精霊術師の異世界旅 更新休止 (孤独なバカ)
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プロローグ

「……お前また徹夜か?」

 

俺は栄養ドリンクを友達の南雲ハジメことハジメに渡すと少し呆れてしまう

 

「うん。少しお父さんの仕事手伝っててさ。」

「あ〜プログラム組んでいたのか。お前学生なんだから少しは休めよ。」

「そういうケンこそ瞼にクマできているけど。」

 

ハジメが心配そうにしているけど

 

「俺も母さんの締め切りがちょっと近くて。」

「……それ先週も言っていなかった?」

「前は親父。」

「二人とも漫画家の家はやっぱり大変だね。」

 

と俺の両親は二人とも漫画家であり、それぞれ少年誌と少女漫画の連載を雑誌で行っている

 

「……ったく。ふぁ〜」

 

俺も自分のカバンから栄養ドリンクを飲む

もう何度もクラスで見慣れたのであろうからもう誰も突っ込むことはない

眠さで死にかけているが

すると俺の隣で大きな声で

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒が呼び出す

 

「あ、ああ、おはよう白崎さん」

「……白崎俺は無視かよ。」

「あっ。ごめん。渋谷くんもおはよう。」

「おはようさん。」

 

俺は呆れながらに呟くと頭痛と胃痛で全身が悲鳴を上げている

白崎香織。学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。そしてハジメを好きな少女だ。

元々俺とハジメは正直なところ関わる奴が少ない。

俺は正直なところ普通少年で、よく目に隈ができていることが多いからか、怖がれることが多い。

といっても暴力沙汰どころか俺未だに喧嘩すらしたことないんだけどなぁ。

その評価に傷つくけど、実際流れている噂だしなぁ。

まぁ体育の成績は滅法いいし、昔空手をやっていたことも関係しているのだと思うのだけど。

ハジメはオタクと呼ばれる分類にあたる。結構前におばあさんを助けた時に仲良くなったのがきっかけだった。

 

「渋谷くん。南雲君。おはよう。毎日大変ね」

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

「……」

 

すると三人の男女が近寄って来た。八重樫雫、天之河光輝、坂上龍之介が俺の前にやってくる。

 

「……なぁ。俺って影薄いのか?」

「いえ。そんなことないと思うけど。本当に三人がごめんなさい。」

「……別にいいけどさぁ。」

 

俺はため息を吐く

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

「……はぁ。」

 

俺はため息を吐く。心底面倒くさい

 

「ハジメ。コーヒー買いにいくけどお前も行くか?眠気覚しにはちょうどいいだろ?」

「あっ。うん。」

「ちょっと渋谷くん。」

「後は任せた。今度なんか奢る。」

「えぇ。イチゴミルクでいいわ。」

「……了解。」

 

俺とハジメは席を立ち教室を出る。始業は遅刻になるけどこれがいつもの日常だった。

 

「それでなんだけど。」

「あのーなんで毎回毎回俺の席で食べるんですかね?」

 

俺は昼休み八重樫と谷口、そして白崎と一緒に飯を食っていた

 

「そういえばイチゴミルク。」

「はいよ。お前らもこれでよかったよな?」

「うん。でもいいの?」

「臨時収入入ったからな。さすがに眠いけど。」

「わ〜い。ありがと。」

 

とイチゴミルクをとると飲み始める谷口

 

「そういや、ほら白崎。ハジメのおすすめのラノベ。新刊読み終わったから。後から返せよ。」

「うん。ありがとう。」

「あなたって本当にお人好しがすぎるわよね。」

「お前にだけは言われたくない。」

 

俺はため息をつく。まぁ両親が昔から家事をしない分慣れている。

 

「はぁ。でもなんとかならんのか?」

「「無理。」」

 

谷口と八重樫が同時に発言する

 

「昔からあぁだから。」

「思い込みが激しいってかなり面倒ってあれ?白崎は?」

 

俺たちが話しているうちにどこかいなくなっていた。

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」

「……お前あの突撃娘なんとかしろよ。」

「ちょっと無茶言わないで。あぁなった香織は止められないわよ。」

「あいつをモデルにして一本小説書いてみようかな。『突撃恋娘』って感じの。」

 

俺は一応小説家としてデビューしており、連載を抱えてはないのだが結構売れていて、印税が十分取れる程度には売れている。その為、中2のときから年に2本ペースで本を出しているのだ。

 

「……ほどほどにしなよ。」

「渋谷くんが書いた本、面白いから鈴は買うよ。」

「私も買うけど。」

「……読者がクラスメイトっていうのもなんだかなぁ。読んでくれてるのは嬉しいけど。」

 

と少し頰を掻く。何というか照れ臭い。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く天之河にキョトンとする白崎。

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

「ブフッ。」

「「プッ。」」

 

俺たちは笑いをこらえきれずに吹き出してしまう。

もうそろそろ止めるかと思った矢先で

俺は凍りついた。

目の前、天之河の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

「みんな教室から出ろ!」

「皆! 教室から出て!」

 

俺と担任の愛子先生が警告を発したのと同時に魔法陣がさらに光り輝くする。

そして俺たちは光の中に消えていった。



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異変

気がつくと俺は、ざわざわと騒いでいる無数の気配を感じながら、ゆっくりと周囲を呆然と見渡す。

俺は急に体の感覚が研ぎ澄まされた様に感じそして何かにお祈りしている人が目の前に見える

 

「異世界召喚か。」

 

俺はポツリと呟く。ライトノベル好きの俺にとってこの展開は見覚えがあるんだけど巻き込まれるとはな

みんなはまだ何が起こったのかわかってないみたいだし

とりあえず

 

「二人とも大丈夫か?」

 

俺の目の前にいる谷口と八重樫に話しかける

 

「えっ……ここって……。」

「……多分異世界。それも召喚系。」

 

八重樫にそう伝えると、息を飲んだのが分かった

 

「そんな……!」

 

谷口も状況を理解したのか、いつもの笑顔はない。

そして俺が状況をまとめようとしたその時だった。

とある老人が手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音で俺たちに話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 

俺たちは先ほどとは違う大広間に通された。10mくらいある食卓があることから、会合に使う場所なのだろうか。

おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と天之河、白崎、坂上、八重樫の4人組に加えなぜか俺まで座ることになった。

 

「なんで俺まで。」

「渋谷くんが一番客観的で現実向きな話ができるでしょ?それに私がいて学級委員長がいないってことも変でしょ?」

 

ぶーたら文句をいうと八重樫が真剣にそういう

 

「と言ってもほとんど八重樫が表向きの仕事はやっているだろ?」

「表向きはね。渋谷くん人が嫌がる仕事をしてくれるでしょ?愛ちゃんが褒めてたわよ。」

「女子に重い荷物をもたせたり溝掃除させありするほど腐っているわけじゃないんだけど。」

「それが愛ちゃんでも?」

「あの人に仕事をさせたら俺の仕事が増えるから。」

「……あぁ。そういう。」

 

ドジっ子先生はマジで勘弁してほしい

 

「ちょっと何言っているんですか!!」

 

すると俺たちは笑顔を取り戻した。

こういった場面ではまず落ち着かせることが重要。それが一番効率的なのは笑うってことだ。

そして全員に飲み物が配られた後に、聖教教会とやらの教皇であるイシュタルさんからの説明が始まった。

簡単にまとめると、最初に言っていたようにこの世界はトータスと呼ばれ、主に人間族、魔人族、亜人族がいるという。生息域としては、人間族が北一帯、魔人族が南一帯、亜人族が東にある巨大な樹海の中でひっそりと暮らしているという。

現在はその中でも人間族と魔人族が何百年も戦争をしており、人間族は数で、魔人族は個々の実力で優れており、今まではその勢力は拮抗していた。だが、ある時、突然その拮抗は破られることになった。魔人族が魔物を使役し始めたのだという。

魔物とは通常の野生動物が魔力を取り込んで変異した異形の存在で、それぞれの種族で強力な魔法が使えるらしい。魔物は本来なら人間、魔人に関係なく襲い、使役できても1,2体が限度だったのだが、その常識が覆された。

結果、人間族は数の有利を失い、窮地に立たされてしまった。

この状況を打破するために、聖教教会の唯一神であるエヒトが勇者を召喚するという神託を出し、現在に至る、ということだ。

ちなみに、召喚された俺たちはこの世界の人間に比べて上位の力を秘めているらしい。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

「……」

 

テンプレすぎて何も言いようがない。言いようはないのだが

 

「……」

 

この世界は歪だな。

宗教がこの世界ではほぼ一つに制定されていて、そして神の意志を優先している。

ただでさえ宗教が一つということは、この世界は教会が何よりも力があると言っても過言ではないだろう。

 

「……どう思う?」

 

小さな声で八重樫か聞いてくる

 

「とりあえず従っておくことが大切だと思う。未だ自分の力やこの世界の常識が分からない中で世間に出たら分からないしな。戦争に参加することは置いておいてな。最悪奴隷にされる可能性もあるし。」

「……そうね。」

「……怖いか。」

 

俺の言葉に驚いたようにしていたが小さく頷く。小さく服を掴んでくる。

こいつもやっぱり女子なんだよな。

正直なところ八重樫はしっかりとしたお姉様タイプだと思ったんだけどそれが全く違うことが理解できた

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さ。そして大抵俺に被害がくるのはお約束になっている。

 

「愛子先生。多分無理っすよ。」

 

俺はすぐさま否定する

 

「聞いていた話によると召喚したのはエヒトっていう神様だ。異世界に干渉する。つまり空間を歪めるほどの大きな力が作用しているってことになる。さすがにこいつらがそんだけ大きな力を持っているとは思えないしな。」

 

すると少し教会サイドからの大きな視線を感じる。八重樫もちょっとと言っているが俺も結構キレているの、で大きく挑発させてもらった。

 

「えぇ。あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

最悪のパターンではなかったまでもどっちにしろ危険なのは間違いはない

これで戦争に参加するのをなるべく少ない生徒にできれば成功だ。

俺は取引を仕掛けようとした時に天之河が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

するとかすかに頰を緩ませたのがわかった

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。天之河を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

「……こりゃ、無理だな。」

 

俺は少し言おうとしたことを諦める。せめて女子や戦争に参加したくない人を排除したかったんだけど。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

……仕方ないか。

この雰囲気を崩したらさすがに教会側がどんなアクションをしてくるのか分からない以上従うほかない

ハジメと目が合う。するとほとんど同じことを考えているだろう

……油断したら死ぬ

そう思わざるを得なかった



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先生

「失礼します。」

「あっ。渋谷くん。」

 

俺は戦争を参加することが決定した夜に先生の部屋に訪れていた。

 

「うす。すいません。お疲れのところ。」

「別にいいですよ。それで何の用……って今日のことですよね。」

「はい。ちょっと話したいことがあって。ちょっとこの後八重樫のところにもいかないといけないのでちょっと時間は短いですけど。現状の確認をしたいので。」

「……しっかりしてますね。渋谷くんは。」

「俺も結構動揺してますけど、それでもちょっと最悪の事態に近いので。八重樫もちょっと冷静じゃなさそうでしたし。まだ事態の把握をできている先生に少し話したかったんですけど。」

「八重樫さんがですか?」

 

驚いたようにしている

 

「……かすかに声が震えてました。一度聞きましたけど、やっぱり怖いらしいです。八重樫も女子ですよ。怖いって思うのが当たり前ですし、冷静さを失ってもおかしくないです。」

 

実際少し冷静にしていたが八重樫は普通なら暴走を止める方だ。俺が従っておいた方がいいと言っていたが普通なら止める方に参加するのが八重樫だろう。

 

「……そうですか。」

「だから少しの間はメンタルケアに回ろうと思います。他にも結構理解している人は何人かいるので。」

「理解している人ですか?」

「八重樫、ハジメ、後おそらくですけど谷口あたりですね。ハジメも分析できてますし。おそらくみんなは現実逃避をしているだけで。人を殺すってことに気づいていませんですから。」

 

すると先生は俺の方を見る

 

「……渋谷くん。やっぱりそういうことですか?」

「えぇ。戦争っていうことは基本的に人を殺すことですしね。だから先生は必死に止めていた。違いますか?」

「……はい。私は先生です。私はみんなが無事に帰れるようにする為に必死に止めましたが。」

「天之河に全員流されましたからね。俺も戦争参加は反対なんですけど。というよりも教会側が結構黒いです。話術によって同情心を誘い天之河に参加を誘おうとしてました。」

「えっ?」

「冷静じゃないうちに参加をさせたかったと思います。何が狙いか分かりませんが。」

 

俺は少し恐怖を感じた理由でもある

 

「……正直俺も率直な気持ちを言うならば怖いです。この後俺たちは多分戦闘訓練を受けることになると思います。最初は多分モンスターなのかそれとも人間なのか分かりませんが。それでもいつかは何かを殺すことが普通になります。」

 

正直なところ俺も何かしていないと恐怖が上回り発狂するだろう。だから誰よりも現状を確認したかった。

 

「……正直なところ俺たちは地球に帰れるかさえ分かりません。でも今のままじゃ多分すぐに死者が出ると思います。」

「……そうですか。」

「恐らく自分に酔っているのかと。ただの人間が力を持ったら自分の正義に向かいたくなるので。」

「渋谷くんはそんなことないですよね?」

「俺はまず不利益から考えますし、八重樫が動揺していたので余計に冷静になれましたから。」

 

元々判断力は悪くない方だと理解し、自分の気持ちを抑えることは昔から慣れている。

 

「……それでどうしますか?下手にやったらクラスメイトが壊れますよ。」

「渋谷くんはどうしますか?」

「俺は当分の間は合わせようかと。危険になったらまた報告をすることになると思いますが。」

「えぇ。分かりましたそれじゃあ八重樫さんのこと、お願いします。」

「了解です。それで先生は大丈夫ですか?」

 

するとピクリと反応する

 

「なんのことですか?」

「……」

 

俺はため息を吐きそして先生の方へ向かう

 

「もう少し話しましょうか。」

「えっ、でも。」

「八重樫の方は時間を言ってませんし、少し遅れても先生と方針を話し合っていたっていえば誤魔化せます。さすがに弱っている人を見て見過ごすほど俺は腐ってませんよ。目は腐ってますけど。」

「渋谷くんはもう少し生活リズムも整えた方がいいです。仕事が忙しいのも分かりますけど。」

 

とお説教を始める愛子先生に俺はただ耳を傾げる

多分この世界でもこの先生だけはずっと変わらないんだろうな

俺はたった1人の恩人の話を聞きながらありがたい説教を聞き続けた

 

 

そして帰りしなありがとうございますと愛子先生に言われた俺は八重樫のところに向かうのだった。

翌日俺たちは早速訓練と座学が始まった。

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

と俺は簡単なメモを取り始める。

昨日は結局、八重樫も我慢できなかったのか、涙を流して結局泣き疲れるまで俺は付き添い続けた。

八重樫のことはメイドさんに任せ、後は起きている生徒の愚痴や不安をただただ聞き続ける。

メンタルを壊さないように細心の注意を引き寄せて最終的に寝たのは日が回って4時間ほどたったことだった。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

俺は首を傾げる。するといわゆる現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだと説明を受ける。

そして俺は感覚的にこの人は信用出来る人物だと判断した。

ちゃんと一人一人の疑問点を答え説明してくれる。

昨日のあの教皇とはえらい違いだ。

そして俺は針を指に刺しそして血を擦りつけると表を見る。

 

 

渋谷健太 16歳 男 レベル:1

天職 賢者

筋力 50

体力 50

耐性 50

敏捷 30

魔力 1000

魔耐 50

 

技能 全属性適性・魔力操作・複合魔法・高速魔力回復・魔力感知 無詠唱 消費魔力軽減 魔法威力増加 家事【+料理の達人】【+洗濯】【+掃除】言語理解

 

なんというか基準値はわからないけど魔力の数値がいかれているのが分かる。

 

「全員見られたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

てかこれじゃ完全に魔法使いの技能だからなぁ

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

なるほどな本当に家事以外は完全に魔法使いよりのスキルなんだなぁ。まぁ家事については俺の両親は両方苦手だから俺がやっているからだろうけど

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

「ぶほぉ。」

 

俺は吹いてしまう。するとみんなから見られるが関係ない

これ魔力本当にチートじゃないか。

 

「どうした?」

「いや。なんでもないです。」

 

俺はステータスプレートを隠す。

と言うわけだが俺はどうしようか悩み始めるのだが

 

「どうしたの?」

 

すると隣の席の谷口が聞いてくる

俺はステータスを開き机の下に見せる

すると谷口は俺のステータスを見た途端

 

「……」

 

ぽかーんと口を開けるとステータスと谷口は俺を見る

 

「……えっ?何このステータス。」

「バグってないよな?」

「バグってると思うよ。」

「そういえば谷口は?」

 

と俺が見た谷口のステータスはなんとも普通なもので結界師だった。

 

「なんとも普通なステータス……ツッコミどころがねぇ。」

「……鈴思うんだけど、渋谷くんって鈴に面白さを求めてない?」

「えっ?お前愛子先生枠じゃないの?」

「失礼な!!」

「ちょっと渋谷くん、谷口さんどういうことですか!!」

 

すると笑いが起こる。

その間にも勇者のステータスを喜んだり俺のステータスをみて絶句したりなど色々あったが普通に進行していく。

そしてハジメの番になるとその団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

「あのな。非戦闘系なら戦わなければいいだけだろうが。お前バカか?」

 

俺はそういうと檜山が睨みつけてくる

 

「武器の手入れに新武器の開発などいろいろできることがあるだろうが。バカか?バカなのか?あっ。ごめん。バカだったな。」

「……てめぇ。」

「…こらー!喧嘩は止めなさい!」

 

すると愛子先生が止めに入る。まぁこれを予測しての挑発なんだけど

 

「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

「……今ほとんどって言ったよな。つまり平均以上のものがあるんじゃ。」

 

俺の疑問に谷口は小さくあっと呟く

俺もこっそりのぞいてみると

 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

 

「食物チートじゃねーか。」

 

俺のツッコミに全員がハジメを同情したようにそしてハジメは目が死んでいた

 

「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」

 

とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生。

確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。

一人じゃないかもと期待したハジメのダメージは深い。

 

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

「な、南雲くん! 大丈夫!?」

「ごめん谷口。あれは先生にしかできないな。」

「うん。南雲くんがかわいそうだよ。」

 

空回りをしている愛子先生を尻目に俺はため息を吐く。

ハジメの不幸はまだ始まったばかりである。



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虐め

あれから二週間がたった俺は魔法をさらに特訓していた

手元には杖があるが正直あまり意味がない為ほとんど鈍器を使っている。

そして今のステータスというと

 

渋谷健太 16歳 男 レベル:10

天職 賢者

筋力 100

体力 100

耐性 100

敏捷 60

魔力 2000

魔耐 100

 

技能 全属性適性[+光属性効果上昇][+闇属性効果上昇] [+氷性効果上昇]・魔力操作・複合魔法・高速魔力回復[+瞑想]・魔力感知・無詠唱・消費魔力軽減・魔法威力増加 ・家事【+料理の達人】【+洗濯】【+掃除】言語理解

 

魔力チートが止まりません。

俺は基本闇と光を重視した魔法を使い精神攻撃や支援の立ち回りをする。

というのも圧倒的にこの戦い方をする人がいなかったのである

闇は精神干渉することに長けている魔法でありどちらかというと敵にデバフを与えることが多く、俺はスリープからのナイトメアという、悪夢を見させるコンボを実現。

もちろん他の魔法も使えるのだが威力に適正があったらしく一度国一である結界を壊してからは俺は自重し始めている。

 

「……ふぅ。」

 

俺は風魔法の制御をしてウインドカーテンをいう風で周辺の弓矢の威力を落とすという自主練に励んでいた。

魔力の扱いは最近は慣れてきていて無詠唱、魔法陣なしでの魔法は俺の十八番になっている。

魔法という概念においては俺と白崎が断トツで適性が高く、既に実戦に出ても問題ないと言われるほどだった。

自主練が終わると俺は軽く汗を拭く

 

「……制御じたいは簡単だな。後は雷のエレキネットでも確かめてようかな?」

 

とことん嫌がらせやサポート能力に長けていると思う。

 

「何やってるの!?」

 

すると大きな声で白崎の声がする

俺が少し驚いたように声が響いた方につまりはやがて、訓練施設からは死角になっている人気のない場所に向かうと

ボロボロになったハジメがいた。

 

「……おい。」

 

俺の低い声に全員がこっちを見る

 

「どういうことだ?」

 

すると4人がやべぇという矢先にすると俺は魔法を発動させる

スリープからのナイトメア

俺の十八番とも呼べるコンボに4人はあっけなく眠ってしまい。今頃は悪夢でうなされているだろう

 

「……主犯はあの四人か。」

「あんた容赦ないわね。」

 

俺が何をしたのか分かったのであろう八重樫は呆れたように俺を見る

 

「ん?あいつらが勝手に寝て今頃はちょっと悪い夢を見ているだけだろ。俺は何もしてないよ。」

「……さすがに無理があるでしょ。」

 

呆れながらに呟く八重樫

 

「てか、明らかに手慣れていたな。」

「そんないつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

何やら怒りの形相で檜山達を睨む白崎を、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

「でも……」

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

「俺もまだ納得してないけどな。大丈夫か?」

 

俺は手を差し出すとそれに捕まり立ち上がるハジメ

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

「お前なぁ。」

 

俺は頭を抱える。さすがに俺は呆れてものが言えない

元々ハジメは錬成師。非戦闘系のジョブだ。それなのに強くなる必要はなく元々は武器の制作や修理に回すべきなのだ。

 

「ごめんなさいね? 光輝も悪気があるわけじゃないのよ」

「アハハ、うん、分かってるから大丈夫」

「本気だからことたちが悪いんだけどな。」

 

俺は呆れた様子でそういうと八重樫も自覚しているのか目を逸らす

 

「ほら、もう訓練が始まるよ。行こう?」

 

ハジメに促され俺たちは訓練施設に戻る。

そして未だに俺も、ハジメもこの時はまだ予想だにしていなかったんだ。

……これが最後の訓練になるということを。



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弱音

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

するとクラスメイトの騒めく声が聞こえてくる。

思ったよりも早かったな

俺はそんなことを思ってしまった

今まで外にも出たことがない分俺たちは何も知らないが魔物についてはかなり厳重に教わったのである程度は分かっていた

だからこうなることが分かっていたのだろう

 

「……大丈夫か?」

「……えぇ。」

 

すると明らかに弱り切っている八重樫の部屋に俺は料理を作っていた

 

「本当にごめんなさい。」

「その反応が普通なんだよ。ほら。香草を使ったスープと黒パン。お前今日ほとんど晩飯食ってなかったからな。少しでもいいから何か口に入れとかないと。」

「……本当に何から何まで。」

 

すると弱り切っている八重樫は明らかにきていた。

 

「なんかお前って普段はしっかりとしている雰囲気なのにやっぱり普通の女子だよなぁ。」

「どういう意味よ。」

「そういうことだよ。」

 

俺は隣いいか?と八重樫に聞くと少し警戒していたが頷く

 

「……怖いか。」

「……えぇ。」

「だろうな。俺だって怖いし。」

「えっ?」

 

すると八重樫は驚いたようにしている

 

「……あんな。怖くないわけないだろうが。俺だってまだガキだぞ。さすがに未だに異世界の情報も戦場もみたことないのにモンスターと戦えって。それも俺は火力的には天之河よりも上だ。……意味は分かるだろ?」

「……」

 

つまりは最前線で戦わなければならないことを八重樫も理解したのだろう

 

「……なんかしてないと壊れてしまいそうなんだよ。いつ死ぬのかの恐怖に襲われてしまいそうで。実際もう既に何日もねれてないしな。だからこうやって気を逸らしているわけ。俺だって戦争に参加するってことは自分が生き残るために人を殺すってことだからな。」

「……やっぱりそうなの?」

 

弱々しい声が聞こえてくる

 

「そうだよ。だから八重樫は反対すると思ったんだけど。まさかの賛成だったからなぁ。」

「仕方ないでしょ。光輝あのままじゃ完全に一人でも突っ走っていたわよ。」

 

あぁ。なるほどそういうことか

 

「……お前まず自分のこと考えろよ。そうした結果無茶しているじゃねーか。」

「うぅ。そうだけど。」

「お前も白崎みたいに時には素直に誰かに甘えてもいいのじゃないのか?お前白崎や谷口、天之河や坂上がいるじゃねーか。」

 

俺はそういうと少し苦い顔をしている

 

「えぇ、でも、どうしたらいいのか。」

「……」

 

俺は呆気にとられてしまう。こいつ本当に不器用すぎる

 

「普通に助けてっていえばいいんだよ。」

 

俺は自然と声に出していた

 

「初日みたいに泣きたかったら泣けばいい。やりたくないければやりたくないって言えばいい。逆にやりたいことならやって見たいって一言言えばいいんだ。どうしようもならないことだってあるし。時には失望されることだってある。でもな。自分の気持ちを黙ったままじゃ本物の幸せっていうものは手に入らないんだと思うぞ。」

 

実際この言葉は俺ではなくどこかの先生の一言も含んでいるのだが

 

「まぁ、俺でよければ愚痴くらいなら付き合うさ。もうお前の弱さは知っているしお前だって俺の弱さを知っている。だから頼れよ。」

「……」

「辛いってことは吐き出してしまえ。誰にも言わないでやるしそれに怖いって思っているのはお互い様なんだから。」

「……」

 

すると八重樫は何をトチ狂ったのかわからないが俺に抱きついてくる

 

「えっ?は?」

「……怖い。」

 

するとポツリと呟く八重樫

 

「怖い。なんでこんなことになったの。ねぇ。どうして私たちが戦争に出なくちゃならないの。」

 

流れ出した言葉は止まることがなくそしてどんどん流れていく

それでいい

人間は弱い生き物である

誰かに嫌われるから

誰かに好かれたいから

人は仮面を着けたがる

涙が溢れ弱さを吐きそして仮面を外す

ダンジョンだけではなく元の世界、地球でのことも

剣なんて持ちたくなかったこと

可愛い服やアクセサリーが欲しかったなどと自分の本心を言葉にする

そして本心を吐き出してしまえば、こいつは現状を理解する

大丈夫

八重樫は弱くて、強いのだから

そして次第に泣き疲れたのか寝息をつき始めるのだが俺は八重樫が抱きついたままだったため俺は帰れず翌朝起こしに来た白崎に見られたため俺も八重樫もダンジョンが始めるまでお互いに気まずかったのは言うまでもなかった。



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オルクス大迷宮

 現在、俺達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた

ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

 

「……なんかどちらかというと観光地に近いよな。」

「うん。そうだね。って何食べているの?」

「ホットドッグみたいな何か。ハジメも食う?」

 

俺は一つハジメに差し出すとハジメは少し迷ったのだが食べ始める

チーズが入っているホットドッグみたいな何かは結構美味しくやみつきになる

 

「そういえば八重樫さん今日いつもより綺麗だよね。」

「ん?」

「なんか吹っ切れたみたいでいつもよりも笑っているし。」

「……ふ〜ん。」

 

八重樫の方をみるとあまり変わったようには見えないけど

 

「さぁ?なんかいいことでもあったんじゃねーか?」

「……そう。」

 

俺は気にせずに歩いていくと

……っ

何かかすかに聞こえたような気がする

俺は周辺を見渡すけどざわざわと声が聞こえるだけ

 

「気のせいか。」

「何が?」

「いや。なんでも。」

 

というころにメルド団長が帰ってくる

 

「んじゃ俺も行くわ。」

「うん。それじゃあ頑張って。」

「安全第一にな。」

 

俺たちは軽く拳をぶつけると俺は勇者パーティーへと向かう

しかしゲームとかでよく見るダンジョンに入ることになるとはなぁ

そして勇者パーティーに合流をはたした後 迷宮に入る

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁で縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。

物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

「スロー。」

 

俺は鈍化魔法をすぐにメルド団長の言葉を聞くとすぐ様放つ

するとラットマンと言われる魔物の速度が格段と落ちる

すると射程圏内に入ったのか白崎と谷口と中村が詠唱を始めるとその全貌が俺にも把握できた

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

八重樫が少し引きつっているがしかし剣の腕は明らかで綺麗に剣を裁く

天之河も純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。坂上は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

「フリーズ。」

 

広範囲に一斉に俺の放った冷気がすぐに周辺のラットマンを凍らせていく。

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

すると一人を除いては歓声が湧き上がる。俺はすぐ様それに気づきそしてそいつに近づいた

 

「八重樫。」

 

するとビクっと反応がある

 

「どうしたの?渋谷くん。」

「許せよ。」

 

俺は軽く手をとると手のひらを軽くマッサージをする

 

「ちょ、ちょっと。」

 

すると八重樫は慌て始めるがそれでもその行為をやめることはない

マッサージを20秒ほど続けた時に小さな声で呟いた

 

「感触は消えたか?」

 

すると八重樫は驚いたように俺を見る

俺は気づいていた。八重樫が初勝利に喜ぶこともなくただ手を見ていたこと。

そして恐怖していたことを

 

「魔法で水も出せるし手を洗うことだってできるけどどうする?」

「……いえ。大丈夫よ。」

 

すると八重樫が笑う。

 

「ありがとう。渋谷くん。」

「一応ダンジョンなんだ。油断だけはするなよ。」

 

俺は軽く頭を叩く

 

「すいません。魔石とっていいですか?」

「あぁ。」

 

俺はナイフを片手に凍死させたラットマンを解体していく

女子からは悲鳴をあげる声が聞こえるがこれも一つの稼ぎだ。魔物以外にも解体方法があるしな

そして魔物を魔石を取り出すとそれをポケットカバンに入れる

 

「クリーン。」

 

血を拭き取るために日常魔法を使い血を取り除く

 

「それじゃあいきましょうか。」

「あぁ。」

 

俺はそう言うと先に進み出す

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

他の奴らは遠足みたいにしているが俺と八重樫だけは緊張状態を解かない

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルド団長のかけ声がよく響く。

 

「スロー。スリープ。」

 

その間も俺は支援でフル回転していた。

しばらくすると小休止に入る

 

「お疲れさん。」

 

俺はハジメの方を向かうと苦笑したハジメがいた

 

「僕はほとんど何もしてないけどね。」

「嘘つけ。錬成で敵を動けなくして確実にとどめを刺す。生き残るためにはいい戦法だよ。メルドさんたちも面白そうに見てたぞ。」

 

と話しているとゾクっとした視線が俺たちを襲い背筋を伸ばす

かなりの負の視線に俺もハジメも視線があった方を見るがただクラスメイトが談笑をしているだけだ

 

「……嫌な予感がするな。お前気合い入れていけよ。」

「うん。ケンも気をつけてね。」

 

そして迷宮の探索を再開してしばらく経つとメルド団長が立ち止まった。

それと同時に俺と八重樫はすぐ様戦闘準備に入る。そしてそれは天之河も続く

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物らしいな。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。

 

「土壁。」

 

俺は足の悪さとスピードがあまりないと思い足場を整えることに最初専念する。

 

「っ!ありがとう渋谷くん。」

 

するとスピード型の八重樫の動きは明らかに良くなりロックマウントに連続攻撃を繰り広げるが

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。ハジメ曰く魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させるらしい。

 

「リカバリー。」

 

すると白い光が前衛陣を照らしそして麻痺状態を解除する

一応少し距離をとっていたせいか俺は回避に成功したのですぐ様前衛の回復にうつっていた

その一瞬のうちに俺と白崎の方に一体ずつロックマウントがやってくる

 

「光槍。」

 

俺は焦らずに魔法をロックマウントへと放つ。

するとロックマウントはぎょっとしてよけるのだが

隣に氷の礫が襲う。

同時魔法発動

魔力を操作でき無詠唱でできることからできる技だ

そしてトドメ

 

「氷針。」

 

地中より氷の棘が生えロックマウントを串刺しにする。

すると息が耐えロックマウントは絶命する

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

一瞬俺に怒られたと思ったがどうやら天之河に怒ったらしくバツが悪そうに謝罪する天之河

 

「それと渋谷はいい判断だ。ソロでも相当戦えるだろうな。」

「うす。」

 

俺は軽く頭を下げる。

その時、ふと白崎が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

「素敵……」

 

白崎が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。だけど

 

「トラップだろ。」

 

俺がそういうと近くにいた生徒が俺を見る

 

「ハジメ。」

「うん。ここでグランツ鉱石は34層それも最深部からしか出てきてないらしいよ。小さいものならともかくこんなに大きなもの。」

「ほう。よく調べてあるじゃないか。」

 

すると感心したようにハジメを見るメルドさん

しかしここでちゃんと大きな声で言わなかったことが災いする

クラスメイトの一人がグランツ鉱石をとりにいったのだ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

俺はすぐさま魔力感知をすると軽く舌打ちする

 

「やはりトラップか。」

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

しかし、俺もメルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップ

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、俺達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

俺が転移したと思われる先を見ると空気が変わったのを感じた。

 

「……多分これ階層転移の魔法陣じゃないですか?」

「あぁ。そうだろうな。」

「とりあえず全員立ち上がってあの階段の場所まで行け。急げ!」

 

俺の号令に、わたわたと動き出す生徒達。

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が現れる

出口に近いほうの小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けている。

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付く

巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

まさか……ベヒモス……なのか……

っと

 



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ベヒモス

〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

「俺も障壁を張るの手伝います。」

 

するとメルドさんは俺の方をみる。止めようとした矢先俺は怖いけど本当のことをいう

 

「サポート能力や火力に関しては俺は天之河以上です。俺だけが残った方が数倍他のクラスメイトの生存率が上がります。」

「…えっ。」

 

八重樫が、谷口がそしてメルド団長が俺の方を見る

 

「メルドさんも下がってください。火力は俺と天之河に次いであります。天之河とメルドさんがあっちに参戦した方が多くの人数が生き残る可能性が高いです。それに天之河は冷静ではないですし。一緒に行動してください。一応作戦があります。」

「……何?」

 

俺は作戦を話す。俺だけ危険であり、そして俺が生き残る可能性がかなり低い作戦を

谷口も八重樫もその作戦を聞いて驚いている

 

「……それは坊主の危険がつきものだぞ。」

「知ってます。でもそれしかないでしょ。生存率もこれなら俺以外の生存率は極めて高い。」

「……じゃあ何故。お前は死ぬのが怖くないのか?」

「怖いですよ。今でも泣きそうで。こいつらがいなければ多分俺はやってません。でも。」

 

何度も泣きそうな声を堪え小さく呟く

 

「……愛子先生からクラスメイトを助けるよう。そう頼まれてますから。」

 

俺はするともう振り向かなかった

 

「土壁。」

 

俺は魔法を唱える。すると他の人よりも明らかに分厚い土の障壁が何十枚もできあがる

 

「すいません。ここは俺が引き受けます。今のうちに退避を。」

 

俺はそういうと魔力回復薬を飲む

ただ死ぬ恐怖も

全てを捨ててまで

俺はクラスメイトを守る選択をした

 

「……分かった。」

 

すると俺の覚悟が分かったのであろう。悔しそうに俺の後ろへ掛けていく

そして集中力を高める

俺はどうするべきかすぐさま考える

やばいな。

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

しかし障壁よりも脆い土壁は相手の攻撃を緩めるや相手の足を止めることにしかできない

土魔法は便利だけどあくまでも地形を作る程度しかできない

 

「……疲弊させるしかないよな。」

俺が唯一助かる方法はそれしかなかった。

ベヒモスの突進を誘導しながら俺はクラスメイトの方を完全に遠ざけるためになるべく出口から離れるように攻撃していく

多分俺がもう助かるってことはほぼないだろう

それでも俺は魔力をぎりぎりにまで抑え安全性を確保していたはずだった

そうはずだったのだ

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

 

「渋谷助けに。」

 

俺が叫ぶと光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていき崩壊していった。

あのバカ俺の逃げ道をなくしやがった。

俺の前には大きな穴ができこれはさすがに積みだ。

まじかよと思いこれはさすがにため息を吐かなざるを得なかった

 

「お前まじで何やっているの。」

 

俺は素でキレてしまう

まさか味方にトドメを刺されるとは思いにもしてなかった

メルド隊長も俺の状況が理解したのだろう顔がさっきよりも青ざめているのが分かる

しかしこれ本当に困ったんだけど。

と思った矢先だった

すると後ろから気配を感じる

 

「おいおいマジかよ。」

 

多分地形の変化によって魔法陣が現れたのであろう。

俺は冷や汗がたれる

するとそこにはあっち側にいるのと同じ魔物

ベヒモス二体目かよ。

本当に笑い事じゃねーぞ。こんなの。

乾いた笑いが響く

俺の後ろは崖でそして前にはベヒモス

こりゃ詰んだな

さすがに対抗する気が起きない

 

「……まぁ逃げ道がないわけじゃないんだけど。」

 

俺は風魔法で落下ダメージが20mくらいなら無効化できる

でもこの崖おそらくもっと深いのだろうなぁ

……まぁ賭けだけど助からないよりましか

俺は覚悟を決め自ら飛び降りる。

そして誰も見ていない中で俺はただ暗闇の中へ落ちていった。



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精霊族との出会い

俺が水が流れる音が聞こえると俺は風魔法を使い魔力を最大にして上昇気流を吹かせる

重量加速度によって落下する速度はかなりのものだったのだが魔力を最大にしてさらに仰向けで服に上昇気流が吹いているおかげで減速することに成功したらしく、かなりゆっくりと落下していく

そして地面に足をつけた瞬間景色が変わると俺は光に包まれる

また転移かよ

っと思って

声がでなかった

大きな大樹が一本だけ生えその辺りに小さな白い明かりが浮き上がり幻想的な光景を映し出している

周辺は滝とその一本の大樹を囲い水の中には魚が数多く泳いでいる

俺はその雄大な景色に見とれてしまう

何より一番驚くべきなのはその大樹だ

木の幹の直径は5mほどになる大樹で下から見てもてっぺんが全くわからないほどに大きい何秒いや何十分をその情景を眺めてしまう

するとあることに気づく

水の音が聞こえないのだ。

四方を滝壺に囲まれている俺にとって水の音が聞こえないなんてありえないし

よく考えれば上空からは光どころか木の幹一本も見えなかった。

 

「声は出せるよな。」

 

確認のために声を出したり大樹に触ってみる。しかし幻影ってことはなくてちゃんと実態らしい。

つまり俺が転移したかこの空間がなんらかの魔法で隠されているってことだろう

……しかし、ここ何回層だろう。メルド団長100層程度って言っていたけどこれその倍は確実にあるだろうな。

……多分セーフティエリアだろうし。しばらくはここを拠点にしようか。

俺はそう決めると俺は少し疲れたので寝転ぶと大きなあくびをする

そういや最近寝てなかったしなんか疲れがどっと出てくる

……少し寝てから考えるか

俺はそう思うと目をつぶり暗闇に身を任せた

 

 

「……ふぁ〜。」

 

何時間寝ただろうか。俺は目を覚ます

寝ぼけなまこを擦りそして体を伸ばす

なんか久しぶりにゆっくり寝れたな。

体が軽くなり今まで寝れなかったほどの恐怖がほとんどなくなっていた

すると目が覚め始めると飛んでいた光が俺を囲んでいるのが分かる

ただ浮遊し続けているようにしているのだが

見られているのか知らないけど俺を中心に渦を巻いていることには変わりない。

………なんか分からないけど多分この光に俺は見られていたのだろう

視線を感じていたのはわかっていたしな

しかしこの正体はなんだろうか

それを考えても俺はこっちにきて知識は浅いしなぁ

……でも敵意はなさそうだしな。

というよりも反対に好意的だな

すると光が俺の周りに来るものを俺は軽く触ってみる

暖かくそして消えることもない

そういえばこの光って

 

「回復魔法の光か。」

「えぇ。そうよ。」

 

すると声がどこからか聞こえてくる

俺は見渡すとすると一人の女性がいつの間にか俺の目の前に立っていた

 

「えっ?」

 

俺の前には誰も居なかったはずだ

それなのにの目の前には金髪でどこぞかの女神と呼ばれてもおかしくはないだろう

 

「ここは精霊族隠れの里よ。人間族がくるなんて数982年前じゃないかしら。」

「精霊族?」

「知らないのも仕方ないわ。私たちは幻の存在と言われているのだから。」

 

俺は首をかしげる

 

「まずは精霊族の説明からするわね。」

「ちょ、ちょっと待ってどういうことだ?というよりも俺この世界の住人じゃないから分からないんだよ?」

「……どういうことかしら。」

 

俺はとりあえずこれまでくるまでに至った経緯を伝える。

すると精霊は俺を見て苦笑する

 

「勇者召喚ね。今までになかったことはないけどまさかまた起こるとは。」

「マジか?」

「えぇ。私が知っている限りでは一度。龍人族を滅ぼした時ね。次は魔人族ってあの神は何をしようとしているのかしら。」

「やっぱり神が関係してたか。」

 

俺が呟くと精霊も話し出す

俺はすると精霊の話を聞いていく

ここは隠れ里で10の山を越えないと街にはでられないこと

精霊族は魔力さえあれば不死であること

しかし世界樹(さっきの大樹)の実は魔力を高めることができ、とある1国が侵略にやってきたこと

その戦争は神の琴線にふれ神の遊びにより避難を余儀されなかったらしい。

その他にも話を聞いていたのだがただの愚痴としか思えないことばかりだったので俺は黙って聞き手に回ってただじっと聴き続けた

 

「……つまりこの木を守るためにここに里を作ったのか。」

「えぇ。私たちはこの木を守るためにここにいるのだもの。」

「ふ〜ん。てか世界樹の実ってその当時はどうしていたんだ?」

「王様に渡していたわよ。もちろん問題にならない程度にだけど。でもその王がなくなってその子供が新しい王様になったんだけど独占欲が高くて。」

「それで戦争か。」

 

俺はさすがに人間が悪いと判断する

 

「でもあんまり人間を恨んでいないんだな。」

「今更恨んでも仕方ないでしょ?それにあなたは関係ないのだし。それに人間じゃないのよ。」

「……あぁそういうことか。」

 

俺は納得してしまう

 

「それであなたはどうするの?」

俺は少し考え

 

「とりあえずはしばらくは修行かなぁ。俺は今弱いからなぁ。ここら辺モンスターでるんですよね?それならちょうどいいから修行に当てようと思って。」

「あら?クラスメイトとやらの元には向かわないの?」

「教会に死亡認定された方がやりやすいので。」

「……戻る気はないのね。」

「生憎会いたい奴もいるんですけど俺が今行ったら混乱するだろうし。今じゃこの山抜けるの無理ですしね。できれば戦争に参加したくないっていうのもありますけど。」

 

事実なんで参加しないといけないんだって感じだったし。俺がいうと呆れている精霊は苦笑し

 

「まぁいいわよ。食事については魚やこの里にあるものはなんでも使っていいわよ。できれば精霊たちと遊んでもらえたらうれしいのだけど。」

「別にいいぞ。てか精霊ってどんな種族なのかもっと聞きたいからな。」

 

俺は少しワクワクしながらこれから始まる暮らしを楽しみにするのだった



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特訓のせいか

一気に時間軸が飛びます。
修行についてはまた後に書いていきます


精霊の隠れ里についてもう既に3ヶ月が経とうとしていたある日のこと

 

「……ん?」

「パパどうしたの?」

 

すると最近下位精霊から命の中位精霊のハナ(俺が命名)と遊んでいるときに急に魔力が減ると急に寒気がする

 

「いや。今また世界が動いたなって思ってな。」

「……もしかしてパパのスキル?」

 

すると狐耳の小さな女の子が俺を上目づかいでみる

というのも今のステータスが

 

渋谷健太 17歳 男 レベル:70

天職 精霊術師

筋力 2231

体力 2123

耐性 2492

敏捷 1823

魔力 71382

魔耐 2492

 

技能 全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化][+並列発動]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]精霊魔法[+効果上昇][+眷属強化][+精霊の声][+世界樹の加護][+精霊王の加護][+大地の恵み]・[+スキル共有]・魔力操作・複合魔法・高速魔力回復[+瞑想]・魔力感知・無詠唱・消費魔力軽減・魔法威力増加 [+効果上昇(特大)]・空間魔法・家事【+料理の達人】【+洗濯】【+掃除】 直感・言語理解

 

色々突っ込みたいところがあるが

……何が魔力がさらにおかしいことになっているのだがこれは世界樹のせいである

世界樹の果実と呼ばれる果実は精霊のとっては必要ないので俺が住んでいる間、精霊王から世界樹の果実をもらっていたのだ。

……というよりりんごだったり、ぶどうだったり俺たちの世界の高級な果物みたいな味なので異論なかったのだが

そしてそれが一口食べるごとに少しであるがランダムステータスがあがり、上がりやすいし魔力に限っては100単位であがるのだ。

……世界樹の果実すげぇ。

そしてジョブが変わっているのだが、これはただ精霊術の適正が普通の魔法よりも優れていたことだった

精霊には火、水、命、土、闇、風属性があり特に俺は命属性の精霊ハナと契約したことにある

命属性の精霊は命を与える。つまりは植物や生物を作ることができるのだ。

まぁハナと契約したことによってデメリットも結構あるのだがまぁそれはさておき

……まぁ俺はそんな感じで精霊と遊んだりのんびりしながら生きているんだけど

今のは魔力も動いたし直感のスキルが発動したっていいのだろう

 

「……さて俺ももうそろそろでようかなぁ。ハナ。」

「うん。」

「俺の匂いを嗅ぐのやめてくれませんかねぇ。」

 

毎日風呂にも一緒に入っているハナはどうやらファザコンらしく恋愛対象ではないもののいつもべったりで精霊王が呆れているほどである。

 

「やだ!!」

「……あぁ。そう。」

 

まぁ許している俺も大概だろうが

だってハナめっちゃかわいいもんなぁ。

ちっちゃい子供みたいだしつい甘やかしてしまう。

……まぁ実際こいつを生み出したのは俺なんだけど

それに笑顔でずっと隣にいるからなぁ

 

「……よし。やっぱりもうそろそろいくか。ハナ。明日出るから準備してろよ。」

「この村から出るの?」

「あぁ。さすがに居すぎた。もうさすがに俺のことは死んだ扱いになっているだろうし。」

「そうね。」

「出たよ紫。」

 

すると空間魔法で外界の情報を集めていた精霊王こと紫が頷く

 

「紫どうだ?」

「勇者たちはまたオルクスの大迷宮を攻略しにいくみたい。そしてなんだけど。ライセンの大迷宮にも攻略者が出たらしいわ。」

「……迷宮ってそんなに早く攻略できないよな?」

「えぇ。だから同一人物とみて間違いないと思うわ。」

 

なるほどだからさっきの直感が発動したのか

 

「出た方がよさそうだな。」

「えぇ。これから世界は大きく動き出すわ。多分大きくね。」

 

紫の言葉に頷く

 

「分かっているつーの。その前に帰れる手段を探してクラスメイトと先生を返すこと。またはその手伝いをすること。あんまり国には干渉しないようにする。」

「本当やめてね。あなた本当に今一人いるだけで国一つ滅びるんだから。」

 

事実精霊術はそれだけの力がある

 

「分かっている。まぁなんとかなるさ。てか悪いな。修行っていいながらほとんどこいつらと遊んでばっかだったけど。」

「いいわよ。この子たちも楽しそうだったから。それでなんだけど。」

「中位はハナ。あとの属性は下位精霊連れていくよ。さすがに紫も契約しているとはいえ世界樹の管理大変だろ?ちゃんと日本に帰れる前に一度こっちにくるから。」

「えぇ。楽しみに待っているわね。それでなんだけど今日は宴会を開くわ。」

「別にいいのに……。」

「久しぶりの客人だったから奮発させなさい。さすがに肉は出せないけど。」

「いい。世界樹のワイン開けても良いか?」

「あなたそれすきよね。」

 

渋くて先生とかいないから普通にアルコールが飲めるんだよなぁ。美味しいので俺の好きな飲み物の一つだ

 

「なんか餌にされているんだけど。まぁいいや。」

 

それに色々と恩があるしなぁ

 

「そういえばアーティファクトいらないの?」

「なんというかこっちの方が身軽でいいんだよなぁ。せっかく紫が買ってきてくれたものだし。精霊魔法は根本的に杖邪魔だしな。それにこっちの方がデザインすきだし。」

 

というのは今の服装である。

安いロープはかなり性能は落ちるがそれでも俺はこっちの方が似合っていると思ったのだ

 

「……悪いか?」

「いえいいのですけど……」

 

その後ブツブツ呟いているのに首を傾げさらに寒気までする

 

「まぁ、いいけどな。とりあえず空を飛んでいくから。」

「えぇ一日もあれば近くの町、ウルに着くと思うわ。」

「……一日?普通5時間もあれば行けるだろ?」

 

事実空を飛ぶ訓練で俺は一度ウルの町に訪れたことがあった

 

「少し依頼を頼みたいの。最近魔物が減っているって知っているわよね?」

 

それは俺も感じていたことだった。

 

「あぁ、この山の弱いモンスターがいなくなっていたことで少し気になっていたんだけど。やっぱり異変なのか?」

「えぇ。あなたのことはウルの冒険者ギルドに紹介してあるから。報告してくれると嬉しいわ。一応金ランクで登録しておいたから。」

「……てか紫が冒険者登録していることに一番驚いているんだが。」

「一応幻影魔法使えるのだから。」

「……精霊って魔法に限ってだけいうと天才的だよなぁ。」

 

空気中の魔力を使う魔法とかかなり異常なんだけど俺もできるのでなんとも言えない

 

「……パパ難しい。」

 

すると上目づかいで俺を見ると俺は苦笑するハナ

 

「……なんでその子あなただけには懐くのかしら。」

「知らん。」

 

と言いながら頭を撫でてやると気持ちよさそうにするハナが可愛い

 

「……」

「気持ち悪いわよその表情。」

「可愛いから仕方ないだろ。」

 

もふもふだぞ。もふもふ

するとすりすりと体を擦り付けてくるハナが嬉しそうにしている

 

「そういや。精霊って世界樹から離れても大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。それだったら私も稼ぎにいけないでしょ?」

「それもそうか。」

 

俺は笑ってしまう。

 

「んじゃ。少し早いけど世話になった。てか何であんなところに魔法陣があるんだよ。」

「多分ランダム転移の魔法陣なのよ。普通精霊に好かれないとここの土地は見えることはないわよ。」

「……なんか色々な条件があるんだな。」

「えぇ。何しろ隠れ里ですから。」

 

それができるだけの魔法があるってことか

まぁ、色々楽しみな異世界旅行になりそうだと心が踊った



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再会

「気持ちいい!!」

「こら。ハナ暴れるな!!」

 

俺とハナは空の旅を楽しんでいた

と言っても空って上空200mくらいの高さでハナも景色を楽しめるようにゆっくり進行しているのだが

……本当に魔物の量が少ないな

 

「ハナ。魔物の気配は?」

「この辺りはいつもの半分くらいしかいないよ。」

「……やっぱり異常だよなぁ。竜人族がいるのかもしれないな。」

 

竜人族。

およそ数100年前に全滅したと呼ばれる種族だけど俺は紫に教わり同じように隠れ里で暮らしていることを知っていた。

 

「でも、魔力がたくさん使われていた形跡があるよ。魔力は違うけどパパがよく使っている魔法。」

「……闇系か。」

 

闇属性なんて珍しいな。元々適性が少ないのに

 

「……しかし魔物を操れるくらいの知識か。」

「魔人族の可能性は?」

「ないだろうな。変成魔法で従わせるだろうし。」

 

俺はため息を吐き

 

「多分クラスメイトだろうな。」

 

俺は一つの結論を出した

 

「……なんで?」

「簡単だよ。魔物を操れるのは俺や犯人みたいなチート集団じゃないと数年かかってもできないからだ。」

実際俺も偵察のために魔物を操ることはあるけどそれでも数十分はかかる。それだけにかなり厳しいのだ

「闇魔法に適性がありこれだけの熟練度もある。なおかつ闇魔法は地味だ。実際闇魔法を使うのなら他の魔法をメインに置くやつは多いらしいしな。」

 

実際のところ火力が少ないっていうのがあるし、

 

「……裏切り者だな。俺も言えたこっちゃないけど。多分魔人族とつながっているんだと思うぞ。」

 

俺はあっさり結論を出す。

 

「……殺すの?」

「……さぁな。」

 

一応山賊や盗賊を殺した経験はあるけど、さすがにクラスメイトとなるとなぁ

 

「とりあえず一旦調査に入るけど。ハナはどうする?」

「私もいく!!」

 

と狐耳を立てるハナ

 

「……それじゃあいくか。」

「パパおんぶ。」

「はいはい。」

 

と俺はハナを背中に背負うとそして調査を開始する

そして魔力の後以外は有力な情報を手に入れることができないまま調査は不発に終わった

 

 

10時間後俺たちはウルへとたどり着くと俺はギルドに報告し終えるとすでに陽は暗くなっていた

 

「どうする?」

 

俺は世界樹の果実を食べながらハナに聞くと

 

「ご飯が食べたい。」

 

とのことなのでギルドの人に聞き宿とレストランを兼ねた水妖精の宿と呼ばれる名前なのだが昔、ウルディア湖から現れた妖精を一組の夫婦が泊めたことが由来だそうだ。

俺の隣に普通に妖精がいるんだけどなぁ。

精霊が妖精と呼ばれるのは下位精霊で基本中位精霊は人型になって人間の暮らしに紛れているらしい。

魔法に精通している精霊族はステータスの偽造を簡単にこなすことが可能なので普通の人と一緒に冒険者をしてたりするらしい

……やっていることが犯罪行為なんですが

もちろん俺もステータスを偽造しているので強くはいえないのだが

俺が入るとそれはもう賑やかで人でレストランは賑わっていた。

 

「……へぇ〜。」

「いい匂い。」

 

俺は席に案内されメニューを開く。なんの料理だか分からないものが多いが適当に直感任せで10種類ほど注文する。

 

「仕事おおいね。」

「一応ギルド曰く近くの町から応援ともう一つの依頼を頼まれているからな。まぁ、殺したくはないけど。勇者の一人清水が行方不明になっていたからほぼそいつが確定黒だろうな。」

 

俺は冷静に判断する

 

「はぁ。これ最悪、教会と敵対だな。ギルドが後ろ盾になってくれるとはいえ。めんどくさいことになりそうだな、」

「大丈夫。パパは強いから。」

 

フスと手を挙げそして笑うハナに俺は頭を撫でる

 

「強いとかの問題じゃなくて先生の問題なんだよなぁ。」

「……先生?」

「あぁ。俺の恩人で尊敬している人。多分紫に先生を殺せって命令されたら俺は簡単に紫を裏切るくらいの恩人。」

「……パパにもそんな人が居たんだ。」

「いるぞ。まぁ、俺は死亡扱いになっているだろうし。当分は会えそうにないけどな。ハジメや八重樫、谷口、白崎辺りにも会いたいな。」

 

そう考えると結構知り合い俺多いな。

 

「……それにハナのことも紹介したいしな。」

「お友達増える?」

「増えると思うぞ。」

「やた!!」

 

するとぴょんぴょん喜ぶハナに周辺の人は暖かな目で俺たちを見てくる

本当にかわいいよなぁ

 

「ほら。ほかのお客様の迷惑になるだろ。」

「…む〜。パパのケチ。」

「……なんで17で俺は父親やっているんだろうなぁ。」

 

少し遠い目をしながらため息を吐く

少し椅子を引くと俺の上に座るハナは不機嫌を装っているようだけど頰を緩んでいることから機嫌はよくなったんだろう

カランッカランッ

と音をたて宿の扉が開く

すると眼帯をした白髪の少年と小さい女の子とうさ耳をつけた女性が来店してくる

そこまでなら問題ないのだが会話で引っかかった

 

「もうっ、何度言えばわかるんですか。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? 〝ハジメ〟さん」

「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか」

「んまっ! 聞きました? ユエさん。〝ハジメ〟さんが冷たいこと言いますぅ」

「……〝ハジメ〟……メッ!」

「へいへい」

「ゴフっ。」

 

やっばぁ。聞き覚えのある奴がいる

 

「パパ。大丈夫?」

「大丈夫。大丈夫。」

「お待たせしました。ニルシッシルにハイマイ、リスコ、レンゲス、マリスピーにセイレイ、アンマリにスピスキーにタレント、オリスピックです。」

「あっすいません。」

 

すると俺の方に視線が集まる

皿一杯に積み上げられる料理はとても見覚えのあるものばかりだった

餃子に天丼、ホワイトカレーにチャーハンなど

……日本食に近いものばかりだな

 

「南雲君!」

「あぁ? ……………………………………………先生?」

「……」

 

いすぎだろ知り合い

カーテンから愛子先生が

俺はため息つき食事に取ろうすると

 

「モフモフなの!!」

「えっ。ちょ。今どこから」

「ハナ!!」

 

するとハジメの隣にいたうさ耳をハナが触り初めていた

てかさっきまで座っていたのに

……ってまさか

 

「ハナ。空間魔法そんなに乱発するなっていつも言っているだろうが。」

 

こいつ空間魔法を使いやがった。

 

「空間魔法?」

 

すると一人がその言葉に反応する

 

「パパ。すごいよ!!モフモフだよ!!」

「…あぁ、もう本当すいません。ハナ離れろって。」

「……モフモフ。」

「いいですよ。全然。」

 

笑っているうさ耳少女に俺は必死に頭を下げる。

すると先生の驚いたような顔をする

 

「……えっ?渋谷くん。」

「えっ。ケンか?」

「……」

 

バレているし

 

「……知り合いですか?」

「俺の親友だよ。しかしお前パパって。」

「……色々弁解したいことがあるからちょっと待ってろ。ハナ。」

「うぅ。ダメ?」

「一旦離れような。神代魔法を使ってまでモフモフしたかったのか?」

「だってパパばっかりモフモフしてずるいもん。私もモフモフしたい。」

「はいはい。後からこのお姉ちゃんに頼もうなぁ。ほれ。」

 

俺はハナを抱っこするとハナは少しむくれながらも素直に抱っこされている

すると視線を集める

 

「……しかし久しぶりだな。てかお前どうしたんだよ。見た目が……どう見ても厨二。」

「それ以上言うなよ。」

「へいへい。」

 

ジト目で俺を睨むハジメ。

 

「渋谷くん、やっぱり渋谷くんなんですね。」

「あ〜。お久しぶりです。愛子先生。」

「よかったです。生きていてくれて。」

「……あ〜まぁ落下した先にランダム転移の魔法陣なければ死んでいたけどな。」

「……お前も落下してたのか?」

「もってお前も?」

「あぁ。」

 

よくこいつ生きていられたな。

非戦闘職なのに生きていられるって

するとあの粘っこい視線のことを思い出す

 

「……あんまり詳しくは聞かない方がいいな。でも、多分檜山だろうな。理由は白崎への嫉妬かな。」

「…だろうな。」

 

俺はその話を切りやめる

 

「何の話ですか?」

「何でもない。とりあえず飯食いたいから座っていいか?俺もハナも飯まだだし。」

「……お腹減った!!」

「はいはい。もうそろそろご飯にするからな。」

 

俺は頭を撫でるとみんなが生暖かい目で見てくる

 

「ところでそのハナちゃんは渋谷くんの子供なんですか。」

 

愛子先生の問いに俺は少し考える

 

「……一言で説明するのは難しいな。」

 

こいつとの出会いは結構複雑だし。まず精霊だしなぁ。

 

「まぁ、俺の娘ってことで間違ってねぇよ。てか俺たちが抜けてからのそっちの状況は?」

「とりあえずビップ席に。」

「いや飯食い終わってからそっちの部屋に行く方がいいだろ。なるべくそっちの護衛に合わせたくないし。」

「……どういうことですか?」

「ハジメも俺も仲間に獣人がいるってことだよ。そこの女性は歯に犬歯がついていたからヴァンプだろ?両方とも教会は迫害対象だろうしな。ハジメもいやそうだけど今日時間取れ。大迷宮のことで話をしたい。」

「……分かった。」

 

すると一瞬驚いたようにしたハジメだったがその言葉で頷く。

 

「それじゃあまた後で。」

 

といい俺は席に戻る。

そして運命の歯車が動き始めようとしていた。



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夜中の会談

夜中。深夜を周り、俺とハジメは先生の部屋で話していた

オスカーから聞いた〝解放者〟と狂った神の遊戯の物語を話し終えたところだった。

 

「うん。俺の行った大迷宮にもナイズ・グリューエンという解放者の名前が書いてあったからほぼ確定だと思う。」

「そうか。それでお前が行った大迷宮って。」

「【グリューエン大火山】だな。あそこは空間魔法が取れるって聞いたから二週間くらい前に攻略したんだよ。」

「空間魔法ですか?」

「地球に帰れる可能性はあるかなって思ったんだけど答えはお察しの通りだ。座標が分からない以上空間を繋げることもできないし。」

「座標か。」

「俺の知り合い曰く概念を変える魔法が昔にあったらしい。多分帰れるようになるにはその概念を変える魔法が必要だと思う。」

「……思ったより有益な情報だな。」

「生憎これくらいしかないんだけどな。後は……まぁハナのことか。」

「そういえばハナちゃんは?」

「今はお前のところのうさ耳娘のところに転移してモフモフしながら一緒に寝てると思うぞ。」

「……そういや、気になっていたんだが。」

 

ハナが空間魔法を使える点だろうな

 

「ハナも迷宮攻略者だぞ。っていうかあいつ実体になったのがつい最近のだけで生まれたのは849年くらい前だぞ。」

「「……は?」」

 

すると二人が意味が分からないって感じに首を傾げる

 

「……精霊族。俺がお世話になっていた種族の名前だよ。」

「何!」

 

ハジメは驚いたように俺を見る

 

「精霊族って?」

「いわゆる妖精だな。」

「妖精……」

「まぁ俺も今や賢者から精霊術師にジョブ転職しているし、ハナは命の中位精霊。俺の相棒なんだよ。まぁ中位以降は人間の体に変化できるからな。誰にでも見えるし。」

「……つまりハナちゃんは。」

「俺の魔力を使って中位精霊になった。つまり実体を持った精霊なんだよ。だから俺はあいつの生みの元と言えるし。娘なんだよ。」

 

だから娘ってことは否定できない。

 

「……まぁ、お前ちゃんとパパやっているしなぁ。別に文句はないけど。」

「17になって父親になるって。まぁ最近は慣れたけど。」

「…でもよかったです。本当に二人が生きててくれて。」

 

少し涙目になっている愛子先生が胸をなでおろしたようにしている

 

「……そういえば、八重樫と谷口は大丈夫か?」

「……」

 

俺が聞くと愛子先生は少し曇ったような顔をする

 

「大丈夫かって。」

「いや。あの二人は特に繊細だからな。白崎は。強いからハジメのことを探すとか言って頑張ってそうだけど。特に八重樫はかなり。」

「……八重樫さんも谷口さんも表面上はいつも通りだと思います。」

 

つまりは分からないってことか

 

「……はぁ。俺は依頼が終わったらオルクス大迷宮攻略しようか。多分10日あれば大丈夫だろうし。ついでに八重樫と谷口にあっておこうかな。」

「……お前大迷宮攻略できるのか?」

「一人でも余裕。さすがにライセンはきついけど。それにハナも他の精霊たちもいるしな。」

「……はぁ。そういえば他の精霊達は?」

「下位精霊でさっきから飛んでいるんだけど。さすがに見えないか。適性がなければ見えないんだよ。」

「あの。それってさっきからホタルみたいに光っているものですか。」

 

愛子先生には適正があるのか

 

「あぁ。愛子先生には見えるっぽいな。」

「つまり先生は。」

「適正があるだろうな。まぁ俺でさえ精霊術は1ヶ月習得にかかったんだから愛子先生は半年くらいはかかると思うけど。」

 

魔法属性に最大の適正がある俺で一ヶ月かかるのだ。適正があるだけじゃかなり時間がかかるだろう。

 

「……まぁ、これで俺の話は終わりだな。」

「……そういえば気になっていたんだけどお前って何で落下したんだ?」

 

ハジメはそんなことを聞く

あぁ、そういえば知らないのか

 

「実は。」

 

といい俺は本当のことを言い出す。もちろん自分が元々死ぬ気だったことは伏せてだが。

 

「……お前それ。とばっちりすぎるだろ。」

「まぁ、あの時は本当怒りと恐怖逆に冷静になれたな。マジで怖かったし。」

「…そうだったんですか。」

 

さすがになんとも居た堪れなくなる俺たち

 

「まぁハジメよりはマシだろ?なんたって殺されかけたんだし。」

「……えっ?それはどういう……」

「先生、今日の玉井達の態度から大体の事情は察した。俺が奈落に落ちた原因はベヒモスとの戦闘、または事故って事にでもなっているんじゃないか?」

「そ、それは……はい。一部の魔法が制御を離れて誤爆したと……南雲君はやはり皆を恨んで……」

「そんなことはどうでもいい。肝心なのはそこだ。誤爆? 違うぞ。あれは明確に俺を狙って誘導された魔弾だった」

「え? 誘導? 狙って?」

「ハジメはクラスメイトに殺されかけたんだろ?」

「あぁ。」

 

 顔面を蒼白して硬直する愛子先生

 

「原因は白崎との関係くらいしか思いつかないからな、嫉妬で人一人殺すようなヤツだ。まだ無事なら白崎に後ろから襲われないよう忠告しとくといい。」

 

するとハジメは言いたいことは終わったのか部屋から出て行く。

 

「……先生俺も出ますね。」

 

さすがに俺も出て行こうかと思った時

 

「……すいません。もう少し一緒にいてくれませんか。」

「……」

 

愛子先生の言葉に俺は一瞬迷う。が見捨てる方が酷だと思い座り込む

その後もお互いに何も黙り込んでしまう。

居た堪れない空気の中俺は朝日が昇るまで先生の部屋でずっと居座っていた。



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依頼の始め

夜があけ

 

「……ふぁ〜。」

「パパ。」

「おはようハナ。」

 

よっとといい俺はハナを持ち上げる

 

「……昨日はすいません。えっと。挨拶まだでしたよね。初めましてハジメのダチの渋谷健太です。こっちはハナ。」

「えっと私はシアです。こっちはユエさんです。」

「ん。」

 

と挨拶をする。

 

「んでハジメお前ってもしかしてウィルって人の捜索依頼でてるか?」

「あぁ。ってもしかしてお前が協力者なのか?」

「一応な。一応ハナ曰くウィルって奴は生きてはいるらしい。昨日の夜中に命の精霊にライフセンサーを使ったら生命反応には昨日引っかかっていたから多分生きているぽい。」

「何?」

 

驚いたようにしている

 

「生憎場所が分からないから気配感知使える奴いないか?俺たち全員使えないから。」

「一応俺が使えるが。お前も行くのか?」

「元々あそこの山は俺の庭みたいなところだからな。土地勘あるやつ一人でも連れて行った方がいいだろ?」

「俺たちは移動手段あるけど。」

「俺は魔法で空を飛べるし転移もできるから関係ないけど?」

「……どうやって?」

 

するとユエって娘は気になるらしい

まぁ実際みせればいいか

俺は精霊魔法を浮遊を使うと軽く浮き始める

 

「これで風魔法で気流を調節すればいいだけ。」

「……こんな魔法みたことない。」

 

ユエは驚いたように俺をみる

 

「なるほど、それが精霊魔法か。」

 

ハジメは理解したらしい。

 

「そういうこと。精霊魔法は周りの空気に含んでいる魔力を使うから消費魔力もないし空間魔法で風圧などは全部カットできるからな。」

「……ちょっと待った。お前消費魔力がいらないって言ったよな。」

「あぁ。精霊って自分は魔力はないからな。周辺の魔力を使わないと魔法を使えないんだよ。上位精霊になると通常の魔法を空気中の普通の魔力を使って使うことはできるけど。」

「……おま、それチートじゃねーか。」

「ついでに俺も使えるからな。魔力を考えずに魔法を使えるし。最悪精霊に空気中の魔力貰えばいいから。」

 

実質無限に魔法が使えるっていい。

 

「……それじゃあ何でハナちゃんは空間魔法を使えるんですか?確か中位精霊ですよね?」

するとシアさんがそういう。

「こいつは魔力が生まれた時からあるらしいんだよ。」

「……固有技能か。」

「あぁ。それもかなり膨大な数の魔力をもっているからな。」

「……」

 

するとシアさんが何か驚いたように見ている

 

「…それだけじゃない。魔力の使い方も量も私よりも上。」

「何?」

「そりゃ、精霊族は魔法が特化しているからな。俺は人間よりも精霊に教わった時間の方が長いし自然とそっち側の技術が身につく。それに俺も一応勇者軍団のチートと精霊族の秘密のトレーニング受けてきたんだぞ。魔力特化だけどハジメたち全員の魔力を持ってしても量が足りないさ。」

「つまりパパが一番魔法をうまく操れるんだ!」

 

えっへんと胸を張るハナ。するとシアさんがかわいいって呟く

 

「……言い方悪いけど適正も技術も持っているからな。それに風魔法俺一番適性ないし。攻撃には使えないから。」

「はぁ。悪い。お前のこと見下していたけど。最悪俺たちよりも強いかもな。」

「敵対してないから別にいいだろ。教会側につくんだったら別だけど。」

「それはないから安心しろ。」

「ならさっさと出ようぜ。俺は別の依頼もあるし。」

 

と俺たちはそういうと北門へ向かう

幾つかの建物から人が活動し始める音が響く中、表通りを北に進み、やがて北門が見えてきた。と、俺たちはその北門の傍に複数の人の気配を感じ目を細める。特に動くわけでもなくたむろしているようだ。

 朝靄をかきわけ見えたその姿は……先生と生徒六人の姿だった。

 

「……何となく想像つくけど一応聞こう……何してんの?」

ハジメ達が半眼になって愛子先生に視線を向ける。一瞬、気圧されたようにビクッとする愛子先生だったが、毅然とした態度を取るとハジメと正面から向き合った。ばらけて駄弁っていた生徒達、園部優花、菅原妙子、宮崎奈々、玉井淳史、相川昇、仁村明人も愛子先生の傍に寄ってくる。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

「な、なぜですか?」

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

「……それなら渋谷は何で。」

「俺は空飛べるし、遅れても転移すればいいだけだしな。」

「……それ人間やめてない?」

「……まぁ、自覚はある。」

園部の言葉に俺は軽くため息を吐く

実際ハナとの契約のデメリットに人間をやめる項目が何個かあるしな。

「……パパ。」

「ん?」

「元気だして。」

「……」

俺はキョトンとしてしまう。意味を理解し苦笑してしまう

なるほど、見抜かれているってわけか

「大丈夫。パパは元気だから。」

「本当?」

「本当、本当。」

俺はハナを抱っこする。わっといいながらも嬉しそうに笑うハナ。

……やっぱりかわいいなこいつ

「すっかり親バカだな。」

「うっさい。お前も親バカになるタイプだろうが。」

「でも本当にかわいいですよね。」

「……うん。」

すると和やかな空気になる

「というより移動手段ってそういや何なんだ?」

「ん?これだよ。」

すると何もない空間から大型のバイクが出現する

「……へぇ、宝物庫か。……燃料は魔力ってところか?」

「あぁ。理解したか? お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 おざなりに返事をして出発しようとするハジメに、それでもなお愛子先生が食い下がる。

すると何か話しているとすると何か諦めたようにして

「わかったよ。同行を許そう。といっても話せることなんて殆どないけどな……」

「構いません。ちゃんと南雲君の口から聞いておきたいだけですから」

「はぁ、全く、先生はブレないな。何処でも何があっても先生か」

「当然です!」

 ハジメが折れたことに喜色を浮かべ、むんっ! と胸を張る愛子先生。どうやら交渉が上手くいったっていうよりも諦めない先生にハジメが折れたのだろう

「……ハジメ、連れて行くの?」

「ああ、この人は、どこまでも〝教師〟なんでな。生徒の事に関しては妥協しねぇだろ。放置しておく方が、後で絶対面倒になる。」

「ほぇ~、生徒さん想いのいい先生なのですねぇ~」

「ってよりもハジメのことを心配しているんだろ?日本に帰れた後のことを考えて。」

「……どういうことだ?」

「さぁ。そこはお前が気付くことだと思うぞ。俺だって愛子先生に救われた身だ。あの先生は少し夢見がちだけどそれでも先生なんだよ。」

俺は少し苦笑してしまう。だから尊敬も、敬意も払っているし。俺が困ったら誰よりも相談を求めようとするのが愛子先生だろう。

「でも、このバイクじゃ乗れても三人でしょ? どうするの?」

園部がもっともな事実を指摘する。

「俺が飛んで行ってもいいけど。」

「あっ。渋谷くんも話したいことがあるので。」

「……パパ。私もあれに乗りたい!!」

「……ハジメ。」

仕方なく、ハジメは魔力駆動二輪を〝宝物庫〟にしまうと、代わりに魔力駆動四輪を取り出した。

こいつアーティファクト何個も作っているのかよ

俺はため息を吐くとハジメの方を苦笑するのであった

 



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恩人

「……これどうするんだよ。」

 

俺はポツリと呟く

車内はベンチシートになっており、運転席には当然ハジメが乗り、隣の席には愛子が、その隣に俺が乗りユエ、シア、ハナは後ろの席で遊んでいるのだが

しばらくハジメと話していた愛子先生だったがうんうんと頭を唸って悩むうちに、走行による揺れと柔らかいシートが眠りを誘い、いつの間にか夢の世界に旅立った。ズルズルと背もたれを滑りコテンと倒れ込んだ先は俺の膝の上である

 

「……そういえばお前愛子先生に甘いよな。」

 

運転しているハジメが聞いてくる

 

「ん?そうか?」

「そういえば救われたって言ってましたよね?先生のことを恩人だと。」

「……う〜ん。一言でいうならば生き方を教えてくれたんだよなぁ。俺って正直中学時代ってなんの為に生きていたのか分からなくてさ。」

「……生き方?」

「俺、元いた世界では小説家やっているんだよ。」

「それも超売れっ子なんだ。最年少小説家としてもかなり有名だし売れない作品はないって言われているほどの。俺も読んだけど恋愛小説が特に上手くて先生と生徒の報われない恋心を書いたやつなんかめちゃくちゃ切ないんだよなぁ。今頃のドラマ化されているんじゃないのか?」

「だろうな。月9でドラマ化するって話だったし。」

「……凄い。」

「読んでみたいです。」

「……だから挫折も大きかったんだけどな。」

 

俺は少しため息を吐く

 

「何というか、スランプっていうか自分が読んでも面白くないって思う時期があって、一時期学校すら行かずにずっと悩んでいた時期があるんだよ。実際そのころに出した作品は全く反響がなぁ。中学三年のころは受験も重なって踏んだり蹴ったりでさらに親父たちの世話だってあったしな。」

 

実際あの時眠れなくて隈ができたり結構精神的にも来たんだよなぁ。

 

「……まぁ、結局高校入ってもしばらくはそんな感じでさ。元々楽しんでやっていたから売れていたわけであって、売れる作品を書こうとして、面白いものが書けるわけないんだよなぁ。」

「……だろうな。俺も経験あるわ。」

 

物作りが好きな俺とハジメはどこか似ているところがあったな

 

「んで、思いっきり悩んで、眠たくてもストレスからか眠れなくて、思いっきり黒い隈ができてなぁ。そのせいか入学式からずっと怖がられていてなぁ。ハジメは中学時代から仲よかったけどそのほかは全く。ゾンビとかグールって呼ばれていたしなぁ。それに会社から小説のことは対外に漏らしたらアウトだし。だから相談ができなくて。かなり苦しかったな。」

 

事実本当に苦しくて夜中に吐いたりもしたよなぁ

 

「まぁ、その時に助けてくれたっていうか救いの糸を出してくれたのは先生ってわけ。あの人は先生だからな。何度も何度も俺のことを気にしてくれて。結構きつい口調や突き放すことを言っていたんだけど。見捨てずずっと俺の先生であり続けた。だから結構嬉しかったんだよ。んで先生見てるとから周りも多くて愛されキャラだろ?だから書いていた原稿を全部捨てて愛子先生をモデルに小説を書いてみたかったんだよ。そしたら久しぶりに面白い作品が書けて。」

「それが『愛される先生』ってわけか。」

「……まぁだから結構配役とかも監督に頼んで先生みたいにちっこくて愛されキャラの無名の人を使って欲しいって頼んだんだよ。結構まじで大変だったんだぞ。だから先生は俺にとっては恩人ってわけ。まぁもうちょいドジなところは直して欲しいけど。」

「先生の尻拭い全部お前だもんな。」

「八重樫は天之河、先生の面倒ごとは俺ってクラスの中で暗黙の了解があったよなぁ。」

 

少し笑ってしまう

 

「……まぁ、少し寝させるか。最近清水が行方不明になって寝れてないんだってさ。それに俺とハジメが見つかったんだから。」

「……そういえば、先生って俺に何が言いたかったんだ?」

「……自分で考えろ。最近父親やっているせいで俺オヤジ臭くなっているんだから。」

「自分で言うのかよ。」

 

といいながら自動車は山へと歩いていった

 

 

 

 北の山脈地帯

標高千メートルから八千メートル級の山々が連なるそこは、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。

 

「やっぱり弱い魔物の反応ねぇな。」

 

そらを飛びながら俺も目で捜索しているのだが

 

「あの、渋谷くん本当にこれ大丈夫なんですか?」

「先生。ちょっと静かにしてください。一応これ依頼なんで。」

 

俺はすぐそばで震えている愛子先生

まぁさすがに上空50m近くで魔法で浮いているとはいえ怖いことには違いないか

 

「ハジメ。そっちは?」

「こっちもまだ反応ねぇよ。」

「こっちも魔物の反応さえない。少しやっぱり様子がおかしいな。」

 

俺は魔法を使い降下していく

 

「どういうことですか?」

「……魔物がいなさすぎる。最近じゃそこそこ強い個体は残っていたんだけど。」

「……うん。ダメ。鳥さんたちも生きている人はいないって。」

「生命反応は?」

「まだあるよ。」

「……つまり空では見つけられないってことだから。」

「洞穴中心に探していった方がいいだろうな。」

 

俺は地図に印を書き込むとハジメの表情も次の瞬間には一気に険しくなった。

 

「……これは」

「ん……何か見つけた?」

 

ハジメがどこか遠くを見るように茫洋とした目をして呟くのを聞き、ユエが確認する。

 

「川の上流に……これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。ユエ、シア、行くぞ」

「ん……」

「はいです!」

「俺も行くぞ。ハナ。先生飛ぶから。」

「うん。」

「またですか!!」

「ついでに急いでいるからお前らも運ぶぞ。」

 

俺はそうやって精霊術をかけるとひっと全員の叫びごえが聞こえる

ハジメに案内されたその先には上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ

……ここで戦闘があったらしいな。

そのような印象を持ったのは、抉れた部分が直線的であったとのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて、何十メートルも遠くに横倒しになっていた。三十センチ以上ある大きな足跡も残されている。

 

「ブルタールで間違いないな。」

 

俺は断言する

 

「本当か?」

「あぁ何度か戦闘になったことがある。普段は二つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ないはずの魔物だ。それに、川に支流を作るような攻撃手段は持っていないはずでなんだけど問題は。」

 

このブレスの後だろうこの辺りで見られるとしたならば

 

「……龍で間違いないだろうな。」

「龍?」

「一応北に5つ行った先に龍の巣があるんだよ。もしかしたら赤龍かもな。規模がでかすぎる」

 

するとハナも反応があった

 

「……引っかかった。下流5kmの滝壺の奥の洞穴に生きている人がいるよ。」

「……サンキューハナ。」

「生きてる人がいるってことですか!」

「何とか間に合ったぽいな。とりあえず慰留物だけ拾ってそこに向おうぜ。」

 

俺はテキパキと慰留物を拾い空間魔法で作った異空間ボックスに入れる

 

「ユエ、頼む」

「……ん」

 

 ハジメは滝壺を見ながら、ユエに声をかける。ユエは、それだけでハジメの意図を察し、魔法のトリガーと共に右手を振り払った。

 

「〝波城〟 〝風壁〟」

 

すると滝壺も水が真っ二つに割れる。

 

「……へぇ。ユエさん。魔力の使い方上手いな。」

「……まだまだ渋谷には及ばない。」

「俺はケンでいいぞ。ハジメにはそう言われているし。ユエさんもそっちの方が呼びやすいだろ?」

「ん。それじゃあこっちもユエでいい。」

「分かった。」

「おい。ユエ。ケン。魔法使い同士話は合うのはいいけど魔力勿体無いから早くいくぞ。」

 

ハジメの言葉に滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所へ踏み込んだ。洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ている。一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。

 

「……軽く衰弱しているな。ハナ。回復魔法。」

「うん。精霊の元に全ての命を救い給え。白癒。」

 

すると白い光がフワフワと男性の体に浸透している

 

「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

「えっ、君達は一体、どうしてここに……」

「ウルの街の冒険者ギルドから派遣された渋谷健太だ。それと。」

「俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。生きていてよかった」

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたたちも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

「それで悪いけど何があったのか聞かせてもらっていいか?一応ギルドに報告書を提出しないとまずいから。」

 

すると頷く

要約するとこうだ。

ウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認することもせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つことしか出来なかった情けない自分、救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

「……はぁ、それがどこが悪いんだよ。」

 

俺は少しため息を吐く。

 

「俺だって正直一度死にかけているし。そこのハジメだってそうだ。ハジメもそう思うだろ。」

「あぁ、生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

「だ、だが……私は……」

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

「……生き続ける」

「……まぁいっちゃ悪いけど俺は死にかけたことは正直よかったって思っている。もし落ちなければ出会えなかった人もいるしな。人生悪いこともあるけどいいことだってある。これからの人生をどうするかっていうのが一番大事なことだぞ。」

 

すると俺とハジメはこれ以上は何も言わずに立つ

 

「ハジメ。」

 

俺は空間魔法から一つの瓶を取り出し投げる

 

「おい。これなんだよ。」

「精霊族特製エリクサー。世界樹の葉と世界樹の果実、聖水でできたものだ。ポ◯モンでいうかいふくの薬だ。今日のお礼に渡しとく」

 

するとポカンと口を開ける

 

「……お前なんていうもんもっているんだよ。」

「一応薬師がいるんだよ。特製エリクサーを作る。お前のところヒーラーいないだろ?10個ほどあげればいいか?」

「……はぁ。お前随分いいところに転移されたんだな。」

「でもここから10つ以上も奥に行った山脈にある村だぞ。オルクスの大迷宮や【グリューエン大火山】より魔物は強いぞ。」

 

実際普通なら死んでます。するとハジメもそれが分かったらしく俺に肩に手を置くだけだった

 

「とりあえず、これから俺はもう一つの依頼の調査するからここでお別れだろうな。」

「……魔物の調査か?」

「あぁ。さすがに俺はそっちがメインだからな。まぁだいたい目星はついているから首謀者を殺して終了かな。……さすがに先生たちも戻ってほしいな。さすがに龍相手に守りながら勝てる自信はねえぞ。」

「……そうか。」

「ハジメ」

 

するとユエが少し怒ったようにしてハジメを見る

 

「……あ〜。……お前俺たちと一緒に来ないか?」

「……へ?」

 

ハジメの言葉に俺はキョトンとしてしまう

 

「いや、お前も教会を信用してないって言っていたし一人で迷宮クリアできる腕はあるんだろ?魔力を使わないで魔法を使えるってかなり有効だし。」

「……あ〜。」

 

俺は少し考え

 

「まぁいいけどさ。ハナもシアさんに懐いているし。元々俺は迷宮攻略者を探すことだったしな。」

「えっ?シアお姉ちゃんと一緒に居られるの?」

「あぁ。」

「わ〜い。」

 

するとキャキャとはしゃぐハナにもう何度も和やかな雰囲気が流れる

しかしそれもつかの間だった

再度、ユエの魔法で滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎するものがいたからだ。

 

「グゥルルルル」

 

低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する……それはまさしく〝竜〟だった。

 



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黒竜戦

その竜の体長は七メートル程。漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある。背中からは大きな翼が生えており、薄らと輝いて見えることから魔力で纏われているようだ。

空中で翼をはためかせる度に、翼の大きさからは考えられない程の風が渦巻く。だが、何より印象的なのは、夜闇に浮かぶ月の如き黄金の瞳だろう。爬虫類らしく縦に割れた瞳孔は、剣呑に細められていながら、なお美しさを感じさせる光を放っている。

 

「見たことない種類の龍だな。かすかにだけど闇魔法の痕跡がある、」

「……闇魔法だと?」

 

ハジメが俺のほうをみる

 

「間違いなく、洗脳されているな。しかもかなり高度で解術が難しい。」

「一応解術してみるけど半日は掛ると思う。強い衝撃を与えた方がいいよ。」

 

ハナの言葉に俺は頷く。こいついつも子供っぽいけど俺が危険な時だけは頼りになる仲間になる

 

「しかし、俺の魔力でもこいつスリープ通らないんだけど。どんだけ精神抵抗でかいんだよ。」

 

よく洗脳できたな。こいつ

 不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。川の一部と冒険者を消し飛ばしたというブレスがだろう。

 

「ッ! 退避しろ!」

 

ハジメは警告を発し、自らもその場から一足飛びで退避した。ユエやシアも付いて来ている。だが、そんなハジメの警告に反応できない者が多数、いや、この場合ほぼ全員と言っていいだろう

 

「狙われているのはウィルぽいな。氷壁。」

 

魔力により氷の壁をウィルに展開する。するとそこにブレスが当たるが空間魔法を使って熱の吸収を抑えているので一撃で壊せることはないだろう

 

「ハジメ。俺は後衛サポートに徹するからアタッカー頼む。防御のことはいいから思う存分暴れろ。」

「……了解。」

 

 

にやりとハジメは笑い龍に挑む

 

「お前らは俺の後ろに避難しろ。」

「でも南雲くんが。」

 

先生がそういうと俺は苦笑する

 

「大丈夫だろ。迷宮攻略者がこの程度で死ぬなんてありえないし。少しは生徒を信じろよ。」

 

俺は土壁の周りに水の精霊の魔力を作り土と氷の壁を展開していく。

すると後は一方的な攻撃が黒龍を襲った

シアと呼ばれる女性は大きなハンマーを振り回し龍を攻撃し、ユエは多分神代魔法なんだろう。大きな魔力の塊である黒い球体で龍の動きを阻害する。

そしてハジメはファンタジーのかけらもくそもない。銃器で応戦している

銃弾が、魔法が、ハンマーが全てが龍に襲いかかる

 

「すげぇ。」

 

だれかがそんなことを呟く

するとこっちにブレスが飛んで来る

どうやら俺を倒さないとウィルを殺せないと判断したのだろう

 

「渋谷くん。」

「空璧」

 

空間の密度を大きくして攻撃の威力を殺す魔法を使い完全に威力を殺しそして無詠唱で魔法を発動する

火の鳥をいくつも形成しそして集団で襲いかかる

 

「不死鳥。」

「グルァアアア!!」

 

龍の悲鳴があがるその隙に俺は光源を発生させる

すると閃光が目に入ったようで龍は意識的にのけ反らなくてはいけない状況を作り出す

 

「……お前容赦ないな。」

 

ハジメがジト目で俺を見るけど殺しに来る方が悪い

 

「後少し削ってくれ、そうすればスリープがほぼ確実に入るから。」

「おう。」

「分かりました!!」

 

俺は魔力を集める。集中する。

次一瞬だけ洗脳が解けた瞬間を狙う

そしてハジメが手榴弾を浴びせた瞬間を狙い

 

「スリープ。」

 

魔力を1割をつぎ込んだスリープが襲い

 

「グゥァア。」

 

龍は完全に地に堕ちたのだった

 

「……マジかよ。まだこれで軽い睡眠程度にしかかからないのか。」

 

俺は精神状態を見て呆然としてしまう

 

「……どれくらいの魔力でだ?」

「少なくてもシア一人分の魔力はつぎ込んでいる。」

「…本当ですか?」

 

俺は頷く

 

「精神対抗まじでえげつないぞ。こりゃ睡眠中か精神抵抗できないときにやられたな。でもそれでも1日係りじゃないとかからないし、とりあえず催眠から解かないと話がつかない。」

「パパ、やっぱりパパのクラスメイトがやったの?」

「……えっ?」

 

ハナは純粋な疑問を聞くと愛子先生が俺の方を見る

 

「ほぼ確定的だな。俺と同じくらいの魔法を使えるとなると確実に適正がかなり必要になってくる。そうなるとチート持ちの俺たちくらいしかありえない。」

「……殺すの?」

「最悪な。一応ギルドからは首謀者にあったら殺してほしいって頼まれている。生憎小さな村が襲われたら死者が数十万は出てもおかしくはないしな。」

 

冷血な判断。でもそれは一番正しいことだと分かっているから誰も口に出せないでいる

 

「…とりあえずハジメそいつの洗脳解く方法ないか?最悪殺してもいいから強い刺激を与えたら起きると思うけど。」

「……そういえば〝竜の尻を蹴り飛ばす〟って知っているか?」

「いやって。……ってお前。」

 

すると宝物庫から大きな杭を取り出し黒竜の尻尾の付け根の前に陣取った。

全員が、ハジメのしようとしていることを察し、頬を引き攣らせた。刺激を与えるといって、そこから突き刺すのはダメだろうと。

俺はハナの目を隠すとみんなが頷く

ハナは文句を言っているがさすがにこれは見せられない

 そして遂に、ハジメの杭が黒竜の〝ピッー〟にズブリと音を立てて勢いよく突き刺す。と、その瞬間、

 

〝アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!〟

 

くわっと目を見開いた黒竜が悲痛な絶叫を上げて目を覚ました。

 

〝お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~〟

 

 黒竜の悲しげで、切なげで、それでいて何処か興奮したような声音に俺はもちろんハジメでさえ絶句してしまう。

どうやらまた厄介ごとに巻き込まれたらしい



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変態竜見参

〝ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~〟

 

北の山脈地帯の中腹、薙ぎ倒された木々と荒れ果てた川原に、何とも情けない声が響いていた。声質は女だ。直接声を出しているわけではなく、広域版の念話の様に響いている。

 

「竜人族か。そういや勇者の情報を得るために偵察に出すって紫が言っていたなぁ。すでに街中に潜んで帰っていると思っていたけど。」

〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ? だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が〟

「自業自得って言葉しっているか?」

 

俺はため息を吐くと

 

「とりあえず情報を吐いてもらうぞ。このままじゃ何も進まないからな。」

 

ハジメがそういうと黒竜がなにがあったのかを話し始めたが

 

〝妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟

 

すると竜人族はことの点末について話し始めたのだが

全ての予想が的中していた

そして全てが話し終えた後

 

「……ふざけるな」

 

事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

〝……〟

 

対する黒竜は、反論の一切をしなかった。ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

〝……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟

 

なお、言い募ろうとするウィル。それに口を挟んだのはユエだ。

 

「……きっと、嘘じゃない」

「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」

 

 食ってかかるウィルを一瞥すると、ユエは黒竜を見つめながらぽつぽつと語る。

 

「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」

「俺も口を挟むけど、嘘ではないと思う。元々竜人族は無抵抗のものを攻撃するのは掟破りの大罪にあたることだ。それを犯すことになったならそれは他の竜人族を相手にすることと同意義だ。」

 

俺も紫から聞いたことを含め意見をいう

 

〝ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?〟

 

竜人族という存在のあり方を未だ語り継ぐものでもいるのかと、若干嬉しそうな声音の黒竜。

 

「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

〝何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……〟

 

どうやら、この黒竜はユエと同等以上に生きているらしい。しかも、口振りからして世界情勢にも全く疎いというわけではないようだ。今回の様に、時々正体を隠して世情の調査をしているのかもしれない。その黒竜にして吸血姫の生存は驚いたようだ。周囲の、ウィルや愛子達も驚愕の目でユエを見ている。

 

「ユエ……それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

ユエが、薄らと頬を染めながら両手で何かを抱きしめるような仕草をする。ユエにとって竜人族とは、正しく見本のような存在だったのだろう。話す言葉の端々に敬意が含まれている気がする。ウィルの罵倒を止めたのも、その辺りの心情が絡んでいるのかもしれない。

”そしてそこの若いのは。〟

「あぁ、俺はちと事情があってな。まぁ簡潔にいうなら。」

 

俺は笑い

 

「世界樹の苗を受け取ったっていえばいいか?」

”……ほう。お主が〟

 

すると納得したらしい

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

頭では黒竜の言葉が嘘でないと分かっている。しかし、だからと言って責めずにはいられない。心が納得しない。

 

「……パパ。これがフラグを立てるってこと?」

「……」

 

俺は周囲からの目線から目を逸らす。そういえば言っていたなぁと心に思いながら

 

「ウィル、ゲイルってやつの持ち物か?」

 

そう言って、取り出したロケットペンダントをウィルに放り投げた。ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

「あれ? お前の?」

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

「マ、ママ?」

 

予想が見事に外れた挙句、斜め上を行く答えが返ってきて思わず頬が引き攣るハジメ。

写真の女性は二十代前半と言ったところなので、疑問に思いその旨を聞くと、「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」と、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。その場の全員が「ああ、マザコンか」と物凄く微妙な表情をした。女性陣はドン引きしていたが……

 

〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟

「……一つだけ聞かせろ。」

 

俺は一言だけ低い声をだす。ここで残酷なことを聞くだろうけど

 

「その男は勇者。または先生って言っていなかったか?」

 

すると黒竜は頷く

 

”うむ、「これで自分は勇者より上だ」と口にしていたからのう。随分と勇者に対して妬みがあるようだったじゃのう。〟

「……確定だな。ハジメ。こいつ使えるから助けようぜ。」

「「「は?」」」

 

俺はあっさりいうとするとハジメも他の奴らも驚いたように俺を見る

 

「というよりも催眠が解けたから俺たちに敵意を浮かべていない。根本的に殺し合いをしたのは俺たちだけど全部はウィルを殺すのを邪魔してただろ?」

「……そうだな。」

「それに有益な情報がいくつか手に入った。それだけでも逃す理由になる。それに清水が黒って分かったから敵は清水になる。それに生憎竜人族を殺して報復して来たりする可能性や俺とハジメはほぼ確実に異端者扱いになる。教会が敵になるのに竜人族まで敵に回したら迷宮攻略に支障が出る可能性があるだろ?」

「……それに自分に課した大切なルールに妥協すれば、人はそれだけ壊れていく。黒竜を殺すことは本当にルールに反しない?」

 

ユエも殺すことには反対らしく俺の援護をしてくれる

その言葉も確かに頷ける

……後からお礼言っとこ。

俺も少しそこは反省点だな

 

〝いい雰囲気のところ申し訳ないのじゃがな、迷いがあるなら、取り敢えずお尻の杭だけでも抜いてくれんかの? このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ〟

「ん? どういうことだ?」

〝竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ。想像してみるのじゃ。女の尻にその杭が刺さっている光景を……妾が生きていられると思うかの?〟

「うわぁ。」

 

つい俺は声に漏れてしまう。特に女性陣はお尻を押さえて青ざめている。

 

〝でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃ……新しい世界が開けたのは悪くないのじゃが、流石にそんな方法で死ぬのは許して欲しいのじゃ。後生じゃから抜いてたもぉ〟

 

……ん?今何て言った?

俺は少し疑問を覚えたがハジメはそういうことを気にしない

ハジメは、片腕にユエを抱いたまま、空いている方の手で黒竜の尻に刺さっている杭に手をかけた。そして、力を込めて引き抜いていく。

 

〝はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~〟

 

みっちり刺さっているので、何度か捻りを加えたり、上下左右にぐりぐりしながら力を相当込めて引き抜いていくと、何故か黒竜が物凄く艶のある声音で喘ぎ始めた。ハジメは、その声の一切を無視して容赦なく抉るように引き抜く。

ズボッ!!

 

〝あひぃいーーー!! す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……〟

「……。」

「パパどうしたの。なんで私を抱きしめるの?」

 

これは絶対にハナに見せてはいけない。聞かせてもならない

 

「……渋谷くんもうすっかり父親なんだね。」

 

ほろりと同級生の一人が涙を流す

俺が目を戻すと

黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。

……やっぱりこいつ変態か。

 

「なんてこった。こいつは凶悪だ。」

「これがふぁんたずぃ〜か〜」

「くそ、起きてくれ、起きてくれよ。俺のスマホ。」

「……あの、ハナいるから控えてくれないか?」

 

俺は冷たい目で男子を見る

 

「……ごめん。少し渋谷くんのこと誤解していたみたい。」

「ちゃんと子育てしているんだね。」

 

そしてなぜか女子からの好感度が少し上がった

 

「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……痛みというものがここまで甘美なものとは……」

 

何やら危ない表情で危ない発言をしている黒竜は、気を取り直して座り直し背筋をまっすぐに伸ばすと凛とした雰囲気で自己紹介を始めた。まだ、若干、ハァハァしているので色々台無しだったが……

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

俺はその名前に聞き覚えがあった

こいつ竜人族の姫じゃねーか

ティオ・クラルスと名乗った黒竜は、次いで、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。

と、そこでハジメが突如、遠くを見る目をして「おお、これはまた……」などと呟きを漏らした。聞けば、ティオの話を聞いてから、無人探査機を回して魔物の群れや黒ローブの男を探していたらしい。

そして、遂に無人探査機の一機がとある場所に集合する魔物の大群を発見した。その数は……

 

「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ? 桁が一つ追加されるレベルだ」

「……」

 

ハジメの報告に全員が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

事態の深刻さに、先生が混乱しながらも必死にすべきことを言葉に出して整理しようとする。いくら何でも数万の魔物の群れが相手では、チートスペックとは言えトラウマ抱えた生徒達と戦闘経験がほとんどない先生、駆け出し冒険者のウィルに、魔力が枯渇したティオでは相手どころか障害物にもならない。なので、先生の言う通り、一刻も早く町に危急を知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。

と、皆が動揺している中、ふとウィルが呟くように尋ねた。

 

「あの、ハジメ殿なら何とか出来るのでは……」

 

その言葉で、全員が一斉にハジメの方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。ハジメは、それらの視線を鬱陶しそうに手で振り払う素振りを見せると、投げやり気味に返答する。

 

「そんな目で見るなよ。俺の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」

 

ハジメのやる気なさげな態度に反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。そんな中、思いつめたような表情の愛子がハジメに問い掛けた。

 

「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」

「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」

「というよりもこのままここにいたら俺たちやばいだろうな。とりあえずは車に乗って街に急ぐことが先決だろうな。たとえ黒ローブの男が清水だとしても。」

 

俺も冷静に判断する。このような事態を引き起こしたのが自分の生徒なら愛子先生は放って置くことなどできないのだろう。

 

「そんな南雲くんや渋谷くんではなんとかなりませんか?」

「さっきも言ったが、俺の仕事はウィルの保護だ。保護対象連れて、大群と戦争なんかやってられない。仮に殺るとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。真っ平御免被るよ。それに、仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとして、じゃあ誰が町に報告するんだ? 万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ? ちなみに、魔力駆動二輪は俺じゃないと動かせない構造だから、俺に戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな?」

「俺もここでは無理だな。俺はこっちがメインだから殲滅戦には参加するだろうけど。さすがにここで戦おうとするのは愚策でしかないからな。」

「まぁ、ご主じ……コホンッ、彼らの言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

 

…今不穏な言葉が流れたのは俺はスルーするのだが、間違えはないだろう

結局俺たちは街への知らせと今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにして山を降り始める

決してハジメに引きずられてティオが恍惚の表情を浮かべていたことにドン引きしたのは仕方ないことだろう



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忠告

「街の不信感を煽らないってことで清水とティオの件は伏せておくのがいいと思うんだけど。」

 

俺はそういうと全員が頷く

車の中では深刻な話をしながら進んでいくんだが魔力駆動四輪が、行きよりもなお速い速度で帰り道を爆走しているのもあってハナが時々驚いて泣き出してしまうのをあやしながらであるが

その時、ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見した

 

「ん?」

「あっデビッドさんだ。」

「お、おい。先生!!」

 

すると先生はサンルーフから顔を出して必死に両手を振り、大声を出してデビッドに自分の存在を主張する。そうするとなると自然と隣にいる人を跨ぐことになるのは仕方がないことだけど

ガタン

と整備されていない道を走っているためガタンと何かを踏み外したような衝撃がする

 

「きゃ。」

「おっと。」

 

俺はしっかり受け止める。

 

「先生危険だから座っといてよ。ハジメ曰くこれ魔法を撃たれても効かないらしいし。先生非戦闘職だから本気で怪我するぞ。だいたい先生は」

 

俺は呆れたように説教を始める。いつもドジやらかすと説教をするのは俺なのでもうハジメは、あぁいつものかと俺を苦笑して見ている

結局説教はウルの町に着くまで続き、先生は「どっちが先生なんでしょう」といいながらウルの町で少し涙を流していた

 

 

俺は世界樹の果実を食べながらギルドに報告に向かう。

そして現状を伝えるとアワアワしながらギルドの支部長は街の役場へ直行する。

俺がようやく町の役場に到着した頃には既に場は騒然としていた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

そんな喧騒の中に、ウィルを迎えに来たハジメがやって来る。周囲の混乱などどこ吹く風だ。

 

「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。自分が保護対象だって自覚してくれ。報告が済んだなら、さっさとフューレンに向かうぞ」

 

そのハジメの言葉に、ウィル他、先生達も驚いたようにハジメを見た。他の、重鎮達は「誰だ、こいつ?」と、危急の話し合いに横槍を入れたハジメに不愉快そうな眼差しを向けた。

 

「な、何を言っているのですか? ハジメ殿。今は、危急の時なのですよ? まさか、この町を見捨てて行くつもりでは……」

「見捨てるもなにも、どの道、町は放棄して救援が来るまで避難するしかないだろ? 観光の町の防備なんてたかが知れているんだから……どうせ避難するなら、目的地がフューレンでも別にいいだろうが。ちょっと、人より早く避難するだけの話だ」

「そ、それは……そうかもしれませんが……でも、こんな大変な時に、自分だけ先に逃げるなんて出来ません! 私にも、手伝えることが何かあるはず。ハジメ殿も……」

 

〝ハジメ殿も協力して下さい〟そう続けようとしたウィルの言葉は、ハジメの冷めきった眼差しと凍てついた言葉に遮られた。

 

「……はっきり言わないと分からないのか? 俺の仕事はお前をフューレンに連れ帰ること。この町の事なんて知ったことじゃない。いいか? お前の意見なんぞ聞いてないんだ。どうしても付いて来ないというなら……手足を砕いて引き摺ってでも連れて行く」

「なっ、そ、そんな……」

「……はぁ。」

 

俺はため息を吐く。まぁハジメが言っていることは本当だ。

正直なところここの住人も町もどうでもいいことなんだよなぁ。

でも生きかたのところで俺は譲れないことがあるからこの防衛戦に参加するだけだし

俺の方を先生見ると心配なさそうだった。先生は決然とした表情でハジメを真っ直ぐな眼差しで見上げて一歩前に出る

 

「南雲君。君なら……君なら魔物の大群をどうにかできますか? いえ……できますよね?」

 

愛子先生は、どこか確信しているような声音で、ハジメなら魔物の大群をどうにかできる、すなわち、町を救うことができると断じた。その言葉に、周囲で様子を伺っている町の重鎮達が一斉に騒めく。

ハジメは、先生の強い眼差しを鬱陶しげに手で払う素振りを見せると、誤魔化すように否定する。

 

「いやいや、先生。無理に決まっているだろ? 見た感じ四万は超えているんだぞ? とてもとても……」

「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とかできるのではという質問に〝できない〟とは答えませんでした。それに〝こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない〟とも言ってましたよね? それは平原なら殲滅戦が可能という事ですよね? 違いますか?」

「……よく覚えてんな」

 

下手なこと言っちまったと顔を歪めるハジメ。先生は顔を逸らしたハジメに更に真剣な表情のまま頼みを伝える。

 

「南雲君。どうか力を貸してもらえませんか? このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

「……意外だな。あんたは生徒の事が最優先なのだと思っていた。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃなかったのか? なのに、見ず知らずの人々のために、その生徒に死地へ赴けと? その意志もないのに? まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」

 

ハジメの揶揄するような言葉に、しかし、先生は動じない。その表情は、ついさっきまでの悩みに沈んだ表情ではなく、決然とした〝先生〟の表情だった。だからハジメに一歩も引かない姿勢で向き直る。

 

「……元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから……なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが……」

 

先生が一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

「南雲君、あんなに穏やかだった君が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…南雲君には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」

 

ハジメは黙ったまま、先を促すように先生を見つめ返す。誰もが先生のお説教を聞いている。先生が純粋に心配しているのが分かっているからハジメもユエもシアも聞いているのであろう

 

「南雲君。君は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね? では、南雲君、君は、日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか? 君の邪魔をする者は皆排除しますか? そんな生き方が日本で出来ますか? 日本に帰った途端、生き方を変えられますか? 先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」

「……」

「南雲君、君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は……とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを……捨てないで下さい」

「……俺からも一ついいか?」

 

俺は手を挙げるとすると全員が俺の方を見る

 

「多分。お前にとってこの世界は監獄みたいなところなんだろうな。帰りたいのに縛ってくる鎖のように。人も世界も何もかもが嫌いで警戒して心を砕くようなことは極めて困難だろう。正直俺はお前が奈落の落ちた後のことは知らないし、誰に殺されかけたかは知りもしない。ただな。クラスメイトのことはどうでもいいと思っているとしてお前は白崎のことまで切り捨てるのか?」

「……なんでそこで白崎が。」

「今もお前のことを生きているって信じて未だに探しているんだってさ。」

 

するとハジメが目を見開く。俺があの夜の後先生から聞いた話だった

 

「お前のことを何か気にしていたし、何かと理由をつけてはお前に話そうとしていた。お前が落とされた原因はほとんど白崎で間違いはないだろう。実際嫉妬や妬みをお前は受けていたことは俺だって誰だって知っていることだ。でもお前も薄々気づいていたはずだろ?白崎がお前のことを構っていた理由も。」

「……」

 

すると黙り込むハジメ

 

「無言は肯定とみなすぞ。ぶっちゃけお前がユエさんやシアさんを大切にしていることはよく分かる。特別ってことも知っている。俺だって特別って言えるハナがいるし、もしハナに危険が及ぶようならたとえ神でも潰すしな。ただな。大切な存在がいるからこそ他人のことを考えなければならない。一人でなんかこの世界でも地球でも生きてはいられないからな。」

 

俺は一区切りをつけ

 

「だから自分が誇れる生きかたをしろ。ユエやシアだけではなくて地球にはお前の親父さんや母親だっているだろ?余裕はないかもしれないしたまには逃げてもいいと思う。でもなせめて両親が誇れるくらいに、自分が誇れる生きかたをしろ。それが最高の思い出話にもなるし、大切な誰かを見つけたのは、この世界で違いないのだから。」

 

俺はそういうと少し苦笑してしまう。

なんかオヤジくさいな。

そう苦笑してしまうとハジメは先生に向き合う

 

「……先生は、この先何があっても、俺の先生か?」

 

それは、言外に味方であり続けるのかと問うハジメ。

 

「当然です」

 

それに、一瞬の躊躇いもなく答える愛子。

 

「……俺がどんな決断をしても? それが、先生の望まない結果でも?」

「言ったはずです。先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。南雲君が先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」

「……それはケンもか。」

「今更だろ?お前の厨二時代からずっと親友だったんだ。それに俺はもう先生の望む結果にはできそうにないしな。」

「……」

 

すると驚いたように俺をみる。清水を殺すと俺は宣言しているようだった。

 

「流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいからな。話し合いはそっちでやってくれ」

「南雲君!」

 

ハジメの返答に顔をパァーと輝かせる愛子。そんな愛子にハジメは苦笑いする。

 

「俺の知る限り一番の〝先生〟と〝親友〟とからの忠告だ。まして、それがこいつ等や父さんや母さんの幸せにつながるかもってんなら……少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておくことにする」

「俺も手伝う。一応ついていく予定だし暴走しないようにしっかりと手綱を取らないとな。」

「俺は馬かよ。」

「似たようなものだろうが。」

 

軽口を言い合う俺とハジメに久しぶりに笑顔になっていた

それにシアとユエが俺になぜか嫉妬の目線を浮かべていたが俺は何もないように準備に明け暮れていた

紙とペンを持って。



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ウルの町。北に山脈地帯、西にウルディア湖を持つ資源豊富なこの町は、現在、つい昨夜までは存在しなかった〝外壁〟に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。

 

「…錬成ってすげぇな。」

 

俺の土壁は約2mくらいなのでその倍は普通にあるのだろう

てか山から近いのに今まで外壁がないってある意味おかしいよな

町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事、魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着する事は知られている。

当然、住人はパニックになっていたのだが、世間で“豊穣の女神”と呼ばれている先生が静めた

まぁ当然だけどそれを使わせてもらう

 

「ハジメ。原稿覚えたか?」

「……お前に物を書かせたら敵はいないってことはわかった。」

「まぁペンは剣より強しっていうし情報操作はしっかりとしているからな。この後聖書としてもしっかり先生には活躍してもらわないと。」

「お前鬼畜すぎるだろ。」

「なお、愛ちゃん親衛隊協力のもとだからな。これ。」

「センセイェ。」

 

先生に同情するハジメ。まさか身内に裏切られているとは誰もが思わないだろう。

 

「南雲君、渋谷くん準備はどうですか? 何か、必要なものはありますか?」

「いや、問題ねぇよ、先生」

「同感。それなら居残り組に飯を思う存分食べさせてやってくれ。」

 

 やはり振り返らずに簡潔に答えるハジメ。その態度に我慢しきれなかったようでデビッドが食ってかかる。

 

「おい、貴様。愛子が…自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……」

「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」

「うっ……承知した……」

 

しかし、先生に〝黙れ〟と言われるとシュンとした様子で口を閉じる。その姿は、まるで忠犬だ。亜人族でもないのに、犬耳と犬尻尾が幻視できる。今は、飼い主に怒られてシュンと垂れ下がっているようだ。

 

「南雲君。黒ローブの男のことですが……」

 

どうやら、それが本題のようだ。

 

「正体を確かめたいんだろ? 見つけても、殺さないでくれってか?」

「……はい。どうしても確かめなければなりません。その……南雲君には、無茶なことばかりを……」

「取り敢えず、連れて来てやる」

「え?」

「黒ローブを先生のもとへ。先生は先生の思う通りに……俺も、そうする」

「南雲君……ありがとうございます」

「……まぁ俺も手加減ができればなんとかするよ。俺広範囲魔法が得意だからちゃんと手加減ができるかわからないけど。」

「……はい。」

 

先生の話が終わったのを見計らって、今度は、ティオが前に進み出てハジメに声をかけた。

 

「ふむ、よいかな。妾もご主……ゴホンッ! お主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

「? …………………………………………………………ティオか」

「お、お主、まさか妾の存在を忘れておったんじゃ……はぁはぁ、こういうのもあるのじゃな……」

「きめぇ。」

 

いつもだったら先生が怒るのだがさすがに先生も苦笑しながら俺に注意しない限り同じことを考えているのだろう

 

「んっ、んっ! えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

「ああ、そうだ」

「うむ、頼みというのはそれでな……妾も同行させてほし…」

「断る」

「……ハァハァ。よ、予想通りの即答。流石、ご主……コホンッ! もちろん、タダでとは言わん! これよりお主を〝ご主人様〟と呼び、妾の全てを捧げよう! 身も心も全てじゃ! どうzy」

「帰れ。むしろ土に還れ」

「お前それさらに喜ばせているぞ。」

 

俺の言葉に全員が頷く。なおハナは今日はとある事情のため今はここにはいないので安心だ

 

「そんな……酷いのじゃ……妾をこんな体にしたのはご主人様じゃろうに……責任とって欲しいのじゃ!」

 

全員の視線が「えっ!?」というようにハジメを見る。流石に、とんでもない濡れ衣を着せられそうなのに放置する訳にもいかず、きっちり向き直ると青筋を浮かべながらティオを睨むハジメ。どういうことかと視線で問う。

 

「あぅ、またそんな汚物を見るような目で……ハァハァ……ごくりっ……その、ほら、妾強いじゃろ?」

 

ハジメの視線にまた体を震わせながら、ハジメの奴隷宣言という突飛な発想にたどり着いた思考過程を説明し始めるティオ。

 

「里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃ」

近くにティオが竜人族と知らない護衛騎士達がいるので、その辺りを省略してポツポツと語るティオ。

「それがじゃ、ご主人様と戦って、初めてボッコボッコにされた挙句、組み伏せられ、痛みと敗北を一度に味わったのじゃ。そう、あの体の芯まで響く拳! 嫌らしいところばかり責める衝撃! 体中が痛みで満たされて……ハァハァ」

「……つまり、ハジメが新しい扉を開いちゃった?」

「その通りじゃ! 妾の体はもう、ご主人様なしではダメなのじゃ!」

「「……きめぇ」」

 

俺とユエの意見が一致する。なんだか本当に気が合いそうなんだよなぁ

 

「それにのう……」

 

ティオが、突然、今までの変態じみた様子とは異なり、両手をムッチリした自分のお尻に当てて恥じらうようにモジモジし始める。

 

「……妾の初めても奪われてしもうたし」

 

その言葉に、全員の顔がバッと音を立ててハジメに向けられた。ハジメは頬を引き攣らせながら「そんな事していない」と首を振る。

 

「妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの……敗北して、組み伏せられて……初めてじゃったのに……いきなりお尻でなんて……しかもあんなに激しく……もうお嫁に行けないのじゃ……じゃからご主人様よ。責任とって欲しいのじゃ」

 

お尻を抑えながら潤んだ瞳をハジメに向けるティオ。騎士達が、「こいつやっぱり唯の犯罪者だ!」という目を向けつつも、「いきなり尻を襲った」という話に戦慄の表情を浮かべる。俺達は事の真相を知っているにもかかわらず、責めるような目でハジメを睨んでいた。両隣のユエとシアですら、「あれはちょっと」という表情で視線を逸らしている。迫り来る大群を前に、ハジメは四面楚歌の状況に追い込まれた。

 

「……ケン。」

「諦めたら。ど変態は多分本当の姿になってもまとわりつくぞ。」

「お、お前、色々やる事あるだろ? その為に、里を出てきたって言ってたじゃねぇか」

 

苦し紛れに〝竜人族の調査〟とやらはどうしたと返すハジメ。

 

「うむ。問題ない。ご主人様の傍にいる方が絶対効率いいからの。まさに、一石二鳥じゃ……ほら、旅中では色々あるじゃろ? イラっとしたときは妾で発散していいんじゃよ? ちょっと強めでもいいんじゃよ? ご主人様にとっていい事づくしじゃろ?」

「変態が傍にいる時点でデメリットしかねぇよ。」

 

その通りだけど、もう逃げ場がないことにハジメは気づいているだろうか

……来たよ

精霊の声が聞こえる。どうやらこっちも間に合ったようだ

 

「ハジメ。」

「! ……来たか」

 

すると北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。眼を細めて遠くを見る素振りを見せた。

 

「……どれくらいだ?」

「空を含めて6万強いるんじゃないか?複数の魔物の混成だ」

「ん〜まぁ。そのくらいならなんとかなるだろ。首謀者は?」

「空にいるからな。思う存分やってもよさそうだぞ。」

 

それなら好都合だな

魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる愛子先生。不安そうに顔を見合わせる。

 

「先生。」

 

俺は少し笑って優しい声で話す

 

「大丈夫だから。」

 

その言葉に俺を見る

 

「……信じてまってろ。」

 

俺は少し肩を回す。さてと戦闘準備だ。

 

「わかりました……君たちをここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ……そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」

 

竜人族は、教会などから半端者と呼ばれるように、亜人族に分類されながらも、魔物と同様に魔力を直接操ることができる。その為、天才であるユエのように全属性無詠唱無魔法陣というわけにはいかないが、適性のある属性に関しては、ユエと同様に無詠唱で行使できるらしい。

自己主張の激しい胸を殊更強調しながら胸を張るティオに、ハジメは無言で魔晶石の指輪を投げてよこした。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると大きく目を見開き、ハジメに震える声と潤む瞳を向けた。

 

「ご主人様……戦いの前にプロポーズとは……妾、もちろん、返事は……」

「ちげぇよ。貸してやるから、せいぜい砲台の役目を果たせって意味だ。あとで絶対に返せよ。ってか今の、どっかの誰かさんとボケが被ってなかったか?」

「……なるほど、これが黒歴史」

「お前やったことがあるのかよ。ちょっと仕込んでくるからハジメはあの演説やってろ。」

「あぁ。」

 

俺は城壁の下に降りると精霊の里に空間を広げる

すると光の渦が俺を包み込むと紫とハナが出て来た

 

「パパ呼んできたよ。」

「サンキュー。ハナ。」

 

俺はハナを抱っこする

 

「また大掛りな作戦ね。でもあなたの恩人が危険な目に合うと思うけどいいの?」

「いいんだよ。その時は俺たちが助ければいいし、少しの間教会からの抑止力になってくれたら。」

 

俺は少し息を吐き

 

「それに紫もそっちの方が都合がいいだろ?」

 

すると紫は俺の方を見る。紫の魂胆に気づけないほど俺はバカじゃない。

 

「……はぁ。何もかもお見通しってわけね。」

「お前の性格は分かっているからな。でもこれでしばらくは人間サイドからは狙われないしあの村は俺もまた帰りたいからな。」

「いつでも待っているわよ。できればずっと住んでもらっても。」

「……紫。」

 

俺は頭を軽く叩く

 

「分かっているんだろ。」

「……」

「いつかは戻るし、必ず俺は精霊の里には戻る。でも、せめてこいつらとは一緒に過ごしたいんだよ。」

「……えぇ。でも忘れてはだめよ。」

 

紫は一言だけ呟き

 

「あなたはもうもう死なないってことをきちんと覚えておいて。」

「……あぁ。」

 

俺はそういうと息を吐く

そして発砲音が聞こえるまで俺はただ呆然と立ち尽くすのだった。



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蹂躙劇

「愛子様、万歳!」

 

ハジメが、最後の締めに先生を讃える言葉を張り上げた。すると、次の瞬間……

 

「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」

「「「「「「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」」」」」」

 

とウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ先生を女神として讃える雄叫びを上げた。遠くで、愛子が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐにハジメに向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。

 

「……おぉ。うまくやったなぁ。」

 

俺がニヤニヤ笑いながら上に上がる

 

「精霊を演出に使うとかお前もやるな。」

あえて俺の魔力で全員に精霊を見えるように先生の周りに回らせ幻想的な風景を演出していたのだった

「まぁ、これが一番手取り早かったからな、それに愛子先生はここの町では影響力は教会よりこれによって上になった。のも俺にとって都合がいい。好きで教会と争いたいわけじゃないしな。」

「だろうな。」

 

元々争うのは嫌いだからな

すると魔物が目で見えるくらいにまで近づいてくる

 

「さぁやるか。」

「あぁ。」

 

俺は魔力を込めると

 

「〝凍雨〟」

 

鋭い針のような氷の雨が降り注ぐ。

氷魔法は俺が使うことが多く、迷宮攻略の時にも重宝した魔法の一つだ

今では一番戦闘で使う魔法だろう

 

「紅蓮の炎よ全てのものを焼き尽くせ。煉獄。」

 

俺は威力を高めるため詠唱を行い火の精霊魔法を放つ

魔力がある限り燃え続ける炎は一体また一体の勢力を広げつつある

しばらく魔法を撃ち続けるけど全く減る様子はない

 

「あ〜もう数が多すぎるだろ。めんどくさいったらありゃしない。」

「仕方ないですよ。てか余裕ですね。」

「俺の目の前は炎か氷漬けで基本全滅だしな。基本精霊術使っているから。てかハジメ。これ裏に魔人族やっぱりいるっぽい、山脈に生息していない魔物が1万くらいいるわ。」

 

俺の言葉にハジメが反応する

 

「何?」

「狙いはやっぱ多分先生だ。〝国家としての体力〟の問題だな。戦争は、あらゆる面で国力を食い潰す大食らいの怪物のようなものだ。なのに、食糧という面では敵の継戦能力が全く衰えないなど敵からしたら悪夢だろ?」

「……なるほどな。」

「……悪いけどあいつの処遇は俺に決めさせてくれないか?多分どっちにしろ殺される運命は変わらないだろうし先生に自分のせいで殺されたなんて思わせないようにしたいから。」

 

実際俺も覚悟を決めないといけない。

やがて、魔物の数が目に見えて減り、密集した大群のせいで隠れていた北の地平が見え始めた頃、遂にティオが倒れた。渡された魔晶石の魔力も使い切り、魔力枯渇で動けなくなったのだ。

 

「むぅ、妾はここまでのようじゃ……もう、火球一つ出せん……すまぬ」

 

うつ伏せに倒れながら、顔だけをハジメの方に向けて申し訳なさそうに謝罪するティオの顔色は、青を通り越して白くなっていた。文字通り、死力を尽くす意気込みで魔力を消費したのだろう。

 

「……十分だ。変態にしてはやるじゃねぇの。後は、任せてそのまま寝てろ」

「……ご主人様が優しい……罵ってくれるかと思ったのじゃが……いや、でもアメの後にはムチが……期待しても?」

「そのまま死ね」

 

変態のいうことはおいといて

 

「……ハジメ。俺とユエがここを保つお前は主犯を連れてこい、それで侵攻は完全に止まるはずだ。お前も気付いただろ?敵の魔物の法則性。」

「あぁ。ユエ魔力残量は?」

「……ん、残り魔晶石二個分くらい……重力魔法の消費が予想以上。要練習。ケンは?」

「俺は残りユエ一人分かな。結構使った割に。あんまり殺せなかったなぁ。」

「いやいや、2人で4万以上殺っただろ? 十分だ。残りはピンポイントで殺る。援護を頼む」

「んっ」

「了解。」

 

俺はそういうと弾幕を広げ集団放火する

これはユエの魔法の時間を稼ぐために唱えた魔法だ。

 

「後何分ユエはいける。」

「5分。いやケンの助けがあれば10分くらいなら。」

「いや。5分で使いきってくれ。ハジメなら5分でなんとかするだろうし。どうせあいつユエ基準だろ?5分間で全力をかける。もし長引くようなら俺が精霊術でなんとかする。」

「ん。」

 

そしてお互いに切り札のカードを切って行く

 

「絶対零度。」

「雷竜」

 

全ての魔物を氷漬けにして、寒さに強い魔物は即座に立ち込めた天の暗雲から激しくスパークする雷の龍が落雷の咆哮を上げながら出現し、前線を右から左へと蹂躙する。

そしてハジメとシアが突撃してから丁度5分後

全ての侵攻が終了した



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清水

終戦後場所は町外れに移しており、この場にいるのは、先生と生徒達の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルと俺達だけである。流石に、町中に今回の襲撃の首謀者を連れて行っては、騒ぎが大きくなり過ぎるだろうし、そうなれば対話も難しいだろうという理由だ。町の残った重鎮達が、現在、事後処理に東奔西走している。

首謀者であった清水はハジメの魔力駆動二輪で引き摺られてきたのでハナが回復魔法をかけた後に話し合いが行われることになっていた。

そして目覚めるとボーっとした目で周囲を見渡し、自分の置かれている状況を理解したのか、ハッとなって上体を起こす。咄嗟に、距離を取ろうして立ち上がりかけたのだが、俺が足を電撃で包まれたネットに足をからませていたことよりそれができなかった

 

「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

膝立ちで清水に視線を合わせる先生に、清水のギョロ目が動きを止める。そして、視線を逸らして顔を俯かせるとボソボソと聞き取りにくい声で話……というより悪態をつき始めた。

「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」

「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」

「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」

「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

反省どころか、周囲への罵倒と不満を口にする清水に、玉井や園部など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論する。その勢いに押されたのか、ますます顔を俯かせ、だんまりを決め込む清水。

 

「とりあえず落ち着け。今話しているのは先生だ。」

 

俺はエレキネットを解除するとクラスメイトが俺を睨む

 

「そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」

俺は理由は知っているのだが自分の口から話させるために俺は聞き手に回る

「……示せるさ……魔人族になら」

「なっ!?」

 

清水の口から飛び出した言葉に先生のみならず、俺達を除いた、その場の全員が驚愕を表にする。清水は、その様子に満足気な表情となり、聞き取りにくさは相変わらずだが、先程までよりは力の篭った声で話し始めた。

 

「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな……その魔人族は、俺との話しを望んだ。そして、わかってくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」

「契約……ですか? それは、どのような?」

 

戦争の相手である魔人族とつながっていたという事実に愛子は動揺しながらも、きっとその魔人族が自分の生徒を誑かしたのだとフツフツと湧き上がる怒りを抑えながら聞き返す。

そんな先生に、一体何がおかしいのかニヤニヤしながら清水が衝撃の言葉を口にする。

 

「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」 

「……え?」

 

すると予想通りの言葉が返ってくる

 

「何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ……〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ! 何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ! 何で異世界にあんな兵器があるんだよっ! お前は、お前は一体何なんだよっ!」

「……」

 

醜いな醜くてそして汚い

文句をハジメや俺にしても俺は知らん顔でハジメは厨二とか言われているのをユエに慰めている

 

「清水君。落ち着いて下さい」

「な、なんだよっ! 離せよっ!」

 

突然触れられたことにビクッとして、咄嗟に振り払おうとする清水だったが、先生は決して離さないと云わんばかりに更に力を込めてギュッと握り締める。清水は、先生の真剣な眼差しと視線を合わせることが出来ないのか、徐々に落ち着きを取り戻しつつも再び俯き、前髪で表情を隠した。

 

「清水君……君の気持ちはよく分かりました。〝特別〟でありたい。そう思う君の気持ちは間違ってなどいません。人として自然な望みです。そして、君ならきっと〝特別〟になれます。だって、方法は間違えたけれど、これだけの事が実際にできるのですから……でも、魔人族側には行ってはいけません。君の話してくれたその魔人族の方は、そんな君の思いを利用したのです。そんな人に、先生は、大事な生徒を預けるつもりは一切ありません……清水君。もう一度やり直しましょう? みんなには戦って欲しくはありませんが、清水君が望むなら、先生は応援します。君なら絶対、天之河君達とも肩を並べて戦えます。そして、いつか、みんなで日本に帰る方法を見つけ出して、一緒に帰りましょう?」

 

 清水は、先生の話しを黙って聞きながら、何時しか肩を震わせていた。生徒達も護衛隊の騎士達も、清水が先生の言葉に心を震わせ泣いているのだと思った。実は、クラス一涙脆いと評判の園部優花が、既に涙ぐんで二人の様子を見つめている。しかし俺は急に悪寒に襲われる

 

「先生。避けろ。」

「えっ。」

 

俺は先生の手を掴もうとするも距離が離れていたこともあり清水が針を引き抜き先生を人質に取る方が早かった

 

「動くなぁ! ぶっ刺すぞぉ!」

 

俺は軽く舌打ちしてしまう。直感の技能が発動したのだが間に合わなかった

 

「いいかぁ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! わかったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!」

「……パパ。多分ユリヤドレ。」

 

今まで後ろに隠れていたハナが針の正体を答える

ユリヤドレ。植物性の魔物で即死性の毒針を使ってモンスターを捕食する生物

 

「……一応回復はできるか?」

「毒物ならエリクサーならできるよ。でも私じゃ毒は分解できない。」

「ん。別に責めてないから大丈夫だ。」

 

つまりハナは損傷は治せるけど毒は治せないと思っていいだろう。

 

「いや、お前、殺されたくなかったらって……そもそも、先生殺さないと魔人族側行けないんだから、どっちにしろ殺すんだろ? じゃあ、渡し損じゃねぇか」

「うるさい、うるさい、うるさい! いいから黙って全部渡しやがれ! お前らみたいな馬鹿どもは俺の言うこと聞いてればいいんだよぉ! そ、そうだ、へへ、おい、お前のその奴隷も貰ってやるよ。そいつに持ってこさせろ!」

 

冷静に返されて、更に喚き散らす清水。追い詰められすぎて、既に正常な判断が出来なくなっているらしい。

ハジメと目を合う

どうする?

俺は首を横に振り打つ手なしと答えるとハジメは下に目を向ける

なるほど銃を使うのか

俺は頷きハジメの手が下がり始めたその瞬間、事態は急変する。

 

「ッ!? ダメです! 避けて!」

 

そう叫びながら、シアは、先生に飛びかかった。

突然の事態に、清水が咄嗟に針を先生に突き刺そうとする。シアが無理やり先生を引き剥がし何かから庇うように身を捻ったのと、蒼色の水流が、清水の胸を貫通して、ついさっきまで先生の頭があった場所をレーザーの如く通過したのはほぼ同時だった。

 

「ちっ。破水。」

 

俺は瞬時で魔法を構築し放つけど感触はない。

つまりこれは俺では当てられないのであろう

 

「ハナ。シアの治療を。」

「う、うん。」

「ま、待ってください。……健太さん……私は……大丈夫……です……は、早く、先生さんを……毒針が掠っていて……」

「……っ。ハナはそのままシアの治療を。一応。」

 

俺はエリクサーを二つ取り出し1本ハナに投げる

 

「う、うん。」

「先生。」

 

見れば、愛子の表情は真っ青になっており、手足が痙攣し始めている。先生、ハナとの会話が聞こえていたのか、必死で首を振り視線でシアを先にと訴えていた。言葉にしないのは、毒素が回っていて既に話せないのだろう。もって数分、いや、先生の様子からすれば一分も持たないようだ。遅れれば遅れるほど障害も残るかもしれない。

周りのものが叫ぶが関係ないユエから先生を受け取るとエリクサーのピンを開け少しずつ流し込む。シアの方はハナに任せれば絶対に助かると断言ができるから任せたが先生はシアを優先しなかったのを咎めるような眼差しをしている。だから問答無用でエリクサーを流し込むが愛子の体は全体が痙攣を始めており思った通りに体が動かないようで、自分では上手く飲み込めないようだ。しまいには、気管に入ったようで激しくむせて吐き出してしまう。

時間がないのが分かりきっていたので迷いもなく俺の口にエリクサーを含み口移しで飲ませるしかなかった。

もう必死で周りの声はもう全て聞こえずに、ただ必死で。

舌を侵入させるとその舌を絡めとり、無理やりエリクサーを流し込んでいく。

するとコクコクと飲み込む音が聞こえるとすると先生の顔色は少しずつであるが、良くなっているのを見た俺は離れる

 

「……一応これで大丈夫だと思う。神水みたいにすぐってわけにはいかないけど精霊族お手製のエリクサーだ。1分もあれば話せるようになると思う。」

 

俺はそういうとハナも戻ってくる

 

「シアお姉ちゃんの治療も終わったよ。すぐに元気になると思う。」

「……そうか。」

「……ケン。ハナ。ありがとう。シアを助けてくれて。」

 

するとユエが頭を下げる。

回復魔法を使い完全に完治したシアはなぜが膨れていたが俺とハナに頭を下げていた

すると顔色は完全に元に戻っている先生の方を見る

 

「先生?大丈夫か?」

「……」

「先生?」

「……。」

「……いい加減起きろ。」

「ふぇっ。」

 

俺はチョップを先生の脳天に放つと結構強めにやったおかげか正気に取り戻したらしい。

 

「大丈夫か?体に異常は?」

「へ? あ、えっと、その、あの、だだ、だ、大丈夫ですよ。違和感はありません、むしろ気持ちいいくらいで……って、い、今のは違います! 決して、その、あ、ああれが気持ち良かったということではなく、薬の効果がry」

「……先生何いっているの?」

 

俺はキョトンとしているのだが非常にテンパった様子で、しどろもどろになりながら体調に異常はないことは分かった。

すると慌てたようにハジメも戻ってくる

 

「シアは?」

「ハナが治療した。一応跡も残らないって。」

 

するとドヤ顔でハジメを見るハナに少し驚いていたが

 

「ありがとな。」

 

柔らかい笑顔でそう答える。なんというか昔のハジメをみているみたいだな

 

「そういえば魔人族は?」

「悪い。逃げられた。」

「まぁ、俺も完全に忘れてたからな。」

 

俺もほおを掻いてしまう。

するとハジメは、一番清水に近い場所にいた護衛騎士の一人に声をかけた。

 

「……あんた、清水はまだ生きているか?」

 

その言葉に全員が「あっ」と今思い出したような表情をして清水の倒れている場所を振り返った。先生だけが、「えっ? えっ?」と困惑したように表情をしてキョロキョロするが、自分がシアに庇われた時の状況を思い出したのだろう。顔色を変え、慌てた様子で先生がいた場所に駆け寄る。

 

「清水君! ああ、こんな……ひどい」

 

清水の胸にはシアと同じサイズの穴がポッカリと空いていた。出血が激しく、大きな血溜まりが出来ている……おそらく、もって数分だろう。

 

「し、死にだくない……だ、だずけ……こんなはずじゃ……ウソだ……ありえない……」

 

傍らで自分の手を握る先生に、話しかけているのか、唯の独り言なのかわからない言葉をブツブツと呟く清水。先生は、周囲に助けを求めるような目を向けるが誰もがスっと目を逸らした。既に、どうしようもないということだろう。それに、助けたいと思っていないことが、ありありと表情に出ている。

先生は、藁にもすがる思いで振り返り、そこにいる俺に叫んだ。

 

「渋谷君! さっきの薬を! 今ならまだ! お願いします!」

「……」

 

俺は表情に嫌って顔が出ていたのだろうするとハジメが呆れたように言う

 

「助けたいのか、先生? 自分を殺そうとした相手だぞ? いくら何でも〝先生〟の域を超えていると思うけどな」

 

自分を殺そうとした相手を、なお生徒だからと言う理由だけで庇うことのできる、必死になれる〝先生〟というものが、果たして何人いるのだろうか。それは、もう〝先生〟としても異常なレベルだと言えるのではないだろうか。そんな意味を含めて愛子にした質問の意図を先生は正確に読み取ったようで、一瞬、瞳が揺らいだものの、毅然とした表情で答えた。

 

「確かに、そうかもしれません。いえ、きっとそうなのでしょう。でも、私がそういう先生でありたいのです。何があっても生徒の味方、そう誓って先生になったのです。だから……」

 

俺は多分そういうと思っていたのでエリクサーを取り出す

でも、

 

「一つだけ聞きたいことがある。」

「……」

「お前は助かった後どうする?」

 

清水は、卑屈な笑みを浮かべて、命乞いを始めた。

 

「お、俺、どうかしてた……もう、しない……何でもする……助けてくれたら、あ、あんたの為に軍隊だって……作って……女だって洗脳して……ち、誓うよ……あんたに忠誠を誓う……何でもするから……助けて……」

「……はぁ。」

 

こりゃダメだ。本当にダメだ。

救いようがなさすぎる。

 

「……先生ごめん。」

 

俺は呟くともうどうするのかわかったらしい

俺は氷の剣を生成し

 

「ダメェ!」

 

先生の忠告を無視して心臓部に突き刺した。



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車内にて

誰も言葉を発せず、そしてほぼ全員が視線を俺に向ける

 

「……ハジメ。意見はあるか?」

「いや。俺でもそうしている。てかお前は大丈夫なのか。」

「俺はもう何度も山賊を殺してきたからな。最初は吐いたけど今は大丈夫。あんまりいい気分じゃないけど。」

 

実際クラスメイトを殺したわけだ。……さすがに少しくるものはある

 

「じゃあどうして。」

 

先生は呆然と、死出の旅に出た清水の亡骸を見つめながら、そんな疑問の声を出す。先生の瞳には、怒りや悲しみ、疑惑に逃避、あらゆる感情が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていく。

 

「また同じ惨劇が起こる可能性。いや絶対に起こることを俺は見過ごせるほど甘くはない。もうあいつは堕ちていた。……それだけだよ。」

「そんな! 清水君は……」

「先生も分かっているんだろ。」

 

俺は少し強めに答える。すると先生もおそらく気づいてはいるのだ。

最後の質問をしたときの清水の目は、何より雄弁に清水が〝堕ちている〟ことを物語っていた。死の淵で、殺そうとした先生になお心を向けられて、あるいは生き方が少しでも変わるのではないかって。もしそうなら、チャンスを与える事も考えていた。しかし、死に際の清水の目に、そんな兆しは微塵もなかった。

だから黙り混んでしまう。

 

「……俺にだって優先順位があるんだ。……どんな理由を並べても、先生が納得しないことは分かる。俺は、先生の大事な生徒を殺したからな。」

「……」

「でも殺すしかなかった。誰に何を言われようが俺はあの選択が間違っているとは思わない。」

 

俺はそういうと背中を向ける

 

「……ハジメ。」

「あぁ。先入ってろ。ウィル。ケンに付いて行ってくれ。」

「は、はい。」

 

ハジメは魔力駆動四輪を取り出し俺はその後部座席に乗る

手に未だに肉を切った感触が残り、手にはついてもいないのに血がついたように感じる

 

「パパ。」

「ん。」

 

俺はハナを抱きしめると少し顔を歪める

 

「……」

 

この感触だけは忘れてはいけない。そう心に刻みながら。

 

「……あの、本当にあのままでよかったのですか? 話すべきことがあったのでは……特に愛子殿には……」

ハジメは振り向かないまま、気のない返事をする。

 

「ん~? 別に、あれでいいんだよ。あれ以上、あそこにいても面倒なことにしかならないだろうし……先生も今は俺たちがいない方がいい決断が出来るだろうしな」

「……それは、そうかもしれませんが……」

「お前……ホント人がいいというか何というか……他人の事で心配し過ぎだろ?」

「お前それ褒めているわけではないよな。まぁ確かにお人好しが過ぎると思うけど。」

「……いい人」

「お兄ちゃんはいい人です。」

「いい人ですねぇ~」

「うむ、いい奴じゃな」

 

ウィルは、一斉に送られた言葉に複雑な表情だ。褒められている気はするのだが、女性からの〝いい人〟というのは男としては何とも微妙な評価だ。

 

「わ、私の事はいいのです……私は、きちんと理由を説明すべきだったのではと、そう言いたいだけで……」

「理由?」

 

ハナが不思議と首を傾げる

 

「ええ。なぜ、愛子殿とわだかまりを残すかもしれないのに、清水という少年を殺したのか……その理由です」

「……言っただろ。殺さないと惨劇がおこるからって。」

「それは、彼を〝助けない〟理由にはなっても〝殺す〟理由にはなりませんよね? だって、彼はあの時、既に致命傷を負っていて、放って置いても数分の命だったのですから……わざわざ殺したのには理由があるのですよね?」

「……意外によく見ているんだな」

 

ハジメは気づいているのか少し苦笑している

 

「……お前は自分を犠牲にしすぎだ。」

「……うっせぇ。」

「どういうことですか?」

「要は、先生が清水の死に責任を感じないように意識を逸らしたんだよ。」

 

シアの問いにハジメが答える

 

「清水は言っていた。自分が出会った魔人族の目的は、〝豊穣の女神〟である先生の殺害であると。それは取りも直さず、先生を殺すために清水を利用したということだ。最後のあの攻撃も。」

「あっ先生を殺すために。」

「もちろん、清水の死に対して先生が負うべき責任などない。清水は自分の意志と欲望のために魔人族に魂を売り渡し、その結果が自身の死だったというだけの話だ。自らの選択の結果である以上、その責任は清水自身が負うべきものであるし、そうでなくても、直接清水に致命傷を与えた例の魔人族に責任はあるというべきである。先生は責任感が強く何時でも生徒の事を一番に考えている愛子のことだ。自分に巻き込まれて清水は死んだ。すなわち、自分のせいで清水は死んだと考えたんだろ?」

「……お前エスパーかよ。」

「お前がやらなきゃ俺がやっていたからな。」

 

すると俺はキョトンとハジメの方を見る

そして俺はため息を吐く

 

「似た者同士ってわけか。」

「そういうことだ。」

「まぁ、他にも理由があるけどな。」

「……他にもか?」

 

そっちは気づかなかったのか。

 

「……先生の努力を無駄にしないためだよ。先生曰く今先生の護衛に回っている生徒、王都でトラウマになっている居残り組に後迷宮組がいるらしいんだよ。」

「あぁ。……ってそういうことか。」

「……どういうこと?」

「つまり教会が清水を裏切りの見せしめに殺すことを阻止したかったんだろ?」

「「「なっ。」」」

 

驚いたようにしている4人に俺は続きを話す

 

「あぁ。特に王都でトラウマになっている生徒には効果的だろうな。自分が教会の役に立たないと清水みたいになるって思わせることによって前線の参加を圧迫させる。それに一度それは前科があるからな。」

「……なるほど。私等じゃのう。」

 

ティオの言葉に頷く

 

「そういうことだ。見せしめを作ることによって活動を促す。絆を強くさせるのはよくあるてだ。」

「お前よくそんなこと思いつくよな。」

 

唖然と俺を見るハジメ。

 

「まぁ、どっちにしろ、先生を傷つけたことは変わりはないけど。」

「……でも、愛子は気がつくと思う」

「……なんでだ?」

 

俺はぶっきら棒に聞いてみる

 

「……愛子は、ハジメの先生。ハジメの心に残る言葉を贈れる人。なら、気がつかないはずがない……」

「……ユエ」

「……大丈夫。愛子は強い人。ハジメが望まない結果には、きっとならない」

「……俺じゃなくてハジメの信頼なんだな。」

 

俺は少し苦笑してしまう

 

「はぁ~、また二人の世界作ってます……何時になったら私もあんな雰囲気を作れるようになるのでしょう……」

「こ、これは、何とも……口の中が何だか甘く感じますね……」

「むぅ~妾は、罵ってもらう方が好みなのだが……ああいうのも悪くないのぉ……」

「パパファイトなの。」

 

ハナしか慰められないってなんか居心地悪いけど

 

「……はぁ。まぁ終わったことは仕方ない切り替えますか!!」

 

俺は頭を振りすぐさま思考を切り替える

 

「……シア。その、何だ、今回は助かった。遅くなったが……ありがとな」

「……………………誰?」

 

ハジメ多少照れくさくとも我慢して礼を言った結果、返ってきたのは驚愕の表情とそんな言葉だった。ハジメの額に青筋が浮かぶが、自業自得と言えばそれまでなので我慢する。

 

「……まぁ、そういう態度を取られても仕方ないかとは思うがな……これでも、今回は割りかしマジで感謝してるんだぞ?」

「てか元々お礼はきちんと言える奴だからなハジメは。」

「そういえばお前もシアを助けてくれてありがとな。」

「いや、仲間だしそりゃ助けるだろ。別にいい。」

「え、えっと、いえ、そんな、別に大した事ないと言いますか、そんなお礼を言われる程の事ではないといいますか、も、もう! 何ですか、いきなり。何だか、物凄く照れくさいじゃないですか………………えへへ」

 

てれてれと恥ずかしげに身をくねらせるシアに、ハジメは苦笑いしながらを尋ねる。

 

「シア。少し気になったんだが……どうしてあの時、迷わず飛び込んだんだ? 先生とは、大して話してないだろ? 身を挺するほど仲良くなっていたとは思えないんだが……」

「それは……だって、ハジメさんが気にかける人ですから」

「……それだけか」

「? ……はい、それだけですけど?」

「……そうか」

 

居心地悪いなぁ。すぐ甘ったるい空気を作ることに苦笑してしまう

 

「シア。何かして欲しい事はあるか?」

「へ? して欲しい事……ですか?」

「ああ。礼というか、ご褒美と言うか……まぁ、そんな感じだ。もちろん出来る範囲でな?」

 

いきなりの言葉に、少し困惑するシア。仲間として当然の事をしたと考えていたので、少々大げさではないかと思う。「う、う~ん」と唸りながら、何気なく隣のユエを見ると、ユエは優しげな表情でシアを見つめ、コクリと頷いた。ユエは、ハジメの感謝の気持ちなのだと視線で教え、素直に受け取ればいいと促す。それを正確に読み取ったシアは、少し考えた後、にへら~と笑い、ユエに笑みを浮かべて頷くとハジメに視線を転じた。なんか嫌な予感がするからハナの耳を塞いでおこう

 

「では、私の初めてをもらっ『却下だ』……なぜです? どう考えても、遂にデレ期キター!! の瞬間ですよね? そうですよね? 空気読んで下さいよ!」

「〝出来る範囲で〟と、そう言っただろうが」

「十分出来る範囲でしょう! さり気なく私を遠ざけてユエさんとはしてるくせに! 知っているのですからね! お二人の情事を知るたびに胸に去来する虚しさときたら! うぅ、フューレンに着いたら、また私だけお使いにでも行かせて、その隙に愛し合うんでしょ? ぐすっ、また、私だけ……一人ぼっちで時間を潰すんですね……ツヤツヤしているユエさんを見て見ぬふりしなきゃなんですね……ちくしょうですぅ……」

「いや、おまっ、何も泣かなくても……俺が惚れているのはユエなんだから、お前の事は、まぁ、大事な仲間だとは思うが恋情はなぁ……そんな相手を抱くっつうのは……」

「……ぐすっ……ハジメさんのヘタレ!」

「……おい」

「根性なし! 内面乙女のカマ野郎! 甲斐性なし! ムッツリスケベ!」

「……とりあえずシア。できれば下ネタ系はここでは言わないでくれないか?ここハナがいるから。」

「「「……あっ。」」」

 

すると俺はなんで耳を塞ぐのって聞いてくるハナに俺はなんでもないって言って頭を撫でる

 

「ご、ごめんなさい。」

「本当に頼む。俺も結構気を使っているんだから。」

「シア。もうちょいハードルを下げろ。それ以外なら……」

「……ハジメ、ダメ?」

 

何故かユエから援護射撃が来る。シアは、「ユエさぁ~ん」と情けない声を上げながらヒシッとユエに抱きついた。明らかに、ユエは、ハジメがシアを抱くことを容認しているようだ。

 

「……俺が、心から欲しいと思うのは、ユエ、お前だけなんだ。シアの事は嫌いじゃないし、仲間としては大事にしたいとは思うが……ユエと同列に扱うつもりはない。俺はな、ユエに対して独占欲を持ってる。どんな理由があろうと、他の男が傍にいるなんて許容出来そうにない。心が狭いと思うかもしれないし、勝手だとも思うかもしれないが……ユエも同じように思ってくれたらと、そう思う。だから、例え相手がシアでも、他の女との関係を勧めるというのは勘弁してくれないか?」

「……ハジメ」

「……はぁ。今はシアの話だろ。二人の世界に入るなよ。」

 

俺は忠告する

 

「……なるほど、お三人の関係が何となく分かってきました……シア殿は大変ですね」

「むぅ……ユエとの絆が深いのぅ……割り込むのは大変そうじゃが……まぁ、妾は罵って貰えればそれだけでも……」

「パパ。ティオさんは?」

「ほっとけ。見たらいけない。」

 

ウィルがハジメ達三人の関係を察しつつ砂糖を吐きそうな表情をする。恐らく俺もそんな顔をしているだろう

 

「……ハジメ、ごめんなさい。でも、シアも大切……報いて欲しいと思う。だから、町で一日付き合うくらいは……ダメ?」

「ユエさぁ~ん」

 

なお、ハジメにシアの事を頼むユエ。シアは、頭を撫でながら心を砕いてくれるユエに甘えるようにグリグリと顔を押し付ける。ハジメは、その様子を見て苦笑いしながら答えた。

 

「別に、それくらい頼まれなくても構わないさ。というか、ユエに頼まれたからってんじゃシアも微妙だろ? シアが頼むなら、それくらいは付き合うよ」

「ハジメさん……いえ、なりふり構っていられないので、既成事実が作れれば何だっていいんですけどね!」

「……ホントお前って奴は……」

「まぁ、まだそれは無理そうなので、取り敢えず好感度稼ぎにデートで我慢します。フューレンに着いたら、観光区に連れて行って下さいね?」

「ああ、わかったよ」

 

暗に、特別はユエだけだと改めて伝えたつもりなのだが、おそらく分かっていながら全くめげないシアに複雑な表情をしつつも、「まぁ、シアの好きにしたらいいか」とデートの申し込みを了承するハジメ。ハジメ自身、既にシアが大切な存在であることに変わりないのでだろう。ユエに頼まれたから仕方なくではなく、今回の頑張りに報いようと本心から了承した。傍らのユエが、優しげな表情で「わ~い!」と喜びを表にするシアの頭をなでなでする。

 

「パパ。私も観光区に行ってみたい!!」

「……ん?」

「私も行きたい。パパも気分転換で一緒に遊ぼうよ。」

「……ん〜でも買い物が。」

「それなら私がやっておく。」

 

するとユエがそんなことを言い出す。

 

「いいのか?」

「……うん。二人にはシアを助けてもらった、だから。」

「……仲間だから遠慮しないでいいのに。まぁお言葉に甘えさせてもらうってうぉ。」

 

すると荷台と車内をつなぐ窓から頭だけ車内に入れて、先程からちょくちょく会話に参加してくるティオがいた

 

「怖すぎだろこれ。」

 

俺の言葉に全員が頷く

 

「それとハジメ。ティオは連れていくことは俺が許可したから。」

「「「は?」」」

「いや。ここシア以外に前衛いないだろ?ティオの耐久力は見ての通りだし、肉壁くらいにはなる。精神対抗も寝てなければ多分俺でも通すことは不可能だし、何よりも。」

 

俺は呆れてはぁはぁしているティオをみて

 

「竜人族をあぁした責任くらい取れ。」

「……」

「確かに。」

「……自業自得。」

 

全員に囲まれてついに四面楚歌になったハジメは嫌々ながらティオの加入を認めるのだった。



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フューレンにて

「へぇ〜ここがフューレンか。」

「お前は初めてだったよなぁ。」

「てか騒がしいけどどうしたんだ?」

 

俺は体を伸ばす。少し寝ていたせいか体が痛い。

賑やかな街並みが

 

「あんなことがあったのによく寝れましたね?」

「夜中ずっと運転してたから仕方ないだろうが。」

 

と俺は夜ハジメから教わり運転を交代して夜の運転していたのだ

 

「パパおはよう。」

 

夜中俺が寝るまで起きていると言っていたとおり俺とずっと夜の運転を話しながらしていたハナは瞼を擦りながらこっちにくる。

予定よりも急いだのは理由があるのだがそれはまたの機会に語るとしよう

 

「ハナおはよう。」

 

すると俺に抱きついてくるハナ。どうやら寝足りないらしい。

 

「……可愛すぐる。」

「本当に可愛いですね。」

「……むぅ。」

「今日はお仕事だから少し寝てていいぞ。」

「……うん。」

「よっと。」

 

俺はハナを抱っこする

 

「そういや今日は冒険者ギルドに行くんだよな?」

「あぁ。ハナの分のステータスは?」

「改善済み。気配感知を使われなかったら俺と他の人もごまかせるしな。」

「それ犯罪ですよね?」

「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。」

「……お前。」

 

頭を抱えるハジメ

 

「まぁ、それに精霊術師なんて教会にバレようものなら一発で目をつけられるからな。」

「……どういうことだ?」

「精霊って一体一体がユエ一人分くらいの強さなんだよ。特に上位精霊なんかは俺やハジメでも勝てないだろうな。」

「……ちょっと待て。そんなに強いのか?」

 

ハジメは驚くけど俺は呆れたようにみる

 

「精霊ってあの山脈のトップだぞ?無限に魔法を使い、さらにその威力は桁違い。精霊王だけで王国程度だったら1日で滅ぼせるくらいには強い。」

「それってハナちゃんもですか?」

「ハナは精霊魔法は回復魔法とライフセンサーしか使えないんだよ。その分回復に特化しているのと固有スキルの再生を持っている。ついでにハナとスキルを共有しているから俺も再生がついているな。」

「「えっ。」」

 

するとユエとハジメが固まる

 

「……それってもしかして私みたいに不死ってこと?」

 

その言葉に俺は目を見開く。そっか同じスキルを持った奴がいたのか。

 

「そうだな。というよりも俺の場合不死になるしかなかったんだよ。そうしないと俺はあの山脈の中でもう何度も死んでいるし。」

 

何度も魔物に食われ、何度も焼かれたり首をチョキンパされることもあった。

 

「もう俺は年をとることも死ぬこともないだろうし。もしかしなくても人間ではないだろうな。腕チョキンパされても頭を切られても数十秒後には再生するのだし。元々ハナのために化け物になる覚悟はしてたから。」

「……ハナちゃんのこと大切なんですね。」

「娘を大切にしない父親なんていないっつーの。」

 

俺はハナの頭を撫でるとぎゅっと必死に掴んでくる

大丈夫。絶対に一人にはさせないから

 

「パパさんですね。」

「すっかりお父さんだな。」

「……いいお父さん。」

「……ちょっと恥ずいからやめてくれ。」

 

さすがに少し照れてしまう。

そしてその後はそのことを弄られながらギルドまでの道を歩いていくのだった

 

 

現在、冒険者ギルドにある応接室に通されていた。待つこと五分。男性が部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできた

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認する男性。それだけ心配だったのだろう。

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

どうやらイルワと呼ばれる男性は、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いにくよう促す。ウィルは、イルワに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、ついで、ハジメ達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。ハジメとしては、これっきりで良かったのだが、きちんと礼をしないと気が済まないらしい。

ウィルが出て行った後、改めてイルワとハジメが向き合う。イルワは、穏やかな表情で微笑むと、深々とハジメに頭を下げた。

 

「ハジメ君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」

「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の剣様?」

「うわぁ。ハジメ二つ名持ちじゃん。」

 

笑いながら俺は爆笑する。すると分かりきっていた様子にハジメはイラっときたのだろう。ジト目で俺を見てくる

 

「お前まさか。」

「先生の抑止力にお前を使ったんだよ。教会はバカじゃなければ今ハジメとぶつかるのは得策じゃないって気付くはずだ。まぁ先生も危険な思いをさせるんだし気休め代わりにな。」

「……はぁ。本当いい性格してやがる。随分情報が早いな」

「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

そう言って苦笑いするイルワ。最初から監視員がついていたらしい。ギルド支部長としては当然の措置なので、特に怒りを抱くこともないハジメ。むしろ、支部長の直属でありながら、常に置いていかれたその部下の焦りを思うと、中々同情してしまう。

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」

「ああ、構わねぇよ。だが、その前にユエとシアのステータスプレートを頼むよ……ティオは『うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの』……ということだ」

「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

そう言って、イルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを三枚持ってこさせる。

 

ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

 

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

 

「……シアまだ40レベなのか。」

「……お前。魔力7万って。ユエの10倍あるじゃないか。」

 

ハジメには俺の本当のステータスを見せているのだが呆れたように俺を見ていた

 

「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

 

 冷や汗を流しながら、何時もの微笑みが引き攣っているイルワに、ハジメはお構いなしに事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

「……それで、支部長さんよ。あんたはどうするんだ? 危険分子だと教会にでも突き出すか?」

「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう? 君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

「……そうか。そいつは良かった」

 

 ハジメは、肩を竦めて、試して悪かったと視線で謝意を示した。

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」

 

他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。何でも、今回のお礼もあるが、それ以上に、ハジメ達とは友好関係を作っておきたいということらしい。ぶっちゃけた話だが、隠しても意味がないだろうと開き直っているようだ。

その後ウィルの両親が来たのはいいんだけど、……シャレも自重も行きすぎているハジメたちに俺はひたすら頭を下げ続けたことになったのは言うまでもないだろう。



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紫と合流

「パパ〜早く早く。」

「はいはい。」

 

と俺は頭を下げつづけた翌日俺たちは観光区に来ていた

 

「……ふんふん。」

「……」

 

鼻歌交じりに歩いているハナと俺は逸れないように手を繋ぐ俺に周囲の人たちは微笑ましそうに俺を見る

元々獣人は宗教的に否定されているが、そんなの些細な問題なんだろう

 

「それでどこにいく?」

「お花畑。」

「……了解。」

 

一応ハジメから念話石を渡され何か問題があったらこれで連絡するようになっている

俺たちはお花畑の方に向かうと数百種類の花が色鮮やかに咲いている

 

「うぉ。結構想像以上に綺麗だな。」

「綺麗。」

 

目を輝かせながら走っていくハナ。

元々花のように色鮮やかな世界も見て欲しいってことでハナって名前をつけたのだが、目の前にあるお花畑は精霊の里に劣らぬ絶景だった

精霊というのは人工物にあまり興味はない。

自然そのままの花や生物、そして魔物と色々研究をしているらしいのだがハナはただ、この景色に見とれているのだろう。歓声をあげながら俺の見える範囲であるがはしゃいでいる

それもそのはずだろう。初めて見る世界は新鮮らしく、昨日の夜も夜遅くまで街並みを興奮したように話していた。

 

「……いるんだろ?紫。」

 

誰もいるようには見えない虚空に話してみるとすると空間魔法で紫が出てくる

 

「あら。気づいていたのかしら。」

「生憎気づかない方が難しいだろ。後始末についても聞いておきたいし。先生たちについてもな。」

「……それもそうね。隣いいかしら。」

「大丈夫。多分昼少しすぎたあたりでハジメに呼ばれると思うからそれまではな。」

 

すると俺と紫はハナに一言入れてそして近くのベンチに座り込む

 

「先生が気付いたわ。」

 

すぐに本題に入り紫の話が始まる

どうやら水妖精の宿のオーナーにより俺の行為に気付いたらしい

俺は少ししか話してないが人当たりの良さそうな、そして顧客第一の人なので先生に忠告したのであろう

そして勇者の動きについては現在88層を攻略しているらしい。

どうやら勇者の動きは攻略した後に戦争にするらしいが人殺しの経験は未だにないらしい。

なので紫曰く全く役に立たないと言われるほどにだ

そして最後に本題に入る

 

「教会と魔人族の動きは?」

「……教会は分からないけど、魔人族は大迷宮の攻略に向かうみたい。」

「大迷宮か、早かったな。」

「えぇ。今はオルクスが魔人族が入っているけど。」

「あそこは200階近くあるだろ?俺落下してそこ転移したけど150層近くはあると思ったんだけど。」

「えぇ。人数は一人だから魔物をいくら連れていようと攻略は多分できないわ。あなたたちみたいな化け物がいない限りは。」

「つまり。勇者の勧誘および暗殺か。」

 

紫が頷く。

 

「えぇ。多分だけどね。」

 

なるほど。なるべく早めに行った方が良さそうだな

 

「んでそっちはどうするんだ?」

「それがね。私もついていこうと思うの。」

「……はい?」

 

俺はキョトンとしてしまう

 

「私精霊王をやめてあなたについていこうと思うの。」

 

その言葉に息を呑む

 

「お前よりも強い奴が現れ……ってそれはないか。」

「えぇ。ただ私も外の様子を見ておきたいのよ。これから世界は大きく変わる。それがどうなるのか。どう移り変わるのか知っておきたいのよ。次期精霊王は決めてあるし。要請も通ったわ。」

「……いや、お前多分もうした後だろ?というよりもお前行動力はずば抜けてあるからな。空間魔法については?」

「空間魔法は覚えてないわよ。力も中位くらいだわ。」

「……シヴァか。」

 

俺の言葉に頷く。上位にも中位にも人望がある奴なので俺も少し話したことがあった

 

「えぇ。十分だと思うけど。」

「だろうな。」

「パパ。」

 

すると花飾りを持った手を振っているハナ。時間をみるとここにきてから既に1時間を回っている

 

「もうそろそろ飯にするか。」

「うん。」

「紫も飯にするか。何が食べたい?」

「私あんまり肉っていうものを食べたことないから肉がいいわね。」

 

と言いながら俺たちは飯屋に向かうことになった



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ミュウ

「……んで?何か言い訳は?」

「カッとなったので計画的にやった後悔も反省もない。」

「……お前なぁ。」

 

俺はジト目でハジメを見る。結局俺らはサーカスを見たり、公園でのんびりしていると何か騒がしかったので嫌な予感がしたと思い俺が水族館のところに向かうと水槽やら壁やらを破壊してリーマンが空を飛んで逃げたという話を聞いた。

それを聞き俺はハジメを呼び出すと何故か海人族の女の子を連れて帰ってきたのだ

詳しく聞いたところその女の子が拐った人身売買している組織の関連施設を潰し回っていたらしい

 

「……なんていうか俺も結構トラブルメイカーの自覚あるんだけどお前最近度が過ぎないか?冒険者ギルドで俺がどれだけイルワさんに頭を下げたのか分かっているのか?」

 

結構ガチで説教する俺にハジメは悪かったよと反省もしてないようなことをいう

 

「とりあえず始末書は書いておいたしえっと確か。」

「ミュウだ。」

「ミュウは連れて行くことになったんだろ?お前買い出しもう一回行く羽目になったじゃねーか。」

「……は?そこ?」

 

するとキョトンと俺を見る

 

「いや。別に仲間がふえるっておかしいことじゃないし俺も一人連れてきているしなぁ。」

「……どこで拾ってきたんだよ。」

「だから言ったろ?精霊なんだって。まぁ少し前まで精霊王やっていた化け物だけど。」

「ちょっと人を化け物扱いなんてひどいじゃない。」

「いや。5属性の魔法を同時展開できる方がおかしいからな。」

「……あんたはたった2ヶ月で4属性同時展開できるでしょうに。」

「……どっちもどっち。両方おかしい。」

 

ユエに正論を突かれて俺も紫も黙ってしまう

 

「……と、とりあえず買い物はしなおそうか。それと紫曰くやっぱり助けに行った方がよさそうだぞ。」

「そういえば魔人族が勇者暗殺に動いているんだよな?」

「えぇ、精霊族は元々幻の種族。それはどこででも現れることができるからでほとんどの人が見えないから幻って呼ばれるの。だから諜報活動にも優れているのよ。私たちの敵だと判断した時は暗殺だってするから。」

 

……そうなんだよなぁ。俺も初めて知った時はかなり驚いたことだった

 

「……幻影魔法と暗殺ってかなりまずいんだよなぁ。実際気配感知では気付けても視界には見えないし。」

「妖精って怖い種族だったのですね。」

 

シアが少し怯えたようにしている

 

「とりあえず買い出しと今後について話すけど。とりあえずこれからホルアドに向かってオルクスの大迷宮に向かおうと思う。ぶっちゃけ勇者の救出ついでに俺たちの生存報告をしようと思っている。」

「……勇者?生存報告は分かりますが。お二人がクラスメイトさんを助ける必要なんてあるんですか。」

「それは私が説明するわ。」

 

すると紫が話し始める

そして話終わったときにハジメが真剣な目になる

 

「……魔人族か。」

「あぁ。一応俺たちは八重樫と谷口、白崎は俺たち仲よかっただろ?俺は遠藤とも仲いいし。正直今の天之河ならすぐに蹂躙されるだろ?」

「神に選ばれた勇者になんて、わざわざ自分から関わりたくはないし、あいつら達を関わらせるのも嫌なんだが……」

「同感だけどな。さすがに俺らだけ生きていたらあっちで面倒臭いだろ?マスコミとか。」

「まぁ、そうだな。」

 

実際俺はマスコミの怖さについては両親で経験済みだしなぁ

 

「……まぁ明日には出発するか。正直ここにいたら何かトラブルに巻き込まれそうだし。ホルアドまで今のペース的に5日あればいけるだろ?ミュウの依頼もあるし。」

「そうだな。」

「パパ。その人だれ?」

 

すると海人族のミュウが俺を指をさす

 

「パパ?」

「パパはパパなの。」

「……えっと。まさか。」

「……悪いか?」

 

いや。ちょっと意外だった。まさか引き受けるなんて

……先生の忠告が効いているのか?

 

「……俺はケント。ケンでいいぞ。」

「ケンお兄ちゃん?」

「そうだぞ。それで。こっちはハナ。」

「……?」

 

キョトンとハナは首を傾げる

するとミュウから近づき話しはじめる

その光景は微笑ましく、そしてこれから始まる戦争前のつかの間の平穏だった。



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再び思い出の地へ

「ヒャッハー! ですぅ!」

 

左側のライセン大峡谷と右側の雄大な草原に挟まれながら、魔力駆動二輪と四輪が太陽を背に西へと疾走する。街道の砂埃を巻き上げながら、それでも道に沿って進む四輪と異なり、二輪の方は、峡谷側の荒地や草原を行ったり来たりしながらご機嫌な様子で爆走していた。

 

「……シアのやつご機嫌だな。世紀末な野郎みたいな雄叫び上げやがって」

「……むぅ。ちょっとやってみたいかも」

「まぁ、風は気持ちよさそうだな。…ちょっとうざいけど。」

 

すると今度はミュウがユエの膝に乗り

 

「パパ! パパ! ミュウもあれやりたいの!」

 

シアの方を指差してハジメにおねだりを始めた

 

「ダメに決まってるだろ」

 

即答だった。

 

「……まぁ私たちはそら飛べるからどちらかというならば空の旅の方がいいわね。」

「空気抵抗抑えるために空間魔法必須だけどな。」

「……スースー。」

 

ついでにハナと紫は俺の肩の上で眠っている

 

「ミュウ。後で俺が乗せてやるから、それで我慢しろ」

「ふぇ? いいの?」

「ああ。シアと乗るのは断じて許さんが……俺となら構わねぇよ」

「シアお姉ちゃんはダメなの?」

「ああ、絶対ダメだ。見ろよ、あいつ。今度は、ハンドルの上で妙なポーズとりだしたぞ。何故か心に来るものがあるが……あんな危険運転するやつの乗り物に乗るなんて絶対ダメだ」

「安全第一だな。さすがにあれはダメだろ。」

 

俺はハジメに子供の接し方について教えることになっているのだが、ハジメの親バカっぷりはちょっとだけ異常だ。

 

「そもそも、二輪は危ないんだから出来れば乗せたくないんだがなぁ……二輪用のチャイルドシートとか作ってみるか? 材料は……ブツブツ」

「ユエお姉ちゃん。パパがブツブツ言ってるの。変なの」

「……ハジメパパは、ミュウが心配……意外に過保護」

「意外じゃないだろ。案外子供とかうさ耳とか普通のものが好きなハジメだし。」

「フフ、ご主人様は意外に子煩悩なのかの? ふむ、このギャップはなかなか……ハァハァ」

「ユエお姉ちゃん。ティオお姉ちゃんがハァハァしてるの」

「……不治の病だから気にしちゃダメ」

「……やっぱ連れてこない方がよかったかなぁ。」

 

俺はため息をつく

基本的に俺とユエが基本的にストッパーになるのだが、自重をやめないこいつらのフォローはすでに諦めているところである

 

「「……はぁ。」」

 

俺とユエの声が重なり、ミュウ専用の座席作りに思いを馳せてブツブツ呟くハジメと、遂に二輪に乗ることすらなく走らせた二輪の後部に捕まって地面を直接滑り始めたシアを見ながら、自分がしっかりしなきゃ! とちょっと虚しい決意をするのだった。

 

「懐かしいな。」

「あぁ。まだ4ヶ月程度しかたってないのに何年も前のような気がするな。」

「……ハジメ、大丈夫?」

 

 複雑な表情をするハジメの腕にそっと自らの手を添えて心配そうな眼差しを向けるユエ。ハジメは、肩を竦めると、次の瞬間にはいつも通りの雰囲気に戻っていた。

 

「ああ、問題ない。ちょっとな、えらく濃密な時間を過ごしたもんだと思って感慨に耽っちまった。思えば、ここから始まったんだよなって……緊張と恐怖と若干の自棄を抱いて一晩過ごして、次の日に迷宮に潜って……そして落ちた」

「……」

「普通に学生だったからな。平和な国で育ってきたし、お前はステータスの関係上俺よりも怖かっただろうしな。」

 

ティオが、興味深げに俺たちに尋ねた。

 

「ふむ。ご主人様達は、やり直したいとは思わんのか? 元々の仲間がおったのじゃろ? ご主人様の境遇はある程度聞いてはいるが……皆が皆、ご主人様を傷つけたわけではあるまい? 仲の良かったものもいるのではないか?」

すると少し考え始める。俺の意見よりもとりあえずは分かりきっているハジメの意見を知りたい

「確かに、そういう奴等もいたな……でも、もし仮にあの日に戻ったとしても、俺は何度でも同じ道を辿るさ」

「ほぅ、なぜじゃ?」

ハジメの様子を見れば答えは自ずとわかるものだが、ティオは、少し面白そうな表情であえて聞いた。ハジメは、ユエから目を離さないまま、自分を掴むユエの手に自らの反対側の手を重ねて優しく握り締める。ユエの表情が僅かに綻ぶ。頬も少し赤く染まっている。

「もちろん……ユエに会いたいからだ」

「……ハジメ」

 

インストリートのど真ん中で、突如立ち止まり見つめ合い出すハジメとユエ。周囲のことなど知ったことかと二人の世界を作って、互いの頬に手を伸ばし、今にもキスしそうな雰囲気だ。

 

「ティオさん、聞きました? そこは、〝お前達に〟っていうところだと思いません? ユエさんオンリーですよ。また、二人の世界作ってますよ。もう、場所も状況もお構いなしですよ。それを傍から見てる私達にどうしろと? いい加減、あの空気を私との間にも作ってくれていいと思うんです。私は、いつでも受け入れ態勢が整っているというのに、いつまで経っても、残念キャラみたいな扱いで……いや、わかっていますよ? ユエさんが特別だということは。私も、元々はお二人の関係に憧れていたからこそ、一緒にいたいと思ったわけですし。だから、ユエさんが特別であることは当然で、それはそうあっていいと思うんですけどね。むしろ、ユエさんを蔑ろにするハジメさんなんてハジメさんじゃないですし。そんな事してユエさんを悲しませたら、むしろ私がハジメさんをぶっ殺す所存ですが。でも、でもですよ? 最近、ちょっとデレてきたなぁ~、そろそろ大人の階段上っちゃうかなぁ~って期待しているのに一向にそんなことにならないわけで、いくらユエさんが特別でも、もうちょっと目を向けてくれてもいいと思いません? 据え膳食わぬは男の恥ですよ。こんなにわかりやすくウェルカムしてるのに、グダグダ言って澄まし顔でスルーして、このヘタレ野郎が! と思ってもバチは当たらないと思うのですよ。私だってイチャイチャしたいのですよ! ベッドの上であんなことやこんなことをして欲しいのですよ! ユエさんがされてたみたいなハードなプレイを私にも! って思うのですよ! そこんとこ変態代表のティオさんはどう思います!?」

「シ、シアよ。お主が鬱憤を溜め込んでおるのはわかったから、少し落ち着くのじゃ。むしろ、公道でとんでもないこと叫んでおるお主の方が注目されとる。というか、最後さりげなく妾を罵りおったな……こんな公の場所で変態扱いされてしもうた、ハァハァ、心なし周囲の妾を見る目が冷たい気がする……ハァハァ、んっんっ」

「……はぁ。」

 

さすがにメンドくさいので放っておくか

 

「それでケンはどうなの?」

「俺はやり直すんだったらやり直したいな。」

 

すると全員がこっちを見る。まさかやり直したいって言葉が出るとは思っても居なかったんだろう。

 

「さすがに生きるために不死になったんだけど。……これからどんなことがあって身近な人が死んでいくのにそれをただ見ているだけになるっていうのはやっぱりちょっと怖いな。ハナや紫と出会えたって点ではいいところだと思うけど。それでも。八重樫や谷口は無茶しやすいから、少し心配だな。」

 

実際あの二人は自分がどんだけ怖かろうが前線で居続けるだろう

 

「お前な少しは自分のこと考えろよ。」

 

呆れたように俺を見るハジメ

 

「……お前より俺は結構気を使うんだぞ。そういう家庭でそだってきたものだから仕方ないのかもしれないけど。」

 

実際俺の家はほぼ俺一人で家事を回していたしな。

 

「家帰ったらゴミ屋敷になってないかまじで不安だよ。」

「……お前の親ひどいもんな。」

 

俺の雰囲気でお通夜モードのまま俺たちはギルドへ向かうのだった



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魔人族

ようやく冒険者ギルドのホルアド支部に到着した。相変わらずハジメはミュウを肩車したまま、俺はハナを抱っこしながらだったのだが。ハジメはギルドの扉を開ける。他の町のギルドと違って、ホルアド支部の扉は金属製だった。重苦しい音が響き、それが人が入ってきた合図になっているようだ。

俺たちが入ると冒険者の目線が俺たちに集まる。その眼光のあまりの鋭さに、ハジメに肩車されるミュウが「ひぅ!」と悲鳴を上げ、ヒシ! とハジメの頭にしがみついた。

ハナは相変わらずこんな時でも眠っているので大物としか言えないだろう

最近めっきり過保護なパパになりつつあるハジメが、仮とは言え娘を怯えさせられて黙っているわけがなかった。既に、ハジメの額には青筋が深く深~く浮き上がっており、ミュウをなだめる手つきの優しさとは裏腹にその眼は凶悪に釣り上がっていた。

 そして……

 

ドンッ!!

 

そんな音が聞こえてきそうなほど濃密にして巨大かつ凶悪なプレッシャーが、ハジメ達を睨みつけていた冒険者達に情け容赦一切なく叩きつけられた。先程、冒険者達から送られた殺気が、まるで子供の癇癪に思えるほど絶大な圧力。既に物理的な力すらもっていそうなそれは、未熟な冒険者達の意識を瞬時に刈り取り、立ち上がっていた冒険者達の全てを触れることなく再び座席につかせる。

 

「……はぁ。やっぱりこうなった。俺受付してくるからそっちはなんとかしてろ。」

「……ん。」

 

ユエに呟くと頷く

俺は受付嬢のところに行き

 

「すいません。連れが騒ぎにしてしまって。」

「い、いえ。」

 

怯えながら震え声で対応する。

 

「……あの、本当にごめんな。後からちゃんと説教するんで。とりあえず支部長はいる? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているのだけど……本人に直接渡せと言われているから呼んでほしいんだけど。」

 

俺はステータスプレート。もちろんステータス表はギルドの許可も得てごまかせるようになったんだけど。

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

 普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどということはありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。しかし、渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

「き〝金〟ランク!?」

「最近なったばかりだから知らなくても気にしないでいいから。とりあえず気楽にね。」

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

「あ~、いや。別にいいから。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれないか?」

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

やがて、と言っても五分も経たないうち、ギルドの奥からズダダダッ! と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事だと、俺達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

俺は少し驚いたようにそいつを見る。どこか懐かしく、そしてこんなところで再会するとは思いもしてなかった

 

「「遠藤?」」

 

俺とハジメの呟きに〝!〟と某ダンボール好きな傭兵のゲームに出てくる敵兵のような反応をする黒装束の少年、遠藤浩介は、辺りをキョロキョロと見渡し、それでも目当ての人物が見つからないことに苛立ったように大声を出し始めた。

 

「南雲ぉ!ケン!いるのか!お前なのか!何処なんだ!南雲ぉ!ケン!生きてんなら出てきやがれぇ!」

「……ちょっと不味そうだな。」

 

ユエ達の視線が一斉にハジメの方を向く。ハジメは、未だに自分の名前を大声で連呼する遠藤に、頬をカリカリと掻くとあまり関わりたくないなぁという表情をしながらも声をかけた。

 

「あ~、遠藤? ちゃんと聞こえてるから大声で人の名前を連呼するのは止めてくれ」

「!? 南雲! どこだ!」

 

ハジメの声に反応してグリンッと顔をハジメの方に向ける遠藤。余りに必死な形相に、ハジメは思わずドン引きしている。

 

「よう。遠藤。」

 

俺が声かけるとすると遠藤は俺の方を見る

そして数十秒たって信じられないような顔を見たように俺を見た

 

「……もしかしてケンか?」

「おう。ついでにハジメもそこにいるぞ。」

 

俺は指さすとハジメの方を見る

 

「いや、どこに南雲がいるんだよ。」

「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位」

「!? また、声が!? ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

「三回中二回は開かないのか……お前流石だな」

「……てか俺以外誰も遠藤のこと見落とすからな。目の前の白髪眼帯の男がハジメだよ。」

 

遠藤は、まさかという面持ちで声をかけた。

 

「お、お前……お前が南雲……なのか?」

「はぁ……ああ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘南雲ハジメだ」

「久しぶりだな遠藤。俺もハジメも元気だから安心しろ。」

 

俺は笑うとすると嬉しそうに笑う遠藤。まぁ純粋にクラスメイトの生存が嬉しかったんだろう。目には涙が浮かんでいた

 

「……つまり、迷宮の深層から自力で生還できる上に、冒険者の最高ランクを貰えるくらい強いってことだよな? 信じられねぇけど……」

「まぁ、そうだな」

 

 遠藤の真剣な表情でなされた確認に肯定の意をハジメが示すと、遠藤はハジメに飛びかからんばかりの勢いで肩をつかみに掛かり、今まで以上に必死さの滲む声音で、表情を悲痛に歪めながら懇願を始めた。

 

「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、南雲!」

「……やっぱりこうなっていたか。」

 

俺はため息を吐く

 

「魔人族だろ?」

「……なんでそれを。」

「生憎先生を殺しにきた不届き者がいてな。紫が殺したらしいんだけど。その時に拷問をして吐かせたんだよ。てかメルド団長がいれば、二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし……」

 

普段目立たない遠藤のあまりに切羽詰った尋常でない様子に、困惑しながら問い返す。すると、遠藤はメルド団長の名が出た瞬間、ひどく暗い表情になって膝から崩れ落ちた。そして、押し殺したような低く澱んだ声でポツリと呟く。

 

「……んだよ」

「は? 聞こえねぇよ。何だって?」

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

「……そうか」

「……予想以上にやばいな。」

 

俺は軽くため息を吐く。そして横目にギルド長らしき人が来たのを確認して

 

「とりあえず後は中で話すぞ。ちょうどギルド長が来たらしいし。ハジメもミュウを紫とティオに預けた方がいいだろう。」

「あぁ。そうだな。ティオ。」

「うむ。承知した。」

 

と俺たちはギルドの奥に入っていった

 

 

「さて、ハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

「まぁ、全部成り行きだけどな」

 

全ての話を終えた後ロアとハジメは元々の仕事をしていて俺は遠藤の勇者と魔人族の話を聞いていた

 

「手紙には、お前の〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前が実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

ロアの言葉に、遠藤が大きく目を見開いて驚愕をあらわにする。

「オルクス大迷宮は元々200層くらいからなる大迷宮なんだよ。俺も落下した先は多分150層くらいだと思うし。」

「……そうだったのか。」

「下層になればなるほど強くなるからな。俺も山脈を越えてきたあって一応かなり強いぞ。」

「……」

 

俺は笑うと遠藤は少し乾いた声をあげる

 

「バカ言わないでくれ……魔王だなんて、そこまで弱くないつもりだぞ?」

「ふっ、魔王を雑魚扱いか? 随分な大言を吐くやつだ……だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

「……勇者達の救出だな?」

「元々そのつもりで来た訳だしな。……んで依頼って形で大丈夫なんだよな?」

「あぁ。それでいい。」

「俺とハジメだけで行くのがベターか。けが人がいるとすればハナも一緒に行くのがこの場合ベストだろうな。力の差を見せつけることができ、さらにこれ以上関わりをなくすことも難しくない。」

「なっ」

「……なるほど。お前が何で勇者救出を押していたのかよく分かった。」

 

ハジメはため息を吐く

 

「遠藤。俺はともかくハジメは白崎くらいしか味方はいなかったんだぞ。勝手に、お前等の仲間にするって都合のいいこというなよ。はっきり言うけど、ハジメがお前等にもっている認識は唯の〝同郷〟の人間程度であって、それ以上でもそれ以下でもない、ただの他人と何ら変わらないと思っているんだけど。」

「お前はエスパーかよ。」

「俺は八重樫とか谷口とか遠藤とかは仲よかったけど、お前本当に俺くらいしか自発的に話さなかったしな。それにぶっちゃけ俺も八重樫や谷口がいなかったら助けてないし。」

「……だろうな。」

 

俺はあっけらかんにいうと少し思い返したようにする

 

「白崎は……彼女はまだ、無事だったか?」

「えっ?」

 

少し疑問の声がしているが

 

「あ、ああ。白崎さんは無事だ。っていうか、彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった。最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし……白崎さん、マジですげぇんだ。回復魔法がとんでもないっていうか……あの日、お前が落ちたあの日から、何ていうか鬼気迫るっていうのかな? こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでいて……雰囲気も少し変わったかな? ちょっと大人っぽくなったっていうか、いつも何か考えてるみたいで、ぽわぽわした雰囲気がなくなったっていうか……」

「……そうか」

「ただ反対に八重樫さんは少し暗くなったな。余裕がなくなったっていうか。少しやけになっているっていうのか。笑顔が硬いんだ。」

「……」

 

多分俺のせいだな。八重樫の恐怖を消すために俺に依存させていたのが原因だろう。

 

「……ハジメのしたいように。私は、どこでも付いて行く」

「……ユエ」

 

慈愛に満ちた眼差しで、そっとハジメの手を取りながらそんな事をいうユエに、ハジメは、手を握り返しながら優しさと感謝を込めた眼差しを返す。

 

「わ、私も! どこまでも付いて行きますよ! ハジメさん!」

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」

「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」

「…相変わらずモテるわよね。」

「……ふぁぁ〜。」

 

するとハナが声で起きたのを確認する

 

「ありがとな、お前等。神に選ばれた勇者になんて、わざわざ自分から関わりたくはないし、お前達を関わらせるのも嫌なんだが……ちょっと義理を果たしたい相手がいるんだ。だから、ちょっくら助けに行こうかと思う。まぁ、あいつらの事だから、案外、自分達で何とかしそうな気もするがな」

「……八重樫が本調子じゃないんだったら無理だろ。あのパーティーは天之河よりも八重樫が引っ張っているわけだし。」

「え、えっと、結局、一緒に行ってくれるんだよな?」

「ああ、ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいんだが……」

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

「そうだ。それともう一つ。帰ってくるまでミュウのために部屋貸しといてくれ」

「ああ、それくらい構わねぇよ」

 

結局、ハジメが一緒に行ってくれるということに安堵して深く息を吐く遠藤を無視して、ハジメはロアとさくさく話を進めていった。

 流石に、迷宮の深層まで子連れで行くわけにも行かないので、ミュウをギルドに預けていく事にする。その際、ミュウが置いていかれることに激しい抵抗を見せたが、何とか全員で宥めかし、ついでに子守役兼護衛役にティオと紫も置いていく事にして、ようやくハジメ達は遠藤の案内で出発することが出来た。

 

「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」

「うわっ、ケツを蹴るなよ! っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ!」

「やかましい。さくっと行って、一日……いや半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いていくんだからな。早く帰らねぇと。」

「……お前、本当に父親やってんのな……美少女ハーレムまで作ってるし……一体、何がどうなったら、あの南雲がこんなのになるんだよ……てかハナちゃんは。」

「こいつ普通に強いから安心しろ。てかヒーラーは必要だろ?」

 

迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメの態度や環境についてブツブツと納得いかなさそうに呟く遠藤。強力な助っ人がいるという状況に、少し心の余裕を取り戻したようだ。

……そしてこれから先長きに渡る魔人族との戦いの幕が上がろうとしていた。



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殺す覚悟

「……あ〜もう階段降りるのメンドくさいなぁ。」

「お前いつも飛び回っているからだろ。走れよ。」

「元々インドア系男子に運動しろとかいうなよ。」

 

と愚痴をこぼしているとハジメが立ち止まる

 

「魔力感知に反応があった。多分この5つ下の階層だな。」

「……まじ?」

「生命反応にも反応があったよ。」

「了解。」

 

俺はするととある某弾幕ゲームのミニ八○路に似たものをとりだす

 

「……さてと。ぶち抜くからみんな離れてろよ。」

「は?」

 

遠藤の首をかしげる声を無視して俺は魔力を込めはじめる。

このアーティファクトと元々威力を数倍にあげれるように魔力を数倍にあげれる魔道具でこの前のウルの街での騒ぎで作ったらしい。なお俺専用の武器になっている、

まぁマスタース○ークではなく火の熱線が出てくるんだけどな

 

「んじゃやるか。」

 

俺は2割ほどの魔力をつぎこむ空中を飛び下を向き

 

「熱線。」

 

俺は全力で下に魔力を放出する

すると白い炎が迷宮の地面を溶かし貫通していく。

 

「……やばっ。」

 

と俺も俺で威力制御が仕切れないで自分に反対の向きの風圧を使って制御をする羽目になる

そして魔力を打ち終わると反対の風圧をかなりかけたからだろう猛スピードで地面に叩きつけられた。

 

「いつつ。久しぶりに魔力操作ミスったな。もう少し要練習か。」

「お前それ練習するなよ。てかお前どんだけ魔力つぎ込んだんだよ。」

 

砂埃が舞う中でハジメも降りてきたのからしい。

 

「まぁでも目標の階層に来た訳だし許して。」

「……たく。」

 

砂埃が晴れてくると俺も立ち上がる

誰も俺たち以外には話しておらず。俺は周辺を見回す

肩越しに振り返り背後で寄り添い合う白崎と八重樫。

ぼろぼろになって結界を貼っている谷口

そしてズタボロになったクラスメイト

とりあえず

「「……相変わらず仲がいいなお前ら。」」

苦笑いしながら、死ぬ寸前だったのであろう白崎と八重樫に話しかける

 

「ハジメくん!」

「渋谷くん!!」

 

二人は俺たちの顔を見て歓喜をあげるが

 

「へ? ハジメくん? って南雲くん? えっ? なに?」

「…えっ?渋谷くん?えっでも目が腐ってないよ。」

「おい。こら白崎。」

 

白崎の言葉に俺は若干キレかける。

 

「えっ? えっ? ホントに? ホントに南雲くんなの?」

「そっちも。本当に渋谷くん?」

「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」

「それよりも八重樫は怪我ひどいな。」

「パパ!!」

 

すると俺はハナが落下してくるのを受け止める

 

「えっ?パパ?」

「…話はあと。ハナここにいる魔物と魔人族以外の全員に回復魔法をかけてくれ。石化は解けたよな?」

「パパがよく石化してたから解けるよ?」

「……お前。本当にあの山脈よく生きていたよな。」

 

するとユエとシアが順番に降りてきてハジメがお姫様抱っこで抱き抱えて脇に下ろす

 最後に降り立ったのは全身黒装束の少年、遠藤だった

 

「け、ケン! おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」

「なめんな。これくらい余裕余裕。」

「その代わり魔力の制御失敗してたけどな。」

「それは言わないで。」

 

少し笑ってしまう。

 

「ケンとユエは悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ」

「ん……任せて」

「了解ですぅ!」

「まぁ、暴れたかったけど仕方ないか。八重樫悪いけど。」

 

俺はお姫様抱っこで八重樫を抱える。空を飛ばしてもいいがさすがにミスったら肋多分折れているだろうしなおすまでは優しく扱ったほうがいいだろう

 

「えっ?ちょっと。」

「ここにいたら戦闘の邪魔になるし何より回復しづらいだろ?白崎は歩けるよな。」

「う、うん。」

 

ハジメは元凶たる魔人族の女に向かって傲慢とも言える提案をした。それは、魔人族の女が、まだハジメの敵ではないが故の慈悲であった。

 

「そこの赤毛の女。今すぐ去るなら追いはしない。死にたくなければ、さっさと消えろ」

「……何だって?」

 

 もっとも、魔物に囲まれた状態で、普通の人間のする発言ではない。なので、思わずそう聞き返す魔人族の女。それに対してハジメは、呆れた表情で繰り返した。

 

「戦場での判断は迅速にな。死にたくなければ消えろと言ったんだ。わかったか?」

 

改めて、聞き間違いではないとわかり、魔人族の女はスっと表情を消すと「殺れ」とハジメを指差し魔物に命令を下した。

 

「はぁ。敵ってことでよさそうだぞ。」

 

ハジメがそう呟いたのとキメラが襲いかかったのは同時だった。ハジメの背後から「ハジメくん!」「南雲君!」と焦燥に満ちた警告を発する声が聞こえる。しかし、ハジメは左側から襲いかかってきたキメラを意にも介さず左手の義手で鷲掴みにすると苦もなく宙に持ち上げた。

 キメラが、驚愕しながらも拘束を逃れようと暴れているようで空間が激しく揺らめく。それを見て、ハジメが侮蔑するような眼差しになった。

 

「おいおい、何だ? この半端な固有魔法は。大道芸か?」

「動いたら解けるっぽいな。迷宮的にいうならば最初に現れる雑魚って感じじゃないか?」

 

俺はクラスメイトの元に駆けつけながら10体の近づいてきた魔物をただの火球で沈めると考察をする

 

「精霊の元に全ての命を救い給え。白癒。」

 

するとハナの魔法にふわふわと白い光が全員の傷や石化を一瞬にして治してしまう

 

「……何この魔法。」

「凄いだろ。ハナは。」

「親バカ。」

「うるさい。お前もミュウにはそんな感じだろうに。」

 

八重樫を下ろした俺は苦笑しているとハジメは銃で無双しているのを見ている

 

「……まぁこっちは回復役を潰しておくか。不死鳥。」

 

俺は火の鳥を飛ばしそして魔人族の女の隣にいる白い鳥に向かって放つ

急襲に魔人族はぎょっとして避けるがハジメがその隙を見逃すはずがなくドンナーを白い鳥を貫いた

 

「何なんだ……彼は一体、何者なんだ!?」

 

天之河動かない体を横たわらせながら、そんな事を呟く。今、周りにいる全員が思っていることだろう。その答えをもたらしたのは、先に逃がし、けれど自らの意志で戻ってきた仲間、遠藤だった。

 

「はは、信じられないだろうけど……あいつは南雲だよ」

「「「「「「は?」」」」」」

「ついでに俺は渋谷健太だぞ。」

「なっ!」

 

俺と遠藤の言葉に、天之河達が一斉に間の抜けた声を出す。遠藤を見て「頭大丈夫か、こいつ?」と思っているのが手に取るようにわかる。遠藤は、無理もないなぁ~と思いながらも、事実なんだから仕方ないと肩を竦めた。

 

「だから、南雲、南雲ハジメだよ。あの日、橋から落ちた南雲だ。迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ! って俺も思うけど……事実だよ」

「南雲って、え? 南雲が生きていたのか!?」

「あんな。日本の武器を作れるなんてあっちで住んでいたやつくらいしかいないだろ?」

「……てか渋谷も生きていたんだな。」

「おう。生憎元気だぞ。」

 

 皆が、信じられない思いで、ハジメの無双ぶりを茫然と眺めていると、ひどく狼狽した声で遠藤に喰ってかかる人物が現れた。

 

「う、うそだ。南雲は死んだんだ。そうだろ? みんな見てたじゃんか。生きてるわけない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

「うわっ、なんだよ! ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」

「うそだ! 何か細工でもしたんだろ! それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

「いや、何言ってんだよ? そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

遠藤の胸ぐらを掴んで無茶苦茶なことを言うのは檜山だ。顔を青ざめさせ尋常ではない様子でハジメの生存を否定する。周りにいる近藤達も檜山の様子に何事かと若干引いてしまっているようだ。

……確定だな。

俺はハジメを殺そうとしたのはやっぱり檜山だとこれで決定する

 

「……大人しくして。鬱陶しいから」

「…黙れ。」

 

俺とユエの声に再び憤慨しそうだったがユエの美貌に見とれてしまったのだろう

鈴などは明からさまに見蕩れて「ほわ~」と変な声を上げている。単に、美しい容姿というだけでなく、どこか妖艶な雰囲気を纏っているのも、見た目の幼さに反して見蕩れさせている要因だろう。

 と、その時、魔人族の女が指示を出したのか、魔物が数体、光輝達へ襲いかかった。メルドの時と同じく、人質にでもしようと考えたのだろう。普通に挑んでも、ハジメを攻略できる未来がまるで見えない以上、常套手段だ。

谷口が、咄嗟にシールドを発動させようとする。度重なる魔法の行使に、唯でさえ絶不調の体が悲鳴を上げるのが分かっていた。ブラックアウトしそうな意識を唇を噛んで堪えようとするが……そんな谷口の頭を撫でる。

 

「ほへ?」

「…大丈夫。」

「後は任せろ。」

 

俺はそういうと少し笑い

 

「絶対零度。」

 

その言葉が呟いた瞬間周辺にいた全ての魔物を氷漬けにする。

 

「〝蒼龍〟」

 

その瞬間、ユエ達の頭上に直径一メートル程の青白い球体が発生した。それは、炎系の魔法を扱うものなら知っている最上級魔法の一つ、あらゆる物を焼滅させる蒼炎の魔法〝蒼天〟だ。それを詠唱もせずにノータイムで発動など尋常ではない。特に、後衛組は、何が起こったのか分からず呆然と頭上の蒼く燃え盛る太陽を仰ぎ見た。

俺が近くの魔物を殺しユエが遠距離の魔物を殺す

 

「なに、この魔法……」

 

それは誰の呟きか。周囲の魔物を余さず引き寄せ勝手に焼滅させていく知識にない魔法に、もうクラスメイトは空いた口が塞がらない。

 

「魔力操作慣れたな。もう少し威力弱めてスピード上げてもいいんじゃね?」

「そうすると発動時間が短くなる。」

 

と呑気に魔法講義をしている

 

「ホントに……なんなのさ」

 

力なく、そんなことを呟いたのは魔人族の女だ。何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕される。そんな理不尽に、諦観の念が胸中を侵食していく。もはや、魔物の数もほとんど残っておらず、誰の目から見ても勝敗は明らかだ。

 魔人族の女は、最後の望み! と逃走のために温存しておいた魔法をハジメに向かって放ち、全力で四つある出口の一つに向かって走った。ハジメのいる場所に放たれたのは〝落牢〟だ。それが、ハジメの直ぐ傍で破裂し、石化の煙がハジメを包み込んだ。

 

「バカだな。逃げるくらいなら最初から挑まなければいいのに。」

 

出口には俺の魔法で生やした太い蔓が生え逃げ道はすでにふさがっていた

 

「はは……既に詰みだったわけだ」

「その通り」

 

 魔人族の女が、今度こそ瞳に諦めを宿して振り返ると、石化の煙の中から何事もなかったように歩み寄ってくるハジメの姿が見えた。そして、拡散しようとする石化の煙を紅い波動〝魔力放射〟で別の通路へと押し流す。

 

「……この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」

「実は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」

 

ハジメは、それを無視してドンナーの銃口をスっと魔人族の女に照準する。眼前に突きつけられた死に対して、魔人族の女は死期を悟ったような澄んだ眼差しを向けた。

 

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは? と聞くんだろうが……生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか……それと、あの魔物を何処で手に入れたのか……吐いてもらおうか?」

「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」

 

嘲笑するように鼻を鳴らした魔人族の女に、ハジメは冷めた眼差しを返した。そして、何の躊躇いもなくドンナーを発砲し魔人族の女の両足を撃ち抜いた。

 

「あがぁあ!!」

 

悲鳴を上げて崩れ落ちる魔人族の女。魔物が息絶え静寂が戻った部屋に悲鳴が響き渡る。情け容赦ないハジメの行為に、背後でクラスメイト達が息を呑むのがわかった。しかし、ハジメはそんな事は微塵も気にせず、ドンナーを魔人族の女に向けながら再度話しかけた。

 

「人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」

「あの魔物達は、神代魔法の産物……図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか……とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか……」

「どうして……まさか……」

「俺たちも攻略者だからだよ。」

 

俺はそう告げる。すると諦めたように俺たちを見張った

 

「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」

「あの方……ね。魔物は攻略者からの賜り物ってわけか……」

 

魔人族の女は、道半ばで逝くことの腹いせに、負け惜しみと分かりながらハジメに言葉をぶつけた。

 

「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

 

その言葉に、ハジメは口元を歪めて不敵な笑みを浮かべる。

 

「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺には届かないそうだろケン。」

「あぁ。それがたとえクラスメイトであったとしてもだ。」

 

すると全員が俺の方を見る。

 

「……今度は引かせねぇよ。」

 

 互いにもう話すことはないと口を閉じ、ハジメは、ドンナーの銃口を魔人族の女の頭部に向けた。

しかし、いざ引き金を引くという瞬間、大声で制止がかかる。

 

「待て! 待つんだ、南雲! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

「……何言っているんだこいつ。」

 

俺は呆れたように天之河を見る。

 

「いいから殺してやれ。戦場で死ぬことなんて覚悟の上だと思うしな。」

「言われなくてもそうする。」

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

余りにツッコミどころ満載の言い分に、ハジメは聞く価値すらないと即行で切って捨てたのだろう。そして、無言のまま……引き金を引いた。

ドパンッ!

乾いた破裂音が室内に木霊する。解き放たれた殺意は、狙い違わず魔人族の女の額を撃ち抜き、彼女を一瞬で絶命させた。

 

「殺す覚悟がないやつが戦場に出ているんじゃねーよ。」

 

俺は冷たい言葉を放つとハジメの方へ歩いて行った。



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