アメコミ×SAO (鈴見悠晴)
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バットマン ビギンズ
ビギンズ


夏休み、学生にとって何よりもうれしい長期休暇。明日から夏休みになるというのにキリトこと桐ヶ谷和人の顔は晴れなかった。それは明日からの夏休みをどう過ごすのかを考えてなにも思いつかないからで、きっとALOにこの夏休みを捧げるのかと思うと,それも悪くないかと思いながらも、どうせなら何か無いかと考えてしまい、アスナを誘って何かやってみるのも良いかもしれない、そう考えていると聞き慣れた、しかし最近はとんと聞かなかった声で話しかけられた。

 

「何だ、明日から夏休み直前の学生の顔じゃないな、何かあったかぁ」

ここ最近学校にも顔を出していないこの友人はSAO初期の頃からの付き合いになるが、目の下にここまでの隈を作っているのを見るのは初めてのことだった。(最もSAO時代はたとえオールしても目の下にクマなどできなかったのだが)

「お前こそどうしたんだよ、その隈。また何かネタプレイでもしてんのか?」

SAOプレイヤー全員に言えることだが日焼けしていない白い肌は不健康な印象を与えることが多いのだが、この男は金色に染めたそのロン毛もあってか目の下の隈がとても目立ち、本当に今にも倒れそうな雰囲気を放っていた。

「今はALOでだけだよ、今度妖精騎士シリーズ集めるの手伝えよ。あれドロップ率絞られすぎてんだよ」

この言葉が真実だとすればこの男はSAO時代から続くネタプレイでここ数日サボっているわけではないらしい。

「別に良いけどさ、じゃあ何でお前ここ最近サボってるわけ?」

この言葉を聞いた途端、我が悪友、名和修介はとても良い笑みを浮かべた。

「実はな、お前がばらまいたシードを使ってゲームを作ってたんだよ。複数人協力プレイのアクションゲームなんだがな、これがなかなか大変でキャラデザからストーリーまで全部自分でやって、デバックも一通りやって、ようやく完成までこぎ着けたところなんだよ」

まるでマシンガンのように止まることなく話し続けるこの男のスペックの高さに話を聞きながらあきれる。シードはゲームを作る際に使用すればかなり簡単に作れるがそれは企業なんかの話で、個人でゲームを一から作るなんてことは簡単では無いはずだ。

「それでな、今日何人かに声をかけてこの夏休みにプレイしてくれるやつを探してるんだよ。お前のほうで何人か候補になりそうなやついないか?」

最初は軽くあしらおうとも思ったが、頭のどこかに引っかかった。こいつの誘いはいつも退屈な日常を吹き飛ばしていく。SAO時代もそうだった。

「……わかった、何人かに声をかけとくよ、放課後にエギルの店でいいか」

「さすがキリト、頼りになるねぇ。それじゃそういうことで」

しかし俺たちは忘れていた。今は登校中で、まだ夏休みは始まっていないのだ。

キーン コーン カーン

『あっ』

鳴り響くチャイムの音に二人で走り出した。

 

 

おおよそ、五時間後。

学生たちは晴れて夏休みを迎えていた。そんな学生たちが集う店。店主のエギルはうれしい悲鳴を上げていた。

「エギルー、ジンジャーエール二つとオレンジジュースにコーラを二つ」

「後ビールも頼むぜ」

「アイよー」

 

キリトの声で集まったのは恋人のアスナに、妹の直葉。この間知り合ったシノンにアスナの親友のリズベット。そして一人だけ社会人のクラインだった。

「それで、言ってたゲームって何なの」

学校が違うため少し遅れ気味でやってきたシノンが単刀直入に切り出した。

「そうだね、私もちゃんと聞いてないから説明してほしいな」

アスナがそれに便乗しキリトに視線が集まる。

「いや、俺じゃなくて、修介から説明があるから」

少し慌てた様子で話を振るこの男一体なんて説明してこれだけの人数を集めたのだろうか、修介は若干の不安感を感じながらパソコンの画面を全員に見せた。

「キリトからなんて言われたか知らないけど、一応こいつだね。ゲームの名前はstep of hero,

直訳でヒーローの足跡。ゲームの中でみんなにはヒーローの周辺人物になってヒーローを支えてもらう、そんでみんなのプレイ結果によってエンディングが変化する。そのエンディングを受けて次のストーリーも変化していく。基本はアクションゲーでアミュスフィアでプレイ可能、複数人協力プレイを基本としてるからここに居る全員で一つのデータを進めていく感じだな」

パソコン上では一応作っておいたPVが流れる、基本的にはプレイ画面をそのまま写しているだけだが、頑張って作り込んだおかげか反応は悪くない。

「バグとか無いでしょうね」

SAO時代はかなりお世話になったリズベットは個人で作ったと言うことが少し不安なのか疑わしげな視線をよこした。

「一応無いはず、さっきユイちゃんにも確認してもらったけど問題なかったし。ねぇ?」

机の上に置かれたキリトのスマホに話しかける。こいつは俺とキリトがかなり手間暇をかけて作った代物で、どこでもユイちゃんと話せるようにと作った特別製だ。

「ハイ、問題は見つかりませんでした。それに私はこれすごくよくできたゲームだと思います」

この台詞にゲーマーとしての血が騒ぐのかクラインはエギルの持ってきたビールを飲み干してこう言った。

「ユイちゃんのお墨付きなら安心だな、早速やろうじゃねぇの。ほらさっさとよこせよ」

少しよったか興奮した様子のクラインにソフトを渡す。

「チュートリアルが終わったら協力して進めるプレイヤーが選べる、全員で時間併せてやった方が良いと思うけど。」

今にもやり始めそうなクラインに釘を刺してそのまま全員にソフトを渡す。

「あの、名和さんもプレイするんですか?」

少し遠慮意思ながら質問してきた直葉ちゃんにすぐに答える。

「いやぁ、俺は開発者だからね。やんないよ、みんながやってるのを見て一人笑うだけ。ちなんどくとこのゲーム、エンディングは10段階に分かれてるからみんなは何番目に悪いエンディングになるか楽しみだね」

俺の台詞が火に油を注いだのか全員の顔色が少し変わった。

やっぱりここに居るのは全員ゲーマーだったらしい。

「ンじゃ、そういうことでよろしくー」

頼んでいたコーラを飲みきり、金を置いて店を出る。プレイヤーたちが予定を立てているのを聞くのは野暮だろう。足取りは軽く、家に帰る。今日から楽しくなりそうだ。

 




今回書くのはSAOとアメコミのクロスオーバーです。設定などもガバガバなのでそれが無理という方はこの時点でのブラウザバックをおすすめします。


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犯罪都市

Step of hero

名和の作った新しいゲームの世界はダークな雰囲気を漂わせた摩天楼で、夜の暗闇がきれいに見えていて、大きな満月がまるでこちらを飲み込もうとしているようだった。この作り込まれた世界観にキリトは本当にあいつが一人で作ったのかと唖然としていた。

 

「おい、新入り。なにしてる、初日からサボりか?」

突然後ろから声をかけられて振り返ると、そこには白髪が目立つ警察官がパトカーの中からこちらを見ていた。そんな彼はこちらを見ると少し間を置いて乱暴に頭をかきむしった。

「……すまん。名前を忘れてしまった、もう一度名前を教えてくれ」

少し申し訳なさそうな雰囲気を出しながら行ってくる男のこの台詞とともに名前を入力するキーボードが表示されたためいつも通りキリトと打ち込む。

「キリト、キリトか。そうだったな思い出したよ。俺はゴードン、ジム・ゴードンだ。」

ゴードンが自己紹介した瞬間、ゴードンの上に蒼いネームタグが出た。

そして台詞が終わる頃に赤いタグが視界の右上にポップした。

 

「犯人を捕まえろ?」

出てきた文字をそのままに口に出す。一体どういうことだ、そのままに読み解けばどこかで犯罪が発生していることになるが…

 

少し考えているとゴードンのパトカーから緊急通信の音が鳴り響いた。

「B6地区で強盗事件発生、周辺をパトロール中のモノは直ちに急行してください」

通信が終わらない内からゴードンが動く、瞬時にエンジンをかけ発信の準備を整える。

「何してる、早く乗れ!!」

突然の自体について行けずに居るとゴードンが準備を終え、声を上げる。その声に押され急いでパトカーに乗った。

「こちらゴードン、キリトともに現場に急行する」

 

 

エンジンをかけ、パトランプを光らせる車はなかなかデンジャラスな乗り心地でなれているキリトも少しよってしまったあたりで犯人の車を発見した。

 

犯人の車はゴードンとの追いかけっこに耐えかねたのか廃ビルの中に飛び込んだ。

「連中、上に逃げたな……追いかけるぞキリト。拳銃と警棒をしっかりと装備しろ」

駐車した車から降りて、拳銃を持ち一足先に進むゴードンの指示に従い、メニュー画面から装備品を整える。

拳銃と警棒を装備しゴードンの後ろをついて行けば、背後から何かが落ちる音がした。

 

「うわぁぁ!!」

マスクをかぶった男が鉄パイプを振りかぶり迫っていた。とっさの判断で警棒を使い、反撃をする。このあたりはSAOで鍛えられている。警棒が当たった瞬間赤い数字が出て赤いネームバーをつけたマスク男のライフバーと思われるものが一気に減る。

「う、動くんじゃねぇ!!」

柱の陰に隠れていたもう一人の男が拳銃をこちらに向けて立っていた。

 

その男の背後からゴードンが拳銃を頭に当てて現れた。

「それはこちらの台詞だな、武器を捨てて投降しろ」

仲間の頭に拳銃が突きつけられて、目の前の男は鉄パイプを捨てて両手を挙げた。

すると逮捕という選択肢が目の前に現れたのでそれをタップする。

目の前の男は刑務所にでも転送されたのか消えていった。ゴードンが取り押さえている男も逮捕の文字が出ていたのでそれを選択する。

 

「お前らこんなことして許されると思ってんのか!!俺はファルコーニの旦那の命令で動いてんだぞ。金なら持って行って良い、さっさと解放しろ!!」

 

目の前に本当に逮捕しますかという文字が出た。

ゴードンは何も言わずにこちらを黙ってみていてどうすれば良いのかもよくわからない。

内心チュートリアルにしては不親切すぎないかと思いながらYESを選択する。

今度はその男もさっきの男と同じようにどこかに転送されていった。

「お前はこちら側の人間なのかもしれないな……キリト、新入りのお前はわからないだろうがあいつはほぼ百パーセント釈放される。ここはそういう街だ……もしそれを変えたいと思うならば、ここに行け。もしお前がふさわしいなら彼は協力してくれるはずだ」

 

手渡された地図に従い目的地に向かえとの文字が浮かぶ。目的地はかなり近いところですぐに到着した。

 

廃工場のなか、薄暗い雰囲気を醸し出すそこで一番目を引くのが壁一面に描かれた巨大なコウモリの絵。近づいていって触れたとき突然背後に気配が現れた。

「振り向くな」

こもった声は正体をつかませないためのモノなのか、指示に従い視線を固定する。

「ゴードンから紹介されて来たんだろう、一体何が望みだ。」

目の前に選択しが表示されたのでそれをタップする。

「ファルコーニの手下を捕まえたがこのままだと釈放される」

選択した台詞が話される、どうやらNPCとの会話は選択肢をタップすることで進むらしい。

「わかった、なんとかしよう。明日の朝こちらから連絡する」

その台詞とともに気配はぱったりと消えており、振り返ると誰も居なかった。

 

そこで視点は暗転していく、数秒後には警察署と思われる場所にたっていた。

「ロードが強引だな」

ひとまず右上に表示されている文字に従い自分のデスクに向かい、表示されている矢印に従い進んでいく。

自分のデスクに到着すると大きめの封筒が置いてあり、中身を確認すると重大な証拠を入手したという文字が出てきた。

ミッションクリアとコングラチュレーションの文字が躍る中手に持っていた封筒には昨日の廃工場で見たコウモリのマークとBAT MANの文字が刻まれていた。

 

おそらくこのタイミングで、今居る自分のデスク周辺がオンラインロビーとも言える場所になったのか目の前にはアスナが立っていた。

「あっ、キリト君」

「早かったんだな、アスナ。どうだった、チュートリアル」

その言葉に思い出したのかアスナは少し苦笑していた。

「ゴードンさんの運転のところがちょっとね……でもそれ以外のところはよくできてたと思う。チュートリアルはちょっと雑かなって思ったけど。このデスクのあたりもすごく作り込まれてるし、背景なんかはほんとALOと比べても遜色ないんじゃない」

そのアスナの言葉が示すとおり本当によくできているのだ。

「なかなか楽しめそうだな」

にやりと笑いながら言い放った言葉に微笑みながらアスナが隣に来てデスクの机に腰掛けた。

「名和さんに感謝だね」

「ああ、今度ALOで妖精騎士シリーズ集めるの手伝ってやろうか」

「もう、あの人まだそういうプレーしてるの」

 

次にチュートリアルをクリアする直葉が来るまでここはほのぼのした雰囲気に包まれていた。

 

 

徐々に集まってくるメンバー彼らのオフィスを二人の男が見つめていた。一人は彼らの先輩に当たるゴードン、そしてもう一人は別の建物の屋上から黒づくめの服装に身を包んだBATMANだった。

 

「このゲームは多分バットマンの協力を受けながらいろんな犯人を捕まえていくゲームなんじゃないか?多分この街自体の治安がかなり悪いんだろ、それをバットマンと一緒によくしていく、みたいな」

キリトの意見に対してクラインが反論する。

「それならあの男はこのゲームの名前をstep of heroなんてモノにするかね?それじゃただの警察官だ。多分どっかのタイミングでプレイヤーがバットマンになるのさ」

 

「でもそれだと複数人強力プレイ何だからストーリーに齟齬が出るよ、名和君はそういうの許さないと思うけど」

そのアスナの指摘はもっともでクラインが二の句を告げずに居ると、プレイヤーネームをリーファにした直葉がクラインをフォローした。

「アスナさんの言うとおりですけど、そういう意味じゃ名和さんの性格から考えてもタイトルには絶対意味を持たせてますよね……」

その言葉に一同がそろってうなずく。

「ALOでのプレイを見ててもそれはわかるわね、細かいところにこだわった縛りプレイは一緒にやってて面白いけどストレスたまるしね」

名和のこだわりはシノンに一刀両断される。

「ごめーん、ちょっと遅れた。あのゴードンとか言うやつの運転が荒くてさぁ、途中で一回リタイアしちゃったんだよね」

一足遅れてやってきたリズベットを迎えて全員がそろった彼らはゲームを進めるためゴードンの元に向かった。

「気にすんなよ、それより大丈夫か?」

キリトの心配を受けてガッツポーズを返したリズベットの後ろに立っていたゴードンは散々ディスったことが原因か眉間にしわを寄せているように見えた。

 




最初はバットマンを書こうと思います。選んだ理由は単純で、自分がアメコミなどを見だしたのがバットマンのダークナイトがきっかけでそこからアメコミなどを見始めたので最初はこれかなと言う感じです。
皆さんがアメコミやラノベにはまるきっかけになった作品は何ですか?もしよろしければ感想などで教えていただけると幸いです。


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闇の中で

どうやら捜査方法などの細かいチュートリアルは全員が集まってから始まったらしく、そこから計三件の犯人を逮捕した。その過程で拳銃や、警棒の使用方法を学び、バットマンやゴードンの協力を得て何とか逮捕までこぎ着けた。

その過程でよくわかったのがこのゴッサムシティの警察はかなり腐敗しているようで、犯罪者をまともに捕まえることもできない様子で、それを変えるために立ち上がったのがバットマンらしく、誰も彼の正体を知らないらしい。

これまで逮捕してきた連中はファルコーニの手下で、ほかにも多くのギャングがいるが現在最もゴッサムで幅をきかせている連中だが、ここまで積極的に取り締まってきたことにより少しおとなしくなってきたが、ここに来て何か大規模な反攻作戦を企てているらしく大きな動きがあったとバットマンが知らせてきた。つい最近捕まえた連中の内の一人が計画の詳細を知っている可能性があるということでそれを調べてほしいということだった。

 

「ようやく大きな動きがありそうだな」

地味に長かったチュートリアルに終わりを告げ、始まったメインストーリーの楽しみをよそに全員で留置所に向かっていく、ここまでリアル時間でおおよそ三時間。今日はそろそろここらでお開きかと思いとりあえずこれだけ終わらせようと到着したとき、話を聞こうとしていた人間が牢屋の中で死んだ状態で発見された。

 

なお、明日続きをやろうと言うことでこのタイミングで一時解散した。

 

 

翌日、残念ながらクラインとシノンは参加できなかったがそれ以外のメンバーは時間通りに集まった。

「しかし、昨日の段階で確認したけどあの人完璧に死んでたよね」

アスナの言葉通り昨日やったところまでで重要キャラだったはずのNPCは死んでしまっていた。

「うーん、さっきゴードンのところに行ってきたけど、あの男からたどっていくんだと思う。会話をしたら右上にあるメインクエストのタブが変化してるんだ。あと残り五日って言うタイムリミットも」

この台詞にキリトがSAO時代の大半をソロプレイヤーで過ごしたことの原因が出ていた。一緒に足並みをそろえて進むといった協調性がないのだ。

「「それを早く言いなさいよ」」

ほかのメンバーから出る突っ込みを受け少しだけ申し訳なさそうな顔をする割にはこの点は絶対に直らなかったのだから……

 

全員が確認した新しいメインクエスト、その内容は残り五日で情報をつかめというあまりにもアバウトな代物で、こちら側の自由度の高さを示している。この期間で何をするかがこのゲームの全てを決めるのだろう。

「何というか名和さんらしいこだわりを感じるね……」

リーファのこのつぶやきが全てだろう、こちら側に自由度を与えれば与えるほど作るのは難しくなるはずなのだ。しかし、そうじゃないとリアルじゃないとこだわったのだろう、それこそ学校をサボるほどには……

 

「とりあえず基本方針を決めよう、あいつは……確か密輸をしてたやつだよな」

「うん、あたしとアスナがゴードンの運転について行けなかったから現場に居なかったんだよね」

リズベットの言葉通りあの男はキリトとリーファの二人で捕まえた。

「じゃああいつが何を密輸してたのかを調べるか……後は、あいつをどうやって殺したのかだな」

「じゃああたしとリーファが殺害方法と犯人を調べてみるから、キリトはアスナと密輸したモノを探してよ」

基本方針を決定したメンバーはそれぞれに動き出した。

 

 

「あーそうやって動く感じね……まぁ悪くないんじゃない。ここから一回のプレイでどこまで行けるかな」

彼らの動きをこっそりと確認しているのはこのゲームを作り出した名和修介その人だった。

「でも一回目の動きでこれはほとんど最適解に近いんじゃないですか?」

真っ黒な服装をした男、バットマンとその横をふわふわと浮いている妖精ユイ。

バットマンのアバターを操作していた名和とデバック作業を行ったユイは完全にゲームの内容を把握しているため今回は完全に第三者として他人がやっているゲームを眺めるだけの人になっていた。

「でもこうやって人がやってるのを見てるだけってあんまり面白くないですね」

「それは言っちゃ駄目よ、こういうのは楽しかったって言われるのを見るときと作ってるときが楽しいんだから」

退屈そうにしゃがみ込んだバットマンはなんとも情けなく移った。

 

 

アスナとキリトが死んだ男の拠点に使われていた倉庫の中に入ると突然開いていた扉が閉まった。

「こっちだ」

「「!!!」」

突然後ろに発生した気配と声に二人が反応する。後ろに一歩下がった彼らの前には一人の男が立っていた。目につくのはその全身黒づくめの姿だろう、次がそのマスクとマントそれらに身を包んだ男はこちらの反応を見つめていた。

「お前たちは殺された男を調べに来たんだろう、ここは俺がもうすでに調べた。ついてこい」

簡潔に自分の言いたいことだけを言って歩き出したバットマンにキリトとアスナは互いの顔を見合わせて後を追った。

 

 

 

「リズさん、殺害方法を調べるって言ってもどうやって調べるんですか。私そんなの見てもわかりませんからね」

机の上に突っ伏したリーファを引きずるように死体があった殺害場所まで連れて行く。

「当たり前よ、そんなの私だって知らないし。でもこのゲームあの名和が作ったのよ、アンだけこだわるんだから鑑識ぐらい居るでしょ」

殺害現場に行けばそこには死体の代わりに白線で死体のあった場所がわかるようになっていて、さらにそばに警官が一人立っていた。

「ちょっと、ここで死んでたやつのことが知りたいんだけど」

そのリズベットの言葉に反応した警官は敬礼を行いながら返答をした。

「本官に何のご用でしょうか」

そしてリズベットの目の前に現れた選択肢を見て、ああここはこだわりきれなかったんだなと感じながらその選択肢を確認する。

用はない・被害者について聞く

その簡潔な選択しにここで力尽きたんだろうなぁと思いながら被害者について菊をタップする。

「まだ解剖が終わっていないようですが、どうやら未知の毒物による毒殺だと思われているようです」

 

「毒殺……」

リズベットはリーファのつぶやきを聞きながらすぐわかったことの安心感とこの後どうしようかと頭を悩ませた。

 

 

キリトたちがバットマンの後をついて行った先は巨大な地下水道だった。

「この街こんなモノもあるんだな、しかしこんな巨大な下水道って……普通もっと小さいだろ」

なんとなくつぶやいたキリトの一言にアスナが反応する。

「多分、これ元々は全く別のモノというか、少なくとも最初は下水道じゃ無いと思うよ」

「……どういうことだ」

アスナは一点を指さして理由を説明しだした。

「ほら、あそこ、レールみたいなのがあるでしょ。多分元は鉄道か何かなんじゃない、それに所々にある照明も下水道に使われるようなモノじゃ無いと思うな」

確かにアスナの言う通り、ほとんどの照明は壊れており役目を果たしているモノは少ないが、数少ない生きているモノはしっかりと周囲を照らしており、ところどこらにあるレールなどはここが元は地下鉄で会ったことを示そうとしているのかもしれない。

「……あいつのことだから上にあったリニアが普及した結果捨てられた地下鉄とかって言う設定なのかもな」

「ついたぞ」

この場所の設定に考えを膨らませているとバットマンはいつの間にか止まっており、目の前には今までよりもさらに広い空間が広がっていた。

 

「……これは」

「まんま、駅のホームだな」

 

二人の言葉通りそこには至るところに駅のホームの名残が残っていた。しかし、ここまでに通ってきた通路と同じように使われていた形跡があった。

「おそらくここまで使った場所は通路として、ここは何かの倉庫として使われていたのだろう。問題は、このスペースだ。」

バットマンが示したスペースは確かに異質の一言だった。ほかの場所はがれきなどがどかされているだけの最低限の手入れがされているだけだったが、そこはしっかりと清掃がなされていることで非常に浮いていた。

「ただの麻薬ならばほかの場所のようにがれきをどかすだけでよかったはずだ。考えられるのは二つ、何らかの化学的な変化を恐れるほど繊細なモノをおいていたのか……もしくは全く別のものを置いていたのか」

それっきりバットマンは一言もしゃべることなく黙り込んでしまった。

 

二人は顔を見合わせた。

「ここに何か秘密、それか痕跡が残ってるから探せってことかな?」

アスナの言葉通りおそらくここに何かがあるのだろう。

「……多分だけど、ここまでの会話の中に何かヒントがあるはずなんだ。バットマンの台詞から考えれば麻薬、もしくは何かもっと違うモノが見つかるはずなんだよな」

簡単に周囲を見渡すが、別段何かが見つかったわけでもない。試しに地面をそっとなでてみるが埃か土かが手につくだけだった。

「わかんねぇな」

 

「じゃあ、私たちが密輸犯だとしたら一体何をここに置くかな?バットマンが言ってたとおり繊細なモノをここに置くかな……」

「置かないだろ、……プロなら」

「じゃあ、ある程度放置してても大丈夫で、でもここに隠さないと駄目なモノ。…武器とか」

その発言にNPCのバットマンが反応した。

「いや、武器ではないだろう。武器ならばそれを専門に扱う連中がいる、わざわざここを使う必要が無い」

まさか、そっちから返事が来ると思っていなかったアスナは面食らうが、キリトは冷静に分析していた。

「このバットマンは多分AIが組み込まれてるんだ、ユイみたいなだからこっちの発言に反応できるんだ」

言いたいことを言って満足したのかバットマンはまただまり始めた。

 

「……武器じゃないならなに……スペースを使って、ある程度放置しておくこともできる。機械…とか?ほら企業泥棒みたいな」

アスナの言葉にまたもバットマンが反応する。

「機械か、可能性としては高いな……ウェインコーポレーションのような高い技術力を持っている会社が多い以上、そういった企みも多いだろうからな。もしそうなら彼は口封じにあったと言うことか……確定するのは早いかもしれんがその方向性で進めよう」

ここがゲームの分岐点、彼らは一つ目の分岐を終えた。

 




次の投降は22時になります。


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捜査

ここまでやってきた状況を整理すると、現状殺された男は何らかの秘密を抱えていた。バットマンはどこからかその情報をつかむも間に合わずその男は殺されてしまった。

そこで調査を開始したがつかめたのは、この男が何かを密輸したということと毒殺されたと言うことだけだ。その上時間も限られている、あまり悠長にやっている時間は無い。おそらくこのままやっていって行くとこのゲームを攻略できるかも妖しいだろう。何せ制作者の名和だけでなくデバックしたユイまでも、このままだとゲームオーバーですよってせかしてきた。

そこでこの土日に一気に進めていきたいということで、全員で時間を合わせて同時にやっていく。

 

「あれ、待たせちゃった?」

どうやらキリトが最後に到着したようでほかのメンバーはもう準備に入っていた。彼らはすでになにをするのかを話し合っていた。

「あっキリト君、遅かったね。それで私たちのほうでの調査はそんな感じかな」

「なるほどね、こっちは調査してみたけど毒殺だって言うことと、……警察内部に殺害犯が居るっぽい」

リズの言葉に全員の眉が曇る。

「どういうことだそれ、この街の警察はそんなに腐ってんのか」

そんな中昨日参加しなかったクラインは声を荒げて怒りを表した。

「ただね、ゴードンさんが調査してくれたんだけど、新しい、未知の毒物らしいんだよね。成分から分析して依存性があるみたいで、致死量を超えると心臓を止める薬効みたい」

「未知の毒物……それも探さないといけないのか。とりあえずそのデータをバットマンに渡してみよう」

タイムリミットはゲーム内の時間で残り三日、それがいろんなルートに一歩ずつ足を踏み入れたような感じだ。全員で一つのルートを進めるべきかもしれない。

「……これなんだけどさ、全員で殺害犯を探さないか」

「どういうこと」

一日できていなくて、方針を勝手に決められそうになっていることにシノンの機嫌が悪くなっていた。

「いや、多分このままのペースで行くと残り時間で事件は解決できないと思う。名和のことだから解決までのルートがいくつか用意されてるはずで、どれかをやらないといけないはずなんだ。とりあえず、一個に絞って攻略してみないか」

その提案に納得してくれたのか全員が賛成してくれた。

「それで、どうするお兄ちゃん」

「とりあえず死んだのもこの建物の中で行われたんだから、全員で聞き込みをしてみよう。多分それでフラグが立つと思うんだよね」

「じゃあそれでやってみるかぁ」

………

……

一時間後

……

………

「……これ、犯人所長じゃね。ていうかゴードンさんは証拠つかんでない」

探るとすぐに出てきた目撃情報や証拠の数々、もはやほぼ確定なんだがフラグが立った瞬間にゴードンから釘を刺された。

「これどうする、このままやる?たった一時間でルート終わってない、このルートだと攻略できないと思うよ」

シノンの発言はゴードンの発言の最後から来ていた。

『……俺は今のままだと協力はできない』

この発言をゲーム的な捉え方をするのであれば、何かがあって協力できないからその何かを何とかする、つまり現状を変えられれば協力できると言うことだろう。

「やっぱりバットマンを頼るべきかな……ゴードンが何かしらのフラグを立てたんだからゲーム自体は進んだはずだ。次は被害者が何をやったのかを調べよう」

「よしきた、そうと決まれば話は早え。さっさとバットマンのところに行こうぜ……でどこに行けば良いんだ?」

誰もこのクラインの言葉に答えを持ち合わせていなかった。

結局彼らはバットマンと連絡をつけることができなかったため彼ら自身で被害者のことを調べなければならなかった。後に名和と話すとわかったことだが彼らは連絡先を知ることができたイベントを逃してしまっていたらしい。序盤をただのチュートリアルだと思ってやっていたがあの期間に後の攻略を有利に進められるようになるイベントがいくつかあったらしく、今回の攻略ではそれは一つもできていないらしい。

 

「……被害者のことでわかってることって何があった?」

「密輸業者で、何かよくわからないものを密輸させようとしてた。ぐらいじゃない」

アスナの言うとおりそれぐらいしかわかっていない。

「どうしようか」

「今度は全員で手分けしてこの被害者のことを調べたら良いじゃない。誰があの男と取引をしていたのか、これまでにどんなやつとどんなことをやってきたのか」

シノンの発言に全員が耳を傾ける。それを意識したのか少し照れながら続きを口にした。

「あとは、なぜあんな場所を倉庫にしていたのか……とか」

「なんでって、そりゃ誰にも気づかれないで、あそこまでのスペースを使用できるからだろ」

クラインの発言にシノンあ少しイラッときた様子で反論する。

「うるさいわね、私だってぱっと思いついたことを言っただけよ。でも、おかしいでしょ。あの男はどこであのスペースで知ったのよ、それにスペースが使えるって言ってもがれきをどかさないといけなかったのよ。一人でやろうと思えばそれなりの作業よ」

鋭い指摘にクラインは二の句を告げなくなってしまった

「そう言われればそうだ、せっかくだからシノンの暗に乗ろう。役割はくじ引きな」

手っ取り早く役割分担をして彼らは攻略に乗り出した。

 

シノン、アスナコンビは被害者の男が使っていた倉庫に来ていた。

「思ったより汚いわね、それにどっかから光が差し込んでない」

「どこ?」

「ほらあそこ」

シノンの指さした先を見れば確かに光が差し込んできていた。前回キリトと来たときは夜だったから気づけなかったのだろうか。がれきの隙間から確かに光が差し込んできていた。

「ここ、地下でかなり歩かされたけど、地上だとどの辺なのかしら。マップは地下になってて地上の場所はわからないのよね」

「元々は古い駅みたいだから町の下だと思うけどね。がれきが多すぎてわからないなぁ」

「そうよ、駅なんだからどこかから地上に出れるはずよ。出口を探しましょう、どこかへの出口か、何らかのショートカットが見つかるはず」

シノンとアスナはがれきをよけて、時にはどかし、新しい道地上へのルートを探し始めた。

 

クラインは警察署内に収容されていたほかの犯罪者から被害者の話を聞いていた。その間キリトは警察署内の捜査資料を確認した。二人で集めた情報のすりあわせを始めた。

「……とりあえず調べてみて思ったのはこの町はマジで腐ってんな」

クラインはゲームの設定内の話とはいえこの街の警察組織の設定に明らかに気分を害していた。

「お前にそこまで言わせるってなかなかだな。ただ俺の方の感想も似たようなもんだけど」

キリトはキリトで積み上げた資料の中身があまりにもずさんで全く当てにならなかった。中にはかなり正確で、頼りになるモノもあったがほとんどが駄目。使えるのはゴードンを含めた数人だけという有様で、それ以外の人間には不審死を遂げ満足な捜査が行われていないモノも居る。ここまで来ればなにも知らないモノでも想像がつく、この街の警察組織は本当に当てにならない。

「この町の犯罪者の中でも古株の男が今収監されててな、話を聞いたんだが、どうやらそのじいさんは明日あたりに部下が金を持ってきて釈放されるらしい。んでそのじいさんが言うには殺された男はその金を出し渋ったんじゃねえかってことらしい。何でも殺された男は最近あまり仕事がなかったらしいんだ」

「そいつは情報が古いな、多分そのじいさんが捕まってた間に情勢が変わったんだと思うぜ」

キリトは自分の調査結果地との違いを指摘すると机の上に置かれた書類の内から一つを取り出しクラインに手渡した。

「この街の警察はその金が払えないようなやつを捕まえたりしない。今回の俺たちもこの街の警察の捜査を元に動いてる」

そこにあったのは殺された男の逮捕される直前の記録。

「ここ一週間ぐらい、大分羽振りがよかったみたいだな」

「どういうことだ、じゃあなんで殺されたんだ」

「……そのじいさんの推測が間違っていて殺された理由が全く別なのか、それとも金を出し渋る理由があったのか。考えられる理由ってどっちかじゃない」

そう言いながらキリトは自分の調査結果からほとんど確信を得ていた。

「理由って例えば何だよ?」

クラインの台詞にもう一つの、ゴードンの調査資料を手渡した。

「例えば、脅迫とか」

クラインの顔色は資料を読み進めるごとに険しくなっていった。

 

 

リズベットとリーファはここだけ前回やった時と全く同じ組み合わせに少しだけ不平不満を漏らしたものの、決して二人の仲が悪いわけではなくむしろかなり良好な中を築いていた。

「とりあえず私たちは前回の調査でわかった凶器の毒物と犯人だと思われる所長についてさらに調査を深めて動かぬ証拠を手に入れましょう」

やる気をみなぎらせるリズベットと一緒にリーファは手と声をあげた。

「じゃあ前捕まえた薬物を扱う男から話を聞きましょうか」

リーファの提案にリズベットはうなずき二人は一緒に牢屋の方に向かった。

 

薬効や副作用についての話をしてその薬を知っているかを訪ねた二人に、薬物を扱う裏社会では闇医者と呼ばれていた男は口を開いた。

「知っているよ、その薬。俺は売ったがないがな」

「嘘ね、さっさと答えなさい。あんたが闇医者って言われてて、薬物を扱う人間だって言うのは調べがついてるのよ」

リーファの鋭い声音に闇医者と呼ばれた男が笑い出す。

「ククク、警察というのは腐っているだけだと思っていたが、どうやら無能でもあったようだな。俺は闇医者だ、密売人じゃない。俺が扱う薬は人間を救うためのモノだ、殺すためのモノじゃない」

その声には確かに信念が込められていた。彼は無差別に薬を売る人間ではない、二人はその声からそう感じた。

「……じゃあ、この薬について教えてください。私たちはこの町を守りたいんです」

その言葉に少しだけ逡巡を見せながら闇医者は首を縦に振った。

「いいだろう、ただし条件がある。そこに向かう途中に捕まえたんだ、わかっているだろうが、いま俺は三人の患者を抱えている。そのうちの一人は急がないと命に関わる。こいつをこの男のところに急いで連れて行ってほしい。信頼が置ける数少ない医者だ、こっちの条件をのんでくれるなら情報を渡そう」

「わかったわ、その条件をのみましょう」

リズベットの前に出した手を病み医者はしっかりと握り返し交渉成立の証にした。

「それじゃあ情報をちょうだい」

「ほざけ、そっちが先だ」

「やっぱり、それじゃ行ってくるから「安心しろ取引は違えない、それが裏側の人間の鉄則だ」……その言葉を信じてあげる。行きましょうかリーファちゃん」

リズベットとリーファは渡された情報に従いスラム街に足を向けた。

 




次は24時に投降します。


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序章

「これ、……どういうことよ」

リズベットとリーファは闇医者と呼ばれていた男との取引で示された場所に行くと、そこには多くの子供たちが苦しんでいた。

のたうち回る子供や、もはや死んだように動けなくなっている子供まで居た。

「リズさん、早く連れて行かないと。この子供なんて意識が!!」

そのリーファの言葉に反応したのか周囲の子供の中の一人がのたうち回る。

「っ、名和ぁ、ちょっとこれ悪趣味すぎるわよ」

ゲームの演出と言うことを理解はしているが、それとこの状況から何を感じるのかは話が変わる。

リズベットとリーファは協力しながら三人の子供を車に乗せた。

「リズさん、そっちじゃない!!道間違えてます、さっきのところ左です」

「ああもう、こんなところ作り込むなよ!!パトカーが通るんだから道空けなさいよ」

リズは車を無理矢理にUターンさせるとリーファの悲鳴が上がるが、リズは少し無理矢理な運転に気持ちがよくなってきたのかその悲鳴を完全に無視して運転を続けた。

「リズさーん!!」

周りの子供たちも気持ち悲鳴を上げているように見えた。

 

 

キリトとクラインはほかのメンバーと違い拠点に残り膨大な量の資料を確認していた。

「この辺は名和のこだわりだろうな、これとか偽物だろうけど多分ジャックザリッパーの捜査資料だぞ」

クラインのあきれるような声がバカみたいに広い倉庫に響く。

「この辺はよくわかんないな、JOKERって書いてあるけど白紙の部分が多くてよくわからない」

「かさ増しのためじゃねぇの、それよりディックの捜査資料。…これか?これだなナンバー5。一体いくつあるんだ」

クラインが手に取ったファイル、それが彼らのお目当ての代物。このゲームの隠しアイテム

『ディックの捜査資料』

現在行方不明になってしまっている捜査官ディックグレイソンが捜査官時代に肌身離さず持っていたとされる捜査資料だ。本来はいくつもの捜査手帳だった、しかし何者かにより様々なファイルにされ倉庫の中に隠されていた。それは誰の手によって行われたのだろうか……

「何が書いてあった?」

キリトの問いに対してクラインからの答えはなかった。

「おい、何が書いてあったんだよ」

そんなクラインにしびれを切らしたキリトは無理矢理にクラインからファイルを奪い取りその中に目を通す。

「こ、これは……」

完全に言葉を無くしたキリトにクラインが話しかけた。

「これがディック・グレイソンが行方不明になってる理由だろ。」

そこに書かれていたモノが表に出ればそれだけでこの町はひっくり返る、そういう代物だった。

 

 

アスナとシノンが地下道の捜査をしているとついに道を見つけた。ただし地上にではなく地下に向かって伸びていた。

「アスナ、これって何だと思う?」

「地下道だよね」

「違うと思うわよ。多分だけど、ここをこのまま行くと地下鉄の線路に出ると思うわよ。これGGOの廃駅のグラ使い回してるモノ……らしくない手抜きね」

「割とやっつけ仕事するタイプだと思うけど……」

「……確かに」

階段を前に立ち尽くす二人の間に沈黙が流れる。

「とりあえず行ってみようか、そこできっと何かがわかるんじゃない」

「やっつけでやってるんだからなにも内規もするけど……」

アスナの恐ろしい予想をシノンは無言で却下する。なお、この予想が当たっていたことは言うまでも無い。どうやらアスナのほうが名和をよく理解していたようだ。

 

 

 

「ようやくお出ましか、遅かったじゃないか。ラーズアルグール」

「ああ、悪かったねスケアクロウ。今は闇医者を名乗ってるんだたかな?」

牢屋の中にとらわれている闇医者、またの名をスケアクロウ。その目の前に突然一人の男が現れていた。与えられる印象は極めて凡庸、そして希薄。まるでそこに存在して居ないんじゃないかと思うほどに

「どちらでもかまわん、どちらも俺を指し示す言葉だ」

「ならスケアクロウ、こちら側に戻ってくるつもりはないかな。君のような優秀な人間は必要なんだよ」

まるで貼り付けたような笑顔を見せたその男の手を払いのけ、闇医者は彼を鼻で笑った。

「ふっ、貴様は相変わらずだな。そのゆがんだ復讐に向けられた信念には魅力を感じない」

闇医者、スケアクロウ、死神、この二十年ほどの間呼び方はコロコロと変わり、いつしか犯罪者に成り果てていた。しかし、原点は変わらない。そこだけは見失わない。

「俺は医者だ。苦しむ人々を救う、一時とは言えお前と行動を共にしたのは我が人生の恥だよ」

あの日救えなかった命があった。目の前で救えたはずの子供が死んでいった。あのときの無力感と子供の声、それが原点。

「さすがだね先生、立派な考えだ。だが、その目的の達成のための被害を許容できないのがあなたの弱さだよ」

闇医者の口から血が流れる。

「あなたが作った薬だ、あなたはもう死ぬ。解毒薬はここだ、ただもうないがね」

ラーズアルグールト呼ばれていた男は手元にあった瓶をたたき割る。

「残念だ、あなたとは理解し合えると思っていた」

自らの死を悟りながらも闇医者は笑っていた。

「そうかい、ならせいぜい頑張りな。お前の復讐に興味は無いが、お前が目指す世界を否定はしないさ」

背を向け去って行くラーズアルグールを見送り闇医者は死んだ。まるで眠ったように、そしてその胸ポケットにはラーズアルグールがたたき割った瓶と同じものとリズベットたちに向けたメモが残されていた。

 

 

一気に進んでいくストーリー、彼らの攻略が進んでいく。彼らの選択一つ一つがNPCの運命を決める。彼らは多くのNPCの命を救っていたが闇医者は残念ながら死んでしまった。しかし、彼が残していったモノは多くの人間の命を救うだろう。

 

シノンとアスナは地下への階段を降りていくとそこはこの街の暗部をごっちゃにしたような空間だった。

「犯罪のにおいしかしないわね」

大量のゴミやヘドロなどが流れ着いていてひどい匂いがしているが周辺を見渡すと、確実に人の手が入っている部分がある。おそらく通路として使われて居るであろう場所、しかもそれだけでなく通路の脇には白骨が転がっていた。

アスナはそれを見ながら眉をひそめる。

「少なくとも死体がここで処理されてるんだね」

「どうやらこの街の地下ではそういう通路が碁盤の目状に張り巡らされてるみたいね」

シノンはここまで見たことで形状を正確に把握していた。そして上は下水道を通じて地上までつながっているのだろう。

「この街の犯罪が減らないのはこの空間があるからって言うのもあるかもね、こんなところに逃げ込まれたら捕まえられないよ」

そう言っていればリーファたちから連絡が入っていた。

「あれ連絡が入ってる。キリト君たちが呼んでるね、とりあえず戻ろうか」

彼らはその空間を後にした。

 

 

闇医者の死体を最初に確認したのは警察署の中にとどまっていたクラインだった。

すぐさまキリトやリズベット、リーファがやってきて互いの情報を共有した。

闇医者が彼らに残した小さな小瓶、一体何かわからないが彼が借りを返したという言葉を残したということはそれなりの代物なのだろう。だがこれが何かわからない今下手にこれを使うことはできない。

それよりも今はやることがあった。闇医者の死体を発見したことにより騒いでいる間にクラインのデスクに置かれていた茶色の封筒。その中にあったのはディックの捜査資料を裏付ける証拠の数々。これがあれば密輸犯を殺した署長を捕まえることができる。今こそゴードンの協力を取り付けるとき。そう思っていたところでシノンとアスナが合流し、またここで情報を共有した。

 

 

「その闇医者って言うやつは何者なのよ」

話を聞いたシノンの第一声がこれだった。何者なのか、その答えを持っている人間はこの中には居なかった。

「多分俺らができてなかったイベントで明かされる内容だったんだろ」

キリトの言葉にシノンは明らかないらだちを示す。捜査を進めれば進めるほどに時間は無くなっていき、謎ばかりが増えていく。

「とんでもないやりこみ要素ね、これ発売されたら買おうかしら」

ゲーマーの性が積み上げられていく謎を前に燃えてしまっていた。

「本人に聞かせてやれよ今の言葉、喜ぶぞ」

「いやよ、調子に乗るモノ」

その言葉に一同はひとしきり笑った。

 

「さて、じゃああの人のところに行こうか」

その言葉に全員の顔つきが変わる。

「これでゴードンさんの協力が得られなかったらどうしよう」

「大丈夫だろ、もし無理ならソン時はソン時だ」

 

彼らの手にある絶対的な証拠を見たゴードンはディックの名前を見て驚きの表情を浮かべ、そして一度大きくうなずいた。

「まさか本当にこれを見つけてくるとは……お前たちをなめていたよ」

その言葉とともにゴードンは右手を出してきた。

「協力させてもらおう、改めて自己紹介させてくれ。私の名前はジェームズ・ゴードンこのゴッサムシティで警察官をさせてもらっている」

ゴードンは固く握手をするとそのまま署長の下に向かいその手に手錠をかけた。

抵抗しようとした連中も居たがすぐに取り押さえられた。

警察署を制圧した頃ゴードンの元にバットマンから連絡が入った。

 

「キリト、どうやら敵は新型兵器を盗んだらしい。その兵器は水分を蒸発させることで水蒸気爆発をさせる代物で爆薬がなくとも爆発を起こせるという代物らしい。そして署長とつながっていた組織はラーズ・アル・グールというらしく、闇医者たちを殺した読破彼らが持ち込んだモノらしい」

 

その言葉にアスナとシノンが顔を見合わせる。

「水があれば爆発を起こせる……あのスペースで爆発が起こると街は崩落するよね」

「確かに、それを防がないといけないんだ。キリト、今すぐ地下に行きましょう。犯人を捕まえないと」

「わかったすぐに行こう。そういうわけでゴードンさん、俺たちは地下に行きます」

「わかった。バットマンにも伝えておく」

彼らは間違った情報と間違った推測を元に足を進めたが、結果としてその選択は正解だった。

「まさかここにたどり着かれるとは思いませんでしたよ」

ようやく地下にたどり着いたとき、まるで陰から出てきたように凡庸な男が現れた。

「しかし、あまり好き勝手されても困るんですよ」

指をはじく音が反響すると周辺から大勢の男たちが現れた。

 

「……ボス戦って感じの雰囲気だな」

全員が緊張感を張り詰めて各々の装備に手をかけたとき、マントが風を切る音とともに二人の人影が降ってきた。

「ロビン、周りの連中は頼んだ」

「了解です」

まるで闇を切り取ったかのような姿のバットマンはまるで闇に溶け込みながら進むかのように、奥に居た凡庸な男、ラーズアルグールに襲いかかった。

その瞬間、戦いの火蓋が落とされた。

突然のことに一瞬固まってしまっていたキリトたちに多くの男たちが襲いかかる。

そんな彼らから守るように緑のマントが翻った。

「協力してください。バットマンがあいつを倒すまで、時間を稼いでください」

 

多くの人間が入り乱れての戦闘が繰り広げられた。

 

キリトやリーファ、クラインの警棒が振るわれる。ひとたび振るわれるたびに敵が吹き飛ぶがそれだけでは倒しきれない。

そんな相手にアスナの追撃が打ち込まれて確実に敵の数を減らしていく。

中には手強そうな相手も居たがそんな相手にはすぐさまシノンからテイザーガンがお見舞いされた。万全の姿勢で迎撃を続ける彼らにロビンの範囲攻撃という援護もあって全く危なげなく進んでいた。

 

先に状況が動いたのはキリトたちではなくバットマンの方だった。

 

バットマンの攻撃を巧みに裁いていたラーズアルグールだったが、バットマンが工夫を見せた。マントを使い、動きを悟らせぬようにけりを放つ、しかしそれでも姿勢を崩しながらもラーズアルグールは躱した。

そこで不用意に姿勢を崩したことをバットマンは逃がさない。

けりを放ったことでできた体の流れを止めずにその回転のままに肘鉄を見舞う。

もろに入り鮮血が舞い、ラーズアルグールの体が飛びバットマンとの間に距離が生まれる。

「いやはや、さすがにやるモノだな。だが全員がこうして一カ所に集まったのは握手だったと思うね」

ラーズアルグールは服の中から素早く取り出したガスマスクを取り付けた。

その姿を見てバットマンは距離を詰める。その姿を見てガスマスクに隠れているがまるであざ笑っているかのような雰囲気が漂う。

ラーズアルグールはバットマンのパンチをその身にあえて受ける。そしてそのすきに毒薬を周辺の水の中に瓶をたたきつけられる。

驚きの表情を浮かべるバットマンの腕をつかみあざ笑うようにこう言った。

「その様子だと知らないようだな。あの兵器はまだ試作品だ。水蒸気爆発は起こらない、ただ蒸発させる」

彼の背後で兵器が起動する。すさまじい音ともに毒物が混ざった水が蒸発しバットマンを飲み込んだ。

 

「バットマンさん!!」

その光景を目の当たりにしたリーファが声を上げる。

水蒸気が晴れたときバットマンは倒れ込んでいた。その姿をラーズアルグールは見下ろしていた。

「せいぜいそこでうずくまっていろ」

ゆっくりとキリトたちの方に歩いてくる男を前にリズベットはこの状況を打破する手段が浮かんでいた。それは闇医者が残した謎の解毒薬、使うとしたらここしかない。

「少しで良いから時間を稼いで、あの解毒薬を使うわ」

伝えたいことを伝えて、仲間の援護を信じて動く。

バットマンの元に走るリズベットをラーズアルグールが攻撃しようとするが、それをシノンが許さない。テイザーガンをかわすためにできた空間にアスナとキリトが割り込んで時間を稼ぐ。

確実に攻撃を加えているがラーズアルグールは全くHPが減っている様子がない。

「これはバットマンの攻撃でしかダメージが発生しないのか」

キリトの悔しそうな声が反響するが、あの解毒剤を手に入れられている時点で勝敗はついていた。

「すまない、だがもう問題ない」

バットマンはすぐに復活を果たし、周囲の部下たちもすでにクラインとリーファに倒されていた。彼らは初めての挑戦で何とかグッドエンドをたぐり寄せた。

 

 

ゲームクリア、コングラチュレーション

「ゴッサムシティ・ビギンズ」

攻略 go to next stage

 




バットマンはひとまず完結です。また一段落したら投降したいと思います。次はキャプテンアメリカを書こうかなと思います楽しみにしておいてください。


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キャプテンアメリカ ファーストアベンジャー
伝説の始まり


あのバットマン編を経て名和は純粋にゲームを作ると言うことになれたのだろう。本人も製品版を作ったとしてバットマンは多分入れないと行っていたし、あれは彼にとっても練習だったのだろう。

進化はすぐに感じられた。ゲーム開始のエフェクトからかなりこっていた。まるで時代が巻き戻っているように逆再生されていく風景が加速していき、最終的に暗い牢屋のような場所に居た。

そこは地面が掘られて生まれた空間のようで、刺すような冷たさに包まれていた。周りを見るとボロボロになった兵隊の格好をした人間が座り込んでいて、よく見ると近くにクラインやアスナも座っていた。

よく見ると全員の格好が周りの人間と同じ兵士の格好になっていることから考えても今回の俺たちの立場はどこか、いや胸にある国旗から考えてアメリカの兵隊なんだろう。

クラインもこちらのことを認識したのか座り込んでいる奴らをかき分けて進んできた。

「何だここ?どういう状況かわかるか?」

いきなりのこの状況に、前回から格段の進化を感じるグラフィックにクラインも少し興奮気味だった。

「俺もよくわかんねぇよ、でもあの演出にこの状況だから俺たちはアメリカの兵士で時代は第二次世界大戦ぐらいじゃないか」

「間抜けども、自分が置かれてる状況に絶望して記憶喪失でもしたか。自分をしっかりと保て、言い聞かせろ俺たちは絶対に助かる」

一見口悪く罵ったようで、その実励ましていたその男はこの集団の中で唯一諦めていなかった。彼の瞳はしっかりと前を捉えており、そこからは固い決意が感じられた。

「あなたの名前は……」

「バッキー、バッキー・バーンズ軍曹だ。バッキーで良い、お前らの名前は?」

「俺がキリトで、こっちがクライン。あの子がアスナで、右にシノンとリーファ、リズベットだ。それでバッキーどうしてこんな状況に?」

この質問が予想外だったのかバッキーが顔をしかめて考えた様子を見せたが、自分の中で何か合点がいったのかゆっくりと話し始めた。

「俺たちはヒドラの襲撃を受けたんだ。完全な夜襲だったからな……お前らみたいに何が起こっているのかわからないまま捕まったやつは意外と多いのかもな。今は何とか脱出できないか考えてるところだ」

「それで、何か糸口は見えてるのか?」

その言葉に痛いところを突かれたとばかりにバッキーは顔をしかめた。

「ほぼ0だ」

「……どこが問題なんですか」

「まず見張りだ。常に二人組が見張ってて、さらに見回りをしてる兵隊がいる。そいつらが一週にかかってる時間が大体6分、しかもこの牢屋は井戸のように掘られている上に出入り口には鉄格子がはめられている」

「つまり俺たちはその時間で鉄格子を何とかした上で見張りを何とかしないといけないのか……」

現状を理解し、全員が何か無いかと考え沈黙が空間を支配した。

「今の俺たちではどうにもならない、ただそう肩を落とすばかりじゃない。ここに運ばれる途中でヒドラの指揮官の持っていた地図をくすねた。これにはヒドラの様々な情報が乗ってた、これ一つでこの状況をひっくり返せるぞ」

ニヤリ、そう音が聞こえてくるような笑みを浮かべたバッキーは突然表情を消した。話しかけようとしたキリトを片手で制して音を聞いていた。よく耳を澄ませば地上から戦闘音が聞こえていた。

数分後、戦闘音が消えた。ゆっくりとこちらに近づいてくる足音に緊張感が高まっている。

誰の手かもわからない手が出入り口の鉄格子を外した。

さびたモノを動かす音がやんだとき蒼いヘルメットをかぶった頭が出てきた。

「助けに来たぞ」

たった一言、しかしそのたった一言でその場に居た人間全てに希望を与えた。その様こそがヒーロー、彼こそがその言葉にふさわしいのだろう。

彼はこう呼ばれる『キャプテン・アメリカ』

 

 

 

出入り口からはまだまだ這い出ようとしている連中が多い。そんな中先に出ることに成功したモノたちは後から出てくる連中のための戦闘を開始した。

特に目立っていたのは銃を使わずに盾を使って敵兵を殴り飛ばしていたキャプテンアメリカ、次に敵兵から奪ったマシンガンを使ってキャプテンアメリカを援護していたバッキー・バーンズだった。

徐々に増えていく敵兵、キャプテンたちが彼らを片っ端から倒していくため脱出に成功した兵士たちが気を失っている敵から奪い取った武器を使って時間を稼ぎ出す。

そんな中、キリトたちプレイヤーはというと彼らも無限湧する敵兵と戦っていた。しかし彼らの手の中にあった武器は敵から奪い取ったものではなく、黒い輝きを放つコウモリの形をもした手裏剣だった。

「クリア報酬のこれを使うか、敵兵から武器を奪えってことね!!」

シノンの叫び声が響き、戦場を滑るようにかけながら倒れている敵兵から武器を奪い、そのまま周辺の敵に銃弾を撃ち込む。通常の銃弾とは違うメカニズムで打ち出されているのかほとんど音は出ず、当たった相手は消し飛んだように吹き飛ばされていた。

「しかし、これ以外と使い心地が良いな」

彼らが使う手裏剣はバットマンをクリアした人間にだけ与えられる代物で、ダメージ量こそ低く設定されているが、取り回しやすく、少し相手にダメージを与えて動きを止めればバッキーやキャプテンからの援護で倒れていくため、ここではこの程度のダメージで十分だった。

その上シノンが武器を手に入れた結果、完全にダメージ量が湧いてくる敵の体力を超えてしまっていた。

意外と余裕で逃げ出すことに成功した。

そんな彼らは駐屯所に戻るとそこで一日を過ごした。第二次世界大戦での米兵が過ごす夜というのをある種忠実に再現しており、その世界観はとてもリアルでその上でどことなくSAOの世界観を感じられた。

ほかのメンバーはすでにログアウトしていたがキリトとアスナの二人はせっかくなのでデートとして散歩をしていた。

「これ、どっかで見たことある景色じゃないか?」

「あれでしょ、名和君のホームがあった階層。古城をテーマに作られてたとこの庭がこんな感じだったよ」

「ああ、あの家買う時大変だったよな。あいつがここにするって決めてすぐに買ったもんだから突然行方不明みたいになるし」

「メッセージはまともに帰ってこないんだもんね」

二人して声を上げて笑う。そして笑いが収まったときあいつの変化を思い出していた。

「あの辺からだもんな、あいつが素で話すようになったの」

二人の脳裏には最初、第一階層で初めて会ったときの名和を思い返していた。

 

あれは第一層で行われたボス攻略会議でのことだった。ほとんどのプレイヤーがパーティを組んでおり、キリトもアスナと一緒に向かった会場で本当にソロプレイヤーとしてきていたのが名和だった。

非常に特徴的な装備をしていたのを覚えている。装備重量ギリギリを攻めながらも組まれた装備は皮とチェーン装備が入り乱れており、その上頭に装備していたバケツヘルムがとても周囲からの注目を集めていた。

背中には大きな盾と槍を装備した彼はビーター騒ぎを起こしたキバオウの襟元をつかむと無理矢理に座らせてこう言った。

「無駄に場をかき回すのはやめておけ、ここに居るのは全員が自分の命を預ける存在だ。何よりお前の発言には全く意味を感じない、少しは頭を使って建設的な話をしろ」

その一連の動きから俺はかなり警戒した、キバオウは当時では攻略最前線で戦っていて、そこに居た連中と比べても全く遜色しないはず、そんなキバオウをあそこまで簡単に座らせるということはかなり筋力値に降っているはず、しかしそんなプレイヤーがソロでやっているという事実に警戒の度合いを高めていた。

「なんやその態度!!おまえもしかしてベータテスターやないんけ、せやからそうやって適当なこというてはぐらかそうとしとるんちゃうんか!!」

未だなお球団を続けるキバオウを彼は鼻で笑った。

「なんや、お前!!喧嘩うっとるんか!!」

「いや、俺はテスターじゃないが、もしテスターだとしてお前らは俺の言うことに従うのか?始まりの街で俺は経験者だ、全員俺の言うことを聞けといってお前らは少しでも俺の話を聞いたか?聞かないだろう、お前なんて特に聞かないタイプだ。そしてその上何かミスが起こればこれ幸いと指摘してくる。そういうタイプだ、なんでわざわざリスクをとらなくちゃいけない。お前の言う話は正論でも、この世界じゃ間違ってるんだよ」

キバオウとは対照的に声を荒げることすらせず淡々と言い切った彼に注目が集まった。その後すぐにディアベルがまとめて話の続きを始めたが正直それどころではなかった。俺の意識は黙って座り込んだ名和に向けられていた。その後チーム決めをするに当たり名和に声をかける人間はおらず、なし崩し的に俺たちとチームを組んだのは想定外だった。

 



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負い目と後悔

ヒドラ、この世界では第二次世界大戦中のドイツで活躍していた秘密機関。様々な研究を行い、ここから作られる凶悪な兵器の数々が世界を相手にした大立ち回りを支えていた。

彼らの武器や兵器がそこまで強力な理由、それは基本技術の体系が全く別物であるから、ということと兵器製造を前提として作り上げたかどうかが大きく関わっていた。彼らの手元にあったのは数十年前に地球に偶然墜落した宇宙船の残骸だった。それはまともに使えるものではなかった。宇宙船としての基本的な機能でアル飛ぶと言うことも不可能になって居るただのゴミだった。しかし、彼らはそこから様々な情報を得た。例えば形状、地球の飛行機というのは地球の重力や大気を前提とした、空気力学やその他様々な技術の集大成だ。それに対して宇宙船の形状は当時の地球の代物とは大きく違っていた。まるでその鳥のような形状は彼らの星の生物の形を模しながら、彼らの星の重力、彼らの星の大気に併せた技術の進化が込められていた。これらの情報は彼らの使用する飛行機や戦車を開発するときに使用された。その結果彼らの戦闘機はアメリカが使用するモノよりも遙かに優れた旋回性などを有していた。

この成功体験は当時ドイツの上層部をお軽と信者に帰るのには十分すぎた。しかしその大半が眉唾物やガセネタばかり、そんな中今回彼らが手に入れたモノはその宇宙船以来の革新的な代物で戦場には確実に被害が出ていた。

 

「第127部隊が襲撃を受けた。生き残ったのは二人だけ、それ以外の連中は一瞬で灰のようになってしまったらしい……認めたくないが実際に死体どころか服すら見つからない。連中が開発した兵器というのは一体どういう代物なんだ?」

そこは軍の中でも限られた人間だけが入ることを許された会議室。そこに居たのはキリトたちプレイヤーにキャプテンアメリカ、バッキー・バーンズのチームストライカーといわれる特別部隊、そしてそんな彼らの前に座って居る一人の若い男がアメリカ一の天才ハワード・スタークだった。

「こいつはすごいぞ、はっきり言って再現不能だ。人間を一瞬で灰に帰るだけの出力をここまで小さくするのは現時点の科学力では不可能だといわざるをえない」

科学者としての性か未知の技術に興奮した様子のハワードをいらついた表情を見せながらバッキーが声をかけた

「何か対策はないのか?」

「対策…そうだな、おそらくこの出力ではキャプテンの盾は貫けないだろうな。それと連射も不可能、装填可能数も限りなく一に近いだろうね。実際の戦場で使うためには一発限りのこけおどしのようなモノだよ」

鹵獲した兵器を完全にばらしたハワードはその武器の欠陥を見抜いていた。

「本当に警戒が必要なのはバッキー君が奪い取っていたハイブリット型だよ、ただまぁそっちはこれまでと同じように防弾チョッキである程度は対処可能だ」

「つまり対策は必要ないと?」

キャプテンの質問にハワードは肩をすくめた。

「この技術が完成しない限りは、その証拠にこの武器が使われているのは奇襲でだけだ。最初の一発で派手に見せて心をおろうとしているのさ」

ここまでは一歩引いたところで話を聞いていたアスナが一度うなずいて声を上げた。

「じゃあこの技術を完成させないようにしないといけないのね」

「その通りよ」

「ペギー」

「どうもキャプテン。バーンズ軍曹のもたらした情報でヒドラの基地の半数を壊滅させることに成功している、でも彼らを完全に打ちのめすにはまだ足りないわ。本部が動く、この人物を捕獲してちょうだい」

ドアを開けて入ってきた女性はペギーと呼ばれているこのチームの直接の上官だ。

彼女が差し出したファイルには個人のプロフィールと一枚の写真がついていた。めがねが印象に残るその人物の名前欄にはドクターゾラと書かれていた。

 

『ドクターゾラ捕獲計画』

 

キリトたちはキャプテンたちとは別行動を行っていた。彼らが行っていたのは潜入、雪降る北部を敵部隊と合わないように迂回しながら目的地に向かってただひたすらに足を進める。もちろん迂回したとしてもここは敵陣、もちろん敵と出会うこともアル。そうなるとこうなる。

「スイッチ!!」

戦場に過去越えが響く。

SAO攻略組はあり得ない反応速度で距離を詰めサイレンサー付きの拳銃とナイフで制圧する。何とか反応したモノたちもすぐさまほかから飛んでくるナイフや銃弾にそのHPを減らしていく。何とか逃走しようとしても狙撃がそれを許さない。それはもはや戦闘と呼べるものではなかった。

「こういうプレイなんか殺し屋とかスパイみたいで興奮するな」

という会話が行われたほどなので彼らは彼らでこの状況を楽しんでいた。彼らの現在地は合流地点付近の森の中、なぜ彼らがここに潜んでいるのかというとこの作戦がまるで追い込み漁のようにゾラを追い詰めていたからだ。派手にキャプテンが暴れ回り、そのすきにキリトたちが敵陣に潜入していた。

「そろそろバッキーが到着する頃だな。」

ここは合流地点、ゾラの移動の情報を手に入れたため、作戦道理に捉えるのだが時間に大きな余裕があったため念には念をいれ合流しようとしていた。なぜここまでゾラの逃走が遅れたのか、その理由はいくつかあったがその最も大きな理由としてはもうヒドラ、何よりヒドラのボス“レッドスカル”にとって彼の存在価値は大きく下がっていた。もはやわざわざ助ける必要が無かったのだ。その結果ゾラは鉄道の中最低限の人員で移送されていた。ただし史実と唯一違ったのは研究の進み具合、その最低限の人員の装備は最新の試作兵器だったことぐらいだろう。

 

「あいつは間に合わなかったか……仕方ない。時間だ、行くぞ」

時計をしまい込みストライカーを指揮していたのはキャプテンではなくバッキーだった。

ストライカーは眼下を通過しようとしている列車に飛び乗ろうと長距離ジップラインを使用した。

「おおお、すげぇ!!」

すさまじい疾走感に誰かが大声を上げ、それすら吹雪の中に飲み込まれていく。

 

屋根の上に飛び乗った彼らの眼前に砲身が向いていた。

「避けろ!!」

キリトの声に反応して全員が回避行動をとった。

屋根の部分が吹き飛び床の部分に落とされる。そこに立っていたのは特殊なパワースーツを着た巨漢が待ち構えた。

「やべぇ!!」

完全に尻餅をついていたクラインの頭蓋を殴り砕こうと振りかぶった拳が振り下ろされた。

クラインの体をバッキーが引っ張り何とか助け、さらに援護射撃が行われる。

銃声が響き、爆音が響いた。しかしそれが収まったときそこに立っている男には傷一つ無かった。

敵の動きに合わせて駆動音が響く、握りしめられた拳が振るわれた。

その間も絶えず銃撃が行われていたが全く意に介することなく、その拳が壁を吹き飛ばした。

狭い列車内の空間で暴れ回る男の拳を何とか間一髪で躱していく。前進をアーマーで包んだ男にはこちらの攻撃が全く通じていなかった。しかし次第にその形成が逆転していく。徐々に動きが鈍くなっていた。

「こいつは攻撃を行うのにかなりのエネルギーを使用するんだ!!」

しっかりと攻略法を見つけ出したキリトたちは自分たちの身軽さを利用して回避に専念した。数分もすれば敵はまともに動くこともできなくなっており、キリトたちは人数の利を生かしてゾラ博士も捕まえていた。

しかし、そんな状況で気が緩んだというのもあったのか最後の反撃を甘んじて受けることになった。

その攻撃は遅く、回避は容易かった。……訓練をしっかりと積んだものや、実戦を経験しているモノには。

キリトたちが攻撃を回避した差の先に居たのはドクターゾラだった。

とっさに動いたのはバッキーだった。彼はこの中で唯一軍人だったと言えるだろう。国のためにとっさにその命を差し出せたのだから……

ゾラを突き飛ばしたバッキーは最後の抵抗、命がけのタックルを甘んじて受け止めた。

最後の命がけのタックルは自身の体と一緒にバッキーの体を列車の外に吹き飛ばした。キリトたちが急いで壁に大きく開いた穴から身を乗り出して確認するもそこは崖になって居てもうすでにバッキーの姿は見えなかった。列車内を沈黙が支配した。

 

 

バッキー死亡の事実は一部の兵士たちの間でまことしやかにささやかれていたが、そういった噂話はすぐに上層部からの圧力で消えていった。

そしてそういった意見が消えていった理由としてキャプテンの態度が全く瓦買ったからと言うことが挙げられた。このキャプテンの態度から多くの人間はバッキーは無事なんだと、そして彼は噂を気にしていないんだろうと推測していた。

しかし事実は違う。今回のことで最も気を病んだのも、落ち込んだのも、自分を責めたのも彼だった。特にキャプテンは本来ならば合流できていたはずだった。しかし自分の訓練不足や、スニーキング技術などの不足が合流に失敗させ、結果唯一無二の親友を失った。彼が普段道理を装えていたのは、自分の立場を自覚していたから、そしてマスクをかぶっていたからだろう。マスクは自分を隠す。良くも悪くも、感情を覆い隠し時には自らもだます。

そこにはゲーム制作者である名和自身の体験がしっかりと還元されていた。

 

そんなキャプテンにそしてキリトたちに次の任務が下される。任務の内容はヒドラの本拠地を強襲する。これまでどうしてもわからなかった。見つからなかった情報がゾラの手によってもたらされた。

しかし、その情報とともにわかったことが一つ、的の首魁レッドスカルの凶悪さ。そしてゾラの研究が動かした一隻の飛行船。ドイツ、ヒドラの秘宝たる一隻の宇宙船を元に生み出された完全ステルス爆撃機。もしこれが実際に使用されれば船橋はひっくり返る。勝負所は今。それが両者の出した結論だった。

 

 

レッドスカルは四次元キューブをただじっと見つめる。魅入られたかのように、その先にアルモノを探して。自らの野望が、欲望が曇らせた瞳はその蒼い輝きから離れなかった。

 



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