天人様の言うとおり (青二蒼)
しおりを挟む

天人二人、外の地上に降り立つ

どうもどうも、青二 葵です。
『緋弾に迫りしは緋色のメス』の息抜きに書いて行く感じなので、緋弾のアリアの方よりもかなり不定期になります。

私がこの小説を書いた理由?
天子がメインの小説をあまり見ないからです。
さらに、東方とネギまがクロスオーバーの小説をあまり見ない。
ならば……自分で書こう!

てんこあいしてる。

以上です。
そんな思い付きから生まれた作品を読んで頂ければと思います。


 

 ――変わらぬ景色。

 雲より上に存在するその場所の名前は天界。

 それも三界の中でも最上の場所である無色界の最高点である非想非非想天、もしくは有頂天と呼ばれる場所であり、ここには人間の民俗学における天人と呼ばれる者が住まう。

 その天界の大地に風を受け、衣服をはためかせながら雲の水平線を見据える1人の天人が立っていた。

 神社における宮司(ぐうじ)のような格好をしており、その首には勾玉(まがたま)のついた丸い鏡が下げられている。

 その顔は、まるで青年のような若さであるが、(よわい)は既に1000を超えている。

 実際のところ……年齢など数えていないために本人にも分からない。

「あなたも物好きね」

 そんな天人の後ろから声を掛ける人物が1人。

 その人物は少女ではあるが、雲の水平線を見据えている青年と同じ天人である。

 容姿は腰まで届くほどの青い空のような色をした髪、そして赤い瞳。容姿としては見目(うるわ)しい少女と言っても過言ではないだろう。

 白く薄い半袖の服に頭には桃の実と葉をつけた丸く黒い帽子をかぶっており、半袖の服の前は彼女の腰よりを下を(おお)う傘のように広がっている。その傘のように広がっている、(はかま)に似ても似つかない腰回りの衣服の(ふち)には、虹色の飾りが付いている。

 そんな彼女が何も答えない青年天人に再び話しかける。

「何も変わらない景色を見て楽しいのかしら」

「いいや変わっていますよ。雲の形がね」

 ようやく青年が口を開く。

 その言葉に少女はぽかんとする。

「なによそれ」

「同じに見えるかもしれませんが、雲はいつも絶えずに姿や形を変えています。そして、その形は同じになる事は無い。なら、同じ景色とは厳密には言えないでしょう?」

「確かにそうだけど、ここから見える場所が同じであることに変わりはないわ」

「貴方も言うようになりましたね。天子(てんし)

 ――天子。

 本名は比那名居(ひなない) 天子。それがこの少女天人の名前であり、そして、青年に見える彼の友人でもある。

 他の者から言わせれば、友人などと言う関係ではなく教育者とその生徒のようなものだろう。

「やはり、貴方には良くも悪くも人間の名残を感じます」

「どういう意味よ」

 口を尖らせて天子が返してくるが……どういう意味も、言葉のままの意味だと彼は思う。

 だが、口には出さない。

 それからしばらくしても理由を話さない青年に、天子は話題を変える。

「ねえ。外の世界に行ってみない?」

「暇を潰しに?」

「そう。暇を潰しに」

 朗らかにそう言った天子に、青年は少しばかり呆れる。

「本当に天人らしくありませんね」

「うるさいわね」

「少しばかり、誰かの説教でも受けてきたらどうです? 私でもかまいませんけど」

「遠慮するわ。閻魔さまだけで十分よ。もっとも、まだ死ぬつもりはないからこれからも抵抗させてもらうけど」

 笑顔で自信満々に言うあたり、その実力が(うかが)い知れる。

 天人と言うのは不老長寿と言うだけで別に不死ではない。

 寿命が来れば死神が迎えに来るが、それでも死なないのはその死神を実力で追い払うからである。

 故に、寿命がきても死神を追い払うことで延命されるのである。

 だが、仕事に来ている死神としては(たま)ったものではなく、そのため天人と死神は水と油。犬猿の仲といった関係である。

「外……か」

 何となしに青年は呟く。

 彼は元々、外の世界である者に仕え、(たてまつ)りながら生きていた。

 そしてその功績を認められ彼は天人となり、その後この幻想郷へと来たのである。

 その外の世界は今、自分が見ている景色以上に変化していることだろう。

 いったいどれほど変化しているのだろうか?

 そう考えれば欲の少ない天人と言えども、多少なりとも好奇心が湧く。

「その案も悪くはありませんね」

「でしょ?」

「ですが、この幻想郷は箱庭。安易に箱庭の壁を越えては穴が空いてしまうでしょう。かの妖怪の賢者に話を通さなくてはいけない」

「堅いわね~。別にちょっと外に出るくらいならいいじゃない」

「それは困るわよ」

 と、2人以外の声が響く。

 すると、何もない空間が縦に裂け、その切れ目が広がって行く。

 その亜空間のような裂け目から1人少女が現れる。

「妖怪が天界になに用でしょうか?」

「あら、あまり驚かないのね」

「なんとなく来る予感がしましたのでね。伊達に貴方以上に年月を重ねていません」

 その言葉に天子は多少驚く。

「貴方、そんなになるの? 意外だったわ」

 天子に至っては遠慮なく率直に言ってくる。

「とまあ、私の事はいいとして……用も無くわざわざ天界に来るなんて面倒なことを、貴方はしないでしょう? 八雲 (ゆかり)殿」

「あら、無用の用と言うこともあるでしょう? 蒼天(そうてん)殿」

 妖怪の少女、八雲 紫と青年の天人、蒼天こと石守(いしのかみ) 蒼天はお互いに腹を探るような会話をする。

 お互いに笑みを浮かべるが、なんだか腹黒い印象を受けるのは気のせいだろう。

 だが、すぐにその笑みもやめる。

「さて、あんまり時間を掛けるのは止めましょう」

「そうね。で、外の世界に行きたいと言う話だけれど別にいいわよ」

「ホント!?」

 やけにあっさりと紫が許可を出した。

 喰いつくようにして天子が喜ぶが、蒼天は何かしらの意図があると見た。

 だが、彼には何となく予想は付いている。

「……妖怪の増殖、ですか」

 結論を彼は先に、簡潔に述べた。

 紫は特に驚く事もなく呟く。

「知ってたのね」

「天人なんですから、地上に降りて忠言する際に人間の話を耳にしますとも」

 天人は人間に忠言をすると言った役割を持っている。

 その際には地上に降りて、その人に合った忠言をして回っている。

 そして、同じ天人である天子にも思い当たる節があった。

「ああ、最近は確かに妖怪が増えてるわよね。それも外かららしいけど」

「そう。それも頻繁だからおかげで結界に穴が空きそうなの」

 ならここに居るべきではないのではと蒼天は思うが、今は恐らく彼女の式――つまりは従者――である八雲 藍が結界の管理をしているのだろう。

 外の妖怪が幻想郷に雪崩込むようにして、幻想郷へと来ている。

 つまりは、外の世界に残っている少ない妖怪が追い込まれるような事態が発生していると見るべきだろう。

 おかげで人間と妖怪、そのバランス関係は崩れてきている。

 とどのつまり――

「外の世界に行くついでに、理由を調べてきて欲しい訳ですね」

「そう言うことね」

 蒼天の言葉に紫は肯定する。

 だが、一つだけ疑問がある――

「なぜ、私。いや、私たちなんです? 異変だと言うのなら博麗の巫女の領分でしょう」

「確かにそうね。だけど、今回の異変があると思われる場所は外よ」

 蒼天の言葉に再び紫は肯定する。

 そして、その理由が述べられた。

 その理由に蒼天は成程と納得した。

 あくまでも博麗の巫女は幻想郷内で異変と呼ばれる事件を解決するのであり、外の世界となるとその領分は微妙なモノになる。

 しかも今回は幻想郷内の妖怪の密度が増加している状況で、結界は不安定。

 八雲と同じように結界の管理の役割も請け負っている博麗が離れる訳にもいかない。

「そう言うことですか……では、私たちである理由は?」 

「何となくよ。それに、退屈してるお嬢さんもいるみたいだからちょうどいいじゃない」

「失礼ね……」

「事実でしょう」

 紫の言う事に不満を漏らす天子だが、蒼天にバッサリと切られる。

 そして、同時に理由がそれだけではないとも蒼天は思っていた。

 しかし、推測でしかないため頭の片隅に置いておくことにした。

「天人であるのに地上にしばらく暮らす可能性がある、と言う訳ですか……」

「あら、不満かしら」

「いいえ。地上に降りたまま人間に忠言して回るのも、いいでしょう」

「腰が低いように見えて、やっぱりあなたも天人ね。それではお昼時に博麗神社でまた、会いましょう」

 そう言って、八雲 紫は来た時と同じように裂け目に入って帰って行った。

「さて、それでは天子、行きましょうか」

「え……もう? お昼までまだ時間あるわよ」

「違います。名居(ない)様を説得しに行くんですよ」

「え? ええ~~……」

 しどろもどろ、といった感じに天子はなりながらも蒼天に引きずられて行った。

 

 

 そして昼時になり、天人二人は空を飛びながらある山の上にある神社を目指して飛んでいた。

 結果から言うと、説得には成功した。

 理由としては見聞を広めるためと、天子の教育と言ったところだ。

 最初は渋っていたが、蒼天も同行する旨を伝えたところ、名居様が納得した。

 その時に天子が不満そうな顔をしていたのは余談である。

 今、2人が向かっている名前を博麗神社と言い、博麗大結界と言う箱庭の壁を管理している者の一人が住んでいる。外と幻想郷の境界と言って差し支えないだろう。

 点にしか見えなかった神社の鳥居の形を捕らえ、そしてその前に二人は降り立つ。

 一般的な神社の外観ではあるが、なんの神を祀っているのかは不明。

 にも関わらず神力を感じるのだから不思議なものである。

 その境内には、普通の巫女服とは違う意匠を纏った一人の女性が掃除をしていた。

「あら、いつぞやの天人」

 そして、蒼天達を見つけるなり声を掛けてきた。

 対して蒼天は軽く会釈をした後に境内へと入る。

「どうも博麗(はくれい) 霊華(れいか)さん」

「ええ、どうも。こっちに来るのは珍しいわね。お賽銭ならあちらよ」

 この者こそ博麗神社に住まい、結界を管理する者の1人――博麗 霊華である。

 また、蒼天にとってはお賽銭の下りを聞いたのはこれが初めてではない。

 その前の博麗もそのまた前の博麗も同じことを言っていた。

 博麗の家系はお賽銭に通ずるとでも言うのだろうか? そんな疑問が彼に出てくる。

「悪いですが、参拝に来た訳ではないので」

「あら、残念」

「最初からさほど期待もしてないでしょう」

「そうね」

 霊華は否定することも無くさらりと肯定する。

 そして、2人の間に声は途絶え、霊華の箒を掃く音だけが聞こえる。

 一度も会話に参加していない天子としては場違いな気がしていた。

 そして突然、思い出したようにして霊華が静寂(せいじゃく)を破る。

「そう言えば何しに来たの?」

 ――まったくもってその通りである。

 その質問に蒼天は紫との会話を掻い(つま)んで、説明をした。

 天子は暇なので、一人で神社を何やら観察している。

 彼女の家系は一応神社を所有していたので、何を(まつ)っているのかが分からない珍しい神社と言うことで興味があるのだろう。

 その間にも蒼天は事の顛末(てんまつ)を全て話し終えた。

「そうね。確かに最近は妖怪が増えてるわ。おかげで、結界の管理に忙しくてね。これ以上増えたら、妖怪を抑える仕事まできそうよ」

 どうやら霊華の説明を聞くに、近況は蒼天自身が聞いたことと紫の言うことに間違いはないようである。

「私も見たけど、追いやられて幻想郷(ここ)に来たって言う感じね」

「なるほど……」

「でも、貴方が行くのが意外ね」

 彼女がそう思うのも当然である。

 なにせ天人。

 地上に降りると言っても、忠言すればすぐに天界へと帰るのである。

 ところが、今回はすぐに天界に戻る筈の天人が幻想郷の異変の調査のために外の世界の地上を闊歩(かっぽ)すると言うのだ。

 ある意味、酔狂な話である。

「別に酔って狂った訳ではないんですけどね。天人となって1000年以上、外にはここよりも多くの人間が存在します。なんとも忠言のし甲斐があるとは思いませんか?」

「私に聞かれても困るわ」

「そうでしたね。とまあ、そろそろ時間のようです」 

 そう言うと、八雲 紫が天界で現れた時と同じように裂け目から現れる。

「お待たせ。あと、これを持って行きなさい」

 渡されたのは一枚の紙。

 ただの紙ではなく、何かしらの力を感じる物であった。

 いわゆる『符』の類だろう。

「ふむ。貴方と同じ力を感じますね」

「そう。私の能力を刷り込んだ札よ。これを使えば、外の世界でも連絡を取れるわ」

 どうやら『連絡札(れんらくふだ)』と言った物のようである。

 そして、蒼天は札に書かれている術式に注目し、ある事に気づく。

「これは……」

「あら、気づいたのね」

「連絡以外にも召喚系の術式も組み込まれてますね」

「ええ、その札は門としての役割も果たすからくれぐれも無くさないでね」

 つまり、これを使えば容易に帰れるということのようだ。

 しばらく観察した後に、その札を(ふところ)に仕舞う。

「さて、天子。行きましょうか」

「やっとね。待ちくたびれたわ」

 天子が蒼天の隣に立つと、紫が空間を文字通り……裂く。

 そして現れたのは紫が出て来た時のように、まるで世界から切り取られたような裂け目。

 その中は異空間と呼ぶに相応(ふさわ)しく、気味の悪いいくつもの目が存在している。

 覗き込めば大抵の者がその不気味さに尻餅を着くことだろう。

 蒼天は特に感じることはないが、天子は物珍しさと不気味さが半々と言った感じで歩んで行く。

 少し奥に進めば空間内には色々と不思議な物が浮いているのがよく分かる。

 しばらく二人が歩みを進めていると不意に声が掛けられた。

「ああ、言い忘れてたわ」

 天人の二人が後ろを振り返る。

 紫が微笑みながらこちらを見ている。

 見た目が少女の割には艶やかで、どこか胡散臭さを感じさせる笑みだった。

 そして、彼女の桜色の唇が静かに開かれる。

「――いってらっしゃい」

 そう言うと紫の目の前の裂け目が静かに閉じられる。

 異空間内に入っていたわずかな日の光も段々と細くなっていく。

 そして、完全閉じられたその時、蒼天たちが見ている空間とは反対側に光が差し込む。

 そちらを見てみると先程と同じ裂け目。

 そこから見えるのは青い空、そして神社の境内。

 それはこの空間に入る前に自分たちがいた場所と同じ景色だった。

 蒼天と天子は黙って歩み、異空間を抜け、神社の境内に降り立つ。

 すると、裂け目は閉じ、風が吹き始める。

 二人の後ろには博麗神社があるが、幻想郷に在ったものとは違い、完全に廃れている。

 まるで時代に取り残され、忘れられたように(たたず)んでいた。

「ここが外の世界……」

 天子がなんとなしに呟く。

 森の中であるので、いまいち遠くの景色が見えないがそれでも外の世界に来たのは確かなのだろう。

「少し、飛んでみましょうか」

 蒼天がそう言うとふわりと二人が垂直に浮き、そしてそのままゆっくりと真上に飛ぶ。

 ある高さにまで上昇すると――

「随分と……騒がしくなったみたいですね」

 蒼天が呟き、彼らの眼下に広がるのはいくつもの建造物。

 その中には幻想郷では見たことのないような建物があり、建物と建物の間には頑丈そうな道があり、その上を鉄の箱が走っている。

 また道の片隅に、その道に沿うようにしていくつもの柱が等間隔に置いてあり、その柱の間はなにやら線で繋がっている。

「天界より楽しそうなところね」

 その光景を見た天子は嬉々とした感想を漏らす。

「欲が希薄なら、そんな感想はでないんですがね」

「少し煩悩が残ってる程度じゃない」

「普通の天人に比べると煩悩が多い方でしょう」

「人間よりは少ないわ」

 と、問答をしている内に蒼天は少しばかり紫から貰った連絡札を試してみようと思い、懐から取り出し霊力を込めてみる。

 すると、札が薄く発光する。

「もしもし」

『……ああ、聞こえてるわ』

 しっかりと、連絡札から紫の声が聞こえてくる。

「どうやら霊力でもちゃんと反応するみたいですね」

『私が作ったんですもの。ちゃんとそう言う術式を組み込んであるわ。ところでどう? 外の世界は』

「人のいる世は随分と騒がしくなったみたいですね」

『人の進歩は凄まじいわ。でも、貴方達が忠言するような人はたくさんいるのに変わりはないけど』

「そうですか……なら、忠言しながらこの世界に残ってる魑魅魍魎(ちみもうりょう)、神仏たちに話を伺ってみることにしましょう」

『ええ、よろしくお願いね』

 紫のその言葉を最後に通信は途切れ、札の光も消える。

「別にあの妖怪の言う事なんて聞かなくていいんじゃないの?」

「貴方からすればそうなんでしょうけど、幻想郷の危機ですからね」

「難儀な話ね。……ちょっと待って、幻想郷の危機?」

「……天界で似たような事を話したでしょう? 馬耳東風はいけませんよ」

「だって、そんなに焦ってなかったじゃない」

 確かに天子の言う通り、蒼天も紫も焦ってはいない。

 つまり焦るほど時間がない訳ではないのだろうと、天子はすぐに考えた。

 蒼天は天子に答える。

「まあ、焦るほど危機が迫っている訳ではないのでしょうからね」

「そう言うこと……もし、時間がないなら貴方が忠言しながら回ると言った時に釘を刺す筈だから当然か」

「そう言う事です」

「じゃあ、地上に降りるの?」

「そうですね。夜は飛んでもそれほど目立つ訳でもないでしょうが、昼間には普通の人のように地に足をつけなければ騒がれるでしょう。天から降りて来る天人の存在が忘れられてる事から考えて、それは自明の理。あと、この世界の情勢を知らないと……面倒な事に巻き込まれるやらも知れません」

 ふーん、と、蒼天の言葉に天子は感心したように頷く。

 そしてチラリと街を一瞥(いちべつ)する。

「ところで、どこに行くかは決めてるの?」

「京の都に行けばなにかしらの情報は得られるでしょう。その前に地理も把握が先ですが」

「それじゃ、行きますかい?」

「行きましょう。天人二人で地上巡りを」

 箱庭を出て、天から地上に降りた天人二人。

 不良天人――比那名居 天子。

 金物(かなもの)の神の祖に仕えし天人――石守 蒼天。

 

 今、奇妙な旅が始まる。

 




天人二人、外の地上に降り立つの巻です。

用語解説は……載せると思います。
あと、天人らしく諺(ことわざ)や格言などの解説もして行こうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天人二人、京の都を訪ねる

早くも京都入り。
早速、ネギまの一部と絡ませたいと思います。


 ――京都。

 今日(こんにち)では様々な文化財が残る場所でもあり、観光名所としても名高い。

 また、様々な魑魅魍魎――妖怪にまつわる話もある。

 だが、観光とは違う目的で訪れた者が二人いる。

 その者達は天人と呼ばれる種族であり、その目的は幻想郷に妖怪が大量に流入してきた原因を調べる事であった。

「やっと着いたわね」

 到着したと同時に比那名居 天子が言葉を漏らす。

 京都を目指したのが2日前。

 思えばすぐに着いたのであろうが、相方である蒼天が無用な出来事を避けるためにと夜にしか移動せず、地理も分からないために必然的に時間が掛かることになった。

 公共の乗り物を使用する事も考えたが、まったく乗り方が分からない上にこの世界の通貨も持っていない。

 人の技術の進歩にいたく感心させられたが、幻想郷から来たばかりの天人二人にとってはそう言った物は無用の長物であった。

 おまけに格好も、周りから見れば目立つ。

 結局、移動手段は徒歩と飛行に限られたのである。

 その道中で、妖怪と言ったモノに会う事はなかった。

 人に道を尋ねて歩くを繰り返し、ここまでやってきた。

「さすがは京の都……微かながら妖力を感じますね。人の怨霊とかも感じますが」

「それにしても、外の世界は凄いわね……幻想郷では見ないあんな高い建造物まであるなんて」

「そうですね。さて、ここら辺に妖怪がいるかを探して回りますか……」

 蒼天の提案に天子も乗る。

 そして、天人二人は人目に付かないように京都の古い町並みを、感じる妖力を頼りにブラブラと歩き始める。

 この世界で通用する通貨を持ち合わせていないために、飲み食いや一部有料な観光場所などを訪れることは出来ないが、観るだけでも天子の方は随分と楽しそうであった。

 京都の街を右に左にと歩いていたが、とある場所にて蒼天は違和感を覚えた。

 それは階段に千本鳥居が並ぶ場所。

 その両脇は竹林であり、また進入禁止の立て札が置かれている。

「………………」

「どうしたのって……これまた怪しい場所ね」

 天子もそこに立った瞬間に違和感を感じたようで、立ち止まる。

 蒼天も天子も力を感じていた。

 それも阻害系の結界である。

 つまり、術式を構成できる力を持った人間がこの先に居る可能性が高いと言うことが考えられる。

「手掛かりかもしれませんね、これは」

 蒼天は迷わず、その鳥居の中に入って行った。

「う~ん、何か荒れる予感がするわね」

 ボヤキながらも天子もその後に続く。

 しばらく何も言わずに進んでも、何ともない階段で同じような景色が続く。

 だが、それも終わり出口が見えてきそうかと思ったその瞬間――

「神鳴流奥義……斬空閃!」

 蒼天は瞬時に殺気が飛んできた方向へと身の丈ほどの鉄の壁を生成する。

 すると、何かの斬撃を防ぐような金属音が鳴り響く。

「……口よりも先に手が出るのはあまりよろしくないですよ。交渉の余地を自ら破棄することになりますから」

 どこか場違いな忠言をしながら蒼天と天子は攻撃してきた相手を見る。

 そして天子は、なぜか緋色の刃を持つ『緋想の剣』を手に携えて、好戦的な眼をしている。

 その表情は暇潰しが出来ると言った感じであった。

「お前たちは何者だ?」

 半ば、脅しと言った口調。

 先程の斬撃は警告だったのだろう。

 そこには太刀を持ち、胴着に身を包んだ20代ほどの青年が、警戒心を(あら)わにしながら竹林の中から出てくる。

「何者って聞かれたら……通りすがりの天人って答えるしかないわね」

「天人だと? ふっ、何をバカな……」

 天子の言っていることは事実だが、通りすがりの天人と言われてもいきなり人間が信じる訳がない。

 事実として一笑されている。

「貴様らが何であろうと、一般の者と違うことは確かだ。そんな奴が、ここ『関西呪術協会』に何用だ」

「野暮用ね」

「……ふざけてるのか?」

「だとしたらどうする人げっ――!!」

 天子のセリフの途中に蒼天が人間の頭ほどの鉄球を浮かして、彼女の後頭部にぶつける。

 その時に鈍い音が響く。

「天人が人間を(あお)ってどうするんです?」

「っ……痛いっ…ってちょっ――!?」

 そしてさらに、体が隠れるほどの立方体の鉄の塊が天子の背中にのしかかる。

 話がこじれる可能性があるので、蒼天はしばらく暴れられないように負荷を掛けた。

「失礼。呪術協会と言う事は、ここには陰陽術師でもいるのですか?」

「質問しているのはこちらなのだがな。が、答えるなら()と言っておこう」

 その言葉に蒼天は黙考する。

 隣では未だに天子が鉄の塊に対して抵抗しているが気にしない。

「こちらの番だ。もう一度聞く……何用だ」

「野暮用と言うのは、間違いではないのですが……最近は妖怪が減ったのでその調査に」

 幻想郷の妖怪は増え、逆にこちらでは見ない。

 と言う事は、確実に化生のモノはさらに減っていると考えられる。

「確かに、最近は魑魅魍魎が減っている。式神にする奴がいなくて困っていると術師からは聞いている。が、それがどうした?」

 意外と素直に答えてくれた。

 この青年剣士のおかげで減っていると言う事実は分かった。

 問題はその原因であるが、これは詳しく聞くしかないだろう。

「……いきなりですみませんが、少しばかり、話をする場を設けて貰いたい。さすれば、私たちの目的などを色々とお教えしましょう」

 その蒼天の言葉に、青年剣士は眉をひそめる。

「見ず知らずの者を通す訳にはいかん。大体、私は幹部ではないのでな……そのような決定権はない」

「それでは近づいている人物に聞くことにしましょう。それなりの力を感じるので貴方の言う幹部かもしれませんから」

 先程の戦闘……と言うほどでもないが、それを察知した人間がこちらに向かってきている。

 もしくは、目の前の青年剣士が連絡を取ったのかもしれない。

 おそらく数名。

 その内の一人になかなかの実力を持つ強者の気配を感じる。

 未だに青年剣士が警戒を解かず、太刀を構えている。

 が、蒼天としては事を荒げるつもりはないので微動だにせずいる。

 そして、すぐにその人物は現れた。

「何事や」

 そこには剣道着に身を包み、長い黒髪を結わえ、太刀を腰に携えた女性。

 蒼天と天子の双方が強者であることを肌で感じ取っている。ちなみに天子は鉄の塊によって潰れたままであるので、見えているのは地面である。

 先程対峙していた青年剣士とは、その実力は比べるべくもない。

「はっ……侵入者です。結界を素通りしてきましたので、力がある者と思われます」

「ほうか。で、あんさんらは一体この関西呪術協会総本山に何用や?」

 青年剣士から情報を聞き、殺気を少し当てながら蒼天に尋ねる女剣士。

 やはり見立ての通り、かなりの実力者らしい。

「少しばかり、お話をしていただきたく参りました」

 蒼天はそう言うが、偶然の産物である。

 しかし、渡りに船とはこの事で、話を聞かない手はなかった。

「話しやと? 関東の西洋魔法使いからの使者か?」

「そう言った者ではありません。私たち二人は天人と呼ばれる存在です」

「……天人?」

 (いぶか)しむように間を空けて、引っ掛かった言葉を繰り返す。

 彼女の取り巻きも、疑いの色が濃い。 

「いきりなり信じろとは無理な話でしょう。論より証拠といいますし……」

 そう言うと、蒼天は静かに目を閉じる。

 すると、竹の葉が風によりすぐにざわめき出す。

 ……いや、彼を中心に力の奔流が渦巻き、風が起きている。

 そして、同時に他の者たちに圧力がかかる。

「な、なんやこの力……っ!!」

 女剣士が目を見開き、驚いている。

 彼女はその雰囲気に呑まれそうになる。

 それはまるで、ある種の神々しさを感じさせるモノであり、同時に勝機を薄れさせていくものであった。

 いわゆる神通力(じんつうりき)と言った力である。

「どうです?」

 神通力を引っ込め、蒼天は真剣な顔をして尋ねる。

 竹林の間を吹き抜けていた風が止み、静かな竹林へと戻る。

 自らの格の違い、そして天人であることを力の一端を見せることで証明した。

 と言っても、他に証明する物があまりないと言ったところが正直な話である。

 ある意味、脅迫のような形となってしまった事に蒼天は内心としては不本意に思っている。

「そうやな……あんさんらが人ならざる者って言うのは分かった。目的はなんや?」

 平然と返しながらも女剣士は冷や汗を流す。

「少しばかり情報を知りたく、天界より舞い降りた次第ですよ」

 そして同時に答える蒼天に、今ここに居る面子では勝つことは不可能であることを彼女は確信した。

「もし、話の場を設けていただければ詳しい事をお話します。もちろん、拒否しても構いません。他を当たりましょう」

「そうか……分かった。少しばかり上に掛けおうてみるわ」

 その言葉に彼女の取り巻きがざわめく。

 すぐに彼女は一喝する。

「静かにしい! 別に、こいつらは危害を加えに来たんとちゃう。そうやろ?」

「勿論です。天人は人間を余程の事はない限り、傷つけたりしません」

「なら、一旦は信じる。ついてきい」

「さて、行きますよ天子」

「もう……少し、丁寧に扱いなさいよ」

 立方体の鉄の塊による物理的な圧力から解放され、天子は蒼天にずるずると引きずられる。

 しばらく黙ってついて行くと、大きな門が出迎える。

 そして長い石階段を上って行き、小さい門をくぐると今度は広大な平屋が姿を現す。

 中へと案内され、一室を紹介される。

「ほな、ウチが話をしてくるさかいここでしばらく待っといてもらえるか?」

「ええ、待たせて貰います」

 女性の剣士が(ふすま)を閉めて、別れる。

 蒼天と天子は机を挟んで、向かい合う形で畳の上に座る。

 そして、天子の表情はどこか不機嫌そうだ。

 蒼天は呆れ、

「全く、いくら退屈してるからと言って緋想の剣をだすとは……」

「だからって言って、鉄の塊をぶつけるのはやり過ぎじゃない?」

「天人の硬さは自分で知ってるでしょう。別になんともありません」

 むう、と言った感じ天子は膨れる。

 傍から見れば、見た目通りの少女である。

 天人の威厳がないこと自体、天子は自覚してはいる。

 が、性格だけは天人らしいと言えよう。

 すぐに彼女は切り替える。

「それにしても、地上は見て回るだけでも面白そうね」

「そうでしょうね。……しばらくは幻想郷に帰らぬ事になるでしょう。問題は住まいですが」

 ここでは、衣食住がない上に伝手となる者もいない。

 だが食に関しては、天人は欲が薄いために腹が減ることなどはあまりないので、特に問題がある訳でもない。

 住に関しても、天人らしく雲の上で過ごす事も出来る……が、地上に身を置いた方が都合は良い。

 しばらくは他愛もない話をしたり、出された茶を(すす)ったりする。

 不意に襖が開けられる音がする。

「お待たせしました。長がお呼びです」

 女性剣士ではなく、若い巫女が入ってきてそう告げた。

 どうやら時間のようである。

 巫女に先導され、いくつもの角を曲がり案内された先には普通より大きな襖。

 その向こう側には、大きな気配を感じる。

「連れて参りました」

『入って貰ってええよ』

 巫女の言葉にどこか軽い感じの声が、向こう側から返される。

 そして天人二人は、開かれた襖を堂々と臆することなく入って行く。

 両側から視線――数は少ないがここに居る面子は少なからずと相応の実力を持った者たちであろう。

 いくつか席が空いているが、おそらくはここにいない幹部の者たちのモノだろうと予想できる。

 中央の一番奥に居る人物――長と思われる者は他の面子に比べると力での実力は見劣りするが、なにかしらの魅力を感じる。

 天人二人は静かに長と対面する形で静かに座る。

 少し間を挟み、蒼天が口を開く。

「……場を設けて頂き、ありがとうございます」

「ええよ別に。それに天人言うから、ウチも興味があるわ~」

 蒼天は感謝の言葉を述べる。

 対して長と思われる人物はほのぼのとした喋りで、返事をする。

「さて、最初に自己紹介をさせていただきましょう。石守 蒼天と申します」

名居神(ないのかみ)に仕えた比那名居 天子よ」  

 天子の言葉に、幹部と思われる老いた男性と先程の女剣士の間にどよめきが走る。

 名居神とは、地震の神であり日本書紀には推古天皇7年(599年)夏に大和地方を中心とする大地震があり、その後、諸国に地震神(ないのかみ)(まつ)らせたとある。『ない』と言うのは昔の言葉で地震を表すものである。

 ちなみに言うと天子は、その名居神の仕えた神官の補佐と言う立ち位置であるために、正確に言うと名居神に直接仕えた訳ではない。そして、名居神に直接仕えた神官である『名居』の功績が認められたためにその部下である『比那名居』も天界に行くことが認められたのである。

 完全に棚から牡丹餅(ぼたもち)で天人になったために比那名居一族は不良天人と呼ばれており、天子は特に自由奔放で我が(まま)であるため、不良天人の名が顕著(けんちょ)である。

「ちなみに天子は直接仕えた訳ではないのであしからず」

「……余計な補足よ」

 蒼天の言葉は事実なのだから否定しようはないが、堂々と言われるとそれはそれで天子の(しゃく)(さわ)った。

「またけったいなモンが来たもんやな……」

 一人の老人が、苦笑いしながら天人二人を見る。

 その表情は未だに半信半疑と言った感じである。

「せやけど、嘘を言うてる訳とちゃうみたいや。さっきそっちの男の方の力を見してもうたけど、ウチじゃ勝てへんわ」

「ほう……しかし、年寄りになって色んなモン見てきたさかいちょっとやそっとじゃ驚かんへんつもりやけど……さすがに信じられへんな」

 女剣士の言う事に関心が向く老人。

 しかし、その様子は変わらず半信半疑と言った感じであった。

 観察するように老人は天人二人に目を向ける。

「まあ、そうでしょうね。いかに年月を重ねようと全てを知ることはできませんし、知らない事も多くあるでしょう」

「かっ! そうやな。老人と言えども知らんことはたくさんあるわ。けど、見た目が若いように見えるあんさんらの年を聞いてもええか?」

「私は、1000年以上は生きていると言っておきましょう。さすがにそれほどの時が経つと時間の概念も変わってきますのでね。途中から数えるのはやめました。天子でも数百年は生きてます」

 その事実に2人と長は苦笑いを浮かべるか唖然とするしかない。

 もはや若作りどころの話ではない。

 冗談と受け取ろうともしたが、蒼天にそんな雰囲気はない。

 話している内に女剣士の方は、力の一端を見せられた事もあって天人であるという話に真実味を()びてきている。

「そう言えば、貴方がたの名前を聞いていませんでしたね」

「おお、そうやったな。関西呪術協会十二席が一人、九条 兼基(かねもと)

「同じく青山 幸子(ゆきこ)や」

「で、ウチが関西呪術協会の長、藤原 道子(みちこ)

 蒼天の言葉に老人が先に名乗りを上げると、順番に己の名を口にしていく。

 だが、十二席と言う割にはここにいる幹部は二人だけであり、感じる人の気配も敷地の広さの割に少ない。

 しかし、今はそれに話すべきではないとして蒼天は別の話を進めることにした。

 いざ切り出そうかと思いきや、天子がおずおずと言った感じで尋ねる。

「あ~蒼天? 話って長くなる……わよね……」

「まあ、そうなるでしょうね。退屈だからという理由で逃げるのは許しませんよ」

 先に逃げ道を防がれ、天子は肩を落とす。

 蒼天は思い出したように、尋ねる。

「……そう言えば、もう一人この場にお招きしたい方が居るのですが、よろしいですか?」

 その言葉に協会の幹部二人は渋った表情をした。

 果たしてこの場所に、脅威になるかも分からない新しい人物を招いていいものだろうか?

 そう言った感じ表情である。

 ただ、長の方はニコニコとしている。

 あまり自分の心情を読ませないために表情を偽っているのだろう。

 対して、天子の方は誰を呼ぶのかなんとなく予想が出来ているために苦笑いをする。

「ウチは別にかまへんよ?」

「長……少しばかり、無警戒過ぎやないか?」

「でも兼基はん、その人がおったら話しが進むんやとウチは思うんよ。そやから、蒼天はんも提案したんやろ?」

 どうやら、存外に聡い御仁のようである。

 そして、すぐに蒼天はこの人物が交渉に長けた人物であるということを理解する。

「その通りです。ですが私たちは貴方がたからすれば未だに得体の知れない者でしょう。なので別に呼ぶ呼ばないは貴方がたの自由です」

 あくまでも選択権は人間たちに譲る。

 実際に忠言した際にも行動するかどうかの選択はその者しだいである。

 だが、少なくとも忠言を無視ししたまま改善せず、行動にも移さず、大きな代償を払う事になった人間がいるのもまた事実。

 今回はそんな大層な事ではないが、今回の話しでもし彼らと関係を築くのならば……いずれにしろ顔合わせはするだろうと蒼天は思っていた。

 ならば、早い方が良いと考えてはいる。

 幹部の二人は、この状況に判断しかねていた。

 なにせ、他の幹部の面々が居ないのだからこの面子だけで重要な事を決定する訳にはいかない。

 少なくとも長が居れば最低限の方針は決定できるが、案件が勝手に決定されていればこの場に居ない幹部から不満も出る。

 しかし、長から許可が出たので多少の無理は通ると判断して、兼基と幸子は互いに目配せする。

 それを見た長が口を開く。

「ええよ呼んでもらって」

「では、失礼して」

 懐から紫から受け取った連絡札を取り出し、霊力を込める。

『あら、どうしたのかしら?』

「へえ……」

 すぐに紫から反応があった。

 札から声が出た事に少しばかり驚きの声が道子から漏れる。

「原因が判明しそうなので連絡をと、思いましてね。それと、情報の提供者に顔合わせをして欲しいんですよ」

『なるほど。分かったわ』

 それだけ述べると、連絡札に書かれていた通信とは違う術式が反応し始める。

 それは薄いムラサキ色の光から濃い色へと変化し、その光も強くなっていく。

 次の瞬間には蒼天の隣の空間に大きな裂け目が出来る。

 突然の現象に兼基は術符を、幸子は野太刀を手に取り臨戦態勢を取る。

 ぬるっと言った感じに裂け目から現れた紫に二人は息を呑む。

「こんにちは。突然の来訪、ごめんなさいね」

「ええんよ。許可したんはこっちやし」

 紫と言う異形の存在に唯一、普通に返したのは道子だった。

 どうやら豪胆でもあるらしい。

 天子もその胆力に感心する。

「別にそう構えなくてもいいわ。危害は加えないから」

 その言葉に幹部二人は、躊躇った。

 そして同時に気づく。

「お嬢ちゃん、妖怪やな」

 見た目こそフリルのついたファンシーな服を着た少女だが、その少女の本質を兼基は見抜いた。

「ええ、確かに私は妖怪よ。それとも天人だと思った?」

「貴方に天人は向きませんよ」

「まあ、酷いわね」

 にこやかな顔でさらりと蒼天は毒を吐き、紫はそれを同じように笑顔で受け流す。

(もしかして、仲悪いのかしら?)

 などと、天子は二人を見て思った。

「それじゃあ本題に入りましょうか。そこのご老人が言うように私はスキマ妖怪と呼ばれる妖怪よ」

「スキマ妖怪? 聞いたことあらへんな。兼基はんは?」

「いや、ワシも長い事生きとるけど聞いたことあらへん化生やな」

「私しかいないんだもの……当然だわ」

 逆に彼女以外に居れば、それはそれで困る。

 なにせ紫の能力は常軌を逸しているものなのだ。

 彼女がもう一人居れば、幻想郷の力関係が大きく崩れるだろう。

「ウチらに聞きたい事があるみたいやけど――」

「そうね。本題に入りましょうか。まずは、私達が住んでいるところ――『幻想郷』についてお話しましょう」

 まるで、母親が子供に話を聞かせるようにして紫が幻想郷の事を話す。

 その話に道子は引き込まれ、幹部の二人は信じられないと言った感じであった。

 実際にこれほど驚く話はないだろう。

 なにせ、人と妖怪が同じ世界で共存していると言うのだから。

「面白そうなところやね」

「ふふ、ありがとう。それで、問題としては今、人と妖怪の均衡が危うくなっていることなのよ。その原因を私たちは探してるの」

 その紫の言葉に何か思い当たる節があるのか、道子は間を置き、兼基へと目を向ける。

「……兼基はん、もしかすると」

「そやな……『魔法世界』の戦争が関係しとるかもしれんな」

 穏やかじゃない単語流れて、紫と蒼天は眉を動かす。

「向こうの連中はムンドゥス・マギクスと言うとるみたいやけどな、あっちの方じゃ何やら不穏な空気が流れとる。ワシらの方も巻き込まれた形で参加することになってもうた」

「魔法世界……ね」

 紫が反芻(はんすう)するようにして呟き、蒼天の方は別の事に納得がいった。

「ここに人が少ないのはそういう理由ですね」

「そうや。おかげであっちもこっちも手薄でな……今攻めてこられたら確実に終わるってことや」

「兼基はん、少し喋り過ぎとちゃいますか?」

 兼基が色々と言っている事に釘を刺す幸子。

 情報漏洩の事を気にしているのだろう。

 同時に目の前の人物が敵か味方かも分からない。

 その事を思っての言葉と言う事は、この場に居る誰しもが理解していた。

「そう言ったかて、目の前の存在にワシらが勝てるとはよう思えへん。もし、幹部が全員おってもどうなるか分からへんほどの力を感じるわ。けど、あんさんらがこうしてわざわざワシらに許可を得てまで話しとるちゅうことは、争うつもりはないってことやろ?」

 長生きして居るだけあって、ある程度は紫たちの意図が読めているようである。

 実際にも攻め落とす事が目的なら別に、こうして話し合う必要はないのだから、兼基が言う事に間違いはないのである。

 天人である二人にそんな事は出来ないが……

「そうね。私たちは情報が欲しいだけ。特に争う理由はないわ。もし、本当の原因がそちらにあると言うなら話は別だけど」

 半ば脅しと言った感じに紫は威圧する。

「やめなさい」

「きゃんっ!」

 ゴスッと言った感じに天子と同じように鉄の球体が紫の後頭部を襲う。

「痛いわね……こんないたいけな少女に暴力を振るうなんて、貴方は本当に天人なのかしら?」

「貴方がいたいけと言う事自体が筋違いというものです。自分の年を(かえり)みなさい」

「あらあら、何を言ってるのかしらこの若造は……」

「若造? 私の方が貴方より年月を重ねていると言ったでしょう」

「年月の違いが経験の差とは限らないと言ったのはどこの誰かしら?」

「確かに私ですが、貴方が私より経験を積んでいるとは初耳ですね」

 お互いにふふふ、と笑みを浮かべながら舌戦を繰り広げる二人には何やら触れてはいけないモノを感じる。

 いつの間にやら二人の不穏な雰囲気が中心となって部屋の空気が渦巻き始める。

(仲が悪いのか良いのか分からないわね……)

 その二人の一番近くにいる天子は冷や汗をかきながらそんな事を思った。

 そして、関西呪術協会の三人はその様子に何やら置いていかれている感じであった。

「さて、話を戻しましょうか」

 切り替えるようにして、紫が注目を集める。

 あの剣呑な雰囲気はそう長くは続かなかったが、それでも人間にとっては心臓に悪いひと時であった。

「最近、妖怪が減っていることとその魔法世界とやらの関係があるみたいだけど」

「まあ、そう言うたで。さっきも言うたようにワシらの方も巻き込まれる形で人員を向こうに送りださなあかんようになった。式神もようけいる。そう言う訳でワシらが大量の妖怪たちを使役したっちゅうんが考えられる原因の一つや」

「う~ん……使役されるのが嫌で逃げ出したって訳じゃないのよね」

 兼基は原因の一つが自分らにあると言ってはいるが、話を聞く限りとしえは要因としては弱い。

 天子の言う通りで今回、幻想郷に流れてきた妖怪たちの大半は追いやられて辿り着いた。そんな印象があったと、霊華も言っている。 

 だが、陰陽師である彼らが使役する妖怪たちに対して印象を悪くするような事をするか? と言うのが疑問である。

 なので、原因としてはイマイチ弱いと紫と蒼天は考えている。

「ワシらが言うのもなんやけど原因としては弱いと思っとる。けど、中には無理に使役しようとする若造もおるもんやから可能性としてはありえへんことはないって言う話や。で、二つ目。こっちの方が主な原因やと思う。西洋の魔法使いが退治しとる可能性や」

 西洋の魔法使い。

 恐らくは魔法世界から来たという話の連中だろう。

「随分前やけど、ここにも西洋の術が入ってきてな。その際に妖怪たちを害悪やと決めつけ取った連中が好き勝手に暴れまわっとったんや。ワシらからすればええ迷惑ですわ。ほんで、戦争に参加せえと催促に来た際にも一悶着あって被害が及んだって言うのもある。

 とまあ、色々と巻き込まれて幻想郷とやらに辿り着いたもんやと思う。一番、可能性として高いんはこれやな」

「随分と身勝手な者がいたみたいね」

 天子はその話を聞いてハタ迷惑だと思った。

 だが、そのおかげでこうして外の世界に原因究明と言う大義名分があるものの出れたのだから、その点を天子は感謝した。

(まず)しくて恨むことなきは(かた)く、()みて(おご)ることなきは易し……孔子と言う人間が残した言葉ですが、これは力においても言えますね」

「そうね」

 蒼天の言葉に紫は同意するように頷く。

「……今のってどう言う意味?」

「分かりやすく言うなら、貧乏で恨まないことは難しい。金持ちになって驕らないのは難しいが前言よりはやさしいことだと言う事です。力を持った人間が傲慢(ごうまん)にならない事は難しいですが、自制するのはさほど難しくはない……兼基殿のお話を聞く限りだと、その者たちは無用な正義感を持っているように思えます」

 天子が意味を尋ね、蒼天がそれに答える。

 あまり人間たちの争いに蒼天は興味はないが、学ぶと言う意味では人間を見るのが一番良いと判断していた。

 見方によれば趣味が悪いとも取れるが、人の振り見て我が振り直せの精神で教えていけば何も教えずとも、天子は自ら学んでいくと考えている。

 実際天子の場合はあーだこーだと説法を聞かせるような教え方ではなく、こうして観て聴く方が合っていると蒼天は考える。

 それに、天子にも人の本質を見抜く天人らしい資質はある。

 頭の回転も悪くない。

 その説明に天子は納得行ったように「なるほど」と相槌(あいづち)を打っている。

「なんかウチの耳にも痛いんわなんでやろ……」

 剣士である彼女の方は何やら引っ掛かるモノがあるらしい。

「蒼天はんの言うとおりですえ。魔法使いたちは自分たちが特別でその選択はいつも正しいと思うとる。そんな印象が話してる中でちらほら見受けられたわ」

 道子がうんざりしながら言う話が真実ならば、何と傲慢な事だろうか。

 自分たちの選択はいつも正しい。人である彼らが間違いを犯さないと言うのである。

「ふむ。なんとも忠言のし甲斐がありそうです」

 その人間たちに是非とも会ってみたいと、蒼天は思った。

 本来、天人にとって地上は不浄の場所であり、忌避する者もいる。

 中には見下す者もいるが、それは天人の(さが)と言うものである。

 驕りなどで見下している訳ではない。

 その中でも不浄と呼ばれる地上に、積極的に忠言しに行く彼は天人の中では変わっていると言えるかもしれない。

「原因は分かったけど、どうするの?」

「その魔法使いとやらを私が一人残らず冥土に送ればいいんでしょうけど……いらぬ恨みを買って幻想郷を探し出そうとする連中が出た、なんて事になったら困るわ。それに人間は数が多いし、きっとこの極東の島国に来る連中は後を絶たない」

 天子が解決案を聞くが、紫から返ってきたのは物騒な方法だった。

 この大妖怪は実際そんなことを出来てしまうだろう。

 それに、彼女ほど幻想郷を愛している者はいない。

 なにせ小さいとは言え、世界を作った一人なのだから彼女にとっては我が子同然だろう。

 そんな我が子同然の世界が危機に直面したとなったら、その脅威は躊躇いなく排除されるだろう。

「今のところ解決策はないと言う事ですね」

「そう言う事よ。人間の事情は数式を解くようには上手くいかないわ」

 蒼天の言葉に、面倒そうに彼女は答えた後、すくっと座布団から立ちあがった。

「と言う訳で、私はこれで失礼させてもらいますわ。情報、ありがとうね」 

 そして空間を裂き、笑みを浮かべてそのまま退場する。

 彼女が去った後、道子たちは何やら少し緊張した空気が霧散した気がする。

「全く、えらいもんが世の中にいるもんやな。老い先短い身やのにさらに寿命が縮まりそうやったわ」

 はっはっはっと、豪快に笑う兼基に幸子は冗談ではないと溜息を吐く。

 確かに彼らからすれば紫は恐怖以外の何者でもなかっただろう。

「そう言えば、蒼天はんらはこの後どないしはるん?」

「そうですね……今の日の本の土地を見ながら、その魔法使い達とやらに会いに行こうとは思ってますが……」

「と言うか、原因がその魔法使いだとしたらそれが目的じゃないの……」

「そうですが、私は貴方を教育することも兼ねてますからね」

「え~……」

 道子の質問に答えるような形で答える蒼天だが、天子は蒼天の目的が不満のようである。

 その瞬間、いいことを思いついたとばかりに道子が笑みを浮かべている。

 しかし、天人二人は気付かない。

 ずっと手元に置かれていた扇子を開き、彼女は口元に持って行くことで隠した。

 そして――

「なあ、お二人さん……ウチら関西呪術協会に入ってくれへんか?」

『――えっ?』

 道子が放った言葉に蒼天以外の全員が呆気にとられ、固まるのだった。

 




幸子(さちこ)やないで、幸子(ゆきこ)やで……
と言う訳で、関西呪術協会との会合でした。
次回もしばらく話し合いが続くやもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天人二人、人の組織に入る

うーむ、案外いける……のか?
息抜きに書いてみれば、案外ネタが湧いてくる。
しかし、思いつきである事は変わらず。

天人のチート性能が伝わればよいのですが、天人の硬さってどれくらいなのかがまた疑問。


 大和撫子(やまとなでしこ)を体現したような容姿をした大人の女性――藤原 道子。

 彼女の提案に誰もが驚いた。

 誰も、の前に『蒼天以外』と付くが……それでも多少なりとも蒼天も内心、驚いている。

 片膝立ちになって真っ先に反応を返したのは、美丈夫な女性――青山 幸子(ゆきこ)である。

「長!! 一体、どう言う事や!?」

「ややなー、さっちゃん。どう言う事って言うても……勧誘よ、勧誘」

「さっちゃんやない! ユキコやからな! 名前をわざと間違えた上に、あだ名まで付けるのやめい!!」

 もはや上司と部下の関係ではなく、友人のやり取り的なものに変わっている。

 幸子は天人二人と兼基の視線に気付き、

「こほん……」

 ワザとらしく咳払いをして、静かに正座をする。

 その様子に頭の上がほとんどが禿頭(とくとう)である兼基(かねもと)は、苦笑しながらも道子に尋ねる。

「長……幸子の嬢ちゃんほど取り乱す訳やないけど、理由を聞いてもええか?」

「いやー、せっかく天人様が来てくれたんやから……こんな千載一遇(せんざいいちぐう)の機会を逃したらあかんと思うたらつい、な?」

 体は大人だと言うのに、どこか子供っぽさを(かも)し出す彼女はそんな風に言うのだった。

 そんな彼女を見て蒼天はそれが本心だとも思った。

 なぜそう言えるかと言うと……天人である彼が(つちか)って来た鑑識(かんしき)眼としか言いようがない。

「こう言うのも何ですが、よろしいので? ここにいるのは十二席の内のたった二席、そして長である貴女(あなた)。勝手に物事を進めては、他の者から不満も出ましょう」

「まあ、そうやね。やけど、ウチらも切羽(せっぱ)詰まってる。それこそ、天に(すが)りたい様な心境や」

 先程とは違う真剣な言葉。

 その長の言葉に、幹部である二人は黙って静かに目を閉じる。

 二人が何も言わないのは、その言葉が真実だからであろう。

 蒼天は短く息を吐いて、(いさ)めるように言葉を(つむ)ぐ。

「元はと言えば、私達も人間ではありました。ですが、今は天人と言う違う種族です」

 ――種族が違う。

 それは暗に、そう簡単には手は貸せないと言う答えでもあった。

 いちいち天人が人間の事情に介入しては……面倒な事になるだろう。

「種族の違い。それは分かってます……やけど、さっきの紫はんの話にあった幻想郷みたいに折り合いが付けられへん訳やないでしょう?」

「しかし、折り合いを付けたとしても人間の事情は人間で解決すべき事です。私達に出来るのは人間を助け、忠言をし、導くと言う天人らしい役割ぐらいです」

「せやからお二人に、この『関西呪術協会』の相談役になって貰いたいんや。つまりは客将的な感じで、ウチらの組織の方針は最終的にウチら自身が決める。せやけど、ウチらを導いて欲しい。そう言う事ではアカンかな? 衣食住に関してはウチらが用意する」

「――ノったわ!」

 声を上げたのは蒼天ではなく、天子。

 その瞳がらんらんと輝いてるのは、気のせいではない。

『………………』

 全員が、その言葉に黙る。

 そして蒼天に関しては疲れたような目と冷めたような目をして、天子に声を掛ける。

「……天子」

「なによ、ちょうどいいじゃない。地上に身を置いた方が都合が良い、って言ってたでしょ?」

「そうですがね。人間のいざこざに自ら突っ込んでどうするんです……」

「大丈夫よ。そこら辺の分別はきちんとするわ」

 そうは言っているが、天界で退屈していた天子にとっては美味しい話ではあった。

 蒼天にとっても都合の良い話ではあるが――

(どのような事を頼まれるか、分かったものじゃないですし)

 長である道子の人柄を見るに、自分たちを利用すると言う感じではないだろう。

 それに蒼天たちには、この幻想郷の外の世界においては何の後ろ盾もない。

 当然、天人だと言っても昔ならともかく文明が発達している今では信じる者はいないだろうし、話を真面目に聞いてくれるとも限らない。

 貸す耳がなければ忠言のしようもない。

 だが、道子の画策により色々な問題が解決する。

 衣食住が手に入り、なおかつここに存在する者だと言う事が証明できる。

 そう言う意味では都合が良い。

 それに(くだん)の魔法使いについても、ゆっくりと話を聞ける事だろう。

 ――郷に入っては郷に従え。

 人に馴染むためには必要な事だ。

 天人二人にとっては人に戻るような感じではある。

 まさかこんなに早くも彼らと関係を持つ事になるとは……蒼天としても意外ではあった。

 いずれにしても――、

(天の気まぐれと言う事にしておきましょう)

 蒼天は疲れたように息を吐いて、答えた。

「分かりました。話をお受けしましょう」

「……ほんま?」

 道子はどこか嬉しそうに聞いてくる。

「ええ、他の方も納得すると言うのならそれで良いでしょう。ですが――」

「ああ、それは分かってるよ。誘ったウチが言うのもなんやけど、ここにおらへん人達が納得するまでは暫定(ざんてい)的に一員と言う事にするよ」

 道子は分かってるとばかりに蒼天の言葉を遮って、京都弁で答える。

 いきなり新しい者……それも天人などと言う普通に考えれば胡散臭い存在をこの場にいる者だけで組織に入る事を勝手に許可すれば、混乱も困惑も起きる事だろう。

 人間の組織とは面倒だが、そう言うものである。

 しかし、そこら辺の事は既に道子は考えていた様である。

「そう言う事なんやけど、兼基はんとさっちゃんは、この案についてどう思う?」

「ワシとしては、もう少し慎重になるべきやと思うけどな。魔法世界でのいざこざもあるし……せやけど、まあ。個人的に天人やと言うあんさんらが気になるんも事実。ここは長の判断に従うと言う事にしとこうか」

「なんや随分と素直やないのやな、兼基はん。害がないって言うなら、ウチは別に構わへん。それと長、さっちゃんやなくてユキコです」

 警戒心が無い訳ではないが……一応、受け入れると言う方針のようである。

 蒼天は素直にお礼を述べた。

「感謝いたします」

「うーむ、なんか本当に天人にお礼を言われとると思うたら、むずかゆいわ」

「一宿一飯どころの付き合いにはならなさそうですからね。自分勝手な天人と言えども、恩義を感じれば素直に感謝もします」

 道子の言葉に蒼天はそう返すが、彼を知る者が見れば天人の中でも変わっている部類だろう。

「その通りよ。感謝なさい」

 無い胸を張って、天子が威張る。

 本来の天人としての性格としては天子が正しいのだが、

「やめなさい」

「――まくどっ!?」

 蒼天が天子の頭に鉄球をぶつけ、物理的に注意される。

 鈍い音と共に、変な奇声を上げて天子は床に伏す事になる。

 その様子を見て、早くも関西呪術協会の幹部と長は彼らの上下関係を理解した。

 そんな中、兼基は顎に片手を当てて黙考した後に、口を開いた。

石守(いしのかみ)殿」

「なんでしょう、九条殿?」

「いきなりこう言うのもなんやけど……出来れば天人の実力いうんを見せて貰いたい」

「それは……なぜでしょう?」

「やっぱりワシとしても、天人やと言うのは信じたい。青山の嬢ちゃんは既に実力の一端を知ってる見たいやけどな……」

「やはり自分の目で確かめたいと、そう言う事ですね?」

「そう言う事や」

 彼の言い分も(もっと)もであろう。

 信じたくとも、実際に見なければ信じられない事と言うのは多々ある事である。

 まさしく『百聞は一見にしかず』と言うこと。

 当然、そんな事は蒼天にも理解できていた。

「そうでしょうね……天子」

「なによ、って言っても分かってるけど」

「面倒だと言うなら私がやりますが――」

「早く行きましょう」

 蒼天の言葉にすぐに反応して、天子は立ち上がる。

 話し合いばかりで退屈していたのだろう。

「まあ、そう焦らんと……幸子はん。今、道場って空いとる?」

「やっと普通に名前で呼んでくれた。さて、どうやろうな。門下生のほとんどが魔法世界の方に出払ってしもうたさかいに、空いてるとは思うけど……」

 道子の言葉に幸子はそう答える。

「外じゃなくていいの?」

「どう言うことや比那名居はん?」

 天子の言葉に幸子は疑問を覚える。

 それに対して天子は自信を持って答えた。

「――きっと室内じゃ足りなくなるわよ」

 

 

 そうして案内されたのは大きな湖の傍にある森。

 森と言っても一部が広場の様になっており、そこに天人二人と関西呪術協会の三人はいた。

「……って、なんでウチが戦う事になっとるんや!!」

「幸子の嬢ちゃん、頑張りやー」

「待てえ、そこのハゲオヤジ! あんたが見たい言うたんやから、あんたが戦うんが筋とちゃうんか!?」

 幸子がそう怒鳴りしらしている。

 理由は簡単である。

 天子と対峙してるのが彼女であるからだ。

 そんな幸子の抗議に、兼基は――

「ああ、ちょいと腰が痛くなってな……」

「ウソつけえ! この間、元気よく走り回っとったやろう!!」

「全く、細かい事を気にしとったら女性と言えどもハゲるで?」

「ハゲとんのはあんたや!!」

「とまあ、冗談として……さすがに老骨にムチを打つんはきついんや。それに、ワシは『見たい』とは言うたが『戦ってみたい』とは言わんかったで」

「こんの……屁理屈を言うてからに」

 のらりくらりと言う兼基に、ヒクヒクと頬を動かして怒る幸子。

 だがすぐに息を吐き、落ち着いた様子で彼女は天子へと向き直る。

 何だかんだと言って、彼女も二人の天人の実力に興味があるのは確かだ。

 こうして早くも剣を振るい合う機会が訪れたのは……僥倖(ぎょうこう)と言えるだろう。

 そしてすぐに雰囲気が変わった事に、蒼天は着目していた。

 兼基も道子も、対峙している天子にも分かっていることだろう。

「天子、加減を間違えないで下さいよ!」

 蒼天は釘をさす様にして声を少し大きくし、そう言った。

「分かってるわよー!」

 離れている彼女は軽く手を振って答えた。

 天子がやるとは蒼天は思ってないが……天人が人を殺める。

 それはある種の禁忌である。

 もちろんそんな罪を犯して、有頂天に居座り続けるのは不可能であろう。

 と言っても、蒼天はそれほど心配をしてる訳でもない。

 ただの杞憂(きゆう)と言う奴である。

「――ほっ!」

 兼基がそう言って札を何枚か投げた。

 そして、空中に張り付いたようなお札を中心に、結界が張られて行く。

「この結界は?」

「認識阻害の結界や。これで多少派手に暴れても、一般の者には気付かれんやろう」

 蒼天の質問に、兼基はそう答える。

「昔に比べて……随分と陰陽術も進化したものです」

 素直に蒼天はそう思う。

 少なくとも認識阻害と言ったものは、昔にはなかった術である。

「やっぱり、長い事生きてはるんやね」

「まだ疑ってたんですか……まあ、無理からぬことですが」

「いいや。改めてそう思うただけよ」

 蒼天はその道子の言葉に内心驚く。

 本当に心から信じてると言った感じであったからだ。

(博麗もそうですが、何とも面白い御仁(ごじん)です)

 道子を見て、彼はそう思うのであった。

 

 

 一方、対峙してる天子と幸子はと言うとお互いに向き合ったまま。

 不意に幸子が天子に尋ねる。

「なあ、少し質問してええか?」

「なにかしら?」

「天界ってどんな所や?」

「やっぱり興味がある?」

「興味がないと言えば……嘘になるな。本当にあんさんらが天人やって言うならの話やけど」

「案外(うたぐ)り深いのね……」

 幸子の言葉に、天子は困ったように返す。

 そのまま天子は考えるようにして言葉を続ける。

「……そうね。まず最初に言っておくと、私や蒼天が住んでる天界は……貴方達の仏教で言う有頂天の事よ」

 有頂天――それは世界の中でも最上の場所にある事を示す事からそう呼ばれる。

 天界と一言で片付けられているが、厳密には色々と違う。

 だが簡単に説明するのならば、天子や蒼天が住む天界はその中の有頂天であると言う事だろう。

 幸子は驚く。

「有頂天……非想非非想天か……!?」

「あら、知ってるのね」

「剣士や言うても退魔の剣士やからな。陰陽術とかに関係して、少なくとも仏教関連に造詣(ぞうけい)はある」

「なるほどね。それで、他に天界の何を知りたいのかしら?」

「そらまあ、人間にとっては楽園みたいに思い描かれとるからな。実際はどんな所でどんな生活しとるっていうのかは気になる」

「天界暮らしはのんびりしていて退屈よ。歌や踊りをしたり、魚釣りをしたり、碁を打ったりしたりと、仕事もせずに常に最上級の食事を取って暮らしているわ。これだけを聞けば人間にとっては理想の楽園でしょうね」

「贅沢な世界やな……何か腹立つ」

「そうでしょうね。だけど、問題として娯楽が少ないのよ。そんな生活を何年、何十年も続けてたら飽きも来るわ」

 だからこそ天子は退屈である。

 同じような事を蒼天に尋ねても、退屈である事を否定はしないだろう。

「だから、今回の事は言っては何だけど渡りに船。原因究明と言う大義名分があるけれど、こうして幻想郷の外に出られたのは私にとっては嬉しい事よ。ま、お喋りはここまでにして始めましょ。元々の目的は剣を交わす事でしょう?」

「そうやな。今はウチらもそないに暇やないしな」

 幸子はそう言って身構え、天子は自然体でいる。

 天子にとって、それは余裕と自信の表れである。

「ところで、真剣じゃなくていいの?」

 天子はそう尋ねる。

 確かに幸子が握っている物は真剣ではない。

「神鳴流は得物(えもの)を選らばへん。それに、これはただの交流や……木刀でも充分に出来る」

 彼女はそう言って木刀を見せるように振って、答えた。

「それもそうね。だけど、地上の者には負けないわよ」

 そう言って、天子は挑発する。

「その言葉――後悔しなや!!」

 気合いの入った言葉と共に、幸子は十間はありそうな距離を一瞬で詰めた。

 その速度に、天子を目を見開いて驚いている。

「神鳴流奥義――斬岩剣!!」

 まさしく一閃。

 幸子の言葉と共に横()ぎの木刀が天子を襲った。

 凄まじい衝撃と音が響く。

「――なっ!?」

 しかし、怯んだのは幸子の方だった。

 木刀とは言え、渾身の一撃。

 多少なりとも手応えはあった筈だった。

「ビックリね。外の世界の人間にもこれほどの手合いがいたなんて」

 涼しい顔で言いながら、天子は腕一本で防いでいた。

 幸子はすぐに一瞬で距離を取る。

「あんさん、ちょいと硬過ぎひんか?」

「私に限った話じゃないわよ」

 彼女の質問に天子はそう答える。

 その言葉に幸子は冷や汗を流す。

(いやいや、鉄でも叩いてるんかと思ったわ……ウチの方がビックリやわ)

 内心、そんな感想を抱いていた。

「次は私から行くわよ」

 言いながら天子は複数の注連縄付きの岩――要石(かなめいし)を自分の周りに出現させる。

 そして、そのまま幸子へと真っ直ぐに高速で飛んで行く。

「甘いで!」

 その要石を幸子は木刀で破壊し、(かわ)しながら再び距離を詰める。

 その姿は速く、見えない。

 しかし天子はその姿を捉えているのか……『緋想の剣』を取り出して幸子に向かって振り下ろし、斬り結ぼうとする。

 だが、次の瞬間には天子の後ろに幸子は現れた。

 虚空瞬動(こくうしゅんどう)――『気の足場』を作り、その足場を蹴って移動する術である。

 それにより幸子は天子の背後に回ったのだ。

 完全なフェイント。

 先程は腕で防がれたが、今度は胴体に一撃をいれる事が出来る。

 しかし、幸子は気付く。

 自分の足元に、自分の体とは違う影が出来てる事に。

「――せいっ!!」

 そう言いながら、幸子は自分の頭上に降って来た柱のような大きさの要石を叩き斬る。

 その質量に両断された要石はズウン、と言う音を立てて彼女の両脇に落ちる。

 だが、それは隙のある状態を天子に見せる事になる。

 緋想の剣を振りかざし、幸子へと迫る。

(回避――間に合わん! 防御!!)

 すぐに幸子は思考し、持ち前の経験と判断力で木刀を盾にする。

 が――、

「なん……やて!?」

 木刀はいとも簡単に、斬れた。

 彼女のその首筋には、緋色に輝く刃。

 呆気にとられたが簡単に分かってしまった。

「ウチの……負けかいな」

「そう言う事になるわね。短かったけど、充分に分かったでしょ?」

 天子は剣を下ろしてそう言う。

 確かに天子の言う通りであった。

 ほんの数分――いや、1分前後だろうか。

 ともかく短かったが、実力を幸子は充分に理解した。

 彼女にとっても天子にとっても、色々と不完全燃焼でもあるが……元々は実力を把握するための、交流試合ようなものだ。

 その実力が多少でも分かったのなら、続ける意味は無い。

「なんや悔しいな。人じゃないって言うの置いておいても」

「まあ、良いじゃないの。蒼天も言っていたでしょ? 一宿一飯の付き合いにはならなさそうだって、私は長い事退屈してたから歓迎するわよ」

「つまり、再戦の機会はあるかもしれんって事やな。ほんま、今日は驚きっぱなしや」

「刺激があるのは良い事よ」

 天子はそう言って偉そうな感じに言うが、天界の生活を知れば重みのある言葉なのかもしれない。

 二人はそのまま、観戦していた三人の方へと歩んで行く。

 

 

「うーん、随分と短かい試合やったな」

「まあ、そんなもんやろう。それにお互いに本気とちゃうし殺し合いしとるんちゃうんやからな」

 道子の言葉に兼基がそう返している間にも、幸子と天子が普通に声が聞こえるほどに近づいてきた。

「いやー、負けたわ」

 負けた割には特に悔しそうな顔はせずに幸子はそう言った。

「本気やないとは言え、遠慮したんとちゃうやろうな?」

「そないな事しまへん。そんなんやったらもっと味気ないモノになっとったわ」

 兼基に幸子は呆れるようにして返した。

 そんな中で、幸子は疑問に思った点を蒼天に尋ねる。

「しっかし、比那名居はんから聞いたけど天人って言うのはみんな硬いんか?」

「もう一度、試してみますか?」

 そう言って蒼天は木刀……とは違うが、刃が無く、柄も全てが金属で出来た日本刀を手元に生み出して幸子に投げる。

 彼女はそれを受け取りながらも疑問があった。

「さっきもそうやったけど、どうやって鉄球とかを出したりしとるんや?」

「私の能力ですよ。ある方に仕えている内に授かった能力……『金属を操る程度の能力』です」

「金属を操るって……」

 蒼天の言葉に幸子は声を上げて驚き、兼基と道子も驚く。

「そらまあ、随分とけったいなもんやな。神鳴流剣士にとっては相性悪いんとちゃうか? 自分の持ってる刀が、自分に向かってくるんやろ?」

「簡単に言えばそうですが、敵対する前提で話してませんか?」

「ああ、すまんすまん石守(いしのかみ)殿。最近は戦争になるやもとピリピリしとってな……どうしてもそう言う風に考えてもうて」

 年寄りだと言うのに豪快に笑って兼基は、蒼天の呆れにそう返す。

「とまあ、もう一度試してみると良いでしょう」

 そう言って蒼天は自分の手首を顔の近くに持って行く。

 その言葉に幸子は、

「ええんか?」

 と、遠慮するように聞く。

「別に許可してますし、天誅(てんちゅう)とかそう言うのは起きませんから」

 蒼天本人がそう言うのだから、幸子は以上しつこく聞く事も無く、構える。

 兼基と道子もその様子を静かに離れて見守り、天子は全然心配する事も無く、その様子を呆れて見ている。

「いくで……斬岩剣!!」

 刃を潰した刀とは言え、木刀と違い金属。

 幸子の気迫と共に振るわれるそれは、天子に向かって放たれた斬撃よりも鋭い。

 蒼天はその斬撃を手首に受けて、飛ばされる事はないが……地面から動く。

「今のは少し本気やったんやけどな」

 幸子はそう言って蒼天を見るが……彼は涼しい顔。

 刀を下ろしても、手首に傷が付いた様子は無い。

「ほんまに硬いな。体の中とか肌まで実は金属とちゃうやろうな?」

「そんな奇妙な生物は私でも見た事ありませんよ。この硬さは、天人の特徴と言えば特徴でしょうね」

 彼女の言葉に突っ込みながら、蒼天はそう説明する。

 それに対して道子は、「ほえ~」と言った感じに気の抜けた驚き方をしていた。

「それと、もう一つ。比那名居はんが持ってる剣やけどな」

「これ? この緋想の剣がどうかしたかしら?」

 天子は幸子に見せるように緋想の剣を構える。

 緋色の刃を持つそれは、剣士である彼女にとって魅力的な物であった。

 別段、盗もうなどと言う気概は起きないが、惹かれているのは確かである。

「さっきウチが木刀で比那名居はんの剣を防ごうとした時、木刀に纏わせ取った気が吸い取られた見たいやったわ」

「よく気づいたわね。この剣はそう言う剣よ」

「つまり、どう言う事や?」

「この緋想の剣は、相手の気質……つまりは気を吸収して力に変える剣。さっきの戦い、その木刀に気でも流して強化してたのでしょう? だから、私の要石(かなめいし)を木刀でも斬る事が出来た」

「その通りや。だからこそ、神鳴流は得物(えもの)を選らばへん。『気』を使えばどんな物でも武器になる……やけど、得物に流してる気を吸収されたら意味がない」

「得物に流してる気に対してまさしく気を使う、やな」

「……兼基はん、スベっとるで」

「そこは年寄りに気を使えや」

「黙らんかい耄碌(もうろく)ジジイ!!」

 途中から割り込んだ兼基に対して幸子は怒鳴る。

 その様子を他の三人は呆れて見ている。

 天子は改めて説明する。

「つまりこの剣は相手の気を吸収し、さらにはその弱点となる気に変えて攻める事が出来る。まさしく弱点を突く剣よ。ちなみに言っておくと、この剣は天人以外には扱えないわ」

「天人にしか扱えへん? 人間とかが握ったらとんでもないことでも起きるんかいな?」

「そんな大層な事は起きないわ。試しに握って御覧なさい」

 質問した幸子に、剣の柄の一部を握るよう催促(さいそく)しながら天子は差し出す。

 おそるおそると言った感じに、幸子はそれを握ろうとするが――

 手が柄を擦り抜けた。

「え? これ、どないなっとるん」

 そう言いながら彼女は何度も柄を握ろうとするが、すり抜けるだけ。

 天子は確かに緋想の剣を持っている。

 物質としては存在してるのに、握る事が出来ない。

 そんな不思議現象に兼基と道子は興味深そうに見ている。

「見ての通り、天人以外には握る事が出来ない。だけど、人も物も斬る事は出来る。随分と矛盾した剣ね」

「へえー、なんやこれおもろいわー」

 天子の握っている緋想の剣を、道子も言いながら握ろうとするが……すり抜ける。

「こんなもん、誰も盗めへんな」

 盗もうと思ってもそもそも触れられないのだから、持ち運びようもない。

 兼基はうんうんと頷く。

「え? 触れられへんのやったら、布とかで巻いて触れずに持って行けるんとちゃうん?」

 ここで長が逆転の発想とばかりに言うが、

「それも無理よ。試してみたら分かるわ」

 天子はすぐに否定した。

 早速検証とばかりに道子は幸子から手拭(てぶぐ)いを借りて、その布越しに持とうとするが……すり抜けた。

 無駄だとばかりに天子は説明する。

「天人以外が触れようとした時点ですり抜けるわよ。縄を引っ掛ける事も出来ないし、イタズラに動物が持って行く事も出来ない」

「まさしく天の秘剣やな」

 うんうん、と兼基は再び頷く。

「触れへんのが少しばかり残念やけど、そう言うもんなら仕方あらへんね」

 道子も道子で納得している。

 それからポンと手を叩いて、思い出したように道子は尋ねる。

「そう言えば、蒼天はんの能力は分かったけど、天子はんはどないなもんなん?」

「……私? 私は『大地を操る程度の能力』よ。つまり、今目に見えてる大地は全て私が操れる。地面を盛り上げる事も、地震を起こす事も出来る。まさしく天変地異を起こす事が出来る能力よ」

 道子の言葉に天子は機嫌良く自信満々に答える。

 彼女は自分の能力に自信を持っているからこその発言である。

「まあ、実際に天変地異なんてことすれば地獄に叩き落とされますけどね――私によって」

「え……蒼天が落とすの? 閻魔とか死神じゃなくて」

「名居様や貴方の父君からもその様に(うけたまわ)っています。あまりに道理を外れるようなら、と」

「初耳なんだけど……」

 冷や汗を流しながら、天子は蒼天の言葉に肩を落とす。

「と言う訳で、私も彼女も危険な存在ではありましょうが、その様な事はしたしません。もちろん、問答無用に襲い掛かられれば抵抗もしますが」

「うん、それを聞いて安心したわ」

 道子は蒼天の言葉にそう答える。

「改めて蒼天殿と天子殿を『関西呪術協会』に歓迎します」

 京都弁ではなく真剣な口調で言い、組織の長として――道子は(こうべ)を垂れる。

 それに(なら)うように、兼基も幸子も頭を下げる。

 暫定的ではあるが、天人二人が本格的に地上で暮らす第一歩であった。

 




時系列はお察しの通り、魔法世界での戦争が起こる少し前と言った感じです。

魔法世界での戦争が始まったのが1981年。
蒼天たちが来たのは1980年の終わり前後です。

ちなみにこの時、『ラブひな』の青山鶴子さんは10歳前後。
青山素子さんは1982年12月1日生まれなので、まだ生まれてません。

幻想郷の時系列ではスペースシャトルがどうだこうだと言う話だったはず……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天人二人、戦場に立つ

久しぶりの更新です。

あーだこーだと私情を片づけて、メインである緋弾の方を執筆していたら御覧の有様ですよ。

並行して定期的にいくつも執筆してる人は、すごいと素直に思う瞬間です。

実は言うと(単行本は全部あるけど)ちょっと原作の展開を忘れ気味。
と言うか、見てくれてる人いるのか? と、色々と心配です。


 

 天人である蒼天と天子が、関西呪術協会の一員となってしばらく。

 早くも季節が移り変わる頃となった。

 天人と言う……普通に聞けば(いぶか)しまれ、忘れられた存在を、そう簡単に人間が受け入れる訳でもない。

 が、人間は慣れる生き物である。

 誠意を持って話せば、心を開いてくれるものもいるであろう。

 天人――人ならざる者と言う事もあって遠慮しがちな者もいたが……そんな態度も(やわ)らぎを見せ始めた。

 そんなある日、親についての悩みを持っているという青年が蒼天の所へと来て相談を持ちかけ、それに対して蒼天は答えていた。

「良いですか? 人の生き方は十人十色、その者の生き方と言うモノがあります。血の繋がった肉親であろうとも結局は自分とは違う人間なのです」

「……はい」

「意見がぶつかる事もありましょう。しかし、だからと言って自分の意見を通さずにいれば、親も貴方を理解しないでしょう。先程も言ったように肉親であろうとも自分とは違う人間。心を読む事などできません。私から言える事は、それだけです」

「では、どのようにすれば……」

「自らの考えを主張する事です。全てを伝える事は難しいでしょうが、話を聞くに……不徳な親と言う訳でもないようですし、その息子である貴方の言葉を、無下(むげ)にすることもないでしょう。行動するもしないも、貴方自身です」

「――分かりました。ありがとうございます」

 答えたと言っても、実際にどのようすればいいのかは本人しだいである。

 あくまで天人がするのは忠言。

 強制はしない。

 あくまでどのような行動をすればいいのかを指し示し、導く。

 自分の使命はそう言うものだと蒼天は思っている。

 青年は蒼天にお礼を言って、部屋を出た。

「……随分と楽しそうね」

「まあ、これが天人としての本分ですからね」

「忠言と言うよりは説教みたいな感じに見えるんだけど……」

「紙一重ですし」

 入れ替わるように部屋に入って来た天子に対して彼はそう返す。

 このように、蒼天に忠言を頂こうと言う者が徐々にだが増えて来た。

「幻想郷以外でこうして天人としての役目を果せるとは、思ってもいませんでしたね……」

「天人と言っても、今を生きてるし未来を見通せる訳でもないしね」

「ま、貴女(あなた)の言う通りです。と言うより、それは私が言った言葉でしょう」

「こうして言わないと、話をちゃんと聞いてるのか疑われそうだし」

(したた)かですね」

 天子に向かって、蒼天がそう言うと同時に部屋が開けられる。

 またしても忠言をして欲しいと言う者であろうかと、そちらを見る。

「失礼いたします。長から話があるとの事で、会議の間に集まって欲しいと……」

「分かりました。すぐに行きましょう」

 連絡にきた巫女に蒼天はすぐに返す。

 そのまま巫女は一礼して、襖を閉めて去って行く。

「行ってらっしゃい」

「一緒に行くんですよ」

「……許してくれる訳ないわよね」

 蒼天に掴まれて天子は連れて行かれる。

 

 

「かの魔法世界――ムンドゥス・マギクスで戦争が始まった」

 道子は前置きも無しに、集まった幹部を見てそう言った。

 それについて、幹部十二席の二人は焦る事も驚く事もなかった。

「とうとうか……向こうの状況はどないなっとる?」

「使者からの話を聞くに、宣戦同時攻撃やそうや。前から小さな争いは絶えへんかったそうやし、こうなるのは時間の問題やった」

「そうか、詠春は?」

「武者修行でこんな事になるとは思うてなかったみたいで、ウチらが戦争に参加する口実にされた事を悔やんどる。ま、その事について話をしとる暇もない」

 幸子の質問に、道子は答える。

「修行に行った事に関しては、事前に神鳴流のモンらで話して合意の上やったんやろ? ある意味、巻き込まれたのはしゃあないとも取れるが……」

「ともかく、詠春については後回しや。魔法世界に行った者らの状況は?」

 兼基の言葉に少し同意しながらも、幸子は話を変える。

「うーん、宣戦同時攻撃や言うてもいきなり戦闘になった訳やない。心配しとらん訳……でもないけど、今の所被害報告は無しや」

 長である彼女の顔も言葉も、真剣なモノだが、心配している事には変わりは無いだろう。

「蒼天はんはどう見る?」

 道子は、蒼天に尋ねる。

 相談役と言う名目上、組織の今の状況、そして情勢は一通り聞かされている。

「戦とは、傭兵でもなければ個人で行うものではありません。ましてや国、組織ともなれば、何かしらの利がなければ動かないでしょう。それに争う理由はいくらでもあります。土地、人、資源、宗教、民族の違い。この戦争で誰が何を得るのかを考えれば、分かる事はあるでしょう」

「ああ、そうやな。その事については色々と分かってる。そもそも、魔法世界にいる詠春の坊主をわざわざ探し出して口実にするくらいやしな」

「ならば考えられるのは、関西呪術協会の戦力を削るため」

 蒼天は兼基の言葉を補足するように付け足す。

 魔法使い達の狙いとしては、あわよくばこの極東の島国を乗っ取ろうと言う事だろう。

「はあー……」

 怒りを通り越して呆れ、息を吐いて兼基は毛の少ない頭を掻く。

 幹部達が全員いた時の話で分かってい事でもあった。

 だが改めて言われて、戦争が始まり、実感が湧いたのだろう。

「色々と面倒ねぇ」

「天子はん、一言で片付けんといてください」

 幸子はそうツッコむ。

 実際に面倒なのは事実でもあるために、間違いではない。

「ともあれ、現状維持やな……一応、兼基はんは念のために食糧やらの支援物資は確保しといて欲しい。幸子はんは他の支部に連絡してくれる? 蒼天はんらは……相談があります」

「分かったわ」「うむ」

 幸子、兼基の順番で頷き、会議の間を出て行く。

 日が浅いとはいえ蒼天や天子を、長である道子と一緒にする事に何も言わない辺り、ある程度の信頼は得ている証拠だろう。

「して、相談とは?」

「――魔法世界に行って、ウチの同朋を護って欲しい」

 これ以上なく真っ直ぐに、蒼天に向かって彼女は言って来た。

 

「別に構いませんが?」

 

「え?」

 その蒼天の言葉に、道子は驚愕の声を上げた。

 いかにも意外だと言わんばかりの顔である。

「まあ、あくまで護るだけで一緒に戦ってくれと言う事でしたら、お断りしましたけど」

「そ、その……ええのんか? てっきり、そんないざこざに介入したらあかんとか何とか言うもんやと……」

「そうですね。人災である戦争……介入する必要は無いのですが、義を見てせざるは勇無きなり。今は私も客将身分とは言え組織の一員ですからね。護る事ぐらいは出来るでしょう」

「相変わらず、堅苦しいわね」

 最後に天子がそう言うが、その通りだろう。

「仕方ないでしょう。天人が人間の庇護にいるなど知れたら、私以上に口うるさい天人に何を言われるかも分かりませんし」 

「自分で口うるさいのは認めるのね」

「どこかの閻魔様よりはマシでしょう」

「どうだか……あの人と口論する物好きなんて貴方ぐらいでしょう?」

 天子はほとほとに呆れている。

 蒼天から口に出た『閻魔』と言う単語を聞いて、道子は内心では驚きながらも話を続ける。

「護るだけならやってくれるんやな?」

「ええ、護るだけなら。最初の話では、客将……もとい相談役としてと言う話でしたので、今回の話は最初の話とは違うと言う事になります。問題は……」

「――対価か?」

「すみませんね。今となっては形骸化(けいがいか)と言うか、忘れ去られてしまいましたが……天人に貢物(みつぎもの)をする事で、人間を助けた例もあります。まあ、ある意味では図々しい事ではありますが……」

 蒼天の言葉に、道子は考えるような顔をしてすぐに、

「分かった。ある程度の物ならすぐに揃える。なんならウチ自身でもええよ?」

 笑顔でそう答える。

「いや、人身御供(ひとみごくう)ではないのでそこまで仰々(ぎょうぎょう)しく考えなくても結構なんですが……それと、冗談なのでしょう?」

「冗談と言えば冗談やし、もし対価に求められるんやったらそれでも良かったけど?」

 カラカラと笑いながら道子は蒼天に答える。

 本人は笑っているが、それほどの覚悟があったのだろう。

 『天に縋りたい程の心境』――彼女の言葉に偽りなどなかったのだ。

「ま、いいじゃない。いずれにしても魔法使いとやらについて知るいい機会よ」

「天子の言う通りなんですが、貴女(あなた)はいささか不謹慎(ふきんしん)な考えを持ってそうですけどね」

 的を射るような蒼天の言い方に、天子は「……う」と言って動揺する。

「どっちにしても、ウチにとってはありがたい事やからね。それで、何を対価に望むん?」

「神鏡や霊剣と言った物があれば、それでお願いいたします」

「私はお酒で」

 蒼天、天子の順番で言うが、望む物に差があるのは性格の違いだろう。

 天子の要望に関して、蒼天は突っ込まない。

 対価としてはあり得る話である。

 お神酒(みき)――神前に供えるお酒――のようなものだと考えてもいいだろう。

 道子は頷く。

「分かった。すぐに、とは行かんけど用意させるわ」

「ただ、一つだけ注意してください」

「なにかな?」

「天人と言えども全知全能ではなく――全てを救える訳ではありません」

 言葉を飾らずに蒼天は言った。

 元から天人でもない限り、大体の天人は人間からのなり上がりである。

 そして、完璧な人間など存在しない。

 その完璧でない人間からなった天人も、また完璧とは言えない。

 そもそも、この世に完全な存在や完璧な存在などありはしないと言うのが、蒼天の考えである。

 だからこその注意の言葉である。

「それでも、よろしいのですか?」

 暗に犠牲が出ると言ってるようなものだ。

 蒼天の言葉に道子は少し眼を閉じ、一呼吸を置いてすぐに口を開いた。

「構わへん。その代わりに一人でも多く救うって、約束して欲しい」

「分かりました」

 確かに蒼天はそう言った。

 

 

 道子と別れ、天子と共に蒼天は庭へと出る。

「随分と肩入れするのね」

「肩入れと言うほどでもありませんよ。昔はよく、と言うほどではないですが……こう言うのはありましたからね」

「あら、そうなの?」

「昔と言っても、いつだったか……1000年か2000年、それ以上前にも何度かありましたし」

「貴方、本当に何年生きてるのよ」

「前にも言ったでしょう? 自分でも分からないほどに生きてますよ。と言うか、幻想郷で生きた年数を気にする者がどれだけいる事か……」

 蒼天の言葉に、天子は少し考えて、

「あんまりいないわね」

 否定した。

「でしょう?」

 蒼天は同意するように笑顔で言った。

 そもそも、妖怪に限らずに人外の者と言うのは長生きである。

 100年、200年などほぼ当たり前。

 中には1000年以上生きてる者もそれなりにいる。

 なので、生きた年数を聞いたところであまり自慢にもならず、気にする者もあまりいないだろう。

 だが、天子としては改めて蒼天について気になり、尋ねる。

「ところで、本当の所としてはどれだけ生きてるのよ?」

「どうでしょうね。天照(あまてらす)様が天岩戸(あまのいわと)に籠もられてしまった時には天人でしたし、今となっては人間の時の記憶があやふやなものですから」

「――え?」

「何ですかその意外そうな顔は……」

「いや、いやいやいや……普通にいくらなんでも驚くわよ」

「そうですか? 私以上に長く天人でいる者なんてそれなりにいますよ」

 自慢する事もなく蒼天はそう言うが、天子にとっては衝撃の事実であった。

「しかし、奇妙な事になりましたね。魔法世界などと言う異界に行って人間を助ける事になろうとは」

「私としては貴方の人生の方が奇妙に思えるわ」

 蒼天の言葉に同意せず、どこか違う事を天子は言う。

 それから二人はそのまま静かに部屋へと戻って行った。

 こうして二人の天人は奇妙な運命により、魔法世界に行く事となったのだった。

 

 

 ――後日。

 関西呪術協会の者の手を借りてゲートポートを通り、かの魔法世界へと天人二人は降り立った。

 魔法世界(ムンドゥス・マギクス)――今回の異変の原因である魔法使いなる者たちがいる世界であり、地球ではない場所。

 その魔法使いについて蒼天はある事を思い出していた。

「そう言えば、幻想郷にもいましたね……。魔法を使う者が」

「そうなの?」

「ええ。もっとも、私は会った事はありませんが……紫の話を聞くに魔法使いではなく魔女との話でしたが」

「それってどう違うのよ?」

「魔法を使う人間が魔法使いであって、魔女と言うのは種族的のものを指すらしいです」

「つまり、人じゃないと言う事ね」

 天子はそう言って簡単に納得する。

「えーと、天人様達。ちょっとよろしいですか?」

「なんでしょう? 葛葉(くずのは)さん」

 蒼天が目を向けて答えたのは、30前後の女性。

 名前を葛葉 刀花(とうか)と言って、今回の蒼天たちの案内をした者である。

 メガネをしており、少しばかり堅いめの性格をしている。

 彼女は蒼天達に少し物怖(ものお)じをしながらも話を続ける。

「着きましたよ?」

「みたいですね」

「なにか、驚きとかはないんですか?」

「興味深くはありますが、あんまり表だって驚く事でもありませんし」

「………………」

 初めての異世界だと言うのに、蒼天は冷静に返す。

 その冷静さに対して、刀花は何とも言えない表情を向ける。

「蒼天~。貴方もこっちに来なさいよー」

 子供のようにはしゃぎながら、天子が遠くから呼ぶ。

 蒼天は呆れながら天子を見てから、刀花に話しかける。

「すみませんが、入国手続きとやらをお任せしてもよろしいですか?」

「失礼を承知で言いますけど、天人には見えません……」

「天人と言っても、別に完全に悟りを開いてる訳ではありませんからね。それに、欲が全く無い訳でもないですから人間臭く見えるのも仕方のない事です」

「そうですか……初めて知りました。それはそうと、ここは私に任せて比那名居様の所に行ってやってください」

「感謝します」

 そう言って蒼天は、天子の所へと行く。

「何やってるんですか、貴女(あなた)は……」

 開口一番に蒼天は、天子に向かって(いさ)めるように言う。

「どうやらあっちに外を見渡せる所があるらしいわ」

 しかし、天子は話を聞かずに話を勝手に進める。

 蒼天は思った。

(幻想郷にいる者は、大概話を最後まで聞こうとしないんですよね……)

 この事については、蒼天としても諦めがついている。

 重要な話でもない限りはこちらが折れた方が早いと、そんな結論に至っていたりもする。

「分かりましたよ。ここがどんな所なのかを先に見に行きましょう」

「さすが蒼天ね」

 嬉々とした笑顔で、天子は返す。

 そのまま天子へとついて行き、階段を上がる。

 見えてきたのは、いくつもの円柱状の建造物。

 さらには柱のような岩の上にも同様の建物が存在する。

 まさしく都市と言う感じの街並みであり、鉄のクジラや魚を模した物が空に浮いている。

「ふむ、これはまた興味深い所ですね」

「幻想郷の外のさらに外にはこんな世界があったのね」

 蒼天、天子の順番でそんな感想を口に漏らす。

「今はゆっくりと見て回る訳にも行きませんがね。それに、戦時ですから気が立っている者もいるでしょう」

「私としてはケンカを売られれば望む所だけど」

「……もう貴女は地上に残っておきなさい」

「冗談よ……」

 天子は涙目ながら蒼天に訴えるように言う。

 蒼天としても、天子の言い分は分からないでもない。

 せっかく外の地上に来たとは言え、それほど外を見て回っていない上にほとんど話し合いだったため、これほどまでに退屈しているのだろう。

 彼は溜息を吐き、天子に言う。

「仕方ありませんね。荒事は基本的に貴女に任せますよ」

「貴方って融通がきかない訳じゃないのよね……」

「柔軟に生きるのは難しいですけどね。もちろん、融通がきくと言っても甘やかす訳ではないんですけど」

「ですよね」

 蒼天の言葉に天子は肩を落とす。

「お二人さん、終わりましたよ」

 途中から来た刀花によって二人は景色を眺めるのを中断し、彼女の後に続いて行く。

 

 

「……空を飛ぶのって変な感覚ですね」

 刀花は空中に浮きながらそう言う。

 彼女の案内によって、蒼天たちは

 と言っても彼女はどちらの方に行けばいいかを口で言っているだけで、実際は蒼天たちと並んで飛んでいる。

「あら、貴方達も飛んでるじゃない。あんな風に」

 天子は目に映った、箒に乗って飛んでいる人達を示す。

 それに対して刀花は首を振る。

「いや、私達は飛んでると言うよりは跳躍(ちょうやく)の方の跳ぶなので」

「そう言えばそうだったわね。虚空瞬動(こくうしゅんどう)、って言ったかしら」

「ええ、なのでこう言う風に飛ぶと言うのは浮遊術でも覚えていないと味わえないのですが……」

 天子に答えながら刀花は蒼天を見る。

「浮いてると言うよりは私が浮かしてるのですけどね」

 ツッコミを入れるようにして、蒼天は刀花を見て答える。

 刀花の両手両足には鉄の輪が付いており、それを蒼天の『金属を操る程度の能力』で浮かしている。

 天子が言った虚空瞬動での移動でもいいのだが、少なからずとも『気』を消費する。

 能力を使えば、体力もそれほど消費せずに済む。

 今は戦時で、どこで戦闘が始まるかは分からない。

 なので、体力温存のためにも蒼天がこうして能力を使っていると言うことである。

 

 ――グオオオオオオっ!!

 

「今の鳴き声は……」

 刀花が冷や汗を流しながら、鳴き声がした右を見る。

 蒼天たちもそちらの方に目を向ける。

 近づいてくるのは、空中を飛ぶ黒い影。

 先程の続きだが、戦闘と言っても人だけではない。

 例えば――

「竜やないかーーッ!?」

 例えば生息している現地生物などと戦闘する場合もあるのである。

 接近する物体の正体を見て刀花は叫んだ。

 翼をもった黒い竜が、叫び声を上げながらこちらへと飛んで向かって来ている。

 天子は蒼天に話しかける。

「竜なんて初めて見たわね。ところで幻想郷にいる龍神って、あんな感じなの? 蒼天」

「いや、幻想郷でウワサされている龍神とは大分毛色(けいろ)が違いますよ」

「なんでそんなに落ち着いてるんですか!? 竜ですよ! 飛竜ですよ!?」

「竜ですねー。いやはや、魔法世界と言う存在を初めて知ってからと言うものの……驚く事が多いですね」 

 刀花に対して驚いているなどと言いながらも、涼しい顔で蒼天は落ち着いている。

 と言うよりも、天人二人はどちらも取り乱してはいない。

「なにを落ち着いてるんですか!?」

 そう言って取り乱しているのは刀花一人である。

「ここでも通用するかは分かりませんが、物は試しですね」 

「何をする気ですか!? 竜種に立ち向かうなど、余程の腕がなければ自殺行為ですよ!!」

 蒼天を呼びとめるように刀花は叫ぶが、蒼天は構わずに前に出る。

 咆哮(ほうこう)と共のに迫りくる黒い竜。

 その飛んでくる竜に対して、蒼天はかざすように手を上げた。

 それを見ている刀花は息を呑みながら刀を持って身構える。

 だがしかし、黒い竜は段々と飛んでくる速度を緩め蒼天の目の前で制止した。

「どうなってるんです……」

 襲い掛かる勢いだった竜の様子の変わり様に刀花は疑問の声を上げた。

 彼女の疑問に答えるように天子が言う。

「ああ、天人の特性みたいのものよ。大概の猛獣は簡単に手懐(てなず)ける事が出来る。もっとも、この世界でも通用するかは分からなかったけど蒼天を見る限り問題なさそうね」

「竜を猛獣扱いってどういう事ですか!?」

 刀花が驚きながらもツッコむ。

「地上の生物であれば大概は手懐けられますよ。もっとも、価値観を持つ程の知性がある妖獣などには効果はありませんがね」

 そう言いながらも蒼天は黒い竜の頭を撫でる。

 先程の襲い掛かって来そうな勢いはどこへやら、借りて来た猫のようだと言わんばかりにおとなしい。

 それでも興奮状態にいるのは変わらないようである。

()んでいた所を追われましたか……だからと言って、無闇に襲っても何も戻って来ません。無駄に命を散らす事もないでしょう。去りなさい」

 語りかけるように蒼天がそう言うと、黒い竜は一つ(うな)って、翼を羽ばたかせ去って行った。

 その様子に刀花はポカンとした表情しか浮かべる事しか出来ない。

 が、無理もない話かもしれない。

「少し足止めされましたが……行きましょうか」

 そう言って蒼天が向き直り、飛んで行く。

 ゲートポートで天人に見えないと刀花は言ったが、

(前言撤回ですね)

 などと内心思っていた。

 

 

 ところどころ飛んで移動し、乗り物を経由して数時間。

 蒼天たちはようやく目的地であるグレート=ブリッジの近くにある都市――『トリスタン』へとやってきた。

 この都市の郊外に関西呪術協会の拠点があることを、既に道子から聞かされている。

「てっきり現地の建物かと思ったけど……違うのね」

 天子が目の前の建物を見ながらそう言う。

 なぜなら蒼天たちの眼前に広がるのは、移動中には全く見なかった日本の平屋のような建物だからだ。

「最初からあった……と言う訳ではなさそうですね」

「ええ、色々あって拠点と言うか野営地は自分で用意しろと言う事でしたので」

「余程戦力を削りたいのでしょうね。力を削ぐと言う点では理にも利にも適っていますが」

「なにを感心してるんですか! あの魔法使いどものせいで、戦う意味も無くこんな所にまで借り出されて……」

 憎々しげに刀花は吐き捨てるように言う。

 理解できない話ではない。

 勝手に巻き込まれた挙句に援助は無し、自前で戦に臨めと言うのだから身勝手にも程がある話だろう。

「手を抜けば死ぬのが戦ですしね。適当な戦果を残して退くと言う、器用な事が出来ればいいのですが」

 蒼天の言う事がある意味としては最善ではある。

 元々の問題として付き合う義理も無い戦いなのだから、文句を言われない程度に戦果を挙げて退ければ、失うものは少ないだろう。

「『出来ればいい』と言う事は、上手く行かないと言う事ですか……」

「ええ、葛葉さん。そもそも今回の相手の狙いが関西呪術協会の戦力を削ると言う点にあるのでしたら……無茶難題を吹っ掛けてくるのは想像に(かた)くないでしょう」

狡猾(こうかつ)な……ッ!」

 怒りを(あら)わにする刀花だが、それを蒼天は(なだ)める。

「まあ、落ち着きなさい。長である彼女との約束もあります。微力ながら、多くの者を救って見せましょう」

 微力などと蒼天は言うが、刀花にとっては先程の竜を手懐けた所を見たので、その言葉が頼もしく見えた。

 いざ敷地に入ろうと、そんな時だった。

 誰かが後ろから倒れる音がする。

 そちらの方を見れば、負傷している二人組の男性。

 一方は軽傷だが、もう一人は血を流していていかにも重傷である。

「どうしたんですか!?」

 真っ先に心配するように刀花は彼らに駆け寄る。

「く、葛葉さん……どうしてここに……」

「私がここにいる理由は今はいいです! それより何が?!」

「前線のウェスペルタティア王国の辺境で襲撃を受けて……もうすぐ他の人も、転移を繰り返して追手を撒きながらここまで後退してくるでしょう」

「後退してくると言う事は、殿(しんがり)は誰が残ってるんですか!?」

「天ヶ崎さんと立花さんらが残って……」

 軽傷をしてる方の青年が状況を刀花に説明している。

 蒼天たちは、すぐに自分達の出番である事を確信した。

 彼は投下に歩み寄り、話しかける。

「早くもお役目のようですね」

「そうですね……行ってくれますか?」

「そのために来たんです。もっとも、場所が分からなければ行きようもありませんが」

「なら、転移した彼らの気の跡を辿って行けば自然に着くはずです。私が案内をします」

 刀花は目の前にいる彼らの気の跡を辿るように精神を集中させている。

 そんな中、負傷している者は見慣れない蒼天たちを見て尋ねる。

「貴方達は一体……」

「天の助けみたいなものだと思ってください。そう言えば忘れてましたね」

 そう言って蒼天は人が数人は通れるような金属の大きな鳥居を作り出す。

 その光景に二人組の男性は驚く。

「何のための鳥居よ」

「帰り道ですよ」

 天子の疑問に蒼天は簡潔に答える。

「では、行きます」

 準備が出来たらしい刀花に連れられるように、

「転移!」

 天人二人は戦場へと向かった。

 

 

 転移を繰り返し、最終的に着いた所はまさしく戦場であった。

 森の中で目立たないが空を見上げれば、そこでは(いかずち)が轟き、天空が燃え、光弾が飛び交う。

 混沌とも言える状況。

 だが、そんな中でも蒼天は落ち着いていた。

 いや……それどころか何かを思い出しているようだった。

「まるで大昔の神様同士の争いを見ているようですよ」

 静かに彼はそう言い、刀花に目を向ける。

「大丈夫ですか? かなり消費しているようですが」

「ええ、長距離転移はさすがに応えます……」

 負傷した男性二人ははかなりギリギリの状態であった。

 後退の余力を残していたか、もしくは長距離転移が出来る符を持っていたのだろう。

 おそらくは後者。

 だが、刀花はそうではなく普通の転移符で気を辿るように繰り返して長距離転移をした。

 その分の消費は膨大だろう。

 蒼天が呆れるように息を吐きながら言う。

「私も少し手助けしましたが……さすがに神通力は人には馴染みませんね」

「では、転移の時に妙な力を感じたのは……」

「ええ、葛葉さんの転移に合わせて私の力を少し渡しました。さすがに自身を含め三人も長距離転移させるのは難しいだろうと思いまして」

 神通力――神力とも呼ばれる力は、天人や文字通り神様が使えるモノである。

 巫女などと言った者にも神降ろしなどをして、その身に神霊(しんれい)を身にのりうつした際に得られる力ではあるが。

 さすがにただの人間である刀花には荷が重かったようである。

「もし力を渡していなければ、その場で倒れていたかもしれませんね」

「それは……すみません」

 その事実に刀花は蒼天に対し謝罪する。

 いても立ってもいられなかったのだろう。

「焦るのも分かりますが、あまり無茶をしては足を引っ張ってしまうことぐらい分かるでしょう? それでは元も子もありません」

「はい……って、説教を受けてる場合ではありません!」

「分かってますよ。問題は、上に出れば即座に狙われるでしょうね」

 蒼天がそう言って空を見上げれば、何隻もの空を飛ぶ船や何か槍のような物を持って空を飛ぶ人々。

 閃光が激しく飛び交い、飛べばすぐに狙われるだろう。

「悠長な事を言っていては、残っている者達が――」

「分かっていますよ。一人でも多く救ってくれと道子殿から仰せつかってますからね」

 刀花を宥めるように蒼天は言い、それに対して天子は尋ねる。

「結局、どうするのよ?」

「降りかかる火の粉を払いながら探すしかないでしょう。少なくともこの近辺にいるはずです」

「それはいいわね。とても単純で分かりやすいわ」

 緋想の剣を出して、好戦的な笑みを浮かべて天子は蒼天に答えた。

「できれば葛葉さんは、この場から退散したほうが良いかと……さすがに消耗し過ぎていますし」

「そう、ですね……」

 さすがにこの状況では足を引っ張るだろうと刀花自身分かっているのか、息を切らしながらも蒼天に答える。

 蒼天はすぐに一人分が通れる大きさの金属の鳥居を出現させた。

「この鳥居をくぐれば、拠点に戻れます」

 その蒼天の言葉に半信半疑と言った感じに刀花は鳥居を見る。

 この状況において蒼天はウソを言っているつもりはない。

 刀花もそんな事は何となくだが分かっている。

「あとは、お任せします」

 心の残りとばかりに彼女は言って、恐る恐る鳥居をくぐろうとする。

 手から入るようにして彼女が鳥居をくぐった瞬間に、光に包まれて彼女は消えた。

「これってどう言う仕組みよ」

「神様が分社に移動する時の応用みたいなものですよ」

「随分とまあ、便利ね」

「説明はあとでにしましょう」

 天子の疑問に答えながら蒼天は鳥居を片付け、空を見上げる。

 そして、そのまま空を飛び関西呪術協会の者を探す。

 魔法の(いかずち)や氷、炎の中を彼らは飛ぶ。

 流れ弾のように魔法が飛び、蒼天たちを掠めて行き、後ろで大地を(えぐ)る轟音と光が発せられる。

 その余波が多少なりとも天人二人にも届く。

「こんな中を探すのは苦労するわね」

 天子は帽子が飛ばないように抑えながら呟く。

「近くにいるのは確かな事でしょう。周りとは違う力……霊力に似た物を感じます」

「それはさっきから分かってるけど……魔力って言うのがあちこちにあってイマイチ場所が捉えづらいわね」

「実際掻き乱されてますからね。まさしく、力と力のぶつかり合い――おや」

 軽い感じで蒼天は飛んで来た炎の矢を(かわ)して停止する。

 天子もそれに合わせて空中で制止し、蒼天の見ている方へ顔を向ける。

「止まれ、貴様ら何者だ?」

 重武装の鎧を着込み、巨大な西欧の槍を持っている男性が見下ろしながら、問いかけてくる。

 いつの間にやら同じような格好の者に取り囲まれている。

「天子は口出し無用ですよ」

「……まだ何も言ってないじゃない」

 蒼天は先に釘をさした。

 間が空いてるあたり何かを仕出かすつもりだったのだろう。

 などと思いながら蒼天は、向き直る。

「失礼、私達はしがない増援でして」

「ほう……所属はどこだ」

「関西呪術協会から」

「ふっ、そうか」

 顔は見えないが不敵に笑う男性。

 そして、

「ならば、貴様らは敵だ!」

 槍をこちらへと向け出し、周りの者も同様に構え出す。

「やれやれ……ですね」

 蒼天が首を振ると同時に目を細めて、手を静かに上げて下ろす。

「全員、う――!?」

 男性が同時に号令を掛けようとした瞬間、

「なんだこれはああああぁぁぁぁぁーーーー!?」

 訳も分からないと言った感じで鎧を着ている者、全員が叫びながら落ちて行く。

「あーあ……」

「さて、先を急ぎましょうか。こんな敵も味方も分からないような場所に長居は出来ませんし」

「死んでないのよね?」

「戦場だからと言って私達が殺生をしていい理由にはなりませんし、する訳がないでしょう」

 そう言って、蒼天は再び霊力に似た力を感じる方へと進む。

「そりゃそうよね」

 天子も一人納得しながら、彼の後を追う。

「ところでさっきあの人達が落ちて行ったのは能力で?」

「単純に鎧を下に動かしただけですけどね。別段、難しい事は何もしてないですよ」

 彼らが落ちて行った理由は、至極単純。 

 蒼天の能力で鎧を下へと動かした。

 ただそれだけである。

 傍目から見れば、飛行魔法が出来なくて落ちたように見えるだろう。

「相変わらず便利ねー」

「応用できる範囲は狭いんですよ」

 二人は戦場とは思えないほどに落ち着いて話をしている。

 殺伐とした状況には似合わない事、この上ないだろう。

 

 

 霊力に似た力を追い掛けて数分――

 その短時間で何度か戦闘に巻き込まれたが、全て蒼天が片付けた。

 そうして、目的地の周辺に着いたが当然ながらそこには誰もいない。

 空中に留まりながらあたりを見回す。

 無惨な戦闘の後、死の匂いしかしない。

 戦闘の後としては新しいらしく、所々で火が出ている。

「酷いものね……」

「人間上がりの私達からして見れば、さらに気分のよいものではないでしょう。私は見慣れてますが……」

 言いながらさり気なく視線を蒼天は倒れている死体へと目を向ける。

 関西呪術協会の者とは違う。

 おそらくこの世界の住人であろう兵士が何人も横たわっている。

 それから再び響く戦火の轟音。

「あちらですね」

 蒼天は首を向けた方へと飛んで行く。

 天子も後に続き、二人は加速する。

 すると、どんどんと音は近くなり次第に巫女装束や宮司の装束をした者達が見えてくる。

「あれね……」

「天子、彼らを守るようにして大地を隆起させてください」

「分かったわ」

 段々と戦闘場所との距離を縮めると人の形も見えてきた。

「きばらんか! ここで死んでもうたら、故郷の土が踏めへんぞ!!」

「でも、天ヶ崎さん! 追撃をかけられてる状態での撤退は大きな痛手が!」

「んなもん分かっとる! せやけど、戦力的にはこっちが不利、真正面からぶつかる方がもっと大きな痛手や! 殿は俺らがやる! 若いもんは逃げえ!!」

 何やら追い込まれた状況で指導者らしき人物が(げき)を飛ばしているのが聞こえてくる。

 若い陰陽師達が文句を言おうとした瞬間、大量の火の矢が指導者と思しき陰陽師に襲い掛かる。

「くっ!!」

 護符を構えて、防ごうとするその瞬間だった。

 突然、分厚い鉄の壁が彼らの前に出現し火の矢を防ぐ。

 何が起こったかと彼らが状況を理解する前に、今度は大地が唸りをあげて盛り上がり、高い土の壁が出てくる。

 陰陽師達が敵からの攻撃かと混乱する中、彼らの前に蒼天たちが割り込むようにして降り立つ。

「相変わらず、私の能力は火とは相性悪いですね……」

「でも、すぐに融ける訳じゃないでしょ?」

「そうなんですけどね」

 陰陽師達からすればどこか場違いな会話をしながら青年と少女が現れたとしか見えないだろう。

 その謎な状況がさらに混乱を招く。

「あんさんらは一体――」

「詮索をする前に為すべき事が貴方がたにはあるんじゃないんですか?」

 天ヶ崎と呼ばれたメガネを掛けたひょろ長の彼がセリフを言い切る前に蒼天が言葉を発する。

 その言葉に、いち早く彼は反応しすぐに切り替える。

 ここは戦場、気を抜けば死ぬと言う事を彼は思い出す。

「お前ら! ぼーっとしとらんとさっさと逃げえ!!」

 その一喝に他の陰陽師達もハッとなり、森の奥へと逃げていく。

「誰か知らんけど……恩に着る」

 そう言って、彼もすぐに仲間を追うようにして走り去っていく。

「さて、天子……派手に攪乱(かくらん)してください。私のは大人数に対して有効じゃありませんから」

「仕方ないわね」

 緋想の剣を取り出し、彼女は勢いよく地面へと刺す。

 すると再び大地が唸り、隆起してさらに山のように高い壁となる。

 ある程度の高さまでいくと、その壁が今度は轟音を上げながら崩れる。

「一体どういう事だ!?」

 突然の現象に誰かが驚愕の声を上げる。

「これだけ注目を集めれば十分でしょう」

「結局、真正面から戦う事はなかったわね」

 どこか残念そうに天子が呟くのを聞いて蒼天は少しばかり呆れながらも、森からでない程度に空中に浮き、陰陽師達が逃げていった方向へと飛ぶ。

 そして、置いて行かれないよう天子もその後に続く。

 

 

 そう遠くに逃げた訳ではなかったのか、陰陽師達はすぐに見つかった。

 つまり、追手が混乱から回復すればすぐに追いつくと言う事である。

 先程の天ヶ崎が蒼天達に気づき、近づいてくる。

「助けていただき、感謝します。ところであんさんらは……」

「しがない新人ですよ。道子殿に頼まれて増援に来た次第です」

「新人……? にしては、えらい強力なモノを見た気がするが……」

「それよりもここを早く離れましょう。私達の事は後でお話ししますので」

「分かったわ……全員転移の準備に入れ!」

 謎の大型新人と言う事で、釈然としない様子の天ヶ崎だがすぐに指示を出した。

 ここでのんびりとやってる暇がない事ぐらい分かっているのだろう。

 すぐに結界が張り、大規模な転移陣が描かれ、手早く転移へと移る。

 そうして光に包まれた瞬間に、蒼天を含め関西呪術協会の者たちは森から姿を消した。

 

 

 トリスタンの郊外にある関西呪術協会の拠点へと戻って来た。

 すぐさま建物の方から何人かが走ってこちらに来る。

 慌てた様子で、重傷者から先に運び出すようにして肩を貸したり、担架を持ってきたりしている。

 恐らくは彼らは、治癒術師と言った医療に長けた者の類だろう。

「蒼天さん! 天ヶ崎さんも!」

 その中に刀花の姿があった。

 声を上げてこちらへと走って来る。

「くずははん!? 何でここに……」

「長からの頼みで、彼らの案内を頼まれまして」

「彼らって、この新人か?」

 天ヶ崎が視線を蒼天達へと向ける。

「新人で間違いはないのですが……」

 刀花は天ヶ崎の問い掛けに、目を泳がせながら答える。

 そして彼女は内心、果たして彼らを新人と言う枠組みにいれてもいいのだろうか? と、思っている。

 それから刀花はハッと気付き、

「立花……立花さんはどこに?!」

「いや、さっきから新人さんの隣にいはるやろ」

「――あっ」

 天ヶ崎に言われて初めて気付いたとばかりに、刀花は声を上げる。

 蒼天と天子も隣を見ると、少し強面の中年男性が立っていた。

 手には太刀を持っている。

「し、失礼しました!」

「大丈夫だ。慣れている」

 刀花の謝罪に対し、彼はどこか悲観的な感情が混じっている低い声で答えた。

 そこはかとなく哀愁が漂っている気さえする。

「それより、彼らについての説明はないのか?」

「それについては長より書状を預かっております。他の十二席の方も交えて拝見するようにと……」

「そうか」

 刀花の返答に立花は静かに返した。

 そして、彼の視線はそのまま蒼天達へと注がれる。

「ほなら、行きましょうか」

「天ヶ崎さんは先に治療に行ってください」

「大丈夫や。ちょっと怪我したんと重傷のメガネだけやから」

「腕から血を出してるのがちょっとな訳ないでしょう。重傷のメガネと一緒に見て貰って下さい」

「……分かった分かった、やからそうけったいな顔しんとき」

 天ヶ崎がそう言って渋々と刀花の横を通り過ぎる。

 彼女は天ヶ崎を視線で追ってその後ろ姿を見ながら「まったく……」と疲れたように言った。

 それから刀花は蒼天達へと向き直り、

「これから他の十二席の方々の所に案内します。立花さんは特に怪我などは?」

「問題無い。主な殿(しんがり)は天ヶ崎達だった。俺は退路の確保をしていただけだ」

「そうですか……これから報告に?」

「ああ、葛葉の言う長からの書状も交えてな」

「分かりました。それでは、行きましょう」

 蒼天と天子は少しだけ刀花と立花の背中を見送る。

「なんだか、さらに奇妙な事になっちゃったわね」

「長い目で見て行きましょう。すぐに幻想郷が崩壊すると言う訳でもないですし、今は彼らを護る事だけを考えればいいのですよ」

 ひっそりと天子の漏らした言葉に対して蒼天は答え、それから天人二人も刀花の背中を静かに追うのだった。

 

 

「失礼します」

 刀花がそう一声掛けた後に(ふすま)を開く。

 そこにいたのは一人ののほほんとした雰囲気の男性。

「おお、刀花はん。そちらの見慣れへん二人が話とった長からの増援かいな?」

「はい、一条さん。男性の方は石守(いしのかみ) 蒼天殿、少女の方は比那名居(ひなない) 天子殿です」

 どうやら蒼天たちが救出に向かっている時に刀花が説明したようだ。

 それから一条と呼ばれた男性は見定めるような視線で蒼天たちを見て、

「ううん、何と言うか……思うてたよりも若いな~。おまけに一方はお嬢ちゃんとは思わんかったで」

「誰がお嬢――」

 反論しそうになった天子を蒼天が口を抑えて止める。

 その隙に刀花が説明する。

「そう思われるのも無理はないでしょう。なので、長の書状をお持ちしています。他の十二席の方にもお目通りするように言ってください」

「ほいほいっと……あれ? 頼宗(よりむね)はんいつの間に私の隣にいるんや?」

 一条が刀花から書状を受けると同時に隣に気付いたようだ。

 そして、一条はあぐらを掻いて座っている立花に疑問を持っている。

「葛葉と一緒にいた」

「ああ、そう……。もうちょっと存在主張してくれな分からへんがな……」

 簡潔に答えた立花に対して一条は静かに視線を逸らして呟いた。

 それから彼は書状に目を通し始める。

「ふむ、なるほどなー……」

「長は何と?」

「ああ、頼宗はん。どうやら彼らが増援やって言うのは本当みたいや。ご丁寧に九条はんと幸子(ゆきこ)はんの署名まであるで」

 それから一条は書状を立花へと渡し、彼は書状に目を落とす。

「そんでもって今の所は暫定的にやけどウチらの一員っちゅう事らしいが……何者かの説明は後回しやそうや」

「この非常時にそんな怪しい奴を一員に認めろと?」

「だからこその暫定的な決定なんやろうな。ま、長に九条はんと幸子はんが認めたんやから少なくとも信用は出来るって事やろ。でなかったら増援にも寄越さへん」

 書状に目を通しただけで、一条は確信を持ったように言うと同時に立花の疑問に答える。

(どうやら切れ者のようですね)

 そう思うと同時に蒼天は道子に対する人望も垣間(かいま)見ていた。

 一条も立花も、引っ掛かる部分はあるが一先ず受け入れると言った感じである。

「お揃いのところお邪魔するで」

「天ヶ崎さん、もういいんですか?」

「くずははん、そんな疑わしい顔しながら言うのやめてや。ちゃんと診て貰ったさかい」

「天ヶ崎さんは無茶する癖がありますから、それと私は『くずは』じゃなくて『くずのは』です」

 治療された後である腕を差しだすように見せる。

 どうやら、メガネも新調したようである。

 それから天ヶ崎は蒼天たちに気付き、

「いやー、さっきは助かったで。ほんま、感謝します」

 ともうお礼を述べながら和やかに近づいてくる。

「なんや、天ヶ崎はんは早速世話になっとったんかい……」

「突然現れたと思えば助けてくれてな、お陰様でウチらはこうやって帰ってこれましたわ」

「既に貸し一つかー……わいとしては色々と詮索(せんさく)したい所やけど……書状に説明を後回しにする(むね)が書いてあるって言う事からして、書状で説明出来んほど面倒な事か、混乱を招くからか」

 ぶつぶつと一条は、聞こえるようにして考えられる事を並び立てる。

 それから視線を変えて、

「と思うんやけど、刀花はんどないや?」

 揺さぶりを掛けるような感じで聞いた。

 それに対して刀花はしどろもどろになる。

「両方と言いますか、何と言いますか……自分からは何とも……」

「そうかいな、じゃあ突っ込んだことを聞くんは無しにしよ」

 あっさりと一条は諦めた。

「ま、今は忙しい時期やから説明は落ち着いたらって事にして置こうか」

「そうしていただけると助かります。一から説明するには落ち着いた場所が一番ですからね」

「それは同感やなー。ま、ここは一つよろしく頼むで」

 一条は軽く手を振って蒼天に答える。

 

 どうやら天人二人のさらなる奇妙な出来事はまだまだ続きそうである。

 




天人だから寿命をあまり考えずに過去編を回収できます。

色々と展開を考えてますよ。

葛葉刀子の幼少期だったり、誰かの幼少期と絡ませたり。

自分のやんちゃな時期を知ってる人ほど頭が上がらない的な展開をやりたいと言う願望が若干あったりする。

大まかな流れは変えないつもりですよ?
私の力量では、原作を大きく外れて収拾出きる自信がががががggg


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天人二人、紅き翼と邂逅する

久々の更新。
ええ感じに絡んでるはず……
と言うか久々過ぎて、自分でも分からん。
話の展開ではありませんよ?
こっちは3人称で書いてるので、書き方の問題がですね……

まあ、楽しんでいってください。
パワーバランスどないしよ……それがちょっと測りかねてます。




 そんなこんな、と簡単に済ませて良い訳ではないが。

 幻想郷の危機を調査に来た天人二人は、異世界の戦場に降り立つ事となった。

 聞く人が聞けば訳の分からない説明だ。

 ただ一文だけみれば、前後に何の関連性も無い。

 異世界である魔法世界(ムンドゥス・マギクス)――この世界に存在するグレート=ブリッジと呼ばれるおおよそ三百キロにも及ぶ巨大な橋のような建造物がある。

 その近くの都市『トリスタン』の郊外に存在する関西呪術協会の野営地の一室では――

「どうぞ」

 と、蒼天が何かを譲る。

「む、なかなか堅いな……」

 しかし、それに対して一条は手を顎に当てながら呟いて考える。

「何をやってるんですか、あなた達は?!」

 障子をスパーンと開き、部屋に飛び込んできたメガネを掛けた堅い雰囲気の女性――葛葉(くずのは) 刀花(とうか)が声を上げて入って来た。

「飛車で……アカンか、久々に攻めあぐねるな」

「聞けーーっ!」

「刀花はんか、今ちょっとええ所やから……」

「何を子供みたいな事言ってるんですか!?」

 どうやら思考に集中する感じの人らしい一条は刀花を一瞥し、すぐに将棋盤の上に目を落とす。

 その態度に刀花はヒクヒクと頬を引きつらせている。

 様子を見かねた蒼天はすかさずに言った。

「一度中断しましょう。勝手に駒は動きませんし」

「む……しゃあないな」

 蒼天の一言に渋々と言った感じに一条は居住まいを正す。

 自分の時は貸す耳を持たなかったのに、蒼天に対しては素直に聞いたことに刀花は不服を覚えた。

「なんで仲良くなってるんですか!?」

「逆に仲良くしたらあかんのかいね?」

「いや、そう言う訳ではないですが……」

 むしろ、ギスギスした関係になるのではと刀花は思っていた。

 突然に現れた新人。

 しかし、詳しいことは詮索するなと言うのだから不満が出るのも当たり前だろう。

「あのな、刀花はん。確かに怪しさ満点やけど、長に九条はんに幸子はんの署名が書状にあるんや。やから天子はんと蒼天はんを疑うってことは、長たちを間接的に疑ってもうてることと同義や……だからわいは疑いもせんし、事情を話してくれる言うんやからそれまで待てばええだけや。長たちも節穴やない。それに……この人を疑ったらなんか罰当たりな気もするんやな~」

 蒼天はその事について何も反応を示さなかったが、

(別に疑ったところで罰当たりも何もありませんがね、むしろそれが普通の反応ですし)

 と一条の言葉に対して思っていた。

「それはそうと――これでどうや……」

「ならばこう返しましょう」

 パチンと一手打たれたのを蒼天はすぐに返す。

「ぐぬぬ……見た目若いのに出来ますな、蒼天はん」

 再び将棋を再開するも、一条はあっさりと打った手を返されて細い糸目をさらに細める。

 そんな中でまた一人、客が現れる。

「おお、ここにおらはったか。将棋とは、一条はんらしい打ち解け方で」

 丸メガネを掛けたひょろ長の中年――天ヶ崎が刀花が開けた障子からにこやかに入ってくる。

 それから覗き込むように蒼天の後ろから将棋盤を見下ろす。

「うん? もしかして、一条はん負けとる?」

「…………ん~?」

「あかんわ、集中しとる」

 一条から返ってきたのは生返事とも唸り声とも判断のつかない声だった。

 天ヶ崎が一条に話しかけるのを諦めたところで、彼は話を刀花へと振る。

「そう言えば、くずははんは何でここに?」

「そうでした……蒼天さんにお話があってここに来たんです」

 そう言われて蒼天は体を後ろへと向け、刀花へ向き合うように居住まいを正し尋ねる。

「なんでしょう?」

「天子さんを止めてもらえませんか……」

 その刀花の声音は疲れを多分に含んでいた。

 

 

「これはまた……」

 蒼天は短く呟き、刀花に連れられて見えてきたのは、

「さあ、誰でも掛かってらっしゃい!」

 挑発的な天子のセリフ。

『うおおおおおおッ!!』

 直後に響くのは男達の雄叫び。

『ぐああああああっ!?』

 からの絶叫。

 突然に地面が割れ、隆起した大地が牙を剥き、飛び込んだ10人ほどが派手に飛ばされていく。

 まさしく無双。

 しかし、刀花から見れば頭を抱えたくなる光景であった。

「あっさりとやられ過ぎでしょう……」

 刀花は眉間に指を当て、呆れる。

「それでは行ってきますよ」

「ええ、お願いします」

 蒼天は刀花に見送られ、天子に近付く。

 その間に天子は緋想の剣を悠然(ゆうぜん)と掲げ、高らかに宣言する。

「地上の生き物が私に勝つ道理はないわよ」

「貴女が(おご)っていい道理もありませんがね」

 ギクリと天子の肩が反応する。

 面倒なのが来た、と彼女は内心思っていた。

 だが、いつもの調子で天子は対応する。

「あら、蒼天。どうかしたの?」

「どうにかして欲しいと頼まれましてね」

「誰をよ?」

「貴女に決まってます」

 ワザとらしく言う天子に蒼天は呆れながらも、指摘する。

「全く、守る人々に対して何やってるんですか……」

「これは向こうの人たちからのお願いであって私から吹っかけた訳じゃないわよ」

 天子の言い分を聞いた蒼天は、

「と言う事なんですが、真実は如何に?」

 いつの間にか近くにいた立花に聞いた。

 いくら何でも失礼だとばかりに天子は噛み付く。

「何でそこで私を信じないのよ!?」

「目撃者に聞くのが一番ですから」

「当事者である私の話は!?」

「あまり参考になりません」

 バッサリである。

 天子は蒼天の返しに不服な様子で、蒼天に背を向けてどっかりと近くにあった要石に腰を落とす。

 明らかに拗ねてる様子だが、蒼天は最初に話を聞く事にした。

「よろしいのか?」

 立花が気遣うように聞く。

 話もそうだが「天子はいいのか?」と言う事も含んでいる意味合いでもあった。

 蒼天はその事を含めながらもにこやかに返す。

「いつもの事ですので」

「ならいいが……彼女から始めた訳ではない」

「ほら見なさい」

 立花の言葉に乗っかる形で天子が蒼天に顔を向け反応する。

 その顔は「私に言う事があるでしょ?」と言った感じだった。

「疑ってすみませんね。普段が普段ですから」

「なによそれ、普段から私の事はあまり信じてないってこと?」

「私に迷惑を掛けた事と掛けなかった事……どちらが多いですか?」

「…………今日もいい天気ね」

 返答は露骨な話題逸らしの一言である。

 視線は明後日の方向へ。

「雑だな……」

 剣士だからと言う訳ではないが、低い特徴的な声で立花が斬って捨てた。

 人間に言われてか、天子もかなり応えたらしく「うっ」と呻きながらも返す。

「ま、まあ迷惑を掛ける時もあるわよ……」

「そう言う事にしておきましょう」

 と言って蒼天は、話を終える。

 あまり長く説教するのは蒼天は好きではない。そもそも、長ければいいと言うものでもない。

 説教というのは『教えを説く』と言う事だ。

 それを通り過ぎて愚痴や文句になってしまっては本末転倒だし、相手が教えを理解しなければ意味がない。

 幻想郷の閻魔様の説教は長いことで有名ではあるが、彼女の説教は罪が軽くなるので聞いておいて損はないではあろう。ただし、耳を傾けなければ効果は薄いようなので苦行と言っても差し支えはないように思える。

 などと、蒼天は少しばかり脱線した事を考えていた。

 それから話と思考を戻すように蒼天は尋ねる。

「それで、天子に相手をするように頼んだと?」

「私が立ち会い人だ……挑んだ奴らからしてみれば、腕試しと言ったところだろう」

「で、結果があれという訳ですね」

 蒼天は見事に気絶、あるいは戦闘不能になっている者たちを見る。

 無残にも土の上で死体のように転がっている。もちろん、命は落としていない。

 腕試しというのも、ある意味では納得できる話だ。

 書状があるとは言え、突然に現れてきた余所(よそ)者には違いないだろう。

 もしかしたら気に入らなかったのかもしれない。

 が、それを知る必要はないだろう。藪をつついて蛇を出す事もない。

「こちらとしてはもう少し打ち合って貰いたかったがな」

「天子は文字通り"地"を味方につけますからね。それに、残念ながら彼女は剣士ではありませんし」

「同じ土俵で戦うのは仕合だけだ。ここは……この世界が戦場だ。わざわざ対等な状況、ましてや不利な状況で戦う物好きはいない」

 そう呟く立花は、一人の将――いや兵の顔つきであった。

 鋭い双眸(そうぼう)には、蒼天には見えない何かが見えていた。

 しかし、蒼天には彼が見えているモノが分からなくてもこの野営地にいる他の者と同じモノを抱えているという事は容易に分かる。

 それは――無念であろう。

 それから立花が蒼天に真剣な口調で尋ねる。

「彼女は、いやお前達は何者だ?」

「詮索は長の書状から止められていますよ」

「分かってはいる。だが、彼女の強さは並ではない。疑問を持ったまま割り切れるほど器用ではないのだ」

 どうやら、色々とハッキリさせなければ済まない御仁(ごじん)らしい。

 立花の纏う雰囲気が少しだけ、剣呑なものになっている。

 ここではぐらかせば余計な警戒心を与えたりするだけであり、ましてや軋轢(あつれき)を生む可能性もある。

 それは蒼天の望むところではない。

「仕方ありません……正直にお話しましょう。もし、混乱を招くようだと判断したら他言無用でお願いしますよ」

 と蒼天は前置きする。

「あら、話しちゃうの?」

「こっちから話してしまえば、彼らが詮索する必要もないでしょう」

「なるほど、名案ね」

 近くで聞いていた天子は、蒼天の言うことにすぐ納得した。

「なんやらおもろそうな話をするみたいやな」

 そして、機会を伺ってたかのように一条が言いながら緩慢(かんまん)な動きで近付いて来た。

 その隣では天ヶ崎が申し訳なさそうに頭を少し下げながら近付いてくる。状況を見るに、一条に連れられてやってきたようだ。

「こっちが盤上の駒とにらめっこしてる時にいなくなるもんやから、どこに行ったか探すのに苦労したで」

「一条はんが集中しすぎなんや……」

 飄々とした感じに言う一条に天ヶ崎は静かに突っ込む。

 それから一条は糸目を少しだけ目を開き、聞く。

「それで、聞かせてもらえるんやろ?」

 この機会を逃さないとばかりに重圧的である。

 天子は要石から降り、蒼天の隣へと近づきながら呟く。

「面倒な事になったわね」

「誰のせいですか……」

「さあ? 少なくとも私のせいではないわね。腕試しの誘いを断る道理はなかったし、誘われたものを断るのは失礼になるわ」

「断る理由は少なくともあったと思いますがね」

 軽口を叩きながら、蒼天は本題に入る。

「――私と天子は人であって人ではありません」

 

 

「天人、天人なあ……」

 一条は顎に手を置いて、呟く。

 反応してるのは彼だけで、立花は無言、天ヶ崎はどこか納得してるようだった。

 蒼天は簡単に概要を話した。

 自分達の事、幻想郷の事、そして関西呪術協会に来た経緯。それから長から頼まれた事を。

荒唐無稽(こうとうむけい)な話だ」

 話した直後には反応しなかった立花が信じらぬとばかりに一蹴した。

「そうか? ウチは上手く言えんが、妙に納得はしとる」

 天ヶ崎は目の前で助けられたこともあってか、落ち着いた様子で受け入れていた。

「そう言えば、天ヶ崎はんは助けられとったんやな……わいはちょっと整理するのに時間が掛かりそうやわ」

 三者三様の反応である。

 一条は、少しだけ考え込むようにその場に腰を落とす。

「なるほど……長の書状にあったんがそう言う事なら辻褄(つじつま)は合いそうやし、納得もできる。確かにこれは説明を後回しにすんのも頷けるなあ」

 一人ぶつくさと一条は呟くが、周りの者にもその声は聞こえている。

 おそらく彼はこう言う癖があるのだろう。

「よし、この事は一部の者以外は他言無用にしとこう!」

 すぐに結論は出たのか、一条は立ち上がり叫ぶ。

「なぜだ?」

頼宗(よりむね)はん、さっきの話を聞いて信じられへんかったやろ? やったら、信じられへん話は別に広めん方がええ。ここで確証を得るんは難しいし、半信半疑の話を広めたところで不安を増長させるだけや。ましてや今は戦時中、士気にも関わってくるやろう。長の気が狂ったとか思われても困るしな。全く、長も厄介な増援を寄越してくれはったで……あの人、確信犯やろうけどな」

 立花の疑問に答えるように一条はスラスラと説明する。

 そして、『確信犯』と言った事に対して天ヶ崎が反応する。

「一条はん、確信犯て言うのはどう言う……」

「他にも野営地はあるのに、ここに寄越した理由。分かるか?」

「分かりまへん」

「即答かい……まあ、わいがいるからやろうな。ここが一番前線に送り出してる所って言うのもあるやろうけど……わいなら上手く処理できると思うて、ここに案内したんやろ」

「ええやないですか、信頼されてるって事で」

「長からの信頼ってあんまり嬉しくないけどな……腹黒いし」

 どうやら、一条は関西呪術協会の長である彼女の別の一面を知っているらしい。

「ともかく、二人ともそう言う事で構わへんな?」

「ウチは構わへん」「……うむ」

 天ヶ崎は抵抗なく同意し、立花は少し間が空いたが何とか納得したようだ。

 その時だった。

「皆さん、ここにいましたか!」

 刀花が息巻いて、駆けつけてきた。

 その様子は誰が見ても何かがあったと分かる程の慌て様である。

「なんかあったんか?」

「はい一条さん、緊急事態です――」

 彼女は青ざめて報告したことに誰もが震撼した。

 天人二人を除いて。

 

 

 刀花が(もたら)した情報。

 それは、グレート=ブリッジ陥落であった。

 大規模転移を帝国は実戦投入し、完全な奇襲を仕掛けたとの事だ。

 内側から突然に敵が現れる。混乱しない訳がない。

 その隙に後詰の帝国艦隊が内部の艦隊と呼応し、これを陥落させたと言う事だ。それはあっという間の出来事で、グレート・ブリッジにいる駐屯していた兵力を瞬く間に撃退。敗走させた。増援を呼ぶ間もなくである。

 後日に会議として、幹部たちはある一室へと集まった。その中には蒼天たちの姿もある。

「やっこさんらもやってくれたな……こりゃ、いつウチらにお呼びが掛かるかも分からへんで」

 天ヶ崎は疲労困憊(ひろうこんぱい)とばかりに盛大な溜息(ためいき)を吐く。

 そんな中で若き頭脳である一条は将棋盤とにらめっこし、将棋の玉を手で(もてあそ)び、パチンと指す。

「完全に王手掛けられてしもうたな。まだ詰みやないけど、盛り返すにはどれだけの駒が盤上からこぼれ落ちるか分かったもんやない……」

 それから一条は蒼天達に目を向ける。

「蒼天はん、一つ聞いておきたい」

「何でしょう?」

「ここにいる全員を救うことは出来るか?」

「私は一人です。天子と合わせて考えても、文字通り手が足りません」

「それは欲張り過ぎか……」

「手で水を(すく)っても、指の間から水は落ちます。なので全てを救おうと欲張りすぎれば――」

「さらにこぼれ落ちる、か」

 頭をガシガシと書いて、一条は少し苛立ちを表す。

「他の野営地からは?」

「どこも精一杯だ。増援の見込みはない」

 立花は一条に現状を報告する。

 戦場はここだけではないのだ。他を助ける余裕はないのだろう。

「そう言えば蒼天はん達は……何か、特殊な力を持ってるそうやな?」

「ええ、私は『金属を操る程度の能力』そして天子は『大地を操る程度の能力』です」

 一条からの質問に蒼天は淡々と素直に答える。

 その答えに天ヶ崎は驚きながらも尋ねる。

「ほう、そらまた結構なもんやな。天子はん地震とか起こせるんか?」

「ええ、その気になれば地形を変えることも大地を割ることも出来るわ」

「だとしたら結構行けるんとちゃいますか、一条はん?」

 それは多くの人を救えると言う意味で言った天ヶ崎だが、一条は否定を返した。

「あんまり派手にやるのはやめておいた方がええやろ」

「そうね」

 一条が否定した理由が天子は分かったのか、同意する。

 それに対して、天ヶ崎は少し疑問を持つ。

「どうしてや?」

 天子は自信を持って胸を張り、少しばかり上から目線で語る。

「今は戦時中、力を持った兵が最前線に送られるのが道理。私や蒼天がやり過ぎるとあなた達を守るどころか、一緒により危険な場所に送られる可能性があるわ」

「そう言う事や。ましてや魔法使いどもはわいらの戦力を削る事も目的なんやから、あんまり武勲を立て過ぎると余計に面倒な事になりかねん。いや、立てんくても十分に危険な場所に送られるやろうけど。それでも、立て過ぎるよりかはええかもしれん。天子はんもなかなかにキレはりますな」

 と、少し感心したように一条は視線を向ける。

 対して天子は当然とばかりの態度。

「それはどうも。あんまり調子に乗ると蒼天がうるさいから、自制するけど」

「普段から自重してください」

「我慢しろだなんて酷いわね」

「貴女の中で自重は我慢と一緒なんですか……」

 天子と蒼天のいつもの掛け合いが入ったところで、今度は来客のようである。

 (ふすま)の向こうから男性が伺いを立ててくる。

『会議中に失礼。報告があります』

「どないした?」

『青山 詠春殿が訪ねてきております』

「こんな時にか、まあええわ。ちょっくら聞いておきたいこともあるし……通してもらえるか」

『それと、連れがおられるようです。他の方たちはいかがいたしますか?』

「悪いが中には()れられん。今は色々と気が立ってる連中もおるから、変に余所(よそ)のもん入れて刺激せんほうがええ。すまんが外で待ってもらえるよう言ってくれるか?」

『はい、そのようにお伝えします』

 そして、襖の向こうの気配が足音とともに遠ざかっていく。

 それから蒼天は立ち上がる。

「どうやらお客のようですね。私たちは念の為に下がっておきます」

「身内の話やから、そうしてくれるとありがたい。わいからしてみれば蒼天はん達が客みたいなもんやけどな」

「そうでしたね。天子、一旦下がりますよ」

 少し笑顔で蒼天は答えた後、天子に声をかける。彼女はその呼び掛けに「分かってるわよ」と呆れた風に短く答えると蒼天と共に部屋を出る。

 残った幹部三人は、粛々と青山 詠春を待っていた。一条は蒼天との対局を思い浮かべ将棋を指し、立花はどっしりと腰を落として瞑想のように目を閉じていた。そして、そんな二人を天ヶ崎は何を考えているんだろうかと静かに見ている。

 そして――

『青山 詠春です。お目通りをお願いします』

 先程の連絡で来た男性とは違う、若い青年の声が紙の扉の向こうから響く。

 来たかとばかりに天ヶ崎は姿勢を少し正す。

 対して、一条は天ヶ崎の様に姿勢を正さず駒を指す事も止めず、

「ええで、入ってきい」

 いつもの軽い感じで言った。

「はい、失礼します」

 襖が開けられて入ってきたのは、メガネを掛け、少し黒髪が逆立った青年。

 前に少しだけ髪の束が少し垂れており、服装は薄い縦セーターのような物に動きやすそうな長ズボン。

 印象としてはそう、好青年と言う印象を受けるだろう。そんな真面目そうな雰囲気を纏っている。

 そして、正座する彼の(かたわ)らには柄に『夕凪』と達筆な字で書かれた一つの太刀が置かれている。

「人を斬ったか」

 そんな中で静かに見ていた立花は一瞬で見抜き、詠春に切り込んだ。

「ええ……今は戦争ですから」

 重苦しく、伏せ目がちに詠春は返す。

 おそらくは何かしらの葛藤はあったのだろう。それを伺わせるような気の落ちようであったが、既に割り切った事でもあるのかすぐに顔を上げる。

 一条はその瞬間に合わせ、話を切り出す。

「さて、青山 詠春……あんたにおうたら一つ尋ねなあかん事がある」

「私に尋ねたいこと?」

「最近はなんや、『紅き翼(アラルブラ)』ちゅう名前で活動しとるらしいな」

「はい。私の、仲間です」

「なるほど。ま、それはええわ。ただここからが本題や……戦争が始まっとるのに何で戻ってこんのや?」

 いつもの口調ではあるが、威圧感のある言葉が一条から放たれる。

 詠春はその一瞬で察した。

 ここで自分の考えをきちんと返答できなければ、自分は故郷の地に顔向けができなくなると。

 詠春はしっかりと一条に向き合う。

「それは……彼らに付いて行けば多くの人間を助けることが出来るからです」

「ほう? つまり、戻ってこんのは関西呪術協会の同朋よりも異世界の赤の他人を守るのが大事やと……そう言う訳か」

「なっ!? ち、違います! 私はそんなつもりで言った訳では!!」

「悪いけどな詠春。今のはそう言う風に取られてもしゃあないで……もし、同朋が大事やって言うんやったらそんな言葉は出んはずや」

「では見捨てろと言うのですか?! 目の前で傷つけられている人々を!!」

 詠春の必死の弁明に一条は淡々と返す。

 他の幹部二人はそれを黙って見ている。ここは余計な口を挟まないのが懸命だと判断したのだ。

「逆に聞いたるわ。お前は何を守ろうとしてるんや?」

「それは、戦場に巻き込まれた無辜(むこ)の人々を守るために――」

「――青二才が」

 一条は静かに言葉を放つ。

 詠春は言葉を止めた。

「詠春、お前は紅き翼(アラルブラ)である前に関西呪術協会の一員であり青山宗家の子でもあったはずや」

 一条の射抜くような視線が詠春を貫く。

「だったら守るべきは同じ釜の飯を食うた同朋を優先するべき、違うか? それに無辜(むこ)の人々を守るためにと言うたが、それは紅き翼(アラルブラ)におらな出来んことなんか?」

 反論は出なかった。詠春はただ沈黙する。

 一条の言うことに何の間違いもないからだ。

「志は立派やけど、あんたにとっての守るべき『玉』は何なのか……よく考え」

 そう言って一条は詠春に向かって一つの駒を投げた。

 詠春の伏せた視線に見えるように、畳の上を滑って彼の眼前に一つの駒が飛び込んでくる。

 それは将棋の『玉』。

 これで話は終わりとばかりに一条が立ち上がろうとした時だった――

「彼に、いや……彼らと共にいれば戦争は早く終わります」

 詠春が力強くそう答えた。

 疑問に思った一条はすぐに聞き返す。

「そう思う根拠は?」

「ありません。ですがこの戦争を早く終わらせなければならない。それだけは、分かっているつもりです」

「……はぁ」

 視野の狭いことだ、と一条は思いながら溜息(ためいき)を吐く。

 戦争の早期終結が出来るなら多くの同朋、詠春の言う無辜の人々も助かるという説明ができれば一条としては文句はなかったのだが――

 本人は残念ながらそれに気付いてないらしい。

 だが一応は及第点としておき、一条は言葉を発する。

「ならええわ。好きにしい……他の連中にはわいが融通利かせて説明しておく」

 その言葉に天ヶ崎と立花は少し反応するが、口は挟まなかった。

 詠春は詠春で驚いた顔をしている。

「……いいんですか?」

「お前さんは知らんやろうが、頼もしい助っ人が来てくれとるしな」

 それが一番の幸いだろう。

 詠春はその事について尋ねようと口を開きかけた時だった。

 襖が勢いよく開け放たれ、

「――ハァ、ハァ」

 疲れたような息遣いをしながら刀花が姿を現す。

 全員が彼女に注目する中で、一条が何だ? とばかりに聞く。

「どうないしはった……刀花はん。恋人に逃げられたか?」

「叩き斬りますよ!?」

 いきなりの失礼な発言に刀花は反射的に突っ込む。

 だが、すぐに切り替えて話を続ける。

「って、違います! 天子さんと黒い筋肉達磨の人が戦闘を始めてるんです!」

 その言葉に誰もがポカンとする中、詠春だけは頬をヒクつかせていた。

 

 

 一方、詠春と幹部達が話をする前に部屋を出た蒼天達はそのまま外へと出ていた。

「しかし、ここでこんな事をしてて良かったのかしら?」

「天子にしては随分と的を射たこと言いますね」

「貴方、たまに私の事をバカしてるでしょ?」

「珍しいと言うだけですよ」

 などと笑みを浮かべながら言うが……天子からしてみれば胡散臭く見える。

 その瞬間に少しだけ既視感を覚えたので、そのまま蒼天に天子は尋ねる。

「何て言うか、貴方たまに八雲 (ゆかり)と雰囲気が似てるわね」

「失礼な、私は天人ですが地に足はついていますよ。地上にいながら浮いてる妖怪とは違います」

「違うわよ。胡散臭いところがって事よ」

「心外ですが、類は友を呼ぶと言う奴ですかね。まあ、腐れ縁ではありますが……」

「朱に交わって赤くなったんじゃないの?」

(あお)(むらさき)が交わっても赤くはなりませんよ」

 と蒼天が言ったところで、天子は話を戻す。

「それで、結局のところはどうなのよ? こんな所で油を売ってていいのかしら?」

「油は差すものです。潤滑油と言う言葉があるでしょう? それに急がば回れ、ですよ」

 つまりはこのままでいいと言う事だ。

 前にも蒼天は話したがすぐに幻想郷が崩壊すると言う訳でもない。

 頼まれたのは原因の究明であって、それを解決することではないのだ。もしかしたら、なし崩しに解決を頼まれるかもしれないがそれはその時の話だ。今ではない。

 取り敢えず天子はそれ以上聞くことはなかった。

 彼女にとって今は、天界にいた時よりも意義を感じている。

 不謹慎だが、天子の言い方であれば……退屈ではない。その一言に限る。

 そのまま二人は散歩がてらに外へと出る。

 もちろん、近くの人に話は通してある。

 それから門の外に出ると、

「お?」「おや?」

 木の杖を持った赤毛のツンツン髪の少年と、紺色のセミロングの髪に白いローブを身に纏った青年がいた。

 こちらに気付くと赤毛の少年は退屈そうな顔から一転して、笑顔になる。

「おー、お前らここから出てきたって事はこの中に住んでる人なのか?」

 それから馴れ馴れしい感じで蒼天達に近付きながら尋ねてくる。

 見るからに礼儀などには無頓着(むとんちゃく)そうな人だと蒼天は思ったが、それは口に出すことではなく少年の質問に答える。

「私達は客将身分ですよ。正式な一員と言う訳ではありません」

「きゃく……しょう? アル、どう言う意味だ?」

 赤毛の少年にアルと呼ばれた白いローブの青年が答えた。

「つまりは私達みたいなものですよ。正式に軍とかに属してる訳ではありませんが、味方だと言う事です」

「そうなのかー。もしかして、そっちのちっこい女も戦ってるのか?」

「誰がちっこいよ! 貴方の方が小さいじゃない」

「フフ、ナギ。胸の事はあまり(おっしゃ)らない方がいいですよ」

「初対面で喧嘩売ってるのかしら……大地に還すわよ」

 どうやら赤毛の少年はナギと言うらしい。

 そして、アルと言う男の一言に天子は顔をしかめる。何気に気にしているのだ。

 怒気を孕んだその言葉を受けてもなお「おや怖い」と、流した。

 しかしそのまま睨まれ続けたアルは、

「そう睨まないでください。さすがの私も照れます」

 謝罪を返すことはなかった。

 それどころか飄々とした笑顔で華麗に受け流した。

 天子はアルがどう言った人物なのか理解し、突っかかっても暖簾に腕押しだと分かったのでそれ以上は何もしない。

 早くも反応がなくなった事にアルは残念とばかりの表情をする。

 それからしばらく蒼天達を注視してから何かに気づいたように目を細め、

「見たところ貴方達は――」

「おーい、ナギ! あっちに女子風呂があったぞ、覗きに行こうぜ!」

 言葉を紡ごうとした所で(しげ)みから筋骨隆々の肌黒い大男が現れた。

 半袖のジャケットに長ズボンのみと言う格好。

 ちなみにジャケットの下には何も着ていない。

 そんな男らしい男が、いきなり覗き発言をしながら現れたが……天子と蒼天は特に反応を示すことはなかった。

 だが大男の方は違うらしく、蒼天達に興味を示すとアルと同じように何かに気付いた目を彼らに向けながら言う。

「ん? 人間……にしちゃあ妙だな、普通の人間にしては違和感がある」

 初対面だと言うのにいきなりの物言い。

 天子は少し反論する。

「いきなり二人揃って失礼な発言ね。自己紹介もなしに色々と言ってくれちゃって」

「これは失礼しました。私はアルビレオ・イマ、アルと呼んでもらって結構です。こちらの赤毛の少年がナギ・スプリングフィールドであちらの変態筋肉がラカンです」

「おい……俺の紹介だけ雑じゃねえか」

「そう。紹介されたならこっちも言わなくちゃね。私の名前は比那名居 天子」

石守(いしのかみ) 蒼天です。ちなみに天子も私も元人間ですがそう警戒しないでください」

 あっさりと蒼天は人でないことを明言した。

「元人間、ですか……随分と簡単にお話になりますね」

「見抜く人は見抜いてきますからね。取り繕っても意味はありませんし、気付かない人は気付きませんよ。それはそうと皆さんが青山 詠春と言う方と一緒にこられた人達でしょうか?」

「ええ、そうです。色々とお話もしたくて一緒に入りたかったのですが……今は戦時で気が立ってるということで中には入れて貰えませんでしたけどね」

 アルビレオことアルは少し肩をすくめた。この世界で日本の平屋は珍しいので中に興味があったのだろうか。蒼天には残念そうに見えた。

「人間じゃねえのか? どっからどう見ても人にしか見えねえが」

 ナギは蒼天と天子の周りをぐるぐる回りながら呟く。

 見た目通り、まだまだ好奇心に溢れる少年のようだ。

 ラカンはナギの疑問に答えにならない答えを返す。

「俺の場合は長年の勘だな。なんつーか、雰囲気が違う。それと嬢ちゃん」

「誰が嬢ちゃんよ!」

「もう少し色っぽい下着を履いたほうがいいと思うぞ」

「…………ん?」

 謎の一言をラカンから受けて天子は違和感を覚えたように思わず彼女は自分のスカートを見る。

 それから彼女は何かに気付き、ハッとなるとプルプルと震えだす。その顔は羞恥に満ちて、赤い。

 天子は震えながら睨み、ラカンに尋ねる。

「そこの筋肉達磨……脱がしたわね?」

「おう、あまりにも地味だから脱がした」

 対してラカンは見せびらかすようにして一枚の三角の布を出した。

 白い無地の布が無造作に他人の目に晒されている。

「蒼天、さすがに止めないわよね?」

「そこまで私も理不尽じゃありません。ただ、ここでは派手にやらないで――」

「――グホォ!?」

 蒼天が言い終わる前にラカンが天子の要石を腹に受けて叫び、吹っ飛ぶ。

 突然の奇襲だが、天子の攻撃を受けてもラカンは特に負傷した様子はない。

 それどころか、

「おいおい、嬢ちゃん……見かけによらずやるねえ」

 などと言いながら要石を軽く割って悠長に立っている。

 それが天子の琴線に触れ、頬をヒクつかせながら緋想の剣を取り出す。その顔はいかにもラカンを潰すと言う一点に全力を(そそ)ぐ表情だ。

「初対面で本当に失礼ね……! 見た目通り繊細さに欠けるのはどうかと思うわよッ」

「何気に傷つくな――うおッ!?」

 ラカンの足元の大地が隆起し、岩石が波になって襲いかかる。が、ラカンはそれを難なく(かわ)し、砕く。

 天子はラカンが砕いて出来た岩の隙間から飛び出した。そのまま緋想の剣を振り下ろす。しかし、ラカンはそれにも反応して両刃の剣で受け止める。

 その間にラカンは別の違和感を抱いていた。

(地の魔法? じゃねえな……だったら俺が気付かないハズがねえ。魔法使い特有の魔力の発生を微塵も感じなかった。アーティファクトでもねえし、一体どんな手品だ?)

 と、大地が突然に隆起した事について考えていた。

 そんな事を彼が考えている間にも天子は攻め立てる。

 何度か斬り結び、二度目の鍔競り合いとなったところで天子はラカンの頭上に要石を即座に落とす。

 だが、ラカンは頭上に迫り来る影にすぐ気付き――片腕で落ちてきた要石を砕いた。

 その瞬間に天子は足踏みを一つする。すると今度はラカンの両脇から隆起した大地の壁が迫る。

「やべっ!」

 そう声を発した時にラカンの足元に地割れが起き、迫っていた大地と共に襲い掛かられ埋まった。

 静まる空気。

 終わったように見えた。しかし、天子が一旦大きく後ろに下がるとラカンが大地を割って飛び出してきた。

「あぶねー……死ぬかと思ったぜ」

 土(まみ)れだが、ラカンはピンピンしている。

 そんなラカンに天子は疑いの目を向ける。

「随分とタフね。貴方、本当に人間?」

「おう、正真正銘の人間だぜ。それはそうとお嬢ちゃん、今の本気じゃねえよな?」

「痴話喧嘩で本気になるほど短気じゃないわよ。そう言う貴方も本気じゃないでしょ?」

「まあな」

「だったら一発で充分よ。それでもピンピンしてるのが腹立つけど……あと、私の物を返してくれる? 痴女とか言われたくないのよ」

「仕方ねえな」

 ラカンはそう言って天子から盗った物を返す。

 どうやら、今度こそ終わったようである。

 アルやナギと一緒に傍観していた蒼天が天子に近付きながら話す。

「立場を忘れたかとヒヤヒヤしましたよ」

「そこまで私は傍若無人じゃないわよ」

 といつもの軽口を交わしたところで、別の客人が来たようである。

「ラカン! 何をしているんだ!?」

「おー、詠春。話は終わったのか?」

「貴様のせいで中断してきたんだ!! 全く、少し待つ事も出来ないのかっ?!」

 詠春がラカンに詰め寄るがラカンは「悪かった悪かった」などと言いながら笑って、あまり反省してない様子。

 どうやら詠春は苦労人のようだと蒼天はすぐに察した。

 そして、詠春と共に来たらしい一条が蒼天の傍に近寄る。

「なんや、ちょっとやりはったそうで」

「ええ、まあ。痴話喧嘩みたいなものです。下着を取られれば誰だって困るでしょう?」

「なるほどな。そらしゃあない」

 蒼天の遠回しな口ぶりに一条は納得した。

 それから彼は周りを少し見渡す。

 蒼天もそれに倣って見る。周りの土は派手に掘り返されているような(あと)が残っている。地震でも起きたかのような惨状だが、大きな被害は特にない。

「そういう話を本人の目の前でするのやめてくれる?」

 天子は二人の会話に少し嫌悪感を交えて突っ込む。

 そんな三人の会話に入り込むように一人、アルがにこやかな顔で近寄る。

「お話し中、失礼」

「ん? あんさんは……詠春のお連れさんかいな?」

「ええ、アルビレオ・イマと言います。アルと呼んで結構ですよ」

「ほうか。わいは関西呪術協会の幹部、一条 吉明(よしあき)や。詠春の上司の一人やと思ってくれ」

「おや、詠春の話だと東洋の術師にはもっと嫌悪されてると思ったのですが」

「それを分かってて聞いてくるあたり、あんさん随分とええ性格しとるみたいやな」

「よく言われます」

 一条の皮肉にアルは笑顔で返す。一条と似たような何を考えているか分からない笑み。

 類は友を呼ぶ、その言葉が今ここに成っているようだった。

「ま、嫌悪してるんはあんたらと違う連中やからな。もっとも、下の連中はそうもいかんけど」

「なるほど。それで、天子殿と蒼天殿おっしゃいましたね。貴方達に質問があります」

 アルはそう前置きする。

 そして、二人が許可する前に矢継ぎ早に言葉を紡いできた。

「貴方達はどこから来られたのでしょうか?」

「あら? 何者かと聞くでもなく、かと言ってさっきの大地の隆起について聞く訳でもない。まさか私達が来た場所を知りたいなんて、予想外ね」

「お答えしにくいようでしたら別に答えなくても構いませんよ。個人的な興味ですから」

 と、アルは逃げ道を用意するように言った。

 天子は蒼天に振り向く。

「蒼天、答えてもいいかしら?」

「どうぞ」

「そう。じゃあ、私達がどこから来たかというと――」

 天子は指で上を指し言った。

「――天よ」

「ほう。天からですか」

「あら……こんな荒唐無稽な話を間に受ける物好きもいるものね」

「いえ、貴方達には普通の人とは違う存在感がありますから。それが何よりの証拠ですよ」

 どうやらアルはそれだけで満足したらしい。

 それ以上は何も聞いてくる様子はない。

 随分と変わった人だと蒼天は思ったが、一つ気になっていた事を彼はアルに投げ掛けた。

「貴方も、少し人と違うようですね」

「分かりますか?」

「ええ、私の方も経験と勘ですけどね」

「では私と同様に見た目通りの年齢ではありませんね。歳を聞いても?」

「さて、どれほどの時が過ぎたか……数えていませんが1000以上とお答えしておきます」

「なるほど、そちらのお嬢さんは?」

 と、アルは天子に聞くが返したのはジト目。

「貴方、女性に年を聞くのがどう言う事か分かって聞いてるでしょ?」

「フフ……バレましたか?」

「食えない人ね。それに蒼天も貴方も胡散臭いし」

『心外ですね』

 異口同音。

 全く同じ反応が二人から帰ってきた。

(蒼天の周りには似たようなのが自然に集まってくるわね)

 天子は内心、そう思わざるを得なかった。

 紫と言い一条と言い、目の前にいるアルビレオと言い……例には事欠かない。

 

 

 それから詠春はナギ達と共に帰って行った。

 それを見送るように一条は蒼天と共に門の前に立っている。

「アレが『紅き翼(アラルブラ)』な……化物ぞろいやな~」

「私としては、あんな力を持った人間を見るなんて久方ぶりですがね」

「なんや? 昔にはあんなのがゴロゴロ生きとったんか?」

「いいえ、そんなにいませんでしたが。今よりは多かっただけの話です。昔は妖怪が跋扈(ばっこ)していましたからね」

「なるほどなあ……それはそうと蒼天はん、ここらがわいらの踏ん張り所や」

「ええ、最善を尽くさせて貰いますよ。道子さんとの約束ですからね」

 一条の決意を固めた言葉に蒼天は力強く答えた。

 

 グレート=ブリッジ奪還作戦まで残り一週間。

 




うーん、ちょっと展開が雑だったかな?
なるべく自然な流れにするようにしてますが……
ちなみに魔法世界の話はあと2、3回くらいで終わらす予定です。
それからまあ、戦後の関西呪術協会の話と青山 詠春が近衛 詠春になって長になる話だったり、幼少期の近衛木乃香や桜咲刹那との絡みの話であったり……そんな感じです。

問題はちょくちょく書き続けてどれだけの日が掛かることか……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天人二人、無常を生きる

久しぶりに気分転換に書いてたら乗ってしまった。
前回のあとがきに2、3回で魔法世界を終わらせるなんて書いてましたが、進めていたらあっさりと雑に終わってしまった。

うむ、5年ぶりくらいですが……待ってた人いるんでしょうかね?
『ネギま』なんてにじファンの時代が最盛期じゃなかろうか?
もうそんな時代でもないでしょうけど……まあ、物語に貴賎なし。

どうぞ、お楽しみください。


 

 人の命は(はかな)い。

 一睡の夢のように覚め、泡沫の(ごと)く消え、春の桜みたいに散りゆく。

 蒼天に限らず人ならざる存在――神仏や化生にとっては人の命などそれぐらいのもの。

 そして、今まさにここでは人の命が刹那に散っていた。

 グレート=ブリッジと呼ばれる橋でありながら巨大な壁のような建物。

 それを奪取するためにメガロメセンブリーナ連合は躍起になり、ヘラス帝国は重要な前線を守らんと凌ぎを削る。

 まさに激戦。

 光と炎の矢が嵐のごとく飛んできている中を縫うように飛ぶ二つの影。

「悲惨なものね、まさに生き地獄」

「人間界自体、地獄と天国の狭間みたいなのものですから……どちらもあってもおかしくはないですよ」

 少女は呟き、青年はそれに対して答える。

 地上に降り立ち、更には異世界まで渡った天人二人は戦争へと身を投じている。

「しかし、地上の争いを見下ろした事はあるけれど……同じ目線に立てば雰囲気が違うもの、ねッ!」

 天子が緋想の剣で横に一閃して、魔法の矢を斬り消す。

「見慣れない格好をした連中……! さては、連合の呪術教会か! 全員取り囲め!」

 声に気付けば、いつの間にやら甲冑を来た魔法騎士達に素早く取り囲まれる。

 大剣のようなものに(またが)りながら、魔法を放とうとしている。

「ふむ……」

 蒼天が一つ呟き手を静かに下ろすと、

「う、うおおおおおおおォォォォッ!?」「下に引っ張られる?!」「重力魔法かぁぁぁぁ!?」

 絶叫と共に魔法騎士達はそのまま遥か下の水底へと落ちていき、水柱を巻き上げる。

「この光景、何度目よ……」

「さあ? 何度目でしょうね」

 天子の言う通り、この光景はこの戦場で既に数え切れないほど見ている。

「蒼天はん、ご無事で」

 突然に掛けられた声。

 声の聞こえた方向へと蒼天達が振り向けば天ヶ崎が彼らと合流を果たす。

 余裕そうなほんわかな表情を彼は浮かべてはいるものの。その実、余裕はなさそうだ。

 疲弊しているのが目に見えている。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫か、か……どうやろうな。帰ったところでウチとしては、大事なもん失ってる気がするわ」

 蒼天は軽く心配の言葉を掛けるが精神的に限界、と言ったところだろう。

 この戦争の顛末(てんまつ)を聞くに大義名分なんて彼らにはない。

「帰る場所はあるんでしょう?」

「ああ……みんな帰る場所がある。それだけが、唯一ここで戦う理由やからな」

「では、生きて行きなさい。私達は私達で約束を果たすとしましょう」

「恩に着るで蒼天はん」

 蒼天の言葉に天ヶ崎の目に力強い意志が灯り、蒼天達から離れ他の関西呪術協会の面々と合流し前線へと戻る。

 この戦場で息抜きは出来ない。

 ただ自分の心を奮い立たせて生き抜く事だけを考えるしかない。

「これって閻魔様の言う善行になるかしらね」

「いいえ、余計なお世話と言うやつでしょう」

 いつものように蒼天と天子は軽口を言いながら戦場を飛ぶ。

 幾人もの呪術協会の面々を救助しながら戦場を飛ぶ様子は彼らにとっては正しく天の助けと言ったところだろう。

 目立たない程度に敵を無力化しながら救助をしていると、

「いよーいつぞやの、地味パンツの嬢ちゃんじゃ――もぺっ!」

 天子は反射的に話し掛けてきた筋肉達磨に要石を問答無用でぶつけた。

 空中を錐揉みしながら筋肉は落ちていく。

「おいおい、ラカンのヤツが落ちてったぞ……」

「ラカンが女性にやられるのはいつもの事ですよ、ナギ」

 などと以前にも聞いた声に蒼天達は振り向く。

「あら、この間の赤毛の子供と胡散臭い男じゃない」

「誰が子供だ。お前も同じじゃねえか」

「残念ながら見た目だけよ。あなたの隣にいるのと一緒で見た目通りの年齢じゃないし」

「マジで? じゃあ、ババアか?」

「蒼天、この子供にデリカシーって言葉を教えてあげてもいい? 生意気な子供はケツを叩かないと分からないみたいだし」

 赤毛の少年――ナギに対して天子の額に少し青筋が浮かぶ。

「そこは年長者の余裕を見せなさい」

「悪いわね。天人の中では若いのよ」

 蒼天の言葉に対して天子はいつもの軽口を叩きながら(てのひら)に要石を出現させてクルクル回す。

 そして、その要石が彼女の手を離れ天子達の周囲を高速で飛び回り、

「ぐほっ」「タコスっ?!」「メタすッ!」

 何人もの魔法騎士達を薙ぎ倒しながら再び彼女の周囲へと戻ってくる。

「ふむ、地属性の魔法……と言う訳ではない。魔力を使わない純粋な物理攻撃ですか……」

 興味深そうな言葉と共に柔和な笑みを浮かべた優男――アルビレオは呑気に観察をしている。

「悪いけどネタバラシはしないわよ」

「いえ、大丈夫ですよ。もっと別の機会に詮索させていただきます」

 それから彼は天子に向けていた視線を再び蒼天に向ける。

「しかし、貴方達はこう言った事には関与しないものかと」

「事情がありましてね。それに戦場にいますが殺生は出来ないですし、するつもりもないんですよ。そちらからすれば甘い話ですが」

「それはまた、複雑な立場みたいですね」

「何を呑気に話してるんだ?! ここは戦場だぞ! さっきから流れ弾じゃないが魔法が飛んできてるだろう?!」

 メガネを掛けた縦セーターの青年――詠春が太刀を振るいながら飛んでくる魔法の矢や雷を断ち切り、二人にツッコんでる。

 対してツッコまれた二人は何を焦ってるんだとばかりの表情をする。

 それを見た詠春はさらにツッコむ。

「少しは危機感を持て!」

「そう目くじら立てても意味ないわよ。蒼天が焦ってるの見たことないし」

「これでも結構全力ですけどね。一体、何人守ってると――」

 天子に言われて蒼天はそう呟く。

 致命傷になりそうな攻撃、致命傷を負った者。

 それを防ぎ、あるいは救済している。

 千里眼――という訳ではないが、それなりに幅広い目を持っている。

 でないと地上の様子など見えない。

「何だ、兄ちゃん本調子じゃねえのかよ」

 と、ラカンがいつの間にか何食わぬ顔で戻ってきた。

 蒼天は説明するように言葉を紡ぐ。

「目的が違うんですよ。ただ敵を倒すだけが戦いではないという事です」

「なるほどね。それはそうとナギ! どっちが多く(ふね)を落とせるか勝負だ!」

「おう、さっさとこの戦いを終わらせねえとな!」

 ラカンが気勢を上げると赤毛の少年・ナギもすぐに戦火の嵐へと飛び、突っ込んでいく。

「やれやれ相変わらず威勢の良いことです。それでは蒼天殿、またお会いしましょう」

 と、アルビレオも彼らのあとを追っていく。

 同時に小さな少年のような子も続いて行った。

「行かなくてよいのですか?」

 ただ1人残った詠春に蒼天は質問する

「いえ、こんな事を申し上げるのもおかしな話かもしれませんが……皆さんをよろしくお願いします」

「1つ忠言しましょう。大局を見据えることです。それと、一を以て(これ)を貫く。帰って来た時に自らの行いを後悔せずに主張できなければそれこそ誰も納得しないでしょう」

「……心に留めておきます。ご武運を」

 思うところがあるのか、詠春は少しだけ目を伏せてすぐに一言だけ残して向かった。

「さて、我々も天の助けをしばらくしますか」

「ホント、緩いわね~」

「この状況を楽しんでる貴方に言われたくはありませんね」

「退屈はしてないわ」

 などと言いながら天子は再び要石を展開する。

 天人二人は再び戦場を駆け回る。

 人知れず不殺を貫き、こっそり敵味方関係なく多くの人を救うその姿が戦場での伝説になるのはまた幾年か後の話。

 ――閑話休題。

 色々と端折(はしょ)るが、結果としてグレート=ブリッジ奪還作戦と銘打たれたこの世界での歴史的な戦争は連合側の勝利で幕を閉じた。

 そして『紅き翼(アラルブラ)』が名声を上げた戦いでもあった。

 しかし……それは歴史的な話。

 そこに如何なる犠牲と地獄が繰り広げられたかは、当事者以外に語ることは出来ないだろう。

 この戦争以降に生まれた者は、文字の羅列でしか知ることは出来ないのだから。

 そして『関西呪術協会』として犠牲は――当然ながら出た。

 都市・トリスタンの郊外にある野営地では葬儀が執り行われていた。

『…………』

 全員が黙祷を捧げ、喪服を着ている。

 葬儀が終わり、一条のところへ蒼天は向かった。

 彼は将棋盤を一人で見詰め、指している。

 思い詰めたように。

 見た目は童顔で若く見えるが、中年だと普通に思えないだろう。

 だがそんな彼も哀愁が出ている。

「一つ、ご一緒しても?」

「ああ……蒼天はんか。相手がいなくて、ちょっと退屈してたわ」

「では失礼します」

 と、対局する。

 しかし、すぐに蒼天は別の事で頭を使っている感じだと見抜いていた。

 しばらくして、駒を進めているが……その進みは遅い。

 無用な犠牲を避けようとしているのか、後手に回っている。

 盤面でもそんな様子なのだ。

 蒼天は口を開いた。

「犠牲もなしに王手は掛けられませんよ」

「せやな……けど、おいそれと出す訳にもいかん」

「人の世は無常です。昔も今もそれは変わりません……そうですね、気晴らしですが私の昔話に興味はあります?」

 蒼天の言葉に一条は目をパチクリとさせた。

「そら、興味はあるけど……急に自ら素性を語るなんてどないしたん?」

「いえ、貴方が私をどこか信用しきれてないのは分かっています。今でもね……それと気分転換ですよ」

「ホンマに見抜いてきますな~。これでも結構、駆け引きは出来る自負はあるんやけどな」

「相手が悪いと思って下さい。人を見抜けないようじゃあ天人の名折れですよ」

「そうか……なら、茶でも飲みながら聞かせてもらおうやないか。人の話が楽しみになるのは久しぶりや」

 などと言う一条だが、言葉の裏を読み取るに彼の役割からして面白みのある話があまりないということなのだろう。

 そうして縁側に出て庭を眺めながら座っていると一条が刀花を見つけ、無理矢理に横に座らせて巻き込んだ。

 それを見た天ヶ崎が不思議がって自然と隣に座り、天子は通りかかり茶と菓子が出ると聞いて釣られた。

 蒼天は少しばかり賑やかになったことに笑う。

「随分とまあ、増えたものです」

「ええやないの。天人の昔話……貴重な体験やし、もしかしたら刀花はんもいい感じの女になる切欠(きっかけ)が生まれるかもしれん」

「いい加減にキレて斬りますよ? これでも既婚なんですから」

 そのやり取りに相変わらずだとばかりに天ヶ崎は笑う。

 天子は茶と菓子にご満悦のようだ。

 蒼天は気にせずに続ける。

「さて、どこから話したものやら……取りあえず私が人間だった時の話の話をしましょう。まだ神と人が別たれてはいなかった遥か昔……私は今でいうところの宮司、その息子でした」

「人間だった時……って人間から天人になれるんかいな?」

「ええ……修行や功績によって神に認められればなれます。と言っても簡単な話ではなく、そのためには欲をある程度捨てないといけません。もっと言えば天人になりたいという欲を持ってる時点で天人にはなれず、大概の者は仙人止まりという訳ですよ」

 天ヶ崎の疑問に答えると、周りが興味深そうに耳を傾けている。

 それに対して天子は少しだけ目を逸らしてる。

 実際、彼女は修行をして天人になった訳ではないので少しばかり耳が痛い話だろう。

「そしてそのある神に仕え続け、私が宮司として後を継ぎ……その後も精力的に(たてまつ)り続けた結果、功績が認められてこうして天人となったという訳です。この能力も言ってしまえばその神の恩恵(おんけい)なのですよ」

「ほお……その能力が神の恩恵(おんけい)なら神様由来の能力ってことかいな?」

「察しが良いですね一条さん」

 言いながら蒼天は金属の、青銅のような塊を一つ取り出してすぐに変形させた。

 刀花はそれを見て、思い当たる物の名前を呟く。

「銅鏡、ですか?」

「そう、私が仕えた神が鏡を作り……これを使って天照様(あまてらすさま)天岩戸(あまのいわと)から引き出し、再び日ノ本を照らし始めた。今でも信仰が途切れていなくてよかったですよ、姿を覚えてる者はいないでしょうけど」

 などと蒼天は言うが、天照などと日本の太陽神の名前を出されて周りは少しばかり驚く。

 一条は子供のように少しだけ目をキラつかせた。

「なんやろ、年甲斐もなく少しワクワクするな。蒼天はん、仕えてた神って言うのは――石凝姥命(いしこりめどのみこと)で合ってるか?」

「え、ウソでしょ?! 貴方が仕えてたのって、その神様なの!?」

「天子はん、知らんかったんかい……」

「だって蒼天、自分のことなんて全然語らないし」

 などと天子は本当に驚いてる様子だった。

 対して蒼天は、

「別に聞かれれば答える程度で……自ら答える気がなかっただけですからね」

 などと別段自慢することもなく、遠回しに肯定していた。

「イシコリメドノミコト……どういう神様なんですか?」

「刀花はん、神鳴流剣士なのにウソやろ?」

 一条はキョトンとした顔でいる刀花に呆れ顔をする。

 それを見た刀花は詰まりながらも言葉を続けた。

「な、何ですか。別に勉強してない訳ではないですからね」

「簡単に言えば……八咫鏡(やたのかがみ)を作った神様や。金属加工の祖とも言うべき、古い神様やね」

 天ヶ崎が少しばかり補足するように説明してくれた。

「そう、なので私はこの『金属を操る程度の能力』という訳です。その気になれば偽物ですが八咫鏡(やたのかがみ)を顕現させることも出来ますよ」

「神器を顕現させるって軽く言ってるけど、偽物でもとんでもないわよね……それ」

 天子は天子で蒼天の言葉に軽く呆れている。

「おいそれと出す訳にはいきませんからね。手順と言うか、色々と必要な事もあるので。どうです? 軽くですが、いい気分転換になりましたか?」

 と、蒼天が言ったところで一条はふ、と笑った。

「ああ、そうやな。……帰ったら今度はもっとゆっくり聞かせて欲しいな。こないな気分転換やなくて」

 などと一条は決意を新たにしたようだった。

 

 

 しかし、人の世は無常であり無情な時がある。

 それが現実であり、どうにもならない壁がある。

 この世に完璧など存在しない、そして完璧などと(のたま)った瞬間に可能性は(つい)える。

 だからこそ蒼天は全てを救えるなどと約束しなかった。

「……みんなは、もう?」

「ええ、逃げ切りましたよ」

 天ヶ崎に寄り添い、語り掛ける蒼天。

 遅かったと言えばそれまで……先日のグレート=ブリッジ奪還作戦から一転して攻勢に出た連合側は当然ながら関西呪術協会に出撃を命じた。

 進撃してる最中に誘い込まれ、待ち伏せを食らい……天ヶ崎達の部隊が殿(しんがり)を務めた。

 蒼天達が救援に向かったが結果としては手遅れだった、それだけの話。

 字面にしてしまえば戦争などでよくある話だ。

「そうか……ならよかったわ」

 何かを悟ったようで、安心したように言葉を続ける天ヶ崎。

 治癒できる者はいない。

 向かってきてはいるが、それでも間に合わないだろう。

 天ヶ崎の体の下に血だまりを作っていることから、そう長くはもたない。

「残す言葉をお聞きします。子が真っ直ぐに育つ言葉を私が伝えましょう」

「そうやな……愛しとる。ただ、それだけや……あと頼みとしたら、蒼天はん……少しだけウチの子を導いてくれへんか?」

「誰でも導きますよ、私は」

「ふ……なら頼まれるまでもなかったかいな。なら、良かった……」

 それだけ言ってまたしても1人の命が消えた。

 しかし、蒼天に悲しみなどない。

 これが人の世の当たり前なのだから。

「安らかにお眠り下さい」

 看取り、そうして亡くなった者達を連れて蒼天は戻った。

 野営地に戻り、葬儀が行われ――

 今回ばかりは悲しむ者も多かった。

 誰の隣でもよく話をして、部下に対しても隔たりなく天ヶ崎は接していた。

 そして、殿を務める事も多く……救われた者も多い。

「――天ヶ崎さん」

 と、刀花も天ヶ崎の死を悼んでるなかで、天子が隣にいき呟く。

「そう悲しんでも誰も戻りはしないわよ。閻魔がいるかは知らないけど……いい輪廻に行くことを祈るしかないわね」

「もうちょっと言い方ぐらい考えなさい」

 その言葉に蒼天はツッコむ。

「取り繕っても仕方のないことよ」

「天人と言えども無情ではないんですから。すみませんね、刀花さん」

「いえ、いいんです。誰も戻りはしない……天子さんの言うとおりですから」

 と、言い残して刀花はどこかへと向かっていく。

 天子はその刀花の背を見て、呟く。

「私達は無情じゃなくても、地上は無情ね」

「争いなど今も昔もそんなものです。そして終わりが来れば穏やかな時が過ごせましょう。割り切れるかどうかは……その人次第ですが」

 無常に時は過ぎていく。

 

 

 そうして幾星霜の別れが何度かあり魔法戦争は終結した。

 戦争が終わり、多くの者が疲弊している。

 関西呪術協会はすぐに戦後処理でゴタゴタしている内に撤収をした。

 変な難癖などをつけられてとばっちりを食らうのはこれ以上御免だったのだ。

 そんな訳で天人二人の魔法世界の珍道中もこれで終わりを告げた。

 が、別で彼らには難癖がついていた。

 関西呪術協会の一室では八雲 紫が蒼天と二人、歓談している。

 紫は嫌味を少し含ませて切り出した。

「少し遠回りが過ぎませんこと?」

「進展はしているでしょう?」

「確かにそうだけど、もう少し仕事してほしいわ」

「そっちはどうなんですか? いつも寝てばかりなのでは?」

「仕事はしようと思ってるわ」

「思ってるだけでは、仕事をしたとは言えませんね」

「ここにいるのが仕事をしてる証拠よ」

「それ以外は?」

「いつも部屋よ、デスクワークって奴ね」

「布団はデスクに入りますか?」

「入るわよ……私の中では」

「貴方が布団に入ってるだけじゃないですか?」

「もうちょっと柔軟に生きましょう。それでも仕事は出来るわ」

「線引きは大事だと思いますがね。境界の妖怪の割には線を引くのは下手ですか……」

「そういう貴方はどうなのかしら? 人間との線引きは出来てるの?」

 自分を棚に上げて紫は扇子で口元を隠して蒼天に問い掛けた。

 回りくどい軽口を叩いたが、聞きたい本題はそこなのだろう。

「入れ込んではいませんよ。少し彼らと接する時間が多いだけです……それに一時ではありますが、人間に戻ろうかとも考えてますし……それなら文句はないでしょう?」

「それを入れ込んでると言うんじゃないのかしら?」

「違いますよ。天地交わりて万物通ずるなり。上下交わりてその志同じきなり。これは必要な交わりということです。天子の教育の一環にもなるでしょう」

「あらそう。それは愉快な旅路になりそうね」

「……意外ですね、もう少し偏屈な問答でもしてくるかと思ったのですが」

 それを聞いた紫は少しだけ、不機嫌そうにぷいと顔を逸らした。

「私はそこまで偏屈じゃないわよ。それと、酒の席には呼びなさい」

「仕事をしなさい」

 蒼天は呆れ顔でツッコむが、紫はにっこりと笑う。

「それも仕事よ」

 とだけ言ってスキマと呼ばれる異空間に帰った。

 自分の都合の良いように解釈するのは妖怪ならでは、と言ったところだろう。

 蒼天は内心でそう呟きながらも部屋を出る。

「あ、蒼天お兄ちゃん」

 部屋を出た瞬間に声と同時に横からぶつかる。

「こら刀子、離れなさい」

 と、眼鏡がトレードマークの刀花が同じく刀子と呼ばれた少女と同じ方向の縁側から歩いてくる。

「いえ、良いのですよ。子と触れ合うのは久方ぶりですから」

 蒼天は気にするなとばかりに制し、穏やかな顔を向ける。

 好青年とも言うべき表情だ。

 この少女は刀花の娘である刀子。

 子供ながらも切れ長の目が刀花に似ている。

 美人に育つだろうとは思うが……気質も母親に似ているため男性との関係が難儀になりそうではあるが、それは今忠言するべき事ではない。

「これでもお兄ちゃんなんて年齢ではないんですがね」

「子供には関係のない話ですよ。見たモノが全てですから」

 蒼天の言葉に刀花は少し苦笑する。

 その表情は穏やかであり、母性に溢れていた。

 蒼天は同意して刀子に目線を合わせる。

「それもそうですね。それで、刀子はさっきまで何をされてましたか?」

「天子お姉ちゃんと神鳴流のけいこしてた」

「そうですか……意地悪されてませんか?」

「ううん、全然」

 と、刀子に聞いたところで天子本人が登場した。

 その表情は少し不満気だ。

「私はそこまで意地悪くないわよ」

「子供相手に大人げなく振舞うほど小心ではないようで何より」

「貴方の方がよっぽど意地悪に見えるわよ」

 言いながら天子は竹刀を軽く肩に担ぐ。

 どうやら稽古をしていたのは本当のようだ。

「それで? 退屈になってきたんですか?」

「そうでもないわ。これから釣りに行くつもりだし」

「釣り!」

 天子の言葉に刀子が反応する。

 釣りに興味津々のようだ。

 そのまま天子がどこかへ行くと、刀子もその後ろを追っていた。

 蒼天は感心する。

「意外に(なつ)かれるものですね」

「平和な事です。先日までのことがウソのようで――」

 何かを憂うように刀花はそこで言葉を止めた。

 蒼天は少しだけ刀花を見る。

 まだ友の死を引きずっているような表情だ。

 蒼天は1つ忠言する。

「友の死を忘れてはなりません。ですが、いつまでも思っていては今を生きることは出来ない。人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが(ごと)し。生きている以上は前に進むしかありませんよ。それに子を立派に育てる役目があるでしょうに……天ヶ崎さんが浮かばれませんよ」

「そうですね。ただ割り切るには多く失い過ぎました」

「それは時が解決するでしょう。自然の、天の流れるままにいるのもまた傷を癒す方法です。しばらくは子との時間を多く作ると良いでしょう」

「フフ……本当に不思議な人ですね」

「天人ですからね」

 蒼天のその言葉で会話は終わり、少しの静寂。

 それから刀花は少しだけ吹っ切れたように、一つ息を吐く。

「それでは、娘の様子を見てきます。釣りなんて初めてでしょうから、なかなか帰ってこないかもしれませんし」

「ええ。それと、今夜はご馳走ですかね……厨房の人に話を通しておきませんと」

「それはまた、どうしてですか?」

「天子が強運の持ち主でしてね。釣りをすれば大物が間違いなく出ますから」

 話してる内にまたしても子供が今度は蒼天の背後に飛び込んできた。

「やれやれ、今日は小さい客人が多いですね」

 と、蒼天が視線を腰の後ろの方に向けるとまたしても小さな少女。

「"千草"、突然に飛び込むのは私でも驚きますよ」

「…………」

 少女は天ヶ崎の娘である千草。

 親を亡くして間もない、悲しき子供だ。

 蒼天の腰にしがみついて離さず、話もせず。

 帰ってきてからはこんな感じである。

 それほど蒼天に千草と面識がある訳ではない筈なのだが……

 刀花はその様子に苦笑と悲壮が入り混じった表情をする。

「蒼天さんも子供によく懐かれますね。居心地が良いのでしょう。しばらくは、その方が良さそうですけど」

「――そうですね」

 蒼天はあくまで人であり、人ならざる者なのであんまり人間の方から入れ込んでは欲しくないのだが……

 それを伝えるのはこの少女にはあまりに幼すぎて、残酷が過ぎる。

 なので蒼天は伝えるべき言葉をあえて伝えなかった。

 沈黙は金。

 それを体現したような状況である。

 蒼天は天を仰ぎ見て、一言。

「無常ですね」

 天人二人の珍道中はまだまだ続く。

 




天子と蒼天の故事成語・用語 解説

『一を以て之を貫く』孔子=論語

天子「似た言葉としては初志貫徹ね。1つの事を貫き通す。1つの道に理念を持って最後までやり遂げる。そんな意味の言葉よ」
蒼天「彼には迷いがありましたので、この忠言をしました。理念がなければそれは自分で周りを納得させる言葉を持ちえないと思いましたので」
天子「蒼天は全うしすぎよ」
蒼天「ええ、だからこそ天子の教育役も任されてますので。竜宮の使い? 彼女は教育係ではなくお目付け役ですから」

『天地交わりて万物通ずるなり。上下交わりてその志同じきなり。』伏犠=易経

蒼天「天地が交わり、上下が交わる事で、陰陽が交わる。その交わりによって全てが生まれる。つまりは陰陽同一の考えですね。天地を別で考えていれば何も生まれない、そんな意味を込めて話したつもりです。経営の理念等で使える言葉ではありますが……この言葉の前後に色々とまだ文が続きますので、あしからず」

『人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが(ごと)し』
徳川家康遺訓

天子「随分、新しめの故事ね」
蒼天「まあ、我々からすれば新しい方ですね。言葉のままですね。人の一生は長いので遠い道を重荷を背負って歩むようなものだ。努力と忍耐をもって少しずつ歩む、そんな意味ですね。ちなみにこの言葉、家康本人のお言葉ではないらしいとの話です」
天子「なにそれ……本人じゃないのに遺訓にしてるなんておかしな話ね」
蒼天「まあ、死人に口なしです。死んでから付け足しをされるのはよくある話ですから」

『沈黙は金』衣装哲学=トーマス・カーライル

蒼天「元は西洋の言葉から輸入された言葉ですね。正確には『雄弁は銀、沈黙は金なり』。"なり"をつけるのが正しいとされてるらしいです」
天子「西洋の言葉も借りるのね……天人らしく中国の故事成語で統一しないの?」
蒼天「弘法筆を選ばず。人間の言葉で忠言できるなら何でも良いのですよ。本質を間違えなければそれで問題はありません」

石凝姥命(いしこりめどのみこと)(名前については他の表記もあり)

蒼天「八咫鏡を作ったお方で、私がお仕えしている神です。あの時は大騒ぎでしたね……天照様も困ったお方でした。今風に言えばメンタルが豆腐に近かったので」
天子「罰が当たるわよ?」
蒼天「大丈夫です。心が狭いお方ではありませんから。ちなみに私の名前は天人に上がった際に石凝姥命守(いしこりめどのみことのかみ)と名付けられたので縮めて石守(いしのかみ)となりました。天子が仕えている『名居(ない)』様が『名居守(ないのかみ)』となったのと同じですね。金工の神の祖で、同じような神である金山彦命(かなやまひこのみこと)様より古い神です」
天子「金属を操る能力はそこ由来な訳ね。まあ、私も仕えてた人由来だから似たようなものかしら」


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。