

 

「マスタースパーク~!」

 

黒刀に向かって撃ち放った。

 

「弾幕はパワーだぜ!」

 

しかし、黒刀はそれを真っ二つに斬った。

 

「パワー不足だ。」

 

「ソードフリーザー!」

 

そこへチルノが氷の剣で斬りかかる。

だが黒刀はそれを躱し、がら空きとなったチルノの腹を蹴り上げた。

 

「ぐふっ!」

 

チルノは体勢を立て直し、斬りかかるが全く当たらず反撃を食らってしまう。

 

「さっきと動きが違う…。」

 

「おそらくあの超人的なスピードに加えて『千里眼』と『超反射』をフルに利用しているんだと思う。」

 

魔理沙のつぶやきに妖夢が答える。

 

「どうする?」

 

「私もチルノに加勢してきます。その間に魔理沙はさっきより魔力をためて『マスタースパーク』を撃って。」

 

「分かった!」

 

「では行ってきます!」

 

妖夢はチルノのもとへ駆けだした。

 

「チルノ、加勢します!」

 

「サンキュー!」

 

妖夢はチルノの加勢に回るが、その攻撃は黒刀に全く当たらない。

 

「(やっぱり速い。)チルノ!」

 

「おうよ!」

 

2人は交差するように剣を振るが、黒刀は空中前転でそれを躱し、2人の背後に背中を向けた状態で着地すると2人の『デュエルジャケット』の襟を掴み地面に叩きつける。

 

「「がはっ!」」

 

「どうしたまだ序盤だぞ。」

 

黒刀は挑発めいた口調で言った。

そこへ、

 

「なら私が終わらせる。夢想封印!」

 

霊夢が現れ、『夢想封印』を発動した。

 

「結界を発動させ、その中で霊力弾を爆散させる霊術か。」

 

黒刀は剣を横に振り、結界を破壊した。

 

「なら術式を破壊すればいいだけだ。」

 

「チッ。」

 

霊夢は舌打ちする。

 

「その様子だと狸の真似事はやめたってことっていいんだな?」

 

「…黒刀先輩。まさか…。」

 

「安心しろ。ここで公言するほどバカじゃない。」

 

「そう…。」

 

黒刀と霊夢の視線が交じり合う。

そして、同時に動き出す。

霊夢が札を黒刀に向かって放つ。

黒刀は『破壊王の鎧』を発動していたが、霊夢が放った札は爆符であり、『破壊王の鎧』の手前で爆発した。

黒刀は爆発寸前でバックステップで躱したが、霊夢はその隙に距離を詰めてきた。

 

「ゼロ距離なら意味ないんでしょ。それ。」

 

霊夢は至近距離から霊力弾を放つが、黒刀は右手のひらから霊力を放って相殺した。

 

「気力だけじゃなく霊力まで⁉ツインフォース⁉」

 

霊夢は目を見開いて驚く。

そこへ、

 

「妄執剣 修羅の血!」

 

妖夢が斬り込んできた。

 

「甘い!」

 

黒刀は妖夢の『楼観剣』を刀で受け流した。

 

「甘いのはそっちの方よ!」

 

「⁉腕が動かない…保護色ワイヤーか!」

 

黒刀の左腕に巻き付いたワイヤーを霊夢が、右腕に巻き付いたワイヤーを妖夢とチルノが握っていた。

 

「やっぱり。いくら『千里眼』でも見えないものは見えないし、『超反射』も動きを止めればいい!」

 

霊夢は自身の推理を口にする。

 

「(こいつ…意外と力あるな。)」

 

「魔理沙!決めちゃいなさい!」

 

霊夢は魔理沙に向かって叫ぶ。

 

「言われなくても!」

 

応えた魔理沙の魔力のチャージは完了していた。

 

「(右腕だけならなんとか動くか。)」

 

黒刀はワイヤーの巻き付いた右腕を少しずつ動かした。

 

「ちょっ!2人がかりだぞ!」

 

チルノが叫ぶ。

黒刀は魔理沙に向けて右手をかざす。

 

「右手だけで止められると思うなよ!マスタースパーク~!」

 

魔理沙のミニ八卦炉から通常の『マスタースパーク』より大きな規模の光線が放たれる。

 

「悪いが俺もそれくらい撃てる。」

 

黒刀の右手から魔理沙の放った『マスタースパーク』と同じ規模の黒い光線が放たれる。

2つの光線がぶつかり合い、やがて相殺された。

 

「嘘…。」

 

「そんなのって…。」

 

「私のマスパが…。」

 

妖夢、チルノ、魔理沙がそれぞれショックを受けてつぶやく。

 

「気力、霊力だけじゃなく魔力まで…これが噂に聞く…」

 

「トライフォース…。」

 

霊夢のつぶやきに大妖精が応える。

黒刀は刀を両手で握って上段に構える。

 

「これでとどめだ…カオスブレイ」

 

その時、4時30分のチャイムが鳴った。

『乱戦』終了の時間である。

 

「時間切れか…。」

 

黒刀の装備がデュエルジャケットが解除され制服に戻る。

 

「じゃあな。」

 

そう言って立ち去った。

 

 

 

 黒刀が立ち去った後、

 

「危なかった~!」

 

魔理沙がその場で仰向けに寝転がった。

他の4人も同様に寝転がった。

 

「5人で闘うのがやっとなんて。」

 

「次は勝つ!」

 

「あんたは元気ね。」

 

「でもここまで追いつめたのって私達が初めてじゃないですか?」

 

「かもな。」

 

妖夢、チルノ、霊夢、大妖精、魔理沙はそれぞれ感想を口にするのだった。

 

 

 

 黒刀はバイクの駐車場に向かいながら端末を操作して校内ランキングを確認していた。

 

「霧雨魔理沙…30位、魂魄妖夢…200位、チルノ…100位、大妖精…196位、博麗霊夢…2位。大出世だな。それじゃ俺は帰って…。」

 

その時、誰かが黒刀の肩をガシッと掴んだ。

 

「く~ろ~と~。」

 

その声を聞いた瞬間、背筋が凍った。

映姫だった。

 

「いや…その…つい。」

 

「あれほど解放は使うなと言いましたよね?特に1年生には!」

 

「だってピンチだったから。」

 

「言い訳は聞きたくありません。帰ってお説教です!」

 

この後、黒刀は自宅で2時間のお説教を食らった。




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優しさ

第7話。

OP1 学戦都市アスタリスク「Brand new world」


 4月11日。午前10時。

日曜日であるこの日、黒刀はファミレスのテーブル席である人を待っていた。

暇なので端末を弄っていると、5人の客が入店してきた。

妖夢達だった。

彼女達が黒刀の存在に気づくと、黒刀の近くのテーブル席に座った。

待ち合わせの相手は妖夢達ではなかったようだ。

大妖精は相変わらず敵意むき出しの目で黒刀を睨みつけている。

黒刀は興味もなく無視している。

その時、1人の客が入店してきた。

阿求だった。

しかし、入ってきた途端うつ伏せに倒れてしまう。

 

「きゅ~。」

 

阿求は目を回している。

 

「やっぱりか。」

 

黒刀は席から立ち上がって阿求の元へ歩く。

傍に寄ってきた店員に問題ないことを説明して下がってもらった。

 

「ほら、あっきゅん。」

 

「無理…日光が私を殺しに来る~。」

 

「ただの引きこもりだろ。」

 

黒刀は阿求をお姫様抱っこでテーブル席に運んでいく。

阿求はテーブルに突っ伏している。

 

「あっきゅんって…先輩達、まさか…こここここ恋人同士なんですか⁉」

 

妖夢が慌てふためいてテーブル席の背もたれに身を乗り出して問いかける。

 

「「それはない。」」

 

黒刀と阿求はきっぱり否定する。

 

「でもそんな愛称で呼ぶなんてそうとしか思えないぜ。」

 

魔理沙も話に乗っかる。

 

「これが一番しっくりくるんだよ。…ちょっとトイレ行ってくる。」

 

黒刀は答えると、阿求に一言かけてからトイレに向かう。

黒刀が去った後、阿求が復活した。

 

「あなたたち、少し話したいことがあるからこっちのテーブル席に来てもらってもいい?」

 

阿求は妖夢達にそう声をかけた。

妖夢達もとくに断る理由もなかったので阿求の向かいの席に5人座った。

 

「(なるほど…この子たちが黒刀が気にかけてる子たちか…。)あなたたちは黒刀を見てどんな印象を抱いているの?」

 

阿求の問いに一同は、

 

「悪魔。」

 

「鬼。」

 

「暴君。」

 

「憧れる先輩。」

 

「人でなし。」

 

その答えはほぼ最悪だった。

 

「(あちゃ~だいぶひどいな~。)」

 

阿求は一呼吸を置いた後、

 

「彼は好んであんな悪をやっているわけじゃないの。まあ、知り合いの私が言ったところで説得力は薄いけど、あなたたちは黒刀に出会ってから感じたことはない?自分たちの成長を。」

 

阿求の言葉に5人はハッと気づいた。

黒刀の強さに刺激されていたことを。

 

「自分が魔王的な存在になればそれを倒そうと強くなる後輩が現れる。そうして彼は育てているの…『剣舞祭』に出場する代表候補を。」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

妖夢達は『剣舞祭』というワードが気になった。

 

「じゃあ…あの人は最初から…。」

 

「たぶんね。」

 

大妖精のつぶやきに阿求が応える。

 

「私は分かっていましたよ!先輩が本当は優しい人だって!」

 

妖夢が何故か自慢げに胸を張る。

 

「黒刀をよく知らない人達は彼のことを仲間を大切に思わないワンマンプレイヤーと思っているようだけれど私からすれば彼ほど仲間思いの人間はいないと思っている。」

 

阿求の言葉を聞いた大妖精は後悔した。

 

「(私は何も分かっていなかった。ただあの人の言葉を真に受けて、怒って、恨んで…あの人は考えてくれたんだ…私達が強くなることを…。)」

 

その時、黒刀がトイレから戻ってきた。

 

「悪い。遅くなった…ん?お前ら何でこっちのテーブルに…ってかどうした?そんな気まずそうな顔をしやがって。(あっきゅん…話しやがったな。まあいいか。)」

 

黒刀が阿求の隣に腰かけると、大妖精が立ち上がって黒刀の隣に座った。

そして、

 

「黒刀先輩。」

 

「なんだ?」

 

「その…この前のこと…許してあげなくもないですよ?」

 

大妖精は頬を赤くして、目を背けながら言った。

 

「(え、なにこの中途半端なツンデレ…。)」

 

「ただ…条件があります。その…黒刀先輩の…き…」

 

「き?」

 

「…筋肉を…触らせてください!」

 

「いいけど。」

 

「ですよね!だめですよね…え?」

 

「別に減るもんじゃねえし。ほら。」

 

黒刀はそう言って左腕を出す。

 

「それじゃ…失礼して…。」

 

大妖精は黒刀の左腕の筋肉を触る。

 

「あ~いいです!この感触~最高です~!」

 

大妖精は満面の笑みで筋肉を揉んでいた。

魔理沙がチルノの耳元に顔を寄せる。

 

「なあ大妖精ってあんな奴だったっけ?」

 

「たまにああなる。」

 

黒刀は左腕を揉まれながら右手で店内用端末を操作して注文した。

数分後、店員が「お待たせいたしました。ジャンボストロベリー最強パフェです。」とテーブルに置いた。

そのパフェは巨大なイチゴパフェだった。

 

「最強パフェ…だと?」

 

チルノが反応した。

 

「どうした?」

 

魔理沙が声をかける。

 

「黒刀!一口だけ食べさせてくれ!」

 

「別にいいけど。(自分で注文するという選択肢はないのか…。)」

 

その時、阿求の視界にカップルがパフェを食べさせあっている場面が入った。

 

「リア充爆ぜろ!」

 

阿求はテーブルに両手を叩きつけた。

 

「早く~!」

 

チルノは待ちきれずにいた。

 

「分かった分かった。あ、じゃあこれつけてもう1回お願いしてみて。」

 

そう言って黒刀がバッグから取り出したのは水色の猫耳だった。

 

「なんでそんなものがバッグの中に?」

 

魔理沙が疑問を口にする。

 

「よかった~水色あって。」

 

黒刀はそう言ってチルノにつけた。

 

「ほら。」

 

「ん~…食べさせて♡にゃん♡」

 

「よし合格!」

 

黒刀はそう言ってパフェをスプーンですくってチルノに食べさせた。

 

「ん~美味しい♪」

 

チルノはほっぺた両手でおさえて笑顔を浮かべた。

すると、大妖精が

 

「チルノちゃん、今度は私が食べさせてあげる!」

 

「うん!ありがとう!」

 

大妖精は黒刀からスプーンを渡してもらってチルノにパフェを食べさせた。

 

「(あ、緑の猫耳なかった。)」

 

黒刀は気づかなかった。

霊夢と魔理沙が冷たい目で見ていたことに。

 

「そういえば先輩と阿求先輩は大妖精と同じ座学の学年トップなんですよね?」

 

妖夢が話題を変えた。

 

「ああ、俺はIQ210であっきゅんは完全記憶能力のスキルを持ってる。」

 

「IQ210…。」

 

「完全記憶能力…。」

 

さらっと口にしたワードに霊夢と魔理沙は驚いていた。

 

「というかすごいですよね!1つのテーブルに神光学園座学トップが3人も揃っているなんて!」

 

「というかその内の2人はこんな日曜日に待ち合わせして何の予定があったんだ?」

 

魔理沙が黒刀と阿求に問う。

 

「それは同人ひゃうっ!」

 

阿求が何か言いかけたその時、黒刀は阿求の脇腹をつまんだ。

 

「たいしたことじゃない。気にするな。」

 

「(何するの!)」

 

「(余計なことを口走るなよ!)」

 

黒刀と阿求は視線で会話していた。

 

 

 

 それからしばらくして一同は店を出て、黒刀と阿求はここで妖夢達と解散となった。

 

「『剣舞祭』…。」

 

妖夢がポツリとつぶやいた。

 

「(そこへ行けば闘える…強い人達と!)」

 

この日、妖夢の決意が強くなった。




入学編完。
ED1 遊戯王5Ds「START」

ご感想お待ちしております。


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二刀流

第8話。

OP2 ハイキュー2期「アイム・ア・ビリーバー」




 5月3日。午後2時。

4月最初の『乱戦』から約1か月後。

黒刀は既に半分ほど散ってしまった桜の木の下で寝転がりながら端末で校内ランキングを見ていた。

霊夢は2位をキープ。他の4人も少しずつ上がってはいるが2ケタ台がいいところだ。

黒刀はまずチルノを3位に上げようと考えて、そのまま寝てしまった。

時間が過ぎていき、放課後になった。

黒刀はまだ寝ていた。

 

「黒刀先輩…起きて下さい。」

 

そんな彼を誰かが起こそうと声をかけた。

 

「ん…誰だ?」

 

黒刀が目を開けると、大妖精が前髪を右手でおさえてのぞき込んでいた。

 

「大妖精か…おやすみ。」

 

「って寝ないで下さい!お話があるんです!」

 

「ふわあ…分かったよ。」

 

黒刀は仕方なく体を起こす。

 

「黒刀先輩…正直に言いますと私に代表は厳しいと思います。」

 

「そうか?回復は使いようによっちゃ戦闘にいかせるぞ。」

 

「それでもチルノちゃんと同じステージには上がれません。」

 

「それで?」

 

「何か選手以外で皆のサポートになれることがないかと…黒刀先輩は去年も代表だったので詳しいのではないかと思いまして…。」

 

「ならマネージャーをやってみるか?」

 

「マネージャーですか?」

 

「ああ、これならお前に1人限定という以外とくに規定はない。ついでに補欠メンバーに加えておこうか。」

 

「そんなことができるんですか?」

 

「神光学園では補欠メンバーを1位が決められる。つまり俺だ。これでお前も一緒に全国に行ける。」

 

「まだ奈良予選も終わっていないんですけど…。」

 

「行くさ…絶対に。」

 

「全国…。」

 

「そうだ。燃えてきたか?」

 

「はい!」

 

大妖精は力強く返事した。

 

 

 

 5月7日。午後3時30分。

『乱戦』の準備が始まる中、大妖精の端末がかかってきた。

 

「はい…はい…分かりました。チルノちゃん!」

 

「何、大ちゃん?」

 

「黒刀先輩が代わってって。」

 

「分かった…あたいだ。」

 

《悪いな。お前のプライベートナンバー知らなかったから大妖精にかけた。》

 

「それで何の用?」

 

《今日の『乱戦』、俺と組まないか?》

 

予想外の提案にチルノは驚いた。

 

「どういうつもり?」

 

《俺と闘い気持ちはあるだろうが俺はそれよりお前を代表にしたい。それに…。》

 

黒刀は先日の大妖精の決意をチルノに伝えた。

 

「大ちゃんがそんなことを…。」

 

《あいつは前に進んだ。お前はこのままでいいのか?》

 

「その言い方はずるいな~。そんなことを言われたら乗るしかないじゃないか!」

 

《決まりだな。開始直後にそっちに行く。》

 

「OK!」

 

そう言って通話を切って、大妖精に端末を返す。

 

「何の話?」

 

魔理沙がたずねる。

 

「秘密だ!」

 

「おう…そうか…。」

 

魔理沙はそれ以上追及せず、自分の準備に戻る。

 

 

 

 午後4時。

『乱戦』開始のチャイムが鳴る。

直後、廊下から複数の悲鳴が響いた。

悲鳴が止んだ後、1年A組教室のドアが開く。

 

「おまたせ。」

 

「はやっ!」

 

入ってきたのは黒刀だ。

 

「なるほど。手を組んだのね。」

 

霊夢が納得する。

ちなみに廊下にいた参加者は黒刀が道中、全滅させてきた。

 

「いこう!」

 

「ああ、まずは…」

 

「「シュッといってドカーンだ!」」

 

黒刀とチルノはハモって教室を飛び出して行った。

 

「なんだあれ?」

 

「あの2人仲いいわね…。」

 

霊夢と魔理沙はポカーンとしていた。

 

 

 

 1階廊下。

黒刀とチルノは高速で走りながら、参加者を斬り進んで行った。

 

「狙うのは3位の火属性槍使いだ。俺もサポートするが最終的に決めるのはお前だ。」

 

「了解!」

 

 

 

 10分後。

1年A組教室のドアが開き、黒刀とチルノが戻ってきた。

 

「はやっ!」

 

「いや~意外と手こずった~!」

 

「腐っても3位だからな。よし、まだ時間あるし、このまま魔理沙も4位を狙うか?」

 

「マジか!」

 

「残り20分。普通なら余裕なんだけど4位の奴は水属性魔法で姿を消すからな。」

 

「厄介だな。」

 

「ああ。ステルスされたら俺でも見つけるのは困難だ。行くぞ!」

 

「おう!」

 

「チルノは霊夢達と一緒にいろ。ランキングが上がった奴は狙われやすい。」

 

「あたいに負けはないけど分かった!」

 

「よし行くぞ!」

 

黒刀と魔理沙は窓から飛び出した。

 

「ちょっ!そんなところから⁉」

 

霊夢は驚いていたが、魔理沙は箒に跨って飛行し、黒刀は壁を走っていた。

 

「魔理沙はともかく黒刀先輩は無茶苦茶すぎる…。」

 

霊夢はいちいち驚いていては精神がもたないと思ったのだった。

 

 

 

 

「さて。俺が補足できるとしたらステルスを解いた時だろう。いくらなんでも魔力が尽きるとなれば解かざるを得なくなる。」

 

「なるほど。」

 

「といっても1㎞圏内じゃないと意味ないけどな。」

 

「ほぼノープランじゃん!」

 

「う~ん…そうだな…魔理沙は上空で待機してろ。俺があぶり出す。」

 

「どうやって?」

 

「まあ、見てろって。」

 

黒刀は不敵な笑みを浮かべる。

魔理沙は言われた通り、箒に跨って上空で待機する。

黒刀は『千里眼』を発動した状態で校内敷地の森を歩く。

 

「(『千里眼』で不自然に動いているものを見切って一発ぶん殴ってステルスを解かせる。)」

 

その時、風もないのに不自然に揺れる草むらを見つけた。

 

「そこか!」

 

黒刀はそこへ高速で移動してぶん殴った。

 

「キャッ!」

 

ステルスが解かれて現れたのは女性だったが、黒刀はそんなことは一切気にしていない。

 

「くっ…やってくれるわね!でも私だって時間まで耐えることくらい…」

 

「無理だな。なぜならお前を倒すのは俺じゃない。」

 

「その通りだぜ!」

 

声が響いた上空から魔理沙が『マスタースパーク』の発射態勢に入っていた。

 

「マスタースパーク~!」

 

「なめないで!水魔法で防ぐだけよ!」

 

女魔法師は魔法で水の壁を頭上に展開する。

 

「なら消すだけだ。」

 

黒刀は斬撃を放って水の壁を破壊した。

 

「しまった!きゃああああああああああああああああああああああ!」

 

『マスタースパーク』の直撃をもろに浴びた彼女は悲鳴を上げながら吹っ飛ばされ、やがて気を失った。

 

「よっしゃ!やったぜ!」

 

魔理沙はガッツポーズをして喜ぶと、地上に降りて黒刀とハイタッチを交わす。

 

「おっと、そろそろ妖夢達の方に奇襲が来る頃だ。戻るぞ。」

 

黒刀と魔理沙は1年A組教室へ戻って行った。

 

 

 

 午後4時25分。

 

「さすがに結界もそろそろ限界なんだけど。」

 

霊夢がぼやく。

 

「やっぱりあたいも突撃して…」

 

「ダメですよ。万が一やられたら2日間決闘禁止になっちゃうんですから。」

 

妖夢がチルノを何とか止めている。

その時。

 

「フハハハハ!」

 

黒刀が高笑いしながら参戦してきた。

 

「くたばれ雑魚ども!」

 

黒刀は斬撃を連続で放ち、参加者をなぎ倒していった。

 

「なんて地獄絵図…。」

 

霊夢が思わず声に出してしまう程、黒刀は暴れまわっていた。

 

 

 

 5分後。

『乱戦』終了のチャイムが鳴ったころには黒刀の周りには彼に負けた者達が死体のように転がっていた。

黒刀は妖夢に歩み寄った。

 

「悪いな妖夢。今日は手伝ってやれなくて。」

 

「いえ大丈夫です!5位の人には『乱戦』ではなく『決闘』で勝とうと思っていますので!」

 

「妖夢がそれでいいなら。」

 

黒刀は温かい眼差しで微笑んだ。

 

 

 

 5月10日。放課後。

妖夢はこの日、3年B組の教室に行って、5位の生徒に『決闘』を申し出た。

1位~5位は『決闘』を断れないので5位の生徒…短髪二刀流の男は『決闘』を受け入れた。

2人は中庭に行き、向かい合った。

ギャラリーも集まってきている。

5位の男は2本の剣を鞘から引き抜く。

妖夢も『楼観剣』を構える。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのは5位の男だった。

 

「二刀流の闘い、しかと見よ!」

 

そう吠え、突撃して右の剣を水平に振ってきた。

 

「(これなら止められる!)」

 

妖夢が攻撃を『楼観剣』で受け止めようとしたその時、左の剣が逆方向から迫ってきた。

 

「(まずい!)」

 

妖夢は咄嗟に身を翻して後ろに避ける。

さらに、後ろに退避しようとする妖夢に対し

 

「まだ終わらんぞ!はあっ!」

 

5位の男は吠えながら連続で剣を振って来る。

 

「くっ…私だって…。」

 

妖夢の脳裏に黒刀の顔が浮かび上がる。

 

「負けられないんだ~!」

 

妖夢も応戦に入った。

 

「(相手が2本なら2本分の速度で振ればいい!)」

 

妖夢は右の剣をいなした後、すぐに左の剣を弾いた。

5位の男の表情がこわばる。

 

「くっ…こいつまるで黒刀の『超反射』のような動きを…だが!それをいったいいつまで続けられる?ガス欠になるのがオチだ!」

 

5位の男は攻撃のテンポを上げる。

それにより妖夢の状況が悪化していく。

そして、ついに妖夢がパワーで押されて体勢が崩された。

 

仁交斬(にこうざん)!」

 

5位の男は2本の剣をクロスさせて斬る。

 

「ぐはっ!」

 

妖夢はそれをもろに受けてしまう。

前のめりに倒れそうなところを『楼観剣』を地面に突き刺して耐える。

 

「はあ…はあ…強い…。」

 

妖夢の今の状態は胴体を斬られたため本来なら心臓へのダメージが精神ダメージに置換され気絶している。

だが妖夢は根性で立っていた。

5位の男は目を見開いて驚いていた。

 

「なぜ立てる?通常なら心臓へのショックで気絶しているはずだ!」

 

妖夢は『楼観剣』を地面から引き抜く。

 

「はあ…はあ…絶対に負けられないから…皆が前に進んでいるのに…私だけが!こんなところで立ち止まっているわけにはいかないんだ!

 

妖夢はそう言い放って腰に納まっているもう1本の剣『白楼剣』を抜いた。

 

「お前も二刀流だったのか!」

 

「いきます!」

 

妖夢は右足を踏み込んで地を蹴る。

5位の男は迎え撃とうと構える。

だが次の瞬間、5位の男の眼前から妖夢の姿が消えた。

 

「どこだ!後ろ…右…左…上か!」

 

5位の男は頭上を見る。

そこに妖夢はいた。

だが、妖夢のさらに上には太陽があった。

 

「くっ…見えん!」

 

5位の男の視界が塞がれる。

妖夢は先ほど、ダッシュの後『ハイジャンプ』で跳び上がったのである。

その時、太陽を遮るように雲が通った。

5位の男がすぐに頭上を見て迎撃しようとする。

だがそこに妖夢はいなかった。

 

「どこに…っ!」

 

5位の男は下の気配に気づいた。

妖夢はさっきとは逆に下に空中でジャンプしたのである。

これが『ロージャンプ』である。

5位の男は咄嗟に防御の構えを取ろうとする。

しかし、遅かった。

 

妄執剣 修羅の血弐式!

 

妖夢は2本の剣で5位の男を斬り抜いた。

5位の男はそのまま前のめりに倒れた。

 

《勝者 魂魄妖夢》

 

勝敗を告げる機械音声が鳴り響く。

直後、ギャラリーから歓声が鳴り響く。

 

 

 

 その一部始終を黒刀は『千里眼』で教室から観察していた。

 

「(あれが二刀流の妖夢か…。)」

 

そう思ったその時、横からいきなりアリスに頬を引っ張られた。

 

「怖い顔しない!」

 

「いてて…分かったよ。」

 

アリスの罰から解放された黒刀は頬を緩ませた。

 

「分かっているの?代表が決まるのは6月6日。これから1ヶ月近くはあの子たちのランキングを落とさないようにしないといけないのよ!」

 

「問題ないさ…すぐにそれどころじゃなくなる。」

 

黒刀は不敵な笑みを浮かべるのだった。




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中間試験

第9話。

OP2 ハイキュー2期「アイム・ア・ビリーバー」


 5月11日。放課後。

黒刀と妖夢達は博麗神社にある霊夢の自宅に集まっていた。

 

「これから中間試験に向けての勉強会を始める。」

 

黒刀の言葉に妖夢、魔理沙、チルノの顔が青ざめた。

 

「なんでうちなんですか?黒刀先輩の家でやればいいじゃないですか?」

 

霊夢が文句を言う。

 

「あんな狭い部屋で勉強会できるわけないだろ。」

 

「…まあ黒刀先輩には色々とお世話になっていますからいいですけど。」

 

黒刀の返しに霊夢は渋々納得した。

 

「それじゃ俺がチルノ、大妖精が魔理沙、霊夢が妖夢に勉強を教えることにする。」

 

「どうしてその分け方なんだ?」

 

魔理沙がたずねる。

 

「大妖精はチルノに甘いし、魔理沙は霊夢といるとすぐにふざけそうだからだ。」

 

「そ、そんなことないぜ!」

 

黒刀の返答に魔理沙は目を逸らす。

 

「黒刀先輩は自分の勉強をしなくていいんですか?」

 

「俺はもう完璧だから。」

 

「「「「「(ハイスペックめ!)」」」」」

 

 

 

 20分後。

 

「できた!」

 

チルノが黒刀の作った練習問題の答案を見せる。

 

「はい。全問不正解。」

 

「なん…だと。」

 

「当たり前だ。ほらなんだこの答えは?」

 

黒刀の国語の問題を見せる。

 

「犬も歩けば?」

 

「車に轢かれる!」

 

「死ぬわ!散歩もできねえよ!」

 

「え、だってニュースとかでよく轢かれてるじゃん!」

 

「それは猫だ!」

 

 

 

 その様子を見ていた霊夢。

 

「苦戦してるみたいね。」

 

「霊夢、ここなんだけど…。」

 

「そこはここの公式を使うのよ。」

 

「なるほど…ありがとう。」

 

「(大丈夫かしら…チルノ。)」

 

「(チルノちゃん…大丈夫かな?)」

 

大妖精も心配そうにチルノを見ていた。

 

「「(不安だ…。)」」

 

 中間試験は6月1日と6月2日の2日間に行われる。

5教科あり、テスト前の3週間は『決闘』と『乱戦』が禁止されている。

さらにテスト後の3日間も禁止なので実質、代表メンバーは決まっていた。

 

 

 

 そして、中間試験当日。6月1日。

神光学園生徒たちの学力を競う闘いが始まった。

テストは学校用PCを使用して行われる。

 

「それでは始め!」

 

慧音の号令と共にテストが開始される。

しかし、開始直後に教室内から鉛筆を転がす音が聞こえてきた。

ペンなどは計算メモなどで使うので持ち込み自体は許されている。

 

『(まさか!)』

 

カンニングになるため顔を向けられないが音の位置で大体気づいた。

チルノが鉛筆を転がしていることに。

 

『(1問目からかよ!)』

 

チルノ以外の全員が心の中でツッコんだ。

 

 

 

 中間試験1日目終了。

1日目は3教科だった。

 

「あ~なんとか終わった~!」

 

「明日もあるわよ。」

 

大きく伸びをした魔理沙に霊夢は耳元でささやいた。

 

「うっ…わ、分かってるよ!」

 

「チルノは2教科目まで鉛筆を転がしてたね。」

 

妖夢がチルノに声をかける。

 

「黒刀が貸してくれたんだ!この鉛筆があれば満点とれる!」

 

「とれたら苦労せんわ!」

 

魔理沙がチルノにツッコむ。

 

「はっ!まさか黒刀はこの鉛筆で満点を取っていたんじゃ…。」

 

「いや、なくてもとれるぞ。多分あいつは。」

 

 

 

 6月2日。中間試験2日目が終了した。

この日、チルノは鉛筆を一度も鉛筆を転がさなかった。

 

「終わった~!」

 

魔理沙は万歳した。

 

「そういえばチルノは鉛筆を転がしてなかったね?」

 

妖夢がチルノに聞いた。

 

「黒刀に言われたんだ。鉛筆の効力は2教科までしかもたないって。」

 

「制限付きなんだ…。」

 

妖夢は静かなツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 6月6日。

その日は日曜日だというのに全校生徒が登校していた。

それもそのはず、今日は『剣舞祭』の神光学園代表メンバーの発表日だからである。

そして、テストの結果発表の日でもある。

 1年A組教室。

 

「おい…嘘だろ…チルノ、お前5教科中3教科満点じゃねえか!」

 

魔理沙はチルノの点数に驚いていた。

ちなみに魔理沙は全てギリギリ赤点回避だった。

 

「あれ?でもあの鉛筆は2教科までしか効力がないんでしょ?」

 

霊夢が口を開く。

 

「へへ…数学だけ自力で解いたんだ!」

 

「嘘だろ…。」

 

魔理沙はチルノに総合点数で負けていた。

 

「うわあ~!チルノに負けるなんてありえねえ!」

 

魔理沙は目の前の現実を嘆く。

チルノに迫って、

 

「一体どんなトリックを使った!」

 

「あたいは黒刀に言われた通りにしただけだ!」

 

「ならこれから本人に直接聞きに行くぜ!」

 

 

 

 2年A組教室。

黒刀のテストは全て満点だった。

 

「さすがですね!」

 

文が素直に賞賛する。

 

「別にたいしたことじゃない。」

 

黒刀は軽く返す。

黒刀の隣の席のアリスが

 

「嫌味にしか聞こえないわよ。」

 

「そうか?」

 

黒刀は自分の失言に気づいていない。

その時、魔理沙が教室に入ってきた。

 

「どういうことだ黒刀!チルノが3教科も満点取るなんておかしいだろ!」

 

「簡単だ。俺はチルノに数学だけ徹底的に教えただけだ。」

 

「だとしてもチルノの知力なんてたかが知れてるだろ?」

 

「それは違う。チルノはどういう形であれ9という数字が出てくる問題なら絶対に解ける。だから俺はチルノに数学の問題を解くときに頭の中で+9-9の式を足すように考えさせた。これなら問題を解けるからな。」

 

「「なるほど。」」

 

霊夢と大妖精の優等生組がうなずく。

 

「普段からまともに勉強しないお前が悪い。」

 

「そんな~!」

 

黒刀の一言に魔理沙は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 第1体育館。代表メンバー発表。

 

「さあ!ではまずは5位から発表していきましょう!」

 

実況は文が担当している。

 

「第5位!魂魄妖夢!入学当初は最下位から2番手でしたが徐々にランキングを上げ、5位だった二刀流の剣士を激闘の末破った二刀流の剣士!」

 

紹介された妖夢がステージの上でお辞儀をする。

 

「第4位!霧雨魔理沙!どんな敵もパワーで吹っ飛ばす!得意の砲撃魔法の名は

『マスタースパーク』~!」

 

紹介された魔理沙は元気よく手を振った。

 

「第3位!チルノ!1年生の首席!その氷で敵を凍らせる!さらにスピードを活かした闘いで代表入りを果たしました!」

 

「あたい!天才最強!」

 

紹介されたチルノはマイペースだった。

 

「第2位!博麗霊夢!入学当初はなんとランキング最下位でしたが、能ある鷹は爪を隠すのか!初戦でランキング2位まで上り詰めたダークホース!」

 

紹介された霊夢は欠伸をしていた。

 

「そして…第1位!この人を忘れてはならない!いや忘れられない!『破壊王』であり!全戦無敗!昨年の『剣舞祭』個人戦で栄光に輝いた…四季黒刀~!」

 

その紹介はこれまでより大きな盛り上がりを見せた。

黒刀はマイクに手を持ちこう宣言した。

 

「去年の団体戦は本当に残念だった!だが!今年は違う!今ここに誓う!俺たちは必ず全国制覇を果たす!

 

体育館にいる生徒は最高の盛り上がりを見せた。

 

俺たちは勝つ!己の全てを懸けて!

 

その叫びに大きな歓声が沸いた。

こうして代表メンバーの発表は終わった。




ED2 家庭教師ヒットマンリボーン「桜ロック」

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1年前

第10話。

OP2 ハイキュー2期「アイム・ア・ビリーバー」


 代表メンバーの発表が終わった妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精は映姫から生徒会室に呼び出されていた。

生徒会室には社長のようなデスクの生徒会長のデスクと応接室のように長いテーブルが1つ、ソファが2つ向かい合うように置かれている。

 妖夢は緊張していた。

 

「それでお話ってなんでしょうか?まさか!今からお説教ですか!」

 

「いえいえ、違いますから。」

 

映姫が笑顔で否定する。

 

「よかった~!」

 

「でもどうして黒刀先輩だけ呼ばれていないのですか?代表絡みですよね?」

 

霊夢が疑問を口にする。

 

「…代表になった今のあなたたちになら話してもいいと思ったからです。」

 

「何をですか?」

 

妖夢が首を傾げる。

 

「……黒刀が今のようなになった理由です。」

 

「それは自ら悪役を演じる理由ですか?」

 

霊夢が眉をひそめる。

 

「その通りです。」

 

「私達を代表にするためだろ。阿求先輩に聞いたぜ。」

 

魔理沙の言葉に大妖精が挙手をする。

 

「あの~よく考えればおかしいと思います。それなら私達ではなく上級生を優先するべきではないでしょうか?」

 

「確かに。」

 

大妖精の正論に霊夢は顎に手を添える。

 

「それをこれから話します。なぜ黒刀がそうしなかったのか?…あれは去年の夏…『毛剣舞祭』奈良予選の団体戦で紅葉高校に敗退した後のことでした。」

 

 

 

 

 1年前。夏。

神光学園が紅葉高校に敗退した後、控室に怒号が飛んだ。

 

「どういうことだ!もう諦めて個人戦も出ないなんて…まだチャンスはあるんだ!諦めんなよ!」

 

その言葉を発したのは黒刀だった。

彼の『剣舞祭』にかける想いは熱かった。

しかし…

 

「うざい。」

 

「え?」

 

「そんなにやりたきゃてめえだけで勝手にやってろ。」

 

「俺もだ。お前、暑苦しいんだよ!」

 

チームメイトだと仲間だと心の底から思っていた黒刀にとってその言葉は心に激しく、痛々しく響いた。

言いたいことを言った彼らは控室から去った。

 

「(なんだよ…それ…全国行くんじゃなかったのかよ…その程度なのかよ…お前らの覚悟は!)」

 

黒刀は右手を横に振り、

 

くっそ~~~~~~!

 

そう叫んでロッカーを殴った。

その音は控室に響いた。

 その後、黒刀は個人戦で予選を制し、さらに本選で優勝を果たした。

しかし、黒刀は全ての試合で勝っても笑うことはなかった。

 そして、事件は9月…新学期始めてすぐの『乱戦』で起きた。

その日、空は曇っていた。

『乱戦』開始1分前、黒刀は屋上に立っていた。

 

「(この『乱戦』で俺が認める強い奴がいなければ俺が…俺が起こしてやる!変革を!)」

 

『乱戦』開始のチャイムが鳴る。

だが、その一瞬で予想外の事態が起きた。

開始のチャイムと共に雷が落ちた。

直後、大勢の悲鳴が響き、なんと1人を除く『乱戦』参加者が全員倒されていた。

 当時から生徒会だった映姫は事態を知り、ある人物を探して校内を駆け回った。

そして見つけた。

中庭にいた。

この事件を起こした張本人…四季黒刀を。

 

「…黒刀。」

 

背中を向けている黒刀に映姫は呼びかける。

だが黒刀は何も言わない。

映姫は困惑していた。

 

「どうしてこんなことを…。」

 

黒刀は背を向けたまま

 

「確かめるつもりだった。」

 

「…何を?」

 

「………。」

 

黒刀はまた黙ってしまう。

 その時、ポツポツと雨が降り出した。

やがて勢いを増し、どしゃ降りをなった。

 映姫は優しい声で、

 

「黒刀…風邪をひいてしまうから早く中に入りましょう?」

 

だが黒刀は動かなかった。

そして、ようやく口を開いた。

 

「この学園にいると思っていた…姫姉みたいに強い奴がいると…でもいなかったそんな奴。」

 

「…黒刀。」

 

「だから俺が代表を決める。」

 

「黒刀!」

 

姫姉はつい声が大きくなってしまった。

 

「姫姉。」

 

黒刀に呼ばれ、映姫は動きが止まってしまう。

そして、黒刀はゆっくりと振り向いた。

 

「…最強ってなんだろうな…。」

 

黒刀の眼から雫がツーッと流れていた。

普通に見れば雨の水滴かもしれないだろう。

だが、映姫にはしっかりと分かった。

 

それが…黒刀の涙だと。

 

 

 

 

 

 現在。

 

「これがこの事件の全てです。」

 

映姫は目を閉じて語り終えた。

 

「「「「「………。」」」」」

 

妖夢達は衝撃の過去を聞いて、言葉を発せずうつむいてしまう。

映姫の傍らにいた小町が口を開いた。

 

「その翌日、あいつは私と阿求に普通に接してきたよ。だけど私たちには分かった。あいつは無理していた。弱い自分を見せないために。」

 

続いて映姫が口を開く。

 

「あの子は闘いに関しては強い。だけどあるものがとても弱い。」

 

「…それは何ですか?」

 

妖夢が顔を上げて問う。

 

「心です。」

 

「「「「「え?」」」」」

 

映姫の答えに一同は驚いた。

 

「あの子は何かを失うことを最も恐れている…誰よりも。」

 

「先輩が…。」

 

妖夢はこれまでの黒刀を思い出す。

決して弱い部分など見せなかった黒刀を。

 

「失礼します!」

 

妖夢は急いで生徒会室を飛び出す。

 

「おい妖夢!」

 

魔理沙が止めようとする。

 

「待ってください。彼女に任せましょう。」

 

映姫はそう促した。

 

 

 

 

(挿入歌 鋼の錬金術師「レイン」)

 

 妖夢は廊下を走っていた。

 

「(先輩…先輩…先輩…先輩…先輩!)」

 

強く想いながら走っていた。

靴を履き替え、昇降口を出るが、あいにく外は雨が降っていた。

傘を持っていない妖夢はそのまま雨の中を走っていった。

そして正門を出る少し前のところでその名を呼ぶ、

 

黒刀先輩!

 

傘を差す黒刀がゆっくりと振り返る。

 

「はあ…はあ…絶対に全国に行きましょう!絶対…絶対…絶対に全国へ!

 

妖夢は全力で叫び、膝に手をついた。

 

「…ありがとう…行こう!全国!」

 

黒刀は妖夢に近づき、優しく微笑んで妖夢の頭の上に傘を差す。

 

「はい!」

 

妖夢は立ち上がり笑顔で返す。

 

「とりあえずこのままじゃ濡れるぞ。俺が家まで送るよ。」

 

「え、送ってくれるんですか?」

 

「ああ。」

 

黒刀は妖夢を傘の下に入れて、一緒に妖夢の家に歩いていった。




ED2 家庭教師ヒットマンリボーン「桜ロック」

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奈良編
狼剣士


第11話。
ついに椛出ます

OP2 ハイキュー2期「アイム・ア・ビリーバー」


 妖夢の自宅玄関前。

黒刀に送ってもらった妖夢が、

 

「先輩、ありがとうございました。では今日はこの辺で…」

 

そこで玄関のドアが開いた。

 

「妖夢~ごはんまだ~。」

 

幽々子が出てきた。

 

「幽々子様⁉」

 

幽々子はそこで妖夢の隣に立っている黒刀に気づく。

 

「あら~妖夢ったらボーイフレンド?」

 

幽々子は口元に手を当てながら聞いてきた。

 

「ち、違います!学校の先輩です!」

 

「まあまあ、あがって♪」

 

「ではお邪魔します。」

 

「先輩も遠慮してください!」

 

妖夢は止めようとするが結局、黒刀を自宅にあがらせることになってしまった。

 

 

 

「(はあ…なんでこんなことに…せめて部屋だけは見られないようにしないと…。)」

 

「いっそ泊まってく?」

 

「いいんですか?」

 

幽々子の提案に黒刀が訊き返した。

 

「ちょっ!幽々子様!なんてことを言うんですか!そんなのダメに決まってるじゃないですか!」

 

「でもまだ黒刀君とお話ししたいし♪」

 

「もう君付け⁉」

 

「あ、黒ちゃんっていうのはどうかしら?」

 

「いや、それはちょっと…。」

 

黒刀は苦笑い。

 

「だめ?」

 

「知り合いに同じ呼び方をされるもので…。」

 

「と・に・か・く!ダメなものはダメです!」

 

「でも妖夢、外は凄い雨よ。まさかこんな雨の中、黒刀君を帰らすつもり?」

 

「それは…。」

 

「決まりね♪」

 

妖夢は幽々子に言い負かされてしまった。

黒刀が端末を操作して映姫の承諾を取った。

 

「大丈夫だって。」

 

「よかったわ。あ、でも着替えがないわ。どうしましょう?」

 

「あります。浴衣が。」

 

「(なんで持っているですか~!)」

 

妖夢は心の中で叫んだ。

 

 

 

 夕方になり、夕食を作り始めた。

妖夢がキッチンに立つと、黒刀も立ち上がった。

 

「俺も手伝うよ。」

 

「え、そんな申し訳ないですよ!」

 

「大丈夫。手伝うだけ。勝手に味付けとかしないから。」

 

「でも幽々子様、結構量食べるので重労働ですよ?」

 

「問題ない。」

 

「そこまで言うなら…。」

 

妖夢は渋々、了承した。

2人ともかなりスムーズに料理を進めていた。

リビングからその様子を眺めていた幽々子。

 

「なんか…こうしてい見るとまるで…新婚夫婦みたいね!」

 

幽々子のからかいに妖夢の肩がビクッと震えた。

 

「幽々子様!なんてことを言うんですか!そ…そんな…夫婦だなんて…。」

 

妖夢の頬が赤くなる。

 

「黒刀君は彼女いるの?」

 

「それ聞いちゃう⁉」

 

妖夢が声を上げる。

 

「…今はいないです。」

 

黒刀は冷静に返してガスの火を止める。

妖夢と黒刀が作っていたのはカレーだった。

 

「「「いただきます!」」」

 

3人は同時に口にカレーを入れた。

 

「おいしい♪」

 

「ああ、美味い。妖夢は料理が上手いな。」

 

幽々子が頬を緩ませ、黒刀が褒める。

 

「えへへ~。そんなことないですよ~!」

 

妖夢は頬を両手でおさえながら照れ隠しする。

 

「どう?ぜひお嫁に?」

 

幽々子は黒刀に親指を立てる。

 

「まあ、もったいないですけどすみません。」

 

黒刀はやんわり断ったが妖夢はまるで聞いていなかった。

 

 

 

 夕食が食べ終わり、入浴を済ませた後、黒刀は妖夢がいないことに気づいた。

『千里眼』を発動すると、黒刀はその場所に移動した。

 

 妖夢はベランダで星を眺めていた。

そこに黒刀がベランダに出てきた。

 

「先輩、どうしたんですか?」

 

「妖夢がいなかったから探したんだ。そしたらここにいたんでな。」

 

しばらく黙って星を眺めていたが、黒刀が口を開く。

 

「幽々子さんってお前の本当の親じゃないんだな?」

 

「…やっぱり気づきますよね?」

 

「なんとなく…あ、誤解するなよ。別に同情とか馬鹿にしてるわけじゃない。そういうのが嫌なのは痛いほど知ってるから。」

 

黒刀は遠い目をする。

 

「先輩の言う通りです。幽々子様は私が6歳の時に両親が火事で亡くなった後に引き取ってくれた人なんです。」

 

「恩人か…。」

 

「はい…先輩のご両親はどんな人なんですか?」

 

「父さんは軍の総帥で俺の中では世界で一番強い人だと思う。母さんは世界で一番優しい人かな…笑顔がとっても眩しくて温かくて…俺と姫姉が子供の時、喧嘩したら笑顔1つで止められたんだぜ。もしかしたらこの世の全ての争いだって止められるかもって思うぐらいだ。」

 

両親の話をする黒刀の目はとても優しい目をしていた。

 

「へえ、いつか会ってみたいです!」

 

「ああ、その内会いに行こう。」

 

「はい是非!」

 

それからも黒刀と妖夢は思い出話に浸っていた。

 

 

 

 6月7日。午前6時。

黒刀は少し寝ぼけながら起きた。

 

「トイレどこだっけ?…ここかな?」

 

黒刀が引き戸を開ける。

そこには脱衣所で白の下着姿の妖夢がいた。

 

「ふぇ?」

 

「え?」

 

妖夢と黒刀が素っ頓狂な声を上げる。

5秒ほど2人は固まっていた。

そして、時は動き出す。

 

「きゃああああああああああああああああああああああ!」

 

妖夢は悲鳴を上げて傍に立てかけてあった竹刀を握って黒刀のみぞおちに突きを放った。

 

「ぐはっ!」

 

黒刀はまともに受けて廊下の壁に背中から激突した。

 

「(なんで…そんなところ…竹刀が…)」

 

疑問を最後に黒刀はうつ伏せに倒れて気を失ってしまった。

 

 

 

 数分後。

 

「先輩…先輩…先輩、起きて下さい。」

 

妖夢の呼びかけに黒刀は目を覚ます。

 

「ん…ああ…妖夢か。」

 

黒刀はソファに横たわっていた。

妖夢が運んでくれたようだ。

 

「ごめん…妖夢…俺…」

 

「言わないてください!それとできれば忘れて下さい!」

 

「ああ…分かった。」

 

「絶対ですよ?」

 

妖夢が上目遣いで訊く。

 

「ああ…今何時だ?」

 

「6時半です。そんなに気を失っていなかったので。」

 

「ん~…ランニングはやめておくか…妖夢、軽く打ち合おう。」

 

「はい!では先に庭で待っていますね!」

 

妖夢は駆け足で去って行った。

 

「(白か………ありだな。)」

 

黒刀はそんなことを考えていた。

 その後、黒刀と妖夢は竹刀で軽く打ち合う。

目を覚ました幽々子はその光景を眺めていた。

 

「初めて見る気がするわ。あんな楽しそうな妖夢。」

 

 

 

 制服に着替えて黒刀と妖夢は登校する。

 

「いってらっしゃいお2人さん♪」

 

「そんなにやけた笑顔で言わないでください幽々子様。いってきます!」

 

「一応言うんだな…いってきます幽々子さん。」

 

2人は幽々子に挨拶してから学園に向かう。

 

 

 

 登校する2人を見かけた魔理沙は2人に近づいた。

 

「おっす!2人とも一緒に登校なんて珍しいな!」

 

霊夢、チルノ、大妖精も途中で合流する。

 

「まさか!これが噂の朝帰り⁉」

 

「チルノちゃん、そんな言葉どこで覚えたの?」

 

「大ちゃん…笑顔が怖い…。」

 

「何言ってんだお前ら?」

 

黒刀は呆れた顔をする。

 

「そうですよ!私たちは別に」

 

「帰ってねえぞ。」

 

黒刀は余計な一言を付け足す。

 

「「「「………。」」」」

 

4人とも口をポカーンと開けたまま固まってしまった。

そこへ…

 

「あやや、これは大スクープですね!」

 

文がメモを取って現れる。

 

「おい。」

 

黒刀が指の関節を鳴らす。

 

「これは…今日の献立を…。」

 

「嘘つけ!」

 

「さらば!」

 

文は物凄いスピードで走り去ってしまった。

 

 

「いや~妖夢もついに女になったわけか~!」

 

「霊夢!からかわないでください!」

 

妖夢は霊夢の肩を掴み前後に揺らす。

 

「そうだぞ。妖夢は」

 

「先輩はもう何も言わないでください!状況が悪化するだけなんですから!」

 

「お、おう…。」

 

黒刀は妖夢の剣幕に気圧された。

 

 

 

 1年A組教室。1時限目。

 

「ええ、では…まず日本の国名を総称で答えてください。」

 

「日本は日本でしょ!」

慧音の質問にチルノが答える。

 

「違います。」

 

「日本国でしょうか?」

 

続いて大妖精が答える。

 

「それはかつての日本の総称です。現在の総省は新大日本帝国となっています。」

 

「つまり昔のように天皇陛下中心の国家ということですか?」

 

「正確には天皇陛下とナンバーズを中心とした国家となっています。もちろん最大の権限を持っているのは天皇陛下です。」

 

「ナンバーズってなんだ?」

 

チルノが首を傾げる。

 

「はあ…チルノ、それに皆さんも大事なことなのでよ~く聞いておいてくださいね。」

 

慧音は念押しする。

 

「ナンバーズとは一ノ瀬、二宮、三門、四季、五位堂、六道、七瀬、八雲、九条の9つの貴族を指す名称です。ナンバーズは今や新大日本帝国において非常に欠かせない存在となっています。一ノ瀬と三門以外のナンバーズは特に戦闘力に長けていて、その中でも二宮と四季は1,2を争う実力を持った家系です。それにナンバーズがいなければ帝国は終わっていたと言っても過言ではありません。」

 

「なっ、黒刀の奴そんな金持ちだったのか!羨ましい!」

 

チルノが驚く。

 

「天皇陛下って見たことないけど。」

 

魔理沙が口を開く。

 

「天皇陛下には限られた人以外会うことは出来ません。」

 

「どんな人が会えるんですか?」

 

質問が飛んでくる。

 

「例えば『王』ですね。」

 

「ってことは黒刀先輩は会ったことはあるんだ…どんな人なんだろう…神様みたいな人かな?」

 

大妖精がとろけた表情になる。

 

「それだけ尊く偉大なお方ということですよ。」

 

慧音はそう言って締めくくった。

 

 

 

 午後4時。2年A組教室。

黒刀は今日、『剣舞祭』奈良予選のトーナメント組み合わせの抽選会のため抽選会場に向かった。

 

 

 

 午後4時30分。紅葉高校。

妖夢達は紅葉高校の敷地内に忍び込んでいた。

なぜそうなってしまったかと言うと、魔理沙が闘う相手を知っておくべきだと皆を連れ出したのが原因であった。紅葉高校の体育館の中を外から覗きこむ。

中には4人ほど男子生徒がいた。

 

「あいつらが代表か?」

 

魔理沙の言葉に

 

「さあ?」

 

霊夢は興味なさげに返した。

その時。

 

「誰だ!出てこい!」

 

中にいる男子生徒に気づかれてしまった。

仕方なく、妖夢達は体育館の中に姿を現す。

 

「その制服、神光学園の生徒だな?」

 

「はい。」

 

相手の質問に妖夢が答える。

そこへ…

 

「どうしましたか?」

 

体育館の入り口から声がした。

 

「椛、戻ったか。」

 

「…この人たちは神光学園の生徒のようですが?」

 

「おそらく偵察だろう?」

 

「なるほど。」

 

男子生徒の1人が

 

「だけどよ…神光学園ってたしか去年、俺らにボロ負けしたところだろ?なら楽勝じゃん!」

 

「なんだと!」

 

男子生徒の言葉を聞いた魔理沙が怒りを露わにして前に出る。

 

「勝つのはあたい達だ!」

 

チルノも魔理沙に続いて前に出る。

大妖精はそんな2人を止めようとしていて、霊夢は腕を組んだまま動かず、妖夢は必死にこらえていた。

 

「なんだ?やんのか?」

 

「そういう態度を取るってことはお前らも代表か!」

 

「今年の神光学園も弱そうだな!」

 

「「「「ハハハ!」」」」

 

男子生徒4人が挑発する。

 

「先輩たち、言い過ぎです。」

 

椛が口を挟む。

 

「おい椛、もしかしてびびっているのか?」

 

「こんな奴らと一緒に代表やってるなんてあの四季黒刀のレベルもたかが知れるぜ!」

 

「優勝もまぐれだったりしてな!」

 

「「「「ハハハ!」」」」

 

「取り消してください。」

 

その嘲笑に妖夢はつぶやいた。

 

「あ?なんて?」

 

男子生徒の1人がバカにしたように訊き返す。

 

「取り消せと言ったんだ!」

 

妖夢は激怒した。

 

「こいつ!生意気言いやがる!」

 

言われた男子生徒はこめかみをピクピクさせる。

 

「妖夢、やめて。こんなところで。」

 

大妖精は間に入る。

 

「どいて大妖精。こいつら先輩を侮辱した!今ここで斬らなきゃ気がすまない!」

 

妖夢は『楼観剣』を抜いて斬りかかる。

しかし、その刃は意外な人物によって止められた。

その人物とは抜剣した椛だった。

 

「なぜあなたが出しゃばるのですか?」

 

「先程のあなた方への非礼は私が詫びます。しかし、これ以上状況を悪化させるわけにはいかないのでここで負けて帰ってもらいます。」

 

妖夢と椛は鍔迫り合い状態となる。

 

「いえ、どいてもらいます!用があるのは後ろにいる無礼者だけです!」

 

「なら力ずくでやってみなさい!」

 

「言われなくても!」

 

2人が弾かれ離れた後、妖夢は右足を踏み込んで突っ込んだ。

 

「なかなかの速度…ですが単調です!」

 

椛は妖夢の剣撃を軽く弾いた。

 

「くっ!」

 

妖夢は後ずさる。

 

「どうやら見せる必要があるようですね…格の違いというものを!」

 

その瞬間、椛の雰囲気が変わった。

妖夢は彼女の眼を見た瞬間、寒気が走った。

その眼からはさっきまでと違い、とてつもない眼力を感じた。

 

「これが『千里眼』です。」

 

「先輩と同じ…。」

 

妖夢はつぶやく。

 

「あんな偽物と一緒にするなよ!」

 

男子生徒の1人が大声を上げる。

 

「佐藤さん、そういう言い方はやめてください。…あなた、名前は?」

 

「魂魄妖夢です。」

 

「では妖夢さん、私の『千里眼』と黒刀の『千里眼』は型が違うのです。」

 

「型?」

 

「彼のは全方位範囲型、私のは一点集中型なんです。」

 

「?」

 

「まあ実際に体感してもらった方が早いでしょう。どうぞかかってきなさい。」

 

「後悔しないで下さいよ!妄執剣 修羅の血!」

 

妖夢は高速で斬りかかるがその剣を完全に振り切る前に椛の剣に防がれた。

 

「なっ!」

 

「これで分かったでしょう。私の『千里眼』にはあなたの動きの未来が見える。」

 

「くっ!」

 

妖夢はバックステップをして、さらにクロスステップで回り込もうとするが、

 

「無駄です。」

 

椛は妖夢が動き出す直前で回し蹴り。

 

「がはっ!」

 

妖夢は蹴り飛ばされる。

その後、体勢をなんとか立て直す。

 

「(この人…強い!)」

 

「終わりです。」

 

椛がそう口にして、剣を振り下ろそうとしたその時。

体育館に張り巡らされている結界に亀裂が入った。

 

「な、なんだ!」

 

男子生徒の1人…高橋がうろたえ、仲間の加藤、伊藤もうろたえ始める。

それは魔理沙たちも同じだった。

そして、結界が完全に崩壊した瞬間、体育館の外から凄まじいオーラが感じられた。

それは大気や大地を震動しているのではないかと錯覚するほどのオーラだった。

その人物が体育館の中に入ってきた。

 

「うちの可愛い後輩をいじめられちゃ困るな~。」

 

「「黒刀!」」

 

チルノと魔理沙が叫ぶ。

 

「黒刀…。」

 

椛がその名をつぶやく。

 

「お前、何しに来た!」

 

高橋が怒鳴る。

 

「そんなの後輩を迎えにだよ。ほら、来客用の札もつけてる。」

 

黒刀は首にぶら下げている札を見せる。

 

「おいおい、邪魔すんじゃねえよ!」

 

高橋、加藤、佐藤、伊藤は黒刀に詰め寄った。

 

「これはこれは俺に個人戦でボコボコにされた…どなたでしたっけ?」

 

黒刀は首を傾げた。

 

「「「「てめえぶっ殺す!」」」」

 

4人は同時に殴りかかる。

 

「先輩危ない!」

 

妖夢が叫ぶ。

だが次の瞬間、2人は黒刀に踏まれ、残り2人はアイアンクローで掴まれ足を宙に浮かせていた。

 

「「「「(こいつ…今何しやがった⁉)」」」」

 

「あのさ、俺は後輩を迎えに来ただけなんだけど。なんか色々あったみたいだけどここは俺に免じて今日は帰らしてもらえないかな?」

 

黒刀は呆れた口調で話す。

 

「…分かった。先輩たちを離してくれる?」

 

椛は4人を離すようお願いする。

 

「ああ。」

 

黒刀は手を離し、踏んでいた者からも降りる。

 

「帰るぞ。」

 

そう言う黒刀に魔理沙が口を出した。

 

「ちょっと待てよ!私はこんなじゃ気が」

 

「そんなに焦んなくても大丈夫だ。」

 

「どういうことだ?」

 

「椛は知っているだろうが…」

 

「ええ…一回戦の相手は…」

 

「ああ、一回戦の相手は…」

 

「お前らだ。」「あなたたちです。」

 

黒刀と椛は同時に宣言する。

 

「どういうことですか?」

 

妖夢がたずねる。

 

「うん?ああ、今日は抽選会だから俺が行ってきたんだよ。椛も同じようにな。」

 

「なんでそんな重要なこと黙ってたんだよ!」

 

チルノが文句を言う。

 

「言ったらお前絶対に行きたいって言うだろ。そんなのごめんだ。魔理沙、これですぐに決着をつけられるぞ。文句あるか?」

 

「…ない!大舞台であいつらをぶっ飛ばしてやる!」

 

魔理沙の目は闘志で燃えていた。

 

「それじゃ帰るぞ…妖夢。」

 

「へ…あ、はい…。」

 

妖夢はしょんぼりしながらついていく。

 

「黒刀。」

 

椛が呼び止める。

 

「なんだ?」

 

「13日後。覚悟しておいて。」

 

「上等!」

 

椛の言葉に黒刀は不敵に笑って、去って行った。

 

 

 

 帰り道、黒刀は立ち止まった。

 

「それじゃあ、まず魔理沙、チルノ、妖夢。」

 

「ん?」

 

ゴンッ!ゴンッ!ゴチンッ!

 

3人とも痛みのあまり額を抑える。

 

「ちょっ!なんて2人はゲンコツであたいだけ頭突きなのさ!」

 

「お前らもっと冷静に動け。」

 

「無視⁉」

 

「チルノちゃん、さすがに今回はフォローできない。」

 

「そんな!大ちゃんまで!」

 

黒刀が言葉を続ける。

 

「魔理沙は挑発に乗り過ぎ。」

 

「うっ!だってあいつらが…。」

 

「チルノはそういう悪い波にすぐ乗るな。」

 

「チルノちゃんが悪い。」

 

「大ちゃん~…。」

 

「そして、妖夢。試合前に敵にやたら技を見せるな。やるなら探るだけにしろ。」

 

「ごめんなさい…。」

 

妖夢は素直に謝罪する。

 

「とにかく今日のことは深く反省しろ。それとこれがトーナメントの組み合わせだ。」

 

黒刀は空間ウインドウを展開してトーナメントの組み合わせを見せる。

 

「予選は6月20日~2日間に分けて行われる。3位決定戦も敗者復活戦もない。一発勝負だ。それでこっちが…」

 

黒刀はもう1つ空間ウインドウを展開する。

 

「「「「「神光学園『剣舞祭』代表強化合宿?」」」」」

 

「そうだ。幻想町にある幻霊山の頂上に合宿所があるから10日間かけて強化合宿を行う。」

 

黒刀が説明すると、魔理沙が、

 

「ちょ、ちょっと待てよ!私達そんな話聞いていないぜ!」

 

「今話したからな。」

 

「「「「「………。」」」」」

 

5人は絶句した。

 

「親御さんは寮長の許可は取ってある。ていうかお前ら今の実力で勝てると思ってるのか?」

 

「それは…。」

 

妖夢が下を向く。

 

「あたいは楽勝だけどね!」

 

「チルノ、10日間学校をサボれるぞ。」

 

「よしやろう!」

 

「チルノちゃん⁉」

 

大妖精が驚く。

 

「大妖精はマネージャーだから強制参加な。」

 

大妖精は苦笑いで、

 

「あはは…まあ、薄々分かってましたけどね…。」

 

そんな中、妖夢は…

 

「(私…いいのかな…あんな無様な闘いしておいて…皆と一緒に闘えるのかな…分からないよ…。)」

 

悩んでいた。

 

「妖夢。」

 

「あ、はい!」

 

「一回負けたからって何不安になってる。そんなのは誰だって経験してる。俺だってそうだ。」

 

「先輩が…。」

 

「ああ。俺は姫姉に一度も勝ったことがない。でもだからこそ次はどうやって勝とうか考えられる。それが敗北からの経験だ。ただ負けてそれが経験になるっていうのは間違いだ。流れに任せるんじゃなくて自分で切り開くんだ。妖夢、お前は入学してから『決闘』で一度も負けていない。いいか?自信と自惚れは違う。」

 

「あたいも黒刀に負けたけど、終わったら次の戦略を考えてるよ!」

 

「え、お前そんな頭あんの?」

 

「なんだと~!」

 

黒刀のからかいにチルノはハムスターのように頬を膨らましてちょっぴり怒る。

 

「冗談だよ。お前戦闘IQは高いからな。」

 

「えへへ~♪」

 

チルノはニッコリと笑った。

黒刀は妖夢を見つめる。

 

「安心しろ。絶対にお前を勝たせてやる。それに約束しただろ?」

 

「はっ!」

 

黒刀の言葉に妖夢は気づいた。

自分の誓いを。

 

 『絶対に全国へ行きましょう!』

 

「(そうだ。何弱気になっているんだ…先輩と約束したじゃないか…なのにこんなところで立ち止まっているなんてカッコ悪すぎる!)先輩、犬走椛に勝ちます!」

 

「ああ、ぶっ飛ばしてやろうぜ!」

 

「はい!」

 

2人がグータッチを交わそうとすると

 

「ちょっと!仲間外れは嫌よ。」

 

「私もだぜ!」

 

「あたいも!」

 

「私も忘れないでください!」

 

霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精が入ってきて、いつの間にか円陣を組む形となってしまった。

黒刀は微笑んだ。

 

「それじゃ全国まで一直線だ!」

 

「「「「「お~!」」」」」

 

一同は決意のグータッチを交わした。




ED2 家庭教師ヒットマンリボーン「桜ロック」

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合宿

第12話。

OP2 ハイキュー2期「アイム・ア・ビリーバー」


 6月8日。午前6時。

幻霊山ふもと。

黒刀とにとりはそこにいた。

にとりは代表の監督でもあるため付き添いだ。

 

「おはようございます!」

 

そこへ妖夢が到着。

 

「「おはよう。」」

 

「先輩、早いですね。」

 

「おいおい、うちの姉が誰だか忘れたのか?」

 

「あ、あ~そういうことですか!」

 

「そういうことだ。…遅れたら…終わりだ。」

 

黒刀は遠い目をする。

 

「おはよ~。」

 

霊夢が眠そうにしながらも到着した。

 

「眠そうですね?」

 

妖夢は苦笑い。

 

「もう寝ていい?……zzz。」

 

「立ったまま寝てる!器用だ!」

 

妖夢が驚いていると、空から

 

「ぎゃ~ブレーキが~!」

 

箒に乗った魔理沙が突っ込んできて、そのまま寝ている霊夢の背中に激突した。

 

「いった~~~!」

 

箒の先端で背中を直撃された霊夢が激痛のあまり悲鳴を上げる。

 

「ふ~、あぶねえ~。死ぬかと思ったぜ。」

 

「こっちのセリフよ!なんで合宿前にこんな目に遭わなくちゃいけないのよ!」

 

霊夢はキレた。

 

「霊夢が避ければいいだけの話だろ?」

 

「あの~霊夢は寝ていたのでそれは無理かと…。」

 

妖夢が口を挟む。

 

「じゃあ寝てた霊夢が悪いってことで。」

 

「明らかに加害者のあんたが悪いでしょうが!」

 

黒刀が間に入る。

 

「はいはい、喧嘩しない。」

 

「これは日常茶飯事だぜ。」

 

「原因はほとんどあんたでしょうが!」

 

「だからやめろって。」

 

「すみません!遅くなりました!」

 

そこへチルノを連れた大妖精が到着した。

 

「チルノちゃんが寝坊しまして…。」

 

「おかしい…アラームはセットしたのに…。」

 

「寝ぼけてそれを凍らせたら意味ないよ!」

 

チルノにツッコむ大妖精。

黒刀がフォローに入る。

 

「別に気にしてないよ。それよりあっちの方が問題だ。」

 

黒刀は霊夢と魔理沙を指さす。

 

「あ~またですか…。」

 

大妖精はため息をつく。

 

「いつもあんな感じなのか?」

 

「だいたいは…魔理沙が霊夢に悪戯をして怒られるパターンが多いです。」

 

「まあ、じゃれ合ってると思えばマシか。俺と姫姉のマジ喧嘩に比べれば。」

 

「あれ、先輩のお母さんが止めてくれてたんじゃ…。」

 

妖夢が訊く。

 

「いや、ちょうどその時は出かけてていなかったんだよ。」

 

「どんな風だったのかちょっと想像できないです。」

 

「すごかったぜ。口喧嘩はもちろん、殴ったり蹴ったりなんでもありだったな~。」

 

黒刀は懐かしそうに話す。

 

「どうやって終わったんですか?」

 

「ちょうど帰ってきた師匠が止めてくれた。ゲンコツからのお説教で。」

 

「先輩って師匠がいたんですか?」

 

「ああ、今どこにいるのか知らないけど…。」

 

そう話していると、チルノが

 

「なあ、まだ行かないの?」

 

「ああ、そうだな。ほら、行くぞお前ら!」

 

黒刀は霊夢と魔理沙に声をかける。

 

「合宿でボコボコにしてやるわ!」

 

「返り討ちにしてやるぜ!」

 

2人はそんなことを言い合っていた。

 

 

 

 午前6時30分。

 

「ちゃんと整備されてるんですね。」

 

歩く大妖精がつぶやく。

 

「おいおい、富士山の裏道みたいのでも想像してたのか?」

 

「いえ、さすがにそこまでは…。」

 

「一応毎年合宿をやっているからそんな心配しなくていい。」

 

「ということは黒刀先輩も去年来たんですよね?その時はどんな合宿だったんですか?」

 

大妖精の質問を聞いたにとりが

 

「ププッ!」

 

と、笑いだした。

 

「笑わないでください。」

 

「だってよ…お前、去年修行だから『千里眼』は使わないで行くって言って…ププ…それで先行って迷子になってたじゃん!」

 

「なってねえ!サバイバルだ!」

 

「あの時は黒刀は初々しくて可愛かったな~!」

 

にとりはあまりの笑いで涙が出たので指で拭いながら言った。

妖夢が疑問を口にする。

 

「それでどんなサバイ…プッ…ブルをしていたんですか?」

 

「必死に笑いをこらえてんじゃねえよ。あの時は…熊と闘ってた。」

 

「熊、出るの⁉」

 

霊夢が驚く。

 

「ああ、出る。」

 

「………帰る。」

 

霊夢は回れ右をして戻ろうとすると、魔理沙にガシッと肩を掴まれた。

 

「おいおい霊夢ちゃ~ん!どこに行こうっていうんだい?」

 

「ちょっ!離しなさい!私は帰る!死にたくな~い!」

 

霊夢は駄々をこねる。

 

「大丈夫だって俺がいるんだから。」

 

黒刀が笑いながら言う。

魔理沙は霊夢を羽交い締めにしながら

 

「黒刀はその熊どうしたんだ?」

 

「食った。」

 

「…じゅるり。」

 

「ちょっ!チルノ!何よだれ出してんのよ!ダメよ!きっとおいしくないわよ!だから…ほら…帰らせて…ね?」

 

「いや、美味かったぞ!」

 

黒刀が一言。

 

「いや~!」

 

霊夢が魔理沙の拘束を無理やりひっぺがし霊力弾を放ってきた。

 

「やべ、逃げるぞ!」

 

黒刀はダッシュで山を登る。

 

「待て~!」

 

霊夢は連続で霊力弾を放つ。

 

「きゃ~!」

 

妖夢、魔理沙、チルノ、大妖精も逃げ出した。

霊夢は完全にキレていて、無差別攻撃となっていた。

 

「あれ、先輩は?」

 

「いました!」

 

妖夢の言葉に大妖精がかなり前にいる黒刀を指さした。

 

「アッハッハ!俺が一番乗りだ!」

 

高笑いしていて、どこか楽しんでいた。

 

「「「状況分かってんのあの人⁉」」」

 

「なに~!一番乗りはあたいだ~!」

 

チルノがスピードを上げて追いかける。

 

「バカだ…バカが2人いる!」

 

魔理沙はつぶやく。

 

「それじゃ私は飛んで…。」

 

大妖精が口を開く。

 

「おい待て。箒はにとり先生に預けているんだ!なら私も連れてけ!」

 

「あ、私も。」

 

「無理無理無理!重量オーバーですって!」

 

「さよなら魔理沙。」

 

妖夢は笑顔で魔理沙の肩に手を置いた。

 

「なんで私⁉」

 

「え、だってこの中で一番」

 

「体重がおも」

 

「重くない!…って危なっ!」

 

魔理沙の横を霊力弾が通り抜ける。

 

「魔理沙、あれ。」

 

「ん?」

 

妖夢が指を指した先を見ると、大妖精が飛行していた。

 

「いつの間に!」

 

「すいませ~ん!お先にいかせて…きゃ~~~!」

 

上空にいた大妖精は霊夢の霊力弾によって撃ち落とされる。

 

「よし!」

 

魔理沙はガッツポーズ。

 

「(人間の闇が見えた。)」

 

撃ち落とされた大妖精はなんとそのまま黒刀の真上に落ちていき、咄嗟に黒刀の右腕にしがみついた。

黒刀はとくに気にせず走り続けている。

 

「「ミラクルだ!」」

 

妖夢と魔理沙は声をそろえる。

前を走っていた黒刀は体を反転させバック走行で山を登り始めた。

 

「ちょうどいいや。合宿前に準備運動しとくか!」

 

「あの~黒刀先輩?いったいなにを…」

 

大妖精が言い終わる前に黒刀は鞘から黒い刀を抜いた。

 

「おら!」

 

黒刀は刀を振って斬撃を放って霊夢へ飛ばした、。

霊夢は飛行しながらそれを躱す。

 

「やっぱ上を取ってるあっちの方が有利か。」

 

「黒刀先輩~。あまり動くと私とんじゃうので…。」

 

「じゃあ離れればいいじゃん。」

 

「先輩が攻撃してたら無理です!」

 

「分かったよ。」

 

黒刀は走りながら大妖精をそっと地面に下ろす。

大妖精は着地前に翼をバッと広げてバランスを取ってから着地する。

その瞬間、2人の間を人影が突き抜ける。

 

「あたいがいっちば~ん!」

 

「げ、忘れてた!」

 

「アハハ!あたい最強!」

 

先に頂上に到着したチルノが高笑い。

遅れて黒刀と大妖精が到着する。

 

「逃がさないわよ!」

 

霊夢が飛行しながら頂上に到着した。

 

「霊夢、悪かったよ。」

 

黒刀が謝る。

 

「ダメです。許しません!」

 

「そうか…じゃあやるしかねえか!」

 

「あたいもいるぞ!」

 

黒刀、霊夢、チルノの3つ巴となる。

 

「はあ…はあ…着いた…。」

 

ようやく妖夢と魔理沙が頂上に到着した。

頂上にある合宿所は木造建築でキャンプ場などでよくある建物。新築と同じく綺麗だった。

 

「あいつらのせいで合宿が台無しだな。」

 

魔理沙がそうつぶやいたその時、

 

「やめなさい!」

 

怒りの声が響いた。

 

「げ、この声は…。」

 

黒刀の『千里眼』は透視に長けていないため、合宿所内部に誰がいるか気がつかなかった。

合宿所の入り口に立っていたのは…

 

「黒刀、あなた何をしているの?」

 

映姫だっだ。

 

「姫姉…なんでこんなところに…。」

 

黒刀は冷や汗をかいていた。

 

「あなたたちが真面目にやっているか監視に来たのです。」

 

「生徒会は?」

 

「小町たちに任せてきました。それより…黒刀。ちょっとこっちへ来なさい。」

 

「いや、でも…。」

 

「早く。」

 

「…はい。」

 

黒刀は合宿所の中に入っていく。

 

「すみません。皆さんは中のリビングで待っててください。」

 

映姫は外にいる妖夢達にそう声をかけた。

すると、大きなリュックサックを背負ったにとりがようやく追いついてきて、

 

「とりあえず中に入るぞ。」

 

そう言われて妖夢達が合宿所の中に入る。

中は2層構造で1階に暖炉、ソファ、キッチンなどがあり、2階はそれぞれの個室がある。

 

「みんな、来たのね。」

 

そう声をかけるのは…八意永琳。神光学園の保健室の先生だった。

 

「みんなの部屋は決まっているわ。ドアに名札が貼ってある。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

既に怒りがおさまった霊夢も含めて返事する。

 

「先輩は?」

 

妖夢がたずねる。

 

「今、会長の部屋にいるわよ。」

 

にとりがその部屋に視線を移す。

 

「(ありゃ防音結界を張っているな。)」

 

 

 

 午前8時。

 

「先輩、遅いですね。」

 

「そうね。」

 

妖夢のつぶやきに霊夢が相槌を打つ。

その時、映姫の部屋のドアが開き、黒刀と映姫が出てきた。

 

「ほら!背筋を伸ばす!」

 

映姫は黒刀の背中をバシッと叩く。

 

「(鬼だ!)」

 

 

 

 それから全員、自分の部屋に荷物を置いていってからリビングに集合した。

 

「それじゃメニューを発表するぞ!」

 

にとりが口を開く。

それに対し、チルノは

 

「今日の献立の?」

 

「合宿メニューだ!まずチルノ!パワーリストを足に着けて合宿所の外周をランニング!」

 

「パワーリストって?」

 

チルノが疑問を口にする。

 

「重りの入ったリストバンドのことだよ。」

 

大妖精が横からささやく。

 

「霊夢と魔理沙は瞑想!」

 

「地味じゃね?」

 

魔理沙が文句を言う。

 

「魔法師には集中力が必要だ。魔理沙、お前は魔力切れが多い!」

 

「…分かりました。」

 

魔理沙は渋々納得する。

 

「霊夢は…。」

 

「こいつの付き添いですよね?分かりました。」

 

霊夢は既に納得していた。

 

「黒刀は映姫と『決闘』。黒刀、お前は一番苦手なオーラのコントロールを生徒会長相手に体で覚えろ。」

 

「なるほど…。」

 

「ではビシバシいきます。」

 

「妖夢は私と組手を行う。」

 

「にとり先生とですか?」

 

「私が体術できないと思っているのか?」

 

「い、いえ!」

 

永琳が大妖精の肩に手を置く。

 

「じゃあ、大妖精はお姉さんと一緒に選手の健康管理に重要な栄養料理のお勉強ね♪」

 

「(お姉さん?)」

 

黒刀が疑問を抱くと、永琳から殺気が向けられた。

黒刀は目を逸らした。

 

「これがパワーリストだ。入浴中、睡眠中以外はつけていろ。」

 

にとりはチルノにパワーリストを2つ渡す。

 

「姫姉とガチなんて何年ぶりかな?」

 

「無駄口叩いていないで行きますよ。」

 

黒刀と映姫は合宿所の離れにある道場に向かう。

 

「私たちももう1つの道場に行くぞ。」

 

にとりは妖夢に声をかける。

 

「はい!」

 

「よっしゃ~!100周してやるぜ!」

 

『(あいつ、絶対にバテるな…。)』

 

 

 

 

「よ~し行くぞ~!」

 

チルノは足にパワーリストを着けて、スタートする。

パワーリストの重さは5㎏。

 

「余裕余裕!」

 

 

 

 30分後。

 

「はあ…はあ…足が…重い…。」

 

それもそのはず、5㎏のパワーリストにしたのはあとでジワジワきかせるためである。

いきなり重いパワーリストをつけても、進まずトレーニングにならない。

だからこの重さにしたのである。

 

「きっつ~い!」

 

 

 

 霊夢と魔理沙は胡坐をかき、目を閉じて瞑想をしていた。

だが、

 

「ダメだ~!ジッとしてるなんて性に合わねえ!…他の奴のとこ見に行くか…。」

 

魔理沙は立ち上がって歩いていった。

霊夢は並外れた集中力で魔理沙が去ったことに気づかない。

 

 

 

 校外の『決闘』はランキングに反映されない。

黒刀は準備運動をしている。

 

「今日こそ、勝つよ姫姉!」

 

「私も負けません!」

 

両者は向かい合う。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「お、こっちは始まったか。」

 

魔理沙が外から黒刀と映姫の『決闘』を覗く。

 

「いくぞ!」

 

黒刀は前へ飛び出す。

さらに、そこから『クロスステップ』を踏み込んだ。

 

「(右…いや左!)」

 

映姫は予測し、立ちふさがった。

魔理沙は驚いた。

 

「(なんだ…黒刀は右足で踏み込んだはずなのに会長から見て左にいきやがった…そんなことをしたら足首を捻って捻挫に…まさか!右足で踏み込んだ後すぐに左足で方向転換したのか!でも、それよりすごいのはそれを全て呼んでた会長だ!)」

 

「読まれたか。」

 

「当たり前です。何年一緒にいると思っているんですか。」

 

「…それもそうだな。だったら!」

 

黒刀は突っ込む。

 

「『超反射』ですか…甘いですよ!」

 

映姫がそう言い放った瞬間、映姫の影が浮き出て、黒刀に向かって伸びた。

 

「っ!」

 

黒刀はバックステップでそれを躱す。

 

「なんだ…あれは?」

 

魔理沙は影が浮き出すという現象に驚いていた。

 

「影牢…。」

 

黒刀はつぶやく。

 

「分かっていますね?これに捕まればオーラが0になり、その分のオーラは私に吸収される。さらに捕まっている間はオーラを一切放出できないので筋力だけで解くしかない。」

 

映姫は黒刀も知っていることをわざわざ説明する。

黒刀は深く息を吸う。

 

「…気力解放!」

 

黒刀の気力が上昇する。

 

「血迷いましたか!」

 

映姫が叫ぶ。

 

「どうかな?」

 

その瞬間、映姫の視界から黒刀が消えた。

 

「なるほどスピードを上げましたか…ですが!」

 

映姫は影の数を増やす。その数20本。

 

「あなたが1秒間に剣を振れる回数は17!止められますか!」

 

映姫は黒刀の姿を捉え、影を伸ばす。

 

「ちっ!」

 

黒刀は伸びてきた影を刀で弾く。

 

「そこ!」

 

残りの影が一斉に黒刀へ襲い掛かる。

 

「ぐっ!」

 

黒刀は17本まで止めたが、残りの3本をもろに食らってしまう。

 

「はあ…はあ…(攻撃用の影で助かった…拘束用だったら終わってた…相変わらず速いな~。)」

 

黒刀は安堵した。

 

「なに安心しているんですか?」

 

「っ!」

 

黒刀は背後から伸びてきた影に全身を拘束されてしまった。

 

「なんで…これは地面に穴を空けて通り道を作ったのか…俺の『千里眼』の弱点を突いて…。」

 

 

「黒刀のオーラが感じない…ってことは…。」

 

魔理沙が映姫を見ると、映姫のオーラが増幅していた。

しかもそのオーラを一滴も漏らさず安定させている。

 

「終わりです。」

 

「まだだ!」

 

「何をして…。」

 

黒刀は腕力だけで影の拘束を解こうとしていた。

 

「無駄です。影牢はたとえ戦車の馬力でも解くことはできません!」

 

「フッ、俺は戦車レベルかよ?」

 

黒刀は不敵な笑みを浮かべた。

 

「うおおおおおおおおお!」

 

拳を握りしめ、そして思いっきり腕を左右に広げ『影牢』を断ち切った。

 

「そんな!」

 

映姫が目を見開いて驚いた。

しかし、黒刀は力尽き倒れた。

 

《勝者 四季映姫》

 

「一気に体力を使ったせいね…。」

 

映姫はそうつぶやいた。

 

 

 

 

「それじゃ好きなタイミングで攻撃してこい!」

 

にとりは妖夢を前にそう言い放つ。

 

「はっ!」

 

妖夢はにとりに正拳を放つが、にとりはそれを手の甲で払った。

 

「くっ!」

 

妖夢は床に手をついて、反動を活かし、かかとで蹴ろうとするが、にとりはそれを右手で掴み投げた。

 

「うわっ!」

 

妖夢は床を転がる。

 

「もうおしまいか?」

 

「まだまだ~!」

 

妖夢は突っ込む。

 

「(服を掴んで投げる!)」

 

しかし、避けられ逆に胸倉を掴まれ、背負い投げ。

 

「がはっ!」

 

「お前の攻撃は単純だ。コマンドを1回1回押してるような感じ。フェイントと言う言葉を知らないのかい?」

 

「うっ!」

 

妖夢は仰向けのままバツの悪い顔をする。

 

「純粋過ぎるというもの考え物だな。う~む…付け焼刃でフェイントを覚えても読まれるだけだから…連続攻撃…コンボを覚えればどうだ?」

 

「はい…覚えたいです!」

 

「では剣技に例えてみよう。そうだな…黒刀の場合、どんな勝ち方をしている?」

 

「斬撃で相手を追い詰めてから『カオスブレイカー』でとどめを刺しています!」

 

「そうだ。分かっていても長期戦で相手は体力を削られ、逃げ回ることもできないところに決める。これを体術にするならジャブ連続からの右ストレートかアッパーだな。でも君にはそれだけのパワーと体力がない。ならばどうする?」

 

「ん~…急所だけを狙うことでしょうか?」

 

「半分正解。」

 

「もう半分はなんですか?」

 

「それはだな…」

 

 

 

 医務室。

黒刀とチルノはベッドに横たわっていた。

 

「ん…あれ…ここ…。」

 

黒刀が目を覚ます。

 

「医務室よ。覚えてる?何で倒れたのか?」

 

そう声をかけるのは永琳。

 

「そうか…俺、姫姉の『影牢』を破ったけど、それで体力を使い切って…。」

 

「そうよ。」

 

「姫姉は?」

 

「帰ったわ。」

 

「帰った?」

 

「ええ…最後までいるつもりだったけど弟の思わね成長を見れたからいいって。」

 

「何しに来たんだよまったく。」

 

「(鈍感ね。)」

 

「で、こいつは?」

 

黒刀は寝ているチルノに視線を移す。

 

「普通にスタミナ切れ。ペース配分考えず走ったみたいね。」

 

「バカかこいつは。」

 

黒刀は呆れ顔。

 

「う~ん…バカってゆ~な…むにゃ…。」

 

「寝言かよ。」

 

 

 

 午後5時。

黒刀が1階に降りると、キッチンに立つ妖夢、霊夢、大妖精の姿が見えた。

 

「あ、俺もてつだ」

 

「「「ダメ!」」」

 

「え?」

 

軽くショックを受ける黒刀。

 

「あ、すみません!別に黒刀先輩の料理の腕を疑ってるわけとか嫌ってるとかじゃなくて自分たちの力だけで作りたいんです!」

 

大妖精が誤解を解こうとするが、黒刀は固まっていた。

 

 

 

 夕飯はシチューだった。

 

「うん…美味い!」

 

「「「やった!」」」

 

喜ぶ3人。

 

「それじゃ食べながらでいいから聞いてくれ。」

 

にとりがミーティングを始める。

 

「黒刀は自主練。他の4人はこれまで通りのメニューでいく。」

 

「なんで黒刀だけ?」

 

「黒刀の特訓相手の映姫が帰ってしまった。他の4人はあと4日間同じメニューを続ける。それから3日間自主練、最後の2日間は試合形式で『決闘』を行う。」

 

「いよいよか…腕が鳴るぜ!」

 

「ここであたいの真の実力が発揮されるわけだね!」

 

チルノはうんうんとうなずく。

 

「あの…先輩?」

 

「なんだ?」

 

妖夢が口を開き、黒刀が訊き返す。

 

「紅葉高校の人達が言っていたんです。先輩の『千里眼』は偽物だって…そんなことないですよね?」

 

「まあ、間違ってはいないな。椛の『千里眼』は俺のものとは全く違う。あいつの『千里眼』は文字通り千里まで見える。」

 

「千里ってなんだ?」

 

チルノが質問する。

 

「4000㎞ってことだよ。」

 

大妖精が代わりに応える。

 

「椛の『千里眼』は先天性…つまり生まれた時から持っているものだが、俺の『千里眼』は鍛錬で得た後天性のものだ。…だが本物か偽物かなんて俺にはどうでもいい。大事なのはその力をどう使うかだ。」

 

「本物か偽物かどうでもいい…力をどう使うか…。」

 

妖夢は黒刀の言葉をつぶやくのだった。

 

 

 

 6月16日。合宿9日目。

 

「『剣舞祭』と同じルールでやるから説明するぞ。とくにチルノ!よく聞いとけよ!」

 

にとりがチルノに釘を刺す。

 

「は~い!」

 

チルノはだるそうに返事する。

 

「はあ…慧音が苦労するのも分かるわ。『剣舞祭』は2ラウンド形式の制限時間15分。『決闘』は気絶してすぐ判定が下されるが『剣舞祭』はテンカウントで取る。1ラウンド目で決着がつかなかった場合、3分休憩をはさんで2ラウンド目が開始される。団体戦は先鋒から大将まで1戦ごとに交代して先に3勝した方が勝利。ちなみに2ラウンド目で決着がつかなかった場合は引き分けとなる。ここまでで質問は?」

 

チルノは今の説明を聞いて、頭の上にクエスチョンマークを浮かべたような状態だった。

それを見た黒刀は、

 

「ようは15分以内に相手をぶっ飛ばせってことだ。」

 

「なるほど!」

 

「こんな調子で大丈夫か…。」

 

にとりは肩を落とす。

 

 

 

 まず1試合目は黒刀対妖夢となった。

妖夢への『千里眼』対策のようだ。

 

「(にとりのやつ…『千里眼』で角度調整とかきついこと言いやがって。)」

 

「黒刀、椛の戦闘スタイルをコピーできるか?」

 

「まあ、やってみます。」

 

黒刀と妖夢が向かい合う。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

黒刀は動かない。

 

「(いつも開始直後に先制してくるのに…本当にコピーするつもりなんだ…だったら!)」

 

妖夢は2本の剣を手に突っ込む。

 

「はあっ!」

 

妖夢が剣を振り下ろそうとする。

 

「遅い!」

 

すると妖夢の肘に刀を振り下ろす。

 

「くっ!」

 

妖夢は2本の剣を重ねて防御する。

 

「隙があり過ぎだ。」

 

黒刀は妖夢の脇腹を蹴る。

 

「ぐはっ!」

 

妖夢は床を転がりまわる。

思わず魔理沙が、

 

「すげえ…本当にあの椛の動きをコピーしてやがる。」

 

「なるほど…カウンター系か。」

 

霊夢がつぶやく。

黒刀は構えを取ったまま動かない。

 

「(隙がない。)」

 

大妖精が、

 

「これだど時間切れに…」

 

「いや、それはない。見ろ。」

 

にとりに言われて黒刀を見ると、ジリジリと構えを取ったまま妖夢に近づいていた。

妖夢も少しずつ後ずさりするが、

 

「これ以上下がると壁が…仕方ない!」

 

妖夢は攻撃の姿勢を取る。

だが、剣を振ろうとすれば肩や肘を狙われ攻撃が出来ない。

 

「剣士にとって肩や肘は攻撃の際、どうしても動いてしまう。犬走椛はその微かな筋肉の動きを見て次の攻撃を見通すことができる。」

 

にとりの説明に魔理沙が、

 

「そんなのどうしろっていうんだ!」

 

「死角って…椛は『千里眼』を持っているんだ!あるわけ…。」

 

「それは自分で見つけるしかない。」

 

妖夢は賭けに出ようとしていた。

 

「(こうなったら!)」

 

妖夢は右足を踏み込む。

 

「妄執剣 修羅の血弐式!」

 

黒刀は妖夢の肘を狙って刀を振る。

妖夢はそこで剣技をキャンセルして咄嗟に黒刀の横顔目掛けて蹴りを放った。

その蹴りを黒刀は右腕でガードした。

 

「くっ!」

 

「(今の動き、今までとは違った…面白い!)」

 

黒刀が刀に黒いオーラを集束させたその時。

 

「そこまで!」

 

にとりが制止した。

 

「え?」

 

妖夢が呆気に取られる。

黒刀は優しい微笑みで

 

「もうお前はヒントを得た。十分だ。」

 

「…は、はい!」

 

妖夢は元気よく応えた。

 

 

 

 その夜。夕食を終えてのミーティング。

黒刀が、

 

「オーダーを発表する。先鋒…チルノ、次鋒…魔理沙、中堅…妖夢、副将…霊夢、大将が俺だ。」

 

「先鋒があたいってことはつまり…エース!」

 

「お前は試合を流れを知らんからだ。」

 

「そんなバカな!」

 

「あの~。」

 

霊夢が挙手する。

 

「黒刀先輩はいいんですか?大将で…。」

 

霊夢は去年の黒刀のトラウマを心配して発言した。

 

「去年とは違う。なぜなら俺はお前らを信じているからな。」

 

「先輩…。」

 

「当然!というかあたいだけで大将まで倒してやるよ!」

 

「大妖精、あとでチルノにもう一度ルールを説明してやれ。」

 

「はい…。」

 

にとりが立ち上がる。

 

「明日は午前中で合宿を終えて下山して解散とする。」

 

黒刀も立ち上がって、

 

「それじゃ、おやすみ。」

 

と、自分の部屋に戻った。

 

 

 

 6月17日。午前6時30分。

黒刀は朝早く起きて素振りをしていた。

 

「おはようございます…。」

 

そこへ妖夢が眠そうに目をこすりながら挨拶。

 

「(おはようむ。)」

 

黒刀は一瞬、くだらないことを考えていたが、

 

「おはよう。」

 

と、普通に挨拶した。

 

「こんな時間から素振りしていたんですね…毎日やってたんですか?」

 

「日課みたいなものだ。師匠に剣技を教わってからずっと続けてる。それにしても今日は起きるの早かったな。」

 

「なんか目が覚めちゃって…。」

 

「もう予選が楽しみになってきてるんじゃないか?」

 

「いえ…楽しみにしてたのは入学した時からです!」

 

妖夢の目は闘志で燃えていた。

 

「先輩の素振り見ててもいいですか?」

 

「いいぞ。」

 

黒刀が刀を振る瞬間、まるで周囲の時間が止まっているかのような感覚になる。

その時間は1秒。

だが、その1秒で黒刀は刀を17回振った。

 

「俺は1秒間に17回振っているんだ。」

 

「17回⁉」

 

「俺や姫姉が扱うこの四季流剣術では1秒間に剣を振る速さを剣速と呼んでいる。例えば俺は17回だから剣速20。ただ速いだけでなく1秒でどれだけ攻撃が出来るかなんだ。ちなみに姫姉の剣速は20…俺より上だ。」

 

「なんかもう人間の次元じゃないですね。」

 

「何を今さら。」

 

黒刀はフッと笑った。

 その後、9時から総当たり戦を3時間行い、下山の時間となった。

妖夢は頂上から下りる前に合宿所を振り返る。

 

「また来たいです!」

 

「来るさ。予選を通過したらな。」

 

「はい!」

 

黒刀の言葉に妖夢は笑顔で返す。

 

 

 

 下山後。

にとりが口を開く。

 

「それじゃ、ここで解散だ!予選は3日後!奈良デュエルアリーナに現地集合!…だからチルノ、絶対に遅刻するなよ!大妖精、もしチルノが寝坊したら引きずってでも連れてこい!」

 

「分かりました。」

 

「え、まさかのOK⁉」

 

チルノが驚く。

 

「これもチルノちゃんのためなの。」

 

「それじゃ、俺はここで。」

 

黒刀は手を振って去る。

 

「おう、また明日~!」

 

チルノも手を振る。

 

「チルノちゃん、代表は明日休みだよ。」

 

「なんだって!」

 

「話聞いとけよ!」

 

大妖精の言葉にチルノが驚き、魔理沙がそれにツッコむのだった。




学園代表編完。

ED2 家庭教師ヒットマンリボーン「桜ロック」

ご感想お待ちしております。


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開幕

第13話。
ついに『剣舞祭』開幕です!

OP3 ハイキュー「Ah Yeah‼」


 6月20日。午前7時30分。

奈良デュエルアリーナ入り口前。

にとりは端末の時計を見ながら待っていた。

すると、空から霊夢と魔理沙が飛行してやってきた。

 

「今日は遅刻しなかったな。」

 

「おうよ!興奮してあまり眠れなかったけどな!」

 

「遠足前の小学生か。」

 

霊夢がツッコむ。

 

「おはようございます!」

 

そこへチルノと大妖精が到着した。

 

「ちゃんと起きてきたんだ。」

 

「耳元で今日は『剣舞祭』だよって囁いたら飛び起きました。」

 

「効果絶大だな…。」

 

そうして話していると、バス停にバスが停まり、妖夢が降りてきて、元気に手を振ってきた。

 

「みんな!おはよきゃっ!」

 

妖夢は途中でこけた。

 

「「「「「(典型的なドジっ娘!)」」」」」

 

「いたた。」

 

妖夢はこちらに歩いてくる。

 

「大丈夫?」

 

大妖精は心配そうに妖夢に声をかける。

 

「大丈夫!」

 

妖夢は元気よく返した。

その時、別のバスから降りた者たちに対して歓声が沸き上がる。

紅葉高校の代表メンバーだった。

記者やファンたちに囲まれていた。

 

「ぐぬぬ…なぜこっちに来ない?」

 

チルノは悔しそうに拳を握っている。

 

「まあ、私たちはまだ神光学園でしか闘ってないしね。こんなもんでしょ?」

 

霊夢がそう言っていると、紅葉高校の代表メンバーたちがこちらに歩いてきた。

 

「よう!お前ら、あれから少しは進歩したのかな?」

 

佐藤が挑発してきた。

 

「「「「「あんた、誰?」」」」」

 

以前の彼女達なら挑発に乗っていただろうが、そう返した。

 

「なっ!こいつら~!」

 

佐藤が腹を立たせていると、椛がその肩に手を置く。

 

「無駄です。もう彼女たちにその手は通用しない。」

 

椛は妖夢の前に立つ。

 

「黒刀と闘うのも楽しみですが、あなたとの再戦も楽しみです。」

 

「私もです。今すぐ始めたいくらいです。」

 

「焦らなくても開会式が終わればすぐですよ。」

 

「そうですね。」

 

「…ところで黒刀がいないようですが…。」

 

椛は周囲を見渡す。

 

「逃げたんじゃねえの?」

 

高橋がそう言っていると、エンジン音が聞こえてきた。

音がした方向に視線を移すと、道路のカーブをドリフトしている黒刀のバイクが現れた。そして、駐車場にバイクを停めてからこちらに歩いてきた。

 

「おはよ~。」

 

「「「「「遅い!」」」」」

 

「時間ピッタリじゃん。」

 

にとりがジト目で、

 

「お前、また映姫に説教食らうぞ。」

 

「いや~!庭で空に向かって『カオスブレイカー』を連発してたら時間結構経ってた。」

 

「「「「「(試合前に何してんだこの人…。)」」」」」

 

その時、

 

「黒刀。」

 

「椛…俺たちは勝つぜ。」

 

「勝てると?」

 

「ああ、俺たちは全国制覇するからな。」

 

「「「「ぷはははは!」」」」

 

その言葉を聞いた椛以外の紅葉高校の代表メンバーは下品に笑い飛ばした。

 

「本気?」

 

「超本気。」

 

そう言い切る黒刀の目は鋭かった。

 

「なるほど。」

 

椛は歩き出し、黒刀の横を通り過ぎると同時に、

 

「でも私にも譲れないものがある。」

 

そう言って会場の中に入っていった。

記者とファンには我に返って椛を追いかけた。

黒刀は妖夢達に向いて、

 

「姫姉と永琳先生は後から来る。行くぞ!」

 

「「「「「お~!」」」」」

 

 

 

 

 開会式は無事終わり、選手たちは控室で待機することになる。

妖夢達が自分たちの控室を見つけた時、なんと向かいが紅葉高校の控室だった。

 

『あ。』

 

「なあ、椛あれやらねえか?」

 

黒刀は椛に声をかけた。

 

「…いいですよ。」

 

「あれって?」

 

魔理沙が質問する。

 

「勝った方が負けた方に1つだけ命令できる賭け勝負だ。」

 

「ちょっ!そんなのやんのかよ!」

 

「安心しろ。お前らには関係ない。」

 

椛が口を開く。

 

「ならうちが勝ったら…黒刀。あなたには紅葉高校に転校してもらいます!」

 

『!』

 

黒刀以外の全員が驚いた。

 

「おい椛、それはどういうことだ!」

 

加藤がキレ気味に聞いてきた、

 

「俺らじゃ不満ってことか!」

 

伊藤もやはりキレ気味。

 

「強い選手を引き抜くのは当然でしょう。」

 

だが椛は冷静に返した。

 

「なるほど。」

 

黒刀がうなずく。

 

「感心している場合か!」

 

魔理沙が声を張り上げた。

だが黒刀はニヤリと笑った。

 

「それじゃこっちが勝ったら…椛!」

 

黒刀はビシッと椛を指さす。

 

『(まさかこっちも引き抜き?)』

 

黒刀の要求は予想外のものだった。

 

「お前の耳と尻尾を…モフる!」

 

『は?』

 

椛を含めた全員が虚を突かれた。

 

「おい、なんだモフるって?」

 

魔理沙が黒刀に聞く。

 

「モフモフする!略してモフる!生のケモミミは中々触れないからな!」

 

「(そういやこの人猫耳持ってたな…。)」

 

魔理沙はジト目で黒刀を見上げた。

椛は肩を震わせて、

 

「い…いいでしょう。受けて立ちますよ!勝てばいいだけですし!」

 

そう言って控室に入った。

その後、黒刀たちも控室に入ったが、

 

「「「「「何やっているんですか!」」」」」

 

妖夢達は声を張り上げた。

 

「耳に響くな~。」

 

「あんな賭けしてもし負けたら…。」

 

「大丈夫だ。この試合、ストレート勝ちか3勝1敗しかないから。」

 

「なんで言い切れるんだよ!」

 

「強敵は椛だけだ。あとは雑魚だ。」

 

「言い切ったよ…。」

 

 その時、控室のドアが開き、映姫と永琳が入ってきた。

 

「遅くなりました!ってどうしたんですか?」

 

その後、2人に事情を説明した。

 

「賭けについてはたまにやっていますが、正直私は止められません。」

 

と、映姫が意外な発言。

 

「マジか。」

 

「それをやる時は必ず勝っていますので、恐らく確信があるからだと…。」

 

映姫のフォローに黒刀は、

 

「いや、単純にあの耳と尻尾をモフりたかっただけだ。」

 

そう言った瞬間、映姫の指先から黒い霊力弾が放たれた。

黒刀はそれを避けた。

映姫はこめかみをピクピクとさせていた。

 

「そもそもストレート勝ちか3勝1敗って、あなた試合に出る気ないってことじゃない。なに楽して勝とうとしているのかしら?」

 

映姫はここで目が笑っていない笑顔。

 

「いやいやオーダーは真面目に考えたよ!」

 

「でしょうね!でなければ…。」

 

「何⁉先言って!」

 

その時、にとりが手を叩いて、黒刀と映姫の姉弟喧嘩を止めた。

 

「はいはい、そこまで。今は試合に集中する!私たちの試合は9時から。それぞれ準備すること。」

 

にとりは皆に指示を出していった。

 

 

 

 黒刀はベンチに座りながら端末にイヤフォンをさして、音楽を聴いてきた。

大妖精が後ろから端末の画面を覗くと、

 

「あ~!これ!アリス様のデビュー曲『あなたは私の恋人形』じゃないですか!」

 

急に騒ぎ出した。予想以上にミーハーなようだ。

黒刀はため息をついた。

 

「あいつ、俺に自分の曲を聴かせたがるんだよ。なぜかわかんねえけど。」

 

『(うわあ鈍感だ。)』

 

その場の全員がそう思った。

 

《1回戦第1試合神光学園対紅葉高校の試合開始10分前です。選手や関係者は各ベンチへ移動してください》

 

控室にアナウンスが流れる。

 

「よし行くぞ!」

 

「はい!」

 

黒刀の言葉に妖夢達は応えた。

 

 

 

 デュエルアリーナの会場は中心にフィールドがあり、ベンチはまるでプロ野球のベンチのようになっているが、1つだけ違うのは自チームの向かい側に対戦チームのベンチがあるということだ。

 

《これより『剣舞祭』奈良県予選1回戦第1試合神光学園対紅葉高校の試合を開始します》

 

両校の先鋒がフィールドに入る。

 

「おい、いつまでそれつけてんだ。」

 

黒刀はチルノが着けているパワーリストを指さす。

 

「あ、忘れてた。」

 

チルノはパワーリストを外して、黒刀に渡して今度こそフィールドに走って行く。

 

《神光学園先鋒 チルノ》

 

「よっしゃ~!」

 

チルノは右手の拳を高く上げる。

 

《紅葉高校先鋒 佐藤明》

 

「ふん!楽勝だぜ!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「ソードフリーザー!」

 

氷の剣を作り出したチルノは次の瞬間、佐藤の視界から消えた。

 

「何⁉どこだ!」

 

次の瞬間、佐藤はチルノに斬られていた。

 

「がはっ!(いつの間に!)」

 

そして、佐藤は倒れる。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 チルノ》

 

「あれ?体が軽い…。」

 

チルノは自分のスピードに驚いていた。

 

 

「あいつにやらせたのは単純な脚力強化だ。元々スピードが持ち味だからこれで戦術の幅も広がる。」

 

黒刀がそうつぶやく。

 予想外の結果に観客が静まる。

そして、その一瞬の後、大きな歓声が鳴り響く。

紅葉高校の応援に来ていたファンは信じられないという表情で固まっている。

ところどころ、まぐれだ、なんて言葉も聞こえてくる。

その光景を黒刀はベンチに寄りかかりながら見ていた。

 

「黒刀、ちゃんと座りなさい。」

 

映姫が指摘する。

 

「いや、こっちの方がいい。リーダーが堂々している方が相手にプレッシャーを与えられるからな。…魔理沙、そろそろはしゃいでるあのバカに戻ってこいって言ってこい。」

 

黒刀は魔理沙に言うと、

 

「ああ。」

 

魔理沙はフィールドに入ってチルノのところへ行くと軽くチョップ。

その後、チルノは頭を軽くおさえながらベンチに戻ってきた。

 

「まだ浮かれるのは早いぞ。まだ勝っていないんだ。」

 

黒刀はチルノにそう声をかけた。

 

「分かったよ。」

 

チルノは頬を膨らませ、そっぽを向きながらそう返した。

 

 

 

《神光学園次鋒 霧雨魔理沙》

 

「いくぜ!」

 

《紅葉高校次鋒 高橋一》

 

「(こいつら、もしかして意外とレベルが高いのか?いや、だとしても俺らは全国を経験しているんだ…負けるわけにはいかねえ!)」

 

 

 

「そういえば黒刀先輩、なんでこのオーダーなんですか?」

 

霊夢がそう聞いた。

 

「チルノが先制。魔理沙が追い打ち。妖夢がきっちり決める。俺と霊夢はまあぶっちゃけ保険だ。」

 

「なるほど。」

 

 

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「マスタースパーク!」

 

「面白れぇ!だったらこっちも俺も砲撃魔法で勝負だ!」

 

魔理沙のミニ八卦炉から『マスタースパーク』を、高橋も対抗して右手に持つロッドから砲撃魔法を放った。だが『マスタースパーク』と激突した瞬間、高橋の砲撃魔法はいとも簡単に押されてしまった。

 

「くっ!」

 

「弾幕はパワーだぜ!」

 

そして、『マスタースパーク』が高橋の砲撃魔法を撃ち破り、高橋のもとへ。

 

「チッ!」

 

高橋は直撃寸前で横に転がり避ける。

だが避けた先で、

 

「マスタースパーク~!」

 

「2発目だと!ぐあああああああああああああああああああ!」

 

『マスタースパーク』は高橋に直撃し、壁まで吹っ飛ばされる。

壁にバウンドした高橋は倒れ、気を失った。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 霧雨魔理沙》

 

「おっしゃ~!」

 

吠える魔理沙。

同時に大きな歓声が響く。

 その後、魔理沙はベンチに戻ってきた。

 

「よく連発で撃てたわね。」

 

霊夢は少し驚いている。

 

「瞑想のおかげで魔力量が上がったみたいだ。」

 

魔理沙は自慢げにそう答えるのだった。




ED3 遊戯王GX「Wake Up Your Heart」

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妖夢vs椛

第14話。
妖夢と椛の決戦。

OP3 ハイキュー「Ah Yeah」


1回戦次鋒戦も魔理沙の勝利でリードした妖夢達。

そして、次はいよいよ妖夢の番となった。

妖夢が立ち上がる。

 

「いってきます!」

 

「がんばれ!」

 

チルノが応援する。

 

「特訓の成果見せましょう!」

 

大妖精が両手の拳を胸の前で強く握ってエールを送る。

 

「わたしより早く勝って来いよ!」

 

「自分らしくね!」

 

魔理沙と霊夢もそれぞれ妖夢を鼓舞する。

 

「見せてみろ。お前の力を。」

 

最後に黒刀がそう声をかける。

 

「はい!」

 

妖夢は強く応えて、フィールドに入っていく。

 

 

 

 

「早くも相手にリードですか…先輩達、無様ですね。」

 

椛がそう口にした。

 

「椛てめえ!先輩に対してなんだその口の利き方は…っ!」

 

加藤が最後まで言い切る前に腰を抜かしてしまった。

椛の冷たい目に恐怖を感じたからだ。

椛はゆっくりと立ち上がる。

 

「さて、ここらで断っておきますか…彼女たちの希望を。」

 

椛はそう言って、剣を取り、フィールドに入っていく。

 

 

 

 

《神光学園中堅 魂魄妖夢》

 

妖夢は『楼観剣』と『白楼剣』を鞘から抜く。

 

《紅葉高校中堅 犬走椛》

 

「今度は二刀流ですか。ということは本気のようですね?」

 

「当たり前です。」

 

2人は言葉を交わしながら剣を構える。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

妖夢は足に気力をためて、一気に解き放って突撃した。

椛は防御態勢を取る。

妖夢は『楼観剣』で突きを放つ。

妖夢の突きを椛は剣でガードするが、あまりの勢いに壁に吹っ飛ばされてしまう。

 

「よし!」

 

魔理沙はガッツポーズ。

 

「まだだ。あいつはこの程度じゃ倒せない。」

 

黒刀はそう口にする。

 

椛はゆっくり体を起こす。

 

「やられましたよ。まさかそんな攻撃をしてくるなんて。」

 

妖夢はすぐに駆け出し距離を詰める。

 

「ですが、やられっぱなしというのも不愉快ですね。こちらも少し本気を出しましょう!」

 

椛もダッシュで距離を詰める。

両者の距離が近くなり、妖夢が『楼観剣』を振り下ろそうとする。

 

「学習しない人ですね!あなたの攻撃はもう通用しない!」

 

椛は妖夢の肘に向けて突きを放つ。

だが、その突きが届くことはなかった。

なぜなら、妖夢の膝蹴りが椛の腹に直撃していたからである。

 

「がはっ!」

 

すの隙を逃さず、妖夢は回し蹴り。

腕でガードした椛はフィールドの床を転がりまわる。

 

「くっ!」

 

椛はすぐに体勢を立て直すが、妖夢の姿が見えなかった。

 

「どこだ?」

 

次の瞬間、真横から凄まじい気配を感じた。

振り向くと妖夢がいた。

 

「妄執剣 修羅の血弐式!」

 

妖夢は2本の剣を交差して斬りかかる。

 

「なめるな~!」

 

椛も剣を振り下ろす。

両者の剣がぶつかり合う。

だが、加速している妖夢の方に分があった。

 

「はあっ!」

 

妖夢は剣を振りきった。

 

「うあっ!」

 

パワー負けした椛はまたもや吹っ飛ばされ壁に激突する。

意識朦朧としながら椛は立ち上がり、目の前の妖夢を見据えていた。

 

「(負ける?私が?…いやだ!私はもうあんな思いをしたくない!)」

 

 

 

 1年前。『剣舞祭』本選。

紅葉高校は1回戦を無事に突破し、2回戦へと進出した。

椛は初出場ながらも勝利し、自信もついてきた。

 

「私の力は全国に通用する!」

 

そう信じていた。

だが、その自信は2回戦で完全に打ち砕かれる。

椛は膝をつき、剣をフィールドの床に落とす。

そして、膝をついたまま対戦相手の顔を見上げる。

相手の顔はライトの光で見えなかったが、その光に照らされている対戦相手とその影で跪く自分の姿に圧倒的な実力の差を思い知ることとなった。

 

「なかなか良かったわよ、あなた。」

 

対戦相手はそう口にした。

椛は唇を噛みしめた。

 

「(よかった?何が?私の剣はなに1つ通用しなかった…こいつは無傷だ…私は無力だ。)」

 

その後、自分がどうやって控室に戻ったのか、いつ奈良に戻ったのか、どうやって家に帰ったのかはよく覚えていなかった。頭に浮かぶのは敗北した時に見た赤い槍を持った対戦相手の姿だけだった。

 

 

 

 現在。

「私は負けられない…こんな…こんなところで…負けるわけにはいかないんだ!気力解放!

 

椛の全身から気力が解き放たれる。

 

「なんてオーラ…今までとは段違いだ。」

 

妖夢はつぶやきながら構える。

 

「いくぞ!魂魄妖夢!」

 

次の瞬間、椛は既に妖夢の懐に潜り込んでいた。

椛が剣を水平に振り、妖夢がそれを2本の剣でガードするが、

 

「(さっきよりパワーが上がってる!)」

 

妖夢が押され始める。

 

「はあっ!」

 

椛が妖夢の態勢を崩す。

そこへ、

 

「狼牙!」

 

椛は左手に気力を集束させた掌底を妖夢の鳩尾に叩き込む。

 

「がはっ!」

 

妖夢は血を吐き出し、吹っ飛ばされる。

 

「なんだよ…あれ?」

 

魔理沙が驚愕した表情で口を開く。

黒刀が眉をひそめる。

 

「(去年はなかった。ということは…。)」

 

「(そう!お前と()()()にぶち込むために編み出した新技だ!オーラを片手に集め、掌底を叩き込む。通常の掌底とは違い、オーラがある上に私のオーラを込めた掌底は他のとは違い、まるで狼の牙に噛み砕かれるようなダメージを与える。まさかこいつ相手に使うことになるとはな。)」

 

椛は心の中で口にして、目の前の妖夢を見る。

妖夢はゆっくりと立ち上がるが、

 

「かはっ!」

 

吐血してしまった。

 

「やめろ妖夢!お前それ以上やったらまじでやべえぞ!」

 

魔理沙が叫ぶ。

 

「お友達がああ言っていますよ。ルール上ギブアップもできます。今なら間に合いますが。」

 

椛の提案に妖夢は強い意志を宿った眼で、

 

「負けっぱなしで終われませんよ。」

 

「二度と剣を持てなくなるかもしれませんよ。」

 

「構いません。私は諦めない。」

 

妖夢の言葉に椛は顔色を変え、明らかな怒りを表した。

 

「あなたは分かっていない!剣を持てなくなるということが剣士にとってどれだけ辛いことなのか!後悔してからじゃ遅いんだよ!あんたは死にたくなる思いをしたいって言うのか!」

 

妖夢はその言葉に、

 

「諦めるくらいなら死んだ方がマシだ。」

 

そう返した。

 

「~っ!…いいでしょう。なら好きなだけ後悔すればいい!」

 

椛は構えなおし、足に気力を溜めて、放出してダッシュした。

迫ってくる椛に対して、妖夢はゆっくりと目を閉じた。

 

「(結局、諦めるのか。いや、それでいい。その方が楽になれる!)」

 

椛はスピードを上げる。

妖夢は目を閉じたまま。

 

「(思い出せ…あの時の感覚を…あの力を…あの時、自分が何を思い闘っていたのか…そうだ…私は…私の誇りのために…勝つ!)」

 

「狼牙!」

 

椛が放った今度の掌底はオーラが具現化して狼の顔の形となっていた。

しかし、『狼牙』は妖夢の体に届く前に2本の剣によって防がれた。

 

「なっ!止めただと!」

 

その時、妖夢から凄まじい量のオーラが溢れ出す。

 

「こいつ、まさか解放を!」

 

「はあっ!」

 

妖夢は2本の剣を交差して振り抜いて『狼牙』を完全に弾いた。

 

「私の『狼牙』を!」

 

妖夢は足に気力を溜める。

 

「(来る!)」

 

椛は構える。

だが、次の瞬間、妖夢の姿が椛の目の前から消える。

直後、椛の真横から横顔に妖夢の回し蹴りが叩き込まれる。

 

「ぐあっ!」

 

椛は吹っ飛ばされる。

妖夢はクロスステップをしただけなのだが、解放状態の妖夢のクロスステップは椛からすれば瞬間移動と錯覚してしまう程だった。

 

「くそ!」

 

椛は体勢を立て直す。

だが、またもや見失う。

直後、頭上からかかと落としを食らう。

ハイジャンプからのロージャンプだ。

 

「ぐっ!調子に…乗るな~!」

 

椛は妖夢の足を掴んで、振り回し投げる。

投げられた妖夢は空中で体勢を立て直し、フィールドの床に手をつき、左手の『白楼剣』を椛に向けて力いっぱい投擲した。

『千里眼』で視た椛はそれを紙一重で回避する。

両者同時に加速して、剣がぶつかり合い、鍔迫り合い状態となる。

 

「「絶対に負けない!」」

 

 

「負けるな~!妖夢~!」

 

「勝て~妖夢!」

 

魔理沙とチルノは声を振り絞って叫んだ。

 

「妖夢…。」

 

大妖精は祈るように手を合わせる。

妖夢は、

 

「(この闘いには…この剣には…霊夢…魔理沙…チルノ…大妖精…にとり先生…生徒会長…永琳先生…幽々子様…神光学園の皆…そして…先輩…皆の想いが込められているんだ!だから…)私の全てを出し切って…勝つ!」

 

妖夢は椛の剣を上に弾いた。

椛はなんとか剣を離さないように握って、そのまま振り下ろそうとする。

 

「(こっちの方が速い!勝った!)」

 

勝利を確信する椛。

 

 イメージしろ…あの王者の一撃を!

 

妖夢の『楼観剣』に気力が集束されていく。

やがてそのオーラの色は金色へと変化した。

 

「なっ!」

 

驚く椛。

 

閃光斬撃波!

 

妖夢の剣から放たれたその技はまるで黒刀の『カオスブレイカー』のようであった。

椛は素早く剣を振り下ろしガードするが、

 

「なんだ?…威力がどんどん上がっていくだと!」

 

徐々に押されていく。

 

「はああああああああああああ…」

 

「くっ…防ぎきれない!」

 

はああああ!

 

さらに威力が上がっていく『閃光斬撃波』。

 

「うっ…ああああああああああ!

 

椛はついに押し負けて、デュエルフィールドの結界の壁に吹っ飛ばされた。

結界に激突した椛は床に落下し、倒れた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 魂魄妖夢》

 

機械音声が鳴り響き、空白のような静寂が流れ、直後、会場全体に大きな歓声が響き渡る。

紅葉高校の代表たちや観客席の紅葉高校の生徒は悔しさのあまり涙を流す。

優勝候補の一角が1回戦で敗れた。

この事実を受け止め切れない生徒が多くいるだろう。

対して、神光学園の生徒達は歓喜に満ち溢れていた。

その光景は事実上の決勝戦のようであった。

霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精は妖夢の元へ走る。

 

「やったな!妖夢!」

 

魔理沙は嬉しさのあまり、妖夢に飛びついて抱きつく。

 

「魔理沙、いや…その…嬉しいんですけど…今、抱きつかれると…。」

 

「あ、悪い!」

 

魔理沙は慌てて離れる。

すると、大妖精が妖夢の前に立つ。

 

「大妖精?」

 

妖夢が顔をうかがう。

 

「このバカ!こんな無茶して…心配する方の身にもなってよ!」

 

大妖精は泣きながら怒る。

 

「ごめん大妖精。」

 

妖夢は申し訳なさそうな表情をする。

 

「まあまあ大ちゃん、勝ったし、無事なんだからいいじゃん!」

 

「チルノちゃんは黙ってて!」

 

「え~!」

 

そんな喧騒の中、黒刀が大妖精に近づいてその頭にポンと手を置いた。

 

「まあ落ち着け。とりあえず控室に戻って治療してやれ。お前らも喜ぶのはいいがまだ1回戦だ。次に向けてミーティングだからな。」

 

「「「「はい!」」」」

 

妖夢、霊夢、魔理沙、チルノは大きな声で応えた。

 

「はい…。」

 

大妖精も涙を拭いながら応える。

皆が戻るのに対し。黒刀は逆方向に歩き出した。

 

「先輩?」

 

妖夢が声をかける。

 

「先、行っててくれ。」

 

黒刀はそう言って、椛のところへ歩く。

椛の意識は戻ったもののダメージのせいで、起き上がれず仰向けで大の字に倒れていた。

 

「恐ろしい1年…あの技…防御すればするほど威力が上がっていた。」

 

椛は口を開いた。

 

「まるで…あなたの『カオスブレイカー』みたいだった。」

 

「あいつの怖いところは闘いの中で強くなっていることだ。…後ろから追いかけてくる影ってのは本当に怖い。いずれ俺を超える剣士になるかもな。」

 

黒刀はそう言いながら椛に手を差し出す。

椛はその手を取って、体を起こしてもらう。

黒刀は椛に肩を貸す。

 

「賭け、忘れるなよ。」

 

「嫌なこと、思い出させないでよ。」

 

2人は軽口を言い合う。

医療班が走ってきた。

 

「あとは我々が。」

 

「必要ない。こちらで対処する。」

 

黒刀はそう返す。

 

「しかし…」

 

「いいんです。彼に任せます。」

 

椛は口を挟んだ。

 

「だってさ。」

 

黒刀はそう言って、ベンチではなく左右にある通路の右側の通路に歩き出す。

 

「負けたんだね…私。」

 

「…ああ。」

 

「でもあの時と比べたら清々しいかな…全力を出し切って思いっきりぶつかれたんなら悔いはない。」

 

「…そうか…でも俺にはそうは見えないけどな。」

 

黒刀はそう口にした。

椛の顔はうつむいていて、その目からは涙が溢れていた。




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個人戦開始

第15話。

OP3 ハイキュー「Ah Yeah」



 1回戦第1試合は神光学園の勝利となり、試合を終えた椛は黒刀に控室まで連れて行ってもらった。そこへ、

 

「「「「椛!」」」」

 

紅葉高校の代表達が声をかけてきた。

 

「おい、椛は俺達が連れて行く。離れろ。」

 

「…いやだね。」

 

佐藤の言葉に黒刀は言い返した。

妖夢達も黒刀に追いついた。

 

「「「「は?」」」」

 

佐藤達は呆気に取られた。

 

「だって…まだ椛をモフってないじゃん。」

 

「え、今から?」

 

黒刀の予想外の言葉に椛も呆気に取られた。

 

「安心しろ。マッサージ効果もあるから。ほら行くぞ。」

 

「いや、そういう問題じゃなくて、まだ心の準備が出来てないから!」

 

「楽しみだな~。」

 

「聞けよ!ってああああああああああああああああああああああああああ!」

 

椛は神光学園の控室の中に連れていかれた。

 

「見に行こうぜ!」

 

「やめておけ。」

 

魔理沙が行こうとすると、にとりが止める。

 

そして、控室の中から、

 

「ちょ…やめ…そんな…とこ…撫でまわしたら…あっ…はうっ…きゅ~!」

 

何かに悶える声が聞こえてきた。

 

『(中でいったい何が?)』

 

 

 

 3分後。

控室のドアが開き、椛が出てきた。

 

「な…。」

 

『な?』

 

一同は首を傾げる。

 

「なんて…テクニシャン…。」

 

椛は顔を赤くして、体をモジモジさせて言葉を漏らした。

 

『(エ…エロい。)』

 

その後、黒刀が控室から出てきた。

 

「あ~満足♪」

 

「「「「「何をした!」」」」」

 

妖夢達は黒刀に詰め寄った。

 

「え、何ってモフってモフってモフりまくっただけだけど。」

 

黒刀の言葉ににとりは、

 

「斬って斬って斬りまくったみたいな言い方するな。」

 

黒刀は周囲を見渡すと、

 

「ところで…なんで紅葉の男どもは前屈みになってんだ?」

 

「「「「てめえのせいだよ!」」」」

 

佐藤達は一斉にキレた。

にとりは腰に手を当てて、

 

「運がよかったな黒刀。今、映姫は2回戦のオーダーを出しに行っているから、現場を見られたら終わってたぞ。お前が。」

 

「そこらへんはぬかりない。」

 

「…それじゃ、私は戻るわ。なんなの、この犯されたみたいな気分…。」

 

椛は猫背になりながら紅葉高校の控室に戻った。

 

「そんじゃあ、この調子で全国に行くぞ!」

 

「「「「「お~!」」」」」

 

 

 

 6月22日。『剣舞祭』奈良団体予選3日目。

 

《勝者 魂魄妖夢》

 

決勝戦。妖夢の剣技が決まり、神光学園の勝利が決まった。

 

「や…やった~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

妖夢はガッツポーズする。

魔理沙達も大喜びで妖夢に駆け寄り、お互いに抱き合う。

 

「やったな妖夢!」

 

「これで全国に行けます!」

 

妖夢達はフィールドの中心で喜び合ったり、観客に手を振っているのに対し、黒刀はベンチに座っていた。

 

「今日くらい素直に喜んだら?」

 

映姫は黒刀の肩に手を置いて言葉をかける。

 

「いや、まだ入り口を通っただけだ。油断はできない。」

 

黒刀はベンチから立ち上がって出口から去った。

 

 

 

 表彰式。

実行委員会会長が「優勝、神光学園!」と発表する。

 

「行けよ、妖夢。団体戦のMVPはお前だ。」

 

黒刀は妖夢の背中を押す。

 

「先輩…はい!行ってきます!」

 

妖夢が優勝トロフィーを受け取り、こうして『剣舞祭』奈良団体予選は幕を閉じた。

 

 

 

 神光学園宿泊ホテル。

 

「それじゃあ、にとり先生。後で個人戦について説明してやってください。」

 

黒刀はにとりにそう声をかける。

 

「分かった。」

 

にとりがそう返すと、黒刀は部屋に戻った。

部屋のペアは霊夢&魔理沙、チルノ&大妖精、黒刀&映姫、妖夢&にとりとなっている。

そして、まもなく『剣舞祭』奈良個人予選の組み合わせが発表される時間である。

妖夢達は専用サイトのウインドウを展開してじっと待っている。

今年の『剣舞祭』奈良個人予選は昨年の『剣舞祭』個人本選で奈良代表が優勝しているため、AブロックとBブロックに分かれ、各ブロック優勝者が奈良代表となる。

つまり、奈良代表になれるのは2人ということである。

そして、ついにトーナメントの組み合わせが発表された。

それを見た妖夢達。

 

「Bブロックには私と妖夢。」

 

「Aブロックには私とチルノと黒刀、それに紅葉の椛までいやがる。」

 

それぞれ言葉を漏らす霊夢と魔理沙。

黒刀が順当に勝てば2回戦はチルノ、準決勝は魔理沙、決勝は椛と闘うことになる。

 

「私は決勝まで行けば霊夢と…。」

 

妖夢は無意識に拳を握りしめる。

 

「黒刀と…闘える!」

 

チルノは喜びを隠しきれない。

個人予選は1日目に1回戦と2回戦、2日目に準決勝と決勝戦を行う。

3位決定戦はない。

 

 

 

 6月23日。『剣舞祭』奈良個人予選1日目。

妖夢達は奈良デュエルアリーナのロビーに集合していた。

だが、

 

「先輩、来ませんね。」

 

黒刀と映姫だけが来ていなかった。

その時、妖夢にメッセージが受信された。

 

《先、行ってろ》

 

「エントリーは済ませてあるし、行こう。」

 

「「「「はい!」」」」

 

にとりの指示に妖夢達は返事を返した。

 

 

 

 大妖精と永琳は観客席に座っていた。

 

「個人戦はマネージャーなしだからここで見ていましょう。」

 

「はい!」

 

永琳の言葉に大妖精は応えた。

 

 

 

 駐車場。

黒刀と映姫はそこにいた。

 

「姫姉、俺…もう手加減するつもりはない。解放も必要があれば使う。」

 

「黒刀…。」

 

映姫は顔をうつむかせる。

 

「大丈夫だ。俺はもう大丈夫だから。」

 

黒刀は映姫の頭を撫でる。

 

「まさか黒刀に頭を撫でる日が来るなんてね。」

 

「いや、これは!」

 

黒刀は慌てて手を離す。

映姫は顔を上げた。

 

「黒刀、あなたのやりたいように闘いなさい。私はもう止めない。」

 

「ああ、勝つよ。」

 

そう言って黒刀はロビーに向かった。

そこで、

 

「あっ。」

 

「椛…。」

 

椛に遭遇した。

 

「黒刀、決勝まで来なさい。今度こそ私が勝つ!」

 

「ああ、分かってる。」

 

2人はそう言って別れる。

個人戦に控室はなく、試合の番が来たら、フィールドの左右にある出入口からそれぞれ出てくるという流れである。

 

《Aブロック1回戦第1試合。神光学園 四季黒刀。紅葉高校 高橋一。

フィールドへ移動してください》

 

機械音声のアナウンスが流れる。

 

「さてと、まずは1回戦を勝ち抜かないとな。」

 

黒刀はフィールドへ向かう。

 

「そういや、今年はこれが初出場か。」

 

黒刀と高橋がフィールド内に入る。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「レーザービーム!」

 

開始早々、高橋の持つロッドから光線が放たれる。

ドーンと爆発を起こし、

 

「どうだ!」

 

高橋は勝ち誇る。

だが、爆発の煙から現れたのは無傷の黒刀だった。

 

「バカな!あれほどの威力を受けて無傷だと!くそ!」

 

やけくそ気味に光線を乱射する。

だが、黒刀に触れる寸前で消滅してしまう。

黒刀は『破壊王の鎧』を発動している。

 

「ちくしょ~!最大火力のレーザービームを食らいやがれ!」

 

再び、ロッドから放たれた光線を黒刀は片手で受け止め、握りつぶした。

 

「なっ!」

 

「学習しない奴だ。」

 

黒刀は黒い刀を鞘から抜いて一振り。

黒い斬撃が放たれる。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

斬撃が高橋に直撃する。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

黒刀は刀を鞘に納めて、出口へと歩いていく。

チルノはその試合を一部始終集中して観察していた。

 

 

 

 正午。

妖夢達はテラスで昼食をとっていた。

 

「皆、1回戦は無事に勝てましたね。」

 

「あったりまえよ!」

 

「あたいが負けるなんてありえないね!なぜならさいきょ」

 

「厳しくなるのはこれからだけどね。」

 

妖夢の言葉に魔理沙、チルノ、霊夢がそれぞれ感想を口にする。

 

 

 

 黒刀はロビーのベンチで昼寝をしていた。

すると、頬に冷たい感触を感じて起きた。

 

「はい、これ。」

 

映姫が黒刀に200㎜牛乳パックを渡す。

 

「俺の好きな牛乳だ。」

 

黒刀は受け取り、ストローをさして飲む。

 

「2回戦まであと1時間あるけどアップしないの?」

 

「体なら温まってきてるよ。戦略に関しちゃ、あいつは何してくるか分からないから直感で闘うことにするよ。」

 

「あの子は随分、黒刀との闘いに執着しているようだけれど何かあったの?」

 

映姫の質問に黒刀は牛乳を飲むのを一旦やめる。

 

「…俺、入学式の日にあいつと決闘したんだ。あいつから挑まれたんだけどちゃんと相手をしてやれなかった。潰してしまうのが怖くて…。2回目はちゃんと決闘して俺が勝った。これで潰してしまうのかと思ったけど、あいつは敗北をバネにしてさらに強くなった。もしかしたらあいつにとって『最強』っていうのは特別なものなのかもしれないな。」

 

「それはあなたもでしょ?黒刀。」

 

「…そうだな。」

 

 

 

 1時間後。

 

「さてと…行ってくる。」

 

「ええ、いってらっしゃい。」

 

映姫はそう言って黒刀を見送った。




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3度目

第16話。

OP3 ハイキュー「Ah Yeah」


 Aブロック2回戦第1試合。

黒刀とチルノはそれぞれ入場ゲートへ向かう。

 チルノは走って、黒刀は歩いてフィールド内に入ってきた。

黒刀の目つきは既に試合モードだった。

 

「(すげえ、もうスイッチ入ってる。)」

 

チルノはワクワクした気持ちが抑えられなかった。

2人は同時に構える。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「ソードフリーザー!」

 

チルノは氷の剣を作る。黒刀も鞘から黒い刀を抜く。

チルノが走り出して、左足を踏み込んだ瞬間、黒刀の目の前から消えた。

黒刀の背後にまわり、氷の剣を振り下ろす。

しかし、黒刀は背中を向けたまま刀でチルノの攻撃を防いだ。

 

「なるほど。クロスステップか…妖夢の試合を見て、真似たってところか。」

 

黒刀はつぶやく。

 

「(初見で防がれた。けど黒刀は『超反射』と『千里眼』を持ってる。このくらいは予想の範囲内だ。距離を取ったってあたいに勝ち目はない…だったら接近戦あるのみ!)」

 

チルノは一旦、剣を引いて別方向から斬りかかる。

それを黒刀が防ぎ、チルノがまた別方向から斬りかかるという攻防が続く。

一見、チルノが攻撃して黒刀が防御するだけで、チルノが優勢に見えるが、

 

「(くっ、攻めきれない…しかも軸足が動いていない…こうなったら!)」

 

チルノはクロスステップを連続で繰り出し、スピードを上げる。

傍目から見れば、チルノが斬りかかっては消えては斬りかかっているように見える。

 

「面白い。なら俺も見せてやるよ…四季流剣術の闘いをな!」

 

黒刀は刀を止めた直後、チルノが移動するであろう位置を予測して16か所に1秒で刀を16回振る。

クロスステップを踏んだ直後のチルノは躱すことが出来ず、咄嗟に氷の剣で防御するが、勢いに押され吹っ飛ばされてしまう。

 

「ぐあっ!」

 

「俺は1秒間に刀を17回振れる。お前のスピードは確かに速いが、俺はもっと速い。」

 

黒刀は刀の剣先を床につけ引きずりながらチルノに近づく。

 

「(17回だって!それじゃあたいがどれだけ速く動いても意味ないじゃん!

…あれをやるしかない!)」

 

チルノはゆっくり立ち上がる。

 

「(でもあれをやるには隙を作る必要がある。)」

 

チルノは氷の翼を広げ、上昇飛行し、上から

 

「アイスニードル!」

 

氷の棘を放つ。

 

「効かねえよ!」

 

黒刀は『破壊王の鎧』を発動させる。

だが、氷の棘は黒刀ではなく、フィールドの床に突き刺さっていく。

 

「(狙ってこない?)」

 

チルノは下降して低空飛行して、なんと氷の棘を斬って破壊していく。

観客は、

「あいつ、何やってんだ?」

「諦めたんじゃねえの?」

そう言葉を漏らす者がいた。

その言葉を聞いた大妖精がムッと睨む。

 

「大妖精、大丈夫よ。彼女はまだ勝負を捨てていないから。」

 

「永琳先生…。」

 

「見ていなさい。2人の闘いを。」

 

「はい。」

 

 

 

 

「そろそろかな。」

 

チルノは氷の棘の破壊を止める。

 

「これで準備は整った!見せてやる!あたいの切り札を!」

 

「(わざわざ言うってことはブラフ…はないか。こいつはそういうタイプじゃないし…考えてもしょうがない。俺は俺の直感を信じて闘う!)」

 

すると、黒刀の全身に電気が帯びていく。

 

「電気?」

 

「ああ、言ってなかったな。オーラに属性があるのは知っているな。火・水・風・土・雷・氷・光・闇。俺は闇属性の他に雷属性を持っている。」

 

「マジかよ!(ん?でもあれって『破壊王の鎧』を発動していない?それなら遠距離攻撃が出来る!)」

 

チルノは黒刀の異変に気付いた。

 

「アイスニードル!」

 

チルノは氷の棘を黒刀に向けて放つ。

さんざん氷の棘を破壊したので、冷気の霧が発生して視界が制限されている。

だが、黒刀は氷の棘を全て手でつかみ取った。

 

「(もっとだ…全身に電気信号をもっと速く受信させて反応速度を上げる!)」

 

「だったら!」

 

チルノは氷の柱を床から作り出し、黒刀に向けて伸ばした。

だが、

 

「甘い!」

 

黒刀は氷の柱を右手だけで受け止めた。

 

「今だ!」

 

チルノは氷の剣を手放し、巨大な氷のハンマーを作り出して、両手で握った。

 

「グレートクラッシャー~~~!」

 

チルノは氷のハンマーを思いっきり振り下ろす。

黒刀の右手は氷の柱を止めているため、刀で防御するが予想外の圧力が上からかかってくる。

 

「(ぐっ、重い…まったく…俺がここまで追いつめられるとはな…ああ…もう反応速度とかそんなことどうでもいいや…今は力を思う存分使いてえ!)

ふっ…ふふふ…ふはははは!」

 

黒刀は氷のハンマーを防ぎながら高笑いした。

 

「黒刀のあの笑い方…まずい!」

 

黒刀の全身に帯びていた電気が消えていく。そのかわりにオーラが増していく。

 

「ふん!」

 

黒刀は右手の握力だけで氷の柱を粉々に破壊した。

 

「マジかよ!」

 

「うおらっ!」

 

黒刀は刀を振り上げて、氷のハンマーを弾いた。

 

「カオスブレイカー!」

 

「やばっ!」

 

チルノは『カオスブレイカー』が届く前に、氷の柱を展開し、伸ばして自身にぶつけて直撃を逃れる。

黒刀は吹っ飛ばされたチルノに向かって加速し、追撃をしかける。

ハイジャンプして、空中のチルノに斬りかかる。

 

「さっきと同じじゃダメだ…もっと強く…強く…さらに強く!霊力解放~!」

 

チルノが霊力を解き放ち、さらにオーラが増す。

再び、作り出した氷のハンマーは先ほどより一回り大きい。

 

「グレートクラッシャー!」「カオスブレイカー!」

 

チルノの氷のハンマーと黒刀の黒く巨大な斬撃がぶつかり合う。

ぶつかり合った衝撃波でフィールドの結界が今にも壊れそうな音を立てていた。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

2人とも雄叫びを上げながら、力でぶつかり合っていた。

だが…ピシッと徐々に氷のハンマーにひびが入っていく。

 

「(解放していないのに…このパワー。)」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

黒刀が雄叫びを上げると、ついにパリンッと音を立てて氷のハンマーが砕かれた。

そして、そのまま『カオスブレイカー』がチルノに直撃する。

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

チルノは悲鳴を上げて、床に落下する。

黒刀も床に着地する。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

勝敗が着いた後、少しして目を覚ましたチルノに黒刀は、

 

「チルノ。」

 

「何だ?」

 

「強くなったな。」

 

「へへ…だろ?」

 

チルノは力なく笑う。

医療班が来て、チルノは担架で運ばれる。

その途中で、

 

「黒刀!」

 

「?」

 

「絶対に優勝しろよ!」

 

チルノは拳を突き出す。

 

「ああ。」

 

黒刀はチルノとグータッチを交わす。

 

 

 

 その後、魔理沙、椛、妖夢、霊夢は2回戦を難なく突破する。

 

「明日は魔理沙か…マスタースパークも以前とは比べ物にならないんだろうな~。」

 

一方、魔理沙は

 

「前に黒刀には力不足だって言われたけど今度こそは!」

 

それぞれの想いを胸に準決勝を待つ。




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パワー勝負!黒刀VS魔理沙‼

17話。

OP3 ハイキュー「Ah Yeah」


 6月24日。

剣舞祭奈良個人予選2日目。

黒刀は既にゲート前に立っていた。

 

「魔理沙はパワー一筋……そういや俺にもそんな時期があったな。

教えてやらないとな。パワーだけじゃ勝てないってことを。」

 

 

 

 一方、魔理沙はというと、

 

「さて………どうしよう…だあ~!何も策が思いつかねえ~!」

 

頭を抱えて叫んでいた。

 

「魔理沙。」

 

そこへ、霊夢がゲート前にいる魔理沙に声をかけてきた。

 

「霊夢…お前、何でこんなところに…。」

 

「私の準決勝は最後よ。」

 

「ああ…そうか…。」

 

「緊張してるの?」

 

「そりゃ当たり前だろ!見ろよ!手が震えてきやがる。」

 

「はあ~…ちょっと手を貸して。」

 

霊夢は魔理沙の右手を取って、両手で包み込むように握った。

 

「お、おい霊夢…。」

 

霊夢の突然の行動に魔理沙は照れる。

 

「あんたは難しいことは考えなくていい。パワーで押しきればいいのよ。

いつものように。」

 

「でも霊夢、相手はあの黒刀だぜ?今までの闘い方が通用するとは…。」

 

「自分らしく勝てなかったらそれは勝利じゃない。

…そうね…もし魔理沙が勝ったら…。」

 

「勝ったら?」

 

「私の本、死ぬまで貸してあげる。」

 

霊夢はクスッと微笑みを魔理沙に向けながらそう口にした。

 

「!」

 

「それじゃあね。」

 

霊夢は魔理沙から手を離して、去って行く。

姿が見えなくなったところで、魔理沙は、

 

「………ぷっ!ぷははは!…なんだよそれ……私がいつも言っていることを逆に言いやがった。」

 

笑いをこらえきれなくなった。

そこで魔理沙は気づいた。

 

「震えが…止まった。…ありがとう…霊夢。」

 

魔理沙はフィールドに振り返り歩き出す。

魔理沙の向かい側から黒刀が歩いてくる。

 

「黒刀…。」

 

「そういやお前と1対1で闘ったことはなかったな。」

 

「なら最初の1勝は私が頂くぜ!」

 

魔理沙はミニ八卦炉と箒を取り出して、構える。

黒刀も鞘から刀を抜く。

2人の視線が交じり合う。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始直後、黒刀の体を厚いオーラの膜が覆う。

魔理沙も箒に跨って飛行する。

 

「『破壊王の鎧』か…でも私は私の闘いをするまでだ!マスタースパー」

 

「遅い!」

 

黒刀は魔理沙の右肘を狙って、斬撃を放つ。

 

「くっ!」

 

魔理沙は攻撃を中断して、回避する。

 

「今の…もしかして…。」

 

 

 

 

「なるほどマスタースパーク封じか。」

 

「マスタースパーク封じ?」

 

観客席に座っているにとりの言葉に、隣に座っている妖夢が訊き返す。

 

「魔理沙の『マスタースパーク』は強力だが射線が直線であるため照準を相手に向けないといけない。あれだけの威力だ。姿勢制御は大事だから肘を曲げたままだと照準が定まらないし、仮に撃てたとしても反動に耐えられない。」

 

「そんな…じゃあ魔理沙は『マスタースパーク』なしで闘うってことですか!」

 

妖夢は思わず声を張り上げる。

 

「それは魔理沙次第だ。」

 

 

 

 

「冗談じゃねえ…私は諦めねえぞ!マスター」

 

魔理沙が再度『マスタースパーク』を放とうとするが、黒刀がさっきと同じように斬撃を放って阻止してきた。

 

 

 

 

「また同じように…。」

 

妖夢がつぶやく。

 

 

 

「同じじゃねえよ!」

 

魔理沙は肘を引っ込めると同時に左手にミニ八卦炉をパスする。

 

「スパーク!」

 

魔理沙は『マスタースパーク』を放った。

黒刀はそれを右手で受け止める。

 

「チッ。」

 

「(マスパが消えない?ってことは『破壊王の鎧』でも無効化できない攻撃もあるってことか!)」

 

「おらっ!」

 

黒刀は『マスタースパーク』を右に流した。

『マスタースパーク』は結界に直撃し、衝撃で震動した。

 

「(やっぱりこの距離じゃ大ダメージは与えられねえか…なら前みたいにゼロ距離で撃つしか…)」

 

「カオスブレイカー!」

 

思考中の魔理沙に向けて、黒い巨大な斬撃が放たれた。

 

「っ!」

 

魔理沙は慌てて箒の速度を上げて、光線のような斬撃の側面を螺旋状に回転しながら飛行し、黒刀に接近する。

 

「やばっ!」

 

魔理沙に回避された『カオスブレイカー』が結界に激突しようとしていた。

 

「(加減間違えた!このままいったら破壊しちまう!)」

 

その時、黒刀は感じた。

観客席の中から自分と同じ『王』の気配を。

『カオスブレイカー』が結界に激突する直前、結界に力が宿り、結界は破壊されずに済んだ。

 

「(にとりか…いや違う…この気配は…でも何であの人がここに…。)」

 

「よそ見してんじゃねえ!」

 

魔理沙は『マスタースパーク』を放つ。

黒刀はすぐさま回避した。

 

「そうだな…今は試合に集中するとしよう。

(それにしても一体何発撃つつもりだ?さすがに限界はきてるだろ?)

…そうか…お前はとっくに限界を超えていたんだな。」

 

黒刀は嬉しそうに笑った。

 

「なら俺も応えなきゃな!」

 

黒刀は今まで以上の黒いオーラを刀に集束させていく。

 

「私も負けられないぜ!」

 

魔理沙もミニ八卦炉に魔力を溜めていく。

 

「今度は躱させねえぞ!」

 

「それはこっちもだぜ!」

 

そして、2人のオーラが溜まった瞬間、

 

「マスタースパーク!」「カオスブレイカー!」

 

巨大な黒い斬撃と光の魔砲がぶつかり合った。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

両者の攻撃は拮抗していた。

そして、ぶつかり合った点が中心で止まったその時、

大爆発を引き起こした。

 黒刀はジャンプして、煙の中から空中にいる魔理沙の懐に飛び込みに行った。

 

「これが最後の…マスタースパーク!」

 

ゼロ距離の『マスタースパーク』が黒刀に直撃しようとしていたその時、

黒刀の姿が消えた。

 

「なにっ!」

 

直後、魔理沙の背後に黒刀が現れた。

黒刀は『マスタースパーク』が直撃寸前の瞬間にハイジャンプとクロスステップを同時にやって躱したのだ。

魔理沙は背後の巨大なオーラの気配に気づき振り向いた。

黒刀は既に『カオスブレイカー』を放つ体勢になっていた。

 

「くっ!」

 

魔理沙はミニ八卦炉で『マスタースパーク』を撃とうとするが、

『マスタースパーク』は発射されず、ミニ八卦炉から黒い煙が上がる。

魔理沙は歯ぎしりする。

 

「カオスブレイカー!」

 

黒い斬撃が魔理沙に直撃し、床に叩き落とされる。

小さなクレーターが出来て、魔理沙はその中心で仰向けに倒れていた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

決着がつき、床に着地した黒刀は刀に鞘を納めて魔理沙を見る。

 

「(ミニ八卦炉と箒を手放さずに…)

まったく根性入った奴だよ…お前は。」

 

会場で試合に勝利した黒刀に対してだけでなく、大健闘の魔理沙に対しても大きな拍手が響いていた。




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椛の過去

第18話。

OP3 ハイキュー Ah Yeah



 黒刀対魔理沙の試合が終わり、魔理沙は医務室に搬送され、

黒刀はロビーを走っていた。

 

「黒刀!」

 

そこへにとりが駆けつけた。

 

「にとり、そっちも気づいたか?」

 

「ああ。さっき感じた『王』の気配…間違いない。洩矢諏訪子だ。」

 

「でもあの人は東京にいるはずだろ?」

 

「多分、お前の試合を観に来たんだろう。

ほら、あの人お前のこと結構気に入ってたし。」

 

「それでわざわざ東京から来たのかよ…まあ、もう帰ったみたいだけど。」

 

「まああの人と会うのは恐らく本選だろう。それよりお前は次の試合だ。」

 

「ああ、今椛が試合をしているけど勝つのは椛で間違いないからな。」

 

「対策は?」

 

「ん~、俺は妖夢みたいに二刀流じゃないから…それにあいつも同じ負け方はしてくれないだろ。

俺は俺のやり方で勝つよ。」

 

2人が話していると、ロビーのモニターウインドウから

 

《勝者 犬走椛》

 

機械音声が聞こえ、モニターウインドウでは無傷で立つ椛の姿が映っていた。

決勝戦までは20分ある。

 

「ちょっと風に当たって来る。」

 

黒刀はテラスの方へ歩いていった。

 

 

 

 椛は試合が終わるとゲートに戻り、そこで座り込み休息を取る。

 

「(次は黒刀か…あいつには借りがある。私をこの道に戻してくれたのはあいつだから。)」

 

 

 

 

 1年前 秋。

夏の敗戦からおよそ1か月、椛は新学期初の決闘を行っていた。

決闘が始まり、刀を鞘から抜こうとしたその時、椛は自分の異変に気付いた。

 

「(刀が抜けない?…どうして?いつもトレーニングの時は抜けるのに…。)」

 

結局、その決闘は椛の惨敗だった。

その後の日も何回か決闘をしたが、椛は刀を抜けなかったり、抜けたとしても刀を持つ手が痙攣したように震えて刀を落とし持てなかったりした。

連敗が続き、椛は1位から最下位まで転落した。

原因を知るため医者に診断してもらった。

そして、医者にこう告げられた。

 

「おそらくイップスでしょう。」

 

イップスとは精神的な原因によりスポーツの動作に支障をきたし、自分の思い通りのプレーが出来なくなる運動障害のことである。

椛は自分の状態にショックを受けた。

 

「そんな…なら…私はどうすれば…。」

 

「落ち着いてください。」

 

「落ち着けませんよ!このままじゃ私…二度と剣士になれないかもしれないんですよ!

落ち着けるわけないでしょ!」

 

椛は立ち上がって声を荒げた。

 

「落ち着いてください。」

 

真剣な眼差しの医者に椛は気圧され、やがて少しずつ落ち着いてから椅子に座る。

 

「まず原因を発見して失敗した場面を直視する必要があります。犬走さんの場合…」

 

「……夏の敗戦。」

 

椛がぽつりとつぶやく。

 

「無意識に体が拒否反応しているので小さい部分から徐々に成功体験させて自信を体感させます。

ただし、これには精神的に覚悟や開き直りが求められます。」

 

「覚悟…。」

 

「イップスには個人差があります。長い時間がかかる可能性もあります。」

 

「……長いてどのくらいですか?」

 

椛はうつむきながら質問する。

 

「犬走さんの場合、『剣舞祭』の敗戦が原因なので卒業して忘れる頃…つまり…」

 

「…2年…半…。」

 

「私の知り合いにメンタルリハビリテーションセンターの人がいます。

そこでリハビリを受ければ2年半で完治するでしょう。」

 

「あの…もう少し…早くなんとかならないでしょうか?」

 

「…自己的に治療すればあるいは…しかし、それで早期に完治する可能性は極めて低いし、

下手をすれば二度と治らないことだってあります。正直、おすすめはできません。」

 

「それでも…たとえわずかでも可能性があるというなら…。」

 

椛は藁にも縋る思いだった。

 

「………分かりました。決めるのは犬走さんです。犬走さんのやりたいようにするといい。

だが、もしこちらに協力してほしい時はいつでも来てください。」

 

「はい。ありがとうございました。」

 

診断を終え、椛は帰宅した。

だが、椛の不幸はこれだけではなかった。

 翌日、学校に登校した椛だったが、なにやら学校中の雰囲気が淀んでいるように感じた。

廊下を歩いていると、聞こえてしまったのだ。

「来たぜ。あいつだ。」

「最近弱くなってるって聞く…。」

「つ~か夏にあんな負け方したのによく学校に来れるよな。うちの恥だぜ。」

「どの面下げてきてんだか。」

「あいつのせいでうちは負けたのに。」

「期待してたのにがっかりさせんじゃねえよ。」

「1位の時はあんなに威張ってたくせに。」

「今は最下位…。」

「ざまあみろ。」

その陰口は普通なら聞こえないような声量だったが、眼だけでなく耳も発達している椛には全て聞こえていた。自分に対する容赦ない言葉の暴力が。

椛は思わず逃げ出した。

泣きそうになりながらも必死にこらえて、そしてトイレの個室で人知れず涙を流していた。

イップスと言葉の暴力。

この2つの苦痛は当時15歳の彼女にはとても耐えられるものではなかった。

 

「(だめだ…こんなところで弱気になったら…私は剣士だ…くじけない。)」

 

 放課後になり、体育館裏で素振りを始めた。

 

「大丈夫だ!ちゃんと刀は振れ…っ!」

 

その時、椛の脳裏にあの敗戦が浮かび上がった。

さらに、手が痙攣して刀を落としてしまう。

 

「そんな…素振りまで…。」

 

この時、椛は自分の状態が想像以上にひどくなっていることを自覚する。

 

 

 

 すっかり日が暮れてしまい、帰り道である商店街を歩く。

その時、紅葉高校の生徒とすれ違う。

そして、また聞こえてしまう。

聞きたくもない言葉を。

椛は必死に走り出した。

そうして、いつの間にか路地裏に入ってしまったが、椛はそんなことにも気づかずに走る。

 

「(いやだ…いやだ…なにこれ…どうしてこんな苦しい思いをしなくちゃいけないの?

こんなのいやだよ!)」

 

心の中で悲痛の叫びを上げる。

その時、ドンッと角から出てきた誰かにぶつかってしまって、尻餅をついてしまう。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

慌てて立ち上がって、頭を下げて謝罪し、顔を上げてぶつかった人を見ると、その人物とは…

 

「椛?」

 

黒刀だった。

 

「四季…黒刀?なんでこんなところに?」

 

「お前こそ…ってそんな場合じゃねえ!」

 

「え?」

 

黒刀が走ってきた方向を見ると、強面の不良3人組が追いかけて来ていた。

 

「待てやこら~!ぶっ殺してやる!」

 

椛は黒刀に向き直って、

 

「な、なんですかあの人たちは!」

 

「いいから逃げるぞ!」

 

黒刀は椛の手を取って走り出す。

 

「なんで私まで⁉」

 

「あれに乱暴されたいなら離すけど?」

 

黒刀は不良3人組を指さす。

椛はブンブンと必死に首を左右に振る。

 

「っていうかあなたならあんな奴ら…」

 

「自己満足の暴力を振るう趣味はないし、家に厳しく止められてる。」

 

疾走するうちに路地裏を出て、河川敷まで来た。

そこで足を止め、呼吸を整える。

 

「こ…ここまでくれば…はあ…はあ…。」

 

「ふ~…しつこいなあ~。」

 

「え?」

 

黒刀が指さす方向に椛が『千里眼』で視ると、不良3人組が走ってきていた。

 

「嘘~!」

 

「降りるぞ。」

 

黒刀は河川敷の石垣を滑り降りて、川沿いの方へ逃げる。

椛もその後を追う。

 

「追い詰めたぞ!」

 

不良3人組の1人が叫ぶ。

 

「そっちがな。」

 

「なに?」

 

その時、不良3人組の背後から

 

「お前ら、何しているのかな?」

 

声が聞こえた。

不良3人組が一斉に振り向く。

 

「やあ、みすち~。」

 

黒刀があだ名で呼ぶ。

桃色のショートヘアで羽の飾りをついた帽子をかぶっていて、背中は異形の翼が生えていて体格は小柄、雀のようにシックな茶色のジャンパースカートを着た女性。

みすち~ことミスティア・ローレライである。

 

「こんばんわ黒刀。」

 

ミスティアも挨拶を返す。

 

「「「あ…姐さん⁉」」」

 

不良3人組はうろたえ始める。

 

「で?なにをし・て・い・るのかな?」

 

ミスティアは笑顔で不良3人組に問いかける。

 

「姐さん?目が笑ってないんですけど…。」

 

「いや、俺たちはこいつを…。」

 

「ん?」

 

ミスティアは笑顔を崩さない。

 

「「「ご…ごめんなさい~!」」」

 

その時、ミスティアの表情は怒りに一変した。

 

「制裁だ!バカたれ共~!」

 

ミスティアは不良3人組を柔道家顔負けの背負い投げで次々と倒した。

その後、手をパンパンとはたく。

 

「今度、悪さしたら承知しねえからな!」

 

 

 

 10分後。

黒刀はラーメンをすすっていた。

 

「いや~、やっぱりみすち~の屋台ラーメンは美味い!」

 

「そりゃ、どうも。」

 

黒刀の褒め言葉にミスティアはそっけなく返す。

 

「ほら、椛も食べろよ。」

 

「うん………美味しい。」

 

椛は麺をすすった後、つぶやいた。

 

「お前らもとっとと食え。」

 

ミスティアは不良3人組に呼びかけた。

 

「「「はい姐さん!」」」

 

不良3人組は元気よく食べ始めた。

ミスティアはそれを微笑ましく見た後、

 

「で黒刀、こいつら何やったんだ?」

 

黒刀に訊いた。

 

「何ってナンパしてたから止めただけだけど。」

 

「そうなんすよ!こいつ、俺らが女と遊ぼうとしたら横から入ってきて」

 

「相手の女の子は嫌がってたけど?」

 

黒刀が補足する。

 

「うるせぇ!お前には関係ねぇだろうが!」

 

「おい。」

 

ミスティアは冷たい声と共に睨んだ。

 

「すいません。」

 

不良3人組は素直に謝る。

椛が黒刀に耳打ちで、

 

「一体何者なの彼女?」

 

「元ヤンで頭をやってた人だ。」

 

「え?」

 

椛は言われてミスティアを見るが、とてもそうは見えない。

 

「昔のことだ。」

 

話を聞いていたミスティアが口にする。

 

「昔って言っても2年前くらいのことだけどな。」

 

「何でそんな人と知り合いに?まさか!あなたもそういう…。」

 

「ん~。俺はみすち~とタイマンやっただけ。まあ、確かにその時は俺中三でちょっと荒れてたから。」

 

「そんで負けたあたしは不良やめて今は屋台でラーメン出してるってわけ。」

 

「ふぇ~。」

 

話についていけない椛。

 

 

 

 

「そうだ。俺と決闘しないか?」

 

ラーメンを食べ終えた黒刀は椛にそう声をかけた。

 

「え?…いや…その…今は…ちょっと…。」

 

歯切れが悪くなってしまう椛。

水を一杯飲んだ後、黒刀はこう口にした。

 

「それはイップスが理由だからか?」

 

「っ!」

 

椛は思わず立ち上がる。

 

「どうして…。」

 

「直感とだけ言っておこう。」

 

「…そうよ…今の私は満足に刀を振ることさえ出来ない。」

 

「…。みすち~、木刀あるか?」

 

コップをテーブルに置いた黒刀は立ち上がって、ミスティアに訊いた。

 

「あるよ。ほら。」

 

ミスティアは2本の木刀を黒刀に投げ渡す。

 

「な…なにを?」

 

「ほら。」

 

黒刀は椛に木刀を1本投げ渡す。

椛は咄嗟にそれをキャッチする。

 

「待って!私は…。」

 

「椛、まだお前に剣士としてのプライドがあるなら…逃げるなよ。」

 

「なんで…なんでこんなことをする必要があるのよ!」

 

「俺のためでもあり、そしてお前のためでもあるからだ。」

 

「あなたのため?」

 

「俺は来年の剣舞祭で全国に行く。だが、今の在学中の奴らじゃ話にならない。

だから新1年生をチームに入れる。だけど楽して全国に行っても優勝なんてできない。

だから必要なんだ。同じ地区にお前みたいな強者…ライバルが。」

 

「それって私があなたのチームの礎になれってこと?そんなこと誰が…。」

 

「まあ、ぶっちゃけそうなんだが、だけど…俺は辛さを乗り越えてこその強さがあると思う。」

 

椛は黒刀の言葉に苛立ちを露わにした。

 

「知った風な口を聞くな!あなたには分からない!

剣士が刀を振れないことの辛さがどれほどのものか!」

 

黒刀は息を吐くと、

 

「お前は勇ましい剣士になりたかったのか?それとも悲劇のヒロインになりたかったのか?」

 

冷たい口調で言い放った。

 

「なら俺が目を覚まさせてやるよ。剣士としてのお前を!」

 

直後、黒刀は椛に突きを放つ。

椛は咄嗟にそれを避ける。

黒刀は椛が避けた先に突きを放つ。

 

「くっ!」

 

椛はガードするがバランスがとれていないため地面を転がる。

その光景を見ていたミスティアは

 

「黒刀も意地が悪い。」

 

と、一言つぶやいた。

 

「どういうことですか?姐さん。」

 

「黒刀は突きしかしない。だが彼女にとってそれはあの敗戦を強くイメージさせる。

突きっていうのは槍のイメージに最も近いからな。

黒刀は彼女に過去を超えさせようとしている。」

 

黒刀は木刀でまるでレイピアのように連続で突きを放つ。

椛はそれをなんとかガードしているが、攻撃に移ろうとすると体が一瞬硬直して攻撃に移れないでいた。

黒刀は口を開く。

 

「お前はただ逃げてるだけだ。周りからもそして自分自身からも。」

 

「違う。」

 

「自分を変えようともしない。」

 

「違う。」

 

「そして過去の敗戦に囚われている。」

 

「違う!」

 

「なら証明してみせろ!お前の進化を!」

 

黒刀は突きで椛の態勢を崩し、さらに渾身の突きを放つ。

 

「(防げない…避けれない…どうすれば…。)」

 

その時、椛の中で何かが覚醒する。

 

「(見える…分かる…次の動きが!)」

 

椛は黒刀の肘に向けて刀を…振った。

 

「!」

 

黒刀は咄嗟に木刀を捨て、白羽取りで止めた。

 

「ふ~、あぶね~。」

 

「今…私…。」

 

椛は自分の動きに驚いている。

 

「やりゃ出来んじゃん。」

 

「もしかしてさっき私にひどいことを言って挑発してきたのって…。」

 

「言っただろ。お前が必要なんだ。」

 

「お前、それ誤解される言い方だぞ。」

 

ミスティアが口を挟む。

 

「え、何で?」

 

しかし、黒刀は首を傾げる。

 

「はあ、もういい。」

 

ミスティアは呆れる。

 

「疲れたからお茶飲みたい。」

 

「わかった、わかった。出すから。」

 

ミスティアと黒刀は屋台に戻る。

 

「お前も飲むかい?」

 

ミスティアは椛に言葉をかけた。

 

「あ、はい。」

 

椛はそれに応えた。

 

 

 

 椛はお茶を一口飲んだ後、コップをテーブルに置く。

 

「…私、皆に期待されてる。だから頑張ってもっと認められたいって思っていた。でも…。」

 

椛はこの秋の出来事を黒刀に話した。

黒刀はそれを聞いて、

 

「そりゃ、そいつらはひどい。だけどお前も悪いな。」

 

「どうして?」

 

「誰かに認められたい。それはいいがそれを己の闘う意味にしてはいけない。

実際に闘うのは俺達だ。だから己のために闘え。それと周りの反応をいちいち気にするな。

そんなんじゃ身がもたねえぞ。」

 

黒刀はお茶を一口飲んでから、

 

「俺もチームメイトに裏切られたからあまり人のこと言えねえけど、信じていたものに裏切られる苦しみはもう知ってる。」

 

黒刀は思い出していた。

あのロッカールームで悔しさをぶちまけた自分を。

 

「だから今度は自分で見つける。信頼できる仲間を。何人かは目星はついてる。」

 

「早いね。まだ秋だよ。」

 

「準備をしておくに越したことはない。」

 

「なら楽しみだね。来年の予選。」

 

「ああ。」

 

 そろそろ解散というところで椛が立ち去ろうとした時、

 

「椛!」

 

黒刀が呼び止めた。

 

「?」

 

椛が振り返る。

 

「お前はお前の道を突き進んでいけよ!周りがどう言おうと!」

 

「黒刀…うん…私、強くなるよ!」

 

「俺ももっと強くなる!」

 

黒刀は椛に拳を突き出す。

椛も同じように黒刀に拳を突き出す

 

「「(もっと…強く!)」」




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千里眼vs千里眼

第19話。

OP3 ハイキュー Ah Yeah



 現在。

椛はゆっくりと目を開ける。

 

「(黒刀、あなたには感謝している。

あなたの言葉がなかったら私はここまで来れなかった。

だからこそ私の全力をもってあなたに勝つ!)」

 

椛はそう決意してフィールドに足を踏み入れる。

向かい側からは同じように黒刀もフィールドに入ってきた。

10m程、距離が詰まったところで2人は立ち止まる。

 

「1年ぶりだな。」

 

黒刀は1人つぶやいた。

 

 

 

 会場の観客席は満員状態だった。

 

「すごい人ですね…。」

 

妖夢が驚いた声を出す。

 

「奈良予選最大の注目対戦カードといっても過言じゃないからな。

『千里眼』同士の対決、これは一瞬たりとも目が離せない試合になるだろうな。」

 

にとりが観客全員が思っていることを代弁する。

 

「でも去年は黒刀先輩が勝ったんですよね?」

 

霊夢が疑問を口にする。

 

「人は成長する。過去の試合の結果はあくまで過去のものでしかない。」

 

にとりは言葉を返す。

 ちなみにチルノと看病している大妖精、そして魔理沙は医務室のモニターウインドウで観戦している。

 

 

 

 椛は正面に黒刀を見据えている。

 

「(今年の黒刀…去年の黒刀とは雰囲気が全く違う。

去年はもっと…冷たいというかまるで感情がないような感じだった。でも今日の彼は違う。

闘争心むき出し。まるで獲物を狙う猛獣のよう。)」

 

黒刀は試合が楽しみで仕方がないようで、口元の緩みを隠せないでいた。

会場全体は歓声に包まれている。

そして…

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合が始まった。

 

「うおおおおおおお!」

 

黒刀が雄叫びと共にオーラを放出する。

 

「なんてオーラ…。」

 

椛が剣を鞘から抜き構える。

 

「いくぞ!」

 

黒刀が右足を踏み込むと同時にクロスステップで椛の背後に回り込む。

 

「それはもう散々…見た!」

 

椛は先読みして振り返り、黒刀の肘を狙って剣を振る。

次の瞬間、お互いの刃はぶつかり合った。

 

「(なんで…あの状況からではガードくらいしか…そうか『超反射』か。)」

 

「その程度か?」

 

黒刀は口を開いた。

 

「くっ!」

 

椛はバックステップで距離を取る。

 

「おせぇよ!」

 

だが黒刀は一瞬で距離を詰める。

黒刀が刀を振り、椛が躱して肘を狙い、黒刀がそれを弾き反撃。

そんな攻防がしばらく続く。

 そんな闘いを会場で観ているオレンジ色の髪のショートカットの女の子がいた。

その女の子に対して、黒髪ロングに着物を着て扇子を持った女の子が声をかける。

 

「あなたも来ていたのね。」

 

「花蓮さん。…いや、九条さんって呼んだ方がいいかな?」

 

オレンジ色の髪のショートカットの女の子が応える。

 

「今はナンバーズとしてではなく友人として接しているのだから名前でいいわ。

それともこちらも苗字で呼ぼうかしら?五位堂光。」

 

オレンジ色の髪のショートカットの女の子が五位堂光。

黒髪ロングで着物の女の子が九条花蓮。

彼女達はナンバーズである。

 

「もう意地悪だな花蓮さんは。そういえばあっちに仁さんがいたよ。」

 

「あ~六道の…。ということは今、この会場に3人のナンバーズが観に来ているということね。」

 

「そういえば二宮さんは?同じ学校ですよね?」

 

「優は来ないわ。」

 

「え~何でですか?あの人、黒刀に対してかなり注目してたらしいじゃないですか?」

 

「注目というよりなんか因縁があるみたい。それが何なのかは話してくれないけど…。」

 

「婚約者の花蓮さんにも?」

 

「ええ、全く。多分、優は黒刀の試合を観ていたら自分が闘いたくなってしまうんじゃないかしら?」

 

「なるほど。」

 

「そんなことより今はこの試合を観ましょう。」

 

 

 

 試合が始まって5分が経過していた。

椛は少し焦っていた。

 

「(このままじゃ埒が明かない。黒刀相手に長期戦はまずい。一気に決める!)」

 

椛は自身のオーラをさらに高める。

 

「気力解放!」

 

それを見た黒刀は、

 

「ほお、勝負に出たか。」

 

「気を抜いている暇があるのか?」

 

椛は黒刀の懐に潜り込む。

 

「狼牙!」

 

妖夢に大ダメージを与えた椛の新技である。

黒刀はそれを鳩尾に叩き込まれる。

しかし…

 

「ふ~、なかなかの攻撃じゃねえか。」

 

そう言いながら狼牙を放った椛の手首を右手で掴んだ。

 

「バカな!効いてない⁉」

 

椛は驚愕した。

黒刀はニヤリと笑い、椛が反応できないスピードで斬り下ろした。

椛はその攻撃を肩口から斜めにかけてもろに受けてしまう。

黒刀が追撃しようとするが、椛は手首を掴んでいる黒刀の右手を狙い剣を振る。

黒刀は手を離し、距離を取る。

大ダメージを受けた椛は少しふらつく。

 

「はあ…はあ…化け物…。」

 

椛はなんとか息を整えながら憎まれ口をたたく。

 

「よく言われるよ。さて…そろそろ終わらせるとするか。…気力解放!」

 

黒刀も椛と同じ解放状態となる。

椛は黒刀の気力の上昇率に驚愕した。

 

「なにこれ…いくらなんでもデカすぎる!」

 

「いくぞ!」

 

黒刀は刀を水平に振り、斬撃を放つ。

 

「くっ!」

 

椛はしゃがんで避ける。

その斬撃は背後の結界に衝突し、なんと亀裂が入っていた。

 

「なんてでたらめな…。」

 

椛は圧倒的な攻撃力に舌を巻く。

黒刀のオーラはフィールドの4分の1を占めるほどだった。

観客席にいるほとんどの者が圧倒的な力に対する恐怖を抱いた。

そんな中、映姫は

 

「(止めたい…だけどそれはできない。

黒刀は私に止めるなと言った。覚悟を決めて…なら私にできることは見届けることだけ…。)」

 

一方、観客席で観戦しているにとり達は、

 

「結界班は応援を呼ぶだろうが無駄だろう。間に合わない。」

 

にとりが腕組みしながら口にする。

 

「結界が限界だものね。」

 

霊夢は亀裂が入っている結界を眺めながら言った。

 

 

 

 椛は黒刀の肩を斬りつける。

しかし、キンッと音を立てて刃は黒刀の肩で止まる。

 

「まさかオーラで防いだっていうの⁉」

 

「お前のオーラじゃ足りねえよ!」

 

黒刀は刀を振り下ろす。

 

椛は剣を引いて、両手で持ち、横向きにして防御するが予想以上の圧力がかかってくる。

 

「(重い…なんて力…。)」

 

「ハッ!」

 

黒刀は椛の腹を蹴り上げる。

さらに吹っ飛ばされた椛に斬撃を放つ。

 

「くっ!」

 

椛は空中で斬撃を剣で受け流す。

しかし、受け流した斬撃が結界に衝突し、ついにパリンッと音を立てて結界が破壊される。

観客たちは一斉に出口に向けて逃げ出す。

観客席に残っているのはナンバーズ、にとり、霊夢、妖夢、永琳、そしてもう1人謎のメイド。

 

「結界が破壊されてもフィールド外に出ない限り試合は続く。」

 

黒刀は刀をぶら下げながら口にする。

 

「くそ!もう後がない。なら全てのオーラをこの剣に!」

 

床に着地した椛は自分の気力を全て剣に集束させていく。

 

「いくぞ!」

 

椛はハイジャンプで高く跳躍してから、ロージャンプで急降下して黒刀に向けて空中上段斬り。

 

「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

椛は雄叫びを上げる。

黒刀は刀に黒いオーラを集束させていく。

 

「!」

 

椛は一瞬驚くが、そのまま斬りかかる。

 

「カオス…ブレイカー~!」

 

もはやそれは斬撃というより黒い光の奔流。

その光に椛は飲み込まれていく。

そして、ボロボロになった椛は落下して床を転がった。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

機械音声が響き渡る。

ロビーに避難してモニターウインドウで観ていた観客たちはただ呆然と立ち尽くしていた。

妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、花蓮、光は同時にこう思った。

 

「「「「「「(これが…王者の実力…。)」」」」」」

 

にとりは頭を掻いていた。

 

「(ったく、上に向けてカオスブレイカーを放ったから大丈夫だったが前後左右どこかに放ってたら大惨事だぞ。)」

 

 

 

 

 黒刀は刀を鞘に納め、

 

「楽しかったぜ。」

 

気を失っている椛に言葉を残して行った。

 黒刀が立ち去ろうとゲートを向いたその時、『千里眼』で観客席にいるある人物が視界に入り、観客席を見渡すとその人物は既にいなくなっていた。

 

「今の…紅魔学園の生徒…偵察?いや偵察にしては気配が異様すぎる。奴は一体?」

 

 

 

 デュエルアリーナの出入り口から出てきた人物は携帯端末である人物に電話をかけた。

 

「私です。ええ…はい…勝ち上がったのは四季黒刀です…お嬢様。」

 

 

 

 妖夢が立ち上がる。

 

「次は私たちの番ですね。」

 

霊夢も立ち上がる。

 

「手加減しないわよ。」

 

「こっちだって!」

 

妖夢と霊夢の闘志がぶつかり合う。

 

 

 

 剣舞祭奈良個人予選Aブロック優勝者。

神光学園 四季黒刀。




ED3 遊戯王GX Wake Up Your Heart

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全国編
ライバル


20話。

OP3  ハイキュー Ah Yeah



 黒刀対椛の試合が終わり、次は霊夢対妖夢のBブロック決勝戦…のはずなのだが、

 

「どうしてまだ始められないのですか!」

 

妖夢は声を張り上げた。

 

「バカか。黒刀が結界を破壊したせいで今、修復中なんだ。」

 

にとりが冷静に返した。

 

「そんな~!」

 

妖夢は項垂れた。

 

 

 

 医務室。

黒刀は医務室に入って、

 

「よう!」

 

と、挨拶した。

チルノ、魔理沙と目を覚ましていた椛は黒刀にジト目を向けてきた。

 

「「「なぜお前が入ってくる?」」」

 

「なにかおかしいか?」

 

黒刀は首を傾げる。

 

「そりゃ自分を負かした相手が」

 

「笑顔で挨拶しながら入ってきたらね~。」

 

魔理沙と椛はため息をつく。

 

「それじゃ何か飲み物買ってこようか?」

 

黒刀の提案に、

 

「あたい、ソーダ!」

 

「私はコーラだぜ!」

 

「お茶。」

 

チルノ、魔理沙、椛の順に答えた。

 

「一切遠慮なしかよ。まあ、いいけど。大妖精も何か飲むか?」

 

「じゃあ、私もお茶で…。」

 

「分かった。」

 

そう答えて黒刀は医務室を出る。

 

 

 

 自動販売機で4人分の飲み物を買って医務室に戻ろうとすると、

 

「おい。」

 

声をかけられる。

黒刀が振り向くと、そこにいたのはつり目でハリネズミのように尖った髪型をした黒髪の男だった。

 

「おやおや、鷹岡高校3年の六道仁じゃねえか。何か用か?」

 

「俺とタイマン張れ。」

 

「…いやだね。」

 

「何?」

 

「どうせ全国で闘うことになる。」

 

「黙れ!俺は今すぐてめえをぶっ飛ばしてぇんだよ!」

 

「悪いがてめぇと遊んでいる暇はねえんだよ。六道。」

 

黒刀の目つきが変わる。

 

「てめえ!」

 

仁は今にも掴みかかりそうな勢いだった。

その時。

 

「癒しの風。」

 

声が聞こえ、黒刀と仁の間にそよ風が吹いた。

 

「室内で吹いてくるってことは…あんたか…九条花蓮。」

 

黒刀が名を口にする。

 

「お久しぶりです。四季黒刀。」

 

「私もいるよ~!」

 

花蓮の後ろから光がひょっこり出てきた。

 

「九条、何の真似だ?」

 

仁が苛立ちを露わにする。

 

「彼にあれだけの闘いを見せられて闘いたい気持ちは分かるけど、私たちは

『ナンバーズ』。試合以外で安易にぶつかるとどうなるかあなたにも分かっていることでしょう?」

 

花蓮は笑顔で諭す。

 

「チッ、帰る。」

 

仁はそう言って立ち去った。

 

「それじゃ、俺も急いでるんで。」

 

黒刀も口を開く。

 

「ええ、また。」

 

「またね~♪」

 

花蓮が笑顔で見送り、光が手を大きく振りながら見送った。

 

 

 

 黒刀が医務室に戻ってくると、

 

「おっそ~い!」

 

チルノが文句を言ってきた。

 

「わりぃわりぃ、ちょっと知り合いに会ってたんだ。」

 

黒刀は飲み物を渡しながら弁明する。

 

「試合、近くで見た方がいいんじゃない?」

 

椛が黒刀に言葉をかける。

 

「ん~、俺はここで観るよ。」

 

黒刀は椅子に座る。

 

「意外。あなたなら一番近くで見ると思ってた。」

 

「俺が観客席にいると、2人の集中力を逸らしちゃうかもしれないだろ。」

 

「へ~。」

 

椛が感心したような声を出す。

 

「そういえば、会長はどこに行ったんだ?」

 

魔理沙が質問する。

 

「姫姉なら俺の試合が終わった後に家に帰った。

なんか大事な用事があるって言ってた。」

 

 

 

 妖夢はゲート前で壁に寄りかかって待機していた。

 

「(そういえば、霊夢と本気で闘うのってこれが初めてかも。

最初に会った時驚いたな~。魔理沙の箒を腕力で止めちゃうだもん。

だからなのかな…私は心のどこかで霊夢が本当は強いんだって分かって…

いつの間にかライバルと思っていたのは…。)」

 

 

 

 同じように霊夢もゲート前で待機していた。

 

「(初めて妖夢に会った時、正直強そうには見えなかった。

危なっかしくて守ってやらないといけないような子だと思っていた。

でも、妖夢の初めての決闘を見た時、知ってしまった。

妖夢はちゃんと心に芯が通っていて、まっすぐ自分の道を突き進んでいる。

いい加減にやってきた私とは大違い。

あの子の強さは力ではなく心だ。

私は小さい頃から霊力が高くて、それに頼った闘い方をしてきた。

もし私が妖夢に勝てたら変われるのだろうか。

今より違う自分に………とにかく負けられない…少なくとも私は妖夢を…)」

 

「(私は霊夢を…)」

 

「「(ライバルだと思っているから!)」」

 

2人はそう決意してフィールドに足を踏み入れる。

2人がフィールドに入場した瞬間、まるで先程の試合の決着が嘘のように観客が大勢集まっており歓声が沸いていた。

 

「私たちの試合にこんなに人が…。」

 

妖夢が会場を見渡していた時、

 

「妖夢。」

 

霊夢から声がかけられる。

 

「霊夢。」

 

妖夢も名前を呼ぶ。

 

「私はこの試合、全力を出し切ってあなたに勝つ。」

 

霊夢がそう口にした。

 

「それは私もだよ。私もずっと霊夢と闘いたいと思っていたから。」

 

妖夢も応える。

 

「奇遇ね。私もよ。」

 

霊夢はそう言って構える。

妖夢も2本の剣を鞘から引き抜く。

 

 

 

 医務室。

 

「この試合に勝った方が全国……あ~私はどっちを応援すればいいんだ~!」

 

魔理沙は頭を掻きむしった。

 

「いいからちゃんと見てろ。

今、あの2人は自分の想いをぶつけ合おうとしてんだからよ。」

 

黒刀がモニターウインドウを見ながらそう言った。

 

 

 

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「爆符!」

 

試合開始直後、霊夢は霊符を放ってきた。

妖夢はバックステップして躱す。

 

「かかったわね!」

 

「え?」

 

妖夢が着地した床に爆符が貼られていた。

そして、地雷のように爆発する。

 

「(この程度で終わるはずがない。ということは…。)」

 

霊夢が上を見ると、妖夢がハイジャンプで跳び上がっていた。

 

「(読まれている…そうだよね…今まであんなに一緒に過ごしていれば…。)」

 

妖夢は唇を噛む。

 

「(動きは予測できる。それに妖夢の技は全部見ている。)」

 

「(今までとは違い、手の内を知り尽くされた相手。

でもだからって負けられない!)」

 

「(ロージャンプで急降下…。)」

 

霊夢は妖夢の行動を予測した。

妖夢はロージャンプで急降下した。

 

「(読み通り!)」

 

妖夢が上から斬りかかると、霊夢の頭上に結界が展開され、剣撃が防がれる。

 

「なっ!」

 

「私の結界は一級品よ!爆符!」

 

「ぐあっ!」

 

今度は妖夢に直撃し、爆発で吹っ飛ばされる。

妖夢は床を転がりながらもなんとか体勢を立て直す。

 

「(次はクロスステップ…。)」

 

霊夢は再度、予測。

妖夢がクロスステップをすると、移動している途中で床の爆符を踏み、

爆発を受けてしまう。

 

「クロスステップは確かに速いけど踏み込んだ足とクロス状にに動くから足元をよく見ておけば対処できないことはない。」

 

霊夢は冷静に分析する。

 

「くっ…(分かっていたことだけどやっぱり霊夢は…強い!)」

 

「(どうしたの?そんなものなの?あなたの実力はこんなものじゃないでしょ?)」

 

妖夢はステップを封じられてしまった。

 

「(爆符の位置を確認。よしいける!)」

 

妖夢は床にある爆符を避けながら駆ける。

だが、ドーンと音を立てて爆発した。

 

「ぐはっ!(まずい床には爆符が…。)」

 

爆発で吹っ飛ばされた妖夢は爆符のない床に手をつき、安全な床に着地する。

 

「どうして?」

 

妖夢は疑問を口にする。

床には細心の注意を払っていた。

それ以前に今の爆発は床からではなく空中で発生したものだ。

 

「特別に教えてあげる!今のは幻符って言って私以外には見えない霊符なのよ。

そして今、空中にはおよそ1000枚の幻符が展開されている!」

 

「せん…まい…。」

 

その数に妖夢は驚愕した。

 

「(この状況を打開する方法はただ1つ。さあ、早く解放を使いなさい!

そのあなたを私が倒す!)」

 

霊夢は妖夢の気力解放を待っていた。

 

「(やるしかない!)はああああ!」

 

妖夢は気力を高めるが解放には至らない。

 

「どう…して?」

 

「どうしたの妖夢!あなたの力はその程度なの!なら私の勝利で終わらせる!」

 

妖夢の周囲に結界が展開され、包囲される。

その中で霊力弾が浮遊する。

 

「夢想封印!」

 

霊力弾が妖夢に向けて放たれる。

 

「まだだ…まだ私は…闘える…霊夢には…負けない…いや…勝つ!」

 

妖夢は自らの内にある力を解き放つ。

妖夢から解き放たれたオーラが光の柱となって天へと昇る。

あまりに大きすぎるオーラに夢想封印の結界がパリンッと音を立てて破壊される。

 

「くっ、だけどまだ弾幕が残ってる!」

 

「旋風剣!」

 

妖夢は自分の体を軸に回転して、全ての霊力弾を斬り落とした。

 

「夢想封印を完全に破った…ようやく本気になったのね!」

 

霊夢は楽しそうに笑った。

妖夢はゆっくり霊夢の元へ歩く。

 

「バカな!幻符が怖くないって言うの?」

 

妖夢は幻符が体に触れる寸前、真っ二つに斬った。

 

「見えている?いやそんなはずはない。

まさか…直感だけで斬っているの?なら!」

 

浮遊している幻符と床にある爆符が霊夢の右手に集まっていく。

 

「もう小細工はなし!これで最後よ!」

 

霊符が霊夢の右手のひらで燃え、その炎が大きな霊術の術式を構築する。

 

「白霊砲!」

 

霊夢の右手から巨大な白い霊力の光線が妖夢に向けて放たれる。

妖夢は2本の剣に金色のオーラを集束させて、上段に構える。

 

「閃光斬撃波!」

 

2本の剣を振り下ろし、金色の斬撃を放つ。

『白霊砲』と『閃光斬撃波』がぶつかり合う。

 

「「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」

 

押しては押し込まれ押し込んでいく。

 

「もっとだ…もっと…もっと強く!」

 

『閃光斬撃波』の勢いが増していき、『白霊砲』が徐々に押されていく。

 

「くっ!」

 

「もっと高みへ!」

 

そして、『白霊砲』は完全に『閃光斬撃波』に押し負けた。

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

霊夢に『閃光斬撃波』が直撃し、吹っ飛ばされ悲鳴を上げて倒れる。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 魂魄妖夢》

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

妖夢は普段出さないような声で吠えた。

それに呼応するように会場に歓声が沸く。

 

「ついにお前も来るのか…あのステージに…。」

 

黒刀はただ1人そうつぶやいた。

 

 

 

 試合後、霊夢は医務室に搬送された。

霊夢の体は動かせなかったが、意識は戻っていた。

 

「ようこそ~敗者の墓場へ。」

 

霊夢を待っていたのは魔理沙達敗者と大妖精、黒刀だった。

 

「じゃ、俺はこれで。」

 

黒刀はそう言って医務室を出て行った。

 

 

 

 妖夢は試合が終わって急いで霊夢のいる医務室に行こうとしていた。

そこへ、

 

「妖夢。」

 

黒刀が目の前に現れる。

 

「先輩…私…霊夢に…。」

 

「今は会わない方がいい。」

 

「え?」

 

「お前らの試合を観て感じたよ。

お前らは友達でありライバルであるからこそお互いの想いをぶつけ合い全力で闘った。

だからこそなおさら強いんだよ…負けた時の悔しさが。」

 

「先輩…。」

 

 

 

 霊夢は泣いていた。

カーテンをかけて誰にも見られないように。

他の皆はそんな霊夢を見たり、聞いたりしないように決してカーテンを覗かず、

イヤフォンをつけて、大妖精にすすめられたアリスの曲を聴いていた。

何曲かあるうちの1曲はみんな同じだった。

その曲はバラードで雨をテーマにしたものだった。

 

剣舞祭奈良個人予選Bブロック優勝者。

神光学園 魂魄妖夢。




ED3 遊戯王GX Wake Up Your Heart

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八咫烏

21話。

OP3 ハイキュー Ah Yeah



 黒刀はロビーで外を眺めていた。

 

「雨か…。」

 

その時、黒刀の携帯端末に着信が入る。

送信者の名前を見た黒刀は嫌そうな顔をする。

空間ウインドウを展開する。

 

「あいつだからな~。映像はOFFにしておこう。」

 

黒刀はウインドウを操作して、映像をOFFにして受信ボタンを押す。

すると、

 

《あ~!やっと出てくれました~!も~彼女の電話なんですから早く出てくださいよ~!》

 

電話に出たのは可愛らしく元気が良さそうな女の子の声だった。

 

「元彼女だろう。」

 

《ひどいです~!あ、もしかして照れているんですか?セン…パイ♡》

 

「切るぞ。」

 

《あ~待ってください!ごめんなさいセンパイ。

久しぶりに声が聞けたのでつい嬉しくて。》

 

「で。何の用だ…早苗。」

 

《その前にさっきからSOUNDONLYになっているんですけど…。》

 

「お前の顔を見たくないから。」

 

《ひどっ!》

 

「用がないなら切るぞ。」

 

《もうせっかちですね~。私達のチームが全国に出ます!

すごいでしょ?予選は全部ストレート勝ちですよ!》

 

「うちもそうだよ。」

 

《はい!聞きました咲夜さんから。》

 

「咲夜?もしかしてあのメイド服を来た人か?」

 

《ええそうですけど…まさかセンパイ…メイド好き!》

 

「切るぞ。」

 

《じょ、冗談ですってば!》

 

「それと諏訪子も来てたようだけど…。」

 

《諏訪子様ですか?さあ、私は何も聞いてませんけど…。》

 

「っていうことは勝手に来たのか。マジであの人教頭かよ。」

 

《センパイ。》

 

「なんだ?」

 

《愛してま》

 

黒刀は電話を途中で切った。

数秒後、もう一度着信が来た。

 

「おい、いい加減に」

 

《随分偉そうな言い方ね。》

 

今度の声の主は早苗ではなかった。

 

「レミリア…。」

 

《気安く名前で呼ばないでくれる?》

 

「なんでかけてきた?」

 

《私だってあなたなんかにかけたくはなかったけど宣戦布告をしておこうと思ってね。》

 

「宣戦布告ね。」

 

《もし万が一、私たち紅魔学園と試合することになった場合は完膚なきまでに叩き潰してあげるわ。》

 

「そうか。じゃあなロリッコウモリ。」

 

黒刀は電話を一方的に切った。

 

 

 

 

「あの~レミリア先輩?私の端末を返してもらうと…。」

 

そうお願いするのは東風谷早苗。

緑色のロングヘアー、緑色の瞳、白地の上着に青いスカートの巫女服、

頭には蛙の髪飾りをした巨乳女性。学年は1年生。

 その彼女に対して、携帯端末を投げ渡すのはレミリア・スカーレット。

青みががった銀髪のセミロング、真紅の瞳、10歳並の小柄な体格、服装は全体的にはピンク色。

太い赤い線が入り、レースがついた襟。

両袖は短くふっくらと膨らんでおり、袖口には赤いリボンで蝶々と結んであり、

左腕には赤線が通ったレースが巻いてあり、小さなボタンで、レースの服を真ん中でつなぎ止めている。

腰のところで赤いひもで結んでいて、そのひもはそのまま後ろに行き、

先端が広がって体の脇から覗かせている。

スカートは膝まで届く長さで、これにも赤いひもが通っている。

背中には蝙蝠の翼が生えている。

彼女こそ『未来王』である。学年は2年生。

 空が曇り出し、雷が鳴り出した。

 

「派手にやったものね。」

 

そう声をかけてきたのは比那名居天子。

青髪のロングヘアーに真紅の瞳、体格はやや小柄。

半袖、ロングスカートで服の一部がエプロンのようになっており、

そこにオーロラを表す虹色の飾りがついている。

頭には桃の実と葉がついた丸い帽子をかぶっており、 胸には赤、腰には青の大きなリボンがついている。

左腰には彼女の愛剣『緋想の剣』がぶら下がっている。

学年は3年生。

 レミリアの足元には、彼女に挑み敗れた紅魔学園の生徒達がまるで山のように積み重なっていて、

その頂上にレミリアは立っていた。

 

「200人ってところか。」

 

天子は倒れた生徒の数を目算して、つぶやいた。

その時、レミリアのすぐ近くで倒れていた男子生徒が一矢報いようとレミリアの服の裾へ手を伸ばそうとしていた。

その瞬間、雷が落ち男子生徒に直撃する。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

男子生徒は断末魔を上げながら、吹っ飛ばされる。

 

「汚らわしい手で私に触れるな!」

 

レミリアは冷たい声と共に睨んだ。

それから拳を握り、

 

「…あの男…この私に向かって、あんな侮辱をするなんて…今度会ったら絶対に…

串刺しにしてやるわ!」

 

レミリアがオーラを放つと、倒れていた敗者達が吹っ飛ばされていく。

一部は早苗の方にも飛んできた。

 

「うわあああああ!こっちきた~!」

 

早苗は天子の背中に逃げる。

天子はため息をつくと、目の前に炎の壁を展開する。

炎の壁に当たった者たちは悲鳴を上げて燃えていく。

 

「随分ご機嫌が悪いようだけれど何かあったの?」

 

天子は早苗にたずねる。

 

「ちょっとセンパイに電話をかけていたら…。」

 

「四季黒刀のことか…詳しくは聞かない方がよさそうね。」

 

「それにしても相変わらず凄いですね。天候を変える程のオーラだなんて。」

 

早苗が周囲の惨状を見ながら感心する。

 

「さすがは『王』と言ったところだろう。」

 

天子は空を眺める。

空に映る月は紅魔学園敷地内には特殊な結界が展開されているため、敷地内から月を眺めると紅く見えるのだ。

 

「どうしたの?」

 

そこへ声をかけて現れたのはフランドール・スカーレット。

金髪のサイドテールに真紅の瞳。

体格はレミリアと同じくらい。

服装は半袖、ミニスカート。スカートは1枚の布を腰に巻いて2つのクリップで留めている。

靴は赤のストラップシューズ。

背中には1対の枝に7色の結晶がぶらさがった特殊な翼が生えている。

レミリア・スカーレットの妹である。学年は1年生。

 

「今、センパイに電話を…。」

 

「ずる~い!私もお義兄様とお話したかったのに!」

 

フランドール・スカーレット、通称フランは文句を言う。

 

「戻りました。」

 

さらに現れたのは、十六夜咲夜。

銀髪のボブカットに青い瞳、

服装は青と白のメイド服。

髪の先に緑色のリボン、もみあげ辺りから三つ編みを結っている。

スカートの裾の長さは膝丈程度。

頭にはカチューシャ。

腰に銀色の懐中時計がぶら下がっている。

レミリア・スカーレットの従者。学年は3年生。

 

「揃ったわね。」

 

レミリアがフラン達に振り向く。

 

「私たちが勝つのは必然!

覆ることのない運命!

私達がやるべきことはただ1つ!

勝者であり続けること!これだけよ!

そして、あの男に教えてあげましょう!

絶望的!絶対的な実力の差というものを!」

 

レミリアは宣言する。

雲が晴れ、少し隠れていた紅き月がはっきりと現れる。

 

「さあ、参りましょう!楽しいお祭りへ!」

 

 

 

 

 6月28日。

剣舞祭奈良個人予選の表彰式も終わり、その後の学校生活は一変した。

特に1年生達の活躍は学校全体に広がっていた。

 

「はあ~疲れました~!」

 

妖夢は机に突っ伏す。

 

「まあ握手、サイン、運動部からの勧誘、新聞部の取材ときたらさすがにきついぜ。

霊夢なんて寝てるし。」

 

魔理沙も肩を揉みながら愚痴を言う。

妖夢は苦笑いして、

 

「チルノは学校中走り回ってるみたい。皆に自慢したいんだろうね。大妖精もついていってるし。

…先輩はどうしてるのかな?」

 

妖夢は空を眺めてそんなことを口にするのだった。

 

 

 

 黒刀は中庭の木の下の芝生の上で昼寝をしていた。

顔の上に開いた本を乗せながら。

起こすと悪いと思って誰も近づいてこないようだ。

 

「あ、いた。」

 

そこへ小町がやってきた。

 

「ん?」

 

小町は黒刀の顔に乗っている本の表紙を見る。

本の題名は『リーダーとしてのあり方』。

 

「うわあ、単純。」

 

小町が呆れた口調で言う。

 

「単純で悪かったな。」

 

「起きてたのか…。」

 

「今、起きた。」

 

黒刀は本を閉じて、眠たい目をこする。

 

「弟君、会長が呼んでるぜ。」

 

「姫姉が?」

 

「何か大事な用事があるって。」

 

黒刀は立ち上がって、移動を始める。

 

「何も悪いことした記憶ないけどな。」

 

「(こいつ、マジで言ってんのか…。)」

 

 

 

 生徒会室。

 

「連れてきましたよ、会長。」

 

そう言いながら生徒会室に入る小町。

 

「ありがとう。」

 

「あ、外した方がいいですか?」

 

「構いません。小町なら聞かれても問題ないですから。」

 

「それで何の用事?」

 

小町の後に生徒会室に入ってきた黒刀がきく。

 

「渡したいものがあります。本当は予選が終わってすぐにしようと思っていたんですけど、少し時間がかかってしまったので…。」

 

「その机の上に置いてある物か?」

 

黒刀は生徒会長の机の上に置いてある黒い鞘に納まった1本の刀を指さした。

 

「ええ。」

 

映姫は短く答える。

黒刀はその刀を手に取り、鞘から抜く。

刀身の長さは80㎝。

余計な飾りはなく、鍔もない黒い刀身の直刀。

刃の側面には『八咫烏』と文字が刻まれていた。

 

「『八咫烏』…。」

 

黒刀はつぶやく。

 

「知っていますか?」

 

映姫が口を開く。

 

「刀にも意思があります。そして、『八咫烏』の場合、使い手に対しての要求値が高いのです。

だから四季家代々において、その刀を扱えたものは1人しかいません。

強い刀なのは確かなのですが…。」

 

「確か四季家って戦国時代から代々続く名家なんですよね?」

 

小町が質問する。

 

「ええ。『八咫烏』はその時代に生きていた黒髪の侍が使っていたと聞いています。」

 

「黒髪…まるで弟君みたいですね!」

 

小町のテンションが上がる。

対して、黒刀は『八咫烏』を見つめたまま。

 

「そうか…高いオーラの持ち主を求めていたんだな…お前は。」

 

黒刀は『八咫烏』に語り掛ける。

 

「黒刀が今、使っている刀は特殊な金属と術式で折れにくいですが、

それはあくまで黒刀のオーラに耐えきれるまでです。椛さんと試合を観ました。

黒刀の刀にほんの僅かですがひびが入っています。おそらく次は…。」

 

映姫はそこで口を閉ざす。

 

「折れるだろうな。」

 

黒刀が言葉をつなぐ。

 

「『八咫烏』なら大丈夫でしょう。」

 

「確かにこいつなら俺のオーラを全て受け止めてくれるだろうな。」

 

黒刀はそう言って『八咫烏』を鞘に納めて右腰にぶら下げる。

 

「元の刀はどうする?」

 

「…一応、俺の部屋に残しておくよ。…なあ、7月の上旬に夏合宿あるよな?」

 

「ええ。」

 

「1人ゲストを呼んでもいいかな?」

 

黒刀は笑みを浮かべる。

 

「『八咫烏』を試すつもりですね?」

 

「ああ。といってもその前に妖夢達には試練が待ち構えているわけだが…。」

 

その一言に小町が察する。

 

「ああ、あれか!」

 

「「期末試験!」」

 

黒刀と小町は口を揃えて言うのだった。




奈良編完。

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期末試験

今回から話数は書かないことにします。

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 7月3日。

妖夢達は土曜日にも関わらず、私服で神光学園の正門前に集合していた。

 

「黒刀のやつ、なんなんだよ…土曜日に全員、正門前に集合って!」

 

魔理沙が文句を言う。

 

「しかも本人来てないし。」

 

霊夢も文句をつぶやく。

 1台のリムジンが見えてきた。

 

「へえ、すごい金持ちがいたもんだな~!」

 

魔理沙が声を上げる。

そのリムジンは妖夢達の前に止まり、

 

「よう、全員いるな?」

 

出てきたのは黒刀だった。

 

「「「お前かよ!」」」

 

霊夢、魔理沙、チルノがツッコむ。

 

「どうして私達を呼んだんですか?」

 

妖夢が問う。

 

「移動しながら説明する。乗れ。」

 

妖夢達がリムジンに乗り、車が走り出す。

 

「お前ら、期末試験の勉強は進んでるか?」

 

黒刀の問いに妖夢、魔理沙、チルノが一瞬で青ざめた顔になる。

 

「やっぱりか…。そう考えてうちでやろうと思っている。」

 

「え、でも黒刀先輩の家は…。」

 

大妖精が口を挟む。

あのアパートでは全員で勉強などできないだろう。

 

「何を言っている?本邸の方に決まっているだろう。」

 

「「「「「え、ええええええええええええええええええええ!」」」」」

 

 

 

 30分後。

 

「なあ、まだ着かないのか?」

 

魔理沙がぼやく。

 

「もう見えてるけど。」

 

黒刀は答える。

 

「見えてるって右側には住宅街、左側には長い塀が続いて…続いて…

ま、まさか!この塀って!」

 

魔理沙が気づく。

 

「四季家の本邸はこの塀の中全てが敷地内だ。」

 

黒刀はサラッと口にする。

 

「え、嘘…塀の端が見えないんだけど…。」

 

妖夢達は四季家のスケールの大きさに驚愕するのだった。

 

 

 

 妖夢達はようやく四季家本邸の入り口の扉の前までたどり着いた。

 

「きっとベルを鳴らしたら使用人が出てくるんですよ!」

 

大妖精が興奮気味に言った。

 

「ほら、入れよ。」

 

黒刀が扉を開けた。

 

「「「「「(普通だった。)」」」」」

 

妖夢達は少しだけがっかりした。

 

「あの、ご両親は?」

 

妖夢が質問する。

 

「父さんは仕事、母さんは今、海外に暮らしてるよ。」

 

「海外ってどこ?」

 

チルノがきく。

 

「スウェーデン。」

 

「遠っ!」

 

「ここが玄関だ。」

 

「先輩、これって何ですか?」

 

妖夢は表札の上に何か刻んであるのを見つけた。

 

「四季家の家紋だ。」

 

「へえ、桜なんですね。」

 

ちなみに現在の日本の国旗はただの日の丸ではなく、

日の丸の周りの白い部分に桜の花びらが舞っているように描かれている。

 

「そんなことより客間に案内するぞ。」

 

黒刀は妖夢達の背中を押す。

 

 

 

 客間の横影軸には『疾風迅雷』と書いてあった。

5人は思わずきょろきょろしてしまう。

 

「珍しいものなんてないぞ。」

 

お茶を運んできた黒刀が言った。

 

「私は魔理沙が盗まないか見張ってただけよ!」

 

霊夢が口を開く。

 

「しねえよ!っていうかできたとしても後が怖いわ!」

 

「やっぱりやる気だったんじゃない!」

 

「大丈夫だよ。結界張ってあるから。」

 

黒刀はそう言いながらお茶を配っていく。

 

「あ、私が。」

 

妖夢が手伝おうとする。

 

「いいよ。客は妖夢達なんだから。」

 

黒刀はやんわりと断る。

 

「そういえばここって使用人はいないんですか?」

 

大妖精が周りを見渡しながら聞く。

 

「ああ。」

 

「へえ、意外。金持ちは皆使用人がいるのかと思った。」

 

霊夢が意外そうな顔をする。

すると、チルノが考え込む。

 

「あれ?じゃあ運転していたのは…まさか…幽霊!」

 

「オートだよ!ってそろそろ勉強を始めないとな。」

 

黒刀がツッコんだ後、仕切り直す。

 

「え~!お泊り会じゃないの?」

 

チルノが頬を膨らます。

 

「泊まってもいいけど勉強が先。」

 

「いいんだ…。」

 

霊夢がつぶやく。

 

「期末試験は中間試験と違って赤点とると補習がある。」

 

「補習?」

 

「そう。それも夏期講習。つまり…。」

 

「まさか!」

 

「察しが良いな霊夢。夏期講習はちょうど剣舞祭本選と重なる。

ということは…。」

 

「赤点をとると剣舞祭に出られなくなる。」

 

「その通りだ魔理沙。」

 

黒刀は笑顔で応える。

 

「「「(ど、どうしよう…。)」」」

 

成績の悪い妖夢、魔理沙、チルノは焦る。

 

「まあ、そのためにこうやって集まってもらっているんだけどな。

今回はマンツーマンじゃなくて分からなかったら俺か他の人に聞くこと。」

 

大妖精がそこで挙手をする。

 

「あの、黒刀先輩は…。」

 

「うん?俺が満点以外を取ると思うか?」

 

黒刀はニッコリと笑顔で応えた。

 

「「「「「(ですよね~!)」」」」」

 

 

 

 

「チルノ、お前には理科を徹底的に教えていく。」

 

「え~。」

 

黒刀の決定にチルノが面倒くさそうな顔をする。

 

「文句言うな。氷使いが物質理論を熟知してなくてどうする?」

 

「関係があるんですか?」

 

チルノの隣に座る大妖精が口を挟む。

 

「氷使いってのは本来は固体、液体、気体と自在に変化させていかないといけない。

それによって戦略の幅が変わるからな。

こいつの場合、固体はともかくとして、水蒸気もできているが液体だけには変化できていない。」

 

黒刀はチルノの頭をポンポンと手を置きながら説明した。

 

「う~、分かったよ。」

 

実際、黒刀に個人戦で負けているチルノは渋々、納得した。

 

「よし、いい子だ。」

 

黒刀は笑顔でチルノの頭を撫でてから手を離した。

 

「先輩、ここの…。」

 

妖夢が分からないところを聞こうとする。

 

「ああ、温暖化阻止法か。これは温室効果ガス吸収装置が発明されたからだ。

これにより空気中の散っている温室効果ガスを吸収し、酸素や水素に変化させている。」

 

妖夢の質問に黒刀は的確に答える。

 

「でも酸素や水素も増え過ぎたら…。」

 

「そうならないように各国の主要都市に余分なエネルギーを回しているんだ。

上昇した気温は超大型氷冷弾を軌道上から撃ち込んで地球を一時的に低温状態にする。

海水面上昇は海水を水使いのエネルギー変換に使用して、降水もまた然り。

他にもあるけどまあこのくらいにしておこう。」

 

「なんか…色々と無茶苦茶ですね。」

 

妖夢が苦笑いする。

 

「挑戦無き者に未来はない。」

 

「?」

 

黒刀の言葉に妖夢は首を傾げる。

 

「温暖化阻止法を考案した化学者が残した言葉だよ。ちなみににとり先生の祖父だ。」

 

「え~!」

 

妖夢が驚く。

 

「あの人がいなかったら俺達は生まれてもいなかったかもしれない。

おっと脱線してしまったな。さっきの解答で十分か?」

 

「あ、はい。」

 

「おい、チルノ。手が止まってるぞ。」

 

黒刀がチルノに視線を戻し、指摘する。

 

「だって分かんないんだもん。」

 

チルノが投げやりな口調で返す。

すると、黒刀は何か閃いた。

 

「そういや、剣舞祭には氷使いもたくさんでるんだよな~。」

 

ピクッ。

 

「そうつらはきっと物質理論なんか完全に理解しているんだろうな~。」

 

ピクッ。

 

「そいつらより頭がよくなれば氷使い最強も夢じゃないかもな~。」

 

「おっしゃ~!やってやるぜ~!」

 

「(ちょろい。)」

 

 

 

 午後5時。

 

「お前ら、帰る?泊まる?」

 

「「「「「泊まる!」」」」」

 

黒刀の問いに妖夢達は声を揃えて応えた。

 

「ん。でも妖夢は幽々子さんに連絡しておけよ。」

 

「はい。」

 

その時。

 

「ただいま~。」

 

映姫が帰ってきた。

 

「姫姉、お帰り。妖夢達がうちに泊まるからよろしく。」

 

「また勝手に決めて。…まあ部屋は余っていますしいいでしょう。」

 

映姫はため息を吐く。

 

「幽々子様に許可をもらいました。(仕方ない。食べ放題の店には犠牲になってもらおう。)」

 

幽々子に連絡を済ませた妖夢が戻ってきた。

 

「それじゃ夕飯は俺と姫姉で作るよ。」

 

黒刀がキッチンに移動する。

 

「皆さんはお風呂に入っていいですよ。」

 

映姫も妖夢達に笑顔を向けてから黒刀の後に続く。

 

「やった~!お風呂!お風呂!」

 

「チルノちゃん、ちょっと待ってよ!」

 

チルノがいち早く駆けて行き、大妖精がそれを追いかける。

キッチンの方では、

 

「さて、こちらも始めよう。」

 

「今日は和食にしましょう。」

 

「あいよ。」

 

黒刀と映姫は手早く準備を済ませる。

 

 

 

 大浴場。

 

「いっちば~ん!」

 

バスタオルを巻いたチルノが湯船にザパーンと飛び込む。

 

「チルノちゃん、怪我しちゃうよ!」

 

同じようにバスタオルを巻いた大妖精が注意する。

 

「まったく、子供ね。あらこのシャンプー高級品だわ。」

 

「どんなキャラだよ。」

 

イス桶に座る霊夢に魔理沙が横からツッコむ。

 

「あの~。」

 

バスタオルで前を隠す妖夢が脱衣所から大浴場に入ってくる。刀を持って。

 

「刀は置いていけよ!」

 

魔理沙がツッコむ。

 

「え、でもこれがないと…。」

 

「別に何も警戒することないだろ。」

 

魔理沙が肩を落とす。

 

「分かんないよ~。黒刀もお年頃だから…ニシシ!」

 

そう笑うチルノ。

 

「いくつだよお前。」

 

魔理沙のツッコミが炸裂する。

 

 

 

 キッチン。

映姫は調理しながら黒刀をジト目で睨んでいた。

 

「どうしたの姫姉?」

 

「黒刀が悪さをしないか監視しているんです。」

 

「しないよ。」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。(以前、妖夢に重い一撃食らってるからな~。)」

 

 

 

 大浴場。

魔理沙はなんとか妖夢を説得して刀を脱衣所に置くようにしてもらった。

湯船には全員、浸かっている。

 

「う~ん。」

 

霊夢は妖夢を見て唸っていた。

 

「な、なんですか?」

 

「妖夢、あんた…なんでそんなに肌が綺麗なのよ。なにかやっているの?」

 

「え、いえ…何も。」

 

「嘘よ!」

 

霊夢は妖夢に抱きつく。

 

「れ、霊夢だって肌綺麗だよ!」

 

「これには敵わない!」

 

「何の勝負ですか!」

 

 

 

 5分後。

 

「はあ…はあ…何でお風呂に入ってまでこんなに疲れなくてはいけないんですか…。」

 

「はあ…はあ…恨むならその綺麗な肌を与えた神を恨むのね…。」

 

「逆恨みしてるのは霊夢の方です…。」

 

そんな言い合いをしている妖夢と霊夢を見て、魔理沙が頬杖をつく、

 

「なあ、霊夢。もしかして…黒刀が関係しているんじゃね?」

 

「なるほど。」

 

魔理沙と霊夢は2人してニヤニヤする。

 

「な、なに言っているんですか2人とも!私は別に…そんなんじゃ…。」

 

妖夢の顔が赤くなる。

 

「「え~でもな~。」」

 

「というかさっきからなんなんですかその笑顔!」

 

妖夢は両腕を上げて怒った。

 

「そういえば黒刀先輩って彼女いるんでしょうか?」

 

大妖精が話に入ってくる。

 

「え~、黒刀先輩についていける女っているの?」

 

霊夢がそう返す。

 

「まさか~!」

 

魔理沙もあり得ないと笑う。

 

 

 

 キッチン。

黒刀は一瞬、寒気がしてブルッと震える。

 

「どうしたの?」

 

映姫が心配して声をかける。

 

「なんでもない。」

 

黒刀は調理を続けた。

 

 

 

 入浴を終え、妖夢達は客間に戻ってきた。

 

「お、来たか。準備できてるぞ。」

 

テーブルには豪華な料理が並んでいた。

 

「え、なにこれ…宴会?」

 

霊夢はその豪華さに驚く。

 

「ん?甘酒が欲しいのか?あったかな~。」

 

「いや、そういうことじゃなくて…。」

 

「おっしゃ~!食べようぜ!」

 

魔理沙が席に着く。

霊夢も諦めて席に着く。

 

「「「「「「「いただきます!」」」」」」」

 

 

 

 30分後。

 

「あ~食った!食った!」

 

魔理沙が寝転がる。

 

「ごちそうさまでした。」

 

大妖精が行儀よく手を合わせる。

 

「どうも。それじゃ俺もお風呂に入ってこようっと。」

 

黒刀は大浴場へ移動する。

黒刀が行ったところで魔理沙が、

 

「なあ。」

 

「なによ?」

 

霊夢が返す。

 

「今のうちに覗いてみないか?黒刀の部屋。」

 

「…面白そうね。」

 

「え~、やめようよ~。」

 

霊夢が話に乗り、大妖精が止めようとする。

 

「そうですよ。人のプライベートを覗くなんて趣味が悪いですよ。」

 

妖夢も否定する。

 

「あたいはいく!」

 

チルノが手を挙げる。

 

「見たくないんだったら来なくていいのよ?」

 

「「うっ…。」」

 

結局、妖夢と大妖精は誘惑に負けてしまった。

 

 

 

 縁側を歩いていると妖夢があることに気づく。

 

「っていうか先輩の部屋、どこにあるか知っているんですか?」

 

「え、知らないけど。とりあえず全部調べればあるだろ?」

 

魔理沙が答える。

 

「ノープランってことですか~。」

 

妖夢は肩をがくりと落とす。

 

「ねえ、ここじゃない?」

 

霊夢がとある部屋の前で立ち止まる。

魔理沙はバーンと襖を開ける。

黒刀の部屋は10畳くらいの和室だった。

 

「ここが先輩の部屋…。」

 

妖夢が部屋を見渡す。

 

「広~い!ドッジボールできそう!」

 

「いや、無理だろ。」

 

チルノの発言に魔理沙がツッコむ。

壁の上の方には横掛け軸があり、『一撃必殺』と文字が書かれていた。

その時、霊夢が机の上に置いてある写真を見つける。

 

「あれ?この写真…。」

 

「どうした?」

 

魔理沙も近寄る。

 

「いや、この写真に映ってる緑の髪の女…どこかで見たような…。」

 

「会長じゃないよな。…ふ~ん結構可愛いじゃん。黒刀が狙ってた女だったりして。」

 

「いやいや、ないでしょ?」

 

「だよな!」

 

 妖夢も壁に飾ってある写真を見ていると、

 

「何見てるの?」

 

大妖精から声をかけられる。

 

「これを見てたの。」

 

妖夢が見ていたのは去年の剣舞祭個人戦で全国制覇した時の黒刀の写真だった。

写真の中の黒刀は優勝トロフィーと賞状をもらっていた。

 

「やっぱり黒刀先輩はすごいですね。」

 

大妖精が感嘆する。

 

「うん…でも少しおかしい。」

 

だが妖夢は違和感を感じていた。

 

「何が?」

 

大妖精が首を傾げる。

 

「先輩、勝ったのになんか嬉しくなさそうな顔してる。」

 

妖夢の言葉に大妖精が改めて写真を見る。

 

「確かに何か元気がないというか…仏頂面というか…でも黒刀先輩って大体そんな感じだと思うけど。」

 

大妖精の言葉に妖夢は首を横に振る。

 

「そうじゃない…そうじゃないの…何かは分からないけど変なの…。」

 

「妖夢…。」

 

 一方、チルノがクローゼットを開けるとそこには何本もの黒い刀が立てかけてあった。

 

「すげえ!黒刀の刀がいっぱいだ!」

 

「でもこれなんか全部長さが違うわよ。」

 

霊夢がチルノの後ろから指さす。

 

「ほんとだ。」

 

「何で?」

 

妖夢達が首を傾げていると、

 

「それは俺の体格に合わせて姫姉が作ったからだ。」

 

声が聞こえた。

 

「なるほど。そういうことか~。………っ!」

 

魔理沙は驚きのあまり飛び上がる。

振り向くと、そこには黒刀がいた。

 

「く…黒刀、もうお風呂あがったんだ…。」

 

「何をそんなに怯えている?俺は特に怒っていない。見られて困るものはないからな。」

 

その言葉に妖夢達はほっとする。

 

「ごめんなさい先輩。いけないって分かってはいたんですけど…。」

 

妖夢が頭を下げて謝る。

 

「だから怒ってないって。」

 

「なあ、結局この黒い刀は何なんだ?」

 

チルノが聞く。

 

「一番短いやつがあるだろ?それは俺が7歳の時に使ってたやつだ。

でも年齢を重ねて、鍛えて強くなっていくとどんどん刀と自分の体格が合わなくなっていく。

特に成長期はな。今はもうだいぶ体が出来上がってきているから大丈夫だけど。」

 

「じゃあ、1本もらっていい?」

 

黒刀の説明を聞いたチルノが小さめの刀を手に取る。

 

「あ~やめといたほうがいい。俺の刀は…。」

 

「~!な…に…これ…重っ!」

 

チルノは両手で持ち上げられないため畳の上に下ろす。

 

「俺の刀は全て特殊な術式が施されている。

俺や姫姉、刀に認められた者以外には負荷がかかるようになっている。」

 

「ちくしょ~!ふんぬ~!」

 

チルノはもう一度持ち上げようとするが腰までしか上がらず、とても実戦には使えそうにない。

 

「そういえばこれを会長が作っているってどういうことですか?」

 

大妖精が訊く。

 

「姫姉は刀鍛冶が得意なんだ。ライセンスも持ってる。

俺の身体データを一番知っているのは同じように鍛えてきた姫姉だけだからな。」

 

チルノが無理やり振り回していたところを黒刀は片手で止め、刀を取り上げる。

 

「分かったらもう寝ろ。明日も試験勉強あるんだから。」

 

「「「「「は~い。」」」」」

 

 霊夢達が部屋を出て行くところで最後に妖夢が立ち止まって、振り返る。

 

「先輩。」

 

「何だ?」

 

「先輩は去年、個人戦で全国制覇しました。」

 

「ああ。」

 

「それなのにどうしてあんな顔をしていたんですか?」

 

妖夢は写真を見ながら訊く。

 

「っ!」

 

黒刀は肩をピクッとさせる。

 

「先輩?」

 

「…あれは勝って当然だと思っていたからだ。」

 

黒刀は俯きながら答える。

 

「そ…そうですか…すみません。変なことを聞いて。」

 

「いや、別に。」

 

「それじゃあ、おやすみなさい。」

 

妖夢は頭を下げてから黒刀の部屋を出る。

 

「ああ、おやすみ。」

 

 黒刀は襖を閉めてから布団に仰向けになる。

 

「…去年…か…。」

 

黒刀は1人つぶやく。

黒刀は去年の剣舞祭個人戦で全国制覇した。

だが黒刀には試合中の記憶が一切無かった。

個人予選から本選の決勝戦までの試合中のみの記憶だけがない。

 

「(自分がどうやって勝ったのかも分からない。

それになんか自分が自分でないような感覚だけはあった。

自分でも分からない何かになっていたような。

団体戦で負けた後のことまでは覚えているけどその後、始まった個人予選の試合が思い出せない。

…俺があんな顔をしているのはきっと心のどこかで実力で勝ったと思っていないからかもな。)」

 

そこまで考えて黒刀はそのまま目を閉じて眠った。

 

 

 

 7月4日。

黒刀は日課である朝練を終え、キッチンに立つ。

 

「白飯と卵焼きとみそ汁…あとは適当でいいか。」

 

黒刀は驚きの手際の良さで料理を作っていく。

 

「おはよ~。」

 

そこへチルノが眠たそうに眼をこすって現れた。

 

「おはよう。ジュースは冷蔵庫に入ってあるから飲んでいいよ。

あと…ちゃんとパジャマ着ろよ。」

 

チルノのパジャマのボタンは上3つほど外れており、服がはだけていた。

 

「ん~。」

 

「しょうがねえな。」

 

黒刀はチルノのパジャマのボタンを付け直そうとする。

そこへ映姫が起きて来た。

 

「おはよう。…っ!黒…刀。」

 

映姫は言葉が詰まった。

今、黒刀の手はチルノのパジャマのボタンに手をかけているところだ。

 

「なにを…やっているの?」

 

映姫の問いに黒刀はうろたえる。

 

「いや…これは…待て…誤解するな。俺は…」

 

「このロリコンが~~~!」

 

映姫が影を巨大な拳に変形させて黒刀をアッパーで思いっきりぶん殴った。

 

「グフッ!」

 

黒刀はうめき声を上げた後、うつ伏せに倒れて動かなくなった。

 

「ふん!」

 

映姫は倒れている黒刀を放置してキッチンにある中断していた料理を作りにかかる。

ちなみにチルノは既に避難しており、居間でオレンジジュースを飲んでいた。

 

「今の音、何⁉」

 

その時、キッチンに霊夢が入ってくる。

 

「って死体⁉じゃなくて黒刀先輩か…。」

 

妖夢、魔理沙、大妖精も騒ぎに気づき入ってくる。

 

「あら皆さん、おはようございます♪」

 

映姫は笑顔で挨拶をする。

 

「「「「お…おはようございます。」」」」

 

妖夢達が怯えながらも挨拶をする。

 

「あの…会長。」

 

妖夢がたずねる。

 

「皆さん、朝食が出来たので居間に行ってください。」

 

映姫は笑顔を崩さない。

 

「え、でも…。」

 

魔理沙は床に倒れている黒刀を指さす。

 

「そこの愚か者は放っておいて構いません。それより朝食が先です。」

 

映姫はまだ笑顔を崩さない。

 

「でも…。」

 

妖夢が口を挟もうとする。

 

「ん?」

 

映姫は笑顔のまま首を傾げる。

 

「い…いえ!ちょ…朝食なにかな~!」

 

妖夢はわざとらしく言いながら居間へ歩く。

霊夢、魔理沙、大妖精もそれに続く。

 

「「「「(会長、こえ~!)」」」」

 

 

 

 30分後。

 

「はっ!」

 

黒刀が目を覚ます。

そして、先ほどの出来事を思い出す。

 

「(女難の相でもあんのかな…俺。)」

 

そう考えながら立ち上がり、居間に入ると妖夢達は試験勉強をしていた。

 

「あ、生きてた。」

 

霊夢が黒刀に気づく。

 

「誰が死ぬかよ。(っても姫姉の影でオーラ使いに結構効くんだよな。)」

 

「黒刀、ここ教えろ。」

 

チルノが口を開く。

 

「なんで、そんな偉そうなんだよ…まあいい。どこだ?」

 

「ここ。」

 

問題はこうだった。

 

問1 人間が肺呼吸する際に吸う期待は?

 

チルノの答え 二酸化炭素

 

「死ぬわ!」

 

黒刀は思わずツッコむ。

 

問2 クジラは何類?

 

チルノの答え 魚類

 

「こいつ、まじで高校生か?」

 

黒刀は頭を抱える。

 

問3 DNAの総称は?

 

チルノの答え ()ちゃんは()()手がいない

 

「失礼な!」

 

大妖精はテーブルをバンッと叩く。

 

「ひどいってレベルじゃねえな…。」

 

黒刀はため息を吐いた。

 

「どうするんだ?数学の時みたいには…。」

 

魔理沙が提案する。

 

「あれは偶然チルノに合っていたからだ。さすがに理科では…。」

 

黒刀は即座に否定する。

 

「まあ、チルノは普通にやって点数とれるわけないものね。」

 

霊夢は苦笑いする。

 

「それはどうでしょう?」

 

映姫がお茶を持ってきた。

 

「私ならチルノを上位にいかせるくらいの指導はできますよ。」

 

映姫の言葉を聞いた黒刀が固まる。

 

「どうしたの?」

 

霊夢がうかがう。

 

「いや、別に。」

 

黒刀はそう言ってお茶を飲む。

 

「どうです?チルノ、私が勉強を教えてあげましょうか?」

 

「お願いします!」

 

黒刀は気が気でなかった。

 

「(ソフトコースならまだいい。

だが、もしハードコースだったら…ちるの、悪いが俺には止められない。)」

 

「では私の部屋へ。」

 

映姫が自身の部屋へ先導する。

 

「は~い!」

 

チルノは元気よくついていった。

 

 

 

 5分後。

 

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

チルノの悲鳴が四季家中に響き渡る。

 

「(ハードの方だったか。)」

 

 

 

 さらに1時間後。

居間の襖が開き、チルノが居間に戻ってきた。

 

「チルノちゃん、大丈夫?」

 

大妖精が心配そうに声をかける。

 

「うん。」

 

チルノの目は死んでいた。

黒刀は問題を出す。

 

「チルノ、人間が肺呼吸する際に吸う気体は?」

 

「酸素。」

 

「クジラは何類?」

 

「哺乳類。」

 

「DNAの総称は?」

 

「デオキシリボ核酸。」

 

「クローン人間作成の成功例は?」

 

「2003年12月27日。2004年1月3日。同年1月22日。1月27日。2月4日。2月18日。」

 

「それを発表したスイスに本部を置く新興宗教団体名は?」

 

「ラテリアン・ムーブメント。」

 

「「「「「「(こいつ…誰?)」」」」」

 

黒刀達はチルノの変わりぶりに困惑した。

 

 

 

 7月8日。期末試験1日目。

チルノは数学、理科を難なく解いていた。

 

 

 

 7月9日。期末試験2日目。

チルノは残った他の教科も例の鉛筆を使わずに解いていた。

そして…

 

 

 

 7月12日。

ついに期末試験結果発表の日がやってきた。

妖夢達は空間ウインドウを操作して、期末試験の点数と学年順位を見た。

そこには…

 

1位 チルノ 500点

 

満点だった。

 

「よっしゃ~!」

 

チルノはガッツポーズして喜ぶ。

チルノのキャラは元に戻っていた。が…

 

「チルノ、元素記号を順番にカルシウムまで答えて。」

 

問題を出すと、

 

「水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオン、

ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、塩素、アルゴン、カリウム、

カルシウム。」

 

このようにキャラが変わってしまうようになってしまった。

 ちなみに大妖精、黒刀、映姫、阿求の4人も満点だった。

妖夢、霊夢、魔理沙も平均点を超えていたため剣舞祭代表全員は夏期講習を回避することが出来た。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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助っ人

通算UA1000突破!ありがとうございます!

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 7月17日。

 

妖夢達はとある島にいた。

 

今日から夏休みという時に、今朝、黒刀から《全員、和歌山の港に集合》と連絡の後にマップデータが送信され、行ってみると、クルーザーがあり、訳も分からぬままこの島に連れて来られた。

 

黒刀が口を開く。

 

「この島は四季家が所有する島だ。ここを今回の強化合宿所にする。」

 

「「「「「は…はあ~⁉」」」」」

 

妖夢達は島中に響くくらい叫んだ。

 

 

 

 合宿所女子更衣室。

 

「まったく、あの人はいつも急に物事を決めすぎよ。」

 

「その通りだぜ!」

 

霊夢と魔理沙が着替えながら愚痴を言う。

 

「そういえば、前の合宿所でやるって話じゃ…。」

 

「なんか合宿所のオーナーに断られたみたいです。

 

暴れまわった3人のせいでめちゃくちゃになったからだって…。」

 

妖夢の疑問に大妖精が着替えながら答える。

 

「3人って…黒刀とチルノ、あと霊夢か。」

 

魔理沙が指で数えながら言った。

 

「ちょ、わたしも⁉」

 

霊夢が心外とばかりに驚く。

 

「当たり前だぜ。」

 

魔理沙がそれを一蹴する。

 

「あの時は黒刀先輩が悪かったのよ!」

 

霊夢が言い訳をする。

 

「まあ、最強のあたいにあそこは物足りなかったってことね!」

 

チルノが胸を張る。

 

「「「「(こいつ、当事者なのに分かってねえ。)」」」」

 

妖夢達は呆れるしかなかった。

 

 

 

 学校指定の体操服に着替え終わった妖夢達は、黒刀の元へ向かう。

 

しかし、そこには監督のにとり、マネージャーの映姫と…

 

「あなた、私をバカにしてるでしょ?」

 

「してないよ。」

 

「嘘よ。」

 

「いや~お前、本当にいい奴だな。」

 

「私を騙してここに連れてきた奴の言葉なんて信用できるか!」

 

黒刀と口論していたのはなんと紅葉高校の犬走椛だった。

 

「椛…さん?」

 

妖夢は戸惑いを隠せない。

 

「あら妖夢、久しぶり。予選以来ね。」

 

「お久しぶりです。」

 

妖夢は頭を下げる。

 

「ところでどうしてこんなところに?」

 

妖夢が疑問を口にする。

 

その言葉に椛が物凄い剣幕で迫ってくる。

 

「聞いてよ!こいつが私を騙してこんなところに連れてきたのよ!」

 

そう言って黒刀を指さす。

 

「素直な子っていいよね~。」

 

黒刀は間延びした声で返す。

 

「もはや詐欺師だな。」

 

魔理沙はジト目で黒刀を睨む。

 

霊夢は椛に顔を向ける。

 

「椛さんは何って言われてここに?」

 

「そ…それは…言えない…。」

 

椛が急に口ごもる。

 

「じゃあ俺が言って…」

 

ゴンッ。

 

黒刀が口を挟もうとしたその時、彼の頭に映姫が影で作ったハンマーが叩きつけられる。

 

「いい加減にしなさい。」

 

「は~い。」

 

黒刀は頭を押さえると、気を取り直して、

 

「今回の合宿はこの島で3日間行う。」

 

「3日間?前より少ない…。」

 

黒刀の言葉に霊夢が口を挟む。

 

「予選前は土台作りが目的だったけど、今回は得意技の練度を上げることと弱点克服が目的だ。」

 

「なんで椛さんがこの合宿に?」

 

妖夢が挙手して質問する。

 

「俺が助っ人として呼んだ。」

 

「騙されただけよ。」

 

椛がプイッと顔を背ける。

 

「夏休みの課題手伝うから。」

 

「ならいい。」

 

「「「「「(いいんだ。)」」」」」

 

妖夢達は椛の変わり身の早さに内心、驚いた。

 

「まずはこの島をランニングで一周する。」

 

「何㎞?」

 

「6㎞。それを30分で一周する。できなかったらインターバルを挟んでもう一周する。」

 

「うわ~、きつそう。」

 

霊夢が嫌そうな顔をする。

 

「なんで30分?」

 

魔理沙が疑問を口にする。

 

「剣舞祭は1ラウンド15分。それが2ラウンドまであるからちょうど30分だからだ。

まあ、説明はこのくらいにしておいて走ろうか。」

 

「でもやっぱりきついだろうな~。」

 

魔理沙の一言に、

 

「え、こんなの普通だろ?」

 

黒刀が何言ってんのと言いたげな顔で返してきた。

 

「「(化け物め。)」」

 

霊夢と魔理沙は憎まれ口を心の中で叩く。

 

「じゃあ、ホイッスル鳴らしたらスタートだ。」

 

にとりが声をかける。

黒刀、妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、椛がスタート位置に立つ。

にとりがホイッスルを鳴らすと、全員が同時に走り出した。

 島の外周は道があるがところどころ岩などがあり、妖夢や魔理沙は何度もひっかかりそうになっていた。

先頭を走っているのは黒刀、椛、チルノである。

 

「あ~、でも俺もあんまり気乗りしないんだよな~。」

 

黒刀が走りながら文句を言い始めた。

 

「なんで?」

 

お前が始めたんだろという言葉は飲み込んで椛が訊く。

 

「この30分間、姫姉の体操服姿が全然見れなくなるのは悔しい!」

 

黒刀は拳を握りしめながら悔しそうに言った。

 

「は?」

 

椛は呆気にとられる。

すると、黒刀は熱弁し始める。

 

「あのむっちりとした太ももに体は小柄だがうなじが見える色気もまたいい!」

 

そんな黒刀に椛はジト目になって刀の柄で黒刀の横っ腹を突き、さらに鞘に納まった刀で黒刀の頭頂部を殴った。

 

「いてっ!なにすんだ!」

 

黒刀が声を荒げる。

 

「こっちのセリフよ!合宿中になんてことを考えているのよ!」

 

「姫姉のこと。」

 

黒刀が真顔で返す。

 

「そういうことを聞きたいわけじゃないのよ。」

 

椛が拳を握りしめる。

 

「う~ん、女心というものはよく分からん。」

 

黒刀が首を傾げる。

 

「くたばればいいのに…。」

 

椛はボソッとつぶやくのだった。

 

 

 

 30分後。

なんとか全員、時間内にゴールすることが出来たのだった。

 この合宿ではあくまで個人のスキルアップが主になるため、各々が勝手に特訓していく。

 

 

 

 黒刀は浜辺で『八咫烏』を縦、横、斜めに素振りしていた。

だが、それはいつもの素振りとは少し違うようだ。

 

「(とにかく剣速20に達しなきゃ四季流剣術が使えない。

俺の今回の合宿の目的は剣速20。

いつもみたいに10分で1万回振っていくんじゃ丁寧に20回振る!)」

 

ちなみに現在の黒刀の剣速は18。

 

 

 

 妖夢は『楼観剣』を抜き、椛と向かい合っていた。

 

「椛さん、お願いします!」

 

「うん。解放を使いこなしたいんだっけ?」

 

「はい。私、解放の発動方法が自分でもよく分からないので…でも全国でそんなんじゃ通用しないと思います。だからとにかく強い椛さんと闘えば何か掴めると思います。」

 

「なるほど。私は今の技を強化する以外にやることないし、ちょうどいいね。」

 

「あ、でもコツとかあれば教えて欲しいです!」

 

「コツ?そんなのないわよ。」

 

「え~!」

 

妖夢が驚く。

 

「まあ、あえて言うなら想いの強さかな?」

 

「想いの…強さ…。」

 

「勝ちたいではなく勝つとか…欲求ではなく実行することかな。」

 

「でもそんなの誰だって思っていることなのでは…。」

 

「解放は誰にでも可能性はあるけど、大抵の人間は途中で負けるイメージが頭に浮かぶ。

そんな半端な気持ちじゃ解放は出来ない。」

 

「なるほど。」

 

妖夢は首を縦に振って頷く。

 

「妖夢の場合、試合になったら集中力が凄いからそんなに不安になることもないと思う。」

 

「はい!」

 

妖夢は元気よく応える。

 

「じゃあ、やろうか。」

 

椛も剣を抜く。

 

「お願いします!」

 

 

 

 霊夢は魔理沙の特訓相手となっていた。

 

「悪いな霊夢。私、この前の予選が終わった後、ずっと考えてたんだ。

パワーは大事だけど、そのパワーを最大限に活かすには小規模の魔法もマスターしておくべきだって。」

 

「別に構わないわ。私も何をするか決めていなかったから。」

 

霊夢は霊符と霊力で闘うスタイルなので、知恵の使い方次第で無限に戦略が広がるため、とくに鍛えるということをあまりする必要がない。

 

「それじゃ、いくぜ!」

 

魔理沙が魔法弾を放つ。

だが、その魔法弾は弾速が非常に遅く、霊夢の手で軽く弾かれてしまった。

 

「キャッチボールより遅いわね。これじゃシャボン玉同然だわ。」

 

「パワーに頼らずに魔法を使うのがこんなに難しいとは…。」

 

魔理沙は肩を落とす。

 

「前途多難ね。」

 

霊夢はため息を吐いた。

 

 

 

 

「よし、来い!」

 

チルノが声を上げる。

チルノと向かい合っているにとりの腕には火炎放射器があった。

 

「ほんとにいいのか?これ、結構火力あるぞ?」

 

にとりは心配そうにチルノに訊く。

 

「アッハッハ!火なんてあたいが凍らせてやる!」

 

「(一応、浜辺だから水の心配はないけど…仕方ない。)それじゃポチッと。」

 

にとりがボタンを押すと火が放射される。

 

「よっしゃ~!凍らせて…ぎゃあああ!」

 

チルノは火を凍らせようとしたが、失敗して火だるまになる。

砂浜を転がって海に入る。

 

「バカだ…ここにバカがいる。」

 

にとりは呆れた目でそれを眺めていた。

 

 

 

 正午。

 

「お昼ですか…皆を呼ばないと。」

 

映姫は携帯端末で連絡していくが、黒刀にだけ繋がらなかった。

 

「あの子、いったいどこに?」

 

映姫は黒刀を探しに行く。

 しばらくして映姫が浜辺で『八咫烏』を素振りしている黒刀を見つける。

 

「黒刀、昼食だから戻って…!」

 

映姫は目を見開いた。

映姫が見た黒刀の剣裁きは今までとは比べ物にならない程、上達していた。

 

「綺麗…。」

 

映姫は思わずそう言葉が漏れた。

すると、黒刀が素振りを中断した。

 

「あ、姫姉どうしたの?」

 

「あ、その…昼食の時間…。」

 

「あ、ごめん。夢中で全然気づかなかった。行こう。」

 

黒刀は『八咫烏』を鞘に納めて歩き出す。

 

「…うん。」

 

タオルで汗を拭きながら歩く黒刀の後ろ姿を見ながらついていく映姫。

 

「(この短期間でこの成長速度…一体、この子はどこまで強くなるつもりなの?)」

 

映姫は自分の弟がなぜか遠くに感じた。

 

 

 

 昼食はそうめんだった。

 

「黒刀、抽選会のこと忘れるなよ。」

 

にとりが釘を刺す。

 

「分かってるよ。」

 

「え~!また黒刀が行くの?」

 

チルノが文句を言い始める。

 

「今度の抽選会は生中継でやるからお前は連れていけない。俺、1人で行く。」

 

「たしか場所は長野でしたね。」

 

映姫が思い出したように口にする。

 

「うん。そこならバイクで行ける。」

 

「それに試合も生中継だしね。」

 

椛がそう言って麺をすする。

 

「何!つまりあたいが最強ってことが全国に知れ渡るってことか!」

 

「まあ、私も黒刀が行くのは正しいと思う。

抽選会は互いの威厳を示す意味もあるからエースクラスが揃う。ビビったら終わり。」

 

椛が黒刀の行動に賛成の意思を示す。

 

「たしかに先輩だったら逆にビビらせそうですもんね。」

 

妖夢は苦笑い。

 

「俺は普通にしているつもりでいるが?」

 

「それがプレッシャーを与えるんだよ。まあ、こっちにとってはラッキーだけど。」

 

魔理沙がそう言って麺をすする。

 

「う~ん。俺は全力の相手と闘いけどな。」

 

黒刀はそう言って麺をすする。

 

「よく言うわよ。自分はいつも隠してるくせに。」

 

椛がボソッとつぶやく。

 

「…じゃあ決闘するか?」

 

黒刀がそう提案する。

 

「あなたと?」

 

「そうだ。」

 

「いいわ。相手してあげようじゃない。」

 

ちょうど食べ終わった黒刀と椛が睨み合う。

 

「俺の実力が知りたいなら引き出してみろ。」

 

「その化けの皮、剥がしてやる。」

 

 

 

 妖夢達も食べ終わり、そろって浜辺へ向かう。

 

「なんかすごいことになっちゃったね。」

 

妖夢が霊夢にささやく。

 

「まさか、もう一度この闘いが見れるなんてね。」

 

霊夢も若干、楽しんでいる。

黒刀は椛と向かい合い、ゆっくりと鞘から『八咫烏』を抜く。

椛はそこでやっと黒刀の刀が変わっていることに気づく。

 

「怖い刀ね。刀身からオーラが漏れ出ているじゃない。」

 

「こいつは特別なんだ。

今回の合宿にお前を連れてきたのはあいつらを強くするっていうのもあるけど、こいつを試したくてな。その最初の実験台はお前がちょうどいい。」

 

「実験台…ね。私もなめられたものね!」

 

椛はそう言い放って剣を抜く。

既に決闘申請は済ませてある。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのは黒刀だった。

砂浜で足を踏み込んで突撃する。

オーラを込めて踏み込んだため、砂煙が噴き上がる。

 

「目くらましのつもり?だけど私の『千里眼』には透視能力も含まれている!」

 

椛の瞳が満月のように変わる。

椛は砂煙の中を見る。

 

「(さあ、どっちに…え?方向転換しない…真っ直ぐ⁉)」

 

椛は驚く。

黒刀が砂煙の中から現れて袈裟斬りをしかける。

 

「ここ!」

 

椛は黒刀の肩に突きを放つ。

しかし、黒刀は袈裟斬りを中断して、そのカウンターを斬り上げで止める。

 

「やりますね。ですが勝負はこれから…っ!」

 

椛がそう意気込んだその瞬間、椛の体に痛みが走る。

 

「バカな…なんで…。」

 

椛は膝をつく。

 

「ちょっと踏み込み過ぎたか…。」

 

黒刀が口を開く。

 

「あなたの攻撃は止めたはず…。」

 

「ああ。止めたな…1回は。」

 

「1回は?」

 

「お前は18回斬られている。俺は19回、『八咫烏』を振った。

お前はその内の1回を止めただけ。

いくら『千里眼』でも速度で俺に追いつけなきゃ意味ないぜ…さて、まだ続けるか?」

 

「…いいえ。私の負け。」

 

《勝者 四季黒刀》

 

映姫は息を呑んだ。

 

「(剣速が19回に達している。あと1回で四季流剣術が使えるようになる。)」

 

「どうやらあなたの力を引きだすにはまだまだ修行不足のようね。」

 

「修行不足なのは俺も同じだ。」

 

黒刀はそう言って膝をつく椛に手を差し伸べる。

椛はその手を取って立ち上がる。

 

「絶対に優勝してきなさい。」

 

「ああ!」

 

黒刀はそう応えるのだった。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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抽選

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 7月20日。

黒刀は早朝からバイクで長野県の抽選会場へ行くため出発した。

バイクで走行中、

 

「(おそらく会場には六道、五位堂、二宮、レミリアが来るはず。)」

 

 

 

 一方、妖夢達は神光学園の生徒会室に集まり、抽選会の生中継を見ることにした。

 

「なんかこっちが緊張してきました。」

 

妖夢は胸を抑えて口にする。

 

「な…なんでお前が緊張するんだよ!」

 

そう言って妖夢の肩を叩く魔理沙もガチガチに緊張していた。

 

「そんなに気にすることないぞ。抽選会の時のあいつ、割と普通だから。」

 

にとりがソファにもたれかかりながら口にする。

 

「そうなんですか?てっきりもっと派手にしているのかと…。」

 

大妖精もソファに腰かけながら可愛らしく首を傾げる。

 

「さすがの黒刀もそこまでしませんよ。」

 

映姫もソファに腰かけて、ティーカップで紅茶を飲みながら口を挟む。

 

「あいつ、観察力と洞察力が良いから多分、他の選手を見ているんだろう。」

 

そう言ってにとりが笑う。

 

「なるほど…。」

 

大妖精が感心したようにうなずく。

 

 

 

 長野県剣舞祭抽選会場地下駐車場。

黒刀は4時間かけて到着した。

 

「渋滞でだいぶ時間かかっちまったな。」

 

そう言ってエンジンを切る。

そこへ、

 

「そのアンチグラビティバイク、初めて見る型だね。最新型かい?」

 

声が聞こえたので振り返ると、そこにいたのは眼鏡をかけていて、

身長は185㎝くらい、髪は綺麗に整っていて、身だしなみもしっかりとした知的そうな男だった。

 

「自分で作った。」

 

黒刀は短く答えた。

 

「それは凄い!ああ、すまない。自己紹介がまだだったね。

僕は白雪高校3年の雪村氷牙です。よろしく。」

 

雪村はそう言って握手を求める。

 

「神光学園2年の四季黒刀だ。」

 

黒刀は雪村の握手に応じた。

 

「うん、知ってる。君は有名人だからね。せっかくだからこのまま一緒に会場へ向かおうか?」

 

「ああ、構わない。」

 

2人はエレベーターの中に入り、雪村が1階のボタンを押す。

 

「意外だな。」

 

黒刀が口を開いた。

 

「何が?」

 

黒刀の背後に立つ雪村が訊き返す。

 

「ここには五位堂が来ると思っていた。」

 

「ああ、彼女はうちの1位じゃないからね。」

 

「抽選会には2人で来ることも許されているはずだ。」

 

「そういう君も言いたいところだけどね。

…五位堂光は我が白雪高校の校内ランキングで3位。そして、僕は2位。」

 

「あいつが3位?」

 

「本当は1位の子を連れてくるべきなのかもしれないけど、

その子が今、君に会う時ではないと言っている。」

 

「(1位は俺の知っている人間ってことか…誰だ?)」

 

「詮索はしない方がいいよ。」

 

「!」

 

黒刀は心の中で動揺する。

 

「まあ、会うまでのお楽しみということにしておいてくれ。」

 

「(なんだ…こいつ。)」

 

黒刀がそう思ったところで、エレベーターのドアが開く。

エレベーターから出たところで、

 

「悪い。一緒という話だったが先に行く。」

 

「ああ、どうぞ。」

 

黒刀が先に会場に行って見えなくなったところで、

 

「なるほど。確かに彼女の言っていた通りの人間だ。

それにしても、やはり剣舞祭は素晴らしい!強者のデータが溢れている!

嬉しいよ!データプレイヤーとしては!」

 

雪村はそう言って口元をニヤリとさせるのだった。

 

 

 

 黒刀が抽選会場のドアを開けると、そこはダンスパーティーができるくらいの広さがあった。

会場に入ってきた黒刀に気づいた他校の選手達がひそひそと話し始める。

黒刀はそれを無視して、壁の方に移動してもたれかかる。

会場には椅子が無いため立って待つことになる。

数十秒後、雪村も会場に入ってくる。

雪村は黒刀のいる場所とは反対方向に歩く。

次に入ってきたのが六道仁だった。

他校の選手達はそれを見た瞬間、目を逸らす。

六道は黒刀を視認すると舌打ちして雪村と同じ方向に歩き出す。

次に入ってきたのはなんと身長2mはありそうなスキンヘッドの男だった。

 

「でけえ。」

「まじで高校生かよ…。」

 

周囲から声が漏れる。

 

「(周囲の反応を見る限り、初出場か。…記憶が無いのがこんなに不便だとはな。)」

 

黒刀はため息をつく。

 

「随分と浮かない顔ね。」

 

「………いきなりなんだ輝夜。」

 

黒刀に声をかけてきたのは蓬莱山輝夜。

黒髪のストレートで腰より長い。前髪は眉を覆う程度の長さのぱっつん系。瞳の色は赤。

服は上がピンクの着物。

大きめの白いリボンが胸元にあしらわており、服の前を留めるのも複数の小さな白いリボンである。

袖は長く、手を隠すほどある。

下は赤い生地に月、桜、竹、紅葉、梅と日本の情緒を連想される模様が金色で描かれているスカート、

その下に白いスカート、さらにその下に半透明のスカートを重ねて履いている。

学年は3年生。

 

「あら、覚えてくれていたのね。」

 

輝夜はクスッと笑う。

 

「そりゃ社交パーティーで何度も顔を見ていれば覚える。にしても珍しいな。

お前がこんなところに来るとは。」

 

「沖縄県代表首里高校は私の学校であり、私の家でもある。家の代表として来るのは当然。」

 

輝夜はそう言って自慢げに胸を張る。

ちなみに首里高校は今年で創立412年を迎えるが、実は数年前に校舎そのものはある場所に変わっていた。それは首里城である。そう、ここにいる蓬莱山輝夜はなんと当時世界遺産であった首里城を圧倒的財力で買収し、さらに自分の家にすると共に、一部を校舎として利用するようにしたのだ。

 

「(1000兆分の1の世界…つまり加速世界に踏み込んだ女か。

全く世の中には恐ろしい能力を持った奴がたくさんいやがるな。)」

 

黒刀は自分のことを棚に上げてそんなことを考える。

 

「それじゃ、私はそろそろ離れた方がいいかもね。

いつまでもここにいると有象無象の視線が邪魔で仕方ないから。」

 

輝夜はそう言いながらこちらを見ていた人間を睨む。

 

「じゃあね。」

 

「ああ。」

 

輝夜が小さく手を振って黒刀から離れると、またもう1人会場に入ってきた。

黒刀より少し背が高めの男で、顔はクールなイケメンで、制服の着こなしはもはや一流のビジネスマンのようだった。

その男の名は二宮優。二宮総一郎の息子である。

優は一瞬、黒刀に視線を向けたがすぐに外した。

 

「(声かけたら殺されかねないな。)」

 

黒刀は心の中で苦笑していると、会場の入り口のドアがいきなりバンッと開き強い風が吹いてきた。

会場に入ってきたのは去年の優勝校紅魔学園のレミリア・スカーレットだった。

レミリアが入ってきた後、メディアの人間がぞろぞろと会場に入ってきた。

レミリアは黒刀と同様に近寄りがたい雰囲気を出している。

 

「(フランや早苗はいないようだな。よかった。あいつら面倒くさいからな。)」

 

黒刀は心の中で安堵する。

 そして、ステージを見ると、そこには大会運営委員が立っており、その前のテーブルにはくじ引き箱が置かれていた。

 

 

 

 生徒会室。

既に中継は始まっており、妖夢達はそれを見ていた。

 

「あそこにいる人達みんな剣舞祭に出るんだよね…強そう。」

 

妖夢は少しびびる。

 

「(私にはひよっ子ばかりにしか見えないけど。)」

 

にとりは欠伸をする。

 

「っていうか黒刀が映ってないぞ!あいつどこだ?」

 

魔理沙がモニターウインドウを凝視する。

 

「あはは、あの子はマスコミとか嫌がりますから多分、自分からそういう雰囲気を出して撮りにくいんじゃないですかと。」

 

映姫はそう言って苦笑いする。

 

「案外、端っこにいたりしてな!」

 

「それでカッコつけてそう!」

 

小町と魔理沙がそう言って笑い合う。

 

 

 

 抽選会場。

 

「(早く帰りたい…。)」

 

黒刀がそう思っていると、会場の人達がざわつき始めた。

 

「ん?」

 

黒刀がステージに視線を移す。

そこに立っていたのは身長180㎝の顎に髭を生やした中年男性、

ナンバーズの1人に新大日本帝国の総理大臣の一ノ瀬太陽であった。

その男が口を開く。

 

「選手の皆さん、そしてこの中継を見てくださっている皆さん!一ノ瀬太陽です!」

 

一ノ瀬は礼儀正しく礼をする。

 

「(名乗らなくてもみんな知っているよ。

それにしても総理大臣と言わなかったってことはナンバーズとして来たってことか。)」

 

黒刀は心の中でツッコむ。

一ノ瀬は演説を続ける。

 

「今年の剣舞祭には優秀な高校生が集まっていると聞いて、私も少し心が躍っています!

と、これ以上話が続いてしまうと、進行が遅れてしまう。私は裏で見守っているとしよう。」

 

そう言って一ノ瀬が去った後、会場の人間が詰まっていた空気を吐き出すかのようにほっとする。

 

「そ、それではこれより剣舞祭本選大会の抽選会を開始いたします!」

 

運営委員の男が宣言すると、その背後にトーナメント表の空間ウインドウが展開される。

今のところトーナメント表は空白だ。ただ1つを除いて。

トーナメント表の左上には既に『紅魔学園』と表示されていた。

これは去年の優勝校であるため自動的にシードになるからである。

それでもレミリアがここに来たのは優勝校としての絶対的な余裕だろう。

 

「北海道代表 白雪高校!」

 

運営委員が呼ぶ。

 

「はい。」

 

雪村がステージに上がる。

そして,クジを引く。

 

「46番!」

 

運営委員が大きな声で読み上げる。

 

「(1番である紅魔学園とは真逆。これならデータがとれますね。)」

 

雪村はそう考えながらステージを下りる。

 

「大阪府代表 王龍寺高校!」

 

「はい!」

 

出てきたのは例の2mのスキンヘッド。

 

「やっぱでけえ。」

「つーか禿げてるからライトに当たると眩しいんだけど。」

「なんか見た目おっさんぽいっし。」

 

他校の選手達がひそひそと話す。

 

「26番!」

 

「おいおい、紅魔学園の逆側がどんどんなくなっていくぞ。」

「出場校は49校あってその内の24校が紅魔学園の逆側になるんだからあと22校もあるんだ。

問題ねえだろ。」

 

「福岡県代表 鷹岡高校!」

 

「はい。」

 

六道がステージに上がり、くじを引く。

 

「42番!」

 

「あ~また…。」

 

他校の選手達が顔色が悪くなっていく。

 

「宮城県代表 仙台高校!」

 

「はい。」

 

優がステージに上がると、他校の代表の女子達が騒ぎ出した。

「やっぱりカッコイイ。」

 

「チッ、世の中顔ってか?」

他校の男子が舌打ちする。

 

「34番!」

 

「またかよ!」

彼らの希望が1つずつ潰れていく。

 

 

 

 生徒会室。

 

「仙台高校とは当たりたくないな。」

 

「なぜですか?」

 

にとりの言葉に妖夢が訊く。

 

「黒刀と相性が悪すぎる。とくにあの二宮優は。」

 

「でもあの人ならどんな相手でも負けないわ。あの人が負けるところなんて想像できないもの。」

 

霊夢が口を挟む。

 

「そうだな。(私は見たけど。)」

 

魔理沙は黒刀が映姫に負けた時のことを思い出していた。

 

《奈良県代表 神光学園!》

 

「「「「「来た!」」」」」

 

 

 

 黒刀はステージに向かって歩き出す。

「二宮様もいいけどこっちもかっこいいよね。」

他校の女子がまた騒ぎ出す。

 黒刀がステージに上がると、紅魔学園、王龍寺高校、仙台高校、鷹岡高校、白雪高校、首里高校の代表達は今までより注目していた。

黒刀はくじ引き箱にゆっくり手を伸ばす。

そして、箱の中からくじを引く。

番号は…

 

「49番!」

 

紅魔学園と正反対だった。

 

「(レミリア、お前にこの未来は見えていたか?)」

 

黒刀はステージを下りながらレミリアを見る。

 

「(もちろん見えていたわ。その勝者もね。)」

 

レミリアも視線で返す。

 

「沖縄県代表 首里高校!」

 

「はい。」

 

輝夜が着物でステージに上がる。

 

「(よくこけねえな。妖夢だったら何もないところでこけるのに。)」

 

黒刀は素直に驚いていた。

 

「48番!」

 

「(おいおい、初戦はこいつかよ。)」

 

黒刀は面倒くさそうな顔をする。

 

「言い忘れていたけど、こっちにもナンバーズはいるから。」

 

輝夜がステージを下りて、黒刀の横を通り過ぎる時にそう口にして行った。

黒刀は考える。

 

「(沖縄にいるナンバーズ…って『魔女』じゃねえか。)」

 

 

 

 そして、次々と代表校がくじを引いていき、トーナメント表が埋まる。

 

「さて、帰るか。」

 

黒刀が帰ろうと壁から背中を離したその時、入り口のドアが勢いよく開いた。

さらに武装した集団がなだれこんでくる。

会場から悲鳴を上げる。

 

「てめえら床に伏せろ!早く!」

 

銃を突きつけられた者達は言うとおりにする。

そして、黒刀のところにも。

 

「貴様もだ!」

 

「(俺のところには5人か…なるほどそういうことね。

さて、気づいている奴は何人いるかな。…たしかポケットにあれが。)」

 

「早くしろ!」

 

「はいはい、まずは手を上げて…」

 

黒刀はポケットから百円玉を取り出して、手を上げると同時に上にピンッと弾く。

 

「床に()()()()()。」

 

黒刀は5人が百円玉に気を取られている隙に5人の鳩尾にコンマ0.01秒間隔で掌底を叩き込んだ。

そして、全員倒した後に落ちてくる百円玉をキャッチする。

自分の敵を片付けた黒刀が周りを見ると、数名だけ黒刀と同じ考えの者がいたようだ。

 

 

 

 

「こいつ!」

 

「あなたたち、のろすぎるわ。」

 

敵の弾を避ける輝夜が吐き捨てる。

 

「なに…っ!」

 

敵の気が遠くなっていく。

 

「安心しなさい。ただの手刀よ。」

 

 

 

「やれやれ…君たちのデータには興味ないんだけどね。」

 

「くっ!」

 

雪村は敵のナイフを躱し、足をひっかけて体勢を崩し額に掌底を叩き込む。

敵は脳震盪を起こして気絶する。

 

「僕は接近戦はあまり得意じゃないんだ。」

 

 

 

「おらおら!」

 

六道は拳をどんどん叩き込んでいく。

 

「このガキ!」

 

敵が引き金を引くと、六道は弾を躱し顎にアッパー。

 

「舐めてるとぶっ殺すぞ!」

 

 

 

「お前らに用はない。消えろ。」

 

優は冷たく吐き捨てる。

 

「ふざけるな!床に伏せろ!」

 

「…俺に命令をするな!」

 

優は敵の攻撃を次々と躱し、腹に拳を叩き込んでいく。

 

 

 

 王龍寺高校の岩徹剛は敵を持ち上げ投げ飛ばしていた。

 

 

 

 レミリアは4人の敵に囲まれていた。

 

「そこのチビ、床に伏せろ!」

 

ピキッ!

 

レミリアは今の発言にキレた。

次の瞬間、4人の敵はレミリアの回し蹴りで蹴り飛ばされた。

 

「身の程を知りなさい無礼者!」

 

レミリアの倒した敵が最後だったようだ。

すると、ステージに一ノ瀬が現れ拍手をしてきた。

 

「お見事。

さて、突然の来客に驚いた方がいるでしょうが実はこの者達は私が用意した偽物のテロリストです。」

 

その言葉を聞いたほとんどの者が驚きざわめき出した。

一ノ瀬はそれを手で制すると、

 

「ご安心を。彼らの銃とナイフは偽物です。…皆様はこう思っていることでしょう。

なぜこんなことをしたのか?

それはもし、テロリストに襲撃を受けた場合に君達のように力を持つ存在に何が必要か確かめるためです。そして、はっきりしました。

テロリストに襲撃された時に求められるのは強い戦闘力と屈することのない精神力です。

その点に関しては特に神光学園の四季黒刀君、紅魔学園のレミリア・スカーレットさん。

この2名の動きは大変すばらしかった。」

 

一ノ瀬は黒刀とレミリアを賞賛する。

 

「(当たり前だ。俺はともかくあいつも経験しているからな…本物の殺し合いを…。)」

 

黒刀は昔の記憶を思い出す。

その間も一ノ瀬の演説は続く。

 

「動けなかった者達も恥じることはない。

今回の剣舞祭で自分自身を高め、成長することができればきっと変われるだろう。

では選手の皆さん、健闘を祈っている。」

 

そう言って一ノ瀬はステージから去って行った。

沈黙の後、1つの拍手が響き、やがてそれは伝染し大きな拍手となる。

だがナンバーズ達は気づいていた。

一ノ瀬の言葉の真意を。

 

「(相変わらず自分好みの兵士を作り出そうとしている。)」

 

黒刀は一ノ瀬の国防に対する貪欲さに嫌気が差していた。

 

 

 

 生徒会室。

 

「はあ~、よかった…先輩が事件に巻き込まれたかと思いました。」

 

妖夢はほっとして息を吐く。

 

「黒刀先輩なら心配ないでしょ。むしろ相手に同情するくらいよ。」

 

霊夢が笑い飛ばす。

 

「(あっぶねえ~!軍人だとバレるかと思った~!)」

 

にとりは内心ハラハラしていた。

 

 

 

 

「(それにしても、あの人も無茶なことをやらせる。

テロリストは倒せ。ただし、素手で。

この中に試合前で手の内をさらすような間抜けがいるはずがない。

まあ、輝夜は別として。さて、そろそろ帰るか。)」

 

黒刀は入り口のドアに向かって歩こうとすると、ガラの悪い他校の代表男子が前に出て来て通行を阻んだ。

 

「お前、総理に褒められたからって調子に乗んじゃねえぞ!」

 

「そうだ!隅っこでおとなしくしてな!」

 

「「ハハハハハ!」」

 

「…どこの誰かは知らないけど通してくれない?」

 

「あ?てめえ!知らねえだと!去年、闘った俺を!」

 

「俺はその双子の弟だ!」

 

「(まじで記憶にない。)」

 

「てめえら神光学園とは2回戦であたるからその時にボコボコにしてやるよ!」

 

「2回戦?」

 

黒刀は振り返ってトーナメント表を見る。

北海道代表の隣に和歌山県代表があった。

 

「和歌山…あ~、あのよく忘れられる県か。」

 

「てめえ!なめてんじゃねえ!みかん最強だコラ!」

 

和歌山県代表の男が殴りかかるとその拳は空振りに終わる。

目の前にいたはずの黒刀はいつの間にか2人の背後にいて帰ろうと歩いていた。

 

「この調子に乗ってんじゃ…」

 

振り返って殴りかかろうとしたその時、

 

「邪魔よ。」

 

背後から冷たい声が聞こえた。

 

「あ?どこの誰だか知らねえが誰に向かって言って…。」

 

和歌山県代表の男は振り返った瞬間、固まる。

そこにいたのはレミリアだった。

レミリアの目は冷酷で力強かった。

自分達より背は低いはずなのに威圧感で大きく見える。

レミリアの目を見た2人は恐怖で腰が抜け尻餅をついてしまう。

レミリアはその2人の間をゆっくりと歩いて通り過ぎていく。

 

「(ば…化け物だ…あんな奴が同じ大会に出てるってのかよ…無理だ…勝てるわけがねえ…

あんな化け物に勝てる奴なんてこの大会にいるわけがねえ…。)」

 

戦意喪失したこの2人は既にこの剣舞祭で負けたも同然だった。

 

 

 

 雪村は一部始終を観察していた。

 

「(メディアのカメラが既にいないから今のを後で確認できないのは痛い。

…けどやはり凄いものだな…『王』というものは。)」

 

雪村は素直に感心するのだった。

 

 

 

 生徒会室。

 

「にとり先生、あのレミリア・スカーレットさんという方は何者なんですか?」

 

妖夢がにとりに訊く。

 

「去年の剣舞祭団体戦で1年生にして紅魔学園のエースを務め、

紅魔学園では入学1日目で校内ランキング1位になったらしい。

さらに去年はあの紅魔学園の犬走椛と闘ってノーダメージで勝利した。」

 

にとりの答えに妖夢は驚愕した。

 

「あの椛さんが…ノーダメージ…。」

 

「あと彼女はイギリスからの留学生です。

私もイギリスに行った時、黒刀と一度だけ会いました。

彼女には妹がいます。

才能もあって、ちょうど皆さんと同じ1年生なので選手として出場する可能性は十分あると思います。」

 

映姫が補足する。

さらに小町がソファの背もたれに後ろから乗りかかって

 

「ネットとかだとレミリア・スカーレットは東の『未来王』、弟君は西の『破壊王』って呼ばれているらしいですよ。あの2人が剣舞祭に出てからはツートップになって誰も勝てなかったんですよ。」

 

「そ…それで…それだけ強かったってことは個人戦で闘ったんですよね?」

 

妖夢が身を乗り出して訊く。

 

「そうか…妖夢は本選を見ていないんだっけ。いや、闘わなかったよ。」

 

小町がそう答える。

 

「え?」

 

妖夢は虚を突かれる。

 

「弟君は個人戦だけ、レミリア・スカーレットは団体戦だけだった。」

 

「どうして?」

 

「さあ、予選は通っていたはずなんだけど本選には現れなかった。」

 

「過去の話です。今は1回戦の相手である首里高校の対策を考えるべきです。」

 

映姫が話を一旦、区切らせる。

 

「映姫の言う通りだ。

上ばかり見て足をすくわれたら全てが台無しになる。

とりあえず予選の映像を見ていこう。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

にとりの言葉に妖夢達は元気よく応えた。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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剣舞祭

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 7月21日。午前9時。

黒刀達は神光学園の視聴覚室で首里高校戦に向けて作戦会議をしていた。

 

「本選も基本的にオーダーを変えるつもりはない。これは覚えていてくれ。」

 

黒刀の言葉に妖夢達がうなずく。

 

「まず先鋒の藤原妹紅。火属性の霊術使いだ。

平安時代で有名な藤原家の末裔でもある。

戦法はシンプルで、ひたすら炎で力押ししていくスタイルだ。

こういう相手には裏をかいていくトリッキーな闘い方ができる奴が適しているんだが…。」

 

と、そこで黒刀は言葉を切ってチルノを見る。

 

「ん?あたいなら天才的に勝てる!」

 

チルノの言葉に黒刀はため息を吐いた。

 

「いや、お前はいつも通りでいいよ。変に闘って調子崩されても困る。」

 

「分かった!」

 

チルノは親指をグッと立てる。

黒刀は気を取り直す。

 

「次鋒は七瀬愛美。

気づいていると思うが、こいつもナンバーズだ。

戦闘スタイルは『チャーム』というスキルを使って異性を魅了し、

自分に有利な状況に持っていて勝つスタイルなんだが…。」

 

と、また言葉を切って魔理沙を見る。

 

「ま、大丈夫だろう。」

 

と、結論づけた。

 

「いやいや、魔理沙は男っぽいからかかっちゃうかもしれないわよ?」

 

霊夢が魔理沙をからかう。

 

「私は正真正銘の女!」

 

魔理沙が机をバンッと叩く。

 

「え~、でも言動とか…あと体重とか…。」

 

「体重のことは言うな~!」

 

魔理沙の顔が真っ赤に染まる。

 

「はいはい、2人とも落ち着け。」

 

黒刀が霊夢と魔理沙の肩に手を置く。

 

「七瀬の『チャーム』は眼を見ない限りかかることはないから安心しろ。」

 

「だから…私は…女だ…。」

 

「ああ、分かってるよ。」

 

黒刀は魔理沙の頭にポンと優しく手を置いた後、教卓に戻り、モニターウインドウに視線を戻す。

 

「次は中堅の鈴仙・優曇華院・イナバ。

兎耳の獣人族でジャンプ力が特に高く、さらに魔法弾の射撃も一流だ。

妖夢にとっては経験の少ない遠距離主体の相手だが頑張ってほしい。」

 

「はい!」

 

黒刀のエールに妖夢は応える。

 

「次は副将の蓬莱山輝夜。

弾幕を使った遠距離戦と1000兆分の1の速度の世界に踏み込むスキルを持っている。」

 

「1000兆分の1のね~。」

 

霊夢は頬杖をつきながらつぶやく。

 

「ま、なんとかするわ。」

 

「じゃ、頼むわ。」

 

「(軽っ!)」

 

黒刀の隣に立つ大妖精が霊夢と黒刀のやり取りに心の中でツッコむ。

 

「で、次が大将の海道修…ってあれ?にとり先生~、映像出ないんですけど~。」

 

「悪い。首里高校は予選を副将までで勝ち上がっているし、海道修は個人予選にも出ていないからデータがないんだ。」

 

「そっか…じゃあぶっつけ本番で何とかする。

それじゃ最後に試合のスケジュールを確認しておく。

初戦は8月1日。11日後だ。

俺らは1回戦、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝、決勝の計6試合を勝てば優勝だ。短そうにも思えるが1回負ければ終わりのトーナメントだ。

気を抜かずに全力で闘い、そして果たそう…全国制覇!」

 

その言葉を聞いた妖夢達の表情が引き締まる。

 

「場所は東京デュエルアリーナ!

7月30日の午後5時に学校の正門前に集合して、にとり先生の車に乗って出発する。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 7月29日。

今日は黒刀と映姫の引っ越しの日だった。

実は住んでいたアパートに住んでいたことには2つ理由があった。

1つは庶民的生活を学ぶこと。

もう1つは新居に引っ越すまでのつなぎである。

引っ越し屋や小町に手伝ってもらい、順調に荷物や家具を新居の中に入れていく。

1階にはカフェスペースがあり、黒刀と映姫が自分達で機械、テーブル、椅子など必要なものを運んでいく。

映姫が場所を指定して黒刀が置く。

さらにこの新居は商店街のど真ん中に建っているため、商店会にも加入し、商店街の事業としての活動の準備も進めている。

 

「まあ、開店は俺が卒業してからだがな。」

 

「約2年ですか…長いですね。」

 

「それまでは誰かの誕生日パーティーの会場にでも使おう。」

 

「それはいいですね♪」

 

映姫が優しく微笑む。

やがて引っ越しが完了した。

 

「じゃあ、私は帰るな。あとは2人でごゆっくり~。」

 

「ありがとう小町。」

 

「いいってことよ!」

 

小町は手を振って帰って行った。

小町の姿が見えなくなったところで、

 

「それじゃ中に入りましょうか?」

 

映姫が黒刀に声をかける。

 

「ああ。」

 

2人は手をつなぎ玄関から新居に入る。

順番に部屋を見ていき、やがてリビングのソファに座る。

 

「なんか夢みたい…。」

 

映姫はそうつぶやく。

 

「なにが?」

 

黒刀がそう訊く。

 

「黒刀とこんな素晴らしい家に住んで…こんなに幸せでいいのかな?」

 

「いいんだよ。姫姉が幸せで笑っていてくれたら俺はそれでいい。」

 

「黒刀…んっ…。」

 

映姫がいきなり黒刀に抱きつく。

 

「ひ、姫姉⁉」

 

黒刀は突然の事に驚く。

 

「ありがとう…。」

 

映姫は黒刀にお礼を囁いた。

 

「あ…うん…どういたしまして………それより、ほら!夕飯作らないと!」

 

黒刀は照れながら言った。

 

「あ…そうですね。今日は私が作っていいですか?」

 

映姫は黒刀かた体を離して訊く。

 

「う…うん…お願い。」

 

「はい♪」

 

映姫は笑顔でキッチンに向かって行った。

黒刀はテレビを見ながら、

 

「(はあ~、ドキドキした~!

姫姉の不意打ちは破壊力ありすぎなんだよ!

ほんと…反則だ…。)」

 

 

 

 7月30日。午後4時50分。

神光学園の正門前にはにとりのミニバンが停車していた。

 

「まだ来ていないのはチルノと魔理沙と妖夢か…。」

 

黒刀がつぶやく。

 

「チルノちゃんは商店街で買い物してから来るって言っていました。」

 

大妖精が横から声をかける。

 

「まあ、あと10分あるし大丈夫だろう。」

 

黒刀がそう口にしているとチルノが到着したようで、

 

「あたい参上!」

 

「惨状?」

 

「ちがわい!」

 

「チルノちゃん、遅いよ~!」

 

「ごめんごめん!商店街でアイス買ってた。」

 

「溶けてるぞそれ。」

 

黒刀が指さす。

チルノが持っているアイスは気温で溶けてしまっていた。

 

「なに~!ならば凍らせてやる!」

 

チルノが溶けたアイスを凍らせるとそのアイスはカチンコチンになってしまった。

 

「チルノちゃん、それアイスクリームだったんだよ!

これじゃただの氷の塊だよ!」

 

大妖精がツッコむ。

 

「まあまあ、アイスクリームには戻せないけど別の料理にはできるぞ。

姫姉、俺のバッグから包丁と大きいグラス持ってきて。」

 

「うん、分かった。」

 

映姫は車の中から黒刀のバッグを取り出し、その中から黒刀のマイ包丁と大きいグラスを取り出す。

 

「はい。」

 

映姫は黒刀の手渡す。

 

「ありがとう。チルノ、それ貸して。」

 

「うん。」

 

チルノは氷の塊を黒刀に手渡す。

 

「それじゃ見てろ。」

 

そう言って黒刀は氷の塊を上に投げて、大きいグラスの中に落ちる寸前で高速に切り刻み、なんとかき氷に変えてしまった。

 

「「お~!」」

 

チルノと大妖精が拍手する。

 

「あ、でも味がねえな。」

 

「大丈夫!これ元々バニラ味だから。」

 

チルノはそう言ってかき氷を食べる。

 

「バニラ味のかき氷…意外と面白いかも…今度、レシピ組み立ててみようかな。」

 

黒刀は顎に手を当てて考え込む。

 

「あはは…。」

 

大妖精は苦笑いする。

 

「お~い!」

 

そこに箒に跨った魔理沙が到着した。

地上に降りた魔理沙はチルノが食べているかき氷を見た。

 

「お、かき氷だ!一口ちょうだい!」

 

「やだ!これはあたいのだ!」

 

「いいじゃん、一口くらい。」

 

「ダメ!」

 

「う~ん、そこまで断られたらしょうがないな。あ、霊夢は?」

 

「車の中で寝てるよ。」

 

黒刀が車を指さす。

 

「よし、悪戯してやろう!」

 

魔理沙は車の中に入る。

 

「オチが見えるな。」

 

黒刀はやれやれと首を横に振った。

 

 

 

 午後4時57分。

 

「すみませ~ん!」

 

正門前に妖夢が走ってきた。

 

「「(そしてこっちもオチが見える。)」」

 

「荷物をまとめてたら時間が過ぎちゃってきゃっ!」

 

妖夢はこけた。

 

「「(やっぱり。)」」

 

「大丈夫か?妖夢~。」

 

黒刀は妖夢に声をかける。

 

「だ、大丈夫です~!最近、受け身が取れるようになってきましたから!」

 

妖夢は大声で返した。

 

「「(もろずっこけたようにしか見えなかったけど…。)」」

 

黒刀と大妖精は心の中で思う。

 

「(まあ、これを見たら誰だってこいつが剣舞祭に出場する選手だなんて思わないだろうな。)」

 

その時、車の中で誰かが殴られる音が聞こえた。

 

「よし、みんな車に乗るぞ。」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 永琳は別行動で、にとりの車には運転席ににとり、助手席に映姫、

1つ後ろの席に霊夢、チルノ、魔理沙、1番後ろの席に黒刀、妖夢、大妖精が座っていた。

黒刀が右窓際席で頬杖をつきながら外の景色を眺めていた。

 

「不思議だ。」

 

黒刀はそうつぶやいた。

 

「何がですか?」

 

黒刀の隣に座る妖夢が訊く。

 

「去年は俺とにとり先生だけだったのに今はこんなにも仲間がいて、一緒に東京に行けるのが…なんか新鮮だなって…。」

 

「先輩。」

 

「ん?」

 

「先輩はこのチームのキャプテンなんです!

だからいつも通り私達を引っ張ってください!

みんな先輩のことを信じていますから!」

 

妖夢の言葉に前の座席に座っている霊夢、チルノ、魔理沙が振り向き信頼した目で黒刀を見つめる。

後輩に頼られる経験の少ない黒刀は少し照れてそっぽを向いた。

 

「…ありがとう。」

 

小さい声でお礼を言った。

そんな黒刀を見た妖夢達は顔を見合わせて嬉しそうに笑う。

その光景をバックミラーで見ていた映姫とにとりも微笑ましそうに笑う。

 

「にとり先生、東京までどのくらいで着くんですか?」

 

大妖精が訊く。

 

「ん~、中央自動車道を通ってるから7時間半ってところかな。」

 

「だそうですよ先輩…ってあれ?」

 

妖夢が黒刀に声をかけると、黒刀は気持ちよさそうに寝ていた。

 

「無理もない。作戦立案から特訓メニューまでほとんど考えていたからな。」

 

にとりが運転しながら言った。

 

「睡眠時間を削ってまでやっていましたからね。

今はゆっくり休ませてあげましょう。」

 

「「「「「はい。」」」」」

 

映姫の言葉に妖夢達は黒刀を起こさないくらいのトーンで返事する。

 

 

 

 午後10時。

妖夢達も眠くなったようでそのまま眠ってしまっていた。

妖夢の頭は黒刀の肩の上に置かれていた。

 

「幸せそうですね。」

 

「ああ。」

 

映姫とにとりが言葉を交わす。

 

「私もそろそろ寝ます。」

 

映姫が背もたれに背中をあずける。

 

「その前に少し言っておきたいことがある。」

 

「何ですか?」

 

「去年の黒刀のことだ。

おそらくだが黒刀は去年の剣舞祭の試合中の記憶が一切ない。」

 

「っ!」

 

映姫がにとりの言葉に驚く。

 

「本人はうまくごまかしているつもりみたいだけど付き合いの長い私には分かった。

多分、闘った感覚は残っていると思う。それと…。」

 

「それと?」

 

「これは私の勝手な予測なんだがあいつの中には何かがいる。」

 

「何かって何が?」

 

「それは分からない…が…去年の試合中のあいつはどこか雰囲気が違った。

まるであいつがあいつでないような感じだった。

私はそれが怖い。

もし今年もそんなことが起きたら黒刀はどうなってしまうのかを考えてしまうと。

…映姫は何か心当たりはないか?四季家の術式関連で。」

 

映姫は少し考え込んだ後、

 

「いえ、四季家に人格を作り出す術式など存在しません。」

 

否定した。

 

「そうか…映姫でも知らないとなるといよいよ謎だな。

…時間を取らせて悪かったな。

ゆっくり休んでいてくれ。」

 

「はい…おやすみなさい。」

 

映姫はそう言って目を閉じた。

 

 

 

 7月31日。午前0時30分。

にとりの車が東京の予約していたホテルの駐車場で停車する。

 

「ほら、着いたぞ。お前ら、起きろ。」

 

にとりは妖夢達を起こす。

 

「黒刀、起きなさい。」

 

映姫はそう言って黒刀の体を揺する。

 

「ん~…おはよ~姫姉~。」

 

「おはようには少し早いですけどね。」

 

「さっさとチェックインを済ませるぞ。」

 

にとりはそう呼びかける。

 

 

 

 チェックインを済ませて、部屋割りも前と同じになり、それぞれ部屋の中に入っていく。

妖夢が窓から夜景を見て、

 

「わあ!すごい!綺麗だしビルも高い!」

 

 東京のほとんどのビルの高さは100階ほどの高さでそれが並んでいた。

日本の技術力のほとんどは東京に流れているため、他の都市は置いていかれている状況で、田舎者からすれば東京はまさに未来都市だ。

街中にはモノレールや反重力を応用した車やバイクが走っていた。

 妖夢が夜景を眺めていると、空間ウインドウが展開され、一斉送信のメッセージが届いた。

送信者はにとりだった。

内容は今日の午前8時にホテルロビーに集合。

それまではホテル内であれば自由行動と書かれていた。

現在、にとりは剣舞祭の手続きなどでホテルを離れていた。

 

「なにしてよう…。」

 

妖夢が考えていると、

 

「妖夢、大浴場行こうぜ!」

 

魔理沙達が妖夢の部屋に入ってきた。

 

「うん、行く!」

 

妖夢は元気よく応えて魔理沙達と一緒に大浴場へ向かった。

 

 

 

 

「(明後日の1回戦…できるだけ力は隠しておきたいけど…そううまい話はないだろうな。)」

 

黒刀はそう考えて、『八咫烏』を鞘から抜き、その刃を見つめる。

しばらくしてそれを鞘に戻し、ベッドの上に置いて、部屋のシャワー室に向かう。

 

 

 

 午前8時。

集合時間になり、妖夢達はホテルロビーに集合する。

 

「よし、全員そろっているな?」

 

にとりが確認する。

 

『はい!』

 

妖夢達は返事をする。

そして、東京デュエルアリーナに向かうためホテルを出ると外に永琳がいた。

 

「準備は出来たみたいね。それじゃ行くとしましょう。」

 

「車で行かないんですか?」

 

妖夢が訊く。

 

「東京は混んでいるからモノレールに乗って行った方が早いわ。」

 

「モノレールに乗れるんですか!」

 

妖夢の目がキラキラした目になった。

 

「私、初めてなんです!」

 

「開会式が終わったら自由行動だから観戦しても東京見物してもいいんだぞ。」

 

黒刀が妖夢に声をかける。

 

「本当ですか?」

 

「ああ。」

 

 

 

 妖夢達はモノレールに乗って外の景色を眺めていた。

 

「すごい!すごい!」

 

妖夢は子供のようにはしゃいでいた。

そして、東京デュエルアリーナにたどり着いた。

大きさはオリンピックができてもおかしくないくらいの大きさで、内部は東西南北と中央にそれぞれ会場があり、そこで試合を行っていく。

 

「「「「「わあ~!」」」」」

 

妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精は感動していた。

 

「ここで…ここで日本一になるんですね先輩!」

 

妖夢は黒刀の方を向いてそう口にする。

 

「そうだ。そのためにここに来た。…にとり先生、開会式は9時からでしたよね?」

 

「ああ。」

 

「それならエントリーを済ませないと。」

 

「それなら先にやった。」

 

「仕事が早いな。」

 

 そして、黒刀、妖夢、霊夢、魔理沙、チルノは前に一歩踏み出し横一列に並んで、

東京デュエルアリーナを見上げていた。

それぞれの想いを抱いて…。

 

 

 

 午前9時。

開会式になり、長い開会の挨拶を聞き流していた黒刀だったが、

視界に入れたくない人物が映ってしまい、さらに相手も手を振ってきた。

黒刀は慌てて目を逸らした。

 

「どうかしましたか先輩?」

 

妖夢が後ろから声をかける。

 

「い…いや…なんでもない…。」

 

そうして開会式は無事に終了する。

開会式が終わり、廊下を歩いていると、

 

「あれ、黒刀は?」

 

魔理沙が口を開く。

他の皆も周りを見渡すが黒刀の姿はなかった。

 

「まったくあの子はどこをうろついているのかしら…帰ったらお説教ね。」

 

映姫は頭を抱えた。

 

 

 

 

「まったくあいつら迷子になりやがって。」

 

黒刀はつぶやいていた。

すると後ろから、

 

「ちょいと待ち!」

 

突然、声をかけたれた。

黒刀が振り向くとそこにいたのは身長150㎝くらいの小柄で、尖った赤髪で、活発そうな関西弁の少年だった。

 

「あんさん、ヨキ黒刀やろ?」

 

「ヨキ?…ああシキね。」

 

「わいと勝負せえへん?」

 

「俺と?」

 

「せや!」

 

「悪いが試合前にはしたくない。」

 

「そんな堅いこと言わんといて~!ほんなら3分…3分だけでええから!」

 

「(口調からして大阪か…こんな奴いたっけ?…あんまり気乗りしないけど手刀で決めとくか。)」

 

黒刀は考えた後、一瞬で少年の背後に移動し、首に手刀を決めようとする。

 

「(悪いな。)」

 

黒刀が手刀を振る…がその手刀はなんと空振る。

 

「っ!」

 

少年は黒刀の手刀を宙返りで躱し、さらにその足を壁にくっつけていた。

 

「(スキル『スパイダー』…いや、それより今のこいつの動き…読んでたとかじゃない。

まさか反射神経だけで躱したのか?いや…これは…シンプルに動物的カンってやつか。)」

 

「なあ?もっとやろうや!」

 

「…面白い。」

 

「いくで!」

 

少年が壁から降りて、突撃しようとする。

 

「そこまでや!」

 

その時、別の声が響く。

声の主は身長180㎝くらいで、白髪で、顔立ちが整っていて優しそうな瞳に闘志を隠した男だった。

 

「金ちゃん、あかんで。」

 

「え~!もうちょいだけ!」

 

「あかん。みんな待っとるんやから。」

 

黒刀が黙っていると、男の方から、

 

「ああ、すまんな。俺は黒岩俊介。王龍寺高校の3年生でキャプテンをやっとります。

こっちは1年生の…」

 

「大門金次や!よろしゅう!」

 

「神光学園2年キャプテンの四季黒刀だ。」

 

「よろしゅうヨキ!」

 

「もうそれでいいよ。」

 

黒刀は呼び方を渋々認めた。

 

「行くで金ちゃん。」

 

「あいよ!ほなまたなヨキ!」

 

「はいはい。」

 

黒刀は軽く手を振る。

 

「さて、あいつらはどこかな…。」

 

 

 

 一方、妖夢達は…

 

「先輩、いませんね。」

 

「携帯にかけても出ませんしね。」

 

妖夢と大妖精が心配そうに話す。

ちなみにこの時の黒刀は金次に勝負を仕掛けられているところだった。

 

「あ、姫姉だ~!」

 

その時、声が聞こえた。

一瞬、黒刀だと思ったがその声は女性の声だった。

声に振り向いてみると、

 

「あなた…もしかして早苗?」

 

映姫が口を開く。

 

「そうですよ!久しぶり~!」

 

早苗は映姫との再会に喜んでいる。

 

「早苗、どうしたの?いきなり走り出して…ってあなたたちは…。」

 

早苗を追って現れたのは紅魔学園のレミリアと天子だった。

 

「レミリア先輩!あれ、フランちゃんと咲夜先輩は?」

 

早苗はフランと咲夜がいないことに首を傾げる。

 

「後で来るわ。早苗、この方達は?」

 

「姫姉がいるってことは神光学園の人達だと思いますよ。」

 

「そう…初めまして。紅魔学園2年のレミリア・スカーレットです。よろしく。」

 

「3年の比那名居天子よ。」

 

その名前を聞いた妖夢と大妖精が声をひそめる。

 

「この人が…レミリア・スカーレット…。」

 

「それに…比那名居天子ってたしか一昨年の個人戦チャンピオンじゃないですか…。」

 

「チャンピオンだって?だったらあたいと勝負だ!」

 

チャンピオンという単語を聞いたチルノが天子を指さして宣言する。

 

「決勝まで来れたらな。」

 

天子は軽くあしらう。

 

「ちぇ~。」

 

チルノは口を尖らせながらも引き下がる。

早苗が周囲を見渡す。

 

「ところでセンパイはいないんですか?私、センパイに会いに来たんですけど。」

 

「あ~…黒刀は…。」

 

映姫が口ごもる。

すると霊夢が、

 

「あんた…どこかで……あっ、そうだ!あんた神社特集の雑誌に載ってた!」

 

霊夢が早苗を指さす。

 

「見てくれたんですか!」

 

早苗が興奮する。

 

「守矢神社の生意気巫女!」

 

ブチッ。

 

「へえ~、誰のことを言っているんでしょうかね~?」

 

「あら、あんたのことを言っているに決まっているでしょ。」

 

霊夢と早苗が笑顔のまま言い合う。

 

「言ってくれますね~。あなたこそ何なんですか?巫女服着てますけど…

もしかしてコスプレですか?会場間違えてませんか?」

 

カッチーン。

 

「コスプレじゃないわよ!ちゃんと巫女に決まっているじゃない!」

 

「へえ、何て神社ですか?」

 

「博麗神社!」

 

「知らない名前ですね~。有名じゃないってことはもしかして賽銭箱には一銭も入ってないとか?」

 

「あなたね~!」

 

霊夢が言い返そうとすると魔理沙がその肩に手を置く。

 

「何よ魔理沙!これからが…」

 

「事実だからしょうがない。」

 

「だまらっしゃい!」

 

早苗がため息を吐く。

 

「まったく、あなたとおしゃべりに来たんじゃないです。

私はセンパイに会いに来たので早く場所を教えてください。」

 

「俺が何だって?」

 

声が聞こえた。

人混みをかき分けて現れたのは黒刀だった。

 

「センパイ~!」

 

すると早苗が黒刀に飛びついて抱きつく。

いきなりのことにバランスを崩し、床に倒れる黒刀の胸に早苗が頬ずりをしていた。

 

「てめえ…早苗!お前…は~な~れ~ろ~!」

 

黒刀は早苗の顔を押さえつけ必死に引きはがそうとする。

 

「センパイ!会いたかったですよ~!」

 

だが意外と離れなかった。

妖夢が青ざめた顔で、

 

「せ…先輩、その人とはどのような関係で…。」

 

「あ?関係って…ただの元カノだよ!ってか離れろ!」

 

黒刀は早苗を引きはがそうともがく。

 

「「「「「え~!も…元カノ⁉」」」」」

 

妖夢達が大声で驚く。

 

「「「まさか恋愛経験があったとは…。」」」

 

霊夢、魔理沙、大妖精が口を揃えて言った。

 

「お前ら、俺を何だと思っているんだ!」

 

「「「バトルマニア。」」」

 

「ハモんな!」

 

ようやく早苗を引きはがした黒刀がゆっくり立ち上がる。

 

「お義兄様~!」

 

そこへ背後から腰にタックルが飛んできた。

 

「ぐはっ!」

 

短い悲鳴を上げて黒刀は前のめりに倒れる。

 

「やっと会えた~!お義兄様~!」

 

黒刀の背中に頬ずりをしているのはフランだった。

 

「「「「「お…お義兄様~⁉」」」」」

 

またも妖夢達は驚く。

 

「黒刀先輩ってそういう…。」

 

大妖精はドン引きしていた。

 

「違う!フランが勝手にそう呼んでいるだけだ!」

 

黒刀は必死に否定する。

 

「ほら、仲も良さそうだし…。」

 

霊夢がそう言うと、霊夢、魔理沙、大妖精が後ずさりする。

妖夢は苦笑いで、チルノはいまいち状況を飲み込めていない。

 

「ってかフラン、何度も言ってるだろ!俺はお前の兄じゃねえ!」

 

「え~、だってお姉様と結婚すれば私は自動的に妹になるじゃない?」

 

フランは笑顔でそう口にした。

 

「「な…誰がするか!」」

 

黒刀とこれまで黙っていたレミリアが同時に否定する。

 

「え、しないの?」

 

フランが可愛らしく首を傾げる。

黒刀はフランの抱擁から抜け出し、レミリアと向かい合う。

 

「何で俺がこんな奴と結婚しなきゃいけないんだ!最悪だ!」

 

ピキッ。

 

「それはこっちのセリフよ!私だってあなたみたいな厨二病カラスとはごめんよ!」

 

ブチッ。

 

「言ってくれるじゃねえか!このロリッコウモリ!」

 

黒刀が言い返す。

 

「まずいな。」

 

にとりが口を開く。

 

「何がですか?」

 

妖夢が訊く。

 

「黒刀は自分をカラス扱いされるのが一番我慢できないんだ。」

 

 

 

 黒刀とレミリアの言い合いは続く。

 

「ロリでもコウモリでもないわ!このハーレム王!」

 

「ハカイ王だ!」

 

 

 

 

「何でこんな仲悪いんですか?」

 

妖夢がにとりに訊く。

 

「う~ん…2人とも2年生で、『王』で、雷属性で、金持ちで、プライドが高くて、海外育ちで、学園トップで、優勝経験がある。つまりは…キャラ被りってやつ?」

 

「あはは…。」

 

妖夢は苦笑いするしかなかった。

騒ぎを聞きつけてどんどん周囲に人が集まってくる。

 

「先輩、そろそろやめておいた方が…っ!」

 

妖夢が止めようと声をかけた瞬間、黒刀とレミリアから凄まじいオーラが放たれ、風圧まで起きている。

ロビーのモニターウインドウからは

《今日は雲1つ無い快晴となるでしょう》と天気予報の案内が聞こえるが、外を見ると、雲どころか雷まで落ちていた。2人のオーラが影響しているのだろう。

 

「「ここでぶっ潰す!」」

 

2人がそう言い放ったその時、その間に何者かがいつの間にか割り込んでいた。

 

「諏訪子…。」

 

「やあやあ、久しぶり。黒坊、喧嘩はダメだよ…レミリアも。」

 

洩矢諏訪子。『蝦蟇王』

紅魔学園の教頭。剣舞祭では紅魔学園の監督を務めている。

金髪のショートボブで、体格は子供並みの小柄、青と白を基調とした洋服を着ていて、

白のニーソックスを履いていて、頭には目玉が2つついた特殊な帽子を被っている。

 

「「はあ…。」」

 

諏訪湖の介入により黒刀とレミリアはオーラを抑えた。

 

「お久しぶりです諏訪子さん。」

 

にとりが諏訪子に声をかける。

 

「いいよいいよ。そんな堅苦しい呼び方しなくても…同じ『王』なんだから。」

 

「分かりました…『蝦蟇王』の諏訪子。」

 

 妖夢達は絶句した。

何せこの場に『王』が4人揃っているのだから。

 

「これで陛下もいたら全員、揃うのにね。」

 

諏訪子が笑顔で口にする。

 

「皇宮ならともかく他じゃありえないな。」

 

黒刀が首を横に振る。

 

「同感だ。」

 

にとりが黒刀の言葉に同意する。

 

「あの人がこんなところに来るはずがないわ。」

 

レミリアも同様の反応を示している。

4人以外理解できない会話をしている。

 

「それじゃ、そろそろ行こうか。」

 

諏訪子が会話を打ち切る。

 

「そうね。」

 

レミリアもそう言って、諏訪子に続く。

その後を咲夜と天子もついていく。

 

「じゃあね、お義兄様♪」

 

「センパイ、またね~!」

 

フランと早苗も去って行く。

嵐のような時間だった。

空もいつの間にか晴れていた。

 

 

 

 その後はそれぞれ自由行動していき、剣舞祭は1日目は終了した。




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不死鳥

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 8月1日。東京デュエルアリーナ南会場。

首里高校対神光学園。

 

《さあ、待ちに待ったこの試合!チャンピオンの団体デビュー戦!

実況は私、神光学園新聞部の射命丸文と》

 

《紅魔学園学園長の八坂神奈子でお送りします》

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「射命丸先輩が実況をやっているんですね。」

 

妖夢が少し驚く。

 

「プロの実況資格持ってるからなあいつ。」

 

黒刀が補足する。

 

 

 

《神奈子さん、この試合どう見ます?》

 

《初参戦の神光学園と古豪の首里高校。

普通に考えるなら首里高校…

ですが神光学園にはチャンピオンの四季黒刀がいます。

彼も全国経験者なので何か策を立てている可能性は十分にあります》

 

《なるほど。では神奈子さんは神光学園が勝つと?》

 

《いやそうは言えません。

首里高校にはあの七瀬愛美と蓬莱山輝夜がいます。

彼女達は貴族として有名ですが実力も高い2人です》

 

《つまりはその相手をする次鋒と副将がキーマンになるというわけですね》

 

《ええ》

 

 

 

「好き放題言ってくれるぜ。」

 

魔理沙が手のひらに拳を打つ。

 

「気にするな。」

 

黒刀が声をかける。

 

「分かってる。」

 

魔理沙は落ち着いている。

 

 

 

 本選では整列をする必要がない。

なぜなら全国から様々な選手が集まり、時には気性の荒い者同士が相手になることもある。もし、整列の段階で取っ組み合いなんて始まったら問題になるため、文句があるなら試合で示せという実行委員会の計らいだった。

 

「チルノ、準備はいいな?」

 

黒刀が声をかける。

 

「もちろん!」

 

チルノがベンチから立ち上がる。

すると、にとりが

 

「あ、言い忘れてたことが1つ。

デュエルフィールドに修正が加わってね。

誰かさんが奈良予選で結界を壊すからそれが実行委員会に報告されて衝撃吸収システムが施されたようだ。これで存分に暴れられる。」

 

「うん、むしろ遅かったぐらいだ。」

 

「お前が言うな。」

 

うなずく黒刀をにとりが軽くチョップする。

 

「ふふふ。」

 

チルノは笑っていた。

この大事な試合をまるで遊びたがっている子供のように。

 

「こいつ…。」

 

黒刀は少し驚いていた。

 

「それじゃいってくる!」

 

チルノはデュエルフィールドの中に入る。

 

 

 

 首里高校代表ベンチ。

 

「あ~出番か~。」

 

ベンチから立ち上がったのは藤原妹紅。

白髪のロングヘアーに深紅の瞳、頭には白地に赤の入った大きなリボン、

デュエルジャケットの上は白のカッターシャツ、下は赤のズボン。

学年は3年生。

 

「どうせなら四季黒刀とやりたかったな~。

まあ、ウオーミングアップくらいにはなるだろう。」

 

 

妹紅は独り言をつぶやきながらデュエルフィールドに入る。

そして、10m離れたチルノと向かい合う。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「まったく1年が相手とは舐められたもんだぜ。」

 

妹紅の言葉を聞いたチルノから冷気が霧状に発せられる。

そして、次に現れたものに妹紅は驚いた。

 

「おいおい、なんだよそれ…。」

 

チルノの周囲には4つの氷のクリスタルと1頭の氷の龍がいた。

 

「フロストキング!」

 

「驚いたぜ!1年でここまで質の高い術を使うなんてな!」

 

妹紅のテンションが上がる。

 

「それはこいつを食らってから言うんだな!」

 

チルノが右手を振ると氷の龍が妹紅に向かって襲い掛かる。

 

「だが所詮氷!私の炎の敵じゃねえ!」

 

妹紅は右手から炎を発し、その拳を氷の龍の顔面に叩きつける。

 

《チルノ選手の氷の龍と妹紅選手の炎の拳がぶつかる~!》

 

文が実況で叫ぶ。

 

「(どういうことだ…私がパワーで押されている?)」

 

妹紅は違和感を抱く。

氷の龍と炎の拳は弾き合った。

 

「(焼き尽くせなかった。)」

 

「(凍らせられなかった。)」

 

2人はお互いに舌打ちする。

妹紅は息を整える。

 

「なるほどな…確かにここまで来るだけの実力はあるようだな。

だったらこっちも本気でいかせてもらうぜ!」

 

妹紅が霊力を練り上げて解き放つと背中から炎の翼が生え、手のひらに火の玉が現れる。

 

「いくぞ!ブレイズキャノン!」

 

妹紅が火の玉を放つと、それは高熱の光線へと変わる。

 

「っ!」

 

チルノは慌てて氷の龍を呼び戻し防御に回す。

 

「ぐっ!」

 

「砕けろ~!」

 

妹紅の言葉に呼応するかのように氷の龍は砕け散り、光線はチルノに直撃し、壁まで吹っ飛ばされる。

 

「さすがに今のを食らって立っていられるわけが…!」

 

妹紅がチルノを見ると、大ダメージを受けてはいるが立っていた。

 

「バカな!」

 

妹紅は驚く。

 

《チルノ選手、大ダメージを受けてもなんとか立っています》

 

《驚きのタフさですね》

 

妹紅もチルノのタフさに驚いた後、

 

「は…はは…ははは!おもしれえ…おもしれえぞお前!」

 

狂笑に変わる。

 

「私も燃えてきた!」

 

《な…なんだあれは~!妹紅選手の背後に炎の鳥が見えます!》

 

《おそらく不死鳥でしょう…しかもこれは大きい…いったいどれだけの霊力を注いでいるのでしょうね》

 

その不死鳥は妹紅の体を包み込んだ。

 

「霊装 バーニングフェニックス!」

 

妹紅と不死鳥は一体となった。

 

「こっちも全開でいくぞ!」

 

チルノは氷の龍を4体に増やす。

 

「(なるほどな…あのクリスタルは龍の召喚制限を表しているってことか…しかも…あの龍を操っている間、あいつは動けない。突破すればただの的だ!)」

 

妹紅は炎の翼を羽ばたかせ、チルノに向かって急降下していく。

チルノは氷の龍を操り、迎撃に向かわせる。

 

「そんな氷、もはや今の私には何の効果もないんだよ!」

 

妹紅は炎の翼で氷の龍を一線に切り裂いていく。

 

《チルノ選手の氷の龍が全滅~!

しかし氷の龍が倒されたことにより、水蒸気が発生し、

チルノ選手の姿が見えない!》

 

「チッ、こざかしい!」

 

妹紅は翼の風圧で水蒸気を吹き飛ばす。

その瞬間、妹紅の背後にチルノが現れる。

氷の翼で妹紅の背後まで飛んできたようだ。

妹紅は振り向いた。

 

「少しバレるのが早かったようだな!終わりだ!ブレイズキャノン!」

 

妹紅は右手に集めた炎を光線として放つ。

その光線はチルノの腹部に直撃するが、なんと氷の翼を最大力で噴射して空中で耐えていた。

 

「ぐっ!…霊力解放!グレート…クラッシャー~!」

 

チルノはその状態で霊力を解放し、さらに氷のハンマーを作り出し、それを妹紅に対して振る。

氷のハンマーをぶつけられた妹紅だったが、構わず光線の発射を続けていた。

チルノは光線を受け、妹紅は氷のハンマーを受けていた。

 

「無駄だ!氷は炎に勝てない!子供でも分かる単純なことなんだよ!」

 

妹紅が叫ぶ。

 

「あたいに…あたいにそんな常識は通用しないんだよ~!」

 

妹紅の炎の体が徐々に氷のハンマーに押され始める。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

チルノが氷のハンマーを振り抜くと妹紅が吹っ飛ばされ、床に向かってまるで彗星のように落下する。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 チルノ》

 

機会音声が鳴り響く。

 

《先鋒戦を制したのは神光学園のチルノ選手~!》

 

実況の文の言葉に呼応するかのように会場から歓声と拍手が響き渡る。

チルノはそれに応えるかのように大きく手を振った。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

黒刀は笑っていた。

 

「全国初出場で初勝利…これは大きな自信につながるな。

次は…魔理沙。」

 

「ああ、分かってるぜ。」

 

魔理沙はデュエルフィールドに入って、チルノの傍に寄る。

 

「ナイスファイト!」

 

「あたいなら当然!」

 

ハイタッチを交わした後、チルノはベンチに引き下がった。




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魔女

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 妹紅が担架で運ばれ、入れ替わるように次鋒の選手が出てくる。

七瀬愛美。

桃色のロングヘアー、クリッとした目で赤い瞳に眼鏡、

身長は魔理沙より少し高いくらい、一言で言うなら容姿端麗。

 

「先輩、七瀬さんってどんな人なんですか?」

 

妖夢が黒刀に訊く。

 

「お前らと同じ1年で…あいつを知っている人間はこう呼んでいる。『魔女』と。」

 

「『魔女』?」

 

「あいつは今まで『チャーム』を使って、カップルの男を魅了し、およそ1000組のカップルを破局させた伝説を持つ女だ。」

 

「1000組って…噂じゃ…。」

 

「本人が認めているからそれはないだろう。」

 

フィールドでは愛美が観客に対して手を振っていた。

一瞬、眼鏡を外したことにより、『チャーム』が発動し、観客の男達は魅了されていた。その中には彼女を連れている男もいて、彼女に睨まれたり、耳を引っ張られたり、蔑む目で見られたり、ビンタされる男が大勢いた。

 

「す…すごいスキルですね…先輩は何ともないんですか?」

 

「俺にあんなものが効くか。」

 

「ねえ、確かに恐ろしいスキルだけど試合で同性が相手だったら意味ないんじゃない?」

 

霊夢が黒刀に質問する。

 

「それがあいつは運がいいことに予選は全試合、相手が男だった。」

 

「うへ~、でも…だったらこの試合で魔理沙は勝てるってことじゃない。」

 

「(そう簡単にいけばいいがな。)」

 

 

 

 

「あなたが霧雨魔理沙ね。よろしくね。」

 

七瀬の声は透き通るような響きだった。

 

「ああ、よろしく。」

 

「私の『チャーム』は知っているでしょう。

あなた達はそれさえなければ勝てると思っている。

だけどいいことを教えてあげる。

七瀬家には男が1人もいないの。

父はとっくに死んでるし、使用人も家族もみんな女だけ。

当然よね…男の使用人がいても私に魅了されて仕事にならないのだから。

ではなぜ『チャーム』の効かない相手に現当主の私はその座に居座り続けていられのか。答えは簡単よ。私が強いから。それだけ。どう分かった?」

 

魔理沙は空を仰ぎ見る。

 

「まったく…ナンバーズっていうやつはどいつもこいつもこう憎まれ口を叩けるんだろうな~。」

 

「あら、事実を言ったまでよ。」

 

愛美はクスッと笑う。

 

「事実かどうかはやってみるまで分からないぜ!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

魔理沙は箒に跨り、飛行した。

 

「まずは挨拶がわりだ!」

 

魔理沙が魔法弾の弾幕を展開し、放つ。

地上にいる愛美はそれを全て容易く躱す。

 

「へえ、魔法少女か…面白そう。」

 

「は?」

 

「トランス!マジカルガール!」

 

愛美が詠唱すると光に包まれ、装備が変わり、可愛らしい魔法少女に変身した。

 

「なっ!」

 

魔理沙は驚く。

 

《七瀬選手が魔法少女に変身した~!》

 

それを見た観客の男達から歓声が聞こえる。

愛美の右手にステッキが現れる。

 

「さあ、魔法の撃ち合いといきましょう!」

 

愛美はステッキから魔法弾を連射する。

魔理沙もそれに対して魔法弾で迎撃する。

 

《両者の力は互角!一歩も譲らない!》

 

愛美は飛行魔法を発動して、空を飛ぶとステッキを振って、

デュエルフィールドの内側に新たな結界を展開した。

 

「何のつもりだ?」

 

「ん~ただの保険だよ♪」

 

愛美はクスッと笑う。

 

「(この結界には真空効果がある。

さらに私には物理保護がかれられている。

もし、彼女があの魔法を使った瞬間に勝負が決まる。)」

 

愛美は魔理沙が切り札を切るのを待っていた。

 

 

 

 その時、にとりが空気中に散布する何かに気づく。

 

「あれは…。」

 

 

 

 

「これで決めるぜ!マスター~」

 

魔理沙がミニ八卦炉に魔力を溜める。

 

「はっ!ダメだ魔理沙!撃つな!」

 

にとりが叫ぶ。

だが遅かった。

 

「スパーク!」

 

その瞬間、魔理沙を中心に大爆発が起きた。

 

《何だ!いったい何が起きた~!》

 

爆発の煙から下に出てきたのは気絶し落下していく魔理沙だった。

床に落下した魔理沙は目を覚まさない。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 七瀬愛美》

 

機械音声が鳴り響いた。

 

「魔理沙が…負けた?」

 

妖夢が信じられないという表情をする。

にとりが唇を噛みしめる。

 

「あの時…空気中には粉状の物質が散布していた。

おそらくあの結界で密閉空間にして、自分に物理保護をかけて、真空状態になったところで粉状の物質をさりげなくばらまき、魔理沙が『マスタースパーク』を撃つことによって粉塵爆発を引き起こし、魔理沙を爆発に巻き込ませた。

まさかここまでやるとは…恐ろしいな…七瀬愛美。」

 

「やっぱりナンバーズってすごいですね先輩…ってあれ?」

 

妖夢は黒刀の姿が見えないので、フィールドを見ると、黒刀が魔理沙をおぶってベンチに戻ってきた。

 

「大妖精、永琳先生。控室に戻って治療を頼む。

今からなら明日の試合には間に合います。」

 

「間に合うって…今日の試合に勝つかもわからないのに?」

 

「俺たちは勝ちます。絶対に。」

 

永琳の言葉に黒刀は自信を持った言葉で返した。

 

「いいわ。怪我人を治療するのが私達の仕事だしね。」

 

「大妖精も…頼んだ。」

 

「はい!」

 

大妖精と永琳は魔理沙を控室に連れて行った。

妖夢は拳を握る。

 

「(絶対に負けられない…この試合!)」

 

妖夢はデュエルフィールドに入る。

霊夢はそれを心配そうな目で見ていた。

 

「妖夢大丈夫かしら?少し気負い過ぎているように見えるけど…。」

 

黒刀は黙って見ていた。




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信じろ!

OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 首里高校代表ベンチ。

 

「いや~予想外に手強いね~!」

 

愛美は腕を伸ばしながら心にもないことを口にした。

 

「別にたいしたことないと思いますけどね…私は。」

 

そんなことを言うのは鈴仙・優曇華院・イナバ。

髪は薄紫色で足元に届きそうなくらい長く、瞳の色は 赤、

デュエルジャケットはツーピース制服で、頭にはヨレヨレのうさ耳が生えている。

学年は1年生。

 

鈴仙はベンチから立ち上がってデュエルフィールドに入る。

 

「やれやれ、困ったものね。うちのルーキーには。」

 

輝夜が呆れたように首を横に振る。

 

「まあ、入学してこの短期間での代表入りは確かに驚異的だよな。」

 

「あら妹紅、もう帰ってきたの。」

 

医務室から戻ってきた妹紅に輝夜が声をかける。

妹紅と輝夜は入学時には色々と張り合う仲だったが3年となった今ではこうして打ち解けている。

 

 

 

 妖夢の前に鈴仙が立つ。

妖夢は鞘から二本の剣を抜く。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「(確か魔法弾射撃が得意だった。なら接近戦に持ち込んで勝つ!)」

 

妖夢は床を蹴って突撃する。

 

「妄執剣 修羅の血 二式!」

 

二本の剣による突進剣撃を鈴仙はジャンプして避け、さらに指先から魔法弾を数発撃つ。

その射撃は正確で妖夢の膝、肩、肘に命中する。

妖夢もなんとか頭と胸を剣でガードしていた。

鈴仙はそのまま地上に降りず、ハイジャンプとロージャンプを交互に使いながら空中から魔法弾を連射していく。

 

「ならこっちだって!」

 

妖夢も対抗してハイジャンプする。

鈴仙はそれを読んでいたかのようにさらに上へハイジャンプする。

妖夢もそれを追ってハイジャンプを連発する。

 

「(こんなところで負けられない…もし負けたら…。)」

 

妖夢の脳裏に最悪のイメージがよぎる。

 

《両者、どんどん高度を上げていきます!》

 

《限界硬度までもう少しですね》

 

「(あともう少し…追いつける!)」

 

妖夢がそう思ったその瞬間、鈴仙がいきなりこちらに向きを変えてきた。

 

「え?」

 

妖夢が驚くのも束の間、鈴仙の指先から魔法弾が放たれる。

 

「(ダメージ覚悟で突っ込むしかない!)」

 

妖夢が速度を上げたその時、妖夢の肩に着弾した魔法弾が爆発した。

 

「(なんで…通常の魔法弾ではこんな爆発はしないはず…。)」

 

「なんでって顔をしているわね。教えてあげる。

これは爆裂弾と言って魔法弾に爆発効果を加えたものよ。

威力は高いけど射程が短くてね。

だけどよかったわ…あなたが追いかけてくれて。」

 

「っ!」

 

妖夢はそこで自分が誘い込まれていることに気づく。

急いで方向転換して地上に戻ろうとロージャンプする。

 

「逃がすと思っているの?」

 

鈴仙は逃げる妖夢をロージャンプで追いかけて魔法弾と爆裂弾を撃つ。

妖夢は数発は躱したり、ガードしたりするが、残りの弾は直撃してしまう。

 

「ぐっ!」

 

妖夢は痛みに耐えながらなんとか地上に着地する。

その時、追撃の魔法弾が放たれるが床を転がってそれを躱す。

体勢を立て直そうと立ち上がった妖夢の懐に鈴仙が潜り込む。

 

「(接近戦⁉)」

 

予想外の動きに妖夢は驚く。

鈴仙が回し蹴りすると、妖夢はそれを二本の剣を交差してガードするが、勢いを殺しきれず壁まで吹っ飛ばされてしまう。

 

「これで終わりね。」

 

鈴仙が指先に魔力を集中して魔法弾を放とうとしたその時。

 

《タイムアップ。第1ラウンド終了》

 

機械音声が鳴り響く。

 

「命拾いしたみたいね。だけど第2ラウンドも闘えるかしら?そんなザマで。」

 

鈴仙はそう言ってベンチに下がる。

 

 

 

 黒刀は試合中ずっと険しい表情で見ていた。

妖夢がうつむきながらベンチに戻ってくると、黒刀はベンチから立ち上がり、妖夢の元へ歩くといきなり胸倉を掴んで壁に叩きつけた。

 

「お前、勝つ気あんのか?」

 

黒刀は厳しい声で言った。

妖夢は黒刀の急な行動に驚きながらも、

 

「も…もちろんです!」

 

「ちょっと黒刀!」

 

映姫が止めようとするがにとりがそれを手で制した。

 

「ならさっきの試合は何だ?

とても勝つ気のある奴の闘いには見えなかったぞ。

あれは敗北をイメージした奴の闘いだ。」

 

「っ!」

 

黒刀の言葉に妖夢の肩がビクッと震える。

 

「負けたらなんて考えてたのか?

甘えるな!そんな奴が全国制覇できるか!どんなに無様でもいい!泥臭くたっていい!最後まで勝つことをあきらめるな!…それでもさっきのような闘いをするっていうなら今すぐ棄権してもらう。…いいか?お前は1人じゃない!仲間と…自分を信じろ!」

 

「自分を…信じる?」

 

「そうだ!」

 

「(そうか…私は1人じゃない…私には信頼できる仲間がいる…こんなに嬉しいことはない。

…信じよう…今まで共に闘ってきた仲間と強くなろうと誓った自分を。)」

 

妖夢は自分の胸倉を掴んでいる黒刀の手の甲に触れる。

 

「先輩、もう大丈夫です。」

 

妖夢の顔つきが変わった。

黒刀はゆっくり手を離す。

 

「今、お前がやるべきことは2つある。1つは仲間を信じること。

そしてもう1つはあの兎を叩き斬ってくることだ!」

 

「はい!」

 

「いってこい!」

 

「はい!」

 

妖夢は元気よくデュエルフィールドに入る。

鈴仙もデュエルフィールドに入った。

2人が向かい合う。

 

「出てきたんですね。怪我をしない内に棄権した方がいいと思いますけどね。」

 

「後悔はしたくないので。」

 

妖夢はそう言って、今度は『楼観剣』だけを鞘から抜いた。

 

「一本?私も舐められたものですね。」

 

「今はこっちの方がいいと思ったので。」

 

「同じですよ…あなたは負ける!」

 

《3…2…1…0.第2ラウンドスタート》

 

開始直後、鈴仙はハイジャンプで上に上がった。

だが妖夢はそれを追わず、地上に立ったままだった。

 

「もう追いかけっこする気はないようですね。

だけど剣士にとって上のポジションを取られるのがどういうことか分かっているんですか!」

 

鈴仙は魔法弾を連射する。

妖夢は腰を落として構えると『楼観剣』を風車のように回して全弾、弾いた。

 

「くっ!(なら射程ギリギリだけど爆裂弾を撃つしかない。

もし、避けられてもその先で魔法弾を撃てばいい。)」

 

鈴仙は指先から爆裂弾を撃つ

 

「終わりよ!」

 

鈴仙が叫ぶ。

妖夢はこの状況で冷静だった。

 

「自分を…信じる!気力解放!閃光斬撃波!」

 

妖夢は気力を解放すると同時に『閃光斬撃波』を放つ。

爆裂弾はかき消され、さらに鈴仙に斬撃が迫る。

 

「嘘でしょ!」

 

鈴仙は叫び、なんとか光の斬撃を躱すが、勢いを殺しきれず地上に落ちてしまう。

すぐに立ち上がり、妖夢を魔法弾で撃とうとするが妖夢の姿がない。

その時、背後から大きなオーラの気配を感じ、振り向くとクロスステップで回り込んでいた妖夢がいた。

妖夢が『楼観剣』を水平に振り抜くと鈴仙はハイジャンプでそれを躱して上に逃げようとする。

だが、妖夢が既にハイジャンプで上の位置を取り、鈴仙の頭を押さえ床に叩きつけた。

 

「ぐっ!」

 

鈴仙がうめき声を上げる。

妖夢がさらに『楼観剣』を突き刺そうとする。

鈴仙は咄嗟に牽制の魔法弾を撃つ。

妖夢は鈴仙の頭を押さえていた手を離して距離を取る。

鈴仙は息を切らしながら動揺する。

 

「(どういうこと?さっきとはまるで別人じゃない…こいつは…やばい!)」

 

「妄執剣…」

 

「(やられる!)」

 

鈴仙は敗北を覚悟した。

 

「修羅の…!」

 

妖夢が踏み込んだ瞬間、急に力が抜けて前のめりに倒れてしまう。

 

「(な…に…これ…急に力が………立てない…。)」

 

妖夢は手を伸ばして落ちている『楼観剣』に手を伸ばすが…届かない。

 

「(なんで…いやだ…まだ終わってない…まだ私はやれる…立て…立ってよ!)」

 

だが妖夢の体は起き上がらない。

カウントが始まる。

 

《1…2…3…》

 

「(待って…)」

 

《4…5…6…》

 

「(やめて…)」

 

《7…8…9…》

 

「(やめて!)」

 

《10.勝者 鈴仙・優曇華院・イナバ》

 

その機械音声を聞いた妖夢は悔しさに満ちた顔になる。

だがそれは鈴仙も同様だった。

自分は何もしていない。

それなのに急に目の前で妖夢が倒れて動かなくなった。

訳が分からず驚いていた鈴仙はそのままベンチに戻って行った。

妖夢はショックのあまり歓声が聞こえなかった。

妖夢には理解できなかったのだ。

負けた理由が…。

 

 

 

 

「霊夢、妖夢をベンチに連れて来てくれ。」

 

黒刀はそう言って廊下へのドアに歩き出した。

 

「黒刀先輩はどこへ?」

 

「少し…席を外す。」

 

黒刀はそう言って廊下へ出た。

霊夢は妖夢を連れて来てベンチに座らせる。

 

「…どう…して?」

 

妖夢はつぶやく。

そんな妖夢ににとりが声をかける。

 

「…オーラが使い過ぎたんだ…体内のオーラが尽きるとさっきみたいになる。

…ごめんな…先に説明しておくべきだった。」

 

「いえ…先生は何も悪くないです…私がもっと気をつけていればよかっただけですから…。」

 

「妖夢、今このベンチエリアには防音結界と視覚結界が張ってあります。」

 

「だってさ…妖夢、泣きたい時は泣いていいんだよ?」

 

映姫と霊夢が優しい言葉をかけてくれる。

 

「…霊夢…う…うわああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

霊夢にしがみつきながら妖夢は涙を流した。

 

「(黒刀、気を遣ってくれてありがとう。)」

 

映姫はドアの方に視線を向ける。

黒刀はドアの外で目を閉じながら寄りかかっていた。

 

 

 

 数分後、黒刀はドアに寄りかかっていると内側からノックされた。

ドアから離れるとドアが開き、妖夢が顔を出す。

 

「先輩…もう入っていいですよ。」

 

「ああ。」

 

黒刀はそう応えてベンチに入る。

妖夢の目はまだ赤くなっていたが黒刀は声をかけず妖夢の頭を撫でてからベンチに座る。

 

「大丈夫だよ妖夢。」

 

「霊夢…。」

 

「このチームは負けないから!」

 

霊夢はそう言ってデュエルフィールドに入った。

 

「霊夢…ありがとう…。」




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1000兆分の1の速度の世界

OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 首里高校代表ベンチ。

鈴仙は試合に勝ったというのに唇を噛みしめていた。

 

「どうした?勝ったっていうのにそんな顔をしやがって。」

 

妹紅が鈴仙の顔を覗き込む。

 

「…あんなの勝ったとは言えませんよ。」

 

鈴仙はそれだけ言ってベンチに座ると輝夜が立つ。

 

「まあ、勝ちは勝ちなんだしそこまで落ち込むことないわ。それじゃ行ってくるわ。」

 

「おう、いってこい!」

 

妹紅がエールを送る。

輝夜は笑ってデュエルフィールドに入った。

 

 

 

 霊夢と輝夜がデュエルフィールドで向かい合う。

すると、輝夜が

 

「先に言っておくわ。あなたは絶対に私に勝てない。

なぜならあなたは私の時間についていけないから。」

 

霊夢は不敵に笑った。

 

「そう…でも勝負っていうのは最後までやってみなきゃ分からないでしょ。」

 

「まあ、いいわ。好きに吠えてなさい。」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「爆符!」

 

霊夢が霊術を発動しようとした瞬間、霊夢の周囲にいきなり霊力の弾幕が出現し爆発する。

 

「ぐあっ!(何もないところから弾幕が…。)」

 

霊夢はダメージを受けながらも横にステップしてダメージを軽減させた。

 

「あら、これで倒れないのね。」

 

輝夜は余裕の口ぶりで言った。

 

「このくらい…どうってことないわ!」

 

霊夢はそう言い放つ。

 

「そう…ならこれはどう?」

 

輝夜がそう言った直後、フィールド中に霊力の弾幕が出現する。

 

「くっ!」

 

霊夢も対抗して同じ数の霊力の弾幕を撃ち放つ。

 

「想定内ね。」

 

輝夜がそうつぶやくと、またもやいつの間にか霊力の弾幕が出現し倍の数となった。

 

「無駄よ。あなたがどれだけ弾幕を出しても私はその倍の数を出せばいいだけ。

さて…先にガス欠になるのはどちらかしらね?」

 

「くっ!」

 

お互いの弾幕がぶつかり合い、霊夢は1分ほど粘っていたが、やがて霊夢の弾幕の数が輝夜の弾幕の数に追いつけなくなってしまった。

数発、霊夢に向かって飛んでくる。

そして、弾幕は爆発した。

 

「終わりかしら?」

 

輝夜はそう言って眺めている。

しかし、爆発の煙が晴れた先に霊夢の姿はなかった。

輝夜は慌てることなく後ろを振り向いて飛行している霊夢を視界に捉える。

 

「白霊砲!」

 

霊夢は右手から霊力の光線を放つ。

その瞬間、輝夜はスキルを発動して、1000兆分の1の速度の世界に入った。

 

「哀れな子。」

 

輝夜は白霊砲の射線から移動して、霊夢の周囲に大量の霊力の弾幕を出現させる。

 

「これで本当の終わりね。」

 

輝夜は元の時間の世界に戻る。

白霊砲は外れ、輝夜が放った霊力の弾幕は霊夢に降り注ぎ爆発する。

 

「だから言ったでしょ。あなたは絶対に私に勝てないって。」

 

輝夜がしばらく爆発の煙を見ていると、

 

「おかしいわね。まだ落ちないなんて。」

 

そうつぶやいていると、爆発の煙の中から霊夢が現れた。

だが霊夢はダメージを全く受けていなかった。

 

「うそ!どうして…!…なに…あの子の体…透けてる?」

 

ここで初めて輝夜に動揺があらわれる。

輝夜が見た霊夢の姿は半透明だった。

 

「え…なに…もしかして…死んだ?」

 

「死んでないわよ!」

 

霊夢がすかさず否定する。

 

「なんなの…この子…。」

 

輝夜は霊力の弾幕を放つ…がその弾幕は全て霊夢の体をすり抜けていく。

 

「無駄よ。今の私にはいかなる攻撃も通用しない。この状態でいる限り私は無敵状態となる。

これが『夢想天生』!」

 

「夢想…天生?」

 

輝夜は頭の中で情報を処理しきれない。

霊夢がゆっくり目を閉じる。

 

「何のつもり?…!」

 

輝夜が訝しんだ次の瞬間、霊夢から霊力弾が放たれる。

 

「舐めないで!」

 

輝夜は再び、1000兆分の1の速度の世界に入る。

だが霊夢の放った霊力弾は速度を落とすことなく輝夜に向かって飛んできた。

 

「なんですって!」

 

輝夜は慌てて霊力弾を放つ。

だがいくら迎撃しても休む間もなく霊夢は霊力弾を放っていた。

 

「どこにそんな霊力が…。」

 

輝夜が歯ぎしりしていると、1000兆分の1の速度の世界で霊夢の体が光り出した。

霊夢は霊力弾を放っていたが、体は動いていなかった。

その霊夢が目を閉じたまま体を徐々に動かしていく。

 

「なんで…ここは…私の…私だけの世界なのに…なんで…なんであなたが入って来られるのよ!」

 

輝夜は声を荒げる。

 

「そんなの…気合いよ!」

 

霊夢はそう言い放った。

 

「はあ⁉」

 

輝夜は理解できなかった。

 

「これで決める!夢想封印!」

 

輝夜の周囲に結界が展開され、内部に霊力弾が出現し輝夜に向かって放たれる。

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

輝夜は悲鳴を上げて倒れる。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 博麗霊夢》

 

《決まった~!副将戦に勝利したのは神光学園の博麗霊夢選手だ~!》

 

文の実況を聞き、大きな歓声が響く。

 

《いや~まさかのあの蓬莱山輝夜選手に勝つとは思いませんでした!》

 

《まあ、しかしほとんど加速した世界で闘っていたのでこちらからは何が起きていたのか分かりませんでした》

 

《スローで見ても、うっすら程度にしか見えませんしね。

ですがそれでも博麗霊夢選手が蓬莱山輝夜選手に勝利したことに変わりはありません!》

 

 

 

 霊夢は仰向けに倒れている輝夜に歩み寄る。

 

「悪いけど負けられないの。私、今のチームが大好きだから…もっとこのチームで闘いたい…

そのためには…こんなところでつまずいている暇はないのよ。」

 

その言葉を聞いた輝夜が仰向けのまま目を開ける。

 

「そう…大好きなチームか…。」

 

それだけつぶやく。

 

「じゃあね…感謝するわ。あなたのおかげで私はさらに強くなれたわ。」

 

霊夢はそう言ってベンチに戻って行った。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「ボロボロだな。」

 

「ここまでやったんだから絶対に勝ってよね…キャプテン。」

 

黒刀の言葉に霊夢はそう返すとハイタッチを交わす。

黒刀はその後、デュエルフィールドに入った。




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モードチェンジ

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 首里高校代表ベンチ。

ボロボロになった輝夜が戻ってくる。

 

「輝夜先輩、あの…海道先輩が起きません。」

 

鈴仙がうろたえる。

輝夜は寝ている男に視線を向ける。

 

「海道、起きなさい。」

 

「ん…ふわぁ…。」

 

輝夜の一言で起きたのは海道修。

緑色の髪でスポーツ刈り、身長185㎝でやる気のなさそうな男。

腰には曲刀がぶら下がっている。

学年は2年生。

 

「そんじゃ…行ってくる…ふわぁ…。」

 

海道は欠伸をかきながらデュエルフィールドに入っていく。

 

「大丈夫でしょうか…今回の相手はあの四季黒刀ですよ?」

 

鈴仙が心配そうな声を出す。

 

「心配ないわ。彼は強い。」

 

「はぁ…。」

 

輝夜の答えに鈴仙は納得しきれなかった。

 

 

 

 

《ついに…ついにきました!

あのチャンピオン…四季黒刀選手が今!このフィールドに立ちました!》

 

《見ものですね》

 

文の実況に神奈子が応える。

黒刀が鞘から『八咫烏』を勢いよく引き抜く。

それだけで強い風圧が起きた。

 

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

妖夢があることに気づく。

 

「あれ…そういえば合宿中は気づきませんでしたけど先輩の刀、前と違いますね。」

 

その疑問に映姫が答える。

 

「あの刀の名は『八咫烏』。

以前の刀では黒刀のオーラに耐えきれませんでしたが『八咫烏』なら大丈夫です。」

 

「つまり先輩は初めて名を持つ刀を手に入れたってことですか?」

 

「そういうことになりますね。」

 

 

 

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始直後、黒刀が斬撃を放つ。

それを海道は上半身をひねって躱す。

躱された斬撃は結界に直撃すると衝撃吸収システムが作動し破壊されなかった。

 

「うん。これなら安心してやれるな。」

 

黒刀は不安の種を1つ解消した。

海道もようやく眠気から覚めたようで、

 

「あ~さてと…やるか。」

 

少し沈黙した後、

 

「おら!」

 

まるで人が変わったように曲刀を振ると、その刃が伸びて黒刀に襲いかかる。

黒刀は横に飛んでそれを避けると通り過ぎたはずの刃が向きを変えて黒刀の背後から襲いかかる。

黒刀は振り向きもせず、その刃を『八咫烏』で弾いた。

だが弾いた刃はまた黒刀に襲いかかる。

黒刀はそれをまた弾く。

海道は口笛を吹く。

 

「やるな…ならこれでどうだ!」

 

海道は一旦、刃を戻し突きを放つ。

黒刀はそれを真正面から弾く。

弾いた刃の刀身からもう1つの刃が増え、黒刀に襲いかかる。

黒刀は『超反射』を発動して反応し、それを『八咫烏』で弾く。

 

「2本じゃダメか…なら次は5本だ!」

 

海道が曲刀を振ると1つの刃が5つに増える。

黒刀はそれを全て弾く。

 

「次は10本だ!」

 

5つの刃が倍になり、あらゆる方向から黒刀に襲いかかる。

黒刀はそれも全て弾く。

 

「ハハハ!すげぇなおい!ここまでやられたらこっちも出し惜しみなんかしてらんねぇな…いくぜ!20本!」

 

「っ!」

 

それは黒刀の最大剣速数を超える数だった。

20本の刃はコントロールが難しいのか、ほとんどが真正面からだったがそれでも黒刀の対応できる数ではなかった。

 

「くっ!」

 

黒刀は刃を19本まで弾いたが、最後の1本が間に合わず頬を掠める。

黒刀はバックステップする。

それを追いかけるように20本の刃が襲いかかる。

バックステップしながらそれを弾くが、やはり最後の1本が間に合わず腹、肩に命中してしまう。

 

「カオスブレイカー!」

 

黒刀は気力を集束した黒い斬撃を放つ。

だが20本の刃は海道の元へ戻り、刃の壁を作り防いだ。

 

「どうした?これで終わりか?なんだ…大したことねえな!」

 

海道は吠える。

黒刀は息を吐いた。

 

「………ったく、しょうがねえな。」

 

「あ?なにがだ?」

 

「もうちょっと隠しておこうと思ったが、そうもいかねえみたいだからな。

…感謝するんだな!これから見せるのはまだ誰にも見せていないとっておきだ!」

 

「ハッタリで俺を騙せると思っているのか?」

 

「ハッタリかどうかはこれを見てから言え。」

 

黒刀が棒立ちになると、彼を纏うオーラが黒い木の葉となって彼を渦巻く。

 

「なんだ…いったいなにを…。」

 

海道は声を漏らす。

 

「モードチェンジ!」

 

そして、木の葉の竜巻から声が聞こえた。

木の葉の竜巻がバッと消えるとそこにいたのは黒いコート、黒いグリーブを着けた黒刀ではなく、半袖の黒い着物を着ていて、素足のまるで浪人侍のようだった。

 

「サムライ!」

 

黒刀はそう言い放つ。

これが『サムライモード』となった黒刀の姿である。

海道は目を見開く。

 

「なんだそれ…変身魔法やデュエルジャケットと何が違う?」

 

「すぐに分かるさ。」

 

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

黒刀の『サムライモード』を見た映姫は固まっていた。

 

「どうした映姫?」

 

にとりが横から声をかける。

 

「あんなの私は知りません。」

 

「え?」

 

「今まで一緒にいましたが、あんな力を私は一度も見たことがありません。」

 

「(姉である映姫が?)」

 

にとりは疑問が深まった。

 

 

 

 

「何のつもりだか知らねえがここはコスプレショーじゃねえんだよ!」

 

海道は20本の刃を黒刀に向かって放つ。

黒刀は腰をグッと落とした。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

『八咫烏』を振ったその瞬間、20本の刃が一瞬で弾かれた。

 

「なっ!」

 

海道は驚く。

黒刀の剣速は20に達していた。

黒刀は踏み込んでダッシュする。

海道は舌打ちして20本の刃を伸ばして放つ。

黒刀は襲いかかってきた刃を走りながら弾いていく。

 

「くそ!(しかたねえ…精度は落ちるがやるしかねえ!)」

 

海道が刃を伸ばすと、刃が曲がり黒刀を囲み襲い掛かる。

黒刀は立ち止まる。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

だが刃は全て弾かれてしまう。

黒刀は『八咫烏』を鞘に納め、腰をグッと落とし構える。

 

「(居合⁉まずい離れねえと!)」

 

海道はバックステップしようとする。

 

「遅い!四季流剣術 弐の段 一閃!」

 

黒刀がそう言い放った一瞬の後、黒刀は既に海道の背後から10m離れた場所でいつの間にか抜いた『八咫烏』を鞘に納めようとするところだった。

そして、『八咫烏』を鞘にカチャっと納めると、海道の肩から斜め一線に斬撃が走る。

 

「がはっ!」

 

海道は声を上げて前のめりに倒れる。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

黒刀の『サムライモード』が解けて、元のデュエルジャケットに戻る。

 

《勝利したのは…神光学園だ~!》

 

文が高らかに叫ぶ。

観客がそれに応えるように歓声と拍手を響かせる。

 

 

 

 黒刀がベンチに戻ると妖夢、霊夢、チルノ、にとり、映姫が寄ってきて祝福やモードチェンジについての質問攻めにあった。

黒刀は質問に答える。

 

「あれはなんていうか俺の可能性だよ。」

 

「「「「「可能性?」」」」」

 

妖夢達が一斉に首を傾げる。

 

「こうなりたいって想いから生まれた能力みたいなもんだ。」

 

「「「「「へえ~。」」」」」

 

「ほら、もうこのくらいでいいだろう。さっさと魔理沙達のところへ行くぞ。」

 

「(逃げた。)」

 

「(逃げたね。)」

 

「(逃げましたね。)」

 

「(ああ、逃げた。)」

 

「(そうだ…大ちゃんのところに行かなきゃ。)」

 

 

 

 神光学園代表控室。

東京デュエルアリーナの控室にはベッドも備え付けてあった。

 

「見てたぜ…2回戦進出おめでとう。」

 

ベッドに横たわる魔理沙が口を開く。

 

「怪我はどうだ?」

 

黒刀が声をかける。

 

「ああ、だいぶ良くなってきた。明日の試合には間に合いそうだ。」

 

「そうか…良かった…じゃあ俺がおぶってくか?」

 

「え…いや…それは…ほら!黒刀だって疲れてるだろうし…。」

 

魔理沙が急にうろたえだす。

 

「あれ~!魔理沙、もしかして恥ずかしいの~?」

 

霊夢が意地悪な笑みでからかう。

 

「ば…ばか!そんなんじゃねえ!…ただ…迷惑かけたのに…悪いなって…。」

 

「何言ってんだ?仲間なんだから助け合うのは当たり前だろ。」

 

魔理沙の遠慮に黒刀はそう返す。

 

「黒刀…そうか…そうだな…じゃあ頼む。」

 

「ああ。」

 

黒刀は魔理沙をおぶって行くのだった。




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白雪

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War


 黒刀達がロビーに来ると、

 

「あ、センパイ!」

 

バッタリ早苗に会った。

 

「センパイ、見てましたよ!凄かったです!さすが私のセンパイですね!」

 

「お前ら、帰るぞ。」

 

黒刀は早苗をスルーして行こうとする。

 

「って、え~!センパイちょっと~!」

 

早苗の必死の制止に黒刀は振り向く。

 

「なんだ?こっちは疲れてるんだ。お前と遊んでいる暇はない。」

 

「そんなことを言わずに…」

 

早苗が続きを言いかけたその時。

突然、黒刀と早苗の間に髪の長い銀髪の女性が割り込んできて黒刀の前で立ち止まる。

その女性は肌が白く、瞳は青く、すらっとした体型だが出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる100人聞けば100人が美しいと呼ぶほど容姿が整っていた。

彼女は優しく微笑んだ。

 

「久しぶり黒刀君。」

 

「お前…もしかして真冬か?」

 

「はい♪」

 

そう応える彼女の名は白金真冬。

北海道代表白雪高校の代表で黒刀と同じ2年生である。

 

「どういうご関係なのですか?」

 

妖夢が訊く。

 

「中学時代の同級生だ。」

 

黒刀が簡潔に答える。

 

「え~私、この方と会ったことありませんよ。」

 

早苗が口を出す。

 

「お前が転校してくる前に北海道に引っ越したんだ。

まさか代表になっているとは…。」

 

「そりゃ私は白雪高校の1位ですから。」

 

真冬は笑って答えた。

その答えに一同は戦慄する。

 

「お前が…1位…。」

 

黒刀が言葉を漏らす。

 

「黒刀君、あの約束…覚えていますか?」

 

「約束?」

 

「あら、忘れてしまったのですか?

もし、私が黒刀君に勝ったら恋人になってくれるって言ったじゃないですか。」

 

『こ…恋人~⁉』

 

その言葉に早苗がうろたえだす。

 

「セ…センパイ、そんなこと言ったんですか?嘘ですよね?」

 

「い…言った…。」

 

「え~!…ちょっとあなた!センパイは私のものなんですからね!」

 

早苗はそう言い放って真冬を指さす。

 

「黒刀君…何なんですか?さっきからこの女。」

 

「…元カノだ。」

 

黒刀は冷や汗が止まらなかった。

 

「ってことは…私を裏切って彼女を作ったってことですか?」

 

「い…いや~(姫姉助けて!)」

 

黒刀が映姫に視線で助けを求めるがそっぽを向かれてしまった。

他の皆にはジト目で睨まれる。

 

「ま、元カノなら別にいいか…黒刀君、先に言っておくけど私は大将だよ。

もし、2勝2敗になった時、私が勝ったら…付き合ってください。」

 

「(ここで逃げるわけにはいかないな。)

…いいだろう。ただし勝てたらの話だ。」

 

「そう言うと思っていました♪」

 

真冬はそう言って微笑んだ。

 

「それじゃ、明日の試合楽しみにしてますよ…黒刀君。」

 

真冬はそう言って去った。

フリーズしていた早苗が我に返る。

 

「ちょ、まだ話は終わってません!センパイ、私も勝ったら…」

 

「お前、もう帰れよ。」

 

「扱いひどっ!」

 

 

 

 神光学園代表宿泊ホテル。

黒刀はベッドに横たわった。

 

「疲れた~!」

 

黒刀がそう言っていると、隣のベッドに座っている映姫は機嫌が悪そうだった。

 

「何怒っているの?」

 

「怒っていません。」

 

「怒っているじゃないか。」

 

「………ならこの際、はっきり言わせてもらいますけど、黒刀は女性関係に関してだらしがなさすぎです。」

 

「え、そうなの?」

 

「そうです!早苗とかさっきの真冬さんとかアリスとかレミリアさんとか!」

 

「ちょ、なんでアリスとレミリアまで⁉」

 

「この鈍感!」

 

映姫はそう言い放って部屋を出て行った。

 

 

 

 黒刀が寝た後、映姫はこっそり黒刀がベッドに潜り込んだ。

そして、黒刀の背中からギュッと抱きしめた。

 

「私だって…やきもちくらい焼くんですからね…。」

 

映姫は小さい声でつぶやくとそのまま眠った。




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データと究極霊術

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 8月2日。東京デュエルアリーナ北会場。

 

《さあ!剣舞祭2回戦白雪高校対神光学園の試合が今、始まろうとしています!

先鋒、白雪高校は雪村氷牙選手!神光学園はチルノ選手!》

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「チルノ、準備はいいか?」

 

黒刀がチルノに声をかける。

 

「あたいはいつでもOKだよ!」

 

「よし、いってこい!」

 

「おう!」

 

チルノはダッシュでデュエルフィールドに入った。

 

 

 

 白雪高校代表ベンチ。

雪村は魔法師用のハンドガンを2丁それぞれ左右の腰のホルスターにセットする。

ポーチにカプセルのようなものを入れた。

 

「それでは行ってきます。」

 

雪村はそう言ってデュエルフィールドに入った。

 

 

 

 チルノと雪村が向かい合う。

 

「ふむ…データによると君は氷属性であることは明らか…であるならこれでいこう。」

 

雪村はそうつぶやいてポーチから赤色のカプセルを取り出して、

それをハンドガンのマガジンにセットする。

 

「それでは始めようか…データの収集と解析の時間をね。」

 

「あたいは常に進化する!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「アイスニードル!」

 

試合開始直後、チルノが氷の棘を放つ。

その棘を雪村がハンドガンで魔法弾を撃って溶かす。

 

「君が氷属性なら僕は火属性の魔法弾カプセルを使えばいいだけの話。」

 

雪村はもう1丁のハンドガンで撃ったがチルノには何も見えなかった。

 

「何を撃ったかはすぐに分かるよ。」

 

「くっ、だったらソードフリーザー!」

 

チルノは氷の剣を造形して突撃する。

 

「あ~ダメダメ。そこは危ないよ。」

 

雪村はそう口にした。

チルノが踏み込んだ瞬間、床が爆発した。

 

「今、このフィールドにはいくつかステルス地雷をセットしてある。

不用意に突っ込むと自滅するよ。」

 

爆発の煙からチルノが出てくる。

無傷だった。

 

「なるほど…爆発の直前に飛翔して回避したのか…さて、どうするかね?」

 

「地上がダメなら空だ!」

 

チルノはそう言い放って飛び上がる。

 

「だから危ないって。」

 

チルノの体が空中で見えない何かに触れた。

その瞬間、爆発した。

 

「言い忘れていたけど、空中にはステルス機雷がセットしてあるのでご注意を。」

 

チルノは爆発の煙から出る。

 

「地上もダメ…空もダメ…いったいどうしたら…。」

 

チルノは焦る。

 

「(君の霊力は高いからね。長期戦をするつもりはないよ。)」

 

雪村は歩みを進め、チルノに接近していく。

 

「なんであいつは爆発しないんだ?」

 

「(この眼鏡は特別製でね…ステルスをスキャンできるシステムを搭載されている。)」

 

「フロストキング!」

 

チルノが氷の龍を呼び出した瞬間、肩に雪村の撃った魔法弾が命中する。

 

「その霊術を発動している間、君は動けない。

僕相手に的になってくれるなんて嬉しいことをしてくれるじゃないか。」

 

チルノはすぐさまフロストキングを解除する。

 

「グレートクラッシャー!」

 

チルノは氷のハンマーを造形する。

 

「これで機雷ごとぶっ飛ばす!」

 

チルノは空中から突撃する。

雪村はハンドガンにセットしてある機雷弾を抜き取り、

白いカプセルを取り出しハンドガンのマガジンにセットしてそれを撃つ。

すると眩しい光が発生した。

チルノは視界を奪われ、目を閉じる。

雪村は火属性カプセルに取り換えて撃つ。

撃たれたチルノは墜落していく。

さらに墜落した先が地雷ポイントだったため爆発に巻き込まれる。

 

「ぐああ!」

 

「おや、もうおしまいかい?まだデータを集めたかったんだけどね。」

 

雪村がハンドガンをホルスターに戻そうとしたその時、

爆発の煙が吹き飛び、チルノが姿を現す。

 

「なるほど…どうやら神光学園のメンバーはどれも相当タフなようだ。」

 

「…あたいはお前のつまらないデータのために闘っているわけじゃない!

霊力解放!」

 

チルノの体を光の柱が包み込み、霊力が解放される。

 

「…つまらないデータ…ね。君には理解できないようだね!

この剣舞祭がデータの宝庫だということを!」

 

「そんなの勝手にやってろ。」

 

チルノの声色が険しくなる。

 

「どちらにせよ君に打つ手はない。君の霊術は全て封じた。」

 

その言葉にチルノは笑みを浮かべる。

 

「い~や、まだ残ってる。あたいの切り札を今こそ見せてやる!」

 

チルノの周囲の冷気がさらに冷たくなっていく。

 

「極大霊術 絶対零度!」

 

チルノがそう詠唱する。

フィールドの床が凍り、地雷が凍り、機雷が凍り、雪村も凍り付いた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 チルノ》

 

試合が終わり、チルノは術を解く。

氷から雪村が出てくる。

 

「…驚いたな…さすがに-273℃は北海道でも経験したことがないよ…だが…またいいデータがとれたよ…さむっ!」

 

雪村は体を抱きながらベンチに戻って行った。

 

 

 

 

「よし、次は私だな!」

 

魔理沙がベンチから立ち上がった。




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油断

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 白雪高校代表ベンチ。

次鋒の出番となりベンチから立ち上がったのは黒の短髪で丸眼鏡のオドオドとした女の子だった。

手にはボウガンが握られている。

彼女の名は丸山千歳。

学年は1年生。

 

「つつ…次は…私ですね!」

 

丸山はてんぱっていた。

 

「千歳、落ち着いて。深呼吸しよう。」

 

真冬が優しく声をかける。

千歳はゆっくり深呼吸する。

 

「で…では…いってきます!」

 

丸山はデュエルフィールドに入るがガチガチだった。

 

「大丈夫ですかね?」

 

雪村がホットココアを飲んで、心配そうにつぶやく。

 

「大丈夫ですよ。いざという時は頼りになりますから。」

 

真冬はそう言って微笑んだ。

 

 

 

 対戦相手を見た魔理沙は首を傾げていた。

 

「(なんか調子狂うな…。)」

 

魔理沙は箒に乗って浮遊する。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

魔理沙は先手を打って魔法弾を撃つ。

 

「きゃあああ!」

 

丸山は叫びながら背を向け走り出す。

 

「………は?」

 

魔理沙は呆気に取られた。

 

「ええと…とりあえず…続けるか。」

 

魔理沙はさらに魔法弾を連射する。

魔法弾は丸山に直撃するかと思えたが全てギリギリで躱されていた。

 

「ほっ!はっ!危なっ!」

 

丸山はびびりながらも躱し続ける。

 

 

 

 白雪高校代表ベンチ。

 

「いや~、千歳は本当に逃げ足が速いね~。」

 

真冬は能天気にそんなことを言っている。

 

「でも、このままじゃ勝てませんね。

彼女、ここまでの全試合負けてますし。」

 

「大丈夫ですよ。千歳の矢が当たればこちらの勝ちです…たとえ1発でも。」

 

 

 

 魔法弾が全く当たらないことに魔理沙は苛ついていた。

 

「あ~もう!ちょこまかと!」

 

魔理沙は魔法弾をまるで嵐のように連射する。

だが千歳はそれを全て躱した。

 

「なっ!」

 

魔理沙は驚く。

 

「(いくらなんでも回避性能高すぎるだろ。

こうなったら避けた後でマスパを撃つしかない。)」

 

そう考えた魔理沙はすぐ行動に移す。

 

「くらえ!」

 

魔理沙は魔法弾を撃つ。

 

「うわ!」

 

丸山は躱した。

 

「マスタースパーク~!」

 

そこに魔理沙は砲撃魔法を放つ。

 

「うわあああ!」

 

巨大な砲撃魔法に千歳は驚いていた

…が直撃する前にバックステップしてダメージを軽減させた。

 

「ここだ!」

 

丸山は爆風で吹っ飛ばされる中、ボウガンを構えて照準を魔理沙に向けて1発の矢を放つ。

魔理沙は首を少し傾けて躱す。

矢は魔理沙の頬を掠めた。

 

「よし!追いつめてるぜ…勝負はここから…っ!」

 

魔理沙が魔法弾を撃とうとしたその時、急に視界が揺らぎ、気が遠くなっていく。

 

「なんだ…いったい…なにが…。」

 

そのまま箒ごとゆっくり床に着地して魔理沙は床にうつ伏せになって動かなくなった。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 丸山千歳》

 

「や…やった~!勝った~!」

 

丸山は大はしゃぎする。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「どういうこと?」

 

霊夢が疑問を口にする。

 

「おそらく麻酔効果のある矢で眠らせたんだろう。

一瞬だが魔理沙の頬を掠めているのが見えた。

魔理沙を回収してくる。」

 

黒刀がそう答えてデュエルフィールドに入り、

魔理沙を抱き上げてベンチに戻ってきた。

魔理沙をベンチに横たわらせる。

 

 

 

 白雪高校代表ベンチ。

 

「やったよ!真冬先輩、ついに剣舞祭で勝利しました!」

 

千歳はVサインを見せる。

 

「うん、おめでとう千歳。」

 

「ありがとうございます真冬先輩!」

 

千歳は満面の笑顔を見せた。




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雪女と鬼神

OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 神光学園代表ベンチ。

 

「今の魔理沙の負けはほとんど魔理沙の油断が原因だ。気にするな。

それより次はどう勝つかを考えることの方が優先すべきだ。」

 

「「「「はい!」」」」

 

黒刀の言葉に妖夢、霊夢、チルノ、大妖精が返事する。

 

「妖夢、いけるな?」

 

「はい!」

 

「よし、いけ!」

 

「はい!」

 

妖夢は元気よく返事してデュエルフィールドに入った。

妖夢の対戦相手はロシアからの留学生、レティ・ホワイトロック。

薄紫色のショートボブに白いターバンのようなものを巻き、ゆったりとした服装をしている。

下はロングスカートにエプロンを着用。

首には白いマフラーを巻いている。

左胸に首から腰までの白いラインが走っており、そこに銀を表す四方向に矢印のついた槍のブローチをつけている。

瞳は薄紫色。

身長は妖夢と同じくらい。

学年は3年生。

 

「ヨロシク。」

 

片言で挨拶をされる。

 

「あ、はい!よろしくお願いします!」

 

妖夢も慌てて頭を上げて挨拶を返す。

それから二本の剣を抜いて構える。

レティは素手だ。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

妖夢は開始早々、突っ込む

…がレティに届く寸前で白い物体に阻まれた。

 

「…雪?」

 

妖夢は言葉を漏らす。

レティは雪で壁を作り、妖夢の攻撃を止めたのだ。

妖夢はバックステップで後退した後、クロスステップでレティの背後に回り込む。

妖夢が『白楼剣』を水平に振ると、レティの服の裾から雪が飛び出してくる。

妖夢は攻撃をやめてバックステップする。

 

「服の中に雪を…。」

 

妖夢は驚いた。

レティは手を振って雪を操作して妖夢に攻撃する。

妖夢は後方に高くジャンプして躱す。

しかし、フィールド床全体が雪に埋まってしまい完全に雪原フィールドと化してしまった。

 

「(これじゃ着地出来ない…ハイジャンプとロージャンプを使っていくしかない。)」

 

妖夢はハイジャンプして上昇する。

そこからロージャンプで急降下して妖夢に上段斬りで斬りかかる。

その時、妖夢とレティの間に雪の壁が現れる。

妖夢は空中で体を縦に一回転させて雪の壁を飛び越えてレティの背後に回り込み『楼観剣』を振る。

だが、雪の壁の展開の方が速く、攻撃を防がれた。

妖夢の背後から雪が襲い掛かり、それをまともに食らって吹っ飛ばされてしまう。

体勢を立て直そうと立ち上がると、足が雪に捕らえられる。

 

「くっ!」

 

妖夢は必死に雪から足を引き抜こうとするが、まるで雪の中から引っ張られているかのように引き抜けなかった。

レティは雪を操作して巨大な獅子の顔を造形すると、妖夢に攻撃を仕掛ける。

妖夢はハイジャンプして無理やり脱出して躱す。

 

「(雪原は厄介すぎる…こんな時、先輩ならどうする?)」

 

妖夢はベンチにいる黒刀に視線を向ける。

黒刀は笑みを浮かべていた。

それを見た妖夢はハッと気づいた。

 

「そうか…そうですよね…先輩なら…」

 

 俺なら…

 

「「斬る!」」

 

妖夢は『白楼剣』を鞘に納めた。

 

「気力解放!」

 

妖夢の体を光の柱が包み込む。

その光の柱が形を崩すと妖夢の『楼観剣』に集束していく。

『楼観剣』は気力を注ぎ込まれ、巨大な光の剣となった。

妖夢は『楼観剣』を上段に構えて、振り下ろした。

 

「断名剣 冥想斬!」

 

巨大な光の剣をレティはなんとか避ける。

だが、斬られた床が真っ二つに割れ、その隙間に雪が入っていく。

妖夢はレティのいる反対側の床に着地してすぐに床を蹴り上げて『楼観剣』を中段に構えて水平に振る。

 

「もう一度!断名剣 冥想斬!」

 

「スノーマン!」

 

レティが詠唱して巨大な雪の巨人を造形する。

雪の巨人は拳を握って、妖夢に拳を振り下ろす。

剣と拳がぶつかり合う。

 

「はあっ!」

 

妖夢はさらに力を込めた。

雪の巨人は真っ二つに斬られ、その奥にいたレティも斬られた。

レティは数m後方に吹っ飛ばされ気を失う。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 魂魄妖夢》

 

妖夢は『楼観剣』を鞘に納めて、ホッと息をついて、それからベンチに戻って行った。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「おつかれ。」

 

妖夢がベンチに戻ってくると黒刀が労いの言葉をかける。

 

「はい。」

 

妖夢はそう応えて、ベンチに寄りかかる。

 

「次は私ね。」

 

霊夢はベンチから立ち上がってデュエルフィールドに入る。

霊夢は心配そうな目をしていた。

 

「気をつけろよ。次の相手は…」

 

 

 

 白雪高校代表ベンチ。

 

「さて、そんじゃ…いきますか!」

 

そう言って立ち上がるのは五位堂光。

肩に担ぐのは大きな斧。

 

「気をつけてください。次の相手は札を使っ」

 

「あ~、別にいいよ。そんなの…どうせ全部ぶった切るだけだし!」

 

雪村の忠告を無視した光は早く試合がしたくて溜らないと言いたげな表情をしていた。

光はデュエルフィールドに入る。

 

「やれやれ…ナンバーズっていうのはみんなあんなに好戦的なのかね~。」

 

雪村が首を横に振って呆れる。

 

「そうですね~…黒刀君もそんな感じになりますよ。」

 

真冬が顎に人差し指をあてて口にする。

 

「やれやれ…ほんとに厄介だ。」

 

雪村はため息しか出なかった。

 

 

 

デュエルフィールドに入った後でも、光は笑ったままだった。

 

「なんなの…こいつ…。」

 

霊夢は不気味さを感じた。

 

「さあ!さっさと始めようぜ!」

 

光が興奮した口調で言い放った。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始直後、霊夢が爆符を放とうとしたその時、光は既に霊夢の懐に潜り込んでいた。

 

「(いつの間に!)」

 

霊夢は咄嗟に後方にバックステップした。

さっきまで霊夢のいた空間に斧が振り抜かれる。

 

「(あんなに重そうな斧を持っているのに…なんであんなに速く動けるのよ!)」

 

霊夢は光のスピードに舌を巻く。

光は斧を振り回し、霊夢はそれを避ける。

光の連続攻撃が続いていると、霊夢がしびれを切らした。

 

「こんの!調子に…乗るな!」

 

霊夢が後方に宙返りする。

 

「夢想封印!」

 

霊夢の展開した結界が光を取り囲む。

だが…

 

「こんなもん…効かねえよ!」

 

光が斧を水平に振ると、結界があっけなく破壊された。

 

「なっ!」

 

「これが私のスキル『デーモン』!魔法だろうが霊術だろうがぶった切ることが出来るのさ!

つまり!てめえのまどろっこしい霊術なんて全部私に斬られるんだよ!」

 

光はそう言い放った。

 

「(こいつ…魔理沙と黒刀を合わせたような性格のやつね。)

悪いけど私も諦めるわけにはいかないのよ!」

 

「そうかよ!」

 

光が何もない空間を斬ると、斬られた札が現れる。

 

「(幻符がバレてる!どうする…夢想天生でいくか…いやリスクが高すぎる…なら数で押し切る!)」

 

霊夢は大量の爆符を放つ。

 

「はっ!効かねえって言ってんだろうが!」

 

光は爆符を一振りで薙ぎ払った。

攻撃の風圧で霊夢の体勢が崩される。

光はそれを見逃さなかった。

 

「ぶち壊せ!デストラクションスラッシュ!」

 

光の斧が赤く輝く。

光が斧を振ると、大きな赤い斬撃が放たれる。

霊夢は迎撃や回避する隙も無く直撃する。

地上に落下して気を失った。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 五位堂光》

 

光は斧を担いだままベンチに戻る。

その時にはいつもの明るい表情に戻っていた。

 

 

 

 霊夢がうっすら目を開けると、目の前に黒刀がいた。

霊夢の体はデュエルフィールドの床ではなくベンチに横たわっていた。

 

「ごめん…負けちゃった…。」

 

霊夢は自身の敗北を謝る。

黒刀が霊夢の肩に手を置く。

 

「安心しろ。俺が決めてくる。ここでゆっくり休んでろ。明日の試合のために。」

 

黒刀はそう言ってデュエルフィールドに入った。

その背中を見た霊夢は、

 

「…明日の試合のために…か。」




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初恋

OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 北会場観客席。

 

「間に合った~!」

 

「お義兄様の試合、早く見たいな~♪」

 

「すぐに始まるだろ。」

 

早苗、フラン、天子が急いで席に座った。

3人の姿に気づいた一部の観客達がどよめき始める。

「あれ紅魔学園じゃん。」

「なんでこんなところに。」

 

早苗とフランは目をキラキラさせながら、天子は冷静な目で試合を待っていた。

 

 

 

 白雪高校代表ベンチ。

 

「ん~!さて、愛の儀式を始めますか!」

 

真冬は伸びをしてからデュエルフィールドに入った。

 

 

 

 観客席。

 

「あ、出た!女狐!」

 

早苗が声を上げる。

 

「女狐?」

 

天子が早苗の言葉に反応する。

 

「私のセンパイを誑かそうとしたんです!」

 

「いや、お前のじゃないだろ。」

 

天子が冷静にツッコむ。

 

「センパイ~!その女狐ぶった斬っちゃってください!」

 

 

 

「(なんか見えちゃいけないものと聞こえちゃいけないものがあるけど無視無視。)」

 

黒刀がそんなことを考えていると、

 

「黒刀君。」

 

正面から名前を呼ばれる。

真冬だ。

 

「ん?」

 

「約束、忘れてないですよね?」

 

「ああ。」

 

「私、ずっと黒刀君のことを想っていました…あの時から…。」

 

 

 

 3年前 春。

黒刀が中学2年生だった頃。

真冬が父親の都合で奈良の中学校…光明中学校に転校してきた。

 

「白金真冬です。よろしくお願いします。」

 

真冬が自己紹介すると、その美貌に教室中が沸き上がる。

だが、その状況で全く興味を示さない者がいた。

窓際の一番後ろの席で頬杖をついて窓の外を眺めている当時13歳の黒刀だった。

真冬が担任に席を尋ねると黒刀の隣の席を指差した。

真冬はその席に座る。。

 

「よろしくね。」

 

黒刀に向かって挨拶する。

 

「ああ。」

 

返ってきたのは素っ気ない返事だった。

 

「(何よ…こっちも見ずに…しかも返事は素っ気ないし。)」

 

第一印象は最悪だった。

 

 

 

 休み時間は転校生お約束の質問攻めだった。

 

「ねえ、隣で窓の外を眺めてた男の子って誰?」

 

真冬が1人のクラスメイトの女子に訊いた。

 

「え、四季黒刀を知らないの?」

 

「え…うん。」

 

「ナンバーズだよ!」

 

「ナンバーズ…ってたしか凄いお金持ちの?」

 

「そう!」

 

「そうは見えないけど…それに授業中も窓の外を眺めていたけど先生は注意しないの?」

 

「しないっていうか出来ないんだよ。

前に先生が注意して問題に答えてみろって言ったら逆に玉砕されちゃってそれから誰も注意できないんだよ。近寄りがたいしね。」

 

ちなみに当の黒刀はどこかへ行っていた。

 

「真冬さんもあんまり関わらない方がいいよ。なんか怖いし。」

 

クラスメイトの女子が真冬にささやく。

 

「う…うん。」

 

真冬はとりあえず頷く。

 

 

 

 放課後。

それぞれの生徒が帰宅したり、部活動をしていた。

真冬は部活に入っていないのでそのまま下校する。

家に帰ると買い物を頼まれたので近くの商店街に歩いて向かう。

スーパーで買い物をしていると予想外の光景を目にしてしまった。

 

「(あれ…あそこにいるのってアイドルのアリス⁉

ん?でも隣に誰か…ってあれは四季黒刀~⁉)」

 

真冬の頭の中は完全にパニック状態だった。

すると、

 

「(もう1人来た。)」

 

精肉コーナーを見ていた黒刀とアリスに映姫が寄ってきた。

 

「(しかもアリスは変装してない⁉なになんなのこの状況、誰か説明して~!)」

 

真冬は心の中で叫んだ。

 

 

 

 黒刀達は買い物を終えてスーパーを出る。

真冬も少し遅れてスーパーを出た。

 

「なんか…気になる…。」

 

真冬は気になって尾行する。

その時、黒刀の表情を見て驚いた。

 

「(笑ってる…楽しそうに…。)」

 

それは学校の印象とは真逆だった。

 

「(本当は悪い人じゃないのかもしれない。

なんか尾行している自分が恥ずかしい…帰ろう。)」

 

真冬が踵を返したその時。

「泥棒~!」

おばさんの声が聞こえた。

ひったくりだ。

1台のバイクが真冬の真横を通り過ぎていく。

そして、そのまま黒刀達の方へ…

 

「危ない!避けて!」

 

真冬が思わず叫ぶ。

 

「おら~!死にたくなかったらどきなガキども!ひゃはははっ!」

 

ひったくりの犯人が笑いながらバイクを走らせる。

 

「(もうダメ!)」

 

真冬は見ていられず目を瞑る。

少ししてから恐る恐る目を開けると、またもや予想外の光景を目にした。

黒刀の左足がバイクの前輪を止めていた。

あまりの勢いに耐えきれず、ひったくりの犯人はバイクから投げ出され黒刀の頭上を越えて地面に転がっていた。

なんとか立ち上がったひったくりの犯人はそのまま逃げようとする。

 

「俺がやる。」

 

「ほどほどにですよ。」

 

「了解。」

 

黒刀と映姫が短いやりとりの後、次の瞬間にはひったくりの犯人の前には黒刀が立ち塞がっていた。

 

「この!死ね!」

 

ひったくりの犯人はポケットからナイフを取り出し黒刀を突き刺そうとする。

黒刀は体を少しひねって躱し、ひったくりの犯人の腕を掴んで投げる。

地面に叩きつけられたひったくりの犯人は気を失った。

 

 

 

 警察が到着したのはそれから5分後だった。

真冬は何が起こったのか理解出来ず、しばらくの間、放心状態となっていた。

 

 

 

 翌日。

真冬は黒刀のことが気になってしょうがなかった。

話しかけようと思ったが、学校にいる黒刀は話しかけづらかった。

 

 

 

 放課後。

真冬が1人で住宅街を通って下校していると真横にいきなり黒い自動車が停まり、中から出てきた3人組の男に掴まれ、薬品のようなものを嗅がされ眠ってしまうと車の中に入れられどこかに連れていかれてしまった。

 

 

 

 真冬が目を覚ましたのはどこかの廃工場の中だった。

体を動かそうと思ったが柱に手を縛られて動かせない。

 

「無駄だぜ。」

 

声が聞こえたので視線を向けると20代くらいの男がナイフを持ちながら近づいてきた。

 

「てめえは人質なんだ。おとなしくしてろ。」

 

「お前、医者の娘らしいな!さぞかし金になるだろうな!」

 

仲間の1人が気味の悪い笑顔を浮かべる。

 

「既に交渉は済んでいる。もうすぐ金を持ってこっちに来るはずだ。

そうなったらお前はもう用済み。安心しろ…ちゃ~んと殺してやるからよ。」

 

ナイフを持つリーダーの男が耳元で囁いてくる。

 

「それにしても中々の上玉じゃねえか!なあ?

金の前にちょっとだけ楽しむっていうのはダメか?」

 

仲間の1人が右手の親指と人差し指で少しだけっとジェスチャーする。

 

「ダメだ。取引の前に傷つけたら商品にならねえだろうが!」

 

リーダーの男が怒鳴って却下する。

 

「ちぇ~!」

 

「…あなた達、こんなことしてただ済むと思っているの?

すぐに警察が来て捕まるに決まっているわ!」

 

真冬が彼らを睨みつけて言い放つ。

だが、男達の反応は、

 

「プッ…プハハハハ!警察?んなもんになにが出来んだよ!

日本の警察なんてたいしたことねえよ!」

 

仲間の1人が笑い飛ばす。

 

「ま、そこでおとなしくしているんだな。」

 

リーダーの男がそう言うと、真冬から離れた場所でコソコソと話し始める。

 

「お前ら、分かってるな?金を持った奴が来たら…」

 

「そいつをこれでぶっ殺して、金だけ奪って女も殺して逃げる。」

 

リーダーの男の念押しに仲間の1人がアサルトライフルを見せつける。

 

「これで俺達は億万長者だ。」

 

リーダーの男がナイフの峰を舌で舐める。

それを見た真冬は背筋が凍り付いた。

死という人間が持つ最も単純で強い恐怖を感じた。

 

「あれ~もしかして泣きそう?泣いちゃうのかな~?ハハハ!」

 

仲間の1人が侮辱し笑いだす。

その時、

 

「おい、レーダーに反応があるぞ!金を持ったバカがこっちに来る!」

 

見張りをしていたもう1人の仲間が声を上げる。

リーダーの男が笑みを浮かべる。

 

「よし、扉が開いて入ってきた瞬間に撃ち殺すぞ。」

 

3人は銃を構える。

真冬は声を出して、逃走を呼びかけようとするが恐怖のあまり声が出ない。

だが、次に起きた出来事はここにいる4人が想像も出来ないことだった。

廃工場の巨大な鉄の扉が吹っ飛んだのだ。

まるで何者かに蹴り飛ばされたかのように。

 

「な、なんだ…何が起きた!」

 

リーダーの男が動揺して叫ぶ。

そして、現れたのはバイザーで顔を隠して、左手に木刀を握る男だった。

 

「なんだてめえは!」

 

リーダーの男が叫ぶがバイザーの男は無言のままだった。

 

「撃て!」

 

リーダーの男の指示で銃弾が放たれる。

 

「死ね~!」

 

仲間の1人が叫ぶ。

しかし、またもや予想外の事態が起きる。

なんとバイザーの男は何十発の銃弾を木刀で真っ二つに斬っていた。

 

「嘘だろ!」

 

仲間の1人が叫ぶ。

 

「チッ、てめえ!これ以上抵抗するとこの女を…っていねえ!」

 

男達が真冬のいた場所を見ると、そこに真冬はいなかった。

 

「おい、あそこだ!」

 

仲間の1人が指さした先を見ると、バイザーの男は鉄骨の上に立ち、真冬を抱きかかえていた。

 

「いつの間に!」

 

リーダーの男が驚く。

 

 

 

 真冬はバイザーの男の顔を見ると呟いた。

 

「…四季…黒刀?」

 

すると、バイザーの男は真冬の唇に人差し指を当てる。

バイザーの男の目は見えなかったが優しく微笑んでいるような気がした。

真冬の耳元に顔を近づける。

 

「少しここで待っててくれ。ここなら銃弾は当たらない。」

 

下から銃弾が飛んできているが鉄骨が邪魔で2人までは届いてない。

 

「大丈夫…お前は俺が守る。」

 

バイザーの男は真冬にそう囁いた。

その言葉を聞いた真冬にもう死の恐怖はなかった。

 

「うん…待ってる。」

 

「いい子だ。」

 

バイザーの男はそう言って、真冬をそっと鉄骨の上に降ろす。

バイザーの男は下の3人組の男を見下ろすと一瞬で接近してアサルトライフルをバラバラに斬った。

銃を失った男達はナイフで攻撃してくる。

バイザーの男はしゃがんでそれを避けると仲間の1人の顎にアッパーを打ち込んだ。

アッパーを食らった男は吹っ飛ぶ、床に落ちて気絶した。

さらにもう1人の仲間の背後に移動して手刀で気絶させる。

 

「なんだよ…なんなんだよ!邪魔すんじゃねえよ!あと少しだったいうのに!」

 

リーダーの男が叫ぶと方向を変えて逃走する。

だが既にバイザーの男が回り込んでいた。

バイザーの男は拳を握りしめてリーダーの男の顔を殴り飛ばす。

リーダーの男は気絶した。

バイザーの男はジャンプして鉄骨の上に乗ると真冬を抱きかかえて鉄骨から飛び降りて床に着地して、そっと真冬を降ろす。

 

「四季…黒刀…だよね?」

 

真冬がそう訊ねる。

バイザーの男は真冬の耳元に顔を近づける。

 

「俺がここにいたことは2人だけの秘密だ。いいな?」

 

「え、それってやっぱりあなたは…!」

 

その時、真冬の意識が急に遠のいていく。

 

「…ごめんな。」

 

バイザーの男の最後の呟きを聞いた後、真冬は気を失った。

 

 

 

 真冬が誰かに揺さぶられて目を覚ますと、目の前に白衣を着た40代の男がいた。真冬の父だ。

真冬がいたのは廃工場の中ではなくその外のコンテナがあるところだった。

真冬はコンテナに寄りかかって気を失っていたようだ。

周りにパトカーや警官の姿も見える。

 

「(そういえば…あの人はどこへ行ったんだろう。)」

 

 

 

 

 四季家本邸。

黒刀は自室でバイザーを外す。

 

「(『千里眼』で見た時は驚いた…女の子が誘拐されてんだもんな…

警察に通報という手もあったがそれじゃ遅すぎるからこれ着けて行ったけど…

なぜバレた?)」

 

 

 

 6月に入り、真冬はようやく事件後の安全のための自宅待機から解放された。

その放課後、帰り道に寄った本屋で本を買って店を出ると雨が降っていた。

傘を持っていなかったため仕方なく店の外で雨宿りしながら雨が止むのを待つ。

ふと視線を横に向けると同じように雨宿りしている人がいた。

 

「あ…。」

 

その人物は黒刀だった。

 

「ん?ああ…お前か。」

 

「あなたも雨宿り?」

 

「…まあ…後で家族が迎えに来る。」

 

「そうなんだ…。(ってそうじゃなくて!ちゃんとお礼を言わないといけないのに言葉がまとまらないよ~!)」

 

真冬は深呼吸をしてから、

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「こ、この間は…ありがとう…。」

 

「………俺は俺のやりたいようにやっただけだ…礼を言われることじゃない。」

 

「それでも!…ありがとう。」

 

真冬の頬は少し赤く火照っていた。

 

「それと…これからは黒刀君って呼んでいいかな?」

 

「…好きにしろ。」

 

「うん!」

 

真冬は嬉しそうに頷く。

 

「(もっと話したい…)あの!」

 

真冬が口を開いたその時、黒刀の体が自分に覆いかぶさってきた。

壁ドンというやつだ。

 

「(え…えええええ!)」

 

「大丈夫か?」

 

「え?」

 

「いや、濡れてないかって。」

 

「え…う…うん。」

 

真冬が頷く。

 

「よかった。」

 

黒刀はそう言って離れる。

真冬が黒刀の背中を見ると服がビシャビシャに濡れていた。

その理由は自動車が水たまりの上を走ったため、その水しぶきが真冬にかかりそうになったので黒刀が身代わりになったからだ。

真冬は胸を抑える。

 

「(さっきからドキドキが止まらない…もしかして私、黒刀君のこと…)」

 

「あ、来た。」

 

黒刀が口を開く。

黒刀の視線を追うと映姫が傘を差し、もう1本の傘を持ってこっちに走ってきた。

 

「まったく…だからいつも折りたたみ傘を持っていなさいと言っているでしょう。」

 

「わりぃわりぃ。」

 

映姫の説教を流して黒刀は傘を受け取るとその傘を真冬に差し出してきた。

 

「ほら、貸してやる。」

 

「え、でも…。」

 

「俺なら大丈夫。姫姉と一緒に帰るから。」

 

「初めまして四季映姫です。

白金真冬さん、その傘は差し上げますから安心して下校してください。」

 

「どうして私の名前は?」

 

「生徒会長ですから♪」

 

映姫は笑顔で答える。

真冬は絶句した。

 

「それでは。」

 

映姫は傘を差して帰っていく。

黒刀も同じ傘に入る。

 

「相合傘だね♪」

 

「雨の中、正座させられたいんですか?」

 

「すみません…。」

 

 

 

 

「(はっきりした…私は黒刀君のことが…好き。)」

 

真冬は自身の胸に手を当てるのだった。

 

 

 

 翌日 土曜日。

真冬は傘を返すため、黒刀の家へ向かう。

 

「(たしか…商店街からしてあっちの方向だから…。)」

 

1軒ずつ探していくと、表札に『四季』と書かれた家にたどり着いた。

 

「え…これ…家?」

 

真冬は四季家本邸のスケールに驚いた。

 

「と、とりあえず…インターフォンを。」

 

真冬はボタンを押そうとするが緊張で手が震えていた。

そして、ようやくボタンを押した。

 

《はい》

 

スピーカーから黒刀の声が聞こえた。

 

「あの…傘を返しに来ました。」

 

《あ~いいって言ったのに…まあいいや…とりあえずあがれよ…今行くから》

 

そう言って切られる。

数秒して扉が開き、黒刀が出てくる。

 

「お、おはよう黒刀君。」

 

「おはよう真冬。」

 

「ま、真冬⁉」

 

「え…違った?」

 

「う、ううん!」

 

真冬は首を横に振る。

 

「(びっくりした…いきなり下の名前でしかも呼び捨てで呼ばれるなんて…。)」

 

 

 

 真冬は居間に案内された。

 

「昼前だしなんか作ってくるか…なんか好きな食べ物ある?」

 

「料理作れるの?」

 

「まあ多少は。」

 

「そ、それじゃ…おにぎり…。」

 

「分かった。」

 

黒刀はキッチンに移動した。

 

「そのご家族の人とかは?」

 

真冬がキッチンにいる黒刀に訊ねる。

 

「両親は忙しくてあんま帰ってこない。

姫姉は今日、生徒会の用事で学校にいるよ。」

 

黒刀はおにぎりを作りながら答える。

 

「(ってことは、今この家には私と黒刀君しかいないってこと?)

…私も家ではいつも1人なんだ。お母さんは小さい頃に亡くなって、

お父さんは医者だからあんまり帰ってこないんだ。」

 

「そうか…でも今は1人じゃない。」

 

「え?」

 

「何でもない…できたぞ。」

 

黒刀がトレーにおにぎりを乗せて運んでくる。

真冬はそのおにぎりを食べる。

 

「…美味しい。」

 

「口に合って良かった。」

 

 

 

 おにぎりを完食した後、

 

「ふ~…よし!」

 

真冬は両手を膝の上にのせて黒刀の目を見る。

 

「?」

 

黒刀は首を傾げる。

 

「私…黒刀君のことが好きです!」

 

それは愛の告白だった。

 

「まだ会ったばかりだし、お互いのことはよく知らないかもしれない…

それでも、黒刀君のことが心の底から好きです。」

 

真冬は自分の気持ちをさらけ出す。

 

「本当はもっと知り合ってからの方がいいんだけど…実は私…転校しちゃうんだ。

お父さんが地元の北海道の病院に戻るからそれで…

だから今、伝えておきたい…じゃなきゃ一生後悔する。」

 

真冬の想いを聞いた黒刀は、

 

「真冬…ごめん。

お前の気持ちは嬉しい…でも俺はその想いに応えることは出来ない。」

 

そう言って目を逸らした。

それを見た真冬は黒刀がどこか哀しげに見えた。

 

「この前はお前を守るなんて言ったけど本当の俺は誰かを守れるほど…強くない。」

 

黒刀はそう言って目を伏せる。

 

「そう………なら!」

 

真冬の声に黒刀は顔を上げる。

 

「なら私が強くなる!

黒刀君に守られるんじゃなくて黒刀君を守れるくらいに強くなる!

だから…もし黒刀君より強くなったって胸を張れる時が来たら、その時は…

私と…付き合ってください!」

 

真冬は黒刀の目を真っ直ぐ見て宣言した。

 

「…フッ、女の子に守られるようじゃ俺もまだまだだな…分かった…

もし俺より強くなったと証明したら真冬の気持ちを受け入れる!約束だ!」

 

「うん!約束だよ!」

 

真冬は笑顔で応えた。

 

 

 

 これが真冬の初恋だった。




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氷の想い

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 現在。

真冬は黒刀を正面から見据える。

 

「さすがに元カノの話は驚きました。

でもきっと黒刀君は軽い気持ちで付き合う人じゃないってことはあの短い日々で分かりました。

黒刀君は誰にだって真剣に向き合う人だってこと。

だから責めたり、咎めたりするつもりはありません…でも。」

 

「それは約束の話は別。」

 

黒刀が口を挟む。

 

「はい…黒刀君、今の私の想いをぶつけます!」

 

「俺も全力でぶつける!」

 

黒刀は鞘から『八咫烏』を引き抜く。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのは黒刀だった。

床を蹴って、真冬に中段斬り。

 

「雪月花!」

 

真冬が詠唱すると、真冬と黒刀の間に氷の壁が展開される。

黒刀の剣撃は氷の壁に防がれ弾かれる。

 

「(くっ、堅い!)」

 

黒刀はバックステップしてから氷の壁を飛び越えていこうとジャンプする。

だが、向こう側に真冬の姿はなかった。

『千里眼』で確認しても、どこにも真冬の姿は見えなかった。

その時、氷の壁の頭頂部から氷柱が放たれた。

黒刀は『破壊王の鎧』で無効化する。

床に着地した黒刀は驚く。

 

「おいおい…マジかよ…まさか氷の中を移動するなんてな。」

 

氷の中から真冬が出てくる。

 

「驚いた?」

 

「まあな。」

 

「それじゃ、まだまだいくよ!」

 

真冬がそう言い放つと氷の壁から氷柱が伸びてくる。

黒刀はそれを『超反射』で躱す。

 

「遠距離がダメなら切り替えるまでだよ…大雪原!」

 

真冬の詠唱で、フィールド中に氷の壁、氷の床が出来る。

 

「これは…レティの…。」

 

「質はその比じゃない!」

 

「どう…かな!」

 

黒刀はオーラで周囲の氷の床を吹き飛ばす。

 

「(しかし…こう音が反響していたら場所の特定ができない…なら!)カオス…」

 

「させない!」

 

黒刀がオーラを集束させようとした時、黒刀の手へ1本の氷柱が伸びてくる。

黒刀は技を中断させて、氷柱を斬って砕く。

 

「(真冬が遠距離を諦めて中距離に切り替えたってことはその範囲に絞れば。)」

 

黒刀は斬撃の乱れ撃ちを始めた。

飛び散った氷の破片が黒刀に飛んでくる。

 

「気力解放!」

 

黒刀は気力を解放して氷の破片を吹き飛ばす。

 

「カオス…」

 

「無駄よ!」

 

真冬は氷柱を伸ばして黒刀を攻撃する。

氷柱が黒刀の手の甲に刺さる。

出血はしあいし、食い込みもしないが痛みはある。

 

「ブレイカー~!」

 

だが、黒刀は構わず黒い斬撃を放った。

氷の壁も氷の床も破壊していく。

その時、黒刀の背後から真冬が氷の槍で突いてきた。

黒刀は振り返らずしゃがんで躱し、振り向くと同時に真冬を水平に斬る…がその身体は氷となって砕ける。

 

「っ!」

 

黒刀が驚くのも束の間、またも背後から真冬が氷の槍で突いてきた。

黒刀は振り向いて真冬を斬る…がそれも氷となって砕ける。

 

「氷の虚像か…。」

 

斬っても斬っても永遠に続くかのように突きが襲ってくる。

 

 

 

 そして…

 

《タイムアップ 第1ラウンド終了》

 

ベンチに戻った黒刀はかなり疲弊していた。

にとりは黒刀を見て、

 

「おそらく狙いは黒刀のスタミナを削ってチャンスが来たら決めに行くってところだろう。」

 

黒刀は白雪高校代表ベンチを見る。

 

「(真冬…確かにお前は強くなった…でも俺はここで負けるわけにはいかない!)」

 

黒刀はベンチから立ち上がる。

 

「試したいことがある。」

 

「なにをする気だ?」

 

にとりが訝しんだ目をする。

 

「全部斬る!本物も偽物も!

 

「それが出来たら苦労はしないだろ。」

 

にとりの指摘に黒刀はフッと笑う。

 

「俺を誰だと思っている?」

 

黒刀はそう言ってフィールドに入る。

 

 

 

 

「何か策でも思いついた黒刀君?」

 

真冬は余裕の笑みである。

 

「ああ、面白い策がな。」

 

それに対して黒刀は不敵な笑みを浮かべる。

 

「それは楽しみ♪」

 

真冬は嬉しそうに言い返す。

 

《3…2…1…0.第2ラウンドスタート》

 

「モードチェンジ サムライ!」

 

黒刀の体が黒い木の葉に渦巻かれ、それが消えると『サムライモード』に変身した。

 

「それなら昨日見ましたよ。それのどこが面白い策なんですか!」

 

真冬は氷の槍で突きを放つ。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

黒刀が放った剣技は昨日よりも速かった。

なぜなら剣速が25に達していたからだ。

目の前の真冬も次に現れる真冬もその次に現れる真冬も全て斬っていく。

 

「きゃあああああ!」

 

そして、ついに本物の真冬に一太刀浴びせた。

 

「カオスブレイカー!」

 

空中に舞った真冬に黒刀は巨大な黒い斬撃を放つ。

 

「くっ、吹雪!」

 

斬撃が真冬に届く前に吹雪が発生し、真冬の姿が見えなくなる。

斬撃が吹雪を吹き飛ばしていくがそれはすぐに戻ってしまう。

やがてフィールド全体を吹雪が覆い尽くす。

黒刀は連続で斬撃を放つが吹雪は一度は晴れ、すぐに元に戻る。

 

「ダメか…さて、厄介な術を発動させてくれたものだ…っ!」

 

黒刀の背後から氷の槍の突きが放たれる。

黒刀はそれを弾くが、真冬はすぐに吹雪の中へと消えていく。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

黒刀はしらみつぶしに斬ろうとするが手応えがない。

その隙を逃さずまた突きがくる。

黒刀は『超反射』を発動してなんとか弾く。

 

「(このままじゃ埒が明かない…どうする…どうしたらいい…いっそ吹雪の中に突っ込むか…

いや…リスクが高すぎる…ならどうしたら………いやある!…だがこれは我ながら最低だな。

でもやるしかない!)」

 

黒刀の顔つきが覚悟を決めたものに変わる。

黒刀は『八咫烏』を鞘に納める。

それを見た真冬は疑問を抱く。

 

「(黒刀君が刀を収めた…降参…いや黒刀君に限ってそれはない…けど…とにかく隙が出来た!)」

 

真冬は黒刀の背後から氷の槍の突きを放つ。

 

「(私の…勝ちだ!)」

 

真冬は勝利を確信した。

だが、黒刀は『千里眼』と『超反射』をフルに使って、氷の槍を素手で止めると真冬を引き寄せる。

そして、真冬を引き寄せた黒刀はなんと真冬の唇に自身の唇を重ねた。

 

「(え?)」

 

真冬は不意を突かれた。

黒刀は真冬の腰に手を回し、さらに引き寄せ、逃げられないようにする。

 

「(なに…これ…全身がとろけるような…ってか…これってまさか!…エナジードレイン⁉)」

 

黒刀はキスを通して真冬のオーラを吸い取っていた。

 

「(やばい…やばい…これマジで…上手すぎる…このままじゃ…。)」

 

 

 

 そして、キスの快感に耐えきれず真冬は気を失った。

黒刀が唇を離すと吹雪が消えていく。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

黒刀はフィールドの床にそっと真冬を横たわせる。

それからベンチに戻る。

しかし、ベンチに戻った黒刀を待っていたのは目が笑っていない映姫の笑顔だった。

 

「さ、さて!ホテルに戻るか!」

 

黒刀が映姫の横を通り過ぎようとしたその時、

 

「おい。」

 

映姫に肩を掴まれる。

 

「ひっ!」

 

肩をビクッと震わせる黒刀が恐る恐る振り向く。

 

「黒刀、隣の部屋に仮眠室があるので一緒に行きませんか?」

 

映姫は笑顔を崩さずに言った。

 

「え、いや…それは…ちょっと…」

 

「てか来い。」

 

映姫は冷たい口調と共に黒刀の体を影で繭のように包み込む。

そのまま映姫に引きずられていく。

その様子を見ていた一同は思った。

 

『(ホラーだ…。)』

 

 

 

 数時間後。

ようやく悪夢の時間から解放された黒刀が自動販売機で牛乳を買っていると誰かがこちらに歩み寄ってくることに気づいた。

 

「真冬…。」

 

「黒刀君…。」

 

2人は人気のないベンチに腰掛ける。

沈黙が続く。

 

「ごめんな…あんなことをして…」

 

「大丈夫。分かっているよ。」

 

「真冬…。」

 

「試合には負けちゃったけど私の成長を黒刀君に見せられただけで満足だよ。」

 

真冬はそう言って黒刀に笑顔を向ける。

 

「3回戦、頑張ってね♪」

 

「3回戦…確か相手は鷹岡高校…六道仁のいるところか…。」

 

「どういう人?光に聞いても詳しく知らないって言ってた。」

 

「六道仁は…あいつは俺の父さん…四季大和に憧れている。

おそらく今も…だから気に食わないんだろう…父さんの一番近くにいる俺が。」

 

「親子なら近くにいるのは当たり前だよ。」

 

「あいつを突き動かしているのは理屈じゃない…ただ感情的に動いているだけだ。」

 

「強いの?」

 

「どうかな…それはやってみるまで分からない。」

 

そう言って黒刀は立ち上がる。

 

 

 

 午後5時。紅魔学園代表宿泊ホテル。

 

「ただいま~♪」

 

フランが部屋のドアを開けると、そこにはレミリアの目の前のテレビが赤いオーラの槍によって貫かれ粉砕されている光景があった。

 

「ふ…ふふ…ふふふ…。」

 

レミリアから笑い声が漏れ出す。

 

「お、お姉様?」

 

フランの顔が引き攣る。

 

「あの愚か者…絶対に…殺す!」

 

レミリアが叫ぶと同時にホテルの照明が停電する。

 

「ああ~、どうやら触れていけない逆鱗に触れてしまったようだ。」

 

天子は呆れた声を漏らす。

その日の夜、レミリア達の泊まっているホテルは朝まで停電状態だった。




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憧れ

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 8月3日。

六道仁は夢を見ていた。

幼い日の記憶の夢だ。

幼少の頃に一度だけスラム街に迷い込んでしまい、ナンバーズということがバレた仁はガラの悪い不良達に囲まれてしまう。

 

「へへへ、お前六道だろ?こんなところで何してんだ?」

「早くおうちに帰らないとこわ~いお兄さんに痛い目を遭わされることになるぜ。」

「こんなふうにな!」

 

不良が殴りかかってくる。

その頃の仁は弱気でとても立ち向かう力も勇気もなかった。

仁は目をつぶる。

だが、いつまで経っても拳は届いてこない。

ゆっくりと目を開けると仁の目の前には2m程の男が仁に背を向けて立っていた。

 

「ったく、ガキをいじめるなんてしょうもねえことやってんじゃねえぞ。」

 

男の目の前には不良達が地面にうずくまっていた。

 

「怪我はないか?」

 

男は振り返って仁に声をかける。

 

「う、うん…。」

 

仁はうなずく。

 

「そうか…よかった。」

 

男はそう言って仁の頭の上にポンと手を置く。

 

「あの…あなたは?」

 

「俺か?俺の名前は四季大和だ。」

 

「大和さん…。」

 

「それじゃスラムの外まで送ってやろう。」

 

大和は仁をスラム街の外まで連れて行った。

大和が立ち去ろうと歩き出す。

 

「あ、あの!」

 

仁が声を張り上げる。

 

「なんだ?」

 

「どうしたらあなたのように強くなれますか?」

 

「どうしたらってそりゃお前、信念を曲げなければ誰だって強くなれる。」

 

「本当?」

 

「ああ、本当だ。」

 

「なら僕も…俺も強くなる!いつか大和さんみたいなカッコイイ男になる!」

 

「そうか…それは楽しみだな。」

 

大和はそう言って今度こそ立ち去っていく。

 

「絶対に強くなる…いつか大和さんみたいになれるように。」

 

 

 

 夢を見ていた仁を起こしたのはドアのノックだった。

 

「なんだ?」

 

仁はドアの向こう側に声をかける。

 

「仁先輩、時間です。」

 

「分かった…すぐに準備するからロビーで待ってろ。」

 

「分かりました。」

 

立ち去る足音が聞こえ、やがて音が遠くなっていく。

仁は肩に袖を通す。

 

「四季黒刀…大和さんの息子…大和さんの隣に立つのはお前じゃない…俺だ!」

 

仁は自分を拳を握りしめた。

 

 

 

 ホテルのベッドに腰かけながら黒刀は浮かない顔をしていた。

 

「黒刀、どうしたの?」

 

映姫が心配そうに声をかける。

 

「…もし大将戦まできたら俺は六道仁と闘うことになる。

でもそれはナンバーズ同士の闘いを意味する…姫姉、俺怖いんだ。」

 

「怖い?六道が?それとも試合が?」

 

「自分の力が。…姫姉もなんとなく分かっているんだろ?

俺の中に何か得体の知れない化け物が潜んでいる。

俺にも分からない存在。

…俺には去年の試合の記憶がない。

だけど感覚は残っている。

自分が自分でないような感覚が…今回は剣舞祭はまだ大丈夫だけどもし相手がナンバーズで無意識に奴が出てきたら…俺はそれで勝っても嬉しくないし誇れない。」

 

映姫は黒刀の言葉を静かに聞いていた。

 

「黒刀…もしあなたがそいつに飲み込まれてしまっても大丈夫。

だってあなたには信頼できる仲間がいるじゃない。

自分の力で…自分の意思で見つけた仲間がいる。」

 

その言葉を聞いた黒刀の脳裏をよぎったのはチルノ、大妖精、魔理沙、霊夢、そして妖夢の顔だった。

 

「姫姉…そうだな…あいつらが前に進もうと頑張っているのに俺だけ下を向いてちゃいけないよな。」

 

黒刀はそう言って立ち上がる。

 

「姫姉、俺は今日の試合でこれを使おうと思っている。」

 

そう言ってバッグから取り出したのは黒いリングだった。

 

「それは…。」

 

 

 

 

 黒刀達が会場のロビーに行くと意外な人物がいた。

 

「と、父さん⁉」「お父様⁉」

 

黒刀と映姫は同時に驚いた。

待っていたのは黒刀と映姫の父親であり四季家の当主である四季大和。

身長は2mを超え、髪は黒刀と同じ黒で短め、黒刀以上の筋肉質で巨漢である。

さらに、大和は40歳という若さで新大日本帝国軍の元帥を務めている。

 

「黒刀、今日は試合を観に来た。ちょうど予定が空いてな。」

 

「別に見に来なくてもいい。」

 

そう言う黒刀だがどこか嬉しそうである。

 

「明日には桜も帰国してくる。」

 

「母さんが?」

 

「お前も久しぶりに会うといい。」

 

「5年ぶりか…。」

 

「それで…そちらが…。」

 

「俺の仲間だ。」

 

「あたいは天才最強のチルノぐふっ!」

 

大妖精の肘鉄がチルノの脇腹に命中する。

 

「大妖精です!」

 

「霧雨魔理沙です!」

 

さすがの魔理沙も敬語になる。

 

「博麗霊夢です。」

 

その名を聞いた大和が、

 

「博麗?…いやなんでもない…君は?」

 

「魂魄妖夢です!先輩のお父さんに会えるなんて感激です!」

 

「それは嬉しいね…それでは俺はこの辺で…試合は観客席から観させてもらうよ…健闘を祈る。」

 

大和はそう言って立ち去った。

 

「大ちゃん、何すんだよ~!」

 

「目上の人に対しての礼儀は大事だよチルノちゃん!」

 

大妖精は指をピッと立ててチルノを叱る。

 

「それに父さんは帝国軍元帥だからお前なんか木っ端微塵にされるかもな。」

 

黒刀が意地悪に笑いながら言った。

 

「ぜ、全然平気だし!」

 

チルノはそう言い張る。

その時…

 

「相変わらずね…あなた達は。」

 

声が聞こえて振り向くと声の主は椛だった。

 

「椛、来ていたのか。」

 

「実際に見た方が良いから…それはそうと…黒刀、昨日の試合は随分と剣士らしくない決着のつけ方をしていたようだけど?」

 

「そんなに褒めるなよ。」

 

「褒めてない!」

 

椛がツッコミを入れる。

ちなみに『千里眼』のスキルを持つ椛はあの吹雪の中を見ることが出来た。

 

《まもなく3回戦第6試合を開始します。

選手は各ベンチに移動してください》

 

アナウンスが流れる。

 

「時間だ。行くぞ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

黒刀の掛け声に妖夢達が応えた。

 

 

 

 南会場。

 

《さあ!3回戦第6試合!鷹岡高校対神光学園の試合が始まろうとしています!

神奈子さん、どういう展開になるでしょうか?》

 

《そうですね…神光学園の勢いは確かに凄まじいですがここまでの試合は大将戦まで持ち込む接戦でした…もし今回もそうなった場合、六道仁選手と四季黒刀選手のナンバーズ対決…そうなれば正直誰も予想はつかないと思います》

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

黒刀が荷物をベンチに置いていると向こう側のベンチに仁がいるのが見えた。

 

「(姫姉以外のナンバーズと闘うのは二宮以来か…。)」

 

向こう側のベンチで仁は「四季黒刀…。」とつぶやいていた。

 

「チルノ、いってこい!」

 

「おうよ!」

 

チルノがフィールドに入ると鷹岡高校代表ベンチから出てきたのは越山流星。

青髪に赤のメッシュ、海のように青い瞳、身長175㎝、タンクトップに短パンといかにも体育会系の男だった。

 

「お前が俺に倒される前に名乗ってやるよ!俺の名は越山流星!覚えときなチビ!」

 

「チビじゃない!あたいはチルノだ!あたいが倒されるって?無理だね!

なぜならあたいは天才最強だから!」

 

「なら俺は超最強だ!」

 

「あたいの方が超超最強だ!」

 

「なら俺は!」

 

『(さっさと始めろよ…。)』

 

全員の思考がシンクロした。

 

「速攻で決めてやる!」

 

チルノはダッシュの準備をする。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「ソードフリー…っ!」

 

チルノが試合開始直後に右足を踏み込んだ瞬間、腹に強烈な一撃が打ち込まれる。

接近して懐に入り込んでいた流星の膝蹴りだった。

 

「がはっ!」

 

チルノは蹴り飛ばされる。

 

「おせぇな!スピード自慢だって聞いたが大したことねえな!」

 

流星はそう吐き捨てる。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「なるほど…足に全オーラを込めているのか…。」

 

黒刀が分析を口にする。

 

「ぜ、全オーラ⁉そんなことしたら他の部位が紙装甲じゃねえか!」

 

魔理沙が驚きを口にする。

 

「相当自信があるんだろう。

ああいう蹴り技主体の奴は動きを止めるのが得策なんだが…チルノの氷の発動速度が奴の移動速度に追いつかなきゃ無理だな。」

 

「チルノちゃん…。」

 

大妖精は祈る。

 

 

 

 

「俺は出し惜しみとか嫌いだからよ…一気に決めるぜ!」

 

流星の言葉を聞いたチルノは痛みに顔を歪ませながらも立ち上がる。

流星はフィールドの床を強く踏み込み、通常より高くハイジャンプする。

 

「シューティングスターアタック!」

 

流星は叫びながらライダーキックのように降下してきた。

まだダメージが残るチルノは回避できない。

 

「アイスシールド!」

 

チルノは流星との間に氷の盾を展開する。

 

「無駄なんだよ!」

 

流星はそのまま突っ込む。

流星の蹴りが氷の盾に激突すると氷の盾はあっけなく破壊されそのままチルノの腹に直撃し、さらにフィールドの床に叩きつけるだけに収まらず床が衝撃で自信でも起きたかのように崩れていく。

 

「チルノちゃん!」

 

大妖精が叫ぶ。

流星はチルノの腹から足を引き抜くとベンチに戻ろうと歩き出す。

 

「そこで寝てなチビ。」

 

その時。

 

「…まて…よ…。」

 

流星の背後から声が聞こえた。

 

「!…まさか…。」

 

流星が振り返るとチルノがゆっくり…ゆっくりと傷だらけの体で立ち上がっていた。

 

「こいつ…あれを食らって立ち上がるだと…。」

 

「…げ……な…。」

 

チルノが声を絞り出している。

 

「あ?何を言って」

 

「…逃げる…な。」

 

「!(なんだ…勝っているのはこっちの方なのにこいつからは…こいつの眼からは強い意志を感じる。)」

 

流星を見るチルノの眼にはまだ勝とうとする意志が感じられた。

 

「はあ…はあ…黒刀!」

 

チルノは痛みに耐えながら大声を出す。

 

「どうやったらあいつに勝てる?」

 

チルノの意外な一言に少々驚いた黒刀だったが、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ぎゅい~んぐるぐるどか~んだ。」

 

「ちょ、こんな時に何ふざけて…。」

 

魔理沙が口を挟もうとすると、

 

「分かった。」

 

チルノはそう返した。

 

「分かったのかよ!」

 

魔理沙はツッコんだ。

 

「この状況でまだ勝てると思ってんのか?おめでたい奴だ…なら!これで終わりにしてやるよ!」

 

流星は再度ハイジャンプして高く跳び上がる。

チルノは氷のハンマーを造形して腰をグッと落として構える。

 

「霊力…解放!」

 

光の柱がチルノを包み込む。

 

「シューティングスターアタック!」

 

流星はさっきと同じ技をしかける。

チルノは自分の体を軸にして大きく回転する。

その遠心力を利用して、

 

「トルネードグレートクラッシャー!」

 

流星の蹴りとチルノの氷のハンマーがぶつかり合い火花を散らす。

そして…チルノの氷のハンマーが砕け、流星の体勢が崩れる。

 

「ソードフリーザー!」

 

チルノは氷の剣を造形すると居合の構えを取る。

 

「四季流剣術 弐の段…」

 

「何!」

 

流星が目を見開いて驚く。

 

「一閃!」

 

チルノは流星を斬り抜いた。

 

「ぐあああああ!」

 

斬られた流星は床を転がり、気を失った。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 チルノ》

 

「はあ…はあ…最強は…あたいだ~!」

 

チルノの勝利の雄叫びに会場から大きな歓声が沸き上がる。

黒刀はチルノの成長に喜びを感じていた。

 

「己のスピードだけで再現したのか…名付けるなら氷精一閃ってところか。」

 

 

 

 チルノがベンチに戻ってくると大妖精が駆け寄る。

 

「チルノちゃん、治療をしないと。」

 

「うん…でもここで見ていたい…もう医務室で寝てるだけなんて嫌だから。」

 

「チルノ………大妖精、治療はここでやれ。今日はもうチルノの試合はないんだ。ここにいても問題ない。」

 

黒刀が指示する。

 

「分かりました。」

 

大妖精はそれに応えて、チルノに治癒魔法をかける。

魔理沙はそんなチルノを見て、フィールド入り口手前の電子パネルへ近づく。

画面には《棄権》と表示してある。

 

「魔理沙?」

 

霊夢が首を傾げる。

魔理沙はそのパネルを躊躇なく手のひらで押した。

 

《霧雨魔理沙の棄権を承認しました》

 

「ちょっと魔理沙!あんたなにやってんの!」

 

霊夢が魔理沙に詰め寄る。

 

「…分かったんだ。この試合、ただ勝つだけじゃ意味ない…この試合は最後に黒刀が勝ってこそ意味がある…今、私が棄権したからブーイングの嵐だろう…だけど黒刀が勝てば全てひっくり返すことが出来る…頼む…私のわがままをどうか聞いてくれ!」

 

魔理沙は頭を下げた。

黒刀は魔理沙の頭の上にポンと手を置いた。

 

「妖夢、霊夢…俺からも頼む。2勝2敗に持ち込んでくれ。俺が必ず六道仁をぶっ飛ばしてやるから。」

 

その言葉に霊夢はため息を吐いた。

 

「…負けず嫌いの魔理沙に頭を下げられたら断れないわね。分かったわ。妖夢が勝ったら私が棄権する。」

 

「先輩の頼みとあらば全力で応えます!」

 

「ありがとう。」

 

 

 

 案の定、会場はブーイングの嵐だった。

妖夢がフィールドに入る。

ブーイングが聞こえるがすぐに意識の外へ置く。

対戦相手の名前は天神豊。

天神はSDを起動する。

妖夢は鞘から二本の剣を抜く。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

 

 

 結果は…

妖夢が『妄執剣 修羅の血 弐式』からのクロスステップからの『旋風剣』からの『妄執剣 修羅の血 弐式』のコンボで勝利した。

妖夢はベンチに戻る。

 

「おつかれ。」

 

霊夢が妖夢の肩に手を置いてドリンクを渡す。

それから電子パネルの《棄権》を押す。

 

「さあ、キャプテン!おいしいところは全部持っていっちゃって!」

 

霊夢の言葉を聞いた黒刀はというと、腰から『八咫烏』を鞘ごと取ってベンチに置いた。

 

「黒刀?」

 

映姫が首を傾げる。

 

「ごめん…でもあいつにはどうしても伝えなきゃいけないことがある。

そのためには…拳で伝えるしかないんだ。」

 

黒刀はそう言ってフィールドに入った。

 

「(ごめんな『八咫烏』…少しだけ我慢していてくれ。)」

 

黒刀がフィールドに入ると、今大会最大級のブーイングが響いた。

 

 

 

 仁がフィールドに入ると観客席にいる大和に気づく。

 

「(大和さん…見ていてください!)」

 

仁は目の前にいる黒刀を睨みつける。

黒刀は仁に気づくと、

 

「よう…久しぶりだな『野獣』。」

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「『野獣』?」

 

妖夢が疑問を口にする。

にとりがそれに答える。

 

「首里高校の七瀬愛美みたいな異名だ。あいつは『魔女』と呼ばれていただろ。

ナンバーズには異名をつけられることが多い。

あいつが『野獣』と呼ばれる理由は…闘い方を見ていれば分かる。」

 

 

 

 

「刀はどうした?」

 

仁は黒刀が『八咫烏』を帯刀していないことに気づく。

 

「今日はお休みだ。」

 

「喧嘩売ってんのか!」

 

「売ったら買うのか?」

 

黒刀はそう言いながらポケットの中から黒いリングを取り出す。

 

「?…!…てめえ…それまさか!」

 

「そのまさかさ。」

 

黒刀は右手首に黒いリングをはめる。

 

「アンチオーラリング…オーラの発動を封じるアイテム…本来はトレーニング用に使用するものをてめえは俺相手に使おうってか!」

 

仁は黒刀の行為にキレた。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「そんなことしたらオーラの攻撃に耐えられないです!」

 

大妖精が声を張り上げる。

 

「大丈夫ですよ…黒刀はそんなに柔じゃないですから。」

 

映姫が心配ないと口を出す。

 

「そういう問題じゃ…」

 

「大妖精、最後まで見守るんだ。」

 

「…はい。」

 

にとりの言葉に大妖精はそう応えるしかなかった。

 

 

 

 

「上等だ!30秒でケリつけてやる!」

 

「それは楽しみだ。」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

仁は床を蹴って気力で加速して黒刀の腹に強烈なパンチを叩き込む。

 

「ぐっ!」

 

殴られた黒刀は後ろに飛ばされるがなんとか踏み止まる。

 

「…きかねえな。」

 

「そうかよ!」

 

仁は追撃をしかける。

 

「お返しだ。」

 

黒刀は一瞬で仁の懐に潜り込んで顔を思いっきり殴る。

殴られた仁は吹っ飛ばされる。

 

 

 

 妖夢と霊夢は驚愕していた。

 

「オーラの無い先輩が耐えて、オーラのある六道仁が吹っ飛ばされた。」

 

「なんて腕力と脚力…。」

 

 

 

 

「ほら立てよ六道。」

 

黒刀は仁を見下ろす。

仁は立ち上がると、

 

「てめえ、俺をマジで怒らせやがって…だったらこいつでぶん殴る!」

 

仁が拳に意識を集中すると気力が拳に集束していく。

 

「…それは!」

 

「そうだ!これは大和さんの技だ!その身でたっぷり味わえ!」

 

仁は黒刀に接近する。

 

「ソウルナックル!」

 

仁の拳が黒刀の鳩尾に直撃し、黒刀は壁まで吹っ飛ばされ減り込んでしまった。

 

「これが俺の力だ!」

 

 

 

 

 

「黒刀…やはりお前は…。」

 

大和は試合を観ながらつぶやいた。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「先輩…。」

 

妖夢が心配そうに声を漏らす。

すると、映姫が妖夢の肩に手を置く。

 

「大丈夫よ…あなた達の先輩が…私の弟がこんなところで負けるわけがない。(そうでしょ?黒刀。)」

 

 

 

 

 

「(おかしい…そろそろカウントが始まってもいいころだ…まさか!)」

 

仁は壁の方を見る。

 

「………お前のじゃない。」

 

「あ?」

 

「それは父さんの技だ…お前自身の力じゃ…ない!」

 

黒刀は減り込んでいた壁から抜け出す。

 

「黙れ!俺は大和さんに追いつく男になるんだ…俺にはこの技を使う資格がある!」

 

「それじゃ父さんには追い付けねえな。」

 

「なんだと!」

 

「追いつく程度にしか考えてない奴は父さんには追い付けねえよ…俺は違う…俺は父さんを…超える!」

 

「調子に乗るのもいい加減にしろよ!ソウルナックル!」

 

仁は拳を黒刀の頬に叩き込む。

しかし、黒刀は殴られた状態で踏みとどまっていた。

 

「なに!」

 

「う…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

黒刀は左手の拳を握りしめて仁の顔を殴る。

 

「ぐっ!」

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

黒刀と仁はお互いにノーガードで殴り合っていた。

仁がアームハンマーで黒刀を叩きつけ、黒刀は下から仁の顎にアッパー、さらに腹に右手の拳を叩き込む。

 

「ぐはっ!俺は…俺は負けねえ!ソウルナックル!」

 

仁の拳が黒刀の鳩尾に叩き込まれる。

しかし、黒刀は耐えた、

 

「なんだと!」

 

「四季流体術 大和魂!」

 

黒刀が繰り出したのは正拳。

しかし、その正拳はいかなる拳よりも速く重い一撃だった。

 

「うおおおおおおおおおおお!うおらっ!」

 

黒刀が拳を振り抜くと仁が壁まで吹っ飛ばされる。

壁は仁を中心に崩壊とまではいかずとも亀裂が入っていた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

《か、勝ったのは…神光学園大将 四季黒刀選手だ~!》

 

文の実況に呼応するかのように会場から歓声が沸き上がる。

黒刀は仁を見る。

 

「はあ…はあ…六道、お前の敗因はお前の拳に信念がこもってなかったからだ。」

 

仁は薄れる意識の中で黒刀の言葉を聞いた。

 

「大和…さん…俺…は…。」

 

 

 

 信念を曲げなければ誰だって強くなれる

 

 

 

 

「!…そうか…俺の信念はいつの間にか俺のものじゃなくなっていたんだな…。」

 

仁はそのまま気を失った。

 会場を包み込む歓声はまるでさっきまでのブーイングがなかったかのように感じられるものだった。

その中で黒刀は左手の拳を高く上に掲げた。

 

 

 

 紅魔学園代表宿泊ホテル。

レミリアはモニターウインドウを閉じた。

 

「くだらない…獣同士の争いね。」

 

 

 

 仙台高校代表宿泊ホテル。

二宮優は屋上から街を見下ろしていた。

 

「眠れない?」

 

そこへ花蓮がやってきた。

 

「そうだな…俺にとって奴は絶対に倒さなければいけない相手だ。5年前の借りを返す時が来た。」

 

「そう…私の相手はあの二刀流の剣士か…面白そうね…彼女との闘いは何が起きるか分からないしね。」

 

「去年の個人戦は出られなかったが今年は問題ない。黒刀、俺は勝利にしか興味がない。

俺にとって引き分けは敗北同然だ。今度こそ…お前を叩き潰す!」

 

優はそう宣言して拳を握りしめた。

 

 

 

 神光学園代表宿泊ホテル。

そして、黒刀はというと…

映姫と大妖精からの説教を受けていた。

 

「まったく黒刀先輩はどうして無茶な闘い方しかできないのですか!治すこっちの身にもなって下さい!」

 

「いや…こんな傷、明日には治るから…」

 

大妖精の説教に黒刀が言い訳をすると、今度は映姫が、

 

「そういう問題ではないです!皆に心配かけたことに腹が立っているのです!」

 

「(このダブルグリーン…なんか嫌だ…。)」

 

 

 

 

 明日は仙台高校対神光学園の試合である。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 8月4日。

4日目の試合は全体で2試合だけだ。

Aブロックに1試合、Bブロックに1試合。

黒刀達の試合はBブロックでその相手はナンバーズの二宮と九条を擁する仙台高校だ。

 試合前。

トイレを済ませたので皆のところに戻ろうとした妖夢。

 

「あの~。」

 

その時、背後から声をかけられる。

 

「はい。」

 

振り向くと声の主はとても綺麗で優しそうな緑の髪の女性だった。

あまりの美しさに一瞬、見とれてしまう。

 

「東会場に行きたいのですが道が分からなくて…。」

 

「それなら私が案内しましょうか?」

 

「助かります。」

 

女性はお礼を言う。

妖夢は女性の隣に並んで歩き出す。

 

「あ…私、魂魄妖夢です。よろしくお願いします。」

 

「これはご丁寧に。私は…」

 

女性が名乗ろうとしたその時、

 

「妖夢、遅いぞ。」

 

黒刀が前から声をかけて歩み寄ってきた。

 

「先輩、実はこの方と一緒に行こうと…。」

 

「この方?…って母さん⁉」

 

「黒刀、久しぶり♪」

 

女性は笑顔を黒刀に向ける。

 

「久しぶり…いつ来たの?」

 

「今日♪」

 

「マジか…。」

 

黒刀は驚く。

 

「黒刀、どうしたの?…お…お母様⁉」

 

そこへ映姫が来て、黒刀と同じように驚く。

 

「映姫も久しぶり♪」

 

「うん…久しぶり…。」

 

映姫は少し照れる。

妖夢は思った。

 

「(先輩のお母さん…嘘…どう見てもお姉さんにしか見えない…。)」

 

黒刀の母の見た目は20代に見えるくらいだった。

 

「あ、すみません…妖夢さん、申し遅れました。

黒刀と映姫の母の四季桜です。よろしくお願いします。」

 

桜は礼をしてから顔を上げて笑顔になる。

その笑顔はとても優しくて心が温まるような笑顔だった。

 

「どうしたんだ?」

 

すると、魔理沙達がこちらにやってくる。

 

「初めまして。黒刀と映姫の母の四季桜です。」

 

桜は妖夢の時と同じように挨拶する。

魔理沙達は絶句した。

 

『(母?…いや…女神…。)』

 

一拍遅れて、

 

「霧雨魔理沙です。」

 

「博麗霊夢です。」

 

「大妖精です。」

 

「あたいはチルノだごふっ!」

 

全員、自己紹介する。

 

「試合、観に来たの?」

 

黒刀が訊く。

 

「ええ、それは息子の晴れ舞台ですから♪」

 

「そ…そう…。」

 

黒刀の頬が少し赤くなる。

 

『(あの黒刀が照れている!)』

 

「でも店の方は大丈夫なの?」

 

「ええ、大丈夫よ。」

 

「どのようなお仕事をされているのですか?」

 

妖夢が桜に訊いた。

 

「スウェーデンで花屋をやっています♪」

 

「お花屋さんですか!いいですね!」

 

「今度、いらっしゃい♪」

 

「え、え~と…。」

 

妖夢は黒刀を見る。

 

「そうだな…剣舞祭が終わったら皆で行くのもありだな。」

 

「は、はい!是非お願いします!」

 

妖夢の元気さを見た桜が慈愛の笑みを浮かべる。

 

「黒刀は良い後輩を持ちましたね…。」

 

「なんだよ…いきなり。」

 

「ふふ…なんでもないわ♪」

 

その様子を見ていたにとりが、

 

「それじゃ、私達は先にベンチに行ってるから黒刀と映姫は後から来てくれ。」

 

「?…はい。」

 

黒刀は首を傾げながら返事する。

 

 

 

 四季家3人だけになると、桜が黒刀と映姫を抱きしめる。

 

「2人とも、大きくなったわね。」

 

「そりゃ…5年も経てば…ね。」

 

黒刀は照れながら言葉を返す。

 

「お母様…ちょっと…苦しいです。」

 

「あ、ごめんごめん♪つい、嬉しくて。」

 

映姫の言葉にようやく桜の抱擁から解放される。

 

「それじゃ、頑張ってね♪」

 

「うん、頑張るよ。」

 

お互いに手を振って別れる。

 

 

 

 観客席。

 

「お待たせ~♪」

 

大和が席に座っていると桜が隣に近寄ってくる。

 

「迷わなかったか?」

 

「迷ったけど親切なお嬢さんに案内してもらったわ。」

 

「そ…そうか。」

 

大和は困り顔になった。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「チルノ、調子はどうだ?」

 

黒刀はチルノに状態を聞く。

チルノは数回ジャンプする。

 

「うん…問題な~し!」

 

「ならいい。」

 

黒刀は立ち上がってにとりに近づく。

 

「にとり先生、仮眠室で寝てきていいですか?」

 

「なぜだ?」

 

「試合前にあまり長くここにいるとまずいかも…特に今回は…。」

 

黒刀は仙台高校代表ベンチに視線を向ける。

 

「…ああ、いいだろう。」

 

「ありがとう。」

 

黒刀は仮眠室へ移動する。

 

「あれ、黒刀は?」

 

魔理沙は準備中で目を離した間に黒刀がいなくなっていたので疑問を口にした。

 

「黒刀は昨日の試合で少し疲れてるから仮眠室で休むそうだ。

だから、今回は指示を出す。黒刀のようには出来ないから期待するな。

そして、お前達は黒刀の助力なしで闘うことになる…いいな?」

 

「先輩なしで…。」

 

妖夢が不安そうな声を漏らす。

 

「もしかしたら…この先そんな場面は何度も来るかもしれない。

だから証明しなければならない。自分達だってやれるってことを!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 仙台高校代表ベンチ。

 

「少し寝る。」

 

優が花蓮の太ももを枕にして寝た。

花蓮は優の髪を撫でる。

 

「(私個人としては大将戦までは持ち込ませたくない。

優は嫌がるだろうけど…私は知っている…彼らが闘った時にどれほど激しい闘いになるかということを。)…泉、お願いね。」

 

「任せて下さい九条先輩!この青葉泉が敵の先鋒を叩きのめしてきますよ!」

 

自信満々に喋るこの女子の名前は青葉泉。

水色の髪のセミロング、水色の瞳、身長150㎝の小柄な体格、デュエルジャケットは水色のワンピース、自信過剰なところが多々ある1年生。

泉はフィールドに入った。

同時にチルノもフィールドに入った。

 

 

 

 観客席。

 

「やっほ~光♪」

 

光が席に座っていると眼鏡をかけた愛美が手を振りながら近づいてきた。

 

「愛美!」

 

光も嬉しそうに声を上げる。

 

「愛美も見に来たの?」

 

「うん♪二宮と黒刀の対決も気になるけど私と闘った霧雨魔理沙の試合も気になったの!光は?」

 

「私はもちろん黒刀の試合を見に来た!だから是非とも頑張ってもらいたいよね…神光学園には。」

 

「そう上手くいけばいいがな。」

 

その時、前の席から声が聞こえた。

こちらに振り向いた人物は…

 

「仁…って、ぷっ!」

 

光が吹き出した。

 

「おい、なに笑ってんだ!」

 

「だ、だって…その顔…。」

 

仁の顔は黒刀の拳を受けたせいで腫れていた。

 

「別にいいんだよ!男の勲章だ!」

 

「負けてたじゃん!」

 

光の笑いが止まらない。

 

「そういえば…この中で負けたの仁だけだもんね…それで…さっきのはどういう意味?

黒刀達が厳しいってこと?」

 

「忘れたのか?仙台にはあの九条がいるんだぞ。」

 

「花蓮さんがどうかしたの?」

 

光の笑いがようやくおさまる。

 

「あの女は普段、平和主義みたいな面してるがナンバーズであることに変わりはない。

それがどういうことかてめえらが一番よく分かってるはずだ。」

 

「花蓮さんが戦闘狂になるってこと?それは想像できないな~!」

 

「私も~!」

 

「「ね~♪」」

 

「ならその目で確かめるんだな。」

 

 

 

 

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「ソードフリーザー!」

 

チルノは氷の剣を造形して構える。

 

「~♪」

 

しかし、泉は舞うように踊っていた。

 

「何やってんだ!真面目にやれ!」

 

「やってるよ~疑うなら攻撃してみれば?」

 

泉はチルノを挑発する。

 

「バカにするな!」

 

チルノは泉に斬りかかる。

氷の剣で泉を斬ったと思ったが、泉の体は水となって散った。

 

「分身?」

 

チルノがつぶやいた直後、背後から水の奔流が襲い掛かってきたので凍らせた。

 

「へ~ほんとに凍らせられるんだ~!」

 

泉が現れる。

 

「お前!」

 

「そんな怖い顔をしないでよ~ちょっとした挨拶がわりの一発じゃない。

でもちょっと刺激が足りなかったかな?それじゃこんなのはどう?」

 

泉が床に手を当てると床が一瞬で水面に変わった。

 

「!…こんなの…はつ!」

 

チルノは水面を凍らせる。

 

「やるね~…でも。」

 

水面は凍ったがいつの間に水位が上がっていく。

 

「水中まで届く?」

 

「…凍らない?」

 

「無駄無駄♪なんせ水中の温度は99℃まであるんだから。それじゃ今度はこっちの番!」

 

凍った水面を突き破って熱湯の奔流がチルノに襲いかかる。

チルノはそれを凍らせようとするが熱すぎて凍らせられない。

 

「だから無駄だって…言ってるでしょ!」

 

泉は水面をまるでアイススケートのように滑りながら移動して、チルノに横から蹴りを入れる。

 

「ぐっ!(でもそんなことしたらあいつまで熱湯にかかる。)」

 

しかし、熱湯を浴びたはずの泉の体はなんともなかった。

 

「残念だけど私は液体なら何℃でも関係ないんだよ!」

 

泉は熱湯の奔流を操作して攻撃する。

チルノは水蒸気を凍らせて防御しようとする。

 

「そんなの紙同然の防御だよ!」

 

チルノの防御はすぐに破られる。

チルノは空中を飛び回って回避しようとするが、熱湯の奔流がそれを追尾する。

チルノは逃げながら『アイスシールド』で防御しようとする。

 

「無駄無駄!」

 

熱湯の奔流がチルノに直撃し、チルノは氷上に落ちる。

 

「これで終わりね…物足りない気もするけど。」

 

泉はチルノにとどめを刺そうと歩き出す。

 

「ふ…ふふ…」

 

「?」

 

「ふはははは!」

 

「負けそうになってついにおかしくなったか。」

 

チルノは立ちあがるとニヤリと笑う。

 

「…あたいの勝ちだ。」

 

「は?何を言っているの?この状況であんたに何が出来るっていうの?

氷を封じられたあんたはただの雑魚よ。」

 

「…それはどうかな?」

 

チルノは両手を組み合わせる。

 

「なにを…!」

 

泉は気づいた。

周囲の水蒸気が沸き上がっていることに。

 

「まさかさっきの防御はこのため…あんた!もしかして水蒸気爆発でも起こすつもり!」

 

泉の言葉にチルノはニヤリと笑う。

その表情を見たナンバーズはまるで黒刀のようだと思った。

 

「そんなこと…させるか~!」

 

泉が止めようとしたが遅かった。

 

「アイスクラッ~シュ!」

 

水蒸気、氷上、そして水中の熱湯が弾けて爆発した。

 

「アイスニードル!」

 

チルノは弾けたもの全てを氷の棘に変えた。

そして、それは泉に集中攻撃される。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

泉は墜落して気を失う。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 チルノ》

 

勝利したチルノをある者が観客席から見ていた。

比那名居天子だ。

その存在に気づいたチルノは天子を無言で見上げる。

 

「(絶対決勝に行ってあんたに勝つ!)」

 

「(少しは強くなっているようだが…まだまだ…それでは私には届かない。)」

 

天子は観客席から去っていく。

 

 

 

 

「さて、次は私の番だぜ!」

 

魔理沙がベンチから立ち上がる。

 

「頑張れ、魔理沙!」

 

妖夢が応援する。

 

「おうよ!」

 

魔理沙がそれに応えてフィールドに入った。

対戦相手は北山圭。

金髪、身長190㎝のアスリートのような体格と筋肉、デュエルジャケットは黄色のTシャツと黒の半ズボン。

右手には2mの大剣を持っている。

学年は2年生。

 

「あの大剣でけえな…。」

 

魔理沙は箒に跨って滞空しながら大剣の長さに驚いていた。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始直後、魔理沙は魔法弾を放って北山に先制攻撃をしかける。

北山は大剣の剣先を床に突き刺して、眼前に岩の壁を展開して魔法弾を防いだ。

 

「土属性か…。」

 

魔理沙が相手の属性を認識する。

 

「ロックブラスト!」

 

北山が詠唱すると、岩の壁が分散し、つぶてとなって魔理沙へ放たれる。

魔理沙は飛行してそれを全て躱す。

 

「マスタースパーク!」

 

魔理沙のミニ八卦炉から光線が放たれる。

その光線は岩のつぶてを消し飛ばすが、北山は一歩早くバックステップで躱す。

 

「チッ。」

 

魔理沙は舌打ちする。

北山は岩を一点に集束させる。

 

「ロックバズーカ!」

 

巨大な岩を弾丸にして撃ち放った。

 

「マスタースパーク!」

 

魔理沙は迎撃して岩を破壊する。

しかし…

 

「あいつはどこだ?」

 

岩を破壊している隙に北山を見失ってしまった。

 

「魔理沙、上!」

 

その時、霊夢が声を上げる。

魔理沙が顔を上げると、頭上から北山が大剣を振り下ろしてきていた。

 

「っ!」

 

魔理沙は『マスタースパーク』を放とうとするが、

 

「遅い!」

 

北山がそう言い放った瞬間、魔理沙の真横から横っ腹に岩が直撃した。

 

「ぐっ!(浮遊魔法だと…まずい間に合わない!)」

 

魔理沙は体勢を立て直そうとするが間に合わず、北山の大剣に斬り伏せられた。

そのまま魔理沙は床に墜落した。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 北山圭》

 

 

 

 

 意識が戻った魔理沙はなんとかベンチに戻ってきた。

 

「わりぃ、負けちまった…。」

 

「大丈夫です!私が勝ってリーチかけてきます!」

 

魔理沙の謝罪に妖夢はそう返してフィールドに入った。

 

 

 

 仙台高校代表ベンチ。

 

「優、そろそろ私試合だから。」

 

「ああ。」

 

花蓮の言葉に優は花蓮の太ももから頭を離す。

 

「心配しなくてもあなたの試合はちゃんとやらせてあげるわ!」

 

「分かってるならいい。」

 

優の言葉に花蓮は返事の代わりにニコッと笑みを浮かべた後、フィールドに入った。

 

 

 

 

「(すごい着物…私だったら絶対にこけそう。)」

 

妖夢が花蓮を見た第一印象がそれだった。

 

「初めまして魂魄妖夢。私は九条花蓮です。」

 

花蓮に自己紹介される。

 

「こ、こちらこそ!」

 

妖夢も慌てて頭を下げて返す。

それから頭を上げて花蓮を見る。

 

「(綺麗だし、優しそうな人だな。とても闘う人には見えない。)」

 

妖夢は二本の剣を抜いて構える。

花蓮は扇子を手に握りながら笑顔だった。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

先手必勝と考え妖夢がしかけた先制攻撃は花蓮を取り巻く風によって弾かれた。

妖夢はバックステップする。

 

「風?」

 

「そう…私は風を操れる…さらにこんなこともできる!」

 

花蓮は扇子を振った。

 

「かまいたち!」

 

「?…何も起きな…っ!」

 

突然、妖夢の肩口を何かが切り裂き、妖夢の肩の布が破ける。

 

「今のが…。」

 

「ダメですよ…油断していたら。私の風は私と同じで…」

 

その時、花蓮の雰囲気が変わる。

 

「意地が悪いから。」

 

そう口にした花蓮に妖夢は得体の知れない恐怖を感じた。

 

「これが…ナンバーズ…。」

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「ナンバーズの怖さは闘ったやつにしか分からない。」

 

「そうね…私も五位堂光と闘った時、正直怖かった…。」

 

魔理沙と霊夢がそれぞれこれまでの試合を振り返る。

 

「その恐怖をどう乗り切れるかが勝負の分かれ目なのかもしれないな。」

 

にとりがそう口にするも、何も指示が出せない自分を苦々しく思う。

 

「妖夢…。」

 

大妖精は妖夢の無事を祈っていた。

 

 

 

 観客席。

 

「やっぱり本性現しやがったな。」

 

仁が腕組みしながら言った。

 

「花蓮さんのあんな表情、初めて見た。」

 

光が少し驚く。

 

「意外と性格悪いからね~。」

 

「「(お前が言うな。)」」

 

愛美の発言に仁と光は心の中でツッコんだ。

 

 

 

 

妖夢は二本の剣をクロス状に構えて前進する。

 

「なるほど…見えないならある程度のダメージは覚悟するってわけね…でも甘い!」

 

花蓮は扇子を振った。

 

「突風!」

 

花蓮が詠唱すると強風が吹き、妖夢の体を吹き飛ばした。

 

「うあっ!」

 

「かまいたち!」

 

さらに吹き飛ばされた妖夢にかまいたちを放つ。

妖夢は見えない攻撃に防御のタイミングを掴めず直撃し、デュエルジャケットがボロボロにされていく。

だが、攻撃は終わらなかった。

 

「簡単に地に足をつけると思わないでね。」

 

花蓮は笑顔の後、

 

「竜巻!」

 

花蓮が詠唱した後、妖夢の真下から竜巻が発生し、妖夢の体を吹き飛ばしていく。

これは地獄のコンボだった。

竜巻で吹き飛ばされた妖夢が前に出される。

そこにかまいたちが飛んでくる。

妖夢はロージャンプで躱そうとするが見えない攻撃にどこに避ければいいか分からず直撃する。

そして、かまいたちで吹っ飛ばされた妖夢は竜巻の中へ、出てきたところをかまいたち。

このコンボがなんと5分間続いた。

妖夢が床に落下する。

妖夢の肉体もデュエルジャケットもボロボロだった。

 

「やりすぎたかしら?四季黒刀のお気に入りって聞いてたけどがっかりだわ。」

 

花蓮は頬に手を当てながら何の悪びれもなく言った。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…》

 

「来年また挑戦するといいわ。」

 

花蓮が背を向けてベンチに戻ろうとする。

だが、そこで立ち上がる気配に気づいた。

花蓮が振り返るとそこにはボロボロになりながらも立ち上がる妖夢がいた。

 

「…はあ…はあ…来年じゃあなたいないじゃないですか…。」

 

「結果は変わらないわ。あなたは私に勝てない。諦めなさい。」

 

「それは無理です。ここで諦めたらまた先輩に怒られちゃいますから。だから諦めない。

…まだ手が動く。」

 

妖夢は剣を持った手を動かす。

 

「足が動く。」

 

妖夢は一歩踏み出す。

 

「そして、心に闘志が残っている!だから最後の一瞬まで勝つことを…諦めない!」

 

妖夢の気力が徐々に高まっていく。

 

「気力解放!」

 

妖夢の体を光の柱が包み込む。

 

「まだそんな余力が…でも結果は変わらない!かまいたち!」

 

花蓮は扇子を振って、かまいたちで妖夢にとどめを刺そうとする…が、

妖夢は見えないはずのかまいたちを…斬った。

 

「そんな…くっ!」

 

焦った花蓮はかまいたちを連続で放つ。

妖夢は前へダッシュしながらジグザグに動いてかまいたちを全て躱す。

 

「どうして⁉」

 

花蓮は目を見開いて驚く。

 

「あなたの攻撃はとても正確です。ですが、あなたは攻撃する時、相手を視野に入れている。

その視線をたどればあなたの風は……見えます!」

 

妖夢が花蓮の攻撃を分析して口にする。

 

「なら!」

 

「無駄です。一度ついた癖は簡単に直せません!」

 

妖夢は花蓮との距離を5mまで縮めた。

花蓮は扇子で直接攻撃しようとするが、妖夢は『白楼剣』でそれを弾いた。

そして、花蓮の体勢が崩れたところを、

 

「閃光…」

 

「風壁!」

 

花蓮は風の壁を展開した。

 

「斬撃波!」

 

妖夢は金色の光の斬撃を放った。

風の壁と激突した斬撃は止まるどころか徐々に威力を増していった。

そして、ついに風の壁を突き破った斬撃は花蓮を吹っ飛ばした。

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

花蓮の悲鳴が響いた。

吹っ飛ばされた花蓮は気を失う。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 魂魄妖夢》

 

妖夢はナンバーズの1人である九条花蓮に勝利した。

会場全体が大歓声に包まれる。

 

《な、なんと!ナンバーズの九条花蓮が敗れました!倒したのは神光学園の魂魄妖夢だ~!》

 

《素晴らしい試合でしたね》

 

妖夢は倒れている花蓮に近づく。

花蓮は意識を取り戻した。

 

「もう動けないわ…。」

 

「あの九条さん…」

 

妖夢が話しかけようとする。

 

「優~、動けないからおぶって~!優~!」

 

花蓮が急にだだをこね始めた。

 

 

 

 仙台高校代表ベンチ。

 

「どうします?完全に甘えん坊キャラになってますけど。」

 

呆れ顔でそう口にしているのは早乙女弓。

桃色の髪でロング、ピンクの瞳、白い袴で、手には弓が握られている。

学年は2年生。

 

「ったく、何やってんだあいつは。」

 

優はベンチから立ち上がってフィールドに入った。

花蓮の体を起こしておんぶする。

 

「あ、そうだ。」

 

花蓮は妖夢の方に振り向く。

 

「凄く楽しかったわ。さっきはひどいこと言ってごめんね。またやりましょう…妖夢ちゃん♪」

 

花蓮は笑顔で言った。

 

「あ、はい!(妖夢ちゃん?)」

 

妖夢は呼び方に戸惑いながらも元気よく返す。

 

「ほら、行くぞ。」

 

優は歩き出す。

 

「はいはい…それじゃあね妖夢ちゃん。」

 

花蓮は手を振って、優と共にベンチに戻る。

 

 

 




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OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 神光学園代表ベンチ。

 

「やったな妖夢!」

 

ベンチに戻ってきた妖夢に魔理沙が抱きつこうとすると霊夢が後ろから襟首を掴む。

 

「こら、さすがに今の妖夢に抱きつくのはダメでしょ!」

 

妖夢の体はボロボロで、今倒れてもおかしくないくらいだった。

 

「妖夢、こっちに。」

 

大妖精がベンチに促す。

妖夢がベンチに座ると大妖精は治癒魔法で治療する。

 

「さあ、まだ試合は終わってない!霊夢は準備はいいか?」

 

にとりが手を叩いて仕切り直してから、霊夢に声をかける。

 

「当然よ!」

 

 

 

 霊夢がフィールドに入ると向かい側のベンチから早乙女が出てくる。

その瞬間、霊夢がハッと気づいた。

 

「あなた…もしかして弓?」

 

「ええ、そうですよ…霊夢。霊術院以来ね。」

 

「ええ…。(まさか生き残りがいたなんて…。)」

 

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「霊夢の奴、どうしたんだ?様子がおかしいぜ。」

 

「私にはいつも通りに見えますけど…。」

 

「霊夢…頑張って。」

 

魔理沙が霊夢の異変に気付き、大妖精は特に何も気づかず、妖夢は大妖精に治癒魔法をかけられながら応援した。

 

 

 

 

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

霊夢は3枚の爆符を放った。

だが、それは早乙女が放った霊力の矢によって射抜かれてしまった。

 

「相変わらずの精度ね…。」

 

霊夢は早乙女の技術に舌を巻く。

 

 

 

 11年前 霊術院。

 

早乙女(当時6歳)の放った矢が的のど真ん中に命中した。

 

「弓ってほんと弓道上手いよね~。」

 

霊夢(当時5歳)が縁側で足をブラブラさせながら言った。

 

「私にはこれしかないから。」

 

弓は笑顔でそう答えた。

 

 

 

 現在。

 

「試合中に考え事なんて随分余裕だね…霊夢。」

 

早乙女がそう口にしながら霊力の矢を放つ。

霊夢は結界を展開して矢を防ぐ。

 

「甘い。」

 

早乙女が次の矢を放つと結界を貫通し、霊夢の右肩に刺さる。

 

「くっ!」

 

霊夢は痛みに耐えながら矢を引き抜く。

早乙女が口を開く。

 

「霊力の結界は精神力に比例する。そんな迷いだらけの心で作った結界は脆い。

ねえ、霊夢は知ってる?10年前、何故霊術院が突然消えたのか。」

 

その質問に霊夢の肩がビクッと震える。

 

「あの日、私は弓道の大会の帰りに霊術院に行った。

だけど霊術院はなくなっていた。建物どころか人までも。」

 

「………。」

 

霊夢はうつむいて黙ったままだった。

 

「なるほど…話したくはないようね。」

 

早乙女はため息を吐いて矢を装填する。

 

「私のせい…私が弱かったから…皆死んだんだ!」

 

霊夢は子供のように叫んだ。

早乙女の周囲に結界が展開される。

 

「夢想封い…」

 

「だから脆いって。」

 

早乙女が矢を放つと、結界を貫通し、霊夢の左胸に刺さり精神ダメージに還元される。

霊夢は仰向けに倒れて気を失った。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 早乙女弓》

 

早乙女は無言でベンチに戻って行った。

 

 

 

 魔理沙が霊夢をベンチに連れて行って横たわらせる。

 

「ごめん…なさい…。」

 

霊夢はうなされるようにツーッと涙を流しながら誰かに謝るようにつぶやいていた。

 

「霊夢、お前に一体なにがあったんだよ…。」

 

魔理沙は霊夢を心配そうに見つめる。

映姫がベンチから立ち上がる。

 

「黒刀を呼びに行ってきます。霊夢のことも気になりますが今は大会中ですし、それに誰だって秘密にしたいことはあるはずですから。」

 

その言葉ににとりがうなずく。

 

「そうだな…今は黒刀に勝ってもらうことが最優先だ。」

 

「では行ってきます。」

 

映姫は隣の仮眠室に向かった。

仮眠室のドアを開けようとすると内側からドアが開いた。

 

「黒刀、今迎えに行こうと…っ!」

 

映姫が言葉を続けようとしたところで固まった。

 

「ああ、行ってくる。」

 

黒刀は映姫の肩に手を置いた後、ベンチに向かった。

映姫は黒刀の背中を見つめる。

 

「(何今の…黒刀のオーラにほんの少しだけ禍々しい気配を感じた。

あんなの今まで感じたことない。)」

 

映姫は恐怖を感じながらもベンチに向かった。

 

 

 

 仙台高校代表ベンチ。

 

「弓ちゃん、おつかれ~。」

 

花蓮が気が抜けた口調で声をかける。

 

「いえ、私は自分の役目を果たしたまでです。」

 

早乙女はそう返した。

 

「分かっているならそれでいい。」

 

優はベンチから立ち上がり、フィールドへ歩き出す。

 

「二宮先輩!今日もやっちゃってもごもごっ!」

 

泉が言い切る前に花蓮が口を塞ぐ。

 

「ダメよ。」

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

黒刀がフィールドに向かって歩き出して、チルノが何か言おうとした時、映姫に口を塞がれる。

 

「チルノ、今はダメです。」

 

「今、優に声をかけたら…」

 

「今、黒刀に声をかけたら…」

 

「「殺されますよ。」」

 

花蓮と映姫は同時に口にした。

 

「どういうことだ映姫?」

 

にとりが訊く。

 

「にとり先生、もしかしたら去年と同じことが起きるかもしれません。」

 

「何!」

 

 

 

 優がフィールドに入った瞬間、観客席から「皇帝!皇帝!」とコールがかかる。

 

「何故皇帝なのですか?」

 

妖夢の質問に映姫が答える。

 

「ナンバーズには異名がつけられることが多いのはもう知っていますね。

七瀬愛美は『魔女』、五位堂光は『鬼神』、六道仁は『野獣』、九条花蓮は『女帝』、私にはありませんが黒刀には『破壊王』、そして二宮優の異名が『皇帝』。

これは彼の気品の高さと彼が試合で手足を動かさずに勝利していたことから名づけられています。」

 

「確かに黒刀以上に偉そう…。」

 

魔理沙がつぶやく。

 

 

 

 

《さあ、ついにきました!ナンバーズイケメン対決!》

 

《なんですかそれ…》

 

文の的外れな実況に神奈子がジト目になる。

 

《いや~、彼らは高校生イケメンランキングでもツートップになっているので…》

 

《…まあイケメンかどうかはともかく二宮家と四季家はナンバーズの中でも戦闘力に関しては1,2を争う関係であることは確かだと思います。どちらが勝ってもおかしくないです》

 

 

 

 観客席。

レミリアが席に座っていると、

 

「隣、いいですか?」

 

真冬から声をかけられた。

 

「ええ、かまわないわ。」

 

「それじゃ、失礼して…。」

 

真冬はレミリアの隣の席に座る。

 今、この会場の観客席には首里高校、白雪高校、鷹岡高校、王龍寺高校、紅魔学園、椛、ナンバーズなと強豪が勢揃いしていた。

 

「あ、私は…」

 

「白金真冬…でしょ?」

 

「はい。よくご存知でしたね。」

 

「試合、見たもの。」

 

「黒刀君が気になってですか?」

 

真冬は意地悪な質問をしてみた。

 

「べ、別に!あいつのことなんか気になってないわよ!」

 

レミリアは頬を赤くして否定した。

 

「(そうか…この人も…。)」

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「そういえばお父様に聞いたことがあります。

黒刀と二宮優は5年前に一度だけ闘ったことがあると…」

 

「マジか!それでどっちが勝ったんだ?」

 

映姫の言葉に魔理沙が身を乗り出す。

 

「それが………引き分けだったそうです。」

 

「え…。(先輩でも勝てない相手…。)」

 

妖夢は目を見開いて驚いた。

 

 

 

 黒刀と優がフィールドで睨み合う。

 

「5年ぶりだな。」

 

優が口を開く。

 

「…ああ。」

 

黒刀は短く返す。

 

「俺はずっと待ってたこの時を…あの時の借りを返すことが出来るこの時を!」

 

優は拳を握りしめる。

 

「俺にとって引き分けは敗北と同じこと!証明してやるよ!真の最強はこの俺だということをな!」

 

「…おしゃべりはそれくらいにしてとっとと始めようぜ…俺は今、お前は倒したくて仕方ないんだからな!」

 

黒刀はそう言い放って鞘から『八咫烏』を抜いた。




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皇帝

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「はあっ!」

 

黒刀は吠えながら突っ込む。

優に刀が届く距離まで接近すると中段斬り。

だが、優の前に展開された浮遊する半透明の盾に弾かれた。

 

「チッ、魔力で作った盾か。」

 

直後、黒刀から10m離れた周囲の空中に5つの魔法陣が展開され光線が放たれた。

黒刀はバックステップしてそれを躱す。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「なんだあれは…それにさっきの盾も…。」

 

魔理沙が初めて見る魔法に驚く。

にとりがその疑問に答える。

 

「あれは『ディメンションレーザー』。

空間魔法と砲撃魔法の複合魔法だ。

威力は1発でマスパの3倍だ。」

 

「さん…ばい…。」

 

その威力に魔理沙は驚愕する。

 

「あとさっきの盾は『イージスの盾』。

近距離攻撃は全てあれに防がれる。」

 

「でもそんなに魔力を使い続けたら魔力切れになるんじゃ…。」

 

大妖精が疑問を口にする。

だが、映姫は否定した。

 

「いえ、二宮優には黒刀の気力と同等の魔力量があります。

魔力切れになる可能性は極めて低いでしょう。」

 

「しかも二宮はそれらの魔法を手足を動かさずに発動させている。

つまり、脳内で魔法式を組み立てている。」

 

にとりがさらに補足する。

それに大妖精がベンチから立ち上がる。

 

「ちょっと待ってください!あんな複雑そうな魔法式を脳内で組み立てるなんて出来るわけが…」

 

「それが出来るのがあの二宮優だ。」

 

大妖精の指摘をにとりは一言で封じた。

 

「でも先輩には防御術式を破壊する『カオスブレイカー』があります。それなら…」

 

「そんな隙があると思うか?」

 

妖夢の言葉ににとりはそう返した。

 

「え?」

 

「あの『ディメンションレーザー』は二宮が魔法式を組み込めば好きなタイミングで発動できる。つまりこっちの状況なんておかまいなしで休みなく放たれてくる。」

 

「そんな!」

 

妖夢は思わず声を張り上げた。

 

「黒刀…。」

 

映姫は心配そうに黒刀を見るのだった。

 

 

 

 黒刀はフィールドを駆け回って光線を躱している。

 

「(昔は2つだったけどまさか…)」

 

「5つに増えているとは…か?もしかしてこの5年で俺が増やしたのが5つまでだと思っているのか?」

 

「なに?」

 

その時、空中の魔法陣の数が4倍の20個になった。

それらから『ディメンションレーザー』が一斉に放たれる。

黒刀は連続バク転でそれを躱す。

 

「どうした?逃げているだけでこの俺と闘えると思っているのか!

さあ、見せてみろ!本当のお前を!」

 

「っ!(あいつ、まさか俺の中にいるあれを知っているのか?)」

 

優はため息を吐いた。

 

「そうか…その気はねえってか。だったら徹底的にお前を追い詰めてやるよ!次は5倍だ!」

 

空間魔法の魔法陣の数が100個に増えた。

その直後に『ディメンションレーザー』が放たれる。

 

「(くそ…避けきれねえ。)」

 

黒刀は『破壊王の鎧』を発動させる。

 

「無駄だ!俺の『ディメンションレーザー』はお前の『破壊王の鎧』では相殺できない!」

 

黒刀の『破壊王の鎧』を優の『ディメンションレーザー』が勝った。

 

「ぐあっ!」

 

黒刀は壁に吹っ飛ばされる。

そこへ追い打ちとばかりに『ディメンションレーザー』が放たれる。

 

《ひどい!これはひどい!あまりに無慈悲な攻撃に黒刀選手は耐えられるのか~!》

 

だがその時、光の柱が立った。

 

「気力解放!」

 

黒刀は『ディメンションレーザー』に耐えながら、

 

「カオス…ブレイカー~!」

 

黒い斬撃を放った。

 

「…温い。」

 

優はそう吐き捨て、10個の魔法陣を重ね合わせ『ディメンションレーザー』を放つ。

 

「10個の魔法陣が1つになったってことはあの『ディメンションレーザー』の威力はマスパの…30倍⁉」

 

その威力に魔理沙は驚愕した。

『ディメンションレーザー』と『カオスブレイカー』がぶつかり合う。

だがすぐに『ディメンションレーザー』の威力が勝り、黒刀はその光に包まれる。

二宮優の実力は圧倒的だった。

黒刀は前のめりに倒れてしまう。

 

「先輩!」

 

妖夢が叫ぶ。

 

「黒刀!」

 

映姫も叫ぶ。

 

「…お前じゃねえ…俺が本当に闘いたいのはお前じゃない。さあ、とっとと出て来いよ。」

 

優はそうつぶやいた。

 

《1…2…3…》

 

「起きろ黒刀!」

 

チルノが呼びかける。

 

《4…5…6…》

 

「頼む黒刀!」

 

魔理沙も拳を握りしめながら呼びかける。

 

《7…8…9…》

 

「先輩…。」

 

妖夢が祈った。




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隠された力

OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 …力がいる…

 

ドクンッ!

 

 …もっと強い力が…

 

ドクンッ!

 

 …力さえあれば…

 

ドクンッ!

 

 …もう…何も…失わない!

 

その時、空が突然曇り、雷がフィールドに落ちた。

優は自身の近くに雷が落ちているにも関わず全く動じていない。

むしろ、いつの間にか立っていた黒刀しか視界に入っていないようだ。

優は…笑った。

 

「待ちくたびれたぞ。」

 

黒刀の背後に大きな雷が落ちる。

黒刀は右手を天に掲げると今までより低く冷たい声で口にした。

 

「霊力解放。」

 

黒刀の周囲に黒いオーラがまるで生きているかのように渦巻く。

 

 

 

 観客席。

 

「っ!」

 

その時、真冬が何かを感じた。

 

「どうしたの?」

 

レミリアが気になって声をかける。

 

「ううん、何でもない。」

 

真冬は笑顔で返した。

 

「(何だろう…今、一瞬胸に痛みが。)」

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「気力と霊力の同時解放なんて聞いたことないぞ。」

 

にとりは目を見開いて驚いていた。

 

「そんな…ありえません。黒刀に解放できる霊力はありません!」

 

それは姉である映姫も同様だった。

 

「どういうことだ?黒刀はトライフォースだから霊力の解放だって出来るはずじゃ…。」

 

魔理沙が疑問を口にする。

 

「オーラの解放はオーラの量が一定量を超えなければできません。

妖夢のような特殊なケースを除けば、黒刀は気力の解放は出来ても霊力の解放はできない。なぜなら黒刀のオーラの中で霊力が最も少ないからです。」

 

「でも今の黒刀を見る限り、黒刀の霊力は気力以上だぜ。」

 

魔理沙は眼前の黒刀を見てそう口にした。

 

 

 

 観客席。

観戦に来ていた二宮優の父、二宮総一郎が試合を見下ろしていた。

 

「(大和、あの日と同じだな。)」

 

大和も総一郎と同じ気持ちだった。

 

「(あの日と同じ…。)」

 

「(そう…。)」

 

優は目を閉じる。

 

「「「(あの日と…。)」」」

 

 

 

 5年前。

四季家と二宮家は当主同士、友好関係にあったがビジネスの話となれば別。

ある日、四季家と二宮家がある会社の取引でダブルブッキングになってしまった。

お互い譲れない状況の中、取引先の社長がこんなことを言ってきた。

 

「ではお二人の次期当主となる息子さん方の決闘を見せて頂きたい。

かなり将来有望だと聞いています。

その決闘で勝った方と取引というのはどうでしょうか?」

 

取引先の社長の提案に困った表情になる2人だったが、本人の了承があればということで手を打った。

その日、取引先の会社のエントランスで待っていた黒刀(当時12歳)は大和に呼ばれ、会社内にあるトレーニングルームに連れられ事情を説明される。

黒刀はこの取引が大和にとって大事だと理解し了承する。

そして、二宮優(当時13歳)も車で到着し、同じように了承した。

黒刀は鞘から黒い刀を抜く。

優は棒立ちだ。

 

「お前、大会に出たことはあるのか?」

 

優は黒刀に訊いた。

 

「…イギリスで1回だけ。」

 

黒刀は無愛想に答えた。

 

「そうか。(キャリアの浅そうな奴…叩き潰してやる。)」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

この頃の黒刀はスキルが無かった。

決闘は優の優勢だった。

ボロボロになっている黒刀を見る。

 

「(こんなものか。)」

 

そして、次の言葉をきっかけに運命が変わる。

 

「お前…()()()。」

 

「っ!」

 

黒刀は肩をピクリとさせた。

この後、黒刀に異変が起きる。

あの後は逆に優の方が押される展開となり、あまりにも激しくぶつかり合う2人の闘いを見て、その場にいた大人達が止めに入り、引き分けという結果となった。

決闘を終えた黒刀の様子は疲弊していたものの元に戻っていた。

 

「すまなかったな総一郎。うちの息子が少々やり過ぎてしまったようで、取引は君に譲ろう。」

 

大和は総一郎に謝罪した。

 

「ああ、こちらこそすまなかった。帰るぞ優。」

 

総一郎はそう言って優を呼んだ。

 

「黒刀、帰ろう。」

 

大和が黒刀の手を引いて帰ろうとする。

 

「待て!」

 

その時、優に呼び止められる。

 

「お前、名前は?」

 

黒刀は少し首を優の方に向けた。

 

「…四季黒刀。」

 

黒刀は小さい声で名乗った。

 

「俺は二宮優だ。お前のこと絶対に忘れないから。次に闘う時、覚悟しておけよ。」

 

「…ああ。」

 

黒刀はそう応えて、大和に手を引かれて帰って行く。

 

「…最強はこの俺だ。」

 

優は黒刀の背中を見てそう口にした。

 

 

 

 現在。

優は歓喜していた。

 

「そうだ!俺はそのお前と闘いたかった!さあ、続けよう!あの日の闘いを!」

 

優は魔法陣10個を重ね合わせ、『ディメンションレーザー』を放つ。

 

「あれはさっきと同じ!黒刀、避けろ!」

 

魔理沙が叫ぶ。

だが、黒刀は避けようとせず、なんと右手で横に受け流した。

受け流された『ディメンションレーザー』が結界に衝突して震動する。

だが、優は動じず黒刀の周囲に複数の魔法陣を展開し、『ディメンションレーザー』を一斉に放つ。

しかし、その光線は黒刀を渦巻くオーラの渦によって全て弾かれた。

 

「やはり、防ぐか。そうこなくてはな!」

 

優は喜びの笑みを隠しきれなかった。

 

「分かっているさ…お前に小細工は通用しないことは。やっぱり力には力で勝負しないとな!魔力解放!」

 

優が光の柱に包まれる。

黒刀は無表情で冷酷な目をしていた。

 

 

 

 観客席。

 

「すまない…こうなってしまったのは私のせいだ。」

 

にとりが口を開いた。

 

「どういう…ことですか?」

 

妖夢が戸惑いながら訊く。

 

「去年の剣舞祭の個人予選の1回戦の時から兆候はあった。

でも本人に言っても大丈夫の一点張り。

そして、もう一つ…皆に黙っていたことがある。

黒刀は…去年の剣舞祭での試合中の記憶が一切ない。」

 

「え、それってどういう…」

 

妖夢が問い詰めようとした時、霊夢が意識を取り戻し、うっすらと目を開けて、ゆっくりと起き上がった。

 

「霊夢、気がついたのか!」

 

魔理沙が近寄る。

 

「魔理沙…。」

 

霊夢は魔理沙に視線を向けた後、フィールドにいる黒刀に視線を移した。

 

「なに…あの英霊並の霊力…。」

 

霊夢の一言ににとりが、

 

「霊夢、あの霊力がどれほどのものか分かるのか?」

 

「それはまあ…巫女ですから。」

 

映姫が霊夢の言葉に考え込む。

 

「英霊…にとり先生、もしかして黒刀の中にいる何かって…。」

 

「ああ、その可能性は高いな。」

 

「あの…いったい何の話を…。」

 

妖夢が話についていけてなくなっているのを見た映姫が静かに息を吐く。

 

「妖夢、今から話すことはあなたにとってとてもショックを与えることになるかもしれない。それでも聞きますか?」

 

「はい!お願いします!どういうことなのか説明してください!」

 

「分かりました。黒刀に去年の剣舞祭の試合中の記憶がないことは先程も言いましたね。だけど黒刀自身にも記憶がない自覚はあったようです。それは本人が言っていました。そして、自分の中に何か別の巨大な存在があるということも…。」

 

にとりの言葉に霊夢がうなずく。

 

「確かに今の黒刀先輩からは2つの魂を感じる。」

 

「そして、その兆候が去年の個人予選の1回戦からあった。おそらくその時から…。」

 

「じゃあ、あの試合で見た先輩は…。」

 

「…今、フィールドにいるあれを同じだと思います。」

 

「っ!」

 

映姫が口にした言葉に、妖夢はショックを受けて膝から崩れ落ちた。

 

「そんな…じゃあ…私が憧れた先輩は偽物に過ぎなかったってこと…。

私の憧れは…偽物?なら私は一体なんの為にここまで…私は誰の為に剣を握ればいいんですか!」

 

「妖夢…。」

 

そんな妖夢を霊夢は何も声をかけられなかった。

 

 

 

 優が魔法陣20個を重ね合わせ、『ディメンションレーザー』を放つ。

黒刀がそれを右手で受け止めると、光線が2つに分かれ、フィールドの床の表面を溶解していく。

黒刀は『八咫烏』を振って斬撃を放つ。

その斬撃は床を切り裂き割っていく。

優は魔法陣30個を重ね合わせ、『ディメンションレーザー』を放って相殺する。

 

「お前の斬撃1つに必殺級のパワーがあることはもう知っている。次はこちらの番だ!」

 

優は魔法陣50個を重ね合わせ、『ディメンションレーザー』を放つ。

黒刀は無表情で斬撃を放つ。

斬撃と光線がぶつかり合うことでフィールドの床の表面がところどころ溶解したり割れていく。

 

 

 

 

「まるで戦場ね。」

 

レミリアは目の前の惨状を見て、そうつぶやいた。

 

 

 

 

 黒刀は『八咫烏』を両手で握り横に構えて斬撃を放とうとした瞬間、優は魔法陣10個を重ね合わせ、『ディメンションレーザー』をすぐさま放った。

黒刀は右手を『八咫烏』から離し水平に振って、光線を横に弾いた。

 

「さすがの俺でもそれはやらせるわけにはいかないな。ここら一帯が更地になっちまう。」

 

優はそう口にした。

その時、黒刀から異様な気配を感じた。

 

「まだ何かするつもりか?」

 

優は次の黒刀の動きを待つ。

同時に霊夢と真冬は不思議な感覚が伝わっていた。

 

「「(なに…この感覚…。)」」

 

霊夢は頭を振り払って妖夢の傍に近寄る。

 

「妖夢。」

 

妖夢は立つことも出来ず、うつむいたままだった。

 

「私の先輩は…いったい…どこに…。」

 

そんな妖夢の肩を霊夢は掴んだ。

 

「妖夢、よく聞いて。あなたの憧れた黒刀先輩がどういう存在でどれほど大きなものなのかは正直、私には想像つかない…もし、あなたが今の黒刀先輩に幻滅に近い感情を抱いているのなら…思い出して。黒刀先輩とあなたが出会ってからの黒刀先輩はどんな人だった?」

 

それを聞いた妖夢が顔を上げる。

 

「私と出会ってから…私の知っている先輩は優しくて…たまに叱ってくれて…いつも皆のことを考えてくれて…頭を撫でてくれて…ちょっとエッチなところもあって…でも誰よりも強くてかっこいい…私の最高の先輩です!」

 

妖夢は笑顔で言い放った。

 

「それだけ言えれば十分ね。」

 

霊夢は安心した表情になる。

 

「皆さん、すみません。ここは私に任せてくれませんか?」

 

「任せるっていったいどうする気なんだぜ?」

 

「私の想いを先輩にぶつけます!」

 

「「「「妖夢…。」」」」

 

映姫が妖夢に近寄り、肩に手を置く。

 

「頼みます。おそらく私が何を言っても黒刀は戻ってこないと思いますから。」

 

「はい!」

 

妖夢は一歩を踏み出し、こう叫んだ。

 

「先輩…自分を信じて下さい!

 

「モードチェンジ…ザ…っ!」

 

黒刀の動きが止まった。

 

ドクンッ!

 

黒刀の目に光が戻る。

 

「ラストだ!『ハンドレッドディメンションレーザー』!」

 

優が魔法陣100個を重ね合わせ、光線を放った。

 

「先輩!」

 

妖夢が叫ぶ。

 

「っ!」

 

黒刀は咄嗟に『八咫烏』を縦に構えて受け止める。

 

「う、うおおおおおおおおおおお!モードチェンジ!サムライ!」

 

黒刀の体を黒い木の葉が渦巻いていく。

『サムライモード』に変身すると『ハンドレッドディメンションレーザー』を一刀両断した。

 

「霊力が元に戻っている。」

 

霊夢がつぶやく。

 

「いつもの黒刀だ!」

 

「いっけ~!黒刀!」

 

魔理沙とチルノが応援する。

 

「先輩…おかえりなさい。」

 

妖夢はいつもの黒刀が戻ってきたことを喜ぶ。

 

「なぜだ…なぜ、またお前が出てくる!」

 

優は歯ぎしりする。

 

「二宮、俺はナンバーズとしてここに立っているわけじゃない。

神光学園代表の四季黒刀としてここに立っているんだ!」

 

いつの間にか空は晴れていた。

 

「そうか…まあいい。もはや最強などという肩書きに興味はなくなった。今は四季黒刀…お前に勝つこと。それだけが俺の目的だ!」

 

「なら俺も全力で闘うまでだ!」

 

黒刀は加速して、優の眼の前まで接近する。

 

「四季流剣術…」

 

「何度やっても無駄だ!」

 

優は『イージスの盾』を展開する。

 

「参の段 霧桜!」

 

黒刀の水平斬りが『イージスの盾』をすり抜けた。

 

「なに!」

 

優は咄嗟にバックステップする。

『八咫烏』の刃が優のデュエルジャケットをかすめ、破く。

 

《つ、ついに…あの『皇帝』が…動いた~!》

 

文の実況に呼応するように会場の盛り上がりが激しさを増す。

優は黒刀の周囲に魔法陣を展開し、『ディメンションレーザー』を放つ。

黒刀はフィールド中を走り回って躱し続ける。

 

「いいぞ…これだ…このギリギリの闘いの中で生まれる緊張感と高揚感!

これが俺の求めていた闘い…感謝するぞ!四季黒刀!

だが、1つだけ言っておこう。四季黒刀、お前はそのモードチェンジがもしかして自分のものと思っているわけじゃないだろうな?」

 

「何を言って…まさか!」

 

黒刀はフィールド中を走り回りながら驚く。

 

「そのまさかさ…」

 

優は不敵な笑みを浮かべ、右手を天に掲げる。

 

「モードチェンジ!」

 

その瞬間、優の体を金色の竜巻が渦巻いていく。

そして、現れたのは全身に金色の鎧を装着した二宮優だった。

 

「エンペラー!」

 

「二宮が…モードチェンジだと…。」

 

「そうだ!これが俺の『エンペラーモード』!

そして、光栄に思え!今からお前に俺の新たな魔法を…見せてやる!」

 

優は右手を開くと、そこに光る球体のようなものが現れる。

 

「なんだ…あれ…っ!」

 

次の瞬間、黒刀の右わき腹を光線が貫通した。

黒刀はすぐに瓦礫の陰に身を潜めた。

 

「驚いたか?今のが俺の新たな魔法だ。悪いな、見せてやると言ったがどうやら見えなかったようだな。この魔法の名は『ソニックレーザー』。音速の射撃魔法だ。」

 

「音速だと?」

 

「そうだ!いくらお前の『超反射』でもこれは反応できない!(まあ、難点があるとすれば空間魔法と複合できないことと命中率が良くないことぐらいだが。)」

 

黒刀が動こうとしたその時、右わき腹に痛みが走る。

撃たれた箇所を見ると出血していた。

 

「ちっ。」

 

黒刀は舌打ちする。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「バカな…二宮のあの魔法は保護結界を超える魔法だというのか!」

 

にとりが声を荒げて驚く。

 

「こんなのすぐに中断させないと!」

 

妖夢が中止を促す。

 

「無理だ。本人に続行する意志がある限り中断は出来ない。」

 

「そんな…。」

 

もはや妖夢達は黒刀の無事を祈るしかなかった。

 

 

 

 

「よし、傷口は筋肉で塞いだ。しばらくは持つ。」

 

黒刀は『八咫烏』を握って立ち上がり、瓦礫の陰から飛び出して走り出す。

 

「出てきたか。」

 

優は『ソニックレーザー』を放つ。

『ソニックレーザー』は黒刀の真横を通過する。

 

「(命中率は高くないのか。)」

 

黒刀はさらに前進する。

優は黒刀の周囲に魔法陣を展開し、『ディメンションレーザー』を放つ。

黒刀はそれらを全て躱していく。

だが、黒刀が回避に徹している隙を逃さず『ソニックレーザー』が放たれる。

黒刀の頬をかすめ、『ディメンションレーザー』の追い打ちを受けてフィールドの床に勢いよく転倒する。

黒刀はなんとか立ち上がる。

 

「くそ…狙いが滅茶苦茶だと予測して対応できないな。」

 

その時、黒刀の頭から血がポタポタと垂れてきた。

 

《黒刀選手、頭から出血しています!これはさすがにリタイアせざるを得ないか~!》

 

だが、黒刀は再び『八咫烏』を構えた。

 

《これは続行のようですね》

 

「(仕方ねえ…あれをやるしかねえか…。)」

 

黒刀が深呼吸する。

すると、黒刀の全身を覆うオーラに変化が生じる。

 

「なんだ…あいつのオーラの色がどんどん黒くなっていく…まさか!」

 

優は嫌な予感を感じて、黒刀の周囲に魔法陣を展開し、『ディメンションレーザー』を放つ。

そして、爆発する。

 

《黒刀選手、今度こそ終わりか~!》

 

「黒刀…。」

 

映姫が心配そうにつぶやく。

 

「いや…まだだ。」

 

優が視線を向けた先は爆発箇所から10m右。

そこにいたのは全身のオーラを黒く染めた黒刀だった。

 

「一部分ではなく全身のオーラが変色している。これは…」

 

にとりがある答えにたどり着く。

 

「ゾーン…。」

 

それはレミリアも同様だった。

 

《神奈子さん、黒刀選手のあれは?》

 

《あれはゾーン。解放状態が90%の力を引き出すならゾーンは100%の力を引き出すことが出来る。外見的な特徴は全身のオーラが変色することが有名な説です》

 

「なら見せてもらおうか…お前の100%を!」

 

優は黒刀の周囲に100個の魔法陣を展開する。

『ディメンションレーザー』を放とうとした次の瞬間、100個あった魔法陣が全て破壊されていく。

 

「まさか…斬ったのか?だがいつ?」

 

優が前を見ると黒刀の姿がなかった。

 

「どこに…はっ!」

 

優が見上げると、結界の天井に黒刀が足をついていた。

黒刀は両足にオーラを『集中』で集束する。

 

「これが…スーパーロージャンプだ!」

 

オーラを一気に放出し、勢いよく降下していく。

 

「空中ならば逃げられないぞ!」

 

優は黒刀の周囲に魔法陣を展開し、『ディメンションレーザー』を放つ。

 

「(勝った!)」

 

優は勝利を確信した。

だが、その予想は裏切られた。

優は気づかなかったが、黒刀の右手にはなんともう1本の刀があった。

それは『八咫烏』の前に黒刀が使用していた黒い刀だった。

 

「四季流剣術 四の段 龍刃竜巻剣!」

 

黒刀が空中で竜巻のように回転して、『ディメンションレーザー』を全て弾いた。

そのまま優に迫る。

優は『イージスの盾』を展開する。

黒刀の剣技と優の『イージスの盾』が激突し火花を散らす。

『イージスの盾』によって黒刀の攻撃は弾かれ、黒刀は空中で横回転した後、着地した瞬間、右足を踏み出して斬りかかる。

 

「(この距離なら!)」

 

優は右手から『ソニックレーザー』を放った。

 

「(もらった!)」

 

だが次の瞬間、音速のしかも至近距離の『ソニックレーザー』を黒刀は右手の刀で受けた。

その刀は刃の根元からパキンッと音を立てて折れた。

黒刀はそれを投げ捨てる。

 

「(この至近距離なら外すことはない。お前が狙っていたのは俺の左肩。利き手を封じることが読めていれば『超反射』で追いつく!)」

 

黒刀は優の攻撃を予測していたのだ。

そして、試合はクライマックスを迎える。

 

「「これで決める!」」

 

優は100個の魔法陣を展開し、重ね合わせる。

黒刀は『八咫烏』にオーラを集束させるだけにとどまらず、黒刀の背後のフィールドは黒刀のオーラで埋め尽くされていた。

 

「ハンドレッドディメンションレーザー!」

 

「カオス…ブレイカァァァァァァァ!

 

巨大な黒い斬撃と巨大な光線がゼロ距離でぶつかり合う。

その衝撃は今までより遥かに凄まじいものだった。

2人を中心にフィールドが大爆発を引き起こす。

その中で、優は両手を前に突き出して威力を上げていく。

黒刀も『八咫烏』にオーラを注いでいく。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

「これが…優の力…。」

 

花蓮がつぶやく。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

「黒刀、負けないで!」

 

映姫が叫ぶ。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

「先輩!私は先輩を信じています!だから先輩も自分を信じて下さい!」

 

妖夢が声を振り絞って叫ぶ。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

会場にいる全員…いや、この国にいる多くの人々がこの瞬間から目を離せずにいるだろう。

その緊張の糸を切るかのように再び2人を中心に大爆発を引き起こした。

中の様子は煙で見えない。

 

《両者のぶつかり合いに大爆発!両者の運命はいかに~!》

 

煙がだんだん晴れていく。

そこには堂々と立つ優と『八咫烏』をフィールドの床に突き刺して膝をつく黒刀がいた。

 

「先輩!」

 

《黒刀選手、膝をついている!これはもう立てないか~!》

 

「はあ…はあ…二宮…俺の………勝ちだ。」

 

黒刀がそう口にすると、優の体がゆっくりと後ろに傾いていく。

やがて体の角度が45度になると優の鎧が美しい響きと共に砕ける。

そして、優はフィールドの床に大の字で倒れた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

勝敗を知らせる機械音声に会場が5秒ほど沈黙に包まれる。

その直後、割れんばかりの大歓声が響き渡る。

 

《勝ったのは神光学園!強豪の一角、あの仙台高校を落としました~!》

 

《いや~一瞬も目が離せない試合でした》

 

「優が…負けた?」

 

花蓮は信じられないという表情をして膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

「先輩~!」

 

黒刀の元へ妖夢達が駆け寄ってくる。

 

「これでベスト4入りだな!」

 

魔理沙が喜びの気持ちを口にする。

 

「黒刀選手、今すぐ手当てしないと!」

 

大妖精が慌てて声をかける。

 

「大丈夫。かすり傷だ。」

 

「でも…。」

 

「それよりちょっと待ってくれるか?」

 

「え…あ、はい。」

 

黒刀は仰向けに倒れる優に歩み寄った。

 

「何の用だ?」

 

意識を取り戻した優が倒れながら声をかけてきた。

 

「二宮、俺と友達にならないか?」

 

「なに………ふ…ふふ…ふはははは!面白い!いいだろう!」

 

優は急に笑い出した。

黒刀は手を差し伸べる。

 

「よろしくな二宮。」

 

優は黒刀の手を取って立ち上がる。

 

「優だ。そう呼べ。」

 

「ああ、分かった…優。」

 

優は黒刀の手を勝利を称えるかのように挙げた。

観客も一層、盛り上がった。

 

 

 

 

「行くわよ咲夜。」

 

レミリアが席から立ち上がり出口へと歩き出す。

 

「はい、お嬢様。」

 

咲夜も後をついていく。

 

「行くんですか?」

 

真冬がレミリアに声をかける。

 

「見たいものは十分見れたわ。」

 

レミリアは背を向けたままそう言って去って行った。

真冬はフィールドに視線を戻す。

 

「おめでとう黒刀君。」

 

 

 

「さあて、次はうちらやな。」

 

黒岩が口を開く。

 

「楽しみや!」

 

金次が嬉しそうに言った。

大きな拍手と歓声に包まれながら神光学園対仙台高校の試合は幕を閉じた。

 

 

 

 そして、その夜。

 

「まったく、あなたはどうしてあんな無茶な闘い方しか出来ないのですか!バカなのですか!」

 

映姫の叱責に加え、

 

「そうです!今回は本当に死んでいたかもしれないんですよ!」

 

大妖精からも叱責。

頭に包帯を巻いた黒刀は、

 

「(このダブルお説教は嫌だな~。)」

 

 

 

 紅魔学園代表宿泊ホテル。

 

「はっ!センパイがダブルXXXされている気がする!」

 

早苗が突然、おかしなことを言い出した。

 

「気のせいだ。」

 

天子が冷静にツッコんだ。

 

 

 

 明日は王龍寺高校対神光学園の試合だ。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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日本一のパワー

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 8月5日 午前10時。

黒刀は準決勝までの運動を禁じられていた為、ベッドで胡坐をかきながら準決勝の相手である王龍寺高校の試合の記録映像を見ていた。

 

「この黒岩って奴はかなり厄介な相手になりそうだな。

開会式の日に一度だけ会ったが冷静さと情熱さを兼ね備えているように見えた。

さて、どうするかな~。」

 

黒刀はベッドに寝転がった。

 

「試合まであと3時間…コンビニで何か買ってくるか。」

 

黒刀は起き上がって、部屋から出てロビーを抜け街へ歩き出した。

 

「おそらく俺の相手は…」

 

「お、ヨキやんか~!」

 

黒刀が考えながら歩いていると声をかけられた。

振り向くと大門金次がいた。

 

「悪いが今は相手してやれないぞ。」

 

「分かっとるで!楽しみは後に取っておくもんや!」

 

その時、女性の悲鳴が聞こえた。

黒刀と金次の横をバイクが通り過ぎた。

ひったくりだ。

しかもただのバイクではなくアンチグラビティバイクだ。

黒刀と金次は同時に反応した。

金次は『スパイダー』でビルの壁を走り、黒刀は地上からダッシュしてバイクに迫っている。

 

「へへへ、楽勝だぜ!」

 

犯人は笑っていたが次の瞬間、気がつくと手に持っていた盗品がなくなっていた。

 

「あれ?」

 

犯人が探していると、

 

「ここやで~!」

 

金次がいつの間にか盗品を取り返しており逆走していた。

 

「ちくしょ~!」

 

犯人が悔しがっていると、

 

「そこまでだ。」

 

前から声が聞こえた。

振り向くとそこには『サムライモード』の黒刀がいた。

 

「四季流剣術 弐の段 一閃!」

 

黒刀の居合斬りでバイクがバラバラに斬られた。

こうして犯人は捕まり事件は解決した。

 

 

 

 ホテルに戻ると大妖精が部屋で待ち構えていた。

 

「黒刀先輩、私は安静にして下さいと言ったはずです。それなのにこれはどういうことですか?」

 

大妖精が空間ウインドウを操作して見せてきたのは今朝の事件に関するネット記事だった。

 

「仕事の為、学校に戻った永琳先生の代わりとして私は皆さんの治療やケアを任されています。

まあ、今回は事情が事情ですので許します。

それでは包帯を取り替えますので診せて下さい。」

 

「ああ、分かったよ。」

 

黒刀は大妖精の真剣な姿勢に観念して頭と腹に巻いている包帯を外してもらう。

 

 

 

 2時間後。

黒刀達は東京デュエルアリーナ西会場に到着する。

 

「ん?霊夢…霊夢じゃないか!」

 

黒刀達がロビーに入ってくると声をかけてきたのは黒髪で整った髪型をした、優しそうで住職のような恰好をした男。名は知念。学年は2年生。

 

「知念…あなたどうしてここに…。」

 

霊夢は目を見開いて驚いていた。

 

「僕は王龍寺高校代表のメンバーなんだ。」

 

知念は霊術院で霊夢と同期だった男である。

 

「君と闘えるのを楽しみにしているよ。」

 

「ええ…こちらこそ。」

 

霊夢は戸惑いながら返す。

 

「それじゃ。」

 

そう言って知念は去った。

 

「知り合いか?」

 

黒刀が訊く。

 

「ええ…まあ。」

 

霊夢は霊術院時代の仲間に次々と会ってしまっていることに悩んでいた。

 

 

 

 西会場の観客席は昨日に比べて観客が少なかった。

おそらく別会場で行われている紅魔学園の試合の観戦に行っているのだろう。

 

「まあ、こっちの方がやりやすいか。」

 

黒刀はベンチに座ってつぶやく。

 

「あたいは多い方が最強であることを証明できるからいいけどね!」

 

チルノはそう言いながらフィールドに入る。

 

 

 

 王龍寺高校代表ベンチ。

 

「よっしゃ~!」

 

そう吠えて立ち上がったのは逆立った青髪の男、風間翼。学年は2年生。

 

「スピードやったらうちも負けへん!」

 

風間はフィールドに入る。

両者が向かい合う。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのは風間だった。

風間が駆け出しジグザグに動くと残像を生み出す程の速度で攪乱してきた。

 

「浪速の彗星っちゅうのはうちのことや!」

 

そんな風間に対し、チルノはフィールドの床に手を置いて凍らせる。

風間の動きがまるでアイススケート初心者みたいな動きになった。

 

「おっとっと!やばっ!止まらへんでこれ!」

 

スピードをつけ過ぎたせいか風間は壁に激突しそうになる。

風間はSDを起動して、ブレードを壁に突き刺して激突を逃れる。

 

「いや、ハナからそれ使えや。」

 

黒岩がツッコむ。

 

「おりゃ~!」

 

風間の背後からチルノが氷のハンマーを持って迫る。

 

「あれ?抜けへん!」

 

風間は壁に突き刺さったSDを抜こうとするが抜けない。

 

「そやっ!抜けた!」

 

風間が喜ぶのも束の間、氷のハンマーはすぐそこだった。

直撃するかと思いきや風間は上体を反らして躱す。

 

「おっとっと…よし…ようやくコツ掴んできたで!」

 

「フロストキング!」

 

チルノは詠唱して、4体の氷の狼の使い魔を召喚すると風間を襲わせる。

風間は身軽な動きで躱しながら使い魔を斬っていく。

 

「ほんならこの氷の床にも慣れてきたところで…いくで!」

 

次の瞬間、風間はチルノを斬り抜いていた。

 

「ぐっ!いつの間に!ソードフリーザー!」

 

チルノは氷の剣を造形して応戦しようとする。

 

「だから言うたやろ…浪速の彗星やて。」

 

風間はチルノの氷の剣を躱して斬る。

切り返してもう一度攻撃しようとしたその時、

 

「あ~もう…うざったい!霊力解放!」

 

チルノは解放した霊力を氷の翼に込めると加速した。

次の瞬間、風間は斬られていた。

 

「そんな…全く見えへん!」

 

チルノは左足で床を思いっきり踏み込むと床の氷がバラバラに砕ける。

 

「アイスニードル!」

 

大量の氷の棘が風間を襲う。

 

「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

風間は床に倒れ伏した。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 チルノ》

 

勝利を知らせる機械音声を聞いたチルノは笑顔でVサインを見せた。

 

 

 

 

「も~光がもたもたしれるからギリギリじゃない!」

 

「仕方ねえだろ!限定クレープ食べてたんだから!」

 

そう言い合いながら観客席に入ってきたのは七瀬愛美と五位堂光だった。

 

「愛美が急に試合を見たいっていうから。」

 

「だって次は魔理沙の試合なのよ。私、あの子の闘い方好きなのよね。」

 

 

 

 

 そしてもう一組、観客席に入ってきたグループがいた。

観客の1人が目を見開いて驚いた。

「おい、なんであいつらがこんなところに…準決勝は同時スタートでまだ10分しか経っていないっていうのに…なんで…紅魔学園の代表がここにいるんだよ。」

 

「ちょっと時間かかったみたいですね。」

 

「一番時間かかってたのは早苗、お前だけどな。」

 

「そんなことないですよ~!」

 

「私は3分で終わらせた。」

 

「私は1秒です。」

 

天子と咲夜がそれぞれ試合にかかった時間を口にする。

 

「で、私は6分…ってほんとだ~!私ビリじゃないですか!」

 

「だからさっきもそう言っているだろう。ほら次鋒戦、始まるぞ。」

 

 

 

 

「よし!」

 

魔理沙は気合を入れてフィールドに入る。

 

「あ、出てきた!」

 

愛美が嬉しそうな顔をする。

 

「愛美が気に入ってるのは分かったよ。でもあいつ、いまだに本選で1勝もしていないんだよ。そんな奴に何でそんな期待しているんだ?」

 

「ん~女の勘♡」

 

愛美は笑顔でそう口にした。

 

 

 

 王龍寺高校代表ベンチから出てきたのは抽選会にもいたあの大男だった。

男は魔理沙の前に立つ。

 

「わしは3年の岩徹剛や。よろしゅう。」

 

「霧雨魔理沙だ。」

 

魔理沙はそう返しながらも相手のデカさに圧倒されていた。

 

「お前さんはパワーが自慢やと聞いとったが…ほんまか?」

 

「あ…ああ!パワーではだれにも負けないぜ!」

 

「そうか…せやけど、わしと闘ってその言葉をもう一度ゆえると思わへん方がええで。後悔せんようにな。」

 

「なんだと!だったら見せてやるよ!私のパワーが日本一だってことをな!」

 

「…日本一か。大きく出たな…後悔しても知らんで。」

 

「後悔なんかするもんか!」

 

魔理沙はミニ八卦炉を構える。

岩徹は仁王立ちで腕組みをしたままだ。

 

「なめやがって!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

魔理沙は箒に跨って飛行する。

岩徹は腕組みをして仁王立ちのままだ。

魔理沙は岩徹の背後に回り込む。

 

「マスタースパーク!」

 

だが、魔理沙の放った光線は岩徹んぽ背後に出現した岩の壁によって防がれる。

 

「無駄じゃ。わしを倒すには正面からだけや。」

 

魔理沙は舌打ちして岩徹の真上に移動する。

 

「分からん奴やな~。」

 

岩徹は右手に気力を集束させていく。

やがてそれは1つの光の球体となる。

岩徹は右手を魔理沙に向ける。

 

「一式…波動砲!」

 

岩徹の右手から光の球体は光線となって放たれる。

魔理沙は危険を感じて横にスライドするが光線が箒に当たり、その衝撃で魔理沙は墜落する。

落ちる時にかろうじて受け身を取ってなんとか立ち上がる。

 

「これがパワーや。お前さん、自分のパワーは日本一ゆうたな。ならこの程度のパワー軽く超えてみい。ゆうておくが今のは全力やないで。」

 

「だったらぶつけ合うまでだ!」

 

魔理沙はミニ八卦炉に魔力を集束させる。

 

「マスタースパーク!」

 

「二式波動砲!」

 

2人の光線がぶつかり合う

しかし、数秒で『波動砲』が『マスタースパーク』を押し始める。

そして、押し切られ『波動砲』が魔理沙に直撃し魔理沙は壁に打ちつけられる。

 

「がはっ!」

 

魔理沙は倒れるがゆっくりと立ち上がる。

 

「なるほど。お前さんが負けず嫌いなのはよう分かった。せやけど、先にゆうておく。わしの『波動砲』は百式まである。」

 

「へえ…だから?」

 

「なんやて?」

 

「お前が百式だっていうなら私がそれより上のパワーを出せばいいだけの話だろ。」

 

「大口を叩くのは勝手やが、二式のパワーにすら勝てんお前さんがどうあがこうて勝てるわけあらへんやろう。」

 

「…それは…やってみなくちゃ…分からないだろ。」

 

魔理沙はミニ八卦炉に再度、魔力を集束させる。

 

「諦めの悪いやっちゃな~。ええで。お前さんがどこまで耐えられるか試したる。」

 

岩徹は右手に気力を集束させる。

 

「マスタースパーク!」

 

「三式波動砲!」

 

だが、またもや『マスタースパーク』が押し負け、魔理沙は吹っ飛び壁に打ちつけられる。

観客の中には、あいつじゃ無理だろ、神光のお荷物だしな、と言葉が出てくる。

魔理沙の耳にもその言葉は聞こえていた。

だが魔理沙はまた立ち上がった。

 

「マスタースパーク!」

 

「四式波動砲!」

 

今度も押し負け、壁ではなく結界の高さまで吹っ飛び打ちつけられる。

しかし、床に落ちた魔理沙はまた立ち上がる。

 

「魔理沙、あんた…。」

 

霊夢はつぶやく。

 

 

 

 試合開始から5分後。

 

「マスタースパーク!」

 

「十式波動砲!」

 

「がはっ!」

 

 

 

 試合開始から10分後。

 

「マスタースパーク!」

 

「二十式波動砲!」

 

「ぐはっ!」

 

「もうしまいか?」

 

「はあ…はあ…まだまだ!」

 

《タイムアップ。第1ラウンド終了》

 

「大妖精、仕事だ。」

 

「はい!」

 

黒刀は大妖精に指示して、大妖精はそれに応える。

ベンチに戻ってきた魔理沙に急いで治癒魔法をかける。

 

「皆に心配も迷惑っもかけるかもしれない。だけどお願いだ。この試合、最後までやらせてくれ。あいつにはどうしても勝たなくちゃいけないんだ。でなきゃ前に進めない。」

 

「…分かった。気のすむまでやれ。」

 

「黒刀…。」

 

「ただし本当に危ないと判断したら乱入してでも止める。いいな?」

 

「ああ、ありがとう!」

 

魔理沙は元気に応えて、フィールドに入る。

 

「(仲間って…いいもんだな。)」

 

 

 

 岩徹はインターバル中もベンチに戻っておらず腕組みして仁王立ちのままずっと待っていた。

 

 

 

 観客席。

 

「さあ、見せてみなさい。あなたの力を。」

 

愛美はわくわくした様子で見ていた。

 

 

 

 

「やはりまだ続けるようやな。」

 

岩徹は魔理沙にそう言った。

 

「当たり前だ!あんたの言う通り、私は負けず嫌いだからな!」

 

「よかろう!」

 

《3…2…1…0.第2ラウンドスタート》

 

「四十式波動砲!」

 

岩徹は第2ラウンド開始直後、『波動砲』を放った。

 

「くっ…マスタースパーク!」

 

岩徹の『波動砲』に魔理沙がワンテンポ遅れて『マスタースパーク』を放つ。

 

「(この技…威力もそうだが…大きさも増してきている。)」

 

そして、第1ラウンドの時と同じように吹っ飛ばされる。

魔理沙のデュエルジャケットも体も既にボロボロだった。

しかし、それでも魔理沙は立ち上がる。

 

「まだ…だ…マスタースパーク!」

 

「六十式波動砲!」

 

「ぐあっ!」

 

魔理沙は吹っ飛ばされ、結界の高さ10m地点のところに打ちつけられる。

そのまま床に落ちていく。

だがそれでもゆっくりと…ゆっくりとだが魔理沙は立ち上がる。

 

「マスター…スパーク!」

 

「ええ加減倒れろや!八十式波動砲!」

 

もはや魔理沙の『マスタースパーク』はぶつかり合うどころか『波動砲』に飲み込まれ勝負にならないレベルだった。

吹っ飛ばされ床に落ちた魔理沙は立ち上がることすら困難な状態だった。

 

《1…2…》

 

「(やばい…もう…全然、体が…動かない…。)」

 

《3…4…》

 

「さすがに限界じゃない?」

 

光がそう口にする。

 

「いえ。彼女は絶対に立ち上がる!」

 

《5…6…》

 

「(もう…マスパ…何回撃ったかな…新記録更新してんじゃねえの…でもこれで私のまk…)」

 

「いつまで寝てんのよ!」

 

その時、霊夢が魔理沙に喝を飛ばした。

 

「!」

 

魔理沙は目が覚める。

 

《7》

 

機械音声と同時に魔理沙は立ち上がった。

 

「なんやと!」

 

岩徹は驚いていた。

 

「(そうだ…まだ試合は終わっていない。負けてないのに諦めるなんて私らしくないぜ!)」

 

その時、魔理沙は自身の変化に気づく。

 

「なんだ…この感覚…心と力が沸き上がってくる感じ…そうか…今なら出来る気がする。」

 

魔理沙は構えを解いて自然体となる。

 

「いったい何をしようとしているんだ?」

 

「はああああ…魔力開放!」

 

魔理沙は両手を胸の前で交差するように構えてから押忍のポーズを取るように開いた。

光の柱に包まれ魔理沙の魔力が急上昇していく。

 

「やっと気づいたんだ。私の力は私だけのものじゃない。出会った皆と共に築いてきた絆で出来たものなんだってな!これが私の最強だ!ファイナルマスタースパーク!」

 

魔理沙はミニ八卦炉に右手だけではなく右手の甲に左手を重ねて両手で放った。

 

「これで最後じゃ!百式波動砲!」

 

岩徹も最大火力の『波動砲』を放った。

2人の全力砲撃が激しくぶつかり合う。

 

「私が日本一になるんじゃない!皆で日本一になるんだ!」

 

魔理沙の想いに応えるかのように光線の威力がさらに上昇していく。

 

「こ、これは…百二十…いや…二百式並の威力や!」

 

岩徹の『波動砲』が撃ち砕かれ、『ファイナルマスタースパーク』の光に飲み込まれる。

 

「見事!」

 

岩徹はその言葉を最後に前のめりに倒れる。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 霧雨魔理沙》

 

「はあ…はあ…うっ!」

 

魔理沙の体を後ろに傾いて倒れそうになると突然、後ろから誰かに支えられた。

 

「ナイスファイト。」

 

霊夢が魔理沙を支えながら労いの言葉をかけた。

 

「約束通り勝ったぜ。」

 

「見てたわ。立派だった。」

 

霊夢は魔理沙に肩を貸してベンチに連れて行く。

 

 

 

 

「ね?言った通りだったでしょ♪」

 

愛美がそう言って光にウインクする。

 

「本当に勝つとは…。」




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カウンター

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 王龍寺高校代表ベンチ

 

「まさか剛が負けるとは思わへんかったが…しゃあない。ほなうちが勝ちにいくとしようか…。」

 

黒岩がSDを展開すると長い槍と直径50㎝の盾が装備された。

 

 

 

 観客席には椛が座っていた。

 

 

「次は妖夢の番…しかし、相手が相手だけに厳しいかもしれないな。」

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「では行って参ります!」

 

妖夢は両手を胸の前でグッと握って気合いを入れた。

 

「頑張れよ妖夢!」

 

チルノが声援を送る。

 

「はい!」

 

妖夢は元気よく応えてフィールドに入る。

 

 

「黒岩俊介いいます~。よろしゅう。」

 

「魂魄妖夢です。よろしくお願いします。」

 

お互いに挨拶を交わす。

二本の剣を鞘から抜いて構える。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

妖夢はクロスステップで黒岩の背後に回り込み二本の剣を振り下ろした。

黒岩は体を反転させて大きな盾で妖夢の剣撃を弾いた。

 

「くっ!」

 

妖夢が僅かに体勢を崩した隙を逃さず、槍の鋭い突きが襲い掛かる。

妖夢は体を反らせ躱すと距離を取ろうとするが黒岩の追撃が迫る。

逃しはしないと言っているかのような槍の突きが襲いかかってくる。

妖夢は踏み込んで槍を躱す。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

妖夢は反撃するが黒岩は攻撃から防御に切り替えて盾で妖夢の剣技を弾いた。

 

 

 

 観客席。

椛は黒岩を見ていた。

 

「(黒岩俊介…去年、練習試合で闘ったことがあるがとにかく基本を極めたような闘い方をする男だった。彼がやっていることはたった3つ。攻撃・防御・カウンター。この3つがとにかく上手かった。私も勝てなかった。とくに防御してからのカウンターは驚異的だ。こっちの攻撃はことごとく防がれ一瞬でも気を抜けばカウンターと追撃で終わる。さあ、これをどう攻略する…妖夢。)」

 

 

 

 妖夢は槍の突きを必死に躱し続けていた。

 

「くっ!(『閃光斬撃波』ならいけるけど、そんな隙が全然見つからない!)」

 

黒岩の恐ろしいところは特別なことは何もしていないことだった。

剣技や魔法、霊術を使っているわけでもない。

ただ攻撃して、攻撃が来たら防御して、体勢を崩したところにカウンターをしているだけ。

だが…だからこそシンプル故に強い。

 

「つまりはシンプルイズベストってとこや!」

 

黒岩が連続で突きを放つ。

 

「っ!旋風剣!」

 

「させんで。」

 

黒岩は盾で突進攻撃してきた。

 

「ぐあっ!」

 

妖夢は強烈な衝撃を受けて吹っ飛ばされる。

黒岩は吹っ飛ばされた妖夢に追い打ちをかけにいく。

妖夢は跳ね起きて距離を取ろうとするが黒岩はその隙を逃さず槍で追撃する。

 

「(攻撃と防御の切り替えが速すぎる!このままじゃ徐々に体力を削られていく。

そうなったらあの槍を躱すこともできない。

どうすれば…カウンタータイプなら椛さんがいたけどあの人とは違ってこの人には堅い盾がある。

状況が全然違う。とにかくこっちは大技は使えない。もっと速く小回りの利く技を。)」

 

そう考えていると、とうとう回避どころではなく剣で防御に徹する状況に追い込まれた。

だが、そこで妖夢はあることに気づく。

 

「(あれ…なんか…相手の攻撃がゆっくりに見える。)」

 

無意識なのか妖夢は黒岩の突きを剣で受けると僅かにポイントをずらして回転斬りした。

 

「っ!」

 

黒岩は得体の知れない恐怖を感じて、攻撃を中断し最速で防御に移行した。

黒岩の体が後方に押される。

 

「(なんや…今のは…こいつ、うちの攻撃を見切ってカウンターしてきよった。いや…まぐれかもしれん。)」

 

「(今の…もう1回出来れば…。)」

 

妖夢は深呼吸して、重心を下げて構える。

 

「うち相手に受けに徹するとはおもろいやんけ!」

 

黒岩が盾を構えながら槍で突進攻撃を仕掛けてくる。

 

空観剣(くうかんけん) 六根清浄斬(ろっこんしょうじょうざん)!」

 

黒岩の槍が妖夢の剣に当たると、妖夢はそれを受け流して当て身技に瞬間的に移行した。

黒岩は防御することも出来ず胴に受けて倒れた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 魂魄妖夢》

 

「…やった…やった~!決勝進出だ~!」

 

魔理沙が叫んで妖夢の元に走って行く。

それを霊夢、チルノ、大妖精が追いかける。

黒刀はベンチから妖夢達ではなく観客席にいるレミリアを見る。

 

「優勝するのは俺達だ。」

 

「未来は変わらない。それを明日の試合で証明してあげるわ。…行くわよ。」

 

レミリアはフラン達に声をかけて去って行く。

咲夜は黙ってついていく。

 

「あ、お姉様。待って~。」

 

フランがレミリアを追いかける。

 

「チルノ…か。闘うのが楽しみになってきたね。」

 

天子はフィールドの方を見てから去って行く。

 

「ふふ、明日が待ち遠しいですね。センパイ♪」

 

最後に早苗が笑顔で去って行った。




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野生

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 妖夢達が準決勝突破の喜びに浸っていると、

 

「あれ…わいは?」

 

金次がポカーンとした顔をしていた。

 

「ごめんな。金ちゃん、負けてしもうた。だから試合はしまいや。」

 

ベンチに戻ってきた黒岩が謝る。

 

「そんな…嫌や!わいはヨキと闘う!」

 

金次はベンチを出て神光学園代表ベンチ側に走って行くとベンチの手前で止まる。

 

「なあヨキ、やろうや!頼む!3分!3分だけでええから!」

 

金次は拝んで黒刀に頼む。

 

「黒刀、明日の試合がありますし断っt」

 

「いいよ。」

 

映姫の制止を振り切って黒刀が了承した。

 

「ほんまか!」

 

金次は顔を上げて喜んだ。

 

「ああ、俺もお前と闘いたいと思っていた。」

 

黒刀はワクワクした表情で返した。

 

「ただし、試合じゃなく決闘で。あと俺は一応怪我人だからかなり技が使えないから全力で相手はしてやれない。それでもいいか?」

 

「ぜっんぜんええ!わいはヨキと闘えばそれで十分や!」

 

「じゃあやろう!」

 

黒刀はそう言ってフィールドに入る。

 

「黒刀、あなた何を…。」

 

「大丈夫だよ姫姉。解放もモードチェンジも『カオスブレイカー』も使わない。無理をするつもりはない。」

 

「…分かりました。ただし、怪我がひどくなるような事があれば中止して下さい。」

 

「分かった。」

 

映姫は渋々、納得した。

 

「どういうことですか?」

 

戻ってきた妖夢が訊きに来た。

 

「あいつと決闘することになった。悪いが皆はベンチにいてくれるか?」

 

黒刀はそう言って既にフィールドの中央に移動していた金次を指さした。

 

「代表選手と闘っていいんですか?」

 

大妖精が疑問を口にする。

 

「負けたチームの人となら問題ない。まあ、負けたのはたった今だが。いざとなったら…。」

 

「「「「「なったら?」」」」」

 

妖夢達が黒刀の次の言葉を待つ。

 

「『王』の権限で認めさせる。」

 

「「「(うわあ、独裁者みたいだ…。)」」」

 

霊夢、魔理沙、大妖精が一瞬、寒気を感じた。

 

「というわけで俺はとにかくあいつと闘いたいんだ。」

 

黒刀が視線を向けた先では屈伸運動をしている金次がいた。

 

「分かりました!先輩、頑張って下さい!」

 

「ああ。」

 

妖夢達はベンチに入っていく。

 

「待たせたな。それじゃ制限時間3分の決闘でいこうか?」

 

「ああ!」

 

金次は待ちに待った闘いにワクワクしていた。

黒刀は空間ウインドウを操作して決闘の制限時間を3分に設定して決闘申請ウインドウを金次に送信する。

金次はOKのボタンを押す。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「それじゃ久々にあのスタイルでいくか!こいよ!大門金次!」

 

「そんじゃいくで~!」

 

金次は双剣型SDを構えてジャンプすると斬りかかる。

黒刀が『八咫烏』を振ってそれを弾くと金次は大きくジャンプして高速でフィールドをまるでスーパーボールのように跳ねながら加速する。

その加速を活かして黒刀に双剣型SDで突進回転斬りすると、黒刀は軸足を固定して体だけを向けて『八咫烏』で弾く。

 

「あれは先輩が春に使っていたスタイル!」

 

妖夢は以前、黒刀が使っていたバトルスタイルを思い出す。

金次は弾かれた反動を利用してまた跳ね始める。

 

「(猿のようなジャンプ力、蜘蛛のような敏捷性、そして虎のような『野生』を持っている。)」

 

「すごい!ほんますごいでヨキ!わいはワクワクしてきたで!」

 

「俺もだ!」

 

「笑ってる…あんなに楽しそうに。」

 

妖夢が黒刀を見て口を開く。

 

「もしかしたらこれが本来の『剣舞祭』なのかもしれない。選手も観客も純粋に笑顔で楽しめる。」

 

にとりにそう言われて妖夢が観客席を見渡すと確かに観客が盛り上がっていた。

それに楽しそうに闘っている2人を見て純粋に観戦を楽しんでいた。

 

「すごい!まるで会場の人達が1つになっているみたい!」

 

それは妖夢も同じだった。

 

「見て大和、黒刀ったらあんなに楽しそうに闘っている。

あんな表情を見るのは何年振りかしら。」

 

観客席で観戦していた桜も笑顔で闘う黒刀に喜びを感じていた。

 

「ああ、まるでスウェーデンにいた頃のあいつのようだ。」

 

大和も微笑ましそうに黒刀を見ていた。

 

 

 

 黒刀が金次の突進を弾こうと『八咫烏』を振ると、金次は体をひねって床に逆立ちで手をつくと手を押して反動で黒刀の背後に着地し回転斬りするが、黒刀はニヤリと笑うと『超反射』で下段斬りで金次に斬りかかると、金次は剣で受けて吹っ飛ばされる。

金次は体を丸めて回転してバッとモモンガのように両手を広げる。

 

「こうなったらわいも全力見せたるわ!いくでヨキ!」

 

「ああ、こい!」

 

金次は空中で双剣型SDを上段に構えるとその場で体ごと縦回転し始める。

そのまま降下攻撃してきた。

 

「通天閣大車輪落としぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

「まずいで!あの技はわしの百式波動砲のパワーを超えている!」

 

「先輩!」

 

妖夢は心配して叫ぶ。

だが黒刀はニヤリと笑みを浮かべ『八咫烏』を振り上げ金次の『通天閣大車輪落とし』と激突した。

ぶつかり合ったところから火花が散る。

しかし、お互い弾き合ってしまう。

そして…

 

《タイムアップ。ドロー》

 

「あれ?もうしまい?」

 

「そのようだな。」

 

黒刀はそう言って『八咫烏』を鞘に納める。

 

「でもめっちゃ楽しかったわ!おおきに!ほな個人戦で闘えるの楽しみにしてるわ!」

 

金次は笑顔でベンチに戻って行った。

黒刀もベンチに戻って帰ろうとする。

 

「お前らも大変だな。さっきの奴、あれで1年だっていうんだからな。」

 

「マジかよ!」

 

魔理沙が驚く。

 

「手負いだったとはいえ黒刀先輩とほぼ互角に闘っていたわ。」

 

霊夢は顎に手を当てて感心していた。

 

「世界の広さを感じました。」

 

大妖精も強敵がまだまだいることにため息を吐いた。

その時、にとりが手をパンパンと叩く。

 

「はいはい。来年のことより今は明日の決勝戦の事について考えるのが先だな。」

 

「比那名居天子…倒す!」

 

チルノは拳を握りしめる。

 

「フッ、あの巫女…絶対叩き潰す!」

 

霊夢は嫉妬の炎で燃えていた。

 

「さあ、明日は決戦の日だ!」

 

 

 

 

 ついに神光学園対紅魔学園の闘いが始まる。




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師匠

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 8月5日 午後9時。

黒刀はホテルの部屋で1人チェスをしている。

同じ時間にレミリアもホテルの薄暗い部屋で1人チェスをしていた。

驚く事に2人共、相手側の動かす駒が全く同じだった。

まるで2人が1つの場所でチェスをしているかのように。

そして…

 

 

 

「チェックメイト。」

 

レミリアが宣言する。

 

「やはり…今のままじゃ勝てないか。」

 

黒刀は空間ウインドウを操作して、ある試合の記録映像を見る。

 

「十六夜咲夜。ここまでの全試合を1秒で勝利している。

この人を抑えれば0%の勝率を1%に上げることが出来る。」

 

黒刀は咲夜のたった1秒の記録映像をループ再生して、ところどころで一時停止したり、コンマ送りにしたりしていた。

その時の黒刀は集中力は凄まじいもので、試合の記録映像を瞬きせずに見ていた。

 

 

 

 8月6日 午前10時 羽田空港。

空港前で停まっているタクシーに1人の女性が乗車してきた。

 

「すみません。このホテルまで行ってもらえないでしょうか?」

 

女性が地図が書かれたメモを運転手に見える。

 

「(今時メモ書き…アナログな人だな。)」

 

運転手がアクセルを踏む。

 

「海外から来たんですか?」

 

「ええ、元々は日本人なのですけど長いこと海外で暮らしていたもので。でもこの国に2人の弟子がいるので久しぶりに会ってみようかと。」

 

「へえ、どんなお弟子さんで?」

 

「この子達です。」

 

女性が写真を出す。

運転手がバックミラー越しに写真を見る。

 

「へえ、可愛らしいお弟子さん達ですね。(あれ?この子達どこかで見たような。)」

 

「元気にしているかな…黒ちゃんと姫ちゃん。」

 

女性はそうつぶやいて窓の外の景色を眺めた。

 

 

 

 神光学園代表宿泊ホテル 正午。

黒刀は部屋のキッチンを使ってサンドイッチを作ると妖夢達を呼んで昼食を食べる。

 

「決勝は午後6時から始まる。それまで自由時間として…。」

 

黒刀が話し始めたその時、部屋にノックがかかる。

 

「俺が出るよ。」

 

黒刀はドアを開けるがドアの外には誰もいなかった。

 

「悪戯はその辺にして下さい…師匠。」

 

「おや、よく気がついたね。」

 

その人物はいつの間にか黒刀の背後に立っていた。

 

「え、いつの間に。」

 

妖夢が立ち上がって驚く。

 

「『抜き足』を使ったんですね。」

 

映姫が冷静に口にする。

 

「まあね。」

 

「先輩、その方は?」

 

「ああ、俺と姫姉の師匠…豊聡耳神子さんだ。」

 

豊聡耳神子。

獣耳のような2つに尖った薄い茶色の髪に和の文字が入った耳当てをしている。

薄紫色のノースリーブ、紫色のスカート、腰には太陽を象った剣を携えている。

 

「師匠ってことは黒刀先輩と会長に剣術を教えたのって…」

 

大妖精が神子から黒刀に視線を移す。

 

「ああ、この人だ。」

 

黒刀が答える。

 

「よろしく。」

 

「ちょうど昼食を食べていたので一緒に食べましょう。」

 

「ああ、腹ペコだ。」

 

神子はホテルの床に正座してサンドイッチを頬張っていた。

 

「いつ、日本に?」

 

黒刀が神子に問う。

 

「今日だよ。」

 

「先に連絡しれくれればもっとマシな料理作れたんですけどね。」

 

「サプライズと思ったのだけれどそんなに驚いたように見えないね。」

 

「それはまあ、師匠のことですから。」

 

「あの…先輩の師匠は海外におられたのですか?」

 

妖夢が黒刀と神子の会話に介入する。

 

「神子で構わないよ。え~と…」

 

「魂魄妖夢です!神子さん!」

 

「呼び捨てでも構わないのだがまあいいだろう。私は世界中を旅していてね。つまりは…」

 

「「暇人です。」」

 

黒刀と映姫が同時に言った。

 

「ひどいな~。しかも息ピッタリだし。」

 

「だってあてもなくフラフラしているんでしょ?」

 

黒刀が神子にジト目を向ける。

 

「まあ、そうだね。」

 

神子がバツの悪い顔をする。

 

「暇人じゃないですか。」

 

映姫がバッサリと言葉で斬る。

 

「はあ、もうそれでいい。全く2人とも昔はもう少し可愛げがあったのだけれどね。」

 

「先輩の子供時代!どんな子だったんですか?」

 

妖夢が目をキラキラさせて身を乗り出して神子に訊く。

 

「そうだね…私が黒ちゃんと姫ちゃんに会ったのはこの子達がまだ7歳の頃だったかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10年前 スウェーデン。

当時、四季家はスウェーデンのとある丘の上にある花畑に囲まれた自然豊かなごく普通の一軒家で暮らしていた。

黒刀と映姫は森の中へ山菜を採りに行くためカゴを背負って森の中に入って行った。

だがこの日、2人の運命を大きく変える出来事が起きる。

 

黒刀(当時7歳)が山菜を採ってカゴの中に放り込む。

 

「?…姫姉、今何か音しなかった?」

 

「何も聞こえないけど。」

 

映姫(当時8歳)はそう返す。

 

「曇ってきたし帰ろう。」

 

「そうですね。山菜もこれだけ採れれば十分ですしね。」

 

その時、茂みの方からガサガサと音がした。

 

「何?」

 

映姫がそちらに向くと、茂みから勢いよく現れたのは大きな熊だった。

 

「グオオォォォォォォォォ!」

 

熊は猛々しく吠えた。

実は数日前に街の動物園の熊が脱走していたのだ。

黒刀達はその熊に不幸にも遭遇してしまった。

当時の2人は戦う術を知らなかった。

 

「ウゥゥッ…。」

 

熊は唸り声を上げながら映姫に近づいていく。

 

「姫姉!」

 

黒刀は叫び、両手を広げて熊の前に立ち塞がる。

 

「ガァァッ!」

 

熊は左前足の甲で黒刀を薙ぎ払って吹っ飛ばす。

吹っ飛ばされた黒刀は木の幹に後頭部を直撃しうつ伏せに倒れる。

 

「黒刀!」

 

熊は今にも襲いかかろうと映姫に近づいていく。

 

「やめろ…その人は大事な人なんだ。」

 

黒刀は倒れながらも左手を伸ばす。

映姫は恐怖しながらも黒刀の元へ走ろうとした時、熊が飛び掛かってきた。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

黒刀が喉の奥から叫んだその時。

熊の頭上から誰かが現れ、剣を振り下ろし熊の右目を斬った。

 

「グオオオオ!」

 

熊は悲鳴を上げて走り去って行った。

 

「ふう…君達、大丈夫…ではないようだね。とにかくそっちの男の子は。」

 

黒刀は先程、後頭部を直撃したせいで頭から血を流していた。

黒刀は薄れゆく意識の中で必死にその人物の顔を見ようとしたが気を失う寸前で見えたのは顔ではなく…剣だった。

 

「俺が…守るんだ…。」

 

「早く手当てしないと。」

 

「それならうちに。お母様は治癒魔法を使えます。」

 

「分かった。」

 

その人物は黒刀を抱き上げて黒刀の家に向かう。

 

 

 

 桜が夕食の下準備をしていると玄関のドアが勢いよく開く。

 

「お母様!黒刀が…。」

 

「どうしたの映姫…黒刀!その傷は…。」

 

「早く手当てを!」

 

「分かったわ。部屋へ運びましょう。あなたがここまで運んでくれたのですね?」

 

「はい。それよりこの子。部屋はどこですか?私が運びます。」

 

「こっちです。」

 

桜が部屋に案内する。

それから長い治療が続いた。

 

 

 

 3日後。

黒刀は自室でゆっくり目を覚ました。

 

「俺は…。」

 

周囲を見渡していると傍で映姫が眠りながら黒刀の手を握っていた。

 

「姫姉…そうか…俺はたしか熊にやられて…それから…」

 

黒刀は今の自分の状態を見ると頭と肩に包帯が巻かれていた。

 

「そうだ…さっきの人に会わないと…。」

 

黒刀は自分の手を握っている映姫の手をそっと離してベッドから立ち上がるとリビングの方から話し声が聞こえた。

その中には知らない人の声もあった。

黒刀はドアを開けてリビングに顔を出す。

そこにいたのは桜、大和と1人の女剣士だった。

 

「黒刀!やっと目を覚ました…。」

 

桜が黒刀に抱きつく。

 

「母さん…ちょっと痛い。」

 

「あ、ごめんね…でもまだ動いちゃダメよ。3日も目を覚まさなかったんだから。」

 

「黒刀、すまなかった。お前が大変な時に傍にいてやれなくて。」

 

大和が黒刀に近寄り謝罪する。

 

「…父さんは何も悪くないよ。それよりそっちの人は?」

 

「あなたを助けてくれた恩人よ。」

 

桜が優しい口調で言った。

女剣士は黒刀に近寄って膝を曲げて黒刀の視線を高さに合わせる。

 

「初めまして。私の名は豊聡耳神子。君が四季黒刀君だね?」

 

「はい…あのお願いがあります…俺を鍛えて下さい!強くなりたいんです!」

 

「………君は何の為に強くなりたい?」

 

神子は少し考えた後、そう問いかけた。

 

「守りたいものを守るため。」

 

黒刀は真剣な眼差しで神子の目を見る。

 

「どうして私に?」

 

「あなたのように強くなりたいから。」

 

「…私はそんな立派な人間じゃないよ。あと私に言う前に話すべき人がいるんじゃないかな?」

 

「話すべき人…。」

 

その時、黒刀は背後から映姫に抱きつかれた。

 

「黒刀!やっと目を覚ました!ほんと心配したんだからね!」

 

映姫は涙を流していた。

 

「姫姉…ごめん。心配かけて…。」

 

「ううん…いいの。黒刀が無事ならそれでいい…。」

 

映姫は指で涙を拭う。

 

「………神子さん、さっきの話…。」

 

「うん。そうだね…桜さん、大和さん。もし良かったら私をここに泊めてもらえないだろうか。宿探しに困っていてね。」

 

「ええ。それは構いませんが…まさかこの子に闘い方を?」

 

「自分や誰かを守るだけの力を与えてあげたいですから。」

 

「なら…私も強くなりたい!」

 

映姫がそう言い放った。

 

「姫姉…。」

 

そうつぶやく黒刀を映姫は見つめる。

 

「黒刀が私を守るなら私は黒刀を守る。2人なら無敵だよ!」

 

そんな映姫を黒刀は見つめ返す。

 

「うん…そうだね。」

 

黒刀は優しい目でそう応えた。

そんな2人を神子は微笑ましそうに見ていた。

 

「強い絆を持った姉弟ですね。」

 

「ええ、いつ見ても微笑ましいです。」

 

神子の言葉に桜が同意する。

神子は黒刀と映姫に近づく。

 

「分かった。君も一緒に鍛えてあげよう。」

 

「よろしくお願いします!」

 

「ただし、始めるのは黒刀君の怪我が完治してからだ。いいね?」

 

「「はい!」」

 

「よい返事です。」

 

「もう遅いから寝なさい。」

 

「「うん。」」

 

桜の言葉に2人は素直に従って部屋に戻っていく。

2人が部屋に戻ったことを確認した神子。

 

「大和さん、桜さん。あなたたちは世界的に実力のある御方だと聞いています。

その気になれば彼らに技術を教えることもできたのでは?」

 

神子の問いに大和が答える。

 

「私達からあの子達に技術を教えることは出来ない。

何故なら技術を教えればいずれはこちら側の世界に引き込むことになります。

私は進んで我が子を戦地に送りたくはない。

しかし、あの子達が自分の意思で力を欲した場合は教えるつもりでした。

だが今日までそんなことは言ってきませんでした。

その結果、黒刀があんな怪我を負ってしまったことは本当に後悔しています。」

 

「そうですね。神子さん。改めてお願いします。あの子達に守る力を教えてあげてください。」

 

桜が神子に頭を下げる。

 

「…頭を上げて下さい。桜さん。」

 

神子にそう言われて桜が頭を上げる。

 

「承りました。」

 

神子はそう口にした。

 

「「ありがとうございます。」」

 

「あの子達は幸せですね。こんなに優しい親に育てられて。」

 

 

 

 数日後。

黒刀の怪我が完治して修行が開始される。

 

「まずこれからは君達を黒ちゃんと姫ちゃんと呼ぼうと思う。」

 

「なんか女の子みたいでやだ。」

 

「ただの愛称だ。そこまで気にすることはない。それに君はどっちかっていうと女顔だ。」

 

「女の子の服とか着せたら似合いそう。」

 

映姫が笑顔で言った。

 

「やだよ。そんなの。」

 

黒刀が嫌そうな顔をする。

 

「じゃあ黒ちゃんと呼ばせてくれなければ修行はなし。どうかな?」

 

「…分かった。修行やる。」

 

「よろしい。ではこれを持って。」

 

神子は2人に竹刀を投げ渡す。

 

「まずは素振り1万回。」

 

「「1万回⁉」」

 

「ほら、早くしないと日が暮れちゃうよ♪」

 

神子は笑顔で言った。

黒刀と映姫は慌てて素振りを始める。

 

「(1秒に1回振ったとしたらかかる時間は2.7時間。もっと速く振らないと。)」

 

その時、黒刀は気づく。

同時に始めたはずの映姫が自分より多く振っていたことに。

 

「(へえ、もう掴み始めたのか。)」

 

「(負けない!)」

 

黒刀は追いつこうとするが映姫はその先をいく。

黒刀は素振りを終えたのは映姫の5分後だった。

 

「(思ったより早かった。特に姫ちゃんはたった数分でコツを掴み始めた。この子は間違いなく天才だ。黒ちゃんも並の子供に比べれば上達は早い方だ。だが目の前でこの差を思い知るとショックだろう。)」

 

「はあ…はあ…師匠…まだ時間ありますけど…まだ何かないんですか?」

 

「(この子!)…あるよ。ちょっと遠出になるけどいいかな。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 神子は黒刀達は隣町の草原地帯に連れて行った。

そこには木はなく草と岩が1つあるだけだった。

 

「ここの気流は特殊でね。あの岩の向こうは無風なんだけどそこにいくまではこちら側に突風が吹いてくる。黒ちゃんと姫ちゃんにはあの岩にタッチして向こう側に行ってもらう。2人ともちょっとこっちに…。」

 

神子に言われて2人が近づくと額にコツンと軽く指でつつかれる。

 

「「師匠!なにを…。」」

 

2人が言葉を続ける前に気づく。神子の体から無色の蒸気のようなものが流れていることに。

 

「師匠…これは?」

 

映姫が問う。

 

「それはオーラ。誰もが持つもの。そして、無限の可能性を秘めた力だ。」

 

「無限の…可能性。」

 

黒刀は自身のオーラを見てつぶやく。

 

「まあ、細かい説明は置いといて、このオーラを使ってさっきも言ったようにあの岩の向こうに行ってもらう。」

 

「でも師匠、ここはまだ風が弱いですけどこれ以上近づいたら飛ばされます。」

 

映姫がそう指摘する。

 

「まあ、見てて。」

 

神子はそう言って走り出すと突風が吹く中で不規則に曲がって風の抵抗を全く受けず岩にタッチして向こう側にたどり着いた。

 

「風は一定じゃない!弱いところもあれば強いところもある!それを見極めるんだ!大丈夫!オーラの使い方は君達は自ずと分かることだ!」

 

「「(師匠…何か必死に伝えようとしてるのは分かりますが風が強くて全然聞こえません。)」」

 

2人は深呼吸してから集中すると一気に駆け出した。

だが進んで行くと突風が吹き2人の体は後方に吹っ飛ばされる。

 

「「うあああ!」」

 

スタート地点まで吹っ飛ばされた2人は策を考える。

 

「(とりあえず…師匠がやった動きと同じように。)」

 

考えた後、駆け出した映姫は風の隙間をかいくぐるように進んで行く。

 

「(俺は姫姉のようにはできない。だから俺は俺のやり方でやる!)」

 

黒刀は駆け出し、全く曲がらず直進する。

 

「(そんなことしても吹っ飛ばされるだけ…!)」

 

神子は黒刀の目を見た瞬間、何かを予感する。

 

「(何かしてくる!)」

 

「(この風…邪魔だ!)」

 

黒刀は全身に纏っているオーラで風の抵抗を受けながらもスピードを落とすことなく直進する。

 

「(まさか黒ちゃんのオーラがこれほどのものとは驚いた。)」

 

「うおおおお!」

 

黒刀が吠えて岩にタッチしたその瞬間。黒刀より一歩早く映姫が岩にタッチしてきた。

 

「(かなりの回り道をしたはずなのにスピードとオーラのコントロールで黒ちゃんを上回った。

ほんと子供とは思えない。これは育てがいがある。)」

 

「はあ…はあ…。」

 

黒刀は膝に手をつき肩で息をする。

 

「とりあえずこの岩のタッチの修行を1日1回やること。素振りを毎日1万回。あと1週間毎に2人で模擬戦をやって実力を確認する。基本的にはこの3つだけ。少ないけど確実に強くなれるよ。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 6日後。

黒刀と映姫は竹刀を持って模擬戦を行っていた。

映姫はスピードで黒刀を翻弄する。

 

「(ここだ!)」

 

黒刀の竹刀が映姫の竹刀とぶつかりそうになった時、映姫は竹刀をピタッと止めて黒刀の竹刀を避けて下段斬りで黒刀の竹刀を弾き飛ばした。

 

「そこまで!」

 

神子が模擬戦を止める。

黒刀は弾き飛ばされた竹刀を拾いに行く。

そんな黒刀を見た神子は、

 

「(努力家にとって最も悔しいことは怠ける天才に負けることじゃない。努力する天才に負けることだ。努力一筋で生きた人間が努力で負けること。それは自分に唯一あったものが奪われていく感覚。これ以上は黒ちゃんの精神にも響いてくる。そろそろ…)」

 

その時。

 

「…へへ…やっぱ姫姉はすげえや。」

 

黒刀はワクワクした笑顔で言った。

神子はそんな黒刀に驚いた。

 

「(あれだけやられてまだ…黒ちゃんの精神力は私の予想を遥かに超えている。)」

 

「よし!あと10本はやるぞ!」

 

 

 

 

 

 それから5年後。

黒刀、映姫、大和は日本へ。桜はスウェーデンに残り、神子はまた旅に出た。

 

 

 

 

 

 現在。

 

「ということがあったわけだ。」

 

神子が思い出話を語り終えた。

 

「凄い!凄すぎます!」

 

妖夢がキラキラした目で言った。

 

「あの時の2人は本当に可愛かったよ。食べる時や寝る時の動き、あとボーっとしてる時の表情まで一緒だったからね。」

 

神子は懐かしむように話した。

 

 

 

 昼食を食べ終えた頃。

 

「あの…神子さん、お願いがあります!」

 

妖夢が口を開いた。

 

「なんだい?」

 

「私と…お手合わせしてもらえませんか?」

 

妖夢がそう言った瞬間、黒刀と映姫が固まった。

 

「妖夢…それ本気で言っているのか?」

 

「はい!」

 

「そうか…まあ、お前がやる気ならそれでいいんだが…正直に言うと師匠と闘うのはあまりおすすめできない。」

 

「?」

 

妖夢が可愛らしく首を傾げる。

 

「黒刀、本人がやりたいと言っているのですから止めてはいけませんよ。」

 

映姫が横から口を出す。

 

「ああ、分かった。」

 

「いいよ。受けよう。」

 

神子が妖夢の懇願を受けて立ち上がる。

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 妖夢達はホテルの庭まで移動した。

そこで妖夢は気づく。

 

「あの…端末をお持ちでないんですか?」

 

「あ~すまない。機械類は苦手でね。」

 

神子は頭をかく。

 

「(相変わらずのアナログか。)」

 

黒刀と映姫は心の中で思った。

 

「良かったら未設定の端末を差し上げますけど…。」

 

にとりが端末を取り出した。

 

「いいのかい?」

 

「はい。あ、軽く設定しますので少々お待ちください。」

 

「すまないね。」

 

にとりは十数秒で設定を済ませた。

 

「出来ました。どうぞ。妖夢が申請ウインドウを送信してくるのでそれにOKのボタンを押せば決闘できます。」

 

「ありがとうございます。」

 

 妖夢が空間ウインドウを操作して神子に決闘の申請ウインドウを送信する。

神子はそれを見てOKのボタンを押す。

デュエルフィールドが展開され、妖夢がデュエルジャケットを装備した状態に変わる。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのは妖夢だった。

妖夢はクロスステップで神子の背後に回り込み剣を斜め上から振り下ろす。

神子はそれを袖から取り出した笏で止めた。

 

「止められた!」

 

「知っているかい?こういう普通の道具でもオーラを通すことである程度戦闘でも使えるのさ。

悪いが私が剣を抜くかどうかは君がそれに値するか見極めてからだ。」

 

妖夢はバックステップして距離を取る。

 

「(様子見している余裕はない。)」

 

妖夢は二刀流で構える。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

高速の突進攻撃に神子は笏でまず1本目の剣を止めた。

 

「(まだだ!もう1本ある!)」

 

だが、その剣は神子が抜いた剣によって止められた。

 

「やれやれ…随分と早くこの『七星剣』を抜かせてくれたものだよ。」

 

 

 

 決闘を見ていた黒刀が口を開く。

 

「師匠は四季流の創始者なんだ。」

 

「え、四季流って四季家が始めたから四季流じゃないの?」

 

魔理沙が当然の疑問を口にする。

 

「いや、俺も師匠の名前を入れるようにすすめたんだけど師匠は四季流の方がいいって。

剣速を重点においた流派。それを編み出した師匠は誰よりも四季流を使いこなしている。

それに支障には剣士にとってもっと恐ろしいものを持っている。」

 

「恐ろしいもの…あの剣のことですか?」

 

大妖精が神子が持っている剣を指し示す。

 

「まあ、見てれば分かる。」

 

それに対して黒刀は明確に応えなかった。

 

 

 

 

「『七星剣』を抜かせた褒美にいいものを見せてあげよう。」

 

神子はSDを取り出してブレードを出す。

 

「二刀流?」

 

一瞬、戸惑う妖夢に対し、神子は腰を低くして構える。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

「っ!」

 

妖夢は咄嗟に二本の剣で受けたが勢いに圧倒されバランスを崩す。

神子が追いうちをかける。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

神子の剣速は50だった。

妖夢は急所のみガードして他は受けながらもバックステップする。

 

「速い…いや、それよりもさっきの剣技は私の剣技…どうしてあなたがそれを…。」

 

「私は一度見た剣技を瞬時にコピーできる。と言っても型だけだが。」

 

「剣技を…コピー…それが神子さんのスキル。」

 

「いや、これはスキルではない。ただの技術だよ。長い経験の積み重ねによって到達できるものだ。」

 

「技術…。」

 

その凄さに妖夢は驚く。

 

「これがさっき言っていた恐ろしいものですか?」

 

霊夢が黒刀に訊く。

 

「ああ、瞬時にコピーできるってことは剣士が血反吐を吐いてまで会得した剣技も目の前で見せられることになる。」

 

「(一瞬、自分が目の前にいると錯覚してしまった。凄い完成度だ。)」

 

警戒する妖夢に対し、神子はSDのスイッチを切るとポケットにしまう。

 

「さて、君は私に剣技を見せてくれたんだ。私だけ隠すのはフェアじゃない。せっかく日本に帰ってきたんだ。土産に黒ちゃんも姫ちゃんも知らない新しい四季流の剣技を見せてあげよう。」

 

「「新しい四季流…。」」

 

黒刀と映姫は同時につぶやく。

 

「(『空観剣 六根清浄斬』で決める!)」

 

妖夢はカウンターの構えを取る。

神子は脇構えに構えを変える。

 

「四季流剣術 零の段…」

 

「「零の段⁉」」

 

黒刀と映姫が同時に驚く。

 

「無月。」

 

神子がそう口にした直後、妖夢の体が前のめりに倒れていく。

 

「(あれ…斬られた…何も見えなかった…何も…聞こえなかった…。)」

 

そのまま地面に倒れた。

神子はいつの間にか妖夢の前ではなく後ろに背を向けて立っていた。

 

「え、なに?何が起きたんだ?あの神子って人の姿が消えたと思ったら妖夢が倒れてその後ろにあの人が立っていたぞ!」

 

チルノが騒ぎ出す。

神子は七星剣を腰に納める。

 

「この剣技は相手に姿を見せず、音を消し斬る技。たとえ相手が構えていてもいつ来るか分からない。それはつまり相手の体感時間を奪い特定の音を聞こえないようにしていることと同じこと。まあ、簡単に言えば見ることも聞くこともできない剣技かな。」

 

 

 

 数分後。

妖夢がようやく目を覚ます。

 

「あれ…私…そうかたしか神子さんに…。」

 

「妖夢…いや妖夢ちゃんと呼ばせてもらっていいかな?」

 

「あ、はい。」

 

「君の剣技は実に美しいものだった。それに二刀流を見たのはこれで2人目だ。」

 

「1人目はたしか…君と同じ銀髪で首にマフラーを巻いた…ああ…雰囲気もなんとなく君に似ているね。」

 

神子の言葉を聞いた妖夢が目を見開いた。

 

「妖夢?」

 

黒刀が心配そうな目で見る。

 

「その人…私の兄さんです…。」

 

『え?』

 

妖夢の一言に一同が驚く。

 

「10年前に火事で両親が亡くなった同時期に兄さんが行方不明になりました。

私が剣士になった理由の1つには兄さんを探すことも含まれているんです。

少しでも強くなれば兄さんに近づけるんじゃないかって。」

 

「妖夢にそんな過去が…。」

 

霊夢が口を開く。

 

「お前…今までそんなこと一言も言ってなかったじゃねえか!」

 

魔理沙が声を荒げる。

 

「ごめんなさい…でもこれは私の問題だから。」

 

妖夢はうつむいてそう口にした。

 

「だからって…」

 

魔理沙が口を挟もうとしたその時、霊夢に肩を掴まれて首を横に振って制止させられる。

魔理沙はそれ以上、言えなかった。

 

「私の両親の死亡と兄さんの失踪の日は第3次世界大戦終戦の日…つまり9月6日でした。」

 

「なんだよそれ…偶然にしちゃ出来過ぎてるだろ!」

 

「あるいは運命…。」

 

チルノの言葉に黒刀はそう付け足す。

 

「そういえば先輩の誕生日も9月6日でした!」

 

「さすがにそれは偶然だと思いますよ。」

 

大妖精が苦笑する。

 

「ですよね。」

 

妖夢がそう返す。

 

「…妖夢ちゃん、君にいいことを教えてあげよう。四季流には『剣魂』と呼ぶ信念がある。意味は己の剣に誓った守りたい大切なもののことだ。これは己が何の為に闘っているかを忘れない為だ。」

 

「守りたい大切なもの…何の為に闘うか…。」

 

「すぐに答えを出す必要はない。時間をかけてじっくり考えればいい。黒ちゃん、君の『剣魂』は何だい?」

 

突然、神子が黒刀に問う。

 

「………2年前までの俺なら『家族』と答えていた。でも…それだけじゃダメだと思った。

俺が守りたいのは『大好きな人達』だ。自分でもはっきりしない答えだということは承知している。だけだ誰かを守って誰かの悲しむ顔を見るのはもう嫌なんだ。(そう…俺と早苗が分かれた()()()のように。)」

 

「…この5年で色々なことがあったようだね。」

 

「…部屋に戻る。」

 

黒刀はそう返してホテルの中に戻って行く。

それを見たにとりが呼び止めようとする。

 

「おい…はあ…しょうがない奴だな。そうだ!あいつから伝言を預かっていたんだ。」

 

「自分で言えばいいじゃないか。」

 

魔理沙が唇を尖らせる。

 

「黒刀は俺が言うと同意を得づらいからだって。で、黒刀からは…」

 

 

 

 午後5時30分。

東京デュエルアリーナ中央会場。

妖夢達が中央会場に到着した。

 

「今までの会場より大きいですね!」

 

妖夢が興奮したテンションで言った。

 

「中央会場というだけのことはあるだろ!」

 

にとりが何故か自慢げに言った。

 

「俺は去年、見たけどな。」

 

「そういう人の感動を奪うような発言をしない。」

 

映姫が黒刀を軽く叱る。

 

「それじゃとっととベンチに行こうぜ!」

 

魔理沙が走り出す。

 

「早く試合してえ!」

 

チルノもそれに続く。

 

「もうすぐだから。」

 

大妖精が呆れながらもついていく。

 

 

 

 ベンチに向かう途中で最後尾を歩いている黒刀と妖夢。

 

「妖夢、何で俺が団体戦に拘っているか知っているか?」

 

「へ?い、いいえ…。」

 

「去年、俺は個人戦で優勝した。でも団体戦で優勝した紅魔学園を見て知りたくなった。

信頼できる仲間と一緒に見る頂の景色はどうなっているんだろうって。」

 

「…先輩。」

 

「ん?」

 

「一緒に見ましょう。その頂の景色。」

 

「ああ。」

 

黒刀は優しく微笑んだ。

 

「…先輩、昼に私が剣士になった理由の1つは兄さんを探す為って言いましたよね。」

 

「ああ。」

 

「実は先輩の他にもう1人憧れている人がいるんです。その人が私の剣士になったもう1つの理由です。」

 

 

 

 

 

 5年前。

妖夢(当時11歳)は剣道場に通っていたが気弱で自分がどういう剣士になりたいのかイメージがなかった。

道場でも最弱でいつも同門の1つ年上の男子にいじめられていた。

 

 

 

 ある日。

公園で同門男子3人組に竹刀を取られてしまった。

 

「か…返して…。」

 

竹刀を持った3人組は妖夢をいじめる。

 

「弱い奴はうちの道場にいらない!」

 

「そうそう!弱虫はいなくなれ!」

 

妖夢の目から涙がこぼれる。

 

「うわ、泣いたよ!」

 

「泣き虫はもっといらないな!」

 

「泣き虫は道場から出て行け!」

 

その時だった。

 

「じゃあ、お前らが泣けば道場から出て行くんだな?」

 

誰かの声がした。

 

「誰だ!」

 

「出てこい!」

 

「はいはい。」

 

木の上から小学生の1人の少年が飛び降りてきて妖夢と3人組の間に着地する。

その少年は左手に竹刀を握っていた。

 

「何だよお前!」

 

「邪魔すんなよ!」

 

「お前には関係ないだろ!」

 

「そうはいかないな。俺にとって可愛い女の子は皆、守るべきものだからな。」

 

「はあ?ふざけたこと言ってんじゃねえよ!」

 

「なら力ずくでどかせてみろ。」

 

少年はそう返す。

 

「この!やっちまえ!」

 

「「「うおおお!」」」

 

「…おせえ。」

 

少年がそう口にした直後、3人組の手から竹刀が弾き飛ばされる。

3人組は呆気に取られて固まる。

少年はリーダー格の男子に向かって突きを放つ。

 

「ちょっと待て!分かった!俺達が悪かった!」

 

リーダー格の男子がそう言うと少年は首元で寸止めする。

 

「ならこの子に二度と手を出すな。そして、ここから去れ。」

 

「「「ひいぃぃぃぃぃぃ!」」」

 

3人組は泣きながら逃げていく。

妖夢は衝撃的な出来事の連続で尻餅をついていた。

 

「立てるか?」

 

少年は妖夢に振り向いて右手を差し伸べる。

夕日が少年を神々しく見せた。

妖夢がゆっくり差し伸ばされた手を握ると少年は妖夢を立ち上がらせる。

その時、妖夢は思った。

自分もこんな風に誰かを守れるようになりたいと…。

 

 

 

 現在。

 

「そうか…いつか会えるといいな。」

 

「はい!」

 

黒刀と妖夢は笑い合ってからすぐに気を引き締め直してベンチのドアを開ける。

 

 

 

 剣舞祭団体戦決勝戦開始まであと10分。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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炎の剣士

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



《ついにやって来ました!第10回剣舞祭団体戦決勝戦!》

 

《片や優勝候補、片や初出場校の試合となりますね》

 

《それではここで選手の紹介をしたいと思います!まずは紅魔学園から!》

 

文の実況と共にフィールドに展開されたモニターウインドウに紅魔学園の先鋒、比那名居天子の顔が映される。

 

《先鋒!3年生の比那名居天子選手!一昨年の個人戦チャンピオンです!ここまで圧倒的な実力で敵を薙ぎ倒してきました!》

 

《どれだけ強くなっているのか注目の選手ですね》

 

「絶対倒す!」

 

チルノが拳を握りしめる。

 

《続いて次鋒!東風谷早苗選手!1年生ながらも名門校の代表に選ばれています!》

 

《侮れない選手です》

 

《次に中堅!十六夜咲夜選手!ここまでの全試合を1秒で勝利しています!》

 

《今大会最速タイムを出しているのは彼女で間違いないでしょう》

 

《さらに学生でありながらメイドのお仕事もされています!》

 

《…それ言う必要あります?》

 

《いや、でも結構人気あるんですよ!主に男性からですが……さて、続いて副将!

フランドール・スカーレット選手!紅魔学園は今大会全試合ストレート勝ちしていますので実力はいまだに謎のまま!ですが東風谷早苗選手と同じ1年生にして代表に選ばれているので期待が高まります!》

 

《あの『未来王』レミリア・スカーレットの妹でもありますからね》

 

《その通り!そしてそのレミリア・スカーレット選手!今大会は先鋒ではなく大将です!昨年の先鋒戦では相手を完膚なきまでに潰すその姿は『王』の格を見せるものでした!》

 

《彼女に対抗するには未来予知をどうにかしなければなりませんからね》

 

《紅魔学園はここまで9連覇を果たしています!10連覇達成なるか?》

 

 

 

 紅魔学園の選手紹介をしている頃。

首里高校、白雪高校、鷹岡高校、仙台高校の代表選手はVIPルームにいた。

各校にナンバーズがいるためである。

光はソファに寄りかかってポテチを食べている。

 

「光ってばそんなに食べてると太るよ?」

 

真冬の言葉に対し光はこう返した。

 

「私、太らない体質だから。」

 

光はポテチを食べながら言った。

 

『羨ましい!』

 

光以外の女性陣が一斉に文句を言った。

 

「今日はデータがたくさん取れそうですね。」

 

雪村がフィールドを見下ろしながら言った。

 

「あの十六夜咲夜を倒せる人間なんていないわよ。私のスキルとは質が桁違いなんだから。」

 

輝夜が髪をかき上げながら言った。

 

「どうかな?黒刀が何も策を考えていないとは思えない。」

 

優がソファに腰かけながら偉そうに言った。

 

「あるわよ…きっと。」

 

花蓮は神光学園の勝利を信じていた。

 

 

 

 観客席の最前列には椛が座っていた。

 

「(黒刀…妖夢…私が越えられなかった壁をあなた達がどうするのか最後まで見てあげる。)」

 

 

 

 最後列の手すりの傍に空間魔法の魔法陣が展開される。

 

「間に合った~!」

 

そこから小町が現れる。

続いて紫、永琳、幽々子、阿求が現れる。

 

「じゃあ、あたいは一番前で応援してきます!」

 

小町が最前列の方へ走り出す。

 

「私はここで十分です。ただでさえ人が多いですから。」

 

阿求はその場にとどまる。

 

「私は前に行くわ。妖夢を応援したいし。」

 

幽々子も最前列へ移動する。

 

「私と永琳はここにいるわ。」

 

「ええ。ところで紫、黒刀達の勝率はどのくらい?」

 

「う~ん…正攻法でやったら0%。」

 

「「え?」」

 

阿求と永琳が声を上げる。

 

「慌てないで。正攻法だったらの話よ。考えてみなさい。あの黒刀よ?」

 

それを聞いた阿求が呆れ顔になる。

 

「あ~彼、勝つ為に手段を選びませんからね。」

 

「そういうこと♪」

 

紫はそう言ってウインクした。

 

 

 

 そして…

 

《さあ、続いては神光学園の選手紹介です!先鋒!チルノ選手!氷の妖精であり近距離から遠距離までの攻撃を持ち多様性に溢れた選手です!さらにここまで全試合全勝しています1まさに神光学園のとっては期待のホープ!》

 

《伸びしろもまだまだありそうな選手です》

 

《次に次鋒は…博麗霊夢選手!なんと神光学園、ここでオーダーを変えてきました!》

 

《全国でもたまにやる高校はいますがまさか決勝戦でするとは…》

 

「ふふ…驚いたか!」

 

黒刀が得意気な顔をする。

 

「これで良かったのか?」

 

「ああ。」

 

にとりの言葉に対し、黒刀はそう返した。

 

 

 

 時を遡って昼頃。

 

「黒刀はオーダーを変えようと考えている。」

 

「「「「「え~!」」」」」

 

黒刀の伝言を伝えたにとりに対して妖夢達は驚く。

 

「だって黒刀はオーダーを変えないって言ってたぜ!」

 

「原則的にはとも言っていただろう。」

 

「あ~確かにそんなことも言っていたわね。」

 

霊夢は黒刀の言葉を思い出してため息を吐く。

 

「で、皆はどうする?」

 

「「「「…もちろんOKです!」」」」

 

 

 

 現在。

 

《博麗霊夢選手は札と結界を用いた霊術で相手を翻弄するタイプの選手です!》

 

《神社の巫女とも聞いています!対戦相手の東風谷早苗選手も神社の巫女ですのでまさに巫女としてのプライドをかけた闘いとなるでしょう》

 

「バッチ来いです!」

 

早苗は手をクイクイとさせて挑発なポーズを取る。

 

「どうでもいいけど…そのポーズ、巫女っぽいか?」

 

天子は呆れ顔で言った。

 

「あの生意気巫女に天誅を下す時が来たようね!」

 

霊夢は腕まくりして気合いを入れる。

 

《続いて中堅は…なななんと!あの四季黒刀選手です!これはあまりにも予想外!》

 

文の実況に会場がどよめき始めた。

 

「「やっぱり仕掛けてきた。」」

 

紫と優が同時に口にする。

 

「黒刀が十六夜咲夜と…」

 

輝夜が黒刀の奇策に考え込む。

 

「面白くなってきたな。」

 

妹紅が輝夜の顔を覗き込みながら言った。

 

「さすが黒刀君ですね!」

 

「それよりモニターに映っているあいつの顔写真、何で高笑いしている魔王にみたいになっているんだ?」

 

仁が呆れた口調でモニターを見ていた。

 

 

 

「なんだあの顔!大会スタッフの悪意を感じるぞ!」

 

「「「いや、あんな感じだ。」」」

 

霊夢、魔理沙、にとりが声を揃える。

 

 

 

 観客席。

椛は黒刀の意図を読み取ろうとしていた。

 

「(おそらく会場のほとんどの人間は黒刀とレミリアの勝負から逃げたように見えるでしょうね。…でも黒刀、あなたは勝つ為に選んだ。そうよね?)」

 

それに対してレミリアは余裕の表情だった。

 

「未来は覆らない。これも既に見えていることよ。」

 

《え~と、あまりの衝撃に紹介が遅れましたが四季黒刀選手はナンバーズであり昨年の個人戦チャンピオンでありナンバーズであり『破壊王』でもあります!さらに彼には『千里眼』、『超反射』、『集中』、『破壊王の鎧』の4つのスキルを持っておりどれも強力なスキルです!》

 

《そして、最も恐ろしいのが彼の得意とする剣技『カオスブレイカー』。あの技は防御術式を破壊するというとんでもない特殊効果がついています。この技に何人やられてきたことかもう数えきれません》

 

《その四季黒刀選手が今大会全試合1秒で勝利している十六夜咲夜選手にどう闘うのか見ものです!さて、続いては副将!霧雨魔理沙選手!これは博麗霊夢選手と入れ替わった形となっている模様です!霧雨魔理沙選手の注目すべき点といえばやはりあの『マスタースパーク』!昨日の王龍寺高校の岩徹剛選手との試合ではこれぞパワーというような試合を魅せてくれました!》

 

《今回も見られるといいですね。あの魔法は実に綺麗ですから》

 

「あのお姉ちゃんが相手か…楽しみ♪」

 

フランがクスッと笑った。

 

《最後に大将!魂魄妖夢選手!神光学園、1年生に大将を任せるという大博打を打ってきました!》

 

《1回戦では敗北してしまいましたが2回戦からの活躍には目を見張るものがありますね。あの九条花蓮選手を倒した実力は果たしてレミリア・スカーレット選手に届くのか目を離せません》

 

《神奈子さん、それ私のセリフです~》

 

《あ~すみません》

 

《神光学園の代表メンバーは四季黒刀選手以外全員1年生です!》

 

《紅魔学園の10連覇か神光学園の初優勝か?》

 

《その答えは今日、明らかに!それでは先鋒戦を開始します!》

 

「それじゃ、あたい行ってくるよ!」

 

チルノがベンチから立ち上がる。

 

「チルノ。」

 

黒刀が呼び止める。

 

「何だ?」

 

チルノが振り向く。

 

「…暴れてこい!」

 

「おうよ!」

 

チルノは元気よくフィールドに入る。

 

「それじゃ、行ってくるよ。」

 

天子がベンチから立ち上がる。

 

「天子先輩、頑張って下さい~!」

 

早苗が手を振る。

天子はフィールドに入り、チルノの前に立つ。

 

「ようやく君と闘えるようだね。よく頑張った…が君はここで敗北する。」

 

そう言って自身の愛剣『緋想の剣』を抜いた。

 

「チャンピオンって皆そんな嫌味しか言えないの?あたいは勝つよ!何故ならあたいは最強だから!」

 

チルノはそう宣言して天子に対してビシッと指さす。

 

「ならば決着をつけるとしよう…今こそ!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのはチルノだった。

 

「ソードフリーザー!」

 

チルノは氷の剣を造形し、飛翔してから天子に向かって斬りかかる。

 

「はあああ!」

 

吠えるチルノ。

 

「見せてあげよう。1年間で私がどれだけ強くなったか…君の攻撃は私には届かない!」

 

氷の剣が天子を斬ると思ったその瞬間、天子の前に炎の壁が出現させる。

 

「くっ!」

 

チルノは押し込もうとするが予想外の熱量に弾かれてしまう。

 

「なんか似ているな…はっ!黒刀の『破壊王の鎧』!」

 

「正解だ。頭は回るようだね。去年、彼に負けてから作った技だ。」

 

「…ちょうどいいや!いつか黒刀の『破壊王の鎧』を攻略しようと思ってた。じゃあその練習台になってよ!」

 

チルノは笑みを浮かべて突っ込む。

 

「私を練習台とはいい度胸だ1年!」

 

天子を踏み込んでチルノとの距離を詰める。

チルノは氷の柱を造形した。

 

「防御のつもりか!」

 

『緋想の剣』に炎が宿る。

天子は『緋想の剣』を振って氷の柱を斬り壊す。

だが、その先にチルノの姿はなかった。

 

「どこにいった?」

 

天子は周囲を見て探す。

その時、頭上で風を切る音が聞こえた。

 

「上か!」

 

天子は顔を上空へ向ける。

チルノは上から急降下していた。

 

「何度やってもこの炎の壁は破れない!」

 

天子は炎の壁を展開する。

 

「はあ!」

 

チルノは氷の剣を振り下ろす。

チルノと炎の壁が激突するか思ったその瞬間、チルノの体が蒸発して消えた。

 

「水蒸気の残像⁉本物は?」

 

天子が振り返るとそこには氷のハンマーを持ったチルノが突っ込んできていた。

 

「これが『ドライジェット』…そして、これがあたいの想いを込めたグレートクラッシャーァァァ!」

 

チルノは氷のハンマーを天子に叩きつけた。

 

「ぐっ!」

 

天子が吹っ飛ばされる。

床に『緋想の剣』を突き刺して、なんとか踏ん張る。

 

「あいつ…既に霊力解放を…。」

 

天子はそうつぶやいて床に突き刺した『緋想の剣』を引き抜く。

 

「どうやら君を舐めすぎていたようだ。だが勝つのは私だ。その想いは誰にも負けない!魔力開放!」

 

天子の体を炎の柱が包み込む。

 

「もう3年生とか元チャンピオンとかそんなものはどうだっていい!今は…チルノ!君に勝つ!それだけだ!」

 

天子の気迫にチルノは少し気圧された。

 

「あたいも全てを出し切って勝つ!」

 

「こい!」

 

「いくぞ1アイスニードル!」

 

チルノは氷の棘を造形して放つ。

 

「もう君に炎の壁を使っても無駄なことは分かった。ならば剣士として斬り伏せる!」

 

天子は氷の棘を『緋想の剣』で斬り壊す。

さらに炎のリーチを伸ばしてチルノに向かって振り下ろす。

 

「アイスシールド!」

 

「薄い!」

 

天子はチルノが展開した氷の盾を一刀両断してそのままチルノを斬った。

 

「くっ!」

 

チルノはダメージの反動を利用して後ろに飛ぶと回転する。

 

「トルネードグレートクラッシャー!」

 

「私の火力はこんなものじゃないぞ!」

 

天子は『緋想の剣』を振って氷のハンマーと激突する。

 

「『緋想の剣』!私の想いに応えろ!」

 

天子が叫ぶとそれに呼応するかのように火力が強くなっていく。

 

「烈火!」

 

氷のハンマーにひびが入る。

氷のハンマーを粉砕してチルノを斬り上げた。

 

「まだ…いける!」

 

チルノは氷の翼を広げた。

 

「氷精一閃!」

 

チルノは一瞬で天子を斬り抜いた。

 

「くっ!」

 

天子が痛みに耐えながら振り返る。

 

「極大霊術…絶対零度!」

 

チルノが詠唱すると凄まじい冷気がフィールドを凍りつかせていく。

天子に向かってそれは迫っていた。

 

《出ました!チルノ選手の極大霊術!フィールド全体が凍りつく~!》

 

急な温度変化で霧が発生していた。

 

「やった!チルノちゃんの勝ちだ!」

 

大妖精が大喜びする中で黒刀は黙ってフィールドを見ていた。

 

「どうかしましたか黒刀先輩?」

 

「このまま勝たせてくれればいいがな…。」

 

黒刀はつぶやく。

 

「え?」

 

大妖精は疑問を抱いた後、すぐにハッとしてフィールドに視線を移した。

霧が晴れていくとまずチルノがいた。

だがその表情に気の緩みはなかった。

そのチルノの視線の先で霧が晴れていくとユラユラ光るものがあった。

霧が完全に晴れるとそこにいたのは全身に炎を纏った天子だった。

チルノは驚愕の表情を浮かべる。

天子の全身を覆う炎が消える。

 

「危なかったよ。全ての炎を一点に集束していなければ結果は違っていた。チルノ、君を強者と認め私の切り札を見せてやろう。」

 

天子が天に向かって右手を掲げると右手が赤く光った。

フィールドの床全体に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

それは光り出し徐々に輝きを増していく。

 

「っ!」

 

チルノは極大霊術を発動した反動に耐えながらチルノに向かって走り出した。

もう飛ぶ余力はない。

それでも前へ…

 

「極大魔法 天壌業火!」

 

天子が右手を魔法陣に叩きつけると魔法陣が最後の輝きを放って、フィールド全体から天に向かって巨大な火柱が立った。

この光景を見ているほとんどの人間が目を見開いた。

 

《こ、これは凄まじい火柱!これでは避けることはできません!チルノ選手は無事なのか~!》

 

「チルノちゃん!」

 

大妖精が悲痛の叫びを上げる。

 

 

 

 炎が徐々に消えていく。空から床へと。

天子は『緋想の剣』を床に突き刺して膝をつく。

 

「はあ…はあ…さすがに魔力は底をついたか…だがこれで………はっ!」

 

天子が目を見開いた。

その視線の先に立っていたのは紛れもなくチルノだった。

 

《チルノ選手!耐えた~!》

 

「バカな!氷属性のあいつがこの炎に耐えられるはずが…くっ!」

 

天子が立ち上がり床に突き刺した『緋想の剣』を引き抜くと棒立ちになっているチルノに向かって走り出した。

 

「はあああああああああ!………っ!」

 

天子は急ブレーキをかけた。

 

《おっとどうした~!天子選手!急に止まってしまったぞ~!》

 

「天子先輩!何しているんですか!早くとどめを!」

 

早苗が叫ぶ。

 

「チルノ…お前…。」

 

黒刀はチルノの後ろ姿を見つめていた。

 

「………この子…もう…気を失っている…。」

 

天子はそう口にした。

 

『え?』

 

その言葉にその場にいる全員が驚く。

 

《なんとチルノ選手!気を失いながらも膝をつくことなく立っている~!》

 

「チルノの勝利への執念だ。」

 

黒刀はそう口にした。

 

《勝者 比那名居天子》

 

チルノの試合続行不可能と判断された為、勝敗が決まった機械音声が会場に響いた。

天子は『緋想の剣』を納刀するとベンチに戻って行った。

大妖精はベンチから飛び出してチルノの元へ駆け出した。

 

「チルノちゃん!」

 

チルノの体が後ろに倒れそうなところを大妖精が支える。

 

「チルノちゃん、しっかりして!」

 

大妖精が声を上げると黒刀がそばに寄ってきた。

 

「大妖精、落ち着け。俺がベンチに運ぶからお前は治療に専念するんだ。自分の役目を忘れるな。」

 

黒刀の言葉に大妖精は涙目になりながらもうなずく。

黒刀はチルノを抱きかかえてベンチまで運ぶ。

ベンチに横たわらせて大妖精をチルノの治療に専念させた。




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巫女

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 天子がベンチに戻ってきた。

 

「どうでしたか?実際に闘ってみて。」

 

戻ってきた天子にレミリアが問う。

 

「ああ、強いよ。実力もそうだけど何よりも想いがね。準決勝までの相手は皆、闘ってみてもどこか勝てないと思いながら闘っているように見えた。だけどあの子は私が極大魔法を発動すると分かっていてもなお立ち向かってきた。一歩も引くことなく前へ。レミリア、あの子達を侮っていると一瞬で足をすくわれるよ。」

 

「ええ、分かっているわ。あの男が率いているチームですもの。…早苗。」

 

「はい!分かっています!」

 

早苗が敬礼する。

 

「奴らに力を示してきなさい!」

 

「了解です♪」

 

早苗は笑顔で応えてフィールドに入る。

 

 

 

 霊夢は気を失っているチルノの頭に手を置く。

 

「仇…取ってきてあげるから。」

 

霊夢はそう囁いてからフィールドへ歩き出した。

 

「霊夢!」

 

魔理沙が呼び止める。

霊夢が振り返る。

 

「ベストな状態で繋げられるように頑張るわ。」

 

微笑んでそう言った。

 

「ああ、頑張れ!」

 

「ええ!」

 

霊夢はそう応えてフィールドに入る。

 

「出てきましたね。おとといのような闘い方では勝てない相手ですよ…霊夢。」

 

弓がVIPルームからフィールドを見下ろしていた。

 

《さあ、次鋒戦は滅多にお目にかかれない巫女同士の試合です!》

 

《霊夢選手の神社は博麗神社と言って幻想町にあるそうです。早苗選手の神社は守矢神社。こちらは雑誌なのでも多く取り上げられています》

 

《つまりこの試合は巫女としてのプライドをかけた試合にもなります》

 

「悪いですけどこの試合、負けるわけにはいかないんです。たとえ敵であったとしても大好きな人の前でカッコ悪いところは見せられませんから。」

 

早苗はいつもとは違って真剣な表情になっていた。

 

「…あなたのこと、少し誤解していたみたい。あなたにも揺るぎない信念がある。でもそれは私も同じだから。」

 

霊夢は札を取り出した。

 

「私はただセンパイの恋人であったこと誇りに思える女でありたい。ただそれだけです。」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

霊夢は霊術弾を早苗に向けて放つ。

早苗の腕の裾から何か出てきた。

それは弾幕を…喰った。

 

「あなた…それ…。」

 

霊夢は驚愕の表情を浮かべる。

早苗の腕の裾から出て来て霊力弾を喰ったのは…蛇だった。

 

「そうです。蛇です。ただし、普通の蛇とは違って私の蛇はオーラを喰らう!」

 

体長50㎝の蛇が床を這いずり回っていた。

 

「1ついいことを教えてあげましょう。蛇はものすごく…しつこいのです!」

 

蛇が霊夢に向かって這いずり近づいてきた。

 

「っ!」

 

霊夢は悪寒を感じながらも飛行して霊力弾を放つが蛇に全て喰われてゆく。

 

「冗談じゃないわよ!」

 

「もしかして空中に逃げれば蛇は飛べないから安心だ…なんて思っていませんよね?」

 

「蛇が鷹に喰われるのは飛べないからでしょ!」

 

「私の蛇はそんな前時代的じゃないですよ。」

 

早苗は普段を取り出す。

 

「式神召喚!空蛇!」

 

札が光り出しそこから召喚された体長1mの蛇は空中を飛び回っていた。

 

「そ、そんなことが…。」

 

「周りから見たら私は紅魔学園代表の中でも一番弱いのかもしれない。

ですが…紅魔学園代表に弱者なんて1人もいませんよ!」

 

空蛇が霊夢に向かって襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

霊夢は空中を飛び回って逃げる。

 

「(オーラを喰う蛇相手に『夢想天生』は使えない。あれは霊力を使って発動する。)」

 

「ほらもう1匹追加ですよ!」

 

早苗はさらに空蛇を召喚した。

 

「(あの蛇はオーラを喰う…でもそれはあの牙と口のみ…ならそれ以外の箇所にはきっと効果がある。…試してみるしかないわね。)」

 

「逃げてるだけじゃつまらないですよ!」

 

さらに空蛇を8匹を追加する。

空蛇の数は合計10匹となった。

その時、霊夢が笑った。

 

「ねえ、袋の鼠って言葉を知ってる?」

 

「知っていますがそれが何か?今のあなたの状況を言うなら蛇の巣の中にいるようなものですよ。」

 

「…追い詰められているのは果たしてどちらかしらね?」

 

「え?」

 

10匹の空蛇が一斉に爆発する。

 

「一体何が…そうか幻符を!」

 

「その通り。霊力を通した札もその蛇なら食べてしまうでしょうけど一度に何枚も貼り付けられれば処理が追いつかなくなる。」

 

「…さっき逃げ回っていたのはこの為ですか…。」

 

早苗は悔しそうにつぶやく。

 

「白霊砲!」

 

霊夢は霊力の光線を右手から放つ。

 

「防御術式最大展開!」

 

早苗は霊力の障壁を展開して『白霊砲』を防いだ。

 

「さすがに…このままじゃまずいかもしれません…もうやばいです…。」

 

「やっと自分の状況に気づいた?あなたの負けよ。」

 

「いえ…そう意味じゃないです。」

 

 

 

 紅魔学園代表ベンチ。

諏訪子がベンチに入ってきた。

 

「遅かったですね。教頭先生。」

 

「ちょっと紫に挨拶していてね…ん?早苗の様子、少しおかしくないか?」

 

「なんかピンチなのに笑ってるよ?」

 

フランが答える。

 

「笑ってる?………まさか!あれを使うつもりか!」

 

 

 

 

「何が言いたいのよ?」

 

霊夢が訝しげに早苗を見る。

早苗はニヤッと笑った。

 

「(この感じ…どこかで…!黒刀先輩と同じ!追いつめられている時に笑う…。)」

 

「見せてあげましょう…私の一番の式神を…式神召喚 神代大蛇!」

 

早苗が詠唱すると頭上に大きな術式が浮かび上がる。

召喚されてきたのは体長15mの大蛇だった。

 

「で、でかい…。」

 

「いきますよ…蛇霊砲!」

 

大蛇の口から直径2mの光線が放たれる。

 

「っ!夢想天生!」

 

霊夢は詠唱して無敵状態になった。

『蛇霊砲』は霊夢の体をすり抜けた。

 

「はあ…はあ…危なかった(一瞬でも遅れていたらやられていた。)」

 

霊夢は安堵の息を漏らす。

 

「安心するには早いですよ!」

 

「ならこれでどう!」

 

霊夢は大蛇の体に霊符を張り付け爆発させる。

 

「これで………っ!」

 

仕留めたと思っていた霊夢だが、爆発の煙から現れたのはほぼ無傷の大蛇だった。

 

「くっ…もう…もたない…。」

 

『夢想天生』の効果時間が切れる。

 

「蛇霊砲!」

 

大蛇の口から光線が放たれる。

 

「(避けきれない!)」

 

霊夢は両腕をクロスして攻撃を受けて、壁まで吹っ飛ばされる。

 

「何か…あるはず…弱点が…タフでオーラを喰う蛇…光線………あった!」

 

霊夢は飛翔して大蛇に接近する。

 

「私の『神代大蛇』相手に接近戦ですか…面白いです!薙ぎ払え!」

 

早苗が言い放つと大蛇は尻尾を振って霊夢は薙ぎ払おうとする。

霊夢は霊符を放つ。

 

「爆符!」

 

空中で爆発して霊夢は煙に紛れる。

大蛇の尻尾は空振りする。

 

「苦し紛れの戦術など…吹き飛ばせ!」

 

早苗が命令すると大蛇はとぐろを巻いてからコマのように回転して煙を吹き飛ばす。

煙から現れた霊夢は大蛇ではなく早苗の方に向かっていく。

 

「なるほど…確かに術者を倒せば式神は消えますが後ろがガラ空きですよ!蛇霊砲!」

 

霊夢の後ろから大蛇が光線を放とうとする。

 

「残念だけど私の勝ちよ!」

 

霊夢が宣言した瞬間、大蛇の頭が爆発した。

早苗は何が起きたか分からなかった。

連続して大蛇の頭が爆発する。

早苗はそこでようやく気付いた。

 

「まさか!幻符を頭に。」

 

「さすがに自分の頭の上は喰えないでしょ!」

 

霊夢はそう言い放って早苗の周囲に結界を展開する。

 

「夢想封印!」

 

霊夢が詠唱すると結界の内部で霊力弾が炸裂する。

 

「きゃあああああああああああああああああああああああ!」

 

早苗は悲鳴を上げて倒れた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 博麗霊夢》

 

《勝ったのは博麗霊夢選手~!あの紅魔学園の1人を倒しました~!》

 

早苗に勝利した霊夢は肩で息をしながら倒れている早苗に歩み寄っていく。

早苗も目が覚めたようだ。

 

「手、貸そうか?」

 

霊夢が手を差し伸べる。

 

「いえ…自分で立てますから。」

 

早苗は苦笑して立ち上がるが疲労とダメージのせいでフラッと体が前によろめく。

早苗が倒れそうになったところで誰かが前から肩を支えてくれた。

 

「あ…ごめんなさい…霊夢さん…」

 

早苗が顔を上げると、彼女を支えていたのは霊夢ではなく…黒刀だった。

 

「セン…パイ…。」

 

早苗は呆気に取られた顔をする。

 

「どうして?」

 

早苗の問いに黒刀は少し目を逸らす。

 

「………次、俺の中堅戦だからな。」

 

その答えに早苗は微笑んだ。

 

「センパイは相変わらず嘘が下手ですね。まだ次の中堅戦まで5分はありますよ。そういう優しいところは好きですよセンパイ。」

 

「はあ…分かったからもうベンチに戻れよ。歩けるだろ?」

 

「は~い♪」

 

早苗は笑顔とやや疲れを見せる声で返事してベンチに戻って行く。

 

「霊夢、早苗と仲直りしたみたいだな。」

 

黒刀は霊夢に背を向けたまま言った。

 

「まあ…悪い子じゃないと闘ってみて感じた。」

 

「そうか…。」

 

「じゃあ、先に戻ってます。」

 

「ああ。」

 

霊夢がベンチに戻って行くと黒刀はベンチにいる咲夜を見る。

 

「さあ、未来を変えるとするか。」




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時間

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 霊夢との激闘を終えた早苗がベンチに戻ってくる。

 

「すみません。負けてしまいました。」

 

早苗は頭を下げてレミリア達に謝る。

 

「問題ないわ。最後に勝つのはこっちだから。」

 

レミリアの告げた一言で早苗は顔を上げてパアッと笑顔に戻る。

 

「咲夜。」

 

レミリアは名前を呼んだ。

 

「はい。」

 

「頼んだわよ。」

 

「はい。」

 

そう返事した直後、その場から咲夜が消えた。

 

「相変わらず凄いですね。咲夜先輩のこれ。」

 

早苗が感心する。

 

「そうだね。さすがの黒坊も咲夜に勝てない…少なくとも苦戦は強いられるだろうね。」

 

「あ、諏訪子様いたんですね。」

 

早苗が今になって諏訪子の存在に気づく。

 

「君が『神代大蛇』を使ったところからね。」

 

諏訪子は笑顔。

 

「あの~…怒ってます?」

 

「当たり前だ!守矢神社最高クラスの式神を召喚してしかも倒されてるし!」

 

「あはは…すみません。」

 

「まあ、その件は帰ってからにして今は中堅戦を見ることにするよ。」

 

諏訪子はフィールドに視線を移す。

 

 

 

 ベンチから姿を消した咲夜は瞬時に黒刀の前に現れた。

 

「すごい手品だな。」

 

「…。」

 

「だんまりか。まあいいやすぐに分かることだから。」

 

黒刀はそう言って鞘から『八咫烏』を引き抜く。

 

「…う~ん、雲が邪魔で今日は月がよく見えねえな。それじゃ…」

 

黒刀は『八咫烏』の剣先を天に向けると剣圧だけで雲を吹き飛ばした。

 

「やっぱり今日は満月か…待たせたな十六夜咲夜。始めようか未来を変える闘いを!」

 

黒刀はそう言い放つ。

 

「…1つだけ倒す前に言っておきます。」

 

「やっと口を開いたか。で、何だ?」

 

「お嬢様の見る未来は絶対です。またお嬢様の勝利も紅魔学園の勝利も絶対です。」

 

昨夜は冷淡な口調でそう言った。

 

「どうかな?闘いってのは勝つか負けるか分からない限界ギリギリだからこそ面白いんだ。もちろん勝ちたいとは思っているが。」

 

「分からない人ですね。結果は既に決定しているのです。未来は」

 

「変わるさ。諦めない心さえあれば。」

 

「ならば紅魔学園としてその心、叩き潰してあげましょう。いずれにしてもあなたはここで他の選手同様1秒で終わる。」

 

「そいつはどうかな。」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始直後、突然黒刀の周囲から大量のナイフが黒刀を向かって飛んできた。

 

「(あなたもこれで終わる!)」

 

咲夜は勝利を確信した時、彼女にとって信じられない光景を見た。

なんと黒刀が飛んでくるナイフを弾いていた。

 

「(バカな。いくら速いといってもこれだけのナイフをどうやって?)」

 

 

 

 VIPルーム。

 

「なるほどな。」

 

優が納得した口調で口を開いた。

 

「分かったの?黒刀が何をしているのか。」

 

「確かに『超反射』でも限度があるが黒刀は『八咫烏』で弾いたナイフを別のナイフにぶつけて弾いている。まるでビリヤードのようにな。」

 

「なんだその神業!」

 

流星が驚く。

 

 

 

 

「くっ!」

 

咲夜がナイフを投擲する。

黒刀はその瞬間を眼で捉えていた。

咲夜はその時、まるでカラスに上から観察されているかのような危機感を感じていた。

次の瞬間、黒刀に飛んでくるナイフは咲夜が投げてきたナイフより多かった。

黒刀はニヤリと笑うとさっきと同じ神業をしながら飛んできたナイフから1本を素手で柄の部分を掴んでナイフの包囲網をかいくぐるようにそのナイフを咲夜に投げ返した。

 

「なっ!くっ!」

 

咲夜は予想外の反撃に驚き、体を横に反らして躱した。

ここまでの試合時間を僅か12秒。

咲夜が続けてナイフを投擲しようとした時、黒刀がニヤリと笑った。

 

「分析完了。」

 

その言葉を聞いた咲夜は思わず動きを止めた。

 

「…どういう意味ですか?何を分析したというのですか?」

 

「あんたの能力の全てだ。」

 

「っ!戯言を…まだ12秒しか経っていないのですよ!」

 

「ほんとは6秒でも良かったんだが確証が欲しかった。そこまで疑うなら俺が出した結論を言おう。」

 

黒刀は構えながら話を続ける。

 

「あんたの能力は時間の停止と再生。停止している間は自身は動くことが出来る。

その能力であんたは時間を停止して俺の周囲にナイフを展開させた。

ナイフが時間停止中、俺に刺さらないのは運動エネルギーも停止しているからだ。

さらにこの時間操作能力は5秒のみ停止することが出来て、再生した後は5秒のインターバルを要する。」

 

「何故5秒だと?」

 

「俺はあんたの1秒だけの記録映像を何度も見た。それでナイフの総数と位置は分かった。

だから弾くことは容易だった。そして俺はナイフの総数とあんたが一度に投擲するナイフの数と投擲速度から時間操作時間を割り出した。あんたは開始6秒で大きなミスをした。俺がナイフを投げた後に時間を停止したことだ。」

 

「!…あの時か。」

 

黒刀の言葉に咲夜が思い出す。

 

「あんたは意外と直情的だな。さらに俺はもう1つ知りたい情報があった。それはあんた自身のスピードだ。だから俺はあんたのナイフを掴み取ってあんたがギリギリ躱せると推測できるスピードで投げた。あんたにとっては予想外だっただろうな。例えていうならチェスで相手のターン中に相手の駒を取って動かすようなことだからな。」

 

「(なるほど…この賢さがカラスと言われる所以なのかもしれませんね。)」

 

「あんたのスピードを知れたので5秒間の移動範囲も分かった。あんたは5秒間に俺の周囲を移動しながら元の場所に戻っている。微かに汗が見せる。さて、あんたがどうやって時間操作しているのかですが恐らくあんたは体内…いや眼球の中に時計を術式化している。なら簡単、俺はあんたが時間を停止する5秒後を予測して動けばいい。」

 

「私がいつ時間を止めるかなんて分かるわけが…」

 

「あんたが時間を停止する瞬間、眼が不自然に動く。俺の眼はその瞬間を逃さない。」

 

「なるほど…素晴らしい観察眼、洞察力、分析力です。それにこうして話している間もあなたは隙を見せない。」

 

「…ちなみにあんたの能力がこれまでバレなかったのはそもそも2秒以上耐えられた奴がいないからだ。最初の1秒だけはインターバル関係ないからな。…どうだ?ここまでで俺の結論に間違いがあれば聞くけど?」

 

「…いいえ間違いありません。だからと言って負けたとは思っていません。でも…ふふ…少し分かってきました。勝つか負けるかのギリギリの闘いの楽しさというものが。」

 

咲夜はそう言って笑った。

 

「はは…なんだ…そういう顔できるんじゃねえか。それじゃ試合を続けようぜ!あんたには散々見せてもらったから今度は俺も見せてやるよ。時間は止められないけど似たようなことは出来るぜ!」

 

「ええ、楽しみましょう!」

 

咲夜はその言葉と共に時間を停止させる。

世界が咲夜以外色を失う。

咲夜は黒刀の横に回り込む。

体力を温存するため側面からナイフを投擲する。

投擲されたナイフは黒刀の横で停止して浮遊する。

時間が再生され世界が色を取り戻していく。

時間が動き出した瞬間、黒刀は横に向かって斬撃を放った。

 

「まさか本当に5秒後を予測してくるとは!」

 

咲夜はサイドステップして斬撃を躱す。

ナイフは斬撃で弾き飛ばされる。

咲夜の攻撃が止んだ僅かな隙を黒刀は逃さなかった。

 

「モードチェンジ サムライ!」

 

黒刀を黒い木の葉が渦巻く。

黒刀は『サムライモード』に変身した。

 

「さっきの説明の時にそれをやっていれば良かったのでは?」

 

咲夜は走り回りながら黒刀に訊いた。

 

「いやいや、さすがにそこまではしないよ。こっちから持ち掛けた話だからね。それじゃお見せしよう。時間操作もどきを。」

 

黒刀がそう言った直後、咲夜の目の前にいきなり黒刀が現れた。

 

「なっ!」

 

咲夜は驚いた声を上げる。

黒刀が咲夜に斬りかかると咲夜はダガーナイフを取り出し鍔迫り合い状態に持ち込んだ。

 

「やっぱりダガーを隠し持っていたか。でも接近戦に慣れていないんでしょう?」

 

「そうです…よ!」

 

咲夜は時間を停止させて距離を取ってからナイフを投擲する。そして再生。

だが今度は時間を再生した直後に黒刀が咲夜の前に現れた。

 

「これは…」

 

 

 

 紅魔学園代表ベンチ。

 

「抜き足だ。」

 

諏訪子が口を開いた。

 

「抜き足…って何ですか?」

 

早苗が諏訪子に問う。

 

「相手の呼吸と呼吸の間に移動する歩法だ。例えば…見てて。」

 

するといきなり諏訪子の姿が消えた。

 

「ここだよ。」

 

諏訪子が次に現れたのはレミリアの隣だった。

 

「あれ…さっきまでドアの傍にいたのに…そうか!これが抜き足!」

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「抜き足は師匠に教えられました。黒刀は7歳で会得しています。」

 

「それって弟子になってからすぐってこと!」

 

魔理沙が会得の早さに驚く。

 

「その通りです。」

 

 

 

 

「なるほど。私が時間を、あなたは体感時間を操作するというわけですか。」

 

「そんなたいしたものじゃない。」

 

黒刀が抜き足で追いかけて、咲夜が時間を停止して距離を取る展開が続く。

黒刀は輝夜が入る1000兆分の1の世界…加速世界に半歩踏み込んでいる。

スキルではなく技術のみで。

 

「このままじゃ埒があきませんね。」

 

「そうだな…そろそろお楽しみの時間を終わりかな?」

 

「そのようです。これで決める!」

 

咲夜は察知されるのを承知で眼に力を込めて時間を停止させる。

 

「サウザンドナイフ!」

 

千本のナイフを黒刀に向かって放った。

黒刀の正面でナイフが停止する。

時間が再生される。

千本のナイフが襲いかかる。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

黒刀は先程の神業と『一騎当千』を組み合わせた。

ナイフが次々と弾かれ床に落ちていく。

全てのナイフが床に落ちると黒刀は構えを脇構えに変える。

 

「四季流剣術 零の段 無月。」

 

直後、風がなびいたがその風の音は咲夜には聞こえなかった。

一瞬、遅れて咲夜は前のめりに倒れていることに気づいた。

いつの間にか黒刀は咲夜の背後に背中を向けて立っていた。

 

「この無月は抜き足と『一閃』の組み合わせ技だ。姿を見せず音を出さない。」

 

黒刀は背を向けたままそう口にした。

咲夜が倒れていく瞬間がスローモーションに感じた。

そして、ようやく咲夜の体がうつ伏せに倒れる。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

《勝ったのは黒刀選手~!秒殺記録を持つ咲夜選手を無傷で倒しました!》

 

《2人とも実に美しい試合を魅せてくれました》

 

《そして!これで神光学園リーチです!9連覇を果たしているあの紅魔学園になんと王手をかけました!》

 

黒刀は『サムライモード』を解除する。

ようやく目を覚ました咲夜に歩み寄る。

 

「楽しかったか?」

 

黒刀はニコッと笑った。

その言葉を聞いた咲夜はゆっくりと黒刀に手を貸してもらいながら立ち上がる。

 

「ええ。」

 

咲夜は微笑む。

 

「それは良かった。」

 

黒刀も微笑み返した。

お互いに握手を交わす。

 

「もしうちが勝ったら咲夜さんの秘蔵レシピを教えて欲しいですね。」

 

「それでは…こちらが勝利した場合は…」

 

咲夜は言葉を切って、黒刀の耳元に顔を寄せると何かを囁いた。

その後、黒刀の耳元から離れていく。

 

「咲夜さん、それ本気ですか?」

 

「さあ、どうでしょう?」

 

咲夜はメイドスマイルで返す。

 

「まあ、うちが勝ちますからそれでもいいですけど。」

 

「それでは失礼します。」

 

咲夜は綺麗にお辞儀してから顔を上げて綺麗な姿勢でベンチに戻って行く。

 

「うちにもあんなメイドがいたらな~。」

 

黒刀はそう言った後、ベンチに戻って行くのだった。




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狂気

OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 黒刀がベンチに戻ってくると魔理沙が黒刀とハイタッチを交わす。

 

「やったな黒刀!」

 

「さすがに妖夢に頭脳プレーは期待できなかったからな。」

 

「あう…。」

 

妖夢はしょんぼりする。

 

「そんな顔すんなよ妖夢!私が勝ってくるぜ!」

 

魔理沙が意気込んでフィールドに入る。

 

 

 

 紅魔学園代表ベンチ。

 

「申し訳ございませんお嬢様。紅魔学園の顔に泥を塗ってしまいました。」

 

咲夜が誠意を込めて頭を下げてレミリアに謝罪した。

 

「咲夜。」

 

レミリアは足を組み替えて名前を呼ぶ。

 

「はい。」

 

咲夜は頭を下げたまま返事する。

 

「顔を上げなさい。」

 

「はい。」

 

咲夜は顔を上げる。

 

「確かに紅魔学園は代々勝利至上主義だけど私にとってはそんなことはどうでもいいのよ。最終的に勝つことができればそれで。」

 

レミリアはそう言って紅茶を飲む。

 

「彼との勝負は楽しめた?」

 

「はい。」

 

「ならいいわ。最近のあなたは少し退屈そうにしていたから。…フラン。」

 

「なあに?お姉様。」

 

「遊んでらっしゃい。」

 

「わ~い!」

 

フランは場にそぐわぬテンションでフィールドに入る。

 

 

 

 

「(また調子狂いそうな奴が来たな。)」

 

魔理沙は元気にフィールドに入ってきたフランを見てそう思った。

フランは魔理沙の5m手前で止まる。

 

「え~と…」

 

「魔理沙だ。霧雨魔理沙。」

 

「じゃあ魔理沙!私と遊ぼうね!」

 

「遊ぶ?」

 

魔理沙は首を傾げる。

 

「うん♪」

 

フランは笑顔で返してきた。

 

「(なんだ…こいつ、リーチをかけられているこの状況でどうしてそんな楽観的でいられるんだ?)」

 

魔理沙は考えるがすぐに頭を振って集中する。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「魔力解放!」

 

フランがいきなり解放状態になった。

 

「もう解放すんのかよ!」

 

魔理沙は驚きながらも箒に跨って飛行する。

 

「それじゃいっくよ~!バ~ン!」

 

フランは楽しそうに魔法弾の弾幕を放ってきた。

魔理沙は上昇と下降を繰り返して上手く躱している。

 

「凄い凄い!それじゃどんどんいくよ!」

 

フランはまるでゲームをやっているかのように笑いながら魔法弾を放ってくる。

 

「躱すだけじゃないぜ!こっちだって!」

 

魔理沙は初めての頃とは見違えるほどの威力の魔法弾の弾幕を放って、フランの魔法弾の弾幕を撃ち落とす。

 

「いいよ!それじゃこんなのはどう?レーヴァテイン!」

 

フランの右手に炎の剣が現れる。

 

「なんだありゃ!炎の剣っていうより炎そのものだぜ!あんなもの持って熱くないのかよ?」

 

「何言ってるの?私の剣なんだから熱いわけないでしょ…私はね!」

 

フランはそう言い放って『レーヴァテイン』を両手で握った。

 

「見せてあげる。私の必殺技!」

 

『レーヴァテイン』の炎の勢いが増す。

 

「っ!」

 

魔理沙は警戒を強めてミニ八卦炉に魔力を集束させる。

 

「マスタースパーク!」

 

「インフェルノブレイカー!」

 

フランが放ったのは剣による光線に近い炎の斬撃だった。

光線と斬撃がぶつかり合う。

 

「ぶっ壊れちゃえ!」

 

フランの言葉に応えるかのように斬撃の威力が増していく。

 

「嘘だろ!」

 

魔理沙が驚くのも束の間、斬撃が光線を打ち砕きそのまま魔理沙に降り注ぐ。

魔理沙は急降下し躱して魔法弾を数発放つ。

魔法弾はフランに直撃して爆発した。

 

「よし!」

 

魔理沙がガッツポーズをとる。

 

「あはははははは!凄い!楽しい!もっと!もっと遊びたい!」

 

爆発の煙の中からフランが笑いながら出てきた。

 

「なんだこいつ…直撃だったのに笑いながら出てきたぜ。」

 

そんな魔理沙に対し、フランは不敵な笑みを浮かべる。

 

「それじゃ今度はこっちの番!」

 

フランは今までの倍の数の魔法弾を放ってきた。

 

「舐めんな!それくらい全部撃ち落としてやるぜ!」

 

魔理沙も魔法弾を放って応戦する。

 

「隙あり!」

 

フランが背後に飛行して斬りかかってきた。

 

「くっ!」

 

魔理沙は上昇して躱し魔法弾をフランに向けて放った。

直撃したがまたもや爆発の煙の中からフランは飛び出してきた。

 

「やっぱり通常の魔法弾じゃ効かねえか…マスパじゃねえと。だけど同じ威力じゃさっきみたいに押し負ける。だとしたらやっぱりあれしか…。」

 

魔理沙は急に方向転換してフランに背を向けて飛行し始めた。

 

「なに?追いかけっこ?いいよ!それも楽しそう!」

 

フランは魔法弾と『レーヴァテイン』の斬撃のコンボで逃げる魔理沙を徐々に追い詰めていく。

 

「まだだ…もっと…魔力を集束させないと…。」

 

魔理沙は何かブツブツ独り言をつぶやいている。

 

「ん~ちょっとは反撃してこないと面白くないな…ねえ!もう終わりなの?終わりならもう決めちゃうよ!」

 

フランは遊びに飽きた子供みたいに言った。

 

「そろそろか…そんじゃ決めるとするか!」

 

魔理沙は上昇していくと下に向かって魔法弾の弾幕を雨のように放つ。

 

「まだやるの!いいよ!もっと遊ぼうよ!」

 

フランは『レーヴァテイン』で魔法弾を斬っていく。

 

「悪いが遊びは終わりだぜ!魔力解放!」

 

魔理沙は逃げ回っている間にずっとミニ八卦炉に魔力を集束し続けていた。

ミニ八卦炉を構える。

その時、月の光がミニ八卦炉に当たり魔力がさらに高まった。

それは魔理沙にとって予想外だった。

 

「なんだこれ…力が溢れてくる!」

 

魔理沙の遥か上には巨大な満月が見える。

 

「いくぜ!ファイナルマスタースパークムーンライト!」

 

魔理沙の放った光線はフィールド全体に降り注いだ。

 

「きゃあああああああああああああああああああああああ!」

 

これにはさすがのフランも悲鳴を上げて光に飲み込まれていく。

 

「勝った!」

 

魔理沙が叫ぶ。

 

「…それはどうかな?」

 

だがその時、魔理沙の背後から声が聞こえた。

それはさっきまで聞いた声と同じものだった。

 

「え?」

 

魔理沙が振り返った瞬間、斬られた。

魔理沙はダメージを受けた箇所をかばいながら降下してそのまま滞空する。

魔理沙が見たのは信じられない光景だった。

なんと3人のフランが飛んでいた。

 

《フラン選手が3人!これはどういうことでしょうか?》

 

「フォーオブアカインド。」

 

「つまりさっきやられたのは私の分身。」

 

「そして魔理沙が今まで闘っていたのはその分身!」

 

3人のフランがそれぞれ喋る。

 

「なっ!」

 

魔理沙は衝撃を受けた。

 

「最初に解放状態になった時、既にこの魔法は発動されていた。」

 

「つまり私は最初から遊ばれていた?」

 

「それは違うよ。」

 

「遊ばれていたんじゃなくて一緒に遊んだんだよ。ほら魔理沙だってあんなに楽しそうにしていたじゃない。さっきの魔法を使った時だって!」

 

「!…そうか…私はいつの間にかお前のペースにはまっていたのか…でも!だからといってここで諦めるわけにはいかないぜ!」

 

魔理沙は構えるが先程の魔法の反動で普通の『マスタースパーク』も撃てない状態となっていた。

 

「いいよ!」

 

「でもこれ以上、長引かせるとお姉様に怒られちゃうから!」

 

「これで!」

 

「「「決めちゃうよ!」」」

 

3人のフランが声を揃えた。

魔理沙を三角形上に取り囲む。

 

「「「インフェルノブレイカー!」」」

 

3人のフランが同時に炎の斬撃を放った。

魔理沙は通常の魔法弾で応戦しようとしたが歯が立たず3人のフランの斬撃をまともに食らって墜落し床を転がっていく。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 フランドール・スカーレット》

 

フランはゆっくりと降り立つ。

 

「やった~!勝った~!」

 

フランはジャンプしてVサインする。

 

 

 

 魔理沙がトボトボと歩いてベンチに戻ってくる。

 

「わりぃ、負けちまったぜ!」

 

魔理沙は後頭部をかきながら笑った。

 

「さて、顔とか汚れちまったから洗ってくるぜ!」

 

魔理沙はベンチを出て女子トイレに向かった。

 

「魔理沙、あんな顔して悔しくないのかな?」

 

妖夢が口を開く。

 

「俺には無理しているようにしか見えなかったけどな。」

 

「え?」

 

「負けて悔しくない奴なんていると思うか?」

 

黒刀の言葉を聞いた妖夢はハッと気づいて女子トイレへ走って行く。

 

 

 

 魔理沙は女子トイレの洗面所の蛇口をひねり水を出すと洗面所に両手をついた。

 

「う…うう…ああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

魔理沙は喉の奥から声にならない嗚咽を漏らしていた。

 

勝ちたかった。

 

チームの勝利がかかった大事な試合だった。

 

勝っていれば優勝だった。

 

皆の期待に応えられなかった。

 

悔しくて堪らない気持ちと涙が溢れて止まらない。

 

 

 

 妖夢は女子トイレの外でそれを聞いていた。

 

「魔理沙…。」

 

そうつぶやいた後、女子トイレから離れてベンチへ歩き出した。

 

「大丈夫だよ…私が魔理沙の分まで闘って…絶対に勝つから!」

 

妖夢の眼に宿る闘志は今までより強かった。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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レミリアの過去

OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 8月6日 午後7時 紅魔学園代表ベンチ。

フランは団体戦初勝利にご機嫌だった。

ベンチに座って足をプラプラさせている。

レミリアは大将戦が始まるまでの間、紅茶を飲みながら自身の過去を思い出していた。

 

 

 

 10年前。

もしも、好きな人が出来てそれが叶わない恋と知った時、人はどうするのだろう…

 

イギリスではいまだに吸血鬼という種族に対して嫌悪感を抱いている者がいた。

しかし、それも当然のことである。

かつて人間達は吸血鬼に襲われ死んだ人間もいるのだから。

強すぎる力は恐怖を抱かせる。

恐怖を抱いた者は偏見や差別をする。

それは親から子へ受け継がれていく。

吸血鬼の一族でもあるスカーレット家も差別の対象となることは必然だった。

 

「化け物!」

 

罵声が響く。

ロンドンのとある公園に12歳の男子3人組とうずくまっているフラン(当時6歳)がいた。

公園の外で歩いていた大人達がいるが騒ぎに関わりたくないのかそれとも吸血鬼に関わりたくないのか見て見ぬふりで通り過ぎていく。

国から国民に対して平等性を唱えているがそれを守る者はごく僅かだった。

 

「化け物はこの国から出て行け!」

 

「そうだ!出て行け!」

 

男子3人組は手拍子を叩きながら、出て行け、と繰り返し罵り続ける。

 

「あなた達!やめなさい!」

 

その時、間に入ってきたのはレミリア(当時7歳)だった。

どうやらフランとはぐれてしまっている時に先程の罵声を聞いて探し出したようだ。

しかし、当時のレミリアとフランは吸血鬼であっても幼い為、闘う力も勇気もなかった。

 

「お姉様…。」

 

フランはレミリアの背中に隠れると涙目でレミリアを見た。

 

「大丈夫よ。」

 

レミリアはフランを安心させるように言葉をかけると男子3人組に視線を戻す。

 

「こんなことをして恥ずかしくないの!」

 

レミリアは大声で言い放った。

 

「う、うるさい!化け物!パパが言ってたぞ!吸血鬼は凶暴で人間を襲う化け物だって!」

 

「そんな奴がこの国にいたら迷惑だ!出て行け!」

 

「何百年も前の話でしょ!そんなの今の私達には関係ない!」

 

レミリアは強く言い返した。

だがレミリアの体は震えていた。

それもそうだろう。

力のない女の子が5歳年上の男子3人に見下ろされているのだから。

むしろここまで強く言い返せたのが不思議なくらいだ。

レミリアの正論に一瞬、固まった男子3人組だが、レミリアが震えていたことに気づくと、

 

「おい、こいつ震えてるぜ!」

 

「ほんとだ!」

 

「今のうちにボコそうぜ!吸血鬼なら簡単に死なないしどうせ誰も怒らねえし!」

 

「ナイスアイディアだ!」

 

レミリアの目が涙で潤う。

自分達はただ普通に暮らしていたいだけなのになぜこんな仕打ちを受け入れなければいけないのか分からなかった。

 

「(誰か…誰でもいい…私はどうなってもいい…せめてフランだけは助けて!)」

 

振り下ろされる拳にレミリアは目を瞑って心の中で願った。

だが振り下ろされる拳の音は聞こえず、代わりにその拳を止める音が聞こえた。

レミリアが恐る恐る目を開ける。

そこにはレミリアと同じくらいの歳で黒い服を着た少年が拳を右手で止めていた。

 

「あのさ…イギリス人って飯だけじゃなく性格までまずいの?」

 

少年は口を開いた。

レミリアから顔は見えない。

拳を止められた男子が拳を引っ込める。

 

「誰だお前!」

 

その男子が吠える。

 

「俺の名前は四季黒刀!最強になる男で全世界の可愛い女の子の味方だよ!」

 

そう宣言して黒刀(当時7歳)は男子3人組の内の1人の顔を殴る。

 

「ぐっ!お、お前!そいつは吸血鬼だぞ!化け物だぞ!そんな奴の味方をするなんてお前も同罪だ!」

 

「お前の記憶力は鳥以下だね。さっきも言ったはずだ。全世界の可愛い女の子の味方だ…と!」

 

「この…年下のくせに調子に乗るな!」

 

男子3人組の内の1人が吠えながら殴りかかってきた。

黒刀はヒョイっと躱して殴りかかってきた男子の手首を掴んで投げる。

 

「うわ!」

 

先程、殴られた男子のところの近くまで投げ飛ばされる。

 

「俺は吸血鬼だろうが悪魔だろうが可愛い女の子なら守る!お前らのように力もないくせにただ吠えることしかできない奴らは絶対に許さない!」

 

黒刀は強く言い放った。

レミリアはドキッと強い鼓動を感じた。

 

「…かっこいい…。」

 

レミリアの口から思わずそう漏れる。

 

「うるさい!うるさい!うるさい!」

 

黒刀の言葉に残った1人の大柄な男子が叫び、タックルをしかけてくる。

 

「危ない!」

 

レミリアが黒刀に向かって叫ぶ。

黒刀はレミリアに顔を向ける。

この時、レミリアは黒刀の顔を初めて見た。

好奇心旺盛そうな少年だが、その眼には優しさと強い意志を感じる。

黒刀はにっこり笑った。

 

「大丈夫!俺が守る!」

 

その言葉にレミリアはまたもドキッとして顔が赤くなる。

黒刀は視線を前に戻すとタックルを両手で止めて、懐に潜り込んで腰を掴んで自身より大きい体を投げ飛ばす。

投げ飛ばされた男子は後ろの2人のところまで投げ飛ばされて下敷きにしてしまう。

 

「どけ!このデブ!」

 

「どけよ!」

 

下敷きになっている2人が乗っかっている男子をどかそうとする。

隙間が出来たのでそこから抜け出す。

 

「お前!パパに言いつけてやるからな!」

 

「はいはい好きにすれば?雑魚共、お前らこそとっとと立ち去らないと病院送りになるよ?」

 

黒刀はちょうど目の前に落ちてある空き缶を手に取ると7歳と思えない握力で握りつぶした。

 

「く、くそ~!覚えてろよ~!」

 

男子3人組は捨て台詞を吐きながら逃げていく。

 

「まだいるんだ…あんな捨て台詞吐く奴。」

 

黒刀は呆れ顔で握りつぶした空き缶をゴミ箱に投げ入れる。

レミリア達に優しい目を向ける。

 

「怪我はない?」

 

「う…うん…おかげさまで…。」

 

「そうか…よかった。」

 

黒刀はニコッと笑った。

その時、フランがレミリアの背中から顔を少し出す。

 

「こんにちは。」

 

黒刀が笑顔で挨拶するが、フランは恥ずかしがって顔を引っ込めてしまう。

 

「あはは…。」

 

黒刀は苦笑する。

 

「あ、あの…。」

 

フランが顔を少し出して声を出す。

 

「ん?」

 

黒刀がフランの目線に合わせる。

 

「あ、ありがとう…。」

 

フランは顔を赤くしながら言葉を絞り出した。

 

「どういたしまして。」

 

黒刀は笑顔で返した。

フランはまたもや顔を引っ込めてしまう。

 

「ごめんなさい。この子、人見知りだから…。」

 

「別に気にしてないよ。え~と…」

 

「レミリア・スカーレットです。」

 

「じゃあレミリア、俺は7歳だけどレミリアは?」

 

「同じ。」

 

「だったら敬語なんていいよ。俺はレミリアって呼ぶから俺のことは黒刀って呼んでよ。」

 

「うん…黒刀。」

 

「で、後ろの子が…。」

 

「フラン。フランドール・スカーレット、私の妹よ。」

 

「よろしく、フラン。」

 

黒刀は顔を出さないフランに話しかける。

 

「うん…。」

 

フランは顔を出さないが頑張ってそう返した。

 

「さっきのレミリア、凄くかっこよかったよ。」

 

「そ、そんなことない…凄く怖かったし…。」

 

「それでも闘おうとしてた。フランのことを守ろうとしてた。それはレミリアが強いからだよ。」

 

「私が強い?それってどういう…」

 

「あ、ごめん!そろそろ電車が来ちゃう!それじゃまたね!」

 

黒刀は叫んで走り出す。

レミリアは何かを言おうとするが言葉がまとまらない。

黒刀は最後にレミリア達に顔を向ける。

 

「大丈夫!レミリアはきっと強くなる!それに俺、レミリアのこと結構好きだよ!」

 

この時の黒刀の言葉は少年らしさのこもった純粋な言葉だったが、

 

「え?」

 

レミリアは一瞬、キョトンとした後、頬を赤く染める。

 

「また会おうなレミリア!フラン!」

 

黒刀は最後にそう言って駅に向かって走って行った。

 

「ええ…きっと…また…。」

 

レミリアは胸に手を当てて祈るようにつぶやく。

これが黒刀とレミリアの出会い。

そして、レミリアが生まれて初めて恋を知った日だった。

 

 

 

 それから3年後。

イギリスの小さな決闘大会にレミリア(当時10歳)は出場していた。

レミリアは槍術と魔法の修行を重ねて、街ではかなり強い小学生として有名になっていた。

フラン(当時9歳)は今では明るく元気な性格になっていた。

まだ闘うことはできないので今日はレミリアの応援に来ていた。

 

 

 

 難なく1回戦を突破したレミリアは他の試合を見回っていた。

その時…

 

「なんだ!あの子は…」

 

「本当に小学生か?」

 

「強すぎるだろ!」

 

ギャラリーの声が聞こえた。

 

「何かしら?」

 

レミリアは首を傾げる。

 

「見てみよう!」

 

「そうね。」

 

フランとレミリアは翼を広げて、人の頭を超える高さまで浮遊する。

 

 

 

 3年前とは違って今やスカーレット家は王位に近いと言われているので吸血鬼に対する偏見や差別は大幅に減少している。だからこうして人前で翼を広げて浮遊していても人々は特に気にすることはない。

 大会のデュエルフィールドは屋外で正方形の面積100㎡のステージの上となっている。

レミリアとフランはステージの中央を見る。

そこにいたのは対戦相手と楽しそうに闘っている黒刀(当時10歳)だった。

 

「黒刀だ!」

 

レミリアとフランは同時に名前を呼んだ。

 

 

 

 黒刀の対戦相手は防御するのに精一杯で剣撃のラッシュに翻弄されていた。

 

「(なんだよこいつ…攻撃が速すぎる!)」

 

当時の黒刀はまだ四季流剣術は使えないもののそれでも四季流の素早い剣速の攻撃は既に会得していた。

黒刀は下段斬りで相手の剣を弾き飛ばした。

 

《勝者 四季黒刀》

 

中学生以下が参加できるジュニアクラスの大会では寸止めか相手の武器を弾き飛ばした時点で勝敗が決定される。

 

「へへ…結構楽しかったぜ!」

 

黒刀は対戦相手の少年にそう言ってからステージを降りる。

 

「黒刀~!」

 

すると、フランが黒刀の胸に飛びついてきた。

 

「うわ!」

 

黒刀は慌てて受け止める。

 

「お~フランか!久しぶり!随分と変わったな!」

 

「えへへ♪」

 

フランは喜んで黒刀の胸に頬ずりする。

 

「その…久しぶり…黒刀…。」

 

レミリアが再会の挨拶をする。

 

「ああ、久しぶり…レミリア。」

 

「黒刀も出てたんだ…大会。」

 

「ああ、剣の修行の成果を試したくてな…それにレミリア達に会えるかもって思ったけどほんとに会えるとは…。」

 

「黒刀ってイギリスに住んでいるんじゃないの?」

 

「ああ、俺はスウェーデンに住んでるからな。でも、たまに1人でヨーロッパのどこかの大会に出て修行の成果を確かめるんだ。」

 

「それじゃ黒刀は1人で来たの?」

 

頬ずりしていたフランが黒刀に訊ねる。

 

「そうだよ。」

 

黒刀がフランの頭を撫でる。

フランはくすぐったそうなでも嬉しそうな顔をする。

 

「私もこの大会に出てるの…。」

 

レミリアがモジモジしながら言った。

 

「へえ、じゃあ当たったら全力で闘おうぜ!」

 

「ええ…それで黒刀。その…1つ提案があるのだけれど…。」

 

「何だ?」

 

「その…負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くってのはどうかな?」

 

レミリアは照れながらそう言った。

 

「いいよ!」

 

レミリアの真意に気づいていない黒刀はそう返事した。

黒刀は負けてもちょっとしたお願いをされる程度に思っているがレミリアにとっては一世一代の恋の勝負だった。

レミリアは心の中でガッツポーズする。

 

「それじゃ…。」

 

黒刀がトーナメント表を見る。

 

「当たるとしたら決勝戦だね。」

 

「楽しみにしてるからその前に負けないでね。」

 

「そっちこそ。」

 

そうして黒刀とレミリアはそれぞれの試合のステージに向かった。

フランはレミリアについていく。

 

 

 

 その後、黒刀とレミリアは順調に勝ち進んでついに決勝戦に上がった。

2人がステージに立つ。

黒刀は黒い刀を抜き、レミリアはその刀と同じくらいのリーチの槍を持っている。

言葉を交わすことはなかったがそれでもお互いに今すぐに闘いたくてワクワクした顔をしていた。

 フランはステージ外の最前列で観戦していた。

だが、その背後に黒いフードを被った身長180㎝くらいの男が忍び寄っていた。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始直後、黒刀とレミリアは同時に踏み込んだ。

刀と槍がぶつかり合うかと思ったその瞬間。

 

「そこまでだ!」

 

ステージ外の最前列から男の声が響いた。

黒刀とレミリアが視線を移すとその男はフランを右手で抑えていた。

男がフードを取るとその顔は明らかに狂気に満ちていた。

その男は数年前までイギリス代表のデュエルプレイヤーだったが薬物使用容疑で逮捕され選手資格を失った。

しかし、つい最近、刑期を終えて出所したのだ。

さらにこの男は吸血鬼に対して殺意を抱いていた。

 

「今すぐ試合を中断しろ!」

 

男の指示に黒刀とレミリアはフランを人質にされていることを理解して同時に棄権する。

ステージに展開されていた保護結界が解除される。

男はフランを人質に取りながらステージの上に上がる。

観客達はパニックになって逃げていく。

 

「お姉様!」

 

フランが今にも泣きそうな声で叫ぶ。

 

「フラン!」

 

レミリアが駆け寄ろうとする。

 

「おい!動くんじゃねえぞ!そこから1歩でも動いたらてめえはこいつとおさらばすることになるぞ!」

 

男がそう言って右手に持ったのは鎖をつないだ鉄球だった。

 

「久々にシャバに出てきたら吸血鬼を認めるだ?ふざけるな!あんな化け物、この国に…いやこの世に生きている資格なんてないんだよ!」

 

男の目は完全にイカれていた。

恐らく出所後また薬物に手を染めたのだろう。

レミリアとフランの肩がビクッと震える。

ようやく生きる場所を得られたのにそれがまた奪われようとしている。

そんな恐怖を感じる。

その時…

 

「黙れ。」

 

声が聞こえた。

 

「あ?」

 

男が声のした方に視線を移すがそこには誰もいなかった。

その直後だった。

男の肩に激痛が走った。

黒刀が『抜き足』で男の背後に回り込み肩を斬ったのだ。

 

「ぐあああああああああああああああああああああ!」

 

男はあまりの激痛にフランを離してしまう。

黒刀はその隙を逃さずフランを抱き寄せる。

 

「このガキ!」

 

男は鉄球を飛ばすには距離が短すぎるので鎖を握った右手で黒刀に殴りかかる。

 

「(下手に避けたらフランが…くっ!)」

 

黒刀は歯を食いしばって男の拳を左頬で受けて殴り飛ばされる。

黒刀は自身がフランの下敷きになるように受け身を取る。

 

「黒刀!」

 

レミリアが駆け寄ってくる。

 

「俺は大丈夫だ。フラン、怪我はないか?」

 

「うん…大丈夫。」

 

フランは涙声で答える。

 

「そうか…フラン、ちょっとここで待っててくれるか?」

 

「何をする気なの?」

 

「あいつを倒す。」

 

「そんなダメだよ!危ないよ!警察が来るまで待とうよ!」

 

「その前にあいつが逃げるか周りの人間を殺す。心配すんな。俺はあんな奴に負けないから。」

 

黒刀はそうフランに声をかけて立ち上がる。

するとレミリアが黒刀の隣に並び立った。

 

「レミリア…。」

 

「私も戦う。フランをこんな目に遭わせた奴は許せない。」

 

「これは試合でも決闘でもない…殺し合いだ…命がかかってる!」

 

「…ならどうしてあなたは戦うの?」

 

黒刀は少し黙ってから口を開く。

 

「守りたいからだ。」

 

「私もよ。」

 

「…分かった。俺が前に出るからレミリアはバックアップを頼む!」

 

「分かった!」

 

 

 

 男の左肩は黒刀に斬られて使い物にならなくなっていた。

 

「くそ!あのガキ!殺してやる!」

 

男は鉄球を振り回す。

 

「いくぞ!」

 

「うん!」

 

黒刀が叫び、レミリアが応える。

男の鉄球が黒刀達に飛んできた。

2人は同時に左右にサイドステップして躱す。

 

「黒刀、伏せて!」

 

レミリアが指示を飛ばした。

当時のレミリアは既に『未来王の眼』のスキルを持っていた。

黒刀はレミリアの指示通りに伏せる。

一瞬遅れて鉄球の薙ぎ払いが黒刀の真上を通り過ぎる。

レミリアの未来予知は自発的に出来るのが5割、突然に来るのが5割だった。

男は鎖を引いて鉄球を戻すとレミリアに飛ばす。

躱せる距離ではなかった。

黒刀はレミリアの前に出ると刀で受ける。

強い衝撃が全身に伝わってくる。

 

「ぐっ!」

 

黒刀は必死に堪える。

 

「チッ、しぶてえな!」

 

男は鎖を引いて鉄球を戻し次の攻撃の準備をする。

 

「黒刀!」

 

「レミリア…時間がないから手短に言う。俺達はあいつの懐に入らないといけない…だから頼む…俺を信じてくれ。」

 

「黒刀、何を…っ!」

 

レミリアがいきなり倒れる。

 

「そいつを助けたつもりか。お前1人に何が出来る?」

 

「お前を斬れる!ここから先は俺が相手だ!」

 

黒刀が踏み込む。

 

「死ねクソガキ!」

 

男が鉄球を飛ばす。

 

「(何でか知らないけどあいつの呼吸は乱れまくりだ。)」

 

その理由は薬物で精神が不安定だからだろう。

黒刀はサイドステップして鉄球を躱すと『抜き足』を使って男の背後に回り込む。

 

「同じ手を食うかよ!俺の勝ちだ!」

 

男は体を反転させ遠心力で鉄球を振り回し黒刀を吹っ飛ばそうとする。

 

「同じじゃねえよ!」

 

黒刀が言い放ったその時、倒れていたレミリアが勢いよく起き上がった。

黒刀とレミリアは同時に突進突き攻撃をしかけた。

 

「(しまった!挟み撃ちだと1人をやってももう1人にやられる!)」

 

男が迷ったその一瞬が勝負を決めた。

レミリアの突進は予想以上に速かった。

まるで槍のリーチが伸びたのではないかと錯覚するほど。

 

「「はああああああああああああああああああああああ!」」

 

黒刀とレミリアは前後両側から男の右肩を貫いた。

 

「ぐあああああああああああああああああああああ!」

 

男が悲鳴を上げる。

黒刀とレミリアは同時に男の肩から思いっきり刃を抜く。

 

「終わりだ。その両腕じゃもう武器は使えない。そして…」

 

黒刀が言いかけたところでロンドン市警がぞろぞろと駆けつける。

駆けつけた警察官達は小学生2人が凶悪犯を倒しているという現状に驚いていたがすぐに切り替えて男の確保を始める。

意外にも男は抵抗しなかった。

武器を使えなくなり戦意が失せたか小学生に敗北したというショックが原因だろう。

警察官が黒刀達に事情聴取を行おうとしたが黒刀が後で自分が話すと言ってレミリアとフランの元へ駆け寄る。

フランが黒刀に抱きついた。

 

「私…怖かった…とっても…怖かった!」

 

フランは涙を流す。

 

「ああ、ごめんな。怖い思いをさせて。」

 

黒刀はフランの涙を指で拭う。

 

「ううん…それよりも凄かったよ!お姉様と黒刀、息ピッタリだった!」

 

「全くいきなり手刀された時は驚いたわよ!」

 

「ごめんごめん。でも気絶しない程度の強さだったろ?」

 

「まあ…。」

 

「2人とも…夫婦みたいだね!」

 

黒刀とレミリアの言い合いを見ていたフランが笑顔でそう口にした。

 

「「へ?」」

 

2人は呆気に取られた顔をする。

 

「それなら黒刀は私のお義兄様だね!」

 

フランは黒刀の胸に頬ずりする。

 

「なんだよそれ…。」

 

黒刀はそう言いながらもまんざらでもない顔をする。

 

 だがその時、レミリアは見てしまった。

 

今までで最も不幸で残酷な未来を。

それは未来の黒刀が自分とは別の誰かと結ばれる未来だった。

未来の黒刀の隣にいる人物は影になっていて誰かは分からないがそれが自分でないことだけは分かる。

意識が現実に戻る。

 

「レミリア?」

 

黒刀が心配そうにレミリアの顔を見ていた。

その時、レミリアの目から涙が零れた。

 

「こんなの…こんなのって…ないよ…。」

 

レミリアがそう口にした後、その場を走り去った。

 

「レミリア!」「お姉様!」

 

黒刀とフランが急いで追いかける。

 

 

 

 レミリアはとある丘まで走ってきた。

追いついた黒刀が歩み寄ってくる。

 

「来ないで!」

 

レミリアが強い口調で拒絶した。

 

「もう…ダメよ…黒刀とは一緒にいられない…。」

 

「どういうことだよ!なんで!」

 

黒刀も叫んで問い詰める。

当時の黒刀はレミリアが未来予知できることを知らなかった。

レミリアは言葉の代わりに翼を広げて飛び去っていく。

その時、僅かに振り向いたレミリアの目を見た黒刀は動けなかった。

レミリアの目は悲しみに満ちていた。

 

 

 

 フランがようやく追いつく。

 

「お姉様は?」

 

黒刀に訊くが黒刀は首を横に振った。

 

「お姉様…。」

 

フランが下を向く。

黒刀は来た道を戻ろうとフランの横を通り過ぎる。

 

「フラン…お前があいつを支えてやってくれ。」

 

「うん…。」

 

フランはうなずいた。

 

 

 

 レミリアは自宅に戻ってからベッドの上で泣き続けていた。

これまで見てきた未来は全て外れたことがない。

だからこそ辛いのだ。

 

 自分は幸せに生きる資格はないのか

 

 好きな人と結ばれてはいけないのか

 

そして、レミリアは確信した。

 

 未来は絶対に変えられない…誰にも




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未来王

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 8月6日 午後7時。

レミリアはティーカップを咲夜に渡すとフィールドに入っていく。

会場に歓声が響き渡る。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「やっぱり凄い人気ですね。」

 

妖夢は感心していた。

 

「9連覇している紅魔のエースだからな。」

 

黒刀が横から口を出す。

 

「黒刀、お前から見てレミリアはどれくらい強いと思う?」

 

にとりが黒刀に訊く。

 

「…俺でも勝てるかどうか分からない。」

 

「先輩が…。」

 

「それよりそろそろチルノを起こした方がいいんじゃない?」

 

霊夢がベンチに横たわっているチルノを見ながら言った。

 

「あ、普通に忘れてた。こいつ、全然起きねえな。」

 

黒刀はチルノの顔を覗き込んだ。

 

「…最強。」

 

その時、霊夢がボソッと呟いた。

 

「最強⁉」

 

するとチルノが飛び起きた。

顔を覗き込んでいた黒刀の額にゴツンとぶつかった。

 

「いって!」

 

黒刀は額を押さえる。

 

「てめ…後で覚えてろ。」

 

「?」

 

チルノは何のことか分からず首を傾げている。

 

「妖夢、こんなバカ共は放っておいていってきていいですよ。」

 

映姫が呆れ顔で言った。

 

「わ、分かりました!…先輩。」

 

妖夢が黒刀の名を呼ぶ。

 

「?」

 

黒刀は額を押さえながら振り向く。

 

「一緒に頂点の景色を見ましょう!」

 

「ああ、レミリアに勝ってこい!」

 

「はい!」

 

妖夢は大きな声で応えてフィールドに走って行った。

 

『妖夢~!』

 

すると、観客席から大きな声が響いた。

大勢の神光学園の生徒が応援に来ていた。

最前列には…

 

「幽々子様…。」

 

妖夢はその人物を見つける。

 

「妖夢~!頑張れ~!」

 

幽々子が手を振って応援してくれる。

 

「頑張れ~!」

 

小町も幽々子の隣から応援してくれている。

 

「皆…ありがとう。」

 

妖夢は皆の気持ちをしっかりと受け止めてから前を向く。

レミリアが腕を組んで待っていた。

 

「5日ぶりですね…改めて神光学園1年の魂魄妖夢です!」

 

「私は…名乗るまでもないですね。先に言っておくわ。

私は開始から14分間こちらからは攻撃しない。」

 

レミリアがそう宣言した瞬間、周囲がざわめき始めた。

 

《レミリア選手!とんでもないハンデをつけてきました~!》

 

《彼女には妖夢選手の攻撃を防ぐ絶対の自信があるのでしょう。

14分ということは残り1分でレミリア選手の攻撃が始まるということになります》

 

「黒刀先輩、これは…。」

 

大妖精が黒刀の顔を見る。

 

「実力の差を見せつける…というものもあるだろうが単純に妖夢の実力を自分の目で確かめたいんだろう。」

 

「どっちにしても只者じゃないわね…あいつ。」

 

霊夢が皮肉を口にする。

 

「ねえ、あたいの試合は?」

 

『もう終わったよ!』

 

その場にいた全員がチルノにツッコんだ。

 

 

 

 妖夢は深く息を吸ってゆっくりと吐き出す。

 

「私はそれでも構いません。どちらにしても私が攻撃することに変わりはないですから。」

 

「そう。では始めましょう!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

妖夢は二本の剣を抜いて、床を蹴ってレミリアに斬りかかった。

だが、カキンッと音を立てて妖夢の剣撃はレミリアの翼に防がれた。

 

「(硬い!)」

 

「温い。」

 

レミリアは翼で妖夢を押し返した。

 

「くっ!」

 

妖夢は踏み止まって、クロスステップでレミリアの背後に回り込み斬りかかるがそれもレミリアの翼に防がれる。

レミリアの翼はオーラで硬質化されている。

おまけに『未来王の眼』があるのでどこから攻撃しようが防御されてしまう。

 妖夢はあらゆる方向から連続攻撃をしかけるが全てレミリアに防がれてしまう。

 

「くっ!だったら…気力解放!」

 

妖夢の体を光の柱が包み込む。

さらに『楼観剣』に金色のオーラが宿る。

 

「閃光斬撃波!」

 

これなら防御は関係ない。

金色の光の斬撃がレミリアに迫る。

だが、レミリアは左手で受け止めるとそれを握りつぶした。

 

「なっ!」

 

「ふ~ん。見ていたとはいえこの技…そこまでじゃないわね。」

 

レミリアはそう言い切った。

 

「どう…やって?」

 

「防御するほど強くなるならその前に潰せばいいだけのことよ。」

 

レミリアはそんなことを当たり前のように言った。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

 

「これが『未来王』レミリア・スカーレットの力…。」

 

霊夢が呟いた。

 

「いや、あいつの力はこんなものじゃない。姫姉、開始からどれくらい経った?」

 

「ちょうど5分。」

 

「あと9分か…。」

 

 

 

 妖夢は『白楼剣』を鞘に納めて『楼観剣』を両手で握った。

 

「断名剣 冥想斬!」

 

『楼観剣』に気力を注ぎ込んで巨大な光の剣として振り下ろす。

 

「はあっ!」

 

気合いと共に振り下ろした妖夢に対して、レミリアはため息を吐いた。

 

「まだ分からないようね。」

 

レミリアは巨大な光の剣を左手の親指、人差し指、中指でつまむように止める。

そのまま恐るべきパワーで振り回して妖夢を剣ごと投げ飛ばす。

投げ飛ばされた妖夢は壁に叩きつけられる。

 

「ぐあっ!」

 

妖夢は痛みを感じながらも立ち上がり鞘から『白楼剣』を抜いて駆ける。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

レミリアは翼を前に出して妖夢の剣技を防ぐ。

さらに翼で払うように妖夢を押し返す。

 

「あと6分。」

 

レミリアは口にする。

妖夢はそれがレミリアが攻撃を開始するまでの時間だと理解する。

 

「(こうなったら連続剣技だ!)」

 

妖夢は『閃光斬撃波』を放つ。

それをレミリアが握りつぶす。

その直後、妖夢は『妄執剣 修羅の血 弐式』で斬り込む。

それも翼で防がれる。

押し返されそうになった瞬間を狙って『空観剣 六根清浄斬』を無理やり繰り出すがレミリアはそれをつまむように止める。

 

「この程度の相手をあいつは私にさせているということ?」

 

あと4分。

 

「これなら去年の犬走椛の方がマシだわ。」

 

レミリアにマシと言われたことに椛は気にしないわけではない。

 

 

 

 紅魔学園代表ベンチ。

 

「レミリアはいつまで遊んでいるんだ?もうあいつの実力は分かっただろ?」

 

天子が愚痴る。

 

「お嬢様は自身の言葉を曲げることはありません。」

 

「きっかり14分間、防御し続けるってことか…でも見てる方は退屈だろうな。」

 

天子の言葉に諏訪子が口を開く。

 

「多分レミリアは今そうとう苛ついているよ。黒刀と闘うはずだったのに最もオーラ量の少ない妖夢と闘うハメになっているからね。レミリア相手にオーラの差がついたら終わりだからね。」

 

「あと2分だよ♪」

 

フランが楽しそうにカウントした。

 

 

 

 「(一か八か!)」

 

妖夢は右足にオーラを溜めて一気に放出してレミリアの懐に潜り込む。

『楼観剣』で斬り上げて首を狙ったがレミリアの首はオーラで覆われていた。

 

「(これは先輩が椛さんと闘った時にやっていたオーラでの防御!)」

 

「分かったでしょ?あなたの攻撃は最初から私に届くことはなかったのよ。

たとえ私が棒立ちでもね。…頭が高い!」

 

レミリアがそう言い放った瞬間、妖夢はとてつもない威圧感を感じた。

この至近距離では恐怖感さえ感じる。

 

「時間よ。」

 

レミリアが口にした。

ついに試合開始から14分経過してしまったのだ。

 

「『グングニル』!」

 

レミリアがそう詠唱して右手に現れたのは赤い電光を纏った赤いオーラの槍だった。

妖夢はバックステップして距離を取る。

 

「あなたのこれまでの攻撃と私の攻撃…どちらが上かしらね。」

 

レミリアが右足を踏み込んだ瞬間、一瞬で妖夢の眼前に移動した。

 

「(速い!)」

 

「沈みなさい。」

 

レミリアが突きを放つ。

妖夢は二本の剣を交差して受けるがあっさりと吹っ飛ばされてしまった。

妖夢が壁に叩きつけられて瓦礫が転がる。

 

「今のがあなたが今まで出した攻撃の総力と同じくらいの一撃よ。」

 

「桁が違い過ぎる!」

 

大妖精はレミリアの圧倒的な力に戦慄した。

 

《タイムアップ。第1ラウンド終了》

 

「第2ラウンドは最初から攻撃してあげるわ。耐えられればいいわね。」

 

レミリアはそう言い残してベンチに戻って行く。

妖夢もボロボロの状態でベンチに戻って行くのだった。




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未来を切り開く光

OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



 剣舞祭団体戦決勝戦大将戦第1ラウンドが終了して妖夢がベンチに戻ってきた。

 

「妖夢、すぐに治癒魔法をかけるね。」

 

大妖精が駆け寄って妖夢に治癒魔法をかける。

妖夢がベンチに座って休息を取っている。

 

「妖夢、恐らくレミリアには1つだけ弱点がある。」

 

そんな妖夢に黒刀が腕組みして立ちながら声をかける。

 

「弱点?」

 

「体格差だ。上段から叩き込めば可能性はある。」

 

「でもさっきはダメだったぞ!」

 

チルノが腕をブンブンと振って否定する。

 

「さっきの『断名剣 冥想斬』はリーチを伸ばして攻撃したものだ。

そうではなくクロスレンジで重心をのせて叩き込まないとダメだ。」

 

「はい、やってみます!」

 

黒刀のアドバイスに妖夢が強く応える。

 

「はい、治癒魔法は終わったよ。」

 

大妖精が治癒魔法を解いて離れる。

 

「ありがとう。それではいってきます!」

 

妖夢は気合いを入れ直して再度、フィールドに入って行く。

 

 

 

 レミリアは疑問を抱いていた。

 

「(何故彼女は諦めない?力の差は歴然…にも関わらず…でも、それもこれまで。私には見えている。あなたが私の前に倒れる未来が。)」

 

レミリアはそこまで考えてゆっくりとベンチから腰を上げた。

 

 未来は変わらない これは決まっていることだ

 

 

 

 妖夢とレミリアがフィールドに揃った。

 

《さあ、泣いても笑ってもこれが最後の15分!勝つのは紅魔学園か?それとも神光学園か?》

 

《第1ラウンドを見た限りでは妖夢選手が勝つ可能性はかなり低いですね。ここまで勝ち上がってきた剣技も全てレミリア選手にことごとく防がれています》

 

妖夢は二本の剣を鞘から振り抜く。

レミリアは『グングニル』を出現させて右手で握りしめる。

 

《3…2…1…0.第2ラウンドスタート》

 

レミリアは翼を広げると浮遊して上昇する。

 

「どうやらあなたはあの男同様、諦めが悪いようだから私も本気であなたを潰すことにするわ。…魔力解放!」

 

レミリアが冷淡に詠唱するとその魔力が高まった。

先程の魔力とは比べ物にならない。

さらに続けてこう詠唱した。

 

「パーソナルフィールド展開!スカーレット!」

 

それは妖夢が初めて耳にする単語だった。

デュエルフィールドの1㎜内側に新たな結界が展開されていく。

加えてフィールドの半分を占める真っ赤な館が出現する。

さらに空を見上げると月が…紅くなっていた。

 

 

 

 神光学園代表ベンチ。

これにはさすがの黒刀も口を開いて驚愕していた。

 

「あいつ、ここまで力をつけていたのか…。」

 

「パーソナルフィールドって何だ?」

 

チルノが横から質問する。

それににとりが答える。

 

「簡単に言うと固有結界だ。自分にとって闘いやすいフィールドを作ることだ。」

 

「すげえ!」

 

チルノは目を輝かせていた。

 

「しかし、パーソナルフィールドを展開するためには強固なイメージ力が必要となる。」

 

にとりはそう補足した。

 

「俺もパーソナルフィールドは使えない…まだそこまでのイメージがないからな。」

 

黒刀は悔しそうに口元を歪ませていた。

その言葉に大妖精が驚く。

 

「黒刀先輩でもできないことをあのレミリアさんは…。」

 

「それだけの意志力とイメージ力があり、血のにじむような努力をしてきたんだろうな。あいつは天才じゃない…努力してここまで強くなったんだ。妖夢…どうやらそいつは俺の想像を超えるほど強くなってしまったらしい。その壁は越えられるか?」

 

黒刀は問いかけるように妖夢の背中を見つめた。

 

 

 

 

「(月が紅い…多分あの結界が月を紅く見せているんだ。…感じる…これが解放状態のレミリアさんの魔力…。)」

 

妖夢は上空に浮遊するレミリアを見上げる。

レミリアから放たれる魔力はまるで重力が強化されたと錯覚する程の重圧感を感じた。

それでも妖夢は構え続けた。

その妖夢をレミリアは見下ろす。

 

「それでいい。解放状態を維持し続けなさい。でなければ…一瞬で終わってしまうから!」

 

レミリアがそう言い放つとその頭上に魔法陣が展開されそこから二宮優の『ディメンションレーザー』と同じくらいの数の紅い魔法弾の弾幕が妖夢に降り注がれる。

妖夢はハイジャンプして魔法弾の上を越えようとするとそれを阻むようにレミリアが上から『グングニル』を振り下ろす。

妖夢は二本の剣を交差して防御の体勢を取るがレミリアのパワーは第1ラウンドの時とは比べ物にならないものだった。

妖夢は上から床に叩き落とされる。

床にクレーターが1つ出来た。

 

「これで終わりよ!」

 

魔法弾の弾幕が『グングニル』に集束していく。

その『グングニル』が徐々に巨大化していく。

 

「スピア・ザ・グングニル!」

 

レミリアは床でなんとか立ち上がった妖夢に向けてその槍を撃ち放った。

それに対して妖夢はボロボロの体を必死に動かす。

 

「閃光…斬撃波!」

 

妖夢は気力を集束して金色の光の斬撃を放つ。

『閃光斬撃波』と『スピア・ザ・グングニル』が激突し火花を散らす。

だが拮抗は一瞬で無くなり『スピア・ザ・グングニル』が『閃光斬撃波』を撃ち破りそのまま妖夢に降り注いでいく。

 

「ぐっ…ああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

妖夢は悲鳴を上げて前のめりに倒れる。

 

《妖夢選手、ここでダウン!》

 

文の実況の声が響く。

そしてカウントが始まる。

 

《1…2…3…》

 

「妖夢…。」

 

幽々子が祈るように手を組む。

 

《4…5…6…》

 

「どうやらここまでのようだね。」

 

諏訪子がフッと勝ち誇った顔をする。

 

《7…》

 

「立って妖夢!」

 

「立てよ妖夢!」

 

「お願い…立って!」

 

「立ちなさい!」

 

「立つんだ!」

 

霊夢、チルノ、大妖精、映姫、にとりが順に妖夢を奮い立たせようと声援を飛ばす。

そして、黒刀も…

 

「妖夢…その手にまだ剣を握っているなら…立て!」

 

《8…》

 

「(立たなきゃ…でも…体が動かない…あれ…前にもこんなことがあったような…そうだ…1回戦の時も…こんなふうに…負けたんだ…ダメだ…何か……何かが必要なんだ…力が…ううん…もっと大切な…)」

 

妖夢が意識を朦朧とさせながら考えていたその時。

神光学園代表ベンチのベンチルームのドアが開いた。

入ってきた人物は黒刀達の前に出ると一番前にある手すりを握りしめた。

 

「っ!…たぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ妖夢ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

喉が裂けるくらい力いっぱい叫んだその人物とは………魔理沙だった。

 

「!」

 

妖夢は何か特別な力に突き動かされるように手をつき、膝をつき、腰を徐々に上げていく。

 

《9…》

 

そのカウントをした時には妖夢は完全に立ち上がっていた。

 

「魔理沙…あんた…。」

 

霊夢が目を見開いて横に立つ魔理沙を見つめる。

魔理沙はフィールドを見つめたまま。

 

「私…ほんとはすっごく悔しかった…でも今、妖夢が全力で闘っているのに私がいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない!今の私に出来ることは全力で妖夢を応援することだけだ!」

 

魔理沙の決意を聞いた霊夢は優しい顔になる。

 

「(魔理沙…そう思えるだけでもあんたは強いわよ。)」

 

 

 

 レミリアは驚いていた。

 

「どうして…何故立つ…こんな…こんな未来は無かった…未来は決まっていた…なのに…何故!」

 

レミリアは下にいる妖夢を睨みつけて叫んだ。

 

「…分かったんです…私にとって最強とは己の剣技じゃない…皆と共に築き上げてきた絆なんだって!」

 

妖夢は自信を持ってそう言い放った。

 

「絆?」

 

レミリアは目を細める。

 

「仲間とだけじゃない…闘った相手との間にも絆は出来たんです。だからこそ私はここまで来れた。」

 

「それが未来を変える程の力があると?」

 

レミリアは怒りを潜めた口調で言い返した。

 

「未来は決めるものじゃない…未来は自分の手で切り開くものです!」

 

妖夢はそう言い放った。

それを聞いたレミリアは怒りで肩を震わせた。

 

「未来を切り開くですって…随分と簡単に言うわね…そんなことはどうあがいたって…出来ないのよ!」

 

レミリアは激怒を露わにして言い放った。

一瞬、7年前にベッドの上で泣きじゃくる自分の姿が脳裏をよぎった。

そんなレミリアに妖夢は言い返す。

 

「そんなことはありません。だって絆は私の背中を押してくれるから!」

 

その時、妖夢のオーラに異変が起きた。

剣に纏うオーラが全身に流れていく。

そして、妖夢の全身のオーラは金色となった。

 

「金色の…『ゾーン』…。」

 

黒刀は思わず言葉を漏らしていた。

妖夢は全身のオーラを見る。

 

「凄い…溢れてくる…感じる…絆を。」

 

妖夢が上空にいるレミリアを見上げた次の瞬間、その場から消えた。

ハイジャンプとクロスステップの合わせ技である。

レミリアの眼前から消えた妖夢はレミリアの真上に移動していた。

 

「っ!」

 

レミリアは振り向くと同時に『グングニル』を横薙ぎに振った。

妖夢は二本の剣を振り下ろした。

二本の剣と『グングニル』がぶつかり合う。

レミリアはある異変に驚いた。

 

「(どういうこと…私が押されている?こんな奴に…。)」

 

レミリアも自分の体格が弱点であることは自覚していた。

しかし、これまでも圧倒的なオーラと力であらゆる敵を倒してきた。

今までも上のポジションを取られたことはあったがそれでもなお力で勝った。

だが今、レミリアは力で押し負けていた。

 

「(まさか…この金色のオーラが未来に影響を与えているというの?)

あり得ない…そんなことが…あってなるものか!」

 

レミリアは押し負けまいと叫んで耐える。

 

「(お願い…もうちょっとだけ…頑張って!)」

 

妖夢が二本の剣に祈ると金色のオーラが輝きを増す。

 

「はあああああ!はあっ!」

 

妖夢は二本の剣を振り抜いた。

完全に押し負けたレミリアは真っ赤な館の屋上に叩き落とされる。

その館に亀裂が入っていく。

レミリアはすぐに体勢を立て直すと飛翔して妖夢に突きを放つ。

妖夢は鋭い突きを紙一重で躱して、『楼観剣』を水平に振ってついにレミリアに一太刀浴びせた。

 

「くっ!この!」

 

レミリアはダメージに耐えてさらに上昇すると上から魔法弾の弾幕を雨のように放つ。

妖夢は構えると降り注ぐと魔法弾の弾幕をコンマ数秒のズレもなく連続で切り裂いていく。

床に着地すると二本の剣を鞘に納めて両手を祈るように組んだ。

すると真っ赤な館が徐々に形を失っていき、紅い月を映していた結界にも亀裂が入っていく。

レミリアは気づいた。

 

「まさか…あいつも!」

 

「妖夢、お前…まさか!」

 

それは黒刀も同じ反応だった。

妖夢は祈ったまま詠唱した。

 

「パーソナルフィールド展開!ソメイヨシノ!」

 

妖夢の詠唱と共にレミリアのパーソナルフィールドが完全に崩壊してさらに新たなパーソナルフィールドが展開していく。

それはなんとも幻想的で美しいフィールドだった。

フィールドの床全体に桃色の花畑が広がり、月は結界で半月を映し、なによりも目を引くのが綺麗な………桜だった。

その光景に大勢の人々が心を奪われた。

妖夢は祈りの構えを解いて二本の剣を鞘から抜く。

すると、桜の花びらが妖夢の剣に渦巻いていく。

そのまま上段に構えると桜の花びらが竜巻を起こしながら巨大な剣の形を作り出す。

 

「桜花剣 夜桜!」

 

妖夢は二本の剣を重ね合わせて振り落とした。

この時、レミリアは回避することが出来たはずだ。

だがそんなことはプライドが許さなかった。

ここまでやられてその上逃げるようなことをすれば自分を保てなくなる。

そんな気さえした。

レミリアは魔力を『グングニル』に集束させて突きを放った。

 

「スピア・ザ・グングニル!」

 

紅き槍と桜の剣が真っ向からぶつかり合った。

だが妖夢の剣技は今までの剣技を遥かに超える威力だった。

 

「くっ!なんて重さ…。」

 

レミリアが徐々に押されていく。

 

「はああああああああああああああああああああああ!」

 

妖夢は吠えながらさらに力を込めた。

そして『スピア・ザ・グングニル』は『桜花剣 夜桜』に打ち砕かれた。

巨大な桜の剣がレミリアを斬った。

 

「ぐあっ!」

 

レミリアの体が地上に墜落していく。

レミリアはその前に空中で受け身を取る。

妖夢が静かに目を閉じると花畑の花びらが舞って足場となり妖夢を空中に運んでいく。

そのままレミリアに迫りながら二本の剣を重ね合わせる。

すると、渦巻く桜の花びらの色が金色に変わる。

 

「もう…技はない…ならば全てのオーラを一点に!」

 

レミリアは『グングニル』に全ての魔力を集束させる。

『グングニル』の紅い輝きが増していく。

それに対抗するように妖夢の金色のオーラも輝きを増していく。

 

「「これで決める!」」

 

レミリアは渾身の突きを放つ。

妖夢が繰り出した剣技は…

 

「閃光斬撃波ァァァァァァァ!」

 

これまで幾度もレミリアに防がれた剣技だった。

レミリアは金色の光を放つ斬撃に突っ込んでいく。

レミリアの突進突きと妖夢の『閃光斬撃波』が激突する。

 

「はあああああああああああああああああああああああああ!」

 

妖夢は気合いの声を上げた。

 

『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

黒刀、映姫、にとり、チルノ、霊夢、大妖精、魔理沙、幽々子、小町、椛、そして神光学園の生徒達が叫んだ。

 

「これが…皆との…絆の力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

妖夢の叫びに呼応するかのように『閃光斬撃波』の威力が上昇していく。

 

「くっ、ここで負けてたまるのものですか!」

 

レミリアは最後の一滴まで力を振り絞る。

この時、レミリアは紅魔学園に入学してからも感じることのなかった敗北に対しての恐怖と勝利への執念を抱いていた。

そして、レミリアの『グングニル』の刃先がパキンッと音を立てて折れた。

 

「はっ…。」

 

レミリアが声を漏らすのも束の間、金色の光の斬撃がレミリアの飲み込んでいく。

レミリアは確かな敗北を感じながらもこんなことを考えていた。

 

 

 

 もしも…あの時…黒刀の手を取っていたら…未来は…変わっていたのかしら…

 

 

 

 レミリアは僅かに微笑むと吹っ飛ばされそのまま床に墜落した。

最後にこう口にしていた。

 

「…私の…負けね…。」

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 魂魄妖夢》

 

勝利を知らせる機械音声が響いても会場は5秒ほど沈黙に包まれていた。

そして…

割れんばかりの大歓声が会場全体に響いた。

 

《勝ったのは…妖夢選手~!第10回剣舞祭団体戦の優勝校は…神光学園だぁぁぁぁぁぁぁぁl!》

 

《私…なんだか…泣けてきました…》

 

神光学園の生徒達は歓喜のあまりお互いに抱き合っていた。

 

「良かったわね…紫。」

 

そう口にして永琳が紫を見ると紫の目からは涙が流れていた。

 

「ええ…ほんとに…凄い生徒ですよ…あの子達は…。」

 

紫はハンカチで涙を拭く。

 

 

 

 妖夢は現実感が沸かないのか二本の剣を床に落としてその場に立ち尽くしていた。

金色のオーラは既に消えていた。

そこへ…

 

「妖夢ぅぅぅ!」

 

魔理沙がベンチから出て来て妖夢に抱きついた。

 

「やったぞ!妖夢!勝ったんだ!優勝だ!お前のおかげだ!」

 

魔理沙は涙を流していた。

霊夢達も駆け寄ってくる。

 

「まったく…泣き虫ね…魔理沙は…。」

 

そう口にする霊夢も涙を流していた。

 

「凄かったぞ!妖夢!」

 

チルノも二カッと笑ったまま涙を流していた。

 

「ほんと…無茶し過ぎなんですよ…妖夢は。」

 

大妖精も涙を指で拭っていた。

そして、ゆっくりと近づいてくるもう1つの足音に妖夢は気づく。

黒刀が妖夢の前まで来ると魔理沙は妖夢から体を離す。

すると、黒刀が妖夢を抱きしめた。

 

「へ?」

 

「本当に…よく頑張った…信じていた…お前なら…きっと…勝つって。」

 

黒刀は妖夢の肩に顎を置いてそう言葉をかけた。

 

「私達…勝ったんですね?…夢じゃ…ないんですよね?」

 

「夢だと思うか?なら見てみろ。」

 

黒刀は妖夢から体を離すと会場の観客席に見渡して左手で妖夢の右手を握る。

 

「お前が見せてくれた…頂点の景色だ!」

 

妖夢が黒刀と同じように観客席を見渡すとそこに映っていたのは立ち上がって拍手をして歓声を響かせる観客達の眩しい姿だった。

 

「これが…頂点の景色…。」

 

「ああ…そうだ…でもよ…これ…視界がぼやけて…全然…見えねえや…。」

 

黒刀の目からは涙が溢れていた。

 

「ふふ…はい!」

 

そう返す妖夢も眩しい笑顔で涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2210年第10回剣舞祭 団体戦優勝 奈良県代表 神光学園




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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焼肉

OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



 表彰式。

表彰台には内閣総理大臣の一ノ瀬太陽が立っていた。

 

「準優勝!東東京代表 紅魔学園!」

 

「はい!」

 

呼ばれてレミリアが表彰台に上がる。

2位のトロフィーと賞状を受け取り礼をしてから表彰台を降りる。

 

「優勝!奈良県代表 神光学園!」

 

「ほら。」

 

黒刀が妖夢の手を引く。

 

「え、キャプテンは先輩のはずじゃ…」

 

「いいから行ってこい。」

 

黒刀は妖夢の背中を押して前に生かせる。

妖夢は少しこけそうになったがなんとかこらえて表彰台に上がる。

 

「おめでとう。」

 

一言、一ノ瀬から賞賛の言葉をもらってから優勝トロフィーと賞状を受け取る。

 

「ありがとうございます!って重っ!」

 

優勝トロフィーを腕に抱えると表彰台から降りて持ち上げようとするが重すぎて上手く持ち上がらない。

 

「フッ、ったく最後まで締まらねえ奴だな。」

 

黒刀はやれやれと妖夢の元へ歩み寄ると優勝トロフィーを持ち上げる。

黒刀と妖夢は優勝トロフィーを高く掲げる。

観客が拍手と歓声を響かせた。

 

「「「あ~ずるい!」」」

 

チルノ、霊夢、魔理沙が黒刀達に駆け寄り一緒に優勝トロフィーを持つ。

 

 こうして第10回剣舞祭団体戦は幕を閉じた。

 

 

 

 午後9時。

妖夢が控室で荷物をまとめているといつの間にか皆どこかへ行ってしまったようでどうしたものか悩んでいるとちょうど黒刀がトイレから戻ってきた。

 

「先輩!」

 

妖夢が嬉しそうに呼ぶ。

 

「わりぃ。」

 

「先輩、皆いないんですけどどこへ行ったんですか?携帯で呼びかけても応答しないですし。」

 

「それはこれから分かるよ。」

 

黒刀が妖夢の手を引く。

 

「え、一体何ですか?」

 

「いいからいいから。」

 

黒刀は笑顔で妖夢を連れて東京デュエルアリーナを出て行く。

市街地を歩いていくとある店の前にたどり着く。

そこは…

 

「焼肉屋?」

 

「入っていいぞ。」

 

黒刀は妖夢の背中を押す。

 

「はあ…。」

 

妖夢は訳が分からず焼き肉屋に入るとクラッカーの破裂音が響いた。

 

「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」

 

霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精、映姫が揃って祝いの言葉をあげた。

 

「え?」

 

妖夢がポカーンとしていると黒刀が後ろから妖夢の肩に手を置く。

 

「今日は妖夢の誕生日だろ。だから皆で祝おうって前から決めていたんだ。」

 

「全然気づきませんでした。」

 

「サプライズだからバレないからヒヤヒヤしたわ。」

 

ホッと息をつく霊夢。

 

「ここの焼き肉屋も今日の為に黒刀が貸し切りにしたんですよ。」

 

そう口にして微笑む映姫。

 

「先輩が…。」

 

妖夢が黒刀の顔を見る。

 

「可愛い後輩の為だからな。」

 

「先輩…皆…ありがとう!私…ずっと…誕生日を友達とかに祝ってもらったことってなかったから凄く嬉しい!」

 

「それじゃ主役はさっさと座る。」

 

黒刀が楽しそうに妖夢の背中を押す。

しかし、妖夢を席に座らせようとしたところに…店の外から、

 

「あれ~貸し切りって書いてあるじゃん。」

 

「本当ね。」

 

誰かの声が聞こえた。

 

「(全然気づかなった。)」

 

妖夢は貸し切りの看板があったことに全く気付いていなかった。

 

「帰るか。」

 

「何言ってんの!私は腹ペコなのよ!ちょっと店長に直談判してくる!」

 

ガラガラと引き戸を開けて入ってきたのは七瀬愛美達首里高校の代表メンバーだった。

 

「げっ!」

 

黒刀が顔を引きつらせる。

 

「ちょっと何よ、今のげっ!、は!」

 

愛美が頬を膨らまして文句を言う。

 

「別に~。それよりこの焼き肉屋は俺が乗っ取ったから帰れ。」

 

黒刀は右手でシッシッと帰らせようとする。

 

「「「「「「(貸し切りって言ってなかったっけ?)」」」」」」

 

妖夢達は心の内でツッコむ。

妹紅が愛美の肩に手を置く。

 

「だってよ。他の店を探そうぜ。」

 

「冗談じゃないわ!このまま引き下がれる訳ないでしょ!」

 

愛美は妹紅の手を振り払う。

 

「おいおい、ルールは守れよ。」

 

黒刀は勝ち誇った顔をする。

 

『(お前が言うな!)』

 

その場の全員が心の内でツッコんだ。

その時、またもや外から…

 

「なんだ貸し切りか…他行くか。」

 

「待って!ここにきっといます!()()()が!」

 

また声が聞こえた。

 

「この声は…まさか!」

 

黒刀は嫌な予感を感じた。

開けっ放しの入り口から入ってきたのは白金真冬達白雪高校の代表メンバーだった。

 

「やっぱりか!」

 

「あっ、やっぱりいた!黒刀く~ん!」

 

真冬は黒刀に抱きつこうとして来た。

 

「うわ、来るな~!」

 

黒刀は真冬の額を右手で抑えて阻む。

 

「真冬、ここは貸し切りだから退散するよ。」

 

「光の言う通りです。」

 

光の正論に雪村が合わせる。

 

「いたのか眼鏡。」

 

「いましたよ!」

 

黒刀の言葉に雪村は思わずツッコんだ。

 

「ちょっとこっちも忘れないでよ!」

 

愛美が横から怒鳴る。

 

「うるせえ!」

 

黒刀が怒鳴り返す。

さらに…

 

「あれ…仁先輩、貸し切りだって!」

 

「あ?知るか。入るぞ。」

 

次に焼き肉屋に入ってきたのは越山流星と六道仁の2人だった。

 

「あら負け犬の仁じゃない。」

 

愛美が挑発する。

 

「おい、誰が負け犬だって?」

 

「あなたのことよ。」

 

「てめえ、表へ出ろ!」

 

「お前ら全員出ろ!」

 

黒刀が怒鳴る。

さらに…

 

「あれ?優、貸し切りだって!」

 

「ほう?誰だ…俺より偉そうにしている奴は。」

 

そう入ってきたのは二宮優率いる仙台高校の代表メンバーだった。

 

「お前もか!」

 

「あっ、妖夢ちゃんだ~!」

 

花蓮が妖夢に抱きつく。

 

「くっ…九条さん…苦しいです…。」

 

「あ、ごめんね。」

 

花蓮が抱擁を解く。

 

「大体、優は高級レストランでも行けばいいだろうが!」

 

「花蓮がこっちの方が面白そうって言うから来たらこうなった。」

 

「女の勘よ!」

 

黒刀と優の会話に花蓮は悪びれもなく言い切った。

さらに…

 

「俊介、焼肉やて!」

 

「何!ほんならこの焼肉マンが行かんとな!」

 

「プハハ!なんやそのダサいネーミング!」

 

店に入ってきたのは大門金次達王龍寺高校の代表メンバーだった。

 

「お、ヨキやんか!」

 

「はあ…。」

 

黒刀は金次の登場に調子が狂った。

そこで魔理沙は気づく。

 

「待てよ…これで()()()()が来たらコンプリートだぜ?」

 

「いや…さすがにあいつらがこんな焼き肉屋に来ないでしょ。」

 

霊夢は魔理沙の推測を否定する。

 

「いや…来る!」

 

黒刀は何かを感じた。

 

『え?』

 

全員が声を上げた直後、入り口の方から黒刀に向かってダイブしてくる者がいた。

 

「センパイぃぃぃ!」

 

その正体は早苗だった。

 

「やっぱり来やがった!」

 

黒刀はダイブしてきた早苗をチョップで落とす。

 

「あ、痛っ!」

 

さらに…

 

「全く…早苗。いきなり走り出したと思ったらこんなところに…。」

 

店に入ってきたのはレミリア達紅魔学園の代表メンバーだった。

 

『(コンプリート~!)』

 

この時、全員の考えがシンクロした。

 

 

 

 そして…

 

「ったく…お前ら、同席出来るのは主役の妖夢の許可のおかげなんだからな。」

 

「先輩…それは構わないんですけどこの組み合わせは…。」

 

「仕方ないだろ。魔理沙達に仕組まれたんだから。」

 

黒刀と妖夢が座っているのは6人のテーブル席で黒刀の右隣に妖夢、左隣に映姫、黒刀の向かい側の中央にレミリアが座り、その右隣に天子、左隣に優が座っていた。

ちなみに咲夜はレミリアの背後に立っている。

この組み合わせにしたのは霊夢、魔理沙、花蓮、フランの仕業だった。

 

「あいつら絶対何か企んでいるだろ。」

 

黒刀は文句を言いながら肉を頬張る。

霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精は別のテーブル席から黒刀達を眺めていた。

 

「やっぱハンパねえぜ。あのメンツ!」

 

魔理沙がテンション上げて盛り上がる。

 

「いやもう妖夢なんか小動物みたいに震えるじゃない!」

 

霊夢が妖夢を可哀そうな目で見ていた。

 

 

 

 

「ってか優とレミリアはこんな庶民的な店は来ないだろ?」

 

黒刀は肉をつつきながらジト目を2人に向ける。

 

「俺は花蓮がここで食べると言っているからな。」

 

「私はフランがここで食べたいって言うから。」

 

「お前ら、自主性ゼロか!」

 

「まあまあ先輩、私は気にしていませんだから。」

 

妖夢はなんとか黒刀をなだめていた。

 

「はあ…まあ…レミリアなんかは食べた方がいいな。明らかに成長していないからな。」

 

ピキッ。

 

「成長してるわよ!ちゃんと!」

 

黒刀の嘲笑にレミリアがキレた。

 

「それで?」

 

「あんたね~。」

 

「レミリア先輩!大丈夫ですよ!センパイはAAAカップからFカップまで許容範囲ですから!」

 

すると別のテーブル席から早苗が爆弾発言を飛ばしてきた。

 

『は?』

 

全員が呆気に取られていると黒刀が立ち上がる。

 

「早苗。」

 

名前を呼んで早苗に近づく。

 

「なんですか!愛の告白ですか!」

 

「だと思うか?」

 

黒刀の目は冷たかった。

 

ゴンッ。

 

黒刀のゲンコツが早苗の脳天に直撃する。

 

「あ、いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

早苗は悲鳴を上げた。

 

 

 

 肉を食べていたレミリアは箸を置く。

 

「私、個人戦出ないから。代理登録してあるフランに出させるわ。今日の妖夢との試合で満足したから。」

 

「…まあ、俺も今日はお前との試合を避けたからな。でもたとえお前が出ようがフランが出ようが勝つのは俺だ。」

 

レミリアの考えに対して黒刀は断言する。

 

「そう簡単に勝てるとは思わないことね。」

 

レミリアがフッと笑って返す。

 

「あ、私も辞退しますよ。黒刀君とも闘えましたし、代理に光が出ます!」

 

黒刀達の会話を聞いていた真冬が別のテーブル席から声を上げた。

 

「おいおい、ナンバーズ大戦争でも勃発させるつもりか?」

 

黒刀が肉を頬張りながら冗談を口にした。

これで個人戦には二宮、四季、五位堂、六道、七瀬のナンバーズが出場することとなった。

個人戦には全国から50人の強豪が集結する。

まさに武闘派ナンバーズの全面戦争だ。

 

 

 

 一方、にとり達大人グループは居酒屋で酒を飲んでいた。

メンバーはにとり、紫、神奈子、幽々子、永琳、神子、桜だった。

 

『え、神子さんってまだ30歳だったの!』

 

一同が驚いたのはその事実だった。

 

「なんか悟りを開いたような存在感を示すからもっと上なのかと思っていたわ。」

 

「あはは、よく言われます…。」

 

神奈子の言葉に神子は苦笑する。

 

「人は見かけによらないですね。」

 

桜はつまみを頬張りながら言った。

 

『(あなたが言うな。)』

 

全員が心の内でツッコんだ。

 

 

 

 戻って黒刀達の方はというと………早苗が黒刀に肉を食べさせようとしていた。

 

「センパ~イ♪ほらあ~ん♪」

 

「いいよ!自分で食うから!」

 

黒刀が抵抗していたその時。

 

「じゃあ私が食べさせてあげようかな♪」

 

黒刀と妖夢の間に突然現れて黒刀の右腕に抱きついた洩矢諏訪子。

 

「諏訪子!あんた、居酒屋で飲んでたんじゃないのかよ!」

 

「つまらないからこっち来ちゃった♪」

 

黒刀の怒号に諏訪子はウインクして返した。

 

「ちょっと諏訪子様!センパイは私が食べさせてあげるんですから!」

 

「え~。」

 

諏訪子はジト目になる。

そこへ…

 

「ちょっと私も黒刀君に食べさせるんだから!」

 

真冬が黒刀達のテーブル席に近づいてきた。

 

「だから俺は自分で食えるって言ってんだろうが!あと、諏訪子は俺の右腕にオーラを注入して動きを止めるのはやめろ!」

 

「え~楽しいよ?」

 

「答えになってねえ!…っ!」

 

その時、黒刀は突き刺さる視線を感じた。

恐ろしくて振り向くことは出来ないが明らかにだが静かに映姫が黒刀を睨みつけていた。

 

「お前ら…マジで離れろ…姫姉がキレそうだ。」

 

黒刀の忠告に映姫の恐ろしさを知っている3人はすぐさま黒刀から離れて自分達の席に戻った。

諏訪子は早苗のいるテーブル席で一緒に肉を頬張っている。

 

「はあ…。」

 

黒刀はため息を吐いた。

 

「先輩、大変そうですね。」

 

妖夢が焼き上がった肉を黒刀の取り皿に分ける。

 

「大丈夫だ。それより優、お前は個人戦に出るんだよな?」

 

「ああ。」

 

「ならまた闘えるかもな。」

 

黒刀は嬉しそうに笑った。

 

「同じように勝てると思うなよ。俺は常に進化する男だからな。」

 

「なおさら燃えてくるじゃん。」

 

その時、レミリアが口を開く。

 

「ところで黒刀、中堅戦が終わった後に咲夜と何か話していたようだけど何を話していたのかしら?」

 

「あ~あれか…神光学園が勝ったら咲夜の料理レシピから1つ教えてもらうってことと紅魔学園が勝ったらお前と結婚しろだって。」

 

『はあ⁉』

 

黒刀と咲夜以外の全員が驚いた。

 

「ちょっと咲夜!どういうこと!」

 

レミリアが咲夜に振り返る。

 

「どうもこうもお嬢様がいつまでも…」

 

咲夜は口元に手を当てながら目を逸らした。

 

「あり得ないから!」

 

レミリアは断言した。

すると咲夜は何かを思い出したような素振りをする。

 

「そういえば言い忘れていました。黒刀様、あの時は手を貸していただいてありがとうございました。」

 

咲夜は試合直後に黒刀に手を貸してもらい立ち上がらせてもらったことを今更になって礼を言う。

 

「いえ…俺も美人メイドに触れられてラッキーでしたよ!」

 

黒刀は笑顔でそう口にした。

 

「「ふん!」」

 

その時、映姫が黒刀の脇腹に肘打ちを、レミリアが黒刀の脛を蹴った。

黒刀は痛みで声を上げられなかった。

 

「ねえ…私が個人戦でお義兄様に勝ったら私と結婚してよ!」

 

突然、フランがすり寄ってきてそんなことを言い出した。

 

「俺が?フランと?」

 

黒刀はフランの目を見る。

その目には確かな自信があった。

 

「勝てたらな。」

 

黒刀はただ一言。

 

「やった♪」

 

フランは喜びの声を上げた。

 

「なんかおかしな展開になってきた…。」

 

妖夢は話に介入できなかった。

 

 

 

 妖夢の誕生日パーティーは波乱を残して終えた。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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魔女vs破壊王

OP5 対魔導学園35試験小隊 Embrace Brade



 剣舞祭団体戦優勝 神光学園。

妖夢の16歳の誕生日パーティー。

フランが黒刀に勝ったら結婚する宣言。

 波乱な一日を終えて迎えた翌朝…

 

 8月7日 午前8時 剣舞祭個人戦1日目。

黒刀はランニングと素振りを終えて部屋に戻るとシャワーを浴びた。

 

「(昨日はあの後、早苗と真冬がうるさく抗議してきたな。

でも、フランの目も真剣だった。それに今のフランからは何か嫌な雰囲気を感じる。

以前にはなかった何かが…それを確かめる為にもあいつに勝つ。)」

 

黒刀はシャワーを終えて体を拭くと着替えて脱衣所を出る。

ベッドの上に置いてある『八咫烏』を腰にぶら下げる。

 

「黒刀、そろそろ行かないと間に合いませんよ。」

 

荷物の整理を終えた映姫が声をかけてくる。

 

「うん。」

 

黒刀は一度窓から景色を眺めてから部屋を出る。

 

 

 

 全部倒して日本一の剣士になる

 

 黒刀は心の…いや己の魂にそう誓った

 

 

 

 午前9時 東京デュエルアリーナ中央会場。

個人戦の参加選手全員がこの場所に集まって整列していた。

ここで組み合わせが発表されるのである。

ブロックは10個に分かれていて各ブロック5人で総当たり戦を行い、一番勝利数の多かった選手が次の2つのブロックに分かれて総当たり戦を行う。

そして、それぞれのブロック勝者で決勝戦を行う。

これを2日間で行う。

人数は団体戦より少ない為スムーズに進行する。

 

 

 

 そして今、巨大なモニターウインドウ組み合わせが発表された。

Aブロック 四季黒刀…

Bブロック フランドール・スカーレット…

Cブロック 魂魄妖夢…

Dブロック 二宮優…

Eブロック 大門金次…

Fブロック 六道仁…

Gブロック 五位堂光…

Hブロック 七瀬愛美…

Iブロック 雨宮二郎(和歌山県代表)…

Jブロック 雨宮四郎(三重県代表)…

 

 

 

 霊夢達はVIPルームにいた。

 

「見事に分かれたわね。」

 

「これだと当たるのは2回戦からだぜ。」

 

霊夢と魔理沙が率直な感想を述べた。

VIPルームには個人戦出場選手以外の神光学園、首里高校、白雪高校、鷹岡高校、仙台高校、紅魔学園の団体戦メンバーと映姫の推薦で椛がいた。

ちなみに大和は帝国軍本部に戻り、桜はスウェーデンに、神子はまた旅に出てしまった。

 

《15分後に第1試合を開始いたします。選手の皆さんは指定された会場へ移動してください》

 

アナウンスが聞こえると出場選手の携帯端末に試合スケジュールと試合会場の場所が受信される。

黒刀の第1試合会場はこの中央会場だった。

 

「じゃあ、このまま動かなければいいか。」

 

既にデュエルジャケットを装着している黒刀はその場で目を閉じて立ち止まる。

 

 

 

 15分後。

黒刀がゆっくりと目を開けると10m手前にSDを起動している対戦相手が立っていた。

黒刀は鞘から『八咫烏』を振り抜く。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「カオス…ブレイカー!」

 

 

 

 午後9時。

結局2回戦に残った選手のほとんどは全勝で勝ち上がってきた者だった。

黒刀は全試合を無傷で秒殺した。

データ整理をしながら今夜発表される2回戦の組み合わせを待っていた。

 

「本当の闘いはここからだ。」

 

黒刀が独り言をつぶやいたその時、携帯端末にメッセージが届いたので空間ウインドウを展開して確認した。

そこには…

 

Aブロック

四季黒刀

七瀬愛美

五位堂光

大門金次

雨宮四郎

 

Bブロック

フランドール・スカーレット

魂魄妖夢

二宮優

六道仁

雨宮二郎

 

以上の組み合わせとなった。

 

「七瀬…五位堂…それと大門金次…。」

 

黒刀は空間ウインドウを凝視しながらそうつぶやいた。

 

 

 

 妖夢も部屋で組み合わせを確認していた。

 

「フランドール・スカーレットに二宮さん…六道さん…これは厳しい闘いになりそうだな。頑張ろう!」

 

妖夢は拳を握って気合いを入れる。

そんな妖夢ににとりが声をかける。

 

「六道はまだひよっこだが二宮は黒刀との試合を見ても分かる通りとんでもなく強い…そしてあのフランって子だが…気をつけろ。あの子、嫌な感じがする。」

 

妖夢は空間ウインドウを閉じてにとりを見る。

 

「どういうことですか?」

 

妖夢の問いににとりは首を横に振る。

 

「分からない…ただ異様なんだ。あの子からは別の力を感じる。」

 

「(『機械王』のにとり先生がそこまで言うなんて…でもきっと剣でぶつかり合えば何か分かるはず…。)」

 

妖夢は夜景に視線を移したがその空は曇っていた。

 

 

 

 8月8日 午前10時。

東会場 二宮優vs雨宮二郎。

西会場 四季黒刀vs雨宮四郎。

 

 黒刀の前に立つ雨宮四郎が話しかけてきた。

 

「おい、抽選会では兄貴がお世話になったらしいな。」

 

「兄貴?」

 

黒刀は首を傾げた。

 

「和歌山県代表だよ!2人組で二郎と三郎!」

 

「あ~あいつらか。」

 

黒刀はようやく記憶から絞り出す。

 

「で、お前はその弟ってわけか。」

 

「そうだ!雨宮四郎だ!覚えとけ!」

 

「天草四郎?」

 

「言うと思ったよ!天草じゃねえ!雨宮だ!」

 

「あ、そう。」

 

「てめえ。」

 

雨宮四郎は今にも殴りかかりそうだった。

 

 

 

 一方、西会場では…

 

「教えてやるぜ!俺が本当の『二』の名を持つにふさわしいってことをな!」

 

雨宮二郎は言った。

 

「俺にこそ『四』の名はふさわしい!」

 

雨宮四郎も言った。

それを聞いた黒刀と優。

 

「「あ?」」

 

一瞬で目つきが変わった。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「カオスブレイカー!」「ディメンションレーザー!」

 

「「う、うわああああああああああああああああああああ!」」

 

雨宮兄弟は瞬殺された。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者》

 

《四季黒刀》《二宮優》

 

「調子に乗るな…雑魚が。」

 

別々の会場にいる黒刀と優の言葉が重なった。

そして、この試合で重傷を負った雨宮兄弟はこの後の試合を全て棄権する羽目になった。

 

 

 

 南会場。

七瀬愛美vs五位堂光の試合は魔法も霊術も叩き斬ってしまう光の猛攻で光の勝利となった。

 

 北会場。

フランドール・スカーレットvs六道仁の試合は仁も奮戦したがフランの勝利となった。

 

 

 

 個人戦は人数が少ない為、連戦になることが多い。

しかも雨宮兄弟が棄権してしまった為、8人になってしまったので東西南北に分かれて試合をするとなると全員が連戦というハードな試合スケジュールとなる。

第1試合がなかった妖夢と金次も第2試合から参戦となる。

注目すべき試合は…

 

南会場 七瀬愛美vs四季黒刀。

北会場 フランドール・スカーレットvs二宮優。

この2試合となった。

 

 

 

 南会場 『魔女』vs『破壊王』。

黒刀はフィールドへ続くゲートをゆっくり歩いて進む。

ゲートを抜けてフィールドに入場すると愛美が既に待ち構えていた。

 

「やっと来たわね…悪いけど男相手に負ける気しないから。」

 

七瀬は余裕の笑みを見せる。

 

「………黙れよビッチ。」

 

カッチーン。

 

黒刀の一言に愛美はキレた。

 

「ふふ…ふふふ…言ってくれるわね。このヘタレが!」

 

グサッ。

 

愛美の言葉の刃が黒刀の心に突き刺さった。

 

「な…何を…。」

 

「押しに弱い。押すのも弱い。これがヘタレではなく何だって言うの?」

 

 

 

 VIPルームで黒刀と愛美のやり取りを見ていた映姫がため息を吐いた。

 

「始まりましたか…。」

 

「何がですか?」

 

魔理沙が訊く。

 

「七瀬愛美はナンバーズの中でも末っ子で黒刀は下から2番目。まあくだらない兄妹喧嘩みたいなものです。」

 

「確かに黒刀先輩って短期なところありますしね。」

 

霊夢は納得する。

 

「それに七瀬愛美は凄く毒舌ですから黒刀とは昔から気が合わないみたいです。」

 

「「「「あ~。」」」」

 

霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精は一昨日黒刀と愛美が揉めていたことを想いだした。

 

「毒舌なのに『魅了』のスキルを持っているって男にとって相当タチが悪いじゃねえか。」

 

魔理沙の言葉を聞いた一同は首を縦に振って頷いた。

 

 

 

 

「とりあえずぶった斬る!」

 

黒刀は鞘から『八咫烏』を振り抜く。

その勢いで風圧が発生するが愛美は動じない。

 

「忘れたの?私には『魅了』がある。これがある限り私が男に負けることはない。」

 

「それはどうかな?」

 

黒刀は不敵な笑みを浮かべた。

 

「なんですって?」

 

「やってみろよ!俺には効かない!」

 

「上等じゃない!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「お望み通りやってあげるわよ!」

 

愛美は眼鏡を外して黒刀を捉える。

黒刀の頭が項垂れる。

 

「(勝った!)」

 

勝利を確信した愛美。

しかし黒刀の顔が上がると、

 

「ほら。効かないって言っただろ。」

 

「な、なんで…。」

 

愛美は戸惑う。

『魅了』は強力なスキルだが意志が強ければ抗える。

 

「(ということは黒刀には『魅了』を無効化するほど愛する人がいるってこと?)

いいわ…なら力で倒してあげる!トランス!マジカルガール!」

 

愛美が詠唱すると全身が光に包まれそれが弾けると魔法少女に変身した愛美が現れる。

 

「お前それ…年齢的にアウトだろ。」

 

愛美の姿を見た黒刀はそう口にした。

 

カッチーン。

 

「うるさい!」

 

愛美は叫びながらステッキから魔法弾を放つ。

黒刀はそれを『八咫烏』で切り裂く。

 

「大体そんなこと言ったら魔理沙だって同じようなものでしょ!」

 

愛美の言葉を聞いた魔理沙は立ち上がった。

 

「私はあんなイタい奴と一緒じゃない!」

 

「「「(そうか?)」」」

 

それに対して霊夢、チルノ、大妖精は疑惑の視線を向けていた。

 

 

 

 黒刀は軸足を動かさず『集中』のスキルは発動していた。

愛美はそれに気づく。

 

「それをやられると面倒ね。なら奥の手を使うしかないわね。」

 

「奥の手って…まさか!」

 

「そう!『魔女の手』よ!」

 

愛美は右手には装着している革手袋を外した。

すると右手からもう1つの黒い実体のない右手が現れた。

それはまさに『魔女の手』だった。

 

「分かっていると思うけど私に背を向けたらダメだよ。」

 

「分かっているさ。」

 

黒刀の顔から嫌な汗が流れる。

 

「これ使うの久しぶりなんだ。小さい頃はこれを使って私に嫌がらせしてくる女子を夜中にこの手で後ろから肩をよくつついてたな。」

 

「ホラーだな。」

 

愛美の思い出話に黒刀は苦笑で返した。

 

「それは…どうも!」

 

愛美が『魔女の手』を黒刀に向けると『魔女の手』が伸びた。

 

「この手は世界の原理から外れている!斬ることは出来ないわよ!」

 

それを聞いて黒刀は舌打ちして後退するが『魔女の手』は伸び続けている。

 

 この『魔女の手』は愛美が幼少の頃に本物の魔女にかけられた呪いである。

だが彼女はその呪いを躊躇いなく使っていた。

 

「アハハ!どうしたの!逃げてるだけじゃ勝てないよ!それにこの手はどこまでも伸び続ける!敵を捕らえるまで!」

 

『魔女の手』の速度は予想以上に速かった。

 

「(ならあいつを斬る!)」

 

黒刀が踏み込もうとしたその時、愛美は黒刀の10m背後に現れた。

 

「転移魔法⁉まずい!」

 

黒刀が振り返ろうとする。

 

「遅い!」

 

愛美は『魔女の手』を黒刀に向けた。

『魔女の手』は一瞬で黒刀の首を掴んでいた。

 

「この『魔女の手』は相手の背中に向けると距離・速度関係なく既に相手を()()()()()()()()。つまり…」

 

「事象の操作…。」

 

黒刀は首を掴まれている状態で言葉を絞り出す。

 

「さすがIQ210だね。でも一度捕まえてしまえばこっちのもの!」

 

今の愛美の顔はまさに魔女そのものだった。

 

「くそ…この…。」

 

黒刀はなんとか抵抗しようとする。

 

「無駄よ。『魔女の手』を振りほどくことは出来ない。絶対に!」

 

愛美の魔女としての顔がさらに強くなる。

左手に持ったステッキを黒刀に向けると砲撃魔法を放つ。

黒刀はそれを『破壊王の鎧』で消し去る。

 

「しぶとい…。」

 

愛美が苛立ち始める。

 

「(間違いない。呪いに侵食されている。どうする…どうすれば…。)」

 

黒刀は考えていたのその時、『八咫烏』が何かを伝えようと震えていた。

それを見た黒刀は気づいた。

 

「(そうか。そういうことか。)」

 

黒刀は首を絞める『魔女の手』に顔をしかめながらこう唱えた。

 

「くっ…霊剣化!」

 

すると『八咫烏』の刀身が半透明になった。

黒刀は首を絞めている『魔女の手』を…斬った。

 

「なっ!」

 

愛美は驚愕する。

その隙を逃さず黒刀は振り返る。

 

「モードチェンジ!サムライ!」

 

黒刀の全身を黒い木の葉が渦巻いていく。

木の葉が吹き飛び黒刀は『サムライモード』に変身した。

 

「どうして…『魔女の手』はこの世界のものじゃない。斬れるはずがない!」

 

声を荒げる愛美に対して黒刀は『八咫烏』の剣先を向ける。

 

「確かに実体のある剣じゃ斬れない。けど霊剣となった剣は元々亡霊を成仏させる為の剣と言われている。この世ならざるその『魔女の手』ならもしやと思ったが当たりだったようだな。」

 

黒刀は推論に愛美は舌打ちする。

 

「(大丈夫…根元さえ斬られなければ『魔女の手』は何度でも使える。転移して今度はあいつの左手首を掴む。そうすれば刀は振れない。)」

 

愛美は転移魔法で黒刀の背後に移動したが、その時既に黒刀は愛美の方に体を向けていた。

 

「くっ!」

 

「さっきは油断したがもうしない!」

 

そこで愛美は黒刀と咲夜の試合を思い出した。

彼は咲夜の次に移動する位置を『千里眼』と『超反射』とその頭脳で予測していた。

つまり今回も同様に転移する位置を予測されたのだ。

 

「背後に移動すると分かっていれば後はタイミングだけだ!」

 

黒刀は床を蹴って愛美に接近していく。

 

「くっ!」

 

愛美は『魔女の手』を伸ばす。

黒刀はそれを斬りながら進む。

 

「(落ち着け。今あの刀は私を斬れない。なら勝機はある!)」

 

愛美はステッキを黒刀に向けて砲撃魔法を放つ。

今の『八咫烏』に斬れるのは『魔女の手』だけなのでこれは斬れない。

黒刀は『破壊王の鎧』を発動したまま突き進む。

そして、ついに愛美にゼロ距離で接近した。

 

「四季流体術 大和魂!」

 

黒刀は右手の拳で愛美の腹を力いっぱい殴る。

 

「がはっ!」

 

愛美は声を上げる。

黒刀はそのまま拳を振り抜いた。

愛美は結界に背中から叩きつけられて床に落下した。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

黒刀の勝利を知らせる機械音声に観客は盛り上がり大歓声を上げた。

黒刀はクールに『八咫烏』を鞘に納めた。

 

「(優の試合、どうなったかな…。)」

 

 

 

 北会場。

優は膝をついていた。

 

「フッ…とんでもない1年がいたもんだな。」

 

優は上を見上げてそう口にした。

優の視線の先には空中で翼を広げて紅い眼を輝かせるフランドール・スカーレットがいた。

そして…笑った。

 

 

 

 黒刀が北会場に到着した時には決着がついていた。

 

「優が…負けた。」

 

黒刀には半ば信じられない気持ちがあった。

黒刀自身、優の強さは身を持って知っているからだ。

 

「フランの強さ…決勝まで行けば分かるのか…。」

 

黒刀は少し考えた後、次の試合がある南会場に歩いていくのだった。




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ご感想お待ちしております。


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破壊王vs鬼神

OP5 対魔導学園35試験小隊 Embrace Brade



 南会場。

第3試合 四季黒刀vs五位堂光。

『破壊王』vs『鬼神』。

 黒刀がゲートを抜けてフィールドに入場すると光も斧を肩に担ぎながら入場してきた。

両者が10m間を空けて向かい合う。

 

「光が相手となるとパワー勝負になりそうだな。」

 

黒刀はそう呟いて鞘から『八咫烏』を抜く。

 

「確かにお前は魔法とか霊術とか全然使わないから私の『デーモン』は意味ないな。でも…」

 

「ああ、そうだな…」

 

2人は笑う。

 

「「力でぶつけ合うなんて一番燃える!」」

 

 

 

 VIPルーム。

 

「さあ、お膳立てはしてあげたんだからいい勝負見せてよね。」

 

真冬が楽しそうに言った。

 

「気をつけて黒刀先輩。そいつのパワーは計り知れないわ。」

 

対戦経験のある霊夢がそう呟く。

 

 

 

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「「うおおおおお!」」

 

2人は同時に床を蹴って刃をぶつけ合った。

それにより発生した衝撃波が床を砕いていく。

 

「センパイは『サムライモード』に変身しないんですね。」

 

早苗が疑問を口にする。

それに対して咲夜が推測を口にする。

 

「恐らく『サムライモード』はスピードと技を重点に置いたものなのでしょう。しかし五位堂光相手にそれは愚策と彼は考えたものだと思います。」

 

「なるほど!」

 

早苗は納得した。

 

「勉強不足だよ早苗。帰ったら補習だからね。」

 

「そんな~!」

 

諏訪子の言葉に早苗は嘆いた。

 

 

 

 楽しい。

黒刀は心の底からそう思えた。

自分の余りある力をここまで引き出してくれる相手はそういない。

自然と頬が緩む。

 2人の鍔迫り合いは衝撃によって弾き合う。

 

「何笑ってんだ?」

 

光が訊いてきた。

 

「わりぃな…嬉しくてな。お前こそ笑ってんじゃんか。」

 

黒刀にそう言われている光も頬が緩んでいた。

 

「当たり前じゃん。こんな楽しい闘いは生まれて初めてだよ!

だからもっと楽しもう!気力解放!」

 

光の体を包んだのはオーラの柱ではなく具現化したものだった。

そう…それはまるで『鬼神』。

 

「いいね…盛り上がってきたじゃねえか!気力解放!」

 

黒刀も解放状態になった。

なんと光と同様にオーラが具現化し始めた。

まるで鬼武者のように。

 

「ちょっと待ってください!さっきの鍔迫り合いだけであんなに激しかったのにあんな巨大なオーラをぶつけ合ったら…」

 

大妖精の顔が青ざめ始める。

 

「最悪フィールドが崩壊する可能性はあるだろうな。」

 

にとりはそう口にした。

 

『っ!』

 

VIPルームにいる者達が動揺する。

黒刀と光は床を蹴って跳び上がると空中で刃をぶつけ合った。

弾き合って距離を取る。

 

「食らいやがれ!『鬼神』の一撃を!」

 

光は突進すると気力を集束して振りかぶった。

 

「オーガトマホーク!」

 

斧の薙ぎ払いを黒刀は『八咫烏』を縦に構えて受けた。

光の一撃は凄まじく黒刀を壁まで吹っ飛ばした。

黒刀の体は土煙で隠れて見えない。

 

「何あれ…私と闘った時より強力じゃない…。」

 

霊夢は目を見開いてその威力に驚愕していた。

光が土煙を凝視していると壁に亀裂が入った。

土煙が晴れると黒刀の背中は壁に激突しておらず右手を壁についていた。

黒刀は腕力だけで耐えたのだ。

指の握力だけで壁に亀裂を入れた。

オーラの具現化は継続している。

黒刀は光の一撃を避けることも出来たはずだがあえて受けた。

黒刀は右手を壁から離す。

 

「こんなもんか?」

 

黒刀は余裕の口振りだ。

 

「余裕かましやがって。なんで避けなかった?」

 

「愚問だな。その方が面白そうだからに決まってんだろ。」

 

黒刀は僅かに頬を緩ませる。

 

「「フフフ…ハハハ!」」

 

2人は笑いながら同時に床を蹴った。

光は斧に気力を集束させる。

黒刀も『八咫烏』に気力を集束させる。

そして2人の距離がゼロになった。

 

「デストラクションスラッシュ!」「カオスブレイカー!」

 

同時に斬撃を放った。

2人の激突で発生した衝撃波で床はえぐれ結界は震動しお互いにぶつかり合った刃からは閃光を散らしていく。

 

「俺が!」

 

「私が!」

 

「「ぶった斬る!」」

 

数秒間2人の力は拮抗していたがそれはやがて崩れていった。

黒刀が光を押し始めた。

 

「ぐっ!」

 

光は押されまいと踏ん張る。

具現化した『鬼神』も徐々に押され始めている。

 

「負けるか!」

 

光は吠える。

 

「勝つのは…この俺だ!」

 

黒刀は力いっぱい押して光の体勢が崩れたところに大振りでそのまま『カオスブレイカー』を光に叩き込んだ。

 

「ぐああああ!」

 

光が漆黒の斬撃に飲み込まれていく。壁に叩きつけられると前のめりに倒れた。

 

《1・・・1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

「楽しかったぜ!」

 

黒刀は光に礼を言ってからフィールドを去った。

 

 

 

 東会場。

魂魄妖夢vs二宮優。

妖夢はゲートに立って緊張していた。

 

「(先輩と闘った二宮さん。どうやって勝てばいいんだろう…。)」

 

冷や汗が止まらない。

 

「いや…先輩ならきっとどんな相手でもただ全力で闘えって言うはず…私は私の全力を尽くして…そして勝つ!」

 

覚悟を決めた妖夢はゲートを歩いてフィールドに入場していく。

 

 

 

 フィールドには既に優が腕組みして待ち構えていた。

 

「お待たせしました。」

 

「…お前は黒刀の弟子か?」

 

「残念ながら弟子ではありません。そうなれたらとは思っています。」

 

妖夢は少し驚いた後、そう返す。

 

「そうか…お前からは黒刀と似たものを感じるからそうなのだと思っていたが…まあいい。

魂魄妖夢!全力でかかって来い!叩き潰してやる!」

 

「叩き潰されるつもりはありませんが全力で闘うつもりです!」

 

妖夢は二本の剣を抜いた。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

妖夢がダッシュしようとしたその瞬間、妖夢の周囲に10個の魔法陣が展開される。

『ディメンションレーザー』だ。

妖夢は周囲から放たれる『ディメンションレーザー』を体で受ける。

妖夢の体を土煙が覆う。

優はただ見ていた。

すると…

 

「気力解放!」

 

土煙の中から声が聞こえる。

光の柱がその中心を包み込む。

 

「ほう…耐えたか。」

 

優は感心していた。

土煙の中から妖夢が現れる。

 

「(二宮さんには『イージスの盾』がある。つまり接近戦は禁物。ここは…)」

 

妖夢は『楼観剣』に気力を集束させる。

 

「閃光…斬撃波!」

 

妖夢は金色の斬撃を放つ。

優は澄まし顔で魔法陣を5個重ね合わせて正面から『ディメンションレーザー』を放つ。

いとも簡単に『閃光斬撃波』を相殺してしまった。

 

「くっ…。」

 

妖夢は唇を噛みしめる。

 

「…こんなもんか?お前は黒刀の傍にいながらこの程度なのか?」

 

優は妖夢に問う。

 

「な、何を…。」

 

妖夢は思わず言葉を漏らす。

優はため息を吐く。

 

「お前は黒刀から何も学んでいない!黒刀の()はもっと重く強い!覚悟のこもったものだった!」

 

「私にだって覚悟はあります!」

 

妖夢は思わず声を荒げる。

 

「それが軽いと言っているんだ!戦いをただの試合と思っているような奴に俺は倒せない!」

 

「戦いをただの試合?どういう意味ですか?」

 

妖夢は訳が分からず聞き返した。

 

「はあ…もういい。終わらせてやる!魔力解放!」

 

優の体が光の柱に包まれる。

さらに…

 

「モードチェンジ!エンペラー!」

 

優の体を金色の竜巻が渦巻いていく。

それが晴れると黄金の鎧を装着した『エンペラーモード』の優が立っていた。

その威圧感に妖夢は鳥肌が立った。

 

「これが…『エンペラーモード』…。」

 

妖夢は戦慄する。

優は妖夢の周囲に100個の魔法陣を展開した。

『ディメンションレーザー』を一斉に放つ。

 

「旋風剣!」

 

妖夢は回避が間に合わないと察して回転して光線を弾こうとしたが黒刀の『龍刃竜巻剣』のようにはいかず弾くことが出来ず全て妖夢に直撃する。

 

「ぐあっ!」

 

妖夢の体が上空に跳ねる。

優は右手に魔力の玉を浮かせる。

 

「ソニックレーザー!」

 

音速の光線を放った。

光線は妖夢の胸を貫いた。

 

「安心しろ。俺もただでフランドール・スカーレットに負けたわけじゃない。

この魔法のコントロールは既にマスターしている。故にセーフティーを超えることはない。

…分かったか?これが戦い…俺や黒刀が立っているステージだ。」

 

妖夢は胸を貫かれ意識は消えかけていた。

意識が途絶える直前まで優の言葉は妖夢の耳に聞こえていた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 二宮優》

 

無慈悲な攻撃を目の当たりにして観客は歓声どころか声も出せなかった。

優はフィールドを出てゲートを歩いていると壁に寄りかかる黒刀に気づいた。

すれ違いざまに優は声をかける。

 

「俺はフランドール・スカーレットに負けた。魂魄妖夢もあれでは次のフランドール戦に出られないだろう。それでフランドールは決勝進出決定だ。あとはお前次第だ。今の戦績は?」

 

「全勝だ。」

 

「なら次も勝って決勝に行け。」

 

「当然だ。」

 

黒刀の言葉を聞いた優はそれ以上何も言わず無言で去って行った。

黒刀は次の試合会場である西会場に向かった。

 

 

 

 西会場。

大門金次vs四季黒刀。

東会場の試合は妖夢の意識が目覚めていないためフランの不戦勝となった。

その為、西会場には東会場の試合を見るはずだった観客も座っていた。

 金次は強い選手だがそれでもナンバーズとの実力の差があった為か光や愛美との試合で惜敗している。しかし、なおも前向きにフィールドで準備運動している。

 

「またヨキとやれるなんて最高や!」

 

準備運動を終えた金次は双剣型SDを起動して入場してくる黒刀を今か今かと待ち構える。

その時、向かい側のゲートの奥から突風が吹いた。

そこから出てきたのは既に抜刀していた黒刀だった。

『八咫烏』の剣先を引きずって歩くその姿がまるで人斬り侍だった。

 

「楽しみにしとったでヨキ!」

 

金次は嬉しそうに言った。

 

「大門。」

 

黒刀は俯きながら名を呼んだ。

 

「なんや?」

 

金次は訊き返した。

 

「悪いが今回はお前の期待に応えられない。」

 

その顔を上げるとその目は以前闘った時のような楽しむ目ではなかった。

闘いが戦いに変わった時の目だった。

 

 

 

 試合は一方的だった。

金次は黒刀に完敗した。

仰向けに大の字で倒れる金次。

 

「やっぱ強いわ…ヨキ。次は…わいが勝つ。」

 

「悪いな。今回はどうしても決勝に行かないといけないんだ。」

 

黒刀は納刀してフィールドを出た。

 

《決勝戦 四季黒刀vsフランドール・スカーレットの試合は20分後中央会場にて行います》

 

 

 

 剣舞祭最終戦を知らせるアナウンスが東京デュエルアリーナの中に響き渡った。




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破壊の力

OP5 対魔導学園35試験小隊 Embrace Brade



 妖夢は医務室で目を覚ました。

 

「私は………そうだ。確か二宮さんと闘って…負けた…んだよね…ここにいるってことは…。」

 

状況を理解したところで医務室のドアが開いて魔理沙達が見舞いに来た。

 

「お、妖夢起きたのか!」

 

魔理沙は寄ってきた。

妖夢は時計を見る。

 

「こんな時間ってことはフランちゃんとは闘えなかったってことだよね?」

 

「ええ、フランの不戦勝で今から黒刀先輩との決勝戦が始まるわ。」

 

霊夢が妖夢の疑問に答える。

 

「先輩…やっぱり凄いな。私なんかとは大違い…。」

 

妖夢は俯いてしまう。

 

「どうしたんだ?」

 

魔理沙が心配そうにその顔を覗き込む。

妖夢は掛布団を握りしめた。

 

「試合中…二宮さんに言われた。私の剣は…軽いって。」

 

「なんだよそれ!妖夢がどれだけ頑張ってるかも知らないくせに偉そうなこと言いやがって!」

 

魔理沙は激怒した。

 

「ううん…二宮さんの言ってることは正しい。」

 

「何を…。」

 

「事実負けたし仮に覚悟が本物だとしたらあの時…『ゾーン』に入れたはず。けど実際はダメだった。」

 

「…妖夢。決勝戦を見ましょう。」

 

霊夢は医務室のモニターウインドウを指さす。

 

「答えはそれから出しても遅くないわ。」

 

そう言葉を付け足した。

 

 

 

 フランはゲートを歩く。

 

「この試合に勝ったら…皆、私のことを認めてくれる…いや…認めさせる!」

 

その紅い瞳を一瞬光らせた。

 

 

 

 黒刀もゲートを一歩ずつ歩いている。

 

「(フランと闘うのは初めてだが必ず勝つ!)」

 

そう決意した。

そして2人同時にフィールドに入場した。

時刻は午後5時を回っている。

 

「たとえお義兄様でも負けないよ!勝つのは私!」

 

黒刀の姿を確認したフランはそう言い放った。

 

「悪いが個人戦では負ける訳にはいかない…絶対に!」

 

黒刀は鞘から『八咫烏』を抜き放つ。

 

「そうこなくちゃ!」

 

フランは『レーヴァテイン』を右手で握る。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

今、2つの破壊の力がぶつかる。

 

「魔力解放!」「気力解放!」

 

2人共、解放状態となった。

 

「フォーオブアカインド!」

 

フランは4人に分身して黒刀を前後左右から強襲する。

 

「モードチェンジ!サムライ!」

 

黒刀は『サムライモード』に変身する。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

4人のフランを同時に斬った。

4人の内3人の分身は消滅して本体のフランは肩を少し掠めた。

しかし…

 

「凄い凄い!もう破っちゃうなんて凄いよ!」

 

フランは遊び感覚で試合をしていた。

 

「それじゃ次は…これ!」

 

フランは魔法弾の弾幕を放った。

『サムライモード』の黒刀は『千里眼』と『超反射』の性能が上がる代わりに『破壊王の鎧』の性能が下がってしまう為フラン程のオーラが込められた魔法弾を『破壊王の鎧』で無効化することは極めて難しい。

 

「フッ!ハッ!えいや!」

 

だから黒刀は斬ることにした。

その捌きようは咲夜戦を思い起こさせるものだった。

フランは飛翔すると黒刀の背後に回り込む。

 

「背中ががら空きだよお義兄様!」

 

『レーヴァテイン』を振り下ろす。

黒刀は残り少なくなった弾幕を全て斬撃で消し飛ばしてから振り返ると同時に『八咫烏』を水平に振って薙ぎ払いフランの攻撃を防いだ。

 

「四季流剣術 参の段 霧桜!」

 

黒刀は床を蹴って『八咫烏』を水平に構えて斬りかかった。

フランが上段から斬り伏せようと『レーヴァテイン』を振り下ろすが『八咫烏』の刃は『レーヴァテイン』をすり抜けてそのままフランの脇腹を斬った。

 

「マジでどうなってんだあの技?霊剣なら剣だけじゃなく体もすり抜けるはずだろ?」

 

仁が疑問を口にする。

だが『千里眼』を発動して試合を観察していた椛は気づいていた。

 

「あの剣技はすり抜けているわけではない。相手の剣とぶつかる直前に一度剣を引いて相手の剣が通り過ぎたところで剣を再度振っている。だからすり抜けたように見える。剣速の速さで優れている四季流だからこそ出来る芸当だ。」

 

 

 

 黒刀は『霧桜』の後すぐに体を反転させて『八咫烏』を鞘に納刀する。

 

「四季流剣術 弐の段 一閃!」

 

居合斬りでフランを斬り抜く。

 

「ぐっ!」

 

フランは呻き声を上げる。

 

「(まだ倒れないか。)」

 

黒刀はもう一度体を反転させて鞘に納刀していた『八咫烏』を抜いて気力を集束させる。

 

「カオス…ブレイカー~!」

 

漆黒の斬撃を放った。

 

「インフェルノブレイカー~!」

 

フランは痛みに耐えながらも魔力を集束させて炎の斬撃を放った。

2つの斬撃が正面からぶつかり合う。

 

「「はあああああああああああああああああああああああああああ!」」

 

拮抗するかと思えたがそれは一瞬のことだった。

漆黒の斬撃が押し始めてフランがどんどん後退し始める。

そして炎の斬撃が破られて漆黒の斬撃がフランを飲み込んでいく。

 

「きゃあああ!」

 

悲鳴を上げた直後、爆発。

だがそれは『カオスブレイカー』によるものではなかった。

フランが漆黒の斬撃に飲み込まれる中で自身に魔法弾を放って脱出した為だった。

 

 レミリアが傷つくフランを見る。

 

「(フラン…何故そこまでする必要があるの?あなたにはあと2年半もある。)」

 

フランが傷ついていることも決して黒刀のせいではないことはレミリアにも分かっていた。あくまで闘いの中で起きたものなのだから。

 

 しかし…

 

「フフフ…こうなったら本当のとっておきを出すしかないよね!」

 

フランが背筋を伸ばすとオーラの色が無色から徐々に変色していく。

 

「まさか!」

 

黒刀は目を見開いてある可能性を導き出した。

フランのオーラの色は七色となった。

 

「七色の…『ゾーン』。マジかよ!」

 

黒刀は歯ぎしりする。

フランの顔が普通の笑顔から狂笑に変わる。

 

「いくよ!インフェルノブレイカー!」

 

炎の斬撃を放った。

 

「(速い!)」

 

黒刀は躱す間もなく斬撃を受けた。

その衝撃で爆発が発生する。

 

「あれ?もう終わり?」

 

フランは滞空しながら見下ろす。

その時、爆発の煙の中から斬撃が放たれる。

フランはそれを軽く『レーヴァテイン』を振って弾く。

煙が晴れると黒刀も『ゾーン』に入っていた。

だが同じ『ゾーン』でも黒刀は空を飛べない。アドバンテージはフランにあった。

これまでの試合でも黒刀は上のポジションを取られることが多かった。

しかも今回はお互い『ゾーン』に入っている。

明らかに黒刀の方が分が悪い。

 

黒刀はハイジャンプ、クロスステップ、『抜き足』を使ってフランの頭上に移動した。

しかし、フランは既に黒刀の頭上に移動していた。

そこから『レーヴァテイン』を振り下ろす。

黒刀はハイジャンプをで横に跳ぶとフランに向けて斬撃を5発放った。

フランは『レーヴァテイン』を引くと5発の斬撃を上下左右に飛行して躱した。

これが飛ぶと跳ぶの決定的な差だった。

黒刀は空中で1回後転して結界に足をつくと壁走りしながら斬撃を20発放った。

フランはそれも全て躱しきった。

黒刀は壁に足をつきながら停止する。

 

「カオスブレイカー~!」

 

漆黒の斬撃を放った。

 

インフェルノブレイカー~!

 

フランが今度は躱さずに炎の斬撃を放った。

2つの斬撃がぶつかり合った時、黒刀は気づいた。

炎の斬撃の中に小さな黒点のようなものがいくつかあることを。

それはまるで太陽に黒点があることと同じように。

さらにもう1つ。

フランが『ゾーン』に入ってから若干だが声質が変わっているような気がしていた。

 

 

 

 医務室にいる妖夢は黒刀がピンチになっているのを見ていた。

 

「行かなきゃ!」

 

そしてベッドから飛び起きて医務室を出る。

 

「おい、体は大丈夫なのかよ!」

 

魔理沙が妖夢の背中に声をかける。

 

「大丈夫~!」

 

遠ざかっていく妖夢の声が聞こえる。

 

「ったく…しょうがねえな!」

 

魔理沙は妖夢を追いかけた。

霊夢達もそれに続いた。

 

 

 

 斬撃の激突は黒刀が押されていた。

 

「ぐっ!」

 

それを見たフランはさらに強く魔力を注ぎ込んだ。

そして…なんと『カオスブレイカー』が破られ炎の斬撃が黒刀に直撃し爆発して黒刀は墜落していく。

その途中で黒刀は視界の端にゲートの結界前で心配そうに見ている妖夢が見えた。

 

「そうだよな…やられっぱなしじゃカッコ悪いよな…。」

 

頭から落下中に黒刀は目を閉じて意識を集中した。

『サムライモード』を解除していつもの黒いデュエルジャケットに戻るとなんと黒刀の背中から天使のような白い翼が生えた。

体を縦に半回転させると目をゆっくりと開いた。

誰もが思ったことだろう。

なんて美しい翼だ…と。

 

へえ…それじゃこれでお互いに思う存分空中戦が出来るって訳だね!

 

フランは黒刀にダイブしていった。

黒刀も翼を羽ばたかせるとフランに突撃していった。

黒刀とフランが刃をぶつけ合うと弾き合い、またぶつかり合っては弾き合いを徐々に高度を上げながら繰り返していく。

やがてそれは螺旋を描いていく。

もはや常人には視認できないスピードの闘いだった。

ただ見えているのは七色の翼と白き翼が放つ光の線だけだ。

2人は超高速でフェイントを掛け合ったり背後を取り合ったりしているがどちらも譲ることのない闘いだった。

 

 こんな素晴らしい試合が永遠に続けばいいのに。

そう思ってしまう程だった。

だがその思いは意外な結末で裏切られる。

2人がフィールドを飛び回って弾き合った時…フランが突然停止して頭を抱え始めた。

 

「う…うう…うううっ!」

 

頭に激痛が走ったフランは呻き声を出し始めた。

 

「どうした!フラン!」

 

黒刀も停止して大声で叫ぶ。

 

「ううう…。」

 

するとフランの『ゾーン』が解けた。

しかし頭痛はまだ消えていなかった。

 

「…ダメ…来る…嫌なものが…うあああああああああああああああああああああああああああ!

 

フランからオーラの波動が放たれ黒刀は結界に背中から叩きつけられる。

 

「くっ………!」

 

この時、黒刀は何かを感じ取った。

それはレミリア、諏訪子、にとりも同じだった。

 

 フランの顔が俯きゆっくりと顔を上げるとその表情はフランとは思えないほど醜悪に満ちた顔だった。

 

フフフ…ハハハハハ!ついに来たぜ~この時が!

 

それは高笑いした。

 

「てめえ…誰だ!フランじゃないな!」

 

黒刀は壁から離れて滞空飛行すると問いかけた。

 

あ?ほんとは分かってんだろ!()()悪魔だってことをよ!

 

それは薄気味悪い笑顔でそう答えた。




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ザナドゥ編
悪魔


OP5 対魔導学園35試験小隊 Embrace Brade


悪魔。

それは人類にとって最も恐怖する存在。

かつて人類は悪魔によって滅ぶかけた。

フランに憑依している存在が悪魔だと知った観客は一斉に逃げていく。

 

無駄無駄!

 

フラン(悪魔)は高笑いした。

観客が会場から出ようとした時、突然黒い結界が中央会場を包囲するように展開された。

観客は壁にでも当たったかのように出られなくなってしまった。

 

貴様達にはちゃんと目に焼き付けてもらわなきゃな!『王』が死ぬ瞬間をな!

 

フラン(悪魔)はそう宣言して黒刀を睨んだ。

 

 にとり、レミリア、諏訪子が観客席の最前列から結界を破壊して加勢しようとする。

 

「手を出すな!」

 

だが黒刀がそれを制した。

 

「何言ってんだ!悪魔が出たらそれはもう『王』が倒す!」

 

「それが私達の使命だよ。」

 

「わがままなんて言ってる場合じゃないのよ!」

 

にとり、諏訪子、レミリアはそれぞれ反論する。

黒刀はにとり達に背を向けながら、

 

「奴の狙いは俺だ。もし『王』が狙いなら一番近くにいたレミリアを殺せたはずだ。それに奴が悪魔だからといってまだ()()()()と関係があるとは限らない。いいからそこでジッとしていろ!」

 

フラン(悪魔)はパニックになっている観客を眺めながら楽しそうに高笑いしていた。

 

ハハハ!人間は無様で最高だぜ!

 

「おい!クソ悪魔!」

 

黒刀が呼びかけた。

 

あ?

 

フラン(悪魔)は黒刀に首を向けてきた。

 

「いつからフランに憑依してやがった!」

 

黒刀の顔は激怒を表していた。

 

あ?…そうだな~7年前ってところか!

 

黒刀はそこでハッと気づいた。

それを見たフラン(悪魔)は面白そうに笑った。

 

気づいたようだな!そうだよ!貴様と『未来王』が決別した日からだよ!知ってるか?悪魔が憑依する為には対象者に心の穴が必要なんだよ!今こいつの心には2つの穴がある!1つは貴様と『未来王』が決別したことで生まれた寂しさ!貴様に会いたい会いたいと心の中で泣き喚いていたぜ!つまり貴様らのおかげで俺はこいつに憑依出来たってことだ!

 

黒刀とレミリアはただ歯ぎしりすることしかできなかった。

自分達のせいでフランに苦しみを与えてしまった。

そのことに自責の念を抱かずにはいられなかった。

フラン(悪魔)はさらに続ける。

 

そして2つ目が『未来王』レミリア・スカーレットの妹ということで与えられた周囲の人間からの過度な期待だ!それはこいつに大きなプレッシャーを与えた!この2つ目の心の穴が俺の覚醒を早めたのさ!感謝してるぜ!こいつと『破壊王』そして『未来王』には!貴様達のおかげで俺はこうして覚醒することが出来たんだからな!

 

フラン(悪魔)の背後に黒い影のようなものが現れ徐々にそれはユラユラとした悪魔の姿をした影となった。

これまで見たどんな者よりも邪悪な心を持った存在だった。

 

さて、そろそろ処刑を始めるとするか!『破壊王』!

 

フラン(悪魔)は黒刀に『レーヴァテイン』の剣先を向けて吠えた。

黒刀は怒りで『八咫烏』を握る左手を震わせる。

 

「…許さねえ。」

 

あ?

 

「絶対に許さねえ!」

 

叫んだ黒刀は加速して斬りかかる。

フラン(悪魔)は想像越えるスピードで薙ぎ払った。

黒刀は咄嗟に回避したが頬を僅かに掠めて火傷する。

 

ハハハ!分かってんのか!これは殺し合いだ!セーフティーなんてあるわけねえだろうが!

 

フラン(悪魔)は高笑いした。

 

 

 

 フランの精神世界。

フランはうずくまっていた。

紅魔学園の入試の面接の時に試験官に、

 

「お~!君はあのレミリア・スカーレットの妹なのか!ならば君にも期待出来そうだな!」

 

そう嬉しそうに話しかけられた。

 

 今年の春、入学してからはクラスメートからこう聞かれた。

 

「へえ~フランちゃんってあのレミリア・スカーレットの妹なんだ~!じゃあフランちゃんもかなり強いってことだよね?」

 

どこにいても『レミリア・スカーレットの妹』と呼ばれる。

 

お姉様のことは嫌いじゃない。

むしろ大好きだ。

尊敬もしているしお姉様が活躍しているところは見ていて誇りに思える。

でも周囲の皆は私を…『フランドール・スカーレット』を見てくれない。

『レミリア・スカーレットの妹』としてしか見ない。

私はお姉様じゃない…なのに誰も私を認めてくれない…嫌だ…辛い…苦しい…だから私は私を認めないクラスメートを叩き潰した。

その時からだ…私の中で何かが変わってしまった…

 

 精神世界のフランの目の前にもう1人のフランが現れる。

そのフランは邪悪な目をしていた。

目の白い部分が黒く染まっている。

それはフランの心の闇だった。

 

 何を後悔しているの?本当は楽しかったんでしょ…私を認めない愚かな奴らを潰していくのがさ…

 

フランは立ち上がった。

 

 違う!私はそんなこと…

 

 いい子ぶらないで!私を認めてくれる人なんて誰もいない!だから全部ぶっ壊す!

 

 

 

 現実世界。

フラン(悪魔)の邪悪なオーラはさらに高まっていた。

 

いいね~…悪魔の俺とこいつの力があれば俺は最強だ!

 

フラン(悪魔)は体をのけ反らせて力の快感に浸っていた。

 

そうは思わねえか?…『破壊王』。

 

フラン(悪魔)は体勢を元に戻してボロボロになっている黒刀を見る。

 

「…フランを…返せ!」

 

ダメージに苦しみながらも黒刀は叫んだ。

 

おいおい…無理強いはダメだぜ。こいつだって本当は大好きなんだよ…破壊が!

 

「嘘だ!」

 

「嘘じゃないさ…それがこいつの本性だ!」

 

フラン(悪魔)は『フォーオブアカインド』を発動して4人に分身した。

 

「「「「ヒャハハハハ!」」」」

 

気味の悪い笑い声を上げてあらゆる方向から黒刀に斬りかかってくる。

黒刀は防御することで精一杯だった。

 

「くっ!」

 

「「「「どうした?こいつを斬るのが怖いのか?だったらさっさと死ね!」」」」

 

分身の1人が黒刀の脇腹を蹴った。

ビキキッと肋骨が何本か折れる音が響く。

 

「黒刀!」

 

にとり達と共に最前列で見守る映姫が悲痛の叫びを上げた。

黒刀はまるで空中に床があるかのように滑りながら後退していく。

 

「「「「お~痛そうだね~!」」」」

 

フラン(悪魔)は薄気味悪い笑顔を浮かべる。

 

「…はあ…はあ…たかが骨折だ。」

 

黒刀は一切衰えることのない闘志の宿った目でフラン(悪魔)を睨んだ。

そして首を僅かに後ろへ傾けて映姫を見下ろすと僅かに微笑んだ。

 

「(姫姉…ごめん…ちょっとだけ無理するよ。)」

 

黒刀は首の向きを前に戻した。

映姫は黒刀が何をしようとしているのか気づいた。

 

「黒刀、ダメ!それだけは使わないで!」

 

映姫の悲痛の叫びも空しく黒刀は意識を集中して自身の精神世界に入った。

 

 

 

 黒刀の精神世界。

そこはほぼ暗闇の世界だった。

だがその中に光り輝く4つの巨大な鉄の扉が縦に並んでいた。

黒刀は一番手前の扉の前に立つ。

扉には錠がかかっていた。

 

 ここに来るのは随分久しぶりだな…

 

目を閉じて意識を集中する。

目を開けると左手には1つの鍵があった。

黒刀がその鍵を錠の穴に差し込み右に回すとカチャッと音を立てて開錠される。

黒刀は躊躇いなくその扉を開けた。




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限界を超えて

OP5 対魔導学園35試験小隊 Embrace Brade



 現実世界。

 

「オーバーリミット レベル1!」

 

黒刀が詠唱するとそのオーラがフィールド全体を覆い尽くす程の高まっていく。

 

何だ!このオーラは!

 

フラン(悪魔)は始めて驚愕の表情を浮かべる。

 

「あれは『オーバーリミット』。今の黒刀は『ゾーン』の倍の力を引き出しています。」

 

映姫が口を開く。

 

「倍ってことは今の黒刀は200%の力だってことか!」

 

にとりが驚く。

 

「しかし『オーバーリミット』は黒刀に多大な負荷を与えます。以前使った時は山1つを消し飛ばしたこともあります。」

 

「「「山1つ⁉」」」

 

にとり達は耳を疑った。

 

 

 

 

まさかそんな切り札を隠していたとはな…だがそのザマじゃ…

 

「ああ、一撃が限界ってところだろう。だがそれで十分だ。」

 

黒刀は『八咫烏』を両手で握って剣先をフラン(悪魔)に向けると突進突きの構えを取る。

 

「全てのオーラよ…我が鎧となれ!」

 

黒刀が叫ぶとフィールド全体を覆い尽くしていたオーラが黒刀に纏わりつく。

 

「(フラン…今助けてやるから。)いくぞ!クソ悪魔!」

 

黒刀は加速した。

 

殺す!絶対に!

 

フラン(悪魔)は『レーヴァテイン』に邪悪なオーラを込める。

 

デビルインフェルノブレイカー~!

 

赤と黒が混じった炎の斬撃を放った。

黒刀はそのまま炎の斬撃に飛び込んでいく。

 

「てめえのくだらねえ欲望でフランの心を汚すんじゃねえ!」

 

黒刀は怒りの叫びを上げる。

炎の斬撃を突破してフラン(悪魔)の胸を突き刺した。

 

バカが!こいつを刺しても俺には…っ!なんだ?苦しい!

 

突き刺さっている『八咫烏』の刀身を見るとユラユラと揺れていた。

 

霊剣化だと!貴様~!最初からこれを狙ってやがったのか!

 

「消えろ!クソ悪魔!」

 

やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!

 

悪魔の断末魔が響く。

 

 

 

 フランの精神世界。

 

 確かに私はどこかで喜んでいたのかもしれない…でもそれじゃダメなの…

 

 何を言っているの?

 

 私は信じてる…あの人がきっと…迎えに来てくれるって…

 

 嘘だ!あの人は私達を裏切った!こうなったのも全てあの人のせいだ!

 

 違うよ…だってあの人は世界で一番のヒーローだから

 

その時、フラン(闇)の背後に強い光が差し込む。

 

 ほらね………あなたには感謝してるよ…私の代わりに怒ってくれたんだよね…でも…もう大丈夫…これからは大好きな人達と一緒に強くなっていくから…

 

フランはフラン(闇)の横を駆け抜けていく。

フラン(闇)は振り返って右手を伸ばす。

 

 やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 

フラン(闇)がそう叫ぶと光に焼かれて消滅していく。

フランは光に手を伸ばして光の中から伸びる手を握った。

 

 

 

 現実世界。

 

 ……ン………ラン………フラン…

 

フランは自分の名を呼ぶ声に導かれてゆっくりと瞼を開いていく。

すると自分が誰かの腕に抱かれていることに気づく。

顔を上げるとそこには大好きな人の顔があった。

 

「おかえり…フラン。」

 

優しい目で言葉をかけるのは…

 

「お義兄様…。」

 

フランは涙を流すと黒刀の胸に顔をうずめた。

 

「ごめんな…今まで辛い思いをさせて…。」

 

黒刀は強く抱きしめて言葉をかけた。

 

「ううん…いいの。だって…」

 

 また…こうして大好きな人の温かさを感じられるから…

 

「フラン…見て。」

 

黒刀とフランの視線の先には綺麗な夕日があった。

フィールドの床には『レーヴァテイン』と『八咫烏』が交差して突き刺さっている。

 

「さて…フラン。」

 

「なあに?お義兄様。」

 

「まだやるか?決勝戦の続き。」

 

「ううん…もう私は十分満足したよ。だから私の…負け。」

 

《勝者 四季黒刀》

 

フランが降参したことにより機械音声が鳴り響く。

2人が地上に着地すると黒刀の『ゾーン』が解けて白い翼もスーッと消えていく。

フランの『レーヴァテイン』も消えていく。

レミリアがフィールドに駆け込んできてフランを抱きしめた。

 

「フラン!良かった…無事で。」

 

「お姉様…ごめんなさい。心配かけて。」

 

「いいのよ…フランが無事ならそれで。」

 

黒刀は2人から離れると床に突き刺さっている『八咫烏』に歩み寄る。

 

「ありがとう。」

 

そう呟いてから『八咫烏』を床から抜いて納刀する。

抱き合う2人を一度見てから立ち去ろうとする。

 

「待って!」

 

するとレミリアに呼び止められた。

黒刀が振り返る。

 

「一応お礼を言っておくわ…ありがとう…。」

 

レミリアは目を逸らして少し頬を赤く染めながらお礼を口にした。

 

「…どうも。」

 

黒刀はそれだけ言い残して去った。

 

 

 

 フィールドを出るとすぐに映姫や妖夢達が駆け寄ってきた。

 

「黒刀!」

 

「先輩!」

 

「観客は?」

 

黒刀が訊く。

 

「大丈夫。学園長が空間魔法で外に避難してくれました。」

 

映姫が答える。

 

「それより先輩…ひどい怪我です!」

 

「大丈夫大丈夫。こんなの大したことないって…」

 

黒刀が言葉を続けようとしたところで、

 

「黒刀先輩、ちょっと。」

 

大妖精が治癒魔法をかける。

 

「…肋骨3本折れてます…火傷は…すぐに治せます。ただ一番ひどいのが…全身筋肉痛です。」

 

大妖精は一瞬で黒刀の状態を見抜いた。

 

「筋肉痛⁉黒刀!」

 

魔理沙は驚いた。

 

「『オーバーリミット』の反動ですね。まだ使いこなせていないものを…。」

 

映姫が黒刀をジト目で睨んだ。

 

「…使わなきゃいけない時だったんだ。絶対に負けられない戦いだった。」

 

「まあ…今回は許してあげます…。」

 

映姫は渋々納得して聞き入れた。

 

「先輩。」

 

妖夢が呼んだ。

 

「ん?何だ?」

 

黒刀が聞き返した。

 

「先輩はどうしてあそこまで戦えるんですか?」

 

「ん~それは守りたいものがあったからだよ。」

 

「守りたいもの…。」

 

黒刀の答えに妖夢はつぶやく。

 

「前にも話しただろ。俺の『剣魂』は大好きな人達なんだ。その為なら命だって懸けられる。」

 

「命を懸ける…。」

 

「ま、お前はそのくらいの気持ちで頑張れってこと。」

 

黒刀は妖夢の頭にポンと手を置いた。

 

「先輩…私、きっといつか先輩を超える剣士になってみせます!だからそれまで先輩の背中を追いかけさせて下さい!」

 

妖夢は自身の決意を黒刀に伝えた。

 

「好きにしろ。ただし、あんまりトロトロしていると背中が見えなくなるから覚悟しとけよ。」

 

「はい!」

 

妖夢は大きな声で応えた。

 

 

 

 第10回剣舞祭個人戦。

 

優勝 四季黒刀。

 

準優勝 フランドール・スカーレット。

 

 

 

 8月10日。

黒刀達は奈良県幻想町に帰った。

優勝トロフィーや賞状は神光学園の学園長室に飾ってある。

 

 黒刀は自宅の写真立てに写真を飾った。

それは黒刀達が団体戦で優勝した時に皆で撮った記念写真だった。

 

 

 

 みんなの表情は笑顔であふれていた…




全国編完。

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記憶を求めて

OP6 遊戯王 OVERLAP

新章スタートです!


 国が燃えている。

 

 ここではないどこか…今ではないいつかで…国が燃えている。

 

 その業火の中で悲しみの叫びを上げる者がいた。

 

 その者の名は…

 

 

 

 8月15日。

剣舞祭が終わってから1週間後の午前5時。

黒刀は突然、目が覚めた。

 

「はあ…はあ…今のは…夢?しかし…何だこの胸の奥に突き刺さるような痛みは…何か…何か大切なことを忘れている…そんな気がする。」

 

そこまで考えてから映姫を起こさないようにベッドから出て階段を降りて寝間着のまま

玄関から外に出てポストに入っている新聞を取りに行った。

ポストの中を見ると新聞と封筒が1つ入っていた。

 

「何だ…これ?」

 

ポストから新聞と一緒に取り出して家の中に入った。

リビングに入りテーブルの上に新聞を置いてから封筒の封を切って中の物を取り出す。

中には大小に分かれる2枚の紙が入っていた。

黒刀はまず小さい紙を開いて内容を呼んだ。

そこにはこう書かれていた。

 

 10年前の真実を教えてあげます。

 知りたければもう1枚に記した場所まで来てください。

 

黒刀はもう1枚の大きな紙を開いて見た。

そこにはモンゴルの地図が記されていた。

さらに地図の左側の一点には赤丸で囲まれていてそこに矢印でこう書かれていた。

 

 ザナドゥ王国

 

それを目にした黒刀は激しい動悸を感じた。

さらに頭痛もしてきた。

 

「俺は…この場所を知っている…いや…そんなはずは…知らない…ザナドゥ王国なんて…。」

 

黒刀は言葉を連ねた。

イタズラにしては内容が不自然過ぎるし何より黒刀の心がこれを無視してはいけないと告げていた。

 

「でも…ここの近くには確か………行ってみるかここに…。」

 

黒刀は映姫を起こさないように身支度を済ませると2枚の紙が入った封筒を持って玄関から家を出た。

 

「ごめん…姫姉…多分これは俺の問題なんだ…。」

 

黒刀はドアを閉める直前にそう謝った。

 

 

 

 8月15日 午前5時30分。

四季黒刀は幻想町を去った。

 

 

 

 8月15日 午前9時 大阪国際空港ターミナル。

この日は黒刀と映姫が妖夢達を連れて桜の暮らすスウェーデンに遊びに行く日だった。

妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精は既にターミナルで待っていた。

 

「黒刀達、おっそ~い!」

 

チルノが駄々をこねていた。

 

「チルノちゃん、私達は誘われたんだから少し待たなきゃダメだよ。」

 

大妖精がチルノを嗜める。

 

「でも、さすがに遅いぜ。黒刀はともかく生徒会長まで。」

 

魔理沙は不思議に思っていた。

 

「確かにそうね…。」

 

霊夢も頷いている。

妖夢も心配そうにしていたその時。

妖夢の携帯端末に着信が入ってきた。

妖夢は空間ウインドウを操作してモニター通信をつなぐ。

通信の相手は映姫だった。

 

《皆、揃ってる?》

 

映姫は何だか慌てている様子だった。

 

「はい。皆、空港ターミナルにいます。」

 

妖夢はモニターウインドウに皆の顔を映した。

 

《黒刀が…黒刀が飛行機で行ってしまったの!》

 

「何だ。先に行ったならそう言えば…」

 

魔理沙の安心した言葉を映姫は遮った。

 

《違います!黒刀が行ったのはスウェーデンではありません!モンゴルです!》

 

「「「「「え?」」」」」

 

妖夢達は耳を疑った。

 

《GPSで確認しました!私も今、空港に向かっています!もうすぐ着きますからそこで待っててください!》

 

「は、はい…。」

 

妖夢は動揺しながらも返す。

 

《それじゃ》

 

映姫は通信を切った。

 

 

 

 午前10時。

映姫が大阪国際空港ターミナルに到着して妖夢達と合流した。

 

「会長、先輩がモンゴルに行ったってどういうことですか?」

 

「分かりません。ただ胸騒ぎがします。何か大きなことが起きようとしている…そんな気がします。皆さん、すみませんがスウェーデン行きはキャンセルして私と一緒にモンゴルに行ってもらえませんか?もちろんチケット代は私が払います!」

 

「でも…」

 

魔理沙が空港の空間ウインドウに視線を移す。

 

「3時間は待たないとモンゴル経路はないぜ。」

 

「それじゃ遅いわね…。」

 

霊夢はため息を吐く。

その時…

50m程離れた場所にレミリア、フラン、咲夜が歩いていた。

 

「そうだ!お~い!」

 

それを見た魔理沙がレミリア達を呼びに行った。

 

 

 

 

「何なのよ?私達、これからイギリスに帰るのだけれど…。」

 

呼ばれて来たレミリアが腰に手を当てて文句を言う。

 

「実は…」

 

映姫が妖夢達と同じように事情を説明した。

 

「ねえお姉様、助けてあげようよ。」

 

事情を聞いたフランがレミリアにお願いした。

 

「私からもお願いします。」

 

映姫は年下のレミリア相手に頭を下げた。

 

「頭を上げて下さい。…いいわ!咲夜、イギリス行きキャンセル!」

 

「しかし、それでは旦那様が…」

 

「咲夜、あなたの主は誰?」

 

「お嬢様です。」

 

咲夜は即答した。

 

「なら無駄な時間は取らせないでちょうだい。スカーレット家の自家用ヘリがあるからそれで行きましょう。」

 

「かしこまりました。」

 

映姫達を連れて非常口から抜けるとそこにはヘリポートがあった。

 

「15人は乗れるヘリよ。」

 

レミリアが澄まし顔で自慢した。

 

「「「「「す…すげえ…。」」」」」

 

庶民の5人は格差を感じた。

 

「操縦は咲夜がするわ。さて、自分勝手な男を連れ戻しに行きましょう!」

 

 

 

 黒刀は既にモンゴルに到着していた。

かなりの距離を移動していくとそこには半径数㎞に及ぶ巨大なクレーターがあった。

黒刀は伊豆を見る。

 

「このクレーターの向こうか…ザナドゥ王国があるのは…。」

 

しかし黒刀の『千里眼』を以てしても向こう側を把握することは出来ない。

ただ…王国という割には建物の影すら見えない。

 

「とりあえず行ってみるか。」

 

クレーターを滑り終えて一番下の地面に着地する。

そしてゆっくり一歩ずつ歩いていく。

 

 

 

 クレーターのちょうど中心まで到達すると黒刀はそこで立ち止まった。

 

「2時間歩いてこの距離か…。」

 

太陽はちょうど真上から日射しを差している。

その時、遠くからプロペラ音が聞こえてきた。

黒刀が後ろの空を見ると大きなヘリがこちらに向かって来ていた。

ヘリが黒刀の近くに着陸するとその中から映姫や妖夢達が出てきた。

映姫は黒刀に歩み寄ると頬を思いっきり引っぱたいた。

 

「黒刀!自分がどれだけバカなことをしているか分かっているの!」

 

映姫は激怒していた。

黒刀は叩かれた頬をたいして気にもせず映姫の目を見る。

 

「勝手に出て行ったことは謝る。けどこれは俺の問題なんだ。姫姉、父さんから聞いたことあるでしょ?ここがどういうところか。」

 

黒刀にそう言われて映姫はハッと気づき後ずさる。

 

「まさか…ここは…。」

 

黒刀は映姫の後ろにいる妖夢達を見る。

 

「そうだな…。妖夢達にもそろそろ話してもいいだろう。」

 

深く息を吸い込んで覚悟を決めたような顔をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺は四季家の本当の子供じゃない。ここで四季大和に拾われた養子なんだ。」

 

黒刀の突然の告白に映姫以外の者は驚愕の表情を浮かべた。

 

「本当の子供じゃないって…どういうことですか?」

 

妖夢が困惑しながらも質問する。

 

「俺の誕生日が9月6日となっているのはその日が四季大和に拾われた日だったからだ。

俺はいつ生まれたかもどこから来たかも自分の名前すら知らない。覚えていないんだ。

四季大和…父さんに拾われる以前の記憶が俺には…ない。」

 

「10年前の9月6日…つまり第3次世界大戦の終戦の日です。お父様は敵軍総本部である北朝鮮を壊滅しその数時間後にこのモンゴルのある場所で非人道的な実験が行われているという情報を掴んですぐこの場所に向かいました。しかし、ここには研究所なんてなくあるのはこの巨大なクレーターだけでした。そして、その中心点…つまりこの場所で…」

 

「俺と父さんは出会った。」

 

黒刀が映姫の補足に付け足した。

 

 

 

 10年前。

大和はクレーターの中心点で小さな男の子を見つけた。

歳は7歳くらいか…体や服はボロボロで今にも倒れそうだった。

目に生気は宿っていない。

 

「君、大丈夫か?」

 

大和はその男の子に近づいて手を伸ばす。

 

「っ!…大人…くる…な…消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

男の子が怒りを込めた目つきに変わり叫ぶと強烈は波動が放たれた。

 

「総帥!」

 

大和の体が少し後退していくと近くの兵士が声をかける。

 

「心配ない…それより銃を下ろせ。俺がなんとかする。」

 

「しかし…」

 

兵士が口ごもる。

 

「命令だ。」

 

大和はそう言い聞かせた。

オーラの波動に耐えながら一歩ずつ男の子に近づいていく。

 

「大丈夫だ…俺は君を傷つけない。」

 

大和は近づきながら言葉をかける。

しかし男の子はなおも怒りを込めた視線を向ける。

 

「嘘だ…お前達は…俺から…何もかも奪っていくんだ!」

 

「(まさかこのクレーターはこの子が…。)」

 

大和がそう思っていると男の子が突然、頭を抱えだして苦しんだ。

 

「う…うう…うああああああああああああああああああああああああ!」

 

大和は男の子の目の前までたどり着く。

 

「うああ!」

 

男の子は頭を右手で抱えながら左手で大和の腹を殴った。

 

「ぐっ!」

 

大和は子供とは思えないほど強烈な一撃に呻き声を上げるが…歯を食いしばって耐えると男の子の体はそっと抱きしめた。

 

「どう…して?」

 

男の子は大和の行動を理解できず固まってしまった。

 

「君を傷つけたりしない。そう約束したからな。なあ、教えてくれないか?君の故郷は?」

 

男の子はフルフルと首を横に振った。

 

「なら…君の名前は?」

 

「名前……名前…は…くろと。それが俺の名前…。」

 

「いい名だ。では『くろと』。私と家族にならないか?」

 

「家族?」

 

『くろと』は言葉の意味を理解できなかった。

 

「家族と言うのはこの世界で一番強い絆で結ばれたものだ。どうだ?」

 

『くろと』は少し迷っていたがやがて首を縦に振った。

 

「…なる。」

 

「よし…なら今日はお前は私の息子…『四季黒刀』だ。これからよろしくな。」

 

「うん。」

 

黒刀はようやく笑顔を見せた。

 

 

 

 現在。

 

「それが俺と父さんの出会いだった。」

 

黒刀の話を聞いた妖夢達は言葉を出せなかった。

考えてしまう。

目の前にいるこの人が本当は一体誰なのか…と。

 

「父さんは俺のDNAを調べて俺が7歳であることを教えてくれた。

父さんは恐らく本当の誕生日と名前を知っている。

それでも教えられないのはそうする理由があるからだろう。

それは分かっている…だけど俺は知りたい。自分が何者なのかを。」

 

「それがここに来た理由ですか?」

 

映姫が真剣な顔で訊く。

 

「今朝、ポストにあるメモが入っていた。そこには俺の10年前の真実を教えると書かれていた。」

 

「そんなのイタズラかもしれないだろ?」

 

魔理沙が否定する。

 

「俺も最初はそう思った…けどどうしても否定しきれない。頭じゃなく心が。

指定された場所はここじゃなくこのクレーターを越えた先だ。…ここまで来られた以上仕方ない…ついてくるなら来ればいい。」

 

黒刀が前を向いて歩き出したその時…

 

 …オカエリ…

 

声が黒刀の頭に響いてきた。

すると黒刀がいきなり頭を抱えだした。

 

「っ!」

 

その場にうずくまってしまう。

 

「黒刀!」「先輩!」

 

映姫と妖夢が駆け寄ろうとしたその時。

それを阻むように空から黒い光が降り注いだ。

そこから現れたのは6人の女だった。

 

「誰だ!」

 

チルノが叫ぶ。

 

「ザナドゥの民、風見幽香!」

 

「同じく霊烏路空(れいうじうつほ)!」

 

「同じく古明地さとり!」

 

「同じく古明地こいし!」

 

「同じく封獣ぬえ!」

 

「同じくルーミア!」

 

6人の女は1人ずつ高らかにそう名乗った。




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ザナドゥの民

OP6 遊戯王 OVERLAP



「ザナドゥの民?」

 

妖夢が呟いた。

ルーミアと名乗った少女が頭を抱えている黒刀に近づく。

 

ルーミア。

姿は幼い少女で瞳の色は赤、髪は金髪のボブ。

白黒の洋服、スカートはロング、左側頭部には赤いリボンを着けている。

 

「さあ、行きましょう…我らの王よ。」

 

そう口にすると黒刀の体が黒いオーラの球体に飲み込まれていく。

その球体は徐々に高度を上げていく。

 

「待って!先輩をどうするつもり!」

 

妖夢が呼び止める。

 

「お前には関係のないことだ。王は自ら望んで我らの元に来た。

邪魔はさせない!…いくよ。」

 

ぬえと名乗った少女が他の仲間達に呼びかけて去ろうとする。

 

封獣ぬえ。

黒髪のショートボブで右の後ろ髪だけが外に跳ねた左右非対称の髪型をしている。

瞳の色は深紅。

裾に赤い渦巻き型の模様のある黒地のワンピースを着て、胸元に赤のリボンをつけていて黒のニーソックスと赤い靴を履いている。

背中からは赤い鎌のような3枚の右翼と青いグネグネとした矢印状の左翼が3枚生えている。

手にはトライデントのような槍を持っている。

 

「ふざけるな…先輩を…返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

妖夢がハイジャンプを使って宙に浮くルーミア達に斬りかかろうとする。

その時、妖夢の近くに花びらが舞って声が響いた。

 

「火花!」

 

すると花びらが発光して爆発した。

 

「王の帰還の邪魔はさせない!」

 

幽香と名乗った女性が言い放った。

 

風見幽香。

癖のある緑の髪で瞳の色は真紅。

白のカッターシャツにチェックが入った赤のロングスカート。

その上からチェック柄のベストを羽織っている。

スカートには花の形のワッペンをつけている。

首には黄色のリボン、日傘を差している。

 

爆発の煙が晴れると妖夢の周囲には氷の盾が展開されていた。

妖夢の前にはチルノが飛んでいた。

どうやら『アイスシールド』で妖夢を守ったようだ。

 

「へえ、少しはまともにやれそうな奴の用ね。」

 

幽香が感心した声を出す。

その時…

 

「余所見をしていいんですか?」

 

声を発したのは『抜き足』を使ってルーミアに接近して『影牢』で捕縛した映姫だった。しかしルーミアは動じなかった。

 

「いいの?そんなことをして。」

 

ルーミアは不敵に微笑んだ。

 

「え?」

 

映姫が声を発した直後、意識が朦朧としてきて『影牢』が解かれて映姫は気を失って地面に落下していく。

 

「私からオーラを吸収するなんて愚かなことをするからそうなるんだよ。」

 

「魔理沙!」

 

「分かっているぜ!」

 

霊夢の声に魔理沙が応えると落下中の映姫を受け止める。

 

「お前らの行為は戦闘行為と判断する。幽香!さとり!こいし!…少し相手をしてやれ。」

 

「「「はい。」」」

 

応えた3人は一斉に妖夢達に襲いかかった。

幽香はチルノへ、さとりはレミリアへ、こいしはフランへとそれぞれの敵に向かう。

 

古明地さとり。

桃色の髪でやや癖のあるボブ。

深紅の半目。

体格は小柄。

フリルのついたゆったりとした水色の服、下はピンクのセミロングスカート。

頭には赤いヘアバンド。

 

古明地こいし。

灰色の髪でセミロング。

瞳の色は緑。上の服は黄色の生地に二本白い線が入った緑の襟、鎖骨の間と胸元と鳩尾あたりに1つずつ付いたひし形の水色のリボン、頭には鴉羽色の帽子、薄い黄色のリボンをつけている。結び目の左前辺り。

 

「チルノ、足場作れる?」

 

「お安い御用さ!」

 

妖夢の言葉にチルノが応えて氷の直方体の足場を空中に造形した。

 

「ありがとう。」

 

妖夢は氷の足場の上に乗るとダッシュで幽香達の間を抜けて、ぬえに突撃した。

 

「(恐らくあの人が彼女達のリーダー。その人を倒せば!)」

 

「なるほど…僕を倒せば勝ちだと思っているわけか…甘い!」

 

ぬえは妖夢の思惑を読んで言い放った。

その時、地上の咲夜が時間を停止する…が、

 

「舐めるな。」

 

ぬえがオーラの波動を放つとパリンッと音を立てて破られた。

 

「そんな…。」

 

咲夜は唖然として固まってしまう。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

妖夢はぬえに斬りかかっていくがぬえは防御術式を展開して妖夢の剣技を防ぐ。

しかし、映姫を大妖精の元へ届けた霊夢と魔理沙がぬえの左右両方向から同時に砲撃を放つ。

 

「マスタースパーク!」

 

「白霊砲!」

 

「だから甘いと言っている。」

 

ぬえは両手を左右に伸ばすと2人の砲撃を手のひらで防いだ。

 

「ほら返すよ。」

 

左手で防いだ『マスタースパーク』を霊夢へ、右手で防いだ『白霊砲』を魔理沙へ流した。

 

「「ぐあっ!」」

 

霊夢と魔理沙が悲鳴を上げて落とされる。

 

「霊夢!魔理沙!」

 

妖夢が下を見下ろして叫ぶ。

 

 

 

 幽香は服の裾から植物のツルを伸ばして飛び回るチルノを追い詰めていく。

そして、ついにチルノの足首を捕まえる。

 

「しまった!」

 

チルノが声を上げるのも束の間、振り回されて地面に叩きつけられる。

 

「チルノちゃん!」

 

大妖精が映姫を介抱しながら叫ぶ。

 

 

 

 フランは視線を泳がせながらこいしの姿を探していた。

 

「どこ?どこにいるの?」

 

「ここだよ。」

 

声が聞こえた直後、腹に強烈な痛みが走る。

遅れて自分がこいしに膝蹴りをされていることに気づく。

 

「がはっ!」

 

フランは血反吐を吐くがなんとか『レーヴァテイン』で薙ぎ払ってこいしに距離を取らせる。

 

「なんで…いつの間に正面に。」

 

フランは腹を左手で押さえながら呟く。

 

「いたよ。最初からあなたが気づいてなかっただけ。」

 

「どういうこと?」

 

「これから死ぬ奴が知ってどうするの!」

 

こいしはまた姿を消した。

数秒後、フランのうなじに痛みが走った。

僅かに視線を後ろに向けるとこいしが自分に手刀した後だった。

さらに手刀によって意識が朦朧となったところで正面に回られて蹴りが来る。

フランは両手をクロスして受けるがこいしの蹴りが予想以上に重くフランの体を地面に叩きつけた。

追い打ちとばかりに地面に叩きつけたフランに霊力弾の弾幕を放った。

 

「妹様!」

 

咲夜が声を張り上げて叫ぶ。

 

 

 

 レミリアは『未来王の眼』と『グングニル』で連続攻撃をさとりに仕掛けるがさとりはそれを最低限の動きだけで躱していた。

まるで心を読んでいるかのように。

 

「(こいつ…。)」

 

レミリアは唇を噛みしめる。

さとりは躱しながらオーラで黒い影のような剣を造形するとレミリアに振ってきた。

レミリアは翼を前に出して防御に入る。

だがオーラの剣はレミリアをそのまま押していく。

 

「なっ!」

 

レミリアは目を見開いた。

 

「無駄です。ザナドゥの民である私達にあなた達は勝てない。」

 

「…私も少し前まではあんたと同じことを言っていたわ。

だけどそういうことは誰かに決められることじゃ…ない!」

 

レミリアは翼を引いて『グングニル』を振ってさとりの剣とぶつかり合った。

 

「…しぶとい。」

 

さとりは忌々しげにそう口にした。

 

 

 

 妖夢は飛行できないのでハイジャンプを連発してぬえに連続で斬りかかっていく。

ぬえはその攻撃をことごとく防ぐ。

 

「なら…これでどうだ~!」

 

妖夢は『閃光斬撃波』を放った。

 

「そんなお遊びの技で僕を倒せると思うな!」

 

ぬえは両手で黒いオーラの玉を生み出して『閃光斬撃波』に向けて放つ。

その玉は『閃光斬撃波』をあっさり突き抜けて妖夢に直撃した。

さらにぬえは追い打ちで霊力弾の弾幕を放つ。

まだダメージのある妖夢は防ぎ切ることが出来ず何発か直撃してしまう。

この痛みはセーフティーによって緩和されたものではない。

本物の痛みだ。

妖夢は意識が途切れる前に斬撃を1発放った。

だがその斬撃がぬえに届くことはなく途中で力尽きて消えてしまう。

妖夢は気を失って地面に落下していく。

 

「くっ!」

 

レミリアはさとりから離れて落下中の妖夢に急降下して墜落寸前で受け止めて着地する。

 

「こいつら…強すぎるぜ…。」

 

魔理沙が歯を食いしばる。

 

「お空、とどめをさせ。」

 

「あいよ!」

 

ぬえの指示に『お空』と呼ばれた少女は右手に装着された砲身を地上にいるレミリア達に向ける。

砲口の先にオーラを集束していく。

 

「あれはまずい!」

 

レミリアは1人飛び立った。

 

「カオスブラスター!」

 

お空は砲口から赤黒いビームを撃ち放った。

 

「スピア・ザ・グングニル!」

 

レミリアは正面から『カオスブラスター』に立ち向かった。

しかし『未来王』のレミリアの力でさえ押されていく。

 

「くっ!」

 

レミリアはなんとか踏ん張る。

 

「滅びろ。」

 

お空が呟いた直後、激突した部分が大爆発を引き起こした。

 

「行くよ。」

 

ぬえが幽香達に呼びかける。

6人は黒い6つの光となってクレーターの向こう側に飛んでいく。

黒刀を入れた球体と共に。

向こう側まで飛んでいくとそこから空間が歪んでいく。

そして、突如出現したのは古代の王国だった。

 

 

 

 大爆発の煙が徐々に消えていくとレミリアが展開した防御術式と霊夢の展開した結界の中にレミリア達はいた。

 

「ふ~…間一髪だったわね。」

 

霊夢は一息つく。

 

「礼を言うわ霊夢。」

 

霊夢とレミリアのそんなやり取りも突如出現した古代の王国によってなくなる。

 

「なんだよ…あれ…さっきまであんなの無かったぜ!」

 

魔理沙がこの場の誰もが思っていることを代弁した。

だが霊夢の反応だけは違った。

 

「(何…懐かしい?いや…そんなはずはない…私はここに来るのが今日が始めて…のはず。)」

 

霊夢はどこか否定しきれない部分が自身にあった。

それでもすぐに気持ちを切り替える。

 

「ねえ…さっきの戦いで気づいたことがあるの。タイミングがなくて言えなかったんだけど…彼女達、魂を2つ持っている。」

 

大妖精が怪我人に治癒魔法をかけながら反応する。

 

「確か前にもそんなことが…そうです!黒刀先輩が二宮さんと闘った時と同じ!」

 

「そう!だけど1人だけ魂が1つだけの奴がいたの…それはあのぬえっていう奴よ。

あいつだけが魂1つだった。」

 

「なら彼女がリーダーで間違いないでしょうね。戦闘中も指示を出していたし。」

 

そう言ってレミリアが頷く。

 

「とにかく…」

 

魔理沙が言葉を続けようとした時、

 

「「とにかくあいつらをぶっ飛ばす!」」

 

フランとチルノが飛び起きて声を揃えた。

大妖精が完治させたようだ。

 

「それはいいとして妖夢と会長をどうするのよ?黒刀先輩を取り戻しに行くなら確実にこの2人の力は必要だわ。」

 

霊夢が意見を口にする。

 

「なら私が会長を運ぶから霊夢と魔理沙は妖夢を運びなさい。

咲夜、あなたはヘリで待機よ。黒刀を取り戻してすぐにでもここを出られるようにしておきなさい。」

 

レミリアが指示を出す。

 

「すげえリーダーシップ。」

 

魔理沙が感心した。

 

 

 

 午後1時 ザナドゥ王国 玉座の間。

黒刀を入れた球体は玉座の真上で浮遊していた。

ルーミアは球体の目の前まで浮遊して近づく。

 

「それじゃ融合を始めるよ。」

 

そう言って黒い球体の中に入り込んだ。

黒い球体の中の黒刀は目を閉じたまま仰向けに浮遊していた。

ルーミアは黒刀の真上に移動して向き合う。

 

「融合開始。」

 

その直後に黒刀の様子が急変した。

まるで何かに抗うように体をよじり出して苦しみだした。

 

「う…うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

黒刀の叫びが響き渡る。

 

「それにしてもなんで俺だけこんな年増の女なんだ。お前らみたいに若い方が良かったぜ。」

 

黒刀の叫びを気にも止めず幽香が憑依した体に不満を漏らした。

 

「なんかあなたって四天王最弱の立ち位置だよね…完全に。」

 

こいしが笑う。

 

「なっ!おい、それはどういう意味だ!」

 

幽香が声を荒げる。

 

「少し静かにしろ。誰の御前だと思っている。」

 

4人の前で黒い球体を見上げていたぬえが振り向かないまま注意した。

その一言だけで彼女達は黙り込んでしまった。

 

「もうすぐ会えますよ…。」

 

ぬえはどこか懐かしむような目をしていた。

 

そしてレミリア達はザナドゥ王国に侵入しようと迫っていた。




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反撃

OP6 遊戯王 OVERLAP



 8月15日 午後1時。

ぬえはザナドゥ王国の外から接近してくるレミリア達の気配に気づいた。

 

「王の復活を妨げようとする者が近づいてきている…。」

 

「まさかあれを喰らって生きているとは…。」

 

お空は半ば驚いていた。

 

霊烏路空。

黒髪ロングで赤い瞳。

身長は高め。

白のブラウスに緑のスカート。

右腕には機械的な砲身が装着してある。

頭には緑の大きなリボン。

背中には烏のような真っ黒な翼。

 

「お前達、奴らを迎え撃て。ただし今度は全力でだ。」

 

ぬえは後ろの4人に振り返って命令した。

 

「「「「はい!」」」」

 

4人は応えると玉座の間を出て飛行するとレミリア達を迎撃しに向かった。

 

 

 

 飛行してザナドゥ王国に侵入する直前にレミリアは忠告する。

 

「1つだけ言っておく。この戦いはデュエルと違ってセーフティーが効かない。

つまり命がけとなるわ。だから絶対に何があっても死なないこと。

これだけは覚えておくこと。」

 

 ついにザナドゥ王国の領土内に入った。

その時…

頭上から強い衝撃が押しかけてきて硬度を保てず低空飛行になっていく。

 

「なんだ!これ…重力魔法か?」

 

魔理沙が疑問を口にする。

 

「違うわ。これは高度制限術式。恐らくあのぬえが遠くから発動させているのよ。」

 

霊夢がその疑問に答える。

だんだん高度が落ちてきたところで地面から大きな植物のツルが生えてきてレミリア達に襲いかかってきた。

 

「ソードフリーザー!」

 

そこにチルノが氷の剣で植物のツルが切り裂いた。

切り裂かれた植物のツルが地上に落ちるとその近くには幽香が立っていた。

 

「私が一番乗りか…。それにしてもやっぱりあの氷のガキが邪魔してきやがったか。」

 

幽香はチルノを捉えた。

 

「あいつはあたいがやる。さっきの借りがあるし!」

 

チルノは急降下する。

 

「あ、ちょっとチルノちゃん!…ごめんなさい。私はチルノちゃんについていくので皆さんは先に行ってください。後から追いつきますから。」

 

大妖精はレミリア達に声をかける。

 

「分かったわ。必ず追いついてきなさい。」

 

「はい!」

 

大妖精は応えて急降下する。

 

「そう簡単に行かせる訳ないでしょ!火花!」

 

幽香は先を行こうとするレミリア達を見て花びらを飛ばした。

その時…

 

「アイスニードル!」

 

チルノが放った氷の棘が花びらを1つ残らず粉砕した。

 

「やっぱりお前を先に倒し解かなきゃいけないみたいだね。」

 

幽香はチルノを睨んだ。

 

 

 

 妖夢がようやく目を覚ますとそこは空中だった。

 

「あれ…私…。」

 

妖夢は状況を確認しようとする。

 

「お、やっと起きたか妖夢。」

 

魔理沙が声をかけてきた。

 

「全くお寝坊さんね。」

 

霊夢が微笑む。

 

「それ…お前が言うか?」

 

魔理沙がジト目を霊夢に向ける。

 

「ちょっと!それ、どういう意味よ!」

 

霊夢はそれに対して怒る。

 

「暴れんなよ!妖夢を落としちゃうだろ!」

 

「あの…なんで私は運ばれているの?」

 

「黒刀先輩があの王宮みたいなところに連れていかれちゃったから取り戻しに行くのよ。」

 

霊夢が大雑把に説明した。

 

「今、チルノと大妖精が敵の1人を足止めしてくれているぜ。」

 

「そうなんです…っ!霊夢!魔理沙!今すぐ私を離して!早く!」

 

「おい、何を言って…っ!」

 

魔理沙が反論しようとしたその時、目の前から熱線が放たれた。

 

霊夢と魔理沙は咄嗟に妖夢の言う通り手を離して左右に避ける。

妖夢は地面に激突する直前にハイジャンプを使ってから着地する。

熱線を放ってきたのはお空だった。

 

「幽香の奴、先に全員倒してくるとか言って逃げられてんじゃん。やっぱ最弱だな。」

 

お空は滞空飛行しながら幽香のことに対して文句を口にした。

 

「ま、ここは私1人で十分…」

 

お空が言葉を続けようとしたその時、霊夢と魔理沙がいつの間にかお空の頭上に移動していた。

 

「マスタースパーク!」「白霊砲!」

 

同時に砲撃を放つ。

お空は右腕の砲身を盾代わりにして受け止める。

 

「こいつら、いつから…そうか!さっき左右に避けた時か!」

 

お空は霊夢と魔理沙の砲撃の威力に耐えきれず地面に叩きつけられる。

 

「行って!ここは私達が引き受ける!」

 

「ああ、妖夢達は先に行け!」

 

「そんな…皆を置いていけないよ!」

 

妖夢は霊夢達が犠牲になることに納得できなかった。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!私達は黒刀先輩を助けに来たのよ!」

 

「そうだぜ!私達はこいつをなんとかするからお前は黒刀を助けてこい!」

 

霊夢、魔理沙と妖夢が言い合っている間にお空が瓦礫の中から出てきた。

 

「ここで逃がして幽香と同じ扱いになるのは…嫌だな!」

 

お空は砲口を妖夢に向けて熱線を撃ち放った。

 

「白霊砲!」「マスタースパーク!」

 

霊夢と魔理沙は熱線の射線上にいる妖夢をかばうように地上に降りて放った。

 

「「行け!妖夢!」」

 

2人の想いを受け止めた妖夢は意を決して王宮に向かって走り出した。

 

「たった2人で私を倒せると?」

 

お空が熱線の威力を高める。

霊夢と魔理沙は押し負けて熱線の爆発を受けて倒れるがすぐに立ち上がった。

 

「倒せるかどうかだって?そんなことどうだっていいぜ!」

 

「何?」

 

お空が目を細める。

 

「私達は妖夢に懸けたのよ…あの子はきっと黒刀先輩を取り戻す!」

 

霊夢が言い放つ。

 

「友情と言うわけか…そんなもので私達の悲願の邪魔はさせない!」

 

お空は右腕の砲身を構えた。

 

 

 

 

「レミリアさん…もう大丈夫です。手を離してもらって構いません。」

 

レミリアは映姫を運んで飛行していると映姫が目を覚ました。

映姫の目を見たレミリアは躊躇せず手を離した。

すると映姫の背中から影の翼が展開される。

 

「妖夢は走って先に行ったよ。」

 

フランが映姫に伝える。

 

「そうですか…となると私達はあちらの相手をしなければならないようですね。」

 

映姫の視線の先にはさとりとこいしが横に並んで滞空飛行して待ち構えていた。

 

「映姫さん、状況は?」

 

「把握しています。」

 

「なら先に行ってください。私とフランもやられっぱなしは癪なので。」

 

レミリアは前方にいるさとりを睨んだ。

 

「私もあいつに何発かお返ししないと気が済まない!」

 

フランもこいしを睨んだ。

 

「分かりました。お気を付けて。」

 

映姫は高度を下げてさとりとこいしの下を抜けて行った。

レミリアはさとりの前で止まる。

 

「分かっていたけど本当に追いかけないなんてね。」

 

「どうせ邪魔されるのがオチですからそれならあなた達を始末した方がいいと判断したまでです。」

 

「懲りないね~♪またボコられに来たの?」

 

こいしが上から目線でフランを見る。

 

「今度はこっちの番だよ!」

 

フランは『レーヴァテイン』を具現化して構えた。

 

「スカーレット家を侮辱した罪は重いわよ。」

 

レミリアも『グングニル』を具現化して構えた。

 

 

 

 妖夢は走り進みながら王国の民家を見渡す。

 

「まるで廃墟みたい…一体ここで何が…。」

 

そこまで考えて頭を振り払った。

 

「今は先輩を助けることだけを考えよう。」

 

ハイジャンプして玉座の間まで跳んで行った。

 

 

 

 映姫が玉座の間へたどり着いた。少し遅れて妖夢もたどり着いた。

2人は玉座の真上に浮かぶ黒い球体を見上げる。

 

「黒刀!」「先輩!」

 

黒い球体を見上げていたぬえが妖夢と映姫に振り返る。

 

「無駄だ。お前達の声は届かない。」

 

ぬえは冷たく言った。

 

「ぬえ…。」

 

妖夢はその名を口にする。

 

「何故なの?何故あなた達は黒刀をこんな目に!」

 

映姫が怒りを抑えられない声で訊く。

 

「…およそ1000年前、ここザナドゥ王国には最も強く偉大な王がいた。その王は民から信頼されて素晴らしい王だった。しかし、臣下の1人であったある男が何人かの騎士をそそのかしクーデターを起こした。そのせいで民は死に…王が自らこの国と共に命を落とした…はずだった。17年前…この玉座の間に強い生命力を感じた。僕が玉座の間に行くとそこには1人の小さな赤ん坊がいた。ザナドゥの民であった僕には分かった。この子は王の生まれ変わりだと。」

 

「1000年前って…この人いくつなんですか…。」

 

話を聞いていた妖夢は驚愕を隠せなかった。

ぬえは話を続ける。

 

「その王は『覇王』と他国から恐れられていた。その王の名は………クロト・ザナドゥ。」

 

名を口にした瞬間、妖夢と映姫は一瞬、言葉を失った。

数秒後にやっと妖夢が口を開く。

 

「クロト……先輩と同じ名前。」

 

「名前が同じなのではない…同一人物だ。僕達ザナドゥの民は王を親しみと尊敬を込めてこう呼ぶ。ザナドゥ卿と。」

 

「まさか…お父様が黒刀のDNA情報を隠していたのは黒刀の正体を知っていたから!」

 

映姫は衝撃の真実に気づいた。

 

「10年前、ある事件でザナドゥ卿と僕達は離れ離れになってしまった。しかし長い年月を経て僕達はザナドゥ卿を見つけることが出来た。だから今!ここで!ザナドゥ卿を復活させる!」

 

ぬえは最後の3句を一言ずつ高らかに宣言した。

 

「そんなこと…させない!先輩は必ず取り戻す!」

 

妖夢は二本の剣を鞘から抜いた。

 

「邪魔をするというなら容赦はしない!」

 

ぬえは黒いオーラを全身から放った。

 

「なぜあなた達は先輩のオーラと同じ色をしているんですか!それは先輩のオーラだ!」

 

「この力はかつてザナドゥ卿が全ての民に与えて下さった力だ。お前に分かるものか!僕らザナドゥの民の1000年の想いが!」

 

ぬえは背中から生えている翼を広げて槍を握りしめた。

 

 

 

 幽香は地面から植物のツルを伸ばしてチルノを追い詰めていく。

 

「おら!もう1回叩き落としてやるよ!」

 

幽香はそう言い放って植物のツルを増やしていく。

 

「霊力解放!」

 

チルノは解放状態になった。

 

「アイスシールド!アイスニードル!」

 

植物のツルを盾で防御して氷の棘を放った幽香を攻撃した。

 

「無駄だ!」

 

幽香は地中から大木を生やして氷の棘を防いだ。

 

「所詮、お前らがやっていることはお遊びに過ぎないんだよ!」

 

「くそ!」

 

チルノは苦戦に歯ぎしりする。

 

 

 

 霊夢が爆符や幻符をお空に放って直撃させているがお空はものともせず攻撃を続けてくる。

 

「なんてタフな奴なのよ…早苗の大蛇以上じゃない!」

 

霊夢は悪態をつく。

魔理沙が旋回をしながら魔法弾の弾幕を放つ。

お空はそれを左手で軽く弾く。

 

「反則だろ!あの硬さは!」

 

魔理沙は文句を叫ぶ。

 

「あなた達のようにルールの中でお行儀よく闘っている奴らには私達のように常に命懸けで生きてきたものに勝つことは出来ない。覚悟の重さが違う!消し飛ばせ!カオス…ブラスター~!」

 

お空は赤黒いビームを方向から撃ち放った。

それは真っ直ぐ霊夢へ向かっていた。

 

「霊夢、避けろ!」

 

魔理沙が叫ぶ。

だが霊夢はその場にとどまっていた。

 

「(命を懸ける…そうだ…私は博麗の巫女…こんな戦い…()()()に比べたら…。)」

 

『カオスブラスター』が霊夢に直撃し爆発した…かと思えたが爆発の煙が消えると霊夢は目の前に結界を展開していた。

霊夢は顔は俯いていてその表情はお空や魔理沙からは見えない。

霊夢がゆっくりと顔を上げるとお空を見てこう口にした。

 

「あんたが望むなら付き合ってあげるわ…命を懸けた殺し合いに。」

 

霊夢の目には僅かに陰りが現れていた。

 

 

 

 レミリアもフランも既に解放状態になっていた。

 

「フラン、常に耳を澄ましていなさい。」

 

「はい。お姉様。」

 

フランは素直に指示に従った。

 

「今度は手加減しないよ。」

 

こいしが姿を消した。

フランは耳を澄まして周囲の音を感じ取る。

すると不自然に空気を切る音をが聞こえた。

フランはその音がした方向に『レーヴァテイン』を振った。

『レーヴァテイン』に斬られたこいしが姿を現した。

 

「ぐっ!何で…何で私の場所が…。」

 

フランは自分が攻撃されたことに納得がいかなかった。

その答えをさとりが導き出す。

 

「あなた自身の姿を消せてもその周囲の音は消せない。それを感づかれたのでしょう。こいし、あなたのそれが封じられたとなればもうあなたは戦えません。なので私が2人を相手にします。いいですね?」

 

「仕方ないね。やられちゃったのは私が悪い訳だし。」

 

こいしは少し納得いっていないようだが渋々後退した。

 

「待って!まだ決着は…。」

 

フランが飛び出したその時、さとりの放った霊力弾がフランの頬を掠める。

 

「あなた達の相手は私です。」

 

さとりは淡々と口にした。

 

「いいえ…1人よ!」

 

レミリアが加速してさとりに迫る。

 

「フラン!あなたは妖夢達のところへ行きなさい!」

 

レミリアは後ろにいるフランに声をかけた。

 

「う、うん!」

 

フランは回り込んで王宮に向かった。

 

「追いかけた方がいいかな?」

 

こいしがさとりに指示を促す。

 

「いいえ。その必要はありません。時間です。」

 

さとりがそう口にして口元を緩めた。

レミリアが『グングニル』を振り下ろすとさとりはオーラの剣を振って鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「時間ってどういう意味?」

 

レミリアがさとりに問う。

 

「まもなくザナドゥ卿が復活します。」

 

さとりがそう口にするとレミリアの体に戦慄が走る。

 

 

 

 午後1時30分 玉座の間。

ぬえは右手を前に出すと笑みを浮かべる。

 

「マスタースパーク!」

 

詠唱して手のひらから砲撃魔法を放った。

 

「それは魔理沙の!」

 

妖夢が驚いた後、回避する。

 

「そしてこれが…白霊砲!」

 

ぬえは槍を前に突き出しその先端から白い砲撃を放った。

 

「霊夢のまで!」

 

映姫も驚きながらなんとか回避する。

 

「もう分かっただろ?僕は受けた剣技・魔法・霊術をコピーできる。つまりお前達は僕に勝つことは出来ない。」

 

「そんなことない!諦めなければ不可能なんてない!」

 

ぬえの言葉を妖夢は否定した。

 

「それは平和ボケした者の考え方だ!僕らは違う!毎日死を間近に感じて生きている!」

 

ぬえはそう言い放った。

それを聞いた映姫が前に出る。

 

「ならば私が相手になりましょう。少なくともナンバーズである私は常に死と隣り合わせで生きています。」

 

「だがそれはザナドゥの民には及ばない!」

 

「それは私の戦いを見てから言ってください。」

 

映姫は影で剣を造形して構える。

 

「四季流剣術 弐の段 一閃!」

 

黒刀の剣技より速い居合い斬りがぬえを襲う。

映姫の剣がぬえの肩口から斜めに斬っていく。

 

「なるほど…お前に対しては前言撤回する必要があるようだな。」

 

だがぬえが斬られた場所は黒いオーラで守られていた。

 

その時。

玉座の真上に浮遊している黒い球体に亀裂が入り始めた。

まるで孵化する卵のように。

 

「おお!ついに来る!ザナドゥ卿の復活だ!」

 

ぬえが歓喜に満ち溢れて両手を大きく広げた。

 

「「させない!」」

 

妖夢と映姫が黒い球体に向かって駆け出す。

 

「邪魔をするな。」

 

ぬえが一瞬で妖夢と映姫の前に移動し2人の胸にそれぞれ片手ずつ掌底を叩き込んだ。

衝撃で二人の身体は後方へ吹っ飛ばされる。

亀裂は徐々に広がっていく。

 

「ついに復活する…かつてモンゴル帝国すら恐れさせた『王』が今!」

 

 

 

 黒刀の精神世界。

 

 …ここは…どこだ?

 

黒刀がそう思っていると声が聞こえた。

 

 …ここはあなたの世界だよ…

 

 …俺の?…

 

 …そう…あなたの世界…

 

仰向けになっている黒刀の真上に覆いかぶさるようにして声をかけているのはルーミアだった。

今、黒刀の精神世界では黒刀もルーミアも一糸まとわぬ体だった。

 

 …ねえ…聞こえてくるでしょ…皆の声が…

 

 …皆の声…うっ!…あああああああああああああああああああああああああああああああああ!

 

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                オカエリ…ザナドゥ卿

 

ルーミアの体から何千という霊魂が溢れ出して黒刀に吸い込まれていく。

 

 さあ…今こそ1つに!

 

ルーミアの体が黒刀に重なるとそのまま黒刀の中へ吸い込まれてしまった。




ED6 魔法科高校の劣等生 ミレナリオ

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覇王降臨

OP6 遊戯王 OVERLAP



黒い球体の亀裂が底まで到達してパリンッと弾けると中から瘴気のような闇が溢れ出した。

空は黒い雲に覆われ雷も鳴り出す。

闇の中から足音が響く。

 

ガチャ…ガチャ…と。

 

闇の中から姿を現したのは顔立ちは黒刀そのものであったがその身体には甲冑のような漆黒の鎧、漆黒のブーツ、漆黒のマント、漆黒の籠手が装着されていた。

1歩踏み出したその瞬間に妖夢、映姫、さらに距離が離れているチルノ、大妖精、霊夢、魔理沙、レミリア、フランまでもがこれまで感じたことのない強いプレッシャーを感じた。体が重い。そう錯覚するほどの。

 

「お久しぶりです。ザナドゥ卿。」

 

ぬえは前に出て跪くと右手を胸に当てて再会の挨拶をする。

 

余は…どのくらい眠っていた?

 

その男が最初に放ったその声は黒刀の声より低く大人びていて圧倒的な存在感と威圧感を感じさせるものだった。

その声を聞いた妖夢は思い出した。

 

「(この声…先輩と二宮さんが闘っていた時に聞いた…。)」

 

「およそ1000年です。」

 

ぬえは跪いたまま答える。

 

そうか…ところでぬえ、何故うぬはそのような姿勢でいる?うぬは余の友であろう。

 

男は跪いたままぬえに対して問う。

 

「これは今の僕にとってザナドゥ卿に対する姿勢であるからです。」

 

うむ…だがそのようにしていては言葉を交わし辛い。腰を上げよ。

 

「はっ!」

 

ぬえはザナドゥ卿の言葉に従って立ち上がった。

 

「ザナドゥ卿!今の状況ですが…」

 

ぬえがザナドゥ卿に説明しようとした時、

 

説明は要らぬ。余は今まで眠ってはいたが時折1割程度ではあるが覚醒することがあった。覚えておるのはおぼろげであるがな。

 

ザナドゥ卿は目を一度閉じてからもう一度目を開いた。

その瞳には紫色の五芒星が浮かび上がっておりザナドゥ王国全体の戦況を一瞬で把握した。

 

懐かしい魂が集まっているな…。

 

「(まさか『千里眼』で!)」

 

妖夢はそう思った。

 

「ザナドゥ卿、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

何だ?申せ。

 

「何故ザナドゥ卿は17年前、赤子になっておられたのですか?何か御存知であればお聞かせください。」

 

ぬえの問いに対してザナドゥ卿は玉座の階段から一段降りる。

 

それは余が力尽きる寸前に転生術式を発動したからだ。ただしこの転生術式は転生するまで膨大な時間を要する。それ故、余は先に魂を眠らせた。さらにこの術式には器が必要となる。他者のではなく自分自身の分身を生み出しそこを魂の拠り所とする。うぬが余の赤子姿に出会ったのは転生して間もない頃であろう。

 

また一段降りる。

ザナドゥ卿の言葉をぬえは一語一句聞き逃さない。

 

「さすがです。ザナドゥ卿はやはり素晴らしき御方です。」

 

ザナドゥ卿は最後の一段を降りる。

 

ぬえ…もう一度腰を下げてはくれぬか?やはりこの国の姿は『覇王の眼』ではなく余自身の目でしかと見たいのだ。

 

そう口にして『八咫烏』を鞘から抜く。

 

ふむ…かつての愛剣『魔剣デュランダル』に比べると小さき故心配しておったが不識と手に馴染む。

 

『八咫烏』を水平に構える。

映姫はその行動の意味を理解した。

 

「妖夢、伏せて!」

 

映姫に呼びかけられて妖夢は急いでしゃがんだ。

ぬえは既に跪いている。

ザナドゥ卿は右足を軸に1回転しながら黒い斬撃を放った。

 

やはり…あの日ままか…。

 

ザナドゥ卿はそう呟いた。

妖夢が周囲を見渡すと玉座の間の床から2m高い壁から天井までが跡形もなく消えていた。

瓦礫1つ残らず。

 

ぬえ、保存霊術をかけてようだな。

 

「はい。ですが修復霊術をかけるまでは至りませんでした。」

 

よい。むしろあの日のままであるからこそ余の心が揺るがずに済むのだ。

 

 

 

 

「おい、氷のガキ!どうやらお前と戦うのはここまでのようだ。ザナドゥ卿が復活なされた以上、俺は行かなきゃなんねえからな。」

 

「待て!まだ勝負はついてないぞ!」

 

「安心しろ。俺がいなくなっても今度はこいつ本人が戦ってくれるさ…きっとな。」

 

幽香の体から青年の霊体が現れて玉座の間の方角へ飛んで行く。

さらにお空、さとり、こいしの体からも同様の現象が発生していた。

4つの魂がザナドゥ卿へ集まっていく。

ザナドゥ卿の体が吸収されて黒刀の精神世界にまで届き黒刀にも吸収された。

その時、黒刀の意識が精神世界だけで戻る。

同時に黒刀の中である記憶が蘇った。

それは黒刀がずっと追い求めてきた10年前以前の記憶だった。




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追憶

OP6
 遊戯王 OVERLAP



 2193年。

当時のぬえはクロトの他に2人の少女を1人で育てていた。

その少女達の名は『古明地さとり』と『風見幽香』。

0歳のさとりと3歳の幽香、そこに0歳のクロトが加わっていた。

勿論、初めのぬえは子育てなどしたことがなく苦労したが1年後にこいしとお空が加わった時には慣れていたしその4年後にルーミアが加わった時には立派に6人の子供を育てていた。その頃には5歳になったクロトとさとりや8歳になった幽香がぬえを手伝ってくれていたのでぬえとしても助かっていた。

 

 しかし、事件は突然、起きた…。

 

 

 

 2198年。

ぬえ達はザナドゥ王国跡地を拠点に暮らしている。

だがある日、そこへ怪しげな研究者達が侵入してきてクロト達を連れ去りに来た。

しかもそれはぬえと幽香が街へ買い出しに行っている間に起きたことだった。

戻ってきた時にはもうクロト達の姿はなかった。

 

 

 

 クロト達が連れ去られたのはザナドゥ王国跡地より数㎞手前になる巨大な研究所だった。クロトが目を覚ますとそこは真っ白な部屋の中だった。

 

「俺…そうだ。確か、さとり達と遊んでいたら変な奴らが来て…眠らされて…そこからは…ダメだ。何も思い出せない。」

 

クロトがそこまで考えてから周囲を見渡すと近くにさとり達が倒れていた。

 

「さとり!こいし!お空!ルーミア!」

 

クロトは1人ずつ名前を呼びながら駆け寄って揺すり起こそうとする。

最後にルーミアの様子を確認するがまだ1歳にもなっていない乳児なのでそっと頬に触れてから脈を確かめる。

そして、ようやくさとり、こいし、お空が目を覚ました。

 

「あれ…私達…。」

 

「ここは…どこ?」

 

「どうなっているんですか?」

 

さとり、こいし、お空が疑問を口にしながら起きた。

 

「分からない…。」

 

クロトがそう口にしたその時。

真っ白な部屋の中にモニターウインドウが展開されてそこに白衣を着た白髪の男が映る。

 

「お目覚めかね?諸君!」

 

「誰だお前は!何で俺達を捕まえる!」

 

クロトはその男を睨み問う。

男は薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

「俺の名はドクターァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァワース!」

 

体をブリッジさせてから起き上がって名乗った。

 

「何でお前らを捕まえたかって?ハハハハハ!そんなの決まっている!これからお前らは俺の実験材料となってもらうからさ!」

 

「なんだと!」

 

クロトが怒りを露わにするがワースは全く動じる様子はない。

 

「おや?聞こえなかったかな?」

 

ワースは小馬鹿にするように返してきた。

 

「お前らがザナドゥの民の末裔だということは既に調査済みだ。ザナドゥの民は生まれつきオーラ量が多い。そこで!お前らには開発中の兵器の実験材料及び燃料になってもらう!」

 

ワースは両手を左右に広げて高らかに宣言した。

 

「ふざけるな!誰がそんなものになるか!」

 

黒刀は反抗的に怒鳴り返した。

 

「おいおい。そんなことを言っちゃってぇぇいいのかな?」

 

ワースはにやけて手元にあるボタンを押した。

真っ白な部屋の壁から装置が出て来てその先端から電気が放たれた。

その電気が眠っているルーミアに迫っていた。

 

「何!」

 

クロトは咄嗟に体を動かしルーミアに覆いかぶさる。

電気がクロトに直撃する。

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

「ハハハハハ!どうだ!効くだろう?これで分かっただろう?お前らに拒否権はないんだよ!お前らはただ俺の実験材料として使い回されていればいいんだよ!」

 

ワースは高らかに笑った。

 

「「「クロト!」」」

 

さとり達がクロトに駆け寄る。

 

「大…丈夫…。」

 

クロトはなんとか言葉を振り絞る。

その時、ルーミアが目を覚ましてしまった。

 

「…う…うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

ルーミアが泣き出した。

 

「大丈夫だよ。俺がいるから大丈夫。」

 

クロトはルーミアを抱きしめて優しく囁く。

それに安心したルーミアは静かに眠った。

それを確認したクロトは首をモニターウインドウに向けると殺意を込めてワースを睨みつけた。

 

「この子は…まだ赤ん坊なんだぞ。」

 

「フフフ…予想通りだな。他の誰かが傷つけられると分かればお前は必ずそいつを守る。ほんと…バカだね!そんなガキ一匹の為に命張るなんてさ!ハハハハハ!」

 

高笑いするワース。

 

「許さねえ…絶対にお前だけは許さねえ!」

 

クロトは激怒した。

 

「さあて…そんな態度がいつまで持つかなぁ?1年?5年?10年?…楽しみだね~!お前が自分の敗北を認めるか。そんじゃ…始めるとするか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔の実験を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロト達がワースに捕らわれれていたその頃。

ぬえと幽香はワースの研究所前の草陰に身を潜めていた。

当時の研究所の周囲には自然に溢れていた。

 

「どうだ?幽香。」

 

ぬえが幽香に声をかける。

幽香は植物を操作して研究所への侵入を試みるが首を横に振った。

 

「ダメ。特殊な結界が研究所の周囲に張り巡らされていて干渉できない。」

 

「でも物理結界はない。なら無理やり突入するしかないな。」

 

「本気?」

 

「それしか方法がない。クロト達はまだ戦う術を知らない。自力での脱出は不可能だ。行くぞ!」

 

ぬえと幽香は研究所の正面の扉へ走る。

警備員はいない。

ぬえと幽香は霊力弾を放った。

だが扉は全くの無傷だった。

 

「くそ!」

 

ぬえは扉を必死に押したり引いたりするがビクともしない。

ぬえは膝をついて額と両手を扉につく。

 

「何で…何であの子達がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ…。」

 

その目からは涙は零れていた。

 

 

 

 その状況を監視していた研究所の研究員がワースに耳打ちをする。

 

「主任、外に侵入を試みる者が2人います。迎撃しますか?」

 

「放っておけ。奴らがここに入ってくることはない。」

 

「しかし…」

 

「おい。俺の命令に逆らう気か?」

 

ワースは研究員を睨む。

 

「いいえ!」

 

「そんなことより今は…こっちのモルモットを使わなきゃな。」

 

ワースは監視カメラに映るクロト達を眺める。

 

「さあて~!まずは…」

 

ワースはモニターウインドウのスイッチをONにする。

真っ白な部屋にモニターウインドウが展開される。

 

「お待ちかねの実験の時間だ!最初に選ばれたのは………お前だ!」

 

ワースが指差したのはこいしだった。

 

「へ?」

 

こいしの足元の床が光り出した。

 

「嫌…助けて…クロトォォォォォォ!」

 

こいしが手を伸ばす。

 

「こいし!」

 

クロトもこいしの手を掴もうと手を伸ばす。

だが次の瞬間、こいしの姿がその場から消えた。

 

「驚いたか!これが俺が開発した転送システムだ!なかなかだろ?」

 

ワースはドヤ顔。

クロトは肩を震わせて拳を握りしめる。

 

「こいしを…どこへやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「決まってるだろ。俺の実験室だよ。せいぜいそこでおとなしくしてろ。」

 

ワースはモニターウインドウのスイッチを切った。

モニター室から移動して別の部屋に入るとそこには両手両足を椅子に拘束されているこいしがいた。

 

「ごきげんようお嬢さん。」

 

こいしは恐怖で言葉も出なかった。

 

「おやおや…口も利けなくなっちゃったのかなぁ?」

 

ワースはこいしの顔を近づけながら煽る。

 

「あ…」

 

「あ?」

 

ワースは首を傾ける。

 

「あんたなんか…クロトがやっつけてくれる!」

 

それを聞いたワースは苛ついた。

 

「おい。さっさと始めるぞ。まずはこいつのオーラと感情プログラムを根こそぎ吸収しろ!」

 

「ですがそんなことをすれば精神喪失状態を引き起こす可能性が…」

 

「いいからやれ!」

 

ワースは研究員に対して声を荒げた。

研究員は慌ててコンソールを操作する。

ワースはこいしの頭に無理やり装置をつける。

 

「なら試してやろうじゃねえか。お前のヒーローがどんなもんか。…希望なんてこの世に無いんだよ!」

 

ワースは右手に持つボタンを押す。

 

「う…うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

こいしが苦痛のあまり悲鳴を上げた。

 

 奪われていく…大事なものが…

 

 

 

 クロトは真っ白な部屋を歩き回って脱出の手がかりを探していた。

 

「くそ…どこか…どこかにないのか…。」

 

その時、真っ白な部屋の中心で光が発生しそこからこいしが姿を現した。

 

「こいし!」

 

さとりが叫んで駆け寄る。

こいしがフラッと倒れそうになったところをクロトが腕で支える。

 

「こいし!」

 

「…ク…ロト…。」

 

こいしの目は空虚を映していた。

真っ白な部屋にモニターウインドウが展開される。

 

「気に入っていただけたかね?俺からのプレゼントは。」

 

ワースが映る。

 

「お前!こいしに何をした!」

 

クロトが吠えるのに対しワースは薄気味悪い笑みを浮かべた。

 

「フフフ…あまりに反抗的な態度を取るもんだから奪ってやったのさ…そいつの心をな!」

 

ワースの言葉にクロトは愕然とした。

 

「いいね!その顔!それが見たかったんだよ!絶望を知った人間の顔だ!」

 

「…さとり、こいしを頼む。」

 

クロトはこいしをさとりに預けると立ち上がってワースを睨んである提案を出してきた。

 

「…オーラが必要なんだろ?だったら俺から取れ!ただし他の4人には手を出すな!」

 

「クロト、ダメ!そんなことしたらクロトまで壊れちゃうよ!」

 

「これしか無いんだ!…どうだ?俺の提案を受けるか?受けないか?」

 

「それは敗北を認めたってことでいいんだな?」

 

ワースは勝ち誇った笑みを返した。

クロトはフッと笑った。

 

「誰が敗北を認めたって?これはお前と俺の勝負だ。違うか?」

 

ワースは一瞬固まったがすぐに薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

「いいだろう。お前がどこまで耐えられるか実験…いや勝負といこうじゃないか!」

 

ワースがそう宣言すると黒刀の足元の床が光り出す。

 

「行かないで!クロト!」

 

さとりが涙を流して叫ぶ。

 

「さとり…皆を頼んだ…。」

 

クロトが振り返って言葉をかけた後、転送された。

 

 

 

 転送されたクロトは両手を拘束されて吊るされている。

ワースはクロトに歩み寄って行く。

 

「そういや~直に会うのはこれが初めてだったな。改めて俺が世界一の天才科学者!ドクターワースだ!あ、それにお前の名前をちゃんと聞いていなかったな。」

 

ワースは顎に手を添える。

クロトはワースを睨みつける。

 

「クロト…ザナドゥ。」

 

そう名乗ったその時、ワースの表情が豹変した。

いつものニヤケ顔ではなく怒りを表す表情だった。

ワースはクロトの顔を思いっ切り殴った。

 

「ぐっ!」

 

クロトは血反吐を吐く。

 

「奴は死んだ。さあ!お前の本当の名前は何だ!」

 

ワースは怒鳴った。

 

「…だから…クロトだって言ってんだろうが!」

 

クロトは怒鳴り返した。

ワースはクロトの腹を殴った後、コンソールの前に立つ。

 

「生きてるはずがねえんだよ…奴は死んだ。………オーラ吸収装置…起動!」

 

ワースはボタンを押した。

クロトを縛る拘束具に電流が流れてクロトのオーラが吸収されていく。

 

「ぐっ!」

 

クロトは歯を食いしばって耐える。

 

「奪ってやる!お前から!何もかもな!」

 

 

 

 3時間後。

真っ白な部屋にクロトが転送される。

 

「クロト!」

 

さとりが駆け寄る。

クロトの体はボロボロであちこちに火傷の痕があった。

その時、真っ白な部屋に音声が入る。

 

《さすがに効いたようだな!これから毎日3時間オーラを吸い取ってやるから覚悟しとけよ!偽物の王様!》

 

クロトはワースの言葉を無視する。

 

「ルーミアとこいしは?」

 

さとりとお空にそう訊いた。

 

「こいしはずっと黙ったまま動かない…一応支給される食事を食べさせている。」

 

さとりは俯いて答える。

 

「ルーミアはさっき私達の名前を呼んだよ!」

 

お空は嬉しそうに話した。

 

「ほんと?すごいね。」

 

クロトはルーミアを抱っこする。

 

「あ…う…ク…」

 

ルーミアがクロトの頬を触って名前を呼ぼうと頑張っていた。

 

「クロトだよ。ク・ロ・ト。」

 

クロトは優しく一文字ずつ教えてあげた。

 

「ク…ロ…」

 

あと一文字がどうしても言えなかった。

 

「兄ちゃんでもいいよ。」

 

するとルーミアはこう呼んだ。

 

「くろ…にい…くろにい。」

 

「うん…それで十分だよルーミア。」

 

クロトは優しい声で言った。

 

 

 

 一方、ぬえと幽香は研究所への侵入に苦戦していた。

 

「ねえ、ぬえ。少しは休んだ方がいいよ。」

 

「冗談じゃない!あの子達が苦しんでいるかもしれないのに僕だけが休めるか!」

 

ぬえは怒鳴った。

 

「でも!クロト達が会いたいのはきっと元気なぬえだよ!そんな苦しそうなぬえをクロト達は見たくないよ!」

 

「!…そうだね。ごめん…冷静さを欠いていたよ。」

 

「ほらさっき街で食べ物を買ってきたから一緒に食べよ?」

 

「うん…そうしよう。」

 

ぬえはその場に腰かける。

 

「(待ってろ…必ず助けるから!)」

 

改めて決意を強く抱いた。

 

 

 

 2200年9月6日。

そんな日々が2年も続いた。

ルーミアは立って歩けるようになった。

そんな成長をしていくルーミアをクロト、さとり、お空は優しく見守っていた。

しかし、こいしは変わらず心を失ったままだ。

それでもクロト達はこいしが心を取り戻すと信じている。

その時、壁の一部が焼けていることにクロトが気づく。

 

「伏せろ!」

 

さとりはこいしに、クロトはお空とルーミアに覆いかぶさった。

直後、壁の一部が溶けて外側からオーラの砲撃が貫通してクロト達の頭上を通り過ぎていった。

砲撃が止んだことを確認したクロト達が立ち上がって貫通した壁を見ると大穴が空いていて研究所の外まで続いていた。

 

「よし!皆、脱出するぞ!」

 

クロトはさとり達に声をかけた。

さとりはこいしの手を握り、クロトは左手でルーミアを抱き上げて右手でお空の手を握ると研究所の外へ出る。

だが武装した研究員が立ちはだかり銃口を向けられる。

絶体絶命の状況にクロトは歯ぎしりする。

その時、研究達が背後から霊力弾を放たれて倒れていく。

倒れた研究員達の先に見えたのはぬえと幽香だった。

 

「「「ぬえ!幽香!」」」

 

クロト達がぬえ達の元へ走る。

 

「ごめんな…遅くなって…。」

 

「ぬえ…こいしは…。」

 

さとりが涙目で言った。

ぬえは精神喪失状態のこいしを見ると歩み寄ってそっと抱きしめる。

 

「よく頑張ったね。偉いよ。」

 

ぬえは優しく言葉をかける。

 

「あ…ああ…。」

 

こいしは虚ろな目で声を出すだけだがそれでもこいしの言いたいことはぬえに伝わった。

 

「うん。」

 

そう頷く。

 

「さあ、とっととこんなところから離れよう。」

 

その時。

突然レーザーネットが飛んできてクロト達を捕らえる。

そして…

 

「ヒャハハハ!いやいや!多少のイレギュラーがあったとはいえここまで思い通りに動いてくれるとは!」

 

高らかに笑って現れたのはドクターワースだった。

 

「ガキどもを人質に使うっていうのもあったがそれだと面白味に欠ける。だからこうやって感動の再会からの一転!絶望の底に叩き落とすのが一番だと考えたわけだ!全く本当に…サイッ…コ~だぜ!」

 

ワースはレーザーネットの中にいるぬえを見た瞬間、眉をひそめる。

 

「あ?お前…どこかで…ま、いいや。そんなことよりこれより最終実験を実行するとしよう!どうだ!嬉しいだろう!長かった実験がようやく終わるのだからな!お前らの死と共にな!」

 

ワースは万歳した。

 

「…ふざけるな。」

 

クロトがそう呟いた。

 

「あ?」

 

ワースは冷酷な目で見下ろした。

クロトはレーザーネットを掴む。

強い電流がクロトの体に流れる。

 

「俺達は…お前の…お前なんかの消耗品じゃ…ないんだよ!」

 

レーザーネットを無理やり破った。

そのままワースに向かって走って距離を詰めていく。

 

「待てクロト!迂闊に突っ込むな!」

 

ぬえが叫ぶが怒りで我を忘れているクロトはそのままワースに殴りかかる。

 

「あ~なるほど…科学者は肉弾戦が出来ないって思ってる訳か…だから…馬鹿だって言ってんだよ!」

 

ワースは薄気味悪い笑みを浮かべるとクロトの拳を躱して腹を蹴り上げうなじにエルボーして顔を蹴り飛ばした。

 

「俺がそんな前時代的な科学者な訳がねえだろうが…見せてやるよ!」

 

ワースが手に持つボタンを押すと地中から出てきたのは超巨大な魔導砲装置だった。

 

「これはな…一撃で国1つを消し飛ばす程の威力を持っている!」

 

ワースは高らかに宣言した。

超巨大な魔導砲装置を見上げたクロトは歯ぎしりする。

 

「こんな…こんな下らないものの為に…」

 

「下らない?おいおい…この兵器がどれだけ素晴らしいものなのか分かっていないようだな。悲しいぜ。」

 

「…コロス…。」

 

クロトは呟いた。

 

「あ?何だって?」

 

ワースは馬鹿にするように聞き返した。

 

「…コロシテヤル!

 

そう言い放ったクロトの目をワースは見た。

 

「その目…いや…まさか…そんなはずはねえ…奴は死んだ…生きてるはずがねえ!」

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 

クロトが吠えて拳を地面に叩きつけると亀裂が入りそこから光が射し込む。

 

「ダメだクロト!それだけは!」

 

ぬえが叫ぶが間に合わないと判断してさとり達に視線を向ける。

さとり達はショックのあまり気を失っている。

 

「(こうなったらあれをやるしか…でもクロトは…いやせめてさとり達だけでも…。)」

 

ぬえはさとり達を抱きしめる。

 

「貴様ァァァl」

 

ワースはクロトを見て怒りの叫びを上げた。

 

「転移術式発動!」

 

ぬえはそう詠唱した。

 

「(待っててクロト…きっとすぐに迎えに行くから。)」

 

ぬえ達6人が転移した直後、クロトを中心に大爆発が起きた。

研究所も森も大地も超巨大兵器も全てが消し飛ばされていく。

 

これが後にスピリットブレイクと呼ばれる。

 

 

 

 ぬえ達が転移したのはザナドゥ王国の玉座の間だった。

しかし、転移の途中で爆発のダメージを受けてしまっていた。

 

「まだだ…あの術ならこの子達の命は助かる…。」

 

ぬえは這いつくばりながら玉座の間の中心までたどり着くとそこに血文字で術式を書き込み右手を叩きつけた。

玉座の間に5つの霊魂が現れる。

 

「頼む…この子達を助けてほしい。」

 

ぬえは霊魂にそう懇願した。

 

「だがその為には俺達が彼女達に憑依する必要がある。いいのか?」

 

青年の霊魂がそう問う。

 

「ああ。子供達の命が助かるなら構わない。それともう1つ…ザナドゥ卿を復活させる。」

 

「「「「「!」」」」」

 

霊魂達は驚いた。

 

「本気か?」

 

「だとしてもどの術式でやるのだ?」

 

霊魂達が問う。

 

「融合術式でやる。」

 

「だがそんなことをすればあの少年の魂は…。」

 

霊魂が口ごもる。

 

「いいんだ。もうこれ以上、あの子にこんな地獄は見せたくない。とにかく!」

 

「ああ、分かっている。」

 

霊魂達がさとり達の中に入っていく。

すると傷がみるみる癒えていき立ち上がる。

 

「ありがとう。それじゃクロトを探しに行く。」

 

ぬえが遠くに見える爆発の煙を見て口にする。

 

 

 

 だがぬえ達が到着した頃にはクロトの姿はなかった。

辺りを探し回ってみたがやはり見当たらない。

 

 

 

 それから10年かけて探し回っていたある日。

ぬえが街の巨大なモニターウインドウを見るとそこに映っていたのは『剣舞祭』で二宮優と闘っている黒刀だった。

 

《霊力解放》

 

黒刀の音声が聞こえたその時。

ぬえの全身に懐かしいオーラの感覚が走った。

 

「間違いない…ザナドゥ卿だ…。」

 

ぬえは帰って黒刀の現住所を調べてエアメールを日本へ送った。




ED6 魔法科高校の劣等生 ミレナリオ

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夏島編
覇王の力


OP6 遊戯王 OVERLAP



 現在 精神世界。

黒刀は涙を流していた。

 

 そうか…お前らはずっと待っててくれたんだな…

 

 

 

 現実世界。

こいしから霊魂が抜けたことでこいしは元の精神喪失状態に戻っていた。

にも関わらず何かに導かれるように玉座の間へと歩みを進めていた。

 

 

 

 さとりは浮遊しているのものの可愛らしく首を傾げていた。

 

「あれ~私、何やってたんだっけ~。」

 

相変わらず半目だが気の抜ける声だった。

レミリアは困惑していた。

 

「(この人…天然系?)」

 

戦闘の意思が無いと判断して『グングニル』の具現化を解いてため息を吐く。

 

 

 

 幽香は元の人格に戻ったもののいまだにチルノと戦闘を続けていた。

 

「どうした!その程度?あなたの力は!」

 

植物のツルを伸ばしたり『火花』を発動したりしていた。

 

「アイスニードル!」

 

チルノが氷の棘を放つ。

 

「ローズニードル!」

 

幽香は薔薇の棘を放って相殺した。

 

「どうして?どうしてまだ戦うの?こんなことを続けて一体何になるっていうの?」

 

大妖精は涙目で首を横に振った。

 

 

 

 お空も魔理沙達と戦闘を続けていた。

だが霊夢の様子がおかしい。

頭を抱え始めたのだ。

 

「どうした霊夢!」

 

それを見た魔理沙が声をかける。

 

「ザナドゥ…ザナドゥ王国…そうだ…私は…ザナドゥ王国を…守る。」

 

「おい…どうした…っ!」

 

魔理沙が霊夢に近づこうとしたその時、霊夢がいきなり霊力弾を放ってきた。

魔理沙は咄嗟にそれを躱す。

 

「おい!何の悪ふざけだ!」

 

魔理沙が怒る。

だが霊夢は答えない。

まるで何かが憑依しているかのようだった。

そしてお空の横に並んだ。

 

「どういうこと?」

 

お空は訳が分からず霊夢に訊いた。

 

「私の名は博麗霊夢。ザナドゥの民の味方。」

 

それを聞いたお空が唸る。

 

「博麗?う~ん…どこかで聞いたような…。」

 

そのやり取りを見ていた魔理沙の肩が震える。

 

「なんでだよ!霊夢ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

叫びと共に『マスタースパーク』を放った。

霊夢は防御術式を展開して『マスタースパーク』を防いだ。

霊夢と魔理沙の視線が交錯する。

 

 

 

 玉座の間。

妖夢はザナドゥ卿の圧倒的な存在感に上手く呼吸が出来なかった。

映姫が妖夢の肩に手を置く。

 

「落ち着きなさい。怖いのも私も同じです。だけど立ち上がらなくてはいけません。」

 

慰めではなく本心からの言葉を受けて妖夢はなんとか呼吸を整える。

 

「ありがとうございます。もう大丈夫です。」

 

妖夢はザナドゥ卿に視線を移す。

 

「先輩はどうなっているんですか?」

 

そう問う妖夢をぬえが睨むとザナドゥ卿がそれを手で制する。

 

余の分身である四季黒刀は今、精神世界にいる。だがうぬらが四季黒刀に会うことはもう二度とない。

 

「どういうことですか?」

 

融合術式によって余は復活した。故に融合騎となったルーミアと融合した四季黒刀の魂はあと1時間で完全消滅する。

 

「「なっ!」」

 

ザナドゥ卿が告げた真実に妖夢と映姫は驚愕した。

 

「先輩が…消える?」

 

妖夢は信じられないという表情をしていた。

 

「そんなこと…させない!その前にあなたを倒して黒刀を救い出す!」

 

映姫が飛び出した。

 

余を倒すか…しかしその刃は余に届かぬ。…ぬえ。

 

横で跪くぬえに声をかけた。

 

「はい。邪魔者を退去させます。」

 

それだけでぬえは映姫に向かって駆け出した。

 

「どきなさい!」

 

映姫が怒鳴る。

 

「いかせない!」

 

ぬえは翼を広げて映姫にタックルしてそのまま自身と共に映姫を玉座の間から離れさせる。

 

さて…うぬはどうする・余に刃向かうかそれともあきらめて己の国に帰るか?

 

「私は…私は諦めない!どんなことがあっても諦めるな。そう先輩に教わったから!」

 

妖夢は二本の剣を抜いて言い放った。

 

そうか…せめて退屈しのぎ程度になればよいがな。

 

そう呟くザナドゥ卿に対して妖夢は駆け出す。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

高速で二本の剣を交差して斬り込んだ。

だがザナドゥ卿は二本の剣がちょうど交差した部分を親指と人差し指でつまんで止めた。

 

「なっ!」

 

1000年も経てば余と並ぶ力を持つ者が現れるかもしれぬと思っていたが…失望した。この程度とはな。

 

ザナドゥ卿は中指で二本の剣をデコピンで弾いた。

それだけで妖夢は吹っ飛ばされた。

 

死力を尽くせ。死にたくなければな。

 

妖夢は体勢を立て直す。

 

「気力解放!」

 

妖夢の体を光の柱が包み込む。

 

なんだ…解放程度か…。

 

「閃光…斬撃波~!」

 

妖夢は金色の斬撃を放った。

しかしその斬撃波ザナドゥ卿に届く寸前で消滅した。

 

余に気力・霊力を用いた攻撃は効かぬ。どうやら気づいておらぬようだな。余はこの姿になっている時点で既に解放状態だ。

 

「そんな…既に気力を解放しているなんて…。」

 

気力だけではない。霊力も気力と同時に解放している。余はこの世で唯一オーラの同時解放を可能とした人間なのだ。

 

「そんなことが…はっ!」

 

妖夢は黒刀が優と闘った時のことを思い出した。

 

それより今のが斬撃か?…教えてやろう…斬撃とはこういうものだ。

 

ザナドゥ卿は『八咫烏』の剣先を天に向ける。

 

はあっ!

 

そのまま振り下ろした。

黒い縦長の斬撃を玉座の間の床を削りながら妖夢に向かってきた。

妖夢は咄嗟に剣の腹で受け流そうとするがあまりの威力に斬撃の威力を殺しきれず横に吹っ飛ばれて床を転がる。

ザナドゥ卿が追撃してくる様子はない。

 

しかとその目で見よ。これが斬撃だ。

 

妖夢がゆっくり後ろを振り向くと目を見開いて驚愕した。

黒い斬撃は玉座の間の床だけではなくザナドゥ王国の地面を真っ二つに切り裂いたのだ。

 

この程度の斬撃しか出せないのか。全盛期の半分の威力も出ておらぬではないか。

 

「自分の国を…。」

 

妖夢は視線を前に戻すと言葉を絞り出した。

 

既に一度は滅んだ国だ。それに国とは民がいて初めて国となるのだ。今のザナドゥ王国は到底国とは呼べぬ。

 

ザナドゥ卿の言葉に対して妖夢は二本の剣を強く握り直した。

 

 

 

 

「そろそろこっちも全力でいこうか…ふぅ~………モードチェンジ!ダークネス!」

 

幽香がそう詠唱すると黒い影のようなものに覆われていく。

 

「これが『ダークネスモード』。ザナドゥの民だけがなれる。」

 

チルノは警戒を強める。

 

「はあっ!」

 

幽香は地中から200本の植物のツルを生やす。

 

「さあ!どこまで耐えられるかしら?」

 

植物のツルを一気にチルノへ襲わせる。

チルノは一度距離を取ってから前に出て植物のツルを1本ずつ正確に躱しながら幽香に接近していく。

幽香はそれを見越してチルノの背後から植物のツルを伸ばして完全に包囲した。

 

「かかったわね!これで終わりよ!」

 

勝利を確信する幽香。

 

「チルノちゃん!」

 

大妖精が叫ぶ。

植物のツルが一斉にチルノを串刺しにした…かと思えたその時、チルノの体が水蒸気となって消えた。

 

「ドライジェット!」

 

チルノがいたのは幽香の背後だった。

 

「グレートクラッシャー!」

 

チルノは氷のハンマーを造形して幽香に叩き込みにいったが幽香はチルノが動くよりも一歩早く振り返ってバックステップするとこう詠唱した。

 

「ラフレシア!」

 

先程まで幽香の立っていた地面から2m程中心に大口を開いた植物が出てきた。

 

「あれはまさか食人植物⁉まずい!チルノちゃん逃げて!」

 

大妖精が叫ぶがチルノは既に幽香が立っていた場所に氷のハンマーを叩き込もうとしていたところだった。

 

「くっ!」

 

チルノが声を上げた直後、『ラフレシア』に飲み込まれる。

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

大妖精は悲痛の叫びを上げた。

 

「さて…次は…」

 

幽香は大妖精に視線を移す。

大妖精の顔が強張る。

幽香は大妖精から興味を無くして玉座の間へ歩みを進める。

その時。

周囲の気温が一気に下がった。

 

「極大霊術 絶対零度!」

 

『ラフレシア』の中から声が聞こえた。

 

「まさか…そんな!」

 

幽香が驚いて振り返ると『ラフレシア』が内側から凍っていきその冷気は外部に漏れて地面を凍らせるまでに至った。

完全に凍結した『ラフレシア』を破って出てきたのはチルノだった。

チルノは極大霊術を発動した反動に抗いながら必死に幽香に向かって駆け出した。

氷のハンマーを握りしめて。

 

「まだそんな余力を残していたとはね。でもこっちにはまだ私の可愛い植物達がある。」

 

幽香は右手を前に突き出して地中の植物に攻撃命令するが反応が無い。

 

「な、何で?…はっ!まさか…この氷が地中の植物まで凍らせているっていうの!」

 

幽香は舌打ちすると迫りくるチルノに注意を向ける。

 

「トルネードグレートクラッシャー~!」

 

チルノは自分ごと氷のハンマーを横回転させて幽香に叩き込みにいく。

 

「ローズニードル!」

 

幽香は迎撃しようとするが薔薇の棘はあっけなく弾かれてしまう。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

チルノは雄叫びを上げて氷のハンマーを幽香に叩き込んだ。

 

「がはっ!」

 

幽香は民家3つ貫通させて吹っ飛ばされる。

幽香は力尽きてその場で気絶する。

 

「はあ…はあ…。」

 

チルノは肩で息をすると膝をついてしまう。

 

「チルノちゃん!」

 

大妖精が駆け寄ってくる。

 

「あたいは後でいいよ。それより先にあの人を治療してやってよ。」

 

チルノは遠くで倒れている幽香を指差す。

 

「え、でもあの人は…」

 

大妖精は敵である幽香を治療することに躊躇する。

 

「大丈夫!大丈夫!もしまた敵になってもあたいが倒すから!」

 

しかし、チルノは笑顔でそう口にした。

 

「うん…分かった!」

 

そんなチルノに大妖精は倒れている幽香の元へ走る。

 

「もう…霊力残ってないけどね…。」

 

大妖精が離れたことを確認したチルノは誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。

 

 

 

 ぬえが映姫を連れて着いたのは玉座の間から500m離れたレンガの民家が並んだ場所だった。

 

「私と一騎打ちするというわけですか…。」

 

「ザナドゥ卿はどうやらあの剣士と戦いたがっているようでしたから。理由は分かりませんが。」

 

ぬえはそう言って槍を構える。

 

「確かにあの子の実力はまだまだ未熟。ですがそれよりもっと大事なものを持っています。」

 

映姫も影の剣を構える。

 

「力なくては何も成し遂げられない!」

 

ぬえが地を蹴る。

 

「力だけでは何も守れません!」

 

映姫も地を蹴る。

2つの刃がぶつかる。

 

 

 

 圧倒的な力の差になす術がなく膝をつく妖夢。

 

立て。余に剣を向けた以上、そう簡単に膝をつくことは許されんぞ。

 

ザナドゥ卿は冷たい言葉を発した。

妖夢は歯を食いしばるとゆっくりと立ち上がる。

 

「(気力と霊力を無効化するなんて…どう戦えば…。)」

 

考えていたその時。

 

「妖夢~!」

 

声が聞こえてきたのでそちらへ振り向くとフランがこちらに向かって飛んできていた。

 

やれやれ。今日は随分と来客が多いな。

ザナドゥ卿はため息を吐いた。

フランは玉座の間に着地すると妖夢の横に並ぶ。

 

「あの~レミリアさんは?」

 

「あ~お姉様なら大丈夫!強いから!」

 

フランは笑顔で返した。

 

「いや…それは身に染みるほど知っていますけど…。」

 

妖夢は苦笑する。

フランが視線を前に移す。

 

「あれは本当にお義兄様なの?」

 

「先輩だけど先輩じゃない。」

 

「どういうこと?」

 

「1000年前の王様だって…それと気力と霊力を使った攻撃が効かないの。」

 

「ふ~ん…それなら!」

 

フランは『レーヴァテイン』を具現化する。

 

「魔力は効くってことだよね!インフェルノブレイカー!」

 

フランは炎の斬撃を放った。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

雄叫びを上げるフラン。

 

浅はかだな。魔力の攻撃であるだけで余に敵うと?

 

ザナドゥ卿は右手を前に出して炎の斬撃を受け詰めると握り潰した。

 

「「なっ!」」

 

妖夢とフランが驚きの声を上げる。

 

まだ理解できていないようだな。うぬらと余とでは絶対的にオーラの差があり過ぎるということを。

 

ザナドゥ卿が床を踏みしめた瞬間、妖夢達は重力が増したのではないかという程の威圧感を感じた。

その威圧感は映姫、魔理沙、レミリア、チルノ、大妖精にまで届いていた。

 

 

 

 

「ぐっ!何だよ…これ…。」

 

魔理沙は必死にザナドゥ卿が放つ威圧感に耐えている。

苦しみながらも霊夢を見る。

 

「霊夢!いい加減目を覚ませ!」

 

魔理沙は大声で呼びかける。

 

 

 

 

ほう…博麗の巫女までいるのか。

 

ザナドゥ卿はそう呟く。

 

 

 

 

「おい!何とか…」

 

魔理沙が霊夢から事情を聞こうとしたその時、お空の体がビクッとした。

 

余が話そう。

 

お空から別の声が聞こえてきた。

 

「誰だ!」

 

余はクロト・ザナドゥ。旧ザナドゥ王国の国王だ。今は霊烏路空を通して会話している。

 

「クロト?どういうことだ!」

 

うぬが今知りたい情報は四季黒刀ではなくそこの博麗巫女についてであろう。

 

「…ああ。」

 

では話そう。1000年前、ザナドゥ王国には余の戦友として当時の博麗の巫女がいた。

 

「ちょっと待てよ。1000年前って言ったら日本とモンゴル帝国は敵同士だったじゃねえか。それなのに博麗の巫女がこの国に力を貸すんだ?」

 

うぬは勘違いをしている。ザナドゥ王国はモンゴル帝国から独立した国だ。決して配下ではない。元はモンゴル帝国の植民地であった集落を余が国王として独立させたのだ。故にモンゴル帝国との協力関係はない。むしろ敵同士だ。…話が逸れたな。博麗の巫女が何故ザナドゥ王国に加担するのか。それはその博麗の巫女がある巫女の魂を宿していたからだ。その巫女は母国に縛られることを拒み自由を望む巫女だった。当時の博麗の巫女の魂は既にその巫女が中心となっていた。博麗の巫女は旅をしてこの国にたどり着いた。そして余と共に戦場を駆ける友となった。…しかしこの国は滅んだ。今、博麗の巫女がうぬと敵対しているのはまだこの国で戦いたいという想いが残っているからだろう。

 

ザナドゥ卿は一通り話を終える。

 

「どうやったら元に戻る?」

 

一発ド突けば十分だ。…霊烏路空、玉座の間へ戻って来い。

 

その言葉を最後にお空の意識が元に戻る。

 

「あれ?私、何やってたんだっけ?よく分かんないけど戻らないと!」

 

お空は首を傾げた後、玉座の間へ飛んで行く。

魔理沙はとくに止めようともせず霊夢と対峙する。

 

「…一発か。へっ!分かりやすくてちょうどいいぜ!お前とガチでやるなんてそうそうないしな!」

 

少しずつワクワクしてきた魔理沙だった。

 

 

 

 映姫は打ち合いながら分析していた。

 

「コピーできるといっても限界はあるみたいですね!」

 

映姫の言葉通りぬえは四季流剣術をコピーできていない。

 

「だから?それで僕がお前に劣ることにはならないよ。」

 

ぬえは真顔でそう返す。

映姫もザナドゥ卿が放つ威圧感を感じていたがしっかり自分を保っている。

 

「なるほど。やはりお前は他の奴らとは違うようだな。」

 

ぬえは槍の連続突きを繰り出しながら淡々と口にした。

映姫は『一騎当千』で応戦している。

 

「このままでは埒が明かないな。それじゃこちらも本気を出してやろう。モードチェンジ!」

 

ぬえの体が闇に飲み込まれていく。

徐々に人型から姿を変えていく。

やがてその姿は黒い闇を纏った体長50mの竜となる。

巨大な黒い翼が左右に広がる。

それだけで突風が起きる。

二足歩行の竜となったぬえは口を開く。

 

「覇王眷竜アンノウン・ドラゴン!」

 

巨大な竜が咆哮を上げる。

さすがの映姫もこれには圧倒された。

 

「そんな…人間にこんなことが出来るなんて…。」

 

映姫が驚きの声を上げる。

 

「喰らえ!ファントムブレス!」

 

ぬえが口を大きく開けて紫色のブレスを吐いた。

映姫は影で巨大な盾を造形した。

ブレスが影の盾に激突する。

 

「無駄だ!そんなものでは防ぐことは出来ない!」

 

ぬえが言い放つ。

 

「くっ!」

 

映姫の影の盾がブレスに押されていく。

 

「まだよ!影牢!」

 

映姫は防御しながら別の影を左右からぬえを捕らえようとする。

だがその影はぬえに到達する前に弾かれてしまった。

 

「なっ!」

 

映姫が目を見開く。

 

「そんなもの僕には効かない!」

 

ぬえがブレスの威力をさらに上げる。

 

「黒刀は…私の弟は絶対に取り戻す!気力解放!」

 

映姫の影がどんどん増えていく。

映姫は左手を前に出して影の盾を維持したまま右手を握りしめて別の影を集束して大きな拳を造形して振りかぶる。

 

「シャドーインパクト!」

 

盾を消して影の拳をブレスに叩き込んだ。

ブレスと影の拳が相殺して消える。

 

「まだそんな力を残していたか。」

 

「世界に1人だけの私の弟。その弟の為なら私は強くなれる!」

 

映姫はそう言い放った。

 

 

 

 旧ザナドゥ王国上空で霊夢と魔理沙は弾幕を激しく撃ち合っていた。

魔理沙は霊夢の霊力弾の弾幕を躱しながら霊夢に呼びかける。

 

「覚えてるか?霊夢。私が今こうして弾幕を撃てるのもお前が教えてくれたからだ!お前がいたから私は強くなれた!なのにそのお前が今自分を無くそうとしている!だから!いい加減戻って来い霊夢!マスターァァァスパァァァク!」

 

魔理沙は砲撃魔法を放つ。

 

「白霊砲!」

 

霊夢も対抗するように砲撃霊術を放ってきた。

2つの砲撃は拮抗しやがて相殺して消えた。

だが魔理沙の狙いはその先にあった。

魔理沙は急上昇してからダイブして霊夢の右頬に思いっきり右ストレートをぶちかました。

 

「いったぁぁぁぁぁ!痛い!何これ!超痛い!」

 

衝撃で霊夢が正気に戻り右頬を押さえながら喚いた。

 

「正気に戻ったんだな!」

 

魔理沙が喜ぶ。

 

「魔理沙!あなたがやったのね!」

 

「おう!バッチリ決めてやったぜ!」

 

魔理沙は親指を突き立てる。

 

「何してくれてんのよ!」

 

「何って…お前がおかしくなったから元に戻してやったんだろうが…もしかして何も覚えていないのか?」

 

「…そういえば途中から記憶が飛んでいるような…。」

 

霊夢は首を傾げた。

 

「一発ド突けば治るって聞いたから治してやったぜ!」

 

「………それって私の顔殴る必要なくない?」

 

霊夢はジト目を向ける。

 

「い、いや~とりあえず青春ドラマ風に殴るのが一番かなって思って。」

 

魔理沙は目を逸らした。

霊夢は魔理沙の脳天を殴る。

 

「いって!」

 

「とりあえずこれで勘弁してあげるわ。それよりあの烏女がいないじゃない。」

 

「そいつなら何かあっちの方に飛んで行ったぜ。」

 

魔理沙が頭を押さえながら玉座の間を指差した。

 

「あっちには確か妖夢が…行きましょう!」

 

「おう!…ったくマジで殴るなよな~。」 

 

魔理沙はボヤキながら霊夢と共に玉座の間へ向かって飛んで行く。

 

 

 

 玉座の間 午後4時30分 四季黒刀の完全消滅まで残り30分。

妖夢とフランはザナドゥ卿が放つ威圧感に耐えながらなんとか立ち上がる。

 

ほう…余の『威圧』を受けてなお立ち上がるとは。

 

ザナドゥ卿は感心する。

 

「相手がどれだけ強くても諦めるな。先輩ならきっとそう言うはずですから。だから諦めません!最後の最後まで!」

 

「私も諦めない!」

 

妖夢とフランの全身のオーラがそれぞれ変色して『ゾーン』状態になった。

 

『ゾーン』か…。

 

ザナドゥ卿は大して驚く様子もなく呟く。

妖夢とフランは左右に分かれてザナドゥ卿の真横から挟み撃ち。

 

「インフェルノブレイカー!」「断名剣 冥想斬!」

 

ザナドゥ卿は『八咫烏』を真上に放ると籠手で2人の剣技を受けた。

普通の籠手であれば砕かれていただろう。

しかしザナドゥ卿のオーラが纏った籠手はとても硬かった。

ザナドゥ卿はそのまま腕の力だけで2人の剣技を弾き飛ばした。

 

「「うあっ!」」

 

2人は吹っ飛ばされる。

ザナドゥ卿は落ちてきた『八咫烏』の柄を掴むと妖夢に向いて『八咫烏』に黒いオーラを集束する。

 

覇王流剣術 カオス…ブレイカー~!

 

それは紛れもなく『カオスブレイカー』だった。

だが黒刀が放つ漆黒の『カオスブレイカー』とは違ってザナドゥ卿が放った『カオスブレイカー』の色は黒と白が螺旋状に混じり合ったまさに混沌の色だった。

 

「妖夢!」

 

驚愕のあまり硬直している妖夢にフランが飛び掛かりそのまま2人は玉座の間から城の下の方へ落下していった。

落下中に見たのは『カオスブレイカー』の斬撃が伸びていき遠くにある1つの山を消し飛ばした瞬間だった。

フランは妖夢を抱えたままなんとか体勢を立て直して玉座の間へ上昇していく。

妖夢は信じられないという表情でブツブツ呟いていた。

 

「どうして…『カオスブレイカー』は先輩のもののはず…それなのに…何であの人が…。」

 

「さっきあの人覇王流剣術って言ってた。つまり…そういうことなんだよ。…こんなことで諦められないよ。」

 

「うん。絶対に先輩を取り戻す!」

 

フランの言葉を聞いた妖夢は気持ちを切り替えた。

 

 

 

 そして玉座の間へはレミリア、さとり、お空、こいし、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精、幽香、フランがそれぞれ集まろうとしていた。




ED6 魔法科高校の劣等生 ミレナリオ

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さよなら ザナドゥ王国

OP6 遊戯王 OVERLAP



 8月15日 午後4時40分 四季黒刀の完全消滅まで残り20分。

影の攻撃が通用しない敵に苦戦していた映姫は息を整える。

 

「やむを得ません。」

 

影を全て引っ込める。

 

「何のつもりだ?」

 

ぬえが訝しむ。

 

「いきます!モードチェンジ!」

 

映姫の体を白い風が渦巻いていく。

足先からだんだん白い風が晴れていくと全身には純白の鎧が装着されていた。

右手に持つのは黒い影の剣ではなく白く輝く剣だった。

 

「ロイヤルナイト!」

 

映姫が声を発する。

 

「なるほど…竜を倒すには騎士ときたか…。」

 

ぬえは映姫の姿を見て少し感嘆する。

 

「私の覚悟…この剣に全て込める!」

 

映姫は気合いを入れた。

 

「はああっ!」

 

映姫は地を蹴って飛び上がりぬえに斬りかかった。

 

「勇敢と蛮勇は違うぞ!ファントムウイングソード!」

 

ぬえが翼から100枚の羽をヒラヒラと舞い落ちらせるとその羽が一瞬で剣に変わり映姫に向けて放たれた。

映姫はそれを前にしても下がることなく空中で両足に気力を集束させるとそれを一気に放出してぬえに向かって突き進んでいく。

剣先をぬえに向けて黒刀が『剣舞祭』でフラン戦にやったように突進突き攻撃を仕掛けた。

剣先が空気を切り裂き放たれる羽を弾き飛ばしていき確実にぬえに迫っていく。

 

「負けられない!僕の友の為に!ファントムブレス!」

 

ぬえは口から紫色のブレスを吐いた。

ブレスと白き剣の剣先がぶつかり合う。

その衝撃で映姫の鎧が少しずつ剥がれていく。

 

「くっ!はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

映姫は声を振り絞り白き剣に気力を注ぎ込む。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

ぬえもブレスの威力をさらに上げる。

映姫の鎧はほとんど剥がれてしまっていた。

それでも映姫は力を緩めない。

その時だった。

映姫の背中から黒い影の翼が展開されたのだ。

『ロイヤルナイトモード』である映姫からそれは本来あり得ない現象だった。

しかし映姫の勝ちたい思いと黒刀を助けたいという想いが奇跡を起こしたのだ。

影の翼が推進力となってブレスを徐々に押し始めていく。

 

「何!」

 

ぬえが驚いた声を出す。

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

映姫は己の全力を剣に込めてさらに押し込む。

そして、ついに白き剣がブレスを貫通するように突破してそのまま竜の鱗を突き刺した。

 

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

ぬえは痛みで悲鳴を上げた。

竜の体は光の粒子となって消滅してぬえの体が残って地面に落下していく。

映姫は落下するぬえに近づいて空中で抱きかかえて少しずつ高度を落としていく。

そこで映姫はぬえの体が少し透けていることに気づいた。

 

「あはは…限界が近づいてきたのかな…そんな不安そうな顔をしなくていいよ。これは君のせいじゃないから。」

 

ぬえは先程の戦闘中の厳しい表情が嘘であるかのように優しい笑顔だった。

映姫がぬえを抱きかかえたまま地面に着地する。

 

「あなた…まさか…霊力だけで延命していたというのですか?」

 

「ああ…そうだよ。本当のことを言えばザナドゥ卿が復活した時点で僕は消えるはずだった…でも…僕はまだこうして…生きている…きっとどこか…まだ見たいと思っていたんだろうね…クロトの成長を…。」

 

ぬえの声は消え入りそうなものだった。

映姫はぬえに肩を貸して立ち上がった。

 

「何を…。」

 

「まだ…間に合います…。あるはずです…黒刀に言いたいことがたくさん。」

 

映姫は歩き出して玉座の間へ向かう。

 

「…そうだね…あったね…あの2()()に言うべきことが…。」

 

ぬえはそう呟いた。

 

 

 

 玉座の間 午後4時50分 四季黒刀の完全消滅まで残り10分。

玉座の間へ最も早く辿り着いたのはこいしだった。

階段から今にも倒れそうな足取りで歩いている。

しかし精神喪失状態であるこいしは言葉を発することが出来ずザナドゥ卿にまるで何かを伝えるかのように手を伸ばす。

ザナドゥ卿は何をする訳でもなくただこいしの目を見つめていた。

こいしが一体何を伝えたいのかその真意を見極める為に。

だがその試みは空から接近してくる2人の存在によって中断させられる。

その2人とはレミリアとさとりだった。

玉座の間の床に着地するとさとりが急いでこいしの元へ走って行った。

 

「こいし!」

 

さとりはこいしの体を抱きしめた。

こいしもさとりの体を抱きしめ返す。

姉妹の感動シーンをよそにレミリアは目の前のザナドゥ卿を見た。

それだけでレミリアは今の黒刀が普通の黒刀ではないことと先程から強い威圧感を放っているのが目の前の男だということを理解した。

またザナドゥ卿もレミリアが只者ではないことに気づいた。

 

なるほど…現代の『王』か…。

 

ザナドゥ卿が呟く。

それだけでレミリアはザナドゥ卿の圧倒的な存在感を感じ取った。

レミリアは深呼吸してから名乗る。

 

「『未来王』のレミリア・スカーレットよ。」

 

『未来王』か。…余は旧ザナドゥ王国第一国王クロト・ザナドゥ。『覇王』とも呼ばれている。

 

「『覇王』…。」

 

黒刀が『破壊王』であることを考えて僅かな違和感を抱きながらもすぐに思考を切り替えてザナドゥ卿と戦闘開始しようとしたその時。

 

そう焦るな。まもなく集う。

 

「集う?」

 

レミリアが疑問に思った直後、玉座の間へ近づいてくる気配に気づいた。

レミリアの後方から急上昇して現れたのは妖夢とフランだった。

さらに遠くから2つの砲撃が放たれた。

それは『白霊砲』と『マスタースパーク』だった。

ザナドゥ卿は右手で受け止めて軽く握り潰す。

現れた霊夢と魔理沙の近くにはお空がいてその後方からはチルノ、大妖精と2人の手に掴まって運ばれている幽香がいた。

 

11人か…これで準備は整った。

 

「準備ってどういうことですか?」

 

玉座の間の床に着地した妖夢が訊いた。

霊夢、魔理沙、お空、フラン、チルノ、大妖精、幽香も次々と着地していく。

 

古明地こいしの心を取り戻す。

 

ザナドゥ卿はようやく抱擁を終えたこいしを指差す。

 

「そんなことが出来るんですか?」

 

さとりが訊く。

 

人の魂というのは己だけで存在している訳ではない。他者の中にもその人物の記憶がある。それらを集めて構成し直せば壊れた心を元に戻すことが出来る。

 

「どうして…そこまで…。」

 

妖夢はザナドゥ卿がやろうとしていることに戸惑う。

 

余はただザナドゥの民であるそやつを放っておけないだけだ。たとえ1000年経とうとも民は見捨てない。それが『王』というものだ。

 

その言葉を聞いた妖夢は気づいた。

 

「(そうか。この人も先輩と同じ。本当はとても優しい人なんだ。)」

 

ザナドゥ卿が右手をゆっくり挙げると床に巨大な術式が展開された。

 

霊烏路空を呼び戻したのもうぬらを待ったのもこの為だ。

 

術式の輝きが強まるとさとり、お空、幽香の体が光り出しその光が3人からスーッと抜けていってこいしの体に吸い込まれていく。

するとこいしの目が徐々に光を取り戻していく。

術式が完全に消える。

 

「お姉ちゃん?」

 

こいしがさとりに顔を向けて言葉を発した。

 

「こいし…あなた…心が戻って…っ!」

 

さとりは涙を溢れさせてもう一度こいしの体を抱きしめた。

 

「うわああああん!よかった~!」

 

お空も2人を抱きしめて泣きながら喜んだ。

 

「奇跡は…起きるんだな…。」

 

幽香も3人を抱きしめて涙を流した。

ザナドゥ卿は抱きしめ合う4人を見て少し微笑んだがすぐに妖夢達に顔を向ける。

 

さて…うぬらにはもう時間が無いのだったな。あと10分で四季黒刀の魂は完全消滅する。さあ、かかって来るがいい!うぬらの全てを懸けて!

 

そう言い放ってさらにオーラを高めた。

四季黒刀の魂が完全消滅するという事実に驚いている暇もないと悟ったレミリア達は武器を構える。

 

「私達も参加する。」

 

するとさとりが信じられない言葉を発した。

 

「うん。私もクロトに会いたい!」

 

こいしも前に出る。

 

「いいだろう。余の相手となるならそれも一興!」

 

ザナドゥ卿は怒るどころか笑った。

 

「「魔力解放!」」

 

「「「「「「霊力解放!」」」」」」

 

レミリア、魔理沙と霊夢、大妖精の治療を終えたチルノ、それにさとり、こいし、お空、幽香がオーラを解放した。

8つの光の柱が天から降り注いで闇に覆われた空が一気に晴れる。

 

おお…これはなかなか壮観だな。

 

ザナドゥ卿は感嘆の声を漏らす。

 

「パーソナルフィールド展開!ソメイヨシノ!」

 

妖夢が詠唱した。

玉座の間が…いや旧ザナドゥ王国全体が一瞬で綺麗な花畑に変わる。

妖夢は二本の剣を重ね合わせると周囲の桜の花びらを集束させる。

 

「桜花剣 夜桜!」

 

妖夢は上段から振り下ろした。

 

これ程美しい桜…散らせるのはもったいないという思いもあるがしかし!桜は散り際も美しいものだ!

 

ザナドゥ卿は『八咫烏』に下段に構える。

 

はあっ!

 

そのまま振り上げた。

その風圧だけで妖夢と二本の剣に集束していた桜の花びらを吹き飛ばしてしまった。

吹き飛ばされた妖夢をフランが空中で受け止めた。

 

「妖夢、気力の攻撃だけじゃ届かない。だから私の魔力を分けてあげる。」

 

フランはそう囁く。

 

「どうやって?」

 

妖夢が聞き返すとフランは『楼観剣』の刀身に指先で触れて魔力を流した。

すると『楼観剣』の刀身が炎に包まれた。

 

「凄い…。」

 

妖夢が声を漏らす。

 

「チャンスは1回だけ。それを私達が作るから妖夢はその時を狙って。」

 

フランは妖夢から離れて急降下した。

妖夢は桜の花びらで魔法の絨毯みたいに乗ってその時を上から待つ。

下では魔理沙が放った『マスタースパーク』とレミリアが放った『スピア・ザ・グングニル』の

後方から霊夢の『白霊砲』、フランの『インフェルノブレイカー』、

チルノの『アイスニードル』、それにさとり、こいし、幽香が砲撃霊術を放ってブーストをかけていた。大妖精は9人の後ろから回復魔法と強化魔法をかけてアシストに回っている。

 

フッ…面白い!現代の力も侮れないものだな!

 

ザナドゥ卿はそれを右手で受け止めて笑った。

 

『はああああああああああああああああああああああああああああああああ!』

 

10人の少女は気合いの声を上げた。

 

っ!

 

ザナドゥ卿が目を見開いた直後、砲撃とザナドゥ卿の右手の間が爆発した。

 

よもやこの余が10㎝も下がらせられるとはな…っ!

 

ザナドゥ卿は背後から迫る気配に気づいた。

右足を軸に半回転して、クロスステップで迫っていた妖夢を迎え撃つ。

妖夢は炎を纏った『楼観剣』を下段から斬り上げる。

 

「桜花剣 爆炎桜!」

 

燃える桜か!これもまた面白い!

 

ザナドゥ卿は笑みを浮かべて『八咫烏』を振り下ろした。

『楼観剣』と『八咫烏』の刃がぶつかり合い火花を散らす。

だが片手で『楼観剣』を持っている妖夢は徐々に押されていく。

しかし妖夢の狙いは別にあった。

それは左手に持つ『白楼剣』の隠された能力だった。

 

「霊剣化!」

 

妖夢が詠唱すると『白楼剣』の刀身が透けていく。

 

「(気力も霊力も届かない…でも!想いは届く!帰ってきて下さい!先輩!)」

 

妖夢は強い想いを込めて霊剣化した『白楼剣』をザナドゥ卿の胸に突き刺した。

 

やればできるではないか。

 

ザナドゥ卿の言葉が妖夢にはそれが黒刀が、やればできるじゃねえか、と言っているように聞こえた。

直後、ザナドゥ卿の体が光り出す。

 

「「うあああああああああああああああああああ!」」

 

1人の体から2人の叫びが聞こえた後、1つの体が分離して黒刀とルーミアが弾き出された。

ザナドゥ卿の姿は見えない。

 

「先輩!」

 

妖夢は倒れている黒刀の元へ駆け寄る。

 

「くっ!」

 

黒刀が右手で頭を押さえながら立ち上がって呻き声を出す。

 

「先輩…戻ったんですね!さ、早く帰りましょう。」

 

「いや…まだだ…。」

 

黒刀はそう言いだした。

 

「え?」

 

妖夢がそう声に出した直後、すぐ近くから巨大なオーラが放たれた。

そちらへ顔を向けるとルーミアが呻き声を上げてうずくまっていた。

ルーミアからはとてつもなく巨大なオーラが溢れ出ていた。

 

「あいつを…助けないと…今あいつは融合した時のオーラをそのまま取り込んだ。早く…助けないと…。」

 

黒刀はようやく分離のショックによる頭痛から解放されたようで一歩踏み出した。

その瞬間、ルーミアから溢れるオーラから強烈な波動が放たれた。

妖夢と黒刀は後方へ吹っ飛ばされる。

黒刀は『八咫烏』を床に突き刺して耐える。

妖夢も黒刀と同じようにして耐える。

魔理沙達が駆け寄ろうとする。

 

「来るな!これは…俺がやらなきゃいけないことなんだ…。」

 

黒刀が魔理沙達を制止する。

 

「ダメ…だよ…。」

 

その時、ルーミアの姿勢がだんだん上を向いて声を出した。

黒刀がバッとルーミアに振り返る。

ルーミアは続ける。

 

「…もう…いい…。もう…誰かが辛そうにしているのは…もう…見たくない!だから…来ないで…私のことは…もういいから…」

 

「いいわけないだろ!」

 

ルーミアの言葉を遮って黒刀が叫んだ。

 

「お前は俺の大切な家族だ!だから言え!お前の一番の願いを!」

 

黒刀は深く息を吸い込む。

 

「ルーミア!」

 

そして力いっぱい叫んだ。

それを聞いたルーミアは涙を溢れさせた。

 

「助けて…助けて!くろにい!」

 

ルーミアも力いっぱい叫び返した。

 

「ああ!今助ける!」

 

黒刀は『八咫烏』を杖代わりに前へ一歩踏みしめる。

オーラの波動が暴風のように襲ってくるが構わず一歩ずつルーミアのいる場所へ歩く。

その時、オーラの波動…いや風が形を変えてルーミアを囲む竜巻と化した。

中の様子は外から見えない。

黒刀は竜巻の前まで辿り着くとその中へ両手を伸ばした。

しかし竜巻は黒刀の両手を弾いた。

 

「くっ!」

 

黒刀が歯ぎしりした直後、風の勢いが強まり黒刀を吹き飛ばそうとしていた。

 

「しまった!」

 

黒刀が声を上げて両足が風で床を離れそうになったその時。

2つの誰かの手が黒刀の背中を支えていた。

黒刀が首だけ振り向かせると黒刀を支えていたのは…

 

「…姫姉…ぬえ…。」

 

黒刀は自分を支えてくれた2人の名を呼ぶ。

振り向いた黒刀の顔を見た2人は微笑む。

 

「ほら…頑張って。」

 

「お前なら出来る。」

 

映姫とぬえはそれぞれ応援の言葉をかける。

 

「ありがとう…。」

 

その言葉を受け取った黒刀は感謝の言葉を返すと両手にオーラの膜を張ってもう一度竜巻の中へ両手を伸ばした。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

そして黒刀はついに竜巻の中への侵入に成功する。

竜巻の中心ではルーミアが苦しそうにしながらも黒刀を見つめていた。

 

「…ルーミア。助けに来たぜ。」

 

黒刀は優しく微笑んだ。

 

「くろにい…。」

 

ルーミアは嬉しさのあまり涙を流す。

黒刀はルーミアに近づいて膝をつき抱きしめる。

 

「ルーミア…。」

 

「くろにい…。」

 

10年ぶりの再会に温かい抱擁を交わし合う2人だったがルーミアがオーラを抑えられる時間がもう少ないことを黒刀は感じた。

 

「ルーミア…俺を信じられるか?」

 

「当たり前なのだ。」

 

ルーミアは微笑んでそう返した。

 

「分かった。」

 

黒刀はルーミアとの抱擁を解いてルーミアの肩を掴むとその可愛らしい唇に自分の唇を重ねた。

ルーミアは抵抗する様子もなくしっかりと受け止めていた。

オーラがどんどん黒刀に流れているのを感じた。

黒刀は『エナジードレイン』でルーミアからオーラを吸い取っているのだ。

周囲の竜巻が徐々に弱まっていく。

ルーミアからオーラを吸い切った黒刀が唇を離すとその3秒後に竜巻が完全に消えた。

ルーミアの手を取って立ち上がる。

 

「先輩!」

 

妖夢達が駆け寄ってくる。

 

「妖夢…心配かけてすまなかったな。姫姉も…ごめん…。」

 

黒刀は妖夢と映姫に謝罪の言葉をかける。

映姫に支えられているぬえに視線を移す。

 

「ぬえ…。」

 

黒刀はルーミアと手を繋ぎながらぬえに歩み寄る。

幽香、お空、さとり、こいしも同様にぬえに歩み寄る。

ぬえにはもう自力で立つだけの力はなく今は映姫の腕に支えながら横になっている。

 

「幽香…お空…さとり…こいし…ルーミア……黒刀。」

 

ぬえは1人ずつ顔を見て名を呼ぶ。

6人はぬえに対して膝をつく。

黒刀が映姫にアイコンタクトするとそれだけで映姫は察してぬえの体を黒刀に預けた。

黒刀はぬえの体を抱き支える。

皆、分かっているのだ。

ぬえの命はもう長くないということを。

 

「…黒刀…ザナドゥ卿は…まだ…お前の中に…いるか?」

 

ぬえは今にも消え入りそうな声で訊く。

 

「…ああ。…いるよ。」

 

「そう…それじゃ…最初は…彼と…話したいな…いいかい?」

 

ぬえは黒刀にお願いする。

 

「ああ…構わないよ。」

 

黒刀は答えてからルーミア達を見る。

ルーミア達が無言で頷いたのを了承と解釈した黒刀はスッと目を閉じ打。

次に目を開けた時には黒刀ではなくザナドゥ卿に人格が入れ替わっていた。

 

「ぬえ。」

 

その声は先程まで妖夢達と戦っていた時のような威圧感のある声とは違って優しい声だった。

ザナドゥ卿の声を聞いたぬえは安心したように微笑む。

 

「ザナドゥ卿…いや…昔のように…クロト。やっぱり…彼の中に残っていたんだね…。」

 

「ああ。本当なら余は消えるはずだった。だが…」

 

ザナドゥ卿は自身の胸の中心を見る。

 

「こいつは余を消さなかった。消せたはずなのに…。」

 

そう言ってぬえに視線を戻す。

 

「それが…あの子の優しさだよ…。」

 

ぬえは嬉しそうだった。

 

「そう…君と同じようにね。」

 

ぬえはクロトに向けてそう口にした。

 

 

 

 1192年 ぬえ(12歳)。

ぬえは人間の母と竜人族の父との間に生まれた子だった。

ぬえが生まれた国はザナドゥ王国ではなくその隣国だった。

その国はモンゴル帝国の支配下にある国だった。

ある日、街の人々にぬえの父が竜人族だということがバレてしまった。

人外が国内にいれば処刑されることを分かっていたぬえの父はずっと隠し通してきたのだ。

もちろんぬえのことも。

正体が知られた以上、ぬえも危険であると考えたぬえの父はぬえと妻を国外へ逃がすと決断した。

ぬえの父は自らの身を挺してぬえと妻を国外へ逃亡させた。

最後は衛兵に斬り殺されて。

国外の森へ逃げたぬえとぬえの母だったが追っ手の衛兵によってぬえの母は矢で射殺されてしまった。ぬえをかばって。そして残されたぬえも矢で全身を射抜かれる。

 

「よっしゃ~!殺したぜ!」

 

「いやまだだ!まだ息してるぜ!」

 

「殺せ!」

 

少し遠くから追っ手の衛兵達の声が聞こえる。

 

「(…僕…死ぬのかな…パパ…ママ…。)」

 

ぬえは薄れゆく意識の中、全身に矢が刺さったままうつ伏せに倒れて死を静かに待った。

剣を抜いた衛兵達がこちらに走ってくるのが微かに見える。

ぬえがゆっくり目を閉じようとしたその時だった。

ぬえの頭上を黒い斬撃が通り過ぎていき衛兵達に飛んでいくのが見えた。

黒い斬撃は衛兵達の目の前の地面に直撃して衛兵達を吹っ飛ばした。

そして…

 

「誰の許しを得て余の領土に穢れた身で侵入している。」

 

威圧感のある声が響いた。

衛兵達が立ち上がる。

 

「誰だお前!」

 

「用があるのはそっちのガキなんだよ!」

 

「そこをどけ!」

 

衛兵達は怒鳴り散らした。

その直後だった。

ぬえが後方から大きな怒りを感じたのは。

 

「…余を知らぬ無知さ。それだけならまだ許したものを…余に指図するとは愚かな!」

 

怒りを露わにしてぬえの前に出る。

その時、初めてみたその男の背中はとても大きく安心感を与えるものだった。

 

「…その子を頼む。」

 

男は振り向きもせず言った。

ぬえの体を誰かが抱き上げた。

ぬえが抱き上げた人物の顔を確認するとその人は長い銀髪でシャツとスカートのカジュアルな服装をした10代後半くらの女性だった。

 

「そうね。とりあえずうちで治療しましょう。私はこの子をうちの医務室に連れていきますからあなたも早く帰ってきてくださいね…クロト。」

 

そう。

この男こそがザナドゥ王国の国王クロト・ザナドゥである。

 

「ああ。すぐに片づける。」

 

ザナドゥ卿は前を向いたまま返事した。

銀髪のお姉さんは微笑み体の向きを180度変える。

 

「ごめんね。今すぐ矢を抜くと血が出ちゃうかもしれないからもう少しだけ…我慢してね!」

 

右足のつま先でコツンと地面を叩いた。

すると前方に氷の一本道が出来た。

 

「大丈夫。すぐに着くから。」

 

銀髪のお姉さんは氷の上に乗りそのまま滑って進んで行った。

 

「さて…こちらも片づけるとするか。」

 

ザナドゥ卿は1人呟いた。

 

 

 

 ぬえが銀髪のお姉さんに連れて来られたのはとても豊かな国。

ザナドゥ王国だった。

ぬえは自分の姿が見られて大丈夫かと不安で会ったがザナドゥ王国の国民はぬえの姿を見ても全く嫌悪感を出さず手を振ったりして歓迎してくれた。

銀髪のお姉さんは街の大通りを歩いてそのまま王宮の中に入って行く。

とある部屋の前に立つとノックをする。

 

聖夢(せいむ)!いいかしら?治療して欲しい子がいるの!」

 

ドアが開いて出てきたのは紅白の巫女服を着た少女だった。

 

「分かった。すぐに始める。ザナドゥ卿は?」

 

「すぐに戻ってくるわ。」

 

「分かった。」

 

聖夢はそう応えてぬえを預かってベッドに寝かせた。

 

 

 

 1時間後。

治療中に眠ってしまっていたぬえが目を覚ます。

ぬえの左手を包み込む温かく大きな両手の感触があった。

その人物の顔を見る。

 

「あなたは…」

 

「クロト・ザナドゥだ。ようやく目を覚ましたようだな。」

 

ザナドゥ卿は温かい目を向けてきた。

 

「…あなたは…僕が怖くないんですか?」

 

ぬえは思わず訊いてしまった。

 

「怖い?うぬを怖がる理由などどこにでもないであろう。」

 

だがザナドゥ卿はそう返してきた。

 

「でも…僕は…」

 

ぬえは自身の翼を見る。

 

「この国の人々はどんな種族が住んでいようと怖れることはない。何故なら共存することを受け入れているからだ。」

 

「共存…。」

 

それはぬえの考えには無かったことだった。

生まれてから今日までいつ人間達に正体がバレて殺される恐怖しかなかったからだ。

ぬえがそう考えているとザナドゥ卿がぬえから手を離して立ち上がる。

 

「さて…うぬを助けた対価として余の願いを聞いてもらうとするか。」

 

ぬえは一体何を要求されるのかと思っているとザナドゥ卿が優しく笑った。

 

「余の友になってはくれぬか?」

 

「え?」

 

ぬえは一瞬、何を言っているのか分からなかった。

5秒程かけてやっと言葉の意味を理解した。

 

「えっと…僕なんかでいいの?」

 

ぬえは聞き返した。

その問いにザナドゥ卿は頷いた。

 

「うむ!余はうぬがいい。初めて会った時からそう心に決めておったのだ。」

 

その言葉にぬえは笑顔になって左手を伸ばした。

 

「うん。それじゃ…よろしく。」

 

ザナドゥ卿も左手を伸ばそうとした時に何かに気づいた。

 

「…そういえばうぬの名を聞いていなかったな。」

 

今更のことを言い出した。

ぬえは呆れた様子もなく微笑んだ。

 

「封獣ぬえだよ。」

 

「うむ。よろしくだ…ぬえ。」

 

ザナドゥ卿はぬえと握手を交わす。

 

「うん…よろしく。クロト。」

 

ぬえは最高の笑顔を見せた。

 

 

 

 現在 午後5時30分。

 

「君の優しさが…僕の心を照らしてくれた…君は…僕にとって…最高の王で親友だ…。」

 

「ああ。余も…ぬえ、うぬを最高の親友だと思っている。昔も今も…そしてこれからも永遠に余とうぬは親友だ。」

 

ザナドゥ卿は涙を流しながら語ってくれた。

 

「ああ…永遠だ…。」

 

「…もう少しうぬと話していたかったがあまり時間が無い。彼に変わるぞ。」

 

「ああ…いつか…またどこかで会おう…クロト。」

 

「ああ…では…。」

 

ザナドゥ卿が目を閉じて次に目を開けた時には黒刀に戻っていた。

 

「ぬえ…。」

 

黒刀は泣きそうな顔でぬえを呼んだ。

 

「黒刀…ごめんね…僕は大きな過ちを犯した…どんな理由があったって…お前を犠牲にしていい訳があるはずがない…黒刀…僕を憎んでいるかい?」

 

「憎めるわけないよ!だって…ぬえは俺達の()()()()なんだから!」

 

黒刀は涙を流して言い返した。

 

「だから…今まで…守ってくれて…ありがとう…お母さん…。」

 

黒刀がぬえに感謝の言葉を伝えたその時、黒刀の涙の雫がぬえの頬に落ちて来て伝っていく。

同時に今まで沈黙を貫きながら涙を我慢していた幽香、お空、さとり、こいし、ルーミアが一斉にぬえに抱きついてきた。

 

「…僕の方こそ…ありがとう…。嬉しいよ…まさか…僕がお母さんって呼ばれる日が来るなんて…思いもしなかったよ…。」

 

ぬえの体が光に包まれ始める。

 

「「「「「「お母さん!」」」」」」

 

「…本当に…ありがとう…この世界に…生まれてくれて…ありがとう…君達は…僕の自慢の子供だ…。」

 

その言葉を最後にぬえの体が光の粒子となって天に昇っていった。

 

 

 

 旧ザナドゥ王国国王直属騎士団団長 封獣ぬえ 永眠(享年1030歳)

 

 

 

 ぬえの最期を見届けた黒刀が静かに立ち上がると空から何かキラキラした物体が落ちてくるのが見えた。それは黒刀の元へ舞い落ちてきた。

黒刀がそれを手のひらで受け止めた。

落ちてきたのは赤と青の翼をモチーフにしたペンダントだった。

ルーミアが立ち上がり黒刀の手のひらに乗っているペンダントを覗き込む。

 

「くろにい…これって…」

 

思い当たることがあるようだ。

それは黒刀も気づいていた。

 

「ああ…これはぬえが生きた証だ。」

 

黒刀はペンダントを首にかけた。

 

「ぬえ…俺強くなるから天国から見ていてくれ。」

 

ペンダントの翼を撫でながら誓う。

 

 

 

 

「(何故余を消さなかった?)」

 

ザナドゥ卿が念話で黒刀に話しかけてきた。

 

「(…一緒に見て欲しかったからさ。今のこの世界を。それと呼び方に迷っているなら俺のことは黒刀でいいよ。俺はあなたのことを王様って呼ぶから。)」

 

黒刀は念話で答えた。

 

「(いいだろう。)」

 

ザナドゥ卿は短く返して黙った。

ザナドゥ卿との念話を終えた黒刀は床に突き刺さった『八咫烏』を抜いて納刀した後、さとりとこいしを片手ずつ抱きかかえて妖夢達に向き直る。

 

「皆!色々聞きたいこともあるだろうが今はこの場をすぐに離れよう!ぬえの保護霊術が解けてこのザナドゥ王国は消滅する!」

 

「先輩、それって…」

 

妖夢が聞き出そうとする。

 

「急げ!」

 

黒刀が声を張り上げた。

黒刀はさとりとこいしを抱きかかえルーミアは黒刀におんぶしてお空が幽香を抱える。

霊夢、チルノ、大妖精、レミリア、フラン、映姫は自力で飛べるため玉座の間から飛び立つ。

妖夢は飛べないのでハイジャンプで移動しようかと考えていたその時。

箒に跨っている魔理沙が近づいてきた。

 

「乗れ!」

 

妖夢は頷いて魔理沙の後ろに跨った。

妖夢が乗ったことを確認した魔理沙は飛び上がった。

黒刀も翼を展開して飛び立っている。

全員、咲夜が待つヘリコプターのある方角へ向かった直後だった。

玉座の間の中心から巨大な闇の柱が現れそれはどんどん広がっていく。

妖夢が振り向いて見ると闇の柱に飲み込まれた家が消滅していた。

 

「っ!魔理沙!もっとスピード出して!」

 

妖夢は慌てて叫んだ。

 

「スピードを上げろってそんなこと言われても…」

 

魔理沙が振り向いて妖夢が見た現象と同じ現象を見た。

 

「なんじゃありゃ~!」

 

前に向き直ってスピードを最大限まで上げて黒刀達を抜いて一番前に出た。

 

 

 

 黒刀達は旧ザナドゥ王国の領域から脱出して地上に降り立ち振り返って消滅していく旧ザナドゥ王国を眺めていた。

黒刀、ルーミア、さとり、こいし、お空、幽香は胸に手を当てて目を閉じる。

自分達の祖国に感謝の念を込めて。

 

 

 

 ありがとう…そしてさよなら…ザナドゥ王国…

 

 

 

そして旧ザナドゥ王国の領域の一番外側が消滅すると闇の柱がどんどん細くなっていきやがて消え去った。

そこはもうただの荒野となっていた。

黒刀達は目を開けて荒野を見る。

既に覚悟を決めていた6人は涙を流すことなく現実を受け止めた。

 

 

 

 

 

 少し経って最初に口を開いたのはこいしだった。

 

「ねえ黒刀、どうやってルーミアを助けたの?」

 

皆が聞きそびれていたことを代弁した。

 

 

「ああ、『エナジードレイン』でルーミアのオーラを吸収した。」

 

黒刀は真顔で答えた。

 

『え?』

 

ルーミア以外の全員が驚いた。

 

「「引くわ~。」」

 

霊夢と魔理沙が同時に後ずさった。

 

「妹なんだから何の問題もないだろ。」

 

黒刀は首を傾げた。

 

「「いやいや!そっちの方が問題あるし!」」

 

霊夢と魔理沙は声を揃えてツッコんだ。

 

「ロリコン…。」

 

レミリアが顔を逸らして呟いた。

 

「誰がロリコンだ!いいか…よく聞いとけ!俺は…シスコンだ!」

 

黒刀は高らかに宣言した。

フランがショックを受けたのかフラフラと黒刀に近づいていく。

 

「そんな!お義兄様の妹は私だけのはずなのに!」

 

黒刀の右腕に抱きついた。

するとルーミアも頬を可愛らしく膨らましてフランに対抗するように黒刀の左腕に抱きつく。

 

「くろにいは渡さないもん!」

 

当の黒刀は満更でもない顔をしている。

 

「ちょっと!フランを誑かしてんじゃないわよ!この変態!」

 

レミリアはそれが気に食わないのか罵声を浴びせてきた。

 

「そうです!黒刀!兄妹でも節度をわきまえるべきです!」

 

さらに映姫も説教してきた。

 

「は?別に誑かしてないし。っていうか姫姉まで何でそんな怒ってんの?」

 

「「この分からず屋!」」

 

映姫とレミリアは強い口調で言い放った。

 

「え~。」

 

黒刀が困惑しているとその隙を突くように背後からさとりが抱きついてきた。

 

「なら私は黒刀のお嫁さんになる。」

 

さとりの突然の爆弾発言に映姫とレミリアは強烈な危機感を感じた。

ライバルの登場だと。

 

「え~と…さとり?」

 

黒刀が抱きつかれたまま声を発する。

 

「黒刀…約束した。結婚してくれるって。」

 

「それって…4歳の時だろ?」

 

「でも大きくなって私の気持ちが変わらなかったらしてくれるって。…胸はあまり大きくならなかったけど…そこは目を瞑って。」

 

「お互いの気持ちがって言ったはずなんだけど…それにそんなに悲観するほど大きくなっていないわけでもないっていうか…」

 

黒刀は背中に感じる柔らかい感触に動揺していた。

 

「「黒刀!」」

 

それを察した映姫とレミリアが突き刺すような視線と声を放つ。

ルーミアとフランが火花を散らし睨み合って、幽香がやれやれと苦笑して、霊夢と魔理沙がドン引きして、チルノとこいしとお空が爆笑して、大妖精と妖夢がオロオロして、遠くで咲夜がどうしたものかと笑顔を崩さず見守っていた。

そのやり取りはヘリにの乗った後の飛行中も続いていた。

そんなドタバタもあったが最後は皆も疲労で眠り旧ザナドゥ王国とお別れした。




ザナドゥ編完。

ED6 魔法科高校の劣等生 ミレナリオ

ご感想お待ちしております。


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いざ夏島へ!

OP7 超次元ゲイムネプテューヌ Dimension tripper!!!!

新章スタートです!


 8月17日 午前9時。

ザナドゥ王国での一件から2日後。

黒刀は妖夢達をスウェーデンに連れて行くという約束を台無しにしてしまった責任として別のリゾートに2泊3日のバカンスに連れて行くという話になった…のだが。

 

「何で…お前らまでいるんだよ!」

 

黒刀が叫んだ場所は愛知県名古屋市のとある停船所だった。

停船所には黒刀、妖夢、霊夢、映姫、魔理沙、チルノ、大妖精だけではなく

神光学園の小野塚小町、アリス・マーガトロイド、河城にとり、

紅葉高校の犬走椛、

紅魔学園のレミリア・スカート、フランドール・スカーレット、十六夜咲夜、東風谷早苗、

比那名居天子、洩矢諏訪子、

首里高校の藤原妹紅、七瀬愛美、鈴仙・優曇華院・イナバ、蓬莱山輝夜、海道修、

白雪高校の雪村氷牙、丸山千歳、レティ・ホワイトロック、五位堂光、白金真冬、

鷹岡高校の越山流星、六道仁、

仙台高校の青葉泉、北山圭、九条花蓮、二宮優、

王龍寺高校の風間翼、岩徹剛、黒岩俊介、知念、大門金次の合計38名が集まっていた。

黒刀が、お前ら、と指しているのは当然優や真冬など『剣舞祭』メンバーのことだ。

 

「だから連絡したじゃん。友達を連れて来てもいいかって。」

 

黒刀の苛つきに魔理沙が口を出す。

 

「はあ…。」

 

黒刀はため息を吐いたが気を取り直して両手をパンッパンッと鳴らして皆の意識を向ける。

 

「え~それじゃ予定よりす・こ・し多いがするがそろそろ現地に移動するとしよう!」

 

愛美が挙手する。

 

「どうやって行くのよ?まさか泳いで行けって言うんじゃないでしょうね!」

 

現時刻は漁船などが漁に出ている時間であたりに船や他の乗り物は見えない。

 

「んなわけあるか。あれで行くんだよ。」

 

愛美の指摘に黒刀は海に向かって指差す。

霧がかった場所から徐々に姿を現したのは幅30m・高さ50m・全長270mの巨大な豪華客船だった。

 

『で、でけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

庶民の全員が驚いた。

 

「これに乗って…夏島に行く!」

 

黒刀が言うもほとんどの者は口を開けて固まっていた。

全員が船に乗り終えて出航したのはそれから30分後のことだった。

 

 

 

 9時30分。

 

「わあ!綺麗!」

 

妖夢は手すりに身を乗り出して喜ぶ。

 

「あんまりはしゃいでいると落ちるぞ。」

 

黒刀が念のため注意する。

 

「そこまで子供じゃありません!」

 

妖夢は頬を膨らまして抗議する。

 

「はいはい。」

 

黒刀は妖夢の隣に並んで手すりに肘を置く。

今この場には黒刀と妖夢しかいない。

 

「そういえばちゃんとお礼を言ってなかったな。ありがとうな…助けに来てくれて。」

 

黒刀は妖夢に微笑んでお礼を口にする。

 

「いえ。皆さんが力を貸してくれたからです。」

 

黒刀の感謝の言葉を受け取った妖夢は機嫌を直したようで謙遜する。

海風が妖夢の髪をなびかせる。

 

「…先輩、ルーミアちゃん達はどうなったんですか?」

 

「…今は保護施設にいるよ。流れで日本に連れてきちゃったけど精密検査と戸籍登録はしておかないといけないからね。」

 

黒刀は青空を見ながら答えた。

 

「元気だといいですね…。」

 

「…皆、強いよ。あんなことがあったのに…施設に入ることに何の抵抗もなかった。」

 

黒刀が少し悲しげに呟いた。

黒刀が口にした、あんなこと、とはドクターワースに拉致された時のことである。

その話もあの場にいた人間には全員に全て話してある。

 

「さとりとこいしはオーラはあってもほとんどの能力を失った。幽香は力を失ったけど植物と会話する能力が残っていたよ。お空は意外にも異常が無かった。ルーミアは…」

 

黒刀が続けようとしたところで、

 

「うわああああ!」

 

誰かの大声が響いた。

 

「チルノだな。何騒いでんだ。」

 

黒刀が呆れる。

 

「とりあえず行ってみましょう。」

 

「まあ、いいけど。」

 

黒刀は頭を掻く。

2人は声のした場所へ向かう。

 

 

 

 コントロールルーム。

いち早く駆けつけたのは魔理沙だった。

 

「どうしたチルノ!」

 

「魔理沙!見て…この船…誰も操縦してないのに動いてるよ!きっと幽霊船だよ!」

 

チルノが慌てた声を出す。

 

「チルノちゃん…それただの自動操縦だよ。」

 

魔理沙の後ろから聞いていた大妖精がジト目でツッコミを入れた。

 

「自動操縦?何それ?」

 

チルノがアホ面で返した。

 

「人間じゃなくAIが操縦しているんだよ。」

 

ちょうど到着した黒刀が大妖精の後ろから答える。

 

「AI?」

 

「つまり人工知能にこういった乗り物の操縦を任せているんだ。」

 

「うん。全く分からん!」

 

黒刀の説明を聞いていたチルノはキッパリ言い切った。

 

「先輩、速すぎです…。」

 

そこで妖夢もやっと到着したようだ。

 

「修行が足らないんじゃないか?」

 

黒刀は意地悪な笑みで返す。

 

「もっと頑張ります!」

 

妖夢の胸の前で両手をギュッと握りしめて前向きな言葉を口にする。

チルノはまだ首を傾げている。

 

「まあ、機械工学は2年になったら授業で受けられるからその時になって考えればいいよ。」

 

黒刀はそう言葉をかけた。

そこで魔理沙は気になったことを黒刀に問う。

 

「なあ、この船って四季家の船だよな?だとしたら黒刀がそこまで設計に詳しいのは設計に立ち会ったからか?」

 

「いや、これは俺の個人資産だ。」

 

黒刀はしれっと口にした。

 

「「「「え?」」」」

 

4人が黒刀に振り向いた。

 

「ちなみにこれから行く夏島も俺の個人資産だ。」

 

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」

 

妖夢達の声は船全体に響いた。

 

 

 

 午前10時 屋外プール。

妖夢はテーブルに突っ伏していた。

 

「はあ…先輩って本当に凄いお金持ちだったんですね。しかも家のお金じゃなく自分のお金で島まで買うなんて。」

 

「ああ、それと夏島の他にも春島、秋島、冬島っていうものある。」

 

黒刀がグラスに入れた牛乳を飲む。

 

「ますます凄いですね。」

 

「この4つの島の特徴はそれぞれの島が名前の通り季節が1年変わらない。島の周辺が特殊な気候なんだよ。」

 

「どうして4つも買ったんですか?」

 

「だって姫姉が、どうせなら四季全部揃えましょう、とか言い出すんだもん。おかげでこの4つの島は合わせて四季諸島なんて呼ばれているよ。」

 

「なんか…もうスケールが大きすぎて…。」

 

妖夢は姿勢を直してオレンジジュースを飲んだ。

 

 

 

 黒刀は牛乳を飲み干したのでもう1杯飲む為に食堂へ向かった。

食堂には咲夜がいた。

キッチンを覗き込んでいるようだが中には誰もいない。

 

「咲夜さん?何でキッチンをそんなに見ているんですか?」

 

黒刀が咲夜の背後から声をかける。

それに気づいた咲夜は黒刀に振り返る。

 

「いえ。ただキッチンの道具を見ていたのですがどれもかなりの高級品でレアなものだと思いまして。」

 

料理に関しての虚王は隠しきれないようだ。

 

「入ります?」

 

「いいんですか!」

 

黒刀が誘うと咲夜は目をキラキラさせて喜んだ。

 

「ええ。」

 

黒刀は微笑んで咲夜の背中を押してキッチンに入れてあげる。

 

「素晴らしいですね。どれもミシュラン3つ星ホテルで扱われるようなものばかりです。」

 

咲夜は眺めてから黒刀に振り向く。

 

「黒刀様は洋食も作れるのですか?」

 

「まあ…洋食もそうですが和食と中華も作れますよ。といってもメニューは一般家庭で作れるものを少しだけアレンジしたものばっかりだけど。咲夜さんみたいに本場料理を作るっていうのも出来なくはないけど。」

 

黒刀は少しだけ照れもあるのか謙遜気味に答えた。

 

「いえ。普通の料理であっても料理人の腕次第でいくらでも美味しくなると思いますよ。」

 

咲夜はフォローした。

 

「はは、咲夜さんには敵わないな~。」

 

黒刀は後頭部を掻く。

すると咲夜は両手を合わせた。

 

「そうです。よろしければ黒刀様、一品だけ料理を作って頂けませんか?」

 

黒刀は3秒程沈黙した。

 

「はあ⁉」

 

そして驚いた。

 

「いやいやいくらなんでも咲夜さんに披露できるほど料理の実力はないですよ俺!」

 

左手をブンブンと振って必死に断ろうとする。

しかし咲夜は黒刀の料理にかなりの興味を抱いているようだ。

 

「いえいえ。それは私が判断することですから。それに先程ご自分でおっしゃっていたではないですか。作ってほしければ作ると。」

 

満面の笑みで返してきた。

黒刀はこれ以上、断ることは出来なかった。

 

「…分かりました。本当に一品だけですよ?」

 

「ええ。」

 

咲夜は笑顔で答えた。

 

「(そのメイドスマイルは卑怯ですよ。)」

 

黒刀はため息を吐くがすぐにキッチンの引き出しからエプロンを取り出して身に着けた。

 

「(できれば洋食でなるべくカロリーを抑えた料理の方がいいよな…でも一品だけなのにサラダってのもおかしいし…。)」

 

エプロンを身に着けた効果なのか既に料理人スイッチが入っている黒刀だった。

そんな黒刀を咲夜は後ろから眺めていた。

黒刀は数秒考えてからすぐさま調理にかかった。

 

「(凄い…黒刀様は謙遜していたけどこうして見ているだけでもプロかそれ以上に手際が良い。)」

 

一連の作業を後ろから観察していた咲夜は感嘆していた。

 

 

 

 数十分後。

黒刀の料理が完成した。

 

「出来ました。サイコロステーキです。」

 

黒刀はサイコロステーキを乗せた皿を咲夜に渡す。

咲夜はそれを受け取ってフォークでサイコロステーキを刺して口の中へ運ぶ。

 

「ん…。」

 

口の中をサイコロステーキを胃の中へ送ってから、

 

「とても美味しいです。味はもちろん火の通りもちょうどいいですし何より味付けが絶妙です。」

 

黒刀の料理を褒めまくる。

黒刀は恥ずかしくなったのかエプロンを外して引き出しにしまう。

 

「お世辞にも程がありますよ。咲夜さん。」

 

黒刀はキッチンを出る。

咲夜もまだサイコロステーキが乗った皿を持ちながらキッチンを出る。

 

「いえ。本当に美味しかったですよ♪」

 

満面の笑みでさらに褒めた。

 

「うっ。」

 

黒刀はそれ以上、反論できなかった。

メイドスマイル恐るべし。

 

「(早苗と付き合う前の俺だったらうっかり惚れているところだったぞ。)」

 

黒刀は食堂の椅子に腰かける。

咲夜も向かいの椅子に腰変えてサイコロステーキを食べ続ける。

 

「まあ確かに俺も卒業したら店を出したいと思ってましたけど…。」

 

「そういえば以前私に勝ったらレシピを1つ教えて欲しいと言っていましたね。」

 

咲夜が思い出したように口にした。

 

「ああ、イギリスのチョコ系のレシピが知りたかったんです。ネットの情報より本場で作ってた人から聞いた方が参考になるから。…まあ、その話はまた今度詳しく聞きます。」

 

黒刀は立ち上がりドリンクバーからグラスに牛乳を注ぐと食堂を出た。

 

 

 

 黒刀が屋外プールに戻ってくるとチルノと大妖精がプールに入ろうとしていた。

 

「チルノちゃん~私、泳げないよ~。」

 

大妖精がプールに入ることを拒むがチルノが大妖精の背中を抑えているせいで下がれずにいる。

 

「そんなことないって!大丈夫♪大丈夫♪」

 

チルノはそんな大妖精を陽気に言い聞かせようとする。

 

「でも…。」

 

大妖精が振り返ろうとした瞬間、

 

「えい!」

 

チルノが大妖精の背中をドーンと押した。

 

「きゃっ!」

 

大妖精が悲鳴を上げてザバーンと音を立ててプールに突き落とされた。

 

「アハハ!習うより慣れろ!」

 

チルノが腰に手を当てて高笑いする。

 

「チ~ル~ノ~ちゃ~ん!」

 

大妖精がプールから顔を出して目をギラリと光らせた。

 

「うえ?」

 

チルノが変な声を出した時、大妖精がチルノの足首を掴みプールに引きずり込んだ。

 

「ぎゃあああ!」

 

チルノが悲鳴を上げてプールにザバーンと音を立てて入れられる。

 

「ぷはっ!」

 

チルノがプールから顔を出す。

幸い、大妖精の足が届く深さだったようだ。

 

「やったな!」

 

チルノは大妖精に水をかける。

 

「きゃっ!こっちもお返し!」

 

大妖精も水をかけ返す。

 

そんな光景を見ていた黒刀はグラスをテーブルの上に置く。

 

「(新手のホラーか?)」

 

その時、妖夢が手すりの方へ走り出す。

 

「皆さん、見えてきましたよ!」

 

妖夢が指差した先にはハワイと相違ない広さを持つ島があった。

夏島だ。

それを見たほとんどの者がこう思った。

 

『(あれを1人で買ったのか…。)』




ED7 DOG DAYS′ 夏の約束

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珍獣 クマ吉登場⁉

OP7 超次元ゲイムネプテューヌ Dimension tripper!!!!



 午前11時。

黒刀達は夏島に上陸した。

 

「では改めまして…ようこそ夏島へ!」

 

黒刀は皆の前に立ち、両手を広げて歓迎のポーズを取った。

皆がまあまあの笑顔になったところで黒刀は手を下ろす。

 

「それじゃ荷物を部屋に置いたら各々自由行動ということで。マップデータはロビーに入ったら自動的に端末に送信されるからそれを見るように。さて、それでは行こうか。」

 

黒刀が前を歩いて皆を先導していく。

道は山道を左右に切り開いたような道だった。

 

「なんか熊でも出そうな道ね。」

 

霊夢がややビビる。

 

「ああ、出るよ。」

 

黒刀がしれっと口にした。

 

「は?」

 

霊夢は一瞬、聞き間違いだと思った。

しかしその考えは次の瞬間打ち砕かれる。

左側の草陰から何かの影がスライドして現れた。

それは紛れもなく体長3mの熊…ヒグマだった。

 

『ぎゃああああああああああああああああああ!』

 

一斉に悲鳴を上げた。

黒刀が熊に近づく。

 

「よう!久しぶりだなクマ吉!」

 

『え?』

 

皆が呆気に取られる。

クマ吉が黒刀に抱きつくと頬を舐める。

 

「アハハ!くすぐったいって!」

 

黒刀が笑顔を返してクマ吉の首を撫でてあげる。

 

「ガウウ~。」

 

クマ吉は嬉しそうな声を出す。

 

「ほらこのままじゃ皆に紹介できないだろ。」

 

黒刀がクマ吉をなだめると大人しくなって四つん這いになった。

黒刀はクマ吉の背中に飛び乗る。

 

「紹介するよ!俺の友達のクマ吉だ!」

 

「ガウッ!」

 

映姫以外の一同はポカーンとした顔をしていた。

 

「どうした?お前ら。」

 

黒刀が首を傾げる。

 

「いやいや!お前何で熊飼ってんの⁉」

 

魔理沙がツッコむ。

 

「何でって仲良くなったからに決まってんだろ。」

 

黒刀は真顔で返す。

 

「(お前、1回熊に殺されかけただろうが!)」

 

魔理沙は心の中でツッコんだ。

 

「会長は知っていたんですか?」

 

妖夢が映姫に訊く。

 

「ええ。だけど黒刀が教えるなって言うもんだから…」

 

「だって事前に教えたらサプライズになんないじゃん。」

 

黒刀とクマ吉は呆れた目をする。

 

「その目ダブルやめろ!」

 

魔理沙のツッコミが炸裂する。

 

「よし!そこの熊!あたいと勝負しろ!」

 

チルノが指差して宣言した。

 

「よし!クマ吉、アッパーだ!」

 

「ガウラッ!」

 

クマ吉はチルノの顎にアッパーをかました。

チルノは海側の方へ吹っ飛ばされる。

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!」

 

チルノの断末魔が響く。

クマ吉のアッパーは予想以上に速かった。

 

『(クマ吉つえぇ!)』

 

一同はそう思わずにいられなかった。

 

「よし、行こうか。チルノはその内追いついてくるだろ。」

 

黒刀はクマ吉の背中をポンポンと軽く叩いて前に歩かせた。

 

 

 

 黒刀が妖夢達を連れて到着した場所は大きな旅館だった。

 

「一応、和風っていうことでな。」

 

黒刀はクマ吉の背中から飛び降りる。

クマ吉は走り出して山の中に戻って行く。

黒刀が旅館の入り口の扉を開ける。

 

「さあ、入って。部屋は自由に決めていいから。」

 

「よっしゃ!わいが一番や!」

 

金次が旅館に入ろうとする。

その時。

 

「ちょっと待った~!」

 

後ろから大きな声と共に走ってくる足音が聞こえてきた。

その人物は妖夢達の頭上を飛び越えた。

 

「一番はあたいだ~!」

 

クマ吉のアッパーで吹っ飛ばされて復活してきたチルノだった。

チルノはそのまま黒刀と金次を抜いて旅館に入った。

 

「うお~!広~い!」

 

「おいずるいぞ!」

 

魔理沙も旅館に入る。

他の皆も次々と旅館に入っていてはあちこち周り始めていく。

 

「ったく子供かよ。」

 

その様子を見た黒刀は苦笑する。

それを横で見ていた妖夢が黒刀の手を引っ張る。

 

「先輩も行きましょう!バカンスなんですから楽しまなきゃ損ですよ!」

 

「おう男女で部屋分かれるんだから一緒に行ってもしょうがないだろ。」

 

「あ…。」

 

妖夢が気づいた時、玄関の段差に躓いて床に額をぶつけてしまう。

黒刀は直前で手を離していたので転ぶことはなかった。

 

「普通気づくだろ。」

 

黒刀は呆れる。

妖夢は額を押さえながら立ち上がる。

 

「いてて、楽しみがあり過ぎて忘れてました。」

 

「じゃあ俺は自分の部屋に行って準備するから。妖夢も好きに部屋選べよ。」

 

黒刀が自分の部屋に歩き出そうとする。

 

「準備?」

 

妖夢が首を傾げる。

 

「ああ、天気もいいし海に行ってサーフィンでも…」

 

「私も行きます!」

 

妖夢の目がキラキラする。

 

「ああ…まあ来ればいいじゃないか。」

 

黒刀は妖夢のリアクションにびっくりしてそう返すしかなかった。

 

「はい!」

 

妖夢は元気よく応えて霊夢達がいる部屋を探しに行った。

霊夢達も誘うつもりなのだろう。

 

「ったく可愛い後輩に恵まれたもんだな…俺は。」

 

黒刀はそう呟くと着替える為に自分の部屋に向かった。




ED7 DOG DAYS′ 夏の約束

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海と水着とビーチバレー

OP7 超次元ゲイムネプテューヌ Dimension tripper!!!!



 15分後。

浜辺には黒刀、映姫、妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精、小町、アリス、レミリア、フラン、

咲夜、天子、早苗、諏訪子、椛、鈴仙、にとり、真冬、光、風間、岩徹、黒岩、金次、花蓮、

優、流星、仁、愛美が集まっていた。

 

 

 

映姫の水着は露出控えめの白のフリル付きワンピース水着。

 

妖夢の水着はライトグリーンに白の水玉模様の三角ビキニ。

 

霊夢の水着はピンクに近い赤の三角ビキニ。

 

魔理沙の水着は黒を基調としたハイネックビキニ。

 

チルノの水着は水色の三角ビキニ。

片手には浮き輪がある。

 

大妖精の水着は妖夢と同じライトグリーンの水着だが模様はない。

後ろ手に浮き輪を持って可愛らしい。

 

小町の水着はシンプルな赤の三角ビキニ。

持ち前の巨乳が強調されている。

 

アリスの水着は白のバンドゥビキニ。胸には赤いリボンが結んである。

スタイルはさすがの現役のアイドルである。

 

レミリアの水着は白のフリルビキニで胸と腰に可愛らしいフリルがついている。

フランもお揃いの水着である。

 

咲夜の水着は胸のフロント部分を結んだ白の三角ビキニ。

 

天子の水着は黒の三角ビキニに腰にフリルがついている。

いつもの帽子もかぶっている。

 

早苗の水着は紺のラインがはいった白の三角ビキニ。

1年生とは思えない程の巨乳をあぴーるしている。

 

諏訪子の水着は紺のスクール水着。

若干、犯罪的。

 

椛の水着は紅葉色のパレオ水着。

 

鈴仙の水着は赤のパレオ水着。

 

にとりの水着は空色模様の三角ビキニ。

手にはスナイパーライフルのような水鉄砲が握られている。

 

真冬の水着は純白のフリルのついたワンピース水着。

 

光の水着はシンプルなオレンジの三角ビキニ。

 

花蓮の水着は緑のパレオ水着。

 

 

 

女性陣の水着姿はまさに目の保養というレベルのものだった。

 

「どうですか?センパイ、私の水着姿セクシーじゃないですか?」

 

早苗が黒刀の前でグラビアのポージングを取る。

だが黒刀は…

 

「うん。可愛いよ…姫姉。」

 

映姫の水着姿を褒めた。

早苗は思わずズッコケた。

 

「もう…バカなことを言わないで下さい…」

 

映姫は頬を赤くしてプイッとそっぽを向いてしまう。

 

「相変わらずだなあの2人は。」

 

やり取りを見ていた小町は苦笑する。

 

「姉貴~!センパイが冷たいよ~!」

 

黒刀に無視された早苗が小町の胸に抱きつく。

 

「あ~はいはい。」

 

小町は適当になだめる。

早苗は小町から離れると黒刀に向き直って指差す。

 

「センパイ!何で上にシャツ着てるんですか!さあ、早くセンパイの逞しい筋肉を見せて下さい!」

 

「そうですよ!もったいないです!」

 

早苗の言葉に反応した大妖精が猛ダッシュで黒刀に迫る。

 

「(うわ…久々のちょっとうざい大妖精だ。)」

 

黒刀は嫌そうな顔をして心の中で毒づいた。

早苗と大妖精は目を光らせて黒刀に迫ると一緒に黒刀のシャツを引っ張り始める。

 

「おい…てめえらいい加減にしろって。」

 

黒刀が抵抗していると花蓮が手を後ろで組んで風を操作して黒刀のシャツに切れ目を入れた。

シャツがビリビリに破れて黒刀の上半身が露わになる。

 

「花蓮!余計なことをしてんじゃねえ!」

 

黒刀が花蓮を睨むが本人は知らんぷりしている。

黒刀の鍛え上げられた胸筋・腹筋・上腕二頭筋に一同は一瞬見とれてしまった。

 

「もう俺はサーフィンするからな!」

 

「でもサーフボード持ってないじゃん。」

 

魔理沙が指摘する。

 

「大丈夫。あいつが持って来てくれる。」

 

『あいつ?』

 

一同が首を傾げていると海面の左側から誰かがサーフボードに乗って来るのが見えた。

 

その正体はクマ吉だった。

なんと熊がサーフィンしているのだ。

しかもサングラスを着けた状態で。

クマ吉は浅瀬に来たところでサーフボードを持ってこちら側に来ると黒刀にサーフボードを手渡してから山の中に跳んで行って消えた。

 

「もはや熊じゃねえよ!人だよ!」

 

魔理沙がツッコんだ。

 

「他にも色々なことが出来るぞ。掃除とか。」

 

「お母さんかよ…。」

 

魔理沙が呆れた声を出す。

 

「まあメスだしな。」

 

黒刀が衝撃の事実を口にした。

 

『え?』

 

映姫以外の一同が驚きと疑問半々の声を出す。

 

「だからメスだって。」

 

「そのネーミングセンスはねえわ…。」

 

魔理沙は肩を落とした。

黒刀はそんなことは気にもせず海へ走り出した。

水面にサーフボードを浮かせるとその上に乗る。

このサーフボードには推進エンジンが取り付けられていたようでボードの後ろからオーラが放出されて加速していく。

 

「しまった~!海だ~!って言うやつやるの忘れてた~!」

 

チルノが突然今更のことを言い出した。

 

「何年生だよお前…。」

 

魔理沙が呆れた声を出す。

 

黒刀はオリンピック選手顔負けの波乗りっぷりでサーフィンを楽しんでいる。

 

「俺もやるか。」

 

それを見た優がサーフボードを持って来て海へ走り出した。

優のサーフボードは通常のものなのでパドルをしてから立ち上がって波に乗る。

 

「お~!あたいもサーフィンやりてえ!」

 

チルノがはしゃぐ。

 

「ならまずその浮き輪を置きなさいよ。」

 

霊夢がジト目で指摘する。

 

「泳げなきゃサーフィンは無理だな。」

 

魔理沙が付け足す。

 

「え、そうなの?」

 

チルノは今から海に入ろうとしたところで振り返ってきた。

 

「当たり前よ。」「当たり前だぜ。」

 

「っていうかあの2人が上手すぎるのよ。あんなのもはやハリウッドスターの娯楽よ。」

 

アリスがビーチバレーボールを持って近づき妖夢にトスした。

ちなみに黒刀と優はジャンプして三回転など高度な技を繰り出している。

 

「実は私泳げないので先輩に教えてもらおうと思ってました。」

 

妖夢は霊夢にトスする。

 

「それは無理じゃない。基本的に黒刀先輩って自己中だし。」

 

霊夢は大妖精にトスする。

大妖精は黒刀に見とれていてボールに気づいていなかった。

 

「大妖精!そっちいったわ!」

 

その事を今になって気づいた霊夢が声をかけた。

その声にやっと気づいた大妖精だが反応が僅かに遅れて額に直撃してボールが跳ね上がってしまった。

するとチルノが大ジャンプして思いっきりスパイクを打った。

 

「うおりゃ!」

 

それは魔理沙の顔面に向かっていた為、魔理沙は慌てて避けた。

ボールは一直線にサーフィンをしている黒刀に向かう。

しかもジャンプ中である。

 

「先輩、危ない!」

 

妖夢が大声で警告した。

すると黒刀じゃジャンプ中にサーフボードから跳び上がってボールを蹴り返しそのままサーフボードの上に着地した。

蹴り返されてきたボールはチルノは額に直撃した。

 

「ぶはっ!」

 

チルノが変な声を上げて砂浜に倒れた。

 

 

 

 真冬は無言で黒刀を眺めていた。

 

「どうかしたのかい?」

 

諏訪子が声をかけてきた。

 

「いえ。なんでもないです。」

 

真冬は首を横に振る。

だが胸の内に引っかかる何かが消えなかった。

 

「(黒刀が首にぶら下げているペンダント…そのモチーフ…どこかで見たことがあるような…。)」

 

そこまで考えて首を横に振って妖夢達のところへ走って行った。

 

「私も入れて~!」

 

 

 

 正午。

黒刀と優がサーフィンから浜辺に戻ってくる。

フランが黒刀に駆け寄ってきた。

 

「ねえお義兄様、一緒にビーチバレーしよ?」

 

可愛らしく誘ってきた。

 

「ああ、いいぞ。」

 

黒刀はあっさり答えた。

 

「やった♪」

 

フランは小さくジャンプして喜んだ。

 

「どうせだから3対3でやろう。優、俺とチームを組まないか?」

 

黒刀はサーフボードを砂浜に突き刺して優に訊いた。

 

「ビーチバレーか…面白そうだな。」

 

「よし、それじゃ誰か相手してくれる奴を探してくれるか?」

 

黒刀はフランに頼む。

 

「うん!分かった♪」

 

フランは元気よく笑顔で走り出して対戦相手を探しに行った。

 

 対戦相手になってくれたのは光、岩徹、金次の3人だった。

金次は虎柄の海パン、岩徹はなんとふんどし姿だった。

 

「それじゃ7点先取でサーブは…じゃんけんで決めよう。こっちはそうだな…フラン、頼む。」

 

黒刀が軽くルール説明して、フランにじゃんけんをするように頼む。

 

「OK♪任せて!」

 

フランは笑顔で了承した。

 

「なんや?ヨキはやらへんのか?」

 

金次がガッカリする。

 

「いやあいつがじゃんけんしよったら『超反射』で絶対勝つやろ。」

 

岩徹が指摘する。

 

「よ~し!ここは私に任せとけ!」

 

光が前に出る。

 

 

 

 5秒後。

 

「負けた~!」

 

光が砂浜に膝をついた。

 

「やった~!勝ったよ~お義兄様!」

 

フランが喜んで黒刀に駆け寄った。

 

「よし!それじゃサーブは…」

 

黒刀が誰にしようか迷っている。

 

「俺がやろう。」

 

優がボールを持った。

 

「それじゃ俺はセッターやるからフランは好きに動いてくれていいよ。」

 

黒刀が指示を出していく。

 

 

 

 一方、金次チームは円陣を組んで作戦会議をしていた。

 

「ええか?一番警戒すべきは黒刀や。あの『千里眼』を使われたら厄介やからな。」

 

岩徹が真面目に言っていると光が何故か笑いをこらえていた。

 

「なんや?わろうたいんやったらわろうてくれ。関西人にそれはきついで。」

 

「だって…プッ…お前のハゲ頭が日射しでテカってるから!」

 

光は爆笑した。

 

「なんやねんそれ!」

 

岩徹がツッコんだ。

結局、金次チームは作戦会議と呼べる作戦会議は全くできなかった。

黒刀チームのフォーメーションはセッター黒刀、後衛に優、遊撃にフランという形。

対して金次チームはセッターが決まっている訳ではなくとにかくレシーブしたボールに一番近い人がトスをする人で前衛に光と岩徹、レシーバーに金次という形だった。

 

審判は咲夜が務めることとなった。

咲夜がホイッスルを鳴らした。

優がボールを高く上げてジャンプサーブの体勢に入った。

両足で跳んで右手でサーブを打った。

ボールが向かった先は右コーナー。

金次が反応してレシーブの構えを取る。

 

「止めたる!」

 

金次が声を出したその時。

ボールが90度曲がって逆サイドのコーナーに落ちたのだ。

咲夜がホイッスルを鳴らして黒刀チームに手を向ける。

 

「ナイスサーブ!」

 

黒刀が声を出す。

 

「いやいや…直角に曲げるとかどういう神経してんだよ…。」

 

光は驚きを隠せなかった。

 

「金次!大丈夫か!」

 

岩徹が振り返る。

 

「へへ…燃えてきたわ!」

 

金次の目の闘志が燃える。

腰を深く落とす。

 

「よしこ~い!」

 

咲夜がホイッスルを鳴らす。

優がもう一度ジャンプサーブを打つ。

今度はコーナーではなく真っ直ぐ金次に向かっていた。

 

「(右…左…それともそのまま真っすぐか…考えたってしゃあない…本能に身を任せるのみや!)」

 

金次は右に跳んだ。

ボールは金次の感覚通り右に曲がった。

 

「よっしゃ読み勝った!」

 

観戦していた黒岩が喜ぶ。

だがそこから予想を覆す現象が起きる。

右に曲がったボールがさらに左に曲がったのだ。

まるで蛇のように。

 

「なんやて!」

 

それを見た黒岩が驚く。

しかし、金次は意外にも落ち着いていた。

右に跳んだ体勢から右手を砂浜に手をついて体を一回転させて完全に曲がる直前のボールを左足でレシーブした。

 

『お~!』

 

いつの間にか試合を観戦していた皆がスーパーレシーブに声を上げる。

 

「ようやった金次!このチャンスは無駄にせえへんで!」

 

岩徹が跳び上がった。

黒刀がブロックに入る。

 

「そう簡単に止めさせへんで!」

 

岩徹は右手にオーラを集束させた。

 

「あれは!」

 

魔理沙が声を上げる。

 

「波動砲!(ビーチバレーver)」

 

岩徹がスパイクを打った。

両手でブロックした黒刀だったがあまりの威力に体ごと吹っ飛ばされてしまう。

ボールはそのまま黒刀チームのコートの中央に落ちる…というよりめり込んでいた。

これでスコアは1対1。

 

「お義兄様大丈夫⁉」

 

心配したフランが黒刀に駆け寄る。

 

「ああ…問題ない。」

 

黒刀が立ち上がる。

 

「ハハ!面白くなってきたぜ!」

 

魔理沙のような口調で笑った。

 

サーバーは岩徹となる。

咲夜がホイッスルを鳴らす。

岩徹はボールを高く上げて跳び上がる。

 

「波動砲!」

 

サーブでも必殺技を放ってきた。

 

「優、いったぞ。」

 

黒刀が背を向けたまま声をかける。

 

「分かっている。」

 

優は冷静に言葉を返すと両手両足にオーラを均等に振り分けて『波動砲』をレシーブで受ける。

均等にオーラを振り分けられている為バランスを崩すことなく『波動砲』を真正面から受けることが出来る。オーラのコントロールが抜群に上手い優だからこそ出来る芸当だ。

優は両腕を振り上げてボールを高く跳ね上げた。

ボールはそのままレフトへ。

黒刀はそこへ滑り込みジャンプしてスパイクの体勢を取った。

 

「「(2アタック⁉)」」

 

光と岩徹は黒刀の前に立ちブロックに入った。

黒刀はそこでニヤリと笑った。

 

「(何をする気や?)」

 

その瞬間、黒刀は真横に平行スパイクを打った。

 

「(なっ!そっちは自分のコートやぞ!)」

 

岩徹が驚いて視線を横に向けた時、再度驚かされる。

黒刀が打ったボールの先にはフランが既にジャンプしてスパイクの体勢に入っていたのだ。

フランは平行に猛スピードで迫ってくるボールをスパイクで打った。

これにはさすがの金次も反応が間に合わず横に跳んで手を伸ばすが届かずボールはそのまま砂浜に落ちる。

 

「マジかよ…空中でスパイクにスパイクで繋げやがった…。」

 

流星は驚きを隠せなかった。

スコアは2対1となる。

 

「次は…フラン。サーブやっていいよ。」

 

黒刀がフランにボールをパスする。

 

「やった~♪」

 

フランは喜んでエンドラインに向かった。

ところがフランはボールを持ちながら立ち止まる。

 

「でもお義兄様、私が思いっきり打ったらボールを壊れちゃうかも…。」

 

フランは不安げだ。

 

「大丈夫だよ。そのボールはどんなに力を入れても壊れないように作ってあるから。」

 

黒刀が微笑んで返す。

 

「ほんと!よかった♪」

 

するとフランの顔が笑顔に変わった。

咲夜がホイッスルを鳴らす。

フランはジャンプサーブする時、あの悪魔を彷彿とさせる笑顔でサーブを打った。

ボールは超高速で右コーナーに落ちた。

金次チームがそれに気づいたのは得点した後だった。

 

「「「(速い!)」」」

 

『(全く見えなかった…。)』

 

観戦している側からすればそう思わずにいられなかった。

スコアは3対1となる。

 

「(まずいで…点差が開いてきよった…。)」

 

「(あいつ、遊びでも手抜かないからな~。)」

 

岩徹と光がそれぞれ考える。

咲夜がホイッスルを鳴らす。

フランがもう一度同じサーブを打った。

金次はフランの手がボールに触れた瞬間、左コーナーにスライド移動する。

その読みが当たりフランのサーブをレシーブで上げることに成功した。

 

「ナイスレシーブや!」

 

岩徹が野太い声を上げる。

光が岩徹にトスして岩徹が『波動砲』スパイクを打つ。

 

「よし!がら空き…っ!」

 

完全にコースが空いていたストレートに突然、ブロックが入った。

そのブロッカーは…黒刀だった。

黒刀は両手にオーラを込めて岩徹のスパイクを砂浜にはたき落とした。

 

「何でや…コースは空いておったはずやのに…いきなり黒刀が現れよった…まさか!『超反射』か。」

 

「正解。俺の足と『超反射』ならコートのどこにいてもブロックできる。パワー対策はさっきの通り手にオーラを込めれば十分だしね。とにかくこれで4対1だ。」

 

「やっぱヨキはホンマ凄いで!」

 

しかし、この状況で金次はワクワクしていた。

 

 

 

 この後、金次チームはなんとか1点返したが黒刀の怪物サーブであっさり7点先取されてゲームは黒刀チームの勝利となった。

その後も早苗と真冬による黒刀の取り合いが起きたり、黒刀が妖夢と大妖精に優しく泳ぎを教えたり、うっかり愛美のサングラスが取れて岩徹、黒岩、風間が悩殺されたり、諏訪子が大波を起こしてそれをチルノが凍らせて天子がそれを溶かしたりと色々事件は起きたが楽しく遊びやがて夕方になって黒刀は夕食を作る為先に旅館に戻った。

咲夜も手伝う為、黒刀の後を追った。

そして次に他の皆が向かったのは待ちに待った旅館の醍醐味。

天然温泉への入浴である。




ED7 DOG DAYS′ 夏の約束

ご感想お待ちしております。


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裸の付き合い

OP7 超次元ゲイムネプテューヌ Dimension tripper!!!!



 8月17日 午後6時。

黒刀と咲夜は厨房で調理を始めていた。

 

「咲夜さんって和食も作れたんですね。イギリス暮らしが長いからてっきり洋食メインなのかと思ってました。」

 

黒刀が食材を包丁で切りながら話しかける。

 

「私がお嬢様に仕え始めたのはお嬢様が11歳の頃からでその前は日本のとある貴族に仕えていました。」

 

咲夜は味見をしながら淡々と口にする。

その咲夜の言葉を聞いて黒刀の手が止まる。

黒刀とレミリアが決別したのは10歳の頃。

つまり咲夜はその約1年後からレミリアに仕えていることになる。

思わず考えてしまう。

もし、もっと早くレミリアと咲夜が出会っていたら結果は違ったのではないかと。

黒刀は何故レミリアがあの時突然拒絶したのかその真相を知らない。

もちろん知りたいという思いはあるがそんなことは本人に聞けない。

聞く資格もない。

心の中で自身の情けなさを悔やみながらそれを悟られないように作業を再開して咲夜に質問を続ける。

 

「レミリアに仕えているってことは当主に仕えているという訳ではないってことですか?」

 

「はい。スカーレット家現当主レミル・スカーレット様は誰1人使用人を雇っておりません。私はレミリアお嬢様のメイドとして雇われました。」

 

黒刀の問いに対してそう答えたところで担当分の料理が完成する。

咲夜はこう続けた。

 

「ちなみにその前に私が誰に仕えていたか分かりますか?」

 

「さあ?咲夜さんは優秀ですからどこにいってもおかしくなさそうですけど。」

 

黒刀も料理が完成してテーブルに運ぶ。

同じように料理を運んでいた咲夜。

 

「一ノ瀬家です。」

 

「へ?」

 

黒刀から呆けた声が出てしまう。

もう少しでせっかくの料理をこぼしてしまうところだった。

 

「ナンバーズの?」

 

「はい。」

 

「マジで?」

 

「マジです♪」

 

メイドスマイルで返す咲夜。

 

「そう…ですか。」

 

黒刀はそれしか言葉が出てこなかった。

宴会場のテーブルに置いた料理に保存霊術をかけてから黒刀と咲夜は温泉に向かった。

 

 

 

 

「こんなんありえへんやろぉぉぉぉぉぉ!」

 

男湯の露天風呂で叫んでいるのは王龍寺高校2年の風間翼。

ここの温泉は露天風呂の他に内風呂・水風呂・電気風呂・ジャグジーバス・打たせ湯・薬湯・サウナが備えられている。

 

「やかましいで。翼、ちょいと静かにできへんのか。」

 

露天風呂に肩まで浸かっている岩徹が注意する。

 

「そんな言うてもおかしいやろ!温泉やのに…温泉やのに…混浴やないなんて!」

 

「バカ!声が大きい!あっちに聞こえたらどうすんだ!」

 

仙台高校2年の北山圭が抑え気味の声で怒る。

 

「そうだぞ…それにまだお楽しみは残っているだろ?」

 

「「「お楽しみ?」」」

 

風間、圭、岩徹が声を抑えて疑問符を浮かべる。

流星は右手の親指を突き立てる。

 

「つまり…覗きだ。」

 

「「「はっ!その手があったか!」」」

 

こうして4人の邪な企みが始まる。

 

 

 

 黒刀が男湯の脱衣所に入るといまだに服を着たままの優がいた。

 

「まだ入ってなかったのか?」

 

「どうせならお前と一緒に入って語り合おうと思ってな。」

 

黒刀と優は服を抜いて全裸になる。

2人とも腰にタオルを巻いて大浴場の戸をガララと音を立てて開ける。

 

「ようやく来たか。」

 

内風呂に浸かっていた仁が音に気付いて声を出す。

 

男湯の人数は合計12人。

奥の露天風呂には風間、岩徹、圭、流星。

室内には黒刀、優、仁、雪村、黒岩、知念、金次。

露天風呂のすぐ近くにある打たせ湯には海道がまるで滝行のように湯に打たれている。

 

金次は知念に髪を洗ってもらっている。

こうして見るとまるで兄弟のようだ。

優は風呂イスに座る。

 

「黒刀、背中洗え。」

 

自身の背中を指差す。

 

「おう。いいぜ。」

 

黒刀は優の後ろに風呂イスを置いてスポンジにボディソープをつけて優の背中をゴシゴシと洗う。

 

「力加減はこのくらいでいいか?」

 

「ああ。ちょうどいい。」

 

「そいつはよかった。」

 

「(何やねんこの2人…。)」

 

それを見ていた黒岩が心の中で思った。

 

 

 

 女湯。

咲夜も加わって女湯は総勢26人と大所帯になっていた。

しかし、その数でもスペースが狭いということはなかった。

 

「何で混浴はないんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

風間と同じように早苗も叫んでいた。

 

「早苗、うるさい。」

 

諏訪子が呆れ顔で注意する。

 

「そんなこと言われたってせっかくセンパイと混浴できると期待してたのに!」

 

早苗が駄々をこね始めた。

だがそこでレミリア、真冬、アリスが周囲に気づかれない程度に反応していた。

 

 

 

 同じ頃。

風間、圭、岩徹、流星が露天風呂の女湯と男湯を分ける仕切りの隙間から女湯を覗こうとしていた。

その時、水を操ることに関しては世界一とも言われる諏訪子が気づいて微笑を浮かべると水面をチョンッと人差し指でつつく。

露天風呂のお湯が数ℓ程、玉のように浮き上がる。

それが4つに分裂して仕切りの隙間に飛んでいく。

ちょうど覗き込もうとしていた4人は仕切りの隙間から飛んできたお湯が目に入り悲鳴を上げて悶絶する。

その悲鳴に気づいた女性陣が何事かと騒ぎ始める。

諏訪子は知らん顔して露天風呂に浸かっている。

 

「まさか覗き⁉」

 

悲鳴にいち早く気づいた愛美が声を上げる。

 

「ちょっと!そこにいるんでしょ圭!」

 

それに続いて泉が大声で呼ぶ。

男湯にいる圭の肩がビクッと震える。

 

「それに男子校である王龍寺高校の方々がこんなチャンスを逃すはずがありませんわよね?」

 

花蓮の言葉に岩徹と風間も冷や汗が出始める。

4人の中で流星だけが言い当てられることはなかった。

しかし覗きの失敗の恐怖からその場から動けずにいた。

沈黙を破ったのは意外にも男湯の方からだった。

 

「や、やかましいわ!男ならしゃあないやろうが!」

 

風間が声を上げてしまった。

 

「うわ、開き直りやがった…。」

 

魔理沙がドン引きする。

 

「「最低!」」

 

愛美と花蓮が同時に罵声を浴びせた。

それが合図になったのか女性陣のほとんどがオーラの玉を壁越しに男湯の露天風呂へ放った。

 

「ちょ!まっ…ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

男湯から断末魔が上がったがお仕置きを終えた女性陣は湯船に浸かり直した。

 

 

 

 一方、黒刀達の方はというと髪と全身を洗ってから内風呂に浸かっていた。

黒刀も露天風呂の方が何やら騒がしいのは聞こえていたがここで『覇王の眼』を発動するのは覗き行為になるのでどうせ少しはしゃいでいるだけだろうと決めてそれからは大して気にしなかった。

現在、男湯の内風呂に浸かっているのは黒刀、優、仁、雪村、金次、知念、黒岩であったが金次がのぼせてきて知念が一緒に上がることにしたので残ったのは黒刀、優、仁、雪村、黒岩の5人だった。

端から見ればイケメン5人が揃って入浴している華やかな光景だが本人達はルックスがいいという自覚がない。

話を切り出したのはこの中で唯一の2年生である黒刀だった。

 

「そういえば雪村さんと黒岩さんとはまだ闘ってませんよね?」

 

「いやいや僕は君のデータに興味はあるけど実際に試合をするのは正直勘弁してほしいですね。」

 

「うちは別にええけど。それと雪村どこ見て喋ってんねん。」

 

黒岩がツッコむ。

雪村は今眼鏡をかけていない為よく見えていないのか内風呂のマーライオンに向かって喋っていた。

 

「あ、いやすまない。眼鏡をかけていないとどうにも見えないもので。さて、僕はそろそろ失礼するよ。」

 

そう言って湯船から立ち上がる。

さすがに最低限方向感覚はあったようで何事もなく脱衣所へ入った。

今度は仁が話を切り出す。

 

「そういやお前何で二宮には呼び捨てで俺達には敬語なんだよ?」

 

仁は黒刀に質問する。

 

「俺にだって最低限の礼儀は心得てます。優は特別です。」

 

「まあ、確かに帝国軍ツートップの息子ならそれなりの信頼関係が出来るのも分かるけどよ。」

 

仁は半分納得したような声を出す。

 

「ついこの前まで死ぬ気でやり合ってた仲でしたけどね。」

 

黒刀が付け足す。

 

「俺の父と四季大和も昔は張り合ってたらしいぞ。」

 

優がさらに付け足す。

 

「それは知っているが…まあ、終わったことをいつまでも蒸し返すのもよくないか…。」

 

黒刀が話を止める。

 

「ほんならせめて下の名前で呼んではくれんか?さん付けでもええから。」

 

「それくらいなら…まあ…。」

 

黒岩の提案に黒刀は渋々了承する。

 

「それじゃ俺も出ます。」

 

大浴場の時計ウインドウを確認した黒刀が湯船から上がる。

 

「そうか。ほな後でな。夕飯楽しみにしてるで~。」

 

「ええ。期待しておいてください。」

 

黒刀は軽く振り返ってから前へ向き直って脱衣所へ入った。

 

 

 

 女湯。

人数も減って現在は映姫、レミリア、アリス、早苗、真冬の5人しかいない。

ちなみに咲夜はのぼせてしまったフランの介抱に務めている。

5人は露天風呂に浸かっている。

 

「さて、皆さんに残ってもらったのは他でもない。この中で誰が!一番!センパイと!関係が進展しているか話し合いましょう!」

 

早苗が後半をやたら強調して話を切り出した。

 

「ちょっと早苗!何なのよその議題!」

 

いち早くレミリアが食いついた。

 

「何ってガールズトークの定番恋バナに決まっているじゃないですか。そしてこの5人に共通していることと言えばセンパイと関係を持っていることです。」

 

「何その意味深な言い方!」

 

アリスが間髪入れず話に割って入る。

 

「私が憧れてましたよ。ガールズトーク。」

 

真冬から賛同の言葉が出る。

 

「光さんとはしないんですか?」

 

早苗が訊く。

 

「光って話すことが大体食べ物のことかバトル関連のことばっかなのよね。」

 

真冬はため息を吐く。

 

「ほら真冬さんもしたいって言ってますし…」

 

早苗が目を輝かせて残りの3人に促す。

 

「なら別に黒刀を議題にする必要はないでしょ!」

 

反論するレミリア。

 

「無駄ですよレミリアさん。」

 

そこで意外にも制止したのは映姫だった。

 

「早苗がこうなったら私にも止められません。」

 

映姫が諦めの声を出す。

 

「まさに恋の暴走列車です!」

 

早苗が自慢げに言い張る。

 

「しかし私と黒刀は姉弟です。よってこの議題に参加する道理はありません。」

 

正論を口にする映姫。

 

「禁断の愛ですね!」

 

「違います。」

 

「ん~そんなに深く考える必要はないと思うんですけどね~。」

 

「まあ誰しも早苗のように考えられる訳じゃありませんからね。」

 

真冬が口を挟む。

すると早苗が真面目な表情に変わる。

 

「私はセンパイと付き合って分かったんです。誰かを好きでいることに大きな理由なんていらない。ただその人の傍にいたい。好きになる理由なんてたったそれだけでいいんです。少なくとも私はそう思っています。」

 

早苗はどこか懐かしげな目をする。

 

「なら…どうして別れたの?」

 

真冬は早苗の核心を突くような質問をする。

早苗は夜空を見上げた。

 

「…その時は…その方がいいと思っていたから。私も…センパイも…。」

 

早苗は少し哀しげに呟く。

真冬はこれ以上踏み込んではいけないと察してそこについてはもう聞かなかった。




ED7 DOG DAYS′ 夏の約束

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蘇る白の記憶

OP7 超次元ゲイムネプテューヌ Dimension tripper!!!!



 映姫達が入浴を終えて宴会場に入ると既に皆、食事を始めていた。

妖夢が映姫に気づいた。

 

「あ、会長!こっちに来て一緒に食べましょう!先輩と咲夜さんのコラボ料理ですよ!」

 

妖夢は嬉しそうに手を振る。

 

「ええ。そうですね…黒刀は?」

 

「先輩なら厨房にいますよ。食べ盛りがいるからって。」

 

妖夢は指差した先には光とチルノが大食い対決していた。

角の方では諏訪子とにとりが酒を飲んでいる。

見た目のせいか見ず知らずの人が見たら未成年飲酒しているように見える。

2人とも酒に強いのか全く酔っていない。

 

それからはまさに宴会だった。

魔理沙と愛美が魔法を使ったマジックショーをしたり、

カラオケでチルノと大妖精、妖夢と霊夢と魔理沙、妹紅と輝夜、光と愛美、優と花蓮、黒刀と優、さらにアリスのソロなど大盛り上がりした。

 

 

 

 午後8時。

夕食が済んでから黒刀は椛を卓球に誘った。

卓球台の端末を操作してスコアウインドウを展開した。

 

「また何か賭ける?」

 

椛が卓球台に置かれたピンポン玉を手のひらで転がしながら訊く。

 

「ん~今回は別にいい。そっちからサーブでいいよ。」

 

「それじゃ遠慮なく!」

 

椛は常人には視認出来ない高速サーブを打つ。

黒刀はそれをあっさり返す。

それを椛が打ち返すラリーが続く。

 

「あ~!お義兄様と椛さんが卓球してる~!」

 

するとフランが黒刀と椛が卓球しているところを見つけた。

 

「お姉様も一緒にやろうよ!」

 

後からついてきたレミリアを誘う。

黒刀はウインドウを展開して試合中止ボタンを押して椛との試合を中止する。

 

「ちょうどいいからダブルスでやろうか。」

 

そう提案する。

 

「いいわ!ボッコボコにしてあげるわよ!」

 

レミリアがラケットを手に取る。

組み合わせは黒刀&椛vsレミリア&フランとなった。

 

レミリアのサーブから始まり黒刀と椛は『覇王の眼』と『千里眼』でお互いの動きを把握し合っているし、レミリアとフランはさすが姉妹と言えるほどのコンビネーションを魅せている。

 

「ねえ?お義兄様。」

 

ラリー中にフランが黒刀に話しかける。

 

「何だ?」

 

黒刀も聞き返す。

2人とも余裕の表情だ。

もちろんレミリアと椛もだが。

 

「もし私が勝ったら…お義兄様にちゅーしてあげる♪」

 

フランは小悪魔的笑顔で口にした。

 

「「なっ!」」

 

その発言にレミリアと椛が驚いた。

ちょうど椛が返す順番だった為、動揺してしまった椛は空振りして肘を卓球台の角にぶつけてしまった。

 

「何してんだ…お前。」

 

黒刀は呆れ顔で椛を見る。

 

「あとフラン、俺を動揺させたいのは分かるが隣の奴まで動揺させてどうすんだ?」

 

「ど、動揺なんてしてないわよ!」

 

黒刀の指摘にレミリアが声を荒げる。

 

「全くいくら妹を取られたくないからって過保護すぎるのも問題だぞ。シスコンもここまでくると重症だな。」

 

黒刀が腕を組んで的外れなことを言い出した。

レミリアは肩を震わせて顔を赤くすると、

 

「あんたに言われたくないわよ!このバカァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

怒りのサーブを放った。

 

「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

黒刀の叫びが響き渡った。

 

 

 

 午後9時。

レミリア達の卓球を終えた黒刀はなんとなく湖まで散歩に来ていた。

綺麗な月が水面に映し出されている。

黒刀が足元の水面を見下ろしているとそこいザナドゥ卿の姿が映し出された。

 

「あれが今のうぬの仲間か?」

 

「そうだな…。」

 

黒刀は苦笑交じりに答えた。

 

「なあ王様。何で俺のザナドゥ王国の時代の記憶は断片的なものなんだ?」

 

「恐らく転生するまで1000年かかった影響だろう。余も転生術式を発動するのは初めてであったからな。余も知らないことが多い。」

 

現在、黒刀がザナドゥ卿の記憶は統一化されている。

黒刀が知らないことをザナドゥ卿は知らないしその逆もまた然り。

そうして物思いに耽っていると背後の茂みから物音がした。

水面に映っていたザナドゥ卿の姿が消えて元の黒刀の姿が水面に映る。

黒刀は特に慌てることなく自然に振り返った。

この島には黒刀達以外いないし仮に侵入者がいたなら黒刀が把握出来ないはずはない。

茂みを見ているとそこからガサガサと音を立てて現れたのは旅館で貸し出されている浴衣を着た真冬だった。

浴衣の色は様々ある中で真冬は雪のように白い浴衣を着ている。

 

「真冬?どうしたんだ。こんなところで。」

 

黒刀は特に驚くことなく訊いた。

真冬は浴衣についた葉っぱを手で払ってから黒刀の目を見つめる。

 

「散歩をしていたら話し声が聞こえたから。…誰かと話してたの?」

 

真冬が周囲を見渡すがここには黒刀と真冬以外誰もいない。

 

「ただの独り言だよ。」

 

黒刀は当たり障りない答えを返した。

ザナドゥについてのことは必要な時を除いて他人に話さないと決めている。

妖夢達にも一応口止めしている。

理由は念の為である。

 

「黒刀君が独り言?」

 

真冬は訝しむ目をする。

 

「俺だって独り言を言いたい時だってあるさ…。」

 

黒刀はこれ以上の追求から逃れる為、湖へ向き直った。

真冬もそれ以上は聞かずゆっくりと黒刀の隣に並んだ。

 

しばらく湖を眺めていた2人だったが真冬が体を横に向ける。

 

「あのね…黒刀君。今日ずっと気になってたんだけど…そのペンダント…。」

 

真冬はとても言いづらそうに訊く。

 

「ん?…ああ、これか…。これは…お守りみたいなものかな。」

 

黒刀は首だけ真冬に向けてぬえの翼がモチーフになったペンダントに左手で触れる。

 

「ううん…そういうことを聞きたい訳じゃなくて何か…そのペンダントの赤と青の翼…どこかで見たことがあるような気がして…。」

 

真冬は首を横に振った。

 

「え?」

 

黒刀は驚いてペンダントに触れていた左手をそっと下した。

真冬は右手を胸に当てる。

 

「黒刀君。その…こんなことを頼むのはとても失礼だと思うのだけれど…黒刀君にとってそのペンダントはとても大事なものだということはなんとなく分かっているつもり…それでも…お願い…黒刀君のそのペンダント…私に触らせてもらえないかな?」

 

真冬は頭を下げてお願いした。

 

黒刀は迷っていた。

このお願いを聞いてしまったら彼女に知られてしまうのではないかという不安感と断片的になっている記憶が1つでも分かるのではないかという思いが交錯している。

 

「…分かった。いいよ。」

 

黒刀は迷った末に首からペンダントを外してひもを握って真冬に差し出した。

真冬が手のひらを上にしてペンダントを受け取ろうとしてペンダントのの翼が真冬の手のひらに触れたその瞬間。

ペンダントが白く光り輝き出した。

 

「「っ!」」

 

黒刀と真冬が同時に驚く。

だがそうしていられたのはほんの僅かな時間だった。

黒刀と真冬の頭の中に1つの記憶が流れ込んでいく。

 

それはザナドゥ王国時代にクロトの隣で優しく微笑む女性。

クロトと一緒にぬえを救った女性。

クロト・ザナドゥが唯一愛した女性。

美しい銀髪を揺らせるその女性こそが旧ザナドゥ王国第一国王クロト・ザナドゥの妻。

白雪真冬である。

髪の色、顔立ち、声はまさに今の真冬と遜色ない。

 

ペンダントのの輝きが徐々に消えていく。

幸い、湖は森に囲まれていた為この現象を外から認識することは出来ない。

ペンダントの輝きが完全に消えた時、黒刀と真冬の意識も現実に引き戻される。

真冬はペンダントに触れていた手をパッと離した。

 

「黒刀君…。」

 

真冬は黒刀の名を呼ぶ。

 

「真冬…。」

 

黒刀も呼び返す。

黒刀はペンダントを首にかけ直す。

 

「そうか…あの銀髪の女は…お前だったのか…真冬。…お前も転生していたのか?」

 

「…多分違うと思う。」

 

真冬は首を横に振った。

 

「容姿が似ているのは本当に偶然で白雪真冬の魂が白金真冬の中に入って生まれたんだと思う。」

 

蘇った記憶を頼りに説明する。

 

「そうか…。」

 

黒刀は地面に腰を下ろした。

真冬も浴衣を汚さないように膝を曲げて腰を下ろす。

 

「…それじゃ白雪高校っていうのは…」

 

「うん。多分、白雪家が建てたんだと思う。ただ宗家の白雪真冬はアイヌから逃げた人間だから分家の誰かの子孫が建てたってことになるね。」

 

真冬はやや罪悪感のこもった声を出す。

 

ちなみにアイヌとは現在の北海道がまだ日本列島の中に含まれていない時代の地名である。

 

黒刀は真冬の頭にポンッと手を置いて撫でる。

 

「お前は悪くない。貴族のしがらみに囚われるのが嫌だったから家を出たんだろう?」

 

優しい言葉をかける。

真冬は頬を赤くして懐かしむように微笑む。

 

「うん…ザナドゥ王国の皆は本当に温かくて本当の家族に思えた。…黒刀君。やっぱりそのペンダントって…」

 

「ぬえの…形見だ。」

 

「そう…。」

 

真冬は哀しげな顔をする。

黒刀は綺麗な満天の星空を見上げる。

 

「あの人は最後まであの人だった。泣き虫なのに誰よりも優しくて誰よりもザナドゥ王国を愛していた凄い人だ。」

 

黒刀は懐かしむように話す。

 

「黒刀君にそっくりだね。」

 

真冬は微笑む。

 

「そうか?」

 

黒刀が問い返せば、

 

「そうだよ。」

 

真冬が微笑んで応える。

そのやり取りは長年連れ添った夫婦のようだった。




ED7 DOG DAYS′ 夏の約束

ご感想お待ちしております。


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決断

OP7 超次元ゲイムネプテューヌ Dimension tripper!!!!



 午後10時。

湖で真冬との1000年の時を超えた昔話を終えた黒刀は真冬と共に旅館に戻りエントランスで別れた。自室に戻った黒刀はさすがに疲労が溜まったのかすぐに布団の中に入って寝た。

 

 

 

 30分後。

電子ロックがかかっている黒刀の部屋のドアが開いた。

黒刀のドアには4桁のパスワードを打ち込まなければ入ることは出来ない。

黒刀の場合はドアに手をかけた時点で指紋認証により入室できるが他の人はパスワードを打ち込む必要がある。

黒刀以外でパスワードを知っているとすれば身内である映姫ぐらいなのだが今黒刀の部屋に入ってきたのは映姫ではなくなんと早苗だった。

早苗は自力でパスワードを当てて入室したのだ。

黒刀は熟睡していて早苗に気づいていない。

殺気や敵意があれば軍人である黒刀は感知することが出来るが無論、早苗にそのような意思はない。早苗がここに来た目的はただ1つ。

 

「センパ~イ。」

 

早苗は小声で囁きながら布団の中に潜り込んだ。

嬉しそうに黒刀の右腕に抱きつく。

そう。

早苗は黒刀と添い寝をする為にここに来たのだ。

黒刀の右腕に抱きつく以上のアクションを起こさなかった。

早苗にとってはこうしているだけでも幸せと思えるからである。

 

しばらくそうして楽しんでいた早苗だったがやがて少し寂しげな顔になる。

 

「センパイ…意地悪です…あのパスワード『0606』…6月6日…私とセンパイが出会った日であり私とセンパイが恋人でなくなった日ですよね…。」

 

少しだけ涙が出た早苗だったがすぐに手で涙を拭う。

 

「(ダメダメ。センパイが言ってた。私には涙より笑顔が似合う。決めたんだ。センパイの前ではいつだって笑顔でいるんだって。)」

 

早苗は気持ちを引き締め直して黒刀の右腕に抱きついたまま目を閉じた。

 

 

 

 …おやすみなさい…センパイ…

 

 

 

 8月18日 バカンス2日目 午前7時。

鳥のさえずりが鳴り、黒刀はゆっくりと目を開けて目覚めた。

そのまま上半身を起こそうとすると右腕に柔らかな感触を感じた。

視線を向けると早苗が黒刀の右腕に抱きついて気持ちよさそうに眠っている。

さらに早苗が黒刀に抱きついていると早苗の豊満な胸が黒刀の右腕の肘に押し付けられている形となってしまう。

黒刀は苦笑する。

 

「全く困った眠り姫だな。」

 

それから黒刀は早苗を起こさないように苦戦しながら早苗の抱擁から抜け出した。

布団から出てテーブルの上に置いてある携帯端末を手に取ると不在着信が入っていることに気づいた。その送り主は八雲紫だった。

窓を開けてベランダに出てから窓を閉めると携帯端末でモニター通信ではなく音声通信に切り替えて紫に折り返し電話を入れてから耳を当てた。

コール音が3回聞こえたところで紫と通信が繋がった。

 

《随分なモーニングコールね》

 

不機嫌そうな声が聞こえた。

 

「先にかけてきたのはそっちだろ。」

 

《そうだったわね》

 

紫は機嫌を戻した。

 

「何か用があるからかけてきたんだろ?」

 

《ええ。黒刀、あなたロサンゼルスに行ってみる気はない?》

 

紫が突拍子もないことを言い出してきた。

 

「話が見えないな。」

 

《ごめん。ちゃんと説明するわ。実は今年の『剣舞祭』の観戦に来ていたVIPの中にロサンゼルスでオープンクラスのデュエル大会を開催している会社のスカウトマンが来ていたのよ》

 

「それで?」

 

黒刀は続きを促した。

 

《『剣舞祭』でのあなたの活躍を拝見してあなたをスカウトしたいという話を持ち掛けられたんだけどまだ高校生であるあなたを勉学を疎かにしてまでプロにする気はないって答えたらならせめて一度だけ大会に特別枠で出場して欲しいって言われたのよ…ごめんね。勝手に話を進めちゃって》

 

紫は申し訳なさそうに謝った。

 

「いや、そういう交渉事は学校側が行うのは当然のことだ。」

 

黒刀は紫を咎めなかった。

 

《ありがとう。それで今ちょっと私1人では判断できない段階まで来てるから。あなたの答えを聞きたくてね》

 

「期間は?」

 

《8月25日~9月3日までの10日間》

 

「…少し考えさせてくれ。」

 

《分かったわ》

 

紫は通信を切った。

黒刀は携帯端末をポケットにしまうとベランダの手すりに肘を置いて考える。

 

アメリカのロサンゼルスで開催されるオープンクラスのデュエル大会はかなり有名でサイトにも取り上げられるほどだ。

年齢制限はないがハイレベルな試合の為、出場選手は20歳以上しかいない。

その中で黒刀が出場するとなれば最年少出場となる。

このまたとないチャンスに黒刀は迷っていた。

大会に出ている間は休学状態になりそうなってしまえばランキングは1位からランク外に転落してしまう。

それは頂点から下りることを意味する。

しかしロサンゼルスの大会に出場すれば実力を上げる機会が与えられる。

難関の2択に黒刀は迷い考え込んでいた。

なので当然の部屋の中で何か起きても気づかない。

 

 

 

 黒刀がベランダにいた頃、早苗がようやく目を覚ました。

体を起こすと同時にドアからノックの音が聞こえる。

布団から出て立ち上がるとドアの方へ歩いた。

 

 廊下に立ってドアをノックしたのは真冬だった。

 

「黒刀君、起きてる~?」

 

返事がない。

試しにもう一度ノックしようとしたその時。

ドアが内側から開けられた。

 

「あ、黒刀君!おはよ…」

 

笑顔で挨拶しようとした真冬だったが中から姿を現した早苗を見て絶句した。

 

「何だ…あなたですか…。」

 

早苗が呆れた声を出す。

それを聞いた真冬が我を取り戻す。

 

「な、何であなたがここにいるのよ!」

 

真冬は声を張り上げた。

 

まるで愛人との浮気現場を目撃してしまった妻のようにも見える光景だった。

何より真冬が驚いたのは早苗が黒刀の部屋にいたことよりその服装だった。

早苗が着ているのは浴衣やパジャマではなく大胆なネグリジェだった。

しかもスタイルがいい早苗が着ると色気倍増である。

 

騒ぎを聞きつけた妖夢、霊夢、魔理沙、天子、諏訪子、丸山、光の7人が黒刀の部屋の前に集まってきた。

 

「どうしたんですか?」

 

妖夢が事情を聞く。

 

「この女が黒刀君の部屋にいたのよ!」

 

真冬が早苗を指差した。

 

「私はセンパイと添い寝をしていただけです。」

 

早苗はあっさり暴露した。

 

「なっ!」

 

真冬が驚き、他の皆は今更ながら早苗の際どいネグリジェ姿に驚いた。

早苗は勝ち誇った笑みを浮かべる。

霊夢と魔理沙は関わりたくないと決めてこの場を去った。

妖夢はあたふたするばかりでどうしていいか分からないようだ。

 

「と、とりあえず真冬さん。お、落ち着きましょう。」

 

丸山が真冬をなだめようとするが丸山自身が落ち着いていない。

 

「これが落ち着いていられますか!」

 

「光さんも何か言って下さいよ~。」

 

困り果てた丸山が光に助けを求める。

 

「ん~いや無理でしょ。」

 

だが呆気なく断られる。

 

「そんな~!」

 

「まあ、私と光は黒刀に桃まんを朝食に作ってもらおうと来ただけだしね。」

 

「うん、そう。」

 

天子の言葉に光が相槌を打つ。

 

「そんな理由⁉」

 

千歳が驚く。

 

そうしている間にも早苗と真冬の争いは激化していき急展開を迎えた。

 

「通してもらえないかしら。私は黒刀君に用があるの。」

 

「ダメです。私が先約していますから。」

 

「そう…なら力づくで押し通るしかないわね。」

 

真冬から冷気が溢れ出す。

 

「望むところです。」

 

早苗も霊符を取り出す。

 

「さすがにこれはやばいかもしれないですね諏訪子先生。」

 

天子が隣を見るが諏訪子の姿がいつの間にか消えている。

 

「あれ?」

 

天子は首を傾げた。

 

 

 

 黒刀はまだ考え込んでいた。

 

「何をそんなに悩んでいるのかな?」

 

横から諏訪子に声をかけられた。

諏訪子が『抜き足』を使えることを知っている黒刀は大して驚かなかった。

 

「あなたには関係ないことですよ。」

 

「あ、そう。」

 

諏訪子は軽くあしらわれたことに気にしていないように返す、

 

「あれ止めた方がいいんじゃない。」

 

諏訪子がドアの方を指差す。

その先では早苗と真冬が一触即発の状態となっていた。

 

「ああ…心配することないよ。」

 

黒刀は介入する気を出さなかった。

 

「いいの?」

 

「俺が手を出す必要はない。」

 

黒刀がそう口にしたその時。

早苗と真冬が突如現れた影に巻き付かれた。

 

「「え?」」

 

2人が呆気に取られていると廊下の向こう側から姿を現したのは笑顔のまま怒っている映姫だった。

2人が映姫を捉えた瞬間、絶句した。

 

「全く…あなたたちは旅館で何を騒いでいるのですか?」

 

笑顔のままそう口にした。

中学の頃から映姫の恐ろしさを知っている早苗と真冬は何も言えなかった。

 

「とにかく私の部屋でお説教です。」

 

笑顔から真顔に変わる映姫。

 

「はい…。」

 

2人はそう返すしかなかった。

 

映姫が立ち去った事を確認した黒刀はドアから顔を出した。

 

「ん?どうした妖夢?」

 

「…凄く…怖かったです…。」

 

「(こりゃ…トラウマになりそうだな。)」

 

諏訪子はいつの間にかどこかへ行ってしまった。

まさに神出鬼没だ。

その後、天子と光に桃まんをリクエストされたので2個ずつ作ってあげた。

黒刀も妖夢と一緒に朝食を食べ終えた後、自室に戻ろうとする。

 

「黒刀、ちょっといい?」

 

椛に呼び止められた。

 

「何だ?」

 

「あなた忘れてるでしょ?」

 

「何が?」

 

「何って…前に約束したでしょ!夏休みの課題手伝ってくれるって!」

 

椛は怒った。

 

「………そうだっけ?」

 

ところが黒刀は首を傾げた。

 

「した!『剣舞祭』の本選前の合宿の時に!」

 

「…ああ、あれか…すっかり忘れてた。」

 

「あなたね~。」

 

椛が肩をプルプルと震わせる。

 

「しょうがないだろ。ここ最近、色々なことがあり過ぎたんだから。まあ、悪かったよ。この後は特に予定はないし手伝ってやるよ。」

 

「すっぽかした分際で何でそんな上から目線なのよ。」

 

椛はジト目を向ける。

5秒程、黒刀を睨みつけていたがそんなことをしても何も意味がないことに気づく。

 

「じゃあ残ってる課題手伝ってね。」

 

「分かった。それで何が残ってるんだ?」

 

黒刀が訊くと椛は目を逸らして呟く。

 

「…理科と数学。」

 

「椛…お前…。」

 

黒刀は呆れた目を椛に向ける。

 

「理数系は苦手なの!しょうがないでしょ!」

 

椛が急にキレた。

 

「あ~はいはい。もう分かったからそれでどっちの部屋でやる?」

 

「そっちの部屋でいいわよ。」

 

椛は落ち着きを取り戻したのか簡潔に答えた。

 

 

 

 午前9時 黒刀の部屋。

課題は1時間で全て終わったので椛は自分の部屋に戻ってから外に遊びに行った。

黒刀は横になって再びロサンゼルスに行くかどうか考え始めた。

 

「(黒刀、うぬの選択肢は山の頂上に君臨し続けるかそこから大空へ飛び立つかの2つに1つだ。大事なのはうぬがこれからどうなりたいかだ。)」

 

心の中でザナドゥ卿が語り掛けてきて、それだけ伝えて黙った。

それだけの言葉で黒刀の心を決めるには十分だ。

黒刀は跳ね起きて布団を押し入れにしまうと窓の外に顔を向ける。

 

「決めたよ王様。これから俺が進むべき道を。」

 

黒刀の顔から迷いは晴れていた。

 

 

 

この時、妖夢は黒刀の決断を知る由もなかったのであった。




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旅立ち

OP7 超次元ゲイムネプテューヌ Dimension tripper!!!!



 8月18日 午後9時。

黒刀は携帯端末に妖夢から部屋に来てほしいとメッセージが送られてきたので嫌な予感がしながらも妖夢達の部屋の前まで来てドアの前で立ち止まる。

すると感の良いチルノが黒刀の気配を感じ取ったのか中からドアを開けて顔を出した。

 

「あ、黒刀来た!」

 

「声が大きい。」

 

黒刀は他の部屋の人に騒がれると困るので一旦チルノを落ち着かせてから大人しく妖夢達の部屋に入った。

中にいるのは妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精、早苗、真冬、それと黒刀を含めて8人だ。

 

「急に呼び出して何なんだよ?」

 

黒刀は不機嫌そうな声を出す。

 

「フッフッフ…」

 

すると早苗が笑いだす。

 

「何だその気持ち悪い笑い方。」

 

黒刀がキツイ言葉を浴びせる・

 

「ちょ、ひどいです!」

 

早苗が思わず返す。

 

「いいから何なのか説明しろ。」

 

黒刀は早苗のショックを気にせず説明を促す。

早苗は唇を尖らせる。

 

「何か最近私に対して厳しすぎませんか?…まあいいですけど。」

 

「(いいんだ…。)」

 

大妖精が心の中で呟く。

早苗は気を取り直して立ち上がる。

 

「私達にはまだやり残していることがあります!そう。それは…王様ゲーム!」

 

「おやすみ。」

 

早苗の宣言に対して黒刀は胡坐の姿勢から立ち上がって自室に帰ろうとする。

 

「「確保~!」」

 

早苗と真冬が背後から抱きついて止める。

 

「やりましょうよ~王様ゲーム。」

 

早苗が駄々をこねる。

 

「嫌だよ!お前らとやっても大惨事になる未来しか見えねえよ!」

 

黒刀は断固拒否する姿勢を取る。

 

「黒刀君がいないと面白くないの~!」

 

真冬もねだってくる。

 

「男が俺だけって男女比おかしいだろ!」

 

黒刀が反論する。

 

「大丈夫です!センパイは普段から女の子を侍らせてますから!」

 

早苗が決め顔をする。

黒刀は抱きつく早苗を引き剥がすと両手で早苗の頭を押さえつけた。

 

「どういう意味だ~!」

 

さらに左右からプレスをかける。

 

「ちょ…センパイ痛い痛い!脳が潰れちゃいますって!」

 

早苗が悲鳴を上げる。

たっぷりお仕置きした黒刀はようやく早苗を解放する。

 

「「「「「(やっぱり会長の弟なんだな…。)0」」」」」

 

一部始終を見ていた妖夢達は映姫と黒刀の共通点を発見した。

 

黒刀はこのまま大人しく帰れないと諦めた。

 

「しょうがねえ。1時間だけだぞ。」

 

時間制限付きで了承して胡坐をかけ直す。

 

「やった~!」

 

「復活早っ!」

 

一瞬で立ち直った早苗に魔理沙が驚く。

 

「クジはもう用意してあります。」

 

大妖精がクジを取り出す。

 

「さすが大ちゃん準備がいい~!」

 

チルノが褒める。

霊夢は1人だけ意気込みが違った。

 

「(黒刀先輩に引かれたらどんな鬼畜な命令をされるか分かったもんじゃないけどここで逃げるのも何か嫌だしやるしかない!)」

 

「(余は既に王だがな。)」

 

「(王様、ちょっと黙ってて。)」

 

黒刀の心の中でザナドゥ卿が頷いているのを引っ込ませる。

 

ルールは今も昔も変わらない。

クジを引いて王様が番号を指名して命令する。

たったこれだけのルールで人類は様々な場所であらゆる犠牲を払ってきた。

それは黒刀達も承知だが同時に早苗やチルノのようなお祭り気分が絶えない者もいまだに存在する。

 

全員クジを掴む。

 

『王様だ~れだ!』

 

一斉にクジを引いた。

 

「俺だ。」

 

黒刀だった。

 

「「(いきなりヤバい奴きた~!)」」

 

霊夢と魔理沙が心の中で叫んだ。

 

「じゃあ1番と3番が腕相撲して負けた奴はゲームが終わるまで猫耳を着けてもらう。」

 

「「うっ!」」

 

霊夢と魔理沙の体が同時にビクッと震える。

どうやら該当者のようだ。

 

「霊夢~魔理沙~王様の命令は絶対だよ♪」

 

チルノが楽しそうに茶々を入れてくる。

 

「「(あいつ絶対泣かす!)」」

 

2人は心の中で誓う。

テーブルに肘をつけて拳を握り合う。

 

「レディ~ゴー。」

 

黒刀が適当にスタートの合図を出すと霊夢と魔理沙は同時に力を入れる。

女子の腕相撲とは思えない程に。

 

「(霊夢なら黒、魔理沙なら黄色にしよう。)」

 

黒刀は暇そうに眺めながら既に猫耳選びを考えていた。

そんなことは露知らず霊夢と魔理沙はお互いに腕相撲に勝とうとしている。

 

「降参してもいいんだぜ…霊夢。」

 

魔理沙が押し始める。

 

「誰が…降参なんて…するもんですか。」

 

今度は霊夢が押し始める。

しかし魔理沙も絶対に猫耳は避けたい一心で結果…

 

 

 

霊夢の負けとなった。

そして霊夢が猫耳を着ける羽目となった。

さらにおまけで黒刀に尻尾を着けられた。

 

「く…屈辱だわ…。」

 

霊夢は顔を赤くして膝をつき呟く。

 

「さあ、次行こうか♪」

 

黒刀はニコニコ笑顔を浮かべながらゲームを再開させる。

霊夢はバッと顔を上げて猫目で黒刀を睨みつける。

 

「(絶対に仕返ししてやる!)」

 

リベンジを心に誓う。

それを横からニヤニヤ眺める魔理沙だった。

 

『王様だ~れだ!』

 

王様になったのは…霊夢だ。

 

「フッフッフ…。」

 

念願の王様となった霊夢は不敵な笑みを浮かべる。

 

「(怖っ!)」

 

魔理沙はそう思わずにいられなかった。

 

「2番が1番を抱きしめて耳元で愛を囁く!」

 

いくら王様ゲームであっても黒刀達は最低限の倫理観を持ってやっている。

それは霊夢も同じ。

霊夢の命令は確かに過激的だが最低限の倫理観は守られている。

 

運の悪いことに2番は…黒刀。

しかも1番は…神光学園では美少女として人気を集めている大妖精だった。

 

この命令に衝撃を受けたのは当事者の2人ではなく早苗と真冬だった。

口を挟もうとしたところを妖夢と魔理沙が背後から羽交い締めにして口を押さえる。

 

「ちょ、霊夢!いくら何でもそれは恥ずかし過ぎ…っ!」

 

大妖精が抗議しようとしたその時。

正面から黒刀に抱きしめられた。

 

「え、ちょっ…黒刀先輩⁉」

 

大妖精が顔を赤くして驚く。

黒刀は大妖精を自身の胸に抱き寄せると大妖精の耳元に顔を近づける。

 

「大妖精。」

 

「ひゃいっ!」

 

大妖精は驚きのあまり声が裏返ってしまう。

 

「俺はお前が入学した時から気になっていた(座学トップとして)。

お前は俺にとって必要なんだ(治癒魔法師として)。

これからも俺の傍にいてほしい(マネージャーとして)。

好きだよ…大妖精(後輩として)。」

 

黒刀はいつもとは違う息遣いで建前と本音を上手く織り交ぜて囁いた。

 

「はわわ…そんな…ぷしゅ~…」

 

大妖精は頭から煙を噴き出す勢いで目を回しながら気絶してしまった。

黒刀は大妖精を解放する。

 

「あれ…日頃の感謝を言っただけなんだけどな~。」

 

首を傾げて大妖精を横に寝かせる。

 

妖夢は顔を赤くして固まっている。

チルノと解放された早苗と真冬は口をポカーンと開けて固まっている。

霊夢は白けた目をしている。

 

「(自覚ないんだ…。)」

 

魔理沙は心の中でツッコんでいた。

 

大妖精が脱落したことにより参加者は7人となった。

別の危険性を悟った一同は次で最後の命令にしようということで手を打った。

 

『王様だ~れだ!』

 

最後の王様は…またもや黒刀だった。

 

「6番が厨房の冷蔵庫から人数分の缶ジュースを持ってくる。」

 

完全にパシリだった。

その6番は…

 

「あ…。」

 

声を上げた者がいた。

一目散に逃げようとしたそいつを後ろから肩を掴んで捕まえる黒刀。

 

「じゃあ行ってもらおうか…チルノ。」

 

「何故あたいだと分かった⁉」

 

 

驚くチルノ。

 

「あそこまで分かりやすい反応した上に逃げようとしたらバレるだろ。」

 

黒刀は冷静にツッコむ。

映姫のような目が笑っていない笑顔で命令する。

 

「行ってこい。」

 

「ちくしょ~!」

 

チルノはダッシュで厨房へ走って行った。

 

「さてチルノが戻って来るまで怪談でもするか。」

 

胡坐をかいた黒刀が軽いノリで言い出した。

 

「「え?」」

 

早苗と真冬の肩がビクッと震える。

 

「何だその嫌そうな態度は?」

 

黒刀が訝しげな視線を向ける。

 

「だって…センパイの怪談…めちゃくちゃ怖いですし…。」

 

早苗が目を逸らし、真冬も横で必死に首を縦に振っている。

 

「大丈夫だ。そこまで怖くないって。」

 

黒刀が笑顔で否定する。

 

「霊夢は大丈夫なのか?」

 

魔理沙が隣の霊夢に訊く。

 

「巫女が霊にビビッてちゃ仕事にならないでしょ。」

 

猫耳と尻尾を外した霊夢が真顔で答える。

 

「その理屈だと早苗さんは巫女失格っていうことになりますね。」

 

妖夢が苦笑い。

すると早苗の中で何かのスイッチが入った。

 

「やってやろうじゃないですか!」

 

巫女としてのプライドが早苗をやる気にさせた。

黒刀は手をパンと叩く。

 

「それじゃ…始めるぞ。」

 

 

 

 5分後。

チルノが缶ジュースを両手に抱えて戻って来ると異様な光景が広がっていた。

大妖精が気絶しているのは変わっていない。

しかし黒刀と霊夢以外の全員が俯いて恐怖で体が震えている。

まるで何か怖ろしいものを見たかのように。

チルノが訊いても誰も答えてくれなかった。

黒刀は終始笑顔だった。

 

 

 

 午後10時。

 

「せっかくだから肝試しでもするか?」

 

黒刀が話を切り出した。

 

「いや鬼か!」

 

魔理沙がすかさずツッコんだ。

 

「ん~何?」

 

そこで大妖精が目を覚まして体を起こし寝ぼけた声を出す。

 

「大ちゃん、大丈夫?」

 

チルノが前屈みになる。

 

「え、何が?」

 

大妖精は何のことか分からないと言いたげな顔をする。

妖夢は心の中で思った。

 

「(なかったことにしようとしてる。)」

 

 

 

 結局、肝試しをすることになった。

一同は旅館を出る。

 

「大丈夫だよ。万が一何かあってもクマ吉が山の頂上から見張ってるから。」

 

「ライオンかよ…。」

 

魔理沙が気の抜けたツッコミを入れる。

 

「魔理沙がこんなに怖がりだったんですね。知らなかったです。」

 

妖夢がからかう。

 

「何だよ…ダメなのかよ。」

 

「いえ女の子らしくて可愛いと思いますよ。」

 

妖夢が笑顔で返す。

魔理沙は顔を真っ赤にして照れ隠しに霊夢の背中をバシバシと叩く。

 

「痛っ!痛いって!何なのよ!」

 

当然霊夢は怒る。

ただし魔理沙が照れ隠しにやっていると分かっているので表面上怒っているように見せているだけである。

 

黒刀は珍しく魔理沙をからかっている妖夢を見る。

 

「(お前もさっきまでビビりまくってたじゃねえか。)」

 

声に出さず心の中でツッコむ。

 

いつまでも魔理沙弄りを放っておくと話が進まないので黒刀はパンと手を叩いて皆の意識を自分に向ける。

 

「はい。じゃあ2人組になって浜辺まで歩く。これだけだからさっさとやるぞ。」

 

魔理沙が挙手する。

 

「何も仕掛けとかないよな?」

 

「さあ、あるかもしれないしないかもしれないな。」

 

黒刀は答えになっていない答えを返す。

これ以上聞くことを無駄と悟った魔理沙は黙った。

 

正当なクジ引きの結果2人組は…

霊夢と魔理沙。

チルノと大妖精。

早苗と真冬。

そして黒刀と妖夢の4組。

 

それぞれが1分おきにスタートして最後に黒刀と妖夢がスタートした。

森の中を歩いているとあちこちから悲鳴が聞こえてきた。

 

「アハハ!怖がってる♪仕掛けなんて何もないのにな。」

 

黒刀が笑う。

 

「ってないんですか!」

 

それを聞いた妖夢がバッと顔を黒刀に向ける。

 

「ああ。そんな時間なかったし雰囲気だけでも怖がるかなって。霊夢は霊感強そうだから意味ないけど。今頃、魔理沙をおもちゃにしているんじゃないか。」

 

「ふふ、そうですね♪」

 

妖夢は楽しそうに笑った。

 

「こっち。」

 

このまま真っ直ぐ進めば浜辺に着くのだが黒刀が妖夢の手を掴んで横道に逸れた。

 

「え、先輩?」

 

妖夢は呆気に取られる。

黒刀は振り返ることなく進む。

 

「いいものを見せてやるよ。」

 

「いいもの?」

 

妖夢は首を傾げる。

 

「まあ、楽しみにしてろって。」

 

 

 

 2分弱歩いて辿り着いたのは海岸を一望できる丘の上だった。

黒刀は妖夢から手を離す。

若干、妖夢が名残惜しそうにしていたが黒刀は気のせいだと思い込んだ。

丘の上から浜辺を見下ろすと既に霊夢達が集まっていた。

黒刀と妖夢がまだ来ていないことに文句を言っているようにも見える。

 

「先輩、ほっといていいんですか?」

 

「大丈夫、大丈夫。」

 

黒刀は軽く返して、携帯端末の時計を確認する。

 

「そろそろだな。」

 

それを聞いた妖夢が黒刀の顔を横から見て何かを言おうとしたその時。

海岸の方からヒュ~と音が聞こえて、直後に大きな爆裂音が響いた。

妖夢がハッと前に向き直ると視界いっぱいに広がったのは…大きな花火だった。

花火は次々と打ち上げられていく。

形は様々で桜、ひまわり、百合、薔薇、たんぽぽ。

これこそまさに花火と言いたげだった。

 

「わあ~!綺麗♪」

 

妖夢はキラキラした目で眺める。

そんな妖夢を見て黒刀は満足げに微笑む。

 

「(時間設定の遅延術式。成功してよかった。)」

 

海岸から打ち上げられる花火は旅館にいる者からも見えていた。

 

「(不思議なもんだな。こんな単純なものなのに人を魅了する力があるなんて。)」

 

黒刀は花火を眺めながら感動していた。

 

 

 

 花火は30分程続き、終わった頃には午後11時となっていた。

あと1時間で日をまたぐというところで黒刀は携帯端末でモニター通信を浜辺にいる大妖精に繋いだ。

大妖精はコールを1回で出て黒刀のモニターウインドウに大妖精が映りその周りに霊夢達が映る。

繋がってすぐに色々問い詰められたが黒刀は適当に聞き流したりなだめたりしておさめた(?)

 

モニターウインドウに映る大妖精達を一旦見つめると目を閉じて決心したように深呼吸して目を開けて口を開いた。

 

「皆…俺ロサンゼルスに行くことにしたんだ。」

 

「え?」

 

妖夢は声を出すことしかできなかった。

 

「どういうことですか?」

 

霊夢がギリギリ冷静さを保って訊く。

 

「ああ。実はな…」

 

黒刀は事情を霊夢達に説明した。

 

「何で黙ってんだよ?」

 

チルノがムッとした顔をする。

 

「せっかくのバカンスに水を差すのは気が引けたんだよ。今夜、話すのがちょうどいいと思った。それにこれは俺の問題だ。俺が1人で決めなくちゃいけないことだったんだ。まあ少しは悪いと思っている。」

 

黒刀はチルノに申し訳なさそうな顔をする。

それを見たチルノはそれ以上何も聞けなかった。

 

「いつから行っちゃうんですか?」

 

霊夢が質問する。

 

「大会の2日前には現地入りしておきたい。出発は23日だな。ロスに別荘はあるしな。」

 

さらに続ける。

 

「皆、分かってほしい。俺は今よりもっと強くなりたい。もっと高みを目指したいんだ。」

 

すると黙っていたチルノが大妖精の前に身を乗り出す。

 

「ならあたいも強くなる!強くなって帰ってきた黒刀に勝てるくらいに強くなる!」

 

「(全くこういう時は頼りになるよ。お前のそういう前向きさは。)」

 

チルノの言葉を聞いて黒刀は微笑む。

 

「私も強くなる!今度は皆の足を引っ張らない!」

 

チルノに感化されたのか魔理沙も言い出した。

早苗はうるっとした目をしていたが対して真冬は大妖精達の後ろからモニターウインドウに映る黒刀の顔を優しく応援するような目で見つめていた。

大妖精も泣きそうな顔をしている。

 

「それじゃそういうことで。」

 

黒刀はモニター通信を切った。

携帯端末をポケットにしまって妖夢を見るとその表情は黒刀がロサンゼルスに行ってしまうショックとどうすれば分からない困惑の感情が入り混じったものになっていた。

 

「たった12日間だ。何をそんなに落ち込んでんだ。」

 

妖夢の顔は俯いている。

 

「私は…これまで…先輩を目標に…頑張ってきました…私は…先輩が近くにいたから自分の成長も感じることができました。でも!」

 

その顔を上げると今にも泣き出しそうな顔だった。

 

「妖夢…。」

 

「先輩がいなくなったら私は一体何を目標に頑張ればいいんですか!」

 

妖夢は子供のように喚いた。

黒刀はそんな妖夢をあえて慰めようとしない。

 

「妖夢…離れていても繋がっているものがある。それが何だか分かるな?

答えは…絆だ。チルノと魔理沙は自分で考えて前に進もうとしている。妖夢…お前はこのまま立ち止まっていていいのか?」

 

少し厳しげに問う。

その言葉に妖夢はハッと気づいて涙を指で拭う。

 

「嫌です…そんなの…私は誓ったんです!先輩を超える剣士になるって!

 

決意を込めた目で言い放った。

黒刀は安心したように微笑む。

 

「それでこそ魂魄妖夢だ。」

 

それから2人は夜空を見上げた。

いつか届くと信じる高みを目指して。

 

 

 

 旅館に戻る途中で黒刀は映姫とレミリアにロサンゼルスに行くとメッセージを送信した。

映姫は黒刀の様子の異変に気付いていた為、メッセージを見て納得した。

レミリアもさすがというべきか簡潔なメッセージを見ただけで理解した。

 

「咲夜。」

 

レミリアが呼ぶと既に咲夜は傍に立っていた。

 

「本島に戻ったらすぐに帰国するわよ。」

 

「かしこまりました。」

 

レミリアの短い命令に咲夜は頭を下げた。

レミリアは夜空を見上げる。

 

「あいつが高みへ上り詰めるというなら私はそれを超えるまでのこと。そろそろ決着をつける時がきたのかもね。」

 

 

 

 8月19日 午前8時。

帰りの時間になり全員船に乗り出航した。

港からはクマ吉が大きく手を振って見送ってくれた。

 

天候も良好だったことにより2時間程で名古屋の停船所に到着した。

黒刀とにとり以外は紫の空間魔法で送ってもらった。

2人が残った事には理由があった。

 

「にとり。」

 

「分かってる。」

 

名を呼んだだけでにとりは理解した。

 

「あの子達に会いに行くんだろ?」

 

そう微笑むにとり。

 

「よく分かったな。」

 

黒刀が感心する。

 

「何年コンビ組んでると思ってんだよ。」

 

にとりは自慢げに胸を張った。

 

 

 

ここ名古屋にはある施設がある。

施設の名前は『帝国軍管轄児童保護施設』。

現在、ルーミア達が暮らしている場所だ。

黒刀は日本を発つ前にルーミア達に顔を出しておこうと思った。

旧ザナドゥ王国で起きたことはにとりにもある程度話してある。

にとりのフェラーリに乗って移動した。

 

 

 

 午前10時30分。

保護施設に到着した黒刀とにとりは門の前のスキャナーにIDカードをかざす。

 

「認識番号『9610』四季黒刀。」

 

「認識番号『2106』河城にとり。」

 

パスワードと音声認識により門が開錠される。

そのまま施設の敷地に入っていく。

にとりは駐車場に車を停める。

 

「私はここで待ってるから行ってこいよ。」

 

「ああ。」

 

黒刀は短く返して車から降りて施設の中に入っていく。

 

受付で手続きを済ませてある部屋の電子ロックを解除して中に入る。

その部屋は温室並の広さを持ち床には人口芝生が取り付けられている。

部屋の中心では講師代わりの女性兵士が空間ウインドウを展開して一般常識を教えている。

そして、その生徒達が黒刀がここに来た目的だった。

 

「あ、くろにいだ!」

 

ルーミアが黒刀に駆け寄って胸に抱きつく。

 

「こらルーミア。まだ授業中だろ?」

 

黒刀は優しく微笑みながら軽く叱った。

すると講師代わりの女性兵士が声をかけてくる。

 

「構いませんよ()()()()。ちょうど休憩にしようと思っていたところでしたから。」

 

彼女も黒刀が帝国軍の兵士であることはもちろん知っているがそれなのに階級をつけて呼ばないのは黒刀があらかじめここに大将としてではなくただの四季黒刀として来たことを伝えていたからだ。いくら仲の良いルーミア達とはいえ軍事機密を簡単に明かすわけにはいかない。しかし軍用IDを使用していることに関しては矛盾があるともいえる。

だがそれもルーミア達にバレなければいいだけのこと。

 

黒刀は幽香の姿が無いことに気づいた。

 

「幽香がいないな。」

 

「風見幽香さんなら最初の3日に検査と手続きだけを済ませて四季桜様に引き取られました。」

 

女性兵士が説明した。

 

「そうか。母さんはスウェーデンで花屋をやっているもんな。確かに幽香にピッタリの場所だな。」

 

黒刀は納得した。

 

現在、この部屋で保護されているのはルーミア、さとり、こいし、お空の4人。

 

「皆、勉強の方はどうだ?」

 

「完璧。」

 

さとりはピースして自慢する。

 

「ん~難しい。」

 

お空は困った表情をする。

 

「なんとなく分かったよ♪」

 

「私も!」

 

こいしとルーミアは笑顔で答えた。

黒刀はルーミア達の元気な姿を見れて安心したように笑った。

 

「ほら差し入れのアップルパイだ。」

 

黒刀はカゴバッグを取り出した。

ルーミア達は喜んでアップルパイを頬張った。

 

「ん~黒刀は昔から料理が上手い。こっちの女子力に自信がなくなる。でも美味しい~。」

 

文句を言いながらも食べ切ったさとりであった。

 

それからはルーミア達と遊んだり、黒刀が直々に講師をしたりと楽しい時間を過ごした。

気がつくと12時を回っていた。

 

「そろそろ帰るよ。」

 

「「「「え~!」」」」

 

ルーミア達が残念そうな声を出す。

 

「またすぐに会えるから。」

 

黒刀はそう言って部屋を出た。

 

「黒刀大将。」

 

同時に20代くらいの若い研究員に呼び止められた。

ルーミア達のいる部屋は防音性があるしドアもとっくに閉まっている。

 

「検査結果は?」

 

黒刀が訊く。

 

「はい。4人ともオーラ数値は平常レベルに達していました。」

 

研究員はデータが表示されたウインドウを展開して解説した。

黒刀はデータを見ながら歩き出す。

 

「特に霊烏路空に関しては十分戦闘できるだけの能力があります。古明地さとりと古明地こいしも日常生活に支障はありません。ただルーミアという少女なんですが…」

 

研究員がそこで言葉を切る。

 

「何か問題があるのか?」

 

「…ルーミアも日常生活に支障はありません…ですが彼女の場合これ以上の身体的成長が望めないのです。」

 

研究員が言葉を絞り出した。

 

「つまりルーミアは一生あの姿のままってことか…。」

 

黒刀には心当たりがあった。

恐らくは融合術式を発動した反動であると。

そして、それがどうしようもないことも分かっていた。

 

「分かった。あとはお空に基礎トレーニングをさせるように。」

 

黒刀はアドバイスした。

 

「了解!」

 

研究員も軍人なので黒刀に対して敬礼する。

黒刀も高校生とは思えないほど見事な敬礼を返す。

 

 

 

 ルーミア達との面会を終えた黒刀は駐車場に戻ってきた。

にとりの車のドアを開ける。

 

「待たせた。」

 

「そんなに待ってない。プログラムで遊んでいたからな。」

 

社交辞令だと分かっているにとりはそう返す。

 

「そうか。」

 

それだけ言って黒刀はシートに座った。

にとりはエンジンを入れて車を出す。

 

 

 

 その頃、妖夢は自宅でずっと考えていた。

帰った頃には幽々子は不在でリビングのテーブルの上に『食べ放題の店に行ってきます』とメモが置いてあった。

妖夢はベッドで仰向けになっていた。

 

黒刀がロサンゼルスに行くという事実は変わらない。

なら自分がすべきことは何か?

どうすれば1歩でも黒刀に近づけるのか?

いつものようにただ普通に特訓しているだけではダメだ。

ならばどうすればいいのか?

それがどれだけ考えても分からない。

 

仰向けになったまま天井に向かって右手を伸ばした。

空に手を伸ばすかのように。

 

「(先輩を超える。その為には…先輩より強い人に鍛えてもらうのが一番だ。

でもそんな人都合よくは…)」

 

そこまで考えて妖夢は気づいた。

黒刀より強くて近くにいる会おうと思えば会える強者を。

ベッドから跳ね起きて1階に駆け下りて玄関で靴を履いて家を飛び出して戸締りもちゃんとしてから賭け出した。

目的の人を求めて。

 

 

 

 妖夢が辿り着いたのは商店街にある黒刀の自宅だった。

黒刀はまだ帰ってきていない。

妖夢はインターフォンを押す。

 

《はい》

 

「妖夢です。」

 

妖夢は名乗った。

 

《今行きます》

 

音声が切れて少ししてから玄関のドアが開く。

出てきたのは四季映姫だった。

夕飯の下ごしらえをしていたのかエプロン姿だ。

 

「会長に大事なお話があります。」

 

「とりあえず中に入って下さい。話はそれからです。」

 

映姫は妖夢を自宅に招いた。

 

 

 

 リビングに入ると映姫は妖夢をソファに座らせるように促す。

妖夢は言われた通りソファに腰かける。

映姫は緑茶を入れてテーブルの上に置き、ソファに腰かける。

 

「それで話とは何ですか?」

 

映姫の問いに妖夢は深呼吸する。

 

「会長はもう先輩がロサンゼルスに行くことを知っているんですよね?」

 

「ええ。」

 

「こんなこといきなりで申し訳ないのですが…お願いします!私を弟子にして下さい!」

 

妖夢は立ち上がって頭を下げた。

映姫は緑茶を一口飲んでからテーブルの上に置く。

 

「やはりそう来ましたか。」

 

「え?」

 

妖夢が顔を上げる。

 

「あなたが黒刀を超えることを目標にしていることは知っています。だから黒刀が今まで一度も勝ったことが無い私にそういう話を持ち掛けることは予測がつきます。」

 

映姫が立ち上がると妖夢を真正面から見据えた。

その静かな威圧感に妖夢は息を呑む。

 

「いいでしょう。あなたを鍛えてあげます。ただし私の指導は厳しいですよ。」

 

映姫は承諾した。

 

「はい!」

 

妖夢は強く応えた。

 

 

 

 妖夢が映姫に連れられてやった来たのは黒刀の自宅の地下トレーニング場だった。

 

「こんなところが…。」

 

妖夢が言葉を漏らす。

 

「黒刀がわざわざトレーニングセンターに行くのも手間だから地下に作っちゃおうと言ったんです。」

 

映姫が歩きながら説明する。

 

「先輩もここを使っているってことは私達の特訓も先輩にバレるってことになるのでは…」

 

「心配ありません。黒「とはここのトレーニングメニューを全てクリアしています。ですからここに来ることはありません。」

 

それを聞いた妖夢は安心の息を漏らす。

映姫が立ち止まったのはバッティングセンターのような部屋だった。

 

「さて、まずはこれをやってもらいます。」

 

映姫が指差したのはまるでガトリング砲のような装置だった。

 

「えっと…ここで…一体何を?」

 

妖夢は何をするのか理解できなかった。

 

「『楼観剣』と『白楼観』を渡しなさい。」

 

映姫に言われた通り妖夢は二本の剣を手渡した。

代わりに渡されたのは二本の竹刀。

 

「え、会長?」

 

妖夢は呆気に取られる。

映姫は装置の後ろに立つと起動した。

すると、装置の砲口からゴムボールが発射された。

その速さは時速160㎞。

 

「へ?うわっ!」

 

妖夢は慌てて避けた。

 

「こら、避けない!」

 

「いやいや!こんなのどうすればいいっていうんですか!」

 

「そんなの竹刀で弾くに決まっているじゃないですか。」

 

映姫は真顔で返した。

 

「へ?」

 

「どんどんいきますよ。」

 

映姫はシステムを操作する。

またもや豪速球が発射された。

妖夢はまたもや体をひねって避ける。

 

「だから避けない!」

 

そしてまた映姫に怒られる。

 

「どうやら一度痛い目を見ないと分からないようですね。」

 

映姫はシステムを操作してマシンのレベルを1から5に上げた。

さっきまで1発ずつ発射されていたゴムボールが今度は本物のガトリング砲並の連射速度で発射された。

地下トレーニング場に妖夢の哀れな悲鳴が響いた。

 

 

 

 妖夢は仰向けに倒れる結果となった。

そんな妖夢を映姫は上から見下ろす。

 

「だらしないですね。この程度、まだ序の口ですよ。」

 

「こ…これが…。」

 

妖夢はなんとか起き上がって返す。

 

「仕方ありませんね。少し脇で見ていなさい。」

 

映姫は竹刀を1本手に取って妖夢を離れさした。

 

「マシンレベルを5から10に変更!」

 

映姫の音声をシステムが認識してマシンからさっきの倍の数のゴムボールが発射される。

映姫はそのボールを全てほぼ同時に斬って弾いた。

それを当然のように繰り返している。

ボールは1個も映姫の後ろに落ちていない。

 

「動き出しと軌道が分かっていれば簡単なことです。それは剣士でも同じことです。これは分かりますね?」

 

さらに映姫はボールを弾きながら説明してきた。

妖夢は一瞬、映姫の剣技に見とれていた。

 

「はい!」

 

僅かに遅れて返事した。

 

 

 

 妖夢が映姫にしごかれていた頃。

魔理沙は博麗神社の境内で魔法の特訓をしていた。

 

「なあ霊夢。私の魔法と二宮さんの魔法って似ていると思わないか?」

 

「確かにそうかもね。規模と質は誓うけど。」

 

霊夢は縁側でお茶をすすった後、一言余計に口を出す。

 

「ぐっ。」

 

痛いところを突かれた魔理沙はミニ八卦炉を構える。

 

「…だからもし『マスタースパーク』に空間魔法を組み合わせたらそれなりの武器になるんじゃないかと思ってさ。」

 

自信を持った口調で言った。

 

「でもあれは空間把握能力と演算処理能力が高くないと出来ないはずよ。あんた、そんなの出来ないでしょ?」

 

霊夢の指摘に魔理沙は不敵に笑う。

 

「一発くらいなら出来ると思うぜ。私だって『剣舞祭』が終わってから何もせずに遊んでいたわけじゃないぜ。魔法実技の資料を学校で読みまくったからな。」

 

そう口にして胸を張る。

 

「へえ~。」

 

霊夢は興味なさげな声を出す。

魔理沙は霊夢に背を向けてミニ八卦炉を構えて術式を展開する。

 

「マスタースパーク!」

 

そして、空間魔法の術式を発動した状態で砲撃魔法を放った。

だが放った本人は反動で後方に倒れるし、魔法の照準は狙った場所からかなり逸れている。

逸れた場所はなんと霊夢の正面だった。

 

「ちょ、危なっ!」

 

霊夢はいきなり飛んできた砲撃魔法に慌てて防御結界を展開して弾く。

尻餅をついていた魔理沙は立ち上がって砂埃を払う。

 

「わりぃ、ちょっと失敗しちゃったぜ。」

 

頭を掻きながら謝る。

ただし笑いながら。

 

「あんたね~。ここに来てるんだから魔法の特訓をすることは察してたけどせめて最初は低レベルの魔法で慣らしなさいよ!いきなりマスパをぶっ放すなんて安心してお茶も飲めないじゃない!」

 

霊夢は怒っていた。

だが付き合いの長い魔理沙は霊夢が本気で怒ってないことが分かっていた。

 

「まあ無事だったんだからいいじゃねえか。それよりお前は修行とかしねえのか?」

 

「霊術っていうのは工夫次第で戦術が広がるものなのよ。私は博麗の霊術はほぼマスターしているからすることがないのよ。」

 

そう答えてお茶を飲む。

 

「うわ、何てチート。」

 

魔理沙はそう呟いた。

 

 

 

 黒刀が自宅に着いたのは午後5時だった。

 

「ちょっと遅くなっちゃったな。」

 

「そりゃお前が、どうせなら名古屋名物の料理を食べたい、って言い出すからだろうが。」

 

にとりはジト目を向ける。

 

「ありがとうな。送ってくれて。」

 

黒刀はにとりのツッコミに動じず感謝の言葉を伝えた。

 

「ああ。」

 

にとりも黒刀がスルーしたことには特に気にしていない。

こうしたやり取りは5年もコンビを組んだからこそできるものである。

にとりはアクセルを踏んで去った。

 

黒刀は玄関のドアを開けて中に入ると、ちょうど妖夢が玄関で靴を履き終わったところだった。

 

「あ、先輩。お邪魔してます。」

 

丁寧に挨拶する妖夢。

 

「おう。何ならうちで食っていくか?」

 

「いえ。今日は帰らせていただきます。」

 

黒刀の誘いを妖夢は丁寧に断った。

 

「そっか。それじゃあな。」

 

黒刀はほんの少しだけ驚いたが挨拶して靴を脱ぐ。

 

「はい。お邪魔しました。」

 

妖夢も玄関のドアから帰って行った。

 

黒刀がリビングに入るとテーブルには既に映姫が作った料理が並べられていた。

その中には黒刀の大好物の唐揚げも含まれている。

 

「お、姫姉の唐揚げだ。久しぶりだな~。」

 

喜ぶ黒刀。

映姫はエプロンを外す。

 

「ロサンゼルスに行く黒刀のお祝いです。」

 

映姫は笑顔でそう口にした。

 

「姫姉の唐揚げは格別に美味いからな。」

 

黒刀も笑顔になる。

 

映姫は黒刀に妖夢を弟子にしたことを話さなかった。

黒刀も薄々感づいているだろうと思ってあえて口にすることではないと思ったからだ。

それに笑顔で楽しそうに話している黒刀との時間を大事にしたいとも思った。

 

 

 

 8月23日 黒刀ロサンゼルス行き当日。

黒刀は『八咫烏』を空港に預けて航空便でロサンゼルスに送ってもらうように手続きを済ませると携帯端末だけ持ってほぼ手ぶらでロビーで時間まで待っていた。

 

見送りに来たのは映姫、妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精、小町の7人。

 

「手ぶらで大丈夫か?」

 

小町が訊く。

 

「ロスにも別荘はあるから大丈夫。」

 

黒刀は真顔で返す。

 

「(出たよ。ブルジョワ発言。)」

 

魔理沙は心の中で悪口を呟く。

そんな中、映姫は黒刀をなにやら疑う目で見る。

黒刀はそれに気づく。

 

「姫姉、大丈夫だって。確かにアメリカは犯罪とか多いけど心配ないって。」

 

笑って手を振る。

映姫はジト目を向ける。

 

「むしろ黒刀が首を突っ込まないか心配なんですが?」

 

「いや、ないない。」

 

黒刀は首と手を横に振って否定する。

 

そんなことをしているとアナウンスが流れて出発の時間が来てしまった。

黒刀が『動く歩道』に乗ろうとする。

 

「ほら妖夢。何かエール送ってあげなさい…よ!」

 

霊夢が妖夢の背中を押した。

黒刀は『動く歩道』に乗る直前に振り返ってぶつかりそうになる妖夢を抱きとめた。

 

「あ…すみません!」

 

妖夢は顔を真っ赤にして黒刀から離れる。

後ろで霊夢が意地悪な笑みを浮かべているのがなんとなく伝わってくる。

黒刀が可笑しそうに笑う。

 

「また転ぶのかと思ったぞ?」

 

「もう…先輩、意地悪です!」

 

妖夢はプイッと顔を背ける。

黒刀は右手で妖夢の頭を撫でて優しく微笑む。

 

「無理して何かを言う必要なんてない。いつかお前と剣を交えた時にきっと分かるからな。」

 

さっきまで機嫌を損ねていた妖夢はすっかりご機嫌になりお返しに精一杯の笑顔を送ることにした。

 

「頑張って下さい!先輩なら勝つって信じてますから!」

 

それだけ伝えた。

黒刀はその言葉を受け取って前に向き背を向けたまま手を振って『動く歩道』に乗る。

妖夢達は黒刀の姿が見えなくなるまで見送り続けた。

 

 

 

 黒刀が選んだ1つの決断が周囲の人間に影響を与えていく。

 

 そして、それにより少年少女達は新たなステージを進むことになるのだった。




夏島編完。

DOG DAYS′ 夏の約束

ご感想お待ちしております。


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世界編
帰ってきた男


OP8 遊戯王GX 99%

新章スタートです!


 残暑が続く9月4日。

空港の出口から出てくる黒いTシャツ、黒いハーフパンツ、腰には漆黒の日本刀をぶら下げた1人の男子高校生がいた。

男が歩いていると前方からクラクションの音が聞こえてきた。

自動車が1台停まっている。

 

「遅いぞ。」

 

運転席から文句が聞こえる。

 

「ああ、悪い。」

 

男は一応謝る。

それから雲1つ無い晴れた青空を仰ぎ見る。

 

「いい天気だ。」

 

男の前髪は目の上半分を隠すくらい伸びている。

男は右手で前髪をかき上げた。

 

「帰ってきたな…この国に。」

 

この男こそ神光学園校内ランキング元1位にして『剣舞祭』全国制覇を成し遂げた

『破壊王』四季黒刀である。

彼は昨日までのロサンゼルスの大会を終えてこの新大日本帝国に帰ってきたのである。

 

 

 

黒刀が乗った白いアンチグラビティカーのドライバーは彼の担任の河城にとり。

 

「迎えは教頭じゃなかったけ?」

 

黒刀が後部座席から訊ねる。

 

「教頭は尻尾が邪魔でこの車に乗れなかった。」

 

にとりは呆れ顔。

 

「ああ…。」

 

黒刀もどこか冷めた顔をする。

にとりはアクセルを踏んで車を走らせる。

 

「それで大会はどうだった?」

 

にとりは黒刀が参加したロサンゼルスの大会について訊いた。

黒刀は頬杖をついて窓ガラスから外の景色を眺める。

 

「死ぬほど退屈な試合だったよ。」

 

「優勝者のセリフとは思えないな。」

 

にとりの言葉に黒刀は不機嫌な顔をする。

 

「サイトを見てから言え。」

 

黒刀は空間ウインドウを展開して慣れた手つきで操作すると大会サイト情報をにとりの携帯端末に送信した。

にとりは右手でハンドルを握りながら左手でサイト情報を開いた。

 

「…全試合秒殺の圧勝か。なるほどな…そりゃお前の機嫌も悪くなるな。」

 

にとりはフッと笑う。

黒刀は後部座席で横になる。

 

「手ごたえが無さすぎる。せいぜいサンドバッグ程度だな。」

 

そう口にしてあくびをかく。

にとりはこれ以上掘り返すと機嫌が悪くなる一方だと悟って話題を変える。

 

「そういえば神光学園が色々変わったことは聞いたか?」

 

「カリキュラムの変更、学校設備のリニューアル、土曜授業の追加、『乱戦』も廃止…だろ?」

 

黒刀は寝転がりながら答えた。

 

「まあ、学生の本分は勉強だからな。週末の度に医務室が満員じゃ永琳先生も大変だろ。誰かさんが暴れ回るせいで。」

 

にとりはバックミラー越しに黒刀の顔を見た。

 

「怪我したくなきゃ避けろってんだ。」

 

黒刀は顔を背けて毒づいた。

 

「無茶言うなよ…。」

 

にとりは呆れ顔でため息を吐いて気のないツッコミを入れた。

 

 

 

その頃。

神光学園の生徒は黒刀の帰国を迎える暇などなく勉学に謹んでいた。

だが黒刀と親しい関係を持つ友人、先輩、後輩は授業どころではなかった。

事前に黒刀から連絡を受けている映姫と紫は落ち着いている。

その他の生徒は授業に集中で来ていない者が多かった。

その原因は黒刀が帰国したと独自に情報を収集し発進した射命丸文にあった。

そのせいで1時限目だけで妖夢とチルノが担任の慧音に3回頭を小突かれた。

 

 

 

 正午 昼休み。

文の最新情報により黒刀が神光学園に到着したと全校生徒に知れ渡った。

文の余計なおせっかいのせいで黒刀は着いて早々2,3年生からの決闘の連戦をする羽目になった。

これも神光学園らしい歓迎と言えるだろう。

 

妖夢達が黒刀を取り囲む人だかりに辿り着いたのは騒ぎが起きてだいぶ後のことだった。

霊夢はこういう人混みは嫌いで教室に留まり、大妖精は人混みに入っていく勇気はなく霊夢と共にし、結局妖夢、チルノ、魔理沙の3人が人混みをなんとかかき分けて中心に進んで行く。

 

「先輩…やっと会えるんだ…。」

 

《勝者 四季黒刀》

 

その時、決闘の勝敗を告げる機械音声が鳴り響いた。

5か月前の春に全く同じ場所でチルノが負けた時に全く同じ機械音声を聞いたことがある。

しかし、その人物に会いたい気持ちはあの時とは比べ物にならない。

 

「先輩!」

 

妖夢が人混みの中から飛び出してついに中心に辿り着いた時、その目が捉えたのは若干、髪が伸びた黒髪の剣士の後ろ姿だった。

その剣士はデュエルジャケットではなく黒シャツ、黒いハーフパンツの私服姿のまま決闘していたようだ。

 

「ん?」

 

その剣士が声に反応してこちらに振り返り顔を見せた。

ついに2人の剣士が12日ぶりの再会を果たす。

 

「先輩…。」

 

妖夢が声を漏らす。

魔理沙とチルノも妖夢に追いついて黒刀と対面する。

そして驚く。

黒刀の雰囲気が以前と違って僅かに大人びていたからだ。

 

「ただいま。」

 

黒刀は3人の顔を見て一瞬だけ微笑んだ。

 

「「黒刀~!」」「先輩~!」

 

妖夢達は我慢できず黒刀に駆け寄る。

 

「話がある。」

 

だが大勢が見ている中でハグする訳にもいかず黒刀は中庭へ移動をすすめた。

にとりには昼休みが終わってから学園長室に行くと伝えておく。

 

中庭に移動したからといって外野が気にならないはずはなく黒刀と妖夢達がベンチに座っている様子を木陰や物陰からこっそり見るという行為を行う者が多かった。

少なくとも20人はいるだろう。

 

黒刀は気づいていたが追い払うのも面倒なので放っておいた。

妖夢達も当然これだけ視線を向ける者が多ければいやでも気がつくが黒刀が何もしない気配を察して同じように無視する。

 

黒刀は校外で昼食を済ませている為、妖夢達は各々の弁当を広げて食事している。

ちなみにチルノの弁当は大妖精の手作りである。

 

話を切り出したのは黒刀。

 

「魔理沙、お前に渡したいものがある。」

 

そう言ってアタッシュケースを取り出した。

 

「私に?」

 

魔理沙が意外そうな声を出す。

 

「まあ、お前にピッタリの土産だ。」

 

黒刀が苦笑してケースを開けた。

その中に入っていたのは…

 

「これって…ミニ八卦炉ですか?」

 

妖夢が実物を見て首を傾げた。

 

「どういうことだ?ミニ八卦炉なら私は持ってるし、いやそれ以前に何で黒刀がミニ八卦炉を持っているんだ?」

 

魔理沙が疑問を口にする。

 

「これはミニ八卦炉じゃない。」

 

黒刀はそれを待っていたかのように答えた。

 

「「「え?」」」

 

3人が同時に声を上げる。

黒刀はこう続けた。

 

「これは…MADだ。」

 

MAD。

MajicAssistantDeviceの略で魔法補助装置。

SDが剣士等の武器ならMADは魔法師の為の武器。

謎の研究者『ブラッククロウ』によって開発されたのがこのMADである。

MADは魔法の発動速度、多様性、威力を補助するという画期的な装置である。

形は様々で端末型、腕輪型、装着型、銃などの武装型。

そして黒刀が魔理沙に見せたような特化型。

この開発は世界にとって大きな衝撃を与えることとなった、

それも当然であろう。

いわば兵器が開発されたのだから。

各国政府はそれぞれ対応し始めた。

だがこの開発について本来知っているのは新大日本帝国だけのはずだった。

謎の研究者『ブラッククロウ』はこの開発のフォーマットデータを帝国軍情報部に送信した。

しかし情報を管理している情報が海外のフリーハッカーに情報を漏洩されてしまってMADのフォーマットデータは世界中に流出してしまった。

幸い流れてしまったのは開発の基礎設計となるフォーマットデータだけなのでそこからどのようにアレンジできるかは製作者の腕にかかっている。

もしかしたら『ブラッククロウ』はそこまで読んでフォーマットデータのみを送信したのかもしれない。

オリジナルデータを漏洩されてしまったら混乱はこんなものでは済まなかっただろう。

そういうことでいまやMADの存在は世界中で特に魔法師の間では一般常識となっている。

そして、何を隠そうその開発者『ブラッククロウ』が妖夢達の目の前で面白そうに微笑んでいる四季黒刀なのである。

 

「俺はこういったデバイス調整が得意だからちょうどいいし帰国土産に魔理沙にMADをプレゼントしようと考えたんだ。」

 

黒刀はもっともらしい理由をつける。

 

「魔理沙の魔法はほとんど放出系魔法だから特化型MADにしてみた。それに手に馴染むようにミニ八卦炉と同じデザインにしておいたよ。とりあえず手に持ってみろ。」

 

黒刀は魔理沙にそう促した。

魔理沙は言われた通りケースからMADを取り出していつものように握った。

 

「違和感はないか?」

 

「怖いくらいに無いよ。」

 

黒刀の問いに魔理沙は即答した。

妖夢が魔理沙の横顔を覗き込む。

 

「魔理沙、ミニ八卦炉はどうするの?さすがにMADと同時に使うっていうのは…」

 

「これからは…このMADを使わせてもらうよ。」

 

「それはテストしてから決めた方がいいと思うぞ。」

 

黒刀が苦笑する。

 

「それもそうだな。」

 

魔理沙も笑ってMADを前に突き出して魔法弾を1発放った。

その発動速度は以前より遥かに速かった。

魔法弾が木の幹に直撃して木を揺らす。

手加減して撃ったのでこれは当然の結果である。

気にすべきはそこではなく魔法術式の構築から発動まで速度である。

今までに比べて半分の時間しかかかっていない。

 

「うん。やっぱり問題なし!」

 

魔理沙は満面の笑みを黒刀に向ける。

 

「決めたのか?」

 

魔理沙にとってこれは愚問だった。

 

「ああ!確かにミニ八卦炉にはこれまで何度も助けられた。けど魔法師にとって魔法は道具。デバイスも道具なんだ。細かいことにいちいちこだわっていたらいつまで経っても進歩しないぜ!」

 

魔理沙の言葉は開発者の黒刀にとっては素直に嬉しい言葉だった。

 

 

 

 午後1時 学園長室。

昼休みが終わって黒刀は妖夢達と別れて学園長室に来ていた。

紫が学園長の椅子に座り、藍がその背後で立ったまま控えて、にとりがソファに座っている。

黒刀が学園長のデスクの前に立っている。

 

「まずはロサンゼルスのオープンクラストーナメント優勝おめでとう。」

 

紫が話を切り出した。

学園長室のショーケースには既に優勝トロフィーが飾られている。

これは黒刀が神光学園に航空便で送ったためである。

 

「ありがとうございます。」

 

黒刀は形式上の挨拶を返す。

紫も理解した上なのでそこに関しては特に何も言わない。

 

「学校側としては祝勝会でもやりたいところなのだけれど…」

 

「別にいらないです。」

 

紫の提案を黒刀はあっけなく断った。

 

「それより俺の端末に校内ランキングのデータを更新したいのですが…」

 

黒刀は遠回しに退室を願った。

休学状態であった為、校内ランキングデータが停止状態となっている。

再起動するためには学園の事務室で手続きを済ませなければならない。

 

「何故そんなに急ぐのかしら?」

 

紫の問いに黒刀が答えたようとしたその時。

代わりに答えたのはにとりだった。

 

「1位を知りたいんだろ?」

 

「…はい。」

 

黒刀は素直に答えた。

これが軍の任務中ならはいではなくああと返しただろう。

今は教師と生徒。

紫と藍も黒刀とにとりが軍に所属していることは知っているが誰が聞いてるかもしれない学園内では迂闊に正体を悟らせるような発言は避けるべきだと心構えている。

 

「今の俺は1位じゃありません。なので今日中に1位を取り戻しておこうと思います。」

 

黒刀はなんと大胆な発言をしたが3人は特に驚きもしない。

彼ならこれくらいのことは言うだろうと思っていたからだ。

 

「今の1位は…1年A組チルノだ。」

 

にとりが立ち上がって黒刀の知りたい情報を開示した。

 

「へえ~あいつが。」

 

黒刀は不敵な笑みを浮かべる。

 

「午後の授業は?」

 

「1年以外ないよ。」

 

黒刀とにとりの簡潔な質疑応答が行われた。

 

「分かった。それでは俺はこれで失礼します。」

 

黒刀は頭を下げてから踵を返して退室した。

 

「どう?彼の調子は。」

 

黒刀が退室したところで紫がにとりに問う。

 

「退屈そうにしてます。」

 

「退屈?」

 

紫が訝しげな目をする。

 

「周囲に比べて黒刀は強くなり過ぎた。そのせいで対等に闘える相手がいないのでしょう。」

 

「確かに以前の彼も強かったですがそれは周囲に比べて1つか2つ程度のレベル。今の彼は周囲との実力差をさらに広げたということでしょう。」

 

藍が教師らしい見解を述べる。

 

「今の黒刀と国内で張り合える高校生は四季映姫かレミリア・スカーレットくらいでしょう。」

 

にとりがため息を吐く。

 

「レミリア・スカーレットは今イギリスに帰国しているわ。」

 

紫がそう口にする。

 

「四季映姫の方は?」

 

にとりが問う。

 

「当人同士が言うにはまだ闘うべき時ではない…だそうよ。まあ姉弟の問題に他人が口出しする権利はないわね。」

 

紫もため息を吐く。

学園長室に重苦しい空気が流れたその時。

にとりがハッと思い出したように口を開いた。

 

「レミリア・スカーレットが帰国した…ってことはそろそろあの時期では?」

 

「…ああ。そういえばそうね。」

 

藍は言葉足らずの2人の会話についていけるはずもなく邪魔だけはしまいと無言で立ち尽くしていた。

 

 

 

事務室で端末の更新手続きを済ませた黒刀はお気に入りの昼寝スポットの桜の木の下に向かった。

もちろん今は9月なので桜は咲いていない。

桜の木の下で寝転がると空間ウインドウを展開して校内ランキングを閲覧する。

 

1位 チルノ

 

2位 魂魄妖夢

 

10位 霧雨魔理沙

 

20位 博麗霊夢

 

「霊夢は適度に抜いているな…魔理沙は苦手な近接系に苦戦しているってところか…」

 

黒刀はランキングを見てさも驚きもせず軽い分析を始める。

現在の黒刀の順位は294位。

295位が無いのは春に大平が退学になったので1人分減ったからである。

 

「1位に挑むのは1年の入学式の日以来か…」

 

黒刀は独り言を呟いた後、眠った。

 

 

 

 午後3時 6時限目終了。

 

「こんなところで寝ていると風邪をひきますよ。」

 

黒刀の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

目を開けると黒刀の姉の四季映姫が上から黒刀の顔を覗き込んでいた。

左手で前髪を押さえながら覗き込む無意識の仕草に加えて顔の距離が思ったより近い。

黒刀は少し顔を赤くして逸らす。

 

「…ただいま。」

 

「ちゃんと私の顔を見て言いなさい。」

 

映姫はジト目で軽く叱った。

 

黒刀は観念して上半身を起こした。

そよ風が吹いて黒刀の目の上半分を隠している前髪がかき上げられてその顔がはっきり見える。

 

「…ただいま…姫姉。」

 

黒刀は映姫に微笑んで優しい声で帰国の挨拶をした。

映姫は眩しく温かな笑顔を黒刀に向ける。

 

「おかえり…黒刀。」

 

 

 

もう少し姉弟の時間に浸っていたかったがそうもいかないようだ。

黒刀がこちらに走って来る人影に気づいた。

その人物とは…チルノだった。

 

「呼ぶ手間が省けたな。」

 

黒刀は立ち上がる。

 

「黒刀、勝負だ!」

 

猛スピードで桜の木の下に滑り込んだチルノは黒刀を指差して決闘を持ち掛けた。

 

「いいぜ。1位から引きずり落としてやる。」

 

黒刀は内心で、チルノらしいな、と思いながら決闘を受けた。

その時。

 

「チルノちゃ~ん…ちょっと…速いよ~。」

 

大妖精が息を切らせながら走ってきた。

一緒に妖夢、霊夢、魔理沙も走って来ている。

4人が黒刀の元へ辿り着く。

 

「先輩と闘うんですか?」

 

「チルノちゃん、まだ早いと思うよ。」

 

「春にあれだけやられたっていうのに懲りないわね。」

 

「でもチルノらしいぜ。」

 

それぞれが違う反応をする。

 

「今のあたいは1位!つまり最強…いや超最強!」

 

チルノは拳を突き出して宣言した。

 

「それじゃ久しぶりにあそこでやるか。」

 

黒刀はチルノの宣言を当たり前のようにスルーする。

 

「「「「「あそこ?」」」」」

 

妖夢達が首を傾げる。

だがすぐに思い当たって同時に声を出す。

 

「「「「「あ、体育館!」」」」」

 

 

 

黒刀達が第2体育館に入って行くと噂を嗅ぎつけた野次馬が次々と入ってきて観客席に座る。

妖夢達は最前列に座っている。

黒刀とチルノはフィールドで向かい合っている。

まるで春の決闘の再現のようだ。

 

チルノは黒刀がデュエルジャケットを装着していないことに気づいた。

 

「それでいいの?」

 

チルノは笑みを浮かべる。

 

「ああ。これでいい。」

 

黒刀はそう返した。

その時、チルノだけでなく野次馬も違和感に気づいた。

黒刀の左手に『八咫烏』はなく代わりに右手に汎用型SDが握られていることに。

チルノは一瞬舐められていると思ったがすぐに考え直した。

黒刀が考えもなしにこんなことはしないと。

 

黒刀が汎用型SDのトリガーを押すと先端からビームブレードが伸びる。

両者が腰を落として構える。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「ソードフリーザー!」

 

開始の合図と同時にチルノが氷の剣を造形した。

だがその一瞬で黒刀が目の前に接近していた。

 

 

 

「速い!」

 

観客席にいる妖夢が声を上げる。

 

「でもスピードだったらチルノちゃんだって!」

 

大妖精も無意識に張り合うような発言をする。

 

 

 

黒刀はSDを水平に振って斬る。

チルノはしゃがんで斬り上げようとしたその時。

チルノが反撃するよりも速く黒刀の2撃目のの振り下ろしが迫っていた。

チルノはバックステップして距離を取る。

しかし黒刀は簡単に逃さない。

一歩で間合いを詰めるとすかさず連続攻撃をしかける。

 

「くっ!」

 

チルノが声を上げる。

 

 

 

 

「妖夢、気づきましたか?」

 

映姫が決闘を観戦しながら隣の妖夢に訊ねた。

 

「あ、はい。先輩は重い日本刀を使用していたのでほとんど重量が無いSDを使用したことによってスピードが際立ったということでしょうか。」

 

妖夢は師匠の問いにそう答えた。

 

「正解です。『八咫烏』を使用している時でさえ高速で斬っているのですからSDを使用すれば剣速が速くなるのは当然と言えます。」

 

「つまりこれが先輩の最高速度の剣速…」

 

妖夢はそう言葉を漏らす。

 

 

 

チルノはこのまま攻め崩されると思ったか翼を広げてある程度のダメージを覚悟して飛翔した。

『破壊王の鎧』で遠距離攻撃は通用しないことは春に散々思い知らされているチルノは加速して黒刀の頭上から斬りかかった。

 

「はああああ!」

 

チルノが雄叫びを上げる。

黒刀はチルノの剣をSDで弾くと斜め下から斬り上げた。

だがチルノの体は水蒸気となって消えた。

次の瞬間、チルノが現れたのは黒刀の背後だった。

これはチルノの霊術『ドライジェット』だ。

 

「グレートクラッシャー!」

 

チルノは氷のハンマーを造形して黒刀に叩きつける。

黒刀は振り向くと同時にSDを水平に振る。

氷のハンマーはあっけなく斬り砕かれてしまった。

だがチルノにとってはこれは布石だった。

 

「霊力解放!」

 

チルノを中心に光の柱が立ち天に伸びていく。

チルノの霊力が80%から90%に上昇する。

 

「見せてやる!あたいの新技を!」

 

チルノが駆け出したその瞬間、3人に増えた。

 

「「「イリュージョンアクセル!」」」

 

 

 

観戦している野次馬は思わず声を上げた。

だが黒刀は大して驚きもしていなかった。

ただ冷静に目の前の状況を分析している。

 

「仕方ない…少し遊びに付き合ってやるか。」

 

黒刀は自ら3人のチルノに接近する。

1人目のチルノが斬りかかってきたのでSDで受け止めてから右足で蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされたチルノは残像となって消える。

2人目のチルノが走りながら『アイスニードル』を放ってきたのであえて『破壊王の鎧』を発動せずSDで薙ぎ払った。

 

「トルネードグレートクラッシャー!」

 

3人目のチルノがその隙に叩き込んできた。

黒刀は腰を落とす。

 

「四季流剣術 弐の段 一閃!」

 

一瞬で氷のハンマーを切り裂いた。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

2人のチルノを同時に斬った。

片方のチルノは残像となって消えてもう一方のチルノは水蒸気となって消えた。

続けざまに氷を破壊した上に『ドライジェット』を発動したことにより周りは霧だらけだった。

 

「(理科の勉強は続けているようだな。)」

 

黒刀はこの状況にも関わらず感心していた。

ここで大声を出して攻撃するほどチルノは愚かではない。

チルノは黒刀の背後から静かに斬りかかった。

 

「(この霧なら黒刀の『眼』でも見えない。あたいの勝ちだ!)」

 

チルノは勝利を確信した。

だがその確信はすぐに裏切られる。

黒刀は背を向けたまま体を横に揺らして攻撃を躱した。

 

「(何で…見えてないはずなのに!)」

 

チルノは驚きを隠せない。

黒刀が空振りとなった剣を握っているチルノの右手首を右手で掴む。

SDは既にしまっている。

そのままチルノの体を片手の腕力だけで持ち上げて床に叩きつけた。

 

「がはっ!」

 

チルノは声を上げた直後、脳震盪で気絶する。

体育館にはチルノを中心に亀裂が入っている。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

この瞬間、黒刀は神光学園校内ランキング1位に返り咲いた。

 

 

 

黒刀は無言でチルノを抱きかかえると医務室に連れて行く為その場を去った。

大妖精は観客席の出口から廊下に出てチルノの元へ走りながらある疑問が頭に浮かぶ。

 

「(さっきチルノちゃんは確かに黒刀先輩の死角を突いた。それなのに黒刀先輩は避けた。黒刀先輩の『眼』は確かに全方位を視れるけど霧とか視界の悪い場所では視えないはず…それなのに…何で…)」

 

大妖精がいくら考えたところで答えが分かるはずもなかった。

 

黒刀がチルノを医務室に運ぶ途中でその瞳の奥に一瞬だけ紫色の五芒星が浮かび上がる。

それは『千里眼』ではなく『覇王の眼』。

全方位を視るだけでなく不可視を視通すことが出来る眼である。

いわば『千里眼』の上位スキル。

 

黒刀が廊下の角を曲がったところで大妖精とバッタリ会った。

 

「黒刀先輩…」

 

大妖精が心配した口調で声をかける。

無論チルノを気遣ってのことだ。

黒刀は大妖精を安心させるように微笑む。

 

「さすがに少しやり過ぎた。心配すんな。少しすればすぐに目を覚ます。」

 

その言葉に大妖精は安心して胸を撫で下ろす。

 

「とりあえず医務室で寝かしておこう。」

 

「はい。」

 

医務室に向かって歩き出す黒刀に大妖精がついていく。

 

 

 

医務室でチルノを寝かせた黒刀は大妖精に付き添わせて医務室を後にした。

黒刀は窓から空を見上げる。

時刻は午後4時。

日もだんだん落ちかけている。

 

「(やっぱり今の俺を滾らせられるのは…)」

 

 

 

 イギリス。イギリス時間午前1時。

レミリアも偶然ながら黒刀と同じように空を見上げて何やら考え込んでいた。

 

「どうかなさいましたか?お嬢様。」

 

咲夜が声をかける。

 

「別に大したことじゃないわ。」

 

そう返して夜空を見上げながら紅茶を飲む。

 

「(そろそろ決着をつけるべきなのかもしれないわね…)」

 

 

 

 日本。午後4時。

黒刀はにとりの車で登校してきたので帰りも送ってもらおうとしたのだがにとりに、私はお前のドライバーじゃない、と断られてしまったので徒歩で帰ることとなった。

そういう訳で妖夢達と途中まで下校を共にすることにした。

チルノは軽い脳震盪だけで済んで特に後遺症も無かった。

ただ目を覚ましてから度々黒刀に悔しそうな目を向けている。

黒刀はチルノのプライドを刺激しない為、あえてそこには触れていない。

 

「あ、そうだ。」

 

黒刀が思い出したように声を出した。

妖夢達が首を傾げていると黒刀は手に持っている袋から何かを取り出した。

 

「これ大妖精にやるよ。空港で買ったやつだけど。」

 

大妖精に差し出したのはハリセンだった。

 

「チルノにツッコミを入れる時に使えよ。」

 

大妖精は予想外のプレゼントに苦笑するしかなかった。

 

「女の子にプレゼントするものじゃないわね。」

 

霊夢は呆れ顔。

 

「黒刀!それはどういうことだ!」

 

黒刀は発言にチルノは黙っていられなくなった。

大妖精は真顔でチルノの脳天をハリセンで叩く。

 

「あ、痛っ!」

 

チルノが悲鳴を上げる。

大妖精は手に持つハリセンを見下ろす。

 

「うん。悪くないかも。」

 

「え…何?何であたい叩かれたの?」

 

チルノは両手で叩かれた頭を押さえてパニック状態になっていた。

黒刀はそんな2人のコント(?)を見て少しだけ微笑む。

 

「じゃ、俺はここで。」

 

妖夢達に手を振って別れた。

 

 

 

黒刀が商店街に建っている自宅の玄関のドアを開ける。

 

「ただいま~。」

 

その時。

リビングから走って来る足音が聞こえた。

姿を現したのは映姫ではなくなんと…

 

「おかえり~!」

 

満面の笑みで黒刀に胸に抱きついてきたルーミアだった。

さすがにこれには黒刀も驚いた。

 

「ルーミア…何でここに?」

 

その疑問に答えたのはリビングから姿を現したエプロン姿の映姫だった。

 

「今日から私達と一緒に暮らすことになったのよ。」

 

「そうなのだ~♪」

 

「詳しい話は後で。夕飯はもう作ってあるから食べましょう。」

 

映姫はリビングに戻る。

 

「さあ、早く早く♪」

 

ルーミアは黒刀の手を引いてリビングに連れて行く。

 

並べられている料理は豪華と言う訳ではなく一般的な料理ばかりだが黒刀はテーブルの中心に置いてある唐揚げを見た。

 

「お、姫姉の唐揚げだ。」

 

するとルーミアがムッとした顔をする。

 

「くろにい、私も作ったんだよ~。」

 

「ごめんごめん。ルーミアの唐揚げも楽しみにしてるよ。」

 

黒刀はルーミアの頭を優しく撫でた。

ルーミアは嬉しそうに黒刀の撫でる手を受ける。

 

 

 

映姫がキッチンでエプロンを外してリビングに来る。

リビングのテーブルは縦横1mの正方形で映姫の向かい側に黒刀が座りその隣にルーミアが座る。

映姫がジュースの入ったコップを持つ。

 

「それじゃ黒刀、大会お疲れ様。そして優勝おめでとう!」

 

「おめでとう~!」

 

3人は乾杯した。

 

 

 

夕飯を食べ終えた黒刀は映姫からルーミアがこの家に住む経緯を聞いていた。

 

「つまりルーミアは四季家の養子になったってことか。」

 

黒刀は映姫の説明を簡潔にまとめた。

 

「ええ。戸籍上の名前は四季瑠美亜。」

 

映姫がルーミアのプロフィールデータを空間ウインドウを展開して黒刀に見せる。

 

「いい名前だ。」

 

黒刀は素直に感心した。

一通りルーミアの説明を終えたところで映姫は両手を腰に当てた。

 

「それより黒刀、そのだらしなく伸びた髪は何ですか!」

 

映姫は軽く怒っていた。

 

「いや~自分で切るのは…」

 

「自分で切るのは…何ですか?」

 

黒刀が黙り込むが映姫は逃さない。

 

「めんどくさいな~って。」

 

黒刀がそう答えた瞬間、映姫のこめかみがピクッと震えた。

映姫は黒刀の両頬を左右から引っ張る。

 

「全く!あなたはよくもそんな短期間で堕落できるものですね~!」

 

「いや…だって姫姉に切ってもらうのが一番いいんだもん。」

 

黒刀がそう言った瞬間、映姫の動きが止まった。

直後、両頬を掴む手を離す。

その反動で黒刀の頬がパンッと音を立てた。

 

「あ、いって!」

 

黒刀が悲鳴を上げる。

映姫は顔を赤くしてそっぽを向く。

 

「全くしょうがないですね黒刀は。そこまで言うなら切ってあげます。」

 

ちなみにルーミアは終始爆笑していた。

 

 

 

庭に出て黒刀を木製の椅子に座らせると映姫は散髪用のハサミを持って来て黒刀の髪を上手に切っていく。

 

「全く男の子だからといって髪の毛をぞんざいに扱っていいというものではないのですよ。」

 

映姫は小言を言いながら髪を切っていく。

 

「うん。ごめん。」

 

黒刀は静止したまま謝る。

時刻は既に7時を回っている。

ルーミアは夜空を見上げながら縁側に腰かけて足をプラプラと揺らしている。

 

「くろにい、それ終わったら一緒にお風呂入ろうよ。」

 

「いいよ~。」

 

映姫が髪を切っている為、黒刀は目を閉じて応えた。

兄妹で入浴することは特に何の問題もない。

だから映姫も特に口を出さず黒刀の前髪を切っていたのだが…

 

「ねえ。姫姉も一緒に入ろうよ?」

 

ルーミアが爆弾を投下した。

 

「ふぇ?」

 

映姫は変な声を上げて顔を赤くする。

 

「私は一緒に入りません!」

 

「え~何で?」

 

「何でもです!」

 

映姫は断固拒否した。

 

「(ルーミア、姫姉の手が滑って変な髪型になったらどうするんだよ。)」

 

黒刀だけは違うことを考えていた。

 

「はい。終わりましたよ。」

 

映姫は調子を取り戻して散髪を終えた。

黒刀が立ち上がるとルーミアが手鏡を出してくれたのでそれを受け取って鏡の自分を見る。

黒刀の髪は以前と同じになっていて髪の長さは邪魔にならない絶妙の長さになっている。

 

「わあ~!くろにい、カッコイイ!」

 

ルーミアが素直に褒める。

 

「ありがとう。」

 

黒刀は微笑んでお礼を返す。

 

 

 

 

「くろにい、お風呂♪お風呂♪」

 

後片付けを終えるとルーミアが黒刀との入浴を待ちきれないようだった。

 

「分かった分かった。」

黒刀は苦笑しながら家の中に戻る。

 

 

 

 

「~♪~~♪」

 

ルーミアはお風呂で黒刀に髪を洗ってもらってご機嫌だった。

 

「流すぞ~目つぶれ。」

 

黒刀がシャワーでルーミアの髪につく泡を洗い流す。

ルーミアは子犬のようにプルプルと首を振る。

黒刀はスポンジを持つ。

 

「じゃ次は背中洗うな。」

 

「え~全身洗ってよ~くろにい~。」

 

ルーミアがおねだりする。

 

「ダメだ。自分で洗え。」

 

黒刀がジト目で断る。

 

「え~ケチ~!」

 

ルーミアが唇を尖らせる。

だが黒刀が背中を洗い出すと途端に気持ちよさそうな顔になった。

 

 

 

ルーミアの背中も洗い終わって黒刀が自分で体を洗おうとする。

 

「次は私が洗ってあげる♪」

 

「じゃ、頼む。」

 

黒刀は優しく微笑んでお願いする。

 

「任せて!」

 

ルーミアは笑顔で応える。

黒刀の髪を丁寧に洗って次に背中を洗うところで黒刀のお腹に手を回して抱きつく。

 

「どうした?」

 

黒刀の声に動揺はない。

 

「くろにい…私達ってほんとの兄妹って言えるのかな…」

 

ルーミアが弱音を吐く。

 

「ルーミア。」

 

黒刀はため息を吐いて名を呼ぶ。

ルーミアが顔を上げると黒刀はその額にコツンと軽くデコピン。

 

「あうっ!」

 

「大事なのは血の繋がりなんかじゃない。心の繋がりだ。それはぬえが教えてくれたことだろう?」

 

黒刀はルーミアを軽く叱った。

 

「うん…ごめんなさい。」

 

ルーミアは黒刀が首にぶら下げているペンダントに視線を移して謝る。

 

「ルーミア、背中を洗ってくれるか?」

 

黒刀はそれ以上叱ることなく再開を促した。

ルーミアは黒刀の背中から体を離す。

 

「うん♪」

 

そして、とびっきりの笑顔で応えた。

 

 

 

 午後9時。

映姫も入浴を終えてそろそろ寝ようと寝室に入ろうとした時に気づいた。

寝る時はどうするのかと。

その疑問は寝室に入った瞬間に解決されていた。

1つのベッドに黒刀が窓側、ルーミアがその隣、そして映姫の分のスペースは入り口側となっていた。

つまり川の字で寝るということである。

黒刀もルーミアも既に眠っている。

 

「全くこっちの気も知らないで。」

 

映姫は苦笑して布団の中に入る。

黒刀とルーミアは幸せそうに寝ている。

黒刀はルーミアは後ろからギュッと抱きしめて眠っている。

映姫もルーミアを正面から抱きしめる。

目を閉じて眠りに落ちていく。

 

 

 

 9月6日 月曜日 午前6時。

神光学園午前7時50分には教室で自分の席に座っていなければならない為、普通科高校より時間が早い。

だからといって遅刻は許されない。

生徒会長は朝早くから正門前で挨拶しているので遅刻をした者は厳罰が下されるだろう。

その生徒会長を姉に持つ黒刀は特に時間に注意しなければならない。

なので毎朝、早起きしている。

習慣にしてしまえばそれほど苦労はない。

ルーミアはまだ眠っている。

 

7時頃には映姫は学校に登校していた。

黒刀は朝食と朝練を済ませるとまだ家を出るには余裕があるのでプログラムを立ち上げてMADの調整を行っていた。

現代の学校では紙類の教科書はなく全てデータテキストで授業を行っている。

その為、デバイスと携帯端末以外はそれほど荷物が無い。

 

ルーミアの分の朝食と昼食を作ってから冷蔵庫に保存してメモを冷蔵庫に貼った。

戸締りをしてから愛用の黒いカラーリングのアンチグラビティバイクに乗って登校した。

 

 

 

その日の神光学園はいつも学校全体の空気が違った。

黒刀は何事かと思ったがその疑問は教室に入って解かれた。

アリスは仕事がオフだったらしく登校していた。

 

「聞いた?編入生が来るんだって。」

 

「へえ。」

 

黒刀はアリスの言葉に軽く返した。

 

「反応薄いですね。この私が必死に集めた情報だというのに。」

 

文が誇らしげに胸を張る。

黒刀は呆れた目で席に座る。

 

「しかも1年に1人、2年に2人と計3人ですよ!凄い偶然と思いませんか?」

 

「はいはい。」

 

黒刀は適当に流す。

 

「で、編入生は見たの?」

 

「いえ。女子ということ以外は何も。」

 

アリスの質問に文はそう返す。

 

「使えねえ。」

 

「何を~!」

 

黒刀の一言に文がムキになったところでタイミング良く本鈴が鳴る。

文はまだ言いたいことがあったがこのクラスの担任はにとりなので大人しく席に座る。

 

 

 

 

 同じ頃。

1年A組には既に編入生が教室に入っていた。

その編入生とは…

 

「霊烏路空です!お空って呼んで下さい!」

 

自己紹介したのは黒刀と同じザナドゥ出身のお空だった。

妖夢達は驚いて固まっている。

 

「あ、久しぶり~!」

 

お空は妖夢達を見つけると手を振った。

戦闘時では右手に装着型デバイスを着けているが今は着けていない。

 

「あら知り合い?」

 

慧音が訊く。

 

「はい!」

 

お空は笑顔で応える。

 

「大妖精さんと妖夢さん。後でお空さんに学校を案内してあげて下さい。」

 

慧音が2人にお願いする。

 

「「はい!」」

 

このクラスの委員長的な立場である大妖精は断ることが出来ず、人が良い妖夢は元気よく応えた。

ちなみに大妖精は保健委員である。

 

「お空さんは霊夢さんの後ろの席に座って下さい。」

 

慧音が霊夢の後ろの席を指差す。

後ろの席でニコニコ笑っているお空の存在に霊夢は居心地の悪さを感じていた。

 

 

 

一方、2年A組では…

 

「古明地さとりです。」

 

「…犬走椛です。」

 

2人の編入生が自己紹介していた。

黒刀はルーミアが引っ越してきたのでさとりが編入生として来る可能性は考慮していた。

だが椛が神光学園に来たことはさすがに予想外だった。

黒刀が起こした反応は口を開けて驚くではなく…

 

「椛~!久しぶりだな~!」

 

いつの間にか『抜き足』で椛の背後に回って抱きついて頭を撫で回す。

性格には耳に。

椛は肩をプルプルと震わせる。

 

「だから人の頭を勝手に撫でるなって言ってんだ狼牙!」

 

黒刀の手を振り払って掌底を叩き込む。

だが既に黒刀は椛から距離を取っていた。

 

「何だよ~少しぐらいモフらせてくれたっていいじゃんか。」

 

黒刀は不満を漏らす。

椛は黒刀を睨む。

 

「冗談じゃない!あんな屈辱二度とごめんよ!」

 

「その割には喜んでいたよう…」

 

「そ、そんなわけないでしょ!」

 

椛は黒刀が言い切る前に否定した。

そんな感じに言い合っていたその時。

黒刀の右腕にさとりが抱きついてきた。

 

「黒刀、私もいるよ。」

 

相変わらず気のない声で話しかけるさとり。

 

「さとり…今の『抜き足』だろ。誰に教わった?」

 

「洩矢諏訪子って人。」

 

さとりは当然のように答えた。

 

「(あのロリババア…余計なことを。)」

 

クラスメートはあの『蝦蟇王』洩矢諏訪子と知り合っていることに驚いていたが黒刀は心の中で毒を吐いていた。

さらにこの場でもう1人別の反応をする者がいた。

 

「ちょっと!いつまで黒刀に抱きついてるのよ!」

 

アリスが席から立ち上がってビシッとさとりを指差した。

 

「何か問題ある?」

 

さとりは首を傾げる。

 

「大ありよ!」

 

アリスは大声で返して電子黒板の前まで歩いてきた。

 

「だいたい、あなた黒刀と一体どんな関係でそんなことしてるのよ!」

 

アリスは怒りながらさとりに訊く。

 

「黒刀は私の婚約者。故にこの行為は許されるもの。」

 

さとりはポーカーフェイスで答える。

 

「げっ!」

 

黒刀が声を上げる。

 

『え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!』

 

クラスメートが全員が驚く。

 

「だからそれは5歳の時の話だろ。」

 

黒刀は抱きつかれた姿勢のまま遠回しに否定した。

さとりは首を横に振る。

 

「諏訪子が言ってた。男が一度交わした約束は絶対に守るべきだって。」

 

「(あのロリババア…ほんとロクなことしねえな!)」

 

黒刀はまた心の中で毒を吐く。

 

「婚約者…5歳…どういうこと?」

 

アリスは状況を理解できていなかった。

 

「あ~さとりは俺が生まれた時からの幼馴染なんだ。」

 

「なっ!」

 

アリスはショックを受けた。

今まで黒刀の幼馴染ポジションは自分だと思っていたらである。

しかし、さすがはトップアイドルというべきか立ち直りは早い。

 

「でもそれとこれとは話が別よ!」

 

アリスは黒刀に抱きついているさとりの腕を指差した。

 

すると、さとりがムッとした顔になった。

 

「そんなことあなたに指図される義理はない。」

 

「あるわよ!わたしだってこいつの幼馴染だもの!」

 

アリスは次に黒刀を指差した。

クラスメートは全員一斉にこう思った。

 

『(何この修羅場?)』

 

逆に黒刀はこう思っていた。

 

『(こんなところを姫姉に見られたら…殺される…)』

 

冷や汗が出始める。

考えた結果、取った判断は…

 

「とりあえずさとりはいい加減離れろ。アリス、さとりはただの幼馴染だ。」

 

ひとまず停戦状態にさせようとする。

 

「信じていいのね?」

 

アリスが疑いの目を向けてくる。

 

「ああ。」

 

黒刀が応えてようやく事態は収まったと思ったその時。

 

「ふ~ん。それなら証拠を見せてあげる。」

 

さとりが黒刀の頬にキスをした。

クラスメートの男性陣は嘆き、女性陣は、きゃ~!、と興奮した歓喜の悲鳴を上げる。

文はカメラにおさめ、にとりと椛は呆れている。

アリスは当然激怒していた。

 

 

 

黒刀の波乱の日々はまだまだ続きそうだ。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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世界

OP8 遊戯王GX 99%



 9月6日 午前8時 第2体育館。

黒刀を巡ったさとりとアリスの喧嘩もにとりが仲裁に入ることでなんとか一時休戦ということとなった。

この日は珍しく黒刀がA組の実習に参加していた。

その理由は椛という練習相手が出来たからだ。

 黒刀は汎用型SDを右手で使って模擬戦を行っている。

椛は黒刀が汎用型SDを使っていることもそれを右手で使っていることをそれほど気にしていない。

黒刀の高速連続剣撃を椛が『千里眼』で見切って上手くガードして反撃にお得意のカウンターの突きを放つ。

黒刀は楽しそうに口元を緩ませながらそれをSDで軽く弾く。

これだけの攻防だけでも2人の実力が周囲と離れていることは一目瞭然である。

 黒刀が今まで実習に参加しなかった理由はただ1つ。

相手がいなかったから。

椛が編入してくるまで映姫を除いた2,3年生で黒刀と互角以上に闘える生徒はいない。

 黒刀と椛の攻防が激しくなってきたところで制限時間のタイムリミットを告げるブザーが鳴り響く。

 

「はい。次!」

 

声を張り上げるのは実習担当教師の勇儀。

黒刀と椛は体育館の端に移動して腰かける。

 

「やっぱ椛が相手だとちょうどいいな。」

 

「汗1つかいてないくせによくそんな嫌味が言えるわね。」

 

椛はため息を吐いて言い返した。

 

「この程度でバテていられないさ。」

 

黒刀はそう言い返す。

 ちなみにさとりは早くもクラスメートから人気を集めていた。

男子は遠巻きに眺めていることしかできていないが女子はさとりを囲んで談笑していた。

さとりに友達が出来たことに黒刀は素直に嬉しかった。

 

「嬉しそうね。」

 

それが顔に出ていたのか横から椛に言われる。

 

「まあな。」

 

 

 

 

 

 一方、妖夢達1年A組も第一体育館で実習を行っていた。

内容は20m離れた的に遠距離攻撃を命中させること。

 

「よし!絶好調だぜ!」

 

ガッツポーズを取っているのはここまで全弾命中の魔理沙。

 

「よ~し!私もやるぞ!」

 

それに対抗心を燃やしたお空が前に出る。

 

「ようは全部撃ち落とせばいいんでしょ?だったら…武装!」

 

お空が詠唱すると右腕が光って装着型MADが装着された。

先端には砲口が取り付けられている。

それを目にした妖夢達は嫌な予感がした。

 

「ちょっとお空さん。さすがにそれは」

 

妖夢が制止しようとするがお空は既に発射態勢に入っていた。

 

「カオスブラスター!」

 

砲口から黒い光線が放たれる。

幸いこのMADにはセーフティーがかけられているので威力はザナドゥ王国の時より抑えられているがそれでも体育館の壁に大きな穴を空ける程の威力はあった。

お空の放った砲撃で的は全滅。

さらに体育館の壁に直径5mの穴を空ける結果となってしまった。

 

「よし!」

 

お空がガッツポーズを取る。

 

「よし!じゃねえよ!」

 

すかさず魔理沙がお空の後頭部を叩いてツッコむ。

 

「あはは…。」

 

妖夢は苦笑いするしかなかった。

この日、勇儀の代理で1年の実習を担当していた教師は驚愕のあまり絶句して開いた口が塞がらなかった。

 

「アハハ!お空バカだな~!」

 

チルノは爆笑していた。

 

「チルノちゃんも似たようなもんだよ。」

 

大妖精がため息を吐く。

 

「え、マジで!」

 

チルノがバッと振り向いて驚く。

 

「自覚ないんだ。」

 

大妖精はもう一度ため息を吐いた。

結局、お空と何故か付き添いで大妖精が説教を受ける羽目になった。

 

 

 

 

 

 放課後。

黒刀は編入生のさとりと椛に校内を案内する役目をにとりから押し付けられ仕方なく校内を歩き回りながら2人に案内していた。

その途中で黒刀達は同じようにお空に校内を案内している妖夢と大妖精にバッタリ会った。

 

「あ、先輩。先輩もですか?」

 

妖夢が黒刀の背後についてきているさとりと椛に視線を向けながら言った。

ちなみにさとり、お空、椛が編入してきたことは昼休みの段階で全校生徒に伝わっている為、妖夢も椛達が編入してきたことは既に把握済みである。

 

「まあな。」

 

黒刀が短く答える。

 

「黒刀だ~!久しぶり~!」

 

お空が黒刀に抱きつく。

黒刀にとってお空は妹分みたいなものだ。

 

「お空、皆見てるから。」

 

しかし、ここは学校なのでそう言い聞かせる。

 

「は~い!」

 

お空は笑顔で黒刀から離れる。

 

「(さとりの時は全然止めなかったのにな。)」

 

椛は白けた目で心の中で文句をつけるが自分が言っても仕方のないことなので黙ることにした。

黒刀は椛の視線の気づいていたがあえてそこには触れず振り返る。

 

「それじゃもう大体校内は案内したから俺は図書塔に行ってくる。」

 

「図書塔?」

 

椛が首を傾げる。

図書塔の存在についてではなく何故黒刀が図書塔に寄るのかということに疑問を抱いたのだ。

黒刀はすぐにその疑問に答えた。

 

「これでも図書委員だからな。」

 

「じゃあ私も。」

 

お空がついていこうとする。

 

「ダメですよ。忘れたんですか?今日は大事な用があるって。」

 

大妖精がお空に囁いた。

 

「や、やっぱいいや。」

 

お空は思い出して撤回した。

 

「じゃあ行ってくる。」

 

黒刀はこのまま自分がここに留まっていては邪魔のような気がしたのでその場を去った。

 

 

 

 

 

「お空、大事な用って何?」

 

黒刀の姿が見えなくなったことを確認してからさとりが訊いた。

お空の代わりに妖夢が答える。

 

「今日は先輩の誕生日なんですよ。だから師匠…会長に相談して先輩の家でバースデーパーティーをしようってことになってその準備をしないといけないんですよ。」

 

「それ私もやる。」

 

さとりが参加を申し出る。

 

「まあ、あいつには色々と世話になってるし私も手伝うよ。」

 

椛も頭を掻きながら手伝いに名乗り出た。

 

「助かります!」

 

妖夢が感謝の言葉を返す。

 

「私は先輩がパーティーの準備中に帰ってこないように時間を稼がないといけないのでここで失礼します。詳しい説明は大妖精から聞いて下さい!」

 

妖夢はそう大声で言い残して走り去って行った。

 

 

 

 

 

 午後3時30分。

黒刀の背中はすぐ見つかった。

黒刀は図書塔に続く並木道を歩いていた。

妖夢は木に隠れながら後を追っている。

黒刀が図書塔に辿り着いて中に入っていく。

妖夢も少ししてから中に入る。

歩いて中を進み扉が音を立ててしまったその時。

 

「何コソコソしてんだ?」

 

妖夢の背後から声をかけられた。

 

「にょわっ!」

 

妖夢は変な声を上げて前のめりにこける。

 

「何やってんだよ…。」

 

黒刀は呆れながら手を差し伸べる。

 

「すみません。」

 

妖夢は黒刀の手を取って立ち上がる。

 

「ま、何でもいいけど。」

 

黒刀は妖夢の行動にそれ以上を口を出さなかった。

 

「やっと来た。」

 

図書塔の受付から声をかけてきたのは図書委員長の稗田阿求。

 

「遅くなってすみません。」

 

黒刀は社交辞令を入れて受付の席に座る。

 

「事情は事前に連絡を受けているので問題ないですよ。」

 

阿求はそう返す。

黒刀は受付に置いてある本を手に取る。

 

「あっきゅんはMADの調整はどのくらい出来るようになった?」

 

「黒刀程じゃないけど人並み以上には出来るよ。」

 

阿求は当然のように返す。

妖夢は受付前の椅子に腰かける。

 

「阿求先輩はエンジニアを目指しているのですか?」

 

「いや。私が目指しているのは大英図書館の館長だよ。」

 

阿求は首を横に振って答える。

 

「大英図書館ってイギリスにある大英図書館ですか?」

 

「そうだよ。」

 

阿求は同じ質問に嫌な顔せず答える。

 

「はあ~何だか凄くスケールが大きいですね。」

 

妖夢が感嘆した声を漏らす。

 

「夢は大きいに越したことはないからね。」

 

「そうですね。ところで先輩は先程から何を読んでいるのですか?」

 

妖夢が読書中の黒刀に訊く。

読書中であっても黒刀は会話することが出来る。

 

「ん?空間魔法理論の資料だよ。」

 

「空間魔法って確か二宮さんや学園長が使っている魔法ですよね?」

 

「ああ。俺の『カオスブレイカー』に空間魔法を組み合わせられないかなって考えてさ。」

 

黒刀の言葉に阿求が考え込む仕草をする。

 

「確かに『カオスブレイカー』がもしゼロ距離で飛んで来たら回避と防御の不可の斬撃になる。」

 

「今のままでも十分強力だと思いますけど。」

 

妖夢が苦笑する。

 

「妖夢。今のままでもという考えは成長を止めることになる。お前だって停滞したくないから姫姉に弟子入りしたんだろう。」

 

黒刀が妖夢の言葉を一部否定する。

 

「先輩、知っていたんですか?師匠に聞いたんですか?」

 

妖夢は驚いた。

最もここは図書塔なので大声を張り上げるなどとマナーの悪い行為はしない。

 

「見てれば分かる。」

 

黒刀が呆れ顔で返す。

妖夢は急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 

 

 

 

 午後5時30分。

閉門時間となって黒刀達は図書塔を後にする。

黒刀はバイクで阿求を家まで送ろうとする。

 

「1年の女の子を1人で帰らせるつもり?」

 

だが阿求にそう言われてしまったので妖夢を送ることにした。

しかし、妖夢にとってそれは誤算だった。

黒刀の自宅…正確には黒刀がオープンする予定の1階の喫茶店でパーティーを開く予定なのに妖夢が帰ってしまっては意味がない。

 

「あ、そういえば今日は師匠に修行をつけてもらうんでした。先輩、お願いします。」

 

後付けのような言い方に黒刀は首を傾げたが師弟の事情に口を出すべきではないと考え妖夢を後ろに乗せてアクセルを踏んだ。

 

 

 

 

 

 黒刀の自宅の駐車場に到着する。

 

「せっかくなので先輩がオープンする予定の喫茶店も見てみたいです。」

 

妖夢が黒刀を誘い込もうとする。

 

「いいよ。」

 

あまりの不自然なお願いに首を傾げたが特に断る必要も無いのでそう返した。

幸いなことに黒刀は『覇王の眼』を発動していなかった。

カードキーは黒刀が持っているのでキーをかざして中に入ったその瞬間。

証明がパッと点灯してクラッカー音が鳴り響いた。

 

『お誕生日おめでとう!』

 

祝いの言葉を届けたのは映姫、ルーミア、妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精、阿求、小町、さとり、お空、椛、にとり、紫、藍、勇儀、幽々子、慧音、永琳、文、ミスティア…そして黒刀の両親の桜と大和。

妖夢が横から笑顔で黒刀の顔を覗き込む。

 

「驚きましたか?」

 

「ああ…驚いたよ。」

 

黒刀は微笑んで素直に返した。

すると桜が黒刀の前に立つ。

 

「黒刀、おめでとう。」

 

そう言って花束をプレゼントする。

 

「ありがとう…母さん。」

 

黒刀は花束を受け取ってお礼を言う。

 

「さあ、主役は座ってて下さい♪」

 

妖夢が黒刀の背中を押してテーブル席に座らせる。

テーブルには既に豪華な料理が並べられていた。

 

「私達だけじゃないよ。」

 

ルーミアが黒刀の隣に座って携帯端末を取り出して空間ウインドウを展開する。

モニター通信を繋いだ相手はアリスともう1人…古明地こいしだった。

 

《黒刀、17歳のお誕生日おめでとう!》

 

2人同時に黒刀を祝った。

 

「何でこいしがアリスと一緒にいるんだ?」

 

《私、アイドルデビューしたんだ!それでアリス先輩とユニットを組んだの!》

 

こいしは笑顔で衝撃の事実を告白した。

その証拠に黒刀はグラスを持ったまま固まっている。

 

《ちょっと待って。PV見せるから》

 

端末を操作するこいしの言葉に黒刀はようやくフリーズから解放された。

 

《これが今の私だよ》

 

モニター通信とは別に空間ウインドウが展開される。

PVにはこいしがソロで歌っている姿が映っていた。

曲名は『Dark Oblivon』(戦姫絶唱シンフォギアGより)。

アリスが映っていないということはユニットを組む前の映像なのだろう。

 

《ユニット名は…ハートフルマリオネットよ》

 

アリスが補足した。

本来ならばオフだったはずなのだが急な仕事が入り黒刀のバースデーパーティーに行けなくなってしまったのである。

 PVが終わったのでこいしはその空間ウインドウを閉じる。

 

《それじゃ私達はまだ仕事があるからこれで。黒刀、お誕生日おめでとう》

 

もう一度祝いの言葉を告げてからこいしはモニター通信を切った。

 

黒刀は嬉しかった。

精神喪失状態だったこいしの笑顔が見られたことに。

 

それからは皆で食べて飲んで歌って騒いだ。

防音魔法をかけていたので近所迷惑にはなっていない。

黒刀はカウンター席に移動して焼酎をグラスで飲んでいる大和の隣に座る。

 

「父さん。」

 

「黒刀か。」

 

大和は酒に強いので全く酔っていない。

黒刀はグラスのお茶を一口を飲んでからテーブルに置く。

 

「俺、きっと父さんを超えてみせるから。」

 

「そう簡単に超えられる壁じゃないぞ。」

 

「ああ。分かってる。」

 

黒刀がそう返したその時。

 

「くろにい!こっち来て!」

 

ルーミアに呼ばれた。

 

「今いくよ。」

 

黒刀がカウンター席を離れてテーブル席に戻る。

大和が再び飲もうとしたところで中身が空になっていることに気づいた。

すると横から桜がお酌してくれた。

 

「ありがとう。」

 

大和がお礼を言って桜が隣に座る。

 

「あの子、成長したわね。」

 

「父親とは複雑なものだな。親を超えるのが子。しかし超えられたくないという親のプライドもある。」

 

大和は焼酎を飲む。

 

「黒刀のことなら何も心配いらないわ。だって映姫がついているもの。」

 

桜は映姫に視線を向ける。

その視線の先では映姫が騒ぎ過ぎた連中に注意していた。

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。」

 

黒刀が思い出したようにポケットからラッピングされた小箱を取り出した。

 

「チルノ、ちょっと早いけど誕生日プレゼント。」

 

チルノにそれを渡した。

ちなみにチルノの誕生日は9月9日。

 

「わあ~何だろう!」

 

チルノはワクワクした気持ちで小箱を開けた。

中に入っていたのは雪の結晶のキーホルダー。

 

「綺麗…。」

 

チルノは思わず声を漏らす。

黒刀は優しい目で微笑む。

 

「喜んでもらえたなら何よりだ。」

 

「ねえ。ゲームしよ。」

 

さとりが唐突に言い出した。

 

「何やるんだ?」

 

「ん~王様ゲーム。」

 

「「それだけは勘弁して!!」」

 

霊夢と魔理沙が大声で拒否した。

 

 

 

 

 

パーティーもお開きとなり皆で片づけをしてそれぞれ帰宅していく。

時計の針は10時を回っている。

黒刀とルーミアが一緒に入浴してその後に映姫が入浴して3人で仲良く就寝する。

 

 …今日は最高の誕生日になったな…

 

 

 

 

 

 9月7日。

放課後に黒刀は学園長室に呼び出された。

だが黒刀には心当たりがない。

学園長室の電動ドアを開けて中に入ると既に紫、藍、にとりの他に妖夢、霊夢、魔理沙、チルノが集まっていた。

 

「来たわね。」

 

紫が口を開く。

 

「何の集まりですかこれ?」

 

黒刀が訝しげな目をする。

紫の代わりににとりが答える。

 

「そうか…お前は去年参加していなかったからな。」

 

空間ウインドウを展開して1つのデータを黒刀達に見せた。

 

「「「「ワールドデュエルカップ………ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」

 

1年生4人が驚いて声を上げる。

 

「そう。世界の15歳以上18歳以下で各国16名のチームを組んで世界一の国を決める大会だ。」

 

にとりが説明する。

 

「私達がテレビで見ていたあの大会に出れるなんて…」

 

魔理沙が言葉を発する。

 

「夢みたいです!」

 

妖夢がキラキラした目で感激する。

 

「フフフ…世界一の高校生を決める大会…つまりあたいが最強への一歩前進となる…

燃えてきた~!」

 

「いやあんたは燃えちゃダメでしょ。」

 

闘志に燃えるチルノに霊夢がすかさず冷静にツッコむ。

そんな1年生4人がやる気満々の中で黒刀は意外な答えを口にする。

 

「そうか。なら俺はパスだ。」

 

「え?」

 

妖夢が虚を突かれた顔をする。

 

「先輩、どういうことですか?何故出ないんですか?」

 

妖夢は疑問をぶつける。

 

「興味がないから。それだけだ。」

 

黒刀は冷めた返答。

完全に場が白けてしまったところで紫がため息を吐く。

 

「そう言うと思ってこちらも考えておいたわ。入って。」

 

電動ドアが開いて姿を現したのはなんと映姫だった。

 

「おいおい…まさか…」

 

黒刀が呟く。

 

「ワールドデュエルカップ。通称WDCは予選ダブルス2回とシングルス3回。本選はシングルス、ダブルス、シングルス、ダブルス、シングルスの順に1試合7人で行われる。黒刀、お前とダブルスを組んで最も相性がいいのは姉である四季映姫しかいない。」

 

にとりがそう口にする。

黒刀は苦笑い。

 

「否定はしないがこれははっきり言って反則級だろ。」

 

「師匠、公式戦に出るんですか!」

 

妖夢は嬉しそうに喜んだ。

 

「ええ。初の公式戦です。」

 

映姫が笑顔で返す。

映姫の参加を表明した後でも黒刀はまだ参加することに踏み切れなかった。

僅かな表情の変化を感じ取った映姫はため息を吐く。

 

「にとり先生、あれを見せてあげて下さい。」

 

「ああ!確かにあれを見たら黒刀も出ざるを得ないな。」

 

にとりが思い出したように空間ウインドウを展開して表示されたのはWDCの出場選手の公式発表のページだった。

出場選手のリストは各国が選抜する度に更新されていく。

いち早く公式発表されたのがイギリス。

そのメンバーの中にあったのだ。

レミリア・スカーレットの名が。

その名を目にした黒刀は目を見開いた。

 

「あ。フランちゃんも出るみたいですよ。」

 

横でそう言っている妖夢の言葉も今の黒刀には聞こえない。

黒刀の頭の中にあるのはただ1つ。

 

 レミリアと闘える!

 

黒刀は落ち着かせるように深呼吸してから全員の顔を見渡す。

 

「全く卑怯にも程がある。」

 

黒刀の観念した言葉に紫とにとりは安堵して、妖夢とチルノはハイタッチを交わして、映姫は優しく微笑んだ。

 

彼らの新たな闘いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 一世紀前まで194あった国家も第3次世界大戦を終えた現代では様々な国家が統合されて国家の数は23ヶ国となっている。

 

 

 

 

 

 インド。

巨大な仏像の前で瞑想している坊主頭の少年がいた。

ゴーンと鐘が鳴るとその少年は目をゆっくりと開けて立ち上がった。

 

「さて…修行の時間だ。」

 

独り言を呟く少年の名はガンジー・コウ(18歳)。

WDCインド代表の選手で主将である。

穏やかそうな風貌の裏には只者でない威圧感が潜んでいる。

 

 

 

 

 

 韓国。

現在の韓国は旧北朝鮮や旧中国と統合した国家となっている。

北京の寺で刀剣、棒、槍、薙刀などを素振りしている者がおよそ2000人いる。

その中で別格のオーラを持つ男が2人。

韓国代表のイ・サンとユンスク。

イ・サンは棒術を、ユンスクは剣術をそれぞれ高め合っている。

休憩に入ったところでユンスクがタオルで顔の汗を拭く。

 

「そういえばWDCには今年も日本が出るそうだ。」

 

ユンスクが雑談を始める。

 

「あの国は毎年アジア予選を抜けていますからね。今年こそ我が国が本選へ行きたいですね。」

 

雑談に応じるイ・サン。

 

「今年はあの四季黒刀が出るかもしれない。」

 

「それなら私の神器を使う時が来るかもしれませんね。」

 

「楽しみだな。」

 

「ええ。」

 

2人はそれから5分後に修行を再開した。

 

 

 

 

 

 カタール。

砂漠でサンドボード(砂地用のスケートボード)に乗って滑走している集団がいた。

 

「ひゃっほ~!一番乗りだぜ!」

 

声を上げているカタール代表のフランク。

 

「ハッ!後ろががら空きだぜ!」

 

鼻で笑ってフランクの背後から気力を込めた弾を放つのは同じくカタール代表のイヴォ。

フランクは砂を乗り上げて跳び上がると宙返りしてイヴォの妨害を躱す。

 

「はい!ざんね~ん!」

 

フランクは着地して独走し続ける。

その時。

突如目の前に砂の壁が立ち2人は押し返されて転倒した。

 

「それくらいにしておけ。」

 

そう声をかけるのは身長2mを誇るカタール代表のムハンマド。

ムハンマドという名前はイスラム教に伝えられる預言者の名前。

その名を受け継いでいるということはそれだけの実力を持っているということ。

 

「ひどいっすリーダー!人が楽しんでいる時に。」

 

文句を言うフランク。

 

「出発だ。飛行機の時間に遅れる。他のメンバーは空港に集合している。後はお前達だけだ。行くぞ。」

 

リーダーのムハンマドが2人に命令する。

 

「WDCか。相手と遊ぶにはちょうどいいじゃん。」

 

不敵な笑みを浮かべるイヴォ。

 

「ちげえよ。()()()遊ぶじゃなく()()()遊ぶんだよ。」

 

フランクが声を上げて笑う。

 

「いいからとっとと準備しろ。」

 

ムハンマドがこめかみをピクピクとさせる。

 

「「はいは~い!」」

 

2人は適当に返事して立ち上がると荷物を取りに行く為に自宅に戻る。

フランクとイヴォは高校1年生。

つまり今年から出場資格を得たことになる。

血の気の多い新入りにムハンマドは頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 エジプト連邦。

現在のエジプト連邦の領土はアフリカ大陸北部全土。

首都は変わらずカイロ。

 

「アヌビス様。出発の準備が整いました。」

 

高級ソファで寛いでいる褐色肌の少年に膝をついているのはエジプト代表のヤハラ・イド。

身長2mの長身にも関わらず自身より30㎝低い少年に膝をついている。

アヌビスと呼ばれた少年の首にはネックレス、指には指輪、手首にはブレスレットとアクセサリーが身に着けられていた。

 

「やれやれ。ようやくか…余は待ちくたびれたぞ。」

 

アヌビスは立ち上がる。

 

「申し訳ありません。メンバー全員の準備を整えることに時間をかけてしまいました。」

 

ヤハラは膝をついたまま頭を下げる。

 

「ヤハラ、顔を上げよ。」

 

ヤハラが言われた通りに顔を上げたその瞬間。

頬に平手打ちをされた。

ヤハラは平手打ちを受けても動じることなくアヌビスの顔を見上げていた。

アヌビスは不機嫌な表情を隠さない。

 

「二度と余に恥をかかせる真似をするな。」

 

ヤハラを見下して言い放った。

 

「立て。」

 

続けてそう命令するとヤハラは無言でスッと立ち上がる。

 

「行くぞ。」

 

「はい。」

 

ヤハラはアヌビスに続いて部屋を出る。

彼は従者の真似事をしているわけではなく本物の従者である。

何故ならアヌビス・ヘルメスはエジプト連邦の国王の息子…つまり王子でヤハラは代々王族の従者を務めている家系であるからだ。

 

 

 

 

 

 ロシア連邦。

レティ・ホワイトロックは夏休みが明けてからロシアに帰国していた。

WDCのロシア代表に選抜されていたから。

ロシアは魔法師優遇社会で魔法の優劣が全てが決まる国家となっている。

ちなみにレティはC級魔法師。

ランク的には普通の魔法師。

ロシア代表にはA級魔法師とB級魔法師がいる。

B級魔法師は世界に100人しかいない魔法師。

A級魔法師は世界にたった10人しかいない。

B級魔法師の名はザウル・マーカー。

A級魔法師の名はウルヴァリン・イリイチ・レーニン。通称レーニンJr。

ロシア連邦大統領レーニンの息子である。

ザウルとレーニンJrは高校生でありながら軍人でもある。

もちろん軍事機密である為、知る者は少ない。

灰色の髪の少年ザウルは、訓練室で射撃訓練している銀髪碧眼の少年レーニンJrを見ていた。

射撃訓練と言ってもただ的を撃つものではなくホログラムの敵を遮蔽物に隠れながら撃つというものだ。

ひと段落したところでザウルが訓練室の外から控えめに手を振った。

それを見たレーニンJrが訓練室から出てスポーツドリンクを飲んでタオルで汗を拭く。

 

「調子は良さそうだね。レン。」

 

ザウルが訓練データをレーニンJrに見せる。

ちなみにレンというのはレーニンJrの愛称。

 

「心配し過ぎだ。あの怪我から1年経っているんだぞ。」

 

「去年の借りは返す!」

 

レーニンJrの言葉を聞いたザウルから怒りが漏れ出す。

それは誰に向けたものなのか。

 

「それも大事だが大会を楽しむことも忘れないようにな。」

 

レーニンJrが歩き出して訓練室から離れていく。

ザウルはその後をついていく。

 

「今年のレンなら大丈夫さ。」

 

ザウルがもう一度レーニンJrの訓練データを見た。

結果はパーフェクトだった。

 

 

 

 

 

 アメリカ。

現在のアメリカの領土はアメリカ大陸全土。

WDCのアメリカ代表は全員士官学校の生徒である。

ロシアと違ってアメリカは魔法などの遠距離戦ではなく格闘術を用いた近距離戦を重視している。

 

士官学校の芝生で喧嘩が行われていた。

一方は20歳くらいの青年で、もう一方の少年は黒人スキンヘッドの身長2mでプロレスラーのような体格をしていた。

これ以上ないくらい分かりやすいアメリカ人の見た目をしている。

その少年、ボビー・コングはガムを噛んでいる。

 

「ボビー!訓練をサボるな!」

 

士官学校でボビーの先輩にあたる青年が怒って注意をしていた。

 

「はあ?別にそんなめんどくさいことしなくたって俺は強いんだから必要ねえよ!そういうのは弱い奴がやっていればいいんだよ!」

 

ボビーはガムを芝生に吐き捨てた。

 

「なんだと!」

 

青年が声を張り上げる。

 

「大体俺より弱いてめえに指図される義理はねえだろうがよ!」

 

ボビーは両手を横に広げて青年を侮辱した。

 

「ボビー~!」

 

青年は頭に血を上らせて叫びながらタックルを仕掛けた。

同じ士官学校のギャラリーは手を叩いたり煽ったり口笛を吹いたりして楽しんでいる。

青年のタックルはボビーに直撃することなく空振りした。

青年が消えたボビーを探そうと周囲を見渡そうとすると背後から強烈な気配を感じた。

振り返ったその瞬間、右手で頭を掴まれる。

アイアンクロー状態で床から浮かされる。

 

「ぐ…ああ…」

 

青年が苦痛の声を上げる。

青年の両手はボビーの右手を必死に引き剥がそうとしている。

 

「おいおい…この程度も抜けられないのかよ!ハハハ!やっぱりカスじゃねえか!ほらよ。」

 

ボビーが右手を離して青年の体が宙に浮いた一瞬にボビーの左手の拳が青年の腹に減り込む。

メキメキと骨が折れる鈍い音が響く。

 

「ガハッ!」

 

青年が苦痛の声を漏らす。

殴られた青年が芝生を転げ回る。

ギャラリーは誰1人彼を助けようとしない。

この士官学校は弱肉強食。

元々真面目な性格をしている青年を他の生徒はよく思っていなかった。

青年がうつ伏せに倒れて動かなくなったところでチャイムが鳴った。

 

「さ~てと今日はどの女とヤろうかな~!」

 

ボビーは高笑いして去って行った。

誰もいなくなって青年はうつ伏せのまま泣いていた。

体と服はボロボロで目からは涙は溢れて鼻水を垂らして唇を噛みしめて泣いていた。

 

「…ちくしょう…」

 

青年の悔しさのこもった声が小さく響く。

 

ボビー・コング(17歳)。

彼こそWDCアメリカ代表の選手である。

 

 

 

 

 

 イギリス。

 

「お兄様~!」

 

ある豪邸の廊下で誰かを探して呼びかける身長155㎝金髪ツインテール碧眼の少女。

彼女の名はマリー。アルハート(17歳)。

WDCイギリス代表の選手である。

 

マリーが探していた人物は庭にいた。

人口芝生のテラス。

そこで穏やかに紅茶を飲んでいる。

サラッとした金髪に碧眼で身長185㎝。

白シャツを着てラフな格好をしていても高貴な風格を隠せないその少年の名は

レオ・アルハート(18歳)。

彼もイギリス代表の選手であり主将である。

レオはマリーの声に気づいて首だけ振り向く。

 

「マリー、君も紅茶を飲むかい?」

 

ちなみに2人は実の兄妹である。

 

「もう…お兄様、また自分で用意してしまったのですね?そういうことはメイドかこのわたくしがやりますからお兄様は王族らしく座って待っていればいいのです。」

 

マリーがジト目になって説教っぽい口調で注意する。

それに対してレオは優しく微笑む。

 

「それじゃマリー、ちょうど飲み干したところだから紅茶を淹れてくれるかな?」

 

レオがそう言うとマリーが途端に喜びを隠しきれない笑顔に表情を変える。

 

「はい!喜んで♪」

 

 ティータイムを十分楽しんだ後でレオが話を切り出す。

 

「そういえばマリー、僕に何か用事があったんじゃないかい?」

 

するとマリーが急に立ち上がる。

 

「そうでした!わたくしとしたことがうっかり本題を忘れるところでしたわ!」

 

「それで何かあったのかい?」

 

レオはマリーを特に注意する訳でもなくむしろ面白そうな口振りで訊きなおした。

 

「お兄様!これを見て下さい!」

 

マリーが空間ウインドウを展開してWDC出場選手公式発表のリストを見せる。

 

「ここを見て下さい!」

 

マリーはリストの一点を指差した。

そこには四季黒刀の名が記されていた。

その名を目にしたレオの唇の端が緩む。

 

「そう。ついに出るんだね…彼が。」

 

嬉しそうに呟いた。

まるで何年も待っていたかのように。

マリーの反応はまた違った。

 

「そうです!この男は7年前ロンドンの紅茶大会でわたくしに敗北と言う名の屈辱を味合わせた男ですわ!」

 

マリーがハイテンションに言い放った。

ちなみにマリーが言った紅茶大会とは誰が一番上手く紅茶を淹れられるかを競う大会のことで当時10歳の黒刀はそこに飛び入りで参加して見事優勝してしまったのだ。

 

「フフフ…今度こそわたしくの紅茶が上だということを証明してみせますわ!」

 

マリーがそう宣言して天を指差した。

そんなマリーをレオは温かい目で見守る。

 

「(四季黒刀…ようやく君と剣を交える時が来たようだね。)」

 

その時。

来客を告げるチャイムが鳴った。

 

「レミリア一行が来たようですわね。」

 

「そういえば今日はミーティングの日だったね。」

 

レオは椅子から立ち上がって着替える為、自室へ向かった。

マリーは来客の出迎えに向かった。

 

 

 

 

 

 四季黒刀…早く君と闘いたい…

 

 

 

 

 

 日本。

日本時間午後7時にWDC全ての出場選手が決定した。

日本代表の選手は以下の16名。

 

四季黒刀

魂魄妖夢

四季映姫

博麗霊夢

霧雨魔理沙

チルノ

比那名居天子

東風谷早苗

二宮優

九条花蓮

六道仁

越山流星

五位堂光

白金真冬

七瀬愛美

藤原妹紅




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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白夜叉

OP8 遊戯王GX 99%


 黒刀は自宅のリビングでルーミアと一緒にサスペンスドラマを観ていた。

ルーミアは黒刀の股の間に腰かけている。

 

《もういい!殺人犯なんかと一緒にいられるか!部屋に戻る!》

 

「「あ、こいつ死んだな。」」

 

黒刀とルーミアは同時に白けた目。

その時。

黒刀の携帯端末にメールが送られてきた。

ドラマを楽しんでいる(?)ルーミアに見られないようにこっそり確認する。

送信者はにとり。

内容は以下の通り。

 

《第0部隊 神戸基地に出頭》

 

黒刀は携帯端末をポケットにしまうと立ち上がる。

 

「くろにい?」

 

ルーミアが不思議そうに黒刀を見上げる。

 

「ちょっと出かけてくる。」

 

黒刀はルーミアの頭を優しく撫でる。

ルーミアは気持ちよさそうな顔をする。

 

「姫姉、ルーミアを頼む。」

 

黒刀はキッチンで調理中の映姫に声をかける。

 

「ええ。気を付けて。」

 

映姫は心配そうな声。

 

「ああ。」

 

黒刀はリビングを出る。

奈良から神戸までは距離があるので紫に電話して空間魔法で送ってもらった。

足を着けばそこは高速空中機動戦艦『イーグル』のブリッジの中。

既ににとりもいた。

空間ウインドウが展開されて二宮総一郎大将が映る。

黒刀とにとりは即座に敬礼。

 

「揃ったな。貴官らには帝国領空に接近中のロシア軍を撃退してもらいたい。」

 

「撃退…ですか?」

 

黒刀が疑問を口にする。

 

「ああ。撃墜ではなく撃退だ。」

 

総一郎は繰り返した。

 

「理由をお聞きしても?」

 

「敵の中にはウルヴァリン・イリイチ・レーニンとザウル・マーカーが含まれていると報告を受けている。()()()()に彼らを消してしまうのは世界情勢に悪影響を与える。」

 

「(敵もそれを見越した上での実戦投入というわけか)…了解。これより任務を遂行します。」

 

黒刀は敬礼。

 

「武運を祈る。」

 

総一郎が敬礼して通信を切る。

 

「…にとり。」

 

「分かっている。『イーグル』発進!」

 

にとりは『イーグル』を発進させた。

 

 

 

 

 

 黒刀はブリッジを出る前ににとりに声をかける。

 

「戦闘空域に入ったら呼んでくれ。」

 

「ああ。」

 

にとりは短く応えた。

 

 

 

 

 

 黒刀は格納庫に入って自身のブレイドアーマーを見た。

 

「完成していたのか。これが…高機動型ブレイドアーマー『白夜叉』。」

 

そのブレイドアーマーはとにかく白かった。

黒を好む黒刀とは正反対と言っていいほど白かった。

純白というべきだろう。

格納庫に置いてある端末からデータを確認する。

 

「ビームライフル…ビームマグナム…ビームシールド…剣…なるほど元をSDではなく日本刀にしたのか。それと腰にレール砲…装備を減らして軽量化したのか…。」

 

黒刀は日本刀の『白夜叉』を握る。

ちなみに『八咫烏』はロッカールームに置いてきた。

 

「『白夜叉』セットアップ!」

 

黒刀の声に音声認識機能が作動してブレイドアーマーが転送されて黒刀に装着された。

黒刀は無言で動作チェックする。

ブレイドアーマーには大きく3種類に分類される。

スピード重視の高機動型。

火力重視の砲撃型。

バランス重視の汎用型。

黒刀にはやはり高機動型が合っている。

 

《黒刀、まもなく敵が来る。距離2000だ》

 

その時、にとりから艦内通信が入った。

 

「分かった。四季黒刀『白夜叉』出る!」

 

カタパルトに乗った黒刀は出撃した。

空に飛び出して一度減速した後『白夜叉』の背中の翼が開き加速する。

 

 

 

 

 

 ロシア軍側。

 

「何でこんな時に限ってしかもこんな少数で国境を超えなきゃいけないんだよ。」

 

ザウルがぼやく。

 

「上からの命令だ。仕方ない。」

 

レーニンJrが冷静に言い聞かせる。

 現代でブレイドアーマーを軍用化しているのは新大日本帝国のみ。

ロシア軍の空軍兵士はアンチグラビティシューズという反重力飛行を可能とするデバイスを足に装着して空中戦を行っている。

この技術はブレイドアーマーを所有しない各国でも軍用化されている。

レーニンJr達がそろそろ新大日本帝国の領空に侵入しようしていたその時。

 

「前方から高エネルギー反応探知!」

 

「散開!」

 

レーニンJrの階級は少尉。

指揮権はない。

この場は上官が指揮を執っている。

上官の中尉が散開を指示して隊員が散開した後にさっきまで自分達がいた場所を直径30㎝の赤黒い光線が通り過ぎる。

 

「くっ!」

 

レーニンJrは思わず声を漏らす。

全員戦闘用のヘルメットを装着している為、顔が露見することはない。

 

「敵は?」

 

ザウルが位置と数を省略して訊く。

 

「1…いやもう1つ大きい…これは戦艦です!」

 

別の隊員が慌てて声を張り上げる。

 

「1機と戦艦1隻…まさか…」

 

ザウルは呟く。

月を隠していた雲が風で流れていき彼らの前方を覆っていた雲の影が消えて目の前が月明かりで照らされていく。

姿を現したのは1隻の黒い戦艦と1機の純白のブレイドアーマー。

 

「熾天使(セラフィム)…」

 

1人の隊員が軍事国家でタブーとされているその名を思わず口にしてしまう。

 

「タチの悪い冗談だ!各自散開して包囲攻撃!」

 

隊長の中尉が命令を下す。

隊員達は我に返ってライフル型のMADを起動。

MADの銃口の先端から光線を発射する。

黒刀は上昇してそれを回避。

ロシア軍の兵士は続けて単発の空間魔法レーザーを発動。

黒刀はビームマグナムからビームライフル2丁に持ち替えて全ての空間魔法術式を撃ち抜いて破壊。

 

「術式破壊⁉」

 

ザウルが驚く。

 

「作戦変更!集中攻撃だ!」

 

『了解!』

 

隊員達は一ヶ所に集まって光線を一点に集中砲火。

黒刀は右手の甲を前に突き出してビームシールドを展開。

光線がビームシールドに直撃して爆発を引き起こす。

 

「これだけの魔力なら無事ではあるまい。」

 

中尉は撃墜を確信する。

だがその確信は次の瞬間に裏切られる。

爆発の煙が風で流されて現れた黒刀はブレイドアーマーも含めて無傷だった。

 

「バカな…奴は一体どれ程のオーラを保有しているというのだ…」

 

中尉は驚愕のあまり声を漏らす。

この中尉は良くも悪くも判断の早い軍人だった。

 

「撤退だ!」

 

中尉の命令を受けて隊員達は後退していく。

レーニンJrは撤退しながら背後を振り返る。

純白の熾天使が追って来る様子はない。

 

「(セラフィム…君は一体何者なんだ?)」

 

年齢、性別一切不明。

一説には人ではなく人工知能で動いているのではないかと噂されている。

そう思わざる得ない程セラフィムの戦闘は無慈悲だった。

 

 

 

 

 

 四季黒刀とウルヴァリン・イリイチ・レーニン。

後にこの2人が再びを銃を交えることになることはこの時誰も予想していなかった。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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WDC

OP8 遊戯王GX 99%


 9月10日 午前6時。羽田空港ゲート前。

WDCは予選と本選に分かれて行われる。

アジアの日本はアジア予選リーグを勝ち抜けなければいけない。

アジア予選の会場は毎年フィリピンで行われる。

現代のフィリピンはインドネシアと統合している。

今日はWDC日本代表がフィリピンへ出発する日。

 

「本当に私が監督でいいんですか?」

 

河城にとりの不安げな声。

 

「いいのいいの。神光学園を剣舞祭優勝に導いたにとり先生の方が適任だから。」

 

楽しそうに返す洩矢諏訪子。

 WDCには選手の他に監督1名、アシスタントコーチ1名、アシスタント4名をチームに加入できる。

監督はにとり、アシスタントコーチは諏訪子、アシスタントは大妖精、稗田阿求、雪村氷牙、丸山千歳の4名。

大妖精は選手のケア、阿求と丸山はデバイス調整、雪村は情報収集を担当している。

 飛行機の時間までゲート前で待っていた日本代表一同の中で妖夢はワクワクした気持ちが抑えられず音楽のリズムに乗るように体を上下に揺らしていた。

 

「いよいよですね先輩!」

 

妖夢は隣で眠そうにしている黒刀に声をかける。

 

「ん?ああ…そうだな。」

 

黒刀は生返事。

朝早いので妖夢も黒刀の適当な返事に機嫌を悪くすることはしない。

 

「先輩は去年も代表に選抜されたんですよね?」

 

「ああ。」

 

「どうして出なかったんですか?」

 

「興味ないから。」

 

「え~もったいない。」

 

妖夢は黒刀との会話を楽しむ。

 

「今回出るのはやっぱりレミリアさんが出るからですか?」

 

その名を聞いて黒刀の眠気が少し覚めた。

 

「…7年前、あいつと賭けをしたんだ。」

 

「賭け?」

 

妖夢が可愛らしく首を傾げる。

 

「負けた方が勝った奴の言うことを何でも聞くってやつ。7年前にその賭けをして直接対決するはずだったんだけど邪魔が入って闘えなかった。それ以来あいつと闘っていない。」

 

「ではその賭けの為に?」

 

妖夢の問いに黒刀は首を横に振る。

 

「確かにそれもあるが重要なのはそこじゃない。俺は…いや俺達は単純に決着をつけたいんだ。どちらが強いかを…少なくとも俺はレミリアを唯一無二のライバルだと思っているから。」

 

黒刀が普段なら口にしない言葉を妖夢に聞かせる。

妖夢は黒刀は決着をつけたいと言った時『王』として決着をつけたいのだと思っていた。

しかしそれは間違いだった。

黒刀は『王』としてではなく1人の剣士としてレミリアに勝ちたいのだ。

 

「その為にはアジア予選を突破しないといけませんね。イギリス代表はWDCで毎年優勝している強豪ですからヨーロッパ予選も突破してくるでしょうし。」

 

「そうだな。負ける訳にはいかないな。」

 

「はい!」

 

黒刀の微笑みに妖夢は強い返事で応えた。

 

 

 

 

 

 飛行機の時間がきて全員が飛行機に搭乗した。

 

「それで…何でこの子がここにいるの?」

 

霊夢が指す『この子』とは黒刀の隣に座っているルーミアのこと。

 

「しょうがないだろ。家に置いていく訳にはいかないし。」

 

霊夢の疑問に黒刀が答える。

三列前の席からルーミアを見る愛美が当然の疑問を口にする。

 

「黒刀にあんな妹いたっけ?」

 

「(可愛い…)」

 

花蓮に至っては心の中でときめいていた。

 妖夢はWDCとは別の理由でワクワクしている。

 

「飛行機に乗るのって生まれて初めてなんですよね!」

 

「俺は何回も乗ってるからよく分からん。」

 

妖夢の前の席に座っている黒刀が感動を台無しにすることを口にする。

すると通路を挟んで黒刀の隣の席に座っている早苗が身を乗り出す。

 

「何を言っているんですかセンパイ!初めての気持ちは大事なんですよ!ほら思い出して下さい!私とのファーストキスを!」

 

「何でだよ!今関係ないだろ!」

 

黒刀がすかさずツッコむ。

彼の座席は左窓際で左から映姫、ルーミア、黒刀の順に座っている。

通路を挟んで早苗、その隣に天子がアイマスクを着けて座っている。

その天子の隣に真冬が座っている。

 

「そうです!大事なのは愛です!」

 

その真冬が会話に割り込んできた。

 

「いや…そういう問題じゃなくて…」

 

黒刀が制止しようとする。

反対側を向いて映姫に助けを求めようとするがそっぽを向いて助ける気が無い。

結局CAが注意を呼び掛けて早苗と真冬の喧嘩は収まった。

そして、ついに飛行機が離陸した。

妖夢の目は終始キラキラしていた。

 

 

 

 

 

 3時間後。

日本代表を乗せる飛行機は無事フィリピンの空港に到着した。

 

「さあ、センパイ!早くホテルのチェックインを済ませてフィリピンの海へ遊びに行きましょう!」

 

早苗が黒刀の右腕に抱きつく。

 

「何を言っているんですか!私と遊びに行くんですよね黒刀君?」

 

すると真冬も黒刀の左腕に抱きつく。

 

「くろにい!私も遊びたい!」

 

さらにルーミアが黒刀の背後から肩に乗ってきて肩車状態。

 

「お前ら、少しは歩かせろ!」

 

黒刀達がそんな感じに騒いでいる光景を遠巻きに呆れながら見ていたにとり。

 

「あいつら何しに来たんだ…。」

 

 

 

 

 

 日本代表の男子選手はたった4人しかいない。

部屋割りは黒刀&優、仁&流星となった。

ちなみに早苗は黒刀と離れてしまったことにしばらく嘆いていた。

黒刀は夜風に当たりに行く為に部屋を出ようとする。

 

「黒刀。」

 

すると優に呼び止められる。

 

「何だ?」

 

黒刀が振り返る。

優がベッドから立ち上がって黒刀の正面に立つ。

 

「日本に帰ってきてお前がどれだけ強くなったのか俺は知らない。だが俺はもう一度お前と闘いそして勝つ!だからそれまで負けるんじゃねえぞ。」

 

「ああ。当然だ。」

 

黒刀はドアの方へ向き直って部屋を出る前にそう言い残して行った。

 

 

 

 

 

 黒刀がホテルの屋上に出ると先客がいた。

映姫だった。

屋上の手すりに手を置いて夜景を眺めている。

 

「姫姉。」

 

黒刀が声をかけると映姫が振り向く。

 

「来ると分かっていましたよ。」

 

その一言に黒刀は疑問を感じない。

 

「姫姉には敵わないな。」

 

映姫の隣に立って一緒に夜景を眺める。

 

「はい。」

 

映姫が200㎖の牛乳パックを差し出す。

 

「ありがとう。」

 

黒刀はお礼を言って受け取る。

 

「どういたしまして。」

 

それから2人は言葉を交わさず夜景を眺めていた。

 

「黒刀と一緒に闘うのは師匠の修行以来ですね。」

 

映姫が口を開く。

 

「そうだな…久しぶりだからってヘマするなよ。」

 

黒刀は映姫に拳を突き出す。

 

「そっちこそ。」

 

映姫も拳を突き出してグータッチを交わす。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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シンクロ

OP8 遊戯王GX 99%


 9月11日 午前10時。

WDCアジア予選リーグ。

初戦の相手はインド。

試合はスタジアムで行われる。

試合のない選手は控室に待機しながらモニターウインドウで試合を観る。

 

「チームメイトの応援が届かないのはちょっと寂しいですね。」

 

控室に向かう途中の廊下を黒刀と歩きながら話す妖夢。

他のメンバーは既に控室に集まっている。

 

「仕方ないさ。国によっては野次を飛ばす奴もいるからな。選手が試合に集中するにはそういった配慮も必要だ。なんせ世界最大の大会なんだからな。」

 

そう説明口調で答える黒刀。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

控室では雪村が空間ウインドウを操作しながら作戦会議を指揮している。

 

「インド代表の中でも特に厄介な相手がこの3人です。」

 

画面が切り替わる。

 

「(全員坊主だな。)」

 

インド代表の選手を見た黒刀は関係ないことを考えていた。

それを察した映姫が肘で黒刀の脇腹を軽く小突く。

黒刀少しのけ反らせたがすぐ映姫にアイコンタクトで謝罪した。

そんなやり取りが行われているとは露知らず、雪村は作戦会議を続けている。

 

「まずダブルスのアルファとオメガ。彼らは一卵性の双子でコンビネーションも全く隙がありません。」

 

画面に映し出されたアルファとオメガの見た目は全く同じ。

肌の色は黒、髪型は髪1本ない坊主頭、身長は170㎝後半、デュエルジャケット…というより普段から修行僧のような恰好をしている。

 

「うわ…ほんとに見分けつかないわね…」

 

愛美が苦い顔をする。

 

「アルファが槍、オメガが曲刀を使用しています。それで判断するのがいいでしょう。

 

雪村が話を続ける。

空間ウインドウを操作して次の画面に切り替える。

 

「ガンジー・コウ。インドでは神童と呼ばれていて、彼が所属する修行寺の階級は師範代。18歳にして卓越した拳闘術を持っています。」

 

雪村の説明がそこで終わる。

ガンジー・コウの見た目は肌の色と髪型が先程の2人と同じ。

身長は185㎝、瞳の色は黄色でまるで悟りを開いたのではないかと思わせる印象を抱かせる。

雪村が空間ウインドウを閉じて、にとりが前に出る。

 

「インド戦のメンバーは、ダブルス2が四季黒刀と四季映姫、ダブルス1が東風谷早苗と白金真冬、シングルス3が二宮優、シングルス2が比那名居天子、シングルス1が五位堂光でいく。」

 

「「ちょっと待ってください!」」

 

にとりが試合に出場するメンバーを発表すると早苗と真冬が前に出てきた。

 

「何だ?」

 

にとりが訝しげに問う。

 

「黒刀君が姫姉と組むのは分かります。しかし私がこの女と組む理由が分かりません!」

 

真冬がにとりの人選に異議を申し立てる。

 

「そうです!何故私がこんな女と仲良く闘わなきゃいけないんですか!」

 

早苗も声を荒げたその時。

 

「いい加減にしろ。」

 

後ろの方から冷たく叱咤する声が響いた。

声の主は黒刀だった。

皆の視線が黒刀に集まる。

 

「お前達は何故ここにいるのかも忘れたのか?それは俺達が日本代表だからだ。俺達は国を背負ってここまで来ているんだ。個人同士の勝手な意地の張り合いをするなら今すぐ国へ帰れ。それが嫌ならお前達を信用して選んだにとりの指示に従え。」

 

黒刀は厳しい言葉を2人にぶつけた。

その言葉を受けた2人は自分達の間違いに気づいてにとりの方へ向き直る。

 

「やります!いえ…やらせてください!」

 

「私もです!必ず勝ちます!」

 

早苗の言葉に真冬も続く。

にとりは頷いて2人の決意を受け止める。

「よし。試合開始は30分後だ。それまでしっかり準備しておくように。」

 

にとりが指示を飛ばした。

 

 

 

 

 

 試合前に黒刀は少し散歩することにした。

黒刀がまた迷子になるのではないかと心配になった映姫が一緒についていく。

 

「心配性だな~姫姉は。」

 

「姉が弟の心配をするのは当然です!」

 

黒刀の軽い口調に映姫は頬を赤くしてそっぽを向く。

そんな映姫の可愛らしい反応を黒刀は穏やかな目で見ていた。

 

 

 

 

 

 インド代表控室。

空間ウインドウに映し出されているのは四季黒刀と二宮優。

 

「この2人は強敵ですね。特にこの四季黒刀という男…底が知れません。」

 

アルファがそう口にする。

 

「こっちの二宮優という男も侮れませんよ。」

 

オメガが空間ウインドウに映し出されている二宮優を指差す。

 

「如何なさいますか?師範代。」

 

代表メンバーの1人であるプロトンがガンジー・コウに指示を仰ぐ。

ガンジーは瞑想状態からゆっくりと目を開ける。

 

「確かにあちらは強敵です。しかし我々は仏の導きの元に我々の闘いをするのみです。メンバーはいつも通りでいきます。」

 

ガンジーが合掌すると他のメンバーも合掌し始める。

これが世界最大の仏教発展国インドの姿である。

 

 

 

 

 

 試合開始5分前となり、ダブルス2の黒刀と映姫は入場ゲート前で待機している。

 

「いよいよだね…姫姉。」

 

黒刀が映姫の手を握る。

 

「何がそんなに嬉しいの?」

 

映姫が正面を向いたまま訊ねる。

 

「そりゃ姫姉のデビュー戦で一緒に闘えるなんて嬉しいどころか幸せだよ…俺は。」

 

「全く…よくもまあ恥ずかしげもなくそういうことを口に出せますね。」

 

映姫が呆れる。

 

「姫姉だから言えるんだよ。」

 

黒刀の返答に映姫がジト目で見つめる。

 

「それより…いつまで手を握っているんですか?」

 

「え~試合中もこうしていようよ~」

 

「そんな恥ずかしいこと出来る訳ないでしょ!」

 

映姫は黒刀の手をバッと振り解いた。

黒刀が名残惜しそうな顔をしたところで選手入場のブザーが鳴り響く。

黒刀と映姫、アルファとオメガの4人が同時にフィールドに入場する。

 

「直に見ても本当にそっくりですね。気を引き締めますよ黒刀…。って黒刀?」

 

映姫が黒刀の返事がないので横に視線を移すと、黒刀が観客席に対して両手を広げて振っていた。

 

「って黒刀!」

 

映姫が強めの口調で呼ぶ。

黒刀の顔は緩んでデレデレだった。

その理由は観客席の最前列でルーミアが元気に手を振っていたから。

 

「全く気を引き締めるどころか緩みまくりですよ!」

 

 そのやり取りを見ていたアルファとオメガ。

 

「四季黒刀…このような者が本当に我々の脅威に値する実力を持つのでしょうか?」

 

「どても…そうは見えませんね…」

 

2人は黒刀を疑わしき目で見てそう口にした。

 

 

 

 

 

 黒刀と映姫のやり取りを控室からモニターウインドウで見ていたにとりは呆れていた。

 

「(何をやっているんだあの姉弟は…)」

 

 

 

 

 

 思う存分ルーミアとのコミュニケーションを取った黒刀はようやく正面を向く。

 

「さて…」

 

デュエルジャケットを装着して汎用型SDを取り出す。

トリガーを押すと先端からビームブレードが伸びる。

右手持ちで。

それを見たオメガが訝しげな目をする。

 

「ん?おかしいですね。確かあなたは日本刀の左利きだったはず。」

 

「ウォーミングアップだよ。」

 

オメガの問いに黒刀がそう返した。

お互いに名前を知っているので自己紹介はしない。

黒刀の一言に2人は舐められていると感じた。

 

「あまり自身の力を過信していると痛い目を見ますよ。」

 

オメガが腰の鞘から曲刀を抜く。

 

「後悔しても遅いですからね。」

 

アルファも槍を構える。

映姫も影で剣を造形して構える。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

機械音声が鳴り響いた試合開始直後。

黒刀と映姫の姿が2人の目の前から消えた。

次の瞬間、黒刀と映姫が姿を現したのは2人の背後だった。

黒刀と映姫は試合開始直後に『抜き足』で彼らの背後に回り込んだのだ。

黒刀がオメガに、映姫がアルファに斬りかかる。

アルファとオメガは咄嗟に振り返ってそれぞれの武器で防御する。

2人は衝撃で5m後方に飛ばされる。

 

「何てスピードだ。」

 

着地したオメガが呟く。

黒刀はSDを肩に担ぐ。

 

「今の攻撃を防ぐtってことはそれなりに出来るってことか…」

 

「当たり前です。彼らはインド代表ですよ。」

 

緊張感のない黒刀に映姫が横から口を出す。

 

「じゃあもう少し上げるか…姫姉。」

 

「そうですね…黒刀。」

 

黒刀と映姫が同時に床を蹴る。

 

「こちらもいくぞ!」

 

「ええ!」

 

アルファとオメガも距離を詰める。

黒刀とオメガ、映姫とアルファの刃が激突する瞬間。

 

「「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」」

 

黒刀と映姫の高速の剣撃が炸裂する。

アルファとオメガは一撃目は防御したが、黒刀の剣速は30、映姫の剣速は31。

残りの刃が2人を襲う。

 

「「ぐっ!」」

 

アルファとオメガが歯を食いしばりながら後退する。

黒刀は映姫を見ていた。

 

「(チッ、まだ届かないか…)」

 

映姫に剣速で負けたことを悔しんでいる。

すぐに気を取り直して目の前の相手に意識を向ける。

 

「オメガ…どうやら力を出し惜しんで勝てる相手ではないようだ。」

 

「あれをやるのか?」

 

「ああ。」

 

アルファとオメガが並び立つ。

 

「何か仕掛けてきますよ。黒刀!」

 

映姫が呼びかける。

 

「見りゃ分かるよ。」

 

黒刀が返して構える。

 

 

 

 

 

 インド代表控室。

 

「アルファ…オメガ。あなた達がそれを使う程の相手ということですか…」

 

ガンジーはそう呟く。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

同じように控室にいた諏訪子が目を凝らす。

 

「(あれは…)」

 

 

 

 

 

「「気力解放!」」

 

アルファとオメガが同時に気力を解放した。

さらに2人のオーラが繋がっていく。

 

「「これが絆の究極形態『シンクロ』だ!」」

 

2人が同時に言い放つ。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「凄い…オーラが繋がってる…」

 

目を見開いて感嘆する妖夢。

 

「アハハハハ!」

 

だがその時、諏訪子が突然笑い出した。

 

「どうしたんですか?」

 

妖夢が驚いて訊く。

諏訪子は笑いをなんとか必死にこらえる。

 

「フッ…あれが『シンクロ』だって?残念ながらあれは本来の『シンクロ』はあんなものじゃない。」

 

笑い過ぎて出てしまった涙を拭う。

 

「どういうことですか?あれが本来の『シンクロ』じゃないって…本来の『シンクロ』って何ですか?」

 

「それならすぐに見られるよ。」

 

妖夢の問いに対し諏訪子はそう返した。

 

「どういうこと…はっ!」

 

妖夢はそこで気づいた。

 

「そう…『シンクロ』を使えるのは彼らだけじゃないってことさ。」

 

諏訪子がそう口にして試合に視線を戻した。

 

 

 

 

 

 アルファとオメガが一瞬アイコンタクトを取るとそれだけでお互いが何をするか理解した。

2人がジグザグに駆け出して左右交互に入れ替わりながら黒刀と映姫に接近する。

黒刀がクロスステップでオメガの背後に回り込んでSDを水平に振る。

そこへアルファの槍が横から黒刀に迫る。

黒刀は攻撃をキャンセルしてSDで槍を受け流して、空中で縦回転してアルファに踵落としを仕掛ける。

だがオメガが曲刀で回転斬り。

黒刀は軽くハイジャンプして回転斬りを躱して床に着地する。

アルファとオメガは黒刀と映姫に前後から挟まれる形となったので背中合わせで構える。

 

「(おかしい…)」

 

「(何故もう1人は介入してこない…)」

 

2人がアイコンタクトで会話していたその時。

 

「黒刀…そろそろ限界ですよ。」

 

映姫が口を開いた。

 

「(限界…諦めたのか?)」

 

アルファが心の中で疑問を抱く。

 

「はあ…そうみたいだな。」

 

黒刀がため息を吐く。

 

「(何を言っているんだ…こいつら…)」

 

オメガは状況が飲み込めず混乱する。

黒刀がSDのトリガーを押すとビームブレードが消える。

そのままポケットにしまう。

今度は右腰にぶら下がっている鞘に納まっている『八咫烏』の柄を左手で握る。

 

「あっ!」

 

控室で妖夢が声を上げる。

黒刀が鞘から『八咫烏』を振り抜くと風圧が発生する。

それだけでアルファとオメガは戦慄を感じた。

だが警戒しなければならないのは黒刀だけではない。

映姫からも強烈なオーラを感じたからだ。

映姫を取り巻くように白い竜巻が発生する。

 

「モードチェンジ!ロイヤルナイト!」

 

白い竜巻が吹き荒れるように消える。

現れたのは純白の鎧を身に纏い、純白の剣を握る映姫だった。

その気高き美しき姿に観客の目は釘付けだった。

 

「さて…そろそろ何故俺が右手で相手をしていたのか教えてやってもいい頃だろう。」

 

黒刀が口を開く。

アルファとオメガは背中合わせのまま警戒を崩さない。

 

「これが…答えだ!」

 

そう口にした黒刀が消え次の瞬間に現れたのはアルファとオメガの僅かな死角だった。

黒刀が『八咫烏』を軽く振り上げる。

オメガは曲刀を水平に構えて防御態勢を取る。

オメガが防御してその隙にアルファと槍の突き。

2人の基本コンビネーション。

だが黒刀が軽く振ったはずの剣撃はオメガを曲刀ごと体勢を崩した。

 

「(バカな…それ程の力は込めていないはず…)」

 

オメガは目を見開いて驚く。

予想外の事態にアルファも驚いたがそのまま攻撃直後の黒刀の脇腹に横から槍の突きを放つ。

しかし、またもや予想外の事態が起きた。

アルファの槍は黒刀の右手の甲に…いや正確には黒刀の右手の甲の上に展開された黒いオーラの盾によって防がれた。

 

「くっ!」

 

アルファはすぐに後退して距離を取ろうとする。

黒刀がオメガを攻撃してアルファが後退するまでの時間は3秒。

アルファが後退しようとした時、『抜き足』で接近していた映姫が純白の剣を両手持ちで水平に振った。

アルファは槍を縦に構えて防御態勢を取る。

だが受けた剣撃はその小さな体から出せるとは思えない程重かった。

今度は黒刀と映姫が背中合わせになる。

 

「何だ…今のは?」

 

オメガが対戦相手に思わず問う。

 

「ん~別に最初のあれは大したことしてねえよ。あえて名付けるなら『ガードブレイク』とでもいうべきかな。刀を振る時に一瞬力を込める。それだけ。」

 

黒刀はさも当然のように答えた。

オメガは呆気に取られる。

 

「それだけ…だと?」

 

「うん。それだけ。」

 

黒刀が頷く。

黒刀は当然のように実行しているが『ガードブレイク』にはそれだけの腕力が必要となる。

それも並大抵の腕力ではない。

黒刀はロサンゼルスの大会でこの筋力アップを重点的に行ってきた。

 

「(軽く振っただけであの力…もし大振りが来たら一体どうなってしまうのか…想像するだけでも恐ろしい。)」

 

オメガの顔から冷や汗が出る。

 

「あとさっき槍を防いだのが『覇王の盾』。右手の甲にオーラを集束して盾の形に変える。今まで右手が手持ち無沙汰だったから役割を与えただけだ。」

 

黒刀が右手をブラブラと振る。

 

「黒刀…」

 

黒刀が『覇王』という単語を口にしたことに映姫が口を挟む。

 

「姫姉。もう俺は逃げない。たとえ正体が悪魔にバレようと戦う。」

 

映姫にだけ聞こえる声量で返す。

 控室にいる真冬は黒刀の姿をかつてのザナドゥ卿と重ねて見ていた。

 

「(黒刀君…)」

 

 アルファとオメガは戦慄を超えて恐怖を感じた。

 

「「(この男は…危険だ!)」」

 

2人はアイコンタクトを交わした。

高速で黒刀と映姫の周囲を円を描くように駆け回る。

 

「姫姉…」

 

「黒刀…」

 

黒刀と映姫はお互いに呼び合う。

背中合わせのままで黒刀は映姫の左手を、映姫は黒刀の右手を握る。

2人のオーラが結び合う。

 

「まさかこいつらも…『シンクロ』を⁉」

 

オメガが驚く。

 

「双子である俺達は生まれる前から一緒だったんだ。『シンクロ』で負けるものか!」

 

アルファが言い放つ。

2人とも動きは止めていない。

アイコンタクトを交わして左右から攻撃を仕掛ける。

その攻撃を黒刀と映姫は同時に跳び上がって躱した。

着地を狙うアルファとオメガに黒刀は映姫を空中サーカスのようにアルファとオメガに向けて投げた。

映姫はそのまま純白の剣を振り下ろす。

アルファとオメガは武器を重ね合わせて防御した。

黒刀が着地して床を蹴ると映姫の背後から水平斬り。

 

「(味方ごと斬るつもりか!)」

 

オメガが驚く。

黒刀の行動に会場から悲鳴が上がる。

だが映姫は黒刀の『八咫烏』の刃が背中に届く直前にしゃがみこんで躱した。

それによって『八咫烏』の刃がアルファとオメガに迫る。

防御態勢だった2人は黒刀の『ガードブレイク』を受けてしまい体勢を崩される。

そこに映姫の振り上げが迫る。

体勢を立て直していない2人はその剣撃をもろに体で受けてしまい後方へ吹っ飛ばされる。

ダメージを受けながらもなんとか立ち上がる。

 

「何て奴らだ…一歩間違えば敗北だけでは済まなかったぞ…」

 

「それにあいつら掛け声どころかアイコンタクトすらしていなかった…」

 

「何だって!」

 

オメガの言葉にアルファは驚く。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

諏訪子は腹を抱えて爆笑していた。

 

「いやはや…あの姉弟の『シンクロ』は何度見ても凄いね~!」

 

「これが本来の『シンクロ』ですか?」

 

妖夢が質問する。

 

「『シンクロ』っていうのは心と心と繋がって完成するものだ。アイコンタクトなんてそもそも必要ないのさ。」

 

諏訪子が爆笑を必死に堪えながら説明する。

 

「なるほど。」

 

「とはいえ…あそこまでの完成度はなかなかない。末恐ろしい姉弟だよ…全く。」

 

 

 

 

 

 

「くそ…あの『ガードブレイク』が厄介だ。」

 

オメガが舌打ちする。

その時、黒刀は観客席でこちらを見ている韓国代表のイ・サンとチャン・スウの存在に気づいた。

黒刀は映姫との『シンクロ』を解く。

必要以上に手の内を明かすことをやめたのだ。

『シンクロ』を解いているにも関わらず黒刀の考えを読み取った映姫は無言で黒刀の隣に並ぶ。

 

「俺が曲刀の方をやる。」

 

「じゃあ私は槍の方。」

 

2人はお互いの意思を示して床を蹴った。

アルファとオメガは同時に左右に跳んだ。

これで黒刀の相手はオメガ、映姫の相手はアルファという形になった。

 

 

 

 

 

 インド代表控室。

 

「なるほど。各個撃破ということですか。」

 

ガンジーが冷静に呟く。

 

「これでは『シンクロ』が機能しない!」

 

インド代表メンバーであるシン・ルゥが焦りを口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「いいんですか?せっかく優勢だったのにバラバラになって。」

 

オメガが問う。

 

「お前『シンクロ』使えるくせに分かってねえな。信頼って言うのはただ一緒にいることじゃできねえ。離れていても大丈夫だから信頼できるんだ!」

 

黒刀はそう言い放って構えた。

床を蹴り、駆け出すとオメガに連続剣撃を仕掛ける。

ただでさえ速い四季流に『ガードブレイク』が加わっているのだ。

速く重い剣撃がオメガを追い詰める。

『ガードブレイク』とは相手にとどめを刺す技ではなく相手の体勢を崩す為の技。

黒刀は剣先を床に擦らせとそこから斬り上げた。

その際に一瞬だが『八咫烏』の剣先が燃えた。

 

「四季流剣術 伍の段 火廻(ひまわり)!」

 

黒刀の『ガードブレイク』は技術によるものなので他の技と組み合わせることが出来る。

腕力と火力が組み合わさった剣撃にオメガは防御が間に合わず空中に吹っ飛ばされる。

黒刀は跳び上がってオメガの上から『八咫烏』を振り下ろす。

 

「(大振り…これは避けなければ!)」

 

オメガは頭でそう考えていても反射的に防御態勢を取ってしまった。

 

「オメガ、ダメだ!」

 

アルファが叫んだ時にはもう遅かった。

黒刀の一振りは水平に構えたオメガの曲刀を抵抗を感じさせることなく破壊し、そのまま『八咫烏』の刃はオメガの体を肩から斬り下ろした。

オメガは気絶して、轟音を立てて床に落下する。

 

「オメガ!」

 

アルファが叫ぶ。

 

「余所見している場合ですか?」

 

その隙に映姫が剣を水平に振る。

アルファは体を反らして躱して、バックステップしてから連続で突きを放つ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

雄叫びを上げながら連続で突きを放つがどの攻撃も映姫の鎧を掠めることすらできない。

 

「甘い!」

 

映姫が斬り上げて槍を弾いた。

 

「何っ!」

 

アルファが驚いたその隙を映姫は逃さない。

 

「四季流剣術 弐の段 一閃!」

 

居合い斬りでアルファを斬り抜いた。

アルファの体が遅れて前のめりに倒れる。

 

《勝者 四季黒刀&四季映姫》

 

機械音声が鳴り響く。

それに応えるかのように歓声が上がる。

映姫がモードチェンジを解除して元の姿に戻る。

黒刀は『八咫烏』を納刀する。

映姫の剣も影となって消える。

アルファとオメガは気絶しているので大会の医療班が担架で医務室に連れて行く。

黒刀と映姫は観客に手を振ることなくクールにフィールドを去る。

 

 

 

 

 

 日本vsインド 1vs0。




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白雪姫

OP8 遊戯王GX 99%


 日本代表控室。

黒刀と映姫が勝利したことで日本代表のメンバーでは歓声を上げる者、安堵する者など反応は様々だ。

妖夢はただ先程の試合のリプレイに目を奪われていた。

黒刀と映姫のコンビネーション、何よりも単純な2人の強さに言葉が出なかった。

 

「(凄い…お互いに心の底まで信頼し合っているのが伝わって来る…)」

 

妖夢は心の中で感嘆する。

 

「さて、次は私達の番ですね!」

 

「ええ!」

 

早苗と真冬がベンチから立ち上がって気合いを入れる。

 

「頑張って来なよ!」

 

諏訪子が早苗にエールを送る。

 

「はい!」

 

早苗は元気に返事する。

 

「お前らしく闘ってこい!」

 

光も真冬にエールを送る。

 

「はい!勝ってきます!」

 

真冬は澄んだ顔で応える。

2人は控室を出てフィールドへ向かう。

 

 

 

 

 

 ゲートへ到着したところでちょうど黒刀達と鉢合わせになる。

 

「センパイ、お疲れ様です!」

 

早苗が黒刀を労う。

 

「そんなに疲れてないけどな。」

 

黒刀が真顔で返す。

 

「クールなセンパイ…大好きです!」

 

早苗が黒刀に抱きつこうとする。

黒刀は右手で早苗の額を押さえつける。

 

「暑苦しいからやめろ。」

 

黒刀は冷たく返す。

軽く早苗にデコピンしてから真冬の横を通り過ぎていく。

 

「私も…もう逃げないから…」

 

その際に真冬が黒刀にしか聞こえない声量でそう口にした。

黒刀と黒刀の中のザナドゥ卿がその言葉に反応する。

 

「(真冬…)」

 

ザナドゥ卿が黒刀の心の中で哀しげに呟くのだった。

 

 

 

 

 

 インド代表控室。

 

「まさか…アルファとオメガが負けるなんて。」

 

インド代表の控えメンバーが信じられないという感情を込めて呟く。

それを聞いた他のメンバーも気が落ち、チーム全体の士気も下がっている。

そんな中…

 

「まだ1敗です。焦ることはありません。」

 

口を開いたのはキャプテンのガンジー・コウ。

 

「はい。」

 

それに呼応するかのようにプロトンが頷く。

 

「それに四季黒刀…彼は別格と考えるべきです。恐らく私でも勝てないでしょう。」

 

ガンジーが補足する。

その言葉にシン・ルゥが目を見開く。

 

「師範代がそこまで言う程の実力者なのですか?」

 

「これは私の勘なのですが彼はまだ何か力を隠している。」

 

「あれだけ強いのにその上があるなんて…彼は一体何者なんですか…」

 

プロトンが重い言葉を漏らす。

さすがにこのままで士気がまた下がってしまうと考えたガンジーは切り替える。

 

「とにかく四季黒刀の試合はもう終わったのです。今は目の前の試合に集中しましょう。」

 

「「はい!!」」

 

ガンジーの言葉にプロトンとシン・ルゥが応えた。

 

 

 

 

 

 試合前になって早苗と真冬、プロトンとシン・ルゥがゲートで待機する。

その4人の中でも最も集中しているのは真冬だった。

 

「…早苗。1つ頼みがあるの。」

 

真冬が正面を見据えたまま口を開く。

早苗は少し意外そうな顔をする。

 

「何ですか?唐突に。」

 

そして、次に真冬が口にした言葉に早苗が目を見開いて驚いた。

 

 

 

 

 

 選手入場のブザーが鳴り響く。

両チーム2人ずつフィールドに入場していく。

プロトンとシン・ルゥはある異変に気付いた。

真冬が前に出ていて、早苗が後方に下がっていた。

これだけなら陣形のように見えるかもしれないが早苗が参戦する気配が全く見えない。

つまりこれは…

 

「あの白い女が1人で我々を相手にするってことか。」

 

「油断は出来ない。しかし侮られている感じはあるな。」

 

プロトンとシン・ルゥがそれぞれ意見を述べる。

早苗は後方で待機したまま先程ゲートで真冬が口にした言葉を思い返す。

 

 

 

 

 

 

「この試合、私に任せて欲しい。」

 

「それって1人でやるってこと?」

 

「うん。」

 

「…絶対に勝てる?」

 

「ええ。」

 

「分かった。あなたに任せる。」

 

「…随分あっさりね。」

 

「…紅魔学園では勝利至上主義なの。だから勝つなら何も問題はないんですよ。」

 

「…ありがとう。」

 

 

 

 

 

 現在。

早苗は真冬の背中を見つめたまま考えていた。

 

「(彼女があの提案をしたことは恐らく2つ理由がある。1つ目は自分の実力に相当自信がある。2つ目は私の力を温存して情報を与えないこと。)」

 

観客達は真冬の美貌に目を奪われていた。

プロトンとシン・ルゥも精神鍛錬を怠っていれば同じ反応をしていただろう。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

黒刀と映姫が戻ってきた。

 

「先輩、おかえりなさい!」

 

妖夢が喜んで駆け寄って来る。

続いて大妖精が寄って来る。

 

「黒刀先輩!右手、お怪我はありませんか?」

 

大妖精は慌てて黒刀の右手を見る。

 

「大丈夫、大丈夫♪ちゃんとガードしたから。試合見てたろ?」

 

黒刀は右手をブラブラと振って陽気に返す。

だが大妖精はなおも訝しむような目をする。

今の大妖精は()()目で見ただけでほとんどの病気や怪我の症状が分かる。

大妖精はようやく納得してホッと息をつく。

 

「それより今は早苗達を応援しようぜ。」

 

黒刀はモニターウインドウに視線を移す。

 

「(真冬…)」

 

 

 

 

 

「本当にあなた1人で勝てると思っているのですか?」

 

プロトンが真冬に訊ねる。

 

「ええ。もちろんです。」

 

真冬は当然のように答えた。

シン・ルゥが拳闘術の構えを取る。

 

「そうですか…では遠慮なくいかせてもらうとしましょう。」

 

プロトンも同じように拳闘術の構えを取る。

真冬は素手。

 

「武器を持たない?…ということは魔法師か。」

 

プロトンがそう分析したところで…

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始の機械音声が鳴り響く。

先に動いたのはインド代表。

真冬は全く動く気配がない。

 

「「一気に決める!!」」

 

2人は同時に正拳を繰り出した。

だがその拳が真冬に届くことはなかった。

何故なら彼らと真冬の間に厚さ30㎝の氷の壁が立ち塞がっていたからだ。

しかもその展開速度は異常で術式構築から氷の壁の展開までたった0.1秒しかかかっていない。

周囲から見れば氷の壁が突如出現したようにしか見えない。

 

「くっ…硬い。」

 

プロトンが苦々しく呟いた。

2人は同時にバックステップして距離を取る。

 

「悪いですけど少し早めに終わらせます。」

 

真冬が口を開く。

そして、大きく息を吸って呼吸を整えると、

 

「いきます!モードチェンジ!」

 

そう詠唱した。

すると吹雪が発生して竜巻となって真冬の体を覆い隠す。

その現象にほとんどの人間が驚いた。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「真冬さんが…モードチェンジを…」

 

妖夢は目を見開いてそう呟いた。

 

 

 

 

 

 やがて吹雪の竜巻が徐々に消えていく。

その中心から現れたのは頭に銀色のティアラ、首に五芒星の氷のネックレス、全身を纏っているのは水色と純白を織り交ぜたドレス。

そして彼女の右手には純白の刀身、柄に百合の花が飾り付けられた剣『白百合の剣』が握られていた。

 

「白雪姫!」

 

真冬はそう言い放った。

元々の美貌をさらに超えた言葉を失う程の圧倒的な美貌に観客全員が息を呑んだ。

プロトンとシン・ルゥも一瞬見とれて体が動かなかった。

 

「あなた…一体何者なんですか?」

 

真冬の後ろ姿を見ていた早苗はそう問わずにいられなかった。

真冬がゆっくり振り返る。

 

「私は…黒刀君の初恋の人だよ。」

 

柔らかな笑みでそう答えた。

その答えに早苗は呆気に取られた顔をした後、騒ぎ出した。

 

「なっ…調子に乗らないで下さい!センパイのハートは私がゲットするんですから!」

 

「負けないよ。恋も…闘いも。」

 

真冬は正面に向き直る。

真冬の姿は『白雪姫モード』になったことで背が少し伸びて雰囲気も大人びている。

 

「(この感じ…懐かしい。ザナドゥ王国にいた頃を思い出す。)」

 

ザナドゥ王国時代の記憶を取りもどしたことによって真冬の実力は格段に上がっている。

当時の魔法や戦闘技術が全て今に活かされている。

真冬が左手を横に振る。

氷の壁の表面に無数の氷の棘が生えた。

プロトンとシン・ルゥは瞬時に戦闘態勢に切り替えた。

真冬は左手を押し出すように前へ突き出す。

氷の壁がプロトンとシン・ルゥに向かって前進し始める。

 

「嘘だろ⁉」

 

シン・ルゥが声を上げる。

2人は急いで後退を始めるがやがてフィールドの壁まで追い詰められる。

 

「くっ…何て魔法だ。」

 

「これが実戦なら我々は串刺し…それを躊躇なく実行するなんてとんでもない精神力だぞ。それにこのままじゃ…」

 

シン・ルゥが唇を噛みしめる。

プロトンが意を決した顔をする。

シン・ルゥを抱え込んで氷の壁の向こう側まで投げ込んだ。

 

「プロトン~!」

 

シン・ルゥが叫ぶ。

プロトンは氷の壁に押し潰された。

真冬は氷の壁を解いた。

気絶したプロトンが前のめりに倒れる。

シン・ルゥはフィールドの床に着地すると真冬を睨みつける。

だがそうしていられるのも一瞬だった。

真冬が床を蹴ってシン・ルゥの懐まで迫っていたからだ。

 

「魔法師が剣士の真似事など!」

 

シン・ルゥが声を荒げて素早い正拳を繰り出す。

真冬はそれを重心を少しずらすだけで躱した後、高速連続突きを放った。

シン・ルゥは防御と回避を繰り返して凌いでいる。

真冬が左手人差し指をくるっと回す。

シン・ルゥの背後に氷の壁が展開されて、バックステップしたシン・ルゥは氷の壁に背中から激突する。

その隙に真冬は『白百合の剣』でシン・ルゥを肩から斜めに斬り下ろす。

 

「ぐあっ!」

 

シン・ルゥが痛みのあまり声を上げる。

しかし、真冬の攻撃はまだ終わっていない。

真冬は軽く息を吸うと、

 

「覇王流剣術 アブソリュートゼロ!」

 

『白百合の剣』を振り下ろすと剣先から氷の奔流が放たれシン・ルゥを飲み込む。

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

正面から直撃を喰らったシン・ルゥは氷の壁を突き破って吹っ飛ばされる。

そのままフィールドの壁に激突した直後、氷漬けにされていく。

真冬が花を摘み取るように左手を握りしめるとシン・ルゥの全身を覆っていた氷がパリンッと音を立てて砕かれていく。

シン・ルゥはそのまま気を失った。

 

《勝者 白金真冬&東風谷早苗》

 

日本代表の2勝目を告げる機械音声が鳴り響く。

日本vsインド 2vs0。

真冬は『白雪姫モード』を解除して元の姿に戻る。

 

「約束通り勝ったわよ。」

 

真冬はポカーンとしている早苗に歩み寄って微笑む。

 

「まあ…あなたのこと…少しは認めてあげなくもないですよ!」

 

早苗に我に返るとプイッとそっぽを向きながら手を差し出す。

真冬は少しだけ驚いた顔をしたがすぐに微笑んで早苗の手を握る。

 

「それはどうも。あなたとはライバルで友達でありたいと思っているわ。」

 

真冬の言葉に早苗は真冬の方へ向くと笑う。

 

「ライバルで友達…いいですねそれ。」

 

 

 

 

 

 会場が歓声に包まれる中で1人だけフィールドにいる真冬を捉えて口の端を吊り上げる者がいた。

 

 やはりまだ存在していたか…ザナドゥ王国の女王…白雪真冬…

 

後にこの者をきっかけに黒刀達は覇王の因縁の戦いに身を置くことになるのである。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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皇帝vs仏

OP8 遊戯王GX 99%



 日本vsインド。

ダブルス1は真冬の大活躍によって圧勝という結果となった。

後がなくなったインド代表は焦りを抑えきれなくなった。

 

「こんな…まさか…我らインド代表が全く歯が立たないなんて…こんなことがあり得るというのか!」

 

声を荒げるインド代表控えメンバーの1人。

その一言が他のメンバーにも伝染し始める。

しかし、ただ1人だけ平静を保っている男がいた。

 

「次は私です。ここで流れを変えにいきます。でなければ私達に勝利はありません。私達は心のどこかで日本という国を侮っていたのかもしれません。だとするならそれは私達の修行が足りなかっただけの話です。」

 

ガンジーは立ち上がる。

彼はそのまま控室を出た。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

早苗と真冬が試合を終えて控室に戻って来る。

 

「おかえり。真冬。」

 

光が声をかける。

 

「手応えの無い相手だったわ。」

 

真冬は涼しい顔で応えた。

 

「それじゃ…行ってくる。」

 

優が立ち上がって控室を出る。

 

「頑張ってね。」

 

優の去り際に花蓮がそう声をかけた。

優は背を向けたまま手を振ってゲートに向かって歩く。

 

「ちょっと来い。」

 

黒刀が真冬の腕を取る。

 

「え、何?」

 

「話がある。」

 

そう言って黒刀は真冬を強引に引っ張って控室を出る。

 

「ちょ…ちょっと!」

 

真冬は反論する暇もなく連れて行かれる。

 

 

 

 

 

 黒刀が真冬を連れてやってきたのは人気のない選手用ロビー。

黒刀はそこでやっと真冬から手を離す。

 

「真冬。俺がザナドゥの力を使って正体がバレることは問題ない。だがお前は違う。」

 

黒刀はそう言って真冬に言い聞かせようとする。

だが、真冬は優しく微笑みを返した。

 

「大丈夫だよ。私はもうあの時の私じゃない。黒刀君に守られるだけの私はもういない。今の私は黒刀君と共に戦えるよ。」

 

黒刀がなおも説得しようとしたその時。

 

「無駄だ。」

 

別の声が聞こえた。

黒刀と真冬が窓ガラスに視線を移すと、そこには黒刀の代わりにザナドゥ卿が映っていた。

 

「王様…」

 

黒刀が呟く。

 

「真冬は一度決めたことは絶対に曲げない。それはうぬも良く知っている筈だ。」

 

ザナドゥ卿が話を続ける。

黒刀は視線をザナドゥ卿から真冬に移す。

真冬の瞳を真っ直ぐ見つめる。

その瞳には揺るぎない覚悟が込められていた。

黒刀は観念したようにため息を吐く。

 

「はあ…分かったよ。俺の負けだ。」

 

そう言って両手を上げた。

それに対して真冬は天子の微笑みで応えた。

窓ガラスに映っていたザナドゥ卿の姿が黒刀の姿に戻る。

 

「さあ、皆のところへ戻ろう。」

 

真冬が黒刀に声をかける。

 

「…悪い。先に戻っててくれ。」

 

黒刀はそう返した。

 

「うん…分かった。」

 

真冬は首を傾げたがすぐに控室へ歩いた。

真冬が去ったところで黒刀が口を開く。

 

「…ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ…咲夜さん。」

 

数秒後。

黒刀の背後に突然、十六夜咲夜が現れる。

黒刀がゆっくり振り返って咲夜を見る。

 

「『抜き足』を習得したんですね。」

 

咲夜が選手用ロビーに立ち入ったことについてはそれ程追及しない。

咲夜は軽くお辞儀する。

 

「試合は観戦させて頂きました。それともう1つお嬢様から伝言を預かっています。」

 

「伝言?」

 

黒刀が目を細める。

 

「『私と闘うまで負けたら許さない』とのことです。」

 

咲夜がポーカーフェイスで伝言をそのまま伝える。

それを聞いた黒刀が一瞬不敵な笑みを浮かべる。

 

「咲夜さん。レミリアに言っておいて下さい。当たり前だ。そしてお前にも勝つって。」

 

「承知致しました。」

 

咲夜がそう言って最後にお辞儀すると次の瞬間、その場から姿を消した。

黒刀は控室に向かって歩き出す。

その時に一瞬だけ気が高ぶったせいか『覇王の眼』が発動する。

 

 待っていろレミリア…お前は俺が倒す!

 

 

 

 

 

ガンジー・コウはゲートで合掌した状態で立っていた。

 

「(リーグ戦とはいえここで私が負ければ明日以降の試合に響く。ここが正念場ですね。)」

 

閉じていた目をゆっくりと開けてフィールドに入場する。

反対側のゲートから優も入場してくる。

ガンジーが優と対面する。

 

「あなたが私の相手ですか。なるほど…オーラの強さからしてかなりの強敵のようですね。」

 

ガンジーが合掌を崩さずそう口にする。

 

「ハッ…どうせ俺達のことは研究済みなんだろう?それにお前のオーラもかなりのものじゃねえか。」

 

優は髪をかき上げて言葉を返す。

ガンジーのオーラの強さは優に引けを取らない。

 

「そんなことよりとっとと試合を始めようぜ。さっきから見てるだけで退屈だったんだからよ。」

 

優からオーラが突風のように吹き荒れる。

 

「(仏様の救いがあらんことを。)」

 

ガンジーは全く動じることなく目を閉じて念じた。

それからゆっくりと目を開けるとガンジーのオーラが高まった。

 

「仲間の為!負けられません!」

 

「勝つのはこの俺だ!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

優は右手首に取り付けられている腕輪の形をした汎用型MADを起動して即座に『ディメンションレーザー』を発動した。

ガンジーの周囲に10個の魔法陣が展開される。

ガンジーは腰を落として古流武術の構えを取った。

優はまずガンジーの正面の魔法陣から光線魔法を放った。

 

「『ディメンションレーザー』は生身で受けられる魔法じゃないわ。これは速攻で勝利ね!」

 

日本代表控室にいる花蓮が優の勝利を確信する。

だがそれは一瞬で砕かれる。

ガンジーは左足を踏み込むと右手の掌底を『ディメンションレーザー』に打ち込んだ。

 

「何?」

 

優が眉を顰める。

 

「はあっ!」

 

ガンジーはそのまま『ディメンションレーザー』を弾いた。

優は続けて待機状態だった残り9個の魔法陣から『ディメンションレーザー』を0.1秒おきに放った、

ガンジーは全ての光線を体術だけで弾き切った。

掌底、正拳、裏拳、回し蹴り。

ガンジーはステップを踏んで優に接近する。

その時間は1秒。

 

「閃光拳!」

 

ガンジーは通常の正拳の倍のスピードで正拳を繰り出した。

優は寸前で『イージスの盾』を発動する。

ガンジーの『閃光拳』と優の『イージスの盾』がぶつかり合う。

 

「魔法障壁ですか…しかし絶対的防御力を持つ壁など存在しません!」

 

ガンジーが拳を押し込むと『イージスの盾』に亀裂が入った。

 

「チッ。」

 

優が舌打ちして後退するのと『イージスの盾』が『閃光拳』によって砕かれるのはほぼ同時だった。

牽制に『ディメンションレーザー』を放つ。

 

「無駄です。」

 

ガンジーは優が後退するスピードより速く優の懐に入って腹に掌底を打ち込んだ。

 

「閃光掌!」

 

優が直前に『イージスの盾』を発動するがそれは1秒と持たなかった。

 

「ぐっ!」

 

優は腹に掌底を打ち込まれ吹っ飛ばされる瞬間に衝撃緩和の魔法を発動してなんとか壁に激突する前に着地した。

 

 

 

 

 

 インド代表控室。

ガンジーの優勢にインド代表は息を吹き返した。

 

「よし!」

 

「うちが押してる!」

 

「ここから巻き返しだ!」

 

 

 

 

 

 優は吐き捨てるように血を吐く。

 

「あまり甘く見るなよ…この俺を!魔力解放!」

 

優を中心に光の柱が立つ。

 

「これが…今の俺の最大数ディメンションレーザーだ~!」

 

ガンジーの周囲に200個の魔法陣が展開される。

 

「これは少し骨が折れそうですね。」

 

「散れ。」

 

ガンジーの呟きに優は200発の『ディメンションレーザー』を同時に放つ。

轟音と共に爆発が発生する。

爆発の煙の範囲が広くガンジーの姿が見えない。

それを見たインド代表控室にいる控えメンバー達が『師範代!』と叫ぶ。

 

「やりましたわ!優の勝ちですわ!」

 

日本代表控室では花蓮が喜んでいた。

他の皆も勝利ムードの中で妖夢だけは違った。

 

「(何だろう…まだ何か起きそうな感じがする。)」

 

妖夢は奇妙な予感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 優が爆発の煙の中心に目を凝らした瞬間。

煙の中から黄色い閃光が放たれた。

 

「いやはや…私もまだまだ修行不足ですね。よもや奥の手を出す羽目になるとは。」

 

ガンジーの声が響く。

 

「あいつ…一体何を?」

 

優がそう口にその時。

黄色い閃光が徐々に形を取っていく。

それは人であって人ではない存在。

 

「モードチェンジ!」

 

ガンジーがそう詠唱した。

優が顔を顰める。

 

「あいつ…モードチェンジの瞬間のエネルギーで『ディメンションレーザー』を凌いだっていうのか。」

 

ついに黄色い閃光は完全に形成した。

 

「千手観音!」

 

現れたのは全長20mの千手観音像。

優が周囲を見渡す。

 

「あいつがいない…まさか!あれがあいつなのか!」

 

千手観音像を見上げる優。

 

「左様。この姿こそ厳しい修行の末、手に入れた私のもう1つの姿!」

 

『千手観音』は目を開いておらず口も動かないのでスピーカーのように声が響いている。

 

「人を超えて仏になったってか?ふざけたことを!」

 

優は200発の『ディメンションレーザー』を同時に放つ。

ガンジーは1000本の手の内200本の手で『ディメンションレーザー』をいとも簡単に弾いた。

さらに残り800本の手で優に連続張り手を繰り出した。

優は『イージスの盾』の盾を展開する。

 

「薄い壁です。」

 

ガンジーは『イージスの盾』を破壊する。

優も『イージスの盾』を破壊されると同時に再展開を繰り返した。

 

「いつまで続けられますかね?」

 

ガンジーは張り手を続ける。

さらに2本の手で優の左右両側から挟み込むようにはたく。

優は両手を左右に広げてそこにも『イージスの盾』の盾を展開した。

 

「なるほど。手動ならば強度は高まるという訳ですか。しかしそれも時間の問題。」

 

ガンジーは左右から押し込んでいく。

優はこれ以上『イージスの盾』が持たないと判断して跳躍魔法を発動してその場から真上に跳び上がる。

 

「残念ながらそれは愚策です。」

 

ガンジーは跳び上がった優をハエ叩きのように手ではたき落とした。

あまりにも速すぎた為『イージスの盾』を展開する隙もなかった。

 

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「優!」

 

花蓮が叫ぶ。

 

「これがインドNo1の男…ガンジー・コウの実力…」

 

妖夢がその強さに呟きを漏らす。

 

 

 

 

 

 優の体は瓦礫に埋もれたまま動かない。

 

《1…2…3…》

 

観客の視線が優に釘付けになる。

 

《4…5…6…》

 

だからこそ気づかなかったのかもしれない。

観客席の最前列に立っていた男に。

 

《7…》

 

その男の存在に唯一気づいたルーミアの表情がパアッと明るくなる。

 

《8…》

 

その声は突如、会場に響いた。

 

「その程度か?」

 

声を発したのはルーミアの頭にポンと手を置いた黒刀だった。

 

《9…》

 

その声が優に届いたのかカウント終える寸前に優は移動魔法を発動して自身の体を無理やり起き上がらせた。

優は観客席にいる黒刀を見る。

 

「いつまでそんなデカブツに手間取っている。俺はとっとと次に行きたいんだ。」

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「先輩、何であんなところに…」

 

妖夢が不思議そうに疑問を口にした。

 

「全く団体行動が出来んのかあいつは…」

 

にとりは黒刀の自分勝手な行動にため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 黒刀は観客席に腰かけると太ももの上にルーミアを座らせる。

黒刀の試合を観た周囲の観客は彼から少し距離を取り始める。

黒刀は特に気にせず試合を観る。

 

 

 

 

 

 優はガンジーに向き直る。

 

「ったく…あそこまで言われちゃ負ける訳にはいかねえよな!」

 

優は言い放つ。

 

「無駄です。あなたの魔法は私に通用しません。それが現実です。」

 

ガンジーの宣告に優は黒刀のようにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「悪いが俺は諦めの悪い男だ。いくぜ!モードチェンジ!エンペラー!」

 

優の周囲に金色の竜巻が発生する。

竜巻が晴れて現れたのは『エンペラーモード』の優。

 

「鎧1枚では私の攻撃は防げませんよ。」

 

「防ぐ?その必要はない。今度はお前が攻撃を喰らう番だ!」

 

優はそう言い放って100個の魔法陣を重ね合わせて『ハンドレッドディメンションレーザー』を放った。

ガンジーは掌底で弾こうとするが威力は『ハンドレッドディメンションレーザー』の方が勝っていた。

ガンジーの体が後方に倒れる。

優は飛行魔法で上空に飛んで200個の魔法陣を足元に展開した。

千手観音像は胡坐をかいている為、普通に起き上がることが出来ない。

ガンジーは気力を使って自身の体を起き上がらせた。

 

「遅い!」

 

優は200個の魔法陣から光線魔法を放った。

 

「無駄と言ったはずです!その程度の数では…」

 

「そうか。なら防ぎ切って見せろよ。」

 

優がそう口にした瞬間、光線が枝分かれし始めた。

 

「スターゲイザー。」

 

優は魔法名を口にした。

枝分かれした光線の数はガンジーの対処できる数を超えていた。

1000本の手で止めきれなかった光線がガンジーに降り注ぐ。

 

「『スターゲイザー』は1本の光線を6本に分裂させる魔法だ。200x6…1200本の光線はお前の腕の本数を超えている。そしてこれが!」

 

優は200個の魔法陣を100個ずつ重ね合わせた。

 

「ハンドレッドディメンションレーザーW!」

 

2本の『ハンドレッドディメンションレーザー』がガンジーの頭上から降り注ぐ。

 

「私は…こんなところで負けられない!」

 

ガンジーは『ハンドレッドディメンションレーザーW』を1000本の手で受けた。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

ガンジーが雄叫びを上げる。

だがその雄叫びも空しく『千手観音』の手は打ち砕かれていく。

そして、ついに『ハンドレッドディメンションレーザーW』がガンジーの体に直撃した。

2本の巨大な光線が地上に降り注ぎ大爆発を引き起こす。

優は減速魔法で床に着地する。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 二宮優》

 

機械音声が鳴り響く。

大爆発の煙が晴れてガンジーの姿を確認すると『千手観音モード』は解除されて既に気を失っていた。

優は無言で右手の拳を高く掲げた。

それに呼応するように会場から歓声が沸き上がる。

日本代表控室も喜びに満ちていた。

だが黒刀は興味なさそうな反応だった。

 

「さて…ルーミア行くぞ。」

 

黒刀はルーミアを抱きかかえて立ち上がる。

 

「くろにい、もう行くの?」

 

「まだ見ていたいのか?」

 

黒刀の問いにルーミアは可愛らしく唸った後、こう答えた。

 

「う~ん…いいや。くろにいの試合を観てる方が面白いから♪」

 

「なら行こう♪」

 

黒刀はルーミアを肩車する。

2人は笑顔でその場を去った。

 

 

 

 

 

 ガンジーは医務室で目を覚ました。

それに気づいてインド代表メンバーが寄ってきた。

 

『師範代!』

 

ガンジーはゆっくりと上半身を起こす。

 

「…完敗です。皆さん、申し訳ありません。」

 

ガンジーが頭を下げる。

 

「師範代、頭を上げてください。」

 

声を発したのはアルファ。

 

「そうです。まだWDCは終わっていません。残りの2戦を勝てばチャンスはあります。」

 

オメガも続く。

 

「アルファ…オメガ…(私はなんと良き仲間を持った者なのでしょう…)」

 

ガンジーは安心したように笑った。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「そういえば先輩はどうしたんですか?」

 

帰り支度をしていた妖夢が口を開いた。

 

「こんなメッセージが届きました。」

 

映姫がため息を吐きながら携帯端末を操作してメッセージを見せた。

そこにはこう書かれていた。

 

《ルーミアと買い物に行ってくる。夕方にはホテルに戻る》

 

「アハハ、先輩らしいですね。」

 

妖夢は苦笑い。

 

「全くです。どうして私も一緒に連れて行かないのですか。」

 

映姫が携帯端末をしまうと不機嫌な口調で文句を言った。

 

「「「「「(え、そっち?)」」」」」

 

妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精が心の中でツッコんだ。

 

 

 

 

 

 黒刀はルーミアを肩車で乗せて街へショッピングに出かけていた。

 

「やっぱフィリピンって言ったらバナナかな。」

 

「チョコバナナは?」

 

「いやさすがに溶けるだろ。」

 

「え~!食べたい食べたい~!」

 

ルーミアが黒刀の肩の上で左右に揺れる。

 

「あ~分かった分かった!あった買ってやるよ!」

 

「やった!くろにい大好き♪」

 

「…まあこんな暑いところにチョコバナナなんかある訳…」

 

黒刀が出店を回っているとちょうどチョコバナナが売っていた。

 

「くろにい、チョコバナナあるよ!」

 

「このチョコバナナすぐ溶けたりしないんですか?」

 

黒刀は店員に訊いた。

 

「大丈夫ですよ。時限式の保存魔法がかけられているんです。」

 

「…2本下さい。」

 

「まいどあり!」

 

黒刀はチョコバナナを2本購入して1本を肩車中のルーミアに渡した。

 

「落とすなよ。髪にチョコかかると洒落にならないからな。」

 

「うん。分かった♪」

 

ルーミアはチョコバナナを頬張った。

黒刀もチョコバナナを口に咥える。

 

「…美味い。」

 

 

 

 

 

 同じ頃。

韓国代表のイ・サンとチャン・スウも街を歩いていた。

 

「明日の日本戦、楽しみですね。」

 

「ああ。戦士の血が滾るというものだ。」

 

2人は会話を交わす。

 

「だが四季黒刀…彼は強敵だな。」

 

チャン・スウが黒刀の話題を切り出す。

 

「心配ありません!どんな相手でも私は勝ちますよ!」

 

イ・サンは前方を指差す。

この行為は彼にとって癖みたいなものだったのだが偶然にも彼の指差した先には黒刀とルーミアがチョコバナナを頬張っていた。

 

「うお!四季黒刀!」

 

イ・サンが驚く。

 

「何でこんなところに…」

 

チャン・スウが呟く。

 

「このチョコバナナ…今度作ってみようかな…」

 

黒刀はチョコバナナを食べ終えるとそう口にした。

 

「(これが四季黒刀…何かイメージと違う!)」 

 

2人がそう思ったその時。

25m先でナンパをしている男がいた。

女性の方は明らかに嫌がっている。

イ・サンとチャン・スウはお互いの顔を見て頷くと駆け出した。

黒刀はというと果物屋に寄ると、

 

「おばあちゃん、これ貰うね。」

 

店主の老婆に代金を渡してからパイナップルを持つとそれを25m先のナンパ男の脇腹に向けて投げた。

パイナップルはアメフトボールのように回転してイ・サンとチャン・スウのちょうど真ん中を通過してナンパ男の脇腹に見事ヒットした。

 

「ぐえっ!」

 

ナンパ男は蛙が潰れたような声を上げて倒れると気を失った。

 

「くろにい、食べ物を粗末に扱っちゃダメだよ。」

 

ルーミアはジト目を黒刀に向ける。

黒刀は倒れているナンパ男の近くに寄ってパイナップルを拾う。

 

「いや近くに鈍器があったもんだから。あと身に傷が無ければ使えるし。」

 

そのままパイナップルをビニール袋に入れる。

イ・サンはナンパ男を見下ろしてから黒刀に視線を移す。

 

「私達が向かっていることに気づいていましたよね?」

 

「ん?ああ。」

 

イ・サンの問いに黒刀は答えた。

そこで2人が何を言いたいか気づいた。

 

「あ~なるほど。つまり自分達に任せておけってことか。正義感があるのは構わないけど世の中には正義だけじゃ守れないこともあるんだよね~。」

 

「どういう意味だ?」

 

チャン・スウが問う。

黒刀は倒れているナンパ男を見下ろす。

 

「そいつのズボンの右ポケットにナイフ、左胸ポケットに拳銃が入っている。」

 

「「!」」

 

イ・サンとチャン・スウはその言葉に驚いた。

 

「危なくなったらそれを使うつもりだったんだろう。」

 

黒刀がその場を去ろうとしたその時。

 

「待て。」

 

イ・サンが呼び止めた。

黒刀は振り返る。

 

「何だ?警察の事情聴取に付き合いたくないから手短に。」

 

「お前はさっき正義だけじゃ守れないこともあると言ったな?」

 

「ああ。言った。」

 

「それは正義を否定しているということか?だとしたらお前は…」

 

「俺は守りたいものの為なら悪でいい。要は覚悟の違いだろ?じゃあな。」

 

黒刀とルーミアはその場を去った。

イ・サンは拳を握り締める。

 

「四季黒刀…証明してやるよ。正義は必ず勝つってことをな。」

 

そう決意を固めた。

その後、2人は警察の事情聴取に対応した。

 

 

 

 

 

 黒刀は買ったパイナップルを見る。

 

「これ何に使おうか?」

 

「やっぱりパイナップルと言ったらデザートだよ♪」

 

ルーミアがそう提案する。

 

「それもいいけど酢豚っていう手もあるんだよな~。」

 

「じゃあ半分はパフェでもう半分は酢豚に使おうよ!」

 

「お、いいなそれ!さすが俺の妹♪」

 

「えへへ♪」

 

2人は兄妹仲良く笑顔でホテルに戻った。

 

 

 

 

 

 午後5時 日本代表宿泊ホテル。

黒刀が夕食を作ると聞いて妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精、映姫、ルーミアが黒刀の部屋に集まっていた。

ちなみに優は体を心配している花蓮に連れられて行った。

部屋のキッチンで料理している黒刀をチルノが見て言った。

 

「ねえ。大ちゃん、酢豚って何の肉を使うのかな?」

 

「………」

 

大妖精は絶句した。

 

 

 

 

 

 午後6時。

 

『ごちそうさまでした!』

 

黒刀の作った料理を全員完食した。

 

「ホテルに来て手料理を食べるっていうのも変な感じだぜ。」

 

「でも先輩の料理って凄く美味しいのでつい食べたくなっちゃいます。」

 

魔理沙と妖夢がそんな会話をしていると黒刀の携帯端末ににとりからモニター通信が入った。

 

《黒刀、そこに妖夢達もいるな?》

 

「ええ。いますよ。」

 

《ならちょうど良かった。これからミーティングをするところだからすぐに集合してくれ》

 

「分かりました。」

 

黒刀の了解を確認したにとりは通信を切った。

 

「ということだ。行くぞ。」

 

『は~い!』

 

黒刀の声に1年生5人は元気良く返事した。

 

 

 

 

 

 午後6時30分 にとりの部屋。

 

「で…何でそいつがここにいるんだよ!」

 

仁が指差すのは胡坐をかいて座っている黒刀の太ももの上に座っているルーミアだった。

 

「ルーミアは勝利の女神…いや天使だから何の問題もない。」

 

「何だその理屈⁉」

 

黒刀の言葉に仁が噛みついたその瞬間、その喉元に映姫の剣が突き付けられた。

 

「私の妹を邪魔者扱いとは良い度胸ですね。」

 

「(こいつらシスコン度ヤバすぎだろ!)」

 

「アハハ…」

 

妖夢はその状況を苦笑いで見守るしかなかった。

 

「はいはい。揉め事はそこまで。ミーティングを始めるよ。」

 

にとりは手を叩いて本題に入る。

 

「明日の相手は韓国代表だ。拳闘術を重視したインドとは違って近接系武器を用いた武術を重視した国だ。剣術、槍術、棒術など様々。その中でも特に注意すべき選手が棒術のイ・サンと剣術のユンスクだ。」

 

「あ、昼間の人だ。」

 

ルーミアがモニターウインドウに映るイ・サンを指差す。

 

「先輩、韓国代表の選手と会ったんですか?」

 

「ん~まあな。」

 

妖夢の問いに黒刀は興味無さげに答えた。

 

「まあなってそんな気楽な…」

 

妖夢は困った顔をする。

にとりがミーティングを続ける。

 

「明日のメンバーだがダブルス2を黒刀と映姫、ダブルス1を比那名居とチルノ、シングルス3を妖夢、シングルス2を越山、シングルス1を白金。以上のメンバーでいく。」

 

「(真冬が選ばれたってことは今日の試合で安定性があったからか。)」

 

メンバーの発表に光はそう考えた。

 

「(天子とチルノ…この組み合わせはなかなか面白そうだね。)」

 

諏訪子も考え込む仕草をする。

 

「また姫姉とか~」

 

黒刀は満更でもない顔。

 

「それだけ期待されているということです。頑張りましょう。」

 

映姫は隣の黒刀にそう言葉をかける。

 

「お前と組むのは初めてね。よろしく。」

 

天子がチルノに手を差し出す。

 

「おうよ!」

 

チルノがその手を取って握手を交わす。

妖夢はオロオロし出した。

 

「あれ…ちょっと待ってください!私がシングルス3ということは…」

 

「あ~そういえば今日の韓国とカタールの試合では韓国のシングルス3はユンスクだったわね。」

 

霊夢が思い出したように言った。

妖夢はの額から冷や汗は流れ始める。

魔理沙が妖夢の背中をバンッと叩く。

 

「大丈夫だって妖夢なら絶対に勝てるって!」

 

「でも…」

 

妖夢がまだ自信をつけられていないので魔理沙が妖夢に耳打ちする。

 

「黒刀も見てるぞ。」

 

「絶対に勝ちます!」

 

突然、妖夢に気合いが入った。

そんなことは露知らず黒刀は欠伸していた。

 

「(早く風呂入って寝たい…)」

 

 

 

 

 

 午後7時 韓国代表宿泊ホテル。

韓国代表の監督がモニターウインドウを展開してミーティングを行っていた。

 

「やはり「問題はこの2人だな。」

 

モニターウインドウに映し出されたのは黒刀と映姫の試合録画映像だった。

 

「確実にいくならこっちは捨て試合とするのが定石だろう。」

 

監督のその一言にイ・サンが立ち上がった。

 

「それは出来ません!韓国代表は誰が相手であっても背を向けたりなどあってはならない!」

 

「落ち着け。まだこの2人が出ると決まった訳じゃない。」

 

興奮するイ・サンをユンスクが冷静に諫める。

そこにチャン・スウが口を出す。

 

「しかしインド戦であれだけの闘いをしてしかも全くの疲労の気配を見せない彼らなら次の試合も出てくる可能性は十分考えられます。」

 

その推測にユンスクが数秒考え込む。

 

「イ・サン、チャン・スウ。お前達にはダブルス2を任せる!全力を尽くせ!」

 

「「はい!」」

 

イ・サンとチャン・スウは強く応えた。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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正義

OP8 遊戯王GX 99%


 9月12日 午前11時 日本vs韓国。

黒刀と映姫は既にフィールドの入場ゲートでデュエルジャケットを装着して待機していた。

 

「黒刀、油断は禁物ですよ。」

 

「ああ。分かってるよ。」

 

 

 

 

 

 一方。

 

「四季黒刀…あいつだけは私が…」

 

イ・サンは意気込んでいる。

 

「焦るなよ。お前1人で闘っている訳じゃない。」

 

それをチャン・スウが落ち着かせる。

チャン・スウはイ・サンが熱くなった時のブレーキ役でもある。

 

「ありがとう。いつもお前には助けられてるよ。」

 

「気にするな。相棒。」

 

チャン・スウはイ・サンの肩を軽く叩いてからフィールドに入場する。

イ・サンも続いて入場する。

そして、黒刀と映姫もフィールドに入場した。

 

 

 

 

 

 大きな歓声に包まれて4人の選手がフィールドに揃った。

黒刀は鞘から『八咫烏』を抜刀する。

映姫も影で剣を造形する。

イ・サンは棒状のSDを取り出す。

チャン・スウも汎用型SDを取り出して起動する。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始と同時に黒刀がチャン・スウの頭上に『抜き足』で移動して彼の後頭部を掴んで床に叩きつけた。

 

「(速い!)」

 

イ・サンは黒刀のスピードに驚いたがすぐに我に返って黒刀に向けて突きを放った。

黒刀はもう一度『抜き足』を使って映姫の隣に戻った。

 

「くそ!まるで忍者だな!」

 

イ・サンは舌打ちする。

 

「落ち着け。」

 

チャン・スウが立ち上がる。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ。問題ない。それより…改めて闘ってみると予想以上だな…四季黒刀の強さは。」

 

「…チャン。四季黒刀は私がやる。お前は四季映姫を頼む。ダブルスの先鋒から外れていることは十分分かっている。だがあいつだけは私の正義を以て倒す!」

 

「…分かった。お前の好きなようにやれ。その代わり…勝てよ。」

 

「当たり前だ!」

 

イ・サンとチャン・スウはお互いに頷き合って駆け出し左右に分かれた。

チャン・スウは映姫へ、そしてイ・サンは黒刀へ接近していく。

黒刀はそれを見て口を開く。

 

「各個撃破か…まあシンクロ対策にもなるしそれほど的外れな策でもないな。」

 

「どうするの?」

 

映姫の問いに黒刀は『八咫烏』を肩に担ぐ。

 

「せっかくだから乗ってやろうか。」

 

「それじゃ私はチャン・スウを相手します。」

 

映姫は接近してくるチャン・スウに自ら接近していく。

黒刀は肩に担いでいる『八咫烏』を腰の高さまで下ろす。

 

「さあて…いい加減肩慣らしくらいはしておかないとな。」

 

向かってくるイ・サンに対して構えた。

 

「(攻めてこない?いや今は余計なことを考えてる場合じゃない!)」

 

イ・サンは黒刀に向けて棒術の連続突きを放った。

黒刀は刃を傾けるだけで防いだ。

イ・サンも負けずと突きだけでなく薙ぎ払いなど攻撃方法を変えて仕掛ける。

黒刀は回避と防御だけで全ていなしている。

 

「(こいつ…私を見ていない!)」

 

イ・サンは感じたのだ。

黒刀が別の事を考えながら闘っていることを。

 

「いいだろう。だったらこれでどうだ!」

 

イ・サンが黒刀から距離を取った。

彼が何をするか悟ったチャン・スウが叫ぶ。

 

「やめろ!まだ早すぎる!」

 

だがイ・サンは聞かなかった。

 

「モードチェンジ!」

 

イ・サンの詠唱に黒刀は動じなかった。

白い雲のようなものがイ・サンの全身を覆う。

チャン・スウと鍔迫り合い状態となっている映姫も横目でその様子を見ていた。

イ・サンは棒状のSDを投げ捨てた。

イ・サンの頭に金の冠、全身に武道着、雲の形が徐々に棒状に変わっていく。

髪も黒から金色に変色していく。

そして、現れたのは伝説の存在…

 

「斉天大聖孫悟空!」

 

イ・サンが右手に持っている武器は紛れもなく『如意棒』だ。

 

「はあっ!」

 

イ・サンは離れたところから黒刀に『如意棒』の突きを放った。

如意棒の先が伸びて黒刀に襲い掛かる。

黒刀は紙一重でそれを躱すと伸び切った『如意棒』を横から右手で掴んだ。

 

「何っ⁉」

 

イ・サンは驚いた。

黒刀はそのまま彼ごと振り回した。

 

「ふん!」

 

「うわっ!ぐっ!」

 

イ・サンはフィールドの壁に叩きつけられる。

 

「くそ…何て馬鹿力だよ…」

 

イ・サンは頬のすすを拭う。

黒刀は余裕そうに悠然と立っている。

イ・サンは構え直す。

 

「何故だ…あいつはモードチェンジを使っていない。なのに…何故…私は…勝てない。………いやまだ初撃を防がれただけだ。そうだ…正義は負けない!」

 

気合いを入れ直して黒刀に突撃した。

 

 

 

 

 

 一方。

映姫とチャン・スウの闘いは映姫の優勢だった。

チャン・スウは映姫の高速剣撃に翻弄されている。

 

「(くっ…やはりデータで見るのと実際に闘うのでは訳が違う。)」

 

チャン・スウは状況が不利である判断して後退してイ・サンとの合流を図った。

 

 

 

 

 

 イ・サンと黒刀の攻防はさらに激化していた。

イ・サンが『如意棒』を縦、横、斜めに振ったり、突きを放ったり、黒刀のカウンターに対しては防御ではなく回避に徹した。

 

「(こいつは『ガードブレイク』で相手の防御を崩してくる。だったらカウンター狙いで決める!)」

 

その時、チャン・スウがこちらに合流しようしているのが見えた。

 

「チャン!」

 

イ・サンが形成逆転とばかりに喜んだその時だった。

チャン・スウの背後からまるで鬼武者のように斬りかかっている映姫がいた。

 

「チャン、後ろだ!」

 

イ・サンが叫んだ。

チャン・スウは背後を振り返ってSDを水平に構えて防御態勢を入った。

だがそれよりも速く映姫は『影牢』を発動した。

床から影が伸びてチャン・スウの全身を拘束する。

 

「何だ…オーラが…出ない?」

 

チャン・スウは何が起きているのか理解できなかった。

 

「四季流剣術 弐の段 一閃!」

 

映姫の剣がチャン・スウを斬り抜く。

鞘が無いので影の剣が消えると同時にチャン・スウがバタリと倒れた。

 

「さて…こっちは終わりましたね…黒刀、手伝いましょうか?」

 

「いらない。ようやく肩慣らしにちょうどいい奴が出てきたんだ。邪魔すんなよ。」

 

「そうですか。ならば私は少し離れています。」

 

映姫は一歩下がって静観する。

 

「何で…そんなふざけた闘い方をする?何故本気で闘わない!」

 

イ・サンは黒刀と映姫のやり取りを聞いて声を荒げる。

それを聞いて黒刀はため息を吐く。

 

「本気で闘わない…か。その答えは簡単だ。本気で闘わないんじゃない…本気で闘えないんだ。」

 

「どういう意味だ?」

 

「今の俺の力は強すぎてな。本気で闘ったりなんかしたらこの会場ごとぶっ壊しちまうのさ。」

 

「バカな!会場には結界が張られている。そんなことがある訳がない!」

 

「この程度の結界で俺を抑えられると思うなよ。そうだな…今出してる力が全力の1%くらいだ。」

 

それを聞いてイ・サンは驚愕した。

 

「1%…だと!」

 

ちなみに黒刀の力が急激に上昇していることには特訓の成果もあるが最大の理由はザナドゥ卿が復活したことである。

その為、黒刀は普段からオーラの出力制御を行っている。

 

「それにお前ら程度に本気を出すまでもない。いいからとっととかかって来いよ。」

 

黒刀は右手をクイクイと曲げて挑発する。

 

「(今の俺を本気にさせてくれるのは………レミリア…お前だけだ。)」

 

黒刀は一瞬だけ頭の中でレミリアの姿を思い浮かべた。

 

「四季黒刀~!」

 

イ・サンが吠えて『如意棒』の先を伸ばして連続突きを放つ。

 

「遅ぇ。」

 

黒刀は『抜き足』を使ってイ・サンの背後に回り込んでそのまま『八咫烏』を水平に振る。

イ・サンは振り返り際に『如意棒』を縦に構えて防御した。

だが『ガードブレイク』による黒刀の剣撃は予想以上に重かった。

イ・サンの体が後方に飛ばされる。

 

「四季流剣術 伍の段 火廻!」

 

黒刀はイ・サンの真上にジャンプして『八咫烏』を振り下ろした。

その瞬間に刃が炎を纏った。

 

「(空中摩擦で火を起こすだと…バカな!)」

 

イ・サンは驚いた。

回避しようにも空中ではそれが出来ない。

仕方なく『如意棒』を水平に構えて防御態勢を取るがそれが愚策であることは彼にも分かりきっていた。

その上でそうするしかなかった。

『八咫烏』と『如意棒』が激突する。

 

「(この重さ…いくら何でも常軌を逸している!筋肉が持たないぞこんなもの!)」

 

イ・サンは攻撃を受けながら黒刀の異常な強さに改めて驚いた。

そのまま押し切られて床に叩きつけられる。

さらに黒刀の踵落としが来たので跳ね起きてバックステップして踵落としを避ける。

『如意棒』を左右に伸ばして真ん中の部分を持って横向きに回転させる。

 

「竜巻旋風!」

 

高速回転する『如意棒』を中心に大きな竜巻が作り上げられる。

黒刀はそれを見上げた後、ゆっくりと歩いて竜巻に近づいていく。

 

「先輩、危ない!」

 

控室の妖夢が思わず叫ぶ。

黒刀は竜巻の中に入る瞬間に右腕を縦に構えて、回転している『如意棒』を『覇王の盾』で止めた。

 

「何っ⁉」

 

黒刀の顔は下を向いているのでその表情は見えない。

右腕を振り払って『如意棒』を弾く。

イ・サンの体勢が崩れたところで黒刀は彼の懐に入った。

 

「四季流体術 大和魂 改!」

 

黒刀が右手の拳をイ・サンの腹に叩き込む瞬間をモニターウインドウで見ていた諏訪子はその姿が彼の父の四季大和の姿と重なって見えた。

 

「がはっ!」

 

イ・サンはフィールドの壁へ吹っ飛ばされる。

背中を壁に激突させたが常人以上に鍛えていた為、失神はしなかった。

踏ん張ると『如意棒』を手のひらサイズに縮小してポケットにしまう。

腰を低くして両手を腰に添えて気力を溜める動作をした。

 

「あれhが王龍寺の岩徹剛の『波動砲』!しかも両手⁉」

 

控室にいる魔理沙が驚く。

 

「集束砲撃か…ならこっちも。」

 

黒刀は右手を開いて前に突き出すと周囲のオーラが彼の右手に集束していく。

さらに集束したオーラの色は黒く変色した。

 

「あれは…お空の…」

 

霊夢が呟く。

真冬はそれが耳入ったのか記憶を辿る。

 

「(違う…あれは元々の黒刀の…『覇王』の…)」

 

イ・サンが両手を前に突き出す。

 

「真 波動砲!」

 

気力を込めた光線を放つ。

 

「カオスブラスター!」

 

黒刀も右手を前に突き出したまま黒い光線を放った。

2本の光線が真正面からぶつかり合う。

イ・サンは必死にこらえる。

 

「くっ…私は…私の正義を貫く!それだけだ!

 

イ・サンの気持ちが通じたのか『真 波動砲』の威力が上昇した。

黒刀はイ・サンの言葉を聞いて考える。

 

「(正義か…そんなものを目指した時が俺にもあったんだろうか…どちらにせよ…もう戻れないし俺は正義になれない…俺の手はもう血で汚れている!)」

 

黒刀の脳裏にある記憶が一瞬だけ映し出される。

それはブレイドアーマーを装着している自分が罪もない10歳の少女を斬り殺した記憶。

 

「(そうだ…正義でなくたって俺にも守りたいものがある…その為にも俺は負けられない…自分の為じゃない…俺は誰かの為に強くなる!)」

 

黒刀は『カオスブラスター』の威力を上昇させる。

その上昇量はイ・サンを上回り、黒い光線は無色の光線を飲み込みイ・サンに浴びせられる。

 

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

イ・サンの悲鳴が響く。

『カオスブラスター』の直撃を全身に浴びたイ・サンはそのまま前のめりに倒れる。

 

《勝者 四季黒刀&四季映姫》

 

機械音声が鳴り響く。

黒刀は『八咫烏』を納刀する。

ルーミアが嬉しそうに拍手する。

他の観客も立ち上がって拍手したり口笛を吹いている。

黒刀は気にも止めずゲートへゆっくり戻る。

 

「あ、黒刀。」

 

映姫がその背中を追いかける。

 

 

 

 

 

 ゲートに戻って黒刀と映姫の他に誰もいなくなると歩きながら黒刀が口を開く。

 

「韓国の次はカタール。それに勝てば本選。本選で勝ち続ければ…レミリアと闘える。」

 

その言葉に映姫はため息を吐く。

 

「気が早いですね。それにイギリス代表がヨーロッパ予選を突破するとは限りませんよ。」

 

「勝つさ。あいつは必ず上がってくる。」

 

黒刀は断言した。

 

「そこまで言う根拠は?」

 

「レミリアだから。」

 

黒刀は少し楽しそうな顔で答えた。

 

 

 

 

 

 ヨーロッパ予選 イギリスvsスペイン。

レミリアは試合中にも関わらず青空を見上げていた。

もちろん対戦相手も双剣型SDで連続攻撃を仕掛けている。

だがレミリアは翼で全て防ぎ切っていた。

『グングニル』も具現化していない。

 

「(退屈ね…)」

 

レミリアは心の中で呟いた。

 

「おい!いい加減真面目に闘えよ!」

 

するとスペイン代表の選手が怒りを露わに声をかけてきた。

 

「あら…あなたいたの?」

 

レミリアは呼びかける声でようやく相手の存在に気づいた。

相手選手は羞恥で紅潮する。

 

「何を言っているんだ!さっきまで闘っていたことも忘れたのか!」

 

「あ~あれで闘っているつもりだったんだ?」

 

レミリアの関心は薄い。

髪をなびかせてこう口にした。

 

「教えてあげるわ。本当の闘いをね。」

 

突然、膨れ上がったレミリアのオーラの巨大さに相手選手は恐怖で震え上がる。

 

「う…うわああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

スペイン代表選手の悲鳴が会場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 試合終了後。

真紅の瞳をさらに輝かせたレミリアが顔を上げる。

それは『未来王の眼』が発動している状態だった。

 

 

 

 

 

 黒刀…あなただけは…私が倒す!

 

 

 

 

 

『破壊王』と『未来王』の決戦へのカウントダウンが始まっていた。




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氷炎

OP8 遊戯王GX 99%


 9月12日 午後0時30分。

黒刀と映姫はインド戦に続いて韓国戦もダブルス2で勝利した。

黒刀が控室に戻ってすぐに妖夢が駆け寄ってきた。

 

「おかえりなさい先輩!」

 

「ああ。ただいま。」

 

黒刀は妖夢の頭を撫でようとして一瞬、躊躇った。

先程の試合で過去のトラウマを思い出してしまった為だ。

血で汚れた手で純粋な妖夢に触れる資格などあるのかと迷った。

 

「先輩?」

 

頭上で黒刀の右手が止まったので妖夢が不思議そうに首を傾げる。

それに気づいた黒刀は異変を察知されないように優しく微笑んで妖夢の頭を撫でた。

妖夢は嬉しそうにはにかむ。

 

「あ~お2人さん?スキンシップは後にしてもらえない?」

 

そんなことをしていると天子が口を出してきた。

そこでようやく妖夢は皆に見られていることに気づいて顔を真っ赤にして後ろに飛び上がった。

 

「す…すみませんでした!」

 

妖夢は皆に向かってペコペコと頭を下げる。

 

「別に構わないわ。見ていて何だか和みますから。」

 

妖夢の態度を見て花蓮が笑う。

それにつられて皆も笑顔になる。

チルノが黒刀の前に立ち、ビシッと指を差す。

 

「黒刀、見てろ!あたいの進化を!」

 

「ほら行くわよ。」

 

天子がため息を吐いてチルノの二の腕を掴んで控室を出て行った。

 

「あたいが最強!」

 

「うるさい!」

 

2人の大声は廊下に響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 韓国代表控室。

ユンスクがモニターウインドウを凝視する。

 

「イ・サンとチャン・スウは敗れましたか。まあこれも想定内。ペ・ギョン、グ・ヨン。」

 

ユンスクは後方で控えている17歳の少年2人を呼ぶ。

 

「「はい!」」

 

はっきりした声で返事する2人。

ユンスクは冷静な姿勢を崩さす毅然とした態度のまま指示を出す。

 

「次の試合、無理に勝つ必要はありません。引き際を見極めてわざと負けなさい。」

 

「「え?」」

 

予想外の指示に2人は呆けた声を出す。

 

「あなた達は確かに韓国代表に選ばれましたが実力的にはまだまだ未熟。WDCでは重傷で再起不能になる者もいます。我々は選手であると同時に未来の国家戦力でもある。あなた達を失う訳に行きません。世界最大の大会とはいえ所詮は遊びにすぎません。いいですね?」

 

ユンスクは2人に言い聞かせた。

 

「「…はい。」」

 

ユンスクの正論に2人は頷くしかなかった。

そのまま2人は控室を出た。

 

 

 

 

 

 ゲートへ向かう途中の廊下で2人の士気は下がっていた。

 

「…俺達の実力不足…か。確かに序列1位のユンスクさんから見ればそうなんだろうが…」

 

ペ・ギョンが言葉を漏らす。

 

「それじゃ俺達は一体何の為にここまで来たって言うんだ!」

 

グ・ヨンが声を荒げた。

ペ・ギョンは俯く。

 

「俺達にもっと力あれば…」

 

「そうだ…力さえあれば…」

 

グ・ヨンが拳を握り締めたその時。

 

 

 

 

 

 …力が欲しいか?

 

 

 

 

 

どこからともなく声が聞こえた。

 

「誰だ!」

 

「どこにいる?」

 

2人が周囲を見渡すが彼ら以外誰もいない。

 

 

 

 

 

 力をくれてやる…

 

 

 

 

 

再度、謎の声が聞こえた直後。

2人の頭上から1枚ずつあるカードが舞い降りてきた。

カードが2人の胸の高さで空中停止する。

するとカードが黒い輝きを放った。

 

「強くなれる…」

 

「これさえあれば…」

 

「「勝てる!!」」

 

黒い輝きに魅入られた2人は謎の声を気にもせず目の前にある正体不明の力を手にしたことで狂喜のあまり口元を緩ませた。

 

 

 

 

 

 チルノと天子はゲートで待機していた。

天子が正面を向いたまま口を開く。

 

「まさかあなたと組む日が来るなんてね。剣舞祭で闘った時から考えれば想像もつかなかったわ。」

 

「あたいは最強だからね!」

 

チルノが自信たっぷりに胸を張る。

 

「何よそれ…」

 

天子が半分呆れた口調で呟く。

だが同時に天子もチルノのことを認めていた。

 

「(この子の絶対に諦めない気持ちとその気持ちがもたらす力には驚かされるわ。ほんと…)」

 

入場のブザーが鳴り響いた。

天子がチルノに向けて拳を突き出す。

 

「勝ちましょう!」

 

「当然!」

 

チルノと天子はグータッチを交わしてフィールドに入場する。

韓国代表の2人もフィールドに入場する。

天子が『緋想の剣』を抜剣する。その剣に赤い炎が宿る。

韓国代表の2人の武器はSD。

ペ・ギョンの剣には水が纏い、グ・ヨンの剣には風が纏う。

 

「ソードフリーザー!」

 

チルノが詠唱して氷の剣を造形する。

この時の韓国代表の2人の様子は平常だった。

…この時はまだ。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始の機械音声が鳴り響く。

最初に攻撃を仕掛けたのはチルノ。

 

「アイスニードル 改!」

 

チルノが強化版『アイスニードル』を放つ。

氷の棘はペ・ギョンとグ・ヨンに襲いかかる。

グ・ヨンが前に出て剣を振る。

剣に纏っていた風が氷の棘を砕く。

グ・ヨンが剣を振った後を狙って天子がグ・ヨンに斬りかかる。

 

「烈火!」

 

だが今度はペ・ギョンが前に出て来て水を纏った剣を振って『緋想の剣』とぶつかり合う。

 

「くっ!」

 

「そう簡単にはやらせませんよ!あなたの炎と私の水。どちらが強いでしょうかね!」

 

ペ・ギョンが鍔迫り合い状態の中で語り掛けてくる。

それに対して天子はフッと笑った。

 

「余所見していいのか?」

 

「何?」

 

ペ・ギョンが眉を顰めたその時。

 

「グレートクラッシャー!」

 

大声で氷のハンマーをペ・ギョンの真横から振りかぶるチルノがいた。

 

「これは躱せない…でも…甘い。」

 

ペ・ギョンがそう口にしたその時、チルノの真横から風の斬撃が飛んできて空中で直撃してチルノは吹っ飛ばされる。

 

「チルノ!」

 

振り向く天子。

 

「余所見していいんですか?」

 

ペ・ギョンが鍔迫り合い状態から上に弾いて下段斬りに入る。

天子は半歩下がって炎の壁を展開。

ペ・ギョンがそのまま斬ると炎の壁に当たった水がジュ~と音を立てて蒸発していく。

 

「チッ。」

 

ペ・ギョンは舌打ちして距離を取る。

天子も後退してチルノに駆け寄る。

 

「チルノ、大丈夫か?」

 

天子が声を変えると、チルノが跳ね起きる。

 

「大丈夫!」

 

チルノは頬に付いた汚れを手の甲で拭う。

 

「くそ~。」

 

悔しそうに言葉を吐く。

天子はチルノの肩に手を置く。

 

「チルノ、1人の力では勝てない。彼らに勝つにはもっと力を合わせるしかない。」

 

天子の言葉にチルノは若干嫌そうな顔をする。

 

「具体的にどうするの?」

 

天子は企んだように笑みを浮かべる。

 

「炎と氷。相容れない2つの属性は合わさる瞬間をこの会場にいる全員に見せつけるんだ!」

 

そう宣言して両手を大きく広げた。

 

「いいじゃんそれ!」

 

天子の言葉にチルノは心を打たれたのかやる気になった。

 

 

 

 

 

 

 チルノと天子が打ち合わせしている間にペ・ギョンとグ・ヨンも軽く打ち合わせをしていた。

 

「あの炎剣使い、思ったより厄介だぞ。」

 

「ああ。攻撃と防御の切り替えが上手い。」

 

ペ・ギョンがゴクッと唾を飲み込む。

 

「…あれを使うか?」

 

そう言い出したペ・ギョンにグ・ヨンは少し驚いた顔をしたがすぐに落ち着きを取り戻す。

 

「いや…まだそこまあで追い詰められている状況じゃない。使うのは…勝機が無くなった時だ。」

 

「分かった。」

 

ペ・ギョンが頷いて打ち合わせが終わった。

 

 

 

 

 

 

「待たせたね。」

 

天子が2人に向かって口を開く。

 

「いやいや…こちらこそ!」

 

ペ・ギョンは言葉を返すと同時に水の斬撃を放つ。

天子は炎の壁を展開して水を蒸発させる。

さらに炎の壁をブラインドにしてチルノがジャンプして『アイスニードル 改』を放つ。

 

「何度も同じ手を!」

 

グ・ヨンが風を纏った剣で斬り砕く。

チルノは攻撃を緩めることなく氷のハンマーを造形してそれを投擲した。

 

「うおっ!」

 

グ・ヨンが驚いた声を上げる。

ペ・ギョンとグ・ヨンは左右に跳んで避ける。

そこで天子がグ・ヨンに向かって駆ける。

 

「こっちか!」

 

グ・ヨンが声を上げる。

天子は回避直後を狙ったのだ。

 

「舐めるな!」

 

グ・ヨンは自身の正面を扇状に剣を振って風の盾を作り出す。

 

「向かい風上等!」

 

天子は足を止めることなくそのまま斬りかかる。

風の盾と『緋想の剣』の炎が激突する。

 

「グ・ヨン!」

 

ペ・ギョンが叫んで水の斬撃を天子に向けて放つ。

しかし、その水はチルノは上空から放った氷の棘によって凍らされ砕かれる。

 

「邪魔を…するな~!」

 

ペ・ギョンが左手で印を結ぶと水が巻き上げて彼の体を持ち上げていく。

こういう状況のチルノはかなり冷静で迎え撃つのではなく氷の翼を羽ばたかせて上昇する。

 

 

 

 

 

 一方。

天子とグ・ヨンの押し合いはまだ続いていた。

天子が押し切るかグ・ヨンが押し返すかという状況で観客もかなり盛り上がっていた。

グ・ヨンの額に汗が流れる。

 

「(こいつ…こんな小さな体のどこにこんな力が…)」

 

その攻防にもついに決着がついた。

 

「負けない!烈火!」

 

天子が詠唱すると炎の勢いがさらに増していく。

 

「何っ!まだ威力が上がるだと!」

 

グ・ヨンが驚く。

ついに風の盾が破られる。

天子はそのまま『緋想の剣』でグ・ヨンの体を斬りつける。

グ・ヨンはその瞬間に自分から後方に跳ぶことによって大ダメージを避けられたが動きがやや鈍った。

 

「チルノ!」

 

その瞬間を狙って天子が上を向いて合図をかけた。

それを聞いたチルノが反転して急降下し始める。

 

「グ・ヨンの次は俺という訳か…来い!」

 

接近するチルノにペ・ギョンが突っ込む。

水の竜巻に乗ったペ・ギョンがチルノに横一閃で斬りつける。

だが斬りつけられたチルノの体は水蒸気となって消えた。

 

「何っ!」

 

ペ・ギョンが驚いて慌てて死を見た。

『ドライジェット』でペ・ギョンを突破してチルノがグ・ヨンに向かって上空から迫る。

 

「本命はそっちか!くそ!」

 

ペ・ギョンは急いで水の竜巻を消すとスカイダイビングのように降下する。

チルノが氷のハンマーを造形して両手で持つ。

すると、今度は天子が『緋想の剣』を円を描くように振り回して火の輪を作った。

 

「チルノ!受け取れ!」

 

天子は火の輪を『緋想の剣』の剣先に引っ掛けてチルノ目掛けて投げた。

チルノが自身を軸に回転する。

すると火の輪が氷のハンマーに巻き付いた。

グ・ヨンは先程の天子の攻撃のダメージで回避できる状態ではなかった。

 

「いくぞ~!ファイアトルネードグレートクラッシャーァァァァァァァ!」

 

チルノが火の輪が巻き付いた氷のハンマーを持って回転しながらグ・ヨンに迫る。

 

「くっ!」

 

グ・ヨンは風の斬撃で迎撃しようとする。

だが風の斬撃は氷のハンマーに巻き付いている天子の炎によってかき消された。

 

「炎と氷の融合だと!そんなのあり得ない!」

 

グ・ヨンが驚愕したその時、ペ・ギョンが着地してきて水の壁を展開する。

グ・ヨンも一拍遅れて風の壁を展開する。

 

「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

チルノが叫びながら、2つの重なった壁に氷のハンマーを叩きつける。

接触箇所で温度の急上昇と急低下を繰り返す。

予想以上の威力にペ・ギョンとグ・ヨンが押されていく。

天子は下手に手出しをせず後方から見ている。

 

「(チルノの長所は武器を高速で造形出来ること…そして何より諦めない心がある!)」

 

「ぐっ…まだまだ!霊力解放!」

 

ぶつかり合いの中でチルノの霊力が上昇して氷のハンマーがさらに巨大化していく。

予想以上の事態にペ・ギョンとグ・ヨンは戦慄を感じた。

 

「あたいは絶対に勝つんだ!」

 

チルノが気合いの声を上げた瞬間と同時にペ・ギョンとグ・ヨンの防御が破られた。

無論2人に回避する余裕もなくトラックに衝突したかのような衝撃を全身に受けてフィールドの端まで吹っ飛ばされた。

チルノは人差し指を天に向かって掲げた。

自分がNo1だという証明である。

 

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「チルノちゃん…カッコイイ!」

 

大妖精が喜びの声を上げた。

 

「今日のあいつ何か決まってるぜ!」

 

その隣で魔理沙が同じような反応をしている。

妖夢も大喜びして拍手している。

 

「チルノ、大活躍ですね!このまま勝てますよね!」

 

隣に立つ黒刀に声をかけた。

だが黒刀はここではしゃぐような男ではなかった。

 

「確かにこのままいけば勝てるかもな…」

 

「まだ何かあるということですか?」

 

黒刀の含みある言い方に妖夢が訊く。

 

「いや…油断は出来ないというだけだ。」

 

黒刀の答えに妖夢は嫌な予感を感じた。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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本当の強さ

OP8 遊戯王GX 99%


 ペ・ギョンとグ・ヨンはまだ敗北していなかった。

直撃の際にオーラで防御したことでかろうじて耐えることが出来たのである。

 

「(ここらが…潮時でしょう…)」

 

控え室のモニターウインドウで試合を見ていたユンスクは目を閉じて事前に話していた降参のタイミングを見極めた。

しかし、それは裏切られる結果となる。

ペ・ギョンとグ・ヨンはなんとか立ち上がる。

 

「ユンスクさんは恐らくここで降参しろって言うだろうな…」

 

「しかし…それでは俺達にとって意味が無い。」

 

2人の様子がおかしいことに感づいたユンスクが顔を顰める。

 

「どうした…何故降参しない?」

 

 

 

 

 

 チルノは完全に勝った気でいるのか観客に向かってピースしまくっていた。

 

「チルノ、まだ試合は終わっていないよ。」

 

さすがに天子も呆れて注意した。

 

「おっと。」

 

チルノが向き直った視線の先にはペ・ギョンとグ・ヨンがいた。

 

「もう躊躇う必要は無い。」

 

「ああ…証明してやる。俺達は強いってことをな!」

 

2人は胸ポケットからそれぞれ1枚のカードを取り出した。

それはトランプカードだった。

ペ・ギョンが持っているのがクローバーの3、グ・ヨンが持っているのがハートの3。

 

「何をする気だ?」

 

天子が呟く。

彼らはトランプカードを天に掲げてこう詠唱した。

 

「「モードチェンジ!!」」

 

トランプカードから禍々しいオーラが解き放たれた。

 

「バカな!2人がモードチェンジだと!」

 

モニターウインドウで見ていたユンスクが驚く。

禍々しいオーラが2人を包み込む。

チルノはこれによく似た現象を知っていた。

そう。旧ザナドゥ王国で風見幽香が見せた『ダークネスモード』である。

 

「あれがモードチェンジ?あまり変化は見られないけど…」

 

天子は彼らの装備が特に変わっていないことに首を傾げる。

 

「…違う。」

 

その疑問にチルノが言葉を絞り出した。

 

「え?」

 

「…変わったのは見た目じゃなくて中身の方だ。」

 

「あれを見たことがあるの?」

 

「え…う~ん。あたいが見たものとは少し違う気がする…何ていうか…」

 

 

 

 

 

 

「濁っている?」

 

妖夢が小さい声で黒刀の答えを復唱して聞き返した。

 

「ああ。『ダークネスモード』はもっと純粋な闇だ。あんな濁った闇じゃない。」

 

妖夢の疑問に黒刀がそう答えた。

 

 

 

 

 

 韓国代表控室。

 

「あれがモードチェンジ…」

 

韓国代表の控えメンバーの1人が声を発したその時。

 

「違う。」

 

別の声が聞こえた。

一同が声のした方に振り向くとチャン・スウに肩を貸してもらっているイ・サンがいた。

イ・サンは医務室で眠っている筈だった。

 

「イ・サン。もう大丈夫…では無さそうだな。それよりあなたも気づいていたのですか?あれがモードチェンジではないことに。」

 

ユンスクがイ・サンに問いかける。

イ・サンはチャン・スウに肩を貸してもらいながら説明する。

 

「モードチェンジは本来なりたい自分をイメージして具現化したものです。例えば孫悟空のような神話の存在だったり四季映姫や二宮優のような神話上でなくとも具体的なイメージのあるものだったりですね。もちろん習得は簡単ではありませんが…。しかしあの2人は違う。恐らくさっきのトランプカードによってモードチェンジさせられていると考えるのが妥当でしょう。モードチェンジは魂を通してやるものですから。」

 

イ・サンは気が抜けたように膝から崩れ落ちる。

それをチャン・スウはなんとか支える。

 

「無理するな。まだ試合のダメージが残っているんだ。」

 

「イ・サン。今のあなたのすべきことは休息を取ることだ。」

 

「はい。」

 

ユンスクの言葉にイ・サンはそう返事してチャン・スウに支えられながらもベンチに腰かける。

 

「試合を中止すべきです!こんな悪しき力を持っていることを晒すことなどありません!」

 

控えメンバーの1人が主張する。

 

「大会規定により試合中止に関しては当人同士で決められる。」

 

ユンスクはそう答えた。

 

 

 

 

 

 

「デビルコード001!」

 

「デビルコード002!」

 

ペ・ギョンとグ・ヨンがそれぞれ言い放つ。

 

「構えろチルノ!」

 

天子は瞬時に戦闘態勢に切り替えてチルノに呼びかけた。

しかし…

 

「遅い!」

 

グ・ヨンが既にチルノの正面に移動していて蹴りを入れる瞬間だった。

 

「アイスシールド 改!」

 

チルノは即座に氷の盾を展開したがグ・ヨンの蹴りにより一瞬で破壊されそのまま腹に蹴りが入る。

 

「がはっ!」

 

チルノは20m後方に吹っ飛ばされる。

 

「この!」

 

天子がグ・ヨンに攻撃しようとしたのその時。

 

「お前の相手はこっちだ!」

 

ペ・ギョンが割り込んできた。

ペ・ギョンが水を纏った剣で斬りかかる。

天子は炎の壁を展開して防御しようとする。

だがその壁はすぐにペ・ギョンの剣に纏う水によってかき消された。

 

「(さっきと戦闘力が違い過ぎる!)」

 

「オラオラ!さっきまでの勢いはどうした?」

 

ペ・ギョンが縦、横、斜めに剣を振って連続攻撃を仕掛ける。

完全に力負けしている天子は『緋想の剣』で受ける度に体勢を崩される。

 

「くっ!」

 

「おいおい。忘れたのか?これがダブルスだということを!」

 

ペ・ギョンが歪んだ笑みを浮かべて言い放つ。

その言葉がまるで合図かのように天子の真横からグ・ヨンが天子を下段斬りで斬り上げた。

 

「ぐあっ!」

 

「ほら!おまけだ!」

 

天子の体が浮き上がったところでペ・ギョンが水の斬撃を放った。

天子は空中で『緋想の剣』で受けるが力負けしている上に空中であった為さらに吹っ飛ばされ床を転がる。

すぐに立ち上がろうとしたその時。

 

「水牢!」

 

そう詠唱する声が聞こえて天子は三角錐の水の牢獄に閉じ込められた。

ただし水の牢獄と言っても中に水は入っておらず天子を閉じ込めている三角錐の膜が水で出来ている。

ダメージから復活したチルノが立ち上がる。

天子がチルノへ駆け寄ろうと『水牢』の膜に触れた瞬間、内部で爆発が起きた。

 

「ぐあっ!」

 

天子が床を転がる。

 

「ああ。言い忘れたけど『水牢』に触れると水蒸気爆発が発生するから気をつけろよ。」

 

ペ・ギョンが天子を見下ろして忠告する。

天子は床に手をついて立ち上がろうとする。

 

「こんなもの…すぐに壊して」

 

「そうはさせない。」

 

ペ・ギョンがそう口にした瞬間。

天子の背中から重い衝撃がのしかかった。

 

「ぐっ!」

 

天子は四つん這いの姿勢で上を見ると背中に直径1mの水の球体がのしかかっているのが見えた。

 

「『水鉛』。質量の小さい水でも積み重ねれば重くなる。そうだな…バケツの中に水を入れたようなものだ。そこで大人しくしてろ。面白いものを見せてやる。」

 

ペ・ギョンはその場を去って行く。

 

「待て!ぐっ!」

 

天子は『水牢』と『水鉛』によって完全に動きを封じられてしまった。

チルノは天子が拘束状態であることに気づくと突っ込む。

 

「天子!くそ~お前ら~!」

 

だがそれよりも速くグ・ヨンが風のようなスピードでチルノに接近していた。

 

「だから遅いって…言ってんだろうが!」

 

グ・ヨンが風の斬撃を放つ。

チルノは『ドライジェット』で躱してグ・ヨンの背後に回り込む。

 

「もうそれは知ってんだよ!」

 

しかし、グ・ヨンが回し蹴りでチルノの横顔を蹴り飛ばした。

 

「やれやれ体が小さいから吹っ飛びすぎて困るぜ。」

 

グ・ヨンは床に転がっているチルノに歩いて近づいていく。

 

「グ・ヨン。」

 

ペ・ギョンが合流してグ・ヨンの横に並ぶ。

 

「おう。あっちは抑えられたみたいだな。『水牢』と『水鉛』…ついに完成したんだな。」

 

「ああ。以前はどんなに練習しても出来なかったが今なら出来る!力がみなぎってくる!」

 

「ああ。力があり余ってるくらいだ!」

 

「パワーとスピードだけじゃなく技の精度と威力も上がっている。」

 

ペ・ギョンが自身の拳を握り締める。

 

「そうだ!これが力!これが強さだ!」

 

グ・ヨンが力に酔いしれて高笑いした。

その時。

 

「…ふざけるな。」

 

声が聞こえた。

 

「あ?」

 

グ・ヨンが声を出す。

視線を向けた先でチルノがゆっくりと立ち上がっていた。

 

「そんなものは偽物だ!本当の強さじゃない!強くならなきゃいけないのは力じゃない!」

 

ぼろぼろになりながらも立ち上がった。

 

「じゃくぁ何だって言うんだ?」

 

グ・ヨンがニヤニヤ笑いながら返答を待つ。

 

心だ!

 

チルノは即座に言い放った。

 

「ハハハ!心だって?あ~くだらねえ!」

 

グ・ヨンは嘲笑した。

 

「…知った風な口を。」

 

ペ・ギョンは苛立ちを露わにした。

 

「あら…ペ・ギョンが怒っちゃったよ。」

 

グ・ヨンが面白そうに笑う。

ペ・ギョンが剣を振って水の斬撃を放つ。

チルノは氷の剣を造形して防御するが、防戦一方になってしまう。

 

「力が無ければ誰も認めない!何も手に入らない!そういう風に出来ているんだよこの世界は!」

 

怒りを爆発させながら水の斬撃を連続で放つ。

 

「お前の言っていることは弱者の言い分だ!」

 

「違う!あたいは知ってる!力が弱くても強い奴はいる!」

 

チルノは攻撃を受ける中で脳裏に大妖精の顔を思い浮かべる。

 

「もういい。結局正しいのがどちらかなど勝者が決めることだ。お前はここで負ける。」

 

ペ・ギョンがそう口にすると、グ・ヨンが前進する。

 

「それじゃとどめといこうか!」

 

「氷精一閃!」

 

チルノが居合い斬りで斬りかかった。

だがそれをグ・ヨンが剣で受け止めた。

 

「どうした?1人前なのは口だけか?」

 

グ・ヨンが不敵な笑みを浮かべてチルノの首を掴んで持ち上げる。

 

「ぐっ…」

 

「ほら弱え!」

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「チルノちゃん!」

 

大妖精が悲痛の叫びを上げる。

あまりに惨い闘いに何人かが目を背ける。

だが黒刀は全く目を背けずモニターウインドウを真剣な目で見続けていた。

妖夢が目を背けようとすると、

 

「妖夢、目を背けるな。」

 

それを声で制止する。

 

「でも…」

 

「あいつの闘いはここからだ。」

 

「…はい!」

 

妖夢は強く応えてモニターウインドウに視線を戻す。

 

「(天子は動けず、お前は満身創痍…さあ、お前の可能性を見せてみろ…チルノ。)」

 

誰もがチルノの敗北を予期する中で黒刀だけはチルノの可能性を信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あたいは…こんなところで負けられない…あたいはいつか黒刀に勝つんだ…」

 

チルノは首を絞められながら言葉を絞り出した。

 

「あ~四季黒刀か…安心しろよ!機会があればお前の代わりに俺が倒してやるよ!」

 

チルノの言葉を聞いたグ・ヨンが高笑いした。

だがその言葉はチルノの神経を刺激するものだった。

 

「…笑わせないで。」

 

チルノの口から冷たい声が出た。

 

「あ?…っ!」

 

グ・ヨンが聞き返した直後、チルノの首を掴んでいた左手に強い冷気を感じた。

チルノが彼の左手首を掴んでいたのである。

グ・ヨンは咄嗟にチルノから手を離して距離を取った。

 

「ハッ!粋がったところでもうお前の負けは確定してんだよ!」

 

「黒刀を倒すのはあたいだけだ!誰にも譲るつもりは無い!」

 

チルノはそう言い放った。

 

「うるせえんだよ!ガキが!」

 

グ・ヨンが斬りかかる。

チルノは氷の剣を造形して同じように斬りかかる。

 

「またそれか!無駄なんだよ!」

 

両者の剣が激突する。

 

「あたいは負けない…絶対に負けない!

 

チルノが叫んだその時。

彼女が握っている氷の剣が青白く輝いた。

そのオーラの波動でグ・ヨンが吹っ飛ばされる。

 

「何だ?一体何が起きている!お前のその力は一体何なんだ!」

 

着地したグ・ヨンが叫ぶ。

チルノの体が浮遊していくと背中の氷の翼が徐々に大きくなっていく。

さらに氷の剣の鍔の部分に氷で出来た青い薔薇の飾りがつく。

それだけでなくチルノの全身を纏うオーラが無色から水色に変色した。

 

「これがあたいの最強だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!

 

(挿入歌 限界突破G-beat 戦姫絶唱シンフォギアGXより)

 

チルノが喉の奥から力いっぱい叫んだ。

 

「『青薔薇の剣』…フッ…あいつにピッタリだな。」

 

拘束状態である天子は四つん這いになりながらそう口にした。

 

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「青薔薇の花言葉は奇跡。チルノの諦めない心が奇跡を起こしたってことだな。」

 

黒刀がフッと笑った。

 

「チルノちゃんの翼…綺麗…まるでクリスタルみたい…」

 

大妖精がうっとりした目で見惚れる。

 

「名付けて『クリスタルウイング』なんてどうでしょう。」

 

雪村が眼鏡を吊り上げて命名する。

 

「まんまじゃん。」

 

霊夢が呆れる。

 

「いいじゃん!あいつが聞いたら『うお~かっけ~!』って言うと思うぜ!」

 

魔理沙のノッテきた言葉で次第に皆の表情に笑顔が戻っていく。

 

 

 

 

 

 

「『ゾーン』…やはり…いつも俺達に立ちはだかるのは天才という存在か!」

 

ペ・ギョンがチルノを見上げて声を荒げる。

 

「怖気づく必要はねえよ!こっちは2人いるんだ!『ゾーン』にはタイムリミットがある!俺達の勝利は揺るがねえ!」

 

グ・ヨンがハイジャンプでチルノに接近する。

チルノも飛行してグ・ヨンに迫る。

チルノの『青薔薇の剣』とグ・ヨンの風を纏った剣が激突する。

 

「へっ!また押し切って…」

 

グ・ヨンが押し込もうとしたその時。

背中に痛みが走った。

 

「なっ!…誰だ?…!」

 

後ろに視線を移すとそこにいたのはチルノだった。

 

「どういうこと…っ!」

 

グ・ヨンが答えを求める隙も無く前後のチルノから高速連続攻撃を仕掛けられる。

1人…また1人…さらに1人と増えてチルノの姿が5人となった。

 

「『イリュージョンアクセル』!凄いこの前より多い!」

 

控室にいる大妖精のテンションが上がる。

ただ多いだけでなく尋常ではないスピードで移動しているチルノにグ・ヨンは翻弄されるばかりだった。

見かねたペ・ギョンが水の斬撃を放つがその水はチルノが放つ冷気によって凍らされ落下してしまった。

 

「バカな!この俺がスピードで負けているだと!」

 

グ・ヨンは現実を受け止め切れていない。

チルノの動きは到底常人には捉えきれないスピードだったが黒刀はモニターウインドウでそれを肉眼で追っていた。

 

「(まだ『ゾーン』は使いこなし切れていない。早く決着をつけないとまずいぞ…チルノ。)」

 

タイムリミットが短いことはチルノも承知だった。

 

「もっと…もっと速く!」

 

5人のチルノのスピードがさらに上がる。

 

「これがあたいの…『氷精連斬』だ~!」

 

チルノがグ・ヨンを空中停止させる程、連続で斬りかかっていく。

 

「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

チルノがフィニッシュを斬りつける。

グ・ヨンは声も出ず失神して床に落下していく。

さすがにこの高さで頭から落ちたら大事故になってしまうので大会スタッフが移動魔法で一旦浮かせてからゆっくり床に下ろす。

 

「はあ…はあ…」

 

披露したチルノは『ゾーン』が解けて翼も元のサイズに戻る。

その時だった。

チルノは自身の背後に大きな水の球体があることに気づいた。

 

「はっ!」

 

チルノは急いで距離を取る。

 

「水風船。」

 

詠唱する声がした直後、その球体が爆発した。

 

「うわあ!」

 

巻き込まれたチルノは吹っ飛ばされる。

なんとか空中で体勢を立て直すが周囲にはさっきと同じ水の球体が10個浮いていた。

 

「『水風船』。効果は今体感した通りだ。お前の冷気が弱まったことでこれを使えるようになった。頑張ったようだが所詮お前はここまでということだ。」

 

左手で『水風船』を作り出すとチルノに向かって放った。

チルノはフィールドを飛び回る。

 

「無駄だ!その『水風船』は遠隔操作できる。逃げ場はない!」

 

ペ・ギョンが言い放つとチルノを包囲するように操作する。

 

「だったら凍らせて…!(霊力が…もう…)」

 

『ゾーン』は強力だが使いこなさなければ消耗が激しい。

チルノの霊力が底を尽きかけているのだ。

チルノは『水風船』に完全包囲されてしまった。

 

「弾けろ!」

 

11個の『水風船』は一斉に爆発する。

 

「うああああああああああああああ!」

 

悲鳴を上げたチルノが落下するところをペ・ギョンは『水風船』の中にチルノを入れる。

 

「さあ、これで終わりだ!」「ダメ~!」

 

ペ・ギョンの宣告と大妖精の叫びが重なる。

水風船は破裂し爆発した。

 

「さて…次は炎剣使いを…」

 

ペ・ギョンが『水牢』のある方に視線を移すと、ある異変に気付いた。

『水牢』は無くなっていたのだ。

 

「どういうことだ……まさか!」

 

ペ・ギョンが振り返って上空を見上げる。

『水風船』が爆発したことによって発生した霧から姿を現したのはチルノを抱きかかえる()()の天子の後ろ姿だった。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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炎神

OP8 遊戯王GX 99%


「天子…」

 

チルノが小さい声で名を呼ぶ。

 

「遅くなってすまない。それと…よくやった。後は私に任せろ。」

 

天子は優しく微笑んで言葉をかけた。

 

「うん…任せた…」

 

チルノは安心したように眠った。

天子はゆっくりと着地してチルノをそっと寝かせた。

 

「何だ…その姿は?」

 

ペ・ギョンが目を見開いて訊く。

天子は振り返る。顔を俯かせたまま。

 

「『炎神イフリートモード』だ。」

 

天子は答えた。

 

「…どうやって『水牢』から脱出した?」

 

「あんたが術を使いまくったおかげで効力が落ちたんだよ。」

 

これも答えた。

 

「もういいか?私はもう我慢の限界だ。」

 

フィールドの気温が徐々に上昇していく。

 

「よくも…よくもチルノを!いたぶってくれたな!

 

天子が吠えた。

天子のオーラが一気に高まった。

まるで火山の噴火のように。

天子の帽子が飛んでいく。

 

「私の怒りを全て…この炎に捧げる!」

 

天子は『緋想の剣』にさらに炎を纏わせた。

 

「チッ、やらせるか!」

 

ペ・ギョンは左手で印を結んで『水牢』を発動する。

だが『水牢』の水は天子から発せられる炎によって一瞬で蒸発した。

 

「バカな!お互いモードチェンジした状態でここまでの差が出る筈がない!」

 

ペ・ギョンは驚愕して目の前の事実を否定しようとする。

天子は目を細める。

 

「なるほど…チルノが言っていたことの意味が分かったわ。あんた達の強さは偽物…つまりあんた達の力には魂がこもっていないのよ!」

 

そう言い放ってビシッとペ・ギョンを指差す。

 

「魂だと?力にそんなものは必要ない!あるのは強いかという結果だけだ!」

 

ペ・ギョンが吠えて水の斬撃を放つ。

天子はゆっくりと歩きながら水の斬撃を1つずつ斬り払った。

ペ・ギョンの顔に焦りと敗北に対しての恐怖が表れる。

ペ・ギョンは左手で『水風船』を作り出すと天子に向けて放った。

さらに連続で3個作り、合計4個天子に向けて放った。

4個の『水風船』が天子を包囲するように四方で空中停止する。

 

「爆ぜろ!」

 

ペ・ギョンが言い放って『水風船』が破裂する寸前で天子が深く息を吸ってから回転斬り。

『緋想の剣』の炎で4個の『水風船』は蒸発して消滅した。

さらに炎の余波で周囲の床が焼け焦げる。

炎が荒々しく揺れるその光景はまさに地獄。

 

「化け物め!」

 

ペ・ギョンが言葉を吐く。

天子は『緋想の剣』を両手で握って床に突き刺した。

ペ・ギョンの周囲に5本の火柱が上がった。

ペ・ギョンが危険を察知してその場から離れようとしたその時。

両手首と両足首に炎の輪が出現して拘束する。

 

「バインド⁉」

 

さらに火柱はペ・ギョンを中心に一点に集束した。

 

「ぐああああああああああああああああああああ!」

 

「天の火柱!」

 

一点に集束した火柱はさらに大きな火柱となった。

火柱の直径は30mに及ぶ。

火柱が消滅した後、ペ・ギョンが前のめりに倒れる。

 

《勝者 比那名居天子&チルノ》

 

会場中に歓声が鳴り響く。

天子が『緋想の剣』を納刀すると髪の色も赤色から元の青色に戻る。

それから床に横たわっているチルノに駆け寄っていく。

 

「チルノ。」

 

天子は屈んでチルノの肩を軽く叩いて呼びかける。

チルノはというと…

 

「ん~あたいが最強だ~zzz」

 

爆睡していた。

 

「ったく…とんだ大物ね。」

 

チルノは半分呆れた顔をして肩をすくめた後、チルノをおぶってフィールドを後にした。

 

 

 

 

 

 大妖精は試合が終わって居ても立ってもいられずダッシュで控室を出た。

廊下で天子におんぶされているチルノを見つけると、

 

「チルノちゃん!」

 

大声で名を呼んだ。

チルノはゆっくりと目を開けて目を覚ました。

 

「あれ…大ちゃん?」

 

チルノが呟く。

大妖精が2人の元へ辿り着く。

 

「大丈夫?チルノちゃん。それに天子さんも酷い怪我!早く医務室へ行きましょう!」

 

「大丈夫、大丈夫…」

 

チルノが力なく手を振る。

 

「ダメ!私は皆の治療を任せられているんだから!」

 

大妖精は少し怒っていた。

 

「チルノ。ここは大妖精の言うことに従った方がいい。いつでも試合に出られるようにコンディションを整えておくのは基本よ。」

 

天子が背中のチルノに言い聞かせる。

 

「う~ん…分かったよ。」

 

チルノは2人の言葉に渋々従った。

3人は控室ではなく医務室に向かって歩いた。

 

 

 

 

 

 午後1時。

ペ・ギョンとグ・ヨンが目を覚ますとそこは医務室のベッドだった、

 

「あれ…ここは…」

 

2人を心配する表情で取り囲むようにイ・サン、チャン・スウや他のメンバーが集まっていた。

 

「ようやく目を覚ましたな。」

 

チャン・スウが声をかける。

 

「チャン…俺達は…」

 

「ここは医務室。お前達は試合に負けてここに運ばれた。」

 

チャン・スウが2人の知りたい情報を先回りして答えた。

 

「起きて早々悪いけど聞きたいことがある。」

 

ある程度回復して1人で歩けるようになったイ・サンが口を開く。

 

「2人が持っていたあのカード…あれはどこで手に入れたのです?」

 

その質問にペ・ギョンとグ・ヨンは顔を見合わせる。

 

「詳しくは分かりません。」

 

グ・ヨンがまず答える。

 

「ゲートで自分の無力さを実感した時に声が聞こえてきたんです。」

 

ペ・ギョンが補足した。

 

「声?」

 

イ・サンが目を細める。

 

「はい。『力をくれてやる』と聞こえた後、あのカードが突然現れて恥ずかしながら自分達はそれに縋ってしまいました。それからの記憶は正直言っておぼろげにしかありません。」

 

ペ・ギョンが拳を握り締める。

自身の心の甘さを悔いている証拠である。

 

「ただ…あのカードを使った瞬間、力が溢れてきて…他のことがどうでも思えてきて…こう…頭が真っ白…いえ…黒く染められていく感じでした。」

 

グ・ヨンが補足した。

イ・サンは2人の説明を聞いて目を伏せた後、ゆっくり開ける。

 

「先程2人のメディカルチェックをしました。ですが例のカードは見つかりませんでした。モードチェンジした時に体内に侵入したのではないかという可能性も試しましたがそれも…」

 

そこで言葉を切って首を横に振る。

 

「2人の精神状態が安定していることから消滅したと考えるのが最も妥当でしょう。しかし問題はもう1つあります。」

 

チャン・スウが口を開く。

 

「問題?」

 

イ・サンが訝しむ目をする。

他の皆も理解していない。

 

「2人にカードを渡したのが何者かということです。」

 

『!』

 

皆が動揺する中、チャン・スウは顎に手を当てる。

 

「2人はカードを渡した人物を見ていないのだな?」

 

「「はい。」」

 

あの時、2人は声が聞こえて周囲を見渡したが誰もいなかったことは確認している。

 

「可能性があるのは…私達の誰かか大会委員ですね。」

 

「おいチャン!」

 

チャン・スウの推理にイ・サンが口を挟もうとする。

 

「落ち着け。客観的可能性からの推理だ。普通に考えて2人に強大な力を与えるならそれは勝ちたいと思っている韓国代表が含まれる。」

 

そう言ってチャン・スウはイ・サンを制止した。

続けて、

 

「だが私は大会委員の方が可能性としてあり得ると思う。ああいうのをデモンストレーションとして楽しむ富裕層の奴らは多いからな。それにゲートは関係者以外立ち入り禁止だ。」

 

その推理を聞いてイ・サンが目を見開いた。

 

「おい…それってこの大会そのものが仕組まれたものだっていうことじゃないか!」

 

「あくまで可能性の話さ。」

 

医務室に重苦しい空気が漂う。

 

「あの…ところでユンスクさんはどちらへ?」

 

ペ・ギョンが小さく挙手して訊く。

 

「ユンスクはもうゲートに行った。」

 

 

 

 

 

 ユンスクは廊下を歩いている。

 

「(もう後がない…だが慌てる必要もない。出来れば神器を使わずに決着をつけたいものですね。三国志最強と言われた戦士の神器…『方天画戟』を…)」

 

 

 

 

 

 午後1時10分。

黒刀は『抜き足』を使って皆にバレないように控室を出ていた。

その理由は例のカードを渡した犯人を『覇王の眼』で見つけたからだ。

犯人は黒いローブを纏って人気のない廊下を走っていた。

黒刀はそれを追いかける。

 

「(速いな。)」

 

黒刀のスピードでも犯人との距離が全く縮まらない。

すると、いきなり犯人が振り返って発砲してきた。

黒刀が『八咫烏』で銃弾を真っ二つに斬ると中から白い煙が出てきた。

 

「(白煙弾?だが『覇王の眼』にそんなものは…っ!)」

 

透視能力も備えてある『覇王の眼』で白い煙の先に目を凝らすとなんと犯人の姿が消えていくのだ。

やがて犯人はその場から完全に消えた。

ステルスではない。

ステルスなら『覇王の眼』がそれを逃す筈が無い。

 

「(黒刀。)」

 

ザナドゥ卿が声をかけてきた。

 

「ああ。分かっている。奴は人間じゃない…悪魔だ。それも上級悪魔クラスの。」

 

黒刀の脳裏に思い出したくない顔が思い浮かぶ。

黒刀は頭を振り払って控室に戻る為…その場を去った。




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中華最強の武将

OP8 遊戯王GX 99%


 9月12日 午後1時20分。

黒ローブを取り逃がした黒刀が控室に戻って来ると次のユンスク戦を控えている妖夢の様子が少しおかしいことに気づいた。

 

「どうした?」

 

近くにいた映姫に訊く。

 

「プレッシャーにやられちゃったみたいです。世界の舞台で闘うことに緊張してしまったのでしょうね。」

 

「はあ?」

 

映姫の答えを聞いた黒刀は眉を顰める。

 

「しょうがねえ奴だな~。」

 

頭を掻きながら妖夢に近づく。

黒刀に気づいた妖夢の両手は震えていた。

 

「せ…先輩…手の震えが止まりません…」

 

妖夢は泣きそうな顔で黒刀を見上げる。

 

「何をそんなにビビってんだよ。」

 

「だって…世界ですよ!そう考えたら手の震えが止まらなくなって…」

 

弱気なことを言い始める妖夢に黒刀はその腕を取った。

 

「え…先輩!何を…」

 

戸惑う妖夢に構わず黒刀は控えから廊下に出る。

控室の電動ドアが閉まると黒刀は妖夢の腕から手を離した。

その瞬間、黒刀は素早い動作で鞘から『八咫烏』を抜いて中段斬り。

妖夢は咄嗟の反応で鞘から『楼観剣』と『白楼剣』を抜いてクロス状に交差して構えた。

黒刀が抜刀してから妖夢が構えるまでの時間…僅か0.5秒。

『八咫烏』の刃が妖夢の2本の剣が交差している部分に当たる。

重い衝撃が妖夢の全身に伝わって来る。

『ガードブレイク』をしている黒刀はそのまま『八咫烏』を振り抜いた。

妖夢は足を床に摩擦させながら10m後退させられる。

それを見た黒刀は先程攻撃を仕掛けた人斬り侍のような顔とは打って変わって安心したように微笑んだ。

 

「何だ。全然大丈夫じゃん。」

 

流麗な動作で『八咫烏』を納刀する。

 

「先輩、私の緊張を解す為に……って今の下手したら怪我じゃすみませんでしたよ!」

 

妖夢は黒刀の喝の入れ方に抗議する。

 

「手の震えは止まっただろ?」

 

黒刀の言葉に妖夢は両手を見る。

さっきまでの手の震えは止まっていた。

 

「あ、本当だ。」

 

黒刀は正面から妖夢に歩み寄る。

 

「妖夢、お前はいつか言ったよな?俺を超えるって。なら世界の壁なんて軽く超えて見せろ。」

 

妖夢の前で立ち止まる。

 

「先輩…はい!」

 

妖夢は強く応えた。

 

「じゃあ入場する前に皆に一声かけてこい。」

 

「はい!」

 

妖夢は黒刀の横を通り過ぎて控室に入った。

黒刀は控室に戻らず医務室に向かった。

 

「皆さん、ご心配おかけしました。もう大丈夫です!いけます!」

 

控室に入った妖夢は一度頭を下げてから強く言い放った。

 

「何か物凄い音が聞こえたんだけど…」

 

魔理沙が控えめに口を出す。

 

「先輩に喝を入れてもらいました!」

 

一同はこう思った。

 

『(何したんだあいつ…)』

 

「ではいってきます!」

 

妖夢は拳を強く握って控室を出た。

 

 

 

 

 

 午後1時30分 医務室。

 

「それにしてもまあ…随分とやられたもんだな~」

 

黒刀はボロボロになって医務室のベッドに横たわっているチルノと天子を見る。

その言葉にいち早く反応したのはチルノだった。

 

「何を~あたいは全然平気だ!」

 

チルノが跳ね起きようとすると全身に激痛が走る。

 

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

悲鳴を上げるチルノ。

 

「チルノちゃん、まだ動いちゃダメだよ!」

 

大妖精がチルノをベッドに寝かせて看病を続ける。

治癒魔法は既にかけているのでそれが定着するまで待っているところである。

黒刀とチルノの茶番をしばらく眺めていた天子がようやく口を開く。

 

「それで?まさか見舞いだけの為に私達のところに来たわけじゃないでしょう?」

 

「話が早いな。お前らが闘ったあの韓国人2人について実際に闘ってみてどんな感じだったのか聞きたい。」

 

天子が少し考える。

 

「どんなって…実際かなりの実力者だと思うわ。ただ…カードを使ってモードチェンジしてからはまるで人が変わったっていうか…」

 

そこで続きの言葉を詰まらせる天子。

 

「何か嫌な感じだった!」

 

チルノがそう付け加えた。

 

「そうか…実はあの2人がおかしくなった原因を作った犯人をさっき追いかけていたんだが逃げられた。」

 

黒刀は腕組みしながら言った。

その事実に3人は驚きを隠せなかった。

その時。

医務室の電動ドアが開いた。

 

「その話、詳しく聞かせてくれないかしら?」

 

入ってきたのは真冬だった。

 

「真冬…」

 

黒刀が名を呼ぶ。

 

「黒刀君、私は大丈夫だから…お願い。」

 

真冬は黒刀の目を正面から見つめて懇願する。

 

「はあ…分かったよ。」

 

黒刀は根負けしたのかため息を吐いて了承した。

 

「だけどその前に…大妖精、手鏡あるか?」

 

「はい。ありますけど…」

 

大妖精はバッグの中から手鏡を取り出す。

 

「鏡の面を皆に見えるように向けてくれ。」

 

大妖精が言われた通りにする。

 

「天子、驚かないでくれ。」

 

「保証は出来ないけど努力するわ。」

 

天子が応えて数秒後。

鏡にザナドゥ卿が映った。

 

「え、黒刀?」

 

天子が疑問を口にする。

 

「簡単に言えば俺のご先祖様だ。今は俺の精神世界にいる。」

 

これには天子も開いた口が塞がらない。

しばらくして天子はフリーズから復活した。

 

「なるほどご先祖様か…相変わらず非常識な存在だね…君は。」

 

黒刀に呆れた言葉を向ける天子。

ようやく場が落ち着いたので真冬が遮音魔法と遮蔽魔法をかけた後、

 

「では余から話そう。ザナドゥ王国の話を。」

 

ザナドゥ卿が妖夢達に話した内容と同じ内容を天子に語った。

真冬がザナドゥ王国の女王であることも明かした。

 

「なるほど。つまり黒刀は今回起きた事件に悪魔が関わっている可能性が高いって言いたいのね?」

 

一通り話を聞いた天子が黒刀に問いかけた。

黒刀は無言で頷いた。

 

「…せっかく話してくれたなら私も話さないといけないわね。」

 

天子は服の中からロケットペンダントを取り出す。

開けるとその中には1枚の写真が入っていた。

写真には今より幼い天子ともう1人紺色の髪の少女が映っていた。

 

「天子さんのお姉さんですか?」

 

大妖精が写真を見て訊いた。

天子はかぶりを振る。

 

「いいえ。歳は4つ離れていたけど私の親友よ。名前は永江衣玖。」

 

「この方、今はどうされてるんですか?」

 

「…もういないわ…この世に。」

 

「え?」

 

「10年前、当時8歳の私と12歳の彼女はある悪魔に襲われて彼女は私を守って死んだ。」

 

衝撃の過去に大妖精と真冬は思わず口を手で塞いでしまう。

 

「酷い…」

 

大妖精が言葉を漏らす。

チルノも衝撃のあまり固まっている。

だが黒刀はこう問い質した。

 

「その悪魔の名前は?」

 

冷酷にも聞き取れるその問い。

 

「黒刀先輩、そんな言い方!」

 

当然、大妖精が反発する。

 

「いいのよ大妖精。彼だって好奇心で訊いていないことくらい分かっているわ。」

 

天子は大妖精を宥めた。

 

「…その悪魔の名前は………サタン。」

 

天子は少し気持ちを落ち着かせてからその名を口にした。

その名を知らない者などいない。

上級悪魔として知られている青い炎の悪魔。

 

「俺が追っていた奴もかなり人間離れしていた。恐らくそのサタンとほぼ同格の悪魔考えて間違いないだろう。」

 

黒刀は考え込む。

 

「黒刀君、私達に秘密でそんな危ないことしてたの?」

 

真冬は少し怒っていた。

 

「え…いやまあ…そうだけど。」

 

黒刀は戸惑いながら返す。

 

「もう!黒刀君はそんなだから…」

 

真冬が黒刀を叱ろうとしたその時。

ちょうど次の試合開始時間が迫り医務室のモニターウインドウにフィールドが映し出された。

 

「ほ、ほら!妖夢の試合が始まりますよ!」

 

大妖精が慌てて皆の意識を試合に向けさせた。

ザナドゥ卿は既に鏡から姿を消えていた。

 

 

 

 

 

 午後1時40分 日本代表側ゲート。

妖夢はゲートで目を閉じて10分間集中状態に入っていた。

それから目を開く。

入場ブザーが鳴り響く。

一歩を踏み出そうとした時、一瞬だけ目の前に黒刀の背中が幻として見えた。

それはすぐに消えたが妖夢には超える意志を忘れるなと自分に言い聞かせているように思えた。

妖夢は決意を新たにして今、世界のステージに足を踏み入れた。

入場した時に妖夢は感じた。

会場の大きさ、観客の数と歓声、何よりも反対側から入場してくる対戦相手のオーラの質が剣舞祭の時に闘った相手とは桁違いであること。

 

「これが…WDC。あの人が韓国最強の高校生…ユンスク。」

 

妖夢は2本の愛剣を抜いて構える。

 

 

 

 

 

 

 ユンスクは対戦相手の妖夢を一目見てがっかりした。

 

「(女子であることを差し引いてもオーラが弱すぎる。だとすると捨て駒か…。これは退屈な試合になりそうですね。)」

 

ユンスクはSDを取り出してトリガーを押す。

先端からブレードが伸びる。

妖夢はゆっくり深呼吸して目の前の相手に集中する。

 

「(スイッチが入ったな…頑張れ妖夢。)」

 

黒刀は心の中で応援した。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始直後、映姫や黒刀など一部の人間以外にとって予想外の展開が起きた。

フライングギリギリのスピードで妖夢がユンスクの懐に潜り込んでいたからである。

 

「っ!」

 

ユンスクは一歩引いてから一撃目をSDで受け止めた。

 

「(まだ2撃目が…!)」

 

ユンスクは再度驚く。

何故なら妖夢の2撃目がタイムラグを感じさせない程、既にユンスクの首筋に迫っていたからだ。

ユンスクは上半身をのけ反らしてそれを躱して反撃に出る。

2撃目の攻撃直後でがら空きとなった妖夢の左脇腹を狙って中段斬り。

妖夢は右手の『楼観剣』を逆手に持ち替えて剣の腹で受け流した。

 

「空観剣 六根清浄斬 改!」

 

受け流した時に体を回転させて遠心力を活かして左手の『楼観剣』で斬りつける。

ユンスクもさすがに冷静さを取り戻したのか受け流されて体勢が崩れたところを踏ん張って『白楼剣』を下段斬りで弾いた。

そこでお互いがバックステップして距離を取り、仕切り直しとなる。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「会長は一体どんな修行をつけたんですか?」

 

霊夢が妖夢の成長を見て隣の映姫に問う。

 

「特に難しいことはさせていません。週6日でランニング10㎞と素振り1万回、私と手合わせ50回するだけです。」

 

映姫が澄ました顔で答えた。

 

「アハハ…」

 

霊夢は乾いた笑い声を出す。

 

「(そりゃ強くなるわね…)」

 

心の中で半分呆れていた。

 

 

 

 

 

 妖夢はランニンで鍛えられた脚力と素振りで鍛えられた二刀流の連続攻撃性を上手く活かして試合を優位に進めていた。

 

「さて、次はこちらから参りますよ!」

 

ユンスクが床を蹴って妖夢に迫る。

妖夢は気迫に押されたのか一拍遅れて前へ駆けだす。

攻撃はユンスクの方が速かった。

ユンスクが中段斬りを仕掛ける。

ただし、そのスピードは体感的に先程の倍は速い。

妖夢は回避も受け流しも間に合わず左手の『白楼剣』の刃で受けた。

左手に重みが伝わって来る。

 

「くっ!」

 

妖夢は右方向に吹っ飛ばされる。

床に着地して体勢を整える。

 

「パワーとスピードを重視して攻撃している。でもまさにこれは…願ったり叶ったり!」

 

妖夢は笑った。

 

「何故笑う?」

 

疑問を抱いたユンスクが問う。

 

「私の倒したい人とあなたのスタイルが似ているからです。」

 

妖夢は剣を構え直して答える。

何のことを言っているのか分からないユンスクは首を傾げるだけですぐに構え直した。

 

「すぐに笑える余裕も無くしてやろう。」

 

「できるものなら!」

 

両者が床を蹴って距離を詰める。

ユンスクの上段斬り。

 

「(確かに速いし重い…だけど!先輩程じゃない!)」

 

妖夢はユンスクの上段斬りをサイドステップで躱してから連続攻撃で斬りつける。

ユンスクも負けじと連続攻撃を全てSDで弾いている。

 

「(もっとだ…もっと速く!鋭く!)」

 

妖夢はイメージを強くして連続攻撃のテンポを上げていく。

 

「(何だこいつは…闘いの中で強くなっている…押される!)」

 

さすがのユンスクも焦りを隠しきれなくなってきていた。

妖夢の剣速は今は30に達していた。

 

「はあああああああああああああ!」

 

妖夢が雄叫びを上げて交差した斬り上げでユンスクの体勢を崩した。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

その隙を逃さず今度は2本の剣を突進しながら振り下ろす。

ユンスクSDで受けるが予想以上の剣撃の重さに後方へ吹っ飛ばされる。

 

「ぐっ!」

 

「これで決める!」

 

妖夢は2本の剣に金色のオーラを集束させる。

 

「閃光斬撃波 改!」

 

金色の斬撃を放つ妖夢。

 

「負けてなるものか!」

 

空中で体勢を崩され回避出来ないユンスクは金色の斬撃に対してSDを振り下ろす。

しかし、斬撃の威力はさらに増していく。

 

「何だ…このパワーは…ぐああああああ!」

 

ユンスクのSDのブレードがパキンッと音を立てて砕け散った。

『閃光斬撃波 改』がもろにユンスクの腹に直撃する。

ユンスクは壁まで吹っ飛ばされ背中に激突する。

 

《1…2…3…4…5…》

 

機械音声がカウントの半分まで聞こえたところでユンスクが立ち上がりカウントが止まった。

 

「ユンスク…」

 

控室に戻っていたイ・サンは敗北寸前のユンスクをモニターウインドウで見て心配そうな声を漏らす。

ユンスクは目の前の妖夢を見据える。

 

「1つ謝っておこう。私は君のことを取るに足らない剣士さと見誤っていたことを。君は強き剣士だ。」

 

「え、あ…いや…それはどうも。」

 

突然のことに妖夢は戸惑っていた。

 

「だからこそ私も本気で君を倒す!」

 

ユンスクが声を張り上げる。

 

「(剣も折れたのにまだこれだけの闘志が…)」

 

「剣が無くて闘えぬと?否!私の武器は剣ではない!」

 

「!」

 

ユンスクの言い放った言葉に妖夢は目を見開いて驚く。

 

「見るがいい!私の本当の姿を!モードチェンジ!」

 

緑色の竜巻がユンスクの全身を覆う。

 

 

 

 

 

 医務室。

 

「あいつもモードチェンジを…」

 

天子が呟く。

 

「イ・サンに出来て奴に出来ない道理はない…か。」

 

黒刀は独り言を呟いた。

 

 

 

 

 

 竜巻の中でユンスクの装備が変わっていく。

竜巻が吹き荒れるように晴れると現れたのはモードチェンジによって姿を変えたユンスクだった。

 

「呂布!」

 

その名は中華最強とも言われる武将。

全身には中華鎧と武具足、頭には中華兜が取り付けられている。

両手で握り締めているのは薙刀のように見えるが戟の横部に『月牙』と呼ばれる三日月状の刃がついている。

かつて呂布が死ぬまで愛用していた神器『方天画戟』。

気力も桁違いに跳ね上がっている。

妖夢は警戒レベルを最大に引き上げて構える。

 

「この私に気圧されぬとはたいした根性だ。」

 

「つい最近もっと凄い人のオーラを体感しましたから。」

 

妖夢は笑みを浮かべる。

妖夢の指す『凄い人』とはザナドゥ卿のことである。

 

「ならば存分に闘える!」

 

ユンスクは言い放った。

妖夢は全く警戒を緩めていなかった…にも関わらずユンスクが一瞬で妖夢の懐に移動していた。

気づくのが遅れた妖夢は『方天画戟』による薙ぎ払いを咄嗟に剣を交差して防御するしかなかった。

受け止め切れず妖夢は後方へ吹っ飛ばされる。

ユンスクが『方天画戟』を振り切った後、突風が吹き荒れる。

その突風で妖夢はまた吹っ飛ばされる。

 

「ああっ!」

 

妖夢は着地出来ず受け身を取って跳ね起きる。

再びユンスクは視界に捉えた時、目を見開く。

『方天画戟』に緑色の竜巻が渦巻いていたのだ。

 

「風刃!」

 

ユンスクが『方天画戟』を水平に振って風の斬撃を放った。

妖夢はハイジャンプで跳び上がり回避。

さらに『旋風剣』でコマのように回転してユンスクに襲いかかる。

 

「風刃二閃!」

 

ユンスクは風の斬撃を2発放つ。

1発目で妖夢の回転を止め、2発目で妖夢に直撃させる。

 

「がはっ!」

 

腹に直撃を受けた妖夢が床を転がる。

ユンスクは追撃しようとせずただ立っている。

 

「哀しいな。技術はあってもそれに見合うオーラを持っていない。残酷だがこれが現実だ。日本の剣士よ…せめてこの一撃で楽にしてやろう。」

 

ユンスクの気力がさらに高まる。

『方天画戟』に渦巻く風の勢いがさらに荒々しく強くなっていく。

妖夢は痛みを堪えながら立ち上がる。

そこで妖夢は目を見開く。

『方天画戟』に渦巻くものは風なんて生温いものじゃなかった。

巨大な竜巻が巻き付いていて、まるで嵐そのものだった。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「何あれ…私の竜巻より遥かに大きいわ。」

 

ユンスクが作り出した巨大な竜巻を見た花蓮が驚く。

 

「大技が来る…避けなさい!妖夢!」

 

声が届かないと理解していながらも映姫はそう叫ばずにいられなかった。

 

「「妖夢!!」」

 

霊夢と魔理沙も同時に叫んだ。

 

 

 

 

 

 しかし、仲間の叫び空しく妖夢は避けようとしなかった。

2本の剣を握り締めて上段の構えを取る。

腰を落として剣に金色のオーラを集束させる。

 

 

 

 

 

 医務室。

 

「あの子まさか『閃光斬撃波』で迎え撃つつもり⁉」

 

天子が半ば驚いた声を出す。

 

「そんな!無茶です!」

 

大妖精が悲痛の叫びを上げる。

 

「(それがお前の選択か…妖夢。)」

 

黒刀は腕組みしたままモニターウインドウに映る妖夢を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「よかろう…その見事な侍魂に応えて私も力の限り闘おう!」

 

竜巻の勢いがさらに強くなる。

 

「喰らえ!暴風刃!」

 

ユンスクが叫び、『方天画戟』を振り下ろす。

巻き付いた竜巻が妖夢に向かって倒れていく。

 

「閃光斬撃波 改!」

 

妖夢も金色の斬撃を放った。

2つの斬撃が激突した瞬間、凄まじい衝撃波がフィールドに広がった。

 

「「はあああああああああああああああああああああああああああ!」」

 

妖夢とユンスクは互いに吠える。

観客も思わず息を呑むような闘いとなっていた。

拮抗するかと思えた激突は10秒と持たなかった。

『暴風刃』が『閃光斬撃波 改』を押し始めたのだ。

 

「ぐっ…」

 

妖夢が後方に押し込まれる。

 

「はああっ!」

 

ユンスクは『方天画戟』をさらに強く振り下ろした。

拮抗は完全に破られた。

『暴風刃』が『閃光斬撃波 改』を打ち砕き、妖夢に放たれる。

妖夢は咄嗟に剣を交差して防御態勢に入るが『暴風刃』は妖夢の体ごと壁まで吹っ飛ばすだけでなくさらに突風を起こして壁に減り込ませた。

 

「ぐはっ!」

 

妖夢が血を吐く。

 

「妖夢~!」

 

医務室にいる大妖精が叫ぶ。

 

「そういえば名を聞いていなかったな…まあその必要もないか。」

 

ユンスクは体の向きを変えてゲートへ一歩踏み出したその時…

 

「…待って…下さい…」

 

背後から声が聞こえた。

恐る恐る振り返るとユンスクは目を見開いた。

視線の先にはなんと妖夢はいつの間に壁の減り込みから脱出していて、『楼観剣』を床に突き刺して膝をつきそうになりながら立っていた。

予想外の展開に観客のテンションが沸き上がる。

 

「バカな…立っていられるはずがない…。何なのだ…一体お前は何なのだ!」

 

ユンスクが声を荒げて問いかけた。

妖夢は『楼観剣』を床から引き抜く。

強い眼差しでユンスクを視界に捉えると2本の剣を握った両腕を交差する。

 

「私の名前は…魂魄妖夢だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

交差した両腕を開くと『気力解放』で気力の出力が90%に跳ね上がった。

彼女を中心に強いオーラの波動が放たれた。

 

 

 

 

 

 医務室。

 

「これは憶測なんだが妖夢の気力があれだけ少量でありながら『気力解放』や『ゾーン』の時はあれ程強い気力になるのは恐らく何らかの理由で50%程度までしか引き出せない。解放はオーラの出力を90%に引き上げるもの。50%から90%に上がった場合、その倍率は1.8倍になる。」

 

黒刀は自身の憶測を口にした。

 

「仮に彼女が気力を抑えられるとしてどうやって?自力でコントロールしているの?」

 

天子が問う。

 

「いや妖夢はオーラの扱いに関してそこまで器用じゃない。俺と同じでな。考えられるとすれば封印術だろう。誰が何の為にそうしたのかまでは見当もつかないけど。」

 

黒刀はそう答えた。

 

「とにかくいけ~!妖夢~!」

 

難しい理屈は理解出来ないチルノはモニターウインドウに映る妖夢に向かって拳を突き上げて応援するがそのせいで全身に激痛が走り悲鳴を上げることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「魂魄妖夢…その名、確かに刻んだぞ!」

 

妖夢の名乗りを聞いたユンスクは再度『暴風刃』の体勢に入った。

 

「またあれをやる気なのかよ!」

 

控室の魔理沙が声を上げる。

妖夢は自分の足を見下ろす。

 

「(もう立っているのもやっと……だとしても!立っている限りまだ闘える!)」

 

そして、腰を落とした。

 

「まさかもう一度同じ技をぶつけ合うつもりなの?」

 

控室の霊夢が独り言を呟く。

 

「もうやめて妖夢!そんなことしたらあなたの体が!」

 

医務室の大妖精が悲痛の叫びを上げる。

 

「無駄だ大妖精。あいつは立っている限り諦めない…そういう奴だ。」

 

黒刀は大妖精を諭すように口を開いた。

 

「全く誰に似たのかしらね?」

 

黒刀の隣で試合を見ていた真冬が口を開く。

その問いは黒刀に向けたものだったが、

 

「誰って誰に?」

 

当人の黒刀は理解していなかった。

真冬は呆れてジト目になっていた。

 

 

 

 

 

 妖夢は2本の剣を上段に構えると金色のオーラを集束させていく。

ユンスクも『方天画戟』に渦巻く竜巻をさらに肥大化させていく。

 

「負けぬ!国の為!仲間の為に!」

 

「勝つ!勝って私達はさらに上へ行く!」

 

2人の闘志がぶつかり合う。

そして…

 

暴風刃 改!

 

真 閃光斬撃波!

 

『方天画戟』から竜巻の斬撃が、『楼観剣』と『白楼剣』から金色の斬撃が放たれた。

2つの斬撃が再び凄まじい衝撃波放ってぶつかり合った。

だが今度は立場が逆転する結果となった。

金色の斬撃が竜巻の斬撃を押しているのだ。

 

「何故だ…何故この私が押されている…まさかこれがお前の本当の力だというのか!」

 

ユンスクが押されながらも妖夢に語り掛ける。

 

私のじゃない…この力はたくさんの人に支えてもらったからこそのものだ!

 

妖夢はユンスクの問いかけに対してそう答えた。

その言葉に呼応するかのように金色の斬撃の威力が増していく。

そして、ついに『暴風刃 改』が打ち破られ『真 閃光斬撃波』がユンスクへ真正面から浴びせていく。

 

「全力を出し切った…悔いは無い!」

 

ユンスクは最後にそう口にして斬撃を避けることなく受けた。

やがて背中から倒れた。

 

《勝者 魂魄妖夢》

 

勝敗を告げる機械音声が鳴り響いた。

 

「勝った…」

 

妖夢は膝から崩れ落ちそうになる寸前で床に『楼観剣』を突き刺して何とか持ちこたえた。

気が抜けたことで『気力解放』が解けて気力が元に戻る。

 

 

 

 

 

 医務室。

 

「大妖精、行ってこい。」

 

黒刀が大妖精に声をかけた。

 

「でも…」

 

大妖精は迷っていた。

 

「そこのバカのことだったら俺が見ててやるよ。」

 

黒刀は大妖精が言いたかったことを先回りする。

 

「誰がバカだ!」

 

チルノが口を挟む。

 

「お前だよ。ほら行ってこいよ。」

 

黒刀は大妖精に優しく微笑んだ。

 

「はい!」

 

大妖精ははっきり応えて医務室を出て行った。

 

「さて…チルノ、マッサージでもしてやろうか?」

 

黒刀は意地悪な笑顔をチルノに向ける。

 

「嫌だよ!」

 

チルノは断固拒否した。

 

 

 

 

 

 

 大妖精が妖夢のいるフィールドに向かい途中の廊下で霊夢と魔理沙に合流した。

 

「考えることは同じね。」

 

霊夢は笑っていた。

 

 

 

 

 

 妖夢は『楼観剣』を杖代わりに、仰向けに倒れているユンスクに近づいていく。

ユンスクは気がついていたようで仰向けの状態で目を開く。

 

「私の完敗だ。魂魄妖夢。」

 

真顔で告げるユンスクに対して妖夢は少し考えた顔をする。

 

「1つだけ聞いていいですか?」

 

妖夢の問いにユンスクは無言で頷く。

 

「最後に私が元気を使った時、あなたの実力なら無理に正面からぶつかり合う必要は無かったはずです。それなのに何故…」

 

「…お前の想いがどれ程のものなのか知りたくなった。」

 

そう答えてユンスクは膝から立ち上がる。

 

「相手の真意を知るのは正面からぶつかるのが一番だと私は考えている。それだけだ。」

 

ユンスクの『方天画戟』が霧のように消えていく。

 

「私の想いはあなたに伝わったでしょうか?」

 

妖夢の問いにユンスクは踵を返す。

 

「勝ちたいという想い、そして誰かに追いつきたいという想いだけは確かに伝わった。」

 

ユンスクはそれだけ言ってゲートへ歩き去った。

妖夢もゲートへ戻るとそこには霊夢、魔理沙、大妖精が笑顔で待っていた。

 

「「「おかえり!!!」」」

 

「ただいま…皆!」




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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絶対防御

OP8 遊戯王GX 99%


 午後2時30分。

荷物を以てホテルに戻ろうと会場の廊下を歩いて日本代表一同は偶然、韓国代表一同と鉢合わせになった。

 

『あ。』

 

ついさっきまで敵同士だったので気まずい空気が流れる。

その沈黙を破ったのが黒刀におんぶされているチルノだった。

 

「何だ!まだやんのか!」

 

ガルルッと韓国代表…主にペ・ギョンとグ・ヨンに対して威嚇する。

手首と額に包帯を巻いている天子は黒刀の横に並んでいるが特に何も言わない。

すると、ペ・ギョンとグ・ヨンが頭を下げた。

 

「すまない。先程の試合中は熱くなっていたとはいえ君達に対して大変失礼なことを言ってしまったことを謝罪する。」

 

「許してほしいとは言いません。私達にはその資格もありませんから。」

 

謝罪の言葉を告げる2人にチルノはそれ以上強く言えず黙り込んでしまう。

黒刀はチルノの成長が嬉しくなって小さく笑ったその時。

黒刀の前にイ・サンが出てきた。

 

「私の負けだ。君の言う通り正義だけではどうにもならないことに気づかされた。」

 

「いいんじゃないか。正義の味方って奴がいたって。それとさっきからお前の()っていう一人称が気に入らない。」

 

「…どういう意味かな?」

 

「自分に嘘を吐くなってことだよ。」

 

イ・サンは黒刀の答えに目を見開く。

 

「やれやれ…まさか()の正体に気づいていたとはな。いつからだ?」

 

「お前が『孫悟空モード』になった時からだ。あれで確信した。お前が孫悟空の子孫だってことにな。」

 

黒刀が口にした衝撃の真実に日本代表のみならずユンスクとチャン・スウ以外の韓国代表メンバーも驚く。

 

「恐れ入ったよ。一体君は何者なんだ?」

 

「別に。ただの高校生だよ。」

 

黒刀はイ・サンの横を通り過ぎていく。

それに続くように日本代表メンバーも歩いていく。

妖夢も歩き始めたその時。

 

「魂魄妖夢。」

 

背後からユンスクに呼び止められた。

妖夢は立ち止まって振り返る。

 

「はい?」

 

「…次は私が勝つ。また試合をしよう。」

 

ユンスクは背を向けたままそう告げた。

 

「はい!私ももっと強くなってあなたに負けないように頑張ります!」

 

妖夢は綺麗に一礼してから黒刀の後を追った。

 

「フッ。あれ程真っすぐな心を持った剣士に出会ったのは初めてだな。」

 

ユンスクは嬉しそうにほんの少しだけだが…笑った。

 

 

 

 

 

 午後3時 カタール代表宿泊ホテル。

日本代表の次の対戦相手カタール代表はホテルの一室で試合の録画映像を見ていた。

しかし、彼らが見ていたのは明日の対戦相手のインド代表の試合ではなく今日の日本vs韓国の録画映像だった。

つまりインド代表の対策は既に出来ているということだ。

カタール代表は明後日の対戦相手である日本代表を研究していたのである。

録画映像を観終わるとキャプテンであるムハンマドが皆の前に立つ。

 

「やはり要注意すべきは四季黒刀だろう。」

 

ここでも黒刀はマークされていた。

 

「別にそんな深刻に考える必要はないっしょ!」

 

お気楽な声が聞こえてきた。

声の主はカタール代表の赤髪ルーキー、フランク。

フランクの隣では青髪のイヴォが爆睡していた。

フランクの軽口に対して席を立ったのはユセフ(17歳)だった。

 

「フランク!そういう気の緩みがチームの敗北に繋がるんだぞ!」

 

ユセフは声を荒げた。

フランクは小指で右耳をほじりながら、

 

「あ~うるさっ。それじゃ頭の悪いお前らに俺が説明してやるよ。」

 

そう言って立ち上がった。

 

「この四季黒刀って奴は一言で言えばただのパワー押し野郎だ。確かにスピードも()()()()にあるみてぇだが対応出来ない程じゃない。あの『ガードブレイク』って技も要は当たらなきゃいいだけの話だ。」

 

自信満々に話すフランク。

 

「それが出来ていればインドも韓国も負けてないだろ!」

 

反論するユセフ。

 

「はあ~。だから出来てないんだって。あいつらはただ回避だけしかしていない。あんなもん回避出来て当たり前なんだよ。問題はその先。回避した後に中距離か遠距離攻撃に切り替える。

距離が離せない時は近距離で攻撃の隙を与えない連撃をかませばいい。『ガードブレイク』は攻撃にしか使えないんだからな。」

 

完全に上から目線で説明するフランク。

ユセフは黙って唇を噛み締めるしかなかった。

 

「それに~奴はテクニックが稚拙だ。こっちがスピードとテクニックで翻弄すればいいだけ。はい分かった?」

 

小馬鹿にするようにフランクは話した。

ユセフが我慢出来ずフランクに掴みかかろうと一歩踏み出したその時。

 

「そのくらいにしておけ。」

 

その場を鎮めるカタール代表キャプテン、ムハンマドの一言がかかった。

 

「フランク、意見を発言するのは構わんがある程度口は慎め。リラックスすることと緊張感を持たないことは違うということを覚えておけ。」

 

フランクを叱責するムハンマド。

 

「へ~い。」

 

フランクは座って背もたれに寄りかかると返事した。

ユセフはフランクを一瞬睨みつけた後、黙って座った。

 

「(何であんな奴らが代表なんだ!)」

 

フランクとイヴォの存在はカタール代表メンバーにとって嫌悪感を抱かずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 9月13日 午前10時。

今日は日本代表が試合のないオフだった。

だが彼らはホテルから会場へ向かう。

その理由はインドvsカタールの試合を観る為である。

だが抜けている人物がいた。

 

「あれ先輩は?」

 

妖夢が映姫に訊いた。

映姫はため息を吐いた。

 

「朝起きたらルーミアと一緒にランニングしてくるってメッセージが来てました。」

 

映姫は携帯端末の画面を妖夢に見せる。

 

「アハハ…先輩らしいですね。」

 

妖夢が苦笑い。

つまり黒刀はバックレたのだ。

 

「フフフ…帰ったらお説教ですね。」

 

映姫が恐ろしいことを呟いていた。

 

 

 

 

 

 その頃。

黒刀はルーミアをおんぶして山道を軽快なステップで駆けていた。

 

「意外と広いなこの島。」

 

黒刀は息1つ切れていない。

 

「くろにい、はや~い!」

 

ルーミアは楽しそうに笑っている。

 

 

 

 

 

 しばらく走っていると2人はビーチに辿り着いた。

 

「わ~い!海だ~!」

 

ルーミアは黒刀の背中から降りて裸足になると駆ける。

ルーミアにとっては初めての海なので興奮するのも無理はない。

そんなルーミアを黒刀は微笑ましそうに見ていた。

そんな時。

 

「何故お前がここにいる?」

 

横から声が聞こえてきた。

黒刀が横を向くと声の主は韓国代表キャプテン、ユンスクがいた。

他の韓国代表メンバーも揃っている。

どうやら朝の走り込みをしていて今は休憩中らしい。

 

「随分なご挨拶だな。俺がここにいてはいけないとでも言うのか?」

 

「気に障ったのならすまない。ただ朝出て行く時に日本代表が揃って会場に向かっていくのを見たのでお前もそちらに行ったのかと思っただけだ。」

 

「(この人、冗談通じない人だな。)」

 

黒刀は苦笑いして肩をすくめた。

 

「ところであの少女はお前の知り合いか?」

 

ユンスクが視線を向ける先には白いワンピースを着て、浅瀬でパシャパシャ音を立てて水遊びしているルーミアがいた。

 

「ルーミア、ちょっとこっち来い。」

 

黒刀がルーミアを呼ぶ。

ルーミアはキョトンとした顔をすると黒刀の元へ駆け寄ってその左腕に抱きつく。

 

「俺の妹だ。」

 

「四季瑠美亜です!ルーミアと呼んで下さい!」

 

黒刀の紹介にルーミアは黒刀の左腕に抱きついたままお辞儀した。

 

「(あの時の…)」

 

イ・サンは一昨日の出来事を思い出す。

 

『(か、可憐だ…)』

 

ルーミアのあどけない笑顔に韓国代表のユンスクとイ・サン以外のメンバーはそう思った。

それを察知した黒刀が一瞬視線で『手出したら殺す!』と警告する。

それを感じた彼らは後ずさる。

そんなやり取りが行われているとは露知らずユンスクがある提案をする。

 

「そういえばお前とは結局闘えずじまいだったな。良ければここで少し手合わせ願えるか?」

 

予想外の提案に韓国代表一同は驚いた。

 

「ユンスク、それは…」

 

「いいぜ。ただし真剣はなしだ。」

 

イ・サンが止めようとしたがそれより先に黒刀が答えを返した。

 

「四季黒刀!お前も乗らなくていい!」

 

イ・サンが制止しようとするがもはや収集出来ない事態に発展してしまっていた。

 

「チャン、彼に木刀を貸してやれ。」

 

ランニングの後に打ち合いの特訓でもするつもりだったのかチャン・スウが背中に背負った木刀を黒刀に手渡す。

 

「壊れても後悔するなよ。」

 

黒刀が軽口を叩く。

 

「出来れば壊さないで欲しいかな。」

 

チャン・スウは苦笑いを返した。

 

「善処するよ。」

 

黒刀は木刀を握り締めると履いていたビーチサンダルを抜いた。

 

「よいのか?足場を悪くするぞ。」

 

ユンスクが指摘する。

 

「これでいい。」

 

黒刀は木刀を構える。

 

「なるほど…面白い男だ。」

 

ユンスクも黒刀と同じように靴を脱いだ。

 

「負けず嫌いだな!」

 

「お互いにな!」

 

黒刀とユンスクは同時に砂地を蹴って剣撃をぶつけ合う。

 

 

 

 

 

 午前11時 インドvsカタール試合会場。

黒刀とユンスクの手合わせが始まった同時刻。

インドvsカタールの試合会場は異様な空気に包まれていた。

既にダブルス2の試合はカタールが勝利している。

現在はダブルス1の試合をなっているのだが、その試合はとても気持ち良く観戦出来る試合ではなかった。

 

「何か嫌だぜ…こんな試合…」

 

魔理沙が苦々しく呟く。

インド代表のダブルス1は前回と同じプロトン&シン・ルゥ。

そして、その相手がルーキーコンビ、フランク&イヴォだった。

観戦者が試合を楽しめない理由。

それは2人の戦法にあった。

 

「ほらほら!もっと踊れよ!」

 

「その程度で代表とかダッセ~な!」

 

フランクとイヴォはプロトンとシン・ルゥに対して近距離戦を挑まない。

ひたすら距離を取りながら遠距離爆撃魔法を仕掛けている。

プロトンとシン・ルゥも距離を詰めようとしているがフランクとイヴォは2人と全く同じスピードで後退している為、距離が全く詰まらない。

その上、遠距離爆撃魔法が2人の足元で炸裂して足止めも食らっている。

プロトンとシン・ルゥは遠距離どころか中距離の攻撃方法を持たない。

つまりフランクとイヴォの戦闘スタイルとは…

 

 

 

 

 

 

 

「相手が最も嫌がる戦法を取ること。それが彼らの戦闘スタイルです。」

 

雪村が分析したことを口にする。

 

「相手の弱点を突くのは闘いの定石だがあいつらはそれを突き詰めたような感じだな。」

 

仁が冷めた目で口にする。

雪村が眼鏡を吊り上げて続ける。

 

「おまけに彼らのIQは150あるそうです。勉強もせず国内の全国模試でツートップを取っています。」

 

「何それ羨ましいぜ!」

 

魔理沙が口を挟む。

 

「徹底的に相手を弄んでやがる…胸糞悪い連中だね。」

 

光が苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

 

 

 

 

 結局。

プロトンとシン・ルゥはフランクとイヴォに負けてしまった。

 

「ハハハ!国に帰って罵声を浴びせられるんだな弱虫共!」

 

フランクが高笑いしてイヴォがそれに続く。

彼らの侮辱にインド代表は何も言い返せない。

プロトンとシン・ルゥは担架で運ばれている途中に腕で顔を隠して悔し涙を流していた。

インド代表で1人だけ諦めていない男がいた。

 

「行ってきます。」

 

その男は立ち上がった。

 

「師範代!」

 

控えメンバーに呼ばれたのはインド代表キャプテン、ガンジー・コウ。

 

「私は私の全力を尽くすだけです。たとえ相手が誰であっても。」

 

それだけ言ってガンジーは控室から出てゲートへ向かった。

 

 

 

 

 

 試合を終えたフランクとイヴォはゲートを歩いている。

 

「あいつらの悔しそうな面、最高だね!」

 

「ほんと!録画しておきたいくらいだ!」

 

そんな会話をしていると正面からカタール代表キャプテン、ムハンマドが歩いてきた。

2人は無言になると何かを企んでいるように笑うとそのままムハンマドの横を通り過ぎていく。

 

「勝っている限りはそれでいい。」

 

すれ違い際にムハンマドはそれだけ言った。

過酷な環境のカタールで生きてきた者だからこその言葉である。

ムハンマドは厳格な表情を崩さずそのままフィールドに入場する。

向かい側からガンジーも入場してきた。

口数が少なく体格の良い2人は傍目から見れば同じタイプの選手に見える。

だが、その考えは開始5分経過したところで覆された。

 

 

 

 

 

 掌底、正拳、裏拳、蹴り上げ、踵落とし…

ガンジーはこれらを組み合わせた連続体術攻撃を仕掛けた。

だが、それらの攻撃は全てムハンマドが土属性防御魔法で作り出した岩壁によってことごとく防がれた。

恐るべきは展開速度とその強度である。

二宮優を追い詰めたガンジーの攻撃を以てしても岩壁に傷1つつけることは出来ない。

しかも、ムハンマドは腕輪型MADに魔力を注入しているだけであり、腕を組んだ状態で仁王立ちしている。

ガンジーは歯噛みした後、一旦距離を取る。

 

「なるほど…あなたが『絶対防御』という異名で呼ばれる理由が分かりました。並の攻撃では通じない。それなら…」

 

そこで言葉を切るとガンジーは気力をさらに高めた。

 

「はあああああああああああああ!モードチェンジ!千手観音!」

 

ガンジーが強く詠唱すると全身が光り姿を変えていく。

やがて全長20mに達すると光がパアッと弾けて『千手観音モード』に変身した。

ムハンマドはガンジーを見上げるが眉1つ動かさない。

 

「動じませんか。しかし、これなら!」

 

ガンジーは1000本の手でムハンマドを殴り続ける。

ムハンマドは動かない。

凄まじい勢いで殴っている為、土煙でムハンマドの姿は見えない。

どれだけの時間を攻撃し続けただろうか。

ガンジーは『千手観音モード』を維持出来なくなって元の姿に戻り片膝をつく。

 

「はあ…はあ…」

 

ガンジーは肩で呼吸する。

視線を前に向けて土煙が晴れるのを待つ。

そして、土煙が晴れたその瞬間、会場にいるほとんどの人間が驚愕する。

なんとムハンマドは全くダメージを受けていない無傷の状態だった。

岩壁に僅かな亀裂が入っている程度。

ガンジーの全身全霊の攻撃はムハンマドに届かなかった。

ムハンマドはただ一言。

 

「それだけか?」

 

「っ!」

 

ガンジーは素早く立ち上がり床を蹴った。

 

「閃光拳!」

 

高速の正拳を繰り出した。

だが、それもムハンマドが作り出した岩壁によって防がれてしまう。

 

「くっ!」

 

ガンジーが声を上げた直後、ムハンマドは腕組みを崩し右手を前に突き出すとMADに魔力を注入して魔法を発動した。

岩壁が勢い良く前に押し出されガンジーをフィールドの壁まで押し込んでいく。

 

「ぐ…あああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

ガンジーは絶叫の後、フィールドの壁と岩壁の間に挟まれサンドイッチ状態となる。

そして、倒れ試合はカタール代表の勝利となった。

 

 

 

 

 

 ムハンマドは倒れたガンジーに声をかけることもなくフィールドを去っていく。

狡猾に場を掌握するフランク&イヴォ。

『絶対防御』のムハンマド。

試合を観た日本代表一同は誰も言葉を発さなかった。

その沈黙を最初に破ったのは席を立ちあがった優だった。

 

「くだらねぇ。IQ150だろうが俺達が臆する理由にはなんねぇだろうが。」

 

そう言い放った。

それに続くように仁も立ち上がる。

 

「ああ!やる前に諦めるなんて俺達らしくねぇぜ!」

 

他の皆も続々と立ち上がっていく。

勝ちたいという想いはさらに強くなっていると示すように。

その時だった。

強烈なオーラの衝突がここまで肌に伝わってきた。

それはムハンマドも一度足を止めて伝わってきた方角を見る程だった。

 

「海岸の方からですね。」

 

雪村が冷静に言った。

 

「師匠、これってやっぱり…」

 

妖夢が隣の映姫に顔を寄せて声を潜めて話しかける。

映姫は肩をすくめてため息を吐く。

 

「ええ。こんなことをしでかすのはあのバカしかいないでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタール戦を控えた9月13日午後0時30分。

2210年のWDCの波乱はさらに強くなっていった。

本選出場をかけたカタール戦開始まであと24時間30分。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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魔法少女

OP8 遊戯王GX 99%


 9月13日 午後0時30分 フィリピンのとあるビーチ。

インドvsカタールの試合が終わった同刻。

黒刀と韓国代表キャプテン、ユンスクは木製の武器をぶつけ合っていた。

黒刀は高速で上下左右に木刀を振る。

それをユンスクは同じ速度でいなしている。

ユンスクが持つ槍の方がリーチが長いので懐に入られたら一気に不利となってしまう。

それを理解しているからこそユンスクは黒刀から一定の距離を保っている。

黒刀はバックステップで距離を取ると即座にクロスステップでユンスクの背後に回り込んだ。

 

「(この足場でこの動きか!)」

 

ユンスクは驚きながらも冷静に左足を軸に右回転して背後の黒刀い向けて槍を振り回した。

だが、その攻撃は空を切った。

 

「(…上か!)」

 

ユンスクは頭上に顔を向けたが太陽の逆光で黒刀の姿が直視出来ない。

 

「くっ!」

 

ユンスクがその場からバックステップする。

直後、彼がいた場所に黒刀の上段斬りが振り下ろされる。

黒刀の一撃は砂浜に直径5mのクレーターを作り出した。

ユンスクは改めて黒刀の実力に感心する。

 

「この足場でクロスステップからのハイジャンプ。逆光を使った攻撃に加えてこのパワー…強いの一言に尽きる!」

 

気づけばビーチには黒刀とユンスクの手合わせを見ようとギャラリーが集まっていた。

妖夢達もようやく現場に到着する。

 

「って先輩⁉ユンスクさんと何やっているんですか?」

 

妖夢が疑問を抱くのも当然である。

 

「他国の代表選手との場外決闘は禁止されていませんでしたと思いますけど…」

 

大妖精が口を出す。

 

「真剣やSD、MADを使用していなければ原則禁止ではないな。」

 

にとりが補足する。

 

「って言っても普通やらないだろ。他国の代表選手と場外決闘なんて。」

 

魔理沙は呆れる。

 

「あ、あたいも混ぜて欲しい!」

 

「あんたが入ったらややこしくなるでしょ。怪我も完治してないし。」

 

霊夢が冷静にツッコむ。

 

「はあ~ちょっと止めてきます。」

 

映姫がため息を吐いて足を踏み出した。

 

「あ、師匠…!」

 

妖夢が映姫を呼び止めようとしたその時。

映姫より先にその場に割り込む人間を見つけた。

 

 

 

 

 

 2人が鍔迫り合い状態から弾き合って距離を取る。

 

「確かにお前は強い。だが気に入らんな。何故私の…槍の間合いで闘う?」

 

わざわざ槍の間合いで闘う黒刀にユンスクが問う。

 

「気にすんな。俺が必要だと思ったからやっているだけだ。」

 

「敵に合わせる闘い方がか?」

 

「クソ生意気な槍使いを倒しに行かないといけないんでね。」

 

「?」

 

ユンスクは黒刀が指す槍使いが誰か分からず首を傾げる。

 

「まあいい。だったら私の力でお前の力をこじ開けるまでだ!」

 

「やってみろ!」

 

黒刀とユンスクは吠えて砂地を蹴る。

2人の距離が狭まっていくその時だった。

 

「これ、借りるよ。」

 

1人の人間が韓国代表メンバーの1人から木刀を掠め取った。

驚くことに木刀を取られた男は直前までその人物が横にいることに気づかなかった。

 

「あ、ちょっと!」

 

声を上げるが止める間もなくその人物は次の瞬間、黒刀とユンスクの間に割り込んだ。

決闘を止めようとした映姫も思わず足を止めてしまった。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

謎の剣士は両側にいる2人に向けて剣技を放った。

剣速が速すぎるせいで風圧まで発生する。

 

「「っ!」」

 

黒刀とユンスクは最初の一太刀で吹っ飛ばされた反動を上手く利用して後ろに着地する。

 

「おやおや上手いもんじゃないかお2人さん。」

 

剣技を放った本人は称賛する。

 

「全く…邪魔しないで下さいよ…師匠。」

 

黒刀は呆れ顔でそう口にした。

そう。

2人を止めたのはかつて映姫と黒刀に剣術を教え込んだ豊聡耳神子であった。

 

「こらこら。あまり他人様に迷惑をかけてはいけないと教えたはずだよ…黒ちゃん。」

 

神子は黒刀をやんわりと叱る。

 

「あんまり怒らないんですね。」

 

「まあね。私よりもっと怒っている子がいるからね。」

 

神子がそう返すと黒刀は直後気づいた。

背後で怒気を放っている映姫の存在に。

慌てて振り返った瞬間、映姫から強烈なアッパーが繰り出された。

 

この愚弟がぁ!

 

「ぐはっ!」

 

黒刀は5m程、吹っ飛ばされた。

周囲の人間が呆気に取られた顔をする。

妖夢達と神子は割と見慣れている光景なので呆れてジト目になっている。

黒刀はすぐに跳ね起きた。

 

「あ~痛かった。」

 

『(絶対に嘘だ。)』

 

妖夢達はそう思った。

 

「ほら。帰ってミーティングしましょう。」

 

一発喝を入れてスッキリしたのか映姫は黒刀の手を引こうとする。

 

「あ、待って姫姉。」

 

黒刀は映姫から離れてチャン・スウの元へ行って木刀を返す。

 

「ありがとう。」

 

「いえ。なかなかいいものを見させてもらいました。」

 

黒刀の感謝に対しチャン・スウはお礼を返す。

 

「ルーミア、行くぞ!」

 

黒刀は少し離れた場所で決闘を観ていたルーミアを呼んだ。

ルーミアは黒刀が脱ぎ捨てたビーチサンダルを持って黒刀に駆け寄る。

 

「くろにい、これ!」

 

ルーミアは黒刀にビーチサンダルを手渡す。

 

「ありがとう。」

 

黒刀はお礼を言ってビーチサンダルを履く。

 

「さあ、そろそろホテルへ」

 

映姫が行こうとした時、

 

「いや。腹減ったからハンバーガーでも食おう。」

 

「は?」

 

黒刀の言葉に映姫が呆けた反応をする。

 

「師匠とユンスクも一緒にどうだ?」

 

「うん。せっかくだからご一緒させてもらおうかな。」

 

神子は了承する。

 

「ご馳走になっていいのかい?」

 

「ああ。」

 

ユンスクの問いに黒刀はそう返す。

 

「それじゃ私も。」

 

ユンスクは黒刀の元へ一歩踏み出す。

歩いている途中でユンスクは神子を見て考える。

 

「(この人が四季黒刀の師匠…彼があれ程の実力者なら一体この人はどれだけの強いのだろうか。手合わせしてみたい気持ちはあるが…何故かこの人とは闘ってはいけない。そんな気がしてしまう。)」

 

 

 

 

 

 午後1時30分 ハンバーガー屋。

とあるハンバーガー屋のテラス席で1つのテーブルを囲んで黒刀、映姫、ルーミア、神子、ユンスクそれと合流した妖夢が座っていた。

黒刀はチーズバーガー、映姫は野菜多めのハンバーガー、ルーミアは通常の倍の大きさのハンバーガー、神子はシンプルなハンバーガー、ユンスクはフィッシュバーガー、妖夢はハンバーガーではなくサイドメニュー系を注文した。

 

「黒刀、明日はカタール戦を控えているのですよ。」

 

映姫が釘を刺す。

 

「ん?分析なら昨日終わらせてデータを氷牙に渡した。」

 

黒刀はしれっとそう口にした。

 

「だとしてもチームワークは重要です。」

 

映姫はそれでも黒刀を説得しようとする。

 

「姫姉も分かっているだろ?俺が()()()()ことに一番向いていないこと。」

 

黒刀は苦笑して返す。

その言葉の真意を分かっている映姫はそれ以上説得することが出来なかった。

 

「そういえばあんたらもうカタールと闘ったんだったな。」

 

黒刀が話題を変える。

ユンスクは完食してから口元をナプキンで拭き取る。

 

「ああ。1日目で負けている。と言ってもこちらはベストメンバーではなかったがな。」

 

「ユンスクさん達は試合に出なかったんですか?」

 

妖夢が疑問を口にする。

 

「日本に勝ちを絞っていたということもあるが…いやこれはただの負け惜しみだな。結局逃げていただけなのかもしれません。」

 

「カタールと俺らは互いに2勝。つまり明日の試合でどちらがアジア代表としてWDC本選に出場できるか分かるってことだ。」

 

黒刀もチーズバーガーを完食する。

 

「勝ちましょう!そして絶対に優勝しましょう!ね?先輩。」

 

妖夢が立ち上がって宣言した。

 

「妖夢…わざわざ立って言わなくていい。」

 

黒刀が冷静に指摘した。

 

「あうっ!///」

 

妖夢は恥ずかしくなって椅子に座って縮こまってします。

その時。

 

「ヒャハハハ!言ってくれるじゃん!」

 

「叶わねぇ夢をあまり語らねぇ方がいいぜ!後で後悔することになるんだからな!」

 

挑発気味に高笑いしてこちらに近づいてくるのは試合後のミーティングを終えたばかりのフランクとイヴォだった。

 

「お前ら、何の用だ!」

 

黒刀達の近くのテーブルで食事していたイ・サンとチャン・スウが立ち上がって2人の進路を阻む。

 

「あ?負け犬に用はねぇし!」

 

「どけ。」

 

2人はイ・サンとチャン・スウを押しのける。

 

「ほらルーミア、口元にソースが付いてるぞ。」

 

しかし、黒刀はフランクとイヴォに興味を示さずナプキンでルーミアの口元に付いているソースを拭き取っていた。

 

「ご馳走様♪」

 

思う存分食べたルーミアは両手を合わせて昼食を終えた。

 

「どんだけ食べてるんですか…ルーミアちゃん。」

 

妖夢が驚く。

それもそのはずルーミアは通常の倍の大きさのハンバーガーを2,30個は平らげてしまったのである。

 

「それじゃ次はどこへ行こうか?」

 

黒刀が席から立ち上がる。

 

「おいおい。無視すんじゃねぇよ!俺達はお前に用があるんだよ!四季黒刀!」

 

フランクが名指しする。

すると、黒刀の雰囲気が一気に冷たくなった。

 

有象無象が俺とルーミアの時間に入ってくんじゃねぇよ。

 

ただ一言発した。

たったそれだけでフランクとイヴォ、イ・サンとチャン・スウ、ユンスクまでも動けなくなってしまう。

 

「くろにい…」

 

その時、ルーミアが黒刀の左手を握って声をかけた。

 

「行こうか?」

 

黒刀の雰囲気が元に戻って笑顔をルーミアに向けた。

 

「うん♪」

 

ルーミアは元気な笑顔で返した。

黒刀と一緒にレジで支払いを済ませて店を後にする。

 

「あ、私も。」

 

映姫もちょうど完食して立ち上がる。

 

「それでは師匠、私はこれで失礼します。」

 

神子に頭を下げる映姫。

 

「ああ。明日は私も観戦させてもらうよ。」

 

神子は笑顔で返した。

映姫は頭を上げると店を後にする。

ちなみに全員分の支払いは黒刀が既に済ませている。

 

「チッ。白けた。」

 

フランクとイヴォは帰っていく。

ユンスクはまだ席に座りながら黒刀が行った先を見ていた。

 

「(さっきの彼の雰囲気は凄まじかった。だがあのルーミアという少女は全く臆していなかった。あの兄妹には言葉では表せない程の絆があるということか。)」

 

 

 

 

 

 それから黒刀、ルーミア。映姫の3人は色々な露店を回った。

ホテルに戻って夜になるとミーティングの時間になった。

しかし、その場に黒刀の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 午後8時。

黒刀がミーティングに参加していない理由はカタール代表の映像研究を昨夜ぶっ通しでしていたので疲労回復の為ということだった。

だが黒刀は休んでなどいなかった。

ホテルの自室である試合映像を繰り返し見ていた。

それはレミリアの試合映像だった。

ヨーロッパ予選の試合映像を録画して研究しているのである。

その集中力は並外れていた。

黒刀はWDCに出場した目的。

それは今も変わっていなかった。

 

 

 

 

 

 9月14日 午前6時。

黒刀が1人で朝のランニングをしようとホテルの外に出ると先客が待っていた。

 

「おはようございます!先輩!」

 

妖夢は元気に挨拶してきた。

 

「おはよう。どうした?こんな朝早くに。」

 

「朝練ご一緒させてもらおうと思って待っていたんです。」

 

「ああ。いいよ。」

 

妖夢は黒刀の了承に小さくガッツポーズ。

2人は軽く準備運動してから走り出す。

 

「そういえば妖夢とこんな風に2人きりになるのは久しぶりな気がする。」

 

黒刀は走りながら話しかける。

 

「そうですね。確かにここ最近色々ありましたから。」

 

妖夢も黒刀のペースについていきながら会話する。

 

「姫姉の特訓はきついか?」

 

「まあ正直…でもそのおかげで強くなれてますから。先輩はレミリアさんを倒す為にWDCに出たんですよね?」

 

「ああ。一応ヨーロッパ予選のデータも見てるけどやっぱそれだけじゃ分かりにくい部分もあるからこっちの予選が終わったらあっちの予選会場があるパリに行こうかと考えてる。あっちの最終日はこっちより遅いし…」

 

そこまで言ってから黒刀が隣の妖夢を見ると黒刀がロサンゼルスに行った時のように寂しそうな顔をしていた。

 

「いやパリに行くって言っても2日ぐらいで帰って来るから。」

 

黒刀は必死に妖夢を宥める。

 

「べ、別に泣いてませんから!」

 

「いやそんなこと聞いてないけど。」

 

「はうっ!///先輩は意地悪です…」

 

妖夢は恥ずかしくなって顔を赤くして俯いてしまう。

それから2時間走り続けて午前8時にホテルに戻って来る。

妖夢も立ち直っていた。

シャワーを浴びて、着替えて、朝食を食べて、最終確認のミーティングを終えてから日本代表一同は試合会場に向かっていく。

カタール戦開始まであと3時間。

午前中はインドvs韓国の試合だった。

昨日のカタール戦が響いたのかインド代表は思ったように闘えず結果は韓国代表の勝利となった。

 

 

 

 

 

 午前11時。

ついにアジア代表が決定するということもあってか会場の観客席は満席だった。

ルーミアと神子は最前列で隣り合わせに座っている。

 

「楽しみだね。ルーミアちゃん。」

 

「うん♪」

 

インド代表と韓国代表も重傷者以外は観客席の後ろからフィールドを見下ろしている。

偶然に2チームが同じ場所から見ていた。

 

「怪我はもう平気なのかい?ガンジー。」

 

「問題ない。お前の方こそどうなんだ?ユンスク。」

 

「さすがに2日も経てば平気だ。」

 

両キャプテンは軽口を叩き合っていた。

カタール戦開始まであと2時間。

現在、デュエルフィールドは試合の為、準備中。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「それじゃダブルス2九条と七瀬。頼んだぞ。」

 

にとりが花蓮と愛美を呼ぶ。

 

「「はい!」」

 

2人が強く応える。

花蓮は和装のデュエルジャケットだったが、愛美は私服のままだった。

 

「愛美、何で私服のままなんだ?」

 

妹紅が訊く。

『魅了』のスキルを発動させない為、眼鏡をかけている愛美が微笑む。

 

「まあ後のお楽しみってことで♪」

 

愛美はウインクして意味深なことを言った。

妹紅は訳が分からず首を傾げる。

 

「花蓮、油断はするなよ。」

 

優は婚約者の花蓮に声をかける。

 

「うん。分かってる。」

 

花蓮は笑顔で応える。

 

「まだ試合まで2時間ありますね。どうします?」

 

雪村が時計を確認して訊く。

 

「じゃあその間、一緒に散歩しましょう♪」

 

花蓮が優の右腕に自身の左腕を絡めて甘える。

 

「花蓮、試合前だぞ。」

 

「だからこそですわ。最近2人きりになる時間が無かったではありませんか。」

 

花蓮が頬を膨らまして拗ねる。

 

「はあ…分かったよ。」

 

優がため息を吐いて観念したようだ。

 

「それじゃあね♪」

 

2人は控室を出て行く。

 

「さすが婚約者。」

 

魔理沙がそう口にした。

 

「それじゃセンパイ♪私達もイチャイチャしましょ…ってあれいない!」

 

早苗が騒ぎ出した。

 

「(またあいつは…)」

 

にとりは呆れ顔で心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 午前11時10分 予選会場テラス。

黒刀は誰もいないテラス席で1人、手すりに肘を置いて体重をかけていた。

そこへ…

 

「やっぱりここにいましたか。」

 

映姫がやってきた。

 

「ダメですよ。皆と一緒に行動しないと。最近の黒刀は単独行動が多いです。」

 

映姫は黒刀を軽く叱る。

黒刀は手すりから体を離す。

 

「いや、考え事をしていただけだ。」

 

「…レミリアさんのことですか?」

 

そう口を挟んだ映姫に黒刀は一瞬、驚いた顔をしたがすぐに飄々とした表情に戻った。

 

「やっぱり姫姉に隠し事は出来ないか…」

 

「当たり前です。何年一緒にいると思っているんですか。」

 

胸を張る映姫。

 

「そうだな…。今考えていたのはいっそ俺が全試合やったらレミリアと早く闘えるんじゃないかと思ってさ。」

 

「調子に乗らない!」

 

映姫はジト目で黒刀の脳天に軽くチョップ。

 

「あ、いてっ。」

 

わざとらしく声を上げる黒刀。

映姫はスッと右手を差し出してやや頬を赤く染める。

 

「ほら早く皆のところに戻りますよ///」

 

「ああ。分かったよ。」

 

黒刀は映姫の手を握り返した。

そうして2人は一緒に控室へ戻って行く。

 

 

 

 

 

 午前11時15分。

花蓮は優との散歩にかなりご満悦のようだ。

優も澄まし顔だが愛する人と一緒にいられることに悪い気はしていない。

 

「花蓮。」

 

「何ですか?」

 

「お前は確かに親同士が決めた婚約者だ。だけどそんなことは俺には関係ない。改めて言っておく。俺はお前を心から愛している。俺が闘う理由は2つ…自分の為かお前の為だ。」

 

優は真剣な表情で言った。

辺りに人気は無い。

 

「優…嬉しいです!」

 

花蓮は優の腰に手を回して抱きついた。

 

「私…次の試合、必ず勝ちます!あなたの妻になる女として恥ずかしくないように。」

 

花蓮はそう誓った。

優は無言で花蓮を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 午前11時30分 日本代表控室。

黒刀と映姫が控室に戻ってきた。

電動ドアが開いて黒刀の姿を見た早苗が寄って来る。

 

「あ!どこ行ってたんですかセンパイ!さあ、私達も二宮さんと九条さんみたいにイチャイチャしましょう!」

 

「何の話?」

 

黒刀は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 午後0時50分。

愛美は既にゲートで壁に背中をもたれかけさせて携帯端末を弄りながら待っていた。

『魅了』防止の眼鏡をかけているので知性的に見える。

数分後、花蓮がゲートに来た。

花蓮の表情は引き締めた真剣なものになっていた。

 

「遅かったですね。花蓮さん。」

 

愛美は壁から背中を離すと少しからかい気味に声をかける。

 

「言いたいことは分かりますが今は試合に集中しましょう。」

 

花蓮は愛美の茶化しを回避する。

 

「ええ。そうね。」

 

愛美は気を取り直して右手のMADを握り締める。

入場ブザーが鳴り響く。

 

「さあ、行きましょう!」

 

「はい!」

 

花蓮にとって3回目、愛美にとって初めての世界戦だ。

 

 

 

 

 

 一方。

カタール代表のユセフとエメルソンはフィールドに入場する。

 

「エメルソン、カタール代表として恥の無い闘いをするぞ。」

 

「ああ。」

 

2人は今回で2年目のWDC出場。

そんな2人は初出場のフランクとイヴォの卑怯な戦闘スタイルと傲慢な態度に不満を立てていた。

 

「あいつらは国を背負っているということがどういうことなのかまるで分かっていない。」

 

「ああ。俺達が見せてやる。国を代表する者の闘いを!」

 

2人は気合いを入れる。

 

「あの~」

 

そこで声が聞こえてきた。

愛美が控えめに手を挙げていた。

 

「何だ?」

 

ユセフが聞き返す。

 

「盛り上がっているところ悪いんですけど勝つのは私達ですから♪」

 

愛美はこの状況で場違いな笑顔で返す。

 

「何?」

 

「お前、初出場か?」

 

エメルソンが怪訝な顔をして、ユセフが問う。

 

「ええ。」

 

「世界のレベルを体験したことないのによくもそんな大口が叩けるな。」

 

「だって私、強いですから♪」

 

愛美は再度笑顔で返した。

その言葉を聞いたユセフはさらに敵意を強めた。

 

「どいつもこいつも舐めやがって!」

 

ユセフは腕輪状の汎用型MADを起動する。

エメルソンもそれに続く。

 

「愛美、挑発も程々にね。」

 

「は~い。それじゃあこっちも!」

 

愛美はハート型のMADを取り出す。

 

「『マジカルハート』!セットアップ!」

 

MADが輝いて愛美の体も光り出した。

まるで魔法少女のように。

 

「「?」」

 

そのような文化を知らないユセフとエメルソンは愛美が何をやっているのか理解できない。

観客も何が起きたのか盛り上がっていた。

愛美を知る花蓮や控室の皆も以前に剣舞祭で装着したメルヘンチックな装備だと思って呆れた目をしていた。

…ただ1人を除いて。

変身を終えて現れたのは胸にピンクのリボン、全体的に白い装備に青いカラーラインが入っていて、髪はピンクのリボンで結んでポニーテールになっていて、ロングスカートで、右手には長さ1mのMADが握られている。

このMADこそが七瀬愛美の新たなデバイス『マジカルハート』である。

白い棒にある赤い先端は一見槍にも見えるがこれは砲撃魔法を撃つ為の砲口である。

今の愛美は以前のメルヘンチックな魔法少女ではなくバリバリ戦闘系魔法少女。

さらに、驚くべきはそこだけはなかった。

 

「…浮いている…」

 

ユセフが言葉を漏らす。

そう。

彼女は10m上空で滞空していた。

 

「反重力飛行魔法だと!バカな!アンチグラビティシューズも無しで出来る筈がない!」

 

エメルソンが叫ぶ。

だが、現に七瀬愛美は浮いていた。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

皆が驚く中で黒刀だけは違った。

 

「やっぱりか。」

 

その呟きに全員が振り返った。

 

「黒刀の仕業なのか?」

 

魔理沙が訊く。

黒刀は怪訝な顔をする。

 

「何か俺が悪いことしたような訊き方だな。」

 

「で、やっぱりって何だよ?」

 

「…恐らく奴らは魔法理論を知らない。あるものをただ技術として使っているだけに過ぎない。」

 

「どういうことだ?」

 

「例えて言うなら奴らは教科書にある数式を途中式飛ばして答えだけを出している。しかし、それだけでは何故そうなるかという説明が出来ない。」

 

「つまり方法を知らないってことか。」

 

魔理沙の返答に黒刀は頷く。

 

「カタールは魔法後進国だと言われている。奴らが魔法を使えるのは道具と技術を他国から提供されているからだろう。だから飛行魔法のような新しい魔法を理解出来ないのさ。反重力飛行を実現させたアンチグラビティシューズは存在が公開されているとはいえ技術と理論はロシアが独占しているからね。」

 

「何かあたいこんがらがってきたぞ。」

 

チルノが参ったような声を上げる。

黒刀はチルノの頭にポンと手を置くと微笑む。

 

「空が青いことと一緒だ。」

 

人間は空が青いことを知っていても何故青いかまで深く考えない。

ちなみに空が青い理由は太陽光の波長が短い青い光が大気中の粒子にぶつかって屈折し乱反射して広がって行くからである。

それと黒刀は1つ嘘を吐いている。

反重力飛行はロシアだけだと説明したが実際は新大日本帝国とロシア連邦が技術と理論を保有していて反重力飛行は最初に帝国が実現させた。

しかし、ブレイドアーマーの情報は軍事機密である為、当然口外出来ない。

 

「昨夜、2人でコソコソ話し合っていたのはこの為だったのですね。」

 

映姫が黒刀をジト目で見つめる。

 

「アハハ…何のことな?」

 

黒刀は苦笑いして目を逸らす。

 

『(こいつ、とぼけやがった。)』

 

 

 

 

 

 愛美は滞空状態のままMADを構える。

 

「黒刀の手を借りたって言うのは何だか癪だけど…さあそろそろ始めましょうか!」

 

「「望むところだ!!」」

 

カタール代表の2人は声を揃えた。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始の機械音声が鳴り響いた。

ユセフとエメルソンは距離を取ってMADに魔力を注入した。

花蓮は扇子を水平に振って『風壁』を展開して防御態勢を整える。

一方。

愛美は滞空したまま何もしない。

ユセフが火球を、エメルソンが水属性の放出系魔法を花蓮に向けて放った。

『風壁』によってエメルソンの魔法は防げたが相性の悪いユセフの火属性魔法は威力を殺しきれず花蓮はやや後方に飛ばされる。

 

「なるほど。あの2人の属性は火と水ね。だったら…」

 

それを見て愛美が分析する。

 

「追い打ちをかけるぞ!」

 

「ああ!」

 

ユセフとエメルソンは息を合わせて花蓮に追撃を仕掛ける。

愛美にも攻撃を仕掛けたいが上を取られてしまっては魔法も当たりにくい。

だからこそ2人はまず確実に1人落としにきたのである。

先程と同じ魔法を花蓮に向けて放つ。

花蓮は『風壁』ではなく『かまいたち』で迎撃しようとしたのその時。

上空から水球が火球をかき消し、床から土の壁が出現してエメルソンの水属性魔法を弾いた。

ユセフとエメルソンが上空を見上げると愛美が『魔女』の如くそこにいた。

 

「九条花蓮は風属性しか使えない筈。ということはまさかあっちの女が…だとしたらあり得ない!2つの属性を同時に発動させるなんて!」

 

ユセフが驚愕した顔で叫ぶ。

 

「私を無視するなんていい度胸してるじゃない!」

 

愛美がそう吐き捨ててMADを水平に振った。

それだけで水球をユセフへ、岩の槍をエメルソンへ放った。

 

「ユセフ、スイッチ!」

 

「分かった!」

 

ユセフとエメルソンは位置を入れ替えて、ユセフが岩の槍を、エメルソンが水球を相殺した。

その隙を突いて花蓮が『かまいたち』を放った。

 

「エメルソン!」

 

「任せろ!」

 

エメルソンは魔表で岩の壁を展開して『かまいたち』を弾いた。

さらに魔法で岩の壁を粉々に分解して砂を空気中に散布させた。

 

「見えないなら見えるようにすればいい!」

 

「くっ…これでは『かまいたち』を使っても読まれる。」

 

花蓮が悔しそうに唇を噛み締める。

その時。

 

「花蓮さん、『突風』です!」

 

上空から愛美の声が響く。

 

「え、でも…」

 

「早く!」

 

「分かりましたわ!突風!」

 

花蓮は扇子を振って『突風』を放った。

砂が吹き飛ばされるが同時に風も丸見えになってしまう。

 

「無駄なことを!」

 

エメルソンが魔法で岩の壁を展開する。

 

「それはどうかしら?」

 

愛美の声が響く。

MADを構えて砲口から熱線を放った。

 

「火属性も使えるのか!」

 

ユセフが驚く。

熱線は花蓮の『突風』と混じって威力を増して、岩の壁を粉砕して貫通する。

ユセフとエメルソンも諸共倒したと思ったが2人は10m左右にそれぞれ移動していた。

 

「『自己加速術式』…」

 

花蓮が呟く。

 

「花蓮さん!」

 

愛美の声に花蓮は我に返った。

花蓮は扇子を、愛美はMADを振る。

 

「「竜巻!」」

 

直径5mの竜巻を合計3つ発生させた。

背後には壁、前方と左右から竜巻が迫っているユセフとエメルソンだが彼らはまだ冷静だった。

 

「あの女、一体いくつ属性を使えるんだ?」

 

「考えても仕方ない。俺が合図したら動くぞ。」

 

 

 

 

 

 午後1時20分 日本代表控室。

 

「七瀬さんは『エレメンタルマスター』だったんですね。」

 

雪村が口を開く。

 

「『エレメンタルマスター』?」

 

魔理沙が疑問をぶつける。

 

「魔理沙、属性魔法の基本属性は?」

 

黒刀が問う。

 

「何だよ藪から棒に…火、水、風、土だろ。」

 

魔理沙は即答した。

 

「『エレメンタルマスター』って言うのはその四属性魔法を完全習得した国家資格のことだ。」

 

黒刀は控室のソファに腰かけながら頬杖を突く。

 

「ですが属性魔法は適性が無いといけないのではないですか?」

 

優等生の大妖精が黒刀に問う。

 

「だからあいつはその適性があるんだよ。四属性全部。」

 

黒刀の答えに一同は絶句。

個人の属性は努力でどうなるものではない。

それは生まれ持った才能だ。

それが七瀬愛美にはあるということだ。

 

「…僕が説明しようと思っていたのに。」

 

雪村は自分が説明しようした内容を黒刀に横取りされてしまった為、肩を落とす。

 

「ドンマイ!」

 

光が笑顔で雪村の肩に手を置く。

 

「咲夜、愛美さんと一緒にやっていたのはMADの調整ですか?」

 

映姫が黒刀に問う。

 

「…まあな。」

 

黒刀は短く答えた。

 

 

 

 

 

 迫りくる竜巻に対してユセフがついに動いた。

 

「今だ!」

 

ユセフとエメルソンは『自己加速術式』を発動して竜巻と竜巻の僅かな隙間を突破した。

ユセフは花蓮に向かって突撃する。

花蓮が『風壁』を展開してさらに『かまいたち』を放つが、ユセフは移動魔法で上に跳んで『かまいたち』を回避して床に着地した後、一気に距離を詰めた。

 

「(大丈夫。『風壁』を張っていればこれ以上距離を詰められることは無い。)」

 

花蓮は安心し切っていた。

しかし、相手の方が一枚上手だった。

ユセフはMADに魔力を注入して炎の壁を展開する魔法を発動した。

 

「(ここで防御魔法?)」

 

花蓮が疑問を抱いた。

次の瞬間、その行動の意味が分かった。

ユセフが炎の壁を魔法で前方に突撃させて『風壁』にぶつけて相殺させたのだ。

 

「しまった!」

 

花蓮が気づいた時にはもう遅かった。

ユセフは壁が無くなったところで『自己加速術式』を発動して花蓮の懐に入った。

右手から火属性魔法の火球が放たれようとしていた。

 

「(私はナンバーズの九条花蓮…ただで負ける訳にいかない!)」

 

花蓮は左手に手のひらサイズの風の球体を作り出した。

それをユセフに向ける。

ユセフが目を見開く。

だが、その球体が花蓮の手を離れることは無い。

何故ならこの魔法は放出系魔法ではないからだ。

 

「風爆!」

 

花蓮が詠唱したその瞬間、圧縮された空気の球体が解き放たれ大爆発を引き起こした。

そう。

この魔法は相打ち覚悟の自爆術式。

爆発の煙から後方へ吹っ飛ばされたユセフとエメルソンが倒れて気を失った。

 

 

 

 

 

 午後1時25分 日本代表控室。

 

「花蓮!」

 

普段の優からは考えられない程の叫びが響く。

 

 

 

 

 

 

「花蓮さん!」「ユセフ!」

 

愛美とエメルソンが互いにパーティーの身を案じる。

だが、試合中ということもあり2人は相手に意識を集中させた。

 

「「一撃で終わらせる!!」」

 

エメルソンは魔法で岩を浮遊させて足場を作り、次々と跳び移って愛美との距離を詰める。

水属性の巨大な槍を造形してそれを放った。

 

「これで終わりだ!『魔女』!」

 

エメルソンが叫ぶ。

水の槍が愛美に当たり、爆裂。

周囲に水蒸気の霧が立ち込める。

 

「魔法を発動させる隙も無かったようだな。」

 

エメルソンが床に着地して、倒れているユセフの元へ向かおうとしたその時。

上空から膨大な魔力を感じた。

水蒸気の霧が晴れ、その反応の先に目を凝らすと、そこにいたのは左手を前にかざして魔力障壁を展開している無傷の愛美だった。

 

「バカな!あれだけの威力の魔法を魔力障壁だけで防ぎ切っただと!」

 

エメルソンが驚愕する。

 

「今度はこっちの番!」

 

「何…っ!」

 

エメルソンの両手首と両足首にピンク色の光のリングがはめられて拘束する。

 

「これは…バインド⁉」

 

もがくエメルソンに対して、愛美はMADを両手で構えて砲口をエメルソンに向けると砲口の先端にピンク色のオーラを集束させる。

 

ストライク~バスターァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!

 

愛美の『マジカルハート』から放たれたピンク色の極太の光線が『バインド』で拘束されているエメルソンに降り注ぐ。

 

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

エメルソンの断末魔が響く。

彼の体が後方に押し込まれてフィールドの壁に背中を激突させて壁に亀裂を入れた。

砲撃を撃ち尽くした後、エメルソンは前のめりに倒れる。

 

《勝者 七瀬愛美&九条花蓮》

 

愛美達の勝利が決まった。

手に汗握る激闘に観客の歓声が沸き上がる。

だが愛美には勝利に浸っている時間は無い。

 

「花蓮さん!」

 

愛美は床に舞い降りて変身を解くと倒れている花蓮の元へ駆け寄る。

花蓮の肩に手を回して支えたその時。

 

「花蓮!」

 

フィールドに別の声が響く。

愛美が視線を向けるとその先にいたのはゲートに姿を現した優だった。

 

「二宮さん…」

 

「花蓮!」

 

優は慌てて花蓮の元へ駆け寄る。

愛美は花蓮を優に預ける。

 

「花蓮…」

 

優は花蓮の体を支えてもう一度名前を呼ぶ。

すると、花蓮の瞼がうっすら開き始める。

 

「……優…」

 

花蓮はホッとした顔になる。

 

「私…何とか…1人倒せたよ…」

 

花蓮はボロボロにも関わらず声を絞り出す。

 

「ああ…十分だ。」

 

優は優しく言葉をかける。

その言葉に満足したのか花蓮は目を閉じて眠った。

その時だった。

この場に不似合いな拍手がカタール代表側のゲートから聞こえてきた。

そこから姿を現したのはフランクとイヴォだった。

 

「いやいや…とんだ()()()だったよ!」

 

フランクが大きな声量で言い放った。

 

「何ですって!」

 

愛美が突っかかる。

 

「女2人にやられるこいつらも情けねぇが…何より…弱い癖にこのWDCに出場しその上、相打ちでしか討ち取れねぇその女は見てて無様としか言いようがねぇな!ハハハハハ!!!!

 

フランクとイヴォが嘲笑する。

その時、空気が変わった。

 

…俺の女を侮辱してんじゃねぇ!

 

低く怒気がこもった声で優が吐き捨てた。

 

「ハッ!」

 

フランクは鼻で笑い飛ばした。

 

「だったらてめぇも仲良く医務室行きにしてやるよ!」

 

イヴォが続く。

 

「上等だ!」

 

頭に血が上った優が言い放った。

そこへ、次の試合に出場する最後の1人が到着した。

 

「いくぞ…黒刀!」

 

優が名を呼ぶ。

 

「ああ。」

 

黒刀はそう応えた。




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共闘!『皇帝』と『破壊王』!

OP8 遊戯王GX 99%


 午後1時35分 日本代表控室。

 

「あの2人がダブルスを組むなんてすげぇぜ!」

 

魔理沙が興奮した声を出す。

 

「『皇帝』と『破壊王』が肩を並べて闘うなんて確かに想像出来なかったね。」

 

光がそう口ん敷いた。

 

 

 

 

 

 黒刀は愛美の元へ近づく。

 

「ねぇ。」

 

愛美から声をかけられる。

 

「あ?」

 

「やっぱりちょっと重いんだけど。」

 

「昨日、調整したんだからしょうがねぇだろ。後で再調整してやるからお前は九条を医務室に連れて行け。」

 

「分かってるわよ。あんたに言われなくても。」

 

愛美は少し不機嫌になって花蓮に肩を貸すとゲートを歩いていく。

 

 

 

 

 

 優が右手に装着している汎用型MADを起動する。

黒刀も『八咫烏』を鞘から抜く。

 

「優。」

 

黒刀は優に声をかける。

 

「何だ?今、俺は超機嫌悪いんだ。手短にしろ。」

 

優は視線をフランクとイヴォに固定したまま返事する。

 

「この試合、俺に一切合わせようとしなくていい。例え俺が射線上にいても構わず撃て。」

 

黒刀の提案は優にとっても気兼ねなく全力を出せるので願ったり叶ったりだが本当にその作戦でいいのか一瞬だけ迷ったがその後に脳裏をよぎったのは愛する婚約者、九条花蓮の笑顔だった。

優は決心した。

 

「分かった。」

 

優の言葉に黒刀の口の端がほんの僅かに上がった。

黒刀は優の前に出て、抜刀状態の『八咫烏』を構える。

改めて黒刀の姿を確認したフランクとイヴォは挑発的な笑みを浮かべる。

 

「おやおや…てめぇは昨日俺達にガン無視してくれちゃった四季黒刀じゃねぇか~」

 

「まあ、その余裕そうな面も今日までだがな!」

 

2人は表情、言葉や口調で黒刀を挑発する。

しかし、黒刀は全く意に介さず『はあ~』とため息を1つついた。

 

「お前らが何を思い、何を考えているのか…そんなことは俺にはどうだっていい。俺には全力を懸けて倒せなきゃいけない奴がいるんだ。その道を邪魔する奴は誰だろうと…叩き潰す!」

 

黒刀は固い意志を声に込めて言い放った。

 

「だったら!」

 

フランクが高らかに声を上げる。

 

「やってみろよ!」

 

イヴォが言葉を紡ぐ。

それが合図であるかのように…

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始の機械音声が鳴り響いた。

まず黒刀が床を蹴って前に飛び出した。

その直後、黒刀の15m後方の空中に20個の魔法陣が展開された。

優の『ディメンションレーザー』だ。

それらの魔法陣から砲撃魔法が一斉に放たれる。

その射線上には黒刀もいた。

黒刀が振り返る気配はない。

 

「ハッ!お仲間諸共ってか!」

 

「勝手に自滅してろ!」

 

フランクとイヴォは魔力障壁を展開させながら後退する。

優の放った『ディメンションレーザー』の中の1つが黒刀の後頭部に向かっていく。

 

「まず1人脱落~!」

 

フランクがにやつく。

会場にいるほとんどの者が黒刀が『ディメンションレーザー』を受けて倒れると思った。

だが、結果は違った。

黒刀は背後を振り向きもせず走りながら首を左に傾けた。

たったそれだけの動作で『ディメンションレーザー』は黒刀の顔の横を通過して床に直撃する。

『マスタースパーク』の3倍の威力を誇る『ディメンションレーザー』は直撃した床を爆発させる。

その程度の爆発であれば常に高密度のオーラを纏っている黒刀は迷わず前進できる。

 

 

 

 

 

 午後1時40分 日本代表控室。

黒刀の動きを観察していた雪村がその意味に気づいた。

 

「そうか!黒刀君には全方位を視れる『千里眼』と視認した瞬間に反応できる『超反射』がある。だからあの砲撃の嵐を進めるという訳だ。」

 

ちなみに黒刀の『眼』は『千里眼』から『覇王の眼』に覚醒しているのだが彼が知る筈はない。

 

「だとしたら正気の沙汰じゃねぇだろ…避ける方も撃つ方も。」

 

雪村の分析に仁が言葉を漏らす。

しかし、この状況で妖夢達は驚かなかった。

 

「まあ、黒刀だし。」

 

魔理沙が一言。

 

「黒刀なら当然!」

 

チルノが一言。

 

「黒刀先輩ならこれくらいは。」

 

霊夢が一言。

 

「やりますよね~」

 

大妖精が言葉を紡ぐ。

 

「先輩ですから。」

 

妖夢が最後に一言。

5人の言葉には全幅の信頼が込められていた。

 

 

 

 

 

 黒刀は砲撃魔法の嵐をジグザグに走りながら前進している。

 

「(さっきの言葉はこういうことか…)」

 

優は若干、黒刀を心配する気持ちを抱くが砲撃を緩める気は無い。

今の優にとって最も優先度の高い目的は愛する婚約者、花蓮を侮辱したフランクとイヴォを倒すことなのだから。

照準をフランクとイヴォに向けるように細かく修正を加える。

黒刀は優の砲撃魔法を躱し尽くしているがいつまで続くか分からないし無駄な攻撃を続ける必要は無い。

『ディメンションレーザー』の魔法陣がフランクとイヴォの周囲に展開される。

直後、4個の魔法陣から『ディメンションレーザー』が放たれる。

 

「ハッ!トロいんだよ!」

 

フランクとイヴォは加速魔法『アクセル』を発動して回避。

だが、2人が回避した先へ黒い斬撃がそれぞれ2人へ放たれた。

今の2人はまだ加速中であり、この状況から回避することは原則的に不可能。

 

「「ダブルアクセル!!」」

 

だが、2人はその状態からさらに再加速して回避。

その際、加速によって残像が1体作られる。

言うまでもなく黒い斬撃を放ったのは黒刀である。

 

「四季…黒刀!」

 

フランクは忌々しげにその名を口にする。

 

「何必死になってんだよ。そんなに女1人くたばったのが悔しいのか?」

 

イヴォが水属性の射撃魔法で黒刀を牽制しながら挑発する。

黒刀は構わず2人に接近すると横振りに『八咫烏』で薙ぎ払う。

フランクとイヴォは『アクセル』で上にジャンプして回避。

 

「てめぇは後回しだ!」

 

フランクが吠える。

黒刀の頭上を跳び越えて床に両手を付く。

 

「「ロックウォール!!」」

 

2人は土属性魔法を発動して優、フランク、イヴォと黒刀を分断する巨大な岩の壁を展開する。

フィールドは2つに分けられた。

 

「はあ…こんなもので俺を止めたつもりかよ…」

 

黒刀は呆れた口調で岩の壁を斬り崩そうとしたその時。

 

「黒刀、余計なことはするな!こいつらは俺1人でやる!」

 

壁の向こう側から優が大声で言ってきた。

 

「…プッ、アハハハハ!何を言うかと思えば雑魚が俺ら2人を同時に相手するなんてどこまでバカなんだ?てめぇら日本人って奴らはよぉ!」

 

「身の程知らずって言葉を今からその体に叩き込んでやるよ!」

 

優の言葉を聞いたフランクとイヴォが笑い飛ばす。

『アクセル』を発動して優に迫る。

黒刀は『八咫烏』を持つ左手をダラりとぶら下げて天井を見上げて目を閉じた。

そのまま彼はジッと動かない。

 

 

 

 

 

 午後1時45分 試合開始から10分経過 日本代表控室。

 

「何やってんだよ黒刀!お前ならそんな壁ぶっ壊せるだろ!」

 

魔理沙がモニターウインドウに向かって怒鳴る。

 

「二宮さんの言う通り本当に何もしないわけね。」

 

霊夢が冷静に言った。

 

「私なら即ぶっ壊してるけど。」

 

光がそう口にした。

 

「そうだ!ぶっ壊せぇ!」

 

チルノが大声で盛り上がって右手の拳を突き上げる。

 

「…お前ら、今の黒刀がどんな状態かちゃんと見ろ。」

 

にとりが指摘する。

その一言に全員、モニターウインドウに映る静止状態の黒刀をジッと見る。

すると、モニターウインドウでは分かりづらいが黒刀を中心に何かが集まっている。

風…いやオーラだ。

 

「『集中』…」

 

阿求が呟く。

 

「ということは先輩は今、オーラを高めているということですか。」

 

妖夢が口を挟む。

 

「ですが今の彼の力なら今更オーラを高める必要も無いと思いますが…」

 

雪村が意見を口にする。

 

「フフ…あの2人どっちもプライド高そうだから本音じゃ1人で十分って思ってるんじゃない?」

 

諏訪子が微笑する。

 

「ん~っていうより単純にセンパイ、めんどくさいから任せてるだけじゃないですか?」

 

早苗が陽気にそう言った。

 

『(あ~それはありそう。)』

 

早苗の一言に一同はこれまでで最も妥当な答えが出た。

 

 

 

 

 

 午後1時47分 試合開始から12分。

優が遠距離戦得意だという情報を既に把握しているフランクとイヴォは汎用型SDを起動した。

ビームブレードが先端から伸びる。

 

「接近戦か…させるか!」

 

優はフランクとイヴォの周囲にそれぞれ10個の魔法陣を展開して『ディメンションレーザー』を放った。

 

「バカの1つ覚えが!ダブルアクセル!」

 

フランクとイヴォは二重加速で砲撃魔法を回避して、優の左右からそれぞれ斬りかかる。

優は『イージスの盾』を展開して防御しようとする。

だが次の瞬間、優の背中に強烈な痛みが走る。

優は首だけ背後に振り返る。

そこには左右にいたはずのフランクとイヴォがいた。

 

「その魔法も攻略済みだ。」

 

「その防御魔法は手をかざす一方向にしか展開できない。片手で1つ…つまりてめぇに展開できるのは2つまでだ。」

 

「さらに、その魔法は展開させてから次の再展開までタイムラグがある。」

 

「大体2秒ってところか。」

 

「それだけありゃ俺らの『ダブルアクセル』で八つ裂きに出来る。」

 

フランクとイヴォは交互に優の弱点を口にする。

 

「これで分かったか!てめぇもさっきの雑魚女も俺らの実力には及ばねぇってことを!」

 

フランクが高らかに言い放つ。

 

「…てめぇ、ぶち殺す!

 

優は完全にブチ切れた。

 

「モードチェンジ!エンペラー!」

 

優の全身に黄金の鎧が装着される。

 

「調子に乗ってんじゃねぇっぞ!クソ野郎が!」

 

優は右手にオーラを集束させる。

『ソニックレーザー』を撃つつもりだ。

 

「だ~か~ら~!攻略済みだっつんでだよ!このマヌケが!」

 

フランクが吠える。

 

「「トリプルアクセル!!」」

 

フランクとイヴォは二重加速のさらに上…三重加速の魔法を発動した。

2人の身体がそれぞれ3体に分身する。

優は目を見開く。

これでは単発の『ソニックレーザー』はまず当たらない。

 

「くっ!」

 

優は『ソニックレーザー』を3体のフランクの内の1体に向けて放つ。

撃ち抜かれたフランクは残像となって消失する。

優はさらに50個の魔法陣を展開して『ディメンションレーザー』をフランクとイヴォに向けて一斉に放つ。

しかし、砲撃魔法よりスピードで勝る2人はことごとく避けて優へ四方八方から斬りかかる。

『イージスの盾』で防御し切れない優は切り刻まれ『エンペラーモード』の鎧も徐々にボロボロに砕かれていく。

 

「ぐあああああ!」

 

悲鳴を上げる優。

 

「墜ちろ!エリート気取りの雑魚!」

 

フランクはそう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 優の意識が薄れていく。

体が右に倒れていく。

 

「(クソが…あいつらをぶっ飛ばしようにも体が動かねぇ…終わるのか?花蓮を侮辱したあいつらに一矢報いることさえ…出来ないのか?)」

 

優がもうダメかと諦めかけたその時。

 

「それがお前の限界か?」

 

その言葉は岩の壁越しに優の鼓膜に届いた。

 

「っ!」

 

気づけば右に倒れる筈だった優は右足を床に踏み止まらせていた。

 

「この…くたばり損ないがぁ!」

 

フランクが床を蹴って『トリプルアクセル』を発動する。

 

「今度こそ叩き潰してやるよ!」

 

イヴォもフランクに続く。

優の顔は俯いていて表情は見えない。

優は腰のポケットからSDを取り出すと起動する。

その刀身はフェンシングのように細かった。

 

「悪あがきをしたところで!」

 

「遅いんだよ!」

 

二宮優が剣を扱えるという情報は無い。

この行動も苦し紛れのもだと2人は思っていた。

…だが違った。

フランクとイヴォ合計6体が優を包囲するように斬りかかる。

 

「「終わりだぁ!!」」

 

 

「…ソニックムーブ!」

 

次の瞬間、優の姿が消えた。

フランクとイヴォの攻撃が空を切る。

 

「野郎…どこに…がっ!」

 

イヴォが周囲を見渡して優の姿を捉えようとしたその時。

右脇腹に痛みが走った。

攻撃を喰らいながらも視線を向けるとそこには細剣型SDで突きを放った優がいた。

 

「(何故奴が剣を使える…いやそれよりも…いつ攻撃した?)」

 

フランクは状況が飲み込めなかった。

 

「(英才教育でやっていたフェンシングがこんなところで役に立つとはな。)」

 

「この!」

 

イヴォはバックステップして体勢を立て直してから『トリプルアクセル』を発動して攻撃を仕掛ける。

だが、それよりも速く優の剣がイヴォの左肩を刺す。

 

「何故だ…何故てめぇが俺らより速い?」

 

苦々しく呟くイヴォ。

2人はお互いに距離を取る。

 

「…これが『ソニックムーブ』。つまり音速移動だ!」

 

「音速…だと?」

 

フランクが信じられないと言いたげな顔をする。

生身で音速移動など原理以前に肉体が耐えられない。

 

「てめぇらに説明する義理はねぇ!とっとと片を付ける!」

 

優はそう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 午後1時55分 試合開始から20分 日本代表控室。

優が発動させた『ソニックムーブ』。

その仕組みをにとりは一瞬で理解した。

 

「なるほど。振動、加速、硬化の三系統の魔法を同時に発動させているのか。」

 

「さ、三系統を同時にって…そんなバカな!」

 

魔法理論を勉強中の魔理沙が驚く。

 

「まず振動系魔法で音波を発生させて次に加速魔法で速度を上昇させて硬化魔法で音速でミンチにならないように肉体を硬化する。…全く大した情報処理能力だよ。」

 

にとりは素直に感嘆した。

 

 

 

 

 

 午後1時56分 試合開始から21分。

 

「(今の俺じゃ持って2分。だが、こいつらをぶっ飛ばすには十分だ!)」

 

『トリプルアクセル』などの瞬間的な加速魔法とは違って『ソニックムーブ』は常時加速状態を保つことが出来る。

つまり互いに睨み合った状態からなら優の方が速い。

イヴォが動き出す直前に優は懐に入り連続突きを放った。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

イヴォが呻き声を上げる。

 

「何なんだよ…てめぇは!」

 

今度はフランクが『トリプルアクセル』を発動して飛び出してきた。

優は一瞬でフランクの背後に移動して3体のフランクをほぼ同時に斬ったり突きを放った。

その中で背中を斬られたフランクが本体だったようで前によろめく。

優は次に体勢を立て直そうとしているイヴォの正面に移動する。

 

「くたばれ!」

 

残り少ない魔力で1発の『ディメンションレーザー』を放った。

 

「う、うああああああああああああああああああああああああ!」

 

イヴォの断末魔が響き、吹っ飛ばされた彼は自ら作り出した岩の壁に激突してさらに貫通した。

岩の壁に穴が出来たことで亀裂が生じ崩壊していく。

イヴォの体はフィールドの壁に激突してようやく止まる。

優は魔力を使い果たして片膝をつく。

フランクがチャンスとばかりに斬りかかろうとしたその時。

フィールドの壁に激突したイヴォが『アクセル』を発動して優へ突撃する。

 

「まだだぁぁ!」

 

イヴォが目を血走らせて吠える。

フランクは勝利を確信する。

これで2対1。

しかも相手は満身創痍。

だが、ここで誤算があった。

彼らは『怪物』を忘れていた。

『アクセル』を発動させているイヴォの真横から何者かがその横顔を右手で掴みそのままイヴォの左側の壁に叩きつけてイヴォの横顔が壁と右手のサンドイッチ状態となる。

二宮優はいまだ片膝をついて動けない。

なら誰か?

決まっている………黒刀だ。

 

「貴様ァァァ!」

 

イヴォが吠え、

 

「失せろ。」

 

黒刀がただ一言。

イヴォの横顔と黒刀の右手の僅かな隙間にオーラが集束する。

そして、抵抗1つ許さず放たれたのは覇王流砲撃魔法『カオスブラスター』。

漆黒の光線がイヴォに浴びせられる。

 

「うぐああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

黒刀が手を離すとイヴォはゆっくりと床に倒れる。

 

「四季黒刀とイヴォの距離は30m離れていた…それが一瞬で…さっきこいつが使った『ソニックムーブ』か…それとも『抜き足』…」

 

フランクはそこまで考えてハッと気づく。

黒刀の全身を電光がバチバチと弾けていることに。

 

「電気?まさか電気で移動したって言うのか!」

 

 

 

 

 

 午後1時59分 試合開始から24分 日本代表控室。

 

「あれは『電光石火』。雷属性が使える歩法です。」

 

映姫がそう口にした。

 

「は、はえぇ…」

 

チルノはただただ感心して見入っていた。

 

 

 

 

 

 午後2時 試合開始から25分。

 

「30%ってところか…」

 

「あ?」

 

「お前らを倒すのに使うオーラの割合だよ。」

 

「調子に乗るのもいい加減に…グフッ!」

 

フランクはいつの間にか正面に移動していた黒刀に右アッパーを腹に叩き込まれ体がくの字に折れ曲がり肋骨がバキバキと折れる音が鳴り響く。

 

「あ~30%は過大評価みたい…だったな!」

 

黒刀はそう言い放ってフランクを上空へ殴り飛ばした。

 

「さて…カタール人は飛行魔法を覚えているのか?」

 

黒刀は不敵に笑った。

 

「っ!四季黒刀ォォォ!!!!

 

怒りと憎悪で顔を歪ませながらフランクは2mの長さの炎の槍『フレイムランス』を火属性魔法で4つ具現化させた。

 

「槍か…ちょうどいい。」

 

槍。

黒刀が誰を思い浮かべたのか言葉にするまでもない。

『八咫烏』を両手に持ち替えて下段斬りの構えを取る。

『八咫烏』へ黒いオーラを集束させていく。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

妖夢は瞬きもせずモニターウインドウを凝視している。

そして、待っている。

黒刀の伝家の宝刀…それが放たれる瞬間を。

 

 

 

 

 

 

「うおらっ!」

 

フランクが4つの『フレイムランス』を一斉に放った。

黒刀のオーラはさらに高まる。

フランクは全身に寒気を感じた。

 

カオスブレイカーァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!

 

黒刀が自身が最も得意とする剣技を放った。

その漆黒の斬撃は通常状態の黒刀が放ったにも関わらず以前の倍の規模と威力を誇っていた。

4つの『フレイムランス』は一瞬で消し飛ばされ『カオスブレイカー』は上空で自然落下中のフランクを真下から飲み込んでいく。

 

畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

フランクの断末魔が響き、やがて彼はフィールドの床に落下していく。

大会スタッフが浮遊魔法で不要な怪我を防ぐ。

フランクは『カオスブレイカー』を喰らった時点で白目剥いて気絶していた。

 

《勝者 四季黒刀&二宮優》

 

黒刀達の勝利を告げる機械音声が鳴り響いた。

会場の観客の歓声が沸き上がり、空気を震動させる。

黒刀は『八咫烏』を納刀すると優の元へ歩み寄る。

 

「立てるか?」

 

右手を差し出す黒刀。

 

「ったく相変わらず憎たらしい奴だなお前は。」

 

優は苦笑して憎まれ口を叩きながら黒刀の右手を取り立ち上がる。

 

「任せろと言いながら…この様…」

 

「早く九条のところに行ってやれ。」

 

優の言葉を黒刀は一言で遮った。

 

「ああ。ありがとう。」

 

優は珍しくお礼を言って先にフィールドを去った。

黒刀はゲートへ歩き出す前に担架で運ばれるフランクに視線を向けると一言。

 

「槍ならもう少しマシなものを持ってこい。」




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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『不死鳥』vs『絶対防御』!!

OP8 遊戯王GX 99%


 2210年9月14日 フィリピンWDCアジア予選会場。

日本時間午後2時5分。

アジア予選決勝 日本vsカタール。

四季黒刀&二宮優ペアがフランク&イヴォペアを下し現在のスコアは2対1。

試合を終えた黒刀が控室に戻ってきた途端、早苗が抱きついてきた。

 

「センパ~イ!」

 

早苗は黒刀の首にしがみつく。

黒刀の首に負担をかけない絶妙な力加減で。

さすがの黒刀も避ける余裕は無い。

黒刀の胸板に柔らかな感触が感じられるが、

 

「暑苦しいから離れろ。」

 

黒刀は構わず一言。

 

「は~い!ごめんなさい♪」

 

早苗は反省する気など全くない笑顔で黒刀から離れる。

早苗の背後にいるチームメイトから視線を感じる。

特に女性陣の視線が冷たい。

『この女たらしが』とても思われているのだろう。

この空気を変える為に妹紅がベンチから立ち上がると黒刀の前に立つ。

 

「二宮は医務室か。」

 

「ああ。あいつもかなりのダメージを負ってたしな。」

 

「そうか。次、私だから…」

 

妹紅は右手を肩の高さまで挙げた。

黒刀はそれを見て察したのだろう。

同じように右手を挙げた。

 

「そんじゃ一番面倒そうな奴頼む。」

 

「おう!」

 

2人はハイタッチを交わした。

 

 

 

 

 

 日本時間午後2時10分 医務室。

優は傷も顧みず、いち早く花蓮が眠る医務室に向かった。

今は今錬の眠るベッドの傍で椅子に座って見守っている。

 

「花蓮…勝ったぞ。もう安心しろ。」

 

花蓮の寝顔が微笑んだような気がした。

 

 

 

 

 

 日本時間午後2時11分 カタール代表控室。

巨体のムハンマドがベンチから立ち上がった。

チームメイトの緊張感が一気に高まる。

ムハンマドはそれ程のプレッシャーを周囲に与えているのだ。

その力はナンバーズに匹敵するだろう。

 

「やはり私がこの順番にしたのは正解でしたか。この流れを切り彼らに絶望を与えるにはここしかない。」

 

ムハンマドは控室のドアへ向かう。

 

「キャプテン、ユセフやエメルソンとむかつくけどあの2人の仇を取って下さい!」

 

チームメイトの1人が懇願する。

 

「試合には勝ちます。ですが何故私が負け犬の為に闘わなければならない?」

 

ムハンマドから意外な答えが返された。

 

「え?」

 

チームメイトが唖然とする。

 

「私がカタール代表キャプテンとしてあなた達に求めているのは勝利です。それが出来ない彼らはこのチームに必要ない。」

 

「そ、そんな…ユセフとエメルソンは必死に闘ったし、フランクとイヴォだって…そりゃやり方は汚いところもあったけどそれでもカタール代表として闘っていたんだぞ!」

 

反論するチームメイト。

 

「勝者はあらゆる物を手に入れ敗者は全て失う。それがこの世界の真理です。」

 

ムハンマドは冷たい言葉を返して控室を出た。

 

「キャプテン、どうしちまったんだよ…」

 

チームメイト達はムハンマドが去った控室のドアを寂しげに見つめていた。

 

 

 

 

 

 日本時間午後2時20分。

アジア予選シングルス3。

藤原妹紅vsムハンマド。

日本代表にとって本選行きが懸かった運命の一戦。

そして、ついに2人の選手がフィールドに入場した。

 

 

 

 

 

 同刻 沖縄。

 

「輝夜さん、輝夜さん!妹紅さんが出てきましたよ!」

 

鈴仙が盛り上がっている。

ここは首里高校生徒会室。

 

「はいはい。分かったからそんなにバカみたいにはしゃがないでちょうだい。」

 

首里高校現生徒会長、蓬莱山輝夜が自分と鈴仙、そして海道修の合計3人分の緑茶を用意してテーブルに置く。

 

「そう言わないで下さいよ。兎は騒いでないと生きていけないような奴なんですから。」

 

海道は緑茶を一口飲んでからテーブルに戻してからジョークを1つ。

 

「ひ、酷いです!私をそんな泳いでいないと死ぬマグロと一緒にしないで下さい!」

 

鈴仙が抗議する。

輝夜は鈴仙の愚痴を無視してトレーをテーブルに置くとソファに腰かけてモニターウインドウに視線を移した。

 

「(妹紅…しっかりね。)」

 

高一からの相棒に心から応援する輝夜だった。

 

 

 

 

 

 日本時間午後2時25分 フィリピン。

 

妹紅は軽く準備運動をする。

 

「貴様に勝機は無い。リタイアすることをおすすめする。」

 

ムハンマドから声をかけられる。

妹紅はちょうど終わった準備運動を切り上げて立ち上がる。

 

「本気で言ってんのか?」

 

「ああ。」

 

燃えてきたぞ!

 

妹紅が語気を強めた瞬間、全身から炎が溢れ出す。

 

「愚かな。」

 

そんな妹紅にムハンマドはただ一言呟くだけだった。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始の機械音声が鳴り響いた。

先に動いたのは妹紅だった。

足に炎を纏わせてブースターとして床を蹴る。

そのままムハンマドに向けて拳を突き出す。

ムハンマドはMADに魔力を注入して土属性の防御魔法を発動して妹紅との間に岩の壁を展開する。

だが、妹紅の攻撃もこれで終わりではない。

両手の拳に炎を纏わせて交互に連続パンチを繰り出す。

 

「オラオラオラ!!!」

 

それでも岩の壁はビクともしない。

妹紅は舌打ちしてバックステップ。

ムハンマドの右側に駆けて回り込む。

そこから炎を纏った右足で飛び蹴り。

だが、これもムハンマドが再展開した岩の壁によって防がれる。

妹紅は真上に跳び上がると踵落とし。

 

「鳳凰の鉤爪!」

 

ムハンマドは頭上に岩の壁を再展開。

 

「無駄だ。貴様の攻撃は何1つ通用しない。」

 

ムハンマドは言い切る。

 

「ごちゃごちゃうるせぇ!」

 

妹紅は叫び返して『鳳凰の鉤爪』を岩の壁に叩き込む。

ぶつかり合ったことで衝撃波が発生する。

さらに、なんとムハンマドの岩の壁に僅かだが亀裂が入った。

 

「何?」

 

ムハンマドが眉を顰める。

妹紅の攻撃はあと1歩届かず弾かれた。

後方に飛ばされた妹紅は着地すると…笑った。

 

「どうした?おかしなことでも起きたような面してるぜ。」

 

妹紅は構えると言葉を続ける。

 

「てめぇの世界はちいせぇんだよ。自分が最強とでも思っていたのか?だったらぶっ壊してやるよ!その壁もてめぇのちいせぇ世界もな!」

 

両足に纏った炎をロケットのように噴射して突っ込む。

 

「真正面とはやはり愚かだな。」

 

ムハンマドはさっきより強度を高めた岩の壁を展開した。

妹紅の右手の拳は既に殴る態勢に構えている。

激突は避けられない。

その時、妹紅の右肘から炎がブースターのように噴射した。

 

「何だ…こいつ闘い方がデタラメだぞ。」

 

ムハンマドは目を見開いて驚く。

 

「喰らえ!鳳凰の炎肘!」

 

妹紅の拳が岩の壁に叩き込まれる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

妹紅が雄叫びを挙げながら拳を押し込む。

岩の壁に亀裂が入ってどんどんそれは大きくなっていく。

 

「くっ!」

 

ムハンマドは苦悶の表情を浮かべる。

MADに魔力を注入して岩の壁の強度を高める。

だが、そんなことはお構いなしとばかりに妹紅の拳は岩の壁を破壊しようとしていく。

 

「どこに…そんな力が…」

 

ムハンマドは目の前の少女に改めて驚く。

そして、ついに岩の壁が完全粉砕された。

 

「あ、あり得ない!」

 

ムハンマドが珍しく声を荒げた。

妹紅は右手の拳に炎を纏わせてさらに一歩踏み込む。

 

「鳳凰の鉄拳!」

 

炎を纏った拳の右フックをムハンマドの頬に叩き込んだ。

 

「ぐっ!」

 

ムハンマドは後方に吹っ飛ばされて背中から倒れて床を滑る。

 

「引きこもり野郎にはちょうどいい一発だ。」

 

 

 

 

 

 午後2時40分 試合開始から10分 日本代表控室。

 

「も、妹紅さんってあんなに強かったんですか?何か剣舞祭の時と比べ物にならないくらい強くなっているんですけど…」

 

千歳がおどけた口調で口を開く。

 

「あいつだけじゃない。どっかの誰かさんがロスに行ったせいで皆闘争心が沸き上がってんだよね。」

 

にとりはチラッと黒刀を見る。

当の本人はというとてっきり退屈そうに欠伸をしているのかと思えば真剣にモニターウインドウを見ている。

 

「まあ、とりあえず皆死ぬ程負けず嫌いってことだな。」

 

にとりはモニターウインドウに視線を戻した。

 

 

 

 

 

 ムハンマドは殴られた頬を手で撫でるように触れる。

 

 

 

 

 

 …痛い…

 

 

 

 

 

久しく感じていなかった感覚。

 

 

 

 

 

 …痛い…

 

 

 

 

 

二度と味わいたくないと思っていた感覚。

 

 

 

 

 

 …痛い…

 

 

 

 

 

 嫌だ…

 

 

 

 

 

 …痛い…

 

 

 

 

 

 戻りたくない…

 

 

 

 

 

 …痛い…

 

 

 

 

 

 弱い自分には戻りたくない…

 

 

 

 

 

 あの頃のように…

 

 

 

 

 

 7年前。

ムハンマドはスラム街で生まれた少年だった。

父親は物心ついた時にはいなくなっていた。

母親は病弱だったが1人息子のムハンマドを育てて可愛がっていた。

カタールという国は貧富の差が分かりやすくなっている国だ。

高層ビルが並び立つ大都会の裏側には貧しい人々が暮らすスラム街がある。

ムハンマドは病弱の母親を助けたいと思っていた。

しかし、当然治療費は持ち合わせていない。

スラム街に住む人間は一日一日を生きていくだけでも精一杯なのだ。

時には自分が生きていく為に養えなくなった自分の子供を売り飛ばしたり殺したりする外道もいる。

そんな世界にいても少年だったムハンマドの心はまだ希望があった。

彼はこう考えた。

勉強して医者になるか。

治療費を払える立派な大人になるか。

彼は後者を選んだ。

まずは知識を得る為に山のようなゴミ捨て場から参考になりそうな書物をかき集めて家に帰って読み漁り片っ端から頭に叩き込んだ。

ムハンマドの母親は彼の努力を優しく見守っていた。

彼の努力する姿は素直に嬉しかった。

このスラム街でこんなにも親思いの子がどれだけいるだろうか…

 

 

 

 

 

 半年後。

ムハンマドはゴミ捨て場であるビラを見つけた。

少しすすけていたので手で軽く払うとこう書かれていた。

 

《WDCカタール代表候補生養成機関開設!年齢18歳以下であれば戸籍・経歴問わず募集中!カタールの代表として世界に挑もう!》

 

ムハンマドはこれだと思った。

これなら住所などの戸籍を持たないスラム街の人間でも問題ない。

戸籍を持たない人間は学校に入学することも出来ないのだから。

経歴も問わないということは学歴も含まれるはず。

ならば学生ではない自分もここに入ることが出来る。

経歴はともかく戸籍を問わない理由は見当もつかないがムハンマドはそんなことは気にせずチャンスだと思った。

WDCの代表になって勝ち続ければ有名になって何とかお金を稼ぐ機会が増える。

そうすれば母親の病気を治療する為の治療費を払うことが出来る。

大きな希望が見えてきたムハンマドは早速家に帰って母親にこの話をした。

最初は渋っていた母親だが自分の為、そして希望を持って前に進もうとしている息子の熱意についに折れて承諾した。

ムハンマドは自分がいない間の母親の世話を隣の家のおばさんに頼んだ。

おばさんは気の良い人で快く受け入れてくれた。

ムハンマドの母親は都会に旅立つ息子の為に新しく服を縫ってくれた。

スラム街のあり合わせの素材で縫ったものだがそれでも息子の為に心を込めて縫ってくれたものだ。

ムハンマドは感動して涙が溢れた。

ムハンマドの母親はそんな息子を抱きしめてこう言葉をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いってらっしゃい…私の愛する息子…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12歳になったムハンマドはスラム街を出てカタールの首都ドーハへ向かった。

ドーハに来てまず驚いたのは人口の多さとビルの高さだった。

高層ビルじゃスラム街からも見えていたが改めて近くで見るとその高さに驚く。

人も多くて棒立ちしていたら人の波に飲み込まれそうだ。

地図を頼りに養成機関の施設へ向かう。

養成機関の施設はドーハの中心地帯に建てられていた。

しかし、ここで1つ心配事があった。

いくら戸籍を問わないと言っても素性が知れない自分が果たしてこの施設に入ることが出来るのかと。

不安を抱えながらも入り口の警備室受付でここに入りたい旨を伝えた。

すると思いの外あっさりと入ることを許可された。

入る際に番号が記載されたシールを渡されて、それを貼るように言われたので服の上の右胸部分に貼って敷地内に入った。

施設の内部は真っ白な部屋がいくつにも分かれていてそれぞれ格闘術、剣術、戦術、魔法実技など分野が分かれている。

施設には自分含めて100人の少年少女がいた。

ムハンマドはこの頃、魔法は使えずその自覚も無いし、剣は使い方が分からないし、頭脳はゴミ捨て場で漁った書物からの知識しか無いので戦術も向かない。

消去法ではあるが格闘術の分野を選択した。

施設に入ったムハンマドを見て多くの物が訝しむような…まるでゴミを見るような目をしていた。

100人中スラム街出身はムハンマドだけなので余計目立つ。

何よりムハンマド以外の子供達はおろしたての綺麗な服を着ている。

4つの分野の他に分野を定めない実戦形式のエリートコースも存在する。

そこには当時10歳のフランクとイヴォもいた。

1対1でSDを持ち決闘を行う。

フランクの相手は国会議員の御曹司。

WDCで活躍すれば大きなキャリアにもなるのでここに入ったのだろう。

一方、フランクは10歳にして既に加速魔法『アクセル』を会得していた。

『アクセル』を発動して四方から相手を斬っていくフランク。

身体能力が並以下の人間と『アクセル』を使える人間には圧倒的な差がある。

 

ハハハ!お坊ちゃまはダンスが得意ってか?

 

フランクは相手をいたぶることを楽しんでいる。

10歳にしてこの性格である。

対戦相手の御曹司が膝をついて肩で呼吸する。

 

「おいおい。せっかく倒れないよう手加減してやってんだからさ!もうちょっとしっかりしろよな!」

 

相手を挑発するフランク。

さすがに堪忍袋の緒が切れた。

 

「お、お前…覚えてろよ…パパに言いつけてお前の親を無職にしてやる!そうすれば…お前も地獄行きだ!

 

そう喚く御曹司に対してフランはニタリと笑うと胸ポケットから何かの機器を取り出した。

 

「は~い!これは何でしょうか?」

 

フランクがブラブラと揺らして見せつけたのは録音レコーダーだった。

再生ボタンを押すと先程御曹司が言った言葉がそのまま流れた。

再生が終わってからフランクは御曹司の前で録音レコーダーを見せつける。

 

「今言ったことは権力を悪用した脅迫罪に当たるんだよね~さて、国会議員の御曹司がこんなことを言ってるって世間に公表したらお前は………ゴミ捨て場行きだ!」

 

フランクは悪魔のような言葉を御曹司に吐いた。

ゴミ捨て場。

それはスラム街を指す言葉である。

御曹司の顔がみるみる青ざめていく。

 

「さてと…まずは~土下座しろ。」

 

「へ?」

 

御曹司が呆けた声を出した次の瞬間、フランクが御曹司の頭を掴んで床に叩きつけた。

御曹司の格好がちょうど土下座のような感じになった。

 

「はい!良く出来ました!」

 

フランクはパチパチと拍手してから部屋を出た。

 

 

 

 

 

 一方。

ムハンマドは休憩時間に同じ格闘術クラスの少年10人に敷地内の庭に呼び出された。

ちなみにフランクとイヴォはこの中にいない。

そこでいきなり顔を殴られた。

ムハンマドは強烈な痛みを受けて尻餅をつく。

痛い。

これ程の痛みは生まれて初めてだった。

少年達を見上げると彼らはムハンマドをゴミを見るような目で見ていた。

 

「ゴミがこんなところにいるんじゃねぇよ!」

 

「ゴミはゴミ捨て場に帰ってろ!」

 

「このゴミが!」

 

「人間みたいに生きてんじゃねぇよ!」

 

少年達は罵詈雑言を浴びせながら、うずくまっているムハンマドを寄ってたかって蹴り続ける。

ムハンマドは視界の端にこちらを見る別の子供達を見た。

 

「た…たすけ…て…」

 

ムハンマドは倒れながらも必死に手を伸ばして助けを請う。

しかし、こちらを見ていた子供達は見てみる振りして立ち去った。

ムハンマドはショックを受けた。

1人の少年がムハンマドの顔を蹴る。

 

「ゴミが喋ってんじゃねぇ!」

 

そして罵声。

あらかたボコボコに攻撃した彼らはさすがに疲れたのか一旦攻撃を休めた。

さらに顔を一発殴って仰向けになったムハンマドに馬乗りになる。

 

「つーか何だ?このきったねぇ服!獣かよ!」

 

ムハンマドの服を破こうとする少年。

 

「や、やめて!それは母さんが…」

 

ムハンマドは少年の手首を掴んで止めようとする。

 

「触んな!」

 

腹を蹴られて抵抗空しくシャツがビリビリに破かれた。

ムハンマドの視界に破かれたシャツの破片が舞って映る。

 

自分が一体この少年達に何をしたというのか。

自分はただ家族を救う為、そして夢を叶える為に努力しているだけなのに。

なのに…何故奪われなければならない…夢も…希望も!

 

その時、彼の中で何かが変わった。

少年の手を掴む手が強くなった。

 

「いって!」

 

少年は慌てて手を振り払って一歩下がる。

 

「こいつ!…ごみの分際で!

 

再び少年が殴りかかり、残りもそれに続く。

ムハンマドの表情は俯いていて見えない。

10人の少年が殴りかかったその瞬間、ムハンマドの周囲に岩の壁が展開された。

全員の拳がその岩の壁に止められる。

 

「いってぇぇぇぇ!!!!」

 

思いっきり殴った為、少年達は悶絶してその場で腕を抑えてうずくまる。

 

「この野郎…っ!」

 

先程、ムハンマドのシャツを破いた少年が睨みつけようと見上げたその時。

背筋が凍りついた。

何故なら見上げたムハンマドの目つきや雰囲気が先程とはまるで別人のようで恐怖を感じたからだ。

 

「ま、待て…俺達が悪かった!」

 

「あ、ああ…悪ふざけが過ぎたよ!」

 

「俺は…こいつに命令されて…」

 

「何言ってんだ!俺じゃない!命令したのはこいつだよ!」

 

「お、俺じゃねぇよ!」

 

「な、なあ…俺達が悪かった…許してくれ…こんなことはもう二度としない…そうだ!俺の親父に頼めば…お前の将来も安泰に出来るぞ…どうだ…悪くないだろ?」

 

尻餅をつきながら許しを請う少年達。

それに反するようにムハンマドの魔力が溢れ出した。

 

「ひっ!」

 

顔が引き攣る少年達。

ムハンマドは高さ3mの岩の壁の展開してそれを少年達に射出した。

 

「いや…嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

悲痛の叫びと共に10人の少年達は岩の壁に激突し吹っ飛ばされた。

彼らはまだ生きていたが気絶していて骨折などの重傷だった。

ムハンマドの魔力がやがて収まっていくと彼は目の前の惨状を見た。

 

「(ようやく分かったよ…この世界は弱者が敗者になるんじゃない…敗者であることが弱者の照明になるんだ。…もう弱いのは嫌だ…負けるのは嫌だ………痛いのは嫌だ…この世界は勝つことが全てだ!)」

 

そんな彼を施設の2階の窓から眺める男がいた。

 

「ほう…『アクセル』の少年といい…あの少年といいなかなか面白い人材が揃ったな。」

 

男は嬉しさで僅かに口の端を吊り上げた。

この男こそが今回の『カタール人児童100人監禁立てこもり事件』を引き起こした犯人だったとはこの時誰も知る由は無い。

後日談だが事件発生時に施設の周囲に謎の結界が張られ誰も入ることは出来なくなり結界が解けたのは事件発生から4年後のことだった。

突如、結界が解けて施設には子供達以外誰もいないもぬけの殻だった。

原因はいまだに判明していない。

ちなみにこの事件はカタール国外に漏れていない。

当時のカタール大統領が国家の破滅を防ぐ為に情報統制を敷いたのだ。

児童100人全員に命の別状は無し。

その中の1人、16歳となったムハンマドは4年間でカタール最強の少年となっていた。

 

彼は心に誓った。

誰にも負けない。

勝つことでしか自分の存在価値を示すことは出来ない。

だから彼は勝ち続ける。

 

 

 

 

 

 現在。

ムハンマドは床に右手をついて立ち上がった。

頬の痛みが彼にとって最も忌まわしい記憶を呼び起こした。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

彼は雄叫びを上げてMADに大量の魔力を注入する。

高さ3mの岩の壁を展開して右手を前に突き出して岩の壁を高速で妹紅に向けて射出した。

 

「っ!」

 

妹紅は避ける余裕も無く、両手を前に突き出して受け止めた。

床を削って妹紅が岩の壁に押される。

 

「何だ…いきなり元気になりやがって!」

 

妹紅の全身に纏う炎の火力が上がる。

押されていた妹紅が止まった。

 

「ふん!」

 

妹紅は岩の壁を粉砕した。

だが息つく暇もなくムハンマドの攻撃は続く。

ムハンマドがさらに魔力をMADに注入して魔法を発動する。

妹紅の足元から床を突き破って長さ5mの三角錐の岩の柱が伸びる。

妹紅は咄嗟にバックステップで避けた。

岩の壁の押し上げ攻撃はあくまで防御の延長線上のものだったがここにきて彼は明確な攻撃魔法を使用してきた。

それはムハンマドが本気になったことを意味する。

岩の柱が縦に連続で妹紅に襲いかかる。

妹紅は後方に回避し続けるが壁際まで追い詰められる。

 

「そこだ!」

 

ムハンマドが妹紅の前方と左右から岩の柱を伸ばして攻撃。

妹紅はバク転すると壁を蹴って飛び上がった。

右手の拳に炎を点火させるとムハンマドに殴りかかった。

 

「鳳凰の鉄拳!」

 

「舐めるな!」

 

ムハンマドの前にアーチ状の岩の壁が三重に展開される。

 

「くっ!」

 

妹紅は顔を顰める。

炎を纏った拳が岩の壁に激突するが先程のより強固かつ三重になっている為、簡単に破壊出来なくなっている。

妹紅は岩の壁に跳ね返され飛ばされる。

そこへ追撃とばかりにムハンマドが魔法で造形した岩の槍を妹紅に向かって放つ。

妹紅は両足に炎を点火し空中で後転して体勢を立て直して岩の槍を破壊しようと両手に炎を点火させたその時。

嫌な予感がして両手両足を上に向けて炎を噴射することによって真下に急降下した。

直後、岩の槍が空中で砕けてその破片が前方、上方、左右に分散した。

もしも妹紅が真下に回避していなければ直撃を受けていただろう。

 

「よく回避した。だがその先はどうする?」

 

ムハンマドは魔法で妹紅の真下の床から岩の柱を伸ばした。

妹紅は先程、岩の槍を回避する為に急激な方向転換をしたのでこれを回避することは出来ない。

岩の柱の先端が妹紅の背中に突き刺さる。

 

「ぐっ…ガハッ!」

 

妹紅は吐血する。

 

「まだ攻撃を緩める気は無いぞ!」

 

ムハンマドは岩の槍を造形して妹紅に向けて放つ。

妹紅が咄嗟に両手で受け止めた瞬間、岩の槍が爆発して妹紅は床を転げ回る。

 

「っうぐ!」

 

妹紅は呻き声を上げる。

 

《1…2…3…》

 

「やはり私が正しかった。」

 

「何の…話…だ?」

 

妹紅は問いながら必死に立ち上がろうとするがダメージが大きすぎて力が入らない。

 

《4…5…6…》

 

「他の人間の力など必要ない。必要なのは自分の力だけだ!それ以外の人間はゴミだ!」

 

ムハンマドは高らかに宣言した。

それを聞いた妹紅は床に拳を叩きつけて立ち上がった。

 

「何だ…それ…あいつらはてめぇの仲間じゃねぇのか?」

 

妹紅の問いにムハンマドは鼻で笑う。

 

「仲間?あの負け犬共にもはや価値などない。勝者は全てを手にし、敗者は全てを失う。それが闘いの…いやこの世界の真理だ!」

 

「だからてめぇの世界はちいせぇって言ってんだよ!仲間ってのは強さじゃねぇ!信頼で繋がってんだよ!

 

 

 

 

 

 首里高校生徒会室。

 

「全く相変わらず暑苦しい女ね。」

 

立ち上がって吠えた妹紅をモニターウインドウで観ていた輝夜は若干嬉しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 午後2時50分 試合開始から20分 フィリピン。

 

「今更吠えたところで今の貴様には私と闘うだけの力は残っていまい。」

 

ムハンマドは降参を促した。

それを聞いた妹紅は両腕を胸の前で交差する。

 

「私の限界をてめぇが決めるな。今の私が闘えないどうかこれを見てから言ってみろ。

…モードチェンジ!」

 

妹紅は交差していた両腕を広げた。

全身を紅蓮の炎が竜巻となって纏わりつく。

炎はやがて形を変えていく。

足のつま先の炎は鉤爪のように鋭く。

胴、腕の炎は模様が鱗のようになり、背中の炎は1対の炎の翼を生やす。

頭部の炎は先端が前に伸びてくちばしのように変わった。

 

「バーニングフェニックス 改!」

 

(挿入BGM FAIRY TAIL メインテーマ)

 

藤原妹紅は小さな不死鳥と化した。

控室にいる日本代表とカタール代表、会場の観客、メディアを通して観ている視聴者達が試合の様子を固唾を飲んで観ていた。

地上の舞い降りた不死鳥…藤原妹紅は20m前方に立つムハンマドを睨みつける。

 

「ぐっ…」

 

今までのオーラの圧力と雰囲気が変わったことにムハンマドは一歩下がる。

だが、すぐにMADに魔力を注入して魔法を発動する。

妹紅の四方の床から岩の三角錐の柱が襲いかかる。

妹紅は炎の翼を羽ばたかせて上空へ飛翔し回避。

そのスピードはこれまでの倍はある。

ムハンマドは続けて魔法で岩の矢を100本放つが妹紅は上空を高速で飛び回って回避。

 

「チッ、ならば!」

 

ムハンマドは岩の壁を立方体に組み合わせて空中の妹紅を包囲した。

 

「これで逃げられまい!」

 

ムハンマドはさらに岩の立方体の内部に岩の槍を30個作り出す。

 

 

 

 

 

 沖縄 首里高校生徒会室。

 

「妹紅…あなたはこの程度で諦める女じゃない…そうでしょ?」

 

輝夜はモニターウインドウを見つめて妹紅に届かないと分かっていながらも声をかけていた。

勝つことを信じて。

 

 

 

 

 

 岩の立方体の内部に捕らわれた妹紅はまだ諦めていなかった。

 

「ここが正念場だ!」

 

妹紅は右手と左手の炎を合わせて直径10mの炎を生み出した。

 

「鳳凰の煌炎!」

 

妹紅は両手で『鳳凰の煌炎』を岩の立方体の真下に突き落とした。

爆発と共に岩の立方体の真下に大穴が空く。

妹紅が真下に急降下した1秒後、妹紅がいた場所に岩の槍が放たれて、ぶつかり合い衝撃波を生む。

妹紅はその爆風を活かして加速。

さらに炎の翼の火力を上げてもう一段階加速。

ムハンマドは上空から向かってくる妹紅に対して直径2m、長さ8mの巨大な岩の槍を作り出して放つ。

妹紅は停止することなくそのまま突っ込む。

岩の槍が目の前に迫った時、右手の拳を突き出す。

 

「鳳凰の鉄拳!」

 

岩の槍とぶつかり合い凄まじい衝撃波が生まれる。

やがて衝撃波が収まっていくと岩の槍が先端からパキッと音を立ててどんどん砕かれていく。

完全に岩の槍が砕かれると妹紅はその岩の破片を足場にして足先に纏う炎の火力を上げると思いっ切り蹴り猛スピードでムハンマドに迫る。

ムハンマドの顔に焦りと恐怖が表れる。

 

「まだだ…私はまだ…負けていない!」

 

ムハンマドは岩の壁を展開する。

気が動転していたのだろう。

本来、ムハンマドは相手の攻撃にタイミングを合わせて岩の壁で防御するスタイル。

しかし、今回は先に岩の壁を展開してしまった。

空中を自由に飛行できる妹紅にとってはこの岩の壁を回り込んで攻撃することなど造作も無い。

だが、妹紅はスピードを緩めることなく突っ込んだ。

妹紅は空中で飛び蹴りの態勢に入ると加速して岩の壁に突っ込む。

 

「鳳凰の鉤爪!」

 

『鳳凰の鉤爪』と岩の壁が激突する。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

妹紅が雄叫びを上げて押し込んでいく。

岩の壁の中心から亀裂が入っていく。

そして、岩の壁を完全粉砕した妹紅は床に滑り込むように着地。

その状態から右手の拳に炎を二重螺旋状に集束させる。

ムハンマドは次の魔法を発動させようとするが間に合わない。

 

「滅悪奥義 紅蓮鳳凰拳!」

 

妹紅はムハンマドの腹に右手の拳を叩き込んだ。

同時に熱線が放たれムハンマドの腹を貫通する。

もちろん死傷ダメージは精神ダメージに変換される。

 

「ぐ…ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

 

「これが…仲間と気づき上げた力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

妹紅は拳を振り抜いてムハンマドを吹っ飛ばした。

吹っ飛ばされたムハンマドは床を転げ回り、仰向けに倒れて白目を剥いて気を失った。

 

《勝者 藤原妹紅》

 

「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

妹紅は『バーニングフェニックス 改モード』を解除すると勝利の歓喜を叫んだ。

それに呼応するように会場中が歓声により空気が震動する。

 

 

 

 

 

 

 2210年9月14日 午後2時30分。

日本代表のWDC本選出場が決定した瞬間だった。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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偵察

OP8 遊戯王GX 99%

※この回からセリフの末尾の読点を抜いていきます。
今更で誠に申し訳ございません。


 日本代表控室。

日本代表は勝利の歓喜に満ち溢れていた。

ほとんどの者が控室を飛び出してフィールドに走り出した。

控室に残ったのは黒刀、映姫、阿求、にとり、諏訪子の5人だけ。

 

「ついにここまで来たね黒刀」

 

「そうだな。待ちくたびれたよ」

 

黒刀の顔を見た映姫は目を見開いた。

笑っていた。

黒刀の顔が笑っていた。

 

「(それ程までに楽しみなのね…()()との闘いが)」

 

映姫は黒刀が誰を思い浮かべているのか容易に想像出来た。

黒刀の視線の先のモニターウインドウには《日本代表 WDC本選出場決定!》と文字が表示されていた。

 

 

 

 

 

 ロシア。

 

「レン、帝国が予選を突破したぞ」

 

ザウルがレーニンJrに録画データを見せる。

 

「やはり勝ち上がってきたか…四季黒刀」

 

レーニンJrは呟いた。

ザウルは空間ウインドウを閉じると拳を握り締めた。

 

「あの男は普通じゃない。その化けの皮を必ず俺達が剥がしてやる」

 

「その為にはまず勝ち上がらなければな」

 

レーニンJrが一言添えておいた。

 

 

 

 

 

 フランス 西ヨーロッパ予選会場 イギリス代表控室。

 

「お姉様!お義兄様が勝ったよ!」

 

フランが控室に飛び込んで来るなり第一声。

控室にはまだレミリアと咲夜しかいない。

 

「そう」

 

レミリアは静かにティーカップをテーブルに置いてそれだけ言った。

 

「お姉様~リアクションうす~い!」

 

フランが可愛らしく頬を膨らませる。

 

「未来を視るまでもなく分かり切っていることをわざわざ言われたところで驚きようがないわ」

 

レミリアは真顔で返した。

 

「それもそっか」

 

フランは納得すると一気にテンションが冷めてベンチに腰掛けた。

紅茶を飲み終えたレミリアが咲夜にティーカップを渡したところで控室に他のメンバーが入っている。

 

「(待っていなさい…あなたは私が倒す!)」

 

この日のイギリスの試合結果は言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 午後4時 フィリピン。

閉会式と優勝者インタビューを終えた日本代表一同はホテルへの帰路を歩いていた。

 

「う~全然上手く喋れなかった…」

 

妖夢が落ち込んでいる。

 

「超ガチガチだったもんな」

 

魔理沙がからかった。

 

「もう!分かってるからわざわざ口に出して言わないでよ!///」

 

妖夢の顔が羞恥で真っ赤になる。

 

「チルノは全然緊張してなかったわね」

 

霊夢がチルノに話しかける。

 

「あたい最強だからね!」

 

チルノが胸を張る。

 

「ほとんどこれでしたけどね…」

 

大妖精が呆れる。

 

「それに比べて先輩や会長、にとり先生は凄く慣れた感じでした。あんな風にカッコよくインタビューに答えられたいいんですけどね…」

 

妖夢は肩を落とした。

 

 

 

 

 

 午後7時。

ホテルの宴会場で本選出場の打ち上げをやっている最中に妖夢がトイレから出るとロビーで誰かが会話しているのが見えた。

黒刀とにとりだった。

 

「やっぱり行くのか?」

 

「ああ。明日は帰国せずパリに行くよ」

 

妖夢はそれを聞いて思わず飛び出した。

 

「あ、あの!私も…一緒に連れて行ってもらえませんか?」

 

言ってしまった。

黒刀とにとりは驚いて顔を見合わせる。

 

「まあ、飛行機の予約と保護者の了解が取れれば構わないが…その場合大会とは関係ないから自費で行くことになるけど」

 

にとりの言葉に妖夢はハッとショックを受けた。

飛行機の予約は取っていないし、幽々子にも相談していない。

しかも、妖夢はお金にそこまで余裕が無い。

妖夢は膝から崩れ落ちて両手を床についた。

 

「そうでした…私、お金持ってませんでした…」

 

妖夢が落ち込んでいると黒刀が助け舟を出す。

 

「金くらい俺が出してやるよ」

 

「え、そんな悪いですよ!」

 

勢い良く立ち上がった妖夢は両手を胸の前でブンブンと振って遠慮する。

 

「妖夢、お前はその目で見たいと思ったからこうやってお願いしに来たんだろ?強くなる為にお前は決めた。だったら俺はその手伝いくらいしてやるよ」

 

黒刀は真剣な顔で言った。

 

「先輩…」

 

心打たれる妖夢に対して黒刀は空間ウインドウを操作してホテルの予約サイトを確認する。

 

「あれ?シングル2つ無い…ツインが1部屋だけか…他のホテルはダメだ…どこも満室だ」

 

「WDCシーズンだし当然と言えば当然だな」

 

黒刀の確認ににとりが補足した。

 

「(さすがに兄妹でもない高校生の男女が同じ部屋で一泊っていうのはマズイだろ…)」

 

黒刀は妖夢を見て考えた。

 

「私、先輩と一緒の部屋でも大丈夫です!」

 

黒刀の困惑した表情から察した妖夢がそう言い出した。

 

「ダメだ!」

 

その答えににとりがストップをかける。

 

「な、何でですか?」

 

「何でって私は仮にも教師だぞ。止めるのは当たり前だろ」

 

にとりは正論で返す。

 

「うぐっ」

 

それに対して妖夢は言葉が返せない。

 

「私はお前達の親御さんから生徒を預かっている身だ。万が一にも間違いを起こされたら責任重大なんだ。分かったか?」

 

にとりはさらに正論を付け加える。

 

「ならその親御さんから許可が取れれば問題はないだろう?」

 

すると、黒刀がそう口を挟んできた。

 

「え…いや…でもそれは…」

 

さすがのにとりも予想外の提案に戸惑う。

 

「問題無いよな?」

 

黒刀が念を押す。

 

「ま…まあ、そりゃもし取れればいいかもしれないけど…だけどどこの世界にそんな親が…」

 

「「『全然OKよ♪』だって」」

 

にとりが続きを言いかけたところで黒刀と妖夢から息を揃えて返してきた。

 

「何ですと!」

 

にとりは驚いた。

にとりが話している間に黒刀は桜へ、妖夢は幽々子へメッセージを送っていてその返事がこれである。

 

「そうだった…あの2人はそういう人だった………分かった。2人の宿泊を許可する」

 

にとりは項垂れながら了承した。

 

「やった♪」

 

妖夢がガッツポーズして喜んだその時。

 

「随分と楽しそうな話をしていますね」

 

声が聞こえた。

妖夢が体を固まらせ恐る恐る後ろを振り返るとそこには映姫が立っていた。

 

「し、師匠!」

 

妖夢は一瞬で背筋をピンッと伸ばして気をつけの姿勢になった。

 

「止めたって無駄だぜ姫姉」

 

黒刀は映姫が来ることが分かっていたようだ。

映姫はため息を吐く。

 

「その気ならもっと早く止めてますよ。それにルーミアの面倒も見なければいけませんし何よりお母様が許可してしまった以上、私から何を言ったところで無駄でしょう」

 

映姫は事情も理解してくれた。

 

「ありがとう姫姉」

 

黒刀がお礼を言うと映姫は黒刀に顔を近づけて警告する。

 

「た・だ・し!私の弟子に手を出したらただじゃすみませんからね!」

 

「しないよ!………そんな度胸無いし…」

 

黒刀は後半、声がやや小さくなりながら否定する。

 

「(それは男としてどうなんだ?)」

 

にとりはそんなやり取りを呆れ顔で見ていた。

こうして長い1日がまた終わった。

 

 

 

 

 

 9月15日 フィリピン時間午前9時 マニラ空港ターミナル。

映姫達が乗る日本行きの便は30分後、黒刀と妖夢が乗るパリ行きの便はその1時間後に出発する。

黒刀がパリに行くことを他のメンバーは今朝知った。

チルノも行きたいと言い出したが何とか引き留められた。

そして、問題がもう1つ。

 

「くろにい、一緒に帰れないの?」

 

ルーミアが寂しげな瞳で黒刀に問いかける。

 

「そんな顔をするな。2,3日留守にするだけだ。すぐに戻って来る」

 

黒刀はルーミアの頭の上にポンと左手を置くと優しい表情と言葉でルーミアにかけてあげた。

 

「本当?」

 

「ああ。本当だ」

 

「じゃあ…約束!」

 

ルーミアは左手の小指を前に出した。

黒刀も同じように左手の小指を出してルーミアの小指と絡ませる。

 

「ああ。約束だ」

 

黒刀とルーミアは指切りで約束を交わした。

 

 

 

 

 

 30分後。

映姫達は日本へ飛び立った。

黒刀と妖夢は予定通りその1時間後のフィリピン時間午前10時30分にパリへ飛び立った。

 

2時間かけてパリ時間午前8時にパリ空港に到着した。

黒刀と妖夢はゲートを通る際に携帯端末をパネルにかざす。

たったそれだけで通ることが出来た。

現代では携帯端末はパスポートの役割も果たしている。

 

「マニラを出る前はお昼近かったのにパリはまだ朝なんて何か変な感じです」

 

妖夢は時差にまだ慣れていないようだ。

 

「そうか。モンゴルもフィリピンも日本からそんなに離れてないからな。妖夢はヨーロッパ初めてか?」

 

「はい!」

 

妖夢の目をキラキラ輝いていた。

まるで小学生のように。

 

「まあ、楽しむのはいいがその前にホテルのチェックインを済ませておかないとな」

 

「そ、そうですね!すみません!浮かれていました!」

 

妖夢は勢い良く頭を下げた。

 

「気にすんな。偵察って言ったってただ試合を()()()()だけなんだ。妖夢は普通に観戦しててもいいくらいだ」

 

黒刀は右手を横に振ってフォローした。

 

「いえ!私もしっかりと試合を見て糧にしたいです!」

 

妖夢は顔を上げて自分の意思を貫き通した。

 

「分かったよ。妖夢の好きにすればいい」

 

黒刀は折れて肩をすくめた。

 

それから自動運転タクシーに乗り、パリの観光名物シャンエルゼ通りのエトワール凱旋門を通り抜けて、パリ時間午前10時にホテルに到着してチェックインを済ませるとようやく予約したツインの部屋に入った。

 

「わあ!素敵なお部屋です先輩!」

 

妖夢は子供のようにはしゃいだ。

浮かれないという気持ちはどこへ行ったのやら。

 

「景色も綺麗!ベッドもふかふかです!」

 

妖夢は窓から絶景を眺めたり、ベッドにダイブした。

そんな妖夢を微笑ましく見ていた黒刀は空間ウインドウを操作してパリの試合組み合わせデータを確認する。

 

「イギリス代表の試合は何時からですか?」

 

いつの間にか黒刀の横から空間ウインドウを覗き込んでいた妖夢が問いかける。

 

「午後7時だな」

 

「となるとナイトゲームですか。何か剣舞祭の決勝戦を思い出しますね」

 

「団体戦…お前がレミリアに勝った試合か」

 

「あの時はとにかく必死でした。次に勝てるかどうかは正直分かりません」

 

妖夢はベッドに腰かけて『楼観剣』と『白楼剣』を枕元に置く。

 

「あいつがあのまま成長してないなんてことは無い。身長は伸びてないかもな」

 

黒刀はフッと笑って『八咫烏』を枕元に置く。

 

「それ…レミリアさんが聞いたら激怒しますよ」

 

妖夢も苦笑い。

そうして昼食と軽めのパリ観光と夕食を済ませた2人は西ヨーロッパ予選会場へ自動運転タクシーに乗って向かった。

入り口前に着いて会計を済ませたタクシーから降りる。

 

「妖夢」

 

黒刀が呼び止める。

 

「何ですか先輩?」

 

前を歩いていた妖夢が振り返る。

黒刀がポケットから腕輪と度が入っていない伊達メガネを取り出した。

 

「先輩、これは?」

 

「アンチオーラリングと伊達メガネ。オーラを感知されると面倒だからな。眼鏡の方はまあ変装用だな」

 

「なるほど!偵察だからですね!」

 

妖夢は黒刀の説明を理解してアンチオーラリングと伊達メガネを受け取り、リングを手首にはめ、伊達メガネをかける。

 

「なかなか似合ってるじゃないか」

 

黒刀は妖夢を褒めて、リングをはめ、伊達メガネをかける。

ちなみに服装も黒刀はいつもの黒いシャツではなく青のシャツに黒のズボン、妖夢は白のブラウスに紺のショートパンツとカジュアルな服装をしている。

それに2人共、武器はホテルに預けてあるので端から見ればカップルか兄妹に見える。

 

「先輩も似合ってますよ♪」

 

妖夢も笑顔で褒めた。

 

「ありがとう。それじゃ行くか」

 

「はい!」

 

妖夢は黒刀の隣に並んで歩いた。

 

 

 

 

 

 パリ時間午後7時。

会場のスタンドライトが点灯される。

黒刀と妖夢は会場の後列の席に並んで座る。

 

「こっちの大会もかなり観客多いですね」

 

「西ヨーロッパ予選はかなり注目されているからな。アジア予選の倍は注目されているんじゃないか?」

 

「へ~」

 

「とはいえこの会場にいる観客の大半がフランス人だけどな」

 

「へ~………えっ?」

 

妖夢が素っ頓狂な声を上げる。

 

「え、それって…」

 

「ああ。フランス代表の対戦相手は超アウェイだってことだ」

 

黒刀が口にしたその時、会場から歓声が沸き上がった。

フランス代表が入場してきたようだ。

入場ゲートから7人のフランス代表が入場してきた。

 

「こっちの大会は始める前に7人入場するんですね」

 

妖夢が歓声に耳を塞ぎながら黒刀に問う。

 

「まあ、ルール以外は国によって違うからな」

 

黒刀は耳を塞ぐことなく腕を組んでいる。

入場してきたフランス代表は全員モデル並に顔立ちとスタイルが整っていた。

 

「何か美男美女が多いですね」

 

「フランスとかイタリアとかじゃあんな感じだ」

 

黒刀は興味無さそうに言った。

戦闘において相手の容姿の良し悪しは関係ない。

黒刀はそう考えている。

続いてイギリス代表が入場してくる案の定『BOOOO!』とブーイングが響く。

入場してきたイギリス代表の中にはレミリアがいたが他の6人は何と控えメンバーだった。

もちろん、フランス代表も下調べはしている為、誰が主力で誰が控えなのかは把握している。

だからこそ余計に腹が立っていた。

 

「舐められたものですね。我々のホームであるこのパリで控えメンバーも6人も出してくるとは…勝負を捨てましたか」

 

フランス代表キャプテンが髪をかき上げる。

レミリアは顔を伏せたまま無言だった。

 

「何かコメントしたらどうです?レミリア・スカーレット?それとも『未来王』と呼んだ方がよろしいかな?()()()()?」

 

フランスキャプテンが鼻で笑って挑発する。

フランス代表の他のメンバーもクスクスと笑っている。

 

「はあ~」

 

それに対してレミリアはため息を吐いた。

 

「いい加減、前菜も食い飽きてきたのよね~」

 

「何ですって?」

 

レミリアの言葉にフランス代表キャプテンが眉を顰める。

レミリアは顔を上げるとフランス代表キャプテンを興味無さそうな目で見る。

 

「あなた達ではメインディッシュに程遠いって言ってるのよ」

 

レミリアの言葉に会場のブーイングはさらに大きくなる。

 

「さすがレミリアさんですね」

 

「『お嬢さん』にはキレなかったな」

 

「そこですか!」

 

妖夢は黒刀の言葉にツッコんだ。

 

 

 

 

 

 

「いいでしょう。その余裕がいつまで持つか楽しみですよ!」

 

フランス代表キャプテンは最後にそう言い放ってゲートに戻る。

他の5人もそれに続く。

シングルス3の女性メンバーだけがフィールドに残る。

 

「それじゃレミリア、いつも通り叩き潰してくれよ!」

 

イギリス代表メンバーの1人がゲートに戻って他の5人もそれに続く。

フィールドにレミリアとフランス代表メンバーの女性だけが残る。

 

「ええ。分かっているわ」

 

レミリアはチームメイトの応援に対して呟くように答える。

愛槍『グングニル』を瞬時に具現化させる。

 

「さて…ウオーミングアップくらいになってもらわきゃ困るわね!」

 

オーラを高めて全身に電気が帯びていく。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

フランス代表メンバーの女性が汎用型SDを起動する。

 

「大口叩いたことを後悔させてやるわ」

 

左手首の汎用型MADも起動して火属性魔法を発動。

6つの火球を作り出して放った。

レミリアは翼で全て弾いた。

フランス代表メンバーの女性はその隙に『アクセル』でレミリアの背後に回り込む。

 

「後ろががら空きよ!」

 

フランス代表メンバーの女性がSDを振り下ろす。

レミリアはそれを背後を見ることもなく翼で防いだ。

オーラを通してある翼は見た目より遥かに頑丈である。

 

「未来が視えるレミリアさんに不意打ちは通用しませんからね」

 

妖夢は実際に体験しているのでレミリアの防御がどれだけ堅いか知っている。

 

「いや、あいつは未来を視ていない。今のあいつは素だ」

 

黒刀が口を挟む。

 

「え、でも…」

 

「『未来王の眼』。あいつが未来を視る時には紅い目がさらに紅くなって輝きを増す」

 

「特徴としては分かりやすいですけど攻略出来るかどうかはまた別問題…ですよね?ん?ってことは今のレミリアさんは『未来王の眼』を発動していないってことですか?」

 

「だからそう言ってるだろ。俺だって格下相手にいちいち本気を出さないからな。それと同じだ」

 

「『未来王の眼』なしで背後の攻撃を防ぐって…やっぱりレミリアさんは凄いです」

 

 

 

 

 

 攻撃を防がれたフランス代表メンバーの女性が一旦距離を取る為バックステップをしながら魔法を発動しようしたその時。

眼前からレミリアが消えた。

 

「やっぱりあなたではダメね」

 

フランス代表メンバーの女性の背後からレミリアの声が聞こえた。

 

「いつの間に!」

 

彼女が振り返った時既に遅し。

レミリアが『グングニル』を横薙ぎに振り、彼女の腹に叩きつける。

 

「うっ…ガハッ!」

 

フランス代表メンバーの女性が呻き声を漏らす。

レミリアは『グングニル』を振り抜いて彼女を空中へ叩き上げた。

彼女は吹っ飛ばされる直前に一瞬だけ見えた。

レミリアの全身に電気が帯びていることに。

そう。

レミリアは黒刀が使用している『電光石火』と同じように体内電気を操作して高速で移動している。

西洋ではこれを『ライトニングアクセル』と呼んでいる。

 

「まだよ!飛行魔法を使えばこの程度」

 

「させると思う?」

 

フランス代表メンバーの女性の言葉をレミリアが遮ったと同時に彼女の両手両足が赤いオーラのリングで拘束される。

 

「バインド⁉」

 

彼女は必死にもがいてバインドを解こうとするが全く外れない。

レミリアが腰を落として『グングニル』を下段に構えると『グングニル』のオーラがさらに強まった。

レミリアは『グングニル』を彼女に向かって投擲した。

 

「な、投げた⁉」

 

妖夢は驚いて身を乗り出した。

投擲された『グングニル』が彼女の腹に突き刺さりその体を押し上げていく。

 

「ライジングスピア!」

 

レミリアが右手を上にかざしてそう詠唱した瞬間、彼女の腹に突き刺さっている『グングニル』が光り出しフィールドの半分を巻き込む大爆発を引き起こした。

それはヒーローショーの演出のようにも戦略兵器の攻撃にも見えた。

 

《勝者 レミリア・スカーレット》

 

会場は静まり返っていた。

あまりの衝撃に状況が飲み込めていない。

地元の選手がこんな敗北を味わうとは思っていなかったのだろう。

 

レミリアは敗者を見ることもなくゲートへそのまま去って行った。

 

「これが…今のレミリアさんの実力…」

 

妖夢が呟く。

 

「チッ、帰るぞ妖夢」

 

黒刀が立ち上がる。

 

「え、でもまだ試合は残ってますよ。この試合で本選出場が決まるんですよね?見ていった方が良くないですか?」

 

妖夢が疑問を口にする。

黒刀は歩き出す。

 

「今の試合でフランス代表は戦意を失った。レミリア以外は控え。しかも肝心のレミリアは手を抜いていた。これ以上の収穫は期待出来ない」

 

黒刀は既にこの試合に興味が無くなっていた。

 

「私…まだ少し見ていたいです」

 

妖夢のお願いを聞いて黒刀はため息を吐く。

 

「…分かった。タクシー分のデータはそっちに送っておくから終わったらホテルに戻って来い。俺は先に帰る」

 

黒刀は空間ウインドウを操作して妖夢に電子マネーデータを送信した。

 

「はい!ありがとうございます!」

 

妖夢はそれを受信してお礼を言った。

黒刀はやや微笑んでその場を去り、妖夢は再び席に座った。

 

 

 

 

 

 その後。

イギリス代表は苦戦無くフランス代表に勝利し本選出場を勝ち取った。

黒刀と妖夢は翌朝パリ時間午前9時にパリ空港を出発して2時間かけて日本時間午後6時に関西空港に到着して新大日本帝国に帰国した。

 

 

 

 

 

 そして、WDC本選出場を勝ち取った各国代表が1週間後の本選の会場ニューヨークに向けて動き出す。

 

ここからが本当のWDCである。




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極秘任務

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 2210年9月16日 日本時間午後7時30分。

黒刀と妖夢は関西空港から自動運転タクシーで1時間半かけて奈良県幻想町に到着した。

黒刀は妖夢は自宅まで送ってから商店街にある自宅に帰ってきた。

 

「ただいま~」

 

玄関のドアを開けるとリビングの方からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきてルーミアが飛び出してきた。

ルーミアが黒刀を目にした瞬間、走り出す。

 

「くろにい~!」

 

「ルーミア!」

 

2人はヒシッと抱きしめ合った。

 

「何やってるんですか?」

 

黒のエプロンを着けて右手におたまを持って出てきた映姫が2人を見て呆れた声を出した。

 

「だってくろにいに会えなくて寂しかったんだもん」

 

ルーミアは黒刀の胸に頬ずりして甘える。

 

「後にしなさい。ほらお皿出してきて」

 

「は~い!」

 

ルーミアは黒刀から離れてリビングに戻って行く。

 

「ただいま。姫姉」

 

黒刀は靴を抜いで上がると映姫の顔を見て微笑んだ。

 

「おかえりなさい。黒刀」

 

映姫もそれに笑顔で応える。

数秒間、見つめ合っていた2人だが映姫が恥ずかしくなったのか赤くなった顔を背ける。

 

「じゃあ///私も夕飯の支度をしないと!」

 

そう言ってリビングに戻って行った。

 

「あ、姫姉…まあいいか。はあ…先は長いな~」

 

黒刀は独り言を呟きながらリビングへ歩き出した。

 

 

 

 

 

 その後。

3人は夕食を仲良く食べ終えて、黒刀は浴室で湯船に浸かりながらレミリアについて考えていた。

 

「(『ライトニングアクセル』は『電光石火』で対抗できる。『ライジングスピア』もバインドをすぐに破れば対処出来る。『未来王の眼』の対策もいくつか考えてはある。翼の防御も『ガードブレイク』を使えば問題無い)普通に考えればこれだけ対策していれば勝てる…筈なんだけどな~」

 

黒刀はレミリアがまだ力の底を見せていないことを不安視していた。

 

「後は実際に闘ってみないと分からないな」

 

黒刀は天井を見上げて入浴時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 午後8時30分 さいたまスーパーアリーナ。

アリスとこいしはライブを終えて更衣室で着替えていた。

 

「そういえばアリス先輩、聞きましたか?今度のニューヨークライブの話」

 

「ええ。もちろん。WDC後夜祭で私達のステージがあるっていう話でしょ。っていうかマネージャーから聞かされているのだから知ってて当たり前じゃない」

 

アリスが衣装を脱ぎながら言った。

こいしも衣装を抜いて下着姿になる。

 

「いや~久しぶりにお兄ちゃんに会えるって思うと嬉しくって♪」

 

「お兄ちゃん?…あ~黒刀のことね。そういえば何で黒刀のことをお兄ちゃんなんて呼んでるのよ。映姫先輩みたいに姉弟って訳じゃないんでしょ?」

 

「アハハ!秘密~!」

 

こいしが笑顔で誤魔化す。

 

「(あいつ、年下の女の子にお兄ちゃんって呼ばせてんの?…ってただの変態じゃない!)」

 

アリスは心の中でツッコんだ。

 

「何にしても楽しみだね。初の海外ライブ!」

 

こいしは私服の袖に腕を通しながら期待感が高まった声を出した。

 

「そうね。ゲスト出演ってのは少し癪だけど全力全開で盛り上げてやりましょう!」

 

アリスもちょうど着替えを終えた。

 

「うん!」

 

アリスとこいしはお互いに意気込みを掛け合ってハイタッチを交わした。

 

 

 

 

 

 午後9時 新大日本帝国軍東京本部基地。

二宮総一郎大将は第1部隊隊長室のデスクに腰掛けてある男を待っていた。

すると、ピーと誰かが来たことを知らせるブザー音が鳴り響く。

総一郎はモニターウインドウで来訪者を確認する。

 

「入れ」

 

確認後、マイクで入室を許可する。

電動ドアが開いて部屋に入ってきたのはミリタリージャケットを着用している見た目は普通の30歳くらいの男性兵士だった。

その兵士が総一郎のデスク前に立つと全く淀みない敬礼をする。

 

「第22部隊隊長 田中健太少尉!ただいま出頭致しました!」

 

彼、田中は所属を述べた。

 

「楽にしていい」

 

「ハッ!」

 

田中は応答して休めの姿勢を取る。

総一郎はため息を吐く。

 

「君程の人間が私相手にかしこまる必要は無いと思うが?」

 

「自分、下っ端ですから」

 

「その口癖も何度聞いたことだろうね。…では本題に入ろう」

 

総一郎の表情が険しくなると田中の顔も引き締まった。

 

「今年のワールドデュエルカップ…通称WDCの本選開催国がニューヨークであることは知っているな?」

 

総一郎が問う。

田中は即、頷く。

 

「本選にロシア連邦代表が出場していることも」

 

「存じております。加えて代表メンバーの中にはロシア連邦現大統領レーニンのご子息ウルヴァリン・イリイチ・レーニンを筆頭にロシア連邦現役兵士がいるとか」

 

田中は説明を補足した。

 

「もちろん代表メンバーが現役兵士であることをロシア連邦は非公開にしているがな」

 

「当然だと思います」

 

田中の返答に対して総一郎はフッと笑う。

 

「その点に関してはこちらも非難出来ないだろう。日本代表には黒刀も入っているのだから」

 

「黒刀く…いえ」

 

「構わん。普段通りでいい」

 

「では…確かに黒刀君が軍属であることは軍事機密の中でもトップ3に入るレベルです。彼の()()としての力と存在は到底世間に出せるような代物ではありません」

 

「だが、今その軍事機密が暴かれようとしている」

 

総一郎が田中の答えを遮った。

 

「というと?」

 

「ロシア連邦の軍部から黒刀が『白夜叉』の装者ではないかと嫌疑がかけられている」

 

「それは…穏やかな話ではありませんね。確かに先週、彼らは『白夜叉』の黒刀君と一戦交えていますが」

 

「ロシア連邦はWDC本選の最中に何らかの行動を起こしてくると情報部の調査から上がっている。それと米軍の工作部隊が日本代表に対して妨害工作行為を行うとも情報がある」

 

「敵が多いですね…この国は」

 

「仕方あるまい。ふ~…現時刻を以って第22部隊に指令を通達する!ワールドデュエルカップ本選期間中に現地へ出動!ロシア連邦兵士の監視及び米軍工作部隊の妨害工作行為の阻止!以上!」

 

「了解!」

 

田中は洗練された動きで姿勢を正し敬礼する。

田中が踵を返して退室しようと電動ドアが開いたその時。

 

「…苦労をかける」

 

総一郎が田中の背中にそう声をかけた。

田中は首だけ振り向くと作り笑顔を浮かべて…こう言った。

 

「自分、下っ端ですから」

 

彼はそれだけ言って退室した。

 

 

 

 

 

 繰り返し述べるが田中健太という男の見た目は普通である。

これといった特徴は無い。

身長、体重、髪の色、体格、顔立ち…全ての見た目において普通である。

彼が所属する第22部隊は黒刀が所属する第0部隊と同じく国内外において存在そのものが非公開である。

第0部隊の場合は特別性が高い為と軍事機密が深く関わっている為であるが第22部隊は通常部隊と違う。

何故なら彼らは…偵察部隊だから。

故にその存在が非公開なのである。

 

田中が『第22部隊』と記された部屋の前に着く。

部屋に入ると室内には5人の隊員が椅子に座って雑談していた。

昨日見たテレビ、最近ハマっていること、ちょっとした思い出話など軍人にとって緊張に欠ける話題ばかりだった。

 

「隊長、お疲れ様です!」

 

細身の隊員が手を挙げて挨拶する。

 

「ああ。お疲れ」

 

田中は軽く返事した。

ちなみに細身の隊員の階級は中尉。

田中より階級は1つ上。

にも関わらず少尉である田中が隊長である理由はただ1つ。

この偵察部隊において彼が最も優秀であるからだ。

隊員達は田中の凄さを知っている。

だからこそ隊長として信頼している。

 

隊員達が雑談をしているのは田中が隊長に着任してから指示したことだ。

一般人として潜入する為には当然なりきらなければいけない。

軍人と一般人の会話には話している空気など違いが出てしまう。

それを無くす為に『雑談』という訓練を隊員に課している。

さらに隊員達も田中同様に一般人に見える程、特徴の少ない人間ばかりだ。

 

田中は隊員室の奥にあるホワイトボードのようなモニターウインドウの前に立つとパンと両手を合わせて音を鳴らして隊員達に注目させる。

 

「さて、新たな指令が下された」

 

隊長の田中が宣言した

 

「またアラスカの実験施設を潰してこいとかじゃないですよね?」

 

「寒いのはもうコリゴリだぜ!」

 

「その前はカナダだったしな!」

 

隊員達は談笑する。

それに対して田中は特に怒ることは無い。

 

「その点は安心してもらっていいぞ。今度の作戦はニューヨークで実行する」

 

「ニューヨーク…ってことはWDC絡みですか?」

 

「ああ。指令は以下の通りだ。ワールドデュエルカップ本選期間中に現地へ出動。ロシア連邦兵士の監視及び米軍工作部隊の妨害工作行為の阻止!」

 

田中は総一郎からの指令を復唱した。

さらに指令の意味も隊員達に説明した。

 

「慎重なロシア連邦が大胆に来ましたね」

 

隊員の1人が口を開いた。

 

「米軍工作部隊もかなり荒っぽい手を使ってくるから要注意だな」

 

「いや米軍の方は規模がまだ不明だがそれ程問題ではない。恐らく自分1人で何とかなるでしょう」

 

田中が告げた。

米軍の戦力の凄まじさは200年前から恐れられている。

 

「まあ、隊長がそう言うなら問題ないでしょ」

 

「それもそうだな」

 

隊員達からあり得ない答えが飛び交う。

事情を知らない第三者がこの場に入ればきっと怒号が飛んでいるだろう。

 

「問題はロシア連邦の方です。日本代表…いえ、黒刀君に対して何らかのアクションを起こすことは分かっていますが具体的に何をしてくるのか分かりません」

 

田中が続ける。

 

「そもそも情報が抽象的だ」

 

「俺達が潜入した方がマシだろ」

 

隊員達から情報部に対して文句が出る。

 

「そう言うな。俺達は潜入をマスターしているがスパイのように長期間は滞在出来ない。それとも今から転職するか?」

 

田中が隊員達をからかうように笑みを浮かべる。

 

「まさか。こんな良い職場を離れる訳ないじゃないですか」

 

「特徴の無い俺達は第22部隊にいてこそ真価を発揮します!」

 

隊員達は笑みを返した。

 

この第22部隊は隊長である田中を含めてたった6人しかいない。

他の主力部隊に比べて圧倒的に少ない。

少数精鋭の彼らの実力はWDC本選で明らかになることだろう。

 

田中は最後にこう言った。

 

「まあ、俺達が手を下す前に黒刀君が1人で解決する可能性もありますけどね」

 

 

 

 

 

 午後10時 黒刀の自宅。

リビングでSDとMADの調整中だった黒刀は急に背筋がブルッと震えて身を一瞬、縮こませた。

 

「近くにチルノとかいないよな」

 

独り言を呟く。

 

映姫もルーミアも既に寝室で就寝している。

黒刀はキリの良いところで調整を終わらせると眠気が襲ってきたので寝室へと向かった。

 

 

 

 

 

 ロシア連邦 モスクワ時間午後4時。

レーニンJrは拳銃の形をしたMADを調整しながら数日前の出来事を思い出していた。

 

日本代表の本選出場が決定する数時間前。

レーニンJrとザウルは参謀本部長から出頭命令を下されていた。

参謀本部長室前に辿り着いた2人。

レーニンJrが2回ノックする。

 

《入れ》

 

音声が聞こえた直後、電動ドアが開く。

 

「ウルヴァリン・イリイチ・レーニン少尉、ただいま出頭致しました!」

 

「同じくザウル・マーカー少尉ただいま出頭致しました!」

 

2人は揃って敬礼する。

 

「楽にしろ」

 

参謀本部長に指示されて2人は即座に休めの姿勢を取った。

 

「まずこれを見てもらおう」

 

参謀本部長がモニターウインドウを操作して流したのは以前レーニンJr達が『白夜叉』と戦闘した際の録画映像だった。

映像を一通り見た2人は改めていかに自分達が一方的にやられていたか再確認した。

 

「発言よろしいでしょうか?」

 

レーニンJrが口を開く。

 

「許可する」

 

「僕達は今の映像の通り『セラフィム』との交戦においていかに自分達が無力であったか実感しています。まさか僕達の部隊だけであれを撃墜せよという訳ではありませんよね?」

 

レーニンJrは自己分析して意見を述べた。

 

「私は部下を無駄死にさせるような命令を下さんよ。お前は勘違いしている。これを見ろ」

 

参謀本部長はモニターウインドウを切り替えてある人物のプロフィールデータを表示した。

映し出された人物の名は四季黒刀。

 

「この男、四季黒刀があの『セラフィム』であるという情報が報告された」

 

参謀本部長が放った言葉に2人は驚愕した。

 

「そ、そんな…この男が多くの兵を葬ったあの『セラフィム』って言うんですか!」

 

ザウルが参謀本部長の前にも関わらず思わず声を荒げてしまう。

 

「ザウル、参謀本部長の前だ。控えろ」

 

「ああ。すまない」

 

レーニンJrは言われてザウルは一歩下がる。

レーニンJrも驚いていたがまだ冷静さは保っている。

 

「参謀本部長、『セラフィム』がAIであるという情報は…」

 

「根も葉もない噂だ」

 

「あの『セラフィム』が高校生だと?」

 

「お前達と高校生だろう」

 

「僕達と『セラフィム』では話が違い過ぎます。それにこの情報は確実な情報なのですか?」

 

「良い洞察力をしているな。レーニン少尉、お前の察する通りこの情報はまだ確定情報ではない。参謀本部でも半々の意見に分かれていてまだ結論が出ていない。そこでお前達に任務を言い渡す。どのような形であろうと問わない。WDC本選で『セラフィム』に接触して本人であるかを調査すること。それが今回の任務だ!」

 

参謀本部長は2人に命令した。

 

「何故僕達でありますか?」

 

「『セラフィム』と交戦経験があるお前達であれば何かしら情報を得られるのはないかというのが参謀本部の意見だ。我ながら情けない結論だ」

 

「いえ。僕が言いたいのは何故他にも交戦経験のある兵はいうのではないかというのが僕の疑問点です」

 

「レーニン少尉、そもそも『セラフィム』と交戦して生き残った兵士がそんなにいると思うかね?」

 

「それは…」

 

レーニンJrは言葉に詰まる。

 

「我が軍の中で生き残ったのはお前達が配属していた部隊だけだ。他の隊員がどうなったか知っているか?」

 

「いえ。僕達は正式な所属先が無いので存じておりません」

 

「隊長含めて全員、精神的に再起不能になったよ」

 

「「っ!」」

 

「原因は十中八九『セラフィム』と交戦によるショックだろう。あれ以来まともに任務を受けることもままならなくなった。だからお前達が選ばれた。もう一度言うがこれは調査だ。抹殺じゃない」

 

全ての説明を聞いたレーニンJrは目を閉じて『セラフィム』との交戦を思い出す。

帰投後、自分がどれだけ恐怖で震え、どれだけ吐いたことか。

『セラフィム』との交戦はそれだけインパクトが強かった。

レーニンJrは目を開けてプロフィールデータに映る四季黒刀の顔を見る。

 

「(この男が多くの同胞の命を奪った『セラフィム』…)」

 

レーニンJrは参謀本部長に向き直って敬礼する。

 

「ウルヴァリン・イリイチ・レーニン少尉、調査任務謹んで了解致します!」

 

「同じくザウル・マーカーも了解!」

 

ザウルもレーニンJrに遅れて敬礼した。

 

「うむ。頼んだぞ」

 

参謀本部長も起立して敬礼した。

 

 

 

 

 

 参謀本部長室から退室した2人は歩き出す。

 

「それよりお前が受けるとはな」

 

ザウルが話しかける。

 

「『セラフィム』が忌まわしき存在であるのは確かだが僕は同時に彼に少し興味が沸いてきた。四季黒刀という男がどういう人間なのか知りたくなってきたんだよ」

 

「俺達でさえ敵を撃つ時、一瞬躊躇う。だが奴にはそれが無い。冷酷なんて言葉が生温いくらいにな。そんな高校生がいるなんて正直ゾッとするぜ」

 

「まあ、とにかく直接会ってみれば分かることだ」

 

ロシア連邦A級魔法師と『セラフィム』の運命の交錯が着実に近づいていく。

 

 

 

 

 

 9月17日 日本時間午前6時30分 黒刀の自宅。

朝練を終えた黒刀は映姫が作った朝食を食べながらテレビを見ていた。

ちなみに放送しているのは最新のニュース。

今日は久々の登校日である。

黒刀の隣ではルーミアが美味しそうに朝食を頬張っている。

その向かい側の席で映姫が黙々と食べている。

 

「今日は白か」

 

テレビを見ていた黒刀が突然呟いた。

それを聞いた映姫がいきなり顔を真っ赤にしてテーブルの下で黒刀の脛を蹴った。

 

「いって!何すんだよ姫姉!」

 

「うるさい!黒刀のエッチ!」

 

映姫が怒る。

黒刀からは見えないが映姫はスカートを両手で押さえている。

 

「くろにい、何かやったの?」

 

ルーミアが黒刀にジト目を向ける。

 

「は?いや俺は今日の占いのラッキーカラーが白だったから」

 

「ふぇ?」

 

映姫がテレビに視線を移す。

ニュースは時事ニュースから占いコーナーに変わっていた。

 

「で?何で怒ってんだよ姫姉」

 

黒刀の問いに対して自分の勘違いだと気づいた映姫は羞恥のあまりまたもや顔を真っ赤にして先程の倍の強さで黒刀の脛を蹴った。

 

「り、理不尽だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

黒刀の叫びが響いた朝だった。

 

 

 

 

 

 日本時間午前7時。

映姫は生徒会の用事で先に行ったので黒刀はこの時間に登校する。

アンチグラビティバイクに乗った黒刀は玄関前に立つルーミアの頭に右手を置く。

 

「それじゃルーミア、行ってくるから留守番よろしくな!」

 

「任せて!いってらっしゃい!くろにい!」

 

ルーミアは笑顔で応えた。

 

「ああ。行ってきます!」

 

黒刀はルーミアの頭から手を離してハンドルを握るとアクセルを踏んで神光学園へ走り出した。

 

 

 

 

 

 午後7時30分。

妖夢達が神光学園に到着して見れば正門前に多くの生徒が溢れていた。

その理由はWDCで活躍した妖夢達を出迎えて祝う為だ。

全校生徒のほとんどが正門前や昇降口前、あるいは窓から顔を出して盛り上がっていた。

 

「何だよ…これ」

 

魔理沙は驚きすぎて固まっている。

 

「剣舞祭の比じゃないわね」

 

霊夢が言った。

 

「フフ…皆あたいのファンだね!」

 

チルノが胸を張る。

 

「それは無いと思う」

 

大妖精が横でジト目をしている。

 

「と、とにかく早く教室へ行かないと遅れてしまいます!」

 

妖夢が正門から人混みに入っていくが一瞬で揉みくちゃにされて見えなくなった。

 

「妖夢、どこ行った!」

 

魔理沙も後を続くが妖夢と同じ結果になる。

 

「何やってんのよ。あいつらは…」

 

霊夢がため息を吐いた。

 

「あわわ…私達も行って助けなきゃ!」

 

大妖精が慌てる。

 

「落ち着きなさい。今行っても巻き込まれるだけよ。チルノもそこで大人しくしてて…あれ?チルノは?」

 

霊夢が周囲を見渡すがチルノの姿が見当たらない。

 

「アハハハハ!最強のあたいの凱旋なのだ!」

 

すると、人混みの中から高らかに笑うチルノの声が聞こえた。

 

「あのバカ…」

 

「いつになったら収まるんでしょう?」

 

「まあ、魔理沙は試合出てないから被害は少なそうだけど妖夢とチルノは間違いなく中で押し潰されてるでしょうね」

 

そんなことを話していると後ろからエンジン音が聞こえてきたので振り返ると黒刀が乗っているアンチグラビティバイクがこちらに向かって来ていた。

霊夢達の近くに停まると黒刀が呟く。

 

「予想はしていたがやはりこうなったか?」

 

「黒刀先輩!これどうにかならないんですか?」

 

大妖精が黒刀に近づいてお願いする。

黒刀はヘルメットのバイザーを上げる。

 

「心配するな。すぐに終わる」

 

「どうやって…」

 

霊夢が困惑していると何やら昇降口前の様子がおかしい。

霊夢側からは当然見えないがその原因は昇降口から生徒会長の映姫と黒刀の担任のにとりが出てきたからである。

 

「あなた達!今すぐに自分達のクラスに戻りなさい!」

 

映姫の怒号が響く。

ギャラリーの中から不満の声が出るとにとりがさらに脅しをかける。

 

「近所迷惑、登校中の生徒の妨害。お前ら、反省文に加えて生徒会長と私の説教を受ける覚悟は出来てんのか?」

 

それを聞いたギャラリーはあのお祭り騒ぎが嘘のように急いで校内に戻って行く。

 

「こら走らない!」

 

映姫の怒号がまた響くが周囲の音が大きすぎて聞こえないようだ。

ギャラリーが全員校内に戻った後で妖夢、魔理沙、チルノが昇降口前でうつ伏せに倒れていた。

 

「「「う~」」」

 

3人は呻いている。

黒刀は事態が収束したことを確認してアクセルを踏むと駐車場に走り出した。

 

「全く…この学園のお祭り好きにも困ったものです」

 

映姫の言葉は風と共に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 午前8時 黒刀の自宅。

留守番中のルーミアはまず洗濯を始めた。

ドラム式洗濯機に洗濯物をどんどん入れる。

 

「くろにいの服、やっぱり黒ばっかだ~!これは…姫姉の下着…黒と白しかない…完全にくろにいの好みに合わせてる~」

 

洗濯中はテレビを見て、洗濯が済んだら庭で干して、ちょうど12時になったので冷蔵庫から映姫が作ってくれた弁当を取り出して食べながらテレビを見る。

ちなみに料理は1人の時はしないように黒刀と映姫から言われている。

午後3時には冷蔵庫に入っていたドーナツを食べて、それから干してあった洗濯物を取り込んで別々に折り畳む。

黒刀からのすすめでテレビはよくニュースを見ている。

やることが無くなってボーっとしていると玄関から「ただいま」と声が聞こえた。

ルーミアはバッと立ち上がって玄関へ駆けだす。

玄関には帰ってきた黒刀の姿があった。

ルーミアは笑顔でこう言葉をかける。

 

「おかえり!」

 

以上が留守番中のルーミアの1日である。




ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ

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前夜祭

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ



 9月21日 WDC本選開始2日前。

今日はWDC本選開催国アメリカのニューヨークへ出発する日である。

翌日には前夜祭もあるので今日出発しなければ間に合わないのである。

現在の時刻は午前9時。

出発は午前11時なので余裕を持って考えればあと1時間半ある。

 

「ニューヨークってどんなところなんでしょうね♪」

 

妖夢はかなりテンションが上がっている。

黒刀はフッと笑う。

 

「旅行に行くんじゃないぞ」

 

「わ、分かってます!///」

 

妖夢は赤くなって必死に否定するが黒刀には今の妖夢が修学旅行に行く女の子にしか見えない。

 

そんな2人を遠くから観察している者がいた。

ゲート前の椅子に腰かけて本を読みながら黒刀達の動向を自然に観察しているのは新大日本帝国軍第22部隊隊長の田中健太少尉だった。

彼はビジネススーツを着て、海外出張に行くサラリーマンのような恰好をしている。

誰がどう見ても軍人とは思わないだろう。

 

《状況はどうですか?》

 

田中のインカムに隊員から通信が入る。

 

「問題ないですよ。対象はチームメイトの女の子と楽しそうにお喋りしていますよ」

 

田中は周囲に聞こえないように小声で報告する。

 

《対象には察知されていませんか?》

 

「今のところ大丈夫ですよ。普段の彼は意外と抜けていますから。戦闘スイッチが入ると手が付けられませんが」

 

《了解。引き続きよろしくお願いします》

 

「ええ」

 

田中は一旦、通信を切った。

 

 

 

 

 

 同刻 モスクワ空港 モスクワ時間午前3時。

ロシア代表が乗っている飛行機が離陸した。

 

「(待っていろ。四季黒刀…)」

 

そう心の中で呟くレーニンJrの右側の席にはザウル、左側の席には全く口を開かない

レティ・ホワイトロックが座っていた。

 

 

 

 

 

 同刻 ニューヨーク時間午前8時。

とあるホテルの一室にボビー・コングは全裸で立っていた。

ベッドには全裸の女性が寝ていた。

既に事を起こした後であった。

 

「まだだ…まだヤリ足りねぇ!あるはずだ!あの場所に俺の欲望を満たす最高の果実が!」

 

彼はホテルのスイートルームで高らかに笑った。

 

 

 

 

 

 エジプト代表はニューヨークのホテルのレストランで夕食を取っていた。

アヌビスのナイフやフォークを扱う所作は王族として申し分ないものだ。

 

「この料理、余の口に合うとはなかなかのものだ。そうは思わないかね?ヤハラ」

 

「はい。アヌビス様」

 

ヤハラ・イドは即座に返事する。

 

「ストゥム、何をやっている?」

 

アヌビスはヤハラの2つ隣の席に座っている黒髪ショート、褐色の肌、身長150㎝の小柄な少年に声をかけた。

彼はレストランでの食べ方が分からず困っていた。

 

「あの…僕、こんな立派な場所で立派な料理を食べたことが無くて…どうやって食べたらいいか分かりません…」

 

ストゥムはそう言って縮こまってしまう。

男性とは思えない覇気の無さは女子と見間違えてしまいそうになるものだった。

 

「はあ…」

 

アヌビスはため息を吐くと右手の指をパチンと鳴らす。

レストランのスタッフが動き出し、なんと10分足らずで他の客を追い出してしまった。

 

「これで俗物の目を気にせず食事が出来るだろう」

 

アヌビスは手に持つグラスを少し揺らす。

 

「し、しかし…」

 

ストゥムは他の客を追い出してしまったことに罪悪感を感じた。

 

「このホテルは既に余が買い取った。余の所有物を如何にしようよ余の自由だ。違うか?ヤハラ」

 

「いえ。アヌビス様のおっしゃる通りでございます」

 

ヤハラはアヌビスの言葉に賛同する。

 

「ストゥム、余計なことを考えず食事を続けるがよい」

 

「は、はい!いただきます!」

 

ストゥムは目の前の料理を次々と手掴みで食べていった。

 

「(余の王道を阻む者は全て叩き潰す)」

 

 

 

 

 

 イギリス代表もニューヨークのホテルに泊まっていた。

レミリアは屋上で夜景を眺めながら右手にグラスを持っていた。

そんな時。

 

「ワインの相手なら付き合うよ」

 

背後から声をかけられた。

声をかけたのはイギリス代表キャプテン、レオ・アルハート。

 

「残念だけど吸血鬼は酔えないのよ。これはただのぶどうジュース」

 

レミリアは微笑を浮かべてグラスの中身を揺らす。

 

「そうかい。なら代わりに僕と話をするだけでもどうかな?」

 

「ええ。構わないわ」

 

「それでは失礼して」

 

レオはレミリアの隣に立って夜景を眺める。

 

「僕が君に聞きたいのは四季黒刀についてです」

 

レオの言葉にレミリアは一瞬だけ目を見開く。

 

「何故私に?」

 

「彼と君は日本で交流があると聞いている。友人関係だったかな?」

 

「違うわ。倒すべき敵」

 

レミリアは即座に否定した。

レオは彼女の目を見る。

レミリアの目には執念を感じさせる闘志がみなぎっていた。

 

「私からも聞いていいかしら?」

 

「どうぞ」

 

「何故そこまであいつに拘るの?それともあいつに会ったことがあるのかしら?」

 

「…いや、直接の面識は無い。僕が一方的に彼を知っているだけだよ。マリーは面識があると聞いているが僕は7年前のロンドンである小さな決闘大会を観に行った時に彼の闘いをこの目で見た。その時から僕は彼と闘いたいと思うようになった。7年間ずっとね。これで君の質問には答えられたかな?」

 

「ええ…まあ(7年前…黒刀が出ていた大会…それってまさか…()()()の?)」

 

「レミリアさん?」

 

レオは黙ってしまったレミリアに声をかける。

 

「え…あ、ごめんなさい。少し考え事をしていまして。それで私からあいつの何を聞こうとしているのかしら?」

 

「警戒しなくても別に彼の闘い方とか弱点とかそういうことを聞きたい訳じゃないよ。僕が聞きたいのは彼の人柄とか…どういう人間なのかを知りたい。ただそれだけさ」

 

レオは優しい表情で言った。

レミリアは夜景に視線を戻す。

 

「あいつは…弱い男よ」

 

「弱い?」

 

「力ではなく心がね。あいつは…誰かを守ることに固執している。大切な人を失うことを何よりも恐れている。だからひたすら強くなろうとしている」

 

「だが、それは誰も持っていてもおかしくないのではないか?」

 

レオの疑問に対し、レミリアはかぶりを振る。

 

「あいつの『守る』という意志は度を超えている。自分のことなんか一切考えず他人を第一に考えている。あいつは…黒刀は優しすぎる」

 

レミリアはかつて黒刀を拒絶した記憶を思い起こす。

 

「(私はあいつを自分勝手な理由で突き放した。なのにあいつは諦めなかった。私に手を差し伸べることを。だけど今その手を取ることは出来ない)」

 

「(『守る』という意志。それが彼の強さの根底にあるもの。僕はどうだろう?僕は彼と闘う為に鍛え上げてきた。ではその後は?もし彼と闘ったその後、僕は何の為に闘えばいい?…やれやれこればっかりは僕自身で答えを出さなければいけないね)」

 

レオは夜空を見上げてそう思いを抱いた。

それから踵を返して屋内に戻ろうとする。

 

「もう行くのね?」

 

レミリアは背を向けたまま声をかけた。

 

「ええ」

 

レオも背を向けたまま答える。

 

「もし僕が彼と闘うことになったらその時は恨まないで下さいね?」

 

「ええ。もちろん」

 

レミリアが答えて、レオが屋内に戻った。

 

「全く…何で私はあんな奴のことを…いえ、これはあいつに勝った後に言うべきね。

黒刀…あなたを倒す!」

 

レミリアは天に向かって拳を握り締めた。

 

 

 

 

 日本時間午前11時 太平洋上空。

黒刀は飛行機の中で爆睡していた。

やることがない時は寝る。

黒刀のポリシーの1つだ。

ちなみにニューヨークには2時間程で到着する。

 

 

 

 

 

 黒刀の精神世界。

相変わらず暗く、黒刀とザナドゥ卿の精神体と縦に並ぶ4つの大きな扉だけが照らされていた。

 

 黒刀

 

 王様…何か用か?

 

 …うぬ達の向かう先に王の気配を感じる

 

 王?天皇陛下と俺達4人以外にいるのか…でもそれなら天皇陛下から伝えられるはず…

 

 パリの時も同じ気配を感じた

 

 パリ?………まさかイギリス代表に!

 

 その可能性は高いだろう。注意せよ

 

 分かった

 

 

 

 

 

 現実世界。

いつの間にか時間が経っていたのか目を覚ますとちょうどニューヨーク空港に着陸するところだった。

現在、日本時間午後1時、ニューヨーク時間9月21日午前0時。

飛行聞から降りてゲートを通過する。

 

「(王様、どう?)」

 

「(今は感じぬ。まだ安定していないのかもしれぬ)」

 

「(そうか。注意しておくけどあんまり気にし過ぎないようにする)」

 

「(ああ)」

 

黒刀とザナドゥ卿は念話を切った。

 

 

 

 

 

 黒刀達が宿泊するホテルはイギリス代表が宿泊するホテルに本選会場を挟んでちょうど向かい側だった。

お互いのホテルは20㎞離れている。

黒刀と相部屋になったのは映姫とルーミア。

にとりに無理言って相部屋にしてもらった。

にとりや諏訪子からは全員就寝するように指示されている。

シャワーを浴び終えた黒刀はベットに仰向けに倒れた。

映姫とルーミアは今シャワーを浴びている。

黒刀は天井を見上げる。

 

「ようやく…ここまで来た…」

 

黒刀はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 一方。

妖夢は霊夢、魔理沙と相部屋。

 

「何か…日本を出た時は昼前だったのに…こっちに着いたら今日の深夜なんて時差ボケしそうだぜ」

 

魔理沙がベッドに腰掛ける。

 

「私もパリに行った時は同じ気持ちでした」

 

妖夢は枕を腕に抱える。

 

「それに今、寝ろって言われても寝られるものじゃないわよね」

 

霊夢が愚痴る。

 

「多分、先輩は寝てるんじゃないかな?」

 

妖夢が黒刀の行動を予測する。

 

「アハハ、それはあり得るぜ」

 

魔理沙が笑う。

 

「そんなことより明日は前夜祭パーティーよ。はしゃぎ過ぎて明日に響いたら大変よ」

 

霊夢はベッドに寝転がって釘を刺す。

 

「前夜祭って確か本選出場選手全員参加するんでしたっけ?」

 

妖夢もベッドに仰向けに寝転がる。

 

「そう。所謂、顔合わせってやつね」

 

霊夢が手をブラブラと振って答えた。

 

「(一体どんな人達が集まるんだろう…)」

 

妖夢は天井を見つめて考えた。

 

そうして前夜祭前日の一夜が明けていく。

 

 

 

 

 

 9月22日 ニューヨーク時間午前7時。

目を覚ました黒刀は体を起き上がらせて隣のベッドに視線を移す。

ルーミアは寝ていたが映姫は既にいなかった。

規則正しい生活を心がけている映姫のことだ。

朝食でも取っているのだろう。

ベッドから下りてパジャマを脱ぐとそのままユニットバスに入りシャワーを浴びる。

 

「前夜祭か…出るのめんどくせぇな…」

 

そう考えていると一瞬怒っている映姫の顔が脳裏をよぎる。

 

「…出なきゃそれはそれでめんどくせぇことになりそうだ」

 

ため息を吐く黒刀。

彼が欠席したい理由は今のレミリアと顔を合わせるのがなんとなく嫌だったから。

 

 

 

 

 

 10分後。

シャワーを浴び終えた黒刀はユニットバスを出ていつもの黒シャツと黒レザーパンツに着替える。

シャツの背中には『一撃必殺』と白い文字が書かれている。

黒刀の一番お気に入りのシャツである。

 

「さ~て、今日も頑張るとするか!」

 

黒刀はそう言って気合いを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前8時 食堂。

妖夢は朝食を食べながら向かい側の席に座っているチルノを見ている。

その理由はチルノが寝ぼけた目でパンをかじっていたからだ。

 

「チルノ、何か眠そうだね」

 

妖夢はチルノの隣でコーンスープをすくってすすっている大妖精に声をかけた。

 

「ごめんなさい。かなり夜更かししてたみたいで…」

 

大妖精はスプーンを置いて頭を下げる。

 

「別に大妖精が謝ることじゃないよ。ただ気になっただけ。何で夜更かししてたの?フィリピンの時はしてなかったよね?」

 

「うん。その…今日の前夜祭にテンションが上がってしまったみたいで…私も止めようとしたんですけど…寝てしまって」

 

「遠足前の小学生かよ」

 

魔理沙がトレーを持って妖夢の右側の席に座る。

 

「中身も外見も小学生ってことでしょ」

 

霊夢が妖夢の左側の席に座る。

 

「あの…外見のことを言われてしまうと私も小学生ってことになるんですけど…」

 

大妖精が苦笑い。

すると…

 

「あまり外見で人を判断しているといつか痛い目を見るぞ」

 

大妖精の背後から黒刀が声をかけた。

 

「先輩!」

 

妖夢が気づく。

 

「隣、座るぞ」

 

黒刀は大妖精の右側の席に座る。

 

「ともかく前夜祭までにはしっかりして欲しいです。他国の代表にみっともない姿は見せられませんから」

 

黒刀の右側の席に映姫が座る。

 

「特に前夜祭をすっぽかそうとした人なら尚更」

 

隣の黒刀をジト目で見つめる映姫。

 

「だ、誰のことを言っているんだ?(バ、バレてる!)」

 

黒刀は顔を逸らす。

若干、冷や汗も出ている。

 

「まあ、いいでしょう」

 

映姫はコーヒーを飲む。

黒刀は安堵の息を漏らす。

 

「アハハ…(何だか波乱ありそうな1日になりそう…)」

 

妖夢は苦笑いした。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後6時。

前夜祭1時間前となって黒刀達は着替えなど準備をする。

 

「こういうのほんと苦手なんだけど」

 

黒刀は部屋でタキシードに着替えた。

 

「文句言わないの。ほら襟が曲がってる」

 

映姫は黒刀に近づいて襟を直す。

 

「これでよし」

 

映姫が顔を上げると黒刀の顔が目の前にあった。

2人の顔の距離は僅か10㎝。

映姫の頬が熱くなって赤くなる。

 

「どうした姫姉?」

 

黒刀は真顔。

映姫はハッとなって離れる。

ちなみに映姫は白いドレスを着ている。

 

「そのドレス、凄く似合ってるよ」

 

黒刀が褒めた。

映姫の顔がさらに赤くなった。

 

「(この状況でそのセリフは反則です!///)」

 

映姫は内心で叫んだ。

黒刀は特に深い意味は無く言っている。

それは映姫も理解している。

しかし、分かっていても恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

 

 

 

 

 ホテルのエントランスに降りると全員ドレスやタキシードに着替えていた。

ただ、黒刀や妖夢のように腰に帯刀している者はかなり異様に見えてしまう。

 

「よし!全員揃ったな。それじゃ出発するぞ。全員バスに乗れ」

 

にとりが指示する。

もちろん、彼女も水色のドレスを着ている。

 

バスと言っても通常のバスではなく日本代表専用に用意されたバスである。

座席も通常のバスに比べてかなりフカフカで弾力がある。

ドレスを着ている女性陣にはありがたい。

 

「わあ♪フカフカです!」

 

妖夢が黒刀の隣ではしゃいでいる。

ちなみに黒刀と妖夢は最後列から2列目の右側の席で肩を並べて座っている。

黒刀達の3列前で、エメラルドグリーンのドレスを着ている早苗が後ろを向きながらシートを掴む。

 

「う~!センパイと一緒に座りたかった!」

 

「早苗、今回は諦めた方がいいわ」

 

早苗の隣に座っていて、純白のドレスを着ている真冬が口を出す。

 

「悔しくないの?」

 

「それは…もちろん悔しいけど…さすがに今から席を替わってと言う程の図々しさは無いから」

 

「…確かにそれは言えないですね。センパイも嫌がるでしょうし」

 

早苗は大人しく前を向いて座る。

 

「なら前夜祭でアタックします!」

 

拳を握り締める早苗。

 

「(そうね。私ももっとアピールしていかないと…)」

 

真冬も早苗に内心で同意していた。

 

 

 

 

 

 同刻 イギリス代表宿泊ホテルエントランス。

イギリス代表も出発前にエントランスに集合していた。

メンバーは…

 

レオ・アルハート。18歳。

イギリス代表キャプテンで金髪碧眼の好青年。

 

マリ・アルハート。17歳。

レオ・アルハートの実妹。

金髪碧眼ツインテール。

紅茶を淹れるのが得意。

 

レミリア・スカーレット。17歳。

スカーレット家の長女。

『未来王』。

所有武器は『グングニル』。

 

フランドール・スカーレット。16歳。

レミリア・スカーレットの実妹。

所有武器は『レーヴァテイン』。

 

チャーリー・ベルモット。17歳。

赤髪で紫色の瞳、髪型はクセッ毛であるが櫛で整えられている。

ただ彼の第一印象はチャラそう。

 

リーナ・シリウス。17歳。

金髪ストレートで真紅の瞳、腰には黒い剣が納刀してある。

………そして早苗に匹敵する巨乳。

 

アレックス・ローガン。17歳。

灰色の髪でブラウンの瞳、髪の毛は逆立っている。

 

控えメンバーの他には十六夜咲夜やアルハート家に仕える初老の執事セバスチャン・ド・ルクセンブルクなどサポートメンバーもいる。

 

「彼と会うのはこれが初めてか」

 

「あの男にリベンジする時が来ましたわ!」

 

「…」

 

「お義兄様に早く会いたいな!」

 

「俺は運命の相手を見つける!」

 

「あまり羽目を外し過ぎるなよ」

 

「お嬢様、妹様。出発の時間です」

 

「坊ちゃま、お嬢様もお急ぎください」

 

イギリス代表の前に停車したのは白いリムジンだった。

 

「さあ、パラディンとして共に行こう!」

 

レオは皆に声をかけた。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後6時50分。

黒刀達が乗っているバスがパーティー会場に到着した。

パーティー会場は本選会場の裏手にある広場。

広場の面積は1㎡。

豪華な飾りつけがされて、豪華な料理が並べられている。

 

『おおおお!!!』

 

皆、予想以上の豪華さに歓喜している。

 

「それじゃとりあえず自由行動にするけどあまり羽目を外し過ぎるな…」

 

「メシィィィ!」

 

「人の話を聞けぇぇぇ!!」

 

チルノがにとりの話が終わる前に料理に向かって走ってしまった。

チルノが走り去った後、

 

「ミスタークロト!」

 

黒刀が背後から声をかけられた。

黒刀、映姫、妖夢が振り返るとそこに立っていたのは金髪ソフトモヒカン、身長190㎝で肩幅が広くプロレスラーのような体格の男だった。

その横には金髪オールバックで似たような体格の男も立っていた。

2人共、年齢は50歳くらい。

 

「ディラン・スペンサー」

 

黒刀が声をかけてきた男の名を口にした。

 

「お知合いですか?」

 

「ああ。俺をロサンゼルスの大会に誘った時の大会の主催者だ」

 

「えっ!」

 

妖夢が驚く。

 

「まさか、また黒刀をスカウトしに来たのですか?」

 

映姫がディランに訊く。

 

「そうしたいのはやまやまなのですがミスタークロトに散々断られてしまってね」

 

ディランは肩をすくめて答える。

 

「俺はプロリーグに興味は無いって何度も言いましたよ」

 

黒刀も愛想笑いで返す。

 

「そちらの方は?」

 

妖夢がディランの横に視線を移す。

 

「マイブラザーのデュークだ」

 

ディランが紹介する。

デュークと呼ばれた男が黒刀の前に出る。

 

「デューク・スペンサーだ。アメリカ代表の監督だ。よろしく」

 

デュークは黒刀に握手を求める。

 

「日本代表の四季黒刀だ」

 

黒刀はデュークの握手に応じた。

 

「ディランはかなり君に興味を持っているようだね」

 

「みたいですね」

 

デュークの目からは大きな野心をちらつかせる。

 

「挨拶は済んだようだね!ミスタークロト!それから…」

 

ディランは映姫と妖夢に視線を移す。

 

「黒刀の姉の映姫です」

 

「魂魄妖夢です!せんぱ…黒刀先輩の学校の後輩です!」

 

映姫と妖夢はそれぞれ自己紹介した。

 

「OH!予選で観させてもらったよ!YOU達もミスタークロトと同じくらい見所がある!」

 

ディランは映姫と妖夢に半ば強引に握手する。

 

「こ、光栄です(何か凄いパワフルな人だな…)」

 

苦笑いする妖夢。

映姫は割と平気な顔して握手に応じている。

 

「ディラン、そろそろ行くぞ」

 

デュークがディランに声をかける。

 

「ああ。そうだね!それじゃミスタークロト、ミスエイキ、ミスヨウム。Meはこれで失礼するよ!」

 

ディランが踵を返して去ろうとしたその時、何かを思い出したように振り返る。

 

「あ、それとMeはこの大会のスポンサーをやっているから何かあればいつでも相談に乗るよ」

 

ディランはそれだけ言って去った。

その時、黒刀は一瞬だけ見えた。

デュークが踵を返す前、こちらを…いや黒刀を睨みつけていた。

注意していなければ気づかない僅かな時間だったので気づいたのは黒刀だけだったが、黒刀には思い当たる節も無ければ特に気にすることでもないと考えすぐに意識の外へ追いやった。

 

 

 

 

 

 アメリカ代表のボビー・コングは骨付き肉をかじりながら視線を一点に集中していた。

その視線の先には早苗がいた。

 

「(いいね~極東の女にしちゃエロい体してやがる。見つけたぜ…最高の果実を!)」

 

ボビーは舌なめずりする。

 

「早速今夜に……ん?」

 

ボビーは視線の先で早苗が黒刀の腕に抱きついている光景を見た。

 

「(おもしれぇことを思いついたぞ…)」

 

ボビーは何か企んだ顔をするのだった。

 

 

 

 

 

 レーニンJrとザウルは遠目に黒刀を観察していた。

 

「あれが四季黒刀か。今のところ普通の高校生にしか見えないな」

 

「そうですね」

 

2人が周囲に聞こえないように小声で会話していると…

 

「よぉ!久しぶりだな!」

 

ボビー・コングが声をかけてきた。

 

「ボビー…」

 

ザウルがボビーをまるで親の仇のような目で睨む。

 

「元気そうじゃねぇか?」

 

ボビーはわざと挑発的な口調で話す。

 

「お前!よくもそんな口が利けるな!去年、レンに何をしたか忘れたか!」

 

頭に血が上ったザウルが怒鳴る。

その騒ぎに周囲の人間が気づき、パーティーの雰囲気が一気に悪くなる。

 

「あ?てめぇに用はねぇ!俺はこいつに挨拶しに来ただけだ」

 

2人の言い合いがヒートアップするかに思えたその時。

 

「ザウル、それくらいにしておけ」

 

レーニンJrが制止した。

 

「しかし、レン…」

 

「去年の僕が力不足でこの男に敗北したのは事実だ。その過程に何があったとしても恨みはない」

 

「ハッ!自分がカスだっていうことをようやく理解したか?」

 

「だが、それはあくまで去年の話だ。今年も同じとは限らない」

 

「言うね~」

 

レーニンJrとボビーの視線が交わる。

先に引き下がったのは意外にもボビーの方だった。

 

「まあいい。本選で当たったら次こそは再起不能にしてやるよ」

 

ボビーは去った。

 

「レン、何故もっと言い返さない?」

 

ボビーが離れてからザウルがレーニンJrに問う。

レーニンJrはグラスの中の飲み物を飲み干す。

 

「僕達の目的は奴へのリベンジなどと個人的なレベルのものじゃない」

 

レーニンJrはそれ以上のことは当然、口外出来ないので黙った。

彼らの任務は国家を揺るがすレベルである為、ザウルはそれ以上追及出来なかった。




ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ

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剣士の天敵

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 ニューヨーク時間午後6時55分。

パーティー会場近くに1台のリムジンが停車した。

運転席から1人の初老が降りて後部座席のドアを開ける。

その後部座席から現れたのはイギリス代表だった。

 

「何とか間に合ったようだね」

 

「はい。お兄様」

 

レオとマリーが出てきた。

 

「さあ、俺の運命の人はどこかな?」

 

「チャーリー、キョロキョロし過ぎだ」

 

続いてチャーリーとアレックスが出てきた。

 

「ワォ!盛り上がってマスネ!」

 

続いてリーナが出てきた。

 

「パーティーだ!」

 

「フラン、はしゃがない」

 

最後にフランとレミリア、咲夜が出てきた。

今大会優勝候補の登場にパーティー会場にいる者が注目する。

 

「あれが…イギリス代表」

 

妖夢が呟く。

まだ未熟な彼女でも一目見ただけで分かる。

彼らが相当な実力者だということを。

 

レオが大勢の参加者から1人を見つけて口元を綻ばせる。

そこへゆっくりと歩き出した。

 

「お兄様?」

 

「少し挨拶に行ってくる」

 

マリーは首を傾げたがレオの視線の先に誰がいるのか理解すると小走りでついていく。

他のメンバーも歩きながらレオの後をついていく。

そして、レオは目的の人物に辿り着いた。

 

「君が四季黒刀君だね?」

 

レオはこちらに背を向けて料理を食べている黒刀に声をかけた。

黒刀は食事を中断してレオの方に振り向いた。

黒刀の傍には映姫、ルーミア、妖夢、早苗、真冬がいる。

 

「初めまして。イギリス代表キャプテンのレオ・アルハートです。よろしく」

 

レオが握手を求める。

 

「四季黒刀です。こちらこそよろしく」

 

黒刀は握手に応じる。

 

「レミリアさんや妹から君の話は聞いています」

 

レオの発言に黒刀は『妹』という単語がフランを指しているのかと思ったが他人の妹をただ『妹』と指すのは違和感がある。

黒刀の疑問を解消するように前に出てきたのは金髪ツインテール碧眼の美少女。

 

「お久しぶりですわね!わたくしはレオお兄様の妹、マリー・アルハートです…」

 

「どこかで会いました?」

 

黒刀はマリーの自己紹介を遮った。

 

「なっ!あなた!まさかこのわたくしのことを忘れた訳では…」

 

「フッ、冗談だ。7年前の紅茶大会以来だな。マリー・アルハート」

 

「あなた!このわたくしをからかうとは良い度胸ですわね!っていうか人の話は最後まで聞きなさ」

 

マリーが声を荒げたその時、彼女の肩にぶつかりながら黒刀に飛び掛かった者がいた。

 

「久しぶりデス!クロト!」

 

黒刀に抱きついたというより顔を抱きしめたのはリーナだった。

黒刀の顔が彼女の豊満な胸に埋まる。

 

「「「はあ⁉」」」

 

映姫、早苗、真冬がびっくりして困惑する。

 

「ふぇ…ふぇめぇ…ふぃーな!ふぁなしやがれ!(て…てめぇ…リーナ!離しやがれ!)」

 

「OH!くすぐったいデス!」

 

リーナは離すどころかさらに強く抱きしめる。

黒刀の右手が天を仰ぎ、やがて力なく下げられた。

 

チーン。

 

「ストップ、ストップ!先輩が死んじゃう!」

 

妖夢が介入する。

 

「OH!SORRY!」

 

リーナがようやく黒刀を解放する。

 

「う…ぷはぁ~!死ぬかと思った!」

 

黒刀の無事に妖夢は胸を撫で下ろす。

 

「ちょっとセンパイ!何なのですかこの女は!まさかセンパイの恋人ですか!」

 

早苗が黒刀に詰め寄る。

 

「NONO!ワタシの名前はリーナ・シリウス。クロトのGirlFriendではなくただのFriendデス!」

 

リーナが否定と同時に自己紹介する。

 

「ヨーロッパにいた頃の友達だ」

 

黒刀は右手で頭を抱えながら説明した。

マリーの背後で俯き一言も発していないレミリアの肩がピクッと震えた。

 

「だとしても公衆の面前で不健全です!黒刀も!リーナも!」

 

フリーズから立ち直った映姫が黒刀を睨みつけた後、リーナを指差して言い放つ。

リーナは首を傾げて黒刀の顔を見てから…

 

「もしかしてエイキの子供デスカ?」

 

とんでもない爆弾発言を投下した。

 

『なっ!』

 

場の空気が一瞬で凍った。

 

「ち、違います!リーナ、私です!四季映姫です!よく思い出してください!」

 

映姫が慌てて名乗る。

リーナはハッと思い出したような顔をする。

 

「エイキ!久しぶりデス!ちっちゃくてよく分からなかったデス!」

 

リーナは全く悪びれず映姫に対しての禁句をサラッと口にした。

場の空気がさらに冷気を増した。

映姫の肩がカタカタと震える。

 

「だ、誰が…小さいですって……これでも成長しているんです…私は決してロリじゃない!

 

「姫姉、誰もそんなこと言ってないんだけど…」

 

黒刀が怯えながら声をかける。

 

「キッ!」

 

映姫が黒刀を睨む。

 

「イッ!」

 

黒刀はびびって声を上げる。

 

「アハハ!今のでよく分かったデス。クロトとエイキで間違いないデス♪」

 

リーナが笑う。

それを見た映姫はため息を吐くと何とか自分を落ち着かせた。

だが、黒刀の心中は穏やかではなかった。

 

「(姫姉も怖かったけど…後ろの早苗と真冬の視線も気になるし…何より一言も喋ってねぇレミリアが一番怖い)」

 

その時、早苗がリーナの前に立つ。

 

「センパイの恋人でないことは分かりました。しかし!センパイに抱きついたことは納得出来ません!センパイに抱きついていいのは私とルーミアちゃんだけです!」

 

「ルーミアちゃん?」

 

リーナが可愛らしく首を傾げる。

 

「私がルーミアなのだ~!」

 

ルーミアが元気良く挙手。

リーナは両手をパンッと合わせる。

 

「なるほど!この子がクロトとエイキの子供デスカ!」

 

そして、またもや爆弾発言を投下。

 

「「違う違う!!」」

 

黒刀と映姫は慌てて手をブンブンと振って否定する。

 

「違うデスカ?」

 

「妹だ」

 

「そうです!第一、私と黒刀は姉弟です!子供とか結婚とかあり得ません!」

 

「それもそうデスネ。よろしくルーミアちゃん♪」

 

リーナはルーミアの目線に合わせて屈むと笑顔で挨拶。

 

「うん。よろしく♪」

 

ルーミアも笑顔で応えた。

 

「ん~VeryCuteデス!」

 

リーナはルーミアを抱きしめた。

ルーミアの顔がリーナの胸に埋まる。

ルーミアが苦しそうに両手をバタバタとさせる。

 

「やめい」

 

黒刀がリーナの脳天を手刀で小突く。

 

「アウッ!」

 

リーナが可愛い声を上げてルーミアを解放する。

 

「とにかく私はあなたには負けません!」

 

早苗が立ち上がったリーナに詰め寄る。

ただ近すぎて早苗とリーナの胸が重なり合う。

 

「………ハッ!」

 

早苗は数秒黙っていたが何かに気づいたのか四つん這いになって項垂れる。

 

「ま、負けた…」

 

「何やってんだよお前…」

 

黒刀が呆れる。

するとマリーもため息を吐いて髪をかき上げる。

 

「何か興が削がれましたわ。気を取り直して…さあ、四季黒刀!紅茶大会のリベンジです!わたくしと勝負しなさい!」

 

マリーがビシッと黒刀を指差す。

 

「俺、もう紅茶淹れてないから無理」

 

黒刀は即、断った。

その答えにマリーはショックを受けて固まる。

 

「アハハ!マリー、ドンマイデス!」

 

リーナが自分なりに励ます。

 

「わたくしの7年は一体…」

 

項垂れるマリー。

 

「ならば今度わたくしがあなたに最高の紅茶を振る舞って美味しいと言わせてみせますわ!」

 

急に元気を取り戻すマリー。

 

『(あ、意外と良い人だ)』

 

その場の全員がそう思った。

 

 

 

 

 

 

「さて、思わぬハプニングが続いてしまったが…どうやら君とゆっくり話す時間は取れないようだね。黒刀君」

 

リーナとマリーの一件が済んでからレオが黒刀に話しかける。

 

「前夜祭はまだ始まったばかりだ。話す時間はたっぷりあると思うが?」

 

黒刀の言葉にレオは肩をすくめる。

 

「残念ながら君は人気者らしくてね。皆、君と話したくて見ている」

 

レオの言葉に黒刀は周囲に注意を向ける。

何人かがこちらを見ている。

確かに先程の騒ぎは注目を集めても仕方のないものであるがそれにしては卑しい視線を感じる。

まるで実力を値踏みするかのように。

 

「あまり気分の良いものではないな」

 

「僕も同感だ」

 

レオの口元が綻ぶ。

 

「いっそのこともっと注目されるかい?」

 

「それは…」

 

黒刀はこの後の展開を予測した。

 

「黒刀君、僕とここで決闘してくれないか?」

 

レオの提案に周囲が一気にざわめく。

 

「お兄様!いくら何でもそれは…」

 

さすがのマリーも止めに入ろうとする。

 

「僕は君と闘いたい」

 

レオは黒刀の目を正面から見据える。

だが、黒刀は無言。

 

「やはり受けてはくれないか」

 

レオはまた肩をすくめる。

 

「レオ、クロトは剣術が下手なので闘ってもクロトが負けると思いマス」

 

その時、レオの隣に立つリーナが真顔で言った。

 

「そんなことありません!先輩の剣術はカッコよくてとても強いです!」

 

妖夢が反論する。

 

「でもクロトはワタシより弱いデス」

 

リーナは無邪気な笑顔で返した。

 

「そんな筈ありません!そうですよね?先輩!」

 

妖夢は黒刀に答えを求める。

だが、黒刀の答えは意外なものだった。

 

「…いや、今はどうだか知らねぇが俺がスウェーデンに住んでた頃はこいつに一度も勝てなかった」

 

黒刀の答えに妖夢は目を見開いてリーナに視線を移す。

妖夢はの幼少時代の黒刀の実力を正確に把握していないが改めて彼女を見てもとても黒刀に勝る実力を持っていたとは思えない。

リーナはというと妖夢の視線に気づいて笑顔を見せている。

 

「(っていうかリーナの奴、天然で毒舌なところ変わってないな。本人に悪意無いからタチ悪いんだよな)」

 

黒刀はリーナの性格が以前と変わっていないことを再確認した。

 

「黒刀君、彼女は?」

 

レオは妖夢が何者か黒刀に訊いた。

黒刀は口の端を緩ませて妖夢の頭にポンと手を置いた。

 

「こいつの名前は魂魄妖夢。いずれ俺を超える剣士になる奴だ」

 

それを聞いたレオは僅かに眉を顰める。

 

「ほう」

 

「先輩…///」

 

妖夢は照れたのか頬を赤く染めて頭に手を置かれたまま黒刀を見上げる。

黒刀の視線はレオに固定されている。

 

「現最強剣士と言ってもいい君がそこまで言う程かい?」

 

「まあな。あと現最強剣士って言うのも違うな。俺より強い剣士はそうだな…3人はいると思うぞ」

 

黒刀はそう答えるが、それは裏を返せば自分より強い剣士は3人しかいないと言っていることになる。

黒刀は妖夢の頭から手を離す。

 

「…君がそこまで言う程の剣士か…」

 

レオは妖夢の目の前に歩み寄ってこう口にした。

 

「黒刀君が認める君に興味が沸いた。興味が湧いた。どうかな?僕とここで決闘するというのは」

 

その言葉に周囲がざわめく。

 

「真剣でやるのか?大会中は禁止ですよ」

 

アレックスが口を挟む。

 

「問題無い。セバスチャン」

 

レオが呼ぶと、彼の背後にスッと初老の執事が現れた。

 

「(い、いつの間に…。全く気配を感じなかった)」

 

妖夢は内心で驚く。

 

「どうだ?」

 

「はい。既に決闘の許可は得ております」

 

「分かった。下がっていい。…ということだ。これでいいかな?」

 

セバスチャンは既に消えていた。

妖夢はレオの目を正面から見据える。

 

「受けて立ちます!」

 

「妖夢!あなた何を…」

 

「師匠、やらせてください。先輩に期待に応える為…私自身のプライドの為にもここは引く訳にはいかないです!」

 

妖夢は映姫に想いをぶつけた。

映姫はそんな妖夢に反論する訳にもいかず諦めたように息を吐く。

 

「分かりました。好きにしなさい。原因を作ったこの愚弟は後で私がシメておきます!」

 

映姫は後ずさりしようとする黒刀の腕を掴む。

 

「って何で俺?」

 

とぼける黒刀に映姫は静かに睨み、目をギラリと光らせる。

 

「いえ。何でもないです…」

 

黒刀は観念して抵抗をやめる。

 

レオは周囲を見渡してパーティー会場の隅に開けたスペースがあることを確認する。

 

「よし。あっちでやろう」

 

先導するレオに妖夢達はついていく。

 

「(そういえばフランがいないな…)」

 

移動中に黒刀は周囲を見渡すと、50m左でフランが魔理沙達と一緒にこちらと同じ方向に移動していた。

楽しそうに魔理沙達と談笑しているフランを黒刀は微笑ましそうに見る。

その時、近くから殺気を感じた。

咄嗟に顔の向きを正面に向き直してフランから意識を外した。

黒刀は今の殺気が無言状態を貫いているレミリアから放たれたものだと分かった。

 

「(私との決着が控えているっていうのに意識を逸らすなんて許さないわ)」

 

『未来王』はご立腹だった。

 

 

 

 

 

 決闘する為のスペースに到着したレオと妖夢は10m距離を空けて向かい合う。

レオは空間ウインドウを操作して決闘申請のメッセージを妖夢に送信する。

メッセージを受信した妖夢は『了承』を押す。

 

《デュエルフィールド展開》

 

2人を囲うように1辺30mの立方体のデュエルフィールドが展開される。

妖夢はドレスからデュエルジャケットに装備が変わり、2本の剣を抜いて構える。

対してレオは左腰に納刀してある包帯で鞘ごとグルグルに巻いてある剣ではなく汎用型SDを取り出して起動した。

 

「?…そちらの剣は…」

 

妖夢の問いに対して、レオは左腰に納刀してある剣の鞘…正確にはその上の包帯を左手で撫でる。

 

「ん…ああ。悪いけどこっちは使()()()()

 

妖夢はそれを聞いてその真意に気づいた。

レオは使()()()()ではなく使()()()()と言った。

その剣を使うまでもないという意味…つまり舐められている。

以前、黒刀がチルノに対して『八咫烏』ではなく汎用型SDを右手で使ったことはあった。

だが、あれは『ガードブレイク』など技を隠す為にやっていた。

しかし、レオから何かを隠していることは分かっていてもそれを使うまでもないという意思が伝わってくる。

負けられない。妖夢は改めて気合を入れる。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

妖夢は開始と同時に地面を蹴った。

 

「(正面?いや…)」

 

レオの正面から妖夢が消えた。

レオは左足を軸に全身を右回転させて、クロスステップでレオの背後に回り込み2本の剣を振り下ろす妖夢の剣撃をSDを横に倒して受け止めた。

レオは妖夢の剣を振り払う。

押し返された妖夢はバックステップで距離を取る。

 

「もう一度!」

 

妖夢は地面を蹴ると同時にクロスステップでレオの右側に回り込み中段斬り。

レオはそれを軽く振り払う。

押し返された妖夢は着地後、すぐにクロスステップを連続で繰り出してレオの左右と背後から攻撃を仕掛ける。

だが、レオはことごとくそれを振り払って防御。

そこで決闘を観戦していた大妖精が気づく。

 

「あれってまるで『破壊王の鎧』と『集中』を発動している時の黒刀先輩の戦闘スタイルに似てませんか?」

 

「え…う~ん…あ、ほんとだ!軸足が全然動いてない!」

 

大妖精の言葉にチルノが気づく。

 

「っていうことはあの人の戦闘スタイルは黒刀先輩のコピー?」

 

霊夢が言った。

 

「だったら妖夢も何かしら対策を用意してるだろ」

 

魔理沙が安心する。

 

「フッフッフ!それが違うんだな~!」

 

フランが口を挟む。

 

「何その気持ち悪い笑い方」

 

霊夢が毒舌を吐く。

 

「ちょ、ひど~い!…え~とね。レオさんの戦闘スタイルはお義兄様とは全然違うんだよ!」

 

「どこが?」

 

「それは見てれば分かるよ」

 

フランの言葉の先が気になるが魔理沙達は妖夢とレオの闘いに視線を戻す。

 

妖夢の多方面からの連続攻撃は全て防がれた。

 

「それだけかい?」

 

レオが一言。

 

「!」

 

妖夢は腰を落として2本の剣をぶら下げた状態で地面を蹴って正面から攻撃を仕掛ける。

 

「来るか!」

 

レオは構え直す。

妖夢はまず右手の『楼観剣』を下段から斬り上げる。

レオはそれに合わせるようにSDを左に振って弾く。

弾かれた妖夢はすぐに左手の『白楼剣』で袈裟斬り。

レオはSDを右に振って弾く。

弾かれた後も読むは韓国代表のユンスク戦のように高速連続攻撃を仕掛ける。

レオはそれをことごとく弾いた。

彼の軸足をいまだに動いていない。

レオは右手のSDをぶら下げる。

 

「…この程度か。黒刀君が認める剣士がどれ程のものかと思えば…とんだ期待外れだね」

 

「っ!この!」

 

妖夢は頭に血が上って前方へダッシュ。

左手の『白楼剣』を受けの体勢に構える。

『空観剣 六根清浄斬 改』の構えだ。

 

「(これで決める!)」

 

妖夢の読み通りレオのSDの刃が『白楼剣』の腹に迫る。

SDの刃が『白楼剣』の腹にぶつかる。

 

「今だ!空観剣 六根清浄…っ!」

 

妖夢が剣撃を受け流そうとしたその時。

その体に異変が起きた。

 

「(体が…動かない⁉)」

 

妖夢の全身は痺れて動作を停止させていた。

それは1秒の出来事。

だが、剣士にとってその1秒は………重い。

 

「終わりだよ」

 

レオは妖夢は2本の剣を2撃で両方弾き飛ばした。

弾き飛ばされた2本の剣が地面に突き刺さる。

レオは武器を失った妖夢の首元に剣先を突きつける。

妖夢は歯噛みする。

そして…

 

「ま、参りました…」

 

妖夢は敗北を宣言した。

 

《勝者 レオ・アルハート》

 

決闘が終わっても周囲は静まり返っていた。

 

「何…今の?」

 

真冬の問いに答えたのは黒刀だった。

 

「『ソードスタン』だ」

 

「何ですかそれ?」

 

早苗が訊く。

 

「相手の剣の中心部分と自分の剣の中心部分を同じ力でぶつけることによって相手を1秒間硬直状態にする()()だ」

 

「げ、現象?剣技じゃなくて?」

 

真冬が訊く。

 

「誤差1㎜でもずれると『ソードスタン』は発生しない。鍔迫り合い状態で偶然発生することはあってもそれを剣技として使用一流の剣士でも至難の業だ」

 

「でも彼は違う」

 

映姫が口を挟んだ。

 

 

 

 

 

 

「違うって何が違うんだよ!」

 

魔理沙がフランに問う。

 

「レオさんは『ソードスタン』を狙ってやっているの。つまり剣技として使用することが出来るってこと♪」

 

フランが得意気に答える。

その答えに魔理沙達は驚愕する。

 

「剣士にとって1秒の硬直状態は致命的…つまりレオ・アルハートは」

 

大妖精に顎に手を当てて考える。

そして、ある結論に辿り着いた。

それは映姫も同じだった。

 

「「彼は剣士にとって最大の天敵!!」」

 

 

 

 

 

 妖夢は地面に膝をついて四つん這いになる。

レオはそんな彼女にこう言った。

 

「これが現実だよ。君は僕に絶対に勝てない」

 

「くっ!」

 

妖夢は歯を食いしばる。

レオはSDを懐にしまって妖夢の横を通り過ぎる際、こう口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君では黒刀君を越えられない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉は妖夢に強烈なショックを与えた。

悔しさのあまり地面の雑草を握り潰してしまう。

 

「「「「妖夢!」」」」

 

 

妖夢の元に霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精が駆け寄って来る。

妖夢の肩がビクッと震える。

あれだけ大口を叩いたのにこんな無様な負け方をしたのだからきっと責められるだろうと思った。

しかし、彼女達の取った行動は違った。

 

「妖夢、大丈夫か!」

 

魔理沙が妖夢の肩に手を置く。

 

「怪我してない?」

 

霊夢が中腰で声をかける。

 

「治癒魔法をかけるね」

 

大妖精が治癒魔法をかける。

 

「妖夢、剣拾ってきたぞ」

 

チルノが地面に突き刺さっていた『楼観剣』と『白楼剣』を妖夢の元に持って来てくれた。

 

「皆…ごめん」

 

妖夢は項垂れて一言。

 

「妖夢が謝ることないだろ」

 

魔理沙が返す。

 

「だって…私、負けた…」

 

「次勝てばいいじゃない」

 

霊夢が真顔で返す。

 

「そうだよ。妖夢はこんなことで諦めるなんてない…そうでしょ?」

 

大妖精が治癒魔法をかけながら言った。

 

「皆…」

 

妖夢は項垂れたまま涙が出そうになったがここは堪える。

今は周囲に人が多いし何より他国の代表もいる。

こんなところで涙は見せられない。

妖夢は立ち上がってチルノから『楼観剣』と『白楼剣』を受け取る。

 

「ありがとう。ごめん。私、今日は帰るね」

 

妖夢は力ない笑顔でそう言った。

 

「私達も一緒に行くぜ」

 

「魔理沙…」

 

「友達だからな!」

 

「ありがとう…」

 

妖夢は剣を納刀すると歩き出す。

行きに乗ったバスは他のメンバーも使うので自分達だけで使うことは出来ない。

なので徒歩で帰ることにした。

人垣から出てきた妖夢達ににとりが駆け寄る。

 

「帰るならタクシーで…」

 

「すみません。大丈夫です。少し頭を冷やしたいので…」

 

妖夢はにとりの提案を断る。

 

「そうか。だがお前達だけで行動させる訳にはいかないから諏訪子さんについてもらう。いいな?」

 

「はい…」

 

返事する妖夢にやはり元気はない。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後7時30分。

 

「ねえ、黒刀君。妖夢に何か言った方がいいんじゃない」

 

真冬が黒刀に声をかける。

 

「大丈夫だ。あいつは強い。…俺とは違って」

 

黒刀がそう言うと真冬はそれ以上何も言えなかった。

その言葉の重みを知っているから。

そんな話をしているとレオがこちらに近づいてきて黒刀の横を通り過ぎる際、こう言った。

 

「君が僕が倒す」

 

それだけ言ってレオは去った。

彼もホテルに戻るようだ。

黒刀はレオの言葉に対して何も言わなかった。

レオに続いてマリーがこちらに淑女のように一礼をしてレオについていく。

 

「それじゃまたデス!チュッ」

 

リーナは黒刀に近づくとその頬にキスをした。

 

「「「なっ!」」」

 

映姫、真冬、早苗が一斉に驚いた。

 

「SeeYou♪」

 

リーナは黒刀から離れると手を振った後、マリーの後についていった。

 

「黒刀君、やっぱり…」

 

「センパイ、やっぱり…」

 

真冬と早苗がジト目で黒刀を見つめる。

 

「ただの挨拶だ!」

 

黒刀は必死に否定する。

 

「「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」」

 

しかし、2人はまだ疑っている。

その時。

 

「黒刀」

 

映姫の声。

 

「姫姉、こいつらに誤解を解くのを手伝って…」

 

「帰ったらお説教です♪」

 

そう笑う映姫の目は笑っていなかった。

 

「お義兄様♪」

 

その時、フランがこちらに駆け寄ってきて黒刀に抱きつこうとする。

だが、真冬と早苗がバッと黒刀の前に両手を広げて立ち塞がった。

 

「おおおお…何かお義兄様のガードが堅くなっているよ」

 

思わずフランはのけ反りわざとらしいリアクションを取る。

 

「やめろ」

 

黒刀は2人の脳天にチョップ。

 

「「あ、痛っ!」」

 

2人は痛みで声を上げる。

黒刀は2人をどけてフランの前に立つ。

 

「久しぶり。フラン」

 

「うん♪」

 

フランは笑顔で応えた。

 

「大会で当たったら遊ぼうな」

 

「うん♪」

 

黒刀の言葉を聞いたフランはパアッととびっきりの笑顔で応えた。

そして、フランは咲夜と共にリーナの後をついていく。

その後をついていこうとレミリアが一歩踏み出したその時。

 

「レミリア」

 

黒刀が呼び止めた。

レミリアは振り返り、黒刀の目を見つめる。

黒刀も見つめ返す。

2人は一言も発さない。

10秒程そうしてからレミリアが踵を返して去ってしまった。

 

「何も話さないの?」

 

真冬が黒刀に問う。

 

「必要無い。今のあいつと俺は言葉じゃなくこれで語り合える」

 

黒刀は『八咫烏』の柄を撫でる。

 

「(もうすぐ…あの日の続きが出来る)」




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ご感想お待ちしております。


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運命の人

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 ニューヨーク時間午後7時40分。

 

「チャーリー、俺達もホテルに戻るぞ」

 

「待ってくれアレックス!まだ俺の運命の人を見つけていない!」

 

チャーリーが周囲を見渡していると目に留まったのは桃色の髪に眼鏡をかけた少女。

その少女を見つけた瞬間、チャーリーは猛ダッシュで近づいた。

 

「そこの麗しきお嬢さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

ジャンプして空中縦三回転からの着地後、その少女の目の前で片膝立ちで右手を差し出してこう口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の花嫁になって下さい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロポーズされたのは………七瀬愛美だった。

愛美は一瞬、何を言われたのか分からずフリーズした。

 

「はあ⁉」

 

徐々に状況を理解した愛美は顔を真っ赤に染めて大声を上げた。

 

「一目見た時からあなたに惚れました!」

 

「あ、あなた何を言っているのか分かっているの?冗談でも言っていいことと悪いことがあるわよ!」

 

「冗談なんかじゃない!俺はあなたのことが好きになったんだ!」

 

チャーリーはドストレートに言い放った。

愛美はかつてこれ程、直球に気持ちをぶつけてくる男を見たことが無かった為、困惑した。

今まで声をかけてきた男はほとんど『魅了』によって惑わされた男ばかりだった。

しかし、今の愛美は『魅了』防止の眼鏡をかけている。

この状態では『魅了』が発動することは無い。

つまり、チャーリー・ベルモットは七瀬愛美に本気で惚れたのだ。

 

「あなた、私の名前は知っているの?」

 

「いえ。知りません!」

 

「そう。私の名前は七瀬愛美よ…」

 

愛美はビビりながら名乗った。

 

「俺はチャーリー・ベルモットです!歳は17歳です!愛美さんですか…いい響きだ」

 

「あの…私16だからさん付けは結構よ。というか私が何者か知らずに声をかけてきたの?」

 

「はい!」

 

チャーリーは間髪入れず答えた。

愛美は呆れを通り越して驚いていた。

 

「(仕方ない。この手は使いたくなかったんだけど…)」

 

愛美はこういうナンパ紛いの行為の対策を用意している。

愛美は右手で伊達メガネを外した。

その瞳の美しさは男を惑わす。

 

「私の目を見て」

 

愛美の言葉にチャーリーは何の疑いもなく従った。

 

「私から離れて」

 

『魅了』には異性を惚れさせる効果とは別に相手を従わせる催眠効果も存在する。

 

「(これでこの男はもう私に近づけない)」

 

愛美はそう確信した。

だが、それは次の瞬間に打ち砕かれる。

 

「それは出来ない」

 

「え?」

 

チャーリーが口にした言葉を愛美は一瞬、理解出来なかった。

チャーリーは愛美に近づいて彼女の右手を両手で包み込むように握って顔を近づける。

 

「俺は君のその美しい瞳を見てますます好きになった」

 

チャーリーと愛美の顔の距離は僅か5㎝しかない。

あと少しでキスしてしまう距離だ。

 

「(どういうこと?『魅了』が効かない。前に黒刀にやった時も通じなかったけどあの時は状況が違う。この人は本気で私のことを………)っていうか顔近い!///」

 

「おっと失礼!」

 

チャーリーが顔を離すが手は握ったまま。

先程から愛美の心臓はドキドキしている。

だが、愛美は気づいた。

彼が握っている自分の右手。

今は指ぬきグローブを着けているがその下には呪われし『魔女の手』がある。

こんな汚れた手を彼は握っている。

彼が自分の正体を知ってしまったらきっと恐れ忌み嫌うだろう。

彼女は自分が傷つくことより彼を傷つけてしまう可能性を恐れた。

だから…

 

「何度でも言おう!俺は君が好きだ!俺の花嫁になって下さい!」

 

チャーリーの告白に対して彼女はこう返した。

 

無理です!

 

チャーリーの体が疑似石化した。

愛美はチャーリーから手を離して早足でその場を去った。

 

バスに戻ると左胸に右手を当てて必死に動悸を抑えようとする。

 

「はあ…はあ…はあ…これでいいのよ。これできっとあの人は諦めてくれる。『魔女』に呪われた私に誰かを好きになる権利も好きになってもらう資格も無いんだから」

 

そう口に出しても彼女の脳裏にはチャーリーの顔と真っ直ぐな想いが込められた言葉がちらついて離れない。

首を左右に振って忘れようとする。

 

「忘れろ!忘れろ!忘れろ!」

 

必死にチャーリー・ベルモットという男を忘れようとする。

しかし、脳裏から彼の存在は消えない。

落ち着く為、一度息を吐いて伊達メガネをかける。

 

「もう寝よう」

 

バスの席に腰掛けて目を閉じる。

今はとてもパーティー会場に戻る気がしない。

数分後、彼女は眠った。

 

 

 

 

 

 一方。

チャーリーはまだ疑似石化状態だった。

アレックスが歩み寄って肩をポンポンと叩く。

 

「まあ…そう気を落とすな。次があるさ」

 

その言葉でチャーリーの疑似石化状態が解けた。

 

「いや!俺はまだ諦めない!絶対に彼女を振り向かせて見せる!男が惚れた女を簡単に諦めるなんてしたくない!」

 

チャーリーはすっかり元気を取り戻した。

 

「そ、そうか。まあ…頑張れ」

 

とりあえず応援しておくアレックス。

 

「おう!任せておけ!」

 

サムズアップするチャーリーだった。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後8時 日本代表宿泊ホテル。

妖夢は自室のユニットバスでシャワーを浴びながら壁に右手をついていた。

頭に浮かぶのは圧倒的な敗北という事実とレオの言葉。

 

『君では黒刀君を超えられない』

 

その一言が心にいつまでも突き刺さっていた。

 

「そんなことない。諦めず…いつかはきっと…きっと…」

 

自分に言い聞かせるが次第に自信が無くなっていることが声から感じ取れる。

最近では急成長していく黒刀にどんどん離されている気さえしている。

 

「先輩…私はどうしたら…」

 

妖夢はそこまで口にしてかぶりを振った。

 

「ダメ…こんなことでいちいち先輩を頼っているようではいつまでたっても強くなれない…」

 

妖夢は両頬を両手でパンと叩いて気合を入れ直した。

 

「私は…諦めない!」

 

シャワーから上がってパジャマに着替えてベッドへ戻ると霊夢と魔理沙がベッドに腰掛けて待っていた。

 

「頭は冷えたようだな」

 

「元気が戻って良かったわ」

 

「うん。2人共心配かけてごめん。もう大丈夫だから」

 

ニューヨーク時間午後9時になって3人は眠った。

1時間後に他のメンバーも全員ホテルに戻るなり疲れ切ったのか就寝についた。

こうしてWDC本選の長い前夜祭が終わった。

 

 

 

 

 

 9月23日 ニューヨーク時間午前7時。

黒刀が朝練からホテルに戻って来るとエントランスに見知った者達がいた。

その中の2人が黒刀を見つけるなり走ってきた。

 

「「黒刀~!」」

 

胸にダイブしてきた2人を黒刀は受け止める。

 

「さとり…お空…。お前ら何でここに?」

 

「皆の応援に来たの♪」

 

お空が黒刀の顔を見上げて笑顔で答えた。

 

「さとりもか?」

 

「うん…」

 

さとりは黒刀の胸に顔をうずめたまま頷く。

 

黒刀は少し離れた場所に八雲藍、犬走椛の姿を確認した。

 

「なるほど。教頭が連れてきてくれたのか」

 

「うん。藍先生、とっても優しい…」

 

「教頭は生徒思いだからな…」

 

黒刀がさとりの頭を撫でていると椛が近づいてきた。

椛はさとりの頭を撫でている黒刀を冷たい目で観察した。

 

「お前も撫でて欲しいのか?」

 

黒刀が先手を打つ。

 

「そ、そんな訳無いでしょ!」

 

椛は即座に否定した。

 

「(動揺し過ぎだろ)」

 

黒刀は心の中で楽しんでいる。

 

「黒刀!黒刀!私も私も!」

 

お空がおねだりしてくる。

 

「おう!よしよ~し!」

 

黒刀がさとりの頭を左手で、お空の頭を右手で撫で回していると、

 

「朝っぱらから何してんですか!この愚弟!」

 

映姫の怒号とドロップキックが黒刀の顔に飛んできた。

 

「ドゴッ!」

 

黒刀は数m後方へ吹っ飛ばされた。

ちなみにさとりとお空は直前で避難していた。

映姫はハアハアと息を荒くしている。

 

「今日は大事なエジプト戦だというのに何故あなたはこんなところで女の子とイチャついてるのですか!」

 

映姫は激怒していた。

黒刀はバッと跳ね起きる。

 

「別にイチャついてないって!ただ久しぶりの再会だからちょっとしたスキンシップを…」

 

黒刀がそこまで口にしたところで映姫が影で剣を造形して振り下ろした。

黒刀はそれを白羽取りで受け止める。

 

「何がスキンシップですか!昔も今もいろんなところで女の子に手を出してるなんて節操が無さすぎです!」

 

映姫が怒気を込めた声で言い放った。

そこで黒刀は気づく。

映姫が怒っている理由。

それは昨日の前夜祭でマリー・アルハートやリーナ・シリウスなどの美少女と知り合っていたという事実である。

 

「リーナは私も知り合いなのでまだ許せます。しかし!マリー・アルハートを誑かしていたことやフランちゃんにいやらしい視線を送っていたことは許せません!そして今も!」

 

映姫は怒りは増すばかりだった。

 

「いやいや!リーナの抱きつき癖は昔からだし!マリー・アルハートは紅茶大会で1回あっただけだし!フランはほら…剣舞祭のことがあるから心配で!さとりとお空は………兄妹同然ってことで?」

 

黒刀は最後に苦笑い。

 

「そんな言い訳で…納得出来るか!」

 

映姫がさらに押し込む。

その時。

 

「はいはい。2人とも姉弟喧嘩はその辺にして下さい」

 

藍が止めに入ると映姫は冷静さを取り戻したのか影の剣を消して身を引いた。

黒刀はホッと安堵の息を吐く。

 

「教頭先生、取り戻してすみませんでした」

 

映姫が藍に頭を下げる。

 

「いえ。喧嘩する程の元気があるなら今日の試合は問題なく勝てるでしょう」

 

「はい!必ず勝利します!」

 

映姫が強い決意を口にする。

 

「当然だ。俺は約束を果たす為にここに来た。誰が相手だろうが叩き潰す」

 

「黒刀、まずは目の前の相手のことを考えなさい」

 

映姫は黒刀がレミリアのことを考えていると読んで口を挟む。

 

「ああ。分かってる。と言っても俺が出るのはシングルス1ってミーティングで決まったから出る可能性は低いけどな」

 

「だからといって気を緩ませていい理由にはなりませんからね」

 

映姫が釘を刺す。

 

「ああ。それも分かってるよ」

 

黒刀は真剣な顔でそう返した。

 

「では私達は会場に行きます」

 

藍が口を開く。

 

「黒刀…頑張って」

 

「2人共、頑張って下さい!」

 

さとりが黒刀にエールを送って、お空が元気良く手を振ってホテルから出た。

 

「負けるんじゃないわよ!」

 

椛が黒刀の前に立って拳を突き出す。

 

「フッ、誰に言ってんだよ!」

 

黒刀も拳を突き出してグータッチを交わす。

それから椛も会場に向かった。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前9時。

WDC本選開会式1時間前の会場の観客席は既にほぼ満員状態だった。

 

「凄い人…」

 

最前列に座っているさとりが呟く。

 

「それはもちろん世界中の人が注目している大会ですから。特に本選の試合は予選に比べて選手もハイレベルなのでその分、盛り上がりも増しています。」

 

さとりの右側に座っている藍が説明する。

 

「確かに…前回優勝のイギリス、ベスト4のロシアとアメリカ。本選に勝ち上がってきた国はどこも強豪になるのは当たり前と言えば当たり前」

 

さとりの左側に座っている椛が冷静な口調で補足する。

 

「でもでも…黒刀達もとっても強いです!負ける筈が無いです!」

 

椛の左側に座っているお空が反論する。

 

「別に信じてない訳じゃないわ。ただ相手もそう簡単に勝たせてくれる程、弱くないってことを言いたいだけよ」

 

椛がフォローを付け加える。

 

「なるほど~ところで椛先輩はそんな詳しいのに何で代表に選ばれなかったの?」

 

お空は椛が気にしていることをサラッと聞いた。

椛は項垂れて落ち込む。

 

「仕方ないじゃない…私の剣舞祭の戦績は芳しくない…選ばれない理由なんて私は一番分かってますよ…」

 

椛は何かブツブツ呟いている。

 

椛の剣舞祭の戦績は去年の団体戦は本選2回戦敗退、個人戦は予選落ち、今年は団体戦と個人戦ともに予選落ち。

客観的に見れば代表に選ばれないのも理解は出来る。

しかし、それで納得出来る程、椛は穏やかな性格ではない。

 

「あ、でも椛先輩が強い人ってことは皆知ってますよ!」

 

椛のネガティブ発言を聞いたお空が慌ててフォローを入れる。

 

「…よりにもよって後輩にフォローされるなんて…最悪…」

 

だが、椛の傷口をさらに広げてしまう。

お空はなんて言葉をかけたらいいか分からず困ってしまった。

すると、椛は急に立ち上がる。

 

「ちくしょ~!あいつら、負けたら承知しないんだからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

幸いにも観客の盛り上がりが激しかった為、椛の叫びに反応する者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

「何か悪寒が…」

 

開会式の入場待ちのゲート前で待機している日本代表。

その中の黒刀がブルッと体を震わせて呟いた。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「ああ。大丈夫だ。何か…怨念みたいなものを感じたけど…多分、気のせいだ…多分」

 

「(自信ないんですね…)」

 

妖夢は苦笑い。

 

そんな会話をしているとフィールドから入場開始を知らせるファンファーレが鳴り響いた。

先頭に立って『日本代表』と書かれたプラカードを持っている女性スタッフの横でにとりが黒刀達の方を向いた。

 

「よし!お前ら、行ってこい!」

 

その言葉が皆の背中を押した。

全員が頷いて、プラカード係の女性スタッフ先導のもと、にとりの横を通り過ぎて入場していく。

その瞬間、会場から震度3の地震でも起きそうな程の大きな歓声が沸き上がる。

 

反対側のゲートからはイギリス代表が入場してきた。

レオはこちらに笑みを浮かべた後で正面に向き直り、マリーはあからさまに目を逸らし、リーナとフランとチャーリーは観客席に向かって元気良く手を振り、アレックスとレミリアはただ静かに歩いている。

 

日本代表とイギリス代表が整列し、続いて入場してきたのはエジプト代表とロシア代表。

エジプト代表はアヌビスを筆頭に身長2mのヤハラ、黒髪ショートで褐色の肌を持ち150㎝という低身長で女子のような童顔的な見た目をしているストゥム・ルー。

ストゥムが入場してきた瞬間にはその見た目に観客席の女性陣から声援が飛び交う。

残りのメンバーは何故か全員ローブを纏っている。

規定上問題は無いが怪しさを感じさせる雰囲気を持つ。

 

ロシア代表からは雪を操るC級魔法師レティ・ホワイトロック、ボサボサの桜色の髪につり目男のソロモン・シェバ、黒髪黒服男のシモン・マグヌス、茶髪ストレートパーマ女のエレナ・パウロヴナ、黒髪で身長152㎝韓国系ロシア人の女のミラ・リーン、そして銀髪碧眼のA級魔法師ウルヴァリン・イリイチ・レーニン。

 

観客席の最後列に田中健太が腰掛けた。

 

「さて…どうなるかな?」

 

続いて入場してきたのはアメリカ代表。

全員が男性。

黒人スキンヘッド身長175㎝ジョナサン・ブライアン、白人青髪身長180㎝マイケル・ウィリアムズ、黒人スキンヘッド身長170㎝ジェームズ・ショーンズ、白人スキンヘッド身長190㎝マイク・グランツ、白人スキンヘッド身長195㎝ビリー・ザイン、黒人黒髪ロングの細身でシルクハットを被っている身長180㎝コービー・バイスマン、

そして黒人スキンヘッド身長2mボビー・コング。

 

その他の強豪と言える選手達が続々と入場している。

そして、ついにこの場にWDC参加選手全員が整列した。

会場から大きな歓声と拍手がさらに沸き上がる。

開会式の挨拶はディラン・スペンサーの挨拶、ルールの再確認、この後の試合スケジュールの確認など選手にとって退屈な時間が過ぎていく。

彼らとしては今すぐにでも闘いのだ。

この開会式は選手というより観客に向けての行事と考えた方がいいのだろう。




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『野獣』vs『暴食モグラ』!

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 ニューヨーク時間午前9時30分。

選手達にとって退屈な開会式がようやく終わった。

30分後には日本vsエジプトの試合が始まる。

本選の第1試合である上にこの時間は他のチームの試合も大会のスケジュールの都合上無い為、他のチームも観戦する注目の一戦となっている。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

さすがは本選会場というべきか予選の控室より一回り広い。

 

「さて、本選に来て初めての試合だがお前らは気負わずいつも通り自分の闘い方を貫け!それが一番お前達らしい!」

 

喝を入れるにとり。

 

『はい!』

 

それに応える選手一同。

 

「まずは俺が先陣を切ってやるぜ!」

 

シングルス3の六道仁が気合いの一言。

 

「気を付けて下さい。対戦相手のストゥム・ルー、予選のデータが全くありません。恐らく今回初出場初試合の選手です。どんな闘い方をしてくるか…」

 

雪村が仁に声をかける。

 

「心配すんな!どんな相手だろうが俺は俺のやり方で勝つ!それだけだ!」

 

仁は背を向けたままそう言い放って控室を出た。

 

 

 

 

 

 エジプト代表控室。

控室の中心にはどこから持ってきたのかアヌビスが高級ソファに腰掛けている。

両サイドからは控えメンバーが大きな扇子で扇いでいる。

 

「相手がよもやあのような小国とは拍子抜けだな」

 

アヌビスが偉そうに頬杖を突く。

 

「ストゥム、最初はお前だ。行け」

 

アヌビスは傍で美味しそうにパンを頬張っているストゥムに命令する。

呼ばれたストゥムはビクッと体を震わせて慌ててビシッと敬礼する。

 

「ふぁい!いっききまふ!(はい!いってきます!)」

 

コッペパンを咥えたまま応えた。

 

「貴様!アヌビス様に対してその態度は何だ!」

 

ストゥムの態度が気に食わなかったのか黒いローブを纏ったメンバーの1人が怒鳴る。

 

「スクス、下がれ」

 

しかし、アヌビスは静止する。

 

「しかし、アヌビス様!こいつは…」

 

「いいから黙って引っ込んでいろ!」

 

アヌビスは静かに低い声で怒っていた。

 

「も、申し訳ございません…」

 

その威圧感に圧倒されたスクスと呼ばれた男は引き下がる。

アヌビスはストゥムに視線を戻す。

 

「ストゥム、分かっていると思うがエジプト王国に敗北は許されない」

 

アヌビスの言葉にストゥムはコッペパンを咥えたままコクコクと首を縦に振る。

 

「ならば行け」

 

アヌビスが命令するとストゥムはまだ半分残っているコッペパンを一気に飲み込んだ。

 

「はい!必ず勝利をお届けして見せます!」

 

ストゥムは胸の前で両手の拳を握る。

 

「それではいってきます!」

 

最後にそう言って控室を出た。

 

 

 

 

 

 一方。

仁はゲートの通路を歩いている。

 

「(そういやこれが俺のWDCデビュー戦か。初戦は試合の流れに影響してくる。負ける訳にはいかない)」

 

拳を握り締める仁。

ゲートを通り抜けると大きな歓声と拍手が沸き上がる。

剣舞祭で観客の反応に慣れている仁は澄ました顔で歩き進む。

フィールド中央近くで止まる。

対戦相手の姿はいまだ見えない。

 

1分程、待っているとゲートからストゥムが走ってきた。

ただ小柄、童顔である彼の容姿が走っている様子は女子と遜色ない。

可愛らしいその容姿に観客の女性陣は大盛り上がり。

ストゥムが仁の近くまで走ってきたと思ったその時。

何も無いところで躓いて前のめりにこけて倒れた。

 

「ぎゃふっ!」

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「妖夢、お前と同じ奴がいるぞ」

 

黒刀が妖夢の顔を見る。

 

「わ、私こけたことなんて一度もありません!///」

 

妖夢は頬を赤く染めながら必死に否定した。

 

「(どの口が言ってんだ…)」

 

黒刀は呆れた目で妖夢を見て思った。

それから目を閉じて今まで妖夢がこけたシーンを思い出した。

 

「(うん…ドジっ娘確定!)」

 

黒刀は心の中で納得して頷く。

 

「ちょっと先輩!なんか勝手に納得していませんか⁉」

 

妖夢が抗議の声を上げるが黒刀は全く聞いていなかった。

 

 

 

 

 

 ストゥムが立ち上がって仁の10m手前に立つ。

仁がストゥムを見て思ったことはただ1つ。

 

「(なんだこの男らしくねぇ奴は)」

 

「あの…僕、ストゥム・ルーと言います…よろしくお願いします!」

 

ストゥムが直角に頭を下げて名乗った。

 

「…六道仁だ」

 

仁はぶっきらぼうに名乗り返した。

仁はストゥムの女々しい態度と容姿にイライラしていた。

ストゥムが頭を上げて笑顔を浮かべると観客の女性陣から黄色い声援が上がる。

その空気に仁のフラストレーションが溜まっていき、こめかみに青筋を立てる。

だからといってここで大声を張り上げる程、仁は幼稚ではない。

仁は空手家のような構えを取る。

 

「デュエルジャケットセットアップ!」

 

仁が光に包まれた次の瞬間、光がバアッと弾けると全身に空手家のような道着、額に赤いハチマキ、右腕にはナックル型SDが装着されていた。

これが新しく生まれ変わった六道仁である。

対してストゥムは女性のような細い上半身裸で下半身はボロボロの半ズボンのみだった。

 

「おい。さっさとデュエルジャケットを装着しろ」

 

「あ、いえ…僕、これしか服ないです…」

 

ストゥムが怯えた声で答えた。

 

「何?」

 

仁は目を細めて改めてストゥムの格好を見る。

ほぼ裸で筋肉もそれ程ついていない下手したら一撃で骨折してしまいそうな見た目だった。

 

「ふざけやがって」

 

仁は小声で呟く。

ストゥムも半歩引いて構える。

どうやら近接格闘型のようだ。

その時。

 

《リアルARシステム起動。ステージ『砂漠』》

 

機械音声が鳴り響いた。

すると、フィールドの床が光に包まれてコンクリートの床の上に砂が現れ徐々に盛り上げていく。

急に足場が変わったことに仁はよろめく。

 

「くっ!」

 

「うわっ!」

 

砂漠に慣れている筈のストゥムも後ろに転倒する。

そして、フィールド全体が完全な『砂漠』ステージと化した。

元の床から1m程盛り上がっている。

仁は足元の砂を右手で掬い取る。

掬い取った砂は指の隙間から流れ落ちた。

 

「これが最新技術の、質量をもった仮想ステージ。まるで本物だ」

 

WDC本選では予選とは別に追加ルールとしてこのリアルARシステムが適用される。

魔法の最新技術により仮想ステージを作り出す。

ただの平面ではなく環境を変えることによって闘い方も変わってくる上に観客も見応えがある。

そして、日本vsエジプトの試合で用意されたのがこの『砂漠』ステージである。

 

「関係ねぇ!どこで闘おうと俺は俺の闘いをするだけだ!」

 

仁は右手の拳を左手に叩きつける。

ストゥムも立ち上がって構える。

 

「僕も負けません!アヌビス様の為に!」

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始と同時にストゥムが砂地を蹴って突撃してきた。

仁も砂地を蹴って前に出ようとするが足場の悪さにバランスを崩して左によろめく。

その間にストゥムが右足で飛び蹴りを仕掛けた。

仁は右手の甲で受けて右に払った。

ストゥムは払われた反動を活かして全身を左回転させて逆回し蹴り。

仁は屈んで回避してストゥムの顎に右アッパー。

見事ストゥムの顎にヒットして吹っ飛ばした。

 

ストゥムの顔が殴られたことにより観客の女性陣から悲鳴が上がる。

中には仁に対してブーイングを飛ばす人もいる。

 

ストゥムは砂地を三度転がった後、足を着いて立ち直った。

 

「チッ、浅かったか。砂に足を取られて力を入れづらいな」

 

悪態をつく仁。

 

「まだまだ…いきます!」

 

ストゥムはもう一度砂地を蹴って突撃して仁の正面から左フック。

仁はそれを左手でいなして頬に右ストレート。

これもヒット。

そこで仁は違和感を抱く。

 

「(どういうことだ?確かにスピードもあって攻撃のキレも悪くない。だがこれが世界レベルかと言われればあまりにも弱すぎる)」

 

仁は次々と繰り出されるストゥムの攻撃をいなしてカウンターを繰り出した。

 

「(くそ!足場のハンデさえ無ければこっちからも攻撃出来るのによ!……いや違う。今考えるべきはどうやってこの環境に適応するかだ)」

 

仁はストゥムの攻撃をいなしながら彼の足元を観察した。

 

「(重要なのは重心。ただ思いっきり踏み込んでも砂に足を取られるだけ。だったら重心を少し浮かせて砂にかかる圧力を最小限に…踏み込むのではなく踏み上げる!)」

 

仁は砂地を蹴ってストゥムの懐に潜り込む。

 

「六道流体術 天道!」

 

ストゥムの顎に掌底を叩き込んだ。

 

「ぐあっ!」

 

ストゥムの体が浮き上がる。

仁はストゥムの真上に跳び上がる。

 

「六道流体術 地獄道!」

 

ストゥムのうなじに向けてエルボーを叩き込む。

 

「っ!」

 

ストゥムは強烈な痛みで声も出せないまま砂地に叩き落とされる。

砂が舞い上がる。

仁は着地してすぐに砂地を蹴った。

その先には叩き落とされたストゥムがゆっくり立ち上がっていた。

だが、首筋に受けたダメージでまだ意識がはっきりしていない。

 

「いくぜ!」

 

仁が吠えるとナックル型SDの手首部の歯車状の機構が高速回転する。

 

「リボルバーナックル!」

 

仁の右ボディブローがストゥムの腹に叩き込まれる。

 

「う…がはっ!」

 

ストゥムは血を吐いて吹っ飛ばされる。

砂地を転げ回りやがてうつ伏せに倒れる。

仁のナックル型SDがガシャンと音を立てて蒸気を上げてクールダウンさせる。

 

 

 

 

 

 エジプト代表控室。

 

「アヌビス様!このままでは負けてしまいますよあいつ!」

 

「騒ぐな。スクス」

 

アヌビスは冷静に返す。

 

「しかし!」

 

スクスはなおも食い下がろうとする。

 

「案ずるな。…そろそろだ」

 

アヌビスは頬杖を突いたまま返す。

 

「そろそろ?…まさかあれをここでやる気ですか!」

 

スクスは思い当たったのか声を上げる。

 

「でなければあいつを連れてきた意味が無い」

 

アヌビスはそう言ってドリンクを飲む。

 

「危険過ぎます!」

 

「だから?」

 

「なっ!」

 

「そんなことは余が止める理由にはならない。力は行使する為にある。宝の持ち腐れなど愚の骨頂だ。そして、あいつにはその力がある。戦場でそれを行使せずいつ行使する?それと…

貴様ごときが余に口出しするな!

 

アヌビスが鞭を取り出してスクスに振り下ろそうとする。

 

「ひっ!」

 

スクスは悲鳴を上げて尻餅をつく。

しかし、鞭が振り下ろされることはなかった。

恐怖で目を閉じていたスクスが目を開けると、鞭を振り下ろそうとするアヌビスの肘をアヌビスが止めていた。

 

「ヤハラ…」

 

「アヌビス様、出過ぎた真似をお許し下さい。しかし、今ストゥム殿がアヌビス様の為に闘っています。どうか見届けて上げて下さい」

 

しばらくヤハラの目を見ていたアヌビスは腕を下ろして座り直す。

 

「許そう」

 

ただ一言。

ヤハラは再びアヌビスの斜め後ろに待機した。

スクスは立ち上がってアヌビスから距離を取ってモニターウインドウに視線を戻した。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前9時40分。

ストゥムが起き上がる気配は無い。

 

《1…2…3…》

 

「これで終いかよ。男ならもっとガッツのある闘いを見せろよ!」

 

仁が吠えた。

 

《4…5…6…》

 

ストゥムが次に口にした言葉は予想外のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お腹……減った…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

仁は思わず呆けた声を出してしまった。

 

《7…》

 

ストゥムがゆっくりと体を起こした。

そして、次の瞬間。

 

お腹減ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!

 

まるで獣のような雄叫びを上げた。

 

「何だ!こいつ急に…」

 

仁は腕を前に出して構える。

ストゥムはこう詠唱した。

 

「モードチェンジ!」

 

ストゥムの周囲に竜巻…いや砂嵐が吹き荒れる。

彼の姿が徐々に変わっていく。

細身だった前進は急激に筋肉が発達して盛り上がり、口からは2本の牙が生え、ショートだった髪は腰まで伸びていき、目の色は赤く染まり、尻からは彼の背丈と同じ長さの恐竜のようなオーラの尻尾が生え、そして彼の両手からは黄緑色のオーラの爪が生えた。

その大きさは彼の手の3倍。

 

砂嵐がおさまり、変身を遂げた彼の姿はまさに獰猛な獣だった。

 

「グラモール!」

 

『グラモール』。

直訳すると暴食モグラ。

 

 

 

 

 

 エジプト代表控室。

 

「ストゥムは食欲が増せば増すほど強くなる。そして、食欲が限界に達した時、あいつの真の力が発揮される」

 

アヌビスがそう口にした。

 

 

 

 

 

 先程の童顔少年から獰猛な獣に変わったストゥムを見た観客の女性陣からは大きな悲鳴が上がる。

まるで幻想が打ち砕かれたかのように。

 

「がうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ストゥムが雄叫びを上げて砂地を蹴った直後、その姿が消えた。

 

「クロスステップか!その程度の攻撃が効くと…ぐっ!」

 

背後を振り返ろうとした仁は呻き声を上げる。

何故ならストゥムのオーラの爪が()()から腹を切り裂いたからだ。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「何だ…今何が?」

 

魔理沙は状況が飲み込めなかった。

それに黒刀が答えた。

 

「あのストゥムって奴は右足クロスステップを使った時、仁が背後を警戒したことを察知して左足で踏み込み直して正面からの攻撃に切り替えた」

 

「で、でも六道さんが背後を警戒したのなんてほんの一瞬なのでは…」

 

大妖精が口を挟む。

 

「先輩みたいに並外れた動体視力と洞察力があるなら別ですが普通の人間にそんなことが出来る訳が…」

 

妖夢も考え込む。

 

「いや。恐らくあいつはそれが出来る。何故なら…」

 

「『野生』…ですね」

 

黒刀に代わって映姫が答えた。

 

「ああ。『野生』のスキルを持っている者は並外れた反射神経と直感力がある」

 

黒刀が補足する。

 

「仁先輩…」

 

仁の後輩である流星はモニターウインドウを見つめる。

 

 

 

 

 

 腹に一撃を入れられた仁は痛みを堪えながらも左足を蹴り上げる。

だが、ストゥムが高速で移動して目の前から消える。

 

「何っ!…うぐっ!」

 

次の瞬間には背中をオーラの爪で切り裂かれていた。

 

「この!」

 

仁は左手で裏拳を繰り出すがこれも空振り。

ストゥムの圧倒的なスピードについていけていない。

砂地とフィールドの結界を蹴って高速移動しているストゥムの動きは読みにくい。

 

「(このままじゃ…やられる!)」

 

 

 

 

 

 エジプト代表控室。

 

「ストゥムの『グラモールモード』は強力だが半暴走状態を引き起こす。故に日常では食欲をコントロールする為に適度に食べさせている。だが、『グラモールモード』となったあいつに勝つ者などそうはいない」

 

アヌビスは雄弁に語った。

 

「(イカれている。それでは俺達はまるで道具扱いじゃないか)」

 

スクスは静かに拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

「はあ…はあ…」

 

全身を切り刻まれた仁は肩で息をしていた。

ストゥムがフィールドの結界を蹴って背後から飛び掛かる。

すると、仁は両腕をダラーンとぶら下げて腰を落とした。

 

「もういいや…」

 

誰もが諦めたかに思えた。

ストゥムのオーラの爪が仁に振り下ろされる。

だが、その攻撃を仁は背後を見ず、左に上半身を傾けて避けた。

振り向き際にこう叫んだ。

 

「もう考えるのは…やめる!」

 

仁の裏拳がストゥムの顔に直撃して吹っ飛ばす。

ストゥムはバク宙し着地してすぐに砂地を蹴って前に踏み出そうとしたその瞬間。

仁の右手の拳がストゥムの顔の前に迫っていた。

仁はストゥムの頬を思いっきり殴った。

 

 

 

 

 

 エジプト代表控室。

 

「どういうこと?あいつ何でストゥムの動きに反応できるの?」

 

ローブの女が驚く。

アヌビスはため息を吐く。

 

「愚か者が。そんなことは決まっている。」

 

「それは一体?」

 

「奴も『野生』を持っている。それだけだ」

 

アヌビスは頬杖を突いてそう口にした。

 

 

 

 

 

 ストゥムは今の仁に同じ方法で攻撃するのは危険だと本能的に察知して後方に跳んでフィールドの結界を蹴って高速で仁の背後に回り込むと全身を高速回転させながらまるでドリルのように襲い掛かった。

 

「ビーストスピナー!」

 

今までより遥かにスピードと攻撃範囲が広い。

仁が振り返った瞬間、『ビーストスピナー』によって吹っ飛ばされる。

仁は空中で体勢を立て直して着地するが、周囲を見渡すとストゥムの姿が見えない。

 

「どこだ?」

 

さらに周囲を見渡してもやはりどこにもいない。

その時、足元から何かを突き破る音が聞こえた。

仁が視線を落とすと『ビーストスピナー』で高速回転したストゥムが迫っていた。

気づいた頃には既に遅く、腹に直撃を喰らった。

 

「がはっ!」

 

吐血した仁が吹っ飛ばされると、ストゥムは高速回転を続けてままフィールドの結界にぶつかって方向転換して仁に迫る。

仁は砂地に着地すると『ビーストスピナー』が迫っていることに気づき、右に跳んで回避した。

ストゥムは高速回転したまま砂の中に潜った。

その後、仁の足元から高速回転したまま飛び出てきた。

仁はそれをバク転で回避。

そこから1分弱ストゥムが『ビーストスピナー』で砂の中を出たり潜ったりして、仁がそれを何とか回避する展開が繰り返された。

 

「(くそ!このままじゃ埒が明かねぇ。そろそろ腹括るか…)」

 

仁は何かを決心した顔つきになる。

背後から『ビーストスピナー』が迫る。

仁はバッと振り返ると両手を広げて待ち構えた。

 

「何やってるんですか!仁先輩、避けて!」

 

控室の流星は届かないと知りながら叫んだ。

 

両手を広げて待ち構えている仁の腹に『ビーストスピナー』が直撃。

 

「ぐっ!」

 

回避することなく受けた仁はうめき声を上げるが次の瞬間、『ビーストスピナー』を受けながら両手でストゥムの脇腹を掴み回転を無理やり止めた。

無論、両手にかかる痛みはかなりのものだが。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

仁は雄叫びを上げながらプロレス技のパワーボムのようにストゥムを砂地に叩きつけた。

叩きつけられたことにより直径5mのクレーターが出来上がった。

 

「うがっ!」

 

ストゥムは痛みで声を上げる。

 

「やる~!」

 

イギリス代表のチャーリーが口笛を吹いて感心する。

 

仁が砂地に叩きつけたストゥムに拳を叩き込むが、ストゥムは直前で跳ね起き横回転して回避する。

着地してから大きく息を吸い込むと口を大きく開けて空気の衝撃波を吐き出した。

 

「ビーストロウ!」

 

追撃しようとした仁は吹っ飛ばされて砂地を転がされる。

ストゥムが砂地を蹴って突撃し、仁が体勢を立て直し遅れて砂地を蹴ると同時に手首部の歯車機構を高速回転させる。

2人の距離が徐々に縮まっていく。

2人も観客も予感している。

この一撃で決まると。

お互いの距離が目の前に狭まった時。

 

「があああ!」

 

「リボルバーナックル!」

 

ストゥムはオーラの爪を突き出し、仁は拳を突き出す。

拳とオーラの爪が交差する。

そして、ついに互いの腕を伸ばし切ったところで2人の動きが止まる。

その結果は…

 

ストゥムのオーラの爪が仁の胸に突き刺さり、仁の拳はあと1㎜届かなかった。

仁が前のめりに倒れる。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 ストゥム・ルー》

 

会場から雄叫びに等しい盛大な歓声が沸き上がる。

観客達は熱い激闘に大いに盛り上がった。

試合が終了してストゥムは『グラモールモード』を解いて元の姿に戻る。

 

「あわわ!すみません!大丈夫ですか!」

 

ストゥムは敗者の仁に慌てて近づいた。

仁は意識が残っていたようでうつ伏せから仰向けになる。

 

「ったく何、敵の心配してんだか…っていうかお前さっきの様子じゃ暴走してたように見えたんだが?」

 

仁はストゥムの顔を見る。

ストゥムはキョトンとした顔をして可愛らしく首を傾げる。

 

「ふぇ?僕、暴走なんてしてませんよ」

 

「は?」

 

「見た目から勘違いされることが多いんですけど『グラモールモード』は確かに()()凶暴性が増しますが理性はちゃんと保っています」

 

「マジかよ…」

 

仁はそれしか言えなかった。

その時、グ~とストゥムの腹が鳴った。

 

「す、すみません。お腹が減って…///」

 

ストゥムが恥ずかしそうに言った。

 

「(そういやモードチェンジを使う前にそんなこと叫んでたな)」

 

仁は体を起こしてポケットに手を突っ込むと中から包装されたクッキーを取り出した。

 

「ほらやるよ」

 

それをストゥムに差し出した。

 

「え、いいんですか?」

 

「お前の男気を認めた証だ」

 

「男気?よく分かりませんがいただきます!」

 

ストゥムはクッキーを取ると袋を破って美味しそうに頬張った。

クッキーを頬張る顔は幸せそうで若干にやけている。

 

「ったく変な奴だ」

 

仁は砂地に手をついて立ち上がる。

 

「じゃあな。楽しかったぜ」

 

そう言って立ち去ろうとしたその時。

 

「あの!」

 

ストゥムに呼び止められる。

仁は首だけ振り向く。

 

「ありがとう!」

 

ストゥムは女の子座りと満面の笑みでお礼を言った。

もし、彼が女の子だったら一体何人の男が惚れていただろうと言える程の笑顔だった。

仁は無言で前を向いて右手を挙げて軽く振った。

 

こうして日本vsエジプトのシングルス3の試合はストゥム・ルーの勝利で終わった。




ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ

ご感想お待ちしております。


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魔理沙の成長

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


「いや~やっぱいいっすね!男と男の魂をぶつけ合う熱き闘いってのは」

 

観客席に座って、六道仁とストゥム・ルーの試合を観戦していたイギリス代表のチャーリー・ベルモットが率直な感想を述べた。

 

「お前は暑苦しすぎる。もう少しクールに闘って欲しいものだ」

 

アレックスが横から口を出す。

 

「え~!そんな冷たいこと言うなよ~。ねえ?レミリアなら分かるよね?」

 

「私、女なんだけど」

 

レミリアが横目でチャーリーを睨む。

 

「ご、ごめん…」

 

レミリアの気迫に押されてチャーリーは慌てて謝る。

 

「僕は分かりますよ。チャーリーの言う男同士の熱き闘いというものの素晴らしさ」

 

そんな中、レオがそんなことを口に出した。

 

「お、お兄様⁉」

 

マリーがレオの発言に驚く。

 

「まあ残念ながら僕はまだその熱さを味わっていない…がそういうものには憧れるし楽しみで心が躍るよ」

 

「それって四季黒刀のことをおっしゃっているのですか?」

 

「そうだね。彼と闘うことが今の僕の夢だからね」

 

そう言ってレオは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

試合を終えた仁が控室に戻ってきた。

 

「わりぃ。負けちまった」

 

仁は頭を掻き一言。

 

「まあ、しょうがないんじゃない」

 

全く悔しがっていないあっさりとした態度に愛美が口を開く。

 

「相手がそれだけ強かったってことだし」

 

光が続く。

 

「そういう時もありますわ」

 

花蓮が言った。

 

「最終的にチームが勝てば問題ない」

 

優が言った。

ナンバーズが問題ないという口調で返してきた。

 

「いやいや!何でそんな落ち着いているんだぜ!あと2回負けたら終わりなんだぜ!」

 

魔理沙がツッコむ。

 

「魔理沙」

 

黒刀が制止。

 

「何だよ!黒刀まで同じことを言うのか?」

 

魔理沙の言葉に黒刀はフッと笑う。

 

「そんなにツッコミに力入れることないだろ」

 

「なっ!今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

 

魔理沙は興奮した口調で返す。

 

「まあ、冗談は置いといて。もう少し肩の力を抜け。あと2回負けで終わりなら負けなきゃいい」

 

黒刀は魔理沙の肩に手を置く。

 

「そんな簡単に言われたって…」

 

「世界の強者と闘えるんだ。どうせなら楽しもうぜ」

 

黒刀はそう言ってから仁に顔を向ける。

 

「仁はどうだった?」

 

「ああ。楽しかったぜ。あれほど心から熱くなる闘いは久しぶりだ」

 

仁はご機嫌に答えた。

 

「楽しく…ああ…そうだな。勝つことばかりに集中し過ぎて忘れてたぜ!この大会、楽しく勝つ!」

 

魔理沙は気合いを入れ直した。

 

「ならさっさと行くわよ」

 

タイミングを見計らったように霊夢が魔理沙の手を取って控室を出て行く。

 

「おい。そんな引っ張るなよ!」

 

廊下から魔理沙の声が聞こえる。

 

「あんたがグズグズしてるのが悪いのよ!」

 

霊夢の声も聞こえる。

 

「熟年夫婦か。あいつらは」

 

控室の中から聞いていた黒刀は呆れるのだった。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前9時55分 エジプト代表控室。

試合に勝利したストゥムは控室に用意されている食べ物を幸せそうに頬張っていた。

 

「スクス、セト。行け。余に勝利を届けよ」

 

アヌビスは試合を終えたストゥムに興味を示さず頬杖を突いて2人に命令する。

 

「ハッ!」

 

アヌビスに命令された2人がバサッとローブを脱ぎ捨てて膝をつく。

つり目の男性がスクス・ハル。

長い黒髪の女性がセト・マソト。

 

ちなみに先程までアヌビスに反抗的な態度を取っていたのがスクス。

スクスもアヌビスの戦術や態度に不服はあるものの、その実力は認めざるを得ないと思っている。

何よりエジプト王国では地位が重視される。

エジプト王国第一王子であるアヌビスの地位は相当高い。

故に彼らは逆らうことを許されない。

先程もヤハラが止めていなければどうなっていたか分からない。

 

2人は控室を出る。

スクスは拳を握り締めていた。

 

「スクス…」

 

セトはそんな彼を見て心配そうな声を上げる。

 

「何も言うな。今は目の前の試合に勝つことに集中しよう」

 

スクスはセトが言葉を続ける前に遮った。

セトは彼の顔を見てハッと気づく。

前を見据える彼の目は闘争心に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 一方。

霊夢と魔理沙はゲート前に並び立つと顔を見合わせて互いに微笑を浮かべる。

霊夢は霊力で、魔理沙は箒に跨って飛行してデュエルフィールドに入場した。

会場から歓声が沸き上がる。

剣舞祭以来の雰囲気に魔理沙はテンションが上がった。

 

「そういや霊夢と闘うのはかなり久しぶりな気がするな!」

 

「そうね。前に一緒に闘ったのは『乱戦』で黒刀先輩に挑んだ時だったわね」

 

2人は並んで会場の上空を飛び回りながら会話している。

 

「…あの時から私達はどれくらい強くなったんだろうな…」

 

「それを確かめる為にここまで来たんでしょ」

 

「…そうだな。よろしくな相棒!」

 

魔理沙は霊夢に拳を突き出す。

 

「こちらこそ!」

 

霊夢も拳を突き出してグータッチを交わす。

 

遅れてエジプト代表のスクスとセトが入場してくる。

彼らは霊夢達と違って飛行出来ないので砂地に足をつけている。

 

「相手は飛行するタイプか。少々手こずりそうだが…まあ勝てるだろ」

 

スクスは飛び回っている霊夢達を見上げる。

 

「そうね。とはいえなるべく奥の手だけは使わない方向で勝ちたいわ」

 

「ああ。分かっている」

 

スクスとセトがフィールドの中央から5m離れた位置に立つ。

霊夢と魔理沙は中央から5m離れているがこちらは10m上空で浮遊している。

飛行出来る選手がいる場合、このように待機することはルール上で問題ない。

 

しかし、見下ろされている感を味わっているスクスの心中は穏やかではない。

 

「見てろよ!私のパワーでお前らをぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

魔理沙が下の2人を指差して啖呵を切る。

隣の霊夢はやれやれと頭を抱えている。

 

「調子に乗るなよ。雑魚共!」

 

挑発を受けたスクスは完全に頭に血が上っていた。

隣のセトは霊夢と同様に頭を抱えている。

 

「「(どうして私の周りにはこうも単純な奴が多いのかしら)」」

 

苦労人の2人は心の中でため息を吐いていた。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に仕掛けたのは魔理沙だった。

 

「先手必勝だぜ!」

 

魔理沙は魔法弾の弾幕をスクスとセトに向けて放つ。

それらは2人に着弾したかに思えた。

だが、スクスが右手を左に振るとその動きに合わせて足元の砂が巻き上がって弾幕を防いだ。

 

「あいつ、砂を操れんのか!」

 

魔理沙は驚く。

続けて霊夢が霊力弾の弾幕を放つ。

だが、先程と同じようにスクスが手の動きで砂を操って防ぐ。

 

「厄介ね」

 

霊夢が呟く。

 

「今度はこっちの番だ!サンドバルカン!」

 

スクスが両手を前に突き出すと砂が弾幕として放たれる。

 

「「っ!!」」

 

霊夢と魔理沙は左右に散開して砂の弾幕を避ける。

そこで霊夢は避けながら気づく。

 

「もう1人は?…いた!」

 

霊夢は見失っていたセトを発見した。

彼女はスクスの15m後方で待機していた。

 

「(よし。その位置なら!)」

 

霊夢は空中で停止する。

 

「霊夢!何やってんだ!避けろ!」

 

魔理沙が叫ぶ。

 

「もう諦めたか!」

 

スクスが吠える。

霊夢は砂の弾幕が着弾する直前に目を閉じる。

 

「夢想天生!」

 

霊夢はそう詠唱した。

この霊術の発動中は無敵状態である為、砂の弾幕は霊夢の体をすり抜けていく。

 

「何っ⁉」

 

スクスが驚く。

その隙に『夢想天生』によって霊力弾の弾幕が自動で放たれる。

 

「チッ!」

 

スクスは舌打ちして砂の壁を展開して霊力弾の弾幕を防ぐ。

霊夢はもちろんそれを読んでいた。

 

「(見えないけどもし彼女があの位置から動いていないのなら)」

 

霊夢は右手に霊力を集束して霊力の塊を作り出す。

 

「白霊砲!」

 

それを白い光線として放った。

狙いはセトだ。

『夢想天生』で目を閉じている為、その前に確認した位置に向けて放っている。

幸いにもセトは動いていない。

それどころか『白霊砲』が迫っているにも関わらず動く気配が無い。

次の瞬間、その意味が判明する。

彼女は両手を砂地に叩きつけた。

 

「スフィンクスウォール!」

 

砂が彼女を取り囲むように巻き上がる。

その砂は形を変えていき、なんと全長10mのスフィンクスとなった。

『白霊砲』はスフィンクスの外壁に弾かれて消滅した。

 

霊夢は『夢想天生』をやめて霊力障壁を展開して現状を確認した。

 

「何よ…あれ…」

 

霊夢は目を見開いた。

実際のスフィンクスに大きさは劣るもののその存在感は圧倒的だ。

しかも、外壁の強度は『白霊砲』を無傷で弾く程。

 

「これだけではないわよ!」

 

スフィンクスの内部からセトの声が響く。

彼女は正座するとまるで聖女が祈りをささげるように手を重ねた。

すると、彼女の足元に術式が展開される。

スフィンクスの外壁の砂は岩のように硬質化していく。

さらに外壁に砲門のような穴が多数開く。

それらから様々な色の光線が霊夢と魔理沙に向けて放たれた。

 

「戦艦みてぇだな畜生!」

 

魔理沙は悪態をつきながら光線の嵐を紙一重で躱す。

霊夢も紙一重で躱している。

魔理沙の言葉通り、それはまるで戦艦だった。

しかも、光線は絶え間なく放たれ続けている。

霊夢と魔理沙はまるでシューティングゲームの弾幕を相手にしているかのように必死に躱している。

 

「あれは時間の問題だな。大口叩いた割に大したことなかったな」

 

スクスは躱し続ける2人を見上げて嘲笑う。

 

「マスタースパーク!」

 

魔理沙がスフィンクスに向けて砲撃魔法を放つ。

だが、スフィンクスの外壁に弾かれる。

 

「マスパでもダメなのかよ。いやまだ手はある!私はいつまでも昔の私じゃない!霊夢、3秒だけ頼む!」

 

魔理沙は霊夢に向かって簡潔に指示した。

かなり言葉足らずで何を頼むのかははっきりしない指示。

だが、霊夢は指示の意味を理解して頷くと魔理沙の前に移動して霊力障壁を展開して光線を防御する。

衝撃が霊夢の体に伝わってくる。

 

魔理沙が左手でポケットから赤い六角形の宝石を取り出す。

 

「ジュエリーフォース ルビー!」

 

ルビーの宝石をMADの背面のくぼみにはめ込んだ。

 

「霊夢!」

 

魔理沙が声をかけると霊夢が霊力障壁を解除して上昇する。

 

「マスタースパーク!」

 

「何度やっても無駄だ!お前達の攻撃は何1つ通用しないんだよ!」

 

スクスが吠える。

確かにさっき『マスタースパーク』はスフィンクスの外壁によって弾かれた。

だが、今回は違った。

『マスタースパーク』がスフィンクスの外壁に直撃した瞬間、凄まじい轟音を立ててスフィンクスの外壁が焼かれて大穴が空いた。

 

「何だと⁉」

 

予想外の事態にスクスは目を見開いて驚く。

スフィンクスの内部で霊術を発動させていたセトも驚いて空けられた大穴を見る。

彼らにとって魔理沙の魔法の威力は予想外だった。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前10時15分 日本代表控室。

 

「なるほど。『魔宝石』ですか」

 

雪村が眼鏡を吊り上げる。

 

「『魔宝石』?」

 

聞き慣れない単語に妖夢が聞き返す。

 

「『魔宝石』とは文字通り魔力が込められた宝石です。用途や効果は様々ですが今の魔理沙さんのように使い方によっては絶大な力を発揮することが出来ます。MADと組み合わせるというシステムは見たことがありませんでしたが」

 

雪村が丁寧に説明してくれた。

その説明を聞いていた映姫が黒刀の耳元に顔を寄せてこう囁いた。

 

「もしかして魔理沙が『魔宝石』を使うってことを知ってて作ったの?」

 

「いや最初は知らなかったよ。ただあいつにMADをあげた時に『魔宝石』を使って闘うことを教えてもらって『魔宝石』をセット出来るように改良したんだ。あと『魔宝石』はあいつが自分で錬成して作ったんだとさ」

 

黒刀の答えを聞いて映姫は驚いた。

 

「え、でも『魔宝石』の錬成ってかなり難易度が高くてとても1年生の彼女に出来るような技術じゃないわよ」

 

映姫の言葉に黒刀はフッと笑った。

 

「あいつも成長してるってことだ。周りが強くなっていることを感じて、考えて、努力してきたんだろう」

 

黒刀は自分のことのように嬉しそうに言った。

 

 

 

 

 

 

「あの女!サンドバルカン!」

 

スクスが砂の弾幕を魔理沙に向けて放つ。

魔理沙は避ける動きを見せず、MADにはめ込んであるルビーを外してポケットから別の『魔宝石』を取り出した。

 

「ジュエリーフォース トパーズ!」

 

魔理沙は『魔宝石』をMADにはめ込んだ。

 

「マスタースパーク スプラッシュ!」

 

魔理沙が放った砲撃魔法は5つに拡散して砂の弾幕を全て撃ち落とした。

 

「今度は拡散型か!」

 

スクスが声を上げたその時、彼に向けて白と黒の霊力弾が放たれる。

スクスはバク宙で躱してスフィンクスの背中に飛び乗った。

 

「チッ。面倒くさくなってきたな。セト!こうなったら奥の手を使うぞ!」

 

スクスはスフィンクスの内部にいるセトに声をかけた。

 

「でもあれは決勝まで取っておくって話じゃなかったの?」

 

「どのみちここで負けたら何の意味も無い!」

 

「……分かったわ」

 

5秒程の沈黙の後、セトから返事がきた。

 

「ならいくぞ!デザートストーム!」

 

スクスが両手を天に掲げる。

周囲の砂が巻き上がってスクスとスフィンクスを中心に巨大な砂の竜巻が発生する。

霊夢と魔理沙は同時に弾幕を放った。

だが、弾幕は砂の竜巻に飲み込まれてすぐに外に弾き出された。

弾き出された弾幕が2人に返ってきた。

 

「「くっ!!」」

 

霊夢は霊力障壁を、魔理沙は魔力障壁を展開して反撃を凌いだ。

 

「この!だったら竜巻ごとぶっ壊してやる!」

 

魔理沙はMADからトパーズを取り外して砲撃魔法の態勢に入った。

 

「魔理沙、ちょっと待って!」

 

それに気づいた霊夢が叫ぶ。

だが、時すでに遅し。

 

「マスタースパーク!」

 

魔理沙が砲撃魔法を放った。

だが、それも砂の竜巻に飲み込まれて魔理沙に返ってきた。

 

「危ない!」

 

霊夢が魔理沙を横から突き飛ばして霊力障壁を展開する。

しかし、咄嗟に展開した為、思ったより防御力が弱い。

そのせいで返ってきた『マスタースパーク』が霊夢の霊力障壁をパリンッと音を立てて破壊し霊夢の肩を掠めその余波で吹っ飛ばされて砂地に叩きつけられる。

 

「霊夢!」

 

「まずは1人!後はお前だけだ!やれセト!」

 

「分かっているわ。いちいち大声を出さないで」

 

セトはそう返すと中断していた霊術を再発動させた。

スフィンクスの砲門から多数の光線が放たれる。

 

「何やってんだ。そんなことしても砂の竜巻に邪魔されてこっちに届かな」

 

魔理沙がそう口に出したところで光線が砂の竜巻の影響を一切受けず襲い掛かってきた。

 

「一方通行かよ!」

 

魔理沙は距離を取ってフィールドを飛び回り光線を回避する。

 

「くそ!一体どうしたらいいってんだよ!」

 

魔理沙は打開策を見つけようと考えていた。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「これはカタール代表のムハンマドに匹敵するもう1つの………『絶対防御』」

 

阿求が口を開いた。

 

「全ての攻撃は反射され、あちらの攻撃は絶え間なく続く」

 

雪村が補足する。

 

「そんな…それじゃ一体どうすれば…」

 

妖夢が魔理沙の絶体絶命の状況に動揺する。

そんな時、黒刀が口を開いた。

 

「方法は2つある。1つは外から強引に突破して内部に侵入するか…」

 

「おい。そりゃお前みたいに頑丈な奴なら可能かもしれないがあの2人はどう見ても肉体系じゃねぇだろ」

 

流星が口を挟む。

それに対して黒刀は口の端を吊り上げる。

 

「慌てるなよ。方法は2つあるって言ったろ。もう1つの方法は……中から攻撃を仕掛けることだ」

 

黒刀は楽しそうに微笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 魔理沙は光線の嵐を何とか躱しながら打開策を練っていた。

 

「何でこんな弾幕ゲーみたいなことやんなきゃなんねぇんだよ!しかも攻撃が効かないとか無理ゲーだぜ!」

 

ただし、愚痴を漏らしながら。

 

「パワーだけじゃ無理なのかよ。いっそ学園長みたい中に転移出来たら…」

 

そこまで口に出して魔理沙は何かに気づいた。

 

「(転移?…そうか!外からダメなら中から攻撃すれば勝てる!あ、でも私は転移魔法なんて使えないし…!…そういえばポケットの中に()()が入ってたはず…)」

 

魔理沙はポケットの中から目当ての物を取り出した。

 

「まだ1回も成功したことねぇけどやってやる!」

 

魔理沙は方向転換してスクスとセトに向かって突撃した。

 

「血迷ったか!」

 

砂の竜巻の中から魔理沙を視認していたスクスが吠える。

スフィンクスの砲門から放たれた2本の光線が魔理沙に襲いかかる。

直撃コースだ。

 

「まだだ!私は諦めない!…魔力解放!」

 

2本の光線の内1本が魔理沙の帽子を飛ばし、もう1本の光線が魔理沙に直撃して爆発した。

 

「フッ。終わったな」

 

スクスは『デザートストーム』を解く。

砂の竜巻がおさまり消えていく。

 

その時。

爆発の煙の中から魔理沙が飛び出してきた。

 

「何っ!何故だ?完全に直撃していた筈…まさか!解放の波動で一時的にダメージを緩和させたのか!」

 

スクスは困惑したが、すぐに立ち直って再度『デザートストーム』を発動させようとする。

その時。

体が金縛りのように動かなくなった。

 

「何っ!」

 

自身の体を見ると足と腕に札が貼り付けられていた。

 

「いつの間に⁉」

 

「やっと尻尾を出したわね」

 

声が響いた。

スクスが声のした方に視線を移すとそこには倒された筈の麗美がボロボロの格好で立っていた。

 

「お前は倒した筈…」

 

「やられたフリをしてただけよ」

 

「くそ”」

 

スクスは貼り付けれ垂れた霊符を剥がそうともがく。

 

「無駄よ!魔理沙の邪魔はさせない!」

 

霊夢は言い放った。

その目には友を信じる強い想いが込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ジュエリーフォース アメジスト!」

 

魔理沙はポケットから取り出した『魔宝石』をMADにはめ込んだ。

 

「ファイナルマスタースパァァァァァァァクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」

 

魔理沙の最大威力を誇る砲撃魔法が発動した。

しかし、MADから砲撃は放たれなかった。

不発かと思られた。

だが、それは違った。

 

セトは背後に強大なオーラを感じて振り返った。

そこには魔法陣が展開されていてこちらを向いていた。

 

「まさか…空間魔法⁉」

 

セトの顔が青ざめていく。

そして、魔法陣から空間を超えてきた『ファイナルマスタースパーク』が放たれてきた。

 

「いや…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

セトは背を向け悲鳴を上げて逃げようとする。

しかし、閉鎖空間である為、逃げ場が無い。

セトは『ファイナルマスタースパーク』の光に飲み込まれた。

スフィンクスの内壁を突き破って吹っ飛ばされたセトは砂地を転がり仰向けに倒れた。

術者が倒されたことによりスフィンクスは砂に戻り崩壊する。

 

「セト!」

 

スクスが叫ぶ。

 

「終わりよ!」

 

スクスの周囲に結界が展開され、内部に霊力弾の弾幕が漂う。

 

「夢想封印!」

 

結界内部の霊力弾の弾幕が一斉にスクスに襲いかかる。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

スクスは霊力弾の弾幕を全身に浴びてうつ伏せに倒れた。

 

《勝者 霧雨魔理沙&博麗霊夢》

 

勝敗を告げる機械音声が鳴り響く。

同時に耳鳴りする程の歓声が沸き上がる。

霊夢は片手で耳を押さえながら落ちている魔理沙の帽子を拾う。

魔力を使い果たして仰向けに倒れている魔理沙の元へ歩き、顔の上に帽子を落とした。

 

「ほら。落ちてたわよ」

 

霊夢が声をかける。

魔理沙は顔に落とされた帽子を手に取って立ち上がると帽子をかぶる。

 

「霊夢」

 

「何よ」

 

霊夢はぶっきらぼうに返す。

 

「やっぱり勝つって嬉しいな!」

 

魔理沙は満面の笑みで言った。

 

「そうね」

 

霊夢は微笑んで返した。

 

霊夢は魔理沙はどういう思いで努力してきたか知っているつもりだ。

剣舞祭で勝ち星も少なく、旧ザナドゥ王国の戦いでも勝利と呼べる戦いは出来なかった。

神光学園1年生4人の中で最弱と陰口を叩かれていることも本人は知っている。

それでも不貞腐れることなく努力し続けて新たな戦闘スタイルを見つけ、そして今日、勝利することが出来た。

だから霊夢は今日くらい勝利の余韻に浸らしてもいいと思った。




ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ

ご感想お待ちしております。


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化け物

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 ニューヨーク時間午前10時25分 エジプト代表控室。

控室の雰囲気はピリピリしていた。

理由はスクスとセトが敗北したことでアヌビスが不機嫌になっていたからでそれを周囲が察して萎縮していたからだ。

ちなみにスクスとセトは医務室で療養中である。

 

「全く…あのような小国に敗北するなど情けない。戻ったら仕置きを与えねばな」

 

その言葉だけでヤハラとローブを纏っている2人以外のメンバーの顔が恐怖で青ざめていく。

 

「はぁ…まあよい。オシリス、行け」

 

「はい」

 

オシリスと呼ばれた者がローブを脱ぎ捨てた。

 

「必ずやアヌビス様に勝利を」

 

そう誓ったオシリスは女性。

だが、その姿は異様だった。

頭のてっぺんからつま先まで目元以外包帯で巻かれている。

まるでミイラのように。

服装は包帯の上に長袖シャツと長ズボンを着用している。

オシリス・レッドリーは一礼してから静かに控室を出た。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「ただいまだぜ」「戻りました」

 

ボロボロの霊夢と魔理沙が戻ってきた。

 

「霊夢!魔理沙!今、治癒魔法をかけます!」

 

大妖精が慌てて2人に駆け寄って治癒魔法をかける。

 

「私も強くなっただろ?」

 

魔理沙が黒刀に対して笑みを浮かべる。

 

「…まだまだ未熟だな」

 

「え~」

 

魔理沙が頬を膨らませる。

 

「だけどよくやった」

 

黒刀はそう付け足した。

 

「うん!」

 

その言葉を受けた魔理沙は満面の笑みで応えた。

 

「さて、次は俺か!」

 

黒刀が控室を出て行こうとすると映姫が襟首を後ろから掴む。

 

「あなたは最後でしょう!」

 

そう言って引き戻した。

 

「じょ、冗談だよ」

 

黒刀が苦笑い。

 

「つまらないジョークだな」

 

光が口を開いて控室のドアへ歩き出す。

 

「頑張って下さい!」

 

丸山が応援する。

 

「おう!『鬼神』と呼ばれた私に任せておけ!」

 

光は首だけ振り向いて返事してから控室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「ハルバード」

 

ゲート前の通路を歩きながら光は冷たい声で詠唱した。

右手に持つSDが起動してデバイスの先端部分が伸びて赤いビームの斧の刃が出てきた。

そして、楽しそうに舌なめずりする。

 

「さて…楽しい楽しい闘いの始まりだ♪

 

薄暗い通路で笑うその顔はまさに鬼のようだった。

 

ゲートを抜けると盛大な歓声が沸き上がる。

光は特に歓声を気にすることなくフィールド中央に歩き進み5m手前で立ち止まった。

反対側のゲートからオシリス・レッドリーが姿を現した。

光の時は大きな歓声が上がったがオシリスに対しては全身包帯という異様な姿に歓声が聞こえなかった。

彼女の顔は目元しか見えない為、観客の反応に対してどういう表情をしているのか光には知る由もない。

だが、光にはそんなことはどうでもよかった。

光は早く闘いたいということしか考えていなかった。

 

オシリスがフィールド中央5m手前で立ち止まる。

 

「デュエルジャケットセット!」

 

光が詠唱した。

彼女の体が輝き装備が換装する。

彼女のデュエルジャケットは白のノースリーブシャツと赤のハーフパンツ。

デュエルジャケットと呼ぶにはあまりも軽装備だった。

 

「何だそれは?ふざけているのか?」

 

そうオシリスが問うのも無理はない。

 

「あ?ふざけてねぇよ。この方が動きやすいんだよ」

 

光がオシリスを見下すように言い返す。

 

「クリーンヒット一発でもただでは済まないわよ」

 

忠告するオシリス。

 

「ハッ!当たらなきゃいいだけだし例え当たったとしても倒れなきゃ問題ないし!

………っていうかこれからぶっ潰し合う敵の心配なんかしてんじゃねぇよ

 

その時、光の雰囲気が変わった。

 

「後悔しても知らないわよ」

 

オシリスはそう言い残した。

光が腰を落として『ハルバード』を構える。

オシリスは何も持っていない。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのは光だった。

試合開始と共に、両足に気力を溜めて一気に放出し2秒で距離を詰める。

 

死ねぇ!

 

過激な言葉を叫びながら『ハルバード』を振り下ろす。

轟音と共にフィールドの砂が舞い上がる。

舞い上がった砂が風で流されるとそこにオシリスの姿はなかった。

光が横に視線を移すと10m離れた場所にオシリスが退避していた。

 

「へぇ。思ったよりすばしっこいじゃねぇかよ」

 

光は砂地に刺さっている『ハルバード』を引き抜く。

 

「随分と荒っぽいじゃない?」

 

オシリスが嫌味を言う。

 

「ただの挨拶だよ!」

 

光は『ハルバード』を肩に担いで楽しそうに笑う。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前10時31分 日本代表控室。

 

「ほんと…誰かさんにそっくりよね」

 

真冬が黒刀にジト目を向ける。

 

「はぁ?どこが?」

 

「戦闘中に笑ったりとかそういう戦闘狂みたいなところがね」

 

真冬が顎に人差し指を添えながら答える。

その答えに一同が『うんうん』と頷く。

 

「そんなことないと思うんだけどな」

 

『(自覚ないんだ…)』

 

一同は心の中で呆れるのだった。

 

 

 

 

 

 オシリスが右手を光に向けて霊力弾を連射する。

 

「あ?」

 

光はがっかりした声を出した。

 

「てめぇら、芸がねぇんだよ!」

 

光は『ハルバード』を右手一本で振って霊力弾を全て斬り落とした。

 

光には『デーモン』というスキルがある。

どんな魔法や霊術も破壊できる。

霊力弾をいくら撃っても彼女に勝つことなど到底できない。

 

「あれ、実際にやられると結構メンタルに来るのよね」

 

控室の霊夢がかつての経験を思い出して苦々しい顔をする。

 

オシリスは懲りもせず動き回りながら霊力弾を手から撃ち続ける。

光は『ハルバード』を風車のように回して霊力弾を全て弾き落とした。

 

「どうやらもう引き出しは空っぽみたいなんで今度はこっちからいくぜ!」

 

光は『ハルバード』を天に掲げて両手で回転させる。

それにより竜巻が発生する。

 

「あいつ、一体何を…」

 

オシリスが呟く。

光は『ハルバード』を回転させたままその場で真上にジャンプする。

空中で回転を止める。

すると、『ハルバード』の大きさはまるで巨人族が持つ斧のように巨大になっていた。

長さは20m。

長さも目立つが何より目を引くのが元の10倍大きくなった『ハルバード』の刃だ。

 

「これが『ハルバード』だ!気力を注ぎ込むことで大きさを変えられるのさ!」

 

光が得意気に言い放った。

 

「ハッ!愚かね!そんな大きくしてまともに振り回せる筈がないわ!」

 

オシリスが勝ち誇ったように言い返す。

 

「はぁ?てめぇこそ何言ってんだ?使えない武器を使う訳ねぇだろうが!」

 

光が『ハルバード』を縦に構えて振り下ろした。

 

「う、嘘でしょ!」

 

オシリスが叫び、全力で横に跳んだ。

『ハルバード』の刃がオシリスの横を通り過ぎて砂地に叩きつけられ砂が舞い上がる。

 

「くっ!」

 

オシリスは歯を食いしばる。

 

「何安心してんだミイラ女!」

 

光は振り下ろした『ハルバード』を横向きに回転させた。

ブンッと風を切る音を立ててオシリスを薙ぎ払おうとする。

横に跳んだ直後のオシリスは避けることが出来ず『ハルバード』の刃を受けてフィールドの壁に吹っ飛ばされる。

 

「いっちょ上がりってところか。…ん?」

 

光が『ハルバード』のサイズを元に戻して壁に吹っ飛ばしたオシリスに視線を向ける。

壁には亀裂が入っており舞い上がった砂から現れたオシリスはさすがに無傷ではなかった。

しかし、気になるのはそこではなかった。

 

『ハルバード』によって顔の包帯に切れ目が入ったのか、顔の包帯が切れて落ちていく。

露わになった彼女の顔はなんと肌が苔のような緑色だった。

人間とは程遠い異形の見た目に観客のどよめきと悲鳴が響く。

それを聞いたオシリスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「何だあれ?」

「肌が緑だぞ」

「恐ろしい…」

「何て醜い生き物」

「化け物だ!」

「そうよ!あんなの化け物だ!」

「化け物!」

 

観客席から『化け物』と何度も罵声が飛び交う。

 

「(ぬえ…あなたもこんな思いをしていたのか…)」

 

控室の黒刀は拳を握り締めた。

 

「(嫌なことを思い出させる光景ね…)」

 

レミリアはただ静かに観客席に座っていた。

 

人間は自身とは違う存在を時に比較し差別する。

さて、彼女の姿を見た光は何を思っただろうか。

 

「(化け物か。そういや小学生の時は私の強すぎる力にビビッてそんなことを言ってきた奴が何人もいたっけ。ついに先生までも同じことを言ってきたな。まあ、そんなことはどうでもいいか)」

 

光はそこまで考えてから口の端を吊り上げた。

 

さあ、闘いを続けようぜ!

 

光は狂喜の笑みを浮かべると砂地を蹴って突撃した。

その狂喜っぷりにオシリスは圧倒された。

 

「(何なのこいつ…)」

 

光が一瞬でオシリスの懐に潜り込み『ハルバード』を水平に振る。

オシリスはバックステップでそれを躱す。

 

「ハァッ!」

 

オシリスは右手の包帯を解いて光に向けて伸ばす。

伸ばした包帯が光の左手首に巻き付く。

 

「おいおい。この程度で捕まえたつもり…っ!」

 

光が右足を踏み込んだその瞬間、急に脱力したように左膝をついた。

 

「何だ…力が入らねぇ…」

 

立ち上がろうとするが体に上手く力が入らず立ち上がることが出来ない。

 

「これは…『エナジードレイン』か!」

 

『エナジードレイン』。

対象に直接又は間接的に干渉してオーラを吸収する術。

以前、『剣舞祭』で黒刀が真冬に口づけすることによって発動させていたがオシリスは包帯を通して対象のオーラを吸収しているようだ。

 

光の右手から『ハルバード』が抜け落ちる。

 

「くそ…」

 

光は舌打ちする。

 

「このまま吸収していけば後は時間の問題だけど…その必要も無い!」

 

オシリスは左手から霊力弾を連射する。

反撃どころか躱す余裕も無い光に次々と直撃して爆発する。

 

「ぐっ!」

 

光は痛みで呻き声を出す。

 

「アハハ!どう?抵抗することも出来ずに一方的に攻撃される気分は!」

 

オシリスは楽しそうに、そして狂喜的に笑う。

息をつく暇もなく霊力弾を連射する。

光は無抵抗のまま霊力弾を受ける。

 

観客席からオシリスに対して『化け物!』と罵声が響き続けるが彼女は耳に入っていないのか霊力弾を連射し続ける。

 

「ほら!そのままぶっ倒れちゃいなさい!」

 

オシリスは興奮した口調で言い放つ。

霊力をかなり消費して疲弊した彼女は霊力弾の連射を止める。

爆発の煙の中から光が姿を現す。

光の左手首には相変わらずオシリスの包帯が巻き付けられている。

全身はボロボロ。

元々、軽装備であった為ダメージも大きい。

表情は俯いている為、見えない。

 

「抵抗しても無駄よ!あなたはここで負けるのよ!」

 

「…確かにそうかもな」

 

俯いていた光の顔が徐々に上がっていく。

オーラを吸収され続けている状態にも関わらず膝に手をついてゆっくりと立ち上がる。

 

「バカな!もうお前のオーラはガス欠寸前の筈。なのに何故!」

 

想定外の状況にオシリスが叫ぶ。

光の顔が徐々に上がる。

 

「ここで負けるとしても…」

 

光は…

 

「とりあえず…一発ぶち込んでやるよ!

 

笑っていた。

 

その時、オシリスは見た。

不敵に笑う光の背後にいる巨大な何かを。

それは…

 

「鬼…」

 

オシリスは目を見開いてそう呟いた。

不敵に笑う光の背後にはまるで化身のような全長10mの赤い鬼がいた。

それは彼女の気力で具現化されたものでユラユラと揺らめいて半実体のようになっている。

それを見たオシリスはこう口にした。

 

「化け物…」

 

次の瞬間。

オシリスの体が引っ張られる。

光が左手首に巻き付いている包帯を左手で掴んで引っ張っていた。

 

「こいつ、どこにこんな力が!」

 

ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

光が魔物のような雄叫びを上げながら包帯ごとオシリスを引っ張る。

同時に右手の拳を握り締める。

連動するように鬼の化身も拳を握り締める。

光と鬼の化身の動きは完全にシンクロしていた。

光が左足を踏み込んで左手を思いっ切り引いて包帯を引き寄せる。

オーラを吸収されているとは思えない程の凄まじいパワーにオシリスの足が砂地から浮き高速で引っ張られた。

 

「くっ…ああああああああ!」

 

オシリスは悲鳴を上げる。

光と鬼の化身は右手の拳を思いっ切り振りかぶる。

 

ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

そして、光がもう一度雄叫びを上げて拳を突き出した。

連動して鬼の化身が拳を突き出してオシリスに叩き込んだ。

その衝撃は生身でトラックに衝突した時と同じくらいだ。

 

「ぐはっ!」

 

オシリスは吹っ飛ばされて砂地を転がる。

今の一撃で力を使い果たした光はそのままうつ伏せに倒れた。

オシリスはというと…

 

「ぐっ…はぁ…はぁ…」

 

大ダメージを受けたものの何とか砂地に手をついて膝立ちで耐えている。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 オシリス・レッドリー》

 

「はぁ…はぁ…勝った…」

 

オシリスは肩で息をしながらそう呟いて立ち上がる。

ダメージがまだ残っている為、少々ふらつく。

 

会場には拍手も歓声も無かった。

『化け物』と罵っていたオシリスに今さら喝采を浴びせる者がいないのも確かだがそれ以上にあの鬼の化身を具現化した光にも驚きと恐怖で言葉を失っていた。

口に出さないが皆こう思ってしまう。

あいつも『化け物』なのか…と。

しかし、そんな中で1つの拍手が聞こえた。

 

「ナイスガッツ!」

 

拍手をしていたのはイギリス代表チャーリー・ベルモットだった。

その拍手に影響されたのか恐らくやむなしであろうが周囲の人間も拍手する。

乾いた拍手ではあるが。

 

気絶した光は医療班によって医務室に搬送された。

オシリスは包帯を巻き直しながらフィールドを去った。




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師弟コンビ

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 ニューヨーク時間午前10時55分 日本代表控室。

 

「光先輩…」

 

丸山が心配そうな声を上げる。

 

「大丈夫。光は殺したって死なないような女ですから」

 

そんな丸山の肩に真冬が手を置いて慰める。

 

「真冬先輩…はい。私、光先輩を信じます!」

 

丸山がそう返すと、にとりが両手をパンと叩く。

 

「さあ、切り替えよう。映姫と妖夢、頼むぞ」

 

1勝2敗という状況に皆が押し潰されないように指示を出す。

 

「「はい!」」

 

師弟コンビが声を揃える。

 

「負けんなよ姫姉」

 

黒刀がエールを送ると、映姫が振り返る。

 

「お姉ちゃんに任せなさい!」

 

自信満々の笑顔でそう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 スウェーデン時間午後4時55分 丘の上の四季家。

 

「桜さん、そろそろ娘さんの試合が始まりますよ」

 

「あら、そうだったわね。幽香さん、紅茶を淹れてもらえるかしら?」

 

「はい」

 

幽香がキッチンに向かう。

桜はソファに腰掛けてモニターウインドウを展開する。

モニターにはシングルス2という折り返しを越えたので六道仁vsストゥム・ルー、

博麗霊夢&霧雨魔理沙vsスクス・ハル&セト・マソト、五位堂光vsオシリス・レッドリーのリプレイがダイジェストで流れていた。

 

「はい。桜さん」

 

幽香がテーブルにティーカップをそっと置く。

 

「ありがとう」

 

桜が柔らかな笑顔でお礼を言う。

 

「どういたしまして」

 

幽香はそう返してソファに腰掛ける。

 

「私、桜さんの娘さん…映姫さんには一度しか会っていませんし話したこともありませんけど映姫さんって強いんですか?」

 

幽香がリプレイ映像を眺めながら桜に訊く。

 

「強いわよ」

 

桜は即答した。

 

「それはどれくらい?」

 

「黒刀が一度も勝てないくらい」

 

「へぇ………え?」

 

幽香は相槌を打った後、呆気に取られた顔をする。

 

「黒刀にはね…越えたい目標が3人いるの。1人は大和さん。まあ、父親だから息子が越えたいと思うのは自然ね。似た者同士だし。もう1人は黒刀と映姫の師匠の神子さん。これも師弟の関係なら越えたいと思うのは不思議じゃない。そして、最後の1人が映姫。黒刀が一番越えたいと思っている目標。小さい頃からお互いに競い合ってきて一度も勝てていないからこそ諦めないで頑張って勝とうとしているの」

 

桜は懐かしむような顔をして語った。

 

「桜さんは不安じゃないんですか?母親として」

 

「母親に見守ることしか出来ないから」

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前10時58分。

オシリスはフラフラの状態でゲートまで歩いたがそこで壁に背を預けて膝を伸ばし座り込んでしまう。

 

「まだダメージが抜けない。あんな『化け物』がいるなんて聞いてないわよ…」

 

愚痴を呟いていると、ゲート前の通路から足音が2つ聞こえてくる。

目を凝らすと、1人はアヌビスの側近中の側近で身長2mの長身のヤハラ・イドだ。

 

「ヤハラさん…ぐっ!」

 

オシリスは思わず立ち上がろうとして痛みで呻き声を出す。

 

「無理に動かなくていい。大人しくしていろ」

 

ヤハラが声で制する。

オシリスは再び座り直すと顔を俯かせる。

 

「アヌビス様は何と?」

 

「『なんとも無様ではあったがまあ勝利すれば問題はない』とおっしゃった後、『とどめを刺せ』と私達におっしゃった」

 

表情1つ変えないヤハラの答えにオシリスは自分の無様な試合がアヌビスを落胆させてしまったことを思い知った。

 

「そうですか…後はお願いします…」

 

「ええ。アヌビス様に勝利をお届けします」

 

ヤハラがそう返した後、もう1人がローブを脱ぎ捨てる。

ローブを脱ぎ捨てたのは男だった。

しかし、ただの男ではない。

彼の名前はアアル・ムル。

肌には鱗があり、頬にはエラがあり、背中には背ビレがあり、歯は尖っていて、目は細め…つまり彼は人間ではない。

魚人だ。

 

「まあ、安心して下さいよ。オシリスさんの仇は俺が取りますから!」

 

「アアル、オシリスは敗北していない。仇というのは語弊がある」

 

ヤハラが指摘する。

「あ~すみません。それじゃサッと勝ってきますか~」

 

アアルは頭を掻いて軽口を叩きながらフィールドに入場していく。

魚人の彼が入場したことで会場がザワついた。

 

「ウィアアア!」

 

アアルは気にしないどころか雄叫びを上げた。

周囲の反応に流されない男のようだ。

 

「では行ってくる。動けるようになったら控室に戻れ」

 

ヤハラは座り込むオシリスを見下ろして命令する。

 

「はい…」

 

オシリスが返事してからヤハラはフィールドに入場した。

入場したヤハラを見た観客はそれなりに盛り上がる。

 

「(アヌビス様の前で無様な姿は見せられん。気を引き締めていかなければ)」

 

ヤハラはそう決意して一層引き締まった表情になる。

 

 

 

 

 

 一方。

妖夢と映姫はゲート前の通路を移動中。

 

「妖夢、どんな相手であろうと油断してはいけません。一瞬の油断が敗因になることもあるのですから」

 

映姫が人差し指を立てながら忠告する。

 

「はい師匠!」

 

妖夢は胸の前で両手をグッと握った。

 

「よろしい。それではお互いに力を合わせて黒刀に繋ぎましょう」

 

映姫が微笑む。

 

「はい!」

 

妖夢が笑顔で応える。

 

「では行きますよ。妖夢」

 

「はい!」

 

2人は声を掛け合ってからフィールドに入場した。

大きな歓声が会場を包み込む。

妖夢もさすがにこの空気には慣れたようで前に視線を向けている。

その時、巨体が目の前を遮った。

目線を上げると身長2mのヤハラが立っていた。

 

「君達が私の対戦相手ですか?」

 

「みゃああ!!!」

 

妖夢は急に巨体の人間が現れたことで驚き高速バックステップで距離を取った。

 

「ああ、すまない。驚かせるつもりはなかった」

 

ヤハラが弁解する。

 

「びっくりしました。師匠の言う通り油断してました…」

 

妖夢はアワアワした顔で言った。

 

「そういう意味で言った訳じゃないんですけれど…」

 

映姫が呆れ顔で呟く。

 

ヤハラは映姫に視線を移すと向かい合う。

映姫もヤハラに物怖じすることなく見上げる。

映姫の身長は145㎝、ヤハラの身長は2m。

その差は55㎝ある。

 

「君達はここで敗退する。痛い思いをしたくなければ降伏してもらいたい」

 

ヤハラがそう忠告する。

 

「忠告ありがとうございます。ですが丁重にお断りさせてもらいます」

 

映姫が丁寧に拒否する。

 

「後悔しても知りませんよ」

 

「そちらこそ」

 

冷静に言葉を交わしている2人だがその視線はバチバチと火花を散らせている。

その時。

 

「ヤハラさん、もういいでしょう。そいつらも俺達もここに闘いに来ているんです。今さら降伏する訳ないですよ」

 

アアルが割って入った。

 

「あ、お魚さん」

 

妖夢は生まれて初めて出会った魚人を見てキョトンとした顔で言った。

 

「その表現やめろ!一気にショボく見えてくるだろうが!」

 

アアルがすかさずツッコんだ。

 

「すみません。うちの後輩が無礼を」

 

「いえ。こちらこそすまない」

 

映姫が謝り、ヤハラがそう返すとそれぞれ踵を返して距離を取る。

ヤハラはツッコむアアルを宥めて戦闘態勢を取る。

映姫は影で剣を造形して右手で握り締める。

妖夢も鞘から2本の剣を抜いて構える。

 

 

 

 

 

 観客席に座っているイギリス代表レオ・アルハートは腕組みしてフィールドで構えている妖夢を見下ろす。

 

「魂魄妖夢…」

 

その名を呟く。

そんなレオの顔をマリーが横から覗き込む。

 

「気になるのですか?お兄様」

 

「フッ。いや…彼女にもはや興味は無い。寧ろ気になるのは…」

 

視線を妖夢の隣で四季流の構えを取っている映姫に移すレオ。

 

「黒刀君の姉である彼女の方だ。黒刀君があれだけ強いのであれば彼女も相当の実力者だおる」

 

レオの言葉にリーナが後ろの席から身を乗り出す。

 

「エイキはとっても強いデス!多分、クロトはまだ勝ってないデス!」

 

「へぇ。それはますます興味が沸いてくるよ」

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前11時。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

「まずはこっちからいくぜ!」

 

アアルが水の刃を造形し両手に纏わせて砂地を蹴る。

 

「二刀流⁉」

 

妖夢が驚く。

 

「はあっ!」

 

その間にアアルが斬りかかる。

妖夢は横に跳ぼうとするが砂に足を取られて上手く動けずアアルの水刃と斬り結び鍔迫り合い状態となる。

 

「くっ!」

 

「どうやら砂漠に慣れていないようだな。それもそうか!お前らの国に砂漠などないのだからな!」

 

「きゃあっ!」

 

妖夢は吹っ飛ばされて砂地を転がる。

 

「休んでいる暇はねぇぞ!」

 

アアルは跳び上がって上から飛び掛かり水刃を突き刺そうとする。

 

「っ!」

 

妖夢は横に転がって避けた後に立ち上がる。

妖夢がいた場所に水刃が突き刺さる。

アアルは水刃を引き抜いて妖夢に連続攻撃を仕掛ける。

慣れない砂地に苦戦している妖夢は躱すだけで精一杯だ。

 

 

 

 

 

 一方。

映姫とヤハラはというと…

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

映姫が斬り落としているのは8つの火の玉だった。

 

「『ファイアボール』…」

 

映姫が呟く。

 

「よく知っていますね。そう。今のは火属性霊術『ファイアボール』。そして、私は火属性を得意とする霊術師です」

 

ヤハラが両手を左右に広げると、ボッと火の玉が作り出され彼の周囲に浮遊する。

先程の数は8つだったが今度は20個。

 

「凌げるか?」

 

ヤハラは『ファイアボール』を一斉に放つ。

映姫はさっきと同じように『四季流剣術 壱の段 一騎当千』で斬り落としていく。

だが、10個目を斬り落としたところでそのすぐ後ろにもう1個の火の玉があった。

映姫はたった今、火の玉を斬り落とした直後。

 

「(『ブラインド』…)」

 

『ブラインド』。

実戦では銃弾の後に銃弾を隠す射撃法。

影の剣を振り切った映姫は通常この状態から対処することが出来ない。

通常ならば。

 

映姫は手首を捻って逆方向に影の剣を振って火の玉を斬り落とす。

そして、火の玉20個全てを斬り落とした。

 

「見事。しかし、背中がガラ空きです」

 

その声は映姫の背後から聞こえた。

火の玉を放った後に映姫の背後に回り込んだようだ。

 

「霊術師だからといって接近戦が出来ない訳ではない!」

 

ヤハラが右手の拳を振り下ろす。

衝撃で砂が舞い上がる。

 

「師匠!」

 

妖夢が叫ぶ。

その時。

 

「見た目に反してよく喋りますね。あなた」

 

声が響いた。

 

「!」

 

ヤハラは背後に気配を感じて振り返った。

そこには駆けの剣を振り下ろしてくる映姫がいた。

ヤハラが拳を振り下ろしたあの瞬間、映姫は『抜き足』でヤハラの背後に移動していたのだ。

映姫の影の剣がヤハラの顔に直撃する寸前で火の玉が盾に変形して防いだ・・

 

「ファイアシールド!」

 

火の盾と影の剣がぶつかり合って衝撃波が生まれる。

映姫が押し返されて弾かれる。

空中に浮いた映姫にヤハラは火の盾を火の玉に変形させて放つ。

空中ならば逃げ場はないと思ったのだろう。

だが、映姫は空中で『ロージャンプ』と『抜き足』を同時に使って回避した。

ヤハラからすれば空中で突然、映姫が消えたと思っただろう。

 

「ガラ空きなのはあなたのようですね」

 

映姫の声が響く。

ヤハラは振り返ってすぐに火の玉を放とうとする。

 

「四季流剣術 弐の段 一閃!」

 

映姫の声と共にヤハラの体に斬撃が迸る。

 

「ぐっ!」

 

ヤハラは呻き声を上げると即座にバックステップで距離を取る。

 

「強敵」

 

ヤハラは一言呟いた。

 

 

 

 

 

 一方。

妖夢はようやく砂地の闘いの足運びのコツを掴んできたようでアアルの水刃を上手くいなしている。

 

「はあっ!」

 

「くっ!こいつ、意外と飲み込みが早い!だが、所詮付け焼刃!」

 

アアルはバックステップで距離を取ってから砂地を蹴って『クロスステップ』で妖夢の背後に移動して水刃を振り下ろす。

妖夢は『クロスステップ』で水刃を回避。

さらに、『ハイジャンプ』でアアルの頭上に跳び上がって上から2本の剣を振り下ろす。

アアルは前転してそれを回避。

 

「見せてやるよ!砂漠の闘い方をな!」

 

アアルが右手の水刃だけを解いて砂地に右手を叩きつけた。

すると、そこに術式が浮かび上がった。

 

「あれは召喚術式⁉」

 

控室の早苗が術式を見て驚く。

 

術式の構造に詳しくない妖夢には召喚術式どころか何の術式なのかさえ分からない。

召喚術式とは自身が契約した召喚獣や式神を呼び出す術式。

しかし、本来は生物だけである必要はない。

術式の中から現れたのは召喚獣や式神ではなくスケートボードのような物体だった。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「あれは…『サンドボード』⁉」

 

雪村が現れた物体の名称を口にする。

 

「『サンドボード』?何だそれ?」

 

魔理沙が当然の疑問を口にする。

 

「『サンドボード』とはその名の通り砂漠地帯で使用される乗り物。スケートボードやスノーボードの砂漠限定版のもので中東や北アフリカなどではレジャースポーツになっているくらい好まれて使用されています。スケートボードやスノーボードは斜面を利用して滑りますが『サンドボード』はボードに推進エンジンが搭載されていてその動力で稼働しています」

 

雪村が一から丁寧に説明してくれた。

ちなみにロシア連邦では派生型で『アンチグラビティボード』が開発されているが高価な為、手に入れることがかなり困難である。

 

 

 

 

 

 アアルは『サンドボード』に乗ると起動して砂地を滑ると右手に水刃を再度纏わせて妖夢に突撃する。

妖夢が横に跳んだ…がアアルが『サンドボード』で急速方向転換して斬りかかる。

妖夢は空中で防御態勢を取る。

何とか防御したものの相手の勢いが強すぎて砂地を転がる。

 

「ぐっ!」

 

「どうした?こんなものか!お前の力は!」

 

アアルが妖夢は挑発する。

妖夢は立ち上がって腰を落とし構える。

 

「いいね!そう来なくっちゃ!」

 

アアルは加速して真正面から妖夢に突撃する。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

妖夢はゆっくり深呼吸して2本の剣を強く握り締める。

右足を強く踏み込んでから一気に砂地を蹴って前進する。

2人の距離が徐々に縮まる。

 

「くらえ!」

 

アアルが水刃を振る。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

妖夢も剣を交差して振り抜く。

2人の剣がぶつかり合った後、互いに通り過ぎる。

すると、アアルの2本の水刃が真っ二つに折れた。

 

「何っ!」

 

アアルが驚く。

 

「私の剣は…軽くない!」

 

妖夢は振り返って言い放った。




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太陽神

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 ニューヨーク時間午前11時15分。

アヌビスは肘掛けを指でコツコツと叩いて苛立ちを見せていた。

 

「何をグズグズやっておる。余に恥をかかせる気かあいつらは!」

 

他のメンバーはアヌビスの機嫌が悪いことにビクビクと怯えている。

 

「ヤハラめ。貴様が負けるようなことがあれば余は…」

 

 

 

 

 

 ヤハラはアヌビスの言葉をを感じ取ったかのようにハッとする。

 

「…申し訳ございませんアヌビス様。このヤハラ、己の全てを懸けて闘います!」

 

ヤハラはそう宣言すると霊力を高めて両手を両手を祈るように合わせる。

彼の足元の砂が下から突風でも吹いたかのように舞い上がる。

 

「モードチェンジ!」

 

ヤハラの周囲に火の玉が現れ、彼の体に吸い寄せられて包み込まれていく。

それはまるで小さな太陽。

その小さな太陽が浮遊してパキッと音を立てて弾けた。

現れたのは額に太陽の髪飾り、胸に太陽のタトゥー、背中に日輪とオレンジ色の翼を生やしたヤハラ・イドだった。

 

「太陽神アポロ!」

 

彼の目は太陽のような色に変わっている。

さらに、彼の周囲には30個の火の玉が浮遊している。

彼が軽く手をかざすとそれらは先程の倍の速度で映姫に放たれた。

 

「っ!」

 

映姫は『四季流剣術 壱の段 一騎当千』で全て斬り落とそうとする。

だが、量と速度が段違いになっている為、いくつか斬り落とせず砂地に着弾してしまう。

直撃はしなかったがその衝撃は体に伝わってくる。

さらに、直撃コースの火の玉が向かって来ている。

轟音と共に映姫の立っている場所が業火に包まれる。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前11時20分 日本代表控室。

映姫のピンチに黒刀は慌てていなかった。

誰にも気づかれない程度に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

「モードチェンジ!ロイヤルナイト!」

 

映姫がそう詠唱すると、渦巻く業火の中から純白の剣、純白の鎧、純白の籠手、純白のブーツを装備して現れた。

 

 

 

 

 

 

「まるで僕達と同じ英国騎士のようだね」

 

映姫の姿を見たレオが感心したように呟いた。

 

「そうですね。お兄様」

 

マリーも相槌を打った。

 

 

 

 

 

 映姫はRPGの勇者のような純白の剣を両手で握って構える。

 

「ふん!」

 

ヤハラが周囲の火の玉を映姫に向けて放つ。

 

「ふっ!」

 

映姫が右足を踏み込む。

 

「(気力…右足に70%…両腕に10%!)」

 

映姫は気力を部位別に割り振った。

踏み込んだ右足で砂地を蹴って跳び上がる。

 

映姫が黒刀に天才と評価されるのはオーラの細かいコントロールが絶妙に上手いことが主な理由である。

 

映姫は飛んでくる火の玉を斬り落としながら空中で浮遊しているヤハラに迫る。

 

「(空中では逃げ場はない。…いや…彼女も『ハイジャンプ』を使えるとしたら…)」

 

ヤハラは映姫の次の動きを予測して、直線的だけでなくカーブをつけたり時間差で空中で一時停止するするように火の玉を放って映姫を包囲した。

映姫は『ハイジャンプ』をせず、背中から影の翼を展開して上昇飛行し包囲射撃を躱す。

さらに、旋回して上から滑空する。

 

「墜ちろ」

 

ヤハラは上から迫る映姫に向かって右手をかざす。

 

「プロミネンスバスター!」

 

右手から熱線を撃ち放つ。

映姫は冷静に横に躱す。

だが、そこでもう1本の熱線が放たれてきた。

 

「右手1本で撃てるなら左手で撃てない道理はない」

 

「(これは躱せない!)」

 

映姫は回避出来ないと瞬時に判断して純白の剣を水平に構えて防御態勢を取った。

熱線が剣の腹に直撃して強い衝撃が全身に伝わってくる。

 

「くっ!」

 

「油断はしない。確実に落とす」

 

ヤハラは周囲の火の玉を操作して映姫の背後を狙い撃つ。

熱線の防御に集中している映姫は迎撃どころか回避することも出来ない。

 

「(ならば影で…いえ無理…地上から離れすぎている。剣と翼を出すだけならともかくこの高度では影の精度が落ちる。だったら…両足に65%…上半身に15%!)」

 

映姫は気力のコントロールと同時に重心を下にずらして体をのけ反らせて熱線を受け流し背後の火の玉にぶつけた。

爆風で映姫は真下に落とされる。

それでも空中で体勢を立て直してゆっくりと着地する。

 

「『ロイヤルナイトモード』がタフで助かりました」

 

映姫はホッと息をつく。

 

「確かにタフだ。そして、危険だ。お前のようなタイプは長引かせると厄介極まりない。何より…」

 

まだ倒れていない映姫をヤハラが上から見下ろし、映姫の目をジッと見つめる。

 

「そういう目をしている人間は強い」

 

彼が見た映姫の目はまだ諦めていない闘志が滾った目だった。

 

 

 

 

 

 一方。

妖夢vsアアルの闘いは…

 

「そんじゃ…最終ラウンドといこうか!…ディープクアトロソード!」

 

アアルは水神を両手に纏わせる。

さらに背中…正確には肩甲骨から2本の触手のような水刃を生やした。

妖夢は姿を変えたアアルに対して警戒を強める。

アアルは『サンドボード』を乗り捨てた。

『サンドボード』は機動性という面では有利だが、4枚刃になって連撃性を高めた今の彼にとっては邪魔でしかなかった。

 

「そういやまだ名乗ってなかったな。アアル・ムル!四刀流の魚人だ!」

 

そう宣言して砂地を蹴り突撃する。

 

「魂魄妖夢!二刀流の剣士です!」

 

妖夢も名乗り返して砂地を蹴る。

両者の刃がぶつかり合う。

だが、アアルの両手の水刃を抑えても背中の触手のような水刃が振り下ろされる。

妖夢は頭を逸らして避ける。

水刃が妖夢の髪を掠める。

 

「はあっ!」

 

妖夢はアアルの両手の水刃を弾き返す。

 

「やるじゃねぇか!だが俺の連続攻撃のスピードはこんなものじゃねぇぞ!…霊力解放!」

 

アアルの霊力が爆発的に上昇する。

 

「いくぜ!」

 

アアルが砂地を蹴って突撃する。

 

「負けない!」

 

妖夢も負けじと迎え撃つ。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

アアルの4枚の水刃の高速連撃に対して、妖夢も2本の剣で弾き続ける。

しかし、物量差が出てしまい何回かに1回は妖夢のデュエルジャケットの一部を切り裂く。

 

「くっ!」

 

「どうした?もう限界かぁ?」

 

妖夢のデュエルジャケットを切り裂きながらアアルが挑発する。

 

「まだだ…まだ諦めない…」

 

妖夢がそう口にしたその時。

 

「その通り!最後まで諦めず闘いなさい!」

 

そう励ます声が聞こえた。

鍔迫り合い状態の中で視線を少しだけ声のした方に向けると自分を励ましたのはヤハラと戦闘中の映姫だった。

 

「黒刀を超えるのがあなたの目標でしょ!だったらこんなところで負けてはダメよ!」

 

映姫はそう声を張り上げてから自身の闘いに集中した。

妖夢はアアルに視線を戻す。

 

「はあっ!」

 

アアルを弾き飛ばす。

 

「…そうだ。先輩が見ている…先輩の前で恥ずかしい闘いは見せられない!私は勝つ!

…気力解放!」

 

妖夢の詠唱と同時に光の柱が立って彼女の体を包み込む。

 

「何だ…このオーラの上がり方は!これがさっきと同一人物のオーラなのか!」

 

アアルは妖夢の気力の上昇量に驚愕する。

 

光の柱から妖夢が姿を現す。

先程と違って『楼観剣』を右手に握っているだけだった。

 

「一刀流…だと…。おいおい。そいつはいくらなんでも自殺行為ってもんだぜ!」

 

アアルがそう口にするのは当然である。

四刀流のアアルに対して二刀流で苦戦していたというのにそれをさらに一刀流で闘うと言っているようなものなのだから。

 

「…ふぅ…はぁ…」

 

アアルの言葉など耳に入っていない妖夢は静かに息を吐いた。

かなりの集中状態だ。

 

「あっそ。じゃあ切り刻まれろ!」

 

アアルが砂地を蹴って突撃する。

妖夢も砂地を蹴る。

だが、今までのような荒々しい踏み込みではなく静かに流れるような踏み込みだった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

 

アアルが吠えながら4枚の水刃を振り下ろす。

 

「転生斬 円心流転斬!」

 

妖夢は弧を描く剣裁きで4枚の水刃とアアルの肩を斬り上げ、最後に突進しながら斬り抜いた。

 

「がはっ!…世界にはとんでもない奴がいたもんだぜ…」

 

アアルはそう言い残して仰向けに倒れた。

 

「はぁ…はぁ…ふぅ…」

 

妖夢は息を整えてから納刀する。

 

「(師匠…)」

 

妖夢は心配そうな顔で映姫とヤハラの闘いに視線を移すが、加勢しようにも今の自分では足手まといになるだろうと思って待つことにしたのだった。




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影姫

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 ニューヨーク時間午前11時25分 日本代表控室。

黒刀がモニターウインドウから視線を外して控室のドアへ歩き出す。

 

「黒刀、どこへ行く?」

 

にとりが呼び止める。

その声に皆の視線が黒刀に集まる。

 

「先にゲートで待つ」

 

黒刀は背を向けたままそれだけ言って、黒いコートを揺らしながら控室を出た。

 

 

 

 

 

 映姫が純白の剣を天に掲げる。

 

「黒刀に繋ぐ為に負ける訳にはいかない!…モードチェンジ!」

 

映姫が声高らかに詠唱する。

彼女の足元の影が広がり全身を包み込んでいく。

さらに、彼女を包み込む影は肥大化していく。

同時にそれは人の姿へと変化していく。

その姿とは…

 

影姫(かげひめ)!」

 

 

 

 

 

 その存在をモニターウインドウで見た桜は思わずソファから立ち上がった。

 

「あれは!」

 

「桜さん、どうかしたんですか?」

 

幽香が首を傾げて訊くと、桜はハッと気づく。

 

「いえ。何でもないわ…」

 

そう答えてソファに座り直す桜。

 

桜が目にしたもの。

それは30年前に大和と共に倒した四季の始祖、四季影姫の姿と酷似しているものだった。

 

「(何故あの子があの力を…)」

 

 

 

 

 

 今、映姫は巨大な『影姫』の化身を身に纏っている。

 

「何だ…その姿は…」

 

得体の知れない存在を見てヤハラが口を開く。

 

「これが…私の新たな力です!」

 

映姫がヤハラを見据えて言い放つ。

純白の剣が消滅して影の剣が再度、具現化される。

映姫は影の剣を右手で握ると、腕を引いてその場で突きを放つ。

その動きに連動するように『影姫』の化身も右手で突きを放つ。

 

「(大したスピードじゃない。躱せる!)」

 

ヤハラが飛行したまま後方に下がり距離を取って躱したと思ったその時。

『影姫』の化身の右手が刃に変形した。

さらに1本の刃が無数に枝分かれしてヤハラに襲いかかった。

 

「何っ!」

 

ヤハラは上下左右に飛行して回避しようとするが数は多すぎる為、回避出来ない刃は火の盾で防御しようとする。

だが、影の刃は火の盾を貫通してヤハラの腕、肩、脇腹、足を掠めて切り裂く。

 

「ぐっ!プロミネンスバスター!」

 

痛みで呻き声を上げるが何とか耐えて熱線を右手から撃ち放った。

 

「それはもう見ました!」

 

映姫は影を操作しては幅3m、高さ5mの影の壁を展開した。

影の壁は熱線を受け止めて消滅させる。

さらに、大技を使用して隙が出来たヤハラに大きな影の手を叩きつけた。

ヤハラは両腕をクロスして全身をかばう。

彼は砂地に叩きつけられて、砂柱が立った。

 

 

 

 

 

 

「えげつな~」

 

お空が映姫の闘いっぷりを見て、思わず口に出してしまった。

 

「さすが四季黒刀の姉ですね」

 

藍もそう言葉を漏らす。

 

「(まさに化け物姉弟ね…)」

 

椛は心の中で呟いて、ため息を漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 砂地に叩きつけられたヤハラは片膝をつきながらも何とか立ち上がる。

全身はダメージでかなりボロボロの状態である。

 

「何て力だ。先程までの彼女とはまるで別人…」

 

ヤハラは映姫に視線を移す。

映姫は『影姫』の化身の中で立っている。

その立ち姿は一切の隙を見せていない。

 

「さて、どうしたものか…っ!」

 

ヤハラが右足を前に踏み出したその時。

ある異変に気付いた。

体が動かないのだ。

自身の体を見下ろすと足に影が絡みついていた。

さらに、その影は全身に回り絡みついていく。

 

「影牢」

 

映姫が右手をかざしながらそう口にした。

だが、『影牢』の真の恐ろしさはこんなものではない。

ヤハラの『太陽神アポロモード』が強制解除されて元の姿に戻された。

しかも自身の霊力が全く感じられない。

そう。

『影牢』の神の恐ろしさとは相手を拘束することではなく相手のオーラを無力化してその分のオーラを自身が吸収することだ。

今のヤハラは無力なただの人間だ。

映姫が右手を握り締めて振りかぶる。

それに連動するように『影姫』の化身も同じように動く。

ヤハラが『影牢』の拘束から抜け出そうともがくが全く抜け出せず力も出せない。

 

「シャドーインパクトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

 

映姫と『影姫』の化身が振りかぶった拳を前に突き出す。

影の拳が無防備のヤハラに真正面から直撃した。

 

「ぐっ!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」

 

ヤハラの全身に強烈な衝撃が伝わってくる。

吹っ飛ばされ砂地を転がりうつ伏せに倒れた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季映姫&魂魄妖夢》

 

会場が歓声に包まれた。

映姫は『影姫モード』を解除して元の姿に戻る。

 

「師匠~!」

 

妖夢が映姫に駆け寄る。

 

「妖夢、よくやりましたね」

 

「えへへ♪そうですか~♪」

 

映姫が妖夢を褒めると妖夢が締まりのない顔になって頭を掻く。

 

「ですがまだまだ修行不足です」

 

映姫が上げてから落とすような言葉を吐く。

 

「あう~」

 

妖夢が分かりやすくショボンと落ち込む。

そんな弟子を見て映姫は若干、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 気絶したアアルは医務室に搬送された。

ヤハラは気絶まではしておらず、よろけながらも起き上がる。

『影牢』も既に解かれているので霊力も徐々に戻ってきている。

ヤハラは体をかばいながらも映姫に歩み寄った。

映姫はヤハラに視線を移し、黙って待つ。

 

「私の負けです。数々の失言を謝罪する」

 

そう言って頭を下げる。

ただ勢いよく頭を下げたので妖夢が驚いてのけ反ってしまった。

 

「いえ。気にしていません。闘いとなれば少々強気になってしまうこともありますし、身近にそういう人がいるので本当に気にしていません。ですから頭を上げて下さい」

 

映姫は視線を崩さず真顔で返した。

ヤハラはここで意地を張って頭を上げないのは失礼だと思い、ゆっくりと頭を上げた。

 

「(あっ…上げる時はゆっくりなんだ…)」

 

妖夢は黒刀が考えそうな場違いなことを思っていた。

 

「感謝する。四季映姫と言いましたね?」

 

「映姫で構いません。苗字だと弟と被るので」

 

「では映姫」

 

ヤハラが右手を差し出す。

映姫も意図を察して右手を差し出す。

 

「いつかまた闘お…っ!」

 

握手を交わそうとしたその時。

ヤハラの背後から鞭が伸びてきて背中を打った。

その瞬間、ヤハラの全身に電流が流れて激痛が走り横向きに倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

「…余は言ったはずだ。二度と余に恥をかかせるなと」

 

その声はゲートから聞こえた。

声の主を見たオシリス・レッドリーは恐怖で震えた。

 

「だが、貴様は敗北するだけでなく敵に対して握手などとくだらぬことを交わそうとした」

 

声の主は暗闇の中から姿を現した。

 

「余はエジプト王国第一王子アヌビス・ヘルメスだ!それすら忘れたか?ヤハラ」

 

アヌビスがフィールドに足を踏み入れたその瞬間。

妖夢は圧倒的なオーラを感じて後ずさった。

 

「(何て…冷たくて巨大なオーラ…)」

 

アヌビスがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

伸びていた鞭が縮んでアヌビスの手元に戻っていく。

その鞭はゴムで出来た物のではなく霊力で出来たものだった。

アヌビスは右手に杖を持っていてその先が鞭に変化していた。

その鞭が縮んで杖先で赤い球体に変形する。

それは魔術師が持つようなロッドだった。

アヌビスがうつ伏せに倒れているヤハラの後ろで立ち止まる。

 

「貴様には失望したぞヤハラ。余の命令に逆らうとは…もう用は無い。失せろ」

 

ヤハラに向けて冷酷な言葉を吐く。

 

「はい…仰せのままに…」

 

ヤハラは苦しそうに言葉を絞り出しながら痛みを堪えて立ち上がるとアヌビスの横を通り過ぎてゲートへ歩き出す。

 

「ちょっと待ってください!そんなボロボロの体で動くなんて無理です!医務室に搬送してもらった方が…」

 

妖夢が止めようとしたその時。

 

「口を閉じろ。雑兵」

 

アヌビスが妖夢にロッドの先端を向けた。

妖夢は一瞬怯んだが、それでも前に踏み出して真っ向から言い返す。

 

「全力で闘った仲間に何であんな酷いことが言えるんですか!」

 

「余の()()に何を言おうと余の自由だ。それと……雑兵如きが余に口を出すな!

 

アヌビスが怒りを露わにして、ロッドの底を砂地に突き刺したその瞬間、霊力の波動が放たれた。

その波動が妖夢に襲いかかろうとする。

誰もが息を呑んだその時、もう1つ強烈なオーラの波動が放たれてアヌビスの霊力の波動を打ち消した。

 

「ん?」

 

アヌビスが目を細める。

その視線の先に立っていたのは…

 

「先輩!」

 

妖夢が振り返ってパアッと表情を輝かせて呼ぶ。

そう。

そこに立っていたのは…

『八咫烏』の剣先をアヌビスに向けた四季黒刀だった。

 

「俺の後輩にちょっかいを出すのはやめてもらえるかな?アヌビス・ヘルメス」

 

黒刀がそう口に出して『八咫烏』を納刀する。

ちなみに先程、アヌビスの霊力の波動が打ち消されたのは黒刀の剣圧によるものである。

 

黒刀が足を踏み出してフィールドの中央へと歩く。

彼の存在に多くの人間が注目する。

 

「ようやく出てきたか。四季黒刀」

 

観客席に座っているレーニンJrはそう呟くのだった。




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無敵兵団

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


「黒刀君、この目で見させてもらうよ。今の君の力を」

 

そう口にするイギリス代表レオ・アルハートは今すぐにも闘いたいという欲求が高まり腕組みしている手に力がこもる。

レミリアは無言でただの黒刀を観察している。

 

 

 

 

 

 

「妖夢、お前の闘い見てたぞ。よくやったな」

 

黒刀は妖夢に近づいて頭を撫でる。

 

「えへへ~♪」

 

妖夢は顔はにやけていた。

 

「後は俺に任せろ」

 

黒刀は妖夢の頭から手を離す。

妖夢が一瞬、残念そうな顔をする。

 

「はい!頑張って下さい!先輩!」

 

すぐに笑顔に戻ってエールを送るとゲートへ走った。

映姫は何も言わず、ただ黒刀の顔を見た後、妖夢を追って歩いて行った。

 

黒刀は目の前に立っているアヌビスに向き直る。

 

「雑兵の分際で余を無視するとは身の程を知らぬ愚か者だな」

 

アヌビスは不機嫌な顔で吐き捨てた。

 

「そうか?だが雑兵と言ってあまり見下さない方がいいぜ。俺の知り合いに自分を下っ端と呼ぶ割に強い奴もいるくらいだからな」

 

黒刀が飄々とした態度で言い返す。

 

「雑兵は所詮雑兵だ。それと余に指図をするな」

 

アヌビスが冷酷な目で言い返す。

 

「あっそ」

 

黒刀はそれだけ言って『八咫烏』を抜いて構えた。

その態度にアヌビスはさらに不機嫌になる。

 

「まだ分からぬか?ならば分からせてやろう。エジプト王国第一王子アヌビス・ヘルメスの力をな!」

 

アヌビスはそう宣言して、ロッドの先端を鞭に変形させる。

 

「ご自由に」

 

黒刀がそう返した。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

ニューヨーク時間午前11時45分。

日本代表四季黒刀vsエジプト代表アヌビス・ヘルメスの試合が今、始まった。

アヌビスは開始早々、鞭を黒刀に振る。

鞭は黒刀の右手首に巻き付いた。

鞭から電流が流れる。

だが、雷属性の黒刀には効果が無い。

 

「効かぬか」

 

アヌビスは特に驚いた様子もなく冷静だった。

黒刀が鞭ごとアヌビスを引き寄せようとする。

アヌビスは霊力で変形させた鞭を一旦切り離して元のロッドに戻して、ロッドの先端を黒刀に向けて霊力弾を数発撃ち放つ。

しかし、黒刀が『破壊王の鎧』を発動させると霊力弾が黒刀に直撃する寸前で雲散霧消して消滅した。

 

「これもか」

 

だが、それでもアヌビスはまだ冷静だった。

並の選手なら動揺して自滅しているところだ。

 

「こっちからもいくぞ!」

 

黒刀が砂地を蹴って駆け出す。

砂漠での戦闘経験もあるので砂に足を取られることはない。

 

「鬱陶しい!」

 

アヌビスが霊力弾を放つ。

 

「(『破壊王の鎧』で無効化されることは分かっている筈。だとしたらこの攻撃は…)」

 

そこまで考えると黒刀は足を止めて後ろに跳んだ。

黒刀がいた場所の数㎝手前に霊力弾が着弾して砂が舞い上がる。

アヌビスは黒刀に()()遠距離攻撃が通用しないことを分析して、霊力弾を足止めの為に撃ったのだ。

 

「フッ!」

 

黒刀が斬撃を放って舞い上がった砂を斬り払う。

砂が吹き飛ばされると向こう側に見えるアヌビスと黒刀の距離は20mとなっていた。

 

「見よ!これが王の力だ!」

 

アヌビスが高らかに声を上げて、ロッドを砂地に突き刺すとロッドの先端の赤い球体が光り出した。

アヌビスの足元の砂が盛り上がっていく。

さらに範囲が広がっていくので黒刀はバックステップで距離を取った。

盛り上がった砂の頂点にアヌビスは立っていた。

しかも盛り上がった砂はやがてある形に変わっていった。

 

「ザ・ピラミッド!」

 

それはエジプトでも有名なピラミッドだった。

その頂点は三角錐ではなく四角錐でそこには古代エジプトにありそうな石造りの玉座があった。

アヌビスはその玉座に腰掛けると、左手は肘掛けにかけて、右手はロッドを握り締めていた。

 

「墓標の上に玉座か。なかなかの趣味をしているじゃねぇか」

 

そう呟く黒刀の表情にはまだ余裕がある。

 

「さあ、王の前にひれ伏せ!」

 

アヌビスはロッドを天に掲げると高らかに声を上げた。

ロッドの赤い球体が光り輝く。

すると、砂漠のフィールドに次々と人型の何かが現れた。

それは影のようで、でもしっかりと形がはっきりしている生命なき兵。

つまり…

 

「化成体か」

 

黒刀は即座に答えを導き出した。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前11時50分 日本代表控室。

 

「化成体?」

 

魔理沙は聞き覚えのない単語を問うように口にする。

それに対して雪村が眼鏡を吊り上げた。

 

「はい。化成体とは実体ではなく半実体の物質で術者の霊力によって構築されるものです。術者の命令に従って動く。…まさに戦闘人形です」

 

「式神や召喚獣とは違うのか?」

 

魔理沙が素朴な疑問を口にする。

 

「全然違うわよ!」「全然違います!」

 

霊夢と早苗が同時に否定してきた。

 

「式神には化成体には無い心があるんです!」

 

「そうよ!化成体は命令だけだけど式神は信頼関係が重要なの!」

 

「「そこのとこ、しっかり覚えておくように!!」」

 

霊夢と早苗の剣幕に押されて魔理沙は逆らうことが出来ず必死に首を縦に振る。

そんなやり取りを横目ににとりはモニターウインドウに視線を移す。

 

「(それにしても凄い数だな…)」

 

モニターウインドウに映っている化成体の数は数百に及んでいた。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前11時51分。

 

「これが余の霊術『無敵兵団』だ!」

 

「(化成体。知識としてはあったが実際に見るのは初めてだな)」

 

アヌビスの言葉に黒刀は特に驚きもせず余裕を保っていた。

 

「…気に入らぬな。余の霊術を前にその余裕の表情…実に不愉快だ」

 

黒刀の態度にアヌビスは顔を顰めた。

 

黒刀はアヌビスを無視して化成体を観察する。

化成体は全身真っ黒で目が赤く光っており、それぞれ剣、短剣、大剣、槍、ハンマー、斧、弓矢など霊力によって具現化した武器を持っている。

数は今や300を超えている。

観察を終えた黒刀は「はぁ~」と息を吐き出し砂地を蹴ってそのまま化成体の群れに突き進んだ。

 

黒刀の大胆な行動に会場にいるほとんどの者が息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

「嘘だろ…あの軍勢にたった1人で突っ込むのか」

 

ザウルが驚く。

レーニンJrはただ無言で試合を観ている。

 

「全く。考えなしに突っ込むなんてどれだれ愚かなんですの?」

 

マリーが呆れる。

 

「そうとも限らないよ。彼のことだから何か策があるのかもしれない」

 

マリーの一言に対し、レオが口を挟む。

 

「ないわよ」

 

それを即座にレミリアが否定した。

 

「何故そう思うのかな?」

 

レオが興味を抱いてレミリアに問う。

 

「だってお義兄様だもの!」

 

すると、レミリアの代わりにフランが答えた。

 

「黒刀君だから?」

 

レオは意味が分からず首を傾げる。

 

「…あいつはね。闘っている時、ほとんど感覚に任せている。()()は考えない。つまりあいつは………本能で闘っているのよ」

 

黒刀のライバルであるレミリアがそう口にした。

 

 

 

 

 

 縦横見事に整列しちえる化成体の群れの最前列に黒刀が辿り着く。

黒刀はもう一度砂地を蹴って化成体に斬りかかる。

化成体は黒刀の攻撃に反応して剣を振り下ろす。

黒刀は『超反射』を発動してそれを躱して、化成体を水平に斬る。

斬られた化成体は雲散霧消して消滅した。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「やった!」

 

妖夢が喜ぶ。

 

「いいえ、まだです。化成体はまだたくさん残っています」

 

映姫が釘を刺す。

 

「これじゃたった1人で戦争しているようなものじゃないですか」

 

大妖精がそう言葉を漏らす。

その言葉を聞いた真冬がモニターウインドウに視線を固定してこう考えていた。

 

「(戦争…そういえばザナドゥ王国の時もたった1人で軍勢に立ち向かったことがあったわね)」

 

 

 

 

 

 黒刀が最初の1体を斬り倒したとほぼ同時に左右の化成体が剣で突き刺しに来た。

黒刀はしゃがんで躱した後、右足を軸にその場で回転して2体の化成体を斬り倒した。

だが、化成体の攻撃は止まらない。

しゃがんでいる黒刀へ4体の化成体が四方から突き刺してきた。

黒刀は宙返りで躱すと、1体の頭部を掴んで別の化成体に投げつけた。

投げつけられた化成体は別の化成体とぶつかり倒れる。

黒刀はバランスを崩した4体に斬撃を2発放って消滅させる。

 

「(化成体は直接触れられるようだな)」

 

黒刀は分析しながら闘っていた。

 

「それなら!」

 

黒刀はハンマーを振り下ろしてきた化成体がいたのでそのハンマーを『八咫烏』で軽く弾き飛ばした。

ジャンプしてその化成体の顔面を掴むと砂地に叩きつけた。

その衝撃で周囲の化成体が吹っ飛ばされた。

 

「何なのだ…何故、余の『無敵兵団』があのような雑兵1人仕留められぬ」

 

アヌビスは予想外の展開にやや焦る。

 

黒刀は砂地に叩きつけた化成体の頭部を上から突き刺す。

吹っ飛ばされていた化成体の群れが起き上がり黒刀を再度囲い込む。

 

「ゆけ!」

 

アヌビスの命令に応えて化成体の群れが一斉に黒刀に襲い掛かる。

黒刀はまず槍で突きに来た化成体を、体を回して華麗に躱し、背中に肘鉄をかけてよろけたところで回し蹴りで吹っ飛ばして、別の化成体と縦に重なったところを2体まとめて串刺しにして、そのまま横に斬り払うと同時に斬撃を放って前方にいる他の化成体も巻き込んで斬り倒した。

背後から2体の化成体が大剣を振ってきたので上半身を後ろに反らして躱す。

砂地に両手をついて逆立ちの状態から跳ね起きて背後の2体の化成体の顔面を踏み倒す。

踏み倒した化成体の首を斬って消滅させて、短剣で斬りかかってきた化成体を宙返りで躱して頭部を掴んで空中で首を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「すげぇ!黒刀、マジすげぇ!」

 

魔理沙が黒刀の大活躍に大喜びする。

実際、会場も黒刀の闘いぶりに大歓声を上げている。

 

「このまま勝てるかも!」

 

その勢いにチルノも乗る。

 

「そう簡単にいかないと思うわよ」

 

しかし、霊夢がそう口を挟んだ。

 

「何でだよ!今めっちゃ調子いいじゃん!」

 

「よく見なさい」

 

魔理沙の反論に真冬が促す。

 

「何だよ…っ!」

 

真冬の言葉に魔理沙が疑問を抱きながらモニターウインドウに視線を戻すと、その理由はすぐに理解した。

 

化成体の数が減っていないのだ。

正確には減らしてもさらに化成体の数が増え続けている。

 

「何だよ…あれ…あんなのありかよ…」

 

魔理沙はアヌビスの真の恐ろしさに驚愕して目を見開く。

どれだけ倒しても増え続ける心無き兵団。

例え魔理沙の『マスタースパーク』で一掃したとしてもすぐに化成体の数は増え続ける。

終わりなき闘い。

どんな強者でも無限の軍勢の前ではいつか力尽きてしまう。

そう。

この終わりなき闘いが終わるのは相手が倒れた時だ。

 

絶望的な状況で魔理沙達は打ちひしがれていた。

 

「心配ないわ」

 

そんな中、真冬がフッと笑った。

その一言に皆の視線が集まる。

 

「そうですね」

 

映姫が言った。

 

「問題無しです!」

 

早苗が言った。

 

「確かにそうだな」

 

にとりが言った。

3人はそれぞれそう口にした。

 

「何故そう言えるのですか?」

 

雪村が問う。

その問いに4人は笑った。

 

「「だって黒刀だから!」」「だって黒刀君だから!」「だってセンパイだから!」

 

 

 

 

 

 黒刀もこのままでは埒が明かないと分かったので、大剣を振り下ろしてきた2m級の化成体を見る。

 

「いいこと思いついた」

 

スライディングで2m級の化成体の足元に滑り込んで右足を『八咫烏』で切断する。

バランスが崩れたところで股の間を通り抜けて『八咫烏』を砂地に突き刺す。

2m級の化成体の左足首を両手で掴むとその場でジャイアントスイングした。

 

「おらっ!」

 

2m級の化成体のを『ザ・ピラミッド』の頂上の玉座に座しているアヌビスに向けてぶん投げた。

 

「くだらぬ」

 

アヌビスはそう吐き捨てて、投げられた2m級の化成体の前に化成体の壁を作って弾いた。

黒刀は『八咫烏』を砂地から引き抜いてジャンプすると、弾かれた2m級の化成体を足場にして『ハイジャンプ』でさらに跳び上がりアヌビスに剣先を向けて突っ込む。

 

「雑兵が!」

 

アヌビスは多数の化成体を壁にして阻ませる。

黒刀がその化成体の壁に突っ込むと化成体が次々と突き刺され倒れていく。

だが、その倍のスピードで集まっていく。

まるで虫の大群のように。

結果、黒刀は突破し切れず阻まれ宙に浮く。

 

「撃て!」

 

アヌビスの命令で弓を持った化成体が黒刀に向けて矢を放つ。

黒刀は空中で体勢を立て直した。

 

「モードチェンジ!サムライ!」

 

黒刀の体が黒い木の葉に包まれる。

その中から現れたのは半袖の浪人侍の姿をした『サムライモード』の黒刀。

化成体が放った矢が十数本、黒刀に迫る。

黒刀は空中で矢を斬り落としたり、矢を掴んで投げ返して矢と相殺させたりした。

 

「何っ⁉」

 

その神業にアヌビスは眉を顰めた。

子の神業は以前、黒刀が咲夜と闘った時にナイフを弾いたことと同じ技だ。

 

「だが、地上には貴様を突き刺す余の兵がいるぞ」

 

黒刀の真下には彼を突き刺そうと剣先を上に向けて待ち構える化成体が複数いた。

今度こそ終わりかと観客は思った。

だが、黒刀は空中で体制を変えて腕、足、腰、首など細かい微調整をして剣先の網を抜けた。

これは『超反射』を持つ黒刀だからこそ出来る芸当である。

転がって着地してから立ち上がる。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

1秒で50発の斬撃を同時に放って、周囲の化成体を斬り倒した。

 

「弓矢か。ナイフとマシンガンの方がまだマシだぞ」

 

黒刀は余裕の笑みを見せたのだった。




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覇王再臨

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 再度、化成体に包囲されて黒刀がそれらを華麗な動きで倒していく中でその光景を見ていたレーニンJrが口を開いた。

 

「ザウル、『南太平洋の悲劇』は知っているな?」

 

「そりゃもちろん。有名な話だからな」

 

突然の問いに疑問符を浮かべたザウルはとりあえずそう答えておく。

 

「『南太平洋の悲劇』。『セラフィム』の伝説の中の1つでもある。

…2年前、シンガポールが帝国に新型兵器が出来たという情報を入手した。

その事実にシンガポールはあることを危惧した。

強大な力を手に入れた帝国はかつてのように自分達の国を植民地化するのではないかと…もちろん帝国にその気はなくシンガポールの被害妄想だが先走ったシンガポールは近隣諸国と連合を組み、税金を上げ、さらに観光事業で得た資金を全て軍事資金に使った。

そのおかげで戦艦30隻、空母10隻を手に入れた彼らは帝国に対して侵犯攻撃を仕掛けた。

第一防衛線を突破した彼らだったが第二防衛線に突入する前に彼らは不運にも出会ってしまった。

………全ての敵を殲滅する天使『セラフィム』に…。

たった1機と高を括っていた彼はそのまま突撃を仕掛けた。しかし、結果は無残なものだった。

戦艦30隻と空母10隻は全滅、生き残っている兵士もいなかった。

偶然ロシア軍の観測兵がいたおかげと工作部隊の情報収集によってこの伝説は明るみとなって世界中に知れ渡った。『セラフィム』の名前は一般公開はせずにな」

 

レーニンJrはそこで語り終えた。

 

「つまり何が言いたいんだ?まさか士官学校の復習をさせようとでも言うのか?」

 

試合を観ながらしっかり聞いていたザウルは冗談交じりに返した。

レーニンJrは試合を見ながらこう口にした。

 

「つまり…『セラフィム』に数は関係ないということだ」

 

余談だが艦隊を壊滅させられたシンガポールは後に世界各国から警告と非難を受けた。

国民からは税金と観光事業で得た資金を搾取された上に敗北したのでデモ、暴動などが勃発してかなり荒れた。

新体制の政府を発足したことで徐々に立ち直してきている。

それ以来、各国の軍部ではこう言われている。

『セラフィム』と遭遇したら即撤退しろ。

これは各国の士官学校でも特に厳しく教えられてきている。

 

 

 

 

 

 黒刀は短剣で突き刺してきた化成体の攻撃を躱して、短剣を持った腕を肘ごと斬り落とす。

斬り落とした腕を右手で掴んで別の化成体の胸に投擲した。

化成体の胸に短剣が突き刺さり雲散霧消して消滅する。

 

「しぶとい!矢を放て!」

 

アヌビスの命令で弓を持った化成体が一斉に矢を放つ。

放たれた矢の数は100本を超えている。

 

「おっと!」

 

黒刀は矢が降り注ぐ前に背後から大剣を水平に斬ってきた化成体の剣撃をしゃがんで躱すと振り返って大剣の化成体の両腕を斬り落としてから背後を取り背中を掴んで降り注ぐ矢の盾代わりにした。

盾代わりにされた化成体や周囲の化成体に矢が突き刺さる。

矢の攻撃が止むと、黒刀は盾代わりにした化成体の首を斬り落として捨てた。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後0時1分。

 

「何て奴なの…あの軍勢にここまで闘い続けるなんて…一体何者?」

 

目の前の試合をゲートの壁に背中を預けながら見ていたオシリスは信じられないものを見るような目で呟いた。

 

 

 

 

 

 同様に観客席から試合を見下ろしていた田中は教え子を見るような目をしていた。

 

「(うんうん。体術の訓練は怠っていないようだね。さすが黒刀君だね…)」

 

 

 

 

 

 

「…仕方ない。この手は使いたくなかったが…」

 

アヌビスはロッドを玉座の前に突き立てた。

両手を肘掛けにかけて指先を叩き始める。

すると、化成体の内の何体かの動きが急に変わった。

 

槍を持った4体の化成体が四方から黒刀を突く。

そのスピードは先程までとは段違いに鋭く速い。

黒刀がジャンプして躱す。

そこへ剣を持った化成体がタイミングを合わせたかのように剣を水平に振る。

『八咫烏』で受け流し体を捻って上から回転斬りする。

その剣撃を大剣を持った化成体が下から割り込み防ぐ。

間髪入れず横から大剣を持った化成体がもう1体薙ぎ払ってくる。

『覇王の盾』を展開してガードする。

だが、大剣の重い一撃で吹っ飛ばされて砂地を転がる。

そこから右手をついて跳ね起きる。

 

「(動きが鋭くなった上に連携を取り始めた。考えられる可能性は…)遠隔操作か」

 

黒刀が答えを導き出す。

 

「ほう。たった1回で気が付いたか」

 

アヌビスが心のこもっていない感嘆の言葉を吐く。

 

「何体かを遠隔操作しているんだろ?」

 

「だが、分かったところでどれを余が操作している奴かなど分かる訳もない」

 

アヌビスが勝ち誇った笑みを浮かべる。

それに対して黒刀はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それはどうかな?」

 

その言葉と同時に黒刀は『覇王の眼』を発動した。

すると、見えたのだ。

遠隔操作されている化成体から肉眼では見えない霊力の糸がアヌビスの指先に繋がっているのを。

その数、10本。

 

「なるほど。種が割れてしまえば大したことは無いな」

 

「何?」

 

黒刀の言葉を侮辱と受け取ったアヌビスが眉を顰めた。

 

「お前が遠隔操作できるのは両手の指の数と同じ10体。指先から不可視化した霊力の糸で遠隔操作しているに過ぎない。差し詰め…『マリオネット』と言ったところか」

 

黒刀はアヌビスの霊術を完全に見破った。

 

「…許さぬ。余をここまで侮辱したこと………許さぬぞ!」

 

アヌビスが激昂して化成体を遠隔操作で攻撃をさせた。

 

「同じ手を何度も食うかよ」

 

黒刀がそう吐き捨てると、その体に青白い電気が帯びる。

 

「電光石火…四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

黒刀は先程までとは比べ物にならないスピードで10体の化成体を斬り倒した。

アヌビスは目を見開くが何とか冷静さを保つ。

 

「焦るな…そうだ…余には無限の兵士がいる。()()()()()()()とは違う!余の命令に忠実に従う()の兵士がな!アハハハハハハ!!!」

 

そう言って高笑いした。

その言葉に黒刀がピクリと反応する。

 

「役立たずの道具?王だと?」

 

「そうだ!余こそが真の王に相応しい!」

 

「…哀しい奴だ」

 

「何だと?」

 

「お前は『王』という存在がどういうものなのか分かっていない。『王』っていうのはな…………運命に選ばれ宿命を背負った者のことだ

 

黒刀の言葉にレミリア・スカーレット、河城にとり、洩矢諏訪子が反応した。

それに対してアヌビスはフッと鼻で笑った。

 

「くだらぬ。王とは如何に国を支配し駒を上手く使える者を指すのだ!」

 

そうこう会話している内に化成体が次々と現れて黒刀を取り囲む。

 

「いずれにせよ貴様はここで終わりだ。とどめを刺せ!」

 

アヌビスがそう命令する。

黒刀を包囲する化成体が一斉に跳び上がって突き刺そうと襲い掛かった。

その時。

 

「(黒刀、頼みがある…)」

 

黒刀の中からザナドゥ卿の声が聞こえた。

 

「(ああ。言わなくても分かっている。だけど上手くやってくれよ)」

 

「(承知した)」

 

ザナドゥ卿の声が最後に聞こえた。

次の瞬間、黒刀のペンダントが赤と青、二色の輝きを放った。

 

「今更遅い!」

 

アヌビスが叫ぶ。

黒刀の体は何十体もの化成体の山に埋もれて見えなくなった。

二色の光も中に閉じこもって見えなくなった。

 

「フフフ…所詮は雑兵」

 

アヌビスが勝利を確信した笑みを浮かべたその時。

 

「モードチェンジ!」

 

化成体の山の中から声が響いた。

化成体は強い衝撃波によって吹き飛ばされた。

その中心に現れたのは首にぶら下げているペンダントから赤と青の輝きを放つ黒刀だった。

 

『黒刀!』

 

日本代表控室にいる全員が思わずその名を呼んだ。

 

さらに、黒刀の足元から黒い瘴気のような闇が溢れ出す。

それは柱となって黒刀を包み込む。

黒刀の姿が変わっていく。

闇の柱が天に昇った。

黒刀の変わった姿。

それは…

 

「ザナドゥ!」

 

かつて妖夢達が闘った『覇王』…そして、旧ザナドゥ王国国王クロト・ザナドゥだった。

漆黒の鎧、漆黒の籠手、漆黒のブーツ、漆黒のマントを装備した『覇王』だった。

次の瞬間、会場に重力のような威圧感がのしかかる。

 

『っ!』

 

それは世界の強豪にとっても強すぎるものだった。

 

「何だこれ…重い…」

 

チャーリーが耐えながら声を絞り出す。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「これは…『威圧』。何て強さだ…」

 

にとりも圧倒的なオーラのプレッシャーに押し潰されそうになりながら声を絞り出す。

 

「久しぶりに味わったけど…やっぱりきついな…」

 

魔理沙も苦しそうに声を絞り出す。

 

「前に経験したことあるの?」

 

愛美が訊く。

 

「まあな」

 

魔理沙はそう返すしかなかった。

しかし、この中で平気な顔をしている者がいた。

博麗霊夢、白金真冬、洩矢諏訪子、四季映姫の4人である。

霊夢はザナドゥの血が入っている為、真冬はザナドゥの血は入っていないが白雪真冬の魂を受け継いでいる為、残りの2人は単純に超人的だから。

 

「このオーラ…前にも…そうだ。俺と闘った時も同じオーラを…だが、あの時とは桁違いだな…」

 

優がそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 イギリス代表の中にもこのプレッシャーに耐える者がいた。

レミリア・スカーレットとレオ・アルハートである。

 

「マリー、魔力を全身に纏わせるイメージをするんだ。少し楽になる」

 

レオがマリーにアドバイスする。

 

「はい。お兄様」

 

マリーは言われた通りにする。

すると、何とか姿勢を正せるくらいには良くなった。

 

 

 

 

 

 観客席のお空とさとりは目を輝かせて喜んでいた。

 

「「帰ってきた!」」

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後0時5分。

 

()()強すぎたか」

 

そう呟いて『威圧』を緩めたのは四季黒刀ではなくクロト・ザナドゥである。

今は黒刀に代わってザナドゥ卿の意識が表に出ているのである。

ザナドゥ卿の視線がアヌビスに移る。

その瞳は『覇王の眼』となっており紫色の五芒星が浮かび上がっている。

 

『威圧』から解放されたアヌビスは息を吐き出す。

 

「はぁ…はぁ…おのれ…」

 

毒づくアヌビスに対し、ザナドゥ卿は無言でゆっくりと歩き出す。

 

「っ!」

 

アヌビスの顔が引き攣る。

 

「ナメるな!」

 

そう言い放って化成体を具現化して突撃させる。

ザナドゥ卿はそのまま歩き続ける。

その背後から剣を持った化成体が斬りかかる。

アヌビスは勝ち誇った笑みを浮かべる。

誰もが息を呑んだ次の瞬間。

その化成体は雲散霧消して消滅した。

 

 

「なん…だと…」

 

あまりの出来事にアヌビスは驚愕する。

化成体の剣の刃がザナドゥ卿に触れる寸前で化成体は消滅したのである。

ザナドゥ卿は止まることなくゆっくりと歩き続ける。

 

「どういうことだ!何が起きている!」

 

アヌビスは叫ぶが答える者はいない。

化成体が四方八方から次々と攻撃を仕掛けるが全ての攻撃が届く前に化成体は消滅した。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「そうか!」

 

妖夢が思い出したように声を上げた。

 

『?』

 

一同が首を傾げる。

 

「『ザナドゥモード』の先輩には気力や霊力を用いた攻撃が無効化されてしまうんです!」

 

「つまり霊力によって具現化された化成体は全て消滅してしまうってことね…」

 

霊夢が納得する。

 

 

 

 

 

 ザナドゥ卿は特別なことは何もしていない。

ただ歩く…それだけ。

だが、たったそれだけで敵に強烈なプレッシャーを与える。

 

『ザ・ピラミッド』の前に辿り着いたところで立ち止まる。

そこで中段構えを取る。

 

「まずはそこから…()()()

 

その場で『八咫烏』を水平に振った。

しかし、何も起こらない。

 

「こけおどしか」

 

「覇王一閃」

 

ザナドゥ卿が呟いた直後、空間を斬りかねないほどの黒い斬撃が『ザ・ピラミッド』を横一線に切り裂いた。

『ザ・ピラミッド』は崩壊して元の砂に戻る。

 

「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

アヌビスはこれまで聞かせたことのない断末魔を上げて落ちていく。

幸い砂漠フィールドなので砂がクッションになってダメージは緩和された。

アヌビスはロッドを持って立ち上がる。

 

「おのれ…許さぬぞ。よくもここまで余を侮辱してくれたな!」

 

アヌビスは怒りを露わにして吠える。

ザナドゥ卿は静かに目を閉じた後、ゆっくりと開けた。

 

「1つ聞こう。お前にとって『国』とは何だ?」

 

「支配する為のものだ!民と兵はその為に存在にしていればいい!」

 

アヌビスは目を細めた後、そう吐き捨てた。

 

「そうか………()は違う。『国』とは民あって存在できるものだ。民無くして『国』も『王』も無い!」

 

ザナドゥ卿はそう宣言して、『八咫烏』の剣先を天に向けた。

 

「パーソナルフィールド展開!」

 

フィールド全体が変わっていく。

そのフィールドには石造りの家があり、壁があり、王宮があり、天井が無い玉座の間があった。

そう…ここは…

 

「ザナドゥ!」

 

まさに旧ザナドゥ王国だった。

ザナドゥ卿は玉座の間で玉座に腰を…掛けず中央に立っていた。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「(旧ザナドゥ王国…1000年ぶりですね…)」

 

真冬は白雪真冬としての記憶に耽っていた。

 

「(何なの…この感じ…)」

 

霊夢はドクンッと胸が熱くなるのを感じていた。

ちなみに真冬が記憶を取り戻しているが、霊夢はまだ博麗聖夢としての記憶が戻っていない。

なので胸を熱くするそれが何なのか理解していない。

 

 

 

 

 

 

「何だこの古びて薄汚れた場所は?」

 

旧ザナドゥ王国の風景を見渡したアヌビスが吐き捨てた。

その時。

 

「ここは歴史に忘れられし王国…ザナドゥ王国だ。1000年前に1人の王が滅ぼした王国だ」

 

そう口にするザナドゥ卿の声には悲しみがこもっていた。

 

「己の国も守れない王などただの愚王だ。余はそのような者とは違う!来い!無敵兵団!」

 

アヌビスがロッドをかざして詠唱する………が何も起きない。

 

「どうした?来い!無敵兵団!」

 

再度、詠唱するがやはり何も起きない。

 

「何故だ!何故、無敵兵団が発動せぬ!」

 

アヌビスは憤慨して叫ぶ。

 

「無駄だ」

 

ザナドゥ卿の声が響いた。

 

「このフィールドではザナドゥの血か魂を受け継ぐ者以外、気力と霊力が無力化される」

 

「なん…だと…」

 

ザナドゥ卿の言葉にアヌビスだけでなく会場中の人間が驚愕する。

映姫の『影牢』もオーラを無力化するという効果は同じだが、それに比べてこちらはフィールド全体の為、効果範囲が広い。

 

アヌビスはロッドを投げ捨てて駆け出す。

霊力が使えない以上、ロッドを持っていても邪魔でしかないからだ。

駆け出した方向は玉座の間………ではなく反対側。

つまり逃げ出したのだ。

アヌビスは急いで家屋の中に入る。

当然、人の気は無い。

 

「(まずは視覚的に見えぬ場所で待機して好機を待つ。建物の中なら奴からは見えぬし狙いも定まらぬ)」

 

アヌビスは逆転の一手を考えながらチャンスを待った。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後0時10分。

 

「なるほど。身を隠し好機を待つか。俺が『千里眼』を使うと考えているという訳か。確かにいい考えではあるな………『千里眼』ならば」

 

ザナドゥ卿はそう口にして『覇王の眼』でアヌビスの居場所を視た。

『覇王の眼』は『千里眼』と違って不可視を視通す力がある。

例え建物の中に隠れようとその内部を視ることが出来る。

『八咫烏』を下段に構えて斬り上げたその瞬間、石造りの家の中にいるアヌビスの背中に突如、斬撃が走った。

 

「ぐあっ!」

 

アヌビスは前のめりに倒れてうめき声を上げた。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「彼は一体何をしたのですか?」

 

雪村が驚愕して呟く。

 

「空間霊術だ」

 

その疑問に答えたのは優だった。

 

「空間霊術?」

 

「ああ。空間魔法の霊術版みたいなものだ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!空間系の魔法や霊術は干渉力が関係する筈です。原則として対象が体内から発しているオーラの範囲には空間系の魔法や霊術は発動しない筈。ですがあれは…」

 

「ゼロ距離だった」

 

「はい。ですのでいくらなんでもそれは…」

 

「忘れたのか?あいつの言葉を。今あの場であいつ以外は気力と霊力が無力化されている。つまり今のアヌビスにはオーラがない。ただの人間だ。もちろんオーラの干渉力なんてない」

 

「ということは今の彼には座標さえ分かればどこからでもゼロ距離で攻撃することが出来る」

 

その結論に一同が少なからず恐怖を抱いた。

不可視を視通す『覇王の眼』。

気力と霊力を無力化するパーソナルフィールド。

ゼロ距離で放たれる斬撃。

まさに『覇王』の名に相応しいコンボ。

皆が言葉を失う中、ただ1人違った。

 

「凄いです!」

 

そう声を上げたのは妖夢だった。

 

「やっぱり先輩は凄いです!」

 

妖夢は喜んでいた。

 

「妖夢、お前…分かっているのか?今の黒刀がどれだけヤバいのか」

 

魔理沙が恐る恐る声をかける。

すると、妖夢はこう言った。

 

「え、だって超えるなら壁は高い方がいいじゃないですか」

 

妖夢はさもそれが当然と言いたげな顔で言い切った。

 

「(こいつ、マジか…)」

 

妖夢の言葉に魔理沙は困惑した。

 

 

 

 

 

 アヌビスは逃れられない斬撃を受けてボロボロになっていた。

 

「理由はどうであれ余の位置は知られているようだな。ならば!」

 

アヌビスは窓ガラスをぶち破って飛び出した。

そして、減速することなく王宮へ走り出した。

 

「(こんな風に走り回るのはいつ以来だろうな…)」

 

アヌビスの顔に自然と笑みが浮かぶ。

狙いが少しでも定まらぬように不規則なジグザグで前進する。

 

 

 

 

 

 エジプト代表控室。

 

「あんなアヌビス様を見るのは久しぶりですね」

 

アヌビスの試合を見守っていた控えメンバーの背後に突然、ヤハラが現れた。

 

「ヤ、ヤハラさん…ええ、アヌビス様があんな苦戦するなんて初めて見ました」

 

「そうか…(いや、私が言いたかったのはあんな楽しそうなアヌビス様を見るのは久しぶりということなんだが…)」

 

ヤハラはモニターウインドウに映るアヌビスを微笑ましそうに見守っていた。

 

 

 

 

 

 王宮へ進む途中もあぬびしゃゼロ距離で斬撃を受け続けていた。

しかし、不規則なジグザグの動きが功を奏したのか何とか立っていられている。

 

「(それにしても気になるな。奴は言っていた。ザナドゥ王国は王が滅ぼしたと…そして、こうも言っていた。このフィールドではザナドゥの血か魂を持つ者以外、気力と霊力が無力される。つまり奴の言うことが正しければ奴はザナドゥの血か魂を持つ者。これだけの力を持ち、あの風格…間違いない。奴は…)」

 

そこまで考えたところでアヌビスは急に立ち止まった。

ザナドゥ卿もアヌビスの次の行動を待って攻撃を中断した。

アヌビスは大きく息を吸った後、こう声を張り上げた。

 

「貴様に問う!貴様はこれだけの強大な力を持ちながら何故、国を滅ぼした!」

 

観客はアヌビスが何のことを言っているのか理解出来なかった。

ザナドゥ卿をアヌビスの言葉を聞いて目を閉じた。

 

「(あやつは気づいている。余がザナドゥ王国の王であったことを…)」

 

それから目を開ける。

 

「ザナドゥ王国が滅んだのは俺が弱かったから………ただそれだけだ」

 

ザナドゥ卿はそれだけ答えた。

 

「話は終わりだ」

 

その瞬間、アヌビスの周囲から空間霊術の術式が4個展開してそこから黒い鎖が飛び出してアヌビスを拘束した。

七瀬愛美の使用する『バインド』とはまた違った『バインド』である。

アヌビスは必死にもがくのかと思いきや縛られたまま両手を広げて立っていた。

 

「貴様の真意の一片を知った。そして、余にもはや手は残されておらぬ。故に余は…全身全霊で貴様の一撃を受ける!

 

アヌビスのその宣言は言わば敗北宣言であるが、彼が口にすると不思議と、潔さとカッコ良さが表れる。

 

「…いいだろう!」

 

ザナドゥ卿はアヌビスの覚悟を受けるとアヌビスの足元に巨大な術式を展開した。

それは直径30mの空間霊術の術式だった。

ザナドゥ卿の目の前にも空間霊術の術式が展開される。

ここに攻撃を撃ち込んでアヌビスの足元の空間霊術の術式から放たれるようだ。

ザナドゥ卿は『八咫烏』を上段に構えて白と黒のオーラを集束させる。

 

「カオス…ブレイカーァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

ザナドゥ卿が白と黒が螺旋状に混じり合った斬撃を放った。

『カオスブレイカー』が空間霊術の術式へ吸い込まれる。

アヌビスの足元の空間霊術の術式が光り出す。

 

「…すまぬ…ネフティス…」

 

アヌビスがそう言い残したと同時に足元の空間霊術の術式から直径30mの『カオスブレイカー』が放たれた。

アヌビスは白と黒が螺旋状に混じり合った混沌の斬撃に飲み込まれていく。

その斬撃は天に昇っていく。

全て昇り切ったところでアヌビスは仰向けに倒れた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

WDC本選1回戦第1試合の勝者を告げる機械音声が鳴り響くと割れんばかりの大歓声が沸き上がった。

パーソナルフィールドが解除される。

『八咫烏』を鞘に納刀すると『ザナドゥモード』も解除して元の姿に戻る。

意識もクロト・ザナドゥから四季黒刀に戻っている。

フィールドも『リアルARシステム』が解除されて元のフィールドに戻る。

 

「はぁ…正体隠すつもりがバレるとはな…」

 

「(すまぬ。うぬには苦労をかける)」

 

「まあ、いいよ。バレたもんは仕方ない」

 

実はザナドゥ卿が試合中に一人称を『余』から『俺』に変えていたのも正体を隠す為だった。

 

 

 

 

 

 アヌビスが倒れているのを目の当たりにしたオシリスは痛みも忘れて駆け出した。

 

「アヌビス様!」

 

そう叫んでフィールドを駆けたその時、彼女の横を高速で何者かが通り過ぎた。

 

「アヌビス様!」

 

そう叫んでアヌビスの元へ滑り込んだのは………ヤハラだった。

ヤハラは倒れているアヌビスの体を支え起こす。

 

「…耳元で騒ぐな…愚か者…」

 

目を覚ましたアヌビスが鬱陶しそうに呟いた。

 

「アヌビス様…お疲れ様でした…」

 

ヤハラは静かに涙を流した。

 

「…貴様は余の道具だ。余の許可なく敗北することも…余の手を離れることも許さぬ」

 

「はい…」

 

ヤハラは泣きながら応えた。

オシリスは2人のやり取りを見て指先で涙を拭っていた。

ヤハラはアヌビスを抱きかかえてフィールドを去って行く。

 

「(俺とぬえも…きっとああやって心で繋がっているんだよな…)」

 

彼らの後ろ姿と信頼関係の厚さを見た黒刀は昔を思い出しながらペンダントを撫でた。

それから黒刀はフィールドを去った。

 

WDC本選1回戦第1試合。

日本vsエジプトの試合は日本代表の勝利に終わった。

 

 

 

 

 

 試合を見終えたレオは武者震いを覚えていた。

 

「これが黒刀君の力…凄い…見ているだけで全身が熱くなってくるのを感じる…」

 

「(黒刀…私も負けない!)」

 

レミリアも心の中で決意を強めていた。

 

 

 

 

 

 

「行くぞ。次は僕達の試合だ」

 

ロシア代表のレーニンJrが観客席から立ち上がって歩き出した。

それに続いて他のメンバーも立ち上がって歩き出す。

その中の1人であるレティ・ホワイトロックはフィールドの方に振り返った。

 

「ニッポン…タノシミ」

 

そう呟いた後、歩き出した。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後5時 日本代表宿泊ホテル。

 

「くろにい~!」

 

ルーミアが元気な声と共に黒刀の泊まっている部屋に入ってくる。

しかし、黒刀からの返事はない。

何故なら黒刀は普段着でベッドに寝ていた。

 

「くろにい…」

 

その時、ルーミアの肩にポンと手を置くと者がいた。

 

「姫姉…」

 

「寝かせてあげなさい。今日は試合で疲れているだろうから」

 

映姫が優しく声をかけた。

 

「うん…」

 

ルーミアと映姫は熟睡している黒刀を置いて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 ロシア代表は今日の試合に勝利した。

これで明日の日本代表の対戦相手はロシア代表ということになる。

四季黒刀の偵察任務を受けているレーニンJrとザウルにとっては絶好の機会である。

 

レーニンJrは部屋でこれまでの黒刀の試合映像をチェックしている。

 

「(明日の試合、僕が四季黒刀に当たる可能性はかなり低い。だが、用心しておく必要は十分にある。もし…もし僕が彼と戦うことになったらその時は………必ず正体を暴いて見せる)」

 

彼の目には強い覚悟が宿っていた。

 

 

 

 

 

 新大日本帝国とロシア連邦。

二国の軍人が激突しようとしていた。




ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ

ご感想お待ちしております。


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日英茶会

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 9月24日 ニューヨーク時間午前7時。

ロシア代表戦当日となった今日、黒刀は欠伸しながら体を起こした。

隣に柔らかい感触を感じたので、そちらに視線を向けると、ルーミアが可愛らしい寝息を立てて眠っていた。

 

「(ロシア戦は午後6時からだったな。適当に時間潰すか…)」

 

ベッドから起き上がって、シャワーを浴びて、私服に着替えて、書き置きを残してから部屋を出た。

 

 

 

 

 

 黒刀がホテルを出た時、それを向かいのホテルから監視する者がいた。

 

「さすが黒刀君、朝早いね~」

 

軽口を叩いているのは新大日本帝国軍第22部隊隊長の田中健太少尉。

 

「対象が外出した。追跡する」

 

《了解》

 

田中は仲間に連絡してからホテルを出て黒刀の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午前7時30分。

 

「え?先輩部屋にいないんですか?」

 

「ええ。朝一番に外出しました。書き置きもありました」

 

黒刀の部屋を訪ねた妖夢に映姫がそう答える。

 

「とは言っても書き置きが『外出します』とだけなのでいつまでどこへと言った具体的なことは書いていませんでしたが。…全くこっちの身にもなって欲しいです」

 

映姫が小言を呟く。

妖夢は苦笑いするしかなかった。

その時。

 

「センパ~イ!」

 

大声で早苗がこちらに走ってきた。

 

「こら早苗、ホテル内で走らない」

 

「は、はい!」

 

映姫に注意された早苗は黒刀の部屋の前で急ブレーキをかけた。

 

「アハハ…」

 

妖夢はまたもや苦笑い。

 

「騒がしいわ」

 

すると、隣の部屋から純白のパジャマを着た真冬が出てきた。

 

「真冬さん、おはようございます」

 

妖夢が挨拶する。

 

「おはようございます」

 

真冬も挨拶を返す。

その所作はまさに大和撫子。

 

「…黒刀君は?」

 

まだ眠そうな顔で真冬が訊く。

 

「外出中だそうです」

 

妖夢が答える。

 

「そうなんだ~」

 

さとりが口を開いた。

 

「ほんと困っちゃいますよね~………って誰⁉」

 

早苗が珍しくツッコミを入れた。

気が付けばさとりが妖夢の背後に立っていた。

 

「あ、お2人は初対面ですよね?先輩の幼馴染の古明地さとりさんです」

 

妖夢が横にズレて紹介する。

 

「よろしく~」

 

さとりがやる気のない挨拶をする。

 

「「先輩の幼馴染?」」

 

早苗と真冬が反応したのはそこだった。

 

「ん~幼馴染っていうか~結婚を誓い合った仲~」

 

「「は?」」

 

早苗と真冬が喧嘩腰気味に返す。

 

「な、何を言ってるんでしょうね~この天然ポット出キャラは~!」

 

「いきなり出てきて図々しいですね~!」

 

2人は笑顔だが目が笑っていない。

早苗の背後には炎が、真冬の背後には吹雪が幻視される。

 

「(2人共、試合の時より迫力がある…)」

 

妖夢は後ずさりして心の中でビビっていた。

 

「でも~黒刀に『小さいときに言ったことだから』って言われてこの前断られた~」

 

「…そうですか…そうですよね…センパイがこんな合法ロリっ娘に惹かれる筈がありません」

 

「心配するだけ損でしたね」

 

さとりの言葉を聞いた早苗と真冬は機嫌を直した。

 

「なので黒刀の愛人になる」

 

さとりが爆弾発言を投下。

妖夢は恐る恐る早苗と真冬が激怒しているのではないかと振り向く。

すると、もっと恐ろしいものを見てしまった。

 

あなた達、いい加減にしなさい。ルーミアが起きていたら教育に悪影響です

 

そう口を開いたのは目が笑っていない笑顔で腕組みをして仁王立ちしている映姫。

今にも『影姫』が出てきそうなくらいだった。

 

「妖夢、すみませんが朝食は先に済ませて下さい」

 

「え、でも…」

 

ん?

 

「い、いえ!行ってきます!」

 

妖夢は早歩きでその場を去った。

 

「そ、それじゃ私達も…」

 

早苗、真冬、さとりも立ち去ろうとしたその時。

早苗の左肩を映姫の左手が、真冬の右肩を映姫の右手が、さとりの両肩を影の手がガシッと掴んだ。

 

あなた達はこれからお説教です

 

笑顔の映姫の宣告に3人の顔が青ざめた。

それ以来、さとりも映姫のあの笑顔がトラウマになった。

 

 

 

 

 

 同刻。

マンハッタン市を散歩していた黒刀は路地裏で5人の不良に絡まれている少年を見かけた。

 

「はぁ…」

 

黒刀はため息を吐きながら、見逃すのも後味が悪いので路地裏に入った。

 

「ハハハ!どうした?代表選手ってのはこんなもんか?」

 

大柄な不良が吐き捨てた。

 

「(代表選手?)」

 

黒刀が首を傾げて囲まれている少年を見ると、その少年は身長150㎝前後でイギリス代表のジャージを着ていた。

彼のジャージはボロボロ。

彼は怯えて震えている。

 

「ハハハ!おいおい。情けねぇな!このまま小便漏らすんじゃねぇのか!」

 

「お前みたいに勝ち組気取ってる奴が俺らのシマに入ってくんじゃねぇよ!」

 

大柄な不良がそう吐き捨てて拳を振りかぶった。

 

「電光石火」

 

黒刀は高速で大柄な不良に接近してその顔を横から蹴り飛ばした。

 

「ぐはっ!」

 

蹴り飛ばされた不良が声を上げる。

 

「てめぇ、何なんだ!」

 

別の不良が怒鳴る。

黒刀は無視して、イギリス代表の少年の持ち物であろうSDが足元に転がっていたのでそれを拾う。

 

「ちょっと借りるぜ」

 

黒刀がSDを起動する。

少年のSDは細剣型SDだった。

蹴り飛ばされた不良が立ち上がる。

 

「クソ!てめぇ、ぶっ殺す!」

 

不良も斧型SDを起動して斬りかかった。

黒刀は腰を落として構える。

 

「ハッ!そんな棒切れみたいな剣で何が出来る!」

 

不良が吠える。

他の不良も同時に拳で襲い掛かる。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

黒刀が不良達を斬り飛ばす。

非殺傷設定でなければ不良達は今頃上半身と下半身が切り離されていただろう。

 

「まだやるか?」

 

黒刀が睨む。

 

「チッ。クソ!」

 

不良達は逃げていく。

 

「ほら」

 

黒刀は細剣型SDのスイッチを切って少年に返す。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

SDを受け取った少年がお礼を言う。

 

「じゃ、俺行くから…」

 

黒刀が立ち去ろうとしたその時。

 

「あ、あの助けていただいたお礼をさせて下さい!」

 

「いや別にいらないんだけど…」

 

「そこを何とかお願いします!」

 

「…(受けないと面倒くさくなりそうな展開だな)分かった」

 

「ありがとうございます!それでは案内しますのでついてきて下さい」

 

「ああ。それと自己紹介が遅れた。日本代表の四季黒刀だ」

 

「存じております。僕はイギリス代表のシュミット・ブリウスです」

 

「お前もイギリス代表の選手なのか。だとしたらさっきは何故反撃しなかった?」

 

黒刀の問いに対してシュミットは愛想笑いした。

 

「反撃出来なかったんです。僕、一応イギリス代表ではありますけど…予選も本選も出られないくらい弱くて…未だに自分のスタイルを見つけ出すことが出来ていないんです…」

 

黒刀はシュミットの体格を改めて観察した。

身長は150㎝、小柄で細身。

 

「これは参考程度のアドバイスだが細剣型SDを使用しているならフェンシングの技術を取り入れた方がいいと思う」

 

「フェンシング…ですか?」

 

「ああ。スピードとテクニックを重点的に鍛えて、それとカウンターを極めたら脅威になるだろう。俺の知り合いにカウンターが得意な奴もいるしな」

 

黒刀の指す『カウンターが得意な奴』とは犬走椛のことである。

 

「まあ、カウンターを覚えるには反射神経が必須になるからそれは向き不向きがある。その場合はランニングで足腰を鍛えてステップをマスターするのもいいだろう」

 

「な、なるほど。勉強になります」

 

シュミットは感心していた。

 

 

 

 

 

 到着したのはイギリス代表が宿泊しているホテルの前だった。

 

「っていうか他の代表選手が入って大丈夫なのか?」

 

「あ、そうでした!すみません。僕、確認してきますのでここで少々お待ちしていだたいてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ。大丈夫だ」

 

「すみません。すぐに戻ってきます!」

 

シュミットが足早にホテルに入って行った。

 

「(何で敵にアドバイスなんてしたんだろうな…。まあ、いいか)」

 

黒刀がニューヨークの空を見上げながら考えていたその時。

 

「あ、あなた!何故ここにいますの?」

 

叫ぶ声が聞こえたので振り向く。

そこにいたのはイギリス代表のマリー・アルハートだった。

マリーが黒刀に詰め寄る。

 

「まさか…わたくし達の偵察に来たのではないでしょうね!」

 

「誰がそんな面倒くさいことやるかよ(パリではやったけど)」

 

「何ですって!それはわたくし達が偵察の必要性も感じないほど弱いとおっしゃりたいのかしら?」

 

黒刀の動揺に気づいていないマリーが強い口調で言い返す。

 

「ちげぇよ。俺は基本面倒くさがり屋なだけだ」

 

黒刀は冷静に言い返す。

2人の言い合いが平行線になっていたその時。

 

「お待たせしました~!」

 

シュミットが戻ってきた。

 

「おう。どうだった?」

 

「部屋はダメでしたが屋上のテラスなら問題ないとのことでした!」

 

シュミットが大きな声でそう答えた。

 

「シュミット!」

 

「は、はい!」

 

マリーが突然怒鳴るように呼んだのでシュミットは思わず姿勢を正してしまった。

 

「どういうことか説明しなさい!」

 

「は、はい!僕が路地裏で不良に絡まれているところを彼に助けていただいたので何かお礼は出来ないかと考えホテルへ案内しようと今さっき彼の入室許可を監督からいただいてきました!」

 

「分かりましたわ。あなたは部屋に戻りなさい」

 

事情を一通り聞いたマリーが堂々した態度で命令する。

 

「いえ、しかし…僕は彼に助けていただいた恩義があります」

 

「(そんなもんいらん)」

 

黒刀が心の中で横槍を入れる。

 

「僕はまだまだ若輩者ですが恩義を尽くせぬようでは騎士の恥です!」

 

シュミットが言い返す。

 

「ではあなたのその役目、わたくしが預からせて下さい」

 

マリーが頭を下げる。

強気で言い返したシュミットにも驚きだが、普段強気なマリーが格下のシュミットに対して頭を下げたことに黒刀は驚いた。

 

「分かりました!分かりましたからどうか頭を上げて下さい!」

 

ここまでされてはさすがのシュミットも食い下がれない。

 

「ありがとう」

 

マリーが頭を上げてそう返す。

 

「あなたにそこまでされたら僕は引き下がります。それでは失礼します!」

 

シュミットはホテルに戻った。

 

「それじゃ俺は帰…」

 

しつこいシュミットがいなくなったので踵を返そうとしたその時。

黒刀の襟首を後ろから掴んだマリーが無理やり止めた。

 

「あ・な・た・が帰ったら意味が無いでしょう!」

 

「え~」

 

「え~、じゃありませんわ!ほら行きますわよ!」

 

マリーは襟首を掴んでいた手を離して代わりに左手首を掴んでホテルに入っていく。

エレベーターに乗って屋上に到着する。

屋上のテラスは人口芝生の中央に白いテーブルが1つと椅子が3つ置いてある。

 

「ったく。どういう風の吹き回しだ?」

 

黒刀は不機嫌を全面的に出しながらマリーに訊く。

 

「話がしたかった…というのもありますがまずは…わたくしが淹れた紅茶をあなたに飲んでいただきますわ!」

 

黒刀の機嫌の悪さを気にも止めず、マリーはそう宣言した。

椅子に座らせられ、目の前にティーカップが置かれ、マリーが手慣れた手つきで紅茶をティーカップに注ぐ。

 

「(さすが一流貴族だな。…いや、これは偏見だな。マリーだからこそか)」

 

一切の無駄が無いマリーの所作に黒刀は感心した。

マリーは紅茶を注ぎ終えると黒刀に飲むように促す。

黒刀はティーカップを手に取って音を立てないように紅茶を飲む。

 

「ダージリン。しかも香りが強すぎず弱すぎないちょうど良さ。香りが強いダージリンでここまで微調整出来たのは凄いな。そして、何より…絶妙に美味い」

 

黒刀は絶賛する。

それを聞いたマリーは誇らしげに胸を張った。

 

「当たり前ですわ!わたくしがどれだけ修行してきたと思っていますの?」

 

「ああ。本当に文句なしに美味い」

 

黒刀がもう一度褒める。

 

「あなたこそ紅茶のマナーがしっかりしていますのね?」

 

「音を立てて飲むのはマナー違反だからな。それくらい心得ている」

 

「あなた、本当は日本人ではなく英国人ではなくて?」

 

「いやいや!俺は日本人だよ!」

 

黒刀は慌てて否定した。

 

「(本当は外国生まれだけど…)」

 

その一言を黒刀は飲み込んだ。

正確には旧ザナドゥ王国生まれでスウェーデンと日本育ちである。

そんな会話をしていたその時。

 

「楽しそうだね。僕も混ぜてもらおうかな?」

 

声が聞こえた。

振り向くと屋上の入り口にマリーの兄、レオ・アルハートが立っていた。

 

「お兄様⁉」

 

マリーが驚く。

 

「酷いじゃないかマリー。黒刀君が来ているなら僕に知らせて欲しかったよ」

 

こちらに歩いてきながらレオがそう口にした。

 

「そんな!こんな男をお兄様に会わせるなんて!」

 

黒刀を指差すマリー。

 

「(酷い言われようだな)」

 

黒刀は心の中でため息を吐いた。

 

「黒刀君、マリーはこう言っているが彼女は君に会えることを心待ちにしていたんだよ。君がダージリン好きだということをメモに書いて肌身離さず持っていたぐらいだからね」

 

レオが微笑む。

 

「お、お兄様!わたくしは別にこの男に会うことを期待していません!」

 

マリーが顔を赤くして否定する。

だが、黒刀は別のことに気づいた。

 

「あれ?俺、お前にダージリンが好きだって言ったっけ?」

 

すると、マリーがジト目になる。

 

「はぁ?7年前に言いましたわよ」

 

「へぇ、そうか(全然覚えていない。そんな細かい記憶覚えてねぇよ)」

 

「黒刀君、相席してもいいかな?」

 

「ご自由に」

 

「それじゃ失礼して」

 

レオが椅子に腰掛ける。

いつの間に用意したのかマリーがレオの前にティーカップを置き、アールグレイを注いだ。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして♪」

 

レオのお礼に対して、マリーが笑顔で応える。

 

「折角だからマリーも座ってくれ」

 

「はい。お兄様♪」

 

マリーが椅子に腰掛けてレオに寄り添う。

端から見れば恋人と勘違いする距離だ。

 

「そういえば言い忘れていた。1回戦突破おめでとう」

 

「ああ。どうも」

 

黒刀は興味無さげに返す。

その態度が気に入らないマリーが割って入る。

 

「ちょっと!お兄様が褒め称えているのですからもっと喜びなさい!」

 

「ストレート勝ちした奴に言われても嬉しくないし、何より機能の試合は俺にとって通過点の1つでしかない」

 

「レミリアとの約束かい?」

 

「っ!…あいつから聞いたのか?」

 

黒刀は一瞬動揺したが冷静さを取り戻し訊き返した。

 

「まあね」

 

レオは短く返す。

 

「あいつ…」

 

黒刀は左手で額を押さえて呟く。

 

「どうして君達は…」

 

レオが掘り下げようとしたその時。

 

「それ以上は野暮だぜ」

 

黒刀が遮った。

その眼には強い決意が込められていた。

 

「分かった。でも僕も君と闘いたい…この気持ちは変わらないよ」

 

黒刀の眼を見たレオはそう言って微笑んだ。

 

「しつこい奴だな。どうしてそこまで俺に拘る?」

 

その問いにレオはフッと笑った。

 

「僕は君を感じたい…この身で」

 

「「え?」」

 

黒刀とマリーが思わず呆けた声を出す。

 

「どうかしたのかい?」

 

レオが首を傾げる。

 

「(こいつ、天然で言ってるのか。大妖精とあっきゅんが発狂しそうなことを言ってたぞ)」

 

黒刀は冷や汗をかいた。

対してマリーは口をパクパクと動かして面白い表情をしている。

 

「さて、そろそろお暇するよ」

 

黒刀が立ち上がり、お茶会はお開きとなった。

 

「ああ。そうだね」

 

レオとマリーも立ち上がる。

そして、レオは黒刀に右手を差し出す。

 

「僕達と闘うまで負けないでくれ」

 

「当然だ」

 

そう言い合って2人は握手を交わした。

それから手を離したその時。

 

「あ~!クロトはいるデス!」

 

声が聞こえた。

 

「げっ!」

 

黒刀は今、レミリアの次に会いたくない人物の登場に思わず声を上げる。

その人物とは…リーナ・シリウスだった。

 

「クロト~!」

 

リーナが黒刀に向かって飛び掛かる。

 

「そう何度も捕まってたまるか!」

 

黒刀が横に跳んで避ける。

だが、リーナは踏み込んで方向転換して黒刀の頭に抱きつく。

 

「ぐふっ!」

 

黒刀は床に背中を打って、リーナは覆いかぶさるように黒刀の頭を抱き締める。

 

「う~ん!やっぱりクロトは抱き心地サイコーデス!」

 

黒刀は今にも窒息死しそうだ。

 

「ちょっ!リーナ、離れなさい!」

 

マリーが何とかリーナを引き剥がす。

 

「ぷはっ!死ぬかと思った。ありがとうマリー。助かったよ」

 

黒刀は素直にお礼を言う。

 

「とか言いながら役得と思っているのではないでしょうね?」

 

マリーはジト目で黒刀に疑いの眼差しを向ける。

 

「んな訳ねぇだろ!こんなんで死んだら笑えねぇよ!」

 

黒刀は全力で否定した。

 

「必死に否定するところが怪しいですわ」

 

「どうしろってんだよ!」

 

2人の言い合いがヒートアップする。

ちなみにリーナはなおも黒刀に抱きつこうと両手を伸ばしているがマリーが襟首を掴んで抑えている。

 

「はぁ…もういいですわ。お兄様、見送りをお願いできますか?わたくしはこのおバカを相手にしていないといけないので」

 

マリーが折れてレオに頼む。

 

「ああ。構わないよ。それでは行こうか。黒刀君」

 

「ああ。じゃあなマリー」

 

黒刀とレオは屋上から去って行く。

 

「バイバ~イ!」

 

リーナは元気よく手を振っていた。




ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ

ご感想お待ちしております。


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悪魔殺し

OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


 ニューヨーク時間午前11時。

黒刀はレオに見送られてイギリス代表宿泊ホテルを後にした。

 

「あと1時間で昼か。そろそろホテルに戻るか…」

 

黒刀は散歩を終わりにして日本代表宿泊ホテルに向かった。

 

 

 

 

 

 30分後。

黒刀を待っていたのは不機嫌な顔をした映姫だった。

 

「どうしたの姫姉?」

 

「別に…何でもありません」

 

映姫は頬を膨らましてそっぽを向く。

映姫は怒るに怒れないのだ。

何も言わずに出かけて行ったことに腹を立てているが、しっかり書き置きしていたので何を言えずこうして態度で表すしかないのだ。

それで黒刀が気づくのかと思いきや…

 

「(ほっぺた膨らましてる姫姉…可愛いな~♪)」

 

最強鈍感男は全く気づいていなかった。

映姫の頭を撫でようか悩んでいたその時。

 

「くろにい~!」

 

ルーミアが駆け寄って抱きついてきた。

 

「ルーミア!」

 

黒刀はルーミアのハグを受け止める。

 

「「ぷにぷに~♪」」

 

2人はお互いに頬をスリスリと合わせて仲良く笑っている。

 

「それじゃちょっと早いけど昼飯にするか」

 

思う存分ルーミアとの抱擁を楽しんだ黒刀はルーミアを抱きかかえたままホテルの食堂に向かった。

 

「うん♪」

 

ルーミアは元気よく笑顔で応えた。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後0時30分。

ランチを終えた黒刀、映姫、ルーミアは部屋で大人しく別のチームの試合の録画映像を観ていた。

映姫は自分のベッドに腰掛けて、黒刀は自分のベッドに腰掛けて股の間にルーミアを座らせてお腹を抱き寄せている。

3人が観ているのは昨日のロシア代表とオーストラリア代表の試合。

 

「レティも実力を上げてきたな。今日の相手は…」

 

「妹紅さんですね。炎と氷…相性は良さそうですが…」

 

「属性相性だけで勝てる程、WDCは甘くない」

 

「ええ。それにどんなフィールドになるかによって戦術も変わってくる」

 

「火山か溶岩地帯なら妹紅が圧勝なのにな」

 

「そんな都合良くいく訳ないでしょ」

 

黒刀はルーミアから手を離すとベッドに寝転がる。

 

「まあ、妹紅なら問題ないだろう」

 

ルーミアは体を黒刀に向けるとその胸の上にうつ伏せで寝転がった。

黒刀はルーミアの頭を右手で撫でる。

ルーミアは猫のように喜んで黒刀の胸に頬擦りする。

 

「確かに今の妹紅さん実力は安定感もあるので信頼できますね。どっかの誰かさんと同じで多少危なっかしいところはありますが」

 

映姫は冷静に分析して黒刀にジト目を向ける。

 

「さあ?誰のことかな?」

 

黒刀は目を逸らして白を切った。

 

「黒刀~!」

 

映姫が黒刀のベッドに移動して四つん這いで詰め寄る。

 

「分かった!分かったよ!もう無茶しないから!」

 

黒刀はバッと映姫に振り向いて体を起こして必死に弁解する。

 

「本当ですか~?」

 

映姫は疑いの眼差しを黒刀に向け続ける。

 

「ああ…」

 

黒刀は顔を赤くして目を逸らす。

 

「何故、目を逸らすのですか?やっぱり嘘を吐いてるのではないですか?」

 

映姫はさらに黒刀に詰め寄る。

 

「ちげぇよ」

 

「では何故…」

 

2人がそんな押し問答をしていると、ルーミアが呆れ顔で口を出す。

 

「姫姉、まずは自分の格好を見た方がいいのだ」

 

「へ?」

 

映姫はルーミアに言われて自分の格好を見ると気づいた。

四つん這いで黒刀に迫っているので、黒刀からは映姫の綺麗な鎖骨と慎ましくも肌白い胸元が服の隙間から見えてしまっているのだ。

 

「~~~~~~っ!!!//////」

 

映姫は顔を真っ赤にして自分のベッドに後ろ向きまま超高速で跳び移った。

 

「………」

 

黒刀は何も言わない。

 

「…見ました?」

 

映姫は顔を赤くしながら上目遣いで黒刀に問う。

 

「………」

 

黒刀は顔を背けたまま。

 

「何か言って下さい!」

 

「何を言えってんだよ!」

 

黒刀がようやく映姫に顔を向けて叫んだ。

 

「…まあ…見たというより………見えた」

 

ボソッと呟いた。

映姫は枕を手に取ると顔をうずめた。

そして、誰にも聞こえない声量でこう呟くのだった。

 

「黒刀のエッチ…///」

 

 

 

 

 

 ロシア代表vsオーストラリア代表の試合は結局ロシア代表のストレート勝ちだったのでデータとして確認出来たのは3組までだった。

 

シングルス3 レティ・ホワイトロック

 

ダブルス2 ソロモン・シェバ&シモン・マグヌス

 

シングルス2 ザウル・マーカー

 

以上の3組だ。

その中でもザウル・マーカーはB級魔法師というだけあって、射撃魔法に優れているかなりの実力者だ。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後4時30分。

午後6時の日本vsロシアの試合時間が迫り、日本代表はホテル前のバスに集合している。

ちなみにルーミアは八雲藍に預けて一緒に会場に行っている。

 

「よし揃ったな!全員バスに乗って出発するぞ!」

 

にとりが全員を見渡して声をかけた。

一同は1人ずつバスに乗車する。

バスは発車して会場に向かう。

にとりは最前列で立ち上がって後方に振り返る。

 

「それじゃそのままでいいから聞け。今日のメンバーを改めて発表する。まずシングルス3!藤原妹紅!」

 

「はい!」

 

「ダブルス2!比那名居天子!越山流星!」

 

「「はい!」」

 

「シングルス2!二宮優!」

 

「はい」

 

「ダブルス1!チルノ!白金真冬!」

 

「はい!」「あたいの出番だ!」

 

「そしてシングルス1!四季黒刀!」

 

「はい」

 

「以上だ!皆、勝つぞ!」

 

『はい!』

 

選手達は頼もしい返事を返す。

 

「うむ」

 

にとりは満足げに頷くと自分の席に座った。

 

「天子さん、よろしくお願いします!」

 

「こちらこそよろしく。越山君」

 

「チルノちゃん、一緒に頑張りましょう」

 

「あたいにドーンと任せて!」

 

チルノは自分の胸を拳で叩く。

ダブルスのメンバーはそれぞれ言葉を交わしている。

一方。シングルスは…

 

「相手はレティか。燃えてきたぜ!」

 

「……」

 

「ふわぁ~」

 

妹紅は右手の拳で左手を打つ。

優は窓の外へ視線を向けて頬杖を突いている。

黒刀に至っては緊張感がないのか、欠伸をかいている。

シングルス3人の反応はまさに三者三様。

ちなみに欠伸をかいていた黒刀の頬を映姫が引っ張ったのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後5時。

会場の地下駐車場に到着した黒刀達はバスを降りて1Fの控室に向かう。

その途中の廊下で…

 

「ん?」

 

ロシア代表に遭遇した。

双方は自然と立ち止まり向かい合う。

レーニンJrがこちらに歩いてきた。

日本代表の先頭にいる黒刀の前に立ち止まると右手を差し出した。

 

「いい試合にしよう」

 

「ああ…お互いにな」

 

黒刀は握手に応じた。

その時、2人は感じ取った。

 

「「(やはり()()()の人間か)」」

 

3秒後、2人はゆっくり手を離した。

 

「レティさん、お久しぶりです」

 

黒刀の背中からピョコッと妖夢が出てきて挨拶した。

 

「ヒサシブリ」

 

レティは妖夢の前に出てきて挨拶を返した。

 

『(しゃ、しゃべった!)』

 

日本代表一同はレティが言葉を発したことに驚いた。

 

「レティ」

 

妹紅が前に出てきた。

 

「?」

 

「今日の試合、楽しみにしてるぜ!」

 

妹紅が笑う。

 

「…ワタシモ…タノシミニシテル」

 

レティは真顔で返した。

フィールドの方から歓声が響いてきた。

 

「終わったようだね。それじゃ僕達は失礼するよ」

 

レーニンJrがそう言って黒刀の横を通り過ぎるその時、彼にだけ聞こえる声量で、

 

「君の正体、必ず暴いてみせる」

 

そう言い残して去って行った。

黒刀は表情1つ変えなかった。

ここで動揺を見せれば相手に隙を与えることになるからだ。

 

「何か言われたのか?」

 

にとりが黒刀の傍に寄る。

 

「いや…大したことじゃないです」

 

黒刀の答えに対してにとりはそれ以上聞くことはなかった。

 

「よし。私達も準備するぞ!」

 

『はい!』

 

全員が返事して控室に向かう。

 

「黒刀」

 

にとりが呼び止める。

 

「?」

 

黒刀が立ち止まって振り返る。

 

「話がある。お前と2人で」

 

「後じゃダメですか?」

 

「試合が始まったら監督の私は控室を離れられない」

 

「分かりました。何ですか?」

 

現在、廊下には黒刀とにとりしかいない。

 

「ロシア代表のウルヴァリン・イリイチ・レーニンとザウル・マーカー。彼らは代表選手であると同時に現役の軍人でもある。さっきの彼らの言動からして恐らく…」

 

「俺を探りに来たか?」

 

黒刀がにとりが言おうとしたことを代弁した。

2人きりということもあってか教師と生徒の距離感から相棒の距離感に変わっている。

 

「お前…」

 

「さすがに気づいてるよ」

 

「いつから?」

 

「田中さんがこっちに来た時からかな。この前の撃退戦の後で田中さんが動くということは俺の監視かロシア軍の調査または両方だと考えた」

 

黒刀が推論を口にする。

 

「隠密性に長けてる田中さんに気づくとはお前って奴は…」

 

「どんなに上手く隠れても俺の『覇王の眼』からは逃れられない」

 

「全く。同じ『王』でも『眼』の力はさすがに敵わないな」

 

にとりがやれやれと手を振る。

 

「にとりの『眼』も普通に凄いと思うけどな」

 

「慰めならいらないよ。私の『眼』は使いどころが限られている」

 

「話はそれだけか?」

 

黒刀は話を打ち切ろうとする。

 

「あと1つ。お前の正体を明かすような行動はするな。特に『翼』と()()()()はダメだ。分かったな?」

 

にとりが念を押す。

 

「分かってるよ。それじゃもう行くよ」

 

黒刀は踵を返して控室へ向かう。

にとりは黒刀の背中を見つめながら無言でついていく。

 

「(こいつは無茶をするなと言っても結局無茶をする奴だ。だからせめて私がサポートしてやらないと。…もうあんな思いはごめんだからな)」

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後5時50分 試合時間10分前。

 

「さあ、行くか!」

 

アップを終えた妹紅が気合いを入れて拳をかち合わせる。

その時、炎がボッと出る。

 

「相手はレティです。言うまでもなく氷属性ですが油断は禁物です。彼女が日本を離れてからどれだけ強くなっているのか予想出来ません」

 

雪村が忠告する。

 

「分かってるって!とにかくぶっ飛ばす!」

 

妹紅はダッシュで控室を出てフィールドへ向かった。

 

「本当に分かってんのか?」

 

にとりは心配になった。

 

 

 

 

 

 ロシア代表控室。

 

「…イッテクル」

 

レティがベンチから立ち上がった。

しかし、メンバーの反応は…

 

「ん?ああ。いってらっしゃ~い」

 

ソロモン・シェバが興味薄げにMADの調整をしながら口にしただけ。

シモン・マグヌスは無言。

ミラ・リーンとエレナ・パウロヴナに至っては…

 

「はい。お姉様、あ~ん♪」

 

「あ~ん♪」

 

スイーツを食べさせ合っている。

レーニンJrとザウル・マーカーはモニターウインドウを見つめるばかりでレティに関心がない。

 

「…」

 

レティは少し寂しい気持ちを抱きながらも控室を出てフィールドへ向かった。

 

 

 

 

 

 妹紅がフィールドに入場すると歓声が沸き上がった。

観客の中にはあの熱い激闘を繰り広げたカタール代表のムハンマド戦を観た者も多いのでファンも多い。

妹紅はというと歓声には反応せず夜空に輝く月を見上げていた。

妹紅の目に一瞬、輝夜の顔が浮かんだ。

 

「って何であいつのことなんか思い出すんだよ!」

 

妹紅は顔を振って思考を振り払う。

そうしていると向こう側のゲートからレティが入場してきた。

 

「来たな!」

 

妹紅が笑う。

 

《リアルARシステム起動。ステージ『廃ビル』》

 

フィールドが変化していく。

そのフィールドを観た妹紅は目を見開いた。

30階層の廃れた高層ビルが縦にまるで剣で切り裂かれたかのように真っ二つに割れている。

割れた部分は剥き出しになっていて向かい合っている。

その距離15m。

常人が飛び越えるには厳しい距離。

ただ15階層に連絡通路のように鉄骨が倒されている。

飛行が出来ない選手やジャンプ力がない選手は基本的にここを使うしかない。

これがステージ『廃ビル』である。

妹紅は周囲を見渡す。

オフィスビルをイメージしたものなのだろう。

ボロボロではあるがデスクが乱雑に置かれている。

 

「まるで世紀末だな」

 

そう呟く妹紅。

 

「(ソコクニモコンナトコロアッタ)」

 

レティも思い出に浸っていた。

だが、すぐに目の前の相手に意識を戻す。

2人の視線がぶつかり合う。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのは妹紅だった。

両足と右手に炎を纏わせてジャンプし向こう側のビルにいるレティに殴りかかる。

 

「鳳凰の鉄拳!」

 

「…ムダ」

 

妹紅の先制攻撃にレティはそう呟くと、氷の壁を展開して妹紅の攻撃を受けた。

ぶつかり合ったことで衝撃波が生まれる。

 

「くっ。かてぇ!」

 

妹紅の右手は氷の壁に弾かれた。

 

「だったら!」

 

弾かれた反動を利用してバク宙してビルの柱を足場に蹴ってもう一度攻撃を仕掛ける。

 

「ナンドヤッテモ…オナジ」

 

レティは再度氷の壁を展開する。

 

「どうかな?鳳凰の炎肘!」

 

妹紅の右腕の肘から炎が噴き出す。

 

「っ!」

 

レティの顔に僅かだが驚きが表れる。

妹紅の右手と氷の壁がぶつかり合う。

結果は先程と真逆だった。

氷の壁が打ち砕かれて、妹紅の拳がレティの顔に迫る。

 

「アイスグランド!」

 

レティがそう詠唱した瞬間、床が凍りつきレティが横に滑って妹紅の拳が空を切る。

 

「なっ!まだだ!」

 

妹紅が着地して方向転換しようしたその時。

 

「と、うわっ!」

 

床が凍りついていたことを忘れていた妹紅が転倒して壁に激突した。

 

「ぐわぁ!」

 

「アイスニードル!」

 

そんな隙をレティが逃す筈もなく氷の棘を放った。

余波として発生した水蒸気の煙で妹紅の姿は見えない。

レティは氷の棘を撃ち終えると妹紅の姿を確認しようと目を凝らす。

水蒸気の煙が晴れるとそこにいたのは壁に背を預けながら座っている無傷の妹紅だった。

 

「ナゼ?」

 

疑問を抱いた後でレティは気づいた。

妹紅が氷の棘を両手で掴み取りさらに口に咥えていることを。

 

「シンジラレナイ…」

 

レティは妹紅に驚愕した。

妹紅は両手で掴んでいる氷の棘を炎で溶かして、口に咥えている氷の棘を噛み砕いて吐き出す。

足に炎を纏わせて立ち上がる。

氷の床から妹紅が足をつけた箇所から溶けていく。

 

「全部燃やし尽くしてやる!」

 

妹紅が床を蹴って駆け出す。

レティは『アイスニードル』で牽制。

妹紅はそれを炎の拳で叩き潰しながら前進。

レティが氷の壁を展開すると妹紅は一瞬だけ周囲を見渡した後、炎を纏った右足の踵を床に叩きつけた。

すると、廃ビルの床が崩れ落ちた。

ここは15階なので14階に落ちることになる。

レティの氷の壁は一方向にしか展開できないので空中では攻撃される方向が増える。

妹紅は落下中に瓦礫を足場にして跳び移りながら側面からレティの頬に炎を纏った拳を叩き込んだ。

 

「ぐっ!」

 

レティは呻き声を上げて14階の壁に叩きつけられる。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後6時15分 日本代表控室。

 

「よっしゃ!重い一発かました!」

 

チルノが拳を突き出して喜ぶ。

 

「確かにいい一発だったがあれじゃ倒れないだろ?」

 

仁がそう口にする。

 

「でもレティってどう見ても接近戦タイプじゃないし意外といっちゃうんじゃない?」

 

楽観的な愛美。

 

「あっ、見て下さい!」

 

大妖精がモニターウインドウを指差した。

 

 

 

 

 

 妹紅の一撃によって吹っ飛ばされたレティがゆっくりと立ち上がる。

その顔を見た妹紅が目を見開いて驚いた。

レティの顔には氷がコーティングされているかのように覆われていた。

妹紅に殴られた箇所だけ氷が剥がれている。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「『氷の鎧』か…」

 

黒刀が呟いた。

 

「先輩、何ですかそれ?」

 

「それは私が説明するわ」

 

妖夢の問いに真冬が説明を買って出た。

 

「『氷の鎧』というのは全身に氷を纏って壁や盾などの防御が万が一破られた場合の防御魔法です。私もたまに使います」

 

「そ、そんなのヤバ過ぎじゃないですか!」

 

「いいえ。そうとも限りません。まず常に氷を纏っているということはそれだけで魔力を消費します。それに重さもあるので動きが鈍くなります。あと…」

 

「あと?」

 

「冷えるのでお肌に優しくないです」

 

「あ、あはは…」

 

妖夢は苦笑い。

 

「とにかくレティ先輩が『氷の鎧』を使わざるを得ない状況になっていることは確かです」

 

「だとしたら勝てますね!」

 

「(だといいのですが…)」

 

真冬は不安を抱いていた。

 

 

 

 

 

 レティの顔に再び氷が張りつく。

その表情は先程とは別人のように険しい。

 

「ココカラハ…ホンキダス」

 

「燃えてきた!」

 

妹紅はレティに向かって突撃した。

 

「エターナルブリザード!」

 

レティは左手に冷気を集束させると強烈な寒波を放った。

 

「何っ!」

 

妹紅は強烈な寒波に踏ん張りが効かず吹き飛ばされる。

 

「くそ!」

 

炎を纏って前に進もうとするがその炎が『エターナルブリザード』によってかき消される。

 

「炎が……今のままじゃダメってことか」

 

妹紅は何とか匍匐前進で移動する。

 

「アナタハワタシニハカテナイ…アキラメテ」

 

「ハッ!私は諦めねぇ!どんなに倒れても立ち上がる!それが不死鳥の闘いだ!」

 

「ナラ…タチアガレナイヨウニスルマデ」

 

妹紅はレティとそんな押問答をしながら逆転のヒントを見つけようと周囲に視線を泳がせる。

 

「!…あれは…」

 

妹紅の視界に入ったのは配電盤だった。

 

「(動いては…いないようだな。ってことはどこかにブレーカーだ…)」

 

その時、吹雪が止んだ。

『エターナルブリザード』は長時間発動することが出来ず再発動には時間がかかるようだ。

 

「今のうちに!」

 

妹紅は14階オフィスから廊下へ飛び出してどこかへ走り出した。

 

「ニガサナイ……スノーマン!」

 

レティは魔法で雪だるまの巨人を作り出すとその肩に乗った。

雪だるまの巨人は剥き出しになっているビルの壁をクライミングするかのようによじ登った。

その光景はまるでハリウッドのモンスター映画のようだった。

 

 

 

 

 

 一方。

妹紅は廃ビルの廊下を駆け回っていた。

 

「くそ…ブレーカーってどこにあんだよ!」

 

ブレーカーが見つからずイライラしていた妹紅は途中で壁に貼られているビルの内部案内図を見つけて立ち止まった。

 

「電気整備室…これか!」

 

妹紅は目的地に向かって再び走り出した。

 

 

 

 

 

 一方。

レティは妹紅が別の階に行っていると推測して『スノーマン』に乗って移動しているが妹紅はまだ14階にいるので見つかる筈もない。

剥き出しの壁伝いに降りて14階に辿り着いたその時。

14階のオフィスの照明が突然点灯した。

 

「くっ!」

 

突然明かりが点いたことによる眩しさでレティは思わず腕で目を覆う。

次に目にしたのは右手の拳に炎を纏わせて迫る妹紅だった。

 

「鳳凰の鉄拳!」

 

妹紅の炎の拳が『スノーマン』の腹に直撃して妹紅の体ごと貫通した。

妹紅は反対側のビルのオフィスの床に着地する。

レティも崩れていく『スノーマン』から飛び降りてオフィスの床に着地する。

すかさず左手に冷気を集束させる。

 

「エターナルブリザード!」

 

レティが強烈な寒波を放ったその時。

彼女の背後からボーンと爆発音が響いて爆風が発生した。

レティは危険を察知して『エターナルブリザード』を中断し背後を振り返って氷の壁を展開して爆風を遮る。

 

「知ってるか?」

 

爆風が止んだところで声が聞こえた。

レティが正面に振り返ると、妹紅が反対側のビルのオフィスの剥き出しの壁ギリギリの位置に立っていた。

 

「配電盤ってのは強い冷気に触れると爆発する。特に稼働中はな。だから強烈な寒波が来る前にブレーカーの電源を落としておくってどっかのワガママ姫が言ってたぜ。ほら、配電盤から火が出てるだろ?」

 

「ソレガナニ?」

 

レティが目を細める。

妹紅がニヤリと笑った後、体をのけ反らせて大きく息を吸い込み始めた。

次の瞬間、レティは驚愕した。

配電盤から出ている火が妹紅の方へ流れていき妹紅の口の中に吸い込まれていった。

いや妹紅は火を…

 

「…タベテル…」

 

レティはあり得ない生物を見るかのような目をしていた。

これには会場の観客や他の選手も驚いている。

火を食べ切った妹紅は体を起こしてこう言い放った。

 

「食ったら力が湧いてきた!」

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後6時25分 日本代表控室。

 

「嘘でしょ…」

 

花蓮は驚愕のあまり手で口元を押さえる。

 

「どういう腹してんだあいつ!」

 

チルノも驚いて叫んでいた。

その中で阿求がこう口にした。

 

「本で読んだことがあります。妹紅さんのように滅悪魔法や滅悪霊術を扱う者を人は『デビルスレイヤー』と呼ぶと」

 

「『デビルスレイヤー』…悪魔殺しか」

 

優が呟いた。

 

「そして、自身の属性と同じ物質を体内に取り込むことが出来る」

 

阿求はそう補足した。

 

 

 

 

 

 レティは非現実的な光景に呆けていたがハッと我に返って左手に冷気を集束させた。

 

「モウサッキノヨウニバクハツハシナイ…コレデキメル!エターナルブリザード!」

 

レティは左手を正面に突き出して強烈な寒波を放った。

妹紅は胸を大きく張って口の中に炎を溜め込む。

 

「鳳凰の咆哮!」

 

妹紅は口から炎を吐き出した。

2つの廃ビルの中間で『エターナルブリザード』と『鳳凰の咆哮』がぶつかり合う。

 

「くっ!」

 

最初は互角に見えたが徐々にレティが押され始め、左手首を右手で掴んで何とか耐えようとしている。

だが、炎の勢いは止まることなく氷の寒波が焼き尽くされレティに不死鳥の炎が浴びせられる。

『氷の鎧』も一瞬で剥がされていく。

 

「ウ、ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」

 

レティの悲鳴が響き渡る。

妹紅が炎を吐き尽くして、レティが膝から崩れ落ちて気を失った。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 藤原妹紅》

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

妹紅の勝利に日本代表一同は歓喜していた。

 

「なっ。妹紅は安定してるって言ったろ」

 

黒刀が隣の映姫に声をかける。

 

「危なっかしいところもあると私は言いましたが?」

 

「勝てばいいだろ?」

 

黒刀が笑みで返す。

 

「はぁ…まあ今は目の前の勝利を喜びましょう」

 

映姫はため息をついてから微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ロシア代表控室。

 

「負けたか。にしてもあの藤原妹紅という選手の闘い方には少々驚いたな」

 

ザウルがモニターウインドウを見ながら隣のレーニンJrに声をかけた。

 

「彼女のような人間を西欧ではこう呼ぶらしい。…火竜(サラマンダー)

 

彼は澄まし顔でそう口にした。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

試合に勝利した廃ビル1Fの廊下に立っていた。

入場してきたゲートには非常口の誘導灯と扉があった。

 

「凝った仕掛けだな~」

 

妹紅はジト目で独り言を口にしながら扉を開けてフィールドを退場した。

すると、次の試合を控えている天子と流星が立っていた。

 

「流石ね」

 

「やるじゃねぇか」

 

2人は妹紅にそう声をかけた。

 

「ま、まあな」

 

妹紅は強がる。

 

「でも苦戦してたのも事実よね?」

 

天子が微笑んで妹紅をからかった。

 

「うるせぇ!とっとと行きやがれ!」

 

妹紅は頬を赤くして入場を促した。

 

「はいはい」

 

天子は手を振ってゲートの扉を開けてフィールドに入場した。

 

「よっしゃ俺もいくぜ!」

 

流星もその後に続くのだった。




ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ

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