おバカは最強の悪役を夢見る (ワノ)
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おバカは思い出す

男は、幼い頃から悪役が好きだった。ヒーローに倒される為だけに存在する悪役が好きだった。悪役が語る悪に対する美学が好きだった。

 

だからこそ男は、あの瞬間戸惑うこと無く、己の夢(最強の悪役になること)を選んだ。

 

 

 

***

 

カルラ・ウィルルプスは、古くからある魔術師家系の一族であるウィルルプス家に三男として生まれた。本来であれば、子の誕生は祝福されることであろう。この家では、子はただの道具でしか無かった。長男は跡継ぎ、次男はスペアという認識でしかなかったのだ。その為、三男として生まれたカルラに対しての家族の反応はあぁ、産まれたんだ。という程度であった。

 

その後、赤ん坊のカルラは乳母に預けられた。そして特に何事もなくスクスクと育っていき、3歳になった。

 

そして3歳になった彼は、ひょんな事から前世を思い出した。

 

前世の彼はとある夢を掲げていた。

 

 

それは、『最強の悪役になること』だ。

 

 

彼は、悪役にずっと憧れてきた。どんな時でも揺るがない悪役の美学。己の夢を追いかける姿。自分に嘘をつかない誠実さ。何よりも主人公であるヒーローと闘う姿。それら全てが当時幼かった彼の心を震わせた。

 

それから前世の彼は、理想の悪役になるために修行を始めた。

 

だが彼が、修行を始めるに当たってひとつ大きな問題があった。それは、彼が超ド級の馬鹿であったことだ。それこそ親や友人、学校や道場の先生が額に手を当てながら空を仰ぐほどに馬鹿だった。

 

彼の父がブレンドコーヒーを入れた来てくれと言うと、何故か醤油とソースのブレンドを入れたきた。父は口に含んだ醤油ソースブレンドを吹き出した。

 

おつかいでりんごを3つ買ってこいと言ったら、何故かミニトマトを3粒買ってきた。それを見た彼の母は、寧ろどうやってパックで売られているミニトマトを3粒だけ買ってこれたのか疑問に思った。

 

金曜日の下校中に明日の1時に公園集合な!と言って別れた彼の友人たちが、翌日午後(・・)1時に公園に行くと、酷いクマができた彼がジャングルジムの上でぶら下がっていた。クマのできた彼を見た友人たちは手に持っていたサッカーボールやバットをその場に落とした。

 

国語のテストで男の子2人の友情を題材とした物語の問題が出た。「この物語を読んだ今のあなたの考えを書きなさい。」という問題に対し彼は「かずまくんとさつきくんは人間だったんだ....。」と回答した。彼の担任は椅子から転げ落ちた。

 

剣道道場で100回素振りをしろと言われたら、他の生徒が100回で終わっている中、何故か彼だけ1000回素振りをしていた。これには普段生徒たちに能面と恐れられている先生も目や口を開いて唖然としていた。

 

 

こんな感じで超ド級馬鹿な彼だが、武術や体術などの才能はあったようで、本人が悪役になるために修行だ!と言って通っていた剣道はあっという間に上達した。そして最終的に剣道道場の先生を倒してしまった彼は、剣道道場を辞め、次は空手を極めに行った。そんな感じで次から次とさなまざまな武術や体術を初めて、すぐ上達して先生を倒し、また新しいものに手をつけていく事で、彼が望む最強の悪役へと近づいて行ったのであった。

 

だが、人間とは残酷な生き物で、ひとつのことが優れていると、何かが駄目になる。そしてそれを彼に当てはめると、武術や体術などに才能を全振りしているため、頭が弱くなってしまった。

 

しかし、彼は馬鹿であったおかげで周りから距離を置かれたり、軽蔑や嫉妬をされることも無くー寧ろ、彼の馬鹿具合を面白がり、周りの方からよってきたー周りから見れば、平和に生涯を終えることが出来た。

 

しかし、彼が本当に望んでいたのは、こんな平和な人生ではなかった。幼い時に見た、あの悪役のように、正義のヒーローと命懸けのハラハラするような闘いが出来るような、最強の悪役になることだ。

 

 

ーーーそして今世。バナナの皮で滑って豆腐の角に頭をぶつけた彼は、全てを思い出した。

 

思い出してからの彼の行動は、それはもう早かった。前世では存在しなかった魔術という分野に興味を示し、片っ端から家にある本をひっくり返しては、部屋を爆破させ、前世で身につけた武術や体術の感覚を取り戻すためっと言って、家中にある窓ガラスや数百万はする瓶を割りまくった。

 

これには、今までカルラに対して無関心だった今世の親や兄弟たちも黙っている訳にも行かず、ウィルルプス家初の第一回家族会議が行われた。

 

この時彼らは知らなかった。前世を思い出したカルラのお馬鹿行動に振り回され、あれほどお互いに無関心であったはずが、気がつけば家族会議が三桁を超える事になるなんて誰も知らないのである。

 




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ご覧いただきありがとうございます(*^^*)
はじめまして、ワノです。
クリプター小説読んでたら自分も書きたいなって思って書きました!
最初はかっこいいキャラで書くつもりだったのですが、気が付いたらお馬鹿キャラになっていました....。
気ままに投稿していこうと思っているので、温かく見守ってくださると嬉しいです!
今後オリジナル異聞帯やオリジナル鯖が登場します。登場する度にネタバレにならない程度にプロフィールなどを公開していくつもりです。

今回は、最強の悪役に憧れるカルラくんのちょこっとプロフィールです。

□カルラ・ウィルルプス
性別:男
容姿:赤髪オレンジよりの赤目
特徴:お馬鹿/魔力おばけ/武術体術はとても強い
一言:「俺は、最強の悪役になるぞ!」

次回、家族会議


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おバカと家族会議

古くから続く魔術師家系のウィルルプス家は今、深刻な問題にぶち当たっていた。現当主である父を中心に右側のひとりがけ用のソファーに母、左側の二人がけ用のソファーに長男と次男が座り、何故か俺だけが、床に正座をして座っていた。この状態がかれこれ3時間続いている。正直俺の足は、もう感覚がない。一体この話し合いはいつ終わるのだろうと遠い目をしながら俺は、数時間前の出来事を思い出していた。

 

ーーー事の発端は、一通の手紙だった。今日も元気に魔術の練習をし、部屋を爆発させてしまった俺が、父の執務室の床と仲良くしている時にそれは届いた。真っ白な封筒に入った手紙自体は珍しくも無いが、その手紙のあ送り主を見た父が眉をひそめた。そして床に転がっている俺を他所に手紙を読み始めると徐々に目が見開いていき、最後には、額に手を当てながら空を仰いでしまった。

 

手紙の内容が気になり、縄で縛られ身動きが取れない身体を芋虫のように動かしながら父の近くに近づいて行った。

 

父は、そんな俺の姿をチラリと見ると大きな溜息をつき、俺の上で手紙をヒラヒラさせながら自分の机の上にあるベルを鳴らし、使用人を呼び付けた。

 

数分とせずにやってきた使用人は、俺を気にすることなくー紐に縛られた俺が必死に父の手にある手紙を取ろうとしている姿ー父に近づくと俺に聞こえないように言われた指示に頷き、下がって言った。

 

そして1時間後、ようやく縄を解いてもらった俺は、談話室へと連れて行かれた。父と共に部屋に入ると中には既に母と長男次男が座っていた。

 

そして、いつもの席へと座った父に続き、俺も空いているソファーに座ろうとすると、母の無言の圧がかかり、渋々床に正座で座った。

 

全員がいることを確認した父は、ゲンドウポーズを取りながら、重々しく口を開いた。

 

「....これより、第386回目の家族会議を始める。議題は、この手紙についてだ」

 

片手に先程の手紙を掲げながら言った父の顔は随分の険しかった。そんな父の様子にただ事では無いと思い、誰もが息を飲み次の言葉を待った。

 

「手紙の送り主の名は、"マリスビリー・アニムスフィア"時計塔の天体科を牛耳る魔術師貴族であり、カルデアの創設者だ」

 

「まぁ!」

「っ!?」

「なっ!?」

「えっ?誰?」

 

言わずもだが、上から母、長男、次男、俺だ。いや、なんか俺以外みんな知ってる感じだけどそんな有名人なのかな?と首を捻っていると、長男と次男が残念なものを見るようなよで見つめてきた。因みに、流石の俺でもカルデアは、知っている。

 

 

"人理保障機関カルデア"

 

 

魔術師のどっかの貴族によって創立された未来を保障するための機関。

 

 

「お前、マリスビリー・アニムスフィアを知らないのか?今いちばん有名な魔術師の名前だぞ!」

 

「いやぁ、そう言われても知らないものは知らないし...。そんなに有名なの?」

 

「いくら興味が無いからと言って彼を知らないのは流石にやばいぞ」

 

「うぅぅ、で、でも、仕方ねーじゃん!知らねーものは知らねーんだし!」

 

「カルラ!言葉使い...。」

 

「っ!?申し訳ありません!お母様!」

 

条件反射というものは怖い。ここ数年で調きょ....教え込まれた母の教育の賜物で今では、母の声を聞くと頭で考えるよりも早く体が動く様になってしまった。母親恐るべし....。

 

母は、慌てて口調を治した俺に満足そうに数度頷いてから、父に話の続きを聞いた。

 

「それであなた。アニムスフィア様からの手紙にはなんと書いてあったのですか?」

 

「それがな....。アニムスフィア卿は、カルラをカルデアに招集したいと思っているようだ。それもAチームとしてだ」

 

「なっ!?それは本当ですか!父上」

 

「あぁ、残念なことに本当の事だ。確かに純粋な魔力だけで言えば歴代のウィルルプス家に置いてもトップクラスだ。きっと、アニムスフィア卿もその事を踏まえて手紙を送ってきたのだろう」

 

「無理です!カルラをカルデアに行かせるだなんて、核兵器を落とし込むようなものよ!あなた!とても光栄な話ですけど、今回は、断りましょう。世界を救う前にカルデアが崩壊してしまうわ!」

 

「そうです父上!母上の言う通りです!確かに家の名に傷は着いてしまいますが、この馬鹿を送り出した後に来るであろう請求書に比べれば何倍もマシです!」

 

「父上!僕も母上と兄上の意見に賛成です!断言できます!この馬鹿は、カルデアに行っても絶対部屋を爆破させます!絶対です!」

 

「みんな酷くない?俺、泣くよ?」

 

くそぉ、好き勝手言いやがって!俺だって好きで爆破してるわけじゃないし、ただ、ちょこっと多く魔力使ったら爆発しちゃっただけで...。うん、仕方ないよな!...し、しかたない....よなぁ。

 

家族の余りの随分な言い草に心が折れそうだ。そんな俺を見兼ねてか父が母や兄たちを宥めていた。

 

にしても、カルデアか....。ん?、かるであ?どっかで聞いたことある名前だな。あれ、何処だったけ?うーん.....。

 

「あぁ!!思い出した!」

 

「何です、突然大きな声を出して!はしたないですよ、カルラ」

 

「うぇ!?も、申し訳ありません!」

 

慌てて頭を下げるも、さっき思い出したことで脳内は一杯だった。

 

どうやら俺は、ゲームの世界に転生したみたいだ。しかも前世で大人気だったFGOの世界だ。俺自体は悪役修行に必死でプレイしたことは無いが、そんな俺でも、主人公の名前くらいは知っている程の人気具合だった。

 

確か、主人公の名前は"藤丸立香"だったと思う。本人は、一般人に見せかけて実際はチート人間って感じだったはず...。

 

......うん、よく考えてみれば、俺の理想のヒーローじゃね?世界を悪者から救うヒーロー像にピッタリだ。ってことは、藤丸立香と敵対すれば、俺の夢《最強の悪役になる》叶うんじゃね?

 

......よし決めた、カルデア行こう。

 

 

「ってことで、父さん、母さん、兄貴たち!俺、カルデア行ってくるわ!」

 

 

「「「「いや、どういう事だ!てか今までの話聞いて何でそうなった!!!!」」」」

 

 

この後、更に5時間の家族会議の末ー主にカルラに対する説教ー談話室が爆発し、カルデア出発までに家族総出で地獄の特訓をさせられることをこの時の俺は、まだ知らなかった。

 

「さぁーて、どうやって悪役になろうかな♪」

 




⿴⿻⿸

どうも、ワノです。
今回はカルラの家族登場です。名前はないです。
一応カルラの家族の設定みたいなの載せときます。

□父
カルラの説教役

□母
対カルラ最終兵器

□長男
カルラのせいで出来た請求書纏め係

□次男
屋敷内で1番爆破に巻き込まれる


次回、おバカの異聞帯


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